ガンダムSEED⇔(ターン)外伝 アストレイ リ:カズイ (sibaワークス)
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Reverse phase 1 「脱出」

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 「全てのドラマにおいて、主人公という役所はない」

それは、ともすれば、この世界、歴史上の全ての出来事に於いてもそうと言えるだろう。

 

 歴史とは、世界とは一個人が動かせるものではない。

 多く人間の意志が、様々な要因とその総意を持って形作って居るのだ。

 

 

   そこに、時代の顔たる"主役"はあれど――世界の中心たる主人公は居ない。

 

 しかし、それでも人の世界の物語が、主人公を求めるのであれば、

 この世界に生きる、一人一人が主人公といえるのかもしれない。

 その一人一人の思いが、世界を作っているとすれば、だ。

 そうも言えるのではないだろうか?

 

 それならば、名も無き、人々――。

 道を外れた迷い子こそ――世界はアストレイこそが形作っているのだ。

 そう、誰もが道ありき主人公ではないのだから。

 

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 ここ……どこ……どうしよう、お母さんとはなれちゃったよ…

 

 あれ……人なの?

 だれか、たおれてる。

 

 「畜生……俺は……」

 

 緑色の服……ザフトのぐんじんさんだ…

 どうしよう……ココをおそったのはザフトだってお母さん言ってたけど…

 

「ウウウゥ……」

 

 けがしてるみたい……。

 うん、こう言うときは人助けだよね

 ザフトにはマリュー・ラミアスさんていういい人がいるって、ニュースでも言ってたし。

 きっとこの人もこわい人じゃない。

 

 「だいじょうぶ…?どこかいたいの?」

 

 「ウゥ…水…」

 

 よかった、だいじょうぶそうだ。

 

 「わかった、お水ね、今もってくるから。 おにいちゃん、おなまえは?」

 

 「カ……ズイ」

 

 

 

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機動戦士 ガンダムSEED ⇔外伝「ASTRAY Re:Kuzzey」

 

アストレイ リ・カズイ

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 どのような国家にも暗部は存在する。

如何なる大義名分を抱えようとも、生理的に他者を害することでしか生存を図れない人類が、

それでも共存しようとするには――公にはできない、陰部の発生が余儀なくされるのである。

 

 それが、人間の歴史に深い闇を作ることもあれば、逆に、その闇が人類の歴史を支える道標となることも多々あった。

 どこに生きようと、人は光を求め、逞しく生きるほか無いのである。

 

――それはこの男も同じだった。

 

 

「……ウチにそんな仕事頼みたいと? どこで、その話を?」

「ウチは単なるジャンク屋なんですがねー?」

 

 

 男が居る。

 

 少々散らかった応接間に、向かい合うように置かれたソファ。

 その一方に、高級そうなスーツを着た男が座っている。

 その向かい側には、若い男が二人。

 一人は、やや小太りな体型をした、少年とも言える若さで、

 もう一人は――色眼鏡を架けた精悍な青年であった。

 

 そして、その脇にある、 社長席、と書かれた席には、

 それよりも一回り年上そうな、グラマラスな女性が座っていた。

 

 「誰に聞いたか――それは言えません。 ですが、どうしても穏便にすませたいのです」

 「ウチに頼む前に、こんな仕事は多国籍のPMCにでも頼まれたらどうですか?」

 「PMCは、傭兵はダメです。 連合国に軒並みマークされています。 だからこそ、あなた方に頼みたいのです。

 ジャンク屋でありながら、傭兵たちをも凌駕するという、あなた方に」

 

 「いいんじゃないの? でも、キナくさい話よね」

社長席の女性が言った。

 

 「こんな事を……ザフトに気づかれたんでは、コロニーがタダで済むとは思えません、外交努力なりで何とかされたほうが……」

少年のほうが言った。

 

 「……最悪コロニーを失うところまで計画のウチです」

 「なんですって?」

  話は、思いのほか大きいようである。

 「もちろん、そんなことはあってはなりません。 ですからこそ、あなた方にお願いしたいのです」

 「報酬は?」

青年のほうが言った。

 「この額と、その秘密の機体――そのウチの一機を、お渡し致しましょう」

 「――へぇ? 国が傾きかけないモノを、一介のジャンク屋風情に?」

 「ザフトと、連合に、それがバレなければ――アレがあそこに――ヘリオポリスにさえなければ良いのです」

 「オーブも大変だな」

 「――どうする? キャッシュだけでも、良い額くれてるけど?」

 

若い男のうち、一人が考えこむ、すると。

 

 「こんにちはー! ……アレ? 今日はお仕事だった?」

その部屋に、少女が一人入ってきた。

 「こ、この子は!?」

スーツの男が慌てふためく。

 

 「その子は大丈夫だよ、僕らの仲間だ」

 「な、仲間!?」

 

 

 「悪いな、急な仕事でな……」

 「えー? ムーン・ボールの試合見に行く約束でしょう! 今日はブルグレンとベイブルで準決勝よ!」

 「ああ、試合には間に合わせるさ、リードに今までの負け分払わせないとだしな……」

 「え、あの……」

 大事な話の最中に腰を折られた男はどうしてよいかわからなくなっていた。

 

 だが、

 「受けるさ」

 青年が、そう返答した。

 

 「え……」

 「そのマシン、面白そうだ……ロレッタ!」

 男は、社長席の女性に声をかけた。

 「はいはい、契約成立ね――あとは、サーペント・テイル商会にお任せアレ!」

 「え、ええ……たのみます」

 

 「そうと決まればムーン・ボールだ! コーディネイターが出なくなって、ちょっと退屈だがな」

 「えー、ゴステロが居ればいいでしょ?」

 「イライジャも行くだろ?」

 「……賭けなくていいならね」

 「お前、賭けは弱いもんな」

 

 と、言うと、オフィスから三人は出て行った。

 

 「あ……」

絶句して置いてけぼりを食らうスーツの男。

 「どうしました? お客さん?」

 「いえ……もっとシリアスな人を想像していたのですが」

 「劾のこと? 叢雲劾はいつだって、あんな調子よ」

 

 

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 早い! 安い! そして確実。

 冷蔵庫からロケットまで。

 自家用車から宇宙戦艦まで。

 解体撤去から修復まで

 デブリとジャンクの事なら、サーペントテイル商会に任せれば安心です。

 

 「大丈夫、大丈夫!」(叢雲劾の笑顔)

 

 ――――サーペント・テイルに任せとけ!

 お電話番号は――……

 

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――叢雲劾は、その筋では有名なジャンク屋であった。

 

 恐ろしいほど仕事が早く、どんな部品でも調達してくる。

また、抜群のモビルスーツ・操縦技術を持ち、ザフトと連合の戦争で加速的に増えたスペース・デブリを、見事に回収し、宇宙と地球の分断や、民間コロニーの事故を防いでいた。

 

 が、それは表の顔に過ぎない。

 

 彼の正体は、どんな仕事もこなす、――非合法かつ、完璧な――闇の商人(ブラック・バイヤー)

 サーペント・テイルに頼めば核ミサイルも手に入るとされる。

 

 彼の所属するサーペント・テイル自体は月面都市に居を構え、

ノンキに月のケーブル・テレビのローカル・チャンネルにCMを流すような零細企業の体をなしていた。

 しかし、その正体については、都市伝説で語られる秘密結社ロゴスがバックボーンについているだとか、

 ブルーコスモスから資金が流入しているだとか、ザフトのパトリック・ディノが創設に関わっているだとか、

非常に胡散臭い噂の種となっているのであった。

 

 そのどこまでが本当かは、当人たちしか知らない。

 

 しかし、誰もが、当人たちを見ても、そのような噂が真実かは、一向に検討がつかないだろう。

 

 「レイ――今年のムーン・ボールはどこが勝つと思う?」

 劾は、車を運転しながら、助手席にあるトランクに話しかけた――。

 トランク、といったが、それは見た目の事であり、その中身はノートPCのようなコンピュータ端末が詰め込まれていた。

 

 ボディの隅に 型式番号のようなものが刻まれている。

が、大分擦り切れていて、何が書いてあるかは、誰の目にもまるで読み取れない。

 無論、劾にもそうであった。

 

 劾にはR*-*8 Am*r*-ray spと、だけは読み取れた。

 だから、劾は、このコンピュータに、読める箇所の名前をとって”レイ”と名づけた。

 

 『優勝はチーム・ザカールだと思います』

 レイから女性の声がした。

 

 この正体不明のAIは、驚くべき事に人間と対話できるようであった。

ガイは、このコンピューターに、音声合成ソフトと認識デバイスをインストールし、会話を行えるようにした。

 「あのチームは強いからな――風花は?」

 「あたしもザカールかなー? リードはブルグレンって言ってたよ? また賭けるの? 今年はどこ?」

 

 月のホール・ウェイ(密閉道路)を疾走しながら、劾は月面を眺めた。

 

 ここも、今のムーン・ボールの大会が終われば、軍に接収されてしまうだろう。

 また、事務所を移さねばならないと劾は思った。

 

 その為にも資金は必要だった。

 

 「……ブルグレンもザカールも良いが、今年はチーム・レイズナーだな。 俺の全財産賭けてしまおう」

 「いいの?」

 『いいんですか?』

 「俺の悪運は宇宙一だ」

 『非、論理的です』

 「ナチュラルだからな」

 「あー、コーディネイター差別」

 「良い男は、運も良いんだ」

 「……劾って格好いいね」

 「イライジャはもうちょっとやせないと」

 「うう……」

 『イライジャさんの体重は適正範囲内です』

 「ありがとう、レイ。 レイは可愛いんだな」

 『私は機械です。 お断り申し上げます』

 「うう……」

 「レイ、ジョークまで言えるんだ……」

 

 

 「さ、ついたぞ」

 

 三人と、機械1台を乗せた車が、スタジアムについた。

 今はムーンボールを楽しもうと、劾はつとめた。

 

 仕事以外のプライベートも楽しむから、劾は強いのだ。

 

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 ジンがやられる寸前

 

 ――あの赤いモビルスーツに切り裂かれる瞬間、咄嗟に脱出レバーを引いた。

 

 

 体を強く打ちつけたけど、なんとか命は助かったようだった。

 そして、目が覚めると、そこには5、6歳くらいの女の子が居た。

 

 「君……は?」

 「エル」

 エルちゃん……?

 

 ヘリオポリスの子かな…。

 それにしても攻撃してきた軍の兵士を助けるなんて……?

 子供だからかな?

 まあ、ザフトでもマリュー・ラミアス隊長なら敵味方区別なく助けちゃうんだけどさ。

 

 「お兄ちゃん、だいじょうぶ?」

 「う、うん、ありがとう、大丈夫だよ。」

 「よかった」

 エルちゃんは可愛らしくにんまりと微笑んだ。

 

 でも、さっきまで自分が攻撃しておいてなんだけど……この子、避難民かな……。

 

 こういう子がいるところを……俺は攻撃してたんだ。

 

 「ところで、君、お父さんとかお母さんは?」

 罪悪感を紛らわせるため、話しかける。

 「わかんない、はぐれちゃった…」

 「どこからきたかわかる?」

 「うん、なんとか」

 

 こういうコロニーは大抵、

 シェルターは居住ブロックに一つ付いている。

 

 プラントといっしょのはずだ。この子の住んでいた地区に行けば、この子の両親がいるシェルターも見つかるだろう。

 

 って、俺、この子を助けようって……?

 さっきまで、敵軍の兵器を隠していたコロニー、犠牲も止むなしって言ってたのに……? なんだか変なことになちゃったなあ……。

 

 

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 ――月でムーンボールの艦船を終えてから数日。

 劾は、連合とザフトの戦闘の間を縫って、ヘリオポリスのモルゲンレーテへと侵入していた。

 

 いのほか、侵入自体は簡単だった。

 「情報どおりだな」

 ――クライアントから渡された裏道を抜ければ、誰にも見つからず、

 簡単に工場区の最奥までいけた。

 

 ――劾は、目の前に着座する、青いモビルスーツを見上げる。

 オーブが連合からデータを奪って完成させた、例のモビルスーツだった。

 

 

 「待ちな」

 そこへ――予期せぬ侵入者が、ザフトか?

 

 「――そいつは、破壊する」

 傭兵――? 

