IS 一夏の彼女は副担任 (陸のトリントン)
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第1話

陸のトリントンです。

作者の妄想が爆発し、誕生した作品です。

Rー18にならない様に、ちまちまと執筆します。


俺の名前は織斑一夏。

 

俺は藍越学園を受験しに行ったが迷子になった挙句、ISを起動させて世界を騒がせてしまった。世界でISを動かせる男ということで、いろんな機関や研究所が詰め寄ってきたけど、千冬姉がIS学園に入学させるということで事なきを得たんだけど・・・

 

 

 

(これは・・・想像以上に・・・キツイ・・・)

 

 

 

周りには女しかいないし、視線が俺に集中している。

 

しかも、六年ぶりに再会した幼馴染には、そっぽを向かれる始末。仕方がない、六年も経てば人は変わるからな。俺も、いろいろと変わったし。

 

 

 

中学一年の時にドイツで誘拐され、千冬姉に救われた。

 

あの時の俺は自分の無力さを呪った。

 

その後、千冬姉がドイツで一年間居なければならなくなった時なんか、そんなことはお構いなしと修行をしてた。

 

だけど、千冬姉の知り合いの女性に預けられてから、俺は大きく変わった。

 

押しに弱くて、やや天然で、ドジな所があるけど、どんな時も俺を優しく介抱してくれた彼女に、俺は恋をした。

 

千冬姉と一緒にいる時とは違う気持ち。一緒にいたい、もっと二人だけで一緒にいたい、そんな気持ちが俺の胸をいっぱいにさせたんだ。

 

俺は、クリスマスの日に告白をした。彼女も俺の事が好きだって言った時は、最高のクリスマスプレゼントを貰った気分だった。そこから、彼女との恋人生活が始まったんだ。

 

中学三年になってからはお互い忙しかったけど、二人でデートに行ったり、二人で夜を一緒に過ごしたり、二人で、まあ・・・・・・アレやったり。後、千冬姉に報告しに行って、十寸釘を打たれたりと、様々な事があった。

 

そして、俺の彼女は今・・・

 

 

 

「織斑君・・・織斑一夏君!」

 

「は、はい!」

 

「大声出しちゃってごめんなさい。でも、『あ』から始まって今、『お』なんだよね。自己紹介、だめかな?」

 

笑顔で俺に近寄って来たのは、山田真耶。俺のクラスの副担任で・・・

 

 

 

「大丈夫です。ま・・・山田先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の彼女である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイコンタクトで真耶は、俺に何か言いたがってる

 

(趣味とか特技をいれれば、大丈夫よ)

 

(そうか!)

 

後で、料理を振るわないとな

 

「織斑一夏です。特技は家事全般で趣味は読書です。至らぬところがありますが、一年間よろしくお願いします」

 

どうだ・・・

 

ぱちぱちぱち

 

拍手が鳴っているということは、何とかなったのか。

 

「自己紹介はちゃんとできたか」

 

聞き慣れた声がする方を向くと

 

「ち・・・織斑先生」

 

黒のスーツにタイトスカートを纏った千冬姉だった。後、一瞬動きかけてたから、冷や汗が少し止まらない。

 

「諸君。このクラスの担任の織斑千冬だ。この場にいるヒヨッコどもを一年で使い物にするのが私の仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五才を十六才までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな。」

 

クラスが騒いでる。千冬姉の人気ってすげえな。でも、俺は真耶がいれば・・・

 

「織斑、お前も一年で使い物にするのが私の仕事だ。男だからと言って、特別扱いするつもりはない。いいな?」

 

千冬姉・・・目が怖い。

 

 

 

一時限目が終わり、俺は次の授業の準備をしていた。真耶の授業だから、いつも以上に気合が入る。

 

 

 

一時限しか受けてないというツッコミは無しだからな。

 

 

 

「ちょっといいか?」

 

この声は・・・

 

「箒?」

 

俺に声をかけたのは、ファースト幼馴染の篠ノ之箒だった。

 

「ここで話をするのもなんだし・・・屋上でいいか?」

 

「ああ・・・いいけど」

 

本当は真耶のために、準備がしたかったけど、まあいいか。

 

 

 

屋上に着いた時、箒はなぜか俺の方を見ずに何かを言いたそうにしていた。

 

「・・・久しぶりだな、一夏」

 

「ああ、六年ぶりだな。お前、あまり変わってなかったから、すぐに箒だって分かったぞ」

 

「そ、そうか・・・」

 

照れてるのか、顔を赤くしてポニーテールを少し揺らしていた。

 

 

 

 

実の事を言うと、俺は箒が苦手だ。

 

小さいころから一緒に剣道やっていた仲だったけど、事あるごとに竹刀を持って襲ってくる毎日を俺は過ごしていた。前に言動について箒を注意したら、竹刀で突かれて死にかけたこともあった。

 

こういうのが毎日続いたせいで、俺は真耶に会うまで、女性に対して暴力的な印象しかなかった。

 

そう考えると、真耶はすごいな。いつも優しくて、怒る時は怒るけど、それも可愛くて。心も体も包容力があって・・・セクハラじゃないから、今の発言。

 

 

 

「おい、一夏!聞いてるのか!」

 

「あ、ああ、ごめん。六年ぶりだから、一体何を話そうかなって悩んでたんだ」

 

「そ、そうか。悪かった・・・」

 

本当は真耶のことしか考えてなかった。後、早く教室に戻りたい。

 

キ―ン コ―ン カ―ン コ―ン

 

二時限目開始のチャイムだ。

 

俺はチャイムに感謝しつつ、急いで教室に戻った。

 

「先に教室に戻ってるから、遅れるなよ!」

 

俺は教室に向かって、走って行った。箒は何か言いたそうな顔をしていたが、気にせず教室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

二時限目が終わり、俺は直ぐに授業の復習に取り掛かった。授業に関しては、事前に真耶から教わっていたお陰で、難なく授業に集中できた。

 

それにしても、真耶が授業を進めてる姿は可愛かったなあ。笑顔で授業を進めてる姿は、いつもの真耶と違う印象を受けて、新鮮だった。

 

あと、俺の顔をチラチラ見て、目が合うたびに笑顔で返してくれて、最高だ。このまま、一年間無事に学園生活を・・・

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

迎えることは、早々出来そうにない。




簪とラウラも可愛いけど、真耶も可愛いです。

あと、山田真耶のSSが増えて欲しい。

不定期更新なので、生暖かい目でこの作品を見守って下さい。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第2話

言い忘れてましたが、タグに入れてないだけで所々にネタが挟まってます。

この作品における織斑千冬は、「良識を持った飛影(とびかげ)」という名のチートです。

だが、おかしい。不定期更新のタグを入れたのに、もう第2話が出来上がってる・・・


何だが知らないが、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットに怒られた。

 

とは言っても、女尊男卑の風潮に染まっていたのか、自分は数少ない専用機持ちのエリートだと自慢をしていた。

 

専用機持ちなのは凄いけど、千冬姉が担任のクラスで言われてもなあ。

 

それに、真耶の方が凄いと思う。元代表候補生だけど、皆に分かり易く丁寧に教えるのは、中々難しい事だと思う。

 

それをやってのける真耶は、やっぱり凄い。

 

 

 

 

 

 

「それではこの時間は実践で使用する各種装備について説明する」

 

三時限目は、真耶じゃなくて千冬姉が教壇に立っていた。真耶は教室の隅で椅子に座って、俺を見続けている。

 

真耶、みんなに気付かれるから。

 

「ああ、その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

千冬姉は思い出したかのように代表者の話をした。

 

「クラス代表者とは、対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会への出席など、まあ、クラス長と考えてもらっていい。自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

 

何だろう・・・嫌な予感がする。

 

 

 

「はい。織斑君を推薦します!」

 

「私も織斑君を推薦します!」

 

「織斑一夏君を推薦します!」

 

「おりむーを推薦します」

 

 

 

やっぱりこうなった!というより、おりむーってなんだ・・・

 

 

「では候補者は織斑一夏。他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」

 

「織斑先生。俺は・・・」

 

「他薦された者に拒否権はない。推薦した者を無下にするつもりか?」

 

ですよねー・・・。千冬姉が教壇に立ったら、だれも抗議をあげる人いないですから・・・

 

さすがに真耶もお手上げ状態だし、どうすれば・・・

 

「納得いきませんわ!」

 

机を強く叩き声を荒げたのは、セシリア・オルコットだ。

 

やっぱり、彼女も俺の選出はおかしいと思ったか。見世物にはなりたくないしな。

 

 

 

「このような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!」

 

ちょっと、言いすぎじゃないか?

 

「わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

セシリアさん、周りを見て。みんな、引いちゃってるから。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!」

 

俺は極東の猿かよ!

 

しかも、真耶が不機嫌になってるし・・・

 

「わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

何で自薦しなかったんだ?先に自薦すれば、みんな俺を推薦する気なくなってたのに・・・

 

 

 

 

 

 

というより、千冬姉・・・落ち着いて。出席簿が、嫌な音を立ててるから。

 

 

 

 

 

 

「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれは、わたくしですわ!」

 

うん。君の言ってることは正しいから、もうしゃべらなくていいよ。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で・・・」

 

・・・もうだめだ。(セシリアさんの学園生活が)おしまいだぁ。

 

「なぜ、何も言い返さないのです!あなたは!」

 

俺に矛先を向けてもなあ・・・

 

「俺より、言い返したい人がいるから・・・かな」

 

「誰ですの!その人は!」

 

セシリアさん。俺やみんなの冷や汗が止まらない理由を察して欲しかったが、仕方がない・・・教えよう。

 

「今、教壇に立ってる人・・・」

 

「・・・え?」

 

 

 

千冬姉が完全に怒っている。持ってた出席簿なんか、原形を留めていない。

 

この状態になってると、俺はどうすることもできない。ただ、見守ることぐらいしかできない。

 

「・・・オルコット」

 

「は、はい!」

 

「それは私に対する・・・侮辱か挑戦・・・どっちなんだ?」

 

「い、いいいや。その・・・」

 

セシリア。自分で蒔いた種なんだ。自分で何とかしてくれ。

 

「まあ、いい。クラス代表は、オルコットか織斑のどちらかにしようと思う。そこで、来週の月曜の放課後、第三アリーナで勝負を行い、勝ったものをクラス代表にする。それぞれ、準備をするように」

 

話が早くも切り上がった。あ・・・これはもしかして・・・

 

「それと、オルコット」

 

「はい!」

 

「今日の放課後、私と一緒に第二アリーナに来い。そこで、私が直々に特訓の相手をしてやろう・・・」

 

「で、ですが、教師の力を借りなくても・・・」

 

「安心しろ。織斑には山田先生が特訓の相手をするから、公平にしなければならない。それとも、私の実力は、極東の島国での猿のサーカス程度と言いたいのか?」

 

「い、いいえ!とんでもございません!織斑先生のはサーカスなどではございません!」

 

「そうか・・・ではオルコット」

 

「は、はい!」

 

「遺書の準備をしろ・・・それだけだ」

 

ああ・・・セシリアさん。ご臨終です。

 

「授業を始めるぞ!」

 

教室内が通夜状態のまま、三時限目の授業が遅れて始まった。セシリアは俺の方を睨んでたが、無視しよう。自業自得だし、あの千冬姉は俺でも止められないから。

 

それにしても、真耶と特訓か・・・元代表候補生だから、実力もすごいんだろうなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時間は流れに流れ、放課後になった。

 

俺はその日の授業の復習を終えて、帰ろうとしていた。箒はなぜかすごく悔しそうな顔をしてたけど、どうしたんだろう。ISの訓練に付き合うにせよ、専用機は持ってないし、ISの経験だって俺と同じぐらいだしな。

 

特訓と言っても、一週間は自宅からの通学だから厳しいな。でも、短時間にたくさんのことを覚えないと・・・

 

「ああ、織斑くん。まだ教室にいたんですね。良かったです」

 

「ま・・・山田先生、どうしました?」

 

書類を片手に持ってる真耶と、何かものすごいオーラ(ぢから)を放っている千冬姉ががやって来た。一体なんだろ?特訓についての連絡かな?

 

「えっとですね、寮の部屋が決まりました」

 

寮の部屋が決まった?

 

「一週間は自宅からの通学じゃないんですか?」

 

「事情が事情だったので無理矢理ですが、寮の部屋割りをこちらの方で決めました」

 

まあ、しょうがない。世界で初めてISを動かした男だからな。いろんな危険が待ってるよりかは安心できる。

 

「荷物を取りたいんで、一回家に戻って・・・」

 

「荷物なら、私が手配した。ありがたく思え」

 

「ありがとうございます。織斑先生」

 

なんだろう。今の千冬姉にしっかりとした言葉遣いを使わないと、殺されそう。

 

「生活に必要な道具はすべて送った。足りない物があったら、週末に買いに行くがいい」

 

千冬姉が教師じゃなくて、何か凄い戦士に見えてくる。

 

「詳しい話は、山田先生に聞くんだな。私は今から第二アリーナに行って、オルコットとの特訓を始める。ふふふ・・・今のイギリス代表候補の実力がどれ程の物か・・・」

 

千冬姉・・・顔、悪い意味で笑ってるよ。真耶が怯えてるし・・・

 

「では、山田先生。後の事は任せる」

 

「は、はい!」

 

「ふふふ・・・。待ってろ・・・セシリア・オルコット!」

 

そう言い、千冬姉はアリーナの方へ、神速の如く向かって行った。セシリア・・・必ず生きて還ってくるんだぞ。

 

「え、ええと、い・・・織斑君。実は寮の部屋なんですが・・・」

 

「どうしたんですか?」

 

突然、真耶が黙り込むなんて。もしかして・・・千冬姉と同じ部屋!?

 

やめてくれ・・・今の千冬姉と一緒だったら、生き残れる自信が無い。

 

 

 

 

 

 

「実は・・・私と同じ部屋なんです」

 

「・・・え?」

 

「本当なら、同年代の女子と一緒になる予定だったんですけど、私が無理言って同じ部屋にさせてもらいました」

 

 

 

いいの!?そんなことをして?職権乱用に近いことをして・・・

 

そしたら、真耶は俺の耳元で小さな声でつぶやいた

 

「本当は、一夏君と一緒に居たいからワガママ言っちゃたの。それでも・・・イヤ?」

 

その時、俺の理性に亀裂が走った・・・

 

「いえ!それじゃ、部屋の案内お願いします!」

 

「はい!」

 

真耶・・・俺は君に勝てる自信が無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、真耶と俺の部屋・・・」

 

とは言っても、普通の学生寮となんの変わり無いが、真耶と一緒に生活すると言うだけで、心臓の高まりが収まる気配がしない。

 

中学二年の時に一緒に過ごしてたけど、恋人同士になってから一緒に生活することはめっきり減ったからな。

 

後、いろいろと何かが溜まってるし・・・

 

「一夏君。今日は食堂で夕食をとってくれないかな?私、荷物の整理があるから」

 

「分かったよ、真耶。先に食べに行ってくるよ」

 

少し残念に思いながら、部屋を後にし俺は食堂へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二アリーナの方で、セシリアの断末魔が聞こえたが・・・そっとしておこう。




次回は、夕食~就寝までの話を書く予定です。後、第二アリーナの様子も、書けたら書きます。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第3話

今回は、甘々シーンが入ります。

というより、お気に入りが100件超えたって・・・たった2話で・・・

不定期更新のはずなのに・・・


食堂に着いた俺は夕方限定販売のディナーセットを頼み、一人黙々と食べていた。

 

そういえばセシリアの専用機って、どんなのだろう?専用機ってことは、やっぱり凄いんだろうな・・・

 

時空を超えて、テレポートでもするのかな?分身でもして、敵を圧倒するのかな?通常の3倍のスピードで相手を翻弄するのかな?それとも・・・

 

 

 

「一夏?ここ、いいか?」

 

「ん?・・・箒」

 

なんで帰ろうというタイミングで来たんだ・・・

 

「なんだ!その不満そうな顔は!」

 

「い、いや・・・もう食べ終わったから、部屋に戻ろうかなって」

 

「そうか。だが待て、少し話がある」

 

「話?」

 

珍しいな、箒が俺に話があるなんて。姉についての相談かな?でも、勝手に俺の隣に座らないで欲しい。

 

「では、単刀直入に言おう」

 

後、勝手に話を始めないでくれ。

 

「一夏。私と後で道場に来い。私が鍛えてやる!」

 

「ごめん、無理!」

 

「なぜだ!?」

 

箒、それISの練習ちゃう。ただの剣道や。

 

「千冬姉が言ったろ。そういうのは、山田先生がやってくれるって」

 

「確かに先生の指導は良いが、それだけで相手に勝てるのか?相手は専用機を持ってるんだぞ!」

 

勝ち負けより、決闘当日までにセシリアが生きているのか疑問だ。

 

「だから、私が鍛えれば先生の負担が減って、お前は強くなる。良いではないか!」

 

その理屈はおかしいから箒。

 

「箒。俺、中学三年の時に剣道やめちゃったからさ・・・箒にものすごく迷惑をかけるというか・・・」

 

本当は真耶のおかげで自分自身を見つめ直した結果、剣道をやめたんだ。そのおかげで少しずつだけど、強くなっていってるかな。無理に強くなろうとして、真耶を泣かせたこともあったからな。闇雲に力を求めるのがどれだけ虚しいのかが嫌でも分かる。

 

「安心しろ一夏!私の手に掛かれば、一週間で剣道の勘を取り戻せる!」

 

剣道・・・やりたいだけだよな箒・・・

 

仕方ない。言いたくは無かったけど、箒のためだ。

 

「なあ、箒」

 

「なんだ、一夏」

 

「お前、ISの経験ってどれくらいあるんだ?俺よりは多いよな?」

 

「・・・」

 

えぇ・・・

 

「箒。俺、やっぱり山田先生と特訓することにする。じゃあ・・・」

 

「ま、待ってくれ一夏!」

 

「ん?」

 

「山田先生との特訓、私も参加させてもらう!」

 

え・・・なんで?

 

「どうして箒が・・・」

 

「理由は聞くな!とにかく私も参加するからな!分かったら私に連絡を寄こすんだぞ!」

 

そう言って、箒は一目散に去って行った。

 

「・・・どうしてこうなった」

 

箒・・・お前の考えが未だに分からん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことがあったの・・・。ごめんね、一夏君」

 

「いや、真耶が気にかける必要はないよ」

 

部屋に戻った後、食堂での出来事を真耶に話したら落ち込んじゃった。まあ、二人きりの時間が減っちゃたからな。

 

「でも、特訓って言っても具体的には何をすればいいんだ?」

 

「明日の早朝に、第一アリーナでISの基本動作の練習と戦い方をレクチャーしようと考えてたけど・・・」

 

「箒の事ですか?」

 

「え!いや・・・その・・・一夏君が篠ノ之さんに目移りしちゃうんじゃないか心配で・・・」

 

どこか不安げのある顔のまま、下を向いちゃったけど・・・

 

「なんだ、そういうことか」

 

「え?」

 

俺は真耶の背中に周り、優しく抱擁した。

 

「俺は真耶以外の女性には目移りなんかしないよ。だって、真耶のおかげで今の俺がいるんだから。だから真耶、心配しなくていいよ」

 

「一夏君・・・」

 

やっぱり真耶には落ち込んでる顔なんて似合わないよ。

 

「そうだ、真耶。今日は一つだけ言うことを聞くよ」

 

「え?」

 

「いろいろと、お世話になったからさ。だから今日は一つだけ、何でも言うことを聞くよ」

 

「・・・本当?」

 

「ああ!」

 

「じゃあ・・・キスを」

 

「真耶。キスなんて俺に頼めば、いつでもするのに」

 

「ええ!?」

 

うん。これは本当。真耶のキスって、強くもなければ弱くもない、優しいキスだからいつでも大丈夫なのに・・・もしかして、抑えてるのかな。まあ、俺もいろいろと抑えてるけど・・・

 

「じゃ、じゃあ・・・」

 

「うん」

 

意を決したのか、真耶は口を開こうとしたが・・・

 

 

 

 

 

 

「一夏、いるのか?」

 

 

 

 

 

 

ドアから箒の声がしている。なぜ場所が分かったし・・・。

 

仕方なく俺はドアを開けた。

 

「なんだ、箒?」

 

「明日の特訓の事についてだが、場所と日時は決まったのか?」

 

「ああ、決まったよ。山田先生、日時と場所を教えてくれませんか?」

 

「は、はい!」

 

ごめん真耶。決意を鈍らせるような出来事に巻き込んで・・・

 

「明日の早朝、第一アリーナでISの基本動作と戦い方の特訓をします」

 

「分かりました。それでは、失礼します」

 

何だか満足げな顔したまま、箒は去って行った。

 

「ふぅ・・・」

 

これで、この部屋に来る人はもう・・・いる。・・・千冬姉だ。

 

「その通りだ、織斑」

 

「ち、千冬姉!」

 

「織斑先生だ」

 

というより何で考えてる事が分かったの!?

 

「山田先生、夜分遅くにすまない。少し、織斑に言いたいことがあってな」

 

「はい」

 

さすがの真耶も、千冬姉の前ではおとなしくなっちゃうか・・・

 

「織斑、お前に専用機が支給されることになった」

 

「専用機・・・ですか・・・」

 

大体の理由は察しがつく。俺がISを動かしたから、データを収集して他の男でもISを動かそうと言う考えだよな。結局、モルモットをやれってことか・・・

 

「織斑、気難しく考えるな。今のお前なら専用機を扱いこなすことはできる。自分に誇りを持て」

 

「千冬姉・・・」

 

「では、私は部屋に戻るとしよう。もうそろそろ、オルコットの本性がむき出しになる頃だ」

 

セシリアを一人の生徒として見てくれないかな・・・千冬姉

 

「あと、もうひとつ・・・」

 

また、釘を刺されるのか!?

 

「織斑先生と呼べ。以上だ」

 

そう言って、千冬姉はドアを閉めて去って行った。

 

「ふぅ」

 

「一夏君・・・」

 

「真耶。俺は、少し自分を厳しくしすぎてたかもしれない」

 

千冬姉は知ってたんだな、俺が力を持つことに恐怖を覚えていたのを。それを見越して、不器用ながらのエールを送ってくれたんだ。

 

 

 

自分に誇りを持て

 

 

 

やってみるよ、千冬姉。今の俺が持てる誇りを・・・

 

 

 

 

 

 

「一夏君。さっきの話なんだけど・・・」

 

「なに?」

 

「その、また今度にしてくれないかな?」

 

真耶、その気遣いありがとう。でも・・・

 

「だめ」

 

「え?」

 

「いろいろとお世話になったから、そのお礼がしたいんだ。なんでも言うことを聞くから、ね?」

 

「・・・じゃあ」

 

そう言うと、真耶は服を脱ぎ始めた。

 

「私を・・・抱いて・・・くれる?」

 

服を脱ぎ、ピンクの下着を付けている真耶を見て、俺は自分を抑えるのをやめた。

 

「シャワールームからでいい?真耶」

 

「うん。私・・・もう我慢できない」

 

「俺もだよ、真耶」

 

真耶は下着を外してシャワールームに入り、後を追いかけるかのように俺は服を脱ぎ、シャワールームに入った。

 

「一夏君・・・」

 

「真耶・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、シャワールームで互いに髪を洗ったり、体を洗ったり、獣の様にキスしたり、ヤっちゃったり・・・・・・

 

ベットでやるべきことも、全部シャワールームで済ませてしまった俺と真耶は、シングルベットで仲良く寝ることにした。

 

まあ、全部シャワールームでやって正解だと思ってる。邪心無く、仲良く眠れるから。・・・裸じゃないけどね。

 

 

 

 

 

 

「一夏君」

 

「何、真耶?」

 

胸と肩が開いているピンクのネグリジェを着ている真耶は、半袖短パンで寝てる俺に近づいて、小さい声でつぶやいてきた。

 

「一夏君も、私にワガママ言っていいのよ」

 

「ワガママですか?特にないですけど・・・」

 

「ウソ。そんなの無かったら、シャワールームであんなに激しくしないから・・・」

 

顔を赤くして照れる真耶・・・可愛い。そんなことより、ワガママか・・・特に・・・・・・あった。

 

「じゃあ・・・一つ、いいですか?」

 

「何?」

 

俺は意を決して、ワガママを言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真耶の胸に・・・顔をうずめたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これ・・・ワガママじゃなくて、変態の要求じゃないか・・・

 

 

 

 

 

 

「ふふっ。いいよ」

 

「いいの!?」

 

俺は思わず叫んでしまった。いけない、今は夜中なのに。

 

「だって、一夏君。私と二人っきりになるまで、どこか寂しい顔をしてたから・・・」

 

顔に出てたのか・・・

 

「それと、シャワールームで・・・あそこまで激しくするってことは・・・そこまで私に会えなかったのが、寂しかったでしょ?」

 

「何か恥ずかしいからやめて・・・」

 

俺は思わず顔を赤くしてしまった。なんか・・・すべて見通されて、逆に恥ずかしくなってきた。

 

「だから、この部屋にいる時はいっぱい私に甘えていいのよ」

 

「学園内でも同じじゃないですか?」

 

「学園内では教師と生徒。ここでは恋人同士。」

 

千冬姉、俺・・・専用機を貰っても、真耶には勝てないことが分かったよ。

 

「じゃあ・・・いいですか?」

 

「いいよ」

 

腕を伸ばして、どうぞと呼ばんばかりの笑顔を放つ真耶に俺は、自分の顔を真耶の胸にうずめた。

 

「ふふっ。いい子、いい子」

 

そう言い、真耶は俺の頭を優しく撫でてくれた。

 

なんだろう。こういうのは普通、息を荒げてたり、このまま本番を迎えるのがセオリーらしいが、そんな気は起きない。

 

なぜなら、左腕で俺の頭を優しく撫で、右腕で腕枕をしながら俺の頭を胸に優しく押し付ける。しかも俺が窒息せず、胸の弾力が顔に分かるほどの力加減だから、逆に安心感を覚える。おまけに真耶の匂いが良いときてるわけだ。

 

 

 

 

 

 

・・・変態じゃん、俺。

 

 

 

「ふふっ。一夏君の匂いがして私・・・心が安らぐ」

 

心を読まないで真耶、同化されちゃう。同化されたら、二度とこんなことができなくなるよ。

 

「こんなことしてあげるのは、一夏君だけだからね。だから・・・おやすみ、一夏君」

 

「おやすみ・・・真耶」

 

俺は静かに、真耶の胸の中で眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間はさかのぼり、セシリアの部屋にて・・・

 

「ぜえ、ぜえ、ぜえ」

 

な、なんですの・・・。織斑先生が打鉄でわたくしの特訓相手をすると言いましたのに、ブルーティアーズ4基すべてをアサルトライフルで落としたと思いきや、インターセプターも残りの2基もすべて、アサルトライフルで落とされましたわ。もしかして・・・

 

「織斑先生は、実は刀の扱いが上手くない・・・。いえ、少し考えすぎですわ。あの、織斑先生です!きっと、今のわたくしの実力では、刀を使うほどではないと見下したに違いありませんわ!だとしたら、明日から特訓を始めましょう!あの男は、きっと強くないはずですわ!ただ、ISを動かしただけの人です。どうせ、実力などたかが知れてますから、圧倒的実力で・・・」

 

「圧倒的実力で・・・何をするんだ?イギリス代表候補生のセシリア・オルコット?」

 

な、なんで背後にいるのですか!?織斑先生!

 

「私は寮長だからな。見回りしているときに、この部屋から身内の悪口が聞こえたもんで・・・」

 

そんな・・・大きな声でしゃべったわけでもないですし・・・

 

「オルコット。私はどうやら勘違いしてたようだ。お前はあの特訓で改心したと思った。だが、無駄だったらしいなあ」

 

「あ、あわ、あわわ」

 

「セシリア・オルコット・・・」

 

「は、はい!」

 

「ハイクを詠め・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、セシリア・オルコットは体調不良により、三日間欠席をした。




どうでした?甘々だったかな・・・

むしろ官能的な部分が強かった気がする・・・

ちなみに次回は、早朝の特訓を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第4話

今回は朝の特訓と言ったな。

それは前半部分だ。後半は甘々だ!

前回、甘さが足りないと感じたので、少し増やしてみました。(作者の体感です)


早朝、第一アリーナ。

 

俺はそこで、ISの基本動作と戦い方をなぜか箒と一緒に教わりに来たんだが・・・

 

 

 

(これは・・・想像以上に・・・キツイ・・・)

 

 

 

俺と箒、そして真耶はISスーツを着てるんだが、ヤバい。二人ともプロポーションが良いから出るとこは出て、引っ込んでる所は引っ込んでて、エロい。箒はともかく真耶は直視できないよ。昨夜顔をうずめたにも関わらず、俺の欲望が抑えきれないよ。なんか、メダルの音が聞こえそうで聞こえない。

 

「二人とも、来ましたね。これからISの基本動作と戦い方のレクチャーをします」

 

笑顔で特訓を始めるのはいいけど真耶、俺・・・欲を抑えるので精一杯なんだ・・・

 

「篠ノ之さん。打鉄を装着したまま歩いて、あのカラーコーンの所で曲がって戻ってきてください」

 

「分かりました」

 

箒は真剣な表情で打鉄を装着し、カラーコーンの所までふらつきながらも歩いて行った。

 

 

 

俺は真耶にある疑問をぶつけた。

 

「大丈夫なんですか?先生の補助も無く、歩かせるのは」

 

「大丈夫です。篠ノ之さんは、入学前にISの練習をしてたので問題ありません」

 

え?じゃあ昨日の無言は、ISの経験が無いとかじゃなくて、経験があると俺との訓練ができないから黙ってたのかよ・・・

 

 

 

「一夏君・・・」

 

篠ノ之を見つめながら、小声で俺の耳元で囁いてきた

 

「もしかして、私のISスーツを見て・・・ドキドキしてる?」

 

・・・なんで分かるの?

 

「もし嫌じゃなかったら・・・放課後の特訓の後、部屋で好きなだけ見ていいから」

 

「え・・・それは・・・」

 

「私のせいで今日の授業集中できなくさせちゃったから。その・・・部屋で私のISスーツ姿、好きなだけ見てもいいし、触っても・・・良いよ」

 

真耶、それは自分へのお仕置きのつもりだろうけど、自分へのご褒美だから。

 

「でも・・・危険じゃないですか?職権乱用に・・・」

 

「大丈夫。何着か予備のがあるから、問題ないよ。一夏君、昨日言ったでしょ。部屋にいるときは、いっぱい私に甘えていいって。だから、私にいっぱい甘えて欲しいの。だから・・・ダメ?」

 

上目づかいで真耶は俺を見つめてくる。

 

「じゃ、じゃあ・・・お願いします」

 

俺・・・正気を保てるのか不安だ。

 

その後、何とかカラーコーンを曲がり戻ってきた箒は、俺を見るなりドヤ顔をしてきた。箒、俺知ってるから。ISの経験があるのに黙ってたのは。

 

「次は、い・・・織斑君」

 

俺は打鉄を装着し、カラーコーンの所まで難なく歩いて行った。

 

「せ、先生!一夏は本当にIS経験は初心者なんですか!?」

 

「え、ええ。そうですけど・・・」

 

「そんな・・・歩行を難なくこなせるなんて・・・・・・ウゾダドンドコドーン!」

 

 

 

箒、最後なんて言ってるのか聞き取れない。

 

その後、飛行訓練を行ったが俺と箒は問題なく飛べたので、ISでの戦い方を教わることになった。

 

「さっきまで二人が乗ってたISは打鉄(うちがね)で、日本が開発した純国産の第2世代型ISです。近接用ブレード(あおい)とアサルトライフル焔備(ほむらび)を標準装備しておりますが、第二世代でも最大数の追加装備(パッケージ)に対応していまして、超長距離射撃装備の撃鉄(げきてつ)の命中率の,世界記録を保持しています」

 

真耶による分かりやすいIS講座を聞いた後、俺と箒による打鉄の模擬戦闘を始めるため真耶は走って、ピットの方へ向かった。

 

 

 

真耶の説明、分かりやすかったなあ。実物を見せながら丁寧に説明する姿なんて、天使みたいだったよ。

 

でも・・・

 

箒と二人きりはキツイです。

 

「一夏・・・聞きたいことがあるんだが」

 

箒。俺、お前が何を考えてるのか・・・少しだけ分かってきたよ

 

「なんだ?」

 

「その・・・山田先生とは・・・どんな関係なんだ?」

 

まあ、昨日部屋が一緒だったところを見たからな。恋人の所は伏せて話すか。

 

「千冬姉が一年間ドイツに仕事で言ってる間に、お世話になった間柄かな」

 

「そ、そうか。ならよかった・・・」

 

何が良かったんだ?

 

「なあ、箒。お前、去年の剣道の全国大会、優勝したんだって?」

 

そういえば、これだけは聞きたかったんだ。

 

「な、なぜ知っているんだ!?」

 

「いや、新聞に載ってたから」

 

「なんで、新聞なんか読むんだ・・・」

 

世の中の事を知っちゃダメなのかよ・・・

 

 

 

「織斑君に、篠ノ之さん・・・」

 

「先生?どうしたんですか?」

 

真耶が暗い顔をしている。どうしたんだろう・・・

 

「いや・・・その・・・特訓の件なんですが・・・」

 

「今日はここまでだ。織斑」

 

「ち・・・織斑先生」

 

真耶の後から、スッと白いジャージ姿の千冬姉が現れた。千冬姉ってNINJAみたいな現れ方したっけ?

 

「モンド・グロッソでの特訓は伊達ではないのだよ」

 

だから、なんで俺の考えが分かるの?後、そんな口調じゃないでしょ

 

「中止とは・・・一体」

 

箒は中止の理由を聞いてるけど・・・まあ、察しが付く

 

「それは、篠ノ之。お前が原因だ」

 

「なっ!一体どういうことですか!?」

 

「私は織斑とオルコットの決闘のために、教師が特訓相手を務めると言ったはずだ。それに、篠ノ之。お前は二人の承諾も無しに特訓に参加しているのではないか」

 

「ど、どうして・・・」

 

「周りが喋っていれば、嫌でも聞こえてしまうからな・・・」

 

千冬姉、ちょっと・・・・人相が悪くなってきてるよ。

 

「篠ノ之。お前が勝手に参加した罰として、今日の特訓は放課後を含め禁止だ。」

 

「「えええええ!」」

 

ちょっと待ってよ!時間が少しでも惜しいというのに、それは無いよ!

 

「ま、待ってください!私が勝手にやったことです。二人が罰を受ける理由はありません!」

 

「お前のワガママに付き合ってる時点で共犯だ。悪いが、織斑。今日は自主トレで我慢しろ」

 

「わ、分かりました」

 

真耶、そんな落ち込んだ顔をしないでくれ。別の意味で授業に集中できないよ。

 

「篠ノ之。お前には昼休みと放課後、私の特別授業を受けてもらうことにする」

 

「特別授業?」

 

「そうだ。それまで楽しみに待ってるんだな・・・」

 

千冬姉・・・もう、顔が善人の顔じゃない

 

「ということで、今日の特訓は放課後を含め禁止だ。解散!」

 

千冬姉の掛け声と共に今日の特訓は中止になった。箒、恨みはしないが・・・成仏しろよ

 

 

 

 

 

 

その後、真耶と会うこと無く授業は進んでいた。その日は真耶が教壇に立つ授業が一切ない。しかも、セシリアは体調不良で欠席をしているが、今頃三途の川で永遠の孤独を味わってるんだろうな・・・

 

そんなこんなで、昼休みも一人で昼食をとってたんだが、どこからか箒の断末魔が聞こえたが・・・空耳だ。疲れているんだ俺は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、放課後は走り込みなどの自主トレをしてたけど、どこからかNINJAに耐性の無い人の叫びが聞こえたが・・・気のせいだ。NINJAなんていないからな。

 

 

 

 

 

 

夕食の時間になり、俺は真耶がいるであろう寮の部屋の前にいた。いるのかな・・・いや、いるだろうさすがに。少し疲れを感じながら、俺はドアを開けた。

 

「お帰り、一夏君。今日の晩御飯はビーフシチューだから、ちょっと待っててね」

 

「あ、ああ・・・」

 

真耶は、笑顔で俺の帰りを迎えてくれてけど・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ISスーツにエプロンって反則じゃないか?

 

 

 

 

 

 

エプロンは深緑の首掛けタイプで無駄な装飾がない一般的なもので、その下にISスーツを着込んでいる。

 

遠目から見たら、裸エプロンと寸分変わらないじゃないか。

 

俺はそう思いつつ、真耶の手作りビーフシチューを堪能していた。・・・うまい。

 

 

 

 

 

「一夏君。今日の特訓中止になってごめん」

 

「真耶のせいじゃないよ。俺が箒を止めなかったからこうなっただけだから」

 

真耶が悪いところは一個もないよ。悪いと言えば、箒と俺なんだから。

 

「真耶は俺のために特訓の時間を作ってくれたんだ。むしろ感謝される方なんだ」

 

「一夏君・・・」

 

顔を赤くして照れる真耶って、かわいい。

 

「ごちそうさまでした。さて、お風呂に・・・」

 

「待って、一夏君」

 

「どうしたの真耶?」

 

「デザート・・・残してるよ?」

 

「デザート?」

 

テーブルにはビーフシチューしか置いてないけど・・・

 

「真耶、デザートって・・・」

 

「・・・私だよ」

 

・・・やっぱり。予想してたけど、いざ聞くと胸の高まりが収まらないよ。

 

「だから・・・」

 

「ちょっと待って」

 

「え?」

 

俺はエプロンごとISスーツを脱ごうとする真耶を静止した。それじゃ昨日と変わらないし、さすがに千冬姉が来たら殺される。

 

「今日は好きなだけ、見る事と触る事だけだよ真耶」

 

「でも・・・」

 

「気持ちは分かるけど、毎日ヤッてたらさすがに危ないって」

 

「・・・分かった」

 

ごめんね、真耶。ツライ思いばかりさせて。

 

「だから今日は、思いっきり私に甘えて、思いっきり私をメチャクチャにして!」

 

俺の理性が崩壊するから・・・

 

 

 

「でも、どうすれば・・・」

 

「だったら・・・」

 

俺が悩んでたら、真耶が俺の腕を掴んだ。

 

「私を・・・触って」

 

そう言い真耶は、俺の腕を自分の胸に優しく押し付けた。しかも上目づかいで俺を見つめてくる。そのダブルパンチは・・・強力すぎる!

 

「・・・分かった」

 

覚悟を決め、俺はそのまま真耶の胸を優しく

 

 

 

「優しく何をするんだ?織斑一夏?」

 

 

 

・・・離した。

 

 

 

千冬姉。その神出鬼没さは、どこの経験値泥棒をする忍者ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達二人の関係は知っているが、限度というものを知らないわけがないだろ」

 

「「・・・はい」」

 

俺と真耶は正座して、千冬姉の説教を聞いていた。真耶はISスーツじゃなくて、いつも通りの服に着替え直した。

 

「山田君。一夏の件については、並々ならぬ感謝はしている。だが、仮にも教師だ。一夏を甘えさせるのはいいが、自制心をもう少し持った方がいい」

 

「はい。申し訳ございません」

 

「一夏。お前はまだ若い。真耶ばかりでなく、クラスメイト達と交流を深めて見分を広げろ。今日の授業の態度は好ましくないぞ」

 

「すまねえ、千冬姉」

 

昔はこんなことを言う人ではなかったけど、俺は今の千冬姉は安心できるな。憑き物が落ちたという感じがして、弟としては嬉しい限りだよ。

 

「それが分かればいい。私は部屋に戻る。そろそろ、箒にハイクを詠ませる時間だ」

 

仮にも教師がそんな事言って大丈夫なの・・・

 

「後、夜の営みは程々にしろ。匂いが若干だが、まだ残ってるぞ」

 

千冬姉・・・分かってたのかよ。しかも、ニヤケ顔で言わないで欲しい。真耶が轟沈してるから・・・

 

千冬姉は部屋を後にし、帰って行った。

 

 

 

 

 

 

「真耶・・・大丈夫?」

 

「うぅ・・・」

 

駄目だ。轟沈してる・・・

 

「真耶。千冬姉は怒ってたけど、俺は嬉しかったんだから」

 

「え?」

 

「だって、俺のために特訓に付き合ってくれて、今日のデザートを用意してくれて、ワガママ言ってくれて、俺はものすごく嬉しいんだよ」

 

「一夏君」

 

真耶の顔に輝きが戻ってきた。やっぱり真耶は明るくなくちゃ。

 

「でも、今日はさすがに度を越した言動が目立ってたから、俺がお仕置きをします」

 

「お、お仕置き!?」

 

「うん。だから、その場を動かないで」

 

「は、はい!」

 

ちょっと、力んでるな。なら、お仕置きはこれだな・・・

 

 

 

チュッ

 

 

 

擬音に表すならこんな感じかな。

 

 

 

「え?これって・・・」

 

「真耶へのお仕置き。二度と度を越えたことをしないためのキス」

 

「・・・一夏君」

 

「何?」

 

「一回だけじゃ、また・・・しちゃうよ?」

 

「だったら、しなくなるまでお仕置きだけどいい?」

 

「・・・いいよ」

 

その後、俺は真耶と満足するまでキスをし続けて、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、篠ノ之箒の顔はムンクの叫びみたいな顔になっていた。




次回はセシリア戦になりますが、

戦闘描写を減らして、甘々を増やすか?

戦闘描写を増やして、甘々を減らすか?

皆様は、どちらが良いですか?

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第5話

皆様に、大変重要なお話があります。

今回の話はセシリア戦の話ですが、



戦闘描写が一切ありません!



というより、書いても駄文になる事が分かったからです!

戦闘を期待していた方には誠に申し訳ございせん。

なので、今回は甘々だけです!


時は流れセシリアとの決闘当日。

 

俺、織斑一夏は放課後の第三アリーナのピットで絶賛自己嫌悪中である。

 

理由はいたって簡単だ。

 

 

 

 

 

 

俺は真耶を愛しているのか?

 

 

 

 

 

 

セシリアとの決闘までの間、俺は真耶と一緒にISの特訓を行っていた。だけどそれに比例するかの如く、真耶との夜戦が激しくなっていく一方であった。まるで獣の如く、熱く、激しく、強く、夜戦を行っていたのだが、そんな俺が嫌になってきた。

 

真耶は時間を割いて、俺とのIS訓練をしてくれてるのに、俺といったら、ただの欲求不満を解消するために真耶を道具のように使っている。本当は真耶の体目当てじゃないのかと思い始めた。二、三日前から真耶が痛がってる顔をしてるにも関わらず、夜戦を続行してしまったからな。

 

「俺・・・最低じゃないか」

 

道具のように扱われて喜ぶ女性なんているものか。

 

俺は本当に真耶を愛しているのか?本当に・・・

 

「一夏君?」

 

「・・・真耶」

 

「どうしたの?そんな暗い顔をして・・・」

 

真耶、来ないでくれ。また、お前を襲いそうで怖いんだ。

 

「いや・・・なんでもないです」

 

「一夏君、本当は何か隠してるんじゃない?」

 

「隠してなんか・・・」

 

「一夏君・・・私を見て」

 

真耶は真剣な顔つきで俺を見つめてきた。

 

「一夏君、私に何を隠してるの?教えて」

 

これ以上隠しても、駄目だな・・・

 

「俺、本当に真耶を愛してるのか・・・分からないんだ。真耶は俺のために特訓の相手をしてくれてるのに、俺は真耶を道具のように使ってるんじゃないかって。本当に真耶を愛しているのか?本当は真耶の体で、欲求不満を解消したいだけじゃないのか。そんな俺が嫌で、嫌で・・・」

 

「一夏君・・・」

 

これで、真耶に嫌われても仕方がない。因果応報みたいなものだ・・・

 

「良かった」

 

「え?」

 

なんで良かったの?だって、道具のように扱ってたんだよ・・・

 

「一夏君、そこまで私の事を・・・」

 

「何言ってるんだ真耶!俺は・・・俺は真耶を!」

 

「だって、昔の一夏君と違って、ちゃんと誰かの事を考えるようになってくれたから・・・」

 

確かに昔の俺は、強さを求めるあまりに誰かが傷ついても気にする事なんかなかった。むしろ、そいつが弱いから傷ついているんだって思った。けど真耶、俺が言いたいのは・・・

 

「それに、一夏君は本当に私を愛してるんだって」

 

「真耶を道具のように使ってても・・・」

 

「体だけでしょ」

 

「体だけ?」

 

・・・言ってる意味が分からない。

 

「一夏君。本当は私の体じゃなくて、私自身を愛してるの。だけどIS学園に入学してから、一夏君は自分の心を無理に抑え込んでるの。部屋にいても、私にいっぱい甘えても、他の生徒達に目移りしないように、自分の心をどこかに無理矢理押さえつけているだけなの。それが限界に来て、そのはけ口を私の体にぶつけてるだけなの」

 

「でも・・・俺は真耶の体で」

 

「それに気付いたなら、少しずつ変わろう。一人じゃなくて、私と一緒に」

 

そう言い、真耶は俺を優しく抱きしめた。

 

「それに、そう考えてるってことは体の付き合いじゃなくて、私と本当に付き合いたいだけなの。でも、もう大丈夫だから。ゴールデンウィークにデートができるように、仕事を全部終わらせるから。だから、これ以上自分を責めないで」

 

「真耶・・・」

 

真耶の言う通りかもしれない。俺は真耶以外の女性が怖かったんだ。普通にクラスメイトと会話してても、心のどこかで真耶を見捨てるんじゃないかって怖かったんだ。そんな俺を真耶は見捨てなかった。真耶・・・俺は好きだ。

 

『織斑、お前の専用機が届いたぞ。後、二人ともいい加減離れろ。他の連中に見られても助けないぞ』

 

「「は、はい!」」

 

千冬姉の声で正気に戻った俺と真耶は慌てて離れた。よかった、箒がここにいなくて・・・

 

そして、ピット搬入口から現れてのは、白いISであった。

 

『これがお前の専用機「白式(びゃくしき)」だ』

 

「俺の・・・専用機・・・」

 

『織斑、時間がないから初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)は実戦でやれ』

 

「分かった」

 

俺は白式を装着し、カタパルトへ向かった。

 

「一夏君・・・」

 

「どうしたの真耶?」

 

「自分に負けないで!」

 

「分かった」

 

自分に負けるな・・・か。もしかしたら、今の俺にはそれが一番重要なことかもしれない。

 

そして俺はゲートをくぐり、セシリアとの勝負へ挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ・・・ありのまま、今起こった事を話すぜ!

 

「俺はセシリアとの勝負に負けたのに、クラス代表になってるんだ」

 

な・・・何を言っているのか分からないと思うが。俺も何が起こったのか分からなかった。

 

頭がどうにかなりそうだった・・・催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなものじゃない。

 

もっと恐ろしいものの片鱗を・・・

 

 

 

「わたくしが辞退したからですわ。まぁ、勝負はあなたの負けでしたが、それも当然。わたくしが相手だったのですから。それに、まぁ、わたくしも大人気なく怒ったことを反省しまして、一夏・・・さんにクラス代表を譲ることにしました」

 

 

 

・・・味わっている。しかも、セシリアが惚れてる。あの戦いでどうやったら俺に惚れるんだ!

 

俺は真耶一筋なのに・・・

 

オマケにもう一つ問題が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が欲情し始めた・・・

 

「最低じゃないか・・・俺」

 

部屋のベットに座り、落ち込む俺。

 

こんな俺を慰めてくれたのに、真耶になんて言葉を返したらいいんだよ。

 

「一夏君?」

 

「うわっ!」

 

「だ、大丈夫!?」

 

「大丈夫・・・じゃない」

 

もう、限界なんだ・・・

 

「真耶・・・その・・・」

 

「一夏君。無理して自分を抑え込まないで・・・」

 

真耶・・・それだと変わらないんじゃ・・・

 

「だから・・・今日は・・・」

 

そう言い、真耶は服を脱ぎ、下着を外した。

 

「あることをしたいと思います!」

 

「あること・・・?」

 

そう言い、真耶は俺の耳元で「あること」を囁いた。それを聞いた俺は服を脱ぎ、その「あること」を実践してみた。

 

それは・・・

 

獣の如く

 

熱く

 

激しく

 

強く

 

やらず、

 

人を思いやり

 

温かく

 

緩やかに

 

優しく

 

体を重ねる、だそうだ。

 

初めのうちは凶暴な犬のように息を荒げ、真耶を襲いかけてたが、時間が経つにつれ互いに余裕ができ、気付いた時には日付を跨いでも体を重ね続けていた。互いに互いを気持ちよくさせ、互いに確認しあい、互いを思いやり、キスをしつつも、体を重ね続けた。

 

 

 

案外・・・良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事後

 

俺は真耶の胸に顔を埋め、眠りに着こうとしていた。

 

「真耶・・・俺、大丈夫かな?自分をコントロールすること」

 

「大丈夫。今日をきっかけに頑張ればいいの」

 

「そうか・・・真耶は優しいんだな」

 

「ううん。一夏君が苦しむ所を見たくないだけなの」

 

それでも俺は十分に嬉しいよ。千冬姉以外に俺を心配してくれてる人がいるだけで・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、ゴールデンウィーク前日。

 

あの日をきっかけに、俺は少し変わったかもしれない。

 

クラスメイトとは距離を置くことも無く楽しい会話ができて、学校生活を心から楽しんでる。

 

千冬姉もなんだか、安心した顔をしていて良かった。

 

真耶と体を重ねる事もめっきり減って、二人だけの時間をより純粋に楽しむことができてるし、真耶にはいろいろと助かってる。

 

 

 

 

 

 

ただ、箒が相変わらず俺に付きまとってるのにも関わらず、それにセシリアが加わってきた。

 

セシリアよ、あの戦いで俺の何に惚れたんだ?

 

 

 

 

 

 

そんなある時、俺は真耶に大事な話があると言われ、部屋で待っている。

 

「なんなんだろう。話って?」

 

成績不良のための補習?それともIS関連の重要な話かな?

 

そんな疑問が浮かぶ中、真耶は少し疲れた顔をして部屋に入ってきた。

 

「真耶、大丈夫か?少し疲れてるように見えるが」

 

「大丈夫。一夏君のために、少し頑張りすぎたかな・・・」

 

「あんまり無理しないでね。真耶が倒れたら、俺は悲しいよ」

 

「ありがとう、一夏君」

 

真耶のおかげで、俺はいろいろと助かってるからな。あまり無理はしないで欲しい。

 

「ところで、真耶。話って・・・」

 

「はい。そうでしたね」

 

そう言い、真耶はバックからあるチケットを取り出した。

 

「実は私、福引で旅行チケットを当てました!」

 

そのチケットには、「二泊三日 温泉旅行チケット」と書かれていた。

 

「もしかして、このために!?」

 

「はい。このためにゴールデンウィーク最終日までのお仕事を、すべて終わらせました!」

 

凄いよ!凄すぎるよ!ゴールデンウィークを迎える前に仕事を終わらせるなんて凄すぎ!

 

「で、いつから旅行に行きます?」

 

「ゴールデンウィーク二日目に行こうかなって」

 

それなら最初の一日で準備をして、最後の一日で体を学園生活に戻すことができるから大賛成だ。

 

「一夏君。もしかして、楽しみにしてる?」

 

「ああ。真耶と久しぶりのデートだから、楽しみで仕方がないよ!」

 

「ふふっ。良かった」

 

そう言い、真耶は俺の唇にキスをした。

 

「真耶・・・」

 

「キスって、こういう時にやると何で心がときめくんだろ?」

 

「それは真耶も嬉しいんじゃない?俺との久しぶりのデート」

 

「そうかもしれないね。ねえ、もう一度・・・やさしいキスをしていい?」

 

「ああ、していいよ」

 

そして俺と真耶は、もう一度やさしいキスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏が・・・山田先生と旅行・・・」

 

「これは・・・真意を突き止めなければなりませんわ・・・」

 

 

 

だが、この温泉旅行にポニーテールとドリルの魔の手が伸びて来ていることに、二人が気付くことはなかった。




さて、次回は温泉旅行の話です。何話分執筆するんだろう・・・

後、原作やアニメだとどういう風に過ごしてたんだ・・・

今更ですが、作者は原作未読です。


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第6話

今回から、温泉旅行に入りますが・・・

デートの描写が難しい・・・

どうすれば、上手くイチャイチャ書けるんだ・・・


「一夏君。見えて来ましたよ」

 

「おお!綺麗な景色だな」

 

俺は今、真耶と新幹線から見える景色を堪能している最中である。

 

「真耶、あとどれくらいで着くんだ?」

 

「あと十分ぐらいで着くよ。一夏君、少し落ち着いたら?」

 

「ごめん。久しぶりのデートだから、つい・・・」

 

「私も久しぶりだから嬉しいけど、あんまりはしゃがないてね」

 

「ああ」

 

落ち着こう俺。ここには、箒もセシリアも千冬姉もクラスメイトもいない。俺と真耶しかいないんた。ここまで来るのにも苦労したんだ。せっかくのデートを台無しにしてはいけない。

 

 

 

俺と真耶が恋人だと知ってるのは、千冬姉だけ。周りには内緒にしてるから、新幹線に乗るのも一苦労である。二人別々の時間に外出届を出して、二人別々の時間に荷物を持って部屋を出て、二人別々のモノレールに乗って、駅のホームで周りを見渡しながら新幹線に乗る。ここまでで、俺と真耶の精神はかなり消耗した。

 

それに服装も気を使わなければならない。目立ってしまったら、クラスメイトに見つかりやすい。特に箒とセシリアには・・・

 

俺はジーパン、白のTシャツに薄い青の上着を着込んでいる。地味にしたけど、大丈夫かな?真耶の方は胸と肩が収まっている白のワンピースと黄色のリボンが付いた白のキャペリン・・・

 

「真耶、その服装・・・」

 

「今日の為に、オシャレをしました!」

 

「いや・・・その服装、ちょっと目立つかなあって」

 

可愛い服装なのは分かるけど。

 

「大丈夫。駅に着いてからこの服に着替えたの。それとも、似合ってない?」

 

「いや、似合ってるよ真耶」

 

「ありがとう、一夏君」

 

どうやら、俺の思い違いだったようだ。なら、このデートを思い切って楽しまないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ山田先生とあんなに仲睦まじいんだ・・・一夏、私では不満だと言うのか?」

 

「きっと山田先生は自身の色気で、一夏さんを懐柔したに違いありませんわ・・・」

 

「なら・・・山田先生から一夏を救出しなければ・・・」

 

「そうですわね・・・織斑先生もお仕事でいらっしゃらないことですし・・・」

 

「これは・・・好機・・・」

 

「山田先生・・・倒すべし・・・」

 

「慈悲は・・・ない・・・」

 

「「ふふふふふ・・・」」

 

一夏と真耶の背後に、SHINOBIの影が潜んでいることを二人が気付く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新幹線から降りた俺と真耶は、これからの予定を確認していた。

 

「ちょうどお昼の時間ですし、昼食を摂りましょう」

 

「ああ。ここの名物ってなんだろう?」

 

「確か、ここのお店が出してるカツ定食が名物だそうです」

 

「駅から近いし、行こうか」

 

「はい!」

 

俺は真耶と一緒に名物の定食を出してるお店へ向かった。

 

ただなんだろう・・・誰かがついて来てるような・・・気のせいか。

 

 

 

 

 

 

「ふう、ごちそうさま」

 

「かなりの量でしたね・・・」

 

俺と真耶は名物のカツ定食を食べ終えたが、結構なボリュームだった。普通のカツ定食の1.5倍のボリュームにポテトサラダ、味噌汁、ご飯、さらに一人前のヒレカツも付いて、値段が普通のカツ定食の100円増し。

 

俺はともかく、真耶は少しつらそうな顔をしている。確かにあのボリュームは、男一人が食べるには十分すぎるボリュームだけど、女性にはキツイかな。

 

「真耶、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫よ。ただ、ちょっと・・・」

 

やっぱり真耶にもこのボリュームはつらいか。

 

「次は、どうするんだっけ?」

 

「次は旅館に行って荷物を置いて、温泉街を散策する予定ですけど・・・」

 

「分かった。旅館に着くまでの間、俺が真耶の荷物を持ってるよ」

 

「え!?そんなことしなくても、私大丈夫ですから」

 

「真耶がつらい顔をしてるのに何もしないなんて、俺は嫌だからさ」

 

「じゃ、じゃあ。お言葉に甘えて」

 

真耶の了承を得て俺は真耶の荷物を持ち、宿泊する旅館に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「旅館へ向かうか・・・」

 

「なら・・・わたくし達も行きましょう・・・」

 

二人の後を追うSHINOBI。はっきり言ってストーカーの類である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と真耶がたどり着いたのは、山林の中にある古い旅館であった。築五十年以上の歴史ある建物で、知る人ぞ知る旅館だとか言われてる。豊かな自然を堪能しながら露天風呂を満喫するのが、この旅館の醍醐味だそうだ。

 

「ふう、着いた」

 

「ごめんね、一夏君。私の荷物を持たせるようなことをして」

 

「いや、俺が好きでやってる事だし気にしなくていいよ。それにしても広いなぁ」

 

「確かに広いですね」

 

俺と真耶は旅館の部屋の広さに驚いていた。なんせ部屋の広さは20畳、設備は64インチの4Kテレビに世界トップクラスのセキュリティーを誇る金庫と最新の冷蔵庫、さらには露天風呂がついている。真耶・・・本当はものすごい幸運の持ち主なのかな?

 

「一夏君、夕食まで時間がありますし、温泉街の方を散策しましょう」

 

「ああ、行こうか」

 

俺は真耶と指を絡めながら手をつなぎ、温泉街へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「真耶、俺の手から離れないでね」

 

「一夏君、私子供じゃないんですから」

 

俺と真耶は、土産コーナーで会話に華を咲かせていた。名物から珍妙な物まで、様々な商品が売られている中、俺は真耶とはぐれない様にシッカリと手を握っていた。

 

「一夏君、そのカメラは?」

 

「千冬姉に、過去に側に誰がいたのかちゃんと覚えろって言われて、それから写真を撮るようにしてるんです」

 

その時の千冬姉が、何故か寂しい顔をしていたけど・・・

 

「どんなのを撮ってきたんですか?」

 

「学校行事とか、その時のクラスの写真とかですかね」

 

「私のは無いんですか?」

 

「ちゃんと撮ってますから大丈夫ですよ。料理をしている真耶、昼寝をしている真耶、仕事をしている真耶、猫を見てうっとりしている真耶、急な出来事に慌ててる真耶、ホラー映像を見て涙目になってる真耶、初めて・・・」

 

「もう言わなくていいよ一夏君!」

 

顔を赤くしながら真耶は俺の言葉を遮った。

 

「俺は真耶の全てが好きなんだけど」

 

「気持ちは分かるけど、恥ずかしい・・・」

 

恥ずかしがる真耶って、可愛い・・・

 

ダメだ、俺。今日は真耶と一緒にデートをしてるんだ。真耶を困らせるために来てるんじゃない。

 

「真耶。せっかくだし、一緒に記念撮影でもしよう」

 

「は、はい!」

 

「すみません。写真を撮っていただけませんか?」

 

近くにいた観光客に頼んで、俺と真耶のツーショット写真を撮ってもらった。

 

写真を見た時、どこか見覚えのあるような二人が写っていたが、気のせいだ。二人がこんなところに来るはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう・・・一夏は山田先生と恋仲なのか・・・」

 

「箒さん・・・まだ決まったわけではありませんわ・・・決定的証拠を取らねばなりませんわ・・・」

 

「そうだな・・・恋人つなぎも写真に収めたしな・・・決定的証拠を取らねばな・・・」

 

SHINOBI(ストーカー)の二人を止めるNINJA「KUNOICHI(織斑千冬)」はいない。このチャンスを最大限に生かすべく、SHINOBI(ストーカー)の二人はある行動に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と真耶は二人で露天風呂に浸かってるんだが・・・誰かに観られてる感じがする。

 

今まで周りを見渡しても見知らぬ人ばかりだし、写真に写ってた二人は髪型がそれっぽいだけだからなあ・・・

 

「一夏君、どうしたの?」

 

「いや、誰かに付け回されてる気がして・・・」

 

「きっと疲れてるだけよ。だから、この旅行でいっぱい羽を伸ばそうね」

 

「そうだな。疲れてるに違いないよ」

 

そうさ。真耶が俺のために仕事を先倒ししてくれたおかげで、この旅行ができたんだ。思いっきり羽を伸ばさないとな。

 

「真耶。そろそろ、夕食の時間だから一緒に上がろ」

 

「はい」

 

俺と真耶は互いの体を拭きあい、旅館の浴衣を着込み食堂へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏・・・山田先生の・・・悪魔の体の前で・・・平然としている!」

 

「懐柔ではなく・・・奴隷の間違いでしたわ・・・」

 

「おのれ・・・山田真耶ぁ!・・・一夏を・・・一夏をぉ!」

 

「箒さん・・・今日、収集できる物は収集しましょう」

 

「ああ・・・明日が決戦だ・・・待っていろ山田・・・明日が貴様の・・・命日だ・・・」

 

「そして・・・一夏さんの・・・救済の日・・・」

 

「「ふふふふふ・・・」」

 

一夏と真耶の隣の部屋にいる二人のSHINOBI(ストーカー)は、ドリル(セシリア)のブルーティアーズ(後付けカメラ搭載)で、一夏と真耶の会話の一部始終を盗み撮りをしていた。もはや、ISの風紀がこの二人によって歪み始まって・・・いるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう。夕食、美味しかったな」

 

「はい。あんなに新鮮な魚介類を食べたのは初めてです」

 

俺と真耶は、今日食べた夕食を満喫した。伊勢海老、本マグロ、天然黒アワビなど、高級食材のフルコースと言わんばかりの豪華な盛り付けに、俺と真耶も食べるのをためらうほどであった。だけど作った人に申し訳ないと思い食べてみると・・・やっぱりうまい。

 

「寝るまで時間はあるし、どうしようか?」

 

「一夏君。私、実は久しぶりにアレをやりたいけどいい?」

 

「ん?アレってなんだ?」

 

そう言い、真耶はバッグからある物を取り出した。

 

「一夏君の耳かきです!」

 

「ああ!それか!」

 

「そんなに嬉しいの?」

 

「ああ。真耶の耳かき、すごく気持ちいいから楽しみだな」

 

「ふふっ。そう言われると嬉しいな。じゃあ始めるから、私の膝枕に頭を乗せてね」

 

俺は真耶の膝枕に頭を乗せ、今か今かと待っていた。

 

真耶は耳かきを手に取り、優しく俺の耳の中を掃除し始めた。

 

「どうですか?痛くないですか?」

 

「・・・気持ちいいです」

 

「良かった」

 

俺は真耶の優しい声と優しい耳かきに、至福の時を満喫していた。

 

真耶は俺の気持ちいいところを知っているのか、耳かきをしつつ俺の耳の中のツボ(?)を優しく刺激してくれる。強すぎず、弱すぎず、気持ちいいところを的確に当てるテクニックは、俺には到底出来っこない。さらには柔らかい膝と、頭がとろけるような優しい声掛けが来るから、俺の思考は停止寸前まで追い込まれる。

 

「真耶の耳かきをここで受けれるなんて、俺は幸せ者だな」

 

「大袈裟ですよ。学園に戻っても、頼まれたら一夏君のために頑張りますから。」

 

「分かった。耳かきされたくなったら頼むよ、真耶」

 

「ふふっ。じゃあ、息を吹きかけますね」

 

 

 

あ・・・一番の至福が来る・・・

 

 

 

「ふぅー」

 

「あっ・・・!」

 

実は耳かきで一番好きなのは、真耶に息を吹きかけられることなんだ。他の人が息を吹きかけても何とも感じないんだが、真耶だけ息を吹きかけられると喘ぎ声を出しちゃうんだ。真耶が俺の耳元で優しく息を吹きかけられたら、さすがの俺も感じちゃう。・・・マゾとかじゃないからね。

 

「ふふっ。気持ちいいみたいですね」

 

「真耶が上手だからさ。真耶の耳かきは、さすがの俺も真似できないしね。もう片方の耳もお願いできる?」

 

「はい。じゃあ、もう片方の耳もお掃除します」

 

俺は真耶の耳かきに、心も体も満喫していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏は、耳かきが・・・一番の至福である・・・」

 

「さて・・・十分揃いましたわ・・・」

 

「覚悟しろ・・・山田・・・貴様のハイクを・・・詠ませてやる」

 

「慈悲など・・・ありませんわ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、俺は温泉旅行史上最大のピンチを迎えることになる。




次回は、二日目を執筆する予定です。






オマケ

※二人が温泉旅行してる間、IS学園で起こったちょっとした事件を執筆しました。読まなくても、次の話を読むのに支障はありません。



織斑千冬の一日(温泉旅行一日目の裏で・・・)






「どうした。貴様の腕はそんなものなのか、更識楯無?」

「はあ、はあ、はあ」

私は今、第一アリーナでIS学園最強の異名を持つロシア代表の「更識楯無」と、ISで戦っている。

何故戦ってるかって?簡単だ。あいつは私の弟「織斑一夏」を落とそうと画策していたからだ。あの女の事だ。ハニートラップを仕掛け、一夏を誘惑するに違いない。プロポーションも抜群だからな、それを使って一夏との既成事実を作るのも容易いだろうな。

だが、貴様如きの女に一夏を渡さん。いや、守って見せる!理由なき侵略(寝取られ)に潰されてたまるか!

一夏の彼女は山田真耶だ!依然!変わりなく!



・・・そういえば、楯無の奴は自身の専用機「ミステリアス・レイディ」で戦いを挑んでるが、なんだあの動きは?

動きに無駄がありすぎる。蒼流旋(そうりゅうせん)のマシンガンの弾なんぞ止まって見える。しかもなんだ、ミストルテインの槍という脆すぎる剣は?これでは、本気を出す必要はないな。やはり、アクア・クリスタルに頼った戦い方をしている。これは教師として、一つ教育しなければならないな。

ちなみに、私はドイツの知り合いに頼んで改造した「ラファール・リヴァイブ」で戦っているが、こいつの性能を十分に発揮せずに終わるのは惜しいな。仕方がないが、頼んでいた新武装を試して終わるか。打鉄を使うほどの相手ではなかったな。使わせたければ、それ相応の実力を持つことだな楯無。









あれが、ブリュンヒルデの実力というの!?

私の攻撃はすべて当たらない。当たったと思ったら、瞬間移動で避けられる。消えたと思ったら、二人に分身して攻撃をする。蛇腹剣(ラスティーネイル)は引きちぎられる、蒼流旋(そうりゅうせん)は踏みつぶされる。一体どんな訓練をすれば、あそこまでの力が得られるの!?

「これで終わりか?更識楯無」

「いえ、勝負はこれからよ!」

落ち着くのよ、更識楯無。私は17代目更識当主でIS学園最強の生徒会長なのよ。ここで諦めたら駄目よ!

「ほう・・・根性だけは一人前の様だな」

織斑先生は慢心している・・・なら!

「はぁ!」

私は織斑先生が慢心している隙に清き熱情(クリア・パッション)を喰らわせた。

「ブリュンヒルデの異名を持つ元日本代表と言えど、この至近距離からの清き熱情(クリア・パッション)ではひとたまりも・・・なにっ!?」

そこには、無傷のラファール・リヴァイブが佇んでいた。

どんな真改造をしたんですか!?

「なんなんだぁ、今のは?」

「あ・・・」

ブリュンヒルデの名は伊達ではない・・・

「では、こちらの反撃と行こうか・・・」

織斑先生が構えた瞬間、ラファールの両腕と両足が変化し、何かのエネルギー発射孔になった。

なんか・・・ヤバい

「楯無。これは、ドイツが開発した試作型反物質砲を改造し、全方位に発射できるよう改良した物だ・・・」

「アラスカ条約に違反してるんじゃ・・・」

「残念だが、アラスカ条約が制定されたのは反物質砲誕生以前だ。だからこいつを使っても、問題ない・・・」

「いえ!問題あります!私がどうなるのか分かってるんですよね!?」

「ああ・・・お前は対消滅する」

「駄目ですよ!そんなものを撃ったら学園の安全は・・・」

「安心しろ・・・この学園の事は先生たちに任せろ・・・」

「安心できない先生が目の前にいますけど!・・・あれ?」

なんだか、アリーナから地響きが響いてるんですけど・・・

「どうやら、発射準備ができたようだな・・・簪にも感謝しなければな」

「えええええ!?」

簪ちゃん、何手伝ってるの!?というより、地面が割れて浮かんでますけど!?

「・・・更識楯無」

「は、はい!」

「仮面の下の涙を拭え・・・」

拭いたいですよぉぉぉぉぉ!






その直後、第一アリーナから光の柱が立ち上がった。


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第7話

今回は・・・

甘々が少ない!

お許しください!

その代わり、すっごくカッコいい登場をするキャラが出ます!


二日目の朝。

 

俺は真耶と一緒の布団から起き上がり、真耶の寝顔を見つめてた。

 

眼鏡を外し、安らかな顔で寝息を立ててる顔を見て、俺はカメラを取り出した。

 

「そういえば、真耶の寝顔を撮ってなかったな」

 

そう言い、俺はファインダー越しに映る真耶の寝顔を見ながらシャッターボタンを押した。

 

 

 

パシャッ

 

 

 

「んん・・・」

 

シャッター音が目覚まし代わりになったのか、真耶は目を擦りながら体を起こした。

 

「おはよう、真耶」

 

「ん・・・おはよう・・・一夏君」

 

まだ少し寝ぼけている。けど、その時の真耶の顔はまるで子猫のように愛くるしい表情をしてるから、見惚れちゃうんだよなあ。

 

「真耶、メガネだよ」

 

「ありがとう・・・一夏君」

 

その後、顔を洗って眠気を覚ました真耶と、朝の恒例行事を行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

真耶の胸に顔を埋め、真耶が俺を抱きしめる・・・・・・変態じゃないからな。

 

 

 

 

 

 

「ふふっ。こうしてると、一夏君から元気をもらってるみたい」

 

「俺は、真耶から元気をもらってるけどな」

 

実は真耶が結構気に入ったらしく、俺が顔を埋めてると何だか母親になった気分になるって言うんだ。俺が物心付く前から両親がいなかったから分からないけど、母親ってこんな感じなのかな・・・

 

「一夏君。もし学園でもしたくなったら、私は喜んで引き受けるから」

 

決して、いやらしい意味ではない。この行為に対して言ってるんだ。この行為もいやらしくないからね!

 

「うん」

 

「一夏君って男前なのに、結構甘えん坊さんなんだね」

 

「それは真耶が・・・可愛いから・・・」

 

俺は顔を赤くしてしまった。甘えん坊さんって・・・恥ずかしいから真耶。

 

「そんな一夏君には、ご褒美ね」

 

「それって・・・」

 

俺が言い切る前に、真耶は浴衣の脱いで上半身を曝け出し、そのまま俺の顔を胸に埋めさせた。

 

「いつも服の上とか下着の上の時でしかやってなかったでしょ。素肌でやってみたかったけど、どう?」

 

本当は本番行為に行きたくなかったから、服の上とか下着の上でしてたけど・・・

 

「気持ちいいです」

 

「よかった」

 

気持ちいいとかそういうレベルの物じゃない。これが天国に思えてきた。ずっとこうしたい。学園にいても授業をボイコットしてでもこうしたい。千冬姉の出席簿で頭が陥没してもずっとこうしたい。・・・大丈夫か、俺。

 

「真耶・・・」

 

「なに?」

 

「学園でも、素肌でやってくれる?」

 

「いいよ。一夏君の安心した顔を見るの好きだから、学園でもしてあげる」

 

男の(さが)には勝てなかったよ、俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら・・・最後の最後で大きいものを投下したな山田は・・・」

 

「そうですわね・・・では参りましょう・・・」

 

「ああ・・・決戦の地へ・・・」

 

二人はいろんな意味で原形を留めていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と真耶は温泉街から離れた市街地にいる。

 

家電量販店からパソコン専門店、今流行りのレストランから知る人ぞ知る喫茶店など、有名所からマニアにしか知らないお店が立ち並ぶ、何だか凄い街である。IS学園より凄くないかこの街。

 

「うわぁ。いろんなお店がありますね」

 

「ああ。いろんなお店があってどこから行けばいいんだか」

 

俺と真耶はいろんなお店に目を奪われ、どこに行けばいいのか迷っていた。

 

「どこにしようかな。真耶、あそこなん・・・か・・・」

 

その迷いが、致命傷だった。

 

「こんなところで会うとは、奇遇だな一夏」

 

「こんなところでお目にかかるとは、おはようございます山田先生」

 

箒とセシリアがいた。なんでいるんだ。後、冷や汗と胸の高まりが止まらない。

 

「二人とも、そんなに仲良かったのか?」

 

「いや、これも何かの縁だと思い、話してたら・・・」

 

「馬が合って、そのままお友達になりましたの」

 

なんだろう・・・すごく嫌な予感がする。

 

「ここで立ち話をするのもなんだし、あそこの喫茶店で話そうじゃないか」

 

勝手に話を進めないでくれ箒。

 

「い、いや、俺には・・・」

 

「安心しろ、山田先生にも話があるから一緒に食べよう。みんなで食べた方が、美味しくなるって言うだろ?」

 

箒、目に光が入ってないぞ。そういえば、真耶は・・・

 

「山田先生、どうかなさいましたか?どこか具合でも悪いのですか?」

 

「い、いえ!そんな事ではありません」

 

「そうですか。では、一夏さんと()()()()()と一緒に喫茶店でお話の続きをいたしましょう」

 

セシリアに怯えてる。というより、セシリアの目にも光が入っていないぞ。

 

「行くぞ、一夏。楽しい話ができなくなるだろ?」

 

「それでは参りましょう、山田先生。楽しいワルツが終わってしまいますわ」

 

二人の気迫に押されたまま、俺と真耶は二人が指定した喫茶店の席に座っている。

 

ハッキリ言おう、これは退路を断たされている状態だ。俺と真耶を窓側に押し付け、箒とセシリアは通路側に座り、簡単に逃げられない。野暮用で席を外しても、片方が監視するに決まってる。しかもボタンで呼び出さない限り、店員は来ない。おまけに周りから見づらい位置だ。

 

というより、二人(箒とセシリア)が怖い・・・

 

「一夏どうした?遠慮する必要はないだろ。私とお前は幼馴染なんだから」

 

その幼馴染に殺されかけたんだぞ!

 

「山田先生、遠慮なさらずにご注文を」

 

セシリア、代表候補生がそんな怖い顔しちゃダメだろ。

 

「お、織斑君は何が・・・食べたい・・・のですか?」

 

「俺はナポリタンで」

 

「じゃ、じゃあ私もそれで!」

 

真耶、安心しろ。二人が俺と真耶の関係を知ってるはずがない。

 

「二人とも何か頼んだらどうだ?」

 

「そうだな、アイスコーヒーとワッフルでいい」

 

「わたくしは、紅茶とスコーンで」

 

「何で軽食にするんだ?二人とも、遠慮せずに・・・」

 

「ここに来る前に食べてしまったからな」

 

「ボリュームがあるものでしたわ」

 

何か、事前に打ち合わせをした様な感じだな。

 

 

 

その後、俺と真耶はナポリタンを食べていたが・・・

 

「箒。食べたかったら、あげるから」

 

「いや、お前はそのまま食べていろ」

 

「あ、ああ。」

 

視線がキツイ。

 

(一夏の食べっぷり・・・最高だな。やはり、山田を倒さねば)

 

(箒さん。そろそろ・・・)

 

(そうだな・・・)

 

「一夏」

 

「どうした、箒?」

 

「どうして山田先生と一緒にここにいるんだ?」

 

やっぱりその質問か・・・

 

「本当は千冬姉と山田先生が行くはずだったんだけど、千冬姉に急用が入って代わりに俺が行く事になったんだ」

 

まあ、無難な理由だよな。

 

「そうか・・・」

 

「そうですの・・・」

 

あれ・・・二人が笑ってるんだけど。

 

「実はな一夏。ある人物から、こんな画像を送られて来たんだ」

 

箒はバックからノートパソコンを取り出し、俺と真耶にある画像を見せた。それは・・・

 

俺と真耶が手を繋いで、温泉街を歩いてる画像だった。

 

「これは、山田先生とはぐれないように手を繋いでただけだよ」

 

見苦しい言い訳だが、二人は納得してくれたようだ。後、凄く汗が止まらない。

 

「では、これは一体何ですの?」

 

セシリアが見せた画像で俺の汗は止まらなくなった。

 

 

 

今朝の行事が映っていた。しかも動画付きときたものだ。

 

「まだあるぞ。これは何だ?」

 

間髪入れずに箒が見せたのは、昨夜の露天風呂での様子だった。これも動画付き。

 

 

 

俺のシールドエネルギーが容赦なく削られていく。

 

俺は何とか平静を保っているが、真耶は顔面蒼白で汗を流したまま固まっている。

 

「一夏さん。まさか、山田先生とお付き合いしてらっしゃるのですか?」

 

付き合ってるさ!って堂々と言いたいけど、声が出ない。悪魔に心臓を握り潰されてる感覚に襲われて、口が思うように動かない。

 

「いや、これは・・・その・・・」

 

「一夏。お前が山田先生と付き合ってることがバレたらどうなる?少なくとも、山田先生は学園を去ることになるんだぞ!」

 

何で付き合ってることを前提に話を進めてるんだ!?確かに付き合ってるけどさ。

 

「そこで、私にいい考えがある」

 

それ失敗フラグですよ、箒司令官。

 

「これからは、私とセシリアの三人で学園生活を送ることにする。異論は認めん!」

 

「異議あり!」

 

「異論は認めないと言ったはずだぞ!」

 

お前、篠ノ之箒なんだよな!?

 

「一夏さん。倫理に反することが、正義だと仰りたいのですか?」

 

「そうだ!山田先生こそが正義だと言いたいのか!」

 

ギャグで言ってるんだよな、箒!?

 

「とにかく、これ以上騒ぎが広がる前に私達と暮らせ!」

 

結局はそれかよ!

 

「あんな悪魔の体で誘惑する女より安心できるだろ!」

 

「あ、悪魔!?」

 

真耶をそんな目で見てたのかよ、箒!真耶が落ち込んでるぞ!・・・確かに体つきは凄いけど

 

「一夏さん、何故そこまで拒むのですか?お二人がお付き合いしてるのではないかと、学園中で噂が広がっていますのよ。それが本当の事でしたら、真耶さんがどうなるのか分かっているはずです」

 

セシリアの淡々と語られた事実に、俺は黙ってしまった。

 

俺と真耶は恋人同士であると同時に生徒と教師。それは社会倫理としてはあってはいけない関係だ。だけど、俺は真耶を一人の女性として愛してるんだ。セシリアの言ってることに間違いはない。箒の提案も邪念が含まれているが、妥当の提案だ。でも俺は嫌なんだ。

 

力を求めるあまり真耶を傷つけてしまった時も、俺を見捨てず向き合ってくれたし、自暴自棄になってた時だって慰めてくれた。俺が風邪で倒れた時も最後まで介抱してくれたし、大怪我を負った時も看病してくれた真耶を俺は守りたいんだ。傍にいたいんだ。

 

でも願えば願うほど、真耶を苦しめることになる。俺達が付き合ってる事が学園中に知られたら、俺はともかく真耶は箒の言うとおり、学園を去ることになる。一緒にいればいる程、そうなる可能性は必然的に高くなる。

 

改めて考えると、二人は間違ったことを言っていない。俺と真耶に見せたものは、他の生徒から見れば社会的にアウトのモノなんだ。二人は正しいことを・・・言ってたんだ。だけど俺は・・・それを認めたくないから・・・周りを拒絶してたんだ。真耶の温もりが・・・嬉しかったのも・・・唯の・・・逃げだったんだ。真耶と・・・久しぶりの・・・デートが・・・楽しかったのは・・・逃げ・・・だったんだ。

 

俺は・・・・・・間違って・・・・・・いたんだ・・・・・・教師である・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・真耶に恋することも、会うこと自体も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の意見を・・・・・・・・・受け入れるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「箒、セシリア・・・俺・・・」

 

「一夏、分かってくれたのか」

 

「一夏さん」

 

(一夏君・・・)

 

「俺は・・・」

 

俺は泣いていた。己の不甲斐なさに、己の未熟さに・・・

 

受け入れよう・・・

 

それが・・・正しい事ならば・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て!」

 

「「「「ん?」」」」

 

二人の意見に従おうとした時、誰かが俺の言葉を遮った。声がした方を向くと、何かのシルエットがぼんやりと映っていた。あと、高い所にはいなかった。

 

「優勢と劣勢には翼があり、常に戦う者の間を飛び交っている・・・」

 

この静かな怒りを含んだ声は・・・

 

「例え、絶望の淵に追われても、勝負は一瞬で状況を変える・・・」

 

心の仮面を外し、自分の贖罪のために戦い・・・

 

「人、それを回天という!」

 

最近、究極生物になりつつある人だ!

 

「だ、誰だ!名を、な、名乗らないか!」

 

「そ、そうですわ!あ、あ、あなたは誰れなのです!?」

 

箒とセシリアが動揺してる時点で分かる。あれは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様らに名乗る名前はない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チフユ姉さん(KUNOICHI)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、誰が究極生物になりつつある人だって?一夏?」

 

「すいません、千冬姉・・・」

 

その後、俺と真耶は千冬姉と一緒に旅館に戻り、千冬姉の鉄拳を喰らった。あと、あの二人(箒とセシリア)は隣の部屋で成敗されたらしい。

 

千冬姉・・・一体何の拳法を習得したの?

 

「というより、千冬姉。どうしてここが分かったんだ?」

 

「SHINOBIの勘と剣狼の導きだ」

 

千冬姉・・・あなたは人間なんですか?

 

「ともかく、二人が無事で何よりだ」

 

「「・・・」」

 

「分かってる。あの二人は後で三途の川に送らせる」

 

殺人前提ですか・・・

 

「後、あの画像と映像は誰かが送ったものではない。あの二人が盗撮したものだ」

 

「「え?」」

 

あの会話全部ウソだったのかよ!?

 

「ISを犯罪に使うなど、この私を本気にさせたいらしいな・・・あの二人は」

 

篠ノ之束が相手でも勝てる見込みが大有りだ

 

「というわけで、私は退室する。あとは二人で・・・」

 

「千冬姉・・・待ってくれないか」

 

あの二人がISを使って犯罪を犯したのは事実だ。でも、そんな風にさせたのは・・

 

「なんだ?」

 

「その、寮の部屋で相談が・・・」

 

「一夏、言いたいことは分かる。だが、姉として言わせてもらう」

 

何で、言いたいこと分かるんだ!?

 

「なに?」

 

とりあえず聞こう・・・

 

「あの二人の言ってる事がすべて正しいと言うなら、それは山田君と私の存在を否定することになる」

 

「え・・・」

 

「私はお前に心を救われた。そして一夏の心を救ったのは山田君だ。あの二人の言ってることは、その事実さえ否定することになる」

 

「でも、俺と真耶は生徒と教師で・・・」

 

「お前は、山田君が教師だから付き合ってたというのか?」

 

「違う!俺は一人の女性として愛しているから・・・」

 

「お前は私の心を踏みにじってまで、真耶を守って幸せにしたいか?」

 

「そんな訳ないだろ!千冬姉だって、俺を支えてくれた家族なんだ・・・から」

 

「ようやく気付いたか」

 

「え?な、何がですか!?」

 

だから、千冬姉ニヤニヤしないでくれ。後、真耶が分かってないから説明を頼む。

 

「山田君、私達は互いに支え、支えられている関係にあるんだ」

 

「・・・へ?」

 

・・・その説明じゃ分からないよ。俺も分かってないし。

 

「さっき言ったように私は一夏に心を救われた。一夏が誰かを救うようになったのは、山田君が一夏の心を救ったからだ。そして二人が出会うようになったきっかけを作ったのは、私だ。分かったか」

 

その直後、真耶は何故二人の提案がダメだったのか分かった。

 

「つまり、篠ノ之さんとオルコットさんの提案には・・・」

 

「互いに支えあう考えなんて入っていない。むしろ、一夏を奪い取るための血なまぐさいことが起こるだろう」

 

 

 

 

 

 

千冬姉の言いたいことが分かった。

 

つまり、真耶とのお付き合いが結婚前提にしたお付き合いでも全面協力する。

 

というより、結婚を前提としたお付き合いをさっさとしろって言いたいことでしょ?

 

「正解だ、一夏!」

 

だから、何で考えが分かるの?

 

「とにかく、私はお前達の幸せを邪魔する者を倒すことにしている。それが私にできる贖罪だ」

 

「千冬姉・・・」

 

「一夏、あの二人が言った事がたとえ事実でも、お前は真耶を守れ。今のお前なら力の使い方を理解できてるはずだ」

 

 

 

俺は、自分に関わってくれた全ての人を守ろうと考えていた。自分の力で・・・たった一人ですべてを守ろうと考えていた。でもそれは間違っていた。本当は、誰も信じていない自分を見るのが怖くて、逃げるための口実だってことを。

 

だけど、今は違う。

 

 

 

「千冬姉、俺・・・守ってみるよ。真耶を・・・真耶の幸せを」

 

 

 

俺は一人じゃないんだ。俺を支えてくれた人達がいるから、今の俺がいるんだ。

 

「どうやら、吹っ切れたようだな。では改めて退室・・・」

 

「千冬姉!」

 

「なんだ?」

 

「・・・ありがとう」

 

「姉として、当然のことをやったまでだ」

 

そう言って、千冬姉は部屋を後にした。

 

そういえば、爽やかな笑顔をした千冬姉・・・見るの初めてかも

 

 

 

「一夏君」

 

「真耶、どうしたの?」

 

「私、一夏君の悩みが無くなって嬉しい・・・」

 

真耶は俺の体に抱き着いてきた。

 

「私も怖かった。自分のやってる事が本当はいけないことだって」

 

「真耶・・・」

 

「でも・・・私、決めたの。一夏君を愛してるなら、結婚して死ぬまで一夏君と一緒にいるって」

 

・・・ええ!?

 

「そ、それって・・・」

 

「一夏君。私を・・・私を!」

 

これは真耶の・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プロポーズは学園を卒業してからだ!!あと、明日は私とバカ二人と一緒に帰る!午前の新幹線に乗るから、夜の営みは我慢しろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・はい」」

 

 

 

千冬姉・・・最後に釘を刺さないで・・・




次回は、チャイナちゃんが登場する予定です。





おまけ

※これは本編開始前の織斑千冬のお話です。これを読まなくても次の話を読むのに支障はありませんが、彼女のキャラがより一層理解できる話になってる・・・はずです。











私は一人の女の口車に乗り、世界を変えてしまった。

彼女の作ったスーツの力を世界に見せしめるために・・・



そして、私自身を変えてしまった。






織斑千冬の仮面





最愛の弟を守るため、私は強くなろうとした。

皆が仕事や恋に励んでいる中、私はISを身にまとい戦った。

「これは、弟を守るために必要な力だ。弟は誰にも渡さない。」

そう思い、強くなっていった。

ブリュンヒルデの称号を貰っても、私は強くなろうとしていた。

その時だったか・・・私は一人の女性と会った。

その女性は日本代表候補生で、なぜか私に対して強い憧れを持っていた。



おまけに私より胸がデカいときてる。



だが、馬が合ったのか私はその女性と仲良くなった。

最初は、私がISの訓練に付き合っていたが、徐々に彼女が私のIS訓練に付き合っていた。

彼女は、私の猛撃に倒されながらもひたすら立ち上がって、訓練に付き合ってくれた。



だけど、本当は付き合いたくなかった。

なぜなら、私の仮面にヒビをいれてくるからだ。

まっすぐひたむきに、頑張る姿は私にとって苦痛でしかなかった。

あそこまでの情熱や思いを乗せたことなど無いからだ。

訓練を終えるたび、彼女は私に訓練の評価を求めてくる。



やめろ・・・その純粋な笑顔を私に向けるな!

やめろ・・・やめてくれ!

私は・・・強くならなければならないんだ!



だが・・・現実は私を見放した。



第二回モンド・グロッソ決勝戦当日であった。

弟が誘拐されたのだ。

ドイツ軍の協力もあり、命に別状はなかったが、私は己の弱さを呪った。

何が世界一だ・・・何が最強だ・・・

弟一人守れずに、何が国家代表だ!



その後、ドイツで一年間教官を務めなければならない時、私は弟を彼女に預けた。

本当は弟に会わせる顔が見つからなかったからだ。

そして、私は弟から逃げるようにドイツへ向かった。

だが、毎晩弟が夢に出てくるのであった。

私は嫌だった。弟を救えなかったのに、弟を置いてドイツへ逃げてきたのに、なぜ、弟が夢に出てくるんだ。



弟はあの女性と仲良く暮らせばいい。

私の存在を忘れろ!



