やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!! (後藤陸将)
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みんなで学ぼう「やめて!!冬木市」世界の歴史

この世界について、一度整理しておく目的で歴史年表をつくりました。
あくまで、こういう世界だと理解して下さい。

あとがきに報告があります。


3億6700万年前~2億8900万年前

 

メガヌロン、地表を支配する。

EMPなどの力を持った放射性物質を餌とする巨大陸生体と生存圏争いをするものの、力及ばずにメガギラスを片っ端から駆逐されて絶滅したらしい。

 

 

 

1億3000万年前

 

キングギドラ(ヤング)来襲。生態系が破壊される。地球のSOSで駆けつけたタイプムーンを返り討ちにする。

 

 

 

7000万年前

 

ミレニアンのUFOが地球に墜落。日本海溝ではなくマリアナ海溝に、それも最深部におっこちたのでこの世界では引き上げはまず無理。

22~23世紀ぐらいには人類でも引き揚げられるかもしれない。でも多分すぐに巨大生物慣れした人類かその他巨大生物に殺されると思う。

 

 

 

6500万年前

 

デスギドラ来襲。火星を滅ぼしてから地球に降り立ち、モスラに封印される。

エリアス族が地表で高度な文明を築く。

 

 

 

1万5000年前

 

海洋文明、ニライカナイが海洋汚染物質を取り除くために造り上げた生物ダガーラが怪獣へと変貌する。

ニライカナイはダガーラによって滅ぼされ、ダガーラはその後眠りにつく。

 

 

 

1万2000年前

 

ガイガン来襲。モスラに敗れて北海道沖に沈む。この世界では身体の損傷が激しいため、再起動は絶望的。しかし、モスラもまたこの戦いで大きな傷を負った。

エリアス族以外の古代文明の天才科学者がギャオスを生み出し、文明のリセットを図る。

傷ついたモスラだけではどうにもできないということで、古代文明はエリアス族の協力の下で新たなる器であるガメラを創造する。

しかし、既にギャオスはとんでもない数に増殖しており、一部のエリアス族を除いてエリアス族の文明は滅亡してしまった。

彼らはガメラを創造した古代人に比べて小さく、捕食されにくかったため、完全に滅んだ古代文明と違って生き残りに成功する。

一方、ギャオスがガメラとモスラに単体ではどうあっても及ばないことを危惧した天才科学者は、次にギャオスが目覚めたときに早期にギャオスが駆逐されることを防ぐために単体でガメラに対抗できる怪獣の創造に着手する。

しかし、その新怪獣の誕生間際に彼は同じ古代人によって抹殺される。彼の生み出した新怪獣の卵は、奈良県の明日香村となる地に封印された。

何故新怪獣を殺さなかったのかは諸説あるが、一番信憑度の高い説では「星が滅びるような怪獣の襲来に備えるため」とされている。星が滅びるよりは、文明が滅びたほうがましだと考えたようだ。

そして、その古代人の末裔が、守部の一族である。

 

 

 

 

以後、一万年ほどは史実と相違ないらしい。

 

 

 

 

 

年代不明

 

日本に現れた8つの頭と8つの尾を持つ大蛇が討伐された。討伐したものは、古代文明のオーパーツを操って討伐したという。真偽は不明。

 

 

 

西暦

 

1300

 

高麗で鉄を喰らう怪獣が現れ、少女に封印されたという記録が残っている。真偽のほどは不明だが、少女は古代人とエリアスの血を引いていたとかいないとか。 

 

 

 

戦国時代

 

剣豪、錦田小十郎景竜が山梨県宿那地方の宿那山で暴れていた宿那鬼をバラバラにし、鬼を鎮める祠を建てて封印する。

彼はその後、自らの魔力を高めるために無害な妖狐の一家を惨殺した魔術師、魔頭鬼十朗を討ち果たす。

鬼十郎を失ったことで魔頭家は没落し、現在は消滅している。

また、生まれが敵国同士であったという理由で結ばれずに自害した姫と武将が融合した怨霊、戀鬼を二人山に封印したという伝説も残る。

 

 

江戸時代

 

村井強衛門が姿の見えない巨大な妖怪を退治した。

 

宇宙よりカプセルが飛来。以後、200年ほどの間に幾度も同じ顔、同じ笛を持った黒髪の女性が全国各地で目撃されるようになる。

 

 

 

 

1940年代初頭

 

第三次聖杯戦争勃発

アインツベルンは偶然にも根源的破滅招来の召喚に成功する

根源的破滅招来体はブリッツブロッツやゼブブを召喚して片っ端から敵サーヴァントを狩ることに成功するも、冬木市には甚大な被害。

結局、唯一生き残ったセイバー陣営がマスターを強襲し、アインツベルンのマスターを聖杯の器もろともに攻撃して撃破する。

聖杯の器が壊れたために聖杯戦争の勝者は決まらず。尚、当時の甚大な被害については米軍の空襲ということで誤魔化された。

 

 

 

1943

 

ドイツ第三帝国からU-511によって日本にフランケンシュタイン博士の創造した不死の心臓が届けられる。

実はこれはダーニック・プレストーン・ユグドミレニアがナチスの協力の対価として提供したもの。理想の人間の設計図を参考に製作された紛い物の不死の心臓であり、精々10年ほどしか生きられない心臓だったらしい。

 

 

1944

 

マーシャル諸島ラゴス島にて、大日本帝国陸軍ラゴス島守備隊指揮官、新堂靖明少佐が恐竜の生き残りを発見する。

この恐竜によって米軍ラゴス島上陸部隊は壊滅する。

 

 

1945

 

広島衛戍病院に運び込まれた不死の心臓が原爆投下によって行方不明となる。この際に浴びた放射線の影響で心臓は変質する。

 

名連村にあった軍の秘密研究所で、兵士の細胞を増殖させると共に凶暴化させる人工細菌が完成する。

しかし、研究所が完成した細菌も含めて全て破壊され、そこに勤めていた研究員と軍の関係者が一人の科学者を除いて惨殺されるという事件が発生する。

これ以後、研究所付近の沼に妖怪が出るという噂が村で広まる。

 

 

1954

 

アメリカがビキニ環礁で行った水爆実験によって、ラゴス島と、周辺の島々に生息していた二頭のゴジラザウルスがゴジラへと変貌する。

そのうち一頭が東京に上陸して破壊の限りを尽くすも、芹沢大助博士が開発したオキシジェン・デストロイヤーによって東京湾にて骨も残さずに葬り去られる。

 

 

1956

 

阿蘇山付近の炭鉱にて、地殻活動による温暖化によって地底に残っていた無数のメガヌロンが孵化する。

炭鉱内に出現した個体は全て陸上自衛隊によって掃討されるも、周辺住民、自衛隊合わせて多数の死傷者がでる。

さらに、阿蘇山の大洞窟より巨大な翼竜、ラドンが2頭出現。最終的に阿蘇山の噴火に巻き込まれて2頭とも死亡。

その後、噴火の影響で阿蘇山の大洞窟のほど近くに湧き出た温泉に「ラドン温泉」と名付けられる。

 

 

1958

 

東北地方の山奥の湖からバラノボーダーと呼ばれる古代生物の末裔と思われる怪獣バランが出現する。

自衛隊の攻撃を受けながらも逃亡し、最終的には東京湾から羽田空港に上陸するも、新型火薬が仕込まれた照明弾を飲み込み、体内から爆破されて死亡した。

ゴジラの記憶がまだ生々しかった当時の東京では、特に被害もなく自衛隊にあっさりと殺されたために、バランは雑魚怪獣というレッテルが貼られた。

近年、国が行った意識調査では、そもそも存在を知らない、忘れている国民が多数だった。

 

 

1961

 

南洋の孤島、インファント島からエリアス族の女性二人が興行師クラーク・ネルソンによって東京に拉致される

その後、二人を救出するために巨大蛾モスラが来襲し、東京タワーをへし折って繭をつくる。

モスラの繭を供与された原子熱線砲で焼き払うも、中から無傷のモスラの成虫が出現、他国に逃亡したネルソンを追い海を渡る。

 

 

1962

 

カラ海沿岸の都市に暴龍アンギラス出現。ソ連軍に甚大な被害を与えるも、最終的には重爆撃機による多重核攻撃によって死亡とされているが、討伐作戦に従事したある兵士はアンギラスの体内から爆発があったことを証言している。この核攻撃の影響でカラ海沿岸では今でも放射能の影響が残る地域がある。

アンギラスはソ連が北極海で行った核実験の影響でアンキロサウルスの末裔が目覚め、さらに放射線の影響で突然変異を起こしたものと思われる。

 

 

1963

 

南洋の孤島で、人を怪物化させる新種のキノコ、マタンゴが発見される。

そのあまりの恐ろしさに1975年に発効した生物兵器禁止条約でもこのキノコの軍事利用を禁止する明文事項が追記されることになる。

 

 

1965

 

行方不明だった不死の心臓が人間体になり、身長20mほどまで成長を遂げる。

その後、研究施設からフランケンシュタインは逃亡する。

秋田の油田からバラナスドラゴン通称バラゴンが出現し、フランケンシュタインと交戦し敗れる。

しかし、フランケンシュタインは直後に出現した巨大蛸によって水中に引きずり込まれて死亡する。

 

秋田で死亡したフランケンシュタインの体組織の一部から人工的に作り出されたフランケンシュタイン、サンダの体組織の一部が琵琶湖にて剥離する。

剥離した体組織はその後海に流れ、その過程でフランケンシュタイン、ガイラへと成長する。

サンダはその後富士で消息不明となる。

 

 

1966

 

ガイラ、深海で25mほどにまで成長して人を食糧として狙うようになる。

サンダ、山中で30mほどにまで成長し、山中で暮らす。人は襲わない。

ガイラが食糧である人間を求めて日本に上陸する。陸上自衛隊はこれを撃滅するべくL作戦を発動し、陸上自衛隊の最新鋭兵器、66式メーサー殺獣光線車を出動させる。

サンダ、ガイラを一度は救うも、人を喰らうガイラに激昂して東京で激突する。両者は東京湾にて海底火山の噴火に巻き込まれて死亡する。

 

特撮テレビ番組「ウルトラマン」の放映が始まる。

 

 

1967

 

南ジャワ海のモンド島で巨大類人猿、キングコングが発見される。また、同島では他にもアロサウルスの末裔と思われる生物や巨大ダコ、大ウミヘビなどの怪獣が相次いで発見されており、生物学会から大きな注目を浴びる。

 

 

1968

 

ゴジラ(2代目)出現。

佐世保に向かっていたアメリカの原子力空母1隻と原子力巡洋艦2隻が太平洋沖でゴジラの襲撃を受けて沈没する。

当初はソ連の攻撃かという疑惑がもたれ、世界はキューバ危機並みの危機を迎えるも、現場に急行した海上自衛隊のP-2J対潜哨戒機が周辺の捜索中にゴジラを発見し、この事実を米ソ両国に通達したことで米ソ核戦争は回避された。

しかし、その後のアメリカ海軍の面子をかけた太平洋大捜索でもゴジラを見つけ出すことができなかった。これ以降ゴジラの存在は公式には一切確認されていないため、現在では死亡説も流れている。

(冷戦期の原子力潜水艦事故の一部がゴジラによるものであるとの推測がなされているが、確たる証拠がないために断定はされていない)

因みに、革新政党や市民団体を中心とした原子力空母佐世保入港反対運動家の一部が原子力空母を撃沈したゴジラを賛美したことで、ゴジラの被害を忘れていない東京都民を中心に国民から総バッシングを受けた。

 

 

1970

 

セルジオ島で生物学の権威である宮恭一博士がゲゾラ・ガニメ・カナーバの三種の怪獣を発見する。

三体とも宮博士らによって撃破されていたものの、生体組織が残っていたために存在は立証され、少なくないデータが収集されている。

 

 

1972

 

ゲゾラ等の発見を受けて派遣されたセルジオ島生物調査団によって二代目カメーバの存在がセルジオ島近海で確認される。

 

 

1973

 

中国に蟷螂の変異体と思われる怪獣、カマキラスが出現する。

前年に行われた水爆実験で生じた放射性物質と、人工降雨実験で使われた特殊な化学物質、と実験による急激な気候変化によって誕生したものと推測される。

最終的には人民解放軍の航空部隊と機甲部隊によって撃破されるが、3匹のカマキラスによって最終的に3万人近い犠牲者が出たといわれている(中国政府の発表は事実よりも犠牲者数を水増ししているという指摘もあり、実際の犠牲者数はこの半分以下という推測もされている)

 

 

1975

 

ベトナムにクモンガ出現。

陥落寸前の南ベトナム軍はこれによって完全に崩壊する。しかし、ベトナム全土を掌握した北ベトナム軍はクモンガの討伐に失敗し、甚大な被害を被る。

その後、クモンガは森林地帯を縄張りとしている。ベトナム軍はクモンガが生息する森林地帯を国立公園に指定し、人の出入りを遮断すると共にクモンガが万が一にも森を抜け出して市街地になだれ込むことがないように監視を続けている。

現在でも、クモンガ討伐の具体的計画は練られていない。

因みに、この被害が後に中国がベトナムの国力が低下したと考えて侵攻するきっかけとなった言われる。

 

 

1977

 

ドイツ、ハンブルクにエビラ出現。NATO全軍による攻撃の末、当時の西ドイツに甚大な被害を与えつつも撃退に成功。しかし、屍骸は確認されていない。

その後の調査でEU諸国の化学工場から出た毒性の高い化学物質が北海で焼却処理されていたことが発覚。エビラはその際に煙となってばら撒かれた化学物質(一説には、放射性物質の混ざった廃液まであったと言われている)の影響で、北海に生息していたエビが突然変異したものと考えられている。

 

 

1987

 

二代目カメーバ、日本近海に出現するも、海上自衛隊の攻撃を受けて逃亡。その後消息不明。これ以後日本近海で巨大生物が目撃された例はない。

 

 

1989

 

ゴジラの細胞が核エネルギーを摂取する性質を持つという論文がイギリスの世界的科学雑誌に掲載され脚光を浴びる。

 

 

1990

 

陸上自衛隊が最新鋭対怪獣兵器90式メーサー殺獣光線車を配備開始。一部野党は、対怪獣の名を借りた軍拡であると激しく追及するも、世論はおおよそ対怪獣軍備の拡大には賛成しているために効果は薄い。

 

 

199X

 

第四次聖杯戦争が勃発する。

 

 

 

 

 

 

世界観設定参考作品(ネタ元作品)一覧

 

ゴジラ(1954)

ゴジラの逆襲

空の大怪獣ラドン

大怪獣バラン

日本誕生

モスラ(1961)

マタンゴ

フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)

ゴジラ・モスラ・エビラ 南海の大決闘

フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ

キングコングの逆襲

怪獣島の決戦 ゴジラの息子

ウルトラマン

ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣

ゴジラ(1984)

プルガサリ

ゴジラVSキングギドラ

ガメラ 大怪獣空中決戦

ウルトラマンティガ

モスラ(1996)

ゴジラアイランド

モスラ2 海底の大決戦

ウルトラマンガイア

モスラ3 キングギドラ来襲

ガメラ3 邪神覚醒

ゴジラ2000 ミレニアム

ウルトラマンコスモス

ゴジラ×メガギラス

ゴジラ×メカゴジラ

ゴジラ FINAL WARS

GODZILLA(2014)




 そして、突然ですがここで皆様に報告しておきたいことがあります。
この作品、「やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!」は元々エイプリルフール用に昨年からチマチマと暇を見つけては書いていたものの、1月にエイプリルフール作品をシティーハンターに鞍替えしたために放置していた作品でした。

 死蔵するのももったいないか、ということで多少手直しして公開しましたが、ストックは昨年書き上げた分だけです。全サーヴァントのステータスの紹介の入った8本のエピソード+プロローグ+設定がストックの全てでした。

 現在、投稿した話はプロローグを含めて9話そして今回の設定。つまり、ストックが切れました。

 今後についてですが、とりあえずストック分で連載は一区切りだと考えてください。何とな~く構築されたヴィジョンはあるのですが、それを文章にするだけの暇もありませんし、種ジパングとゴルゴもあります。


 ここまでやっといて未完かよ!!って声もあるかもしれませんが、まぁ、チラ裏みたいなもんだと思って寛大な心で見逃してもらえると嬉しいです。自分の連載作品の中でもずば抜けてはっちゃけたヤツなので、他の作品より書きやすいってのもありますから、たまに更新すると思います。

それでは皆様、またいつか更新があれば会いましょう。


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「やめて!!冬木市」世界の歴史 After 第四次聖杯戦争

本編をまだ読みきっていない方はここから先を読まないことをお勧めします。
本編のネタバレに繋がる記述も多々ありますので。



第四次聖杯戦争後にこの世界の地球が歩んだ苦難に満ちた歴史です。
苦難の大半にあのゴミ(魔術師)共が直接的、又は間接的に関わっています


199X

 

 

第四次聖杯戦争勃発

被害は甚大

 

 

 

 

――その後、21世紀までの出来事を時系列順に並べる

 

ベトナムの森林公園に留まり、20年近く動きを見せなかったクモンガの活動が活性化

都市部へと向かい、抵抗するベトナム軍を蹴散らして市街地を蹂躙し、数千人規模の犠牲者がでた

クモンガはその後悠々と森林公園に帰還したが、数年おきに森林公園を抜け出して捕食行為を続けている

森林公園周辺の住民の話によれば、クモンガが森林公園を出る数日前に不審な白人の集団が訪れていたという

 

 

北朝鮮の元山市にガバラ出現

朝鮮半島を縦断し、軍事境界線を越えて韓国へと進撃した。

在韓米軍の司令官が90式メーサー殺獣光線車を攻撃に使用し、どうにかガバラを討ち取ることに成功する

 

 

ドイツ北部にケムラーが出現し毒ガスを撒き散らしながら南下

ドイツ空軍は甚大な被害を被りながらも航空機がケムラーの弱点である腰部の神経節の破壊に成功、どうにか討伐に成功する

 

 

オーストラリアに農薬オルガノPCBの影響で巨大化した怪獣マジャバが出現

最初に出現した2体は空軍のミサイル攻撃によって討伐に成功するが、二体は卵を残していたらしくまもなくマジャバの幼生が出現する

陸軍による掃討戦が行われ、どうにかマジャバを駆逐することに成功

 

 

ベーリング海には放射能の影響で水棲生物が巨大化した怪獣レイロンスが出現

ロシア海軍が撃滅に動くが、逆に巡洋艦を主力とする艦隊が全滅の憂き目にあう

その後のレイロンスの行方は不明

 

 

ブラジル ゴイアニアに巨大植物ジュラン出現

アメリカのバイオメジャーが開発した新型農薬によって駆除することに成功する

 

 

日本の雲仙普賢岳から古代昆虫メガヌロンが復活

陸上自衛隊の普通科部隊が持ち寄っていた無反動砲で始末される

 

 

アフリカ ビクトリア湖からチタノザウルス出現

ケニア、ソマリアを蹂躙し碌な抵抗も受けないままインド洋に消えた

チタノザウルスの通路になった両国は対歩兵戦闘がやっとな軍隊が壊滅した上、なけなしの街にも甚大な被害を受けて荒廃

以後、両国は無政府状態に突入

ビクトリア湖の猟師によれば、チタノザウルス出現の数日前に学者を名乗る怪しげなイギリス人が現地を訪れていたらしい

 

 

イギリス ロンドンに貝獣ゴーガ出現

突如大英博物館に程近い地区に出現し、ロンドン中心部で暴れまわった後にイギリス空軍による空爆で討伐された

警察や軍による出現場所の現場検証は、何故かやけにあっさりと終わったという

 

アメリカ テキサス州に油獣ペスター出現

メキシコ湾に不法に投棄された化学物質が、海中のヒトデを突然変異させたものと考えられている

アメリカ空軍のミサイル攻撃が体内の石油に引火して大爆発した

 

 

韓国 仁川に蝉怪獣キングゼミラ出現

すさまじい鳴き声に耐えかねて、体調不良を訴える市民(死者も多数)が続出する

結局、韓国陸軍が市民の避難誘導と攻撃準備を整えている内に寿命が尽きたのか、高層ビルにとまったまま往生した

 

 

八丈島に大ガニ怪獣ガンザと大ダコ怪獣タガールが出現

両者は島をリングに三日三晩戦い続け、最終的にタガールが勝利するも、弱ったところで自衛隊のミサイル攻撃で駆逐された

 

 

静岡県にゾンビ怪獣シーリザーが漂着

自衛隊が迎え撃つが効果は薄く、コンビナート地帯への進撃を許してしまう

しかし、コンビナートの直前でかつて冬木に現れたウルトラセブンが再び出現、アイスラッガーで四肢と首を刎ねとばし、その後エメリウム光線で撃破した

以後、各地でウルトラセブンの目撃情報が報告されるようになる

 

 

 

 

 

1998

 

 

アメリカ・ニューヨークにゴジラに似た怪獣が出現し、ビル群に甚大な被害を出した末にアメリカ軍に駆逐された。

 

 

トルクメニスタン アシガバードに変幻怪獣キングマイマイ出現

トルクメニスタン軍の力では幼虫の時点で倒すことはできず、脱皮を許してしまう

成虫に成長したキングマイマイはその後西進するも、カスピ海にてロシア空軍の総力を結集した集中攻撃を受けて撃墜され、後に死亡が確認された

 

 

 

 

 

1999

 

 

中国 上海にムルチ出現

経済発展著しい工業地帯から海に排出された大量の汚染物質が魚を怪獣化させてしまったものと考えられている

北京で中国人民解放軍が総力を持って迎え撃つもムルチを倒すことはできなかった

しかし、北京に居座ったムルチの前にウルトラセブンが飛来して戦いを挑んだ

最終的に、アイスラッガーで袈裟斬りにされて絶命する

 

 

岐阜県の宇宙観測センターに隕石と共に寄生怪獣マグニア飛来

職員、付近の村民は隕石落下から数日の記憶がないらしいが、唯一隕石落下後の記憶を持つ少女は、「ウルトラマンと眼鏡のお兄ちゃんが怪獣をやっつけてくれた」と証言しているらしい

 

 

トルコ イスタンブールに超力怪獣ゴルドラス出現

1カ月で地球全てが時空界になり滅ぶという危機に見舞われるが、突如現れたウルトラマンによって討伐される

しかし、ゴルドラスを倒したウルトラマンについては、青いウルトラマンだったとか、赤と青と二色だったとか、情報が錯綜している

 

 

 

 

2000

 

 

ドイツ ハンブルクに強酸怪獣リトマルス出現

酸を中和させるために、日本から試作D-03削岩弾を輸入して弾頭にアルカリ性の物質を籠めて打ち込んだ

弱体化したリトマルスは、その後数時間に及ぶ集中砲火で絶命する

  

        

エクアドル キトに吸血魔獣キュラノス出現

一夜にしてキト市民は全滅する

軍が総力を結集した解放作戦の結果、1ヶ月の激戦の後にキュラノスは滅んだとされる

噂によると、エクアドルには軍の解放作戦の数日前大量の聖職者が来ていたとかなんとか

 

 

ブラジルの森林地帯にシルドロン出現

ジュラン討伐時に散布された農薬によって昆虫が突然変異を起こして巨大化したものと推察される

強固な表皮と優れた探知能力に阻まれて攻撃が通用せず大きな被害を被る

 

 

 

 

2001

 

 

チリ チャイテン山からバードン出現

南米諸国は連合を組んでこれに抵抗するも、空軍も陸軍も鎧袖一触で蹴散らされてしまう

その後南米を一週間の間恐怖で支配するが、飛来したウルトラセブンに毒腺を切られ、己の毒が逆流したために絶命した

 

 

奈良に妖獣モズイ出現

その数日前、フランスの学術調査団を名乗る不審な一団がモズイが出現した遺跡を探索していたとのこと

最終的には、ウルトラセブンによって倒された

 

 

 

 

200X

 

 

アルバニア ベラトに大魔獣ビシュメル出現

しかし、軍が出動する前にウルトラセブンによって討伐されたため、大きな被害はでなかった

 

 

千葉県九十九里浜に、カメーバの死体が漂着

頚部に巨大な爪で引っ掻いた傷跡が残っており、これが致命傷となったようだ

他の巨大生物に襲われ、最後の力を振り絞って陸地に上がったものと考えられている




活動報告にて募集しているQ&Aっぽい企画は、20日までです。
疑問質問等お待ちしております


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やめて!!冬木市のサーヴァント設定

サーヴァントの設定まとめです。
ネタバレになりますので、本編未読の方はこの話を飛ばして次話「そりゃあ、あんなの呼び出したらこうなるよ」から読むことをお勧めします。


クラス:セイバー

 

マスター:衛宮切嗣

 

真名:ガイガン

 

性別:不明

 

身長:65m/体重:25000t

 

属性:混沌・悪

 

 

パラメーター

 

筋力:B

耐久:B

敏捷:A

魔力:B

幸運:D

宝具:A

 

 

クラス別能力

 

対魔力:B

 

魔術発動における詠唱が3節以下のものを無効化する

大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけることは難しい

 

 

保有スキル

 

加虐体質:A

 

戦闘時、自己の攻撃性にプラス補正がかかる

これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう

攻めれば攻めるほど強くなるが、反面防御力が低下し、無意識のうちに逃走率も下がってしまう

自分の武器で死んでしまうなんてうっかりもおきるかもしれない

 

 

気配遮断:A

 

機能停止時に限定し、サーヴァントとしての気配を断つことができる

 

 

宝具

 

命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)

 

ランク:A

種別:対人宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:2人

 

両腕部の巨大チェーンソー

表面を鮫の牙のような刃が高速で動いているため、非常に切れ味がいい

殆ど力をいれずとも物体を両断することができる

 

 

この身即ち、刃なり(ブラデッド・カッター)

 

ランク:B

種別:対人宝具

レンジ:1

最大捕捉:1人

 

腹部の巨大回転鋸

超近接戦闘でしか効果はないが、切れ味は非常によい

 

 

回転して突撃する血濡れの刃(ブラッディ・スライサー)

 

ランク:B

種別:対人宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:2人

 

胸部から射出される手裏剣のように回転する刃

自動的に標的を追尾する機能を持つが、本体にあたらないように回避しようとする機能はついていないため、自爆の可能性もある

 

 

 

《捕捉》

 身長、体重は昭和のガイガン(初代)であるが、見た目はGFWに登場するガイガン(2代目)改。

 飛翔能力も有し、三次元的な戦いも可能である。

 ただし、セイバーのクラスに収まっている影響で拡散光線ギガリューム・クラスターが使用不可になっている。

 怪獣呼べば聖杯戦争なんて楽勝、冬木の被害なんて知ったことじゃないね!なんて思って召喚したものの、実は戦闘能力的には参加サーヴァント中では真ん中という悲劇

 

 

 

 

 

クラス:ランサー

 

マスター:ケイネス・エルメロイ・アーチボルト

 

真名:柳星張イリス

 

性別:不明

 

身長:49.5m/体重:20000t

 

属性:混沌・悪

 

 

パラメーター

 

筋力:C

耐久:B

敏捷:A

魔力:B

幸運:C

宝具:A

 

 

クラス別能力

 

対魔力:C

 

第二節以下の詠唱による魔術を無効化する

大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない

 

 

保有スキル

 

進化:A

 

他生物の遺伝子情報を得ることで自らの染色体をも変化させる

それによって体型、戦闘能力を変化させることができる

新たなる宝具を獲得することもある

 

 

神性:E-

 

南の守護神である朱雀とみなされていたことがあるために神霊特性を持つが、殆ど退化してしまっている

 

 

 

宝具

 

宙裂く音の刃(ソニックウェーブ・メス)

 

ランク:A

種別:対人宝具

レンジ:1~50

最大捕捉:2人

 

ギャオスの武器の代名詞である超音波メス

ギャオスの変異体であるイリスでも使用可能

2本の触手の先端から同時に別々の目標を攻撃することも可能

 

 

突き穿つ憎悪の触手(テンタクラーロッド)

 

ランク:B

種別:対人宝具

レンジ:2~4

最大捕捉:4人

 

イリスの身体から生える4本の触手

一本一本が槍であり、変幻自在に曲がるために独特な機動で相手を突き刺すことができる

 

 

憎悪繋ぎし黒の勾玉(ヘイトレッド・ネクサス)

 

ランク:E~A

種別:対人(自身)宝具

レンジ:-

最大捕捉:1人

 

イリスと人間との精神系統の同調を可能とする勾玉

勾玉の所有者との結びつきが強くなればなるほどにイリスのステータスが向上し、進化も促進される

同調レベルに応じて宝具のランクが上がり、効果も高まる

精神同調レベルが最高に達したときに勾玉の所有者を勾玉ごと体内に取り込むことで、全てのステータスを2段階アップさせることが可能

 

 

《捕捉》

ガメラ3に登場するイリス

ただし、他のサーヴァントとのサイズの兼ね合いで1/2にスケールダウンした

一方、体重も他サーヴァントとの兼ね合いで身長99mで200tだったのが、半分の身長で20000tになった

まぁ、調整が入ったってことで見逃してください

 

 

 

 

 

クラス:ランサー

 

マスター:―――

 

真名:柳星張イリス(ゴジラ細胞)

 

性別:不明

 

身長:52.5m/体重:25000t

 

属性:混沌・悪

 

 

パラメーター

 

筋力:A

耐久:A

敏捷:B

魔力:B

幸運:C

宝具:A

 

 

クラス別能力

 

対魔力:C

 

第二節以下の詠唱による魔術を無効化する

大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない

 

 

保有スキル

 

進化:A

 

他生物の遺伝子情報を得ることで自らの染色体をも変化させる

それによって体型、戦闘能力を変化させることができる

新たなる宝具を獲得することもある

 

 

神性:E-

 

南の守護神である朱雀とみなされていたことがあるために神霊特性を持つが、殆ど退化してしまっている

 

 

狂化:B

 

パラメーターをランクアップさせるが、理性の大半を奪われる

 

 

 

宝具

 

宙裂く音の刃(ソニックウェーブ・メス)

 

ランク:A

種別:対人宝具

レンジ:1~50

最大捕捉:2人

 

ギャオスの武器の代名詞である超音波メス

ギャオスの変異体であるイリスでも使用可能

2本の触手の先端から同時に別々の目標をこうげきすることも可能

 

 

突き穿つ憎悪の触手(テンタクラーロッド)

 

ランク:B

種別:対人宝具

レンジ:2~4

最大捕捉:4人

 

イリスの身体から生える4本の触手

一本一本が槍であり、変幻自在に曲がるために独特な機動で相手を突き刺すことができる

 

 

憎悪繋ぎし黒の勾玉(ヘイトレッド・ネクサス)

 

ランク:E~A

種別:対人(自身)宝具

レンジ:-

最大捕捉:1人

 

イリスと人間との精神系統の同調を可能とする勾玉

勾玉の所有者との結びつきが強くなればなるほどにイリスのステータスが向上し、進化も促進される

同調レベルに応じて宝具のランクが上がり、効果も高まる

精神同調レベルが最高に達したときに勾玉の所有者を勾玉ごと体内に取り込むことで、全てのステータスを2段階アップさせることが可能

 

 

偽・放射熱線(オーバーブースト・アトミック・ブレス)

 

ランク:A

種別:対城宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:1000人

 

ゴジラの染色体を手に入れることで発現した新しい宝具

放射能を含む高温の熱線で、着弾した標的を悉く爆発させる

4本の突き穿つ憎悪の触手テンタクラーロッドのそれぞれの先端から放つことができる

 

 

制御不能の復元細胞(オルガナイザーG1)

 

ランク:C

種別:対人(自身)宝具

レンジ:0

最大捕捉:1人

 

ゴジラの染色体を手に入れることで発現した新しい宝具

高い自己再生能力と、核エネルギーを摂取する能力ももつが、この宝具の侵食によりイリスは理性を喪失している

また、再生の度に身体組織からはイリスの要素が失われ、よりゴジラに近い存在へと変貌していく

 

 

 

《捕捉》

ガメラ3に登場するイリス

ソラウとの完全な精神融合によって素の能力もアップしていたのだが、さらにゴジラ細胞を取り入れることで生前の完全体を凌駕する進化を遂げた

しかし、ゴジラ細胞によって自己の細胞を侵食されることで自己の意識を消失、さらに魂レベルでゴジラの体内にいた怨霊による汚染を受けて魂が変質、狂気と破壊本能のみに従う獣と化した。

 

 

 

 

 

クラス:アーチャー

 

マスター:遠坂時臣

 

真名:キングギドラ

 

性別:不明

 

身長:60m/体重:50000t

 

属性:秩序・悪

 

 

パラメーター

 

筋力:B

耐久:A

敏捷:A

魔力:A

幸運:D

宝具:A+

 

 

クラス別能力

 

対魔力:D

 

一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する

魔力避けアミュレット程度の対魔力

 

 

単独行動:A

 

マスター不在でも行動できる

ただし、宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要

 

 

保有スキル

 

恐怖の大魔王:A

 

星の生態系の殲滅者に与えられるスキル

繁栄している生物種又は星の意思の代弁者との戦闘時に自分に有利な補正がかかる

つまり、対人間あるいはアルティメット・ワンに限定して絶対的な優位性を持つ

反面、絶対数が少ない神の血を引くものなどに対しては劣位に立つ

 

 

催眠術:B

 

対象者を自己の傀儡とする催眠術を使える

 

 

宝具

 

宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)

 

ランク:A~A+

種別:対城宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:1000人

 

キングギドラ最大の武器である、3本の首から吐き出す光線

3本の首から放たれる光線を束ねればA+の威力になる

 

 

王者の輝光結界(ギドラ・オーラ)

 

ランク:A

種別・対人(自身)

レンジ:0

最大捕捉:1人

 

キングギドラが常時身に纏っているバリア

Bランク以下の攻撃を無効化し、Aランク以上の宝具の威力も若干弱体化させる

 

 

王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)

ランク:B

種別:対軍宝具

レンジ:10~40

最大捕捉:600人

 

発動時に任意の対象をドーム内に転移させて発動する

ドーム状の結界の内部に入った人間を消化し、その生命エキスを魔力へと還元して使用者が吸収する

ドームに穴を開けるにはBランク相当の宝具の力が必要

 

 

《捕捉》

見た目、能力共にモスラ3に登場するキングギドラ、通称グランドギドラ。

一億3千万年前に地球に飛来した際には、白亜紀型キングギドラ(通称ヤングギドラ)でありながらも地球からのSOSを受けて駆けつけたタイプ・ムーンを返り討ちにしたらしい。

時臣が触媒にした化石は、タイプムーンの攻撃で剥がれ落ちたヤングギドラの鱗の化石。

 

 

 

 

 

クラス:ライダー

 

マスター:ウェイバー・ベルベット

 

真名:ロラ/モル/ベルベラ

 

性別:女性

 

身長:12cm/体重:―g

 

 

属性:秩序・善

 

 

パラメーター

 

筋力:E-

耐久:E-

敏捷:E-

魔力:A

幸運:A+

宝具:Ex

 

 

クラス別能力

 

対魔力:C

 

第二節以下の詠唱による魔術を無効化する

大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない

 

 

騎乗:A

 

騎乗の才能

獣であるならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる

ただし、竜種は該当しない

彼女達の身長の関係で、実際に乗りこなせる獣はかなり限られる

 

 

保有スキル

 

動物会話:A

 

言葉を持たない動物との意思疎通が可能

動物側の頭が良くなる訳ではないので、あまり複雑なニュアンスは伝わらないはずなのだが、彼女達は彼らの感じたものを共感することでほぼ完全なコミュニケーションを行うことができる

 

 

心眼(偽):B

 

直感・第六感による危険回避

 

 

 

宝具

 

愛と知恵と勇気の三姉妹(エリアストライアングル)

 

ランク:A

種別:対人(自身)宝具

レンジ:―

 

エリアス三姉妹で一体のサーヴァントとして換算されて召喚されるため、ロラ・モル・ベルベラという3人のサーヴァントとして現界する

三姉妹の命を捧げることで、一時的にモスラの能力を増大させることも可能

 

 

親の意志継ぐ次代の巨大蛾(モスラ)

大地の英知授かりし守護神獣(グリーン・モスラ)

命の水賜わりし守護神獣(レインボー・モスラ)

一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)

 

ランク:E~Ex

種別:対軍宝具

レンジ:2~150

最大捕捉:100人

 

エリアス三姉妹が呼び寄せるインファント島の守護神

ただし、エリアス三姉妹が召喚された直後は幼虫の状態でしか呼び寄せることができない

召喚から2日目で繭をつくり、3日で羽化、5日目にモスラがニライ・カナイの秘宝によって進化し、7日目に最終形態に進化する

日を追うごとにパラメーターが上昇し、7日目には強力無比な宝具となる

 

母の意志継ぐ次代の巨大蛾(モスラ)

ランク:E

モスラの幼虫を呼び出す

武器は虹色に輝く強粘性の糸と磁場を利用して腹部から放つエネルギーのみ

皮膚を構成するプリズム状の組織で光を調節して周囲の景色に擬態する能力を持つ

移動速度が遅く、それでいて巨大なために戦闘能力は極めて低い

繭をつくれば、Cランク以下の宝具は受け付けないぐらいには防御力が上昇する

 

大地の英知授かりし守護神獣(グリーン・モスラ)

ランク:B

モスラが一万年の大地の英知を授かり、羽化した姿

額から放つレーザーや鱗粉で形成したプリズムレンズによって超高熱の光を照射するなどの多彩な技を使用可能

分身を多数造り出すことが可能で、エリアス三姉妹は本体のモスラを召喚せずともこの分身のみを召喚することもできる

 

命の水賜わりし守護神獣(レインボー・モスラ)

ランク:A

モスラがニライ・カナイの秘宝「命の水」によって進化した姿

姿形はグリーンモスラとあまり変わらないが、瞳は緑から蒼になり、翼は緑を基調にした模様から蒼を多く含む虹色に変わった

水を盾にしたり、全身を発光させてビームを放つなどの技が使える

また、水中戦に適応した水中モード、過去へのタイムスリップができる光速モードへの変身ができるようになったために戦略の幅も広がっている

ただし、過去にタイムスリップした場合には現代に帰還することはできない

 

一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)

ランク:Ex

モスラが原始モスラ達の作った繭の中で一億三千万年も眠った末に復活し、進化した究極の姿

全身を鎧のような甲殻で覆っているため、防御力は非常に高くBランク以下の宝具の攻撃を一切受け付けない

全身をフラッシュエネルギーで覆って突撃すれば、Exランク相当の威力の体当たりになる

ビーム等の技も全て強化されており、Aランク相当の威力になっている

 

 

《捕捉》

平成モスラ三部作に登場した小美人、エリアス三姉妹

宝具としてモスラが召喚可能だが、彼女たちの素の能力は下の下どころではなく下下下の下

モスラが羽化する3日までは、大抵の魔術師ならば(ウェイバーには無理だが)一蹴できるほどの弱小さ

因みに、命の水賜わりし守護神獣(レインボー・モスラ)一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)は、エリアス三姉妹の命を捧げることで時間遡行する能力を有している

 

 

 

 

 

クラス:キャスター

 

マスター:雨生龍之介

 

真名:スペースゴジラ

 

性別:不明

 

身長:60m/体重:40000t

 

属性:混沌・悪

 

 

パラメーター

 

筋力:A

耐久:A

敏捷:D

魔力:A

幸運:D

宝具:A+

 

 

クラス別能力

 

陣地作成:D

 

魔術師として自身有利な陣地を作り上げる技能

スキル「結晶塔の帝王」の影響で弱体化している

 

 

道具作成:―

 

道具作成スキルの適正がない

 

 

保有スキル

 

怪力:A

 

魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性で、使用する事で筋力を一定時間ワンランク向上させる

 

 

戦闘続行:A

 

瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる

 

 

千里眼:C

 

視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上

 

 

結晶塔の帝王:Ex

 

『宙空より蒐集せし結晶塔スペースエネルギータワー』を発動することにより、『宙空より蒐集せし結晶塔スペースエネルギータワー』を中心に特定の範囲を“自らの領土”とする

この領土内の戦闘において、スペースゴジラはAランクの「狂化」に匹敵する高い戦闘力のボーナスを獲得できる

ただし、宙空より蒐集せし結晶塔スペースエネルギータワーから宇宙エネルギーを受信している両肩の結晶体が破壊されたとき、このスキルは消滅する

 

 

宝具

 

宙空より蒐集せし結晶塔(スペースエネルギータワー)

 

ランク:A+

種別:対界宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:1000人

 

自身の周囲で最も高い建造物を媒介にして発動する

最も高い建造物を宇宙からのエネルギー受信アンテナとすることで、スペースゴジラは無尽蔵のエネルギーを得ることができるようになる

媒介になった建造物はランクA+相当の宝具になる

 

 

無限に連なりし結晶体(クリスタル・スパイク)

 

ランク:A

種別:対軍宝具

レンジ1~200

最大捕捉1000人

 

大地より無数の結晶体を突き立てることができる

攻撃範囲は半径2kmで、最大展開本数は一万本に及ぶ

地面より生えた結晶塔をミサイルのように敵に飛ばすことも可能

 

 

星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)

 

ランク:A+

種別:対城宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:1000人

 

スペースゴジラが口から発する赤色のビーム

ゴジラの熱線と違い、曲げることができるため、様々な角度からの攻撃が可能となっている

 

 

《捕捉》

ゴジラVSスペースゴジラに登場するスペースゴジラ。

他の怪獣のサイズにあわせるために1/2スケールになってもらった。

魔術といっても、陣地作りしかできないけど他にキャスターっぽい適正のありそうな怪獣がいなかったからしょうがなくコイツにした。(同じように陣地つくるのにレギオンがいるが、あいつよりは多彩な能力を使えるし)

一度現界して、無限に連なりし結晶体クリスタル・スパイクさえたてられればマスターからの魔力供給はいらない。

 

 

 

 

 

クラス:アサシン

 

マスター:言峰綺礼

 

真名:メガヌロン/メガニューラ

 

性別:雌

 

体長:5m/体重:1t

 

属性:中立・悪

 

 

パラメーター

 

筋力:D

耐久:C~E

敏捷:E~B

魔力:D

幸運:E

宝具:A

 

 

クラス別能力

 

気配遮断:A+

 

サーヴァントとしての気配を遮断する。完全に気配を絶てば発見することは不可能になる

ただし、自ら攻撃を仕掛けると気配遮断のランクが低下する

 

 

保有スキル

 

千里眼:C

 

視力の良さ

遠方の標的の捕捉、動体視力の向上

 

 

変化:A

 

文字通り変態する

メガヌロンからメガニューラへと羽化することができる

 

 

宝具

 

増えよ、地に満ちよ、我が血肉を分けた同属(オーバーグロース・ドラゴンフライ)

 

ランク:E

種別:対人(自身)宝具

レンジ:―

 

メガヌロンからメガニューラに羽化したときに使用可能となる宝具

産み落とした一つの卵が一万個まで分裂し、そこから新たに一万体のメガヌロンが孵化する

その内、1000:1の確率で次代のメガヌロンを産み落とす雌が生まれる

残りのメガヌロンはメガニューラになると、エネルギーを尾部の針で吸収して栄え、地を征せよ我が王たる超翔竜よメガギラスにそのエネルギーを与える役割を担う

栄え、地を征せよ我が王たる超翔竜よメガギラスにエネルギーを与えたメガニューラは死ぬ。

 

 

 

栄え、地を征せよ我が王たる超翔竜よ(メガギラス)

 

ランク:A

種別:対軍宝具

レンジ:2~150

最大捕捉:100人

 

増えよ、地に満ちよ、我が血肉を分けた同属オーバーグロース・ドラゴンフライによって産み落とされた卵の中で一つだけ生まれる生まれついてのメガヌロンの王

メガニューラの雄からエネルギーの供給を受けて成長、巨大化して誕生する

自分たちの種族の繁栄の邪魔となる存在を片っ端から排除する本能のみに従って行動する

武器は巨大なはさみと衝撃波、超高周波、尾部の針

尾部の針は突き刺した相手からエネルギーを吸い取る能力を持つ

 

 

《捕捉》

ゴジラVSメガギラスに登場するメガヌロン

空の大怪獣ラドンからのグロメーカーとしても有名

下水道に潜んで敵を狙うため、アサシンの適正があると判断した

他にも、水族館でこっそりと魚を食べたデストロイアや、水中生息時に暗躍したヘドラ、ゴジラアイランドでは殺し屋をしていたガイガンなどの選択肢があったが、ガイガンはセイバーで使ってしまったし、師である時臣よりも弱いサーヴァントにしなければならなかったのでコイツとなった。

まさかの、宝具に使役される本体という本末転倒なオチだが、仕方がない。

 

 

 

 

 

クラス:バーサーカー

 

マスター:間桐雁夜

 

真名:ゴジラ

 

性別:不明

 

身長:60m/体重:30000t

 

属性:混沌・狂

 

 

パラメーター

 

筋力:Ex

耐久:Ex

敏捷:D

魔力:A+

幸運:D

宝具:Ex

 

 

クラス別能力

 

狂化:B

 

パラメーターをランクアップさせるが、理性の大半を奪われる

 

 

保有スキル

 

怪力:A

 

魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性で、使用する事で筋力を一定時間ワンランク向上させる

 

 

魔力放出(放射線):A

 

自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させるスキル

ゴジラの場合、放射熱戦を体内に逆流させ、背びれから一気に放射することができる

このスキルの影響で、ゴジラは常に一定量の放射線をその身から放ち続けている

 

 

戦闘続行:A+

 

瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる

心臓のみであっても生存可能というしぶとさ

 

 

千里眼:C

 

視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上

音速で飛行する数キロ先の戦闘機を撃墜可能

 

 

 

宝具

 

怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)

 

ランク:A++

種別:対城宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:1000人

 

放射能を含む高温の熱線で、着弾した標的を悉く爆発させる

パワー最大時には渦巻状のスパイラル熱線を吐くことも可能

また、敵の光線などを吸収し、吸収したエネルギーを混ぜて熱線を強化して放つこともできる

発射前には背びれが発光するのだが、背びれの発光から放射までには平均1.26秒かかり、背後の左右45度、上下81度が熱線の死角になっている

 

 

不滅のゴジラ細胞(イモータル・セル)

 

ランク:A

種別:対人(自身)宝具

レンジ:0

最大捕捉:1人

 

ゴジラの全身を構成する細胞であり、不死に限りなく近い生命力の源

高い自己再生能力と、核エネルギーを摂取する能力ももつ

ゴジラ以外には制御不可能

 

 

赤竜葬送曲・炉心融解(メルトダウン)

 

ランク:Ex

種別:特攻宝具

レンジ:???

最大捕捉:???人

 

原子炉と同じ役割を果たしているゴジラの心臓部で核分裂が異常に活性化し、制御不能になる

背びれや胸を中心に紅く発光し、この時『怨嗟咆哮:放射熱線アトミック・ブレス』のランクはExランクに上昇し、パラメーターも全てワンランク上昇する。

この宝具を発動すると、最低でも5ターンでゴジラは核爆発を起こし、大気圏に火がつき地球を焔に包みながら消滅する

この宝具を発動したゴジラに攻撃することは火薬庫に花火をぶつける行為に等しく、攻撃は核爆発を早めることになる

核分裂を制御することは可能であるが、その場合でもゴジラの体温の上昇は止められないため、3ターン以内にゴジラの原子炉である心臓部が溶け出し、放射能を撒き散らしながら、周りのものを溶かし、水素爆発で地球に穴を開けてしまう

 

 

《捕捉》

 日本が世界に誇る最強の怪獣王。

 見た目はGMKゴジであるが、それだけだと宝具欄が寂しいのでVSシリーズのゴジラの能力も追加した。ご都合主義であることは承知の上。

 悪意の塊なので、ものすごい狡賢いからさらに性質が悪い。

 因みに、大東亜戦争で命を散らしたアメリカ人、日本人、その他のアジアの人々などの数知れぬ人間たちの強烈な残留思念、謂わば怨霊の集合体であるため、歴史の流れの中で戦争を忘れてしまった日本に自分たちの無念を思い出させるべく日本の街を狙う。

 マスターを失った場合、サーヴァント『ゴジラ』という軛からゴジラを構成する数知れぬ怨霊たちが解き放たれて変質し、周囲の者を内的世界に取り込む。取り込まれた者には自分たちが味わったヒトの本質である狂気の権化である戦争の「地獄」を見せる。

 数百万以上の怨霊、それも非キリスト教徒が過半であるため、聖言でも浄化は極めて難しい。おそらく、サーヴァントという軛から解き放たれた怨霊を全て浄化するにはExランクの洗礼詠唱スキルを持つサーヴァントが3体は必要と思われる。

 下手に追い詰めれば核爆発か数百万の怨霊の解放と物凄く物騒なサーヴァント。こいつが聖杯にくべられたら聖杯が変質する可能性もある。

 

 

 

 

 

クラス:ルーラー

 

マスター:―

 

真名:ウルトラセブン

 

性別:男性

 

身長:40m/体重:35000t

 

 

属性:秩序・善

 

 

パラメーター

 

筋力:A

耐久:A

敏捷:A+

魔力:B

幸運:A

宝具:A+

 

 

クラス別能力

 

対魔力:A

 

Aランクの魔術すら無効化

事実上、現代の魔術師では傷一つ付けられない

令呪による命令すら一画だけなら一時的に抵抗出来る

 

 

真名看破:B

 

ルーラーとして召喚されることで、直接遭遇した全てのサーヴァントの真名及びステータス情報が自動的に明かされる。

ただし、隠蔽能力を持つサーヴァントに対しては幸運判定が必要となる

 

 

神明裁決:B

 

ルーラーとしての最高特権

聖杯戦争に参加した全サーヴァントに対し、令呪を行使できるはずだった

しかし、無理にルーラーというクラスを聖杯戦争にねじ込んだため、各サーヴァントに公使できる令呪は一角ずつのみ

令呪を14画つくるだけの余剰魔力が大聖杯にもなかったためでもある

 

 

保有スキル

 

宇宙警備隊:A+

 

地球を守る時、一時的に防御力を上昇させる

地球を愛し、過労死寸前まで地球を守り続けたウルトラセブンは常に地球の守護者であると期待される

そしてその期待が、彼に無限の守護の力を与える

 

 

心眼(真):A

 

修行・鍛錬によって培った洞察力

窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”

 

 

戦闘続行:A

 

決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘を可能にする

かつて過労死寸前でありながらも宇宙人の侵略から地球を護るために闘い続けたことが由縁のスキル

 

ウルトラ念力:A

 

ウルトラ一族が使える超能力で、任意の対象を手を触れずに動かすことができる

武器であるアイスラッガーを自由自在に操作したり、敵を投げ飛ばしたりと細かい操作も可能

セブンはウルトラ一族で一二を争うほどの達人

 

 

宝具

 

侵略者切り裂きし正義の刃(アイスラッガー)

 

ランク:B+

種別:対人宝具

レンジ:1~50

最大捕捉:1

 

ウルトラセブンの頭部に装着された宇宙ブーメラン

白熱化させたり、回転して敵を切り裂き、その後ブーメランのように反転しながら頭部に戻すことも可能

エネルギーが不足しているときには手持ちのナイフとしても使用可能

諸星弾の状態では使えない

 

 

光解き放ちし真紅の眼鏡(ウルトラアイ)

 

ランク:C

種別:対人(自身)宝具)

レンジ―

 

諸星弾の姿から、ウルトラセブンの姿に変身する際に使用する変身アイテム

これがないとウルトラセブンの姿に戻れなくなる

 

 

闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)

 

ランク:A++

種別:対軍宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:1000人

 

ウルトラセブンの時のみ使用可能な光線技

ポーズを取ることでセブンの頭部にあるビームランプから光線を発射することができる

 

 

使役されし大怪獣(カプセル・モンスターズ)

 

ランク:C

種別:対軍宝具

レンジ:2~50

最大捕捉:100人

 

3体のカプセル怪獣を召喚する

これは、諸星弾の状態でも使用可能

 

勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)

バッファロー星出身のカプセル怪獣で、牛のような姿をしている

主な武器は怪力で、3体のカプセル怪獣の中で最もタフ

口から熱線も吐けるらしい

 

心優しき金属の戦士(ウィンダム)

メタル星出身のカプセル怪獣で、全身が金属でできたロボットのような姿をしている

主な武器は額から発射する光線と怪力

 

忠実なる俊足の戦士(アギラ)

アニマル星出身のカプセル怪獣で、角の多いトリケラトプスのような姿をしている

動きは3体の中で最も俊敏で、頭もいい



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そりゃあ、あんなの呼び出したらこうなるよ

元々は、今年のエイプリルフール用にはネタを3つ用意していました


シティーハンターとゴルゴ、Fateをクロスさせた『Good Bye My April Fool』

冴羽獠に育てられたスケベな一夏をIS学園に入学させるシティーハンターとISのクロス、『もっこり一夏』

二次創作上でもかつてみないほどに冬木市にやさしくない聖杯戦争『やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!』

この3つの中で、一番書きやすそうという理由と、資料として見直したシティーハンターの面白さに惹かれてという理由で、『Good Bye My April Fool』をエイプリルフール短編として執筆しました。

しかし、『もっこり一夏』はもっこりばっかりしている一夏を書くのが難しく、プロローグで断念しましたが、実は『やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!』は各サーヴァントの設定をして序盤まで執筆していたんです。

『やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!』のお蔵入りは惜しいなぁということで、とりあえず投稿してみたいと思いました。

まずはプロローグです。いきなりクライマックスシーンとなります。何故こんなことになったのかは、次回から少しずつ明かされていく予定です。


 冬木市は、山と海に囲まれた自然豊かな地方都市だった。

 都市の中央を流れる未遠川を挟んで東側は新都と呼ばれ、近年発展が進み冬木ハイアットホテルやセンタービルなどが立ち並ぶビル街もあった。また、多目的ホールである冬木市民会館も完成を目前に控えていた。

 未遠川を挟んで東側は深山町と呼ばれる古くからの町並みを残す区画で、昔ながらの商店街、マウント深山や、趣のある大邸宅がいくつか存在した。そして、未遠川には深山町と新都を繋ぐ片側二車線の冬木大橋がかかっていた。

 そう、冬木市はごくごくありふれた、地方都市()()()のだ。

 

 しかし、冬木市が日本中に存在する極ありふれた地方都市(60年周期で色々発生した謎の怪事件などはおいといて)だったのはほんの数日前までの話。今の冬木市は、かつての景観の欠片もない地獄とかしていた。

 新都に立ち並んでいたビル群は跡形もなく、粉々に砕け散ったコンクリート片で新都そのものが舗装されているように見える。さらに、そのコンクリート片に覆い重なるように火の海が広がっている。

 激しく燃え盛る焔は、煌々としてかつての繁栄の残滓を照らす。そして同時に、その焔の海に取り残された人々をその生死に関係なく等しく火葬していく。

 

 惨状が広がっているのは新都だけではない。未遠川を挟んだ反対側、深山町にもまた地獄のような景色が広がっていた。

 新都の惨状を火の海と表現するのであれば、こちらは死の世界と表現するのが正しいだろう。昔ながらの街並み、言い換えれば木造建築が多いこの地区では、新都に比ではないほど激しい焔が猛威を振るっていた。

 巨大な火柱が立ち上り、地表が見えないほどに煌々とした光で覆い、空は黒煙が町全体を雲のように覆っていた。これだけでも、深山が地獄のように見えてもおかしくはない。そして、街のいたるところに負傷者の姿があった。

 だが、その負傷者の姿は尋常なものではない。

 焼けただれ、まるで薄布のように剥がれた皮膚をふんどしのように引き摺っているおぞましい姿をした人間がいる。身体中にガラスの破片が突き刺さり、血を噴出しながら、ただ逃げ道を探そうと必至に前を探る人間がいる。

 彼らはまるで亡霊のように闊歩して、口々に「水をくれ」「水……水……」と水を求めているのだ。街の所々で見かける人影は、大概が彼らのような人にあらざる姿をしたものか、真っ黒に焼けた人だったものだ。その中に、五体満足で傷もない人間は誰一人としていなかった。

 目に見える風景だけを見ても、この世の地獄としか言いようのないものであったが、この地獄には目に見えぬ恐怖もまた存在していた。この地には、目に見えない死神も憑り付いているのだ。

 その見えざる死神の大鎌の正体は火災による熱傷でも、一酸化炭素中毒でもない。許容量を超えた放射線を短時間で浴びたことによる被爆だった。

 そう、見た目からしてこの世の地獄にしか見えないこの深山町だが、この地はさらに膨大な量の放射線を浴びた被爆地でもあったのだ。今、この冬木の地に半世紀近く前の広島、長崎と同じ光景が広がっていた。

 

 

 その地獄の中心、深山町の中心地には、周囲の地獄のような惨状を生んだ禍々しい巨大なキノコ雲ではなく、神々しいと感じるほどにきれいな光の円柱が立ち上っている。光の柱の根元には水蒸気が吹き上がっており、細かな水の粒が光を反射して煌いているうようにも見える。

 それは、まるで天使が降りてくるかのような、または聖人が天に迎えられるような、そんな荘厳ささえ感じさせる美しい光景だった。

 しかし、その光はそんな見た目のような聖なる光ではない。その光が発しているものは、周囲の計器の針が振り切れるほどの膨大な量の放射線なのだ。その放射線量は、広島や長崎で観測された放射線量とは比べ物にならないレベルである。

 

 

 

 そんな地獄と天国の入り交ざった光景を、破壊を幸運にも免れた冬木市郊外にある丘の上から眺める一人の男がいた。ボロボロになったコートに身を包み、男はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。何故ならば、このどこにでもいそうな冴えない30歳ほどの男こそが、この地に地獄を作り出した張本人の一人であったからだ。

 男は虚ろな目で、ただ自分の無力さ、愚かさに打ちひしがれてそこで絶望していた。

「バーサーカーが、冬木を死の街にして融けてゆく……」

 そう呟いたのは、血と泥に塗れたカソックに身を包んだ若い神父だった。彼は気づいているだろうか。

 この地獄を、惨状を見つめる自分の顔が、生まれて初めての心からの『笑み』を浮かべているということに。彼が28年の人生で常に心の奥底で期待し、望み続けていた風景が目の前の光景であったということに。

 自身の隣で絶望に打ちひしがれる『宿敵』と認めた男に対する興味を失った神父は、ただ目の前の光景に見惚れていたのである。

 そして、笑みを浮かべる神父の隣で惨状となった冬木から目を逸らすことができないでいる背の低いアングロサクソンの少年がポツリと呟いた。

「これが僕たちの償いなのか……」

「償い……?」

 絶望に打ちひしがれていた男が、少年の言葉に反応して、問いかける。

「魔術を、英霊を弄んだ、僕達魔術師の……」

 その言葉を聞いて、男は膝を屈した。

「ふざけるな……」

 その虚ろな瞳から涙を零し、男は心からの思いを吐き出した。

 これが償いであるのか。自分たち、魔術師の勝手な都合で巻き込んだ命を代償にすることが、魔術師の罪を清算することなのか。これを見届けることが、この光景を作りだした自分たちに課せられた罰であるというのか。

 そんなふざけたことが、容認されていいのか。

「ふざけるな!!……馬鹿野郎!!」

 

 死の街となった冬木市をその両目に焼付けながら、男は慟哭した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の聖杯戦争におけるマスターとサーヴァント一覧

説明とタグで察してください

 

 

セイバー:古代文明をを滅ぼしかけたサイボーグ怪獣

マスター:衛宮切嗣

 

アーチャー:空から恐怖の大魔王が降りてくる

マスター:遠坂時臣

 

ランサー:あの子も仲間をガメラに殺されたのよ

マスター:ケイネス・エルメロイ・アーチボルト

 

ライダー:南海の孤島に住み、人と守護神の橋渡しをする妖精

マスター:ウェイバー・ベルベット

 

アサシン:地球最大の死闘(デスバトル)

マスター:言峰綺礼

 

キャスター:破壊神降臨

マスター:雨生龍之介

 

バーサーカー:水爆実験はついに、太平洋に眠る大怪獣の怒りをかった!!

マスター:間桐雁夜

 

 

ルーラー:こいつは……地球人より……地球の事が好きな……大バカ野朗だ!

 

 

 

……この物語は、冬木どころか日本があぶねぇよっていう聖杯戦争です




目指すは、二次界隈でもかつてないほどに冬木市にやさしくない聖杯戦争
焼け野原+放射能汚染で冬木市は二万五千年の荒野と化しました。

え?こいつら聖杯戦争で呼べねぇだろって突っ込みはカンベンして下さい。
筆者もそのことは分かっています。
そこだけは目を瞑っていただけると助かります。
あくまで、ネタ作品として見てください。





P.S.
穢れた聖杯も、種ZIPANGUも捨てたわけではありません。
この作品は、4月までに書き溜めていた没ネタに手を少し加えているだけで、穢れた聖杯などをほっぽらかして新作を書いているわけではないということをご了承下さい。

忙しく最新話を書く余裕が中々ありませんが、5月くらいには、種ZIPANGUの方が更新できると思います。


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勝てばよかろうなのだぁ!!

今回から、召喚されたサーヴァントとその経緯が少しずつ明らかになっていきます


 数百年前から氷に閉ざされ続け、その姿を変わらず残す古城にアインツベルンという魔術の名門が存在する。

 彼らはかつて聖杯を求める儀式に2度失敗し、3度目の正直を成し遂げるために外部から戦闘に慣れた魔術師を招聘することで確実に聖杯を奪取することを決断して一人のフリーランスの魔術師を招きいれた。彼らが矜持を曲げてまでして招きいれた男の名前は、衛宮切嗣。魔術師殺しの異名を持つハンターだ。

 九年前にアインツベルンに招聘された彼は、ついに彼を招聘した目的である聖杯戦争を目前に控え、アインツベルンの歴史を讃える装飾の施された礼拝堂にいた。

 

「かねてからホッカイドウ沖で引き揚げを手配させていた聖遺物が今朝、ようやく届いた」

 200年の間『聖杯』を一心不乱に求め続けたアインツベルンの当主、アハト翁は一歩横にその身をずらし、自身の身体で隠されていた祭壇が切嗣の視界に入るようにした。その祭壇には岩塊のようなものが祀られている。

「この品を媒介とすればおよそ考え得る限り最強のサーヴァントが招来されよう。そなたの魔力量では到底扱いきれぬだろうが、魔力はこの城のホムンクルスから供給するために問題はない。切嗣よ。そなたに対するアインツベルンの、これは最大の援助と思うがよい」

「当主殿、ご配慮痛み入ります」

 切嗣は心にもない台詞を吐きながら、老人の前で深く頭を下げた。

 彼には自身を招きいれたアインツベルンに対する愛着や恩義などというものは全くない。彼にとってアインツベルンという家は、あくまで彼自身が聖杯を得るための手段でしかなかったからである。

 内心では、切嗣の本当の目的も知らず、切嗣の望みを叶えるためにわざわざ聖杯戦争に勝利するお膳立てを整えてくれたアインツベルンの愚かさを彼は嘲笑していた。

 

 

「これ……一体なんなの?」

 衛宮切嗣の妻、アイリスフィール・フォン・アインツベルンは自室の机の上に置かれた岩塊を訝しげに見つめていた。

「まぁ、見ただけではなんだか分からないだろうね」

 切嗣が苦笑するのも無理はない。

 それは大人が一抱えできるほどの大きさで、ところどころに細かな凹凸があり、緑色の藻のようなものがこびりついていた汚い岩にしか見えないものだった。よく見ると、岩塊の端には鈍い光沢を放つ金属が顔を見せていることが分かる。

 そう、岩塊に見えたこの物体の正体は、なんらかの金属なのだ。どれだけの歳月を経たのかは分からないが、その表面はおびただしいかずのフジツボや藻などに覆われ、見た目は藻が生えた岩塊にしか見えなくなっている。

「こいつは、日本の北海道ってところの深海で発見された巨大な木乃伊の一部だ。アハト翁はこいつをサーヴァントにするためだけに強引に引き揚げてくれたらしい」

「木乃伊……?」

「アハト翁曰く、この木乃伊は一万二千年前の怪物のものらしい。その怪物をサーヴァントに、それも最優の『剣士(セイバー)』のクラスで召喚すれば、勝利は間違いないって考えているみたいだね」

 アハト翁が、そんな神話にも記されていない時代のことをどうやって知ったのかも彼はあまり気にしていなかった。ただ、アインツベルンが化け物のようなサーヴァントを召喚することはこれが初めてではないらしい。

 アインツベルンの書庫にあった前回の第三次聖杯戦争の記録を見ると、この時もアインツベルンは超級のサーヴァントを召喚した事実が記されていた。その真名が『根源的破滅招来体』などという聞いたこともない存在だったことには首を傾げたが、どうやらこの『根源的破滅招来体』というのは所謂怪獣と呼ばれるカテゴリーに属する存在らしい。

 ゴルゴンの怪物を討ち取ったペルセウスや、悪竜(ファヴニール)を討伐したジークフリートなど、怪物退治をした英霊の逸話は古今東西ことかかないため、怪物を召喚しても英霊には相性が悪いのではないかと思ったが、前回の聖杯戦争で『根源的破滅招来体』とやらが5体のサーヴァントを屠っているということは事実らしい。

 実績があるのであれば、別に怪物を召喚することも悪くはない。それに、ヒュドラやゴルゴンの怪物のような単純明快な倒し方のない強力な怪物であれば話は別であるが。

 そして実は、切嗣自身もその木乃伊がどんな怪物なのかは詳しく知らない。

 アハト翁曰く、前回の聖杯戦争時に召喚した根源的破滅招来体の触媒は失われてしまったため、今回はそれの代替となる怪獣の触媒を用意したとのことだ。

 その他に知らされているのは、その怪物が如何なる戦闘能力を持っているかということだけだ。まぁ、切嗣からしてみればそれだけ知っていれば十分なのだが。

 どうせまともな英霊を召喚したとしても、その英霊の本質と伝承の姿が一致するとは限らない。ならば、事前知識はそのサーヴァントの戦闘能力と弱点ぐらいが分かってればいいと彼は割り切っていた。後は、サーヴァントを召喚してから臨機応変に戦略を変えればいいというのが彼の考えだった。

「確かに、太古の、神秘の濃かった時代ほど英霊は強いと言われているけど、人類史の記録にも残っていない英霊なんて召喚しても知名度補正はゼロよ。そんなサーヴァントで大丈夫なの?」

 一万二千年前といえば、人類が農耕をはじめていたかさえも定かではない時代だ。アメリカ大陸に人類が移住をし始めた頃であり、人類の文明の「ぶ」の字もない。どこぞの機械天使でいえば、翅犬が主の妻と鯨たちの声の遠い残響を二人で聞いたぐらい前である。

 アイリスフィールはアハト翁が何故よりにもよって古いだけがとりえのような英霊を選んだのか、理解できないようだ。

「僕も最初は同じことを思ったよ。でもね、聖杯戦争はバトルロイヤルなんだ。僕は最初から正面からサーヴァントを戦わせるつもりはないし、いくら強いサーヴァントだからって僕と馬が合わない騎士道精神を掲げるような絵に描いたような英霊様を呼ぶなんて御免だ。僕の言うとおりに忠実に働くことができて、効率良く敵を仕留められるのであれば、僕はサーヴァントの素性も問わないつもりだよ」

「……貴方らしいわね。それでこそ、アインツベルンが勝利のために招いた魔術師、そして私が唯一聖杯を捧げる、私の夫」

 妻の微笑みに、切嗣の表情が僅かに和らいだ。

 

 切嗣も、アイリスフィールも、アハト翁も知らない。自分たちが必勝を期して呼び出すはずの怪物が、実は今回の聖杯戦争においては中堅の実力しか持たないということを。

 

 

 

 

 

 冬木市新都の目玉として注目を集めている冬木ハイアットホテル。その最上階では聖杯戦争のシステムを看破することで一足先にサーヴァントの召喚を終えた男が仏頂面を浮かべていた。

 聖杯戦争のシステムに手を出し、一足先にサーヴァントを入手し、魔力供給を婚約者と分担するシステムを構築したことで聖杯戦争の参加者の中で最もリードしているはずだが、その男の胸中は穏やかではない。

 その原因は、彼の婚約者、ソラウ・ヌァザリ・ソフィアリが抱いている彼のサーヴァントにあった。

「キューキュー」

「いい子ね、イリス……そう。いっぱい食べるのよ~」

 缶詰に触手を突き刺し、中のものを吸い出すように食べているサーヴァントに彼の婚約者はベッタリだった。いつのまにやら、イリスなどという名前をつけている始末だ。

「忌々しい……あの触媒さえあれば今頃私はこんな弱いカタツムリモドキではなく、真の地球の守護神獣をサーヴァントにできていたものを……」

 本来、彼は南洋の孤島の石版を媒介に、守護神獣か、その巫女をサーヴァントとして召喚する予定であった。しかし、それは何者かによって時計塔に配達された直後に盗難の憂き目に会ってしまったために失われてしまった。

 そこで、彼は予備の触媒として準備していた高松塚古墳の盗掘によって失われた朱雀の壁画の欠片を触媒に、四聖獣が一体である朱雀を召喚することにした。しかし、朱雀を召喚するはずが、召喚されたのはカタツムリのような弱小サーヴァントだった。

 それも、ステータスも低くまともな戦闘能力もないサーヴァントだ。ケイネスはこのサーヴァントに対し、召喚時からずっと苛立ちを覚えていた。

「それで、代わりに召喚したのがあんな役立たずとは……」

 不愉快そうに婚約者と戯れているサーヴァントをにらみつけると、サーヴァントは震えながら婚約者の影に隠れる。

「やめてよケイネス!!怯えるから!!」

 その様子を見ていたソラウが、ケイネスを睨み返す。婚約者から向けられる眼光に耐えられず思わずケイネスは怯んでしまう。

「し、しかしだな、ソラウ。ランサーがその」

「ランサーではないわ、イリス。この子の名前はイリスよ」

「……その、イリスがこの体たらくでは、私がこれまでに準備を重ねた聖杯戦争が無駄になってしまう。私が武功を求めてこの聖杯戦争に参加した以上、サーヴァントにもそれ相応の戦働きをしてもらわねばならない」

 いくら惚れた弱みでソラウにはあまり強気に出れないとはいえ、ケイネスとてこの戦争に遊び感覚で参加したわけではない。言うべきことはきちんと言わねばならないという自覚は彼にもあった。

 しかし、彼の言葉は最愛の婚約者には全く届いていないらしい。ソラウはイリスに頬ずりしながら、子供のような無邪気な笑みを浮かべながら答えた。

「大丈夫よ、この子は私が育てるから」

 ソラウのこの愛らしい笑顔が、他の男、それもサーヴァントに向けられていたならば、おそらくケイネスは怒り心頭に発していたに違いない。その男がイケメンで魅惑の呪い持ちの騎士なんて輩であれば、自害を命じていたかもしれない。

 そうならなかったのは、彼女の愛らしい笑顔が向けられているのは、傍目からは新種の深海生物にも見えなくもない自身の弱小サーヴァントだからであろう。

 結局、ケイネスはサーヴァントを愛でる婚約者にそれ以上何もいうことができず、逃げるように彼女の前を後にした。

 

「この子は私が育てるわ……育てて……仇をとってもらうの」

 

 いるはずもない「仇」自分のイリスは「同じ」「仲間」……そんな意味不明な単語をソラウは呟いていた。しかし、ケイネスはソラウがペットへの愛情で少しおかしくなっていると考えているために、ソラウの言動が少しおかしくなっていることに気がついていなかった。

 そして、ソラウがイリスと戯れているときいつも黒い勾玉を手にしていることも……その勾玉が、ソラウがイリスと呼ぶサーヴァントの宝具であることにも、まだ彼は気がついていなかった。

 

 

 

 

《サーヴァントステータスが更新されました》

 

 

クラス:ランサー

 

マスター:ケイネス・エルメロイ・アーチボルト

 

真名:柳星張(イリス)

 

性別:不明

 

身長:49.5m/体重:20000t

 

属性:混沌・悪

 

 

パラメーター

 

筋力:C

耐久:B

敏捷:A

魔力:B

幸運:C

宝具:A

 

 

クラス別能力

 

対魔力:C

 

第二節以下の詠唱による魔術を無効化する

大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない

 

 

保有スキル

 

進化:A

 

他生物の遺伝子情報を得ることで自らの染色体をも変化させる

それによって体型、戦闘能力を変化させることができる

新たなる宝具を獲得することもある

 

 

神性:E-

 

南の守護神である朱雀とみなされていたことがあるために神霊特性を持つが、殆ど退化してしまっている

 

 

 

宝具

 

宙裂く音の刃(ソニックウェーブ・メス)

 

ランク:A

種別:対人宝具

レンジ:1~50

最大捕捉:2人

 

ギャオスの武器の代名詞である超音波メス

ギャオスの変異体であるイリスでも使用可能

2本の触手の先端から同時に別々の目標をこうげきすることも可能

 

 

突き穿つ憎悪の触手(テンタクラーロッド)

 

ランク:B

種別:対人宝具

レンジ:2~4

最大捕捉:4人

 

イリスの身体から生える4本の触手

一本一本が槍であり、変幻自在に曲がるために独特な機動で相手を突き刺すことができる

 

 

憎悪繋ぎし黒の勾玉(ヘイトレッド・ネクサス)

 

ランク:E~A

種別:対人(自身)宝具

レンジ:-

最大捕捉:1人

 

イリスと人間との精神系統の同調を可能とする勾玉

勾玉の所有者との結びつきが強くなればなるほどにイリスのステータスが向上し、進化も促進される

同調レベルに応じて宝具のランクが上がり、効果も高まる

精神同調レベルが最高に達したときに勾玉の所有者を勾玉ごと体内に取り込むことで、全てのステータスを2段階アップさせることが可能

 

 

《捕捉》

ガメラ3に登場するイリス

ただし、他のサーヴァントとのサイズの兼ね合いで1/2にスケールダウンした

一方、体重も他サーヴァントとの兼ね合いで身長99mで200tだったのが、半分の身長で20000tになった

まぁ、調整が入ったってことで見逃してください




冬木市を舞台に怪獣大戦争
冬木市とか聖堂教会とかにぜんぜんやさしくない聖杯戦争

ってコンセプトなもんですから、大惨事の臭いがプンプンします

ネタとして書き溜めていたので、内容が薄いのにはご容赦を




次回は、この聖杯戦争における良心が登場する予定です。

予定では、一話で一体のサーヴァントのステータスを載せて、全部のサーヴァントを紹介して終わる予定です。


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過労死の予感

考えてみると、二次界隈でも冬木が原爆の爆心地レベルの被害を受ける作品はそうないですね

更地になるようなSSはありますが、それに加えて重度の放射能汚染が起こって人が住めなくなるようなものはありませんし


 聖杯戦争の舞台となる日本の冬木、深山町の高台に聳える遠坂邸の地下に遠坂時臣はいた。彼は邸宅の地下に作られた工房の中で、弟子であり協力者である言峰綺礼と共に聖杯戦争の準備を着々と進めている。

「私の手配していた聖遺物が、今朝ようやく届いたよ」

 地下に降りてきた綺礼を出迎え、時臣は笑みを浮かべながら言った。

「それは……しかし、随分と時間がかかりましたね」

「そうだな。だが、時間と手間に見合うだけの品が用意できた」

 時臣はテーブルの上に包みを広げる。包みの中から出てきたのは、何かの化石のように見える。

「アインツベルンが前回に引き続き、今回は一万と二千年前の化け物をこの聖杯戦争に担ぎ出すと聞いたときにはどうなることかと思ったが、これでもう安心だ」

「それで、一体それはどのような英霊を呼ぶ触媒なのでしょうか?」

 化石ということは、相当古い代物だ。現在のところ最古の神話とも言われているメソポタミア神話ですら、紀元前3000年あたりといった具合である。その頃の代物となるととても見た目だけでは如何なる謂れのある触媒かは分からない。

「これは一億と三千万年程前……白亜紀後期にこの地球に存在したある生物の鱗の化石だよ」

 綺礼の問いに対し、時臣は自信に満ちた表情を浮かべながら答えた。

 時臣の発した言葉に綺礼の鉄面皮も僅かに驚きで歪む。だが、時臣は彼の弟子の非常に珍しい『驚き』という感情のほんの僅かな発露には全く気がつかないらしく、得意げに話しを続けた。

「私の招くサーヴァントは、全ての敵サーヴァントに対して優位に立つだろう。当然、アインツベルンの召喚するあの怪物とて例外ではない。前回の聖杯戦争では、アインツベルンが召喚した化け物が猛威を振るったらしいが、今回は同じようにはいかない。如何なるサーヴァントであってもアレを相手にして勝ち目はなく、私の勝利は揺るがない」

 白亜紀後期といえば、人間など影も形もない時代だ。地表で恐竜が我が物で闊歩して我が世の春を謳歌している一方で、自分たちホモ・サピエンスの祖先である霊長類すらない原始的哺乳類がその影でコソコソと生きていたころに英霊など存在するのだろうか?

 綺礼の抱いた疑問も予測済みだったのだろう。綺礼がそれを問う前に時臣が答える。

「詳しくは、召喚して実際に見せた方が早いだろうが……一つだけ、君にも教えておこう。この触媒で召喚できる怪物は、かつて恐竜を滅ぼした桁違いの怪物だ」

 時臣の発した言葉に理解が追いつかずにいる綺礼を工房に残し、時臣は召喚の準備に取り掛かるべく奥の部屋に向かった。

 

 時臣は一つ勘違いをしている。彼は自分が呼び出すサーヴァントは、一億三千万年前が全盛期であり、恐竜を滅ぼしたころの姿で現界するだろうと考えていた。だが、実はそのサーヴァントの全盛期は一億三千万年前ではない。

 その英霊は、まだ死んでいない、いわば未来の英霊に値するものなのだ。そして、時臣はその身をもって思い知らされることとなる。その全盛期こそが現代のその英霊の姿であり、一億三千万年前ならばともかく、その全盛期の英霊の力は時臣に、いや、人類に御せるようなものではないということを。

 

 

 

 

「ギリギリ間に合ったではないか……」

 間桐邸、ここ数ヶ月男の呻き声や叫び声が耐えなかった一室に、男のものではないしわがれた声が響く。

「聖杯に選ばれたということは、貴様もそれなりの術師として認められたということだ……ひとまずは褒めてとらすぞ、雁夜よ……じゃがな」

 力なく横たわる雁夜の横に、声の主である老人がゆっくりと近寄る。その顔には、嘲りの表情が浮かんでいる。

「無様な姿よのぉ。ホレ、左足はまだ動くのか?」

 老人は手に持った杖を雁夜の左足に突き刺し、痛みに悶え苦しむ雁夜の姿を見て顔を歪める。

「カカカ……無様ではあるが、貴様がここまで耐え抜いたことは事実。ワシも、父の夢のために己が身を削る孝行息子を見て感動してのぉ……ワシもそんな孝行息子に報いるために、貴様に相応しい聖遺物を褒美として用意しておいたわ」

「……一体どこの英霊を呼ぶつもりだ」

 息を荒げながら、雁夜が老人――間桐家の当主、間桐臓硯に問いかけた。

「貴様に相応しい英霊じゃ……貴様のように、魔力量が少ない弱小魔術師でも魔力の供給ができる最上級の英霊を呼び寄せる触媒を、態々ワシが東京湾まで出向いて調達してきたわ。今回の聖杯戦争では、アインツベルンがまた前回のようにとんでもない化け物をサーヴァントとして呼ぶつもりじゃろうから、対抗できる英霊を探すのに苦労したわい……父の親切を無にするでないぞ」

 東京湾、化け物、触媒……その3つの言葉にどこかひっかかりを覚えた雁夜であったが、朝方から刻印虫に蝕まれ続けた肉体は既に限界を超えていた。雁夜は部屋を後にする臓硯に声をかける気力も失い、死んでいるかのように静かに眠り始めた。

 

 雁夜はまだ気づかない。自分の呼び出す英霊が、冬木を滅ぼす大災悪であることを。

 

 

 

 冬木市の中心部を流れる未遠川、そこにかかる冬木大橋の傍に一台の軽トラックが停車し、助手席から壮年の男が降りた。

「や、ありがとう。助かったよ。」

 壮年の男は、ここまで自分を連れてきてくれた親切なドライバーに礼を言う。それに対し、ドライバーはにこやかに返事をする。

「良いってことよ、それより、アンタ本当にこの街でいいのかい?」

「ああ。いい仕事を斡旋してくれるって話なんでね」

 ドライバーは、男を心配しているのだろう。隣の県から男をわざわざここまで送り届けてくれた時点でお人よしであるが、降ろした後も男の心配をするあたり、彼はかなり人がいいらしい。

「聞いた話なんだがな、この街は、60年周期でおっそろしい出来事が起こるらしいんだ。前回は竜巻に局地的大地震、それで何百人も死んだって話だし、その前は百人近くが犠牲になった無差別殺人事件があったらしい。悪いことはいわねぇから、早いとここの街を離れた方がいいぜ」

「忠告はありがたく受け取っておくよ。しかし、仕事がない身だからな、背に腹は変えられない」

 この街を離れるつもりが男にはないことを悟ってか、ドライバーは諦めの表情を浮かべながら口を開いた。

「そうか……それじゃあ、仕方ないな。これでお別れだ。またいつか会おうぜ、……ええと」

 ここにきて、ドライバーの男はこのヒッチハイカーの名前をまだ聞いていなかったことを思い出した。ドライバーが言いよどんだ理由を察したヒッチハイカーは、笑みを浮かべながら名乗りをあげた。

「俺の名前は、諸星弾。ご覧の通り、無職の風来坊さ」

 

 霊長の抑止力が聖杯に干渉して裁定者(ルーラー)という形で使わした存在は、まだ知らない。

 この聖杯戦争は、人類史上稀に見る恐ろしい戦いになるということを。

 

 

クラス:ルーラー

 

マスター:―

 

真名:ウルトラセブン

 

性別:男性

 

身長:40m/体重:35000t

 

 

属性:秩序・善

 

 

パラメーター

 

筋力:A

耐久:A

敏捷:A+

魔力:B

幸運:A

宝具:A+

 

 

クラス別能力

 

対魔力:A

 

Aランクの魔術すら無効化

事実上、現代の魔術師では傷一つ付けられない

令呪による命令すら一画だけなら一時的に抵抗出来る

 

 

真名看破:B

 

ルーラーとして召喚されることで、直接遭遇した全てのサーヴァントの真名及びステータス情報が自動的に明かされる。

ただし、隠蔽能力を持つサーヴァントに対しては幸運判定が必要となる

 

 

神明裁決:B

 

ルーラーとしての最高特権

聖杯戦争に参加した全サーヴァントに対し、令呪を行使できるはずだった

しかし、無理にルーラーというクラスを聖杯戦争にねじ込んだため、各サーヴァントに公使できる令呪は一角ずつのみ

令呪を14画つくるだけの余剰魔力が大聖杯にもなかったためでもある

 

 

保有スキル

 

宇宙警備隊:A+

 

地球を守る時、一時的に防御力を上昇させる

地球を愛し、過労死寸前まで地球を守り続けたウルトラセブンは常に地球の守護者であると期待される

そしてその期待が、彼に無限の守護の力を与える

 

 

心眼(真):A

 

修行・鍛錬によって培った洞察力

窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”

 

 

戦闘続行:A

 

決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘を可能にする

かつて過労死寸前でありながらも宇宙人の侵略から地球を護るために闘い続けたことが由縁のスキル

 

ウルトラ念力:A

 

ウルトラ一族が使える超能力で、任意の対象を手を触れずに動かすことができる

武器であるアイスラッガーを自由自在に操作したり、敵を投げ飛ばしたりと細かい操作も可能

セブンはウルトラ一族で一二を争うほどの達人

 

 

宝具

 

侵略者切り裂きし正義の刃(アイスラッガー)

 

ランク:B+

種別:対人宝具

レンジ:1~50

最大捕捉:1

 

ウルトラセブンの頭部に装着された宇宙ブーメラン

白熱化させたり、回転して敵を切り裂き、その後ブーメランのように反転しながら頭部に戻すことも可能

エネルギーが不足しているときには手持ちのナイフとしても使用可能

諸星弾の状態では使えない

 

 

光解き放ちし真紅の眼鏡(ウルトラアイ)

 

ランク:C

種別:対人(自身)宝具)

レンジ―

 

諸星弾の姿から、ウルトラセブンの姿に変身する際に使用する変身アイテム

これがないとウルトラセブンの姿に戻れなくなる

 

 

闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)

 

ランク:A++

種別:対軍宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:1000人

 

ウルトラセブンの時のみ使用可能な光線技

ポーズを取ることでセブンの頭部にあるビームランプから光線を発射することができる

 

 

使役されし大怪獣(カプセル・モンスターズ)

 

ランク:C

種別:対軍宝具

レンジ:2~50

最大捕捉:100人

 

3体のカプセル怪獣を召喚する

これは、諸星弾の状態でも使用可能

 

勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)

バッファロー星出身のカプセル怪獣で、牛のような姿をしている

主な武器は怪力で、3体のカプセル怪獣の中で最もタフ

口から熱線も吐けるらしい

 

心優しき金属の戦士(ウィンダム)

メタル星出身のカプセル怪獣で、全身が金属でできたロボットのような姿をしている

主な武器は額から発射する光線と怪力

 

忠実なる俊足の戦士(アギラ)

アニマル星出身のカプセル怪獣で、角の多いトリケラトプスのような姿をしている

動きは3体の中で最も俊敏で、頭もいい




セブン死ぬとき!!冬木市は消滅する!!

次回は、この聖杯戦争においてセブンと並んで良心となるあのサーヴァントの登場です。

外の6体が酷すぎるので、セブンとあのサーヴァントだけでは手に負えないのですがね


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正義の味方が足りない!!

実は、ランサーに次いで二番目に早く召喚されたのはこの方々でした


 第四次聖杯戦争の参加者の一人、ウェイバー・ベルベットは円蔵山の山中に鶏の血で召喚陣を刻み、サーヴァント召喚の儀式を行っていた。

 彼が石を積み上げて造った簡易の祭壇の上には、自身の師であるケイネスから盗みだした3cm四方の小さな石版が祀られている。

 時計搭の資料倉庫に潜ってその石版の裏に記されている解読不明な文字の調査を1週間にわたって続けたウェイバーは、それが南洋の孤島、インファント島の古代文明で使用されていた文字だということを突き止めていた。

 その文字の解読までは時計搭の資料でも不可能であったが、ウェイバーは資料探しの最中にインファント島に伝わるある伝説の存在に辿りついた。それが、インファント島を守護する巨大蛾の存在である。

 そして、石版の表に刻まれている紋章が、その巨大蛾を象徴するものであることを突き止めた。この触媒は、インファント島の巨大蛾を召喚するための触媒だと判断したウェイバーは予想外の大当たりの触媒の存在に思わず舞い上がった。

 この大怪獣を使役して聖杯戦争で実力を示せば、あの忌々しいケイネスも、自身の考え方が間違っていたと認めざるを得ないだろう。魔術師は血筋ではなく創意工夫でその優劣が決まるのだと、苦虫を噛み潰したような表情で認めるケイネスの表情を想像して笑みを浮かべながら、ウェイバーは召喚の呪文を紡ぐ。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 召喚の呪文が完成すると同時に、ウェイバーは自身の肉体からありったけの魔力が吸い上げられる感覚を感じた。そして、ウェイバーから吸い上げられた魔力に呼応して召喚陣は光を増していく。召喚陣から弾ける風が周囲の塵を巻き上げ、光を反射してヴェールのように輝く。

 そして、光ははじけ、山中の一画を一際眩しい閃光が覆った。

「よし!!手ごたえあり!!さぁ、その姿を見せてみろ、僕のサーヴァント!!インファント島の守護神よ!!」

 閃光が収まったとき、ウェイバーは自身の召喚が成功したことを確信していた。手順にも抜かりはなく、召喚のための魔力も吸い上げられた。召喚陣もそれに呼応して正常に作動していた。これで失敗するはずがないと考えていたからである。

サーヴァントの召喚に成功すれば、全長数十メートルの巨大蛾が自身のサーヴァントとして現れるはずだ。

 しかし、目の前に存在しているはずの巨大蛾の姿はどこにも見えない。空を見上げ、その姿を探すが、空は雲ひとつない綺麗な月夜だ。全長数十メートルの巨大蛾の姿を見失うはずがない。

「何で?どうしてだ?まさか、召喚に不備が……」

 慌ててウェイバーは召喚陣を確認する。まさか、基礎中の基礎である陣の書き方にミスがあったとしたら間抜けどころの話ではない。しかし、召喚陣に不備は見られない。召喚の呪文を失敗しているとも考えられない。だとすれば、一体何が原因なのか。ウェイバーは頭を抱えて召喚の手順を見直す。

「召喚陣に不備はない……詠唱は完璧だった…………触媒、も、あのケイネスのやつだし……それにパスも繋がっているのを感じるし……ああ、もう!!一体何が問題だったんだぁ!?」

 その時、頭をかきむしるウェイバーの耳に凛とした声が響いた。

「サーヴァント、ライダー。召喚に従い参上しました。貴方が私のマスターですか?」

「え?」

 確かに、聞こえた。女性の声だ。しかし、周囲には人の姿は見えない。前も、後ろも、右も左も上も。人影などなかった。

「でかい図体しているクセに、随分と視野が狭いんだね、人間ってやつは」

 さらに、別の女の声が聞こえてくる。先ほどの女性の声よりも荒っぽい声だ。

「下を向いてください。ここです、ここ」

 ウェイバーはまさかと思いつつ。下を向く。そして、目の前の光景に驚愕した。

「やっと気がついたのか、鈍間だね、ガキ」

「ベルベラ。そんなこと言わない。この子が私たちのマスターなんだから」

「でも、ロラ……何か少し抜けてる気がするよ、この子」

 そこにいたのは3人の女性だった。しかし、ウェイバーが驚いた点は自身のサーヴァントが女性達であったことではない。彼女たちの身長にウェイバーは驚いたのだ。彼女達の身長は、目測だが10cmと少し。日ごろからチビだの小さいだのと揶揄されてきたウェイバーよりも彼女達ははるかに小さかったのである。

 そしてそれだけではない。サーヴァントを召喚したことでマスターとなったウェイバーの目には、サーヴァントのステータスというものが見えるようになる。しかし、彼が見たそのサーヴァントのステータスは凄まじく偏っていた。幸運、魔力、宝具を除いた全ての値が最底辺のE-だったのである。

 彼は召喚された小人とその規格外なほど貧弱なステータスという二重の衝撃で少しパニックになっていた。

「ちょ……ちょっとまて!?お前達は一体何なんだ!?」

「何なんだって……アンタが召喚したサーヴァントだよ。何か文句あんのかい?」

 先ほど別の女性にベルベラと呼ばれていた黒い服を身に纏った女性がウェイバーを睨みつける。その鋭い眼光に思わずウェイバーは怯んでしまう。

「ベルベラ。そんなカリカリしないで」

 ベルベラと呼ばれた女性を窘めて二人の女性が前に出る。

「始めまして、マスター。私たちはインファント島に住んでいたエリアス族の末裔です。私は三姉妹の次女、ロラと言います。こちらが長女のベルベラ」

「私は三女のモルといいます」

 どうやら、ロラとモルと名乗った二人の女性はベルベラという女性よりは話が通じるようだ。ベルベラにビビッていたウェイバーは少しほっとする。

「あ、いや……どうも…………じゃなくて!!その、わ、私はこの聖遺物を触媒にサーヴァントを召喚したはずだ!!この聖遺物は、巨大蛾の縁のものだったのにどうして君達が!?」

 そう言ってウェイバーは祭壇の上に祀っていた石版を回収し、彼女達に見せる。その石版を見た途端、長女のベルベラの表情が変わった。

「こいつは……なるほどね。だからアタシ達が呼び出されたってわけか」

 ベルベラは一人納得したような表情を浮かべ、ウェイバーに顔を向けた。

「この石版はエリアス族の記したものさ。だからアタシ達が呼ばれたってわけだ。分かったかい、ガキ」

 散々な言いようにムッときたウェイバーは、反論する。

「さっきからガキだの鈍間だのと言っているが、お前はどうなんだよ!!威張ってばかりだが、本当にサーヴァントとして戦えるのか?そんなステータスで!!」

 だが、ウェイバーの挑発にもベルベラはどこふく風といった様子だ。

「見る目がないね、人間は。アタシたちはあんたらが繁栄する前から高度な文明を気づいていた種族なんだよ。人間の尺度でアタシ達を測るな」

 そう吐き捨てると、ベルベラはウェイバーのリュックサックの上に腰掛ける。

「ホラ、人間。さっさとアタシを運びな!!このアタシを人間のために働かせようってんだ。だったらお前もそれ相応に働きな!!」

 その物凄く偉そうな態度にウェイバーは一瞬、誰がマスターか分からせてやろうかという衝動に駆られて右手の令呪に視線を落す。だが、彼はそれは首を振り、令呪の使用(それ)は短慮だと自身に言い聞かす。

「ごめんなさい、マスター。ベルベラは人間が大嫌いなんです」

「人間を、地球のガンだと思っているみたい」

 申し訳なさそうな表情で謝るロラとモルの姿を見て、ウェイバーは僅かに溜飲を下げる。

「いいよ。そういう気性なら仕方がない。だけど、一つだけ確認させてくれ。君達は本当に戦えるのか?」

 ウェイバーの質問に、ロラとモルは笑顔を浮かべて同時に答えた。

「「私達に戦闘能力はありませんが、私達にはモスラがついています。モスラは負けません」」

 

 その後、ウェイバーは自身の肩に座るロラとモルから話を聞き、自身の願っていた巨大蛾がサーヴァントではなく宝具であることを知った。そして、その宝具が使い物になるまで、つまりは後最低3日は敵サーヴァントと遭遇すれば打つ手がないという現実に頭を抱えることになる。

 

 

 

 

《サーヴァントのステータスが更新されました》

 

 

クラス:ライダー

 

マスター:ウェイバー・ベルベット

 

真名:ロラ/モル/ベルベラ

 

性別:女性

 

身長:12cm/体重:―g

 

 

属性:秩序・善

 

 

パラメーター

 

筋力:E-

耐久:E-

敏捷:E-

魔力:A

幸運:A+

宝具:Ex

 

 

クラス別能力

 

対魔力:C

 

第二節以下の詠唱による魔術を無効化する

大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない

 

 

騎乗:A

 

騎乗の才能

獣であるならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる

ただし、竜種は該当しない

彼女達の身長の関係で、実際に乗りこなせる獣はかなり限られる

 

 

保有スキル

 

動物会話:A

 

言葉を持たない動物との意思疎通が可能

動物側の頭が良くなる訳ではないので、あまり複雑なニュアンスは伝わらないはずなのだが、彼女達は彼らの感じたものを共感することでほぼ完全なコミュニケーションを行うことができる

 

 

心眼(偽):B

 

直感・第六感による危険回避

 

 

 

宝具

 

愛と知恵と勇気の三姉妹(エリアストライアングル)

 

ランク:A

種別:対人(自身)宝具

レンジ:―

 

エリアス3姉妹で一体のサーヴァントとして換算されて召喚されるため、ロラ・モル・ベルベラという3人のサーヴァントとして現界する

 

 

親の意志継ぐ次代の巨大蛾(モスラ)

大地の英知授かりし守護神獣(グリーン・モスラ)

命の水賜わりし守護神獣(レインボー・モスラ)

一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)

 

ランク:E~Ex

種別:対軍宝具

レンジ:2~150

最大捕捉:100人

 

エリアス三姉妹が呼び寄せるインファント島の守護神

ただし、エリアス三姉妹が召喚された直後は幼虫の状態でしか呼び寄せることができない

召喚から2日目で繭をつくり、3日で羽化、5日目にモスラがニライ・カナイの秘宝によって進化し、7日目に最終形態に進化する

日を追うごとにパラメーターが上昇し、7日目には強力無比な宝具となる

 

母の意志継ぐ次代の巨大蛾(モスラ)

ランク:E

モスラの幼虫を呼び出す

武器は虹色に輝く強粘性の糸と磁場を利用して腹部から放つエネルギーのみ

皮膚を構成するプリズム状の組織で光を調節して周囲の景色に擬態する能力を持つ

移動速度が遅く、それでいて巨大なために戦闘能力は極めて低い

繭をつくれば、Cランク以下の宝具は受け付けないぐらいには防御力が上昇する

 

大地の英知授かりし守護神獣(グリーン・モスラ)

ランク:B

モスラが一万年の大地の英知を授かり、羽化した姿

額から放つレーザーや鱗粉で形成したプリズムレンズによって超高熱の光を照射するなどの多彩な技を使用可能

分身を多数造り出すことが可能で、エリアス三姉妹は本体のモスラを召喚せずともこの分身のみを召喚することもできる

 

命の水賜わりし守護神獣(レインボー・モスラ)

ランク:A

モスラがニライ・カナイの秘宝「命の水」によって進化した姿

姿形はグリーンモスラとあまり変わらないが、瞳は緑から蒼になり、翼は緑を基調にした模様から蒼を多く含む虹色に変わった

水を盾にしたり、全身を発光させてビームを放つなどの技が使える

また、水中戦に適応した水中モード、過去へのタイムスリップができる光速モードへの変身ができるようになったために戦略の幅も広がっている

ただし、過去にタイムスリップした場合には現代に帰還することはできない

 

一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)

ランク:Ex

モスラが原始モスラ達の作った繭の中で一億三千万年も眠った末に復活し、進化した究極の姿

全身を鎧のような甲殻で覆っているため、防御力は非常に高くBランク以下の宝具の攻撃を一切受け付けない

全身をフラッシュエネルギーで覆って突撃すれば、Exランク相当の威力の体当たりになる

ビーム等の技も全て強化されており、Aランク相当の威力になっている

 

 

《捕捉》

平成モスラ三部作に登場した小美人、エリアス三姉妹

宝具としてモスラが召喚可能だが、彼女たちの素の能力は下の下どころではなく下下下の下

モスラが羽化する3日までは、大抵の魔術師ならば(ウェイバーには無理だが)一蹴できるほどの弱小さ




モスラがサーヴァントだと思った?
その裏をかいてサーヴァントはエリアス3姉妹でした!!

