SAO ~ソードアークス・オンライン~ (沖田侑士)
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プロローグ 「ルーサーの置き土産」

DF【敗者】を倒し、アークスの基盤を作り直している最中の出来事。
それは唐突に見つかった------。


オラクル船団、アークスシップの一つ。そこにいた男女のアークスが今まさに出発しようとしていたところだった。

「さって。準備はいい?」

「おう。しかし、あの【ルーサー】の遺産。ねぇ。」

アークス《オキ》。アークスシップの一つを拠点に持ち、活動するアークス。周囲のアークス達からの評判はかなり良く、数か月前に起きた大事件、DF【敗者】ことルーサーの起こしたオラクル船団の管理者《シオン》の取り込み、そしてアークスの崩壊を阻止したほどで、その直後にはDF【敗者】との決闘で【敗者】を消滅まで追い込んだほどである。

もう一人の少女の名はサラ。同じくアークスで現オラクル船団管理者《シャオ》とよくいる縁者らしい。

クエストカウンターでキャンプシップを待っている所に更に数人のアークスが2人に気づき近づいてきた。

「ちーっす。何やってんの二人で。」

「おう、はやまんにこまっちー。ミケっちと…隊長?」

「やっほーオキさん。サラさんもこんにちは」

4人のアークス、《ハヤマ》、《コマチ》、《ミケ》、そして隊長と呼ばれる《アインス》が現れた。

ハヤマとコマチはオキがマスターを務めるギルドメンバーでミケはソロ、アインスは別ギルドのマスターである。ギルド等は違えど、共に活動をしているメンバーである。

「こんにちは。みんな。」

「また4人でなにやっとん?」

サラとオキは4人の組み合わせに珍しさを感じた。

「ちょっと俺の新しい技を試しにね。」

「で、ついでにクライアントオーダーもこなそうかと思って。」

「暇だったからついてくのだー!」

どうやらハヤマとアインスは新しい技のためしついでにクライアントオーダーをこなしに行く予定だったようで、コマチとミケはただ単なる暇つぶしというわけだ。

「オキさんはどちらに?」

「サラとデートd…ゴフゥッ!?」

「ふざけてんじゃないわよ。」

サラに腹を肘で殴られたオキはうずくまっている。痛そうだ。

「まったく。DF【敗者】、ルーサーの研究施設が見つかったの。今まで隠れていたから何か情報でもあるかなってね。そこでシャオからオキを連れていくといいって言われたから…。え? 何? うっさい! ばかシャオ! 違うわよ!」

シャオ。以前管理していたシオンの弟のようなものらしく、彼も特殊な生命体らしい。そんな彼と一部存在がくっついているサラは常にシャオと交信ができるらしいが。

「相変わらず、プライベートもないな。」

アインスも苦笑気味だ。顔を赤くしているサラはいったい何を言われたのだろうか。咳払いをしながら説明を続けた。

「で、その研究施設の調査に向かうところだったのよ。あなたたち暇ならついてくる?」

皆で顔を合わせて満場一致の同行だった。

 

 

 

「へぇ。こんなところがあったなんてな。知らんかった。」

惑星ウォパル。海に囲まれたこの惑星の海上に浮かぶ施設の一つに目的の場所があった。

ウォパルにある施設としては珍しく建物になっており、今迄見つからなかった理由としては周囲の景色と同化する仕組みになっていたらしく、それが最近になって解けたようだ。

オキが周囲を見渡したが、今迄にないくらい特殊な設備や研究資料が山積みされており、オキ達がルーサーと決着をつける直前までここで何かをやっていたらしい。入口だけでも大量の資料と研究資材の山だというのに、奥にはいったい何があるのだろうか。

「とりあえず、この山になっている資料の回収と、できれば確認をお願い。手分けしてやりましょ。じゃぁ解散!」

「「「はーい(なのだー)」」」

皆が分かれて施設の中にあるモノを片っ端から回収していった。

オキが担当したのは地下にある研究室だ。地下も上と変わりなく大量の研究資材が山のようになっていた。

「ルーサーの奴、一体ここで何やってたんだ? えーっと、これはモンスターの改良データ、こっちは…異次元エネミーの調査データ。ぅんでー、星の研究? これって以前の奴、じゃなさそうだな。」

以前、ルーサーの研究を調べて海底にもぐった際、星の改造を行った研究データを残していた。それをサラと取りに行ったことがあるが、ここにあるのはウォパルのデータではなく別の星のデータだった。

「ナベリウスやリリーパ…じゃないな。こりゃどこの星だ?」

データの中身を見てみるとそこに書いてあった名前は見たこともない惑星の名前だった。

「惑星Threa…スレア? えーっと、人間の住む科学の発展した星か…。あぁただアークスや他の星みたいに何かしらの能力とか何かを持ってるわけじゃないただの人が住んでるのか。へぇこんな星があったなんてな。場所は、遠くない。ほぅ。ダーカー侵食無しか。よくルーサーはここを襲わなかったな。…へぇ。平和な星、ねぇ。」

知的生命体が住むもしくは住んでいた星は見てきたが、人が暮らしており尚且つ発展した星は未だに見たことが無い。ルーサーが侵食しなかった理由も何と無く分かるが、オキは興味が湧いてきた。

「しかし、ルーサーはここで何を調べていたんだ? えーっと、んん?」

ルーサーが特に調べていたのはそこで起きる事件のようだ。

「起きる? まて、未来の話? ルーサーはなにをやってたんだ!?」

更に調べていると他の階の調査が終わった皆がオキが遅いので迎えに来た。

サラ達が駆けつけるとタバコを吸いながら椅子に腰掛けデータを見ているオキを見つけた。

「オキさーん。どうかしたのー?」

「あ? あぁ。なんか面白いの見つけたからな。」

調べたデータを皆に送った。

「これは…人の住む惑星?」

「そう。そこでルーサーが目を付けたものがあった。結局、飽きたらしいけど。」

皆が来る前にデータの中身を全て目を通したオキはその中身を説明した。

ルーサーが調べたのはまず異次元の事。どうやら新たな世界を作るには、と考えていたらしく異次元からのエネミー、ラッピーやここ最近出現するようになったニャウ等を調べたらしい。いろんな研究の結果、オキ達の近くにある設備を作った。そして目を付けたのがそう遠くない場所にある惑星スレア。そこは科学の発展した人の暮らす惑星。研究材料としてはうってつけだったのだろう。発展途上である惑星としてちょうど良い材料だったそうだ。

惑星の情報を仕入れた際に設備に情報をインプット、その惑星がどのように発展し、どのようになっていくかのシュミレートをしていた。

シュミレートした際に数多くの情報を弄り、世界の改変をした場合の研究をしていたようだ。

「自分で変化させるとどのような世界になるか。相変わらずぶっとんだ頭してんな。」

コマチは手を横に広げてお手上げの状態だ。そこから不思議なデータをルーサーは知る事になる。

どれだけ世界変化を起こそうが必ず起きる事件があった。それが『1万人大虐殺事件』。

「通称、SAO事件。」

「SAO? なにかの略称?」

興味を引いたサラが質問をしてきた。オキはデータの一部をサラに見せた。

「ソードアート・オンライン。ここの惑星で作られたモノで、電子ネットワークの中に作られている仮想世界で生活するゲームだそうだ。」

「へぇ。仮想世界を造れるってことはかなりの技術を持ってるのね。」

「とはいえ、人の頭にヘッドギアを付けてスキャン、五感を全て、そして意識をネットワークにインプットするらしく、その間本体である人の体は寝たきりだから長時間のインはあまりいいとは言えないな。」

感心するサラだったが、欠点もある事をオキは伝えた。

「ってかどうやってそんなことわかったの?」

ハヤマが疑問を抱き質問する。オキはそれに対して当たり前のように答えた。

「ルーサーが調べて律儀にレポート書いてたよ。まぁ腐っても科学者、研究者、探究者ってことか。」

呆れ顔になる全員。

「で、このSAOで問題が起こるらしい。作者である茅場彰彦という人物がSAOからのログアウトを不可能にし、1万人のプレイヤーをゲーム内に閉じ込めた。その後2年と数か月の間被害者たちは徐々に死んでいき、ある日突然残っていた数千人のプレイヤー達が同時に死んだそうだ。結果生き残ったのは0。1万人のプレイヤーが死んだことになりSAOを乗っ取った茅場彰彦は1万人殺害の大犯罪者として指名手配されたらしいが後に隠れ家であった場所で自殺していた事が判明するらしい。このシミュレータで何度もシミュレートし、データを入力してあちこちの因果関係を改変してみたらしいがどうしても起きるみたいだ。遅かれ早かれね。いくら因果関係を変えても、設備が悪いわけではないのに何度も起きる。これはおかしな話だとルーサーは興味を引いたらしい。最も、一番興味を引いたのはこの仮想世界の事らしいが。」

「この設備がねぇ。」

コマチがその設備に近づく。オキもその後ろに立ち更に説明を加えた。

「仮想世界に入った者がどうやって死ぬかの仕組みも調べているみたいだな。どうやらヘッドギアに脳をスキャンするシステムが組み込まれているみたいが、仮想世界で死んだ場合本体についているヘッドギアのスキャン機能が超強力な高周波エネルギーを発して脳を焼き切っちまうそうだ。簡単に言えばレンジでチンだな。」

「お、恐ろしい物ね。考えただけでもおぞましいわ。」

サラが身震いする。

「ところでオキさん。そのソードアート…。あーSAOっていったっけ。どんな世界なんだ?」

アインスは世界の事については何も説明がないので気になったようだ。

「やっぱり気になる?」

「そりゃあねぇ。隊長がソードとついているモノに対して興味ひかないわけないもんねー。」

ハヤマが笑いながらデータを見ていた。

「中身まで調べているとはさすがというべきか、相変わらず恐ろしいというか。SAOの中では剣を使って1~100層まである巨大浮遊城【アインクラッド】を攻略していく内容になっているね。中々面白そうじゃん。」

「ほう…。」

「あ、たいちょーの目が変わったのだ。」

「興味を引く内容だね。」

「続けるね。どうやらその中のプレイヤーは熟練度と呼ばれるシステムを使って使えば使うほどたまっていって、高ければ高いほど高位の技が使えるようになるようだね。でだ、ここからが本題だ。この攻略の流れまであのルーサーは調べたみたいだ。詳しい状況まではわからないけど、誰がどのように事件に関わった事はわかったみたいだ。その人物の名前がここに…。」

そこまでしゃべった直後にコマチの背後にあったルーサーのシミュレーターが急に作動を開始した。

「な、なんだ?」

「急に動き出したのだ! ちなみにミケはなにも触ってないのだ!」

「おれも触ってないよ?」

オキが近づきシミュレータを調べようとした時だった。

「気を付け…!」

「!?」

サラが異変に気づき止めようとした瞬間、装置は異常なまでにまぶしい光をだしオキ達を巻き込んだ。

「これは…。」

オキ達の目の前は一瞬で真っ白になり、意識が飛んだ。




はじめまして。うp主です。
初投稿であり、何年ぶりだと思われるほど完全に書き上げる勢いで書いています。
なので、文章力がほとんどありません。更に追い打ちを掛けるようにできるだけ確認は致しますが、誤字脱字が多く見られると思います。
もしよければ、ご承知おき願います。


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第1章 ~はじめましてから始めるデスゲーム~
第1話 「デスゲーム」


「おい、おい!!」

「ん…?」

気が付くとそこは見慣れぬ風景の場だった。誰かの声が聞こえ、頭を揺さぶる。

「おい、あんた大丈夫か?」

声の主はオキの目の前にいた。どうやらオキは地面に座っているらしい。

「ここ、は?」

「はぁ? ここは始まりの街から南にでた草原のど真ん中だ。こんなところで寝ていたらモンスターにやられるぞ。」

始まりの街? 草原? いったいここはどこなんだ!? オキは考えた。この状況と目の前にいる人物の頭の上に見える文字。そして普段は見えるはずのない空中にあるゲージバーや文字。

「ここは…君は?」

「おれの名前はキリト。こっちはクライン。さっき一緒にPT組んで戦い方を教え始めたVRMMO初心者だ。」

「うっせ。まぁ初心者なのは否定しないがな。お前さん、大丈夫か? VR酔いって奴か?」

VRMMO。彼らはそういった。そしてルーサーのレポートにもその名称があった。そしてその次につながる文字は。

「SAO…。ソードアート・オンライン。は、はは。なんてこった。夢じゃないんだな?」

「何やら混乱してるみたいだから説明しておくけど、ここはSAO、【ソードアート・オンライン】の中、浮遊城アインクラッドの第一層で始まりの街の外にある始まりの草原。大体町からちょっと歩いた西側ってところか。ほら、あそこに見えるだろ?」

オキは立ち上がり、キリトの指差す方へと目を向けた。そこには膨大な広さに広がる草原と少し遠くに見える街の外壁が目の前に広がっていた。

「…どうやら混乱していたようだけどようやく理解したよ。ここは夢じゃなく、SAOの中なんだな?」

「そうだ。夢じゃない。本当のファンタジーの世界が広がる現実だぜ。」

にこやかに言うクライン。何やら楽しそうだ。それはそうだ。ファンタジーのような、アークスのような化け物やモンスターと戦う日々の世界とはかけ離れた平和な世界の住民なのだから。憧れる気持ちもなんとなくわかる気がした。

「すまない。ここは初めてなものでね。すまないが初歩から教えてもらえると助かる。君はどうやら彼に教授してたみたいだし、一緒にいいかな?」

キリトとクラインは顔を合わせ頷いた。

「ああ、いいぜ。叩き込んでやる。」

「おれの方が先輩だからな。あんた、名前は?」

「オキ。オキだ。よろしく頼む。」

その後、オキはゲーム事態が初めてだという事を伝え、どのような仕組みからを教えてもらった。システムや基本的な知識。戦いに必要な事項やここでプレイする為の基本すべてを。

「へぇ。ここではステータスというのが数値で出るのか。面白いな。」

「あんた、ほんとにゲーム初心者なんだな。」

呆れ顔でオキの顔を覗くキリト。クラインはその間に周囲にいるエネミーを探しばっさばっさと切っていた。

「あんな風にエネミーを倒すと経験値という数値がもらえる。それがある一定以上溜まるとレベルが上がりステータスが上がる。その他にレベルが上がるとソードスキルという剣技を出したり、ステータスの底上げをするパッシブスキルというモノが使えるようになる。ただそれはスキルポイントというポイントを使って、えっと…この画面と、そうそう。そこで好きなものを振ればいい。ただ、一回振ると二度と戻せないから注意して。自分の戦いやすいスタイルを見つけることから始めるといいよ。」

「なるほどねぇ。パッシブスキルに剣技を出すソードスキル。ほうほう。」

『アークスで例えるならフューリースタンスやPAの事を指すんだな。その辺はあまり変わらないのか。これなら応用が利きそうだ。』

オキは現状とアークスで培ってきた経験をもとに着々と知識を仕入れた。また、ルーサーのレポートの内容と誤差が無いかも確認していった。

「戦いは普通に剣を振り回して攻撃。また敵の攻撃をよけたり、防御したりする。ほかにもSS、ソードスキルを使用して戦うのも基本だ。クライン! ちょっとSS使ってみてくれ!」

「おうよ! おーりゃ!」

クラインが初期スキルである『ソニック・リープ』を放った。

「あのように技を出すときにエフェクトが出て、通常よりもダメージボーナスが入る。つまり攻撃力が高いという事。ただ、SSを出した後はスキルストップと言って硬直するようになっている。硬直は技によって時間が変わり、強力であればあるほど長くなるのが特徴だから、戦いの最中にエネミーの隙をついて攻撃するのがいいだろう。」

「ふーん。なるほどねぇ。」

オキは初期装備らしい片手剣をキリトから教えてもらったとおり手に装備した。自動で消えたり持ったりできるのは便利だな。

「なるほど。ほうほう。どれ・・・。」

オキは戦いだけ見れば歴戦の兵である。なにせ長い間、ダーカー、ダークファルスと戦ってきたのだから。

剣を軽く振り、実際に目の前に敵がいることを想定、イメージで動いてみた。

『そうだな。さっき戦っていたのはオオカミだった。だったら同系のフォンガルフあたりか。』

目の前にいるイメージし目を瞑る。こい、そうだ。突進して、かわして、切る。また他のファングが飛び噛みつきをしてくるがそれもよける。うんいける。

「へぇ。さまになってんじゃん。」

クラインもその動きをみて動けている程度に感じたのだろう。

「そういえばここには小さいのしかいないけど、数で来るようになるの? それともデカいのもいるのか?」

キリトはニヤリと笑い、それにこたえた。

「ご明察。まだここは最初の最初。だから弱いのしかいない。けど各フィールドやあそこに見えるデカい塔がみえるだろ? あの中にはこの1層のボスが待ち構えている。そいつらは雑魚とは違い、巨大で強い。塔の中にいるボスを倒せば晴れて次の階層へと昇る事が出来る。それを100層まで繰り返せばゲームクリアだ。」

「ま、いつになるかわからねーがながーく楽しませてもらおうや。」

「なるほどねぇ。」

デカいのもいるとなると、ダークラグネやファングバンサクラスもいるだろう。下手をすればダークファルス級もいてもおかしくはないという事か。

「なるほど。どれ…。」

オキはイメージを更に強めた。

オキは先程の確かめる意識ではなく、完全に戦いの意識へと切り替えた。それにキリトは気づく。

『なんだこの人…? 急に雰囲気というか…意識が変わった!?』

イメージする敵は動き回る巨大な獣、ファングバンサー。

飛んできて、よけて、切りつけて更によけてきる。前転、側転。防御。攻撃。回避。その中にはPA、フォトンアーツも真似て入れた。持っている武器は片手剣に最も似ているガンスラッシュ。

「はぁ!」

キリトとクラインは先ほどの真似事から急に動きの変わったオキに目をくぎ付けにされていた。

「これは…。」

「い、いったい何と戦ってんだ!? いくらイメージしているとはいえ、これほどの動きをするには…。」

「ああ。実際に日常的に何かと戦っていないとできない。この人は一体…。」

オキはある程度の動きを確かめながら確認した。

「なるほど。PAの真似事はできるんだな。問題は遠距離が出来ないのが難点だが、まぁ何とかなるべ。後は武器やら何やらをそろえれば…。とと、すまん。つい集中してしまった。」

ぽかんとしている二人を置いてけぼりにして動き回っていたオキは笑いながら二人に近づいた。

「あんた…一体何者なんだ? 俺も多少は剣道をやってた時もあったけど、あんな動きは初めて見たぞ。」

「もしかして、武術の達人かなにかか?」

「まぁそんなところにしといてくれ。キリト、クライン今後もヨロシクしてもらっていいか?」

「あ、ああ! 任せろ!」

「ああ。もちろんさ。」

オキは偶然にも【ルーサーが記述していた事件の中心にいるはずの人物のうち二人】と仲良くなった。

 

ある程度オキは周囲のエネミーと対峙し、クライン共々レベル上げに専念した。元々技量のあったオキはすぐにVR世界のルールに慣れ、ある程度エネミーと戦う事が出来るくらいまでには上達した。それでも本人からすれば真似事で本気は出していないが。

3人は手に入れたお金を使って街で装備を整える事にし一度街へと戻った。時間を見るとだいぶ経っていたようだ。

「それじゃぁ今日はもう遅いから一度落ちるとしよう。」

「あーもうそんな時間か。仕事いきたくねー。ちきしょー!」

その言葉を聞いてオキは根本的な問題に気づいた。

「そういえばどうやってログ、アウト? っつったっけ。すればいいんだ?」

「ああ、それならオプション項目の下に…あれ。ない?」

「あれ、おれもねぇ! どういうこった。」

たしかに二人の示している場所にログアウト、つまりゲームを終了する為の項目は無かった。

『やはり、始まるのか。あれが。』

オキの予測は当たった。ログアウトができず、1万人のプレイヤー達が電子ネットワークの中に意識を閉じ込められそして数年後に…。

「一度中央広場に行ってみよう。」

「ああ。何かのバグか何かなら運営がなにか示してくるはずだ。」

周囲を見るキリト。たしかに周囲のプレイヤー達もログアウトボタンが無いことに気づき始めてざわついていた。

中央広場に向かった3人はすでに問題に気づき、空に向かって何か騒いでいるプレイヤー達を発見した。

「運営―! はやくなんとかしろー! きこえてんだろー!」

「ログアウトできないのー! おねがいー!」

「これは?」

オキは不思議な光景をキリトに確認をした。

「たぶん運営に気づいてもらいたくて叫んでいるんだろう。ログに残るしね。」

「なるほど。無意味な行動じゃないという事か。」

クラインが端末画面を操作し閉じた。

「ちょっと俺、リア友の所に行ってくる。あいつらも不安がってるだろうから。」

「ああ。俺はここにもう少しいるよ。何かあったら伝えて…え!?」

同じく端末画面を操作していたキリトがなにかに気づいたようだ。

「どうした。ボタンあったか?」

「いや、クライン。このSAOたしか限定生産で、しかも1万人しかINできないんだよな?」

「ああ。そりゃそういってたじゃねーか。さっきも俺とお前で1万人がINしてる数字をみたろ。」

どうやら数字が見れるらしい。オキもその画面を探した。

「これか…。1万、とんで6人?」

「なに!?」

その時広場でざわめきがあった。皆上を向いている。そこには赤いローブを着た巨大な人が浮かんでいた。

「SAOをプレイしている諸君。アインクラッドへようこそ。私はSAO作成者、茅場彰彦だ。」

『あれが、茅場…。SAO事件の犯人。』

ようやく出会えた。だが、顔の部分は見えない。オキは少し前へとでた。それと何か気になる気配。ほんの気持ち程度だが、目の前の巨大なローブの中から感じ取るモノを覚えた。

