Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君 (蒼の涼風)
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アインクラッド編
Art1:訪れた新しい世界・新たな戦い


 それで全てが終わるはずだった。月の聖杯戦争を勝ち抜いた私は、ゆっくりと目を閉じて最期の時を待つ。ああ、でも心残りといえば……常に一緒に駆け抜けてくれた。こんな私に惜しみなく愛情を向けてくれた、赤い暴君。

 彼女の笑顔を、もっと見ていたかった。――そう、考えたのが全ての間違いの始まりだったのかもしれない。

 

「何してるんだ、避けろハクノンっ!」

 

 そんな言葉で目を開くと、そこに入るのは巨大な刀を構えたこれまた巨大な犬。犬!?ちょっと待って、あれ犬じゃない。

 ってかここどこ!?

 

「だらああぁぁ!」

 

 呆然としている私とBig One Chance の間に割り込んだのは、巨大な斧を持った肌が黒めの男の人。

 何なんだここは、何、このありきたりな中世風味の鎧とか武器とか、ゲームチックな生き物!?

 

「ボス戦でボーっとするなんて、余裕ね」

 

 茫然自失って言葉がよく似合う私に声をかけてくれたのは、何て言うんだろう。フーデッド・ケープとでも言うのかな。そんな感じの物を深くかぶってはいるけど、凛とした響きの声。何だか凛を思い出す……って、駄洒落じゃないよ!?

 

「ハクノン、ここは俺が受け持つから下がれ!すぐにデカいスキルが来るぞ!」

 

 次に声をかけてきたのは黒い髪が印象的な男の子、まだ15歳くらいかな……すごく若く見える。なんて言っている暇もなく、大きなワンちゃんの刀が振り下ろされる。今までの戦いで多少培ったといっても、やっぱり私に咄嗟に動くことなんてできなくて、その一撃を受けてしまう。

 痛みはない。ただ、視界の端にあった緑色の【HP】と書かれたバーがぐっと黒くなるのが見えた。

 ああ、やっぱり此処はゲームの世界なのか。

 

「早く下がって、本当に死んじゃうわよ!」

 

 響く声。例えゲームの中だとしても、目の前に迫る死に体が竦む。

 いや、違う。この感覚は知っている。本当に死ぬんだ、【HP】がゼロになった時。

 とっさに私は、腰の剣を抜くと迫ってくる刀を受け止めようと身構える。けれどもそれは何の意味もなく、手の中にあった剣をへし折って切っ先が体に届く。

 幸か不幸か、ぎりぎりで持ちこたえてくれた私のライフは、風前の灯といっていい。

 

「それ、でも」

 

 立って、逃げる。距離を開く。すぐに他の人たちがかばう様に間に入ってくれた。

 情けない。月の聖杯戦争を戦い抜いたと言っても、所詮は【彼女】の力があってこそ。本当はあの時。最初の試練の間で死んでいて不思議ではなかった。

 色んな偶然と、色んな人に助けてもらって偶々生き延びただけの自分に、戦う力なんてない。

 

「誰か、ハクノンに武器を!予備を持ってるやつはいないか!?」

 

 怒号が響く。ああ、あの子はこんな状態でも必死に誰かのために動いている。

 それは、なんて眩しい。駆け寄ってきた金髪をツンツンと立たせた男の人が、予備の剣を貸してくれる。

 

「ジブン、いつまでボーっとしてんねん。戦う気が無いんやったら、はよ逃げんかい!」

 

 逃げる。そうだ、逃げないと。でも、どこに?

 そもそも、自分はここで逃げて良いのか。自分の命はもう残り少ない。でも、何故自分がここにいるのか。ここで逃げるだけなら、あそこで消えるはずだった私がいるのは何のために。歯を食いしばって戦い抜いた日々は何のために。私が奪った命は、何のために。

 そうだ、逃げるわけには行かない。剣を握る右手に力がこもる。

 

「逃げないよ。私も戦う」

 

 だって、私はこの場所で何もしていない。

 今だって、目の前の人たちは恐いのを必死に押し殺して戦っている。なら、ただ守られるお姫様でいて良い訳が無い。

 怖くてもいい、それでも力をこめて。人をこの手で殺したことがある自分だからこそ、守れる命は守りたい。今度こそ戦うんだ……例え、もう彼女の力を借りられなくても!

 

「――やっと繋がった。うむ、それでこそ余の奏者! 良くぞ言った、それでこそ我が剣を振るうに相応しい」

 

 瞬間、目の前に輝いた強い光と飛び出てきた文字。

【Hakunon は Servent Saberを召還しました】

 そして何より聞きたかった、懐かしい声。その声を聞いたとき、思わず視界が滲む。

 

「何を泣いておる。涙は勝利の歓喜まで取っておけ! 今一度そなたにこの言葉を送ろう。さあ、拳を握れ、顔を上げよ! 命運は尽きぬ! 何故なら、そなたの運命は今始まるのだから!」

 

 ああ、本当に。

 この日この瞬間から、私の新しい戦いの日々。そしてこのゲーム【ソードアート・オンライン】で出会った大切な人たちとの2年間は、始まる。

 以前と変わらず、赤いドレスを翻してふてぶてしく笑う、最愛の王と共に。

 




初めまして、蒼の涼風と申します。
セイバーとはくのんの組み合わせ、そしてこの二人がアインクラッドでキリト君達と一緒に過ごしているの誰かみたい!誰か書いて!な勢いと情熱と、言いだしっぺの法則やら何やらで書き始めました。
拙い部分は多々あるかと思いますが、生暖かく見守っていただければと思います。


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Art2:戦いの代償

こんばんは。
第2話、投下させていただきます。


それでは、どうぞ。


「さあ、拳を握れ、顔を上げよ! 命運は尽きぬ! 何故なら、そなたの運命は今始まるのだから!」

 

懐かしい。開戦を高らかに謳う彼女は、真紅のドレスと金色の髪を靡かせて戦場を舞う。そして飛ばされた檄は、私だけじゃなくこの場に居た全員の指揮も回復させた。

ムーンセル、その聖杯戦争。ほんの2ヶ月程の戦いだったけれども、今では誰よりも信用し信頼できる私の相棒、セイバー。

 

「全員、彼女に続けぇ!」

 

 水色の髪をした、いかにも騎士と言った様子の男性が指令を飛ばす。あの人がこのパーティーの司令官なのだろう。嵐を呼びそうだったり、最終合体しそうだったり、戦場でラブロマンスを繰り広げそうな声だ。うん、なんのこっちゃ。

 

「うむ、この空気悪くない。むしろ良い。さあ、奏者よ! そなたの戦い方、覚えておろうな?」

 

 セイバーの声が響き、私は意識を眼前の巨大なモンスターに集中させる。見える。敵がどう動こうとしているのかが、大まかに分けて3パターンに。素早く鋭い攻撃・身を守る行動・力いっぱいの渾身の一撃。

 今までも私は敵の行動をこう区分することで、何とか戦ってこれた。

 

「セイバー、そこ。一度受け止めてからアタック!」

 

 短い言葉だけで、私が伝えたい事を確実にこなしてくれる。本当に頼もしい。

 

壁戦士(タンク)隊、まだ回復が終わらないのか!? いつまでも一人に前線を維持させるな!」

 

 水色の騎士の指示が飛ぶ。けれども、ついさっき私を守るために盾になってくれた人たちのダメージも大きかったようで、なかなか立て直せない。

 

「でぇやぁぁぁ!」

 

 全身を薄青い光に包まれた少年が、ボスの刀をはじいた。次の瞬間には、ケープを被っていた女性の剣士が物凄い勢いで突進して、ボスのHPを削っていく。

 

「ハクノン、色々聞きたいことはあるが。とりあえず、あの赤い服の女性は味方で良いんだな?」

 

 少年がちらりとこっちを見て聞いてくる。正直、誰が味方かなんて聞かれたら、ここに居る人より頼りにしている……なんて言ったら怒るかなぁ。や、そもそも皆さん私の名前を読んでるけど、私は皆さんの名前を知らないわけですよ!?

 このままじゃ、いろいろ大変なんですよ。内心つぶやくモノローグっても、黒い髪の子とか栗色の髪の女の子とか、スキンヘッドの斧の人とか、もやっとボールとか!

 

「奏者よ、発言がメタメタしいぞ。と言うか余裕だな!?」

 

 おっといけない。アンデルセン辺りにでも毒されてるのかな、描写がどうとかこうとか。

 

「セイバー、あと少し。行ける!」

「うむ、任せよ!」

 

 ボスのHPが、皆の頑張りであと10%ってところまで落ちてきた。つまり4本目のバーが半分まで減ったわけだ。や、私がこの世界で自我を持ったときには半分以上削られていたから、この集団は本当に優秀なんだと思う。

 特にあの水色の髪の指揮官、すごい。

 

「駄目だ、離れろ! 範囲攻撃がくるぞ!」

 

 急に、後ろの男の子から別の指示が飛んだ。だけれど、そんな急に反応できる人間なんてそうそう居るわけもなく。咄嗟にセイバーが周囲に居た女の子やスキンヘッドの男の人を剣で弾き飛ばして、私を抱き上げて飛んで逃げた。次の瞬間、見たのは惨劇と言っていい。

 一度になぎは割られる人たち。ギリギリで踏みとどまっているものの、殆どHPは無くなっている。

 そんな中、一人盾を構えて動いていない、男の人。いや、あれは動いてないんじゃない、動けないんだ。そう思ったときには遅かった。少しずつ光の欠片になって消えていく、騎士のような見た目の水色の男性。

 知っている。この、跡形もなく消えて死ぬ感覚は。聖杯戦争、あのデスゲームと同じ……人の尊厳を踏み躙る死に方だ。

 

「すま……ない。キリト、さん……ボス、倒して……」

「ディアベェェェル!」

 

 指揮官の退場、それは集団戦において致命的な痛手であるし、敗北が決定的になったとも言える。当然、集団がパニックになって戦線が崩壊するのは火を見るよりも明らか。

 月の裏側での苦い思い出が蘇る。ガトー、ユリウス、シンジ、レオ……皆、私に後を託して消えていった。逃げるな、食いしばれ。

 潰されるな、岸波白野。今は泣く時じゃない。

 

「キリトって誰!?」

 

 すぐに声を張り上げる。それと同時に、飛び出してきたのは先程指示を飛ばした男の子。

 

「キリトは俺だ。ってか、パーティ組んでるんだから、名前くらい確認しといてくれないかな」

「あはは、ごめんごめん。さっきの人、後は君に託すって。ボスを倒してくれって」

 

 伝えた言葉に、頷いて返してくれた。

 けれども、私達だけが踏ん張っても、ここに居る全員を助けることはできない。

 

「全員、ちゅううううううもおおおおおおおおく!!」

「これより、偉大なる騎士、ディアベル最期の指示を伝える!」

 

 悩む暇さえなかった。栗色の長い髪の女の子がケープを脱ぎ捨てて大声を上げると、セイバーも続いてボスを指差した。

 

『ボスを倒せと!』

 

 二人の声が、重なる。静寂が支配する中、完全に二人の独壇場だ。

 

「そして、次の騎士(リーダー)は彼だと」

「アスナ……」

 

 栗色の髪の少女、キリト君の発言からして、アスナって名前なのか。うん、アスナは手に握っている細剣をキリト君の両肩に軽く触れさせる。それは何かの物語か、儀式で見た……騎士を任命する時の仕草。

 

「俺も聞いたぞ! それにあいつには、ボスのスキルの知識がある。ディアベルを信じるなら指示に従うべきだ」

 

 大きな斧を持った男性が、ボスの攻撃を堪えながらこっちを振り向いてくる。すぐに立て直して、今まで前線を抑えててくれたんだ。

 軽いウインクを飛ばしてくる。周りから呼ばれる名前から察するに、エギルさんというらしいのだが、彼の一言が大きかった。今までパニックになっていたメンバーが恐る恐るながらも、持ち直した。大丈夫、こういう人たちがいれば、きっと皆がんばれる。

 

「指示を、騎士(リーダー)さん」

 

 アスナの冷静な声が響く。こちらも後ひとふん張り、お願い。

 

「セイバー!」

「任せるがよい! 行くぞ――花散る天幕(ロサ・イクトゥス)!」

 

 私が指示を飛ばすより早く、セイバーは飛び出した。それはセイバーが聖杯戦争中最も得意とした攻撃、花散る天幕(ロサ・イクトゥス)。渾身のその一撃を受けてボスが傾くけれども、足りない!

 あとほんの少し、威力が足りていなかった。何とかしないと、そう思った次の瞬間だった。

 

「アスナ! 最後の攻撃、一緒に頼む!」

 

 響くキリト君の声。それだけで、キリト君とアスナは一斉に走り出して、綺麗と表現するしかない程のコンビネーション・連撃で残っていたHPを削り取った。

 その最後の一撃。剣から放たれる光がVの字を刻んで、ボスは跡形もなく消えちゃった。……天空剣。いえ、何でもないです。

 

「っよっしゃああああ!」

 

 空中に!! 浮かんだ【Congratulations!!】の文字に、力が抜ける。左手は凄く熱い。懐かしい、この痛みは令呪が刻まれた感覚かな。刀で斬られても痛くなかったのに、令呪が刻まれるときは痛いんだね。変なの。とりあえず、訳も分からないまま放り込まれた戦場での、ど修羅場は幕を閉じた。

 

「セイバー、また……会えたね」

「うむ。奏者が呼ぶならば、余はいつでも駆けつける。令呪など関係ない、そなたは唯一、余が主と認めた人間なのだ。胸を張るがよい」

 

 お互いの存在を確かめるように、どちらからともなく抱擁を交わす。

 皆がそれぞれに、ボスを倒した喜びを分かち合っていた。

 

「何なんだよ、お前は!」

 

 そんな雰囲気を一瞬にして凍りつかせたのは、一人の軽鎧装備のソードマンだった。その顔には涙を流して、ぐちゃぐちゃで、とても勝利を喜んでいる顔じゃなかった。

 

「本当なら、称えられるのはディアベルさんだったはずだ! それなのにどうして、ディアベルさんが死んで、訳の分からない連中が称えられてるんだ!」

 

 まるでその言葉が皮切りになったかのように、周囲の人々から疑惑・疑念。そう言った視線やあれやこれやが混じった言葉が飛び交った。

 

「そう言えばそうだ。あの赤いドレスの女は誰なんだ? あんな装備も武器も、見たことないぜ!」

「あっちのガキも、何でボスのソードスキルを読めたんだ!?」

「俺知ってる、あいつベータテスターだ! LAを取られないように情報を隠してたんだ!」

 

 うう、視線がいたい。と言うか、なんでだよって言いたいのはこっちです。いきなり訳の分からない場所に居たのはこっちも同じなのに、何人かは私の名前知ってたよね。

 なんでだよ!?

 

「余が誰か、だと? ふん、心して聞くがいい。余は至高にして至上の名器―――剣の英霊、サーヴァント・セイバーだ!」

 

 ゆらりと立ち上がり、ふてぶてしく胸を張って高らかに宣言する、暴君様。でもね、きっと皆サーヴァントなんて知らないと思うんだ。

 

「サーヴァント?」

「テイムモンスターの一種か?」

「けど、どう見ても人間だよな。亜人種って感じでもないし。それにあの応答パターン、AIって感じじゃねえだろ」

 

 口々にそう漏らされる。そりゃそうだ、これは所謂異世界とりっぷと言うやつなのだ。ここの常識に当てはまるわけがない。

 けれども。

 

「知ってるぜ、サーヴァントシステム。まさかこんな低層で手に入れてるやつが居るとは思わなかったけどな」

 

 そう、その雰囲気を破ったのは“彼”だった。

 




どうも、蒼の涼風です。
1話が思いのほか文字数で見ると少なかったため、少し増やしてみました。

ざっと、倍?
や、でも1話に詰め込むとだらだら書いてしまいそうです。

そして本編では小説・コミック・アニメごちゃ混ぜ+オリジナル要素ありなコボルト王戦となりました。
ただ、どうしてもディアベルはんは助けられんかったんや……。

それでは、また次回。


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Art3:痩せ我慢と強がりは男の子の証

こんばんは。
それ行けはくのん、第3話となります。
段々はくのんが暴走を始めています(笑)

それでは、どうぞ。


「知ってるぜ、サーヴァントシステム。まさかこんな低層で手に入れてるやつが居るなんて、思わなかったけどな」

 

 そう、そのの雰囲気を破ったのは“彼”だった。

 キリト。私よりきっと1つか2つ年下と思われるその少年が、いかにも悪ぶってますよーって顔してその場で立っていた。

「ある特殊な条件下で、フィールドボス並みのステータスを持った、通常のテイムモンスターとは比べ物にならないくらい強力な遣い魔がテイムできる。それがサーヴァントシステムさ」

 

 へー、そんなシステムあったんだ? ほへー。

 

「奏者よ、あの者の言っていることはブラフであろう。余はムーンセルの聖杯に飲み込まれたそなたを追って、ここに辿り着いた。そのようなシステムは知らぬ」

 

 ですよねー。そんな訳ないよねー。

 だからきっと、今悪ぶって注目を集めているのは、あの子の私やもしかしたら他のベータテスターって人へ悪意が行かないように、振舞ってるのか。

 やるじゃん、男の子。

 

「ベータテスター? あんな素人たちと一緒にされちゃ困るぜ。殆どはレベリングのやり方も知らない初心者さ。けど、俺は違う。俺はもっと上層で、とんでもない火力を持つサーヴァントをテイムする条件も知っているし、この先敵がどんなスキルを使ってくるかも知ってる。誰よりも先を見て、誰も知らない知識もたくさんあるのさ」

 

 煽ってる煽ってる。そんなに煽るもんだから周りの人たちは口々に、やれチーターだの、やれベータがどうだの。

 誰が言い出したのか、【ビーター】なんて造語まで飛び出す始末。

 

「ビーター! 良いなそれ、気に入ったよ。ボスのLAと一緒に俺がもらって置いてやるよ」

 

 そう高らかに宣言したキリト君は、手を軽く振って何かを操作する動きを見せると突然黒いコートを羽織った姿になった。

 わー、礼装? あれ礼装?

 コードキャスト使えるのかな、わくわく。

 

「奏者よ、こんな局面でもそんな顔ができるそなたは、やはり余と同類だな」

 

 そんな嬉しさ半分、呆れ半分って感じの声でセイバーが何か言ってるけど、気にしない。新しい物を見て心躍るのは、人の性なのです。

 

「二階の転移門は俺がアクティベートしておいてやる、おとなしく街で待ってな。ベータ時代にもよく居たんだよ。折角ボスを倒したのに、上の階の初見MOBにやられる馬鹿が」

「畜生……謝れ、謝れよ。ディアベルさんに謝れよ、ビィィタァアアア!」

 

 わざと悪ぶって響く、キリト君の声と彼を非難する剣士の慟哭。正直、私はどちらの気持ちも少し分かるから、どちらが正しくてどちらが悪いかなんてわからない。

 それでも、彼を追いかけなきゃと思ったのは、きっと自分に似たところを感じたからだろう。

 

「あの、武器貸してくれてありがとうございました。助かりました」

「かまへん。来る途中ドロップしただけやし、その剣やるわ。ジブン丸腰でどないするつもりか知らんけど、アイツ追いかけるんやったら……伝言、頼むわ」

 

 きっとこの人も、彼の意図した所を読み取ったんだろう。ガサツな印象を感じたけど、実は良い人なのかもしれない。そうだよね、一番に剣を貸しに来てくれたのもこの人だし。もやりんボールみたいな頭だけど。

 それはさて置き、もや……もとい、キバオウさんと言うらしい。彼に軽い挨拶をしたあと、キリト君が歩いて行った階段を駆け上る。

 

「まったく、奏者も物好きよな。何だ、折角また余と会えたのに、感動の再開はアレで終いか?」

「あはは……後でゆっくり、ね」

 

 当たり前のようについて来てくれるセイバーの頭を軽く撫でて、宥めてみる。よしよし。本当は、左手で疼いている痛みだとか、いきなり戦闘に巻き込まれてパニクってたりするけど、ここであの子を一人で行かせちゃいけないような気がした。

 

「――またな、アスナ。先に行ってるよ」

「ええ、すぐに追いつくわ」

 

 おっと、先客が居たみたい。あれは……アスナさん、だっけ。何だか楽しそう。そっかそっか、心配することなかったみたい。

 きっと、彼の傍には彼女が居てくれる。私の傍にセイバーが、凛が、ラニがいてくれたように。

 うん、ものの見事に私の周りには女の子しか居なかったんですけど。え、レオやシンジ?あー……うん。それはそれとして、ああいうボーイミーツガールみたいな雰囲気はいいね。顔がニヤけちゃいそう。にまにま。

 

「ハクノンさん!? いつからそこに!?」

 

 あー、見つかっちゃった。真っ赤になって慌ててるアスナさん、超可愛い。

 何あれ、ツンデレってやつ?

 

「私もキリト君に伝言預かってきたんだけど、お邪魔だったみたい?」

 

 にやにや。どうしても口元が緩んじゃう。うん……皇帝様の影響かな、何だか可愛い女の子を見ると無性に抱きしめて撫でたくなる。

 いや、ほんとにそんなことしたら、隣の暴君様のご機嫌がマッハで急降下するのは目に見えてるからしないけど。

 しないよ?

 しないんだってば。

 

「あの、ハクノンさん? それにセイバーさん、でしたっけ。ここで見たことはどうか」

「大丈夫、女の子の甘酸っぱい秘密は守るから。その代わりって行ったら何だけど、お願いしたいことが1つか2つか3つか4つ」

「いくつあるんですか」

 

 いや、いくつあるのか正直自分でも把握できてない。

 だって、異世界とりっぷなる物に巻き込まれた私は、文字通り右も左も分からない状態でさっきの修羅場だったのだ。

 

「とりあえず、順を追って話したいんだけど……それより何より、お腹が空きました。麻婆豆腐無いですか。贅沢言えば激辛」

 

 ぐぅ。そんな情けない音が私のお腹から響きましたとさ。

 

「麻婆豆腐とは行かないけれど、休憩するなら1層のトールバーナに行きましょ」

 

 ふむふむ、中世のヨーロッパ風な世界観だと感じてたけど、街の名前もそんな感じなのかな。

 

「うん、宜しく。それと、睨まないでセイバー。後でちゃんと時間とるから。涙目で睨まないの」

 

 こっちも、何とかしないといけなさそう。

 あはは、どの世界にいても私のスキル:女運の悪さEXって言うのは健在みたい。いや、私は悪くないはず。一級フラグ建築士なんて言われた事もあったけど、ちゃんと心に決めた人はいる。

 そんなこんなで!

 私達はアスナさんの案内でトールバーナという街にやってきた。街はボスを倒したって事で、皆「転移門」の前で、新しい街へ行けるようになるのを今か今かと待っているらしい。

 とりあえず入ったレストランで、食事を採りながら私の体験したことを話す。と言っても、月の聖杯戦争やら、ムーンセルやら、そう言ったことは伏せて。

 気がついたらボス戦に参加してたこと、正味何をどうしたら良いのか分かってないこと。

 やっぱりと言うか予想通りというか、訝しそうにしていたアスナさんだったけど、委員長タイプっていうのかな。しばらくの間一緒に行動することになりました。

 

「キリトくん……あの、ビーターって名乗った剣士の人と暫くパーティを組んでいたんだけど、今日解散しちゃったし。セイバーさんが強いのは今日見たし、あなたも指揮官って言うのかしら。飛ばしてる指示は割りと適格だったし」

「うむ、奏者の強みの1つだからな、その戦術眼は。奏者が読み間違えなければ、余は無傷でボスを完封することも容易い!」

 

 隣で胸を張るセイバーさん。ごめん、そこまで完璧な戦術眼なんて持ってません。と言うか高らかに宣言しないでください。

 

「とりあえずは、折れた武器の代わりになるものを探しましょうか。それは片手剣みたいだったけど、私が知ってるかぎりあなたは細剣を使ってたみたいだし……でも、手にとって見るのが一番よね」

 

 そう切り上げたアスナさんは、その足で私を武器屋に案内してくれました。ほへー、色んな武器があるんだなとキョロキョロしてる内に、何種類か見繕ってくれた武器が出てくる。

 短剣、もう1本持って【あいあむざぼーんおぶまいそーど】って呟いたところを止められました。片手剣、今ひとつ旨く刃を立てれず使いこなせない。両手剣、重くて持てませんでした。両手斧、いわずもがな。細剣、へし折れたのトラウマ。出来たら頑丈な方が良い。曲刀、さっき泣いてた男の人が持ってたやつだ。何となく止めておこう。

 そんなこんなで、新しい相棒はセイバーの意見と、振ってみたときに一番しっくり来た片手棍と盾って装備になりました。

 えーっと、【ソードアート・オンライン】なんだよね、このゲーム。

 鈍器?

 まじで?

 つまんなーい!