まぁ、乗り物がライダーのクラスにはなれないしね


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ヒロインの瞳が輝いて

すみませんね。
不定期にすると言って2週間で新話できました。
すストレス発散に2時間ほどパソコンと向き合ってたら書けてたんです。


書類提出のために夜更かしして、朝4時に起床。睡眠時間2時間半

そして、三時間かけて書類提出に電車で向かう。到着後、提出書類が足りないことに気づいて三時間かけて戻る。提出期限がまだ少しあったので、翌日提出することにする

今日、朝4時に起床。睡眠時間2時間。書類に記載する提出日時が変わったため、一部書類書き直し(手書き)していたため

書類提出。その後、実は昨日忘れた書類は別途で送ればよかったことが判明

さらに、その後、プライベートで凄まじいミス。

3時間かけて帰宅。

自分の愚かさ加減にフラストレーションがたまり、ストレス解消に二時間パソコンと向かい合う←今ここ


というわけで、色々とたまりに溜まったマイナスエネルギーから一本、二時間で書き上げられました。すごいね、マイナスエネルギーって。


全裸さんは
「過ちを気に病むことはない。ただ認めて次の糧にすればいい。それが大人の特権だ。」
って言ってるけど、救いようのないミスを二日連続でやってしまうと、さすがに気に病んでしまいます。というか、かなり気に病んでいます。


というわけで、やつあたりの一作。時間軸としては、正義の味方が足りない!!の翌日ですね。


 砂塵を巻き上げて迫るジープから、少年が必死になって逃げている。少年の顔には汗で髪の毛がへばりつき、イギリスからもってきた一張羅は土と汗と涙で汚れ、ボロボロになってしまっていた。

 

「ウェイバー!!逃げるな!!逃げるんじゃない!!」

「む、無茶言うな~!!」

 

 冬木市が作品化すれば全世界で興行収入100億に手が届きそうなお正月映画の舞台となる数日前のことだ。他のマスター達よりも一足早くサーヴァントを召喚して宝具の解放に必要な日数を稼いでいたはずのウェイバーは、冬木市郊外の山奥の採石場跡地にて迫ってくるジープに殺されかかっていた。割とマジで。

 

「男は外に出て戦わねばならん。何のためだ!!その後ろで女の子が優しく花を摘んでいられるようにしてやるためじゃないのか!? 男まで女の子と一緒になって家の中でままごとばかりしていたら、一体どうなる!!お前はあの三姉妹といっしょにこの戦争中ずっとおままごとでもするつもりか!?」

「ら、ライダーは女の子とかそういうこと以前にサーヴァントだ!!それに、元々魔術師はインドア派……」

 ウェイバーに最後まで言わせることなく、ジープ再来。すれ違い様に杖で背中を叩かれたウェイバーは地に伏せる。

「いいか、自分の命は自分で守らねばならん!!しかし、そのために多くの人間を犠牲にすることは許されん!!ウェイバー、お前は必ず勝たねばならんのだ!!」

 久しぶりにスイッチが入った弾は、ノリノリだった。

 

 

「あっはっは!!傑作だねぇ」

 ジープに追われて死に物狂いで逃げているウェイバーを見ながらライダーのサーヴァントであるエリアス三姉妹の長女、ベルベラは腹を抱えて笑っていた。マスターが真剣に生死の危機だというのに、マスターを案じている素振りはまったくない。

「ちょっと、ベルベラ!!笑ってる場合じゃないでしょ!!あのままじゃマスターが!!」

「愚図で鈍間で救いようのない阿呆だけど、あれだって魔術師だ。迫ってくる車ぐらいは自分で何とかするさ。そもそも、車程度で死ぬのならそもそもアタシらと一緒に戦う資格もないよ。戦闘能力が皆無なんだから、せめていざというときに逃げられるぐらいの逃げ足ぐらいないと話にならない」

 ベルベラはロラの意見を一蹴した。確かに、迫ってくる車すらどうにもできないマスターであっては、どのみち聖杯戦争を生き残るなんてことは夢のまた夢である。

「それにね。アタシらは明後日まで無力だ。他のサーヴァントのマスターにすら勝てるかどうかわかりやしない。その間、あのルーラーとやらがアタシらを守ってくれるし、あの鈍間の逃げ足を鍛えてくれている。アタシらに何の損もないじゃないか」

 ベルベラは後ろに見える繭を造っている巨大な蛾の幼虫を指差しながら言った。その繭こそ、彼女たちの宝具である母の意志継ぐ次代の巨大蛾(モスラ)である。この後母の意志継ぐ次代の巨大蛾(モスラ)は丸一日繭にこもるため、この間彼女達は実質的に無防備となる。ただし、繭自体はAランク相当の隠蔽の効果がかかっているのでこれほど巨大でも見つかることもない。

「確かに、あのマスターじゃ、明後日まで生き残れる可能性が低いのも否定できない事実ね……」

 ベルベラの言葉を否定する根拠を自身のヘッポコマスターに見つけることができず、モルは眼前でひき殺されかけているウェイバーから目を逸らした。いや、敢えて言おう。彼女は眼前で必死の形相で逃げ回っているマスターを弁護できず、見捨てたのである。

「ゴメンなさい、マスター……」

 モルは眼前の光景から目を逸らしながら、静かに祈りを捧げた。

 

 

 

 話は、昨夜に遡る。母の意志継ぐ次代の巨大蛾(モスラ)の繭を張る場所を求めて冬木の郊外を歩いていたウェイバーはそこで一体のサーヴァントと不幸にもでくわしてしまった。そのサーヴァントこそ、現在進行形でウェイバーを殺しかけている物騒なサーヴァント、ルーラーである。

 サーヴァントの気配に即座に臨戦態勢を取ったエリアス三姉妹であったが、ルーラーは自分のクラスと役割を告げることで彼女たちの警戒心を解いた。さらに、彼はウェイバーたちに協力を持ちかけたのだ。中立の立場に立つ裁定者の責を負わされたのにも関わらず。

 通常、「その聖杯戦争が非常に特殊な形式であり、結果が未知数なため、人の手の及ばぬ裁定者が聖杯から必要とされた場合」「聖杯戦争によって、世界に歪みが出る場合」にのみ裁定者(ルーラー)のサーヴァントは召喚される。

 しかし、裁定の基準には絶対的なものがない。あくまで、裁定の基準は裁定者(ルーラー)一人ひとりの裁量に委ねられているのである。極論を言えば、聖杯を欲する裁定者(ルーラー)を召喚することすら可能なのである。どこかの平行世界ではそれを実際に実行し、聖杯戦争に勝利しようとした御三家が実際にいる。

 そして、この裁定者(ルーラー)のサーヴァント、諸星弾にとって裁定者(ルーラー)としての中立は、さほど重視するべきものではなかった。彼が召喚に応じたのは、聖杯戦争によって犠牲となる地球人を、無辜の命を、一人でも少なくするためだからである。一般市民に犠牲を出す陣営は、他の陣営に肩入れしてでも葬り去る。それが、諸星弾の最優先事項であった。

 既に諸星弾は、この地に人を餌とする危険生物がサーヴァントとして召喚され、その宝具が未遠川に潜んでいることも確認済みだった。裁定者(ルーラー)が必要とされるという今回の聖杯戦争の異常さや、生前に数え切れないほどの死線を潜った経験から、危険なサーヴァントはこの一体だけではすまないだろうということも何となく察知していた。

 もしも、未遠川に潜む宝具を凌ぐ化け物が数体召喚されていたとしたら、自分だけでこの街を守りきれると弾は断言できなかった。そこで彼は、中立なんぞ糞喰らえと同盟者を探していたのである。

 その結果発見したのが、星の守護者の宝具を持つウェイバーのサーヴァント、ライダーだった。弾は即座に彼らに手を組むことを提案した。星の守護者であり、人間を護るためにその身を張って戦った守護獣であれば、自分と目的を同じくしていると彼は確信していたからである。

 ライダーは基本的に母の意志継ぐ次代の巨大蛾(モスラ)の意志を尊重するため、母の意志継ぐ次代の巨大蛾(モスラ)がルーラーとの同盟を是としたためにこれを了承した。彼女たちのマスターであるウェイバーも、そもそも聖杯が欲しいわけではないらしく、手を組むことに異を唱えはしなかった。

 その後、弾はウェイバーに母の意志継ぐ次代の巨大蛾(モスラ)が羽化するまでの間の自分たちの護衛を依頼され、彼らに冬木の郊外まで同行した。しかし、繭を張って羽化するまでは最低でも丸一日暇だ。この時間を有効に使うべく、弾はウェイバーを特訓することにした。

 マスターとしての能力がこの聖杯戦争において死にかけのストーカーと猟奇的殺人鬼より若干マシといった最底辺のウェイバーでは、いざという時に瞬殺され、頼りにしている守護神獣が消滅してしまう可能性がある。それを危惧した弾は、最低限の戦闘能力(というか、逃走能力)を身につけさせることにしたのである。

 最初はこの提案にウェイバーも渋っていたが、結局弾はどこからかジープを持ってきて問答無用で彼を追い掛け回しだした。ウェイバーは彼の元弟子と違い、彼が愛する、守りたい地球人なのだが、特訓モードに入った彼の頭からはそんなことはスッポリ抜け落ちているようだ。

 彼が守りたい地球人の中から不合理にもウェイバーは弾かれかけていた。

 

 

 

「ウェイバー!!逃げるなぁ!!向かって来いっ!!」

 ジープを運転しているのは、ルーラーのサーヴァント、諸星弾その人である。徐行?何それおいしいの?といった速度で突っ込んでくるジープからウェイバーは必死になって逃げている。

「ル、ルーラー!!お願いです!!やめて下さいぁぁいっ!」

 ウェイバーは自身の脚に強化の魔術をかけて逃げ回るが、その脚はふらついている。既に幾度か彼はジープに跳ね飛ばされかけており、精神力も磨耗していた。

「オレに向かって来るんだ!!向かって来いっっ!!」

「う、うわぁぁあぁあ!?」

 疲労から脚がもつれてウェイバーは倒れこむ。だが、そんな彼にも容赦せずにジープは向かってくる。間一髪で左に転がってジープの突進を回避するも、ジープは再度反転し、なおもウェイバーに襲い掛かる。

「逃げ足の訓練じゃないのかよぉ!?何でボクがジープに正面から向かっていかなきゃいけないんだ!!」

「ウェイバー、逃げるな!!逃げるんじゃあない!!車に向かってくるんだ!!メガヌロンに勝つにはこの方法しかない!!跳べウェイバー、跳ぶんだ、ウェイバー!!」

「どうしてこうなるんだよぉ~!!」

 理不尽さに叫ぶウェイバーだったが、迫り来るジープは彼の魂からの叫び程度で止まってはくれない。逃げ場はなく、跳ね飛ばされれば死なないまでも骨の数本は折れることは確実だ。絶体絶命の状況にウェイバーは追い込まれたのだ。

 そして、彼は跳んだ。かつておおとりゲン(ウルトラマンレオ)がそうしたように、跳んだのだ。結果的にボンネットにへばりついただけで、そのまま振り落とされたが、確かにあの時ウェイバーは確かに跳んだのである。

 その後、ボンネットから振り落とされた衝撃で動けなくなった自分に迫るジープの姿を見て、ウェイバーは、「死んだ」と思ったが、ウェイバーを轢き殺す寸前でルーラーはジープを停車させた。

「ウェイバー!!見事だ!!」

「る、ルーラー……」

 

 これで、この地獄が終わる。ウェイバーは思わず涙を零す。しかし、ジープから降りた弾の手には、様々な色で塗装されたV字型の物体が多数。しかも、よく見るとジープの荷台には同じものがいくつも積まれている。

 

「次は、これだ。このブーメランを全て避けるんだ!!」

 

 ウェイバーの顔が絶望に染まった。すかさず弾のブーメランがウェイバーに直撃する。

「その顔はなんだっ!!その眼はなんだっ!!その涙はなんだあぁっ!」

 蹲るウェイバーに立て続けにブーメランが投げつけられる。アイスラッガーを操る弾のブーメラン裁きはすさまじく、前後左右あらゆる方向からブーメランがウェイバーを襲う。

「お前の涙で奴が倒せるか? この地球が救えるか?答えろ、ウェイバーァァ!!」

 

 

 

 

 地球を護ると誓った覚えはさらさらないのにボコボコにされるウェイバー。最初は愉悦に浸っていたベルベラもドン引きするほどに理不尽な特訓は、母の意志継ぐ次代の巨大蛾(モスラ)が羽化するまで延々と続けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<おまけ>

 

 

 第四次聖杯戦争が子供達の祈りで復活した3000万年前に地球を救った光の巨人や願望器崩れの紅い珠から召喚された大地と海の巨人、平行世界を彷徨い続ける巨人によって無事に終結したとある平行世界。

 

「フラッドォ!!逃げるなぁ!!向かって来いっ!!」

 ジープを運転しているのは紅いコートを身にまとい、髪を伸ばした長身の男である。ジープは凄まじい速度で金髪の青年を轢き殺さんと迫り来る

「き、教授ぅ!!お願いです!!やめて下さいぁぁいっ!」

「オレに向かって来るんだ!!向かって来いっっ!!」

 魔術で認識をずらしたりして逃げ惑う金髪の青年にフラストレーションを溜めているのか、初めは轢かれても軽症ですみそうだった速度が、今では確実に轢き殺されそうな速度となっている。

 しかも、認識をずらしても長身の男は心眼でそれを見破っているために効果はない。

 

「あれは、なんじゃ?」

 時計塔の召喚学部長、ロッコ・ベルフェバンは目の前で繰り広げられているうん十年前の熱血漫画の特訓風景がさっぱり理解できず、ジープを駆る男の弟子である少女に尋ねた。

「拙はまだよく知らないのですが、何でも昔、師匠が体験した特訓だそうです。教授の弟子は、皆アレを経験して最終的には滝を斬るところまでやらされるのです」

 

 メ○ウスと違い、規制などが介入する余地のないイギリスの時計搭では特訓シーンに節度は求められなかった。胴着着て丸太を蹴るだけではすまないのである。




多分、ウェイバーが酷い目にあってるのは自分のフラストレーションのせいです。
ゴメンねウェイバー。

でも、君はウルトラマンレオにはなれないんだ。ただスパルタなダンを出したかっただけだから


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怪獣王復活

ヤツが……ヤツが来る!!
怪獣の王にして、人類の身勝手が生み出した災悪の化身、そして日本人のDNAに刻まれた戦争の、核の、破壊の権化が蘇った!!


「……なんでわざわざこんなところにまでつれてきた、臓硯」

 召喚陣の前で雁夜は臓硯を睨みつけた。

 事情も知らされず、ただ召喚のためだと言われて兄の運転する車で連れてこられたのは、北陸のとある海沿いの小さな町だ。若狭湾を臨むその町の峠に臓硯は召喚陣を敷いた。

「貴様のサーヴァントはとても貴様のような半人前以下の魔術師の魔力供給で戦い続けられるようなサーヴァントではない。故にじゃ。貴様では補えぬ分の魔力を外部から摂取する必要がある。最低でも、聖杯戦争を戦い抜けるだけの魔力をサーヴァント側で備蓄してもらわねばな」

「まさか……冬木で大規模な魂喰いをすることが難しいから、ここで何百人単位で魂喰いをしようって魂胆じゃねぇだろうな!!」

 倫理が一般人のそれとはかけ離れた魔術師であれば、特にこのような手段を気にすることはなかっただろう。だが、雁夜は魔術師になりきれずに魔術の道を捨てた男だ。自身の目的のためとはいえ、大規模虐殺をすることには抵抗があった。

「カッカッカ……そのようなことはせんよ。確かに、貴様の魔力不足を補うためには町ひとつやふたつの犠牲ではきかぬだろうが、それでは神秘の隠匿の原則に抵触する。この場所につれてきたのは、貴様のサーヴァントのスキルで魔力不足を補うためよ。見よ、若狭湾には彼奴の餌がたんまりとある」

 そう言って臓硯が杖で指し示した先に見えたのは、巨大な白い円柱状の建造物。

「原子力発電所……?」

 その時、雁夜の頭の中で全てが繋がった。餌は原子力発電所――東京湾から採取された触媒――化け物。日本人であれば、この3つの単語から『ヤツ』を連想することは極自然なことであった。

「まさか、臓硯……貴様、あの化け物をサーヴァントとして呼ぶって言うのか!?」

 雁夜は驚愕し、声を張り上げた。

「冗談じゃない!!あんなものを呼んで戦えば、冬木は滅ぶぞ!!」

「何じゃ雁夜。不満ならば別のサーヴァントを呼んでも構わんぞ。しかし、別にアインツベルンは前回の聖杯戦争で味をしめたらしく、今回も規格外の存在を呼ぶじゃろうし、それに対抗して遠坂の子倅も身に余るサーヴァントを呼ぶじゃろうて。並大抵のサーヴァントでは、貴様はまず勝ち抜けんぞ。ワシの本命は次の第五次聖杯戦争じゃから、貴様が下らない正義感を振りかざして敗北しようが別に問題はないがな」

 雁夜の脳裏に桜の姿が過ぎる。聖杯戦争に勝ちぬけなければ、命を賭けてここまで準備した意味がなくなる。自分の命などどうでもいいが、桜だけは救わなければならない。

 冬木と桜を天秤にかけ、雁夜は葛藤する。

「……あの化け物を呼べば、勝てるんだろうな」

「貴様次第じゃ。しかし、勝算はまぁ、なくはないといったところじゃろうな」

 自分にしか救えない少女のために、不特定多数の無辜の命を犠牲にする行為は確かに許しがたい行為であろう。それも、確実にその少女を救えるのならともかく、救えない確率の方が大きいのに多くの命を危険にさらすとなればなおさらだ。

 どちらを救うべきなのか。迷う雁夜の脳裏に浮かんだのは、虚ろな目をした幼馴染の娘の姿と、人を虚仮にしたような目でこちらを見つめるその幼馴染の夫の姿だった。 

「それで十分だ……」

 雁夜は覚悟を決めた。

 たとえ冬木の地が灰になろうと構わない。あの娘さえ、母と姉のもとで楽しく、平和に人間として暮らせるのであれば。そして、あの人でなしに制裁をできるのであれば。

 

 一年前の雁夜であれば、同じ決断を強いられたとしても絶対に臓硯の提案を断り、自分の手で別のサーヴァントを探す決断をしたであろう。しかし、一年の間蟲に蝕まれ続けた今の雁夜は違った。自身の価値観がずれてきたことに雁夜は気づいていなかったのである。

 それに対して、勝ち目の薄い戦いのために自身の生まれ育った町ひとつを滅ぼさんとする決断をするほどにズレてきた自身の息子の変貌に愉悦を感じ、臓硯は内心でほくそ笑んでいた。

 

 そして、雁夜は召喚陣の前に立つ。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」

 刻印虫が枷を取り払われた獣のように暴れはじめ、雁夜の血肉を代償に召喚陣に魔力供給を始めた。

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 雁夜は血が噴出し、紅く染まる視界を通して召喚陣に光が灯るのを見た。風が巻き上がり、鼓動のように光が召喚陣で瞬く。

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する」

 次第に大きくなる召喚陣の鳴動。それに呼応するかのように刻印虫は一層凶暴になったかのように雁夜の体内を暴れまわった。

「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 自分が臓硯に利用され、捨てられるであろうことは分かっている。だが、それでも彼にはやらなければならないことがあった。今も蟲倉で苦しんでいる桜を幼馴染に女性の下に返すこと、そして幼き娘を蟲倉に追いやった忌むべき男、時臣に誅罰を下すことだ。

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 さらに、ここで雁夜は一小節加えた。それは、召喚するサーヴァントに新たな属性を付与する言霊だった。

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者!!」

 身体中を暴れまわる刻印虫のせいで雁夜の身体のいたるところで血が滲み、骨は軋む。

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

 召喚陣から溢れ出した光が、闇夜を照らす。そして、闇を払う光の中に、巨大なシルエットが浮かび上がった。

 身体を蝕む苦痛に耐えながら、雁夜は顔を上げ、それを見つめる。

 恐竜を思わせる鋭い牙の並んだ顎、白濁した瞳と凶悪な形相、山脈を思わせる背びれの並び、60m近い巨体を支える巨大な足と太い尾が見えた。

 最後にこの怪獣が現れてからおよそ四半世紀が経過し、人々の記憶からも薄れ始めているが、まがりなりにも報道に携わっていた雁夜がその存在を忘れるはずがない。

「これが……ゴジラ!!」

 足元で震える雁夜の姿など眼中にないかのように、天を見据えたゴジラは、己の存在をこの世の全てに知らしめるかのごとき巨大な咆哮を発した。

 

 それは、ゴジラの中に集う戦争で命を散らした数知れぬ怨霊たちの無念の叫びであり、自分たちのことを忘れている人々に対する復讐の宣言でもあった。

 

 

 

《サーヴァントのステータスが更新されました》

 

 

 

クラス:バーサーカー

 

マスター:間桐雁夜

 

真名:ゴジラ

 

性別:不明

 

身長:60m/体重:30000t

 

属性:混沌・狂

 

 

パラメーター

 

筋力:Ex

耐久:Ex

敏捷:D

魔力:A+

幸運:D

宝具:Ex

 

 

クラス別能力

 

狂化:B

 

パラメーターをランクアップさせるが、理性の大半を奪われる

 

 

保有スキル

 

怪力:A

 

魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性で、使用する事で筋力を一定時間ワンランク向上させる

 

 

魔力放出(放射線):A

 

自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させるスキル

ゴジラの場合、放射熱戦を体内に逆流させ、背びれから一気に放射することができる

このスキルの影響で、ゴジラは常に一定量の放射線をその身から放ち続けている

 

 

戦闘続行:A+

 

瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる

心臓のみであっても生存可能というしぶとさ

 

 

千里眼:C

 

視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上

音速で飛行する数キロ先の戦闘機を撃墜可能

 

 

 

宝具

 

怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)

 

ランク:A++

種別:対城宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:1000人

 

放射能を含む高温の熱線で、着弾した標的を悉く爆発させる

パワー最大時には渦巻状のスパイラル熱線を吐くことも可能

また、敵の光線などを吸収し、吸収したエネルギーを混ぜて熱線を強化して放つこともできる

発射前には背びれが発光するのだが、背びれの発光から放射までには平均1.26秒かかり、背後の左右45度、上下81度が熱線の死角になっている

 

 

不滅のゴジラ細胞(イモータル・セル)

 

ランク:A

種別:対人(自身)宝具

レンジ:0

最大捕捉:1人

 

ゴジラの全身を構成する細胞であり、不死に限りなく近い生命力の源

高い自己再生能力と、核エネルギーを摂取する能力ももつ

ゴジラ以外には制御不可能

 

 

赤竜葬送曲・炉心融解(メルトダウン)

 

ランク:Ex

種別:特攻宝具

レンジ:???

最大捕捉:???人

 

原子炉と同じ役割を果たしているゴジラの心臓部で核分裂が異常に活性化し、制御不能になる

背びれや胸を中心に紅く発光し、この時『怨嗟咆哮:放射熱線(アトミック・ブレス)』のランクはExランクに上昇し、パラメーターも全てワンランク上昇する。

この宝具を発動すると、最低でも5ターンでゴジラは核爆発を起こし、大気圏に火がつき地球を焔に包みながら消滅する

この宝具を発動したゴジラに攻撃することは火薬庫に花火をぶつける行為に等しく、攻撃は核爆発を早めることになる

核分裂を制御することは可能であるが、その場合でもゴジラの体温の上昇は止められないため、3ターン以内にゴジラの原子炉である心臓部が溶け出し、放射能を撒き散らしながら、周りのものを溶かし、水素爆発で地球に穴を開けてしまう

 

 

《捕捉》

 日本が世界に誇る最強の怪獣王。

 見た目はGMKゴジであるが、それだけだと宝具欄が寂しいのでVSシリーズのゴジラの能力も追加した。ご都合主義であることは承知の上。

 悪意の塊なので、ものすごい狡賢いからさらに性質が悪い。

 因みに、大東亜戦争で命を散らしたアメリカ人、日本人、その他のアジアの人々などの数知れぬ人間たちの強烈な残留思念、謂わば怨霊の集合体であるため、歴史の流れの中で戦争を忘れてしまった日本に自分たちの無念を思い出させるべく日本の街を狙う。

 マスターを失った場合、サーヴァント『ゴジラ』という軛からゴジラを構成する数知れぬ怨霊たちが解き放たれて変質し、周囲の者を内的世界に取り込む。取り込まれた者には自分たちが味わったヒトの本質である狂気の権化である戦争の「地獄」を見せる。

 数百万以上の怨霊、それも非キリスト教徒が過半であるため、聖言でも浄化は極めて難しい。おそらく、サーヴァントという軛から解き放たれた怨霊を全て浄化するにはExランクの洗礼詠唱スキルを持つサーヴァントが3体は必要と思われる。

 下手に追い詰めれば核爆発か数百万の怨霊の解放と物凄く物騒なサーヴァント。こいつが聖杯にくべられたら聖杯が変質する可能性もある。




GMKゴジ+デスゴジというもう悪夢としか言いようのない能力クロスゴジラ爆誕!!

冬木市に一番やさしくないゴジラにしたくて能力クロスさせた。どう転んでも冬木市を地獄に変えるえげつなさに少しやりすぎたかなって感じてる。


実際、聖杯戦争的な意味では歴代のどのゴジラより強いですね、コイツ。
手に負えません。多分、慢心なしギルにも勝機がある正真正銘の化け物です。

しかも殺されればアポのジャックのように怨霊化するっていう始末の悪さ。
ジャックの場合は多くて数千人の怨霊ですが、こちらは数百万の怨霊ですからもうどうしようもないっていうww

冬木市は焼き尽くされて放射能で汚染されて怨霊が住まう土地になるんや……何これ酷い


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破壊神降臨

龍ちゃんがやっちゃいました


 雁夜がサーヴァントの召喚を成功させる一時間程前、冬木市新都のとある一軒家では、家の主人の血で描かれた召喚陣の前で若い男がはしゃぎ回っていた。

「すげぇ……すげぇよ!!超COOLだよ!!」

 床に血で描かれた魔法陣から放たれる光に照らされながら、雨生龍之介は感極まっていた。

 実家でたまたま手に入れた黒魔術の書に従い、殺したばかりの少女の血で魔方陣を描き、祭壇に供物を置いた。供物は雰囲気がそれらしいというだけの理由でこの家にあった白く濁った水晶を使用した。

 書物に従って呪文を詠唱すると同時に、魔方陣が光を放ち、風が室内を駆け巡る。魔方陣から発せられる光と風が強くなるごとに龍之介の身体には異常なほどの倦怠感が圧し掛かっていたが、目の前の光景に興奮していた彼にとってその倦怠感などは取るに足らないものであった。

 光はさらに強まり、彼の視界は光に包まれて何も見えなくなる。だが、それでも彼は目を決して閉じることはなかった。この先に見える光景を見逃したら、一生後悔するという確信が彼にあったからである。

 龍之介は光を発し続ける召喚陣をただ見つめ続けた。

 

 そして、次の瞬間、轟音とすさまじい衝撃が彼を襲った。

 龍之介はその衝撃によって吹き飛ばされ、背中を何かで強く打ち付けて動けなくなる。意識が朦朧とする中、彼は空気を揺るがす巨大な咆哮に身体を震わせる。いつのまにか家の屋根がなくなっていることに気がついた彼は、空を見上げ、『それ』を見た。

 限界まで頭を上げても、その全貌は見えないほどの巨体、そして、その巨体の肩部に生えて輝く水晶。そして、大気そのものを振るわせる神のごとき威圧。目の前の光景に見惚れていた龍之介は、いつのまにか自分の身体が水晶に覆われ動けなくなっていたことにも気がつかずにいた。

 

 この日、冬木市は突如地面から生えた結晶に覆われ、結晶塔の主であるスペースゴジラ(破壊神)の支配下におちた。

 

 彼が知らず知らずの内に触媒としていた濁った水晶の正体は、かつてこの星に死骸となって流れ着いた水晶生物の成れの果てであり、この家の主が数年前に海岸で偶然に採取していたものであることを知るものはいなかった。

 

 

 

 

 冬木市、新都は突如地面から突き出してきた無数の結晶に完全に覆われた。平日の深夜に突如街を襲った結晶群は、逃げ送れた多くの市民を飲み込みながら拡大し、未遠川までに達していた

「一体どこのサーヴァントだ!!まさか、またアインツベルンか!?」

 時臣は邸宅の窓から見える結晶の都とその中を主のように闊歩する大怪獣の姿に憤りを隠せずにいた。

「時臣君。これでは……」

「ええ。分かっています。事態は一刻を争います」

 冬木市に対する被害に顔を青ざめさせている老神父、言峰璃正の言葉を魔導通信機ごしに聞き、時臣は力強く頷いた。

「こうなっては仕方がありません。予定より早いですが、私もサーヴァントを召喚します」

「綺礼も未遠川に待機させているアサシンを至急向かわせてくれ。あのサーヴァントの強さは桁外れだ。時臣君のサーヴァントが遅れを取るとは思わないが、事態の収拾は一刻を争うから戦力は多いほうがいい」

「しかし、父上。私のサーヴァントは未だあの怪獣との戦いに介入できる状態ではありません。まだ、エネルギーが足りないのです」

 綺礼は、出陣を要請する父に対して頭を振った。

 彼のサーヴァントは単体では非常に弱く、下手をすればマスターである綺礼ですら屠れてしまうだろう。だが、時臣がわざわざ前回のアインツベルンが行った反則行為を真似て強引にハサン・サッバーハしか存在できないはずのアサシンのサーヴァントとして召喚させた怪獣だけあって、その真価たる宝具は中々に強力な存在だ。

 ただ、時臣にとっても一つ誤算だったことがあった。最大にして最強の宝具の発動条件がこの上なく厳しく、少なくない犠牲がなければ発動できないものだったのである。1週間前に召喚し、これまでずっと宝具発動の準備に費やしてきたというのに、まだ足りないということは由々しき事態だった。

「問題ありませんよ、璃正殿。私のサーヴァントであのサーヴァントの動きは封じ込めてみせます。万が一の時は加勢して敵の注意を逸らしてもらえばそれでいいです。なんせ、あれだけの数がいるのですから」

「ならばかまいません……言うまでもないことですが、できるだけ早くに決着を」

「分かっています。それでは、私はすぐに召喚を始めます」

 そこで時臣からの通信は途切れた。しかし、自信満々といった様子の時臣の声を聞いた璃正もそれ以上の追求はしなかった。というより、ここで細々とした追求をしている時間が彼にとっては惜しかったのである。この異常事態は一般人に隠し通せるようなものではなく、いくつかの政府機関や報道機関がこの事態を察知していたからだ。

 既に冬木市からの災害派遣要請によって築城基地からF-15二機が緊急発進(スクランブル)していることも聖堂教会は掴んでいる。一刻も早い工作が必要であり、監督役を務める璃正は、このような神秘の漏洩対策の指揮を執る必要があった。

「もはや、聖堂教会だけでは手に負えぬ……時臣君が『アレ』を召喚すると聞いたときから隠蔽工作のスタッフは十二分なほどに増員して関係省庁、マスコミにも手を回しておいたが、まさか聖杯戦争の初戦でこのようなことになるとは予想外だった」

「魔術協会にも、協力を要請すると?」

 綺礼の問いかけに璃正は重苦しい表情で頷いた。

「そうだ。おそらく、今回の聖杯戦争には規格外のサーヴァントが予想以上に多数参加している可能性が大だ。我々だけでは手に余る。綺礼、魔術協会との折衝は私がするからその間に聖堂教会に掛け合って増援のスタッフを至急確保してくれ」

「わかりました」

 

 

 その後、隠蔽工作に奔走する璃正の耳にさらなる悪い知らせが飛び込んでくる。

 

「若狭湾に怪獣出現。原子力発電所を破壊しながら西方に侵攻中。怪獣の形態はゴジラに類似しているとのこと」

 

 

 

 

 

 

 

《サーヴァントのステータスが更新されました》

 

 

 

 

 

クラス:キャスター

 

マスター:雨生龍之介

 

真名:スペースゴジラ

 

性別:不明

 

身長:60m/体重:40000t

 

属性:混沌・悪

 

 

パラメーター

 

筋力:A

耐久:A

敏捷:D

魔力:A

幸運:D

宝具:A+

 

 

クラス別能力

 

陣地作成:D

 

魔術師として自身有利な陣地を作り上げる技能

スキル「結晶塔の帝王」の影響で弱体化している

 

 

道具作成:―

 

道具作成スキルの適正がない

 

 

保有スキル

 

怪力:A

 

魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性で、使用する事で筋力を一定時間ワンランク向上させる

 

 

戦闘続行:A

 

瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる

 

 

千里眼:C

 

視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上

 

 

結晶塔の帝王:Ex

 

宙空より蒐集せし結晶塔(スペースエネルギータワー)』を発動することにより、『宙空より蒐集せし結晶塔(スペースエネルギータワー)』を中心に特定の範囲を“自らの領土”とする

この領土内の戦闘において、スペースゴジラはAランクの「狂化」に匹敵する高い戦闘力のボーナスを獲得できる

ただし、宙空より蒐集せし結晶塔(スペースエネルギータワー)から宇宙エネルギーを受信している両肩の結晶体が破壊されたとき、このスキルは消滅する

 

 

宝具

 

宙空より蒐集せし結晶塔(スペースエネルギータワー)

 

ランク:A+

種別:対界宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:1000人

 

自身の周囲で最も高い建造物を媒介にして発動する

最も高い建造物を宇宙からのエネルギー受信アンテナとすることで、スペースゴジラは無尽蔵のエネルギーを得ることができるようになる

媒介になった建造物はランクA+相当の宝具になる

 

 

無限に連なりし結晶体(クリスタル・スパイク)

 

ランク:A

種別:対軍宝具

レンジ1~200

最大捕捉1000人

 

大地より無数の結晶体を突き立てることができる

攻撃範囲は半径2kmで、最大展開本数は一万本に及ぶ

地面より生えた結晶塔をミサイルのように敵に飛ばすことも可能

 

 

星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)

 

ランク:A+

種別:対城宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:1000人

 

スペースゴジラが口から発する赤色のビーム

ゴジラの熱線と違い、曲げることができるため、様々な角度からの攻撃が可能となっている

 

 

《捕捉》

ゴジラVSスペースゴジラに登場するスペースゴジラ。

他の怪獣のサイズにあわせるために1/2スケールになってもらった。

魔術といっても、陣地作りしかできないけど他にキャスターっぽい適正のありそうな怪獣がいなかったからしょうがなくコイツにした。(同じように陣地つくるのにレギオンがいるが、あいつよりは多彩な能力を使えるし)

一度現界して、無限に連なりし結晶体(クリスタル・スパイク)さえたてられればマスターからの魔力供給はいらない。




ついでに、バーサーカーも若狭湾でおなかいっぱいになって冬木に移動を開始しているようです


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空から恐怖の大魔王が降りてきた

 時臣は、教会の璃正との話し合いが終わってすぐに召喚を開始した。当然、その召喚に際しては如何なる不備も存在しなかった。しかし、結果的に言えば彼はサーヴァントを召喚した時点で失敗していた。

 彼は、自身が召喚した黄金のサーヴァントの前で金縛りにあっていたのである。

(ばかな……こんなことが……)

 時臣は狼狽するが、彼の意志と身体は分離されているため、その狼狽が彼の顔に出ることはない。彼の顔は内心の狼狽にも関わらず、全くの無表情だった。

 時臣は数分前のことを思い出す。そのサーヴァントの瞳が紅く輝いた瞬間、時臣は全ての意志を剥奪され、令呪を使って自分のサーヴァントを御することすらできなくなってしまっていた。抵抗の意志が奪われた彼の身体は、ただそのサーヴァントに服従することを是とした。

 そう、召喚してすぐにマスターとサーヴァントという主従関係は完全に逆転し、サーヴァントがマスターを操る関係となったのである。サーヴァントの意志に基づいてマスターが魔力を供給し、令呪でサポートする。そこに、マスターたる時臣の意志は一切関わらない。

(このサーヴァントにそんな力があったのか!?それに、姿形も伝承のそれとは全く違う!!)

 恐竜を絶滅させ、危険を感じた地球からの救援要請を受けた死徒二十七祖第三位、「タイプ・ムーン」の月落としをも破り返り討ちにした最強の怪獣を召喚すれば、聖杯戦争の勝利は間違いなしと意気込んでいた時臣であったが、彼は一つ、大きな思い違いをしていたのである。

 彼の召喚した怪獣(サーヴァント)――宇宙超怪獣キングギドラ(アーチャー)は、彼が考えていたよりも遥かに強力な大怪獣だったのだ。

 時臣はこの触媒を使用すれば一億三千万年前に朱い月のブリュンスタッドをも破った一億三千万年前の当時のキングギドラを呼べると信じていたのだが、そもそも一億三千万年前のキングギドラは未だ成長期であり、成体ではなかったのである。

 原則、聖杯戦争で召喚される英霊は肉体的に全盛期の姿にて召喚されるため、キングギドラも一億三千万年前の姿ではなく、さらに進化して身体は大きく逞しく、多彩な技を覚え金色のボディを手に入れた全盛期の姿で呼ばれたのである。

 そして、この頃のキングギドラは単純な戦闘能力以外にもいくつかの能力を手に入れていた。それが、キングギドラのスキル「催眠術」である。キングギドラの全盛期の姿も能力も知らない時臣にはこのスキルの存在を知る由もなく、結果彼は無防備にもキングギドラの前に出てしまった。現代の魔術師に抵抗できるようなレベルの催眠術ではなかったため、時臣は当然それに陥落し、キングギドラの傀儡となってしまったのである。

 

 そして、傀儡を通じて聖杯戦争の事情を知ったキングギドラはすぐさま行動に移った。遠坂邸を覆う巨大なドームを一瞬で構築したキングギドラはその後飛翔したのである。

「な……なんだアレは!?」

「龍だ!!金の龍がいる!!」

 スペースゴジラという特大の怪異を前に冬木を離れようとする人々でごった返している冬木の県道の上空を通過するキングギドラ。上空を通過する怪獣の姿を見た人々はパニックになり、県道は大混乱に陥った。そしてそれと同時に、眼下にいた子供達の姿が瞬時に掻き消え、子供をつれて必死に避難していた親たちが悲鳴をあげる。

 当然のことながら、60mの巨体で飛翔すれば眼下の市民達だけではなく未遠川の向こう側で勢力を拡大中のスペースゴジラ(キャスター)もその存在に気がついて迎撃を開始する。スペースゴジラの星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)が次々と放たれ、キングギドラはそれを紙一重で回避する。

 回避しきれずに何度か攻撃を喰らうが、持ち前の高い耐久で持ちこたえながらただキングギドラは深山町の上空を幾度も旋回し続けた。しかもキングギドラは幾度も攻撃を喰らっているのにも関わらず、一度も反撃をせず、とにかく深山町を旋回することを急いでいた。

 その6つの瞳には怒りの気炎が湧き立っており、キングギドラにとって反撃もせずに逃げ回ったことは不本意極まりないことだった。しかし、キングギドラはただ本能に従って暴れまわる低能な怪獣とは一味違う。

 キングギドラはスペースゴジラの力量と、スペースゴジラがあの陣地内では強大なステータス補正を受けていることを瞬時に看破し、それに対抗できるだけの準備を整えることが先決であると判断したのである。

 キングギドラとて闇雲に飛び回っていたわけではない。キングギドラが飛翔したコースの下にいた子供達は一人の例外なく遠坂邸を覆う巨大なドーム、王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)に転送されていたのだ。深山町に住む殆どの子供を転送させたことを確認したキングギドラは、スペースゴジラの攻撃を掻い潜りながら遠坂邸まで後退する。

 そして、キングギドラは誰にも邪魔されることなく食事(魂喰い)を始めた。遠坂邸のドームの中にいた子供達は全身から生体エキスが抜き取られる苦痛に耐え切れずに泣き叫び、必死に親の助けを呼び続ける。

 一億三千万年前は、獲物に噛み付いて口から直接生体エキスを吸収することしかできなかったが、今のキングギドラはこの王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)の中に閉じ込めた獲物からドームを通して生体エキスを徴収する力があるのだ。

 子供達に苦痛を与えている張本人であるキングギドラは王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)の中が阿鼻叫喚の嵐となっていることなど全く気にしていない。キングギドラにとっては、彼らから生体エネルギーを搾り出してあのスペースゴジラに対抗できるだけの魔力を自分の身体に充填できればよかったからである。

 

 

 

「こちら、ディアボロ1、目標地点に到達した!!」

『コントロールよりディアボロ1。状況を報告されたし』

 そのころ、災害派遣要請と未確認飛行物体の現出を受けて緊急発進(スクランブル)した築地基地所属の二機のF-15J戦闘機が冬木市上空に到着して眼下の惨状を確認していた。

「……コントロール。できれば俺が正気かは問わないでくれ。眼下には二体の怪獣がいる。未遠川を挟んで東側は結晶のような物体に覆われており、その中央部に全長50mほどのゴジラに類似した形態の巨大生物を確認した。西側には三本の首を持った金色のドラゴンがいる。こっちも大きさは50~60mってところだ」

 ディアボロ1、仰木一等空尉は眼下の状況をそのままにコントロールに伝えた。状況があまりにも狂っていたため、中途半端に思考が停止することもなく彼はありのままの状況を把握できるほどに冷静でいられた。ただ、報告をしている彼自身にも未だに眼下の光景が信じられないところがある。

『ディアボロ2よりディアボロ1。どうします?このまま手を出して、光の巨人が出てくる前のかませ犬でもやりますか?』

 ここに到達する数分前に交わした笑えない話のネタを繰り返してくるあたり、ディアボロ2、小林三等空尉もまた少し混乱しているらしい。

「……ディアボロ1よりコントロール。指示を乞う。交戦許可は下りるのか?」

 とりあえず、内心では殆ど期待してはいないが、交戦許可が出るのかについてコントロールに問いかける。

『交戦許可は出てザザ……アボロ1、ディアボ…………引き続き冬木……ザザ待機し、情報収ザザ……当たれ』

「ディアボロ1、了解…………聞いての通りだディアボロ2。交戦許可は当分おりそうにない」

『かませ犬で…………て、野次馬…………。ザザ……解です』

 この時、眼下を眺めつつも視界の端に計器を写し続けていた仰木は気がついた。計器の針が異常な動きをしており、さらにはディスプレイにも不具合が生じ始めていることに。先ほどまでの無線機の奇妙なほど大きな雑音、そして計器の異常。二つの現象から導き出される答えはなんらかの電子的な攻撃あるいは機体そのものの不具合だ。

 仰木がその答えにたどり着いたのと機体のシステムが全てダウンするのは全くの同時だった。しかし、コントロール不能になったF-15Jの操縦桿を必死に握りながら仰木はどうにかして市街地への墜落だけはさけようともがく。

「まずい……ディアボロ1よりコントロール!!システムダウン!!操縦不能!!」

 仰木がもがいているうちに、機体はどんどん高度を下げ、未遠川の水面に近づいていく。その水面には命からがら新都から脱出しようと必死で泳ぐ市民の姿が見える。

「畜生!!頼む!!!せめて新都の方に墜ちてくれ!!」

 仰木はとにかく機体の体制を立て直そうとする。今脱出すれば自分の命が助かることは理解しているが、自分の命はともかく市民の命を危険に晒すことだけは仰木には認められなかった。

 彼の必死に操縦もむなしく機体は眼下に見える避難民たちにグングンと近づいていく。

「神様でも仏様でも構わん!!頼む、この機体を墜とさないでくれ!!」

 脳裏によぎる最悪の未来を避けようと仰木は最後の瞬間まで粘る。そして、その粘りが奇跡を呼んだ。

 眼下の水面まで後40m。そこで仰木の機体は何かによって制動をかけられたのだ。だが、墜落は止められても一度に制動をかけられた仰木の肉体にはかなりの負荷がかけられていた。だが、そのすさまじい衝撃によって意識を失う瞬間、仰木は自身の機体を抱える赤と銀の巨人の姿をコックピット越しに見た。

「……光の…………巨人」

 その言葉を最後に仰木は意識を完全に失った。

 

 

 スペースゴジラは目の前に突如顕れた新たなサーヴァントを睨みつける。それに対しサーヴァントは、先ほどギリギリでキャッチしたF-15を静かに地面に降ろしてから身構えてファインティングポーズをとった。

 

「デュワッ!!」

 

 地球を愛する正義の使者、ウルトラセブン、ここに推参。

 

 

 

 

 

 

《サーヴァント情報が更新されました》

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス:アーチャー

 

マスター:遠坂時臣

 

真名:キングギドラ

 

性別:不明

 

身長:60m/体重:50000t

 

属性:秩序・悪

 

 

パラメーター

 

筋力:B

耐久:A

敏捷:A

魔力:A

幸運:D

宝具:A+

 

 

クラス別能力

 

対魔力:D

 

一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する

魔力避けアミュレット程度の対魔力

 

 

単独行動:A

 

マスター不在でも行動できる

ただし、宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要

 

 

保有スキル

 

恐怖の大魔王:A

 

星の生態系の殲滅者に与えられるスキル

繁栄している生物種又は星の意思の代弁者との戦闘時に自分に有利な補正がかかる

つまり、対人間あるいはアルティメット・ワンに限定して絶対的な優位性を持つ

反面、絶対数が少ない神の血を引くものなどに対しては劣位に立つ

 

 

催眠術:B

 

対象者を自己の傀儡とする催眠術を使える

 

 

宝具

 

宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)

 

ランク:A~A+

種別:対城宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:1000人

 

キングギドラ最大の武器である、3本の首から吐き出す光線

3本の首から放たれる光線を束ねればA+の威力になる

 

 

王者の輝光結界(ギドラ・オーラ)

 

ランク:A

種別・対人(自身)

レンジ:0

最大捕捉:1人

 

キングギドラが常時身に纏っているバリア

Bランク以下の攻撃を無効化し、Aランク以上の宝具の威力も若干弱体化させる

 

 

王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)

ランク:B

種別:対軍宝具

レンジ:10~40

最大捕捉:600人

 

発動時に任意の対象をドーム内に転移させて発動する

ドーム状の結界の内部に入った人間を消化し、その生命エキスを魔力へと還元して使用者が吸収する

ドームに穴を開けるにはBランク相当の宝具の力が必要

 

 

《捕捉》

見た目、能力共にモスラ3に登場するキングギドラ、通称グランドギドラ。

一億3千万年前に地球に飛来した際には、白亜紀型キングギドラ(通称ヤングギドラ)でありながらも地球からのSOSを受けて駆けつけたタイプ・ムーンを返り討ちにしたらしい。

時臣が触媒にした化石は、タイプムーンの攻撃で剥がれ落ちたヤングギドラの鱗の化石。




同じ黄金のサーヴァントでもこっちは時臣を文字通り傀儡にしてしまうおっかないやつでした。結局、トッキーのやることなすことは裏目にでます。

そして、ついにセブンが登場です!!



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さよならケイネス先生

アサシンに対する言及……というか、綺礼に対する言及が殆どない……
でもごめんなさい。一発ネタなんであんまりその辺考えてないんです。


 冬木市新都に破壊神が降臨した直後、冬木ハイアットホテルの最上階に宿泊していたケイネスは、異常な魔力の気配を探知して即座に魔術礼装を起動させた。ケイネスは、その魔力の気配がこの冬木の地に君臨したサーヴァントのものであり、そのサーヴァントが臨戦態勢に入っていることを理解したのだ。

「ソラウ!!ランサー!!」

 ケイネスは別室で戯れている自身の婚約者とサーヴァントを呼びつける。彼は、サーヴァントが怯えるという理由で婚約者がサーヴァントとともに過ごしている部屋に勝手に入らないようにキツく注意されていたのだ。そのため、非常時にもありながらまず婚約者の機嫌をそこねないように声をかけるという一手間をかけなければならなかった。

 ソラウに一声かけたケイネスは、ソラウが出てくるまでに身支度を整え、準備していた魔術礼装を持ち出す用意をする。魔力の気配からして敵サーヴァントはかなり近距離にいると思われ。最悪の場合このホテルもろともに攻撃されると考えたためである。

「ソラウ!!ここは危険だ!!」

 いつまで経っても返事一つしない婚約者に流石に痺れをきらしたケイネスはソラウの部屋のドアを乱暴にノックするが、それでもソラウからの返事はない。だが、これ以上時間をかけていては自分たちの身も危険だ。

 ケイネスは非常事態ということを免罪符に、鍵のかけられたドアを月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)によって強制的に開錠して中に踏み込んだ。しかし、ソラウの部屋に踏み込んだケイネスは、そこで思いもやらない光景を目の当たりにする。

「ソ……ソラウ!!」

 そこにあったのは心臓のように拍動する何かのサナギ……そしてその中に取り込まれて眠る婚約者の姿だった。

「ランサー、貴様!!」

 婚約者を包み込むサナギのような物体が、ランサーの変化した姿であることは、パスで繋がっているケイネスには即座に理解できた。そして、ランサーが今ソラウに危害を加えようとしていたことも。

 現在の状況が、敵サーヴァントが近くにいるという非常事態であることはケイネスとて百も承知だ。だが、ケイネスにとって最も大切な人はソラウに他ならない。それ故に、これからの戦略を左右する貴重な令呪の使用をもケイネスは躊躇わなかった。

「令呪を以って我が傀儡に命じ」

 だが、彼が婚約者の部屋に踏み込むのはいささか遅かった。既にランサーはソラウという人間の遺伝子を取り込み、さらに彼女との神経系統の融合を試みることによって染色体構造を大幅に変化させた後だったのである。確かに変異は未だ不完全ではあったが、それでも人間一人を屠ることは容易いことであった。

 そして、生前の経験から、ランサーは自身が無防備となる変異中に自身のパートナーを奪還される危険性を知っていた。それ故に、もしもパートナーとの融合中にそれを妨げるものが顕れたときに、即座に排除できる用意を整えていた。

 それが、一本だけ変異させずに残していた触手だ。ランサーは自身のマスターが融合を妨げようとする前に絶対命令権である令呪を封じるべく、あらかじめドアの傍まで伸ばしていた触手でケイネスの右腕を斬りつけたのである。

 令呪の刻まれたケイネスの右手は触手によって斬り飛ばされ、ケイネスの令呪は不発に終わる。

「な……!!Fervor,mei Sanguis(沸き立て、我が血潮)!!」

 右手を失ったケイネスは、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を起動し、反旗を翻した自身のサーヴァントに対して即座に臨戦態勢を取った。

ScaIp(斬ッ)!!」

 ケイネスは月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の刃をランサーに向ける。未だ変態が不完全なランサーの防御力では、宝具ですらない攻撃であっても致命傷になりかねないが、ランサーはそれに対しても策を用意していた。ランサーは、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の刃の軌道の先にソラウを向けたのである。

「くっ!?」

 ケイネスはソラウを傷つけぬように間一髪のところで月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の軌道を変えるが、それが彼の命取りとなった。月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の動きは全て液体の圧力操作によるものであり、一度その形態を変化させると、再度その形態を変化させるまでに一瞬のタイムラグが生じるのだ。当然、一度攻勢に適した形を取った以上は防御に転じるのにも一瞬のタイムラグが生じる。

 ランサーはそれを理解していたわけではなかったが、本能としてなんらかの攻撃をした後には隙ができるということを理解していた。そのため、本能的に反撃に転じ、ケイネスに対して触手を突きたてた。

 ケイネスは自身の胸に突き刺さった触手を呆然と見つめる。

「バカな……この、私が……?」

 何故こうなったのかケイネスには分からなかった。己に足らぬ武勲をあげるべく聖杯戦争のシステムにすら手を加えて参戦したはずなのだ。なのに、どうして戦いもしない内に敗れるのか、どうしてこんな結末になってしまったのか、何が間違っていたのか、婚約者はこの後どうなるのか……全て、ケイネスには分からなかった。

 だが、一つだけケイネスにもすぐに理解できたことがある。

 

――自分の末路である。

 

 その10分後、周囲を結晶に覆われつつあった冬木ハイアットホテルの屋上は爆発四散し、そこから触手の間に膜を張った巨大生物が飛翔した。

 ホテルの周囲は突如として乱立した結晶塔から逃げ惑う人々であふれており、パニックになった彼らの中で残されたホテル屋上の残骸から紺の装束に身を包んだ隻腕の金髪の木乃伊が落下したことに気づいたものは、誰一人としていなかった。

 

 

 そして、飛翔した巨大生物はその進路を北東にとった。この場にいる結晶塔を作り出したこのサーヴァントには今の自分では逆立ちしても敵わないことをランサーは理解しており、その細胞を摂取することも不可能であると判断したからである。

 だが、同時にランサーは北東には自身と共鳴する計り知れぬほどの憎悪を抱く何かがいることを、そしてそれが自身を更なる高みへと導く贄であることを察知していた。ランサーは自身の更なる進化のために、超音速の速さで飛んだのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上空を我が物顔で飛び回る金色の三頭龍を見たとき、綺礼はその力に絶句した。これは、真祖にも匹敵、いや真祖をも上回る強大な力だと瞬時に理解したからである。未遠川を挟んだ反対側に存在する巨大生物を見たときもその圧倒的な力に震えたが、こちらの三頭龍もそれに勝るとも劣らない。

「時臣師は、正面からあの怪獣を打破るつもりなのか……」

 綺礼は今がチャンスだと判断した。自身が聖杯戦争に参加した真の目的、衛宮切嗣との接触を果たせるのは、父と師の注意が綺礼から逸れている今しかないと考えたのだ。幸いにも、既に上空に20匹ほど放っていた自身のサーヴァントの宝具が衛宮切嗣の姿を捕捉している。

 彼のサーヴァントは太古の昔に生息していた巨大蜻蛉であり、蜻蛉は総じて動体視力はいいものの視力そのものは低いために衛宮切嗣を見つけ出すには非常に苦労したのだが。

「アサシン。貴様の部下のメガヌロンを5体ほど先回りさせて衛宮切嗣の周りを包囲しろ。ヤツとの対話に邪魔者は入れたくない」

 綺礼の背後の電柱に止まっていたアサシンが了承したことをパスを通じて理解した綺礼は、宿敵の潜む深山町にビジネスホテルへと足を向けた。同時に、その地下でいくつかの異形の影が蠢いた。

 

 

 

 

 

 

《サーヴァントのステータスが更新されました》

 

 

 

 

 

クラス:アサシン

 

マスター:言峰綺礼

 

真名:メガヌロン/メガニューラ

 

性別:雌

 

体長:5m/体重:1t

 

属性:中立・悪

 

 

パラメーター

 

筋力:D

耐久:C~E

敏捷:E~B

魔力:D

幸運:E

宝具:A

 

 

クラス別能力

 

気配遮断:A+

 

サーヴァントとしての気配を遮断する。完全に気配を絶てば発見することは不可能になる

ただし、自ら攻撃を仕掛けると気配遮断のランクが低下する

 

 

保有スキル

 

千里眼:C

 

視力の良さ

遠方の標的の捕捉、動体視力の向上

 

 

変化:A

 

文字通り変態する

メガヌロンからメガニューラへと羽化することができる

 

 

宝具

 

増えよ、地に満ちよ、我が血肉を分けた同属(オーバーグロース・ドラゴンフライ)

 

ランク:E

種別:対人(自身)宝具

レンジ:―

 

メガヌロンからメガニューラに羽化したときに使用可能となる宝具

産み落とした一つの卵が一万個まで分裂し、そこから新たに一万体のメガヌロンが孵化する

その内、1000:1の確率で次代のメガヌロンを産み落とす雌が生まれる

残りのメガヌロンはメガニューラになると、エネルギーを尾部の針で吸収して栄え、地を征せよ我が王たる超翔竜よ(メガギラス)にそのエネルギーを与える役割を担う

栄え、地を征せよ我が王たる超翔竜よ(メガギラス)にエネルギーを与えたメガニューラは死ぬ。

 

 

 

栄え、地を征せよ我が王たる超翔竜よ(メガギラス)

 

ランク:A

種別:対軍宝具

レンジ:2~150

最大捕捉:100人

 

増えよ、地に満ちよ、我が血肉を分けた同属(オーバーグロース・ドラゴンフライ)によって産み落とされた卵の中で一つだけ生まれる生まれついてのメガヌロンの王

メガニューラの雄からエネルギーの供給を受けて成長、巨大化して誕生する

自分たちの種族の繁栄の邪魔となる存在を片っ端から排除する本能のみに従って行動する

武器は巨大なはさみと衝撃波、超高周波、尾部の針

尾部の針は突き刺した相手からエネルギーを吸い取る能力を持つ

 

 

《捕捉》

ゴジラVSメガギラスに登場するメガヌロン

空の大怪獣ラドンからのグロメーカーとしても有名

下水道に潜んで敵を狙うため、アサシンの適正があると判断した

他にも、水族館でこっそりと魚を食べたデストロイアや、水中生息時に暗躍したヘドラ、ゴジラアイランドでは殺し屋をしていたガイガンなどの選択肢があったが、ガイガンはセイバーで使ってしまったし、師である時臣よりも弱いサーヴァントにしなければならなかったのでコイツとなった。

まさかの、宝具に使役される本体という本末転倒なオチだが、仕方がない。




ケイネス先生はあの貧乳美人マジシャンと同じ運命を辿りました。


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弱くないのよ、相対的に弱いだけで

 新都が結晶塔に覆われていたころ、切嗣は仮のアジトを放棄して未遠川を予め準備しておいたボートで脱出しようとしていた。しかし、未遠川は新都から命からがらの脱出を試みて必死で泳ぐ避難民で溢れている。

「ねぇ、切嗣。この後どうするの?人が川に溢れていて、これじゃあボートが使えないわ」

「問題ないよ。このまま突っ切ればいい」

 アイリスフィールに問いかけられた切嗣は、躊躇なく決断した。彼の命令を受け、助手の久宇舞弥がボートを始動させる。

「そ、それじゃあ、この川を泳いでいる人たちはどうするの?」

 アイリスフィールは慌てて自身の夫に尋ねるが、それに対する夫の答えは残虐なほどにそっけない回答だった。

「無視する。優先すべきは聖杯戦争の勝利だ。僕らが勝てば彼らの犠牲も報われる恒久的世界平和が実現できるんだ」

「発進します」

 舞弥が船のエンジンを始動させ、船はゆっくりと川岸を離れていく。当然、この死地からの脱出航に現れた救世主だ。溺れるものは藁をも掴むというが、それが藁ではなく救助艇だったなら、尚のこと彼らがそれを掴もうとしない理由は存在しない。

「おい!!助けてくれ!!」

「子供がいるの!!お願い、乗せていって!!」

「く、くるな!!轢かないでくれ!!」

 川を泳ぐ避難民の叫びを無視し、子だけでも救うように懇願する母親の声から逃げ、障害となるものは容赦なく轢いて船は進む。自身に浴びせられる怨嗟の声に顔を顰めながらも、アイリスフィールは耳と目を塞ぐことはなかった。彼らを彼女達の怨嗟の声を自身の魂に刻み付けるのが最低限の礼儀であると心得ていたからである。

 

 だが、切嗣たちの逃避行は川の中央でストップする。突如、船に凄まじい衝撃が叩きつけられ、エンジンからも何かを巻き込んだかのような金属音が聞こえてきたのである。

「舞弥!!」

 切嗣の一声で舞弥はエンジンを即座に止め、キャレコ短機関銃を構えながら船尾に向かう。

 こんなところでエンジンを止めた船に、川を渡ろうとする避難民が殺到しない理由がなく、当然彼女にもそれを排除しない理由はなかったからである。しかし、スクリューに避難民か何かが絡まったのだろうと考えた切嗣たちの考えは、全く的外れのものだった。

 船尾に近づいた舞弥は、薄暗い月夜の中で水面下に潜むものに気がつかず、()()に持っていたライトを当てた。しかし、ライトを水面に当てたと同時に、水面から巨大な鋏をもった巨大な昆虫が飛び出してくる。

 即座に退避し、舞弥は冷静にその昆虫に発砲する。だが、その昆虫の堅い表皮には9mmパラベラム弾は全く歯が立たない。銃器が通用しないと悟った舞弥は戦術を転換し、懐に隠していた手榴弾のピンを抜いて投げつけた。

 船にダメージを与えないように昆虫の左側面に向けて投げつけられた手榴弾は、昆虫の至近距離で起爆してその爆風で昆虫を水中に叩き落した。だが、まだ脅威が去ったわけではない。

「舞弥!!上だ!!」

 切嗣の言葉に反応し、舞弥は水面下に叩き落された昆虫を確認することなくその視線を上方に移した。そこには、巨大な蜻蛉が5、6匹ほど飛行している。キャレコを拾った舞弥はそれに一掃射するが、こちらも先ほどの昆虫ほどではなくともそこそこに堅い表皮を持ち合わせているらしく9mmパラベラム弾では体勢を崩すぐらいの効果しかもたない。

 その様子を見ていた切嗣は内心で舌打ちをする。敵は蟲であり、敵のサーヴァントもしくはその宝具である可能性が高い。しかもどうやら、空中を旋回する蜻蛉と水面下に潜む昆虫は同じ主の命令のもとで動いているらしい。

 船の上空を蜻蛉に、水面下を別の昆虫に取り囲まれた切嗣は決断を迫られる。水中と空中からの挟み撃ちとなれば、もはや逃げ場はない。現状を打開する手立ては一つ。聖杯戦争の原則であるサーヴァントにはサーヴァントを当てることのみだ。

 現在、切嗣はサーヴァントを冬木港の海中で待機させている。下手に随伴すれば霊体化していても他のサーヴァントを刺激する危険性があると判断したからだ。切嗣は空間転移で自身のサーヴァントを呼び出すことを選んだ。神秘の隠匿などを気にしている余裕は彼にはなかった。

「令呪を以って命じる!!セイバー、来い!!」

 避難民で溢れ変える川の上に風が吹き荒れ、人々がは風が引き起こす波にのまれて流されていく。そして、その風と波の渦の中心にレザースーツのようなシャープな印象を受ける巨大怪獣が姿を顕した。

 切嗣はセイバーが駆けつけたことを確認すると、身体強化を自身にかけてアイリスフィールを抱えながらセイバーの背中を登った。そしてセイバーの肩でアイリスフィールを降ろした彼は近くの突起にロープを結びつけ、その先端を垂らして船上の舞弥を回収する。

 

 

 未遠川の対岸、土手の上ではこの襲撃の下手人たる言峰綺礼がサーヴァントに乗って船から脱出する衛宮切嗣の様子を観察していた。綺礼が用意した空と海からの包囲から脱出されたものの、綺礼は包囲を破られたからといって長年捜し求めた答えを諦めるような人間ではなかった。彼は衛宮切嗣に対する備えも既に準備していた。

 魔術師の思考回路であれば、脱出者で溢れかえっている川にサーヴァントを令呪で転移させるなどということはまず考えないだろう。相当追い詰められなければそのような決断は普通しない。だが、この男、魔術師殺しの衛宮に限って言えばそのような常識は通用しないということを言峰綺礼は理解していた。

 そう、これは衛宮切嗣を確実に余人の邪魔の入らない場所へと誘い込むためのしかけなのだ。被災者で溢れかえった夜の冬木は、ある意味昼よりも賑わっている状況であり、そんな状況下で衛宮切嗣と接触する機会はまず得られないが、一箇所だけ例外がある。それが、災禍の中心である戦場だ。

「令呪を以って命じる。アサシンよ、栄え、地を征せよ我が王たる超翔竜よ(メガギラス)を解放せよ!!」

 綺礼は令呪の魔力で栄え、地を征せよ我が王たる超翔竜よ(メガギラス)の羽化に必要な魔力を充填させた。本来であればメガニューラにエネルギーを集めさせるところであるが、今回はそのような時間的な余裕も、エネルギーを摂取する標的もいなかったために綺礼は令呪を使ってこの宝具を強制的に発現させたのである。

 そして、未遠川の中央部から姿を現した禍々しい巨大な蜻蛉の頭に綺礼はメガニューラによって運ばれた。全ては、衛宮切嗣から答えを聞き出すために綺礼が用意した策だった。

 

 ――さぁ、貴様の得た答えを聞かせろ、衛宮切嗣。誰の邪魔も入らない天空の戦場で。

 

 綺礼は自身の顔が僅かに歪み、悦を感じていることに気がつかずにいた。

 

 

 

 

 

 

「切嗣!!下よ!!下を見て!!」

 その時、アイリスフィールの声で切嗣は眼下を見下ろした。そこにいたのは、彼が本能的に宿敵と定めた一人の男の姿。声が聞こえないほどに離れているはずなのに、切嗣には眼下の巨大な蜻蛉の上に立つその男の言葉が聞こえた気がした。

「こうして顔を合わせるのは初めてになるな、衛宮切嗣」

「……言峰、綺礼!!」

 戦場と化しつつある未遠川の上空で、魔術師殺しは宿敵と初めて顔を合わせた。

 

 

 

 

 

 

《サーヴァントのステータスが更新されました》

 

 

 

 

 

 

クラス:セイバー

 

マスター:衛宮切嗣

 

真名:ガイガン

 

性別:不明

 

身長:65m/体重:25000t

 

属性:混沌・悪

 

 

パラメーター

 

筋力:B

耐久:B

敏捷:A

魔力:B

幸運:D

宝具:A

 

 

クラス別能力

 

対魔力:B

 

魔術発動における詠唱が3節以下のものを無効化する

大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけることは難しい

 

 

保有スキル

 

加虐体質:A

 

戦闘時、自己の攻撃性にプラス補正がかかる

これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう

攻めれば攻めるほど強くなるが、反面防御力が低下し、無意識のうちに逃走率も下がってしまう

自分の武器で死んでしまうなんてうっかりもおきるかもしれない

 

 

気配遮断:A

 

機能停止時に限定し、サーヴァントとしての気配を断つことができる

 

 

宝具

 

命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)

 

ランク:A

種別:対人宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:2人

 

両腕部の巨大チェーンソー

表面を鮫の牙のような刃が高速で動いているため、非常に切れ味がいい

殆ど力をいれずとも物体を両断することができる

 

 

この身即ち、刃なり(ブラデッド・カッター)

 

ランク:B

種別:対人宝具

レンジ:1

最大捕捉:1人

 

腹部の巨大回転鋸

超近接戦闘でしか効果はないが、切れ味は非常によい

 

 

回転して突撃する血濡れの刃(ブラッディ・スライサー)

 

ランク:B

種別:対人宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:2人

 

胸部から射出される手裏剣のように回転する刃

自動的に標的を追尾する機能を持つが、本体にあたらないように回避しようとする機能はついていないため、自爆の可能性もある

 

 

 

《捕捉》

 身長、体重は昭和のガイガン(初代)であるが、見た目はGFWに登場するガイガン(2代目)改。

 飛翔能力も有し、三次元的な戦いも可能である。

 ただし、セイバーのクラスに収まっている影響で拡散光線ギガリューム・クラスターが使用不可になっている。

 怪獣呼べば聖杯戦争なんて楽勝、冬木の被害なんて知ったことじゃないね!なんて思って召喚したものの、実は戦闘能力的には参加サーヴァント中では真ん中という悲劇




サーヴァントとしての戦闘力ではメガギラスとドベ争い
そのくせメガヌロンとメガニューラを繁殖させる能力を持つアサシンに比べて特筆する特殊能力はなし
などという取り得のないサーヴァントでした。

弱くはないんだけど、如何せん中ボスクラスなもんで、ラスボスが集うこの聖杯戦争では荷が重かったみたいです





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怪獣映画で実は一番かわいそうな人たち

またまたプライベートでやらかしましたァン!!

というわけでまた一本です。所要時間は3時間です。


ネタ成分が少なく、なんかゴジラVS自衛隊の架空戦記っぽくなっちゃいましたね。


 日本という国は、古来より災害が絶えない国である。地震、台風、噴火、その数や規模は間違いなく世界でトップクラスであろう。そして、この国はかつて、それに加えて怪獣災害という天災にも相次いで見舞われてきた。

 原水爆が生んだゴジラという大怪獣を皮切りに、メガヌロン、ラドン、バラン、モスラ、フランケンシュタイン、バラゴンなどといった怪獣たちが本土で暴れまわった。日本は怪獣災害の最大の被害者であると言っても過言ではないだろう。

 ただ、怪獣災害は平成の世に生きる大多数の日本人にとっては既に昔の話という認識だ。何せ、最後に日本に怪獣が上陸して猛威を振るった事件が1966年の人型巨大生物、ガイラの東京襲撃である。

 1987年にカメーバが日本近海に姿を顕したこともあったが、その際も海上自衛隊の攻撃によってカメーバは撃退されているため、直接的に怪獣の脅威を感じる人間は現場の自衛隊以外にいなかった。

 日本に相次いで上陸した巨大生物との戦いは、最後の怪獣災害から四半世紀近くの月日が流れたことで、教科書に載るような歴史の話となりつつある。長い平和の時を過ごした平成の日本人の大多数は、怪獣の恐怖も知ることなく繁栄を謳歌していたのだ。

 

 しかし、その均衡はついに破られる。東京を火の海と化すことで全ての日本国民をを恐怖のどん底に陥れた原水爆の生んだ大怪獣、後の怪獣災害の始まりにして、最強最悪の怪獣王がおよそ40年近い月日を経てついに日本に帰ってきたのだ。

 

 

――日本人は思い出す。

 

  核という人類の生んだプロメテウスの火の業を

 

  怪獣という人知を超越した生ける災害の力を

 

  そして、怪獣王の恐怖を。

 

 

 

 

 

 

 東京 首相官邸 地下4階 危機管理センター

 

 

 首相官邸の地下には、有事の際に各省庁と自衛隊の機能を統括する目的で設立された危機管理センターが存在する。この施設は、日本が戦争や甚大な災害、テロなどに見舞われた際に情報を集約して政府が迅速に対応するための司令室となるのだ。

 1960年代の怪獣災害、東西冷戦の激化を受けて設立された危機管理センターだが、定期的に行われる首相官邸スタッフや各省庁の担当者を集めての訓練以外での稼動はこの日が初めてであった。そのためだろうか、スタッフたちの動きも訓練時に比べて非常に慌しく、少々落ち着きが足りないように見える。

 そして、スタッフが右へ左へと走り回って慌しくなっている危機管理センターに新たな人物が足を踏み入れる。額には皺がよっており、男はいかにも不機嫌ですというような雰囲気を醸しだしている。

 地方遊説中急遽東京に帰還したその人物――日本国第XX代内閣総理大臣の来訪に気づき、スタッフに指示を飛ばしていた数人の男たちが声をかける。

「総理!!お待ちしておりました。こちらです」

「分かった」

 スタッフに促された首相は、ムスっとした表情を浮かべたまま巨大なメインスクリーンの前に設けられた半円状の円卓に乱暴に腰掛ける。そして、その苛立ち混じりの視線を防衛大臣に向けた。

(*拙作では、度重なる怪獣災害を受けて1960年代に防衛庁は防衛省へと昇格しているという設定です) 

「防衛大臣、現状について説明してくれ」

 自身に向けられた謂れのない悪意に対して抱いた不快感を心の奥底に隠しつつ、防衛大臣は説明を始めた。

「……今から2時間前のことです。敦賀原発一号機の前に巨大生物が突如出現し、原子炉を襲いました。さらに、巨大生物は隣接する敦賀原発二号機を襲撃し、そのまま動燃ふげんと立て続けに3つの原子炉を襲撃しました。これが、現場に急行した航空自衛隊百里基地のRF-4EJが撮影した映像です」

 防衛大臣が手元のコンソールを操作し、メインスクリーンに数枚の写真を映し出す。夜間の撮影でありながら、原子炉から核物質を啜るその異形の怪物の姿はくっきりと判別できるものだった。スクリーンに映し出されたその怪獣の姿を見た着席者たちの間でどよめきが広がる。

「こいつは……まさか、ゴジラなのか?」

 出席者の中から聞こえてきた震える声に、防衛大臣の隣に座る防衛事務次官が静かに頷いた。

「ここからは、私から説明させていただきます……RF-4EJの捉えた画像に見られる形態の特徴から、防衛省はこの怪獣を昭和29年に我が国に襲来し甚大な被害を与えた怪獣、ゴジラだと断定しました」

 

――ゴジラ復活。

 ただでさえおよそ四半世紀ぶりの怪獣の再来だというのに、その怪獣が日本に最も大きな被害を与えた大怪獣ときた。この事実がまともな思慮のある出席者に与えた衝撃は計り知れないものであった。

 

「現在、ゴジラは敦賀原発を離れ、最も近い美浜原発を襲撃中です。おそらく、ゴジラはこのまま若狭湾を西周りに進み、大飯原発、高浜原発の順に襲撃するものと思われます。関西電力によりますと、若狭湾の原子炉は現在全て運転を緊急停止する措置を行っているそうですが、若狭には日本の原発の三分の一が集中しているため、近畿、北陸は深刻な電力不足に陥るということです。東京電力、中部電力に余剰電力の供給を申し込んでいるとのことですが、余剰電力をまわしても、エネルギー需要に対応できない可能性が大きいと考えているようです」

 防衛事務次官はさらに続ける。

「ゴジラの現在の侵攻速度から推察するに、後4時間ほどで若狭湾の全ての原発は確実に破壊され、電力供給がストップするとのことです。尚、現場に到着した陸上自衛隊第10師団第10特殊武器防護隊によりますと、原子炉の核燃料の大半はゴジラに摂取されたため、放射能汚染の範囲は非常に限定的であるという報告があがっております」

「それが分かっているのなら、さっさとゴジラを倒してくださいよ!!私は被害の予想だけを聞きに来ているのではありませんよ!!自衛隊は一体何をしているのですか!!」

 報告が始まったときから苛立ちを顕にしていた首相がついに席を立って声を荒げた。

「一体なんのための自衛隊ですか!?さっさと空爆なりなんなりであの怪物を倒してくださいよ!!確か舞鶴には海上自衛隊の艦隊がありましたし、小松には戦闘機がいるでしょう!?どうしてそれを出撃させないのですか!!こんな時に怪物をどうにかするのが、貴方方の役割でしょうが!!」

 しかし、声を荒げて詰問する首相に対し防衛事務次官は淡々と答えた。

「舞鶴には海上自衛隊第三護衛隊軍に所属する第三並びに第七護衛隊が存在します。しかし、この戦力でゴジラに立ち向かったとしてもゴジラを確実に倒せる保障はありません。1968年にゴジラは佐世保に向かっていたアメリカの原子力空母1隻と原子力巡洋艦2隻を撃沈しております。最低でも空母1隻と巡洋艦に匹敵する戦力を持つ相手に立ち向かうには、舞鶴の戦力は不足なのです」

「なら、空爆で援護すればいいでしょう。小松の航空自衛隊の部隊で援護すればいいのでは?」

「小松の戦力はF-15JとF-4EJです。これらの機体は対地攻撃用のミサイルや爆弾を搭載することは可能ですが、他国への攻撃に用いられないようにと対地攻撃専用の計算装置などを有していないため、地上のゴジラを攻撃することは無理です」

 野党時代に侵略に用いられかねない爆撃能力を持つ機体の導入に強硬に反対していた護憲民生党の出身の厚生大臣は、暗に自分たちの責任を追及されたとでも思ったのだろう。自分たちの過去の失敗について言及されることを防ぐべく声を荒げた。

「だ、だが!!航空自衛隊には、上陸した怪獣を叩く能力を持つ国産の戦闘機があったはずだ!!そ、そいつを使えば問題ないではないか!!」

「確かに、F-1支援戦闘機は対艦、対地攻撃が可能ですが、小松には配備されておりません。F-1は現在、三沢と築城にのみ配備されております。F-1が爆装した場合の行動半径は350kmしかなく、空中給油装置もないので若狭までいって爆撃しても、築城や三沢には戻れません。小松にF-1を降ろすことはできますが、小松には爆撃用の兵装がないので、対艦攻撃装備での反復攻撃しかできません。支援爆撃の効果が極めて限定的となってしまいます」

 F-1の航続距離を狭めたのも、空中給油装置のオミットも、どちらも護憲民生党の横槍だ。怪獣攻撃のための攻撃機ならば、他国を爆撃できるほどの航続距離はいらないと主張したのは彼らだ。

 それでも何かを言い返そうとする厚生大臣であったが、防衛事務次官はこれ以上阿呆な政治家に対応するのは面倒だと考え、話を進めることにした。

「ゴジラは現在、若狭湾にいます。ここでゴジラに攻撃をしかけた場合、ゴジラの熱線や爆撃の流れ弾で未だ無傷な原子炉も損傷する可能性があります。そうなれば、放射能を吸収するゴジラが原子炉を襲撃するよりも大きな被害が出る可能性があります。自衛隊は、ゴジラに手を出さないのではなく、手を出せないのです」

「……これだから民自党は!!原発の危険性が分かっていながらボコボコ原発をつくるからこんなことになるんですよ。あの政党は歴史問題では戦時中償いきれないほどの迷惑をかけた韓国に対するまともな謝罪もないですし、この国の歴史の反省という点でも汚点ばかり残して――」

 まともなリーダーシップのある政治家であれば、この時点でこれまでの政権を担ってきた旧与党に愚痴を言うのではなく、若狭湾をゴジラが出た後にどのような対応をするかについて考えるだろう。

 しかし、この数百年続く由緒正しき華族の家系の生まれという神輿にはもってこいの人物だというだけで多政党連立政権という名の烏合の衆のリーダーに就任したこの男にとって最も重要なことは如何に今回のゴジラ襲撃で生じるであろう損害、被害に対する責任から逃れるかということだった。

 優柔不断、ことなかれ主義、無責任。一国の指導者に不要なものばかりで、誇れるのは家柄とルックスだけ。政権運営に陰りが見えている今、世間で噂されているこの首相の評価である。

「そ、そもそも、自衛隊は何をやっていたんですか!!若狭湾に出現するまでにゴジラをどうして発見できなかったのです!?日本海に出現したということは、ゴジラは対馬海峡、宗谷海峡、津軽海峡、関門海峡の何れかを通って太平洋からやってきたということですよ!!どうして予兆すら察知できなかったのですか!!」

 自身を見る防衛省関係者の目が冷ややかになりつつあることを察した首相は、今回の責任を少しでも転嫁するべく自衛隊の失態に矛先を向けた。その下心は防衛事務次官も即座に理解できたが、彼もゴジラ出現の予兆すら掴めなかったことだけは釈明できなかった。

 自衛隊が米ソの冷戦時代からシーレーンを護るべく整備し続けてきた対潜システムがゴジラの日本海への侵入を全く察知することもできなかったのだ。

 日本の海運を担う全国の水道、海峡に設置したソ連、中国、北朝鮮の潜水艦を察知する固定式の聴音装置も、最新鋭機と豊富なノウハウを誇る対潜哨戒機も、ゴジラ接近の予兆すら掴めなかったのである。これは失態どころの話ではない。海上自衛隊の保有すべき最低限の能力そのものに関わる問題だ。

 防衛事務次官としては、ゴジラが海上自衛隊の眼と耳に一切ひっかかからずに日本本土に、それも日本海に通じる4つの狭い海峡を抜けて日本海側に出現したという事実は考え難い事実であった。

 太平洋側にゴジラが出現したのであればまだ海上自衛隊の失態ということで弁護はできずども理解はできた。ゴジラが日本海で生まれたなどとも考え辛い以上、ゴジラが太平洋から日本海に来たことは疑いようもないが、身長50mの怪物が人の目も多く海上船舶の往来が激しい海峡を誰にも気づかれることなく通過したということは全く理解できない。

 しかし、事実は事実。防衛事務次官は責任を転嫁すべく怒鳴る首相の前で、ただ静かに耐えるしかなかった。

 

「総理、彼らには後で責任を取ってもらいましょう。それよりも、対ゴジラ作戦についての話を進めたいのですが……」

 一通り自衛隊関係者の無能を罵倒し終えた首相は、不機嫌な表情を崩すことなく防衛大臣の言葉に渋々頷いた。

「……仕方がない。君達には後できちんと責任を取ってもらおう。……それで、自衛隊は若狭を出たゴジラにどう対処するのだね?」

 防衛事務次官は、内心でここまで長々と責任転嫁に時間を費やしてきた現首相の愚かさには辟易していたが、それを表情に出すことなく答えた。

「はい。若狭湾の原発を喰らい尽くした時に予測されるゴジラの行動は、大きく3通りです。一つ目が、さらに核燃料を求めて韓国の蔚珍、月城、古里の何れかの原発に向かう場合、二つ目が、核燃料の摂取で満足し、日本海から出て行く場合。そして三つ目が、原発の破壊後日本に上陸する場合です。まず韓国をゴジラが襲撃した場合ですが、我が国は憲法9条があるためにゴジラの韓国襲撃には関与できません。この場合は、韓国軍がゴジラに対処することになります。二番目の場合ですが、ゴジラに本土上陸の兆候が見られない限りはゴジラに自衛隊は手を出さないことになります。下手に刺激して本土に危害が及ぶことを避けるべきだと判断したからです。そして、三番目の場合、ゴジラの侵攻を阻止すべく陸・海・空の全自衛隊の総力を持ってこれに対処することとなっています」

 スクリーンには、現在のゴジラの位置と原発の位置を示した本州の地図が映し出される。

「現在、海上自衛隊は呉の第四、第八護衛隊を出撃させています。対馬沖で、舞鶴から退避していた第三並びに第七護衛隊と合流し、ゴジラに海から攻撃を行う準備を行っています。陸上自衛隊は、東名、名神、北陸自動車道を全面通行止めにし、JRの在来線と新幹線の線路も利用して部隊を福井に集結させています。航空自衛隊は、三沢と築城のF-1と対艦装備、地上攻撃用装備を小松と小牧に輸送する準備を行っております」

「しかし、ゴジラは4時間で若狭の全ての原発を破壊するそうですね。部隊を集結させることは間に合うのですか?」

 先ほどから自衛隊の能力を疑っているのだろう。首相が防衛省職員達に向ける視線はどこか冷ややかだった。

「ゴジラが原発襲撃後に日本に上陸する場合、若狭からそのまま上陸してくる可能性が高いと我々は分析しています。しかし、その場合4時間以内で若狭に集められる戦力では撃退は困難といわざるを得ません。ですから、4時間以内に若狭に集められる部隊は、現在一乗谷に集結させております」

「一乗谷?」

「はい。仮にゴジラが若狭から上陸してそのまま南下した場合、京都、大坂、神戸といった人口密集地帯が進路上に入る可能性があり、こちらが迎撃に必要な戦力を集めるまでに人的損失、経済的損失を含め甚大な被害が出ることが予想されます。ですから、4時間以内に集められる部隊は全て一乗谷に集め、東からゴジラを攻撃し、ゴジラを東に誘導します」

「上陸を許すというのか!?」

「4時間以内に集まる兵力では、どのみちゴジラの上陸を阻止するには間に合わず、ゴジラ撃退は敵いません。しかし、今、一乗谷にまでゴジラを誘い込むことができれば、勝つ算段はできる……それが、現在ゴジラ攻撃の指揮を執っている特殊戦略作戦室の結論です」

「何故、一乗谷なのだ?」

 元々は前の政権で与党であった民自党の出であり、この閣僚メンバーの中ではそこそこにはまともな防衛大臣が問いかけた。

「一乗谷は、東西約500m、南北約3kmの深い谷あいです。付近に北陸自動車道や鉄道が通じているために戦力を集めるにも立地上の都合がよいため、より短時間で戦力を整えられます。ここでならば、戦車や自走砲はその身を晒すことなく谷あいのゴジラを攻撃することができるはずです。そして、ゴジラの熱線の射線を塞ぐことで、反撃を抑制することも可能です。ここでゴジラを足止めしつつ反復攻撃を行うことで、ゴジラを仕留める計画になっています」

 

「…………」

 首相は考える。この防衛事務次官の言い分では、このまま若狭でゴジラの本土上陸を阻止すべく戦ったところで勝ち目はないという。しかし、だからといって福井にゴジラの上陸を許せば、国民の反発は必死だ。

 最悪なのは自衛隊の口車にのって上陸を許し、撃退できなかった場合だ。内閣総辞職は当然だが、首相個人の名誉も地に墜ちる。二度と街に出られないだろう。かといって自衛隊に無理に若狭で迎撃戦をやらせるというのも拙い。これで自衛隊の主張どおりに負けて人口密集地にゴジラの侵攻を許したならば、自分は戦犯だ。

 現場をグチャグチャに掻き乱した挙句に被害を拡大させただけの政治家となれば、世間からまともな扱いをされるはずがない。この首相でも、それでも政治活動を続けられるような厚顔無恥ではなかった。首相は悩みに悩んだ末に、結論を出した。

「……分かりました。一乗谷で迎え撃つ準備を進めてください」

 首相の決断に、防衛事務次官は頭を下げる。万が一の時は確実に責任を転嫁できるような選択であることは理解していたが、それでも彼は日本を護る防人だ。防人として正しい任務に着けと言われれば、否とはいえないし、言おうというつもりは微塵もない。

「私はこれから、記者発表の準備を行います。官房長官、すぐにマスコミに連絡を――」

 首相が記者会見の準備をするために閣僚達に声をかけようとする。だが、その時、危機管理センターのスタッフの一人が上げた悲鳴のような報告が首相の声を遮った。

 

「○○県冬木市に二体の怪獣が突如出現しました!!うち一体の形態はゴジラに酷似しているとの報告です!!」

 

 首相はかわいそうなほどに顔を青ざめ、卒倒した。




注意!!