「君たちにゲームマスターである私からプレイをしてもらう事に感謝の意をこめ、あるプレゼントを君たち全員のアイテム欄に追加した。確認してもらえるだろうか。」

全員がアイテムを確認しだした。そこには「手鏡」と書かれたアイテムがあった。

「こいつは…!?」

全員手に握っていた鏡が一斉に光りだす。その直後、その場にいた全員が驚きを隠せなかった。

「お、おい。お前誰だ?」

「お前こそ…。まさかクライン?」

オキの隣にいたキリトとクラインの姿、顔がまるで違った。周囲も女性の姿から男性へと変化しているのも見受けられた。

「これは、俺の顔だ! リアルの顔だ!」

「どういう事だ…。まさかギアを付けたときにスキャンしていたけど、その時に?」

「おれは元々この顔だし変わらずか。流石に少しドキドキしたぜ。」

オキは別にアバター、つまりネットワーク世界での姿を造ったわけではない。なので素の状態だ。周囲はファンタジーの世界で別のキャラクターになりきる為に姿かたちを変化させていた。それが今やすべてがリアルの姿だ。

「さて今諸君はログアウトボタンが無いことに気づいているだろう。これはバグではない。仕様である。」

その場にいた全員が絶句した。バグではなく仕様。つまり、一度INすれば出れない。

「どういう事だ!」

プレイヤーの一人が叫んだ。それにつられ周りも罵倒と悲鳴が聞こえる。

「これは『ゲームであって、遊びではない。』諸君らはこれより上層である100層を目指してもらう。そしてゲームマスターでありラスボスである私を倒せば晴れてゲームクリア。現実の世界へとログアウトできるようになる。また、もし道中でHPが0、つまり死んだ場合、君たちが装着しているヘッドギアから高出力の電磁波が射出され、脳を焼き切り殺す。HP0=死だ。」

その場にいた全員が一言もしゃべらなくなった。それもそのはず。今自分の本体がいつでも死に至る状態なのだから。

「今の鏡もリアルの自分と同等の感覚を持って貰う為に君たちのリアルの姿をそのまま映させてもらった。そして誰かこの中の1万人のなかの誰かが…。うん?」

茅場の様子がおかしい。どうやら何かのログをみて固まったようだ。

「1万人と6人…? おかしい。1万人しかログインできないように設定したはずだ。」

オキはその言葉を聞いてふっと笑い、前に歩いて出た。

「お、おい。オキ。どこに行くんだ?」

クラインの言葉を聞かずに人をよけて前に出る。そして静まった広場に大声で叫んだ。

「1万と6人。そうかい。おい、茅場彰彦といったな。ゲームマスターさんよ。そのイレギュラーならここに居るぜ!」

周囲にいた全員がオキを向いた。

 

 

「どういう事か説明してもらおうか…。」

「いいぜ。わかる事だけだがな。まず事実となる根本の部分。このゲームはほぼ確実に100%で第75層に到達した際に全員が死ぬ。」

オキの言葉に周りがざわついた。未来の事なんかわからない。だがこの男は言い切った。

「おれは元々この世界、星の住人ではない。アークス。星々を渡り宇宙を旅するオラクル船団のアークスだ。ある事件から俺はこの惑星、このSAOを知った。そしてなぜか巻き込まれた。6人って言ったな。俺のほかにどこかにいるはずだ。俺の仲間である別のアークスが。おい!どこかにいるんだろ!? おめーら!」

オキの声に反応したのかあちこちから声が上がった。

「おきさーん! ここにいるよー!」

「おれもいるぜ。ちと遠いけどな。」

「オキみつけたのだー! あちこち探しまわったのだ!」

声はここで途切れた。ところでミケ。お前どうして屋根の上にいる…。

「サラと隊長がいない? あいつらどこに…。まぁいい。俺は1万と1人目のプレイヤーであり本来部外者だ。この場いる1万人と違う形で参加している。あんたならそれが分かるはずだ。」

オキは茅場を指差した。指摘された通り茅場はコンソールで調べても、今目の前にいるイレギュラーな存在の出所が分からない。彼は皆に見えるようにグラフィックで地図を出した。そこにはプレイヤー達がどこからつながっているかを示す地図のようだ。あちこちに線が飛んでいるが、ある数本だけ国を離れ海の上を飛び、途中で切れている。

「たしかに君の体がどこにあるかはご覧のとおり、海の上でぱたりと消えている。どういう事かわからないがこの私ですら追えないという事か…。しかし75層で全員死ぬとはどういう事だ?」

「おれはあるたちの悪い研究者の研究資料を漁っていた。その時にそいつが作ったシミュレータでこの星の未来を見た。どのような因果を絶っても変えても、このSAOでの事件は起こり、必ず75層で死ぬ。詳細まではわからないがあの男が導いた結果だ。腐ってもあのバカはある点以外では計算をミスしなかった。実際その男のせいで数百万という人が死にかけたしな…。だが俺はあいつを倒し、オラクルを守った。あいつの導いた計算を覆す事で。だから今回もその結果を覆して見せる事をここに宣言する。」

周囲のどよめきが更に大きくなった。

「俺は未来を知った。1万人という多くの人間が死ぬ未来を。ならば守ってみせよう。いきなり、わけもわからない戦いの中に出されたら戦ったこともない、命を懸けたことない人が戦いなんてできるはずもないしな。驚くもの、絶望するもの。いろいろいるだろう。だが必ずクリアしてみせる。嘘だと思う者、狂ってると思う者もいると思う。しかしこれが現実だ。必ずや皆を現実の世界に戻してやる。一般市民を守る事もアークスの役目だ。問題は俺一人だけでは足りない。皆の協力が無ければならない。もしよかったら俺に力を貸してくれ。ここにいる惑星スレアの皆。死にたくなければ希望を持て。自信を無くすな。この男はゲームと言った。ゲームとは何か。いくら死ぬことがあっても、ゲームなら必ず打開出来るはずだ。ならば必ずクリアできる。俺には、俺たちアークスには戦う技量はあってもこのフィールドでは知識がない。情報がほしい。頼む!」

巨大なゲームマスターの前に出てオキはプレイヤー達の前で頭を下げた。シンとしている。そりゃそうだ。いきなり惑星を旅するモノだの75層で死ぬだのいきなり言われても混乱しているはずだ。だがそこで声を上げたのは一人の男だった。

「よーし分かった!手を貸そうじゃねーか! おい。ここにいるほとんどがゲーマーだろうが! 命を懸けてるとはいえ、ゲームだって言ってる。今までどれだけ困難なゲームをやってきた! クリアしてきた! こんなゲーム、クリアしてやろうじゃねーの! 戦いのプロって奴が手を貸してくれるっていうんだ! だったら俺たちもゲームのプロだろ! 負けてられねー。一丁やってやろうじゃねーか!」

「クライン…。おまえ。」

「そうだそうだ! このまま下向いてたって帰る事もできねー! 積んでるゲームだってあるんだ! ゲーマーなめんな!」

「…!」

「おーし!やってやろうじゃねーか!おい、チムメン集めろ。早速会議だ。」

「私も、できることがあるなら…! やろう!」

周囲のプレイヤー達が先ほどまで絶望した顔をしていたのにもかかわらず一気に活気がわいた。

「ふむ…イレギュラーな存在。それもゲームを楽しませるにはちょうどいいだろう。君たちイレギュラーの参加を認める。一応言っておくが、これまでのやり取りはゲームマスターである私ですら予測していない事態であり、決してゲームの内容や私の仕組んだ内容でない事をここに宣言しておく。中にはそのような考えを持つプレイヤーもいると思うがな。さぁゲームを始めよう。」

茅場彰彦であるゲームマスターはそういって消えかけようとした。その時にオキは気になる一言をゲームマスターに叫んだ。

「おい、茅場彰彦。いや今はゲームマスターか。一言だけ忠告しておいてやる。さっき言った75層で死ぬという理由。必ずしもその結果に至ったわけではないらしいが、理由として外部からの無理やりな接続がほとんどを占めていたらしい。注意する事だ。」

「…忠告、気にしておこう。」

ゲームマスターは完全に消えていった。

「ふう…さーて、この後はどうする…うわ!」

「おい! あんたいま言ったこと本当だろうな!?」

「本当に死んじゃうの!?」

「アークスってなんだイ?」

「う、嘘じゃないよな?」

「本当に助けてくれるの!?」

広場にいたプレイヤー達が一斉にオキの下へかけてきた。流石にあのような大立ち回りをすればそりゃ注目も浴びるだろう。

「だーもう! 全部本当だ! すべてな! 俺は宇宙から来た、そうだな宇宙人だ。」

「「「…!」」」

周囲にいた全員が黙る。信じてるような信じてないようなそんな顔だ。

「あー…その人の事、たぶんほんとだぜ。」

「クライン…?」

人をかき分けてクラインがオキの近くにやってきた。

「おい。嘘じゃないだろうな?」

「お前も、アー…なんだっけ。それなのか?」

周囲のプレイヤー達は疑心暗鬼に陥っていた。無理もない。

「ばかいえ。俺は日本人だ! 会社にだって行ってるれっきとしたサラリーマンだ。だけどな、俺はさっきまでこの人の戦い方を見ていた。おれぁ素人もいいとこ、戦いなんてしらねーが、この人の動きは誰がどう見たって間違いなくプロだ。しかも日常的に戦ってる。」

「クライン…。お前。」

キリトも近づいてきた。

「…おれは剣道を昔やってたことがあるんだが、あんな戦い方見たことが無い。だけどがむしゃらに動いていたってわけじゃない。大振りで剣を振りながら隙はない。かといって小降りに振っても力加減が無駄になっていない。達人以上、見たことないよ。あんなの。」

どうやらフォローしてくれているようだ。

「…俺信じる。何を信じていいのかもわからない状態なんだ。少しでも希望があるなら、俺は信じてみる。」

一人の男が声を漏らした。

「お、俺もだ! どうせ出れないんだ。俺一人でできる事じゃないし戦い方なんてシステムに頼るしかないんだ。だったらここはこの人に、俺は賭けてみる!」

「私も、まだ全部ってわけじゃないけど…助けてくれるんでしょ!?」

「ぼ、僕だって!」

「…わかった。君たちの心意気。必ずや答えてみせる。だけどさっき言ったように俺はこのようなゲーム世界は初めてなんだ。それとみんなの協力が必要だ。頼む。」

オキは頭を下げ、それに皆が答えるように歓声を上げた。

 




はじまりました! 今後共よろしくお願いいたします。
最低限、毎週土曜日にUPできるように頑張ります。
※はやく更新できたら平日でもあげます。


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第2話 「情報屋」

補足1:オキ(アークス)
アークスとして活躍する一人。
チーム[ペルソナ]を率いて数々の功績を立てる
【巨躯】との闘争を経験し、【敗者】を撃破し、【若人】による襲撃を防衛する。
アークスとして中心人物にあり、彼なしではオラクル船団滅亡の危機を脱しなかったほど。
基本的に温厚且つ、優しき人物。仲間思いで、仲間のためなら命すら捨てる覚悟を持つ。
ただし、口が悪いところがあり、その上仲間に対し危害を加える輩に対しては容赦しない。
その為か、普段の服装からなのか『マフィア・首領(ドン)』と呼ばれることが多い。
ちなみにヘビースモーカー。


他のプレイヤー達の囲みから一度離れ今後の動きを確認した。路地裏に移動したオキ達は話をまとめた。

「クラインはこれからギルドのメンバーと動くんだね?」

「ああ。本当は一緒にいてあげたいんだがあいつらの事が心配だしな。」

「仲間思いのいい男だ。」

「だろ?」

クラインは手を振ってオキ達と別れた。オキ達はハヤマ達と一度合流し対策を考えることにした。

「サラと隊長は?」

「わからない。俺たちも気が付いたらここにいたし。」

「ミケは動き回ってたらハヤマをみつけたのだー!」

「おれはそんな二人をてきとーに歩いてたら見つけた。でもあの二人は見てないな。結構歩いたけど。」

ハヤマ、ミケ、コマチは偶然にもかなり近いところにいたらしい。コマチは近くにいたにもかかわらずこの街の中を探索していたようだが。

「困ったな…。」

「ところでオキさん。この人は?」

「あ、えっと…。」

ハヤマに言われるまでキリトの事をすっかり忘れていた。

「キリト。おれのSAO世界の師匠だ。いろいろ教えてもらったよ。まだ教わる事はたくさんあるけどね。」

「し、師匠だなんて。俺はオキみたいに戦えないし…。」

「あ、あはは。ハヤマっていうんだ。よろしく。」

「ミケはミケなのだー!」

「コマチ。よろしゅう。」

3人はキリトと握手した。

「キリトです。なんかよくわからないけど…えっと3人共その、アークスだっけ? なのか?」

「そう。俺と同じく命を懸けて毎日のように戦ってきた戦友。そして残り二人いるんだけど今の所見つかっていない。まずは見つける事と今後どうするかを決めなきゃならん。」

「おれはちょっと行きたいところがあるんだ。この先の村にあるクエストでこの階層で一番強い片手剣が手に入る。急いでいかないと他のプレイヤーにこされてしまう。」

オキはここで不思議に思った。なぜこの先の事まで知っているのかと。

「まて、なんでこの先の事を知っている?」

「あー…説明すると長くなるんだけど…。俺は実は、ベータテスターっていう言わば体験者。ベータテストっていう今現在の正式サービスの前に行われるテスト体験のプレイヤーなんだ。その時に一応10階層までは登ったことがある。もちろんベータテストの時よりも仕様が変わってる可能性が高いからどこまで通用するかわからないけど。」

何故キリトが周囲のプレイヤーよりも知識があるのか納得した。実際に以前体験しているのであればその知識を応用、また改善すれば更に効率的に攻略ができる。

「なるほど。しかし困ったな…。そうなると知識があるプレイヤーを探して情報を求めないと今後の話に支障が…。」

「お困りのようだネ。」

一人のプレイヤーがオキ達の近くにやってきた。フードをかぶり、顔は見えない。声からして女性のようだが。その正体にいち早く気付いたのはキリトだった。

「お前…アルゴか!?」

「よう、キー坊。元気してたカー?」

「アルゴ?」

フードを少しだけ持ち上げ、彼女は顔を見せた。顔には髭がついていた。

「鼠のアルゴ。そう呼ばれていたし今後もそう呼ばれる予定の情報屋サ。」

独特なしゃべり方をするその少女をオキはどこかでこの声を聴いていた。

「…あ。あの時の。」

『アークスってなんだイ?』

広場でプレイヤー達に囲まれた際に聞こえてきた声だ。間違いない。

「あんた、アルゴって言ったな。さっき広場で一人だけアークスについて聞いてきた奴がいたが、あんたか?」

「ご明察。よくわかったネ。」

「オキ、アルゴは情報屋としてかなり信頼できるし、なによりベータテスターだ。アルゴ。もしよかったら彼らに情報を与えてやってくれないか?」

キリトはそわそわしている。早く目的の場所に向かいたいらしい。

「キリト。お前目的地があるんだろ? いってこい。ただし、あとで合流してもらうぞ。お前にはある大事なことを話さなきゃならん。」

「ああ。わかった。じゃあ今後の話が決まったら連絡をくれ。それじゃ!」

キリトは大急ぎで路地裏を走った。相当焦っているようだ。その前にオキが叫んで止めた。

「キリトォー! 言い忘れたことがあった! そのまま聞け! もし道中困ってるプレイヤー見かけたら極力手助けしてやってくれねーか!?」

「りょーかい!」

そのまま振り向かずキリトの背中は見えなくなった。

「急いでるのにわりぃことしちゃったかな。」

「大丈夫。キー坊はああいう性格だかラ。で、オニーサンはどうすル?」

オキはアルゴを見る。現状は情報が一切なし。どうすればいいかもわからない。ならば目の前にあるモノを使うしかない。それに今後の事ももしかしたらすぐにわかるかもしれない。

「すまないが情報提供頼めるか? まぁどこまで信用できる情報屋かは今後次第だけど。」

情報屋は腕と信頼が一番だ。それに関しては付き合ってみないとわからない。

「いいヨ。まずは挨拶代わりにこれあげル。」

総意ってアルゴはアイテムストレージからある一冊の本を取り出した。

「アルゴの…初心者ブック?」

表紙にはそう書かれ、かわいらしい絵で飾られていた。中身をみると基本的なゲームの仕様からシステム。後半には1層から序盤攻略に向けての情報がずらりと書かれていた。

「こいつは!」

「私が持っている情報の一部サ。オンラインゲームの基本は情報。現在初心者は9割以上で残りはベータテスター。できるだけフェアにするには俺たちテスターが情報を与えることが必要だっタ。まぁまさか命をかけるほどの事件になるとは思ってなかったけどナ。」

「だが、こいつのおかげでみんなの生存確率を上げることができる。感謝する。必ずと言っていいほど無闇やたらに前に出て死んでいく輩は出てくるはずだ。もしくはへっぴり腰になってまともに戦えない奴とかな。」

アークスとして戦いのさなかに何人もの犠牲者を見てきた。今回は特に多く出るだろう。オキ達ができることはどれだけそれを防げるか。

オキは冊子をコマチに渡した。

「3人共それをみて頭に叩き込んどけ。特にこまっちー。あんたは特に知っておけ。絶対必要になる。」

「りょーかい。」

「でだ。アルゴのネェさん。早速だが頼みたいことがある。」

「お、早速お仕事かイ?」

「の前に、はやまんは今日休める拠点の確保。こまっちーは今後の攻略方法をその冊子から調べといてくれ。みけっちは…どうせ自由に動くだろ。好きに動いていてくれ。ただ、もし隊長たちがいたら俺に連絡を取る様に言ってくれ。」

「はいよ。」

「りょうかいなのだー。」

「へーい。」

「じゃ、終わったら連絡くれ。やり方はメニューからいけるだろ? 各自、散!」

3人はオキの指示の下、それぞれの動く体制に移った。

「で、だ。早速だがお仕事の依頼…と言いたいところだが、俺はまだお金を持っていない。流石に今持っている所持金持ってかれると厳しいしな。そこで等価交換だ。アークスについて教えてやる。」

「ヘェ。中身にもよるけどネ。」

「悪いがこれ以上は出せない。ただし、アークスとは何か。どこから来たのか。何をしているのか。何があったのか。ほしい情報を投げてやる。それとこの情報はアルゴ姉、あんたにしか渡さない。どうだ。」

アークスとしての情報はあの広場にいたプレイヤーならほしがるだろう。それに、今後必要になりそうな予感をアルゴは感じた。

「ふむ。ま、最初だしネ。いいヨ。サービスしとク。そのかわり…。」

アルゴはオキの肩に手を回し、小さな声でしゃべった。あ、柔らかい…。

「今後ともごひいきニ。次からはコレとるからネ。もしくはそれ相応の情報をもらうヨ。」

親指と人差し指をくっつけて円を作った。今度からは代金を取るらしい。ま、情報ならいくらでもある。なにせこの星以外の情報を持っているからだ。一般的に公開されているモノであれば問題ない上、最悪の場合…。

「よし。交渉成立だな。アークスの情報は仕事がある程度進んだ後に教えてやる。ちとこちらも急ぎでね。今この時間じゃないとたぶん間に合わない。」

オキはルーサーの研究レポートに書かれていた一文一文を思い返した。その中に書かれていた人物名。

「ある人物たちを探してコンタクトを取りたい。理由は後で話す。」

「その名前ハ?」

「アスナ、リズベット、シリカ、エギル。後は…誰だっけな。やべ後誰かいたような…。とにかくこのメンバーを頼む。大急ぎで。」

アルゴは名前のメモを取り頷いた。

「リョーカイ。すぐに動くヨ。コンタクトを取るタイミングはどうすル?」

「全員集まった時点で。今後に関係する人物たちだ。頼む。」

オキは頭を下げる。アルゴはそれを見てオキの頭を上げた。

「いいヨ。この鼠のアルゴ。しっかり任されタ。まっていてくレ。」

「うむ。頼んだぜ。」

オキとアルゴは商談を終え、それぞれの動きに入った

オキは街の中を散策した。落ち込んでいるプレイヤー達も多い。周囲は暗くなり街灯が光をともしていた。空には月が出ている。

『早くこのメンバーを集めて、攻略に向かわないと…。ただ焦っちゃだめだ。焦りと無謀は死に至らしめる。』

オキがアルゴに頼んだ人物たち。それはルーサーのレポートにあった【事件に最もかかわりの多き中心人物達】だ。他にも名前があったがうる覚えになっている。ならば今、わかるメンバーだけでも集めて行動を共にすれば必然的に集まると踏んだ。

「…しかしうめーなこれ。」

オキは落ち着くためにワゴンで売っていたホットドッグと飲み物を買い、食べながら歩いていた。

「しっかし、便利だな。ストレージに入れれば保管できる上、作った状態そのまま保存って。シャオにこのシステムいれれねーか帰ったら案出してみるかな。…ゴクゴク。あ、この飲み物もいける。」

オキは考えこむときは、落ち着くために食べるかタバコを吸うのが癖になっている。

街の中で店やこの周辺の情報をある程度得たオキは歩いていた大通りから外れ、路地に入り込んで食事にしていた。この世界にきてかなりの時間が立つ。お腹が空いたので軽いご飯を食べていた。情報では食事を取らなくても死ぬ事は無いらしい。が、腹が空けば集中力は切れる。