 




こんばんは、蒼の涼風です。
第3話、お送りいたしました。

お読みいただき、ありがとうございました。


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Art4:宿屋にて

こんばんは。
第四話、お送りいたします。
今回話は進みません、すこしワンクッション回でございます。

それでは、どうぞ。


 とりあえずこれから使う武器も決まった。アスナさんの案内で宿も取れた。2層の新しい街では所謂街開きというお祭りを行っているそうだ。

 そんなお祭り騒ぎが大好きなセイバーも、いきなりのボス戦で疲れたようで、今はベッドで眠っている。

 ひとつ気がついたのは、セイバーには所謂HPゲージがなかった。セイバーがダメージを受けると、そのダメージ値は私のHPから減らされていた。

 つまり、生きるも死ぬも一緒と言うことだ。何だ、前と一緒じゃないか。

 

「……と、ここまでがわたしの知っている【この世界の現実】。どう、少しは役に立ったかしら?」

 

 因みに今さっきまで、目の前のアスナさんが懇切丁寧に【ソードアート・オンライン】に突如として現れたゲームマスターが言い放ったルールを説明してくれた。

 いわく、ここがVRMMOと呼ばれる、体感型オンラインゲームの中であること。サービス開始初日に、通達された仕様。即ち【ゲームクリア者が出るまでのログアウト不可】と【ゲーム中での死亡は、現実世界の死亡に繋がる】と言うもの。加えて、ゲーム開始から2ヶ月が経過しようやく第1層がクリアできたものの、私も経験したようにその全体を率いていたリーダーが死亡。離脱したこと。

 

「どこの世界でも、どうしようもないことを始める人間って、いるもんだ」

 

 思わず漏れた呟きに、不思議そうに首を傾げられちゃった。

 そりゃそうだよね。でも、月の話なんて出来ないし、曖昧に笑ってみる。

 

「ハクノンさん、まだ何か抱えていますよね? まあ、でもリアルの詮索はマナー違反だってこの攻略本にも書いてあるし。深くは聞きませんよ」

 

 なんと、ゲームの中に攻略本とは。え、でも【大丈夫、アルゴの攻略本だよ】って書いてあるそれ……なんだか旧世紀に似たような表記でとんでもない誤情報を載せまくった攻略本が会ったとか。

 うへー、うさんくせー。

 

「大丈夫よ。アルゴさんは本当に皆の攻略に役立つように作ってくれてるし、実際この攻略本のおかげで随分助かったわ」

 

 ちょっと、気を悪くさせたみたい。そっか、アルゴさんって人はアスナさんの知り合いなんだね。

 じゃあ、鉄球を振り回すロボットに乗ってそうな名前だとか、口に出さないほうがいいかな。

 

「それで、ハクノンさんはこれからどうするんですか? 私は次の階層へ挑戦してみようと思っているんですけど」

 

 そう言って、こっちの反応を確かめるようにチラリと見てくる。

 正直、このままこの世界に関わって良いのかという迷いもある。

 

「ひとつ、聞いてもいいかな?」

「ええ、どうぞ」

「どうして、アスナさんは上に行こうと思ったの? 安全な場所で助けを待つことも出来たんだよね?」

 

 その問いかけは、きっとこれまで自分で何度もしたのかもしれない。もしかしたら、誰かにそうやって投げかけたのかもしれない。

 彼女の顔は迷いもなく、まっすぐに私を見て言葉を紡いだ。

 

「何もせずゆっくり腐っていくくらいなら、最期まで全力で戦って、満足して死にたい。例え怪物に負けて死んでも、このゲーム……この世界に負けたくない、最初はそう思っていたの」

 

 そう漏らされたアスナさんの顔はどこか寂しげで、それでいて守ってあげたくなる表情をしていた。

 

「でもね、この世界でも美しい場所はある。美味しい食べ物もある。何より、相棒だって思える剣と出会わせてくれた人がいる。だから、私は前に進みたい。彼に置いて行かれたくない。生きて、この世界を脱出してみせる。そう思ってるの」

 

 けれども、その決意を語ったアスナさんは強い決意をもって言葉を区切った。前に進む。それは月の聖杯戦争で、私が最後まで……腕が吹き飛ばされようが、足が消されようが失わなかったひとつの意地と同じ。

 そんな言葉を聴いちゃったら、私の答えも決まってしまった。

 

「じゃあ、私も上に行く。戦力面ではそんなに役に立たないけど、セイバーが褒めてくれたように、少しなら戦闘指揮も出来るし。それに、ゲームはクリアしてなんぼだしね。だから、少しの間でもいい、手助けしてほしい」

 

 伝えて差し出した手のひらは、暫く悩むそぶりを見せたアスナさんの手と、しっかりと握り合わされた。

 

「こちらこそよろしく、ハクノンさん。正直、一人じゃ本当に心細かったの」

「ハクノンで良いよ。よろしく、アスナ」

 

 一緒に次の階層に進もうと約束してアスナが帰った後、ベッドで眠っているセイバーの隣に腰を下ろし、その滑らかな金髪に触れてみる。

 うわ、さらさら。何これずるい、ずっと触っていたくなる撫で心地。

 

「奏者よ、頭を撫でられるのは良いが。少しくすぐったい」

 

 ふと、漏らされた言葉に手が止まる。あれ、起きてましたか。

 

「本当に変わらんな、奏者よ。自分の為ではなく、誰かのために戦う決意を固めるとは。だが、余は……いや、私は、そのようなそなたが大好きだ。ならばこそ、この身は髪の一本に至るまで奏者にそなたに捧げよう。暴君とまで呼ばれた余が誰かにここまで尽くすのはそなただけだぞ、ハクノ」

 

 そういって笑う少女の顔は、皇帝としての仮面を外してただ一人の人間として私を見てくれている。

 

「ありがとう。頼りにしてるよ、セイバー。それと、私も君のこと、その……好きだから、ネロ」

「……っ! 急に名前を呼ぶのはずるい。呼んでもらう気構えが出来てないし、きちんと聞き取れなかったではないか」

 

 あはは、ごめんごめんなんて、ちょっと軽く謝ってみる。頭も撫で撫で。

 それだけで機嫌が直っちゃうセイバー、なんてチョロイン。

 

「さてと、真面目な話。私は今までセイバーに指示を飛ばすだけで、自分で戦ったことなんて数えるほどしかないし、どれも言わずもがなって結果だった。だから、セイバー、お願い。私に戦い方を教えてほしい」

 

 それは、今日の戦いを見ても明らかだった。ただ怯えるだけで、逃げるだけで。セイバーが来てくれなかったら、私はきっと成す術もなくあの場で光の粒子になって消えていただろう。

 セイバーは渋い顔を作って、私に答える。

 

「奏者の考えていることはよく分かるし、余も奏者が戦う術を身に着けるのは賛成だ。だが、余では指南役にはなれぬ。余の剣技はいわば皇帝特権の賜物ともいえるからな、余人には模倣することは適わぬ」

 

残念そうに。本当に残念そうにそう言うセイバーのぐぬぬって表情、可愛い。ないす。

 ああ、いやそうじゃない。セイバーに剣を習えないって事は、実践で使い方を学ぶ必要があるのだろうか。

 

「今は休もう、奏者よ。余は疲れた。ゆっくり休んで、明日になれば妙案も出よう」

 

 そう、話を打ち切ってもぞもぞと、腰辺りに抱きついてきたセイバーはそのまま眠りへと落ちていった。

 そうだね、きっと何とかなる。何とかする。今までだってそうして来たじゃないか。

 自分に何も出来ないことも、何をすればいいのか定まっていないことも、何故自分がここにいるのか分からない事も。

 分からないのは、今までどおり。なら、先に進んでいれば自ずと全ての答えが見えてくるだろう。

 そう、自分に言い聞かせて今日は眠ることにしたのだった。

 




お読みいただきありがとうございます、蒼の涼風です。
第4話お送りいたしました。

今回は休息回&説明回と見せかけた百合回でございました。

剣女主、良いよね!が合言葉です。

それではまた、次回。


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Art5:歩き出そう。そして楽しもう、冒険を。

こんばんは。
それ行け、はくのん。最新話を投稿させていただきます。


 どれ位眠ったのだろう。窓のカーテンの隙間から、光が差し込んできている。もう朝なのかな。ん、あれ……なんだか手のひらに柔らかい物が。むにむに。

 ずっと触っていたいかも。この弾力、この肌触り、ないす。

 

「奏者よ。その……夜這いを仕掛けてくるのならせめて、自分は起きているべきではないか? それでは余も楽しくはない」

 

 ふと。耳元で囁かれる声には、どこか恥じらいとか照れとか混じってるように感じる。ゆっくり目を開くと、顔を赤く染めたセイバーが隣で寝ていた。そして私の手のひらはそのお胸さんに当たっていた。

 

「あー。おはよう、セイバー。よく眠れた?」

「あれだけ余の胸を堪能しておいて感想も無しだと!? 泣くぞ、余は泣くぞ!?」

 

 触ってたことよりも、感想を言わないことにお叱りを受けました。だって、セイバーの胸が触り心地最高なのはよく知って……こほん。

 とりあえず、もう一回おはようと伝えて頭を撫でてお茶を濁しておく。そろそろアスナも起きて来そうだし、出発するなら準備もしないといけないしね。あと、昨日寝る前に物珍しくてメニュー画面を弄ってる時に気がついた私のスキルについても、二人には相談しておかないといけない。取り敢えず、朝ごはん!

 

 

 

「武器熟練度が上昇しない上に、ソードスキルが使えない?」

 

 うんうん、伝えなきゃいけないことはさらっと伝えて朝ごはん。この宿屋さんはシンプルにトーストと目玉焼きを出してくれるんだね。私はどっちかと言うとゆで卵の方が空きなんだけど、トーストに目玉焼きを乗っけて食べるのも悪くない。

 

「いやいやいや、ご飯食べてないで! 武器熟練度が上昇しないってどういうこと!?」

 

 んぐ、揺さぶらないでください。のどに詰まる、トースト落としちゃう。セイバーは……うん、自分の食事に忙しいみたい。

 

「どうって言われても。ほら、これ……エクストラスキル【従者使役】。自らの剣となって戦うサーヴァントを従える事が出来る。サーヴァントは本来使役者が得る武器熟練度を自身の経験地として成長するって」

 

 自分のメニューを可視モードというものに切り替えて、アスナに見せる。多分セイバーと言う存在を無理やりねじ込んだために起こったデメリットなんだろう。続いて、もうひとつのスキル画面に触れてもう一度アスナに見せる。

 

「それとこれ。エクストラスキル【令呪】。従者使役のスキルを持つ者は、自らのサーヴァントに対して3度限りの絶対命令権を保有する。その使い方次第では不可能を可能にすることも出来る。代償として、一切のソードスキルを使用することが出来ない……って」

 

 読めば読むほどデメリット大きくないですか?

 ちょっと運営スタッフ、そこんとこどうなのさ。

 

「別に、何ら問題ないではないか。余は奏者の剣であり、アートとは芸術。剣の芸術――つまり至上の芸術にして、至高の名器たる余にこそ相応しい。心配は要らぬ、奏者(マスター)の前に立つ敵は、余が斬り捨てる」

 

 何てことはない、と言う風に告げるセイバー。口に卵が付いてなかったら格好良くて惚れちゃうところだけど。

 や、もう惚れてるのかな?

 ん、まあ良いか。取り敢えずナプキンで口をぬぐってあげる。

 

「まあ、レベルは上がるみたいだし。適材適所、かな。取り敢えず、2層に行ってみましょう」

 

 朝食と相談を切り上げた私達は、その足で転移門へと向かい2層へ行くことにした。

 うえ、転移って気持ち悪い。リターンクリスタルをアリーナで使ったときみたいな、よく分からない浮遊感。これって慣れるのかな。

 一瞬の浮遊感と、光の後には今までとまた違った雰囲気の街に到着した。転移指定したアスナの話から、ここが2層の主要都市、ウルバスと言うんだろう。

 

「何だかもの寂しい雰囲気。BGMのせいかしら、こんなに人が多いのに」

 

 そう呟いたアスナは、風で流される髪を押さえてケープを被りなおしていた。セイバーはと言うと、自分ならばこういった街ではもっとこう華やかな音楽を……などと、ぶつぶつと言っている。

 確かに、弦楽器での明るい音楽が流れていたさっきまでいた町と、オーボエが主旋律を担当しているこの街とでは全く印象が違う。

 

「取り敢えず、道具屋に行きましょう。もうアルゴさんの攻略本が出回っているはずだから、今後の行動の指針にしたいの」

「分かった。あ、でも私もうお金がないんだけど……攻略本、買えるかな?」

 

 そうなのだ、私は新調した武器と、左腕に装備したバックラー、それと幾ばくかの防御力が上がる服を購入して最低限の装備を整えたらスッカラカンなのである。

 セイバーがアレほしい、これほしいと言っているのを嗜める自信もないのである。

 

「はは、は。大丈夫、アルゴさんは後続のプレイヤーのために、攻略本は無償で提供してくれているの。きっと、何人かのベータテスターって呼ばれてる人も協力してくれていたんだと思うけど。昨日の騒ぎでそういう協力を嫌になったテスターが何人出たか」

 

 どこかしょんぼりとした様子のアスナが気にしているのは、やはりキリト君の事だろう。ベータテスター、その中でも一段上の存在として周囲からの敵意を集めた彼は、今どこで何をしているのだろう。なんて、三人であれやこれやと話をしながら道具屋に行き、アスナに操作方法を教えてもらいながら攻略本を受け取る。

 

「取り敢えず、この街周辺のMOBを狩ってみましょう? もう、最前線は違う町に移りつつあるみたいだから、他の人と経験地の取り合いになることも少ないと思うわ」

「了解。じゃあ、行こう。少しでもアスナの足を引っ張らないようにしなくちゃ」

 

 なんて言いながら、街の外に出る。何でも、アスナが持っているウインド・フルーレというレイピアの強化素材を落とす蜂型モンスターが目当てらしい。

 蜂かぁ、あんまりいい思い出がないな。確か、1回戦で初めて入ったアリーナでも、苦戦したのは蜂型だったし。

 

「余は何でも良いぞ。久しぶりに存分に剣が振るえると言うものだ。うむ、蜂とは言わず、中ボスクラスを相手にしても良い」

「中ボス……フィールドボスの事? その攻略はもう少し先だし、今はお互いの戦力増強を考えましょう?

 

 そわそわと歩みを進めるセイバーの言葉に、至極生真面目に返答するアスナ。もしかして、この二人は正反対だからこそ良いコンビネーションを見せると言う関係になるのだろうか。むむ、じぇらしー。

 

「……ハクノンさん、あそこにいるわ」

 

 アスナが指差した先には数匹の蜂型モンスター。てか、蜂。

 私達はそれぞれに武器を取って、まず手始めに近い位置からモンスターを順番に倒していくことにした。

 因みに、私が片手棍が使い方次第で意外と楽しいときが付くのに、30分もかかりませんでした。

 あは、気絶するんだ。ぼこぼこ殴ってごーごー。あ、くすくす笑うんだっけ?

 

「奏者よ、それ以上はこの世全ての欲(アンリマユ)が顕現するぞ」

 

 む、何か嫌なことを思い出しそう。

 三人でそんな他愛ない話をしながら楽しく。本当に楽しく、心から冒険と言うものを楽しめたと思うよ。

 




はい、全く持って話が先に進んでいません。
ここ最近現状確認と設定固めしかしていないような気がしてきました。

そろそろ、第2層での事件が起きる……かな?

それではまた、次回。


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Art6:マロメの村で。フィールドボス攻略前夜

こんばんは、蒼の涼風です。
はくのん6話、投稿させていただきます。

そろそろ、本格的なクロスになりそうな、ね。


「……はぁぁ!」

 

 鋭い閃光が、一直線に私に突っ込んでくる。細剣の単発突進技“リニアー”だ。その切っ先は寸分違わずに私の喉を狙って突き出されたのを、ギリギリのところでバックラーで受け止め、受け流す。

 

「ふ……っ!」

 

頬を掠めていった時に少しHPが削られたけれど、気にすることなく右手に握ったメイスを思い切り振りぬく。狙うのはわき腹、がら空きのそこに叩き込んだ。

 つもりだったのだが、振り抜いた時にはもう距離を開かれ、再度突進してくる閃光。無防備な私は腕と胸を纏めて貫かれてHPが残り4割程に減ったところで、目の前に“LOSE”の文字が飛び出してきた。

 

「うあぁぁ……また負けたぁ」

 

 2人合わせて3手。殆ど勝負は一瞬で終わった。勝者、アスナ。

 私達は今、アスナの素材集め兼私のレベルアップの為のモンスター狩りを終えて、宿屋で休んでいた。事の始まりは3日前。最前線のマロメの村に到着した私達は新しい攻略本を入手して、2層以降人型のモンスターが増えるに伴って、ソードスキルへの対処や人型との戦いに慣れる必要があるという話になった。

 そこでアスナが、知り合いの情報屋のアルゴさんに連絡を取り、何かしら予習できる方法が無いか聞いたのが決闘(デュエル)というプレイヤー対プレイヤーのバトルである。ルールはHPを全て削られた方が負けという【全損決着】HPが半分まで削られたら負けの【半減決着】同じくHPを半分削られるか、ソードスキルのクリーンヒットを食らったら負けの【初撃決着】だった。もちろん、HPが無くなったら本当に死ぬ状況で、全損決着なんて選ぶつもりは無い。

 

「オレっちのお勧めは初撃決着かナ。今のところ、力試しにちょうど良いってやってる奴らも多いみたいサ。特にアーちゃん達みたいな初心者さんだと、ソードスキルの力の加減も難しいだろうしナ」

 

 と言われ、初心者2人は素直にその助言に従っているわけです。

 因みに、この3日間毎日夕食後に手合わせをしているのだけど、3戦全敗。一緒に狩りをしたり、決闘してみたりと随分アスナの動きの癖は見えるようになったんだけど、何分動きが速すぎて、昨日までは初手のリニアーを防ぐことも出来ずに負けてた体たらく。

 

「奏者、それにアスナ。そろそろ休まないか、余は湯浴みがしたい。それに明日はフィールドボスとか言う奴の攻略の日なのだろ? 余は今から楽しみで仕方ない」

 

 そうなのだ、明日はいよいよフィールドボス攻略戦なのだ。もっとも、それを仕切るのは数日前に第1層のボス攻略戦で剣を貸してくれたキバオウさん率いるアインクラッド解放なんちゃらと、最後の最後キリト君に自分の恨みをぶつけていた剣士――リンドさんというらしい――彼が率いるドラゴンなんちゃらが指揮を執ると。

 アスナは元々フィールドボスの攻略にはそれ程興味は無いらしく、ボス討伐まで無制限に沸く蜂型モンスター、ウインド・ワスプからドロップするウインドフルーレの強化素材が目的らしいんだけど、隣の皇帝様はボスと聞いてわくわくしています。はあ、どうなることやら。

 

「よ、アーちゃんにハーちゃん。今日も精が出てるネ」

 

 明日のためにさっさと眠る準備をしようと思っていると、急にそんな声が聞こえた。それは、情報屋アルゴさんの声。

 

「アルゴさん。また隠蔽(ハイディング)スキルでこっそり覗いてたんですか?」

 

 なんて、アスナが呆れたように声をかける。次第に目の前にぼんやりとモスグリーンのフード付き外套を纏った、悪戯好きそうな女性が現れた。すごいなー、あのスキル。新しくスキルスロットが解放されたら取ろうかな。や、でもセイバーはこそこそするの苦手だろうし無理だろうな。

 

「明日のフィールドボス攻略、参加するんだっテ? それで、陣中見舞いに来たんだヨ」

 

 この独特のアクセントを持ったしゃべり方、お顔のヒゲと一緒で役作りかな? ロールプレイ、って言うんだっけ。本来ロールプレイングゲームは、卓上で役になりきって遊ぶ物だったらしいし、そう言うスタイルの人もいるのだろう。

 

「陣中見舞いって言うなら、あの人……どこに居るのか知ってます? 2層に上がってから全く姿を見てないんですけど」

 

 アスナは何気なく聞いたつもりなんだろうけど、アルゴさんはにやーっとしてる。かくいう私もにやー。セイバーは腕を組んでうむうむ頷いちゃってる。

 

「何ですか3人とも!?」

「知りたイ? 知りたいんだネ?」

 

 ずいずいっとアスナに距離を詰めるアルゴさん。うわー、楽しそう。私も私も。一緒になってうりうりってほっぺた突っついてみたり。

 

「ハクノンさんまで何で一緒になってるんですか!? というか、私はただもうフィールドボス戦なのに姿を見せないから、どこで油を売ってるのかなと」

「アスナ、それツンデレだよ」

「ツンデレじゃないです!」

 

 もう、可愛いなぁ。多分、そんな風に見られているなんて思っても居ないんであろうアスナはどこと無く居心地悪そうに髪を弄っている。

 

「な・い・しょなノ。特にキー坊が、アーちゃんだけには教えるなっテ」

 

 がーん。なんて効果音が似合いそうなくらい、あからさまにショック受けてるよアーちゃん。

 そんなやり取りの横で、ふと大人しいセイバーが気になって振り向いてみると、何かに耳を済ませているような感じで目を閉じていた。

 

「セイバー?」

「奏者よ、耳を済ませてみよ。心地よいではないか、この槌の音」

 

 言われて耳を済ませてみると確かに、聞こえてきたのは鉄を打つ音。カーン、カーンと、本当なら騒音とも取れるような音が、何だか耳に心地いい。

 

「初めてのプレイヤーによる鍛冶屋だネ。凄く腕の良い鍛冶屋らしくて、今一番人気ダ。こうやって生産職が増えていけば、きっと攻略のペースも上がるヨ」

 

 ふと、さっきまでアスナをからかっていたアルゴさんが私達の所に来てしみじみと漏らす。そうだよね、前線で剣を振るうだけじゃない。アルゴさんのように未確認のクエストや情報を集め・公表する人や、こうやって武器を作ってくれる人が居れば。

 きっと、私達は歩みを止めずに進んでいける。

 

「もう夜も遅い、そろそろ休もう。セイバー、アスナ」

 

 ふと、メニューの隅っこに書かれている時刻表示を見ると22時を過ぎていた。明日の戦いのことを考えると、そろそろ体を休めたほうが良い。

 アルゴさんは、これからまだ少し用事があるというので別れを告げて休むことにした。明日はボス戦。がんばろう。

 

 

 同日、某所にて。

「なによ、随分楽しそうじゃない」

「明日はフィールドボス戦に参加すると言っていたヨ。まだ会いに行かないのかい? 友達なんだロ?」

「いいえ、まだその時じゃない。私は私のやり方で、攻略を進めないと。今、彼女に会うとそれだけで安心しちゃう。あの子なら何とかしてくれるって思っちゃうから、そんなの、今は心の贅肉だわ」

「彼女にそんな力があるとオレっちには見えなかったけド……まあ、信頼は人それぞれカ」

 

 二つの影は、その会話を最後に別々の方向へと歩いて行った。

 夜は、深ける。様々な人の思案、思惑を覆い隠して。

 




「本格的?」と思った人、挙手(*・ω・)ノ
いえいえ、次回からまたしっかり絡ませますよ、彼女を。

それではまた次回。


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Art7:訪れる殺意、彼女の決意。

こんばんは。
はくのん7話、投稿させていただきます。


 翌日、フィールドボス【ブルバス・バウ】攻略戦。既に多くの参加メンバーが集まっており、パーティーも組まれていた。2人+αな私達はなんと言うか、あぶれ組みって感じである。

 もっとも、アスナは昨日言ったとおりウインド・ワスプ目当てのためこれといって他の人に声をかけるつもりは無いようだし、私もそこまでボスに挑みたいというつもりもない。

 セイバーやや不満そうだったけど、私の鍛錬も兼ねていると納得してくれた。それにしても大きい牛だなー。

 食べるならお肉の味が直に分かるステーキも良いけど、皆でわいわい食べるバーベキューも捨てがたい。

 

「ジブンら、もう一人はどないした? 2層来てから前線でもよう見かけんけど」

 

 そう声をかけてくれたのはキバオウさん。何だかんだ私達を気にかけてくれてるし、口は悪いけど面倒見の良い兄貴分ってとこかな?

 

「さあ、知らない。わたしもあの人も基本的にソロなの。誤解しないで」

「ほんなら、あっちに4人のパーティーがあるさかい、話通しといたろか」

「言ったでしょ、ソロだって」

 

 そうやって、気にかけてくれている。こういう人が居ると、私達あぶれ組みも場に馴染み易いのだけど、アスナは今回本当にボス攻略にはタッチしないつもりみたい。

 

「アスナ? もしかしてソロが良かった? 私邪魔?」

 

 彼女の冷たい声を聞いてしまうと、何処と無く不安になってくる。しょぼーんとしながら聞いてみるとすぐに苦笑いを浮かべた彼女が首を振って否定してくれた。

 

「ごめんなさい、そう言う意味で言ったんじゃないの。3人でがんばりましょう」

 

 ええ子や。ジーンときちゃう。なんて遊んでいると、今度はリンドさんがこっちに来た。心なしか、以前亡くなったディアベルさんって人に雰囲気が似ているような……?

 

「奏者よ、誰かに見られている。余は気に食わぬ、この感覚は」

 

 不意にセイバーが剣を抜いて、警戒モードを上げた。そう、警戒しないといけないような相手に見られている。けど、何で?

 いや、理由はいくつか想像できるんだけど、セイバーが警戒しなきゃいけないレベルの人?

 

「私達は2人で狩りに専念するからお構いなく……と言いたいところだけど!」

 

 ふと、リンドさんと話していたアスナが茂みに手を突っ込むとそこに居たのはキリト君!? わー何だか久しぶりだ。

 

「え、ええ!? 何で、隠蔽(ハイディング)スキル使ったのに!?」

「出歯ガメの現行犯。罰としてわたしの素材集め手伝いなさい」

「……! ビーター……っ」

 

 キリト君の登場で、一気にその場が騒然となる。そりゃそうだよね、あんだけ周りの敵意を集めて行ったんだから。

 さっきの視線、キリト君なのかな? セイバーに目を向けるとやれやれって感じで首を左右に振ってる。

 

「蜂担当、一人追加ね。大丈夫、牛さんに手出しはさせないから。あなた達本体がしっかりやっている間は、ね?」

 

 なんて挑発しているアスナと、居心地の悪そうなキリト君。

 

「あー……やっぱごめん。小心者の俺としては、この針のムシロはちと堪え……」

「見くびらないで。仲間と思われるのが嫌なら、最初から引きずり出したりしないわよ。あなたがSAOのプロなら、女子校育ちのわたしは心理戦のプロなんだから。キリト君が何を考えているかなんて簡単に分かるわ」

 

 何これ、にまにますれば良い?

 それともリア充爆発しろって言えば良い? 何となく、面白いような面白くないような。

 

「うむ、そなた達2人とももう爆発するが良い! 青春・葛藤大いに結構、2人まとめて余のハレムに加えよう!」

 

 何言ってやがりますか、ここの暴君様はー!?