この話の一切は架空のものであり、筆者の妄想です。
登場人物や拙作の設定が実在の人物、設定に類似する点があったとしても、それらは全てフィクションです。

……このレベルなら利用規約に抵触しない、はず



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「特殊戦略作戦室の……アイツしかいないでしょう!!」

お久しぶりです。
忙しい毎日です……


 対ゴジラ邀撃作戦の指揮を取っている市ヶ谷の司令室は混乱の真っ只中にあった。

 多少の混乱は止むを得なかっただろうし、防衛省も予測はしていた。およそ四半世紀ぶりの巨大生物の日本本土襲撃、それも、1954年に戦災から復興したばかりであった東京を一夜にして火の海へと変えた日本怪獣史に残る無双の大怪獣『ゴジラ』の襲撃だ。しかも、日本海に侵入され、原発を襲撃されるまで海上自衛隊の対潜網にも引っかからなかったのだ。無理もない。

 しかし、市ヶ谷の混乱振りは事前の予想をはるかに上回るものであった。情報が錯綜し、この国で今何が起きているのかも正確には把握できない状態だ。

 その原因は、この国で現在起こっている天変地異にも等しい大怪獣総攻撃にあった。

 

 

緊急発進(スクランブル)した築地基地所属の二機のF-15が冬木市上空でレーダーから消滅しました!!」

「レーダーが冬木市上空に二体の巨大生物を確認しました!!二体とも、全長50m以上です!!」

「冬木市から巨大生物の飛翔を確認!!先の二体の巨大生物とは別の個体が、マッハ1のスピードで東に移動しています!!」

 次々ともたらされる情報……いや、凶報に司令部は騒然としていた。

「一体どうなってるんだ!!……この国は、怪獣だらけか!!」

 航空自衛隊の三雲空将は、空自のF-15が二機撃墜に加えて常識を疑う怪獣の異常発生という事態に苛立ち頭を掻き毟った。その隣では、日野垣書記官が頭痛を堪えるように顳顬を抑えていた。

「現時点で、未確認情報を含めて我が国の領土、領海に怪獣が6体……こんな事態、想定外だ」

 しかし、誰もが凶報に頭を抱え、司令部の人員が次々と入ってくる情報の処理にてんやわんやな状態の中で、その中心にいる若い男は欠片も動揺を見せていなかった。その男こそ、この自衛隊の対ゴジラ邀撃作戦の指揮を任された男、黒木翔特佐である。

 彼は防衛省に設置された対巨大生物作戦本部の人間である。彼らはヤングエリート集団と呼ばれており、ゴジラ等の巨大生物の出現の際には自衛隊の指揮権を持つのだ。

 

「やむを得ません。大阪以西の部隊は全て、冬木市に回しましょう」

 志村陸上幕僚長が部隊を二分し、半数をゴジラに、半数を冬木に当てることを山地統幕議長に提案する。しかし、その意見は矢継ぎ早に各部隊に指揮を飛ばしていた黒木によって否定された。

「待って下さい。間に合いません」

「そんなことは分かっているよ!!しかし、我々自衛隊が護るべき国民が危険に晒されているのだ。行くしかないだろう!!」

 山地は怒鳴りながら黒木に答えた。彼とて、戦力の分散は戦略上愚の骨頂であることは理解している。しかし、だからといって護るべき国民を取捨選択するという考えをとることは国民を護る自衛官の役割を誇りとしている彼にはできなかった。

「まずは情報を収集し、状況を把握することが先決です。ですが、陸自の西部方面隊と第13、14旅団は鳥取で待機してもらいましょう。一乗谷に向かっている全ての部隊も、京都に回します」

「一乗谷に全部隊を集結させる予定ではなかったのかね?」

 日野垣の問いに男は頭を横に振る。

「元々、一乗谷に部隊を集結させようと判断した時は、敵がゴジラだけに限定されていました。しかし、現状では我が国に怪獣が少なくとも4体、いや、未確認の怪獣を含めればそれ以上に存在する可能性が高いといわざるを得ません。もしも、一乗谷でゴジラを討てたとしても、そこからさらに冬木市に部隊を移動させる余裕はないでしょう。ゴジラを倒すことができたとしても、残る5体の怪獣を野放しにしてしまえば無意味です」

「ならば、どうするんだ?」

 山地の問いに、黒木は淡々と答えた。

「作戦を変更します。ゴジラを冬木市に誘導し、同時に我々は陸・海・空全自衛隊の総力を冬木市に集結させ、態勢を立て直してゴジラを待ちましょう。冬木市に全ての怪獣が集結したところで自衛隊の総力を持って殲滅するのです。幸いにも冬木は海に面し、周囲を山に囲まれた地形ですから冬木港には護衛艦隊、山の影に自走砲部隊、攻撃ヘリ部隊を配置することが可能です。加えて怪獣たちの同士討ちを狙えれば、さらに高確率で怪獣を掃討できます」

 怪獣を6体も冬木市に集める彼の作戦では、冬木市が灰燼に帰すのは必然だ。発生するであろう人的、物的被害を想像した山地たちの顔が青ざめる。

「……このまま一乗谷でゴジラの撃破に成功したとしても、6体の怪獣を放置すれば我々に勝ちはありません。しかし、今、冬木に戦力を集結させることができれば、勝つ算段はできます」

「それじゃ、冬木はどうなるんだ!!あそこは中核市だぞ!?20万人以上の国民がいるんだ!!」

「私の仕事は敵に勝つか負けるかです!!」

 山地の反論に対して黒木が返した言葉によって、騒々しかった司令室から一瞬人の声が消えた。

「……住民の退避のために可能な限り総攻撃は遅らせますので、住民の避難をよろしくお願いします」

 それは、事実上冬木市を見捨てるという宣告したに等しい。山地はその戦略を聞いて激昂しそうになった。

 戦略上は間違ってはないことを理性は主張するのだが、国民を護る防人としての自負が、責任がそれを否定しようとするのだ。

 この作戦を否定したい。批判するのは簡単だが、対案もない批判はただの癇癪にすぎない。そして何より、より多数の国民を生かすためには、少数の国民の切捨てもやむをえないということが頭では理解できてしまう。

 故に、山地は顔を真っ赤にして立ち上がりながらも、黒木に何も言うことができずに静かに腰を降ろすしかなかった。

 

 

 

 

「どうしろっていうんだよ、これぇ!?」

 冬木市円蔵山の中腹で、ウェイバーは目の前の光景に頭を抱えていた。川を挟んで、一方には三つ首の黄金の龍、対岸には街を結晶で覆った巨大な怪獣。先ほどまで一緒にいたルーラーは、上空を飛行していた戦闘機が制御を失って落下したのを見るや、すぐに赤いメガネをかざして赤い巨人に変身して結晶の街を作り出した怪獣と相対していた。

「マスター!!あの結晶の怪獣はルーラーに任せて、私たちはキングギドラを倒しましょう!!」

「キ……キングギドラ?モルはあの怪獣を知っているのか?」

 ウェイバーの問いにモルは首を縦に振る。そして、ベルベラがいつもの尊大な態度で説明を始めた。

「あの金ぴかの三本首の名前は、宇宙超怪獣キングギドラだ。1億3000万年前に地球に飛来して、恐竜を絶滅させたやつだ。宇宙での生物の大量絶滅の例は少なくないけど、その半数以上はあいつらギドラ一族の怪獣の仕業だって言われてる。前にモスラがこいつを倒したことがあるけど、そもそもヤツは人間がサーヴァントとして制御できるような存在じゃないんだ。ほっとけば、この星が死ぬ」

「1億3000万年前に地球に飛来したときには、ガイアのSOSを受けて駆けつけた月のアルティメット・ワンさえも破ったと伝えられているわ。それに、キングギドラは生命エキスを喰らいます。あのドームを見てください」

 ロラが指差す先には周囲を覆っている巨大なドームが見える。あの場所は、確か冬木のセカンドオーナーである遠坂の屋敷があった場所だ。

「あのドームは、キングギドラの宝具です。キングギドラはドームを介して囚われている子供達の生命エキスを喰らうことができるのです」

「じゃあ、あの中には……」

「間違いなく、キングギドラが集めた子供達がいます。ですから、一刻も早くあのドームを破壊しなければなりません!!そして、モスラはかつてキングギドラを破ったことがあります。モスラを呼びましょう!!」

 ウェイバーはロラの提案に頷いた。彼自身に魔術師には似合わない人道的な感情があったということもあるが、生命エキスを吸収したキングギドラが強化されることは必然だからだ。生前に勝っているのであれば勝算は十分にあるし、キングギドラの強化はまず間違いなく自分にとっての害となるとウェイバーは確信していたため、やられる前にやるべきだとウェイバーは即決した。

 実際、彼の懸念の通り、このキングギドラにとってモスラとは自身を成長前を含めて二度も殺している不倶戴天の敵であり、真っ先に抹殺する対象に他ならなかった。弾の非人道的特訓を受けたウェイバーは、その辺りの危機感知能力が数日前に比べて格段に向上していたようだ。

「よし、ライダー!!モスラを」

「待ちな、ガキ!!」

 だが、そこでベルベラがウェイバーに待ったをかける。

「ベルベラ、急がないと子供達が!!」 

「落ち着きな、ロラ。このままモスラが戦ってもキングギドラには勝てないよ。今のままのモスラじゃ駄目だ。もう一段階、モスラが進化しないと戦いにもならない」

 ライダーをウェイバーが召喚してから今日で5日目だ。モスラは命の水賜わりし守護神獣(レインボーモスラ)にまで進化しているが、命の水賜わりし守護神獣(レインボーモスラ)では成長したキングギドラに手も足もでないことは歴史が既に証明していた。キングギドラを倒せるのは、一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)だけなのだ。

「でも、だからといって後二日もキングギドラを放っておくというの!?その間にどれだけの罪のない子供が犠牲になるか……それに、ルーラー一人であの怪獣たちと戦わせるつもり!?」

 しかし、ロラの糾弾にも、ベルベラの態度は変わらない。

「だったら、このまま命の水賜わりし守護神獣(レインボーモスラ)に無駄死にさせるかい?モスラを失ったアタシたちは、そこのマスターより腕が上の魔術師には勝てないんだ。無駄死にさせるなんてゴメンだね」

 宝具であるモスラは、ベルベラ、モル、ロラの三人が召喚の意志を持たなければ召喚できないことになっている。ベルベラの意志が不一致となれば、モルとロラの二人ではモスラを召喚できないのだ。

 何とかしてベルベラに納得させようとロラとモルは説得を続けるが、ベルベラは全く聞く耳を持たない。

「キングギドラを潰すことにアタシは反対はしないよ。だけどね、人間のガキ共のためにキングギドラを潰せるチャンスを失うことには同意できない。後二日おとなしく待つんだね。そうすればアタシもモスラの召喚に異議は唱えない」

「でも!!それじゃ間に合わないのよ!!ベルベラも召喚の時に感じたでしょう?私たちがこの聖杯戦争に呼ばれたのは、間違いなくガイアかアラヤの抑止が関わっているの!!私たちの使命は怪獣に聖杯を取らせないことなのよ!!」

「ガイアは別に人間のことなんか気にしていないさ。それに、怪獣たちを殲滅するのがガイアの意志なら、ここでモスラを無駄死にさせる方がガイアの意志に反しているんじゃないのかい?アラヤの意志にしても、確実にキングギドラを倒す方がより多くの人間共を救えるはずさ。ま、アタシはそもそも抑止に素直に従うつもりは毛頭なかったけどね」

 姉妹の言い争いは次第にヒートアップし始める。いい加減頭が痛くなってきたウェイバーは、我慢ならなくなって口を挟む。

「お前ら、もういい加減にしろ!!」

 ウェイバーの癇癪交じりに叫びに、ベルベラは白い眼を向ける。

「喧しいよ、ガキ。いくらマスターとはいえ、アタシの意志を曲げられる筋合いはないよ。それとも、アンタには腹案でもあるのかい?」

 ベルベラの追求に一瞬怯むウェイバーだったが、彼の妙にピンチに限って機転の利く頭脳は、ここで彼に一つの妙案を示してくれた。

「……ないようだね。だったらアンタは」

「も、勿論腹案がある!!」

 数秒の沈黙の後に慌てたように口を開いたウェイバーをベルベラは胡散臭げに見るが、ウェイバーはそれに構うことなく右手の甲をかざした。それを見たベルベラは露骨に顔を顰める。

「ハン……なるほどねぇ。令呪でアタシに同意させようってのか。不愉快だけど、これならアタシも従わざるを得ない。お前が切り札をこんな下らないことに使うバカだってのは誤算だったよ。最低限のオツムはあると思っていたけど、過大評価だったみたいだね」

 モルとロラも僅かにその額に皺をよせる。意見の不一致があるとはいえ、姉の意志を無理やり曲げられるというのは彼女達にとってもあまり気分のいいものではなかった。しかし、ウェイバーは彼女達の想像を否定した。

「……勘違いするな。僕はこれでベルベラの意志を曲げようって思っているわけじゃない。コイツで命の水賜わりし守護神獣(レインボー・モスラ)一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)にするんだ。ベルベラは、モスラに勝ち目があればいいんだろう?令呪を使えばモスラを一段階進化させることならできるはずだ」

 ウェイバーの提案を聞いたモルとロラは顔に喜色を浮かべる。その一方で、ベルベラは苦虫を噛み潰したような顔をする。彼女は本心ではそもそも人間を助けたくなかった。しかし、先ほど自分で「勝ち目がない」ことを引き合いに出してモスラの召喚を否定した以上、モスラに勝ち目があるならば召喚を否定することはできない。

「分かった……モスラを呼ぼう。本当は人間のガキなんて放っておきたいけど、そうするとキングギドラが強化されてしまう。仕方ないから助けてやるよ」

「……助けるのは私達じゃなくて、モスラじゃない」

 ベルベラの台詞にモルがつっこんだ。

 

 

 エリアス三姉妹が、地球のため、子供達のためにモスラへの祈りの歌を捧げる。

 それは、争いのない永遠の平和を約束された地、インファント島に伝わる守護神との対話の唄。文明を進みすぎた科学によって失った太古の民が、モスラと、島の平和と、繁栄を祈るためにつくり、何千年も伝えてきた希望の唄。

 

 3人の巫女は唄う。

 

 長女は平和を脅かす敵と相対し、恐怖を乗り換えて己の命を賭けて戦う勇気を掲げる。次女は如何なる逆境を乗り越え、理想を現実にするために古より伝え続け、時には自ら生み出す知恵を讃える。三女は地球に、平和に、そして生きとし生ける全ての生命に対する愛を謳う。

 

 知恵と愛と勇気。3つがそろうことで、彼女たちは星と平和を護る本当の強さを得る。そして、その本当の強さが奏でる調がモスラの心を振るわせるのだ。

 

 今、下僕の祈りと三重奏を奏でる唄に応え、虹色の翼を掲げた平和を護る守護神獣が蘇った。




「誰が指揮を?」
「特殊戦略作戦室の……アイツしかいないでしょう」

対ゴジラ作戦なら、彼以外に指揮は任せられませんよ。
しかし、この聖杯戦争では黒木さんも頼りないって思えてしまう異常さ……



ついでに、元ネタ解説

黒木翔特佐……ゴジラVSビオランテより
志村武雄陸上幕僚長……ゴジラVSビオランテより
山地統幕議長……ゴジラVSビオランテより

日野垣真人書記官……ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃より
三雲勝将空将……ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃より


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邪神降臨

お久しぶりです。
チョッといいことがあったので、テンションにまかせて書きました。


「出雲駐屯地の第13偵察隊からの報告が届きました!!」

 第13偵察隊は、冬木市に航空偵察に出した航空機などからの連絡が一切ないという事態を受けて第13旅団が陸路から派遣した偵察部隊である。彼らによって初めてもたらされた冬木市の具体的な状況報告に司令部員たちの視線が集まる。

「冬木市の全域が現在、EMPの影響と思われる強力な通信障害が発生している模様!!無線通信が途絶え、電子機器も正常に作動しないとのことです。現在、第13通信隊が冬木市南西に有線通信を設置した観測所を設営中!!」

「……F-15の連絡が途絶えたのも、EMPで機内の電子機器がイカれたせいか。クソ!!だからF-15全機を対EMP装備に改装しろとあれだけ言ったのだ!!」

 三雲空将は、思わず机に拳を叩き付ける。

「第13通信隊の観測所には、いつごろ繋がる?」

 黒木の問いに、報告した通信士は即答した。

「後、20分ほどで繋がるとの報告を受けています!!」

「繋がったら、すぐにこちらに通信回線を回してくれ」

 黒木は思案する。この強力なEMPは十中八九怪獣が発しているとみていいだろう。しかし、正直言って怪獣がEMPを使うことなど完全に予想外だ。EMPの影響範囲次第では、近接航空支援も難しくなるし、地対地ミサイルなどにも影響がでかねない。

 使える兵力がさらに限られると、状況はかなり厳しいものになるかもしれない。

 考えに耽る黒木の隣で、山地が受話器を取る。首相官邸からの連絡は、全て防衛事務次官から彼に送られる手筈になっていた。

「うん……そうか。分かった」

 防衛事務次官からの連絡を受けた山地は困惑と落胆の入り混じった複雑な表情を浮かべながら黒木に向き直った。

「黒木君、防衛事務次官からの連絡だ。総理が倒れたらしい」

「は?」

 黒木も、彼の言葉が理解できずに顔を顰める。

「事務次官曰く、総理は怪獣が冬木に立て続けに出現したショックで卒倒してしまったらしい。たたき起こしても、わけのわからない現実逃避をし始める始末で、挙句の果てには「怪獣対策は全部自衛隊に任せる、被害が出たり失敗したりしても私は知らない」などと言い始めて、正式にそれを防衛大臣に命令した後に病院に向かったらしい」

 黒木も一瞬、呆れて声も出なかった。まさかの自衛隊への全権白紙委任だ。こんな無責任な首相を、烏合の衆である政党連合を支持した国民の失策のツケをこんな国家存亡の危機に払わされるとは。そもそも、文民統制(シビリアンコントロール)はどうなっているのだろうかと考えさせられてしまう。絶対にやるつもりはないが、あの無能は自衛隊が関東軍や戦前の陸軍のようになったとしても構わないと考えているのだろうか?

 だが、これは黒木にとっても悪いことばかりではない。これで現政権の無能政治家共の横槍は一切気にすることなく怪獣撃滅作戦を遂行することができるのだ。冬木市を犠牲にする作戦に反対することは必死の無能政治家への対応をしなくていいということは彼らの精神衛生上の慶事であった。

 責任は全て取らされることになるが、黒木はもとよりその点は気にしていない。彼の仕事は敵に勝つか負けるかであり、国を守る防人として敗北の責任を取ることは当然のことであるからだ。

「白紙委任というわけですか、都合がいいですね。下手な介入がないだけ、やりやすい」

 黒木は怪獣たちの位置がマーキングされた日本地図に視線を向ける。現在のところ、冬木市の未遠川を挟んで怪獣が一体ずつ、そして冬木市上空にレーダーで確認された怪獣が二体、冬木市から離れて東に向かった怪獣が一体。最後に、核燃料を食べつくして進路を西にとったゴジラが若狭湾沖。

 ゴジラが出現時のように海上自衛隊の哨戒網を掻い潜って移動することが最悪の事態であるが、既に岩国基地からP-3Cを一機ゴジラ哨戒に割いているし、舞鶴の第三護衛隊群からも護衛艦一隻を割いてゴジラの目視追跡を行わせている。

 欲を言えば哨戒ヘリも回したかったが、舞鶴に無い以上は仕方の無いことだ。いくらなんでも対潜哨戒機と護衛艦が付きっ切りで監視していれば逃げられることはないと通常は判断されるだろうが、黒木は万が一のことも考え、さらに哨戒機2機と潜水艦一隻をゴジラの追跡に当てるように海上自衛隊に指示していた。

 ――上手くゴジラを冬木に誘導できれば、冬木に陣取っている怪獣4体を駆逐することができる。しかし、問題は冬木から東に発った怪獣だ。この怪獣に暴れまわられれば、航空自衛隊だけでは対処しきれない可能性もある。となると、この飛翔した怪獣を如何にして冬木、又はゴジラに向かわせるか……。黒木は思案する。

 だが、彼の心配は杞憂だった。思案中の彼の耳に、レーダー観測員の報告が飛び込んできたからだ。

「冬木市を飛翔した巨大生物が針路を変えました!!このまま進みますと、数分でゴジラと接触します!!」

 人間がどのように怪獣同士をぶつけるかを考えるまでもなく、怪獣たちは自身の目的や本能のために互いに殺しあう運命にあることなど、黒木が知る由もないことであった。

 

 

 核燃料を摂取し、マスターの雀の涙のような魔力に頼らなくても存分に戦えるようになったゴジラは、針路を西に取っていた。雁夜の指示などゴジラが聞く耳持つはずもないし、ゴジラは元々複雑な理性など持ち合わせてはいない。狂化しているといっても、生きていたころとそう変ってはいなかった。霊体化した方が魔力の節約になるのにも関わらずゴジラが霊体化しない理由も、ゴジラの方にあったのである。

 そもそも、西に向かったのは、細胞の共鳴する相手が、宿敵が、討つべき敵がいると本能が語りかけていたからだ。ゴジラの内で怨嗟の声をあげている数百万の怨霊たちは、ゴジラの針路を東京に向けようとするが、ゴジラはそれよりも破壊本能を優先しているようだ。怨霊たちの思考のベクトルも破壊に偏っている影響かもしれない。

 その様子は、ゴジラの後方10kmの地点にいる第三護衛隊群の護衛艦『みねゆき』と、上空を旋回しているP-3C対潜哨戒機が監視している。護衛艦の位置は海面にゴジラが上半身を出さない状態において護衛艦の艦橋から目視できるギリギリの距離だ。

 本来であれば、熱線による攻撃を避けるために艦載ヘリコプターによる哨戒を実施して護衛艦は水平線から離れるべきであるが、199X年時点で舞鶴には海上自衛隊の航空基地が存在していなかったため、第三護衛隊群の護衛艦搭載ヘリコプターは千葉の館山航空基地に常駐せざるを得ない状態にあった。

 そのため、危険を覚悟で護衛艦が夜間でも目視できる距離から追跡する危険を冒さざるをえなかったのである。しかし、海と空からの追跡態勢はゴジラの動きを逐一本部に報告することを可能としていた。

 

 不意に、ゴジラが上空を見上げる。夜の日本海を見下ろす空には雲海が浮かんでいるだけで、それ以外の存在は視認できない。しかし、ゴジラの本能は「そこに敵がいる」と警鐘を鳴らしていた。

 直後にゴジラの元に、雲海から4条の光線がシャワーのように降り注ぐ。光線というよりは、メスと表現した方がいいかもしれないその鋭利な光の刃の大半は海を裂くだけであったが、一条の刃が一瞬だけ命中し、ゴジラの頑強な表皮の一部を切り裂くことに成功する。

 さらに、見境なしに放たれた光の刃は上空を旋回していたP-3Cにもおそいかかり、その胴体部を斜めに切断した。胴体を二分されたP-3Cは錐揉みしながら海面へと落下し、大きな水柱を2本噴き上げた。幸いにも、『みねゆき』はゴジラから10km離れていたために光の刃をその艦体に受けることはなかった。自衛隊員の戦死、戦闘による装備品の喪失は、1966年の対ガイラ戦以来およそ四半世紀ぶりのことであった。

 一方、表皮を浅く切り裂かれたところで、ゴジラは動じない。この程度の傷は、ゴジラにとってはかすり傷にすぎないからだ。自分に手を出した存在を敵だと判断したゴジラは背びれを発光させ、口内に青白い光を溜める。そして、ゴジラは狙いを光の刃の発射点である雲海の中に定めて怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を放った。

 青白い光の筋が雲海の中に飛び込み、その熱量で雲海の中にぽっかりと穴をあけるも、雲海の穴の奥には夜空が広がっているだけでそこには敵の姿はなかった。しかし、その直後、ゴジラが眼を凝らしている穴の奥に数本の触手が踊りだす。そして、穴を通して放たれた光の刃がゴジラの顔面に直撃する。

 理性など存在せず、光の刃を受けてもかすり傷程度にしかならない防御力を有しているゴジラであっても、生物としての特性を持ち合わせている以上は眼を狙われて怯まずにはいられなかった。たまらず頭を下げて日本海に潜り始める。

 その影は虹色の膜を広げながら光の刃を4本の触手から放ち、超音速で急降下して僅か10秒ほどで海面に到達する。そして、そのまま海面に半身を沈めたゴジラに体当たりをきめた。突然の衝撃に怯むゴジラに対し、それは背後から触手を突きたてて細胞を摂取する。

 ゴジラに触手を突き立てながら、鳥を思わせる鋭利なフォルムが海面に姿を見せる。そのフォルムは10km先にいた『みねゆき』の艦橋からも見えた。よく見ると、人間によく似た体つき、夜の闇に映える身体の所々に存在する発光体に、鳥の頭を彷彿とさせる頭部、そしてどこか優美さをも感じさせる甲冑のような胴体――怪獣というよりは、神に近しいものに見える生物がそこにいた。

 その生物の名は、ランサーのクラスで召喚されたサーヴァント、柳星張(イリス)。かつて邪神とも呼ばれた超古代先史文明の作り上げた戦闘生物であり、人類に滅びをもたらす存在であった。




黒木さん、VSビオランテの時より胃に多方面からのダメージ受けてます。仕方ないね。

そして、ついにゴジラとイリスが相対します!!

ゴジラVSイリス
ウルトラセブンVSスペースゴジラ
モスラVSキングギドラ
ガイガンVSメガギラス
……最後の組み合わせが中ボス同士でなんか地味ですが、これからこの組み合わせで地獄絵図が展開されるんでしょうなぁ。きっと。


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破壊神VS地球の守護者

セブンを書いてると、筆が進む進む……
やっぱいいですよね、セブン。


 ルーラー、諸星弾……いや、ウルトラセブンは、目の前の敵の強さを一目見て理解した。セブンは真名看破のスキルによって彼は目の前の怪獣の真名を見抜くことができるが、この怪獣――スペースゴジラは平行世界の宇宙で生まれた怪獣だ。彼も、彼の一族も遭遇したことのない種類の怪獣だったため、スペースゴジラに関する情報は彼の中には名前だけしかない。

 しかし、地球や宇宙の平和を護るために幾多の宇宙人、怪獣と戦い続けてきた経験が、長年の勘が彼の中で警鐘を鳴らしていた。この怪獣の強さは、間違いなくタイラントやグランドキング以上、ひょっとするとベリアルやUキラーザウルスに匹敵するかもしれない。

 

 生前も数えるほどにしか戦わなかったほどの大怪獣と相対したセブンは、まず敵の出方を見極めることにした。周囲に乱立する結晶塔といい、結晶生物らしき面影を残すフォルム。スペースゴジラはなんらかの結晶を利用した特殊能力を持つと判断したからである。

 そして、構えを取るセブンに対し、スペースゴジラが先手をうつ。周囲に乱立していた結晶塔が浮き上がり、次々とミサイルのようにセブン目掛けて発射された。セブンはウルトラ念力で数本のミサイルの軌道を逸らして接触させることでミサイルを撃墜する。全てのミサイルを撃墜できたわけではなかったが、セブンに迫った数本のミサイルはウルトラバリアーで防いだ。

 ミサイルからその身を守ったセブンは、すかさず反撃に転じる。スペースゴジラの体格から見るに近接戦闘が不得手であるとは考えにくいが、距離を保ってあのミサイルの集中砲火を受けるよりはやりやすいと考え、セブンは強く地面を蹴り、前に出た。セブンの瞬発力を見誤ったスペースゴジラは迎撃が遅れ、セブンが自身の懐に入り込むことを許してしまう。

 瞬時にスペースゴジラの懐に入ったセブンは、スペースゴジラの腹に連続でパンチを浴びせかける。Aランクの耐久を持つスペースゴジラでも、同格の筋力を持つ相手から的確に同じ場所を連続して殴打されれば、その衝撃は少なからず体内に響く。

 たまらずスペースゴジラは星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)を放つが、セブンはこれを予期していたために瞬時に反応して回避した。スペースゴジラのような恐竜が直立二足歩行したフォルムの怪獣には、身体の角や口、目から放つ光線などを主な技にしている種類のものが多いことをセブンは長年の戦闘経験から知っていたのである。相手の懐に入り込んでもセブンはスペースゴジラの額と肩の結晶、口からは注意を逸らしてはいなかった。

 そして、星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)を回避すると同時に再び前に踏み込み、スペースゴジラの無防備な胸に回し蹴りを決めた。体重と遠心力の乗った一撃は体重40000tの巨体を吹き飛ばし、数万tクラスの衝撃を胸に受けたスペースゴジラはダウンする。

 すかさず倒れこんだスペースゴジラに馬乗りするセブン。星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)を発射できないようにスペースゴジラの口を片手で押さえながら、セブンは手刀を首筋に何度も叩きつける。首に繰り返し叩きつけられる手刀にスペースゴジラも苦悶の声をあげている。

 しかし、スペースゴジラとて並の怪獣ではない。星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)が封じられても、手はまだある。スペースゴジラは重力を操り、マウントポジションを取っているセブンを拘束した。

 スペースゴジラも魔術師(キャスター)のクラスのサーヴァントだ。重力を操作することで敵の動きを封じ込める生来の能力も魔術として認識されており、スキルや宝具がなくとも普通に使えるのである。

 スペースゴジラは重力に囚われて身動きの取れなくなったセブンを引き剥がし、宙に縛り付ける。ゆっくりと立ち上がったスペースゴジラは、宙に縛り付けたセブンを血走った目で睨みつけながらそのボディーに爪をつきたてる。

 怪力スキルを持ち、さらに筋力もAクラス。そこから放たれるクローの威力は凄まじく、それを連続して喰らったセブンは苦悶の声を上げる。さらに、スペースゴジラは引力を操作してセブンを結晶塔にむかってぶん投げた。重力で身体を縛られたセブンは受身を取ることもできずにビルに叩きつけられた。

 そして、セブンに対してスペースゴジラは畳み掛ける。スペースゴジラの口から星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)放たれ、セブンを狙う。

 Aランクの宝具の一撃を受ければ、スキルの恩恵で防御力が跳ね上がっているセブンでも大ダメージは避けられない。だが、吹き飛ばされた瞬間から追撃の可能性を予測していたセブンは、スペースゴジラの重力操作の縛りが解けたと同時に自身にウルトラ念力をかけることで後転して、星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)をギリギリで回避した。

 

 歴戦の戦士であるセブンは、スペースゴジラとの数合の交戦で気づいた。スペースゴジラはこの短時間で星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)を連発していながら、殆ど消耗が見られないのだ。

 これの意味するところは、Aランクの宝具を連発しても枯渇しない並外れた魔力供給源が存在するということだ。つまり、敵には規格外の魔術回路を有するマスターか、大量の魔力を都合するスキル、又は宝具があるということになる。

 スキルや宝具であれば、どこか別の場所にエネルギーを供給する拠点がある場合や、特定の環境化での太陽光や植物エネルギー、熱エネルギーの吸収能力などが考えられる。その場合、魔力供給や摂取の拠点を叩かない限りこちらはジリ貧だ。

 まず、その拠点を見抜くことから始めないといけない。セブンはスペースゴジラから注意を逸らすことなく、それとなく周囲を見渡す。既に周囲は結晶塔で覆われており、地表を見ることができない状態にある。もし地表にその供給源があった場合、この視界ではどこに拠点があるのかも見つけることは困難だ。

 もしもこの結晶で覆われたフィールドそのものがスペースゴジラに恩恵を与えているとすれば、その恩恵を断ち切るにはフィールドから結晶を除去するしかないが、それは困難を極めることが予想される。

 また、外部からのエネルギー供給を受けているということは、エネルギーを受信するアンテナのような組織が身体のどこかにある可能性もある。そちらを攻撃し、エネルギーの供給を絶つというのも一つの手だが、この場合は身体の外にエネルギー受信器官が露出していることが条件となる。

 セブンは考える。敵の魔力供給源の謎を解くには、どうすればいいのか。この一帯を全てエメリウム光線で焼き払えば手っ取り早いのだが、未だ逃げ遅れた市民が残る街を光線で蹂躙するなど論外であるし、そもそもセブンの魔力量ではそんなことをしても街の半分を焼いて自身が魔力切れで消滅するだけである。

 エネルギー受信器官も、協力してくれる科学者などがいてくれれば見抜いてくれるかもしれないが、この世界では敵のエネルギーについて分析してくれる科学者もいなければ、セブン自身にもそれを分析するだけの科学的な知識はない。

 となると、残る策は、自力でスペースゴジラの一挙一動から手がかりをみつけていくしかない。ウルトラ警備隊や科学特捜隊のような組織があれば彼らにそれを任せられるのだが、この世界では生憎そのような組織は存在しない。

 未だに地球圏の統一された軍組織も存在せず、国と国、民族と民族と衝突が絶えない世界だからだ。科学技術力もそれ相応のものしかなく、失礼なものいいではあるが、とても彼らにそれができるとは思えない。

 ウルトラマンの存在が認知されていればまだしも、この世界にはこれまでウルトラマンが現れた記録はないらしい。しかし、何故か自分たちの存在が特撮ドラマという創作の存在として認知されていることが分かっている。

 セブンの名と姿も特撮ドラマシリーズの二作目の主役として日本人にも広く知られているらしく、知名度補正も高いのが不幸中の幸いといったところだろう。

 

 

――状況は不利。けれども、やるしかない。この星を護るために。

 

 

 どんなに不利だろうと、勝ち目が薄かろうとセブンはこの星を護るために最後まで諦めない。たとえ、その戦いで己の命が尽きるとしても。

 鞭のように撓る星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)を回避し、上空から降り注ぐ無数の結晶をウルトラ念力で逸らしながらセブンは進む。さらに、スペースゴジラのバックを取るために時折牽制のハンディショットを放ちつつ、周囲を回りながら近づいていく。

 敏捷値においてスペースゴジラに優り、幾多の怪獣を討ち取った経験から星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)の軌道を予期できるセブンは、時折放たれる結晶の誘導ミサイルを含めた全ての攻撃を紙一重で回避したり迎撃していた。

 セブンが回避した星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)も周囲の結晶やビルを破壊し、その粉塵が周囲の視界を悪くする。さらに、セブンは敢えてウルトラ念力で宙に舞う粉塵を空中に留まらせることで粉塵を使った視界阻害を続けていた。ウルトラ一族の中でも、最もウルトラ念力の繊細なコントロールに長けたセブンならではの策である。

 そして、スペースゴジラから170mまで近づいたセブンは狙いをその額をスペースゴジラの左肩に向け、左腕を同時に胸に水平にあてる。同時に額のビームランプが輝き、ウルトラセブンの誇る闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)が放たれた。

 闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)は威力ではワイドショットに劣るものの、燃費もよく、部位破壊を目的とした狙撃に適した技だ。近距離から放たれた闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)は寸分違わずスペースゴジラの左肩部の結晶体に炸裂し、結晶体を爆砕した。結晶体が破壊された衝撃とダメージでスペースゴジラは悶える。

 セブンは悶え苦しむスペースゴジラに再度接近し、今度はバックを取る。さらに、背びれの結晶体に右手で掴まりながら、破砕された左肩の傷口に左手をつっこみ、そこからハンドビームを放つことでスペースゴジラの体内にダメージを与えていく。

 苦しみ絶叫するスペースゴジラは背中から傷口を抉るセブンを引き離すべく星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)を曲げ、自身の背中を狙う。自分へのダメージを省みない軌道を取った星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)を予測することができず、セブンは背中に星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)の直撃を喰らって吹き飛ばされる。

 スペースゴジラ自身も、至近距離で炸裂した星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)の余波を浴びて苦悶の声を上げる。しかし、すぐに怒りで血走った目を倒れ伏すセブンの方にむけ、これまでのお返しとばかりに星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)を放つ。

 一方、直撃を喰らったセブンは余波を食らっただけのスペースゴジラとは比べ物にならない大ダメージを余技なくされていた。A+の対城宝具の直撃を受けたならば通常は消滅は免れない。セブンが大ダメージを負うだけで消滅を免れることができたのは、Aランクの耐久値に、日本で与えられる最高ランクの知名度補正、A+の宇宙警備隊スキルの賜物である。

 すさまじいダメージを受けて苦しむセブンだが、痛みに苦しむ身体に鞭打って自身の身体をウルトラ念力で弾いてスペースゴジラがの追撃を回避する。そして、彼は同時に気がついた。星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)の出力が、左肩の結晶体を破壊する前に比べて明らかに落ちているということに。

 実際、スペースゴジラは倒れ伏したセブンへの追撃にも星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)を絶え間なく連発せず、一定の間隔をあけてから放っていた。おそらく、供給される魔力量が減少したためにA+ランクの対城宝具を連発できなくなったのだとセブンは考えた。

 供給される魔力量が目に見えて減退した理由はまず間違いなくあの左肩部の結晶体の破損に間違いない。タイミング的に一番怪しいし、角などの特徴的な部位がエネルギー受信機になりやすいという傾向にも一致している。セブンの歴戦の戦士としての経験も十中八九あの結晶体が怪しいといっていた。

 これでセブンの次の標的も決まった。セブンの考えが正しいかどうかは、残った右肩部の結晶体を破壊すれば分かることだ。そうなれば、次は右肩部の結晶を狙うだけのこと。セブンは迷うことなく怒りに震えるスペースゴジラに向けて駆け出した。

 流石に魔力供給量が減少した今、大量の魔力を消費する星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)を連発することは苦しいためにスペースゴジラは結晶のミサイルでこれを迎え撃つ。しかし、これまでのようなセブンの行動を阻害した弾幕の厚さではないことを即座に見抜いたセブンは、次々と襲い掛かるミサイルの前にも少しも臆することなくアイスラッガーを手に取りながら突き進む。

 セブンとて、ここまでの戦いで消耗がないわけではない。燃費がいいとはいえウルトラ念力を結晶ミサイル相手に多用し、切り札である闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)も一回使っている。他のサーヴァントと違い魔力供給を人間のマスターに依存する必要はないとはいえ、聖杯から供給される魔力にも限りはある。

 また、ここでスペースゴジラを倒したとて、まだモスラ以外の6体の怪獣と戦わなければならない。連戦の疲労と消耗を考えると、スペースゴジラ相手にこれ以上魔力を喰う大技を使うことはできなかった。故に、セブンは魔力消費が最も少ないアイスラッガーを手に取ったのである。

 セブンは、迫り来る結晶を華麗なアイスラッガーさばきで次々と切り裂いていく。エメリウム光線が通じないキングジョーの装甲に弾かれても刃こぼれ一つしなかった硬度を持つアイスラッガーだ。結晶を切り裂くぐらい容易いことだった。

 一方、ミサイルを切り裂きながら迫るセブンに焦ったスペースゴジラは星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)を大きく撓らせ、その軌道にセブンを追い込もうとする。セブンは身を屈め、距離を詰めたところで放たれた星を灼きし炎熱の鞭(コロナ・ビーム)を回避した。

 一度回避したはずの灼熱の炎が撓りつつ背後から再度セブンを襲うも、これもセブンは前方へのスライディングで凌ぎ、スペースゴジラの真下に滑り込みスペースゴジラの視界から姿を消す。

 スペースゴジラが視界からセブンを見失ったその一瞬の隙を突いてセブンはスペースゴジラの右肩目掛けて飛び上がる。そして、セブンは右手に握るアイスラッガーを全力で振りぬいた。

 アイスラッガーはまるで野菜でも切ったかのようにするりと結晶体を通り抜け、切り飛ばされた結晶体が宙を舞った。それを見届けるよりも前にアイスラッガーを振りぬいた勢いを保ちながらセブンは空を飛んで離脱する。

 しかし、スペースゴジラもやられっぱなしではない。空を飛んで離脱しようとするセブンに対してスペースゴジラは尾を全力で振り回し、脇腹に全力で尾を打ち付けた。突如脇から放たれた一撃に反応しそこねたセブンは、スペースゴジラの尾の一撃でサッカーボールのように吹き飛ばされて背中を結晶体に打ち付けた。

 尾を武器として使う怪獣は少なくないし、セブン自身もエレキングなどにはとても苦しめられたことがある。警戒はしていたのだが、予想を上回る速さで振るわれた尾に対応できなかったのである。

 結晶体に背中を打ち付けてダウンするセブン。その一方、両肩の結晶体を失ったスペースゴジラも著しい弱体化を余儀なくされていた。スペースゴジラのマスターは魔術回路があるだけの一般人であり、スキル「結晶塔の帝王」が無ければとてもスペースゴジラが戦闘で消費する魔力を賄いきれないのだ。

 宙空より蒐集せし結晶塔(スペースエネルギータワー)から宇宙エネルギーを受信している両肩の結晶体を失った時点でスペースゴジラの保有する魔力とマスターから供給される魔力では戦闘続行が不可能な状態である。そのため、尾の一撃を受けて倒れ伏すセブンに追撃をする余裕など既にスペースゴジラにはなかった。

 

 セブンは度重なるダメージでふらつく足に鞭打ち、よろよろと立ち上がって構えを取る。互いにダメージはあれど、立場の優劣は戦闘開始時とは逆転していた。無尽蔵のエネルギーで優位に立っていたスペースゴジラはエネルギー供給を絶たれて宝具の使用を封じられたのに対し、セブンは足がふらつくほどのダメージを負いながらも魔力には余裕がある。

 勝ち目はない。そう判断したスペースゴジラは、マスターを封じ込めた結晶体を手に取ると結晶形態に変形して空へ逃げだした。宇宙空間にでれば、亜光速で飛行できる自分を捉えられる存在はいないと判断したのである。

 そして、セブンが敵の見せた決定的な隙を見逃す手はない。セブンは自身の頭に手をかけてアイスラッガーを放つ。白熱化した刃はウルトラ念力でコントロールされてスペースゴジラの首目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。

 スペースゴジラも自身の命を刈り取る刃の存在に気づいて身体を捻る。スペースゴジラは迫り来る白刃に対して自身の尾をぶつけることで明後日の方向に白刃を弾き飛ばしたのだ。その代償として自身の尾は切断されるも、スペースゴジラはセブンの攻撃を掻い潜ることに成功したのだ。

 ――これでもうウルトラセブンも追ってこれない

 スペースゴジラは自身の勝利を確信する。

 しかし、スペースゴジラが自身の勝利を確信した雄叫びを上げる寸前に、スペースゴジラの視界の端に煌く銀の光が映った。それは、先ほどスペースゴジラが文字通り尻尾切りまでして凌いだはずのアイスラッガー!!

 そして、ウルトラセブンは地球を脅かす敵の命を数え切れぬほどに刈り取った正義の刃の真名を高らかに告げる。

 

 

侵略者切り裂きし(アイ)……」

 

 

 アイスラッガーはセブンのウルトラ念力による緻密なコントロールを受けている。一度は軌道を逸らされるも、ウルトラ念力で反転したアイスラッガーが再度スペースゴジラに襲い掛かったのだ!!

 エネルギーが尽きても、命が尽きかけようとも、地球のために侵略者と戦い続け、勝ち続けたセブンの最後の切り札に隙はない!!

 

 

正義の刃(スラッガー)!!」

 

 

 勝利の咆哮を響かせるはずだったスペースゴジラの頭は、白刃によって胴体から分離された。スペースゴジラは、血しぶきを撒き散らしながら、勝利の雄叫びではなく断末魔の怨嗟の咆哮を残しながら消滅した。




スペースゴジラがサーヴァントでなかったら、セブンはこんな簡単には勝てません。
最悪、負けてます。

サーヴァントになって魔力供給という弱点が生まれたが故の、セブンの勝利です。


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守護神獣VS恐怖の大魔王

お久しぶりです。
今回は難産でした。


 スペースゴジラとウルトラセブンが死闘を演じているのと同じ頃、未遠川を挟んだ反対側でも死闘の幕が開こうとしていた。

 対峙するは、金色の三頭龍と、虹色の守護神獣。平行世界でも雌雄を決した二大怪獣が、この冬木の地でぶつかるのだ。

 

「令呪を以って命じる!!モスラよ、究極の姿へ進化せよ!!」

 ウェイバーの令呪によって、冬木の夜空に舞い上がった虹色の蛾が光に包まれる。そして、光の繭を突き破って白銀の鎧を身に纏った神々しい翼が現れた。これこそがライダーの切り札、一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)である。

 鎧モスラは自らの意思で敵へと向き直る。敵は、生前に己をも下して地球の生命を滅ぼしかけた世紀末に襲来した恐怖の大魔王。しかし、護るものがある限りモスラは何者にも恐れずに立ち向かう。それが、自身を救って海に散った母との約束であり、地球の守護神たる己の使命であるが故に。

「必ず勝て!!モスラ!!」

 マスターの声援とエリアス三姉妹の祈りを受け、鎧モスラは金色の三頭龍へと向かっていった。

 

 

 キングギドラは、目の前に現れた仇敵を憎しみの篭った目で見据えた。生前に自分を葬った憎き蛾の姿を忘れるはずがない。しかも、火山に落とされたり必殺技を喰らったりと二度も殺されているのだ。顔が三つあるからといって仏のように三度まで微笑んでくれるはずがない。そもそも、キングギドラにとって歯向かうヤツは全て敵Or食糧だ。宇宙規模の大量虐殺の実行犯の辞書には容赦のよの字もない。

 今度こそは、あの忌々しい蛾を討ち滅ぼす。そのために、キングギドラは自身の宝具王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)を通して魔力を身体に充填させる。さらに、催眠術で下僕とした愚かな召喚者にさらに魔力を貢ぐように命令することで万全の態勢を整えた。

 王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)に囚われた罪のない子供達が悲鳴をあげてもがき苦しむが、そのようなことはキングギドラの関心の外にあるものだ。人間が魚を釣って食べるように、食材と捕食者の間に情が生まれることはない。

 当然のことながら食材と捕食者の関係はキングギドラを召喚したマスターにも適応される。哀れ、遠坂時臣という男は一切の自由意志を奪われ、ただキングギドラに魔力を供給するための行動を取り続けるだけの人形と化した。彼は家宝のルビーを含めた屋敷中の宝石を戸惑うことなくキングギドラに供給する魔力として消費していく。

 そして、供給される大量の魔力を充填したキングギドラは挨拶代わりにといきなり自身の最強宝具、宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)を解放、首を撓らせることで光線の網でモスラを捕らえようとした。

 縦横無尽に暴れまわる宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)に対し、モスラは緩急を織り交ぜた動きで回避する。生前であれば自身の纏う鎧にとって宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)は豆鉄砲のようなものであった。

 しかし、キングギドラは鎧モスラの防御力の高さを生前に痛いほど理解させられている。そのため、キングギドラは予め時臣にかけた催眠術において、こちらからの命令に応じて令呪を使えという指示を刷り込んでいた。

 そして時臣はキングギドラからの念話の通りに令呪を二画行使した。その命令の内容は「モスラを打倒せよ」。二画の令呪のアシストを得たキングギドラの能力は大幅なパワーアップを遂げ、キングギドラはモスラにも通じうる矛と盾を得た。

 結果的に言えば、サーヴァントという枠に嵌められた今では鎧の防御力と宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)の差は縮められたことになる。

 そもそも、モスラは同属がこの世界に出現した歴史があるが故にある程度の知名度補正を受けているが、キングギドラはマスターの力量と魔力供給の潤沢さにおいてモスラを遥かに凌いでいる。サーヴァントという同じ土俵に立たされたことで、かつてのキングギドラとの戦いのような一方的な戦闘展開は無理となってしまっていた。

 生前であればキングギドラが全力でも傷一つつけることのできなかったモスラの鎧も、モスラの相対的な宝具化による弱体化とキングギドラの令呪によるドーピングによって傷つけられる存在になってはいるのだが、一方でキングギドラの引力光線もまた生前ほどの威力はないという状態だ。

 サーヴァントシステムはキングギドラに恩恵のみをもたらしたわけでもないのである。

 まず、生前であれば息をするように吐くことができた引力光線が宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)という宝具扱いになったために非常に燃費が悪くなった。王者の輝光結界(ギドラ・オーラ)もキングギドラの意志に関係なく常時展開されているので、維持にも魔力を消費する。

 時臣というオツムの出来はともかくとしてマスターの素質としては一級品の魔力タンクを持ちながらも宝具の連発はできなくなっている。王者の食卓(スローターハウス・オブ・キング)を通じて徴収した魔力と時臣の宝石を含めてもせいぜい、この戦いで撃てるのは9回といったところだろう。

 敵はモスラだけではない。自分に喧嘩を売ってきた結晶の蜥蜴に、自分と決して相容れない光の巨人、そして、本能が盛んに警鐘を鳴らす西方の『何か』。難敵との連戦が予想できる中、この戦いで宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)を乱発するわけにはいかなかった。

 次に、マスターの存在だ。傀儡にしているとはいえ、時臣も名義上はキングギドラのマスターである。彼が殺されればキングギドラはバックアップが受けられなくなり弱体化を余儀なくされる。単独行動スキルがアーチャーにはついているが、ただでさえ燃費の悪いキングギドラがどれだけの間単独で行動を続けられるかは分からない。

 しかも、キングギドラはこれまで何かを『守りながら』戦いをしたことなど一度もない。そんな必要など一度もなかったし、キングギドラはその数千万年に及ぶ生涯において敵と食糧、傀儡、興味も持てない虫けら以外の存在とであったことすらなかった。

 そのマスターという自分の弱点を自分の外にむき出しにしている状態は、『護る』という概念が辞書にはないキングギドラにとっては最大の足かせであったと言えるだろう。実際、キングギドラは遠坂邸に篭城させている自身の生命線(マスター)への不安からその近くからあまり離れられないでいる。そのため宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)を撃ち終えた後、モスラが宙を自在に舞いながら攻撃を加えてくるのに対し、その場から飛び立てないキングギドラは防戦を強いられていた。

 敵がモスラということもあり、キングギドラは生前のように自分と直接には戦うことなく勝利を得ようとする可能性を強く警戒していた。それが故のキングギドラに全く似つかわしくない戦い方であった。

 しかし、慣れない戦い方などするものではない。モスラの放つ光線もモスラ自身が宝具と化しているためか生前ほどの威力はなく、王者の輝光結界(ギドラ・オーラ)を突破できてもさほどダメージを与えられないが、一方的に攻撃を受ける状況というものはキングギドラを苛立たせていた。

 こちらは燃費の関係で攻撃できず、あちらは攻撃をしてくるものの少し痛いぐらいの攻撃しかしてこない。だが、それでも自分が一方的にネチネチと嬲られる状況というものに変わりはなかった。圧倒的な力で立ち塞がる敵を例外なく蹂躙してきたキングギドラにとって、これは屈辱以外の何物でもない。

 ここで宝具をバカスカと撃てばガス欠、飛んでやつと空中で戦えば自身の生命線(マスター)を危険に晒すこととなる。しかし、かといってこのまま嬲られ続けることもまた我慢ならないというジレンマにキングギドラはさらにフラストレーションを高めていた。

 

 

 

「拙いね……」

 ライダーのサーヴァントの一人、ベルベラは険しい表情を浮かべながら呟いた。

「何が拙いんだ?モスラはアーチャーを押しているじゃないか。それに、生前にモスラはあのアーチャーを一度倒しているんだろう?」

「拮抗してるから拙いのさ。こんなことも分からないのかい?」

 相変わらずの毒舌でベルベラはウェイバーをこき下ろしながら説明を始めた。

「モスラはアタシ達の宝具だ。宝具を使えば当たり前のことだけど魔力を消費する。アンタの雀の涙ほどの魔力じゃ到底賄いきれない量の魔力をね。今はアタシ達の自前の魔力を回しているから大丈夫だけど、モスラはもって後十分しか戦えない。ダメージを負えば、戦闘可能時間はもっと短くなるよ」

「そんな……!!」

「それに、生前の勝敗ってやつをサーヴァントになった今になって頼るのは愚かなことさ。アタシ達も、キングギドラも生前ほどの力は出せないし、同じサーヴァントという土俵ではアタシ達の差は勝敗が分からなくなるまでに縮まっている。エクセル・ダッシュ・バスターはキングギドラの攻撃力が上がってモスラの防御力が下がっている以上、引力光線のカウンターをもらう可能性が高くて使えないから決め手に欠けるしね……それで、どうすんだいクソガキ」

 ベルベラに尋ねられたウェイバーは顎に手を当てて考えるが、この状況を打破できるような素晴らしい策がポンポン浮かんでくるわけでもない。とりあえず、視線を戦場の方に向けながらウェイバーはただ観察を続けていく。

 自身の魔術師としての力量はとても誇れるものではないことは、ウェイバーとて自覚している。何れは家の歴史などに関係なく、個人の実力で魔術師が評価される時代が来ると信じてはいるが、今の自分がその評価に値すると思うほどウェイバーは自惚れてはいなかった。

 故に、彼はとにかくアーチャーを観察する。その一挙一動に目を凝らし、綻びを探す。自分にできることはそれしかないと知るが故に、ただ観察に没頭した。

 そして、その違和感に気がつく。

「……どうして、動かない?」

 そう、キングギドラは羽があるにも関わらずに何故か飛ばない。戦いでは上を取ることがセオリーであるのに、敢えて下を取ってモスラが額から放っている鎧・クロスヒートレーザーを受け続けるその意図はどこにあるのか。モスラを追い払っているその様子は非常に鬱陶しそうであるにも関わらず、何故キングギドラはひたすら耐えているのだろうか。

 地上から空中のモスラに攻撃したことは一度だけ。その時は三本の首から放つ金色の光線を一発放ったが、それ以降は撃っていない。主観が入るが、あの威力を見る限りあの光線は最低でもAランク、いやA+ランクの宝具と考えられるため、消費魔力を抑えるために使用を控えているという推測ができる。

 唯一の対空迎撃が可能な宝具の使用を控えながら、かつ空中戦を避けて地上での防御に甘んじている理由として、飛ぶことが不可能なのか、その場を離れられないかということが考えられる。

 しかし、飛ぶことが不可能ということは考えにくい。キングギドラは召喚直後に悠々と飛翔していたし、このまま地上で嬲られ続けるよりは攻撃の回避のしようがある。では、その場を離れられないとして、離れられない理由はどこにあるのか。

 その時、ウェイバーは気がついた。キングギドラの3つの頭の内、左右のどちらかの首が頻繁に後方を確認しているということに。さらに、キングギドラの後方の地区はキングギドラの前方の地区に比べ、遥かに攻撃による被害が小さかった。

 ウェイバーの中で全てが繋がる。飛び立たずに攻撃に耐える姿、殆ど被害の出ていないキングギドラ後方の市街地――そこから導き出される答えは一つ。キングギドラには後方の市街地を守らねばならない理由があるということだ。

 ではその理由は何なのか。そこに考えを巡らせようとした時、ウェイバーの背に寒気が奔る。ここ数日ルーラーと血の滲む特訓をしたことで覚醒した危険を予知する本能が身体をプッシュした。

 戸惑うことなくライダーたちを乱暴に鷲掴みにしてリュックに放りこんでウェイバーは駆けた。既にその背後には金色の光が迫っている。

 突然の蛮行にベルベラが抗議の声を挙げようとするが、その前に大地が爆ぜ、轟音と衝撃波が先ほどまでウェイバーがいたはずの場所を薙ぎ払う。衝撃で跳ね飛ばされたウェイバーは地面を数回回転し、身体のあちこちを打ち付ける。

 咄嗟にウェイバーによって守られたものの、モルやロラは凄まじい衝撃によってリュックの中で目を回していた。尚、ベルベラはジェットコースターもかくやという凄まじい運動の末に頭をリュックの中の小物にぶつけてノックアウト状態にあった。

「い……一体なんなの!?」

 リュックからヨロヨロとロラが這い出し、辺りを見渡して絶句する。先ほどまで自分たちがいたあたりは綺麗に抉られており、円蔵山はその中腹に巨大なクレーターを刻んでいた。

「分かったぞ……」

 頭を飛び散った礫で傷つけたのか、倒れ伏せていたウェイバーは額を伝う血液を拭いながら頭を上げる。

「モスラは、宝具をカウンターで当てにきてると考えて地上に留まるキングギドラに対して切り札を使おうとしなかったんだろうけど、それは違った。あいつは、マスターを護るためにあそこを離れられなかったんだ。だから飛ぶこともできずにあの場でモスラの攻撃に耐え続けていた。おそらく、キングギドラのマスターは、スキルの催眠術であいつの傀儡になっているんだろう。ロラ、キングギドラの催眠術はどれぐらい人の行動を操れる?」

「……キングギドラの催眠術は強力よ。対象者は完全に自我を喪失して、操られていたときの記憶は残らない。だけど、催眠術の対象者は複雑な思考を伴う行動はできないわ。例えば、『ある人を殺せ』って命令された場合、正面から殺そうとするだけで、トリックとかを講じた計画殺人は無理よ」

「ということは、キングギドラのマスターは魔力供給をすること以外には具体的な行動を命じられていない。おそらく、マスターをこの混乱の最中にある冬木の街に放りだしてアクシデントが起きることを防ぐためにキングギドラはマスターを移動させていないんだ。だからマスターの下を離れられなくて、その場から飛び立てなかった」

 そして、キングギドラもウェイバーとほぼ同時に気づいたのだろう。自分にもマスターがいるように、宝具であるモスラにはサーヴァントとしてエリアス三姉妹がいて、そのマスターがいることも。

 自分にとってマスターが弱点であるように、目の前のモスラの弱点もまたマスター。マスターであれば自分の宝具、宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)で消炭にすることは容易い。また、宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)が直撃しなくても、大抵の人間は余波で粉々だ。そうキングギドラは考えたのだろう。

 しかし、キングギドラは知る由もないことだが、ウェイバーは大抵の人間ではなかった。

 まず、その幸運値はサーヴァントで当てはめれば評価規格外。触媒に使ったインファント島の石版を使って召喚できるのはモスラの巫女かモスラそのものであるが、幾多の平行世界のモスラの内、間違いなく最強と称されるモスラを従えるエリアス三姉妹を召喚できたことや、モスラが幼虫で他のサーヴァントに狙われれば太刀打ちできない数日間はルーラーの庇護を受けることができたところからも、その類稀なる幸運値の高さが窺える。

 そして、ルーラーの特訓を受けたウェイバーは、素質があったのか数日の特訓でその実力をメキメキと伸ばしている。

 明らかに速度を出しているジープに追われ、鉄製のブーメランに狙われ、目隠しをされた状態でボールを投げつけられたりという明らかにメガヌロン対策以上の回避、逃走対策訓練を受けたことによって、ウェイバーはメガヌロン以上に恐ろしい敵の攻撃からも逃れられるようになっていた。

 キングギドラの宝具による攻撃を本能的に察知したウェイバーはキングギドラの口に光が満ちる前に駆けだし、窪地に身を伏せることで宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)をやり過ごしたのである。

 キングギドラはおそらく、サーヴァントの気配を探知してこちらの位置を掴んだのだろう。星と星の距離が非常に長い宇宙空間で活動していたキングギドラがこの手の気配を読む感覚において他のサーヴァントよりも秀でていたとしても不思議ではない。

 ただ、細かい位置まではは分からなかったのだろう。なんとなく、円蔵山の中腹にいるくらいしか分からなかったキングギドラは、その周辺の広範囲を殲滅するために敢えて三本の首で別々の目標を狙ったようだ。そのため破壊は広範囲に広がったものの、ウェイバーたちを襲った衝撃は本来の威力の三分の一ほどしかなかった。

 如何に逃亡と回避に秀でていようと、三本の首から放たれた宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)が一箇所に着弾していればウェイバーも死は免れなかっただろう。

 とはいえ、あちらが無鉄砲に撃っていればそのうちにこちらが致命的な傷を負う可能性も十分ある。その前にキングギドラを撃滅することは急務であった。

「使うか?いや……」

 ウェイバーは自身の右手に刻まれた令呪を見やる。既に一画消費されており、これ以上消費すれば、残りのサーヴァントとの戦いに支障をきたす公算が大だ。ウェイバーの身体からはガンガン魔力が吸い上げられているが、その殆どが一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)の現界維持コストと鎧・クロスヒートレーザーに当てられている。ウェイバーのマスターとしての素質の低さではモスラの必殺技をそう何度も使うこともできないのだ。

 ウェイバーは自身の無力さに歯噛みしながら、少しでも安全な場所に移動するべく腰を曲げながら動き出した。

 しかし、キングギドラは待ってはくれない。先ほどの宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)で仕留め切れなかったことを悟ると、大きく翼を広げて羽ばたき、ついにキングギドラは飛翔した。距離を詰め、ライダーの気配を確実に察知してつぶすつもりだとウェイバーは即座に看破したが、彼にはどうすることもできない。

 円蔵山中腹で暴れまわられれば、こちらが無事でいられる保障などない。宝具を使われずとも、怪獣が至近距離で足踏みすることによる衝撃と翼から放たれる暴風だけでウェイバーたちには命の危険があるのだ。

 モスラもキングギドラの意図に気づいて体当たりを食らわせて足止めを図るが、キングギドラはモスラがマスターを護るために体当たりにくることまで計算ずくであった。首だけ器用に向きを変えてモスラに向き直ると、カウンターの宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)をお見舞いする。

 宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)の直撃を至近距離で喰らったモスラは吹き飛ばされ、そのまま大地に叩きつけられる。仰向けに叩きつけられ、その衝撃で悶えるモスラ。

 その隙をキングギドラが見逃すはずがない。身体をモスラに向きなおさせると、再度口内に金色の光を溜め始めた。全力全開の宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)を叩き込んでモスラに引導を渡すつもりだ。

 そして、キングギドラはその3つの口からまばゆいばかりの光の奔流を吐き出した。この瞬間、キングギドラは勝利を確信する。

 だが、彼は見誤っていた。聖杯戦争において、最も勝利に不可欠なものはサーヴァントの性能と潤沢な魔力供給ではなく、マスターとサーヴァントの息のあった連携にあるということを。そして、モスラには得がたい機転のきくマスターがおり、マスターとサーヴァントの連携も非常によいものであった。

 

 

「令呪をもって命じる……」

 ボロボロになりながら円蔵山の中腹に立ったウェイバーはその右手を夜空に掲げながらその手に刻まれた聖痕に秘められた魔力を解放する鍵となる呪文を唱えた。

「キングギドラの後方に転移しろ!!」

 ウェイバーの熱い思いの篭った叫びは彼の右腕の令呪一画の消失と引き換えに、宝具を使った直後の完全に無防備になったキングギドラの背後にモスラを転移させる。サーヴァントの意志と一致した令呪の行使は、時として如何なる魔術を以ってしても成しえない奇跡を現実のものとするのだ。

 背後を取られたことに気づいたキングギドラは慌てて首を捻って迎撃しようとするが、宝具使用中のために首は動かせない。先ほどまで地面に横たわり決定的な隙を晒していたモスラと、隙だらけの怨敵を討ち取るべく全力の一撃を叩き込もうとしていたキングギドラの立場は、瞬き一つにも満たない刹那の間に完全に逆転していた。

 敗者となるであろう立場にあるのは、キングギドラで、勝者たりうる立場にいるのがモスラだ。当然のことながら、キングギドラがそうであったようにモスラが決定的なチャンスを逃がすはずがない。

 モスラの身体が眩い光に包まれながら一筋の矢のようにキングギドラへと向かっていく。それはまるで夜空を翔ける彗星のようであった。その光の矢を遮るものは何もなく、そして、モスラの乾坤一擲の一撃(エクセル・ダッシュ・バスター)は、その航跡に光のレールを残しながらキングギドラの身体を何の抵抗もなく貫通した。

 光の矢にその胴体を貫かれたキングギドラの身体はまるで激しい揺れに襲われた砂の城のように綻び、粉々になりながら崩れていく。その視線の先には、一切の油断も驕りも見せずに残心をするモスラの姿がある。

 キングギドラが三つの口から全ての生物の背筋を凍らせる凄まじい迫力を帯びた咆哮を響かせる。それは、聖杯戦争に勝ち残れなかったことに対する悔恨の叫びか、それともモスラに対する恨みの叫びか、同じ敵に三度も殺された屈辱に対する憤怒か。キングギドラが今際の際に何を思ったのかは誰にも分からない。

 

 これでキングギドラの聖杯戦争は終わり、キングギドラは敗者としてこの混沌の舞台を去るということは決定した。

 一方で、モスラは勝者として舞台に残る。しかし、戦いはまだ終わっていない。これで二体のサーヴァントが脱落したが、人類の守護者であるライダーとルーラーは大きく消耗していた。

 

 本当の地獄の幕はまだ開いていないということは、このときはまだ誰もが知る由もなかった。




聖杯戦争という利点を活かす頭脳プレーを見せたグランドギドラさん。
結果としてモスラとの力量差は士郎マスターのアルトリアとイリヤマスターのディルムッドぐらいまで縮まったんですが、マスターの令呪の使い方を誤りました。

ウェイバー君の勝因は、7割幸運で、弾の特訓と生来の機転のよさ、ギドラのマスターという存在に対する油断が一割ずつってところですかね。

この時点でモスラは令呪二画失って引力光線モロにくらって満身創痍ですけどね。


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進撃の怪獣王

 冬の若狭湾。月夜に照らされた虹色の膜を纏ったその怪獣の姿はどこか神々しさを監視している自衛官達に抱かせるものであった。退化しているとはいえ、神性を持っていたことも、自衛官たちにそう思わせた一因なのかもしれない。

 その怪獣の名は柳星張、またの名をイリスという。イリスという名は生前の心を通わせた少女からつけられた名ではあるが、実はこれは中々的を射た名前であった。

 イリスとは天上の神々からの伝令役であるギリシャ神話の虹の女神の名を指す。そして、柳星張は元々この星を汚すものとなった文明に破壊をもたらすために作られた存在であり、滅びの運命を人類に告げ、人類の守護者を討ち果たした上で文明のリセットを実行するものであった。

 生前には己に課された使命を果たすべく、人類の希望(ガメラ)に学んで人間の力を己が糧とすることでイリスは超大な力を手に入れた。しかし、その力を持ってガメラに挑んだものの、最後にはガメラの右腕を捨てた一撃によって敗北する。

 今生でも、イリスの願いは変わらない。聖杯戦争に参戦した理由は己の生まれた意義である文明のリセットに他ならなかった。

 ただ、聖杯がイリスに与えた知識によれば、この戦いはイリスにとって生前のガメラとの戦い以上に厳しいものであった。

 まず、イリスはサーヴァントとなったことで大幅に弱体化していた。そもそも全てのサーヴァントが基本的に全盛期の姿で呼び出されるものの、イリスは成長そのものが宝具扱いとなっているために召喚直後は非常に弱体化していた。山の獣は倒せても、戦闘の心得のある魔術師には手も足もでない。

 それだけでも大きな痛手なのだが、加えてイリス自身の知名度補正がないことも大きかった。この世界にも奈良県南明日香村に柳星張のタマゴは存在するのだが、生前の共鳴者である比良坂綾奈にあたる人間が未だに祠を訪れたことがなかったために、イリスはその姿を一万二千年の間一度も晒すことなく眠り続けていた。

 当然のことながら、知名度など無い。この点でも、他の知名度のあるサーヴァントに比べて不利であった。

 そのため、召喚直後のイリスはひっそりとどのサーヴァントにも見つからないように隠れて過ごすことを余儀なくされた。しかも、その弱体化している間にも一刻も早い己の成長のために少なくない魔力が必要となる。幸運にも魔力供給的には恵まれていたが、それでも早期の成長のためには魂喰いは不可欠なものであった。イリスは、ケイネスには知らせずに夜な夜な霊体化して街に出てはひっそりと路地裏で人間を襲って力を溜める日々を過ごした。

 さらに、イリスは生前の成功に学んで人間を己の力の糧にすることを選んだ。糧に選んだのは、イリスに魔力を供給していたソラウだった。可愛らしく弱体で、愛らしい仕草をするイリスに母性をくすぐられた彼女がイリスを溺愛するようになるには、あまり時間はかからなかった。

 そして、イリスは自身の持つ宝具、憎悪繋ぎし黒の勾玉(ヘイトレッド・ネクサス)をソラウに持たせ、彼女との精神系統の融合を試みる。ソラウはイリスの愛らしさに魅了され、イリスに対しては心の壁をもっていなかった。そのため、憎悪繋ぎし黒の勾玉(ヘイトレッド・ネクサス)を通じて彼女の精神に干渉することは容易なことであった。

 数日の内に精神系統の融合の準備が整い、ほんの数時間前、イリスはそれを実行に移した。ソラウを己の身体に取り込んでそのDNAを己のDNAの中に取り込むと共に、精神に干渉してまで育てた憎しみの念をもってその身体をより強く、逞しいものへと変質させていく。

 敵サーヴァントの出現という予想外の出来事があり、途中でマスターであるケイネスに気づかれるというアクシデントがあったが、体内に取り込んだソラウを人質に使うことで精神的な動揺を誘い、思考が停滞した一瞬の隙を突いて令呪を刻んでいる右手を斬りおとすことで無力化した。

 さらに、ケイネスから斬りおとした右手から魔力源である令呪を取り込み、優秀な魔術師であるケイネスを捕食したことでイリスは生前より遥かに早い成長を遂げることに成功する。

 生前と同じ形態にまで成長を遂げたイリスであったが、イリスはそれでもまだ満足していなかった。イリスの成長の直前に新都に召喚され、一帯を結晶塔で覆って陣地にしたスペースゴジラを見たイリスは、この怪物は今の自分では手に負えないということを正確に理解していたからだ。

 自分と敵との力量差を察したイリスは、さらなる力を求めた。ただ、通常のサーヴァントは、召喚されてからどれだけの時間修行したとしても、召喚後に強くなるということはまず無いと言っていい。召喚後の日数に応じてステータスを向上させるスキルを持つサーヴァントも存在するが、その場合もスキルの恩恵で能力が上下するだけであって、能力の上限値は定まっている。

 それは、彼らが(極一部の例外を除いて)死者であるからである。彼らの能力や性格、思考の全ては死んだとき、正確に言えば英霊として座に登録されたときの状態で固定されて召喚されるからである。

 エリザベートと彼女がモデルになったカーミラが召喚された場合には生物学的には同一の個体が召喚されるなどといった一人の英霊が複数の異なる姿で召喚されるパターンもあるが、それらの場合において、主義思想や能力はそれぞれ英霊となった時点のそれが適応される。厳密に言えば死んだときの主義思想、能力が反映されるわけではないというのはこういう意味である。

 しかし、イリスに関してはこの大原則は適応されない。イリスには、召喚後にもほぼ際限なく強くなれる特殊なスキルがあるのだ。イリスの持つ『進化』のスキルは、他生物の遺伝子情報を得ることで自らの染色体をも変化させることができるものである。さらに、採取した他生物の染色体を己に組み込むことによって、体型、戦闘能力を変化させるのみならず、場合によっては新たなる宝具を獲得することもできるのだ。

 当然のことながらこの聖杯戦争に勝ち残りたかったイリスはこのスキルを使うことで己を強化し、敵サーヴァントを討ち果たそうと考えた。だが、目の前に現れた結晶に覆われた街の支配者は、現状のイリスが太刀打ちできる敵ではなかった。

 敵サーヴァントはこの街を陣地とすることで強大なバックアップを得ており、さらに街中を覆っている結晶塔は一つ一つが敵サーヴァントの意のままに動かせる盾であり、障害物であり、槍であった。

 結晶による飽和攻撃と結晶の盾は、イリスにとっては非常に相性の悪いものだ。あの結晶を敵サーヴァントが任意のタイミングで自由に動かせるとなれば、この街全体が敵サーヴァントの檻のようなものであり、快速を売りにするランサーにとっては不利である。

 加えて敵から染色体を摂取するためには触手を突き立てて一定量の敵の体内組織を取り込む必要があった。至近距離に近づくことも困難なのに、敵の檻の中心で一定時間敵と密着するなど、自殺行為以外のなにものでもないとイリスは判断した。

 そうなると、他の生物から進化に必要な染色体を摂取する必要がある。そこでイリスが白羽の矢を立てたのが、北東に存在する別のサーヴァントだった。何故、そのサーヴァントを獲物に選んだのか。実は、そこに合理的な理由があったわけではない。そもそも、イリスにはそのサーヴァントの能力、容姿も何も分かっていなかった。

 イリスが顔も分からぬ相手を獲物に選んだのは、とても感覚的な理由からであった。イリスは、その相手に人類に対する憎しみと怒り、そして破壊願望の共鳴を感じていた。自分と共鳴する負の念を抱く敵を糧にすれば、自分はより強くなれるとイリスは直感的に察していたのである。

 

 

 

「冬木市を飛翔した怪獣がP-3Cを撃墜!!そのままゴジラと交戦状態に入りました!!」

「モスラでも、ラドンでもない……他に飛行怪獣なんていたか?」

「まさか、新種か!?」

 市ヶ谷の司令室は、ゴジラを監視していた護衛艦『みねゆき』からの報告を受けて慌てふためいていた。何せ、自衛隊員の戦死、戦闘による装備品の喪失は、1966年の対ガイラ戦以来およそ四半世紀ぶりのことだ。

 だが、慌てふためく司令部の中で、険しい表情を浮かべながらも一人だけ欠片も同様を見せない男もいた。卒倒した首相から全権を託された男、黒木翔である。

「敵の容姿、攻撃手段は?」

「飛行怪獣ですが、その形態は過去に出現したどの怪獣とも著しく異なった人型に近いフォルムで、数本の触手と光り輝く翼を持つとのことです。攻撃手段は、Pー3Cを撃墜したビームのようなものが確認されています」

「……過去に出現した飛行能力を持つ怪獣は、モスラ、ラドン、バラン、カマキラスしかいない。しかし、そのどれもこの怪獣の身体的特徴と合致しない。しかも、これらはビームなどの攻撃手段は持たないはずです。間違いない、こいつは新種だ」

「それで、どうするのだね、黒木君」

 山地陸上幕僚長に問いかけられた黒木はしばし目を瞑り考える。

「……ほとんど能力の分からない未知の敵です。しかも、ビームを使えて飛行能力を有するとなると、都市部を襲われれば大損害は避けられません。こちらから迂闊に手を出すことは危険と言わざるをえないでしょう。幸いにもゴジラと交戦を始めたようですから、このままゴジラと戦わせて共倒れになってもらいましょう」

「しかし、やつは飛べる。逃亡されれば拙いことになるぞ」

「小松のF-15を若狭湾の上空に待機させます。空対空ミサイル(AAM)を翅に当てることができれば、飛行能力を失わせることはできるでしょう。トドメはゴジラに任せます」

 黒木の答えに、山地は渋い顔を浮かべる。

「怪獣を倒し、国民を護る我々自衛隊が、怪獣を退治するのに怪獣を当てにせざるをえないとは……これ以上の皮肉はないな」

 山地がボソリと呟いた言葉を聞いて、黒木は微かに顔を顰めた。自分の任務を勝つことだと割り切ってはいるが、それでもやはり怪獣を自衛隊の手で倒せない現実に対して黒木も一自衛官として思うところがあるのだ。

 

 

 

 

 雲の上から強襲し、降下の勢いも加算した体当たりを喰らわせるイリス。たまらず体勢を崩して海中に没するゴジラに追い討ちをかけるように触手を突き立てると、イリスはゴジラの体内から細胞組織を取り込み始めた。

 そして、細胞組織から取り出した染色体を自身の染色体に組み込むことで自身の身体を変態させていく。イリスの軟体動物を思わせる表皮は冷えて固まった溶岩を思わせるゴツゴツした肌へと変わっていき、鳥類のような顔は、獰猛な肉食恐竜を思わせる凶暴な牙と強靭な顎を併せ持つ狂相へと変貌を遂げる。

 変化はそれだけではない。細身だったフォルムは全体的にガッチリとしたものに変わり、全体的に人型から恐竜のような体型になった。甲殻を纏った背中からは、小さな山脈を思わせる鋭利な背びれが生えてくる。

 自分の変化と共に、イリスは自分の中に湧き上がってくる力に酔いしれる。力も、防御力もこれまでとは比べ物にならないほどだ。この獲物は、イリスにとっては予想を遥かに上回る上物であった。

 

―――これで勝てる。あの忌々しい人類の守護者など、今の自分の姿ならば相手ではない。

 

 自身が手に入れた強大な力を噛みしめながら、イリスは眼下の獣に視線を向ける。もはや、この獣はイリスにとっては用済みだ。用済みとなったこの下等生物は、生前よりもさらに進化を遂げた今の自分の力を試す試金石にしようと考えた。

 しかし、イリスは目の前の怪獣を侮りすぎていた。人類の最後の希望を討ち果たす使命をもって最高の科学によって作られ、今さらなる力を得た自分が、強化のための糧ごときに負けるはずがないという考えは、過ぎた驕りだったのである。

 

 

 目の前で海中に没した敵に、敵から奪った新たな力、偽・放射熱線(オーバーブースト・アトミック・ブレス)をお見舞いしようとした時だった。イリスは、自分の思考を乱すノイズの存在に気がついた。さらに、自分の身体が思い通りに動かなくなる。意識と身体が分離され、感覚さえぼやけていく。

 イリスは理解できなかった。糧としたはずの下等生物の組織が、『逆に』イリスを糧とし、その身体を侵食し、乗っ取ろうとしているということを。既にイリスの身体組織の40%がゴジラの細胞に侵食され、イリスの制御の元を離れていた。

 自分が自分でなくなる感覚――何かに自分という存在が塗りつぶされる感覚がイリスを襲う。自分が何なのか、自分の使命は何なのかも分からなくなる。自分として積み上げてきたもの、刻まれてきたもの、託されたもの――全てがイリスの中から失われていくものの、イリスは自分が何を失ったのかすら分からずただ自分を肯定する全てを喪失していく。

 自分が自分であることを失い、イリスは、自身を脅かす『それ』が喪失感であることも理解できずにただただ恐怖に震える。

 しかし、イリスの味わう恐怖はこれで終わりではない。細胞による脊髄、脳髄への侵食のみにとどまらず、それは侵食はさらにイリスの根源の部分――魂にまで広がっていたのである。

 イリスの内包するものとは比べ物にならないほどに純度が高い憎悪と狂気がイリスの魂を蝕んでいく。魂は全ての生物の根幹にあるものだ。それは、分霊であるサーヴァントも例外ではない。むしろ、魂をエーテル体で模ることで現界しているサーヴァントの方が、普通の生物よりもその重要性は大きい。

 つまりは、魂の変質とは、その人その物を変質させるものである。サーヴァントの属性の反転などは、まだ魂の根幹が同じであるので同一人物と言えるが、魂が変質したならば、既に変質前のものとは全くの別人ということになるのだ。

 イリスという存在が体内に侵入した悪霊たちによって喰われていく。高位の存在である英霊の魂は有象無象の悪霊が侵そうとしても逆に侵されるのがオチであり、熟練した魔術師のマスターが令呪のサポートを受けたとしても、サーヴァントの魂に不純物である己の魂を融合させることが精一杯のはずだ。それでも魂を根底から変質させることはできるのであるが、魂を根底から侵食し、侵食者の魂に全てを塗り替えるなどということは原則不可能なのである。

 だが、今回イリスが取り込もうとしたサーヴァントは、その原則の枠外の存在であった。そのサーヴァントは、半世紀前にアジアを包んだ戦火によって犠牲になった数百万人の無念と、自分たちの死を過去のものにして忘れようとする人々への怒りに狂う悪霊の集合体――日本人に恐怖を刻み込んだ天下無双の怪獣王、ゴジラである。

 『ゴジラ』という悪霊の集合体の内部は憎悪と憤怒、怨嗟の声が吹きすさぶ嵐だ。その負の感情の坩堝の中にいることで、一人一人の怨念はより強く、大きなものへと変貌していたのである。

 同じような悪霊の集合体の英霊として、19世紀のロンドンで堕ろされた胎児達の魂の集合体であるジャック・ザ・リッパーが存在するが、ゴジラは高々数千人の悪霊の集合体であるジャック・ザ・リッパーとは文字通り『格』が違う。

 ジャック・ザ・リッパーが胎児たちの『母の胎内に帰りたい』という末期の本能的願いの集合体なのに対し、ゴジラは『殺された』『苦しめられた』ことに対する負の念を今際の際に強く抱いた死霊たちの集合体だ。

 死の間際の念ほど強いものはない。自分の命が瀬戸際にあればあるほど、人の思いは強くなり、時には死と引き換えに歴史を変えることだってあるのだから。

 そんな強い死の間際の強い負の念は、そもそもその一つ一つがジャック・ザ・リッパーを構成する胎児たちの念に比べて穢れ、荒み、狂っている。一つ一つが尋常ではない狂気を孕んだ強大な悪霊が、数百万も集い、その中でさらに絶え間なく負の念を増大させているのだ。ゴジラを構成する悪霊たちの恐ろしさは、想像を絶するものである。

 イリスは、突き穿つ憎悪の触手(テンタクラーロッド)でゴジラから体内組織を摂取した際に、ゴジラを構成する悪霊の一部もその体内に取り入れてしまったのである。そして、ゴジラという憎悪の坩堝から解き放たれた悪霊たちは、新たな宿主の中でも以前と変わらぬ憎悪を撒き散らし、イリスという魂を侵していく。

 イリスとて英霊に祀り上げられた怪獣であるが、イリスは元々、創造主の憎悪と執念を元に作られた怪物だ。生前に使命を果たせずに宿敵に敗れた無念と憎悪を抱いてはいたが、その憎悪と無念はゴジラのそれとは比べ物にならない。また、そもそもの生物としての格が違い、魂の格も違ったため、イリスの魂にはゴジラの悪霊の侵食を防ぐことはできなかった。

 己が薄れ消えていく感覚の中で、イリスが最後に見たものは、自分に対して牙をむき出しにする怪獣王の凶悪な形相と、その口から溢れ出すどこか寒気がする青白い光だった。

 

 

 

 

 

「……これが、ゴジラ」

 使い魔を通じてイリスとゴジラの戦いを観戦していた雁夜は、冬木に繋がる国道を走る車の中で身震いしていた。

 たった一撃。至近距離から放った怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)1発で敵サーヴァントは爆散したのだ。おそらく、戦闘に擁した時間は一分にも満たないだろう。

 ゴジラは怪獣王の二つ名に恥じぬ圧倒的かつ絶望的な強さを雁夜に見せ付けたのである。

「何じゃ、雁夜。まさか、自分のサーヴァントに怖気づいて聖杯戦争を降りようなどと考えているわけではあるまいな?」

 臓硯がいやらしい笑みを浮かべながら問いかける。

「貴様が怖気づいて逃げ出したとてワシは構わんがな」

「ふざけたことぬかすな、糞爺」

 臓硯に向ける雁夜の顔には、恐怖ではなく喜色が浮かんでいる。雁夜は、自身のサーヴァントが示した圧倒的な力に対する歓喜から震えていたのだ。このサーヴァントであれば、如何なる怪獣をサーヴァントとして召喚したとしても絶対に負けるはずがない。当然ながら、最も殺したい相手のサーヴァントも例外ではない。

「怪獣をサーヴァントとして召喚したとしても、俺のサーヴァントなら一撃だ」

 雁夜は狂気を孕んだ笑みを浮かべながら西に――冬木市のある方角に向き直った。

「今の内に邸で存分にふんぞり返っていろ、遠坂時臣……俺のサーヴァントは最強なんだ!」

 

 

 

 

 

クラス:ランサー

 

マスター:―――

 

真名:柳星張(イリス)(ゴジラ細胞)

 

性別:不明

 

身長:52.5m/体重:25000t

 

属性:混沌・悪

 

 

パラメーター

 

筋力:A

耐久:A

敏捷:B

魔力:B

幸運:C

宝具:A

 

 

クラス別能力

 

対魔力:C

 

第二節以下の詠唱による魔術を無効化する

大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない

 

 

保有スキル

 

進化:A

 

他生物の遺伝子情報を得ることで自らの染色体をも変化させる

それによって体型、戦闘能力を変化させることができる

新たなる宝具を獲得することもある

 

 

神性:E-

 

南の守護神である朱雀とみなされていたことがあるために神霊特性を持つが、殆ど退化してしまっている

 

 

狂化:B

 

パラメーターをランクアップさせるが、理性の大半を奪われる

 

 

 

宝具

 

宙裂く音の刃(ソニックウェーブ・メス)

 

ランク:A

種別:対人宝具

レンジ:1~50

最大捕捉:2人

 

ギャオスの武器の代名詞である超音波メス

ギャオスの変異体であるイリスでも使用可能

2本の触手の先端から同時に別々の目標をこうげきすることも可能

 

 

突き穿つ憎悪の触手(テンタクラーロッド)

 

ランク:B

種別:対人宝具

レンジ:2~4

最大捕捉:4人

 

イリスの身体から生える4本の触手

一本一本が槍であり、変幻自在に曲がるために独特な機動で相手を突き刺すことができる

 

 

憎悪繋ぎし黒の勾玉(ヘイトレッド・ネクサス)

 

ランク:E~A

種別:対人(自身)宝具

レンジ:-

最大捕捉:1人

 

イリスと人間との精神系統の同調を可能とする勾玉

勾玉の所有者との結びつきが強くなればなるほどにイリスのステータスが向上し、進化も促進される

同調レベルに応じて宝具のランクが上がり、効果も高まる

精神同調レベルが最高に達したときに勾玉の所有者を勾玉ごと体内に取り込むことで、全てのステータスを2段階アップさせることが可能

 

 

偽・放射熱線(オーバーブースト・アトミック・ブレス)

 

ランク:A

種別:対城宝具

レンジ:1~99

最大捕捉:1000人

 

ゴジラの染色体を手に入れることで発現した新しい宝具

放射能を含む高温の熱線で、着弾した標的を悉く爆発させる

4本の突き穿つ憎悪の触手(テンタクラーロッド)のそれぞれの先端から放つことができる

 

 

制御不能の復元細胞(オルガナイザーG1)

 

ランク:C

種別:対人(自身)宝具

レンジ:0

最大捕捉:1人

 

ゴジラの染色体を手に入れることで発現した新しい宝具

高い自己再生能力と、核エネルギーを摂取する能力ももつが、この宝具の侵食によりイリスは理性を喪失している

また、再生の度に身体組織からはイリスの要素が失われ、よりゴジラに近い存在へと変貌していく

 

 

 

 

 

 

《捕捉》

ガメラ3に登場するイリス

ソラウとの完全な精神融合によって素の能力もアップしていたのだが、さらにゴジラ細胞を取り入れることで生前の完全体を凌駕する進化を遂げた

しかし、ゴジラ細胞によって自己の細胞を侵食されることで自己の意識を消失、さらに魂レベルでゴジラの体内にいた怨霊による汚染を受けて魂が変質、狂気と破壊本能のみに従う獣と化した。




オルガ「…………」(仲間を見る目)
イリス「魂レベルで逆に侵されて瞬殺って俺はお前より冷遇されてないか?」


怪獣王閣下には勝てなかったよ……


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中ボスと代行者と魔術師殺しと

 ――拙い。

 

 冬木の上空を飛行する二体の巨大怪獣、その内のレザースーツを思わせる細身の身体をした一体の背に乗る衛宮切嗣は、状況の悪さに歯噛みしていた。

 言峰綺礼の操る巨大蜻蛉に襲われ、現在は敵がヒットアンドアウェイを仕掛けてきているのに対してこちらはカウンターを狙うことの繰り返しだ。速度では言峰のサーヴァントが有利だが、近接戦闘能力ではセイバーの方が有利である。

 両者ともに遠隔攻撃のできる能力を有していないということもあって、両者とも攻めあぐねているというのが現状だ。この膠着状態は既に2時間以上続いている。

 切嗣たちは、激しい空中戦に揺れるセイバーから振り落とされないために、アリスフィールが操る針金の即席ホムンクルスによって縛り付けられている。だから身動きが取れない状態にある。幸いにも、現在敵対している言峰綺礼も、セイバー以上の高速機動をするサーヴァントにしがみつくので精一杯らしく、身動きが取れないところを狙われる心配はない。

 しかし、その膠着状態に揺らぎが生じつつある。その原因は目の前で意識を失いかけているアイリスフィールだ。少なくとも2体のサーヴァントが脱落したらしく、人間としての機能が停止し始めているらしい。

 眼下で行われていた4騎のサーヴァントの激戦に終止符が打たれていることからするに、間違いなく半分のサーヴァントは敗北しているようだ。

 アハト翁曰く、前回の聖杯戦争の反省を踏まえてアイリスフィールは最大で3騎分の魂が入るまではほぼ人間としての機能を保てるようにしているとのことだが、この様子を見る限り、聖杯に注がれた魂が1騎分ということはまずない。最悪、既に3騎分の魂が注がれている可能性がある。

 その場合、さらに1騎分の魂を注がれた時点で『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』という聖杯の外郭は完全に失われ、彼女は小聖杯そのものに変貌することになっているという。

 さらに、ここが上空1500メートルという環境であるということも大きい。地上で始まった光の巨人とゴジラに酷似した巨大怪獣、モスラと3つの首を持つ黄金の龍の戦いを見た切嗣は攻撃の余波を避け、かつ彼らの目に触れないように敵サーヴァントを上空に誘き寄せたが、その環境は彼らにとっても過酷なものであった。

 気温も低く、気圧も低い。既に切嗣の手は悴み、感覚が失われつつある。酸素の不足からか、心なしか呼吸が苦しい。

 魔術師殺しとしての機能を維持するために身体は最低限に鍛え続けた自分ですらこの有様だ。舞弥はともかく、お姫様育ちのアイリスフィールにはかなり厳しい。ホムンクルスが普通の人間よりは丈夫だとはいえ、気圧も気温も低い場所での活動など想定してはいない以上、高山病には耐えられないはずだ。

 このままアイリスフィールが意識を失えばこの針金が解け、自分たちはセイバーから振り落とされてしまう。かといって切嗣にも舞弥にも即席ホムンクルスを作る技術などないし、代替となる道具を持っているわけでもない。

 敵サーヴァントが後一体脱落すれば、間違いなくアイリスフィールは人間としての機能を完全に喪失するだろう。また、サーヴァントが脱落しなくても、人間としての機能が停止しかけているこの状態で、後何分魔術を維持できるかは分からない。

 一刻も早く敵サーヴァントを仕留めるか、またはセイバーの背を離れなければ自分たちは上空数千メートルからの落下の衝撃に絶えられずに死亡し、聖杯の器も損傷の危険がある。しかし、言峰綺礼には川で襲ってきた2m級のヤゴや5m級の大型蜻蛉の手下がいる。

 下手にセイバーから離れた場合にはそれらの襲撃を受ける可能性も高い。何故言峰綺礼が自分を狙うのかは分からないが、獲物と見定めた以上、その命を刈り取るために万全を尽くすはずだ。

 そうなると、やはり敵サーヴァントを仕留める以外の方法がないようだ。切嗣は右手の令呪を一瞬見やる。初戦で使うとは思っていなかったが、既に地上の2箇所でサーヴァント同士の戦いが起こっている以上、2体のサーヴァントが脱落するだろう。残り4体のサーヴァントを討ち取るために令呪2画なら、やりようはいくらでもある。

 そしてそもそも、切嗣のやり方は、敵のサーヴァントを正々堂々討ち取るものではない。サーヴァントを倒すことではなく、マスター殺しの方が彼の本来のやり方なのである。今回の戦いは、相手が代行者、それもお互いにサーヴァントに乗っているためにマスター殺しはまず不可能と言ってもいいが、他のマスターであれば状況次第で確実に殺せる。

 ならばここで令呪を使ってでも敵サーヴァントを討ち取り状況を打破することには大きな意味がある。まして、相手は自分が一番危険視していた言峰綺礼だ。ここで言峰綺礼という最大の脅威を排除できるなら、令呪は惜しくはない。切嗣はそう判断を下した。

 狙うのはカウンターだ。敵の攻撃の瞬間に令呪を使い、「カウンターで命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)を叩き込め」と命じることで、敵サーヴァントを確実に両断する。セイバーもスキル・加虐体質の影響で次第に冷静さを欠いてきているようだが、命令を非常に限定した令呪のサポートがあれば確実にカウンターを決められるはずだ。

 あの巨大蜻蛉のステータスが見えないことが気になるが、能力隠蔽の宝具ならば十分にありうることである。川で襲ってきたヤゴたちもおそらくあの巨大蜻蛉の宝具だろうから、とにかくあの巨大蜻蛉を討ち取れば、もう言峰綺礼には己の身を護るものはなくなる。