「ひっく…ひっく…。」

「ん…?」

泣き声が聞こえる。近くからだ。

「誰か泣いているのかい?」

ガタッ

物陰にあった箱の後ろにその主はいた。小さな女の子のようだ。

「大丈夫かい? ひどく泣いているようだが。」

「えっと…その。まさか、こんなことに…なるなんて…ひっく…おもって…ひっく…なかったので。」

どうやら死のゲームに参加したことを後悔しているようだ。

「ふむ…。えっと、取り出し方はっと…こうして、こうだったな。」

目の前にポンとでたホットドッグと飲み物を一つずつ、その少女に渡した。

「とりあえず、落ち着くために。ほれ。うめーぞ。」

「あ…ありがとう、ございます…。」

少女はオキから震える手で受け取り口にした。

「うめーだろ。さっきそこで買ったんだ。」

「…はい。美味しいです。」

少女の顔が月夜に照らされた。ひどく泣いていたらしい。しかし、食べ物を口にしたことで少し落ち着いたのか涙目になりながらも笑っていた。

「おれはオキ。君は?」

「シリカ…。シリカって言います。」

『シリカ…シリカ!?』

オキが捜していた人物の一人だ。だが、どう話しかける。事件の中心にあたる人物だから一緒に来てほしい。いや、心が折れかけている現状いきなりそんなこと言われればオキだって余計に怖くなる。どうする。オキは少し黙って口を開いた。

「そうか。今回はお互い酷い目にあったな。まさかこんなことになるなんてさ。」

「はい…。知り合いの人が面白そうだからって一緒に応募したら私だけ当選しちゃって…。しばらくすれば再販もするだろうから、先にやっててって…。だからINしたんですけど…。そしたら…。」

「あー…すまねぇ。思い出させる気はなかったんだ。」

また泣きそうな顔になるシリカをオキは途中で口をはさんだ。

「まぁ、なんだ。無理に元気出せっていわねーけど、別に今すぐ死ぬわけじゃない。そう、死なせはしない。まだ希望はある。必ず、必ず攻略してみんなをリアルの、外の世界に帰してやる。だから泣くな。それに…女の子の泣き顔は苦手なんだ…。その、なんだ。そのかわいい顔が台無しになるのはちょっと…ねぇ。」

オキは照れ臭そうにポケットを漁った。

「フェ!? …えっと、その。か、かわいいだなんて…。」

うつむいてしまった。だが、光照らされる彼女の耳まで真っ赤になっている事にオキは気づいた。

「…あ。そうだ。ポケット漁ってもタバコねーんだよ。困ったな。」

「…タバコ、ですか?」

不思議そうにオキの顔を覗くシリカ。

「いや、いつも落ち着くときはタバコを吸う癖があってね。つい。たはは…。」

「タバコなら少し離れた道具やさんに置いてましたよ。」

「へぇ…マジデ!?」

ヘビースモーカーのオキはその情報はありがたかった。問題はどこの道具屋なのかだ。

この街にはかなりの店が多く存在する。それらの店には多数の種類のアイテムが陳列されており、一店舗ごとに売っている品が違う。

「その、ホットドッグご馳走様でした。オキさんと話しているとなんだか元気出てきましたし、お礼もかねて案内しますよ。」

シリカは無理やり笑顔を見せているように見えた。だが、これで少しは仲良くなれるきっかけができた。

「たのむ。よければ案内してくれ。」

「りょうかいです。」

オキとシリカは街の南側にいたのだが、西側のオキがまだ回り切れていない店にタバコは置いてあった。

「シリカ。ありがとう。助かったよ。」

「いえ。パパもよく吸っていますから。吸いたい気持ちはパパがよく言っていました。だからなんとなくわかるんです。でも健康に悪いですよ?」

「ハハハ。ここにきてそれを言われるとはな。うんじゃ、買ってくるわ。サンキュー。」

「あ…。」

何かを言いたそうにしていたシリカだが、オキは気づかずに店の中へと入っていった。

「いらっしゃい。なにか用かね?」

「タバコ。何があるか教えてくれる?」

街に住む住民たちはNPCとよばれ人工知能が組み込まれているらしい。しかし会話が成り立つらしく、その点の技術力はアークスに匹敵する部分があるようだ。

「そうだね、今ここにあるのはこれだけだ。どれにする?」

三種類ほど店員のおやじさんは出してきた。

「コルは…たりるな。よし。3種1つずつ。」

「まいどあり! 3つで150、200、300.合計650コルだ。」

コル。この世界の金額の値だ。オキは昼間にキリト達と戦った際にエネミーより手に入れたコルとアイテムを売り、資金としてある程度の金額は持っていた。

「ライターかマッチある?」

「ライターならあるよ。使い捨てが100。オイルライターが500。替えのオイルが50だ。」

「オイルライター1つ。オイル1つ」

「まいど。」

オキは店の外に出て早速3種のうち真ん中の値段で売っていたタバコを開封した。

中身はオラクル船団で売っていたタバコと同じ本数が入っていた。形も同じだ。後は

「味か。どこか隅っこにいくか。って、シリカ?」

「タバコ、買えましたか?」

「待っていてくれたのか。すまんな。」

店の前で待っていたらしく、オキは直ぐ近くの建物の壁に寄りかかり、オイルを入れライターに火を灯した。

「へぇ。ここも変わりはないんだな。…ってことは。いや、それは後だ。とにかく。」

キン…シュボ

「ふぅー…。あ、いける。あー生き返るわー。」

味の事も考え値段の低いのから一番高いのまで買ったが、どうやら真ん中が当りでオキに合っているようだ。

「とりあえず、コマッチーに連絡しておこう。タバコあった。かった。あとでわたすっと。」

「ご友人の方も吸われるんですか?」

口にしていた言葉にシリカが聞いてきた。

「あ、ああ。コマチって言ってね。よく俺と仕事の終わった後に吸ったりしてた。」

「そうなんですか。」

「いやー。ほんっと助かった。命の恩人だぜ。」

「そ、そんな大げさですよー。」

顔を赤くして恥ずかしがりながらシリカは微笑んだ。

「ふふふ。…ん? メッセージです。…あの。オキさん、ごめんなさい。人から呼ばれたのでそちらに向かう事になっちゃいました。」

「ああ、いいよ。あ、そうだ。友人登録…だっけか。いいかい? お礼もしたいし。」

「先ほど元気をもらったお礼がそれですよ。でもそうですね。いいですよ。」

「えっと…ここをこうして、選択して…。んん?」

不思議な欄がある事に気づいたオキは目を丸くした。

「どうしました?オキさん。もしかしてわからないとか? えっとですねぇ…。」

やり方を知っているシリカは得意げにオキの方に近づいてきたのだがそうではない。

「いや、こういう項目もあるんだなぁと。ある意味よくできてるけど、そこまでするかふつー…。」

オキの隣に来たシリカが目にしたのは友人登録項目欄の少し下にあるオキの示した文字だった。

「えっと? けっこんもうしこ…み…。ふえ!?」

「あ、いや。すまん。そんなつもりはないんだが、ゲームだってのにこういうのもあるんだなぁと。その、おれ初めてゲームすっから…。すまん…。」

「あ、いえ、その…だ、大丈夫ですよ。その私もびっくりしました。異性の方を選択するとそのような項目欄もあるんですね。初めて知りました。あ、はい。よろしくお願いします。」

オキは素早く友人登録の申し込み依頼を選択し、シリカへ送った。

「…。」

「…。」

二人とも黙ってしまった。そりゃあんなものいきなり見せられちゃ困る。

『まてまて。おれは何をドキドキしてるんだ。いやそりゃなかなかかわいいけどよ。今まで女性と話したことが無い男とかと違っていろんな人とかかわってきたろ。下手すりゃアイドルだっていたんだしさ。…でもなんだろ。わかんね。』

オキはアークスとして活動している最中に魅力的な先輩アークス達や後輩アークス達と活動を何度もしてきた事がある。中にはアイドルだっていた。だが、このような気持ちは初めてだった。

「えっと…知人の方の件はいいのかい?」

静まり返った道の空気に耐えられなかったオキは思い出したように口を開いた。

「あ、えっと。はい! その、今後もよろしくお願いします! それでは!」

シリカはオキの顔を見ずに顔を真っ赤にして歩いて行こうとした。

「シリカ! その、よろしくな。また会おう。」

「…! はい!」

先程まで泣いていた彼女は今、笑顔に笑いながら元気に返事をした。

『これで一人でも元気を出せれば。…よし。』

オキは残っているコルを再確認して先ほどのホットドッグを再度買いに向かった。




すみません。どうやってもここの話を今後につなげるにはこうするしかなかったとです。
文才なくてサーセン。。。
今後もこういう無理やり展開多めなのでも、すみません(
なお、タバコに関しては当方としてかなーーーーーり死活問題なのと身内で喫煙者多しなので入れさせてもらいました。(気にしないでください。自己満足です


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第3話 「集合」

補足2:ハヤマ(アークス)
アークスとして活動する一人。オキとは腐れ縁でアークスになる前からの付き合いである。
カタナ馬鹿と呼ばれるほどカタナの扱いに長けており、また数々の新規戦術を編み出してきた天才肌。オキのチームの特攻隊長であり、日常では食事作成も担当している。
ツッコミ役でボケしかかまさないメンバーにいつも振り回されている。唯一の常識人のように見えるが、実はある異常な体質を持っている。


「ここかな?」

コンコン

あの後、街中で意気喪失していたプレイヤー達を励まし、元気づけしていた最中にオキはハヤマから拠点を確保したことをメールで知り、その場に一度全員集合させたのだった。

扉を開けると、そこにはミケとコマチもすでに集合していた。

「おう、みんなおそろいで。こまっちー、はい。タバコ。たしか一番弱いのだったな。これ150な。よこせ。」

「さんきゅー。150ね。あい。」

メールですでに連絡済みだったタバコを渡し、ライターを机の上に置いた。

「タバコは吸殻がでない仕組みになってるみたいで灰すら消える。ほんとおもしれー世界だよ。煙の臭いもないが、味はしっかりする。こんなタバコあったらなー・・・。」

「へぇ。早速吸ってみるか。」

部屋の真ん中にあるソファに座り背もたれに寄りかかるオキ。

「だー疲れたァー…。」

「何やってたの? そんなに疲れて。」

「ちょいとね。あーいいことした後のタバコウメー。あ、店はメールにした場所。今度確認しとけ。」

「あーよ。」

二人してタバコを吸う姿を見て残りの二人も苦笑する。

「さって、どうだ。状況は。」

「じゃあ俺から。」

まずはハヤマからだ。

「宿のシステムは一泊からになっていて、ある程度安価で一般的な部屋が借りれるみたい。中には高価な金額の宿もあったけど、そっちは俺らには必要ないね。調べてみたけど不必要な物ばかりだったし。それから街の中には半永久的に拠点として使用できる家もあった。けど、まだ俺たちには出せる金額じゃないほどの値段だったよ。」

「なるほど。生活ができる異世界と聞いていたが、本当にそうなんだな。おもしれーゲームだよ。まったく。」

オキは吸い終えたタバコを電子ポリゴンになって消えていく様をみながら感心した。

「とはいえ、いつかは拠点を設けたいところだな。…おもしろいなこれ。」

コマチも吸い終えたようで、吸殻が手の中でポリゴンとなって破裂していた。

「あ、俺和風拠点がいい。温泉付き。」

「いうと思った。」

苦笑するハヤマ。

「ミケはどこでもいいのだ。でも、できるだけ静かなほうがいいのかー。」

「だな。それに俺たちがはじめっからこんな場所に拠点作ったら攻略しない人が住む場所が無くなっちまう。」

オキがストレージから飲み物を出して配りながら言った言葉に疑問を持ったハヤマが食いついた。

「どういう事? 攻略しない人がいるって。」

「おれが疲れた理由が街中で意気喪失しているプレイヤー達を励ましてきたんだ。まだ、終わっちゃいねぇ。まだ死んでねーだろ。諦めんなってね。それで中には子供もいた。いくら力の加減がステータスで決まるとはいえ、平和な星のしかも子供が戦いなんてできるか? 答えはNOだ。さっき、子供たちを集めて世話しようとしていた女性と知り合ってきた。できるだけ援助するって約束もしちまったがな。その人も戦う事は出来ない。この子たちを守らなきゃって言ってた。ありゃ保母さんかそこらの仕事してんな。」

「相変わらず動き回ってるねぇ。」

長い間付き合い続けているコマチ達だからこそオキの行動力が分かる。

「ま、中には血気盛んな奴もいたから注意しといたけど。…で? コマチとミケはどうだ?」

「ミケの方は見つからなかったのだ…。あちこちまわったんだけどねー。」

この世界でも猫のように動き回っているミケですら見つからなかった。隊長たちはどこに行ったのやら。

「おれの方はある程度この冊子の中身は理解したし、頭に叩き込んだ。資金集めや資材集めは任せてくれ。」

「まーた気づいたらアイテムボックスの中身に資材が5スタックも入っていた。なんて…。」

オキがコマチをみるとニヤリと笑う。

「あ、これアカンやつや。」

コマチの行動はかなりのモノであり、気が付けば資金たくさん、資材大量と持って帰ったと思いきや、気が付けばまた惑星に飛んで行っているという始末。

「安心しろ。10スタックはいれといてやる。」

「安心出来ねーし、10はいれ過ぎだ! つか、またあの事件やる気かよ!」

相変わらずの鋭いツッコミだハヤマン…と思いながら苦笑するオキ。ちなみに事件とは、あまりに多くの素材をスタックで入れ過ぎてギルド倉庫が一杯になった事件があった。犯人は言わずもがな…。

「クエストに関してや攻略に必要不可欠であるレベル上げの効率、熟練度とかは頭に叩き込んだから後はそれぞれの武器や戦い方によってくるかな。」

「俺はしばらく片手剣かな。中間地点での支援がし易い。」

「カタナが使えれば嬉しかったけど街の中の店に置いてあっても買えなかったなぁ…」

「カタナだったらどうやら曲刀使っていくと使えるようになるらしいぞ。」

コマチが冊子を見ながら伝える。

確かに刀らしきモノは見えたがどうやら非売品だったらしい。だが、コマチの言うとおりなら今後買えたり拾えたりする可能性はある。

「まじで!? じゃ俺カタナ。一択だ。」

「ミケはダガーかなー?今まで使ってきたし」

「因みに俺は大剣かな。やっぱり」

それぞれの武器が決まった。

「て言うか、今まで通りじゃん。」

オキの片手剣、ハヤマの曲刀からカタナ、ミケのダガー、コマチの大剣。それぞれアークスとして戦ってきた型である。しいて言うなら、4人とも全ての武器を扱えるのだが此処ではそれはかなわない。

「オキさんは大剣じゃなくていいの?」

コマチが聞いてくる。元とはいえ同じくソード、大剣を使用していたからだ。

「いいさ。此処では後方支援もみといたほうがいいと思ってね。かと言って射撃や法撃はない。ならばどっちでも、前線後衛どちらでもいける片手ならいっかなって。それに考えてみろ。俺たちが使えない武器ってあるか?」

「「「ないな(のだ!)」」」

皆が声を揃えて言う。相変わらずである。

ピコン

機械音がオキの前で鳴り響いた。どうやらメールが飛んできたらしい。

「ん? あぁ、メールか。どれ。」

メールの差出人はアルゴからだった。

「もう集まったのか!? 仕事はやすぎだろ…。」

内容は依頼されたメンバー全てを見つけ、いつでも集めれる状況にあるそうだ。

「今から数名ここに呼ぶ。いいか?」

3人が頷く。それを確認してアルゴ共々、この部屋に呼ぶ事にした。

 

数十分ほど過ぎた後に扉が鳴った。

「誰だ?」

オキが扉に向かって相手を聞く。まぁ聞くまでも無いはずなのだが。

「鼠が依頼をこなして来たヨ。」

オキが扉を開けるとそこにはアルゴと女性が3人、大きな男性1人立っていた。

「どうぞ、はいってくれ。」

「あいヨ。じゃぁ確かに依頼はこなしたヨ。おネーサンは此処らで…。」

「まて、お前も用事がある。一緒にはいってくれ。」

アルゴが帰ろうとしたので部屋から出て、止めようと外に出た際に1人の少女と目があった。

「え? オ、オキさん!?」

「よう。また会ったな。とにかく全員はいってくれ。狭いかもしれんが。ゆっくりしてくれ。」

「お、お邪魔します…。」

「邪魔をする」

「し、失礼しまーす…ってあれ? ミケじゃん。」

1人の少女がミケの名前を呼んだ。どうやら知り合いらしい。

「ん? なんだ。コマチも一緒か。」

「エギルさんじゃないの。ども。」

エギルはコマチと出会ってたらしい。

「なんだ? お前ら知ってたのか。」

後ろ手に扉を閉めながらオキは部屋へと入った。

「街を歩いてたらリズベットとであったのだー!」

ミケが笑顔で経緯を話すが、リズベットは苦笑気味に本来の状況を話してくれた。

「なにいってるのよ! 私が歩いてたら上から飛んで降りて来たんじゃない。あれはビックリしたわ…。」

「あー…なんとなくわかった気がする。」

ハヤマもその光景が目に浮かんだ。

「街中で屋根の上を歩いているプレイヤーがいたってきいたけど、君だったんだネ。」

噂も回るのもはやいものだ…。

「俺はエギル。コマチがアルゴからの冊子を難しい顔して読んでたから声をかけたんだ。」

「いろいろ教えて貰ったよ。おかげで理解できた。」

コマチは冊子を街の中で読んでる最中にエギルからこの世界についていろいろ談義していたらしい。

「えっと…私はアスナ。そろそろここに呼ばれた経緯を話して欲しいのだけど…。」

1人だけ誰とも出会ってない少女が自己紹介と、今回の呼ばれた理由を聞いて来た。

『この子だけ目が死んでる…。やはりデスゲームの参加は思ったよりも影響がでかいな…。さて、どうするか。』

オキはアスナの顔をみて一瞬で分かった。完全に生きる意思を無くしている。気力でこの場に来たらしい。

「りょーかい。気になってるだろうしな。ここに呼んだ理由は幾つかあるが、まずは自己紹介から…俺はオキ。イレギュラーな存在としてこのゲーム、SAOに参加する事になったアークス。1万と1人目のプレイヤーだ。」

オキの言葉を聞いてその場に呼ばれた者達は驚きを隠せなかった。

「え? って事はあの広場の…? あんたが!?」

「俺は遠くから見ていたから顔はよく見えなかったから気づかなかった。」

「私も…です。」

「私も…本当なの? あの話…。」

オキは目をつむりそして口をひらいた。

「本当だ。そして、ここにいる俺たちアークス以外のメンバーはその事件の中心に位置する人物だと結果が出ている。」

「「「…。」」」

全員が黙る。

「あ、オレっちもカ?」

アルゴも恐る恐る手を上げて聞いてくる。そりゃそうだ。アークス以外なら該当する。

「その通り。悪いが、アルゴの名前もあった。そしてここにいないメンバーとして、クライン、それとキリト。この2人はもう既に知り合っている。まぁ、まだこの事実は知らされていないがな。」

オキはアイテムストレージから夕方に手に入れた美味しいどりんくを皆に出した。

「信じる信じないは自由だ。だが、悪いけど事実。俺はそれを打破し、皆を必ず生きて現実に帰す事を目的としている。どうしてこうなったか。今後の話も含めて話をしたい。まぁ長話になる。飲み物でも飲んでゆっくり聞いてくれ。アルゴ姉のアークスとは何か、も含むしな。」

全員がドリンクを受け取りソファやベッドに腰掛けオキの話を聞き出した。

「さて、何処から話すか…。」

「まずはアークスってなんぞやってとこだね。アークスってのは簡単に説明するとフォトンといって体の周囲にある自然エネルギーを体中に吸収、そして武器等を通してエネルギーを放出する事の出来る人の事をいう。アークスになった人はオラクル船団といって多数の銀河を渡り、生命体のいる惑星を調査したり交流をしたりするのが義務になっている。そしてなにより重要な義務がダーカーの殲滅。」

「ダーカーっテ?」

「ダーカー。全てを喰らうモノ。姿形は持っておらず、フォトンに似たようなものでエネルギーとして存在する。形を持ったものもいるけど。そしてそれは親玉であるダークファルスから発せられる。ダークファルスはダーカーの親玉でものすごい力をもった悪役のようなものだ。いまのところいくつかの個体が見つかっている。【巨躯】(エルダー)、【若人】(アプレンティス)、【双子】(ダブル)、そして君たちSAOプレイヤーの死を予見した【敗者】(ルーサー)。」

オキはアークス、オラクル、ダーカーについて少しづつ説明を加えていった。

何故いまここにいるのかまでの話も含め。気が付けば夜中付近になっていた。

「…で、俺たちはルーサーの研究施設から飛ばされてここにいるってことだ。皆みたいに体がもしあるのであれば、今頃惑星ウォパルの研究施設で全員寝てるだろうな。」

「あの辺、エネミーがでない場所でよかったね。」

「同感なのだ…。」

ハヤマとミケが震える。

「でだ、ここからが君たちの本題にはいる。さっきも説明したとおり、ルーサーの予見した事件の最中、よく見受けられる人物名が上がっていたそうだ。それが君たち。おれは君たちについていれば、必ず75層で起こると思われる事件に出会えると思っている。そしておれはそれを防ぐ。みんなを、プレイヤー達を必ず生きて現実に返す。それを誓った。」

「どうして…どうして。」

アスナが口を開く。声は震えていた。

「どうして、まったく関係ない私たちを助けようとするの? 死ぬかも知れないんだよ? それにわたしだって…。」

「じゃあぎゃくに聞くが、何故助けようとしちゃダメなんだ?」

「!」

それをきいてアスナは黙る。

「助けるのに理由がいるかい? ある物語の人物のセリフだ。かなり古い物語だけどね。おれはそれが大好きだ。そしてもう一つ理由がある。」

「え?」

「そんな顔してる人を放置できるか? なぁ。」

他のアークスにも聞く。全員が頷いた。

「そうだね。ほおっておけない。」

「安心するのだー。ハヤマがなんとかしてくれるのだー!」

「おめーもやるんだよ! なぁコマッチー。」

「だな、ただ今は超眠てぇ。」

自由奔放すぎんだろおめーら。相変わらずの行動思想に頭を抱えるオキ。

「つまりだ、まとめるとあんたらアークスと行動を共にして100、いや75層を目指せばいいんだな? さっきの話、聴いてる以上本当のことにしか聞こえなかった。もし創作だとしても壮大すぎる。おれは信じるよ。」