そのため現実逃避なのか、私は部隊の落ちこぼれを集中的に指導した。

その落ちこぼれは見る見るうちに強くなり、部隊長にまで帰り咲いたのであった。

その部隊長は私を見るたびに笑顔でやって来たが、私の心は暗かった。

弟の事が頭から離れない・・・



その後、私はいろんなことを試した。

剣道を極めたり・・・

ある拳法を習得したり・・・

SHINOBIの道を歩んだり・・・

酒を使って逃げることも試みた。



それでも、私の心から弟が消えることは無かった。



そして、一年が過ぎて私は日本へ帰る事となった。

本当は帰りたくなかった。だけど、そう思う心とは逆に体が家へ一歩ずつ向かって行った。



やめろ・・・私を弟に会わせるな!



しかし気付いたら、私は家のドアを開けていた。

そこには、弟と弟を預けていた女性がいた。

私は、いつものように仮面を付け二人と接していた。

だが・・・



「どうして、一人で全部背負うんだ?」



弟に見抜かれていた。私が仮面を付け、今まで接してたことを・・・

情けない話だ。この私が弟に自分の弱さを隠していたことを見抜かれたなんて。

その後、いつの間にか私は弟と女性にすべてを話していた。



白騎士事件の真相・・・

織斑マドカの存在・・・

そして、自分の本心・・・



これ以上失うものなど何もない。私は、己の命を捨てる事だって・・・



「これからも、一緒に家族としていよう!マドカも迎えて!」



何を言ってるんだ?

私が一体何をしたのか分かって言ってるのか!?

あいつの口車に乗って、テロをやったんだぞ!

テロリストなんだぞ!?






「俺にとって千冬姉は自慢の姉で、たった一人の家族なんだ。だから、見放したりしないよ」






私の仮面は・・・壊れた。



「い・・・一夏ぁ!」



私は一夏に抱き着き、大声で泣いた。

情けない程、大声で・・・



今なら素直な気持ちで言える。

私はISなんか乗りたくなかった。一夏と一緒に普通に暮らしたかった。

それができなくなって、それがつらくて私は逃げてたんだ・・・

だけど、一夏はそんな私を温かく迎えてくれた。

嬉しい・・・それだけでも私は嬉しい・・・姉として幸せ者だ。






それから、私はIS学園の教師として生きているが、それは逃げの手段として使ってはいない。

自らの犯した過ちを背負い、一夏の幸せのために、私は教師という道を選んだ。

例え、それが自己満足であろうと私は逃げない。



何故なら、ブリュンヒルデの織斑千冬でも白騎士の織斑千冬でもない。

私は・・・






織斑一夏の姉、「織斑千冬」として生きているからだ。


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第8話

今回は、チャイナさん登場回です。

エロい描写が上手く書けない・・・

甘々は何とか書けるのに・・・


温泉旅行の事件から、真耶にちょっとした変化が見られた。

 

真耶が積極的にスキンシップをしてくる。

 

前までは俺が主導権を握っていたが、今では真耶が主導権を掌握している状態である。

 

まあ、真耶が俺を気持ちよくさせようと頑張ってる姿を見れるのは、目の保養になるからいいけど、ちょっとやり過ぎではないかと思う。

 

俺に抱きつくのはいつもの事だけど、部屋にいるときはずっと離れない。

 

マッサージと称して、俺の体の隅々まで触ったり、胸でマッサージしたり、全身リップでのマッサージをする。

 

キスでさえ、俺の上唇と下唇や舌に時間を掛けてむしゃぶり、千冬姉に成敗された事もある。

 

真耶が積極的になった原因は箒とセシリアの存在なんだろうな。

 

あの二人に危機感を感じて積極的にスキンシップをするんだけど、心配し過ぎかな。

 

 

 

「真耶」

 

「何、一夏君」

 

「俺は真耶以外の女には目移りはしないから、心配しないで」

 

「でも・・・」

 

「何があっても俺は真耶の側にいるし、真耶を守るから大丈夫だよ」

 

そんな事を朝に言ったけど・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐ、クラス対抗戦だね」

 

「そうだ。二組のクラス代表が変わったて、聞いてる?」

 

「ああ、何とかって言う転校生に変わったよね」

 

「転校生?今の時期に?」

 

「うん。中国から来た娘だって」

 

「どんな奴なんだろ?強いのかな?」

 

俺はクラスメイト達と二組の転校生の事について話していた。

 

そういえば、箒とセシリアはどうしたんだ?

 

「今のところ、専用機を持ってるのは一組と四組だけだから、余裕だよ」

 

「その情報、古いよ」

 

ん・・・この声は・・・

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

小柄な体型、そのツインテール、もしかして・・・

 

「鈴・・・?お前、鈴なのか?」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ!」

 

 

 

・・・朝から不安だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みの食堂、俺は鈴と一緒に昼食を食べていた。

 

「びっくりしたぜ。お前が二組の転校生だったなんて。連絡とかくれれば良かったのに」

 

「そんな事したら、劇的な再会が台無しになるでしょ?」

 

 

 

凰鈴音

 

箒と入れ違う形で転校してきて、中学時代には、よく喧嘩の仲裁に入って俺の喧嘩を止めに入って来たセカンド幼馴染だ。

 

鈴がいなかったら少年院にいてもおかしくない事をやってたからな。

 

だけど・・・

 

 

 

 

 

 

「あんたがISを動かしたって聞いた時は、ビックリしたわよ」

 

「あ、ああ・・・」

 

「どうしたのよ?いつもみたいに『大した事じゃない・・・』って言わないなんて」

 

「いや、鈴が転校してから俺も色々と変わったからさ」

 

「ふーん。まっ、喧嘩をしなくなって良かったけど」

 

 

 

 

 

 

 

実の事を言うと、俺は鈴も苦手なのである。

 

喧嘩の仲裁に入って来たりと、何かとお世話になったけど・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、アタシがいないと何をするのか分からないから、授業以外はアタシと一緒にいること。寮の部屋もアタシと一緒にいること。分かった?」

 

「いや、寮の部屋は流石に・・・」

 

「アタシがいないと色々と問題を起こすから、部屋も一緒じゃないとダメ。後、拒否する権利はないから」

 

 

 

ストーカーよりタチが悪い所があるから困る。

 

 

 

けど、中学時代はこれでやっと了承していたからな。鈴から見れば俺はまだ、中学時代と変わってない部分が多く残ってると思ってるんだ。ここは、俺が変わった事を話さないとな。

 

「鈴、俺は・・・」

 

「一夏!言い訳して逃げない!」

 

「え!?いや、俺はただ・・・」

 

「そうやって、話を逸らして本当の事を言わないんだから!」

 

「だから、そうじゃなくて・・・」

 

「あんたは、アタシと一緒にいなさい!あんたが安心して学園生活を送るには、それしかないの!」

 

「俺の話を・・・」

 

「拒否する権利は無いからね!放課後、荷物の準備をしといてね!」

 

 

 

そう言って、鈴は颯爽と食堂を後にした。

 

 

 

はっきり言うと、中学の時より悪化してる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事があったの・・・」

 

「大丈夫だよ真耶。俺は真耶の側から離れないから、ね?」

 

放課後になって、俺は部屋で食堂での出来事を真耶に話してた。

 

「真耶、心配しなくていいよ」

 

「でも・・・」

 

「俺が真耶と付き合ってるって鈴に言えば、納得してくれると思うから」

 

「え!?そんな事言ったら学園中に・・・」

 

「知れ渡って問題になる。でも、俺は隠し事なんて出来ないよ。それに今朝言ったでしょ。何があっても真耶を守るって」

 

そう言い、俺は真耶を優しく抱いた。

 

「俺は昔のように真耶を置いてったりはしない。俺は真耶と一緒にこれからの人生を歩んで行きたいんだ」

 

「それって・・・」

 

「俺も真耶と同じ気持ちなんだ。だから、暗い顔をしないで」

 

「・・・一夏君」

 

「何?」

 

「その気持ち、学園を卒業したら伝えてくれない?」

 

「分かった」

 

その後、俺と真耶はそのまま強く抱きしめあった。

 

 

 

俺は真耶が好きだ。

 

 

 

それを鈴に伝えればいいだけなんだ。

 

その決意を試すのが如く、ドアのノック音が部屋に響き渡った。

 

俺は真耶から離れた直後にドアが開いた。

 

「一夏、準備できた?」

 

鈴だ。ボストンバッグを片手に俺の部屋に入って来た。

 

「鈴・・・」

 

「全然準備してないじゃん。しょうがない、アタシも手伝うから・・・」

 

「その前に話があるんだ」

 

「なに?」

 

話すか、鈴が転校した後のことを

 

「鈴、俺が中学の時、千冬姉の知り合いに預けられてたのは、知ってるよな?」

 

「うん」

 

「俺はその知り合いから・・・」

 

「一夏、要点だけを言ってくれない?」

 

「分かった。鈴、俺は昔の俺じゃない」

 

「どう違うのよ?」

 

「俺に恋人ができた」

 

「誰よ?」

 

「隣にいる」

 

そう言い、俺は鈴に彼女を紹介した。

 

「山田真耶です・・・えっと、一夏君の・・・」

 

「それで、私に何が言いたいの?まさか、真耶と同室だから私の頼みは聞けないって?」

 

「ああ」

 

真耶の言葉を遮られたが、俺と真耶は恋人同士なのは鈴に伝えた。鈴、俺はあの時の俺じゃないんだ。

 

「鈴、俺はお前がいなくても大丈夫だ」

 

「一夏・・・・・・あんた変わったね」

 

「鈴達のおかげだよ。だから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「息をするように嘘を言うなんて!」

 

「・・・え?」

 

 

 

なんでそうなるんだ!

 

 

 

「なんで、俺が嘘を言わなくちゃいけないんだ!」

 

「決まってるでしょ!アタシと一緒にいるのが恥ずかしいからでしょ!」

 

「はあ?」

 

「そんな嘘を言ったて、この凰鈴音には全てお見通しよ!」

 

全然、見通せて無い!どうすれば・・・あ!

 

「という事で、一夏はアタシと一緒にいる事。いい?」

 

「鈴、寮長にはこの事は話してるのか?」

 

「全然」

 

「だったら、寮長と話して承諾を貰ったら一緒に行くよ」

 

ここの寮長は千冬姉だから、承諾なんて早々・・・

 

「そんなの関係ないわ!逃げようとしたってそういかないわ!」

 

関係あるだろぉぉぉ!

 

「鈴、ここの寮長は千冬姉なんだぞ。お前だって千冬姉が・・・」

 

「そうやって、逃げても無駄よ!さ、荷物の整理が終わったから行くわよ!」

 

そう言って、ボストンバッグと俺の荷物を片手に持って・・・

 

「って鈴!いつの間に俺の荷物をまとめたんだ!?」

 

「あんたの事を思えば、お茶の子さいさいよ!」

 

箒と違って実力行使でやり通すのかよ。てか、一年間何をすれば、それができるんだ!

 

「俺は行かないからな!だから荷物を・・・」

 

「あんたに拒否する権利は無いの!」

 

そう言って、鈴はISを部分展開して俺の右腕を掴んだ。

 

「さあ、行こう一夏」

 

「鈴、離せよ!」

 

「アタシがいないと、何をしでかすか分からないでしょ!」

 

お前の考えが分からないよ!てか、右腕が痛い!

 

「山田先生、一夏の教育はアタシがしますので、どうかお仕事頑張ってください!」

 

「おい、鈴!勝手に話を進めるな!」

 

「あ、あの・・・織斑君が嫌がって・・・」

 

「大丈夫です。なのでお仕事の方、頑張ってください!」

 

大丈夫じゃなーい!後、右腕離せ!骨にヒビが入る!

 

「それに約束したでしょ。毎日酢豚を食べさせてあげるって!」

 

「俺、断ったぞ!」

 

「あんたに拒否する権利はないの!」

 

誰か!この人を中国に送還して!

 

「織斑君の意見を・・・無視するのは・・・」

 

「問題ありません!これ以上、先生の迷惑を掛けたら・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様が一番迷惑を掛けてる事に気付かないのか?」

 

 

 

このドスの効いた声は・・・

 

「え・・・千冬・・・さん」

 

鈴のISが解除され、俺の右腕は解放された。

 

「・・・・・・」

 

あ・・・これは合掌しなければ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドーモ、リンイン=サン、オリムラチフユです。」

 

「・・・・・・へ?」

 

その後、鈴はハイクを詠むこと無く、オタッシャ一歩手前まで成敗された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言い忘れてたが、ここでは私がルールだ。勝手な真似は許さん」

 

「アイエェェェ・・・」

 

もう鈴がいろんな意味で原型を留めていない。

 

「一夏、この女は私が責任を持って三途の川へ送らせる」

 

殺しちゃダメでしょ・・・

 

「後は、クラス代表戦まで何の問題も起こらなければいいが」

 

起こらなかったら奇跡だと思う。

 

「もうすぐ消灯時間だ。早く寝ろ」

 

「千冬姉、箒とセシリアはどうしたんだ?見かけないんだか・・・」

 

「あの二人は原因不明の体調不良で欠席だ」

 

その原因が目の前にいるんだが・・・

 

「とにかく寝ろ、それだけだ」

 

そう言い、ボストンバッグといろんな意味で原型を留めていない鈴を引きずりながら、千冬姉は部屋を去って行った。

 

「ふう、なんで俺の幼馴染は一癖二癖もあるんだ?」

 

そんな疑問が浮かぶ中、真耶が心配そうに俺の右腕を見ていた。

 

「一夏君、右腕・・・大丈夫?」

 

「大丈夫だよ、だから心配しなくて・・・」

 

「一夏君、隠し事は出来ないって言ったでしょ?」

 

「あ・・・」

 

真耶に隠し事は出来ないな。

 

「見せてくれない、右腕」

 

真耶の言われた通りに、右腕の袖をまくった。そこには、鈴のISの手の跡がくっきりと浮かんでいた。

 

「ひどい・・・直ぐに手当てをしないと」

 

「大丈夫だよ。これぐらい自分一人で出来るから」

 

「ダメ!私がちゃんと手当てするから、そこに座って」

 

「あ、ああ・・・」

 

俺は真耶の言う通りにベットに座り、真耶の手当てを受けた。

 

「・・・」

 

「どうしたの、一夏君?」

 

「いや、どうして鈴の命令は聞かないのに、真耶の命令には聞けるんだろうって思っただけ」

 

そう言った途端、真耶は頬を膨らませ視線を逸らした。

 

「一夏君、私の手当ては命令だから受けてるの?ヒドイ・・・」

 

「い、いや!そういう意味じゃ・・・痛っ!」

 

突然、右腕に言葉にならない激痛が走る。

 

「大丈夫!?」

 

「い・・・てぇ・・・」

 

鈴、お前どんだけの力で俺の腕を掴んだんだ。

 

「大丈夫、一夏君!」

 

「真耶・・・その・・・そばに・・・いてくれないか?」

 

真耶は俺の右腕を優しく摩りながら、俺から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

「真耶、頼みたいことがあるんだ」

 

「なに?」

「何か命令してくれないか?」

 

「え!?」

 

「真耶の命令の一つや二つは聞いてもいいかなって」

 

本当は、どんな感じで命令するんだろうという好奇心で聞いただけなんだけどね。

 

「じゃあ・・・」

 

何か決めたのか、突然俺に指をさした。

 

「一夏君、明日は授業以外私と一緒にいる事。いい?」

 

鈴とは違って、凄く優しくて、嬉しい命令だなぁ。断るとどんな反応をするんだろう?

 

「真耶、その命令は流石にやり過ぎじゃ・・・」

 

「これは命令です。命令違反は、めっ!」

 

そう言い、真耶は笑顔で俺の唇を指で軽く押した。

 

 

 

・・・真耶の命令なら受け入れても大丈夫だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、二人とも明日は大人しく学園生活を送れ。これは命令だ・・・」

 

 

 

「「・・・はい」」

 

千冬姉の命令には絶対服従だ・・・




次回は真耶と、クラス対抗戦に向けての特訓回の予定です。

そんなの原作にないって?

作者の戦闘描写特訓です・・・

ですが、甘々にするつもりです。

エロくできたら、したいです。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第9話

特訓回なのに、戦闘描写が少ない・・・

どうすんだよ・・・


早朝。

 

俺は今、誰もいない第一アリーナのフィールドで白式を装着して、真耶が来るのを待っている。クラス対抗戦に向けての特訓だ。

 

内容は、真耶と戦って俺の弱点を見つけ、そこを重点的に行い克服するという物。クラス代表戦からISの戦闘はご無沙汰だし、右腕も完治してるから、今回の特訓で勘を取り戻さなきゃ。

 

そういえば、真耶の腕前ってどれくらい何だろう?

 

千冬姉曰く、『元代表候補生だが、今の山田君はロシア代表を打ち負かす実力を持っている』って豪語してたから、かなりの実力なんだろうなぁ。

 

俺も気合いを入れて頑張らないとな。

 

俺は雪片弐型で素振りをしながら、真耶が来るのを待っていた。

 

それにしても、箒達がいないから気持ちが楽だな。いたらいたで、マトモに特訓なんてできないからな。

 

 

 

 

 

 

箒達がいないって分かると、なんだかいつも以上に力が湧いてくる。

 

 

 

そう気合いを入れてると、ハイパーセンサーがISの接近を知らせた。

 

「一夏君、待たせてゴメンね」

 

ラファールを纏った真耶がやって来た。

 

「いえ、こっちも来たばっかりなので大丈夫です」

 

それにしても真耶のISスーツ姿は、直視できない。

 

何度も真耶の体を視てるのに、ISスーツ姿はまともに視れない。ISスーツは、女性の魅力を増幅させる機能が備わってるのか!

 

「一夏君、大丈夫?顔が赤いよ?」

 

いかん!折角、真耶が俺の為に特訓をしてくれるんだ。煩悩を捨て去るんだ、俺!

 

「いや、真耶のISスーツ姿が豊麗過ぎて・・・」

 

何言ってるんだぁぁぁ!

 

「一夏君の・・・エッチ」

 

真耶が顔を赤くしながら、自分の体を抱き締めた。やめて、真耶。自分のプロポーションを一層引き立ててるから。

 

「それほど真耶は綺麗って事なんだよ!」

 

何とかフォローをしてみたけれど、それでも真耶の顔は赤かった。

 

「一夏君、私の体じゃなくて私を愛してるんじゃなかったの?」

 

「ああ。俺は真耶を愛してる!」

 

「証拠は?」

 

そう言い、顔を赤くしながら上目遣いで俺を見つめてくる。そういえば、久しくやってなかったな、アレ。

 

「証拠ならあるよ」

 

俺は顔を引き締め真耶の所に近づき、抱き寄せた。

 

「一夏君・・・」

 

何をするのか分かった真耶は目を瞑り、俺に全てを委ねた。

 

「真耶・・・」

 

豊満で程よい弾力を体で感じながら、俺は美しく艶のある真耶の唇に吸い寄せられるかのように唇を・・・

 

 

 

『お前達、アリーナでそんな事をやるなら箒達を呼ぶぞ』

 

 

 

重ね合わせなかった。

 

千冬姉ェ・・・管制室から見てたのかよ。

 

 

 

「そ、それじゃあ、クラス対抗戦に向けての特訓を始めます」

 

気を取り直して、俺と真耶の模擬戦を始めたんだが・・・

 

 

 

「はっ!」

 

「くっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦というレベルじゃなかった。

 

俺の行動パターンを熟知しているのか、突撃しようとする度に狙撃され、回避をしても一瞬の隙を突かれ狙撃され、高速で不規則な動きをしても狙撃される。

 

 

 

しかも、スコープを覗かずに・・・

 

 

 

俺が戦ってるのは、真耶じゃなくてシモ・ヘイへだっけ?

 

 

 

 

 

 

「くっ!どうすれば・・・」

 

 

 

このままじゃ埒があかない。こうなったら・・・零落白夜で勝負にでる!

 

俺は零落白夜を発動させ、真耶に突撃を試みる。

 

真耶は動きを止めようと狙撃をしたが、俺は迫り来る弾丸を全て切り払い、真耶の懐に入り込んだ。

 

「うおおおぉぉぉぉぉ!」

 

俺は斬りかかろうとしたが、真耶の顔は落ち着いていた。いや、まるで待っていたと言わんばかりの表情だった。

 

「はあっ!」

 

「なっ!?」

 

俺は衝撃の光景を見た。

 

 

 

 

 

 

物理シールドで、真剣白刃取りをやったのだ。

 

 

 

 

 

 

零落白夜は、自身のシールドエネルギーを削り、相手のエネルギー性質の物を無効化し直接ダメージを与える事ができる白式最大の攻撃能力。

 

逆に言えば、エネルギー性質の無い物体に対しては、燃費の悪い刀で斬りかかってるに過ぎない。

 

しかも、零落白夜以外の攻撃手段を持っていない。それさえ攻略できれば、白式の攻撃手段は・・・無い。

 

真耶は俺が零落白夜を使うのを待ってたのか。

 

 

 

早く離れないと!って・・・物理シールドから雪片弐型が抜けない!

 

 

 

「これで終わりです!」

 

両手がガラ空きの真耶は、俺の体にありったけの弾丸を撃ち込んだ。

 

 

 

だからと言って、両手持ちでハンドガンをマシンガンの様に連射しないで。痛いから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛え・・・」

 

「一夏君、怪我はない?」

 

「大丈夫だけど、まさか零落白夜を真剣白刃取りされたのは、驚いたよ」

 

フィールドの中央で俺は、真耶に膝枕をされながら今回の戦闘の総評をしていた。結果は言うまでもなく、俺の完敗だ。

 

「前に織斑先生の練習に付き合った時に使った技ですけど、その時はすぐに破られちゃいました」

 

千冬姉の特訓を耐え抜いてる時点で凄いよ、真耶。

 

「一夏君は零落白夜に頼り過ぎている部分があるから、雪片弐型での戦い方を研究すべきだと思うよ」

 

「具体的には?」

 

「零落白夜で突撃した際に私の撃った弾を切り払ったでしょ。それをいつでもできる様にする事と、零落白夜の時間を減らす」

 

「零落白夜の時間?」

 

「はい。一夏君は、零落白夜を発動させて行動するから、反撃のチャンスを与えますし、その分のシールドエネルギーを消費するから、斬りかかる直前に発動させるのが理想的かな」

 

「つまり、居合いの要領で零落白夜を使った方が良いと?」

 

「はい。あとはそれを悟られない様に立ち回る必要があります」

 

「そうか、じゃあ・・・」

 

俺は起き上がり、特訓を始めようとしたが・・・

 

「一夏君。そろそろ朝食の時間だから、特訓の続きは放課後にしましょう」

 

「ああ、分かった」

 

管制室に千冬姉がいない事を確認してから、俺は真耶と一瞬にアリーナのピットに戻った。

 

 

 

 

 

 

その後、更衣室で真耶とイチャついてた所を千冬姉に成敗された。

 

千冬姉、「ストームキック」と「ライジングスマッシュ」と「サンダーボルトスクリュー」の違いが分からない。後、天空宙心拳って何?

 

 

 

そんな疑問を持ったまま、放課後を迎えアリーナのフィールドにいるんだが・・・

 

 

 

 

 

 

「二人とも、なんでいるんだ?」

 

「なんでとは何だ!お前の特訓相手をすると言ってるんだ、一夏!」

 

「そうですわ!射撃と格闘、両方の猛撃を耐え抜ける力と技術を持つ事が、クラス対抗戦優勝の近道なのです一夏さん!」

 

それも必要だけど、何で打鉄を纏った箒と、ブルーティアーズを纏ったセシリアがここにいるんだ?

 

「それに今朝は、私達に隠れて山田先生といかがわしい特訓をしたと言うではないか!」

 

「クラス対抗戦に向けての特訓をしてたんだが・・・」

 

「知っていますのよ!山田先生と淫らな特訓をして、織斑先生に迷惑をかけた事を!」

 

迷惑をかけてるのは、二人だから。

 

「という訳で、今日の特訓は私とセシリアの二人で行う」

 

「ちょっと待って!山田先生はどうなるんだ!?」

 

「山田先生は、急用で特訓に参加できないと仰ってましたわ」

 

絶対、この二人が絡んでるだろ!

 

「さあ来い、一夏!今のお前など恐るるに足らず!」

 

「一夏さん、お覚悟を!」

 

仕方がない。俺の実力がどれ位なのか知りたいし、二人の特訓に付き合うか。

 

「ああ、本気で行かせてもらうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬姉が前に言ってたな。邪念が入ってると、人は本来の力を発揮できないって・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ・・・一夏に勝てないんだ・・・」

 

「1分も経たずに・・・ブルーティアーズ六基を落とされるなんて・・・」

 

 

 

二人はぐったりと倒れていた。

 

はっきり言うなら、二人は邪念を隠す気が全く無かった。

 

箒は俺に一直線に突っ込んで来るし、セシリアは箒の事などお構いなしに攻撃してくるし、連携をとる気配が全くない。

 

「二人は、周りをよく見渡してないからだよ。だから衝突したり、連携が上手く取れなかったりするんだよ」

 

無難なアドバイスを言ったけど、それ以前の問題だ・・・。

 

 

 

「い・・・織斑君、遅くなってゴメンなさい」

 

声がする方を向いたら、そこには・・・

 

「ま・・・山田先生と、織斑先生?」

 

何で千冬姉がいるんだ。二人は特に悪い事なんかしてないけどな。

 

「織斑、今日の特訓はここまでだ」

 

「え?どうして」

 

「実は、アリーナの整備がこれから始まるので、生徒の皆さんは退場しなければいけないんです」

 

真耶は申し訳なさそうに言ってたが、とんでもない。真耶は教師としての責務に勤めてるから、そんな暗い顔をしないで。

 

「織斑、お前は先に部屋に戻れ。私はこの二人に用がある」

 

「用って?」

 

「二人が寝てる間に授業は進んでるからな、その補習を行う」

 

二人に合掌しないと。後、二人に言わなければならない事があった。

 

「ちふ・・・織斑先生、二人に言っておかなければ・・・」

 

「安心しろ織斑。その事についても、ちゃんと話しておく。だからお前は部屋に戻れ」

 

なんで考えてる事が分かるんだ!?

 

「家族だから当然だろう」

 

普通できないから!

 

 

 

 

 

更衣室に戻り、俺は制服に着替えようとしていた。時刻は6時を迎えようとしていた。

 

それにしても、二人は今頃どうしてるんだ?阿鼻叫喚でもしてるのかな?

 

そんな事を考えてる内に一人の生徒が俺に近づいてきた。

 

「鈴・・・」

 

「その・・・右腕大丈夫?」

 

いつもと違って鈴の顔は暗かった。あの時、自分が何をしたのか理解している様子だった。

 

「右腕は治ったから大丈夫だよ」

 

「そっか・・・」

 

そう言い、鈴は視線を逸らしながら、スポーツドリンクを俺に渡した。

 

「その・・・あの時、ひどい事したからさ。お詫びを・・・」

 

なんだ。鈴の素直な所は、中学から変わってなかった。

 

「鈴、大丈夫だよ。俺は怒ってないから」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

俺は鈴から貰ったスポーツドリンクを飲んだ。少し変な味がしたけど、スポーツドリンクの味ってこんなもんだろ。

 

「あのさ、一夏」

 

「なんだ?」

 

鈴は急に顔を俯かせた。

 

「その、山田先生の・・・どこが気に入ったの?」

 

鈴・・・覚悟を決めたのか。

 

「優しさかな。でも、ただ優しいだけじゃなく、誰かが困っていたら、絶対に助けに行って真摯に悩みを聞いて、思いを受け止めて、初めから拒絶しない、そういう心の優しさに惹かれたかな」

 

実際俺は、その優しさに救われたからな。

 

「そう・・・」

 

鈴、辛そうだな。

 

「でも、アタシがいないとダメだね」

 

・・・え?

 

「だって、いざという時に慌てていたら、好きな人なんか守れないじゃん!」

 

ま、まあ・・・言ってる事は・・・間違っていない・・・けど・・・あれ?

 

「だから、アタシが一緒にいるから。ずっと、何があっても」

 

「鈴・・・もしかして・・・」

 

「ええ!・・・飲み物に・・・入れた・・・だって・・・・・・」

 

駄目だ・・・意識が・・・遠く・・・な・・・る・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い・・・ん・・・か・・・て」

 

 

 

どこか・・・聞き覚えの・・・ある声が・・・

 

 

 

「いち・・・しっか・・・て!」

 

 

 

ここは・・・

 

 

 

「一夏君、しっかりして!」

 

「・・・真耶?」

 

「良かった!無事で!」

 

真耶が涙目のまま、俺を抱きしめた。しかもここは、俺と真耶の部屋だ。しかも部屋着だ。おまけに時刻は7時を指していた。どうして・・・

 

「気が付いたか」

 

「千冬姉、俺は確か・・・」

 

「お前は、薬を盛った飲み物を飲んで眠っていたんだ」

 

「・・・そうだった。ところで鈴は?」

 

「サイクロンドライバーで、クラス対抗戦までは眠るようにしといた」

 

鈴の行いも問題あるけど、千冬姉のも問題あるよ。後、サイクロンドライバーって何?

 

「因みに箒とセシリアには、お前と山田君が付き合ってる事を話したら、寝取ると宣言したぞ」

 

馬鹿だろ、あの二人・・・

 

「取り敢えず今日は、山田先生の指示のもと一日を過ごせ」

 

「一夏君、何か食べたい物とかある?」

 

頭が少し、ぼんやりするな・・・

 

 

 

 

 

 

「真耶の・・・・・・胸」

 

 

 

 

 

 

その瞬間、俺の頭が鮮明になった。冷や汗が止まらず、胸の高まりが悪い意味で収まらない。

 

千冬姉の方を見たら、顔は笑ってるけど目が笑ってない。

 

 

 

 

 

 

・・・ハイクを詠まなきゃ。

 

 

 

 

 

 

「織斑先生、少しお話があります」

 

突然、真耶が千冬姉を連れて部屋の外に出て行った。

 

何をするんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後、真耶だけが戻って来た。

 

 

 

「真耶、何をしたの?」

 

「織斑先生と交渉して、さっきの要求を認めさせました」

 

「さっきの要求って・・・」

 

「私の胸・・・食べていいよ」

 

真耶は俺の目の前で、二つの豊満な巨峰をさらけ出した。

 

「ま、待って真耶!あ、あれは、ぼんやりとしてたから!だから・・・」

 

俺は慌てて、真耶に要求の訂正をしようとしたが・・・

 

「一夏君、もしかして・・・いらないの?」

 

真耶、そんな上目遣いで見つめないで・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・いただきます」

 

「召し上がれ」

 

 

 

真耶・・・なんて優しいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某所

 

「これを投入すれば、いっくんの実力が分かると・・・」

 

そこには、ISらしき物と女がいた。

 

「でも、マドカちゃんとちーちゃん、最近束さんに冷たいなぁ」

 

その女は、デスクに座りながら何かの作業をしていた。

 

「それに・・・」

 

女は、ディスプレイに映っている女性を凝視していた。

 

「この女、邪魔だな」

 

冷たい口調で呟きながら、何者かにメールを送信し、立ち上がった。

 

「いっくんには、箒ちゃんだけいればいいんだ。あの女は、さっさとこの世界から消さないとね」

 

その笑みは、まるで自分の世界こそが全て思わんばかりに歪んだ笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

「待っててね箒ちゃん。この束さんが、いっくんのおじゃま虫を退治してあげるからね」




次回は、クラス対抗戦の予定です。

戦闘描写は・・・善処します。

ご意見、ご感想、お待ちしております。






オマケ

※このお話は、織斑マドカ視点のお話です。このお話を読まなくても、次の話に支障はありませんが、キャラへの理解が深まる・・・はずです。





私の名は織斑マドカ。亡国企業のメンバーだ。私は今、大きな目標を持っている。その目標の為なら、組織から抜けても構わない。大きな目標、それは・・・



「おい、エム!聞いてるのか?」

「ダメよ、オータム。そんなに大声だしたら、エムが困るでしょ?」

「スコール、こいつに甘すぎるだろ!」

「そうかしら?」

「おい、エム!聞いてるのか!」

「黙れ、悪魔」

「んだとぉ!」

「二人とも、落ち着きなさい」






悪魔を全滅させ、世界を救うことだ。

あの会話のどこに、悪魔が潜んでいたのかって?

決まってる。スコールとオータムの・・・






胸だ。






あれは悪魔だ。男から見れば夢の塊というが、女から見ればあれは悪魔そのものだ。

あの悪魔が幾多の人々(胸がない人々)を(いろんな意味で)苦しめたと思う?

それは絶対の恐怖、想像を絶する苦痛しか残さない。

私は、その存在にいち早く察し、人々を救う為に私はある拳法を習得した。それを駆使し、私は幾多の人々を悪魔の手から守ってみせる!



「ちゃんと、予定通りに来たのね」

今私は、取り引きを行っている。

とは言っても、資金とブツの交換だ。

そんなことはどうでもいい。

私が気になるのは、交渉相手の胸だ。

黒髪て紫のドレスを着込んでいるが、

あの胸は・・・魔除けを施してるな。

魔除けとは胸パッドのことを指すが、悪魔の目を欺くには不十分だ。だが、今の技術ではこれ以上の魔除けは存在しない。



なんて酷い時代なんだ・・・



ん・・・いつの間にか交渉が終わってた。

さて、あとは悪魔が出しゃばらない事を祈るか・・・






「でも、今日でお別れよ」

スコール、まさか気づいたのか!?



「ど、どういうことよ!?」

「てめえは用無しなんだよ!」

オータム・・・貴様はそこまで胸無しを卑下するのか!



「エム、始末しなさい」



許さねぇ・・・胸無しを苦しめる、人の皮を被った悪魔め!



「おい、エム!」









「・・・てめえら!」

「「ん?」」









「てめえらの血は、何色だぁ!」















「エム、あなたはIS学園に行って織斑一夏を監視しなさい。天災も賛同してくれたから、明日から行きなさい」



私は間違ったとでも、言うのか。



「てめえ、何勝手に落ち込んでんだよ!」



いや、間違っていない・・・



「てめえ・・・」















「なんで、あたしとスコールを襲ったんだ!」

「悪魔退治だ」


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第10話

クラス対抗戦前編です。

それにしても仕事のストレスが凄い。

執筆のモチベーションを下げるとは・・・

更新が遅れた言い訳です・・・すいません。

モバゲーがISのソーシャルゲームを出しましたね。

真耶が使えないのは残念だが、簪が相変わらず可愛いです。



後、甘々はありません。粗雑な戦闘描写がメインです。


クラス対抗戦当日。

 

俺は一人、白式を装着しアリーナのピットで待機していた。

 

クラス代表戦以来か。あの時は真耶の事で自己嫌悪してたけど、今は真耶に感謝してる。

 

この日のために、僅かな時間を使って俺を鍛えてくれた事には感謝しきれないよ。

 

おかげで、前のように性能に頼った戦い方をしなくて済んだし、あとはこの対抗戦で全力を出すだけだ。

 

とは言っても、一回戦相手は鈴か・・・専用機持ちだから慢心してはダメだ!

 

 

 

 

 

 

『一夏君、大丈夫ですか?』

 

真耶からのプライベートチャンネルだ。

 

「真耶の特訓のおかげで大丈夫だよ」

 

『良かった』

 

音声しか流れてないけど、安心してるのが俺にも伝わってくる。

 

「それで、どうしたの真耶?」

 

『鈴音さんの専用機について、説明を』

 

「頼みます」

 

その直後、俺の目の前にISの基本情報の映像が流れた。

 

『はい。鈴音さんの専用機の名前は甲龍(シェンロン)。一夏君の白式と同じく、近接格闘型です。燃費と安定性を第一に中国が開発した第三世代ISで、武装は大型の青竜刀「双天牙月(そうてんがげつ)」と「龍咆(りゅうほう)」です。龍咆は、空間自体に・・・』

 

 

 

突然通信が途切れた。回線不良か?

 

『山田君・・・私はISの基本情報だけと言ったはずだ。誰が武装の説明をしろと言った?』

 

 

 

あ・・・SHINOBIの千冬姉だ。

 

 

 

『す、すみません。あ、頭が痛いので、離してください!い、痛いです!』

 

「千冬姉、離してくれないか?真耶だって悪気があってやったわけじゃないからさ?」

 

『織斑先生と山田先生だ。全く、公私混同してもらっては困るぞ』

 

『すみません・・・』

 

「・・・ゴメン」

 

『そろそろ時間だ、行け』

 

「わ、分かった」

 

千冬姉に叱咤され、俺は鈴の所へ飛び立った。

 

 

 

 

 

 

「待ってたわよ、一夏」

 

フィールド上空に佇む俺と鈴。観客席に座ってる生徒達はモニターに視線を集めてた。

 

 

 

「一夏、どうしてあたしと一緒にいたがらないの?」

 

こんな所でもそれを聞くのかよ。

 

「違うクラスだし、俺がいなくても学園生活に不自由しないだろ」

 

「あんたは不自由してるでしょ?」

 

「いや、寧ろ楽しんでるが」

 

「・・・どうしてアタシの前で嘘を言うのよ?」

 

「嘘なんて言ってない。クラスメイトと楽しく学園生活を過ごしてるぞ」

 

「はあ・・・私が中国に戻ってる間に、あんたが嘘つきに変わったなんて」

 

「いや、嘘は言ってないから」

 

「しょうがない。アタシがあんたの目を覚ますか」

 

俺の話を聞けぇ!

 

そうこう言ってるうちに試合開始のブザーが鳴った。

 

 

 

「これでも喰らいなさい!」

 

鈴は迷わず龍咆を撃った。

 

「うぐっ!」

 

弾が見えない!

 

「この甲龍を舐めると痛い目を見るわよ一夏!」

 

俺が体勢を整えてる間に鈴は双天牙月を持ち、俺に襲い掛かってきた。

 

「目を覚ましなさい!」

 

「覚めてるから!」

 

何とか雪片弐型で受け止めたけど、龍咆をどう攻略する?

 

弾が見えないから速さも大きさも、防げるかどうかも分からない。無闇に零落白夜を使う訳にはいかない。

 

懐に潜り込もうとしても、龍咆を攻略しない限り容易ではない。

 

どうやって・・・

 

「何ボサっとしてるのよ!」

 

俺を突き飛ばし龍咆を撃ったが、紙一重でなんとか避けた。アリーナのフィールドに激しい爆音を響かせた。

 

鈴は俺を殺す気なのか!?絶対防御があるけど、フィールドに大きな穴と煙を出してるほどの出力で・・・

 

 

 

煙・・・そうか!その手があったか!

 

 

 

俺は龍咆を攻略するためフィールドの地上に着いた。

 

「一夏、逃げるつもり?」

 

「逃げないさ。それに逃げてるのは鈴の方だ!」

 

「な!?」

 

ここは下手な挑発より本音を言った方がいいな。

 

「お前は自分にとっての『織斑一夏』を作ろうとする。意に反するなら実力で行使して俺を変えようとする。そんなお前は逃げてないって言うのか!」

 

「に、逃げていないわよ!ただ、あんたが問題を起こさないか心配だから・・・」

 

「なら何でもやって良いわけないだろ!」

 

「う・・・」

 

「俺は昔の俺じゃないんだ!」

 

「一夏・・・」

 

どうやら鈴にかなり効いた

 

 

 

「いつまで虚勢を張るのよ!」

 

 

 

・・・と思っていた。

 

「だから、アタシがいないとダメなのよ!」

 

俺に向かって龍咆を最大出力で撃ってきた。

 

これはチャンスだ!

 

俺はその場で雪片弐型を振り回し始めた。

 

「何のマネよ?」

 

「お前の龍咆を破るための準備さ!」

 

「破るって・・・はっ!」

 

鈴は気付いたようだ。

 

雪片弐型を振り回したときに起きた風で煙が俺の周辺に集まった。つまり・・・

 

「これで、龍咆の弾は見えるわけだ!」

 

単純な事だけど、なんでそれに気付かなかったんだ?

 

いや、今は鈴の相手に集中しなければ。

 

「まだ勝負はこれからよ!」

 

鈴は焦ったのか双天牙月を投げた。

 

「この瞬間を待ってたんだ!」

 

俺は鈴に向かって高速で懐に潜り込んだ。

 

「は、速い!?」

 

 

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

 

 

俺が真耶との特訓で覚えた技だ。

 

「はあぁぁぁ!」

 

俺は零落白夜を発動させ、鈴に斬りかかろうとした。

 

 

 

その時だった

 

 

 

突然アリーナの頂上から一筋の光が降ってきた。その光はフィールドにぶつかり爆発をした。

 

そして、爆発の中から現れたのは・・・

 

 

 

「何よ・・・あれ?」

 

「I・・・S・・・?」

 

 

 

ISの形をした何かが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私、山田真耶は焦っていた。

 

アリーナに突然乱入してきた謎のIS。アリーナのシステムハッキング。生徒の避難誘導。

 

様々な出来事に私は冷静に対処してきた。だけど・・・

 

 

 

『きゃあっ!』

 

『ぐあっ!』

 

 

 

モニターに映る謎のISに苦戦する二人。

 

私はここで観ることしかできないことに心を痛めてた。

 

私はただ観てるだけなの・・・違う・・・私は・・・助けに行かないと!

 

「どこへ行こうとする山田君?」

 

織斑先生の冷酷な視線が突き刺さる。

 

「二人を助けに行きます」

 

「その必要は無い」

 

「いえ、行きます!二人が苦しんでるのを見過ごすわけにはいきません!」

 

私が管制室から出て行こうとした時、織斑先生に腕を掴まれた。

 

「山田君、君は管制室にいるんだ。後の事は私に任せろ」

 

「ですが、このままでは・・・」

 

「一夏を愛してる気持ちはわかる。だが、君がやるべき事は一夏と共に戦うことでは無い。一夏を温かく迎える事だ」

 

「ですが!」

 

「それに、あの二人はまだ諦めてはいない」

 

「え?」

 

モニターに映ってたのは・・・

 

 

 

『鈴、龍咆で牽制を頼む!』

 

『分かったわ。ちゃんと決めてね!』

 

『ああ!』

 

 

 

慣れない連携プレイで諦めずに戦い続ける二人の姿だった。

 

「山田君、君は通信で二人の援護をするんだ。私は周辺に逃げ遅れた生徒がいないか確認をして来る」

 

「は、はい!」

 

「安心しろ。お前が一夏を強くさせたんだ。早々やられるわけがない」

 

そう言って、織斑先生は颯爽と管制室から去って行った。

 

「私・・・気持ちが先走っていたかも」

 

一夏君は負けたりしない。私の特訓を必死に受けてきたんだ。だから・・・

 

 

 

「負けないで・・・一夏君」




後編も頑張って投稿します。

ご意見、ご感想、お待ちしております。



お気に入り500件を突破しました。ありがとうございます!


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第11話

更新が遅れて申し訳ございません。

今回でクラス対抗戦は終了です。

前半はシリアスのはずです。

なので甘々が好きな方は我慢して読んでください。


俺、織斑一夏は鈴と共闘して謎のISと戦っているが・・・

 

 

 

「何なんだよあいつ・・・」

 

強すぎる・・・

 

攻撃しようとすれば即座に防がれ、カウンターを仕掛けようとすると潰される。

 

さらに両手の光学兵器と重厚な装甲から繰り出される格闘。

 

まるで機械のように俺たちの行動を読んで来る。

 

 

 

機械・・・?

 

 

 

「何なのよあいつ!」

 

「鈴・・・」

 

「何よ!」

 

「あれ・・・無人機じゃないか?」

 

「・・・え?」

 

唖然とした顔をするけど、確実に中の人が死んでもおかしくない動きや反応をしている。

 

「だって俺達が攻撃しないと相手側も・・・」

 

「あんた、こんな状況でも嘘を言えるなんて・・・」

 

「俺の話を聞け!」

 

これじゃまともに会話ができない。

 

『一夏君、聞こえる!』

 

この声は・・・真耶か!

 

「どうしたんですか!」

 

『謎のISですが、調べてみたところ無人機である事が分かりました』

 

「本当ですか!?」

 

『はい。行動パターン、反応速度、どれもが人間では操縦できない域に達しています』

 

「どうすればいい?」

 

『はい。謎のISは一夏君達の行動を見てから行動してますので、凰さんの龍咆で目を塞いだ瞬間に零落白夜で倒してください』

 

「分かった。ありがとう真耶!」

 

俺は通信を切って鈴に作戦の提案をする。

 

「鈴、通信聞いたか?」

 

「わ、分かってるわよ。龍咆で動きを止めればいいんでしょ!」

 

悔しそうに鈴は真耶の提案を受け入れてくれた。鈴、悔しがる余裕なんかないだろ。

 

 

 

作戦はこうだ。まず俺が敵の注意を一瞬引き付ける。その隙に鈴が龍咆で謎のISを足止めする。その瞬間に俺が零落白夜で倒す。他にも方法はあるだろうけど考える余裕が無い。おまけにシールドエネルギーは少ししかなく、チャンスは一回きり。

 

 

 

「この一回を無駄にはしない」

 

俺には真耶と千冬姉、クラスの皆がいる。

 

箒とセシリアは考えるとして。

 

俺は一人で戦っていないんだ。

 

「準備は良いか鈴?」

 

「OKよ!」

 

「よし、行くぞ!」

 

俺は地上で謎のISに接近し注意を引きつける。俺の予想通り、謎のISは俺に反応して攻撃を仕掛けようと腕を俺に向けた。謎のISの背後に鈴がいる事を確認した俺は合図を送った。

 

「鈴!」

 

「分かってるわよ!」

 

鈴は謎のISの足元に龍咆を撃ち込んだ。突然の爆発に謎のISの動きが止まり、鈴の方を向いた。

 

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

俺は瞬時加速(イグニッションブースト)で謎のISの懐に潜り込んだ。そして零落白夜を発動しようとしたが・・・

 

 

 

「ぐはっ!」

 

 

 

 

突然謎のISが消えた。それと同時に俺の脇腹に激痛が走った。

 

何が起こったのか分からなかったが、この作戦の欠点が分かった。

 

この作戦は、囮と錯乱が決め手となる。相手にしてみれば力を余計に使い、判断を遅らせ混乱させることができる。

 

 

 

相手が人間ならば・・・

 

 

 

謎のISは無人機、つまり機械である。力の加減も無ければ、混乱することも無い。

 

そう俺は・・・

 

謎のISの腕が鈴の方に向いてる時に零落白夜で斬りかかろうとした。だけど謎のISは回し蹴りで俺を蹴飛ばしたんだ。

 

だから突然消えたように見え、それと同時に脇腹に激痛が走ったのか・・・

 

 

 

でも理解した時には遅かった。さっきの回し蹴りが効いたのか激痛が走って思うように動けない。鈴も謎のISにやられ、フィールドの上で倒れたまま動かない。

 

「くそ・・・!」

 

謎のISは鈴の所へ歩み寄って来てる。

 

『一夏君!もうすぐ教員のISがアリーナに来るから、鈴音さんを連れて逃げて!』

 

そうか。なら鈴を連れて逃げないと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前、ブリュンヒルデの弟のくせに強くないんだな』

 

この声は・・・

 

『ブリュンヒルデの弟なら掛かって来いよ!』

 

中学の時に俺が喧嘩で初めて勝てなかった相手・・・

 

『お前は、ブリュンヒルデのダメなオマケだなぁ!』

 

違う、俺は一人で戦ってるんじゃない!

 

『どうした?その程度なのか、ブリュンヒルデの弟さんよぉ?』

 

違う!俺は・・・

 

『あ、そっか。お前はブリュンヒルデの弟じゃなかった。ブリュンヒルデの不純物だったな。あはは!』

 

俺は・・・!

 

『お前のお姉さんは可愛そうだな。こんな出来損ないの弟をもらってよぉ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はぁぁぁ!」

 

俺は脇腹の激痛など忘れ、謎のISに斬りかかった。

 

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

謎のISは俺の声に反応し、直ぐにカウンターの準備に入ろうとしたが、

 

「させるかぁぁぁ!」

 

俺は零落白夜で謎のISの右腕を切り落としたが、謎のISは動じることなく左腕で強力なボディーブローをかました。

 

「ぐはっ!このやろぉぉぉ!」

 

血を吐いたが問題ない。俺は相手の懐にまだいる。片腕を切り落とされ行動は制限されてる。後は・・・

 

「叩き切ってやる!」

 

俺は雪片弐型で謎のISを切り刻み始めた。相手もカウンターを入れて俺を突き飛ばしたが・・・

 

「俺は・・・俺は・・・強くなければならないんだぁ!」

 

そうだ、相手を完膚無きに倒せばいい。二度と立ち上がらず、這い上がらず、出しゃばらないように倒せばいい。

 

誰にもブリュンヒルデの弟なんか呼ばせない。俺は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『い・・・く・・・!いち・・・くん!一夏君!』

 

「・・・はっ!」

 

 

 

気付いた時には俺は満身創痍で倒れていた。スラスターは原形を留めてないほど壊れ、腕の装甲は剥がれ落ちて右腕の出血が止まらない。脚部もヒビだらけで立てるのがやっと。おまけに俺の足元は血でいっぱいだった。

 

「ぐっ・・・」

 

今更全身に激痛が走って体が動けない。謎のISはボロボロなのに止まる気配が無い。

 

『一夏君!逃げて!』

 

真耶が涙交じりで叫んでるけど駄目だ。体が動かない。とういうより体の感覚が無くなってる。

 

「真耶・・・」

 

『一夏君!?』

 

「俺・・・また力を求めてた。こんな求め方をしても・・・どうにもならないって分かってるのに」

 

『分かって・・・くれただけで・・・嬉しいよ・・・だから一夏君・・・鈴音さんと一緒に・・・逃げて・・・』

 

「真耶・・・」

 

真耶は泣くのを堪えて俺に撤退を呼びかけたけど、謎のISは俺に傷だらけの左腕を向けた。どうやら俺を撃つ準備ができたみたいだ。

 

「くそ・・・こんなところで・・・俺は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ていっ!」

 

突然の叫び声に謎のISがアリーナのモニター上部を見つめた。そこには打鉄を纏った人物が立っていた。分かってるあれは・・・

 

「行く手に危険が待ち受けようと、心に守るものあるならば・・・」

 

しかも、ギターとトランペットのメロディーが流れてるし・・・

 

「例え、己の命尽きるとも、体を張って守り通す」

 

謎のISはモニター上部にいる人物に照準を向けた。

 

「人、それを男と言う・・・!!」

 

何も言わないよ、千冬姉。

 

そして謎のISは千冬姉に向かって撃った。

 

「とあああっ!」

 

しかし、高らかにジャンプして避けた。

 

「バァァァストキック!」

 

飛び蹴りが命中して謎のISは吹き飛ばされたけど、技の名前を叫ぶ必要はあるのか?

 

「とおああーーっ!」

 

後、拳の連打を繰り出してるけど打鉄の拳が壊れるから。

 

「奥義を受けろ!ゴッドハンドスマッシュ!」

 

右腕で謎のISの体を貫通させるって・・・

 

「成敗!」

 

火花をまき散らしながら謎のISは爆発した。もう、千冬姉一人で学園の安全は守れるんじゃないか?

 

「大丈夫か、一夏?」

 

なんか安心・・・したら意識が・・・

 

「千冬姉・・・その・・・ご・・・め・・・」

 

俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここは?」

 

意識を取り戻した時、目の前には白い天井が広がっていた。純白のベッドが幾つも並んでいて、俺はここが病室だと理解した。右腕には輸血用の管が刺さっていた。左腕には・・・

 

「真耶・・・」

 

真耶が俺の左腕を握ったまま寝ていた。真耶の目元には涙の跡がうっすらとあった。

 

「真耶、ごめん。俺は真耶の約束を破ってまで戦いに挑んで、真耶を悲しませる様なことをして」

 

俺は真耶の手を解き、左手を見つめた。

 

「これじゃあ、鈴の事なんか言えないや。結局昔と・・・変わらないじゃないか」

 

「いや、お前は変わった」

 

「え?」

 

声がした方を向くと、誰かを担いでる千冬姉がいた。

 

「千冬姉・・・」

 

「お前は変わった。誰かを愛し、その者の為に戦いに臨んだ。昔のお前からは想像もできない変化だ。昔だったら、全てを守ると言い張って力を振り回していたからな」

 

「だけど・・・」

 

それでも俺は自分が許せない。自分の感情を抑える事も出来ずに、怒りに身をまかせて戦ったんだ。

 

「過ちに気づき、そして過ちを省みる事は、新しい地平を開く力になるだろう。だが、そのために失うものの重さを忘れるな」

 

千冬姉・・・

 

「人、それを『戒め』と言う・・・」

 

それを聞きたかった訳ではないんだが。

 

「ありがとう。少し気が楽になったよ」

 

「そうか。では、私はこの侵入者と戯れてくる」

 

その侵入者、千冬姉にそっくりな気がするんだが。

 

「あと、山田君にちゃんと謝るんだぞ。ずっと心ここに在らずの状態だったからな」

 

「分かった」

 

「では失礼する」

 

そう言って、千冬姉はその場から風の如く消えた。千冬姉、弟の前だからって人間離れした技を使わないくれ。

 

「んん・・・」

 

空気を読むように真耶が目覚めた。

 

「真耶」

 

「・・・」

 

真耶は何も言わず俺を抱きしめた。だけどその抱擁には、悲しみが籠っていた。

 

「私がちゃんとした作戦を立てれば・・・一夏君が大怪我しなくて済んだのに・・・ごめんね・・・私が・・・一夏君を・・・助けに行けば・・・うぅ・・・」

 

真耶は涙を流しながら、俺に謝っていた。

 

「謝らなくていいよ真耶。俺が悪いんだ。真耶の言う通りに鈴を連れて避難すれば、こんな事にはならなかったし。力の使い方を間違えたからこうなったんだ。自業自得だよ」

 

「違う・・・私が・・・私が一夏君を・・・助けに行けば・・・」

 

「いや、あの時真耶が助けに行っても、俺はなりふり構わず突撃していたよ。それに、俺は真耶に助けられたから大丈夫だよ」

 

「・・・え?」

 

「こうして俺の手に触れてるだけで心が落ち着くんだ。大したことじゃないと思うけど」

 

「ううん。それで落ち着くならずっと握ってあげるから」

 

真耶は俺の左手を指を絡めて優しく握ってくれた。心が落ち着く

 

「一夏君、怪我が治ったら一緒に映画館に行かない?」

 

「ああ。真耶のデートを断る理由なんてないさ」

 

「ありがとう」

 

「だから真耶。またISの練習してくれないか?過去に囚われずに強くなって、真耶を守りたいんだ」

 

「いいよ。でも、ちゃんと先生の言う事を聞いてね」

 

いつの間にか真耶の笑顔が戻り、俺は一安心した。

 

「あっ!もう夕食の時間だ。夕食持ってくるから待っててくれない?」

 

「ああ、待ってるよ」

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

そう言い真耶は夕食を取りに病室を後にした。

 

「そう言えば、鈴はどうなったんだ?」

 

左手を見つめながら、俺はセカンド幼馴染の安否を気にした。

 

「後で千冬姉に聞くか」

 

俺は真耶が夕食を持ってくるまで、窓の景色を見ることにした。

 

 

 

「一夏、夕食を持って来たぞ」

 

「一夏さん、夕食を持ってまいりました」

 

 

 

三秒で見終わるとは・・・

 

 

 

「箒、セシリア。どうしたんだ?今日は休んでいたんじゃないのか?」

 

「お前が大怪我を負ったんだ。体調不良など寝れば治る」

 

「そうですわ。一夏さんの看病と思えば、体調など問題ありません」

 

もう、鈴と違うベクトルでストーカーより性質が悪い。

 

「安心しろ一夏。あまり体の負担が掛からないメニューにしてあるから、心置きなく食べてくれ」

 

「一夏さん。ちゃんと私の夕食を食べてよく寝てください」

 

「山田先生が夕食を持ってくるから・・・」

 

「お前は山田先生以外の料理は食べれないと言うのか?」

 

「一夏さん。山田先生の夕食もいいですが、他の方の料理を食べないというのは失礼ではないのですか?」

 

「気持ちはありがたいけど・・・」

 

「なら食べろ。一応、量は少なめにしてある。食べても腹が減ったら山田先生の夕食を食べればいい」

 

「わたくしも、一口サイズにしてありますのでご安心を」

 

二人の食べたら、十分お腹いっぱいになる量だぞ。

 

「いや、山田先生が来てからでも・・・」

 

「一夏。いつまで山田先生に甘えるんだ。山田先生だって忙しい身の上である事は分かってるはずだ」

 

「山田先生がカバーできない所は、わたくし達がフォローしますわ」

 

良いセリフだけど邪念が籠りすぎ。

 

「さあ、一夏。遠慮せずに食べろ」

 

「一夏さん。はい、あーん」

 

「なあ、二人とも・・・後ろ・・・」

 

「「え?」」

 

二人は俺の言葉通り後ろを振り返ったら・・・

 

 

 

「病人を困らせるとは・・・大した根性の持ち主だな」

 

 

 

不機嫌な千冬姉がいた。

 

「お、織斑先生。これは一夏に夕食を持って来ただけで・・・」

 

「わたくし達は別に怪しいことなど・・・」

 

「ほう・・・一夏」

 

「なんですか?」

 

「お前の夕食を持ってくるのは誰なんだ?」

 

「山田先生です」

 

「だそうだ。箒の夕食は私が食べる。さっさと部屋に戻って治療に専念しろ」

 

「先生!わたくしの料理を忘れています!」

 

「オルコット。自分の料理を食べてみろ」

 

「ど、どうして・・・」

 

「いいから食べろ」

 

千冬姉の脅迫(?)にセシリアは自分の夕食を食べた。ちなみにセシリアが作った夕食は一口サイズのサンドイッチだった。

 

 

 

「ぐふっ!」

 

セシリアが倒れた。

 

「「・・・」」

 

「セシリアは私が責任を持って部屋に戻す。箒、お前は夕食を置いて部屋に戻れ」

 

「・・・分かりました」

 

箒は見てはいけない物を見たような顔をして部屋に戻って行った。

 

「ふぅ・・・」

 

「千冬姉、どうしてここに?」

 

「お前に二つ用件があってな。一つは凰鈴音に関してだ。重傷ではないが、別の部屋で安静にしている。途中、一夏は私がいないとダメだと駄々をこねてたから少し眠らせたけどな」

 

やり方がバイオレンスな物しか想像できない。

 

「次にお前のISだが、修理に早くて1週間、遅くて2週間は掛かるそうだ。その間に体を休めるんだな」

 

「分かった」

 

だとすると、映画館のデートはその間にするべきか・・・

 

「一夏君、待たせてごめんね」

 

そんなことを考えてるうちに、真耶がちょっと大きな弁当箱を持って戻ってきた。

 

「あれ?夕食って・・・」

 

「はい。真耶特製の鮭定食です」

 

そう言い弁当箱を開けると鮭の塩焼きに、煮物、ほうれん草の胡麻和え、冷奴に味噌汁など、栄養バランスが偏ることなく構成された定食だった。

 

「真耶、わざわざ俺のために・・・」

 

「本当は部屋でクラス対抗戦のお疲れ会をしたくて、作ってたんだけど・・・」

 

「大丈夫だよ真耶。真耶が俺のために美味しいものを作ってくれたんだ。それだけでも嬉しいよ」

 

「一夏君・・・」

 

「真耶・・・」

 

俺と真耶は鮭定食を無視して互いの顔を・・・

 

 

 

「お前達、私に何を見せつけているんだ?」

 

 

 

近づけなかった。千冬姉がいることを忘れてた。

 

「じゃ、じゃあ一夏君、私が食べさせるから何か食べたいものを言って」

 

「分かった。けど・・・」

 

「一夏君、どうしたの?」

 

真耶と一緒に夕食だけど・・・

 

「千冬姉、いつまでいるの?」

 

「お前達二人を邪魔する者が来ないと分かるまでだ。それに・・・」

 

「それに?」

 

「お前達がどういう風に食事をとってるのか気になってたからな。私の事は気にせず二人仲良く食事をしたらどうだ?」

 

 

 

その後、俺と真耶は千冬姉にニヤニヤ観察されながら夕食を食べた。




次回は映画館デートを執筆する予定です。

前回のデートみたいにお邪魔虫が活躍する予定はありません。

更新のペースですが、遅くなるかもしれませんが生暖かい目で見守ってください。

ご意見、ご感想、お待ちしております。



オマケ

※このお話は、織斑マドカ視点のお話です。このお話を読まなくても、次の話に支障はありませんが、キャラへの理解が深まる・・・はずです。






私の名は織斑マドカ。私は織斑一夏の監視を行うべく、IS学園に向かってるが問題が発生した。



お金が無い


なぜそうなったのかは簡単だ。

中野ブロードウェイ4階のゲームセンターで遊んでたら、財布が無くなっていた。

大会で優勝したのに財布を盗まれるとはとんだ失態を犯したものだ。

どうやってIS学園に侵入する。

幸い地図は手元にあるし、金が無いと言っても300円はある。

こうなったら・・・



IS学園まで泳ぐしかない



クラス対抗戦当日

「ぜえ、ぜえ、ぜえ」

なんとか学園に着いた。ここに来るまでの間に何台の自販機の下を探ったんだろう。そんなことはどうでもいい。今は乱入者のおかげでアリーナまで行くのは容易だ。その前に、悪魔二匹に定時連絡を・・・



「貴様、そこで何をしている?」



この声は千冬姉さん!良かった、シスコンではなく千冬姉・・・さ・・・ん・・・

「・・・マドカ」

嘘だ・・・姉さんが・・・

「話したいことはたくさんあるが、まずは身柄を確保させてもらう。悪く思わないでくれ」

「姉さんが・・・」

「どうした?」



「悪魔に魂を売ったなんてぇ!」



「は?」

「くそっ!これも越えなければならない試練だと言うのか!」

「何を言っている?」

「なら超えてみせよう!その試練を!」

「おい!人の話を」

「マドカ!」

私は掛け声と共に空中へ高らかに飛んだ。

「あの技は・・・!」

そうだ、この技は悪魔に破られたことも無い・・・

「断己相殺・・・」

「招雷!」

「え?」

突然私の頭上に雷が落ちた。

「ぐへっ!」

私はそこから意識が途絶えた。



「これで落ち着いたか。後は一夏の所に戻らないとな・・・」


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第12話

今回は映画館デートです。

甘々は少なめです。

仕事疲れの中、真耶の画像を見て何とか執筆しています。

やはり真耶は女神であった・・・


クラス対抗戦から10日後。

 

俺は無事に退院し、駅のホームで真耶を待っていた。

 

退院したとは言っても、右腕は包帯で巻かれてるけど力仕事をしなければ問題は無い。

 

・・・厨二病とか言わないでね。

 

それに今日は真耶との映画館のデートだ。服装大丈夫かな?無難に白のジャケットコーデと黒のブーツカットパンツにしたけど、変じゃないよな?あの二人(箒とセシリア)と鈴は来ないよな?

 

そうこう考えてる内に約束の時間を迎えた。

 

「そろそろ来る頃だが・・・」

 

「一夏君!待たせてごめんね」

 

謝りながらやって来たのは、黒のフレアースカートにGジャンボーダーTシャツを纏った真耶だ。

 

「別に待ってなんかないさ真耶。俺もさっき来たばかりだからさ」

 

「そう、良かった」

 

「じゃあ行こうか」

 

「はい!」

 

手を繋ごうと真耶に手を差し伸べたら・・・

 

「一夏君、右手大丈夫?」

 

包帯で巻かれた右腕を気にしてた。

 

「力仕事をしなければ問題ないよ」

 

「そうなの。じゃあ・・・」

 

真耶は俺の右腕に優しく握り満面の笑みを浮かべ

 

「私が一夏君を守るから、今日はいっぱい甘えてね」

 

上目づかいで俺を見つめた。

 

「分かった」

 

俺が断る理由も無く、真耶と指を絡め映画館へと向かった。

 

「一夏君の手・・・暖かい」

 

「真耶の手だって、暖かくて気持ちいいよ」

 

「もう、一夏君ったら」

 

 

 

あの三人(箒とセシリアと鈴)・・・いないよな?

 

 

 

そんな不安が的中することなく目的の映画館に着いた俺は安堵の表情をし、真耶が観たかった映画を観ることにした。

 

 

 

『Paradigm City』

 

 

 

海外で大ヒットしたドラマを再構成した映画。まあ、総集編と言ったところだ。

 

なんでもこのドラマの監督を含みスタッフの大部分が日本人ということもあってか、日本で放送した際それなりのヒットをしたそうだ。

 

真耶が俺と一緒に観たい映画だと言うが、正直どんな話なのかは知らない。

 

「この映画、どんな話なの?」

 

「主人公のネゴシエイターが様々な謎を解明すると言うお話です」

 

「様々な謎?」

 

「はい、自分の住んでる街とか記憶など、放送が終了しても未だに議論の絶えない人気作なんです」

 

「へぇ。真耶は観たことあるんだ」

 

「昔観てただけなので、かなりうろ覚えなんですけどね」

 

 

 

記憶か・・・

 

小学一年以前の記憶が俺には無かったんだな。

 

物心が付く前に両親はいなくなってたから顔とかも覚えてない。写真だってない。初めから親なんていなかったって考えてた時期もあったからな。

 

この映画の主人公はどうやって自分の過去と向き合ったんだろう・・・

 

 

 

「一夏君。パンフレットを買ったから行きましょう」

 

「ん?ああ、行こう」

 

映画を観よう。答えのヒントとなるものがあるかもしれない。

 

 

 

とりあえず、三人(箒とセシリアと鈴)は来てないと・・・

 

 

 

 

 

 

『私の名は、ロジャー・スミス。この記憶喪失の街には必要な仕事をしている。』

 

この映画の主人公ロジャーがネゴシエイションしてるシーンで、今の学園にはネゴシエイターが必要なのかと思ってしまった。

 

・・・ネゴシエイションしてもあの三人が納得する姿が思い浮かばない。

 

『この街パラダイムシティは、記憶喪失の街。この街の人間は40年前のある日を境に、それ以前の記憶をすべて失っている。しかし、それでも人間と言うのはなんとかしていくものだ。どうすれば機械が動き、電気が得られるのかさえ分かれば。過去の歴史がなど無くとも文化とやらは装える。過去に何があったのか、何が無かったのか、気にせずに生活だってできる。いや、そう努力してきたのだ。記憶を失って悲しんでるのはこの街の老人だけだ。しかしメモリーは、悪夢のようにいきなりその姿を現す時がある』

 

40年前以前の記憶が無い街。まるで俺みたいだな・・・

 

その後、アンドロイドを雇った主人公だけど色々と苦労してるな。結構毒の効いた台詞を吐くし、あんなピアノ演奏で起こされたくないなぁ。

 

あの三人に起こされるのも考えものだけど・・・

 

後、エンジェルが登場したけどどう話に絡むのかな?

 

 

 

『マイクル・ゼーバッハはもうこの世から消えた。飼い主にはそう伝えたまえ!』

 

『では、君の名前は何だ…?』

 

『シュバルツ・バルト、とでもしておこうか!』

 

シュバルツの登場により話は動き始めた。

 

 

 

世界の真実、40年前の出来事、新たな謎が浮かび上がり理解出来ない中、一つだけ分かった事は・・・

 

 

 

『雨の中、傘をささずに踊る人間がいてもいい…自由とはそういうことだ!』

 

 

 

『その通りだ、R・ドロシー・ウェインライト。君がそう呼ぶ限り、私はロジャー・スミスなのだ!!』

 

 

 

主人公がカッコいいぐらいかな。

 

紳士を気取ってるが、自分の信念を貫き通す姿はかっこいいな。

 

 

 

「こんな感じだったな・・・」

 

後、真耶が映画に釘付けになってる姿は可愛いなぁ。

 

 

 

話が進むにつれ衝撃の事実が出てくる。40年前の出来事、パラダイムシティ。

 

俺は真耶そっちのけで映画に釘付けになっていた。

 

そしてなにより・・・

 

 

 

『(パラダイムシティ…大いなる虚飾の舞台…その上にあって、愚かな人間の過ちを見つめていたのは、神ではなく、この打ち捨てられた装置でしかなかった!ハハハ…これは、喜劇だ。私が求めていたのは、真実のメモリーとは…!!)』

 

 

 

パラダイムシティが演劇の舞台であり、エンジェルがその舞台の演出をする存在という事実には衝撃を隠せなかった。

 

それでもロジャーは自分を貫いていた。

 

『エンジェル! 人にとって、メモリーは大切なものだ。それがあるから人は自分の存在を確認できる。それが失われれば、人は不安から逃れられない。だが聞いてくれ! いまここに生きている人間は、決して過去のメモリーだけが形作っているものではない。この私は、己がどういう存在なのかもわからない。私には、自分自身のメモリーすらないのだ。だが、おそらく私は、自分自身の意思で、メモリーを消し去ったのだ。その選択をしたのは、私自身だ。私自身のために、今と、そしてこれからを生きるために。自分という存在を信じたいがために!』

 

クライマックスに差し掛かっての長台詞。真耶は涙を流しながら映画を観ていた。

 

自分と言う存在を信じ信念を貫き通せたからこそ、この台詞が言えるんだな。

 

『エンジェル! 私のメモリーの中にある君を、私は決して失いはしない。私とふれあった、自分のすべきことに信念をもっていた君を、誰よりも自分自身を愛していた君を、そして、その気持ちが揺らいでいた、エンジェルという女を。自分自身の存在を否定してはいけない。人として生きるんだ』

 

俺もアイツ(ロジャー)みたいに自分を貫けるかな・・・

 

 

 

『私の名は、ロジャー・スミス。この記憶喪失の街には必要な仕事をしている。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

会場が明るくなり、俺は少し背伸びをして真耶と一緒に帰ろうとした。

 

「面白かったな。真耶はどうだった?」

 

「うぅ・・・おもじろ・・・ぐすっ・・・がっだでず・・・うぅ・・・ぐすっ・・・」

 

真耶は感動の涙を流していた。凄くハマったみたいだ。

 

 

 

「はいティッシュ」

 

「ありがとう一夏君」

 

映画を観終わった後、俺と真耶は近くの喫茶店で昼食をとることにした。

 

「びっくりしたよ。あそこまで泣くほどだったとは」

 

「エンジェルに交渉するロジャーの台詞に感動しちゃって・・・」

 

相当心にくるセリフだったんだな。俺も心にきたけど。

 

「お待たせしました。カフェオレとパンケーキセットになります」

 

映画の感想を言い合ってる内に注文していたメニューが届き、一緒に食べることにした。

 

「一夏君、あーん」

 

「あーん」

 

「ここのパンケーキ、凄く美味しいって評判だったから一夏君と一緒に来れて良かった」

 

「そうなんだ。でも・・・」

 

「でも?」

 

俺は真耶の耳元に近づき、小さな声で囁いた。

 

「真耶の作ったパンケーキの方が美味しいよ」

 

「もうっ!」

 

怒らせちゃった・・・

 

「そんなの言われたら・・・恥ずかしいから」

 

訳ではないか。恥ずかしながら真耶は俺を見つめる。

 

「そう言うなら私、一夏君のために最高のパンケーキ作ってあげる!」

 

両手でガッツポーズをとり、さっきまでの恥じらいを吹き飛ばすかのように自信に満ち溢れた顔になった。

 

「分かった。じゃあ・・・」

 

今晩、買い足しに行こうと真耶を誘おうとしたが・・・

 

「ちょっと待ったー!」

 

聞き覚えのある声がしたので、振り向いたら

 

「おい!一夏!いい加減俺の事に気付けよ!」

 

赤い長髪に・・・バンダナ・・・ああっ!

 

「弾じゃないか!久しぶりだな!」

 

 

 

五反田弾

 

俺の中学時代の悪友で、俺と真耶が付き合っている事を知ってる数少ない理解者。

 

実の事を言うと、真耶に告白できたのも弾のお陰である。

 

 

 

「お前!俺の目の前で真耶とイチャイチャして・・・爆発しろ!」

 

「開口一番がそれかよ!」

 

「冗談だって」

 

「弾だって、ルックスは良いから好意を寄せてくる人が・・・」

 

「それが・・・いないんだよ」

 

「・・・・・・ごめん」

 

「分かってくれるだけでも嬉しいよ一夏」

 

弾、お前が嫉妬する気持ちが分かったよ。

 

 

 

「改めて、お久しぶりです真耶さん」

 

「弾くん、久しぶりだけど変わってないね」

 

「いやぁ、これが『五反田弾』ですから!」

 

喫茶店を出た俺と真耶は久しぶりに会った弾と会話を弾ませていた。

 

「一夏!真耶を泣かせたりはしてないよな?」

 

「するわけないだろ」

 

突然、弾が俺を睨み問いかけてきたが俺は真耶を悲しませたりは・・・

 

 

 

「その包帯が巻かれてる右腕は何だ!?」

 

 

 

した。クラス対抗戦で真耶を泣かせてしまった・・・

 

 

 

「この・・・真耶泣かせの一夏めぇ!」

 

「待て弾!右腕を叩くな!まだ治りきってないんだから!」

 

「すまねぇ。けど、真耶を何回泣かせれば気が済むんだ?」

 

「毎回泣かせてる様に言うなよ」

 

「一夏君、それほど弾くんは心配してるんだよ」

 

「そう!お前の大親友である俺がここまで心配するほど、真耶さんとの幸せを願ってるんだぞ」

 

「そうだったな」

 

「まっ、お前が真耶を捨てたら俺はお前を呪い殺しに行くからな」

 

ドヤ顔で殺害宣言をしないでくれ。後、成功しそうで怖いから。

 

「ところで弾。お前ずっと袋持ってるけど、何か用があるんじゃないのか?」

 

「あ・・・・・・」

 

「お前・・・」

 

「やべっ!親父に材料の買い足しを頼まれてたんだ!ということでじゃあな、一夏!真耶さん!・・・親父に殺されるぅ!」

 

全速力で駆ける弾に俺は思わず合掌してしまった。弾の親父、怒ると結構怖いからな。

 

「一夏君」

 

「どうしたの真耶?」

 

「一夏君の過去がどんなものであっても、自分を否定しないでね」

 

真耶が俺の右腕に寄り添ってきた。

 

「真耶。俺、何も言ってないんだが」

 

「だって一夏君、あの映画を観た後ずっと考え事してたから、もしかしてと思って」

 

「・・・真耶には敵わないな」

 

確かに俺は考えてた。自分の過去を知った時、俺は真耶と一緒にいられるのか。もしかしたら真耶や千冬姉と戦うことになるのかもしれないと考えた。

 

だけど、俺は俺なんだ。弾や真耶、千冬姉とクラスの皆が俺を「織斑一夏」と思ってくれる限り、俺は「織斑一夏」なんだ。

 

・・・映画の影響を受けてるな俺。

 

「真耶。今晩真耶のパンケーキが食べたいけど、大丈夫?」

 

「はい!大丈夫です」

 

「じゃあ、近くのスーパーで材料を買って行こうか」

 

そう言って俺は笑顔で真耶と手を繋ぎ、近くのスーパーに買い足しに行った。

 

そういえば、一つ嬉しい事があったんだ。

 

 

 

三人(箒とセシリアと鈴)と会うこと無く真耶とデートができた事だ。




次回は三人(箒とセシリアと鈴)が一夏の前に現れなかった理由を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第13話

今回は織斑千冬視点のお話です。

なので甘々はありません。

本来は12話のオマケにする予定でしたが、量的にオマケにするのは出来なかったのでこうなりました。


私の名は織斑千冬。IS学園の教師を勤めている。

 

今、私はファミレスである人物達を待っている。

 

その人物達は私の弟「織斑一夏」の命を狙っているからな、姉として成敗しなければ。

 

そう言えば、一夏は山田君と映画館デートをしているが

 

 

 

 

 

 

『一夏君、あーん』

 

『あーん』

 

『ここの料理、凄く美味しいって評判だったから一夏君と一緒に来れて良かった』

 

『そうなんだ。でも・・・』

 

『でも?』

 

『真耶の作った料理の方が美味しいよ』

 

『もうっ!』

 

 

 

 

 

 

・・・そんな事をするわけがないか。考えすぎだ。クラス対抗戦の時、ブラックコーヒーを飲みながら蔑んだ目で二人の食事を見たからな。常識のない言動を起こすわけがないか。

 

まあ、それはいいとして・・・

 

 

 

「姉さん、何故腕に縄を付ける?私は犬でも猫でもないぞ」

 

「お前を中野ブロードウェイに行かせないためだ」

 

「今日も大会があるというのに・・・」

 

「それくらい我慢をしろ」

 

「そんなことをしてる内に悪魔が人々を苦しませてるのに・・・」

 

 

 

クラス対抗戦の後、身柄を確保して事情を聴こうとしたら泣いて抱き着いたのは驚いた。相当辛いことがあったのかと思ったら、

 

 

 

悪魔(巨乳)ばかりで辛かった・・・だから、悪魔を倒して人々を助けないと』

 

 

 

誰がこんな妹にさせた・・・

 

どういう経緯で拳法を会得したのか気になるが、身体的特徴に関しての憎悪が人一倍強すぎる。後、その結論はおかしい。

 

このままでは山田君に合わせる訳にはいかないな。

 

「マドカ。そこまで憎悪する理由は何だ?私もその悪魔の一人に入るのだぞ」

 

「憎悪する理由・・・決まってる。あの悪魔が一体どれほどの人を苦しめたと思う?」

 

「知らん。少なくともIS学園でそんなことは起こっていない。それに邪念が強すぎては、本来の力など発揮できんぞ」

 

「では、どうすれば本来の力を発揮できるんだ?」

 

なんとかこちらのペースに持ち込んだ。

 

「私の知り合いと一緒に学園生活をしてみたらどうだ」

 

「知り合いと?」

 

「ああ。近々、お前をIS学園に入学させようか検討してる」

 

マドカの背後にある組織を知るためだが、本当はこれ以上家族を巻き込んで欲しくない思いで私が学園長に頼んだんだがな。

 

「素性などは私が何とかする。お前は一夏と一緒にIS学園の生徒としていて欲しいんだ」

 

「兄さんと・・・一緒に・・・」

 

一夏には憎悪を抱いて無いようだ。それに、あの嬉しそうな表情を見る限り根は優しいんだな。

 

「お前の過去を知った所で私はお前を見捨てるつもりはない。お前は私の妹であることには変わりないんだからな」

 

「だが・・・」

 

「お前はどうしたいんだ?」

 

「家族と一緒にはいたい。だが、私は姉さんの・・・」

 

「今の立場がどうであろうと、家族と共にいたいと思っているならお前は私の敵では無い。家族だ」

 

「家族・・・」

 

「ああ、一夏もきっと喜ぶからな」

 

私はいつの間にか笑顔でマドカと話していた。

 

昔の私からは想像もできない程変わったな。

 

これも山田君のお陰か。

 

あいつはISの実力以上に、人としての心の強さは私以上だな。

 

「姉さん。私をIS学園に入学させてくれ」

 

「そこでお前はどうしたい?」

 

「兄さんと姉さんと一緒にいたい。そして、三人で悪魔の中の悪魔を倒す」

 

「悪魔の中の悪魔?」

 

マドカの顔つきが突然険しくなった。

 

「篠ノ之束だ。あいつのくだらんお遊戯のせいで、私達家族は地獄を見た。心に仮面を付け、力を求め、孤独に心を蝕まれた!ISさえなければ、あいつさえいなければ・・・私達は皆・・・皆・・・!」

 

マドカは右手に持っていたISの待機状態(ペンダント)を強く握りしめながら、声を殺し泣いていた。

 

 

 

私は束の口車に乗り心に仮面を付け、一夏は己の無力さを呪い力を求め、マドカは孤独に心を蝕まれてた。

 

確かにマドカの言ってることは間違っていない。

 

一夏が物心が付く前に両親は姿を消した。マドカと家族のアルバムと共に。その時の私は一体何が起こったのか分からなかった。それでも分かったことは、私自身で一夏を養わなければならなかった事だ。

 

そんな時に私は束の口車で白騎士に乗り、事件を起こした。

 

だが、気付くべきであった。

 

事件を起こした後、私は束からマドカが生きていると知って喜んだのだが。

 

なぜあいつがマドカの存在を知ってるのかと聞くべきだった。

 

昔の私はそれに後悔し、一人で声を出さず泣いていた。

 

 

 

「マドカ・・・」

 

だけど私は知った。過去に縛られてはいけない。過去を振り返りながらでも、明日に向かって生きていくべきだ。それがどんなに辛いものだとしても、私は生きることをやめない。

 

「・・・殺してやる」

 

マドカは突然飢えた獣の雰囲気を放ちながら呟いていた。

 

「篠ノ之束・・・あいつさえいなければ・・・あいつさえ・・・」

 

「なるほどそういうことか」

 

「・・・何がだ?」

 

「お前が身体的特徴に関しての憎悪は束が原因と言う訳か」

 

「・・・ああ」

 

つまり行き場のない怒りを他人にぶつけてる内に、それを使命として勘違いしてるわけか。

 

「お前の気持ちは分かる。束によって家族を引き裂かれた気持ちは私も一夏も同じだ。だがマドカ、これ以上行き場のない怒りを他人にぶつけるのはやめろ。それは使命でもなんでもない。自分の弱さからの逃げだ」

 

「どうしろと言うんだ。姉さんも兄さんも私も、束の手のひらの上で遊ばれている。これ以上・・・」

 

「その答えのヒントなら、これから現れる」

 

「これから?」

 

「どうやら来たようだ」

 

 

 

ある人物達が約束通りやって来た。

 

「お、織斑先生が・・・」

 

「二人も!」

 

「一体何がどうなってるの?」

 

「今からその答えを話す。だから三人とも座れ」

 

この三人(箒とセシリアと鈴)に姉として成敗しなければな。

 

 

 

「生き別れの妹?」

 

「ああ。篠ノ之と会う前だからな、お前が知らなくて当然だろ」

 

「ですが、妹さんとの再会は実に喜ばしいことです」

 

「オルコット。その点に関しては感謝する」

 

「でも、妹だからって千冬さんに似すぎじゃないの?」

 

「鈴音、文句でもあるのか?」

 

「いえ・・・ありません」

 

さて、前座はここまでにしておくか。

 

「お前達を呼んだのは他でもない。お前達三人に聞きたいことがある」

 

「「「・・・」」」

 

「なぜ、うちの弟に付きまとう?」

 

「つ、付きまとってなどいません!」

 

「そ、そうですわ!わたくしは一夏さんが強く、凛々しくあるためにご教授してるだけです!」

 

「私は一夏がまた問題を起こすんじゃないかって心配だから傍にいるだけ!」

 

三人そろって本心を隠すか

 

「篠ノ之」

 

「は、はい」

 

「お前は一夏のどこに惚れた?」

 

「そ、それは・・・」

 

「三人共、本当の事を言わなければ明日の日の出は拝めないと思え」

 

「「「・・・」」」

 

力づくだが、これで本心を語ってくれるだろう。

 

「や・・・優しくて・・・強くて、どんなことがあっても挫けないからです!」

 

「篠ノ之、それが一夏に惚れた理由か?」

 

「そ、そうです!」

 

「そうか・・・次はオルコット」

 

「は、はい!」

 

「そう堅くなるな。で、お前が惚れた理由は何だ?」

 

「一夏さんは他の男性とは違い、凛々しく、逞しく、強いからです」

 

「それが理由か。鈴音は・・・一応聞いておくか」

 

「一応って!?」

 

「事情は弟から聞いてるからある程度は分かっている。それとも一夏には言っていないことがるのか?」

 

「あ、あります」

 

「何だ?」

 

「あいつ、優しくて・・・」

 

「私を助けてくれた時、嬉しかったとでも?」

 

「なんで・・・分かるんですか?」

 

「弟が言っていたからな。聞く必要はないな」

 

三人の本音を聞けた所で、私の本音をぶつけるとするか。まあ、一言で済んでしまうが・・・

 

「では、私からお前達三人に言いたいことがある。よく聞け」

 

三人は私をじっと見つめながら何を言うのか待っていた。

 

 

 

 

 

 

「お前達三人に一夏が振り向くことは無い。以上だ」

 

 

 

 

 

 

「「「え・・・」」」

 

どうやら、予想外の言葉だったらしいな。

 

「ま、待ってください!い、言ってる意味が分かりません!」

 

「そ、そうですわ!それにわたくしと箒さんは・・・」

 

「あれはお前達が勝手に宣言したことだ。私は了承した覚えはない」

 

「・・・宣言?」

 

鈴音は二人が寝取ると宣言したことを知らないが、まあいい。

 

「それに一夏の気持ちも考えずに行動していれば振り向くと考えていたのか?」

 

「「「・・・」」」

 

「姉として言うなら、これ以上身内に迷惑をかけるな」

 

私も本音を言った。後は三人がおとなしくしてくれればいいが。

 

「あ、あの千冬さん」

 

「ん?」

 

鈴音がまだ私に言いたげな顔をしているな。

 

「その、一夏はどうして山田先生と付き合ってるんですか?」

 

確かに三人にはちゃんと話してなかったな。

 

「一夏が中学二年の時に山田先生と出会ったのは知っているな、鈴音?」

 

「はい」

 

「山田先生に出会う前の一夏がどういう状態だったのか、二人に説明できるか?」

 

「わ、分かりました」

 

鈴音から語られた一夏の中学時代。力を求め、すべてに壁を作り、孤独に蝕まれていた時の話を聞いた二人の顔は驚きを隠せていなかった。この私だって初めて聞いた時は、開いた口が塞がらなかったからな。

 

「これで私が知ってること、全部話しました」

 

「そして、山田先生と出会って・・・」

 

「お二人は恋に落ちた・・・」

 

「そういうことだ」

 

二人はショックで立ち直ってないが、ここでもう一回釘を刺しとくか。

 

「言っておくが、私は一夏と山田先生との付き合いを認めている。それに、一夏は山田先生と付き合ってる事を隠すつもりはない」

 

「「「!?」」」

 

「お前達が言いたいことも分かる。だが、それが原因で山田先生が教職を辞めることは無い」

 

「ど、どうしてですか!?」

 

篠ノ之が声を荒げた。そこまで山田君に恨みでもあるのか?

 

「篠ノ之、一夏はどういう立ち位置にいるのか分かっているな?」

 

「え・・・」

 

「あいつは、世界で初めてISを動かした男だ。迂闊に手出ししようとすれば、手痛いしっぺ返しが来るのは分かっているな?」

 

「で、ですが・・・」

 

「それに、二人が付き合い始めたのは中学二年だから、問題は無い。それに、本来はIS学園に入学する身の上ではなかったからな」

 

さて、これ以上三人の意見を否定してはいけない。私は仮にも教師だ。生徒を導かなければ・・・

 

「今回話したことは他言無用とする。だが、お前達が今後どうするかは聞かないとする。自分たちがどうするべきか、じっくり考えるんだな」

 

そう言い、私はマドカを連れてファミレスを出て行った。ちゃんと五人分の代金を支払って。

 

 

 

「姉さん」

 

「何だマドカ?」

 

「私は過去を振り切ることができるの?」

 

「それはお前自身でしかやれないことだ」

 

「だが、私は兄さんみたいに・・・」

 

「言っておくが、お前のルームメイトは山田先生だ」

 

「え?」

 

「今は一夏と山田先生が同室だが、転校生がお前含めて三人来るからな。部屋の割り当て上そうなった」

 

実際は、一夏とクラスメイトの交流を深めるための処置なんだがな。

 

「いつ決まった?」

 

「ファミレスに着く前だ」

 

「では、あの会話は・・・」

 

「お前の本音が聞きたかった。それだけのことだ」

 

「じゃあ、答えのヒントも・・・」

 

「あれは嘘ではない。何か見つかったのか?」

 

「見つかっていない。ただ・・・」

 

マドカは私の顔を見るなり笑顔でこう言った。

 

「もう一回、家族と一緒にいられるのが私は嬉しい」

 

「そうか」

 

私も笑顔でマドカに答えた。

 

「帰るか、マドカ」

 

「・・・うん」

 

恥ずかしながらもマドカと一緒に手を繋いで学園に戻った。

 

その時のマドカの表情は、希望にあふれるばかりの笑顔だった。

 

ただ一つ不満があるとするならば・・・

 

 

 

 

 

 

「人目を気にせず喫茶店で『あーん』をしたと、帰り際に会った弾から聞いたが・・・」

 

「「ごめんなさい」」

 

二人(一夏と山田君)が常識のない言動を起こした事だ。




次回は、金銀の転校生が登場する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第14話

今回の話はカミングアウト回です。

え?転校生が来る話じゃないのかって?

執筆してたら、いつの間にかこうなってしまいました・・・


PiPiPiPiPi!