 切嗣はタイミングを窺う。敵にこちらの令呪の発動に対抗して令呪を使う時間を与えないために、ギリギリになってから発動させなければならないからだ。そして、ついに切嗣が待ちかねていた瞬間が訪れる。

 やや高度を取り、縦横無尽に上空を翔けてこちらを惑わす機動をしていた敵サーヴァントが突っ込んでくる。これまで幾度もセイバーの命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)に阻まれた尾部の針を突き出しながら。

「令呪を以って命じる!!アイツに命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)を叩き込め!!」

 同時に、切嗣の令呪が発動する。甲高い金属音を奏でながら、命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)が敵サーヴァントの尾部に迫る。敵も命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)に触れれば絶対に断ち切られることを理解しているため、これまでと同じようにギリギリで命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)を回避して高速で離脱しようとする。

 しかし、令呪のアシストがあるセイバーが敵を斬り損ねるはずがない。命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)は敵サーヴァントに吸い込まれるようにその軌道を変更する。蜻蛉の動体視力に秀でた複眼は慣性の法則を無視した異常な動きをはっきりと捉えていたが、動きを見切ることと、それに対応できることは同意義ではない。

 目でわかっていても身体が着いていけず、敵にはその凶刃を回避する手段がなかった。令呪の発動も間に合わず、巨大蜻蛉は尾部の針から頭までを一刀両断された。そして、左右対称に分かたれた身体は、それぞれエーテル体に還元されて消滅していく。

 一方で、敵サーヴァントの消滅を見届けることなく、セイバーは降下する。もしも敵サーヴァントが脱落した場合、その魂を取り込んだ聖杯の器たるアイリスフィールはもはや戦闘に同行できる身体ではなくなるからだ。

 冬木市全土が戦場になっている現状で確実に安全な場所など存在しないだろうが、近接戦しか能のないサーヴァントの傍にいることの方がもっと危険だということを切嗣はこの初戦で理解していた。そのため、切嗣は舞弥をつけてアイリスフィールをなるべく戦火の及ばないところに避難させようと考えたのである。

「大丈夫かい、アイリ」

 冬木市民会館のコンサートホール跡にアイリスフィールを降ろして簡易の魔方陣を切嗣は敷きながら彼は尋ねた。この霊地で1時間ほど休めば、アイリスフィールも最低限回復できるだろうと彼は考えていた。

「ええ、私は大丈夫。元々こういう風にできてるから。だけど、私はもう長くないわ。もう、3体は脱落しているから」

 アイリスフィールから3体のサーヴァントが脱落していると聞いた切嗣は冷静に考える。残り1体のサーヴァントの脱落で、妻は妻でなくなり、聖杯という無機物へと変わる。それは己の悲願のために不可欠なものであったし、彼も妻自身も、彼の願いのために伴侶を失う覚悟はとうの昔にしていた。

 覚悟はしているのであれば、この場で妻と言葉を交わす必要などないはずだった。そんな時間があるのなら、これからの戦略を立てたり、状況把握に使うのが正しいだろう。しかし、いざその妻が妻でなくなる瞬間を目前に迎えた切嗣は敢えて妻との最後の会話に時間を割いた。

 だが、その会話を必要とした動機は妻の消失が時間の問題となったことで、別れが惜しくなったり、情が湧いたりしたからではない。これは、衛宮切嗣を曇り一つ無い完全な殺戮機械にするための儀式だ。

 シャーレイ、ナタリアの死に続き、アイリスフィールの死を己の成す正義の代償として魂に十字架として一生背負わせることで、衛宮切嗣をもう二度と立ち止まれない機械にするための最終調整と言ってもいい。

 そして、彼は戻ろうとする。9年前に全盛を迎えた、魔術師殺しの自分に。

 

 

 夫婦の最後の会話は、これが永遠の別れだとは思えないほどに短いやりとりであった。だが、切嗣とアイリスフィールはそれでよかった。彼らは既に十分互いを理解していたからだ。その後、会話を短く切り上げた彼は、助手の舞弥と共に使い魔を放した。

 街が完全な地獄と化していても、まだ敵は3騎存在している。まずは、完全に混乱している今の冬木状況を把握することが第一だと彼らは考えたのである。そして、1時間かけてこの街の現状を知ることになる。

「切嗣、蜻蛉がまだ生きています」

 敵サーヴァントを倒したはずなのに、近くの半壊したビルの陰や瓦礫の後ろに無数の蜻蛉たちが隠れていた。自分たちが言峰綺礼に嵌められたことに気づき、再度セイバーを実体化させて身体に乗り込もうとする切嗣だが、まさにその瞬間、彼の目の前に三本の黒鍵が突き刺さった。

「待ちたまえ、衛宮切嗣」

 一体の蜻蛉の背に乗ったカソックを着た男が冬木市民会館に降り立つ。切嗣との距離はおよそ30mほどしかない。代行者ならば一足で詰められる距離だ。セイバーに攻撃させようにも、セイバーが実体化して攻撃するまでに確実にあの男は切嗣に一撃を食らわせられるだろう。巨大怪獣であるため、どうにも小回りが効かず、小さな標的を狙うにはセイバーは向いていなかった。

 巨大生物をサーヴァントとする場合にこのようなことが起こりうるということは切嗣も最初から想定していたが、切嗣はマスター殺しが基本戦力として考えていた為、さほど深刻には考えていなかった。

 しかし、その弊害が最悪の敵を相手に最悪の形ででてしまった。どうやら、あの超巨大蜻蛉はもういないらしいが、5m級の大型蜻蛉はまだ全て健在らしい。そこで切嗣は、自身の失策を悟る。

 既に周囲は無数のヤゴと蜻蛉に囲まれており、僅かな退路も先ほどまで乱立していた結晶塔によって建物が破壊され、身を隠せる建造物はほとんど残っていない。目の前の男――言峰綺礼が命じれば、全てのヤゴたちが切嗣に襲い掛かるだろうが、切嗣たちがそれを凌ぐことはまず無理だ。

 セイバーならば言峰綺礼を排除できるかもしれないが、同時に襲ってくるであろう蜻蛉の大群から聖杯の器を守りきれる保障はない。切嗣の冷徹な殺人機械の部分はどうにかしてこの状況を打開できないかと思考するが、答えはでない。

 衛宮切嗣は、言峰綺礼の手によって追い詰められた。

 

 

 

「どういうことか気になっているようだな、衛宮切嗣……。確かにメガギラスはお前のサーヴァントが両断した。ならば、その宝具であるこの蜻蛉たちも消滅するはずだと考えているのだろう?」

 お目当ての相手に会えて気分が高揚していたからであろうか。互いに初対面のはずなのに、言峰綺礼は自身のサーヴァントの情報を躊躇無く明らかにするほどにいつになく饒舌だった。

「残念ながら、お前のサーヴァントが両断したメガギラスは私のサーヴァントではない。私のサーヴァントは別にいてな。この空を覆うメガニューラも、川と地表を闊歩するメガヌロンも全て私のサーヴァントの宝具に過ぎない」

召喚者(サモナー)系のサーヴァント……キャスターということ?」

 顔面を蒼白にし、吐き気と倦怠感に膝を突きながらも尚屈すること無い強い意志を秘めた瞳を向けているアイリスフィールからの問いかけに対し、綺礼は僅かなイラつきを覚えるが、律儀に答える。

「これほど多くの大怪獣が一度に参戦した異常な聖杯戦争はこれまでに例がない。イレギュラークラスの可能性もある。クラスを安易に断定するのは危険だぞ、女」

 そして、言峰綺礼は衛宮切嗣に向き直った。

「私はお前に問わねばならないことがある。お前しか問う相手を私は知らないのだ」

「…………」 

 綺礼の念願かなった子供のような無邪気な声にも、切嗣は眉一つ動かさずに相対する。

「何を、問おうというの?」

 アイリスフィールが再度問いかける。綺礼は彼女の口調から「言峰綺礼を衛宮切嗣から遠ざけよう」とする意図を感じ、僅かに不快な思いをするが、どのみち問うのであれば問題ないと割り切って口を開いた。

「衛宮切嗣。何がお前の在り方を肯定する?」

 

「私はこの光景に、長年求め続けていたものを見出した」

 言峰綺礼はらしくないほど饒舌に語り始めた。

 結晶塔に覆われ、文明の力と発展の象徴である建築物が粘土細工のように容易く、無慈悲に破壊される街。宝具の直撃によって何もかも焼き払われ、火災と怪獣による恐怖を刻み付けられながら絶命した人々だったもの。

 肌に感じる命を奪い燃え盛る紅蓮の炎の熱、鼻腔から脳髄を溶かすような人脂の燻る臭い、身体を歓喜に震わせる、街を彷徨いながら己に降りかかった想像を絶する悲劇に嘆く人々の声と、怨嗟の叫び。

 この世に具現化しつつある地獄の一端を見ることで、そこに『自分を埋めるもの』を言峰綺礼は見つけた。如何に苦しく厳しい修行にも、如何なる神の教えにも満たされたことない言峰綺礼の渇いた魂を潤す景色がこの地獄の一端にあったのだと彼は言う。

 神が、そしてその教えに従うものが、絶対に肯定することが許されない景色がそこにある。神の教えを受けたものが救うべき命が、魂がそこにある。しかし、その救わなければならない命が苦しみ、嘆き、そして救われない景色に、言峰綺礼は高揚した。

 そして、彼はその時初めて『言峰綺礼』という男の本質の一端を垣間見た。

 神が肯定し、父璃正が綺礼に与え、教えた善なるもの、尊ぶべきもの、聖なるもの。その全てが言峰綺礼にとっては全くの無意味であり、そこに言峰綺礼は自分の心を揺れ動かす気持ちを見出すことができないものであった。

 しかし、その反面で神が否定し、璃正が絶対に是としなかったもの。人々に降りかかる悲劇、絶望する人々の嘆き、悶え苦しみ助けを求める声も枯れ果てた末に力尽きた遺体の語る無念。全てが言峰綺礼にとっては新鮮で、心を動かすものであった。

「私は、人が汚らわしい、醜い、身の毛のよだつような神が許されないものがたまらなく可笑しく、愛おしいと感じている。それは言峰璃正という信心深い父との血縁が考えられぬほどに邪悪な存在、唾棄すべき汚物だったということと同意義になる」

 生まれて初めて感じた愉悦――己の魂が求める快楽を直視した綺礼はここに自分を成す真理の一部に触れ、そんな汚らわしい己の真の姿を認識した。

「――しかしだ。この汚らわしい自分というものを肯定すれば、それは同時に、私の妻の死の価値を失うことになる」

 ここで、一変して神妙な表情を浮かべながら綺礼は語る。かつて、余命幾ばくもない妻が、「言峰綺礼という男が人を愛せる」ことを証明するために自害した。そして綺礼は女の死によって悲しみの感情を抱き、涙を流した。この時自分の心を切り裂いた悲しみだけは本物だった。

 しかし、綺礼が悲しんだ理由は「私の手で殺してみたかった」という願望が叶えられなかったことにあった。その願望が、余命幾ばくもなく日々苦痛に耐える女性を殺すことによる愉悦からくるものだったのか、それとも妻が愛した女性だからこそ抱くことができた悲哀なのか。

 ありのままの己を肯定すれば、それは妻の死の価値を否定するものとなる。

「妻の死は結果的に言えば無意味なものだった。しかし、ここで私が畜生にも劣る自分を肯定すれば、何れは『妻の死は無価値なのか』という問いに向き合わなければならない。無価値であることを否定しうる一片の要素も残さずに、これを肯定する必要がある。そうでなければ、この世の地獄を見て笑うことは許されまい」

 理解しがたい。衛宮切嗣はそう思わずにはいられなかった。確かに、家族も何も関係なく一を捨て十を救う自分の在り方も破綻している在り方だろう。破綻した価値観を持つという意味では同類かもしれないが、元々空虚だった言峰綺礼が、求めていたものを手に入れるためにそれ以外の全てを捨てて空虚にならざるを得なかった衛宮切嗣の生き方に自分を肯定する答えを得られるとは考え難い。

 だが、ここでこの男の望まない答えを言えばどうなるかは分からない。ならば、ここはこの男の話が理解できる体で話を進めればいい。時間を稼ぐだけでもこの状況を打破するための考えを巡らせることが出来るし、上手く会話からこの男の動揺を引き出せれば、この男から冷静な思考力を僅かにでも奪えるかもしれない。

 そして、衛宮切嗣は冷徹な打算から言峰綺礼の問いに対して答えた。

「……僕に何を求める」

 ここで初めて言峰綺礼は衛宮切嗣の声を聞いた。抑揚のない、まるで語るだけの死人のような淡々とした口調で話す切嗣の態度に、綺礼は自分がこの男から自分と非常に近しい本質を感じたことは間違いではなかったと確信する。

「正直に言おう。私は、私の本性を肯定しつつ、妻の死を無価値とすることを否定できる、そんな都合のいい方程式はないかと思わずにはいられないでいる。忌むべき自分の本性ならば、それを否定したい感情からくる苦痛も含めて全て受け入れ愛することができよう。しかし、妻の死の価値を否定することを私は『したくない』。否定するのであれば、『妻の死の価値を否定したくない』という私の感情をも納得させられる方程式がなければならないのだ」

 つまるところ、言峰綺礼は、答えを出したくない問題に対して絶対の揺らぎない答えを与えてくれる方程式を求めていた。己の全てを受け入れられる一押しが欲しかったのだ。しかし、その一押しを与えられるだけの資格のある存在は非常に限られている。

 天上天下に唯一の絶対的存在である原初の王や、太陽神の子にして施しの英雄であるインド神話屈指の大英雄、この世の全ての悪を具現化した存在かはたまた自分に非常に近しい本質を持つ破綻者。それでなければ、言峰綺礼という男の本質を正確に見抜き、その本質を否応なしに理解させる方程式を導きだし、証明することができない。

 そして、これまでの人生において綺礼に答えを与えうる存在はただ一人、目の前の同じ本質を持つ男だけであった。

「私に答えをくれ、衛宮切嗣!!」

 言峰綺礼はまるで神に縋るかのように叫び、返答を求めた。しかし、言峰の叫びに衛宮切嗣は答えなかった。否、答えられなかった。彼が口を開くよりも前に、叫びに応えるかのように声を挙げたものがいたからである。

 その叫びに答えたのは、大気を揺るがし、全ての音を跳ね返す怪獣王の咆哮だった。

 

 この日、怪獣王が冬木に上陸した。




綺礼については、一部捏造解釈なども含まれていますが、ご容赦下さい。ネタですし。


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みんなのトラウマ

 大地を揺るがし、空を切り裂き、海に轟く大咆哮が冬木を襲う。その咆哮を浴びた人は恐怖に屈して立ち上がれなくなり、昆虫も鳥も関係なく地に伏せる。そして、並み居る生物達が恐怖に足が竦み動けなくなっている冬木の地に、その咆哮の主はまるで王の凱旋の如く堂々とした態度で足を踏み入れた。

 有史以来初めて人間の前に姿を現したことが公式に記録された怪獣にして、空襲による焼け野原から復興したばかりの首都東京を再び灰燼に帰した大怪獣。たった一つ、偉大なる天才科学者がその命と共に葬り去った悪魔の兵器を除き、人類がいかなる兵器を、毒を、策を以ってしても一矢報いることすらできなかった生ける災厄。

 それが何者なのか、どこから来たのかについては、古生物学の権威である故山根恭平博士の唱えた「200万年前のジュラ紀に生息し、現代では海底の洞窟に潜んでいた太古の生物が、ビキニ環礁で米国が行った水爆実験の影響で安住の地を追われ、出現した」という説が定説となっているが、未だにはっきりとしたことは何一つとしてわかってはいない。

 ある人はそれを神の使いと呼ぶ。驕り昂ぶり、星と生態系を食いつぶしながら栄華を求め続け、神の火である原子力に手を出した人類に対する罰を与える存在だと。

 ある人はそれを人の業と呼ぶ。度重なる水爆実験の業、幾多の命を張りぼての大義の元に奪い、奪われ続けた人間の戦争の業。それが人に痛みを与えるべく具現化した存在だと。

 全ての日本人の魂に戦後半世紀近く経った今でもなお覆いかぶさっている核兵器の恐怖の権化、怪獣王ゴジラがおよそ40年ぶりに帰ってきた。

 

 

 ゴジラが放った自らの存在を知らしめるが如き大咆哮が響き渡る冬木の地では、現在ゴジラ以外に4体のサーヴァントが現界している。どのサーヴァントも、ゴジラが発するプレッシャーに敏感に反応していた。

 イギリス生まれ、イギリス育ちのヘッポコ魔術師ウェイバーとて、ゴジラのことは知っている。一説によると、神代の竜種、いや、ひょっとするとタイプ・マーキュリーすら上回るかもしれない地球最強生物候補の筆頭、それがゴジラなのだ。

「ゴ、ゴゴ……ゴジラァ!?どこのどいつだよ、こんなバケモンを召喚した大馬鹿は!!聖杯戦争どころじゃないぞ!!」

 そして、ゴジラの姿を目の当たりにしたウェイバーは腰を抜かしてしまい、足をガクガク震わせながらどこのどいつとも知らないゴジラを召喚した大馬鹿者を罵った。尤も、過去に東京に上陸して大きな被害をもたらしたことがあると知っててモスラをサーヴァントとして召喚しようと試みたつい一週間前のウェイバーもこの罵りの対象である大馬鹿者の謗りを免れない考えなしのはずなのだが。

「なんていうバケモノだい……これが、愚かな人間共が偶然に生み出した怪獣だっていうのかい?こいつはヤバすぎる」

「ええ。間違いなくキングギドラよりも強いわ……しかも、物凄い恐ろしいものを内包している」

 いつも強気なベルベラが顔面を蒼白にし、モルは思わず弱気な言葉を口にしてしまう。それほどまでに、目の前の怪獣から感じられる圧迫感と覇気は圧倒的であった。

 キングギドラのように並外れた思考能力や人間を餌として取り込む宝具を持っているわけでもなく、スペースゴジラのように陣地内では無敵に近いアドバンテージを得られる宝具やスキルを持っているわけでもない。

 にも関わらず、ゴジラはキングギドラよりも、スペースゴジラよりも確実に強いということがエリアス三姉妹には分かる。単純に、力も生命力も強い。それだけの理由であのバケモノは異常なほどに恐ろしい存在なのである。

 加えて、彼女達はゴジラの中で渦巻く怨嗟に喘ぐ魂の嵐を感じ取っていた。およそ数百万人分――サーヴァント一騎の数倍、下手すると十数倍の容量にも及ぶ魂の容量はあるだろう。

 現代の文明を遥かに凌ぐほどに科学が発達していた古代文明ですら、モスラやバトラ、真祖をも生み出したこの星の意志ですらこれほど恐ろしい力を持った怪獣をつくることはできなかった。

 それを偶然とはいえ人類が作り出した事実に、エリアス三姉妹は内心で恐れを感じずにはいられなかった。

「……モスラは、勝てるか?」

 震える声でウェイバーがエリアス三姉妹に問いかけるも、誰も応えない。否、答えを――鎧モスラでも勝機が見えないという事実を認められないが故に応えられなかった。4人しかいない荒れ果てた山の中腹を沈黙が支配する。しかし、そこに心に勇気を与えてくれる強く優しい声がかけられた。

「大丈夫だったか!!」

「ルーラー!!」

 スペースゴジラとの消耗したからか、どこか足取りは重いが、確かにルーラーは、諸星弾はそこにいた。あの赤い巨人の姿ではなく、どこにでもいそうな人間の姿をしているのは、これ以上の体力の消耗を避けるためであろうか。

 ウェイバーも、新都を覆う結晶体が消滅したことで、スペースゴジラがルーラーによって葬られたことは分かっていた。しかし、その後は姿を消していたため、ひょっとしたら相打ちになったのではないかという不安がずっとウェイバーを蝕んでいたのである。

「ルーラー……今までどこにいたんだよぉ。僕は一人であのバケモノと戦わないといけないのかと不安で不安で……」

「甘ったれるな!!私とて、いつまで戦えるかは分からんのだ。私がもしもゴジラに敗れた時には、お前がゴジラを倒すんだ」

「む、無茶苦茶だぁ!僕なんか自分の力量も分からずにこんなふざけた戦争に参加した身の程知らずの凡俗の魔術師だぞ!!僕一人にゴジラを倒せっていうのか!?」

 冬木に来てからおよそ一週間しか経っていない。しかし、家系の歴史にばかり凝る古い魔術師を追い抜き、新たな魔導の時代を築き上げる魔術師だと自負していた一週間前のウェイバーはもうどこにもいない。

 ライダーとしてエリアス三姉妹を召喚し、ウルトラマンレオ顔負けの命がけの特訓を経験し、幾多の大量絶滅を引き起こした宇宙超怪獣キングギドラを討ち果たしたウェイバーに、一週間前まで持っていた根拠の無い驕りも自尊心も存在しない。

 己が魔術師としても、一人のマスターとしても矮小で無能であることを自覚し、生涯それと正面から向かい合い傷つきながらも歩き続けることをウェイバーは覚悟していた。

 ウェイバーが弾の言葉に首を縦に振らなかったのは、地球を護る責任に怖気づいたからではない。己を知るが故に、身分不相応だと知るが故に、首を縦にふれなかったのだ。しかし、弾はそれを知りつつも敢えてウェイバーを叱咤する。

「力の有無でお前にゴジラを倒せと言っているのではない。人間の世界では人間のやり方でやらなければならないのだ。たとえ力が足りなくとも、最後まで自分たちの星を自分たちで守るという意思を持つことができる男だからお前に任せるんだ」

 ウェイバーを叱咤する弾だが、彼も内心ではとても悔しかった。ウルトラマンレオの時と同じだ。自分にもっと力があれば、彼らにこれほどの苦しみを負わせる事も無かったのにと思わずにはいられない。

「……私はルーラーの特権として7騎のサーヴァントに通じる令呪を一画ずつ有している。これからの戦いで必要になるかもしれないから、お前に一画を託そう」

 弾の右腕に刻まれた令呪が発光し、同時にウェイバーの右手も呼応するように発光する。光が収まると弾の腕の聖痣は一画分消失し、ウェイバーの右手には消失したはずの令呪が一画蘇っていた。

 蘇った一画分の令呪を見たウェイバーは、しばしそれをじっと見つめて、何かに気がついたかのようにハッと顔を上げた。

「なぁ、ルーラー!!あのサーヴァントの分の令呪も一画分あるんだよな。だったらその一画でゴジラを自害させられないのか!?」

 希望を見出して光が灯った瞳をウェイバーは弾に向ける。しかし、弾は静かに頭を振った。

「無論、それは既に試している。だが、駄目だった。おそらく、私の令呪の存在を知っているあのバーサーカーのマスターが予め令呪を行使して相殺したのだろう」

 ウェイバーと弾は知る由もないことだが、ルーラーが令呪をサーヴァントの自害に行使する可能性を老獪な間桐臓硯は見抜いていた。ルーラーの召喚を街に放った使い魔によって察知した臓硯は、召喚直後に雁夜に令呪を使わせていたのである。

 一方、弾の答えに、ウェイバーは落胆の表情を隠せないでいた。しかし、弾は落胆するウェイバーの前に右腕をかざし、そこに刻まれた5画の令呪を見せ付けた。

「ウェイバー、落胆するには早い。私にはまだアサシンとセイバーの分の令呪がある。私はこれを餌にセイバーとアサシンのマスターと交渉を行うつもりだ。彼らとて、ゴジラを倒さない限り聖杯が完成しないことは理解しているだろうし、令呪は褒賞としても脅しにもなるから、交渉の余地はあるだろう。これから向かうぞ!!」

 弾はそう言うと懐から紅い眼鏡――光解き放ちし真紅の眼鏡(ウルトラアイ)を取り出した。

「デュワッ!!」

 光解き放ちし真紅の眼鏡(ウルトラアイ)を顔の前にかざした弾は光に包まれる。光に目が眩んで思わず視線を逸らしたウェイバーが視線を戻すと、そこには紅いボディーに銀のプロテクターの姿に変わった弾、いやウルトラセブンの姿があった。しかし、その大きさは先ほどは40mクラスだったのに対し170cmほどしかない。そして、セブンはエリアス三姉妹をリュックに乗せたウェイバーを抱きかかえる。

「ちょっ、ちょっと待ってルーラー!!まさか、お前このまま……」

 この後にどうなるかを想像したウェイバーは顔面を蒼白にしてもがくが、サーヴァントの力で抱えられて逃れられるはずがない。

「無理無理無理!!待ってくれ、ジェットコースターどころじゃないぞ、これ!!」

「デュワッ!!」

「ウァァ~!?」

 ウェイバーの絶叫の残響を残しながら、そのままセブンはセイバーたちのマスターを探しに闇夜の中をウェイバーを気遣いながら時速200kmで飛び去った。

 

 

 

「冬木市に、ゴジラが上陸しました!!」

「自衛隊が既に冬木市周辺に配備を進めています」

「綺礼氏を発見!!現在、衛宮切嗣と膠着状態の模様!!」

 耳元の慌しさに意識を取り戻した時臣は、薄くモヤのかかった頭で天井や壁を見た。どうやらここは遠坂邸ではなく、冬木教会の一室らしい。璃正神父の指示を受けて、聖堂教会のスタッフらしき人々が慌しく動いている。

「ここは……私は、一体…………」

 周囲の状況を理解できず、時臣は身体を持ち上げて改めて周りを見渡そうとする。すると、時臣が意識を取り戻したことに気がついた璃正が気づき、安堵の表情を浮かべた。

「時臣君、気がついたようだな」

「璃正さん……ここは一体、どうして、私は冬木教会に?」

「アーチャーの召喚の直後から君との連絡が取れなくなった。さらに、アーチャーとサーヴァントと思しきモスラの激突の余波で遠坂邸は半壊した。アーチャーが脱落した後になっても君とどうやっても連絡が取れないので、万が一のことがあると考えた私は、スタッフを遠坂邸に向かわせた。そこで、瓦礫に埋もれている君を発見して教会で保護したというわけだ。既にサーヴァントが脱落している君を保護することは当然のことだからな」

 実は、ダウンしたモスラにトドメを刺すためにキングギドラが放った宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)は、ウェイバーが令呪を用いてモスラを空間転移させたために、外れてしまった。

 さらに背後に転移したモスラを無理に迎撃しようと首を捻った結果、宙跳ね回る引力光線(グラビディック・フォース・レイ)の流れ弾が遠坂邸に着弾。屋敷は半壊していたのであった。結局、キングギドラは護る戦いがとても苦手だったということだろう。

 状況を徐々に飲み込んできた時臣に対し、今度は璃正が険しい顔を浮かべながら問いかけた。

「私からも、時臣君に聞きたいことがある。アーチャーの召喚から時臣君はどうしていたのかね?連絡も取れず、さらにアーチャーは宝具で子供達を養分にしていた。時臣君の口からこの行動の真意を私は聞かねばならない」

 璃正も時臣が聖杯を得るに相応しい人格の持ち主だと信じていた。しかし、ここまでアーチャーを好き勝手に暴れさせ挙句子供達を大量に犠牲にする所業をみせられてはその信頼が揺らぐことも仕方が無いことだろう。故に、璃正は時臣の真意を問いたださねばならなかった。

 時臣は、記憶の糸を手繰り、自分の最後の記憶を頭の奥底から掘り出そうとする。確か、最後の記憶では自分は遠坂邸にいたはずだ。そこで1億3000万年前に宇宙から襲来した怪獣の皮膚の化石を触媒に、英霊召喚の儀式を行った。3つの頭を持つ金色の龍をアーチャーのクラスで召喚することに成功し、この戦いは自分の勝利だと確信したはずだった。

 そして、時臣は思い出す。召喚したアーチャーが、自分に向けて暗示をかけたこと。それ以降は自分の意志の一切を剥奪され、一画の令呪と先祖伝来のルビーまで使ってせっせと魔力をアーチャーに貢いでいたということ。さらに、アーチャーは深山町に住む子供たちの魂を宝具によって自身の魔力源として吸収していたということを。

「まさか……私は……そんなはずでは、どうしてこうも裏目に……」

 全ての記憶を思い出した時臣は、己の所業と情けなさに穴があったら入りたい心境だった。召喚したサーヴァントに自我を奪われ、家宝を含めた全ての宝石の魔力を奪われ、一般人から大量の魂喰いをして挙句そのサーヴァントが敗北など、何れも遠坂の名を地に落す信じがたい失態だ。

 余裕を持って優雅たれという家訓を常に実践してきた時臣にとっては、耐え難い屈辱でもあった。しかし、それでも説明しないわけにはいかない。時臣は己に対する憤りを胸に、璃正にことの経緯をポツリ、ポツリと話した。

 時臣の独白を聞いた璃正も複雑な表情を浮かべる。彼の所業は聖杯を得るに相応しいもののそれではないし、既にサーヴァントを彼は失っている。しかし、先代の遠坂家当主との友誼もあるし、何よりこうなった以上は聖杯を相応しくないものにくれてやるわけにはますますいかなくなった。

「……罪を打ち明けられ、懺悔を聞くことは神父の役割の一つでもある。しかし、時臣君。すまないが、今は懺悔を聞く時間は取れないのだ」

 そして、今度は璃正が語った。セカンドオーナーである遠坂時臣には、現在の冬木市の混沌とした状況を知る義務があるからだ。

「現在、時臣君のアーチャー、新都を結晶体で覆っていたキャスター、そして若狭に向かったランサーの三体の脱落を霊器盤で確認している。現在生存しているのは、セイバー、ライダー、アサシン、バーサーカー、そして、イレギュラーな8体目のサーヴァントだ」

「8体目のサーヴァント?」

 訝しげな表情を浮かべる時臣。これまでの聖杯戦争の原則は、7体のサーヴァントのはずだ。またアインツベルンがイカサマでもしたのだろうかと勘ぐる時臣に対し、璃正は頭が痛いとでも言わんばかりに疲れた声で説明する。

「……何でも、その8体目のサーヴァントはウルトラセブン、とかいう特撮番組のヒーローだそうだ」

 説明を聞いた時臣も唖然とする。ウルトラセブンといえば、時臣も幼少期に父が冬木の名家としての見得のために買ったカラーテレビに齧りついてみていたものだ。少年のころならば目を輝かせて見に行きたいと思ったのだろうが、生憎今の彼は妻子を持つ立派な大人であり、今は聖杯戦争中だ。この状況下では幼いころ憧れた架空のヒーローの出現など、頭痛の種以外の何物でもない。

「他のサーヴァントも面倒な面子が揃っている。綺礼のメガニューラはともかくとして、時臣君のアーチャーを下したモスラ、メガギラスと互角の戦いをするサイボーグ怪獣」

 璃正の説明を聞き、なるほど、厄介な面子が揃っているという言葉の意味が理解できた。怪獣の圧倒的な力で他のサーヴァントを圧倒するつもりが、皆が皆怪獣を召喚したために怪獣大戦争、いや、怪獣総進撃のような様相を呈している。

 しかし、璃正が説明した怪獣は、セブンを含めても4体だ。残りの1体は何なのか時臣は疑問を抱いた。

「璃正さん、後1体サーヴァントが残っているはずです。そのサーヴァントは一体……」

 時臣の問を聞いた璃正の顔が曇る。そして璃正は少し躊躇しながらも重い口を開いた。

「残る1体のサーヴァントは、バーサーカーだ。そして、その真名はかの悪名高い怪獣王、ゴジラだそうだ」

 時臣は血の気が引く感覚と、頭を揺さぶる強烈な眩暈に襲われた。




みんな、ゴジラにビビッてます。まぁ、しょうがないね。


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蟲爺の野望

まだゴジラが暴れられない……次回もちょっと怪しいかもしれません


「遠坂……時臣ぃ……」

 深山町の高台に雁夜はいた。眼下には無数の建物が倒壊し、荒廃した街があるはずだが、雁夜の目には燃える街も、息絶える人の姿も見えていない。彼の目に見えているのは、眼下に聳える既に半壊していた遠坂邸のみだった。

「死んでないはずだ……あのろくでなしのクソったれな魔術師が、この程度でくたばるはずがない……やつは必ずどこかで生きている」

 しかし、怨敵がふんぞり返っているはずの遠坂邸は既に半壊している。怨敵のいる場所のあてはこれでなくなった。

「問題なかろう、雁夜よ」

 行き場の無い憎悪を募らせている雁夜にしゃがれた声がかけられる。

「遠坂の子倅も聖杯戦争の参加者じゃ。聖杯戦争が行われている期間中にこの冬木の地から逃げるなどということはよもやあるまい。ならば、必ずこの冬木の地のどこかに遠坂の子倅はおる」

「だが、ヤツの屋敷はもう崩れてる。屋敷を失ったアイツがどこにいるのか分かるのか?」

「なんじゃ、雁夜。探す必要などないじゃろう。この燃え盛る街を見よ。この中で生き残っていられるのは、よほど運の強い輩か、魔術師ぐらいのものよ。この街の生き残りを殲滅すれば、死体の中に遠坂の子倅も混じっていよう」

 この街の全ての人間を根絶やしにしろという提案に対し、雁夜は汚いものを見るような目で臓硯を睨んだ。

「ふざけるな……俺はそんな大量虐殺をやるつもりはない。俺が殺したいのは、聖杯戦争に参加している魔術師や時臣のようなヒトデナシだけだ」

「カッカッカ、吼えるの、雁夜。しかし、遠坂の子倅がヒトデナシ……魔術師らしい魔術師であることにはワシも同意じゃな」

 臓硯がここまで自分の意見に合わせるなんて珍しい。ましてや、この蟲爺ほどのヒトデナシが他人をヒトデナシ呼ばわりとは。臓硯のらしくない発言に訝しげな雁夜だが、臓硯は雁夜の表情すらも愉快そうに笑いを零す。

「ヒトデナシの極地にいるお前が、よく他のヒトデナシを笑えるな」

 雁夜はささやかな反抗の意を籠めた皮肉を口にする。

「何が貴様の琴線に触れたのかは分からないが、どうせお前が日常的にやっていることだろう。今更どこに悦を感じている?」

「これが可笑しいと思わずにいられるか、雁夜よ。寧ろお主の方が悦を感じる光景ではないか」

 臓硯の言葉の意味が雁夜には理解できなかった。しかし、臓硯が杖で指差した先に視線を移し彼は絶句した。視界に写ったのは、力なく横たわる一糸纏わぬ姿の女性の姿。しかも、横たわっていたのは、彼が見間違えるはずが無い初恋の相手――心優しく、この人のためなら自分の命だって惜しくないほどに慕った女性だった。

「……まさか!?」

 雁夜はいてもたってもいられずに横たわる女性のもとに駆け出す。何かの間違いであってほしい、自分の見間違いであってほしい。そんな希望を抱きながら、女性に駆け寄った雁夜は女性の身体を抱き起こす。

 しかし、泥と煤に塗れてなお美しさを保つ黒い絹のような髪も、絶望の表情を浮かべてもなお母性を感じる顔立ちも、この胸に焼き付けられた愛おしい女性の持つそれに違いなかった。何度目を擦っても、何度確認しても事実は変わらない。

 ボロボロになった衣服の残滓の傍らに横たわっていた美しい肢体を晒す女性は、間違いなく間桐雁夜の幼馴染にして、怨敵遠坂時臣の妻、そして遠坂凛と間桐桜の母である遠坂葵だった。

「葵さん……?そんな、どうして」

 膝から崩れ落ちる雁夜。茫然自失となっている彼の目には、目の前の光景が夢か現か分からなくなっていた。

「この街には、少し日常の皮をむけば本能の赴くままに倫理など捨て去れるヒトデナシが魔術師以外にもたくさんいたらしいの。しかし、禅城の胎盤に凡愚の輩がもったいないことをする。これはワシでも一時の悦を我慢して欲しがるよいものなのじゃが」

 彼女の末期の姿を見れば、彼女がどのような恐怖を体験したのかは想像に難くない。雁夜自身も、アフリカでの取材中に同じような光景を目にする機会は少なからずあった。

「遠坂の子倅はどうやら妻を置き去りに逃げ出したらしいの。そして逃げ遅れた妻は、何者かによって嬲られた末に殺されたというところか。雁夜よ、お主の恋敵だった男は妻を戦争の最中に置き去りにして逃げ、その身体を見ず知らずの男に陵辱させることを許したヒトデナシだったということじゃ。あれだけ妻からの愛を受けておきながら平然と見捨てられるだけの冷酷な男だったとは、ワシも見る目がなかったらしい」

 面白いものを見れたとばかりに笑いを零す臓硯の声は、悲痛な叫びをあげながら罅割れていく雁夜の心にするりと入り込み、彼の中で蕾をつけていた狂気に開花を促した。

 

 何故、遠坂葵は死んだ。

 ――畜生共に陵辱され、嬲られ、犯されたからだ。

 何故、遠坂葵はこんな全てを呪うような形相をしている。

 ――裏切られ、見捨てられ、襲われたからだ。

 何故、■■葵はこんな悲劇に見舞われなければならなかった。

 ――薄汚い魔術師どもによって造りだされた地獄に放り出された末に、遠坂時臣に裏切られたからだ。

 何故、■■葵は遠坂時臣に裏切られた。

 ――遠坂時臣が妻を戦場に見捨てて一人逃亡し、娘を蟲倉に突き落とすことを是とするヒトデナシの碌でもない魔術師だからだ。

 何故、()()()は幸せになれなかった。

 ――遠坂時臣が彼女の人生を狂わせたからだ。

 

「遠坂……時臣ィィィ!!」

 雁夜は怒り心頭に発していた。彼女を地獄に放り込んだ欲深い魔術師達を、彼女を陵辱したこの街の名も知れぬ畜生達を、そして遠坂時臣を憎悪した。

 マグマのように湧き上がる怒りと、炎のように胸を焦がす憎悪が雁夜の中で渦巻き、反応してより大きく膨れ上がっていく。

 ――お前が!!お前さえいなければ誰もが幸せになれた。葵さんはヒトデナシの妻になって娘を棄てる必要はなかったし、棄てられた娘が蟲倉で人間の尊厳を失うほどに嬲られることはなかった。

 ――アイツのような魔術師(ヒトデナシ)がこの街で聖杯戦争という我欲に塗れた汚らしい儀式を行わなければ冬木が燃え、人が焼かれ、彼女が地獄に沸いた畜生達に犯されることはなくみんなが幸せに暮らせるはずだった。

 ――この街に人倫の鍍金をかけた畜生共が跳梁跋扈していなければ、彼女は俺が救うことができた。葵さんも、桜ちゃんも、不幸になることはなかったはずだ。

 ――この炎に包まれた街にいる魔術師もそれ以外の人間も、どいつもこいつも生かしておく価値のないヒトデナシだった!!

「うぁぁあアアァァァーー!!」

 雁夜の中で爆発した負の感情がパスを通じて己のサーヴァントであるバーサーカーの中で暴れまわる悪霊たちの怨嗟の声と共鳴する。それによって、雁夜の中の負の感情はまるで燃料を投下したかのようにさらに激しく燃え上がった。

 最低限の魔術の素養しかない雁夜が蟲倉での苦行と身体を蝕む苦痛、残り僅か1ヶ月の余命にすら耐えられたのは、遠坂葵の幸せのためだった。しかし、彼が命をかけてまで戦おうとした理由は失われていた。

 命をかける理由を喪失した彼に残ったのは、ヒトデナシである魔術師への憎悪と、この街に住む人々が人の皮を被ったヒトデナシだったという絶望だけだった。

 狂気に支配されかけた理性が導き出した論理に理屈を無視した飛躍とミッシングリングがあることに雁夜は気づかない。その論理が、誰かに意図的に誘導されたとしか思えないほどに不自然であることにも気づけない。

 最愛の人を失い、人間にも絶望した雁夜は、己の中に流れ込んで大暴れする狂気に身を任せた。聖杯戦争も、魔術師も、冬木も、そこにいる人々も、遠坂葵の尊厳と命を奪った全てが雁夜にとっては敵であり、破壊すべき存在になった。

「街ごと殺してやる!!魔術師も……葵さんを殺したやつも!!」

 目的の遂行のためならば、敵がどうなろうと知ったことではない。もはや、雁夜の護るべきものは冬木には存在しない。

「やれ!!バーサーカァーー!!」

 雁夜の狂気に呼応するかのようにバーサーカーは背びれを発光させ、青白い死の息吹で冬木の街を凪いだ。

 

 

 

 

「……全く、我が子ながらここまでワシの掌で予定通りに動かれると、それはそれで面白みがないわ」

 面白みがないという言葉とは裏腹に、間桐臓硯は皺くちゃの饅頭のような顔に歪んだ笑みを浮かべていた。そして、老人は破壊と煉獄の炎に酔ったように高笑いしている己の孫を一瞥すると、ここまで自身を運んできた車の方に踵を返した。

 先ほどまで雁夜が抱えていた女性の亡骸の脇を臓硯が通ると、同時に女性の姿が崩れて無数の蟲の集合体へと形を変える。蟲たちは人型の塊を解き、巣に戻る働き蜂のように臓硯の中に帰っていった。

「間桐の落伍者には相応しい無様で見苦しい最後を見せるがよいぞ、雁夜。本当なら貴様が悶え苦しみ壊れていく姿を楽しみたかったのじゃが、聖杯戦争がこのようなことになってしまった以上、心苦しいが貴様の末路で楽しむよりも、間桐の勝利を優先せねばならん。まぁ、貴様の末路の分の愉しみは貴様とバーサーカーがこの地で催す喜劇で我慢してやろう」

 間桐臓硯は、60年前の時点で第四次聖杯戦争が異常なものとなることを察していた。その原因は、60年前の第三次聖杯戦争でアインツベルンが召喚した規格外のサーヴァントにある。

 アインツベルンが召喚した『根源的破滅招来体』は、冬木の地に人智を超えた怪獣を次々に召喚し、敵対するサーヴァントを5体も討ち滅ぼした。最後に残ったサーヴァント、セイバーとそのマスターはアインツベルンのホムンクルスを一瞬の隙を突いて強襲し、自分たちの命と引き換えに聖杯の器を破壊することで聖杯戦争を決着させた。

 この時、御三家は一つの戦訓を得た。『怪獣』を召喚することができれば、まず負けることはないという戦訓である。とはいえ、1930年代当時は地球上で怪獣の存在は殆ど認知されておらず、彼らは恐竜と同じ扱いを受けていた。怪獣を召喚できる触媒を探そうにも、怪獣に関する調査が殆ど行われていないため、調達は困難を極めた。

 転機が訪れたのは、1954年のゴジラ東京上陸である。さらにこれをきっかけにしたかのように、世界各地で怪獣が出没した。その巨躯と力に神代の獣を重ね、怪獣の研究を始めた魔術師も少なからず現れた。彼らは、現在出現が確認されている怪獣だけではなく、各地の伝承なども調べ上げ、過去に出現した怪獣についても調査を重ねた。

 怪獣についての調査が進む中、間桐臓硯は一つの懸念を抱いた。前回の聖杯戦争の反省から、各陣営が怪獣をサーヴァントとして召喚する恐れである。もしも、各陣営が実力の拮抗した怪獣を召喚したとしたら、どのような結末となるかは想像に難くない。

 そして、彼の懸念は的中する。遠坂時臣がタイプ・ムーンを退けた宇宙超怪獣の鱗の化石を調達し、アインツベルンが北海で巨大生物の木乃伊を発見していたのだ。これらの事実は、遠坂とアインツベルンが次回の聖杯戦争にて規格外の怪獣をサーヴァントとして呼び寄せることを意味する。

 怪獣同士が冬木の地で激突したら、最悪この街は滅ぶ。セカンドオーナーである遠坂時臣は、冬木の地を護るためにも規格外のサーヴァントを召喚することを試みたと考えられる。最悪、冬木の地に大きな被害が残ったとしても『』に到達できれば復興に手間と金がかかってもお釣りがくるし、敗北して聖杯を取れなかったとしても、60年後、優秀な凛の子が必ずや聖杯を取れると彼は信じているのだろう。

 しかし、その想定は甘いと老獪な魔術師である臓硯は考えている。同格の怪獣が3体集まったら、この冬木の街が灰燼に帰すだけではなく、龍脈も乱れる可能性がある。最悪の場合、大聖杯とそれを収める円蔵山の崩落も考えられるからだ。

 この聖杯戦争が、冬木の地で行われる最後の聖杯戦争になるかもしれない。その危惧を抱いた臓硯は、召喚する怪獣の候補探しに半世紀以上費やした。最初に候補として考えたのはゴジラであったが、当初臓硯はゴジラをサーヴァントにすることは諦めていた。

 理由は単純だ。ゴジラほどの怪獣を召喚するとなると、試算されるゴジラの維持に必要な魔力消費は臓硯の許容量を大きくオーバーするものだったからである。さらに、聖杯戦争においてゴジラが該当すると考えられるクラスはバーサーカーのみだ。

 バーサーカーのクラスは狂化の属性が付与され、ステータスが数段アップする利点があるが、それと引き換えに魔力消費が凄まじいものとなる。ゴジラをバーサーカーとして召喚した場合に試算される魔力消費に耐えうるのは貴い魔術回路(ブルーブラッド)を有するバルトメロイ家の当主ぐらいのものだった。

 遠坂やアインツベルンも当然世界に冠たる怪獣王であるゴジラをサーヴァントとして使うことは考えていたが、臓硯が導き出したのと同じ理由で早々にサーヴァントにすることを諦めたそうだ。

 その後、臓硯は様々な伝を使い第四次聖杯戦争の10年ほど前には聖遺物を調達していた。この時臓硯がサーヴァント候補に選んだ英霊は、戦国時代に生きた剣豪、錦田小十郎景竜だった。

 山梨県宿那地方の宿那山で暴れていた宿那鬼をバラバラにし、鬼を鎮める祠を建てて封印した伝承が残り、生まれが敵国同士であったという理由で結ばれずに自害した姫と武将が融合した怨霊、戀鬼を二人山に封印したという伝説も残っている日本随一の怪獣退治伝説を持つ英雄だ。

 怪獣を敵が召喚することが分かっているのであれば、怪獣退治の専門家(スペシャリスト)を召喚すればいいと臓硯は考えたのである。

 妖怪と呼ばれる臓硯自身も景竜の標的となる恐れもあったが、そこは刻印虫を植えつけた幼子を人質を兼ねたマスターとすることで解決できると彼は考えていた。

 その思惑もあって養子にとったのが遠坂家の次女、桜である。聖杯戦争の前には幼子を養子に採る予定であったが、遠坂に願っても無い逸材がいたこともあり、遠坂時臣に養子の話を持ちかけたのだ。

 しかし、聖杯戦争が開戦する一年前、一つのレポートを目にしたことが臓硯の策略を変えるきっかけとなった。そのレポートの題は、『ゴジラの細胞の持つ放射線吸収能力』というものだった。

 ゴジラが放射性物質や、放射線を喰らう――その事実は、臓硯にある仮説を考えさせた。そう、「ゴジラが核エネルギーを自身のエネルギーにする能力を有するのであれば、サーヴァントになってもその能力をスキルとして有しているのではないか」という仮説である。臓硯はこれまでの召喚されたサーヴァントとそのスキル、伝承を一から全て洗い直し、放射能吸収のスキルがゴジラに付与されることを確信するに至った。

 臓硯が戦略の転換に舵を切ったのと時を同じくして出奔していた息子の雁夜が家に戻ってきたこともあり、臓硯は雁夜をゴジラのマスターとすることを決めた。雁夜でもゴジラに原発を襲わせれば魔力供給は問題ないだろうし、臓硯が直接にマスターになった場合には臓硯が直接動きにくくなる可能性があったからである。

 桜をマスターにしてもよかったのだが、心を壊したばかりの桜よりも間桐の血の内に狂気を秘めた雁夜の方がゴジラとの相性もよく多少ならば制御が可能だと臓硯は考えた。魔力供給の問題が解決すれば、桜と雁夜のマスターとしての素質には大差はなかったのだ。

 そして今、雁夜の恋慕していた女性の姿を蟲たちに写すことで雁夜を騙し、暗示を平行して用いて煽ることで雁夜を狂気に駆り立てると同時に、その狂気に冬木を破壊するという指向性を加えた。雁夜の狂気に共鳴したゴジラの破壊も、冬木の破壊に向けられるはずだ。

 間違いなく、敵対する陣営は街を無差別に破壊するゴジラを阻止しようと戦いを挑んでくるだろう。ゴジラが自身よりも格下とはいえ数体の怪獣と同時に戦うことになれば、冬木市が大混乱に見舞われることは想像に難くない。 

 その混乱の隙を突き、アインツベルンから小聖杯を奪う。それが臓硯の狙いだった。サーヴァントが街で大暴れするのは、臓硯の行動を誤魔化す隠れ蓑にすぎないのだ。最後の聖杯戦争だと理解しているが故に、絶対に小聖杯を奪取する必要が臓硯にはあった。

「さて……雁夜が派手に暴れているうちにワシは目的を果たすとするかのぉ」

 妖怪ぬらりひょんを思わせるおぞましい笑みを浮かべながら臓硯の影は蟲の群隊へと変貌し、冬木を覆う夜の闇に溶けていった。




おじさんは激怒した。必ず、かの顎鬚うっかりーを除かなければならぬと決意した。

まぁ、全部蟲爺が誤解させただけなんだけどねww


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緊急怪獣速報

お久しぶりです。この一ヶ月リアルがかつてないほどに忙しく、執筆の時間が取れませんでした。
今は一時的に落ち着いていますが、十月の半ばからもまた忙しくなりそうなので、それまでにもう1,2回は更新したいと思うのですがどうなることやら……


 市内を未遠川と垂直に薙いだ熱線は、切嗣と綺礼が対峙していた冬木市民会館の近くに着弾していた。ゴジラは野生の直感でそこに自分たちの敵となるサーヴァントがいることを看破して熱線を放ったのである。

 二人は熱線の着弾の衝撃と熱波に晒されるはずだったが、切嗣は咄嗟に令呪を用いてガイガンに自分と妻の盾になるように命じた為、辛うじて熱線の余波を食らうことは免れた。

 代行者としての豊富な戦闘経験を持つ綺礼も、熱線の余波から我が身を庇うために動いた。令呪を行使し、自身のサーヴァント及びその下僕を自身の前に転移させ、彼らを束ねることで自身の盾とした。

 残る全てのメガニューラ及びメガヌロンを盾としたことが仇となり熱線の余波を浴びたメガニューラの八割は撃墜され、残る個体も翅を損傷したりしてほとんどが戦力とならなくなってしまった。元から耐久力が貧弱なメガニューラでは、A+ランクの対城宝具の余波でも十分に致命傷足りうるものだったのである。

 尤も、撃墜されたメガニューラの中にアサシンの本体がいたので、どのみちこの時点でアサシンは脱落、残るメガニューラ及びメガヌロンも消滅は免れなかったのであるが。

 ただ、綺礼もここで自分のサーヴァントを使い捨てにすることは覚悟の上での令呪の行使だった。彼にとっては聖杯よりも己の求める答えの方が重要だったため、サーヴァントを、聖杯への道を失うことに対する躊躇は全く無かった。

 さらに、事態は動く。この場で唯一姿を現しているサーヴァントであるガイガンが、先ほどの熱線を放ったサーヴァント――ゴジラの目にとまったのだ。ゴジラはガイガンを本能的に敵と認定し、戦いを挑んできたのである。

 ガイガンは、迫り来る敵に対して迎撃する構えを取った。マスターたる切嗣からの命令はなかったが、命令を受けている暇はないと判断したのだ。ガイガンは飛翔してゴジラへと一直線に接近した。

 接近するガイガンへのカウンター狙いでゴジラは尾を振り回した。遠心力と尾の重量が加算された痛烈な一撃がガイガンに迫るも、ガイガンは咄嗟に伏せることで尾による一撃を回避、さらにすれ違いざまに両腕の命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)で斬りつけて離脱した。

 ゴジラは自身の強靭な肌をも裂く命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)に斬りつけられて血を流すも、傷を負った脇腹を一瞥することもなくガイガンに向き直った。そして、前にも増して強い殺意をガイガンに向けて吼えた。

 その咆哮の中に籠められた殺意に、ガイガンは思わずたじろぐ。サーボーグ怪獣であるガイガンには生物としての本能などは殆ど残っていないはずだったが、怪獣王の咆哮はガイガンの機械に埋め尽くされたはずの生物的な本能を揺さぶった。

 生物としての己を失ってからこれまで一度も味わってこなかった『本能的恐怖』。それは、脳から置き換えられた機械では処理できない未知の感覚だった。

 

 ――拙い。

 衛宮切嗣は先ほどよりもさらに悪化した状況に歯噛みする。セイバーは突然襲い掛かってきた他のサーヴァントとの交戦を余儀なくされ、こちらはサーヴァントをマスター殺しに使えない状態だ。さらに先ほどの熱線の余波の影響で周囲には瓦礫が散乱し、障害物が転がっている上に足場も悪くなって射撃に不利な状況となっている。

 さらに、アイリスフィールの容態も悪化している。おそらく、先ほどの攻撃で言峰綺礼のサーヴァントが脱落したのだろう。周囲の蜻蛉の消失と同時にその魂を取り込んだアイリスフィールは人間としての機能を失い、人間の外郭を消失して器への変身を遂げていた。

 器は助手の舞弥に持たせているが、言峰綺礼に狙われているこの状態で器の安全を確保しながら逃げることはまず不可能と言ってもいい。舞弥を囮にして自分が器を持って逃げるといっても、言峰から逃げられるかは五分五分、いや、四分六分といったところだろう。しかも、逃げ切れなかった場合、器も守りながら戦うというハンデを背負えば勝機は0に等しい。

 先ほどまで周囲を包囲していた言峰綺礼のサーヴァントが脱落したことは不幸中の幸いだが、その幸いも焼け石に水といったところである。つまるところ、切嗣は未だに絶体絶命の窮地を脱してはいなかった。

 しかし、どうやら衛宮切嗣はギリギリのところで幸運の女神に振り向いてもらえたらしい。

『そこまでだ!!裁定者(ルーラー)の権限において、君達に一時休戦を命じる!!』

 突如頭の中に直接響いてきた男の声。そして同時に、切嗣の前に赤を纏った人影が舞い降りた。

『私は第四次聖杯戦争において裁定者(ルーラー)のクラスで現界したサーヴァントだ。非常事態につき、君達にはバーサーカー討伐に参加してもらう!!』

 『裁定者(ルーラー)』を名乗る目の前の男が人を超越した存在であることは切嗣たちには一目で分かった。脇にダウンしている少年と老年の神父――監督役の言峰璃正を抱えていることがいささか気になったが、それ以上に切嗣の注意をひきつけたのは男が名乗った『裁定者(ルーラー)』というクラスだった。

『私は聖杯から召喚された8番目のサーヴァントだ。聖杯戦争が非常に特殊な形式で、結果が未知数なために人の手の及ばぬ裁定者が聖杯から必要とされた場合と、聖杯戦争によって世界に歪みが出る場合に聖杯戦争に召喚される。今回の場合、後者の理由で呼ばれた』

「アサシンのマスター、そしてセイバーのマスターよ。ひとまずは聖杯戦争は中断だ。戦闘行動を中止し、バーサーカー討伐に協力せよ。裁定者(ルーラー)がこの聖杯戦争における最上位の権限を持つという暫定的なルール変更に監督役である私も同意している」

 グロッキー状態の少年に対し、老いを感じさせないほどに矍鑠とした態度で璃正は口を開いた。

『監督役からこのように正式に『裁定』を私は任されている。二人とも休戦には従ってもらわねばならない』

 切嗣は思案する。監督役も認めているし、マスターとしての能力でこのサーヴァントが『裁定者(ルーラー)』に間違いないことも分かっている。そして、その容貌は間違いなく子供の頃に憧れたテレビ画面の向こう側のヒーロー、『ウルトラセブン』だ。

 創作の存在がどうして聖杯戦争に、それも『裁定者(ルーラー)』のクラスで参加しているのかは分からないが、本物だとすれば彼は切嗣の本来の戦い方に枷を嵌めてくる可能性がたかい。標的を周囲を巻き込んで爆殺したり、毒殺することはできなくなるだろう。

 そして、バーサーカー討伐を拒否したら間違いなくペナルティを下すだろう。正直言って共同戦線を張って消耗することは避けたいところだが、問題は『裁定者(ルーラー)』がどこまでの権限を有しているかだ。

『尚、私の隣にいる彼は参戦を既に了承している……しかしだ。あのバーサーカーはサーヴァントの1体や2体で打倒できるサーヴァントではない。君達のサーヴァントの協力も欲しい。君達が渋るというのであれば、私は裁定者の特権として聖杯戦争に参加しているサーヴァントに対して絶対命令権たる令呪を行使できるが、できれば自発的に君達には戦ってほしいのだよ。尚、バーサーカー討伐後には監督役から新たに令呪を参戦した全員に配布する。これでも不服かい?』

 メリットとデメリットを天秤にかけている切嗣の心中はお見通しだといわんばかりにルーラー――ウルトラセブンが告げたペナルティを聞いた切嗣は内心で少し焦りを覚える。全サーヴァントに行使可能な令呪を持っているというのは厄介だ。

 各陣営に対して間接的な影響力しか行使できない聖堂教会の監督役と違って直接的な強制力を持っているとなると、監督役のことなどほとんど気にしていない切嗣とて気にしないわけにはいかなかった。しかも、戦略上のジョーカーとなりうる令呪が配布されるとなれば尚更だ。

 また、そもそも彼のサーヴァントはバーサーカーと交戦中だ。バーサーカーはセイバーが一対一で勝てる相手だとは思えないし、ここでこちらの頭数が増えるというのも悪い提案ではない。

「……分かった。僕は裁定者(ルーラー)の提案に同意しよう」

 切嗣は内心の葛藤を隠しつつ、表面上は無表情のままルーラーの提案を受け入れた。

 だがその一方、言峰はまるで興味がないといった様子で、ルーラーの提案を拒絶する。既に、この男の頭の中では聖杯戦争のことなど瑣事にすぎないらしい。

「ルーラーといったな、そこのサーヴァント。私は今、聖杯戦争に構っている暇はない。私の用件が済むまでは黙っていてもらおう」

「綺礼!」

 そっけない態度をとる綺礼に対し、彼の父親でもある璃正が説得を試みる。

「お前が何故衛宮切嗣に執着するのかは知らないが、今は非常時だ。個人的な心情としては、衛宮切嗣と雌雄を決したいお前の気持ちを汲んでやりたいが、かといってあのサーヴァントの暴走を横目に私闘をしてもらっては困る。あの怪獣を打ち倒すには、残存する全サーヴァントの助力が不可欠だと聖堂教会は判断したのだ。既に、聖堂教会と魔術協会の両スタッフが奔走しているが、それでもこの事態は手に余る……頼む、綺礼」

 正直言って、父からの説得を受けてもなお、ここで衛宮切嗣との決戦をお預けされることは綺礼からすれば不服極まりない提案だった。だが、ふと綺礼は思う。自分に対してはこの二十数年の人生で、誰よりも真摯に向き合ってくれたのは父だった。

 何れ親不孝にも自分の畜生以下の本性を曝露せねばならない相手だ。それを曝露する日までは、璃正の前では今までと同じ姿を見せていた方がいいだろう。義理というわけではない。ただ、何れ父と襟を開いて話し合うその時まで、自分の本性を悟らせない方がそれを曝露したときの対応が興味深いものになると考えたからである。

「分かりました、父上……ですが、次に衛宮切嗣と雌雄を決するときが来たならば、裁定者(ルーラー)は介入しないという確約をこの場でいただきたい」

『今回のように聖杯戦争のルールをどちらかが大幅に逸脱しない限りは介入しない。それは、私が確約しよう。……それでいいかね」

「承知した」

 といっても、綺礼にできることなど多くはない。栄え、地を征せよ我が王たる超翔竜よ(メガギラス)を失った今、再度アサシンに卵を生ませても、新しいメガヌロンが孵化するまで数日、さらに栄え、地を征せよ我が王たる超翔竜よ(メガギラス)に成長させるのにも令呪一画が必要となる。この場で彼に出来ることは、精々メガニューラたちに命じてバーサーカーのエネルギーを吸収させることしかないのだ。

『ではウェイバー君、そしてライダー。君達も頼むぞ!!』

 綺礼と切嗣が納得してくれたところでルーラーはこう言い残して目の前で腕をクロスさせた。

『デュワ!!』

 クロスした腕を解くと同時にルーラーは巨大化し、戦場へと飛び立った。それに続くように、メガニューラの群れが飛び立っていく。

「うえぇ……気持ち悪い……」

「何言ってんだい、このバカ!!そこのジーさんだってピンピンしてんだから、もう少しシャキっとしな!!」

 その一方、超高速で飛ぶルーラーに抱えられていたウェイバーは未だにグロッキー状態だ。その情けなさから相変わらずベルベラからこき下ろされている。

「マスター、急がないと駄目よ。このままあの怪獣を放ってはおけない!!」

 モルもウェイバーを急かす。事態の深刻さは理解しているウェイバーは狂った三半規管に鞭を打ちながら立ち上がり、ライダーに命令を下す。

「おぇえ……ライダー、モスラを向かわせて、上空からルーラーを援護するんだ」

「分かりました、一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)!!お願い!!」

 他のサーヴァントには遅れるも、甲高い鳴き声を発しながら鎧モスラも飛び立った。

 

 

 

「カッカッカ……愉快じゃのう」

 冬木市上空を旋回する使い魔が見た景色を共有した臓硯の第一声がこれだった。

 燃え盛る街、地面を多い尽くす瓦礫の山、そこかしこに放置された無残な屍体。そして、人智を超越した巨大な影がそこにある。

 南洋の孤島からやってきた平和の守護者、巨大蛾モスラ。3億年前の地球上を支配した巨大蜻蛉の群れ。1億2000万年前に地球に飛来したサイボーグ怪獣。そして、光の国からやってきた光点観測員。

 眼下ではこの星の歴史の中でも指折りの強者たちが原水爆が生んだこの星最強の生物候補筆頭、生ける災悪の権化、怪獣王ゴジラを包囲している。

「ふむ……聖杯も欲しいが、この戦いも中々見られるものではない。これを見逃すのは惜しいのぉ」

 そして、臓硯は背後で蠢く影に振り返る。

「そうは思わんか、アサシンよ」

 臓硯の蟲に集られて身動きのできなくなった1体のメガニューラを興味深そうに見つめながら臓硯は邪悪な笑みを浮かべた。




ゴジラ地上波放送までに間に合って本当によかったです


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百里の無頼

時間があるうちに書けるだけ書いとこうと思いまして、少し執筆のペースを上げてみました。
久々なのでまだ中々ペースが上がりませんが……
とりあえず、かっこいい自衛隊のターンその一です


『この時間は予定を変更して、緊急報道番組をお届けしています。現在。若狭湾並びに××県冬木市に合計5体の巨大生物が出現したという情報が入っております。若狭湾の原子力発電所は現在、怪獣の攻撃を受けたため電力供給ができない状態にあり、関西地区では各地で停電が発生している模様です。また、未確認情報ではありますが、美浜原発を襲った怪獣はゴジラであるとの報告も入っています』

 茨城県小美玉市百里・与沢にある航空自衛隊百里基地、ブリーフィングルームに設置されたテレビの前には出撃命令を待つパイロットたちが張り付いていた。

「……まさか、俺たちが生きている内に怪獣様を拝むことになるとは思わなかったなぁ、栗」

「ここ四半世紀はカメーバぐらいしかでてこなかったからな」

 『ファントム無頼』としてその名を航空自衛隊に轟かすパイロット、神田鉄雄一等空尉とナビゲーター、栗原宏美一等空尉のコンビもほかのブリーフィングルームの片隅でコーヒーを啜っていた。

『官房長官が間もなく、緊急の記者発表を行うとのことですが……首相官邸と繋がりましたか?』

 テレビの画面が切り替わり、女子アナウンサーの姿の代わりに白髪頭の老人の姿が映し出される。

『え~、複数体の怪獣が我が国に上陸する公算が大きくなったため、政府は先ほどの閣議で自衛隊に出動を要請しました。怪獣の侵攻による危険性と、自衛隊の作戦行動への協力の意味において、指定各地域の住民の皆様には、行政職員の指示に従い、速やかに避難して頂きたい所存でございます』

「自衛隊に出動命令か……栗、俺たちの出番もあるのかね?」

「俺たちのF-4EJ改なら80式空対艦誘導弾(ASM-1)も搭載できるし、近接航空支援に駆り出されることもあるかもしれないな」

 そう言うと、栗原はブリーフィングルームの隅で項垂れている一人の男に視線を移した。男の顔は青ざめ、写真を持つ手は小刻みに震えていた。

「西川の機体も確か……」

「ああ。アイツの機体も二ヶ月前にF-4EJ改に改装された。百里では俺たちとアイツの機体を含めて3機がF-4EJ改に更新されてるな。百里から部隊が出撃するとなると、まず間違いなく俺たちとあいつらの出番になる」

Fー4EJ(ファントム)なら空対空ミサイル(AAM)が通用する飛行怪獣――モスラやバランじゃなきゃ相手にできなかったな。しかも、そんな飛行怪獣なら小松のF-15があるからわざわざ百里から空戦性能に劣るFー4EJ(ファントム)を引っ張り出すことはなかっただろうに」

 対怪獣攻撃に適した機体に乗る西川二等空尉は、ファントム無頼のコンビと並んでこの基地で出撃の可能性が最も高い人物だった。数年前に娘が生まれ、昨年には念願だった第二子、それも息子が生まれたことは神田も知っている。

 子供を残して戦場に出ることに恐怖を隠せないのだろう。かつて、長女が生まれた時には危険な任務への恐怖から判断力などが著しく低下したこともあった彼のことだ。

 怪獣攻撃というかつて自衛隊が累々たる死者を出した脅威へと立ち向かうことになったことで、家族を残して死ぬことへの恐怖がぶり返したのだろうと神田は考えながらも、視線だけは再度官房長官の顔が映し出されたテレビに移した。

『現在判明している情報によりますと、我が国に現れた怪獣の中で過去に出現が確認されているものは2体。まず、1体は1961年に南洋の孤島、インファント島から襲来し、東京に上陸した後にロリシカ国に飛び立った巨大蛾モスラと判明しております。そして、もう1体は……』

 ここで、画面の中央に映し出されている官房長官が一瞬息を呑んだ。そして、決心したかのように険しい顔を浮かべながら口を開いた。

『……もう1体の怪獣は、1954年に初めて我が国に上陸し、東京を中心に甚大なる被害を及ぼした怪獣、『ゴジラ』であると確認されました』

 記者会見会場にどよめきが起きた。記者たちも未確認情報としてゴジラ復活の報は耳にしていたが、それが公式に確認されたとなるとやはり動揺は隠せなかったらしい。

『この度のゴジラを含む複数の怪獣の襲来は、我が国の基本的生存権の重大な危機と認め、また、憲法9条のもとにおいて許容されている自衛権を発動するにあたっての条件、すなわち、わが国に対する急迫不正の侵害である事、他に適当な手段がない事、必要最小限度の実力行使に留める事、以上の3つを満たしていると判断して、政府は先ほど、『対怪獣邀撃法』に則り陸・海・空全自衛隊に出動を要請しました』

 官房長官は手元の書類を纏め、一礼して会場を後にする。それと同時に画面が切り替わり、テレビ局のスタジオと女子アナウンサーの姿が映し出された。

『防衛出動の発令に伴い、自衛隊の部隊の移動、任務遂行上必要な物資の輸送が優先されます。それに伴い西日本を中心に各地の国道、高速道路で交通規制が行われています。東名高速、名神高速、北陸自動車道並びに山陽自動車道、山陰自動車道は全面通行止め、また……』

「ゴジラにモスラ、それに加えて正体不明の怪獣数体か……怪獣総進撃とでも言わんばかりの大盤振る舞いだな」

 神田はらしくないほどに顔を引き攣らせていた。

「それか大怪獣総攻撃、怪獣大戦争と言ったところか。神様ってのがいて、そいつがこんな演目を書いてるっていうなら性根が悪すぎると思わんかね、栗」

「聖書の中では悪魔が10人ほどしか殺していないのに、神様は最低でも240万は殺しているんだ。もしも神ってやつがいるとしたら、どうせそういうもんなんだよ」

 栗原も相方と同様に引き攣った笑みを浮かべる。そして彼が空になっていることも気づかずにコーヒーの入っていた紙コップを傾けたその時、百里基地の基地内アナウンス用スピーカーから第7航空団の副司令、矢瀬の声が聞こえてきた

『神田一尉、栗原一尉!!両名は速やかに司令室に出頭せよ!!繰り返す、神田一尉、栗原一尉の両名は速やかに司令室に出頭せよ!!』

 そのアナウンスを聞いた二人の顔は瞬時に引き攣った顔から緊張で引き締まった顔へと変貌していた。

 

 

 

 神田と栗原の二人は駆け足で司令室へと向かい、扉の前にいた矢瀬に促されて扉を開ける。

「失礼します」

 日本が大災害に見舞われているこのタイミングで司令室に呼び出されることが何を意味しているのか、それが分からないほど愚かな二人ではない。普段のおちゃらけた空気はどこへいったのか、素晴らしい敬礼をして入室した。

「おお、すまんな、急に呼び出したりして」

 司令室に入った二人を出迎えたのは、かつての静浜の音速男の異名をとっていたとは思えないほどにたるんだ達磨のような体型をしたちょび髭の男だった。中東の某王国の前国王にして首相だった男にそっくりなこの男こそ、第7航空団司令兼百里基地司令、太田空将補である。

「さて……こんな時に百里、いや、空自一の問題児もといエースを呼び出したんだから、用件は察しがついとるな?」

 太田にとってはエースというよりも問題児の印象の方が強い二人であるが、腕が確かであることは認めていた。

「司令が自分たちを指名して呼び出す時は、『俺たちにしかできないこと』をやらせる時ですよね」

「国家存亡の危機に呼び出されれば、神田だってどんな命令が来るかは予想できるはずですよ」

 太田とも長い付き合いのある二人は、太田の態度から彼が部下を命を落す可能性が極めて高い実戦に送り出しながらも自分が安全な後方に留まることに対して心苦しさを覚えていることをおぼろげながら察していた。

 だから右手を下ろした二人は、敢えて先ほどまでとは一転して普段と同じ態度で太田に接する。少しでも普段どおりに振舞って司令の不安を取り除いてやりたいという親を想う子のような心で。

「うむ……そうだな、なら早速説明に入ろう」

 だが、子が親の心が分かるように、親にも子の心は分かる。太田は神田たちの心遣いを理解しつつ、話を続けた。

「こちらは、防衛省技術研究本部(技本)の竹田君だ」

「竹田です。よろしくお願いします」

 太田に紹介された竹田という男は、如何にも技術者といった矢瀬副司令よりも痩せて見える眼鏡の似合う人物だった。

「上からのご指名でな……お前達には特殊兵器を抱えて冬木にまで飛んでもらうことになった。竹田君には、後ほどその特殊兵器の説明をしてもらうために来てもらっている」

「俺たちを名指しですか?……おい、栗よ。俺たちそんなにお偉方に名前を知られてたり、恨みを買ったりしたかい?」

「吹流しを折り過ぎたか?それとも、霞ヶ関に突っ込みかけた一件か?後はアメリカでやらかしたやつか……心当たりがありすぎるな」

「お前ら!!心当たりとなる問題行動が多すぎるぞ!!普段からもう少し慎まんか!!」

 普段彼らの問題行動の尻拭いをしている太田が吼える。

「問題行動については今更だがな、今回はそっちは関係ない。現在対怪獣攻撃の指揮を執っている特殊戦略作戦室の、黒木特佐からのご指名だそうだ」

「黒木の指名ですか!?」

「知ってるのか?」

 神田の問いに栗原は記憶を辿るように答えた。

「防衛大を首席で卒業したエリートでな、俺が千歳にいた頃に何度か顔を合わせる機会があったんだ。お前も噂ぐらいは聞いたことあるんじゃないか?例のヤングエリート集団のトップだぞ?」

「ああ、あのヤングエリートの……しかし、どうしてその特佐殿が自分たちなんかを指名したんです?」

「ワシもそれが気になって尋ねたよ」

 太田は溜息をついた。その溜息には問題行動の多い部下に対する嘆きと部下を戦場に送り出す悲哀が混ざっており、彼の複雑な心情を吐露しているようだった。

「ほら、前にアメリカに研修にいったとき、お前達はF-4でF-15を撃墜判定したことがあったろう。その実力を買われてのご指名とのことだ」

 以前、神田と栗原の二人はアメリカに研修に行った際にドッグファイトのみの演習とはいえ、F-4一機でF-15六機に撃墜判定を下したことがある。その時の武勇伝は自衛隊内に広がっていたのである。

「なるほど……だから我々をご指名ってことですか。それで、任務っていうのは?」

 太田は手元の二枚の書類を神田と栗原に一枚ずつ手渡す。

「概要は以下の通りだ。二分やるから目を通してみろ」

 二人は手渡された書類に視線を移す。そして、視線を下に移していくごとに次第に彼らの表情は険しいものになっていく。

「こりゃあまた……」

「中々にデンジャラスな任務ですね」

「……そうだ。お前達には、ミサイルをゴジラの口にぶちまけてもらわねばならん。やってくれるか?」

 その書類に書かれていたミッションは、『弾頭にカドミウムを搭載した対艦ミサイルを抱えたF-4EJ改でミサイルや砲弾が飛び交う戦場に突入し、怪獣たちの攻撃を避けながらゴジラの口内に対艦ミサイルを叩き込む』という空前絶後のものであった。

「しかし、カドミウムってあれでしょ、ほら、イタタタ病とかの……」

「イタイイタイ病だ、神田。それで、どうしてゴジラにカドミウムなんか飲ませるんです?ゴジラに毒が効くとでも言うんですか?」

 栗原の問いに、竹田が答える。

「ゴジラの体内では常に核反応が起こっており、ゴジラはそのエネルギーで活動していると考えられています。そして、原子炉の制御材にも使われるカドミウムをゴジラに投与することで、ゴジラの体内の核反応を制御することが狙いです。まぁ、カドミウムの毒性で死んでくれるのであればそれに越したことはないのですが、それはあまり期待していません」

「なるほどな、ゴジラの活動に必要とするエネルギーを生み出せないようにして、ゴジラを酸欠にしてしまえってことか」

「概ねその通りです、栗原一尉」

「なるほど……作戦の主旨は理解できる。だが、まだ問題がある。どうやってカドミウムをゴジラに摂取させるというんだ?はっきり言うが、80式空対艦誘導弾(ASM-1)をゴジラのお口にぶち込むってのは俺たちにも九分九厘できないからな」

 ただでさえ重い対艦ミサイルを搭載すればF-4EJの動きが鈍ることは言うまでもない。その上、対艦ミサイルを口内にお見舞いするとなると、また難易度が跳ね上がる。現在の空対艦ミサイル(ASM)の精度であればミサイルを所定の場所に命中させることだけならば楽勝であるが、小回りのきく生物のよく動く頭部を狙い、口の中にミサイルが入り込む角度で叩き込むとなると話は別だ。

 しかも、現在唯一F-4EJ改に搭載可能な国産空対艦ミサイル、80式空対艦誘導弾(ASM-1)は終末誘導をアクティブレーダーホーミングで行うため、怪獣の動きを予想して口の中にミサイルを叩き込むように突入させるとなると、成功率は宝くじの一等を当てる可能性よりも低くなるだろう。

「もしもミサイルが外れれば、俺たちが護るべき国土に猛毒のカドミウムをばら撒くことになる。当たらんミサイル抱えて死地に飛び込んで、無駄死にした上で国土を汚染する任務に就くぐらいなら、俺は命令を拒否させてもらうぜ。懲戒免職になろうが、刑務所行きになろうが、銃殺になろうがその方が遥かにマシだ」

「俺も栗と同じだ。そうなったら俺もついてくぜ」

 二人の凄みのある視線を向けられ、技術者でしかない竹田は思わず半歩後ずさってしまう。だが、そこに太田が助け舟を出した。

「まぁまぁ、そう短絡的に考えるな二人とも。さっき言っただろう?彼がここに来たのは、特殊兵器の説明のためだと。カドミウムの弾頭の説明のためだけに来たわけではないんだ」

 太田のとりなしに、神田たちも身体から立ち昇っていた凄みを押さえる。

「すまんかったね、竹田君。続けてくれ」

「え、ええ」

 竹田は小さく咳払いをして、話を再開した。

「対ゴジラ兵器としてカドミウム弾の使用が検討された際に、当然カドミウム弾の投射手段についても様々な意見が出されました。そして、我々は70年代からそのための兵器の開発に勤しんできました。そして、我々が現時点で出せる答えがこのミサイルなのです」

 竹田は持参していいた鞄から3組の書類の束を取り出し、神田と栗原に一部ずつ手渡し、自身も一部を手に持って説明を始めた。

「詳しくはその書類に書いてありますが、今は掻い摘んで説明させていただきます。今回、カドミウムを弾頭に搭載したミサイルは試製対怪獣誘導弾(XAGM-1)です。80式空対艦誘導弾(ASM-1)を改造したミサイルで、最大の特徴は、終末誘導が手動指令照準線一致誘導方式(MCLOS)のミサイルであることです。

「終末誘導が手動指令照準線一致誘導方式(MCLOS)のミサイルだと……防衛省技術研究本部(技本)は正気か?」

 栗原が手元の書類を捲りながら顔を顰める。

 手動指令照準線一致誘導方式(MCLOS)のミサイルは、ミサイルを人間が目視しながら手元のリモートコントローラーで操作するため、操縦者にはかなりの練度が求められる。さらに、ミサイルを目視しながら操作する必要があるため、ミサイルを発射する母機が標的にかなり接近しなければならない。

 命中精度を操作者の技量の依存する上、人間の判断力や視力にも限界があるため、遠距離だとほとんど当たらない欠点から、ミサイルの操作をコンピューターにさせる半自動指令照準線一致誘導方式(SACLOS)の普及に伴い姿を消した旧式の誘導方式である。

 古くはナチス・ドイツの誘導爆弾フリッツXにも使われていた古めかしい誘導方式を今更持ち出した防衛省防衛省技術研究本部(技本)の正気を栗原が疑ったのも無理もないことである。

「勿論、現代の技術を盛り込んで改良を加えてあります。F-4なら視認しながらついてけますし、画像誘導装置も搭載してますから、あくまで手動指令照準線一致誘導方式(MCLOS)は補助用です。技術者としては悔しいものがありますが、生物という不規則な動きをする標的に精確にミサイルを当てるとなると、最後は人の『勘』でも頼りにするぐらいが必要だという結論に至ってしまうんです」

 日本の技術者達が今持てる技術の限界。それが、このミサイルだと竹田は言う。

「後10年あれば、もっと対艦攻撃性能に優れた機体と完全にコンピューターでゴジラの口まで誘導できるミサイルが配備できたはずなんです。……お二人の技量しか、その10年の技術的な差を埋めることができないんです」

「……なるほどな、それでコンピューター顔負けの誘導技術を持つナビゲーターと、ミサイルを至近距離まで運べる技術と怪獣の真正面に突っ込める度胸を併せ持つパイロットに白羽の矢を立てたわけか。確かに、そんな無茶苦茶な任務(ミッション・インポッシブル)がぶっつけ本番でやれるやつは日本に俺たちしかいねぇな」

 不敵な笑みを浮かべる神田に、栗原も乗っかった。

「やるかい?神田」

「俺らがやらないで誰がやるってんだよ、栗」

 

 

 二人は黙って拳をぶつけ合った。それだけで彼らには全てが通じていた。




今回は、あの不朽の名作「ファントム無頼」から
神田鉄雄二等空尉、栗原宏美二等空尉、太田司令、矢瀬副司令を出してみました。
元々ネタで書いてる作品なので、許してください。

F-4EJ改でカドミウム弾ぶち込もうと考えたのですが、そんな狂った技ができそうなパイロットはエリア88の腕っこきか彼らしかいないので彼らの出番となりました。


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日本泣き顔百景

今回も繋ぎです。次回当たりに陸自と海自のターンがやりたいとは思ってますが


 西日本の現状はどのように言い繕ったところで、混沌という他なかった。

 数時間前に、政府の発表と合わせて冬木市とその周辺は避難命令地域に指定され、付近の住民は警察や行政の誘導に従って避難を開始していた。夜中に避難が始まったこともあってか、着の身着のままで家を飛び出したと思しき風貌の人がそこかしこに見受けられる。

 ゴジラの侵攻や冬木市の怪獣の渡海の可能性、怪獣撃滅を目的とした自衛隊艦船の移動のために日本海側の海の交通はほぼ禁止されている。最も多くの人を効率よく運べる海運という手段が封じられたことは、市民の避難の大きな足かせとなっていた。

 空の便にも影響は出ている。冬木を中心とした本州西部上空は自衛隊機の飛行や怪獣による攻撃を想定して民間機の飛行禁止命令が出されていた。空の便で県外に脱出することは不可能な状態だ。

 結果、人々に残された冬木周辺から脱出する手段は陸路しかなかった。京都以西の日本海側のほぼ全ての道路と鉄道は冬木とその近隣の市町村から避難した人々で溢れかえっていた。 鉄道各社は非番の職員まで総動員して全力で避難民の移送用特別列車を運行していたが、数百万単位の避難民はとても捌ききれない状態だった。どの駅にも、どの車両にも人が溢れ、鮨詰めとなった車両で子供や女性が圧死したりホームに溢れかえった人に押され、線路に人が落ちる事例までもあった。

 自衛隊の車両移動に伴って西日本の主要幹線道もほぼ全面的に通行止めとなり、通行が許された一部の道路に避難民の車両が殺到、空前絶後の大渋滞となっていた。一向に進まない車両の列にしびれをきらしたドライバーらが車両を放棄して徒歩で避難したことで、より一層車両の通行が阻害されるという悪循環となっていた。

 これだけでも厄介なのに、ゴジラが若狭湾で原子力発電所を襲った影響で北陸地方の一部も放射能汚染のために避難命令が出されて多くの人々が南へと下っていた。関西地方は北と西から同時に避難民が押し寄せ、行政と警察でも手に負えない状態となっていた。

 行政は避難民の移送計画や、避難民を収容する施設、食糧等の生活必需品の供給計画を策定するも、想定を超えた数の人員の流入、自衛隊の移動に伴う規制、電力不足などの要因が重なったために既に行政機能はパンクしていた。本州の滋賀以西に限って言えば、行政の統括機能は半身不随といった状態であり、個々の部署が最低限の機能を発揮しているにすぎなかった。

 さらに、混乱の坩堝にある近畿、中国地方だけではなく、事態は既に全国に波及している。日本の行政を統括する東京でも現地で起きている事態が中々把握できず、これから何をやればいいのかも分からない霞ヶ関の官僚たちが右往左往する。

 西日本を中心に各地の国道、高速道路で交通規制が敷かれ、東名高速、名神高速、北陸自動車道並びに山陽自動車道、山陰自動車道は自衛隊車両の通行のために全面通行止めとなっていた。これが国内の流通にも少なからざる影響を与え、翌日以降の日本経済全体に悪影響を及ぼすことは当然に予想されることだった。

 避難命令地域に住む親類縁者や友人の安否を不安視して全国からの電話が集中したために電話回線が混乱し、これは行政活動にも大きな支障となった。

 関西地区の電力不足を受けて全国の電力会社が電力を融通したことで各地の電力供給も不安定だ。既に一部地域では苦渋の選択として予告なしの一時停電措置などが取られているが、それでも関西地区の最低限の電力を賄うことしかできなかった。各地で街灯が消え、街が突然闇に包まれてパニックになる事例が相次いだ。

 

 

 

 避難民たちが先の見えない長蛇の列を成す冬木市から続くとある国道。そこには、車道を埋め尽くすほどの数の避難民の姿があった。

 杖をつきながら歩く老人もいれば、母親に抱きかかえられた幼子や怪我人を背負う男の姿もある。老若男女問わず彼らはただ黙々と歩く。水分の補給も休憩所もない道を、ただ逃げるために。

 その列の中で、不意に一人の老婆が立ち止まった。

「どうしたんだ、マーサ」

 老婆――マーサ・マッケンジーの夫、グレン・マッケンジーが心配そうに問いかける。

「ごめんなさい、グレン。足が痛くて」

 冬木は海外からの移住者も多く住まう街であったこともあって、その列の中にはマッケンジー夫妻のような日本人離れをした容姿の者も少なからず混ざっていた。マッケンジー夫妻も、カナダから冬木に移り住んで20年になる。

「歩けるかい?」

 夫の問いかけにマーサは首を横に振る。着の身着のままで逃げて、水分も休息も取らずにひたすら歩くこと既に数時間。元々身体がそれほど強くないマーサの足はこの外気の寒さもあって限界に達していたようだ。 困ったことになったとグレンは思うが、だからといって40年以上共に歩いてきた伴侶をこのままにしておくという選択肢はない。

「すみません、妻が足をやってしまったので肩をかして……」

「うるせぇ!!通行の邪魔だクソじじい!!」

 隣を歩く若者にグレンは声をかけるが、若者はグレンを突き飛ばして先に向かってしまった。グレンは諦めずに道行く人たちに声をかけるも、ある若者は先ほどのように怒鳴り散らし、ある若者は我関せずとばかりにグレンの言葉を無視して先を進む。

 周囲の人々も自分には関わりの無いことだと言わんばかりに地面に蹲るマーサを敢えて視界に入れないようにして通り過ぎていく。

 誰もが疲れ果てていた。この当てもない逃避行にストレスを溜め込んだ人々は、他人を思いやるどころかこの周囲を埋め尽くす人の波そのものに対して苛立ちを覚えるようになっていた。

 こんな時は、誰もが我が身が可愛いのか。この国の人々には他人を思いやり、助け合う精神はもう無いのか――グレンが絶望しかけたその時だった。

「ちょっと、お婆さん大丈夫!?」

 地面に力なく座るマーサの元に茶髪の少女が駆け寄った。グレンも見覚えがある、穂群原学園の制服を着ている。

「ほら、荷物はアタシが持つから。お~い、誰かこのお婆さんを背負って!!」

「へい!!お嬢!!」

 少女の呼びかけで一人の屈強な男がマーサの前でしゃがみこんだ。

「乗ってください」

「でも、そこまでしてもらったら……それに、私だけこんな時に」

「いいからいいから!!遠慮なんてしない!!」

 マーサは遠慮するが、少女は強引にマーサを男の背に預ける。少女のモノを言わせぬ気炎というか、「ガオー」という効果音がつきそうな気迫にマーサは反対することもできず、男にすみませんと一言かけてから背中に乗った。

 普通なら初対面の少女の物を言わせぬ少々強引な気風に多少なりとも不快感や困惑を感じたりするかもしれないが、何故かマッケンジー夫妻は少女にそのような感情をほとんど抱かなかった。

 これも少女の持つ人徳というか、どこか憎めなくて親しみやすい雰囲気の賜物と言えるだろう。尤も、本人は自分にそのような素養があることについて全く自覚していないことは間違いないだろうが。

「困った時はお互い様。情けは人のためならずってね!!アタシがやりたいから、やりたいようにしただけ!!」

 日常を奪われ、いつ終わるかも分からない長い道をひたすら彼らは歩き続けた。服を貫く冬の夜の寒気に身を刺され、心は怪獣への恐怖と当てのない道への諦観で沈んでいた。しかし、誰もが絶望の海に沈んでいく中で、この少女だけはまるで煌々と輝く朝日のように明るく暖かいようにグレンは感じた。

「ありがとう……そうだ、貴女の名前は?」

 名前を尋ねられた少女は、底抜けの明るい笑顔で応えた。

 

「私は大河。穂群原学園二年生、藤村大河です!!」

 

 

 

 

 

「こいつが、手動指令照準線一致誘導方式(MCLOS)を載っけたF-4EJ改、か……」

 厚木でテスト中だった手動指令照準線一致誘導方式(MCLOS)対応のF-4EJ改の前で、神田と栗原の二人は白い息を吐きながら佇んでいた。百里の夜は冷えるため、彼らはジャンパーのポケットに手をつっこんでいる。

「……栗よ」

「どうした神田」

 ミサイルの装着作業を横目に、神田は哀しげな表情を浮かべる。

「俺はね、これまで実戦でミサイルもバルカン砲も一発たりとも撃ったことがないことが自慢だった」

 実戦経験がないということで、他国の軍人に侮られることもある。護るべき自国民からも税金を無駄遣いする穀つぶし扱いを受けたことだってある。だが、それは神田にとっては恥じることでも、怒ることでもない。

「パイロットを引退するまで一度も実戦を経験しないで、俺たちが年がら年中やってきた訓練が全部無駄になってほしかった。F-4EJ改(ファントム)が人の血で汚れた戦闘機としてではなく、ただのバルカン砲のついた飛行機として一生を終えられれば最高だってずっと思っていた」

 神田は格納庫(ハンガー)の天井を仰ぎながら呟いた。

「抜かずの剣こそ平和の誇り……だったんだがなぁ。ついに剣を抜く時がきちまったよ」

「…………」

 神田が抱いた哀愁にも似た感情は、栗原にも理解できるものがあった。故に、栗原も何も言うことができずただ神田と共に格納庫(ハンガー)の武骨な鉄骨に支えられた味気ない天井を仰ぐことしかできなかった。

 二人が口を噤み、格納庫(ハンガー)に響くものは慌しく出撃前の最終点検を進める整備士たちの声だけとなる。しかし、そんな中で二人に声をかける男がいた。

「おい、お前ら。そんな暗い顔して、いつものアホみたいな気楽さはどこにいった?」

「今井の父っつあん」

 彼らに声をかけてきたのは、普段から彼らの愛機を整備している整備3班の今井班長だ。ミサイルと電気系統、コンピューターの整備は厚木から同行してきたメカニックマンたちが担当しているが、エンジンなどそれ以外の部分はほぼ全てこの基地の整備3班が担当している。

 彼らが普段乗っている680号機に少しでもこの機体のコンディションを近づけることで、二人に普段と遜色ない実力を発揮してもらうために彼らが整備に充てられたのである。

「エンジンは680号機のやつととっかえたし、あの機体の操縦性は出来る限り680号機に近づけてある。後は、後部座席のミサイル遠隔操縦用スティック取り付けとコンピューターの整備だけだ。その辺りは厚木のやつらの担当だから、ワシの担当箇所はもうない」

「さっすが父っつあん。仕事が早い」

「当たり前だ。何年F-4の整備をやってきたと思ってる!緊急発進(スクランブル)だろうが、訓練飛行だろうが関係ない。お前らが常に全力を発揮できる環境を整えるのがワシの役目だ!」

 定年まで後一年の今日までずっと整備一筋だった男の自信に満ちた言葉が、神田の心に安堵を与える。

「父っつあんの太鼓判があれば、大船に乗った安心感があるな」

 しかし、顔を僅かに綻ばせた神田に対してその直後に今井の方が神妙な表情を浮かべた。

「子供の時のことだ」

 今井は後部座席に技術者達が取り付いているF-4EJ改に視線を移しながら、誰に聞かせるというわけでもなく言葉を続けた。突拍子もない話に栗原は訝しげな表情を浮かべる。

「1954年のあの日、わしは東京にいた。大きな黒い影がゆっくりと歩いて、その影が一歩足を進めるごとに建物も道も壊れ、街が焼けていった」

 1954年に東京を襲った災悪を知らない自衛官はいない。神田も栗原も、突然の今井の独白に静かに耳を傾けていた。

「馴染みの店も、友達の家も、わしの家も、わしの周りの全てが燃えていた。わしは、炎の中を逃げ回った。あの黒い影も、燃えていく街も人も、忘れられん。怖くて怖くて、今でも夢に見る」

 今井の目には技術者たちが群がるF-4EJ改ではなく、あの日の炎が映っていた。そして、言葉を切った今井は神田たちに振り返る。

「今度は、絶対に守ろうや。お前達とこいつなら、それができるはずだから」

 それは、どこか寂しげで、それでいて決意が籠められた言葉だった。

 

 