「ああ。はなしがはやくて助かる。エギルさんだったか。頼めるか?」

「問題ない。むしろ行動しないと帰れないしな。向こうにおいてきちまったものがある。それにあんたらが守ってくれるんだろ?」

オキは頷く。

「必ず守る。だが、死にに行くことだけはしないでくれ。そればかりは助けられん。」

「りょーかい。ただし条件がある。やりたいことはさせてくれるんだろうな?」

オキはその点においても考えていた。

「もちろんさ。自由に動いてもらって構わない。戦いができない人だっているだろ。それに遊びじゃないとはいえ、腐ってもゲームだ。プレイの仕方は無限にあるだろう。」

エギルはそれをきいて手を出してきた。握手のようだ。

「OK。話、のったぜ。おれはあんたについていく。改めてエギルだ。よろしく。」

「よろしく頼むよ。エギルさん。もしよかったらコマチと面識あるみたいだし、コマチと組んでくれ。」

エギルはコマチに向かって頷き、コマチも頷いた。

「あ、あたしもそれにのるわ。どうせなにもしないで死ぬより、あんたたちと一緒に行ったほうが死なないで済みそうだもの。」

「オレっちはもう契約済みだしネー。」

リズベット、アルゴも了承してくれた。あとはアスナだけだ。

「アスナ、シリカも。どうする?」

「私は…。やります。聞いてて落ち込んでるだけじゃどうしようもないし。なによりこうして人を、赤の他人でも助けようとしてる方が手助けを求めてるならば、わたしはやります。オキさん、お願いします。」

「うん。シリカ…はどうする?」

「私も…私もさきほどオキさんに元気をもらいました。私も皆さんを助けたいです。私のような小さな力でもお役に立てるなら…。」

シリカも頷いてくれた。これで全員がオキと共に攻略を手助けしてくれることになった。

「ようし。全員すまない。俺にその命、預けさせてくれ。必ず、必ずや外の世界に帰してやる!」

オキが意気込み、全員の顔がやる気に満ち溢れた。

 

 

夜も更け、明日からさっそく行動開始をすることにし、まずは体を休めるために全員同じ宿に泊まることにした。

オキは今一度攻略の行い方を決めるため宿のロビーのソファーで、コマチやハヤマとアルゴノートを見ながら作戦を立てていた。

「で、クエストを受けて…。」

「いや、このタイミングならそのまま行けるのでは?」

「スカー…。」

コマチは完全に寝ていたが…。ちなみにミケは早々に部屋のベッドで寝ていた。ハヤマとオキが白熱している中近づいてくる一人の少女がいた。

「ん? シリカか。どうした?」

「その、寝れなくて。オキさんたちは…何をされているのですか?」

「こいつで明日以降の作戦。とはいえ机上でのあくまで理想論だけどね。結局はその場の状況で変えることになるから、何をどうするくらいを決めておこうかと。」

「そうだったのですか…。すごいですね。オキさんたちは。」

シリカモソファーに座る。オキはロビーの中にあった飲み物(フリー)を出した。

「はい。温まるよ。」

「ありがとうございます。」

「まぁ俺たちはいつもこんなふうに談義してはあれこれ作戦立てたり、装備整えたりしてたからね。結局、こっちも変わらなかったけど。…さってっと。そんじゃおれは先上あがるよ。コマチも寝てるし。これどうする?」

「ほたっとけ。」

タバコに火をつけて一服するオキ。それに苦笑するしかないシリカ。

ロビーにはシリカとオキしかいなくなった。

「…まさか私と会いたいって方がオキさんだなんて、びっくりしましたよ。どうしてあの時教えてくれなかったんですか?」

「あー…。いいそこねただけ。すまなかった。」

「あ、いえ。いいんです。それに知らない方より、オキさんで良かったです。少し不安だったので。」

飲み物を持ったまま、それを見つめるシリカ。たしかに知らない人からいきなり会いたいから出会ってくれなんか言われても不安しかない。

「なはは…いやはや。まぁ明日からよろしくな。」

「はい。こちらこそ。」

「おら、こまっちーこんなところで寝たら風邪ひかねーかもしれねーけど風邪引くぞ。」

「もうちょっと…。」

完全に寝ている。しかたないとオキがつぶやきコマチの耳下である言葉を喋った。

「緊急警報発令。アークス船団周辺宙域に、ダークファルスの反応が接近しつつあります。繰り返します!アークス船団周辺宙域に、ダークファルスの反応が接近しつつあります。」

「ふぁ!? ダークファルス!? まじで!?」

「おはよう。こまっちー。」

オキが緊急警報時の放送を真似て言った直後、コマチは飛び跳ね起きた。

「オキさん! ダークファルスは!? 緊急!?」

「バカヤロウ。周り見ろ。ここはSAOだ。」

「あ、あはは。」

アークスの悲しいサガである。そして夜は更けていった。

 




私の作る世界では皆、前向きな性格である(これぞご都合主義!!!


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第4話 「アークスの戦い方」

補足3:身体能力(VRMMO内システム)
VRMMOではリアルの身体能力がそのまま反映される。
その為アークスの身体能力(のみ)反映されているため普通の一般プレイヤーより素早く動ける。また、PA(フォトンアーツ)を再現した動きも可能なため、アークス勢が強い理由の一つである。
ただし、もちろんだがステータス等は一般プレイヤー同様レベル1からであり、かつ火力を引き出すにはSSでの攻撃力補正が必要である。


「おはよーさん。眠れた?」

「ぐっすり。」

「眠れたのだー! 緊急放送がならないからゆったりだったのだ!」

「そういや、緊急放送、しばらく聞けねーんだよな。」

「おれは昨日オキさんから聞いた。」

「何があったの…。」

アークスは夜中でも襲ってくるダーカーからシップを守らなければならないため、眠ってる最中でも緊急事態の際は起こされるのだ。

「あまり寝れませんでした…。」

「あ、あたしも…。」

「まだ、慣れないな。」

脳天気なアークスをよそにシリカ、リズベット、エギルを始め、プレイヤー勢はあまり寝れなかったようだ。

それに苦笑しつつ全員が宿の外に出たのを確認、オキは再度今後の話をマトメた。

「これより第一層の迷宮区を目指して進む。途中、昨日さきに進んだキリトとも合流するつもりだ。道中はできるだけ雑魚を狩ってレベル上げをしつつ進む。道中にいる別PTのプレイヤー達が居たらできるだけ手助けもな。先頭はハヤマン。コマッチーとエギルの旦那はしんがり。ミケっちと俺は真ん中で遊撃。後はそれぞれの間に入って列をできるだけ組んで、エネミーは必ず2人1組で倒すこと。これだけやれば特に苦労する事なく進めるだろ。」

アークスメンバーを広範囲に配置し、できるだけ被害を少なくする態勢で整える。

「それじゃオネーサンは昨晩伝えた通りに残りの2人を探しつつこの街で情報を集めるとするネ。」

「頼む。それじゃ行くとするか。」

アルゴと別れ、街の入り口には他のPTも準備をしているのか幾つか見受けられる。

「うー…き、緊張します。」

オキの隣にいるシリカがガッチガチに固まりながら歩いている。

オキは頭をポンと叩いた。

「大丈夫さ。危険を感じたら俺たちが守るからよ。」

「は、はい。」

少しは緊張が解れたのか顔に笑顔が見えた。

「うー…私でも戦う事って、出来るのかしら。」

「戦いに関しては俺たちはプロだ。わからねー事や指導する事は任せろ。ただ、昨晩いったように自分の身は自分で守れる位にはなってもらうからそこだけすまない。」

頭を下げるオキに対してアスナは手を振った。

「あ、いえ、そんな。私も最初だから不安だけど、頑張らないとってのは分かってるから…その、お願いします。」

昨晩、いろいろ考えたのだろう。喋り方も昨晩と違い落ち込んだ雰囲気はなくなっていた。逆に覚悟を決めたようだ。

「オキさーん。早速エネミーのお出ましだよー。」

「おう。そんじゃ、一丁いきますか。アークス各位はお手本を見せながら。プレイヤーの方々はそれを見ながらエネミーの攻撃をしっかりよけて攻撃をしてみてくれ。」

アークス達による戦闘の仕方の教授が始まった。

 

 

「でやー!」

シリカがタガーを振り切り、切られたエネミーがポリゴン片となって消えていった。

「うん。かなりよくなってきたよ。よくうごけてる。」

「本当ですか! これからも頑張ります!」

「無理はするなよ。後は終わった後少しだけホッとして隙があるからそこだけ気をつけてね。」

「あう…。わかりました。」

いいところと悪いところを指摘しオキはシリカの立ち回りを見ていた。

重量武器を扱うエギルはコマチが。ミケはリズベット。ハヤマは前線で戦いたいと申し出てきたアスナの指導をしていた。

草原を抜け、森林に入り込み道中共に攻略を目指そうとしてるPTを見つけては共に戦い、アークスはそのPTにも戦い方を伝授した。

気がつけばキリトと合流する為の村は目前だった。

「村に着いたな…。お、キリトー!」

入り口でまっていてくれたキリトを見つけ手を振るオキにキリトも気づいた。

「オキさん! なんかPT増えたね。」

「概要は昨日メールでした通りだ。詳細は後程説明する。とりあえず少し休憩しよう。」

「だったらいい場所あるぜ。まだ他のプレイヤーも来てないからガラガラなんだ。」

キリトの案内で一つの宿で休憩を取ることにした。

 

 

「…と、アスナだ。後は始まりの街でアルゴが情報収集をしてくれてる。」

「なる程ね。キリトだ。よろしく。」

全員が挨拶をする。

「ふー。なぁキリトお前が背負ってるそれ、昨日言ってた奴か?」

少し離れてオキはタバコを吸っている。そんな中、オキはキリトの持つ剣に気づいた。

「あぁこいつか。そうだ。クエストクリアで手にはいる奴さ。」

初期武器とは明らかに違う見た目だ。多分ステータスも序盤からすればかなりのモノだろう。

「今この人達と攻略を進めようと思ってるんだ。後は前衛が欲しい。キリト、頼めるか?」

「昨晩依頼して来た内容だろ? …了解した。俺でよければ。」

「いよし! これで準備は整った! はやまん、アスナさんの方はどうだ?」

飲み物をのんで先程までの戦い方のアドバイスをしていたハヤマに現状を確認した。

「うん。基礎は教え込んだし、飲み込みも早くて既に前線は任せれると思う。ただ念の為もう一人でペアでの戦い方がいいと思うけど。」

「キリト、頼めるか? アスナとペア組んで一緒にPT組んで欲しい。」

「俺なんかでいいのか? ハヤマさんの方がいいような気がするが…。」

「いや、ハヤマンはもっと前、最前での特攻をお願いする事になる。むしろその後ろでフォローできるペアが欲しい。」

オキの中では現状の得意不向きをみて既に完成系の形が出来上がっていた。その為、そしてある理由からキリトとアスナを強引にでも組ませる必要があった。

「えっと…よろしくお願いします!」

「ああ。よろしく。」

2人が握手して挨拶を交わした。

「うっし。キリトどのまでレベル上がった?」

「昨晩ずっと狩りまくったから大体5かな? もう少しで6になる。」

それを聞いて周りが驚く。

「ええ!? 私なんかまだ3なのに…。」

着いていけるか不安になるアスナ。

「大丈夫さ。直ぐに上がるよ。結局は効率の問題だし。」

笑顔で答えるキリトに対し、納得出来ないのかまだ悩んでいるような顔をするアスナ。

確かに早い。一番高くても最前列にいたハヤマが4になったばかりだ。

「オキさーん。NPCの情報でこの先にデカイのがいるみたい。後、今のところ周囲を見ても殆どプレイヤーがいないからほぼほぼ俺たちが最前線にいるみたい。」

辺りを見回してきたコマチが宿に戻ってくる。

「ふむ。」

思ったより攻略に出てきたプレイヤーはまだ少ないようだ。あくまで予想だがはじまりの街周辺である程度レベルや装備を整えてから出てくるつもりなのだろう。

オキは元々からアークスの技量でゴリ押して進んでいる為そこまで装備に気を使っていない。

「オキさん。他の人の装備だけど、殆どが初期?」

キリトも気にしてきた。

「ああ。俺たちアークス勢がある程度ダメ与えてトドメをプレイヤー勢にしてもらってるからね。装備は今のところ、このままでもいいと思ってる。」

「一度新調した方がいい。ハヤマさんの言うとおりこの先にフィールドボスがいるはずだ。人数いるからゴリ押しは可能だろうけど…安全にいくなら…。」

オキはニヤリと笑い、ハヤマとコマチの方を向く。

「おめーら暴れたい?」

オキの意図を読んだのか2人もニヤリとする。

「お望みとあらば。」

「今までが雑魚過ぎて出落ちだったしね。ミケはどうする?」

「任せるのだー!」

リズベット達とまったりしていたミケもこう言う時は大体OKのサインだ。

「うっし。そんじゃコルも少し貯まってきたし、アイテム補充したら進もう。キリト、面白いもの見せてやる。」

「?」

なにがなんだかわからないキリト。だが、オキが何かを企んでいるのは分かっていた。

 

 

村でポーションや余裕のある者は武器を新しくし、森林となったフィールドを進む。先程の草原と違ってエネミーの種類も変化していた。先程いた狼のエネミーと一緒に鳥系等の動物エネミーも増えた。だが、アークスからすれば何も変わらない。

「はぁ!」

「その調子なのだー!」

リズベットと共に進むミケ

「てやぁー!」

「攻撃した後に後ろに下がる。そう。うん。いい感じだよ。」

「こんな感じ…かな?」

キリト、アスナペアはオキからみて初めて組んだとはいえ、かなり息のあった動きを見せていた。

オキも引き続き、シリカと共に皆の中間位置を陣取っている。

ある程度進んだ所で森林の道が少しだけ開けてきた。前方から異様な雰囲気が出ている。

「オキ、何かいるぞ。」

前衛を担当するエギルがそれに気づく。開けた場所に陣取っていたエネミーは今までいたような小さな小動物的なエネミーではなく、オキ達よりも2倍も大きな木が根を足にし立っている。

「あれが噂のフィールドボスか…。」

オキが前に出る。

「うわ、キモ…。」

リズベットがボソリと感想を言う。女性陣から見れば枝を腕にし、うねらせるその姿は気持ち悪いの一言だった。

「今までのエネミーとは確かに違うわね…。」

アスナもそれをみて気を引き締める。だがオキが皆の前に出た。

「ふむ…成る程。ロックベア位かな?」

「だねー。あまり油断出来ないけど。」

オキとハヤマが立ったままのボスエネミーを見て予測する。

「うっしやるか! アークスの技量を今まで見せれなかったしね。いい機会だ。皆はこのまま見てて。はやまん、こまっちー、みけっち。行くぞ。…アークス出陣する。構え!」

オキの掛け声によりアークス勢が武器を構えた。その瞬間、プレイヤー達はアークス達の様子が豹変した事に気づく。

「な、なに? これ…。」

「目が…変わった?」

リズベットとアスナはオキ達の目が変わりビリビリと伝わる威圧感を覚えた。

キリトは黙ってそれを見る。

そしてその瞬間は訪れた。

オキが地面を蹴り、ボス【フォレストツリー】の目の前に出る。

反応したボスは横薙ぎに枝を振る。オキがそれを伏せてかわし、後ろに居たハヤマが枝を振り切った後に伏せたオキの背中を台座に飛び上がり、ボスの体へ斜め上から下へ切り下ろす。怯んだボスに左右から走り込んですれ違いざまにミケとコマチの横薙ぎが、立ち上がったオキの切り上げがボスのHPを削る。

アークスによる命を賭けた日常で鍛え上げた本気をプレイヤー達は初めて目の当たりにした。

 

 

 

ハヤマの横向きによる往復2連撃がボスの足に当たる。ボスはハヤマに体を向け、両腕の枝でハンマーを作り振り下ろすが、枝が地面を揺らす頃にはハヤマはボスの攻撃範囲内から飛び抜けており、背中側に居たミケが体を回転させながらダガーによる横3連撃でHPを更に削る。SSを使っていないオキ達だが、元の身体能力により隙の無い攻撃とスピードを展開。完全にイジメ、フルボッコ状態であった。

「うーん。やっぱ最初のボスクラスだけあって動きが遅いな。」

両腕をクロスさせ振り下ろすボスの攻撃を少し体を傾けるだけで避けるオキ。

「だねえ。あー…PA使いたい。」

掘り下ろした後の隙を着いて枝を走り登り、顔面に切り上げをかまして更に顔面を蹴って離れるおまけ付き攻撃をしたハヤマ。

「いやぁ…いらねーだろ。こいつ位なら。」

怯んだボスの真正面に立ち、全力で大剣を振り上げ、思い切り体のど真ん中に向かって振り下ろすコマチ。

「弱いのだー! まだベアさんの方が動きいいのだ!」

コマチと交代で真正面に走り込んだミケはすれ違いざまにボスの足に横一線をかます。

雑談しながらの戦闘。しかもいくら始めのフィールドボスとはいえ、ボスはボス。

アークスの戦い慣れた姿を見て離れた場所から見ていたキリト達はポカンとするしか無かった。

ミケの攻撃により足を崩したボス【フォレストツリー】は再び立ち上がる事が出来ず、ゆっくり近付いて来たハヤマとオキによって左右からX字に切り裂かれHPバーは無くなった。

「うーん…なんか消化不足。」

「だねー。さっさと上目指して強い奴と戦ってみたいね。」

ポリゴン片となって消えていくボスを背中にアークス達は武器を鞘へと戻す。

「どうだった? アークスの戦いは。」

口を開けたまま動かないキリトにオキは笑顔で質問する。

「…すげぇ。これがアークスか! 」

「凄いもなにも…なんて言うんだろ。常識もなにもないわね。」

歓喜をあげるキリトに対し、呆れるほど目の前の状況がわからなかったリズベット。

「すげぇな。それがアークスの戦いって奴か。俺にも出来るだろうか。」

「大丈夫さ。なんとかなるって。慣れってそういうもんだから。」

エギルもコマチと同じ前線の盾役として動くつもりである。あれをみて真似出来るとは思えなかった。だがコマチは経験からそれを否定した。

「ふぁ…。なんていうか。その凄かったです。」

戻ってきたオキを褒めるシリカ。オキは笑顔でそれに感謝した。

「ありがと。シリカも慣れてくればあれ位できるようになるよ。大丈夫。俺達もいるからさ。」

アークス全員がそれに答えるように頷いた。

「さって…今倒した時になんか落としたな。なんぞーっと。ダガーか。シリカ、持ってな。」

ドロップ品の一つにあったダガーをシリカに手渡す。だがシリカは受け取らなかった。

「あ、いえ。私より戦えるミケさんに渡した方が…。」

「ミケは今のでも充分なのだー! むしろシリカが持ってくれた方がミケも嬉しいのだ!」

「な? ああ言うんだよ。確かにミケが持った方がいいかもしれんが、どちらかというとシリカが持った方がシリカの火力あげになるしね。ミケッちはそもそも動き回って戦えてるからいらねーと思うんだ。」

説得され納得したのかシリカはそれを受け取った。

「わかりました…。ありがとうございます!」

「うん。他はなにが落ちた?」

「コルと槍かな? 後、経験値。」

ハヤマが確認する。

「槍か…誰か使う?」

オキが周囲に確認するが誰も名乗りあげない。

「いない…か。ふむ。どうすっかな。とりあえず持っとけ。」

ハヤマに所持して置くように指示するオキだが、ハヤマは首を振った。

「いや、使わないならオキさん使いなよ。パルチザンならよく使ってたし。」

「肥やしにするよりいいと思うのだー。」

「パルチならオキさんが一番だろうね。使いたい人がいないんじゃ使っちゃいなよ。」

ミケとコマチにも言われるオキはキリト達をみた。全員頷く。

「わーったよ。なら、御言葉に甘えて貰いますかね。」

ハヤマから槍を受け取り軽く振りまわす。

「や! よ! ほ! うん。ちと軽いけど中々…。状況に応じて切り替えるか。」

「相変わらず様になってるね。一体どれだけの武器を扱ってきたんだ?」

オキの素振りをみて人では到底到達できそうにないと判断したキリト。

「あー。そうねぇ。大剣、槍、ワイヤーのついた投擲武器。ナックル、ツインダガー…あ、二刀流って事ね。その他諸々。アークスが扱える武器種全17種類。その中には射撃系や法撃、つまり魔法の様なモノも含まれるかな。」

その数は尋常ではない。キリト達からすれば常識では考えられない数だ。キリト達は改めて理解した。

先程の戦闘技量、扱う武器、そして戦いの最中でも会話をする程の余裕。それは今まで築いてきた場数が尋常ではない数を物語っている事を。

 

 

その後再び進み、道中の問題も無く全員のレベル、技量上げも難なく進みオキ達は迷宮区を目前にした村へと到着した。

太陽は傾き、水平線は薄暗くなっていた。

オキ達は村で夜を過ごし、明日迷宮へはいる事とした。

 