 

 「はめられたか?」

 劾は思った。しかし、あの依頼主の様子を見るにそうは思えない。

 と、すれば、どこか別の勢力が、目の前の男を雇ったと思うべきだろう。

 

 「――イライジャッ!」

 「ン――!?」

 

 劾は相棒の名を呼んだ。

 妨害を予想して隠れていた小太りの男が、その体型と温厚そうな表情からは想像できないすばやさで、傭兵らしき男の体を羽交い絞めにした。

 だが――。

 「甘い!」

 「!?」

 

 傭兵らしき男は、イライジャを、片手でいなすように投げ飛ばす。

 

 (イライジャをああも簡単に――並のコーディネイターを寄せ付けない、人間離れした動きをするイライジャを――!)

 唯の敵ではない。

 

 一か八か、劾は跳んだ。

 

 そして、軽やかな足取りで、モビルスーツのコクピットに上った。

 

 「チ、ならば仕方ないか」

 「劾!」

 

 イライジャは劾の狙いを理解し、傭兵らしき男を警戒しつつ、その場を離れた。

 

 傭兵らしき男は、青い機体の傍らに置かれていたもう一方の――赤い機体に乗り込んだ。

 

 劾の機体に、オープン・チャンネルで通信が入る。

 

 「その機体、破壊する、直ぐに出ろ。 大方オーブの政治屋に依頼されたんだろ?

  目撃者の始末までは依頼内容に無い」

 「ほう? お前、名前は――」

 「降りないのか――降りないなら、これからアンタは死ぬ。 名前を聞いても意味がないぜ?」

 「それなら、余計に聞いておきたいな」

 

 「なら、ロウ・ギュール――とでも名乗っておく」

 

 「法の口穴(Law gueule)? でたらめだが、ルール無用ってところか――ただならぬご職業についてるご様子だな、おい、レイ! モビルスーツを動かすぞ、機体制御頼む」

 『了解――解析完了、MBF-P02アストレイ――起動。 操作説明を行いますか?」

 「やりながらで頼む」

 「――? ふざけているのか? 俺は――?」

 「フフ、これが俺のスタイルでね――行くぞ!」

 

 青と、赤、2体のモビルスーツが、向かい合う――。

 

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 「娘が、娘がそこにいるんですか!?」

 シェルターのドアの開閉装置に取り付けてあるマイクとスピーカー

 ―――内部と会話する為に取り付けられているものから、

 エルちゃんのお母さんらしき人の声が聞こえる。

 

 彼女住んでいた地区のシェルターは見つかった。

 だが、警報レベルが9に移行している為 ドアが開かない、

 エルちゃんは必死にドアにしがみついていた。

 そのとき、

 

 ウウウウウウウウウウウウウウン

 

 一際大きい警報が鳴り響いた、そして轟音と巨大な地響き。

 

 「警報レベルが10に移行しました、このシェルターは救命艇として、パージされる可能性があります。」

 

 なんだって!?

 ……あれはルークさんとゲイルさんのジン――それに地球軍の戦艦!?

 戦闘が始まったのか……コロニーの機関部が流れ弾に当たり爆発している。

 

 「ママ!パパ!!」

 エルちゃんは必死に開かないドアに叫んでいた。

 「だめだ!もうドアが開かない!!」

 「そんな!! ああ……!」

 中から母親らしき人の声が聞こえる。

 

 

 やばい、さっきよりコロニーに被害が拡大しているみたいだ……!

 やばい!やばいよ!

 「エルちゃん!もうヤバイよ!ココを離れないと!」

 「いや!ママたちといっしょにいる!!」

 

 エルちゃんはそう言って聞かない…そのとき、ドアのスピーカーから声がした。

 

 「そこにいる人…お願いです、娘をつれて逃げて…」

 「え……!?」

 「早く……!お願いします!!」

 

 そんなこといわれても…エルちゃんは泣きじゃくっているし…

 

 「……そこにいる人の言うことをよく聞いてね? さあ早く逃げて……娘をどうか、どうかお願い!」

 ……もうこうなったらしょうがない!

 「エルちゃん! ……わ、わかりました!」

 「やだ!やだよ!!」

 

 俺はエルちゃんを抱えて走り出した…俺の乗ってきたジンは大破して使えない。

シェルターは恐らく、どこもあんな状況だろう…。

 なら、そうだ……工場区なら……救命ポッドやノーマルスーツぐらいあるかもしれない。

 

 

 俺は工場区へと向かった。

 

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 コロニーの奥部、工場区の中、

 武器の無い、2体のモビルスーツは最も原始的な戦闘、格闘戦を繰り広げていた。

 

 2体とも武器を使わず――殴り合い!

 

 が、しかし、お互いの拳は空を切る。

 互いが互いの間合いを理解し、拳の軌跡を読みあう。

 これは二人が卓越したモビルスーツの操縦技術を持っていることと――生身での格闘にも長けていることの証明でもあった。 

 

 「ビーム・サーベルを抜かないとは、すごいな……わかってるんだなアンタ」

 「こちとらジャンク屋でね、こんなエネルギー食いを使って、帰れなくなったら困る」

 「ジャンク……ザフトじゃないのか? ……プラントのジャンク屋?」

 「月で、先輩の奥さんに金を借りて店を開いてる。 それに俺はナチュラルだ」

 「あっきれたー……マヂかよ、ナチュラルが俺と互角ねえ……ってことは、噂に聞く、白ヘビ商会……」

 「サーペント・テイルと呼べ、折角格好良い名前なんだ」

 「……」

 

 ロウ・ギュールが苦笑する声が聞こえた。

 

 ――その時、一際大きい震動がした。

 

 「そろそろ時間が無いようだな。 決着を付けよう」

 「そうだな――レイ!」

 『ビーム・サーベルの使用を提案』

 「いや……サーベルはいい、それよりファイト・カウントをしてくれ」

 『え……』

 「ハァ?」

 ロウにも聞こえていたので、思わず聞き返してしまった。

 

 「男の戦いには必要だ――」

 『理解不能』

 「ロマンに理解はいらない、共感だけが必要だ」

 『機械の私にそのような能力を求めないでください』

 

 「……面白いヤツだな、アンタ」

 ロウ・ギュールが通信機の向こうで笑っているのが聞こえる。

 

 「勝負、しないのか? ――俺はムラクモ・ガイ!」

 

 張りのある良い声で、劾は言った。

 

 「ロウ・ギュールに勝負を申し込む!」

 

 「ふふふ……あっはっはっは!! 傭兵家業長いけど、あんたみたいのは初めてだ……いいぜ?」

 

 ロウ・ギュールも、笑いながら、モビル・スーツにファイティング・ポーズを取らせた。

 『理解不能』

 

 「いいじゃないか、これが男というものだ」

 『違うと思います』

 

 レイは言った。 しかし、その後、彼女(?)も機械なりに思うところがあったのか

 『仕方ありません、いきます』

 と、述べた。

 

 『レディ――』

 レイが、言った。

 

 

 

 「「ゴオオオオオオオオオオオオオ!」」

 

 

 

 

     二人の漢が叫んだ。

 

 

 

 

 

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 よかった!あった!

 救命ポッドが見つかった、古臭い感じがするが、

 これならなんとかなるだろう、エルちゃんを抱え込んで、飛び乗った。

 

 とたん、コロニーに大穴が開いて、空気が漏れ始めたようだった。

 ……やばかった後一歩…遅かったら…

 

 「お兄ちゃん……」

 エルちゃんは泣き止んだが心配そうにしている。

 「ああ、もうだいじょうぶだよ、多分」

 僕は救命ポッドの操作をはじめた……。

 あれ……? これどうやるんだっけ?ザフトのと形が違うし…旧型だし…。

 ヤバイ……とうとうコロニーが崩壊した…くそお…このままじゃ瓦礫に飲まれて、なんにもなりゃしないじゃないか……。

 

 「お兄ちゃん……だいじょうぶだよね……お兄ちゃんコーディネイターだもんね…だいじょうぶだよね。」

 

 ごめんエルちゃん……お兄ちゃん……コーディネイターだけど……このポッド……動かせないよ。

 

 コロニーが裂け、宇宙に空気が吸い込まれていく……このポッドも空気の渦に飲み込まれた。

 ……うわああ!もうだめなのか!?もう…なんとか、なんとかならないのか!?

 

 「うわあああああああああああ!」

 「きゃあああああああああああ!」

 

 ……必死にコンパネを操作する……動いた! やった!何と助かりそうだ!

 

 残骸をかろうじて避けて行く……

 空気の渦の中、やがてポッドは宇宙の闇に飲み込まれていった……。

 

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 激しい、格闘戦。

 

 コロニーの崩壊を気にも留めず、ガレキからガレキに飛び移り、

 お互いの拳を防いでは打ち込み、防いでは打ち込んでいく――。

 

 そして、そこからは、腹の読みあいだ。

 

 (チッ、ラチがあかない。 カウンターで一気にケリを付ける)

 と、劾。

 (――と、ジャンク屋は考えるだろうから、俺はあえてストレートで飛び込み、裏をかく)

 と、ロウ。

 (――と、裏をかいてくるだろうから、更にそれを予想し、バックステップしてから頭部へのキック)

 (――と、裏の裏をかいてくるだろうから、それを予想して、腹部へのアッパーカット! コクピットクラッシュ!)

 (――と、傭兵は裏の裏の裏を書いてくるだろうから――ああ――)

                 ((面倒だ!))

 

 

 二人の男は、考えるのを辞めた。

 

そして、

 

 

   「レイ、次の一撃に全てを賭ける! 行くぞッ!!」

             『了解』

 

 「オーケイ! ジャンク屋! 俺様のクソヂカラ、見せてやる――ッ!!」

 

 

 

       「「でぇやあああああああああああああああああああああ!!」」

 

 

 

 赤と青、二機の機体が、男と男の魂が、崩壊していくヘリオポリスの中で、今――激突――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「救命ポッドだ……」

 

 二人の間に入る形で、旧式の救命ポッドが流れていった。

 

 思わず、二人は戦いをやめた。

 「ン……、ジャンク屋、拾っていくのか?」

 「ああ、見過ごしてはおけん」

 「――そうか、なら――」

 

 と、そのとき、二人の乗るモビルスーツのレーダーに反応があった。

 

 

 「正体不明機――このモビルスーツと同じ識別信号をしたものがこの宙域から離脱――?」

 「金色のモビルスーツ――? オーブ奴、ハナから、あの機体の回収が狙いか」

 「この二機は最初から、どうなってもいい? オーブ国内のいくつかの勢力を煽って――アンタと俺をぶつけた?」

 「だな――もしかしたら、このコロニーの崩壊も――戦闘だけが原因ではないのかもしれん」

 劾は言った。

 

 「ジャンク屋さんよ……その機体、やるよ」

 「いいのか?」

 「クライアントに嵌められたようだ。 ――なら、契約は反故だろ?」

 「ロウ・ギュールと言ったな。 覚えておく」

 「ああ、アンタも……ガイ・ムラクモか、楽しかった。 また会おうぜ?」

 

 

 赤いモビルスーツはヘリオポリスの宙域から離脱していった。

 

 『生体反応を確認、2名』

 

 レイが、ポッドの中の状態を確認した。

 

 「――そうか、レイ、リードにつないでくれ、ミハエル先生のところに連れて行く――」

 

 

 

 

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カズイの腕の中で、エルは気を失っていた。

 

カズイもまた、衝撃で気を失っていた。

 

 

 

宇宙は、そんな二人を包み込みもせず、突き放しもしなかった。

 

 

ただ、アストレイと、彼らは宇宙で出会った。

 

王道では無い――主人公ではないモノ。

 

 

これは、カズイとエルという、二人のアストレイの物語である……。



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Reverse phase 2 「宇宙を駆ける」

 「全てのドラマにおいて、主人公という役所はない」

 

 いつの時代も、人は生き、記憶を刻み、そして忘れ去られていった。

 しかし、人は結局、忘れられる事、忘れる事を惜しんで物語りを紡ぐものだった。

 

 我々の知る物語も、誰かが忘れる事を惜しんで紡がれた悲しみの残滓なのかもしれない。

 

 王道では無いもの(アストレイ)

 

 結局人は物語に足らぬ物語を必死で生きていく事により道が出来ている。

 ならば、道を外れた先にある物語も、誰かによって日々紡がれているのだろう……。

 

 

 

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機動戦士 ガンダムSEED ⇔外伝「ASTRAY Re:Kuzzey」

 

アストレイ リ・カズイ

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 「あー、カズイ・バスカーク。 KIAだね。 戦死扱いだよ」

 「せ、戦死って……」

 PCからザフトのデータベースにアクセスしたイライジャが言った。

 「……どうする? 月からでは、プラント行きの便が無いぞ。 スカンジナビア王国のコロニーに行くか?」

 今度は劾がカズイに言った。

 