 見てよほら、不思議そうな顔してこっち見てるし。というか、いい加減始めようよ。

 

 

 

 結局、フィールドボス戦が開始されたのはその30分程後。

 順調、うん。本当に順調だった。キバオウさんとリンドさんの部隊の連携が少し悪くて、両方とも自分達を標的にさせようとヘイトの奪い合いをするくらい。

かつて、あの場所で【死】を撒き散らした彼らが現れたことに比べれば。

 

「ケヒャ、ケヒャヒャヒャ。ゴチソウ、イッパイダァ」

 

 心底、ぞくりとくるこの声。

 いやいや、そんな馬鹿なと思って振り向いた先に居たのは、ピエロを髣髴とさせるどこかのバーガーチェーン店のマスコットみたいな衣装を身に纏った()()と、巨大な槍を持った漆黒の男性。

 

「……そん、な」

 

 思わず、喉が引きつる。あなた達は死んだはず。そんな言葉が漏れそうになる。

 そう、そこには間違いなく、私がこの手で殺した二人がいた。ランルー君と、そのサーヴァント【ランサー】が。

 

「久しいな小娘! 貴様のセイバーに斬り捨てられたこの傷、まだ疼く。だがしかし、神は今一度我が妻に、人を愛する機会を与えたもうた!」

 

 嫌な汗が噴き出る。全員を逃がさないと。アレは、ただの人間が敵う相手じゃない。

 

「おいおい、何なんだよアンタ。今更合流して、経験値でも分けてもらおうって……え?」

 

 リンドさんの取り巻きの一人がそう詰め寄った次の瞬間、その体は槍で貫かれ、一瞬にしてガラス片が砕け散るように消滅した。それは紛れも無く、一人の命が奪われた瞬間だった。

 

「消エチャッタ、消エチャッタ。生キタママ食ベナイト」

 

 ケタケタと笑う、ピエロ。ランサーは無造作に槍を構えると、呆気に取られているリンドさんにその切っ先を向けた。

 

「……! セイバー!」

「任せておけ、奏者よ! 未だ迷いを捨てられずに、このような所まで贄を求めるか、ランサーのマスター!」

 

 振り下ろされた槍を、渾身の一撃でセイバーが弾き飛ばす。

 すぐさま、私もセイバーの傍に駆け寄って、迎撃体制を整える。

 

「ニエナンテイラナイ、ゴチソウ! オ腹ガスイタ、食ベルノダ!」

 

 決着が付いたその瞬間まで、その空腹感に苛まれ続けたランルー君。その空腹感は、決して満たすことを認めちゃいけない。

 

「ハクノン、さん?」

 

 どこか不安そうに私に視線を向けてくるアスナと、キリト君。上手く笑えたかな、私。

 

「大丈夫、アスナ。キリト君、アスナをお願い……これは、決闘なんて生易しいものじゃない。ゲームですらない。君達は見ちゃいけない、殺し合いだよ」

 

 ああ。アスナと過ごした数日間、本当に楽しかった。でも、この後きっと話さなきゃいけなくなるだろう。きっと、私を見る目も変わるだろう。

 でも、目の前の【死】が、皆を狙うと言うなら。私は立ち止まるわけにはいかない。怖い、数秒後に訪れる死の気配が。それでも、臆病であっても、蛮勇であれ。仲間を、守るんだ。

 

「あなたの相手は私達だよ、ランサー。セイバー、お願い。皆を守るんだ!」

「うむ! さあ、奏者よ弦を執れ。そなたの指揮、久方ぶりに堪能させてもらうぞ!」

 

 




はい、ブルバス・バウ攻略戦と見せかけての、彼女の登場回でした。
私はどうしても凛を見捨てられず、EXTRAは凛ルートばかり通っていたからか……かなり印象深い主従なんですよね、この2人。

それでは、また次回。


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Art8:高らかに告げる君の名は

こんばんは。
Fate/SAO第8話、お送りします。


「アハハハ、ゴチソウダァ! 暴君ト、ソノマスター……ランサー、今度コソ食ベル!」

「善し、任せておけ妻よ!」

 

 嵐のように振るわれる槍と、それを捌くセイバー。私は一度大きく深呼吸をして、じっとランサーの動きを見る。

 見える、ランサーが次にどう仕掛けようとしてくるのか、断片的にだけれど。次の瞬間、ランサーは槍を自分のお腹に突き刺した。

 

「なんやあいつ、自殺しおったんか……?」

 

 キバオウさんが漏らすその言葉に、私の背中を嫌な汗が伝う感覚が否定する。

 そう、あれは決戦の日に何度も苦しめられた、粛清の儀というスキルだ。

 

「セイバー、戻って! スキルがくる、護りを固めて!」

「供物は天高く、飾るべし……では死ねい!」

 

 次の瞬間、剣の世界であるこのゲームでは有り得ないことに、黒い波動がセイバーに襲い掛かる。防御を指示したのがギリギリで間に合ったから大したダメージにはならなかったけど、それでも痛い。

 

「エヒャヒャヒャ! ゴチソウ、イタダキマァス!」

 

 不意に死角から聞こえてきたその声は、ランルー君のもの。しまった、セイバーの指示で一杯で、マスターへの注意を怠った。

 とっさに、体を投げ出して地面を転がると、すぐ横を掠めた短剣にわずかにHPを削られる。

 追撃しようとしてくるマスターのお腹を思い切り蹴り飛ばす、ダメージは通らないけれど、衝撃で吹き飛ばすくらいなら出来た。

 

「何なんだアイツは!? おいビーター、お前なら知ってるんじゃないのかよ!?」

 

 そんな怒号が後ろから飛び込んでくるが、キリト君が知ってるはずが無い。と言うか、人型モンスターが増えるとは言っても、流石にゲームバランス崩壊するでしょ、この強さ。

 

「ハクノン、俺も……っ」

「来ないで、【ブルバス・バウ】に集中して! アレの始末、任せたよ」

 

 右手に剣を握ったキリト君がこっちに助勢しようとしてくれたけれど、それは止めさせる。きっと、彼には目の前の2人を斬ることは出来ない。

 ううん、そんな事させたくない。あくまで、遊びじゃなくなってもせめて“ゲーム”であってほしい。

 こんな血生臭い戦いは、たくさんだ。そんな思いをこめて、メイスを振りぬいた。その先端はマスターの左のコメカミを捉えて、もう一度吹き飛ばす。

 

「愛深き故に、愛に裏切られた暴君よ! 我が槍の生贄にしてくれる!」

 

 天高く飛び上がったランサーの槍が、一直線に落ちてくる。

 

「セイバー!」

「分かっておる。一度見た技、余に二度は通用せぬぞ、ヴラド三世!」

 

 落下してくるランサーに対して、セイバーが跳び上がり体を捻る。流れるような3連撃は、的確にランサーの体を捉えてダメージを与える。

 喝采は剣戟の如く(グラディサヌス・ブラウセルン)そう呼ばれている彼女の技は流れるように綺麗で、本当に見とれてしまいそうになる。

 

「善し、善し、善し! それでこそ、一度は我妻を葬ったマスターとそのサーヴァントよ! だがしかし、この人数を護りきるなど不可能なこと。我輩の宝具の前では尚更である!」

 

 ぞくりと、何度目かわからない悪寒が背中を襲う。宝具、それは私達を支えてくれるサーヴァント……かつての英雄の伝説の逸話となり、伝説の存在を伝説たらしめるための物。例えば、かのアーサー王であればエクスカリバー、といった具合に。

 

「不義不徳の奴原共よ、無実無根の自覚はあるか!」

「いけない……皆、守りを固めて!」

 

次の瞬間、地面から突如として生えた無数の槍は周囲の人間全員を巻き込んで吹き飛ばした。そこに降り注いだ巨大な槍。

 視界の片隅で、HPが残り少ない……と言うか、ほんとにちょっとしか残っていないのを確認する。あと、どさくさに紛れて【ブルバス・バウ】が結晶化して砕け散っていた。この状態はまずい。ムーンセルみたいな、一瞬で体力が回復できるようなアイテムがあれば良いのだけれど、生憎と少しずつ回復するポーションの類しかもっていない。

 

「下がれ、スイッチである!」

 

 不意に、セイバーとランサーの間に入ってきたのは全身を重装備に固めた、タンクの人。振り下ろされたランサーの槍をその大きな盾でしのぎ切ると、にやりと口元を緩める。

 

「オルランドさん!」

 

 後ろから数人の男の人が駆け寄ってくれて、セイバーの盾になってくれた。オルランド、と呼ばれたその人はちらりとセイバーを見ると、持っていた回復ポーションを投げてよこしてくれた。

 

「持ちこたえよ、今こそ力を見せるときぞ! 我ら伝説の勇者(レジェンド・ブレイブス)也!」

 

 三枚の盾が、がっちりとランサーの槍の矛先を防いでくれるが、それでもダメージは通っているだろう。そう長くは保たないと思う。

 実際、庇ってくれている人たちに焦りの色が見える。

 

「……っ、セイバー。劇場は、開ける?」

「余一人の力では難しいな、所謂レベルが足りん。だが、令呪の加護を持ってすれば、一度だけならば、あるいは」

 

 答えるセイバーの顔には、こちらの判断を伺うような眼差しが見えた。それでもやるか、と。ならば迷う必要は無い。令呪の一画が何だ。

 優先すべきは、この修羅場からの生還。それも、現在生きている人間全員での。なら、私は。私が口にするべき言葉は――。

 

「セイバー、令呪をもって命じる! 宝具をもってあの敵を倒しなさい!」

 

 渾身の力をお腹に込めて、ランサーを指差す。左手には熱と、わずかばかりの痛み。視界に私の令呪が大きく表示され、その一画が黒ずんでいく演出が表示された。

 

「うむ、やはりそなたこそ余のマスターに相応しい。その判断、その勇気、その決意……やっぱり余は奏者が大好きだ! regnum caelorum et gehenna(天国と地獄)……築かれよ、我が摩天。ここに至高の光を示せ!」

 

 うん、そんな改めて告白されなくても知ってる。なんて無粋な突っ込みはしないけど。セイバーの宣言とともに、周囲の景色が書き換えられる。それは、かつて演劇が終わるまで鍵を掛け、観客の意思で外に出られなくしたと言われる黄金の劇場。彼女の皇帝特権は、どこに居ても優先されるらしい。

 

招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)!」

 

 展開された、黄金の劇場。棚引くローマ帝国の国旗。そう、これこそ私のサーヴァント、セイバーの奥の手。そして、セイバーの真の名前は。

 

「我が真名()はネロ。ローマ帝国第5代皇帝、ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスである!」

 

 そう、私がこれまで暴君だの皇帝様だの言っていたのは、揶揄や冗談ではなく。まさしく歴史に名を残す、偉人。

 あらゆる快楽・あらゆる芸術を湯水のように楽しんだ暴君という評価の一方、ローマの大火での施政者としての手際、さらには没後も彼女が治めた国だからと、諸外国から便宜を図られることもあったという話も耳にする。

 ローマ皇帝、ネロ・クラウディウスその人なのだ。

 




はい、宝具の撃ち合いとなりました。
何と2層での令呪消費。
いや、Fateの主人公は早々に令呪を消費するのはセオリーか(笑)

それでは、また次回。


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Art9:4人のはみ出し者

こんばんは、第9話投稿させていただきます。


 ローマ皇帝ネロ・クラウディウス。その象徴たる黄金の劇場は、いかなる相手であってもその能力を数割、削ぐ。

 つまり、本気で戦えなくなる。残り二画となった令呪の描いてある左手甲を、右手で握り締めながら、私は勝利を確信した。

 そう。いつだって、劇場は絶対皇帝圏。ここぞと言うときには、いつも勝利に導いてくれた正しく私達の切り札。

 

「行くぞランサー! この一撃にて滅せよ……童女謳う、華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)!」

 

 その技は、彼女が黄金劇場を開いている時のみ使える技。彼女の剣が、ランサーの体を切り裂いた。

 

「まだだ……喝采は万雷の如く(パリテーヌ・ブラウセルン)!」

 

 さっき、ランサーに叩き込んだ喝采は剣戟の如く(グラディサヌス・ブラウセルン)の上位版スキル、喝采は万雷の如くを立て続けに放ち、更にランサーのHP……つまり、ランルー君のHPが削られる、見たところあと1、2撃と言った感じ。

 ここで油断しちゃいけない。サーヴァント相手だと、どんな手で逆転されるか。ひとつ読み間違えただけで、逆転されて負ける何てことは、あの聖杯戦争では多々あった出来事だ。実際、逆転を繰り返してきた身としては、明日は我が身と言う言葉が身にしみる。

 

「燃え盛れ炎、これぞ余の情熱。しばし私情を語ろう……余は奏者が、大好きだ! 星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)ッ!」

 

 しばし? なんて突っ込みを入れたくなる。

 四六時中語ってないか、その私情。

 けれど、そんな叫びと一緒に突進したセイバーの剣は、大きく燃え上がり貫いたランサーを爆発に巻き込んだ。それは、末期の言葉さえも許さぬ、全てを燃やし尽くす炎。依然語った、彼女の【愛】の形その物にも思えた。HPを全損したランサーと、ランルー君はガラス片……じゃなく、あの時と同じ。少しずつ砂糖菓子のように消えていった。

 

「おわ……った?」

「うむ、奏者よ。そなたの勝利だ、見事な指揮であった」

 

 くるくると、その剣を簡単に頭上で回転させたセイバーは満足そうに息を吐き出して戻ってきた。

 そう、勝った。生き残った。その安堵感から思わずその場にへたり込みそうになるものの、周囲から新たに注がれる疑惑の視線に気分が重くなる。

 

「ジブン、さっきの奴……あれ、プレイヤー、か? PKしたっちゅーことか?」

 

 最初に声をかけてきたのは、キバオウさん。その声には、動揺を隠せないのがありありと感じ取れる。

 リンドさんや、2人の仲間として行動している多数のプレイヤーからも、「PK」や「それって人殺し……」と言う言葉が何度も聞こえた。

 

「貴様ら、黙って聞いていれば――!」

「良いんだよ、セイバー。人の命を奪ったのは確かなんだ。それが……あの人であっても、ね。行こう……次の町【タラン】にはとっても美味しいケーキがあるんだって。がんばったご褒美に買ってあげる」

 

 今にも爆発して、プレイヤー達に斬りかかろうかという勢いで剣を握るセイバーを止めて、笑顔を作る。

 多分、私達が次の町に行く事で、大多数の人はマロメに戻るのだろう。それか、近くの安全エリアで野営でもするかな。

 そんなことを考えながら、まだ怒りが収まらないセイバーの手を引き【タラン】に向かうことにした。ケーキ、楽しみだね。セイバー。さあ、気持ちを切り替えて前を向こう。もともと自分達はこの世界の招かれざる来訪者と言う奴だ、なら無頼を気取って進もうじゃない。

 

 

 

 何が起きたのは、理解できなかった。ベータテストの時には存在しなかったサーヴァントという存在。正直俺は、彼女……ハクノンが何らかの切欠で得た、彼女だけのエクストラスキル――いうなれば、ユニークスキル――なのだと思っていたのだけれど、違ったのだろうか。【ランサー】と名乗る男と、傍らに居た不気味な存在。そのあり方は、表面的には違えど、ハクノンさんとセイバーさんによく似ているような気がした。

 そして、俺が気に入らないのは。

 

「何で、皆を守ってくれたのに、そんな言葉しか口に出来ないんだ」

「今は、感謝以外の何を口にするというの?」

 

 ふと、思わず漏れた言葉と隣に居たアスナの言葉が、同じように漏れる。そうだ、彼女はこうなる事を承知で戦ってくれたんだ。だからこそ新参のタンク部隊、たしか伝説の勇者(レジェンドブレイブス)と言ったっけ。彼らも身を挺して彼女を守ったんだと思う。

 

「俺は彼女の後を追いかけようと思う。アスナ、君はどうする?」

「もともと、彼女はわたしのパートナーなの。そりゃあ、プレイヤーを殺したことや、まだ話してないこととか色々あるけど。今、あんな顔で一人で行こうとするハクノンを見捨てるようなことをすると思う?」

 

 しれっと言い放つアスナの横顔は、何てことも無いと言い放つ。

 そうだな、さっきもアスナはしっかりと言い放ったところだった。「仲間だと思われるのが嫌なら引きずり出したりしない」と。

 きっと、彼女はこうやって孤立しそうな人に対して等しく手を差し伸べるのだろう。いつか、きっと……いや、必ず彼女は攻略組プレイヤーの先頭に立ち、導く立場になると思う。

 そんな姿を見てみたい。いや、願わくば隣で見ていたと感じるのは、俺の我侭だろうか。

 

「行きましょう、早くしないと追いつけないわ」

 

 そんなアスナの声に俺も走り出そうとしたのだが、ふと呼び止められた。

 そこには、キバオウ……一層攻略時から、あまり良い印象は持てなかったけど、彼は彼のやり方で攻略すると人づてに伝言を残してきたのはよく覚えている。

 

「ワイも追いかけたいけど、曲がりなりにもギルドの真似事をしとるんや、一人勝手には動けへん。アイツに、助かった……何か困ったことがあったら、今度はワイが力になる。そう、伝えてくれへんか」

 

 何処と無く照れくさそうなキバオウの言葉に、うわー男のツンデレってこんなのかなーなんて悠長な感想を感じながらも、頷いてその場を後にする。

 アスナが皆を引っ張って攻略していくなら、きっとハクノンさんはその先を行って道を切り開いていくだろう。傷ついて、落ち込んで。それでも挫けずに、ただ前を見つめて進む……そんな予感も、したんだ。

 

 

 

 

「あれがタランか……思ったより大きな町かも」

 

 ゆっくりとした足取りで、タランへと向かう。視界の隅にあるHPバーはさっきの戦闘中にセイバーが飲んだポーションが利いているみたいで、6割ぐらいまで回復していた。

 そう言えば、宿を取ったりとか美味しいご飯を食べさせてくれるお店だとか、今までアスナが探してくれていたから、探すの初めてだなぁなんて考えながら歩いてると、後ろから殺気!?

 慌てて振り向くと、そこには何か機嫌の悪そうなアスナさんと、キリト君?

 えーっと、何か御用でしょうか。

 

「バカ! パートナーを置いて一人で先に行くなんて、危ないじゃない!」

 

 そう聞こうとする前に、響くアスナの怒鳴り声。

 うあー、耳に響くよ。きーんって。

 

「まあ、そう言うことだって。ソロを気取るのも良いけど、ソロプレイには絶対的な限界があるんだ。一緒に行こう……それと、守ってくれてありがとう」

 

 隣のキリト君が、どうどうとアスナを抑えながら苦笑いで告げてくる。どうしよう、そんな言葉をもらえるなんて、思っていなかった。

 

「……キバオウさんからも、『助かった、今度はワイが助けになったる』ですって」

 

 そっか、そんな風に言ってもらえるなら、頑張った甲斐もあったと思って良いかな。

 

「奏者よ、そなたの国にこんな言葉があるのだろ? “情けは人のためならず”と。正しくそれではないか!」

 

 隣で一部始終を聞いていたセイバーが、嬉しそうに。本当に嬉しそうな笑顔で私を見つめてくる。何だか視界が滲んでくる。

 これで、ちょっと強気な友人なら「信じられない、泣かされた」なんて強がるのだろうけれども、私は無理そうだ。

 キリト君がその後の話を纏めてくれて、4人でタランを目指すことになった。

 そうだね、この2人になら話して良いのかもしれない。どうして私がランサー達を知っていたのかとか、セイバーのこととか。

 

 少しだけ軽くなった気分のまま、私の足はまた前へと歩き始めた。

 




はい、今回はランサー戦決着と、これまであまり絡んでこなかった本来の主人公キリト君と合流してもらいました。
この4人、やっとそろった……長かった!

それでは、また次回。


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Art10:Nezhaのスミスショップ

少し間が開いてしまいましたが第10話、投稿させていただきます。


 新しい町【タラン】に到着した私達は、とりあえず先ほどの戦闘での疲れを癒したい。そして出来たら美味しいものを食べたいと言う満場一致の方針により、道具屋に行ってさっそくアルゴさん印の攻略本を購入。

 観光名所のページを開き、お勧めのレストランへと向かうのだった。ウルバスの街で食べた『トランブル・ショートケーキ』がこの町にも置いてある店が一軒だけあると聞いていたのだけど、なかなか奥まっている上に入り組んだ場所にあるそのレストランは攻略本を持っていても見つけるのが一苦労だった。迷子にならずに出られるかなぁ。

 

「それで、話してくれるの? ハクノン、あなたが何を知っていて何を隠しているのか」

 

 もっか、目の前の偉い美人さんに取り調べうけてます。カツ丼、カツ丼下さい!

 

『お待たせしました、カツ丼でございます』 

 

 なんて、店のNPCが本当にカツ丼持ってきた。な、何だってー!?

 このゲームでは基本的に現実にあるような……特に日本で見かけるような食事って言うのは全くと言って良いほど見かけなくて、なんだか美味しいのか不味いのかよく分からない料理を食べさせられたことも何度かあるのに。

 

「こほん。今はそう言うどうでも良い話をしているんじゃないでしょう?」

 

 じろりと睨んで話を戻させられる。はい、悪ふざけしてスミマセンデシタ。

 

「それで、ハクノンさん。俺たちに話したいことがあるって……どんな」

「じゃあ、少し長くなるけど聞いてもらおうかな。私と、セイバーの出会いの物語。決して綺麗な話じゃないし、少しだけ話せないこともあるけれど……嘘だとか、作り話だとかじゃない、本当に私が体験した話だよ」

 

 キリト君に助け舟を出してもらって、頷いてから話を始める。私が経験した、月の聖杯戦争の話。それは、おそらく誰が聞いてもファンタジーだとしか思えないような、出来事だった。

 セイバーとの出会い、それまで友人として振舞っていた人物との最初の決闘。今でも自分の師だと思える偉大な軍人と騎士の話。遊び相手を求めて彷徨っていた幼い少女の話。先程戦ったランサーとの死闘、暗殺拳の達人と、悲しい殺し屋の末路。そして、そこで出会った友人との死闘。太陽にも似た少年と、愚直なまでに主人に忠実だった剣士の物語。7つの決闘と1つの戦い、1人の男の結末を語り終えた後は少し喉の渇きを感じてテーブルに置かれた水を口に運ぶ。

 ところどころ端折っている部分はあるし、まだ語っていないものは多かったけれど、この2人は真剣に私の話を聞いてくれていた。

 

「信じられないな……ああいや、ハクノンさんの話を信じないと言っているんじゃなくて、そんな技術があって、そこで殺し合いを行う人が居るって言うことが」

 

 そんな風にキリト君から声が漏れ、アスナは何か考え込んでるみたいで難しい顔をしている。

 

「で、サーヴァントって言うのはそのムーンセルって言うのに記録されていた、過去の偉人のデータというか魂と言うか……私達は【英霊】って呼んでいるんだけれど、そういったもの。だから、このセイバーは本物のローマ皇帝、ネロなんだって」

「そんな馬鹿な!」

 

 ふとアスナが声を上げて話に割り込んできた。

 

「ローマ帝国の5代皇帝ネロ・クラウディウスといえば男性じゃない。セイバーさんはどう見ても女性でしょ!?」

「うむ、余は昔から男装をして男として振舞っていたし、妻も居たからな。男と思われても仕方が無い。だが、アスナ。そなたの知る『史実』と『真実』は必ずしも同じではない。史実とは、後の歴史家が仮設を立て大多数の者が『そうだろう』と考えているだけのものに過ぎぬ」

 

 うんうんと、アスナの疑問には運ばれてきたカツ丼を食べていたセイバーが答える。美味しい?

 

「それに見よ、余は今でもこのように男装をしているではないか!」

 

 どーん、どや顔赤王様、登場。え、やっぱりそれ男装だって言い張るんだ。どう見てもスカートだし、胸やらお尻やら女性らしいプロポーションを強調するようなデザインのそれを。

 

「えっと、セイバーさん。それは私達の感性じゃ男装じゃないと思うのだけれど」

 

 苦笑いを漏らすアスナと、今更まじまじと衣装を見て恥ずかしそうな顔をしているキリト君。

 胸とかお尻とか、どーんと出ちゃってるもんね。

 

「ところでさ、その見えてるのって下着……いえ、なんでもないです」

 

 うんうん、男の子。気になるよね。アスナ、アスナこれはレオタードなんだよ、だからそんな本気で怒らなくても。

 

「いいえ、デリカシーの無い人はきちんとシメておかないと」

 

 ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまったアスナに、セイバーと一緒に思わず笑顔が漏れてしまった。

 それは、何だか遠くに忘れてきちゃったような……かつて、旧校舎と呼ばれる場所で繰り広げられた騒がしくも楽しかった日々を思い出すもので。

 ああ、なんだ。私寂しいのか――なんて、贅沢。きっと、彼女なら……今自分を思ってくれている仲間が居るのに。私が人を殺したんだって話をしても変わらず接してくれる仲間が2人もいるのに嘗ての仲間を恋しがるのは、心の贅肉だと言うのだろうか。

 

「うむ、奏者よ! 出てきたぞ、ケーキだ」

 

 そんな話をしていたら出てきたトランブル・ショートケーキは以前見たのと変わらず、大きい、これなら、4人で分けてもお腹一杯そうになりそうだと思っていると、なんともう一つ出てきた。

 

「さっきのボス戦、ウインド・ワスプ狩りで数が多かったほうが、このケーキを奢ってもらうと約束したの。ありがとう、キリト君」

 

 にっこり、なんて表現がぴったりと似合うような笑顔を浮かべたアスナが嬉しそうにフォークを持って一口食べる。

 なんだ、結構仲良くやってるじゃん。

 わいわいと、4人で食事を終えると視界の隅には余り見たことの無いアイコンが写っていた。

 

「おいしかった……」

「確かに、ベータの時より美味くなってたかも……」

 

 うっとりしてるアスナと、ぶつぶつ呟いているキリト君。2人にこのマークが何なのかを聞いてみると、幸運ステータスに増加効果(バフ)がかかっているんだという。つまり、クリティカルやらレアドロップやらが出やすい状態になっているとの事。

 けれども、その効果時間が15分じゃそんなに多くのモンスターも狩れないし、何より今から町の外に出て狩りをするのも気乗りしない。

 

「ねえ、意味があるのか分からないけど……コレが出ている間に、この子の強化、試してみて良いかな?」

 

 あれやこれや幸運の使い方を相談していると、アスナがそう言い出した。確かに、武器の強化は絶対に成功するわけじゃないし、幸運ステータスがどこまで効果があるのか分からないけど、そう言うジンクスと言うか、願掛けじみたことは嫌いじゃない。キリト君も特にやりたいことがあるわけじゃないし、それでいく事になった。なんと、先日話していた、初のプレイヤーの鍛冶屋がこの町に来ていると言うのだから、試してみたいと思うのも無理は無い。

 私はメイスの強化素材は集めてないし、所謂サブウエポンなので強化するつもりは無いけど、キリト君もその鍛冶屋さんは使うつもりでいるみたい。

 ねずは……って読むのかな?『Nezhaのスミスショップ』に皆で来ている。

 

「ふむ、悪くない。むしろ良い。この名前、なかなか勇ましい名前ではないか」

 

 なんて漏らすセイバーの言葉にハテナと首を傾げてみるも、セイバーは面白そうに笑うだけで『奏者にもそのうち分かる』と言うだけだった。

 教えてくれないの? ちぇー。

 

「いらっしゃいませ、お買い物ですか? それともメンテナンスですか?」

「ウインドフルーレの強化をお願いします。項目は正確さ(アキュラシー)で、素材は持ち込みで最大数用意しています!」

 

 ふんす! なんて聞こえそうな勢いで開かれたトレードウィンドウを操作するアスナは、本当に楽しみにしているみたい。可愛い。

 

「凄いですねこんなに沢山……えっと、分かりました。それでは始めますね」

 

 どこかおどおどと言うか、気弱そうな印象を受けるプレイヤー、ネズハさんはアスナの剣を受け取って炉にくべ、加熱されたそれに槌を落とす。その流れはとても丁寧に見えた。

 果たして、気体に満ちた私達の気持ちは。

 

――ポキン――

 

 という何かが折れる音と、目の前で粒子に変わり消滅するアスナの剣、という結果を持って帰ってきたのだった。

 ……まじで?

 




はい、いよいよ始まりました武器強化詐欺。
あ、でもブルバス・バウってランサーの宝具に巻き込まれて消えたわけで。
え、ってことはアレどうしよう……?