夜遅く。目の覚めたオキは宿の外へと出た。寝付けない為、夜風に当たるつもりだった。

オキは散歩がてら迷宮の入り口へと向かった。様子を見るつもりだったのだ。

「オキさんか?」

そこにはコマチとハヤマが立っていた。

「おっす。どこ行くつもりだ?」

「ちょっと様子を見に。」

背中側にある迷宮の入り口を親指で示した。

「相変わらず、仕事がはえーと言うかなんと言うか。」

オキはアイテム欄からタバコを出して火をつける。

「心配しないで。無理をするつもりは無いから。」

笑顔で答えるハヤマ。

「とかいいつつ、内心暴れたいだけだろ。昼間の戦闘、消化不良っぽかったしな。」

「やっぱばれて〜ら。オキさんには敵わないや。」

何年付き合っていると思っている。オキからすれば全てお見通しだ。

「どうせ、行くなって言っても行くつもりだろ。朝までには帰って来いよ。後、出来るならそこにいるキリトも連れて行ってやれ。」

近くの小屋の影からキリトが出てきた。

「ばれちゃってたか。オキさんいつの間に索敵スキル上げたの?」

近付いてくるキリトだが、オキはそんなモノ上げてはいない。

「上げてねーよ。そんなもん長年の勘でわかる。」

「流石アークスだね。コマチ、ハヤマ。俺もいいかな? 中を見ておきたい。」

オキは考える。かつてベーターでの情報を持っているキリトも連れて行けば更なる詳しい情報が入るのではと。

「ハヤマン、こまっちー連れて行ってやれ。ベーターとの違いもわかる筈だ。後、出来るならアークスの戦い方も叩き込め。昼間の戦闘で一番目を輝かせていたからな。」

「あいよ。」

「いいのか!?」

驚くキリトにオキは別にと答えた。

「何も問題は無い。だが、俺たちの所まで至るには地獄を体感しなきゃならんぞ。覚悟はあるか?」

キリトはオキの気迫に本気を感じ取った。口では笑っていても目が違う。その目は昼間に見せたアークスの本気の目だ。

「覚悟はある。もとよりここで死ぬわけにはいかない。」

オキは吸っていたタバコをポリゴン片にして砕き、キリトの肩を叩いた。

「よーし! いって来い! だが、無理はするな。必ず朝までに戻れ。」

「りょーかい!」

3人はキリトを中心に迷宮区へと足を入れた。

オキはそれを見届け、自分のやるべき事を進めるべく宿へと戻った。

宿に戻ったオキは机の上にある羊皮紙とペンを持ち、全員の名前、武器、戦い方をまとめ始めた。

今までやってきた事だ。まず現状を把握する為紙に書き、それを考察する。何があって、何が欲しくて、何が足りないか…。

静まった夜の部屋ではミケの寝息とオキのペンの音が静かになっていた。




早速始まったアークスの無双。
変態的な動きが出来るならそりゃSAOじゃ敵なしだよね。


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第5話 「イレギュラー」

補足4:コマチ(アークス)
オキやハヤマとチームを組み活動するアークス。
普段から動かないと落ち着かない性格でいつもどこかに出動しては暴れまわっている。
また、オキ同様多数の武器を所持しているコレクター。
戦いが始まると、普段の軽口がなくなり、口調が悪くなる。
その悪さは周囲のメンバーから「うるさい」と叱られるほど。
だが世話好きでオキ達の武器の改修を監修している。


迷宮区。それは各階層の出口の手前にあり、中は数階の迷路。そしてその奥には階層のボス、エリアボスが待っている。エリアボスを倒さない限り、上に登る事は出来ない。

「…なんだけど、お前らなぁ。幾ら無理するなと言ったが、ボス部屋まで行けとは言ってないぞ。」

3人を前にオキは頭を抱えていた。

「いやぁ…。迷宮区のエネミーを倒していたらレベル上げが楽しくてつい…。てへぺろ。」

コマチがとぼける。それにオキはコマチの肩をポンと叩き、ドスの聞いた声で呟いた。

「こまっちー…正座。」

「はい…。」

その姿を見て周りのメンバーも苦笑気味だった。

あの後、迷宮区の偵察に向かった筈の3人は苦労も無く、迷宮内の敵をキリトの教育として倒しまくり、気がつけばエリアボスのいる階へ到達してしまったようだ。

エリアボスの情報はまだ整っていない。キリト曰く、情報は村のNPCから手にはいるらしい。

コマチ達が迷宮区攻略を終わらせてしまった為、その日の予定を変更。クエストで情報を手にいれつつレベルを上げ、エリアボス攻略の準備を行う事にした。

「凄いな。オキ達は。」

「あ?」

フィールドで皆のレベル上げの休憩中。キリトから褒められた。

「いや、迷宮区ってそんな簡単に攻略できる筈無いんだ。迷路ってのもあるけど中のエネミーは外のフィールドよりレベルが上がっている。そんな中でたった一晩で迷宮区を攻略しちゃうなんて…。ベーターじゃ考えられないよ。」

ベーター時代、その難しさから第一層の攻略は何日もかかったと言う。正式版、つまり現状は更に難易度が上がっているそうだ。そんな事も物ともせず進みまくるアークス。

「何よりあの人は何なんだ? 迷路のはず…見えない筈なのに選ぶ道全部当たりだし、トラップにはひっかからないし…。」

キリトはコマチ達と談話しているハヤマを指差す。昨晩の事らしい。

「あー…ここでもその力を引き出すか…。」

頭を抱えるオキ。それを見て首を傾げるキリト。

「はやまんは、あのメンバーの中で唯一の常識人でありそうで、実は超幸運に恵まれた存在。今までの経緯から「異常生存体」と呼ばれることがある。」

その運の強さは周囲にいるメンバーはすぐにわかるだろう。こんな所でも発揮するのか。もはや同じアークスなのかと疑う程である。

「おい、はやまん。こんな所でも異常生存体とか呼ばれるなよ?」

それを聞きつけたミケがはやす。

「またハヤマがやらかしたのかー?」

「ちーげよ! 俺のせいじゃねー!」

「何々? 何かあったの?」

「何かあったか?」

プレイヤー達も近寄ってくる。オキが事情を説明すると全員が「異常生存体」の名を連呼し笑いあった。

 

夕方過ぎ、クエストから村へ帰るとその他のプレイヤーPTも見えていた。

「ん? 君たちがここの最初の到達者かな?」

一人のリーダーらしき人物がオキ達に話しかけてきた。

「あぁ。俺らが最初だ。迷宮区の突破は済ませている。後はエリアボスの情報をNPCからもらう為のクエストをこなしつつレベルを上げてボスの突破をするだけだ。」

それを聞いて周囲がざわつく。

「おいあんちゃん。それ本当やろうな? 嘘ついちゃあかんで?」

先程のリーダー格の男より少し小さな独特の喋り方をする男がオキに突っかかってきた。

「嘘じゃねーよ。マジだ。」

「そんな事ぁあらへんやろ! ワイ達もここに来るまでで苦労しとるんや。幾らはよ着いた言うたって迷宮区が簡単にクリアできる筈あらへん。」

やかましい人だ。オキは少しうっとおしく思った。

それに気づいたのかキリトがフォローしてくれた。

「この人の言う事は本当だ。これが中の地図の情報だ。まだ完全とは言えないが、エリアボスのいる階層迄は出ている。」

リーダー格の男とうるさい男がそれを受け取ると先程の不思議そうな顔から驚いた顔になる。

「君たち…これは…本当か!?」

「そんな事あらへん…認めんで! なんで女ばかりいるPTにワイらが負けなあかんねん!?」

その言葉にカチンときたリズベットが前にでる。

「ちょっとあんたねぇ!? そんな言い方ないでしょ! …ちょっとオキ止めないで!」

オキがリズベットの腕を掴んで後ろに下げる。アスナも前に出ようとしていたが、オキに止められる。

「おい…あんた今なんてった?」

アークス達は気づいた。オキが切れている。

「ま、まぁまぁ。双方落ち着いて。ね、オキさんも!」

ハヤマが切れているオキを止める。エギルも落ち着かせた。

「お互い同じくプレイヤーだろ? 仲良くしようじゃないか。あんたも…そんな言い方は無いだろ? ここじゃ女子供関係無いのだからよ。」

「ぐ…。」

「ち。まぁいい。オキだ。このメンバーのリーダーをやっている。」

「ディアベルだ。一応騎士として皆を守る意気込みでプレイしている。キバオウ君。先ほどのセリフは私も看過出来ない。謝りなさい。」

ディアベルはオキと握手をし、先程の小さな男を前にだす。どうやら中々見所のある男のようだ。キバオウを名乗るオトコも少し頭が冷えたのか、落ち込んでいる様子だ。

「す、すまへんかったな。」

オキに謝るがオキは首をふる。

「悪いが謝る相手を間違っている。こっちだ。」

オキはアスナ達を親指で示す。キバオウは再度謝った。

「さっきは済まんかった。許してくれ。」

女性陣は顔を見合わせキバオウに向き許した。

「いいんですよ。分かってくれれば。」

「そうね。私達だってオキ達のおかげで戦えてるのだからあんたと一緒だって事がわかってくれればいいわ。」

ディアベルは頷き双方を見る。

「うん。仲良くな! さて済まないが、もしよければでいい。私達もエリアボス討伐に加えてもらえないだろうか。…君たちはイレギュラーズなのだろう?」

「イレギュラーズだって!?」

「なんやて!?」

「イレギュラーズ!?」

ディアベルの言葉にメンバーが驚く。どうやらオキ達の事を示しているらしい。

「俺たちのことか? たしかに広場で叫んだのは俺だが?」

「じゃ、じゃああんたがアークスって奴か!?」

「なるほど、それなら納得できる。」

周囲のメンバーもオキ達が異様なスピードで攻略したことに納得したようだ。

「鼠のおねえさんから聞いてね。既にフィールドボスが倒されたと聞いて大急ぎでメンバーを募りここまで来たんだ。」

アルゴか…。一体始まりの街でどんな噂を流しているのやら。

「まぁいい。ディアベルさん、ボス攻略の為にもう少しメンバーを募ったりレベルをあげなきゃならねーと思ってる。しばらくここを拠点にして準備をしたい。」

「そうだな。こちらも大急ぎできた関係で準備が整っていない。一度君たちのところのPTとこちらのPTの状況を確認してボスの情報を元に攻略の対策をしよう。」

今後の動きは決まった。オキとディアベルはPT内の主なメンバーを呼び、宿の一室でボスの情報、対策会議を行った。メンバーはオキ側からハヤマ、キリト、アスナ。ディアベル側からキバオウ、それから白髪の中年男性のプレイヤーが一人。

「それじゃディアベル、司会進行をたのむ。」

「む? 私でいいのか?」

ディアベルは自分よりオキの方がリーダーにふさわしいと主張したが、オキはそれを辞退した。

「このゲームは元々君たちこの星の住民のゲームだ。俺たちはあくまでイレギュラー。俺よりあんたの方がふさわしい。」

ディアベルは一度反論しようと口を開くが、すぐに口を閉じメンバーの方をあらためて向いた。

「それじゃおれがまとめ役としてたつ。みんな異論はないかい?」

全員が頷く。それを確認したディアベルは一度深呼吸をして口を開いた。

「それではあらためてディアベルだ。一応騎士という志でプレイしてます!」

オキはそれを聞いて吹き出す。キリトもアスナも苦笑気味だが、つかみはいい感じだ。

「早速だが、NPCから得たボスの情報を教えてくれ。」

「キリト。」

オキはキリトを指名する。キリトはベータ時代でも戦っている。一番情報をうまく伝えられる人物だと思ったからだ。

「あいよ。ボスの名はイルファング・ザ・コボルド・ロード 。武器は、斧とバックラーだとNPCから得ている。」

「ふむ…。斧とバックラーか。対策は可能だな。たしかオキのところに斧使いがいたな。もしよければスキルの動いを後で皆で見るのはどうだろうか。」

「エギルに聞いてみる。だがいい案だ。先に動きを見ておけば避けることも可能だからな。他に注意することはないか?」

キバオウが前に出て質問してくる。

「ワイは正式からやからわからへんけど、ベータの時の情報とか参考になるんやないか?」

「ベータ時代か…。誰か知ってるか?」

「聞いた話だが、ボスは形態変化というモードがあってHPが減ると武器や動きが変わるらしい。」

白髪頭の男がボソリという。

「そうなんか? ヒースクリフはん。」

「ああ。あくまで聞いた話だがな。」

「たしかに、ベータ時代。ボスには形態変化というのがあったと聞く。また別の情報だが周囲にはザコエネミーも同時に出てきたという。」

ディアベルも情報を投げる。オキはその他の武器の動きも考慮する必要性があると踏んだ。

「今この村にいるメンバーで現状持てる武器種は全てある。これ以外はないのか?」

キリトが手を上げ進言する。

「…カタナがある。あれはもっと上に行かないと手に入らないはずだ。」

「そういやそうだったね。…1層にはないのか。」

ハヤマが肩を落とす。早く使いたいらしい。

「さてどうするか…。」

攻略会議は憶測の域を出ないまま進行した。

 

 

 

結局今ないものを考えても仕方ないので、かつてアークスとしてカタナを使っており一番扱いのうまいハヤマにプレイヤーの前で真似をしてもらうことにした。

ついでに斧を借りてコマチと立会をすることになった。

アークスの動きは一般人にはやはりおかしいらしく、初めてうごきをみるディアベル達は開いた口がふさがらなかったらしい。

初めは信じなかったキバオウも何度も頭を下げてオキ達に今までの暴言を謝っていた。

多数の可能性を否定できないまま準備は整い、結局状況次第ということになった。

レベル上げ、スキルの充実具合、PTの構成などを1週間かけて練り攻略メンバーは迷宮区、ボス部屋手前の扉前に集まった。

「よーし。プレイヤーもかなり増えたしこれだけいればなんとかなるだろう。これから潜る扉は私たちの下にいる数千というプレイヤー達の希望の第一歩となる門だ! だがそれは絶望という言葉に成り代わる可能性も0ではない! だが私たちには戦いのプロもついている! はるばる宇宙の果てから私たちを助けてくれるために来てくれたのだ。しかし私たちも助けられてばかりではメンツが立たない! 自分たちの問題は自分で解決しなければならない! いいか諸君! かならずこれをバネとし、100層攻略の架け橋としよう! そして、必ずみんな生きてかえるぞ!」

「「「おおおおおおー!」」」

ディアベルの演説に士気は最高潮だ。地響きとともに重く大きな扉が開きオキ達をボス部屋へと招いた。

「ボスは…あれか。」

【イルファング・ザ・コボルド・ロード 】

巨大な牛の人型形態モンスターが更に巨大な斧をもってオキ達を待っていた。

その横にはルイン・コボルド・センチネルと名前が見えるコブリンエネミーが3体取り巻きとして立っていた。

『オオオオオオオオオオオオオー!』

「来るぞ! 各自作戦通り立ち回れ!無理はせず、HPが半分になったら後ろに下がれ! 後衛部隊はすぐに支援が出来るように準備おしておけ! オキさん達、たのむぞ!」

「まかせろ。」

最前線にハヤマ、コマチを置き、その後ろにキリト、アスナペア。その後ろにミケ、オキをはじめとする中距離遊撃部隊を配置という形で陣形を組んだ。

こうして初のエリアボス攻略が始まった。

 

 

 

ボスの斧が横薙ぎに振られボスの抑えをしていた数名のプレイヤーが吹き飛ばされる。

「ぐああ!」

「ぐうう…。」

「HPが減った奴は後ろに下がれ! その隙を遊撃部隊が埋めろ!」

ディアベルの指揮が大きなドーム状の部屋に響く。思った以上にプレイヤー達は苦戦しているようだ。大きな体の割に素早く動くボスについてこれてないプレイヤーばかりだ。

「下がれ! …くっそ。こいつら無限湧きか?」

「オキ! ワイらに任せてボスにいってくれや!」

キバオウがオキの背後から走ってザコエネミーに飛び蹴りをかます。

「キバオウ!?」

「ワイらにもかっこいいとこみさせりーや。」

キバオウは親指を立てニヤリとわらう。だが目は笑っておらず油断していないことを示す。オキはそれをみてザコを抑える役目をキバオウ達に任せることにした。

「すまん!」

オキは吹き飛ばされたプレイヤーの枠に変わりボスを抑える。全力で持っている槍をボスの足に側面から突く。

『オオオオオ!』

オキが抑えることに成功したため隙ができ、キリトやハヤマのSSが真正面から炸裂する。

「おおおお!」

「はああぁぁぁ!」

ボスのHPゲージは2本。今の攻撃までにようやく1本目の2/3が削りきれた。

「くっそ! 思ったより硬いな!」

「でも攻撃は遅いからまだなんとかなるくね?」

「このくらいウォルガータの方が早いのだー!」

相変わらずアークスは本気で攻撃しつつも余裕は持たせている。

周囲のメンバーは普段一体どんな化物と戦っているのだろうと思うほどだったという。

ボスが攻撃を加えたキリトとハヤマに目をつけ斧を振り上げ武器を光らせる。

「SSエフェクトだ! みんな離れろ!」

キリトの叫び声によりアークス以外は全力で離れ、アークスだけボスの周囲に居るようになる。

「オキさん離れて!」

「だめだキリト! 俺たちまで離れたら、どこにいくかわからねーだろうが! ハヤマン! その牛、お前狙ってるぞ!」

「わーってるよ!」

振り下ろされた斧はハヤマのいた場所の床にめり込んだ。だがハヤマは軽々と避け、めり込んだ斧を台座に顔面に振り下ろしと振り上げの往復攻撃を4連続で食らわせる。

顔面に攻撃されたためにクリティカル判定となったダメージはもうすぐ1本目を削りきろうというところだった。

「プレイヤー側はそのままうしろに下がって! 形態変化したら何持ってるか把握して攻撃を予測しつつ攻撃を再開!」

ディアベルの声が響き、オキたちに向かって更に叫ぶ。

「オキさん! 全力攻撃! ゲージを吹きとばせ!」

「あいよぉ!」

オキ、ハヤマ、コマチ、ミケの4人は四方から同時に走ろ込んだ。ボスは再び斧を振り回す。だがオキ達はそれを伏せたりジャンプで避け足元にたどり着く。まっさきにたどり着いたオキが武器を光らせSSをだす。

「ツイン・スラスト!」

上段からの構えから前方に2回の突き攻撃をボスの脚に当てる。

「オオオ!?」

当てた瞬間ボスの様子がおかしくなる。ゲージに目を向けるとまだ残っている。そしてボスの体に電流のエフェクトが走る。どうやらオキのSS特性で付いている麻痺の効果を付与したらしい。

「しめた! 敵が麻痺ったぞ! いけ! コマチ、ハヤマ、ミケ!」

全員がライトエフェクトからSSをボスに食らわせる。

次の瞬間、HPゲージの1本がなくなった。

「よっしゃ! もう一本や! このまま行くで!」

それを見ていたキバオウも意気が高まる。

「さて、何が出る…。」

ディアベルやキリトがボスの腰についていた布のに巻かれている武器を見つめる。そしてボスはそれを抜いた。

「の、野太刀!? まずいぞ! あれには即死スキルがある!」

「なに!?」

オキがキリトの叫びについ振り向いてしまう。その隙を見たのかヘイトがオキに向いたのかボスが野太刀をオキに思い切り振り下ろす。

「オキさん!」

「え・・・?」

オキが振り返りボスを見ると野太刀は既に振り下ろされた直後だった。避けるには間に合わない。だったら受けるしかない。もんだいは武器が耐えるかどうかだ。

瞬間的に受けることを覚悟したオキは武器を構え攻撃を受ける。

ガキィン!

甲高い音を発し、オキは武器で野太刀を受けきる。しかし・・・

「クッソ! こりゃダメか・・・。」

武器にヒビのエフェクトが入る。どうやら耐えられなかったらしい。次に攻撃を加えられたら絶対に折れる事を示していた

それを見たアークスたちがオキを下げ自分たちとプレイヤーたちで受ける陣形にしようと動くが、キリトの叫んだ即死スキル「一刀両断」が横薙ぎに振るわれ全員なんとか避けるも陣形が崩れる。

「やっべ・・・。」

予備の武器を装備しようと後衛とは反対側に下がっていたオキをボスが狙っていた。

他のプレイヤーたちはボスを挟んでいる。今から走ったんじゃ間に合わない!

「オキさん! ・・・!?」

それでも走ろうとするキリトの横を一人のプレイヤーが全力疾走し抜ける。

「あれは・・・!?」

その存在にハヤマ達も気づく。

オキは気づかず、もう一度振り上げられた武器を見ていた。

『あーこりゃだめだわ。武器装備が間に合わねぇ。』

ボスの行動が予測よりも早く、自分が次の武器を装備するまでに間に合わない。そして振り下ろされた武器は綺麗にオキへと向かった。

「まったく・・・諦めるとは君らしくないよ。オキくん。」

ガキン!

だが大きな音とともに、ボスの武器を背中越しに受け止め、オキを守り抜いた一人の男はオキに語りかけた。

オキはその聴き慣れた声と顔をみて、改めて武器を装備した。

「いやはや、すまないねぇ。だけど、遅刻だよ。隊長。」

ガキン!