 ヘリオポリスの崩壊後、彼らは叢雲劾率いるサーペントテイル商会に保護され、

 一先ず月面の彼らの事務所まで連れてこられていた。

 

 「えーと……」

 カズイは、ちらり、と傍らに居る少女方を見た。

 「あぅ……」

 エル、という名の少女だった。

 カズイもまた、成り行きからこの少女を保護していた。

 

 エルは、不安そうにカズイを見ていた。

 

 「い、いや、一刻も早く、この子をオーブに居る家族の下に送ってあげたい。

 ス、スカンジナビア王国のコロニーまで行くのは日数が掛かるし、月での難民申請も通らないんじゃ……」

 

 ――ヘリオポリスの崩壊を受けて、宇宙における安保の状況も大きく揺らいだ。

 

 オーブを元とする中立国家では、これまでは原則的に宇宙難民を積極的に受け入れていたが、

 中立国家まで狙われる状況である事が判明した現在、難民の受け入れは非常に厳しい審査が行われるようになっていた。

 また、宇宙から地球など、より安全な土地を求めて避難する人間が多く発生し、

 受け入れ側の国家や公共機関は、大混乱ともいえる状態になっていた。

 

 そのため、僅か6歳の少女であるエルですら、受け入れ先が見つからない日が何日も続いていた。

 

 「エルって、名前だけじゃ身元も調べようがないしな」

 「そ、それならさ、あんたたちも地球へ行くんだろ? この子を……さすがにオーブにいけば何かわかるんじゃないかな」

 カズイが、劾たちにいった。

 「――確かに俺たちは地球に降りる。ここも地球軍に接収される事になった。

  またデブリ回収の依頼を受けるまではギガ・フロートの仕事に戻る。

  ……だが、俺たちもヒマじゃない。その為だけにオーブに行く時間は無い」

 「あ! 劾つめたーい!」

 風花が、劾にブーイングの仕草をした。

 劾は気にも留めない様子だ。

 

 「――ブルーコスモスが居なければなぁ」

 カズイはため息をついた。

 

 

 自分のようなコーディネイターを排斥しようとする団体。

 ナチュラルな人間たちによる、過激派組織ブルーコスモス。

 彼らは凄惨な私刑を、躊躇なく――自分のようなコーディネイターにすると聞いていた。

 

 カズイが先日から、サーペントテイル商会の事務所に閉じこもっているのも、

 ヘリオポリス崩壊を受けて、月にそういった勢力がはびこるようになっているからであった。

 

 「オレもブルーコスモスには苦労しているんだよね」

 イライジャが言った。

 「イライジャ太っているから、なかなかバレないけどね」

 「ウッ……うぅ……」

 ロレッタの屈託の無い一言に、イライジャは顔を伏せた。

 

 ――カズイの聞いた話では、彼もコーディネイターで……どういう事情かはわからないが、

 外見的な調整はほぼされていないらしく、また非常に太りやすい体質らしい。

 彼の丸っこい体型は、確かにコーディネイターには見えなかった。

 コーディネイターは遺伝子調整で、能力だけではなく、外見も美しくなるように操作されるからだ。

 

 しかし、彼はそのかわりに非常に高い身体能力を持っており、頭の回転も速い。

 パイロットとしての能力はザフト兵以上だという。

 

 「――まあまあ、皆、そうかたっくるしいことを言うな。 どうだ劾? 地球までは連れてってやろうじゃないか? その上でオーブに行くかは考えりゃいい」

 と、其処へ髭面の男が入ってきた。

 

 サーペントテイル商会で、営業を担当しているリードだった。

 

 「……仕方ないな、拾ったのはこちらだ。いいだろう」

 「えっ……!」

 カズイの顔に光が差した。

 「代わりに、仕事は手伝ってもらう。 地球への降下前に、最後のゴミ拾いがある。

  それからギガフロートの仕事もだ。 コーディネイターなら、やれることもあるだろうしな」

 

 「えっ」

 

 

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 「こ、こんなの酷い、しんじゃうょォ」

 「ザフトの訓練に比べたら楽だろ?」

 「ザ、ザフトの訓練はきつかったけど、合理的だった。 こ、こんなの」

 

 

 先程からカズイは運ばれてくるデブリの仕分け作業に追われていた。

 数メートル大の機器の残骸をコンテナに移す作業だ。

 無重力での作業の為、質量は全く問題ではなかったが、無重力帯では全身を使って体を動かさねばならず

 それで物を運ぶのは、重力下で作業する以上に体が疲労した。

 長時間水泳でもしたかのような、じんわりとして、とても重い疲労だった。

 

 「ホラ、もうちょっとしたら休憩にするから」

 イライジャはケロりとしている。

 化け物だ。とカズイは思った。

 

 

 カズイたちはグレイブ・ヤードに来ていた。

 デブリを利用して作られた居住衛星だ。

 

 デブリ回収の任務に当たるジャンク屋たちが、度々拠点として利用している。

 

 

 ――元々は、”世界樹”と呼ばれるコロニーだった。

 

 人類初の本格的なスペース・コロニー。

 コレに続いて、ミュトスやプラントツーなどの後期型コロニーが次々に開発された。

 

 

 しかし、その”世界樹”は、2年前のプラントと地球の戦いにおいて崩壊した。

 

 このグレイブヤードは、まさしく人類の夢の墓場だった。

 

 

 

 

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 「マードック。 何だコイツは?」

 劾は、グレイブヤードの”工房”と呼ばれるエリアで奇妙なものを見つけた。

 近くにいたこの”工房”の主にソレを尋ねる。

 「――ああ、レアメタルだよ。 フェイズ・シフト装甲の素材にもなる一品だぜ」

 

 工房の主――グレイブヤードに一人暮らしている技術者、コジロー・マードックが答えた。

 

 それは縦長に切り取られた金属だった。

 まるでソレは――何か刀剣のようなものを連想させた。

 

 「剣――か?」

 「そうだ、趣味みてーなもんよ」

 「趣味か……」

 「後で見せてやるよ――」

 と、マードックは工房の奥で、布を被っているコンテナを指差した。

 

 

 マードックと劾は同じ技術者の縁から、共に仕事をする仲だった。

 地球連合やザフトから報酬を得ては、此処を拠点に彼らはデブリを回収していた。

 

 「なあ、マードック。 ここもそろそろ危険だ。 一旦引き払って、俺たちの仕事を手伝わないか? もう残っているのもアンタだけだろ」

 「バカ言っちゃいけねえよ……此処にはまだ”世界樹”の遺産がある」

 

 ――マードックは、たった一人、この廃墟に残っていた。

 

 かつて、此処がまだ夢の新世界を作る”世界樹”――世界の中心だった頃。

 その頃仲間と共に追っていた理想。技術。

 

 そういったモノを、軍事転用させないために、カレは一人、この廃墟と残るデータベース。資源や施設を守っていた。

 

 

 

 「だが……それらは、地球連合にとっては喉から手が出るほど欲しい技術だ。この先何度も狙われる事になるぞ? それにザフト側では……」

 「負の遺産――ってか?」

 

  ――世界樹攻防戦。

  血のバレンタインから約1週間後のC.E.70年2月22日、

  地球連合軍の月への橋頭堡であるL1のスペースコロニー「世界樹」をザフトが進行。

 

 地球軍はこの戦いに第一から第三艦隊の全ての戦力を投入し、ザフトと激しい戦いを繰り広げた。

 

 なお、この時に核分裂抑止能力を有する「ニュートロンジャマー」が試験投入され、成果を上げている。

 

 戦闘そのものには双方が拮抗し、両軍ともに大きな損害を被るが、

 最終的に「世界樹」は崩壊し、デブリベルトの塵――グレイブヤードと化した事で戦闘は終息した。

 ――ザフトが、コロニー諸共、地球軍を撃破することで。 

 

 

 「血染めの英雄。 グゥド・ヴェイアの凶行――ザフト側で現状唯一の汚点――だね」

 作業を終えて帰ってきたイライジャが言った。

 

 「よぉ!太っちょ」

 「太っちょはやめてくれよ……」

 マードックがイライジャの背中を叩いた。

 

 

 

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 「こちらブラヴォー。 世界樹の残骸(グレイブヤード)が見えた」

 『アルファー了解。 地球軍側の動きも気になる。 早めに決める』

 「OKだ」

 

 

 グレイブヤード付近の宙域――ローラシア級戦艦が、グレイブヤード側に察知されないように隠密潜行していた。

 

 そして、その先鋒を行くように、一機のモビルスーツが進んでいた。 

 それは、赤にに塗られたシグーだった。

 そして、その後方を黒く塗られた隠密作戦用のジンが続いていた。

 

 『……それにしても、今更”世界樹”の技術屋に用が出来るとは』

 ジンのパイロットが言った。

 ――年は十代半ばくらいで、少年といっても差し支えない年齢だった。

 「コジロー・マードックは金属加工のスペシャリストで、その加工技術が必要なのさ」

 それに、赤いシグーのパイロットが答えた。

 ――こちらは20代半ばの青年だった。

 『……だから、切り裂きエドにこの任務が回ってきたと?』

 「どうだろうな……っていうかスウェン。 木星から帰ってきたばかりで、勝手がワカランかもしれないが、年上に対する言葉遣いってもんがあるだろ? ザフトだって一応組織だぜ?」

 調子のいい声で、シグーのパイロット、エドが言った。

 『悪い、しかし、習慣の払拭は困難だ。 できるだけ注意する』

 

 エドワード・ハレルソン。

 ”切り裂きエド”の異名を持つザフトのエース・パイロット。

 その物騒な二つ名は、彼がモビルスーツにおける近接戦闘のスペシャリストであることから付いた。

 

 

 物資の不足しがちなザフトでは――圧倒的な物量を持つ、地球軍に、一対多の包囲戦を仕掛けられる事が多々あった。

 ザフト側は、コーディネーターの駆るモビルスーツという、その強力な戦力でそれに対抗したが、

 それでも、やはり、弾丸が尽き、物資が切れてしまえば、後は数の差で追い込まれる、といった場面が多くあった。

 

 

 しかし、エドは、そういった戦闘に於いても、ジンのもつ近接戦闘用のサーベルを駆使し、弾丸が尽きて尚、地球軍を圧倒した。

 

 ――そうした戦闘を経たとき、彼の機体は、敵軍のマシンオイルで、まるで返り血を浴びたように赤く染まっていたという。

 

 それが、切り裂きエドの異名の由来であった。

 

 

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 「レイ、何かお話してよ」

 「お話! お話!」

 劾たちを待つ間、退屈を持て余した風花と、エルがレイに詰め掛けた。

 

 『オハナシ――? それでは、大気圏に燃え尽きたアリスという、友達の話を……』

 「え……と、友達? ……でも、それ重そうだから……他の話がいいな」

 エルが言った。

 「恋バナとかある?」

 友達がいたんなら、と風花が試しに聞いた。

 

 『恋――特定の人物に強く執着し、大切に思うこと――では、最初のカレシの話でもしましょう』

 「えっ」

 「最初って……意外にレイ、恋多き女なんだね……」

 『カレは、天然パーマで、機械いじりで有名なちょっと内気なヒトでした、カレとの出会いは突然で……』

 「は、はじまった!」

 「AIの恋バナ!」

 

 AIと二人の幼女は、世にも珍しいガールズトークを始めようとしていた。

 

 「こら、二人にはまだ、早いわよ」

 しかし、それを風花の母であるロレッタが遮った。

 「えー」

 「そんなーお母さん!」

 『カレは段々と私に依存するようになって、”君を一番うまく使えるのはボクなんだ”とまで言うようになりました。 私はいつも胸の中の彼に思いました。 振り向かないで』

 「レイもやめなさい……」

 「わたし、レイの恋バナ聞きたい!」

 「エルも!」

 「この子たちったら……」

 

 その様子をデブリの売却額の帳簿を付けながら、見ていたリードが笑った。

 「お嬢さんがた退屈させちまって悪いな。 そうだ! グレイブヤードの仕事が終わったら地球だ、カザッパナはロレッタと温泉でも行って来い、親子水入らずで……」

 「……リード!」

 風花が叫んだ。

 

 「あ……わりぃ」

 リードはエルの方を見た。

 彼女は、親と別れて此処にきているのだ。

 両親の事を思って不安になったのか、エルの表情は暗く、重いものになった。

 

 「ううん……平気だよ……カズイおにいちゃんもいるし」

 気丈にもエルは言った。

 「エルちゃん……エルちゃん、此処にいる間は、私のお母さんも、私も家族だから」

 「――そうよ。 サーペントテイル商会はプロの集団。 だけど――」

 

 「「アットホームな社風です」」

 風花とリードが息の合った様子で言った。

 

 「なにそれー!」

 その様子が面白くって、エルは笑い出した。 

 

 しかし……。

 

 

 

 ビーッ! ビーッ!