 

 今井と言葉を二人が交わしてからおよそ1時間後、二人の姿はF-4EJ改のコックピットにあった。あれから基地司令の太田や副司令の矢瀬、その他の基地スタッフたちとも少し会話を交わした。無鉄砲な無頼漢の二人でも、彼らが『今生の別れ』に備えていることぐらいは理解できる。二人は時間の許す限り心の通った仲間達との歓談を愉しんでいた。

 そして、今井たち整備班から、そして技本の技術スタッフ、基地の隊員たちからそれぞれの想いを託され、今神田と栗原の乗るF-4EJ改は滑走路へと向かう。

「エンジンコンタクト、補助動力装置(APU)作動」

 いつもと同じように、誘導員の指示に従って神田は機体を始動させる。

「バーナーON……フラップ15°、機首角10°」

 F-4EJ改に搭載されたJ79-IHI-17Aが唸り、その爆音を轟かす。機体後部からは橙の光が漏れ始めた。

「V1!!……VR!!」

「V2!!……Take Off!!」

 闇夜に僅かな光の尾を引きながら、カドミウム弾を抱えて神田と栗原を乗せたF-4EJ改は飛び立つ。そして、百里の総出の見送りを受けて飛び立った希望の翼は機首を西に向けた。

「栗よぉ」

「何だね神ちゃん」

 轟々とした音を発するエンジンのすぐ前に座る神田は、後部座席に座る相棒に声をかけた。

「抜かずの剣を抜くからには、どんな任務であろうと結果を出さんといけないな。これまでの抜かずの剣を誇るなら尚更だ」

「今更言われるまでもないことだ。それに、お前さんに川遊びをしていた少年の話をしただろ?」

「台風の中で小笠原のA島に血液届けたときの話か」

 神田は思い出す。初めて栗原とコンビを組んで挑んだ任務。見通しがほぼきかない暴風雨の中で滑走路の無い小笠原の島に向かい、失速ギリギリの速度で飛びながら40mの誤差の範囲内に後部座席の脱出装置を使ってナビゲーターを送り出すという無茶苦茶なものだった。

 思えば、不可能を可能にすると息巻いていて一番尖がっていたころのことだ。風防をテープで覆い、計器コントロールのみで別の基地の滑走路に誘導するチャレンジはあの頃から始めたものだが、当時の自己ベストが誤差70mなのに対し、現在の自己ベストは20m。

 機体側の進歩もあるが、自分たちも着実に進歩しているという自負を神田は持っていた。

「俺の考えは今でも変わらない。俺にしかできないんなら、俺がやるさ。例え万に一つの可能性でもな」

 栗原の決意を聞いた神田は酸素マスクに隠された口角を吊り上げる。

 腕が上がろうが、自分たちの性格はあのころと何も変わっちゃいないんだろう。結局のところ、自分たちのバカさ加減はあの頃とちっとも変わらず、自分たちはそちらの面では殆ど成長していないらしい。

 

 二人が出会い、共に飛ぶようになってからもう何年になるだろうか。

 栗原がナビゲートしてくれるのであれば、神田は迷うことなく地獄へのフライトまでも任されよう。それだけの信頼が二人の間には生まれていた。




今回はZEROよりマッケンジー夫妻に登場してもらいました。避難民役でちょうどいい感じだったんで。
後はステイナイトよりタイガー。マッケンジー夫妻が初期原稿だと路肩に蹴りだされて動けなくなってとちょっとかわいそうだったのでマイルドにするために出ていただきました。二話連続原作メインキャラが全くでないのもどうかということもありまして。


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Gフォースは何処にありや?全世界は知らんと欲す。

海のところは84年の自衛隊マーチをBGMにして書きました。
出撃準備だとこの曲なイメージがあるので。

また、陸の場面はガメラ2の戦車部隊移動のところを聞いてました。

そして、ごめんなさい。大怪獣バトルは次回にお預けです。次回こそは、次回こそは冬木をリングにした怪獣ファイトをやりたいです。


 星屑が輝く夜空の下、日本海の荒波を進む特徴的な船団があった。

 闇の中に浮かび上がるどこか武骨さを感じさせるシルエットだけで、それがただの船団ではないことが分かる。ほぼ全ての艦に見受けられるまるで鉄塔を思わせるようながっしりとした筋交いのつくりの高いラティスマストがその印象をさらに強めているように思える。

 この日本海の荒波、さらに見通しのきかない夜間にも関わらず、文句の付け所がないほどに精確な艦隊運動をしていることからも乗組員たちもそんじょそこらの船員とは違うということが分かる。

 昼間であればはっきり見えただろうが、その船は船体をグレーの塗料で染め、普通の船であればまず備え付けていることはありえない物干し竿のような砲を持ち、艦尾には日の丸から十六条の旭光が出ている意匠の旗が掲げられていた。

 そう、この船団を構成している船は全て『戦う』ために建造された船、軍艦――護衛艦だった。この船団こそ、日本国の海を護る海上自衛隊が有する艦隊なのだ。

 

 

 

 夜の日本海を進む艦隊の編成は、以下の通りとなっている。

 

第二護衛隊群(佐世保)

旗艦     くらま

第47護衛隊 あまぎり やまぎり さわぎり

第44護衛隊 やまゆき まつゆき

第62護衛隊 さわかぜ こんごう

 

第三護衛隊群(舞鶴)

第63護衛隊 あまつかぜ しまかぜ

第42護衛隊 はまゆき

 

 

 

 時間が許す中で海上自衛隊がかき集め、冬木まで回航できた艦は、海上自衛隊の最新鋭イージス護衛艦「こんごう」を筆頭に、第三世代対空誘導弾搭載型護衛艦である「はたかぜ」型護衛艦や大型ヘリ3機を搭載できる「しらね」型護衛艦などを含めた12隻だ。

 尚、第42護衛隊にはもう一隻、みねゆきが所属しているのだが、みねゆきは現在、ゴジラを追跡して冬木に向かっているため、みねゆきとは現地で合流する予定となっている。

 呉や横須賀にも有力な護衛艦を有する艦隊があるのだが、防衛省は呉や横須賀からではとても間に合わないと判断したため、彼らは怪獣の連続襲来という機に乗じて国土を脅かさんとする不届き者に目を光らせるという理由もあって日本の近海に出撃した上で待機となっていた。

 

 

 第二護衛隊群の旗艦くらまに一機のヘリコプター、SH-60Jが接近する。SH-60Jは、米軍が採用しているSH-60Bをベースに開発された海上自衛隊がHSSー2Bの後継機の主力哨戒ヘリとして配備を進めているヘリコプターである。

 SH-60Jはくらまの後部に設置された飛行甲板に向けて発着艦指揮所の管制官の指示に従ってゆっくりと降下し、機体下面に設置されたプローブを艦の飛行甲板上に設置されたベア・トラップにむかって降ろす。パイロットは機体を細かく操作し、プローブを寸分の狂いなくベア・トラップに押し込んだ。プローブを固定され係止された機体は見事な着艦を決めた。

 そして、着艦したSH-60Jの側面に設けられたドアが開き、そこから数人の男が降りてきた。その男たちを、艦のクルーたちが敬礼と共に出迎える。それに敬礼に答え、サングラスをかけた男が一歩前にでた。

「海上自衛隊舞鶴地方総監、立花泰三海将だ。黒木特佐の命令により、私が第二護衛隊並びに第三護衛隊の指揮を執ることになった」

「艦橋で崎田艦長がお待ちです。立花海将の指揮下に入ることを、光栄に思っております」

 立花はそれまでつけていたサングラスを外し、鋭い眼光を顕にする。

「くらまを旗艦とするが、場合によっては艦砲射撃を行うために前に出る可能性もある。火災に備え、艦内の可燃物を可能な限り排除せよ」

「了解!!」

 くらま副長、宮下二等海佐に可燃物の廃棄を命じた後、立花は崎田艦長の待つ艦橋へと向かった。

 

 立花の乗り込んだ旗艦くらまのマストに、3つの赤い桜が描かれた旗――艦に艦隊の指揮官たる海将が乗り込んだことを知らせる海将旗が掲げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬木へと続くある国道。ここにもいつ終わるかも分からない道を歩く避難民達がいた。人々が俯きながら進むその列は、まるで葬列のようであった。国道には等間隔で設置された街灯とガードレールしかなく、街灯の黄色い光も絶望に染められた人々の心を照らすことはできなかった。

 その中には、寒さと疲労に耐えつつ、痛くなった耳を小さな両手で覆いながら母と共に進む少女もいた。少女は赤いセーターを着て黒髪のツインテールを上下に揺らしながら歩いている。

 しかし、この少女が他の子供達と違うのは、何も考えずただ惰性で足を動かす子供や泣きべそをかきながら歩く子供と違い、己の強い意志によって足を動かそうとしているところであった。その眼には気高くあろうという強い意志は、同世代の小学生のそれとは隔絶したものが感じられる。

 俯き暗い表情を浮かべている周囲の空気にも流されずに気丈に前を見据え、隣を歩く母への気遣いも忘れずに歩く。少女――遠坂凛は、10歳にも満たない幼い身にして既に『常に余裕を持って優雅たれ』という家訓に忠実な次期頭首に相応しい淑女の片鱗を見せる少女であった。

 とはいえ、その胸中には冬木に残っていた小学校の同級生や先生、間桐の家に養子に行った自分の実の妹、冬木で起こっている戦争に参戦している敬愛する父親の安否に対する不安が渦巻いており、時折その不安が顔から窺えるあたりまだまだ淑女に成りきれない雛鳥にすぎないようだ。見た目は子供、頭脳は大人な名探偵ほどではないが、十分に大人びていることには違いないのだが。

『この度のゴジラを含む複数の怪獣の襲来は、我が国の基本的生存権の重大な危機と認め、また、憲法9条のもとにおいて許容されている自衛権を発動するにあたっての条件、すなわち、わが国に対する急迫不正の侵害で……』

 隣を歩く若者が手に持っているラジオから冬木に関する情報が聞こえてくる。それを聞いた凛の母、葵が不安げな表情を浮かべながらポツリと呟いた。

「時臣さんは大丈夫かしら……」

「お父様なら心配ありません!」

 凛は母を励ますように自身ありげな口調で言った。

「お父様なら、必ず勝てます。だって、遠坂の当主なんですから!!」

「そうよね、時臣さんですものね」

 葵も凛の自信満々の笑みに釣られるように笑顔を浮かべる。しかし、実のところ、凛は口では父の勝利を自信ありげに言ってはいるものの、その胸の内は不安でいっぱいだった。

 今、冬木の地では7人の魔術師が命を賭けた闘争をしている。凛も、聖杯戦争の概要ぐらいは父から聞かされていた。そして、冬木の聖杯戦争と冬木の怪獣の同時多発的出現に関係があることが分からないほど凛は幼くない。

 本来、聖杯戦争における戦場は冬木に限定されているはずだ。だが、冬木に隣接する市に属する禅城の館までもが避難指定区域になっている。たった7人の魔術師による闘争によって一つの市に留まらず、一つの県が戦場と化しつつあることなど尋常では無い。凛も子供ながらもそのことは何となく理解していた。

 そして、その尋常ではない闘争――否、戦争に父が参加しているという事実は、幼いながらも聡明な凛の脳裏に考えたくない仮説を浮かび上がらせる。『父、遠坂時臣がこの戦争を拡大させているのではないか』という仮説である。

 ラジオから聞こえきた情報によれば、現在冬木市には分かっているだけでも4体を超える怪獣が出現しているという。その中の1体が時臣の召喚した怪獣ではないという保障がどこにあるというのか。

 もし、その仮説が真実だったとすれば、凛の父、遠坂時臣は勝利のために怪獣を召喚し、数え切れない人を巻き込み、少なからざる無関係の一般人の命を奪っていることとなる。現在進行形で凛の、母――葵の、妹だった桜の、親しかった友人や先生、近所の人々の命を脅かしているのは、時臣ということにもなるのだ。

 凛は頭に浮かんだ仮説を振り払うように頭を振った。何を馬鹿なことを考えているのか。そうだ、あの偉大で、優しくてかっこよくて、魔術師としても完璧な父がこの街を戦場にして、多くの人間を危険に晒しているはずがない。そんな、優雅の欠片も感じない悪行を、尊敬する父が行うことなど考えられないことだ。

 ラジオは、出現した怪獣は5体だと言っていた。ならば、怪獣を召喚したのは、父の足元にも及ばない粗野で能力の無い魔術師たちに決まっている。きっと父はあの戦場の中で、怪獣を召喚して冬木を戦場にした不埒な輩から冬木を護るために今も戦っているに違いない。

 魔術師としても女性としても未だ一人前に程遠いこの雛鳥のような少女に、自分の父がこの災害を引き起こした張本人であると考えさせることはとても難しいことである。

 脳裏を過ぎった考えたくない考えを振り払うかのように大きな歩幅で一歩を踏み出し――凛は妙な振動に気づく。

 地面を規則的に伝わってくる人の足とは全く違うパターンの振動、そして、耳に聞こえてくる金属の板を連続的にコンクリートに叩きつけているような音とたくましさを感じるほどに低く重いエンジンの排気音。次第に大きくなる音と、列の前の方から聞こえてくるどよめき。

 年相応の背丈しかない凛は周囲の人間に視線を遮られているため、周囲の人間が何故どよめいているのかその理由が分からない。

 しかし、音源が近づいてくるごとに凛の周囲にもどよめきが連鎖し、凛の耳にも人々のどよめきの詳細が聞き取れるようになった。

「おい……自衛隊だぞ」

「あんなにたくさんの戦車がいるなんて」

「でも、勝てるのか?自衛隊は」

 凛は人々の隙間から、反対側の車線に視線を移す。当初から規制が敷かれており、車道の反対側は避難民の通行は禁止され警察官が交通整理をしていたため、反対側の車線はこちらの混雑ぶりが嘘であるかのようにがらんとしている。

 しかし、それは突然凛の視界に飛び込んできた。

 鉄の香まで感じられそうなほど巨大で重厚な鉄の塊、その上体から突き出した獰猛な牙を思わせる砲身――そこには陸上自衛隊が誇る最新鋭戦車、90式戦車の姿があった。

「すごい……」

 魔術の、神秘の欠片も篭っていないただの鉄の塊であることは凛とて理解している。しかし、それでも凛は魔術師の卵でありながらも自身に比べて圧倒的に大きく力強いその姿に心強さを感じずにはいられなかった。

 だが、人々の隙間から見える堂々たる鉄の騎馬の隊列は戦車だけで終わりではない。戦車の列が途切れたと思うと、次に凛の視界に飛び込んできたのは、先ほどのオリーブグリーンの戦車より一回り以上大きな無機質な金属色の巨体だった。台車に乗せられている直径3mを超える巨大なパラボラに、凛は目が釘付けになる。

 凛には知る由もないことだが、その金属色の巨体の名は、90式メーサー殺獣光線車という。1961年にロリシカ国からモスラ抹殺のために供与された原子熱線砲を元に作られ、66年の人型巨大生物、ガイラとの戦いで初めて実戦投入された66式メーサー殺獣光線車の後継である。

 冷たさすら感じさせる無機質な金属色に染められた全体に、科学の力を誇示するかのように鎮座する巨大パラボラ。科学の力を誇示するかのようなその超兵器の姿を見た凛は、それが如何なる原理で動き、どのやって怪獣を倒すのか全く理解できないながらも、畏怖せずにはいられなかった。

 魔術が至高のものであると教えられてきた凛がこれほどに科学の底力と恐ろしさを感じたのは、初めての経験だった。

 

 

 

 

 避難民の列を横目に進む90式メーサー殺獣光線車の牽引車の中、そこに陸上自衛隊の家城茜三等陸尉の姿があった。

 名神から吹田を抜けて中国自動車道へ、そしてこの冬木に向かう国道まで到達した。自衛隊車両に占拠された中国自動車道の姿にもこの国の直面している危機を実感させられたが、眼下に見える避難民の姿にもまた、別のものを実感させられると茜は感じていた。

「まるで出エジプト記だな……」

 家城と同じ光景を目にしている90式メーサーの砲手が呟いた。

「聖書ですか?」

 特定の宗教を信奉していない家城には、聖書に関しては一般教養レベルの知識しかないために彼の発言の意図が分かりかねた。それに気づいたのだろう。砲手は苦笑しながら続けた。

「私も、高校時代の授業で習っただけなんだがな。モーセという名前を聞いたことがあるだろう?」

「海を割ったという伝説のある人でしょうか?」

「そう、そのモーセだ。彼は、エジプトで迫害されていた同胞であるヘブライ人を率いてエジプトを脱出して安住の地として神から示されたパレスチナへと向かった。それについて色々と書かれているのが出エジプト記だ。怪獣という恐怖から逃れようとする避難民の列はまるでエジプトを発ったヘブライ人たちのようだと私は感じたんだよ」

 しかし、ここで砲手はその顔を僅かにしかめた。

「ただ、出エジプト記のヘブライ人と違って、彼らにはパレスチナもなければ彼らを率いて神の救いを与えるモーセもいないんだよな」

 避難民の不安な旅路。その苦労を察した家城の胸にもなんとも言いようのない感情がこみ上げて来る。

「……この世界には、救世主なんて都合のいいものはいないでしょう。ならば、彼らは都合のいい救世主の手ではなく、私達の手で救えばいい。そのためにいるのが、自衛隊(私たち)でしょう」

 教科書でしか見たことのない巨大怪獣との戦い、しかも、怪獣は1体ではなく、最低でも5体だ。その中には、自衛隊が手も足もでなかった怪獣の王、ゴジラもいるという。それに対して家城も恐怖が無いわけではない。

 だが、彼女は自衛官だ。この国を守る道を選び、そのために日々鍛錬を重ねてきた。この年にして最新鋭の90式メーサー殺獣光線車のオペレーターに選ばれていることからも、彼女の優秀さが分かるだろう。たとえ敵が何者であろうと立ち向かわんとする覚悟も、敵を打倒するための技量も家城茜には十分に備わっていた。

「彼らの絶望を取り除き、何時の日か彼らをあの地に帰す。私達が成すべきことであり、私達にしかできないことです」

 家城は、もう横を見なかった。彼女の目に映るのは、遥か前方にある討ち果たすべき脅威が蔓延る地だけだった。

 

 

 

 地上には日本が巨大怪獣を討ち果たすべく研究を重ねてきた最新鋭戦車にメーサー車。海上には防人の使命を果たさんと静かに敵を見据える護衛艦隊。空には一発逆転の可能性を秘めた秘密兵器を抱えた空の勇士たち。

 陸・海・空。日本国を脅かす脅威を排除すべく、全自衛隊の総力が決戦の地、冬木市に集結しようとしていた。 




元ネタ解説

立花泰三海将(GMKより立花泰三准将)
やっぱ、海上部隊の指揮官はこの人でないと駄目ですね。ゴジラシリーズでは艦隊指揮官の中で一番の名将だと思います。ゴジラシリーズ全体で見ても、彼と黒木特佐はずば抜けた名将ですし。

宮下二等海佐(GMKより宮下中佐)
GMKではあいづの副官でした。自分の中ではスーパーガッツの副隊長なイメージが強いのですが。

家城茜三等陸尉(G×MGより家城茜三尉)
作中では99年に房総半島に上陸したゴジラに対して90式メーサー車に乗って戦っているので、90式メーサー出せるなら彼女も出そうと思いました。


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切嗣はアハト翁に怒っていいと思う

予告通り今回は冬木の怪獣プロレスになります。

ゴジラ・モスラ・ウルトラセブン・ガイガン・メガニューラ
生き残るのは誰だ!?


 近くにいるものの耳朶を打つどころか身体そのものを物理的に震わせるほどの、日常ではありえない超重量の物体が正面衝突する衝撃音が絶え間なく響く夜の街。その中心には音源にしてこの災害の元凶たる怪物たちがいた。

 溶岩が固まった黒くゴツゴツした岩のような表皮を纏った二足歩行の肉食恐竜を思わせるフォルムの怪獣の名は、ゴジラ。アメリカが南太平洋ラゴス島で行った水爆実験の影響で島に生息していた太古の生き残りの恐竜が巨大化し、さらに大東亜戦争で死んだ数知れぬ犠牲者達の無念と憎悪の受け皿となることで生まれた怪獣王である。

 その正面でチェーンソーのような形状をした両手を前に構えている異形の生物の名はガイガン。遠い外宇宙に住む生命体が機械と生物を融合させて生み出したサイボーグ怪獣だ。

 両者は睨みあう形で距離を取っている。しかし、不意にガイガンが動いた。胸部から回転して突撃する血濡れの刃(ブラッディ・スライサー)を射出し、ゴジラの頭部を狙う。顔面を狙われたゴジラは反射的に右腕を振るい、回転して突撃する血濡れの刃(ブラッディ・スライサー)を地面に叩き落した。

 回転して突撃する血濡れの刃(ブラッディ・スライサー)は防がれたが、これもガイガンの計算の内だ。咄嗟に顔面に迫る飛び道具から身を守ろうとすれば、多くの生物は頭を動かして避けるか、頭の前に手や武器などを出して盾にしようとする。頭を動かして体勢が崩れても、頭の前に盾を出して視界が一部制限されたとしても、それは追撃の好機に他ならない。

 ガイガンは回転して突撃する血濡れの刃(ブラッディ・スライサー)の射出と同時に全力で飛ぶ。ステータス上、ガイガンがゴジラに優るものは敏捷しかない。スピードだけを頼りにして斬りつけると同時に離脱する一撃離脱以外にガイガンがゴジラに太刀打ちする方法はないのだ。

 ゴジラの岩肌のような肌と猛スピードで肉薄したガイガンの両腕の高速回転する刃が激突し、巨大な火花がゴジラの体表からまるで血潮のように溢れ出る。しかし、その見かけの派手さに比べてゴジラが負った傷は軽微なものに過ぎない。

 Aランクの宝具による斬撃でもExランクの耐久のあるゴジラに深く斬りこむことは難しい。さらに、ゴジラには宝具『不滅のゴジラ細胞(イモータル・セル)』がある。ゴジラの体表に刻まれた浅い傷も、数分もあれば完治してしまうほどの再生能力をゴジラは有しているのだ。

 傷つけることも簡単ではなく、さらにどうにかして傷をつけたとしても浅い傷なら数分で完治してしまう。ガイガンの機械の部分は、既にこの戦いに勝機がないことも計算できていたが、その機械の部分が命令に疑問を持たずに従うことをガイガンに強いる。勝てないことを理解していながらも敵に挑むガイガン。その胸中には負けるために戦うという矛盾に対する疑いは一切ない。

『セイバー、ルーラーとライダー、アサシンと共闘してバーサーカーを討ち取れ』

 一撃離脱に成功してすかさず残心を取ったガイガンの脳裏にマスターからの念話が響く。ガイガンに搭載されたセンサーが近づきつつある巨大な2体の飛行物体と、ゴジラの周囲に群がりつつあるアサシンの群隊を捕捉する。

 先ほどまで敵であったサーヴァントとの共闘を命じられたガイガンは、即座に3体のサーヴァントを攻撃不可目標に設定した。

 ガイガンとモスラ、ウルトラセブンが並び立ち、正面で堂々と構えるゴジラを見据える。それに対し、4体のサーヴァントを相手にするゴジラの表情には変化はない。肉食獣を思わせる鋭い眼光を4体の獲物に向けるだけだ。

 そして、ゴジラは第二ラウンドの始まりを高らかに告げるかのように、臓腑を振るわせる咆哮を放った。

 

 

 最初にゴジラに立ち向かったのは意外なことに4体のサーヴァントの中で最も非力で脆弱なアサシンだった。いや、正確にはアサシンの宝具といった方が正しいだろう。アサシンの宝具『|増えよ、地に満ちよ、我が血肉を分けた同属よ《オーバーグロース・ドラゴンフライ》』によって産み落とされたメガニューラたちがゴジラの顔面に群がっていく。

 メガニューラたちはゴジラの表皮に取り付くと、その尾部の針をゴジラの表皮に突きたてた。だが、ここで彼らにも予想できなかったアクシデントが起こる。海老や蟹の甲殻が砕け散るような軽い音と同時に、ゴジラの表皮に突きたてた針が砕け散ったのだ。

 考えてみれば至極当然のことだが、Eランクの宝具、しかも増殖力とエネルギー吸収、供与能力以外に誇るものもなく戦闘力も三流魔術師に撃退されるほどに低いメガニューラの針が、Exランクの耐久を誇るゴジラの表皮を抜けるはずがなかったのである。ただ、メガニューラにはその当たりのことを詳しく理解できるだけの理性など存在しなかったため、それが分からなかった。

 本来であれば彼らのオツムの足りない分はマスターが補佐しなければならないのだが、マスターたる言峰綺礼自身、サーヴァント同士の戦闘には余り積極的ではなかった。衛宮切嗣と一対一で対話する機会を作ってくれればそれでいいとしか考えておらず、アサシンの戦闘の結果には殆ど興味を抱いていなかったのである。

 彼らのオツムの足りなさ故にただ表皮にひっつくことしかできなかったメガニューラたちだったが、これは少なくとも無意味なことではなかった。ゴジラは表皮に纏わりついた数千ものメガニューラに煩わしさを感じ、ガイガンらに向けていた注意を一瞬弱めてしまった。

 その好機にモスラが攻撃に加わる。瞬時にゴジラの背後に回りこんで額から鎧・クロスヒートレーザーを放ち、無防備な背中に次々とレーザーを叩き込んでいく。絶え間なく放たれる鎧・クロスヒートレーザーの衝撃に耐えかねたゴジラは体勢を崩してしまう。

 体勢を崩して前のめりになったゴジラに対し、左側からガイガン、右側からセブンが同時に迫る。そして、体勢を立て直そうとする度に叩き込まれる鎧・クロスヒートレーザーの衝撃でふらつくゴジラに対して両サイドから攻撃を叩き込んだ。

 ガイガンは命喰らいし吸血滑刀(ブラッディ・チェーンソー)による乱撃をお見舞いし、その反対側ではセブンがその拳でゴジラの身体を連打する。3方向からの息もつかせぬ連続攻撃にゴジラもたまらずに倒れこんでしまう。それにまきこまれて少なくないメガニューラが押しつぶされて死んでいたが、この場の誰もがそのようなことは気にしていなかった。そのようなことを気にしていられるほどの余裕が無かったというのが正しいのだが。

 体勢を崩してうつぶせになる形で倒れこんだゴジラに対し、セブンは首元に馬乗りになって頚部に繰り返し侵略者切り裂きし正義の刃(アイスラッガー)を叩きつける。ガイガンは背びれを繰り返し斬りつけ、モスラはガイガンの反対側から鎧・クロスヒートレーザーを放ち続けた。

 文字通り袋叩きの構図であったが、袋叩きをしている3体のサーヴァントは誰もが必死だった。特に、馬乗りになって頭を殴りつけているセブンは一番危機感を感じていた。袋叩きにしている今でなお拭いきれないゴジラから発せられる衰えることなき凄み、威圧感がセブンの戦士として培った経験と直感を通じて警鐘を鳴らしていた。

 ミサイルで粉々にされても一晩で再生し、頭と翼はアイスラッガーを跳ね返すほどに頑丈だったギエロン星獣ですら、頚動脈を掻っ切るのにここまで侵略者切り裂きし正義の刃(アイスラッガー)で繰り返し切りつける必要はなかった。

 これだけ侵略者切り裂きし正義の刃(アイスラッガー)で斬りつけているというのに、未だに頚動脈を断ち切れずにいることもセブンに焦燥感をもたらす。ゴジラの背びれが発光していることに気がついたガイガンらがうつぶせに倒れるゴジラから即座に距離を取るが、焦燥感からゴジラから距離を取る判断を一瞬躊躇させてしまったセブンは、ゴジラから離脱するタイミングを誤った。

 ゴジラの頭部からセブンが離れたタイミングと、ゴジラがその全身からエネルギーを解放したタイミングは僅差だった。セブンはゴジラから発せられた熱に焼かれながら衝撃波に吹っ飛ばされる。

 3万5000tのセブンの巨体を吹っ飛ばしたそれの正体は、体内放射というゴジラの技であった。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)の発射寸前に口を閉じ、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を体内に逆流させた上で魔力放出(放射線)のスキルによって身体から一度に放射するというものだ。

 射程距離は極めて短いが、密着している相手にはダメージを負わせつつ確実に弾き飛ばすことのできる技であり、多数に囲まれた時や動きを封じられた時には起死回生の一撃となりうる。平行世界では、ゴジラはビオランテやキングギドラ、モスラなどといった強敵相手にこの技を使用し、形勢を逆転させた実績もある。

 体内放射を喰らったセブンはそのダメージにしばし立ち上がることができず、ビルの残骸の上で悶えている。尚、ゴジラに取り付いていたメガニューラはこの体内放射の余波で98%が消滅していた。残るは二桁のメガニューラだけであり、彼らはゴジラの注意をひきつけるために健気にゴジラの周囲を旋回していた。

 しかし、健気に周囲を飛びまわるメガニューラにイラつきつつも、ゴジラはメガニューラに殆ど注意を向けなかった。怒りに燃えるゴジラの視線の先にいるのは、倒れ伏すウルトラセブンの姿だった。

 この僅かな間に不滅のゴジラ細胞(イモータル・セル)によってゴジラの頚部に刻まれた無数の切り傷は表面上は治りつつあった。少なくとも出血は既に収まっているらしく、ガイガンに切りつけられた背びれの傷もほとんどが小さくなっている。

 先ほどの袋叩きによって負わされた傷など殆ど気にする様子を見せないゴジラはその背びれから稲妻のごとき光を発し、大きく息を吸い込んだ。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)の発動前の予備動作に他ならない。標的はおそらく、ゴジラの怒りに燃える瞳に写る赤い影――ウルトラセブンに違いない。

 ゴジラの背びれの発光を見たモスラとガイガンは即座に動く。ここでセブンを失えば、自分たちの勝算は皆無となることは言うまでもないことだからだ。体当たりで熱線の軌道を変えさせようとゴジラに突進するモスラとガイガンだったが、背後の敵の存在にゴジラは気づいていた。

 ゴジラが背後から迫る自分たちの存在に気づいていると判断したガイガンはギリギリで速度を僅かに緩め、モスラの後ろから追撃するポジションを取った。ゴジラの怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)で迎撃されたときには、モスラを盾にして離脱するためであった。

 自分より遥かに耐久の高いモスラであれば、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)の一撃くらいになら耐えうるだろうし、口がこちらを向いた瞬間に回避することもモスラならば不可能ではないとガイガンは考えていたからだ。

 先ほどから脳から置き換えられた機械では処理できない『非論理的な畏怖』とも言うべき感覚が警鐘を鳴らしているが、それをガイガンは敢えて無視し続けている。計算できないことを追究する余裕は今のガイガンにはないのだ。

 ゴジラが振り向いた瞬間に上空に飛び出せば、モスラを標的とした怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を確実に回避できるとだろうとガイガンは結論付けていた。

 そして、ガイガンの予想通りにモスラの身体がぶつかる直前にゴジラは大きく身体を捻り、モスラの胴体ほどの太さがあろう巨大な尾をモスラに叩きつけた。モスラは身体中をキングギドラの引力光線すら跳ね返す堅牢な鎧で覆っているが、ゴジラのExランクの怪力に半回転した尾が生み出した遠心力、そしてその重さが加わった一撃となると話は別だ。

 モスラはまるでスラッガーの金属バットが叩きつけられたボールのように弾き飛ばされ、冬木大橋に衝突した。全長665m、片側二車線三径間連続中路アーチ形式の大橋は衝撃で橋脚ごと吹き飛び、アーチを形作っていた鉄骨も組細工のようにバラバラに崩れていく。建材も、強固な橋桁もモスラの巨体によって押しつぶされ、原型を留めないままに水中に没していくこととなった。

 さらに、冬木大橋を吹き飛ばしただけでは勢いを殺しきれなかったモスラは未遠川を斜めに横断する形で地表と川底を抉り取りながらさらに数百mほど滑走し、未遠川から漏れ出した水と合わせて周囲に甚大な被害を与えていた。

 そして、モスラを盾にして尻尾の一撃を何とかやりすごしたガイガン。しかし、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)による迎撃を想定して後ろに下がっていたところにゴジラが放ったのは怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)ではなく尾による一撃だった。

 こちらの2体を纏めて怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)で攻撃してくることを予想していたガイガンの読みは外れた。ガイガンの目の前には、綴じた口から溢れんばかりの光を発し、震えんばかりの殺気を放つ凶悪なる獣の顔がある。

 初撃に怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を想定して上空に飛び上がっていたが故に、予想外の二撃目に対する迅速なる回避は不可能。ゼロコンマ数秒後に放たれる怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)をゴジラが外す可能性は0%。ガイガンの行動をつかさどるコンピューターは自身の(全壊)という結論を瞬時に導き出していた。

 僅かに残された生物的な部分が発していた警鐘はこのことだったのだとガイガンはここで初めて理解する。しかし、ガイガンはただその結論を受け止め、諦めも後悔も怒りも悲しみもなく、ただ機械的に訪れるであろう(全壊)を待つ。

 

 ガイガンが自身の(全壊)という結論を出した0.1秒後、ガイガンの頭部に内蔵された視覚センサーは青白い光に埋め尽くされ、同時にガイガンのコンピューターは凄まじい熱量によって焼失した。

 青白い光の筋に飲み込まれたガイガンの頭部。光が消えた後に残されたのは、頭のあった場所から黒煙を上げ、首の付け根がトーチのように燃え盛る鋼の躯だけであった。




セイバー脱落。うん、アハト翁が悪いね。こんな中ボスクラスのやつの触媒を自信満々に用意していた時点で戦犯です。

ギロンの方がまだマシ……いや、五十歩百歩か。本気で勝ちたいならザムシャーをセイバーで召喚すべきでしたね。


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冬木市は地獄の一丁目

マスターのターン。多分、次回はまた自衛隊か怪獣プロレスのターンです。




 5大怪獣の激闘は、10分も経たない内に手酷いダメージを負った2大ヒーローとピンピンしているラスボスという構図へと変わった。端的に言えば、正義の味方、絶対絶命という構図である。

 そして、その構図を特等席から眺めている男達がいた。

 童子のように目を輝かせているカソックを着た若い男、死んだ目で眼下の地獄を見ている黒いコートを纏った男、手に汗握り膝を震わせながらもなお気丈に前を見続ける少年、憔悴して項垂れる身なりの整った紳士風の男、そして苦悩の表情を浮かべる老神父。彼らは皆今回の冬木の大災害を引き起こした真犯人、聖杯戦争の参加者と監督者だ。

 

「サーヴァント4体がかりで歯が立たないとは……」

 老神父――言峰璃正は険しい表情を浮かべる。もはや、事態は聖堂教会にも魔術協会にも収拾できるレベルではない。この聖杯戦争を可能な限り隠匿する役割を負っていた監督役も、もはや何もできることはなく、ただこうして成り行きを見守ることしかできなかった。

 その隣で、身なりの整った男――眼下の地獄のような光景を作り出す一端を担った元マスター、遠坂時臣が地に膝を着き項垂れている。その顔は青ざめ、目の前の光景が正視に堪えないといわんばかりに突っ伏していた。

「こんなはずでは……我が遠坂の悲願は……私は……」

 自身のサーヴァントに操られていたとはいえ、彼が自分が治める土地を自らの手で荒らし、その上多数の子供達を生贄にするという行為に及んでいたことは紛れもない事実だ。神秘の隠匿に責任を持つセカンドオーナーにあるまじき醜態に、時臣の誇りも意志も全てが木っ端微塵に砕かれていた。

 

 項垂れている時臣を横目に、黒いコートを纏った死んだ目をした男――衛宮切嗣は考える。自身のサーヴァント、セイバーはたった今死んだ。そして、セイバーを屠ったサーヴァント、バーサーカーはルーラーとライダーを同時に相手取っているにも関わらず、圧倒的とも言える力の差を見せ付けている。

 ――このバーサーカーには絶対に勝てない

 その結論を切嗣が導き出すのにはほとんど時間はかからなかった。しかし、バーサーカーに勝てないということは、同時にこの聖杯戦争で勝ち残れない――つまりは切嗣の願いが叶えられないことを意味する。

 元々マスター殺しによって聖杯戦争を勝ち抜こうとしていた切嗣だったが、バーサーカー相手にはマスター殺しという選択肢は取れなかった。逃げ遅れた住民や瓦礫で、死体に塗れたこの地方都市から一人のマスターを探し出すことなど不可能だからだ。また、小聖杯が手元にあったとしても、自分が聖杯戦争の勝者でなければ意味がない。聖杯は勝者の望みを叶えるものだからだ。

 最愛の妻を犠牲にし、未遠川では助けられるはずの命を老若男女問わずに見捨ててきた。勝利のために自分が切り捨ててきたもの全てが無駄になり、それどころか地方都市一つ分の無辜の民の命を犠牲にしようとしている己の所業を悪魔の所業といわず何と言おうか。

 何の意味も無くこれまで救った命よりも多くの命を奪おうとしていることに切嗣は恐怖する。天秤の量り手であった自分の生き方を否定するだけではなく、幾多の命を切り捨ててもなお求め続けた己の理想をも否定される。

 己の理想を、そして己の信条も全てが目の前で否定されていた。それでも、切嗣はその否定から逃避せずにはいられない。

 

 ――逆転の道は無いか

 ――バーサーカーのマスターを倒した後、新しいサーヴァントを得る方法はないか

 ――ルーラーを出し抜ける方法はないか

 

 切嗣は眼前の地獄の光景を目に焼きつけ、血が滴るほどに拳を握り締めながらもあらゆる戦乱と流血のない恒久的世界平和への道筋を考え続ける。しかし、思考に没したことで彼は一時的にとはいえ、周囲の警戒を怠った。周りのマスターも眼下の地獄絵図に見入るばかりで、誰もが彼らの背後から近づいてくる影に気がつかなかった。

「切嗣!!」

 切嗣の3歩後ろで小聖杯と化した妻を抱えていた相棒――久宇舞弥の叫びと、聞きなれたキャレコM950の発砲音で切嗣は瞬時に意識を戦闘時のそれに切り替え、懐のトンプソンコンテンダーに手を伸ばしながら背後を振り返った。眼下に視線を移していたほかのマスター達も、彼女の叫びに反応して振り返る。そして目を見開いた。

 彼らの視界に入ってきたのは、聖杯を抱えていた腕ごと喰いちぎられ右肩から血しぶきを吹き上げる舞弥の姿と、舞弥を襲った巨大蜻蛉――メガニューラの姿。そして、メガニューラを護るかのように突撃してくる無数の翅刃虫の群れだった。

 切嗣は翅刃虫たちを視認すると同時に脊髄反射で魔術回路を起動させて呪文を紡ぐ。

Time alter(固有時制御)――double accel(二倍速)!!」

 それに遅れることコンマ数秒で元代行者の綺礼が黒鍵を抜いて迫り来る翅刃虫を斬り捨て、さらに遅れて時臣が翅刃虫の接近を妨げる炎の防壁をウェイバーたちの前に張った。

Intensive Einascherung(我が敵の火葬は苛烈なるべし)――」

 しかし、咄嗟のことであり、さらに翅刃虫の数が多すぎるため、ウェイバーと時臣、璃正の周囲にドーム状に炎の防壁を張り巡らせて耐え抜くことが精一杯だ。敵の襲撃と判断して飛び出した綺礼と切嗣を援護する余裕は時臣にはない。

 綺礼は両手に六本の黒鍵を展開して翅刃虫を次々と両断していくが、如何せん翅刃虫の数が多すぎるため、迫る全ての翅刃虫を斬り捨てることはできない。数体は黒鍵を潜り抜けて綺礼の肉体に噛み付く。だが、虫の牙でも呪的防護処理(エンチャント)を施された綺礼の僧衣を抜くことが出来ず、ただ僧衣にしがみつくだけで綺礼にこれといった傷を負わせることはできないできないでいた。

 一方、加速した切嗣は翅刃虫の動きを冷静に見極め、その翅と牙を避けながらチャンスを窺っていた。肉体から送られてくる苦痛の信号を無視しながら銃口を蜻蛉に向け、射線上から翅刃虫が消えた一瞬を狙う。そして、射線上に邪魔するものがいなくなったタイミングを見極めてコンテンダーの引き金を引いた。

 .30-06スプリングフィールド弾が銃口から放たれ、翅刃虫の合間を縫うようにコースを一直線にメガニューラへと向かう。しかし、メガニューラの翅の付け根へと吸い込まれていった銃弾は甲高い音を発して弾かれた。

 普通ならば、いくら一般的な拳銃弾の数倍以上の威力のある.30-06スプリングフィールド弾であっても、神秘の付与されていないただの鉛玉がサーヴァントに通用するはずがない。まぁ、サーヴァントによっては実体化時に核兵器のような桁外れの物理的な衝撃を与えればダメージが与えられることもあるが。

 だが、甲高い音と共に銃弾が弾かれても切嗣は微塵も動揺してはいなかった。何故なら、この時切嗣が放った銃弾は、ただの鉛玉ではなかったからだ。

 切嗣が放った.30-06スプリングフィールド弾の弾頭には、粉状に擂り潰されてから霊的工程で凝縮された彼の肋骨が芯として使われている。この銃弾を浴びたものに対しては、切嗣が有する起源が具現化する。

 彼の起源は『切断』と『結合』。もしもこの銃弾が魔術に対して用いられた場合、その影響は魔術を行使した術者に跳ね返ってくる。水を浴びた電気回路のように術者の魔術回路はショートし、回路から漏洩した魔力が術者の身体をズタズタに破壊するのだ。

 そしてこの効果は()()()()()()()()()()()()に対しても有効だった。

 

 

 

 切嗣の起源弾が撃ちこまれたメガニューラ、その頭部で間桐臓硯は悶え苦しんでいた。口があったら苦悶の声どころか身の毛のよだつような絶叫をあげていただろうし、腕があったらまるで中から獣に食い破られるかのような激痛の走る心臓を庇うように胸を押さえただろう。

 しかし、どちらも間桐臓硯にはできなかった。何故なら、既に彼には()()()()()()()()()()()()()()も無かったからだ。

 間桐臓硯は500年の時を生きる中で、延命に延命を重ねて蟲に自分の全てを移していた。普段の老人の姿は、使役する蟲によって構成した張りぼてのようなものだ。このネズミほどの大きさの蟲こそが、いわば間桐臓硯の魔術回路と魂を持つ本体とも言うべき存在なのだ。

 彼の身体にはもはや人間と共通する部分など残ってはいない。身体には嫌悪感を催す生々しい質感の胴体と、そこから生える無数の脚。それは、『蟲』と分類される身体だった。

 身体が蟲であるが故に、声をあげることも、身体を流れる血液が全て硫酸になったかのように身体中を焦がす痛みも、脚をただ必死に空回りさせながら胴体を腹筋運動のように曲げ伸ばしを繰り返すことでしか彼は表現できないでいた。

 そもそも、臓硯がメガニューラの頭部にいた理由は至極簡単なことだ。冬木の上空を飛行するメガニューラの内の1体を自身の使役する蟲で包んで捕獲した臓硯は、捕獲したメガニューラの頭部に入り込んで脳を支配していた。文字通り、臓硯は寄生虫となっていたわけだ。

 本来ならば、宝具に寄生するなどということは如何に臓硯が老獪で腕の立つ魔術師だったとしてもありえない話である。サーヴァントは分霊であっても英霊の魂を持つものであり、その象徴(シンボル)たる宝具も強い神秘を纏っている。サーヴァントや宝具に一介の魔術師が干渉しようとしても、より強い神秘の前にほとんどの魔術も無力化されるだけだ。

 しかしながら、幸か不幸かこのメガニューラに関してはその常識の範疇にはなかった。今回アサシンとして召喚された本体のメガニューラは、宝具『増えよ、地に満ちよ、我が血肉を分けた同属(オーバーグロース・ドラゴンフライ)』によって1万のメガニューラを産むことができる。

 今臓硯が寄生しているメガニューラは本体ではなく、増えよ、地に満ちよ、我が血肉を分けた同属(オーバーグロース・ドラゴンフライ)によって誕生した分身ともいえる存在だ。 自身を分裂させることのできる宝具では、通常一般的に分裂する数が多ければ多いほどに、1体当たりの力は弱まる。増えよ、地に満ちよ、我が血肉を分けた同属(オーバーグロース・ドラゴンフライ)は産卵と繁殖を可能とする宝具であり、餌さえあれば無尽蔵に眷属を増やせる点で数に制約のない分裂型の対人(自身)宝具に近い存在である。

 ただ、眷属を召喚して使役するという点で見れば独立サーヴァント召喚系の対軍宝具にも近い側面もあり、増えよ、地に満ちよ、我が血肉を分けた同属(オーバーグロース・ドラゴンフライ)は自己分裂型対人(自身)宝具と独立サーヴァント召喚系の対軍宝具の両方の特質を持つ宝具であると言える。

 そのため、増えよ、地に満ちよ、我が血肉を分けた同属(オーバーグロース・ドラゴンフライ)で誕生した1体1体のメガニューラは、低級の海魔以上で数十体に分裂した中級サーヴァントの1体以下という微妙なレベルの宝具でしかない。魔術師(キャスター)のサーヴァントが操る竜牙兵より少しマシといった程度だ。

 当然のことながら、宝具ランクにしてEにも届かないであろう矮小なメガニューラの神秘もかなり弱い。『神秘はより強い神秘の前に無効化される』という魔術の原則に則して考えた場合、臓硯ほどの魔術師であれば無効化されることのないくらいに神秘が弱いのだ。

 臓硯は元々サーヴァントを媒介に別のサーヴァントを召喚する外法をも可能とする技量を持ち、蟲を使役する魔術を用いる関係上虫の身体の構造については造詣が深かった。メガニューラの脳や神経系のつくりから行動を操る方法を割り出すことは彼にとっては造作もないことだったのである。

 そして、メガニューラの脳に寄生して行動を完全に支配した臓硯はメガニューラを利用して小聖杯の奪取を試みた。この地獄絵図を見て、聖杯戦争に次があるなどという楽観的な想定をすることは臓硯にできなかったからだ。

 正直なところ、ゴジラの力は臓硯の予想を遥かに超えていた。制御できるものだとは最初から考えていなかったが、予想以上の強大さに彼はゴジラが暴れた後に冬木市が残っていないことを覚悟せねばならなくなった。

 ゴジラが暴れまわった時点でこの街が元通りになる可能性は限りなく低く、まともな土地の管理者であればこの地で二度と聖杯戦争を開催させないだろう。それに今回の狂騒はまず間違いなく魔術協会にも目をつけられるし、下手をすれば大聖杯を回収されることもありうる。

 これが自身の願いを叶えることができる最後の機会となれば、慎重で老獪な彼らしくない多少強引で無茶な手法を取ろうとも小聖杯を手に入れる必要があった。

 しかし、自身の使役するありったけの翅刃虫で妨害しつつメガニューラの敏捷と強い脚の力で小聖杯を運び手の腕ごと奪取したはいいが、そこで彼は予想外の反撃を食らった。翅の付け根あたりに鉛玉を喰らい、それと同時に魔術を行使できなくなるほどの耐え難い苦痛に襲われたのである。

 苦痛の中で、それでも臓硯は聖杯への執着から意識を保ちメガニューラを操ろうとする。そして、自身の魔術回路がズタズタに破壊されていることに気づく。蟲の身体であったが故にここまで身体が壊されていても意識を保てたのだろうが、魔術が使えない今の状態では意識があることにさほど意味はない。

 臓硯のコントロール下から脱したメガニューラはどこを目指すということもなくただ迷走する。臓硯はメガニューラを支配するにあたり脳の一部を喰らっており、脳機能の一部を失ったメガニューラは臓硯の支配から逃れても意識を取り戻すことはできなかった。メガニューラはただ漠然と本能に従って群れの下に近づこうとする。

 激痛に耐えながら臓硯は自身に何が起こったのか、これからどうすればいいのかを必死に模索する。しかし、臓硯に自分の身に何が起こったのかを考察する時間は与えられなかった。

 不意に、臓硯は何かに激突したかのような凄まじい衝撃に襲われる。メガニューラの甲殻がバキバキと砕けていく音がする。メガニューラとの感覚共有を失い、光を感じることができないはずの堅い甲殻の中にいた臓硯は感覚器に確かに光を感じた。

 臓硯は痛み思い通りには動かない身体に鞭打ち、無機質な昆虫のような目を微かに光の差し込む方角に向けて――恐怖した。

 甲殻の合間から見える景色は血の池を思わせるほど禍々しい朱色で、鋭く白き杭の列がその朱の世界から罪人を逃さぬ檻のごとく規則正しくならんでいる。さらに、甲殻の隙間からはこの世のあらゆる畏れを内包したかのような瘴気がそこから流れ込む。

 ――臓硯は恐怖した。自分の目の前に聳える地獄の門から逃れようと、必死に芋虫のような身体を捻って逃げようとする。しかし、臓硯の意志には関係なく彼の身体は咀嚼される食物の如く地獄の門の奥へと運ばれていく。臓硯がもし悲鳴をあげられる身体であったならば、現在身体を襲う激痛に対する悲鳴ではなく、間違いなくこの目の前の光景を否定する絶叫をしていたに違いない。

 死にたくない!!イヤだ、怖い!!この奥には行きたくない!!ワシはここで死にたくない、否、死ぬわけにはいかない!!ワシにはまだやることがあるのだから、そうワシは不老不死になり、そして――

 臓硯には分かる。醜悪で歪みきった魂を持つが故に見なくても、聞かなくても理解できる。目の前に広がる門の先にあるのは、自身の魂とは桁違いに邪悪で荒みきった魂たちが吹き荒ぶ怨嗟と憎悪の嵐だ。そこに自分が飲み込まれれば、どのような結末が待っているかも理屈ではなく本能で知ることができた。

 地獄の門を潜り、絶望と憤怒が荒れ狂う魂の暴風雨に腐りきった魂は耐えることは出来ず、彼の魂は魂の波が押し寄せるたびにゴッソリと削られていく。

 魂が削られて消えゆく中で、末期の臓硯の脳裏にふと、数百年の間忘れていた考えが過ぎった。

 

 ――私は何故不老不死を求めたのだろうか

 

 最後に抱いた疑問の答えを思い出せぬまま、500年の間人の血を啜って生き続けた妖怪、間桐臓硯は魂ごと消滅した。

 もはやメガニューラの視界を共有することもできない臓硯は知る由もない。自身を乗せたメガニューラがゴジラの手に捕らえられ、そのまま地獄の入り口と化した巨大な口の中に放り込まれたのだということを。




冬木の地獄はこの世の地獄
怪獣たちが罪とかに関係なく問答無用でおもてなしをしてくれますよ


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ヒーロー、その名はセブン

土日に時間ができたので何とか書き上げられました。
ただ、予想以上に長くなったので分割して載せます。


 ウルトラセブンは体内放射を浴びて激痛の奔る身体に喝を入れて立ち上がり、ファイティングポーズを取る。しかし、その堂々たる姿とは裏腹に、圧倒的な実力差を見せ付けられたその心には不安が燻っていた。

 ――果たして、勝てるだろうか。

 セブンはそう思わずにはいられなかった。この敵は、強い。それこそ、かつて戦ったキングジョー以上のパワー、かつてウルトラの星を存亡の危機にまで陥れたベリアルにも匹敵する邪悪さ、熱線の威力もかつて戦った強敵たちをも上回る。

 いくらモスラという頼もしい味方がいたとしても、これまでに大したダメージを与えることができでおらず、加えてあちらの一撃は1発1発が下手をすれば致命傷になりかねない破壊力を有している。

 自分たちが絶望的なほどに不利であるということは否定できない事実であった。セブンは、半ば敗北を覚悟しかけていた。しかし、その時彼の耳に強い思いの篭った声援が聞こえてきた。

 

「負けないで!!ウルトラセブン!!」

 

 セブンは声の聞こえてきた方に視線を向ける。そこにいたのは赤みがかった髪をした少年だった。この火災の中を必死で潜り抜けてきたせいか、その服のところどころには煤がまみれており、煙を吸ったのかはたまた疲労からか立っているのも辛そうだ。しかし、疲弊しているはずの少年の瞳には消えることのない希望が輝いている。

 何故、この少年は自分自身が絶望の淵にあっても心の中に希望の光を灯していられるだろうか。セブンの視線は少年の目の中の光に自然と吸い寄せられる。そして、セブンは理解した。少年の瞳の中の光――その正体は、少年の目に映る自分の姿そのものだった。

 少年には、今ここで戦っているウルトラセブンが希望だった。いつもは画面の向こう側から声援を送ることしかできなかったヒーローが、今目の前にいる。自分たちを守ろうと必死で戦っている。少年は、いつも画面の向こうのウルトラセブンの勝利を信じるのと同様に、目の前のウルトラセブンの勝利を信じて応援するのだ。

 平和を守り、悪には絶対に負けない無敵のヒーローをこの少年は信じている。助けを求める人がいる限り、明日への希望を棄てずに全力で生きようとする人々がいる限り、ウルトラマンは絶対に負けやしないのだと、少年は疑わなかった。

 ――何を弱気になっているウルトラセブン。ウルトラ兄弟の名が泣くぞ!!こんな小さな子供が自分を信じているのに、諦めていいはずないだろう!!

 セブンは一瞬敗北を考えた自分を叱咤して気合を入れなおす。勝ち目のあるなしではない。そこに自分の勝利を信じてくれる人がいて、守りたい人と守りたい星がある。ならばそれだけで、勝てる理由になる。それが、ウルトラマンだ。

 今まで地球を守ってきたウルトラマンたちは皆、彼らの祈りを、応援を、信頼を背に戦ってきた。そして、地球を守り続けてきた。自分も同じだ。ならば、ここで諦める道理など存在しない。

 ――それに、ここで情けなく諦めてみろ。息子(ゼロ)にも顔向けできない恥ずかしい親になるつもりは私にはない!!

 セブンの心に再度闘志が激しく燃え上がる。身体には少なくないダメージが蓄積しているというのに、その眼に沸き立つ気炎は先ほどまでとは比べものにならないほどに大きく、その堂々たる姿から溢れる気迫は、彼の不退転の決意を思わせる。

 セブンの発している気迫に気がついたゴジラは振り向きながら身構える。元々ゴジラは動物的な勘や本能といったものがとても鋭い怪獣だ。立ち上がったセブンの姿に、これまでのセブンとは違う油断できない何かを感じたのだろう。

 立ち上がったセブンは、先ほど負ったダメージなどなかったかのようにキレのある動きでゴジラに迫る。そして、ゴジラの鋭い爪を掻い潜り肉薄、そのまま連続ストレートをゴジラの鳩尾に叩き込んだ。

 セブン渾身の連続ストレートもゴジラの強靭な外皮と再生能力の前では一分足らずで完治する程度のダメージしか与えられなかったが、内臓に連続して響く打撃の衝撃に流石のゴジラも一瞬ばかり怯む。怯んだ隙を見逃さなかったセブンは、さらにゴジラの喉に肘打ちを叩きつける。

 突然の逆襲にゴジラも一瞬揺らぐが、すぐにお返しだと言わんばかりにセブンに噛み付かんとする。しかし、ゴジラの牙がセブンの肩を捉える前にセブンはバックステップで離脱していた。

 そして、頭を突き出す形となったゴジラの顔にアッパーを叩き込んで吹っ飛ばす。顎にクリーンヒットしたセブンの拳によって身長60m、体重30000tの巨体が宙に浮き、瓦礫の山となった市街地跡地に叩きつけられた。

 

 ――さあ来い、ゴジラ!!さっきまでの私と同じだと思うなよ!!この少年のように、私を信じてくれる人が、護るべき人がいる限り私は必ず勝つ!!

 

 

 

 

 自衛隊は、突然の怪獣複数体襲撃という考えうる限り最悪の有事を全力で迎え撃つつもりでいた。対怪獣有事を想定して防衛省内に設置されたヤングエリート集団、特殊戦略作戦室の指揮のもと、陸・海・空全自衛隊の総力が冬木市に結集されている。

 冬木市の北側、海には最新鋭のイージス護衛艦を含む12隻の護衛艦からなる艦隊が待機しており、クルーも日本海海戦に臨まんとするかつての大日本帝国海軍聯合艦隊が如く意気軒昂と肩を張っている。

 航空自衛隊も築城基地や小松基地でも各地の部隊から支援戦闘機をかき集め、いつでも近接航空支援が可能な態勢を整えている。さらに、小松には今回の作戦の切り札とも呼べる秘密兵器を装備したインテークに新撰組のダンダラ模様をペイントされているF-4EJ改がある。

 陸上自衛隊にも抜かりはない。西部方面隊を主力とした部隊は冬木市を包囲する形で布陣を終えている。

 冬木市の東側、新都のさらに東側にある小高い丘を挟んだ向かい側には、機体両側のスタブウィングに左右それぞれ4発ずつ合計8発のBGM-71 TOWを装備したAH-1S(コブラ)24機が待機しており、いつでも離陸できる態勢を整えていた。

 一方、反対側の冬木市の西側、円蔵山や郊外の山道には陸上自衛隊の虎の子とも言える最新鋭兵器90式メーサー殺獣光線車4両に、退役を間近に控えた旧式の66式メーサー殺獣光線車がパラボラアンテナ状のメーサー発射器を標的に向けている。

 また、郊外の森の中で擬装を施された75式自走155mm榴弾砲、203mm自走榴弾砲、155mm榴弾砲(FH-70)も待機して陸上自衛隊でも屈指の巨砲を敵に向け、その時に備えていた。

 冬木市の南、未遠川の上流では河川敷を74式戦車や最新鋭の90式戦車が威圧感のある牙を擡げながら射点目指して前進しており、そのさらに後方にある隣の市では地形回避飛行能力を有する世界屈指の高性能ミサイル、88式地対艦誘導弾(SSM-1)6連装発射筒を積んだ74式特大型トラックが待機していた。

 如何なる演習でもお目にかかることはないだろう戦力だ。自衛隊設立から40年近くが経過しているが、自衛隊がまさに総力戦とも言えるほどの戦力を集めたことは1954年のゴジラ上陸以後は一度もなかったことである。

 しかし、いつでも攻撃できる布陣が整っているにも関わらず、未だに全部隊には攻撃命令は出されておらず、大怪獣バトルを尻目に『総員待機』の命が下されているだけであった。

 

「攻撃はまだですか!?」

「……まだ命令がない!!」

 88式地対艦誘導弾(SSM-1)担当の若い隊員が焦れてミサイル連隊を指揮する本城一等陸佐に確認するが、本城も悔しそうに待機を命ずるしかない。

 ――既に準備は整っているのに何故まだ攻撃できない!!

 本城も、若い隊員と同様に我慢していた。移動中に不幸にもゴジラの熱線の流れ弾が直撃したことで壊滅した部隊がいたことも報告されているし、こうしている間にも冬木市では逃げ遅れた民間人が命の危険に晒されているのだ。

 熱線の直撃の可能性は限りなくゼロに近い場所で味方や民間人の犠牲を黙って見過ごすことは、防人であることを誇りにしている彼にとっては屈辱でしかない。本音を言えば、彼は今すぐにでも「攻撃開始」の命令を下したい衝動に駆られていた。しかし、自衛官である以上命令は絶対だ。独断専行は決して許されることではない。

 故に彼は歯を食いしばり、グローブ越しにでも爪が食い込みそうなほど強く拳を握り締める他なかった。

 

『橘海将!!攻撃準備はできています!!』

『このまま目を瞑ってあの怪物を放っておきたくはありません!!』

 攻撃命令が下されないことへの不満は、海上の護衛艦隊でも同じだった。艦隊指揮を執る橘海将が乗りこんだ旗艦くらまにも、僚艦から次々と通信が入る。

「まだだ……耐えろ」

 橘とて、本心で言えば攻撃命令を出したい。艦橋からは、水平線の先の灯る赤い光――冬木を焼く業火が見える。これを見てなおも剣を抜けない事実は、防人としては耐え難いものだった。

「我々の戦力も有限だ。それを踏まえたうえで、特殊戦略作戦室は作戦を練っている。我々はそれを信じるしかない」

 橘はじっと赤く染まった水平線を見つめ、その時を待ち続ける。

 

「黒木特佐……全部隊が攻撃命令を待っています!!」

 冬木市の円蔵山を挟んだ隣の市にある学校の校庭、そこに自衛隊は臨時の作戦指揮所を置いていた。この場所は山の裏であるために熱線などの攻撃が直撃する可能性は限りなく低く、それでいて前線から近い場所にあるため、指揮には絶好のポイントだった。

 当然のことながら、指揮官である黒木もヘリコプターでこの地に乗り込み直接指揮を執っていた。自衛隊の布陣は全て彼が攻撃計画だけでなく移動手段や所要時間までも考慮して作成したものである。

 その無駄のなく最大限の効率を実現した布陣は、この場にいる将官たちをも唸らせる非常に優秀なものであった。しかし、それほど優れた布陣を敷いているのにも関わらず、黒木は一向に攻撃開始の命令を出そうとしない。

 現場の部隊からは先ほどから引っ切り無しに攻撃開始を求める意見具申が司令部に届けられているが、黒木はそれらを全て拒否していた。

「今攻撃を開始したところで、勝ちはありません。機を待って下さい」

 黒木はただそう返すばかりだ。苛立ちを抑え切れなかったのか、西部方面総監の麻生孝昭陸将が黒木に迫った。

「黒木君、何故まだ攻撃命令を出さないんだ?」

 麻生の問いに、黒木は淡々と答える。

「はっきり言って、現状我々が有する戦力で3体の怪獣を同時に撃滅するこは不可能です。しかし、怪獣たちは今、我々のことなどそっちのけで乱闘中です。同士討ちをさせれば、生き残った一体も相応に消耗することでしょう。その消耗した一体をこちらの総力で叩いて撃破します。同士討ちが終わるまで我々は手出し無用です」

 理屈では、正しい。麻生もそれが理解できないわけではない。苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべて口を噤む。

「どの怪獣が生き残ろうと、生き残った怪獣が我々の敵になるだけです」

 そう言うと、黒木は円蔵山の山頂に陣取った偵察部隊が送ってきた前線の映像を写したモニターに視線を移した。

 モニターには、何度跳ね返されても愚直にゴジラに挑み続けるウルトラセブンとモスラの姿が映し出されていた。しかし、モニターを見つめる黒木の顔に、僅かにこれまでになかった迷いの表情が現れていたことをこの場で見抜けたものは誰一人としていなかった。




セブン優性――に見えるかもしれないけど、ゴジラの堅くてほどほどに弾力ある表皮と再生能力のせいで、これほどキックやパンチをくらわせても実質ほぼゴジラノーダメージという悲しい現実。


そして登場人物紹介のコーナー

赤毛の少年……一体どこの士郎君なんだろーなー(棒)
       やっぱり、彼は冬木の災害に巻き込まれる運命からは逃れられないようです。

本城一等陸佐……GMKでゴジラの熱線にも堂々と向かい合った某格闘家が演じていた地上部隊指揮官です

麻生孝昭陸将……平成VSシリーズの名脇役、Gフォースの麻生司令官です。元々は自衛官だったらしいので、ここにいれてみました


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黒木の決断

「この報告は確かか?……分かった」

 指揮所に詰めていた志村武雄陸上幕僚長は、前線の偵察部隊との通信に使っていた通信機を置くと黒木に声をかけた。

「黒木くん」

「何でしょう?」

 黒木は戦域図から目を離し、志村の方に向き直る。

「第13偵察隊からの報告だ。ウルトラセブン並びにモスラの行動は、ゴジラの深山町侵攻を阻止しようとしていると考えられるとのことだ」

「深山町には新都地区から逃げてきた民間人を含めて、まだ多くの人間が残されている……それを知って、モスラとウルトラセブンはゴジラの攻撃の矛先が深山町に向かないように戦っているということですか?」

 冬木にウルトラセブンが現れたという報告は最初司令部を混乱させたが、司令部も実際に偵察部隊が持ち帰った写真を見たら偵察部隊の報告に納得せざるを得なかった。間違いなくウルトラセブンが写っているのだから、現実を否定してもしかたがない。便宜上、彼らは冬木の巨人を正式に「ウルトラセブン」と呼称していた。

「第13偵察隊は、確かにそう断言していた」

「そうですか……」

 黒木はその報告を聞いて僅かに眉を顰めた。もしも、モスラとウルトラセブンが味方なのであれば、彼らを援護してゴジラを殲滅することが最良なのではないか――そんな考えが過ぎったからだ。

 しかし、黒木はすぐに脳裏に浮かんだその考えを振り払う。怪獣を共倒れさせるのであればともかく、怪獣との共闘となれば話は別だ。怪獣たちがこちらの味方だと断言していいものか。

 第13偵察隊は電波障害の発生からすぐに派遣された部隊であり、陸上自衛隊の中で最初に冬木の現状を把握した部隊でもある。これまでの戦いの推移を見続けてきた彼らの報告には、ある程度の信頼を寄せてもいいだろう。

 しかし、第13偵察隊の情報だけを根拠に怪獣との共闘を決断するわけにはいかない。指揮官たるものが、自分に都合のいい情報一つを前提に作戦を立てることは許されないからだ。無論、冬木にいる巨人がかのウルトラセブンに酷似しているからといって、彼らを味方だとすることは根拠のない妄言でしかない。黒木は複数の情報源からの裏づけが得られない限りモスラとウルトラセブンが味方だと断定するつもりはなかった。

 

 

 

 

 

 子供の声援を受けて立ち上がったセブンだが、やはりゴジラは桁外れに強くタフな怪獣だった。

 セブンはゴジラの一挙手一投足に全神経を集中し、ゴジラの攻撃を回避してカウンターを当てることでどうにか体内放射を避けながら反撃に出ることに成功していた。ダメージを受けたモスラもどうにか回復し、ゴジラの背後か鎧・翼カッターを決めて体勢を崩させたり、ゴジラの注意を引くために遠距離から鎧・クロスヒートレーザーを放って援護する。

 しかし、何度攻撃を叩き込んでもゴジラは殆どダメージを負わない。ダメージを負ったとしても、一分もすれば痣も傷も回復してしまうのだから性質が悪い。それでも、セブンとモスラは攻撃の手を決して緩めることはなかった。

 

 モスラの刃のようにするどい翼がゴジラの背びれと激突し、火花を散らす。衝突の衝撃でゴジラは前のめりになり、体勢を崩したゴジラの肩をセブンが掴む。そして、セブンはそのまま後ろ向きに倒れ、その勢いに合わせて右脚の裏をゴジラの腹に当てて思い切り跳ね飛ばす。

 見事と言いたくなるほど綺麗な巴投げが決まり、ゴジラは背中から瓦礫の山に叩き込まれた。30000tの巨体が勢いよく地面に激突した衝撃で、冬木市は瞬間的に震度7に匹敵する巨大な縦揺れに襲われる。

 幸いと言うのもどうかと思うが、既に冬木市の大きな建物のほとんどはこれまでのキングギドラやスペースゴジラの大暴れで倒壊していたため、この衝撃による建築物や人々の被害は僅少だった。精々、足元が悪い場所でゆれに襲われたことでこけて怪我した人がでたくらいである。

 セブンは即座に立ち上がり、ゴジラの逆襲に備える。仰向けに倒れるゴジラに馬乗りになったとしても、口から熱線の直撃をくらったり至近距離からの体内放射で跳ね飛ばされることは目に見えているため、敢えて追撃をしなかったのである。

 代わりに数十体にまで数を減らしたメガニューラたちが倒れ伏すゴジラの身体に群がり、足の爪の生え際や瞼など、とにかく針が突き刺せる場所を探そうとする。

 必死で攻撃手段を模索するメガニューラたちは本能からこの敵は絶対に排除しなければならないという危機感を感じていた。それこそ、かつて一万を超えていた同属が数を数十体にまで減らした今でも尚攻撃に固執するほどには。元々マスターが放任だったということもあるが、これにはメガニューラの本能も大きく絡んでいる。

 メガニューラの絶滅の原因は、同時代に生息していたEMPなどの力を持った放射性物質を餌とする巨大陸生体――古生物学者たちが未確認巨大陸生生命体と名付けた怪獣との生存圏争いに敗れたことだ。

 メガニューラが聖杯戦争に参戦した目的は、もう一度この地球上に自分たちの種族を繁栄させることだ。この生物が生きていれば、自分たちが願いを叶えたとてかつてのように駆逐されてしまう。

 自分たちの種族の繁栄の障害となる敵の排除は、彼らにとっては本能にまで刻み付けられた最優先事項だったのである。無謀なまでの戦力差であっても撤退という攻撃的な本能を無視した選択肢を与えられるのは最上位存在である栄え、地を征せよ我が王たる超翔竜よ(メガギラス)かそれに次ぐマスター、綺礼だけであり、本体であるサーヴァント、アサシンには配下に対する絶対的な優越権などがなく攻撃の機会を指示するぐらいの権限しかなかった。

 これを好機と判断したアサシンの号令で全てのメガニューラがゴジラに群がって針を突き刺せる場所を必死で探す。しかし、この攻撃的な本能に縛られているが故の行動がメガニューラたちの命取りとなる。

 倒れ伏すゴジラの背中が青白く輝き、直後にゴジラの身体から凄まじいエネルギーが奔騰した。35000tもあるウルトラセブンの巨体でさえ吹き飛ばした上でしばし立ち上がれなくするほどのダメージを与えた体内放射が炸裂したのである。

 数を僅か数十体にまで減らしていたメガニューラはこの一撃で一瞬にして灰も残さず蒸発した。聖杯戦争5体目の脱落者は、アサシン――メガニューラだった。

 そして、体内放射によって巻き上げられた砂埃を掻き分けるようにゴジラはゆっくりと立ち上がる。しかし、キングギドラの翼をもすれ違い様に切断する鎧・翼カッターを受けたはずのゴジラの背びれには一切傷が見られない。セブン渾身の巴投げによる勢いを加算されてた体重30000t分の落下の衝撃も、ゴジラを一時的に行動不能にすることすらできなかったようだ。

 身体は無傷のはず。だが、ゴジラは怪我を堪えているかのように非常にゆっくりと立ち上がる。その様子に、ひょっとするとダメージが見えない部分で蓄積しているのではないか、それとも魔力切れでも起こしたのではないか――セブンは一瞬楽観的な予測をするが、すぐに脳裏を過ぎったその予測を振り払った。

 この怪獣に限っては、そんな楽観的な予測など絶対にありえない。むしろ、もっとおそろしいことが起こる前兆なのかもしれない。これまでの戦いからセブンはそのことを十分に理解していた。

 ――そして、セブンの予測は的中した。立ち上がったゴジラの目を見たセブンは、その「威」に一瞬であるが気圧される。それは、窮鼠が見せる今際の際に燃え上がる命の炎でも、信念の下に戦わんとする戦士の勇気の光でもない。

 ゴジラの目の中に燃え上がる炎の正体は、ただの単純な怒り。ゴジラは信念も本能もないただ純粋な感情の迸りをもって歴戦の戦士たるセブンを震え上がらせたのである。

 

 

 ゴジラは怒り狂っていた。必ず目の前の赤い巨人を討ち果たさんと決意していた。

 今ゴジラの顔に浮かんでいる怒りはこれまでの怒り……ただ全てに対して場当たり的に当り散らしていたような怒りとは違う。そもそも、これまでのゴジラの凶相を怒りや憎悪といった感情の発露、と取ることが間違っているのだ。

 もともと狂化される前も理性は生前も今も持ち合わせておらず、喜怒哀楽の怒以外のほとんどの感情は欠落しているといっても過言ではないため、常に怒っていたことは間違いない。ただ、これまでのゴジラの表情は金剛力士の吽形像のように内に秘める本当の怒りを堪えている表情だった。つまり、人間やセブンにはこの怪獣の抱えている底知れない負の念が発露しているが故の表情に見えた凶相は、堪えていても尚隠し切れない怒りや憎悪の欠片――例えるのならば活火山の噴火の前に発生する微かな振動に過ぎなかったのである。

 しかし今、ゴジラの心の底に湧き上がったマグマのような怒りは心には到底収まりきらず、身体の中を通じて頭に達して大噴火したような状態だった。今のゴジラは文字通り怒り心頭に発していたのである。

 ゴジラの咆哮が大気を振るわせる。その咆哮は、コントラバスのE弦のような重低音を思わせるが、人の奏でる楽器と違い、怪獣王の咆哮は人の鼓膜どころではなく魂を揺さぶる「圧」を持っていた。

 ゴジラの逞しい足が一歩進む度、30000tの巨体を支えきれないアスファルトの舗装は粉砕されて地面にはゴジラの足型が大地に刻み付けられる。その歩みはゆっくりとしたものであったが、そのゆったりとした歩調が逆に見るものにゴジラの圧倒的な存在感をより大きく感じさせていた。

 ゴジラの背びれに稲光が奔る。背びれの発光から僅か1.2秒で口内から溢れた光の渦――怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が大気を焼きながらセブンに迫った。セブンは反射的に真横に飛びのくことで回避するが、ゴジラはセブンの動きに合わせて首を動かした。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)がセブンの後を追いながら周囲を焦土へと変えていく。

 怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)に追いつかれたセブンは咄嗟に身体を捻ることで直撃は回避したものの、背中を怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が掠った。衝撃と背中を焼く激痛でセブンは倒れ伏す。

 セブンも、その気になれば怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が途切れるまで逃げ切ることは可能だっただろう。しかし、セブンは敢えてそうしなかった。そうすることができなかった理由があるのだ。

 セブンはこれまでゴジラを誘い出して戦場を出来る限り新都の中心部に限定しようとしていた。新都はスペースゴジラの突然の出現によって今回の聖杯戦争の開幕の火蓋が切られた地だ。当然、最初に住民が退避を始めた場所であり、結晶に支配されていた中心部には既に生存者はほとんど残っていない。

 また、未遠川を挟んだ反対側、深山町は住宅街だったことや最初に新都から逃げた人が溢れかえったこともあって未だに少なくない市民が取り残されていた。キングギドラの大暴れもあって道路や建物が多数破壊されて火の手が上がったことも非難活動の妨げになっている。

 もしも、セブンがあのまま怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を避けていたら、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)は未だに人が残された深山町に直撃し、火災をさらに大きくして犠牲者を増やしていたかもしれない。未遠川の向かい側はセブンが今最優先で守らなければならないものだった。

 しかし、深山町を守った代償は小さくなかった、掠っただけとはいえ、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)はセブンに大きなダメージを与えており、先ほどの体内放射の直撃やスペースゴジラとの戦いで受けたダメージも相まってセブンは立ち上がることができなかったのである。

 セブンの危機を察したモスラが、倒れ伏すセブンに迫るゴジラを引き離すために攻撃をしかける。ゴジラの頭部に鎧・鎧・クロスヒートレーザーが連続して叩き込まれるが、ゴジラはそれをものともせずにセブンに向けて歩みを進める。

 こちらに少しでも注意を向けさせようと、モスラは直接攻撃に打って出る。加速してゴジラに迫ったモスラは翼でゴジラを切りつけるとそのまま最大速度で離脱した。さらに、モスラは旋回して再度攻撃するタイミングを見計らう。

 流石にマッハ10近い速度で鋼よりも遥かに硬質な翼で切りつけられれば、ダメージはなくとも衝撃は大きい。モスラを厄介な邪魔者と認識したゴジラは怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を空に放つが、敏捷さではガイガンやイリス、メガギラスをも凌駕するモスラに攻撃を当てることは容易いことではない。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)は宙の浮かぶ雲を割くばかりで、モスラにはかすり傷一つ負わせることができなかった。

 しかし、ゴジラはモスラには怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が簡単には当たらないことを理解すると、セブンの倒れる方に向き直り目標を即座にセブンに切り替えた。ゴジラの背びれに青白い炎のような光が灯り、大きく息を吸い込んで胸を膨らませる。

 これにモスラは慌てる。ガイガン、メガニューラに次いでもしもここでセブンを失えば、もはや自分に勝機はないことはモスラも確信していた。慌ててゴジラの体勢を崩して熱線の軌道を変えるべく、体当たりを試みる。

 急降下で加速しながらゴジラに迫るモスラ。しかし、銀に輝く刃の如く鋭い翼をゴジラに叩き込もうとしたその瞬間ゴジラが振り返った。狂戦士(バーサーカー)には智恵などないという思い込み――それが仇となった。理性の大半を奪われたバーサーカーは複雑な思考ができないだけであって、この程度のちょっとした騙まし討ちならば可能なのである。

 振り向きながら怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が至近距離で放たれる。加速しているモスラはこの距離で軌道を変えることはできない。翼の角度を変えて無理やり失速させることで胴体への直撃だけは回避できたものの、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)はモスラの右翼下部を焼いた。

 無理な失速によって姿勢を崩した上で翅の欠損、さらに怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)被弾の衝撃が相まってモスラは錐揉み状態になって墜落し、コンクリートの破片に覆われた大地に身体を叩きつけられた。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)によるダメージでモスラもすぐには飛び上がることができない。

 一方のゴジラは、大した傷もなく健在。モスラもセブンも怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を避けられないだろうし、耐えられないだろう。もはや、勝負がつくことは時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 冬木で暴れるゴジラの映像を冷静に見つめる黒木。スペースゴジラの消滅後は通信も回復していたこともあり、偵察隊のカメラが捉えた映像も直接司令部が見ることができた。自分の目で直接映像を見ていても、黒木はウルトラセブンとモスラがゴジラの侵攻を阻止しようとしているように思えてならなかった。

 しかし、まだ味方と断定する根拠としては弱いと黒木は思う。黒木も本心では彼らに味方したいところがないわけではないのだが、自分の指揮官としての信条がそれを許さない。せめて、ウルトラセブンかモスラが人間に味方していることを示す決定的な行動を取ってくれれば話は別なのだが、生憎それらしい行動は今のところ確認されていない。

 ――歯がゆい。

 黒木はそう思わずにはいられなかった。自分たちに味方してボロボロになってまで戦ってくれているかもしれない存在を見捨て、彼らが敵を消耗させることを望んでいるのだから。ウルトラセブンらを援護しないことが現状では間違ったことだとは思わないが、それでも、味方したいと思うところがないわけではない。

 内心では、黒木も彼らを援護できる根拠となる情報があげられることを期待せずにはいられなかった。

「黒木君、少しいいかね?」

「何でしょう?」

 航空自衛隊の三雲勝将空将が黒木に声をかけたのは、黒木が新しい情報を切望していたその時だった。声をかけた三雲の隣にはボロボロのフライトスーツを身に纏ったパイロットらしき男性が立っている。何故司令部にパイロットがいるのか、黒木の訝しげな視線が三雲の傍らの男に向けられた。黒木の視線に気づいた三雲が男を紹介する。

「紹介しよう。彼は航空自衛隊第8航空団第304飛行隊に所属する仰木一等空尉だ。冬木市上空でロストした築地基地所属のF-15Jのパイロットが彼だ。冬木市上空で墜落した後、自力で未遠川沿いに南下して陸自の部隊に拾われたらしい」

「仰木一等空尉であります。黒木特佐に報告したいことがあります」

 仰木は黒木に自分が経験した一部始終を語る。

「自分の機体は冬木市上空を飛行中、強力な電磁パルスと思われる電磁波を受けて機能を停止しました。コントロール不能になった自分の機体は多くの人が浮かんでいる未遠川にむけて落下しました」

 強力な電波障害が冬木市で発生していた事実は司令部も把握している。しかし、F-15Jの墜落の原因がそれだとはこれまで確証が持てなかった。黒木は静かに話を続けるように促す。

「市街地に墜落する危機一髪の瞬間でした。自分の機体はすさまじい衝撃に襲われ、自分も急制動によるGを受けました。最初は水面に激突したのかと思いましたが、Gで薄れゆく意識の中で私ははっきりと見て、何故自分が生きているかを理解しました。ウルトラセブンが、自分の機体を受け止めていたのです」

 仰木は自分の体験を話している内に感情が抑えられなくなったのだろう。その口調にも次第に熱が入る。

「自分が意識を取り戻したときには、自分の機体は未遠川の河口に原型をとどめたまま横たわっていました!!きっと、ウルトラセブンが自分を降ろしてくれたに違いありません!!ウルトラセブンは……我々人類の味方です!!」

 黒木は迷う。これで、ウルトラセブンを味方とする二つ目の情報が手に入った。主観ではあるが、セブンの行動は、我々人類を守ろうとしていることはほぼ間違いないと言ってもいいだろう。

 仰木一等空尉の証言と偵察部隊の証言のどちらも、信憑性は低くはない。低くはないのだが、怪獣との共闘をする決断をするにはやはりまだ迷いが棄てきれない。

 すると、迷う黒木に一人の男が歩み寄ってきた。陸上自衛隊西部方面総監の麻生孝昭陸将だ。

「黒木特佐」

 黒木に話しかける麻生の顔は強い決意が見て取れるほどに思いつめていた表情を浮かべていた。

「私は、戦場の映像と仰木一等空尉の話を聞いて確信した。ウルトラセブンとモスラは我々を護るために戦ってくれている」

 麻生は、司令部に詰めている陸・海・空の指揮官たちにも視線を向けながら話を続ける。

「我々を護るために戦ってくれている()()を、見殺しにはできない。我々は……自衛隊は、臆病者ではない!!」

 麻生の一声にシン――と司令室が静まりかえった。しかし、その静寂は一分にも満たないうちに破られた。他ならぬ、黒木の声によって。

「全部隊に通信を繋いでくれ」

 オペレーターによって、黒木の手元のマイクが全部隊へと繋がる。

 

「全部隊に告げる……攻撃開始!!持てる全火力でゴジラを攻撃、ウルトラセブンとモスラにゴジラを近づけさせるな!!」

 

 歴史上人類が始めて、怪獣との共闘を選択した瞬間だった。




次回、本当の自衛隊のターンです。


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「景気づけにミュージックだ!」 by戦車隊隊長

先日佐世保にいって護衛艦とセイルタワーを堪能してきました。
今回はゴジラに立ち向かう自衛隊ということで、その時のテンションを引き摺って祝日丸々潰して一本書きあげることができました。

ゴジラ(に立ち向かう人類)のテーマ(個人的なイメージはOSTINATOのヤツです)をBGMにして見ていただければいいなって思ってます。


『全部隊に告げる……攻撃開始!!持てる全火力でゴジラを攻撃、ウルトラセブンとモスラにゴジラを近づけさせるな!!』

 

 司令部からの命令を受け、各部隊の指揮官は待ってましたとばかりに獰猛な笑みを浮かべる。最新鋭の88式地対艦誘導弾(SSM-1)を装備したミサイル連隊を指揮する本城一等陸佐もその一人だった。

「目標、ゴジラ。発射弾数24発。88式地対艦誘導弾(SSM-1)……撃てぇ!!」

 本城の魂の咆哮と共に、西日本からかき集められた74式特大型トラックから次々と88式地対艦誘導弾(SSM-1)が放たれる。冬木の北西に展開された捜索・標定レーダー装置JTPS-P15から送られた目標の位置情報に基づいてプログラミングされた経路に従ってミサイルはゴジラに迫る。

 対艦ミサイルとしては唯一地形回避飛行能力を有する88式地対艦誘導弾(SSM-1)は慣性誘導に従って山間部を縫うように未遠川に沿って南下し、ついに24本の槍はゴジラの姿を弾頭のレーダーで捉えた。

 

 

 ゴジラを狙うものは陸上自衛隊の誇る長槍だけではない。日本海で伝説となった帝国海軍の後継たる海上自衛隊もまた、ゴジラを討ち果たさんと鋭いハープーン()を構えていた。

「こちらチドリ、目標を捕捉した。目標の位置は、2.8.7.8.1」

 艦隊をゴジラの視線から見える水平線の下に隠して熱線の直撃を避けるため、ゴジラと護衛艦隊の間の距離は40km以上あった。しかし、ゴジラから艦隊が見えないのだから、当然ゴジラも艦隊側から見れば水面下だ。

 そのため、目標を捕捉できない艦隊に変わり、先ほど立花海将を「くらま」に送り届けたSH-60J(シーホーク)が冬木の上空に向かい目標観測を行っている。護衛艦の戦闘指揮所(CIC)とSH-60Jはデータリンクで繋がっており、データリンクによってSH-60Jの捉えたレーダー画像は直接護衛艦で把握することができるようになっていた。

 「くらま」のレーダー画面に映るゴジラの影を見て、立花は静かに闘志を燃やす。

「艦隊に告ぐ……対地戦闘用意!!対艦ミサイルでゴジラをウルトラセブンから引き離せ!!」

「対地戦闘用意!!」

 立花の命令に従い、対艦ミサイルを装備していない「くらま」と「あまつかぜ」を除く各艦では艦長が対地戦闘用意を告げる。さらに砲雷長がそれを復唱した。

「対地戦闘用意。ハープーン戦」

「ハープーン攻撃はじめ。目標ゴジラ。発射弾数二発」

 各艦では速やかにハープーンに搭載されたコンピューターに目標位置が入力される。日頃の訓練の成果もあって、淀みの無い動きでハープーンの発射準備が完了した。

「ハープーン発射用意よし」

 対艦ミサイルを装備している10隻から続々とハープーン発射準備完了の知らせが旗艦に伝えられる。全ての艦から発射準備完了の知らせが届くまでにはほとんど時間がかからなかった。

「立花海将、本艦と「あまつかぜ」を除く全ての艦で準備が整いました」

 「くらま」副長、宮下二等海佐からの報告を聞いた立花は静かに頷いてマイクを手にする。

「攻撃開始!!」

 落ち着いた、それでいてどこか力強い声で立花は命令した。命令を受けた各艦では、艦長たちが間髪いれずに号令を出す。

「ハープーン発射はじめ!!」

「ハープーン一番、発射用意……撃てぇ!!」

 砲雷長が艦長の命令を復唱し、ミサイル員が冷徹にトリガーを引く。さわかぜの後部甲板に設置されたMk13GMLS単装発射装置から1発、そして他の9隻の護衛艦の4連装艦対艦ミサイル(SSM)発射筒からも続けざまに2発ずつ、計19発のハープーンがゴジラを討ち果たさんとして放たれた。

 発射筒後部から白煙を舞い上げ、船体を震わせながら大鯨を仕留める銛の名を冠するミサイルが翼を展開して飛翔する。尾部に取り付けられた固体燃料ロケットエンジンから火をひき、白煙を噴出しながら夜空を上昇する姿はまるで昇り竜を思わせる。

 しばらく上昇を続けていた19発のミサイルは固体燃料ロケットエンジンを切り離してサステナーのターボジェットエンジンに点火、コンピューターにインプットされたプログラムに従って高度を下げ、海面から数mの超低空を水平飛行するコースを取る。

 インプットされた目標位置まで慣性誘導で飛翔するハープーンの速度はマッハ0.85に達する。発射から僅か2分程でハープーンは慣性誘導から終末誘導に切り替わり、搭載されたレーダーを作動させて飛翔方向の左右45°の範囲を索敵してゴジラを捕捉した。

 ゴジラは人間と異なりミサイルの欺瞞などしない。当然のことながら、ハープーンは真っ直ぐに鯨を仕留めんとする銛の如くゴジラに殺到した。

 

 

 陸から迫る24発の88式地対艦誘導弾(SSM-1)と海から迫る19発のハープーン。総数43発の対艦ミサイルの直撃を受ければ、あの史上最強最大の戦艦大和ですら沈みはしなくとも間違いなく戦闘不能となるだろう。ゴジラとて多少の負傷は免れないはずだ。

 陸上部隊、護衛艦隊、司令室の誰もがゴジラに殺到する対艦ミサイルを固唾を呑んで見守っていた。

「弾着まで5……4……3……2……」

88式地対艦誘導弾(SSM-1)、目標に接近します!!」

 先にゴジラと距離を詰めたのは、88式地対艦誘導弾(SSM-1)だった。護衛艦隊よりも先にミサイルを発射したいうこともあるが、そもそもゴジラと40km離れた護衛艦隊よりも近くにミサイル連隊がいたのであるし、ミサイルの飛翔速度にも大差は無い。となれば、先に88式地対艦誘導弾(SSM-1)がゴジラに迫ることができたのも当然のことだろう。

 そして、遂にゴジラに24発の88式地対艦誘導弾(SSM-1)が次々と突き刺さる。信管が作動し、黒いゴジラのゴツゴツとした表皮に鮮やかなオレンジ色の爆炎がまるで花火のように連続して奔騰する。

 88式地対艦誘導弾(SSM-1)の弾頭は堅い弾殻で覆われており、敵艦の外版を突き破って敵艦内部で炸裂する半徹甲榴弾なのだが、ゴジラの表皮は軽量化のために薄く軽くなった外版しかもたない現代の軍艦よりも遥かに堅く、とても貫通することなどできなかったために表皮で起爆したのである。

 さらに、88式地対艦誘導弾(SSM-1)の射程距離は150kmを越える。今回は僅か数十kmという距離で放たれたために余ったミサイル内部のターボジェットの燃料にも引火し、より大きな威力を発揮した。高熱と爆風、爆発の圧力で凶器と化した弾殻の破片がゴジラの表皮を襲う。

 連続した爆発によって生じた煙に包まれてゴジラの姿が見えなくなった。

「やったか!?」

 司令部のモニターに映し出されたレーダー画面では88式地対艦誘導弾(SSM-1)の軌跡を示す光点が全てGと表記された地点で消滅していた。レーダー画面と光学映像を交互に見た麻生が叫んだ。

 だが、煙が晴れて効果確認がされる前にレーダー画面には新たに19の光点が出現する。護衛艦隊が放った19発のハープーンがゴジラに追い討ちをかけるかのように殺到したのだ。

「ハープーン、目標に接近します!!」

 着弾と同時に弾頭に搭載された高性能爆薬、オクトーゲンが起爆する。

 ゴジラの体表に生まれた炭素の沸点にも匹敵する熱量をもったオレンジの光が溶岩のようにゴツゴツした表皮を焼き尽くそうとする。同時に凄まじい圧力を伴った爆風をあちこちに浴び、まるでヘビー級のボクサーのストレートを四方八方から叩き込まれたかのようにゴジラは着弾の度によろめいた。

 そして、ゴジラは爆発によって生じた黒煙のカーテンに囲まれて再び姿が見えなくなる。

88式地対艦誘導弾(SSM-1)、命中20、至近弾4!!」

「ハープーン、命中14、至近弾5!!」

「合計34発の対艦ミサイルが命中し、残る9発が至近弾、か……これだけの火力をその身に受ければ、いくらヤツでも無傷ではいられまい」

 司令部にいた麻生はその顔に満面の笑みを浮かべながら光学映像を映し出しているモニターを眺めている。しかし、その隣に佇む黒木の顔は先ほどと全く変わらない。

「まだです。この程度では……」

 その時、ゴジラを撫でるように海風が吹き、黒煙のカーテンが薙ぎ払われた。カーテンの裏に隠されていたものが顕になり、それを目の当たりにした司令部の人間は絶句する。

 

 ――ゴジラは無傷だった。

 

 三列になった鋭い鋸状の背びれも、たくましい脚と腕も、怒りに燃える凶相を浮かべる顔も、どこにも傷らしい傷はない。炭素を一瞬で昇華させる熱と鉄をも切り裂く爆風を浴びたはずのゴツゴツした岩肌のような黒い肌にも火傷ひとつなかった。

「馬鹿な……」

 麻生は目の前の光景が信じられずに唖然としている。司令部の人員の大半も麻生と同じ表情をしていた。彼らを正気に戻させたのは、これまでとなんら変わらずに冷静に振舞う黒木の命令だった。

「対戦車ヘリコプター隊に出撃命令、戦車部隊は前進し射程に入り次第各自射撃を開始。特化連隊も戦車部隊が射程距離に入るまで砲撃でヤツを引きつけて下さい。ヤツに息つく暇を与えては駄目です」