「いや、すまない。ちょっと道に迷ってね。…待たせたな。」

オキは隊長ことアインスと共にボスの武器を弾き、ボスの体勢を崩した。

アインス、そして扉の方に見える少女サラをみてオキは頷き再度ボスに向かって構えた。

「そんじゃ、アークスも揃ったところでちゃっちゃかこの牛を料理しちゃいますかね。」

「「「「おおお!(なのだー)」」」」

アークス全員が集合した。




はじまりました第1層エリアボス討伐。アークスが勝つか、SAOの運命はここから変わる!
GWを使って一気に数話分書き上げ投稿してきたので、ここから1週間に1度の投稿スピードになると思います。(がんばります。


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第6話 「一層ボス討伐」

アークスが揃い、戦力も指揮力も上がり勢いも最高潮になる。



「オオオオオオオオオオ!」

ボスの叫び声がボス部屋の中に響き渡る。

ビリビリと響く空気をものともせず、次の行動を予測し武器を構えるアークス陣。

「隊長…指揮頼める?」

「りょうかい。」

少しずつ後ろに下がり後衛のプレイヤー達の下へ向かうアインスを確認し、オキが先陣を切る。

「いくぞ!」

武器を装備しなおしたオキは片手剣を振り下げ、ハヤマ達と共にボスへの攻撃を再開する。

「オオオオ!」

再び攻撃を開始してきた為、ボスもそれに反応し武器を振り上げる。

後ろに下がり切ったアインスは指揮者を探した。

「この中で指揮をしていた者はいるか?」

「私だ。援軍感謝する。ディアベルだ。」

「アインスだ。あの者達からは隊長と呼ばれている。握手をしたいが今はそれどころじゃないから、あとでいいかい?」

「もちろんさ。」

二人して前線でボスを足止めしているアークス達を見ながらニヤリと笑う。

「よろしければ私も指揮に参加しよう。オキ君から任されたのでね。」

「もしやあなたもイレギュラーズなのか?」

「…いっている意味がよくわからないが、彼らと同じだと言っておこう。」

なるほどとつぶやき、ディアベルは息を吸い込み叫んだ。

「よし! これより指揮をアインス隊長に任せる! 我々もイレギュラーズに負けない勢いで支援するぞ!」

「「「おおお!」」」

周囲で再び攻撃を今か今かと待っていたプレイヤー達の意気が上がる。ボスはアークス達により完全に囲まれ、一人を狙えば残りから袋叩きにあう状態になっていた。

HPは1/4を削った状態だ。アインスがボスをじっと見つめる。様子をうかがう為だ。

周囲ではお供としてポップした雑魚を殲滅する部隊も善戦し、今や残り1匹だけとなっていた。

「これでおわりや!」

ライトエフェクトを輝かせ持っている片手剣を振りおろし最後の一匹を倒し終わるキバオウ。それにディアベルが合流した。

「ご苦労様。キバオウ君。君たちのおかげでボスが完全にイレギュラーズの料理になってるよ。」

息を切らしながらガッツポーズを取る雑魚殲滅部隊。

「っは! ワイらに掛かればこんなもんや。やけどあれに突っ込むほどワイも馬鹿じゃない。思った以上にきついな。」

「ああ。イレギュラーズ…アークスの彼らがいなかったらこんなに簡単にはいかなかっただろう。君たちは一度後ろに下がって回復等の支援を受けてくれ。残ったメンバーは再びボスへの攻撃を開始する!」

「ディアベルはん…無茶するんやないで。」

キバオウの目は完全に信頼した目をしていた。ディアベルもそれに笑い了解とキバオウに伝えると他のプレイヤー達と共にボスの攻撃に参加する為駆けだした。

 

 

「ハヤマん!」

「あいよお!」

ボスが振り上げた野太刀はハヤマを狙い両手による全力で振り下ろされた。だがアークスによる反射神経はそれを簡単に避ける。

「よし、他のプレイヤーは攻撃後の隙をついて攻撃! 武器が光ったらアークス以外は全力で後退! アークス各員はSSを避け衝撃を受けた後にヘイトを取れ!」

アインスの指揮が響き渡る。ボスのHPは半分を切り始める。

「オオオオオオオオオオオ!!」

「赤くなった!?」

「態勢変化だ! さらに変わるぞ! 敵の攻撃を見極めしっかり避けろ! アークスは最悪の場合プレイヤーを蹴って吹き飛ばしてでも守りきれ!」

「あいよー! ほれこっちだ馬鹿牛!」

コマチがヘイトを取っており、後方にプレイヤーが側面にはアークス達が陣取っている。オキのSSがボスの膝に当て、ヘイトがオキに変わる。

「オキ君! ヘイトがそっちに向いたぞ! プレイヤー達は位置を変えて再びボスの後ろから…いや! 武器が光ったぞ! 後退だ!」

ボスが両手に握る野太刀を横向きに構え力を入れる。武器は光出し即死級の攻撃を持つ「一刀両断」の予兆だ。

「SS来るぞ! 撤退!撤退!」

前衛で各プレイヤーに指揮をしていたディアベルも走って後ろに下がる。

アークス達は振り回された野太刀を目で追い、しゃがんで避ける。後から来る衝撃破もしっかり武器で防いだ。

「隙が出来たぞ! 全力攻撃! 削り取れ!」

「なのだー!」

一番瞬発力の高いミケのSSから振りの遅いコマチまで4人のアークスによるSSと後方からのプレイヤー達からの全力攻撃によりHPはあとわずかだ。

「HPがほぼなくなったぞ! 油断せず隙を付け!」

「うおおおおおおおお!」

SS攻撃でスキルストップの掛ったプレイヤー達。再度動き出した際に一番に動いたのはディアベルとキリトだった。

「いくぞキリト君!」

「ああ! これで決めてやる!」

二人のSSが炸裂する。その攻撃によりボスはピタリと止まり次の瞬間ポリゴン片となり勢いよく砕け散った。

「…おわった…のか?」

「フラグ乙」

オキの言葉にボケるコマチ。

「いや、クエストクリアって出てるから。」

「みんなおつかれさまなのだー!」

しっかりツッコミをいれるハヤマにぴょんぴょん飛び跳ね喜ぶミケ。プレイヤー達も安堵の表情を浮かべたり、床に座り込んで息を切らしていたり、ガッツポーズを決め合ったりしていた。

「さすがだよ。イレギュラーズのみなさん…。」

早速タバコに火を点け吸い始めるオキ達に近づくディアベルとキリト。

「オキ達がいなかったら間違いなく無理だった。できても、かなりの犠牲があっただろう。」

「いや、俺もさっきは冷や汗かいた。油断はできない。あんたらプレイヤー達の協力あってこそだ。」

そこにアインス、サラ、キバオウ等のプレイヤー達も近づく。

「オキ君。あれ反省点だね。無茶しすぎだよ。」

「本当よ。まぁ無事でよかったわ。」

「イレギュラーズの皆はん。ワイらだけだったらいつまでかかっていた事かわからへん。これからもよろしゅうたのめるか?」

「おれらからも頼む!」

「私も!」

「僕もだ!」

アークスは顔をみあわせ頷いた。

「こちらからもよろしく頼む。」

オキが代表してディアベルと握手を交わす。そして歓声があがった。

 

 

「ところでこのラストアタックボーナスってなんだ?」

ディアベルがプレイヤー達の無事を確認している最中に、オキが先ほどのクエストレコードを確認した際に気づいた。

「ああ、それか。ボスに対してとどめを刺したプレイヤーがもらえるボーナスの事で、特殊なレアアイテムがもらえるんだ。今回は俺だったみたいだな。中身は防具か。」

キリトが説明つつ、手に入れた防具を装備した。

「ほう…。」

「似合うね。キリト君。」

黒いコートで、キリトに何故か似合うと思ってしまった。たぶんだが黒い色が似合うのだろう。アスナも気に入ったらしい。

「性能もなかなか。いいね。でもこれ、オキさんに渡したいんだけど。やっぱ一番活躍してたし、なによりMVPとってる。」

キリトはすぐにそれを自分が元々装備していた防具に戻し、オキに渡そうとした。

レコードには確かにオキがMVPになっている。

「いいよ。キリトがつかんだものだ。これからも俺たちの事は気にせずガンガン攻めてくれ。レア品も自分が拾ったなら自分で使うといい。これからはプレイヤー達にも強くなって貰わないとね。」

オキは受け取らず、キリトはしぶしぶだが再びコートを装備した。

「さって、上に上がるか。ここからはしっかりとレベルや装備を準備して…。」

オキが上に上がる階段の方向を向いた瞬間、後ろからドタバタと騒がしい声が聞こえてきた。

「うおおお!? 間に合わなかったのか! キリトー! オキー! いるかー!?」

「クライン!?」

声の主はクラインだった。どうやら全力で迷宮区を走って抜けてきたらしく、息を切らせている。

「はぁ…はぁ。お前たちがボス攻略に向かったって情報屋から聞いて走ってきたんだ。…まぁ、間に合わなかったようだが。無事でなにより。ふぃー。」

その場に座り込むクライン。どうやら情報を聞きつけ、援軍に来てくれたらしい。

「クライン。ありがとう。でも大丈夫だ。犠牲は一人も出ていない。」

オキはクラインに握手を求めた。クラインはニカっと笑いそれを受ける。

「そうか、よかった。しかしなんだ。思ったより早く攻略を進めてたんだ…なってうぉ!?」

「え? なに!?」

周囲を見渡したクラインがサラを見て驚いた。いきなり驚かれたサラも目を丸くして驚いている。

「あ、いや、こんなきれいなお嬢さんも参加してるとは思ってなかったもんで…っていや、なんでもねぇ…。」

思いっきり本音が出ている。

「きれいって…ありがと。でもいきなりのナンパはごめんよ。」

顔を赤くしながら後ろを向くサラ。オキ達はそれをみてにやけていた。

「なによ! そんなににやけて!」

「いんやぁ? なぁ。」

「うむ。なにも無かった。いいね。」

「あ、はい。」

「なのかー?」

オキ、ハヤマ、コマチ、ミケはそのやり取りをみて囃している。サラも余計につんけんしていた。

「はっはっは。さて、上の階をアクティベートしようか。ああ、オキさん達に説明すると上の階段を上がると目の前がすぐにその階層の拠点になっている。そこと1層の中央広場にある転送門を繋げることを言うんだ。さぁみんな! 上に上がったら1層のみんなに教えてやろう! イレギュラーズが早速1層突破したとな!」

「「「おお!」」」

プレイヤー達はこの勢いに乗る様に走って階段を昇って行った。オキ達もそれを見ながら歩いて階段を昇って行った。

 




ディアベル生存、綺麗なキバオウ、キリトがビーターと呼ばれない世界。
こういうのもいいよね。
アクションシーンの文書力をあげたいです…
ここから先は一気に中層区域へ駆け上ります。


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第7話 「ギルド」

補足:ミケ
自由奔放に動き回りまるで野良猫のような生き方をしているアークス。
何故か猫耳が頭から、シッポがお尻から出ており付き合いの長いオキ達ですら謎。
口癖は「なのだー」
天真爛漫で周囲を明るく照らす笑顔を振りまく。ただし、問題も振りまく。
中性的な容姿で女性のようで、男性のようでもあり、女性に見えるが、男性にも見える不思議なアークスである。



1層を1か月も掛けない内に攻略し、必ず攻略できる事を始まりの街にいるプレイヤー達に伝え、オキ達は一気に有名となった。

どうやらアルゴが他の情報屋にもオキ達の事を『イレギュラーズ』という名前で伝えたらしく、ゲーム開始時に啖呵を切ったプレイヤー率いる6名の『イレギュラーズ』が早々に1層をクリアし実績を上げた、と。本来攻略に1か月以上を見込んでいた他のプレイヤーはこんなに早く攻略できるならば自分達もとこぞって前線へと出向こうとしたという。

だが、さすがのアルゴ。1層ボスでの状況を細かく仕入れ、始まりの街にいたプレイヤー達へ難しさもある事を示し、無理な行動は誰でも死を招くことを常に伝えていたという。

1層を攻略したメンバーと、追いついてきたその他プレイヤー達はそのまま2層攻略をめざし、リーダーとしてトップにオキ、軍師又は指揮者としてアークス代表でアインス。プレイヤー側代表としてディアベルを置き、徹底したPTバランスと育成を行い、上層を目指した。

又、元々戦闘の素質の高いキリトやアスナ等、今後の戦いに必要と思われる力を持っているメンバーにはアークスが直々に戦い方を教え、力をつけていった。

2層以降はアークス各位はバラバラに動き回りフィールドを駆け廻った。

道中、プレイヤー達がエネミーと戦っている所を見かけては手を貸し、顔を広げつつできるだけ犠牲者が出ないようにと助け合った。

キリト等の元ベータテスター達はアインスやディアベルと共にベータ時代の情報をできるだけ思い出しながら進み、2層からなる長期キャンペーンクエストの違いや、各エリアボスでの変化点の指摘等も惜しみなく出しては協力し合った。

 

 

気が付けば10層のエリアボスまで難なくクリアし、11層の拠点となる街をアクティベートし、皆で打ち上げ会を行っていた。

11層は洋風の街並みで各所にプレイヤー達が多数集まる事が出来る館が存在。

その中でも1番大きな館の広間を使用し、攻略に参加したプレイヤー達でにぎわっていた。

「ではみなさん、飲み物はお持ちかな? では10層攻略完了を祝して、乾杯!」

「「「かんぱーい!(なのだ!)」」」

全員でコークと呼ばれるこの世界のビール(ノンアルコール)を一気に飲み干した。

「ぷっはー! うっめー!」

飲み干すと同時に周りから拍手喝采が上がり、周囲を見渡したオキは1層の時とは違った顔立ちになってきたメンバーに気づく。

「最近、だいぶメンバーもそろってきたし、腕も上がってきたな。」

「ああ。俺たちもうかうかしてられないな。すぐに追いつかれそうだ。」

アインスも元々1層で招集し、共に戦ってきたメンバーを見る。皆、勢いのあるメンバーでかつて共に戦っていたギルドメンバーを思い出していた。

「オキさーん。こっちですー。」

一人の少女がオキを呼んでいた。

「呼んでるよ。オキ君」

「あーよ。いってくるわ。」

アインスと別れ、オキは呼ばれたテーブルへと向かった。そこにはオキが2層以降で手助けし、共についてきたメンバーがそろっていた。

「オキさん、10層攻略おめでとうございます。」

「おめっとさん。」

皆がオキとに乾杯をしてくる。オキはそれに応え、皆と乾杯をした。

「すごいよねー。もう11層だよ。このままなら一気に攻略できそうだよね。」

サクラ。2層でクエストに苦戦していたところをオキ達が参戦、手伝った後、ここまで共に戦う攻略メンバーとしてついてきたプレイヤーだ。ほんのりとした性格はどこかマトイを思い返す。長い髪をしていて身長はアスナと同じくらいだと思われる。

「サクラ、余り油断はしちゃだめだよ。それですでに何人ものプレイヤーが…犠牲になってるんだから。」

ツバキ。サクラと一緒にいたプレイヤーでかなり仲がいいところをみると外の世界からの付き合いのようだ。気が強そうな性格でショートカットの髪の毛が似合う。サクラより身長がある。

「大丈夫だって。犠牲なんか俺が出さないさ。それにオキさん達だっているんだから。」

笑いながら一緒のテーブルで飲んでいる男はタケヤだ。2層から合流し、一緒にここまで来たメンバーの一人だ。調子のいいところが見受けられるが、仲間を想うところはオキと似ている。

「何言ってるのよ! またそんなこと言って死にかけるのはあんたなのよ!」

バシバシとツバキに背中を叩かれるタケヤは何すんだと言って彼女を追い駆けて行った。どうやら馬が合わないらしい。

「相変わらずだなぁもう。」

直ぐ隣にいたメガネをかけた男がため息をつく。タケヤと一緒のPTにいるレンだ。落ち着いた雰囲気を持っており、若干臆病な部分もあるが、なんだかんだでやる時はしっかりと行動する男でオキもそれを認めている。

「でもツバキちゃん、なんだか楽しそう。」

にっこり笑うサクラ。レンもなんだかんだで楽しんでるなと一緒に同感している。

「喧嘩するほど、仲がいい。」

ボソリとつぶやく渋めの中年男性。他の若い4名とは違い、一人だけ年齢がかけ離れているように見える。彼の名前はオールドといい、どうやらレンが誘い一緒についてきたようだ。この中で最も腕が立ち、オキ達が見てもその動きは完成されており槍の使い手としては多分トップだろう。

「あ、オキさん。一ついいですか?」

レンが質問をしてきた。

「んー? なんぞい。」

「オキさん達ってギルドを作る予定ってあります?」

「あ、私も知りたい。」

サクラも話題にのってきた。

「ギルドか…。なんでまた。」

ギルドを作るつもりではいたが、ここ最近の攻略でのやり取りでそんな考えも飛んで行ってしまっていた。たしかにあると便利かもしれない。

「いえ、ディアベルさんがギルドを作るって聞いたもんで。」

「うんうん。そんなことさっき言ってた。俺と一緒にくる人はついてこーい。って。」

「あ、似てる似てる。そんな感じ。」

「ほんとー? やったー。」

レンとサクラはノリノリで先ほどディアベルがしゃべっていたと思われる内容を声真似してはしゃいでいた。

「ギルドねぇ…。」

オキはアークスとして一緒に活動していたメンバーを思い返した。外ではみんな元気だろうか。たぶん心配しているだろう。

「何やら、懐かしいという思いをしているな?」

オールドが気づいたようにオキにしゃべりかけてきた。よく見てるなこの人。

「まぁ、外に置いてきたチームのメンバーがいたので。つい。ギルドか作るのもありだな。」

オキがそういうと先ほどまではしゃいでいたレンとサクラも食いついてきた。

「作るんですか!? 私、オキさんのギルドに入りたいです!」

「あ、僕も。たぶんタケヤもそういうと思います。」

「ツバキちゃんも誘ってみようかなー。オールドさんはどーします?」

「私もその話のらせてもらおう。オキ殿からはまだ学ぶことがたくさんある。よろしければ私もいいだろうか。」

オールドものってきた。そこに追いかけ回し走り疲れたタケヤとツバキも帰ってきた。

「ちくしょー。速すぎんだよおまえ。」

「うっさい。…ん? 何かの話?」

「あ、ツバキちゃんいい所に。今ね? オキさんにギルド作るのなら私達も入っていいですか?って聞いてたとこなの。」

「お、そいつはいい事聞いた。俺もいいっスか?」

どうやら全員のる気らしい。こうなっては作るしかない。オキも満更では無かった。

「オッケー。ならば作るとしよう。出来た頃にまた話すっからそんときゃよろしく頼む。」

オキはそのままハヤマ、コマチ、ミケ、アインス、サラを会場内で探し出し、先程の話をふった。

「ギルドかぁ…。俺は問題ないかな。」

「同感で。オキさんに任せる。」

「ミケも同じくなのだー。」

いつもの3人は同意し、ギルドにはいる事を約束してくれた。

「俺は自分のギルドを作るよ。俺が集めたみんながいるし、その子らの命を預かった限り、俺が責任をとらなきゃならないからな。オキ君すまないが、俺はそうするよ。」

アインスは頭を下げたが、オキはそれを予想済みだった。

「まぁそうくると思ったよ。律儀な隊長だから自分で作るだろうなって予測はしてた。まぁ別にそれでバラバラになるわけじゃないし。」

「はっはっは。流石というべきか。サラ君はどうする? オキ君の所に行くかい?」

サラは少し悩んでいたが、直ぐに口を開いた。

「んー。私はアインスの方にいこうかな。なんかあのメンバー見てると食事関係スキルとってなさそうだし、オキのとこにはハヤマがいるから大丈夫でしょ。」

どうやら日常の事まで考えてくれたらしい。頭が上がらない男性勢。

 

 

「ってわけで、ギルド作成をするにはどうするかおせーて。」

オキは1層から顔を出しに来たアルゴの元へと来ていた。ギルドを作るやり方を聞かないとわからないからだ。

「そろそろ来ると思ってたから用意しといたヨ。」

「さんきゅー助かったぜ。」

すでに情報をまとめてくれていたらしく、行かなければならない場所やクエストに関してを紙に書いていてくれていたようだ。

受け取ろうとするオキだったが、アルゴはそれをサッと引いた。

「・・・どういうつもりだ?」

「フッフッフ。俺っちがタダで渡すわけないだろう?」

そう言ってアルゴは手を出してきた。オキはため息をつきながらその手に自分の手を乗せた。

「わーったよ。ほれ握手。」

「握手握手ー。って違うだロ。情報には情報ダ。」

やはりダメだったか。当たり前の話である。

「はいはい。で? 何が欲しい。」

「んー…そうだネ。最近シーちゃんと仲がいいみたいじゃないカ。」

どうやらシリカとの話をしているようだ。確かに1層からずっと一緒にPTを組んでいる。バランスがいいような構成をとっていたらそのままの方がいいと気づいたからだ。

「まぁ悪くはないかな。いい子だし。戦闘の上達もはやい。」

「なるほどナー。で? おにーさんはどうするおつもりデ?」

にやけながら近づいてくる。コイツは一体なにを聞きたいのだろうか。

「どうするって。どういう意味だ。」

「とぼけても無駄サ。あんな美少女、すぐ隣にいたんじゃ考えるもなにもないだロ?」

どうやら異性としての話をしているようだ。なるほど、そういうことか。

「あー。わりぃけど、その話はパスだ。まだ俺の中で固まってないからな。」

「つまり、今後期待はできるト。」

「おい、メモするな。それにこういう話ならキリト達の方が面白いだろ。あっちのほうが進展してるぜ。」

「残念ながらすでに情報ははいってるんダナー。あの二人早ければ数ヶ月でくっつくとおもうヨ。」

恐ろしい子だ。すでに情報どころかこの調子だと本人達からも聞き出していそうだ。

「ま、別にいいけド。早くしないと取られちゃうヨ? ああいう美少女を守りたいって思う男性はごまんといるだろウ?」

「確かになー。気持ちはわからんでもない。だが、それとこれは話が別だ。そうだな。じゃあこうしよう。まだわからん。これでいいか?」

アルゴはンーっと考え込み妥協したようだ。

「ま、妥協点かナ。はい、これ。」

「ったくさっさと渡してりゃこっちも楽なのによ。恐ろしい奴を持ったもんだぜ。」

「ニシシ。」

笑顔だけは100点なんだがな。そう思いながら中身を確認する。頭に入れたあとは無くさないようにアイテム欄へと移動させた。

「あ、そうだ。アルゴ姉もうちのギルドくるか? それともソロ貫くか?」

アルゴはそれを聞いてすこし驚いた表情を見せた。

「どうした。」

「あ、いや。俺っちみたいなのでも誘うんだなっテ。ほんと、不思議なおにーさんだヨ。俺っちは暫くソロでやるつもりだヨ。お誘いは嬉しいけどネ。」

「そうかい。ま、気が向いたらまた聞くわ。情報サンキュー。」

そう言ってオキはアルゴの元を離れた。

「全く、誰でも優しくするその性格。後が怖いネー。」

オキが角を曲がり見えなくなってからボソリと呟いた。

 