 

 「なに!?」

 「敵――ザフトか!?」

 

 

 風雲急を告げて、グレイブヤードに、招かざる客が訪れようとしていた。

 

 

 

 

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 『――コジロー・マードック殿 こちらはザフト、第三軌道上船隊だ。 常々連絡している協力要請の回答を伺いたい。

 ――貴殿が不法に所有している我が国の資源の回収と、貴殿の身柄の確保の許可も得ている。

 あんたも、コーディネイターでプラント籍だったはずだ。 わかってもらえるよな?』

 

 赤いシグーからマードックの元に通信が入った。

 

 

 「劾、ローラシア級1、それからシグータイプとジンが多数だ」

 「イライジャ! お前は先行して偵察を頼む」

 「了解! 今日一日の重労働を無駄にはしたくないな」

 

 イライジャと劾が、急いでモビルスーツに乗り込む。

 イライジャはカスタムされたジン。 劾は先日手に入れた、青いアストレイと呼ばれた機体だ。

 

 「あの……俺は」

 カズイがおずおずと、劾に聞いた。

 「お前は風花たちを頼む。 いざとなったら此処から脱出してくれ」

 「そ、それだけ?」

 

 二人の乗ったモビルスーツは、グレイブヤードを離れていった。

 

 「――劾さん! あの……マードックさん? ジンとかありませんか? 俺も手伝わなくていいのかな」

 カズイがマードックに聞いた。

 

 「あるにはあるが、渡せねえな」

 「でも……」

 「なんせ、俺の秘密兵器だ」

 「へっ……?」

 

 

 マードックは、工房の奥の、布を被った巨大な物体に向かった。

 そして、近くにあったコントロール・パネルを操作すると、その幌が取れた。

 

 それは、カスタマイズされたジンだった。

 そして背中には――。

 

 

 

 

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 「劾! 赤いシグーだ! 恐らくは特務隊仕様だぞ!」

 「分かっている――赤か、この間から縁があるな」

 「モビルスーツが五機! 結構な数だ」

 「俺たちサーペントテイル商会が相手だ。 そのくらい必要と判断したんだろうな」

 

  グレイブヤードには、合計5機のモビルスーツが迫っていた。

  1機が赤いシグー――そして、4機のジンが迫る

 

  4機のジンは、バラバラに散開した。

 

  赤いシグーはまっすぐに劾に向かってくる。

 

 「イライジャ!」

 「わかってるさ」

 

 イライジャのジンが、向かって右側を突っ切る。

 後続の敵を牽制するつもりなのだ。

 

 「金にならん殺しはやりたくないが――通用する相手かな?」

 

 劾は赤いシグーにライフルを構えた。

 「――! 早いか!」

 「フン!」

 が、直ぐにライフルの照準が合わない事を悟る。

 敵はエース・パイロットなのだと劾は知る。

 

 「この青い機体! ヘリオポリスで作られたというオーブのロストナンバーか!? ……一つは傭兵の手に渡ったと聞いていたが、まさか白蛇商会にも渡っていたとはな」

 エドは、得意の近接戦闘は仕掛けず、大きく間合いを空けてライフルでアストレイを牽制した。

 「……? なんだこの戦い方は?」

 

 劾を、違和感が襲う。 まるで誘い込まれているような……時間稼ぎをされているような……。

 

 

 「イライジャ! 出てきたモビルスーツは五機! ローラシア級で来ているならもう一機居てもおかしくないはずだぞ!」

 「と、なると――隠密潜行で一機先行したか!?」

 「――まあ、コジロー・マードックの事だ、問題はなかろうが……できる限り早くしとめるぞ!」

 

 

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 「あそこが”工房”と呼ばれるエリアか――ターゲットが確保できない場合、最低限サンプルだけでも回収する――」

 木星帰りのエリート・パイロット、スウェン・カル・バヤンの乗る特殊任務用のジンは、デブリの陰に隠れながら、グレイブヤードの目の前まで接近していた。

 「目標補足。 砲撃と同時に一気に攻め入る――!」

 スウェンは操縦幹を握りなおし、ペダルを踏んだ――そのとき、

 

 

 ズバアァアアア!!

 

 「!?」

 咄嗟に、身を寄せていたデブリから離れた。

 ジンの左手が、切断されている。

 

 「なっ!?」

 「外しちまったかぁ! 羽くらいはもぎ取るつもりだったのによぉ!」

 

 

 ジンだった。

 その手には長大な、ジンの身の丈はあろうかという”カタナ”が握られている。

 「俺の愛刀スワロー・リターンを避けるとは、中々のテダレだな」

 マードックは笑った。

 「なんだその武器は――モビルスーツ用の物干し竿か?」

 「ハハッ! 俺の作った斬機刀――いんや、このサイズなら斬艦刀だな!」

  

 「デブリごと、俺のジンの手を切った……中々の威力だ。 これは上層部が欲しがるのも分かる」

 『どうだ! スウェン! 上手くいったか?』

 「ハレルソン、ターゲットがモビルスーツで出てきた。 隠密作戦としては失敗だな」

 『――おいおい! が、まあいいか、出てきてくれたんなら――こっちは白蛇商会を何とかする――そっちもなんとか、捕獲してくれ!』

 「了解した」

 

 

 「お? まだやるかぁ……! やってやるぜぇ?」

 コジロー・マードックのジンは、肩に背負った愛刀――スワロー・リターンを腰に移し、居合いの構えを取った。

 

 

 

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 「時間を稼ぐつもりだったが……そうもいかなくなったんでな!」

 エドのシグーはサーベルを引き抜いて、劾のアストレイに切りかかってきた。

 「チッ!?」

 劾は咄嗟にシールドで受けた。

 「速いな」

 そして、ライフルを腰に戻し、肩のビーム・サーベルを引き抜いた。

 「ビームサーベルか!」

 エドはシグーを引かせた。

 

 

 

 「――そりゃッ!!」

 一方、イライジャのジンは、ジンを一機ずつおびき寄せ、撃破する戦法を取っていた。

 一機のジンを既に大破させている。

 「ハレルソン隊長! コイツ! やります!」

 「一機のモビルスーツに苦戦か! 噂の白蛇商会、恐るべしだな!」

 「サーペント・テイルだ! そのほうがカッコイイだろう!」

 

 劾の機体が、デブリを蹴って跳ねた。

 その反動で一気に加速する。

 「はやいっ!?」

 エドが、ビーム・サーベルをシグーの重斬刀で受けた。

 「受けられんさ!」

 

 ズバァアア!!

 

 シグーの剣が、ビームサーベルでいとも簡単に切られた。

 

 「ダメか――いい獲物だな! おい、予定変更だ! アイツを寄越せ!」

 「りょ、了解! ブリッジ! NOL-Y941を射出しろ!」

 

 エドに命令された部下が、ローラシア級に電文を送る。と、ローラシア級からコンテナが射出された。

 

 「――! 何をするつもりか知らんが!」

 

 劾は、射出されたコンテナをビームライフルで狙う。

 「やらせるか!」

 ジンの内の一機が、射出されたコンテナに体当たりした。

 コンテナは大きくその進路を変えて、ジンはその身代わりにビームの砲を受ける事になった。

 

 

 「うわぁっ!!」

 

 ライフルのビームは、足に命中して、ジンは大破した。

 

 「よくやった! お前はそのまま離脱しろ!」

 エドは、犠牲になったジンのパイロットに声を掛けると、コンテナへと向かった。

 

 「劾!」

 イライジャが、エドのシグーを追撃する。

 「分かった!」

 劾は、イライジャのジンを援護した。

 

 ビームライフルで、イライジャの進路を阻むジンを狙撃していく。

 

 「ぬあぁっ!」

 またジンが一機、バックパックを貫かれて大破した。

 残る敵機はエドのシグーと隠密潜行したジンを入れて3機である。

 

 「どけぇっ!」

 最後のジンも、イライジャが重斬刀で首をはねて、その動きを止めた。

 あとはシグーさえ止めれば――。

 

 そう思った劾とイライジャであったが、

 

 カッ!

 何かの閃光が、イライジャの目に映った。

 

 「ビームの剣!?」

 イライジャが、先ほどエドがしたように、その剣を重斬刀で受けた。

 

 ズバァッ!!

 

 イライジャの剣が、ビーム刃によって切り裂かれる。

 先ほどの劾とエドの戦いを、まるで反転させたかのような光景である。

 イライジャの機体は、剣だけでなく、胸の装甲まで切り裂かれていた。 

 

 「ぐぬぅっ!?」

 「お返しだぜ! ――このレーザー対艦刀で意趣返しさせてもらう」

 

 エドのシグーは、その手に、コンテナの中身――ザフトで開発されたばかりの試作の近接兵器――NOL-Y941レーザー対艦刀を抱えていた。

 これは、ビーム兵器の実用化を急いでいたザフトが、先日ヘリオポリスで奪取したストライクの武装を元に、実験的に製作したプロトタイプのビームサーベルであった。

 

 シグーやジンなどの、ビーム兵器を装備するには出力の足りない機種でも装備出来るように、補助ジェネレーターとバッテリーを剣側にも搭載した試作兵器である。

 

 「イライジャ! 下がれ、そいつはオレがやる!」

 劾は、再度、ビームサーベルを構えた。

 「すまない、劾! オレとした事が……」

 

 「うぉおおおおおお!!」

 劾のアストレイが、エドのシグーに再び迫る――。

 

 

 

 

 

-------------------------

 

 

 「てりゃああああああ!!」

 「チッ!?」

 コジロー・マードックの剣撃が、再びスウェンのジンを捉えた。

 

 「くそっ! いいセンスだ――だがっ!」

 スウェンは剣がギリギリ掠める程度の間合いで、マードックの剣を避けた。

 「なぁっ!?」

 「それだけの大剣ならば、動作も重かろう!」

 「ちぃ!」

 

 グアッ!!

 

 スウェンのジンが、マードックのジンにしがみついた。

 

 「離せ! この野郎!」

 「ハレルソン。 ターゲットを捕獲した。 これより帰投する」 

 「さすがだなっ!? こっちは試作の武器まで出すハメになったところだ! 助かったぜ」

 「さすが、白蛇商会といったところか……だが、これで我々の勝利――」

 

 スウェンが、マードックのジンを持ち帰ろうとしたそのとき。

 

 「!?」

 ピーッとビープ音がスウェンのコクピットに鳴り響いた。

 ――ロックされたのだ。

 

 マードックのジンを咄嗟に離し、離れた――。

 

 

 ビシュウッ!!

 

 ビームの閃光が、スウェンのジンの太ももを貫いた。

 

 「ぐああっ!!」

 スウェンがレバーを倒し、全速力で離脱する。

 

 

 「助かったのか――いや!?」

 マードックが、ビームの放たれた方向を見て顔をしかめた。

 

 その方向にあった反応は――地球軍――そして、其処に見えたのは、彼らに雇われた傭兵部隊の姿――。

 

 「劾の機体(アストレイ)と――同じタイプかよ――」

 

 法の口穴(Law gueule)――ロウ・ギュールと名乗った男の、アストレイ・レッドフレームだった。

 

 

 

 

 

---------------------

 

 

 

 「エド、すまない。やられた……連合の雇った傭兵部隊だ」

 「何!? チッ、仕方ないな ――ジャンク屋、勝負はお預けだな」

 

 

 

 ザフトのモビルスーツたちが帰投していく――。

 

 「劾! この間の赤い奴だ!!」

 イライジャから劾の元に通信が入る。

 「チッ! 今度はあの傭兵、連合側か――本当に縁があるな――」

 

 

 

 

 

 

 「へっ! どうやら助けてくれた……ってわけじゃないらしいな?」

 マードックは、ジリジリと近寄るアストレイからゆっくりと離れた。

 

 『あの船の中にあるレア・メタルとデータを渡してもらおうか』

 「へっ! 誰がそんなこと――」

 

 ブォオオッ!!

 

 「ぬぉっ!?」

 凄まじいスピードで、マードックの機体に、赤のアストレイが迫ってきた。

 

 「こ、こんのぉおおおおお!」

 

 

 ――速さ勝負だ。

 

 「居合いだッ!」

 

 マードックは決断した。

 

 自分の守る、技術者の意地。

 戦争で散っていった仲間の無念。

 そんなものを傭兵風情にやらせるか。

 

 その心が、マードックに剣を抜かせていた。

 

 

 スアァッ!!