それでは、また次回。


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Art11:それぞれの夜

お待たせしました。
第11話、お送りします。


――ポキン――

 

 そんな簡素な音とともに、アスナの愛用のウインドフルーレは光の粒子になって消えてしまった。

 強化を担当したネズハという鍛冶職人は頭を地面に擦り付ける勢いで土下座すると、代金の返済に加えて消滅した武器の代わりに自分の店の商品を無償で譲ると申し出てきた。

 

「いや、待ってくれ! 武器強化の失敗は最悪でも強化度の減少までだったはずだ。武器が壊れるなんて聞いたことが無い……説明してくれ!」

「せ、正式サービス開始に伴って、新しく実装されたペナルティだと思います。以前にも一度同じことが……多分、確立は物凄く低いんでしょうけど。本当に申し訳ありません!」

 

 キリト君がネズハさんに詰め寄って説明を求めてるけれど、そうだよね。ゲームシステムに関してただのプレイヤーが詳しく知っているなんてわけが無い。でも、強化に失敗したら武器がロストする可能性がある中で、これから武器強化なんてする人が居るんだろうか。

 今の低層なら、探せば代わりの武器も用意できるだろうけど……これがもし20、30と階層をまして、所謂レアアイテムになったら。

 私だったら、少しでもそんな可能性があるなら強化しないと思う。

 

「取り敢えず、宿に行こう。主武装が無くなった状態で出歩くのは危険だ」

「うむ、余も賛成だ。それにアスナにショックが大きい……今は休む方が良い」

 

 キリト君の提案で、取り敢えず宿に向かうことにしたんだけど、その間アスナは一言も口を聞かなかった。多分、ショックが大きいのかな。ずっとボーっとしている感じだし。

 

「じゃあ、俺は少し用事があるから出てくる。ハクノンさんもゆっくり休んで。それと……アスナ、これは自惚れかも知れないけど、置いていったりしないから」

「……うん」

 

 キリト君のかけた声に、多分涙を浮かべてアスナは部屋に入っていった。キリト君は怖い顔してどこかに行っちゃったし、どうしたものか。

 取り敢えず、アスナに代わりの武器を用意しないといけない。けれど攻略本を見てもウインドフルーレの代替品として機能しそうな武器の情報は載っていない。

 手詰まり、というやつだろうか。

 

「……奏者よ、何を考えておるのか分からんでもないが。武器は店で買う、モンスターが落とす以外にも入手する方法があるではないか」

「セイバー?」

 

 必死に攻略本のページを捲っていると、セイバーがそんな風に声をかけてきた。

 

「うむ。そうだ。人から譲ってもらえば良い。大人数を率いている人間ならば、予備の武器の一つや二つ、あって然るべきとは思わぬか?」

 

 そんな悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべたセイバーが言いたいことの内容に、ピンと来た。

 そうだ、キバオウさん! 困ったことがあれば言って来いと言ってくれた彼なら、交渉次第で剣の一本なら譲ってくれるかもしれない。

 でも、困ったことに私は彼の連絡先を知らない。多分、マロメの村か、タランまでのどこかの安全地帯で野営をしているかだと思うけど。

 

「さて、どうする? 奏者(マスター)

「決まってる、行こう。きっとマロメに向かえばどこかで鉢合うはずだし」

 

 本当に、いつもこの人は私を導いてくれている。普段は我侭だったり自分の楽しみだったりを優先するくせに、本当に私が困ったときにはいつも的確にアドバイスをくれるんだから。

 

「では、行こう奏者よ。そなたの足なら今夜中には戻ってこられるだろう」

 

 扉越しにアスナにお休みを伝えると、私達は駆け出した。今は一縷の望みに希望を託して、マロメに向かうのだった。

 

 

 

 

 

「情けないところ、見せちゃったな」

 

 わたしは暫く宿のベッドの上でぼんやりと過ごしてから、武装と衣服を解除して改めてベッドにもぐりこんだ。

 人前で泣くなんていつ振りだろう……。思い出しただけでまた涙が流れそうになる。

 いけない、切り替えなきゃ。悲しい出来事で萎えた心は、次の不幸を呼び寄せる。そう、早く立て直さなきゃいけない。そう思ってる矢先だった、急に部屋の扉が荒々しく開かれたのは。

 暗くてよく分からないけど、息が荒い乱入者。どうしよう、怖い。

 

「持ってる……アイテム……全部出せ!」

 

 荒い息の合間に告げられた言葉は、強盗。何とか追い払わなきゃといつも剣を置いている枕元に手を伸ばして絶望がわたしの体を襲った。

 そうだ、剣……折れちゃったんだ。何か言ってるのが聞こえるけど、よく分からない。

 

「早くするんだ、アスナ!」

 

 そこに居たのは、キリト君だった。物凄く鬼気迫る様子で、メニューウィンドウを開くように言った彼の指示に従って、よく分からない操作を繰り返すと最後に出てきたウィンドウ。表示されるYES or NOの表示。

 

「何か出てきた! イエスオア……」

「もちろん、イエーッス!!」

 

 言い終わる前に叫ぶキリト君の勢いに気圧されて、そのままイエスのボタンを押してしまったのだけれど、ふと何の操作をしたのか項目を見ると表示されていたのは『コンプリートリィ・オール・アイテム・オブジェクタイズ』なる表示だった。

 

「オールアイテム? オールってどこまで……」

 

 ふと、疑問に思ったときには頭上が光りだして、わたしの持っていたポーションやブーツ、これまで裁縫スキルで作った色んな服が空中に出現し始めた。

 

「そりゃあ、コンプリートリィに全部。あらゆる、あまねく、なにもかも」

「あ、ああ……あああ……はわぁ!」

 何て言っているキリト君の頭上には、その何と言うか。下着なんかも出てくるわけで。失礼とか言って人のアイテムを漁り始めたキリト君に殺意が沸くのも当然の話。

 

「ね、ねえ、キミ……もしかして死にたいの? 殺されたい人なの……?」

 

 そんな風に自分なりに殺気と言うものを纏わせて聞いてみたものの、全くそんなこと気にしていないようにアイテムの中から一つ取り出してわたしに見せてきた。

 その手には、ほんの一時間前唐突に別れることになったわたしの相棒、ウインドフルーレが握られていた。

 

「嘘……どうして、何なのよ、もう」

 

 もう、戻ることが無いと思っていた相棒が唐突に帰還してまた涙が出てきた。でも……良かった。おかえりなさい。

 

「キー坊、アーちゃん! ハーちゃんはいるカ!?」

 

 ウインドフルーレが帰ってきたことにホッとしているのも束の間、慌しく宿に来たのはアルゴさん。そう言えば、さっきの騒ぎの中でもハクノンさん、起きてこなかったな。

 

「アルゴ? いや、ハクノンならいないけど……どうした?」

「マズいナ。どうもハーちゃん、1人で町を出たみたいダ。いや、セイバーがいるから2人カ? どっちでも良いヤ。とにかく、単独で町を出てマロメに向かったらしイ。やばいぞ、もう『ブルバス・バウ』がリポップしている時間じゃないカ?」

 

 その言葉を聴いた瞬間、わたしとキリト君は同時に駆け出した。何でそんな無茶を……!

 

 

 

 

 

 

「うそ、うそ、うそぉーっ!」

「っく、流石に余一人では手に余る。どうする、奏者!」

 

 現在、私はマロメに向かっている道中、なのだが。

 なんてこったい、フィールドボスってリポップするの!? 聞いてない、そんな話聞いてない!

 現在全力で牛さんと鬼ごっこ継続中。ちくしょー、私の明日はどっちだー!

 




いつの間にか評価いただいているー!?
ありがとうございます、今後とも楽しんでいただけるよう精進します。

そしてお気に入りも80人もの方に登録していただき、嬉しい限りです。
それでは、また次回。


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Art12:青い槍兵

こんばんは、お待たせしました。12話をお送りします。




 どれくらい走っただろう。リポップしたブルバス・バウの突進を避けて、マロメに向かってひたすら走って。

 正直なところ、迎撃しようと試みたこともあったけど、曲がりなりにもボスのキャラクター。セイバーと私だけでHPを削りきるのは困難と判断してすぐに逃げに徹したのだ。

 ただ、上手く誘導して逃げるなんて器用なことが出来るわけもなく、マロメの村には近づけないし、引き返すにはボスの射程圏内に居すぎる自分の位置としては、正直にっちもさっちもいかない。

 

「奏者よ、どうする? 離脱するにしてもこのままではジリ貧だぞ」

 

 珍しくセイバーの声にも焦りの色が見て取れる。まずい、ひじょーにまずい。

 打開策が見当たらないってもんじゃない、コレは詰みだ。ああもう、うかつな行動が死に繋がるなんてあの学校で散々思い知ったのに、なんだってこんな事してるんだろうか……そんな自分の頭の中の声に、思わず苦笑いを漏らす。

 だって、仕方ないじゃないか。見てしまったんだから。

 

アスナ(仲間)の泣き顔を見ちゃったら……何とかしようとするしか、無いよね」

「まったく、コレだから奏者は一級百合フラグ建築士などと言われるのだ!」

 

 まった、待って欲しい。それは幾らなんでも思い当たる節が……無いわけじゃないけど。

 

「しかし、マスターが踏ん張ると言うのに余が踏ん張らぬ訳にはいかんな。仕方ない……帰ったら存分に余の頭を撫でるのだぞ!」

 

 ふんす、と剣を構え直すセイバー。何だかんだ言っても付き合ってくれる辺り、まじ天使。私もメイスを握りなおして、もうボロボロなバックラーを胸の前で構える。正直、大型盾を持ったタンクでないとあの突進は防御で防ぐなんて出来ないから、私のバックラーじゃ心元無さ過ぎるけど。

 

「もう1時間もこうやって遊んでおるのだ。いい加減貴様の顔も見飽きたと言うもの。余は眠いのだー!」

 

 がーっと吼えながらボスへと斬りかかるセイバー。あ、キレた?

 そっかそっか、さっきから何処となくイライラしてるような感じがしてたけど、眠くなってきてたんだ。もう、21時も30分をまわって、普段のセイバーなら寝てる時間だもんね。コレと言った用事が無い限りは。

 

「なら、さっさと終わらせなきゃね……行くよ、セイバー」

 

 そう、さっさとマロメの村に行ってセイバーを休ませて。その間にキバオウさんと交渉しないと。

 そんなよそ事を考えていたのがいけなかったのか、ブルバス・バウの突進を避けようとした際に足がもつれてしまった。いけない、このまま突進に巻き込まれたらアウトだ。

 

――ブルモォォォ!――

 

 なんてボスが唸り声と共に突っ込んでくる。やばい、と思って思わず目を閉じるものの、何時までたっても衝撃は襲ってこない。

 それどころか、声も近づいてきていない?

 

――その心臓、貰い受ける――

 

 そんな声と共に目の前に広がるのは真っ赤な閃光。物凄い速度で駆け抜けてきたのは、青い衣装に全身を固めた、青年。

 かつて、一度だけ見たことがある。あの決闘場(アリーナ)で、彼女を救うために自分の命と引き換えに活路を見出した。本当にそれだけの関わりだって言うのにとても印象深かった、正しく兄貴分とはこの人のためにあるのだろうと思われる言葉。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 ランサー。それも、幾度と無く自分の窮地を救ってくれた友人、遠坂凛のパートナーとして月の聖杯戦争を戦っていた人物だ。

 そして、【ゲイ・ボルク】と言えば、ケルト神話に出てくる光の御子『クーフーリン』を象徴する魔槍じゃないか。

 曰く、投げると30本の鏃となって敵を殲滅するだとか、突き刺すと30本の棘が生えて心臓を貫くだとか。つまりは、確実に心臓を貫く攻撃ってわけで。聖杯戦争のとき、このサーヴァントと戦っていたら自分は勝てていたのだろうか。

 その槍の一撃でもって、ブルバス・バウは粉微塵に消え去った。え、ほんとに一撃で? そんなんチートや!

 

「よう、嬢ちゃん。月以来じゃねえか。相変わらず面倒ごとばっか巻き込まれてんだな」

 

 にやり、なんて表現がぴったりな彼の表情に、そう言えば凛も何やかんやと口喧嘩していたなぁなんて思ってしまう。

 

「ランサー? どうしてここに?」

「ああ? 何故ってそりゃマスターの命令だからだろうよ。そこのセイバーや、ヴラド三世なんてバケモンが居て、俺がいねぇ道理は無いだろ」

 

 さも当然のように伝えてくる言葉。マスターの命令とな。

 

「おら、さっさと立て直せ。今からまだマロメに行くんだろうが……まあ、その必要も無いみたいだけどな」

 

 ふと、ランサーが指差した方角から走ってくるのは、キリト君とアスナ、それにアルゴさん!?

 あちゃー、バレちゃったなんて考えている間にランサーはどっか行っちゃうし。

 

「ハクノンさん!」

「ハクノン」

「ハーちゃん!」

 

 3人とも、いっせいに声をかけてくる。それぞれに切羽詰った顔をしているのを見る辺り、私がどんな目に遭ったのかは知っているらしい。てかそうだよね、知らなきゃそんな慌ててこないし。

 

「何て無茶だ、こんな時間に一人でフィールドを出歩くなんて!」

「どこも怪我してないカ? というか、ブルバス・バウはどうなったんダ!?」

 

 キリト君とアルゴさんが心配して声をかけてくれる。どこもおかしなことはないし、ボスも助けてくれた人が居て倒しちゃったことを伝える。

 ふとアスナの腰に目が行くと、つい数時間前に消えてなくなったはずのウインドフルーレが元通り、アスナの腰に戻ってきている。

 

「むむ、む? よく分からないけど良かった……剣、戻ってきたんだね、アスナ」

 

 アスナの剣が戻ってきた。それが嬉しくてつい笑っちゃったんだけど、アスナの目には涙か浮いている。あれ? 何か変な事言いました?

 ちょっとセイバーさん、一人非難して何か拾ってる場合じゃなくて! 助けて!

 

「なんで、こんな無茶したのよ。ボスがリポップするのは知らなくても、一人で出歩くのが危険なのは分かってたでしょ」

 

 声が冷たいです、アスナさん。うう……怖いよう。

 

「一人じゃないよ、セイバーも居たから」

 

 一応の反論を試みてみるものの、キッと睨まれてしまったら反論の使用が無くなるわけで。

 

「ごめんなさい。私一人で大丈夫だと自惚れてた。凄く心配かけたね、アスナ」

 

 素直に頭を下げる。許してもらえるのか怪しいところではあるが、私の精一杯の誠意を見せるには他に手段も無いし。

 

「無事で、良かった。タランに戻りましょう?」

 

 そう言って抱きついてきたアスナは、何だかとっても可愛らしく見えて。あ、なんだかキリト君が面白くなさそうな顔してる。アルゴさんは両手でピースしてるので、私も両手でピースしてみる。ぶいぶい。

 取り敢えず4人でタランの町に帰ることになり、その間に私が何故一人で出かけたのかをしつこく聞かれ、白状した後に……アスナさんの雷が落ちるのであった。まる。

 




お休みが欲しいです、一日小説かいてても何もいわれないお休みが…!

ちらっと、Fateキャラ参戦。すぐ消える。
サブタイ詐欺とはこのことかもしれない……!

はい、それではまた次回。


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Art13:愉悦の神父

こんばんは、お待たせしました。
13話完成しましたので投稿させていただきます。


 私は現在、第1層の『はじまりの街』に来ている。事の発端は私がタランの町に戻った後、ひとしきり絞られてから。

 アルゴさんが忘れていたと話してくれた内容が切欠。いわく、『はじまりの街』にある教会で、サーヴァントを連れたプレイヤーを探しているNPCが居たとか。神父風の男で、何処となく声を聞いているだけで重苦しい気分になってくるような男だったとか。

 出発の直前、キリト君に声をかけて少し出かけることを伝えた際、セイバーはセイバーで自分の趣味じゃないとか言って何か投擲系のアイテムを預けてたみたいだけど……何だったんだろう、アレ。

 ブツブツと頭の中を色んな考えが駆け回ってます。

 

「やっぱり、言峰神父のことかな……セイバー?」

「うむ、そうとしか考えられぬ。2人のランサーに加え、まずそなたと余がここに居るのだ。上位NPCであった言峰が居ても不思議ではない」

 

 やだなぁ……行きたくないな、なんて言ってられないわけで、目下移動中。そうそう、何でも町と町を繋ぐ小さな転移門があって、そこから主要都市までなら跳べるらしく、ばひゅっと跳んできました。

 前回の私の苦労って何だったんだろうね、何だか笑えてきた。

 

「ここかな。よし……おじゃましまーす」

 

 ぎいいぃぃ。なんて如何にも重々しい効果音で協会の扉が開かれた。その奥には多分、この世界の神様と……やっぱりいた。いろいろ嫌な思い出が多くて出来れば顔を見たくないヒトが。

 

「ようこそ、岸波白野。それに……ふむ、セイバーか。なるほど、こうやってイベントを起こした甲斐があったと言うものだ」

「どうも、言峰神父。月の聖杯戦争以来ですね」

 

 どこか楽しそうに話しかけてくる神父に、出来るだけ言葉に棘を込めて伝えてみるけれども、思っていた反応は返ってこずふと一度腕組みをして私を見つめてきた。

 

「月の……ああ、その時の私の記憶は既に消されてしまっている。今の私はいち協会の神父役のNPC。そうカーディナルに役割(ロール)を与えられているだけに過ぎない」

 

 なんて白々しく言ってくれる。さっき人の本名言い当てたのはどこのどいつだ、こんにゃろー。

 

「なら、サーヴァントを連れたプレイヤーを探すのは何故? 単なるお願い事?」

「いいや。本来サーヴァントなる存在……それも、英霊などと呼ばれる存在がこの世界に居るはずが無い。居ないはずのものが存在する、その論理的矛盾を解決するためにはどうすれば良いか。この世界を管理するカーディナルシステムが演算の末に導き出した答えは『初めから居なかったこと』にするか『初めから想定されていたもの』とするかの二つだ」

 

 正直、何が言いたいのか分からない。つまりなに、私たちは本来居ちゃいけないから消しちゃうか、無理やり辻褄を合わせてしまえってことかな。

 

「その演算の最中、今やこのゲームの全てを支配しているマスター、茅場明彦は後者を選択した。それ故に、サーヴァントを持つものに神託を与えると言う役割を持った私が生み出されたのだ」

 

 そう言ったきり、神父は黙り込んでしまった。なるほど、こっちから会話を返さないと続きの話は聞けないってことかな。

 こういうフラグを拾っていくようなクエストの開始はいつもアスナがやってくれていたため、ちょっと楽しい。

 

「……神託って?」

「喜べ、岸波白野。キミの願いはようやく叶う。戦争など起きない平和な世界、それはこのように万人に対して共通の脅威が存在するとき、成立するのだ」

 

 ぐらり、と。頭の奥で何かが煮え立つような感触を感じた。この男は今、何と言った。こんな世界が私の望みだと言ったか。

 

「生き物とは所詮、争わなければ生きてはいけぬ。それが人間ならば尚更だ。だが、この世界はどうだ。少々の小競り合いはあろうと、ある者は最終ボスを目指して進み、またある者はこの世界に順応し、生計を立てる。そして順応できないものは死を選んだ。だが、『戦争』で命を落とした者は一人も居ないだろう? キミが聖杯に望んだ結果だ、岸波白野」

 

 なんて、とんでもなく愉しそうに言い放つこの男、心底性根が腐っているとしか思えない。こんなものが。こんなものが、私の望んだもの?

 確かに、戦争がなくなれば良いと思った。世界中の誰もが幸せに暮らせる世界が欲しいと、思った……そこに、セイバーも居れば言うことは無いだろうと。

 けれども、願いではあっても。こんな形で成立して良いはずのものじゃない。

 

「もうひとつ、聞きたい」

「良いとも、何でも聞きたまえ」

 

 沸騰しかけた頭を冷やすように、大きく息を吸い込んで長く吐き出す。

 

「ここに居るプレイヤー。キリト君やアスナには、現実に帰る体はあるんだよね?」

「無論だ。あくまで彼らはゲームを遊ぶつもりで、この世界に踏み込んだに他ならない」

 

 それを聞いて決意は固まった。もとより、聞くまでも無いことだったのかもしれない。ただ、ほんの一抹の不安を取り除きたかった。

 彼らが、私と同じサイバーゴーストなのか否か、という話を。良かった、彼らは死んでない。

 

「ありがとう、参考になった」

「待ちたまえ」

 

 そう告げて、私は神父に背中を向けた。なのだが、バグ? それともイベントの一環なのか……言峰神父はこちらに声をかけてきた。

 

「まだ何か?」

「これから、どこへ行くつもりかな」

 

 なんだ、そんな事。思わず口元に笑みが漏れる。

 

「100層。最終ボスを倒しに行ってくる」

「最終ボスを倒せば、この世界はサーバーごとデリートされるようにプログラムされている。現実に肉体を持つ他の者ならまだしも、キミは月の聖杯戦争と同様の結末を迎えることになるぞ。言うなれば、キミという存在を保存する最後の楽園がこの世界であると言うのにか」

 

 なんだ、あるじゃない。月での記憶。ほんとにバグったんじゃないの。ちょっと運営、知らない人が聞いたら意味が分からないイベントじゃない?

 

「その程度。こんな楽園、私はいらない。なら、現実に戻るために頑張っている友達のために、前に進むだけよ」

 

 どこかおかしいのか、笑い声まで聞こえてきた。隣のセイバーはさっきから黙っているけれど、私の返事を聞いて凄く満足そう。また、付き合わせることになりそうだよ。

 

「ふむ、キミの前進する姿勢は健在、か。この後、幾たびの困難・苦難が待ち構えているだろう。その屈強な魂がいつまで保っていられるか、この協会でひっそりと愉しませてもらうとしよう」

「……いつまで保っていらるか? そんなの、決まってるじゃない……無論、消える(死ぬ)までよ」

 

 その言葉を最後に、私は協会を出て現在の最前線、タランに戻ることにした。

 

「うむ。うむ。奏者よ、良くぞ吐いた。あれだけ啖呵を切れるのであれば上出来というもの、余はそなたに惚れ直した!」

 

 帰り道。嬉しそうにはしゃぐセイバーと手を繋いで、タランで借りている宿屋へと向かっている。どうにも、このセイバーの直接的な告白に弱い。

 どうにも背中がむず痒くなってくる。でも、嫌じゃないので止めるように言ったりしない。むしろセイバーのこんな言葉、もっと言って欲しいとさえ思えてきている。

 

「ただいま。アスナ、キリトく」

『ハクノン(さん)!』

 

 おおう。帰って早々にお2人から熱いお出迎え。

 

「なあ、ハクノンさん。あいつ知っているのか?」

「さっきから同じものばかり食べて……『セイバーのマスターに伝え忘れたことがある』なんて言っているの」

 

 おおう。なんだかとっても嫌な予感。

 ふと、2人に促されて宿屋の奥に行くと、そこに居たのは真っ黒い神父服に身を包んで、一心不乱に食事をしている言峰神父!?

 その手元にあったのはラー油と唐辛子を百年間くらい煮込んで合体事故の挙句オレ外道マーボー今後トモヨロシクとでも言いそうなぐらいのとんでもない料理。

 ふと、神父の視線がこちらを向く。

 

「食うか――?」

「食うかぁぁ!」

 

 何この神父マジフリーダム。

 




あの一言を言わせたいがためだけの回……じゃないですよ!?

現状確認、伏線回収。その他もろもろ……強化詐欺事件の傍らで、はくのんがごちゃごちゃしているお話でした。
それでは、また次回。


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Art14:偵察任務

こんばんは、お待たせしました。第十四話です!


 翌日、第2層のボス攻略準備を行っていた私たちに、衝撃が走った。

 偵察に行っていたリンドさんの部隊があわや壊滅かというような打撃を受けて撤退してきたと言うのだ。なんでも、元々のボスと言うのはトーラス系……所謂牛の獣人と言うか、言うなればミノタウロスって表現がぴったりと合う種族がボスなのだが、それはあくまで種族としての話だった。けれども。

 

「確かに……確かに見たんだ! オレ、あのボスの名前表示“Berserker‐Minotauros”って!」

 

 帰ってきた人たちのうちの一人が、そう叫んだことで状況は一変した。

 

「ほう。第二ステージにして、すでにミノスの雄牛を投入してくるか」

 

 なんて、言峰神父は愉しそう……なんで居るのって言うかNPCですよね、あなた!?

 

「バーサーカーか……余は好かぬ。あやつらには優雅さと言うものが欠如しておる。うむ、全くもって余は好かぬ」

 

 なんて、セイバーはセイバーでぶつぶつ言っているし。確かに、バーサーカーと言えば力任せにこちらをなぎ払うような攻撃をしてくる印象の強い存在だが、それでも月の聖杯戦争、その終盤で戦ったバーサーカーはとんでもない器用さを見せ付けていった。

 

「本当に、“バーサーカー”なのかな?」

「戦ってみねば分からぬが……その神父も言っていたではないか。サーヴァントと言う存在を認める方向に世界が変容したと。もしそうであるならば、呼び出してくるのではないか」

 

 うへぇ、なんて思わず言葉が漏れる。それにしても、ミノタウロスか。伝説ではミノス王がポセイドンの怒りを買って、奥さんが牛に惚れる呪いを受けたとか。で、そのなんやかんやして生まれた息子がミノタウロスで、人肉食嗜好をもつ凶暴な怪物だとか何とか。

 所謂、その悪行によって後世に名前を残し英雄の誕生を担ったもの……反英雄と呼ばれる存在ではあるし、その伝説からバーサーカーのクラスに違和感はない。まあ、狂戦士と言うより凶悪な怪物ってイメージだけど。

 

「もしそれが、セイバーさんのようなサーヴァントって呼ばれる部類のモンスターなら、厄介だな。この間のランサーって奴にも、殆ど手も足も出なかった」

「だが、ガードを固めれば防ぎきれない攻撃じゃなかった。攻略の目処はあるんじゃないか」

 

 リンドさんとエギルさんが攻略方法をああでもない、こうでもないと話し合っているが、なかなか方針が決まらない。なにせ、攻略本がアテにできないのだ。偵察戦を行なおうにも、リスクが高すぎる。

 

「一度の偵察じゃ、方針が組めないな。もう一度偵察戦を行ってくれる人を募りたいんだが。キバオウさん、今度はそちらからメンバーを選出してくれないか?」

「何言うとんのやジブン、急に仕切りくさりおって。おどれが行くのが筋ちゃうんかい!」

 

 キバオウさんが怒る理由も分からなくは無い。今回リンドさんの部隊が偵察を行ったのは殆ど独断と言っても良いようなものだし、危険だと分かれば他所から出して来いなんて、一個の部隊の戦術家としては上策かもしれないけれど、レイドメンバーを纏める指揮官としてはその選択肢は上手くない。

 

「こちらは一度壊滅的な打撃を受けている。無傷のそちらの部隊が行うのが良策だと思うのだけど?」

「ジブンらが壊滅しかけたのはジブンらのせいやないか!」

 

 埒が開かない。きっと、こうなってしまっては一晩中散々罵り合った挙句大して建設的な意見も出ないまま全員で特攻、何て事態になりかねない。

 

「ハクノンさん?」

 

 ゆっくり立ち上がった私に怪訝そうに視線を向けるキリト君。アスナも同じように不思議そうに見つめてくる中、ちょっと悪戯っぽく笑うとオブジェクト化してあるボス部屋までのマップデータに手を伸ばす。

 

「待ってくれ、それをどうするつもりだ?」

「偵察戦、すれば良いんでしょ。ああ、それと……偵察するのは良いけど、別にボスを倒してしまっても構わないよね?」

「奏者よ、それは所謂死亡フラグと言うものだ」

「セイバー、このボス戦が終わったら田舎に帰って結婚しよう」

「更に立てるなと言うのだ!」

 

 がーっと怒るセイバーの頭を撫でて宥めてみる。一度言ってみたかったんだもん。いけない、いけない。にやけそうになる顔を必死に押しとどめ、いたって無表情。イメージするのは出会ったころのアスナ。

 

「女の子一人で行かせちゃぁ、男として立つ瀬がねえな。俺も付き合うぜ!」

 

 ふと、宿屋を出て行こうとする私に声をかけたのは、バンダナを額に巻いた何と言うか……野武士、みたいな印象を受ける男性だった。

 発言とか表情は一見軽い感じを装ってるけど、むむむ……何となく面倒見がよさそうな感じ。

 

「クライン!?」

 

 ふと、横に居るキリト君が驚きの声を上げる。おや、お知り合いだったんだ。

 

「キリトくんの知り合い?」

 

 アスナも同じことを考えたようで、軽く首をかしげている。一方のキリト君はどこと無く気まずそうな感じで視線をそらしている。

 

「最初の日、あのふざけたチュートリアルがある前にはじまりの街で声をかけられて、少しだけ一緒に行動したんだ。ただ、俺は……クラインを見捨てて街を出た」

「見捨てただぁ!? 違うだろうが。キリトはきちんと一緒に行こうって誘ってくれたじゃねえか。ただ、俺はダチを置いて行けねえってんで別行動になっただけだろ」

 

 ふむふむ。クラインさんから簡単に話しを聞いて見たんだけど、このゲームサービス開始日に出会って意気投合したものの、デスゲームが始まりそれぞれの事情で別行動を余儀なくされた、と。

 で、キリト君はそれを後悔してたと。その後、クラインさんは知り合いの人を引き連れて地道にレベルを上げ、1層ボス戦には間に合わなかったけど2層のボス戦の会議に顔を出す程度には成長してるらしい。やるじゃん。

 

「つーかキリの字よぅ。こんな可愛いお嬢さん方と知り合いなら、紹介ぐらいしても罰はあたらねえって」

「いや、そう言ったって……こっちは、アスナ。1層のボス攻略時からちょくちょくパーティを組んでるんだ。で、そっちがハクノン……知ってるだろ、エクストラスキル【従者使役】を手に入れた最初の一人」

 

 あ、クラインさんとそのお友達が一斉にこっち見た。残念ながら女の子は居ないみたい。ちぇ。

 

「おま……攻略組の【姫】とサーヴァント使いだと!? 何だよその豪華な面子!」

「姫だって、アスナ」

「嬉しくないわ……何だか守られてるイメージじゃない」

 

 なんて2人でやり取りしながらも、他に偵察戦に行こうって人も居ないみたいだし、ぞろぞろ連れて行ったら偵察戦の意味が無くなる。あくまで少数精鋭、必ず生きて帰れるメンバーのみで行うべきだし。そんな訳で、メンバーには私とセイバー、アスナ、キリト君、クラインさんの5人で行うことになった。……ダメージディーラー4人&役立たず1人かぁ。もう一人フリーランスに動ける人かタンクしてくれるような人が居れば良かったんだけど、無いもの強請りしてもしょうがないよね。それに、クラインさんは一緒に戦ったことが無いから実力って言うのは分からないけど、曲刀ってクセが強かった記憶があるし、それをメイン武器にしてるって凄いと思う。あと、キリト君の知り合いでボス戦に顔を出せるなら、頼りにして良いだろう。

 

「じゃあ、行きましょう。もし、ボスが本当にセイバーさんと同じような【サーヴァント】なら、それに向けた対策もしなきゃいけないし」

 

 アスナの号令で私達は迷宮区へと向かうことになったのだが、タランの町を出る直前になってふと。見覚えのあるモスグリーンのフードマントを被った人物が佇んでいた。

 アルゴさんだ……どうしたんだろう。

 

「よう、ボスの偵察戦に行くんだっテ?」

 

 フードで顔を隠したまま、どこか普段より硬い声で聞いてくる。

 

「ああ、結局は誰かがやらないといけないし。それに、明らかにベータの時と違うボスと一番に戦えるなんて願っても無いことだしな」

 

 そうキリト君が答えたのを聞いて、暫く悩んでいるような様子を見せていたアルゴさんがため息をついた。むむ?