 

「んん・・・」

 

目ざまし時計のアラームを止め、俺は朝日の光を浴びながら目を覚ました。いつも通りに制服に着替え、いつも通りに荷物を準備して、いつも通りに登校する準備はできた。

 

「真耶・・・って、いなかったんだ」

 

真耶がいないことを除けばいつも通りである。

 

 

 

 

 

 

それは三日前の夜に遡る・・・

 

 

 

「部屋が変わる?」

 

「そうだ」

 

俺と真耶の部屋で千冬姉が突然の部屋割りの変更を言ってきた。

 

「三日後に転校生が三人も入ってくる」

 

「三人も!?」

 

「ああ」

 

「ちょっと待ってよ!いくらなんでも三人はおかしくないか!?なんで他のクラスじゃなくて、一組に集中するんだ!?」

 

「その訳を今から話す。まず一人目は男だからだ」

 

「・・・え?」

 

男・・・それって・・・

 

「二人目の男性操縦者がフランスで見つかったそうだ。その保護を兼ねての転校だ」

 

「・・・」

 

「どうした?」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「静かにしろ!」

 

「うぐっ!」

 

空手とブーメランを組み合わせた拳法使いみたいな歓喜の声を、千冬姉は強烈なボディーブローで止めさせた。

 

「静かにしなかったら、サンダークロウを喰らわせるぞ」

 

「ご・・・ごめん」

 

男一人って結構肩身狭いんだよ千冬姉。

 

「だが、いろいろと不審な点はある」

 

「不審な点?」

 

「男性操縦者の捜索は5月の時に終わっている。なのに、今頃二人目の男性操縦者が来るなどおかしい話ではないか?」

 

「・・・確かにそうだな」

 

スパイなのかな?それとも、世界に公表できない理由があったのかな。

 

「とにかく、二人目の男性操縦者は様子を見ることにする。次に二人目だが・・・」

 

突然、千冬姉の顔が険しくなった。

 

「二人目は・・・私がドイツにいた頃の教え子だ」

 

「教え子?」

 

「ああ。あの時の私がどういう状態だったか分かってるはずだ」

 

心に仮面を付け己の強さに固執していた時期の千冬姉は、周りから見れば孤高の強さを持つ戦士に見えるだろう。けど本当は己の弱さから逃げるのに必死だったんだ。

 

「あいつはあの時の私を神のように崇拝し、私はそれに応えるかのごとくあいつを間違った方法で強くさせてしまった。力こそが全てであるかのように」

 

「千冬姉・・・」

 

「安心しろ一夏。私はお前の姉だ。尻拭いぐらい私自身でする」

 

千冬姉は何か覚悟を決めた表情をし、三人目の転校生について語った。

 

「三人目の転校生はお前の妹だ」

 

「・・・妹?」

 

「ああ、入って来いマドカ」

 

千冬姉の掛け声と共にドアが開き、そこにいたのはIS学園の制服を纏った小さい千冬姉だった。

 

「え・・・あ・・・」

 

俺は驚きを隠せなかった。実の妹が千冬姉そっくりだったなんて。

 

「・・・」

 

「マドカ、どうした?」

 

「人の皮をかぶ・・・」

 

「サンダーボルトパンチ!」

 

マドカが言い切る前に千冬姉がパンチで食い止めたけど、技名を叫ぶのは弟として恥ずかしい。

 

「山田君は悪魔では無い」

 

「どう見ても・・・悪魔だ」

 

マドカは真耶を睨むなり反論するが、肝心の真耶は・・・

 

 

 

「一夏君と・・・お別れ・・・」

 

 

 

俺の後で心ここに在らずだった。というより目元に涙が溜まってるんですが

 

「山田君。部屋が変わるだけで今生の別れではない」

 

千冬姉が呆れていたが、俺と真耶にとっては重要な問題なんだよ。

 

「では、どこが重要な問題なのか説明しろ一夏」

 

「だから、なんで考えてることが分かるんだ!?」

 

「家族だから当然分かる」

 

「その理屈はおかしい!」

 

「いいから答えろ」

 

「・・・分かった。その、俺が他の部屋になったら箒達が・・・」

 

「釘は刺しておいた」

 

「ホント!?」

 

「ああ。あいつらの事だ、あの手この手でお前を襲うからな手は打っておいた」

 

ああ~これで心置きなく学園生活を・・・

 

 

 

「お、織斑先生、ちょっと待ってください」

 

「真耶?」

 

真耶が突然待ったをかけた。だけどその顔はなぜか焦った表情をしていた。

 

「その、部屋の変更は・・・」

 

「残念だが決定事項だ」

 

「で、ですが!まだ一夏君は・・・」

 

「何を焦ってるんだ山田君?」

 

「あ、焦っては・・・」

 

あ、そういう事か。なぜ真耶が焦っているのか分かった俺は抱きしめた。

 

「真耶」

 

「い、一夏君!」

 

千冬姉は頭を抱え、マドカは何が起こったのか千冬姉に説明を求めてた。

 

「大丈夫だよ真耶。別に俺が学園からいなくなる訳じゃないんだ。寂しかったら真耶が俺の部屋に来ればいいだけだよ。朝の特訓だって一緒、お昼ごはんも一緒、夕食だって真耶の部屋に行けば一緒に食べられるから安心して真耶」

 

「でも・・・」

 

「寂しがる必要はないよ」

 

「うん」

 

真耶が安心したのを確かめ・・・

 

 

 

「私と妹の前でいつまでイチャイチャしてるんだ?」

 

 

 

離れた。千冬姉、足元のブラックコーヒー缶いくつあるんだ?

 

「わ、わりぃ。つい・・・」

 

「リア充を爆発させたい気持ちが少しだけ分かった」

 

「マドカ・・・ごめん」

 

マドカ、何かの拳法の構えをやめて。俺死んじゃうから。

 

「こういうのを防ぐためにも、部屋割りの変更を決めたからな。それに一夏」

 

「なんだ?」

 

ため息交じりに俺に問いかけた。

 

 

 

「お前、仲の良いクラスメイトはいるのか?」

 

仲の良いクラスメイトなんて・・・・・・

 

「いません」

 

「・・・だろうな」

 

実の事を言うと、クラスメイトとは休み時間に楽しく会話はしているが・・・

 

それ以外の時間はは全部真耶との時間に費やしていた。

 

早朝は真耶とISの特訓。昼休みは真耶と二人っきりの昼食。放課後は真耶とISの練習をしてるか、真耶の仕事の手伝い。夜は真耶と一緒に夕食したり、一緒にじゃれ合ったり、一緒にシャワー浴びたり、たまに夜の営みをしたり。とにかく真耶との思い出をたくさん作って来たけど・・・

 

「もしかして・・・」

 

「ああ。喫茶店の件で私の決心は固まった。羽目を外した罰だ」

 

「・・・やっぱり」

 

ちょっと羽目を外したかなと思っていたけど、周りから見たら結構羽目を外してたのか・・・

 

「ということだ、山田君。理解したか?」

 

「はい・・・」

 

真耶は顔を赤くし、今まで自分のやって来たことを振り返っていた。

 

「じゃあ、真耶は明日から・・・」

 

「いや、ここのルームメイトはマドカに変わる。それに今から引っ越してもらう」

 

「ええっ!今からって急じゃないか!?」

 

「明日でもと考えていたがお前達の事だ。淫行に走って事態をややこしくするに決まってる」

 

「いや、そこまで淫行に・・・」

 

「ほう・・・」

 

千冬姉のにらみつける!

 

「・・・分かりました」

 

俺は素直に引っ越しの準備を始めたが

 

「マドカ・・・」

 

「何だ?」

 

「この段ボールの山は何?」

 

俺の倍以上もある段ボールの箱の山に驚愕した。

 

「拳法の練習に必要な道具が入っている」

 

「はぁ・・・」

 

千冬姉といい、どこから謎の拳法を会得したんだ・・・ん?

 

「なあ、マドカ。この段ボールだけど」

 

「重いから気を・・・」

 

「軽いんだけど」

 

「何っ!?」

 

マドカは迅速の如く段ボールをすべて開けて中身を確認したが、必要最低限の生活用品しかなかった。

 

「何があったというのだ・・・」

 

呆然自失のマドカに千冬姉はため息交じりに説明をした。

 

「筐体機を一式持ち込むからだ。後、その筐体機は売却したから」

 

「ぐはっ!」

 

「売り飛ばした金は全額没収だ」

 

「うぐっ!」

 

「中野TRFのルートは全て閉鎖だ」

 

「アイリィィィィィ!」

 

誰かの名前を叫びながらマドカは気を失った。

 

「ということだ一夏。荷物をまとめ終わったらこの部屋に行くんだ」

 

俺にルームキーを渡した千冬姉は仕事があると言って部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

「あれから三日経ったけど、やっぱり一人は寂しいな」

 

食堂で一人、鮭定食を食べてるがやっぱ寂しいな。朝の特訓は千冬姉の監視の下やってたから、真耶は直ぐに職員室に行っちゃたし。千冬姉に真耶以外の人と特訓をしろって言われたけど・・・

 

「どうすればいいんだ・・・」

 

真耶以外の人との交流を疎かにした結果がこれだ。

 

俺の周りには誰もいない。というより皆、物珍しそうに俺を見ている。

 

それはそうだ。箒達で真耶との時間を減らされたくなかったから、食堂なんて滅多に行かなかった。

 

だからといって、箒達が今来て欲しいとは思っていない。

 

「しょうがないか」

 

諦めて食事を再開しようとした時だった。

 

「織斑君?」

 

「おりむーだ!」

 

「あっ!本当だ!」

 

ん?この明るい三つの音色は・・・

 

「「「一緒に食べていい?」」」

 

相川清香、谷本癒子、のほほんさんこと布仏本音の三人だ。

 

「ああ、いいけど」

 

この三人とは休み時間に談笑する程の仲だが、それ以外の交流が無い。真耶との時間に費やしてたからな。よくよく考えたら、この三人以外の交流は無いに等しい。

 

・・・今更だがぼっちの学園生活を送ってたのか。

 

「ねえねえ、おりむー」

 

のほほんさんが長い振袖を振りまわしながら俺を見つめてた。

 

「ん?」

 

「おりむーは、まーやんと付き合ってるの?」

 

その瞬間、俺以外の生徒達の動きが止まった。

 

相川さんと谷本さんはのほほんさんの発言を予測してたのか、ずっと俺を見てる。

 

それ以外の生徒は俺の返答を今か今かと待っている。食堂のおばちゃんも何故か手を止めて見ているし・・・

 

真耶と付き合ってるのは本当だし、隠す気なんてもうない。俺の口から言うか。その前に・・・

 

「まーやんって?」

 

「山田真耶だから、まーやん」

 

独特なあだ名だな。

 

「で、織斑君」

 

「実際付き合ってるの?」

 

相川さんと谷本さんが俺の答えをものすごく待っているし、答えるか。

 

「ああ、付き合ってるよ」

 

「「「「「・・・」」」」」

 

・・・うん。こうなることは

 

 

 

 

 

 

「「「「「きゃあああぁぁぁぁぁ!」」」」」

 

 

 

 

 

 

予想できなかった。え?なんで喜んでるの!?なんか、冷たい目で見られることを覚悟した俺が恥ずかしいよ。

 

「いつ告白したの!」

 

「どこで告白したの!」

 

「どんな台詞で告白したの!」

 

「二人の馴れ初めを教えて!」

 

「初夜は!」

 

「プロポーズは!」

 

一気に押し寄せてくる女性の質問の波。一応言うがプロポーズはされてないし、初夜は教えるつもりはない。

 

「織斑君!山田先生とお幸せに!」

 

「絶対に山田先生を幸せにしてね!」

 

「おりむー大爆発だぁ~!」

 

相川さん、谷本さん、それ結婚式に言うセリフだから。のほほんさん、冗談に聞こえないから。

 

「お前達、何を騒いでいる!」

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

それを静かにさせる千冬姉って人間なの?

 

「織斑先生、織斑君が山田先生と付き合ってるのを・・・」

 

「お前達!食事の時間を今ここで終わらせたいか!」

 

千冬姉の圧倒的なプレッシャーの前に生徒達は、一目散に食事を続けた。

 

「相川、谷本、布仏」

 

「「「は、はい!」」」

 

千冬姉、三人共怖気づいてるから・・・

 

 

 

「織斑と山田先生の関係については一時限目に詳しく話す」

 

 

 

・・・え?

 

「ち・・・織斑先生、どういう意味ですか?」

 

「お前と山田先生の馴れ初めを一時限目で発表するんだ」

 

「え!?いつ決まったんだよ!?」

 

「お前が他の生徒に言った時に決定される」

 

「いや!今日の一時限目は二組との・・・」

 

「急用で中止だ」

 

千冬姉!ニヤニヤしながら死刑宣告しないで!

 

俺がそういう話をされるのが恥ずかしいって知ってるでしょ!

 

 

 

「お前達!二人の馴れ初めの詳細は一時限目で発表する!いいな!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

なんで一致団結するんだ!

 

 

 

 

 

 

「え、えぇっと・・・その・・・」

 

朝のSHR。真耶が教壇に立っているんだが、クラスの眼差しの変化に戸惑っていた。

 

いつもなら明るく、楽しく、賑やかな雰囲気を放っているはずが、何かを待っているかのような眼差しでクラス全員が真耶を見つめていた。・・・箒とセシリアを除いて。

 

「山田先生、SHRを」

 

「は、はい!実は皆さんに嬉しいお知らせがあります。このクラスに転校生が三人も来ます!」

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

「あ、あれ?」

 

真耶、ごめんね。俺が食堂でカミングアウトしなければ空回りしなくて済んだのに。

 

「山田先生、続きを」

 

「は、はい!その三人の転校生を紹介します」

 

真耶の掛け声と共にドアが開き三人の転校生が来たけど・・・

 

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さん、よろしくお願いします」

 

「「「「「・・・」」」」」

 

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

 

 

皆、反応しよう。まるで転校生がオマケみたいな扱いはあんまりだから・・・ん?

 

「貴様が・・・!」

 

俺の目の前でラウラの腕が上がり、俺の頬に掌が・・・

 

「よせ」

 

振り下ろされなかった。マドカが止めてくれたおかげで助かった。

 

「貴様・・・」

 

「そんなことを姉さんは望んではいない」

 

「黙れ。貴様に何が分かる」

 

「少なくとも、お前は私の仲間だ」

 

「仲間だと、ふざけるな」

 

マドカの姉さん発言にクラスが若干ざわついている。

 

「姉さん?」

 

「じゃあ、あの子って・・・」

 

「静かにしないか」

 

千冬姉の一声で教室が静かになり、マドカの自己紹介が始まった。

 

「織斑マドカだ。名前の通り、織斑千冬と一夏の妹だ。よろしく頼む」

 

「「「「「・・・・・・・・・」」」」」

 

ここでも静かにされたら、兄としては辛いよ。

 

「以上で転校生の紹介を終える」

 

千冬姉!勝手に終わらせないで!マドカの学園デビューが不安じゃないの!?マドカは、のほほんさんとか睨まないで!真耶が不安がってるから!

 

 

 

「では、本日のメインイベントを始める」

 

メインイベント?あ・・・

 

「山田先生!」

 

一人の生徒が真耶を指名したって事は・・・

 

「はい」

 

「織斑君と付き合ってるって本当ですか?」

 

「ふぇっ!?いや・・・その・・・」

 

真耶がなんて答えようか悩んでいる。俺が代わりに・・・

 

「山田先生、無理に隠す必要はない。織斑が既に一部の生徒に発表したからな」

 

「ええっ!?」

 

「山田先生・・・その・・・」

 

隠すつもりはないって心の中で決めたけど、こんなシチュエーションで発表するのは流石に恥ずかしい。

 

「織斑先生、その質問の答えは・・・」

 

「分かりました・・・答えます」

 

俺が代わりに答えようと席を立ったら、真耶は顔を赤くしながらも答える決心をつけた。

 

流石に俺だけ立ってるのは恥ずかしいから、大人しく・・・

 

「織斑、お前は山田先生の隣にいろ」

 

座らせてくれ千冬姉。皆の視線が俺に集まるから。というより、箒とセシリアが俺を睨んでるんだが。

 

「山田先生、続きを」

 

「は、はい!私は・・・」

 

真耶は息を整え、皆の前で俺の手を強く握った。俺も真耶に応えるように強く握り返した。

 

そして・・・

 

 

 

「私は織斑一夏君と、恋人として付き合っています」

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

「あ、あの・・・」

 

あ、このパターンは・・・

 

 

 

「「「「「きゃああああああああああ!」」」」」

 

 

 

耳がぁ・・・耳がぁ!

 

「幸せになってください!」

 

「織斑君、お幸せに!」

 

「織斑君のどこが好きですか!」

 

「山田先生!爆発してください!」

 

色々とヤジみたいなのが飛んできてるけど、真耶は爆発させないからな!

 

 

 

「お前達、静かにしろ。それで、山田先生」

 

「は、はい!」

 

「確か、山田先生はクリスマスに告白されたと聞いたが」

 

「はい・・・」

 

「クラスの皆に、その日の事について話してくれないか?」

 

千冬姉!仮にも教師だから真耶に要求・・・

 

「は、はい!分かりました!」

 

飲み込んじゃったよぉ!

 

「えっと、あれはクリスマスの夜の事でした・・・」

 

 

 

 

 

 

真耶は顔を赤くしてる俺を横目にクリスマスの告白を一組全員に話していた。

 

教室の外には生徒達が群がっているし、転校生の三人はいつの間にか席についてるし、俺は苦しんでるし、千冬姉はニヤニヤしながら苦しんでる俺を見てるし、真耶は恥ずかしながらも話してるし・・・

 

 

 

 

 

 

「それが、クリスマスの告白でした」

 

教室の雰囲気は何か甘い雰囲気に包まれており、何人かの生徒は鼻血を出していた。

 

俺は・・・・・・燃え尽きた。真っ白に燃え尽きた。

 

「ごくろう山田先生。織斑、何か言うことは無いか?」

 

「・・・体調が悪いので早退していいですか?」

 

「その様子だと早退は無理だな」

 

千冬姉、俺のライフはもうゼロなんだけど・・・

 

「諸君、二人の恋バナを聞いた所で私から言いたいことがある」

 

千冬姉が恋バナを言ってる時点で違和感を感じる。

 

「二人が付き合ってる事に関して私から異論はない。だが、お前達が二人に謙遜する必要は無い。むしろ積極的になれ」

 

「ち・・・織斑先生、それって・・・」

 

「織斑。山田先生と付き合ってる事を全員に話せば、少しは羽目を外しても大丈夫だと思ってたのか?」

 

「いや・・・思っていません」

 

そう思っていた時期がありました。

 

「それに、山田先生以外の交流を疎かにしてると聞いたが・・・」

 

「うぐっ!」

 

「心当たりがあるならさっさと直せ」

 

そう言い、千冬姉はクラス一丸となって俺と真耶の恋の応援と「織斑一夏 友達百人計画」を宣言した。友達はそうやって増やすものじゃないから千冬姉。後、箒とセシリアが凄く睨んでいるから。

 

 

 

こうして、俺の波乱万丈の学園生活が始まった・・・・・・のか?




次回は、皆さんが待ってるかどうかわからないけど・・・

「中二の一夏 クリスマスの告白」

を公開する予定です。

ご期待ください。

ご意見、ご感想、お待ちしております。



オマケ

※このお話は、ラウラ・ボーデヴィッヒ視点のお話です。このお話を読まなくても、次の話に支障はありませんが、キャラへの理解が深まる・・・はずです。



私の名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。

ドイツのIS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」の隊長だ。私は今、IS学園の総合受付所に向かっている。なぜIS学園に向かってるかって?

決まってる。我らが教官「織斑千冬」を再びドイツに赴かせることだ。シュヴァルツェ・ハーゼが多大な功績を残せたのは、教官の指導によるものだ。

あの他人を寄せ付けない孤高の強さは、ブリュンヒルデの名に相応しい。

だが、織斑一夏の存在が教官を弱くさせる。いや、殺そうとしている!

そんなことはさせない!教官がいなければ、今の私など存在しない。今度は私が教官を救うんだ!

そう張り切ってIS学園に着いたのは良いのだが・・・



「迷子だ・・・」



迷ってしまった。

パンフレットに書いてあるアクセスルートは現在工事中で通れない。仕方なく、他のルートで行ったら迷子になってしまった。

どうすればいい!クラリッサに連絡を取ろうとしても、携帯はバッテリー切れを起こしてる。周りには誰もいない。万策尽きたのか・・・

「あ、あの・・・」

「ん?」

「どうしたんですか?」

どうやら私は運がいいみたいだ。

「総合受付所を探してるんだが、案内してくれないか?」

「も、もしかして・・・転校生?」

「ああ。私の名はラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「更識・・・簪です」

「更識、案内してくれないか?」

「わ、分かりました。後・・・」

「何だ?」

「同じ苗字の人がいるから・・・名前で呼んで・・・ください」

「分かった。簪、案内してくれ」

簪の案内で総合受付所に着いた私は手続きを済ませた。

「簪、お前のお陰で総合受付所にたどり着けた。礼を言う」

「い、いえ!・・・私は大したことなんて・・・」

「謙遜するな。道案内ができるのも素晴らしい事だ」

「ぼ、ボーデヴィッヒさん・・・」

「ラウラで構わん。では、私はこれで・・・」

更識簪か・・・更識?どこかで聞いたことがあるような・・・まあいい、今は織斑一夏を倒す事だけを考えればいい。後で整備室に行って、シュヴァルツェア・レーゲンの最終調整をしなければな。



整備室

「ここが整備室か。思っていたより綺麗だな」

さて、ちょうど近くに生徒がいる。許可をとってから整備をしないとな。

「すまないが、ここの一画を貸してくれ・・・ない・・・か・・・!」



クラリッサ、お前が言った事を信じてみよう。



「え・・・ラウラ?」

「簪・・・」



女同士でも「運命の出会い」というものがあるということを。


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第15話

皆さん、お待たせしました。

今回は「中二の一夏 クリスマスの告白」です。

スランプ気味の作者が頑張って執筆したので、あまり甘くはありません。

それでも甘く感じる読者はコーヒーを飲むことを推奨します。


12月25日 とある駅前

 

「そろそろ来る頃だけど、場所を間違えたのかな」

 

私、山田真耶はある人が来るのを待っています。

 

その人は私より年下ですが、優しくて、頼りになる人です。

 

最初は私の方を見向きもせず、除け者扱いしてました。

 

けど、彼は心のどこかで泣いていました。

 

それに気付いた私は何とかして彼を苦しみから解放しました。ちょっと頭を怪我をしましたけど。

 

 

 

そんな彼ですが、クリスマスに言いたいことがあるのでこの場所で待ってて欲しいと頼まれたけど・・・

 

「まだかなぁ」

 

まだ来ていません。どうしたんだろう?まさか・・・喧嘩に巻き込まれた!?

 

「どうしよう!どこにいるのか分からないし、携帯だって持ってないし・・・」

 

「すみません!遅れてしまいまして!」

 

ああっ!織斑君!

 

「大丈夫、織斑君!怪我とかしてない!?喧嘩に巻き込まれてないよね!?」

 

「いえ、ただの遅刻ですので心配しないでください」

 

「そうなの?良かったぁ」

 

「山田さんは心配しすぎです」

 

「織斑君が今まで私を心配させすぎたのです!」

 

「すいません・・・」

 

いつも他人行儀の織斑君ですが、今日は何だか様子がおかしいです。どこかそわそわして・・・もしかして!実は喧嘩をしてたのを隠してるの!?

 

「織斑君。もしかして・・・」

 

「山田さん。実は予約してるレストランがあるので行きましょう」

 

「えっ!?ちょっと織斑君!」

 

私は言及できずに、織斑君にレストランに連れて行かされました。

 

 

 

織斑君が予約したレストランは高級感溢れるとまではいきませんが、なかなかオシャレで静かなレストランでした。

 

だけど・・・

 

「・・・」

 

「・・・」

 

気まずい雰囲気が、何故か私と織斑君を包んでいました。

 

「あのぉ」

 

「ど、どうしたんですか?山田・・・さん」

 

「その・・・話したいことって・・・」

 

「あ、ああ。それはある場所で言うので大丈夫です」

 

「ある場所?」

 

「い、今は言えないですが・・・安心してください」

 

「じ、じゃあ、その場所に付くまで聞かないから、あ、安心して」

 

「は、はい」

 

その後、私達は無言のまま夕食を堪能したけど、緊張しすぎて味は分かりませんでした。

 

「食べ終わったので・・・移動しましょう、山田さん」

 

「は、はい!」

 

織斑君・・・一体何を話したいんだろう?

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

俺、織斑一夏は凄くピンチです!

 

弾と練った「クリスマスデート」の計画で実行してるが、レストランで会話が弾まず大失敗。次の所に行くまでに会話をして、ムードを高めないと・・・

 

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

 

・・・できませんでした。

 

どうしてだ!?4月からずっと一緒に住んでいたのに、いざ実行しようとすると体と口が動かないんだ?

 

「織斑君」

 

「な、何ですか?」

 

「ある場所で話したいことがるって言ってたけど、その場所って?」

 

「もうすぐ着くので、大丈夫です」

 

そうだ。その場所に着いたら俺は・・・

 

 

 

山田さんに告白するんだ!

 

 

 

そんなことを考えてたら、ある場所に着いた。

 

「ここって・・・」

 

そこは俺と山田さんが初めて出会った公園であった。

 

千冬姉に無理矢理連れて行かされて、山田さんと会ったんだな。

 

「俺、ここで山田さんに言いたいことがあって・・・」

 

俺は山田さんに溜めに溜めた思いを言った。

 

「山田さんには色々とお世話になりました。家事や勉強、人を信じる事や許す事・・・山田さんから様々なものをもらいました。俺がこうやっていられるのも山田さんのお陰です」

 

「そ、そんな織斑君ったら・・・」

 

山田さんが顔を赤くしながら照れてる・・・チャンスかもしれない。

 

「でも気付いたんです。俺は山田さんに言うべきことがあると」

 

「言うべきこと?」

 

「俺、最初は山田さんとは千冬姉の知り合いで良いって考えていました。だけど、時間が経つにつれてそういう思いじゃ無くなってきて、その・・・なんと言うか・・・」

 

ああ!何で肝心な時に言葉が詰まるんだよ!

 

「織斑君、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です」

 

山田さんに心配されてるじゃないか!最悪のムードじゃん!ここは正念場だ!当たって砕けろ織斑一夏!

 

「山田さん!」

 

「は、はい!」

 

「俺、このまま山田さんと仲の良い知り合いという関係を続けたくありません!」

 

「えっ!」

 

「俺、気づいたんです。本当は山田さんと一緒にいたい。もっと色んなことを二人で共有したい!思い出を作りたいって!」

 

「織斑君・・・」

 

山田さんは俺が何を言いたいのか分かってる。しかも、それを受け入れる準備ができている。なら言うか・・・

 

「山田さん、俺は・・・俺は山田さんが!」

 

 

 

「そこまでだ」

 

 

 

突然、ドスの効いた声が俺の告白を遮った。声がした方を向くと、黒いスーツを纏った2m近い背丈の男と、ゴルフクラブを持った男達がいた。

 

「誰なんですか?」

 

「坊主に名乗る名前なんてねぇよ。俺たちはこの街を荒らしまわってるガキを潰しに来ただけだ」

 

「そのガキって・・・」

 

「そうだ。お前だ織斑一夏」

 

どうして俺の名前を!?いや、そんなことよりこの場から逃げ出さないと・・・

 

「悪いが、この場所は囲まれてる。諦めて俺たちに掃除されるんだな、そこの女と一緒に」

 

「織斑君・・・」

 

「安心して下さい。何があっても俺は山田さんを守ります」

 

とは言ったものの相手は10人近くいる。ここは、撹乱して逃げ出さないと。

 

 

 

「威勢だけはそれなりにあるようだな。お前達、このガキを・・・」

 

「ちょっと待ったー!」

 

 

 

男の指示を遮る程の大声をだしたのは・・・

 

「どこの誰だが知らねぇが、二人の邪魔をするってんのなら、この五反田弾がゆるさねえぞ!」

 

自転車を爆走してやって来た弾だった。

 

「弾!どうしてここに?」

 

「二人の後を追って、こんな事態から逃げるわけないだろ!それに一世一代のイベントを台無しにされてたまるか!」

 

「弾・・・」

 

「とにかく、ここから逃げろ!時間稼ぎは俺がやる!」

 

そう言い、弾は繁華街までのルートが書かれてある紙を俺に渡した。

 

「ありがとう、弾。後・・・」

 

俺は山田さんの手を握り、

 

「ストーカーの事について、後で聞かせろよ」

 

「いいぜ!だから、ちゃんと当たって砕けろよ!」

 

俺は弾に釘を刺して、山田さんと一緒に繁華街に向かって走り出した。

 

 

 

だけど、弾がノリノリなのはどうしてだ?

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

私、山田真耶は驚いてた。織斑君が私を守ろうとした。いつもだったら私の事はお構いなしと突撃して戦いに行ってたけど・・・

 

「安心して下さい。何があっても俺は山田さんを守ります」

 

その言葉に胸の高まりが収まらない。だけど・・・

 

 

 

いいのかな・・・私みたいな人で・・・

 

 

 

私は織斑君のお姉さんみたいにISの実力があるわけでもないし、意志が強いと言う訳でもない。日本代表候補まで上り詰めたけど、そこから成長することなく代表候補生止まり。周りからは「スタイル以外は優れていない」といわれる始末。そんな私を織斑君が・・・

 

 

 

そんなことを考えていたら、私と織斑君は繁華街にたどり着いていました。

 

綺麗なイルミネーションが飾られ、道の中央には巨大なクリスマスツリーがそびえ立っていました。

 

だけどそこに人の気配はなく、まるで私と織斑君以外の人間がいなくなった世界に放り込まれた感覚でした。

 

「ここまで・・・来れば・・・大丈夫です」

 

「織斑君・・・」

 

「どうしたんですか山田さん?」

 

「本当に・・・私でいいんですか?」

 

「え?」

 

私は知りたい。織斑君の本当の気持ちを。

 

「私より、ISの実力とかスタイルとかいい人なんていっぱいいます。どうして私を好きになったんですか?」

 

「!!」

 

あれ?織斑君が顔を赤くしてるけど・・・

 

「いやぁ・・・そのぉ・・・どうして・・・好きだってことが分かったんですか?」

 

「今日に限って、落ち着きが無かったからです」

 

「やっぱり・・・」

 

「そんなことはどうでもいいんです。織斑君、教えて。どうして私なの?」

 

「優しさかな」

 

「優しさ?」

 

「俺、すべてが怖かったんだ。千冬姉も、友達も、周りの人も、世界も。全てが俺を見捨てるんじゃないかって思った。だから、俺が強くなって全てを守れば、見捨てられることも無いって考えた。だけど、山田さんはそんな俺に優しくしてくれた。初めはそんな事をされる権利なんて無いと思って突き放してたけど、それでも山田さんは優しくしてくれた。その時に俺は気付いたんです。俺に必要なのは力じゃなくて優しさなんだって。憎むより許す方がすごく難しいのに、それを行える山田さんに俺は好きになってしまったんです。だから・・・」

 

私は織斑君の言葉を聞いて気付いた。私も怖かったんだ。誰かに拒絶されるのが。

 

そして、そんな私に心を開いてくれた織斑君が・・・

 

 

 

「俺の恋人になってくれませんか?」

 

 

 

好きなんだ・・・

 

 

 

「織斑君」

 

「何ですか?」

 

「私の名前で・・・告白して」

 

「俺の事も名前で呼んでくれたら、告白します」

 

「・・・一夏君」

 

「真耶・・・」

 

もうお互い顔を赤くしながら見つめ合っていた。そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はお前が好きだ」

 

「私も・・・一夏君が好き。大好き!」

 

「真耶、俺の恋人になってくれるの?」

 

「うん。だから他人行儀な口調はしないで、一夏君」

 

「分かったよ真耶・・・愛してる!」

 

「私も一夏君を愛してる!」

 

「「「「「おめでとう!」」」」」

 

「「え?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、クラッカーの音とカメラのシャッター音が一斉に鳴り響いた。おまけにフラッシュの点滅が激しくて誰が誰だか分かんないが、少なくとも弾がいることは分かった。

 

 

 

「この幸せ者め!爆発しろ!」

 

「織斑君、幸せに爆発してね!」

 

「これで爆破対象が出てきたわけか・・・」

 

「織斑君、大晦日に爆発してね!」

 

「爆発四散!」

 

「みんな・・・」

 

 

 

中学のクラスメイト達が一斉に祝福してくれたけど、口を揃えて「爆発しろ」って言う。素直に祝福してくれ・・・

 

「というより弾、お前大丈夫だったのか!?」

 

「大丈夫も何も、あれは全部芝居だったからな!」

 

「全部って・・・」

 

「男達の襲来から繁華街まで、全部クラスと先生が計画を練ったからな!」

 

「ええっ!?先生何してるんだよ・・・」

 

クラス一丸となって告白の手伝いをするって・・・ドイツにいる千冬姉が聞いたら大爆笑するな。

 

「ところで先生は?」

 

「家族と一緒にクリスマス旅行。三学期になったら報告してくれって言ってたな」

 

うちの担任は教師としての自覚があるのか?

 

「まあ、無事に告白も成功したことだし全員解散!」

 

弾の一声によりクラスメイト達は各々散って行き、一般の人達が繁華街に入ってきた。

 

「弾!これって・・・」

 

「いやぁ、この続きは二人だけで味わってほしいからさ。じゃあな!」

 

「お、おい!」

 

俺が聞きたいのはこの繁華街を貸切にしたのは誰なのか聞きたかったのに。

 

「一夏君」

 

「ん?」

 

すっかり山・・・真耶の事を忘れてた。

 

「実はお願いがあるの・・・」

 

「何?」

 

そう言って真耶は俺の手を握り、

 

「一緒に帰ろう」

 

顔を赤くしながらも笑顔で頼んできた。

 

俺は一人じゃないんだ。明日からいや、これからは最愛の人と一緒に人生を共に歩んでいくんだ。

 

 

 

 

 

 

「ああ。帰ろう、家へ・・・」

 

俺は真耶の手を握り返し,二人で家に帰って行った。

 

それがクリスマスの告白だった。




次回は本編に戻します。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第16話

今回は千冬が教師として活躍・・・してるはずです。

誰でもいいので、ISのモバゲーに山田先生をユニットとして登場させてください。


あの壮絶な一時限目(カミングアウト)が終わり、昼休みを迎えたけど・・・

 

(なんだ、このプレッシャーは・・・)

 

周りの女子の目線がいつも以上にキツイ!

 

なんだか、我にチャンスありと言わんばかりのオーラが俺に襲ってくる。

 

隣にいる相川さんと谷本さんからも、オーラが漂ってるせいで日替わり定食の味が分からない。

 

でもそれ以上に・・・

 

「「「・・・・・・」」」

 

あの三人(箒とセシリアと鈴)のオーラが殺気となって俺に突き刺さる。誰か助けてくれ・・・

 

「どうした兄さん。具合でも悪いのか?」

 

そうだった。俺の隣にはマドカがいたんだ。どうすればこの事態を対処できるか聞いてみるか。

 

「いや、ただこの視線の中で昼食を食べるのがちょっと・・・」

 

「安心しろ。もし兄さんに襲い掛かってくる野盗共がいるなら、躊躇いも無く殺すだけだ」

 

それ事態をややこしくするだけだから。

 

「それに兄さんは山田先生に頼りすぎている部分がある。山田先生以外の人を頼ってくれ」

 

痛い所を突かないでくれマドカ。確かに真耶に頼りすぎてた所はあった。だけど、あの三人に振り回される毎日を過ごしたくなくて頼ってしまうんだ。・・・情けない兄だ。

 

「ところでマドカ。山田先生とはうまく生活できてるのか?」

 

これは兄として真耶の彼氏として気になるからな。

 

「問題はないが、寝言で兄さんの名前を言い続けてるのは困る。それにネグリジェやガーターベルト、一部の下着を隠すのはやめて欲しい」

 

ごめんねマドカ。その原因を作ったのは兄である俺だ。

 

「あ、織斑さん。ここにいたん・・・です・・・か・・・」

 

真耶がマドカに声を掛けようとした瞬間、視線が真耶に集中したけど・・・一部の方達の殺気が強すぎる。

 

「なんですか?」

 

「実は放課後、補習をしたいのですか・・・」

 

「安心しろ。補習などしなくても、テストは80点以上を叩きだす」

 

「そういえばマドカも専用機持ちだったよな」

 

確かセシリアと同じ武器を使うISだったけど、どうやって手に入れたんだ?

 

「ああ、そうだが」

 

「どうやって手に入ったんだ?セシリアと同じ武器を使うってことになると・・・」

 

「簡単な話だ。私がイギリスに旅行で言った時、ISに関して一番偉い人に妹キャラで褒めに褒めたら貰った」

 

「待てマドカ!何やってるんだ!?それって国際問題に・・・」

 

「安心しろ。その人は女だ」

 

そういう問題じゃなーい!見ろ!セシリアがものすごい嫌悪になってるぞ!

 

「その女は息を荒げながら、『後始末は私がするから、大切に扱ってね』と言われたから問題は無い」

 

問題ありすぎだろ!セシリアが笑ってるけど、目が笑ってないから!

 

「織斑さん。今すぐにでもそのISをイギリスに返却しませんか?」

 

「別に構わん」

 

素直に言うことを聞いてくれた。これは兄として・・・

 

 

 

「ISなど拘束具に過ぎん!」

 

 

 

心配するしかない。

 

その後千冬姉に鉄拳制裁を喰らったマドカは、セシリアを睨みながらも謝ってISを千冬姉に渡して事なきを得たけど・・・

 

 

 

「「「「「じー・・・」」」」」

 

 

 

皆の視線が未だに突き刺さる・・・

 

 

 

 

 

 

放課後を迎え、俺はシャルルと一緒にアリーナでISの訓練をしている。本当は真耶と一緒に訓練をしたかったけど・・・

 

「山田君以外の人と訓練をしろ。それが無理だと言うなら、箒と一緒の部屋にさせるぞ」

 

そんな千冬姉の脅迫が来そうだったので我慢することにした。

 

それにしてもシャルルの教え方もなかなか上手である。

 

手取り足取り銃の使い方を教えてくれるのは、実に有り難いけど・・・

 

 

 

実は銃のレクチャーは真耶からかなり教わったんだよな。

 

 

 

銃の特性や使い方など、真耶が教えてくれたおかげで銃はそれなりに扱えるけど・・・

 

イカンイカン。何を考えてるんだ俺は。シャルルがせっかく教えてくれてるんだ。そのご厚意を無駄にしてはいけない。それに真耶以外の人との交流を深める為にやってるんだ。俺も頑張らないと・・・ん?

 

 

 

「ねぇ、ちょっとアレ・・・」

 

「ウソっ!?ドイツの第三世代型だ!」

 

「まだトライアル段階って聞いたけど・・・」

 

 

 

アリーナのピットに立っていたのは、黒いISを纏ったラウラだった。

 

「おい」

 

「何だよ」

 

アイツの眼・・・似ている。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話は早い、私と戦え」

 

「嫌だ。理由はねえよ」

 

戦いたくない理由なら一つだけある。

 

「貴様に無くても、私にはある」

 

この威圧感、そして他者を寄せ付けない雰囲気、やっぱり・・・

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。

 だから、私は貴様を・・・貴様の存在を認めない!」

 

アイツは・・・昔の俺だ。力を追い求め、その力ですべてをひれ伏そうとした俺だ。

 

「そんな事をしても千冬姉は喜ばないぞ」

 

「ほう・・・なら、戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

ラウラが言い終わると同時に左肩に装備された大型の実弾砲が放たれたが・・・

 

 

 

「しゃうっ!」

 

 

 

マドカが実弾を3分割にして、俺とシャルルは助かったけど・・・

 

「マドカ・・・指、大丈夫か?」

 

指先で切断するって、兄として不安しか無いんですが。

 

「ふん。ISの実弾など鉄の塊に過ぎん!」

 

それを生身で対応できる妹が怖いです。

 

「貴様、なぜ私の邪魔をする!?」

 

「お前には伝えなければならないことがあるからだ」

 

「何だそれは?」

 

「貴様が求めてる力は近くにあるということだ」

 

マドカ、そんな事を言ってもラウラが引っ掛かるとは・・・

 

 

 

「それは本当か!?」

 

 

 

引っ掛かった。あれで軍人として務まるのか・・・

 

「だが、その答えは自身の手で見つけ出すのだな」

 

そう言ってマドカは去ったけど、皆驚いてるから。

 

「す、凄いね。一夏の妹さんって・・・」

 

「あ、ああ・・・」

 

何でうちの姉妹は人間を辞めてるんだ・・・

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・疲れたな」

 

シャルルとの練習を終えた俺は一人寮へと戻ろうとしていた。あの後、マドカは千冬姉と特別補習を賭けて対決したらしいが、見た人曰く・・・

 

 

 

「ISで二人に勝てる見込みがない」

 

 

 

と言わしめるほどの戦いだったらしい。もうあの二人に世界の平和を託しても問題なさそうな気がしてきた。そんなことより、早く帰って今日の復習を・・・

 

「なぜこんなところで教師など!」

 

あの声は?

 

「私には私の役目がある。ただそれを行っているに過ぎない」 

 

「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」

 

千冬姉とラウラだ。けどラウラからは、軍人としての雰囲気は無くまるで、無い物をすがっている子供に見えてしまった。

 

「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません!」

 

「・・・」

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません!」

 

それは違う。ラウラ、千冬姉が教師をやってる理由は自分の罪と向き合うためにやってるんだ。たとえそれが自己満足であろうとも、自分が伝えられる物を自分なりに伝えてるんだ。

 

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そんな程度の低い者達に教官が時間を割かれるなど・・・」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

「「!!」」

 

俺は我慢できずにラウラに抗議を仕掛けようとしたが、千冬姉の一声で止まってしまった。と言うより、怖くてこの場から動けないんですけど・・・

 

「貴様はどこの所属の人間だ?」

 

「わ、私はIS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐です!」

 

「貴様はISがどういう物なのか理解してるのか?」

 

「はい!理解しています!」

 

「では、答えろ。ISとは何だ?」

 

「はい!ISとはこの世界の最強の兵器であり、世界の抑止力の要になっているパワードスーツです!我々「シュヴァルツェ・ハーゼ」はそのISを使い、国家の安全、国民の平和を守るために結成された部隊です!」

 

何か、メチャクチャな部分があったような無いような・・・

 

「では、ラウラ・ボーデヴィッヒ。さっきまで貴様が行っていたのは何だ?」

 

「はい!我が教官の能力を最大限に発揮できる環境の提供です!」

 

「私は貴様に教える物は全て教えたはずだ。何故、ドイツに戻らなければならない?」

 

「はい!ここの者達はISの認識が甘く、このままでは教官の能力を発揮できないと考えたからです!」

 

「貴様の役割は、その者達のISに対する認識を変える事ではないのか?私の教えを一番理解しているなら、それを行うのも容易ではないのか?」

 

「そ・・・それは・・・」

 

今まで軍人としての振る舞いをしてたラウラが突然動揺し始めた。

 

「お前はISの特殊部隊の隊長だ。私の助けなしでも十分に人にモノを教えることは出来るはずだ」

 

「し、しかし・・・」

 

「それができないと言うのなら、私はお前を買いかぶりすぎたかもしれんな」

 

「・・・」

 

千冬姉・・・ラウラの事を心配してるんだ。

 

「教官・・・」

 

「どうした、ボーデヴィッヒ?」

 

「・・・何があったんですか?」

 

「日本に戻って自分というものを見つめ直した。そして、本当にやるべきことを見つけ教師を・・・」

 

「嘘だ!」

 

ラウラの溜めに溜めてた思いが爆発した。

 

「教官、あなたはそんな人じゃない。あなたは孤高の強さを持ち、私達の手の届かない所にいる神に近い存在でした。なのに今の教官は程度の低い者達と笑い合って、怒って、教壇に立っている・・・。あの時の教官はどこに行ったのですか!?」

 

「ボーデヴィッヒ。あの時の私は・・・」

 

「教官は私に言ってくれました。力の無い者は何一つ守れないと!」

 

「っ!!」

 

千冬姉の顔が突然固まった。まるで、心の古傷を掘り返されたかのような顔をしていた。

 

「私はその言葉に心打たれました、救われました。力が無ければ、誇りも仲間も未来を守れないと。今の私がこうしていられるのは、その言葉があってこそなんです。でも教官はそれを否定しようとした」

 

「・・・ああそうだ。あの時の私は全てに恐怖していた。その恐怖から目を背けるために力に固執した。だがボーデヴィッヒ、お前が・・・」

 

「これ以上言わないでください!」

 

ラウラが突然涙を流した。まるで、自分と言う存在がいなくなるのを恐れている子供の様に。

 

「教官は・・・私を否定するのですか?あの時の自分を否定するということは、今いる私という存在を否定するのですか!?」

 

「お前も気付いてるはずだ。闇雲に力を求めては・・・」

 

「織斑一夏ですか!」

 

何で俺の名前が・・・

 

「私達は知っています。織斑一夏がいるせいで教官が苦しんでいるのは・・・。教官が寝言で織斑一夏の名を呟きながら苦しんでいる姿を。私は己の無力さを呪いました。私が強ければ、教官は苦しまずに済むと。だから私は、織斑一夏を殺す事に躊躇いは・・・」

 

「いい加減にしろ!」

 

「貴様ぁ・・・」

 

もう我慢できない。これ以上千冬姉を苦しんでる姿なんか見たくない!

 

「分かってるはずだ!そんな事を千冬姉が・・・」

 

「黙れ!貴様の存在が私と教官を苦しめていることに何故気付かない?」

 

「ラウラ!お前は千冬姉の幻影に憑りつかれてるだけだ!尊敬しているなら、今の千冬姉の声に・・・」

 

「黙れ!教官が弱くなったのは織斑一夏!貴様がいるからだ!貴様さえいなければ、教官はより強くなっていた!貴様のせいで、教官は弱く・・・」

 

 

 

「そこまでにしておけよ、二人共」

 

 

 

「「あ・・・」」

 

 

 

議論に白熱してて千冬姉を忘れてた・・・

 

 

 

「今からお前達に私の特別レッスンをプレゼントしよう」

 

「「・・・え?」」

 

その後、俺とラウラは千冬姉にSHINOBIの真髄を味わう羽目になった。




次回の話は・・・未定です。

それより、真耶が一切登場してない・・・

真耶成分を入れなくては・・・俺が死んでしまう!

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第17話

今回は、一夏がどれ程真耶を愛しているのか分かる話です。

というより、思春期全開(?)の一夏です。



amazonで注文したAGPの真耶が届いたあ!

我世の春が来たあぁぁぁぁぁ!(梅雨の時期です)


千冬姉によるSHINOBIレッスンから解放された俺はそのまま部屋に戻ったけど・・・

 

「大丈夫、一夏君。顔色が優れてないけど?」

 

「シャルル・・・大丈夫だ、問題ない」

 

そうだった・・・今日からシャルルと同室だったんだ。いつもだったら、真耶の膝枕か晩御飯、ハグをしたり胸に優しく顔を埋めたりして二人の時間を過ごしてたけど、今思うとちょっと羽目を外してたかな。

 

「でもびっくりしたよ。一夏君と山田先生が付き合っていたなんて。それにクリスマスに告白するなんて意外とロマンチストな部分もあるんだね」

 

「シャルル・・・クリスマスの所は触れないでくれ。恥ずかしい・・・」

 

やっぱりクリスマスの告白の事は恥ずかしいよ。顔を赤くしちゃってるし俺。

 

「一夏君、一緒に夕食を食べよう」

 

「おっ?もうそんな時間か・・・」

 

そういえば夕食も真耶の手作りを食べたり、一緒に夕食を作って食べたり、一緒に食堂に行くことなんて無かったからな。

 

「ああ。行こうぜシャルル」

 

「うん!」

 

なんかシャルルが凄く嬉しそうに見えたが・・・まあ、男二人だけだからそうなるか。

 

 

 

「・・・ふぅ。シャルルがいて助かった」

 

シャルルと一緒に夕食を食べて正解だった。あの三人(箒とセシリアと鈴)がおとなしく食事をしていたから、シャルルに余計な心配をかけずに済んだし、他のクラスメイト達とも談笑できたし、非常に満足な夕食だった。

 

シャルルがシャワーを浴びると言って先に部屋に戻って行ったし、俺はどうしようかな・・・

 

 

 

 

 

 

分かってるはずだ・・・今、回れ右をしなければ千冬姉の顔に泥を塗るんだぞ!そんな事をしてまでやる必要は無いんだ!これは耐えるべきなんだ!耐えなければならないんだ!修行なんだ!乗り越えなければならない試練なんだ!それを分かれよ!織斑一夏!どうして・・・

 

 

 

「なんで俺はこんな所にいるんだ・・・」

 

 

 

真耶の部屋の前にいるんだ!

 

「いかんいかん!俺がしっかりしないと、マドカにも兄としての示しがつかない。部屋に戻・・・」

 

ん?俺の手を優しく握ってるのはマ・・・

 

「一夏君、どうしたの?」

 

真耶だ・・・

 

「い、いや。今日はたまたまここを通りかかっただけなんで・・・」

 

ごめん真耶。俺はいろんな人交流を深めて見分を広めて・・・

 

「一夏君、私に嘘をついてもバレますよ」

 

「うっ・・・」

 

真耶、気持ちは分かる。俺も真耶と一緒にいたいけど我慢しよ。これ以上千冬姉やマドカに迷惑を・・・

 

「それに、ちょっと相談したいことがあって・・・」

 

「相談したい事?」

 

「それは・・・」

 

俺が心の葛藤を繰り広げてる中、真耶は俺にあるものを見せた。それは・・・

 

「真耶、どうしたらこうなるんだ?」

 

「部屋に戻ったら、こうなってて・・・」

 

真耶のベット以外、トレーニング道具しか置いてなかった。周りには格闘技の書物、ISに関する書物、人体に関する書物、ゲームに関する書物が綺麗に置かれているが・・・

 

「千冬姉に連絡して、撤去するから待ってて」

 

マドカ、お前はどこからこれらを持って来たんだ・・・

 

 

 

 

 

 

「マドカ。強くなりたいのは分かるが、他人に迷惑をかけるのはいくらなんでも良くないぞ」

 

「だけど兄さん・・・」

 

「ゆっくりでもいいんだ。自分の背丈に合わない力を身に着けたって、自分自身を滅ぼすだけだぞ」

 

俺は今、廊下でマドカに説教をしている。本来なら千冬姉が代わりに説教するはずなんだけど・・・

 

 

 

「お前が代わりに説教をしろ。私に頼ってばかりじゃ、兄としての示しがつかないだろ」

 

 

 

と言われて、説教してるんだが意外と難しい。頭ごなしに否定せず、どうやって問題点だけを指摘して自主性を促す激励を言えばいいのか。

 

そう考えると、千冬姉って教師としての素質は少なからずあったんだな。

 

「だけどどうすればいい。私は修行以外にやることは無いんだぞ」

 

「だから千冬姉は真耶と一緒に住ませたと思うんだ、戦い以外の生活を見つけさせるために。それにクラスメイト達もいるんだ。きっと修行以外にやりたいことが見つかるよ」

 

「・・・うん」

 

ちょっと残念な顔をしつつも、俺の言った事を理解してくれたようだ。兄としては嬉しい限りだ。

 

「一夏、マドカのトレーニング器具はすべて撤去して、元の部屋に戻したぞ」

 

「ありがとう千冬姉。あと・・・」

 

「悪いが、山田君と一緒にはさせないからな」

 

「・・・はい」

 

俺の策略が読まれた・・・

 

「お前は山田君が一緒にいなければ死んでしまう病気にでも掛かっているのか?山田君に甘えるな。離れてまだ三日しか経ってないんだぞ」

 

「あ、あの織斑先・・・」

 

「山田君も山田君だ。自制心を持て。クラスに付き合ってる事を話せば、イチャついても構わんと言った覚えはない」

 

「「・・・すいません」」

 

「はぁ・・・付き合ってる事を認めたとは言え、互いに依存しすぎだ。自分を見つめ直すいい機会だ。もっと時間を有効に扱ってもらわないと困るぞ」

 

「「・・・はい」」

 

「分かったなら部屋に戻れ」

 

千冬姉に説教を喰らい、俺と真耶は部屋に戻った。

 

 

 

部屋に戻った俺はシャルルと一緒にISに関する勉強をし、シャワーを浴びたけど何故かシャルルの顔が赤くなっていた。まさかね・・・

 

その後は寝るまでシャルルと他愛のない会話をしていた。

 

「一夏君って、ISの練習は今までどうしてたの?」

 

「今までは山田先生と一緒に練習をしてたよ。かなり強くて、一度も勝ったこと無いんだ」

 

「へぇ。おっとりしてる所があるんだけど意外と強いんだ。織斑先生ばかりに注目してたから気付かなかったよ」

 

大体真耶の完封勝利だからな。まあIS以外に関しては俺が勝ってる所はあるけど。千冬姉は・・・勝てたら「霊長類最強」の称号が貰えるよ。

 

「山田先生には色々とお世話になってるからな。山田先生に迷惑かけないように努力しないと」

 

「そうなんだ・・・」

 

シャルルの目から光が消えたような・・・気のせいだ。疲れてるんだきっと。

 

「そろそろ消灯時間だし、寝るか」

 

「うん」

 

話を切り上げた俺は部屋の電気を消し、ベットに潜り込んだけど・・・

 

「僕って魅力無いのかな・・・」

 

「何か言ったかシャルル?」

 

「えっ!な、何にも言ってないよ!」

 

シャルルが何か言った様な気がするけど、気のせいか。

 

 

 

『付き合ってる事を認めたとは言え、互いに依存しすぎだ。自分を見つめ直すいい機会だ。』

 

 

 

「自分を見つめ直す・・・か」

 

今の自分に何ができるだろう・・・

 

まだ白式の力を扱いきれていないし、過去の呪縛に縛られたラウラを助ける方法は浮かばないし、あの三人の動向は気になるし、問題は山積みだ。

 

それに、真耶に依存してるって言われたし、ちょっと距離を置いてみようかな・・・ダメだ!そんなことをしたら真耶に無駄な心配を掛けてしまう。だからって一切の交流がないっていうのも違和感を感じるし、挨拶だけして後の会話がないっていうのもおかしいし・・・・・・

 

そんなことを考えながら俺は睡魔に身を委ね、眠りに落ちた。

 

 

 

「お・・・て・・・こ・・・よ」

 

・・・ん?

 

「おき・・・ち・・・る・・・」

 

この声は・・・

 

「起きてよ!遅刻しちゃうよ!」

 

「・・・ま・・・や?」

 

「まや?違うよ!シャルルだよ!」

 

・・・シャルルだった

 

「ごめん・・・寝ぼけてて」

 

「そんなことより遅刻しちゃうよ!」

 

時計を見たら・・・あと10分でSHRが始まってしまう。

 

「げぇ!遅刻したら千冬姉の飯綱落としが待ってる!」

 

「ごめん一夏君!先に行ってるよ!」

 

「えっ!?シャルル!」

 

シャルルは俺に一礼をして教室へ走って行った。さすがのシャルルも飯綱落としは喰らいたくないけど、廊下を走ってたら・・・

 

 

 

「シャオッ!」

 

 

 

マドカの(バスケ練習の)餌食にされるのに。

 

 

 

 

 

 

なんとか朝のSHRに間に合い飯綱落としは逃れたけど、マドカはシャルルをバスケの練習相手にしたという理由で飯綱落としを三回喰らって意気消沈中である。シャルルは今、保健室で療養中のため、一時限目は欠席。でも千冬姉、飯綱落とし三発はやりすぎだよ。飯綱落としの種類が様々だっていうけど。

 

「では本日より実戦訓練を開始する。そろそろお前達も実技を身に付けねばならん。座学も重要だが、これも劣らず重要だ。しっかり学ぶように」

 

そんなこんなで一時限目に実技を受けている。相変わらず三人の考えは分からなくて怖いけど、今日はラウラが随分大人しい。千冬姉のSHINOBIレッスンの効果かな?

 

「さて、今日は模擬戦をしてもらう。オルコット、凰、出てこい!」

 

千冬姉に呼ばれセシリアと鈴が前に出たけど、何だろう・・・素の表情が怖く感じるのはどうしてだろう?

 

「イギリス代表候補生の実力、見せてもらうわよ!」

 

「わたくしも負けられませんわ!」

 

二人共代表候補生だから、互いに譲れないプライドがあるんだろうけど・・・何だか寒気がする。

 

「お前達、戦う相手を間違えてるぞ」

 

「「・・・え?」」

 

二人が呆然としている。今ISを纏ってるのはセシリアと鈴だぞ。他に・・・

 

 

 

「み、皆さーん!どいてください!」

 

 

 

いた!ラファールを纏った真耶だ!しかも落ちてる・・・白式!

 

「ぐっ!」

 

「い、一夏君!?」

 

白式を展開して落ちてる真耶を受け止めたけど・・・止まらない!

 

「止まれぇぇぇ!」

 

 

 

現実は非常だった

 

アリーナのフィールドから轟音が響き、小さいクレーターができてしまった。ああ・・・後で埋めなきゃ。

 

 

 

「一夏君!大丈夫!?」

 

「え、ええ・・・大丈夫です・・・」

 

俺がクッション代わりになったおかげで真耶は助かった。だけど・・・

 

真耶が俺を押し倒してる図になってるんだよ。真耶の豊満な部分は俺の胸に当たってるし、足は絡まってるし、ほのかに香る真耶の匂いで頭が若干クラクラする。というか・・・ベットで絡み合ってる時の状態と変わってないんだが。これはこれで・・・駄目だ!気を確かに持て!

 

三日も真耶との接触を遮断されるとこうなるのか俺。それに周りの生徒達は皆顔を赤くしてるし、あの三人は・・・顔が笑っていない。

 

「どこか具合が悪いの?」

 

真耶成分を摂取してないので禁断症状が・・・って、何考えてるんだ俺は!クラスメイト達の交流を深める為なんだ、これぐらい我慢できなくてどうすんだ!

 

「いえ・・・ただ真耶の・・・」

 

「山田君。いい加減離れたらどうかね?織斑が随分困ってるではないか」

 

千冬姉、ISの近接ブレードを片手で回しながら近づかないで。白式を纏ってる俺だって怖いよ。絶対防御を貫通しそうで・・・

 

「え・・・あ、あああ!ご、ごめんなさい!」

 

現状に気付いた真耶は顔を赤くしながら立ち上がって離れたけど、もうちょっとあのままで・・・煩悩を追い払え!

 

「オルコット、凰、お前達二人には山田先生と戦ってもらう。こう見えても山田先生は元代表候補生だ。ヒヨっ子二人を倒すことなど容易だ」

 

「候補生止まりですけどね」

 

二人のモチベーションを上げようと言ってるけど、二人が勝つビジョンが浮かばない。普通に真耶が完全勝利する姿しか思い浮かばない。おまけにあの二人から異常なまでのプレッシャーが放たれてるんだが。

 

「ねえ織斑君。山田先生ってどのくらい強いの?」

 

谷本さんが俺に山田先生の実力を聞いてきた。まあ、あんな登場の仕方だと実力を疑うのも仕方がない。

 

「織斑先生の特訓に唯一付き合いきれた人だって俺は聞いたけど」

 

「じゃあ、ものすごく強いんだね!」

 

この情報は真耶の思い出話を聞いて総括するとこうなったんだ。千冬姉も一生懸命で前向きに特訓をしていたって言うしな。それにああいう前向きな姿勢は見習いたいって千冬姉が言ってたほどだし、実際は強いんだろうな。俺は一度も勝ったことないし。というより千冬姉が強すぎ・・・

 

「織斑、何か言ったか?」

 

「いえ・・・何も言っておりません・・・」

 

これ以上言うのはやめよう。寿命が一気に縮まりかねない。

 

「それでは模擬戦開始!」

 

千冬姉の掛け声と共に、セシリア&鈴 VS 真耶 の対決が始まった。




次回は・・・シャルルとラウラに関するイベントを執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。



オマケ

※このお話は、ラウラ・ボーデヴィッヒ視点のお話です。このお話を読まなくても、次の話に支障はありませんが、キャラへの理解が深まる・・・はずです。

この話は第16話直後の話です。






「はあ、はあ、はあ・・・」

私の名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。教官のSHINOBIレッスンを終えた私は、若干ふらつきながらも整備室へ向かっていた。

教官のSHINOBIの力、侮れない。シュヴァルツェ・ハーゼが総力を挙げても、手にすることができなかった力。あれは一握りの人間にしか会得できない究極なる人の力。人間がたどり着くであろうと言われる伝説のSHINOBI。やはり教官はああでなくてはならない。他人を寄せ付けない孤高の強さが教官のあるべき姿だ。

織斑一夏・・・やはりアイツが・・・

そんな事を考えてる内に整備室にたどり着いた私はある人物に会いに行った。

更識簪。総合案内所まで案内してくれた私の理解者だ。あの整備室で出会い以降・・・特に進展は無い。簪の専用機開発を手伝ってるだけで、それ以外はとくになにもしていない。

その事をクラリッサに報告した所、「フラグ」というものが簪との交流を深めるカギだと言うが「フラグ」とは何だ?クラリッサは熱を込めて私に「フラグ」というもの一時間ほど説明した。理解はしたが、使い方がいまいち分からない。やはり日本文化というものは難しい。もっと勉強しなければ。

おっと、そんなことを考えてる時間があるならば簪の専用機開発を進めなければ。

シュヴァルツェア・レーゲンの歩行や飛行などの基本動作データが、簪のにも対応できたのは幸運だ。おかげでクラスリーグマッチまでに各武装の制作に時間を費やせる。だが、簪の専用機の武器は中々面白い。薙刀や背中の荷電粒子砲も魅力的だが、第3世代技術のマルチロックオン・システムを使用した48発の独立稼動型誘導ミサイルポッドはこの私でさえ驚きを隠せない。文化と言い、日本の技術は独特だな。

「ラウラ、どうしたの?顔色が優れないけど・・・」

「いや・・・少し考え事をしてただけだ」

いかん。教官の事が頭から離れん。今は簪の専用機を・・・

「私でよければ・・・・相談ぐらいは・・・」

・・・どうやら私は考え事が顔に出てしまうタイプらしいな。

「分かった、お前には話そう。ただし、他の者にはこの事については話さない条件付きでだ」

「分かった」

何故かは分からない。気が付いたら私は簪にすべてを話していた。



遺伝子強化試験体、ヴォーダン・オージェの不適合、部隊の落ちこぼれ、教官の救済、そして現在・・・



話すべきことは今日の放課後の出来事と決めたはずなのに、彼女に話したのは私の全てだった。



「じゃあ・・・」

「そうだ。私は織斑一夏を倒し、教官をドイツに戻させる」



私は簪の前で豪語したが、これは強がりだ。隊長たるもの、隊員を不安がるようなことをさせてはならない。常に前線に立ち、隊員達の士気を向上させるのも隊長の務めだからな。

「ラウラって凄いね。私と違って・・・強くなってるなんて」

「どういう意味だ?」

そう言えば簪は日本代表候補生だ。専用機は企業が開発するはずなのに、簪の専用機はほとんどが手作りだった。なぜその点に疑問を持たなかったんだ。

「実は私・・・」

簪は私にすべてを話してくれた。



更識家、無能、倉持技研、専用機・・・



簪に降り注ぐ不幸は私以上のものだった。不幸を比べるのはおかしいが。私はそう思った。

部隊が家族みたいなものである私にも、簪の姉の言動に怒りを感じた。上に立つ者が身内に無能でいろと言うのはおかしすぎる。倉持技研もそうだ。織斑一夏のために簪の専用機を開発中止など・・・もし軍隊でそんな事があったなら、射殺されてもおかしくないことをしている。

「私って・・・やっぱりダメなのかな・・・」

簪のつぶやきに私の心の何かが傷ついた。

「違う・・・」

「え?」

そうか・・・

「お前はダメなんかではない」

こういう事だったのか。教官が言いたかったことは・・・

「でも・・・私だけ・・・」

「簪、周りにいる連中がおかしなことをやってるだけだ。お前はダメなんかじゃない」

教官、貴方はやはり強い・・・

「お姉ちゃんも・・・?」

「ああ。本当に悪気があるのなら私と会う前に謝罪に来て、私が来たところを追い払うはずだ。おそらく実力は私以上だ。だが、お前の姉はいつまで経っても現れてこない。謝りにも来ない。それは姉として誇るべき事だと思うか?簪、もし君がお姉さんだったらそのような事をするか?」

「しない・・・悪かったらすぐに謝りに行かないと・・・」

そうだ簪。お前には何事にも頑張る姿が一番似合う。

「だからお前が気にする必要は無い。周りが自分勝手にやってるだけの事だ」

「・・・」

「どうした?」

「あ、ありがとう」

「私は大したことなどやっていない。私はただお前が気負う必要はないと言ってるだけの事だ」

どうやら私は教官の事を神格視していたところがあったようだ。

「簪、お互いに言いたいことは言った。武装の開発に取り掛かるぞ」

「う、うん。あと・・・」

「なんだ?」

「織斑一夏のことだけど、私も一緒に戦わせて!その・・・憎しみとか、怒りとかじゃなくて・・・」

安心しろ簪、教官の言葉を理解した私には、織斑一夏に憎悪を抱いていない。ただ・・・

「別に構わん。私は過去へのケジメをつけるために織斑一夏を倒す。それと・・・」

「それと?」

「更識簪。お前を救うことだ」

少なくとも、織斑一夏と私には互いに思うことがあるからな。それを解消するためには戦わなければ・・・

「お前を縛りつけている、呪われた運命の鎖から解放させるのが私のすべきことだ」

「・・・・・・」

クラリッサの情報によると、このセリフを言うと相手はときめくのだが全く・・・






「はぁ~ん」

ときめいていた。クラリッサ、今後も頼りにさせてもらうぞ!


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第18話

今回の山田先生は序盤だけです。

山田先生が若干暴走しています。

仕事の疲労とストレスで思うように執筆が進まない。


戦いの結果は言うまでも無く真耶の勝ちである。

 

セシリアと鈴のコンビネーションが上手くいってなかったのも原因だが、真耶の実力が高かったことには変わりなかった。

 

セシリアのビットを全て予測射撃で落とすし、鈴の双天牙月を利用してセシリアの狙撃を妨害させるし、龍咆なんか全部避けるし、もう凄いの一言に尽きるよ。

 

 

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように。織斑!」

 

ん?千冬姉が何だか不機嫌だ。

 

「お前はいつまで山田先生を抱かれているんだ?」

 

え・・・?

 

気付いたら真耶は俺を力強く抱いていた。真耶の豊かな所が俺の胸で潰れるほど強く抱き、顔を俺の首元に近づけ、息を荒くしながら匂いを嗅いでいた。

 

真耶も辛かったんだ・・・俺と一緒にいることができなくなったのが。

 

「真耶」

 

「えっ!?あ、あの!・・・これは!・・・そそそその」

 

我に返った真耶は慌てて俺から離れようとした。だけど俺は真耶が転ばないように力強く抱きしめた。

 

「俺と一緒にいるのが嫌なの?」

 

「い、いえ!だけど・・・」

 

「俺は気にしてないよ。むしろここまで俺の事を愛しているのが分かったから」

 

そうだ。無理に自分を抑え込む必要なんて・・・

 

 

 

「お前達・・・付き合ってる事を話せば・・・授業中は何をしても良いと・・・思っているのか?」

 

 

 

ありました。千冬姉ごめん。でも、俺だって我慢できないんだ。真耶が頑張って勝った時の笑顔とか、俺を抱いて顔を赤くしてる時の顔を見たら・・・

 

 

 

「織斑。今すぐ打ち首に晒されるか、授業に参加するか、どちらか選べ」

 

 

 

・・・一択しかないじゃないですか。

 

俺は真耶から離れて白式を解除し、クラスメイトの群れに戻った。

 

「ではグループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな?では分かれろ!」

 

千冬姉の掛け声と共にクラスメイト達はバラバラになって実習が始まったけど

 

 

 

「「「「「織斑君、よろしくお願いします!」」」」」

 

 

 

どうして俺の所に集中するんだ・・・

 

「山田先生と恋仲だからって、さっきのはやり過ぎだよ!」

 

「山田先生の胸って、織斑君の愛で出来てるの!?」

 

「マドカの言う通り・・・あれは悪魔だ」

 

みんな揃って、山田先生の事について言い始めたけど・・・マドカ、真耶を悪魔とか言わないで。

 

「出席番号順に一人ずつ各グループに入れ!順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら貴様らにSHINOBIのフルコース特訓を行わせるぞ!」

 

千冬姉の脅迫とも近い一声にグループは綺麗に分かれた。

 

 

 

「出席番号一番!相川清香!ハンドボール部!趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!よろしくお願いします!」

 

「ああっ、ずるい!」

 

「私も!」

 

「第一印象から決めてました!」

 

 

 

皆、俺が真耶と付き合ってるの知ってるよな。一時限丸々使ってクリスマスの告白を暴露されたんだよ。

 

「みんな、俺が山田先生と付き合ってるの・・・」

 

「織斑君、私達は山田先生と付き合ってることは応援するけど、場をわきまえて!」

 

「もしかしたら、授業中に・・・いやん」

 

「ただでさえ鼻血が出るのを堪えてるのに・・・」

 

もうやだこの学園。ここにはまとまな生徒はいないのですか?

 

 

 

真耶の方を見てみると、皆がちゃんと授業をやっているのか見ていたが、俺の方を見ると若干ふてくされた顔をする。真耶、ヤキモチを焼かないでくれ。俺だってこんなのは望んではいない。皆との交流を深める為にやってるだけで、俺は真耶一筋だ。俺の心も体、全てを真耶に捧げたって構わない。真耶が積極的になっても、夜這いを仕掛けて来ても、浴場で後ろから襲いかかって来ても、喜んで受け入れるよ。だから、ふてくされた顔を・・・

 

 

 

「貴様らは何者だ!」

 

「「「「「はい!私達は史上最弱の出来損ないです!」」」」」

 

「貴様らがこれからやることを理解しているか!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「それは何だ!」

 

「「「「「IS(オモチャ)に遊ばれることです!」」」」」

 

「そこの出来損ない!このオモチャに遊ばれて来い!」

 

「はい!」

 

「はいではない!イエス、マムだ!分かったか出来損ない!」

 

「イエス、マム!」

 

「声が小さい!」

 

「イエス、マム!!」

 

「処女膜から声を出せ!」

 

「イエス、マム!!!」

 

「そんなに声が張れるなら、さっさとオモチャに遊ばれて来い!」

 

「イエス、マム!!!!」

 

 

 

ラウラが班長の実習だけど、ここはIS学園だよな?いつから新兵の特訓を実施したんだ?ラウラの表情からは過去への執着心がかなり無いのが分かって嬉しいけど、問題ありまくりだ。周りは引いてるし、千冬姉はため息吐いてるし、真耶は戸惑ってるし、はっきり言ってカオスとしか言いようがないよ。

 

 

 

「貴様らよく見ておけ!これがオモチャに遊ばれるで・・・」

 

「ボーデヴィッヒ!」

 

「ぐはっ!」

 

千冬姉の出席簿ブーメランがラウラの額にクリーンヒットした。千冬姉、出席簿は武器じゃないから。

 

「お前は一個小隊を作り上げるつもりか!?」

 

「いいえ!これはISに対する認識を改めさせる為の訓練です!一個小隊を作り上げる気はありません!」

 

というより、どうやったらこの短時間で性格を変えられるんだ。

 

「だったらあの生徒達の態度は何だ?まるで最前線送りにされることが分かってるのにも拘らず、絶対生きて還ると大口叩いて散って行く兵士に見えるぞ」

 

千冬姉、例えが分かりません。

 

「はい!これは、訓練プログラムの成果によりISに対する認識が変わったのです!」

 

認識以外の部分が大きく変わってるんですけど。

 

「ボーデヴィッヒ。このプログラムはお前一人で作ったのか?」

 

「はっ!この訓練プログラムはクラリッサと共同でせ・・・」

 

「ボーデヴィッヒ!その訓練プログラムを中止しろ!そして二度と使うな!」

 

クラリッサていう単語が出た瞬間、千冬姉の顔が若干険しくなったけど知り合いなのかな?

 

「理由をお聞かせください!」

 

「クラリッサの情報は当てにならないからだ!」

 

「いいえ!クラリッサの情報は・・・」

 

「とにかく中止だ!」

 

「しかし・・・」

 

「返事はどうした!」

 

「イエス、マム!」

 

わぁ・・・何だか千冬姉が遠い国の人みたいに見えてきた。

 

 

 

 

 

 

あの後、問題なく授業は進んだけどまさか俺の班に箒がいたとは・・・

 

俺を見る目がまるで「我に好機来たり!」みたいな顔をしてて、冷や汗が止まらなかったよ。

 

真耶の方は・・・俺から遠ざかるようになった。俺に抱き着いて息を荒げたことに罪悪感を感じて距離を置いてるけど、俺は別に・・・

 

 

 

「一夏君、聞いてるの!」

 

「あ、ああ。ごめんなシャルル、せっかく一緒に飯を食べようって誘ったのに」

 

「一夏君、山田先生のこと考えすぎだよ」

 

「えっ・・・」

 

「顔に出てたから」

 

「・・・ごめん」

 

ここ最近、シャルルに俺の考えが読まれてるな。まあ、男同士だからな。分かることは分かっちゃうんだろうな。

 

「織斑先生に言われたでしょ。山田先生以外の人との交流を深めないといけないって」

 

「返す言葉が見当たりません」

 

「僕がいるのに・・・」

 

「・・・え?」

 

「えっ!?えっと、ほら!まずは男同士の交流を深めないとね!同じ部屋にいるんだから」

 

「ああ、そうだな。じゃあ今日の放課後、一緒に特訓に付き合ってくれないか?」

 

「いいよ!」

 

そうだな、同じ男同士のシャルルとの交流を深めないとな。後、真耶に自分の思いを言わないとな。あの様子だと、随分落ち込んでいるだろうし。悲しんでる顔より、喜んでる顔の方が真耶には似合ってるからな。

 

 

 

 

 

 

放課後になってアリーナに来たのは良いんだけど・・・

 

「シャルル・・・一体何があったの?」

 

「分からない。僕が来たときには既にこうなってて・・・」

 

何でラウラとマドカが戦ってるんだ。ラウラのISは大型ボロボロなのに対してマドカは素手で無傷。しかもマドカの横には他のクラスの女の子がいた・・・って、人質をとってる!?

 

 

 

「IS如き、この拳法の前ではゴミクズ当然だ!」

 

千冬姉の立場はどうなるんだ。教師なんだぞ・・・一応。

 

「貴様・・・一体何が目的だ!」

 

「貴様を強くさせるに決まってる」

 

「何!?」

 

「だが、貴様が強くなるにはこの女を殺すしか方法は無い」

 

だからって、人質をとるのはどうなんだよ?

 

「ふざけるなぁ!」

 

怒りの叫びと共にラウラは大型の実弾砲を撃ったけど・・・

 

「どこを見ている!」

 

人質を抱え、空中ダッシュをしているマドカには当たらなかった・・・どうやったら空中ダッシュなんてできるんだ?

 

「飛燕流舞!」

 

マドカが叫んだのと同時に体の何処かから三日月の何かを飛ばし、大型の実弾砲を・・・壊した。

 

「くっ・・・なめるなぁ!」

 

ラウラは諦めずに腕からプラズマを帯びた手刀を出現させ突撃しようとしたら・・・

 

「うりゃっ!」

 

マドカは手刀アッパーのカウンターで浮かせた後、そこから空中殺法の連撃を繰り出していた。もう・・・兄として止められる自信が無くなってきた。

 

「シネェーイ!」

 

そう叫びながら腕を開きラウラに突進してる画は凄くシュールなんだけど・・・

 

「シネェーイ!シネェーイ!シネェーイ!シネェーイ!シネェーイ!シネェーイ!シネェーイ!シネェーイ!」

 

それを繰り返し出してる姿のマドカを見てられない・・・いろんな意味で。後、乱暴な言葉遣いはやめなさい。

 

「ぐはっ!」

 

ああ!ラウラのISが解除されて地面に叩き付けられた。

 

「どうした、貴様の力はそんなモノか?」

 

「ふざける・・・な」

 

「ISに頼ってる貴様がふざけてる様にしか見えんが」

 

マドカ、ふざけてるのはそっちだよ。人質を取るなんて、最低の行為だぞ。

 

「何ぃ!」

 

「まだ分からないのか?ISに頼ってる限り、この私に傷一つ付けられないということが」

 

「・・・なるほど。そういう事か」

 

・・・え?

 

「マドカ、貴様を倒す方法はISの力ではなく・・・」

 

「そうだラウラ。己の力、つまり己の拳でなくてはこの私を倒すことなどできん!」

 

なんか理解しちゃったよ!ラウラもマドカや千冬姉方面の人!?あ・・・そういえば千冬姉に一年間お世話になってたんだ。もう人質の事を無視して二人の戦いが始まろうとしてるよ!

 

ええい!俺がどうなっても構わない!だけど、二人の喧嘩だけは・・・

 

「それが分かれば芝居を続ける必要など無い」

 

「「・・・え?」」

 

全部芝居だったのかよ!

 

「どうやら、貴様の力は嘘偽りのないものだと分かった。精進するんだな」

 

「ま、待て!一体どういう事だ!?」

 

「貴様の力の本質を見極めるために一芝居を行っただけだ」

 

じゃあ、あの人質もラウラを本気にさせるために・・・やっちゃいけないでしょ!人質をとる行為なんて!

 

「だが、お前の大切な人を人質にしてすまなかった」

 

「私は気にしてなどいない。むしろ感謝している。私は・・・」

 

 

 

「お前達・・・何をしているんだ?」

 

「「!?」」

 

 

 

千冬姉、ちょっと目を離した隙に現れないで。SHINOBIだからできるの?

 

「何者かが無断でアリーナを使用してると聞いたが、そうらしいな」

 

「一体何者なんだ?」

 

「お前だマドカ!」

 

「何!?」

 

マドカ、それは狙って言ってるのか?

 

「今から私が、IS学園での生活というものが何なのかを指導しよう」

 

「そんなものが無くても人はこの激動の時代を生きていける。指導は不要だ」

 

マドカ・・・千冬姉の火に、油を注がないで

 

「お前に拒否権など無い」

 

「仕方がない。なら示して・・・」

 

「先手必勝!」

 

「ぐはっ!」

 

マドカが構える前に千冬姉のボディーブローが炸裂した。

 

「マドカ、私が現れてから構えるなど気が緩んでいる証拠だ。指導しなければならないな」

 

もう・・・ツッコみきれないよ。

 

「それでは学年別トーナメント開始まで、私闘の一切を禁止する!解散!」

 

勝手に話を終わらせるな!

 

 

 

 

 

 

結局シャルルと一緒に模擬戦をすることなく俺は部屋にいた。シャルルは今シャワーを浴びているんだが、シャワーと言い、着替えと言い、何か落ち着きが無いな。

 

それにマドカは今、生徒指導室で千冬姉にみっちり絞られている最中だろう。マドカ、頼むから真人間になってくれ。兄としての切実な願いだ。

 

あとラウラのISは、マドカに人質にされた子と一緒に修理できるから問題ないと千冬姉に言って去って行ったけど、随分爽やかな表情をしてたな。昨日の内に何があったんだろう?

 

そんな事を考えてもしょうがないか。俺は真耶の所に行くか。真耶に聞きたいことがあるし・・・

 

 

 

「あ!替えのボディーソープをシャルルに渡してなかった!」

 

 

 

今シャワールームにあるボディーソープは空だから、渡さないとシャルルが困るぞ。

 

「シャルル」

 

「何?」

 

シャルルが返事をしたのを確かめ、俺は替えのボディーソープを持ってシャワールームのドアを開けた。

 

「替えのボディーソープをも・・・てきた・・・け・・・ど」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

俺は信じたくなかった。

 

 

 

いや、認めたくなかった。

 

 

 

シャルルの

 

 

 

シャルルの胸に

 

 

 

二つの膨らみがあるなんて・・・




次回はシャルルと山田先生をメインに執筆・・・したいです。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第19話

甘く書こうとしたら、ちょっとエロくなってしまった話です。

疲労困憊の状態で執筆すべきではないな。


俺、織斑一夏は絶望しています。

 

替えのボディーソープを渡しにシャワールームを開けたら、胸に二つの膨らみがあるシャルルがいました。

 

つまりシャルルは女だった・・・

 

 

 

夢であって欲しかった・・・

 

 

 

「ごめんね。僕が女だって事を隠していて」

 

「別に気にしてないから。でも、どうして男装して学園に入学したんだ?」

 

「実は・・・」

 

シャルルは俺に全てを話してくれた。

 

 

 

デュノア社の経営不振、妾の子、白式のデータ奪取

 

 

 

デュノア社は経営不振を解消すべく、シャルルに男装させてスパイ活動を行わせるという暴挙に出た。デュノア社に男性操縦者がいれば注目は集まり、第三世代開発の援助が来るという考えだとシャルルは言った。

 

「話を聞いてくれてありがとう、一夏君。話したら楽になったよ」

 

「これからどうするんだ?」

 

「フランスに強制送還かな・・・よくても、牢屋行きじゃないかな?」

 

シャルルの顔が段々暗くなっていく。どうすればいい。俺一人ではどうすることもできない。学園の特記事項で身の安全は保障されるが三年だ。その三年以内に解決策を見つけなければならないが、俺一人で対処できる問題じゃない。俺一人・・・あ!

 

「シャルル、俺に良い考えが浮かんだ」

 

「・・・何の?」

 

「お前が強制送還されず、牢屋行きにもならずに済む方法が」

 

「え・・・」

 

本当はこんなことはしたくなかった。だけど、俺のクラスメイトが苦しんでる横で学園生活なんて送れるか。

 

「どうやったら助かるの?」

 

「それは・・・」

 

 

 

「白式のデータを渡せば全てが済むと思っているのか?」

 

 

 

「「!?」」

 

千冬姉!どうしてここに?

 

「見回りをしていたら、苦しんでいる者の声が聞こえたもんで・・・」

 

ドア、完全閉まってるんですが・・・

 

「織斑、デュノア。その一件に関しては私が何とかする」

 

「・・・聞いていたんですか?」

 

「全て聞いた」

 

千冬姉、盗み聞きは良くないですよ。

 

「だが安心しろ。お前の素性がどうであれ、私はお前を学園から追放する気はない」

 

「え?」

 

「お前はここの学園の生徒だ。そして私のクラスの生徒だ。生徒を救うのも教師の務めだ。だからお前は安心して学園生活を送れ」

 

シャルルの目から溢れんばかりの涙が流れてきた。

 

「良かったなシャルル」

 

「う・・・ぐすっ・・・うん」

 

「それと織斑!」

 

「は、はいっ!」

 

なんで俺には厳しいんだ・・・

 

「お前は一人で物事を解決しようとするな。私や山田先生を頼ることを覚えろ」

 

「はい・・・」

 

「それでは私はデュノア社に向かう準備をする」

 

「「え!?」」

 

千冬姉・・・何言ってるの。

 

「私の手に掛かれば、半日ぐらいで全て済む。」

 

「いや・・・先生。それは・・・」

 

シャルルの涙があっという間に止んじゃったよ。

 

「シャルル・・・先生は冗談抜きで実行できるぞ」

 

「ええっ!」

 

天空宙心拳とかSHINOBIとか使える時点でこんなのには驚かないよ。

 

「そういうことだ。明日はいないが明後日までには帰ってくる。それまでの間は山田先生に頑張ってもうことにする」

 

後で真耶に言わないと。千冬姉が世界を駆け抜けるって・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことが・・・あったんですか」

 

「真耶もさすがに驚くか」

 

あの後、俺は真耶に用があると言って部屋を後にしたけど、シャルルはふてくされた顔をしていた。何だろう、箒達と同じオーラを放っていたのは気のせいだよな?

 

「そうですよ。私が明日一日クラス担任を任されたんですから」

 

「そうか。ところで、マドカはどこにいるんだ?」

 

「谷本さんと一緒に食堂に行きました」

 

「谷本さんと?」

 

「はい。谷本さんとは仲が良くて、いつも一緒に食事をしてるんです」

 

マドカに仲の良いクラスメイトができた・・・それは兄として喜ばしい限りだ。

 

「一夏君も早く、仲の良いクラスメイトが見つかると良いですね」

 

「みんな・・・俺を見る時の目が違うからちょっと不安だな」

 

「仲良くなりたいだけですから大丈夫だと思うよ」

 

「そうか・・・」

 

三人(箒とセシリアと鈴)みたいな目つきだったら俺はどう対処すればいいんだ?

 

「さてと。おしゃべりはここまでにして、一夏君は早く部屋に戻った方が・・・」

 

「ちょっと待って!俺はまだ話したいことがあるのに」

 

「気持ちは分かるけど・・・」

 

顔を赤くしながら真耶は俺から視線を逸らした。まあ、理由は分かるけど。

 

「真耶、一時限目の事は別に気にしてないよ。もし、俺が真耶の立場だったら俺だってやるさ。だから、そんなに自分を責めなくてもいいよ。それに・・・」

 

そう言いながら、俺は真耶を強く抱きしめた。

 

ここ(真耶の部屋)では恋人同士でしょ?」

 

「一夏君・・・」

 

「真耶、もう我慢なんかしなくていいよ。今日は真耶がしたいようにしていいよ」

 

「じゃ、じゃあ・・・えいっ!」

 

真耶は俺を強く抱きしめ、そのままベットに押し倒した。

 

「ずっと我慢してた。一夏君と離れてこんなにも恋しくて苦しかったのは・・・」

 

「真耶、俺もだよ。真耶のことを考えなかった時間なんて無かった。ずっと一緒にいたい、ずっとこうしていたい」

 

「一夏君!」

 

「真耶!」

 

俺と真耶は溜めに溜めてた想いが爆発し、そのまま互いの唇を貪りあった。

 

欲、獣、愛、三つの想いがドロドロに混ざり合った「何か」が包み込んでいる感覚に俺と真耶は襲われていた。

 

互いの息は乱れ、艶のある喘ぎが互いの耳に響き渡る。その度に胸の鼓動が早くなり、俺と真耶の理性が壊れかけてゆく。

 

俺が気付いた時には真耶の服を脱がし下着姿になっていた。真耶は恍惚とした状態で俺の服を脱がし下着姿になっていた。

 

「一夏君・・・私・・・もう・・・」

 

真耶は俺の腹の上に跨り、俺に何かを求めるように腰をゆっくり前後に動かし始めた。

 

「真耶・・・俺は・・・」

 

我慢できない・・・シャルルが女だと分かった時に俺の溜めてた何かが溢れ始めていた。そして真耶を抱いた時に決壊したんだ。もう止まらなくていいんだ。我慢しなくていいんだ。ここがどこだろうと、誰がいようと関係ない。俺は・・・

 

 

 

「もしこれ以上の事すれば、兄さんの恋人といえど容赦はしない!」

 

 

 

そのまま情事に発展することは無かった。

 

 

 

 

 

 

「兄さん、あいつは悪魔なのではないか?」

 

「いや違うから」

 

「兄さんの理性を殺そうとするなど、悪魔以外の何者でもない」

 

「いや・・・それは互いに溜めてたものがあったから」

 

マドカの介入により俺と真耶は急いで服を着直し、事情を話していた。マドカの顔つきは相変わらず険しく、俺と真耶は寂しかったとはいえ、今回の件は度を越えた事をやったと反省している。

 

「兄さん、姉さんが言った事を忘れたのか?」

 

「忘れてはいないが、こうも一緒にいる時間が減らされると・・・」

 

「兄さんは家族との団らんより、恋人と一時の情熱を大切にするのか?」

 

「マドカ?」

 

マドカの顔が暗くなっているのに気付いた時、俺は自分が言ってはいけない事を言ってしまったと気付き、後悔した。

 

「兄さんは私が邪魔なのか?」

 

「邪魔じゃない」

 

俺は兄としてやってはいけないことを行い、姉と妹の思いを踏みにじってしまった。

 

「なら何故、私や姉さん以上に山田先生と一緒にいたがる?それは私などゴミクズ当然だと思っているから・・・」

 

「違う」

 

「何が違うんだ。兄さんはいつも・・・」

 

俺はマドカを抱きしめた。だけど真耶と違い、マドカの体は氷の様に冷たかった。その冷たさはマドカの過去を物語るには十分すぎる程のものである。

 

「マドカ・・・ごめん」

 

「何故謝る?」

 

マドカは突然の謝罪に理解できてない。

 

「俺はマドカの事を何も知っていない。過去に何があったのか、どういう事をしてきたのか、どんな人達がいたのか、俺はそんなことも知らないでマドカの兄として振る舞おうとした。だけど・・・俺はマドカの・・・何を知ってるんだ?」

 

俺はマドカを強く抱きしめ、兄としての恥を感じながら謝り続けた。

 

「お前は俺以上に・・・沢山辛いことを体験した・・・悲しいことも・・・嫌な事も・・・なのに俺は・・・そんな事を知らずに・・・俺は・・・」

 

「もう泣かないでくれ、兄さん」

 

「え・・・」

 

気付いたら俺は涙を流していた。情けない・・・俺が泣くなんて。マドカの方が泣きたいと思っているはずなのに・・・

 

「兄さん、それを分かってくれただけでも私は嬉しい」

 

マドカ・・・

 

「だが私の過去など気にする必要は無い。必要なのは・・・」

 

 

 

二人(一夏と山田)の自制心だ」

 

 

 

・・・仰る通りです。




次回は「山田先生の一日クラス担任」の話を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。



オマケ

※このお話は、織斑千冬視点のお話です。このお話を読まなくても、次の話に支障はありませんが、キャラへの理解が深まる・・・はずです。

この話は第19話と第20話の間の話です。



フランス デュノア社

「ぐはっ!」

「あ・・・ああ・・・」

私の名は織斑千冬。私は今、デュノア社の社長に会いに社長室に向かったが・・・

「アイエエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

「・・・」

肝心の社長がショックを起こして話ができない。だが、話を進めさせてもらう。

「貴様の行動は全て筒抜け状態だ」

「アイエエエエ! 」

「・・・・・・」

どうすればいい・・・


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第20話

今回は真耶が奮闘すると思いきや・・・日常回です。


「えっと・・・織斑先生は所用でいませんので、今日は私がこのクラスの担任です!」

 

千冬姉がフランスに行ってるため、真耶の「一日クラス担任」が始まった。

 

一日中真耶の授業を聞いて、真耶のサポートをして、真耶の仕事を手伝えて、真耶の教師姿を堪能できる一日・・・悪くない!