 

 「フフッ?」

 「よけられた!?」

 

 しかし、剣は虚しく空を切った。

 

 ロウ・ギュールのアストレイは、マードックの剣を避けていた。

 しかし――。

 

 「だが、さっきのジンに見切られた時――閃いた――これはどうだ!」

 

 マードックのジンは、手首を一回転させた。

 

 ――人間には出来ない挙動である

 

 「名づけて、ツバメ返し!」

 「ッ!?」 

 

 

 

 

 

 ――一閃。

 

 

 

 

 

 マードックの、スワロー・リターンは、アストレイの首を捉えていた――はずだった。

 

 しかし。

 

 

 「なにぃっ!?」

 

 

 アストレイの首は、残っていた。

 ビームサーベルを構えて。

 

 

 そして、スワロー・リターンの先端部が、逆に欠けていた。

 

 

 

 「ち、オレとした事が、自分の技術に慢心したばっかりに――」

 慢心が、マードックに判断力を失わせていた。

 「悪いな、オレはあんたみたいな技術屋――嫌いじゃないんだ――だがな!」

 

 ズバァアアッ!!

 

 「うわああああああ!!」

 

 マードックのジンは、胴体を残して、ビーム・サーベルでバラバラに切り裂かれていた。

 

 

 

 

---------------------

 

 

 

 「ジャンク屋ぁっ!!」

 「きたか! ムラクモ・ガイ!!」

 

 

 再び、宇宙で、青と赤のアストレイがまみえることになった。

 

 『生存反応あり、コジロー・マードックは無事です』

 レイが、劾に告げた。

 「まぁ、あの傭兵ならそうするだろう」

 『なぜ、そのように判断したのですか?』

 「なんとなくだ」

 『非論理的』

 「そうだろうな!」

 

 劾は、レイに構わず、ビーム・サーベルを引き抜いた。

 ロウも、ビームサーベルを構えて、劾に対峙する。

 

 

 ババァッ!!

 

 ビーム刃同士が近づく事で互いに干渉し合い、激しいスパークが生じた。

 

 「――ジャンク屋(叢雲劾)!また会えてうれしいぜ」

 「オレもだ! 傭兵(ロウ・ギュール)!!」

 

 

 剣と剣、二体のアストレイが、今度は文字通りの真剣勝負に挑む事になる――。

 

 

 

 

 激しく、火花を散らす、二体のアストレイ。

 勝負は全くの互角。

 

 ただ、異なる点があるとすれば――

 

 『劾、出力低下。 ビームサーベルの使用は控えてください』

 「――!」

 

 先ほどまで、劾はザフトのモビルスーツと戦闘をしていたというところだ。

 

 エネルギーの残量が少ない。

 

 

 (仕とめ切れるか――?)

 

 この間は、コロニー内部で互いに脱出するという命目があったから、拳での戦いになった。

 

 だが、今回は、そういった制約の無い戦いとなる。

 

 武器無しで、勝てる相手ではない。

 

 

 (が、一か八か、速攻で決めるほかあるまい)

 

 劾は、ビーム・サーベルの残量を確認する――あと数撃、といったところだ。

 

 

 

 「いけるか――!?」

 

 

 劾のアストレイは、宇宙を駆けた。

 

 

 「――!」

 ロウのアストレイは、それを往なした。

 

 「くっ……傭兵!」

 劾が再度剣を返す。

 しかし、ロウの機体には届かない。

 

 「ゼェエエイ!!」

 もう一度、劾はバーニアを吹かし、ロウに接近する。

 

 しかし――

 

 「パワーダウンか!?」

 

 ビームサーベルの刃が消える――!

 

 

 「チッ!」

 劾は咄嗟にビームサーベルを投げ捨て、最低限のパワーをアストレイに残した。

 

 「――悪いな! ジャンク屋!」

 それを見たロウの機体(レッドフレーム)は、劾の機体(ブルーフレーム)を、キックで蹴り飛ばした――。

 

 「グァッ……!」

 「――オレにもオレの仕事があるんでね!」

 

 ロウ・ギュールのアストレイは、劾のアストレイを一瞥すると、グレイブヤードに真っ直ぐ向かう――。

 

 「くっ!」

 「チクショウ! やっぱりそれが狙いかよ!」

 

 コジローが叫ぶ。

 もはや、なすすべは無いのか――自分たちの技術は、またも戦争に利用されるのか――。

 

 「くそ……手は無いかレイ」

 「――いや、あるぞ!」

 「マードック!?」

 

 

 「――おい、ボウズ!!」

 

 コジローは、グレイブヤードに通信機で怒鳴った。

 

 「え、ええっ!?」

 

 そこには、慌てふためくカズイの姿が――

 

 「オレのジンのあった隣に、もう一個、幌かぶりがあるはずだ! ソイツを射出しろ――」 

 「わ、わわわわああ!!」

 

 カズイは、急いで、”工房”に備えられたマスドライバーに積荷を載せて、射出させた――。

 

 

 バシュゥ!!

 「なんだ!?」

 ロウの脇を、積荷がすり抜ける。

 マスドライバーで加速されたコンテナが、グレイブヤードから射出される。

 

 「劾! 受け取れ――そいつは特別製なんだ! ビーム・サーベルとも戦える!」

 「!!」

 劾のアストレイは、積荷をキャッチした。

 その中身は――。

 

 「カタナか!?」

 「そうよ! そいつぁレア・メタル製の斬機刀――名づけて、天叢雲(アマノムラクモ)だ!!」

 「”天叢雲(アマノムラクモ)”――!」

 「へっ、世話になってるアンタにくれてやろうと思ってな――」

 

 「ありがたい、使わせてもらう――」

 

 劾は、腰のマウント部に天叢雲(アマノムラクモ)をセットすると、ロウの機体へと向かった。

 

 「おいおいマヂかよ――かっこいいじゃんかよ!!!」

 ロウが、ビームサーベルを構える。

 

 

 

 

 ――一閃!

 

 

 

 

 

 

 「っう……あぶね!!」

  

 

 劾の、アストレイの抜刀が、ロウのアストレイのアンテナを切り裂いていた。

 

 

 「っクソ! 俺様のツノが片方欠けちまったぜ!?」

 ロウは急いで機体を引かせた。

 

 マードックの時と同じく、ロウはビーム・サーベルでカタナを受けていた――。

 しかし、マードックのスワロー・リターンとは異なり、アマノムラクモは、ビームの粒子をも乗り越えて、ロウの機体を切り裂いていた。

 

 

 「――いい剣だ。 ビームサーベルとの刃合せにも耐えるとはな」

 劾が呟く。 刃こぼれ一つしていない。 宇宙空間でそれは妖しさと神聖さの二つを孕めて、光り輝いていた。

 

 

 再び、劾はアマノムラクモを鞘に収め、そして、居合いの構えを取る。

 

 「へっ、ジャンク屋、やっぱりアンタはおもしれーな」

 その様子を見たロウが、コクピットの中で笑った。

 「……今度はこっちのパワーがマズい。 今回は、アンタの勝ちでいいぜ」

 

 

 ロウは、アストレイの両手を挙げさせると、そのまま、あとずさるように機体を引かせていった……。

 

 

 

-------------------------

 

 

 

 「マードック。 いい剣だ。 やはり、アンタ達の遺した技術は、戦争に使うべきじゃないな」

 「ああ――でもよ。 やっぱり無理だな。 これ以上は」

 

 

 マードックは、ポツリと呟いた。

 

 「マードック?」

 

 

 

 

 「分かってはいたんだ――だけどよ。 オレも結局は技術屋だ。 本当は技術を――完全に捨てちまうのが怖かっただけなんだよ」

 

 

 

 

-----------------------

 

 

「ええっ!? このグレイブ・ヤードを大気圏に!?」

 風花が、コジローの提案に驚いて言った。

 「そうよ、中のデータや設備ごと、大気圏に落として燃やしちまうんだ……特に手に負えないものはな」

 「でも、勿体無いよ! 中には、ヒトを助ける技術だって!」 

 「へっ……そうかもしれねえけどよ。 殺す助けになる技術のほうが多いさ。 本当はもっと早くこうするべきだったんだよ

  オレは技術屋の意地と――エゴでコイツを守ろうとしてただけだ。 でも、ムリだって、分かったからよ?」

 「でも……」

 「この戦争だってさ。 もとはといえば、やっちゃいけねーって言われてた遺伝子改良の結果だろ? 俺たちコーディネイターってヤツのさ」

 「そんな……」

 自嘲気味に言う、コジローの様子に、風花の声も泣きそうな声になった。

 

 

 「グレイブ・ヤードはバラバラになった廃コロニーをつなげたものだ。 細切れにして落としていけば、自然に燃え尽きるさ。 

 そうだ、あんたらも、一緒に落ちていくといい。 最近は、宇宙からの落下物はなんでもザフトと疑われるからな――オレも地球に降りるよ。

 コーディネイターに優しい太洋州連合にでも行って、機械の修理工でもやるさ」

 

 

 「マードック……」

 「だけどよう、劾――技術は使うヤツ次第だ――アンタにやった餞別。 アンタならちゃんと使ってくれるって信じてる。

  そしたら、俺たちの技術だって完全に消えちまうわけじゃない……いつか、な?」

 

マードックは、笑顔で、劾へ向けて、親指を立ててサムズアップした。

 

 

 

 

 

------------------------

 

 

  グレイブヤードが、地上に向けて落ちていく。

 

 

  人類の夢の墓場が、成仏していく瞬間だった。

 

 

  ――しかし、それでも亡霊は残った。

 

 

 

---------------------

 

 

 

 「プロフェッサー……あの短時間に全データのバックアップが取れたのかよ? 流石だな」

 自身の拠点――ザフトの艦船を改造した母船に帰ったロウ・ギュールを待っていたのは、仲間達からの報告であった。

 

 「ええ、ロウがあのジャンク屋の気を引いてくれたお陰でね」

 「フ……このガーフィールドに掛かれば、容易い事です」

 メガネの妖艶な女性と、長髪の貴公子然とした男性が答える。

 「私もがんばったのよぉ? ロウ?」

 そこに、豊満な乳房をした女性が現れ、ロウに擦り寄った。

 「樹里(キサト)引っ付くなよ――ま、それじゃ、地球連合には、良い値で売れそうだな?」

 「フフ? オーブのラクス・クラインにもね、それから、コーディネイターを敵視する、危ない連中にも」

 「ザフト、最大のスキャンダルか……まあ、どう使うかは俺たちの考える事じゃないさ……」

 

 

 ロウ・ギュールと仲間達は、眼前に広がる地球へと目を向けた。

 彼らもまた、次なる仕事を求めて、地球へと降りるのだ。

 

 

 

 

----------------------

 

 

 

 「見つけたのか、スウェン」

 「ああ、これだけ良質のサンプルがあれば、なんとかなるな」

 

 スウェンのジンが、母艦に持ち帰ったもの。

 

 

 それは、ロウ・ギュールに切り落とされた、マードックのスワロー・リターンの先端部であった。

 「あの物干し竿――素晴らしい切れ味と硬度だった。 レアメタルを使えば、ビーム剣に対しても対抗できるとも分かった」

 「コレで、スピットブレイクに間に合うな――ビーム・サーベルと併用する事で、地球軍のモビルスーツにも対抗できる」

 「フェイズシフト装甲をもつ敵にはビーム・サーベル。それ以外の敵にはこの技術を使った重斬刀で、戦力の即時強化、大幅な底上げが見込める――」

 「ザフトは、これで、まだまだ戦える……!」

 

 

 

 この後、エドワード・ハレルソンは、完成したばかりの近接戦闘用ディンを以って、地上に降りる事になる。

 その目標は、シベリアに降りたアークエンジェル隊のモビルスーツ。 イージスとなるのであった。

 

 

 

 

-------------------------

 

 

 

 「――オレ結局なにもしてないな」

 カズイは降下していくサーペントテール商会の宇宙船の中で頬杖を付いていた。

 横では、エルが眠っていて、カズイの体に頭を擡げていた。

 

 

 

 カズイの物語はまだ始まったばかり。

 

 

 彼が主人公らしく振舞うのは、まだ先の話である。

 

 主役ながら、主役足り得ない。

 

 それもまた、彼が外道(アストレイ)の物語を歩み、物語を作るものの一人である事の証明あるのかもしれない。

 