一気に10層突破。次回からは一緒に戦った彼らとギルドを組み、中層を駆け回ります。
次回はオキとペアを組んでいるあの子の大事な家族との出会いを描くつもりです。
(うまくかけるかなぁ…。)


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第8話 「フェザーリドラ」

補足:アインス
クールで落ち着いた大人の男性。普段やかましいオキ達とは正反対。
ある時からオキ達と共に活動している。状況判断能力を初めとする戦術、戦略に関する能力がずば抜けており、アークスとしての能力も高い。オキ達からすれば兄貴分のような存在で慕われている。カタナが好きで同じくカタナ使いのハヤマとは気が合う為、共に新戦術等を考案してはダーカー相手に喧嘩を吹っかけて切り掛かっている。


オキはアルゴから仕入れたギルド作成クエストを早々に行い、ギルドを作成。

アインス、サラを除くアークスメンバー3名から、名前を募った結果『アークス』『アインクラッド支部』『ミケとゆかいな仲間たち』等、いくつかの案が上がった。

中でもオキが気に入ったのはハヤマの『ValiantKnights』という名前。『勇敢な騎士達』という意味だそうだ。それを改変し、オキはアークスの母体であるオラクルを混ぜ『オラクル騎士団』という名前を提案した。その結果全員が納得し、ギルド『オラクル騎士団』は結成された。

オキは早速ギルド結成をしたことをサクラやタケヤらのメンバーに伝え、彼らはすぐにギルド入りを申請してきた。また、この事はキリト達にも同時に伝え、キリト、アスナ、シリカ、リズベット、エギルの「事件の中心となる人物達」もギルドへ加入した。

その他のギルドとしてディアベル率いるキバオウ等のメンバーで『アインクラッド解放軍』、アインス率いるサラ等のメンバーで『怪物兵団』が同時に結成された。

アインスはアークスとして活動している自らのギルド名を持ってきたらしい。本人曰く

「こっちでも、出会ったメンバーそして俺についてくるメンバー全員、向こうで待ってくれている俺のチームメンバーと同様に家族同然の仲間としていたいからな。」

と言っていた。

オキは結成後にディアベル、アインスと既にギルドを結成していた『風林火山』リーダーであるクラインを呼び、ギルド連盟を結成する事を提案した。

オキはギルド同士の壁をできるだけ無くし、連帯できる状態にしたかった。今後は連帯無くして攻略できるものではないと判断したからだ。ディアベル達はそれに賛成し、かくしてギルド連盟『アーク’s』が結成された。

特にこれを喜んだのはクラインだった。クラインはどうやらサラの事をかなり気に入ったらしく積極的に彼女とコミュニケーションを取っていた。

サラはそれに対し満更でもなく対応しているようだ。

ただ、オキが気になったのが一つだけある。ディアベル達についてきていたヒースクリフだ。彼は元々、1層でオキ達がフィールドボスを速攻で倒したことを聞きつけディアベルがPTメンバーを募った際に真っ先に手を上げてきたという。また戦闘に関してもかなりの腕を持っているらしく、彼が苦戦しているところを見たことが無い。戦闘の仕方自体は素人であるが、キリト曰くシステムを利用してかなりの動きを見せているらしい。

そんな彼がディアベルの元を離れ、一人でギルドを作ったのだ。名前は『血盟騎士団』というらしい。オキは連盟の話を持ちかけたが断られた。理由に関して彼は

「私は私なりの考えがあるのでね。お誘いはうれしいが断らせてもらうよ。」

と曖昧な内容であり納得できなかったものの無理強いするつもりもなかったのでオキは諦めた。

 

 

こうしてギルド結成から1か月が過ぎた頃、オキ達は15層を攻略していた。

まだ気に入ったギルド拠点が見つからないのと資金がたまっていない為、相変わらず宿を仮拠点として利用していた。メンバーはオキ達の指導と元々ゲーマーの為にクエストや効率のいい狩場などを利用し着実にレベルと力を上げていっていた。

朝、宿のロビーでシリカを待っていたオキは2階から降りてきたシリカと合流した。

「よし。それじゃ行くか。」

「はい!」

オキはギルド結成後もシリカと組んでいる。他のメンバーがほぼ固定PTとなっている為、現状のバランスも考えて変える必要がないためである。今日はレベルを上げる予定でいた。

「あ、シリカちゃーん。」

宿を後にしようと進んだ直後に、宿からアスナが走ってきた。何かを持っている。

「はーい。なんでしょうか?」

「これ、持って行って。さっきハヤマさんとサラさんで作ったの。みんなに渡してるのよ。」

シリカが受け取ったのはアスナたちが作ったサンドイッチが入ったバスケットだ。

「二人で食べてね。」

ウィンクしながらシリカの肩を叩き親指を立てるアスナ。後ろから見ていたオキにはにやけているようにしか見えなかった。

どういう意味をとったのかシリカは顔を赤くしている。オキは苦笑することしかできなかった。

 

 

15層のフィールド、森林エリア。

すでにコマチから情報を得てここらで最も効率のいい場所の一つを教えてもらっており、周囲に他のプレイヤーがいないことを確認し、オキたちはさっそく狩りを始めることにした。

「よーし。そんじゃやってくか。」

「はい。今日もよろしくお願いします。」

二人は自分の持つ武器を構えてエネミーの沸く狩場へと走っていった。

昼すぎ、お腹のすいてきた二人は狩場を離れ、エネミーの出てこないセーフティエリアを探し、そこで昼食をとることにした。

地面に敷物を敷いて二人はアイテム欄からお茶や朝もらったサンドイッチを真ん中に置く。

「それじゃ、いただきます。」

「いただきます。あむ…ん! おいしーです!」

「うむ。またスキル上げたな。」

アスナ、ハヤマ、サラは2つのギルドの中でも最も料理スキルを上げている。

他にも上げているメンバーはいるようだが、この3名だけはダントツに高い。いずれはこの3名がアインクラッド内で最も早く料理スキルを極めるとオキは思っている。

今回のサンドイッチも以前食べた時より美味しくなっていた。こっちはツナ、こっちはタマゴ。

食べ終わった二人は満腹と暖かさの余韻に浸っていた。

 

ザアァァァァ

 

森林の木々が風に揺られて音を立てる。

「いい天気ですねー。気持ちがいいです。」

「うむ。戦いさえなければこの状況、ピクニックってところか。いいもんだ。」

「そうです…ね。ふぁあぁぁ…。なんだか眠くなってきました。」

あくびをするシリカ。オキもそれをみて自分もあくびをしていたことに気づく。

「寝てていいぞ。ほれ、膝枕なんかしたりして…。」

目を丸くするシリカ。次第に顔が赤くなっていく。

「なんて冗談…。」

「あ、あの、お願いします…。」

オキは冗談で言ったつもりだったが、シリカはそれにのってきた。予想外の返答にオキも一瞬驚いたが、そのまま膝にシリカの頭を乗せた。

「えっと…その、どうだ? 痛くないか?」

「だ、大丈夫です。」

その後沈黙が続く。気づけば顔を赤くしたまま眠っていた。

オキはそんなシリカの頭を撫でながら微笑んだ。

『こんなに小さいんだな。よくよくみると。まだ若いのにこんな戦いに巻き込まれて…守ってやらないとな。』

オキはそんな光景を誰にも見られてないことを確認して、自分も心休まるひとときを過ごした。

 

数時間後、先に目を覚ましたシリカは自分の肩にてを乗せて座ったまま寝ているオキの寝顔をみて現状の状況がいかにものすごい状況だということを改めて自覚し、更に顔を赤くしていた。

起きそうにないオキの寝顔をみるシリカ。

『オキさんって不思議な人ですね。こんな私に気を使って、こ、こんなことまで…。ん?』

シリカは自分のすぐ近くにもふもふとした塊を発見する。

「これは?」

起き上がってみるとそれはとても綺麗な水色の羽をした鳥のようなエネミーだった。本来、プレイヤーを攻撃してくるエネミーはこのセーフティエリアに出現することはない。つまり害のないモンスターだということがわかった。

シリカが起きたことに気づいたのかオキも目を覚ます。

「んあ…。やっべ寝てた。ん? どうした?」

「いえ、この子が…。」

「んー?」

自分の近くで一緒に寝ている鳥系モンスターをみて目を丸くするオキ。

「こいつは…。」

二人が起きたことに気づいたのかそのモンスターは起き上がった。

「キュル?」

ばさっと小さな羽を広げ、シリカに近づいてきた。

「どうやら俺たちが眠っていることに警戒をといて近づいたらしいな。」

「きゅるうう?」

その鳥のようなエネミーはサンドイッチの入っていたバスケットを覗きだした。

「ははは。腹がへってんのか? たしか2つくらいのこってたろ? シリカあげてみたらどうだ?」

「そうですね。えっと、はい。どうぞ。」

「きゅるるう!」

シリカに差し出されたサンドイッチの切れ端をむしゃむしゃと食べる。

「えっと…フェザーリドラ? 聞いたことない名前だな。」

「名前からしてドラゴン系ですね。」

「こんなに小さいのにドラゴンか…。どうしてもドラゴンって聞くとでかいのしか思い出せない。う…あまりいい思い出もないな。」

オキはアークス時に戦った龍族を思い出し苦笑する。

「オキさんってまさかと思いますけど、ドラゴンとかとも戦ったりするんですか?」

オキのセリフが知ってるかのような内容だったので聞いてみる。

「うむ。龍族っていってね。惑星アムドゥスキアという龍の住む星があるんだ。そこで龍人や巨大なドラゴン種とかとも戦ったことがある。火を操るヴォルドラゴンや全身鉱石でできたクォーツドラゴン、騎士のようなドラゴン・エクス…。」

「す、すごいんですね…。」

「きゅるうう。」

満足したのかフェザーリドラはそのお礼なのか、シリカの周囲をグルグルと飛び回った。

「きゃ! あはは! もう、なんですか? あはは。」

「お礼がしたいんじゃないか?」

「きゅる!」

オキの言葉に反応したのかフェザーリドラは返事をした。その時だ。シリカの目の前にアイコンが飛び出てきた。

「きゃ! え? モンスターのテイムに成功しました…。名前をいれてください…?」

「テイム? どういうことだ。」

「えっと…多分使い魔のようなものでしょうか。このゲームにもそのようなシステムがあるんですね。知らなかったです。」

フェザーリドラはシリカの座ってる目の前に降り立ち、じっとシリカを見つめる。

「…うん。決めました! 名前!」

目の前のウィンドウに名前を書き込むシリカ。

「早いな。なんて名前にしたんだ?」

「名前は…ピナです。私の、外の世界にある家で飼ってる猫にそっくりだったので。」

「ピナか…。おまえさんピナって名前になったぞ。」

「きゅるうう!」

嬉しかったのか、またシリカの周りを飛び、またオキの周囲も飛び回るピナ。

「あはは! よろしくね。ピナ。」

「きゅる!」

後にビーストテイマー『竜使いのシリカ』と有名になるきっかけとなった瞬間であった。




シリカの相棒、ピナ誕生の瞬間ですね。
また、オキとのイチャイチャも少しずつ増えていきます。シリカかわいいよシリカ。
そろそろクォーターポイントである25層も近づいてきていますが、その前にちょっとした事件。
次回「オレンジプレイヤー」
ペースあげたら上げてみるかな…。


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第9話 「オレンジプレイヤー」

サラ:アークスの一人でオキとはエルダー復活前から知り合っている。かつて10年程前のダーカー襲撃時に巻き込まれた際、ルーサーに騙されて数々の非道な実験を行われた被害者。実験の際に死にかけた時、体の一部を現オラクル船団の航行維持の為演算を行っているシャオの一部と融合させることにより彼と意思疎通ができる体となった。現在ではロクボウの二であるマリアの元で世話になっており、振り回される毎日。


「ハヤマさん、ミケさん、キリトさん。おつかれっス。」

タケヤとレン、オールドが23層の宿に戻ってきた。ハヤマ達は同階層にある迷宮区攻略を行っており、丁度先ほど帰ってきたところだった。

「お疲れなのだー。」

「お疲れ。みんな無事だね。」

「はい。レベルも上がったし、好調です。」

オールドもハヤマに頭を下げる。どうやら問題はなかったようだ。

「あれ、マスターはどこっスか? コマチさんも見あたらねっスね。」

「オキさんは確か20層の奥にある森エリアでレベル上げって言ってたかな。あそこはレベル上げにもってこいだし。コマチは…たぶんどこかで武器振り回してるよ。」

「相変わらずどこにいるのかわからないのか―。」

オキはいいとしてもコマチは相変わらず好き勝手にどこか戦っては戦利品をどっさり持って帰ってきて、また潜りに行くという行動をしていた。

「あの人大丈夫なんですか?」

「いつもそうだよ。昔からね。」

ハヤマ達は苦笑するしかなかった。

 

 

「やぁ!」

森の中でシリカの声が響く。オキもそのフォローにはいる。

「はぁ!」

シリカのダガーが動物系エネミーを切り裂き、オキの片手剣がとどめを刺した。あらかた一掃したために周囲にはエネミーは見当たらない。

「ふぅ…。シリカ、どんな感じ?」

「そうですね。目標には達しました。」

「おし、空も暗くなってきた。今日は帰ろうか。」

「はい。」

シリカのダガー熟練度とレベル上げを兼ねてクエストを行う為にオキ達は20層の薄暗い森のフィールドで狩りを行っていた。20層の奥にあるこの森エリアは他のエリアよりも高レベルのエネミーが出やすく、且つポップも早いため効率のいい狩場の一つとしてコマチから聞いていた。ただ、エネミーレベルの幅が広く、高レベルエネミーだと数層上クラスのエネミーも出てくる上、一番厄介な部分は森の区画が一定時間ごとに動く事で『入口付近で戦っていたのが気が付いたら一番奥でした』というのはザラであり、危険区域の一つとして余りプレイヤー達は利用しない。

オキ達が狩りを始めてから日は傾き、元々薄暗い森だったのが余計に暗くなってきている。

挙句、このエリアだけ夜になるとポップするエネミーが変化する仕様で高レベルエネミーも増えるとオキは聞いていた。森の木々の隙間から自分のいる位置を確認する為にオキは薄暗く光る迷宮区の塔を探し見つける。

「方角からすると塔の西側にいるな。さっき動いたから暫く森が動くことは無いからさっさと出ちゃおう。」

「そ、そうですね。薄暗くなって少し不気味です。」

シリカはいつも以上にオキに近づいている。どうやら不安のようだ。

「大丈夫だ。俺がついている。ピナもいるしな。怖かったら服掴んでてもいいぞ。」

「きゅる!」

はっはっはと笑いながら進むオキ。ピナも主人の感情を読み取ったのか肩に降り立っている。シリカは少し黙ってから、ゆっくりオキの服の裾を掴み一緒に歩いた。

不自然な歩き方になるが、何故かオキも心が落ち着いた。

『なんだかこういうのもいいもんだな。暫く共に組んでいたが、シリカもやるものだ。思った以上に上達が早い。何より俺の動きにしっかり合わせてくれる。』

数か月、共に行動してきたためか、元々相性が良かったのか、オキとシリカは双方の動きに合わせエネミーに攻撃、防御、回避を言わずにできる程にまでなっていた。

『本来ここまでの上達をするにはかなりの時間が必要だ。まだ粗はあるが、もしシリカがアークスならば、下手な奴より全然動ける。小さいのによーやるよ。全く。』

そんなことを考えながらオキは後ろについてくるシリカを見た。見たことに気づいたシリカは目が合い、はっとして直ぐにうつむいてしまった。オキはすぐに前を見直す。

『ただまぁ…。くすぐったいな。なんかこう…うん。』

心地よい気持ちでありながら、なんだかくすぐったい。こういうのを嬉恥ずかしというのだろうかと考えながら、エネミーを索敵しつつ、余計な戦闘を回避し出口を目指した。

ある程度歩いた頃だ。オキの索敵に反応があった。

「ん? エネミー…いや、プレイヤーか?」

キリトに教えられ最近になって索敵スキルを上げだしたオキはそこまで広範囲に索敵はできない。だが、それに反応があったという事は近くに誰かがいるという事だ。

「誰かいるのですか?」

シリカは周囲を見渡す。日がほぼ沈んでおり、森の奥は真っ暗になっていた為シリカには見えなかった。

「誰かいる。おい、誰かいるのか?」

オキの声に反応したのか、少し先の木々の間から数名のプレイヤーが出てきた。

「よかった。エネミーじゃなかったか。おい、出てきな。他のプレイヤーさんだ。」

「あー助かった―。もうだめかと思った。」

「よかった。人か。」

「助かったー。」

女性一人に男性三人のPTのようだ。

「あんたら、どうしたんだ? そんなところに隠れて。」

「いや、すまない。驚かしちまったか。あたし達、ここにレアアイテムがあるって聞いたから来たんだけど、迷っちまってさ。出るに出れなかったんだ。」

女性プレイヤーが状況を説明した。どうやらPTリーダーらしく、オキ達をエネミーだと思ったらしい。

「なるほど。どれくらいここで迷ってたんだ?」

「大体1日そこらかな。人もいなくてねぇ。いや助かった。あ、一応聞いておくけどあたしらと同じ迷子…じゃないよね?」

腰を曲げて上目づかいをしてくるお姉さん。なるほど。こいつらはこの色気についてきた感じか。ってか胸でけぇ。つか、ちけぇ。あ、やべ。シリカが変な目で見てる。いかんいかん。

「大丈夫だ。俺ら、ここでレベル上げしてて丁度森を出るところなんだ。しっかしよく1日も迷子になって無事だったな。情報はもってたのか?」

「いやー…。レアアイテムと聞くとつい。で、丁度街にいたこいつらが一緒に行きましょうとか言ったんだけど、情けなくって。」

「…面目ないッス。」

どうやらかなり恥をさらしたようだ。かなり落ち込んでる雰囲気だ。

「あははは…。まぁいいや。よし、旅は道連れってね。出口まで一緒にいくか。」

「ありがたい! あたしの名前はロザリア。よろしくな。」

「オキだ。よろしく。こっちはシリカ。」

「シリカです…。よろしくお願いします。」

「きゅるるる…。」

それぞれ挨拶をしている時にピナがシリカの肩の上でロザリア達に対して警戒している。

「ピナ…? どうしたの?」

「その子は?」

オキがその異変に気付くがすぐにあえてスルーした。

「ピナっていってね。下の層でシリカがテイムしたんだが人見知りのようでね。俺も慣れてくれるまで時間がかかったもんだよ。」

その言葉にシリカも異様に感じる。オキがそんなことを言うはずがない。オキはシリカを見ている。何かを察しろというのだろか。

「…そ、そうですね。この子、人見知りするんですよ。ほらピナ、おちついて。」

「そうかい…。なんだかモフモフしててかわいいからできれば触らせてほしかったのだが…。」

しょぼんと肩を落とすロザリア。

「しかし珍しいね。モンスターをテイムしたなんて聞いたことないんだが。」

「んー。まだ情報が流れてないのかね。ま、遅くなると厄介だしさっさと行こうぜ。」

オキは先頭に立ってシリカの手を握り横に近づけた。

「きゃ…! え、と。…オキさん。」

「大丈夫。俺がついてる。」

にっこりと笑うオキ。シリカは急に手を握られて真っ赤になる。ロザリアはそれをみて大いに笑った。

「はっはっは! あんたら面白いねぇ。いいねぇ。そういうの。おねーさん大好きだよ。」

オキは後ろをちらりと見る。おなかを抱えてオキとシリカのやり取りで笑っているロザリア。そして取り巻きの3人の男も笑っている。

「…。」

オキはそのまま出口を目指した。

 

 

 

「んー。方角からしてこっちだな。」

出口が近い事を確認し、入ってきた時の方角から二股の道を右に曲がった。

「そろそろ出口かな?」

「そうだな。そろそろ終わりだ。」

オキが道をまっすぐ進み、曲がり角を曲がる。するとそこは行き止まりだった。

周囲は土の壁で囲まれており、道幅は狭い。正しい道に戻るしかないのだが…。

「行き止まり…だね。間違ったのかい?」

「いや、あってる。わざとこっちに来たんだよ。」

「きゃあ! えっ? え!?」

オキはシリカの手を引っ張り、壁と背中の間に挟む。ピナはシリカの肩より飛びあがり、オキの隣でロザリアを見つめながらうなっている。先ほどからそうだ。オキもロザリアに向かい合って睨む。

「…どういう意味だい?」

「あんたらの仲間だろ? そっちの陰にいるの。隠れても無駄だよ。俺の索敵スキルにしっかり反応してるぜ。」

「…くくく。はははは! なんだい。ばれてたのか。おい。」

ロザリアが合図をするとゾロリとプレイヤーが森から出てくる。プレイヤーの頭の上のアイコンはオレンジ色に光っていた。6人、7人…。8人目で終了したが、オキはまだいると用心した。

「それで最後か? まだいるだろ。」

「いや、これで最後…あんた、まさか今のブラフだったのか!?」

「あーってことはそれで最後か。わざわざサンキュー。」

「くそ。思ったより頭が回るね。」

「え? え?」

状況が把握できていないシリカにオキは説明をした。

「こいつら、オレンジプレイヤーだ。頭の上のアイコン。オレンジ色だろ? 本来グリーンに光ってるはずなのがオレンジになっている。つまり普通のプレイヤーを攻撃し、傷付けた犯罪者だ。で、おねーさんがブラフだって言ったのは、俺が他の仲間に気づいていたと見せかけて、実はまったく気づいていなかったってこと。まぁやり口から考えて他のメンバーがいるとは思ってたからかましてみたらビンゴ。やっぱり隠れてやがったってことだ。」