「メーサー部隊は山肌に展開、戦車大隊が距離を詰めたら援護射撃を開始するように通達してください。ミサイル連隊と護衛艦隊には第二派ミサイル攻撃の準備を命じます」

「小松基地に連絡、例の二人組みの出撃を要請してください」

 矢継ぎ早に繰り出される命令に慌てて司令部の隊員たちも対応する。各部隊に指示を出す中で、次第に隊員たちにも普段の冷静さが戻ってきた。

「護衛艦隊旗艦「くらま」より入電。第二派攻撃の準備完了」

「対戦車ヘリコプター隊離陸開始。5分で作戦宙域に到着します」

「特化連隊、砲撃開始しました」

 先ほどの御通夜のような空気は払拭され、司令部に戦意が再び灯る。まだ自衛隊の四半世紀ぶりの実戦は始まったばかりだった。

 

 

 

 爆炎と黒煙を振り払って怒りの咆哮をあげるゴジラ。その視界の端の森で突然赤みがかった光が不規則に連続して灯る。光に反応してゴジラが振り向くのと、ゴジラの正面にオレンジの炎の華が咲き誇るのはほぼ同時だった。

 ゴジラの視界の端に灯った光の正体は75式自走155mm榴弾砲、203mm自走榴弾砲、155mm榴弾砲(FH-70)の発射炎だ。冬木市郊外の森の中で擬装を施されてギリギリまでその姿を隠していたのである。

 因みに、自衛官たちが知る由も無いことであるが、この森はアインツベルンという魔術師の一族が管理している森であった。通常ならば如何に精密な誘導機器があったとしても森の中に進むことはまずできない。

 しかし、キングギドラとモスラの戦闘の流れ弾が城を半壊させた影響で森の結界がほぼ壊滅していた。そのため、魔術とは縁のない自衛隊でも森の中に布陣することができたのである。

 緩やかな曲線軌道を描きながら155mm榴弾と203mmが次々とゴジラの体表で炸裂する。息つく間もない砲弾の嵐に晒されたゴジラも思わずたじろぐ。至近弾となった榴弾も少なからずあったが、地面で炸裂した榴弾の爆風はゴジラの足元を揺らし、地面を抉り柔らかくする。足元がふらついたゴジラが立っていることもできずに前のめりになって倒れこんだ。

 さらに、自衛隊の攻撃は続く。砲撃の嵐によって倒れこみ、断続的に身体を爆風で揺さぶられて立ち上がれなくなったゴジラの背後に24機の対戦車ヘリコプターAH-1S(コブラ)が迫る。

 ゴジラとの距離が3000mを切ったところでAH-1S(コブラ)は機体両側のスタブウィングに左右それぞれ4発ずつ合計8発搭載されているBGM-71 TOWを立て続けに発射する。

 BGM-71 TOWは半自動指令照準線一致(SACLOS)を誘導方式として採用しているため、前後に席があるタンデムコックピットの前部座席に座る砲手(ガンナー)が照準にゴジラを捉え続けている限り、TOWは目標に正確に誘導される。

 ただ、TOWは砲手(ガンナー)が誘導中は撃ちっぱなしのミサイルと違って着弾まで誘導し続ける必要があるため、誘導中は敵にとっては格好の獲物となる危険もある。また、ミサイルも有線による誘導を受けるためにその射程は3000mと短く、発射母機であるAH-1S(コブラ)は通常かなりのリスクを伴う。今回はゴジラが砲撃の嵐に拘束されていたからこそ、TOWをお見舞いすることができたのである。

 24機のAH-1S(コブラ)から放たれた計192発のTOWはゴジラの脇に次々と命中。四つんばいになっていたゴジラは横殴りの爆風に晒され、再度地に伏せることを強いられる。

 ゴジラに反撃の余裕がないと判断した対戦車ヘリコプター部隊はさらに砲撃に巻き込まれないギリギリまでゴジラとの距離を詰める。そして今度はスタブウイングからJM261ハイドラ70ロケット弾を発射した。ロケット弾に内蔵された9発のM73 MPSM高性能炸薬擲弾が吐き出され、ゴジラの背中で炸裂する。榴弾による砲撃の嵐も加わり、ゴジラの周りは花火大会のクライマックスもかくやといわんばかりの光と爆発音のカーニバルとなっていた。

 そして遂に戦車部隊がゴジラを主砲の射程距離に納める。最初に射程距離も移動速度も旧式の74式戦車を上回る最新鋭の90式戦車が搭載する44口径120mm滑腔戦車砲がゴジラを射程に捉えて火を吹く。主砲から装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)がマッハ4以上の速さで吐き出された。

 装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)は装甲を貫くことに特化した弾丸であり、ゴジラの強固な表皮を貫通することでダメージを与えることを目的に今回の作戦に投入されている。

 ゴジラの表皮には生半可な熱や爆風が通用しないことは1954年の東京上陸時の戦いやアメリカの原子力空母が撃沈された事件で判明していたため、ゴジラに爆発とは違う方向でダメージを与える方法も用意していたのだ。

 砲口から飛び出した直後に空気抵抗と遠心力によって装弾筒(サボ)が分離し、細い矢のような形をした弾芯だけが残って目標へと飛翔する。2000mの距離から放たれて厚さ460mmの均質圧延鋼装甲(RHA)を貫通するタングステン合金製の矢が次々とゴジラの表皮に叩き込まれた。

 それに少し遅れて距離を詰めた74式戦車の51口径105mmライフル砲L7A1が火を吹く。こちらの主砲から吐き出されたのは粘着榴弾(HEP)と呼ばれる砲弾だ。

 粘着榴弾(HEP)は目標の表面に着弾した際に内部の炸薬が目標の表面にへばりつき、一瞬送れて炸裂する弾丸だ。装甲を貫通することはできないが、炸薬が起爆した際に発生する衝撃波が目標の装甲を伝わり、装甲の裏側を剥離飛散させ、剥離した装甲の裏側の破片によって内部に損傷を与えることができるのが特徴である。

 粘着榴弾(HEP)はゴジラの体表は堅牢でも、その内部に衝撃を与えることで傷を負わせられるかもしれないとの考えから今回の戦闘で74式戦車に搭載された。

「いけるか……?」

 ゴジラの体表に粘着榴弾(HEP)装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)が次々と着弾する光景を見た戦車部隊の指揮官、加茂直樹一等陸佐が言った。

 ゴジラは上からの大口径榴弾の雨霰と横からの粘着榴弾(HEP)装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)の連打を受けて立つこともままならないらしく、まるでアルコールを摂りすぎて立ち上がることができない酔っ払いのように地面をのたうちまわっている。

 加茂はこの光景を見て、自分たちの攻撃が効いているとは思えなかった。ゴジラがダメージでのたうちまわり苦しんでいるが故にあのような醜態を晒しているのなら、先の対艦ミサイル攻撃もかなり堪えたはずだ。対艦ミサイルの集中砲火を受けてピンピンしている相手に対して楽観的な想定は論外だと彼は考えていた。

「よし……距離を詰めるぞ!!第1戦車大隊は目標との距離1500まで前進する!!そこなら流れ弾の心配もない!!第3並びに第10戦車大隊は東進し、丘陵地に身を隠しながら攻撃を」

「か、加茂一佐!!ゴジラの背びれが」

 命令を下そうとした時、副官の柘植二佐が慌てた様子でモニターを指差す。それに釣られて前線の様子を写したモニターに目をやった加茂は目を見開いた。ゴジラの背びれには怪しく光る青白い光が灯り、息を大きく吸い込んだかのごとく胸も膨らんでいる。

「まずい!!第1戦車大隊はすぐに後退するんだ!!」

 加茂の後退命令は間に合わなかった。倒れこみながらもその口を戦車部隊のいる方向に向けたゴジラは口から怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を吐き出し、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)は第1戦車大隊が布陣を舐めるかのように蹂躙した。

 第1戦車大隊の74式戦車、90式戦車は凄まじい熱量に晒され、一瞬装甲が装甲で真っ赤に染まった後に搭載していた弾薬の誘爆により炎と黒煙を吹き上げる。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)の軌跡を辿るかのように、第一戦車大隊の断末魔の爆炎が奔騰した。

 

 

「第一戦車大隊……損耗70%との報告です」

 報告をあげるオペレーターの声は恐怖からか微かに震えていた。

 軍隊においては、戦闘担当の6割の損耗で組織的抵抗能力の喪失、つまりは「全滅」と定義される。ここに、第一戦車大隊は全滅した。しかし、司令部では多少の同様はあっても先ほどの対艦ミサイル攻撃の後のように諦観が蔓延してはいなかった。それは、彼らには欠片も動揺も見せずに冷静沈着に指揮を執る黒木の姿が見えていたからだ。

「加茂一佐に第一戦車大隊の残存を纏めて北部丘陵地に一時撤退させて下さい。ミサイル連隊と護衛艦隊には3分後に対艦ミサイルの第二派攻撃を開始してもらいます。それに伴い、5分後には自走砲部隊に一時砲撃中止の通達を」

 何事にもうろたえずに最善を尽くそうとする黒木の姿勢は、ここに至り司令部の隊員に信用だけではなく心から信頼を寄せられるものとなっていた。しかし、その信頼と信用を寄せられる黒木の内心は、既に達観していた。

 ――我々がいくら足掻いたところで勝ちはない。

 それが、黒木の出した結論だった。対艦ミサイル34発の直撃を受けてかすり傷一つつけることができない怪物に対して残存の火力を1発も漏らすことなく直撃させたとしても、致命傷には遠く及ばないことを彼は確信していたのだ。

 しかし、彼は自分たちの「勝ち」はないと結論付けていても、「負け」を結論付けてはいなかった。確かに自衛隊ではゴジラを倒すことはできないが、ここには自衛隊だけではなく、『我々を守ってくれる仲間』がいるのだから。

 黒木はメインモニターの隅に映し出されたウルトラセブンとモスラの姿に視線を移す。かつて東京を襲撃して甚大な被害を出したモスラを今度は味方と判断することは、黒木にとっては非常に迷った上での決断だった。

 防人が一度自分の国の首都を破壊した敵を味方だと判断することは非常に難しい。相手が人間であればまだ情勢の変化や対話によって色々と割り切ることができるが、相手がこちらの理解の及ばない怪獣となれば話は別だった。

 ウルトラセブンを味方としたのもまだ非常に難しい判断だった。誰も空想のヒーローが現実に現れるなんて事態は理解できなかったし、空想のヒーローだからという理由で味方だと決め付けることなどリアリストたる軍人にはできないことだ。しかも、そのヒーローと対話する手段もないとなれば尚更のことである。

 黒木はリアリストとして徹している指揮官としては柔軟に事態に対応している方だろう。

 そして、モスラとウルトラセブンを味方だと信じた黒木は、ゴジラにこれまで軽傷とはいえ手傷を与えてきた彼らと共に戦えばゴジラを撤退させるだけの傷を負わせることができると考えていた。

 この攻撃も、ウルトラセブンとモスラが再び立ち上がるまでの時間稼ぎでしかない。それを今の段階で口にすれば士気の低下は避けられないため、これを口にするのはこちらの戦力が半壊し、士気が崩壊しかけた時だと黒木は決めていた。最後の希望をチラつかせることで奮起を促すことができるからだ。

 しかし、いくらゴジラの注意を引きつけられたとしても、結局はゴジラに傷を与えることができるのは彼らしかいない。他力本願――それも、空想のヒーローや別の怪獣をあてにすることなど自衛官にあるまじき考えだが、それは黒木の最後の希望だった。

 

 ――立つんだ、ウルトラセブン

 

 ゴジラを引きつけるためにこれから数百、数千の自衛官が戦死するだろう。黒木はその犠牲を無駄にだけはしたくなかった。




イメージはVSビオランテのサンダービーム作戦です。
あのテーマの中で自衛隊の攻撃がメーサーのアップから始まるシーンがもう、初めて見たときはシビレました。

因みに、現実ではハープーンを対地攻撃に使用するのはまずないでしょうが、拙作では海自の出番をつくるために敢えてハープーンを出しました。
拙作の設定では、敏捷に動き回るガイラやサンダのような怪獣へ命中させることはまず不可能だが、鈍重なゴジラやモスラ(幼虫)に対してならば当たるぐらいには対地攻撃の精度も上がる改造をハープーンに施しているということで。
対怪獣を考えると、対地攻撃も手段の一つとして海自も保有すべきだろうと考えたからです。


今回登場した人物の元ネタ紹介

加茂直樹一等陸佐……GATEより第一戦闘団隊長
柘植二等陸佐……同じくGATEより第一戦闘団副隊長


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薬は注射より飲むのに限るぜ、ゴジラさん

タイトルで、察しがついた人はゴメンなさい


 護衛艦隊はゴジラとの距離をおよそ16000mにまで詰めていた。立花海将の命令で彼らは熱線の直撃を避けられる水平線から抜け、ゴジラの視界に直接入る位置にまで最大船速で近づいていたのである。これは同時に、いつ熱線の直撃を受けてもおかしくないということを意味する。

 「くらま」の崎田艦長は迷わずその命令に従った。ここにきて接近する意図は明白だ。立花は艦隊に残された戦力の全てを利用しようと考えているのである。

 対艦ミサイルは、目標との距離が近づけば近づくほどに威力を増す。消費されずに残った対艦ミサイル内部のターボジェットの燃料にも弾頭の爆発によって生じた炎が引火し、より大きな威力を発揮するからだ。

 先ほどの対艦ミサイルの猛打にもこたえなかったゴジラに遠距離からの攻撃を繰り返したところで意味はない。ならば、せめて少しでも対艦ミサイルの威力をあげる方法を取らざるをえなかった。また、距離を詰めれば主砲も対地攻撃に使用できるようになる。対艦ミサイルを撃ちつくして砲弾が尽きるまで戦えるのだ。

 

「第一戦車大隊、損耗70%!!」

「ゴジラの熱線が西部森林地帯に発射されました!!直撃を受けた第三特科隊の損耗は90%以上!!」

「ゴジラは進路を西に向けています!!」

 

 次々と飛び込んでくる地上部隊の苦境を知らせる報告に立花も沈痛そうな表情を浮かべる。だが、まだ手は出せない。現在彼らの手元にある対艦ミサイルハープーンの数は限られている。無駄撃ちするわけにはいかず、ひたすら司令部からの発射命令を待つしかなかった。

「このままでは、未遠川を越えてしまう!!深山町にまで進撃されたら被害はますます大きくなります!!」

 崎田は焦燥感から砲撃命令を出したい衝動に駆られる。だが、それを立花は察していた。

「艦長、まだだ。司令部はタイミングを見計らっている」

 対艦ミサイルを放つのであれば、砲撃が乱打されている中に突っ込ませない方が命中率が期待できる。おそらく司令部は――いや、黒木は砲撃に一瞬の隙間をつくり、その間に対艦ミサイルをゴジラに突っ込ませる算段を整えているはずだと立花は考えていた。

 そしてその考えはすぐに現実のものとなる。

「立花海将!!司令部からの通信です」

 立花はすぐにクルーから手渡された受話器を手に取った。

『立花海将、黒木です。5分後に砲撃を一時中断します。4分30秒後にハープーンを発射してください。時間差をつけて陸自のミサイル連隊の88式地対艦誘導弾(SSM-1)がゴジラを狙います』

「了解しました。しかし、ハープーン発射後は?」

『ハープーンを撃った後のことは任せます。司令部から一々指令を出していては間に合いませんし、立花海将の判断ならば問題ないでしょう。ああ、ただし、対艦ミサイルを使うときだけはこちらの判断に従ってください』

「了解しました」

 立花は受話器を静かに下ろし、CICで声を張り上げた。

「艦隊に告ぐ……ハープーン発射用意!!」

 復唱の後、すぐに艦隊の各艦から噴煙が立ち登り、文明の矛が南へと次々に飛び立った。

 

 

 

『第二戦車大隊に熱線が直撃!損耗率は80……いえ、90%以上』

『こちら第10特科大隊!砲側弾薬車がやられました!砲撃は後5分しか続けられません!!』

 ゴジラに降り注ぐ砲弾は、時間とともにその数を減らしつつある。ゴジラは攻撃を受けた方向を片っ端から熱線で薙いでいたからだ。

 そして、地上では自衛隊が劣勢に立ちつつある中、冬木の空に一機のF-4EJ改が姿を現した。

「見えたぞ、神田!!あれだ!!」

「ああ、見えてる……アイツがゴジラか」

 F-4EJ改のパイロット、神田はゴジラの姿を見て身震いする。街の全体像を見渡すことのできる上空にいるせいだろうか、二本の足で直立する60m近い巨大な蜥蜴が廃墟となった街を闊歩する姿はまるで映画でも見ているかのような非現実感があった。

 街の中央を流れる川を跨ぐ巨大な橋は根元から吹き飛んでおり、橋脚の残骸とそこから引きちぎられたかのように露出する鉄筋、張力を失った鋼鉄の綱、川べりに横たわる赤いアーチ。街はコンクリートの破片に覆われ、所々に紅蓮の炎が吹き上がっている。アメリカの映画で描かれるようなこの世の終わりの光景が眼下に広がっていた。

 しかし、これは紛れもない現実だ。あの炎の中では人の命が燃え尽き、あの瓦礫の中では誰にも看取られることなく息を引き取った人がいる。この地獄のような光景を造り上げたのも、神だとか悪魔ではなくこの黒い獣だ。

 黒い炎を象ったような3列の背びれ、図鑑で見たティラノサウルスやアロサウルスよりも遥かにガッシリとした堂々たる体躯。百里で見せられた写真に写っていた1954年のゴジラに比べてどこか逞しく巨大な印象を受ける。

 上空に飛来した自分たちの存在に気づいたのか、こちらを見上げるゴジラの瞳には敵意の光が見える。

「気づかれたか?」

「J79-IHI-17Aの馬鹿でかいエンジン音に気づかないはずがないだろう」

 獰猛な牙を口から覗かせるゴジラ。山脈のように連なった背びれに青い稲光が奔り、二列に重なった子供の背丈ほどにあろう鋭い牙の隙間に青白い光が漏れる。

「まずい!!狙われてるぞ!!」

「言われんでも分かっているって!!」

 神田は操縦桿を傾け、機体を横転させる。その直後、ゴジラの口から放たれた光の束がF-4EJ改の左翼のすぐ左を貫く。

「ひゃー!!危なかった~」

「おい!!左翼にあたるところだったぞ!!」

「当たってないからいいんだよ!!それよりも栗!!ミサイルの準備はいいのか!?」

「自動火器管制セットオン……システムオールグリーン!!準備は万端だ!!後は侵入位置(コース)に機体を乗せてくれればいい!!」

 F-4EJ改のナビゲーター、栗原は神田にそう言うと、ミサイルの操作スティックを握りなおす。眼下の巨獣は熱線を回避した虫に忌々しげな視線を向けている。

「次の熱線が発射された直後のタイミングで突っ込め。ミサイルの射点に着くまでは二射目はないはずだ」

「了解だ!」

 ミサイルは高速で飛ぶため、それほど大きく飛翔コースを変えることはできない。また、高速とはいえ、生物の予想のつかない動きに対応できるだけの速度はない。

 そのため、F-4EJ改が抱えている試製対怪獣誘導弾(XAGM-1)を口の中に打ち込むには、出来る限りゴジラの口の正面から至近距離で発射する必要がある。さらに、F-4EJ改はナビゲーターがミサイルを手動指令照準線一致誘導方式(MCLOS)で誘導しやすくするためになるべく機体を動かさないで接近する必要があるのだ。

 また、ゴジラにはこちらを撃ち落せる熱線という武器がある。ゴジラの真正面から突っ込んだところで熱線の的にならない保障は無い。ミサイルの発射点にたどり着く前に熱線を撃たれないようにするには、一射目の熱線を回避した後にすぐにゴジラの正面から突入する他ない。

 神田と栗原を乗せたF-4EJ改は大きく旋回し、ゴジラを挑発するかのように飛び回る。案の定標的を神田たちに定めたゴジラは、再度熱線を発射しようと背びれを光らせた。

「神田、来るぞ!!」

 栗原が声をあげた直後、ゴジラの口から熱線が放たれた。神田は機体を大きく上昇、さらにそのまま横滑りさせる。熱線はF-4EJ改を貫くことなく白み始めた空のかなたへと消えていった。そして熱線が途切れたことを視認した神田は即座に機体を反転させ、機首をゴジラの正面に向ける侵入位置(コース)に入れる。

「栗、外すなよ!!1発で決めてやれ(オンリー・ワン・フィニッシュ)!!」

「お前こそ機体をフラフラさせるなよ!!これまでも、今度も、これからも俺はお前を信じてる!!」

 無頼の駆るF-4EJ改は、ゴジラと真正面から相対する。あっという間に近づいてくるゴジラの凶相、こちらを食い殺さんとする牙に流石の無頼コンビも恐怖を覚えずにはいられない。

 

 ――父さん、俺を守ってくれ。俺に、相棒とこの国に住む人々を守らせてくれ。

 神田は今は亡き父に祈り、ゴジラから目を逸らすことなく、ゴジラの顔に一直線で迫っていく。さらに、バルカン砲を発砲してゴジラの注意をギリギリまで引きつけようとする。

 彼はいつも、栗原と共に戦ってきた。彼とともにいくつもの試練を乗り越えてきた。今更ゴジラが相手だからという理由で揺らぐような信頼ではない。神田は、今度だって絶対に成功すると信じて疑わなかった。

 

 ――母さん、美保ちゃん。悪いがまだ俺はそっちにはいくわけにはいかないんだ。だから、手を貸してほしい。

 栗原は幼少のころに亡くした母と、初めて愛した女性を想う。神田は既に機体を文句のつけようのない安定した姿勢で侵入位置(コース)に入れている。後は、ミサイルを放つだけだ。栗原はミサイルの発射ボタンに指をかける。

 彼の相棒は自分がミサイルを当ててくれることを信じて最高のお膳立てを整えてくれた。ならば、後は相棒のお膳立てに全力で応えるだけのこと。

「やっちまえ、栗!!」

「おう!!」

 栗原の指が発射ボタンを押し、F-4EJ改の主翼から試製対怪獣誘導弾(XAGM-1)が切り離された。尾部固体燃料ロケットを点火した試製対怪獣誘導弾(XAGM-1)は炎を引っさげてゴジラ目掛けて一直線に飛んでいく。

 栗原の微妙な指の力加減で操作スティックが非常に細かく傾き、それに同調して試製対怪獣誘導弾(XAGM-1)も右、上、左と僅かに軌道を変えていく。

 ミサイルの誘導は全てマニュアル制御だ。しかし、それにも関わらず試製対怪獣誘導弾(XAGM-1)はゴジラの口を正確に目指していく。百里のコンピューターの異名を取る栗原だけにしかできない神業だ。

「当たれぇ!!」

 ゴジラが僅かに首を捻り、口の位置も当初の位置から離れる。しかし、そのゴジラの動きですら栗原の計算の範囲内。ゴジラが首を捻る仕草をしたときには、既に栗原の指はスティックを通じて試製対怪獣誘導弾(XAGM-1)の軌道をゴジラの口の未来位置に誘導していた。

 そして、ゴジラの口の中に寸分違わず試製対怪獣誘導弾(XAGM-1)が飛び込み、炸裂した。ミサイルに搭載されたカドミウムはゴジラの喉を通ってさらに奥へと飲みこまれる。

 口内でのミサイルの炸裂が堪えたのか、ゴジラは喉を掻き毟り苦悶の表情を浮かべている。

 咽ているゴジラの様子をミラー越しに確認した神田はカラカラと笑う。

「お薬が苦かったのかね?分かるよ。俺も嫌いだもの」

「良薬は口に苦しってな……けどな、薬は注射よりも飲むのに限るぜ、ゴジラさん!!」

 しかし、ゴジラは喉に異物をぶちこまれたことに怒り狂い、背びれに青白い光を灯して熱線の発射態勢に入った。

「拙いぞ神田!!熱線が来る!!避けろ!!」

「背後から来る熱線なんて簡単に避けられるか!!」

「大丈夫!!ゴリラの野生の勘を信じろ!!野生の証明だ!!」

「このヤロウ!!命かかってるのになんて言い草だ!!」

 その時、熱線の発射態勢に入ったゴジラの後方からモスラがタックルを決めた。体勢が崩れたため、ゴジラの熱線は彼らの機体の遥か上空に消えていった。

 熱線を予期せぬアシストによって回避することに成功した無頼コンビは、モスラに向かって怒りを転化したゴジラに振り返ることなく尻に帆をかけたかのような速度で離脱した。流石の無頼コンビとて、先ほどの熱線は相当に肝を冷やしたようだ。

「あっぶねぇ。心臓がまだバクバクいってやがる……栗よ、もう二度とあんなことはやりたくねぇな」

「同感だ。まったく、ひやっとしたぜ。だが、これで任務完了だ。後は黒木にお任せだな」

「特佐殿、頼むからもっかいやれとか言わないでくれよ……」

「…………」

 任務を完璧にやり遂げたファントム無頼は、怒り狂うゴジラからトンズラして白み始めた空を悠々と飛んでいった。

 

 

 

 モスラはその身体をコンクリートの粉塵が舞う瓦礫の山に埋めていた。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が直撃した右翼下部は焼け落ちており、激しい痛みがその身を貫く。これほどの怪我を負ったのは、白亜紀でのキングギドラとの戦い以来のことだ。

 ――勝てるだろうか。

 弱気な考えがモスラの脳裏を過ぎる。この怪獣は間違いなく強い。その強さは間違いなくかつての宿敵キングギドラよりも上。全宇宙で大量絶滅を幾度と無く繰り返してきた最強の宇宙怪獣をも上回る力を持った恐ろしい怪獣が人の手で生まれたことということは信じがたいことだが。

 遥か昔に滅んだエリアス族やムーの古代文明の民は現代の文明よりも遥かに進んだ科学技術を有していた。器を創造し、そこに地球の力を満たすことで地球の意志で動く守護者(ガメラ)を生み出すことだってできた。

 今この星で繁栄している霊長の種の科学技術では星の力を認知することすらできない。しかし、その程度の科学技術で彼らはこの大怪獣を生み出した。彼らは星の力を一片たりとも借りることなくこれほどの怪獣を、それも地球の力によって生み出されたモスラや地球の力を扱うガメラをも上回る大怪獣を偶然と狂気から造り上げたのだ。

 そして、モスラはセブンからエリアス三姉妹(ライダー)経由で伝えられた情報とこの短時間の戦闘を合わせてゴジラという生物の本質を大まかに把握することができた。

 モスラが把握したゴジラの本質――それを端的に表現するならば、蠱毒に近いものだった。

 人類が支配する世界という壷の中には、悪意という毒を有した人間という名の毒蟲たち。彼らは少なく見積もっても1万年以上もその壷の中で互いに憎みあい、殺し合い、喰らいあってきた。その過程の中で悪意は刀に、槍に、弓に、銃という形で毒蟲(悪意を抱く人間達)の牙や爪となる。

 10万年以上の殺し合いの末に生き残った毒蟲が手に入れた最強最悪の牙が核兵器である。生き残った毒蟲たちは喰らった毒蟲達の(悪意)をも血肉に変え、より強い(悪意)を手に入れていた。この共食いの末に濃縮された(悪意)を媒介に生まれた怪獣こそが、この怪獣――ゴジラだ。

 かつて、古代文明人が人工的に造った器の中に地球の力を注ぎこむことで地球の意志で動く新たな守護獣(ガメラ)を創造したように、人間たちは南洋の孤島にて生き残っていた太古の恐竜の生き残りという奇跡的に存在した天然の器に蠱毒の中で生き残った毒蟲の有する(悪意)を注いで怪獣王(ゴジラ)を生み出した。

 モスラは、古代文明でも再現できない災悪を生み出した人間に対しても恐れを抱かずにはいられなかった。ひょっとすると、本当の怪獣は目の前の怪物ではなく、この星に住まう人間の方ではないだろうか。

 だが、モスラは脳裏を過ぎった弱気な考えと共に人間に対する不信感も振り払う。

 ――今はそんなことを考えている時ではない。

 生前に自分が守ろうとした人間達も同じような過ちを犯していた。だが、人間が皆怪獣を生み出す悪魔というわけではない。デスギドラとの戦いの時も、ダガーラとの戦いの時も、キングギドラとの戦いの時も、モスラのために自分の危険を顧みず動いてくれた子供達がいた。

 今、自分とウルトラセブンがゴジラの追撃を受けないでいられるのも、人間達が文字通り命を張ってゴジラの注意を引き付けてくれているからだ。視界の中で立ち昇る噴煙と爆炎、絶えず聞こえてくる命の断末魔がそれを教えてくれている。

 この世界の人間たちだって、きっとまだやり直せるところにいる。モスラはそれを信じることにした。そして、モスラは力強く羽ばたいて離陸のための揚力を得ようとする。

 モスラはいつだってこの星を守るため、命を守るために戦う。その守るべき命の中には人間だけではなく生きとし生ける全ての命が含まれている。ならば、いつものように戦うだけだ。

 生前も、勝てるかどうかを考えながら戦ってきたわけではない。勝たなきゃいけないから戦ってきただけのこと。これまでも、そしてこれからもそれは変わらない。

 かつて母と共に挑んだデスギドラとの最初の戦いも、キングギドラに手も足もでなかった戦いも、そうして乗り越えてきた。今回も同じように戦い、命に代えても勝利を掴む。モスラは決死の覚悟を抱いて再び宙に舞った。

 ゴジラは眼前を飛びまわる人間のつくった鋼の翼に対してフラストレーションを溜めていたのか、モスラとセブンに対する注意は緩んでいる。熱線を喰らってダウンしていたセブンも再度立ち上がっていた。

 ただ、ゴジラが攻撃を受けた方向に片っ端から熱線を乱射していたためか、人間たちの攻撃の勢いも衰えている。彼らの力ももうじき限界だろう。今しかチャンスはないとモスラは判断した。

 その時、人間のつくった鋼の翼が引っさげてきた鋼の槍をゴジラの口内に撃ちこんだ。ゴジラの口から白煙が噴出し、ゴジラが咽る。何度か咳き込むような仕草を見せたゴジラは、咳が収まると空を見上げて自分の口に異物を撃ちこんだ鋼の翼を見上げて熱線を放とうとする。

 ゴジラの注意は上空に向いている隙をついてモスラは加速、無警戒となっていたゴジラの背後からタックルを決めてゴジラを押し倒した。さらに、そこに立ち上がったウルトラセブンも加わり、うつぶせになったゴジラの背中にアイスラッガー片手に斬りつけた。

 

 自衛隊の助成が加わったことで息を吹き返したモスラとウルトラセブン。今、聖杯戦争最終決戦第二ラウンドの幕が上がった。




後、5話か6話ほどで本編は完結する予定です。
年内に終わればいいなぁと考えていますがどうなることやら……。


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やったか!?(フラグ)

今回、久しぶりにみんなが大好きな雁夜おじさんが出ますよ。


 ゴジラの背中をアイスラッガーで斬りつけるセブン。そして、鎧クロスヒートレーザーで援護するモスラ。ゴジラに対して彼らは再度攻勢に出つつあった。ゴジラも尾を後ろに大きく振り回してセブンたちを振り払わんとするが、尾が振り上げられると同時にセブンは距離を取り、尾の一撃を回避していた。

 セブンたちが距離を取ったことで、ゴジラもゆっくりと立ち上がる。相変わらずその目には闘志と憎悪の炎が灯っていた。

 アイスラッガーを頭部に戻したセブンは、ゴジラに近接格闘戦を挑む。ゴジラはその指に生えている鋭い爪をセブンに振り下ろす。セブンはゴジラの腕の部分に自らの腕をぶつけることで爪を止め、さらにローキックをゴジラの足に叩き込んで離脱する。

 ゴジラのパワーはキングジョー並かそれ以上だ。ゴジラとがっぷり四つに組んだとしても、圧倒的なパワーの差によって劣勢に立たされるであろうことは目に見えている。反面、スピードはセブンがこれまで戦ってきた侵略者たちと比べても遅い部類に入るだろう。

 そのため、セブンの基本戦略は隙ができるゴジラの大振りな一撃を回避してのカウンター、そして離脱を繰り返すことになる。数々の宇宙人や怪獣と戦ってきたセブンにはゴジラの一撃を正確に見切り反撃に出ることもさほど難しいことではなかった。さらに、モスラが度々ゴジラの目を集中的にビームで攻撃し、怯んだ隙に拳を叩きこむなどという戦術も取っていた。

 ゴジラの爪が空を裂き、尾が大地を抉り、牙が迫る。幾度も迫り来る凶器を回避し、セブンの拳がゴジラの胸に突き刺さり、脚が腹に叩き込まれる。攻撃を掠らせることが精一杯のゴジラと、何度拳と脚を打ち込んでも全く堪えていない相手にひたすら打撃を打ち込むセブン。2体はただそれを繰り返す。

 そして、ゴジラに叩き込まれた拳の数が20を超えたころ、セブンはゴジラの動きがどこか鈍くなっていることに気がついた。首に手刀を叩き込んでから離脱し、距離を取ってセブンはゴジラを観察する。

 距離をとってよく観察したことで、セブンの疑念は確信へと変わった。ゴジラの足元は完走したマラソンランナーのようにおぼつかなく、一挙手一投足が緩慢だ。先ほどまでの打撃も次第に手ごたえが強くなっていたし、ゴジラの呼吸も荒い。よく見ると、モスラの鎧クロスヒートレーザーが撃ちこまれた箇所が僅かに爛れたままになっている。

 そしてなにより、目に見えてステータスが低下していた。間違いなく、ゴジラはなんらかの理由で動きが鈍っており、再生能力も低下している。

 ――いけるかもしれない。

 おそらく、先ほど自衛隊の戦闘機がゴジラの口の中に撃ちこんだミサイルの影響だろう。あれだけの腕があるパイロットは、ウルトラ警備隊時代にもお目にかかったことがなかった。 ゴジラの熱線を回避し、あれだけの至近距離からミサイルを放ち、その上ミサイルをゴジラの口という難しい目標に見事命中させた凄腕の戦闘機パイロットたちにセブンは感謝の念を抱いた。

 セブンは知る由もないことだが、ゴジラの口の中にファントム無頼がぶち込んだミサイルの弾頭には、カドミウムがぎっしり搭載されていた。

 カドミウムは腎機能に障害を発生させて骨を侵す作用のある人体にとって有害な金属だ。日本では高度経済成長期に富山県で発生した日本4大公害病の一つ、イタイイタイ病の原因となった物質でもある。ただ、その一方でカドミウムには中性子を吸収する性質もあるため、原子炉の制御材としても利用されている。

 ゴジラの心臓部は原子炉のような働きをしているという仮説に基づき、カドミウムをゴジラに投与することでゴジラの心臓の活動を抑えようと自衛隊は考えたのだ。

 冬木に現れたゴジラはサーヴァントではあるが、サーヴァントは英霊の分霊であるため、基本的に生前の弱点も引き継いでいる。

 例えば、クー・フーリンであれば犬の肉を食べれば弱体化するし、宝具『鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)』を発動させたヴラド三世であれば太陽光や聖印に弱くなってしまう。なお、別に犬の肉は神秘の篭ったものである必要はないし、太陽光も同様だ。ただ、伝承に則した『概念』を持つものならばいいのだ。

 生前『カドミウム』と『低温』、そして『抗核エネルギーバクテリア』がゴジラの活動を停止させうる弱点だった。サーヴァントになっても引き継がれていたその弱点を突かれ、ゴジラは立っているのがやっとになるまでに弱体化していた。

 セブンは地球人たちの献身に感謝し、決着をつけるために新たなる宝具『使役されし大怪獣(カプセル・モンスターズ)』を解放する。牛のような姿をした勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)、全身金属の心優しき金属の戦士(ウィンダム)、トリケラトプスに似た忠実なる俊足の戦士(アギラ)がその場に召喚される。

 ――ゴジラの身体を押さえるんだ!!

 セブンの最も頼りにする仲間達、『使役されし大怪獣(カプセル・モンスターズ)』はセブンの指示に従って勇敢にゴジラに向かっていく。

 最初にゴジラに取り付いたのは忠実なる俊足の戦士(アギラ)だ。左脚を噛まれたゴジラは苦悶の声を上げて膝をつく。さらに、忠実なる俊足の戦士(アギラ)の反対側から心優しき金属の戦士(ウィンダム)が取り付き、ゴジラの右腕を捕まえる。

 しかし、いくら衰えたとはいえゴジラもそう簡単に取り押さえられたりはしなかった。ゴジラは尾を振り回して左足にしがみつく忠実なる俊足の戦士(アギラ)を吹き飛ばし、左足が解放されると心優しき金属の戦士(ウィンダム)を両手で掴み、強引に引っぺがして忠実なる俊足の戦士(アギラ)の上に放り投げた。凄まじい勢いで衝突した二体は衝撃で悲鳴のような泣き声をあげる。

 心優しき金属の戦士(ウィンダム)忠実なる俊足の戦士(アギラ)を振り払ったゴジラは、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)によって二体を纏めて葬らんと考えて大きく胸を膨らませた。

 怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が放たれた瞬間、鎧モスラが背後から襲い掛かる。強烈な体当たりを受けたゴジラの怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)は見当違いの方向へと放たれる。しかし、不幸にもよろめいたゴジラの首は倒れる直前にモスラの方を向いていた。

 モスラの胴を怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が掠め、そのままモスラは失速して高度を下げていく。だが、モスラに地に伏せさせられたゴジラが起き上がる前に、その背後に勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)が回り込んでゴジラを押さえつけた。

 ゴジラが勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)を振りほどこうと四苦八苦している隙に起き上がった心優しき金属の戦士(ウィンダム)忠実なる俊足の戦士(アギラ)は、再度ゴジラを押さえつけにかかる。

 背後にしがみついた勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)を叩いていたゴジラの尾に忠実なる俊足の戦士(アギラ)が噛み付き、ゴジラの右腕を心優しき金属の戦士(ウィンダム)の腕が絡め取る。尾を封じられ、背後と右から身体を押さえつけられたゴジラは身動きが取れない。

 セブンは『使役されし大怪獣(カプセル・モンスターズ)』に拘束されたゴジラの前に出る。ゴジラは身体に力が入らない上に3方向から動きを封じられているが、口は封じられていない。狂化していたとしても、目の前の敵が何かをしようとしているのを黙って見ているほどゴジラは阿呆ではない。

 ゴジラは背に光を灯し、口内に満ちた光を全身の細胞で解放する。身体中から放たれた強烈なエネルギーの波動はゴジラにしがみついていた3体の怪獣を同時に引き剥がすことに成功する。

 しかし、ゴジラが拘束を解かれた時にはセブンは左腕を胸に水平にあてて宝具の発射体勢を整えていた。同時に額のビームランプが輝き、エネルギーが充填されていく。

闇を切り開く(エメリウム)……」

 セブンが宝具を解放しようとしていることを察したゴジラも、即座に顔をセブンに向けた上で背びれを発光させ、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を撃たんとする。しかし、ゴジラが怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を放つよりも、セブンが宝具を放つ方が速い!!

翡翠色の閃光(レイ)!!」

 ビームランプから放たれた緑の閃光は、吸い込まれるようにゴジラの口に飛び込んだ。そして、ゴジラの喉を貫通した緑の閃光はそのままうなじから飛び出した。ゴジラは苦悶の声をあげながら怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)に遅れて吐き出す。

 ゴジラの顔は真っ直ぐセブンの方を向いており、宝具を放ったばかりのセブンはすぐに動ける状態ではない。この距離ではまず怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を外すことはないはずだった。

 しかし、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)はセブンには直撃しなかった。ゴジラの口内に溢れた光は、セブンの一撃によって穿たれたうなじの孔から奔騰したのである。

 内から皮膚を削り、周囲の肉を抉り、傷口を焼く熱線による激痛にゴジラは悲鳴のような声をあげる。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)に穿たれたうなじの孔から漏れ出したことで、ゴジラは身体の内部に大きなダメージを受けていた。

 カドミウムによって活動を制御され、再生能力も低下した上でゴジラの身体の中で炸裂した怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)。倦怠感と消耗からついにゴジラは立っていることできないほどに追い詰められた。

 ――もう一押しだ!!

 ゴジラがもう限界に近いことを察したセブンは、アイスラッガーを手に持ちゴジラに突撃する。もはや、ゴジラには自身よりも素早いセブンの攻撃に対応できるだけの余力はなかった。

 セブンはゴジラの前でアイスラッガーを渾身の力を籠めて振り下ろす。袈裟斬りにされたゴジラには、肩から左脇腹に繋がる一閃の傷を刻まれていた。

 ゴジラはセブンによって刻まれた傷口から血を噴出しながら大地にゆっくりと倒れていった。

 

 ――怪獣王、ゴジラがついに地に伏した。

 

 地に倒れ伏すゴジラの姿。それは人々に歓喜をもって迎えられた。

 対艦ミサイルを撃ちつくした海上の護衛艦隊の各艦で歓喜の声があがり、艦橋のクルーの間でも笑みが零れる。

 燃え盛る炎の中に倒れるゴジラを目の当たりにした地上部隊の自衛官達は、生き延びることができたことに安堵し、傍らの友と抱き合って勝利の喜びを分かち合う。

 先ほどまでは次々と伝えられる損害報告によって混乱し、悲壮な雰囲気が漂っていた司令部も、今は歓喜の渦に巻き込まれている。作戦中は常に鉄面皮を貼り付けていた黒木の顔にも、僅かな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

「ふざけるな……終わり、だと?」

 ――しかし、歓喜の渦中にあるはずのこの冬木の地で一人だけ、怒りと憎悪を滾らせている男がいた。

「ふざけるな、貴様達がいなければ全て上手くいっていたはずなんだ……」

 男にとっては、ゴジラが倒れ伏す光景は絶対にあってはならないものであり、否定されるべき光景であった。

「俺は貴様等を許さない……薄汚い魔術師共が!!貴様等が勝つなんてことは絶対に許さない!!」

 歯を剥いた男は、怨嗟の声を吐き出しながら右腕を空に掲げた。

「殺してやる……俺の手で、臓硯も、時臣も……お前たちには俺が報いを与えてやる!!与えなければならないんだ!!」

 男――ゴジラ(バーサーカー)のマスター、間桐雁夜の右腕に刻まれた鉤を象った痣が発光する。

「ヒトデナシどもは、一人残らず、俺の手で殺す!!殺しつくす!!」

 雁夜は時臣への、臓硯への、彼の全てを狂わせた魔術に対する憎悪と殺意を籠めて叫んだ。

「全ての力をもってヤツらを殺せ!!ゴジラ(バーサーカー)ァァ!!」

 

 

 ――令呪の消滅と同時に、冬木に赤き怪獣王が降臨した。

 

 今、真の絶望が目覚めた。




これからがゴジラの全力です。


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命の限界を超えて

バーニングゴジラを初めて見た幼少期、自分はあの迫力に圧倒されました。
ゴジラが命を燃やすかのように赤く輝く姿。そして、血を吐くような熱線。
苦しげにもがきながらも、むしろこれまでのどのゴジラよりも強いと確信させられる『覇気』というか、『煌々と輝く命』と言いますか。

執筆にあたって一度VSデストロイアを見直したのですが、文句なしに歴代最強のゴジラでありながら、これから初代ゴジラ以来となる『ゴジラの死』を迎えることに違和感を感じないというところがやはりいいなと思いましたね。

私は今でも、デスゴジが一番大好きなゴジラです。


 ゴジラの心臓部は原子炉に似た構造となっており、核分裂で得たエネルギーをゴジラは自身の生命活動の維持、熱線のエネルギーとして活用している。1968年にアメリカの原子力空母一隻と原子力巡洋艦二隻からなる艦隊がゴジラの襲撃によって撃沈されたのも、原子炉の核燃料を狙っていたためだと考えられている。

 ソ連とアメリカの原子力潜水艦がここ四半世紀で何隻か原因不明の沈没事故を起こしている理由としても、核燃料を狙ったゴジラの襲撃があると言われているが、こちらはゴジラの仕業とする証拠が不十分な案件が多く、殆どの事件では真偽のほどははっきりとしていない。

 また、ゴジラの細胞の一つ一つが放射能を食べる能力を有しており、ゴジラの細胞にとって放射能はほかの動物の細胞でいうところの酸素のようなエネルギー源であるという研究結果がイギリスの世界的科学雑誌に掲載されたことがある。論文の中では、ゴジラの細胞が有する驚異的な再生能力を支えているのも、豊富に供給される細胞のエネルギー源である放射能だと推察されている。

 通常、ゴジラの心臓部の核分裂はゴジラの体内の水分で制御され、呼吸によって外気から取り込む二酸化炭素によって冷却、コントロールされている。しかし、とある平行世界においてゴジラは生前、その体内の核分裂が制御できなくなったことがある。

 核分裂が飛躍的に促進された結果、心臓部が赤熱したため、胸を中心にゴジラの全身が赤く発光するという異常な状態となった。さらに、高温となった身体は蒸気を噴出し、熱線も通常の青白いものから、真っ赤な炎を思わせる色へと変貌した。

 核分裂を制御できないゴジラは暴走する原子炉そのものとなり、いずれは核爆発を引き起こしかねない存在となった。ゴジラが核爆発を起こした場合、その破壊力は大気に火がついて地球そのものを炎で包むという想像を絶するほどのものである。

 幸いにも、その平行世界には原発事故、または核攻撃を想定して作られた特殊兵器が存在したため、特殊兵器と完璧な攻撃計画によって原子炉の核分裂が制御され、ゴジラの核爆発の危機は回避された。

 しかし、核爆発の危機は回避されたものの、その時にはゴジラの心臓部の温度が900度を超えていた。核分裂が制御されたころには、既に炉心である心臓部が高温となり融けはじめていたのである。

 ゴジラの心臓部が融けだしたことにより、放射能を撒き散らしながら、周りのものを溶かし、水素爆発で地球に穴を開けてしまう『メルトダウン』の危機となったのである。

 核爆発は避けられたが、今度のメルトダウンも核爆発にも劣らない人類存亡の危機である。人類は、化学的にゴジラを葬り去ることができた唯一の兵器、『オキシジェン・デストロイヤー』によってゴジラを消滅させ、メルトダウンを回避しようとした。

 ただ、その当時の人類は、酸素原子を微小化させる『ミクロ・オキシゲン』を実用化していたが、その発明の先にある酸素破壊剤『オキシジェン・デストロイヤー』の開発には未だに至っていなかった。

 その時、稀代の天才科学者、芹沢大介博士の悪魔の発明をついに再現できなかった人類の前に奇しくも悪魔の発明の遺産を受け継ぎし生物が出現した。悪魔の生物(デストロイア)は『ミクロ・オキシゲン』を我が物の如く操り、ついには悪魔の発明『オキシジェン・デストロイヤー』すら再現するに至った。

 そこで人間たちは、この前門の(ゴジラ)、後門の(デストロイア)という窮地を逆手に取ることを考えた。デストロイアとゴジラを戦わせることで、ゴジラを化学的に消滅させようとしたのである。

 しかし、制御不能となった心臓部から核分裂によって溢れ出すエネルギーにも耐え、メルトダウンに近づきつつあるゴジラは人間の予想を覆す史上最強の怪物と化していた。デストロイアが放つオキシジェン・デストロイヤーでも葬ることができず、最後は逆にデストロイアを数百万度の赤色熱線を持って追い詰めたほどである。

 まさに、メルトダウン寸前のゴジラは『オキシジェン・デストロイヤー』すら超越した、天下無双、最強無敵の怪獣王と言っても過言ではなかった。

 最終的に、心臓部の温度が1200度を超えた瞬間にゴジラはメルトダウンを起こした。高熱に耐えられなくなったゴジラの身体は融解し、凄まじい放射能とチェレンコフ光に包まれて骨すら残さずに消滅したのである。

 人類がその場に集めうる全ての冷凍兵器をメルトダウンの瞬間にゴジラに集中させたため、メルトダウンによる目に見える物理的被害は最小限限度に抑えられた。だが、一方でゴジラが末期に発した尋常では無い量の放射能によって汚染され、東京は死の街と化した。

 

 このゴジラの末期が昇華されたものが、ゴジラの最終宝具、その名を『赤竜葬送曲・炉心融解(メルトダウン)』という。

 その効果は単純で、敏捷と幸運を除くゴジラのステータスを限界まで上昇させるというものだ。

 ただでさえ歯が立たない堅牢な表皮が耐久値EXランクの頑強さを得るだけではなく、数百度の高温に熱せられているため、低級のサーヴァントであればその皮膚に触れるだけで火傷は免れない。

 さらに、不滅のゴジラ細胞(イモータル・セル)もランクが上がり、これによって再生能力もさらに向上した。傷を負っても瞬時に治癒するため、一撃で霊核を破壊されない限りはまず消滅することはないといってもいいだろう。

 サーヴァントと化したことで生前よりも弱体化している今のゴジラでも、EXランクの耐久とこの宝具の効力があれば唯一ゴジラを葬りうる兵器『オキシジェン・デストロイヤー』にも耐えることができるのだから。

 生前同様怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)も強化されている。その温度は数百万度に達し、威力は評価規格外のレベルである。

 メルトダウンの寸前にはエネルギーを完全に制御できなくなり、背びれからも自然に体内放射となって怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が漏れ出し、意図していなくても口から怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が溢れるようになる。

 しかし、当然のことであるが、この強化には生前と同様のデメリットが発生する。心臓部の暴走により、核爆発するリスクを孕むのである。

 幸いにも、無頼コンビの撃ちこんだカドミウム弾頭のミサイルの効果によってゴジラの心臓部の暴走は止められている。しかし、心臓部の温度はこの宝具の発動と同時に900℃にまで跳ね上がっており、既に冷却が間に合わないレベルの高熱になっていた。

 何もしなくてもこの宝具の発動後は一日平均50℃から60℃ゴジラの体温は上昇し、ゴジラが攻撃などの刺激を受けたりすれば、さらにゴジラの体温は上がる。ゴジラの体温が1200℃に達した瞬間、ゴジラは生前同様にメルトダウンし、周囲に放射能を撒き散らして水素爆発を起こしながら融けていくのである。

 

 セブンも、モスラも、マスター達も自衛隊も、誰もがこの事実を知る由も無かったことは、かえって幸せだったのかもしれない。彼らには、迫り来る絶望を回避する手段がメルトダウン前にゴジラを完全に消滅させるという不可能に近いものしか残されていなかったのだから。

 

 

 

 

 

 ――間桐雁夜は、薄れ行く意識の中で赤い龍を見た。

 

 彼に残された令呪を全て解放した瞬間、雁夜の中で蟲がのたうちまわった。まるで水面に落ちた羽虫のように激しく身体を捩り、夏の終わりに道路に転がっている蝉の断末魔のような悲痛な声をあげている。

 怪獣王が最終宝具の解放と同時に自己のエネルギーの補充として必要とした膨大な魔力は、令呪と雁夜の有する全ての魔力をもってしてもなお足りなかった。これまでのサーヴァントとの戦いで相当の魔力を消費したため、原発巡りをして溜め込んだ自前の魔力も半分以下に減少している。雁夜の身を蝕むことで刻印虫が生み出す魔力を加算しても、まだ僅かに足りない。

 怪獣王は容赦なく刻印虫が生存のために必要とする魔力すら徴収した。魔力の枯渇した蟲たちは今、雁夜の身体を抉りながら断末魔をあげているのだ。

 身体の中で暴れまわる蟲たちの痛みは、肉をかき回されている雁夜の痛みにもなる。しかし、今の雁夜は痛みも、苦痛も、疲労も全て感じない。身体が脳に伝える感覚は痛い、苦しい、辛いのどれかしかない。

 それにもかかわらず、雁夜は笑っていた。目の前で苦しげな咆哮をした赤い龍を見上げ、心からの歓喜に身を震わせていた。

「そうだ……殺せ!!焼き尽くせ!!街ごと全てを殺せばいい!!やつらに報いを与えるんだ!!」

 雁夜にとって、目の前の龍は自分の願いを叶えてくれる存在に他ならなかった。目の前の龍が作り出す、破壊が、死が、絶望が雁夜の中の負の感情をさらに湧き立たせる。

 雁夜自身の身体は既に限界を超えている。1年足らずで間桐の魔術師として、聖杯戦争のマスターとして最低限の実力を手に入れた雁夜は、代償としてその命を削っていた。聖杯戦争の開幕時点での余命は一ヶ月。雁夜は刻印虫が雁夜の肉体を保つための魔力を供給し続けられている間しかいきられない身体になっていた。

 刻印虫が喰らう肉が尽き、刻印虫から供給される魔力が尽きた時が雁夜の死期となる。そして、今、刻印虫すら生きられぬほどに魔力を吸い上げられた雁夜は死の淵に立っていた。

 しかし、死の淵に立っているのにも雁夜は既に自分の肉体のこととか、自分が死んだ後のこと、自分が参戦した動機である初恋の女性の娘のことも全く考えていなかった。彼の中に存在するのは、ゴジラに感化されたことで増幅された憎悪だけだ。

 もはやその対象を選ばなくなりつつある憎悪、怨嗟と、微かな痛み、それが雁夜という外面を被っているだけ。それが今この場所で狂ったように高笑いしている間桐雁夜という人のかたちをしたものの正体だった。

 故に、体内の刻印虫が死に絶え、身体から久しぶりに痛みが失われたことにも彼は気がつかなかった。死にかけの身体を支えてきた魔力の枯渇により、雁夜の身体はもう死んでいた。しかし、幸か不幸か憎悪と怨嗟に狂った彼は、自分の意識が薄れゆくことすら自覚することもない。

 雁夜は高笑いを浮かべながら倒れた。そして、間桐雁夜は聖杯戦争に参加した理由すら忘れたまま、誰に気づかれることもなく永遠の眠りについた。

 

 

 

 

 

 セブンは、後ろから立ち昇る凄まじい熱気にあてられ、背後を振り返って絶句した。

 先ほど倒したはずのゴジラが、身体をまるで火山からあふれ出る溶岩のように赤く染め、蒸気を吹き上げながら立ち上がっていたのだ。ゴジラが一歩踏み出すごとに地面は溶け出し、足跡には焼き焦げたアスファルトとコンクリートの残骸のみが残る。

 ゴジラは全身から熱気を発しながらまるで胸を締め付けるような激痛に喘ぐかのように痛々しい咆哮をあげる。ゴジラの大気を焼き尽くす烈火の如き怒りと、身体の底から震え上がらせる狂気の篭った咆哮に流石のセブンも威圧される。

 

 ――何が起こっている!?

 

 セブンは討ち果たしたはずのゴジラの復活に、そして何よりも赤く発光し凄まじい熱気を放つ身体に驚きを隠せない。しかし、セブンもかつてはたった一人で地球を守り抜いた戦士だ。すぐに思考を切り替え、冷静に目の前の光景を分析する。

 まず、最初の疑問、『どうして復活したのか』に対する答えはセブンもすぐに分かった。ゴジラの身体を観察してみると、先ほどアイスラッガーが刻んだ大きな傷跡も、闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)によって穿たれたうなじの穴もほぼ完治している。よく見なければ分からない傷跡くらいしか残っていない。どうやらゴジラの再生能力が急激に高まっているようだ。

 この国の戦闘機が撃ちこんだミサイルに搭載されていた何かによって弱体化させられていたステータスも、元に戻るどころか急激に上昇している。パラメーターはDランクの幸運値と敏捷を除いて全て評価規格外(EX)となっており、おそらくこの影響で宝具かスキルと思しきあの驚異的な再生能力がさらに強化されているのだろう。

 次の疑問は、『何故これほどまでに強化されたのか』である。令呪か宝具、又はスキルのいずれかが候補として考えられるが、聖杯から与えられた知識等を元に考えると、おそらく令呪ということはないはずだ。令呪はサーヴァントの強化にも使えるが、姿形を大きく変えることはできないからである。

 スキルにしても、変身している点が気になる。となると、まず間違いなく宝具の効果と判断していいだろう。ここからは推測になるが、ゴジラは生前、さらに一段階進化した姿が存在していたか、一時的にパワーアップする能力を有していた可能性がある。それらの能力が宝具として昇化されたとすれば辻褄があうのだ。

 成長によって姿形が変わり、戦闘能力が急上昇した怪獣と交戦した経験はセブンにも少なからず存在する。例えば、元光の国の戦士であったベリアルも怪獣墓場に漂う怪獣たちの魂を吸収してベリュドラへと変貌していたし、Uキラーザウルスも封印から解けたときにはUキラーザウルス・ネオに進化していた。

 一時的なパワーアップ形態を有する怪獣と交戦した経験はセブンにもないが、彼の後輩にはそのような能力を有する怪獣と交戦したものもいる。

 また、彼の後輩、ウルトラマンメビウスは「メビウスブレイブ」、「メビウスバーニングブレイブ」、「メビウスフェニックスブレイブ」といったパワーアップ形態を有しているし、彼の息子のウルトラマンゼロにも「シャイニングウルトラマンゼロ」というパワーアップ形態がある。

 ゴジラの様子を観察するに、ゴジラの体型などには大きな変化はなく、全身の発光と異常なまでの熱量以外には変わった点はない。進化にしては変化が小さすぎるため、セブンは長年の経験からこれは彼の後輩や息子が有するパワーアップ形態に近いものだと推察した。

 そして、最後に浮かんだのは『この形態は如何なる能力を有しているのか』という疑問だ。

 ステータスの向上、常軌を逸した再生能力から判断するに、あの強化形態は身体機能と宝具の威力の向上に繋がっていると考えて間違いない。だが、セブンの戦士としての勘が先ほどから狂ったかのように激しく警鐘を鳴らし続けている。

 ウルトラマンベリアルと対峙した時にも匹敵する――いや、下手をすれば上回るクラスの危機感。セブンは戦士としての勘と経験が鳴らしている警鐘から、この強化形態は単純な身体機能と宝具の威力の向上だけではなく、さらに新しい能力を有している可能性があると判断していた。

 ゴジラが背びれを赤く発光させる。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)の発射の前触れを見たセブンは即座に『使役されし大怪獣(カプセル・モンスターズ)』たちに怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を回避するように指示する。

 そして、ゴジラが怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を吐き出す。標的となったのは忠実なる俊足の戦士(アギラ)だった。俊足を活かして避けようとした忠実なる俊足の戦士(アギラ)だったが、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)は逃げる忠実なる俊足の戦士(アギラ)を追いかけるようにして飲み込んだ。

 ゴジラの口から溢れた怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)は、先ほどの人魂のような青白い炎から、地獄の炎を思わせる紅蓮の炎へと変貌していた。紅蓮の炎の奔流はまるで凶暴な大蛇が獲物を締め付けるかのごとく、忠実なる俊足の戦士(アギラ)を包み、断末魔の咆哮すら残さずに焼き尽くした。

 怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が途切れるころには、忠実なる俊足の戦士(アギラ)がいたはずの場所は一面火山の火口のような風景に様変わりしていた。これまでとは比べ物にならない怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)の威力にセブンも戦慄する。

 ――まさか、これほどまでとは……

 ゴジラの宝具である怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が強化されていることは、セブンも想定済みだった。しかし、ゴジラの熱線の威力は想定を遥かに超えるものになっていた。

 一撃喰らえば確実に致命傷だ。口から放つ熱線でこの威力なのだから、近接戦闘で使用していた身体中から熱線のエネルギーを放射する技の威力も確実に上がっているはずだ。そちらも、当たり所が悪ければ一撃で致命傷となりうるだろう。

 しかし、このような状況下でありながら、セブンは既に一縷の希望を見出していた。それは、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を放ったゴジラの口にできた火傷である。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を放った際に口から漏れたエネルギーがゴジラの口内を傷つけていた。異常なほどのゴジラの回復能力によって口内の火傷は瞬く間に完治していたが、セブンの目は誤魔化せない。

 これは、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)がゴジラにとっても耐えられないほどに強化されているということを意味する。そして、あの全身が発光してからというものの、ゴジラの咆哮には狂気の中に悲鳴と思しき色が混じっていた。

 サーヴァントに凶化の属性を付与した場合に理性の喪失と引き換えにパラメーターの大幅な上昇が得られるように、強化には代償が必ず必要だ。代償は魔力だったり回数制限だったりと色々あるが、とにかく、ゴジラの場合もこれだけの圧倒的なパワーアップを成し遂げた以上、それなりの条件は絶対に存在するはずである。

 セブンはその条件にも心当たりがあった。ゴジラの身体を巡る溢れんばかりのエネルギーの流れが、彼の知る後輩のある必殺技のそれによく似ていていたからである。

 その後輩の名はウルトラマンタロウ。そして、必殺技は自らの身体にエネルギーを充填させ、自爆とともに炸裂させる「ウルトラダイナマイト」だ。ただ、ウルトラマンタロウと違い、ゴジラは自らの身体に充填させたエネルギーを宝具の強化やステータスの向上に使用しているのだろう。

 そうすると、弱点も「ウルトラダイナマイト」とほぼ同様と見ていいだろう。この宝具の使用後はゴジラはエネルギーを使い果たして消耗すること、そして、ウルトラ心臓を持つタロウとは違い、自分の身体を流れるエネルギーと身体強化に自分の身体が耐えられずにダメージを蓄積してしまうことがこの宝具のデメリットと見て間違いないはずだ。

 この分析に基づいて考えれば、対処法を導き出すこともさほど難しいことではない。単純に、エネルギーを消耗しつくすまで待てばいいのだ。

 このパワーアップ能力と思しき宝具がゴジラにとって諸刃の剣だ。使えば使うほどにエネルギーを消耗し、身体はボロボロになる。ゴジラの怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が直撃すれば致命傷という危険もあるが、モスラと共闘して撹乱する戦術を取れば時間を稼ぐことぐらいなら不可能ではないとセブンは考えた。

 

 ――誰もが必死に生きているのに、戦っているのに、私だけここで挫けていられるか!!そこに勝機があるのなら、私はそれを掴み取るまでのこと!!

 

 セブンは己に喝を入れて、『使役されし大怪獣(カプセル・モンスターズ)』と共にゴジラと相対した。

 

 

 ここに、聖杯戦争はクライマックスを迎えつつあった。




おじさん、死に際までザックリ省略されました。まぁ、ぶっちゃけた話、マスター勢が戦場と化して混乱する冬木の中で一人の冴えない男を見つけるなんて無理ゲーなんで、事故死か自滅以外におじさんが死ぬ可能性は無いに等しいんですがね。
それに、基本 ゴジラの尊厳死>>超えられない壁>>おじさんの孤独死 ですから。


因みに、拙作のゴジラはVSシリーズとGMKの能力融合個体ですので、厳密にはVSシリーズの個体でもGMKの個体でもありません。
冒頭のゴジラの生前も、VSシリーズとよく似た、それでいてちょっと違う平行世界におけるゴジラの結末なのです。ですから、VSデストロイアの設定と異なる点も多少あります。
つまり、このゴジラは映画とかとは違う、ジュニアとかがいない平行世界で大暴れして、メルトダウンで東京を死の街にして死んでいったゴジラなのです。
平行世界の数あるゴジラのうち、コイツが召喚されたのは神のイタズラか、おじさんの無自覚な狂気のせいでしょう。


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最後の希望、モスラ?

完結までは、最短で4、5話くらいかかりそうです。

本編の後ろに、おまけのネタ予告を載せています。愉しんでいってください。


「これは一体……」

 先ほどまで歓喜の渦に包まれていた護衛艦隊旗艦「くらま」のCICは、一転して御通夜のような暗い空気に支配されていた。多くの犠牲を払って手に入れたはずの勝利が泡と消え、代わりに現れたのは絶望を具現化した底知れぬ恐怖だった。

 夜が明けて、次第に山際から白い光が漏れてくる中でも赤く発光するゴジラの姿は、モニター越しにはっきりと見えた。蒸気を吹き上げ、燃え盛る炎のような光を発する黒き巨獣の姿に、立花も息を呑む。

 ゴジラが熱線を吐く。煉獄の赤き炎が地面を舐め、その軌跡に沿うようにキノコ雲が乱立する。CICのモニターに映る景色は、赤い炎と黒煙に包まれていた。

「戦車大隊、損耗70%を超えました!!」

「ゴジラ、深山町に侵攻します!!」

 CICに次々と送られてくる知らせは、どれも凶報だった。ゴジラに再度攻撃をしかけた戦車大隊は、先ほどとは比べ物にならないほど強力な熱線の一撃で壊滅した。熱線の直撃を受けた戦車の末路は言うまでもないが、熱線によって生じた爆発や熱といった余波ですら、戦車を行動不能にするには十分すぎる威力があったのである。

「……司令部より緊急信!!『護衛艦隊は、可能な限りゴジラの注意を引き付けられたし』との命令です!!」

 立花はゴジラの姿を映すモニターをじっと見つめる。

 40年ほど前、初めて東京を襲ったゴジラの姿が脳裏に蘇る。親とはぐれ、泣きながら炎を背にただ人の流れにまかせてひたすら逃げたあの運命の日の夜のことだ。街と人を残さず焼き尽くさんと燃え盛る炎に照らされた、忌むべき巨獣がそこにいた。

 そして今、立花の原点とも言うべき光景が再現されている。モニターの先にある炎の中に、立花はかつての自分を見た気がした。

「立花海将?」

 モニターを真っ直ぐ見つめて佇む立花の姿に、「くらま」の崎田艦長は怪訝な表情を浮かべる。しかし、立花は崎田の視線を気にも留めることなく静かに双眼鏡を下ろし、代わりにマイクを手に取った。

「……各艦に告ぐ。対地戦闘用意。距離を詰めつつ、主砲でゴジラを引きつける」

 立花が先ほどまでのどこか遠くを見るかのような表情から一変していた。一切躊躇を見せずに力強い声で発した命令に崎田は一瞬たじろぐも、すぐに復唱した。崎田も確実にゴジラの熱線の的になる近距離砲戦に対する恐ろしさがないわけではないが、立花の全てを覚悟した歴戦の将のような堂々たる態度を前に、気後れしてはいられなかった。

「単装速射砲、準備!!」

 崎田の命令を、砲雷科の士官が復唱する。

「単装速射砲準備!!」

『デジグ、SCF1』

 くらまの73式54口径5インチ単装速射砲に続くように、こんごうのオットー・メララ127mm54口径単装速射砲、そしてまつゆき等のオットー・メララ62口径76ミリ速射砲が旋回し、仰角をかける。

「撃ち方はじめ!!」

「用意……撃てぇ!!」

 砲雷長の号令で、射撃員がトリガーを引いた。

 「くらま」の艦首に二門設置されている73式54口径5インチ単装速射砲は、一分間に40発の連続射撃が可能なアメリカ海軍開発の速射砲だ。二門の主砲は射撃管制装置によって精確に目標を捕捉する。

 祭囃子の小太鼓のような小気味良いテンポで発砲音が連続する。間髪いれずに護衛艦隊の各艦も主砲の単装速射砲を発射し、闇が払われつつある日本海には絶え間なく発砲音が響いている。

「各艦、射撃を開始しました」

 2門の主砲の砲撃の衝撃が断続的に響くCICの中で、立花は静かに闘志を燃やしながらSH-60J(シーホーク)から送られてくる光学映像を食い入るように見つめていた。

 直後、モニターの中に映るゴジラの姿が赤い閃光と黒煙に包まれる。

 現代の軍艦の主砲は、破壊力だけで言えば第二次世界大戦時の駆逐艦や軽巡洋艦の主砲のそれとさほど変わらない貧弱なものだ。雨霰と畳み掛けてくるハープーンと88式地対艦誘導弾(SSM-1)の嵐を無傷で耐えて見せたゴジラに対して効果があるはずがない。

 しかし、一分間に400発以上の砲弾を浴びせられたならば、ダメージはなくとも衝撃はとてつもないものとなる。ゴジラにとって速射砲の砲撃の1発1発は軽いジャブみたいなものだが、今の状況は一秒間に6発以上のジャブを60秒間も連続して喰らわされているようなものだ。

 流石のゴジラも圧倒的な手数のジャブを全身に浴びてよろめき、立っていることができずに倒れこんだ。それを見た立花は即座に艦隊に砲撃をやめるように命令する。

「主砲、撃ち方やめ!!」

「主砲、撃ち方やめ!!」

 いくら連続射撃が可能とはいえ、連続射撃をすれば砲身の過熱は避けられない。ゴジラの注意を引きつけるためには、ある程度の休止を挟むことで必要なときに全力で主砲弾を叩き込めるようにしておかなければならないと立花は考えていた。

 倒れこんだゴジラに、セブンとモスラが光線を畳み込んでいる様子が見える。怪獣との共闘など、つい先ほどまでは全く考えていなかった。ゴジラという脅威があったとはいえ、かつて東京を襲撃した前科のあるモスラとこうして肩を並べて戦うことは色々と考えさせられるものがあると立花は思っていた。

 しかし、立花の思考は、ゴジラから溢れ出した鮮やかな赤い閃光と、その数秒後にくらまを襲った大気の振るえによって遮られた。

 

 

 

 ゴジラが横倒しになりながらも放った熱線は心優しき金属の戦士(ウィンダム)に直撃し、心優しき金属の戦士(ウィンダム)の左半身をごっそりと抉り取った。心優しき金属の戦士(ウィンダム)は断末魔の咆哮と共に消滅した。

 そして、ゴジラはモスラとセブンの放つビームを受けながら平然と立ち上がる。

 勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)が仲間の敵討ちをせんと突進するが、ゴジラは勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)の突進を正面から受け止め、鋭い爪を勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)の角に振り下ろした。

 勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)の角はまるで枯れ木のようにあっさりと砕かれ、顔面にまで深い傷を刻まれた勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)は悲鳴をあげながらよろめく。さらにゴジラは勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)の顔面に至近距離から怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を叩きこむ。紅蓮の渦は勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)の上半身を一撃で消滅させた。

 崩れ落ち上半身に続いて消滅する勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)の下半身。勇敢なる野牛の戦士(ミクラス)だったエーテルの粒子が舞う中、ゴジラは勝利を得たことを誇るかのような大きな雄叫びをあげた。

 まさに、天下無双、最強無敵。怪獣王は超越種としてそこに君臨していた。

 

「嘘だろ?あんな切り札があったなんて……これじゃ勝ち目なんてないじゃないか」

 ライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットは唖然としていた。

 自身のサーヴァントの最強宝具、一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)はこの国の怪獣の中ではゴジラに次ぐ知名度補正が受けられる大怪獣だ。遠坂が召喚したキングギドラ(アーチャー)を打ち倒すほどの実力もある。

 そして、今モスラと共に戦っている彼の仲間、ウルトラセブン。彼も、この国ではゴジラと並ぶほどの知名度補正が受けられる大英雄だ。怪獣や異星人に対する豊富な戦闘経験と洗練された戦闘スタイルを誇る、対怪獣戦闘のスペシャリストと言っても過言ではない。

 自衛隊の助けがあったとはいえ、一時は二体の共闘によってゴジラを袈裟斬りにし、うなじに大穴を穿つほどの重傷を負わせることに成功した。ウェイバーもその時は勝利を確信していた。

 しかし、ウェイバーの予想は容易く覆される。重傷を負って地に伏せたはずのゴジラが、その身をマグマのような灼熱の赤に発光させながら蘇ったのである。復活したゴジラの力は圧倒的だった。

 評価規格外の耐久を有したゴジラには、Aランクを超える対城宝具でなければ傷を負わせることすら不可能だ。しかも、超活性した再生能力はA++ランクの対城宝具によってできたかすり傷を瞬きする間に完治させてしまう。

 怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)の威力も数倍に膨れ上がり、かするだけでも再起は叶わないかもしれないレベルとなっている。もはや、攻守ともにゴジラには一部の隙もない。

 全てを知る魔術師達は、最後の希望が潰えたことによって底知れぬ絶望を味わっていた。

 

 因みに、顔には出していないが、この中で一番状況に絶望しているのはウェイバーや璃正ではなく、セイバーのマスターだった衛宮切嗣であった。彼はゴジラが血しぶきをあげて倒れ伏したとき、ゴジラの敗北を一度は確信した。そして同時に、聖杯戦争の勝利者になれることも確信していた。

 ウェイバーを人質にして、ライダーを強引にマスター変えさせれば切嗣の願いである「恒久的世界平和」を叶えることができるからだ。懸念は言峰綺礼とルーラーだったが、言峰綺礼には自分が答えを持っているとかそれらしいことを言って時間を稼げばいいし、ルーラーに対しても聖杯戦争の勝者となってしまえば、願いを叶える権利は自動的に勝者に与えられるため、妨害は入らないと考えていた。

 ゴジラの死んだ場所で小聖杯を探し出して願いを捧げればそれだけで衛宮切嗣は、いや、人類は石器時代からのしがらみから完全に解放され、真の勝利者となるはずだった。

 しかし、ゴジラは復活し、切嗣が密かに抱いた野望も一瞬で潰えた。おまけに、ゴジラはもはやルーラーとライダーの二人がかりでも勝機が全く見えないほどに強化されている。ゴジラが聖杯戦争の唯一の勝者となるのは時間の問題だった。

 ゴジラが聖杯にかけている願いなど切嗣には想像もつかないものであったが、ゴジラが願いをかなえればきっとろくでもないことになるということは切嗣も理解している。自分に何も出来ず、自分が天秤にかけて棄ててきた命が何の意味のないものになるという事実は、天秤の量り手であろうとした彼の信念を折るには十分に残酷な事実だった。

 

「諦めてんじゃないよ、バカガキ」

 絶望し膝を折ったウェイバーの頭にベルベラが乗り、足蹴にしながら彼を叱咤する。

「けど、どうするんだよ!?モスラの攻撃だって効かないし、ルーラーだって手も足もでないじゃないか!!ルーラーが召喚したサーヴァントだって一瞬でみんなやられた!!」

「喚いて、勝手に絶望して……そんな生産性のないことやってる暇があるなら、その容積の割に愚鈍な脳みそをもう少し使って足掻きな!!」

 ベルベラは生意気なことを言ったウェイバーの髪の毛を引っ張り、彼に悲鳴をあげさせる。

「べ、ベルベラ!!その辺で……」

「そうよ、彼にあたってもしょうがないことじゃない」

「モル!!ロラ!!甘いこと言ってんじゃないよ!!」

 ベルベラの剣幕に、止めに入ろうとしたモルとロラも気圧される。

「いいかい。あんな憎悪と怨嗟のバケモノが聖杯を取ってみろ。絶対にろくでもない願いを叶えるに決まってるだろう。キングギドラは生態系の破壊だけだったけど、コイツの場合は生態系の破壊どころじゃなくて、最悪この星そのものを滅ぼす可能性があるんだ。そんなふざけた最悪の事態が目の前に迫ってるんだよ。絶望している暇なんて、アタシ達には与えられていないことが分からないのかい?」

 星が滅ぶというのは、ベルベラの直感だ。だが、あのゴジラの恐ろしさを見せ付けられればベルベラの考えが杞憂だとはモルとロラにも、そしてほかの元マスターたちにも全く思えなかった。

「最後まで諦めるんじゃないよ。最後まで足掻いてみせな。アタシ達にはまだ『()()()』があるんだから」

 その言葉に、ウェイバーは思い出した。召喚した日に教えてもらった『エリアス三姉妹』の本当の宝具のことを。

「そうか!!アレを使えば、確かにゴジラに勝てるかもしれない!!」

 しかし、ウェイバーは同時に、その宝具の有する最悪のデメリットを思い出す。ウェイバーの顔が曇ったのを見たベルベラは、ウェイバーが考えていることを精確に理解した。

「なんだ、まさかリスクにしり込みしてんのかい。情けない、アンタも覚悟をいい加減に決めな。だからお前はガキなんだよ」

「でも、アレを使ったら……」

「アタシ達は九分九厘死ぬね。だけど、それがどうした」

 あっけらかんとした態度で自分たちの消滅を肯定したベルベラの言葉に、聞き耳をたてていたほかのマスターや監督役も驚きを隠せない。サーヴァントは、願いがあるから聖杯からの召喚に応えて現界するものであり、願いを叶えられず消滅することを当然のように受け入れていることは通常考えにくいことだった。

「お前は乳飲み子かい?アタシたちが消えても後は自分の力で何とかするとか、そういう台詞がいえないところが情けないよ」

 俯いたウェイバーを一瞥してウェイバーの頭から飛び降りたベルベラは、次いでモルとロラに視線を向ける。

「モル、ロラ。あんた達には聞くまでもないね?」

 頷く妹達。ベルベラはそれを確認すると、ウェイバーに向き直った。

「これが最後だ。一度くらいは男を見せな、()()()()()()()()()()

 ウェイバーが顔を上げる。初めて、ベルベラがウェイバーを『マスター』を呼んだ。その意味が分からないほどウェイバーは愚かではない。

「アンタにしかできないことがあるんだ。頼りにしてるよ」

 ベルベラが小さな手でウェイバーの令呪が刻まれた右手の指を握った。




<この先は、ネタ予告『やめて!!ルーマニア財務相のライフはもうゼロよ!!』です>
<本編とこの先のネタ予告は、一切合切!金輪際!まったくもって関係ない!ということを前提に愉しんでください>


 かつて、極東の霊地、冬木の街では60年ごとに7人の魔術師と英霊が万能の願望器をめぐり戦う聖杯戦争と呼ばれる儀式が執り行われていた。

 しかし、大東亜戦争中に大日本帝国陸軍に不死身の心臓を提供したとある魔術師が、その対価として帝国陸軍の協力を受けて聖杯戦争の根幹を成す魔術礼装、大聖杯を強奪し、冬木の聖杯戦争には終止符が打たれてしまう。

 そして、それから60年の月日が流れたある日、大聖杯を略取した魔術師が率いるユグドミレニア一族は突如魔術協会からの離反と独立を高らかに告げ、魔術協会との事実上の戦争状態に突入した。

 魔術協会は封印指定執行者を筆頭とした討伐部隊をユグドミレニアの本拠地であるトゥリファスに送り込むが、『怪獣たちの軍勢』によって討伐舞台は全滅の憂き目にあう。

 ユグドミレニアが怪獣をサーヴァントとして召喚したことは疑いようもなかった。運よく聖杯の予備システムを起動させることに成功した魔術協会は、ユグドミレニアに対抗するべくこちらも超級の怪獣をサーヴァントとして召喚して聖杯戦争に参戦しようと目論む。

 そして、赤と黒の陣営、7騎と7騎のサーヴァントがぶつかり合う前代未聞の戦争の審判として、さらに1騎のサーヴァント、裁定者(ルーラー)が召喚される。

 裁定者(ルーラー)として召喚された、地球を闇から救った伝説の光の巨人。人であり光である彼は、光として臨まれた裁定者の使命と、自分が人としてなすべきことの矛盾に苦悩しながら、聖杯戦争の舞台となるトゥリファスに赴いた。

 計14体の怪獣と異星人。そして、光の巨人が集う。

 ここに、外典の聖杯戦争――否、聖杯大戦が勃発した。




《多分、こんなのが召喚される予定です》

<>は出典
()はマスター
「」は作者のコメント


“赤”陣営
サーヴァント

セイバー  ……ザムシャー<ウルトラマンメビウス>
(獅子劫界離)
「円谷世界のセイバーといったら、コイツを出さないわけにはいかないでしょう。ツンデレなところもいいね。多分、ヒーローショーで見せた醜態から察するに、フィオレさんに惚れてキャラ崩壊します」

ランサー  ……ジーダス<小さき勇者たち~ガメラ~>
(言峰士郎)
「バランとバルゴンとジラースを一まとめにしただけのトカゲ。はっきり聞こう、この聖杯大戦を生き残れる実力がコイツにあると思うかい?」

アーチャー ……ゼットン<ウルトラマン>
(言峰士郎)
「強い(確信)。初代ですからね。あれだけシンプルでデザインでありながら、あれほどの威圧感を持つ怪獣もそういません。初期の円谷怪獣のデザインは本当に秀逸ですよね」

ライダー  ……バッカクーン<ウルトラマンネオス>
(言峰士郎)
「寄生ってのもライダーですよね。サイクロメトラと迷いましたが、キノコの方が恐ろしさがますのでコイツになりました。現在のところ、偶々日本の静岡県で発見されたシーリザー<ウルトラマンティガ>に寄生しています」

アサシン  ……ツルク星人<ウルトラマンレオ>
(言峰士郎)
「怖い(確信)コイツは円谷怪獣の中でもレアなマジでアサシンやってるヤツです。赤のセイバーとは絶望的なまでに相性は悪いですが」

キャスター ……エタルガー<ウルトラマンギンガS 決戦!ウルトラ10勇士!!>
(言峰士郎)
「士郎とは目的が相反しないから上手くやれそうで、城持ってて一見するとラスボスっぽい感じがないわけではないという理由で選びました。思い入れは特になし」

バーサーカー……アーストロン<帰ってきたウルトラマン>
(言峰士郎)
「帰ってきたかませ犬」



“黒”陣営

セイバー  ……ファイヤーモンス<ウルトラマンA>
(ゴルド・ムジーク・ユグドミレニア)
「地味にエースを一度倒している強敵なんですがね……あんまりその強さが知られていない悲しいヤツです。炎の剣持ってますからセイバーになりました」

ランサー  ……ウルトラマンベリアル<大怪獣バトルウルトラ銀河伝説THE MOVIE他>
(ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア)
「めちゃ強い(確信)。だけど、何故か閣下に不幸の星が見えます。ランサーの呪いはヤバイ」

アーチャー ……トト<小さき勇者たち~ガメラ~>
(フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア)
「フィオレといっしょだと和みますね。可愛い系怪獣にしようということで、コイツになりました」

ライダー  ……ミジー星人<ウルトラマンダイナ>
(ロシェ・フレイン・ユグドミレニア)
「地味に凄い科学力でロボットを三人で造り上げた愛すべきバカ三人組(オカマとオッサン)とゴーレム大好き半ズボンショタ……混ぜてはいけない香りがしたので混ぜてみました」

アサシン  ……宇宙細菌ダリー<ウルトラセブン>
(相良豹馬)
「直接戦闘はできないけれども敵に回すと厄介で、さらに性格悪そうなやつらを組ませてみようと考えた結果です。多分、相良はもう操り人形ですね」

キャスター ……魔頭鬼十朗<ウルトラマンガイア>
(セレニケ・アイスコル・ユグドミレニア)
「魔術師としての系統や性格が合いそうな気がしました。ガンQカワイイ」

バーサーカー……サンダ<フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ>
(カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア)
「フランケンシュタイン繋がりです」


ルーラー  ……ウルトラマンティガ<ウルトラマンティガ>
「筆者の一番大好きなウルトラマンです。本編では色々な都合からルーラーの座をセブンに譲り渡したので、こちらで再起を図ります。グリッターティガになれれば、ベリアル閣下もエタルガーも倒せるでしょう。なれればの話ですけど」




ネタの方に対する感想も、本編に対する感想と合わせてお待ちしています!!