 

 

 



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Reverse phase 3 「戦士、再び……」

人類の大半が宇宙に住むようになってから半世紀を越えた時代。

 しかし、人類は新たな時代に固執するあまり、禁忌とされた遺伝子の分野にまで、その手を伸ばした。

 

 与えられた人間、コーディネイターは与えられた事により呪われて生き、

 与えられなかった人間、ナチュラルは与えられなかった事を呪わざるを得なかった。

 

 

 誰もが満たされず、誰もが模索し、争う時代の到来であった。

 

 それは、原初の祈りにも似た願いとは程遠い悲劇だった。

 

 時に、宇宙紀元(コズミック・イラ)71年。

 

 これはそんな時代に翻弄され続ける、二人の迷い子(アストレイ)の物語である……。

 

 

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 「ラクス・クラインめ……」

 オーブ国防省本部。

 

 その最深部にある一室で、二つの陰が、相似を映して、佇んでいた。

 

 「アカツキ計画か……フッやるではないか」

 そう呟いた陰が、紙媒体の――恐らくは何重ものセキュリティをパスして渡されてきた資料を見ている。

 「……我らもプロトゼロワンを回収できた。 そう焦る事もないだろう」

 それを、もう一つの陰が受け取りながら言った。

 

 「だが、あんなものを用意していたのだ……あの女、単にシーゲルの娘というだけで動いているのではあるまい」

 陰が、指を鳴らすと、照明がパッと点いた。

 

 そのだだっ広い一室に、突如として巨人が現れる。

 

 その巨人は白いボディに――黄金の輝きを秘めた骨格をしていた。

 「このゴールド・フレームだけでは足らないかもしれない」

 「では……”アマツ計画”をどうするというのだ?」

 「フフッ……私に任せておけ」

 一つの陰が、もう一つの陰の頬を撫でた。

 「我らに相応しい器――二つの力が一つとなった究極の機体を作るのだ」

 うっとりとして、陰の目が、相似を映す瞳を見つめる。

 「赤と青――二つの力を備えた新たな機体――”究極の紫(マスターフレーム)”か!?」

 もう一つの陰も、恍惚とした瞳を浮かべて、頬に手を這わす動作を返した。

 

 「そう、我らサハクに相応しい器を――」

 「おおっ……!」

 二人は、まるで輪舞(ロンド)を踊るように同じ動作で身を震わせた。

 

 「ならば、丁度いい、この地球に今、赤と青――プロトゼロツーとゼロスリーが降りてきている――」

 「ザフトや連合の俗物たちに恩を売っておくのも悪くは無いか――」

 

 二つの陰は、一つになって、今、野望に動き出さんとしていた。

 

 

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 ――ギガ・フロート。

 超大型浮体式構造物を差すメガ・フロートを、ギガの文字通り幾つも繋げた超巨大人工島である。

 

 ジャンク屋たちの所属する、国際法人が、医療船やデブリ回収船の打ち上げのみに使用すると言う国際条約に基づき建築された。

 しかし、十年以上に渡るプラント、地球間の抗争や、昨年とうとう開戦してしまった戦端は、この施設の軍事利用を強いる状況を生み出していた。

 

 それゆえ、全長数50kmに及ぶこの施設は、今海上を移動しながら、その施設の拡張を続けていた。

 

 

 「ほえー」

 「ほえー!」

 

 エルとカズイは、サーペントテイル商会のシャトルに乗って大気圏を抜けて、地球に降下していた。

 

 そして二人は、ギガフロートに着陸するなり、眼前に広がる海に絶句した。

 二人とも純粋な宇宙育ちであり、地球に降りること自体初めてであった。

 「でもなんか変な感じだな……何か怖いなぁ。深いとこは凄く深いんだよねぇ?」

 「かいじゅうとかいるかもよ~?」

 「うぇっ……」

 自分よりずっと小さなエルに小ばかにされてしまったが、カズイは海を覗き込んだ感覚があるものに似ていると感じていた。

 自然の底知れなさ――あの宇宙空間の得体の知れなさと、よく似た不気味さを感じて、カズイは海から目を離した。

 

 

 ギガフロートは海の真ん中に突然”港”が現れたような姿をしていた。

 施設自体はまだまだ未完成の状態であり、無骨な鉄板が海上に浮いている様にしか見えない。

 しかし、その長大な鉄板の上にはアスファルトとレールが敷かれ、あちこちで作業用重機が動いていた。

 クレーンはひっきりなしに上下し、物資が島内にトラックで運ばれていく。

 

 そして50kmの島の真ん中を突っ切るように、一際大きいレールが敷かれていた。

 マス・ドライバーである。

 

 「――これで本当に平和利用されるというのならば、良いのだがな」

 ブルーフレームをシャトルから運び出し、早速火をつけ始めた劾が呟いた。

 「でも出資者はマルキオ導師が主導になって作った基金だろ? 宗教家達が今更連合に手を貸すようなことは……」

 イライジャも劾と動揺に自身のジンを動かしながら言った。

 「地上に落としたデブリを再利用か――”誰もが得をする”計画だ。 そう”誰も”が――」

 

 

 単に、悪と正義の戦いではないのが人の戦いであるのは誰もが自明とすることであった。

 互いに正義を騙っていても、それは相対性による善悪であって、戦争とはその結果に破壊と悲劇しかないのを人間は自覚しながらやっている。

 だが――その上、敵と味方だけで済まないのが、この戦争と言うものをより悲劇的に、そして長期化させ泥沼にしている原因であった。

 

 「一先ず、会社(サーペントテイル)にも”得”だろ? 仕事をしよう、劾?」

 「ああ……カズイ! 早くワークス・ジンに乗れ! 仕事だ!」

 劾は一先ず口を閉じると、職人の顔に変わった。

 後はプロフェッショナルとして、手を動かすだけである。

 

 「ええっ!? 今降りてきたばっかり……!」

 「仕事だ!」

 劾は怒鳴った。

 「は、はい……」

 カズイはしぶしぶ与えられた作業用のジンに乗り込んだ。

 武器が外され、民間に払い下げられた機体だった。

 

----------------------------------

 

 ギガフロートの上で、カズイとエルは丁度南北に分かれていた。

 エルは最北部にあるマスドライバーや基地建築管制室のある箇所で見学。

 カズイはジンに乗って最南部のマスドライバー発射口で作業をしていた。

 

 「じゅうりょくって不思議」    

 「そう?」

 「ざわざわする……」

 エルと風花は、ギガフロート内をリードと共に見学していた。

 ”社会科見学”ということだった。

 「コロニーの重力は、構造上の問題だったり、いつ宇宙に出たりしてもいいように、少しだけ弱く設定されているからかもしれないね」

 「そうなのか?」

 「リード知らないの? 厳密には1Gじゃないんだよ」

 「ほえー」

 年不相応の知識を有する風花に感動するエルだったが、やはり、心の中にあるざわめきは取れなかった。

 

 

 「おやおや……随分とかわいらしい客人だな」

 と、そこに、一人の壮年の男性が現れた。

 頭にはヘルメットをつけて、作業服を着ている。

 「あんたは……」

 「いやはや、サーペントテイル商会の皆さん、良くこの仕事を引き受けてくださった」

 男性はリードに握手を求めてきた。

 「――風花さんだね? 君もネゴシエイターとして、既に働いているとか、大したものだ」

 そして、風花――エルにも。

 「よく見ておいき? 不思議な目をしたお嬢さん」

 「おじさんだあれ?」

 「私は――ここで作業監督している隠居親父だ。 シゲ爺と呼ばれているよ、よろしくな、お嬢さん」

 シゲ爺は優しげな目をして微笑んだ。

 そして、シゲ爺は「マリーンはいるかね?」と、誰かを呼ぶそぶりをした。 

 すると、ギガフロートの一角から、髪を結わえて額にゴーグルをつけた、女性――少女と言える年齢かもしれない――がやってきた。

 「はぁ~い……えーと、シゲ爺様」

 「シゲ爺でよいと言っておるだろう。 もう直ぐ別の客人が来るだろう、この子達を奥に案内してあげなさい」

 「え……は、はい!」

マリーンは、風花とエルとリードを、ギガ・フロートの奥へと案内した。 

 しかし、

 「お姉さん……」

 とエルは立ち止まって海のほうを見詰めた。

 「何か来るよ?」

 

---------------------------------

 

 ブルーフレームと二体のジンは、ギガフロートの建造に休む間もなく稼動した。

 勿論、中のパイロットもだ。

 

 「――戦闘しないと、こんなに稼働時間長くても平気なんだなぁ……」

 カズイは早くバッテリーが切れないかと残量をチラチラと眺めた。

 「手を動かせ」

 「ハッはいぃ!」

 少し集中を解くと劾から無線が飛んでくる。

 アレでナチュラルというのだから、自分はなんなのかと思えてくるのだ。

 

 カズイは、大量の資材をジンに運ばせながら、脇を見た。

 

 ――妙な、陰が見えた気がした。

 

 「おい、カズイ! またサボ――伏せろ!!」

 突然、劾が叫んだ。

 

 「うわっ!」

 

 海中から、ミサイルが飛んできたのは、その直ぐ後だった。

 

 ズドオオオオ!!

 

 「魚雷にミサイル!? ――誰が――ッ!?」

 

 と、そこに現れたのは――見慣れた赤い機体。

  

 

 「法の口穴(Law gueule)か――」

 

 レッドフレームに、全身武装を施し、長大なモビルスーツ用の実体剣らしきものを背負った、ロウ・ギュールであった。

 「よう、また会ったなジャンク屋」

 「よくよく縁があるな傭兵――なんだその武器は?」

 「おう!?これか? アンタとの戦闘データを解析して作った”カラドホルグ”だよ」

 

 ガンッ!

 とロウはその大剣を地面に突き刺した。

 

 「傷をつけるな……」

 と、その様子に劾が怒気を孕んだ声を上げた。

 「フッ……そうもいかねぇ。 俺はこいつをバラバラに解体しなきゃならないんでね」

 「どうしてもか……?」

 「――こいつを作ってるスポンサーの中に連合のお偉いさんが混じってんのさ。 しかもタチのめっぽう悪い連中がさ、あんたもこんな仕事やめなよ?」

 「そういうことか……」

 劾はロウのその言葉で全てを理解した。

 大方、ロウを雇ったのは事態を察知したザフトであろう。

 そして、ザフトはこのギガフロートがいずれ連合の軍事拠点となる”予定”で建造されていることを察知したのだ。

 「な? 悪いことは言わないからよ――」

 「その答えは――『NO』だ」

 「なあっ!?」

 

 劾のブルーフレームは、ロウのレッドフレームを指差した。

 

 「俺たちの仕事はこのギガフロートを完成させることだ――それをどう使うかは、使うもの達次第だ」

 「結果、悪事に使われてもかよ?」

 「――なら、これを受け取る者たちが、悪事に使わせなければいいだけだ」

 「そういうことね……」

 

 やはり、これ以上の会話は無意味、ということであった。

 

 

 「――なんだコイツら!」

 「このギガフロートを壊すつもりか――!」

 と、そこへ他の重機やモビルスーツに乗ったジャンク屋や技術者たちも集まってきた。

 

 「随分と余裕のようだが、例え、作業用でもこれだけの数のモビルスーツ――俺も含めて相手にするのは面倒だと思うぞ」 

 「ヘッ……悪いが、今回は流石の俺様も一人じゃなくてね」

 「なにっ……!?」

 

 

 と、そこへ――。

 

 ズバババババ!!

 

 

 上空から、砲弾らしきものが放たれた。

 

 「フッ……このジン・ザ・ブラックナイト――そして、ナチュラル最強の傭兵――リーアム・ガーフィルドがお相手する!」

 

 飛行支援機(サブ・フライトシスム)であるグゥルに乗った黒いジンが、上空からバズーカを放つ。

 砲弾は真っ直ぐ、浮き島(フロート)同士が連結しているジョイント部分を狙って放たれた。

 

 ドォオオン!! 