 

「そーかイ。なら、オイラも一緒に行くヨ」

 

 なんて、言い出したのだ。え、アルゴさんって戦闘用にビルドしてないんじゃないの?

 本当に大丈夫なんだろうか。そんなことを考えていると、アルゴさんが私のほうを見てはにかんだ様な照れ笑いのような顔をして言葉を続ける。

 

「情報屋が傍にいれば便利だろ……って、建前だけどサ。この間のこともあってハーちゃんが危なっかしいって言うか心配って言うか……あーもう、とにかく行くゾ!」

 

 何て言葉を残して、ずんずんと迷宮区の方角へと歩いていってしまった。隣で何かセイバーが呆れたような拗ねたような顔で

 

()()、奏者だな。一級建築士(EX)のスキルは伊達ではないな」

 

 なんて言って来る。あれ、何か本気で睨んでます? アスナさん、貴方まで何で睨むんですか。

 ……解せぬ。

 




流石だなはくのん!
こほん。
あれ、もっと大事なことがあったような気がするんですが。
はて?(笑)


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Art15:募る不安

こんばんは、お待たせしました。
第十五話、お送りします。


 第2層のボス部屋へと向かう途中、それぞれの役割分担を確認する。キリト君とアスナ、クラインさんとセイバーがそれぞれタッグを組み別方向から攻撃を仕掛けてHPを削りながらボスの攻撃パターンを引き出す。アルゴさんは万が一のために扉が完全に閉まらないように支えててもらう。そんでもって私は、ちょこまかとボスの周りをかく乱する。

 

「あとは……みんな分かってると思うけど、あくまでこれは偵察戦です。ある程度ボスの攻撃パターン等の情報が得られたら撤退し、然るべき準備をした後にリンドさんたちのレイドと合流して……そこ、あからさまにやる気満々って感じでメイスの手入れしないの」

 

 あう。アスナに怒られた。せっかくなら倒してしまっても良いと思うのです。

 

「奏者よ、今回はいわば猶予期間(モラトリアム)中のアリーナでの遭遇戦というところだ。今は情報を集めるだけ集めるのを優先しよう」

「そっか、なら仕方ないかな。情報を集めなきゃいけないのはどこも同じかぁ」

「んじゃ、行こうぜ。“バーサーカー”さんとやらを見にな」

 

 ちくっと窘められた私の反応を見た後、クラインさんが締めてボスの部屋の扉を開く。

 真っ暗な部屋だったけれど、少し進むと周囲に灯りがともって部屋全体が見えるようになった。そして、私たちの前に立ちはだかったのは牛頭で上半身裸の人間の体、下半身もボロきれとでも呼べそうな布を纏っているモンスターだった。見た瞬間、私は悟ってしまった。

 あれは、“本物”だと。

 

「■■■■■■――!」

 

 迷宮全体が揺れるのではと感じるかのような、とんでもない咆哮。そして、振るわれる2本の腕。武器を持っていない……いや、背負っているのに使ってこない?

 

「キリト君、セイバー! お願い!」

「ああ!」

「任せろ奏者よ!」

 

 私の言葉が飛ぶのと同時に、キリト君とセイバーは剣を振るった。キリト君は水平斬りソードスキル『ホリゾンタル』で、セイバーは体の回転を加えたブレイク攻撃でそれぞれ迎撃して相殺する。

 

『スイッチ!』

「よっしゃあ!」

「やああぁぁ!」

 

 セイバーとキリト君の声が重なり、クラインさんの曲刀スキル『リーパー』とアスナの細剣スキル『リニアー』がバーサーカーの体を捕らえる。ちまっとHPが減ったのを確認する限り、こっちの攻撃は通る。

 ヴラド三世みたいに出鱈目な攻撃もしてこないはず。

 

「■■■■■■――!」

 

 けれども、力任せに振るわれるその腕がすぐに背中の斧に動くと、そのままソードスキルの光を纏って振るわれた。

 あれは見たことある、1層ボス戦でエギルさんが使ったソードスキル『ワールウインド』だ。

 

「セイバー!」

「うむ、皆まで言うな! 天幕よ、落ちよっ!」

 

 私の号令だけで、セイバーが跳び上がり花散る天幕(ロサ・イクトゥス)で迎撃する。

 耳障りな金属同士のぶつかり合う音が響く中、私はミノタウロスの背後に回ってメイスで攻撃する。表示されるダメージ値は微々たる物だけど、その分ソードスキル後の硬直が無いので手数は稼げる。

 

――虐殺するは7の雄――

 

 ふと、目の前にそんな文字が浮かび上がるとこれまで一撃は重くても鈍重だったバーサーカーとは思えないくらい俊敏な動きで、横なぎに斧が振るわれて私達は吹き飛ばされる。これで、クラインさんとアスナ、私は中々痛いダメージを受けた。まずい。

 

「■■■■■■――!」

 

 にやり、とバーサーカーが嗤ったような気がする。振り上げられた斧は私目掛けて振り下ろされてきて、咄嗟に体を転がして直撃は避けるものの、衝撃だけでもHPが削られるみたい。

 

「くそ、下がれハクノン!」

 

 キリト君の声が響き、私とバーサーカーの間に割って入ってくれる。スネークバイトと呼ばれる左右からの剣の連撃を膝に叩き込み、隙を作ってくれた。けど、何故かターゲットはキリト君に移らずにその目は私を捉えたまま。次の瞬間、目の前に浮かび上がったのは新しいスキルの名前。

 

――慰むは7の花――

 

 次の瞬間、とんでもない速さで振り下ろされた斧を避けられたのは偶然でしかなかった。嫌な予感がしてその場から飛び退いたら、地面がひび割れるほどの勢いで斧が叩きつけられていたのだ。

 

「ボスのスキルを2つ見たな……そろそろ頃合じゃないか」

「でも、こんな猛攻じゃ撤退しようにも……っ」

 

 少しでもボスのターゲットを自分たちに向かせようと、攻撃を仕掛けているアスナとクラインさんにも、焦りの色が見える。

 連続して攻撃を仕掛けているのにも関わらず、目が私しか向いていないのだ。なに、サーヴァントは魔術師を感知できるってやつ?

 

「この、こっち向きやがれ!」

「■■■■■■――!!」

 

 クラインさんが半ばやけくそで石を拾い、投げつけるとその石はバーサーカーの角に当たり、悲鳴を上げる。

 その叫びは明らかに痛がっており、私たちにそれが弱点なのだと知らせたのだがどうにも高すぎる。それに、投剣スキルは趣味スキル過ぎて上げてる人間なんて殆ど居ないと言っていた。

 ……困った。

 

「兎に角、脱出を! 俺たちで持ちこたえられるなら、盾を持ったタンクをきちんと用意すれば勝てる相手だ!」

 

 キリト君の声が響くと、私達は今度こそ駆け出してアルゴさんが待つ出口から飛び出した。情報はある程度拾った、このスキルの情報があれば何とかかなるだろうと皆息を切らせて相談する。

 どれだけ走っても疲れないのに、息が上がるような気がするのって不思議。

 

「凄いじゃないカ。これなら、攻略の目処も立ちそうだナ」

 

 アルゴさんもそう声をかけてくるのだけれど、私としては今ひとつすっきりしないものを感じている。

 しきりに出てきた7と言う数字。それに、相手がサーヴァントであるのなら当然持っているであろう“宝具”に付いての情報は、きちんと得られなかった。たしかにあの攻撃は脅威ではあったものの、宝具級の威力かと聞かれたら首を傾げざるを得ないと思う。

 

「奏者よ、今は帰ろう。なに、真名は知れておるのだ。余には宝具の見当も付いた」

 

 セイバーのその言葉を受けて私達はタランの町へと戻り、集めてきた情報を伝える。その情報を元にエギルさん率いるタンク隊を多めに配置して、持久戦の構えでボス攻略を行うことになった。

 作戦結構は、明日の正午。キリト君とアスナは少し野暮用があるって言っていたため、私はフリー。

 少し早いが、体を休めることにするのだった。

 




ぶっちゃけノリでサーヴァント作ろうとしたらえらい目にあったよ!
何回wikiを行ったりきたりしたか(笑)

少しでもバーサーカーの脅威が伝われば良いのですが…それでは、また次回。


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Art16:ミノタウロスの脅威

お待たせしました、16話です。


 ボス戦との本戦は苛烈を極めていた。何せ、相手は伝説上の化け物、ミノタウロスなのだから。ミノタウロス――もしくはミーノータウロス。その真名は、アステリオス。ギリシャ神話の英雄テーセウスによって討たれた怪物。

 

「くるぞ、スキルだ!」

「任せろ、防ぎきってやる!」

 

 キリト君の声が飛び、エギルさん達の部隊が前に出てガードを固める。

 【虐殺するは7の雄】と表示されるボス専用のソードスキルが振るわれる。偵察戦じゃ手も足も出なかった技だけれど、今回はきちんと受ける人を選んでダメージを散らす。

 

「■■■■■■――!」

 

 2本目のHPバーを削りきった時、これまで防戦一方だったバーサーカーが突然吼えて地面に手に持っていた斧を叩き付けた。

 その雰囲気が爆発的に大きくなる。

 

――絶対不可侵迷宮(ミーノータウロス・ラビュリンス)――

 

 そう表示されたのは、アステリオスが生涯閉じ込められていたと言われる地下迷宮の名前。一度発動するとレイドメンバー全員が迷宮区入り口まで押し戻され、マップデータが白紙に戻るというえげつないモノだ。しかも、一度発動準備に入ると、とんでもない風圧でボスに近づけない状態になるというおまけつき。

 一度かっくらってえらい目にあった。まさか迷宮区の攻略からやり直さないといけないとか思っていなかった。けれども、ばっちり対策済み。

 

「任せてください……!」

 

 飛び出したのは、数日前知り合った鍛冶職人のNezhaさん。ネズハ、と読むだと思っていたのだけれど、本当はNezha(ナーザ)と読むとセイバーから聞いたのは、ボス攻略開始前夜にキリト君が連れてきたときだった。ナーザ……一般的には哪吒(ナタク)もしくは哪吒大使(ナタタイシ)

 西遊記や封神演義で活躍する戦いの神。それは、紛れも無く歴史に名を残す伝説の勇者(レジェンド・ブレイブ)

 

「■■■■■■――!」

 

 ナーザが投げた投擲武器のチャクラムがバーサーカーの角を捕らえて、悲鳴を上げる。偵察戦で見つけた、唯一ボスが怯む弱点。なんであんな高いところに設定してあるのかとあの時は思ったけれど、分かってみると簡単だった。

 

「怯んだっ。お願い、セイバー!」

「うむ、余はそろそろ空腹だ。今宵は盛大にステーキパーティーと行こうではないか!」

 

 先陣を切る赤いドレスと、その後に続く黒と臙脂色の二本の直線。キリト君とアスナの2人が続く。その後にキバオウさんが、リンドさんが、エギルさんが、クラインさんが。それぞれの撃てる最高のスキルを放つ。

 私も、その後に続いて思い切りメイスを振りかぶる。ソードスキルは使えないけれどもそれでも。無いよりはマシだと思いたい。

 

「セイバー、行くよ!」

「任せておけ、行くぞ……花散る天幕(ロサ・イクトゥス)!」

 

 セイバーの一撃が止めになって、ボスのHPが消し飛んでガラスの欠片のような結晶が周囲に散りばめられた。

 倒した、第2層のフロアボスを。これで次に進める……本当に、これで。

 何だろう、ラストアタック・ボーナスって書いてある。そう言えば、ボスに止めの一撃を入れたプレイヤーは、結構ステータスの高い武器や防具がもらえるってキリト君が言っていたっけ。

 うげ、何これ。要求ステータス高すぎじゃない。えーっと、1レベル上がるごとに振り分けられるステータス値が3だから……うわ、かなり後になりそう。

 

「お疲れ様、ハクノン。これで第3層に行けるわね」

「お疲れ様、アスナ。うん、次もよろしくね」

 

 ボスを線の疲れからへたり込んでいた私に手を差し伸べてくれたアスナの手を握り返して、ゆっくりと立ち上がる。

 さて、これで一つ問題は解決。残るのは……昨夜聞いた、もう一つの問題。そっちも、もう解決しそうな感じだけど。

 

「ネズオ……ネズハは俺たちの仲間です。こいつに強化詐欺をさせていたのは俺たちだ。本当に、申し訳ありませんでした」

 

 そうやって、土下座してレイドメンバーに頭を下げているのはレジェンド・ブレイブスの面々。なんでも、クイックチェンジというスキルを使って武器を入れ替えて詐欺をしていたと言う。

 何だか、私にはよく分からない単語が飛び交っていたものの、かいつまんで話を纏めるとそんな感じ。幸い、今回の詐欺で犠牲になったのは武器だけ……と言ったら怒られるんだろうけど、これから先武器や防具は更新していかなければいけないし、ここで詐欺が止まるのならよしとすると言う流れみたい。

 

「じゃあ、俺たちは先に行こう。次の街のアクティベートを済ませてしまいたいし、ちょっとやりたいこともあるしさ。」

 

 キリト君が声をかけに来てくれたのだけれど、それと同じタイミングでフレンドメッセージが飛んできたことを知らせるアラームが鳴った。

 キリト君に一言断りを入れてからそのメッセージを開くと、アルゴさんからのもので、私に会いたいという人がいると。

 

「どうして、彼女がここに……」

 

 思わず一人漏らす。そこに書かれていた名前……【Rin】とはっきり書かれていた。

 

「奏者、もしやこれは……」

「多分、凛のことだと思う。確かに、地上に送り返したはずなのに……いや、送り返したからこそ?」

 

 キリト君とアスナが不思議そうに見ているので、一度メッセージから目を離して二人に振り向くと両手を軽く合わせて謝罪のポーズを作る。

 

「ごめん、私少し行かなきゃいけないところが出来たみたい。本隊と一緒にタランに戻るから、キリト君とアスナは先に行ってて。必ず追いつくからさ」

「そんな……!」

 

 ふと、アスナが寂しそうに言ってくれるけど、軽く首を振って笑顔を作る。

 

「キリト君が先に片付けたいって言うくらいだから、きっとお得なクエストとかだと思うよ。少しの間アルゴさんと行動することになると思うから、またすぐに会えるよ」

 

 アスナの頭を軽く撫でたあと、別れの挨拶を込めて抱きしめてみる。あ、私の後ろから殺気が。

 

「奏者よ、もう本隊はタランに戻ると言っておる。同行するなら準備をしないといけないのではないか」

 

 むーっと頬を膨らませているセイバーに苦笑いを漏らし、最後にキリト君に向き直る。

 

「キリト君、アスナのことよろしく」

「ああ、分かってる。また次のボス戦で会おう」

「次のボス戦まで邪魔するなって? ふっふっふ、頑張れ男の子」

「んな――!?」

 

 握手を交わした際に思わずキリト君の言葉尻を捕らえて遊んでしまったのはご愛嬌。本当に出発し始めた本隊の後を追いかけて戻る際、2人に手を振る。2人とも、最後まで私たちを見送ってくれた。

 

「良い友人だったな、奏者よ」

「うん。また会えるよね……きっと」

 

 セイバーと言葉を交わして、私達は進む。

 おそらく、この広いようで狭いゲームの世界。しかもお互いに上を目指すというのであれば必ず再会するだろう。

 取り敢えず、今はアルゴさんと接触して【Rin】というプレイヤーに会ってみよう。

 きっと、彼女なら私たちの力になってくれる。それに、彼女がこの世界に囚われているのだとしたら、何が起こっているのかきちんと調べないといけないと思うから。

 




……どうにも、戦闘描写って苦手かもしれないと思い始めた今日この頃です。
兎に角敵を書くのが難しい。

さて、泣き言はこれくらいにして。
ついにRinと接触。実は16話までやってきてやっと2層攻略終了と言うスローペース。なにこれ(笑)

それではまた次回。今回もお読みいただきありがとうございました。


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Art17:思わぬ再会

 タランの町に戻った私は、アルゴさんに指定された店でぼんやりと待っている。実を言うと約束の時間より少し速く来てしまって何をするでもなく、美味しいんだか不味いんだかよく分からない【ホットミルク・ビター味】なるものを飲んでいる。普通のホットミルクが良かったものの、砂糖が無いんだとか。

 ピコンとNPCの頭に【!】マークが付いているけど、攻略本を確認したら長くて面倒なクエストだって書いてあった。

 

「奏者よ、受けぬのか? 砂糖だぞ、砂糖!」

 

 なんてセイバーはわくわくした目で見てくるけど、それはまた今度。今は約束があるし、長いクエストに関わっている場合ではないし。

 

「それよりも遅いよね……何かあったのかな」

「なんだ、先に来てたんだ。なら、もう少し急いだほうが良かったかしら」

 

 セイバーに対して、待ち合わせの時間を少し過ぎているにも関わらず姿を見せない【Rin】という人物のことを話していると、不意に声がした。

 

「え?」

 

 それは、しなやかな髪をもっていて。

 

「また、あんたのことだから遅れてくるのかと思ってたわ。でも、無事に合流できて何よりかしら」

 

 ミニスカートから健康的な足を覗かせる。

 

「えっと……その」

 

 豊満な胸を揺らして、紫の髪の少女が私の前に腰を下ろした。

 

「久しぶりね、はくのん」

「えっと……なにしてるのかな」

 

 あけてびっくり、凛だと思ってきた相手は別人だった――!?

 しかも黒い衣装に教鞭みたいなものを手に持っているところを見ると、ピンときた。間違いない、この少女はかつて私達と戦った……フランシスコ・ザビ――。

 

「はい、あなたのBBちゃんです。センパイ、こんな感動的な場面でなにボケようとしてるんですか?」

「奏者よ、バレバレではないか」

 

 うぐぅ。悪ふざけするまもなくつっこまれてしまいました。

 

「ま、まだ何も言ってないのに……。」

「ふざける時や空回りする時は大体空気で分かるって言いませんでしたっけ。白いのが」

 

 そうでした、確かに言われました。ここぞと言うときの不真面目さも自重するようにいわれた気がする。うん、気のせいだな。

 

「それで……BB。いや、桜……それとも【Rin】って呼んだほうが良いのかな」

「ああ、【Rin】の名前はセンパイを呼び出すために騙っただけで、今も昔も、私は【BB】ですよ」

 

 なんて愉しそうに笑うこの子、確かにサクラ迷宮で幾度と無く苦しめられたBBだ。その実、私を助けようとしてくれていたんだけれど、ある人物に利用されていた。

 でも、初期化の波に飲み込まれて消えたんじゃないんだろうか。

 

「よく無事だったね。初期化されちゃったものと思ってたから、会えて嬉しいよ」

「センパイのためなら、いつでも駆けつけますよ。今度こそ、間違えたりもしません……」

 

 正面に座ったBBが先程までと違った、本当の笑顔を見せて頷いてくる。

 

「それで、今回どうして私を呼んだの?」

「会いたかったから、じゃいけませんか? どんな世界でも良い。唯一、私が愛している人を一目見たいと思うことはおかしいですか?」

 

 ふと、そんな視線を向けられると困ってしまう。いや、BBの好意は素直に嬉しいし月での一件も突き詰めれば私を思ってのことだと思うと、叱るつもりも無いのだけれど。

 胸の奥にズキリとくるものがある。

 

「BBの気持ちは嬉しいけど、私はそんな風に思ってもらえる人間じゃないよ。結局、BBの力にはなれなかったし……誰かに助けてもらわないと、何も出来ないもの」

「止めてください。いくらセンパイでも、私の好きな人を貶める言葉は許しません。」

 

 ふと、視線を外しそうになった私の動きが止まる。それくらい強い口調で言われた。けれども、戻した視線の先には健康管理AIとして働いていた“桜”そのものとも言えるやさしい笑顔があった。

 

「誰にも頼らずに生きていける人は居ませんよ。それに……誰かに助けてもらわなきゃいけなくても、なりふり構わず前に進むのがセンパイの強みですし、そんなセンパイが好きなんです。それは、私以外にも」

 

 言って、BBが何かを操作する動きを見せた。次の瞬間に私の目の前に飛び出してきたのはトレードの名前が書いてあった。

 

「センパイ、平行世界って信じますか。“あったかもしれない”可能性。センパイで言えば、始まりの日にセイバーじゃなくて他のサーヴァントと組む可能性だってあったんですよ。それはアーチャーだったかもしれないし、もしかしたらキャスターだったかもしれない。はたまたバーサーカーを引き当ててたセンパイが居たかも知れなかったんです」

「それ、は」

「それどころか、あの試練の間で諦めて力尽きていたかもしれない。たら、ればなんて無限にありますし、それこそムーンセルでも無ければ収集し切れません。けれど、その中でセイバーに次ぐ強い繋がりを持つサーヴァントが二体、いました」

 

 待った、待って欲しい。それは幾らなんでも突拍子も無いと言うか。私のサーヴァントはセイバー以外には考えられないのだが。

 

「もちろん、貴女自身のことは知りません。しかし、確かに“岸波白野”という人物と月の聖杯戦争を戦い抜いたという記憶を持っています。で、あるならば。自身のマスターと違っていてもその人としてのあり方、魂の形を同じくする貴女に力を貸したいと……2人のたっての希望なんですよ」

 

 こちらの考えをお見通しだとでも言わんばかりに微笑んだままのBBが、トレードとして差し出してきたのは赤い外套と、鏡のようなデザインの円形盾(バックラー)

 

「それぞれ、【オートクチュール・オブ・ソード】と【コクテンドー】です。すぐに装備できますよ。なんとBBちゃんのおまけ付き、セイバーの成長度に合わせて、それぞれ能力が上昇します。どうか、この世界の最後まで使って上げてください」

 

 真剣な目で差し出されてきた二つのアイテム。それを受け取って、メニューを開いて装備を選んでみる。

 一瞬の光に体が包まれた後、これまでブラウンを基調としていた私の服は赤い外套に包まれ、左手にはさっき見た鏡のようなバックラーに変わっていた。

 

「自らを知らぬかもしれない者のために、自身の装備を一部譲渡するか。うむ、奏者よ、そなたはなかなかサーヴァント泣かせなマスターかも知れぬ」

「あはは、でも……不思議と知らないって感覚が無いんだ。力を貸してくれることが、素直に嬉しい」

 

 どことなく、遠くを見るようなそんな表情で伝えてきたセイバーの手を握り、笑顔を作ってみる。

 というか、拗ねたようにも見えるその顔が何だか可愛くて。

 

「この二つが、私を守る守りの要なら……私の道を切り開く剣はやっぱりセイバーだよ。頼りにしてるからね」

「こ、この……! そのような顔で見るな、何だ上目遣いで首を傾げるなど、余の余裕を無くさせるつもりか。愛らしすぎるではないか!」

 

 あり。なんかへんなスイッチ入れちゃったかも。しーらない。

 

「漫才も良いんですが、あと少しだけ。正直、私は現在かなり無理してここに居ます。もう少ししたらムーンセルへ戻らないといけないかと思うので……癪ですけど」

 

 不意に立ち上がったBBは私に唐突に店の外へと向かうので、私もその後を追う。セイバーも慌てて付いてきてくれるけど、BBは軽い足取りで人通りの少ない場所へと移動する。

 

「遠坂凛が、この世界に居ます。それも、茅場明彦にとても近い場所から攻略方法を探っていると思われます。しかも……いえ、止めましょう。ここから先は、センパイが足掻いて足掻いて、答えを見つけてください。BBちゃんからの最後の意地悪、なんて」

 

 ふと、振り向いたBBの顔はどこか悲しそうで、それでも強い決意を持っていた。私はその顔を、掛け値なく美しいと感じた。その顔が近づいてきて、ゆっくりと唇が重なる。……へ!?