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皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ

多分、最後の自衛隊のターンです。


 自分に付きまとっていた『使役されし大怪獣(カプセル・モンスターズ)』を圧倒的な力で焼き殺したゴジラは、次なる標的として沖合いから絶え間ない砲撃を浴びせてきた護衛艦群を選択した。

 先ほどの白濁から一転、充血して真っ赤に染まったゴジラの眼が海に浮かぶ灰色の船に向けられ、背びれが激しく発光する。

「ヤツがこっちをむいている!!」

 崎田は背びれを光らせるゴジラを見てうろたえる。だが、立花はまったく動じることなく瞬時に対応する。

「各艦、チャフを散布しろ!!」

「チャ、チャフですか!?」

「急げ!!時間がない!!」

 チャフは、電波を反射する性質のある金属箔を散布することによって、敵のミサイルなどのレーダーによる探知を妨害する装置である。電波ホーミング誘導のミサイルなどに対しては効果を発揮するが、目視でこちらを捕捉する巨大生物には殆ど役に立たない装備だ。

 それを散布しろという立花の意図が理解できずに崎田は思わず聞き返したが、立花の一喝を受けて反射的に命令を復唱した。

「りょ、了解!!チャフ用意!!」

 ゴジラの口から紅蓮の炎が吐き出される直前に、護衛艦隊の各艦はチャフを散布した。12隻の護衛艦から一斉に放たれた大量の金属箔は、東の山から姿を見せた朝日に照らされて光を乱反射する。

 金属箔に反射された朝日は、艦隊を光の靄で包む。ゴジラの視界からも、艦隊の姿はほんの一瞬の間だけ光の靄によって隠された。

 そして、その一瞬が艦隊の運命を分けた。熱線の照準を定めていたゴジラは、光の靄によって艦隊の位置を精確に把握することができないままに熱線を放った。結果、ゴジラの熱線は最初の狙いから僅かにそれることとなり、艦隊を丸ごと薙ぎ払うことはできなかった。

 しかし、ギリギリで軌道を逸らすことに成功したとはいえ、尋常ではない熱量と威力を伴った紅蓮の奔流が秘めた凄まじい破壊力は多少狙いが逸れただけで凌げるものではなかった。

 副縦陣を組んだ艦隊を平行に薙いだ熱線は第62護衛隊に直撃し、艦橋を一瞬で消滅させる。さらに、紅蓮の奔流は一瞬で海水を蒸発させ、水蒸気爆発を引き起こす。

 

 CICのモニターに映る強烈な閃光が走ったのとほぼそれは同時だった。鼓膜を破らんばかりの大音響と、船そのものが巨人の手で吹き飛ばされたかのごとき衝撃によって立花は一瞬意識が遠のく。しかし、彼の意識は数十秒ほどで隣の崎田艦長の大声によって覚醒させられた。

「損害を報告しろ!!」

「右舷機関砲付近、被弾!!」

「機関室より浸水!!」

「艦橋に爆風が直撃!!航海長が死亡!!」

 次々とCICに寄せられる凶報。だが、凶報はこれだけではなかった。

「こ、こんごう!!轟沈!!……あ、あまつかぜ、しまかぜも!!」

 その時、くらまの船体に轟音が叩きつけられた。巨大な船体がまるで痙攣しているかのように振るえ、乗組員たちを上下左右に振り回した。

 意識が覚醒した立花は、ふらつく身体に喝を入れて立ち上がり、モニターに視線を移す。そして、彼は絶句した。水蒸気爆発によって発生した霧によって不鮮明な視界に、いくつもの赤い炎が揺らいでいたのである。

 松明のように煌々と燃えている艦は、全部で3隻あった。

 まず、その内の一隻であるこんごうは、第二次世界大戦で活躍した高雄型重巡洋艦にも似た山脈を思わせるヴォリュームのある艦橋をもったイージス艦だ。アメリカ海軍以外で初めてイージスシステムを搭載し、大日本帝国海軍で活躍した超弩級戦艦の名を継ぐ護衛艦は、海上自衛隊の誇りでもあった。

 そのこんごうが、沈みつつある。特徴的な形をした艦橋から前甲板にかけては猛獣に喰いちぎられたかのようにゴッソリと削り取られていた。削り取られた箇所からはオレンジ色の火柱が奔騰している。

 被弾箇所から見て、ゴジラの熱線は金剛の前部ⅤLSに搭載されていたスタンダードミサイルやASROC、そしてオットー・メララ54口径127mm単装速射砲の弾薬を直撃したことは間違いない。

 艦の前部から立ち昇っていた火柱は、弾薬庫誘爆が引き起こしたもので、くらまの船体を振るわせるほどの大音響は、艦に搭載された半分の火器に搭載された火薬の誘爆によるものだ。

 その時、原型を保っていたこんごうの後部甲板が破裂したかのように立花には見えた。後部VLSが設置されていたあたりから炎が火山の噴火のように噴出し、朝日を浴びて青さを取り戻しつつあった日本海を炎の色に染める。 

 おそらく、前部VLSや主砲弾の誘爆によって発生した爆風と爆炎は、こんごうの艦内を暴れ周り、数百人の乗組員を飲み込みながら艦後部に達したのだろう。そして、艦内を暴れまわった爆発は艦後部のVLSを覆う装甲に達し、これを破って今度は内部に格納されていたミサイルを飲み込んだ。

 前部と後部で起こった大爆発によって。こんごうの船体は三分割されていた。艦の前部は渦を発生させながら既に海中に没し、今しがた爆発した艦の後部は跡形もない。艦橋の残骸と思しき横たわった建造物だけが海面に姿をとどめている有様だ。

 数秒後、くらまの船体を再度強烈な爆発音が震わせた。立花はそれが目の前で海面に姿を消しつつあるこんごうの断末魔の叫びであるとすぐに理解した。音は光よりも遅いため、くらまに届くまでにタイムラグが存在したのだ。

 さらに、その隣では護衛艦あまつかぜだったものが見える。海面に見えるのは紅蓮の炎に包まれた護衛艦だったものだけで、船体のほぼ全てが水面下にある。僅かに残った残骸は、焼け落ちた平屋を思わせるものだった。

 

 しまかぜも悲惨な末路を辿っていた。艦首が熱線の直撃を受けたせいだろう。艦首から前部甲板にかけて熱線で吹き飛ばされ、その衝撃で転覆して艦底を顕にしている。浸水も深刻な状況に達しているらしく、艦尾を持ち上げて水面下にあるはずの舵やスクリューまでもが曝け出されていた。また、艦内では火災も発生しているらしく、しまかぜの周囲は沸騰しているかのように濛々と水蒸気が立ち昇っている。

 ほかの各艦も多かれ少なかれ損傷を負っているらしく、空には幾条もの黒煙が立ち昇っていた。

『こちら、あまぎり!!ヘリコプター格納庫全壊!!戦闘航行には支障なし!!』

『こちら、はまゆき!!艦首に損傷あり、速度が出せません!!』

 立花は、たった1発の熱線で護衛艦隊の戦力が半分以上削がれたと判定できるほどの被害が出たことに驚くが、まだゴジラの攻撃は終わってはいなかった。

「ゴ、ゴジラの背に発光を視認!!熱線、第2射来ます!!」

 モニター操作員が声を裏返しながら叫んだ。

「総員、衝撃に備えよ!!」

 崎田が大声を張り上げたのと、轟音と衝撃が立花を襲ったタイミングはほぼ同時だった。

 ヘヴィー級のボクサーのアッパーを喰らったかのごとき衝撃によって、鍛えられた立花の身体が宙に浮きかける。衝撃に備えていたこともあって今度は意識を失いかけることはなかった。

 しかし、意識がはっきりしていたことで、立花は衝撃的な光景を見せ付けられることとなった。

 立花の目に飛び込んできたのは、みねゆきの破局だった。

 灼熱の炎のような色をした光の帯は、渦を巻きながらみねゆきを断った。竜骨を焼き切られ、さらに弾薬の誘爆によって艦を引き裂くように火柱が奔騰する。大音響と閃光が収まったときには、かつてのみねゆきの姿はない。焼けた鉄の残骸と水蒸気だけが、そこにみねゆきがいたことを示すものとなっていた。

 悲劇は続く。続いて標的となったのは、はまゆきだった。熱線ははまゆきの艦橋に直撃し、砂山のように一瞬で吹き飛ばした。さらに、熱線は船体そのものを圧倒的な熱量で焼き尽くす。熱線が止んだころには、まるで溶鉱炉で溶かされている最中の鉄くずの塊を思わせる赤熱し、水蒸気を放つ残骸が残るだけであった。

 護衛艦一隻の乗員は、およそ250名から300名程度だ。はまゆき、みねゆき、こんごう、あまつかぜ、しまかぜの5隻で、少なくとも1250人の乗組員がいたことになる。そして、この5隻は轟沈した。生存者は殆どいないと見ていいだろう。小破した各艦の被害を合わせれば、現時点で最低1300人が命を落としていると考えられる。

 くらまの船体に轟沈したみねゆきのものと思われる破片が火の粉を纏いながら降り注ぎ、カンカンと甲高い音を奏でる。立花にはその音が、みねゆきの乗組員たちが助けを求めて船体を必死で叩いているように思えてならなかった。

 立花は掌に爪が食い込んで血が滲むぐらい強く拳を握った。ゴジラに部下を奪われた怒りと、失われた命に対する悲しみ――そして、防人の志を全うすることのできない悔しさが、立花の全身を支配していた。

 日々鍛錬を重ね、どこの海に出しても恥じないほどの力量を養ってきた自慢の部下達が死んでいく。この国を、守るべき国民の生命を脅かすものに蹂躙されて死んでいく。炎に焼かれ、爆風に裂かれ、熱線によって一瞬に消滅させられて死んでいく。

 

 ――無念だっただろうに。

 ――悔しかっただろうに。

 ――苦しかっただろうに。

 

 立花も、海上自衛隊で人生の大半を過ごした船乗りだ。同じ船乗りとして、自衛官として、犠牲になった彼らに対して思うところは少なくない。

「海将……艦隊の戦力は、壊滅しました」

 報告する宮下の声はどこか沈んでおり、怯えも見て取れる。立花が無言でCICを見渡すと、被害報告の喧騒の中で悲愴感が蔓延していた。日々訓練を重ねた強靭な意志を持つ海の防人達でさえ、あの怪物に恐怖し、心が折れかけていたのである。

 ここでの撤退は、敵前逃亡には当たらない。既に艦隊は戦力を失っており、ゴジラに対抗できる武器は6隻の護衛艦が擁する単装速射砲6門だけなのだから。ここで撤退をすることが常道だ。

 ここで退けば我が身は助かるだろう。しかし、それは同時に今も尚冬木で戦い続けている陸上部隊を見捨てることを意味する。友軍を見捨てて逃げた卑怯者になることは彼にとって容認しがたいことである。

 また、無念の内に撤退することはそもそも戦略的な意味がない。ゴジラがウルトラセブンとモスラを打倒し、陸上部隊を蹴散らしてさらに内陸に向かおうとしたときに、攻撃を加えることで進路を誘導できるかもしれない。だが、その場合でも、ゴジラの反撃でこちらは一撃で轟沈だ。しかも、ゴジラの表皮にダメージを与えうる兵器はこちらにはない。

 ならば、ここで自分たちにできる最善の一手は何か――立花はもう腹をくくっていた。

「各艦に通信を繋いでくれ」

 立花の命令に従い、通信を管制しているクルーが艦隊の各館との通信を繋ぐ。

「……我々の戦力は当初の4割を下回っていることは分かっている。どのみち我々の持ちうる兵器ではゴジラを打倒することは不可能だと判断する」

 マイクを手にした立花は淡々と事実を告げた。

「だが!!ゴジラを打倒しうる兵器を持たない我々が、ゴジラを討ち果たすチャンスが今そこにある――いや、今しかチャンスはないんだ。何故かつて東京を襲撃したモスラと、あのウルトラセブンがゴジラと戦ってくれているのかは分からない。ただ、いくつか確実に言えることがある。彼らは我々を守り、戦ってくれる味方で、彼らはゴジラを倒すだけの力がある。そして、我々には彼らを援護するに足る力があるということだ」

 静まり返るCIC。さらに、立花は続ける。

「撤退はしない。艦隊はウルトラセブンとモスラを引き続き援護する。我々はこれより死地に向かう――けれども、国民を守ることが我々の仕事だ。やらなければならない」

 立花がCICを見渡す。先ほどの消沈した空気から、火種が燻る熱が篭る空気へと変わっている。彼らの心には、防人の誇りと使命を守らんとする気勢があった。

 ――許せ、由里。

「これより、護衛艦隊は湾内に突入し、至近距離からの艦砲射撃を開始する!!――旗旒用意、Z、揚げ!」

 立花は心の中で娘に詫び、死地に向かわんとする艦隊を鼓舞するかのように声を張り上げた。

 

 朝日と黒煙に彩られた日本海にZの旗が揚がる。90年ほど前に当時の聯合艦隊旗艦三笠に翻ったそれと同様に、アルファベットのZを意味する信号旗がくらまのマストに翻る。艨艟たちの身体を焼く炎に照らされたZ旗は、彼らの運命を暗示するかのように赤く染められているように見えた。

 

 

 

 

<備考>現在の海上自衛隊の損害

 

撃沈 こんごう あまつかぜ しまかぜ みねゆき はまゆき

 

大破 あまぎり(後部甲板壊滅)

 

中破 くらま

 

小破 さわぎり やまぎり

 

   やまゆき まつゆき さわかぜ 

 




立花准将をもっと出したかった
海上部隊の出番をもっとあげたかった
轟沈描写を書いてみたかった

という欲望から書き上げた閑話に近い1話です。WOWSで轟沈させられまくっているせいですかねぇ?こんなもの書きたいと思ってしまったのは。


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最強の敵、最後の変身

本編もあと少しで終わり……エイプリルフールの没ネタなのに、気づけば一作品として完結までこぎつけるとは思いませんでしたね。


 ゴジラとウルトラセブンの実力差はこの時、既に隔絶したものとなっていた。

 セブンのパンチもキックもゴジラにダメージを与えることはできず、体勢を崩させるのがやっとだ。侵略者切り裂きし正義の刃(アイスラッガー)も皮膚を切り裂くことができず、闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)で穿った傷も一瞬で再生してしまう。

 それに対し、ゴジラの怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)は大幅なパワーアップをとげ、一撃でセブンを消滅させうる威力となっている。

 また、厄介なことに、ゴジラ自身もエネルギーを制御しきれていないらしく、時折せびれからエネルギーが噴出し、ゴジラの背後を強烈な熱で焼き尽くす。これまで豊富な経験によって培われた勘を駆使してゴジラの熱線や体内放射のタイミングを見切ることで回避していたセブンも、間欠泉のように不規則に熱線が噴出するとなると、避けることは困難を極める。

 接近戦を挑んでも効果は無い上に、予期せぬタイミングでの体内放射を喰らうことになりかねず、遠距離でもゴジラの熱線に狙われる。これによって、セブンはほとんどの選択肢を詰まれた状態に等しかった。

 人間もまだ諦めていないのか、時折メーサーと思しき光線がゴジラの顔面目掛けて浴びせられるが、今のゴジラは数十万ボルト程度のメーサーでは蝿が止まったぐらいにしか感じていないらしい。鬱陶しそうに怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を一吹きし、山の陰に隠れているメーサー車を山ごと抉って爆散させる。

 対戦車ヘリコプター部隊も、上空を凪いだ怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)の一撃で八割近くが一度に撃ち落されている。さらに、深山町で発生した火災による上昇気流がヘリコプターの機動を制限し、黒煙が視界を遮る。地上部隊もメーサー部隊も薙ぎ払われ、生き残った部隊が散発的に攻撃をしかけてゴジラの注意を引くことがやっとの状況だ。

 セブンにできることとも、なるべくゴジラの顔面を闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)で狙うことで注意を引きつけ、未遠川を背にして戦うことで、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が新都に着弾するように誘導することぐらいだ。

 既にゴジラは未遠川を渡り、守ろうとした深山町に侵入していた。怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)が深山町に当たらずとも、ゴジラが身体から放射する体内放射が街を焼くことに変わりはない。ゴジラを深山町から押し出すだけの余力がない以上、セブンにできることはできるだけ被害を減らすことしかなかった。

 しかし、セブンにできることはそれだけしかなくても、セブンたちにできることはまだある。ゴジラから人々を守りうる唯一の方法――ゴジラの打倒。それを可能とする力が、彼らには残されていた。

 切り札は、ライダーの宝具『一億三千万年眠りし究極の守護神獣(鎧モスラ)』。そして、切り札で確実にゴジラを葬り去るためにゴジラを可能な限りひきつけ、モスラが宝具を発動する隙をゴジラに突かせないことがセブンに与えられた役割である。ゴジラの注意を引くことしかできなくても、それは勝利のために必要な一つのピースになりうるものだった。

 

 ――頼んだぞ、モスラ。

 

 圧倒的とも言える戦力差を前にしても尚、セブンの心は折れてはいなかった。最後まで諦めず、共に戦っている仲間を信じて戦い続けることの大切さを、どんな絶望的な状況でも、恐怖を飲み込んで前に進もうとする勇気を、多くのウルトラマンたちは地球人に教えられてきた。

 セブンもその一人だ。矛盾を抱え、自らの行いに悩み、時に過ちを犯しながらもそれに真摯に向き合う地球人は、かつてのウルトラの星の民が歩んだその道に非常に似通っており、彼らがたどり着くことができなかった未来を実現しうる可能性を秘めた種族である。

 彼らと共にありたい――地球を去った歴代のウルトラマンたちも、誰もがその想いを抱いていた。

 今は自分たちの後ろを歩いている彼らに対し、恥じることのない背中でありたい。いつか彼らが自分たちと並んだときに、そのことを誇れる在り方でいたい。

 来るその日までの――そして、その日から続く未来の彼らと自分たちのために、ここで情けない姿を晒すわけにはいかない。

 セブンは点滅を始めたビームランプには目もくれず、ひたすらに戦場を駆けてゴジラを釘付けにした。全ては、己の信念と、守るべきこの星の人々のために。

 

 

 

 

 エリアス族の三姉妹が舞を踊る。

 モスラに愛を祈り、モスラに平和を祈り、モスラに繁栄を祈るエリアス族の古より伝わる歌。三姉妹の調が重なり、美しいハーモニーを奏でる。

 緑溢れるこの星を、星に溢れる数え切れぬほどの命の灯火を、何千万年、何十億年と積み重なってきた生命の営みと共に合った星の生命を繋ぐ歌が冬木の地を満たす。

 この星の命を脅かすもののために我が身を省みず戦うモスラの勇気を讃え、この星の全ての命とその営みを平等に慈しむモスラの愛を崇め、この星の数十億年の叡智を授かったモスラの智恵を敬う。

 そして、三姉妹のハーモニーに呼応するかのようにモスラの力が高まっていく。ゴジラの怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)で跡形なく吹き飛ばされたはずの翼が再生し、白銀の身体にエネルギーが満ち溢れていく。

 これこそが、ライダーの――モスラの巫女たる彼女達の有する能力である。

 愛と知恵と勇気の三姉妹(エリアストライアングル)――それは、サーヴァントを分裂させるだけの宝具ではない。エリアス族のモスラの巫女が命を捧げることで、モスラの力を一時的に増大させる能力を有しているのだ。

 片道切符とはいえ、姉妹の一人が命を捧げることでモスラは時を遡る能力を手に入れられるのだから、その能力は非常に強大なものだと言えよう。

 サーヴァントという枠に、そして宝具という枠に当てはめられたことで弱体化しているとはいえ、三姉妹の命を捧げれば魔法の域に至ることであっても不可能ではない。そう、サーヴァントの身でありながら、第五魔法の本質の一端である時間旅行ですら、可能となるのだ。

 英霊となる前、モスラは一度だけその禁忌の技を使用し、過去に渡ったことがある。かつて、キングギドラに手も足も出ずに完敗したモスラは、キングギドラを倒すために一億三千万年前の地球に跳んだ。そして、未だに成熟していない若い頃のキングギドラを討ち取ったのだ。

 

「マスター、後を頼みます。短い間だったけど、私はマスターといっしょに戦えてよかったと思います」

 三姉妹の三女ロラの言葉に、ウェイバーは静かに頷いた。顔をクシャクシャに歪め、大粒の涙を流しながらも彼は真っ直ぐに消えゆく彼女達を見つめ続ける。

 次に、次女のモルが声をかけた。

「ウェイバーさん。貴方なら、きっとこの星の未来を守っていけます」

 本心で言えば、ウェイバーは不安でいっぱいだった。弱音は吐かないのは、彼女達に託されたものを守ろうと虚勢を張っているからにすぎない。しかし、それはモルにはお見通しだったのだろう。モルは優しく微笑みながら続けた。

「大丈夫。貴方には、冷静に周囲の状況を把握し、分析できる力があります。今は、自分の持ちえる力が小さくて無力に思えるかもしれませんが、気にすることはありません。貴方には、人を惹きつける力がある。足りないものは、他所からもってきて埋め合わせるのが魔術師でしょう?……貴方を支えてくれる人といっしょなら、きっと貴方の手でたくさんのものを守れるようになります」

 力をモスラに注ぎきったライダー(エリアス三姉妹)の身体が薄れゆく。最後に、ウェイバーは涙で霞む目で三姉妹の長女、ベルベラを見た。

 ウェイバーがどんな声をかければいいか迷っている間に、ベルベラはその身体を消滅させつつあった。既にその後姿は透け、身体の向こう側の景色が見えるほどだった。

 時間がないことを悟ったウェイバーが意を決して口を開こうとした。しかし、彼が口を開き、声を出そうとした瞬間ベルベラがこちらを振り向いた。

 

 ――ベルベラは笑っていた。彼女らしくない、少し寂しそうな、それでいて嬉しそうな微笑。それは、ウェイバーも初めて目にする表情だった。

 

 喉まで出掛かっていた言葉はベルベラの微笑みを見たことによって喉の中で霧散する。彼女に最後、何を言いたかったのか、彼女が最後に何を想ったのか……そんなことはいつのまにかウェイバーの頭の中から吹き飛ばされていた。

 そして、ベルベラは微笑みを浮かべながら妹たちの共に消滅した。

 三姉妹の最期を見届けたウェイバーの頬を涙が伝う。だが、ウェイバーにとってこの別れは『終わり』でない。それでいて、この別れは彼にとっての『始まり』にもまだ至っていない。

 ウェイバーは歯を食いしばり、涙を振り切って視線を燃え盛る冬木の街に向けた。彼の視線の先にあるのは、破壊の権化となった赤き怪獣王の姿。この戦争を終わらせて初めてウェイバーは『始まり』に辿りつける。

 怪獣王を睨むその姿は、もはや一週間前の頼りない少年のものではない。託されたものの重みと誇りを知り、それを背負い続ける覚悟を決めた男の姿だった。

 

 

 

 

 巫女の命を、そして己の命をも犠牲にする最後の切り札、時間遡行をもってしてゴジラを葬り去る。モスラは決死の覚悟をきめていた。

 翼を大きく羽ばたかせて宙に浮かんだモスラは、その姿をトビウオにも似た鋭角的なフォルム――光速飛翔形態へと変化させる。速度を上げながら上昇するモスラだったが、その姿がゴジラの目に留まった。

 幾度も怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を外し、セブンにチマチマと攻撃を加えられて気が立っているゴジラにとっては視界に写った敵は即座に攻撃対象だった。ゴジラは背びれを発光させ、怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)の発射体勢を取る。

 モスラが切り札を使おうとしていることを知っているセブンは、ゴジラの熱線発射を妨害しようと侵略者切り裂きし正義の刃(アイスラッガー)を構える。だが、ゴジラの背びれから翼のように噴出した熱線の余波でセブンは吹き飛ばされてしまう。

 そして、ゴジラは口からエネルギーが迸る一撃を放った。

 口内から溢れ出した怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)はこれまでよりもさらに太く、激しく渦を巻いている。余波だけで地を焦がし、大気を焼くそれは、まさに極熱・放射熱線(インフィニット・アトミック・ブレス)というべきものであった。

 モスラに迫る極熱・放射熱線(インフィニット・アトミック・ブレス)。しかし、モスラの羽を掠める直前、突如ゴジラの身体が意に反して傾き、極熱・放射熱線(インフィニット・アトミック・ブレス)は明後日の方向に消えていった。

 何とか命拾いしたモスラは、時間遡行のための光速飛行に入る直前に視界の端に自分を救ったヒーローの姿を見つけ、念話で謝意を伝える。

 モスラをゴジラの熱線から救ったのは、ボロボロになりながら大地に横たわる赤き巨人、ウルトラセブンだった。セブンが最期の力を籠めたウルトラ念力はほんの数秒ではあるが、ゴジラの身体を完全に縛り付けていたのである。

 

 ――後は私が。

 

 モスラはそれだけ念話で伝えると、光の道を潜って時間を越えた。

 そして、最期の希望を見届け、使命を終えたかのように大地に横たわる赤き巨人は姿を消した。

 

 

 

 圧倒的な力で冬木を蹂躙し、敵対するものを寄せ付けないゴジラ。既に冬木に集めた自衛隊の戦力の80%近くがゴジラの攻撃によって失われている。組織的な抵抗力を失った自衛隊は、軍事的には全滅判定を下されていた。つまりは、彼らは敗北者と言っても過言ではなかった。

 対ゴジラ攻撃の司令部は、御通夜のような暗い空気に支配されていた。辛うじて海上部隊の単装速射砲が生きているだけで、既にゴジラに対してまともに攻撃する手段が彼らには残されていなかった。

 しかし、誰もが俯き、敗戦処理をするかのように淡々と各所に指示を下す中で、一人だけ瞳の中に気炎を燃え上がらせている男がいた。黒木翔特佐――今回の敗軍の将となった若きエリートである。

 彼は、既に自衛隊が敗者となることを受け入れていた。自衛隊が負けても、ウルトラセブンとモスラが勝てば、この国は立ち直ることができるだと考えていたからである。そして、彼の目から見て、既にこの戦いは終わりに向かいつつあった。

 ゴジラがその身体から凄まじい熱を発しながら炎のように真っ赤に染まるなどという想定外の事態があったが、それでも、ゴジラの終わりは近いように彼には思えた。ゴジラの身体の輝きは、ゴジラが命を燃やして灯しているものにしか彼には考えられなかったからだ。

 時折、空に向かって苦しい叫び声を上げながら真っ赤な熱線を吐くゴジラの姿は、まるで悲痛な声と共に血反吐を吐く末期の重篤患者のようだ。熱病患者のように身体に湯気を纏い、動きそのものもどこか苦しげで、身体のあちこちからまるで噴火したかのように熱波が噴出して眼下の街を焼く。

 背びれからゴジラの意志とは関係なく噴出した熱線は、ゴジラの周囲に灼熱の炎を出現させる。まるで、ゴジラを中心に煉獄の景色が具象化されたようだった。

 そして、黒木は気づいた。熱線が断続的に噴出する火口と化した背びれの変化に。

「ゴジラの背びれが溶けた……」

 これまで、自衛隊の如何なる攻撃でも、ウルトラセブンの如何なる攻撃でも削ることができなかった、鋭利な鋸を思わせるゴジラの背鰭がまるで蝋細工のように溶け出していた。偵察部隊の報告では、ゴジラの体内でも最も温度が高い心臓部は、既に1100℃を超えているという報告が入っている。

 ゴジラは、自身の大幅なパワーアップのために体温を大幅に上昇させたが、ゴジラの身体自体が上昇した体温に耐えられずに崩壊しつつある。確実に、ゴジラの自滅が近づいていると黒木は確信するに至った。

 黒木はゴジラの自滅が近いことに希望を抱く。だが、これまでの自衛隊の被害と、ゴジラが自滅するまでにこの街が被る被害を考えれば果たして、これが勝利と言えるのだろうか。国民と自衛官を合わせればどれだけの人命の損失が出たことか。

 この国の三分の一の原子力発電所を失い、地方都市一つが灰燼と化した上で放射能で汚染された。ゴジラ襲撃による一連の経済的な損失も計り知れない。下手をすれば、株価、債権、為替のトリプル安や経済危機すらありえるだろう。

 自分の指揮に悔いはないが、これほどの人的、物的被害を出した以上は責任を誰かが取らなければならない。対ゴジラ対策を指揮した特殊戦略作戦室がその責任を負うことも必然だろう。

 ――これで我々(特殊戦略作戦室)の来年度の予算は0だな。来年度があれば、だが。

 戦いが終わった後のことが脳裏に過ぎり、暗い未来に対して黒木は自嘲せずにはいられなかった。しかし、黒木はすぐに脳裏を過ぎったものを振り払って目の前の現実の景色と再度向き合った。

 後のことは、この戦いが終わった後でいくらでも考える時間があるのだから。

 

 

 

 

 光速飛行したモスラは、時空を超えていた。

 サーヴァントの消滅は宝具の消滅と同意義であるため、既にモスラの身体は消滅を免れぬ運命にある。時を越えたところで、最期の力を籠めたエクセル・ダッシュ・バスターを叩き込めばそのまま消滅するだろう。しかし、元々二度と戻れぬはずの片道飛行だ。今更、自身の消滅に対してモスラが想うところはほとんどない。

 モスラにとって今自分の成すべき事は、光速飛行形態でつけた加速と、全力のフラッシュエネルギーを加えた最強の一撃を外さないこと。それだけだった。

 そして、モスラの前に時空の狭間の出口が見えてきた。そこに見えるのは、僅かに東の空が白みつつある半壊した地方都市――ほんの数十分前の冬木市だった。

 サーヴァントは英霊であり、時間や空間の外にある英霊の座に本体が存在するため、生前の英霊となる存在を葬ったところで英霊は消滅しない。この場合、もしもゴジラになる前のラゴス島のゴジラザウルスをモスラが葬ったとしても、英霊の座にいるゴジラが消滅することはないのだ。

 そのため、サーヴァントであるゴジラを葬るならば、サーヴァントとして召喚された後で最も弱体化していたころを狙う他ない。そして、モスラの知る最もゴジラが弱体化していたころというのが、ウルトラセブンの闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)でうなじを貫かれたころのゴジラだ。

 この頃のゴジラであれば、人間が撃ちこんだ秘密兵器と思しきもので大幅に弱体化しており、自分とエリアス三姉妹の命を捧げた乾坤一擲の一撃を奇襲で撃ち込めば打ち倒せるという確信がモスラにはあった。

 闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)で穿たれた孔から怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)を噴出して倒れ伏すゴジラを眼下に見たモスラは、迷わず吶喊する。身体に残る全てのエネルギーを我が身の強化に用い、最大加速で倒れ伏すゴジラに急降下するモスラ。

 

 そして、モスラの乾坤一擲のエクセル・ダッシュ・バスターが地面に横たわるゴジラに上空から襲い掛かり、大地震に匹敵する凄まじい衝撃と大気を吹き飛ばさんとする轟音が冬木市を揺るがした。




黒木特佐にあの言葉はどうしても言わせたかった。そのための出番です。


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救いはない

 モスラが生命を捧げた渾身のエクセル・ダッシュ・バスターは、結果論から言えばタイミングが僅かに遅かった。

 

 エクセル・ダッシュ・バスターが直撃する寸前、上空から飛来したモスラに気づいたゴジラは怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)によって迎撃を試みる。しかし、闇を切り開く翡翠色の閃光(エメリウム・レイ)で首には孔が穿たれていたため、ゴジラの怨嗟咆哮・放射熱線(アトミック・ブレス)は口から放たれることなくゴジラの身体を突き破り、ゴジラは爆発する。

 ゴジラの爆発のコンマ数秒後にエクセル・ダッシュ・バスターが直撃するも、既にゴジラの身体はそこにない。エクセル・ダッシュ・バスターは地面に巨大なクレーターをつくり、ゴジラの身体の破片を消滅させただけだった。

 自爆だろうが、モスラの乾坤一擲の一撃だろうが、どちらにせよゴジラは普通に考えれば消滅は避けられない。ゴジラがパワーアップする前に葬らんとしたモスラの目的は達成されているはずだった。

 しかし、誰が予想するだろうか――自爆したはずのゴジラが生きていると。

 

 ゴジラは、確かに生きていた。爆発によって身体が爆散し、心臓だけの姿になっていてもなお、生きていたのだ。戦闘続行A+という彼のクー・フーリンやヘラクレスをも上回る生命力の強さをゴジラは有していたのである。

 無論、本体と比べて弱体化したサーヴァントが、心臓のみの状態で長く生き続けられるはずがない。かろうじて、心臓が残って鼓動を続けているに過ぎず、便宜上は生きていると判断されるだけなのだ。

 しかし、心臓のみの姿となり、死を待つだけのゴジラにマスターが救いの手を差し伸べた。残された令呪をもって全力を解放することを命じられたゴジラは、最強宝具『赤竜葬送曲・炉心融解(メルトダウン)』を解放した。

 これによってゴジラの持つ再生能力を有する宝具『不滅のゴジラ細胞(イモータル・セル)』が強化され、ゴジラは心臓以外の部分の再生に成功、見事に復活とパワーアップを果たす。莫大なエネルギーが供給されれば、ゴジラの細胞はそれを糧に破壊された脳ですら瞬時に再生させるほどの再生力を有している。メルトダウン寸前の心臓が生み出すエネルギーがあったので、ほぼ全身を再生することができたのである。

 ただ、復活したとはいえ、一度体内で大爆発を起こしたゴジラは相応のダメージを蓄積している。また、再生の際にもかなり身体に負荷をかけた。そのため、ゴジラの体温上昇は早まり、ゴジラが蓄積していたエネルギーも総量では過去改変が起こる前のゴジラに比べて減少することとなった。

 結果的に言えば、ゴジラの最期が早まり、最期に破壊へと変換されるはずのエネルギーが減少した。モスラが命を賭した対価はそれだけだった。

 

 

 

 モスラが時空を超えた直後のことだった。セブンの念力から解放されたゴジラは、その身体から光の粒子を放出しながら悲痛な叫びを上げた。

 ゴジラの様子が変化しつつあることに、ウェイバーたちは気づく。そして、同時に理解した。――モスラがやってくれたのだと。

 モスラが過去の世界でゴジラを打倒したことでタイムパラドックスが生じ、ゴジラは消滅することでこの聖杯戦争は終わるのだと彼らは確信する。勝者も敗者もなく、殺戮と破壊の結果のみが残った無益な争いだったが、それにもようやく終止符が打たれたと彼らは内心で僅かに安堵していた。

 しかし、サーヴァントの消滅をつい先ほど間近で見たウェイバーは気づいてしまう。彼女たちの最期を脳裏に焼き付けていたからこそ、彼は目の前で光と塵を吹き上げているゴジラの姿の違和感を見逃すことはなかった。

「違う……」

「どうしたんだね?ウェイバー君」

 璃正が訝しげな表情を浮かべながら声をかける。

「ライダーの時とも、アーチャーの時とも違うんだ!あんな風に消滅しなかった!!それに、アンタたちにも分からないか!?アイツの存在感が薄くなっていく感じがしないんだ!!」

 その時、ゴジラを中心に発せられている凄まじい熱気の余波がウェイバーたちを襲った。ゴジラの足元が赤熱化し、溶けたコンクリートが昇華して舞い上がる。

「ライダーが死ぬときは、まるでろうそくの炎が消えるように存在感が薄くなっていく感覚だった。でも、アイツは違う。まるで、命を燃やしているみたいだ。存在感が全然薄くなっている感じがしない!!」

「そんな……ならば、まさかアレは!?」

 誰よりも、「最悪の事態」を想定し、それに対して最も確実な対処法を選択してきた彼だからだろう。ゴジラが光の靄を発している光景を見た切嗣は、真っ先にこの光景を生み出した原因に思い至った。

「ヤツの……宝具の効果だというのか!?」

「ありえない!!宝具は、英霊が生前に築き上げた伝説を象徴するものだ!!ゴジラにはあのような能力はないはずだ!!」

 璃正が切嗣の漏らした言葉を否定する。灼熱の体表、赤く発光する胸部。どれも、これまでに記録されたゴジラの生態にはなかったものばかりだ。生前に有していなかった能力を宝具として有することもあるが、その場合でも宝具の元となった逸話があるはずだ。しかし、ゴジラが赤くなったり、熱を発したりする伝承など存在しない。

「いや、ありえる」

 そう言ったのは、ウェイバーだった。

「英霊――サーヴァントは、座から召喚される。そして、英霊の座には過去や未来、平行世界といったものはない。だから、あのゴジラが平行世界のゴジラだったり、未来にあんな姿になって死んだゴジラだったとしたら、ボクたちの知らない逸話を元にした宝具の一つや二つ、もっていても不思議じゃない」

「なるほど、あの赤く燃えるような表皮に、狂気の中に垣間見える痛み……我が身を燃やし尽くす代償に短時間のステータスアップを実現する宝具と考えることが妥当でしょう」

 自らの唾棄すべき醜悪な本性を自覚した綺礼には、ゴジラの身体の悲痛な叫びが感じられていた。だからこそ、ゴジラの異常なステータスアップの正体を確信することができた。

「既に背鰭は溶け出していますし、熱線も己の意志でコントロールできないのでしょう。ヤツが長くないのは事実だと思います。モスラが消えてから急にゴジラの動きが止まり、感じられる温度が上がったことから考えて、モスラはゴジラの最期を早めることには成功したようですが……」

 絶句する璃正。既に、彼のとなりで項垂れている遠坂時臣には生気が感じられない。己がしでかしたこと、そして、盟約を結んでいたはずの間桐家がやらかした悲劇。その結果が、己が領地の地獄だ。

 魔術師として、セカンドオーナーとして、取り返しのつかない失敗だといえる。魔術師としての才能は凡人どまりである時臣にとって、己が貴人であることこそが己を己足らしめる柱であった。だからこそ、その支柱を己が手で崩れ去った時に彼の精神が持つわけもない。

「……アサシンのマスター、君の予想は大体あっている。だが、事態は恐らくもっと深刻……いや、最悪と言ってもいい」

 背後からかけられた声に、ウェイバーたちは思わず振り向く。そして目を見開いた。そこにいたのは、消滅したはずのウルトラセブン――いや、諸星弾の姿だった。

「ルーラー!?」

 驚きを隠せないウェイバー。そして、彼らの前に姿を現した弾は、力尽きたのかその場で倒れてしまう。慌ててウェイバーが駆け寄り、彼に肩を貸す。

「すまない……私はもうエネルギーを使い果たした。サーヴァントの身でなければ命と引き換えに変身することもできるのだが、今の私は変身のために宝具を解放するだけで魔力が尽きて消滅してしまう」

 己が身の無力さが許せないのか、弾は悔しさを隠し切れずに顔を歪める。だが、そんな彼にまったく遠慮することなく問を投げかける者がいた。

「……ルーラー、説明してくれ。貴方の考える『最悪の事態』を」

 衛宮切嗣だ。彼も、僅かに脳裏に『最悪』の事態が過ぎっていたのだろう。彼の問に、ルーラーは何かを堪えるような口調で答えた。

「私や私の仲間は幾度か核をエネルギーとする怪獣に遭遇した経験がある。その中には、身体が原子炉に近い状態になっている怪獣もいた。今のゴジラの状態は、仲間から聞いた身体が原子炉に近い怪獣の状態とよく似ている」

「ゴジラはどうなるんだ?」

「……核爆発、もしくは、それに近い大規模な放射能汚染を伴う現象を起こす可能性が高い」

 弾の予想を聞き、切嗣は呆然として膝をつく。璃正も、ウェイバーも何も言うことができない。時臣は言わずもがなである。もはや、彼には己がのうのうと生きていることすら責め苦だった。

「何とかならないのか?お前は正義の味方なんだろう!?」

 弾に詰め寄り糾弾する切嗣。しかし、それに対してセブンは悔しそうな表情を浮かべることしかできない。

 ――変身する力すら失った彼には、もはやどうすることもできない。

 切嗣も頭が回らないわけではない。物言わぬ弾の態度から彼は全てを理解した。自分が憧れて、ついになれなかった本物の正義の味方ですら、この世界を救うことができないのだと。

 正義の味方になれず、ただ天秤の量り手に甘んじた己にはウルトラセブンを責める資格がないことは理解している。だが、それでも『理想とした正義』ですらこの世界を、人々を救えないという事実は、切嗣の心に深く突き刺さった。微かに棄て切れなかった理想――人の手では絶対に成しえない理想ですら、この世界を救えないのだから。

 言うまでもなく、この悲劇を生んだのは自分――人類を救い、世界から流血を失くすために戦った衛宮切嗣という男だ。本物の正義の味方になれないから、奇跡による救済を求めた。しかし、奇跡を求めた結果、誰を救えたのか。

 自分が人類の救済のために行った行動は、結果として誰一人として救えず、数え切れぬ人を犠牲とした。自分が救った命よりも、自分が犠牲にする命の方が大きい――より多数を救う為に少数を犠牲にすることを是とするが故に、彼にとってこの悲劇は己の生き方を否定されたに等しいものだった。

 自分が奪ってきた命はなんだったのか。自分の生き方はなんだったのか。

 

 そして、天秤の量り手(衛宮切嗣)がその人生で積み上げてきたものが今、彼の目の前で破綻する。

 彼が救ってきた命を、止めてきた流血の全てを無に帰す人類史に残る惨劇を、ゴジラ(怪獣王)が成す。

 

 ――赤竜葬送曲・炉心融解(メルトダウン)

 

 ゴジラ(怪獣王)はその死と引き換えに、人類が積み重ねた罪を償わせるのだ。




ようやくプロローグまで帰ってきた……
次回、プロローグに戻ります。


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ゴジラ死す

BGMはVSデストロイアのレクイエムで

後、新着活動報告があります。この作品に関わるものですので、是非見てください。


 眼下の光景を見た弾は、深山町に足を向けた。

「ルーラー?」

「山を降りる。あの炎の中で、助けを待っている人がいるはずだ」

 ウェイバーに声をかけられた弾は歩みを止め、静かに、それでいて己の無力への怒りを滲ませた声音で答えた。

「私は、ゴジラを倒せなかった……もはや、私にはあの地獄をどうにかする力もない。だが、あそこで助けを求めている人を救えるだけの力なら辛うじて残されている。救える力があるのなら、救えるだけ救う、いや、私は救わなければならない」

 そう言うと、弾は再び歩き出そうとした。すると、呆然と地獄を見つめていた一人の男が声をあげた。

「……待ってくれ。僕もいく」

 衛宮切嗣だった。その頬は涙で濡れ、瞳には後悔と悲嘆が見て取れる。目の前の光景を生み出したことへの罪悪感から救援を申し出たのは、言われずともウェイバーには分かった。しかし、それを弾は同行を拒否した。

「駄目だ。この先は普通の人間が長時間活動できる世界ではない。この高温では火傷や脱水症状は避けられないだろうし、一酸化炭素濃度が高まっているから呼吸も満足にできない場所が多々ある。そして何より、あの場所に長時間留まれば、放射線障害で動くこともできなくなる。君もほぼ確実に命を落すぞ」

「それでも構わない。僕は、あそこに行かなければならないんだ」

 弾の言葉を無視して進もうとする切嗣。だが、弾は切嗣の肩を掴み、強引に止める。

「あの炎の中で、生存の見込みのあるものがどれだけいるか。そして、炎を潜り、瓦礫を掘り起こして生存の見込みのあるものを探す作業は、とても短時間じゃ終わらない。仮に生存者を見つけられたとしても、そこから安全圏まで運び出すにはさらに時間がかかる。人間では、それだけの時間あの地獄に耐えることは不可能だ」

「僕の命はどうでもいい。この手をどけてくれ」

「助けだしたとて、その後どうする?安全なところまで送り届けるのは他人任せにするのか?」

 弾の反論に切嗣は答えられない。ただ、彼は目の前の光景を黙って見ていることには耐えられない。その心境を察したのか、ここで弾は助け舟を出す。

「救出作業は私はやる。しかし、私は救出作業中にも消えるかもしれない身だ。私がここまで連れてきた人の面倒を、君が見るんだ。孤児がいるかもしれない、五体満足でない人がいるかもしれない、生きる糧を全て失った人がいるかもしれない――彼らがもう一度前を向いて、顔をあげながら歩けるようにする。遠からず消える私にできないことを君がやるんだ。だから、君はここで死んではいけない」

 理屈で人を救い、理屈で人を殺してきた切嗣は、セブンの説く理屈を否定するにたるものを見つけられない。元々、切嗣は理屈では納得すればどんな感情ですら押さえ込んで人の命を――己の妻子の命ですら奪える男だ。だからこそ彼はここで己の感情を優先した行動を取ることはできなかった。それが、『正しい』ことであるが故に。

 切嗣が足を止めたことを確認した弾は、全力で山を駆け下り、燃え盛る街へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 紅い龍の身体から、白い光が立ち昇る。

 

 光は天へ向かい、龍は地面から絶え間なく湧き出す白煙の中で、まるで炎にくべられているかのようにもがき、苦しんでいる。凶悪な形相の中に、初めて憎悪と憤怒以外の感情――苦悶が見て取れる。

 

 龍の名はゴジラ。怪獣の王にして、核の業、戦争の業と怨念をその身に宿す邪悪の化身である。

 

 

 白煙を巻き上げ、白い光の柱に飲み込まれるゴジラ。舞い上がる塵や水蒸気に反射した光は、ダイヤモンドダストのように美しい光景を演出している。ウェイバー・ベルベットもその光景を素直に美しいと思ってしまった。

 しかし、この美しい光景を演出しているものは、同時に多数の人間の死を演出する死神の鎌に他ならない。光の中には凄まじい強さの放射線が潜み、舞い上がる煙や塵、水蒸気は放射性物質に汚染されている。

 放射線は一瞬で人体を侵し、放射性物質に汚染された空気は見えない爆弾となって人の体内へと消えていく。放射能の測定をしていた自衛隊化学科は、目の前の計器が示す数字に目を疑い、そして呆然として呟いた。

「物凄い放射能だ……」

 広島や長崎、ビキニ環礁の放射能の比ではない。チェルノブイリ原子力発電所の事故をも超える、国際原子力事象評価尺度では量りきれないレベルの原子力災害とも言えよう。死の灰は野を超え山を越え、広範囲の飛び散る。

 放射能は地を侵し、海を侵す。野の草木は枯れ、蚯蚓も、螻蛄も、アメンボも生きとし生ける命を蝕む。海に流れた放射能は、海流に沿って日本海に流れる。国境を越え、広範囲に流れる放射能は幾多の魚や海の生物の身体を蝕み、それを喰らう人々の命すら侵すだろう。既に、深山町の住人には影響が現れている。辛うじて生きていた人々が次々と倒れ、息絶えていた。

 だが、放射能障害は一代で終わるものではない。辛うじて生き延びたとしても、遺伝子にも悪影響が及んでおり、放射能障害が子々孫々にまで受け継がれることですらありえる。放出された放射性物質の半減期は、数千年、いや、数万年。つまり、放射性物質が害のなくなるまでには、人類史に匹敵する、いやそれ以上の時間が必要ということになるのである。

 

 

 生きとし生ける全ての命を侵す毒を己が身体から振り撒きながら、その中で悲痛な叫びをあげるゴジラ。その姿は、白い光と靄を振り払おうと必死になっているようにも見えた。

 破格のサーヴァントから袋叩きになっていたときですら苦しみをあげなかったゴジラが、悲鳴をあげている。その悲鳴は、今はもう声をあげることのできない犠牲者達が、生前に伝えることが叶わなかった悲痛な叫びにも聞こえた。飢餓と病が蔓延る南洋の諸島で、焼夷弾の降り注ぐ街で死んでいった人々の無念を、怒りを、哀しみを孕んでいた。

 ゴジラの背鰭は熱で真っ赤に染まり、その身体は所々溶け出していた。皮膚が蝋細工のように溶け、だらりと垂れる。皮膚が溶け墜ちただけでなくさらに肉が捲られ、一部は骨までもが顕になる。

 核の力で生まれ、核の力を宿したはずの核の申し子が、広島や長崎で原子の炎に焼かれた犠牲者たちと同じような姿になって苦しんでいた。核の犠牲者と、核の申し子の末期の姿が非常に似通っていることには、運命というものを感じずにはいられない。

 ゴジラは天を見上げる。聖人を迎えに来た天使の階段のような光の先を見つめたゴジラは、小さく咆哮する。いつものゴジラのような大気を震わす圧倒的な覇気に満ちた咆哮ではなく、今にも枯れそうなほどに掠れたか細い咆哮。それなのに、そのか細い叫びはこれまでのどの咆哮よりも心を震わせた。

 ウェイバーには、叫びが、戦争と核という人の業によって命を不条理に奪われた人々の無念を、核という力を童子のように分別なく振るう人類への憤怒を、そして、歴史の中に消えていった自分たちを忘れた現代の人々に対する憎悪を知らしめようとするものに思えてならなかった。

 最後の咆哮と同時に、ゴジラの胸が一瞬大きく膨らむ。胸が破裂し、そこからマグマや真っ赤に溶けた鉄を思わせる色をした血潮が飛び散った。その様子はまるで、活火山が噴火したようにも見えた。

 咆哮の余韻も消えぬ内に、ゴジラの身体はさらに溶けていく。身体中の肉が溶けおち、身長60m体重30000tの巨体を支える巨大な骨格の姿が顕になる。

 しかし、それもまた一瞬のことだった。ゴジラの骨も高温によって溶け、ゴジラの全てが光に包まれていく。

 

 ――そして、幻想的な、それでいて儚さを感じさせる光が立ち昇る。憤怒、憎悪、無念……ゴジラの内包する怨霊とその叫びも含んだゴジラの全てが、光の中に還っていった。

 

 

 

 冬木の街に、幻想的な光景がつくりだされた。

 黒煙が覆う空の下で紅く染まった大地、そして、大地から天へと昇る光の柱。

 

 天を見れば、それはまさに天が与えた光景だった。

 天に昇る柱が発する光の正体は、チェレンコフ光だ。チェレンコフ光は朝日によってオレンジに染まるはずの冬木を、真っ白な光でその上から染め上げる。地表から吹き上がる水蒸気や粉塵は白い光を反射し、ダイヤモンドダストが舞うような神秘的で美しい光景を演出していた。

 地獄に蜘蛛の糸ではなく、天使の作った道が降ろされているようにも見える。芸術家ならば、いや、何も知らない一般的な感性を有する人ならば感動すら覚えたであろう、荘厳ともいえる光景だった。

 

 地を見れば、それはまさに地獄が具現化した光景だった。

 かつて、繁栄を象徴する近代的な鉄筋コンクリートでつくられたビル群が立ち並んでいた未遠川を挟んだ東側の地区、新都にはもはやかつての面影は微塵も感じられなかった。

 高温によって溶けて変形したアスファルトと焼け焦げたコンクリート片が散乱した地面。所々から黒煙が噴きあがり、灰色と黒、そしてそれを照らす紅い炎が地表を完全に染め上げていた。

 原型を留めている建物は数えるほどしか存在せず、かつての繁栄の残滓はほとんど残っていなかった。

 一方、未遠川を挟んだ西側の地区、深山町は灰と黒、それを照らす赤の世界となった新都とは対照的に赤と紅が支配する世界となっていた。

 深山町は一面が真っ赤に染まっている。いたるところに巨大な火柱が立ち昇り、火柱は気流によって渦を巻いて広範囲を焼き尽くす。まさに、地獄の底とでも言わんばかりの惨状がそこにあった。

 焔の海の中には、煙に巻かれ一酸化炭素中毒によって命を落としたものもいれば、火災によって直接焼き尽くされて黒炭と化したものもいる。そして、致死量の放射線を浴びて何が起こったのかもわからずに死んでいくものも少なくない。

 生き残ったもの――正確には辛うじて生きながらえているものもいないこともない。しかし、彼らもまた、命を落としたものたちとは紙一重の状態だった。

 あるものは、身体中に酷い火傷を負い、熱傷によって剥がれた皮膚を垂らし、皮膚の下の赤々とした肉を顕にしながら歩いている。またあるものは、全身血だらけになり、こぼれ落ちた臓器や千切れた腕を大切そうに抱えながら当てもなく救いの手を捜し続けている。亡者のような恐ろしい姿を晒して人々が歩き続ける様は、この世こそ地獄であると証明しているようだった。

 一見、五体満足に見える人々も、その身体の中には既に見えざる死神の手――放射線が忍び寄っていた。身体中の穴という穴から血が噴出したり、髪が抜け出したり、気持ち悪さから嘔吐したりと、確実に放射線障害は彼らを蝕んでいた。

 

 

 

 

 

 

ゴジラ(バーサーカー)が、冬木を死の街にして溶けてゆく……」

 そう呟いた言峰綺礼の目には、目の前の光景が極上の景色にしか見えなかった。ゴジラの発する熱線によって焼かれた大地。かつては住宅地だったはずの深山町は紅蓮の炎に包まれ、命を焼く音に支配されている。

 一方、綺礼の父親である言峰璃正の目には、目の前の光景が最後の審判のようにも見えた。光の道が善き人を天国へと誘い、残された者は、地に広がる地獄で苦役のみを与えられているようだ。

 同じ神を信じる道をゆく親子でありながら、目の前の光景に抱いた印象は完全に相反している。

 璃正は最初に主の導きを見て、綺礼は最初に人の業を見た。そして、その光景の下に現れた悲劇に視線を移した璃正は哀しみ、地獄の上につくられた天国への階段を見た綺礼は喜んだ。笑みを隠せない綺礼と、涙を隠せない璃正。

 だが、幸か不幸か、二人は互いに相手がどんな顔をしているのか、何を想っているのかなどは考えず、ただ目の前の光景を見つめていた。璃正は、息子の吐き気を催すような本性の発露を、見逃してしまった。

 そして、致命的なすれ違いを顕にした親子の隣で、ウェイバー・ベルベットはポツリと呟いた。

「これが、僕たちの償いなのか……」

「償い……」

 ウェイバーの隣で己を責め、無力さに絶望していた衛宮切嗣が反応した。

「魔術を、英霊を弄んだ、僕たち魔術師の……」

 ウェイバーの頭に浮かんだのは、エリアス三姉妹(ライダー)を召喚する際の触媒となった石版に彫られていた古の民の残した言葉だ。

 ――『生命は定められた時の中にこそあるべし』

 この石版に彫られた文の意味をモルに聞くと、彼女はこう答えた。

『死者の魂に、人間が手を触れてはいけない。サーヴァントは皆、死者です。私達、過去の存在は時の流れの中に葬られなければなりません。マスター、貴方も二度とサーヴァントを召喚しないでください。人間が、死者の魂を戦いの道具とすることは、大いなる過ちに他ならないのです』

 話を聞いた時のウェイバーには、モルの言葉の重みがまったく分からなかった。だが、こうして死者がつくりだした地獄を見た今ならば分かる。死者の眠りを妨げることがどれほどに愚かな行為であるのか。

 ある意味、ゴジラも永遠の眠りを妨げられた被害者だ。死者の眠りを冒涜する自分たち、魔術師という存在に対して怒りを覚えていたのかもしれない。

 しかし、ゴジラは、己の怒り、哀しみ、無念を破壊というかたちでしか訴える術を持たなかった。自分の想いを伝える最後の機会において、己の死を愚弄した魔術師に、そしてゴジラを生み出した人類の記憶に、自分の全てを刻み付けるほどの破壊を望むことはゴジラからしてみれば当然のことだったのかもしれないとウェイバーは思う。

 

「ふざけるな……」

 己に対する怒りに、どうしようもない絶望に、この地獄を作り出した罪人としての罪悪感に切嗣は震える。

 これは、魔術師の――自分たちの過ちだ。万能の願望器などという甘言に釣られた愚か者が世界を滅ぼす力を持った怪獣王をこの世に呼び戻し、この世に地獄をつくりだした。これを罪とせず何を罪とするのか。

 しかし、その罪は自分たちが被るべきものであり、自分たちが償うべきものだ。この街に居合わせたという理由だけで多くの人々の命が奪われていいはずがない。死ぬのは、自分たち魔術師だけで十分なはずだ。

「ふざけるな!!……馬鹿野郎!!」

 切嗣は、この光景を作り出した魔術師という人種、罰を関係のない人々に下すことを『償い』とする真理、そして奇跡を信じてパンドラの箱を開けた愚かな自分を罵倒せずにはいられなかった。

 死の街となった冬木市をその両目に焼付けながら、誰に謝ることもできず切嗣は慟哭した。

 

 

 

 ――199×年、ゴジラ死す。

 

 




ゴジラは死んだけど、もうちっとだけ続くんじゃよ。
多分、後2話で完結します。

繰り返しになりますが、新着活動報告是非見てください。


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明日へ……

活動報告で実施中の企画は、まだ継続中です。
是非一度目を通して見てください。


 赤い髪の少年が、地獄の中で足を動かしていた。

 ひたすらに、瓦礫を跨いだ。道なき道を、迫り来る炎から逃げるためだけにただ歩き続けた。

 

 子を助けてと懇願する母の声を聞かなかったフリをした。助けを求めて縋りつく身体中が爛れた男の手を強引に振り払った。水を懇願する、皮膚がふんどしのように垂れ下り、腸を引き摺りながら歩くヒトを視界に入れないように目線を逸らした。

 

 

 ――助けて

 

 ――置いてかないで

 

 ――せめてこの子だけでも

 

 ――水をくれ

 

 ――痛いイタイいたい

 

 ――熱い、苦しい、辛い

 

 

 聞こえてくるのは、苦しむ人々の声と助けを求める悲痛な叫びだけ。

 目に入るのは、黒こげになったヒトガタのものと、燃え盛る焔、ボロボロになったコンクリート、夢にでてきたお化けよりも恐ろしい姿をしたバケモノ。

 自分以外に、人間のカタチを保っているヒトはいなかったわけではない。けれども、人間のカタチを保っていたヒトは、大概が顔が真っ青になってピクリとも動かないか、わけのわからない言葉をただブツブツと唱えて蹲ったり立ち尽くしているヒトだった。

 昨日までこの街のどこにでもいた極々普通の人間の姿は、周りにはまったくなかった。

 

 どうして世界がこんなものになったのか、少年はその理由を知っていた。

 ゴジラ――テレビでしか見たことのないすごく大きな怪獣。そのゴジラが青い焔でヒトを焼いて、大きな足で家を踏み潰しながら大暴れしている。戦車も、飛行機もヘリコプターも、みんなゴジラにやられた。

 人も街も乱暴に踏み潰し、焼きながら歩くその大きな姿はとても怖くて、見上げることもできなかった。

 

 けれども、少年はこの地獄の中でも決して諦めることはなかった。

 どれだけ絶望が広がっていようと、どれだけ疲れが溜まろうと、どれだけ肉体が悲鳴をあげようと、少年は歩みを止めない。

 少年には希望があった。

 ブラウン管の向こう側のヒーローが――ウルトラセブンが駆けつけてくれた。ウルトラセブンがきっといつもみたいに怪獣をやっつけてくれると信じていた。

 ウルトラセブンがゴジラをやっつけてくれたら、きっと昨日と同じ街に戻ってお母さんやお父さん、学校の先生や友だちとまた会えると思っていた。

 だから、歩く。ウルトラセブンが諦めないで頑張っているのに、ボロボロになりながらゴジラに立ち向かっているのに、自分だけ先に諦めていたらいけない気がした。ここで立ち止まって蹲るのが、恥ずかしいことに思えてならなかった。

 

 火の手が次第に広がっていることはなんとなく分かっていた。吸い込む空気もまるでサウナの中にいるような熱さで、吸い込むたびに喉が焼かれる気がした。いつのまにか、視界は黒い煙か紅い炎に囲まれていて、少し先も見えなくなっていた。

 

 ほかの道を探そうと踵を返した時、頭が揺れるような気持ち悪い感覚がした。足がもつれて少年は仰向けに倒れた。久しぶりに、視線を上にむけた。空は黒い煙が立ち込めて暗かったけれども、煙の間に太陽の光が見えた。夜は明けて、朝になっていた。

 立ち上がろうとする少年。しかし、視界がグルグル回り、気持ち悪さから立ち上がることもできない。身体がだるく、まるで言うことをきかなかった。段々、視界がぼやけて耳も遠くなって意識が遠のいていく。

 自分の身体に何が起きているのかも分からない。けれども、それでも少年は生きる希望を棄てなかった。信じていれば、きっとウルトラセブンが助けに来てくれる。だって、ウルトラセブンは負けないのだから――

 

「大丈夫か!?」

 

 意識が墜ちる寸前に、少年の耳に若い男の人の声が聞こえてきた。

 

「待ってろよ、生きてろよ、必ず君を助け出す!!」

 

 瓦礫を超えてきた誰かに抱き起こされて、その背に乗せられた。

 

 見ず知らずの男の人に背負われているというのに、何故だろう。とても安心している自分がいる。父親に背負われているような安心感、そして喜びの感情が溢れてくる。

 

「!!……君は、あの時の!!……だめだ、絶対に死なせない!!諦めるな!!」

 

 ああ、そうか。どうしてあんな感情を抱いたのか、分かった気がする。

 

 この男の人の背中は、似ているんだ。

 

 地球を守るために必死で一生懸命で、何度倒されても、どんなに傷ついても諦めずに立ち向かっていく憧れの正義の味方(ヒーロー)の――ウルトラセブンの背中に……。

 

 そして、男の背に揺られているうちに、少年は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「処置を施してくれ!!」

 弾が背負ってきた赤い髪の少年を見て、すぐに切嗣が駆け寄り、少年の容態を診察する。戦場に長くいたこともあって、治療魔術こそ適性の問題からできないものの、ある程度の症状の診断や応急処置を施せるだけの知識を切嗣はもっていた。

「拙い……放射線障害の症状が身体に出ている!!それにこの火傷は火災によるものじゃない、おそらく核焼けだ……」

 核焼けとは、皮膚が高線量の放射線を浴びた際に発症する皮膚の細胞や血管が傷つき、皮膚が黒ずむという熱傷に類似した症状である。この少年が年間許容量を大きく超える放射線を浴びたであろうことは間違いなかった。

 彼の助手である舞弥が麻酔を少年に投与し、その間に彼の火傷に対して処置を施す。しかし、切嗣たちの手持ちの救急救命用具では重度の放射線被曝に対して焼け石に水ほどの効果しか望めない。この手の傷に効果的な魔術を使える魔術師もこの場にいない。つまり、施しようがないのだ。

 

 ――この子は救えない。

 

 『正義』のために命を取捨選択してきた切嗣は、この少年の命が『生かせる命』のために『切り捨てるべき命』――救えない命だとすぐに理解することができた。

 つい先日までの切嗣なら、目の前の少年が救えない命であり、だからこそ切り捨てなければならないことを納得できていた。しかし、己の宿願のために何の関係のない人々の命を奪い、さらにその宿願すら果たせなくなった今の切嗣にはそれが割り切れない。

 元々、家庭を持った8年前からその兆候がなかったわけではない。そこに、ダメ押しのこの地獄だ。宿願を果たせず、衛宮切嗣はもはや天秤の量り手たる冷酷な殺人機械ではいられなくなっていた。

 しかし、彼が手の施しようのない少年の前で苦悶している間にも、少年の命の焔は潰えようとしていた。顔には死相が浮かんでおり、呼吸も次第にか細くなってゆく。

「死ぬな!!死ぬな!!死なないでくれ!!」

 切嗣は救えないと分かっていながら、延命措置をすべく人工呼吸を始める。

 この時、彼はひょっとすると少年の命を救いたいのではなく、自分を救いたかったのかもしれない。自分のつくりだした地獄に巻き込んで数え切れぬ命を奪ってしまったことに絶望した彼にとって目の前でこれ以上命が無為に失われることは耐え難いことだったのかもしれない。ただ、何れにせよ切嗣が本気でこの少年の命を救おうとしていることは事実に変わりないのだが。

 

 切嗣の必死の救命活動も空しく、少年の命の鼓動は小さくなっていく。しかし、即座に心臓マッサージを施そうとする切嗣を弾が止めた。

「離れてくれ」

「まだだ!!僕は……」

 肩に置かれた弾の手を振り払おうとする切嗣。しかし、続いて弾の口から放たれた言葉を聞いた切嗣はその手を振り払えなかった。

「この少年は、私が救う」

 既に変身する力すら残されてない彼に何ができるのか――という言葉が一瞬喉から出掛かっていた切嗣だったが、弾の瞳から断固たる決意が見て取れたため、その言葉を口にすることはできなかった。

 そして、切嗣を押しのけて少年の顔を覗きこむように弾は膝を折った。

「……私の身体はもはや、1時間も持たない。だが、身体がある限り、私達一族にできることがある」

 弾は、懐から光解き放ちし真紅の眼鏡(ウルトラアイ)を取り出して少年に握らせる。

「私達の一族は、命の固形化に関する技術の開発に成功している。その技術を応用すれば、人間に己の命を与え、身体を一体化することができる。死んだ人間であっても、死からさほど時間が経っておらず、四肢の欠損以上の身体の損壊がなかったならば、蘇生はできる。サーヴァントの身となった今でも、我々の仮初の肉体にこの能力を使用する余力は残っている」

 この研究の成果を利用して、地球人に己の命を与え、一体化した彼の一族は少なくない。

 例を挙げれば、命の固形化に関する技術を実用化させたウルトラマンヒカリを筆頭に、ウルトラマン、ウルトラマンジャック、ウルトラマンエース、ウルトラマンタロウ、ウルトラマングレート、ウルトラマンパワード、ウルトラマンマックス、そして彼の息子、ウルトラマンゼロとセブンが知りえる限りでもこれだけのウルトラマンが地球人と一体化している。

 一体化しているウルトラマンか人間のどちらが死んでも両者が命を落すというデメリットはあるが、それでも地球を訪れた一族の半分以上がこの技術を利用して地球人と一体化していたのである。

 また、セブン自身もかつてジンという青年と一体化していたことがある。一体化から時をある程度おけば、合体時には瀕死または死亡していた肉体も回復し、分離と同時に一体化していた側が死ぬということもないため、通常は分離にも問題はない。

「通常であれば、融合する身体の持ち主の意志と私の意志が同じ身体に同居するかたちになるのだが、私は生憎そう遠くなく消え去るサーヴァントの身だ。生身のころのように意志が残ることはないだろう。この少年には、私の能力と命だけが残る」

「サーヴァントとの融合ということか……そんなことが本当に可能なのか?」

 切嗣は縋るような目で弾を見る。それに対し、弾は静かに、それでいて力強く頷いた。

「任せてくれ。この少年は絶対に死なせない」

 そう言うと、セブンは光解き放ちし真紅の眼鏡(ウルトラアイ)を持たせた少年の手を握った。その直後、二人を赤い球体が覆う。外からは中の様子を窺い知ることはできないが、球体の中からはサーヴァントが内包していた魔力の奔流が感じられた。

 

 

 

 

 

 ――君に、私の命をあげよう。

 

 声が聞こえる。ここはどこだろう。見えているのに、聞こえているのに、ここがどこか分からない。確かなのは、自分を背負っていた男の人の背中ではないということだけ。

 

 ――私は無力だった。何も守れなかった。君に命をあげることで償えるとは思わないし、許してくれなくてもいい。

 

 何を言っているのか、分からない。だけど、不思議だ。誰かも分からない声なのに、全然怖くないのだから。

 

 ――ただ、君は、生きてくれ……

 

 声は、そう言い残して消えた。けれど、それと同時に今度は僕の周りに光が集まってきた。違う、光に包まれてるんじゃない。僕の中に光が入ってきているんだ……。

 

 少年の意識は、己の中に入り込んできた光の奔流に飲まれて再び薄らいでいった。

 

 

 

 

 

 

 弾と少年を包み込んだ球体は宙に浮き、しばしの間そこに静止していた。しかし、時間にしてほんの一分ほど経ったころ、球体は降下し、地表に触れると同時に消滅した。そこに残されたのは、真紅の眼鏡を手にした赤毛の少年だけだった。

 すぐさま少年に切嗣が駆け寄り、容態を診察する。

「火傷もなくなっているし、呼吸、脈拍ともに正常だ。……生きてる、生きてる!!」

 それは、奇跡とか言いようもないことだった。先ほどまでほぼ死んでいた少年が、傷一つなくピンピンしているのだから。

 

「ありがとう……ありがとう!!」

 

 魔術師殺しとして恐れられた冷徹な殺人マシーンは、涙で頬を濡らしながら心からの喜びを顕にして、少年を抱きしめた。見ている方も嬉しいと思えてしまうほどにこれ以上ない最高の笑顔を浮かべて。

 

 

 

 

 

 

 涙を浮かべながら少年を抱きしめる切嗣を感情を映さぬ瞳で見つめる女性がいた。彼女の名は久宇舞弥。切嗣という機械の補助部品たる女性だ。

 彼女は、機械になりきれなかった人間が、機械であることを完全に放棄して笑う様子を静かに見守る。そこに、カソックを着た男が近づいてきた。

「女、お前は衛宮切嗣が()()でも構わないのか?」

「どういう意味でしょうか?」

「貴様が理解する――いや、肯定する()()()()は、()()ではなかろう」

 綺礼は、切嗣との空中戦の際、彼女達の目に宿る意思を見て、理解していた。あの眼に燃え上がる気炎は、職業や義務などといった理由で生まれる焔ではなく、自分にとって譲れないものを守るために灯す焔であった。

 そして、彼女たちにとって譲れないもの――それは、衛宮切嗣としか考えられない。しかし、もはや目の前の男は綺礼の知る、己の同類たる衛宮切嗣ではなく、父や師と同じく理解できない他者に過ぎない。

 理解できない存在へと変質した切嗣を、これまでと同じように守ろうと思えるのか――そう綺礼は問いかけている。それに対し、舞弥は淡々と答えた。

「私の役割は、切嗣が与えるものです。私は、それに従うだけですから」

 

 ――理解できない。それが、言峰綺礼が感じた全てだった。

 

「お前は、あの男を――」

 綺礼が重ねて問いかけようとした、その時だった。災禍と絶望に染まる朝の冬木に、弦楽器の重低音を連想させる低い唸り声が響いたのは。

 

 

 

 

 

 その低い唸り声を聞き、少年を抱きかかえた切嗣を含めた全員が深山町の方に振り返った。

 

「そんな、バカな!?」

 

 驚愕の表情を隠せないでいる璃正。彼らが聞き間違えるはずがない。何故なら、さっきまで彼らはその唸り声と同じ音を散々聞いてきたのだから。

 

 白い靄が立ち込める街の中に、黒い影が蠢いているのが見えた。

 

 影が身じろぎしたことで、靄が空気の流れに押し出されたのか、次第に靄が晴れてきて、影の輪郭がはっきりしてくる。

 

「ありえない、確かに、あの時ヤツは……死んだはずだ」

 呆然とする時臣。もはや心は折れ、優雅などを気取っていられないほどに憔悴した彼は、再度絶望に襲われていた。しかし、まさかの愉悦の種の再登場に笑みを浮かべる言峰綺礼を除き、誰もが絶望に屈する中、ウェイバーだけは心を折ることなく仇を見る目でゴジラを睨みつけていた。

「……第四次聖杯戦争において、最後まで生き残ったサーヴァントは間違いなくゴジラ(バーサーカー)だ。最終的に自滅したとはいえ、他のサーヴァントが脱落した時点で、聖杯戦争の勝者――聖杯の獲得者はゴジラに決定していたことは多分、間違いないと思う」

 ウェイバーは、ゴジラを睨みつけながら淡々と現状について分析する。心は煮えたぎったマグマのように熱く、噴火寸前であるが、頭はそれとは対照的に、不思議なほどに冷徹だった。

「聖杯は万能の願望器だ……聖杯が聖杯戦争の勝者の望みを叶えるのなら、自滅から受肉して復活することだってできないはずがない」

 ウェイバーの言葉を聞いて、事態が飲み込めていなかった璃正や切嗣の顔も青ざめる。しかし、それを口にしているウェイバーの顔には恐怖や絶望など一欠片も浮かんではいない。

「ゴジラが最後まで残った時点で、僕たちは負けていた……だけど、まだだ。今は負けたけど、次は絶対に負けない」

 ウェイバー・ベルベットは、その影を見据えて、堂々と宣言した。

「お前は……いつか必ず、僕が倒してみせる!!首を洗って待ってろ、ゴジラァァ!!」

 

 少年の魂の叫びに答えるように影を覆う靄が次第に晴れていく。

 聳え立つ山脈を思わせる巨大な鋸状の背鰭の連なり、太く逞しい体躯、そして、白濁した目と二列に並んだ鋭い牙の並びが一層恐ろしさに拍車をかける太古の肉食恐竜のような形相がそこにはあった。

 

 そして、影の主が吼える。

 その咆哮は、己の帰還を知らしめるかの如く、大気を震わし地を揺るがした。




救いなんて用意してなかったんや……

次回、最終回です。エピローグになります。


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光を継ぐ者

やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!の最終話になります。
最後まで愉しんでいただければ幸いです。


『――悪夢のような夜が明け、被害の全貌が次第に明らかになってきました』

 テレビのアナウンサーは重苦しい声音で原稿を読み上げている。

『政府は、今回××県冬木市に上陸した巨大生物について、1954年に我が国に上陸し甚大な被害を及ぼした怪獣『ゴジラ』を筆頭に、同じく1961年に我が国に襲来した巨蛾『モスラ』の亜種、そして、これまでに発見されたことのない新種5体の計7体であると発表しました』

 ここは、××県のとなりにある○○県に設置された冬木からの避難民を収容する臨時の避難所である。一晩中歩き続けた避難民の一部は、近隣の自治体の設置した避難所でようやく一息つくことができていた。

『また、政府発表によれば、冬木市にはこれらの怪獣のほかに、1967年に我が国で放映された特撮番組、『ウルトラセブン』に登場するウルトラセブンに酷似した赤い巨人が現れたということです』

 避難所の一画で膝を抱える少女、遠坂凛も、冬木の怪獣大戦争から逃げた避難民の一人だ。年の割りに聡明な彼女は、淡々とアナウンサーが読み上げる冬木の情報に耳を傾ける。自分の家がどうなっているのか、友だちはどうなっているのかについて、聡明とはいえ、まだ年端もいかない少女には他に知る術がなかった。

 しかし、現在分かっている情報は凛を安心させるようなものは殆ど無く、逆に凛を戦慄させるものばかりだった。

 まず、建物家屋の被害。政府が公開した上空からの写真を見た凛は言葉を失った。一面が灰色の瓦礫の山、そして、そこかしこで立ち上る赤い炎と、空を真っ黒に染めるほどの量の黒煙。冬木市は、完全にかつての面影を失い、東京大空襲でも受けたかのような焼け野原となっていた。

 新都に聳えていたビルは一つも残っておらず、未遠川にかかっていた大橋も橋脚ごと姿を消している。あの写真に写っているのが自分の故郷であるとは信じられないぐらいに、冬木市は荒廃していた。

 次に、犠牲者だ。現在分かっているだけで、死者は民間人だけで2万人近い。さらに、負傷者の数は把握しきれていない。概算で、5万人は下らないということしか分かっていなかった。

 しかも、これは自衛隊の犠牲者を抜いた数である。怪獣から国民を守るために命がけで戦い、命を落とした自衛官の数も一万人以上だ。一連の事件で、全体でどれほどの被害となるのかは凛にも想像できなかった。

 

 ただ、一つだけ彼女が誰にも教えられることもなく確信していたことがある。それは、自分が生まれ育った冬木市は、もうどこにもなく、あの日の冬木は二度と帰ってこないであろうということだった。

 

 

 

 

 最終的には日本政府呼称『怪獣総進撃』事件の被害は凛の想像の到底及ばない規模にまで膨れ上がった。事件から一年後の統計によると、死者は自衛官、民間人合わせて5万人に及んだ。さらに、負傷者も10万人以上となる。その中の多数を占めたのが、冬木でゴジラが撒き散らした放射能や冬木から拡散した死の灰によって被曝した被曝者たちだった。

 ゴジラのメルトダウンによって冬木市は凄まじい放射能で汚染された。汚染の範囲はその時点では冬木市に限定されていたが、一日中には気流にのって死の灰は日本列島をスッポリ覆い、日本列島は重度の放射能で汚染され、命の住めない死の大地となる()()()()()

 列島放射能汚染による日本滅亡の危機を救ったのは、皮肉にも放射能汚染の主犯であるゴジラだった。聖杯の力で受肉したゴジラは、復活直後に自らのメルトダウンによって汚染された冬木から放射能を吸収することで、己のエネルギーとした。

 これにより、本来ならばチェルノブイリ原子力発電所を凌駕するレベルの放射性物質が大量に飛散されるところだったのが、飛散される放射性物質の量や危険度共に大きく軽減された。

 また、本来であればゴジラの死と共にサーヴァント『ゴジラ』という軛からゴジラを構成する数知れぬ怨霊たちが解き放たれて変質し、周囲の者を内的世界に取り込むはずであった。数百万の怨霊の取りついた地は、放射能を除去したところでどうしようもならない呪われた地になるはずだったのである。これも、ゴジラが受肉したために回避されたのであるが。

 ただ、軽減されたとはいえ、放射性物質の大量飛散は人類史に残る大災害であり、国際原子力事象評価尺度(INES)ではレベル7と認定されるだけの規模の被害を出していたことには変わりはないのだが。

 これにより、冬木市のある××県は半分以上の地域で残留放射能が人体に影響を及ぼすレベルとなり、立ち入り禁止区域に指定された。住民は住み慣れた地を追い出され、近隣の自治体が設立した仮設住宅暮らしを強いられることとなる。

 農作物への被害も深刻で、最終的には日本全体で10%の耕作地が放射能汚染によって農作物をつくれなくなった。

 また、日本海は全域が漁の禁止区域に指定され、日本海沿岸の都道府県の漁業は文字通り全滅した。これは、メルトダウンから受肉して復活を遂げたゴジラが、復活後真っ先に朝鮮半島にある月城並びに古里原子力発電所の核燃料を狙って北上、計5基の原子炉を破壊したことによる影響も大きい。

 さらに、日本が巨大怪獣7体+α大暴れという天変地異に等しい災害を受けたことに対して、金融史上は敏感に反応した。瞬く間に株安、円安、債権安のトリプル安に突入し、国際決済通貨の一つである円とそれを主要通貨とする日本の凋落は、次いでゴジラの襲撃によって韓国、中国が立て続けに大損害を被ったことも相まって、世界的な金融危機の引き金を引いた。

 世界中が大混乱に巻き込まれ、後の世では世界経済はこの日本を襲った前代未聞の怪獣災害を発端とする金融危機によって、20年停滞したとまで言われた。

 さらに、不安定な国際情勢は金融面だけではなく、安全保障政策面でも極東に大きな混乱をもたらした。

 冬木を後にしたゴジラが朝鮮半島の月城に向かったため、大韓民国国軍は総力を挙げてゴジラの撃滅のために出撃した。(尚、巨大生物との戦闘は米韓同盟の枠外であるため、在日米軍は手を出せず、巨大生物との戦闘時の指揮権も米韓連合司令部にない)

 しかし、米軍供与のギアリング級駆逐艦を擁する艦隊は鎧袖一触で蹴散らされ、F-4とF-5による航空攻撃も効果はなく、逆に8割の機体が熱線で撃墜される始末。最後の希望だった陸軍の自走砲部隊も熱線の掃射によって一瞬で消滅という結末を迎え、大韓民国国軍の主力部隊は壊滅した。

 米軍は、巨大生物との戦闘経験が豊富な自衛隊ですら手も足も出なかった相手と無理に戦えば軍の壊滅は避けられないため、出撃はせずに民間人の避難誘導に徹するべきだと提言したが、自国に迫り来る脅威に対してただ指を咥えて見ているなんてできず、米軍の提言を無視して大韓民国国軍はゴジラとの戦いを選んだ。(仮に、米軍の提言に従った場合、彼らは国民から総バッシングを受けることは確実であり、軍の存在意義すら否定されかねない。米軍の提言は理屈では正しいと分かっていたが、かといって出撃しなかったら軍そのものが危ういことになる。世論のためにも軍は出撃せざるを得なかったのである)

 そして、朝鮮半島を後にしたゴジラは対馬海峡を抜け、西進する。さらに、一時的に中国本土に接近するコースをゴジラが取ったため、ゴジラが中国に上陸するのではと考えた中国人民解放軍は、ゴジラ撃退へと動き出す。

 しかし、中国人民解放軍空軍の殲轟7による攻撃は当然のことながら効果はなく、先の韓国と同様、攻撃部隊の殆どを撃墜され、空軍の攻撃部隊は軍事的には全滅の判定を受けることになる。

 この攻撃の失敗で中国人民解放軍はゴジラを相手にする愚かさを実感し、即座に方針を転換した。幸いにも、この時点で中国が商業運転中の原子力発電所はないため、ゴジラに積極的に狙われる理由はなかった。

 そこで、中国人民解放軍はゴジラに一切の手出しをせず、これ以上の損害を出さないという策を取った。

 結果的に、ゴジラは大陸に近づいたものの、上陸しようとはせずにそのまま南シナ海に消えたため、中国人民解放軍は空軍以外の戦力を無傷で残すことに成功した。韓国ほど世論を気にする必要がないため、世論の反発や軍の面子に振り回されて損害を被ることがなかったのである。

 ただ、ゴジラが南シナ海に去ったとはいえ、ゴジラによって極東のミリタリーバランスが大きく乱されたことには変わりはない。中国人民解放軍空軍の壊滅、大韓民国国軍の壊滅、日本国陸上自衛隊並びに海上自衛隊の壊滅は、ソビエト連邦崩壊直後のロシアの軍事的な混乱と相まって、極東に一時、極度の緊張状態をもたらした。

 同盟国軍が行動不能に陥り、一時的なこととはいえ極東でまともに動ける西側の兵力が在韓米軍と在日米軍のみとなり、ソビエト崩壊による混乱を打破するために軍事的な成果を狙うロシアと領土拡大の好機とみた中国、仇敵の弱体化を見て不穏な動きをする北朝鮮がいつ韓国や日本にちょっかいをだしてきてもおかしくない状況となった。一触即発の事態はその後、3年ほど続くこととなった。

 

 ゴジラ復活と極東襲撃が引き金を引いたのか、世界中の生態系が崩れ、一時は沈静化していた巨大生物災害も再び頻発するようになった。

 まず、ベトナムの森林公園に留まり、20年近く動きを見せなかったクモンガが動いた。クモンガはベトナムの都市部へと向かい、抵抗するベトナム軍を蹴散らして市街地を蹂躙した。建物の倒壊や火災、直接クモンガに捕食されるなどの被害を合わせて数千人規模の犠牲者がでたとされている。クモンガはその後悠々と森林公園に帰還したが、数年おきに森林公園を抜け出して捕食行為を続けているという。

 一触即発の事態が続いていた朝鮮半島にも、新たな怪獣が出現した。北朝鮮の元山市に出現した『ガバラ』と名付けられた放射性物質によるガマガエルの突然変異体は、朝鮮半島を縦断し、軍事境界線を越えて韓国へと進撃した。

 ガバラに対し、在韓米軍の司令官は日本から輸入して在韓米軍に配備していた90式メーサー殺獣光線車を攻撃に使用し、どうにかガバラを討ち取ることに成功した。

 大韓民国国軍や自衛隊の壊滅した際に米軍は傍観して見捨てていたということで、米軍が駐留する各国で米軍との同盟はいざという時に国を守れないのではないかという不満が噴出したこともあり、各地の米軍は同盟国に出現した巨大生物に対しても、同盟に基づいて米軍が怪獣攻撃に加わる義務が課されていた。(冷戦崩壊によって、現実的な脅威が東側の国から巨大生物にシフトしていたという事情があり、米国がそのプレゼンを維持するためには、現実的な脅威に対抗できる勢力であることを示す必要があった)

 因みに、この際の90式メーサー殺獣光線車の活躍を受け、各国から日本に対し90式メーサー殺獣光線車などの対怪獣兵器の輸出要請が相次いだ。経済的な大混乱によって困窮していた日本は形振り構わず輸出要請を快諾、国を挙げて対怪獣兵器の生産と輸出を推進した。この所謂『対怪獣特需』によって、破綻寸前だった日本の経済はどうにか持ち直すことに成功する。

 1998年にはアメリカ・ニューヨークにもゴジラに似ている(アメリカ以外の学者はほぼ完全に否定しているが、一度ゴジラと呼称した手前、中々アメリカの学者は意見を変えようとしないらしい)怪獣が出現し、甚大な被害を出した末にアメリカ軍に駆逐された。

 このほかにも、中国に毒ガスを撒き散らす怪獣ケムラー、オーストラリアに農薬オルガノPCBの影響で巨大化した怪獣マジャバ、ベーリング海には放射能の影響で水棲生物が巨大化した怪獣レイロンスなど、延べ20体以上の怪獣が出現した。日本の雲仙普賢岳からも古代昆虫メガヌロンが復活し、陸上自衛隊の無反動砲で始末されている。

 第四次聖杯戦争から十年、あの大災害をきっかけに、確実に世界の箍は緩んでいた。人間同士の争いも、怪獣による襲撃も人類滅亡へと辛うじて繋がっていないのは、誰にも知られることなくこっそりと後押ししている抑止力のおかげなのかもしれない。

 

 

 

 

 人間の力では手も足もでない怪獣が蔓延る世には末法思想に染まるものも少なくない。1999年にノストラダムスの預言が成就すると世間の大半は信じていた。

 

 しかし、冬木市を襲った大災害から8年ほどたったころからだろうか、暗い顔をしていた人々の間でこんな噂が流れるようになった。

 

 『光の巨人が世界中の怪獣と戦っている』――という噂が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――冬木の大災害から10年後

 

 

 あの大災害から10年の月日が流れ、あの地獄を生き延びた人々も既にそれぞれの道を歩きだしていた。

 

 まず、遠坂家の場合だが、彼らの戦後は悲惨だった。

 キングギドラを召喚し、催眠術で支配下に置かれ、自身の管理地において魂喰らいを不特定多数の人間に神秘の隠匿を関係なく行った上で大暴れさせたことは魔術師の間では侮蔑されて当然の愚かな行為だった。

 魔術の隠匿の原則を破りかけただけでなく、自身の管理地を自身の所業で業火に包んだことで、土地の管理者たるセカンドオーナーの資格なしと判断されることも至極当たり前のことだった。遠坂時臣は魔術協会に登録してある全ての特許の権利、並びにセカンドオーナーの資格を剥奪された。

 ただ、魔術協会は別に魔術師に法だとか規則などを押し付けて秩序を保とうとするような機関でもないため、時臣個人に対する制裁じみた行為は上記の二つぐらいであった。しかし、サーヴァントの狗となり、管理地を荒廃させ、魔術を白日の下に晒しかけた愚か者という汚名を被った遠坂という一門は、事実上没落したとも言える。

 さらに、先祖代々受け継いできた資料や礼装、宝石は全て喪失し、運用していた冬木市の土地資産は全て放射能による汚染のために二束三文にまで大暴落していた。既に、経済的にも遠坂は魔術師を続けられる状態ではなくなっていた。

 地位、金銭、矜持、魔術の全てを失った遠坂時臣は、大災害から5年後、放射線障害で身体を壊して帰らぬ人となった。

 因みに、娘の凛は、大災害後に時臣から魔術の鍛錬を受けて育った。最初は時臣も凛に魔術を教えることに反対していたが、最後には娘の気迫に押し切られる形で魔術の鍛錬を始めた。同時に、彼女は兄弟子である言峰綺礼のもとで、格闘術の訓練も重ねている。

 父の愚かな行いがどれほどの犠牲を生み、どれだけの人を不幸にしていたのかを知りながらも敢えて凛は魔導の道を選んだのである。ただ、『父のような悪行を成そうという魔術師を始末し、魔術に関わりの無い人々を魔術による災害から守る』ために。

 

 次に、言峰家だ。

 戦後、個人資産で孤児院を設立した璃正は、冬木市の大災害で発生した孤児を出来る限り引き取り、孤児院で養育した。朝から晩まで孤児たちのために働き、暇を見つけては神に懺悔をする毎日を送っていた。あの大災害に対して何もすることができず、むしろ被害の拡大を助長した立場にある彼にとって、それはせめてもの償いだったのかもしれない。既に老齢だった璃正にとってそれは決して楽な毎日ではなかったが、璃正は精力的に働き続けた。

 そして、大災害から6年後、癌を患った璃正は、時臣の後を追うかのようにこの世を去った。

 一方、息子の綺礼は「妻の死の価値」という問題を一時棚上げとし、愉悦を堪能していた。己の所業を悔やみ、偽善と知りつつ孤児に可能な限り報いようとする父親の苦悩や、全てを折られて消沈し、語る死人のような日々を過ごす時臣は、綺礼の感性を震わす絶好の美酒に他ならなかったのである。

 璃正の孤児院の手伝いをする傍らで、師の娘、凛に八極拳の稽古をしながらあの災害の被害者たちに愉悦を覚える日々は、6年ほど続いた。璃正と時臣の死後は、一向に愉悦の花が芽吹かない凛の相手をする気が失せたのか、日本に留まる期間は短くなりつつある。

 

 御三家の一角であるアインツベルン家は、本来聖杯戦争によって生じた損害を賠償する取り決めになっていたが、今回は賠償を拒絶した。地方都市一つがインフラごと消滅し、放射能汚染されただけでも復興予算は途方もない額になるのに、加えて一国の最新鋭兵器を備えた軍隊の壊滅となると、流石にアインツベルンの資産が許容しうる賠償額を超えていたのである。

 結果、先進国一国の国家予算に匹敵する額を捻出することができなかったアインツベルンは賠償の全額支払いを拒否し、自衛隊の兵器損失分に相当する部分賠償のみに留めた。聖堂教会や魔術協会はこれに反対したが、アインツベルン側が「こちらの賠償をあてにして必要以上に大暴れした魔術師がいる以上、その魔術師も賠償責任を負うのが筋だ」と主張する。

 そもそもアインツベルンは魔術協会に所属しているわけでもなく、また、今回の聖杯戦争においてはアインツベルンの魔術師が神秘の漏洩の危機を招いたわけでもないため、似たような立場にある遠坂と同様に、魔術協会としても無理に賠償金を取り立てることはできなかった。

 そして、アインツベルンの娘婿、衛宮切嗣はというと、アインツベルンに戻ることも許されず、再び放浪生活を始めた。最初はセブンに助けられた子供を養子として引き取ろうと考えていたが、魔術師殺しとしての活動歴のある切嗣が子供を養育することに対して、その場に居合わせた璃正らが反対したため、実現しなかったという。

 しかし、かといって切嗣も強大すぎる力を与えられた子供を養育するのに聖堂教会(というよりも言峰綺礼)が関わることは容認できないことであった。両者の話し合いは平行線を辿ったが、埒が明かないので結局、戸籍上は切嗣の養子として育てるが、璃正の目の届く場所(璃正の設立した孤児院のすぐ近く)に住むということで決着した。

 その後、切嗣は家に舞弥を残し、魔術師殺しとして活動していたころの資金と、アインツベルンからちゃっかり着服した戦争資金を元手に度々世界を飛びまわり、怪獣の封印を解こうとしている魔術師の殲滅を行っている。因みに、その資金の一部を使い、放射線障害を発症したウェイバーにも凄腕の人形師謹製の人形を与えている。第四次聖杯戦争において、彼とそのサーヴァントに負担をかけてしまったことに対する申し訳なさからの配慮らしいが。

 切嗣は聖杯戦争から10年経った現在でも治療の成果もあって辛うじて生きてはいるが、世界中を飛びまわって戦った反動や放射線障害の発症などもあり、ここ2年ほどは家から出られない生活を続けている。

 ボロボロの身体になってまで魔術師殺しの仕事を続けたのは、自分が聖杯戦争によって世界の箍を外した結果、怪獣の動きが世界中で活発化したという罪悪感を抱えていたからだった。

 

 残る御三家、間桐家は、没落した。

 数百年間実権を握り続けてきた当主、間桐臓硯が聖杯戦争にて戦死し、膨大な資料などを溜め込んでいた屋敷が全焼したことにより、間桐の家は魔術師の一族として成り立たなくなったのである。

 名目上の次期頭首である鶴野の魔術師としての素質は下の下、ろくに魔術師としての手ほどきも受けておらず、さらに彼の息子に至っては魔術師としての素養は皆無ときた。養子にとった長女には類稀なる素質があったが、その素質とて現状の間桐の家では宝の持ち腐れだ。間桐鶴野が、魔導を棄てる道を選択したのも、理解できる話である。

 その後、間桐の擁する金銭的資産を相続した鶴野は、実の息子と養子となった少女を連れて冬木と魔導の者から逃げるように日本の各地を転々とする生活を送ることになる。

 

 

 

 

 

 ――そして、セブンの志とエリアス三姉妹(ライダー)の願いを受け継いだかつての少年、ウェイバー・ベルベットは……

 

 

 迫る数百キロクラスの巨体が繰り出すパンチを、長髪の男は紙一重でジャンプすることで回避する。パンチを空振りした合成獣(キメラ)はすぐさま視線を上に向け、重力に従って落下しつつある男の姿を捉えた。

 そして、合成獣(キメラ)は落ちてくる男に狙いを定め、再度拳を構えた。一度飛び上がった男は空中では身動きがとれないため、確実に仕留めることができる。合成獣(キメラ)はそう確信していた。

「ハァァァア!!」

 しかし、降下してきた男は空中で足を振り、慣性で回転を始めた。回転数は見る見るうちに上がり、ついには男の姿を精確に捉えられないほどになる。まるで独楽のように回転しながら降下すると、男はかつて師から叩き込まれた「きりもみキック」を熊をベースにしたと思われる合成獣(キメラ)へと叩きつけた。

 男に向かって放たれた合成獣(キメラ)の拳は、男の右足によって薙ぎ払われる。そして、右腕を失ったことでがら空きとなった頭部を今度は男の左足が刎ねた。

 きりもみキックを見事にきめた男は、頭を失い、崩れ落ちる合成獣(キメラ)の後ろに静かに着地し、残心をした。男の周りには、先ほど首を刎ねられた合成獣(キメラ)と同様の運命を辿った頭のない合成獣(キメラ)や、胸を穿たれた合成獣(キメラ)が6体ほど転がっていた。

 そして、全ての合成獣(キメラ)が生命活動を停止したことを確認すると、視線を離れたところで戦っている少女に向けた。フードを被った少女の振るう鎌によって、狼のような合成獣(キメラ)は既に深手を負わされていた。

 これならば、手助けは不要か。男はそう結論付けると、懐から取り出した葉巻に火をつけた。狼型の合成獣(キメラ)の首が刎ねられたのは、その直後だった。

「これで終わりか。しかし、たかが門番を相手に時間を使いすぎた」

「オイオイ、こんなに扱き使っておいて、時間かけすぎとは辛辣だな!」

 少女の鎌の刃に刻まれた口が憎まれ口をたたく。男は鎌の憎まれ口を聞き流し、少女に言った。

「急ぐぞ。おそらく儀式は――」

 その時、彼らが目指していた廃校から暗雲が噴出した。暗雲は空を覆い、太陽光を完全に遮断する。雲ひとつない青空が、黒雲に覆われた闇夜へと一瞬で変貌を遂げた。

 暗雲の中では時折稲光が瞬き、地では風が渦巻く。そして、大地に落ちた青白い稲妻が一点に集中し、稲妻の柱の中から巨大な影が姿を現した!!

 

「ファック、どこのアホだ。怪獣の力を取り込もうとして、逆に飲まれてどうする」

 男は、目の前に現れた巨大な影を前に悪態をつく。その姿は、悪魔や黒魔術師と形容する他のない異形だった。

 一方、平然としている男のとなりに立つ少女は、男とは対照的に恐怖に慄いていた。誰よりも霊の本質を捉えることに長けた彼女だからこそ、目の前の巨大な影の本質とその恐ろしさが理解できた。

「師匠、アレが本物の怪獣ですか」

「ん?ああ、そうかお前は初めてだったな」

 一方、長髪の男は、少女が怯えずにはいられないほどに恐ろしい怪獣に対してまったく気圧されていない。

「……どうして、教授はそんなに平然としていられるのですか?」

 目の前の怪獣は、自分たちなど赤子の手を捻るよりも簡単に殺すことができるだろう。勿論、教授と呼ばれた男にも、フードを被った少女にも怪獣に対抗するだけの力はない。一応、師匠と呼ばれた男も魔術師の端くれではあるが、魔術師としての力量は三流に留まり、とても怪異を相手にできる腕前ではない。そもそも、魔術師として一級品の力量を持っているのであれば、先ほどの門番とて大火力にものを言わせて一瞬で殲滅できたはずだ。

 まぁ、この師匠と呼ばれた男は、魔術協会随一の戦闘能力を持つ封印指定執行者や聖堂教会の代行者相手に体術のみで互角に渡り合い、そこらの死徒でも軽く討伐できる体術特化の魔術師(笑)なのだが。

 しかし、目の前の巨体はいくら体術に秀でていたとしても、相手にできる大きさではない。何時殺されてもおかしくないのにもかかわらず、どうして男は余裕を持った態度を崩さないのか。

「アレは今回のお目当ての品である悪魔……ビシュメルで間違いない。()()クラスの化け物ならまだしも、()()()()の相手なら恐れるに足りんよ」

 そして、男――かつての少年、ウェイバー・ベルベットからロード・エルメロイⅡ世に名を改めた青年は、紫煙を吐き出しながら言った。

「ついてこい、古文書によれば、ヤツの力の源となる魔方陣があるはずだ。それさえ封じればあんな小物はどうにでも料理できる。それに、魔方陣を見つけるまでのことは心配することはない。アイツがここの近くに来てるからな」

「アイツ……?」

 ロード・エルメロイⅡ世は不敵な笑みを浮かべた。

「私の師から志を受け継いだ……正義の味方(ヒーロー)だ」

 

 10年の月日は、かつての情けない少年を頼りがいのある大人の男に成長させるには十分の時間だった。時計搭で君主(ロード)の階級を持つ一族は僅かに十二、その内の一つの名家、エルメロイ家の当主を任された彼は、己の無力を嘆いたあの日の少年とは隔絶していた。

 

 

 

 

 

 怪獣が現れた廃校に程近い街に、赤毛の青年が立っていた。

 テンガロンハットをかぶり、フリンジのついたウェスタンシャツを着込んでジーンズを履いているカウボーイ風の男だ。年のころは、まだ20歳前といったところだろうか。

「教授は間に合わなかったのか?」

 丘の向こうに広がる闇と、その中心に見える巨大な影を見た瞬間に彼はその本質を理解した。他人への憎しみ、嫉妬、欲望といった人の負の感情を糧に生きている生物――悪魔に近いものであると。

 悪魔は、人々が暮らす街を標的に定めたらしい。丘の向こうからゆっくりと歩いてくる巨大な影を見た街の人々はパニックに陥り、我先にと逃げ出そうとしていた。しかし、街の外に逃げ出そうとする人の流れに逆らうかのように青年は一人で怪獣の方に向かっていく。

 必死に逃げようとしている人々の濁流に逆らって進むことしばし、いつのまにか青年の周りからは人の気配が消えていた。

 

「守ってみせるぞ、この街を……全力でだ!」

 

 青年は、テンガロンハットを放ると懐から真紅の眼鏡を取り出した。そして、真紅の眼鏡を顔の前にかざし、装着と同時に叫んだ。

 

「デュワ!!」

 

 光解き放ちし真紅の眼鏡(ウルトラアイ)から松葉のように閃光が飛び散り、青年の周りを一瞬光が包む。光の中で、青年の特徴的な赤毛頭は白銀のマスクで隠され、胸から上腕部にかけては鈍く輝くプロテクターが覆う。そして、胸から下は彼の心に燃え滾る気炎のように真っ赤に染められた。

 

 姿を一変させた彼は、さらに身長40m、体重35000tの巨人へと変貌を遂げた。

 

 

 街を守るように立ち、迫り来る怪獣にファイティングポーズを取る赤きボディの巨人――人類の希望を背負った正義と平和の守護者、その名を、ウルトラセブン!!