 

「先生。織斑君には厳しく指導してください!」

 

・・・え?

 

「は、はい!織斑君、わ、私の恋人であっても、あ、甘えたりしませんから!」

 

顔を赤くしながらも注意する真耶はかわいいなぁ・・・

 

「いや、いつも通りに授業を進めても・・・」

 

「兄さん・・・顔がにやけてるぞ」

 

マドカ・・・俺の後ろ姿でよく分かるな・・・

 

「と、とにかく!授業を始めます!」

 

その後は・・・まあ、いつも通りと変わらない授業風景だった。

 

 

 

「次の授業は数学ですが、他の先生だからといって怠けてはいけませんよ!」

 

なんか今日の真耶は活き活きとしてる。

 

授業が終わり真耶が職員室へ戻ろうとする。何か、手伝わなければならない使命感が湧いてくる・・・

 

「真耶、手伝おうか?」

 

真耶にはいつもお世話になってるからな。俺が出来る範囲で負担を軽くしないと。

 

「ありが・・・んんっ!織斑君!ここでは山田先生と呼んでください!」

 

一瞬嬉しそうな顔をしたけど・・・

 

「それに、これくらいの荷物は大丈夫です」

 

「すいません。というより、山田先生の事をさっき何て言いました?」

 

「名前で・・・呼んでましたよ」

 

ええっ!?無意識に名前で呼んでたのかよ!

 

「織斑君。名前で呼んでくれるのは嬉しいけど、ここでは教師と生徒の関係です!」

 

「わ・・・分かりました山田先生」

 

もうちょっとで『分かったよ真耶』って言いそうになった。

 

「では私は職員室に戻りますので、織斑君はクラスメイトとの交流を深めてください」

 

「は・・・はい」

 

笑顔で真耶は職員室に戻ったけど・・・

 

 

 

「一夏、お前とは久しく喋ってなかったな」

 

「一夏さん、わたくし達と優雅な会話を楽しみましょう」

 

 

 

この二人(箒とセシリア)が牙を見せ始めました。

 

 

 

「一夏君と箒さんは幼馴染だったの・・・」

 

「ああ。だが一夏は何故か私から遠ざかるんだ」

 

「一夏君、どうして箒さんとの交流を拒むの?」

 

俺は今、箒とセシリアとシャルルと愉快なクラスメイト達に囲まれて会話をしてるんだが、二人(箒とセシリア)の溜まりに溜まった邪気が放出されて、他のクラスメイト達が話しかけにくい状態になってるんだが・・・

 

「お、落ち着けよ箒。皆が心配そうに見ているからさ」

 

「すまない。だが、どうして私を拒む?」

 

それは暴力で物事を解決させようとするからだよ。おかげで俺は女性恐怖症になりかかったんだから・・・

 

「昔と随分雰囲気が変わったから、声をかけづらかったんだ」

 

「そうなのか。私は無理に変わる必要がないと思い、ありのままに生きていたんだが」

 

できれば変わってほしかった・・・

 

「箒さん事については理解できますが、なぜわたくしからも遠ざかるのですか?」

 

まずセシリア、君が俺に惚れた理由が分からない。

 

「気のせいだと思うが・・・」

 

「気のせいではございません!昼食の誘いを何度も断られたのですよ!」

 

「一夏君、いくらなんでも・・・」

 

シャルル、お前は知らないんだ。セシリアが俺と真耶のデートを盗撮したことを・・・

 

「とにかく兄さんは女性との接触を避けてることが分かった」

 

マドカ、いつの間に・・・

 

「兄さん、どうして真耶以外の女性との関わりを作らないんだ?」

 

「いや・・・」

 

 

 

「その理由、アタシが話すわよ!」

 

 

 

その声は・・・

 

「鈴!?」

 

「はぁ。やっぱりアタシがいないとダメなんだから・・・」

 

「何がだよ!?」

 

「何って、アタシがいなければその質問に答えられないってことよ!」

 

「いなくても答えられ・・・」

 

「さっきの質問、この凰鈴音が答えるわよ!」

 

俺の話を聞けぇ!

 

俺の心の叫びなど無視して鈴は俺の中学時代の事を話した。

 

話の内容は鈴が喧嘩の仲裁に入って終わる。それだけの内容だったけど・・・

 

 

 

「そんな織斑君をここまで変えた山田先生って凄いんだね!」

 

「私、山田先生の事見直しちゃった!」

 

 

 

皆、真耶の凄さを改めて実感している。鈴・・・口が開いてるぞ。

 

「ま、まあ、山田先生が凄かったけど、アタシがいなければ二人が付き合うことなんてなかったんだから」

 

ただの威張りだぞ、鈴。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

授業開始のチャイムが鳴り響き、数学の授業が始まったんだが・・・

 

「今日は特別授業で、織斑君から山田先生の同居話を聞きましょう!」

 

どうしてそうなる・・・

 

「先生、授業は・・・」

 

「ん?聞こえなかったかしら?今日は特別授業ですよ」

 

先生が邪悪な笑みを浮かべてるんですが・・・

 

「どうして、俺と山田先生の同居話を・・・」

 

「決まってるじゃない・・・」

 

先生・・・教科書が原型を留めない程握り締めないでください。

 

「どうして山田先生に彼氏ができるのよぉ!」

 

うわぁ、先生が血の涙を流している。

 

「スタイル抜群だけど、おっちょこちょいの天然女にどうして超絶イケメンの彼氏ができるの!?いつもいつもおっちょこちょいなことをやって職員会議が遅れて、ISだっておっちょこちょいが災いして実力が発揮できずに、おっちょこちょいが原因で・・・」

 

 

 

こうして、独り身の愚痴は授業が終わるまで続いた・・・

 

 

 

「何だったんだ、あの授業は・・・」

 

「ただの愚痴を聞かされただけだな」

 

「マドカは平気みたいだな」

 

「愚痴をこぼす暇があるなら、次の行動を起こしている」

 

そういう所はしっかりしてるな。兄としては嬉しい限りだ。

 

「さて、次の授業は・・・」

 

 

 

そして俺達は昼休みになるまで、先生達の「特別授業」という名の愚痴こぼしを聞く羽目になった。

 

 

 

「もう・・・駄目だ・・・」

 

「兄さん、気をしっかりしろ!」

 

昼休みの食堂。俺は若干意識が朦朧とした状態で日替わり定食を食べている。真耶のスタイルとか天然な性格に関する愚痴を聞かされて、疲労困憊なのだが・・・

 

 

 

「一夏、大丈夫か?私のから揚げ弁当でも食べて、元気になれ」

 

「一夏さん。私の手作りサンドイッチで元気になってください」

 

「一夏!アタシの酢豚を食べて元気になりなさい!」

 

 

 

この三人(箒とセシリアと鈴)で失神寸前に追い込まれているんだ。

 

「いや・・・三人の弁当を食べるのはちょっと多くないか?」

 

「確かにな。なら一夏、誰の弁当が食べたいのか選べ」

 

箒、俺が食べるのを断りにくくするために手を打って来たか。仕方ない・・・アレを試してみるか。

 

「一夏さん、わたくしの・・・」

 

「セシリア、本当に大丈夫なんだよな?」

 

「え・・・」

 

俺は覚えてるよ。セシリアが自分の料理を食べて気絶したのを。

 

「だ、大丈夫ですわ!あれから練習に練習を重ねてきましたので・・・」

 

「だったら箒と鈴に食べさせたらどうだ?」

 

「なっ!?」

 

「へぇ、おもしろそうじゃない・・・」

 

箒は固まり、鈴は何かの挑戦と受け取り、セシリアのサンドイッチを食べることになったが・・・

 

「いや!私は・・・その・・・」

 

箒が駄々をこねないように・・・

 

「そういえば、箒はまだセシリアの料理食べてなかったんだな。遠慮せずに食べたらどうだ?」

 

「・・・わ、分かった」

 

箒は覚悟を決め、鈴はセシリアの腕前を確かめるべく、サンドイッチを口にした。

 

結果は言うまでもないけど。

 

 

 

「あの・・・篠ノ之さんは・・・」

 

「体調不良で保健室にいます」

 

「そうですか・・・篠ノ之さんには補習を行わせるとして、授業を始めましょう!」

 

午後の授業は、真耶の分かりやすいIS座学が始まった。

 

それにしても真耶の授業は分かりやすい。ちゃんと授業を受けてる実感がある。というより、午前は先生達の愚痴を聞かされてただけだからな。

 

「織斑君!」

 

「はい!?」

 

何で真耶が怒ってるんだ?

 

「ずっと私の顔を見てないで、ちゃんと授業に参加してください!」

 

「すいません。ずっと先生達の愚痴を聞かされてたので」

 

「・・・え?」

 

俺は真耶に特別授業の事について話した。

 

「そんな事が・・・」

 

「だから、ちゃんと授業をしてる真耶を見て安心してるんだ」

 

「一夏君・・・」

 

顔を赤くしながらも、俺の言葉に真耶は安心している。朝から気を張り詰め過ぎていたんだな。

 

「だから真耶、俺を頼っても・・・」

 

 

 

「待った!」

 

 

 

突然マドカが席を立ち、何処かの逆転する弁護士のように叫んだ。

 

「ここは教室だ!こんな所でイチャイチャしてはいけない!」

 

と、ショウゲンのムジュンを指摘しそうな弁護士のように俺を指した。

 

「織斑君、山田先生を心配する気持ちは分かるけど、イチャイチャするのは・・・」

 

「おりむー。まーやんだけじゃなくて、私達を頼って欲しいな〜」

 

「織斑君から見て、私達の存在って・・・」

 

皆が、俺に対する不満(?)をこぼし始めた。皆・・・すみません。

 

後、セシリアから殺気が溢れて来てるんだが。

 

「お、織斑君!先生をからかわないでください!」

 

「い、いや!俺はただ、真耶の負担を・・・」

 

「山田先生です!」

 

「すいません・・・」

 

「でも・・・放課後、私の部屋だったら・・・」

 

「「「「「異議あり!」」」」」

 

周りの先生達が嫉妬する原因が分かった気がする・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、いつものようにシャルルと一緒に特訓をしようと第一アリーナに行ったけど・・・

 

「一夏、そんなに山田先生が恋しいのか?」

 

「それなら、一夏さんには特別特訓を差し上げますわ」

 

「一夏、今度こそ逃げないでよね!」

 

「いや・・・なんで三人が・・・」

 

「「「心配だから来たのです!」」」

 

心配の種が目の前に三つもあるんですが・・・

 

「俺はシャルルと一緒に特訓するから、三人も・・・」

 

「一夏!貴様はそうやって私達の交流を拒むのか!」

 

「そうですわ!山田先生が仰ったように、わたくし達の交流を深めるべきですわ!」

 

「一夏・・・アンタって奴は・・・」

 

もう・・・この三人を相手するのも疲れたよ。

 

「だったら三人が戦って、勝ち残った一人が俺と練習することでいいか?」

 

「「「駄目だ!」」」

 

もう・・・どうすればいいんだ。

 

「何をしている貴様ら」

 

この声は・・・

 

「ラウラ・・・ボーデヴィッヒ・・・」

 

あと、ラウラの背後にいる水色のセミロングの少女もいる。

 

「ちょうどいい。貴様ら、練習に付き合ってもらうぞ」

 

「ちょっと待って!アンタ、一夏を殴った転校生でしょ!」

 

鈴が突然ラウラを睨みつけたが、そんな事はお構いなしと俺に近寄ってきて・・・

 

「あの時、貴様をぶったことについては申し訳ないことをした。すまない」

 

丁寧に謝罪をした。

 

「あ・・・いや、分かってくれたらいいよ」

 

「そうか」

 

ラウラって、意外と正直な所があるんだな。というより、あの時より顔が活き活きしているな。

 

「ちょっと!アタシの話を聞きなさいって!」

 

「いいだろう・・・貴様が私の練習相手か」

 

「・・・え?」

 

あの時より、ラウラのオーラが千冬姉に似てきたんだが・・・

 

「セシリア。貴様は鈴とタッグを組め。私は簪とタッグを組み、貴様らを倒す」

 

勝手に話が進んでるんだけど。後、簪って誰?

 

「上等じゃない・・・アタシの甲龍を舐めたら痛い目を見るわよ!」

 

「不本意ではありますが、ブルーティアーズの力を見せしめるには問題はありません」

 

うわぁ・・・二人の目が殺す気満々だ。

 

「簪、お前の専用機は大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫・・・」

 

「まずは私の動きについてこれればいい。誰だって、初めての専用機を使った戦闘は緊張する」

 

「で、でも・・・」

 

「安心しろ。何があっても、私がお前を守る。それにお前は私の特訓を耐え抜いた力があるんだ。自分に自信を持ってもバチは当たらない」

 

「う、うん!」

 

ラウラと簪という女の子の二人は応援したいな。何だか、先輩後輩の部活練習を見てる気分だ。

 

「シャルル、俺達はアリーナの隅で練習しようか」

 

「そうだね。ラウラさん、何だか変わったね」

 

「ああ、随分変わったな」

 

ラウラに関しては俺が口出しする必要は無いな。

 

 

 

 

 

 

「一夏!私を忘れるな!」

 

箒は変わって欲しかった・・・




次回は、「真耶の一日クラス担任」後編です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。



オマケ

※このお話は、更識簪、ラウラ・ボーデヴィッヒ視点のお話です。このお話を読まなくても、次の話に支障はありませんが、キャラへの理解が深まる・・・はずです。

この話は19話と20話の間の話です。



私の名前は更識簪。私は今、整備室にいます。なぜなら・・・

「やっと出来上がったな」

「・・・うん。私の・・・専用機」

打鉄弐式が完成したからです。

最初は私一人で作り上げようと奮闘していましたが、ラウラとの出会いで私の世界がガラリと変わりました。

人との支え合い、互いに気付いた自分の弱さと強さ、そして何より・・・

「よし。今すぐ起動実験に移りたい。簪、今すぐ実験の用意をしろ」

「・・・」

「どうした簪?顔が赤いぞ?」

「へぇっ!?」

「具合でも悪いのか?」

「だ、大丈夫だから!い、今すぐ用意するから・・・待ってて!」

私はラウラに恋をした。

最初は友達をづくりが上手くいかなくてイライラしていたと思っていました。

だけど・・・



「お前を縛りつけている、呪われた運命の鎖から解放させるのが私のすべきことだ」



その言葉を聞いて、私の心はときめいた。

その後、そのセリフは優秀な副官からの受け売りだと知りました。それでも、私の恋心が揺らぐことはありません。

だって、ラウラはそうまでもして私を助けたかったんだと思う。自分で対処する方法を知らなかったから副官に聞いただけだと私は思う。

そこまで真摯に心配してくれる人は、幼馴染(布仏本音)以外いなかった私にとってラウラはヒーロー以上の存在になっていた。



打鉄弐式の起動実験は無事に成功したけど・・・

「ふむ、打鉄弐式には問題はないが・・・」

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「操縦者の体力づくりが次の課題か・・・」

私の体力の無さが問題になった。ISと言えど、操縦者の体力が無くてはただの鉄屑となってしまう。

「だったら・・・明日の朝から・・・」

「いや、体力作りは明後日の朝からだ。明日は体を休ませた方が良い」

お姉ちゃんはこれぐらいやれるんだから、私だって・・・

「大丈夫・・・明日の朝から・・・」

突然眼帯を外し、私の顔に近づいた。

「簪、無理をするな。お前はここ数日睡眠を十分にとっていない。昼休みに仮眠をとっても、疲れは抜け切れない。その証拠に目に隈ができている。それを化粧等で誤魔化すのはやめてくれ。」

「でも・・・そうしないとお姉ちゃんに・・・」

「お前は戦うために生まれた存在ではない。これ以上無理をしてはいけない。それに姉がどうした。お前は・・・」

突然、ラウラは私に背を向け眼帯を付けた。

「すまない。姉がいない私が偉そうに言うべき事ではないな」

「ラウラ・・・」

そういってラウラは整備室をあとにした。






私、ラウラ・ボーデヴィッヒは部屋のベットで考えていた。

姉という存在は一体どういう物なのか?

織斑一夏みたいに憧れの存在であったり、簪みたいに脅威の存在であったり、肉親という存在がいまいち理解できない。

どうすればいい?姉の問題が解決できない限り、簪の心は永遠に救われないぞ。

考えろ、考えろ、考えるのを止めるな、ラウラ・ボーデヴィッヒ!

そんな事をしていたらドアのノック音が響いた。客人?

「ラ、ラウラ・・・起きてる?」

簪だ。だが、どうしたんだ?そわそわして、落ち着きがない。

「どうした?もうすぐ消灯時間だぞ」

「いや・・・その・・・嫌じゃなかったら・・・」

意を決したのか、私の横に座った。

「今日一緒に・・・寝てくれる?」

「構わん」

これぐらいの事は大したことではないと思い、私は簪と同じベットで寝ることにした。

ただ一つ疑問があるとすれば・・・

「簪、何故私と一緒に寝たいと言った?」

私と一緒に寝ることに何かしらのメリットはあるものなのか?確かに私のルームメイトはいない。一人ぼっちだ。この部屋にルームメイトがいれば少しは賑やかになるだろう。だが、何故簪はわざわざ私の所まで来た?ルームメイトもいる彼女が・・・

「その・・・整備室の事で・・・謝らないといけないと思って・・・」

「そのことか、別に気にする必要は無い。私が不用意な発言をしたまでの事だ」

「そうじゃないの」

・・・どういうことだ?

「ラウラは私の事を一生懸命理解しようとしてたのに・・・私はそんな事に気付かなくてワガママを言ったから・・・」

「別にそれを謝る必要は無い」

「でも・・・」

どうやら、自分の事についてまだ気づいてない所があるか。

「簪、お前は全てを自分で解決しようとする癖がある。誰かに頼ることを極端に嫌っている傾向がある。別に私を頼っても構わん」

「そんなことしたら・・・」

「姉に追いつけないと言いたいだろうが、あんな奴を姉と思いたいのか?」

「・・・え?」

「全てを一人で解決できるほど、世の中は甘くは無い。いや、そんなものが世界は望んではいない。そうだと言い切る奴はナルシストか独裁者だ。簪、楯無を姉と思いたいなら、私は止めはしない。だが少しでも疑問を感じたなら、楯無を姉と呼ばない方が良い。姉の呪縛で苦しむ姿など、私は見たくない」

とんでもない失言をしたな私は。もう後戻りはできない。自らの首を死神の鎌にかけた気分だ。

「私・・・ラウラの言う事なら・・・何でも聞くから・・・」

「体力作りは明後日の朝だ」

「そうじゃなくて・・・」

「何だ?」

「ラウラの・・・ルームメイトになりたい・・・」

どうやら、明日の夜は修羅場になりそうだな。

「いいのか?お前にはルームメイトがいたはずだ」

「話せばちゃんと分かってくれる。それに私・・・ラウラと一緒に・・・いろんなことを学びたい・・・」

「物好きな奴だな」

「私は・・・本気だよ」

「では明日の夜、寮長と一戦交えることになるが、良いな?」

「・・・うん!」

こうして私と簪は同じベットの中で眠りについた。

ただ一つだけ疑問がある。



簪と一緒にいると緊張するのは何故だ?


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第21話

「真耶の一日クラス担任」後編です。


俺はアリーナの隅でラウラと簪ペアの練習試合を観てたけど・・・

 

「ら、ラウラ・・・」

 

「どうした簪?」

 

「これは・・・やりすぎじゃない?」

 

「問題ない。奴らの傲慢さが生み出した結果だ」

 

セシリアと鈴の二人が・・・

 

「一夏・・・見てないでさっさと・・・助けなさいよ・・・」

 

「一夏さん・・・早くわたくしを・・・」

 

言葉にできない程、ボロボロだ。

 

「一夏君、助けないの?」

 

「俺でも助けられない。言葉では言い表されない程、ボロボロじゃあ・・・」

 

「「なんですって!」」

 

立ち直るの早い!

 

「一夏!それ、どういう意味よ!?」

 

「一夏さん!それは聞き捨てならないお言葉ですわ!」

 

「俺一人じゃ、どうする事も出来ないほ・・・」

 

「そう言って、アタシと一緒にいるのが恥ずかしいんでしょ!」

 

「一夏さん、わたくし達との交流を疎かにしてはいけません!」

 

どうしてこんなに元気なんだ。あんなにボコボコにされたのに・・・

 

「いや、二人の交流は十分に・・・」

 

「どこが十分なのよ!アタシは足り無いわよ!」

 

 

 

「そうか。なら、満足するまで私の特訓に付き合って貰うぞ」

 

 

 

「・・・え?」

 

練習が続行できると知ったのか、ラウラの顔は笑顔に満ち溢れているんだが、どこか千冬姉を彷彿させる笑顔だった。

 

「い、いや・・・そういう意味じゃ・・・」

 

「返答できる程の体力はあるようだな。その体力が尽きるまで練習を続けるぞ」

 

そこにいるのはラウラじゃなくて、千冬姉だ・・・

 

「シャルル・・・練習はここまでにするか」

 

「そうだね。早く部屋に戻って、勉強しないと・・・」

 

俺とシャルルは空気を読んで、アリーナを早々と立ち去ることにした。

 

 

 

「貴様ら三人を相手しよう。簪!行くぞ!」

 

 

 

その直後、三人の断末魔がアリーナのフィールドに響き渡る。

 

「何故、私もなんだぁ!」

 

箒よ、南無三・・・

 

 

 

 

 

 

寮に戻り勉強をし終えた俺とシャルルは食堂に向かっていたけど・・・

 

「まさか、今度のクラスリーグがタッグ戦には驚いたな」

 

「僕もビックリしたよ。一人で戦うと思って戦略とか練ってたけど、タッグに変わったなんて」

 

食堂に向かってる途中、のほほんさんにクラスリーグマッチがタッグ戦になったと聞いた瞬間、シャルルと組んでると咄嗟に言ったけど・・・

 

「でも、一夏君が僕と組んでるって言ってくれて嬉しかった」

 

「そうか。早く本当の・・・」

 

「僕、一夏君に見捨てられるんじゃないかって思っちゃった」

 

「・・・え?」

 

「いや!?・・・ほら!一夏君以外の人に秘密が知れ渡ったら、僕はフランスに帰っちゃうからさ!」

 

「そう・・だな。今夜あたり千冬姉が帰ってくるから、期待しないとな」

 

「うん」

 

 

 

最近、シャルルの様子がおかしい。

 

俺の事を凄く気にかけるのは嬉しいけど、昨夜から俺をジロジロ見てる。幽霊に取り憑かれたかの様な目で俺を見る時がある。流石にシャルルがあの三人の様に、俺に付きまとう様な真似はしないよな?

 

「明日の放課後から僕と一緒に連携の練習してくれない?」

 

「いいけど」

 

積極的に誘ってくれるのは嬉しいけど、たまに悪寒を感じてしまう。

 

 

 

 

 

 

食事を終えた俺はシャルルに用があると言って、真耶の部屋へ向かった。

 

一日クラス担任の仕事で真耶はお疲れだから、俺の料理とマッサージをプレゼントしないとな。

 

「お疲れの真耶にはご褒美をあげないと」

 

真耶の部屋の前に辿り着いた俺はドアをノックして真耶がいるかどうか確認した。

 

「はい、どちらさまですか?」

 

良かった、真耶は部屋の中にいる。俺は返事をせずにドアを開けた。

 

「真耶、お疲れ様」

 

「一夏く・・・んんっ!織斑君!名前ではなくて、山田先生と呼んでください!」

 

ちょっと強張ってるな。だったら・・・

 

「いや、俺はこれからも真耶って言い続けるよ」

 

「せ、先生をからかわないでください!」

 

「からかってないよ。俺は真耶にご褒美をあげに来たんだ」

 

「ご褒美?」

 

「ああ。今日、一日クラス担任として頑張った真耶にご褒美に俺が料理とマッサージを・・・」

 

「き、気持ちだけで十分なので、織斑君は早く自分の部屋に戻って下さい」

 

「真耶、そんな・・・」

 

「とにかく!織斑君は自分の部屋に戻って下さい!」

 

そう言って、部屋から追い出そうと俺を押し出したが・・・

 

「兄さん、腹が減った。夕食を作ってくれないか?」

 

いつの間にか部屋にいた妹の一声で中断された。

 

 

 

「真耶、少し気を張り詰めすぎだよ」

 

「で、でも・・・」

 

「教師として頑張ってる真耶は好きだけど、無理をしてる真耶は見たくないよ」

 

そう言うと、真耶は少し残念そうな顔をしながら俺の作ったナポリタンを食べる。

 

「私、周りの生徒や先生達から天然とかドジっ子とか言われるんです。周りの人達は悪気があって言ってるわけではないですし、昔からそういう所があるのは知っていた。だけど、このままだと『織斑先生のオマケ』という不名誉な称号を貰いそうで・・・」

 

「つまり、姉さんがいなくても自分は教師としてやれますと証明したいから、あのような言動をとったのか?」

 

「はい!」

 

「はぁ・・・」

 

マドカは呆れながら俺の作ったナポリタンを食べているが、真耶は深刻に悩んでるんだから素っ気ない態度をとらないでくれ。

 

「真耶・・・俺は今まで真耶が教師としてちゃんとやれてると思っているよ」

 

「でも、周りは・・・」

 

「だって、俺が今日まで学園生活を送れてるのは真耶のお陰なんだ。それに無理して背伸びをする必要は無いし、千冬姉の後を追うようなことはしなくてもいいんだよ。それに周りがどう言おうと、俺はそういうのも含めて真耶の事が好きなんだから」

 

「無理をして姉さんのマネをしなくていい。自分ができる事を精一杯やることも教師の仕事じゃないのか?」

 

「そう・・・なのかな?」

 

俺とマドカの聞いて真耶は首をかしげた。

 

「俺はそう思うよ。だから真耶、今日は俺のご褒美を素直に受け取って欲しいんだ」

 

今日の真耶は教師として頑張っている。だけど少し頑張りすぎていると感じた。確かに千冬姉は凛々しくて、(いろんな意味で)強くて、生徒達の憧れだけど、真耶は真耶、千冬姉は千冬姉なんだ。

 

「じゃあ一夏君、マッサージ・・・やってくれる?」

 

「ああ、いいよ」

 

やっぱり真耶には元気な笑顔が似合ってるよ。

 

「兄さん、そんなにマッサージが上手いのか?」

 

「ええ・・・一夏君のマッサージは物凄く・・・上手です」

 

「何故顔を赤くする?」

 

「それは・・・その」

 

夜のマッサージの事を言ってるけどマドカは気付いていない。いや、気付いて欲しくない。

 

「じゃ、じゃあマッサージを始めるか。最初はマドカから」

 

「恋人じゃなくていいのか?」

 

「俺のマッサージを体験して欲しいからさ」

 

「分かった」

 

マドカが気持ちよさそうにしてる顔ってどんな顔だろう・・・

 

 

 

 

 

 

「一夏・・・これは一体どういう事だ?」

 

「マドカにマッサージをしただけなんだが・・・」

 

千冬姉が帰って来て、俺はマドカにマッサージをしたと言ったんだが・・・

 

「ぐわあ!体の痛みが通常の数倍に・・・ぐあっ!」

 

「マドカさん大丈夫ですか!?」

 

どうしてこうなった・・・

 

「兄さん・・・どこでその拳法を・・・」

 

「ただのマッサージだから!」

 

「一夏、お前にも拳士としての・・・」

 

「ないから!千冬姉も乗らないで!」

 

何だ!?拳法使いには俺のマッサージは別の意味で効果があるって言うの!?

 

「仕方がない。マドカは私が何とかする。明日までには何とかする」

 

そう言い、痛みを堪えているマドカを担ぎ寮長室へ戻って行った。

 

「マドカさん、大丈夫かしら?」

 

「大丈夫だよ。きっと・・・多分・・・」

 

マドカ・・・元気になってくれ。

 

「ねえ、一夏君」

 

「何?」

 

マッサージは中止だよな。あんな痛い所見たらさすがの真耶も・・・

 

「私にマッサージしてくれない?」

 

「え?」

 

「私にマッサージして」

 

真耶は顔を赤くしながら俺を見つめるけど、そういう体質でもないのにどうして?

 

「その・・・私・・・一夏君の・・・ああいうマッサージ・・・好きなの・・・」

 

そういう体質だったの・・・

 

「じゃ、じゃあ、真耶がそう言うならやるよ」

 

「・・・お願い」

 

真耶は床の上でうつ伏せになり、俺のマッサージを受け入れる態勢になった。真耶にそういう体質があったなんて・・・。付き合って一年半になるけど気付かなかった。いかんいかん!変な事を考えるな俺!いつも通りにマッサージをすればいいんだ!

 

「一夏・・・そこをどけ」

 

・・・え?

 

「聞こえなかったのか?そこをどけ」

 

何故か鬼の形相をしている千冬姉がそこにいた。

 

「織斑先生・・・さっき寮長室に・・・」

 

「行った。そして戻ってきた」

 

一分も経ってないよ千冬姉。

 

「山田君。私がいない間のクラス担任はさぞお疲れでしょう。ここは、私のマッサージを受けた方がよろしいでしょう」

 

千冬姉がYシャツ姿になったけど、手の動きがマッサージをする動きをしてない。獲物を捕らえようとする時の動きになってる。

 

「あの・・・私は一夏君の・・・」

 

「安心しろ、一夏とは違う気持ち良さがある。だから安心してマッサージを受けるが良い。一夏、お前は部屋に戻れ」

 

俺の意思とは無関係に体は回れ右をし、自分の部屋に戻って行った。真耶・・・ごめん。今の千冬姉に勝てる見込みが全くない。

 

 

 

 

 

 

翌日、ちょっと疲れた顔をした真耶と髪が全て白髪に様に見えるマドカがいた。




次回はクラスリーグマッチ戦です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。



オマケ

※このお話は、ラウラ・ボーデヴィッヒ視点のお話です。このお話を読まなくても、次の話に支障はありませんが、キャラへの理解が深まる・・・はずです。






私の名はラウラ・ボーデヴィッヒ。私は簪と一緒に寮長室である人物と交渉している。それは・・・

「ボーデヴィッヒ・・・要件はそれだけか?」

「はい。私と更識簪の同室を許可してください」

「駄目だ。既に簪にはルームメイトがいる。クラスリーグマッチが終わった時にお前のルームメイトも決まる」

教官に簪との同室を認めさせようと交渉しているが、やはり認められない。

「ボーデヴィッヒ。お前に何かあったのかは知らないが、個人の欲求だけで行動起こすのは感心しないぞ」

「これは私個人の欲求だけではありません。私と簪と・・・」

「だからと言って、既にルームメイトが決まっている者との同室は到底認められない」

「私はあの時の・・・」

「分かっている、あの時のお前ではないと言うのは。だからこそ、お前には様々事を学ぶ必要がある」

さすがは教官。私の言いたいことをサラリと言い、反撃の手段を与えない。このままでは簪との同室が夢物語ままで終わってしまう・・・

「お、織斑先生!」

「何だ?」

・・・簪?

「先生・・・ボーデヴィッヒさんのワガママを・・・許してください」

「駄目だ。たとえボーデヴィッヒが変わったとしても、一個人の・・・」

「わ、私が・・・ボーデヴィッヒさんの・・・」

「教育係など任命させん」

「うぅ・・・」

簪の勇気が砕け散った

「これ以上お前達が言っても答えはノーだ。早く自分の・・・」

「教官!」

「・・・何だ?」

私は思わず教官に対し声を荒げた。

「私は簪から様々な事を学びました。人との支え合い、人として教え伝えるべきもの、様々な事柄を私は簪から学びました。そして教官はそれを感じ取っています」

「・・・」

「そして教官はそれを学んだ私を変わったと言いました。なのに教官は私を昔の私と重ね合わせて話を進める。どうしてそんなことをするんですか!」

「・・・・・・」

「教官。あなたが私を鍛えた理由は分かりません。ですが過去に囚われ、私を・・・」

「そこまでにしておけボーデヴィッヒ」

「!?」

教官から強烈なプレッシャーが・・・耐えるんだ。いや、簪を守らなければ!

「ほう・・・私のプレッシャーに耐えたのは、身内を除いてお前が初めてだ」

「教官、一体何のマネですか?」

「あそこまで言われたなら、どこまで成長してるのか試したが・・・まだまだだな」

くっ・・・

「だが、この私にここまで言うようになった褒美だ。一つチャンスを与えよう」

「チャンス?」

「近々、クラスリーグマッチが行われる。今回のリーグマッチはタッグ戦で行われる。ボーデヴィッヒ。お前は簪と組んで成果を見せろ。成果しだいでは簪との同室を認めてやろう」

簪の眼差しから恐怖と焦りが消えている。教官の目も若干ながら私に期待を寄せている。

このクラスリーグマッチの成果・・・優勝以外に道は無い!

「分かりました。ラウラ・ボーデヴィッヒ、全力を持ってクラスリーグマッチに挑みます!」



このチャンス・・・無駄にはしない!


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第22話

作者「今回の話は真耶との愛の力で勝利する話だ!」
      ↓(執筆中)
作者「このままだと、一夏の成長する話が少なくなる・・・一から作り直そう」
      ↓(構想中)
作者「ラウラの立ち位置をこうして、今後のために一夏は・・・・・・」
      ↓(執筆中)
作者「IS最新刊発売までには完成させたいなぁ・・・」
      ↓(執筆終了)
作者「最新刊発売されてるし、一夏の精神(こころ)をフルボッコにする話になってるし、ラウラが迷いを振り切った赤い彗星っぽくなってるし・・・」



・・・・・・どうしてこうなった


クラスリーグマッチ当日

 

俺はアリーナのピットでシャルルと打ち合わせをしていた。

 

なんせ一回戦は「ラウラ・ボーデヴィッヒ&更識簪」のペアだ、油断大敵だ。実はラウラ、簪ペアはリーグマッチの中で異質のコンビと言われている。二人の接点が見当たらない、共通項は分からない。考えてみれば、クラスは別々なのにどうして仲が良いのか分からない。おまけに二人のISに関する情報は無いに等しい。油断したら秒殺だってあり得る。

 

「一夏君、どうしたの?」

 

「二人がどう戦えばいいのかイメージトレーニングしているんだけど、いまいちイメージができない」

 

「しょうがないと思うよ。二人に関する情報はないから、立ち回りの確認ぐらいしかできないからね」

 

シャルルの言う通りだな。立ち回りの最終確認でも・・・

 

『これより、クラスリーグマッチ第一試合を開始します』

 

真耶のアナウンスがピット内に響き渡る。

 

「そろそろ試合だな。シャルル、行くぞ」

 

「うん。行こう」

 

俺は白式でフィールドへ飛び立とうとしたけど・・・

 

「山田先生・・・」

 

シャルルが真耶の事で妬んでいたのは気のせいだな。・・・多分、きっと。

 

実はリーグマッチ当日までシャルルと練習をしてたんだが、積極的にアプローチみたいな事をしてくる。アリーナでの練習は普通に連携の練習だけど、連携の感覚を忘れない為にと言って部屋でも練習させられるんだが、体を密着させてくるし、一緒のベッドで寝ようと来たり、一緒にシャワーを浴びようと来たりと、あの三人より危ない事をしてきて、安心して学園生活が送れない状態である。しかも真耶の事になると目の光がたまに消えたりして、怖いです。千冬姉程じゃないけど怖いです。

 

 

 

 

 

 

「来たな、織斑一夏」

 

アリーナのフィールドではラウラと簪が俺達が来るのを待っていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・」

 

「貴様を倒し、私は過去の自分と決別する。悪く思うな」

 

「なら、早々と倒されるわけにはいかないな」

 

ラウラから迷いが無くなっている。少しでも気が抜けたら、勝機がなくなる。

 

「無理だな」

 

突然、ラウラの目つきが鋭くなった。

 

「貴様は自分の過去に恐れを抱いている」

 

・・・ハッタリか?

 

「その恐れに気付いているにも関わらず、見て見ぬ振りをして恋人を欺き、自分に安心感を持たせようとしてる。だが学園に貴様の過去を知る者がいるせいで、その安心感を持つ事が困難になっている」

 

「悪いけど、何を言っても俺はなんとも思ってないからな」

 

「一夏君を動揺させる作戦みたいだけど、結果は失敗だね」

 

シャルルがアサルトライフルをラウラに向け、戦闘態勢に入ってるけど、実際は動揺を何とか隠してるので精一杯だ。

 

何故だ?真耶を守るって誓ったのに、どうして動揺する!あの時の俺じゃないんだ!俺は一人で戦ってるんじゃない!俺は・・・

 

「織斑一夏。貴様は共に戦う仲間を持っているのか?」

 

「どういう意味だよ?」

 

「言葉の通りだ。貴様が身内と恋人以外に心を許した者を見たことが無い。まるで、自分の過去に触れて欲しくないと言わんばかりに心に壁を作っている」

 

「そんな訳・・・」

 

「本当にそうなのか?ブリュンヒルデの弟」

 

 

 

俺の心の何かが揺らいだ。

 

 

 

「貴様は教官に対し、劣等感を持っているところがある。貴様は言ったはずだ。『お前は織斑千冬の幻影に取り憑かれてる』と。だがそれは貴様が教官に見下されるのを恐れ、あの様な発言をした」

 

雪平弐型を持ってる腕が震え始めた。

 

「貴様に何があったのかは聞かん。だが、敢えて言わせてもらおう。自分の過去に恐れる者に私達を倒す事などできん」

 

「・・・・・・」

 

アリーナは静まり返っていた。異様な熱気に包まれていた観客席はラウラの言葉で冷めてしまった。

 

「そう言うけど、僕と一夏君が・・・」

 

「シャルル・・・ラウラは俺が倒す」

 

「え?」

 

俺は何を考えている。俺はシャルルと連携を組んで、ラウラを倒す筈なのに・・・

 

「ラウラは・・・俺が倒す」

 

どうして一人で戦おうとする・・・

 

「仕方がない。貴様の目を覚ますにはこれぐらいの荒さが必要みたいだな。簪はシャルルの相手を頼む」

 

試合開始のブザーが鳴り響いたのと同時に俺は瞬時加速(イグニッション・ブースト)でラウラの懐に潜り込み、零落白夜で斬りかかったが・・・

 

「甘い!」

 

ラウラは俺の腹に強力な蹴りを喰らわせ、零落白夜を強制中断させた。

 

「ぐっ!」

 

「分かっているはずだ!自ら過去とケジメをつけなければならない時が来たのだと。だが貴様は自分の過去と向き合う事に恐れを抱き、逃げの手段として山田先生を利用しているに過ぎない!」

 

「違う!俺は真耶と一緒に・・・」

 

「動揺してる時点でそれが貴様の限界だ!」

 

ラウラは間髪入れずに殴り掛かって来た。俺は雪片弐型で防いだが、反撃のチャンスなど無く防戦一方の展開である。

 

「貴様にとって山田先生の存在は私の想像を超えるものだ。だが、貴様のエゴを全て飲み込める程の人間ではない」

 

「エゴだと!?」

 

「教官に劣等感を持ち、解決策を見出さずに山田先生に甘えてる貴様には『ブリュンヒルデの弟』という二つ名がお似合いだということだ」

 

「俺は織斑一夏だ!ブリュンヒルデの弟なんかじゃない!」

 

「なら貴様はブリュンヒルデの弟と呼ばれないための努力をしたのか?」

 

「俺は力を闇雲に・・・」

 

「闇雲に力を求めない。やるべきことをやり遂げる。耳触りのいい言葉を盾に自分の過去と向き合わず、心に壁を作り自分の弱さを隠す。それがお前だ」

 

「違う!俺はそんなんじゃない!」

 

「ならこの私に証明して見せろ」

 

「言われなくたってぇ!」

 

俺は零落白夜を起動させ、ラウラと距離を取った。

 

「俺はブリュンヒルデの弟なんかじゃない・・・。俺は織斑一夏・・・織斑一夏だ!」

 

「そのセリフが既に貴様の限界だと言うのを知るがいい!」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「一夏くん・・・もうやめて・・・」

 

私、山田真耶はアリーナの管制室でただ泣くことしかできなかった。

 

ボーデヴィッヒさんの言葉に一夏君は心を乱され、それを否定するために立ち向かってる姿は昔の一夏君そのままだった。

 

織斑先生に劣等感を持ってる事や、自分の過去に向き合ってない事や、心に壁を作ってた事に悲しみは感じなかった。

 

私は・・・

 

 

 

『貴様は自分の限界いや、自分の過去に向き合おうとしない。そんな人間の語る愛や力など大したことでは無い』

 

『違う!俺は自分のやり方で・・・』

 

『動揺してる時点で貴様の力などたかが知れてる』

 

『俺は・・・』

 

『知るがいい。これがISを使った戦い方だ!』

 

一夏君が苦しんでいる姿に私は耐えられなかった。

 

「どうして・・・どうして一夏君がこんな目に遭わなければならないの・・・」

 

ボーデヴィッヒさんの言ってる事は全てが間違ってるわけではありません。だけど・・・

 

『ぐあっ!』

 

『やはり貴様は自分の弱さを山田先生とそのISで隠していたな』

 

『違う・・・』

 

一夏君は少しずつ強くなっていった。不器用だけど、マドカさんや織斑先生、1組のクラスメイト達の助けもあってだけど・・・

 

『認めろ織斑一夏。自分の弱さを認められない者が何かを守る事など出来ない』

 

やめて・・・

 

『俺は・・・』

 

もう・・・やめて

 

『自分の過去から逃げてる者に守る力などない』

 

一夏君をこれ以上・・・苦しめないで・・・

 

『俺はぁ!』

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「俺はぁ!」

 

俺はラウラを倒す。それ以外にあいつの言葉を否定する方法はない。

 

「感情に任せて攻撃するなど、獣そのものだな」

 

「黙れ!俺はお前を倒す!」

 

「どうやら、貴様が教官の幻影に取り憑かれてるみたいだな」

 

ラウラはプラズマを帯びた手刀を出現させ、俺の攻撃を受け流す。

 

「くそっ!」

 

「今のお前は無いものを求め、泣いている子供だ」

 

「そんな訳あるか!俺は周りの助けがあって・・・」

 

「なら、その周りを見てみろ」

 

「何?」

 

俺はラウラの言われた通りにフィールドの周りを見た。

 

俺とラウラは上空、シャルルと簪は地上にいるがシャルルは倒れていた。

 

「貴様は周りの助けがあってと言ったが、貴様はその周りを助けようとしたのか?」

 

胸の高まりが収まらない。

 

「シャルルは戦闘中にも関わらず貴様の事を心配していた。貴様はシャルルの事を少しでも心配したのか?」

 

呼吸は荒く、汗が止まらず流れ続ける。

 

「私は気付いた。他者の存在がいてこそ力が生まれる。その力があるから仲間と未来を守ることができる。だが貴様は、その他者の存在を恐れている」

 

やめろ・・・

 

「自分と言う存在を否定される恐怖。自分の過去を見られる恐怖。自分の居場所を失う恐怖。貴様はその恐怖から逃げるために他者との間に壁を作る」

 

やめろ!

 

「その壁が傷つけられた時に・・・」

 

「やめろぉぉぉ!」

 

俺は零落白夜を起動させ特攻を仕掛けた。

 

「甘い!」

 

ラウラは同じ攻撃手段だと思い、俺の腹に蹴りを喰らわせたが・・・

 

「この瞬間を待ってたんだぁ!」

 

蹴りのために伸ばした右足に零落白夜を叩きこんだ。

 

「ぐあっ!」

 

ラウラはそのままフィールドの地面に叩き付けられたが、俺は間髪入れずに瞬時加速(イグニッション・ブースト)で追撃の手を緩めなかった。

 

「うおおおぉぉ!」

 

ラウラも想定外だったのか防御に移る行動がいつもより遅かった。これなら・・・勝てる!

 

「俺は・・・俺は・・・俺はぁ!」

 

ラウラのISから灰色の液体が溢れ出てきたが関係ない。

 

「俺はお前を倒す・・・今日!ここで!」

 

そしてラウラにトドメの一撃を与えようとした時、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、ここは・・・」

 

意識を取り戻したとき、俺は廃工場の中にいた。外は夜で大雨だ。

 

「たしか俺はラウラに・・・」

 

俺は状況整理をしようとした時、遠くで誰かが倒れた音がした。

 

「・・・何だ?」

 

俺はその音のした方角に向かって行った。そこで俺が見たものは・・・

 

もう一人の俺が男の胸ぐらを掴んでいた。

 

もう一人の俺はボロボロの黒の学ランで、体中痣や血だらけの姿だった。

 

・・・学ランと言うことは

 

「ここは二年前の・・・」

 

俺は二年前の出来事を見てるのか?あの日・・・

 

 

 

真耶が誘拐されたあの日の事を・・・

 

 

 

『ふっ・・・』

 

『何が可笑しい!?』

 

『お前・・・この俺に勝ったと思ってるだろ?』

 

『ああ、勝ったさ。お前の両腕はもう動けない。両足だって満足に動かせない。お前には・・・』

 

『お前は本当にバカだなぁ』

 

『何?』

 

その時の俺は真耶が誘拐されたことに怒ってる訳ではなかった。あの男は蘭を誘拐しようとしたり、弾に大怪我を負わせたりした事で俺は怒ってたんだ。

 

『お前はとっくに負けてるんだよ』

 

『負け惜しみを!』

 

『お前・・・俺がさらった女の顔を見てみろよ』

 

『黙れ!』

 

あの時の俺は男の言葉に耳を貸さずに殴り始めた。今の俺はその男の言葉通りに真耶を見た。

 

『いや・・・やめて・・・』

 

真耶の顔は青ざめ、悲痛な表情をしていた。

 

「!?」

 

その顔を見た瞬間、体が震え始めた。

 

 

 

(貴様は周りの助けがあってと言ったが、貴様はその周りを助けようとしたのか?)

 

 

 

ラウラの声が俺の頭の中に響く。

 

 

 

(自分の弱さを認められない者が何かを守る事など出来ない)

 

 

 

俺は・・・

 

 

 

(貴様は自分の弱さを山田先生とそのISで隠していたな)

 

 

 

俺は・・・

 

 

 

『うおぉぉぉ!』

 

 

 

あの時から何も変わっていない・・・

 

 

 

『織斑君!やめてぇ!』

 

 

 

いや・・・変えるべき所を変えずに逃げてたんだ・・・・・・

 

 

 

『山田・・・さん・・・どうして?』

 

『だって・・・織斑君が・・・・・・』

 

 

 

昔の俺が真耶に怪我を負わせた所を見届け、俺は意識を失った。




次回、一夏と真耶の愛が試される!?

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第23話

難産でした。

構想を練って執筆しては書き直し・・・

暑さで思うように書けず・・・

それでも何とか書き上げた話です。

どうか、暖かい目で見守ってください。


一夏君とボーデヴィッヒさんの戦いでのトラブルが原因でクラスリーグマッチは中止になった。

 

二人のISを調査したところ、ボーデヴィッヒさんのISにあらゆる企業・国家での開発が禁止されているシステムが搭載されていることが分かりました。

 

それを知った織斑先生は後日ドイツに赴き、事情聴取を行うと言ってました。

 

ボーデヴィッヒさんのISに飲み込まれた一夏君は織斑先生とマドカさんの手で救出されたけど・・・

 

「織斑先生・・・一夏君は?」

 

「意識は戻ったがそっとした方がいい。まだ気持ちの整理がついていない」

 

「・・・そうですか」

 

一夏君の心は深い傷を負っている状態で、誰にも会いたくないと言っています。

 

 

 

織斑先生に対する劣等感、他人との拒絶、過去への恐怖

 

 

 

それらを私に甘えて逃げる。

 

それが今の一夏君だとボーデヴィッヒさんは指摘した。

 

でも・・・

 

「山田君」

 

「は、はい!」

 

「気持ちは分かるが今はその時ではない」

 

「で、ですが・・・」

 

「逸る気持ちを抑えろ。私だってどうにかしてやりたい。だが、私ではどうすることもできない」

 

「織斑先生・・・」

 

「私は力でしか物事を上手く伝えられない不器用な教師だ。だが山田君は力ではなく言葉と心で物事を伝えるのに長けている。そのお前が逸る気持ちを抑えられなければ、あいつを救うことはできない」

 

そう言い、織斑先生は私にある用紙を渡した。

 

「これは大浴場の男子解禁の時間が記されている紙だ。それに書いてある事を一夏に伝えろ。私はボーデヴィッヒに事情聴取を行う」

 

そう言い、織斑先生は寮長室へ向かって行った。

 

「私に出来ることは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は今まで何をやって来たんだ・・・」

 

夕暮れ。俺はベットに座り、自分を責めていた。

 

俺は真耶を守るために今まで頑張ってきた。真耶の幸せを願っていた。だけど・・・

 

 

 

(自分の弱さを認められない者が何かを守る事など出来ない)

 

(貴様は自分の弱さを山田先生とそのISで隠していたな)

 

(今のお前は無いものを求め、泣いている子供だ)

 

 

 

俺は必死に否定した。俺は一人で戦ってるんじゃないんだと心に強く念じたのに・・・

 

「それでも・・・俺は・・・」

 

ラウラに負けた。ISの技術だけでなく、人としても・・・

 

 

 

コンコン

 

 

 

誰かが俺の部屋に入ってきた。

 

「兄さん」

 

マドカだった。

 

「マドカ・・・」

 

だけど俺を心配しに来たわけではない。何かこう・・・修正されそうな予感が。

 

「ついて来い」

 

「・・・え?」

 

「黙ってついて来い」

 

 

 

 

 

 

俺はマドカについて行き、着いたのは剣道場だ。

 

「マドカ、一体ここで・・・」

 

「私と戦え」

 

「え?」

 

マドカは俺に竹刀を投げ渡し、何かの構えを取った。

 

「ま、待てよ!俺とマドカが戦う理由なんてないだろ!?」

 

「あるから戦おうとしてるではないか」

 

俺の妹はこんなに戦闘狂だったけ?

 

「それに今の兄さんなら1分もかけずに倒せる」

 

30秒未満で俺がKOされる姿しか思い浮かばないんだが・・・

 

「それに私にはこれぐらいしかできないからな」

 

「どういう意味だよ?」

 

「兄さんが恐れているのは過去でも他人でも姉さんではない。山田先生だ」

 

マドカの言ってる意味が分からない。

 

「マドカ、何を言ってるのか分からないよ」

 

「兄さんは山田先生のために強くなっていった。だがそれは、山田先生に構ってほしいという裏返しなんだ。自分だけに構ってほしい。自分だけを見てて欲しい。自分だけに・・・」

 

「違う!マドカ、俺はそんな・・・」

 

「私の目は誤魔化せないぞ」

 

俺の竹刀の握る手が強くなった。

 

「だから・・・私は自分ができる事を全力でするだけだ!」

 

マドカは高らかにジャンプをした。

 

「断己相殺拳!」

 

マドカの体から三日月のような何かが俺にめがけて飛んできた。

 

「本気かよっ!」

 

俺は竹刀で何とか切り払ったがマドカの殺気が消えることはなかった。

 

「シャオッ!」

 

マドカの攻撃は収まる気配がない。

 

「くっ!」

 

「ドコヲミテイル?」

 

「くそっ!」

 

「どうした!その程度の力では無いはずだ!」

 

マドカは攻撃の手を緩めず、俺に襲い掛かってくる。

 

「それで山田先生を守れるとでも思っていたのか?」

 

「何!?」

 

「そうでないと言うなら全力で掛かって来い」

 

「くそぉ!」

 

俺は持てる力を振り絞り、マドカに戦いを臨んだ。

 

「そんなに早く死にたいか?」

 

マドカはそんなに俺を殺したいのか?

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

あれから30分ぐらい経ったのだろうか、俺はマドカに一撃も与えていない。

 

まるで手に取るかのように俺の攻撃を避け続ける。

 

「どうすれば・・・どうすれば当たるんだ!」

 

妹の目には俺は惨めな兄として見られてるだろう。

 

「邪念の入った攻撃などこの私には通じんぞ」

 

「邪念だと?」

 

「そうだ。それを無くす方法は一つだけだ。兄さんの想いの全てをその竹刀に込めろ」

 

「俺の想い・・・」

 

するとマドカは警戒しつつも構えを取るのを止めた。

 

「姉さんから聞いた。昔の兄さんの話を」

 

「!!」

 

「今の兄さんは、まるで姉さんの言った昔の姿そのままだ。どうして身の丈の合わない力を身に着けようとする?」

 

「・・・真耶を傷つけた償いかな」

 

俺はマドカだけに強くなろうとする理由を話した。

 

「二年前、俺の地元で無差別誘拐殺人事件があったんだ。犯人は計画的に人をさらって殺しては、証拠となるものは残さず、警察や地元の人に脅迫状を送って怖がらせる性質の悪い奴だったよ」

 

「極刑は逃れられないな」

 

「その犯人は俺の友達の妹をさらったんだ。だけど決死の行動で妹は助かったけど、その友達は大怪我を負ったんだ。俺は友達の情報と証拠のブツを頼りに一人で犯人を捜し始めた」

 

「それに感付かれて、山田先生が誘拐された」

 

「ああ・・・」

 

俺の額から汗の量が増え始めた。

 

「俺は真耶の事なんか気にもかけていなかった。友達の妹をさらい、その友達に大怪我を負わせたことに俺は怒っていた。いや・・・その時、何も出来なかった自分に罪悪感を感じてた。俺はそのまま怒りと憎しみを犯人にぶつけた。犯人はナイフを慣れた手つきで俺に斬りかかって来たけど、俺はそんなことも気にせずに犯人に鉄パイプで斬りかかってた・・・」

 

胸の高まりが収まらなくなってきた。ラウラの言ってることが間違ってないと確信したからだ。

 

「気付いたら犯人の両手と両足が満足に動かなくなるまで叩きのめしてた。その時の俺は怒りと憎しみで相手を叩きのめしていた。俺は犯人にとどめを刺そうと・・・」

 

「そして山田先生を傷つけた」

 

マドカの言葉に俺は静かに頷いた。

 

「ああ。俺は犯人を庇った真耶に・・・」

 

「ありがとう。これ以上言わなくて大丈夫だ」

 

「え・・・?」

 

「私は兄さんが何を恐れてるのか分かれば十分だ。それに・・・」

 

「それに?」

 

「それをどう対処すべきか、兄さんは知ってるはずだから」

 

一瞬、マドカの笑顔が真耶の笑顔とダブって見えた。

 

「さて、お喋りはこれまでだな」

 

「あ、ああ・・・」

 

突然話を打ち切られた事に疑問を感じながら構えたが、竹刀が軽くなったような気がする。

 

(どうやら、憑き物が落ちたみたいだ・・・)

 

マドカは何故か笑みをこぼしてるんだが、何故だ?

 

「次の一撃で終わりにする」

 

「ああ・・・こっちもそうさせてもらう!」

 

少しだけど・・・俺の力で何をすべきか分かってきたよ。

 

「フゥゥゥゥ・・・!」

 

マドカは高らかに飛び、俺は静かに目を閉じた。

 

「俺は・・・」

 

「南斗水鳥拳奥義!」

 

「俺は・・・!」

 

「飛翔白麗!」

 

「真耶と友達の明日を守るんだ!」

 

拳と剣。その二つが剣道場で交わった時、轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛っ!マドカ、手加減したっていうけど・・・結構痛い」

 

剣道場での一戦、マドカの圧勝だ。

 

あの後、マドカが大浴場の男子解禁の時間と日時を教えてくれたけど、どこからそんな情報を手に入れたんだ?

 

それに、あの拳法を破るには・・・・・・人間を辞める以外の方法が浮かばない。でも・・・

 

「真耶と友達の明日か・・・」

 

友達って、弾と蘭と清香と癒子とのほほんさんと静寐の六人か。

 

あの三人(箒とセシリアと鈴)は・・・守らなくても勝手に蘇りそうだから大丈夫か。

 

 

 

カラカラ

 

 

 

ん?誰か浴場に入って来たけど・・・

 

「一夏・・・」

 

シャルルだ。何だ、シャルルだったら・・・・・・問題ある。

 

「ど、どうしてここに?そ、それよりも何で入ってきたんだシャルル!?」

 

「僕が一緒だとイヤ?」

 

「イヤ、そうじゃなくて・・・」

 

俺はシャルルに背を向けて気を落ち着かせている。千冬姉と箒達のおかげかどうか分からないけど、何か危ない事が起きそうな時に背筋に悪寒が走るんだ。最近、シャルルにもそんな現象が起きるようになった。興奮とかそういうのじゃなくて、生命の危機に瀕する感覚だ。

 

「一夏、話があるの。とっても重要な話が」

 

「あ、後でいいか?」

 

「ダメ・・・今じゃなきゃダメだよ。お願い聞いて一夏」

 

そう言い、俺の背後から抱いてきたけど、何か目から光が・・・

 

「僕ね、ここにいることができるようになったの」

 

「え?」

 

「さっき父さんから電話があって、謝ってくれたんだ。壊れたテープレコーダーみたいにひたすら謝ってくれた」

 

千冬姉、デュノア社で何をしたんだ?

 

「そうか。良かったなシャ・・・」

 

「もう一つ聞いて欲しい事があるの」

 

段々俺を抱く力が強くなってきてるんだが・・・

 

「・・・何?」

 

「僕の本当の名前、シャルロットなの。だから、シャルロットって呼んでくれる?」

 

「あ、ああ。シャ、シャルロット」

 

「うん・・・」

 

おかしいな、風呂に浸かってるのに体が寒い・・・

 

「一夏。僕、自分の意志で決めたことがあるの」

 

「な、何だ?」

 

冷や汗が止まらない・・・

 

「それはね・・・」

 

これ以上聞くと命の危機に関わりそう・・・

 

「シャ、シャルロット!」

 

「何?」

 

「俺、少しのぼせてきたから先にあがるよ!」

 

そう言って、俺はシャルロットから逃げるように大浴場をあがった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

俺は部屋のベットで気を落ち着かせていた。

 

「・・・疲れた」

 

今日一日振り返れば、ラウラとISで戦って、マドカと生身で戦って、シャルロットから逃げて・・・まるで一週間の出来事を凝縮した一日だったな。

 

「ふわぁ~」

 

眠くなったし、先に寝・・・

 

「一夏・・・」

 

部屋が暗くなった。シャルロットが部屋の電気を消したんだな・・・

 

「シャ、シャルロット!?」

 

「どうしたの一夏?」

 

なんで裸なの!?オマケに目から光が消えてる。

 

「い、いや・・・その姿だと・・・」

 

「山田先生の裸を見てるから平気でしょ?」

 

そういって、寝てる俺の腹の上に跨って来た。

 

「一夏。僕・・・決めたんだ」

 

「な、何を?」

 

「ボーデヴィッヒさんに勝つためには・・・他の人と交流を深めないといけないの」

 

言っている意味は分からないけど、ツッコむのは野暮だ。

 

「そ、それで俺に跨った理由は?」

 

「簡単な事だよ・・・」

 

 

 

 

 

 

「僕の・・・・・・僕だけの男になって」

 

「!?!?」

 

 

 

 

 

 

これ・・・ヤバい。

 

「言ってる意味が分からないよ!?」

 

「僕の男になれば僕がずっと守ってあげるよ」

 

「いや、俺には真耶が・・・」

 

「一夏が苦しんでるのに助けに来ない山田先生なんて・・・一夏の彼女失格だよ」

 

「あれは俺が・・・」

 

「それに一夏を弱くしてるのは山田先生なんだよ」

 

その言葉にコチンと来た。

 

「いつも大きな胸を揺らして一夏を誘惑して、僕との仲を引き裂こうとしてる。あんな女に一夏を渡さない。渡しちゃいけないんだ」

 

シャルロットはISを部分展開し、俺の両腕を握った。

 

「一夏。これからは僕だけをずっと見て」

 

「いや、俺にはマドカやのほほんさん・・・」

 

「他の女じゃ満足できないことを僕はやるから・・・ね」

 

そういって、シャルロットは俺の体を触りはじめた。

 

「忘れさせてあげる、山田先生の思い出を。それ以上に・・・嬉しく楽しいことを覚えさせてあげる」

 

「シャルロット、少し疲れて・・・」

 

「疲れてなんかないよ。疲れさせる原因があるなら、僕以外の女かな・・・」

 

逃げようと足掻いてるけど、シャルロットがその度に笑顔で押さえつける姿は最早ホラーと言っても過言ではない。

 

「明日から僕と一緒に食事をしようね。もし他の人と食事でもしたら容赦はしないから」

 

そう言ってシャルロットは視線を下にずらした。

 

「今日から一夏は生まれ変わる」

 

「いや・・・シャルロット」

 

シャルロットが頭を下げたせいか下げたお陰と言うべきか・・・

 

「僕が・・・生まれ変わらせる」

 

「おーい、シャルロット」

 

シャルロットの背後に・・・

 

「何、一夏?僕にお願い事」

 

「ああ」

 

「何?」

 

「後ろ見て」

 

「・・・え?」

 

 

 

 

 

 

 

SHINOBI(千冬姉)がいる。

 

「ハイクを詠め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か、一夏?」

 

「ああ・・・三途の川らしきものを見たよ」

 

見るも無残に倒れてる裸のシャルロットを担いでいる千冬姉に心配されながら、俺はシャルロットに握られた両腕を見つめていた。鈴とは違って俺を押さえつけるぐらいの力だったのか、痣は残っていなかった。

 

「こいつは私の部屋で寝かせるとするが、一夏」

 

「どうした千冬姉?」

 

「一体何があった?」

 

千冬姉の言ってる意味が分からなかった。

 

「ボーデヴィッヒ戦との落胆からの立ち上がりが早くてな。何があった?」

 

「何がって、マドカと一戦交えただけだが」

 

「あいつが・・・か」

 

千冬姉は何がおかしかったのか、凄く爽やかな顔で笑っていた。

 

「千冬姉?」

 

「いや、なんでもない。それより早く寝ろ」

 

「あ、ああ」

 

話を切り上げた千冬姉は颯爽と部屋を出て行った。

 

俺はこれで寝れる思いベットに潜り込んたが・・・

 

 

 

コンコン

 

 

 

ドアのノック音がまた響いた。

 

「一夏君?」

 

「真耶」

 

「ベット、一緒に入っていい?」

 

「ああ・・・」

 

真耶は俺のベットに静かに潜り込み互いに顔を見つめた。

 

「ねえ、真耶」

 

「何?」

 

「今日の試合の事で心配させてごめん」

 

「謝る必要なんてないよ」

 

あれ?真耶が落ち着いてる。

 

「でも・・・」

 

「マドカさんと戦って振り切れたんじゃないの?」

 

・・・え?

 

「見てたの?」

 

「最初から最後まで」

 

「あの叫びも」

 

「はい!」

 

静かに元気よく返事したけど、少し恥ずかしいな。

 

「・・・」

 

「どうしたの?」

 

「いや、ああ叫んだけど具体的にどうすればいいのかまだ分からないし、それに・・・」

 

「私を怪我させたこと、悔やんでるの?」

 

「・・・・・・ああ」

 

「あの時の事は気にしてないし、その事で悔やまなくても大丈夫。それに・・・」

 

そう言い、互いの口が触れる距離まで近づいて来た。

 

「私は一夏君が立ち上がってくれるだけで嬉しいから。それにクラスメイトの明日を守るって誓ったんだから、明日からクラスメイトとちゃんと交流しないとね」

 

笑顔で答える真耶に俺も思わず笑みをこぼした。

 

「でも、私に頼って欲しかったな」

 

「え?」

 

「マドカさんから大浴場の事を聞いた時はちょっとショックだったから・・・」

 

突然、顔を赤くし始める真耶。風邪か?

 

「どうして?」

 

「一夏君と・・・一緒に入りたかったから」

 

俺はその時、心の中でマドカに並々ならぬ感謝をしている。もし一緒に入ってたらシャルロットが何をしでかすか分からない。最悪、サスペンスドラマの様なことが起こってたかもしれない。

 

「そんなことで落ち込まなくてもいいよ。次の機会に一緒に入ればいいじゃない。それに・・・」

 

俺は悪戯心に真耶の耳元で囁いた。

 

「真耶以外の女性と混浴するつもりはないから」

 

「も、もう!そ、そんな分かってる事・・・囁かなくてもいいのに・・・」

 

「いや、照れてる真耶が可愛くて」

 

「そんなことをするなら、今夜のキスはお預けです!」

 

「え!ご、ごめん真耶!」

 

その後、真耶とベットで楽しみながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰が一夏とイチャイチャしろと言った・・・」

 

千冬が一夏の部屋の前で缶コーヒーを握りつぶしている事に、二人(一夏と真耶)は気付くことなどなかった。




次回は買い物と言う名のデートを執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。



オマケ

※このお話は、ラウラ・ボーデヴィッヒ視点のお話です。このお話を読まなくても、次の話に支障はありませんが、キャラへの理解が深まる・・・はずです。



「ボーデヴィッヒ。お前が呼ばれた理由は分かるか?」

「分かっております」

私の名はラウラ・ボーデヴィッヒ。私は簪と一緒に寮長室で教官の話を聞くことになった。内容は察しはつくが。

「お前のISに『ヴァルキリートレースシステム』が搭載されていた事が分かった」

「やはり、上層部か・・・」

私は織斑一夏との戦いでシュヴァルツェア・レーゲンに飲み込まれ意識を失った。意識を取り戻したときにはすでに私は保健室にいた。どうやら簪が涙目ながらも私を運んでくれたらしい。

「その件については私がドイツに赴き、事情を聴きに行く。あと、簪と同居する件については許可は下ろせない」

「それは覚悟していました。このような事態に・・・」

「いや、ヴァルキリートレースシステムの事ではない」

私と簪は首をかしげた。

「ボーデヴィッヒ、クラスリーグマッチまでの間に何があった?」

「何もありません。私は簪と練習に励んでいました」

「そうか・・・マドカ!」

教官が高らかに叫んだ直後、マドカは鬼様な形相でドアを開けて、

「歯ぁ、喰いしばれぇ!」

そう叫びながら私は殴り飛ばされた。



(これが若さか・・・)



クラリッサ曰く、こういうセリフを言わせる人物は中々の腕の立つ人だという。

「マドカ、ありがとう。もう下がっていい」

マドカは役目を果たしたのか寮長室をあとにした。

「ラウラ!大丈夫!?」

「ああ・・・」

教官の目は何かを見極めてる様子だった。

「対応、口調、言葉選び・・・・・・クラリッサの入れ知恵か?」

「はい!クラリッサの情報は・・・」

「はぁ・・・」

「教官!?なぜ溜息をするのですか!」

「ボーデヴィッヒ、お前はまだ若い。色々な事柄を学べ」

「どうして呆れてるのですか!?その顔は織斑一夏に・・・」

「・・・何?」

教官の表情が強張った。これは・・・

「ら、ラウラ・・・」

「私は何か言ってはいけないことを・・・」

「言った」

クラリッサの情報だと、私は地雷を踏んだらしい。






「サンダースマッシュ!」

「「みぎゃあぁぁぁ!」」

結局私のルームメイトはシャルロットと言う人物に決まり、簪との同居計画は失敗に終わった。


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第24話

今回の話はレゾナンスでのデート回です。

シャルロットの自己紹介の場面はダイジェストでお送りいたします。

そうしないと、デートより修羅場の描写が多くなるから。


クラスリーグマッチからの数日間、俺は激動の学園生活を送っていた。

 

シャルロットが俺と混浴したとカミングアウトしたせいで鈴が暴走するし、箒とセシリアは真剣とスターライトを使い、暴動を起こして教室は混沌と化していた。

 

千冬姉とマドカの活躍で事なきを得たけど、その時の二人の動きが人間離れをしているのは覚えている。

 

マドカは素手で双天牙月をバラバラにするし、千冬姉は素手で真剣を壊すし、混乱に乗じてシャルロットはキスをしようと迫ってきたし、とにかく苦労の絶えない朝だった。

 

俺のことに関してはクラスが一丸となって応援すると約束してくれたけど、箒とセシリアとシャルロットが怖くて安心できない。ついでに鈴も。

 

そんな事もあったが、今は制服姿でレゾナンスにいる。真耶と一緒に買い物する為だけど、なんで制服?

 

「一夏君。待たせてごめん」

 

真耶の声を聞き、俺は振り返った。そこには・・・

 

「真耶、その・・・」

 

「私、似合ってる?」

 

「似合ってるよ。だけど・・・」

 

 

 

「どうして制服姿なんだ?」

 

 

 

制服は箒と同じ改造が施されていない普通の制服だけど、元々スタイルが良いため、出る所は出て、締まってる所は締まってる。しかも年齢より若く見えるため、学園の生徒と見間違えてしまいそうだ。

 

「実は制服デートを一度してみたかったんです!」

 

「でも、今じゃなくてもいいんじゃないんか?」

 

「今じゃないとダメなんです!」

 

頬を少し膨らませ怒ってる真耶はかわいいけど、どこから制服を手に入れたんだ?

 

「ところで、どこから制服を手に入れたんだ?制服の注文はもう終わってるはずだけど?」

 

「会社に直接交渉してオーダーメイドで作ってくれたんです」

 

そんなに制服デートしたかったのか。

 

すると、真耶は顔を赤くしながら俺の右腕に抱きついてきた。

 

「私だってわがままの一つや二つはあるよ。一夏君と同じ学園の制服を着て買い物したり、食事したり、カラオケに行ったり、いろんなことを一夏君としたいの」

 

顔を赤くしながら答える真耶を見て、心は純粋な女の子だと実感した。あの四人と比べると純情で青春なわがままだな。

 

「わかった。今日一日、真耶のわがままに付き合うよ」

 

「ありがとう」

 

制服姿の真耶ってかわいいなぁ。もし神様がいるならば、感謝したい気分だ。

 

「最初はどこに行こうか?」

 

「じゃあ、最初は・・・」

 

 

 

「何をしている」

 

 

 

「「・・・え?」」

 

背後から声がしたので振り返ると・・・

 

「千冬姉!?」

 

「織斑先生だ。山田君、最近デートしてないからと特注の制服を着てまですることなのか?」

 

「えぇと・・・その・・・」

 

千冬姉の登場により、楽しいお買い物が楽しめなくなりそうです。

 

「はあ。別にお前達がデートする事に異議を唱える気はないが、場をわきまえろ。学園の風紀を乱れる様な事をやっては困るからな」

 

「「わ、分かりました」」

 

「私はレゾナンスの見回りをしてくる。二人とも、変な事をするなよ」

 

千冬姉は俺と真耶に釘を刺し、レゾナンスの見回りに行った。

 

「じゃあ・・・どこ行こうか?」

 

「水着売り場に行きましょう・・・」

 

若干、意気消沈しながら水着売り場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「あれ・・・腕組んでない?」

 

「組んでますわね」

 

「そっか、やっぱりそっか。あたしの見間違いでもなく、夢でもないんだ・・・」

 

「鈴さん。こういうのは好機を待つのが得策です」

 

「ええ・・・分かってる。一夏、あんたはアタシがいないとダメなんだからね」

 

イギリスと中国の刺客が付いて来てることに気付くこともなく。

 

 

 

 

 

 

「そういえば真耶」

 

「どうしたの?」

 

「どうして水着を買うんだっけ?」

 

「来週の臨海学校に備えてですよ」

 

「ああ、そうだった」

 

ここ数日、色々と騒がしかったから臨海学校の事を忘れてたよ。

 

「一夏君、もしかして他の女の子に・・・」

 

「大丈夫。そんなことはないから」

 

「そう、良かった」

 

そんなことを言ってるうちに水着売り場に辿り着いた。色とりどりの女性用水着が売られてる中、男性用の水着は隅に寂しく売られているのを見て、少しショックを隠せない。男の水着、種類豊富にしてほしいよ。

 

「一夏君、どんな水着が良いと思う?」

 

「そうだなぁ」

 

臨海学校だからクラスメイトや他のクラスの生徒たちもいる。生徒たちの刺激にならないシンプルな水着を着させたほうがいいから・・・

 

「これなんかどうかな?」

 

俺が選んだのは、クリーム色の水着である。首元、腰の所で結んで留める「紐留め」の水着である。

 

「これね。分かったけど・・・」

 

真耶が突然俺に詰め寄ってきた。

 

「本当は、どの水着にしたかったの?」

 

「いや、俺は・・・」

 

「私に隠し事は、めっ!」

 

やっぱり隠し事はできないみたいだ。

 

「実はこの水着を・・・」

 

俺が真耶に着せたかったのは、緑と白のチェック柄のビキニである。

 

「どうしてこれじゃないのにしたの?」

 

「夏休みのデートの時に着て欲しくて」

 

「つまり、独占したいの?」

 

「・・・はい」

 

俺は顔を赤くしながら真耶の質問に答えた。俺だって欲の一つや二つはある。真耶と二人きりで海水浴に行きたいし、プールのウォータースライダーとかにも行きたい。何より水着姿の真耶を独占したい。

 

「じゃあ、それも一緒に買おう」

 

「え!?」

 

「だって、私に着て欲しいならデートの時に着てあげるから」

 

俺の心の中ではガッツポーズをとった。俺、神様がいることを信じるよ。

 

 

 

「一夏・・・何喜んでるのよ?」

 

「一夏さん、何をしてらっしゃるのですか?」

 

 

 

二人(セシリアと鈴)が来るなんて・・・神様、あなたは残酷です。

 

「何って、山田先生と・・・」

 

「その山田先生がどうして制服を着てるの?」

 

「もしかして・・・一夏さんのご趣味ですか?」

 

「あの・・・これは・・・」

 

「別に学園の外だから問題ないんじゃないか?」

 

真耶が制服を着てることに二人が問い詰めてるが、問題でもあるのか?

 

「あるわよ!山田先生のアブノーマルな趣味にあんたが巻き込まれてるんだよ!」

 

「あ、アブノーマル!?」

 

「そうですわ。一夏さんとの恋仲をいいことに、破廉恥なことを・・・」

 

「待てよ!俺はそんなことをされてないし、真耶が制服を着たぐらいで大袈裟だよ」

 

「もう・・・公私混同の時点で山田先生に毒されてるよ」

 

鈴は聞く耳を持たずかよ・・・

 

「山田先生、ここからはわたくしと鈴さんの二人で一夏さんをエスコートしますので、お引き取りいただけませんか?」

 

セシリアは主導権を渡さないために話を切り上げるのかよ・・・

 

「俺は真耶と・・・」

 

「あんたは山田先生以外の人と交流を深めなさい!」

 

そう言い、鈴はISを部分展開させ俺の腕を・・・

 

 

 

「シャオッ!」

 

 

 

掴むことはできなかった。

 

「兄さんのSOSを受信して来たが・・・こんな所に野党共がいたとは」

 

マドカ・・・来てくれるのは嬉しいけど、変な電波を受信しないで。

 

「ちょっと!何してくれるのよ!?」

 

「そうですわ!マドカさん、あなたは山田先生のアブノーマルな趣味に賛同するのですか!?」

 

だから、真耶の制服姿はアブノーマルじゃないだろ!

 

「少なくとも、お前たちに賛同するぐらいなら・・・」

 

俺と真耶の方を振り向き、険悪な顔のまま二人(セシリアと鈴)を睨み始めた。

 

「今日は何故か、お前達を殺したくて仕方がない・・・!」

 

八つ当たりかよ・・・

 

「兄さん達は早く安全な所に避難しろ・・・」

 

「わ、分かった。行こう真耶」

 

「え、ええ・・・」

 

俺の後ろで二つの断末魔がレゾナンスに響いたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

「はぁ。何とか買えたね、真耶」

 

俺と真耶はレストランに逃げ込み(?)一安心をしていた。けど、制服で来てるの俺と真耶だけだから少しばかり目立つな。

 

「そういえば、一夏君の水着が・・・」

 

「大丈夫、ちゃんと買ってあるから」

 

「え?いつ買ったの?」

 

「避難する時に、こっそり買ったんだ。あのままだと買えずに臨海学校を迎えちゃうからさ」

 

そう言って、真耶に買った水着を見せて安心しようとしたら・・・

 

 

 

「一夏・・・何をしてるんだ?」

 

 

 

箒と遭遇した。偶然とは言え、何でお前がいるんだ!

 

「いや、これは水着を・・・」

 

「どう見ても男性用の下着ではないか」

 

俺が買ったのは黒のサーフパンツだが、どうやったらこれが下着に見えるんだ。

 

「これはサーフパンツと言って、れっきとした・・・」

 

「男性用の下着だな」

 

「水着だよ」

 

箒・・・ちゃんと話を聞け

 

「ちゃんとした水着を買わないといけないな。一夏、今すぐ水着を買いに行こう」

 

「箒、俺は山田先生と・・・」

 

「山田先生が学生服を着てるわけがない。そこにいるのは赤の他人だ」

 

「何で勝手に決めつける!?」

 

「武士の勘だ」

 

「当てにならん!」

 

箒は強引に話を終わらせるために俺を連れて行こうとする。

 

「目を覚ませ一夏。そこにいるのは、山田先生の姿をした変態だ」

 

「変態じゃないだろ!」

 

「制服のコスプレをする教師がどこにいる!」

 

「どうして、俺の話を最後まで聞かないんだ!」

 

「お前と話す時間が惜しいからだ!」

 

箒、周りの人たちが俺たちを見てるよ。

 

「あ、あの・・・周りの人達が・・・」

 

「黙れ!」

 

「はぅ・・・」

 

箒の一喝に真耶が縮こまっちゃったよ。その姿もかわいいけど、箒を何とかしないと・・・

 

「一夏、私と一緒にここから出よう!」

 

「どこに行くんだよ!?」

 

「それは決まってる。私・・・」

 

 

 

「篠ノ之箒限定、三途の川遊泳コースだ」

 

 

 

「・・・え?」

 

俺達が言い合いしてる内に千冬姉が修羅の形相で立っていた。周りの人達が汗を滝のように流しながら平静を保ってる。てか、厨房の人達がどこかへ逃げたぞ。

 

二人(一夏と山田君)ともここのお代は私が払う。私はこいつ(篠ノ之箒)と昼食を堪能する」

 

「「は、はい」」

 

俺と真耶は買った水着を持ち、レストランを後にした。

 

俺はレストランを振り向くことは出来なかった。まるで見てはいけない食事風景が繰り広げられていそうだから。

 

 

 

 

 

 

「はぁ。なんで真耶とのデートが堪能できないんだ?」

 

「学園内で人気者だから、私が付きあってることに嫉妬してるかもしれない」

 

あの三人は嫉妬以上のものを感じる。

 

「でも、どうしよう。まだ昼食は食べてないから、どこか別の場所で食べないと」

 

別の場所で昼食を食べないといけない。だけど他の飲食店に行っても邪魔が入るのは確実。

 

真耶と一緒に昼食が出来て、邪魔が入らない場所・・・値段は高いけどあの場所しかない。

 

「真耶、行ってみたい所があるんだけど」

 

「え?どこ?」

 

 

 

 

 

 

「ここ・・・なの?」

 

「ここだよ」

 

誰にも邪魔されず、真耶と一緒に昼食が食べられる場所・・・

 

 

 

カラオケボックスである。

 

 

 

ここなら、誰かが勝手に入ることもなく昼食も堪能できる。それに・・・

 

「真耶と一緒にカラオケに行きたかったんだ」

 

「そういえば、一夏君とカラオケに行ったこと無かった!」

 

真耶はどうして今まで気付かなかったのかぐらいの驚きの顔を見せた。

 

「・・・」

 

「どうしたの?」

 

「いや、真耶はかわいいなぁって」

 

「もう!」

 

顔を赤くしながら、俺にそっぽを向ける姿も可愛い。

 

「とにかく、カラオケに入りましょう!」

 

「ああ、そうだな」

 

俺は真耶と手を繋ぎ、カラオケデート兼昼食を楽しむことにした。

 

 

 

 

 

 

「一夏・・・僕の事・・・忘れてないよね・・・」

 

フランスからの刺客が今まで付いて来たことに気付く事も無く、二人はカラオケボックスに入って行った。




次回はカラオケボックスでのイチャイチャ(?)を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。



オマケ

※このお話は、更識簪視点のお話です。このお話を読まなくても、次の話に支障はありませんが、キャラへの理解が深まる・・・はずです。

R成分が入っております。ここから先を閲覧する際は自己責任でお願いします。



私の名前は更識簪。私は今、ラウラと一緒にレゾナンスにいるんだけど・・・

「ら、ラウラ・・・」

「どうした?」

「どうして・・・更衣室に二人で入ってるの?」

更衣室に私とラウラの二人で入っています。外では、マドカさんが叫びながら誰かと戦ってる。ラウラはその光景を見ないように私と更衣室にいるけど・・・



・・・近い。いや、私と密着してる。そう考えるだけで、私の頭はショート寸前。



「どうした、簪?」

「いや・・・その・・・」

「安心しろ。お前と一緒の部屋になれなくても私はお前を軽蔑したりはしない」

クラスリーグマッチの日に私は保健室でラウラに告白された。



『お前は私の嫁にする。決定じ・・・』

『ラウラ・・・』

『何だ?』

『私・・・ラウラのお嫁さんに・・・なってなかったの?』

『・・・すまない、お前の想いに気付く事が出来なくて』

『別に謝ることじゃないよ。私、ラウラのお嫁さんに・・・』

『簪ちゃん!何言ってるの!?』

『何故貴様が現れる、更識楯無!』

『呼び捨てしないで!』



お姉ちゃんの介入で告白は台無しになった。そのせいか、私とラウラの間に壁が出来上がった。

「ら、ラウラ・・・」

「何だ?」

「あの時、お姉ちゃんの邪魔が入ってこなかったら・・・どうしてたの?」

「聞きたいのか?」

「うん」

「耳を貸してくれないか」

外で爆発がする中、私はラウラに耳を貸そうと顔を近づけたら・・・

「はむっ!?」

私の口はラウラの口で塞がれていた。

想いを伝えようとしているのか、私の口の中で不器用に舌を動かしていた。

「ぷはぁ!」

「ら、ら、ラウ・・・ラ?」

「いや・・・その・・・お前を・・・愛してる証拠を見せたくて・・・」

ラウラは顔を赤くしながらも私を見ながら答えた。

「ねぇ、ラウラ・・・」

「な、何だ?」

壁なんて・・・最初から無かったんだ。

「さっきの続き・・・して・・・」

私はただ、お姉ちゃんが怖くて自分で壁を作ろうとしてただけなんだ。

「・・・いいのか?」

「私もしたいから・・・」

「分かった」

私は勇気を振り絞ってラウラの顔を向き合い、頼みごとをした。

「ラウラ・・・私をお嫁さんにして・・・」

「いいだろう。お前は私の嫁だ。異論は認めない」

外では世紀末の戦いが起こってる中、私とラウラは更衣室で愛を誓い・・・

「んっ」

「んむっ」

愛の儀式(キス)を行った。

互いに口の中を貪りあい、吐息、喘ぎを立てながら、私はラウラの愛を感じていた。

「ん・・・んむっ・・・ふぅ・・・んん・・・ちゅぷっ・・・」

「んん・・・はむっ・・・ちゅぱっ・・・れろ・・・ん・・・」


「「はあっ・・・」」

どれくらいやってるんだろう。気付いた時には私とラウラは服を脱ぎ、下着姿で互いの口を貪りあっていた。

だけど、ラウラの顔はまだ足りないと言わんばかりの表情をしていた。

「簪・・・私は・・・お前を食べる」

どこでそんな言葉を覚えたんだろう。でも私・・・好きな人に言われてみたかった。

「いいよ・・・私・・・ラウラに食べられるなら・・・」






「お前達・・・ここで何をしている?」

「「・・・え?」」

気付いた時にはカーテンは開かれて、私とラウラは汗だくで下着姿。周りには修羅となった織斑先生以外誰もいない・・・

「「あ、あの・・・」」

「サンダァァァスウィィング!」

「「ギャアァァァ!」」






レゾナンス 水着売り場

原因不明の竜巻により営業停止


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第25話

二日連続投稿だ!

今回は真耶とカラオケボックスでイチャイチャする話です。


人生誰しも初めての事には緊張をする。

 

俺だって例外ではない。

 

「一夏君?」

 

俺は真耶とカラオケボックスにいる。

 

「一夏くーん」

 

それはつまり・・・

 

「一夏君!」

 

「はっ!」

 

「どうしたの?もしかして、具合でも悪いの?」

 

「いや、そうじゃないんだ。初めてのカラオケだから緊張しちゃって」

 

「私も一夏君と一緒にカラオケ行くのは初めてだから大丈夫」

 

そうじゃないんだ。真耶は同僚とかでカラオケに行くけど、俺は・・・

 

 

 

人生初のカラオケなんだよ。

 

 

 

「そ、そうか。そういえば喉が渇いたから、飲み物を持ってくるよ」

 

「じゃあ、ウーロン茶お願いできる?」

 

「ああ」

 

俺はその場から逃げるようにドリンクコーナーへ逃げ込んだ。ただ真耶の顔を一瞬見たら、何か良いものを見つけた顔をしてたが・・・一体何だ?

 

 

 

「はぁ、逃げても仕方がない」

 

俺はウーロン茶を二つ持って真耶のいるカラオケルームへと向かって行った。

 

確かに俺は人生初のカラオケ・・・

 

「だから何だ!人生初のカラオケが箒達じゃなくていいじゃないか!俺は男なんだ。これぐらいへこたれるな」

 

俺は自分を鼓舞し真耶の待っているカラオケルームに入った。

 

「一夏君!」

 

「ええっ!ま、真耶!?」

 

笑顔で出迎えてくれた真耶の姿を見て、俺は手に持ってたウーロン茶を落としそうになった。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「大丈夫って、どうしてそんな服装を」

 

そこにいたのは制服姿の真耶ではなく・・・

 

 

 

バニーガール姿の真耶がいた。

 

 

 

全体のカラーリングは黒で統一しており、バニーガールに必要なウサ耳型のヘアバンド、蝶ネクタイ付きの付け襟、カフス、ストッキングにハイヒールが付いている。だけど・・・

 

そのボディーにバニーガールは反則だ。

 

丸い尻尾の飾りを付けたレオタードで強調されるボディーライン。俺はウーロン茶をテーブルに置くまで何回見てしまったか。それに若干サイズが合ってないのか足りてないというべきか、真耶の・・・

 

「一夏君!」

 

「な、何?」

 

「ずっと、私の胸を見てるんだけど」

 

「ご、ごめん!真耶のバニーガールが可愛くてつい・・・」

 

「それで私の胸しか見ないんだ・・・」

 

「ああ!いや!その・・・」

 

真耶の胸がちょっと窮屈そうに見えるのは反則でしょ。彼氏であり、真耶の体に触れた俺が言うのもなんだが・・・その姿を独り占めしたい、誰にも邪魔されずに。だって仕方がないだろ。すらりとした脚と腕、ちょっと引き締まってるお腹、ちょっと窮屈そうにしている胸、健気で可愛い笑顔。それらの要素をまとめ上げたかのようなコスチュームを着てるんだよ。俺だって男だから・・・その・・・あれが・・・

 

「そんなに見たり触りたかったら、カラオケで90点以上だしてね!」

 

そうか、カラオケで90点以上を・・・

 

「ど、どうしたの!?」

 

俺・・・真耶に自分の歌声を聞かせるんだったぁ!