 

「ひとつぐらい、ご褒美をもらっても良いですよね。さようなら、センパイ。どうか忘れないで……無茶をしてでも、貴女に会いたいと思った馬鹿なAIが居たことを――」

「――桜!」

 

 強い風が吹いて、思わず目を閉じてしまった。目を開いたときにはそこにBBの姿はなく、桜の花のような、でも見たことがない綺麗な花びらが舞っていた。

 

「――奏者」

「行こう、セイバー。ぐずぐずしていられない。次のボスを倒そう」

「……うむ!」

 

 何かを言いたそうなセイバーの手をとり、私達は既に解放されているであろう転移門へと足を進める。

 忘れないよ、桜。君が残してくれた思いも、全て持ったまま。

 この歩みは止まらない。最終ボスを倒す……いいや、こんな世界を作り上げてしまった、茅場明彦なる人物と聖杯、そして自分自身にケジメをつけるまで。

 




はい、まさかのBBちゃんでしたと。

なんてこった、まいったぜ。
……何とか、他の2人も使いたいと悩みに悩んでの展開です。


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Art18:決闘

お待たせしました、18話です。


 私がソードアート・オンラインという世界に来てから、約1年の月日が流れた。その間、大きな事件は3つ。

 ひとつ、25層ごとにそれまでの基準では考えられなかったほど強大なフロアボスが待ち構えていると言うこと。これは、全100層の4分の1のポイントで遭遇しているため、通称「クォーターポイント」と呼ばれている。最初の25層攻略時に攻略組は多大な被害を受けてキバオウさん率いる【アインクラッド解放隊】が前線離脱を余儀なくされた。

 ふたつ、ヒースクリフと名乗るプレイヤーが新たなギルドを発足した。名前を【血盟騎士団】名乗り、いまではSAOで一番勢力のあるギルドとして活動している。

 みっつ、アスナが血盟騎士団からのスカウトを受けてギルドで活躍し、今や【閃光のアスナ】として、多大な人気を誇っていること。加えて、血盟騎士団の参謀長として【遠坂凛】が席を置いていた。

 そして、2024年3月6日。現在攻略階層55層。パニの町フィールドボス攻略会議の日が今日。

 

「今回、フィールドボスを町の中へと誘い込みます」

 

 純白に赤いラインの入った騎士団指定の制服を着たアスナが、その会議の指揮をとる。

 

「フィールドボスが町のNPCに気をとられている間に一気に包囲・殲滅すれば難しい敵ではありません」

 

 端的に、そう言い切った。NPCを囮にすると。

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

 会議中、手を上げて発言したのはキリト君。全身に黒いコートを着て、黒い片手剣を持っている。すっかり【黒のビーター】だとか【黒の剣士】って評判が付いている。

 

「NPCを囮にするってことか。馬鹿なこと言うな、彼らはただのオブジェクトじゃない!」

「生きている、とでも言うつもり? 彼らは決まった役割(ロール)をこなすだけのシステム。岩や木のようなオブジェクトと同じで、壊れてもすぐに修復されます」

 

 その言葉が、聞き捨てならなかった。たとえNPCだとしても、心を持っている存在を多く知っている。桜が、BBが、パッションリップが、メルトリリスが。どんなエゴ()の形をしていたのか、私は覚えているから。

 

「保険としてハクノンさん。あなたのセイバーの宝具を展開して、ボスの能力を80%まで引き下げられますか」

 

 これでキリト君との話は終わりだ、と言うかのようにこっちに視線を向けてきたアスナの表情はどことなく虚ろで、とてつもなく張り詰めた雰囲気をかもし出していた。無理もない、私と同じような歳でこれだけの人数の命を預かっているのだから、磨耗しないほうが不思議なほどだし。

 

「確かに今のセイバーなら劇場を開けるし、能力の低下も出来ると思う。けど、私も今回の作戦は承服できないかな」

「な――!?」

 

 信じられない、と言った顔でアスナがこっちを見ている。

 

「アスナ、そなたは間違っておる! 民を盾にするなど【騎士】を名乗る人間のすることか! 民を護ってこその【騎士】ではないのか!?」

 

 堪えきれず、セイバーも口火を開いた。自分の国の民の全てを愛した王だものね、そりゃこんな作戦承服できるはずもない。

 

「わたしは、少しでも安全に攻略を進めようと――」

「余もそれには同意する。しかしな、余は気に食わぬ。どうにも今回の作戦は気に食わんのだ」

 

 ぷい、とそっぽを向いてこれ以上話すことは無いと意思表示するセイバーに思わず苦笑いを漏らし、自分の赤い外套に手を添える。

 何故だかこの外套を身に纏っている以上、自分が恥ずかしいと感じる振る舞いはしないと、誓えるような気になってくる。

 

「おたくの参謀長さんなら、私たちが承服しないのは目に見えていただろうに。アスナ、凛に相談なく今回の作戦を決めたね」

「……リンさんは常に多忙なようでしたし、団長付きの参謀ですから」

「それでも彼女のことだし、頼られれば嫌とは言わないはずだよ」

「随分、ご存知みたいですね」

 

 むっと、アスナの表情が険しくなるのが見えた。あれ、あの表情はどっちかというと自分の作戦にケチを付けられて気を悪くしてるだとか、そんな感じじゃない気がする。何だろう。

 

「兎に角、今回の作戦に関しては団長からわたしに一任されています。納得がいかないのであれば、参加していただかなくても結構です!」

 

 暫くお互いに睨みあった後、そう言い放ったアスナの言葉に会議の雰囲気が一気に刺々しい物になる。やばいかも。とは感じるものの、私はアスナを今でも友達だと思っている。思っている以上は、きちんと伝えなきゃいけないこともある。

 

「わかった、よく分かった。お互い譲れねえってんならもうアレだろ、決闘(デュエル)で白黒つけろよ!」

 

 睨みあう私とアスナの間に赤いバンダナと戦国時代の甲冑みたいな防具を身に着けた男性が割って入る。ギルド【風林火山】のリーダー、クラインさん。

 

「決闘? 決闘で負けたら作戦を変更しろと言うんですか?」

 

 訝しげにクラインさんを見るアスナの目には、焦燥感や苛立ちと言ったネガティブな感情が見える。

 これはチャンスかも。クラインさんが折角作ってくれた機会、活用させてもらうよ。

 

「作戦を変えろとは言わない。私が負けたらアスナの作戦に従うし、参加するなと言うなら参加を見送る。ただ、私が勝ったら……二日、付き合ってもらおうかな。もちろんセイバーに手出しはさせない。正真正銘の決闘だよ」

 

 手早くシステムウィンドを操作して、アスナへと決闘申請を送る。そして武装を展開させる。【オートクチュール・オブ・ソード】【コクテンドー】そして2層でボスからドロップしたあと、最近使えるようになった片手剣【オリジンソード】を装備。このオリジンソード、剣って言うには斬るより突くって感じ出し、刀身は円柱状で三分割されてて、何かの拍子でくるくる回りそうだけど、BBが用意してくれた防具と同じように、セイバーの成長率に合わせてスペックが変動している。

 キバオウさんがこの場に居たら、『チートや、チーターや』って言いそう。

 

「あなたが、私に勝てるとでも。それもサーヴァントを使わずに、ソードスキルも使えないのに? これまで行った手合わせでも殆ど勝てなかったのに?」

「そりゃね、手合わせと決闘じゃ意味が違うもの」

 

 にやり、と笑顔を作ってみると挑発に成功したのかアスナが決闘を受け入れるために手元を動かす。

 システムメッセージに決闘が承認された旨と初撃決着のルールで行われる旨が表示されている。

 

「ここじゃ狭いよね、外に出よう」

 

 60秒間のカウントの間に、私達は作戦会議を行っていたテントの中から町の広場へと移動する。

 彼我の距離、ざっと10メートルってところ。きっとアスナなら一瞬で距離を詰めてきて私のHPを削りに来るだろう。

 それでも、やると決めたからにはこちらも負けるつもりはない。

 

「奏者、そなたの事だ。心配はせぬ、思い切りぶつかってくるが良い。余を使わぬのは、いささか不満だがな」

 

 そう言ってくれたセイバーに頷いてコクテンドーを胸の前に。オリジンソードを腰の位置に構える。

 

「さあ、始めようアスナ。最初で最後、本気の勝負を」

 

 カウントが、0になる。

 




はい、ぐぐっと進んで55層攻略会議。
アニメでアスナがフィールドボスを町に誘い込むと言っていた場面ですね。

じつはこの場面が書きたくて、2層でのやりとりを書いたといっても過言ではないくらい。
はくのんの『型月主人公らしさ』が思ったとおりに表現できてれば良いな、と思う今日この頃です。

それでは、また次回。


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Art19:決着

お待たせしました、第19話になります。

それでは、どうぞ。


「……はあぁぁぁ!」

 

 カウントが0になると同時に、アスナが光を纏って突進してくる。その切っ先は寸分違わずに私の喉を狙っている。彼女がかつて最も得意とした細剣の基本ソードスキル“リニアー”を、私はコクテンドーで受け流す。

 次の瞬間、アスナはすぐに距離を開いてもう一度リニアーの体勢に入っている。いつかのリプレイを見るかのような応酬だけど、ひとつ違うのは当時より遥かにアスナの技が重くなったこと。

 

「せあぁぁ!」

 

 息つく暇もなくもう一度突進してきたアスナの狙いは、さっきと違って今度は足を狙ってきていた。

 

「……このっ」

 

 オリジンソードで迎撃するためになぎ払うと、ソードスキルのモーション中だって言うのに体を捻って上手く避けていた。

 本当に強いなぁ。

 

「でもね、もう私にはそれは通用しないんだよ」

 

 見える、視える。アスナの動きが手に取るように。それは攻略組のトップとして皆を引っ張っていくために、誰よりも前線に立ち続けていたから。

 君が頑張っていたのは、よく知っている。だからこそ、今回の作戦は間違っているんだって伝えたい……絶対に。

 

「もっと……周りに頼れ、このバカ――!」

 

 

 

 アスナとハクノンの決闘が始まって、もう10合は打ち合っているだろうか。果敢に攻めるアスナと、それを的確に防御して反撃の隙を伺うハクノンと言う構図が出来上がっている。

 それは、一見ハクノンが一方的に押されているように見えるのだが、明らかにアスナの顔に焦燥が浮かんでいるのが見て取れる。

 

「勝負あったな。ああなっては余でも奏者に傷をつけるのは難しい」

 

 ぼそり、と呟かれた言葉に思わず振り返る。

 

「セイバーさんでも難しいって、どうして」

「キリト、そなたは奏者の強みはどこにあると思う? 余と言うサーヴァントか。一見チートにも見えるあの三つの装備か。否、そのような物は無くとも奏者は今回と同じ行動に出たであろうし、この展開も同じだ」

 

 自分の剣をぎゅっと抱きしめるかのように、胸の前で腕を組んでいるセイバーさんがハクノンさんの動きをじっと見ている。

 

「奏者の武器は今も昔も変わらぬ、その戦術眼のみ。何度も見た相手であれば、その手の内を確実に読みきる力こそ、奏者が唯一できることなのだ」

 

 うんうん、なんて頷いている。その先で、ハクノンは狙っていたと言わんばかりにアスナのレイピアを大きく跳ね上げさせた。

 

「けれど、眼があっても動きが付いていけなければ意味が無いんじゃ?」

「もっともだな。だが、奏者は自己が傷つくことを恐れぬ。何かを護る為ならば殊更その性質は頑固なものになり、これと決めたことに突き進む。そなたも覚えておるだろう、かつてアスナの剣を都合するために単独でフィールドに出たことや、誰も引き受けたがらない偵察戦を行おうとしたことを」

 

 そんな記憶は、俺にもあった。それは1年と少し前。彼女は覚えていないと言うが、“コペル”というプレイヤーを助けるために一人モンスターの群れに突撃を敢行し、見事に救いきったこと。

 俺は自分の身を護ることを優先してコペルを見捨てようとした。けれど、たまたま通りすがりだった彼女は自分が危険な目に遭うことも厭わず、その細剣を振るっていた。見ず知らずであっても、助けられるものは全て助けると言い切ったときの彼女の顔に、酷くいびつな物を感じた記憶もあった。

 

「……降参(リザイン)

 

 次の瞬間、そんな声が広場に響いた。

 

 

 

「……降参(リザイン)

 

 私がアスナの細剣を弾きあげ、その胸へとオリジンソードの切っ先を突きつけたとき、アスナは悔しそうに、そう呟いた。

 やっぱり、強かった。

 

「私の負けです。これ以上やったって私の攻撃は通らないし、素直に負けを認めます……強いのね、ハクノン」

「ううん、身を護る術に長けているってだけだよ」

 

 ちゃきん、と細剣を鞘にしまう動作さえ、どこか優雅さを感じるアスナの動きに思わず笑みが漏れる。

 さて、と。

 

「じゃあ、約束」

「二日ほど貴女に付き合うんでしたっけ……良いですけど、一体何を?」

 

 軽くため息を吐いたアスナが不思議そうに私を見て首をかしげる。え、そりゃ決まってるじゃない。

 付き合って欲しいって言っているんだから、やることって言ったらひとつしかないんじゃないかな。

 

「そうだね、まずは“リンダース”や“アルゲード”でショッピングしてまわって……そのあとは“フローリア”でのんびりしようよ」

「……どこかダンジョンに潜るんじゃないの?」

 

 ますます意味が分からないといった様子のアスナに、思わずにんまりと笑みを浮かべてしまう。

 

「まさか。付き合ってって言ったのにダンジョンに潜るなんて、どこかの黒ずくめじゃあるまいし。一緒にゆっくり過ごしたいなと思っただけ。まあ、所謂デートのお誘いだね」

『なんです――――!?』

 

 ぶはーっと、周囲のギャラリーまで一緒になって突っ込まれた。え、なに。そんなにおかしな事言いましたか、私。

 

「デートなど、余は聞いてない、聞いてないぞ奏者!」

「そもそもどうして、わたしには血盟騎士団の副団長としての業務が……!」

「……よかろう、許可しよう。アスナくん、君に二日間の休暇を与えよう」

 

 わいわいと騒がしくなる広場の雰囲気が、一気にしんと静かになった。そこに居たのは、真紅の鎧に身を包んだ30代ぐらいの男性。髪は銀色だし、どこと無く気障ったらしい雰囲気をかもし出している。けれども、その人物を知らない人間は今や攻略組にはいないだろう。

 たった一人しか獲得できないエクストラスキル、通称ユニークスキル『神聖剣』を持つ絶対無敵の壁戦士(タンク)。血盟騎士団団長【ヒースクリフ】

 

「団長、しかし……!」

「構わんさ、その二日間の間にこちらもフィールドボス攻略に必要な物資を集めておく。君の実力ならレベル上げを二日休んだところで前線から外れることも無いだろう?」

 

 まさに鶴の一声。凛も居るのかなと思ったけれど、ここには彼一人で来たみたい。未だにきちんと言葉を交わせていないのが、少し寂しい。

 

「じゃあ、ヒースクリフさん。二日ほどアスナをお借りしますね」

 

 ぺこり、と頭を下げて私はアスナの手を引いてその場を立ち去る。そうと決めた以上、アスナと思い切り楽しもう。

 セイバーには、悪いけれども拠点にしている11層のタフトの街でお留守番をお願い。お土産買ってくるからと宥めすかしておいたのだった。

 

 だからだろう、私は彼が呟いた言葉に気がついていなかった。

 

「出自がNPC故の、拒否感か」

 

 と。私がアルゴさんからその言葉を聞くのは、もう少し後のお話。

 




ロストソング、大型アップデート楽しませていただきました。
しかし、もっと長いエピソードも遊びたかったなぁ……ルクスとか、もっと色々みたいです(笑)

はい、そしてこちらでは着々とメインキャラたちが……たちが?
はくのん、どうしてそうなった。


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Art20:NPCの涙

物凄くお待たせしました。
Art20をお送りします。




 本当によく分からない。NPCを囮に使う作戦を反対して、決闘まで行って私の作戦を否定したくせに、その相手をこうやって遊びに誘って出かけている。

 本当にあなたは、何を考えているの?

 

「ねえねえアスナ、見て! アルゲードそばだって! 味気ないラーメンだ」

「アスナアスナ、あっちにデザインの良い下着屋さんがあるんだって!」

「アスナ、ここのケーキ――」

「アスナ――」

 

 つ、疲れた。二日間付き合えって言うし、遊びに行くって言うからもっとのんびり観光でもするのかと思っていたけれど、ハクノンは物凄い勢いで街にある店を片っ端から覗いて遊んでいた。

 

「ハクノン、何なの? こんなハイペースでまわってたら疲れちゃし、じっくり楽しめないじゃない!」

 

 そう言ったところで、わたしはハッと自分の口を押さえたのだけれど、もう後の祭り。はっきり言ってしまったのだ、二人の時間を楽しみたいと。そして、聞いていたハクノンは、とても嬉しそうに笑っていた。

 

「あはは、そうだよね。ちょっと飛ばしすぎだったかも。じゃあ、本当は明日行く予定だったんだけどフローリアに付き合ってくれる? ひとつ、片付けなきゃいけないクエストがあるんだ」

 

 そう言ったハクノンはどことなく気乗りしなさそうな口調ではあるものの、わたしを促してフローリアへと移動する。

 こんなところに何かあったっけ、とはてと首を傾げてしまった。

 確かに景色はいいし、植物が多くて女性には人気のフロアだけれど、もう最前線から10層近く下のフロアだし、今更何か用事があるともそうそう思えない。

 

「皆、そんなクエストなんか発生しなかったって言うんだけどね、私だけ何故か発生したクエストがあってさ」

 

 そう言ってハクノンが声をかけたのは、フローリアで花屋をしているNPCだった。

 

「こんにちは、リフィルさん」

「剣士様! 彼は、彼はどうでしたか……!」

 

 リフィル、と呼ばれた女性NPCはハクノンにしがみつくように問いかけているけれど、ハクノンは少しため息をつくと何かメニューを操作していた。そこで取り出したのは、折れた短剣だった。

 

「ごめんなさい、間に合わなかった。あなたの婚約者は、助けられなかった」

 

 その言葉を聞いたとたん、彼女は泣き崩れてしまう。きっと今ハクノンの目の前にはクエスト終了の文字が浮かび上がり、あと1分もすれば彼女は先程までと変わらず花屋の前の掃除を始めるだろう。今は彼女とパーティーを組んでいるから、わたしにもそう見えているだけで。

 パーティー? ちょっと待った、そもそも今はハクノンとパーティーを組んでいない。

 

「どう、して?」

「何かのバグなのか手違いなのか、この人の恋人が森に入ったまま帰ってこないってクエストを、私だけが受けれたんだ。で、クエストを進めてたらこの剣があった。この人の絵が入ったロケットと一緒にね」

 

 それはきっとありふれたバッドエンドクエストのひとつだと思う。恋人が行方不明で捜索依頼を出して、形見だけが見つかる。その後は復讐のためのクエストが始まったり。

 

「ねえ、アスナ。今、私たちパーティー組んでないけど、見えてるよね。リフィルさんが泣いているところ」

「……ええ」

 

 ただ、クエストの結果のひとつでしかないと言うのに、どうしてこんなにも。胸が締め付けられるのだろう。

 

「私は、この結末を見るのが嫌で今までクエストの完了報告をずるずる引き延ばしてた。だって、辛いじゃない。こんな涙。どうして、ただのプログラムが流す涙に、こんな辛い気持ちになるんだろうね」

「それ、は」

 

 もう、彼女が伝えたかったことがわかる。きっと、ハクノンは身をもって、わたしが取ろうとした作戦の先にあるものを教えようとしたんだと思う。

 

「こんな人が、私の作戦で……生まれる、かも?」

「どうだろう、町ひとつ囮にするってことは、犠牲になる人と助かった人が出てくる。そうなれば家族を失ったり恋人を失うNPCも、居ると思うんだ」

「そう、ね」

「きっとプログラムだからね、クエストでも無い限り泣かないんじゃないかな。アスナの言うとおり元通りになるかもしれない。それでも、一時的にでも君の判断で死んでいくキャラクターが出るって意味を、考えて欲しい、かな」

 

 そう、悲しそうな顔で訴えてきたハクノンの言葉に、わたしは――かつて、そのまま死んでしまう運命を見過ごせずになりふり構わず戦いに乱入し、助けたダークエルフの女性を思い出していた。

 

 

 

 

 

「セイバー、今だよ!」

「うむ。任せよ奏者! そしてラストアタックを取れたらご褒美に余ともデートするのだぞ!」

 

 3日後、私達は55層のフィールドボスの攻略を行っている。当初予定されていた町におびき寄せて包囲すると言う作戦は、撤回された。広い場所まで誘導した後、壁戦士(タンク)部隊がタゲを固定して私たちダメージディーラーがHPを削る、セオリー通りの攻略展開となった。

 ただ、アスナと出かけたことによりセイバーの機嫌が著しく悪くなり、半泣きのままむーっと睨んでくる彼女の機嫌を直すために、毎日添い寝することを約束させられたり、ラストアタックを取れたらデートに行くと約束させられたり、もうひとつ約束もあるのだけれど、まあ良いか。

 

「奏者よ、ラストアタック、ラストアタックだぞ!」

 

 キラキラと子供みたいにはしゃいで抱きついてくるセイバーの頭をなでて、ぎゅっと抱き返してみる。よしよし、お疲れ様。

 かつて彼女は【美少年は良いが、美少女はもっと良い】なる言葉を発していたことがあったが、彼女の感化されたのか今では分からないでもないと思ってしまう。

 それはきっと、一途に私に好意を向けてくれるこの暴君様が、とんでもなく可愛いからなんだろうなと内心思ったのは内緒。

 

「さあ、これで迷宮区に挑戦できる。奏者よ、どこかに遊びに連れて行けとは言わぬ。今から迷宮区に一番乗りで探索して、余にアイテムを貢ぐのだ!」

「今から? ……良いよ、行こうセイバー」

 

 久しぶりに暴れたからか、とても機嫌の良いセイバーに促されて、フィールドボス撃破の余韻に浸っているレイドチームを置いて駆け出す。

 きっと、こんな風に冒険を楽しむのは本当なら不謹慎なのかもしれない。けれど、どうもゲーマー気質と言うものが体に染み付いてしまったのか、はたまたセイバーの喜ぶ顔が嬉しいのか。新しい場所へ踏み込むこの瞬間がとても楽しい。そう考えているのは他にもいたようで、私たちの横を駆け抜けていく男の子が居た。

 

「お先に、ハクノン」

「ちょ、キリト君ずるい! 一番乗りは渡さないんだから」

 

 隣を駆け抜けていく黒いコートに叫んで、私たちもスピードを上げる。こうやって、純粋に競い合える相手と共に、攻略組のアインクラッド攻略も進んでいくんだろう。

 ちなみに、あっという間に私たち三人を追い抜いて先回りした白い【閃光】さんに、正座でお説教を食らったのは別のお話。

 




最後!
良いお話で終わらせようかと思ったのですが、お説教食らっちゃいました。
いや、オチが欲しかったんです、オチが。

今回もお読みいただき、ありがとうございました。


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Art21:たった四人の突入作戦

暫くお休みをいただいていましたが、最新話投稿させていただきます。
それでは、どうぞ。


「それでは、ラフコフのアジトの襲撃は明日の夜0時調度に行います。大丈夫、いくら殺人者(レッド)ギルドだと言っても、彼らだって自分の命は惜しいはずだ。ぎりぎりまでHPを減らして、降参してきた奴をかたっぱしから【黒鉄宮】に送ればミッション完了、また攻略に戻れるさ!」

 

 そう言葉を締めくくったのは、聖竜連合のリンドさん。ここ最近、猛威を振るっている殺人者ギルド笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の被害が増大している。そこで攻略組から有志を募って、討伐してしまおうという話だ。

 正直なところ、彼らの作戦は不安を覚えている。それは私が【人の命を奪う】と言う行為に触れすぎていたが為の違和感なのかもしれないけれど、討伐と言いながら敵が投降することを前提としての作戦であるのが一番。

 

「もし、HPがレッドゾーンに入っても、降参しなかった場合は?」

 

 私がそんな質問をしたのがまるで意外だと言うかのように、一斉にこちらを振り向いた。

 

「奏者の疑問ももっともだ。彼奴ら全員が降参してくるわけが無い。その時になって、敵のどう動くか、考えていたほうが良いのではないか?」

 

 セイバーも後押ししてくれているんだけど、どうもリンドさんは1層でのボス戦以来相性が悪いと言うか、何かにつけて異を唱える私を良く思っていないみたい。

 今も一瞬凄い顔で私を睨んでから、すぐに笑顔を作る辺り、役者だと思う。

 

「大丈夫、HPが無くなったら死ぬのは彼らが一番良く知っている。必ず降参してくるよ。それじゃあ、明日一日準備に当ててくれ。解散」

 

 そう締めくくって、会議は終了した。時刻は20時で、今からどこかに出かけるにはすこし遅い。

 

「ハクノン、どうしたの? 凄く難しい顔してるけれど」

「アスナ……ん、いや何でもないよ。そう言えば、このラフコフ討伐、ヒースクリフさんは参加しないんだね?」

「そうね、団長は次のフロアボス攻略に向けて団のレベルの底上げを行っているわ。この層を攻略したら、いよいよ70層だもの」

 

 ぐっと拳を握っているアスナは、最近ますます綺麗になったと思う。いや、アバター自体は変わらないから、見た目の話じゃなくて、雰囲気が。

 

「フロア攻略も良いけど、キリト君の攻略具合はどうなってるのかなー?」

 

 なんてからかってみると、ボンと音がしそうなくらい真っ赤になるアスナまじ可愛い。……よし、決めた。

 

「大丈夫だよ、アスナ。全部上手くいく、私が何とかして見せるから」

 

 別れ際に軽く手を振って宿に入る。先に宿に戻っていたセイバーは、私が何を考えているのか既にお見通しと言った表情で、呆れたように笑っている。

 うん、アスナにも、キリト君にも。クラインさん、エギルさん……皆、この世界は遊びじゃなくても、せめてゲームであり続けてもらえるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の深夜23時30分、私とセイバーは会議中に開示されたラフィン・コフィンのアジト前に来ている。

 目的はひとつ、ラフィン・コフィンの討伐のために。

 

「良かったのか、奏者。今回の単独行動が知られれば、今までの比ではない位に他の攻略組の面子から嫌われることになるのかも知れないのだぞ?」

「良いんだよ、セイバー。人の命をなんとも思ってない相手と戦うんだ、そう言うのはやっぱり……そう言う戦いを生き抜いた私たちがやるのが、良いと思う」

 

 心配そうに私の顔を覗いてくる。私としては、そんな建前はどうでも良くて……もっと本音を言ってしまえば、アスナやキリト君が危険な目に遭わなければ、その方いいと思っているのもあるんだけど。

 

「奏者。そなたは時々そうやって自分を卑下する傾向があるというか、『自分は他人の命を奪った経験があるから』と、周囲と一線を引いている傾向がある。余は、それはあまり好きではない。……余が愛した奏者は、目線だけは常に前を向いて進んでいた英雄だぞ」

 

 セイバーから『英雄』と評価されたことが、なんだかこそばゆくて。私にとって、やっぱり英雄って言うのはセイバーだから。

 もう、だめだって状況で必ず手を差し伸べてくれて、助けてくれたのは他でもない暴君ネロ……その人に英雄だと称されたことが物凄く嬉しくて、誇らしい。

 

「そうだったね、ごめん。じゃあ……ここからは気分を変えよう。私はリンドさんの作戦に不安があるから単独行動を行って、ラフコフのアジトを壊滅させる。明日から当たり前に攻略が進むように」

「うむ。ならば余は奏者の往く道を切り開こう!」

 

 さあ、突入しよう。この世界に恐怖を撒き散らした恐るべき殺人集団が待ち構える巣穴へと。

 

「お、相談は終わりかい。なら、俺達も一緒に連れてけよ」

 

 ふと、そんな声が響いてきた。二人そろって後ろを振り返ると、そこに居たのは青い衣装に身を包み、赤い魔槍を片手にゆっくりと姿を現した。

 ランサー。かつて私のピンチを助けてくれたものの、それからめっきりと姿を見せなかった彼が、今になって姿を見せるなんて。

 

「どういう風の吹き回し?」

「なに、今回は俺のマスターも同じ考えだったもんで、オーダーに従っただけだ。だろ、いい加減影からの支援者じみた真似は止めりゃ良いんじゃねえの、嬢ちゃん」

 

 ランサーが声をかけた場所に居たのは、白と赤の衣装に身を包みその綺麗な金髪をツインテールに結った、懐かしく凛々しい少女。

 

「……ひさしぶり、凛」

「ええ、あなたがこの世界……と言うか、月から脱出できているとは思わなかった。また会えて嬉しいわ」

 

 血盟騎士団の参謀長、遠坂凛。彼女もやっぱり、ラフィン・コフィンを放置するべきではないと判断してこの場に来てくれていた。

 それだけでずっと心強くなる気がしたのだから、我ながら現金と言うか何と言うか。

 

「ところで、どうして凛がここに?」

「……あんたが言う? わたしがここに居る理由を……あんたが聞いちゃうんだ? ふーん、へーえ」

 

 あれ、何だか凛の眼が怖いぞ。私そんなにおかしなことを言ったのだろうか。

 

「月から脱出させてくれたのは良いけど、眼が覚めたらこんな世界に放り込まれていたんだけど? ねえ、はくのん。これって、どうして私がここに居るのか、1から10まで説明しなくても伝わるわよね?」

 

 あ、私のせいですね、はい。どうやら月からの脱出を聖杯に願ったときに、手違いがあった様でこのソードアート・オンラインの世界に私と一緒に飛ばされてしまったらしい。

 ……他にも飛ばされた人間、てかNPCもいたりとかしないよね。胡散臭い神父で最後だよね。

 