 猛烈な爆発を起こし――フロートとフロートが分裂していく。

 

 「マズいぞ劾!?」

 「クッ!」

 

 ギガ・フロートは、50kmという長大さを誇ってはいたが、所詮一つの堅牢な巨大建造物ではなく、幾つモノパーツを継ぎ接ぎしたモノにすぎない。

 つまりは、ほんの少し、繋ぎ目を破壊しただけで――分裂と瓦解が始まるのだ。

 

 

 「フフッ……決まったカッコイイ……」

 ジン・ザ・ブラックナイトと名づけた自身のジンの中、リーアム・ガーフィールドは悦に入っていた。

 「天のシニスト兄さん、ご照覧あれ! 私はナチュラルですが、誰よりも気高く生きるのです!」

 

 グゥルに乗ったジンは、次々とジョイント部をピンポイントに破壊していった。

 ――そうしてしまえば、後はギガフロートはただ海に浮いている鉄塊となってる。結果自重を支えきれず――勝手に分解し、沈んでいく。

 

 

 「イライジャ! あのジンを落とせ」

 「分かった! だが……くそっ! グゥルまで用意してるとは! 先手を取られるなんて――」

 ギガ・フロートの崩壊に伴って、劾達の足場まで揺らぎ始めていた。

 

 そして、さらに――。

 

 「リーアムったら、ほぼオートのクセに格好つけちゃってぇ――」

 水中から、更なるモビルスーツが現れる。

 「ジン・フェムウス!?」

 YF-3Aジン・フェムス――水中用にカスタマイズされたジンである。

 対水圧と機体強度にやや難があった為、本格的な水陸両用機としてはグーンにその座を譲ったものの、海上への強襲などには十分に利用できる機体であった。

 そして、そのコクピットには、髪を両端に結わえた、いわゆるツインテールにした――豊満な胸をした少女が座っていた。

 「ふふ、ロウの為に、やらせてもらうわよ! そしたら作戦後は……うふふふふ♪」

 ジン・フェムウスは海中から魚雷を発射し、底部からギガ・フロートを攻撃し始めた。

 

 

 「樹里のやつ――なんか危なかっしいんだよな――」

 信頼はしているものの、ハイテンション、とでも言うべき樹里――仲間の戦い方を、呆れたようにロウは言った。

 「じゃ、ジャンク屋――始めようか? 俺たちも――」

 ロウは、カラドホルグを振り上げた。

 

--------------------------------------

 

 

 「どわあわあああ!?」

 カズイは崩れ行くギガ・フロートの上で、バランスを取るのが精一杯になっていた。

 一方、劾は腰に備えた斬機刀、”アマノムラクモ”を抜刀し、ロウの”カラドホルグ”と鍔迫り合いをしていた。

 イライジャも、空に舞う、黒いジンを狙っている。

 「――カズイ! 何をしている!」

 足場を崩して、のた打ち回るカズイを劾は叱責した。

 「だ、だって!」

 なれない地球――というよりは、初めて重力下でモビルスーツに乗ったのだ。

 訓練こそしているものの――こんな状況ではまともに動けるはずが無かった。

 「ひぃ!」

 足元の崩れた鉄骨の下には――真っ青な深海があった。

 こんな所にモビルスーツで落ちてしまったらどうなるのだろうか――。

 

 だが、こんなときにも、劾はカズイに説教をしてきた。

 「こういうとき、お前にはやる”仕事”があるだろ!」

 「あっ……」

 カズイはハッとした。

 

 「え、エルちゃん……!!」

 カズイは、エルの事を思い出し、彼女たちが向かった先の安全を確認すべく、機体を動かし始めた。

 カズイとて、精神面が弱いところがあるが、ロアノーク隊というエリート部隊にいた優秀な兵士なのである。

 

 「そうだ! 男の一番の仕事は、女子供を守ることだ!!」

 劾もまた、ブルーフレームの機体を奮起させ、アマノムラクモをレッドフレームに向けて振りかざした。

 『劾、敵機に不審な点があります、遠距離戦を提案』

 劾がコクピットに備え付けた、トランクに詰まれた謎のAI――”レイ”が女性のような機会音声で言ってきた。

 「だめだ! ビームライフルや火器を使えばギガ・フロートを傷つける恐れがある!」

 しかし劾はその分析を聞きながらも一蹴した。

 もしもギガフロートを傷つけるような事があれば本末転倒である。

 

 グゴオオオ!

 

 とうとうギガ・フロートが本格的な瓦解を始めた。

 劾は崩れる浮島に必死にしがみつき、レッドフレームを睨む。

 

 と、当のレッドフレームは、崩れ行くギガフロートを、まるで飛び石の上を跳ねるように跳んで渡った。

 「フッ!」

 敵のその軽快な動きに、劾は不適な笑みを浮かべた。

 

 ガガッ!!

 不安定な足場ながら、何とか劾はロウの剣を再度受け止めた。

 

 「どうよジャンク屋? 俺のカラドホルグは?」

 「フッ……確かに、武器は最高、機体も最高、お前の腕も良い。 だが傭兵、お前は肝心な事を忘れている」

 「何!?」

 「ただ”良いだけの武器”では出来そこないだ、俺は倒せないよ。 お前に本当の武器というものを見せてやる」

 「――!?」

 劾は、アマノムラクモを捨てた――。

 

 ガッ!!

 

 「――真剣白刃取りィッ!?」

 劾はカラドホルグを無刀取りした。 刃を両手で押さえて、無力化する、ニホンのケンジツの奥義であると、ロウも知っていた。

 「フゥウン!!」

 一瞬の隙を突いて、劾はロウのレッドフレームからカラドホルグを取り外す――。

 「本当の武器とは――己自身だ!!」

 「なぁあるう!!」

 

 ――二機は互いの実剣を失い、ビームサーベルを抜刀する。

 「貰った!」

 攻勢を奪った、劾の方が当然早かった。

 「武器は己自身か――なら――!」

 

 

 ズバアアアアン!!

 

 「なっ!?」

 

 ――しかし、次の瞬間、劾は目を疑った。

 

 

------------------------------------------

 

 

 「ふっふ~ん! 樹里(きさと)ちゃんの相手しようなんて十年早いのよん!」

 樹里は海中からジンフェムウスを用いて、ミサイルで次々に作業用モビルスーツたちを無力化していった。

 コクピットは極力避けて、足や腕だけを吹き飛ばしていく。

 相手が動きの遅い民生用の機体であるからではあったが、かなりの腕前である。

 

 「フフッ! さあ、何も知らぬ哀れな子羊たちよ――命までは奪わんしかし――この母なる海でその頭を冷やすが良い!」

 そして、リーアムの乗るジンもまた、ギガ・フロートを破壊していった。

 

 

 そんな中――。

 

 「ムッ!?」

 リーアムが、必死にギガフロート奥部へ向かう、黄色い民生用のジン――カズイの機体を見つけた。

 

 「フフン! 裁きの前に屈するがいい!(決まった……)」

 

 バシュウ!

 脚部に搭載したミサイル・ランチャーでカズイのジンの足を狙う。

 

 バアアン!!

 

 被弾し、ジンの左足が木っ端微塵に破裂した。

 

 「うわぅ!! なんなんだよ! こいつら、傭兵って、滅茶苦茶だよ!」

 しかし、カズイは片足だけを一度ついて――

 「ええい!」

 推進剤を全部使って、思いっきり跳んだ。

 元々作業用の為、僅かながらの量しか積んでいない――一か八か――。

 

 しかし、カズイが居るギガフロートは既に瓦解を始めており、エルの居る奥部――ギガフロートのコアユニットははるか遠く。 

 足無しで渡っていける距離ではない。

 

 「うわあああ! ままだぁあ!」

 カズイは、ブースターを全部噴かして跳んだ。

 

 ズバアアッ!

 

 しかし、僅かに、届かない。

 「くそっ! エルちゃ――」

 エルの居る向こう岸はもうすぐなのに。

 この崩壊では、エルも海の底に――海の底?

 「う、うわあああああああ」

 

 カズイは、自分がその海にまっさかさまに落ちていくのに気が付いた。

 

 (やっぱり、俺――何もできないのか――)

 

 と、カズイが思った矢先。

 

 グワッ!

 

 カズイのジンの腕を掴むものがあった。

 

 「間に合ったようだな」

 

 それは――”アストレイ”だった。

 

 (ブルーフレーム……違う、青と……赤と……金色!?)

 (レッド)フレームの足、(ブルー)フレームの腕と、同色に染められた胴体の装甲。

 そして、胸部と肩と首は――鮮やかな(ゴールド)のフレームをしていた。

 

 

 管制室からの声が、カズイには聞こえていた。

 ”シゲ爺”と自称する、このギガフロート建造を支持していた壮年の男性の声だ。

 

 「予備パーツでくみ上げたRGBフレームを持ってきた甲斐があったというものだ……よくやってくれたマリーン」

 「ギリギリ……でしたけど、大丈夫?」

 「は、はい……」

 

 アストレイ”R・G・B(レッド・ゴールド・ブルー)”。

 三色のフレームが合わさった、色鮮やかなモビルスーツである。

 プロトタイプアストレイ三種の予備パーツを繋ぎ合わせて作られた急造品であった。

 

 コクピットに座るマリーンは、慣れない手つきで、慎重にカズイのジンを海から引き上げた。

 「な、なんとかなった……」

 マリーンが、思わずほっと息をついた。

 「……じゃが、安心は出来ないようだな」

 しかし、そんな時間も束の間、カズイとマリーンの居るコクピットに、シゲ爺の緊張した声が伝わってきていた。

 

 

 

------------------------------

 劾のブルーフレームは、ロウの思わぬ攻撃に、吹き飛ばされていた。

 胸部の装甲が歪んでいる。

 

 「ビームサーベルじゃ無しに、何がおきた――」

 劾は期待の状況を急いで確認する。

 『ダメージコントロール確認、胸部に強力な電気ショック――エネルギーコネクターからの直接放電と推測』

 「武器に流すはずのパワーサプライを、直接ぶつけたと言うのか!?」

 レイの分析を聞いた劾が驚愕する。

 「どうだ、ジャンク屋? 以前このカラドボルグが実剣だってのを忘れてエネルギー流しちまって、そのとき偶然この裏ワザを編み出したってワケよ」

 「フフッ……無茶苦茶な男だな」

 劾はレバーとペダルを操作してブルーフレームを立たせようとする。

 が、機体の挙動がおかしい。

 思った以上のダメージを受けてしまったようだ。

 

 

 

 

 

 コクピットのスクリーンを望遠モードにして、マリーンとカズイもまた、ロウと劾の戦いを見ていた。

 「あんな技――すごい」

 マリーンが驚嘆の声を上げた。

 二機とも、正規の軍人が乗っているのではないのに、人間離れした戦いを見せていた。

 

 「驚いている場合ではあるまい……なんとかサーペントテイル商会の方を助けねば……マリーン、いけるかね?」

 シゲ爺がマリーンに無線で聞いた。

 「そ、それは……」

 しかし、マリーンが口ごもる。

 どうやら彼女は、モビルスーツに乗ってはいるが、基本的な動作もおぼつかない様子だ。

 「それならば……確かカズイ君とか言ったかな?」

 「は、ハイ!?」

 カズイは突然名前を呼ばれたので、慌てて返事をした。

 「マリーン。 カズイ君に機体を渡してくれたまえ。 君に、このギガフロートの運命、預けよう」

 

 シゲ爺の声に、カズイは息を呑む。

 

 

 マリーンがコクピットハッチを開けた。

 

 「俺……」

 

 カズイが、もう一度戦士になる瞬間が、訪れようとしていた。

 

 

-------------------------------

 

 「ハハッ! 赤と青の機体とは、騎士の様で美しいですが――我がブラックナイト!を止める事はできない」

 「クソッ!?」

 グゥルを得ているリーアムの黒いジンに、赤と青で塗られた機体――イライジャのジンは苦戦を強いられていた。

 空中を自在に舞うSFSに乗っている相手に、不安定になってしまった足場から攻撃を当てるのは、至難の業であった。

 その上――。

 「海中からか!?」

 「うふん?」

 海中から、樹里のジン・フェムウスのミサイルも発射される。

 

 「くそぅ!?」

 回避しきれず、イライジャのジンの肩にミサイルが命中した。

 片腕が派手に爆発し、吹き飛ぶ。

 「フフッ」

 コクピットの中、勝ち誇った笑みを浮かべるリーアム。

 

 しかし――。

 

 「リーアム! 迂闊!」

 樹里が叫んだ。

 「えっ?」

 リーアムが何のことか、と咄嗟にモニターを見ると。

 

 「あっ!?」

 

 ビームが、自分の足元のグゥルを貫いていた。

 「ビームライフル!?」

 グゥルはエンジンを直撃されて、派手に爆発。

 リーアムのジンは、足を破壊されて、そのまま海へと落下していった。

 「う、うわああああああ!?」

 「なにコレ――ロウのと同じ機体!?」

 

 海中に沈んでいくリーアムの機体を、一先ず受けとめた樹里のジン・フェムウス。

 リーアムの無事を確認しながらも、ビームが飛んで来た方向を確認した。

 

 そこには、ビームライフルを構えて、狙撃の体制をとっている機体――カズイの乗るRGBフレームの姿があった。

 

 

 

 

 「なっ!? リーアムが!? もう一体のアストレイだと!?」

 ロウが、樹里からのアラートを受信して、異変に気付く。

 「カズイか、やるじゃないか」

 その隙を、劾は見逃さなかった。

 片足を引きずりながらも、劾のブルーフレームは立ち上がり、地面を蹴って跳躍した。

 

 「ちっ、ジャンク屋! まだやるつもりかよ!」

 ロウはビームサーベルを展開し、ブルーフレームに振りかざす。

 「今度は白刃取りとは行かないぜ――!」

 「それはどうかな!!」

 ブルーフレームは、そのまま、レッドフレームに突っ込む。

 「バカが! 自滅する気か!?」

 「フッ!」

 驚愕するロウを余所に、劾は笑みを浮かべる。

 

 「レイ! 出力最大! 腕部エネルギーMAX起動!」

 「レディ――」

 

 ズガガガガガガッ!!