 

「その真耶・・・俺・・・初めてのカラオケなんだ」

 

「私も一夏君と一緒のカラオケは初めてだよ」

 

「そうじゃなくて・・・人生初の・・・カラオケなんだ」

 

「え!?そうだったの!?」

 

やっぱり真耶も俺が何度かカラオケボックスに行ってと思ってたか。分かってる。これは人生初めてのカラオケだと言わなかった俺がいけないんだ。

 

「大丈夫だよ、真耶。」

 

ここは俺の意地の見せ所だ。90点以上を叩き出さないと。

 

 

 

「一夏君、大丈夫?」

 

「・・・ああ、大丈夫」

 

 

 

あなたの得点は・・・74点

 

 

 

俺って、そんなに歌唱力ないんだな。それに世の中の流行歌とか知ってないし。そういえば、中学の俺は修行ばっかりしてたから・・・何か青春を台無しにしてたな。

 

俺の横で真耶は慌てて・・・

 

「一夏君、元気出して」

 

・・・慌てていないだと!?

 

「真耶?」

 

「大丈夫だよ。ここに来たのは昼食を食べることで、歌いに来たわけじゃないんだから」

 

「いや!カラオケボックスだから・・・」

 

「それに・・・次は一夏君と一緒に歌いたいなぁ」

 

上目遣いで俺に寄り添ってくる真耶に俺の傷ついた心は癒されていく。

 

「でも、90点以上を・・・」

 

「あれはいいの。一夏君がカラオケボックスに行ったことがあると思って言ったことだから」

 

そう言って真耶は俺の腕を自分の胸に優しく押し付けた。

 

「だから私の事・・・好きに触っていいよ」

 

「じゃ、じゃあ・・・」

 

 

 

プルルルルル

 

 

 

カラオケボックスの壁に掛けられてある電話が突然鳴り始めた。真耶は動じることなく受話器を取った・・・俺はびっくりしたよ。

 

「はい」

 

『お客様。店内でのいかがわしい行為はご遠慮ください』

 

「す、すみません!」

 

真耶は電話越しに謝ってるけど・・・大体察しが付く。

 

「ごめんね一夏君。私があんなことをしちゃって」

 

「いえ。何も言わなかった俺がいけなかったんですから」

 

「そう。じゃあ景気づけに一曲デュエットしよう!」

 

「ああ、いいよ」

 

真耶は俺でも知ってる曲を選んでくれたのは嬉しかった。こうして一緒に真耶と歌えるのって幸せだ。

 

カラオケルームに入って1時間ほどが経過した。

 

「そういえば真耶、まだ何にも食べてないよね」

 

「そうですね。じゃあ、何か頼みましょう」

 

「真耶のお任せでいいよ」

 

「じゃあ・・・これとこれで!」

 

真耶は受話器を取り、食べ物の注文を取ったけど・・・

 

「あの・・・はい・・・それでですね・・・はい・・・はい。大丈夫ですか?・・・はい・・・分かりました」

 

俺のことをチラチラ見てるけど、そんなに注文って手間取るのか?

 

その後、店員さんが注文した食べ物を片手にルームの中に入ってきたけど・・・

 

 

 

ピザとポッキー?

 

 

 

片手で手身近に食べられるサイズのピザは分かる。何でポッキーですか?

 

「真耶、なんでポッキーが?」

 

「ポッキーゲームがしたくて・・・」

 

「ポッキーゲーム?」

 

「知らない?」

 

「知らない」

 

マドカと一緒にいるせいか、最近ゲームという単語を聞くたびに・・・

 

 

 

『バスケ』

 

『ドリブル』

 

『世紀末』

 

『中野TRF』

 

『魔法の数字』

 

etc

 

 

 

というのが頭の中を駆け巡るから、ポッキーゲームもその類なのかと勘違いしてしまう。

 

「じゃ、じゃあ私がルールを説明します。ポッキーゲームは2人が向かい合って1本のポッキーの端を互いに食べ進んでいって、先に口を離したほうが負けというゲームです」

 

「お互いに口を離さなかったら?」

 

「二人はキスをすることになります」

 

どういうことだ?わざわざお菓子を使ってキスをする必要なんてない。普通にキスをしたかったらしたいって言えばいいのにどうして?

 

「実はこういうのに憧れてたんです」

 

真耶は顔を赤くしながら答えたけど、俺にはいまいち分からない。俺は静かな夜に二人きりのベットでキスとかはしたいけど、ポッキーでキスをするのは・・・

 

「一夏君は・・・こういうのに憧れたりしないんですか?」

 

「憧れていないんだ。ごめん」

 

「多分それは実感がつかめてないからだと思うよ。だから一回やってみよう」

 

真耶の言ってることも一理あるな。

 

「ああ。やってみるか」

 

「はい!」

 

まずは俺と真耶が互いに向き合い、真耶がポッキーのチョコが塗られてる部分を口にくわえて準備ができた。

 

「・・・よし」

 

俺がスナック部分を口にくわえたところを見て、同時に食べ始めたが・・・

 

「あんっ!」

 

「んあっ!」

 

初めて早々ポッキーを折ってしまう。互いに緊張してるせいで口元が狂って思うように食べ進まない。途中ピザを食べて口を拭いてポッキーゲームを再開するけど、途中で折れてしまう。ポッキーゲームってこんなにも難しいものとは・・・

 

「最後の・・・」

 

「一本・・・」

 

気付いたら残り一本。

 

ピザは元々サイズが小さかったからすぐに食べ終わってしまったせいで気持ちを切り替えるものがない。

 

真耶が俺のためにとっておいてくれたゲームだ。ここで台無しにしてはいけない!

 

「最後になるけどいい、真耶?」

 

「だ、大丈夫です!」

 

噛んだ真耶を拝みながら、最後のポッキーゲームを始めた。

 

「はむっ」

 

「はんっ」

 

最初は順調に進んでるけど、俺がチョコの部分についた時に折れちゃうから・・・

 

「はんっ!」

 

俺はここで食べるペースをちょっと上げた。短くすれば折れる可能性は少なくなるからね。

 

「はむっ!」

 

真耶もそれに応えるかのように食べるペースをちょっと上げてくれた。これでゲームは・・・

 

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

 

・・・終わらない。

 

互いに一口いけばキスできるんだけど、その一口がなかなかいけない。赤くなって目をつぶってる真耶の顔、キス直前の顔なんてちゃんと見たことないからな。改めて見ると、凄くドキドキする。そのドキドキが俺をすごく興奮させる。真耶だってすごく興奮してるだろうし、ずっとこの状態を続けたいんだけど・・・

 

「はんっ」

 

俺は真耶の想いを確かめるべく目をつぶって食べた。一口じゃない、一口半だ。

 

「んっ!?」

 

目を開けた真耶はちょっと驚いたみたいけど、俺が顔を赤くしながらも目をつぶってることに気付いたのか・・・

 

「んむ」

 

真耶は俺の唇ごと食べた。

 

「んん・・・んちゅ・・・んむ・・・ちゅぱ・・・んんっ!?」

 

真耶が俺の口を貪っていたら俺も我慢できず、真耶の口を貪り始めた。

 

「んむ・・・ちゅ・・・むん・・・ちゅ・・・」

 

このまま互いの気持ちが高まる・・・

 

 

 

プルルルルル

 

 

 

矢先に電話が鳴った。

 

「は、はい」

 

『そろそろ終了10分前になりました。延長なさいますか?』

 

「い、いえ」

 

真耶曰く、終了10分前には電話が掛かるという。

 

 

 

 

 

 

「楽しかった」

 

「そうだね。また、一夏君と一緒にカラオケに行きたいな」

 

制服に着替えた真耶と一緒に買った水着を持ってレゾナンスを出ようとしている。

 

「その時はバニーガール以外の服で頼むよ」

 

「い、一夏君!?」

 

「真耶はどんな服を着ても似合うからさ」

 

「も、もう!そんなこと言うなら・・・私、頑張るから!」

 

ガッツポーズをしてやる気満々だけど、バニーガール以上のコスチュームはないと思う。

 

「じゃあ一緒に・・・」

 

 

 

「「「「一夏・・・」」」」

 

 

 

「・・・え?」

 

後ろを振り向くと・・・

 

「貴様・・・私を・・・置いて・・・」

 

「一夏・・・あんたは・・・アタシが・・・・」

 

「一夏さん・・・わたくしというひとが・・・」

 

「一夏は・・・僕が・・・変える・・・」

 

ゾンビみたいな四人(箒とセシリアと鈴とシャルロット)がいた。

 

「真耶」

 

「な、何ですか?」

 

ここで教師の振る舞いをしても四人には意味がない!なら・・・

 

「逃げるよ!」

 

「え、ええぇぇぇ!」

 

俺は制服姿の真耶をお姫様抱っこして、最寄りの駅へ走った。

 

「「「「一夏ぁぁぁ!」」」」

 

四人は・・・ISを展開して追いかけてきた!?てか、箒!お前のIS・・・学園から借りパクしたのか!?

 

「い、一夏君!四人にはちゃんと・・・」

 

「最後まで説明を聞かないよ!それに、真耶を守れなくて何が真耶の彼氏だ!」

 

「一夏君・・・」

 

市街地でISの戦闘なんかしたくないし、かといって説得で立ち止まる相手ではない。

 

「うおっ!?」

 

考え事をしてたら、ブルーティアーズが駅の前に立っていた!

 

「一夏さん・・・さあ・・・その人を離して・・・わたくし達の所へ・・・」

 

俺の背後から三人が迫り寄ってくる。

 

「くそっ!」

 

ここで白式を使うしかないのか。真耶を守るためにはこれぐらいの覚悟を決めろ、織斑一夏!

 

決意を固めた俺は白式を展開・・・

 

 

 

「何をしている、貴様ら?」

 

 

 

しなかった。包帯がまかれているラウラと簪が介入してきた。

 

「あなたには関係のないお話ですわ」

 

「なるほど」

 

おい!セシリアの言葉で納得するな!

 

「仕方がない」

 

ラウラは電話を取り出し、ある人物にコンタクトを取った。

 

「教官ですか?」

 

『何だ、ボーデヴィッヒ』

 

「レゾナンスの最寄りの駅で、代表候補生がISによる武力制圧を行っています。なお一人は学園のISを略奪している模様です」

 

その言葉に四人(箒とセシリアと鈴とシャルロット)が固まった。

 

『分かった。すぐに救援に向かう。ボーデヴィッヒはISを展開し、周辺の人達の避難及び救出を行え。戦闘は極力肉弾戦で、周辺の損害は極力無くせ』

 

「任務・・・了解」

 

電話を切った途端、ラウラはISを展開した。

 

「簪はそのまま、周辺の人達の避難誘導をしてくれ。私はこの四頭の犬をかわいがる」

 

俺と真耶は簪の誘導のもと駅のホームに辿り着いた。途中、簪に頑張ってとエールを送られた。彼女・・・いい人なんだ。

 

 

 

「大丈夫かな、ラウラ」

 

「きっと大丈夫です。織斑先生もいますので」

 

結果は目に見えるな・・・

 

「楽しみだね、臨海学校」

 

「ああ。真耶と一緒に・・・」

 

「授業の一環だから、デートはありません!」

 

「そうだったな」

 

「でも、今日は楽しかった」

 

「ああ・・・」

 

俺は真耶とカラオケに行けたことを心の中で喜びながら、IS学園へ戻った。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

とある研究室のラボ

 

「これが出来上がれば、箒ちゃんの専用機は完成だ!」

 

一人の女が真紅のISを作っていた。

 

「そうすれば、いっくんと一緒にいられるし・・・」

 

その女は手に持っていたドライバーを真耶の顔写真目がけて投げた。

 

「この女を消せる・・・ふふっ・・・ははっ・・・はーはっはっはっはっ!」

 

 

 

その女こそ篠ノ之束。織斑家を狂わせた元凶である。

 

その元凶が今、動き出す・・・




ちなみにシャルロットは二人がカラオケボックスでイチャイチャしてる所を写真や動画で三人(箒とセシリアと鈴)にリアルタイムで送っていたので、登場が遅くなりました。

次回は臨海学校初日を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第26話

臨海学校初日 前編です。

真耶以外のキャラをピックアップするのって意外と難しい・・・


俺は今、クラスの皆とバスに乗っている。

 

そう、今日は臨海学校初日だ。

 

「兄さん、海が見えてきた」

 

俺は通路側席に座っていて、窓側のマドカは海を見た瞬間に子供みたいにはしゃぎ始めた。

 

「落ち着けよ、マドカ」

 

「これが落ち着けられるか。海と言ったら・・・」

 

 

 

「サメを狩りに行かなければ!」

 

 

 

兄としては妹に常識をつけなければならない。

 

 

 

その後、旅館の女将に挨拶をし終えた俺達は荷物を置くためにそれぞれの部屋に向かったが・・・

 

「俺の部屋はどこだ?」

 

しおりを読んでもマドカの場所は分かった。だけど俺の場所が記されていない。どこだ?

 

「織斑、お前の部屋はここだ」

 

そう言い、千冬姉は俺の部屋を指さした。

 

「教・・・員・・・室?」

 

ドアの上に教員室と書かれたコピー用紙が堂々と書かれていた。

 

「最初はほかの生徒達と一緒にしようか考えたが、就寝時間を無視して襲ってくる輩が絶対に来るだろう。そのための処置だ」

 

特にあの四人ならやりかねない。そうなると、真耶と一緒に・・・

 

「言っておくが、私もいる事を忘れるな」

 

ワー。アンシンシテ、ネレソウダ。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

何とか水着に着替えて砂浜に辿り着いた俺はパラソルを開き、その中で休憩をしていた。

 

途中ウサ耳が廊下に置いてあったので、業者さん(千冬姉)に頼んで撤去してもらった。あれに関わると碌な事がないからな。

 

「あ!織斑君だ」

 

「織斑君、私の水着変じゃないよね?」

 

「おりむ~どう~?」

 

清香と癒子の水着は年相応に可愛らしくていいけど・・・

 

 

 

「のほほんさん。それは水着なの?」

 

「うん。水着だよ~」

 

 

 

どう見ても電気ネズミっぽい着ぐるみだ。

 

「のほほんさんは・・・のほほんさんらしくて良いと思うよ」

 

「おお~!おりむーに褒められた~」

 

腰をクネクネしながら喜んでいるが・・・

 

 

 

(((物凄くマイペースだ・・・)))

 

 

 

三人(俺と清香と癒子)の意見が珍しく合った。

 

「織斑君、後でビーチバレーやろう!」

 

「ああ、いいよ」

 

「やった!」

 

清香は俺をビーチバレーに誘えたことがものすごく嬉しかったのか、その場でガッツポーズをとった。

 

「そんなに俺と約束できたことが嬉しいのか?」

 

「おりむーはいつもまーやんとイチャイチャしてるもん」

 

「恋人がいたら優先はするけど、たまには私達にも構って欲しいんだもん」

 

二人(のほほんと癒子)は不満げに愚痴をこぼした。まあ、そうなっても仕方のないことをしたのは事実だ。

 

「じゃあ、このパラソル大きいから広げるの手伝ってくれない?」

 

「「いいよ!」」

 

のほほんさんと癒子も友達とはいえ、構って欲しいのか・・・んー、友達付き合いもちゃんとしないと。

 

 

 

「ラウラ、くすぐったい」

 

「言ったはずだ。お前は私からは逃げられない。それに新婚旅行だから別に恥ずかしがる必要はない」

 

「そうだったね・・・」

 

「簪、お前を愛してる」

 

「私も・・・」

 

 

 

少なくともあれは友達付き合いではない。

 

「織斑、ここにいたか」

 

「あ、ちふ・・・」

 

千冬姉の声がして振り向いたら・・・

 

「何でマドカを担いでいるんだ?」

 

マドカを担いでいる黒い水着を纏ったSHINOBI(千冬姉)がいた。

 

「何か、失礼な事を考えてたか?」

 

「い、いや・・・それより、どうしてマドカを?」

 

「こいつがサメを狩りに漁船に乗り込もうとした所を捕まえた」

 

マドカ、海の楽しみ方を間違えてるぞ。

 

「兄さん・・・海は・・・サメを狩る・・・場所じゃないのか?」

 

「合ってるけど、九割間違ってる」

 

「ところでマドカ、水着は?」

 

マドカの姿は制服なんだが・・・

 

「そんなものは・・・」

 

「マドカの水着は私が持っている。今から私が着替えさせる」

 

千冬姉、用意周到だな。

 

「待て!私はサメをひと狩りできると・・・」

 

「問答無用」

 

「離せえぇぇぇ!」

 

マドカの叫びは千冬姉に届く事無く、更衣室へ連行された。

 

「マドカ、サメを狩ったらどうするつもりなんだろう?」

 

清香、それは聞いてはいけないと思うぞ。なせだが知らないが。

 

「一夏君。そこにいたの」

 

この声は・・・

 

「ん?真耶、どうした?」

 

レゾナンスで買った紐留めの水着を付けた真耶だった。

 

「いえ。ただ、一夏君が買ってくれた水着が似合ってるかなって」

 

「何言ってるんだよ、似合ってるに決まってるじゃない。それに、真耶はどんなの着ても似合うよ」

 

「一夏君・・・」

 

そうさ。真耶は何を着ても似合うさ。サンタのコスチュームや猫パーカー、チアガールの服を着ても・・・

 

 

 

「「「すとーっぷ!」」」

 

 

 

三人(のほほんと清香と癒子)が必死になって止めに入ってきた。

 

「織斑君。また悪い癖がでてるよ!」

 

「相川さん・・・悪い癖って?」

 

「おりむー。まーやんの水着姿が可愛いからって、周りのことを気にしてほしいな~」

 

「ははは・・・ごめん」

 

確かに周りを気にせず真耶しか見ないのは悪い癖だな

 

「これじゃあ、篠ノ之さんが嫉妬するのも仕方がない」

 

「谷本さん、どういうこと?」

 

「いつも部屋で織斑君を振り向かせるにはどうすればいいのか私に聞いてくるの。山田先生と付き合ってるから諦めたらって言ったら、『あれは友達感覚で付き合ってるんじゃないのか』って言い返された」

 

箒・・・友達いないだろ絶対。

 

「でもね、織斑君。山田先生ばかり見てると後で痛い目を見るから」

 

「肝に銘じておきます」

 

「そうだ織斑。お前はクラスメイトを頼れ」

 

千冬姉、戻ってくるの早くないか。それとマドカは?

 

「姉さん、こんなのを着てサメを狩りに行くのか・・・」

 

千冬姉の後ろから現れたのは黒のタンキニを纏ったマドカだが、顔が完全に悔しがっている。

 

「狩りに行くわけないだろ。お前はサメを狩ってどうするつもりだ?」

 

「今晩の飯にする」

 

マドカがどういう生活を送ってきたのか気になるよ。

 

「お前は世間の常識というものを知る必要がある。相川、谷本、布仏。マドカを頼む」

 

「「「はーい!」」」

 

「何をする気だ!?」

 

「マドカ、お前はあの三人と・・・」

 

「戦えと言うのか!?」

 

マドカが何を考えているのか全然分からないぞ。いや、分かりたくない。

 

「違う。三人と一緒に遊べと言うんだ。三人との仲が良いと聞いたが」

 

「あの悪魔さ・・・」

 

「ふんっ!」

 

「ごふっ」

 

マドカがのほほんさんを睨んだ瞬間にボディーブローを平然とかまさないで千冬姉。教師としての面影を無くすから。

 

「マドカ、本当は泳げないの?」

 

「泳げるさ・・・IS学園まで・・・泳いで来たからな」

 

清香の質問に苦しみながら答えてるが、入学前から人を超えてるのかよ。

 

「だが今は、海の上を走れるように・・・」

 

「ストップ!」

 

「兄さん」

 

これ以上、俺の姉妹が超人になったら色んな意味で困る。

 

「マドカ。たまには戦いとか忘れて、海を楽しむ事も大事だぞ」

 

「サメを狩るのも楽しいんだが・・・」

 

「そういうのじゃなくて。友達とビーチバレーしたり、泳いだり、サメを狩る以外にも楽しいことはあるよ」

 

マドカは疑心暗鬼だがしょうがない。俺と違って人らしい生活を送ったとは言い難い生き方をしたんだろう。じゃなければ、普通に謎の拳法なんか習得しないしな。

 

「そうだよマドカ。やったことがないから、不安になってるだけだよ」

 

「みんなで遊べばきっと楽しいよ

 

「マドっち~。怖がらなくていいんだよ~」

 

「貴様のような悪魔が・・・」

 

「ほらほら、妬かないでビーチバレーでもやろう」

 

そう言い、癒子はマドカの背中を押しながらビーチバレーをしているグループに参加した。

 

「マドカも何とかクラスメイトに馴染んではいるか」

 

「そういうお前はクラスに馴染んでいるのか?」

 

突然千冬姉が俺の左肩を強く掴んだ。

 

「それなりに馴染んでいるさ」

 

「なら、ビーチバレーをしよう。無論、私と山田先生で相手する」

 

「俺は・・・」

 

「マドカのチームに混ざれ」

 

千冬姉の提案により、俺もビーチバレーに参加したが・・・

 

 

 

「シャオッ!」

 

「遅い!」

 

「断固相殺拳!」

 

「サンダー・クロォゥッ!」

 

「飛燕流舞!」

 

「サンダーサイクロン!」

 

 

 

二人とも(千冬姉とマドカ)、ビーチバレーをやってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れ夜になり、旅館の大宴会場で俺は四人(マドカと清香と癒子とのほほんさん)と夕食を食べていた。

 

「すごかったね、織斑先生とマドカのビーチバレー」

 

あれは試合というより死合だ。そういえば・・・

 

「谷本さんといるときのマドカってどういう感じなんだ?」

 

「口数は少ないけど、何かあると助けてくれるの。この前、階段から転び落ちそうになった時助けてくれたの」

 

「兄さん、別にこんな所に来てまで話をすることはない」

 

「いつも落ち着いてマドカの話が聞けないからさ。こんな時ぐらいじゃないと」

 

「マドっちは意外と恥ずかしがり屋なんだね~」

 

「そういうわけではない」

 

「ああ!照れてる照れてる!」

 

「照れてなどいない!」

 

マドカも頑張ってクラスに馴染もうとしてるんだな。そういえば、あの四人(箒とセシリアと鈴とシャルロット)は・・・

 

 

 

「織斑先生・・・」

 

「どうしてアタシ達が・・・」

 

「織斑先生と一緒に・・・」

 

「食事してるんですか?」

 

千冬姉と仲良く食事会をしている。

 

「お前達、レゾナンスの一件を忘れたのか?」

 

「あ、あれは一夏が山田先生に・・・」

 

「市街地でISを展開し、織斑を取り囲んだお前らの言い分など聞く気はない」

 

「で、ですが・・・」

 

「同じことを言わせるな」

 

とりあえず、夜は安心して休めるな。

 

 

 

 

 

 

「簪、口を開けてくれないか?」

 

「え?あ、あーん・・・」

 

「どうだ、おいしいか?」

 

「うん」

 

「そうか。では、私もお前のために何か料理でも披露するか」

 

「ラウラ、料理もできるの?」

 

「サバイバル訓練で習得した技術だ。味は保証する」

 

「じゃあ、夏休みに作ってくれる?」

 

「ああ、喜んで。あと一つ、お前に頼みがある」

 

「何?」

 

「夜は、私に全てを委ねてくれないか?」

 

「・・・いいよ」

 

あっちの夜は大丈夫なのか?というより、周りの生徒達が鼻血を出してるんだが。

 

「あれが・・・百合なの?」

 

「違う・・・あれは愛よ!」

 

「違うわ!あれはカリスマ夫婦よ!」

 

「あれが・・・あれがカリスマだとでも言うの!?」

 

「新しい本の構想が!」

 

「ラウラ様!私もあなたに委ねられたい!」

 

「ラウラ様、バンザーイ!!」

 

 

 

 

 

 

 

その後、千冬姉に天空宙心拳の公開処刑(ゴッドハンドスマッシュ)が行われたのは言うまでもない。




次回、臨海学校初日 後編

ご意見、ご感想、お待ちしております。



オマケ

※このお話は、更識楯無視点のお話です。このお話を読まなくても、次の話に支障はありませんが、キャラへの理解が深まる・・・はずです。



25話と26話の間の話です。



私の名前は更識楯無。IS学園最強の生徒会長で更識家の現当主よ。

今私は、第一アリーナで簪ちゃんが見守る中、ラウラちゃんとISで戦ってるの。

戦う理由。決まってるじゃない。



簪ちゃんを百合にさせないためよ!!



あの可愛い簪ちゃんがラウラちゃんとイチャイチャしてるって聞いて調べたけど・・・

一緒に食事したり、一緒に練習したり、一緒に寝たり、保健室で告白しようとしたり、しかもレゾナンスの更衣室で破廉恥なことをしたのよ!

これは姉としてラウラちゃんの頭を冷やさなければと思い、戦ってるの。

このままラウラちゃんとイチャイチャしてたら簪ちゃんが・・・



「ハマーン様、バンザーイ!!」



みたいな事を言うかもしれないと思うと、夜もまともに寝れないわ!



「悪いけど、早々に倒させてもらうわ!」

今、ラウラちゃんのIS「シュヴァルツェア・レーゲン」は満身創痍。

ワイヤーブレードはすべてが切られ、大型レールカノンは弾切れ、プラズマ手刀で応戦してるけど使えるのは右手だけ。

「くっ!」

「中々しぶといね」

「ドイツ軍人をなめるなぁ!」

ラウラちゃんは頑張って私に応戦してるけど

「遅い!」

「ぐはっ!」

満足に戦えない状態、これ以上戦ってもラウラちゃんのシールドエネルギーは底を尽きるのに・・・何で諦めないのかしら?

「降伏しなさい。これ以上戦っても結果は見えてるわよ」

「するか!貴様を倒さなければ・・・簪は二度と帰ってこないんだぞ!」

簪ちゃんを所有物扱いしない!

「そう・・・分かったわ。せめてこの技で終わらせるわ」

私はミストルティンの槍を発動させた。せめてこの一撃で終わらせる。簪ちゃんの悪夢を・・・

「くっ・・・」

ラウラちゃんも状況を理解している。状況を打破したいのにその策がないことに悔しがってる。みんなそうやって努力してるの。だから・・・



「貴様の実力はそれまでか!!」



・・・え?

「マドカ!」

「ラウラ!貴様がドイツでSHINOBIを習得しようとしたのを知っているぞ!」

え!?何でマドカが簪ちゃんの隣にいるの!?部外者禁止なのになんでいるの!?それにSHINOBIって何!?

「だが、私は習得でき・・・」

「何を勘違いしている!私が言いたいのは、貴様がそれまでに費やした特訓は無駄であったのかと聞いている!」

まあ、何かが失敗に終わったみたいけど、それを糧にすれば・・・

「・・・そうか!」

「どうやら気付いたらしいな。楯無!貴様の敗北は決定的だな!」

「え!?」

何で私に振られるの!?

「そうだ・・・私にはまだ・・・プラズマがある」

プラズマ手刀のことを言ってるみたいけど、ミストルティンの槍を防ぐのは無理な話なのに。

「残念だけど、このミストルティンの槍には勝てないわよ」

「そうか・・・貴様が水の槍なら・・・」

あら?ラウラちゃんがプラズマ手刀を納めた。



「私は(いかづち)の指だ!」



シュヴァルツェア・レーゲンの右手が光ってるんですけど!?

「そうだラウラ!貴様ならSHINOBI習得に必須の『明鏡止水』を扱えるはずだ!」

何!?このバトルものにありがちな展開!?

「ラウラ!勝って!」

「簪ちゃん!?」

「うおぉぉぉ!」

しまった!簪ちゃんに気を取られて・・・

「たぁっ!!」

私の顔が光る手で握られてるんですけどぉ!!

「そういえば、ISバトルのルールブックにこう書いてあったな。ISバトル条約第一条 搭乗者の頭を破壊された場合、破壊された選手は即失格っと」

マドカちゃん!何、でたらめルールを作ってるの!?

「なら、作ればいいではないか」

何で考えが読めるの!?というより、冷たい視線で見てるんですけど!

「はあぁぁぁ・・・」

このままじゃ・・・本当に頭が・・・



「サンダースマッシュ!」



「「うわぁ!」」

織斑先生・・・どうして入ってきたかは聞かないとして・・・助かったぁ。

「ボーデヴィッヒ!」

「は、はい!」

さっきの威勢がどこに行ったのか、可愛いウサギちゃんみたいに縮こまっちゃった。

「お前も『明鏡止水』を扱えるようになったのか」

・・・え?

「ですが、私は教官の忠告を・・・」

「気にするな。お前は愛する者のために全力で立ち向かった。私はそれで十分だ」

何で褒めてるの!?普通、命の危機に晒したことを問い詰めないの!?

「楯無。この試合、貴様の負けだ」

「あの・・・先生。その結果は納得いかないんですが」

「負けた理由は自分で考えろ」

「いや!全然分かりません!SHINOBIとは何ですか!?それに『明鏡止水』とは・・・」

「それを知らない時点で貴様の負けは決定している」

何でそうなるんですか!?

「お姉ちゃん・・・」

「か、簪ちゃん!」

簪ちゃんが、私をお姉ちゃんって・・・

「私・・・ラウラと結婚を前提としたお付き合いしてるの!」

その時、私の何かが崩れ始めた。

「だから・・・私、夏休みになったらラウラを実家に行かせるから」

どういうこと・・・簪ちゃんが結婚前提のお付き合い?

「そういうことだ。私からは特に異論はない。楯無、家族の方も簪とラウラの付き合いを全面的に賛同している。結婚を前提とした付き合いをだ」

いや・・・家族が・・・全面的に賛同?

「ということだ。全員解散!」

織斑先生の掛け声と共に皆アリーナを去ったけど・・・



「私だけ聞いてないよぉー!」



その後、虚ちゃんと本音ちゃんに簪ちゃんの件について聞いてみたけど・・・知らなかったのは私だけなのが分かった。

・・・私、更識家の当主だよ。


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第27話

臨海学校 初日 後編です。

スランプなのかどうか分かりませんが、今回の話が甘いのかどうか分かりません。

まあ、作者的にはちょっぴり甘い話にしたつもりです。


夕食を堪能した俺は教員室に戻り、特に何もすることなく寝転んでいる。

 

四人(清香と癒子とのほほんとマドカ)は今ごろ、ガールズトークで花を咲かせてるんだな。

 

 

 

「なら、私達と楽しく話そうじゃない」

 

「・・・・・・え?」

 

 

 

なんでこの四人(箒とセシリアと鈴とシャルロット)がいるんだ・・・

 

 

 

「どうやって分かったんだよ」

 

「私が尾行し、居場所を三人(鈴とセシリアとシャルロット)に伝えた」

 

この四人の行動力・・・他の所に活かせないのか?

 

「一夏!アタシ達はあんたに聞きたいことがあって来たのよ!」

 

「聞きたい事?」

 

「そうですわ。それは一夏さんにとって大事なことですのよ!」

 

鈴とセシリアが俺に問い詰めてくるけど、大したことじゃないな。

 

「一夏。そうやって甘く考えてると、痛い目を見るから」

 

シャルロット、お前が怖い。

 

「では本題に入るぞ。一夏・・・」

 

 

 

「この四人の中で彼女にしたいのは誰だ?」

 

お前達・・・自分が選ばれたいからって、その質問で問い詰めるのか。

 

 

 

「どういう意味だ?」

 

「どういう意味って、アタシ達の中で彼女にしたいのは誰なのかっていう質問よ」

 

「一夏さん。この四人の中で彼女にしたいのは・・・」

 

「誰なのかなぁ・・・」

 

三人(鈴とセシリアとシャルロット)が問い詰めてるが、ここでキッチリ言うべきだろうな。

 

「この四人の中だったら、セシリアかな」

 

「「「・・・そんな」」」

 

セシリアが胸を張っているんだが、四人の中ではセシリアが安心できるかな。今まで暴力してこなかったしな・・・盗撮行為は問題だが。

 

「まあ、わたくしが選ばるのは当然の結果です」

 

「そ、そんな・・・」

 

「私・・・じゃないの・・・」

 

「僕は・・・」

 

分かりやすい反応だな。

 

「では、一夏さん。今夜はわたくしと一緒に夜を過ごしましょう」

 

「無理」

 

「え?」

 

「だって、四人の中ではセシリアが彼女にしたいって言ったんだ」

 

「で、では、四人以外だったら誰ですの?」

 

「山田先生」

 

「・・・四人を含めたら?」

 

「山田先生」

 

「・・・・・・二番目は?」

 

「二番目以降はいない」

 

「・・・・・・」

 

ここまではっきり言えば・・・

 

「一夏さん・・・今、夢から覚ませます!」

 

セシリアは目から光が無くなったまま、ISを部分展開して俺に襲い掛かって来た

 

 

 

「爆裂空転!」

 

 

 

・・・が、千冬姉の登場で阻止された。見た事ない技なのに、驚いていない自分がいる。

 

「まったく、懲りもしない連中だ」

 

三人は顔を蒼白にしたまま、その場を動いていない。

 

「織斑、お前は浴場にでも浸かりに行け。私はこいつらとガールズトークをする」

 

ガールズトークという名の尋問ですね、分かります。

 

「分かったなら、さっさと浴場に行け」

 

「だから何で分かるの!?」

 

「弟の考えを読めずに姉としての務めが果たせると思うな」

 

「いや、読めないから!」

 

千冬姉に言われるがまま、浴場に向かった。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、真耶はどこに行ったんだ?」

 

そんな疑問を浮かべながら浴場に向かっていると、ラウラと簪が自販機の前で会話をしていた。

 

「簪、お前に言わなければならないことがある」

 

「どうしたのラウラ?」

 

「浴場に入る人数に制限が掛かっているという話を聞いたか?」

 

「え!?そうなの?」

 

まあ、IS学園と言っても女子校だからな制限は掛かるな。

 

「人数が多い分、時間を分けて入らなければならないことになったが、それでも浴場に全員入れないことが分かった教員たちは急遽人数制限を掛けたと聞いたが」

 

「そうなんだ」

 

そんな情報を仕入れるなんて、ドイツ軍人は凄いな。

 

「それで今の時間帯に入るメンバーも知っている」

 

「誰なの?」

 

「私とお前だ」

 

「・・・え?」

 

なんだラウラと簪か・・・え?

 

「もう一度言う。私と簪がその時間帯に入れる」

 

「ちょっと待った!」

 

通り過ぎようとしたが、その発言はちょっと・・・

 

「ラウラ。お前、千冬姉の鉄槌を喰らったのにまた・・・」

 

「一夏。夫婦というのはお互いどんな時でも一緒ではないのか?」

 

「結婚してないだろ。それに女同士だから夫婦にはなれない!」

 

「私が夫だ!」

 

どういう理屈だよ!?

 

「安心しろ一夏。男湯の方はお前と山田先生の貸し切りにした」

 

「どうやって!?」

 

「シュヴァルツェ・ハーゼを甘く見ては困るな」

 

「職権乱用だろ!」

 

「IS学園の生徒会長はこれよりもっと酷い」

 

何をやったんですか、生徒会長は・・・

 

「あ、織斑君。そこにいたんですか」

 

浴衣を着た真耶が小走りでやって来た。簪が何か悔しがっていたが気のせいだ。

 

「そろそろ行かないと浴場の時間が無くなりますよ」

 

「ああ、そうだったな」

 

ラウラの言ったことは、多分何かの冗談だろう。

 

「一夏。山田先生と一緒に入らないのか?」

 

「ラウラ。あれは冗談なんだろ?」

 

「冗談ではない!」

 

マジかよ・・・

 

「あの、何が冗談では・・・」

 

「今の時間帯、各浴場に入れるのは二人だけという話だ」

 

「えっと・・・それで?」

 

真耶が軽く混乱しているぞ。

 

「女湯に私と簪、男湯に一夏と山田先生が入らせようという提案だ」

 

「ぼ、ボーデヴィッヒさん!?」

 

「不服か?」

 

「ふ、不服じゃなければ、不服じゃないですけど・・・じゃなくて!そのようなことをしてはいけません!」

 

「一夏が嫌いなのか?」

 

「大好きです!!」

 

「では、一緒に入っても問題は無いのではないか?」

 

「きょ、教師が一生徒と・・・み、淫らな・・・」

 

ああ、真耶が顔を赤くし混乱しながら説明しようとしてるけどラウラを説得するのは無理だ。

 

「私は一人の女性として意見を言っている。簪、私の意見に対して何かあるか?」

 

「な、無いけど・・・大丈夫なの?」

 

「安心しろ。嫁を守るのが夫の役目だ」

 

「ラウラ・・・」

 

それにあっちはあっちで勝手に話が進んじゃってるし・・・ここは俺が何とかするしかない。

 

「あのさ、ラウラ。気持ちは嬉しいけど・・・」

 

「謙遜をするな。お前の悪い所は人の好意を謙遜する所だ。素直に受け取っても悪くはない」

 

「いや、さすがにやりすぎ・・・」

 

「互いの愛を知り、互いの事を知るというのも恋人同士だからこそできることだ。それに・・・」

 

 

 

「このように青春を謳歌できるのは若さの証だよ」

 

 

 

ラウラ・・・完全に青春を間違った方向で謳歌してますよ。

 

 

 

 

 

 

結局、俺はラウラの説得に失敗し・・・

 

「一緒に入ることになったね・・・」

 

「真耶。俺、千冬姉に遺書を渡してないよ」

 

真耶と一緒に男性の浴場で浸かっています。嬉しいけど、今日が命日な気がする。

 

「でも、こうやって一夏君と一緒にお風呂に入れて私は嬉しいな」

 

眼鏡を外してても笑顔の真耶は可愛いな。

 

「ねえ、一夏君。近づいていい?」

 

「いいけど」

 

そう言い真耶は・・・

 

 

 

「真耶・・・これは近すぎじゃない?」

 

「こうしないと、顔がよく見えないの」

 

 

 

俺の前で跨っている。顔を赤くしながらも笑顔で近づいてくる真耶に俺の理性は削られていく。

 

「一夏君。その・・・我慢できなかったら・・・その・・・」

 

「い、いや。臨海学校でする訳には・・・」

 

お互いの顔が徐々に近づき、互いの吐息が顔に掛かる程までになった。輝くエメラルドの瞳、艶のある唇、弾力のある豊満な胸。その三つが俺を理性を削り、野生の本能を目覚めさせようとしている。鎮まるんだ俺の野生の本能!確かに真耶と体を重ねるのは久しいが、こんなところで手を出して千冬姉にばれたらどうなる?明日の朝日を拝めなくなるんだぞ!

 

「一夏君、どうしたの?」

 

「その・・・この続きは夏休み・・・俺の部屋で・・・いいかな?」

 

「そうだね。この続きは・・・」

 

 

 

「この・・・馬鹿弟子がぁ!」

 

「ふぎゃあぁぁぁ!」

 

女湯からラウラの断末魔が聞こえた。

 

 

 

「「早くあがらないと・・・」」

 

俺と真耶は早くあがって千冬姉の鉄槌は逃れたけど・・・

 

 

 

あの三人(清香と癒子と本音)がお前と山田先生が男湯から出てきた所を目撃した。よって・・・」

 

「「織斑君のマッサージ。期待してるよ!」」

 

「おりむ~のマッサージは嬉しいな~」

 

三人(清香と癒子と本音)に全身マッサージを受けさせる罰が下された。一方の真耶は、千冬姉の有難いお言葉を就寝時間になるまで聞くと言う有難い罰らしい。

 

「さあ、山田君。私からの有難いお言葉をちゃんと聞くんだぞ」

 

「は、はいぃ!」

 

こうして、就寝時間になるまで俺と真耶の罰は続いた。

 

ちなみに千冬姉曰く・・・

 

「あの三人(清香と癒子と本音)には少なからずSHINOBIの才能がある。特に連携を組んでの諜報など中々いない。鍛えてみるのも悪くない」

 

頼むからIS学園をSHINOBI学園にしないでくれ。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、疲れた。お休み真耶」

 

「お休み」

 

就寝時間になり、俺と真耶は疲れた体を休めるべく布団に潜り込んだ。俺の左右に千冬姉と真耶が寝てるんだが・・・

 

(真耶の布団に潜り込みたい)

 

どうも欲には勝てない俺である。

 

「真耶」

 

「どうしたの一夏君?」

 

「そっちの布団に入っていい?」

 

「いいよ」

 

幸い千冬姉は熟睡している。これなら真耶の布団に入り込んでも問題は無さそうだ。

 

「じゃあ、失礼しまぁす」

 

「いらっしゃい一夏君」

 

俺と真耶は小さな声で一緒の布団に入れたことを喜んでいる。

 

「やっぱり、真耶と一緒に寝ると落ち着くよ」

 

「良かった」

 

真耶は笑顔で俺の頭を優しく撫でてきた。その撫で心地に俺は久々に真耶にアレを頼んでみた。

 

「真耶。その・・・久々に・・・アレしても・・・いい?」

 

「いいよ。実は私もしたかったの」

 

真耶は浴衣の脱ぎ、豊麗な胸を曝け出した。俺はその豊満な胸に顔を静かにうずめた。

 

「ふふっ。一夏君って意外と甘えん坊さんなところがあって可愛い」

 

真耶は俺の顔を胸に優しく押し付け、頭を撫でながら幸せそうな顔をしていた。

 

「それは真耶が可愛いからだよ」

 

「じゃあ、明日から厳しく指導しちゃおうかしら?」

 

「それは・・・」

 

「冗談よ」

 

真耶はその後、俺に子守唄を歌ってくれた。山田家オリジナルの歌だけど、優しい歌声に俺は真耶の胸の中で安らかな眠りについた。

 

 

 

 

 

 

そして、日が昇り・・・

 

「目覚めのライジングスマッシュ!」

 

千冬姉による「目覚まし天空宙心拳」が炸裂し、二日目が始まった。




次回は千冬姉と四人(箒とセシリアと鈴とシャルロット)のガールズトーク(?)を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第28話

今回は千冬姉のガールズトークと言うより、千冬姉視点の臨海学校初日の夜です。


私、織斑千冬は教員室でガールズトークというものを始める。

 

「どうした?なにも喋らないのか?」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

この四人(箒とセシリアと鈴とシャルロット)でガールズトークをだ。

 

「私の弟の前では、あんなに威勢が良かったのに私が来た途端これか。舐められたものだな」

 

「あ、あの、どうして僕達と話したいんですか?」

 

気まずい雰囲気を脱すべく、シャルロットが先陣を切ったか。

 

「簡単な話だ、シャルロット」

 

私の発言にシャルロット以外の三人が怯え始めた。まあ、仕方がない。次に何を言うのか分ってるからな。

 

 

 

「弟の恋路を邪魔するな」

 

 

 

シャルロットの目から光が消えたな。三人はもがき苦しんでいるが、理由が分からない。

 

「一夏と山田先生は恋人同士だという事は周知の事実だ。なのに、何故一夏を我が物とせんと過激な行動を起こす?」

 

「僕は別にそんなことは・・・」

 

「市街地でISを展開することが過激でなくて何と言う?」

 

「あれは一夏が変質者に・・・」

 

「いい加減、現実を見ろ」

 

「・・・」

 

シャルロットが轟沈した。どうやら目が覚めるまではまだ時間が掛かりそうだ。

 

「三人もそうだ。いい加減、地に足の着いた学園生活を送ったらどうだ?」

 

「わ、私達は地に・・・」

 

「現実を見てないお前達が地に足なんか着いてない。どこかに浮いてるようにしか見えん」

 

「わ、わたくし達は一夏さんと交流を・・・」

 

「理想像を押し付けるお前達が弟との交流を深めようしてるとは考え難い」

 

「あ、アタシは一夏が問題を・・・」

 

「問題を起こしてるのはお前達だ」

 

残りの三人も轟沈してしまった。ガールズトークというのが少しでも続ければ良かったが仕方がない。考える時間を与えるとするか。

 

「今後、どうするかはお前達自身で考えろ。自分の理想では無く現実を見据えて部屋に戻れ」

 

この四人は度々問題を起こす。それでも私は教師としての職務を果たす。たとえ、人を超えた力を手にしてもだ。

 

 

 

 

 

 

その後、私は浴場に浸かってないことに気付き風呂場に向かってるんだが・・・

 

 

 

貸し切りにつき、現在使用できません

 

 

 

おかしい。この時間はまだ、学園の貸し切りになってるはずだ。他の人が貸し切りにしてるはずがない。

 

「もしや・・・」

 

私は一抹の不安を抱え、スーツのまま浴場に入った。

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・あぁっ!」

 

「簪、次はどこを攻められたい?」

 

 

 

・・・最早、言葉は不要だ。

 

「次は・・・私の・・・」

 

「簪のどこだ?」

 

「まず、お前達の頭だ」

 

「「え?」」

 

二人の声が綺麗に重なったな。だが、私は容赦しない。

 

「この・・・馬鹿弟子がぁ!」

 

「「ふぎゃあぁぁぁ!」」

 

 

 

「私はお前達が付き合ってる事には異論はない。だが、淫行を許可した覚えはない」

 

私は二人を廊下で正座させ説教をしているが、ボーデヴィッヒは何故怒られているのか理解できていない。

 

「教官。恋人や夫婦は互いの体で愛を確かめたりはしないのですか?」

 

「クラリッサの情報か?」

 

「はい。クラリッサの情報は信憑性が高く、科学的根拠・・・」

 

「あいつの情報は当てにならん」

 

「何故、当てにならないと決めつけるのですか!?」

 

お前は人の愛し方を間違えてるぞ。

 

「他人の言葉に流されてるからだ」

 

「なっ!?」

 

「逆に聞くが、お前が更織を愛してるのはクラリッサの入れ知恵か?」

 

「違います!私は自分自身の意思で告白をしました!」

 

そういう素直でまっすぐな所は羨ましい。

 

「なら何故、クラリッサの情報を頼る?自分の意思で告白をしたのなら、自分の意思で互いの愛を築き上げないのか?」

 

「はっ!」

 

ただ、素直過ぎて変わった事をするのは玉に瑕だがな。

 

「お前達は付き合い始めて日は浅い。周りの世界に呑み込まれるかもしれない。だからと言って、二人だけの世界に籠るのは良くない。その線引きを考えながら、互いの愛を築き上げるんだ」

 

「分かりました」

 

「簪、頼みがある」

 

「は、はい!」

 

自分に話が振られずに済むと安心してたな。

 

「ボーデヴィッヒを部屋まで運べ」

 

「え?」

 

「あいつは正座に慣れてない。だから自力で部屋に戻る手助けをしろ」

 

「教官!私は・・・ぎゃっ!?」

 

ボーデヴィッヒが立ち上がろうとして倒れこんだ。私の勘は的中したな。

 

「ラウラ!大丈夫!?」

 

「大丈夫だ・・・逆立ちして行けば・・・問題ない」

 

「大いに問題がある。簪、ボーデヴィッヒを部屋まで運べ」

 

「は、はい!ラウラ、今は私に任せて」

 

簪はボーデヴィッヒを背負い、ボーデヴィッヒのナビを聞きながら部屋に向かった。

 

「今回の罰は無しにするか」

 

少しばかり甘くなってしまった。誰かに甘くなるなんて昔の私からは想像もできない変化だな。

 

「先生!」

 

「どうした谷本?」

 

「実はですね・・・」

 

 

その後、私は二人(一夏と山田君)が男湯に入った事実を確認し、山田君に有り難いお言葉を聞かせるべく教員室へ連行した。

 

「山田君。君は弟と淫行しなければ死んでしまう病気にでもかかっているのか?」

 

「あれは出来心というより、恋人の性と言いますか・・・その・・・」

 

完全に教師としての自覚がない。

 

「山田君。私達はIS学園の教師だ。弟と付き合ってる事に異論はない。むしろ、助けてくれた事に感謝している。だが、今回は教師としての自覚のなさが起こした行為だ。分かっているな?」

 

「あ、あの・・・もしかして・・・」

 

山田君の顔が青ざめているがそうだ。

 

「久々にIS学園の教師というものが何なのか、きっちり教育をさせよう」

 

私は山田君にIS学園の教師に必要な事柄をもう一度学習させた。どうやって学習させたかは想像に任せる。

 

それにしてもあの三人(相川、谷本、布仏)にはSHINOBIの才能がある。特に集団での情報収集に関しては長けている。鍛えるのも悪くないな。

 

 

 

 

 

「この様子だと、随分お疲れのご様子だな」

 

「三人にマッサージするのは意外と疲れるんだよ」

 

山田君との勉強会が終わり、私は弟と自販機の前で久々の会話をしている。

 

「お前は学園の生徒という自覚を持て」

 

「うっ!肝に銘じます・・・」

 

全く、これでは姉としての示しがつかないではないか。

 

「ところで千冬姉」

 

「織斑先生だ」

 

「悪い。いや、聞きたい事があってさ」

 

私に聞きたい事があるとは珍しい。

 

「何だ。言ってみろ」

 

「俺のISのコアって、千冬姉のをそのまま使ってるのかな?」

 

「どうしてそう考える?」

 

まあ、理由は大体の見当はつく。

 

「千冬姉と同じ武器を使ってるし、フォルムも似てて・・・」

 

「まるで、私の力に頼ってると言いたいのか?」

 

「何で分かるの?」

 

「こんなのは私が姉でなくても分かる悩みだからだ。答えを言うとするなら、その可能性は高い」

 

そんな事をするのは、束ぐらいしか思いつかない。

 

「じゃあ・・・」

 

「だからと言って、お前が落ち込む必要は無い。お前は今まで自分の意思でISに乗り、強くなっている。それは紛れもなくお前自身の力だ。昔みたいに周りに流され、それに恐れて強大な力を得た私に比べればお前はつよい」

 

「千冬姉・・・」

 

「逆に聞くが、お前は白式の力でどうしたいんだ?」

 

「俺は・・・皆の笑顔とか明日を守りたいかな」

 

「ほう、昔と変わらない内容だな」

 

「そうじゃないよ。俺がこうやっていられるのは真耶に千冬姉、マドカにクラスメイト達のお陰なんだ。それに昔は孤独から逃げる為に強くなって皆を守れば、俺を頼りにしてくれるって考えてたから。でも今は、皆がいるから俺がいて、互いに頼ってるから強くなれてる感じがするんだ」

 

「だからその恩を返すべく、皆の笑顔と明日を守ると?」

 

「ああ。本当はIS抜きで皆と楽しい学園生活を送りたいんだけどな」

 

その想いがあれば、お前は迷いはしない。

 

「でも、一人じゃどうにもならない事が・・・」

 

「安心しろ。私や山田君、マドカやクラスメイト達がお前に手を貸す」

 

「千冬姉。何だか昔と比べて丸くなったか?」

 

「そうかもな」

 

どうやら、自分の道を山田君と共に歩んでいるんだな。私はその道に入る事はできない。だが、姉として二人を見守るとしよう。

 

 

 

 

 

 

弟の悩みの種が無くなった事に安堵し、部屋の見回りを始めたが・・・

 

「マドっちが気になる男性が誰なのか聞いてみたら・・・」

 

「顔を赤くして暴れ始めたので・・・」

 

「三人で何とか抑えました・・・」

 

今度は妹の可愛い悩みを聞くことになった。

 

 

 

「その男とはいつ、どこで出会った?」

 

「編入して間もなく・・・一人でレゾナンスに行った時に出会った」

 

「その男の特徴は?」

 

「赤のロングヘアーでバンダナを巻いていた。あと兄さんぐらいの長身」

 

「その男と何をした?」

 

「会話をして・・・メアドを交換した」

 

「それ以降はどうした?」

 

「メールしたり・・・たまに会いに行ってた」

 

 

 

マドカの話を聞く限り、その男には心当たりがある。まあ、その男にマドカを任せても問題ないか。

 

それにしても・・・

 

「なぜ黙ってた?」

 

「話す必要が・・・ないと感じたからだ」

 

「ほう・・・」

 

「な、何だ!?」

 

今更だが、顔を赤くしながら答えるマドカはまだ乙女だな。姉としては嬉しい限りだ。

 

「マドカ、告白したのか?」

 

「こ、告白は!・・・・・・してない」

 

「「「へえ・・・」」」

 

「何故、お前たちが関心を持つ!?」

 

「いや~、マドっちの初恋を聞いてるとね~」

 

「何だか応援したくなって」

 

「マドカ、ファイト!」

 

「よ、余計なお世話だ!」

 

拳法を使ってるマドカからは想像もできないギャップだな。

 

「まあ、何だ。私から言える事はお前が一歩踏み出せばいい」

 

「何故、アドバイスをする!?姉さん、私は・・・」

 

「そうやって臆病風を吹くな」

 

「うぐっ・・・」

 

蒸気が噴き出そうな程、顔を真っ赤にしたままマドカを見て私は安堵している。このまま、幸せになってほしいものだ。

 

「ということだ。三人とも、マドカの事を頼んだぞ」

 

「「「はい!」」」

 

後の事を三人に任せた私はそのまま教員室に戻り、眠りにつく準備をした。

 

 

 

 

 

 

(今朝のウサ耳・・・束の仕業か)

 

今朝、一夏の連絡通り廊下にあったウサ耳は全力で海投げたから多分、どこかの沖にロケットが落ちたに違いないが・・・

 

嵐の前触れか?あいつがいると碌な事がない。このまま、無事に二日目も過ごせればいいんだが。

 

そのまま私は睡魔に身を委ね眠りについた。

 

 

 

 

 

 

朝を迎え、私は浴衣からジャージに着替えようと体を起こしたら・・・

 

山田君と一夏が破廉恥な就寝をしていた。

 

 

 

・・・よし、起こそう。

 

 

 

「ん・・・千冬・・・」

 

「目覚めのライジングスマッシュ!」

 

「「ぐはぁ!」」

 

こうして、私は二日目の朝を迎えた。




次回は箒の専用機登場と銀の福音戦ですが、重要なお話があります。



銀の福音戦は、一夏が福音に倒された後の展開はオリジナル展開になります。

その理由としては・・・

・箒達を助ける理由が見当たらない

・一夏がやたら無闇に力を求めてない

・マドカがいる

・千冬が人間を辞めている

特に二つ目の理由が大部分を占めています。

原作やアニメ、漫画を見ても一夏が力に固執している感じがし、転校当初のラウラと何ら変わりが無いという印象を受けました。

雪羅になった経緯もはっきり言えば分かりません。まるで力が欲しいという願望に応えた姿が「第二形態・雪羅」という印象です。作者の偏見が入ってるかもしれませんが。

人としての苦労や苦悩、ISに対しての姿勢など、一夏の人間性を掘り下げる描写が極端に少なく、このまま原作通りに話を進めてもパッとしない終わりを迎えるので、オリジナル展開を作るという決断に至りました。

「原作通りに進んだらどうなるんだろう?」と、期待していた読者の方々の期待を裏切る形となってしまい申し訳ございません。

「このオリジナル展開、都合良すぎだな」という感想を持つ読者も現れるかもしれませんが、この作品を温かく見守っていただければ幸いです。

長文となりましたが、この作品の応援をよろしくお願いします。



ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第29話

今回はかなり駆け足になってしまいましたが、銀の福音戦スタートです。


臨海学校 二日目

 

今日は屋外でISのデータ収集なんだが・・・

 

「ラウラ、何があった?」

 

「嫁と一緒に朝を迎えたら、教官にぶたれた」

 

簪と裸で寝てた事に激怒したと言うが、まあ・・・人のことを言えないからこれ以上の言及はよそう。俺もラウラの気持ちは分かるし。

 

「織斑、後で屋上に来い」

 

千冬姉・・・それ、脅迫です。

 

「専用機を持っている生徒は別グループでデータ収集をする」

 

専用機持ちとそうでないグループに分かれたんだが・・・

 

「何で箒がいるんだ?」

 

「わ、私も知らん!」

 

俺から声を掛けられたのが久々なのか顔を赤くしたが、別に好意を持って掛けたわけじゃない。

 

「ああ、それはだな・・・」

 

「ちいーーーちゃ・・・」

 

「バァァァストキック!」

 

「ぐぼらっ!」

 

ウサ耳を付けた女性が不機嫌な千冬姉のバーストキックで吹っ飛ばされて岩盤に叩きつけられた。

 

「ちーちゃん、酷いよ!この束・・・」

 

「サンダァー・クロォゥッ!」

 

「いだだだだだ!最後まで喋らせて!」

 

全速力で戻ってきて喋ろうとしたら今度はサンダークロウだ。容赦なさすぎだよ千冬姉。

 

「ああ、痛かった。はろー、箒ちゃ・・・」

 

「専用機が出来たんだな!」

 

「おお!私が最後まで言わずに言いたいことが分かるなんて、さすが愛しの箒ちゃん!」

 

「で、私の専用機は!」

 

俺はその二人のやりとりを見てあまりいい気分になれなかった。シスコンとかそういうのではなく、昔の自分を見ていて不愉快な気持ちになると言った所かな。

 

それに・・・

 

 

 

「マドっち!落ち着いて!」

 

「そうだよ!止まって!」

 

「お願いだから!」

 

「退かぬ!媚びぬ!省みぬ!」

 

 

 

束を見つけたマドカはキャラ崩壊を起こしてる。それほど、束に対する憎悪があるのが窺える。千冬姉もあまり良い顔をしてない。

 

篠ノ之束、ISの開発者で千冬姉を変えた元凶、マドカの殺すべき目標。俺から見たら・・・エゴが増大された何かかな。

 

「さっそく箒ちゃんの専用機のごとーじょー!」

 

そう言い、ポケットからリモコンを取り出し赤いボタンを押した。

 

すると、空から金属の塊が落ちてきた。激しい轟音と衝撃が砂浜に響き渡り、その瞬間扉らしきものが倒れそこから現れたのは・・・

 

「これが箒ちゃんの専用機である第四世代IS『紅椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

第四世代!?そんなの作って一体何がしたいんだよ!

 

「さあ、箒ちゃん!今すぐ最適化(フィッティング)をするから乗って。すぐに終わるから」

 

箒は束の言葉通りに紅椿に乗り、作業を始めるが・・・

 

「後、いっくんの白式も調べたいから見せて」

 

「あ、はい・・・」

 

俺は白式を展開した。

 

「じゃあ、うりゃあ!」

 

白式の装甲にコードを挿し、紅椿の最適化、白式の解析を同時に開始した。

 

「おやぁ・・・このフラグメントマップのパターンは見た事ないね。いっくんが男の子だからかな?」

 

興味津々とディスプレイに表示されるデータを見てる束を見て、俺は何か寒気を感じた。まるでこれから嵐が吹き荒れるんじゃないかと思わせる、そんな悪寒だ。

 

「どうして・・・俺はISに乗れるんですか?」

 

「ん~それは私にもさっぱり分からないなぁ。ナノ単位まで分化すれば分かると思うけど」

 

「ナノ単位・・・」

 

「にゃはははは~!冗談だよ!ISは自己進化するように作ったし、こういう事もあるよ。わっはっはっ!」

 

この人とはこれ以上関わりたくない。

 

「降りて大丈夫ですか?」

 

「ん?いいよぉ。それにしても、いっくんどうしたの?」

 

「いや・・・今日はちょっと体調が悪くて・・・」

 

俺は即座に千冬姉にアイサインを送り、助けを求めた。

 

「織斑。お前は砂浜で少し休め。体調が良くなったら戻ってこい」

 

ありがとう千冬姉。

 

「山田君、織斑を・・・」

 

「ちーちゃん、ストップ!」

 

「・・・どうした?」

 

「いっくんの体調不良の原因が分かった!」

 

あなた()が原因です。

 

「何だ?言ってみろ」

 

「そこにいる・・・」

 

「山田君、織斑のことを任せた」

 

「ちょっと!?最後まで・・・」

 

「悪いが、お前の戯言に付き合える心の余裕は無い」

 

俺は後ろで千冬姉の覇気を感じながら、一人静かな砂浜へ歩んで行った。

 

途中、後ろからマドカの叫び声が聞こえたが・・・そっとしよう。

 

 

 

「はぁ・・・」

 

俺は、静かに砂浜で寝そべり青空を眺めていた。篠ノ之束、専用機、第四世代。多分、この三つが俺を不愉快にしてる原因だろう。

 

専用機を見た箒の笑顔を見て、俺は実感した。

 

あれは昔の俺の成れの果てだ。

 

専用機、しかもすべてのISを上回る第四世代を見て喜んでる箒の姿なんて昔の俺そのままだった。

 

篠ノ之束は家族が引き裂かれた原因を作った人。束がいなければ、千冬姉は普通にOLか剣道道場の師範をやってただろうし、マドカは普通の女子高生として生きていただろう。

 

「何で暗い気持ちになるんだ?」

 

昨日まで楽しく過ごしていたのに、束が来てから突然気持ちが暗くなるんだ。

 

「一夏君・・・」

 

「真耶」

 

ジャージ姿の真耶が心配そうにやって来た。心配そうに来ても仕方がない。

 

「一夏君。束さんが怖いの?」

 

「・・・そうかもしれない。千冬姉とマドカを変えた張本人なのに平然としてるのが怖かった」

 

俺は体を起こし、静かに波打っている海を眺め始める。

 

「家族を滅茶苦茶にしたのにISと箒と自分のことしか考えていない。自分だけの世界にしか目を向けず、周りの事なんて気にしない。誰かが傷ついたって、誰かが死んだって、自分の世界の住民じゃなければ特に気にもしない。理屈だけ並べて自分の世界のために動く、そんな人に・・・」

 

真耶は言葉を遮るように俺を正面から抱きしめた。

 

「一夏君、怖がらなくていいよ。一夏君は一人じゃないよ。織斑先生もいるし、マドカさんだっている。クラスメイトの皆がいて私がいる。皆がいるから今の自分がいるって言ってくれたよね。だから、怖がらなくていいのよ」

 

「・・・もう少し、このままにしてくれないか?」

 

「いいよ」

 

波の打つ音に耳を澄ましながら、俺は真耶に抱きしめられた。温かく、優しく、心地良い真耶の抱擁に俺は時間が止まって欲しいと願った。

 

だが・・・

 

 

 

「いーーーっくん!」

 

「きゃあっ!」

 

「うわぁ!」

 

 

 

現実は非常である。

 

「いっくん!非常事態だよ!早く早くぅ!」

 

「ちょっと待ってください!非常事態って!?」

 

「それはちーちゃんが説明するから、さあさあ!」

 

乱入してきた束に引っ張られ、俺は千冬姉から説明を聞いた。

 

 

 

アメリカとイスラエル共同開発した軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が突如、謎の暴走を始めたのだが・・・

 

 

 

「何で一番近くにいるという理由で俺達が戦わなければならないんだ!そういうのは軍が何とかしないのか!?」

 

そう、銀の福音の現在地は俺達が泊まってる旅館近くを飛んでいる。それだけの理由で軍が俺達に暴走したISを止めてくれと頼んできたのだ。これじゃあ、ロボットアニメでの腐敗した軍と変わらないじゃないか。

 

「織斑、落ち着け。そんな理由でお前たちを戦わせるわけにはいけないと思っている。今から、私が直々に交渉をしてくる」

 

さすがの千冬姉もこの頼みには不服を感じている。だが・・・

 

「だが、このまま見逃すとは考え難い・・・」

 

「近くに専用機が集まってる所ってここしかないから・・・」

 

「ですが、スペック上では私たちのISを遥かに凌駕しています」

 

「だとすると、対抗できるのは紅椿ぐらいしか・・・」

 

あの四人(箒とセシリアと鈴とシャルロット)は真面目に考えてるが、俺達は軍の尻拭いをさせられそうになってるんだぞ。

 

「私だけでも構わない。これは軍の犯した失態だ。軍の失態は軍人が何とかするのが世の常だ」

 

ラウラは自分の立場を理解しているのか、自分以外の戦闘を望んではいないようだ。ただ、簪はラウラに戦って欲しくないのか少し慌てている。

 

「なら、ここは私が・・・」

 

「ちーちゃん、すとっぷ、すとーぷっ!」

 

千冬姉(SHINOBI)が自ら立候補しようとした時、束が待ったをかけた。ただ、その表情はまるで行って欲しくないというか、千冬姉が行くと物凄く都合が悪いという顔をしていた。

 

「この私に良い考えがあるんだよ!」

 

「とりあえず聞こう」

 

「箒ちゃんといっくんの二人で・・・」

 

「却下だ」

 

「ちょっと!?」

 

「性能だけに頼った戦いでは限界がある。ここは私が・・・」

 

そう言い、千冬姉は剣狼と呼ばれてる剣を持ち打鉄に乗り込もうとしている。うん、千冬姉が圧勝する姿しか思い浮かばない。

 

「学園にも軍にもこの作戦、通しちゃったよ?」

 

束の発言に周りの空気が固まった。

 

「貴様ぁ・・・!」

 

「現行ISを上回る紅椿と最大の威力を持つ白式のタッグなら・・・」

 

「身内を戦場に投げ出して何とも思わないのか!」

 

「大丈夫!だって私とちーちゃんの妹と弟だよ!」

 

どういう理屈だよ。

 

「それに、紅椿のフィッティングの際に白式とのコンビネーションプログラムを組み込んだから、問題無しだよ!」

 

何を言ってるんだよ!千冬姉、何とか・・・

 

「・・・織斑、篠ノ之。直ちにISを展開し、銀の福音の暴走を阻止しろ」

 

千冬姉の苦し紛れの命令により、俺と箒は銀の福音と戦うことになった。千冬姉の表情は教師としての面影はなく、己の無力さに悔しがってる顔だった。

 

 

 

 

 

 

『一夏・・・大丈夫か?』

 

「最悪だ」

 

俺は紅椿の背中に乗り、任務が始まるまでプライベートチャンネルで千冬姉と話していた。さすがの千冬姉も俺の事を心配している。それはそうだ、身内が暴走したISを止めるとはいえ戦場に赴くんだ。心配の一つや二つは持つだろう。

 

『すまない、私がもっと早く対応すればよかったものを・・・』

 

「気にしなくていいよ。俺が無事に帰ってくることを祈ってるのが分かっただけでも嬉しいよ」

 

『そうか。無理だと思ったらすぐに引き返せ。あいつのことだ。紅椿が破壊されないように何かしているはずだ』

 

「千冬姉、これって・・・」

 

『たぶん、あいつが篠ノ之に華やかなデビュー戦をさせるために引き起こしただろう』

 

「勝手な都合で振りまわして・・・」

 

心の底から怒りが湧き上がってくる。

 

『もうそろそろ作戦開始だが、何か言いたいことは?』

 

「マドカはどうしたんだ?」

 

『あいつは三人(相川と谷本と布仏)に任せてある。あの三人ならきっと正しい道へ導いてくれるだろう』

 

「そうか。マドカには普通の一生徒として生きて欲しいよ」

 

『そうだな。そろそろ時間だ・・・生きて帰って来てくれ』

 

「ああ」

 

千冬姉はオープンチャンネルに切り替え、作戦開始の号令をかけた。

 

 

 

 

 

 

「一夏・・・」

 

私は剣狼を見つめ、自分が出来る事考えていた。

 

SHINOBI、天空宙心拳、この二つを持ってしても弟を戦場に赴かせたしまった。

 

天よ地よ、火よ水よ、心あらば答えてくれ。

 

「このまま私は剣狼の導きに従っていいのか?かけがえのない家族を戦いに赴かせ、それを待つことしかできない私は剣狼を持つ資格があるのですか?師匠・・・」

 

私の問いに答える者はいない。師匠も今はどこかの星で悪と戦っている。私は・・・

 

「教官!」

 

「どうした?」

 

ボーデヴィッヒの様子がおかしい。まるで言いたくない事を言わざる得ない事に苦しんでいる表情をしている。

 

「報告します。作戦は・・・織斑一夏の撃墜により失敗しました」

 

「何!?山田先生は!?」

 

「即座に救助へ向かいました」

 

「今すぐ救護装置の設置に取り掛かれ!私は原因究明に取り掛かる!」

 

「了解!」

 

私は落ちに落ち込んでる篠ノ之が戻って来たのを確認した後、私は紅椿の戦歴データを見た。

 

「私はどうすればいい・・・」

 

 

 

 

 

 

剣狼よ・・・私を・・・一夏を導いてくれ。




次回は、様々な人の視点から見た一夏撃墜後の話を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第30話

賛否両論覚悟のオリジナル展開になっております。

書く事書いて、いらない所削っても5000字を超えるとは・・・


織斑マドカ視点

 

 

 

私、織斑マドカは相川、谷本、悪魔の三人に遊ばれている。

 

「マドカの過去に何があったのか知らないけど、人を殺すのは良くないよ」

 

「それに生身でISに勝てるからって、無茶しないで」

 

「そんな事してたら、マドっちが想いを・・・」

 

「黙れ悪魔」

 

もう少しで・・・後、もう少しで紅椿を破壊できたのに。どうして姉さんが邪魔をする!?

 

『マドカ。お前は普通の女として生きてくれ』

 

姉さんが私を止めに来た際にそんな台詞を吐いたが、それは束を殺してからでは遅いと言うのか。

 

「マドカ。もし、篠ノ之束を倒したらどうするの?」

 

「普通の女として生きる」

 

「でも、束さんを倒さなくても・・・」

 

「私は束を倒さない限り一歩も進めない人間になってしまった。あいつは私にとって呪いそのものだ」

 

私がこうなったのも、姉さんがああなったのも、兄さんがああなったのも、すべて束が原因だ。あいつさえ消せば世界は平和になる。そうすれば私と姉さんが力を振るう必要もなくなる。

 

「マドっちの言いたいことは良く分かったけど・・・」

 

「何だ?」

 

 

 

「胸はおっきくならないよ~」

 

 

 

あの悪魔は早急に殺そう。

 

「貴様を・・・処刑する!」

 

「マドカ、落ち着いて!」

 

「本音もマドカを怒らせない!」

 

相川と谷本が私を抑えつけるが、あの悪魔を殺させろ!どこか気が抜けてるように見せかけて、人の心を土足で踏みにじる悪魔など殺した方がマシだ!

 

「だって、ず~っと八つ当たりされたら・・・」

 

「まずは貴様の口を切り裂いてくれる!」

 

「それに、マドっちは全然変わろうとしないもん」

 

「何!?」

 

「いや・・・」

 

「皆、知ってるから」

 

二人とも(相川と谷本)・・・認めてる!

 

「私は・・・自分が変わったと思っていたが・・・」

 

「変わったのは変わったけど、肝心な所が変わってないんだな~」

 

「これは・・・悪魔の囁きか?」

 

「「違うから!」」

 

「マドっちは頑なに力で行動する所があるから、余計に問題を起こす所があるんだよ~」

 

「そうなのか、二人とも?」

 

「うん。今は問題が起きてなくても、これから大丈夫かなって・・・」

 

「マドカは変わったには変わったけど・・・」

 

二人共・・・そんなに心配をしてたのか。

 

「マドっち、変わる事はそんなに怖くないんだよ~。だから・・・ね~」

 

・・・冷静になれば、三人に少しきつく当たっていたな。束がいなければ、束が殺せればそれで十分だと思っていた。仮に私が殺したとして、兄さんと姉さんが喜んでくれるだろうか。・・・少なくとも今まで通りの生活ができないのは確かだ。

 

「マドカの過去に何があったのか私は聞かないよ。過去に何かあったって、私達は友達じゃん」

 

「・・・強敵(とも)達?」

 

「うん。友達でしょ」

 

強敵(とも)達・・・」

 

「マドっち、漢字が違うよ」

 

「・・・友達」

 

友達という言葉に少しの温もりを感じた。

 

「だから束さんの事は忘れて、学園生活を楽しもう」

 

谷本は私に手を差し伸べてきた。私を怖がらないなんて相当なモノ好きだな。

 

「・・・分かった」

 

「よし。じゃあ、最初はマドカのデートの服を考えなきゃ!」

 

・・・何!?

 

「そうだね!」

 

「私もまぜて~」

 

「ま、待て!何故私のデートの服装なんだ!?」

 

「マドカ、制服以外の服を持ってるの?」

 

「ああ、持ってる。南斗水・・・」

 

「ちゃんと考えないとね~」

 

「話を最後まで聞け!」

 

こうして私は三人にデートのコーディネートの事で振り回されたけど・・・

 

 

 

「友達か・・・」

 

 

 

友達と楽しむのも・・・悪くないな。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

織斑千冬視点

 

 

 

紅椿の戦歴データを閲覧したが・・・酷い戦いだ。

 

銀の福音の動きが完全に箒が攻撃できる様に動いている。しかも一夏に箒の必要性を示すためなのか、一夏に攻撃をしているが完全に箒が攻撃できる様に立ち回ってる。

 

 

 

『一夏!なぜ、あの密漁船を守る!?』

 

『確かにあれは密漁船だ。だからって見殺しにしていいわけ・・・』

 

『あいつらは犯罪者だ!死んで当然だ!』

 

『死んでいい命なんて・・・』

 

 

 

密漁船の事で言い合ってる内に、一夏は背後から銀の福音の攻撃を喰らい墜落。その後は見逃してくれるかのようにその場から動かず、箒は去って行った。

 

山田先生が一夏の救助に向かったが、意識不明の重体。

 

一夏が身を挺して守った密漁船は銀の福音によって落とされた。

 

・・・最悪の結果だ。

 

「私は何もできずにただ座ってるだけなのか・・・」

 

私はどうすればいい。打鉄は束が破壊され、乗れるISは無くなった。山田先生は一夏の様子を見に行ったきり戻ってこない。束はどこかへ逃げ隠れた。

 

「どうすればいいんだ・・・」

 

「教官」

 

「ボーデヴィッヒ」

 

背後にボーデヴィッヒがいたとは・・・

 

「私に提案があります」

 

「何だ、言ってみろ」

 

「私の計画は・・・」

 

ボーデヴィッヒが私に提案した計画は単純明快だ。

 

専用機五機を囮にして、紅椿で撃破するという内容だ。ボーデヴィッヒも束の作戦内容に不審に思い、勝手に紅椿の戦歴データを閲覧した所、この計画が思い浮かんだと言う。

 

「私達は束の手のひらで遊ばれているなら、思い切って遊んだ方が得策だと思います。束は神でもなければ、人を超越した存在でもありませんから」

 

今の私に計画を承認する権利など・・・

 

「教官には束の処理を頼みたいのですが」

 

「どういう意味だ?」

 

「目の前の現実を見れない女が世界を動かしてはいけないからです」

 

「・・・私もその一人だとしたらどうする?」

 

「少なくとも、生徒達を導びこうと努力する時点で束と大きな差があります」

 

ボーデヴィッヒ、お前はいつの間に成長したんだ?だが、今は理解者がいることが分かって気持ちが軽くなった。なら、私は今出来る事を精一杯やり遂げるか。

 

「では、この作戦の指揮はお前にすべて委ねる。隊員一人も欠けることなく作戦を遂行し、帰還せよ」

 

「了解しました。ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐。任務を遂行します」

 

束・・・今こそ決着をつけるぞ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

織斑一夏視点

 

 

 

目を覚ましたら、そこには青空と見渡す限りの水面だった。どこからともなく波の打つ音と少女の歌声が聞こえる。

 

確か・・・俺は箒と言い合ってる内に背中から衝撃が来て、気を失ったんだ。

 

「そうだ!福音は!?」

 

俺は周りを見回したが、福音どころかIS一機も見当たらない。あるのは枯れた木と岩しかない。というより・・・

 

「ここはどこだ?」

 

何で水面の上に立ってるんだ。何で俺は制服姿なんだ?さっきまで流れてた少女の歌は?その少女はどこにいるんだ?俺は白式を展開していたんじゃ・・・

 

 

 

「力を・・・欲しますか?」

 

「え?」

 

 

 

背後から声がし、振り向くと・・・

 

白く輝く鎧を身に纏った騎士さながらの格好をし、巨大な剣を前に出し右手で剣を支えてる姿は・・・

 

「白騎士!?」

 

千冬姉がかつて乗っていた最初のIS『白騎士』がいた。

 

「何で白騎士がここにいるんだ・・・」

 

俺は混乱しながらも、聞いてみたい事を全部聞いてみた。

 

「ここはどこなんだ?」

 

「・・・」

 

「どうして、君がいるんだ?」

 

「・・・」

 

「俺は一体どうなったんだ?」

 

「・・・」

 

白騎士はすべての問いかけに答えてくれない。この様子だと、これ以上に大事な用があると思う。

 

「あなたは・・・力を欲しますか?」

 

今度は白騎士は俺に問いかけてきた。

 

「え?」

 

「あなたは・・・力を欲しますか?」

 

昔の俺だったら迷わず頷いてたけど・・・

 

「力は・・・いらないな」

 

「・・・何故?」

 

俺は白騎士の問いに笑顔で答えた。

 

「俺に必要なのは力じゃないってことかな。昔の俺だったら皆を守るために力を欲していたよ。でも、それを全部否定する人が現れたんだ。その人は押しに弱くて、天然で、ドジな所があって俺を困らせてたよ。でも、その人は力なんて欲さなかった。自分の持てる力でいつも頑張って生きていた。その人は俺なんかと比べても強いと今も思っている。それに、俺はその人のお陰で力より必要なものを得たんだ」

 

「力より必要なもの・・・それは何ですか?」

 

「人を信じる事かな」

 

「人を・・・信じる」

 

「ああ。誰も信じずに手に入れた力がどれほど虚しいのか、俺は嫌というほど知ったよ。その人が俺を信じて今も生きているから、俺はその人の信頼に応えるよう頑張って生きてきた。これからもそうするつもりさ。だから・・・」

 

俺は白騎士に手を差し伸べた。

 

「もう、仮面を外してもいいんだよ」

 

平静を装ってるつもりだけど、あの白騎士は泣いている。昔の千冬姉と同じで心に仮面を付けている。だから、今の俺が出来る事は彼女を自由にさせる事だ。もう仮面を付けて戦う必要はないんだ。

 

「・・・」

 

白騎士は巨大な剣を放し、俺の手を触れた。

 

「温かい・・・」

 

「人の温もりを感じ取れるのは素晴らしいことだって、その人は教えてくれた」

 

「あなたは・・・その人を愛してるのですか?」

 

「ああ、愛してる。その人も俺を愛してる」

 

「その人を守るために・・・あなたはどうするのですか?」

 

「自分の力で守るさ。俺は一人じゃない。家族と友達、恋人、お前が支えてるから大丈夫だよ」

 

「分かりました。私は・・・あなたとあなたを信じる人達を守る力になります。あなたは、自身の信じる道を歩んでください」

 

「分かった」

 

役目を終えたのか、白騎士は自らの手で仮面を外した。

 

「これで私も・・・自由に・・・」

 

仮面を外した白騎士の顔は良く見えなかったが、笑顔で俺を見送ってくれたのは鮮明に覚えている。

 

そして、白騎士は俺にある場所を示した。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

篠ノ之箒視点

 

 

 

私はラウラの発案した計画通りに銀の福音を退治しに行ったが・・・

 

「私のこの手が光って唸る!」

 

「未来を掴めと輝き叫ぶ!」

 

「喰らえっ!愛とッ!」

 

「正義とッ!」

 

「「幸せのォォッ!」」

 

二人(ラウラと簪)第二移行(セカンドシフト)した銀の福音に止めをさしている。もう、あの二人で十分じゃないか?

 

「・・・ん?ハイパーセンサーに反応が?」

 

周りを見る限り、どうやら紅椿だけが反応している。どれどれ・・・

 

「!?」

 

ISの反応がある!しかも、一夏が寝ている小屋からそんなに離れてない所ではないか!

 

「こうしてはいられない!」

 

私は最大出力でその反応のある所に向かった。

 

「一夏・・・無事でいてくれ!」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

山田真耶視点

 

 

 

「お前はいっくんを弱くさせた原因。つまりウイルスなんだよ」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「そのウイルスは早く殺さないとね」

 

確か一夏君を救助した後、私は束さんに人気の無い所に連れられて・・・

 

 

 

『いっくんが大怪我した理由はお前だ。お前と言う存在がいっくんを弱くさせる。だから、お前はこの世界から消す』

 

 

 

と、自分勝手な理由で私に襲い掛かって来た。すぐにラファールを展開して、助けを求めようとしたら・・・

 

 

 

『通信ができない!?』

 

『お前に助けは来ない。この世界から消えろ』

 

 

 

束さんはリモコンのボタンを押した。すると、私の周辺を囲むように六体のISが降って来た。

 

 

 

『ゴーレムⅢのデータ収集の犠牲になれ』

 

 

 

私は体に襲い掛かる悪寒を振り切り、『ゴーレムⅢ』六体と戦った・・・

 

 

 

「ぐはっ!」

 

「お前はいっくんを弱くさせた原因。つまりウイルスなんだよ」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「そのウイルスは早く殺さないとね」

 

 

 

絶対防御を無効にする能力に加え、大型ブレードやシールドビットによる連携攻撃に、私はゴーレムⅢ一体を破壊するのがやっとだった。

 

「ゴーレムを一体倒すなんて生意気だな。いっくんに纏わりつく理由が分からないな」

 

「好きだから・・・」

 

「あぁ?」

 

「私は一夏君を・・・」

 

「お前の話は聞きたくない。私の視界から消えろ」

 

私はゴーレムⅢの蹴り飛ばされ、ラファール待機状態になってしまった。

 

「いっくんには箒ちゃんがいれば良い。お前みたいなゴミは早々消えた方が良い」

 

ゴーレムⅢは私の首を強く握りしめた。

 

「くっ・・・」

 

私には抗う力が残っていない。ただ、足をじたばた振る事しかできない。

 

「ばいば~い」

 

束のお別れの声を最後に私の意識は・・・

 

 

 

「真耶ぁぁぁ!」

 

「いっくん!?」

 

 

 

今の声って・・・

 

「真耶から・・・離れろぉ!」

 

私の首を掴んでいたゴーレムは目の前から消えた。そして目の前にいるのは・・・

 

「一夏・・・君?」

 

「ああ。ごめん、遅れて来て」

 

「ううん・・・私は・・・一夏君が・・・生きてて・・・」

 

私は溢れ出る涙を拭い切れず、一夏君に抱き寄せた。

 

「良かった・・・一夏君が生きてて・・・」

 

「何があっても俺は真耶を守る。クリスマスの時、俺はそう言ったよ」

 

「分かってる。でも、私は怖かった。一夏君がいなくなるんじゃないかって」

 

「大丈夫。俺はここにいるから」

 

私は一夏君の意識が戻ったことに・・・

 

 

 

「ちょっと、いっくん!束さんを無視しないで!というより、なんでその姿になってるの?」

 

「え?」

 

「一夏君・・・その姿は・・・」

 

 

 

一夏君が展開しているのは白式ではなかった。

 

「ほう・・・この束さんも予想だにしないことが起こるとは」

 

「あいつが俺の為に・・・」

 

白式より白く輝く装甲にスラスター、一回り大きい左腕、所々フォルムは違うけどその姿は・・・

 

「白騎士?」

 

「ああ。きっと、俺の想いを受け止めてくれたんだと思う」

 

一夏君は笑顔で答えてくれた。

 

「真耶、ここは危険だから安全な所に避難してくれ」

 

「分かった」

 

私は岩場の影に隠れて、一夏君を見守ることにした。

 

「これ以上、みんなを悲しませてたまるかぁーッ!」

 

一夏君は雪片弐型を強く握り、ゴーレム達に突撃しに行った。




今回の話で、一番苦労したのは一夏視点の話です。

どうやって原作との差異をだすか、一夏を懐かしい気分にさせた少女はどう絡ませるか、と言うよりその少女はこの作品には必要なのかと、悩みに悩みました。悩んだ結果・・・

「少女の絡みより、白騎士との対話を重視すべき」

と思い、この様な話になりました。

第二形態・雪羅ではなく白騎士にさせたのも、

『一夏が白騎士の気持ちを理解し、白騎士が一夏の気持ちを理解している』

と言う表れであります。

互いの気持ちを理解してこそ、誰かを守る事ができると作者は考えています。

原作は・・・相互理解できることを祈っています。



次回は白式こと白騎士と、SHINOBIこと千冬の活躍を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第31話

今回で臨海学校編は終了。

執筆して思ったのが・・・戦闘描写が下手だ。


俺は白騎士でゴーレム達に挑みにかかったが・・・

 

「こ、これは・・・」

 

ゴーレム達を圧倒している。

 

最初は白騎士の性能が高いと思っていたけど違う。

 

俺の戦い方を完全に理解してる。いや・・・俺の考えた通りの動きができる!

 

「はあっ!」

 

気付けば、俺はゴーレム一体の頭を切り落としていた。

 

「次ぃ!」

 

ゴーレム達はシールドビットで俺の動きを封じ込めようと動いたが

 

「遅い!」

 

白騎士の左腕から放たれた荷電粒子砲で一体落とし、残りの二機を零落白夜で切り落とした。

 

「すごい・・・」

 

俺は改めて白騎士の強さに驚愕していた。

 

スピードは白式の三倍以上の速さ。加速のためのエネルギー充填時間及びエネルギー消費量も白式の半分。左腕は大出力の荷電粒子砲と零落白夜のバリアシールドと、白式の弱点だった「射撃」と「防御」がカバーできる。そして、零落白夜のエネルギー消費量は白式の三分の二までに抑えられてる。

 

「白騎士、これがお前の答えなのか」

 

俺には分かる。白騎士は俺の想いに賭けて、この力を託してくれたんだ。だから俺は負けられない。真耶のためにも、家族のためにも、友達のためにも、お前(白騎士)のためにも。

 

「うそ!?三分も経たずにゴーレム五機が全滅!?」

 

束はこの状況を喜びながらも混乱している。

 

「束さん。どうしてこんなことをしたんです!」

 

「いっくんが強くなるためにしたんだよ!その女がいなければ、いっくんはもっと強くなって・・・」

 

「俺は強くなるために愛する人を犠牲にするつもりはない!」

 

結局、箒達と変わらない。自分の都合で真耶を傷つけようとするなんて・・・

 

「いっくん、その女はいっくんを弱くさせるだけだよ。それに紅椿がいれば、いっくんのISは・・・」

 

「真耶は俺に人としての強さを教えてくれた大切な人だ!」

 

「いっくんのIS・・・」

 

「白騎士はそれを理解して、俺に力を託してくれたんだ!紅椿が無くても俺は強くなる!」

 

「いっくん・・・」

 

諦めてく・・・

 

 

 

「姉さん!一体どうし・・・一夏!無事なのか!?」

 

 

 

どうして、こうもタイミングの悪い時に箒が現れるんだ・・・

 

「箒ちゃん・・・私、いっくんの心を動かす事ができなかった」

 

「姉さん・・・じゃあ、この紅椿を渡したのは・・・」

 

「いっくんに箒ちゃんの必要性を示すために渡したけど!いっくんのISがそれを必要としない姿になったから・・・」

 

「何・・・だと・・・!?」

 

何だ・・・この三文芝居?

 

「一夏・・・それがお前の求めた姿なのか?」

 

「これは俺が求めた姿じゃない。白騎士が俺に力を託してくれた姿だ」

 

少なくとも、この白騎士からは想いを表現できる力を持ってると思う。

 

「・・・そうか。お前は、私がいらないと言うのか」

 

「箒、俺は・・・」

 

「なら、お前に私が必要だと証明させる!」

 

「はぁ!?」

 

紅椿が雨月と空裂を構え始めた。すると、紅椿が金色に輝き始めた。

 

「これは・・・単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)!?すごい・・・エネルギーが満タンになった!すごい・・・すごいよ!さすが紅椿!白式のパートナー機だよ!」

 

勝手に箒が興奮してるけど、大丈夫か?