これにて、「やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!」は完結です。

ですが、その内にあとがきと特別編を書く予定ですので、そちらの方まで目を通していただければ幸いです。

尚、特別編では、「くたばれ!!アインツベルン相談室(仮)」をやる予定です。詳しくは活動報告を参照して下さい。
ストーリーよりもQ&A中心ということもあり、面倒なので多分この話だけは台本形式で終わると思います。
本編で台本やるのはどうかと思いますが、Q&Aのためのあとがきみたいなものなので、今回限りはセーフということで。

活動報告に設けた特設コーナーの締め切りは、12月20日、23時59分とさせていただきます。

それでは皆様、特別編とあとがきまで今しばらくお待ち下さい。


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あとがき+α

今日予定なんて無いさ
だから書くしかないのさ


 皆さん、こんにちは。後藤陸将です。

 

 これにて拙作『やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!』はひとまず完結となりました。

 

 「やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!」は元々エイプリルフール用に昨年からチマチマと暇を見つけては書いていたものの、1月にエイプリルフール作品をシティーハンターに鞍替えしたために放置していた作品でした。

 

 死蔵するのももったいないか、ということで多少手直しして公開しました。それで予想以上に評判がよかったのもあって書き続けてみたところ、自分自身もやりたい放題の展開にのめり込んでしまい、気がついたら完結していたという次第です。大怪獣バトルと自衛隊の総力戦をミリタリーチックに書いてみたいというのが元々自分の中に願望としてあったことも大きいと思います。

 

 ただ、この作品を執筆している最中に自分の中で一番大きかった想いは、本物のゴジラを暴れさせてやりたいという気持ちだったと思います。

 あくまで、自分個人の意見でしかありませんが、私はゴジラを描写する際に意識したのはゴジラはあくまで怪獣であるという点です。人間の意志など関係なく暴れ、壊し、殺す。他の力をまったく寄せ付けない圧倒的な力で蹂躙する。

 自然災害にも似た残酷であり決して克服できない超越者でもあるのが日本人にとっての怪獣であり、その始祖であり象徴たりえるのが、ゴジラだと考えています。荒神に近いものと言えば分かりやすいかもしれません。

 人間には絶対に迎合せず、多種とは基本的に敵対する。情など持たない。このあたりが人間との意志の疎通が可能であり、共存しようとするガメラやモスラとの決定的な差ではないでしょうか。故に、自分は基本的にゴジラに人間に対して親しみを持つような人格を持つべきではないというスタンスを取っています。

 勿論、南海の大決闘やゴジラアイランド等、歴代作品の中には自分の抱くゴジラ像に一致しないゴジラも少なからず存在しますし、自分もそれはそれとして受け入れていますが。

 ただしエメリッヒのマグロ。てめぇは駄目だ。私はお前をゴジラとしては完全に否定する。あくまでお前はリドサウルスの二番煎じだ。

 

 また、結果的にセブン苛めとなってしまいましたが……孤軍奮闘と苦戦が似合うウルトラマンだからしょうがない。許してください。元からメルトダウンENDしたかったから、チートラマンはルーラー候補から弾いてしまったのもありますが。

 構想中に最後までセブンとルーラーの座を争ったウルトラマンティガなら、選ばれていればひょっとしてグリッターティガになってゴジラを倒せたかもしれませんがね。グリッターになれば勝ち確定な反面、なれなければ負け確定ですが。

 

 尚、ガイガンはセイバーになれる怪獣が少なかったせいで仕方なく選ばれた不憫な子です。活躍とか描写の多さは基本的に筆者のお気に入り度の高さと比例しているという傾向にあるため、尚更描写も削られて……ガイガンスキーの方々、本当にごめんなさい。私はあの面子の中では、ガイガンとメガギラスには他の怪獣ほどに愛着がないんです。

 

 魔術師共は、世紀末をつくる舞台装置として下衆に徹していただきました。実際下衆ばっかだし、下衆な本性を発揮する場所が増えただけだからね。

 

 

 

 最後に、ここまで読み続けてくださった読者の皆様へ。

 およそ26万字の長丁場をお付き合い下さいました読者の皆様に厚く御礼申し上げます。皆様から頂いた多数の感想が、励みになりました。

 エピローグは当初、ゴジラメルトダウンの鋼の大地ENDの予定でした。しかし、様々な感想を頂き、読み進めていったことを通じて戦後に士郎君を正真正銘の正義の味方にしようというアイデアが浮かび、士郎がセブンになるというTRUEENDという道筋が見えてきてしまいました。

 TRUEENDからスピンオフとも言える『特命係長ロード・エルメロイⅡ世』というネタが浮かび、自分のなかでもおぼろげながら士郎やウェイバー君のその後の物語の構想を考えるようにもなりましたね。中々に面白そうな未来が見えて、楽しいです。

 ただ、反省すべき点としては、物語の展開が緩急おりまぜたものというよりは昇り降りが非常に激しく、ところどころ描写をせずに高速ですっ飛ばすジェットコースターのようなものになってしまったところだと思っています。思いつきで基本ノリと勢いで書いていた結果、自分の中でも整理しなければならないQ&Aとか設定補完が大量に必要になりましたし。

 

 そもそも、ネタに嵌って完結まで突っ走ってないで種ジパングやゴルゴやるべきだろという……

 

 まぁ、何だかんだでこの作品は一応完結です。完結までお付き合い下さった読者の皆様、本当にありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――「完結」「いままでありがとうございました」といいつつのネタ予告。

 

 

 

 

 

 日本のとある田舎町に立てられた教会。部屋の中央に格子のついた窓のつけられた壁がある、普段は使われていない日の当たらないかび臭い部屋に二人の男がいた。この教会を管理していた先代の神父が亡くなってからは滅多に使われることがなくなった、懺悔のための部屋である。

 片方は、鍛え上げられた細身の肉体に赤いコートを羽織った長髪で年のころは30前後の男。そして、もう一人は、外見だけから判断するのならば40手前に見えないことも無いが、身に纏った雰囲気は見る人に対し、憔悴した老人のような印象を抱かせるボサボサの髪の男だった。

「……確かなのか?」

 黒いコートに身を包んだボサボサ髪の男が、壁を隔てた向こうに座る男に問いかける。

「電話で話した通りだが?」

 淡々とした調子で話す赤いコートの男に、黒いコートの男は苛立ちを顕にする。

「とぼけるな……説明してもらうぞ。『聖杯戦争』がまた始まるとは」

 

 

 

 黒いコートを纏った男の名は、衛宮切嗣。かつて、魔術師殺しと謳われた暗殺者で、第四次聖杯戦争を機に9年の沈黙を破って活動を再開した男である。

 

 それに対して、赤いコートを纏った男の名は、ロード・エルメロイⅡ世。またの名を、ウェイバー・ベルベットと言う時計塔最強(物理限定)の講師にして、怪獣絡みの事件を解決し、古代文明の魔術や超生物の生態組織などを回収する時計塔所属の特命係の長を務める男であった。

 

 

 

 ロード・エルメロイⅡ世は、葉巻を燻らせながら口を開いた。

「君も知っての通り、円蔵山の山中に隠されていたはずの大聖杯が無くなったのは5年前のことだ。当時の冬木市はまだ残留放射能の濃度が高く、まともな人間であれば立ち入ることは不可能な環境だった。いや、精確には立ち入れば確実に寿命が10年単位で削られる環境だったと言うべきか」

 死の大地と化した冬木市、円蔵山に謎の穴が空いていることに最初に気がついたのは今は亡き遠坂家先代当主、遠坂時臣だった。彼は時折冬木市の近くにまで赴き、立ち入り禁止区域となっている冬木の街に鳥やネコなどの使い魔を入れて廃墟となった街を眺めることがあった。

 何ゆえに廃墟となった街を見るために定期的に訪れていたのかは、時臣は最期まで娘にすら話す事はなかった。罪悪感からだったのか、戒めにしていたのか、もはやそれは誰にも分からないことである。

 そして、5年前。生前で最期に冬木市を訪れた時、使い魔にした野鳥の目から冬木を見て彼は円蔵山の異変に気がついた。それは、円蔵山の中腹にポッカリ空いた穴。5年の間幾度も冬木を訪れ、その廃墟を眼に焼き付けてきた彼が見間違えるはずがない。その穴は人為的につくられたものであり、それもここ数ヶ月の内に掘られたものであると彼は核心していた。

 その後、当時まだロード・エルメロイⅡ世に名を改めたばかりのウェイバーと、存命中だった璃正、そして切嗣に彼は円蔵山の異変について報告した。

 冬木市でも最上の霊地である円蔵山の地下にあった何かを、高濃度の放射能で汚染された立ち入り禁止地区に侵入し、巨大な穴まで掘って盗み出すなど、魔術師の仕業以外に考えられない。

 そして、冬木の最上の霊地に設置されるべき巨大な何か――となると、聖杯戦争の仕組みをしっている彼らならば容易に想像がつく。間違いなく、聖杯戦争の基幹を成す大規模魔術礼装、大聖杯がそこにあったはずだ。しかし、使い魔の視線で見た円蔵山に穿たれた穴の先には、巨大な洞窟があっただけで、大聖杯の姿はどこにもなかった。

 結論は言うまでもない。どこかの魔術師が、大聖杯を奪取したのである。

 璃正とウェイバー、そして切嗣は、それぞれの持ちうるあらゆるコネクションを駆使して奪取された大聖杯の行方を追った。璃正の死後は、遺言に従って綺礼も捜索に加わっている。もしも、再度聖杯戦争がどこかで引き起こされれば、冬木を、いや、世界を大混乱に陥れたあの災禍が繰り返される可能性がある以上、彼らにはこれを看過するつもりは毛頭なかった。

「私はこの5年、大聖杯を奪取しえる技術のある家を片っ端から調べて回っていた。具体的には、剛力のゴーレムを精密に遠隔操作する技術のある家、又は放射能に汚染されても簡単に使い棄てられるホムンクルスを大量に揃えられるほどに錬金術を修めている家、そして、放射能に汚染されても構わない魔術師を大量に都合できる権力を持つ家だ。そして、私が被疑者としてマークしていたある一族が、つい一週間前に君も知っているように()()を起こした」

「前置きはいい。さっさと要件に入ってくれ。僕が知りたいのは、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが冬木の聖杯を持っているのか、それだけだ」

 ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。衰退の一途にある魔術師達の一族や、権力闘争に敗れて没落した一族、魔術協会から爪弾きにあった一族等を掻き集めた集団『ユグドミレニア』一族の長にして、かつては王冠(グランド)にまで上り詰めた魔術師である。どちらかといえば、魔術師としての技量よりも、時計塔における政治的手腕の巧みさが知られており、八枚舌のダーニックという異名も持つ。

 そのダーニックが率いるユグドミレニア一族は、つい一週間前に魔術協会からの離反を宣言した。彼らは一族の本拠地であるルーマニアに魔術協会に代わる新しい魔術師の管理団体『魔術師連合』を立ち上げたのだ。

 さらに、彼らは独立宣言なる声明を発表し、その中で「我々は聖杯をもって、政治闘争にかまけていたばかりに魔術協会が実現できなかった偉業を達成し、魔術協会に代わって崇高なる魔術の行く末を導くものである」と述べている。

 切嗣がエルメロイⅡ世に態々連絡を取ったのも、その聖杯に関する真偽を確かめる為だった。

「すまないな。講師や慣れない交渉者のような仕事をしていたせいか、話の掴みにために前置きをするようになった」

 ロード・エルメロイⅡ世は、格子の下にある隙間ごしに一冊のファイルを切嗣によこした。切嗣が無言でそれを受け取りファイルを開けると、一ページ目には藍みがかった長髪を纏めた男の写真が挟まっていた。

「ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。ルーマニアのトゥリファスを抑えているユグドミレニア一族の長だ。6年前のことだが、ユグドミレニア一族はアインツベルンと何らかの取引を行っていたことが分かっている。アインツベルンの方は協会もほぼノータッチだから詳しいことは分からなかったが、ユグドミレニアの方はある程度の情報は集められた。赤の付箋が挟んであるページを見てくれ」

 切嗣は、エルメロイⅡ世の言葉に従って付箋の挟まったページを開く。

「なるほど、輸送船から洗い出したのか」

「円蔵山の大空洞の大きさからの推察だが、大聖杯はそれなりの大きさだったことは間違いない。空輸が可能な大きさではないし、国外に運び出すには海運しか方法はない。ユグドミレニアの5年前の金の動きを全て洗い出して、そこからユグドミレニアが支配しているペーパーカンパニーを探し出した。その一方で、5年前の冬木周辺の交通事情を全て調べて、不自然に道路規制が行われた場所を全て探し出し、そこを辿ってどの港に大聖杯が運び込まれたのかを調べ上げた。後は、両方向から手繰っていたら繋がった」

 エルメロイⅡ世は軽く言ったが、実際にはかなりの労力が費やされたことだろう。彼の聖杯――いや、怪獣災害に対する執念は凄まじいものであると改めて切嗣は実感した。

「結論を言えば、ユグドミレニアの謳い文句はブラフではない……やつらは九分九厘、冬木の大聖杯――第七百二十六号聖杯を手中にいれている」

 切嗣はそれだけが聞きたくて今日この場所に足を運んだ。逆に言えば、それだけ聞ければ十分だった。

「君がそう結論付けたのなら、そうなのだろう。それだけを聞きたかった」

 そう言うと、切嗣はファイルを手に席を立とうとした。しかし、席を立とうとした彼をエルメロイⅡ世は呼び止める。

「待ってくれ。私にはここからが本題なのだ。私も貴方の求めることを話したのだから、貴方も私の話ぐらいは聞いて欲しい」

 その言葉に切嗣は立ち止まり、部屋の壁に背を預けた。

「……手短に説明してくれ。もう前置きはいらない」

「分かった。つい先日のことだ。当然のことながら、2000年近い歴史を持つ魔術協会が、自分たちの面子に泥を塗る行為を許しておくはずがない。魔術協会はユグドミレニアの本拠地であるミレニア城砦にユグドミレニア討伐のために『狩猟』に特化した魔術師を送り込んだの。……だが、彼らは一人の生存者を残して全滅した」

「協会は一体、どれだけの部隊を送り込んだんだ?」

「貴方のような、戦闘を生業とする協会お抱えの魔術師を50人。生き残った一人も、魔術師としては再起不能の状態だ」

 切嗣はウェイバーの話を聞きながら、煙草に火をつけた。

「……それで?敵が予想以上に脅威だから、一人で先走るなとでもいいたいのかい?」

 エルメロイⅡ世は、切嗣の問に首を横に振った。

「違う。生き残った魔術師の脳内を洗浄している際に分かったことだが、ユグドミレニアの連中は、どうやら討伐部隊への迎撃に『サーヴァント』を当ててきたらしい」

 初めて切嗣の表情が変わった。能面のように無表情だった顔には、僅かにだが疑念と驚愕の表情が入り混じっていた。

「同行させていた使い魔が見たのは、蟹と蜘蛛を掛け合わせたような異形の生物の群れだったそうだ。城のいたるところから出現した悪魔の生物によって、ミレニア城砦に潜入した魔術師は成す術無く討ち取られていったらしい」

「どういうことだ?冬木の大聖杯は、サーヴァント召喚のために必要な魔力を60年かけて用意している。いくらトゥリファスが優れた霊地だったとして、霊脈から冬木での60年分に匹敵する魔力を5年で吸い上げることなんて不可能なはずだ。よしんば可能だったとしても、その地の霊脈は確実に枯れるぞ」

「その点についてだが、ファイルの青の付箋のページを開いてみてくれ」

 エルメロイⅡ世に促され、切嗣は青の付箋の挟まったページを開いた。

「ユグドミレニアが、この80年で引き入れた一族の中で、最初の30年間で与した一族を調べた。そうしたら、案の定存在した。土地の霊脈からマナを吸い上げ、それを貯蔵する礼装を研究していた魔術師が」

 どうやらその魔術師本人は、20年前に死亡しているらしいが、ダーニックがその研究の遺産を相続している可能性は極めて高い、とエルメロイⅡ世は判断していた。

「最初から聖杯を狙っていたのか、それとも、他の用途に利用するつもりだったのかは分からないが、ダーニックは最大で50年間霊脈からマナを吸い上げ続けていた可能性がある。その大量のマナを大聖杯に注いで起動させた……とすれば、僅か5年で大聖杯を起動させたとしても不思議ではないだろう?」

 筋は通っている。切嗣はそう思った。

「……なるほど、分かった。忠告感謝するよ」

「待ってくれ。この話にはまだ()()()があるんだ」

 壁から背を離そうとしていた切嗣をエルメロイⅡ世は呼び止めた。

「今回の聖杯戦争は、私達の知るそれとは大きくことなっている。なんせ、召喚可能なサーヴァントの数は前回のおよそ倍――14騎におよぶとのことだ」

「何……?」

「ユグドミレニア討伐部隊の唯一の生き残り――彼は、一族の長であるダーニックを討ち取ることは叶わなかったが、サーヴァントの迎撃網を潜り抜けて大聖杯を発見するに至った。そして、聖杯に備えられていた予備システムの起動に成功した」

「予備システム?一体どういうシステムなんだ?」

「端的に説明すれば、出来レースを回避する仕掛けだ。7騎のサーヴァントが同一の陣営に属して互いに争わないような場合に対し、対抗策として追加で7騎のサーヴァントの召喚を可能とする仕掛けが起動するように大聖杯は設定されているらしい。トゥリファスは冬木をも凌ぐ超一級品の霊地だ。サーヴァント14騎を召喚するだけの魔力を調達した場合、冬木ならば霊脈が枯れる可能性が高いが、トゥリファスならば霊脈が枯れずとも別に不思議ではない」

「そうか。ユグドミレニアは既に7騎のサーヴァントとその7人のマスターを一族の中で揃えたということか」

「そういうことだ。そして、魔術協会も7人のマスターを揃え、7騎のサーヴァントを召喚する権利を得ている。……そこでだ。単刀直入に言おう。貴方はサーヴァントを召喚し、マスターとして聖杯戦争に参戦するつもりはないか?」

 切嗣はエルメロイⅡ世の提案を聞き、眉をピクリと動かした。興味を惹けたことを確信しているのだろう。エルメロイⅡ世は淡々と説明を続けた。

「トゥリファスは彼らの本拠地だ。態々魔術協会に宣戦布告したも同然の宣言をしたのだから、トゥリファスには並大抵の魔術師ではどうにもならない周到な準備をしているに違いない。とはいえ、先に全滅した討伐部隊のメンバーを超える魔術師を7人も短期間で集めるというのも簡単な話ではない」

 名門の魔術師の中には、魔術師の技量だけならば先の全滅した討伐部隊のメンバーよりも上の者も少なからず存在する。しかし、前回の聖杯戦争では、時計塔が自信をもって送り出したマスターであるケイネスが帰らぬ人となり、魔術刻印の欠片すら回収することは叶わなかったという驚天動地の事態が発生した。

 当時、時計塔で神童とまで呼ばれていたケイネスですら還らぬ人となったとなれば、当時を知る魔術師が聖杯戦争で確実に生還できる見込みを持てないのも無理もない話であった。もしも、そんな彼らの中からマスターを選んだ場合、選ばれた魔術師は確実に魔術刻印の継承や補完を事前に済ませておこうとするだろう。しかし、魔術刻印の継承、補完の手配には時間がかかるため、下手をすれば聖杯戦争に間に合わない可能性も高い。

 また、勝者が手にするのは曲りなりにも根源に到達できる可能性を有した万能の願望器だ。権謀術数の入り乱れる時計塔の中では、マスター候補の枠を巡って水面下で激しい争いが行われる可能性が高い。魔術師間の権力闘争に巻き込まれて、聖杯戦争前に面倒なことになるかもしれないし、下手をすれば組織内の調停でかなりの時間を浪費するかもしれない。

「名門の魔術師を選定しているだけの暇はない。怪獣対策の専門家扱いされている私と、召喚科学科のご老体。そして降霊科学科の講師と相談した結果、それぞれ二人ずつマスター候補を用意するという話になった。残りの一人のマスターは、協会の正当性を示すために聖堂教会から派遣させることに決まっている」

「君は、僕をそのマスターとして推薦するつもりか?」

「貴方は、あの悲劇が繰り返されようとしている時に黙っていられる人間ではない。それが理解できるくらいには長い付き合いだ」

 切嗣は懐から取り出した携帯灰皿で煙草を揉み消しながら溜息をついた。

「分かった。マスターを引き受けよう。しかし、さっき君はこの件に噛んでいる君を含んだ三人の魔術師が二人ずつマスター候補を用意すると言った。そうすると、君の持つ残りの枠は君自身が埋めるのか?」

 エルメロイⅡ世は紫煙を吐き出しながら首を横に振った。

「……私自身は参戦しない。代わりに、弟子の一人である少女を推薦するつもりだ。私の教え子になってから一番日は浅いが、芯のしっかりとした『人間臭い』若者だな」

 ――――『生命は定められた時の中にこそあるべし』

 かつて、サーヴァント召喚の際に触媒にした石版に彫られた言葉は今も彼の心に、サーヴァントの言葉と共に刻まれている。

『死者の魂に、人間が手を触れてはいけない。サーヴァントは皆、死者です。私達、過去の存在は時の流れの中に葬られなければなりません。マスター、貴方も二度とサーヴァントを召喚しないでください。人間が、死者の魂を戦いの道具とすることは、大いなる過ちに他ならないのです』

 エルメロイⅡ世自身が参戦しないのは、かつて己のサーヴァントと結んだ誓いのためだった。切嗣も、彼とは短くはない付き合いだ。命をかけたやり取りに怯えて召喚を拒んでいるとは考えず、話を続けることにした。

「君が太鼓判を押すのなら、その弟子についてとやかく言うつもりはない。……それで、他のマスターは決まっているのか?」

「それについては、そのファイルの黄色の付箋のページに詳細を載せておいた」

 切嗣は黄色の付箋が挟んであるページを開き、そこに並んでいる魔術師の名前に目を通す。

結合した双子(ガムブラザーズ)銀蜥蜴(シルバーリザード)……それに、死霊魔術師の獅子劫界離か。なるほど、早々たる面々だ。それで、聖遺物の手配はどうなっているんだい?」

「聖遺物の手配は我々が既にすませてある。君には、これを渡そう」

 エルメロイⅡ世は、格子ごしに古ぼけた眼鏡のつるを差し出した。

「これは?」

 この時、初めてエルメロイⅡ世は彼の前で笑みを浮かべた。

「怪獣が相手ならば、数々の怪獣の生みの親になったお方に相手をしてもらうのが一番だろう」

 怪獣の、生みの親。そして、明らかに近代以降に作られた代物の触媒。切嗣の頭の中で点と線は一瞬で繋がった。そして、切嗣はエルメロイⅡ世の発想に驚嘆する。

「まさか……」

 

「そうだ。特撮の神様に御足労いただく」

 

 

 

Fate/FINAL WARS  近日執筆予定無し




特撮の神様なら、ゴジラにも勝てるよね!!

書かないけど。


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くたばれ!!アインツベルン反省室!!

活動報告で予告していたQ&Aコーナーです

注意!!
この『くたばれ!!アインツベルン反省室!!』に限って、台本形式で書かれています。ストーリーもほとんど考えておらず、淡々と台本形式でQ&Aが続きますので、そういうのに興味の無いヒトはここら辺でバックしてください。


尚、台本形式なのは、面倒くさかったからです。以後の作品では一切台本形式で書くつもりはありませんのでご安心を。宗旨替えしたわけではありませんので。


「前代未聞の大惨事な聖杯戦争でいっぱいいっぱいなアナタを助けるQ&Aコーナー『くたばれ!!アインツベルン反省室!!』。この番組は、FUYUKI/FMをキーステーションに、スノーフィールド放送、ムーンセルエフエムの全国2局ネットでお送りします」

 

 わけのわからないままに戦いに巻き込まれて誰かに助けられて、目が覚めると、そこはラジオ番組の収録スタジオでした。部屋にいるのは、私を含めて二人だけ。私の向かいに座っているのは、どこかのイケない女教師なコスプレをした透き通るほど白い肌をした凄い綺麗な外人さん。イケない大人の番組の臭いがプンプンするシチュエーションです。

 

「は~い、皆様。私、夫と子供がいる人妻ですが、皆様のお耳の恋人は浮気ではないって思ってます!当番組の司会、アイリで~す!!」

「え、え~と!!私は、何故かアイリ師匠の弟子になっていた弟子ゼロ号っす!!何故か、師匠にはゼッちゃんって呼ばれてるっす!!しかも、わけもわからずにラジオ番組でゲストになってるっす!?」

 何で、自分がラジオ番組のゲストになってるのか、そもそも、このコーナーの主旨とかさっぱり分からないのに、収録が始まってしまいました……どうすればいいんでしょう。

「冬木市は大変なことになってるわね。でも、大丈夫よゼッちゃん。冬木死すともFUYUKI/FMは死せず!!」

「師匠!!冬木市のライフはゼロっす!!もう少し配慮しないと、リスナーを敵に回すっす!!」

 終始この感じだと次回収録はもう無い気がします……。

「大丈夫よ、リスナーとの関係なんて所詮一回きりなんだから。さぁ、最初で最後のリスナーとの触れあいコーナー『アインツベルン中央コールセンター』、行ってみましょう!!」

「最初で最後って、リスナーさんとの触れあいは続かないんすか!?」

 深夜番組でももうちょっとまともな対応をしていると思いますよ、師匠。

 

 

 

アイリ「さてさて、最初のお便りは冬木市在住、Aさんからです。……要約すると、『在日米軍なにやってんの?』って質問ね」

 

弟子0号「在日米軍って日本が外敵に襲われた時に、自衛隊と共同して外敵と戦うんでしたっけ?確か、日米安保でそう定められていた気がします」

 

アイリ「大体合ってるわね、流石ぜっちゃん。だけどね、この条約は60年代に改定されてるの。1960年代は、マスコミの間では皮肉をこめて怪獣ブームと呼ばれるほどにたくさんの怪獣が日本を襲った時代よ。そんな頻繁に外交も経済も関係なく襲ってくる自然災害のような敵を相手にすると、下手をすれば在日米軍の弱体化、そしてそれが共産勢力の侵攻を招くという考えがアメリカ側にはあったの」

 

弟子0号「でも、いざというとき守ってくれないなら、在日米軍の存在意義ってなんなんですか?」

 

アイリ「在日米軍は、あくまでヒトとヒトの戦争又はそれに準じる戦闘行為一般によって日本の安全が脅かされることがないようにする抑止力であり、いざと言うときには日本を庇って戦うという規定になっているわね。一応、人間の武力によって日本の平和が脅かされる事態は防いでくれているみたいだけども」

 

弟子0号「……でも、一番の脅威が怪獣なのに、それを相手にしてくれないんじゃ安保のメリットが軽い気がするっす」

 

アイリ「実際、国会でも何度か問題になったわ。1960年代末にその議論が紛糾したこともあるんだけど、1966年の人型巨大生物ガイラとの戦闘以降、日本に巨大生物が出現しなかったこともあって、次第に議論は下火になっていったの。のどもと過ぎれば熱さを忘れ、熱しやすく冷めやすいこの国の国民性が現れた結果だって切嗣は言っていたわよ。それで、結局、その後四半世紀も怪獣が現れなかったから、そのころとほとんど変わらない安保体制が90年代まで続いていたってわけ」

 

 

 

 

アイリ「じゃあ、次のお便りね。これはいくつも同じ意見が来てますので、代表してスノーフィールド在住のBさんからの意見です。『魔術師が好き勝手しすぎじゃないですか?それに、戦後に魔術師が怪獣に手を出したりする事例が多発しているのは何故?』」

 

弟子0号「確かに、日本をめちゃくちゃにした張本人ですし、懲りずに世界中で怪獣にちょっかいだしたりしていて、のうのうと生きてるのは許せないっす。取り締まるべきっす」

 

アイリ「私が言うのもなんだけど、そもそも魔術師って取り締まろうと思っても中々簡単にはいかないの。魔術師を纏める魔術協会という組織もあるんだけど、協会は神秘の隠匿や封印指定、協会に対する反逆以外で個々人の魔術師を処罰しようとすることはほぼないわ」

 

弟子0号「じゃあ、魔術師個人個人を警察が摘発すればいいんじゃないんですか?」

 

アイリ「それも簡単にはいかないわ。魔術師は隠匿技術に長けているの。各国の警察機関だって、協会からの情報の提供なしに世界中の魔術師を摘発することはかなり難しいわ。仮に魔術師を摘発できたとして、彼らが魔術師だって証拠を法廷で立証することなんて、表世界の人間には不可能に近いもの」

 

弟子0号「魔術書とか、それっぽい道具を持っていたら魔術師ってことじゃ駄目なんすか?」

 

アイリ「魔術の道具を持っていたとしても、『オカルト趣味』とかいくらでも誤魔化し方があると思うわ。魔術に使える道具を持った一般人なのか、魔術師なのかを明確に見分ける方法なんてないし、さっき言ったけれど、魔術師は隠匿技術に長けているの。特に工房のある拠点に施された隠匿は別格だから、家宅捜索しても証拠を見つけるのは難しいわね。それこそ、映像に残っているだとかの確たる証拠があれば別でしょうけど」

 

弟子0号「……法律じゃあ、悪党ども裁けないんすか?」

 

アイリ「まともな法治国家で魔術師であることを罪として裁くことはかなり難しいわ。特に社会に迷惑をかけていなくて、罪を犯してない魔術師まで拘束するような法律を規定することは大半の国で人権上拙いの。例えば、イスラム過激派を信奉しているってだけでは罪にならないでしょう?それに、無理に魔術師を犯罪者として手配したとしても大多数の人間には一般市民には魔術師と非魔術師の区別はほぼ不可能。中世の魔女狩りのようなことになる可能性が大よ。疑心暗鬼が更なる社会不安をあおって、下手をすれば万人の万人に対する闘争状態になるわ」

 

弟子0号「じゃあ、協会に協力させればいいんじゃ」

 

アイリ「いつも内ゲバに忙しい魔術協会が一丸になって抵抗することはないと思うけど、あそこを制圧するのはかなり難しいわね。貴族主義に凝り固まったバルトメロイ・ローレライや彼女の率いるクロンの大隊は絶対に激しく抵抗するでしょうし、彼らを相手にするだけで下手をすれば部隊の全滅もありうるわ。神の杖とかNBC兵器で中枢たる時計搭ごと破壊するって選択肢もあるでしょうけど、ロンドン中心部に凄まじい被害を出すことになるから難しいでしょうね」

 

弟子0号「物凄い物騒でメンドクサイ人たちっすね……」

 

アイリ「しかも、ヘッポコを除いたほとんどの魔術師が、人の認識を操作する魔術や暗示を使えるわ。神秘の隠匿のために魔術師やその協力者が政府機関内に潜伏しているから、魔術師討伐なんて大きな動きが実現しそうなときは、指導者や議会を暗示で支配したり、メディアの経営者を暗示で操って火消しをする可能性が大ね。謂わば、彼らは洗脳電波が使えるステルス赤い細胞(レッドセル)といったところかしら。彼らを始末しない限り、まず魔術師の掃討を始めることすらできないわ」

 

弟子0号「レッドパージならぬメイガス・パージが必要ってことっすか」

 

アイリ「流石ぜっちゃん。ちゃんと歴史もお勉強していたのね!」

 

弟子0号「物凄いバカにしてませんか!?……ってアレ?そういえば、そもそも何で魔術師は怪獣にちょっかい出してるんですか?」

 

アイリ「そうそう、それも質問に含まれていたわね。魔術師が怪獣にちょっかいを出すのは、怪獣の持つ能力がとても魅力的なものだからなの。根源の到達のために使えるかは分からないものでも、その原理を応用して新しい魔術理論を組み立てるだけで家の財産になるし、自分の魔術をさらに一段の高みへと昇化させる可能性がある。己の魔術を極めたいがために誘惑に耐えられない魔術師も少なくないのよ」

 

弟子0号「……そんなにすごいものなんすか?怪獣の能力って」

 

アイリ「例えば、ゴジラね。あの驚異的な生命力を活かせれば、不老不死だって不可能じゃないかもしれないし、最低でも超回復能力は得られるかもしれないわ。カメーバを変異させたアメーバを調べれば、自分の身体を進化させる道筋を見つけられる可能性だってあるのよ」

 

弟子0号「研究するのはいいっすけど、迷惑かけない範囲でやってほしいものっすね」

 

アイリ「残念だけど、因果応報は今のところあまり期待できないわ」

 

 

 

 

アイリ「次に移りましょう。ラゴス島の、Cさんからのお手紙です。何々、……なるほどね、『抑止力仕事しろ』ってことかしら」

 

弟子0号「抑止力って、何ですか?」

 

アイリ「端的に言うと、人類の滅びを回避させようって力と、自然の破滅を回避させようっていう力のことよ。第四次聖杯戦争の結果、ゴジラがメルトダウンして地球滅亡の危機になったのに、この二つの力は何をしていたんだっていうのがCさんの話みたいね」

 

弟子0号「で、どうなんですか?」

 

アイリ「端的に言ってしまうと、抑止が働いた働いてないの話は水掛け論なのよ。結果から言えば、人類は滅亡していないし、自然は滅んでいないわ。ただ、それが幸運としか言いようの無い偶然の積み重なった結果なのか、地味に抑止力がプッシュし続けた結果なのかは基本的に誰にも分からないのよ。守護者みたいな明確な形で出動してくれれば別だけど、抑止力の大半は人知れずひっそりと地味に発現してるから。例えば、ヘヴンズフィールで人類の抑止による排斥対象クラスの脅威となった間桐桜に抑止力が実際に働いたのかは状況的にはかなりグレーだし。まぁ、あれは公式でまだ発現していないって言われてるけども抑止力が後押しした結果のあのENDだって考え方もできるじゃない?どこでどんなカタチで抑止力が働いて、どこではどうしてプッシュしなかったのかは、問題にしない方がいいわね。結論はでないし」

 

弟子0号「公式とか、間桐桜って何ですか?」

 

アイリ「ぜっちゃんは気にしなくていいわ。世の中には分からない、知らないこともたくさんあるってこと」

 

弟子0号「うっす」

 

(因みに、作者がネタを考えた時点で明確に抑止力が働いた結果と考えていたのは、ルーラーとしてウルトラセブンが召喚されたことと、それによってセブンの力が士郎に受け継がれることだけでした。ウェイバー君が歴代最強の平成3部作モスラを呼べたのは、彼のEXランクの幸運の賜物です)

 

アイリ「後、このまま魔術師が怪獣をたくさん生み出したり目覚めさせたりして、それが人類の手に負えなくなったら、ガイアの抑止の方が『深海に閉ざされし者』と『天空に追放された者』を呼ぶ可能性もあるらしいわね」

 

 

 

 

 

アイリ「次ね、姫神島在住のDさんから。『今回の聖杯戦争では、突然現れて死体を残さず消えた怪獣たちについて一般人は疑問を抱いたはず。どうなってるの?』だって」

 

弟子0号「確かに、よくわからないですよね」

 

アイリ「ゴジラがある程度吸収したとはいえ、未だに冬木市は人が立ち入れるほどに放射線量が下がっていないから怪獣の身体組織の回収はかなり難しいのよ。それに、冬木は業火に焼かれて何もかもが灰になったわ。だから、公式には全ての怪獣はゴジラの手で爆散して、その後冬木の焔とゴジラの熱線で灰になって回収不能っていうのが政府の公式見解ね。無理に調べようとしても放射線被曝のリスクが高すぎるし、そんな余裕があるならまず国内の建て直しをしなければならなかったから、日本政府は殆ど冬木に手をつけていないわ」

 

弟子0号「でも、政府としては無理にでも調べたいんじゃないっすか?」

 

アイリ「高度に放射能汚染された砂漠で恐竜の化石を探すようなものよ。労力とリターンがつりあわないし、作業員のリスクが大きすぎるわ。少なくても20年は放置せざるを得ないでしょうね。それに、アインツベルンから提供された自衛隊の損害補填分のキャッシュを元手に多方面からのバラマキで政府の追及やマスコミの追及を緩めるって手も取っているらしいわね」

 

 

 

 

弟子0号「次の質問は私が選ぶっす!!こいつでお願いします!!」

 

アイリ「突然ねぇ……何々、曾孫島在住のEさんから。『この世界にX星人やキラアク星人のような宇宙人はいますか?』」

 

弟子0号「ロマンがあるっすねぇ……」

 

アイリ「地球に来たことのある宇宙人はウルトラセブンと迷子のサキちゃんしかいないんだけどね」

 

弟子0号「予想外に少ないっす!?」

 

アイリ「でも安心して、ガイガンを作ったX星人のような宇宙人がいることはいるわ。地球のことなんか完全に忘れて、空間移動してきたバット星人と全面戦争中みたいだけど」

 

弟子0号「すごい物騒です、宇宙人!!」

 

 

 

 

アイリ「次は、ゴジラについての質問を纏めて紹介するわ。まずは、孫の手島在住のFさんから『メルトダウンしてもゴジラの中から悪霊が飛び出さなかったのは何故?そして、姿が長らく確認されていない怪獣は、結構ゴジラの獲物になってたりするの?』だそうよ」

 

弟子0号「ブッチギリでヤバかったですよね、ゴジラ」

 

アイリ「実は、何度も日本に上陸してるように思えるけれど、上陸したのは、1954年と今回の二回だけなのよ。確認されている固体も、1954年にオキシジェンデストロイヤーで葬られた個体と、1968年にアメリカの原子力空母1隻と原子力巡洋艦2隻を沈めた個体、そして今回受肉した個体の三体だけよ。ゴジラザウルスとか、第4第5のゴジラとなりうる怪獣は確認されていないわ。メルトダウンの直後、死亡から悪霊解放の一瞬の隙に受肉が成功したから悪霊が飛び出さなかったけど、もしも解放されていたら冬木は呪われていたわね。市内に残っていた人は九分九厘悪霊の叫びに耐え切れなくて発狂するか自殺ね。まぁ、私の夫は大丈夫だけど」

 

弟子0号「惚気はいいです、師匠。それで、後者の質問の答えはどうなっているんです?」

 

アイリ「カメーバが殺されて、エビラが一度両手をもぎ取られて食べられたみたいね。後、巨大ダコも捕食したみたいよ」

 

弟子0号「意外とグルメ!?」

 

(因みに、メルトダウンが宝具EXランクになっているのはぶっちゃけご都合主義です。まぁ、GOの弁慶も史実で知名度皆無なEXランク宝具持ってるしいいかなぁと思ってます)

 

 

 

 

アイリ「セブンについての質問ね、次は。富士山麓在住のGさんから『セブンの宝具は何故ワイドショットではなくてエメリウム光線なの?そして、セブンが登場したことに対する自衛隊や世間の反応は?」

 

弟子0号「TSU○URAYA大もうけは確実っすね」

 

アイリ「VHSやソフビが全世界で飛ぶように売れたみたいよ。TVスペシャルと30周年記念三部作、最終章6部作、EVOLUTION5部作まで作ることは確定しているけど、平成3部作は制作費と日本の景気の関係から作られるかは微妙ね……因みに、昭和の作品も若干登場怪獣は異なるけれども、ウルトラQとウルトラマン、ウルトラセブンの三作で終わっているみたい。怪獣災害の犠牲者が少なくないから、コスモスは絶対に作られないことが確定済みよ」

 

弟子0号「長らくウルトラマン作ってなかったTSU○URAYAが代わりにどんな特撮テレビシリーズ手がけてたか気になるっすね」

 

アイリ「自衛隊は正体を探し出そうと動いているわ。彼らは、怪獣とも互角以上に戦える防衛兵器としてのウルトラマンを手にしたいみたい」

 

弟子0号「……なんか、別の世界で既にやられて失敗していそうなプロジェクトっすね、人造ウルトラマン」

 

アイリ「この世界は、超ウルトラ八兄弟に近い平行世界みたいだからかしら。世間の方は、大多数は夢のあることだから追究することは野暮だと考えてる人と、変身者を探し出そうって人に二分されているみたい。まぁ、夫と違って正真正銘のヒーローだし……」

 

弟子0号「そ、そういえば、宝具の方はどういうことっすか?」

 

アイリ「ワイドショットとエメリウム光線の違いって、発射される光線が線か面かの違いなのよね、結局。被るからよりセブンの代名詞っぽいエメリウム光線が選ばれたらしいわ」

 

弟子0号「どっちも宝具にしてもよかったと思うんですけど……」

 

 

 

 

 

アイリ「さて、次々。トゥリファスのHさんから『モスラが東京を襲った原因は悪徳興行師のせいだって知られていないの?』」

 

弟子0号「そんなの学校で習った記憶ないですよ」

 

アイリ「日本の学校ではそこまで細かい事情は教えないみたいね。それなりに調べれば分かることだけど、だからといって東京を破壊された恨みを棄てることはできない人が多いみたい」

 

弟子0号「事情を知ると、複雑です……」

 

 

 

 

 

アイリ「そろそろ疲れてきたわね……え~と、カルデアのIさんから『各サーヴァントの聖杯に託す願いって何?』」

 

弟子0号「そういえば、そうですね。願いがあるから、聖杯戦争に参戦するんですから」

 

アイリ「下の表に見やすく纏めるわ」

 

 

 

ゴジラ  恨み晴らしたい。鯖で暴れまわってもいいし、受肉して暴れまわることができればなおよし

 

キングギドラ 生き返ってまた生態エキス摂取したい

 

スペースゴジラ 自分の陣地を可能な限り広げたい

 

イリス ガメラ滅ぼしたい

 

ガイガン もっと強くなりたい

 

メガギラス 繁栄したい

 

モスラ 怪獣から人々を守りたい

 

 

 

弟子0号「ガイガンの動機がよく分からないんですけど、何ですか?」

 

アイリ「どうやら、X星人に改造されて自我が消える前に抱えていた願いみたいね」

 

 

 

 

 

 

 

アイリ「月面在住のJさんから『自衛隊に機龍とかあったら勝ち目あったの?』うん、メルトダウン回避が精一杯ね」

 

弟子0号「投げやりっすね……」

 

アイリ「アブソリュート・ゼロでも神秘が篭ってないとゴジラを殺すことはできないのよ。まぁ、神秘は篭っていなくても桁外れの威力があるし、傷をつけるくらいはできると思うわ。ディメンション・タイドならイケるかもしれないけど、令呪を使って呼び戻されたら意味ないから微妙なところね」

 

弟子0号「流石怪獣王です」

 

 

 

 

 

 

アイリ「残る葉書は後3通ね……長かったわ、答える方も。さて、バース島在住のKさんからの質問です。『この世界の第四次聖杯戦争後の、ヒロイン達や聖杯はどうなってるの?』」

 

弟子0号「ヒロインて私じゃないんですか?」

 

アイリ「SSF……ヒロインのその後については、『光を継ぐ者』で語られたところまでしか分かっていないわ。凛ちゃんは修行中、桜ちゃんは書類上の養父といっしょに冬木から逃亡して魔術師の影から逃げるような生活を送っているみたい。私の可愛い娘は原作と同じ道を辿っている可能性が高いわね。ひょっとすると、気まぐれで更新される可能性が無きにしも非ずな『特命係長ロードエルメロイⅡ世』で彼女たちのその後が語られるかもしれないわ」

 

弟子0号「大聖杯でしたっけ?あれはどうなんているんですか?」

 

アイリ「今のところ円蔵山にあるわ。ただ、10年後にそこにあるかは分からないわね。放射能汚染が酷くて一般人の立ち入りは難しいけれどアインツベルンならホムンクルスを使い捨てにして回収することも可能だし、他の魔術師が横取りを画策する可能性もあるわ」

 

弟子0号「懲りてないんですね、皆さん」

 

 

 

 

 

アイリ「さぁ、ラスト2通!!ラゴス島在住のLさんからの質問です。『続編とかIFルートについては考えてますか?』」

 

弟子0号「ハッピーエンドは見てみたいですね!」

 

アイリ「グリッターティガ降臨のハッピーエンドルートが書かれることはまずないとみていいと思うわ。月の聖杯戦争も多分ないわね。月でもしもやることになったら、ガタノゾーアやエンペラ星人、ベリアルにエタルガー、ダークルギエル、ダークザギとかてんこもりになってウルトラ怪獣+ゴジラの最強怪獣決定戦だし」

 

弟子0号「見てみたいような、決着をつけてほしくないような……」

 

 

 

 

 

 

アイリ「いよいよラスト!!最後は、バース島在住のMさんから。「このサーヴァントの選択は自重した方ですか?ケリィのサーヴァントに他の案はなかったのですか?」

 

弟子0号「切嗣さんのサーヴァント、確かに不遇でしたからね……」

 

アイリ「アインツベルンは怪獣=最強だと思っていたから、確実に怪獣を召喚したかったみたい。それに、昔の怪獣はほとんど資料が残っていないし、その怪獣に縁のある確信が得られる聖遺物って少ないのよ。だから、確実に怪獣を呼び出せるガイガンの木乃伊に目をつけてたみたい。実際、遠坂の場合、届いた鱗の化石が本物である確証は30%ぐらいだったというし」

 

弟子0号「アインツベルンが仮に、ベストを尽くしていたらどんなサーヴァントが呼ばれていたんですか?」

 

アイリ「う~ん、やっぱり、ゴジラかしらね。東京湾の土は謂わばゴジラの墓土だし。でも、バーサーカーの枠を既に取られてたらゴジラは他に該当枠がないから、東京湾の土を触媒にした場合デストロイアがアヴェンジャーのクラスで召喚された可能性も高いわ」

 

弟子0号「自分の都合しか考えないで自重しないアインツベルンって、厄介ごとの種でしかないみたいですね、どう転んでも」

 

アイリ「反則上等の家だから、そういうものなのよ」

 

弟子0号「それで、各陣営のサーヴァントの選択なんですけど、(作者的には)これって自重した方なんですかね?」

 

アイリ「アーチャー、バーサーカー、キャスター、ライダーは自重なしの選択みたいね。ランサーはさよならケイネス先生がやりたかったから嬉々として選んだらしいけど、セイバーは該当する怪獣の少なさからの苦慮の選択だったんですって。アサシンは綺礼の性格的に地味なサーヴァントを敢えて選んだ結果らしいわ」

 

弟子0号「自重失くしたらどんな面子になったんですかね?」

 

アイリ「お気に入りを私情全開自重なしで出すのなら、以下の通りになったらしいわ」

 

 

 

セイバー 錦田小十郎景竜

 

ランサー レギオン

 

アーチャー ハイパーメカキングギドラ

 

ライダー 黒木特佐

 

キャスター ガタノゾーア

 

アサシン ツルク星人

 

バーサーカー ゴジラ

 

 

 

弟子0号「すごい趣味全開っすね……」

 

アイリ「因みに、各サーヴァントに可能な限り強い怪獣を選んだ場合は以下の通りらしいわ」

 

 

 

セイバー エンペラ星人

 

ランサー ダークルギエル

 

アーチャー ウルトラマンゼロ

 

ライダー グランスフィア

 

キャスター ガタノゾーア

 

バーサーカー ゴジラ

 

アヴェンジャー デストロイア

 

 

 

弟子0号「…………」

 

アイリ「…………」

 

弟子0号「抑止力さん、これなら仕事しますよね?」

 

アイリ「ガイアが確実に動くわ。冬木にORTが駆けつけるし、ルーラーにはセブンじゃなくてキングとかノアが呼ばれるはずよ。「天空に追放されし者」と「深海に閉ざされし者」も呼ばれるかもしれないわ」

 

弟子0号「……よかったっすね、あの面子じゃなくて」

 

 

 

 

 

アイリ「それでは皆様。名残惜しいですけれど、これにてラジオ『くたばれ!!アインツベルン反省室!!』は終わります。再放送の予定はありません」

 

弟子0号「なんか色々わけわからないことがまだたくさんあるんですけど……」

 

アイリ「予想以上にこのコーナー面倒くさいし……そうそう、最後にぜっちゃん」

 

弟子0号「何ですか?」

 

アイリ「一応、この作品のスピンオフ『特命係長ロード・エルメロイⅡ世』のネタが二つ三つあって、既に構想も出来上がっているらしいんだけど、貴女の出演予定はないの。つまり、これで貴女の出番は終わり」

 

弟子0号「え?」

 

アイリ「ヒロインどころか、モブとしての出番もないらしわ」

 

弟子0号「え~と、サバイバーズギルトに取り付かれた少年を救う役割は……」

 

アイリ「セブンのおかげでそれ薄いみたい。詳しくはひょっとすると『特命係長ロード・エルメロイⅡ世』で描かれるかもしれないそうよ」

 

弟子0号「…………」




以外に疲れた……普通にメッセージで返答して、それをまとめで載せればよかったかなとも思いましたね。規約的にそれがセーフなのか知りませんが。


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特命係長ロードエルメロイⅡ世 《大怪獣空中決戦》

ネタです。
多分続きませんので、導入部だけです

レオなウェイバー君を主人公ポジにしてみました。


200×年、6月5日 日本 長崎沖

 

 

 

 ロード・エルメロイⅡ世――本名、ウェイバー・ベルベットは、お世辞にも綺麗とは言いがたいおんぼろ漁船に乗って波に揺られていた。海は時化ており、船は上下左右前後に激しく揺れるが、激しい揺れの中でも彼は特に酔っている様子は見せない。寧ろ、どこか清清しい笑顔を浮かべているようにも見えないこともない。

 その理由が、彼の視界の端っこで浮き沈みしている二つの金髪の頭であった。魔術で強化しないと見えないほど離れた場所で浮き沈みしているバカ二人。いつも五月蠅い彼らがいないというだけで少し清々する。

 時折「救援を乞う」や「窮地にあり」などといった符丁の魔力パルスを感じるが、とりあえず無視だ。これも、あのバカ二人への修行。6月の海で高々10kmの遠泳だ。2月の海で往復20km遠泳をやらされた自分の時に比べれば感謝の涙が出るほどにやさしいものではないか。

「あそこが、姫神島です!!」

 タクシー代わりに乗せてもらった漁船の船長が、前方の島影を指差した。

「しかしぃ、あの島で見つかったっていうのは、そんなに珍しい鳥なんですか?一昨日も、仲間の漁師が姫神島に学者先生を運んだって言ってましたけど、まさかはるばるイギリスの大学から先生が来るなんてねぇ」

「さて、現物を見てみないことにはなんともいえません」

 ――できれば、()の専門外であることを祈るが。まったく、時計搭も人使いが荒い。一週間前はビシュメル、今度は謎の鳥か。たまには休みぐらい与えてほしいものだ。

 彼は、本音を胸の中にしまって小さな島を見据えていた。

 

 

 

 ロード・エルメロイⅡ世……英国の有名大学に何故か籍だけ残している窓際教授で、怪獣がらみの事件が起こる度に英国の利益のために世界中に派遣されるしがない超過労働パシリ学者。しかし、それは彼の表の顔に過ぎない。

 彼には、時計搭所属の特命係として怪獣絡みの事件を解決し、古代文明の魔術や超生物の生態組織などを回収するという、もう一つの顔があった!!

 

 特命係長ロードエルメロイⅡ世!!

 

 

 

「教授!!助けて!!鮫、鮫がいますぅ!?」

「エルメロイ先生!!船から血を撒くのやめてぇぇ!?鮫が寄ってきますからぁ!!」

 遠くから、助けを求めるバカとアホの悲鳴が聞こえる。どうやら、彼らは声を魔術で拡声しているらしい。相変わらず無駄に器用なことだ。

「ん?何か聞こえなかったか?」

 船長が訝しげな表情を浮かべるが、ウェイバーはあっけらかんとした口調で言った。

「いえ、気のせいでしょう。海鳥の鳴き声か何かではないでしょうかね?」

 悲鳴なんて聞こえなかったし、鞄の隅からはみ出ている血の滲んだビニール袋なんて知らないとばかりに彼は平然としていた。

 

「ジョ○ズなんて聞いてないですって!!ジュラ○ックパークじゃないんですか!?せめてインディ・ジョ○ンズにして下さい!!」

「ス○ルバーグ作品ならいいってわけじゃないだろう、フラットォォ!?」

 

 バカでアホの悲鳴なんて、聞こえない聞こえない。ウェイバーは潮騒の音色に聞き入っていた。

 

 

 

 

200×年、6月8日 日本 五島列島 姫神島

 

 

「なんじゃこりゃあ……」

 長崎県警の大迫力警部補は、目の前の惨状を見て絶句した。家屋は、まるで巨大な腕でも振り下ろされたかのように壁面と屋根が削られており、周囲の樹木も凄まじい力が叩きつけられたかのようにへし折られている。

 しかも、人の気配がまったく感じられない。周囲には悪臭も漂っている。

「この島には、何人くらいの人がいたんですか?」

 同行していた猛禽類の繁殖が専門の鳥類学者、長峰真弓が大迫に尋ねた。

「全部で6世帯17人。加えて平田教授の調査隊と、漁港で聞いたイギリスから来たっちゅう学者さんです」

「それが全員、鳥のせいで姿を消したと?」

「考えにくいこつは事実ですが……」

 長峰は改めて、破壊された家屋を検分する。暴風や地震で倒壊したにしては、あまりにも破壊の範囲が限定的すぎるように思えてならなかった。

「ありえません、そんなことが可能な鳥は……」

 そこまで口にしたとき、長峰の脳裏に数年前平田がゼミの学生であった自分に見せてくれたファイルの存在が頭を過ぎった。確か、先生が友人を通じて入手したというそのファイルには――

「そげんこつができる鳥に、心当たりが?」

 急に黙りこんだ長峰に大迫が尋ねる。

「……そんなことができるのは、()()と人間だけです」

 長崎出身の大迫の脳裏に過ぎったのは、かつて九州全土を恐怖のどん底に叩き込んだ空の大怪獣の姿。

「ま、まさか……」

 大迫の表情の変化から、長峰は彼が自分の出した仮説に到達したことを察して静かに頷いた。

「空の大怪獣ラドン、それか火山怪鳥バードン、あるいはそれに類する新種の鳥型怪獣……私の知る限り、こんなことができる()はそれぐらいです」

 大迫の顔が一気に青ざめた。

「自衛隊の協力を要請して下さい。最悪の場合、とんでもないことになるかもしれない……」

 長峰の言葉を聞いた大迫は、慌てて自分たちを運んできた県警のヘリコプターに駆け込んだ。

 

 

 

 長峰は、その後自衛隊と連絡を取った大迫に島の山中の捜索を申し出た。半壊した民家の中から、鳥の未消化物の塊――ペリットにも似た白い悪臭を放つ塊が発見され、そこから恩師、平田教授の愛用していた万年筆や眼鏡が見つかったことが、彼女を捜索に駆り立てていた。

 もしも、平田教授が言っていた「鳥」とやらがこの集落を襲撃し、平田教授を喰らった犯人(犯獣?犯鳥?どちらでもいいのだが)であり、まだこの島に潜んでいるというのなら、この眼で恩師の仇の姿を見たかったからだ。また、彼女もまた鳥類学者であり、危険な存在であることは理解していても、新種の可能性が高い「鳥」に対して知的好奇心を抱かずにはいられなかった。

 大迫は自衛隊が来るまで捜索は待つべきだと進言したが、もしも相手が怪獣であるならば、一刻も早く確認するべきだという長峰の主張の前に折れざるを得なかった。元々大迫には長峰を止める権利はないし、警察官として女性を一人怪獣が潜んでいるかもしれない山中に送り出すことも容認できなかったからである。

 しかし、捜索は難航した。6月になり、青々と繁った草木は彼らの視界を遮り、針路としている小さな沢の周りを覆っている。

 足場の岩には苔も生えており、大迫や随伴の警察官たちの革靴では、フィールドワーク用のブーツを履いた長峰と違って上り下りするのも一苦労だ。昨日の朝まで雨が降っていたこともあって、湿度も高い。気温の6月の上旬にしては高く、山の中は蒸し暑く不快な環境だった。蒸し暑い環境下で山道を捜索することは、スーツや制服に身を包んだ大迫らにとって過酷なものと言っても過言ではなかった。

 昼すぎから捜索を始めて、早数時間が立つ。辺りも次第に暗くなりはじめていた。

「な……長峰さぁん。出直しませんか?もう日も暮れます。もう降りないと、夜の山道を降りることになりますよ」

 長峰は大迫の懇願にも似た提案に眉を顰めた。ここまで来たのだ。仇がすぐそこにいるのであれば、どうしても仇の姿をこの眼で見なければ気がすまない。さらに前に進もうとしたその時、彼女は木々の合間を飛ぶ蝙蝠を見てハッとした表情を浮かべ、立ち止まった。

「……ひょっとすると、あの「鳥」は夜行性なのかもしれない」

 鳥は夜になるとものが見えなくなることから夜盲症のことを鳥目などとも言うが、実際のところ、全ての鳥がそうだというわけではない。フクロウやヨタカなど、夜行性の肉食鳥は少なくないのだ。島からの最後の通信があったのも三日前の夜だったと大迫は言っていたから、その鳥が夜間に活動している可能性は大きい。

「だったら、なおのこと出直した方がよかですよ。こちらには、碌な準備もない。熊や猪ならともかく、流石に怪獣相手にワシらの拳銃が通用するとは考えられません。まして、暗闇で襲われでもしたら、こちらは相手の姿を見ることすらできません」

 大迫の主張に理があることは、長峰とて理解できないわけではない。だが、鳥類学者としての意地も棄てきれない。

「でも、せめて一目……」

 その時、耳を劈くようなおぞましい声が山に響いた。その声に恐怖を覚えた長峰たちは思わず身体を屈める。次いで、身体を屈めた彼女の耳に慣れ親しんだ音が聞こえてきた。それは、鳥の羽が羽ばたく音だった。しかし、その音の大きさは、長峰が聞いたことがないほどに大きかった。

「長峰さん、後ろ!?」

 振り向いた彼女の目に映ったのは、中生代に生息していた翼竜にも似たフォルムで、羽毛がない鳥だった。大きく口を開けた怪獣の口内には、鋭い牙がいくつも並んで見える。そして、その牙が向けられているのは、自分だった。高速で降下する鳥の姿に足が竦んで動けない。

 しかし、やけに視界ははっきりしており、迫ってくる鳥の特徴がはっきり見える。飛翔することを優先した肉つきの悪い身体に、広い視野を得られる眼のつき方、そして化石で見た肉食恐竜のような歯並び。

 どの特徴も、過去に確認された鳥型怪獣、バードンとは著しくかけ離れた姿だ。一方でラドンには近いといえば近いのだが、この怪獣はラドンに比べてかなり細身だ。加えて、頭部の骨格も大分異なっている。

 走馬灯のようなゆったりとした時の流れの中で、翼を広げて減速した鳥の影に覆われた彼女は自分の運命を悟った。ああ、自分は平田先生と同じように、この怪物に喰われて死ぬのだと――――

 

「ハアァァ!!」

 

 その時、長峰の左手の斜面の上から新たな影が飛び出してきた。凄まじい速さで飛び出した影は、そのまま鳥の首へと突き刺さった。影と激突して吹き飛ばされた鳥は、絶叫を上げながら木々に叩きつけられる。

 激突の衝撃で地面が揺れる中、長峰は見事な着地を決めた先ほどの影の正体を知る。

 それは、男だった。身長180cm以上はある長身で、長髪の男。彼が、あの鳥に飛び蹴りを食らわせて撃墜したのだ。

「貴方は、一体……」

「自己紹介は後だ、下がっていろ」

 長峰の問いかけを一蹴した男は、先ほど撃墜された鳥のもとに駆け出す。男の駆け出した先に視線を向けると、木々に凄まじい速さで叩きつけられたはずの鳥は既に起き上がっていた。

 大きさは、およそ3mくらいといったところだとうか。皮膜らしきものは無残に裂け、身体のあちこちから真っ赤な血潮が吹きだしているというのに、鳥の闘志には些かの衰えも感じられない。寧ろ、手負いとなったことで一層恐ろしさを増した狂気が表情に顕れているように感じる。しかし、手負いの虎と言わんばかりの狂気を発する鳥に、男はグローブを嵌めただけの状態で立ち向かうつもりだ。

 怒り狂った鳥は男の首元に喰らいつかんと突進する。それに対し、男は中国拳法にも似た構えを取って応じる。

「ヤアァ!!」

 男は、鳥の牙が男の身体を捕らえんとしたその瞬間身体の軸をずらして重力に身体を委ねて身を屈めた。目標を失って空を切った鳥の真下を取った男は、地面を全力で蹴って身体を浮かす。

 そして、左足を大きく後ろにそらせた男は、身体を捻り、回転による遠心力を上乗せして一気に左足を振り上げた。狙いは、鳥の首、皮下脂肪や筋肉も薄い頚椎部。芸術的なほどに美しい弧を描いた男の左足は、鳥の頚椎に寸分違わず直撃する。頚椎を渾身の一撃で蹴り砕かれた鳥は、まるで女性の悲鳴のような悲痛な叫びをあげて崩れ落ちた。

 しかし、まだ鳥には息があった。凄まじい速度で木々に叩きつけられ、骨も少なからず折れ、皮膚もいたるところが避けて出血多量。加えて頚椎を蹴り砕かれたというのにまだ生きている鳥の常軌を逸した生命力に、長峰は戦慄する。

 まだ鳥に息があることに気がついた男は、懐からナイフを取り出して鳥の頭に突き刺した。苦悶を孕んだ声で鳴く鳥に、何度も何度もナイフを突き刺していると、次第に鳥の声は小さくなる。そして、弱弱しい声すら出せなくなった鳥は、ついに息絶えた。

 鳥が息絶えたことを確認すると、男はナイフを懐にしまってこちらに歩み寄ってきた。

「怪我は?」

 アングロサクソン系と思われる若い男だ。どうやら日本語の会話にも問題はないらしい。

「いえ。大丈夫です。それで、貴方は……」

「私は、イギリスの――」

 しかし、彼が口を開こうとした時、沢の先から若い――少年のような声がそれを遮った。

「教授~!!待って下さいよぉ~!!」

「置いてかないで下さい、エルメロイ先生!!」

 声の主は金の短髪に青い瞳の少年、それに少しカールした金髪の整った顔をした少年だった。少年達は、慌てた様子で男に駆け寄る。それを見た男は、溜息をついて再度口を開いた。

「……私はイギリスの大学教授をしているウェイバー・ベルベットだ。事情があって、学内ではエルメロイ教授を名乗っている。こちらのカールのアホが、私のゼミの学生、スヴィン・グラシュエート。短髪のバカが、同じくフラット・エスカルドス」

「先生、酷くないですか?せめて二言以上で紹介してください!!」

「バカでアホなフラット・エスカルドスだ」

 フラットの抗議を一蹴したウェイバーは、話を続けた。

「手短に説明しよう。我々は、数日前にこの島に入った。珍しい鳥の雛が見つかったという話を聞いてな。しかし、当然のことながら先に到着した平田教授らからはいい顔をされなかった。仕方なく彼らが雛を見つけた場所の近場を散策していたら――!?」

 その時、エルメロイと名乗った男は何かに気づいたかのように上空を見上げて警戒態勢を取った。その直後、彼らを強烈な風が襲った。そして、立っているのがやっとの風の中で長峰の目ははっきりと捉えた。彼らの上空を通過した、複数の翼を広げた巨大な影の姿を。

「二日前の夜に、奴等は現れた。奴等の数は、私達が知っているだけで5体……いや、今一匹仕留めたから、残りは4体だ。そして、奴等は人間を餌とする、恐ろしく成長が早く獰猛な生物だ」

 ウェイバーの言葉を聞いた長峰は顔を青ざめ、大迫に迫った。

「今すぐアレを追いましょう!!」

「なんば言うとっとですか!!アレが犯人なら、おいたちの仕事じゃなか……自衛隊に任せないかん!!」

 必死に顔を振って怯えている大迫に対し、長峰は一層強い口調で迫る。

「教授の話が本当なら、あの鳥は餌をとるために飛んだんです!!」

「動いたら、おいたちが餌にされてしまう!!」

「あの鳥が海を越えたら、まだまだ被害は広がりますよ!!」

 大迫も、民間人の被害が想定されるとなれば自分だけ尻尾を巻いて逃げることはできない。覚悟を決め、警官隊と共に港に戻ろうとする。

「教授も同行して下さい!!道中で、分かるだけのことを話してもらいます」

 ウェイバーが返事をする前に、長峰は彼を引っ張っていった。

 ウェイバーは拒否権はないといわんばかりの強引さに苦笑を浮かべるが、民間人の被害を救うために智恵を貸すことに元々依存はない。二人の弟子も引き連れて、長峰らと共にヘリコプターの待つ島唯一の港へと足を向けた。




特命係長ロードエルメロイⅡ世爆☆誕
大丈夫、こんな愉悦してたって多分続かないから。

平成ガメラ三部作の第一作の最初の舞台、姫神島にウェイバー君が介入します。
多分、この後なんやかんやでギャオス対策に関わっていくと思います。
まぁ、この世界は怪獣に容赦しないんで、ガメラが上陸する前にギャオスは空自に駆逐されると思いますけどww


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特命係長ロードエルメロイⅡ世 《邪神降臨》

エイプリルフール短編です。

四月から色々と環境が変わることもあってその準備に追われていたり、
信長の野望にはまっていたり、
私の新作で、ゴルゴ13と暗殺教室のクロスSS「BEST ASSASSIN」の執筆に時間を取られていたりということで、序章部分しか書けませんでした
本当ならばガメラ3で丸々一本書ききる予定だったのですが

四月も2週間ほどはPCの都合で更新はできない予定です。


「ちょっと来い」

 

 ()()()桜にとって、この言葉は日常的なものだった。だが、2年前にこの土地――奈良県高市郡南明日香村に来てからというものの、何故かこの言葉を聞く機会が多くなった気もした。

 彼女の祖父にあたる間桐臓硯が9年前の冬木の大災害で亡くなったことで、その遺産を継承した義父、間桐鶴野は同時に500年の間桐の全てを継承した。故間桐臓硯は怪物として恐れられたほどの魔術師であり、当然、その中には魔術的な要素を含む遺産も少なくない。

 そして、その遺産を継承してからというものの、鶴野は実子の慎二と養子の桜を連れながら度々居住地を変えて全国を放浪した。魔術師間桐臓硯が残した遺産を狙い、他の魔術師が襲ってくるという恐怖に駆られての行動だったらしい。

 苗字を比良坂に変えたのも、魔術師の追跡を逃れるためだそうだ。間桐鶴野、間桐慎二、間桐桜の三人は冬木市の大災害に巻き込まれて死亡したことにして、冬木の災害に巻き込まれて全滅していた比良坂という一家に成りすまし、以後は各地を2年から3年の周期で転々としている。

 幸いにも、間桐臓硯が残した金銭的な遺産も莫大なものであったため、存在するのかも定かではない追跡者相手の逃亡生活も金銭的には全く困りはしなかった。まぁ、桜の知るところではこの9年間で魔術関係者からの接触は一切ないのだが。

 

 

 

 朝、起きれば家の周りでコジュケイが鳴いている。その鳴き声は「ちょっと来い」という日本語に聞こえなくもない。ウグイスが「法華経」と鳴いているといった「聞きなし」の類であるが、毎日聞いていると、不思議と自然な日本語に思えてくる。

 コジュケイの声で目を覚ました桜は、毎日目が覚めると周囲の様子を確かめるように首を回す。そして、自身に覆いかぶさっているものが無数の足をせわしなく動かすおぞましい形をした蟲ではなく、余熱を残した布団であることを知る。

 次いで、自身の周囲を囲うものが、無機質な冷たい石の壁と僅かな灯に照らされる暗い天井ではなく、日に焼けて変色した襖とやや低い木の板を張った天井であることを確認。さらに鼻で一呼吸する。鼻腔に入り込む空気は、ジメジメして、身体を芯から冷やしていく恐怖を孕んだものではない。古くなった畳が発する独特の臭いと、布団から微かに香る潜在の香だった。

 

 

 

 

「ちょっと来い」

 

 朝食後、自身を呼びつけたのは血の繋がっていない兄だ。

「桜、食事中のあの視線は何なんだよ?」

「いえ、私は別に……」

「お前の何か言いたげな視線にはもううんざりなんだ。何か言いたいなら直接に僕に言えよ!!あんな気味悪い視線を向けられてたら飯が不味くなる!!」

 言葉を濁す桜。それに対し、兄、比良坂慎二は眉を吊り上げて言い募る。

「ただでさえお前は辛気臭いのに、じ~っと見てくるから余計に辛気臭くなる。親父もいた手前、あそこでは何も言わなかったけどな、僕にも我慢の限度ってやつがあるんだ。だいたいお前は――」

 ここぞとばかりに日頃の不平不満を口にする慎二。そして、それが一段落したところで桜はようやく自身の考えを口にした。ここで自身の考えを秘したままにしておくのは別に苦でもなんでもない。しかし、このまま兄を放置しておいても彼の追及の手は緩むまい。その場合、登校時間になっても関係なくこちらを詰問するだろうから、学校に遅刻してしまうかもしれない。

 自身の本音を言ったところで彼が怒鳴り散らすのは変わらないかもしれないが、少なくともこのまま口を噤んでいるよりは進展があるだろう。こちらの意見に文句をつけて潰せれば、それで彼は満足し、追究の手は緩めるはずだ。桜はそう考えて自身の考えを口にした。

「サラダを……」

「あぁ?」

「朝食にでてきたサラダ、残してましたよね」

 桜の言葉を聞いた慎二のこめかみに青筋が浮かぶ。

「昨日の夜もそうでしたし、一昨昨日の朝食も残してました」

「うるさい!!僕が何を食べようと僕の勝手だろ!!だいたい、僕はミニトマトが嫌いなんだ!!」

 慎二は怒鳴り散らし、壁を乱暴に殴りつけた。

「二度とサラダに入れるな」

 そう言い残すと、慎二は廊下の古い床板に足の裏を叩きつけるような乱暴な足取りで去っていった。この村に来てから、少し慎二の桜に対する態度も酷くなっていた。だが、桜はそのことに気づいていない。

 慎二を見送った桜は、手首の時計に視線を向ける。そして、既に登校時間の5分前になっていたことに気づくと、少し早足で玄関へと向かった。

 

 

 

 

「ちょっと来ぃや」

 

 学校の授業が終わり、帰宅しようとしたとことで桜を呼び止めたのは、クラスメイトの知美だった。取り巻きの早苗、夏子を連れ、恫喝するかのように桜を囲う。

「すみません。私、今日は……」

 桜が低姿勢で知美に断りを入れようとするが、知美は桜の主張など一顧にしない。

「つべこべ言わずについて来ぃや」

 彼女は桜が強く抵抗しないことをいいことに、知美は桜を学校から歩いて20分ほどのところにある沢にまで強引に連れ出した。

 桜が連れてこられた渓流の畔には、表面に薄っすらと生えた苔や雑草によってその存在に気づき辛くなっている小さな祠があった。

「この社の沢には“りゅうせいちょう”が眠っておわす――お嬢様は来たばっかで知らんやろうけど、そういう言い伝えがあるんよ」

 知美は顎で桜に祠の裏の洞窟の中に入るように促す。

「“りゅうせいちょう”ってのはよく判らへんけど、この奥にそれを封印している石があるんやって。奥まで行ったっていう証拠に、それ取ってきたら見逃したるわ」

 知美はニヤリと笑う。

「取ってこれたらこの村の仲間だって認めてやらんでもない。そうしたら、おうちに帰ってもかまへん」

「……別に、仲間だとかはいいで」

「うるさい!!アンタはとっとと封印の石を取ってくればいいんや!!」

 知美は額に青筋を浮かべ、桜の言葉を遮り罵声を浴びせた。

 

 実は、知美の祖父は戦後林業で財を築いたこの土地の名士だ。そして、彼はたった一人の孫である知美を溺愛していた。だからだろう、彼は知美にねだられてるとほぼ確実に断らない。

 そのため、知美はコンビニすら存在しないこんな田舎町に住んでいながらも、テレビや雑誌でしかお目にかかれない化粧品やバッグを入手ことができた。夏休みには毎年のように祖父にねだって東京や大阪に連れて行ってもらい、都会のアイテムを買ってもらって南明日香村に帰る。

 この狭い村の中だ。広い地域にまたがって生徒が通う高等学校ならばともかく、地域の子供が通う小学校、中学校の規模は必然的に小さくなる。

 そもそも学校に通う生徒の数も少なく、その中にも容姿や能力にそれほどずば抜けた人物もいなかったため、知美はアイテムと僅かな見聞とによって周囲の田舎臭い少女とは違う都会の少女――差別化された学校のヒロイン的存在だったとも言える。

 古い言葉で言えば、まさに彼女は学校のマドンナであった。昨年の冬休み直前に比良坂桜が南明日香村唯一の中学校に転校してくるまでの話ではあるが。

 

 比良坂桜という少女は、間違いなく絶世の美少女だった。テレビでしかお目にかかれないモデルや女優にも匹敵する美しい容姿、中学生ながらに発達し、日本人ばなれした抜群のプロポーション、それに加えてあの物静かな立ち振る舞い。そのどれをとっても過疎気味の村の小さな中学校のマドンナに過ぎなかった知美とは隔絶していた。まさにその差は天と地ほどの離れているといっても過言ではなかった。

 どんなに都会のアイテムとステータスで着飾ろうと、都会波少女というイミテーションは桜という本物の美少女の前では色あせ、ただの偽者になりさがる。桜は知美の地位を脅かす存在に他ならなかったのである。

 知美は、自身が井の中の蛙であることまでであればまだ認められた。しかし、井の中の一番すら奪われる危機に座していることはできず、結果桜に対して高圧的に接した。桜を懐柔して自身の取り巻きとすることでマドンナの地位を保持する方法だってあったはずなのに、何故か彼女は桜を『潰す』以外の選択肢を()()()()()()()()

 知美自身も、何故あそこまで桜の存在が自身の神経を逆撫でするのかは分からない。思えば、転校初日からそうだった。それはまるで、生理的嫌悪感に近かった。さらに、毎晩耳元で恨み言を囁かれているかのごとく、日々彼女に対する憎しみが募っていった。

 しかし、彼女にはこれまた顔のいい兄がいた。彼女の兄は学校一の人気者で、話術も巧みということもあって、あっというまに中学校の女子のほとんどを支持層に取り込んでヒエラルキーのトップに君臨していた。

 その兄自身が妹である桜を身内として大切に扱っていたわけではないことは知っていたが、知美も流石に中学校の女子の殆どを支持層に取り込んでいる男の妹に露骨なイジメをすることはできなかった。万が一、兄が妹の保護に乗り出したら知美の形勢が悪くなるのは明白だったからだ。

 しかし、彼女の兄が中学校を卒業して村の外の高校に通うようになった今なら話は別。

 

 ――最初からこいつの存在が不愉快やった。何がお淑やかな大和撫子や、ただの根暗なデブやないか。去年はイケメンの兄貴が上の学年にいたから手を出すのは控えといてあげたけれども、兄貴が村の外の高校に行った今は関係あらへん。思う存分甚振ったる。

 

「まさか、取ってくるどころか、中に入りもしないうちからゴチャゴチャ言うんか?アンタの立場ってもんを思い出させてあげよか?」

「取ってくるつもりがあるんなら、さっさと行けよ」 

 早苗と夏子が桜を煽る。知美の取り巻きである彼女らも、知美が学園のマドンナであるからこそ、中学校内の小さなヒエラルキーの中で上位にいることができるということは自覚している。自身の保身のために、彼女たちの桜への態度は知美に倣っていた。

 知美たちの桜への要求は、完全に言いがかりだ。苛めであることに疑いの余地はない。しかし、桜はそれに淡々と従う。

 そう、それが比良坂桜にとってはいつものことだった。彼女は転校の度にその内気な性格と絶世の美貌、男性の目を惹きつける抜群のスタイルの良さからか、イジメの対象となっていた。

 これまで、彼女は髪を引っ張られようが、上履きを隠されようが、リコーダーを盗まれようが、クラスの女子全員から無視されようが、トイレの個室で水を浴びせられようが一切抵抗しなかった。如何なるイジメを試しても悉く暖簾に腕押し柳に風。あまりの無反応な態度に、しまいには苛めている方が気味悪がって根を上げるのが常だった。

 桜は、この学校でもいずれはこれまで通り苛めている方が諦めるだろうと思い、知美の要求通りに洞窟に入ることに決めた。洞窟を塞ぐ扉の前に足を踏み出した桜を見て、早苗と夏子は道を空ける。

 洞窟の入り口を塞ぐ扉は、一体いつからそこにあったのだろうか。その扉は、教科書とかで見る、南方の孤島に残って雨ざらしになっている旧日本軍の戦車のように赤錆びていてボロボロだった。

 桜は、その扉にそっと手を触れてみる。沢の近くにあるからだろうか、赤錆びた鉄と思しき扉の表面は気持ちいい具合に冷えていた。そして、桜は両手に力を籠めて扉を押してみた。ギギギ、と古びた金属の擦れる不快な鈍い音と共に、扉が僅かに動いた。さらに力を入れると、扉は意外とすんなり動き、人一人分が通るには十分なほどに開いた。

 そして、桜は夏子に渡された懐中電灯の電源を入れ、真っ暗な洞窟の中に足を踏み入れた。

 

 洞窟の中は一本道だった。懐中電灯の明かりを頼りにたどり着いた洞窟の際奥で、彼女は目的のものを見つけていた。何もないこの部屋の中央に鎮座していた一抱えほどの大きさの石。これが、知美たちの言っていた封印の石とやらなのだろう。

 石の表面を薄く覆う土を払う。土を払うと、なにやら模様のようなものが見えてきた。円形の中に六角形の模様が刻んであるその石は、亀の甲羅に似ていると桜は感じた。そして、間桐桜が石を持ち上げようと両手で抱えたその時、石が僅かに淡い光を放った。

 ――光った?

 しかし、光はすぐに収まった。桜はとくに石の発光という不可解な現象について考えることなく、懐中電灯を胸のポケットに入れ、石を抱えなおして力を籠めた。

 石は桜の細腕に抱かれて持ち上がる。とはいえ、やはり一抱えほどある石にはそれ相応の重量があった。桜は歯を食いしばり、足を引きずるようにゆっくりと洞窟への入り口へと歩き出した。

 

 

 

「大丈夫やろか……?」

 暗闇の中に姿を消した桜から視線を外し、夏子が呟いた。多少なりとも彼女の安否を気づかっているが故の言葉ではない。もしも桜が本当に封印の石を持ってきてしまえば、自分たちの立場がないからだ。

「心配あらへん。子どものときに守部の婆様に聞いたことがある。江戸の終わり頃、勧進相撲にきた力士が余興のつもりで封印の石を持ち上げようとしたけど、びくともせんかったんやって。相撲取りが持ち上げられへんかった重たい石が、あんな根暗女に動かせるわけがないやろ」

 夏子の内心の心配を察して嘲るように笑う知美。桜がどうやっても石を持ち帰ることができないことを知った夏子は安心し、早苗と一緒に笑みを浮かべた。

「お前ら、何してんねん!!」

 その時だった。沢に一人の少年が駆け込み、大声で少女たちを怒鳴りつけたのは。

 声の主は彼女達のクラスメイトの少年、守部龍成だ。この洞窟を守ってきた守部という古くから続く村で最も影響力のある一族の跡取りである。

「あの根暗女ならこの洞窟の中や。ええかっこしたいんやったら、助けたればええやろ」

 龍成の姿を見た知美はそう吐き棄て、祠に背を向けた。

「胸がデカイってだけ鼻の下のばしよって、スケベが!!家が大きいからっていばんな!!」

 龍成に罵声を浴びせて立ち去る知美。沢の出口にさしかかった時、そこに龍成の妹がいることに気づくと、知美は彼女に近寄った。

「言いつけたんか。覚えとき」

 耳元で静かにそう囁くと、知美は夏子と早苗を連れて沢に繋がる細い道へと足を向けた。

 そして、帰り道で知美はふと思う。そもそも、桜を苛める手段ならば封印の石に凝る必要はない。ふっかける無理難題ならばそれこそいくらだってある。それなのに、何故自分は守部の一族が管理している洞窟に桜を行かせたのだろうか。

 守部の一族にこの洞窟に立ち入ったことがばれれば、親に必ず連絡が行き、少なからずお小言をもらってもおかしくないはずなのに。

 しかし、知美はすぐにその疑問を思考の隅に追いやった。そんなことより、今はあの忌々しい根暗女と告げ口をした龍成の妹だ。彼女らにはいつかこの報いを与えてやらねばならないのだから。

 

 

「誰や?」

 洞窟の出口付近だろうか、光が差し込んで、暗さになれた目ならばその全体像がぼんやりと把握できるところで桜は男の声を聞いた。桜は、その声に聞き覚えがあった。

「龍成君?」

「比良坂……」

 桜の姿を目にした龍成はまず訝しみ、次いで彼女がその細腕に抱えているものに気づいて、目を見開いた。

「……あの人たちはどこですか?」

 知美たちの姿が見えないことに気づいた桜が問いかける。

「あいつらは、俺を見て逃げた。それより、それ……」

「これを、取ってきたら帰らせてくれるって言われました。でも、そう、ですか。じゃあ、返してきますね」

 桜は石を抱えたまま踵を返して洞窟の奥に戻ろうとする。しかし、その足取りは重い。

 足取りが重いのも当然だ。桜が手にしているその石は、守部に伝わっている“封印の石”なのだから。

 ――婆様曰く、勧進相撲にきた力士が、余興のつもりで封印の石を持ち上げようとしたけど、びくともせんかったって石や。女の子に持てるようなものではあれへん

 なのに、どうして彼女は両手で抱えてとはいえその石を持ち上げることができたのだろうか。龍成はなんとも言いがたい恐ろしさを感じ、背中に汗をかいた。

 しかし、流石に少女には一抱えほどの大きさの石を休憩無しで洞窟の奥に持ち帰るほどの力はなかったらしい。桜は封印の石を足元に置き、身体を伸ばして深呼吸した。汗に濡れたために透けたブラウスの下、胸のあたりを覆う薄いピンク色に気づいた龍成はとぎまぎする。

 齢15にして、日本人の平均を超えているかもしれないバスト、そして、そのバストと対比してほっそりとした肢体のまろやかな曲線に思春期の少年である龍成が惹きつけられてしまうのも、無理もないことだろう。

「どうかされましたか??」

 貴方のナイスバディに見とれて鼻の下を伸ばしていましたなどとは龍成には口が裂けても言えない。故に龍成は取りつくろうように手伝いを申し出た。

「手伝うわ。それ、重いやろ?」

「でも、これは私がやったことですし……」

「悪いけど、俺は無関係やない……うちの一族は先祖代々、ここを――柳星張の眠りを――守ってきたんや。これは、動かしちゃいけないものやって婆ちゃんが言ってた」

 石を持ち上げようとしたところで呼び止められ、顔を上げた龍成は至近距離から見た美しい形をした双丘に一瞬意識を奪われかけた。だが、露骨に視線を向けていれば桜に自身が何を意識しているのかを悟られかねない。故に彼は話を切り上げて、視線を下に向けて封印の石を持ち上げようとした。

 しかし、健全な男子中学生の龍成が封印の石を持ち上げようとしても、石はまるで強力な磁石で地面にくっついているかのようにびくともしなかった。手助けを申し出た手前、彼女が一人で抱えられなかったものを自分が持ち上げられないとなったら赤っ恥だ。

 龍成は奮闘してどうにかして石を動かそうとするが、結果は同じ。龍成が意地になって石を持ち上げようと挑戦するも、やはり石は全く動かなかった。すると、悪戦苦闘する龍成の手の傍に、桜のほっそりとした手が伸びてきた。

「私もやりますよ」

 封印の石に桜の手が触れると、さっきまでの重さが嘘のように封印の石は地面から離れた。

 龍成は目を見張り、石と桜を交互に見る。そして彼は悟った。今、自分はこの石に手を添えてはいるだけで、重さを感じていない。つまり、自分は()()()()ことには全く()()()()()()()

 この石は桜の細腕だけで持ち上げられている。否、正確に言えば、この石を持ち上げられるのは桜の細腕だけなのである。

 ――桜さんだけが持ち上げられる石、そしてそれが封印している柳星張。

 何か悪いことが起きる予感がする。龍成はそう思った。だが今は、この封印の石を元の場所に戻すことが先決だ。

 龍成は背中に疲労による汗とは違うじっとりと汗をかきながら、桜と共に洞窟の奥へと足を踏み入れた。

 

 

「もうこの祠には近づかんでくれ」

「はい、分かりました」

 封印の石を置くに返して祠に戻った桜は龍成にそう言い付けられた後に彼と別れた。

 

 ――ちょっと来い

 

 何かに呼ばれるような――後ろ髪を引かれるような感覚をどこかで感じながら、桜は沢を後にした。




いきなりガメラ3ネタになったんで、一応のQ&Aコ~ナ~


Q1 あれ?「特命係長ロードエルメロイⅡ世 《大怪獣空中決戦》」はどうなったの?
A1 そのうち書くかもしれませんが、結論から言うとこの時のギャオスは討伐されました
   ガメラの経緯とかも構想はあるのですが、なにぶん時間がないもので……

Q2 「ガメラ2 レギオン襲来」はこの世界では無かったの?
A2 ありましたよ。セブンとガメラとエルメロイ二世と自衛隊が大活躍してどうにかなったってことです。この話はレギオン襲来の数年後という設定です。
   こちらも、構想はあるのですが、時間がないものでして……

Q3 これって、続くの?
A3 ……構想はあるんですけどね、続くといいなぁ。

Q4 タイトルのエルメロイ二世は?
A4 これも構想はあるんですけどね、続けば、出番はありますよ。

Q5 比良坂綾奈は?
A5 冬木で家族全滅しました――と思いきや、実は生き残って某家の養子になりました。家族と共に逃避行には成功していたのですが、その際に墜落してきた自衛隊機の爆発に巻き込まれて彼女以外全員死亡しています。頭部に怪我をして記憶を失ってはいますが。


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特命係長ロードエルメロイⅡ世 《幕間》

Fate/Grand Orderの一発ネタは、もはや一発ネタとは言いがたいほどに続いてしまったので、新作『助けて!!チートラマン!!』として独立させました。
今回のお話は、特命係長ネタの幕間です。


 ある日、師匠の私室でそこらに放り投げられている空き缶やゲームの包み紙を掃除していると、ふと一冊の本が目に入った。タイトルは、『ゴジラ検証』。

 それなりの年月を経ているのだろう。その本の項は捲るまでもなく黄ばんでいることが分かり、表紙も色あせている。どうやら表紙には何か白黒の写真が印刷されていたみたいだが、色あせた今では写真の輪郭もおぼろげとなっていた。

 ただ、年月を経た本というのは師匠のアパートでもさほど珍しくない。世界各地の伝説を紐解き、そこからかつて存在した巨大生物やそれを封じる封印、先人たちが如何に巨大生物を討伐したかという記録を見つけ出すことが師匠のライフワークだ。そのために、世界中からありとあらゆる巨大生物関連の記録が収められた古文書を集めているのだから。

 現に、この師匠の私室も壁一面に古書が並んでおり、まるで古書店のような光景だった。

 何故、この本に目が留まったのか。それは恐らく、先日師匠が講義の中でちょうどゴジラについて話していたからだろう。

 

 

『ゴジラ――記録に残る怪獣の中で、最も謎が多く、最も強い怪獣こそヤツだろう』

 

『ヤツには特筆すべき能力などといったモノは特にない。その巨大な体躯と水爆にも耐える強靭な防御力、そして数万トンの怪獣をも跳ね除ける凄まじい膂力。それだけでヤツは全ての怪獣の頂点に君臨する化け物だ』

 

『その戦闘力はアルテミット・ワンにも匹敵……いや、下手をすれば凌駕するやもしれん」

 

『こういう哲学的な言い方はあまり好きではないが、ヤツはまさに人類の全ての業を背負った存在だと言えよう』

 

 

 師匠が講義で溢した言葉を思い出す。師匠にしては、いささか感情が篭った講義だったということもあって、先の講義のことは特に印象に残っている。

 私はそのまま好奇心に惹かれるままにゴジラ検証の表紙を開き、それと同時に鼻腔に直撃した煙草の臭いに顔を顰めた。この臭いはいつも師匠が吸っている葉巻の臭いではない。おそらく、この本の前の持ち主の吸っていた煙草の臭いが染み付いているのだろう。

 なるべく臭いを遮断するためにマスクをつけ、そのまま黄ばんだ項に目をやる。どうやら、この本は1954年のゴジラの東京発上陸からの半年間、新日本新聞の夕刊に連載されていたゴジラ関連の記事をまとめたもので、大部分をインタビュー記事が占めていた。

 このインタビューに応じていたのは、その当時様々な形でゴジラに関わった人々であった。例えば、前代未聞の事態に頭を抱えた政府関係者だったり、首都防衛のために死力を尽くして戦い抜いた自衛隊員や幕僚であったり、ゴジラの姿が一番最初に確認された大戸島の住民といった人々だ。

 様々な人間があの日、ゴジラと様々な形で好むと好まざるとに関わらずゴジラという超常の存在に触れた。彼らの体験談や感想を通じてゴジラとは一体なんだったのか、それを包括的に検証しようという企画のようだ。

 

 

 まず、私が注目したのは当時政権与党であった保守党の政治家、小森という人物が寄せた手記だった。彼はゴジラ上陸時、特別対策委員長としてゴジラ対策会議の陣頭指揮を執っていたらしい。

 

「ゴジラは太平洋戦争で散った数知れぬ英霊達や犠牲となった無辜の民の魂の集合体ではないだろうか」

 

 まるで太平洋戦争末期に戻ったかのごとく燃え盛る東京の街を見て、彼はそう思ったらしい。彼自身、一兵卒として南方戦線に出兵し、飢餓、病魔、連合軍兵士と死に物狂いで闘った経験があるから分かるのだという。

 

「あの戦争からたったの九年。それなのに今の日本は何だ。変わりゆく街の姿や昔と様変わりした人々、新聞やラジオの報道を見ていると、あの戦争を過去のものだと切り捨て、忘れようとしているように思えてならない。俺たちが命を投げ打ってまで守ろうとしたものがこれなのか。戦争を忘れて日々を能天気に過ごすお前達のために、俺たちは死ななければならなかったのか。もしそうだったとしたら決して許すことはできない。こんな国、踏み潰してやる」

 

 怨念が結集して怨霊となり、実際に何がしかの現象を起すということは、魔術的な見地から考えるに十分ありうる話だと私は思った。小森氏は魔術師でもない一般人であろうが、その感性は中々鋭いものがあるのかもしれない。

 

 そんなことを考えながらページを捲ろうとしたとき、師匠の私室の扉がギギギという鈍い音を発しながら開いた。

「グレイ、何を読んでいる?」

「師匠……」

 長い髪から潮の香を漂わせながら入室したのは、この部屋の主にして私の師匠、ロード・エルメロイ二世だった。

「随分と早かったですね」

「ふん、最速タイムを十五秒ばかし更新しただけだ。いつもと比べて特別早いというわけではない。大方その本に熱中しすぎて時間を忘れていただけだろう。掃除も終わってないようだしな」

 思わず部屋の壁に取り付けられた時計を見る。針が指し示す時刻は確かにいつも師匠が鍛錬の日に帰ってくる時間だった。慌てて掃除を再開しようとすると、師匠は手を掲げて私を制止した。

「まぁ、いい。君が時間を忘れるほど一冊の本に没頭するというのも珍しい。掃除は後日で構わん。代わりに、今日は特別講義でもしてやろう」

 そう言うと師匠は葉巻を燻らせながら本皮張りのチェアにゆっくりと腰を降ろした。その様子からは、とても真冬の北海からテムズ川までスイムで遡上するという意味不明な鍛錬をしてきた帰りだとはとても思えない。

 鍛錬に(強制的に)同行した弟子たちは今頃、テムズ川の畔でいつものように力尽きて救護班のお世話になっているだろうに、どうしてこの人はピンピンしているのか。ジープに追い掛け回されたり鉄製のブーメランやガンドが飛び交う中での回避訓練をしたりと、エルメロイ教室は魔術師らしからぬ特訓には事欠かない。

 

 

「『ゴジラ検証』か……最期まで読みきったか?」

「いえ。まだ四分の一ほどが残っています」

「そうか」

 師匠はそう言うと、後ろの本棚から一冊の冊子を抜き出して私の前に差し出した。

「宿題だ。論題は『ゴジラとは何か』。君の思うところを正直にまとめてくれればいい。提出期限は七日後の正午。その冊子は参考資料として貸してやる」

 私は教授から受け取った六十ページ弱ほどの冊子の表紙に視線を降ろす。タイトルは、『とくかえれかし』。著者は、山根恭平とある。

「山根……恭平?」

 その名前には見覚えがあった。確か、先ほどまで読んでいた『ゴジラ検証』の中にも手記を寄せていた人物である。

「山根博士は初めてゴジラの存在を確認し、研究を始めた人物として知られている。ゴジラ東京上陸の翌年に病没しているが、彼の残した手記が彼の死後、在籍していた東京大学の出版部で一冊の本に纏められて、小数部出版された。それがこいつだ」

 

 

 二冊の本を借り、師匠の部屋を後にした私は、その日『ゴジラ検証』と『とくかえれかし』を徹夜で読みふけった。




特命係長ネタを考えていた時に、拙作におけるウェイバー君の設定補完のために書き上げていた幕間の物語です。
後編はゴジラとは何ぞやという問に対する自分なりの答えをグレイに代弁してもらう予定でしたが、そもそも活動報告などで自分の考えはあらかた出してしまっているので、今更書かんでもええやろと考えました。
死蔵するのももったいないかと考えまして、途中放棄した文を、ちょっといじくって再構成しました。


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