 

 瞬間、ブルーフレームの掌が光った。

 「お、俺様の技を、一度見ただけで――マヂかよ!?」

 「うおおおおおおお!」

 ブルーフレームは、掌に付いている武器用のエネルギーサプライから、ロウが先ほど行ったように、エネルギーを全開で強制放電していた。

 その凄まじいプラズマの奔流は、ビームに干渉し、粒子の収束を捻じ曲げる――。  

 「まさかっ!?」

 「真剣光刃取りだ!!」

 

 劾のブルーフレームは、ビームサーベルを白刃取りしていた。

 

 虚を突かれた形になったレッドフレームが、思わずサーベルを引かせた。

 劾はそのまま、エネルギーを放電させた腕をレッドフレームに突きつける。

 「なめんな! コッチが本家だっつーの!!」

 しかし、ロウもまた同じように腕を突き出す――。

 

 

 ズガガガガガガガガ!!

 

 「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

 「ぬがあああああああああああああ!!」

 

 輝く掌と掌が激突して、スパークした。

 

 

 バアアアアアアン!!

 

 

 激しい閃光が起きて、二体のアストレイは互いに吹き飛んだ。

 そして、そのまま動きを止めた。

 

 

 電源が落ちて、真っ暗になったコクピットの中で、ロウが呟く。

 「なんて奴だ……俺の”光雷掌”を……」

 そして、同様の状況になった劾もまた、

 「……フッ、面白い技だ。 嘗てニホンには、雷を切り裂いたカタナが合ったと言う――この技を”千鳥”と名づけよう」

 技の余韻に酔いしれて、一人呟いた。

 

 

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 「や、やった! 劾さんが、あの赤いフレームを止めた!」

 カズイがRGBフレームの中で、歓声をあげた。

 他の傭兵は先ほど無力化した。

 これで一先ずこのギガフロート安全は確保された事になる。

 

 あとはこの崩壊さえ止めれば――。

 

 「い、急いで離れていくフロートを固定しないと――」

 

 カズイはすぐさま、崩壊を始めるフロートを固定する作業に移ろうとした。

 

 しかし。

 

 

 「シーゲルも、余計なものを――」

 

 バアアアッ!!

 

 「う、うわあああああ!?」

 作業を開始した、カズイの目の前に、更なるモビルスーツが現れた。

 

 

 「き、金色の……アストレイ!?」

 

 目の前に現れたのは、黄金(ゴールド)のフレームをしたアストレイだった。

 

 

 「だが、まあ結果は良しだ。 プロトゼロツーとゼロスリーのデータは取れた。 あとはこのギガフロートを破壊すれば、裏で連合・ザフト共に恩を売れた事になる――」

 

 ゴールドフレームは、カズイのRGBフレームを眺めた。

 「フッ……寄せ集めの出来損ないか」

 その中のパイロットが、吐き捨てる様に行った。

 そして、ゴールドフレームにビームサーベル持たせる。

 「シーゲルのおもちゃなぞ……」

 ビームの刃が発光し、カズイに向けられた。

 

 「く、くそお……なんだよ!? こいつもあの傭兵の仲間なのか……」

 カズイもまた、ビームサーベルをRGBフレームに持たせた。

 

 「――どけ、迷い子よ」

 「!?」

 通信で、相手のパイロットが告げてきた。

 

 「お前に私は止められん、邪魔をするな、弱きものよ――」

 

 その声は、倣岸で、全く自分たちのことなど、眼中に入っていないかのような、理不尽さを帯びていた。

 「!?」

 カズイは、その声に震えた。

 

 (じょ、冗談じゃない……!)

 なんなのだ、こいつは。

 いきなり合われて、自分に刃を向けてきて、挙句の果てに人をゴミのように扱う。

 

 (ここには……エルちゃんだっているんだぞ!)

 カズイの意思を汲み取るかのように、RGBフレームが、ビームサーベルの柄を握り締めた。

 

 「うわああああああああ!!」

 そして、そのまま、RGBフレームは、ゴールドフレームに斬りかかった。

 

 

 ガンッ!

 

 「あっ!?」

 次の瞬間、カズイのビームサーベルは相手のビームサーベルに往なされ、吹き飛ばされていた。

 

 「……くだらない、ダンスもまともに踊れないか」

 敵のパイロットの、無関心そうな声だけが聞こえた。

 

 

 ブウウン!

 

 「ヒッ!」

 そして、相手のビームサーベルは、再びカズイに向けられた。

 

 今度は、近づいた分、コクピットを目前にして――。

 

 

 「フ、つまらない終幕(フィナーレ)だな」

 そして、サーベルの刃は、コクピットへと近づいてく――。

 

 

 「そこまでだ!! サハク!!」

 

 しかし、実際カズイの体がビームに焼かれることはなかった。

 

 「シゲ爺さん!?」

 「チッ……シーゲルだと? まさか、ここに自ら足を運んでいたのか……」

 

 シゲ爺の声を聞いて、ゴールドフレームは動きを止めた。

 

 「……ここに来て正解だったよ。 やはりこのギガフロートの建造に協力したのも、こういう裏取引をするためだったのだな」

 「一石二鳥の最善の策とは思いませんか? クライン”元”代表。 連合にはマスドライバーをくれてやると伝え、ザフトにはこの施設を破壊する事で恩を売る。どちらにせよ、オーブが不利益を被るならば、どちらに転んでもオーブに利がある方法を取るべきではありませんかな?」

 「……サハクよ、では、このギガフロートに込められた想いはどうなるというのだ。 平和利用を望んで作られる施設には変わらんのだぞ……」

 「どうあがいても、これが完成すれば、連合に利用されるのがオチです。 そして、ザフトはそれを破壊に来る……」

 「私は、そうはならんと思うな」

 

 シゲ爺は、ブルーフレームとレッドフレームを眺めた。

 「マシンは人が使うもの次第だ。 ならば、我々オーブもまた、使う為の知恵を絞るべきではないのかな?」

 「……このギガフロートを、オーブの物にするとでも?」

 「コトー・サハクの子よ、極端だな」

 シゲ爺は、サハクと呼ぶ、ゴールドフレームのパイロットの言葉に苦笑した。

 「平和利用すればよい。 オーブはそのための協力を惜しまなければ……戦いが終わった後、きっと我らのかけがえの無い利益となる」

 

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 戦いは終わった。

 

 謎のゴールドフレームは撤退し、ギガフロートは、崩壊をかろうじて食い止めた。

 しかし、ダメージは甚大であり、修復には時間がかかりそうであった。

 そう、時間が……。

 

 「連合に対する言い口実が出来た。 ”戦争が終わるまでは”完成しそうに無い、とな」

 「やれやれ、結局シーゲルさんよ、あんたの狙い通りって感じがするぜ。 なんだかんだ。サハクの言ったとおり、ザフト・連合両方に恩も売れてるしな」

 

 戦闘の後。

 何故かギガ・フロートの修復を手伝ったロウ・ギュールが、呟いた。

 彼らもまた、裏でシーゲルと繋がっていたのだ。

 

 「コア・ユニットさえ、サーペントテイル商会に作って貰えれば、後はどうにでもなる。 時が来ればこのギガフロートは何時でも人を救えるじゃろうて」

 簡易マスドライバーユニット建造の仕上げ作業に入ったブルー・フレームとRGBフレームの二機の姿を、管制室からシーゲルは眺めた。

 

 

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 「ロウ・ギュールさんですっけ? 凄かった、あのモビルスーツさばき! 私にも剣の使い方とか教えてくださいよ!」

 マリーンがロウに詰め寄っている。

 胸を押し付け、上目遣いでロウの顔を覗き込むも、ロウは表情を変えない。

 「マリーン、だっけか?」

 「それは偽名でぇ、わたし本名はジュリっていいます!」

 「ちょ、離れなさいよ!この!!」

 「なによ、このオッパイオバケ!」

 樹里がジュリを引き剥がそうとするが、ジュリは悪態をついて樹里に掴みかかった。

 「シベリアにラクス様を迎えに行かなきゃならないのが残念だわ……ロウともっと仲良くしたかった……」

 「さっさと帰れー! もうー!」

 

 その様子を見てロウはため息をついた。

 「樹里ももうちょっと、おしとやかっていうかなー……ポジティブすぎっていうか……。 まあいいか、リーアム、片付いたし、そろそろ帰るぞ?」

 「ぐすっ、私のブラックナイト……」

 「……やれやれ、ナチュラルの貴族様も大変な事で……」

 ボロボロになった愛機の傍らで涙目になっているリーアムを見て、ロウはもう一度ため息をついた。

 

 

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 「とんだ狸だったな、あんた」

 「すまないな、君たちを騙すつもりはなかったが……」

 「最初から、茶番だったとはいえ、寿命が縮みましたぜ? 別料金貰いたいくらいですけどな? シゲ爺さん――いや、元オーブ代表の”シーゲル・クライン”さんよ?」

 劾とリードが言った。

 「だが、お陰で、サハクの企みに釘を刺す事も出来た。 改めて礼を言わせてくれ」

 「……例のゴールドフレームのパイロット、あれがロンド・サハクか?」

 劾が、シーゲルに言った。

 「ああ、オーブ五大氏族のひとつ、サハク家の跡取りだ。 我々は互いに国益を守る為に、動いている。 しかしその結果がヘリオポリスの崩壊だった」

 シーゲルがうつむいて言った。

 「……オーブが戦場になる日も近いぞ?」 

 その悲痛な想いを感じ取ってか、劾が言った。

 「それ故に、サハクも過激な手段をとろうとしているのだろう。 だからこんな茶番が必要になったと言うわけだ」

 自嘲するように、シーゲルは言った。

 

 

 「フッ、まあ、俺たちは仕事をするだけだ……これにてお疲れ様(ミッション・コンプリート)だ。 あとそうだ……アンタがシーゲル・クラインなら頼みがある」

 「ん……?」

 

 

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 「ああ……お安い御用だ。 すぐ調べはついたよ」

 シーゲルは、劾に頼みをすぐに叶えた。

 

 「これがあの少女、エルちゃんの両親が住んでいる住所だ。 オーブまでの便もだしてあげよう」

 シーゲルは、カズイにエルの両親の情報を私、さらにオーブの入国手続きまで手配した。

 

 「君たちも、良かったらオーブに来たまえ。オーブで少し仕事も頼みたいし、今回の件の詫びもしたい。 宇宙(そら)に帰る船も用意できると思うが、どうかね?」

 「そりゃ、ありがたいね」

 「わかった、俺たちも同行しよう」

 シーゲルの提案に、イライジャと劾も頷いた。 

 

 

 「良かったね、エルちゃん、これでようやくお母さんたちに会えるよ」

 「うん!」

 

 カズイは、エルの両親の資料を見た。

 そこには、エルの戸籍などの情報も――。

 

 「あれ――エルちゃん、君の名前って――」

 

 すると、カズイがある奇妙な点に気が付いた。

 エルの名前が、別の名前で乗っているのだ。

 「エルはね! ともだちどうしのよびかたなの! わたしのほんとうのおなまえは――」

 

 今までオーブの子供としか、分かってなかったのだから、無理も無いが。

 これだけ一緒にいて本名も知らなかったのは些かショックだった。

 

 カズイは、改めて、エルの戸籍情報を眺めた。

 

 

 「リリー・ザヴァリー! 7さいです!」

 

 そして、エルの元気な自己紹介が聞こえた。

 



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