 

「これなら、一夏は私を見捨てたり・・・しない!」

 

箒はもはや敵なしと言わんばかりに俺に目がけて突撃し始めた。

 

「一夏ぁぁぁ!」

 

本気で戦わなければやられると覚悟し、俺は箒に立ち向かったが・・・

 

 

 

「遅い!」

 

「ぐはぁ!」

 

 

 

零落白夜の一閃で箒は吹き飛ばされた。専用機を持ったからってすぐには強くならない。真耶との特訓で学んだことだ。専用機の性能が良くても、搭乗者が性能を引き出さなければ意味はない。それに箒の動きが止まって見えた。ここを斬ってくれと言わんばかり隙が大きかったな。

 

「まだだ!まだ、終わらんよ!」

 

箒は完全に理解してない。というより、箒の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が反則的すぎる。あれじゃ、事実上エネルギーが無限じゃないか。

 

「くそっ」

 

こっちも応戦したいけど、さっきの連戦で零落白夜を使ったせいでエネルギーが三分の一ぐらいしかない。

 

「だけど、やるしかない!俺がたたかわなきゃ、誰が真耶を守れるんだ!」

 

「守らなくていい!私が一夏を・・・一夏を守るからぁ!」

 

俺は箒の一撃をカウンターで切り返そうと構えたが・・・

 

倒れたゴーレムが俺の足を掴み邪魔をする。

 

「しまった!」

 

「一夏ぁぁぁ!」

 

ゴーレムに蹴り飛ばしたが、箒が目の前に迫ってた。

 

「たあぁぁぁ!」

 

箒の一閃が俺の体に・・・

 

 

 

「待ていッ!」

 

 

 

刻まれる前に放たれた一本の剣が紅椿を突き放した。

 

「これは・・・剣狼!」

 

箒、その剣の名前を憶えているんだ。

 

「な、何なの!?」

 

束は剣が放たれた方を見た。そこには・・・

 

 

 

「人は誰でも宇宙を動かせるほどの無限の力を秘めている・・・」

 

箒は何かトラウマを掘り返されたのか、ガクガクと震え始めてる。

 

「しかし、その力を破壊と殺戮に使おうとする者もいるだろう・・・」

 

束は何が起こってるのか絶賛混乱中。

 

「創造に使うか、破壊に使うかは人に委ねられた最後の選択なのだ」

 

真耶はヒーロー番組のヒロインみたいに姿を現した。

 

「あらゆる生命の源である光を絶やすまいとする心・・・」

 

いつも気になってたが、どこからトランペットとギターが鳴っているんだ?

 

「人、それを愛情という・・・!」

 

・・・もう、ツッコむのはやめよう。

 

「お前はちーちゃんじゃない、偽物だ!お前の正体は何だ!」

 

「クロノス族の意思を受け継ぐ者・・・織斑千冬!闇の支配からこの世を守れとの命により、ここに正義の鉄槌を下す・・・!!」

 

聞いてて恥ずかしくなってきた。

 

「お前はちーちゃんじゃない!ちーちゃんを返せ!」

 

「束!私は貴様の友としてお前を倒す!」

 

会話が成立してないよ、二人とも。

 

「天空宙心拳!しょぉぉぉ雷ッ!」

 

千冬姉が右手を天にかざした瞬間、雷が千冬姉の右手に溜まってる。千冬姉・・・人間ですか?

 

「とおああーーっ!」

 

千冬姉は呆然自失となってる箒を・・・

 

「サンダァー・クロォゥッ!」

 

・・・殴った。何度見てるはずなんだけど、最初から見てみると・・・やっぱり人ができる技じゃないよね。

 

「ぐおわぁぁ!」

 

そのまま箒は吹き飛ばされ、岩盤に叩きつけられた。

 

「貴様はそこでおとなしく寝ていろ」

 

千冬姉はそのまま、束に迫って行った。

 

「ちーちゃん、何があったの!?」

 

「私は貴様の口車に乗り、過ちを犯した。その過ちを償うために私は貴様を討つ!」

 

「こんなの、ちーちゃんじゃない!ちーちゃんはどこにいったの!」

 

「貴様の知っている織斑千冬は死んだ!」

 

束は今の千冬姉を受け入れられずに混乱している。

 

「そうか・・・ちーちゃんがこうなったのも、あの女のせいなのか。だったら・・・早くこの世界から消さないと!」

 

束は真耶の所へ猛ダッシュで・・・

 

「させるかっ!」

 

襲わせなかった。

 

「いっくん!?」

 

「真耶に指一本触れさせない!」

 

「何、言ってるの!あの女のどこがいいの!?」

 

「俺は・・・」

 

だったら思い切って言ってやる。

 

 

 

「真耶の全てが好きだぁぁぁ!」

 

 

 

束を蹴り飛ばし、千冬姉にすべてを任せた。

 

「千冬姉!」

 

「分かった・・・すべてにケリをつける!」

 

千冬姉は剣狼を取りだし、最後の一撃を・・・

 

「天空真剣極意・・・二刀一刃!」

 

剣狼と・・・雪片?俺が持ってるのも雪片だけど・・・。

 

「天よ地よ、火よ水よ!我に力を与えたまえ・・・!」

 

剣狼と雪片を繋ぎ合わせて振り回してるけど、これはツッコまざるえない。

 

「これは、戦略的撤退!」

 

束は地面にバウンドする瞬間に方向転換して、お手製ニンジン型ロケットに乗って脱出を試みようとするが・・・

 

「とおああーーっ!」

 

「えっ!?」

 

時すでに遅し。千冬姉はロケットに連続回転斬りで斬りかかり、キックで蹴り上げた。

 

「はああっ!運命両断剣ッ!・・・」

 

跳びあがりロケットを突き、地面へ蹴り飛ばし・・・

 

「ツインブレェェーードッ!」

 

縦切りでトドメをさした。

 

「これぞすべてを断つ一刀なり・・・成敗!」

 

ニンジン型ロケットは無残に爆発し・・・

 

「グオアァァァァッ!」

 

そんな断末魔を上げながら、束は空の彼方へ飛んで行った。

 

「千冬姉、どうやって雪片を?」

 

「剣狼が起こした奇跡だ」

 

その理由はおかしい。

 

 

 

 

 

 

「篠ノ之、何か言うべきことはあるか?」

 

「わ、私は一夏・・・」

 

「言うべきことは無いようだな」

 

「待ってください!私は・・・」

 

「言っておくが、一夏が乗っているのは白式ではない。白騎士だ」

 

「な・・・!?」

 

「それに、紅椿が無くてもあいつはいつも通りに戦える。お前もいい加減、一夏から自立しろ」

 

戦いの後、小屋の一室で千冬姉は箒の説教してる中、俺は真耶の看護をしている。

 

「真耶、大丈夫?」

 

「大丈夫。ちょっと足を捻っただけだから」

 

「そうか」

 

俺は少し安堵しながら、真耶の右足に湿布を付け終えた。

 

「ねえ、一夏君」

 

「どうしたんだい、真耶?」

 

「私の全てが好きって言ったよね?」

 

「ああ」

 

「具体的に教えてくれない?」

 

顔を赤らめて質問してくる真耶に俺は想いの全てを・・・

 

 

 

「お前達、今は授業中だという事を忘れるな」

 

 

 

言えなかった。

 

「千冬姉、頼む。真耶に・・・」

 

「織斑先生と山田先生だ。公私混同するのもいい加減にしろ」

 

「・・・ごめん」

 

千冬姉、束の事でかなり不機嫌だからこれ以上のワガママはよそう。

 

「だが、お前の戦いぶりを見る限り白騎士はお前の専用機になったようだな」

 

「ああ。白騎士は俺の想いを理解して、力を託してくれたんだ」

 

「理解か・・・私には到底出来ない事だな」

 

千冬姉は自嘲しながらも、俺の成長を認めているようだ。

 

「私は銀の福音の後始末をする。お前は山田先生の看護を続けろ」

 

「分かった」

 

そう言い、千冬姉は風の如く消えた。自重しないんだ・・・

 

「一夏君」

 

「どうしたの?」

 

「私の質問、まだ答えてないよ」

 

「ああ、そうだったな」

 

でも、ここで答えたら三人(セシリアと鈴とシャルロット)が来て面倒になるかもしれない。

 

「答えは夏休みになってから言うよ」

 

「えぇ!それはダメです!」

 

俺の答えに真耶は不満げな顔をする。

 

「だったら・・・」

 

「え!?」

 

俺は真耶を押し倒し、顔を近づけた。

 

「真耶が満足するまで、俺の唇・・・味わっていいよ」

 

我ながら恥ずかしいセリフだ。後世には伝えてはならないセリフだ。

 

「じゃあ・・・いただきます」

 

真耶は俺を押しのいて形勢を逆転し、俺の唇を味わい始める。

 

夕陽が部屋に差し込み波の打つ音が静かに鳴り響く中、俺と真耶は互いの唇を味わいつつ一時の幸せをかみしめていた。




次回、一学期終業式と言う名の第一部最終回。

ちなみに夏休みも二学期も執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第32話

今回は、一学期終業式と夏休み初日の話です。

あれ・・・エピローグとプロローグが一緒になってしまった。

おまけに・・・甘くない。


臨海学校から数日が経ち、一学期の終業式を迎えた。

 

俺は白騎士を手に入れたからと言って、慢心はしていない。

 

終業式前日に真耶と戦ったが、俺の惨敗で終わった。

 

白騎士になっても撃たれ、白式より速くなっても撃たれ、操作技術が上達しても撃たれるだけで終わった。

 

と言うより、俺が強くなるに比例して、真耶が強くなってる。

 

どうやら、臨海学校の件で真耶に専用機を支給する話が持ち上がったんだが・・・

 

『たとえ量産機でも私の専用機はラファールです。それに、一夏君という最愛の人が私を強くさせてくれます』

 

そのセリフが原因で、教職員達が授業より夏休みの合コンの準備に力を注ぎ、教職員達による学級崩壊が起こりかけたとかないとか。

 

真耶は今のラファールを使い続けると言って俺に圧勝。確かに専用機はいらないな。

 

俺は自分が井の中の蛙だというのを知り、今後も真耶と一緒にISの特訓を続けることにした。

 

後、マドカが普通の女の子に戻ると言った。何でも、戦う理由がなくなったということで普通の女の子になると。その事に俺は驚いたが、マドカも人並みの幸せが欲しいんだと思い、俺と千冬姉は祝福した。千冬姉も普通の女の子に戻ればいいのに。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「それでは皆さん。二学期にまた会いましょう!」

 

真耶の言葉で一学期最後のSHRが終わり、夏休みが始まった。

 

俺は・・・

 

「織斑、話がある」

 

千冬姉に呼び出された。何で?

 

「一体、話って?」

 

「夏休みの間だが、私は家に帰れない」

 

「突然、何を?」

 

「このまま夏休みを迎える事が出来ないという事だ」

 

突然の話について来れないんですが・・・

 

「えっと・・・どうして?」

 

「マドカを入学させた理由を知ってるか」

 

「マドカの背後にある組織を調べるためだろ?」

 

「その組織を夏休み中に壊滅させることにした」

 

・・・え?

 

「えっと・・・一人で?」

 

「ああ」

 

「仲間は?」

 

「これは私の独断専行だ」

 

うわぁ、組織が一週間で壊滅しそう。

 

「マドカにも後で連絡をする。お前は有意義な夏休みを送ってくれ。私もお前達と帰省することを楽しみにしていたが、仕方のないことだ」

 

そう言い、落胆してる所を見ると苦渋の決断だったんだな。

 

「まあ、実家にいる間は山田君に保護者として同伴させるが」

 

「え!真耶が一緒に・・・」

 

「山田先生だ!お前の公私混同はいつになったら治るんだ」

 

「あ・・・ごめん」

 

「このことは山田君にも伝えてある。夏休みを精一杯楽しめ」

 

「分かった」

 

夏休み、真耶と一緒にいられるのか。実家だから学園みたいに誰かに襲われることもないし、有意義な夏休みになるぞ。

 

「だが、お前と山田君が淫乱な行動を起こし、周囲に迷惑を掛けた場合は・・・分かってるだろうな?」

 

「はい・・・気をつけます」

 

千冬姉、出席簿が紙屑のように丸まってるよ・・・

 

 

 

 

 

 

「一夏君、マドカさん。忘れ物はありませんか?」

 

「ああ。俺は無いぜ」

 

「私も」

 

「それじゃあ、行きましょう」

 

翌日、俺とマドカと真耶は必要な荷物を背負い学園を後にした。

 

「まさか、真耶と一緒に帰省できるなんて思いもしなかったよ」

 

「私も織斑先生に頼まれた時はびっくりしました。でも、私は保護者ですから」

 

「分かってるって」

 

こうして真耶と一緒にのんびりといられるんだから、たくさん思い出を作らないと。

 

「それに、マドカの恋も実るように応援しないとな」

 

「に、兄さん!?」

 

「千冬姉から聞いたよ。マドカが想いを寄せてる相手がいるって」

 

「姉さんが!?」

 

マドカが顔を赤くしてる。少し前はそんな顔なんて見れないしな。それに、今着ている服は三人(清香と癒子とのほほん)が選んで買ってきたものだからな。

 

黒のスカートに白のTシャツの上に白のラインが入った半袖の上着。三人曰く、最初は無難なものを選んでみたと言う。

 

まあ、『てめえらの血は何色だぁ!』とか『働いたら負け』とかがプリントされたTシャツを着るよりはマシだ。

 

「そうですね。マドカさんの想い人って誰なんでしょうね?」

 

「ふ、二人には関係のない話だ。二人は二人で・・・思い出を作ればいい」

 

「そうだけど、マドカの恋模様も気になるなぁ」

 

「うぅ・・・」

 

マドカが恥ずかしくなりながら、俺達三人は実家へ向かって行った。

 

 

 

「ここが、私達の家・・・」

 

「ああ、そうだよ。俺とマドカの実家だ」

 

マドカが黄昏てる中、実家の前にいる。

 

庭は雑草が少し生い茂っているが、他の所は昔のままだ。

 

「とりあえず、中に入って荷物を置きましょう」

 

真耶の声に導かれるようにマドカは家の中に入って行ったが、少し寂しい顔をしていた。

 

「部屋は大丈夫みたいだ」

 

「じゃあ、私は買い物に行きますので一夏君とマドカさんは部屋の掃除をお願いします」

 

「分かった」

 

真耶は学園で着ている服のまま、買い物に出かけて行った。

 

「さて・・・」

 

俺は掃除を始めると同時に一つの問題を解決しに行動を起こす。

 

「マドカ、一緒に手伝って欲しいんだけど?」

 

「何だ?」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「随分、ホコリかぶってるな」

 

「兄さん。ここは一人で掃除した方がいいのでは」

 

「いや、ここは二人でやった方が効率的だと思うんだが」

 

「そうなのか?」

 

「そうだと思うけど」

 

俺はマドカと一緒に二階の衣服などがしまわれている部屋を掃除している。本当は掃除しなくても良いんだけど、俺の記憶が正しければこの部屋に何かをしまった記憶があるんだ。

 

「兄さん、一体何を企んでる?」

 

「別に。ただ、ここを今日掃除しなかったらずっとしないと思うからやってるだけ」

 

「そう・・・」

 

やっぱりマドカの顔が暗い。早くその何かが見つかればいいんだが・・・

 

 

 

「ふう。ここの部屋の掃除は終わった」

 

「そうだな」

 

結局、その何かが見つかることなく二十分で部屋の掃除は終わった。

 

「兄さん。次はどこの部屋を掃除するんだ?」

 

「そうだな・・・」

 

俺は次に掃除する場所を考えようと目線を上げたら・・・

 

「マドカ、棚の上にある箱はなんだ?」

 

「掃除し損ねたモノだな」

 

あの箱は・・・

 

「マドカ。肩車するから、それを取ってくれないか?」

 

「別に構わないが」

 

俺はマドカを肩車してその箱を取らせた。

 

「兄さん。これは何だ?」

 

その箱はガムテープで何重にも巻かれてあり、そのガムテープには・・・

 

いちかとまどか

 

と、ペンで汚く書かれていた。

 

「これは一階で開けてみるか」

 

俺はその箱を見た時、うっすらとだが昔の記憶が戻った気がする。

 

 

 

「兄さん。わざわざ山田先生と一緒に開けなくていい」

 

「まあ、そう言うなって」

 

「でも、箱の中には何が入ってるんだろう?」

 

俺は買い物から帰って来た真耶と三人で箱に巻かれてあるガムテープを剥がしていた。しかし、誰が何重にガムテープを巻いたんだ?

 

「やっと、箱とのご対面だ」

 

ガムテープをすべて剥がした箱の正体は金属製のお菓子箱だった。

 

「箱の中身は何だ?」

 

「開けてみる」

 

マドカに促されて箱を開けた。

 

「これは・・・」

 

箱の中には小さなおもちゃや文房具が入っており、その中に封筒が入っていた。

 

「何だこの封筒は?」

 

俺は封筒を取り出し中身を出してみると・・・

 

「写真と・・・カセットテープ」

 

俺はカセットテープをケースから取り出し、CDコンポにセットして再生ボタンを押した。

 

「一夏君。この写真・・・」

 

「ああ。俺の記憶が正しければこれは・・・」

 

真耶は写真を見つめ、俺とマドカはカセットテープから流れる音声に耳を傾けた。

 

 

 

『ちふゆおねえちゃん。なにかいって!』

 

『一夏、一体どうしたんだ?』

 

幼い頃の俺と千冬姉の会話だ。しかも・・・

 

『まどかがようちえんにはいったから、おいわいのことば』

 

『そうか。でも、どうしてカセットテープを持ってるんだ?』

 

『おもいでをのこしたい!』

 

『まだ四歳なのに難しい言葉を使うなんて、頭が良くなったな』

 

『うん!だからいって!』

 

 

 

五歳より前の出来事だ。

 

「思い出した。確か俺は千冬姉にマドカの幼稚園の入園祝いにお祝いのメッセージを入れたカセットテープを隠したんだ。大人になった時、マドカと一緒に聞くために」

 

「・・・・・・」

 

マドカは何も言わずにただ、CDコンポの前に座っていた。

 

 

 

『マドカ。幼稚園の入園おめでとうお前が大人になった時、私や一夏は一体何をしてるんだろうな?』

 

『さっかーせんしゅ!』

 

『一夏。お前はそうなのか。私はそうだな・・・剣道の師範でもやっているだろうな。だから・・・』

 

『ちふゆおねえちゃん、いちかおにいちゃん。なにやってるの?』

 

この声は・・・マドカの声だ!

 

『ひみつ!』

 

『おねえちゃーん!』

 

『一夏、いじわるしない。マドカ、大人になったら何になりたいんだ?』

 

『およめさん!』

 

『マドカはおよめさんか。きっといい大人になれるよ』

 

『うん!』

 

『ちふゆおねえちゃん!』

 

『お兄ちゃんなんだから、妹をいじめない!』

 

『いじめてない!』

 

『ん・・・親が帰って来たか』

 

『おとうさんだ!』

 

『おかあさんだ!』

 

『迎えに行ったらどうだ?』

 

『『はーい!』』

 

幼い俺とマドカは顔を思い出せない両親を迎えに下駄箱まで走って行った。

 

『一夏、マドカ。二人が将来、どんな大人になってるのか私に想像はできない。けど、これだけは言える。私達は家族なんだ。笑って、怒って、泣いて、それを共有できり家族は素晴らしいと思う。だから、いい大人になってくれ。これが私からへのメッセージだ』

 

『『おかえりー!』』

 

『どうやら時間だ。二人とも、仲良くするんだぞ!』

 

ここで音声は途切れた。

 

 

 

幼稚園の入園祝いのメッセージという名の未来の自分へのメッセージだった。

 

「まだ、家族がいた頃の記録が残ってたなんて」

 

「俺は嬉しいよ。マドカと一緒にいた頃の思い出があることを」

 

俺はカセットテープを取り出しケースに入れ、マドカの方を見た。

 

「ぐず・・・はぁ・・・私にも・・・思い出があったなんて・・・」

 

大粒の涙を拭いながらも、マドカは家族との思い出があることに喜んでいた。編入直後にマドカは・・・

 

 

 

『自分には家族の思い出は無い』

 

 

 

って言ってた。だけど、それも今日までの事だ。

 

「マドカ、俺達にも家族と思い出はあったな」

 

「うん・・・」

 

「良かったな」

 

「うん・・・」

 

俺はマドカを抱きしめ、マドカは俺の胸の中で大声で泣き叫んだ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「そんなことがあったのか」

 

「はい。特にマドカさんには嬉しいことだと思います」

 

「そうだな。私も記憶がうろ覚えだからあまり覚えていないが、そのときの一夏の顔は笑ってたな」

 

夜になり、私は織斑先生に今日の出来事について話していた。あの後三人で仲良く夕食の支度をしたけど、マドカさんの顔は前より活き活きとして、昨日まであった厳しい態度は無くなって少し明るくなりました。

 

「で、その二人はどうしてるんだ?」

 

「今、二階で二人仲良く寝ています」

 

「そうか。すまないな、お前に保護者なんか押し付けてしまって」

 

「いいえ。一夏君もマドカさんも喜んでいましたから。織斑先生も無理をしないでくださいね」

 

「分かってる。今、マドカの上司にあたる人物を倒しに行く所だ」

 

「え、ええ・・・」

 

今更ですけど、織斑先生に勝てる人間はいない気がします。

 

「とにかく。私は五体満足、無傷無病で帰って来る。それまでの間だ、楽しい夏休みを過ごせ」

 

「はい。それでは失礼します」

 

私は電話を切り、テーブルの上にある写真を笑顔で見つめた。

 

「良かったね。家族の思い出が見つかって」

 

 

 

幼い頃の一夏君とマドカさんと織斑先生が笑顔で映っている写真。

 

それはカセットテープと一緒に入っていた家族との思い出の写真である。




次回は、五反田弾の受難を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第33話

今回は弾の修羅場 前編です。


「一夏頼む!この通りだ!」

 

「お前の自業自得だろ?」

 

「確かにそうだ。だけど俺一人じゃ、対処しきれないんだ!」

 

夏休みが始まって三日経ったある日、俺は弾にメールで呼ばれファミレスで話をしてるんだが・・・

 

「弾。お前が二股してる話を聞かされても、俺はどうしようもないぞ」

 

「そこを何とか!」

 

俺の親友、五反田弾。

 

二股が原因で窮地に立たされている男。

 

「二股をしてる事は、二人にばれてる?」

 

「ああ・・・」

 

「これはいくらなんでも、お手上げだよ。大体、お前がどちらかを選んで選ばれなかった方の裁きを喰らえばいい話だろ?」

 

弾は近い時期に二人と出会い、メアドを交換して二股してる事を内緒に会ってたんだが・・・

 

ある日、レゾナンスで弾と二人の彼女がバッタリ会ってしまい二股が発覚。夏休みに答えを出すよう二人の彼女に言われた。しかも答えを出す日が明日の朝、レゾナンスで二人の彼女とデートをした後に言うという。弾の寿命が確実に縮むな。弾は今日まで答えを出そうと考えてたが・・・

 

「無理なんだよ!片方の女性は怒ると怖いけど、いつも女神の様に微笑んでしっかりしている女性なんだ。もう片方は一見クールに見えるけど、実は可愛らしい所があるクーデレの女性なんだよ」

 

「どんだけ女に飢えてるんだよ・・・」

 

「黙れ!いつも真耶さんとイチャコラしてるお前には分かるまい!彼女が出来たくても出来ない者の苦しみを!」

 

「人、それを妬みと言う」

 

「がはっ!これが彼女持ちの余裕と言うものか!」

 

弾、お前が気持ちをキッチリしなかったのがいけないんだぞ。

 

「とにかく、俺を助けてくれよ!」

 

「じゃあ、俺と真耶に奢ってくれるなら助けるよ」

 

「いや!ある物をあげるから、奢るのは勘弁してくれ!」

 

「ある物?」

 

「ああ」

 

弾は袋からある本を取り出した。

 

「これをあげるから、協力してくれないか?」

 

「お前・・・これは・・・」

 

弾が俺に差し出した本。それは・・・

 

 

 

「山田先生の写真集・・・」

 

 

 

俺は表紙のISスーツを纏った真耶に目を奪われていた。今と変わらない顔つきと体つき。そして笑顔・・・これは堪らない。

 

「代表候補生時代の写真集なんだけど、出荷数が少なくて今ではプレミアがついてるんだ」

 

「お前、これをどこで?」

 

「実は店が休みの時、都心をぶらり遊び歩いていて適当に寄った本屋さんにこれが売ってあったんだ。しかも、新品の定価で!」

 

「うそ・・・だろ・・・」

 

「しかもその店主、近い内に引っ越すから定価の半分でくれたんだ」

 

「マジかよ!?」

 

俺は思わず声を荒げてしまった。

 

「静かにしろよ。それで一応中身を確認したらさ、真耶さんの色んな姿を拝見できたぜ」

 

「どんなのだ?」

 

「それを知りたかったら、俺に協力してくれ」

 

俺は真耶の写真集に心を奪われ、弾に協力することを約束した。

 

「弾、その写真集を」

 

「OK。一夏、やっぱりお前は最高の友達だぜ!」

 

「ああ。お前は最高の友達だ!」

 

取引が成立し、俺は弾から真耶の写真集を・・・

 

 

 

「だ、ダメです!」

 

「ま、真耶!?」

 

 

 

受け取れなかった。真耶が慌てて、奪い取ったのだ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

あの後、俺は真耶に事情を説明して真耶も協力することで事なきを得たが・・・

 

「一夏君。弾君に協力をするのは良いけど、私の写真集を貰うのはダメ!」

 

「いや・・・ごめん」

 

俺は真耶に怒られながら帰宅している最中である。代表候補生時代の写真集が相当恥ずかしいみたいだ。

 

「ところで真耶。代表候補生の頃の話をあまりしないのも、その本が原因なのか?」

 

「そうです!私の体しか興味を示さなくて、実力を見てくれませんでした!」

 

かなり不機嫌な真耶は声を荒げながらも俺の手を離さなかった。

 

「一夏君はそんなことないと思ってたのに・・・」

 

「ごめん!代表候補生時代の真耶の姿を見た事なくて、興味本位でつい・・・」

 

「もう。そんなに見たかったら・・・一緒に見る?」

 

「え?」

 

「周りは私の体しか興味を示してくれなかったけど、一夏君なら特別に・・・」

 

真耶、本当は現役時代の姿を見せたいのかな?

 

「大丈夫だよ。どんな写真が載ってても俺は真耶の見る目を変えることはないよ。それに真耶はどんな姿をしても似合うから」

 

「じゃ、じゃあ、帰ったら二人きりで見よう」

 

「ああ」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「へえ、これが真耶の専用機か」

 

「昔はあんまりISの事を理解してなかったから、性能に頼った戦いをしてたなぁ」

 

夜、マドカが熟睡してるのを確認し、俺と真耶は一階のソファーで弾からもらった真耶の代表候補生時代の写真集を見ていた。

 

専用機で空を駆ける真耶、ISスーツで色んなポーズをとる真耶、色んなコスチュームを着てる真耶。色んな姿の真耶が写真集に収められている。

 

「確か二つ名が、銃央矛塵(キリング・フィールド)だよな?」

 

「ど、どうして知ってるの!?」

 

「千冬姉が酔ってた時に言ってたよ。でも、どうして専用機の話を断ったんだ?俺がいるから強くなれるからって言うけど」

 

「今の私は代表候補生じゃなくて一組の副担任。生徒を誤った道に歩ませないようにするのが私のやるべきことだと思ってるの」

 

「誤った道?」

 

「専用機を持てば誰にも負けない。そういう考えを持ってる生徒達が後を絶たないの。確かに専用機は量産機より性能が高い。専用機を手に入れることは強大な力を得たと言っても過言ではない。だけど、打鉄やラファールなどの量産機だって頑張れば専用機を倒すことができる。専用機の力が全てじゃない事をみんなに示したいの」

 

「だから、かつての専用機はいらないと」

 

「うん。かつての専用機と言ってもラファールの改造機だから、今使ってるラファールとそんなに変わらないし、それに私の努力も少しずつだけど成果を見せてるから」

 

「そうなの?」

 

「うん。数日前に二組の生徒から、先生のお陰で同じ二組の専用機と互角に戦えたって笑顔で言ってくれたの」

 

うわぁ・・・鈴、大丈夫かな?二学期になって、俺に対する行動が激しくなりそう。

 

「だから、私はこれからもラファール・リヴァイブで頑張るって決めたの」

 

「真耶が専用機に乗って戦う姿を見たかったけど、俺が言える立場じゃないな」

 

この強い意志が真耶を強くさせてるんだな。

 

「そうだよ。私は一夏君がいるから強くなってるの。だから白騎士になっても慢心しちゃ、ダメだからね」

 

「分かってるよ、山田真耶専任コーチ」

 

学園公認の「織斑一夏専任コーチ」だからな。

 

「もう!突然、他人行儀になって!」

 

「で、今日の特訓メニューは何ですか?コーチ?」

 

俺は気にせず真耶をからかった。

 

「じゃあ・・・えい!」

 

「おわっ!」

 

真耶は俺を床に押し倒した。

 

「今日は私を困らせた罰として、私の好きなようにさせていただきます!」

 

「分かったよ真耶」

 

夏休みで夜中になってるから、少しぐらい羽目を外しても問題は無い。

 

「じゃあ、最初は・・・」

 

 

 

「早く寝ろ・・・」

 

このパターンは・・・

 

 

 

「ま、マドカさん!?」

 

黒のタンクトップに黒の短パン姿で重い瞼を擦りながらマドカは現れた。

 

「二人とも・・・今、何時だと思ってる?」

 

「今は、夜の十二時を迎えようと・・・」

 

「寝ろ」

 

真耶の答えを遮り、寝ることを勧める姿は眠くて不機嫌な千冬姉そっくりだ。

 

「私は明日・・・朝早く出かけなければ・・・ならないんだ。お前たちが・・・睡眠の妨げになるのなら・・・・・・殺すぞ」

 

「「ごめんなさい」」

 

羽目を外すのは本当に二人きりの時にしよう。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

翌日、俺と真耶は約束通りに弾のデートをサポートするためレゾナンスにいる。

 

レゾナンスの広場に弾は彼女が来るのを待っていて、俺と真耶はそこから少し離れた喫茶店で見守っている。

 

「もうそろそろ、弾の彼女達が来る時間だ」

 

「弾くんの彼女って、一体どんな人なんでしょうね?」

 

「そうだな。マドカも来ればよかったけど、一体どんな用事なんだろう・・・っと?」

 

弾が動いた。どうやら彼女達の・・・

 

「真耶・・・あれって・・・」

 

「うん・・・あの人は・・・」

 

弾の前に現れた一人の女性。黒のスカートに白のノースリーブニット姿の女性・・・それは紛れもなくマドカだ。

 

「真耶。夢・・・だよな?」

 

「夢・・・じゃないみたいです」

 

想いを寄せてた女性の片割れが俺の妹なのかよ!

 

「一夏君、落ち着いて!弾くんは一夏君に妹がいる事を知ってないから」

 

「あ、ああ。そうだな・・・」

 

俺は手が震えながらも、何とかアイスコーヒーを飲んで落ち着こうとした。

 

「も、もう一人の女性は誰なんだろう?」

 

考える間もなくもう一人の女性が弾に寄って来た。

 

眼鏡にヘアバンド、三つ編みで白のワンピース姿の女性。確かに弾の言う通り、しっかりしている雰囲気はある。

 

「あの人は・・・虚さん?」

 

「真耶、知ってるのか?」

 

「はい。生徒会の会計で本音さんの姉・・・」

 

「ごふっ!」

 

その時、俺は飲んでたアイスコーヒーを噴き出しそうになった。

 

「い、一夏君!?」

 

「だ、大丈夫・・・」

 

弾は二人の彼女に引っ張られながら、どこかへ行かされた。

 

「どこかへ行ったみたいですね。行ってみましょう」

 

「あ、ああ・・・」

 

弾・・・お前の骨は拾うから。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「まさか、マドカの想い人が本音のお姉ちゃんと同じだったなんて・・・」

 

「本音、どうするの?」

 

「見守るしかないよ~」

 

一夏と真耶がいた喫茶店の真上の通路で、三人(相川、谷本、本音)は学園史上最大の三角関係を静かに見守っていた。




今回の話で山田先生の専用機の話が出ましたが、この作品における山田先生は・・・



「機体性能の違いが戦力の決定的差でないことを示す人物」



という立ち位置なので、山田先生の専用機は「ラファール=リヴァイヴ・スペシャル『幕は上げられた(ショウ・マスト・ゴー・オン)』」ではなく、教員用のラファール・リヴァイヴです。(※作者の偏見込み)

作者自身、原作で山田先生の専用機が出た時は、

「また専用機か・・・」

と、げんなりしました。

実際は原作の山田先生との差異を示したかっただけです。

作者のワガママです、すみません・・・



次回は弾の修羅場 後編です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第34話

お待たせしました。

頑張って執筆して、2500字程度が限界でした。

そんな弾の修羅場 後編です。


「弾くん・・・大丈夫かな?」

 

「無事に・・・済みそうにない」

 

俺は親友の弾を見守っているが状況は最悪だ。

 

 

 

「学園生活どう過ごしていたんだ?俺さ、IS学園での生活が良く分かんなくてさ」

 

「「・・・」」

 

「二人は学園内では顔は会わせてるのか?」

 

「「・・・」」

 

 

 

弾が何とか場を盛り上げようと会話を始めても、二人は沈黙。

 

 

 

「弾くん。結構、頑張っているね」

 

「だけど、二人の反応が無いのはちょっと・・・」

 

「何か二人が話しやすい話題はないかしら・・・」

 

 

 

俺と真耶は休憩所から眺めているが、弾のいる場所には行きたくないな。生きて帰れる自信がない。

 

「それにしても、昔の俺ってあんな感じだったのかな?」

 

「一夏君はあまり話をせずに外へ出かけてたけど」

 

「そうだったな。心を開いてからも、どうやって話せばいいのかオドオドしてたなぁ」

 

「今の一夏君からは想像できない程無口だもんね」

 

「そう言うな。真耶だって昔は結構ドジが多かったじゃないか。眼鏡を掛けてるのに眼鏡を探したりして」

 

「あれは、遅刻しそうになって慌ててただけだから」

 

「でも、そういう所も俺は好きだよ」

 

「私だって、一夏君がオドオドしてる所も好きだよ」

 

「お互い、色んな所が好きなんだな」

 

「ええ・・・」

 

俺と真耶が会話に花を咲かしている間に弾は二人を連れてどこかに向かって行った。

 

「あっ、弾くんがレストランに入って行った」

 

「俺達も入るか。昼食を兼ねて」

 

俺と真耶は弾と二人が入ったレストランで昼食をとることにした。

 

 

 

「二人とも、好きなの頼んでいいよ。俺が奢るからさ」

 

「「・・・」」

 

 

 

弾の周りを漂う重い空気がレストランを支配しているのか、やけに静かだ。

 

「随分・・・静かだな」

 

「でも静かに食事ができるから、私はいいかな」

 

「そうか。真耶、あーん」

 

「あーん」

 

「おいしい?」

 

「うん。ここのナポリタン、一度食べてみたかったの。でも・・・」

 

「でも?」

 

「一夏君のナポリタンの方がもっとおいしい」

 

「ありがとう」

 

俺と真耶が食事を堪能してる中、弾は会計を済んでレストランから出て行った。三人が座っていたテーブルを見ると、何かを食べていたのが分かる。

 

「おっと、弾がどこかへ行ったから俺達も行くか」

 

「はい」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「どうすればいいんだ・・・」

 

俺、五反田弾は窮地に立たされている。二人に話を持ち掛けても、食事をしてもノーリアクション。

 

・・・最悪だ。このままだと、俺は二人に振られるのか!

 

「あ、あのさ、二人の趣味は何だい?」

 

「「・・・・・・」」

 

「黙ってたら、何にも分かんないいだけどなぁ」

 

「「・・・・・・」」

 

ああ・・・完全に俺が調子に乗った罰だ。

 

「五反田、行きたい所がある」

 

「どこだい?」

 

マドカちゃんが俺に頼み事を!

 

「レゾナンスの裏に行きたい」

 

・・・処刑確定だ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

俺と真耶はレゾナンスの裏に行った三人を追ってるが・・・

 

「弾・・・完全にマドカに処刑されるぞ」

 

「止めに行った方がいいかしら?」

 

「行かない方が良いと思う」

 

これは弾の問題だ。弾自身でケリを付けなければ意味がない。

 

 

 

「何だ、話って?」

 

「言わなくても分かってるはずだ」

 

「一応聞かないとさ、誤解を招くというか・・・」

 

弾、冷や汗が滝の如く出てるぞ。

 

「では、私から言いましょう」

 

虚さんが口を開いた。というより、凄く怖いんだが・・・

 

「私とマドカさん、どちらを選ぶのですか?」

 

この言葉を聞いた弾は覚悟を決め・・・

 

「二人のどちらかを選ぶかなんて、俺にはできない」

 

 

 

はあぁぁぁぁぁ!?

 

 

 

「どういう意味ですか?」

 

「だって、二人にはそれぞれ違った魅力あって、違った考えを持って、俺にはその違いに惹かれたんだ」

 

それが原因で・・・・・・って、開き直りかよ!

 

「つまり、二人とも愛していると言いたいんだな」

 

「ああ!俺は二人を愛してる!」

 

最悪の告白じゃねぇか!

 

「そう言うと思っていたよ」

 

マドカは感づいていたのか!虚さんは・・・

 

「・・・責任取ってくれますか?」

 

何で顔を赤くしてるんだ!

 

「ああ!責任を持って二人を幸せにする!」

 

もう・・・何が何だか分からん。

 

「一夏君・・・あれ」

 

「ん?」

 

真耶は顔を真っ青にしながら指差してる方を見ると・・・

 

 

 

「お兄・・・」

 

「・・・あ」

 

 

 

妹の蘭だ・・・

 

「真耶、帰ろう」

 

「え!?いいの?」

 

「ああ。これから起こる事を考えると、俺たちはここを離れた方が良い」

 

俺は真耶と一緒にレゾナンスに入った。その直後、弾の悲鳴が聞こえたが俺は何事もなかったように真耶と買い物をした。

 

弾・・・二人を幸せにしろよ。その代償はあまりにも大きいけど。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「マドカ。思いを寄せてた男とはどうなったんだ?」

 

「付き合うことになった」

 

「そうか。ちゃんと、お付き合いするんだぞ」

 

俺と真耶は先に帰り、後から帰って来たマドカから結果を聞いたが・・・弾の安否が気になる。

 

夕食を食べた後、弾に電話をしたら・・・

 

 

 

「今、家族総出で俺の処刑が始まるんだ。一夏・・・短い間だったけど、楽しかったぜ」

 

 

 

とりあえず、弾のご冥福をお祈りいたします。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「弾くん・・・大丈夫かな?」

 

「多分、一週間は寝たきりの生活をしてると思う」

 

マドカが珍しく早く寝てので、俺は真耶と一緒に風呂に入っている。この頃、真耶と二人きりになることがなかったからこういう所でちゃんと二人の思い出を作らないと。

 

「ちゃんと責任取って二人と付きあうって言ったから、大丈夫だよきっと」

 

「その前に千冬姉の鉄槌が下されると思う」

 

弾に二ヶ月の入院生活が待っているのを忘れてた。

 

「でも、弾くんならどうにかすると思うよ」

 

「まあな。なんだかんだで、どうにかしそうで怖いよ」

 

と、ぼやきながら風呂から上がり真耶の背後に回った。

 

「それじゃ、背中を洗うから」

 

「優しくしてね」

 

俺は真耶の背中をタオルで優しく拭き始めた。

 

「一夏君、私とお風呂に入れたのが嬉しかったの?」

 

「ああ。最近、二人きりでいられなかったからさ」

 

「そうだね。じゃあ、一緒に向き合ってお風呂に入ろう」

 

「いいよ」

 

その後、俺と真耶はお風呂という狭い空間の中で二人きりの時間を過ごした。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

ヨーロッパのどこか

 

「五反田弾・・・あいつにもハイクを詠ませなければ・・・」

 

織斑千冬は教会で一時の休息をとり、弾にハイクを詠ませる事を決意する。

 

因みに弾が二股をしてる事を知ったのは・・・

 

 

 

「剣狼の導きだ」




次回は様々な人達の夏休みを執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第35話

TGS2015で「スターウォーズ・バトルフロント」の試遊ができず、傷心のまま執筆したが・・・

山田先生はカワイイ


篠ノ之箒視点

 

 

 

「一夏・・・どうしてお前は私を必要としないんだ・・・」

 

私は風呂で考え事をしていた。

 

昔は私を助けてくれた一夏が今では私を邪魔者扱いする。

 

今まで私は一夏を助けるためにと思い、強くなろうと努力した。

 

なのに・・・

 

 

 

『俺が戦わなきゃ、誰が真耶を守れるんだ!』

 

 

 

あいつは私ではなく、山田先生を選んだ。

 

一夏・・・山田先生のどこが良いんだ?

 

おっちょこちょいで、胸など無駄にデカく、天然で、芯がしっかりしていない女のどこが良いんだ?

 

それとも・・・

 

「私の魅力に気付いてないからか?」

 

それは一理あるかもしれない。もし私の魅力に気付いたなら、山田先生と一緒にいたがらないからな。

 

「一夏・・・私はお前を必ず惚れ直しみせるぞ!」

 

二学期・・・それは私にとっての正念場だ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

鳳鈴音視点

 

 

 

「一夏・・・何があったのよ・・・」

 

アタシは寮のベットで寝そべり、一夏の変化を考えていた。

 

昔の一夏はいつも強さを求めていた。私は一夏が強くなれる様にあいつの無茶を止めつつも、特訓に付き合ったのに・・・

 

「どうしてアタシを必要としないの?」

 

アタシがいれば確実に強くなれるのに、どうして山田先生と一緒にいるの?

 

あんな、無駄に胸と尻がデカくて、どこか間が抜けてて、天然な女のどこが良いの?

 

しかも一介の教師だよ。教師と生徒が付き合ってることに、問題が無いと感じてるの?

 

もしかして・・・

 

「一夏は私の代わりを探してたに違いない!」

 

そうよ!でなかったら、私の前で平気で嘘を言うわけないじゃん!

 

「一夏・・・あんたはアタシが必要だってのを隠しても無駄だからね」

 

二学期・・・それはアタシが一夏を救える最後のチャンスだ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

セシリア・オルコット視点

 

 

 

「はぁ・・・」

 

わたくしは実家に戻り、夜風を浴びておりますが・・・

 

「この気持ちは一体・・・」

 

わたくしは一夏さんに対する気持ちが分からなくなっています。

 

最初は恋心だと信じ、幾度も一夏さんにアプローチを掛けてきたんですが・・・

 

「本当に・・・わたくしは一夏さんを愛しているのでしょうか・・・」

 

一夏さんには山田先生がいる。彼女の存在が一夏さんをより強くさせてるに違いありません。

 

わたくしは、まだ夢を見ているのかもしれません。

 

「なら・・・この気持ちにケジメを付けましょう!」

 

一夏さんに対する思い、山田先生の一夏さんへの愛を確かめなければなりません。

 

もし、山田先生の愛が偽りであるとするなら・・・

 

「一夏さんはわたくしに振り向いてくれるはずです!」

 

二学期・・・それはわたくしの本当の気持ちを確かめる事であります。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

シャルロット・デュノア視点

 

 

 

「一夏・・・僕は諦めないよ・・・」

 

僕は寮のシャワールームで一夏に対する思いを確認した。

 

一夏のお陰で僕はいる。

 

でも一夏は、山田先生しか見ていない。

 

「僕って、そんなに魅力が無いのかな・・・」

 

体つきは山田先生が上だし、ISの操縦技術も天と地の差がある。

 

「ダメダメ!そんなんで諦めちゃダメだよ!」

 

そうだよ。それ以外の所を頑張ればきっと一夏は振り向いてくれるはず。

 

女は体型の良さが全てじゃない事を一夏に教えなきゃ。

 

「僕が一夏を変えるんだ・・・」

 

山田先生のせいで一夏は変わるべき所が変わってないんだ。だったら早くしないと、取り返しのつかないことになる。

 

「待っててね一夏。今度は僕が助けるから」

 

二学期・・・それは一夏を変える事が出来る最後のチャンス。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ視点

 

 

 

「結婚は一年待って欲しいと?」

 

「一年経って、その想いが変わらなければ結婚は認めよう」

 

私は簪の実家でご両親にお付き合いの報告を正式に行っているが、様子がおかしい。

 

「分かりました」

 

「ボーデヴィッヒ君。君から何か言いたいことはあるのかね?」

 

教官の情報だと、ご両親は私と簪のお付き合いには全面的に賛同してるはずだ。なのに言動が控えめだ。まるで実が熟してるにも関わらず、そのまま放置しているかのように。

 

「はい。失礼ながらお聞きしたいのですが、私と簪のお付き合いを認めた理由は何ですか?」

 

真意を確かめるにも手荒な手段は避けなければ。

 

「君には、人を導く素質があると思ったからだ」

 

「人を導く素質?」

 

「君の知っての通り、我が家系は常にこの国を陰で守る事を生業として生きて来た。君の愛した女性はその生業を行うにはあまりにも弱すぎる」

 

親である者が簪を除け者扱いするだと!?

 

「だが、彼女は人を導く者を支える素質は十二分ある。君は彼女の支えがあってこそ、今の自分がいると思わないか?」

 

「そう思っていますが、簪に対しての評価は厳しすぎではありませんか?」

 

幸い簪はこの部屋にはいないが、何故両親は簪に対して厳しすぎるんだ?

 

「いや、彼女はこの家系に生きる事はできない。だからだ。だからこそ、君が簪を守り導いて欲しいのだ」

 

「それは親の務めではないのですか?」

 

「私達は導くことができなかった。精々できたのは家系の宿命を簪に背負わせないのが限界だ。そんな不甲斐ない親が最後に出来る事は簪を幸せにさせることだ」

 

更識家の宿命・・・それは呪いと言っても過言でもない。簪にはその呪いに苦しむことなく幸せに送って欲しいのか。

 

「このことは楯無にも話しておく。君は簪といつも通り過ごしてくれ」

 

「分かりました」

 

二学期・・・それは簪との想いを確かめ合い、深め合うチャンスだ。

 

 

 

 

 

 

「ちょっとお父さん!何、重い雰囲気にしてるの!」

 

「更識楯無!貴様、盗み聞きしてたのか!」

 

「呼び捨てしない!」

 

こんな時に楯無が!

 

「言っておくけど、私の家系はそんな重苦しいものじゃないし、簪ちゃんなら当主になっても問題はありません!」

 

「目の前の現実を見れない女がよく言うものだ!」

 

「それはそっちでしょ!デパートや旅館で破廉恥な事をして!」

 

「愛を知らないからすべてが破廉恥に見えるのだ!」

 

「知ってても破廉恥でしょ!」

 

「そこまでだ二人とも!」

 

私は簪の両親の前で失態を犯して・・・

 

「楯無。お前は、何故簪の付き合いに否定的だ?」

 

「まだ付き合って一年ぐらいで結婚は早すぎるわよ!」

 

「少なくとも、彼女は良いのかと・・・」

 

「法的に無理でしょ!」

 

 

 

・・・どうやら、簪の父上はユーモアセンスのあるお方だ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

山田真耶視点

 

「ふふっ。一夏君の寝顔はかわいいな」

 

私は今、ベットで一夏君と一緒に寝ています。

 

明日は一夏君と一緒にプールデートすると思うと、ワクワクして寝れません。

 

「寝てるから・・・」

 

ちょぴりイタズラしちゃおう。

 

「ん・・・ちゅっ!」

 

私は寝てる一夏君に長めのキスをしたけど・・・

 

「ちゃんと起きてる時にキスをしよう」

 

やっぱり一夏君とのキスはちゃんとしないとね。

 

「じゃあ、おやすみなさい一夏君」

 

私は睡魔に身を委ね、そのまま眠りについた。

 

 

 

そして、早朝・・・

 

「おはよう・・・一夏君」

 

「おはよう。真耶」

 

私と一夏君はタイミングよく同時に起きた。恋人だから、こんなこともできるのかな?

 

「真耶・・・」

 

「はーい」

 

私は一夏君の顔を自分の胸に押し当て、頭を撫でた。いつもやってることだけど、今日はプールデートだから特別に・・・

 

「一夏君・・・キスしたい」

 

「いいのか?キスなんてしたら、プールデートが出来なくなるよ」

 

「デートで他の女性に目移りさせないためだから」

 

本当は一夏君とキスしたいだけなんだけどね。

 

「分かった。じゃあ真耶・・・んっ」

 

「ん・・・んふっ・・・ふぅ・・・ちゅぱ・・・れろ・・・んんっ・・・ぷはぁ!」

 

私は一夏君の唇に溢れんばかりの想いを注ぎ込んだ。

 

「おはよう一夏君」

 

「おはよう真耶。それより、今日はいつもよキスが強かったな」

 

「今日はプールデートだから、張り切っちゃった!」

 

「だったら、真耶を喜ばせないとな」

 

「期待してるよ」

 

こうして、プールデートは始まりました。




次回は、一夏と山田先生のプールデート回の予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第36話

皆さん、お待たせしました。

プールデート回です。

スランプみたいなものがまた来ましたので、更新ペースが遅くなります。

どうしてやって来るんだスランプは・・・


弾の告白から一週間経ちました。弾曰く、

 

「蘭が俺をゴミみたいな目で見る様になって辛い」

 

蘭との関係は悪化の一途を辿っています。はっきり言って俺では対処できないし、それを対価にマドカと虚さんと付き合う事ができたんだ。腹を括ってくれ。男なんだから・・・

 

で、俺はと言うと・・・

 

 

 

「一夏君。こっち!」

 

「真耶。子供みたいにはしゃがない」

 

「だって、二人きりのデートなんて久しぶりだから」

 

「俺だって二人きりのデートは久しぶりさ。だから目一杯楽しもう」

 

真耶と久々のデート。しかもプールデートだ。マドカは空気を読んで留守番してくれたから、後でお土産でも買わないとな。

 

最近、二人きりになれなかったから真耶が喜ぶのも納得はする。

 

「ここのプールは初めてだけど、真耶は行ったことあるの?」

 

「はい。良い男を捕まえると言って同僚の方に無理矢理連れて行かされたから楽しめなかったけど、今は一夏君と一緒だから楽しみたいの」

 

「そうか。俺も真耶と楽しみたいよ」

 

俺は真耶との想いを確かめ合い、受付へと向かった。

 

 

 

「えっと、更衣室はこっちか」

 

受付を終えた俺と真耶は互いの更衣室に向かって行た。

 

「一夏君、プールサイドで会おうね」

 

「ああ。待ってるよ」

 

そういえば、真耶の水着は・・・何だっけ?色々とありすぎたせいで肝心な所を忘れてしまった。

 

「真耶は何を着ても似合うからな。大丈夫だ」

 

俺は自分を納得させて水着に着替え、プールサイドへ向かった。

 

 

 

「うわぁ。人が多いな」

 

プールサイドを埋め尽くす人、人、人。プールを埋め尽くす人、人、人。

 

プールサイドで会おうって真耶と約束したけど・・・

 

「見つかるかな?」

 

この人ごみの中で真耶を見つけるのは・・・

 

「一夏くーん!」

 

容易だった。

 

「どう?似合ってる?」

 

真耶は緑と白のチェックのビキニで俺に歩み寄ってくる姿に胸の高まりが収まらない。

 

「どうしたの?」

 

「いや、真耶の水着姿が可愛くて・・・」

 

「ふーん」

 

あれ?真耶がちょっと不機嫌になってしまった。

 

「一夏君。最近、それしか言ってないよ」

 

「そうなの?」

 

「そうよ。可愛いのは嬉しいけど、他に褒める所があってもいいと思うよ」

 

言われてみればそうかもしれない。もっと他の褒め言葉を探さないと・・・

 

「えっと・・・凄く豊麗で似合ってるよ」

 

セクハラ発言じゃねえか・・・

 

「一夏君のエッチ!」

 

「いや!その!なんと言いますか・・・」

 

焦るあまりに丁寧語を使ってるよ俺。

 

「ふふっ、冗談だよ。少しからかってみたかっただけだから」

 

「なんだ。驚いたよ」

 

「でも、同じセリフで褒めてるのは本当よ」

 

「次からは気を付けるよ」

 

真耶からの警告を貰い、改めて真耶の魅力を考え・・・

 

「ねえ一夏君。私、ウォータースライダーに行きたいけどいいかな?」

 

る暇は無いようだ。

 

 

 

「それでは女性の方は前へ男性の方は後ろに座ってください」

 

スタート台に辿り着き係員の指示の元、真耶が前で俺が後ろに座り準備が完了した。

 

「真耶、大丈夫?」

 

「一夏君が私を後ろから抱きしめてるから大丈夫」

 

俺は係員の指示に従って後ろから真耶のお腹に抱きついてるが、真耶は凄く安心している。

 

「じゃあ、好きな時に言ってくれればこういうことをしてあげるから」

 

俺は思わず真耶の耳元で囁いた。あんなことを言われて何も反応しないわけがない。むしろ反応しない鈍感がいるのか?

 

「それではお客様。ウォータースライダーをお楽しみください」

 

係員は俺と真耶を押して、ウォータースライダーを始めさせた。

 

「きゃあぁぁぁ!」

 

「うおぉぉぉ!」

 

これは思ってた以上に速い!浮き輪がコースアウトするのではないのかと思うぐらい体が左右に動く。

 

「ま、真耶!だ、大丈夫!?」

 

「大丈夫だけど!一夏君!私を抱きしめてぇ!」

 

俺は真耶のお腹を強く抱きしめた。後ろからでも分かる真耶の温もりを感じながら・・・

 

「「うわっ!」」

 

着水した。

 

「ぷはっ!真耶、大丈夫?」

 

「大丈夫だけど、水着が取れそう。一夏君、水着の紐を結んでくれない?」

 

「あ、ああ・・・」

 

「どうしたの?」

 

「いや・・・なんでもない。紐を結ぶから、じっとしてて」

 

真耶は両腕で胸元を抑えてるけど、自分の魅力を増大させている事に気付いていない。そんな事を気にしつつも俺は真耶の水着の紐を結んだ。

 

「これでよしと」

 

「ごめんね。私がちゃんと結べばよかったのに」

 

「これぐらい大丈夫だよ」

 

真耶は何故か謝ってるけど、俺は別に気にしてなどいない。なぜなら・・・

 

 

 

『一夏・・・その・・・結んでくれないか。二度と離れないように・・・』

 

『一夏!早く紐を結んでよ!アタシの目で見える範囲で!』

 

『一夏さん!早く私の紐を!』

 

『一夏・・・紐を結んで・・・強く・・・どんなことがあっても・・・離れないように・・・』

 

 

 

四人の姿が頭をよぎったせいである。流石にいないよな・・・

 

その後、真耶とプールではしゃいでお腹が空いたので近くの「海の家」というフードショップで焼きそばを食べている。

 

「この焼きそば、結構おいしいな」

 

「確かにおいしいね。そういえば、一夏君が焼きそばを作ってる所見た事がないね」

 

「市販の麺が大体同じものだったから、作ってもあまり味が変わらなかったんだ」

 

「じゃあ、今度一緒に私と一緒に焼きそばを作ろう」

 

「え?麺から作るの?」

 

そうなると、まずは小麦粉の選別をしないと・・・

 

「そうじゃなくて、一緒に焼きそばのソースを作るの」

 

「ああ、そうか。そうすれば、味に変化があるということか」

 

「ダメ・・・かな?」

 

「ダメじゃないよ。真耶と一緒に料理するのが嫌なわけないじゃないか」

 

「よかった」

 

真耶は笑顔で喜んでくれた。俺はそれだけでも十分満足だ。

 

「さて、真耶は先にプールサイドに行ってて。俺はゴミ捨てに行くから」

 

「分かった」

 

俺はゴミをゴミ箱に捨て、すぐに真耶の待つプールサイドに向かったら・・・

 

 

 

「なあ姉ちゃん。俺と少し遊ぼうぜ」

 

「い、いえ!私は・・・」

 

「そんなかしこまらなくていいからさ。俺と遊んだ方が楽しいぜ」

 

 

 

一人の男にナンパされてた。なに呆然としてるんだ!早く真耶に声を掛けてナンパしてる男から離れさせないと!

 

「真耶!」

 

「一夏君!」

 

真耶は俺の声を聴いた瞬間、猛スピードで俺に抱きついてきた。

 

「ちっ・・・男がいたのかよ」

 

男は諦めやすい人なのか、すぐに真耶の所から去って行った。

 

「真耶、大丈夫?」

 

「大丈夫。一夏君がすぐに来てくれたお陰で助かった」

 

真耶は体の震えを抑えながらも俺が来たことに安堵している。

 

「ごめん。俺が真耶と離れたばかりに」

 

「ううん。一夏君のせいじゃないから大丈夫」

 

俺は真耶が狙われる事を考慮して、早めにプールから上がる事にした。

 

 

 

「真耶、プールはどうだった?」

 

「ウォータースライダーがすごく楽しかった。一夏君が強く抱きしめてくれ時は特に」

 

「そうか。俺も真耶と一緒に楽しめてよかったよ」

 

「でも、水着の感想はちゃんとして欲しかったな」

 

「ごめん。次からは気を付けるよ」

 

俺は真耶と手を繋ぎ、帰りの道を歩いていた。

 

「一夏君。頼みたいことがあるの」

 

「何?」

 

「それはね・・・」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

織斑宅

 

「兄さん、聞きたいことがある」

 

「どうした?」

 

「兄さんは山田先生とプールに行ったのか?」

 

「ああ」

 

「楽しんだのか?」

 

「ああ」

 

「では・・・」

 

 

 

「どうして、山田先生を後ろから抱いているんだ?私の目の前で」

 

 

 

「真耶がやって欲しいって言うからさ」

 

「はぁ・・・」




次回は夏休み編最終回「夏祭り」を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第37話

皆さん、お待たせしました。

夏休み編最終回です。


夜の神社に並ぶ露店。賑やかに響く人声。今日はとある神社で夏祭りが行われている。

 

俺は、真耶と二人で夏祭りを楽しもうとしたが・・・

 

「まさか箒がここでバイトしてるなんてなぁ・・・」

 

箒がここでバイトをしてたのは予想できなかった。けど、祭りだし俺を付け狙う真似なんかしないだろう。したら他の人達に迷惑がかかるだろうし。おまえけに箒は俺が来てる事に気付いていない・・・・・・はず。とりあえず会わない事に祈ろう。

 

それに今頃、ここのどこかに弾と虚さんとマドカがいるからいざと言う時には助けを呼ぼう。

 

「それにしても、約束の時間になっても真耶が来ない・・・迷子か?」

 

真耶って意外とおっちょこちょいな所があるからな。

 

何度も行ってる所で迷子になったり、眼鏡が頭の上にあるのに探したり、砂糖と塩を間違えそうになったりとちょっとおっちょこちょいな所があるけど、それに挫けず頑張る所が真耶の魅力。

 

・・・とは言っても不安だ。

 

「まさか・・・変な男に絡まれた!?」

 

そんなことはあり得ないと信じたいが、プールの一件もあるからあり得なくもない。俺は携帯を取り出し、真耶に・・・

 

 

 

「一夏くーん!」

 

 

 

浴衣姿の真耶が小走りでやって来た。どうやら俺の思い違いだった。

 

「ごめんね。浴衣を着るのに手間取って」

 

「俺はてっきり他の男に絡まれたんじゃないかって・・・」

 

「そこはマドカちゃんが何とかしてくれたから大丈夫です」

 

絡まれたのか。後でマドカにお礼を言わないと。

 

「ところで一夏君。私の浴衣姿、似合ってる?」

 

そう言って、真耶はその場で一回転した。

 

緑色の浴衣を纏った真耶。今まで露出の多い服装ばかり見てたから、控えめな服装は目新しいものを感じる。

 

「真耶の浴衣姿なんて初めて見たな」

 

「そういえば、去年の夏祭りは行けなかったもんね」

 

去年の俺は真耶と一緒に行こうと誘ったが同僚に無理矢理飲みに行かされたため、その日は家で勉強をしていたのを覚えている。

 

「だったら、お祭りをいっぱい楽しまなくちゃね」

 

「じゃあ今日は真耶に全部任せるよ。行きたい所も食べたい物も真耶が決めて良いから」

 

「え?いいの?」

 

「いつも俺が真耶をエスコートしてたけど、今日は真耶にエスコートされたい気分なんだ。ダメかな?」

 

「ううん!一夏君の為に私がエスコートするから。さあ!行こう!」

 

真耶は俺の手を掴み、意気揚々と歩いて行った。

 

 

 

「最初は・・・あれでもやりましょう!」

 

真耶が指をさした先は射的場であった。

 

「大丈夫かな?俺、銃なんてISでもあまり使わなかったし」

 

「一夏君なら大丈夫。絶対できるから」

 

俺を励ましながら、真耶は銃を構え射的を始めた。

 

「俺もやってみるか」

 

俺は真耶に続き、射的を始めた。

 

(撃つ的はどれにしようか?)

 

俺が的を選んでいる中・・・

 

「次は・・・これっ!」

 

真耶は次々と的を射抜いていた。

 

「後は・・・これでっ!」

 

黙々と的を射抜いてる姿はまさに狙撃手だ。さすが元日本代表候補生だ。俺も負けられないな。

 

 

 

「簪。肩の力を抜いて」

 

「こ、こう?」

 

「そうだ。そして、腕を伸ばし・・・」

 

「ら、ラウラ・・・顔が・・・近い」

 

「そうしないとお前の顔がよく見れない。今は射的に集中してくれないか?」

 

「わ、分かった」

 

 

 

射的場での愛情表現は隣りの二人(ラウラと簪)に負けるけど・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「真耶。かなりの量を取ったね」

 

「ちょっと張り切っちゃった」

 

両手に溢れんばかりの景品。血の涙を流しながら店を畳んでる店主を見て、俺は無言の合掌をした。

 

「どうするこの景品?」

 

「私が持ち帰るから大丈夫よ」

 

そう言い、真耶は何処からか取り出した袋の中に景品を入れ始めた。

 

「改めて見ると、真耶の射撃の腕は凄いな」

 

「そこまで凄くないよ。一夏君がいたから、上手くいっただけだから」

 

「それって、自分の凄さを見せたかったの?」

 

「うん。ごめんね、変にカッコイイ所を見せ付けようとしちゃって」

 

「いや。真耶が真剣にやってる姿を見て見惚れたし、俺の先生だから先生としての示しをつけたい気持ちは分かるよ」

 

「一夏君だけの先生じゃないの?」

 

え?

 

「私、一夏君の恋人で一夏君だけの先生だと思ってたのに・・・」

 

俺だけの先生として今まで頑張ってきたことに気付かなかったなんて、ダメじゃないか俺!

 

「気付けなくてごめん。俺、心の何処かで真耶は一組の副担任だと思ってたから」

 

「一組の副担任だけど、私は一夏君だけの先生でいたいの」

 

俺に抱きついてくる真耶の姿を見て、自分の浅はかさを知った。真耶はこんなにも俺だけのために頑張ってるのに、俺は一組の副担任だと軽く考えていた。もっと真耶の事を知って、もっと真耶を愛さないといけないな。

 

「真耶。これからも俺だけの先生でいるのか?」

 

「イヤ?」

 

「イヤじゃないさ。これからも俺だけの先生でいて欲しいよ」

 

「じゃあ、一夏君だけの先生でいてあげる」

 

俺の手を握り笑顔になる真耶は、そのまま綿あめ屋へ引っ張って行った。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「綿あめ、美味しかったね」

 

「まさか、大きい綿あめをくれるとは思いもしなかったよ」

 

真耶が綿あめを買いに行った時、店主が顔をにやけながら真耶に綿あめを渡したが、絶対身体目当てで見てたに違いない。

 

「一夏君、どうしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

いかん。真耶がいるのに深刻な顔をしたら、折角の祭りデートが台無しになるじゃないか。

 

「大丈夫だよ一夏君。私の身体を見て触っていいのは一夏君だけだから」

 

「え!?いや、何で分かったの?」

 

「一夏君って、考えてる事が顔にでる人だから。それに、恋人だからより分かるんじゃないかな」

 

確かに。恋人同士だから考えてる事が分かる時がある。真耶がどうして欲しいのか、何も言わずに分かる時があるからな。

 

「だから、そんな深刻な顔をしなくても大丈夫だから」

 

「分かった。何だか、真耶の言葉を聞いて安心したよ」

 

「良かった。そろそろ花火の時間だけど、何処かで見よう?」

 

そう言えば、ここの祭りの目玉は花火の打ち上げだったな。でも、誰にも知られてない絶景ポイントを知ってるから、そこで見れば問題はない。

 

「真耶。実は打ち上げ花火が見れる絶景を知ってるんだけど」

 

「そうなの?じゃあ、そこに行こう」

 

「ああ。その前に買いたい物があるけどいいかな?」

 

「いいけど、買いたい物って?」

 

「恋愛の御守りと仕事の御守り」

 

「どうして二つの御守り?というより、一夏君はまだ就職もしてないのに?」

 

「真耶には先生として、より一層頑張って欲しい。もし、真耶が倒れそうになったら俺が愛で支えようという考えで仕事と恋愛の御守りの二つを買うことにしたんだ」

 

「もう!私、一夏君に支えられる程疲れるようなことはしないよ」

 

「でも、先生として頑張って欲しいんだ。俺は色々と真耶に頼りっぱなしだからさ。これぐらいの事しかできないけど」

 

「ううん。一夏君がいなかったら、私は教師として頑張って来れなかったし、臨海学校の時は一夏君が助けに来てくれて嬉しかった。そんな一夏君が私に頼ったって良いんだよ。恋人なんだから、いっぱい頼って、いっぱい甘えてもいいんだよ。私、そうされるの好きなの」

 

そう言い、真耶は俺の身体にぎゅっと抱きついてきた。

 

「分かったよ。これからは真耶にいっぱい甘えるから」

 

「じゃあ、二人で恋愛の御守りを買おう」

 

「ああ」

 

俺は真耶と一緒に恋愛の御守り買いに行ったが・・・

 

 

 

「一夏・・・まさか私のために!」

 

「箒、違うから」

 

 

 

まさか、箒が売店で働いていたとは・・・

 

「一夏・・・お前・・・私に・・・」

 

「箒。これは俺と・・・」

 

「言わなくても分かる!これは私の・・・」

 

「いや、真耶のだから!」

 

不幸にも売店に来てる客が俺と真耶しかいないし、働いてるのは箒だけだ。

 

「御守りは二つですね。一夏、私は待ってるから」

 

「待ってないから」

 

箒はちゃんと恋愛の御守りを二つ渡してくれてけど、強く握らなくていい。

 

「一夏!二学期は一緒に・・・」

 

「あ、ああ。二学期に会おうな」

 

俺はさっさと話を切り上げ箒と別れ、真耶と一緒に絶景ポイントへ向かった。

 

 

 

「一夏・・・二学期には絶対振り向かせてやる」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「ここが絶景ポイントなの?」

 

「ああ」

 

箒の邪気(?)を何とか振り払い、花火の絶景ポイントにたどり着いた俺と真耶は花火が打ち上がるまで座っていた。会話とかするべきだろうけど、今はそういう気分じゃない。ただ、二人だけの時間を堪能したい。

 

「一夏君は篠ノ之さんと二学期から付き合うの?」

 

箒のせいで真耶が心配してるじゃないか。

 

「付き合わないさ。これからもずっと」

 

俺は真耶を後ろから抱いて、不安を紛らわすようにした。俺は真耶以外の女性と付き合う気はこれっぽちもない。真耶が他の男に襲われたら体を張って助けに行くさ。

 

「一夏君の手・・・温かい」

 

「真耶の手も温かいよ」

 

すると、夜空に閃光が走った。

 

「花火が始まった・・・」

 

「綺麗・・・」

 

夜空に輝く色とりどりの花火に俺と真耶は見惚れていた。

 

「このまま時間が止まればいいのに」

 

「私は、二人でこれからの時間を歩んで行きたい」

 

「え?」

 

「だって、こらからもっと愛し合えるんだもん」

 

「そうか・・・そうだな」

 

俺と真耶は花火が終わるまで、抱き続けた。二学期も真耶と一緒に学園生活を満喫できると信じて。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

とある雑木林

 

「私は簪ちゃんとのお付き合いは認めてないからね!」

 

「お前の許可が無ければ、簪との付き合いができない法律など存在しない!」

 

「法律とかじゃなくて、常識が欠けてる人と付き合わせたくないのよ!」

 

「そのような狭い考えを持っている限り、お前は進歩などしないのだ!」

 

「少なくともそんな進歩などしたくないわよ!」

 

更識楯無とラウラの口論が繰り広げられている中・・・

 

「ああっ!・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

浴衣が乱れ、顔を赤くし、息が荒げている簪が横たわっていた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

とある露店前

 

「弾・・・覚悟は出来ているだろうな?」

 

「あのぉ・・・千冬さん!何、剣を振り回してるんですかぁ!?」

 

五反田弾が成敗されかけていた。




次回から二学期編が始まります。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第38話

皆さん、お待たせしました。

二学期編のスタートです。


私の名前は山田真耶。IS学園一年一組の副担任を務めています。

 

ちょとおっちょこちょいな所はありますが、楽しく教員生活を送っています。

 

皆、元気で可愛くて若さが溢れてて、青春を堪能しています。

 

そんな学生達と再会できることができます。

 

 

 

そう・・・二学期が始まったのです!

 

 

 

「皆さん、二学期が始まりした。まだ、夏休み気分が抜けていない生徒もいますが、気を引き締めて勉強に取り組んでください!」

 

担任の織斑先生は所用で遅れると連絡が入ったので、朝のSHRは私一人で行っています。それぞれの夏休みを過ごした生徒達は活き活きとしていました。その中に・・・

 

「先生。先生は織斑君とどんな夏休みを過ごしてたんですか?」

 

「ふぇっ!?」

 

「織斑君のことだから、きっと山田先生を・・・」

 

「どうして俺と真耶の話になるんだ!?」

 

 

 

私の恋人、織斑一夏君が目の前にいます。

 

 

 

「一夏君との夏休みは、毎日が幸せでした。一緒に寝食を共に出来たのが一番良かったかなぁ」

 

「真耶!?わざわざ教室で言わなくても・・・」

 

「一夏君は、好きじゃなかったの?」

 

「寧ろ好きだけど、みんなに言うことじゃないし、それに・・・」

 

「それに?」

 

「みんなが知ってることだから、俺と真耶の二人だけの秘密にしたいんだ」

 

あぁ・・・嬉しい。周りの生徒達が顔を赤くしてるけど、気にしない。私だって女の子だもん。恋人の台詞にときめきたいもん。

 

「だったら、今週の日曜日にデートしない?」

 

「いいよ。場所はどこに?」

 

「そうね。場所は・・・」

 

「SHRから随分と甘くさせるではないか・・・」

 

デートの打ち合わせの最中に聞こえた、怖い声は・・・

 

「お・・・織斑先生・・・」

 

「千冬姉・・・おぐっ!」

 

「織斑先生だ!全く・・・休み明けでの再開にも関わらず、公私混同されては困るぞ」

 

「わ、わりぃ・・・」

 

織斑先生が物凄く不機嫌なんですけど・・・

 

「今週の日曜は家族で用があるから、デートはまた今度にしろ。それにしても、夏休みは随分とお盛んな事をしてくれたみたいだな」

 

「え・・・えっと、何の事でしょうか?」

 

織斑先生に睨まれて、汗が止まりません!一夏君、助けて・・・

 

「マドカから聞いたが、お前達・・・」

 

「ち・・・先生!そろそろ、SHRの続きをしないと・・・」

 

一夏君が私の為に・・・

 

 

 

「安心しろ。SHRは今さっき終わった」

 

「「え?」」

 

・・・どうして?

 

 

 

「実はな、職員室でちょっとした騒動が起こっていて、このままだと職員による暴動が発生しかねない状況だ。私が鎮圧しに行けば済む話だが、学園長から止めの声が入ってしまった」

 

学園長が止めに入る程って・・・織斑先生を止められる人はいないんですか?

 

「そこで、今回は山田先生に暴動の鎮圧を行ってもらう。今すぐにだ」

 

「ええっ!?あ、あの・・・私には織斑先生のような力なんて・・・」

 

「大丈夫だ。騒動の原因は職員室に行けば分かる。時間がない。さっさと行くぞ」

 

「い、いや!そんなことを言われましても授業は!?」

 

「山田先生を職員室に投入した後、私が授業を進める。安心しろ。命の保証はする」

 

「投入!?いえいえ!命に関わるような事は・・・織斑先生!引っ張らないでください!」

 

ああ・・・私が荷馬車に詰め込まれた子牛のように引っ張られていく・・・

 

「待ってくれよ!いくら何でも、真耶をそんな危険な目に遭わせるのかよ!」

 

「一夏君・・・」

 

一夏君が織斑先生を止めようと駆けつけて来た。

 

「はぁ・・・仕方がない。今回の騒動の原因を言うしかないか」

 

「何でためらうんだよ?」

 

どうして、織斑先生は遠い目をしてるんでしょう?

 

「原因を聞けば分かる。今回の騒動の原因は・・・」

 

 

 

「夏休みに彼氏ができなかった教員達が、決起を起こそうしているからだ」

 

 

 

「・・・は?」

 

「彼氏ができなかったから、腹いせに悪さを行おうとしているんだ」

 

何で・・・悪さを?クラス全員が納得してるけど、私には納得してる理由が分からない。

 

「そこで、山田先生による彼氏の作り方講座を行うと私が言ったら全員、その講座を受けるための準備をし始めてな、早急に山田先生を連れて行くことになった。それに・・・」

 

「それに?」

 

織斑先生がにやけ始めたと言うと・・・

 

「お前達が夏休みにナニをしたのか、マドカの報告を加え『織斑一夏の公開処刑』を行うことにした」

 

「いやいや!おかしいだろ!?」

 

「そ、そうです!私と一夏君は安全に夏休みを過ごしました!」

 

「夜中、弟の部屋がうるさくて色んな意味で眠れなかったという、マドカの報告がある。これは一体何だ?」

 

織斑先生の即答で私と一夏君は撃沈しました。

 

「それらの詳細をきっちり聞くとする。羽目を外した罰だ。しっかりと味わうがいい」

 

織斑先生・・・顔が魔王が笑ってみたいで怖いです。

 

「山田先生が失礼なことを考えている内に、職員室に連行する!」

 

「え!?あの・・・何で考えてる事が・・・」

 

「ほう・・・本当に考えていたとはな・・・」

 

「は、はめられた!?」

 

「・・・逝くぞ」

 

「いやぁぁぁぁぁ!」

 

私は織斑先生に成す術もなく、職員室に連れて行かれました。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「マドカ。一体どういう・・・」

 

「どうもこうもない。姉さんの言ったとおりだ」

 

「千冬姉に報告する程なのか?」

 

「報告する程、兄さんは羽目を外しすぎたんだ」

 

俺、織斑一夏は二学期早々大ピンチです。

 

千冬姉の情報公開と言う名の公開処刑が決まり、クラスの話題が俺と真耶の夏休みの過ごし方で持ちきりになっている。俺は別に真耶と一緒に夏休みを堪能してただけなのに、それを赤裸々に報告されるとは・・・

 

「これを機に十分反省して、山田先生との付き合いを考えてくれ」

 

「考えるって・・・」

 

「淫らな付き合いをやめることだな」

 

マドカが千冬姉みたいになってきてる。

 

「いや、別に淫らって・・・」

 

「そうか。なら、姉さんの報告会をちゃんと聞けるな」

 

にやけながら俺を見てるが、マドカが千冬姉にダブって見える。

 

「全員席に着け。授業を始める」

 

そうこうしてる内に千冬姉が教壇に立ち、授業(公開処刑)を始めた。

 

「お前達が知っての通り、山田先生と織斑は仲睦まじく交際をしている。だが、二人はそれをいいことに学園内で淫らな事を行い、一部の教員達の怒りを買っている」

 

何か、物凄く湾曲した内容になってるんだが。

 

「そこで二人が夏休みをどう過ごしていたのか、マドカの報告を加えて発表する」

 

「先生・・・ちょっといいですか?」

 

「何だ織斑?」

 

「俺と真耶が夏休みどう過ごしたのかを報告する必要なんてないんじゃないか?別にいつものように過ごしていたわけだし・・・」

 

「では、夜中の騒音は一体何なのか説明して欲しいものだな」

 

千冬姉にも皆にもちゃんと伝えなきゃ。夜中の騒音の正体を。

 

「その夜中の騒音は、ただ真耶と一緒に寝れるのが嬉しくてはしゃいでただけなんだ」

 

俺の答えにクラスの皆は顔を赤くしてるけど、本当のことを言っただけ・・・

 

「なら、その騒音の翌朝、部屋に入ったら異様な臭いをしていたという報告があるのだが?」

 

「それは、香水とかが混ざって・・・」

 

「では、異常に増えたゴミは何だ?」

 

「それは・・・」

 

「ベットのシミは何だ?」

 

「俺の答えが・・・」

 

「山田先生の下着が濡れていたのは何故だ?」

 

「ちょっと待ってくれ!俺が答える前に質問を出さないでくれ!」

 

千冬姉の形相も徐々に怖くなってるし。

 

「お前は私の質問に対し、重要な所を抜いて答えているからだ」

 

「いやいや!重要な所なんか・・・」

 

「私の目を誤魔化そうとするなど、片腹痛い。私を誤魔化そうとした罰だ。マドカの報告を加え、情報をすべて公開する」

 

千冬姉!顔がにやけてるぞ!

 

「最初から全部報告する気だったのか!?」

 

「お前の事だ。山田先生を守る一心で事をあやふやにしようとするからな」

 

さっきのやり取りは何だったんだよ!?

 

「では、報告する。二人(一夏と真耶)が夏休み中に・・・」

 

こうして俺は近所とマドカの証言による公開処刑で、俺の心はボロボロになった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「で!織斑君とどうやってデートまでこぎつけたの!」

 

「織斑君とのファーストキスはどんな風にしたの!」

 

「どうやって、イイ男と出会えるの!」

 

「織斑君って、意外と情熱的なの!?それとも物静かにいじってくるの!?」

 

 

 

私、山田真耶は職員室で教員達の質問攻めにあっています。

 

助けは・・・来ません。

 

「えっと・・・その・・・」

 

「恥ずかしがらなくていいのよ!私達は、あなたがどうやってイケメンと付き合えたのか聞いてるだけなの!」

 

「そこから、彼氏を作るコツを見出して・・・」

 

「秋の合コンでそれを遺憾なく行う!」

 

「学園祭や修学旅行、IS関連の行事なんて全部中止にしても合コンを行うわよ!」

 

「それだと、生徒の・・・」

 

「大丈夫。あの子達はまだ若いから、チャンスはある」

 

「だから、私達の残り少ないチャンスを無駄にしたくないのよ!」

 

「この命の使い道を誤ったりしない!」

 

私一人で、学級崩壊を止めることができません。むしろ、悪化の一途を辿っています。

 

「さあ、教えて。あなたが彼氏をゲットしたテクニックの全てを!」

 

「誰か助けてくださぁぁぁい!」

 

私の叫びが届く事なく、昼休みまで質問攻めにあいました。




二学期からは一夏と山田先生の淫らなスキンシップは減る予定です。

千冬さんがちょっと本気をだしたのが理由です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第39話

今回は山田先生ではなく、例の四人をピックアップした話になります。


「おりむー大丈夫?」

 

「あ、ああ・・・だ、大丈夫・・・」

 

千冬姉による公開処刑が終わり、俺はノックアウト寸前であった。まさか風呂場での出来事まで細かに報告するなんて思いもしなかった。

 

「織斑君、山田先生にあそこまでの事をしてたなんて・・・」

 

「織斑先生が心配するのも無理はないね」

 

相川さんと谷本さんが千冬姉に同情するも、俺と真耶の熱愛ぶりに少し顔を赤くしている。

 

「これで兄さんと山田先生の付き合いが改善されれば、妹として安心できる」

 

「何でマドカが安心するんだ・・・」

 

「これ以上、睡眠を妨げられたくないからだ」

 

とりあえず、マドカに下心は無いみたいだ。

 

「そういえばマドカは彼氏と上手く付き合ってるのか?」

 

「その事だが、夏祭りの時に姉さんに成敗されてそれっきりなんだ」

 

弾・・・お前の事は忘れないからな。

 

「それにしても、このクラスだけで三組もカップルがいるなんて。私も恋人が欲しいよ」

 

「でも、織斑君とボーデヴィッヒさんの付き合いはちょっとね・・・」

 

相川さんの愚痴に谷本さんは俺とラウラのを引き合いに出したが、そんなに淫らだったのか?

 

「おりむーは知らないと思うけど、学園内で一番熱いカップルはラウランとおりむーのどっちなのか議論されてるんだよ~」

 

「私がどうした?」

 

「ラウラ・・・」

 

噂をすれば影だ。

 

「一夏。実は相談がある」

 

「相談?」

 

ラウラが俺に相談事なんて、一体何だ?

 

「おお~!ラウランがおりむーにお悩み相談とは~!」

 

「一体どんな相談何だろう?」

 

「何か・・・嫌な予感しかしない」

 

のほほんさんと相川さんとマドカは物凄く期待を寄せているが、谷本さんはあまり良い顔をしてなかった。

 

「この相談はお前だから出来る相談だ。だから、真剣に答えてもらう」

 

「俺でよければいいけど。相談って?」

 

「ああ・・・」

 

 

 

 

 

 

「どうすれば、恋人と一線を越えることができる?」

 

 

 

 

 

 

その質問はさすがに答えたくない。

 

「ラウラ、それって・・・」

 

「お前は夏休みの間に何度も恋人と一線を超えている。そんなお前だからこそ聞きたいんだ。私はどうすれば簪と一線を越えることが・・・」

 

「する必要はない」

 

「教官!」

 

こういう話をすると、決まって千冬姉がどこからか現れる。

 

「ボーデヴィッヒ。恋人同士の付き合い方を愚弟に聞くな」

 

「ですが、恋人との一線を越えている二人から・・・」

 

「お前は先の授業で何を聞いていた?あんな付き合いをすれば、破局が待っているぞ」

 

「愛というものは時に奇跡を・・・」

 

「ふんっ!」

 

「ごふっ!」

 

ラウラの世間ズレの発言に千冬姉はお得意のボディーブローをかました。完全に体罰ですよ。

 

「こいつは口で言っても分からないからな。こうでもしなければ」

 

喋りが教師の口調じゃないよ、千冬姉。

 

「それと織斑。お前の新しいルームメイトが決まった」

 

「新しいルームメイト?」

 

そういえば、臨海学校から一人で生活してたから何だか嬉しいな。

 

「一応言っておくが、山田先生ではないからな」

 

知ってても、それを言われると心が傷つくよ。

 

「お前の新しいルームメイトはマドカだ。ちゃんとした生活を送れ」

 

「最後の一言は余計だと思うんだが・・・」

 

「返事は?」

 

「は、はい・・・」

 

完全に俺の話を聞く気が無いよ。

 

「それと、ISの訓練はマドカと相川と谷本と布仏の四人で行え」

 

訓練はマドカと相川と谷本と布仏の四人で・・・え?

 

「ちょっと待ってくれ!真耶は・・・」

 

「山田先生だ。これ以上、名前で言うと口を縫い合わすぞ」

 

「脅迫ですよ、織斑先生・・・」

 

おまけに剣狼を構え始めないで。

 

「山田先生との特訓でお前が技術面と精神面で著しい成長を遂げたのは誰の目で見ても分かる。そろそろ、独り立ちする時ではないか?」

 

「山田先生に一度も勝っていない俺が独り立ちって・・・」

 

「言っておくが、山田先生は教師の中でもトップクラスの実力を持っている。山田先生の特訓を受けたから、彼女に勝てるなど思うな」

 

とりあえず、千冬姉に勝てる人は地球にいないと思う。

 

「それに、山田先生の所を離れてISの訓練をすれば何か新たな成長に繋がるヒントが見つかると思ってな」

 

「本当は?」

 

「教員の暴動を未然に防ぐための処置だ。教員達によって、学園がいつ崩壊してもおかしくない状態だからな」

 

どんな状態なんですかそれ・・・

 

「とにかく、山田先生の特訓は終わりだ。いい加減学園内で山田先生に甘えるのをやめろ。他の教員達がいつ暴走するのか分からない状況なんだ。」

 

「いや、夏休みに・・・」

 

「夏休みの合コンでカップルが成立した教員は、ほんの一握りだ。このままだと学園の風紀が崩壊し、『恋愛パンデミック』になりかねない」

 

何、ゾンビ映画でも採用されない名称は。

 

「それを防ぐためにも、織斑はマドカを含めた三人と訓練をしろ」

 

言うのが面倒になって纏めちゃったよ。

 

「姉さん。流石に私を含めた三人と言うのはどうかと・・・」

 

「そうだな。SHINOBIの・・・」

 

「それはやめてくれ」

 

結局、「千冬四天王」と言う訳の分からない名称で落ち着き、今日の放課後から四人と一緒に訓練を始めることにした。真耶はその事を千冬姉に言われ、大粒の涙を流しながら千冬姉に抗議したと言う。千冬姉・・・真耶を泣かさないでよ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

放課後

 

第一アリーナ

 

「おりむー、よろしく~!」

 

「織斑君、やさしくしてね?」

 

「最初からハードなのはやめてね?」

 

真耶と一緒に夜を過ごしたのかどうか分からないが、三人(布仏、相川、谷本)の台詞がいやらしく聞こえてしまう。

 

「どうやら兄さんは山田先生と一緒にいたせいで、三人の台詞がいやらしく聞こえてしまうみたいだ」

 

「どうして、考えてる事が分かるんだ?」

 

「出まかせで言ってみたが、どうやら本当の事みたいだ」

 

はめられた!?

 

「そうなの~。ちょっぴりショック・・・」

 

「仕方がないよ本音。織斑君が強いのは、山田先生の特訓のお陰なんだから」

 

「それに山田先生の愛の力で、織斑君の専用機は白騎士になったし・・・」

 

「まさに、まーやんだけの白い騎士なんだよねおりむーは・・・」

 

三人が物凄く落ち込んでるよ。うわぁ、大丈夫かな?