「兎に角、私とはくのん……あなたが組むんだから、これ以上最強のコンビってのもそうそう無いでしょ。ちゃちゃっとラフィン・コフィンのアジトを壊滅させて、聖竜連合の鼻持ちならない代表に恥でもかかせちゃいましょ」

「いや、そこまでは。そこまでしなくても」

 

 あはは、なんて苦笑いを浮かべてごまかそうとするものの凛はいたって本気のようです。おそらく、大規模ギルド間の定例会議で相当腹に据えかねたものがある様子。

 何があったかは教えてくれないんだけど、あの雰囲気はきっとそうに違いない。こっちに飛び火してきませんように。

 

 

「行くわよ、ランサー。殺人ギルドなんてふざけた集団、今日で終わりにしてやるんだから」

「応さ。気合入れてけよ、嬢ちゃん」

「セイバー、私たちも負けていられない。行くよ!」

「うむ、ここは大一番と言うもの。そなたの活躍の舞台、余が直々に飾りつけよう!」

 

 四者四様、それぞれに自分たちなりに気合を入れて。突入する。

 始まる、たった四人の突入作戦が。

 




ラフィン・コフィン討伐戦。
原作でのキリト君の回想ぐらいしか資料が無かったのですが、今回は大きく話しを変えて行こうかなと。

最近キリト君の出番が少ないのですが、彼ははくのんの物語の裏側で着実にハーレムフラグ建築中……はくのんと2人そろったら、ハーレムだらけでえらいことになりそうです。


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Art22:イッツ・ショウ・タイム

お待たせしました、第22話になります。


「敵襲、敵襲―!」

「信じられねぇ、たった4人相手に……うわあああ!!」

「何なんだよ、畜生。なんであんな大型武器で短剣や細剣より速く動けるんだ!」

「HPが……俺のHPが! 助けてくれぇ!」

 

 洞窟内に響き渡る怒号と剣戟。

 

「おら、さっさとどきな!」

「奏者の道を阻むものは、余が全て切り伏せる!」

 

 駆け抜ける赤と青の暴風。通り去った後には、何も残っていない。うわー、すげー。

 阿鼻叫喚、という言葉がぴったりと当てはまるくらいラフコフのアジトはパニック起こしてます。

 いや、そりゃ酷いもので先陣を切るランサーの槍とセイバーの剣、どちらも間違いなく大型両手武器なのに、素早さが売りの短剣や細剣が動くよりも先に切り伏せてるんだから、そうもなるだろうね。

 

「死にたくないヤツは、こっちに並びなさい! 黒鉄宮まで転送してあげる」

「それでも徹底的にやると言うのなら、私たちも容赦はしない……!」

 

 取り敢えず警告を行ってみる。何人かは素直に両手を挙げて投降する意思を見せているけれど、やはりそんなことお構いなしに突っ込んでくるやつの方が多い。

 ごめん、そう心の中で呟いて7人めのオレンジプレイヤー……いや、レッドプレイヤーのHPを全損させる。

 

「分かった、降参する。命だけは、命だけは助けてくれ!」

 

 そう叫ぶ男には、純然たる恐怖が浮かび上がっていた。

 ……そうやって命乞いする人間を、自分たちは楽しみのために殺してきたんじゃないのか。そう思うと、助けてやる義理なんて全く無いんだけれど。

 

「なら、凛のところに行きなさい。生き延びて、このゲームがクリアされたとき……自分のしたことの重大さを実感すると思うよ」

 

 手に持っていたオリジンソードを軽く地面に向かって振り下ろす。所謂時代劇なんかで見る“血振り”っていう動きを自分なりに真似したもの。

 実際剣に血がつくなんてことはないし、そもそもオリジンソードは収めるべき鞘も無いんだけれど、何となく……自分の中で戦いが一区切り、という意味合いも込めていつのころからかやっていた。

 

「おいおいおい、良くそんなんで笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のメンバーでござい、なんて言えたもんだな? うちのボスが見たら何て言うか!」

 

 不意に、甲高い声が響き渡る。

 

「お前ら、死ぬまで、戦え。それが、俺たちの、生き様だ」

 

 ズタ袋のようなマスクを被った男と、髑髏のようなデザインのマスクを被った男。どちらも知っている。【ジョニー・ブラック】と【赤眼のザザ】と呼ばれる殺人(レッド)プレイヤーだ。

 

「出てきたわね。あんたらもまとめて駆除してやるわ!」

「ひーっひっひ! 良いね、威勢が良くて」

 

 耳障りな甲高い声、これキャラつくってんのかな。それならロールプレイって面では楽しんでるなー、なんて思わず場違いな感想を抱いてしまう。

 セイバーとランサーが、無力化したラフコフ構成員を拘束しながら警戒しているのが分かっているから、口には出さないけど。

 けれど、ふと一抹の不安が頭をよぎる。確か、ジョニー・ブラックと赤眼のザザは、ラフコフの幹部であり、基本的に“あいつ”と行動を共にしているはずなのだ。

 

「Wow……誰かと思えば、お前達か。そいつは納得だ、下っ端じゃ手がつけらんねぇはずだぜ」

「やっぱり居たんだ……PoH(プー)

 

 PoH……それはギルド笑う棺桶のリーダーの名前。加えて、今やこのアインクラッドであの手この手でPKをやってのける上に、性質が悪いことに他のプレイヤーをそそのかして、PKや犯罪に手を出させてその顛末を眺めるのを至上の楽しみとしている変態。

 

「随分機嫌が悪そうじゃない、PoH。そんなに私と凛の奇襲が意外だった?」

「そりゃそうでしょ、態々内通者を使って得た情報が無駄になったんだもの。それぐらい悔しがってもらわなきゃ」

 

 ジョニー・ブラックとザザの後ろから現れたPoHは、ポンチョ姿とフードでその表情は読み取れなかったものの、挑発の意味も込めてそう宣言してみる。凛もにやりと口元に笑みを浮かべてる辺り、役者だと思う。

 

「いいや、俺は今最高に機嫌が良いぜ。なぜなら、こんな上玉が1晩で2人も俺の獲物として出てくるんだからな」

 

 PoHがそういった次の瞬間、セイバーとランサーが同時に動いた。それぞれがそれぞれの主人の前に割って入ったのと同時に、ジョニー・ブラックとザザの剣が防がれていた。

 

「ちっ、やっぱサーヴァントってめんどくせぇ! ワーンダウーンできなかったじゃねえか!」

「へ、その程度止められねぇわけ無いだろうが。良いぜ、俺の相手はお前かよ?」

「赤い、剣士。貴様の剣、オレの、趣味じゃ、ない。消えろ」

「貴様の殺気に塗れた剣こそ、余の趣味ではない。どけ、奏者の前に立つのならば、容赦はせぬぞ」

 

ジョニー・ブラックとランサー、ザザとセイバーが睨みあう。2人ともこの狭い洞窟の中で難なく武器を振るえるだけの技量はあるけれど、私たち2人を守りながらだときっと足手まといになる。だから。

 

「セイバー、私のことは気にしなくて良いから。PoHは任せて、ザザに集中して」

「ランサー、こんな所で終わるなんて承知しないわよ?」

 

 それぞれに、自分の護衛としての責務を解いて眼前の敵に集中するように伝える。凛は自分のポーチから投擲用のナイフを、私はオリジンソードを構えてPoHと睨みあう。

 

「おいおい、まさかサーヴァント使いのお2人さんが、サーヴァントを使わずに俺とやるってのか?」

「ぐだぐだと煩いわね、獲物を前に舌なめずりして狩る側の気分ってのを味わってるだけでしょ」

 

 正直なところ、幾ら私と凛がパラメータ的にPoHより強いと言っても技術的な面では不安なものが多い。

 けれども、そんなことは百も承知で、本来ならセイバーと2人で乗り込むはずだったんだから。今更自信が無いから戦わないなんてことは、言わない。

 

「さっさと降りてきなよ、ド三流。高々ゲームのプレイヤーと、本物の殺し合いを経験した人間、その格の違いを見せてあげるから」

 

 オートクチュール・オブ・ソード、コクテンドー、オリジンソード。うん、今使える最高の装備を確認して、オリジンソードの切っ先をPoHへと向ける。

 にやり、とその口元が歪んだ気がした。

 それは、彼の口癖でもあり、笑う棺桶の合言葉にもなっている一言を発するためのものだと、すぐに分かる。

 

「ok、なら思い切り殺しあおうじゃねえか。イッツ・ショウ・タイム」

 

黒いポンチョと同じように、【ラフコフのPoH】を象徴するのが、短剣にしては大振りな、中華包丁のようなそのダガー。

 その短剣が引き抜かれ、PoHは物凄い勢いで飛び降りて私たちに切りかかろうとしてきた。

 さあ、始めよう。正真正銘の命のやり取りを。敵は、ソードアート・オンライン……いや、認めよう。岸波白野が出遭った中で、間違いなく最凶の部類に入る人間だ。

 




どうも、蒼の涼風です。
ここ最近の気温の変化、皆様体調には十分お気をつけください。

さて、ラフコフ戦も佳境。後一回くらいでラフコフ編終わるかな……どうかな。

それでは、また次回。


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Art23:英雄王

まさかの2週間ごとの更新。
頻度上げるように頑張ります。


 ぶつかりあう剣と剣、正しくソードアート。なんて言っている余裕なんて無いくらい、正直一杯一杯です。

 やっぱり殺人ギルドのリーダーを張っているだけあって、PoHは強い。こっちは2人がかりで挑んでいるって言うのに、それを余裕で凌いで反撃してくる。

 

「おいおい、どうした? 攻略組トップクラスのプレイヤーの実力ってのはこの程度のモンかよ?」

 

 軽口交じりに告げてくるPoHを睨みつけて剣を振るうけれども、如何せん小回りの聞く短剣と片手剣だとせまい洞窟では相性が悪い。

 凛も投剣で援護してくれるんだけれど、思った以上に押されてる。

 

「ちょっとはくのん、あまり良い展開じゃないわよ。こういう時って、都合よくこの世界の勇者ポジションの主人公とか駆けつけてくれないかしら。どうせあんたのことだから、ヒロイン枠のキャラも気にせず誑かしてるんでしょ!」

「凛、ちょっとなに言ってるかわかんない!」

 

 うん、何のことを言っているんだこの子はー!?

 と言うより、何で私が“ヒロイン”を誑かさなければいけないのか詳しく。ワタシ、オンナノコ。

 

「随分余裕だなぁ! それなら、こんなのはどうだ?」

 

 ぐぐ、とPoHの体が前かがみになる。次いで光りだしたダガーの刀身を見るに、ソードスキルが来る。

 とっさに凛を庇うように前に出て、コクテンドーを構える。コクテンドー、普段使うには何の変哲も無いバックラーだけれど、ことソードスキルに対してはそのダメージの8割を防ぐと言うとんでもない代物。だと言うのに。

 

「そうら、踊れ踊れ!」

 

 愉快そうに叫ぶPoHが繰り出したソードスキルから、無数の竜巻のような斬撃が襲い掛かってくる。

 とんでもない。短剣系ソードスキルの奥義技、エターナルサイクロン。コクテンドーを構えているにもかかわらず、がりがり私のHPが削られている。

 

「く、この……!」

 

 8割、7割、6割……イエローゾーンに突入した私のHPはそれでも減少するのが止まらない。3割、2割……そこまで減ったところで、やっと止まった。

 とんでもない、とは正しくこの事。ただ2割に威力を削いでいるにも関わらず、私のHP……現在レベル87、HP15492が、消し飛ぶ勢いで減らされた。

 ぞっと、背筋が冷たくなるのを感じる。こんなものを直撃させられていたら。いや、もう一度撃たれたら私は終わりだ。

 ただでさえ、ザザと戦っているセイバーは私とHPが連結しているのを気にして十分にその剣を振るえていないと言うのに。

 

「しかと見よ、赤眼のザザ! 余の剣技こそ至上のもの! とくと(まなこ)に刻み付けて冥土の土産にするが良い!」

 

 あ、平常運転でした。楽しそう。

 

「ヒール!」

 

 とん、と。背中で回復結晶が弾け飛ぶ感覚と凛の声が聞こえた。次の瞬間には私のHPはぐんと回復してグリーンゾーンへと立ち戻っている。

 

「は! 流石血盟騎士団の参謀長様。この俺に短剣を投げながら相方の回復までこなすとはな!」

 

 愉しげに笑うPoHと、決め手に欠ける私たち。

 どうしよう、このままじゃ勝てないとは言わないけれど、ジリ貧になるかもしれない。そうしたら、明日の夜には攻略組の皆がここに奇襲をかけてくる。

 アスナやキリト君が、その手を血に染めるようなことになるかもしれない。そんな事は、させたくない。させないんだ、この命に代えても。

 

――ずいぶん……無様……な……種。

 

 ぶつりと、何かが頭の中に流れてきたような感覚。

 どこかで聞いたことがあるようで、ないような。それは、この世全てを誰もが到達できない高みから見下ろすように、高慢で……私たちの行動をすべて下らない物と断じているかのように傲慢で……それでもそんな世界を愛しているかのように、優しさにもとれる声色だった。

 

――随分と無様な姿よな、雑種。貴様に待つのはどの道消滅だけだと言うのに、友のために剣を振るうか。しかし、その破滅さえ愛してやれるのは天上天下においてただ一人、我しか居るまいよ。……1度だけ、助けてやろう。その剣を抜く者に敗北は許されん。

 

 そんな言葉と共に、不意に私の意識が自分の体から切り離されるような、不思議な感覚に襲われた。

 まるで、そう。まるでゲームの画面を見ているかのように、私は私を俯瞰している。

 そこに居たのは、どことなく不遜で私のイメージとは違った、全てを見下すかのような表情を浮かべた()がいる。

 

「セイバーに、ランサーか。ふむ、死にたくなければ控えておれ、雑種。」

 

 つい、と。簡単に言い放った私の姿をしたそれは、持っていたオリジンソードの刀身が回転し始めている。

 回るんだ、あれ……というか、とてつもなく嫌な予感がする。その気配を感じてセイバーとランサーも距離を開け、私の後ろにとび退いて身を護る。凛もすぐさま距離を開けている。それだけ異常な魔力が剣に集中している。そう、魔力が集中しているんだ、魔法の概念が一切無いこの世界で。その力は、正しくサーヴァントのそれ。

 

「いーっひひ、どうしたどうしたぁ!」

「にげ、るか?」

 

 サーヴァント達の行動にジョニー・ブラックとザザが訝しそうな表情をしているけど、それだけ。ただ、PoHだけは油断無く構えている。

 

「我が雑種の命を奪い、我の愉悦の時を台無しにしようとしたその罪、万死に値する。我自ら直々に首を撥ねてくれる、疾くそこへ直って首を差し出せ」

「あのヤロウ、やりたい放題にも程があるじゃねえか。何だそりゃ、他人のマスターの体を乗っ取るとか聞いたことがねえ」

「ランサー? 何か知ってるの?」

「ちっとばかしな。いや、()は知らねえが……覚えはある。あの喋り方。いけ好かねえ雰囲気、おそらく間違いねえだろ。だが、こと味方に廻すにしちゃ扱い辛えが、これだけ心強いヤツも居ないだろうさ……人類最古の英雄王、ギルガメッシュ。あの剣、どっかで見たことあると思ったらあのヤロウの剣か!」

 

 なんて、嫌そうな口調で。それでもどこか懐かしそうな口調で答えるランサーの言葉に、はてと首を傾げる凛。因みに私も傾げてる、はて。

 

「――出番だ、エア。おまえとて不本意だろうが、これも王としての努め。雑種共、その笑う棺に納められるのは自らだと知るが良い。――死にたくなければ、死に物狂いで逃げ遂せてみよ」

 

 にやり、とその私が笑った。

 次の瞬間迸ったすさまじい光の奔流が、笑う棺桶のメンバーに襲い掛かる。

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)

 

 全てを破壊するかのように走る光と衝撃、轟音を聞きながらいつの間にか自分の体に戻っていた私はとんでもない疲労感を感じてその場に倒れこんだ。

 薄れていく意識の中、最後に見たのは私に駆け寄ってくる凛とランサー。そして、今にも泣きそうなセイバーの姿。

 

――貴様には過ぎた剣であったか。ならば身の程に合った剣をくれてやろう。努、今の貴様の在り方、違えるなよ。

 

 最後に、そんな声が聞こえたのは気のせいだったのかな。

 




チートやチーターや!
なんでそこでギルガメッシュが出てくるんや!

……ビーターも真っ青なチートぶり回でした。
ギルガメッシュ、かっこいいよね。


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Art24:夢中の邂逅

まるっきり2ヶ月ぶりの更新となってしまいました。
蒼の涼風です。

24話、完成しましたので投稿させていただきます。


 ふと、気がつくとそこは宇宙。

 正しくは月面と言っても良いし、言い換えれば学校の校舎と言ってもいい。

 つまり、見たことがある。月海原学園……かつて月の聖杯戦争の舞台として過ごした場所。そこに良く似ている。

 

「何だ、此度の雑種は随分と呆けているな。聖杯戦争を生き延びた者らしからぬ顔だ」

 

 ふと、聞こえたその声は。どこかで聞いたことがあるような。全てを見下す傲慢さと全てを許す寛容さを兼ね備えたような、そんな不思議な声。

 振り向いたときに目の前に居たのは、黄金の鎧を身に纏った男性だった。

 

「あなた、は?」

「痴れ者が。誰の許しを得て我の姿を見て、我に言葉をかけている。我の知る雑種と在り様が似ているからこそ気まぐれに手を貸していたが、その無礼な首、撥ねてくれようか」

 

 急に、背中にぞくりとした殺気を感じる。ひれ伏せ、この男の怒りを買うなと本能が命じているのが分かる。

 

「しかし、まあ良い。我の意識を受け入れてなお正気を保っていられる貴様の気概に免じて、此度のみ不問といたす」

 

 思わず首を傾げる。此度、というのはこの一回だけなのか。それとも今顔を合わせている時間を指しているのか判断が付かない。

 

「どうした、我と会話するのを許すといっているのだ。何でも話せ」

「えっと……じゃあ、まず。あなたは……ひいっ!?」

 

 急に剣が飛んできたよ!

 怖いよ、このお兄さん!

 

「よもや我を見て誰だか分からぬなどと戯けた言葉を発する気じゃあるまいな? ふん、しかしそうか。ついあの雑種と同一視してしまうが……一度だけ名乗ってやろう。ゴージャスのサーヴァントだ」

 

 なんですかそれー!?

 あ、本人気に入っているっぽい。めっちゃドヤ顔してるし、心なしか鎧の金ぴか具合が増してるような気がするし。

 

「……なんだ、良い。許す。存分に笑え。我渾身のAUOジョークと言うヤツだ」

 

 あ、笑ってよかったんだ。分かりにくい、この人わかりにくいよ。助けてセイバー、へるぷみー。

 

「セイバー……そうだ、セイバーは!? 凛とランサーも!」

 

 ふと、こんなにのんびりしている場合じゃないことを思い出した。そう、自分はアインクラッドで皆を閉じ込めてるSAOの完全攻略を目指している筈だったのに、どうしてここにいるのか。

 

「ふん、心配はいらん。ここは貴様の、所謂心象風景の内部だ。現実……貴様のソレをそう呼んで良いのならば、あと10分もすれば目を覚ますだろうよ」

 

 そう愉しげに話す男の人、確かえいゆーおうとか言ってた。えいゆーおう、英雄、王?

 むむむむ、分からん。凛とかセイバーが居ればそのキーワードだけで目の前の人物が何なのかすぐに分かりそうなものを。

 

「時に雑種、貴様がこれまで使っていた剣だが、もとは俺のものだ。返してもらう。もとより、我以外扱いこなせぬ物だ」

 

 宣言されると同時に、私の腰にあったオリジンソードは光の粒子になって消えた。

 

「さて、ひとつ聞かせてもらうぞ、雑種。かつて聞かれた問いへの返答は、今も違わず答えられるか。この世界もあと30層を切った、クリアしてしまえば消滅する運命でしかないぞ。それでもなお、足掻くか。戦う力も持たぬまま」

 

 なんだ。何で今更そんな事。

 

「戦う力なんて、そんなもの私には最初から無かったよ。聖杯戦争でも、この世界でも生き残れたのは多くの出会いと、セイバーのおかげだった。私が出来るのは、ただ進むだけ。頑なに、それだけは守ろうって思ってやってきた。それは、私の誇りでもあるの。だから――」

 

 一度深呼吸。一言間違えただけであっさり私を殺しそうな相手に向かって、ありったけ。自分の思いを吐き出す。

 どうしてか、その傲慢さが懐かしいのは……彼もきっと、どこかの「岸波白野」と駆け抜けたことがあるのだろう。

 

「だから、戦う手段が無いなら作り出してみせる。消滅しか待っていないとしても、最後の瞬間まで笑っていて見せる。この世界で出会った大好きな皆の為に。私の剣として、盾として戦ってくれる彼女の為に……私は、自分から止まるなんて選ばないよ」

 

 とんでもない重圧の中、そう伝えた。それが精一杯の、ありったけの自分の意思。

 

「貴様のその精神、やはり厄介だな。その手の人間がやがて神を殺すだろう。良い、許す。思う様足掻くが良い。選別だ、この剣をくれてやる」

 

 そう言って男の人がどこからか出してきた剣。その見た目はどこかで見たことがある形、色をしていた。

 そう、それは時々キリト君が、普段使ってるエリシュデータの耐久値が怪しくなってきたときに使っていた剣、“ダークリパルサー”にそっくりなのだ。

 

「……ありがとう、大事に使います。いつかまた……ギルガメッシュ」

 

 そうするのが自然だと言うかのように、私の手はその剣を受け取って装備する。“ブレイブハート”……とある剣の原型、なんて説明がされている。

 無意識のうちに発した彼の名前が私の耳に届いたのと同時に、意識がホワイトアウトしていく。ああ――目が覚めるんだな、なんて暢気に考えながら、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

「奏者、奏者! 目が覚めたか!?」

 

 ゆっくりと瞼を開くと、視界一杯に泣きそうになっている良く見知った顔が映った。

 

「おはよう、セイバー……」

「おはようではない! 余がどれだけ心配したと思っておるのだ! ああ、分かっていた。分かっていたとも。そなたは必ず目を覚ますし、心配するだけ損だと言うことくらいな!」

 

 ぷりぷり怒りながら抱きついてくる辺り、本気で心配してくれたんだと思うんだけど、こんな状況でこういう感想もどうかと思うんだけど。

 ……可愛いなぁ。

 ふと、視界の隅に未読のメッセージが届いているアイコンが映っていたので、セイバーを宥める傍ら開いてみる。キリト君、クラインさん、エギルさん、リズさんやシリカちゃん。キバオウさんやリンドさんからも、心配してくれてるメッセージが入っていた。ありがたい。

 明日、それぞれにきちんとお礼のメッセージを送ろうなんて考えていると、不意に押し倒された。

 

「セイ、バー?」

 

 じっと見下ろしてくる真剣な表情は、心配してくれているのとはまた違ったもので。

 その表情に私は、思わず息を飲み込んだ。

 

「奏者よ、きっと疲れているのは分かっている。ただ、今夜だけは……その、奏者と共に眠りたいというか。アレだけの大きな仕事の後だ、余に褒美の一つでもくれても良いだろう。と言うか、褒美がほしい……ええい、じれったい。余に身を任せよ、ハクノ」

 

 耳元で囁かれる言葉に思わずどきりと胸が高鳴って、何も考えられずに頷いてしまった。

 これはいよいよアレだろうか。あーるじゅうはちとか言うやつなのだろうか。と言うか私が女の子で良いのだろうかなどなど訳のわからない思考が頭の中を駆け巡る。

 

「……すぅ」

「すぅ?」

 

 なんと、ネロ皇帝はハクノンの腕を枕に眠ってしまった!

 あはは、ですよね。岸波白野の物語は常に健全な青少年皆様にも楽しんでいただける作りになっています!

 

「ずっと起きててくれたんだよね。ありがとう、おやすみ」

 

 そっと、彼女の頬に唇で触れて眠りに付くくっついているだけで幸せな気分になってくるから、不思議だ。

 ……そう、翌朝あのメッセージを見るまでは、そんな穏やかな気分で居られたのだった。

 




やっとこさ体調不良と、オルガマリー所長の死から立ち直れました。
…どっちがどうかって?

それは……ねえ?