 

「だから兄さんに、ちゃんとした学園生活を送らせるために織斑先生に託されたのではないか」

 

マドカ・・・ちゃんとした学園生活を送ってない生徒なら一組だけで三人はいるよ。

 

「でもねマドっち。まーやんの愛で作られた白騎士を駆けるおりむーに戦えって言われても勝てる気がしないよ~」

 

「では、兄さんに三人で戦ってみればいい」

 

「マドカ、いくら何でも・・・」

 

「兄さんはお前達三人を見下してるぞ。姉さんは三人の連携を高く評価していたが・・・何かの間違いか?」

 

マドカは三人を鼓舞させるために、敢えて挑発をしてるけど効果は・・・

 

 

 

「そうだね・・・ここで諦めてどうするの!」

 

「ハンドボールでの特訓の成果を見せないと!」

 

「何だか分からないけど、力が込み上がって来る様な気がするぞ~!」

 

 

 

物凄くあるようだ。

 

「兄さんは一人で三人を相手してくれ」

 

「マドカはどうするんだ?」

 

「私はラファールに乗って、試合鑑賞でもする。どうも、昔の癖が出てしまうんだ」

 

ISに乗ったまま、指で切り裂こうとするんですね。分かります。

 

「さあ、三人揃えば文珠の知恵!織斑君、覚悟してよね!」

 

相川さんの掛け声と共に打鉄を纏った三人が武器を構え始めた。

 

「のほほんさん以外はライフルか・・・」

 

「私ね~射撃は全然ダメなの~。でもね、手加減しようとすると痛い目を見るよ~」

 

つまり、最初から全力で向かってくるという事か。

 

「なら、こっちは全力で行かせてもらうからな」

 

俺は雪片弐型を握り、スラスターを強く吹かせた。

 

「うおぉぉぉ!」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「いや~負けちゃったよ~」

 

「ぶっつけ本番での連携攻撃はちょっと無理があったかな」

 

「それにしても白騎士は強いよ。打鉄の攻撃が当たっても全然ビクともしないよ」

 

戦いの結果は俺の圧勝だった。

 

俺の実力以前に性能に大きな差がありすぎた。機動力や火力など、特殊兵装を持たない打鉄では荷電粒子砲とバリアシールドを兼ね備えた白騎士には敵わないことが分かった。

 

それでも、性能差を埋めようとジェットストリームアタックもどきを繰り出して、俺に一撃を与えたのは素直に凄い事だと思う。

 

「三人共、よく頑張った」

 

「マドカは何をしてるんだ?」

 

「決まってるだろ。ISに馴染むよう、体を動かしてるだけだ」

 

だからと言って、ISを装着したまま逆立ち腕立てをするのはどうかと思う。

 

「俺の特訓より、マドカをどうにかした方がいいな」

 

三人も俺の言葉に無言で頷いてくれた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

その後、四人の訓練は夕食の時間帯になるまで続けた。のほほんさんと相川さんと谷本さんの連携はたった二、三時間でかなり良くなった。3on3の対戦が無いのが悔やまれるが、三人の連携攻撃は意外と侮れない。のほほんさんは近距離での戦いに、相川さんは中距離、谷本さんは遠距離に長けており、この三人の息の合った連携攻撃が繰り出された時は避けるので精一杯だった。確かに、千冬姉が目に置くのも納得がいく。

 

だけどマドカ。武器を持たずに、素手で戦うのはやめてくれないか。兄として一抹の不安を感じるから。

 

「ふぅ・・・疲れたな」

 

「兄さん。そんなので疲れたと言うが、私は疲れてないぞ」

 

「マドカ、これが普通だと思うんだが・・・」

 

「これが普通なら、周りは体を鍛えなさすぎだ」

 

いや、マドカの方が鍛えすぎだと思う。

 

「それにしても、お腹が空いたよ。冷蔵庫に何かあったか?」

 

「ナポリタン二人前なら何とか作れるから」

 

「そうか。今更だが、今日からよろしく」

 

そうだった。今日から俺の部屋にマドカが来るんだった。忘れてたよ・・・

 

「そういえば、マドカの荷物はどうするんだ?」

 

「後で部屋から持って来る。その前にお腹が空いたから、食べてからにするよ」

 

「分かった。早急に運べるよう、直ぐに作り始めるから」

 

「ありがとう」

 

マドカに感謝されつつ、俺達は部屋の前に着いた。

 

「二学期初日から騒がしがったけど、何とかなるか」

 

あの四人が何をしでかすか分からないが、俺はドアを開け・・・

 

 

 

「お帰りなさい。ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」

 

 

 

裸エプロンをした・・・

 

 

 

「兄さん。こいつは『自称最強の生徒会長』を名乗る、負け犬の楯無だ」

 

「負け犬じゃないから!」

 

 

 

マドカの台詞で額に怒りマークが浮かんでいる生徒会長が目の前にいた。




次回は「IS 一夏の彼女は副担任」を中断し、

「インフィニット・ストラトス ブリュンヒルデの大逆襲」

を、お送りします。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第40話

今回は番外編

「インフィニットストラトス ブリュンヒルデの大逆襲」

を、お送りします。

※注意※

シリアスはありません。

なので、肩の力を抜いて読んでください。


八月 某所 AM2:00

 

「はぁ・・・はぁ・・・何なんだよあいつ!ISを装着したスコールを生身で倒すなんて人間か!?」

 

廃工場に響く声。茶髪でロングヘアー、黒のノースリーブの女性はオータムと呼ばれ、亡国企業(ファントムタスク)の実働部隊のメンバーであるが・・・

 

「お陰で、生き残ったのは私と数人の部下だけかよ。チクショっ!」

 

亡国企業は壊滅同然であった。

 

1ヶ月前から一人の人間によって、世界各地の亡国企業は壊滅させられていた。IS学園に潜入していたメンバーもその時から音信不通になっていた。しかも、生身でISを圧倒する強さにブリュンヒルデでも太刀打ちできるのかと組織内でも議論されていたが・・・

 

「幹部会は全滅。実働部隊は私の部隊だけ。糞野郎が・・・」

 

最早、その会話すら懐かしい思い出となっている。

 

「オータム様。敵がこちらに接近しています」

 

「あいつを倒すのに手段を選ぶな!とにかく殺せぇ!」

 

頭脳労働が苦手なオータムの最後の命令が下され、数少ない部下は物陰に隠れて奇襲の準備に取り掛かった。

 

 

 

「天空真剣・・・爆裂空転!」

 

 

 

が、それは無駄に終わってしまう。

 

「早すぎるだろ来るのが!あいつ、1Km先にいたんじゃなかったのか!?」

 

オータムが一人で怒鳴っている間に、廃工場の中を駆け巡る。

 

 

 

暗闇に光る一閃

 

錐もみ回転しながら地面へ突き刺さる部下

 

空から放たれるマキビシランチャー

 

放たれる雷

 

瞬間移動

 

 

 

「本当に人間なのかよ!?」

 

オータムがツッコむのも無理はない。

 

「天空宙心拳・・・旋風蹴りぃ!」 

 

「てか、天空宙心拳って何だ!?」

 

オータムは意外と常識人である。

 

「誰だ!私のことをいちいち説明する奴は!」

 

後、第四の壁を認識できる。

 

「そこまでだな。亡国企業!」

 

気付けば、オータムの前方3m程に天空真剣を使っていた人物がいた。顔は暗くて見えなかったが、体つきから見てスーツ姿の女性であることをオータムは認識した。

 

「くそっ・・・気付いたら私一人かよ。てめぇ、正体を現せ!」

 

空が答えるかの如く月光が謎の人物の顔を映し出した。

 

「これで満足か?」

 

「ぶ、ブリュンヒルデ!?」

 

亡国企業を壊滅させた人物はブリュンヒルデの異名を持つ織斑千冬であった。

 

「いつまでもその名で呼ぶか」

 

「うるせぇ!てめぇに倒されるなら、ぶっ殺して生きてやる!」

 

「そうはさせん!」

 

千冬は剣狼を構え、オータムに斬りかかろうと間合いを詰めたが・・・

 

「なら、このガキがどうなってもいいんだな?」

 

「うっ!」

 

オータムは近くにいた子供を捕まえ、子供のこめかみに銃を突きつけた。

 

「運が良かったなぁ坊や。ブリュンヒルデを間近で見る事が出来て」

 

「貴様・・・!」

 

「一応言っておくが、ここはこのガキの家だ」

 

「何故、それを知っている!」

 

「作戦を立てるには事前調査が必要だろうがこの馬鹿が!どうする!?このガキを殺して私を倒すか?それともこのガキと私を見逃すのか?どっちを選ぶんだ?」

 

ブリュンヒルデ、SHINOBI、クロノス族の意思を受け継ぐ者

 

それらの異名を持ってしても、子供一人を見殺しにする残虐な行為は行えない。

 

「分かった、武器を捨てる。だが、その前にその子供をこちらに渡せ」

 

「てめぇが先に武器を捨てろ。さもなくばこのガキを殺すぞ」

 

人質を取られてる以上、立場として下に置かれている千冬。彼女は非道な手段を取っているオータムの指示に従い、剣狼をオータムの足元に捨てた。

 

「ほぅ。約束通り、ガキを離してやるよ」

 

オータムは拳銃をしまい、ガキを千冬に向かって突き飛ばしたが・・・

 

 

 

「だけどISで殺さないなんて言ってねぇよなぁ!?」

 

 

 

瞬時に第二世代IS「アラクネ」を展開した。剣狼は工場の奥に蹴り飛ばされ、子供の頭めがけて8本の装甲脚が襲い掛かる。

 

 

 

そして、アラクネの装甲脚は・・・

 

「ぐっ・・・!」

 

「おいおい。ガキなんて庇う必要なんてねぇだろ」

 

子供を庇っている千冬の背中を強く叩きつけている。

 

「しょうがねぇな。お前から先に殺してやるよ!」

 

アラクネは剣狼を持たない千冬の背中に装甲脚を何度も強く叩きつける。叩きつける度に、アラクネのハイパーセンサーは千冬の体の損傷具合を表示させ、オータムを高揚状態にさせた。

 

「おいおい!さっきまでの勢いはどうした!?これじゃあ、ブリュンヒルデの名が泣くぞぉ?」

 

千冬は反撃が出来ない。彼女の腕にはオータムの人質にされていた子供がいるからだ。その子を守るため、彼女は反撃をせずその場にじっとしているだけであった。

 

「もう・・・いいよ。僕のことなんか放っておいて・・・」

 

「それは・・・できない相談だな」

 

アラクネの猛攻を受けている中、子供の悲痛な声に千冬は苦し紛れに答えた。

 

「例え、絶望の淵に追われても、勝負は一瞬で状況を変える。だから希望を捨てるな・・・」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

「ぐふっ!」

 

千冬の口から微量ながら血が噴き出た。

 

「おやぁ?世界最強のIS操縦者がここまでかぁ」

 

アラクネのハイパーセンサーで千冬の吐血を確認したオータムは狂気満ちた笑顔をしながら、片膝を着いた千冬に最後の一撃を与えようと構え始めた。

 

「じゃあな!ブリュンヒルデさんよ!」

 

8本装甲脚は千冬の後頭部に的を絞り殴りかかった。

 

「お姉ちゃん!」

 

少年の必死の叫び

 

「死ねぇぇぇ!」

 

オータムの歓喜に満ちた叫び

 

その二つの叫びは・・・

 

 

 

 

 

 

「剣狼よ・・・我に力を!」

 

 

 

 

 

 

剣狼の奇跡によって掻き消される。剣狼が突然オータムに襲い掛かったのだ。

 

「な、何だ!?」

 

「この剣狼の光は!」

 

千冬は確信した。この光はかつて師匠が言っていた・・・

 

「正義の光!」

 

「てか、何で剣が浮かんでるんだよ!?」

 

オータムのツッコミに気にする素振りも無く、剣狼は輝きを増して光そのものとなった。

 

(師匠・・・やってみます!)

 

千冬は子供を離し、光の中に飛び込んだ。そして・・・

 

 

 

『パァァァイルフォーメイション!』

 

 

 

どこからともなく聞こえる男の声に反応し光は形となった。

 

「おい・・・嘘だろ!?」

 

ハイになっていたオータムが慌てる程、その形には見覚えがある。そう、それはまさしく・・・

 

 

 

「暮桜ぁぁぁ!」

 

 

 

IS学園地下特別区画にて石像と化し凍結状態であるはずの暮桜である。

 

「どうして暮桜がいるんだよぉ!?」

 

千冬の意志を受け、剣狼が空中で光になる時。時を越え、次元を越え、パイルフォーメーションは完成する。暮桜は地上すべてのエネルギーとシンクロし、自然現象さえも変えるパワーを出す事が可能となるのだ!

 

「だから誰だよ!私の質問に答えてるやつは!?」

 

「今だっ!とあああっ!」

 

オータムが第四の壁に気を取られている間に千冬は天高く飛び、蹴りの構えを取った。

 

「しま・・・」

 

「バァァストキック!」

 

オータムが気付いた時にはアラクネの腹部に暮桜の蹴りが炸裂し、廃工場の壁に目がけて吹き飛ばされていた。

 

「とおああーーっ!」

 

だが千冬は廃工場の壁に叩きつけられる前にアラクネの懐に飛び込み、拳の連打を炸裂。

 

「ゴッドハァンドッ!スマァッシュ!」

 

右手でアラクネのISコアを粉砕。アラクネは火花をまき散らしながらハイパーセンサーで危険を促していたが・・・

 

「成敗!」

 

千冬の叫び声と共に、オータムもろともアラクネは爆発した。

 

「納得いくかよぉぉぉ!」

 

オータム最後のツッコミは無情にも爆音でかき消された。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「お姉ちゃんは誰?」

 

戦いが終わり、オータムは全身黒焦げアフロ状態で失神してる中、少年は千冬に問いかけた。

 

「私は通りすがりの女だ。無理に覚えなくていい」

 

そう笑顔で答えた千冬は少年の前から疾風の如く姿を消した。

 

「希望を・・・捨てるな・・・」

 

例え世界が絶望に包まれていても希望を捨てなければ正義の光が生まれると学んだ少年は、その日の事を忘れられなかった。

 

 

 

 

 

 

「誰・・・だったんだ。私の質問に・・・答えた奴は?」

 

その後、オータムは警察に捕まり亡国企業は壊滅した。




次回は、本編に戻ります。

ご意見ご感想、お待ちしております。


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第41話

今回の話は・・・

常識人はつらいよ

みたいな話です。


「どうして私が織斑君の部屋にいるのかと言うと・・・」

 

「妹の寝取り方を聞きに来んだろ?」

 

「そんなのを聞きに来たわけじゃないのよ!」

 

「いい加減、妹の付き合いを認めろ。だから貴様は駄目無なんだ」

 

「お姉さんに喧嘩売ってるの?」

 

「そう思ってる時点で駄目無と呼ばれるんだ」

 

俺は部屋の中で、制服姿の妹と裸エプロン姿の生徒会長の口論を聞き流しながらナポリタンを作っている。

 

どうして生徒会長が部屋に侵入したのかは気になるけど、マドカはお腹が空いててイライラしていると思う。だから早くナポリタンを食べさせて、落ち着かせないと。

 

「本当に愛を知らないから、二人の言動が破廉恥に見えるんだ」

 

「知ってても破廉恥でしょ!寮の部屋で猫パーカーを着て『にゃんにゃん』しようとしたり、保健室を独占したり、食堂で淫らな遊戯をしたり、一線を越えようとしたりして夜も寝れないわよ!お陰で学園にラウラちゃんと簪ちゃんを応援する変な組織が誕生して、教員と生徒会は頭を悩ましてるのよ!」

 

確かに妹を持つ身としては心配するよな。

 

「悩む必要などない。ただ、そのまま受け入れれば良い」

 

「受け入れられないわよ!」

 

このままヒートアップするといけないから、そろそろ止めに入らないと。

 

「マドカ。ナポリタンができたぞ」

 

「そういう事だ。貴様の悩みなど井の中の蛙程度のものだ」

 

マドカは話を切り上げ、楯無さんを部屋から追い出そうとしたが・・・

 

「織斑君。一緒にナポリタン食べよ!」

 

突然、上目遣いで俺に寄り添ってきて一緒に食べようと誘ってきた。しかも裸エプロンのため、触感がかなり伝わって来る。

 

「楯無さん、どうしたんですか!?」

 

「マドカちゃんと口論してたら、お腹が空いちゃった。それに二人分しかないから、私と一緒に食べましょう。それに・・・」

 

 

 

「もし一緒に食べさせてくれたら、山田先生より楽しい事をしてあ・げ・る」

 

 

 

パシャツ

 

 

 

マドカは何のためらいもなくスマートフォンのカメラで俺と楯無さんのツーショットを取り・・・

 

「これは虚と簪に送らなければな。彼女持ちの男を寝取った瞬間として」

 

「ちょっと待って!?」

 

楯無さんを脅し始めた。マドカ、何やってるの・・・

 

「安心しろ。既に姉さんと山田先生には送信してある」

 

「安心できないわよ!」

 

「姉さんのハイクが聞けるんだ。嬉しくないのか?」

 

「嬉しくない!」

 

マドカの容赦ない攻撃(?)に楯無さんは慌てふためいてるけど、何しに来たんだ?

 

「織斑君。お姉さんを助けてぇ」

 

そんなことを考えてたら、楯無さんが俺の背中に回り抱きついてきた。

 

「いや!さすがに無理です!とういうより、離れてくれませんか!?」

 

「離れたら、お姉さんを守ってくれないもん」

 

「いやいや!この状態だと周りに誤解を生みますよ!」

 

「その時はお姉さんが責任を持って・・・」

 

 

 

「責任を持って、私が三途の川に運ぼう」

 

 

 

「・・・え?」

 

楯無さん・・・ご臨終です。

 

「楯無。貴様に与えられた選択肢は2つだ。私に殺されるか、切腹し自害するかだ」

 

楯無さんの背後に何故かいる千冬姉の警告に俺は戦慄する。後ろはただの壁なのにどうやって潜り込んだんだ?

 

「あの・・・私は織斑君の護衛で・・・」

 

「ほう。そんな破廉恥な姿で護衛する奴など見た事も聞いた事も無い」

 

「これは親交を深めようと・・・」

 

「マドカのメールだと、欲求解消の為に弟を食べようとしてると聞いたが?」

 

あれ?さっきマドカが言ったのと一致してないが。

 

「マドカちゃん!?言ってる内容と違ってるじゃない!」

 

「すまんな。貴様に言った内容はラウラと簪に送ったものだった」

 

「え!?」

 

ワザとらしい演技で謝罪してるがやりすぎだろ。

 

「そういう事だ楯無。後でたっぷり事情を聞こうではないか」

 

楯無さんを力づくで引き離した千冬姉は笑顔のまま窓を開けた。

 

「先生!?どこから出ようとしてるんですか!?」

 

「窓からだ」

 

「普通にドアから出てください!」

 

「弟と普通に接しなかった罰だ。さあ、逝くぞ!」

 

そのまま頭を下にして、錐もみ回転しながら落ちて行った。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」

 

楯無さんの叫び声と同時に轟音と揺れが起こった。楯無さん・・・また会えますよね?

 

「ふっ。所詮楯無はその・・・イタッ」

 

俺は迷わずマドカの頭にゲンコツをした。

 

「マドカ。いくら何でもやりすぎだ」

 

「何をだ?」

 

「写真を撮って脅迫するなんて、やって良い訳ない」

 

楯無さんの行動にも問題はあるけど、マドカの行為はいくら何でも許されるものではない。

 

「少なくとも脅迫ではなくなった」

 

「だとしても、やって良いことと悪い事ぐらい分かるだろ?」

 

「兄さんは奴の行いを認めるのか?」

 

「そうじゃない。楯無さんが何をしたかったのかは分からないけど、妹を持つ身として注意してるだけ」

 

「妹が誰なのか分かって言ってるのか?」

 

「誰なんだ?」

 

「簪だ」

 

あぁ・・・妹さんに彼女が出来てご乱心と言う訳か。

 

「兄さん。奴は二人(ラウラ✕簪)の仲を引き裂こうとあらゆる手段を問わない。そんな奴を私は見逃すつもりはない」

 

「言いたいことは分かった。だけど・・・」

 

「そこまでにしておけ」

 

「千冬姉!?」

 

今度は天井から現れたけど、普通に入って来てくれないかな。

 

「織斑先生だ。マドカの件については私が後で話をする」

 

「じゃ、じゃあ頼む」

 

「お前は山田先生と話をしろ。少しばかし私がキツク言いすぎたせいでちょっと傷心状態だ。フォローしてくれ」

 

千冬姉、だからISの特訓は真耶と一緒にって言ったのに・・・

 

「マドカ、私の部屋に来い。話がある」

 

珍しくマドカは言う事を聞いて、千冬姉の部屋に向かった。

 

「織斑、一つ言っておくべきことがある」

 

「何?」

 

「マドカが所属していた組織は私が壊滅させた。それだけだ」

 

ああ・・・うん。それを聞いて驚いていない自分に驚く。

 

「山田先生のフォローを任せた。では!」

 

千冬姉はその場から疾風の如く消えたけど・・・

 

「真耶、大丈夫かな」

 

恐らくマドカのメールでかなり傷心してるから、早く部屋に行かないと・・・

 

コンコンコン

 

「真耶!?」

 

真耶が来てくれたのか!俺は急いでドアを開けて・・・

 

 

 

「一夏。お前に・・・」

 

 

 

急いで閉めた。何で真耶じゃなくて箒が来るんだ!

 

「一夏、開けろ!お前に言いたいことがある!」

 

「箒!今俺の部屋は立て込んで・・・」

 

「嘘を言うな!マドカと織斑先生が部屋を出て行く所をこの目で見たぞ!」

 

最悪のタイミングで見てしまったのかよ。

 

「なら一夏。ドアは開けなくてもいい。そのまま聞け」

 

「な、何だ?」

 

「山田先生と付き合っているのか?」

 

今更、その質問?

 

「ああ、そうだが」

 

「本当にか?」

 

「ああ」

 

「本当に付き合っているのか?それはお前の思い違いじゃないのか?」

 

「いや!クリスマスの時に告白したから!」

 

「それは山田先生の妄想ではないのか?」

 

「いや、お前の言ってる事が妄想に近いぞ!」

 

「違う!私の想いは本物だ!」

 

俺に弾みたいな事をしろって言うのか!?

 

「だから、一夏。山田先生と付き合ってても良いから・・・」

 

「天空真剣・・・稲妻二段斬りっ!」

 

「ぐはっ!」

 

ドア越しでも分かる・・・誰が箒を斬ったのか。

 

「一夏・・・わ、私は・・・」

 

誰かが箒を引きずる音を聞いた俺はドアを開けた。

 

「一夏君」

 

目の前にいたのは、涙目の真耶だった。

 

「真耶、大丈夫だよ。俺は真耶以外の女性とは付き合わないから」

 

「えっ!?ど、ど、どうして分かったの!?」

 

涙目から突然顔を赤くして慌てる真耶の姿を見て、俺は思わず笑みをこぼしてしまった。

 

「真耶の考えてる事、顔に出てたから。部屋に入って。今、部屋には誰もいないから好きなだけ甘えてもいいよ」

 

「も、もう!一夏君が甘えて来てよ!」

 

「分かった。じゃあ、後ろから抱きしめながら話していい?」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「そういう事があったの」

 

「ああ。真耶は何か知らない?」

 

「私も初めて聞いたから分からないけど、今度から気を付けないと」

 

俺は楯無さんと出会ってから千冬姉に連行されるまでの経緯を真耶を後ろから抱きながら話して真耶の誤解を解いていた。

 

「それにしても謎の組織って、一体何なんだ?」

 

「うーん?危害を及ぼすような組織じゃないけど、調べないといけないね」

 

「じゃあ頼む。真耶、あーん」

 

「あーん」

 

それにしても、後ろからナポリタンを真耶の口に運ぶのは難しいな。服を汚しかねないし、手元が見えづらいけど、俺がやり出したからにはちゃんと責任を取って行わないと。

 

「ところで真耶。今度の土曜日は大丈夫?」

 

「え?大丈夫ですけど」

 

「だったら、デートしない?」

 

「でも、一夏君は日曜日に織斑先生との所用が・・・」

 

「大丈夫。俺が真耶の仕事を手伝って土曜日のデートが出来る様にするから」

 

「一夏君・・・」

 

学園内での交流が減らされる分、休日にデートをして交流をもっと深めないと。

 

「真耶の事を色々知り尽くした気になってたけど、夏休みでまだまだ知らない事が多かった。だから、俺はもっと真耶の事を知りたい。もっともっと知って、もっともっと愛したいんだ」

 

決して疚しい気持ちで言ってるわけではない。純粋に真耶の事を知りたい。夏休み時に、俺は真耶の事を半分も知っていない事を思い知らされた。真耶の事を知ってより深く愛せるようにしないと、あの四人が何をしでかすか分からない。一人先陣を切って来たけど。

 

「一夏君。この後、時間ある?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、書類整理手伝ってくれる?」

 

「書類整理以外もやるよ、真耶」

 

「ありがとう。それじゃあ・・・」

 

真耶は俺の手からフォークを取り、お皿に残った一口分のナポリタンを巻き付けた。

 

「はい、あーん」

 

そのまま、ナポリタンが巻きつかれたフォークを俺の口元に近づけた。

 

「あーん」

 

至福の夕食を堪能した俺は真耶の部屋で書類作成や整理などの手伝いをして・・・

 

「お前達・・・とうとう、学園生活と私生活の区別が出来なくなったのか?」

 

千冬姉に怒られた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

職員室

 

「どう?予定の方は?」

 

「このままだと、学園祭と被るわ」

 

「別にいいわよ。学園祭は生徒会に任せれば問題ないから」

 

職員室で行われている会議。そこに居座る女性達は、全員真剣な表情で何かの計画について話していた。

 

「それに、生徒達の間では『次期生徒会長』に支持が集まってるから、その時は彼女に任せれば問題ないわ」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒか。彼女なら、私達がいなくても学園生活を送る事も生徒会長になっても問題はないな。彼女と簪の支援組織も誕生し、私達の計画を妨げるものは無くなった」

 

彼女達の間で行われている計画。それは・・・

 

 

 

「これより、『IS学園 秋の合コン計画』を実施する。合コンが終了次第、この計画は完了する。例え、実施日が学園祭と被っていても合コンを優先する。生徒会とその他の教員が阻止しようとしても、計画を強行するものとする。全員それを理解したものと見なし、解散」

 

 

 

秋の合コンについての話し合いだった。




次回

一夏✕真耶とラウラ✕簪のダブルデート!?

の、予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第42話

今回は土曜日のデートに起こった出来事を書いた話です。


「単刀直入に言おう。一夏、私と嫁のためにダブルデートというものに付き合ってくれ」

 

俺と真耶はレゾナンスで困っている。

 

「えっと・・・一夏君?」

 

「どうしようか・・・」

 

ラウラのダブルデートの頼みだ。

 

「いや、別に俺と真耶じゃなくても・・・」

 

「イエスかヤーで答えてくれ」

 

「えっと・・・」

 

どうしてこうなったのかは、今から30分前に遡る。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「久しぶりだね。一夏君とレゾナンスでデートするなんて」

 

「本当はどこか遠出とか考えてたけど、お金が足りなくてレゾナンスになったんだ」

 

「ううん。一夏君とデートが出来るだけでも嬉しいの。学園で二人きりになれる時間が極端に減って、凄く寂しかった」

 

土曜日。俺はレゾナンスで久々に真耶とデートをしていた。お互い久々のデートだったので欲を抑えるのに必死だった。真耶はその日にも仕事があったが、午前中に仕事を全て終わらせてそのままレゾナンスに向かった。だから服装は学園にいる時と同じ。俺はジーパンに白のTシャツに長袖の黒シャツというオードソックスな服装だ。

 

「学園にいる時の服装だけど、嫌だった?」

 

「いいや。真耶はどんな服を着ても似合うから大丈夫だよ。それに、その服の真耶と一度デートしたかったんだ」

 

「良かった。じゃあ、今日は思い切って楽しもうね!」

 

早速俺の腕を掴み、俺を何処かに連れて行く真耶。そういえば、水着売り場の所が別の売り場に改装されていたから、真耶はそこに行きたいのかな?

 

 

 

「真耶、ここは・・・」

 

「ここね、最近オープンしたばかりなの。だから、最初は一夏君と一緒に行きたかったの」

 

たどり着いた場所。そこに吊り下げられている看板には、「コスプレルーム」と堂々と書かれていた。

 

「何でも、レゾナンスにあるカラオケルームのコスプレサービスの評判が良くてレゾナンス内でコスプレをしたまま、買い物ができるサービスが始まったの。だから、一夏君と一緒にコスプレして買い物したかったの」

 

確かに、ここに来るまでの間にコスプレをした人を何人か見かけた。何でコスプレをしてるんだろうと思っていたが、これが理由とは。

 

「ねぇ一夏君。どんな服を着ても似合うって言ったけど、どれが一番似合う?」

 

そう言い、俺に見せたのは・・・

 

・婦警

 

・女子高生の夏の制服

 

・チアガール

 

・猫パーカー

 

この4つである。

 

「サイズが合ってるのを選んだら、これ位しかなくて・・・」

 

分かってるけど、これ以外に無いのがおかしい。30着近くあるのに、真耶のサイズに合うのが4つしかないっておかしいでしょ。それとも真耶位の人がレゾナンスに多くいると言いたいのか?恐らく豊胸手術をしたに・・・

 

「そんなに真剣に考えなくて大丈夫だから一夏君」

 

「あ、ああ」

 

余計なことを考えるな。今は、真耶に似合う服を決めるんだ。とは言っても一択しかないけど。

 

「じゃあ、婦警さんの服で」

 

「分かった。じゃあ、ここで待っててね。すぐに着替えるから」

 

受付所で受付を済ませ、更衣室に入った真耶を見て俺はちょっと興奮していた。

 

「どんな姿になるんだろう」

 

恐らく、想像以上に似合ってるんだろうな。学園で真耶と一緒にいられなかったから、婦警姿の真耶が待ち遠しいよ。

 

「まだかな、真耶」

 

「アンタ、何してんの?」

 

「え?」

 

何やら聞いてはいけない声が聞こえたので、後ろを振り向くと・・・

 

「はぁ。やっぱりアタシがいないと駄目なんだから」

 

制服姿の鈴がため息をついていた。

 

「鈴!どうしてここに!?って、どうして制服?」

 

「今日の午前は、ISの練習をしてたからよ。で、昼食がてらにレゾナンスで休もうかと思ったら一夏を見つけたって訳。どうして一夏はこうも問題を起こそうとするの?」

 

何もしてないぞ俺は。

 

「一夏。あんたはアタシがいないと何かしらの問題を起こすから、これからアタシといなさい!」

 

「何の問題も起こしてないだろ?」

 

「起こしてるじゃない!山田先生と破廉恥な事を毎日して!」

 

それは・・・何も言い返せない。

 

「だから、あんたはアタシといれば何の問題も起こさない。あんたは強くなる。これ以上に良い事が無いって思わないの?」

 

「だから、俺は昔のように無闇に力なんか求めてないから」

 

「じゃあ、山田先生と破廉恥なことをしてたのはそれの証明だって言いたいの?」

 

「何でそうなるんだ!?」

 

「そうなるに決まってるじゃない!大体、山田先生と付き合ってる事自体危ないじゃない!教師と生徒が付き合ってるなんて!」

 

「ここで言うことじゃないだろ!?」

 

「言うことよ!そうじゃないとあんたが問題起こすんだから」

 

周りの人が集まって来た。これはヤバい。このまま、噂みたいに地域までに広まったらIS学園が色んな意味で崩壊する。

 

「だから、大事になる前にアタシといた方がいいわよ」

 

こうなったら、あの手を使うしかない!

 

「鈴・・・一つ勘違いしてるぞ」

 

「何よ?」

 

「俺と真耶は恋人として付き合ってなんかいない」

 

「え・・・そうなの?」

 

鈴はあまりの言葉に固まった。

 

「一夏・・・君?」

 

更衣室からこの世の終わりと言わんばかりの表情で婦警姿の真耶が出て来た。既に着替え終わっており、短いスカートで露見されている太腿、ちょっと苦しそうにしているブラウスに、周りの男性の視線は釘つけになっていた。

 

「だったら、山田先生と一緒に・・・」

 

鈴が攻勢になる前に手を打つ!

 

「俺は・・・」

 

 

 

「真耶と結婚を前提とした付き合いをしてるんだ!」

 

 

 

「・・・は?」

 

鈴は突然の事に少し混乱している。それもそうだ。何故なら、これは俺が心の中に閉まっていたことだ。分かるわけもない。嘘だと言われても仕方がない。今日初めて言ったから。

 

「真耶はどう思っているか分からない。でも、俺は真耶と結婚したいと思っている!」

 

「一夏君・・・」

 

「真耶、ゴールデンウィークの旅行の時に分かってたはずだよ」

 

「そう・・・だね。でも・・・正直に言われると・・・恥ずかしい」

 

真耶は顔を赤くしながらも、結婚を前提とした付き合いをしていると認識していた。

 

「一夏・・・」

 

「鈴、俺は・・・」

 

「見ない内にとんだスケベ野郎に落ちたのね・・・!」

 

「はぁ!?」

 

「山田先生と付き合ってる理由なんて、体目的なのはお見通しだから・・・!」

 

全然見通せてません。

 

「一夏・・・覚悟・・・」

 

鈴はISを部分展開しようとした時だった。

 

「一夏、そこにいたのか」

 

「ラウラ?」

 

まるで友達と遊んでいる最中はぐれてしまい、探しに行って見つけたかのように軍服を着たラウラは声を掛けて来た。

 

「何をしている?山田先生と3人で食事をする話だったはずだ」

 

「あ、いや、そんな話は・・・」

 

「行くぞ二人共」

 

ラウラは俺と真耶を無理矢理引っ張って、近くのファミレスに連れて行かれた。

 

「ちょっと!私は・・・」

 

「警備員さん。あの女性が探していた犯人だと思われます」

 

「ちょっと君。来なさい」

 

「えっ!?ちょっと、私は何もしてないわよー!」

 

鈴はラウラの命令に従った警備員さんにどこかへ連れて行かれた。

 

 

 

そして、冒頭に戻る

 

・・・・・・

 

 

 

「どうしてラウラとのダブルデートをしなくちゃならないんだ?」

 

「そうだな。先にそこまでの経緯を話さないといけなかった」

 

「お客様?何かご注文は?」

 

「ステーキを」

 

「かしこまりました」

 

注文を終えたラウラは俺と真耶にダブルデート提案の経緯を話した。

 

「更識楯無。彼女は私の嫁の姉であり、IS学園生徒会長であるのは知ってるな?」

 

「ああ」

 

「その楯無が私と嫁の付き合いに不服と感じ、あらゆる妨害工作を仕掛けてくる。夏休みは満足にデートもできなかった。デートを行おうとすれば尾行しては介入を行い、ムードを最悪の状態にさせる。休憩できるホテルに入ろうとした時は私を武力で鎮圧しようとした。夏祭りなんか楯無の介入でデートは中断。私は嫁と学園の外でちゃんと二人きりになったことが無いのだ」

 

ラウラは真剣に話しているが、所々楯無さんが止めに入る気持ちが分かる。休憩できるホテルって・・・

 

「だからお前と山田先生、私と簪のダブルデートを行えば互いに二人きりになれる時間を確保できて、共に幸せな時間が過ごせると思い提案した」

 

だからと言って、ラウラの気持ちが分からなくもない。恋人と一緒にいられないのは何より辛いのは俺だって知っている。だけど、ダブルデートをすると4人がなぁ・・・

 

「どうしようか・・・」

 

「それなら、これに賭けてみませんか?」

 

真耶はテーブルの上にチラシを広げた。

 

「実は今日と明日限定でレゾナンスで3000円以上のお買い物をしたお客さんに、旅行チケットが当たる抽選会を実施してるんです」

 

「つまり、私がその旅行チケットを手に入れれば嫁と二人きりになれると!」

 

「お待たせしました。ステーキになります」

 

ステーキが届いた瞬間、ラウラは雪崩の如くステーキを平らげた。ちゃんと噛んで食べよう。

 

「こうしてはおられん!早く目的の物を購入し、旅行チケットが当たる抽選会に参加しなければ!」

 

ラウラは颯爽と俺と真耶の分のお代を払い、本屋にダッシュで向かった。

 

「真耶。その旅行チケットってまさか・・・」

 

「本当は一夏君と一緒に行こうか考えてたけど、ボーデヴィッヒさんの悩みを聞いてたら応援したくなっちゃって」

 

真耶もラウラの辛さに共感してたのか。

 

「さあ、ボーデヴィッヒさんの為にも私たちも買い物しよ。じゃないと、逮捕しちゃうよ」

 

「分かったよ真耶婦警」

 

「ありがとう。未来の旦那さん」

 

俺と真耶もラウラの為に買い物をした。ラウラがちゃんと恋人と二人きりになれる時間を作れるように。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「いよいよだな・・・」

 

「ラウラ。そこまで肩に力入れなくていいから」

 

買い物をした結果、俺と真耶は3000円ぐらいの買い物が限界だったが、ラウラは15000円程の買い物をして、くじ引きを5回も引ける。15000円って、そこまで費やせる物って何だ?

 

「それでは、行くぞ!」

 

ラウラは意気揚々と抽選場へ向かった。

 

 

 

「バカな・・・これが現実だとでも言うのか!」

 

 

 

結果は全部ポケットティッシュである。

 

「まあ、そう上手くいかないんだな」

 

「くっ!・・・これでは楯無の思うつぼだ!」

 

このくじ引きは、楯無さん関与してないから。

 

「そういえば、真耶は・・・」

 

 

 

「おめでとう!一等当たりました!」

 

 

 

「「え?」」

 

男性店員が大声で一等が当たったと叫んでいる。その一等を当てたのは・・・

 

 

 

「一夏君、当てちゃった・・・」

 

 

 

真耶だ。そういえば、前にもこんな事があったような・・・

 

「一夏、お前の勝ちだ。その旅行・・・山田先生と存分に楽しむがいい」

 

ラウラは両膝を着き、物凄い絶望に打ちのめされているけど・・・

 

「真耶、そのチケットを・・・」

 

「はい、ボーデヴィッヒさん」

 

「何!?」

 

真耶はラウラに一等の旅行チケットを渡した。

 

「私に情けを掛けると言うのか?」

 

「いいえ。ボーデヴィッヒさんが恋人と一緒にいられない気持ちは物凄く分かります。だから、このチケットで存分に楽しんでほしいと思って渡しました」

 

「だが、お前達二人は・・・」

 

「織斑君との旅行デートはいつでもできるから、今はボーデヴィッヒさんの応援をするって決めたんです」

 

「山田先生・・・感謝する!」

 

ラウラは旅行チケットをポケットに入れ、立ち上がった。

 

「この恩は必ず返す。だが、今は嫁とのデートの為にここを去る!」

 

そう言い残し、ラウラは疾風の如く走り去った。

 

「ラウラのデート、どうなるんだ?」

 

「どうなるんだろうね」

 

そんな不安はあるが、とにかく良いデートになる事を祈ろう。

 

「真耶、そろそろ時間が」

 

「そうだった。それじゃあ、最後に写真撮影してもらおう」

 

「できるの?」

 

「うん。受付所の隣に別料金で写真撮影ができるの。だから、一夏君がカメラマンになって撮って欲しいの」

 

「プロのカメラマンみたいに撮れないけどいいのか?」

 

「一夏君はイヤ?」

 

婦警姿の真耶を俺が撮影する・・・断る理由が無い!

 

「イヤじゃない!撮りに行こう!」

 

撮影所で婦警姿の真耶は俺のリクエスト通りのポージングをしてくれたお陰で色々な写真が撮れた。これは俺の思い出の・・・

 

 

 

「私の弟にこんな淫らな趣味があったとはな・・・少し頭を冷やそうか」

 

 

 

千冬姉にその写真もろとも思い出の欠片にされた。

 

「何で撮影所にいるの!?」

 

「弟の考えぐらい分からなければ姉として失格だ!」

 

「分からないから!」

 

千冬姉が人としての原型を保っていない事に今更気付いた俺であった。




ラウラと簪の旅行デートは後程書きますので、ご期待ください。

それにしても、婦警姿の山田先生は最高だと思います。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第43話

皆さんお待たせしました。

日曜日の出来事と学園祭に関するお話です。


日曜日、俺は千冬姉とマドカと一緒に弾の家にいた。

 

「弾。何か言い残すことは無いか?」

 

「あの・・・千冬さん。どうして、俺の首に剣が添えられてるんですか?」

 

「マドカの他に女と付き合ってるからだ」

 

弾の家族と一緒に話し合いをしてるはずなんですが、何故か千冬姉の独壇場となっている。

 

「でも・・・その女性とマドカの二人と付き合って・・・」

 

「だからだ。貴様にはその代償を払わせることにした。安心しろ。家族から許可は貰っている」

 

「俺にもう一回死ねと言ってるんですか!?」

 

「その通りだ」

 

弾はもう一回お星さまになるんですね。

 

「一夏!親友の俺がどうなってもいいのか!?」

 

「弾・・・」

 

「一夏、俺の事を・・・」

 

「また生きて帰って来るんだぞ」

 

「一夏ぁぁぁ!」

 

そして、弾はもう一度お星さまになりました。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「一夏君。それはちょっと・・・」

 

「俺も分かってる。だけど、弾をもう一度お星さまにしなきゃいけない気がしたんだ」

 

翌日の朝。俺は食堂のカウンターで久々に真耶と朝食を摂っていた。とは言っても、いつもより早く起きたので早めに朝食を食べようと食堂に向かったら、真耶とばったり会っただけなんだけど。

 

「弾君。大丈夫かな?」

 

「大丈夫だよ。そうじゃなかったら、千冬姉に成敗されてるから」

 

少なくとも、容赦なく大技を弾に掛けるからな。

 

「でも、こうして一夏君と二人きりで朝食を食べられるのは嬉しいな」

 

「確かに、最近はクラスメイトやマドカと一緒に食べてるからな。一緒にいる時間も減ったし、休日で二人になっても千冬姉がいるからな・・・そうだ!」

 

「ど、どうしたの!?」

 

真耶は驚いて、飲んでいたコーヒーをこぼしそうになった姿は可愛いな・・・じゃなくて。

 

「真耶は昼食はどうしてるの?」

 

「え?いつも食堂だけど」

 

「だったら、俺が毎日真耶の昼食弁当を作って届けるよ。そうしたら・・・」

 

「残念だけど、それはお預けよ」

 

俺と真耶の間に割り込んで来た謎の人物。

 

「織斑君に大事な頼みがあるの」

 

水色の髪に扇子。真耶より劣るボディーライン。

 

「楯無さん!」

 

「あら。覚えて・・・」

 

「生きてたんですか!」

 

俺の驚きに楯無さんが動揺してるけど、千冬姉の鉄槌で無事な生徒なんて見た事ない。少なくとも三途の川を2、3回見に行くからな。

 

「ま、まあ生きてるけど。それより、織斑君に大事な話があるの」

 

「何ですか?」

 

「突然で悪いけど、生徒会に入ってくれない?」

 

俺が・・・生徒会!?

 

「ダメかな?お姉さん、色々と困ってるのは知ってるでしょ。だから、生徒会で働く人が一人でも増えてくれたら私としては嬉しいの」

 

「いいんですか?勝手にそんな事をして」

 

「織斑君は嫌なの?」

 

「いや、そういう訳じゃ・・・」

 

「私の頼み事より山田先生との朝食が大事だもんね、仕方ないね」

 

楯無さんの事情を知ってるから、ますます断り辛い。

 

「いや、俺は・・・」

 

「ん?何?」

 

「俺でよければ、いいですけど」

 

「本当!?」

 

「え、ええ」

 

「じゃあ、この紙に・・・」

 

楯無さんが何処からともかく取り出した紙にサインしようとした時、俺の目の前を何かが横切り、紙が無残にも切り裂かれた。

 

「この展開は・・・」

 

楯無さんが怒った顔で横切ってきた方角を見ると・・・

 

「楯無!この学園を貴様の思うようにさせはせん!」

 

ラウラと簪が楯無さんを睨んでいた。

 

「あのね。私は織斑君が生徒会に入ってくれるって言ったから、紙を差し出しただけよ」

 

「それが、私と嫁を葬らんとする為の手段だというのは既に知っているぞ」

 

「え!?楯無さん、どういう事ですか?」

 

「ラウラちゃんの妄言だから、別に気にしなくていいわよ」

 

「なら、嫁とのデートをストーキングしたのは何だ?嫉妬か?」

 

「嫉妬じゃなくて心配だからよ!簪ちゃんが貴方のせいでオカシクなったのよ!」

 

「いつまでその戯言を吐き続ければ気が済む!簪は貴様の人形ではない!責務を忘れ、自らの野望の為に家族を利用する貴様は姉ではない!」

 

「そんな野蛮な事はしないわよ!」

 

「ストーキングをする者を野蛮と言わずになんと言う!」

 

「簪ちゃんをラブホテルに連れ込もうとする方が野蛮よ!」

 

一昨日ラウラが言っていた休憩出来るホテルの事か・・・流石にダメでしょ。

 

「愛を育む場所に行く事を野蛮だと言うのか!」

 

「あのぉ、皆さん。他の生徒さん達が食事できないんですけど・・・」

 

「え?」

 

「何?」

 

真耶の声で我に返った二人は周りを見渡した。

 

 

 

「あの会長と言葉で互角に渡り合えるなんて・・・ラウラ様はやはり生徒会長にすべき!」

 

「あぁ、ラウラ様の勇姿を拝められただけでお腹いっぱい!」

 

「楯無先輩はいつまで生徒会長を続けるつもりだろう?」

 

 

 

うん。ここの生徒達はいろんな意味で駄目だ。

 

「貴様ら!何をしている!朝食を食べたくなければ早く教室に行かないか!」

 

まあ、千冬姉が来ることは分かってた。寮長だからね。

 

「ボーデヴィッヒ、楯無。何なんだその痴話喧嘩は?」

 

「申し訳ございません教官」

 

「気を取り乱してしまってすみません」

 

流石に千冬姉の前ではおとなしくなるか。

 

「一夏君。そのお弁当の事なんだけど、明日からいいかな?」

 

「ああ。俺は構わ・・・」

 

「織斑!山田先生にちゃんとした弁当を作るんだぞ!」

 

「言われなくてもやるから」

 

千冬姉に何か承諾をもらったよ。

 

「楯無。少しは下級生の見本となるように振舞え」

 

「分かりました。以後、気をつけます」

 

「後、ラウラと簪の付き合いを認めろ」

 

「分か・・・りません!それは分かりません!どう考えても、二人の付き合いは到底認められるものではありません!」

 

「まあ、ボーデヴィッヒの常識の無さは私も困っている。そこは簪がちゃんと教えれば良い」

 

「いえいえ!二人が付き合ってる事自体・・・」

 

「いい加減、妹離れをしたらどうだ?度が過ぎて見てる方が辛い部分があるぞ」

 

「離れようにも離れませんよ!あんな淫らな付き合いをされてたら、姉として心配しますよ!それに、度が過ぎてるのはラウラちゃんの方です!」

 

「そこは私が止めに入る。お前は静かに見守っていた方が良い。いや、静かに見守れ」

 

「命令形ですか!?」

 

「もうすぐ全校集会が始まる。さっさと持ち場に戻れ」

 

そう言い、千冬姉は食堂の見回りをするためにその場から風の如く消えた。結局、俺が生徒会に入る話は白紙になってしまった。

 

「織斑先生・・・普通に持ち場に戻る事は出来ないんですか?」

 

楯無さん。ツッコむのは野暮です。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「俺は商品でもないのに・・・」

 

「全くだ。駄目無の奴は兄さんを広告塔と勘違いしてるのではないか?」

 

全校集会が終わり、俺は教室でため息を吐いていた。いや、それぐらいしかできない。

 

楯無さんが近々行われる学園祭で優勝した部活は俺を強制入部するというトンデモルールを導入した。お陰で全部活は俺のために大会を投げ出す模様。プライドは無いんですか?ちなみに優勝したのがクラスの場合は一日レンタルされると言う徹底ぶり。勿論、俺からの許可は下りていない。

 

「マドカ、その考えは違う。楯無は焦っているんだ」

 

「ラウラ、どういう事だ?」

 

「楯無の支持がここ1ヶ月で右肩下がりになっている。周りに迷惑を掛けないように支持率を上げようとしていたが、このままいけば生徒会長の役職を下されるのも時間の問題となった。そこで、どの部活動にも所属していない一夏を餌に自らの人気取りを行おうとしてるわけだ」

 

「なるほど。学園祭が行われる時期でもあり、優勝景品という扱いにすれば生徒達のモチベーションが上がるから、問題無く企画が通る」

 

「その企画を立案した楯無は救世主として崇め奉られ、生徒会長の座は守られる。生徒会長の立場だからこそ、あのような企画を立案、実行できた」

 

「ふざけるな!そのために私の家族を道具のように扱うなんて・・・更識楯無絶対に許さねぇ!」

 

何か二人の話がどこかオカシイ。何か政治もどきの話を聞かされてる気分だ。

 

「マドカ。気持ちは分かるが落ち着け」

 

「兄さんは悔しくないのか?」

 

「悔しいも何も、楯無さんには楯無さんなりの事情が・・・」

 

「一夏。それが楯無の狙いだ」

 

「ラウラ。言ってる意味が全然分からない」

 

「お前の優しさに目を付けたんだ。お前は楯無の事情を少しばかり知っている。彼女はその事情を武器にお前を生徒会に入れようとしてるのだ。お前が入れば生徒会は少なからず注目を浴び、生徒会長の座は安泰だ。当分の間は生徒会長の支持で頭を悩ます事は無いと考えているだろう」

 

いや、楯無さんが頭を悩ましてるのは別の件だと思う。

 

「一夏。お前はまだ生徒会に入っていない。恐らく楯無は、この学園祭で生徒会が優勝するように仕組んでいるだろう。成績優秀。運動神経抜群。さらにはありとあらゆる格闘技をマスターしている。教官やマドカに太刀打ちできないが、一夏には容赦なく使うだろう」

 

「ラウラ。お前はどうする?私は拳法を捨てた人間だ。あの時のような戦いはできないぞ」

 

「分かっている。今日の放課後に行われる特別HRで発表する」

 

もう、嫌な予感しかしない。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「一夏君、大丈夫?」

 

「真耶。何か今日は膝枕をして欲しい気分だよ」

 

昼休み。俺は学園の屋上で真耶と二人で昼食なのだが、食欲が湧かない。俺が学園祭の優勝景品になったとなると、どう気分が上がらない。

 

「あんまり落ち込まないで。こういう時こそ、一組の皆が力を合わせて優勝すればいいんだから。はい、膝枕」

 

真耶の膝に頭を乗せ、気分を落ち着かせようとした。周りに生徒達はいるけど気にする気力が無い。

 

「はい。恋人の時間はここまで」

 

真耶の膝枕は3秒で終わった。

 

「楯無さん!」

 

「織斑君に山田先生、ここはIS学園です。そういう甘い時間は学園外で行ってください」

 

「「は、はい・・・」」

 

「よろしい。じゃあ織斑君、私にあーんしてくれない?」

 

「え!?どうしてですか!?」

 

「あんな甘い雰囲気だした罰。ほら、あーん」

 

そう言い、女の子座りで目を瞑り口を開けた楯無さんに俺は弁当箱に入ってた唐揚げを入れた。

 

「うーん。この唐揚げおいしい!」

 

「そ、そうですか」

 

真耶がいる前で他の人にあーんするのは罪悪感を覚える。

 

「でもね、織斑君。山田先生ばかりに気を取られてたら、彼氏としてはまだまだね」

 

「どういう意味ですか?」

 

「それはね・・・」

 

「兄さん!奴の言葉に惑わされるな!」

 

この声は・・・

 

「あら、マドカちゃんじゃない。どうしたの・・・って、ラウラちゃんに簪ちゃん」

 

怒りの形相した三人が現れたけど、マドカだけ桁違いだ。

 

「どうやら、人の恋路に介入すると言う暴挙に出たか。更に堕ちるようになったな、楯無!」

 

「あのね。これは織斑君と山田先生が・・・」

 

「兄さんと山田先生の恋路を邪魔してまで、シナリオ通りに動かそうなんて!更識楯無!絶対に許さねぇ!」

 

マドカ、とりあえず落ち着け。お前のキャラがぶれにぶれまくってるぞ。

 

「二人は話を聞く気はないの。簪ちゃんは・・・」

 

「私は・・・お姉ちゃんと仲直りしようと思って来た」

 

だけど簪は、『浮気をしている夫と出会った奥さん』みたいに完全に許す気ゼロの雰囲気ですけど。

 

「でも・・・許さない」

 

「えっ!?いや、これは・・・」

 

「自分から何も言わないで、人の恋路を邪魔するなんて人間のすることじゃない!」

 

「うぐっ!」

 

「私よりスタイル優れてるからって、私に見せびらかすなんて人間のすることじゃない!!」

 

「ごふっ!」

 

「恋人が出来ないからって、私とラウラを破局しようとするなんて人間のすることじゃない!!!」

 

「か、簪ちゃ・・・」

 

「お姉ちゃんは!・・・人間じゃなかった?」

 

「何でそうなるの!?」

 

楯無さんのツッコミのキレが良くなってきてる。

 

「ともかくだ。これ以上、人の恋路を邪魔するのであれば我々は全力で貴様と戦う」

 

「ラウラ。我々ってどういう事だ?俺はさっぱり分からないが」

 

「実は、非公式だがIS学園の生徒達の恋愛を応援する組織を運営している」

 

「何なのよ、その組織は!」

 

「その組織は6月に結成されたばかりだが、全校生徒の40%がこの組織に所属している」

 

「私、耳にしてないけど!?」

 

俺も初耳だが。

 

「当たり前だ。非公式の組織だからな。だが、それも終わる」

 

半年も経たずに解散するのって早くないか?

 

「非公式の組織から公式の組織になるからな!」

 

ラウラは胸を張って言ってるけど、とんでもないことを言ってるから。

 

「そんな組織は、生徒会を含め教職員達は認めません!」

 

「生憎だが、既に教職員と生徒会から許諾を受けているぞ駄目無」

 

マドカはポケットから組織運用の許可証を取り出し、楯無さんに見せつけた。

 

「駄目無じゃなくて楯無!と言うより、私の判子が押されてる!誰が・・・」

 

「虚に頼んで、判子を押してもらった」

 

「虚ちゃぁぁぁん!」

 

「だから駄目無なんだ貴様は」

 

三人による言葉のジェットストリームアタックに楯無さんはKO寸前である。

 

「私と嫁、一夏と山田先生、その他生徒の恋愛にあらゆる手段で介入するなら、我々は全力を持って戦う。一つ言っておくが、私と嫁を応援していた組織は我々の組織と合併して無くなった。仕事が減って楽が出来るようになったな」

 

「全然、楽じゃない!寧ろ、辛くなる一方よ!」

 

「駄目無限定で辛くなるだけだ」

 

「駄目無じゃなくて、た・て・な・し!」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

「簪ちゃん!」

 

「最低」

 

「ぐはっ!」

 

五時間目開始5分前のチャイムが鳴り、楯無さんの失神で昼休みは終わった。




次回は放課後の特別HRを執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第44話

クリスマスだからと言って、特別編は投稿しません。と言うよりできません。

クリスマスの告白を先に投稿してしまったからです。


放課後。教室で特別HRが始まり、クラスの出し物を決めるため盛り上がっているが・・・

 

「全部却下です」

 

「「「「「ええー!」」」」」

 

「俺は景品でもないし、見世物でもないんだから」

 

クラスで提案された出し物は、俺のホストクラブ、俺とツイスター、俺とポッキーゲーム、俺と王様ゲーム・・・救いは無いのかよ。

 

「織斑君は山田先生とツイスターやった事ないの!?」

 

「やった事はないが、ここでやる必要なんて・・・」

 

「大いにあるぞ一夏!」

 

箒!どうしてそんなに張り切るんだ。お前なら破廉恥だと言って否定しそうなんだが。

 

「お前は私達の交流を未だに疎かにしている。ここは私達の交流を深めると・・・」

 

「いやいや!交流は深めてるぞ!」

 

「一夏。それは一部のクラスメイトだけでしょ」

 

今度はシャルロットかよ・・・

 

「僕、クラスリーグマッチから全然話してない気がするんだ。それって交流を疎かにしてる証拠だよね?」

 

シャルロットの笑顔が段々暗くなってくるのと同時に教室に悪寒が走って来る。この流れだとセシリアが・・・

 

「・・・・・・」

 

何も言わない!?言わない代わりに何かを見定めてるような目つきで俺を見てる!

 

「とにかく!私は一夏とのツイスターを推薦する!」

 

「僕は、一夏とポッキーゲームがしたいな」

 

いつの間にか箒とシャルロットが自分のやりたい事を推薦してる。俺はやりたくないぞ!真耶と二人きりならやるが、二人(箒とシャルロット)はダメだ!

 

「まーやんはおりむーとツイスターかな〜?」

 

「えっ!?あ、いや、その、つ、ツイスターだなんて!でも、一夏君が良かったらやろうかな」

 

真耶がのほほんさんの言葉にときめいている。千冬姉は職員会議でいないから、教室は混沌とした状態だ。いや、千冬姉がある意味混沌なのだろうか。

 

「とにかく、これらは全部・・・」

 

「一夏!いい加減逃げるな!」

 

箒から逃げてないだろ・・・

 

「なら、メイド喫茶ならどうだ?」

 

おお!ラウラが別の案を・・・メイド喫茶?

 

「客受けは問題ない。それに飲食店は経費の回収ができ、入場者の休憩所としての需要は少なからずはある」

 

何だ。俺が執事での接客に物凄く需要がある訳じゃ・・・

 

「それに一夏の執事姿はかなりの見物だと考えるが」

 

都合の良い話なんて無かった。

 

「織斑君の執事いい!」

 

「それにしよう!」

 

「私のパパの知り合いに、一流劇団の衣装を担当した人がいるから電話して聞いてみる!」

 

「良い奉仕を期待してるからね!」

 

皆、揃いに揃って俺の執事に期待を寄せている。俺を客寄せパンダにするのか?

 

「一夏の執事姿の奉仕は魅力的であるが、一夏に頼った勝利など機体の性能に頼った戦い方と同じだ」

 

ラウラは、あくまで『俺も働く』メイド喫茶であることを強調した。

 

「学園祭開始前から行動し、他のクラスや生徒会に勝たなければならない」

 

「何か策があるというのか?」

 

マドカが疑問を投げつけた所で、俺は全校集会後の二人のやり取りを思い出した。

 

「ああ。既に部下達は作戦を実行している」

 

もしかして・・・

 

「ラウラン。生徒会にちょっかいを出すのはや・・・」

 

「これはちょっかいではない。終わらせるための戦いだ。長きに渡る生徒会と一般生徒の争いに終止符を打たせるための戦いだ」

 

のほほんさんの質問に答えているが、ラウラは指導者にならないと死んでしまう病気にでもかかっているのか?どこかの政治家みたいな口調になってるぞ。

 

「私は部下の情報と独自に得た情報を基に・・・!」

 

ラウラが作戦内容を言おうとした時、突然ラウラが飛んだ。いや、地面から出て来た何かがラウラを突き飛ばした。

 

「ふんっ!」

 

その何かは跳び、空中にいるラウラを捕まえて回転をつけたまま床に叩きつけた。

 

「うぐっ!」

 

「因果応報・・・南無」

 

こんな事をする人は一人しか考えられない。

 

「こ、この・・・技は・・・」

 

「ボーデヴィッヒもこの技は知っているか。これが葉隠流飯綱落としだ」

 

千冬姉の姿をしたSHINOBIだ。

 

「千冬姉。何やってるんだよ・・・」

 

「織斑先生だ。その公私混同はいつになったら直るんだ?」

 

千冬姉が普通の人に戻ったら直るかもしれません。

 

「ボーデヴィッヒ。私はお前の付き合いに異論を唱える気はない。だが、その付き合いの為に学園を危機に晒すなら話は別だ」

 

千冬姉は出席簿をラウラの首に添えた。

 

「貴様をこの手で葬りたくはない。考えを改めろ。道は幾らでもある」

 

「あの・・・織斑先生。どうやって教室に入られたのですか?」

 

「忍びは手の内を明かさず」

 

答えになってないから。

 

「とにかく、ご奉仕喫茶を行うなら私からは異論はない。だが・・・もし、織斑を商売道具のように扱うならお前達にSHINOBIの柔術をお見舞いしよう」

 

公私混同なのは千冬姉の方だった。

 

「何か言ったか織斑?」

 

「い、いえ・・・」

 

「では。私は会議があるので失礼する」

 

そう言い、千冬姉は教室の窓から飛び降りて姿を消した。

 

「ブリュンヒルデ時代の千冬姉はどこに行ったんだ・・・」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

特別HRが終わり、俺は真耶と一緒に資料を運びながら学園祭の事について話している。

 

「色々と大変な事になったね一夏君」

 

「これじゃあ、真耶のお弁当を作る時間が無くなるよ」

 

「それほど一夏君が学園に与える影響力は物凄い事なんだよ」

 

真耶の言ってる事は確かである。人類最強の姉を持ち、白騎士を専用機にしていたら学園どころか世界に多大な影響を与えるけど・・・

 

「そうかも知れないけど、一生徒として扱って欲しいよ。俺は千冬姉みたいな活躍は出来ないのに」

 

「誰も織斑先生の様になってほしいなんて言ってないよ」

 

「真耶は俺にどうして欲しいんだ?」

 

「それは・・・」

 

「山田先生」

 

俺と真耶の会話に静かに覚悟を決めたかのような声が割り込んできた。

 

「セシリア・・・!」

 

「オルコットさん。どうかしましたか?」

 

するとセシリアはポケットから白い手袋を取り出した。

 

「山田先生。わたくしと決闘してください」

 

「え!?け、決闘!?」

 

「明日の放課後、第一アリーナでわたくしとの決闘。如何ですか?」

 

決闘の申し込みに真耶は困っている。セシリアは一体何を考えているんだ?

 

「セシリア。真耶が・・・」

 

「わたくしは山田先生とお話をしております。話に割り込む事はご遠慮願います」

 

「あ、ああ・・・」

 

どうしたんだ。いつものセシリアと様子が違う。

 

「えっと・・・どうして私と決闘を?」

 

「それは決闘の時にお話しします。もし、決闘を申し受け入れらないならそれまでの事です」

 

セシリアの目は本気だ。本気で決闘を申し込んでいる。

 

「わ、分かりました。決闘を受け入れます」

 

「寛大なる処置に感謝いたします。明日の放課後、第一アリーナでお会いしましょう」

 

セシリアはそのまま回れ右をして去って行ったけど、真耶の方は・・・

 

「ど、ど、どうしよう一夏君。私、教え子と喧嘩することになったよ」

 

涙目で俺に助けを求めてる。




次回は、「山田先生対セシリア」の予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第45話

あけましておめでとうございます。

新年一発目の投稿「山田先生対セシリア」です。


セシリアと真耶の決闘当日。俺は真耶と一緒に第一アリーナのピットでセシリアが来るのを待っていた。

 

「セシリア来ないな」

 

「え、ええ」

 

真耶はISスーツに着替えてセシリアがフィールドに来るのを待っている。だけど、セシリアがフィールドに現れる気配が全くない。

 

「もしかして、私があまりにも不甲斐ないから・・・」

 

「いや、セシリアから持ち出して放棄することは無いだろ。それに、これは喧嘩じゃなくて模擬試合だから気にすることは無いよ」

 

真耶はセシリアと戦う事に物凄い抵抗感を持っている。確かに教師が教え子と決闘するのはあまり快くない。セシリアだってそれぐらい分かってるはずだ。どうしてだ?いや、そんなことより真耶を落ち着かせないと。

 

「真耶、物凄く不安なのか?」

 

「そうですよ。私が生徒と決闘するんですよ。一夏君は何も感じないんですか?」

 

「セシリアは何か考えがあって真耶に決闘を申し付けたけど、そこまで深く考えなくても大丈夫だよ」

 

「で、でも・・・」

 

俺は思わず真耶を強く抱きしめた。

 

「一夏君!?」

 

「真耶。これで落ち着いた?」

 

「え?それは、その、まだ・・・」

 

「じゃあ、落ち着くまで強く抱きしめるから」

 

俺は更に真耶を強く抱きしめた。強く抱きしめる度に真耶の肌と触れ合う部分か増え、豊満な胸が俺の体に強く押し付けられるが、俺は真耶が落ち着くまで強く抱きしめた。

 

「一夏君」

 

「落ち着いた?」

 

「ううん。でも、もの凄く落ち着く方法はあるの」

 

「それは?」

 

「えいっ!」

 

真耶が俺を強く抱きしめた・・・って、俺がさっきやったのと変わらないのだが。

 

「一夏君に抱きしめられるのは嬉しいけど、一夏君を抱きしめる方がもっと嬉しいの。だから、抱きしめて良い?」

 

「それって、俺ばっかり真耶を抱きしめてたから自分から抱きしめたいって・・・」

 

「もう、そういうのは言わないで。恥ずかしいから」

 

「分かった。真耶が落ち着くまで抱きしめられるよ。だけど、俺も真耶を抱きしめていいかな?」

 

「いいよ。お互い抱きしめた方が落ち着くと思うから」

 

真耶の緊張をほぐすために互いに抱きしめたけど、緊張はほぐれるのかな?

 

「一夏君を抱いて、一夏君に抱きしめられるだけで嬉しい」

 

「俺もだよ。真耶を抱きしめて、真耶に抱きしめられるのは幸せだよ」

 

どうやら緊張はほぐれてるみたいだ。真耶は今回の決闘で随分焦っていたし、ここは彼氏として真耶を元気づけないと。

 

「お前達。ここは学園だと言うのを忘れたとは言わせないぞ」

 

「お、織斑先生・・・」

 

千冬姉が来たお陰で別の意味で元気づいたよ。

 

「そうだな。山田先生の緊張ほぐすために私の抱擁と言う名のベアハッグをしよう」

 

それだと三途の川に行くことになります。

 

「いや、これは恋人同士が・・・」

 

「おまえはIS学園の教師だ。私の弟の彼女である以前に教師だ。これ以上オルコットを待たせる気か」

 

モニターを見ると、既にフィールド上空にはセシリアのブルーティアーズが待機していた。

 

「それでも抱き合っているなら、二人まとめて三途の川に行かせるか?」

 

「「大丈夫です!」」

 

「ならさっさと離れないか。山田先生はラファールでさっさとフィールドに行け。織斑はさっさとマドカ達がいる観客席に行け」

 

千冬姉、鬼の形相で言わないでくれ。真耶が怖がってるじゃないか。

 

「そうでもしないと、お前達が離れないからだ」

 

「だから何で俺の考えが分かるんだ!?」

 

「姉としての必須技能だからな」

 

「絶対必須じゃない!」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

千冬姉のベアハッグから鬼神如く逃げ出した俺はマドカ達のいる観客席に向かっている。千冬姉のベアハッグは確実に背骨以外も粉微塵にするよ。千冬姉の顔が物凄く笑顔だったから、確実に三途の川に行かせる気満々だ。

 

「はあ、千冬姉の手で三途の川に行かされる所だった」

 

試合は始まったばかりだ。マドカはどこかな・・・

 

「マドカはどっちが勝つと思う?」

 

「私は山田先生が勝つのに一票!」

 

「ここはセッシーの逆転勝利に一票」

 

清香、癒子、のほほんの三人とどちらか勝つのか話している。真耶の勝利一択しかないんじゃないか?

 

「残念だが、今回どちらが勝つのか予想できない」

 

「どうして?」

 

「この試合を見れば分かる。兄さんも立っていないで席に座ってくれ」

 

マドカは左手の指差しで自分の左隣が空いてると合図を送ってるが、何か罠でも仕掛けられてるんじゃないか不安だ。いや、さすがに考えすぎだ。妹が席を空けてるのに断るのは兄として最低の行為だ。ここは甘んじて誘いに乗ろう。

 

「悪いな、席を空けてまで待たせて」

 

「いや、姉さんが捕獲し易い位置に座らせろと連絡があって」

 

・・・え?

 

「いやぁ、随分と見え透いた罠に引っ掛かってくれて感謝の言葉が出ないな。弟よ」

 

千冬姉・・・いつの間にか俺の背後にいる!?

 

「山田先生との甘い一時を私も味わいたいな」

 

甘くない。千冬姉と一緒にいる一時は絶対に甘くない!

 

「ちょっと別の所で見ようかな・・・」

 

「わ、私も・・・」

 

「おりむーと家族の団欒を邪魔しちゃいけないよね~」

 

三人共!空気を読んでその場から去らないで!

 

「さて、織斑。お姉さんと楽しいお遊戯を始めようか」

 

「ちふ・・・織斑先生!今は試合を観戦しよう!そうしよう!」

 

「ちっ。いいだろう」

 

弟に舌打ちって・・・絶対何かしでかそうと考えてるよ。忍術か拳法の類で俺を三途の川に行かせるつもりだ。

 

「それにしてもセシリアの戦い方、前から全然変わってないような・・・」

 

「兄さんの目は節穴なのか?」

 

「だとしたら、私が直々に鍛え直さないとな」

 

姉妹で勝手に話を進めないで。俺が人間を辞める事前提じゃないですか。

 

「兄さん、セシリアの戦い方は随分と思い切ったものだ」

 

「そうなのか?俺には全然変わってないような気がするが」

 

4基のビットが真耶の周りを駆け巡りながら撃ってるけど、全然当たってない。俺みたいに近距離特化の機体じゃないからビットは斬れないけど、真耶なら・・・

 

「山田先生なら撃ち落とせると思っているのか?」

 

「だから俺の考えをどうして読むんだよ・・・」

 

「姉として弟が人の道を外さないか心配だから」

 

既に人の道を外してる姉が背後にいますが。

 

「よく見ろオルコットのビットの動きを」

 

ビットの動き?

 

「お前との戦いでは一番反応しにくい場所からの攻撃に対して、今回はそれを基に4基のビットに役割を持たせて攻撃している」

 

「4基に役割?」

 

「けん制、攻撃、フェイント、かく乱、4基のビットにそれぞれ役割を持たせて動かしている。状況に応じて4基の役割を変えて相手に悟られない様にしているあたり、相当訓練を積んでいただろうな」

 

「つまり、攻撃の役割を持ってたビットがけん制の役割に変わったり、けん制がフェイントに変わったりと、変幻自在の攻撃が出来る訳か」

 

「そうだ。しかも、ビットの動きが直線的な動きではなく曲線的な動きを交え、ビットに感情を持たせることができるようになったな」

 

「えっと・・・どういう意味?」

 

「機械のような動きから人間のような動きがビットに現れてると言いたいんだ」

 

改めてセシリアのビットの動きを見ると千冬姉の言った通りだ。真耶に反撃されまいと、4基のビットで動きを封じながら攻撃を繰り出してる。攻撃の隙を敢えて見せて誘ったり、真耶の動きを予測して攻撃を行ったり、真耶の真正面を高速で横切って気をそらしたり、以前のセシリアの戦い方とは全く違う。セシリアは制御に集中して動けない訳ではなく真耶の動きを見て迅速にビットの行動を変える、言わば司令官の役割をしている。

 

「織斑、オルコットは山田先生に勝つため、血が滲むような特訓を夏休みの間にしてたに違いない。それでも、山田先生が勝つと断言できるのか?」

 

「千冬姉は・・・」

 

「織斑先生だ。口で言っても分からんなら、今すぐ葉隠柔術を味合わせるか?」

 

「いや、結構です。じゃなくて!この試合で真耶が負けるとでも言いたいのか!?」

 

「恐らくそれはあり得る。オルコットが短期間の間でビットの動きに磨きをかけ、それに苦戦してる時点で負ける可能性はある。山田先生の圧勝などと言う安易な考えは捨てた方が良い」

 

「真耶・・・」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「くっ!」

 

ビットの動きが以前とは比べものにならない程、変わっている。私に攻撃を与える隙を与えずにビットの攻撃をしてくる。

 

「どうしたのですか?あの時の様に攻めてこないのですか?」

 

「オルコットさんが私に決闘を申し込んで来た理由を聞いてないからです」

 

「理由?いいですわ。お話いたしましょう」

 

オルコットさんは攻撃を止めてビットを収納した。そして、全回線をオープンチャンネルにして決闘を申し込んだ訳を話した。

 

「わたくしが山田先生に決闘を申し込んだのは他ではありません。一夏さんのことです」

 

「どういう事ですか?」

 

「山田先生が一夏さんとお付き合いしてるのは周知の事実でございます。ですが、それでも恋に諦めきれない乙女は多々おります。わたくしも最初はそうでした」

 

「最初は?」

 

「はい。なので最初は一夏さんに積極的にアプローチして、一夏さんと恋仲になろうと思っていましたが、お二人のお付き合いを見てる内にそれが恋心なのか疑わしくなってきました。ですので、わたくしはここで宣言をします」

 

「せ、宣言?」

 

息を整えて、オルコットさんは気を落ち着かせ・・・

 

「この決闘で一夏さんの想いにケジメをつけます!山田先生。これはISの操作技術で勝敗を決しません!一夏さんへの愛の力が勝敗を決します!」

 

「ええっ!?あ、愛!?」

 

「そうですわ。一夏さんへの愛が本物なら、わたくしを倒すなど容易のはずです!」

 

オルコットさんはスターライトの銃口を私に向けた。

 

「わたくしの愛と山田先生の愛。どちらが一夏さんへの想いが強いのか、確かめさせてもらいますわ!」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「織斑、オルコットは本気で山田先生に勝つ気でいる」

 

千冬姉、それは分かってる・・・

 

「だとすると、山田先生の行動パターンは熟知しているから、純粋に愛の力が勝敗を決するのか」

 

マドカ、それも分かってる・・・

 

「どうした織斑?随分不機嫌だが」

 

「二人の言ってる事は分かる。だけど・・・」

 

「どうした兄さん?」

 

「どうして俺に関節技を決めてるんだ!?」

 

「私はお前の肩に腕を添えてるだけだが?」

 

「その腕が俺の首を絞め始めてるです!」

 

「私は兄さんの腕を抱いてるだけだが?」

 

「腕を捻じりながら抱く人なんて見たこと無い!」

 

お陰で息苦しさと痛みが同時にやって来る!

 

「別にいいではないか。家族の団欒を少し味わってるだけだ」

 

「兄さんも山田先生ではなく、家族との触れ合いを大切にすべきだ」

 

「ニヤニヤしながら力を入れないでくれ!苦しいから!」

 

このままだと意識が遠のくと思った瞬間、フィールド上空で爆発が起こった。

 

「真耶がやったのか!?」

 

真耶がセシリアに渾身の一撃を与えたのか!?だけど、爆発の煙から現れたのは・・・

 

「え・・・うそ?」

 

物理シールドを一基失った真耶のラファールが、アリーナのグラウンドに向かって落ちて行く姿だった。




次回、「山田先生対セシリア」が完結する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第46話

お待たせしました。

モチベーションを上げるのに苦労しました。

本当に申し訳ございません。


「嘘・・・だろ?」

 

真耶が・・・落ちてる・・・

 

優しくて、ちょっとおっちょこちょいな所があっても、強くて前向きな真耶が落ちてる。

 

そのまま真耶は吸い込まれるかのようにグラウンドに衝突した。

 

「真耶!」

 

俺が立ち上がろうとした時、首に何かの力が働いた。

 

「織斑。突然席を立ちあがるんじゃない」

 

「千冬・・・姉・・・苦しい!苦しいから・・・」

 

「さて、試合観戦の続きだ」

 

「マドカは俺の手を握りつぶそうとするな!」

 

「織斑。お前は山田先生の事になると周りを気にせず行動を起こす悪い癖がある。それを止めてるだけだ」

 

「痛だだだだ!」

 

千冬姉の首絞めとマドカの握手が俺の動きを止める・・・ってか物凄く痛い!

 

「今出来ることは、この試合の結末を見届けるだけだ」

 

「だから、千冬・・・」

 

「おお、愛しの弟よ」

 

「何で棒読みなん・・・痛だだだだ!」

 

ちょっと意識が遠くなってきた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「あなた愛はそこまでなのですか?」

 

「くっ・・・」

 

オルコットさんの実力がこれ程なんて・・・

 

「ですが、あなたにかける慈悲などございません!わたくしの一夏さんへの愛を受けなさい!」

 

オルコットさんは間髪入れず、BT兵器での攻撃を始めた。物理シールドを1基失ったせいで、防御面での不安は残る。でも・・・

 

「一夏くんへの愛なら誰にも負けません!」

 

私はスラスターを吹かし、アリーナの上空へ舞い上がる。

 

「なら、見せてもらいましょう。一夏さんへの愛がどれ程のモノなのか!」

 

「来るっ・・・!」

 

オルコットさんのビット攻撃には必ず法則がある。そこを狙えば!

 

「前方に2基・・・後方、左方に1基ずつ」

 

私の動きを研究している。私の行動に対してビットを適切に設置している・・・私の動き?

 

「もしかして、オルコットさんのビットの動きは・・・」

 

私の過去の戦いを基に戦略パターンを練っている。確か、一夏君が入学するまでの戦闘データは記録されているはずだから・・・

 

「もしかして、一夏君との模擬戦のデータは知らない・・・なら!」

 

私はすぐに、武器をハンドガン二丁に変えてみたらオルコットさんの表情が目に見えて変わった。

 

「ハ、ハンドガン!?」

 

「はぁぁぁ!」

 

オルコットさんが油断している内に、その場で旋回し、左方と後方にあったビットに狙いを定めて引き金を引いた。ビットは動きを見せることなくハンドガンの弾を数発喰らい、爆発した。

 

「まさか、ハンドガンでの戦闘は予想外でしたわ」

 

オルコットさんが動揺している。やっぱりオルコットさんの戦い方は過去の戦闘データを基に作り上げたモノみたい。だからオルコットさんは、私の行動を難なく読めたんだ。だけど、一夏君が入学してからの戦闘データは知らなかったみたい。ましてや、私がハンドガン二丁で戦うなんて想像できないからね。

 

「ですが、わたくしがこの程度で引き下がりはいたしませんわ!」

 

すると、BT兵器の攻撃が激しくなった。標的を定めてから撃つ動作が無くなり、射線上と重なった瞬間に撃つという荒業に出た。この戦い方なら相手にビットの位置を悟られずに攻撃できるけど、相手が動いてると攻撃が当たることは・・・

 

「甘いですわ!」

 

「えっ!?」

 

青い閃光がラファールの物理シールドの接続部に直撃し、爆発を起こした。

 

「きゃあっ!」

 

私は何とか体制を立て直し、シールドエネルギーの残量を確認した。

 

 

 

残りシールドエネルギーは97

 

 

 

まさか、BT兵器とスターライトMk-Ⅲの同時攻撃ができるなんて・・・

 

「わたくしが、欠点を抱えたまま特訓をしていたと思っていたのですか?」

 

「いえ。ただ、オルコットさんがここまで成長してくれことが嬉しいだけです」

 

「教師と生徒の会話でしたら嬉しい事ですが、今は敵同士。情けを貰うつもりはありませんわ」

 

オルコットさんの目は本気だ。本気で私を倒そうとしている。

 

「この戦いは、わたくしの勝利とさせていただきます!」

 

スターライトMk-Ⅲを私に向けている。ビットはオルコットさんの横でただ浮かんでいる。

 

さっきの同時攻撃から察するに、BT兵器2基で足止めを行い狙撃し易いように誘導された。そうすれば、無駄に意識を使うことなく狙撃が出来る。そんな戦い方ができるようになるまで、オルコットさんの特訓は想像を絶するものだと思う。

 

「さあ!わたくしの愛の前にひれ伏しなさい!」

 

物理シールドは無い。残りシールドエネルギーも残り少ない。一か八かの賭けに出るしかない!

 

「はあっ!」

 

私はグレネードランチャーに切り替え、アリーナ上空へと急上昇した。その時、グラウンドからスターライトの着弾音が聞こえた。

 

「さあ、踊りなさい!」

 

BT兵器がオルコットさんの元を離れて、私に目がけて飛んできた。

 

「私だって、一夏君への想いは負けたくない!」

 

私はオルコットさんに瞬時加速(イグニッションブースト)で接近した。その際、残りのシールドエネルギーを全てラファールのスラスターに注ぎ込んだ。

 

「撃ち落としてみせますわ!」

 

オルコットさんは躊躇わず、スターライトとビットの同時攻撃を行った。

 

瞬時加速(イグニッションブースト)でも、こんなにも正確だなんて・・・」

 

みるみる減らされるシールドエネルギー。残りシールドエネルギーが50を切った時・・・

 

「うっ!」

 

ラファールの左腕と右足がスターライトとビットの同時攻撃で破壊された。ハイパーセンサーには機体損傷の警告音が鳴り響いている。だけど・・・

 

「これで終幕(フィナーレ)です!」

 

オルコットさんのスターライトは完全に私を狙い定めている。だけど・・・

 

「負けるわけにはいきません!」

 

私は迷わずオルコットさんの懐に潜り込み、グレネードランチャーの引き金を引いた。

 

「私の方が、一夏君を愛してるんだから!」

 

爆風と爆炎が私の視界を遮ったの同時に目の前が真っ暗になった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「ん・・・ん?」

 

目を覚ますとオレンジ色の天井が私を迎えに・・・え?医務室のベットで寝てる!?

 

「あれ!?私、夢でも・・・」

 

「夢ではない。現実だ」

 

「お、織斑せ・・・痛っ!」

 

私はふと自分の体を見てみたら、体のあちこちに包帯が巻かれている。

 

「山田君。全てのシールドエネルギーをスラスターに注いだそうだな。お陰でラファールはグレネードの爆風で大破。君は意識を失い、ラファールから放り出される形で落ちた」

 

「えっ!じゃ、じゃあ私は・・・」

 

「話を最後まで聞け。お前が落下してる時に私の弟が救ったんだ。ま、そのためにアリーナのシールドエネルギーを破壊して入ったのは問題だがな」

 

「えっと、試合の方は?」

 

「試合はオルコットが負けを認めた。山田君を救いに行った弟の姿を見て悟ったみたいだ。自分ではなく、山田先生を本当に愛しているんだと。笑顔で私にそう言っていたが、更衣室で大粒の涙を流していた」

 

オルコットさん・・・

 

「まあ、山田君が無事で何よりだ。愚弟はお前の事で随分焦心に駆けていたからな」

 

織斑先生は私の無事に安堵しながらも、一夏君の事で少し呆れていた。

 

「怪我が治るまで1週間は掛かるだろう。その間の仕事は私が引き受ける」

 

「あ、有難うございます」

 

「担任として当然の事をやるだけだ。別にお礼を言われる程ではない。では私は愚弟を少し懲らしめに行ってくる」

 

織斑先生はそう言い残し、病室を後にした。

 

「一夏君、大丈夫かな。私がいないせいで、荒れたりしないよね?」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

一夏とマドカの寮部屋

 

「ギブ!ギブ!ギブ!」

 

「う~ん?聞こえないなぁ兄さん」

 

「どうして俺がこんな目に遭うんだ!?」

 

「山田先生をお姫様抱っこしたまま、瞬時加速(イグニッションブースト)で医務室に行った生徒を懲らしめて来いと姉さんに言われてな」

 

「だからって、4の字固めはイダダダダダ!ギブアップ!」

 

「聞こえないなー」

 

「マドカぁぁぁ!」

 

 

 

マドカが荒れていた。




次回はお見舞いの話を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第47話

皆さん、長らくお待たせしました。

甘々に書こうとしたら、中途半端にシリアスが入ってしまいました。

ここ最近、話が甘く書けないです。

まあ、お見舞いを甘く書こうとするのがおかしいと思いますが。


私、山田真耶はオルコットさんとの試合で怪我をしてしまい、入院をしています。

 

4日後に退院を控えていますが・・・

 

「うーん・・・これかな?」

 

入院生活は退屈です。クロスワードで時間を潰してはいますが、一夏君が傍にいないのかすごく寂しいです。オルコットさんや一組の皆がお見舞いに来てる中、一夏君は来てない。

 

「一夏君・・・ちゃんと授業受けてるかな?って、昔の一夏君じゃないから大丈夫かな」

 

授業をサボって喧嘩や修行に明け暮れて、何度も学校から呼び出された事があったな。

 

「でも今は、授業をサボってでも私の傍にいて欲しいな」

 

最近は仕事で一緒にいられなかったり、織斑先生やマドカさんが止めに入ったりして一緒にいる時間が1学期より少なくなっている。確かに、私と一夏君の付き合い方にはちょっと問題はあるけど・・・

 

「一夏君に会いたいよぉ」

 

枕に顔をうずめる程、一夏君に会いたい。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

お昼になり、病院食を食べながらワイドショーを見てるけど・・・

 

「一夏君・・・」

 

一夏君のお弁当が食べたい・・・

 

「ダメダメ!こんな暗い考えを持ってはダメ!今は体を休めて、治療に専念しないと・・・でも寝たきりなのはツライかな」

 

点滴は打たれてないし、傷もそんなに深くないから、クリームパンでも買いに行こう。そう思い、ベットから降りようとした時だった。

 

「よいしょっと・・・きゃあっ!」

 

寝たきりだったのか、うっかりバランスを崩してしまった。私はこのまま顔を床にぶつける・・・

 

「真耶、大丈夫!?」

 

ことは無かった。一夏君が私を支えてくれたお陰で床に・・・一夏君?

 

「え!?一夏君!」

 

「何で驚くの!?」

 

「だって、さっきまでいなかったから・・・」

 

「今さっき入って来たら、真耶が倒れそうになったから駆けつけただけだよ。それより怪我の方は大丈夫?」

 

「大丈夫。一夏君が・・・私の胸を掴んで支えてくれたお陰で・・・」

 

私は顔を赤くしながらお礼を言った。何度も一夏君に胸を触られたり、掴まれてるのにドキドキしちゃう。恋人だからかな?

 

「えっ!?ああっ!ご、ごめん!」

 

「謝らなくていいよ。一夏君に胸を掴まれるのは嫌じゃないし。好きにして良いぐらい触ったり、揉んでもいいから・・・」

 

「い、良いの?」

 

「恋人と肌を触れ合えるの嫌いじゃないから」

 

自分でも何を言ってるのか分からない。でも、一夏君と二人きりの時はそんな事をされたいな。

 

「じゃ、じゃあ・・・」

 

「それは二人きりになれたらね。病院だから、他の人達の迷惑になるし」

 

「あ、ああ。じゃ、じゃあ、退院したら真耶と一緒に行きたい所があるからその時で良いかな?」

 

「いいよ」

 

デートの約束はできたけど、ちょっと慌ててる一夏君って可愛いな。

 

「そういえば、真耶はどこに行くんだ?」

 

「ちょっと甘いものが食べたくて、クリームパンを買いに行こうかと」

 

「一緒に行こうか?」

 

「断る理由があると思う?」

 

「無い!じゃあ一緒に行こう」

 

「うん」

 

一夏君と久々のお買い物。病院だけど二人きりでいられるのは嬉しいな。

 

 

 

・・・・・・

 

二人で手を繋ぎ、売店に向かってるけど・・・

 

「ねえ、一夏君」

 

「どうしたんだい?」

 

「どうして、私を見て落ち込んでるの?」

 

一夏君が何か隠してる。

 

「真耶には何もかもお見通しなんだな。困ったよ、ははは・・・」

 

「一夏君・・・」

 

明るかった一夏君は表情が少し暗くなり、心の内を明かしてくれた。

 

「真耶を二度も入院させて、俺はちゃんと強くなってるのかな。臨海学校の時に真耶を守れて凄く嬉しかった。俺はちゃんと強くなったんだ。真耶を守れる力を手に入れたんだって。でもセシリアとの決闘の時、俺は何も出来なかった。いや、心のどこかで真耶が勝つと思っていた。でも、現実は・・・」

 

「一夏君、それは違うわよ」

 

「・・・真耶?」

 

「オルコットさんは自分の気持ちにケジメを着けたかっただけなの。決闘の勝ち負けじゃなくて、自分の気持ちを一夏君に見せたかっただけなの。だから今回の戦いの怪我は一夏君のせいじゃないの。それに昔のことは振り返らなくて大丈夫よ。私は大丈夫だから」

 

「真耶・・・」

 

私は髪をあげて額を一夏君に見せつけた。

 

「怪我の痕はないから、心配しなくていいよ」

 

「ありがとう」

 

二年前、一夏君が誘拐犯に止めを刺そうとした時、私が誘拐犯を庇って頭に怪我をしてしまった。その時の傷は無いけど、一夏君は今でもその傷の事を気にしている。二度とそんなことが無いよう戒めるためにだと思う。でも、一夏君はそんなことをしなくて良いと思う。自分と向き合って、笑って、楽しんで、恋をして、成長する。そういうのが人を強くさせると信じてるから。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「良かったね一夏君。クリームパンが残ってて」

 

「ああ。クリームパン以外のパンが売り切れてたのは残念だったけど」

 

売店にあったクリームパンを買って病室に戻った私は袋から取り出し、クリームパンのクリーム部分に張られているフィルムを剥がして食べる準備ができたけど・・・

 

「ねえ、一夏君」

 

「どうしたんだい?」

 

「私、一夏君に食べさせて欲しいな」

 

そう言って、私はクリームパンを一夏君に渡した。

 

「どうやって食べさせて欲しい?」

 

「何でもいいよ」

 

「じゃあ、あーん」

 

一夏君は綺麗にクリームパンをちぎり、その欠片を私の口に近づけた。

 

「あーん」

 

私はドキドキしながらそのクリームパンを・・・

 

 

 

「「「「じーーーー」」」」

 

「「うわっ!」」

 

 

 

味わえませんでした。

 

「おりむーとまーやんからは目が離せないな~」

 

「いやぁ。二人の熱々な昼食が見れそうだったのになー」

 

布仏さんと相川さんが物凄く悔しい表情で私を見ている。

 

「こーら、二人共。それを見るために来たわけじゃないでしょ」

 

「兄さん・・・こんな所で破廉恥な事をするようになったのか」

 

谷本さんとマドカさんは呆れた表情で私達を見ている。

 

「あの・・・どうして皆さんが?」

 

「織斑君が山田先生といると何か良からぬ事をすると織斑先生が言うので・・・

 

「尾行したら案の定、兄さんは淫らな事を・・・」

 

「ちょっと待てマドカ!俺は淫らな事なんて一つもしてないぞ!」

 

「しようとしてた所か」

 

「だがらしないって!」

 

「織斑君。マドカがそこまで言う理由分かるかな?」

 

「え?・・・いや、分からないけど」

 

一夏君の答えに谷本さんは何故かため息を吐き、マドカさんが心配する理由を話した。

 

「山田先生が入院してから物凄く落ち着きがなくて、授業中も上の空。放課後もISの練習を中止して、山田先生の所に行こうとしてマドカに懲らしめられる」

 

「恋人が入院したと聞いて慌てる気持ちは分かるけど、もうちょっと周りの事を気にして欲しいよ」

 

「恋は盲目。だけど限度を知って欲しいな〜」

 

「・・・すいません」

 

谷本さん、相川さん、布仏さんの言葉に一夏君は謝る事しかできなかった。でも、そこまで私を心配してくれたのは嬉しい。

 

「兄さんが謝罪した所で帰るか。もうすぐ予鈴が鳴る頃だ」

 

「もうそんな時間か?まだ三十分も・・・」

 

「ここから教室まで三十分は掛かる。全速力で走って行くわけにもいかないだろ。もしや、授業をサボる訳ではないだろ?」

 

マドカさんの言葉に、一夏君は図星を突かれたのか視線を斜め上に逸らす。

 

「一夏君。私を心配してくれるのは嬉しいけど、授業にはちゃんと参加して」

 

「分かってるさ。ただ、真耶ともう少し一緒に・・・」

 

「兄さんはずっと山田先生と一緒にいるだろ。ここまでくると、兄さんの尊厳を無視しても武力鎮圧をしないといけないな」

 

「マドカは落ち着いて。織斑君が暴走しない様に私達四人がいるじゃない。山田先生、早く体を治して元気な姿で戻って来てください」

 

相川さんの言葉で落ち着いたマドカさんは、一夏君を引っ張る形で部屋を出て行った。

 

「一夏君。四人と仲良く学園生活を送ってて良かった」

 

弾君と鈴音さん以外に仲の良い生徒がいなかった昔とは違って、四人と仲良く学園生活を送っていて嬉しいけど・・・

 

「クリームパンの所は見て欲しくなかった」

 

私は顔を赤くしながらクリームパンをかじり、その日のお昼を過ごした。




次回は、ラウラと簪の宿泊デートを執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第48話

ラウラと簪のデート回です。

中々モチベーションが上がらず、書くのに苦戦しています。


揺れる電車の中、私は一泊二日と書かれている旅行チケットを眺めている。そう・・・このラウラ・ボーデヴィッヒは簪と「お泊りデート」の最中だ!