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Art25:名無し

四ヶ月越しとか何事……。
私の書き物を楽しみにしてくださっていた方々、大変申し訳ございません。
第25話、投下します。


「一歩間違えたらあなたが危険な目に遭っていたんです。その自覚はあるんですか!?」

 

 お説教なう。

 いや、正直それほどのほほんとしていられはしないのだけれど。何せ、かれこれ2時間は正座をしてこうやって血盟騎士団の副団長様からありがたーいお話を聞かされているのだから。因みにセイバーはパスと言って、適当に遊んでいるとアルゲードへ繰り出してしまっている。はくじょうもの。

 やれ、自分は攻略組の全体を指揮する以上、不用意な脱落者を出すつもりは無いとか。自分たちをそれほど信用できなかったのか、だとか。

 そして何より気に入らないのは。

 

「どーして、“そっち”に居るんですかね、参謀長殿」

「あら、ラフコフ討伐に向けて士気高揚の為に早めに現地に向かったら、偶々単身で拠点に殴り込みをかけようとしているプレイヤーを発見して、なおかつ意識を失ったそのプレイヤーの安全を確保するためにアスナ副団長達が到着するまで護衛していた私に何か用事かしら?」

 

 ふあー。なんて、アスナの後ろで暢気に大欠伸をかましてくれている凛に恨み言のひとつでも言いたかったのだが。見事にぐうの音も出ないほどへこまされた。

 ことの始まりは今朝、アスナから飛ばされたインスタントメッセージ。

 

――本日1400、グランザムの執務室にて待つ――

 

 たった20文字のこのメッセージが飛んできたことから始まる。

 このメッセージを開いたときに、こう、全身の血の気が引く感じ。分かっていただけるとありがたい。

 

「兎に角、今後このような勝手な行動は慎んでください。そうでなくても、あなたやキリトくんはスタンドプレーが過ぎると攻略組の各ギルドから苦情が寄せられているんですから」

「いや、それは……はい。や、でもそういうギルド間の柵が面倒だから、私もキリト君もフリーランスやソロなわけで」

「その柵がこっちに飛んできて迷惑だって言ってるの、通じませんか?」

 

 にっこり笑うアスナさん。怖い。

 ですよねー。攻略組のなかのソロやフリーランスが好き勝手やってれば、苦情が行くのは現場で指揮を執っているアスナなのは少し考えれば分かることだけど。

 

「と、まあ。ここまでは血盟騎士団の副団長と言う立場上軽くお説教させてもらいましたが」

「軽く?」

「何か?」

 

 満面のスマイル。怒ってらっしゃる。本気で怒ってらっしゃる。

 あ、あそこで嬉しそうにニヤニヤ笑いながらこっちを見ている“あかいあくま”がいる。ちくせう、いつかぎゃふんと言わせてやる。

 

「何でもないです」

 

 うぐぐ。何だろう。アスナ、昔は素直で可愛かったのになー。

 

「よろしい。では……こほん。ここからは友人として。心配したんだから、お願いだから一人で無茶しないで」

「分かった。アスナが無茶しない限り、私も無茶しない」

 

 なんて、冗談交じりに答えてみる。本来なら不謹慎なんだろうけど、友達同士としてなら、この返答がベストのはず。

 結局、何故だか分からないけど1時間のお説教追加の後に解放されました。解せぬ。

 そんなこんなで、今ひとつ釈然としないまま私は61層のセルムブルグに来ている。と言うのも、移動式の鍛冶屋を営んでいる知り合いが最近はこの辺りを拠点として活動しているとアルゴさんから情報を買ったから。

 

「……見つけた。いい加減本拠点作ってよ。探すの面倒なんだけど」

「移動式は移動式で身軽さがウリなものでね。なに、どこであろうと私の仕事の腕は変わらんよ。今日は何か用かな、ハクノン」

 

 私に気がついて手を止めて顔を上げたのは、上下黒の衣装でノースリーブ。エギルさんほどじゃないけど色黒だけど、どちらかと言うと東洋……というかアジア系の顔立ちで真っ白な髪の男性。

40層の攻略が終わった辺りから活動を始めたらしい鍛冶屋さん。

 その強化の成功率は、ほぼ100パーセント。尚且つ砥ぎも作成も丁寧って言うので私もよく利用している。欠点と言えば少し口が悪いと言うことだろうか。

 

「新しい剣が手に入ったから、メインに据えようと思ってるんだけど。どう、君の意見を聞かせてくれない、名無し」

 

 つい先日いつの間にか手に入っていた片手剣【ブレイブハート】をオブジェクト化して彼に差し出す。名無し……プレイヤーネーム【No Name】に鑑定してもらうために。

 

「さて、元々私は剣に関しては門外漢でね。造るのは良いが扱うのはからっきしだ。使い勝手については君が実際に経験するより他にないが……ふむ、これは面白い。モブドロップでも店売りでも、プレイヤーメイドともまた違う。あえて言うなら遺跡の奥の秘宝として設置されるタイプのものか」

 

 剣について門外漢な人がこのゲームに来るわけないだろうというツッコミはさておいて。

 やっぱり職人さんの鑑定はその武器を見極めるプロだと思う。

 私じゃ、この武器ステータス高いなーぐらいしか分からない。

 

「きちんと強化すればおそらくこれから最終層まで現役で使えるだろう、良い剣だ。大事にすると良い」

 

 そう言った名無しの顔は何だか保護者と言うか、一段上から私を見てる気がして。勝手にオカンの眼差しと呼んでるわけです。

 

「このアインクラッド攻略もいよいよ佳境。のこり30階だ。せいぜい、死なないように気をつけるんだな」

 

 そう言葉をかけてくれた名無しは、広げていた商売道具その他もろもろをストレージに片付けるとゆっくりと立ち上がる。

 

「しかし、ふむ。この階層のフロアボスは所謂“サーヴァント”クラスらしい。さて、死人ゼロでと言うにはなかなか厄介だと思うがね」

「らしいね。今回フロアボスを発見した“軍”のキバオウさんから、そんな連絡が回ってたよ」

 

 ふむ、なんて腕を組んで考えているしぐさを見せる彼の体は理想的な筋肉の付き方をしており、現実世界では何かスポーツ……それもかなりの上級者として活動してたんじゃないかな。

 

「こっちはDDAのリンドから連絡があった。生産職である以上前線に出るのは不本意なのだが、致し方あるまい。相手が相手だ、私も出よう。この際、二束の草鞋をこなしているエギル殿に教えを請うのも良い」

「よく言うよ、“投擲射手”のノーネーム。投擲スキルなんて趣味スキルを思う存分使いたいが為に鍛冶スキル振ってるニッチプレイヤー」

 

 ふ、なんて肩を竦めて去っていく名無しを見送ってから、私はサーヴァントスキルを開いて、セイバーに呼びかけてみる。

 ボス戦が2日後なので、それまでに出来るだけレベリングしておきたいのと……ほら、なんだか彼女と喋っていないとどこと無く落ち着かない。

 居たら居たで煩わしいと思う程に構ってくれるのだけれど、今はそれが愛しくて大切だと思ってしまう自分も居る。

 転移門を使って待ち合わせた70階層に行くと、彼女は既に待ってくれていた。いつものように、ふてぶてしい笑顔と一緒に。

 

「待ちわびたぞ奏者よ。さあ、久しぶりに余を存分に暴れさせよ!」

「うん、行こう。よろしくね、セイバー!」

 

 ボス戦まで、残り36時間。当日の集合時間まで迷宮にもぐってセイバーを鍛えるために。

 




はい、25話でした。
どうにも自分の中でこの先バッドエンドしか見えてこず、非常に難産しています。
ハッピーエンド至上主義な身として、きっと皆が笑顔になる結末目指します。

それではまた次回、はくのんとセイバーにお付き合いください。


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Art26:70層ボス攻略戦

こんばんは、お待たせしました。
はくのん26話、投降させていただきます。


 第70層迷宮区、フロアボス攻略戦。参加攻略組フルレイドの48人は、正直手を出しあぐねていた

 激しく地面を叩く衝撃音と、響く地鳴り。次から次に沸いて出てくる敵性MOBがことごとく消え去っていく。

 室内に響く轟音と、ものの数分前までは綺麗な石作りだったボスフロアは、見るも無残な瓦礫の山に化している。

 

「なるほど。そのまま文字通りとは。これは恐れ入る」

 

 隣で投擲用のピックを持ったままの名無しがぼそりと漏らす。

 

「しかし、アレはあくまで集団の名前だったはず。奏者よ、今回もまともなサーヴァントとは言いづらいな」

「ロビン・フッドの時と同じかな。“そうあってもらいたい”っている後世の人間の創造が作り出した、創作上の存在……みたいな」

 

 そう喋っている間にも、こっちを敵として認識した敵MOBがまた1体消し飛んだ。()()()()()()()()()で。

 第70層フロアボス。クラス、バーサーカー。真名はBerserkと表記されていた。

 確か、ノルウェー語でベルセルク。今ではメジャーなのは英語で最後に「er」が入るバーサーカー。

北欧神話においてワルキューレが集めた勇者の魂が軍神オーディンの加護を得たと言われる、異能の戦士達の総称であり正しくサーヴァントの1クラス、バーサーカーの起源となった存在。

 

「相変わらず無茶苦茶な存在だわ、サーヴァントって。攻略のための糸口すらつかめない」

 

 一番先頭でアスナがぎりり、と奥歯を噛んでいるのが分かる。確かに、どうしようもない。こんな存在。こんな障害は本来ゲームとして存在してはいけない。

 

「は! 糸口が無けりゃでっかい穴を開けたるんが筋やろが。お前ら、雑魚MOBは無視して突っ込め!」

 

 何時までも見ているだけではどうにもならないと判断したのか、ただ痺れが切れたのかキバオウさんが自分と同じギルドのメンバーに号令を飛ばす。

 それを見てリンドさん達も反対側から攻めるために駆け寄った。

 

「待て、無闇に突っ込むな! 出方が分からなさ過ぎる!」

 

 キリト君が咄嗟に声をかけたものの、怒号と轟音にかき消されて届いていない。

 ベルセルクがただ一振り、その手に持っている鉄塊を薙いだだけで、多くのプレイヤーが吹き飛ばされている。

 幸いHPが消し飛んだ人が居ないのがせめてもの救いと言えるかもしれない。

 

「しかし、どうするか。もし神話の通りであるならば、バーサーカーに武器での攻撃は通じず、火も効かなかったという。なかなかの難物だぞ?」

「武器が効かないってことは無いんだろうけど、恐らく物理防御がとんでもなく高いんだろうね。そんな相手は……レベルを上げて、物理で殴る!」

 

 右手を軽く振って、開いた令呪のコマンド。最近新しく解放されたスキル【コードキャスト】を展開する。選ぶのは【boost_str32】大幅にサーヴァントの筋力を上げる。

 正直これは魔法とかマジックスキルに相当するんじゃないかとも思うんだけれど、使用するのに結晶を1つ何でも良いから割らないといけない辺りで釣り合いをとっているようだ。

 

「筋力上げて押せ押せか、聖杯戦争の時から全く進歩の無い戦い方ではないか!」

 

 いや、正直セイバーはそれが一番強いんで。魂の改ざんで筋力全振りして呆れられたのも良い思い出。あは。

 それでも、筋力が上昇したセイバーはしっかり前に飛び出してくれて、バーサーカーに切りかかる。思ったとおり少しなら攻撃は通る。けれど、無駄に硬いその敵の防御力を突破するのは骨が折れそうだ。

 

「では、こちらも援護しよう……!」

 

 これまで成り行きを見守っていた名無しも、両手に投擲用の短剣を手に持って肉薄する。

 名無しが跳び上がり、放たれたふた振りの短剣が光を纏ってボスに突き刺さる。

 

「赤原を駆けろ……火の猟犬!」

 

 やっぱりソードスキルのライトエフィクトはかっこいいなー。なんて思いながら、私もブレイブハートを握って突撃する。横では、キリト君も一緒に走って肉薄する。

 

「セイバー、スイッチ!」

「任せた奏者!」

 

 タイミングを見計らって、セイバーと入れ替わる。振り下ろした剣に手応えといえるようなものは無かったけれど、これでいい。あくまで戦うのはセイバー。私はその時間稼ぎの為に手を打つ

 

「―――――!!」

 

 隣に駆け寄ってきたキリト君はジェットエンジンに似た音を上げて、赤い光を残して突進していてる。凄い、これまでの攻撃よりも大きめに体力を削ってる。

 キリト君の後ろから続いたアスナが、何度も無数の突きを繰り出して更にボスのHPを削る。やっぱり、このゲームで最高のコンビはあの2人じゃないかと。

 

「行くぞ、奏者。花散る天幕(ロサ・イクトゥス)!」

 

 セイバーの渾身の一撃が叩き込まれる。

 

「アスナ、行くぞ!」

「ええ!」

 

 キリト君の黒い剣と、アスナの綺麗なレイピアが次々と切り込んでいく。エギルさんの斧とクラインさんの刀が両腕を薙ぐ。

 HPが残り70パーセントってところかな。この調子ならいける。何だかんだ言っても回復が終わった軍と聖竜連合の人たちも攻撃に参加している。

 

「やはり、この空気。共闘と言うのは悪くない。むしろ良い。奏者、このままイケイケでいくぞ」

「待ってセイバー、何かが来る!」

 

 吼える。咆える。天高く。

 それは狂戦士の怒りか、高揚か。かの戦士の身に纏っていた熊の毛皮が、狼の姿へと変換されていく。いや、毛皮だけじゃなくてベルセルクそのものが、巨大な狼のモンスターに姿を変えた。

 それに合わせて、今までランダムに近いものを襲っていた雑魚MOBが急に統率が取れたように揃ってこちらを標的にし始めた。さながら、自分達より強い者に従う獣のように。

 

 

――宝具【狂戦士の激情(ウールヴヘジン)】――

 

 視界の隅にそう表現されたそれは、ベルセルクと並んで語られる。あるいは同一視する説ももたれている。

 キリスト教化前の北欧に存在したと言われる、戦闘集団。獣のように振舞って、敵の武器や盾に噛み付くような振る舞いをしたと。

……武器や盾に?

 

「うわああぁ!? 俺の、俺の盾がぁ!」

 

 叫んだのは、軍の壁戦士(タンク)部隊の一人。被弾してもその自慢の盾の防御力の高さでよく前線を支えてくれていた人なんだけど。

 守りの要の盾を失った以上、前線に居座り続けるのは無理な話だと思う。

 

「うわああ!!」

「装備破壊MOBだと!? ちくしょう、こんなの聞いてねえっ」

 

 鎧袖一触、まさに一撃でレイドメンバーが総崩れしそうな勢いで混乱が広がっていく。まずい、どうにかしないと。

 どうやって?

 以前のようにアスナの一喝? 無理だ。あの時とは状況が違う。同じ理由でキバオウさんやリンドさんの号令でも無理だ。直接自分の命がかかっている状況で落ち着けなんて無理な話だ。セイバーにも上手い手が見つかっていないみたい、苦い顔してる。

 

「死にたくない者は全力で避けろ! 薙ぎ払う!」

 

 次の瞬間、響いたのは名無しの怒号。

 私は確かに聞いたのと、目の錯覚じゃなければその瞬間は確かにあった。彼の手に弓が。

 

――我が骨子は捻れ狂う――

 

 膨大なソードスキルの光の奔流、ソレを眺めている名無し……いや、ノーネーム。

 一瞬だけ見せた彼のその手にあった弓は、次の瞬間には2本の投擲用短剣へと姿を変えていた。

 




……前回ちょい役で終わるんじゃなかったんですか、名無しさん!

ぶっちゃけてしまえば、リズの武具屋を皆が皆使ってるわけじゃないよな。→はくのんにも懇意の鍛冶屋があるはず→剣を打つならこいつ!

という単純思考ですが。バッドエンド回避キーパーソンです。いやマジで。

それではまた次回、はくのんとネロの旅にお付き合いください。


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Art27:無銘の英雄

こんばんは。
はくのん27話、投稿させて頂きます。


――I am the bone of my sword(我が骨子は捩れ狂う).――

 

 そんな言葉と共に爆発的な衝撃がボスフロアを襲う。

 一時的にボスの取り巻きの狼形のMOBが全滅したんだけど、ボスに対してはそれほど大きなダメージにはなっていなかったみたい。暫くのスタンと、幾ばくかのHPゲージの減少はあったけれど、状況は大きく変わっていない。

 

「やはり、今の状態ではこれが限界か」

「おい、アンタ! 何や今の!?」

 

 チッと舌打ちを漏らす名無しと、すぐに状況を把握してこっちに走ってきたキバオウさん。

 

「なに、虎の子と思って用意しておいた、手製の投擲武器だ。ありったけの素材を使って着弾地点で爆発に似た衝撃を引き起こすように調整していたのだが、雑魚殲滅程度にしか役に立たなかったな」

「その武器……まだあるんか?」

「言っただろう、虎の子だ、と。一発しか用意できなかったよ」

 

 うがーなんて頭を抱えてるキバオウさんと、とてつもなく絶望的な状況を平然と言ってのける名無し。

 正直この名無しはこういう絶望的な状況を何度も乗り切ってきたんじゃないかと思えるような佇まいだ。

 

「アスナ、どうする。装備破壊MOBだとすると、明らかに準備が足りない。一度引き返すか!?」

「そうね……いえ、だめ。ここまで来て引き返すわけには。あとはボスだけなんだか……ら?」

 

 キリト君の問いかけに、アスナが思考を巡らせて戦闘続行の判断を下そうとしたのとほぼ同時に、雑魚のポップエフィクトが浮かび上がる。

 まじ?

 

「奏者、これは上手くない。このままではジリ貧だ。流石に余も、一度に多数を相手取るスキルは持っておらぬ」

「だよね、こんな状況……どっちかって言うとシンジが連れていたライダーとか、ラニのバーサーカーとか。あの人たちが使ってたような面制圧ができる宝具でもないと」

 

 むむむ。セイバーは“決闘”には滅法強いけれど、こうやって大量の敵を相手取るのは余り得意じゃない。精精、その大ぶりの剣を使ってなぎ払うのが関の山かな。本当。真に厄介な敵は1の最強よりも最弱の無限ってヤツかな。

 もうすぐボスのスタンも切れる。そうなったら手詰まりだ。今のうちに退却しないと。

 

「さて、どうかな。面制圧を可能とする“世界”を、君の根源は知っていると思うがね」

 

 ふと、そんな言葉が耳を打った。

 振り返ると、そこには口元ににやりと笑みを浮かべたまま佇む名無しの姿。

 ふ、と。私の意識がどこかに飛ぶ。そのヴィジョンは、月の聖杯戦争。

 でも、自分なのに自分じゃない。そこに居るのは一人の男子生徒だし、隣に居るのはセイバーじゃなくて名無しだ。そして、彼の宝具。

 そこまで見た後、強い動悸と一緒に崩れ落ちそうになる自分の足に渇を入れる。見つけた。

 

「どうすれば、いい?」

「魔力が必要だ。仮初のパスを繋ぐぞ、令呪を使え!」

 

 こくん、と頷く。令呪をここで使い渋っていられる場面じゃない。自然と、頭に浮かんでくる仮初のパスを繋ぐ呪文。これは、どこかで聞いたような。それとも、ただの気のせいなのかな。

 

「――告げる。汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら――」

 

 右手が熱くなる。

 令呪が消費されるときの膨大な情報量が、自分の体内を駆け巡る。けれど、言葉は止まらない。

 

「――我に従え! ならばこの命運、汝の剣に預けよう。無銘にして錬鉄の英雄――守護者、アーチャー!!」

 

 腹の底から、声を絞り出す。眩しい閃光と共に、右手に刻まれた令呪が一画消費されたのを感じる。

 

「アーチャーの名に懸け、誓いを受ける。今だけの仮初の契約ではあるが、君を主と認めよう、マスター」

 

 そこに居るのは、赤い外套を翻して白と黒の短剣を両手に持った、まごう事なき英雄。

 

「奏者、2体のサーヴァントと契約など無茶なことを……! それに令呪まで……!」

「大丈夫、無茶だけど無理じゃない。皆無茶を承知でやってるんだ、私だって、私ができるだけの無茶をやる……!」

 

 セイバーから飛び出した言葉を抑えさせ、令呪を使った痛みに疼く右手を押さえながら、次々とポップしてくる雑魚MOBと、より一層瞳に怒りを滾らせたボスを見る。

 

「だから力を貸して、セイバー。私一人じゃ、立ってるのが精一杯だから、私を守って」

「……うむ、任せよ。何人たりとも奏者に危害は加えさせぬ。後は任せよ」

 

 私の言葉に力強く頷いてくれたセイバーは、振り向きざまに剣を振る。

 

「っく、しかし剣の耐久値が見る見る減るな、これは。程度があろう!」

「ならば、耐久値を気にする必要の無い武器を用意するだけのこと」

 

 セイバーの悔しそうな言葉に被さるように、アーチャーが叫ぶ。

 

I am the bone of my sword.(体は剣でできている)

 Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で心は硝子)

 I have created over a thousand blades. (幾たびの戦場を越えて不敗)

 Unknown to Death.(ただの一度も敗走は無く)

 Nor known to Life.(ただの一度も理解されない)

 Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う)

 Yet, those hands will never hold anything.(故に、生涯に意味は無く)

 So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS. (その体は、きっと剣でできていた)

 

 一つの結晶を割り、謡うように流れるその言葉が終わると同時に、ボスフロアが一面赤色の。燃えるような夕日と空中に浮く巨大な歯車に埋め尽くされた荒野に塗り替えられた。

 それは、セイバーが宝具として所有している黄金劇場と同じような、それでいて相反するようなそんな感覚だったと思う。

 次に、目に付いたのは地面に突き立てられた剣。まるで何かのお墓のように。

 

「この世界は無限に偽者の剣を内包する。いかに破壊されようとそれらは全て偽者、次の瞬間には存在している。この剣を使え、無限の敵が相手ならば、無限の剣で立ち向かえ!」

 

 告げるアーチャーの声に、戸惑いを見せるプレイヤー達。そりゃそうだ、こんな魔法みたいなこといきなり見せられたら、誰だって困惑する。

 

「ありがたい、使わせてもらうぜ!」

「私も、お借りします!」

 

 いの一番に近くの剣を抜いて、狼を切り払いながら駆け出したのはキリト君。次いで、アスナも近くの細身の剣を抜いて走り始めた。

 キリト君のジェットエンジンじみた突進が、アスナの流れる星のように流麗な連撃が、ボスに繰り出される。

 

「お前ら、ボサッとするな! まだダメージディーラーに(タンク)させるつもりか!?」

 

 その様子を見ていたエギルさんが、近くの剣を纏めて3本抜くと、両手に1本ずつと口に咥えて突撃する。

 

「昔こんなアニメーションがあってなぁ、一度やってみたかったんだよ!」

「エギルさん、こんなのもありましたよね!」

 

 ボスに肉薄するエギルさんの横を一緒に走る女性は、両手の指と指の間に剣を挟んで……うわ、6本も持ってる。と言うか筋力パラメーターどうなってるんですか、壁戦士の皆さん。

 

「うむ、余も暴れ足りぬ。もうひと暴れだ!」

 

 一度勢いの付いた軍勢って言うのはどうにも始末に終えないもので。

 なんというか、武器の耐久値を考慮しなくて良いとなると、人間こうも攻め一辺倒になるのかと思うほどである。

 結果として、今回のMVPは名無しことアーチャー。ラストアタックはキリト君で、狼の模様がでかでかと入った褌をドロップしたようです。

 

「い、いらねぇ」

 

 とは、本人の談でした。

 




みなさん、メリークリスマス!
そんな訳で、涼風さんからのプレゼントは最新話だよ!
え、いらない?

取り敢えず、70層フロアボス“ベルセルク”撃破です。
原作に追いつくまで残り5層……そろそろ終わりが見えてきても良いのかな。

いえ、きちんとした終わりは私の中ではまだ先なのですが、ホロウリアリゼーション、面白そうだな。

それではまた次回、2人の冒険にお付き合いください。


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Art28:暗雲

お久しぶりです、蒼の涼風です。
しれっと、28話、投下させていただきます。


 迷宮区第70層フロアボス、“バーサーカー”ベルセルクを撃破。そのニュースはあっという間に広まって、70階層を活動の拠点にする人も増えてきた。

 不思議なのはあの戦いの後、誰一人として“ノーネーム”というプレイヤーのことを覚えていないと言うことだった。

 私とセイバー以外誰一人として、あの戦いが何故勝てたのか明確には思い出せないでいるようで。

 人知れず“霊長”の絶滅を影で何とかなる所まで引っ張り上げて消える、彼らしいと言えば彼らしい居なくなり方だった。今は、ひと時のあの奇跡に感謝して、次の階層の攻略に取り組もう。

 

「やあ、ハクノン。どうだ、剣の調子は」

「何、人が良い話で纏めようとしてるときにしゃしゃり出てくるんですかね、名無しさん」

 

 じとり、といつもの様に私の剣をメンテナンスしてくれている鍛冶屋に視線を向ける。

 本当に何がどうなって他の人のログから消えたのか、定かではないのだが。いけしゃあしゃあと、74層攻略中の現在も元気に鍛冶屋を営んでいます。

 爆ぜろ名無し。

 

「さてと、今日はどうしようか。今から探索に出かけるのはちょっと面倒だなぁ」

「奏者よ、それならばこのままのんびり過ごすが良い。うむ、それがいい。」

 

 こくこくと頷くセイバーに視線を向けると、思わず笑みが漏れてくる。

 攻略組に籍を置いている以上、必要以上にのんびりするのはタブー視されているのだが、たまには羽休めも悪くない。

 

「そうだね。じゃあ、久しぶりにお休みの日。どこか景色のいい所にでも言って、お弁当でも……と、ごめんね。ちょっとメッセージが来たみたいだ」

 

 むむ、と不満そうな暴君様の頭をなでてご機嫌を取りながら、視界の端に映る便箋のアイコンに触れる。

 それは、今やアインクラッド解放軍の幹部にまでのし上がっているキバオウさんからのSOSのメールでした。

 なんでも、ここ最近は治安維持を名目に下層で活動する事が多かった《軍》だけれど、ここ数週間のうちに急激に【攻略組に復帰すべし】と言う流れが強くなっているようだ。

 私がセイバーに視線を向けると、仕方ないというような顔をしてくれたので、狂の予定は変更。

 2人で第1層【はじまりの街】に行くことになりました。

 

 

 2014年、10月17日。はじまりの街。アインクラッド解放軍、キバオウさんの私室。

 中に通してもらった私達と、机で頭を抱えているキバオウさん。

 聞いた状況は、想像以上に深刻なものだった。

 

「この情報は、本当に信じて良いんだね。キバオウさん?」

「当たり前や! 何のためにワイがここまで地盤を固めてきたと思っとる。全部はこのクソゲームから解放されるためやないか」

 

 そんな短い言葉を交わして、お互いの目をじっと見る。彼とは第1層ボス攻略戦……正しくは私がこの世界で自我を持った直後からのちょくちょくとした付き合いだけど。

 人を纏めるカリスマ性はあると思っている。血盟騎士団のヒースクリフや、アスナとは違った“親しみやすさ”というアドバンテージで。

 

「頼む、ハクノン。こんなこと頼めるのは他におらへん。コーバッツの暴走を止めてくれ」

 

 深々と下げられる頭に、拒否を示すだけのものを私は持っていない。

 ちらり、と黙って話を聞いていたセイバーを見るけれど、彼女はなにも言わずただ『奏者の心のままに』と、目で訴えかけてきている。

 

「わかりました。では、74層の迷宮を目指すコーバッツさん率いる一行の追跡と、可能であれば連れ戻すと」

「すまん、恩に着る」

 

 予定では、コーバッツさん率いる一行は既に74層の主要都市で攻略の準備を行っているらしい。

 それなら、1日……や、もう半日か。準備する時間ができる。

 

「じゃあ、これで。行こう、セイバー」

「うむ、出陣の前だ。少し体を休めて英気を養ったほうが良い。余は薔薇風呂を提案するぞ! さあ、47層だ!」

 

 あれ。もしもし?

 今までのお話を聞いていたのでしょうか、ネロさん?

 

「む? 何だその顔は。余の提案はそれほど不思議か?」

 

 こくこくと頷く私に、ぐぬぬと表情を歪めてらっしゃる。

 

「今からレベルを調整する時間は無い。かといって今以上に装備は整えようが無い。ではどうするか。答えは簡単だ。ベストコンディションで挑めるように当初の予定通り休息を挟むが良い。ただでさえ、ここの所は探索ばかりで余は飽きた。良いか、これは皇帝の勅命だ」

 

 言葉でこそ、彼女が我がままを言っているように聞こえるのだけれど、その実彼女の瞳は心配そうにこちらを見ている。

 それは、事実ここ最近迷宮探索に根を詰めすぎていた自分への配慮が全てだと言われても否定できないほどの、まっすぐな眼差しだったから。

 

「はいはい、皇帝様。直々の勅命となると仕方ないね。フローリアの薔薇風呂だっけ……お金足りるかなぁ」

「なんと!? 奏者よ、そなたまさか所持金が足りぬと言うのか!」

 

 いや、足りないわけじゃないよ。うん、一回くらい入浴するのは問題ない。

 問題ないんだよ、入浴()

 

「お、オプションはできるだけ少なめでお願いします。そうでなくても、あのバカみたいに高いお酒をガバガバ頼んで残すとかA級食材を使った料理を沢山頼むとか、そう言うのは駄目だからね」

「何を言う、皇帝の入浴に酒宴の1つもないなどと!」

 

 そんな、どうでも良いようなやり取りに呆れているキバオウさんに苦笑いとともに手を振る。

 

「それじゃあ、これで。うちのサーヴァントのご機嫌を取らないといけなくなりましたので。任せてください、何とかしてみますから」

 

 そう伝えて、キバオウさんの私室を後にする。

 何とかする、うんそうだね。どんなに大変な出来事でも、セイバーが居てくれれば何とかできる。

 

「聞いているのか奏者! やはり今夜は酒宴と余興も組み込んでもらうぞ。金は使ってこその金だ、余の為に思う存分パーッとやるのだ」

 

 ……うーん。

 47層のフローリアに到着するまでずっと、この話を聞かされないといけないかと思うと、ちょっと気が滅入るけど。

 まあ、少しくらいなら贅沢しても良いかな……なんて思ったのが大きな間違いだった。

 きっちりかっちり、10万コルは飲み食いで使ったんじゃないでしょうか。

 とほほ。

 




いや、はい。
バーサーカー戦を書き終えて燃え尽きたと言いますか。
“やりたいこと全部やった”感が半端なくてですね。

いやいや、しかしSAO、Fate/EXTELLAと新作が続く中、やっぱりやりたいこと残ってるじゃねーかと。
と言うか、これSAO本編の時間軸まで辿り着いてねーじゃねーかと。

不定期・まばらではありますがこれからもこつこつと書き進めていこうと思います。

それでは、また次回。


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