 

山田先生から頂いたチケット。一夏と一緒に行きたかったであるにも関わらず、私に譲ってくれた寛大な処置に感謝しなければならない。

 

「ラウラ、どうしたの?」

 

「いや、お前と二人きりで泊まりに行けるのが嬉しくてな。少し、気持ちが高ぶってしまった」

 

「私も・・・同じ気持ちだから、その・・・いっぱい楽しもう」

 

「ああ」

 

それにしても、嫁の服のセンスには脱帽する。

 

デニムのショートパンツに黒のシャツ。灰色の上着に黒のキャリーバックの私に対し、嫁の服はオレンジに白の花柄ワンピースと赤いリボンが巻かれている麦わら帽子と旅行カバン・・・・・・これが女子力というものなのか。

 

「ラウラ・・・暑くないの?」

 

「いかなる環境でも最大限の活動をするのがプロの軍人だ」

 

「でも・・・」

 

「安心しろ。旅館に着いたら、お前と一緒に着たい服がある」

 

「一緒に着たい服?」

 

「それは旅館に着いてからのお楽しみだ」

 

そうだ。クラリッサに協力を仰いぎ、通常の流通ルートでは入手できない服を手に入れた。これで、二人で思い出の夜を作り上げる!

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「さて、目的の駅に辿り着いた」

 

「日差しが強い・・・」

 

目的の駅に辿り着いたが、かなり殺風景だ。車はそこそこ走っているが、町並みは古いと言ったものだ。都心みたいな最先端技術が使われているわけでもなく、建物が建っているだけ。人の通りは少なく、遠い所では畑らしきものが見える。これが日本の田舎というものか。だが、都心や基地で生活していた私には新鮮な風景だ。

 

「ラウラはこういう場所・・・初めてなの?」

 

「初めてだ。だから、全てが目新しく見える。それに、都心と違って空気が少し綺麗な感じがする」

 

「確かに・・・」

 

こういうのも含めて日本の田舎は目新しいモノが多いな。

 

「ラウラ・・・その・・・お腹が空いちゃった」

 

「ちょうど近くに店がある。そこで食べるとしよう」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

店に入って「SOBA」と言うものを頼んで食べているが・・・

 

「どうしたの?」

 

「簪、何故音を立ててSOBAを食べる?」

 

私は麺を噛んで食べているが、周りは音を立てながらすすって食べている。学食でもそうだが、音を立てて食べるのはマナー違反ではないのか?軍のパーティーで音を立ててパスタを食べる人など見た事ない。いたら、白い目で見られるからな。

 

「そういう食べ物だけど・・・」

 

「そういう食べ物なのか!?」

 

「うん」

 

音を立てて食べても良いモノがあるとは・・・恐るべし、SOBA!

 

「音を立てずに食べるのは・・・変じゃないから」

 

「そ、そうか・・・」

 

茶道部に入っているにもかかわらず、この様な事も分からなかったとは!

 

「そ、そんなに落ち込まなくて・・・いいから。誰だって分からない事はあるから。わ、私だってラウラに・・・されて・・・気持ちの良いものだなんて・・・し、知らなかったから」

 

「そう・・・なのか?」

 

「う、うん。だから・・・旅館に着いたら・・・また、やって欲しい。お姉ちゃんもいな・・・」

 

「分かった。それは約束する」

 

嫁の言葉で立ち上がった私は即座にSOBAに口を運んだ。

 

「あ!あんまり早く食べたら・・・」

 

「んぐっ!?」

 

早々に喉を詰まらせた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「ラウラ、大丈夫?」

 

「ああ。私としたことが少し早急になっていた」

 

お店を出たのは良いが、嫁に二度も失態を晒すとは。

 

「大丈夫だから。まだ・・・お昼だし」

 

「そうだったな。旅館はそれほど遠くないから、少し・・・ん?」

 

私は商店街に向かおうとした時、あるモノが目に映った。

 

「にゃー」

 

白猫と黒猫だ。

 

「こんな所に猫が二匹いるとはな。簪、猫は好きか?」

 

私は軽い気持ちで猫の好みを聞いたが・・・

 

「その、私・・・猫アレルギーなの」

 

愚かな事をしてしまった。私は嫁の弱点を知らずに突いてしまった。これでは、クラリッサに頼んでおいた服が着れないではないか!

 

「ら、ラウラ!?」

 

「だ、大丈夫だ。ただ、猫アレルギーである事に驚いて」

 

「ご、ごめん。ラウラに教えてなくて」

 

「いや、嫁が謝る事ではない。これは事前に情報収集をしなかった私に問題がある」

 

もっと簪の事を調べるべきであったかもしれない。

 

「そんなに落ち込む必要は無いから。それに猫アレルギーだけで、猫が嫌いと言う訳じゃないから」

 

「そうなのか?」

 

「う、うん。だから、ラウラが用意してた猫の衣装・・・楽しみにしてるから」

 

「な、何故知っている!?」

 

あれは嫁に気付かれぬよう極秘裏で行っていたはずなのに!?

 

「前日の夜、キャリーバックから猫耳が出てたから」

 

「な、何・・・だと!?」

 

何たる不覚!

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

今日の私は多くの失態をしている。

 

SOBAに衣装。旅館ではタンスに小指をぶつけるなど、軍人として恥じるべき事をしている。どうしたんだ私。いつも通りの行動ができないのはどういうことだ?

 

「ふう・・・」

 

と、風呂で考えても答えが浮かばない。このままだと夜も何かやらかすのではないかと思うと落ち着かない。どうすればいい?

 

「少しのぼせたか・・・あがるか」

 

私は夜風を浴びようと風呂からあがり、浴衣を着ようと居間に向かった。まだ、ここのディナーを食べていなかったな。それに猫の衣装は簪が風呂に入ってる間に厳重に保管してあるから問題は無い。

 

「簪。今、風呂からあが・・・」

 

 

 

「にゃ・・・にゃあ・・・」

 

 

 

そこにいたのは、猫耳を付けた嫁だ。隠すべき所は最小限の面積しかない水着で隠し、見えそうで見えないギリギリのラインを表現。手足には肉球グローブを装着。猫の尻尾は水着に装着されている。そして嫁の首には、鈴の付いた首輪がある!クラリッサが何故か息を荒げながら説明してくれた猫の首輪。

 

ば、馬鹿な!?あれらの衣装は厳重に保管していたはずだ!

 

「な、なぜ・・・それを・・・」

 

「鍵が開いてたから・・・にゃあ」

 

「うおぉぉぉ!」

 

「ラウラ!?」

 

私は両ひざを着き、己の不甲斐なさを後悔していた。この様な初歩的なミスを犯してしまうとは!

 

「私は・・・軍人失格だ・・・こんな初歩的なミスをしてしまうとは・・・」

 

「そんなことない。だから・・・」

 

「慰めなくていい。認めたくないものだな・・・自分自身の若さゆ・・・」

 

「分かった・・・もう、慰めない」

 

ああ、慰めなくていい。今の私に慰めは・・・

 

「その代わりに私を頼って」

 

「・・・何?」

 

「ラウラ・・・いつも一人でこなそうとする。だから・・・私を頼って欲しい」

 

「しかし・・・」

 

「何でもいい。何でもいいから・・・」

 

確か、クラリッサの情報だとそういう言葉にはこう返すんだったな。

 

「今、何でもと言ったか?」

 

「うん」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「ふぅー。たまには、こういう静かな所でリフレッシュするのも悪くないわね」

 

「そうだね。かんちゃんも来ればよかったのにね。かいちょ~」

 

「簪ちゃんはラウラちゃんと一緒に朝からどこかに行っちゃてそれっきりなの」

 

「じゃあ、かんちゃんの分ものんびりしないとね~」

 

本音と一緒に温泉旅行は、初めてだったけど結構楽しいものね。簪ちゃんはラウラちゃんと一緒にどこかに言ったのが気がかりだけど、今はのんびりしないと。

 

「そういえば本音。織斑君のマッサージが物凄く良いって聞いたけど」

 

「うん。おりむーのマッサージは凄く良いよ。プロ顔負けの腕前を持ってるって断言できるよ~」

 

「あら、そうなの。なら今度、マッサージしてもらおうかしら?」

 

「良いと思うよ~。マッサージしてもらうと・・・」

 

『はぁ・・・にゃっ!』

 

「・・・みたいに~」

 

何か色っぽい声が聞こえたような・・・

 

『にゃ・・・にゃあんむっ!』

 

「・・・でね~」

 

「本音待って」

 

「どうしたの?」

 

「静かにして」

 

会話を打ち切られて首を傾げる本音を静かにさせた後に聞こえた音は・・・

 

『ラウラ・・・はぁ・・・もっと・・・躾けて・・・』

 

「「!?」」

 

その後、女将を呼んでラウラちゃんと簪ちゃんを別離させるのに10分も掛からなかったけど・・・

 

 

 

「ラウラのマッサージ・・・はぁ・・・最初痛かったけど・・・はぁ・・・段々・・・頭がぽわぽわして・・・体がきゅんきゅんするの・・・はぁ・・・はぁ・・・本音も受ける?」

 

 

 

汗だくで意識がもうろうとしている簪ちゃんを見て、私と本音は中々寝付けませんでした。




この話を書き終えて気付きました。

この二人で甘く書くのは無理があると。

どんなに構想を練っても、アブナイ展開しか思いつかない。

次回は、学食での出来事を書く予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第49話

今回の話はちょっと甘くしたつもりです。

そんなに甘くないです。


真耶が退院し、教壇に戻って来た。

 

教壇の上に立っている真耶は女神の様に美しくて、可愛いく頑張っている。

 

でも退院したばかりだから、仕事の手伝いを・・・

 

 

 

「私が貴様を冥土に送らせることになるが良いのか?」

 

 

 

千冬姉に阻止されました。試験や学園内でのISの運営等、教員内で扱う資料があるから手伝うなと。前はそんなのがあっても普通に手伝ってたのにな。

 

だけど、昼休みに真耶と一緒に昼食を食べる事になった。久々の真耶との昼食・・・

 

 

 

「織斑君。私達の事は気にしないで食べて」

 

「私達は恋人との過ごし方について聞きたいだけだから」

 

「それと恋人の作り方を」

 

「キスをする雰囲気にするにはどうすればいいのか」

 

 

 

他の教員方を挟んでの昼食です。

 

「真耶・・・これは?」

 

「その・・・私と織斑君に食堂で話があるって、無理矢理連れてこられたの」

 

真無理矢理連れてこられた事にショックを隠し切れず、真耶は落ち込みんでいる。

 

「それで話は・・・」

 

「さっきも言ったように、あなた達二人はいつもどう過ごしてるの!」

 

「それとバレンタインとクリスマスはどう過ごしたの!」

 

「デートする時に気を付けてる事は!」

 

「キスはどのようにしてるの!」

 

先生達が目を真っ赤にして詰め寄って来るけど、教員達の面影がありません。なんでこんな時にマドカが助けに来ないんだ。

 

「えっと・・・真耶、大丈夫?」

 

「えっ!?あ、あの、その、そういう質問は、その・・・」

 

さっきまで落ち込んでいたと思ったら、顔を真っ赤にして慌ててる。

 

「二人だけの秘密と言って逃げようとしても無駄よ!二人が恋人同士なのは既に知れ渡っている!」

 

「その二人から、付き合いのコツや質疑応答をしたいだけなの!」

 

「これ以上、私達にブラックコーヒーを飲ませないで!」

 

もうプライドがあるのかどうか疑わしいくらい、必死に俺と真耶に頼み込んでくるけど・・・ブラックコーヒーを飲ませた事はないから。

 

「じゃあ・・・一人一個の質問で・・・」

 

「「「「「私の質問に答えて!」」」」」

 

俺は聖徳太子じゃないから。

 

「じゃあ・・・俺の隣にいる方から」

 

俺は隣りにいた初対面の先生の質問を聞いてみる。

 

「ケンカをしたことあるの?」

 

周りは意外な質問が来たのか感心している。何で?

 

「ケンカなんてした事ないです」

 

「嘘・・・恋人でも嫌な所の一つや二つはあるんじゃないの?」

 

何で嫌な所があるのを前提なんだ?

 

「真耶。ケンカらしい事はしてないよな?」

 

「はい。別に嫌な所があると感じた事はないです。自分にとって都合が悪いと思うから些細な事で嫌になると思います」

 

「ぐはっ!」

 

真耶の台詞を聞いた途端、質問した先生は机にうつ伏せのまま倒れた。

 

「こ、これが恋人の力・・・」

 

「恐るべし!」

 

そこで恐れるのが俺には分からないが。別に真耶は心をえぐるような事なんて一言も言ってないぞ。

 

「じゃあ次は私が質問するわ。山田先生・・・織斑君のここが一番気に入ってる所はあるの?」

 

「ええっ!?私ですか!?」

 

向かいにいた先生の気迫に押されたのか、真耶はアワアワという擬音が似合いそうな慌て振りを見せつつも質問に答えた。

 

「そうですね。一番気に入ってるのは・・・」

 

「何です?」

 

「どんな時でも私を愛してる所・・・かな?」

 

両手を頬に添えて顔を赤くしながら答える真耶の姿に、質問した先生は・・・

 

「ぐあっ!だが!・・・まだ私のライフポイントは・・・」

 

確実にオカシクなっている。どこにオカシクなる要素があるんだ?

 

「私が去年のクリスマスに作ったアクセサリーを大切にして、それを肌身離さず持っていたこ・・・」

 

「ぐおあぁぁぁぁぁ!」

 

真耶が答えてる最中に断末魔をあげて倒れたけど、倒れる要素がどこにある?まだ、答えてる最中だぞ。

 

「じゃあ、次は私よ」

 

真耶の隣にいた先生が質問しに来たけど、何で身構えるんですか?何のデュエルをしてるんですか?

 

「織斑君。山田先生からバレンタインチョコは貰って、ホワイトデーのお返しはしたの?」

 

「バラバラのイベントを一つの質問にまとめた『イベントコンボ』だ!」

 

「織斑君のフィールドには伏せカードは無いから、このままダイレクトアタックだ!」

 

カードバトルじゃなくて、質疑応答ですから!

 

「バレンタインは・・・あっ!」

 

バレンタインチョコは貰ったと言おうとした時、ある重大なことに気付いた。

 

「どうしたの、一夏君?」

 

「今年のホワイトデー・・・お返ししてなかった」

 

そう・・・今年のホワイトデーは何もしてなかった。

 

バレンタインの時は、『受験頑張ってね!』と書かれたメッセージチョコを真耶から貰ったにも関わらず、ホワイトデーは何のお返しもしていない。ISを起動させてしまい、結構慌ただしかったけど・・・ホワイトデーのお返しをしていなかった!ISを起動させて忙しかったなんて言い訳にもならない!あの時、ホワイトデーのお返しはするって約束したのにぃ!

 

「織斑君。それは仕方がないと思うよ。ISを動かして慌ただしかったじゃない?」

 

質問した先生は俺を慰めてくれたけど、どこか嬉しがっているような・・・

 

「ホワイトデーのお返しなら貰ってるよ」

 

・・・え?

 

「な、何だと!?まさか・・・織斑君がISを動かした事がホワイトデーのお返しだとでも言うのか!?」

 

何で先生が驚くんですか?

 

「いえ。一夏君と一緒に学園生活を送れる事かな。ずっと離ればなれだったから、こうして一緒にいられて今も幸せなのがホワイトデーのお返し・・・かな?」

 

「うおわぁぁぁぁぁ!」

 

だから、断末魔をあげて倒れるのはやめてください。周りの生徒達が・・・

 

「あ、あれが山田先生の力なの・・・」

 

「魔法カード『恋の力』で攻撃力が500上がっている!」

 

「まさに、神のカードを持つのに相応しい人物と言う訳か」

 

千冬姉!マドカ!助けて!今ほど、二人の助けが欲しいと思ったことが無い!

 

「じゃあ、次は私のターンね」

 

この質疑応答・・・早く終わってくれ。

 

「二人は6月まで一緒の部屋だったけど、休みの日や授業のがある日の夜は何をしてたの?」

 

何か切り札を持って来たと言わんばかりの振る舞いをしてるけど・・・普通の質問だ。

 

「授業のある日は真耶の仕事の手伝いとか、夕飯を一緒に作ったりしてたな」

 

「仕事の手伝い!?」

 

先生達が驚いてるけど、俺はとんでもないことをやってしまったのか?

 

「いや、書類の整理とか授業の進め方とか・・・」

 

「山田先生の授業が好評で仕事が尋常じゃないくらい早く終わるのは、織斑君がいたからなの!?」

 

「え?そうなのか真耶」

 

先生の汗が鍋から噴き出る水の如く、流れ始めてるのを横目に真耶に聞いてみた。

 

「私も初めて聞きました。一夏君と長く一緒にいたいという思いで仕事に取り組んでいただけなんですが」

 

「うごあっ!」

 

何かに射抜かれたリアクションをとらないでください先生。答える方が恥ずかしくなってきます。

 

「仕事が早く・・・終わったら・・・どうしてたの?」

 

「え?授業の予習復習ですが」

 

「山田先生と・・・一緒にでしょ?」

 

「はい」

 

「ぐ・・・具体的には?」

 

何で苦しみながら聞いてるんですか?

 

「具体的にはその日の授業で分からない所を真耶に聞いて、次の日に行う授業を真耶に教わりながら勉強してただけですけど」

 

「そ、そう・・・じゃ、じゃあそれが終わったら」

 

もう・・・先生を楽にさせないといけないな。

 

「寝るまで真耶を抱いたり、真耶に抱かれたりして・・・」

 

「ぼるらぁぁぁぁぁ!」

 

先生が白目をむいて大の字のまま倒れた。真耶と二人でシャワールームに入った事なんて絶対言いたくない。だから、質疑応答を早く終わらせないと。

 

「じゃあ、これで質疑応答は・・・」

 

「まだ私の質問の答えを聞いていないぞ!」

 

・・・え?

 

「一夏。私の質問の答えは?」

 

「箒!?」

 

お前の質問は聞いていないぞ!

 

「箒。お前の質問は何だっけ?」

 

「今週の土日、私とデートを・・・」

 

「そんな約束はしてないぞ!」

 

何で息をするように嘘のデートを言うんだ!

 

「嘘を言うな!お前は私とデートを・・・」

 

「箒じゃなくて真耶だから!」

 

「な・・・何!?」

 

箒は俺が本当に真耶とデートする事を知っていなかったみたいだ。

 

「俺は今週の土曜日、真耶と一緒に動物園でデートする約束をしてるんだ」

 

「そ・・・そんな馬鹿な!?」

 

「日曜日は真耶が俺とある所に行きたいって言ってたから」

 

「ある所・・・とは・・・どこだ?」

 

「土曜日の夜に話す約束なんだ」

 

「・・・・・・」

 

箒の反応が無い。こういうのは早く切り上げないと。

 

「もうそろそろ、授業が始まるから教室に戻るか」

 

「わ、私は職員室に戻って、書類の整理をしないと」

 

教室に戻ろうと立ち上がって周りを見回して気付いたが・・・

 

「なあ、真耶。どうして皆、コーヒーを飲んで倒れてるんだ?」

 

「私もよく分からないけど、きっと日々の疲れが溜まっていたんじゃないかと」

 

「そうか。じゃあ、土日はたっぷり遊んでたっぷり休まないとな!」

 

「はい!」

 

昼休みに倒れないように土日はじっくり休まないといけないな!

 

 

 

 

 

 

「土曜日に・・・動物園デート・・・ふふふ」




次回、「一夏と真耶の休日デート 動物園編」を執筆する予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第50話

今回は動物園デート・・・のハズです。


真耶が教壇に戻って数日が過ぎた。

 

昼休みでの質疑応答以降、周りの生徒と先生達は俺が真耶と会う度に身構えるんだ。先生たちの質問に答えただけなのに、どうして身構えるんだ?俺と真耶は質問に答えただけなのに。

 

それをマドカに聞いても、呆れるだけで答えは返って来ない。俺と真耶が何をしたと言うんだ。

 

そんな事もあったが俺は一人、公園のベンチに座っている。

 

今日は真耶との動物園デートの日である。今日行く動物園は動物達とふれあえることで有名なデートスポットだ。動物園を事前に調査、デートプランを練って準備万端。

 

服は無地のグレーパーカーに深い青のジーンズ・・・何か凝れば良かったかな?

 

「けど、変な服を着て恥をかくよりかはマシか」

 

後は真耶が来るのを待つばかり・・・なんだけど、妙な胸騒ぎを感じる。

 

「これは・・・久々のデートだから緊張してるに違いない」

 

きっとそうさ。久々の二人きりのデートで緊張してるんだ。1ヶ月も経ってないけど久々のデートなんだ・・・きっと・・・多分恐らくは。

 

「落ち着け、俺・・・そんなに緊張する必要はないんだ」

 

「そうだ。私がいるんだ。緊張する必要は無いだろ」

 

後ろにいる箒の言う通りだ。別に緊張する・・・え?

 

「箒!?」

 

「そこまで驚く必要は無いだろ!」

 

背後にいたのは、白のワンピースと黒のカーディガンに何か大きな手提げ袋を持った箒と赤と黒のチェックのフリルスカートとグレーのパーカーを着た真耶がいた。

 

「何で箒が真耶と一緒にいるんだ!?」

 

「山田先生に一緒に行っていいかと頼んだんだ。そしたら、笑顔で許しをくれたんだ」

 

真耶がそれを了承する訳ないだろ。真耶に脅しの類でもしたんじゃないのか?

 

「篠ノ之さんが一人寂しく公園のベンチに・・・」

 

「一夏。今日は私がエスコートするから、楽しみにしてくれ」

 

「箒。真耶が何か・・・」

 

「さあ行くぞ!時間がもったいない!」

 

「おい!真耶を置いてくな!」

 

「あ、あの!置いてかないでー!」

 

俺の話を聞く耳を持たず、箒は俺の腕を引っ張り真耶を置いて行こうと動物園へ向かった。

 

「さあ、一夏!まずは・・・」

 

「箒。俺の話を聞いてくれないか?」

 

「どうした?」

 

一人で舞い上がってる箒に俺はうんざりしている。突然現れては、勝手に真耶を置いてけぼりにして無茶苦茶にしようとしてる。これ以上、俺のデートプランを無茶苦茶にされるのは何としても阻止しないと。

 

「真耶が一緒に動物園へ行こうって言ったのか?」

 

「ああ」

 

「でも、真耶を見てるとそう思えないんだ。どう見ても落ち込んでるようにしか見えないが」

 

「それは山田先生が疲れてるだけだ。少しは山田先生に休息を与えたらどうなんだ?」

 

その休息を無茶苦茶にされてるんだが。

 

「それにお前は山田先生以外と一緒に休日を楽しんでいない。なら、私がその第一陣を行かなければならない」

 

「誰も、箒に第一陣へ行って欲しいとは言ってないぞ」

 

「幼馴染として心配してると言いたいんだ!」

 

俺は幼馴染のお前が色々と心配だ。

 

「はぁ、はぁ、一夏君、篠ノ之さん。すみません、道に迷ってしまいまして」

 

息を切らしながら真耶が走って来たけど、箒がいるせいで丁寧語で喋ってるよ。

 

「じゃあ一夏。まずはパンダを見に行くぞ!」

 

「おい!真耶を置いて行くな!」

 

箒は俺の話を聞く気は無いみたいだ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「可愛いパンダだな」

 

「あ、ああ・・・」

 

俺は箒とパンダを見てるんだが、箒が強引にくっついているためあまり良い気分ではない。しかも、真耶は何故か空気を読んで少し離れた所でパンダを一人寂しく見てる。俺は真耶と一緒にパンダを見たかったのに。

 

「どうした一夏。具合でも悪いのか?」

 

「いや。そうではないが・・・」

 

「安心しろ。一夏は私が守るから、お前はこの時間を目一杯楽しんでくれ」

 

俺はこの時間が一時間でも早く終わって欲しいと願うばかりだ。

 

「一夏。キリンでも見に行かないか?」

 

「別にいいけど」

 

「よし。それでは行くぞ」

 

箒は俺の腕を強く掴み、キリンがいる所へ向かった。真耶はその後を追いかける形で付いて来てるけど、俺は真耶と一緒にいたいんだ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「やはり、一夏と一緒に動物園に来て正解だったな」

 

俺は箒と一緒に動物園に来て不正解だよ。真耶が寂しげに俺を見てるよ。

 

「箒。俺は・・・」

 

「一夏。キリンに餌を与えることができるみたいだ。一緒に与えてみないか?」

 

「俺はいいよ。箒だけで・・・」

 

「そう遠慮するな。一緒に餌を与えようではないか」

 

「俺は真耶と・・・」

 

「ほらほら。餌を与えないとキリンが可愛そうじゃないか」

 

置いてけぼりの真耶が可愛そうだろ。

 

「あ、あの一夏君に篠ノ之さん」

 

「真耶?」

 

箒の一方的な会話の中、真耶が俺の所に駆けよって来た。。

 

「そろそろ、お昼ご飯の時間が・・・」

 

「よし!一夏、一緒に昼食を食べようか。丁度、ここにお弁当があるしな」

 

箒は大きな手提げ袋から弁当箱を取り出した。これって二人分しかないから真耶は食べられないとかではないだろ?

 

「あそこのベンチが空いているから、あそこで食べよう」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「手洗いに行ってくるから待ってくれ」

 

ベンチに座った俺は走る箒を確認した後、真耶を隣に座らせた。

 

「大丈夫、真耶?」

 

「え?大丈夫だけど?どうしたの?」

 

・・・え?

 

「箒のせいでデートが滅茶苦茶になったから・・・」

 

「別に大丈夫だよ。一夏君だって幼馴染と一緒に動物園に来れて楽しくないの?」

 

「楽しくない」

 

あれで、どう楽しめばいいんだ。俺の話を聞かず、一方的に物事を進める幼馴染と楽しめるわけがない。

 

「俺は真耶と一緒に楽しもうと・・・」

 

「それだったら、夜まで待ってくれない?」

 

夜?そう言えば、夜に日曜日のデート場所を言う話のハズだけど。何かサプライズでもあるのかな?

 

「夜って、一体何を?」

 

「ひ・み・つ♪」

 

笑顔でウインクをする真耶を見て、何かをするのは分かったけど・・・可愛いな。その笑顔をずっと見たいくらいだよ。

 

「一夏、待たせたな」

 

・・・箒がいなければの話だが。

 

「さあ、私が腕に振るった昼食を堪能してくれ!」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

真耶との昼食後の動物園はまさに苦行の二文字で済むほどのモノであった。

 

どんな時も箒はくっ付いて離れる気配がなく、真耶の話題になるとすぐに話題を変える。真耶の事で行動しようとすると、すぐに別の所へ行かせる。真耶は完全に蚊帳の外である。だけど、夜になったら何かをすると考えているのか、真耶は少し離れた所で見守ってると言う感じだ。でもね、真耶。箒と一緒にいるのは結構辛いんだよ。

 

そんな苦行を耐え凌ぎ、気付けば空はオレンジ色に染まり閉演時間が迫っていた。

 

「そろそろ閉演か・・・」

 

箒は物寂しげに空を見つめているが、俺はこの苦行が終わると思い安堵している。

 

「箒、じゃあ・・・」

 

「一夏、一緒に帰るか。お前に渡したい物があるからな」

 

「いや、俺は真耶と・・・」

 

「よし!帰るぞ!」

 

箒が俺の腕を掴もうとした時・・・

 

「あー。足元滑って鉄山靠が暴発」

 

棒読み全開の台詞と共に、箒が俺の視界から高速で消えた。まあ、こんなことをするのは一人しかいない。

 

「ふぅ。まさか兄さんもここでデートしていたなんてな」

 

制服姿のマドカがいた。というより、何で制服?

 

「私はデートの下見で動物園に来ただけだ。後、制服なのは私服が洗濯中だったからだ」

 

だからって、制服で来るのは問題があると思うぞ。

 

「あの女は私が処分する。だから兄さんは問題なく帰ってくれ」

 

「あ、ああ・・・」

 

雑木林の中で箒のうめき声が聞こえてくるけど、気のせいと思い真耶を連れて動物園を後にした。

 

「真耶、ごめん。せっかくの動物園デートを無茶苦茶になって」

 

「ううん。別に私は気にしてないから。また、動物園デートをすればいいだけだから」

 

俺の謝罪に笑顔で答える真耶は俺の手を握り、ある方角へ指をさした。

 

「それに、今日は学生寮じゃなくてホテルでのお泊りだから・・・ね?」

 

顔を赤くしつつ俺の手を握る真耶を見て、俺も顔を赤くした。真耶は多分・・・うん、そうだろう。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

ホテルの部屋に着いて早々、真耶は用事があると言って部屋を出て行った。

 

白を基調としたダブルベットに46インチの薄型テレビ。40平方メートルもあるのではないかと思うほどの広さ。高級ホテルに泊まってるのではないかと思ってしまうんだが・・・

 

「そう言えば、日曜日のデートは一体どこなんだ?」

 

何かサプライズもあるみたいだけど、一体何だろう?

 

「一夏君、入って良い?」

 

サプライズの中身を考えていたら、真耶の声がドア越しから聞こえて来た。こんなことを考えても仕方がない。真耶のサプライズが悪い訳ないじゃないか。

 

「入って良いよ」

 

ドアがゆっくり開き、真耶が現れたけど・・・

 

「似合ってる・・・かな?」

 

牛の姿をしている。

 

正確に言うと、牛の耳をしたヘッドバンドとブラに鈴の付いた首輪、袖口が広いアームウェアとベルトと尻尾が付いてるミニスカートに厚底のロングブーツ。しかも全部牛柄。

 

真耶・・・自分の体型を見込んでその服を選んだのか!?

 

「似合ってるけど・・・どうして牛?」

 

「その・・・店員さんにこの服が似合ってるって押しに押されて買っちゃた」

 

顔を赤くし答える真耶の姿を見て、俺の心臓の鼓動が早くなっているのを実感する。久々に二人きりという事もあって色々と溜め込んできたものが溢れ始めてきている。

 

「そ、それでね・・・これを」

 

様々の煩悩が駆け巡ってる中、真耶は俺にラッピングされた小さな箱を差し出してきた。

 

「これは?」

 

「開けてみて」

 

俺は真耶の手から箱を取り出し、ラッピングを丁寧に剥がして箱を開けてみた。

 

箱の中には銀色の輝きを放つ指輪が一つあった・・・・・・指輪?

 

「お誕生日おめでとう一夏君」

 

「真耶。これって・・・」

 

「誕生日プレゼントで未来の結婚指輪」

 

「未来の・・・結婚指輪」

 

銀色で飾りも何もないストレートデザインの指輪。やっぱり結婚指輪だったのか。

 

「本当はプロポーズの時に渡すべきだと思ったけど、気持ちが先走りしちゃった」

 

真耶は申し訳なく謝ってるけど、謝る必要は全くないのに。

 

「大丈夫だよ。俺が真耶のプレゼントで嫌がった事なんてないだろ?それに・・・」

 

「ひゃあ!?」

 

俺は真耶をベットに押し倒して、右手の薬指を見つめる。そこには同じデザインをした指輪がはめられている。

 

「真耶とおそろいの指輪が嫌いなんてないじゃないか。最高の誕生日プレゼントをありがとう」

 

「一夏君・・・」

 

「真耶・・・」

 

「好き・・・」

 

「俺も好きだよ真耶」

 

俺と真耶は互いに顔を近づけ、互いの吐息が掛かるまでの距離まで迫った。

 

「真耶、明日の日曜日はどこでデートするの?」

 

「明日は遊園地でデートなんだけど・・・」

 

「大丈夫。夜はまだこれからだから」

 

時計の針は8時をさしているのを確認し、真耶の右手から右腕、右肩へなぞるように手を移動させた。

 

「牛さんだから・・・優しくしてね」

 

「分かったよ。高級のローは優しく丁寧に扱うよ」

 

「・・・もう、一夏君のエッチ」

 

俺と真耶のディナーはこれから始まるのであった。




気付けばこの作品、50話も執筆していました。

皆さま方の応援のお陰で何とかここまで書けています。

これからも応援のほど、よろしくお願いします。

次回は遊園地デートを執筆する予定です。


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第51話

皆さん、お久しぶりです。

気付けば、この作品のお気に入りが1000件を突破しました。

これは作者自身も驚きを隠せません。本当にありがとうございます。

これからも、この作品の応援をよろしくお願いします。



と言いつつ、今回の話は2500字にも満たない話・・・精進します。


白のカーテンから差し込む光。吹いて来る涼しげな風に私は目を開けた。

 

「んん・・・」

 

服を着ていないせいか、涼しい風が直接当たってほんのちょっと寒気を感じた。そんな中、私の胸で一夏君が可愛い寝顔を立てながら寝ている。可愛い一夏君の寝顔をずっと見たいけど、今日は遊園地デートの日。早く起こさないといけないわ。

 

「一夏君、起きて」

 

「んん・・・ふわぁ・・・おはよう」

 

私の声に一夏君は目を覚まし、欠伸を立てながら体を起こした。夜中はよく見えなくて分からなかったけど、一学期と比べて一夏君の体は少し変わっていた。筋肉がほんの少し付いたのか体つきが良くなっていて、腹筋がちょっとだけ割れていた。足はシーツが覆いかぶされていて見えないけど、少しスッキリしてると思う。

 

「真耶、どうしたんだ?」

 

「一夏君の体つきが少したくましくなって、ちょっと残念だなぁって。私と一夏君の体つきに大きな差が開いちゃうと思うと少し不安で」

 

「そんなことないよ。真耶だって、一学期と比べて少しスリムになったよ」

 

「でも、胸が無駄に大きくなったような気がするの。私、このままだと胸だけ無駄に大きくなるんじゃないかって」

 

「真耶の魅力は胸だけじゃないよ」

 

そう言うと一夏君は私の背後に回り、私の首筋に顔を近づけ抱きしめて来た。

 

「匂いや手の感触、キスの力加減にやさしさ。そういうのも真耶の魅力だと思うよ」

 

「ISの腕前は?」

 

「ISに乗らなくても、真耶は強いよ」

 

私の耳に吐息が掛かるように問いかけてくる。そんな風に責められるの好きだけど夜にして欲しいよ。朝から始めたらデートに遅れちゃう。

 

「一夏君。今日は遊園地デートだから準備しないと」

 

「じゃあ、このまま一緒にシャワールーム入る?」

 

「嬉しいけど、それはまた次回ね」

 

私もこのまま続けたいけど、デートの事を思い一夏君から離れて一人シャワールームに向かった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

シャワーを浴び、朝食を済ませた私と一夏君は遊園地へ歩いている最中です。服装は昨日と同じだけど・・・変じゃないよね?洗濯して生乾きはしてないけど、変じゃないよね?

 

「真耶、調子が悪いのか?」

 

「ううん。ただ、今日の服装が変じゃないかって」

 

「別に変じゃないよ。真耶の服は抱擁感があって心が安らぐよ。それに、真耶が着る服に変なモノはないから安心して」

 

一夏君は私の腕に抱きつき、突然耳元で囁いてきた。

 

「それとも、昨夜の匂いが残っているのか気になる?」

 

「そ、それは言わないで!その・・・あの匂いは・・・好きなんだから」

 

「え!?あの匂い、嫌いじゃないの!?」

 

「あの匂い・・・一夏君の匂いがするから嫌いじゃないよ。一夏君は私の匂いが付いたら嫌?」

 

「いや!嫌いじゃないけど・・・あの匂い・・・少し独特というか・・・その・・・」

 

「ご、ごめんね!こんな事を聞きたかった訳じゃないの!」

 

「お、俺もてっきり匂いが付くのが嫌だから聞いただけで」

 

「そ、そうだね!じゃ、じゃあ、早く遊園地に行きましょう!」

 

顔をリンゴの様に真っ赤に染め上げている私達二人は、足早と遊園地に向かった。周りに人がいなくて良かったけど、なんて恥ずかしい会話したんだろう。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「チケットは大人二枚でよろしいですね?」

 

「はい」

 

「こちらがチケット大人二枚となります」

 

あの会話の後、一言も言葉を交わすことなくチケットを買って遊園地に入った。あの時の会話でちょっと変な雰囲気にしちゃったのか、一夏君がどうすればいいのか困ってる。彼はそんな素振りを見せない様に冷静を装ってるけど、右手を開いたり閉じたりしてる。それは一夏君が全く落ち着いてない証拠であり、助けが欲しいサインである。変な雰囲気にしたのは私が原因だし、ここは私がちゃんとしないと。

 

「一夏君」

 

「え!?あ、ああ。どうしたんだい真耶?」

 

全く動揺を隠しきれていない様子の一夏君。昨夜と違って、完全に落ち着きのない様子。ここは私が落ち着かせないと。

 

「もしかしてさっきの会話の事を気にしてるの?」

 

「いや、その、まあ・・・はい」

 

「そんなに顔を赤くする必要なんてないよ。あの時は不意に聞かれて少し驚いただけだから」

 

「そ、そうなんだ」

 

顔を赤くしている一夏君を見てたら、少しイタズラしたくなっちゃった。

 

「一夏君は私の匂い、嫌い?」

 

「いや、嫌いじゃないけど・・・」

 

「だったら私の匂い、嗅いでみる?」

 

「え!?」

 

「冗談。少しからかって落ち着かせようとしただけだから」

 

「何だ。ビックリした」

 

「ふふっ。じゃあ、気を取り直して遊園地で目一杯楽しもう」

 

私は一夏君の手を握り、ジェットコースターに行こうとした。

 

「真耶」

 

「どうしたの?」

 

「肩にゴミが付いてるから取るよ」

 

そういう小さな気遣いができるのは、一夏君の凄い所かな。私が今日まで教師として頑張ってこれたのは、一夏君の小さな気遣いがあってこそのものだからね。

 

「じゃあ、おね・・・」

 

その小さな気遣いに感謝しようとした時、私の耳元で小さな風が吹いた。

 

「ひゃあl」

 

私は思わず体をすくめ、一夏君に抱きついてしまった。風の正体は言うまでもなく、一夏君の息吹きだ。

 

「さっきのお返しだよ」

 

「も、もう!ビックリさせないで!」

 

子供っぽい一夏君も好きだけど、驚かさないで欲しいよ。

 

「けど、こうして俺に抱きついてくれたのは嬉しいよ」

 

「なら、このままジェットコースターに行く?」

 

「腕に抱きついてくれるなら行くよ」

 

「もう・・・一夏君のイジワル」

 

「それはお互い様だよ真耶」

 

一夏君にしてやられたと思いながらも、私は嬉しさを隠し切れず一夏君の腕を抱きしめながらジェットコースターのある所に向かって行った。昨日は篠ノ之さんと三人で動物園デートをしたけど・・・

 

 

 

「一夏君」

 

「何、真耶?」

 

「好き」

 

「俺も好きだよ、真耶」

 

 

 

今日は二人きりでの遊園地デートを楽しみたい。




次回、一夏と真耶の遊園地デートが始まる。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第52話

ここ最近モチベーションが上がらず苦労しましたが、一応の区切りができたので投稿します。


俺と真耶が最初に向かったアトラクションは、ジェットコースターである。

 

実は真耶が一番行きたがっていた場所でもあるが・・・

 

「どうしたの一夏君?」

 

「真耶がジェットコースターで喜んでいるのに驚いてて・・・」

 

「ごめんね。一夏君がこういうのが苦手なのにはしゃいじゃって」

 

え・・・?

 

「真耶。俺が絶叫マシーンが苦手なのは、どこで・・・」

 

「以前、織斑先生と飲みに行った時、酔った織斑先生が勢いで言ってました」

 

そう。真耶の言う通り、俺は絶叫マシーンが苦手である。小さい時、箒の家族と一緒に行って・・・

 

『男なんだからしっかりしろ!』

 

と言われて、箒に半ば強引に乗せられたんだ。その結果、絶叫マシーンが嫌になった。

 

小さかったから怖く感じていただろうと思っていたが、中学の修学旅行で某アミューズメントパークの人気絶叫マシーンに乗った時・・・

 

『何、この世の終わりを迎える様な顔してるのよ?そんな顔をするなら、アタシが克服させるわ』

 

と、鈴に言われて他の絶叫マシーンに乗せられて地獄を味わった。

 

そして、真耶とのデートで絶叫マシーン。いや、遊園地に行くんだから、こういう所に行くのは鉄板だ。それに、行く事に関しては覚悟を決めていたんだ。恐れる事は無い。

 

「一夏君?」

 

「あ、ああ。大丈夫だよ。それじゃあ・・・」

 

一緒に行こうと言おうとした時、真耶は笑顔で俺の右手を握り始めた。

 

「私がいるから大丈夫だよ。だから、そんなに怯えないで」

 

「真耶・・・」

 

「えいっ!」

 

すると、真耶は俺の右手を強く握りしめた。とは言っても、千冬姉みたいに骨が痛みそうな力を出してる訳ではなく、強く握手されてる程の力ぐらいである。心地よい握りなのか、少しだけ心が安らいだ。

 

「どう、落ち着いた?」

 

「ああ、落ち着いたよ。それにしても、真耶は凄いな。ちょっとした事で俺の心を落ち着かせるなんて」

 

「一夏君。私に手を握られたり、膝枕で落ち着いていたりする事があって、もしかして好きなんじゃないかなと思ったの」

 

「真耶には敵わないな」

 

「ふふっ。膝枕とか握られたいって思ったら学園でも呼んでね」

 

学園内で呼ぶ時は千冬姉とマドカにばれないようにしないとな。結構無理な気がするけど・・・

 

「さあ、一夏君。一緒にジェットコースターに乗りましょう」

 

そう言い、真耶は俺の右手を引っ張りながらジェットコースターへ向かって行った。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

ジェットコースターを乗り終えた俺と真耶は近くのベンチに座って一休みしている。

 

「大丈夫、一夏君?」

 

「ああ・・・大丈夫・・・」

 

ジェットコースターに乗った結果は言うまでもない。隣のシートに座っていた真耶は叫び、俺は泣き叫びながら堪能した。我ながら、ギャグ漫画を連想させるかのような泣き顔をしていたと思うよ。

 

「ごめんね。一夏君がそこまで苦手だと思わなかったから」

 

「真耶のせいじゃないよ。俺がちゃんとすれば良かっただけの事なんだから」

 

「でも・・・」

 

心配そうに見つめてくる真耶の鼻を指で軽く突いた。

 

「きゃっ!?」

 

「心配性だな真耶は。確かに怖かったけど、真耶が隣にいただけでも少し落ち着いていられたから」

 

「本当?」

 

「本当だよ。俺の手を握ってみて」

 

半信半疑ながら俺の手を握ろうとした真耶を、抱きしめた。

 

「ひゃあっ!?」

 

「どう?落ち着いてるでしょ?」

 

「驚かさないでよ。変な声が出ちゃったじゃない」

 

「落ち着いていただろ?」

 

「でも、私がドキドキしちゃってるよ」

 

顔を赤くしつつ照れながらも答える姿に、俺のちょっとした悪戯心が働く。

 

「じゃあ、落ち着けるアトラクションに行こうか」

 

「そんなアトラクションがあるの?」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「ここ・・・なの?」

 

「そうだけど、どうしたの?」

 

「は、入るの?」

 

「ああ」

 

「うう・・・」

 

少し涙目になってる真耶があまり行きたがらないのも仕方がない。

 

何故なら、お化け屋敷の前にいるのだから。

 

実は怖いものに対してはかなり耐性が付いている・・・と言うより、付いてしまった。

 

主に千冬姉とマドカと、千冬姉とマドカに、千冬姉とマドカ・・・身内が原因だな。

 

「大丈夫だよ。俺が側にいるから安心していいから」

 

「本当に?」

 

「ああ。俺が守ってやるから」

 

悪戯心とは言ったが、少しやりすぎたかな。まだお化け屋敷に入っていないのに、真耶が凄く怖がってるし。ここは俺がシッカリしないと。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「一夏君・・・ぐずっ・・・怖かったよ」

 

「大丈夫だよ。俺が側にいるから」

 

お化け屋敷の中で真耶は泣き叫んでいて、俺はそんな真耶を慰めるという感じだった。お化け屋敷から出ても真耶が泣き止む気配が無い。

 

「真耶、大丈夫?」

 

「ふぇ・・・ぐずっ・・・うぅ・・・」

 

これはやりすぎた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「ごめん真耶。俺がイタズラ半分にお化け屋敷を選んで」

 

「もう、イタズラ半分でお化け屋敷を選ばないでね」

 

「お待たせしました。こちら、ストロベリーパフェとなります」

 

あれからすぐに真耶と一緒にフードコーナーに行き、ストロベリーパフェを向かい合って食べることにした。パフェが出るまでずっと暗かったのに、出た途端に物凄く目を輝かせた真耶の姿は年頃の女の子そのものだった。

 

「うーん。ここのパフェ、一度食べてみたかったの。一夏君も食べてみる?」

 

「いいの?」

 

「このパフェを二人で一緒に食べると、ずっと幸せになれるって言うんだよ」

 

「え?別に食べなくてもずっと幸せになれると思ってたけど?」

 

現に俺は真耶と一緒にいられるだけで幸せなのに。

 

「もう、そういうのは言わない。こういうのは雰囲気が大事なの」

 

「そういうの・・・いまいち分からないな」

 

「じゃあ、学園に戻ったら実習を交えて教えるよ」

 

「ありがとう!真耶のマンツーマン指導なら、何でも覚えられるよ」

 

真耶や相川さん達のお陰で女心は少し理解してきたけど、分からない事が沢山あって困る。

 

「大袈裟ね。ハイ、あーん」

 

「あーん」

 

真耶の愛情が乗ったスプーンが俺の口に運ばれる時だった。

 

 

 

「一夏・・・何してるのよ」

 

「え・・・鈴?」

 

 

 

俺と真耶の食事に割り込んで来たのは、何故か不機嫌の鈴だった。




次回も遊園地デートは続きます。


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第53話

皆さんお待たせしました。

駆け足になりましたが、遊園地デート後編です。


俺と真耶のデートに現れた鈴。その目的は?

 

「何で鈴がここにいるんだよ?」

 

「あんたが人目を気にせず、破廉恥な事をしないためよ」

 

「はぁ?」

 

「アタシがいないと本当に問題を起こすんだから」

 

これじゃあ、昨日と変わらないじゃないか。頼むからデートの邪魔をしないでくれ。それに人目を気にせず、破廉恥な事はしてないから。

 

「鈴。俺は真耶とデートしてるだけだぞ」

 

「アタシから言い逃れしようとしても無駄よ!」

 

全然話を聞く気が無い。どうすれば・・・って、考えたら別に真耶と付き合ってる事は別に隠すものでもないか。

 

「鈴、俺に一つ提案があるけどいいかな?」

 

「何よ?」

 

「俺と真耶のデートに付いて行ってもいいよ」

 

「い、一夏君!?」

 

真耶が物凄く慌ててるけど、真耶とのデートを中断させるため提案したわけじゃないから。

 

「やっとアタシの考えを理解・・・」

 

「だけど、邪魔はしない事が条件だ」

 

「はぁ!?」

 

鈴の呆気にとられた顔に思わず笑いそうな所を堪えつつ、俺は説明を続ける。

 

「付いてても良いから、邪魔はしないでってだけ」

 

「あんた・・・何、言ってるの?」

 

「別に俺は真耶に破廉恥な事はしてない。普通にデートしてる所を鈴に見せるだけだけど」

 

「そう言ってアタシを・・・」

 

これ以上長引かせると、周りの人に迷惑が掛かるから早く終わらせないと。あまりやりたくなかったけど、鈴を挑発してみるか。

 

「それとも、鈴は度胸が無いのか?」

 

「・・・は?」

 

「仕方がないか。俺の提案を一つも聞き入れない鈴に、俺と真耶のデートに付いて行く度胸なんて無いか」

 

「あ、あるわよ!そんなに言うなら邪魔しないで付いて行ってあげるわ!だけど破廉恥な事をしたら、速攻でアタシと一緒にIS学園に戻るからね」

 

「分かった。それじゃあ真耶、次はどこ行こうか?」

 

「え?じゃ、じゃあ次はメリーゴーランドに行きましょう」

 

半ば強引ではあるが、何とか真耶とのデートに介入されずに済んだ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

メリーゴーランドの馬車に俺と真耶が乗り、鈴は外で監視している。

 

「一夏君、大丈夫なの?」

 

「大丈夫だよ。鈴はすぐに実力行使する人じゃないから」

 

真耶を安心させようと、鈴のいる所に視線を移したが・・・

 

「ぐぬぬぬぬ・・・」

 

鬼の形相でこっちを睨んでいた。しかも、握ってる手すりが少し歪んでいる。

 

「・・・大丈夫だから真耶」

 

「え、ええ・・・」

 

降りた後が不安だ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

メリーゴーランドに乗ってる時は至福の一時を味わっていた。真耶の手を触ったり、握ったり、回る景色を見ながら互いの顔を見て微笑んだりしていた。途中、外からの殺気で悪寒が走ってしまったが真耶の笑顔を見て、そんなものを吹き飛ばした。

 

「ふぅ。真耶どうだった?」

 

「一夏君と一緒にいたから、楽しかったよ。次はどこに行く?」

 

「そうだな。次はコーヒーカップでも行こうか・・・あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「鈴がいないんだ」

 

さっきまで鬼の形相で睨んでいた鈴が姿を消した。これは・・・

 

『迷子のお知らせをします。ただ今、迷子センターで凰鈴音ちゃんをお預かりしています。凰鈴音ちゃんのご両親は、迷子センターに来てください』

 

迷子になった子供と勘違いされたのか。でも、どうして鈴は素直に迷子センターに付いて行ったんだ?

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

迷子センター

 

「一夏・・・あんたがイチャイチャさえしなければ・・・」

 

迷子センターに着いて早々、開口一番に言う台詞じゃないぞ。

 

「俺と真耶のデートに付いて行く約束だろ?」

 

「だったら・・・メリーゴーランドでイチャイチャしていい訳ないじゃない・・・」

 

「別にしていいだろ」

 

完全に嫉妬全開で睨みつけてくる。

 

「だから、IS学園に帰るわよ」

 

「何も破廉恥な事はしていないぞ」

 

「してたわよ!メリーゴーランドでイチャイチャして、ここに移動するまでずっと手を繋いでいるなんて破廉恥同然よ!」

 

「いやいや!言いがかりにも程があるだろ!?」

 

「言いがかりじゃないわよ!メリーゴーランドに乗ってる間、周りの人達が変な目で見てたんだからね!」

 

それは、手すりを歪ませた鈴を見てたんだと思う。

 

「だから、あんたはアタシと今から一緒に学園に戻るわよ」

 

「真耶はどうするんだよ!?」

 

「問題ないわよ。一人で帰れない歳でもないんだし」

 

「私は一夏君と・・・」

 

「先生は一夏にベットリしすぎよ!それに、一夏はまた問題を起こすからアタシがいないと駄目なんだから!」

 

真耶に対する妬みを言ってる時点で問題を起こしてるのは鈴の方だと思うが。

 

「鈴、俺は真耶と一緒に帰るから」

 

「はぁ!?」

 

「IS学園に帰るまでがデートだから。そうだろ、真耶?」

 

「一夏君が、そんなロマンチックな事を言うなんて・・・」

 

「どこがロマンチックよ!」

 

真耶は顔を赤らめ、鈴は顔を赤くしながら、止む得ず遊園地を後にした。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

IS学園

 

「学園に着いたけど、まだお昼頃だね」

 

「そうね。ねえ、一夏君。一緒にお昼ご飯でも・・・」

 

「はーい!ストップ!」

 

「「え?」」

 

学園に着いて早々、鈴の態度が変わった。学園に着いたら、鈴が強くなるわけでもないのに。

 

「アンタ達ね、もう学園なんだからデートは終わりよ!」

 

「デートが終わったんだから、真耶と一緒に昼食を食べようと・・・」

 

「この、どアホがぁ!」

 

「イダっ!」

 

突然、俺の頭上に強い衝撃が走った。勿論正体は・・・

 

「いい加減にしてもらおうか?姉とは言え、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうなんだが?」

 

「ち・・・千冬姉」

 

それ以外に考えられる答えが無い。

 

「山田君には、後で色々と話を聞かないといけないな」

 

「あ・・・あの、私は別に・・・」

 

真耶が顔を青ざめて、震えだしてるよ。

 

「鈴は、今すぐ三途の川に行ってもらおうか」

 

「えぇ!?」

 

「うちの愚弟をストーキングした罰だ」

 

鈴・・・お前と遊園地で会ったのは偶然では無かったのか。

 

「今日の私は機嫌が悪い。お前達、生きて帰れると思わない事だ」

 

その後、三途の川を見せかけられた俺は相川さん達に千冬姉が不機嫌の理由を聞いて納得してしまった。




次回、織斑千冬が不機嫌である理由が明らかになる予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第54話

千冬が不機嫌になるのも納得・・・しますよね?


一夏と真耶が遊園地に向かっている中、IS学園の職員室で恐るべき計画が実行されようとしていた。

 

「みんな揃ったみたいわね」

 

「ええ。まさか、予定より早く実行できるのは嬉しい誤算だわ」

 

「ここからが正念場」

 

「勝者には天国が待っており・・・」

 

「敗者には地獄か待っている」

 

「ここまで協力して来たとはいえ、ここからは全員ライバルよ!」

 

「DEAD・・・or・・・ALIVE」

 

それぞれの想いを口に出し、メイクやアクセサリ等の準備を進めていた。

 

「そろそろ時間よ」

 

「行きましょう。私達の戦場へ・・・」

 

午前8時30分。乙女達(?)は、戦場へ・・・

 

 

 

「待てい!」

 

 

 

行けるはずがなかった。

 

「この声は!?」

 

「どうして!?この計画は口外禁止のハズよ!」

 

「何故、あなたがそこにいるのよ!?」

 

職員室のドアに立ちそびえる人影。背後からのスポットライトで姿が良く見えないが、正体は察しがついている。

 

「戦いの虚しさを知らぬ愚かな者たちよ・・・戦いは愛する者たちを助けるためにのみ許される」

 

その人影に乙女達(?)は子羊の如く怯え始めた。戦場に赴く前に散ってゆくことを予感して。

 

「その勝利のために、我が身を捨てる勇気を持つ者・・・人、それを英雄と言う!」

 

「私達の戦いを邪魔するあなたは誰!?」

 

「貴様らに名乗る名前はないっ!」

 

「あるでしょっ!織斑千冬と言う名前が!」

 

名乗りについて突っ込まれても、千冬が動じることは無かった。

 

「織斑先生。どうして私達の邪魔をするのですか?」

 

「急いて出会いを求めても、虚しい結果が残るだけだ」

 

「やってみなければ分からないでしょ!理屈だけで物事が進むわけじゃないから!」

 

「理屈で言ってるわけではない」

 

「織斑先生だって、恋人が欲しい気持ちぐらい分かるでしょ!」

 

「分かるが、そういう事を言いたい訳ではない」

 

「じゃあ、何なんですか!?」

 

乙女達(?)は怒りを露わにしているが、千冬はその姿にため息をするしかなかった。

 

「お前達がいなくなったら、この学園にいる教師は私を含めて5人になるんだぞ?」

 

「5人もいれば十分です!」

 

既婚者とSHINOBIだけで運営できると豪語する乙女達(?)に千冬は頭を抱えざる得なかった。

 

「お前達・・・休日だから好き勝手にやって良い訳ないだろ」

 

「分からないの織斑先生!私達から溢れ出る恋のエナジーを!」

 

「ジェラシーの間違いではないのか?」

 

「私達だって、山田先生みたいな恋愛がしたいのよ!」

 

「山田君の恋愛は参考にしなくていい」

 

「織斑君みたいな人に、いろいろと責められたいの!」

 

「愚弟は私が始末する」

 

乙女達(?)の叫びに千冬は呆れながら返答している。それでも乙女達(?)の想いは、とどまる事を知らない。

 

「織斑先生も一緒に行けば分かります!この想い!この気持ち!恋に賭ける覚悟を!」

 

「織斑先生だって、恋人が欲しいと思ったことがあるでしょ!?」

 

「合コンの一つや二つぐらい経験しないといけませんよ!」

 

「織斑先生だって、本当は山田先生の事が羨ましいでしょ!」

 

乙女達(?)の言葉に耳を傾けた千冬だが、これ以上聞いても埒が明かないと判断し・・・

 

「ハイクを詠め」

 

乙女達(?)を成敗し、事を終息させた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「あいつらに教員としての自覚があるのか?」

 

成敗し終えた千冬は、端が若干赤くなっている出席簿を片手に整備室付近をパトロールしている。広大なIS学園は、パトロールのタイムスケジュールが組まれており教員達はそれに沿って、パトロールを行っている。ちなみに整備室付近のパトロールは真耶が担当であるが、デートが入ってたために急遽千冬がパトロールをしている。

 

「山田君も山田君だ。休日ならまだしも、平日でも愚弟を甘やかし過ぎている。私が二人に喝を入れるべきだな」

 

独り言を呟きながら整備室の前を通り過ぎようとした時、整備室内部から不穏な声が扉越しに千冬の耳に入り込んだ。

 

『うふっ・・・ん・・・はぁ・・・』

 

「はぁ。いつになったら、あいつに常識が身につくんだ?」

 

溜息を漏らしつつ千冬は整備室のドアを開けず、壁にのめり込まれる様に整備室に入った。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

整備室の隅で、ラウラ・ボーデヴィッヒが更識簪の体を葬っている。

 

「はぁ・・・あぁ・・・んっ!」

 

「ほう。わき腹からうなじに沿って逆撫でされると反応するのか」

 

「んん・・・くっ!・・・あ、あぁ・・・」

 

息は乱れ、頬を赤く染め、服はラウラに上着を脱がされたまま葬られている。だが、羞恥と愉悦の二つのせめぎあいを心から楽しんでいるのか、簪は抵抗する様子もなくラウラに体を葬られている。

 

「大丈夫か?無理をして立ってる必要は無い。座ってでも、これぐらいの事はできるぞ」

 

「う、ううん・・・立ってた方が・・・気持ち良い・・・の・・・」

 

「そうか。だが、これ以上は無理だと判断したら力づくで寝かせるけどいいか?」

 

「うん・・・ねえ、ラウラ?」

 

「どうした?」

 

「私って・・・変?」

 

突然の質問に、思わずラウラの目が丸くなってしまった。

 

「ラウラに体をいじられて・・・それを誰かに見られたいの。それって、オカシイの?」

 

「変だとは思わないが、その事で不安に感じる簪はおかしいと考える」

 

「え?」

 

不安な表情で問いかける簪に、ラウラは少しキツメの口調で答えた。

 

「私は嫁を悦ばせたり、気持ちのいい顔を見るのを最高の至福だと言っても過言ではない。それに不安や疑問を持たされると、嫁とどのように接すればいいのか分からなくなる。最悪、嫁と接するのが嫌になるのかもしれない」

 

「ごめん。私、ラウラの気遣いに気付かなくて・・・」

 

「嫌だったら嫌と、気持ち良いと思ったら気持ち良いと素直に言ってくれ。それに、他人の目を気にする必要は無い。お前と私が恋仲なのは周知の事実だ。他人が何を言おうと、お前はおかしくない」

 

「ラウラ・・・」

 

簪の安堵した表情を見続けた後、ラウラの右手が簪の腹部から下へと差し伸べた。

 

「簪、準備はいいか?」

 

「うん・・・ラウラは?」

 

「私をその気にさせる事が出来るなら、話は別だ」

 

ラウラと簪の戯れは常にラウラが主導権を握っている。簪に主導権を譲る事もあるが、上手く主導権を扱う事が出来ずにラウラに戻ってしまう。簪自身もラウラを悦ばせようと努力をしているが、喜ばせようと頑張っている簪の姿にラウラが悦びを感じていることに気づいていない。

 

「じゃあ、私が先に・・・」

 

 

 

「先に成敗されたいという事か・・・」

 

 

 

「「!?」」

 

低く、冷たく、慈悲もない声が二人の背後から響き渡る。

 

「きょ、教官!?」

 

「ボーデヴィッヒ・・・まさか、それも副官の入れ知恵か?」

 

「いえ!日本では、恋人との触れ合いはこのようにしていると雑誌で書かれてありました」

 

ラウラの堂々とした返答に呆れつつ、上半身下着姿の簪に視線を移す。

 

「更識。私から見たら、お前はオカシイと思う」

 

「え・・・」

 

「誰かを悦ばせようとするのはおかしくない。だが、そのために行っている事はオカシイという事だ」

 

「そ、そんな・・・」

 

千冬の発言に、簪は驚きの顔を隠せずにいた。

 

「だが、その前に一つすべきことがある」

 

千冬は出席簿をどこからともなく取り出し・・・

 

 

 

「ハイクを詠め」

 

 

 

二人を成敗するのであった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「はぁ。ボーデヴィッヒと更識の二人にはいつも頭を悩ませる。二人共、変に馬鹿正直な所があって下手な初言はできない」

 

成敗し終えた千冬は、全体が赤くなっている出席簿を片手に武道場付近をパトロールしている。

 

「山田君があんな風に愚弟と接していないか、不安になってくるな。マドカもあんな風にならなければ・・・」

 

姉としての愚痴を止め、武道場に視線を移した。

 

「・・・やれやれ」

 

ため息をつきつつ、戸を開けて正面から武道場に入った。

 

「ふんっ!ふっ!はっ!やあっ!」

 

武道場の中央で一人の少女が一心不乱に竹刀の素振りを行っている。素振りをしてる姿は武人としての・・・

 

「一夏・・・何故、私から離れようとする。昔はそんな奴では無かったハズなのに・・・」

 

威厳も姿も無かった。

 

「山田先生が原因で。一夏は私を見向きもしなくなったのか。体つきは私より断然良いが、心で負けてるつもりはない。それを一夏に教えてやらないとな」

 

武人ではなく、ストーカーの類になっても一夏への想いは変わる事はなかった。

 

「一夏、待ってろ。必ず、私がお前を・・・」

 

「それは無理な話だ」

 

箒の背後から静かに歩み寄って来たのは、幾多の激戦を駆け抜けたSHINOBIではなく・・・

 

「お、織斑先生!?」

 

ブラコンの織斑千冬であった。

 

「箒・・・お前はいつまで夢物語を見ているつもりだ?お前の知っている一夏はもういない。いい加減、一夏と山田君が付き合ってるのを認めろ」

 

もはや呆れるのも馬鹿らしいと思いつつ、箒に再度警告を行った。

 

「認めるもなにも、不純異性交遊をしてる二人を放っておくのはオカシイです。なので、私が・・・」

 

警告を聞かずに持論を展開する箒の頭上に、黒い一閃が音もなくぶつけられた。

 

「警告をしたはずだ・・・一夏と山田君の交際を認めろ。さもなくば、ハイクを詠め」

 

織斑千冬が『普通』の姉としていられる時間は3分もなかった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

身勝手な連中に我慢の限界が近づいている千冬は、真紅の水が垂れている出席簿を片手に校門付近をパトロールしている。

 

「身勝手な連中が多過ぎる。これでは学園が崩壊するのも時間の問題だ。何とかしなければ・・・」

 

一人で考え込む千冬の耳に聞き慣れた声が入ってきた。

 

「学園に着いたけど、まだお昼頃だね」

 

「そうね。ねえ、一夏君。一緒にお昼ご飯でも・・・」

 

「はーい!ストップ!」

 

校門前で会話(?)をしている一夏と真耶と鈴である。

 

(鈴も鈴だ。いつになったら、一夏と山田君との付き合いを・・・)

 

千冬が呆れつつ、ふと200m先にいる一夏の右手を見てみると・・・

 

「指輪?」

 

右手の薬指から輝く銀色の光。真耶の右手の薬指に視線を移すと、銀色の光を放っている。

 

「あの、バカ二人・・・温泉旅行の時に言った事を忘れてるな。プロポーズは卒業してからだと・・・!」

 

堪忍袋の緒が切れ始めた千冬は出席簿を片手に疾風の速さで三人を成敗し始めた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

一夏の部屋で正座している一夏と真耶に、千冬は二人の指輪の没収を命じた。

 

「二人共、罰として指輪を没収する」

 

「「ええっ!?」」

 

「当たり前だ。お前達が指輪をしてみろ。周りの連中が暴徒となって学園を荒廃させるぞ」

 

千冬の警告に真耶は慌て始めるが、実感が湧かない一夏は首を傾げて考え込んでしまう。

 

「そんな大袈裟な事はないだろ。恋人が指輪するぐらい・・・」

 

「それが大きな問題だ。この学園には恋に焦がれる奴も少なからずいる。指輪を見たら、嫉妬と焦燥に駆られて何をしでかすか分からん。今朝、それが起きそうになったからな」

 

「大丈夫だよ千冬姉。俺が真耶を・・・」

 

「山田君以外の人を心配しろぉ!」

 

一夏による愛の主張は千冬姉の前で揉み消された。




次回は、学園祭に向けての準備を含めた日常回の予定です。

ご意見、ご感想、お待ちしております。


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第55話

日常を書くのは簡単だろうと思ったら、前回の更新から1ヶ月も経っていた。

日常回(?)を書くのは、意外と難しいんですね。


千冬姉に指輪を没収されて3日が経った。

 

俺はいつも通り学園生活を送っているが、真耶の方は落ち込みながらも頑張って仕事をしている。手伝いや労いをしようとすると千冬姉に止められて怒られる。別に悪いことをしようとするわけではないと言おうとしても、クラスメイトと仲良くしろの一点張りで聞く耳を持ってくれない。相川さんや谷本さん達とは仲良くやっていて問題は無い。他のクラスメイトとも楽しく会話をしているし・・・箒達を除いて。

 

千冬姉の言葉に悩みつつ、学園祭に向けての準備が行われているが・・・

 

 

 

「私語を慎め!不意にご主人様が襲来して来たらどうする!」

 

 

 

早朝、メイド服を着たクラスメイトと一緒に体育館で柔軟体操をしています。

 

俺が執事のメイド喫茶をする事は決定事項だから文句はない。その為に必要な準備も必要。それで、体力づくりの為にメイド服を着て柔軟体操を行う・・・そこが分からない。

 

「厳しい訓練に耐えてこそ、真の勝利を得られる。全員、気を引き締めて訓練を行ってくれ」

 

ラウラの言葉に疑問を感じつつ訓練を行っているが、料理と接客業がどうなるのか想像できない。

 

「どうした兄さん?」

 

「この訓練、メイド喫茶で役に立つのか?」

 

「役に立つから特訓をするんだ。しかし、これが訓練とでもいうのか?私には、ただのお遊戯にしか見えないが」

 

メイド服を着ているマドカ、執事の服を着ている俺が押す光景はお遊戯には見えないが・・・

 

「この訓練をお遊戯と言うか?」

 

ラウラの冷たい視線がマドカに突き刺さる。ドイツの特殊部隊の隊長を務めている事もあって、ラウラから放たれる威圧感は、他者を引きつけない冷酷冷徹な雰囲気である。

 

「周りがかなり緩いと感じる。どこかしら、はっきり言うなら、確固たる信念と言うものを感じない。この訓練を耐え抜ければ、勝てると誤解している輩もいるのではないか?」

 

対してマドカは怖気づく事無くドライな返答をしていた。

 

「では、日本のメイドと言うものを熟知しているのだろうな?」

 

「奴隷を上手く濁しただけのものだろ?」

 

「どうやら、メイドの知識は偏っているな」

 

「誰かを従わせるのも誰かに従う気も初めから無いな」

 

真剣な顔つきで二人は話してるけど、会話が全く噛みあってない。

 

「なら、アキハバラのメイド喫茶に行ってみるがいい。メイドに対する見方が180度変わるだろう」

 

「私に疑似奴隷の生活を見ろとでも?」

 

「疑似奴隷ではなく、日本のメイドだ。今度の日曜に一夏と一緒に見るがいい」

 

「・・・そうだな。見て学ぶのも悪くない」

 

何で俺も入ってるんだ?

 

「なあ、ラウラ。どうして俺も一緒に行かなきゃいけないんだ?」

 

「お前にも奉仕と言うのが、どういう物なのか知る必要がある」

 

「いや、別にそこまでの事を・・・」

 

「山田先生の奉仕を味わっている以上、メイド本来の奉仕を知る必要がある」

 

「うっ・・・」

 

ラウラの言葉に俺は顔を赤く染めざるえなかった。

 

二学期初日、千冬姉による公開処刑が行われてから周りの視線が若干変わった。入学当初は何らかの期待があったみたいだけど、今では恋愛に関して憧れの対象となりつつある。

 

憧れの恋愛をしていると周りから言われているが、他の恋人と変わらない付き合いをしているつもりだ。真耶だって、そう思っていると信じたい。

 

「今度の日曜日、マドカと一緒にアキハバラのメイド喫茶行くがいい。山田先生同伴でも構わない」

 

「え?」

 

「山田先生が同伴してはならないという決まりなどない。それに、何かあった時に大人がいれば問題を深刻にさせずに済むという点もある」

 

「ラウラ、お前・・・」

 

俺は初めてラウラを心の底から感謝している。最初は周りに冷たく当たっていたあいつが、今では皆や俺にやさしく・・・

 

「何をしているボーデヴィッヒ?」

 

なっているんだけど、千冬姉は段々厳しくなっている一方である。

 

「これは、学園祭に向けての訓練でございます」

 

「それは分かるが、早朝に無断で体育館を使用するのは感心しないな」

 

「無断?使用許可証は提出したはず・・・もしや生徒会が!?」

 

いくら生徒会でもそんな事はしないから。

 

「冗談だ。許可証はちゃんともらっている。それと、山田先生の同伴は許可しない」

 

千冬姉が、さらりと俺の希望を打ち砕く発言を・・・

 

「今度の日曜は緊急の職員会議で山田先生は参加できない。代わりに相川や谷本達と一緒に行った方が良い。いや、行け」

 

表情を崩すことなく脅迫(?)する千冬姉の前に俺は黙って頷く事しかできなかった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「織斑君とメイド喫茶に行くって・・・デートになっちゃうよ!?」

 

「落ち着いて清香。これはマドカに色んなことを知るために織斑先生が提案しただけよ」

 

「でも~、おりむーと一緒に秋葉原に遊びに行くなんて夢にも思っていなかったよ~」

 

「そうだよね」

 

早朝の訓練が終わり、食堂で朝食を摂っている。相川さん達は俺と秋葉原に行ける事で気分が盛り上がっているが俺の気分は盛り下がっている。早朝の訓練がハードだからと言う訳でもなく、日曜に職員会議がある事だ。

 

「これじゃあ、日曜日のデートプランが延期だ・・・」

 

「兄さん、食べないのか?こういう時こそ、栄養をちゃんと摂らないといけないぞ」

 

鮭定食に箸を付けずに落ち込んでる中、隣でマドカはカツカレーを頬張りながら食べている。

 

「マドカ・・・これほどまで、お前の食い意地が恐ろしいと感じたことは無いぞ」

 

「あんなので根を上げるとは先が思いやられる」

 

相川さん達や俺も含め、今日の朝食はあまり食べていないのに・・・

 

「だからって、カツカレー4皿は流石に食べ過ぎだろ」

 

マドカはいつも以上に食べている。どこからそんな食欲が湧いて来るんだ。

 

「腹が減っては戦などできん」

 

「誰と戦うんだよ・・・」

 

「己自身だ」

 

自信気に言いながら4皿目のカツカレーを食べる姿を見て、千冬姉が常識を身に付けさせたいと言う思いに同情をせざる得なかった。

 

「一夏君、ここにいたのね。大丈夫?何だか、元気が無いみたいだけど」

 

妹の尋常じゃない食欲に驚いてる中、真耶が心配そうに俺の所に駆けつけて来た。珍しく右手に青い手提げを持ってのご登場である。

 

「ああ。早朝から学園祭に向けての準備をしたけど、疲れて食欲が出ないんだ」

 

「ちゃんと食べないと駄目だよ。朝食を摂る事は脳の活性化につながるんだから」

 

そう言い、青い手提げから肉球がプリントされてあるピンクのプラスチック容器を取り出した。

 

「これは?」

 

「昨晩の作り置きだけど、疲れている一夏君には丁度食べやすいかな?」

 

容器の蓋を開けると、小さな卵焼き、きんぴらごぼう、ほうれん草の胡麻和えの、三品が入っていた。

 

「私の朝食の分をあげるから、これで元気になって。私は食堂で、モーニングセットを・・・」

 

「そんなことしなくても、俺の鮭定食をあげるから。まだ、箸は付けてないから」

 

「私はただ、一夏君が・・・」

 

「大丈夫だよ。真耶が食べきれなかったら、俺が残りを食べるから。隣に座ってくれないか?」

 

真耶の小さな気遣いに少しだけ活力を取り戻し、隣で一緒に食べようと手招きしたが・・・

 

「姉さんに言われたはずだ。山田先生に頼らず、私や相川達を頼れ。んぐっ・・・カツカレーをおかわりだ」

 

「マドカ・・・食べ過ぎだ。これで5皿目だ」

 

「違う。これで6皿目だ」

 

いつの間にかカツカレー6皿を完食したマドカに、頭を悩ませる朝食であった。

 

 

 

「今日はいつも以上にカツカレーが美味しい」

 

「俺はいつも以上に、マドカの事で頭が痛い」




次回も日常回(?)は続きます。


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第56話

皆さん、お待たせしてすみません。

個人的な事情が無いにも関わらず、一か月半以上かかってしまいました。

それでも執筆し続けますので、応援よろしくお願いします。


食欲の秋(?)を妹に見せしめられた朝食を終え、授業を受けたが・・・

 

「織斑先生。腹痛を起こしたので保健室に行きます」

 

「食い過ぎだ!馬鹿者!」

 

マドカは千冬姉の鉄拳を早々に喰らいました。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

午前 教室

 

「いやぁ。授業開始早々、織斑先生の雷におりむーが巻き込まれるなんてねぇ」

 

「痛ぇ・・・」

 

机でうつ伏せになっている俺を横で他人事のように千冬姉の鉄拳制裁をのほほんさんは語っているが、本当に落雷に巻き込まれて、ちょっとの間だけ気を失ってしまった。気を取り戻した時にはマドカの姿はなかったけど、一体どうやって天井から雷が降って来るんだ。

 

「マドカは保健室送りになったけど、これで少しは『普通の女の子』に戻ってくれたらいいけどね」

 

「それで戻ったら何の苦労もしないんだが・・・」

 

「そういう所は私達に任せて。織斑君より女心は理解してるつもりだから」

 

相川さんと谷本さんは自信気に言っているが、俺にはマドカが普通の女の子に戻る姿が想像できない。

 

「次は山田先生の授業だったね」

 

真耶の名前を聞いた途端、落雷による体の痛みが消え去るかのように体を起こした。

 

「え?真耶の授業は明日じゃないのか?」

 

「先生の体調不良で急遽、山田先生の授業に変更になったって織斑先生が・・・って、先生の落雷で気を失ってる間に言ってたんだっけ」

 

相川さんが苦笑いしつつ説明をしてくれたけど、真耶の授業と聞くだけで気分が高まる。

 

「それにしてもあの落雷を受けても山田先生の名前を聞いた途端、元気になるね」

 

「おりむーにとってまーやんは、心と体の癒しみたいなものだからね~」

 

「そういうのが愛の力というものなか」

 

三者三様に俺と真耶の恋仲について語っているけど、聞いている方は恥ずかしいけど。

 

「マドカがいない教室って・・・何か不自然さを感じるな」

 

「「「え?」」」

 

三人は開いた口が塞がず、俺を見つめ返した。

 

「何で三人の口が揃うんだ・・・」

 

「いや、だって・・・」

 

「今まで不自然な事なんて・・・」

 

「たくさん起こってたのになぁ・・・」

 

本音の言う通りだけど、不自然な事を起こす姉と妹を持ってると慣れてしまうんだ。

 

「皆さん、授業を始めますよ」

 

「真耶!」

 

そんな事を忘れ飛ばすかのように真耶が教室に入って来た。

 

「い、一夏くん!?どうしたの、突然立ち上がって私を呼ぶなんて?」

 

「あ・・・いや、あはは」

 

我ながら恥ずかしい事をしてしまったと反省と後悔をしている。

 

「授業が始まるから席について。後、授業が終わったら少し話があるから」

 

「分かりました」

 

「それじゃあ、授業を始めます。教科書の・・・」

 

その後は何事もなく授業は進んで行った。いつもならマドカと千冬姉の組手(?)が授業内に行われてしまうのだが、マドカが教室にいないので平穏である。そのお陰で真耶の授業に真剣に取り組めて、真耶の笑顔をいつも以上に見れる。

 

「一夏君、どうしたの?」

 

「真耶の顔をずっと見れて幸せだなって」

 

「ふふ。そう思ってくれるなんて私は嬉しいよ。じゃあ、この問題解いてみて」

 

「ああ・・・って、え?」

 

真耶の笑顔から視線を移し、黒板に書かれた問題を読み上げた。

 

「えっと・・・瞬時加速(イグニッションブースト)を使用した際、ISで最も負荷が掛かる部分と理由を。また、その負荷を軽減するにはどのようにすればよいのか」

 

真耶の笑顔で見惚れてたせいで、足元をすくわれることになるなんて・・・というより、真耶が厳しいのは気のせいか?

 

「専用機を持って、私の特訓を受けてるから大丈夫でしょ?」

 

気のせいじゃない。とにかく問題には答えたいけど・・・

 

「えっと・・・」

 

真耶の笑顔に目が奪われてしまう。

 

「一夏君?」

 

笑顔で詰め寄って来るけど・・・

 

「真耶・・・」

 

自然と顔が真耶の顔に・・・

 

「織斑、少し寝てもらおうか」

 

俺の頭上に鋭く鈍い衝撃走り、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

昼休み 食堂

 

「兄さん。その頭はどうしたんだ?」

 

「授業中に頭に強い衝撃が走ったんだけど・・・その辺りの記憶があやふやなんだ。気付いた時には、授業は終わってたんだ」

 

「全く持って原因が分からない。兄妹揃って今日は不思議な事が起こる」

 

「ああ。全くだ」

 

原因が兄妹自身である事に気付かず、二人は食事をするのであった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

午後 第一アリーナ

 

午後の授業はアリーナでISの実技授業を行っているが、真耶の様子がおかしい。朝はいつものように明るかったのに、授業が始まってから俺から遠ざかろうとしている。授業までの間に真耶の身に何かあったのか?うかうか考えても仕方がない。今は千冬姉の授業に集中して取り組まないといけない。

 

「これより、実戦形式での訓練を行う。誰か立候補はいないか?」

 

今回から実戦形式での訓練が始まる。打鉄とラファールで3分間戦い、エネルギーシールドの残量で勝敗を決するというルールで行われる。専用機持っている俺達は、エネルギーシールドが50消費したら負けというハンデ付き。流石に専用機持ちにハンデを付けないと・・・

 

「「はい!」」

 

「ボーデヴィッヒ、マドカの二人か。他に立候補はいないか?」

 

ハンデが無意味な試合が始まろうとしているよ。

 

「ボーデヴィッヒ。分かっているだろうが、シールドエネルギーが50消費された時点でお前の負けだ」

 

「はっ!」

 

別の意味で分かっていない気がする。

 

「二人共、ISを装着しアリーナ上空で待機しろ」

 

マドカは打鉄を装着し、黙々と手足を動かして調子を見ていた。

 

「マドカ、頑張って!」

 

「ボーデヴィッヒさんに負けないでね!」

 

「ああ」

 

生徒達の応援に笑みをこぼすマドカを見て、娘の成長に感動する父親の気持ちが少しだけ分かった。

 

「ラウラ様、ご武運を!」

 

「勝利の女神はラウラ様に微笑んでくれるに違いありません!」

 

「ふっ・・・良い仲間を持ったものだ」

 

生徒達の応援に笑みをこぼすラウラを見て、何かとんでもないことが起こりそうな予感が・・・って、ISを装着していない。

 

「優秀な副官の手により強化された、シュバルツェア・レーゲンの実力を見るがいい!」

 

とんでもないことが起こりそうじゃなくて、今から起こるのかよ。

 

「出ろおぉぉぉぉぉ!レーゲエェェェェェン!」

 

ラウラは高らかに専用機の名前を叫びながら指を鳴らす。上を向くと、空から黒い何かが落ちてきている。

 

「いや・・・流石にヤバいだろ!」

 

俺達は全速力でラウラの所から離れ、観客席に向かって行った。黒い何かはアリーナの遮断シールドを突き破り、ラウラの前に落ちた。あまりの速度に落ちた時に凄まじい衝撃と砂塵が舞い、アリーナは砂塵で周りが見えない状態になった。

 

「ラウラ・・・一体、何を?」

 

しかし砂塵は風で消し去られ、次第に視界が晴れていく。そして黒い何かがあった所には・・・

 

「あれは・・・シュバルツェア・レーゲン」

 

シュバルツェア・レーゲンである。強化されたといっても見た目は何の変化も・・・

 

「ふんっ!はぁっ!てやぁ!」

 

すると、突然正拳突きや回し蹴り、肘打ち等を始めた。途中、手首を回し調子を見ているようであったけど・・・

 

「えっと・・・IS・・・だよな?」

 

どこぞのロボットアニメを見てるような気がする。周囲の戸惑いを気にともせずラウラはマドカのいる上空へと舞った。

 

「待たせたな」

 

「どうやら、それなりの改良が施されているようだな」

 

「それなりに考えていると、痛い目を見る事になるぞ?」

 

「そう傲慢になっていると、死ぬことになるぞ?」

 

二人の会話が実戦形式の訓練と思わせてくれない。

 

「それでは、試合を始めるとするか!優秀な副官と・・・!」

 

「仲間の為に勝利を取らせてもらう!ISファイトォ!」

 

「レディー・・・」

 

「「ゴー!」」

 

二人共、ちゃんとしたISの戦闘をしてくれよ・・・

 

『ISデノ戦闘ヲ確認。コレヨリ、ISファイトヲスタートシマス』

 

そんな希望を打ち砕くかのように謎のアナウンスが入り、俺は頭を抱える事しかできなかった。




次回も日常と言う名の非日常は続きます。


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第57話

皆さん、お待たせしました。

生存報告込みの投稿となります。

モチベーションが上がらず、ダラダラと書いていた結果こうなってしまいました。


二人の戦いは予想通り、想像を絶する戦いだった。

 

壁には何かで切り裂いた痕が残り、地面は無残にえぐられ、上空で二人はISでは出せない打撃音をアリーナ内で鳴り響かせ、俺の不安を膨らませながら避難せざる得なかった。あの二人の戦い方を言い換えるなら、バトルマンガでの戦闘を実際にやったらできたような感じだった。戦いの結果は・・・

 

「お前達・・・ここはどこなのか言ってみろ」

 

「ここはIS学園です・・・」

 

「そして、ここは学園内にあるアリーナです・・・」

 

二人を正座させて説教をしている千冬姉の勝利である。

 

「お前達の戦い方は、周りには何の参考にならないと何度か言ったはずだ。ただ力をふるうだけでなく、その力を次の世代に伝えるのも、力ある者の務めだ」

 

マドカとラウラ以外の生徒も同世代だよ千冬姉。

 

「それに、ISファイトは18歳からだ。未成年が行っていいものではない」

 

えーと・・・どこからツッコめばいいんだ。

 

「今回の授業は中止だ。ボーデヴィッヒとマドカは、アリーナの修復が終わるまで帰宅を禁止する」

 

千冬姉の冷酷な指示に、さすがの二人も・・・

 

「仕方ない。3時間で終わらせるか」

 

「いや、2時間で十分だ」

 

二人は俺の常識を超越している存在である事を今更知ってしまった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

食堂

 

「うーん・・・本当に何があったんだ?」

 

二人がアリーナで修復作業をしている中、教室では普通に授業を進めていたが真耶が俺と目を合わせようとしない。俺が真耶に何かをした訳でもない。むしろ、俺が何をしたのか教えて欲しい所だ。たまに二人で食事したり、書類を運んでるだけで、それ以外はこれといった事はしていない。一体、真耶に何があったんだ?

 

「心当たりが見当たらない・・・」

 

「おりむー。隣いい?」

 

頭を抱え、食事すらしていない俺の背後から、のほほんさんが声を掛けて来た。

 

「ん?いいけど、相川さん達は?」

 

「まどっちに夕食を届けに行ったよ~」

 

「そうか。マドカが『普通の女の子』に戻るのは一体いつになるんだか」

 

「それは、随分後の話になっちゃうよね~」

 

俺の質問を受け流しているように感じる。獲物を今か今かと待ちわびている様に、話題を振るタイミングを探っている。別にそんな話題を振られても構わないけど。

 

「ねえ、おりむー」

 

「何?」

 

「今日のまーやん。少し変だったよね?」

 

「ああ。何か、俺から避けてるように見えるんだ。どうして避けてるのか、見当もつかなくて・・・」

 

俺の悩みを聞いた途端、のほほんさんの顔がにやけ始めた。どうやら食いつかれたみたいだ。でも、真耶が俺から避けてる理由が聞けるなら本望だ。

 

「おりむー。その原因、私は知ってるよ~」

 

「本当!?」

 

「でも、それをタダで教える訳にはいかないな~」

 

「え?」

 

そう言い、本音が食堂の入り口に置かれてある看板を指差した。

 

 

 

『DXパフェ ~スペシャルセット~』 800円

 

 

 

「デザートを奢ってくれたら教えてあげるよ~」

 

「・・・・・・」

 

マドカの食い意地で金欠気味の俺には大きい代償である。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「『やまぴーの部屋に行けば分かるよ~』って、言ったけど・・・何なんだ?」

 

のほほんさんの言う通りに真耶の部屋の前にいるんだが、部屋の中が騒がしいのか多くの物音が立たれている。

 

「えっと、まだノックもしてないけど・・・入ってみるか」

 

俺は物音が収まる前にドアを開けた。そこには・・・

 

「い、一夏くん!?」

 

黒のハーフパンツに胸部の主張が激しい緑のスポーツブラでストレッチをとっている真耶がいたのである。

 

「ま・・・真耶!?」

 

真耶の周辺は部屋着と書類が散乱し、足場といえる足場が存在しない程部屋の中は散らかっている。

 

「あ・・・いや!これはね!少し太ったからストレッチしてるわけじゃなくて、気晴らしにストレッチを・・・はっ!・・・あうぅ・・・」

 

真耶が顔を赤くしながらうずくまってる姿を見て、俺の疑問は3秒で解決した。

 

「俺を避けてた理由は・・・」

 

「お願い!言わないで!これは私にとって一大事なの!このままだと、一夏君に醜い姿を見せちゃうから!」

 

涙目で俺の膝に抱きついて訴えてくる真耶を見て俺は一つ考えが浮かんだ。

 

「そのストレッチ、俺も手伝ってもいいか?」

 

「ええっ!?」

 

「真耶が一人で頑張ってるのに、俺がのうのうとしてるのは何か申し訳ないからさ。それに、学園生活で色々と助かっているから、そのお返しもしたいんだ」

 

少しでも真耶の手助けをしたいと思ったが・・・

 

「ま、待って!」

 

「真耶?」

 

「その・・・一夏君の手伝いは要らないから」

 

「え?」

 

目を逸らしつつ、申し訳ないと思いながら断られてしまった。

 

「いや、でも真耶が・・・」

 

「大丈夫!私一人で何とかなるから!」

 

「いや、どう見ても・・・」

 

「ささっ!もうすぐ、マドカさんが部屋に戻ってくる時間だから!」

 

「ちょっと真耶!?」

 

何も言うことなく、真耶に押されに押されて部屋から追い出された。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「はぁ・・・一夏君ごめんね。でも、これは一夏君の為なの」

 

ベットに横たわり『シンデレラ』と書かれた用紙を凝視した後、自分の腹をつまんでは溜息を吐くのを繰り返している。

 

「間に合うかな・・・学園祭までに」

 

ベットの上で左右に寝転びながら学園祭までにすべきことを頭の中で整理している姿を千冬(SHINOBI)に見られてしまい、その場で2時間の説教を喰らったのはその直後であった。




次回から、ラバーズが活動する予定です。


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