周囲の男たちは武器を構える。ロザリアは口では笑っているが目が笑っていない。

「よく気付いたね。あたし達がオレンジプレイヤーだって。」

「だあほ。おめーら演技下手すぎ。まぁ最初に気づいたのはピナだったが、そのあとの行動。どう考えても1日もここで迷っていたようには見えない。人間どんな奴でも1日以上迷いかえる道が分からなくなれば衰弱するはずだ。何度も見てきた。だがお前さんたちは笑っていた。ニヤニヤとな。」

「くく…ははははは! こいつはたまげたなぁ。こりゃあたしもお手上げだよ。ばれては仕方ない。あんたらの持ってるアイテムと金。全部だしな。そうすりゃ命だけは助けてやる。」

「…断る、といったら?」

「さぁてねぇ。どうしようかね。」

ロザリアのメンバーが全員武器を構える。無事じゃ済まないだろう。

「シリカを守れる配置にしてよかったぜ。」

ボソリとオキはつぶやいた。

「え?」

「…なんだって?」

オキは装備していた片手剣を槍に変え、アクティブ化。そして構えた。

「おめーらこそ、ただじゃ帰れねーと思えよ。俺とシリカを狙った事、今迄行ってきた犯罪。全て悔いろ。おら、おめーらの相手してやるよ。かかってきな。ただし、俺だけにな。」

その姿、その言葉。すべてが何故か重く感じた。先ほどまでのカップルのような青年には見えない。どこか戦いに慣れている。ロザリアはそう感じた。

『なんなんだ。この男は。おびえるそぶりが全くない。むしろ…わらってる!?』

「く、くそ! やっちまえ!」

「「「おおー!」」」

オレンジカーソルのついた8人の男がオキの方へ駆ける。だが道事態が狭く、オキを囲むにはその半分もいかない3名ほどが限界だった。

「ふん!」

オキの槍が駆けてきたオレンジプレイヤーの肩に刺さる。そのまま引き抜き、オキは前方の足元を薙ぎ払った。その為、オキの前にいたプレイヤーは全員槍によって足払いを喰らう。

「ぐああ!」

「くそ、こいつつぇ!」

予想外の動きを見せつけられたオレンジプレイヤー達は最初の勢いが一気に下がり、オキの武器の範囲内に入る事が出来なかった。

「おめーら遅すぎ。加えて馬鹿正直すぎ。こんな狭いところでまっすぐ突っ込んでくりゃ、そりゃ槍の餌食になるのは当たり前だろ。ちったぁここつかえ。」

頭を指差しながらニヤリと笑う。

「く、くっそお…。」

「ぐうう、肩をやられた…。ポーションくれ! あのやろお!」

煽られ、完全に頭に血が上ってるオレンジプレイヤー。ロザリアはそれを危険と感じ一括した。

「あんたら! 少し煽られたくらいで切れんじゃないよ! 相手は一人なんだ! しっかり防御して武器を弾きな!」

『しかし、あの動きと落ち着き。本当にただ者じゃないね。なんというか、この状況に慣れている様な。一筋縄じゃ行きそうにないね。だったら…。』

「おい。」

「へ、へい。」

伊達に女でリーダーをやっているわけじゃないようだ。たった一言で周りのメンバーは落ち着きを取り戻し、機会をうかがう。そして一人のオレンジプレイヤーはロザリアから何かを聞いている。ここからじゃ聞こえない。

『こまったな。俺一人なら一気に叩き潰して逃げるんだが、シリカもいるし…。』

オキ一人ならこれくらいの状況はさほど問題にならない。ダーカー相手にするより断然ましだ。だが、今回はシリカがいる。どうするか。

「くらえ!」

「だから遅いって。」

一人の男がとびかかってきた。オキは振り下ろされた剣を避け、槍の柄を腹に突き刺す。刃の方ではなく柄の方なのでそんなにダメージは無いのだが、腹を一点集中で突かれた為に腹を押さえてのたうちまわる。だが男一人ではなかった。

「ばかめ! 俺もいるんだよ!」

そのすぐ後ろから別の男が腰を低くして突進してくる。どうやらオキの足を狙っているらしい。だが、それもオキには遅い。すぐさまオキは槍を男の頭に向かって振りおろし、叩きつけた。

「まだまだ!」

「しっつけえなおい!」

次々に襲ってくるオレンジプレイヤー。そんな時、違和感があった。オレンジのカーソルが付いたプレイヤーが7人しかいないのだ。そう先ほどのロザリアの近くにいたひとり。

『もう一人は…!? まさか!』

オキが後ろの壁を確認するのと、シリカとオキの間に消えたオレンジプレイヤーが降り立ち、シリカに抱き着き、後ろからシリカの喉元にナイフを突き立てたのが同時だった。

「きゃああ!」

「しまった!」

男は壁伝いに隠れてオキ達の裏に回ったのだ。

「へ、へへへ。これでどうしようもないだろう? こいつの命がほしければ、武器を地面に置きな! へ、へへへ…へ?」

「きゅるるる。」

男の顔面の前にピナが飛んでいた。そして口を開き…

「きゅるううううう!」

 

ごおおおぉぉぉ!

 

小さくもドラゴン種。男の顔面を焼くには十分すぎるブレスを吐き出した。

「ぐああああ!」

「ナイス! ピナ!」

オキは主人を守る為、ピナが男を焼いている隙にシリカの手を引いて再び壁と自分の間に挟んだ。今度は全員が分かる位置取りをして視野に入れる。

「大丈夫か!?」

「は、はい。ちょっと驚きましたけど、ピナが、オキさんが、助けて…くれたから…。」

顔は笑っているように見えるが、体は震えている。怖かったのだろう。一瞬でも喉に刃物を突き付けられたのだ。その恐怖は恐ろしいの一言では言い表せない。オキは後ろ手にシリカの頭を撫でて落ち着かせてやった。

「すまないな。守るべきモノを守れないなんて、失格だな。」

「いえ…そんなことは…。ありがとうございます。」

オキは一度目を閉じてロザリアたちの方にカッと目を開く。

「…ふざけやがって。」

オキは自分ではなく、シリカを狙った事に腹を立てた。そして守れなかった自分自身に。

「ふざけんじゃねーぞ。てめーらの相手は俺だろうが!」

オキは顔を焼かれ、髪の毛が焦げて地面を転がってる男の横腹を蹴って仰向けにした。

「ごはぁ!がっ!」

オキはそのまま皆が見える方向にころがし、男の胸の上に思いっきり足を乗せ抑える。

「な…なに…を。」

オキは完全に切れていた。地面に押し付けられている男は更に恐ろしい物を見る。オキの槍だ。頭を狙っている。そのあとに何をするのか明白だ。

「や、やめろ…やめ…!」

 

ドドドドド!

 

男の頭の周囲を当るか当らないかのスレスレで素早く突いた。そのスピードはロザリアたちには見えていなかった。もしすべてが男の頭を貫通していた場合、その男はHPバーが無くなり、その直後に外の世界では頭を高出力電磁波で焼き殺されていたところだろう。

男の目から涙がこぼれる。

「やめ…やめて…くれ…たの…む。」

男は初めて死ぬと思った。それは冗談ではなく本気で。オキの顔は相変わらず先ほどの温厚な顔ではなく、怒りに満ちた恐ろしい顔になっている。

「死にたい奴…。」

「…何?」

オキがボソリとつぶやく。ロザリアたちには聞こえなかった。

「死にたい奴から、かかってこい!」

オキは泣きべそをかき、完全に戦意喪失している男をロザリアの方へと蹴って転がした。

「う…、うわぁぁぁぁぁ!」

一人のオレンジプレイヤーがオキに武器を振りおろし掛けてくる。オキはその武器を簡単に弾き返し、男の両膝に槍を突き立てる。

「ぐあぁぁぁ!」

男は立てなくなり、そのまま膝をつく。そこへすかさずオキは槍を振り回し、男の顔面に槍の柄をたたきつけた。まさに野球だ。

「っが!?」

男はそのままきれいに回転、地面に後頭部をぶつけた。HPバーは赤色まで減っている。このままでは死んでしまう。周囲のメンバーはそう思った。

「てめぇ! 殺す気か!」

オキはゆっくりと動き、槍を地面に突き立てる。

「あ? おめーら、ふざけてんのか? 人を騙し、傷つけ、襲い、物を奪う。そんなことをしてきた犯罪者が殺す気だぁ? 舐めてんじゃねーぞこら!」

オキの声はビリビリとロザリアたちに響く。

『一体…なんだんだ!? この男は! このあたしが…動けない!?』

あまりの迫力と威圧感にロザリアたちはその場を動けなかった。

「てめぇら。人を傷つける事をする以上、てめーが殺される覚悟がねーならこんなアホなことやってんじゃねーよ。バァータレが。」

ゆっくりと近づいてくるオキに対し、全く動けないオレンジプレイヤー達。オキは顔を抑えうずくまる男に近づいた。オキは槍を振り上げる。

「ぐうう…う? な、何を…やめ、やめてくれ!」

「…。」

振り下ろそうとした時だ。オキの後ろからシリカが抱き着き、それを止めた。

「オキさん!もう、もういいです! ほんとに死んじゃいます!」

「シリカ…。だがこいつらはお前を…。」

シリカは更にギュっと抱きしめる。

「いいんです。オキさんまで、オキさんまで犯罪者になってはだめです!」

オキはその言葉を聞き、這い蹲って命乞いをしている男を見る。

「…くっ!」

 

ドス!

 

槍は男の体をかすめて地面に刺さる。それにより腰が抜けた男は四つん這いでロザリアたちの方へと逃げて行った。

「く、いったん逃げるしかないか。」

ロザリアはオキの戦力を考えれば、下手をすれば自分の命も危うい。オキの強さが予想以上に強かった。いや、強すぎた。もしシリカがおらず、オキだけであれば混戦状態に持ち越され、自分も躊躇なく切られていただろう。

逃げようと後ろを向いた時だ。後ろの道はいつの間にか見知らぬプレイヤー達で埋まっていた。10名、いやまだいる。

「どこへ行こうというのかな?」

「だ、誰だ!」

「俺らはギルド連合アーク’sだ!!」

「オキ君! 大丈夫か!?」

ディアベルとアインスを筆頭に、オキが呼んだ助けがようやく来たらしい。

森を抜ける最中にオキは彼女らが犯罪者、オレンジプレイヤーだと気づきアインス達に連絡を入れていた。

「おせーぞおめーら。ったく。」

オキはシリカを抱きしめ、その場に座り込んだ。

「アーク’sって。あの攻略組の!?」

「その通りだ。ようやく気付いたのか。バータレが。」

振えるシリカの肩を撫で、落ち着かせるオキ。

「君たちの情報は聞いている。オレンジギルド「タイタンズハンド」。フィールドや迷宮区を探索するパーティに混ざっては手頃な獲物を物色し、誘い出してオレンジプレイヤーの部下に狩らせるという手口で、強盗や殺人といった様々な犯罪行為を犯しているという。そしてそのリーダー。ロザリア。」

「っく!」

ロザリアは何とか抜け出そうと模索するがこの人数では抜け出せない。それ以前に、攻略組の最強を誇ると言われるギルド連合『アーク’s』に目を付けられたのだ。逃げきれても、隠れるほかない。

「やはり人を殺していたか。手口が慣れていると思ったよ。だがワリィな。越えてきた屍と場数、修羅場の桁がちげーんだよ。」

シリカの手をしっかり握り、自分の体で守りながらロザリアに近づくオキ。

「…そうか。そういう事か。イレギュラーズ。あんたがその一人だったんだな。納得したよ。降参だ。投降するよ。」

ロザリアはその場に座る様にメンバーに指示し、自分も手を上げて座り込んだ。

「隊長。」

「ああ。持ってきている。」

オキはアインスにあるモノを持ってくるように指示していた。

「こいつを使え。君たちは犯してはならない事をした。罪は償ってもらうぞ。」

アインスはロザリア達にむかって一つの結晶を投げる。

「回廊結晶…。」

回廊結晶。よくプレイヤー達が使う転移結晶は各層にある転移門に一人だけ転移させるが、回廊結晶は指定した位置を結晶に登録し、多人数を登録した位置へ瞬時に移動させるアイテムだ。

だが、転移結晶より値段が高く、簡単に手に入るモノでもない。ギルド連合でオレンジプレイヤーを黒棺宮の中にある犯罪者用の牢屋にどうやって送りつけるかを相談した結果、これに行き着いた。

オキ達は最前線で攻略している為、資金については特に問題なく、難なく手に入れることができる為、こうして使用している。

「黒鉄宮を登録してある。よく外の景色を見ておくんだな。ゲームクリアするまで、見る事はないぞ。」

「そうかい…。」

一度牢屋に入ってしまうと外に出ることはできない。本来はゲーム運営者がある一定期間を超えると出すようにするのだが、現状ではそれが出来ない為ゲームクリアするまで牢屋へ入ったオレンジプレイヤーは出ることができない。逆にグリーンプレイヤーは出入りが自由に効くらしい。

現在は黒鉄宮をギルド拠点にしている『アインクラッド解放軍』の長であるディアベルが管理している。ロザリアは回廊結晶を拾いオキに向いた。

「あんた、その子しっかり守りなよ。」

「わーってるよ。おめーらみたいのがいないのならもっと楽なんだけどな。」

「…増えるぞ。今後、まだ私たちのような者がな。ま、頑張りな。」

ロザリオは自分のギルドメンバー全員を回廊結晶で移動した。

オキはそれを確認するとその場に座り込んだ。

「ふぃ…。まったく困ったもんだ。」

「オキ君大丈夫かい?」

アインスが心配そうにこちらをみた。

「大丈夫。シリカは…。」

「私は大丈夫です…。その、ずっとオキさんが手を握ってくれてましたから。」

顔を真っ赤にしながら握られている手を見ている。オキもそれに気づき、すぐに手を離した。

「あ、えっと。わりぃ。」

「いえ、大丈夫…です。」

双方黙ってしまう。アインスはそれをみて笑っていた。

「はっはっは。仲がいいのは良いことだ。オキ君、いいところ悪いが後で少し今後の話をした方がいいかもな。」

「ああ。あいつの言ってたことは間違いないだろう。っち。またアークスの時と同じ様に騙し合い傷つけ合いが始まるのか。勘弁だぜ。」

二人はその場で上を向き黙った。森の木々から見える夜空がチラチラを顔を覗かせていた。

 




ペース上げようと思ったら急遽デカい仕事が入って結局同じ位かかってしまった…。しかも長いし。
初のオレンジプレイヤーとの接触ですよ。多対一の状況でも戦う事が多いアークスには問題はなかった。まぁ調子乗ってシリカを危険にさらしたり、それに対して切れるところはやはり人という事で。
今回のタイタンズハンドは本来もっと上の階層にある迷いの森をベースにして改変しました。今後もあちこち都合がいい様に改変していきますのでご了承ください。
さて、そろそろ25層のクォーターポイントです。ここでは物語の謎が更に追加されます。
次回も生暖かく見てくださいね。


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第10話 「闘争」

キリト:1層から一緒にいるプレイヤー。オキが追っている事件の中心人物の一人。ゲームの知識だけでなくシステム、プログラムの知識が強い。また瞬発力が抜群に高く、適応能力も高いため、オキ達のアークスとしての戦力差を着実に埋めてきている。最近では1層の時からペアを組んでいるアスナといい感じの雰囲気になっている(アルゴ情報)
今作では原作と違い、コミュ力があり、明るい性格。ただし『強くなりたい』という気持ちはそのままでアークス各位から戦い方を学ぶ日々。イレギュラーズの除けば現状『オラクル騎士団』のプレイヤーで一番の強さ。



25層、攻略組最前線拠点。宿の一室を使い、ギルドのマスター達がそろっていた。

『オラクル騎士団』マスター、オキと助言担当としてキリト。

『怪物兵団』マスター、アインス

『アインクラッド解放軍』マスター、ディアベル

『風林火山』マスター、クライン

普段は4つのギルドから成るギルド連合『アーク’s』メンバーでエリアボスの攻略をやってきた。理由はオキら『イレギュラーズ』による攻略の進みが早く、他のギルド達のレベル追いついてこないからだ。おかげで24層攻略まではオキ達の独壇場だった。

だが、今回は違う。25層、50層、75層と100層あるうちのクォーターポイントと呼ばれる特殊ポイント。

そこにいるエリアボスは通常のエリアボスとは違い、普段の何倍もの強さを誇ると言われている。

また、ボスの情報を得るためのクエストも通常の階層よりも多く、その分多くの情報が手に入る。

ボスの強さがどこまで強いか分からない以上、オキ達も下手に手出しができない。その為、前線にいる他のギルドの力も借りる事にし、今回の会議を開いた。

「では、各位ご参集感謝する。攻略会議を始める。」

ディアベルの挨拶から始まり、オキ達が持っている情報を全てその場にいる全員に展開した。

『血盟騎士団』マスター、ヒースクリフ。『ドラゴンナイツ・ブリゲード』マスター、リンド。

前線で現在勢力を持っているのはこの二つのギルドだ。ヒースクリフは10層まで一緒に戦い、11層以降は自分でギルドを作成している。リンドはオキ達より出遅れて前線に出てきたが、最近になって少しずつ勢力を拡大し、時々フィールドで出会っては共に戦っている。リンドが『騎士道』を重点に置いて活動している為か、ギルドメンバー全員が礼儀正しく、女性プレイヤー達からは『紳士ギルド』と別名で呼ばれているらしい。リンド本人がディアベルとかなり仲がいいらしく、25層での戦いで問題が無ければオキ達は連合に加えようかと話をしていた。

反面、ヒースクリフの『血盟騎士団』の方はヒースクリフがマスターにもかかわらず、ギルドの運営に手をほとんど出さずに、副団長である人物に丸投げしているようだ。副団長も定期的に変わっているらしく、ギルド内部で派閥が生まれており、定期的に副団長の座を巡って争いが絶えないらしい。

戦力自体は『ドラゴンナイツ・ブリゲード』以上なのだが、あまりいい噂を聞かない。

「ふむ…。なるほど。」

「今回は人型なのか。」

手に入れた情報では要約すると、人型で使用する武器は大剣。広い範囲を攻撃を行ってくる。

また、武器は破壊できるらしい。だが、素手での攻撃をしてくるという情報もあり最近発見されたSS、『拳スキル』を使用してくる可能性がでかい。

「人型という事だが、スケやゴブのようなモノか?」

オキがキリトに聞く。オキは今まで人型のエネミーはスケルトンやゴブリン等の獣人等しか見たことが無い。その為、人型と言われるとそっちをイメージする。

「どうだろうな。今回ばかりは今までの常識が通用しないかもしれない。まぁ、ドラゴン種とかの化け物じゃないようだから盾役もそこまで必要ないかもね。」

「となるとうちはそこまで人数は出さない方向か?」

リンドがギルドの戦えるメンバーを確認しながら聞いてくる。最近では彼のギルドメンバーが主に盾役として活躍している。

「ふむ。とはいえ、後衛の防御も必要だしまた頼める?」

「了解。いける奴を選抜して出すことにするよ。」

オキの頼みを快く受けてくれた。ありがたい。

「私の所からはどうする? アークス諸君」

ヒースクリフも聞いてきた。彼はギルド運営には無関心だがボスクラスになると話は別だ。彼の実力は計り知れない程で苦戦した所を見たことが無い。

「そうっすね。ヒースクリフのおっちゃんと、中距離で遊撃できる人を数名出してください。前衛は足りてるんで。」

「了解した。」

オキの申し出を受け、ヒースクリフはすぐさまコンソールをいじり始めた。たぶん副団長に連絡しているのだろう。

「うちからは安定のイレギュラーズ4人とキリアスペア。それと前衛と後衛で数名ずつかな。あと最近入ってきたセンターも今回から導入する。あいつの戦力は即戦力になる。」

センター。24層攻略時にオキと出会った男性のプレイヤーで何故か不思議なお面を付けており、初見時にオキが大爆笑した結果仲良くなりそのままオキのギルドに加入した。

「ああ、あのモアイの…。確かに強いのは否定しないが、あのお面は戦いの最中外さないのかい?」

「あれが自分のアイデンティティだと。」

ディアベルはオキの発言に頭を抱える。どうやらセンターのつけているお面の名前はモアイらしい。聞くところによるとスレア星のある島に大量に置かれている古代文明の遺産だとか。

「まぁ強いのは確かだよ。アークスなら日常だったしな。ああいう輩は。」

「あれで日常なのか…。アークスってなんなんだ?」

アインスも太鼓判をおす。アークスだから仕方がないと言い張るオキとアインス。

各ギルドから出す戦力を把握し、それぞれのPT分けが終わる。

「こんなもんか?」 

「だな。バランスは良いと思うが。」

クラインとオキが再度確認する。皆がそれに賛成した。

「うむ。問題はないだろう。今回はいつも以上に入念に戦力を整えたのだから。」

「アインスの言うとおりだが、クォーターポイントだ。油断せずにいこう。」

「しかし、ディアベル。肩の力は入れすぎるなよ。守りは任せろ。うちのカチ勢がしっかり攻撃を止めてやる。」

ギルドマスター達はそれぞれの思いを口にだし笑い出す。準備は必要だが、力を入れすぎてもダメになる。丁度いい加減が必要だ。

「そういえば、オキ君の所のハヤマ君がカタナを入手したと聞いたが?」

ディアベルが聞いてきた。

「ああ、俺と一緒にこの間、手に入れた。ラグオルのカタナみたいでな。手になじむ。」

アインスが腰につけた刀を見せる。2人して先日曲刀のスキル熟練度が振り切り、ようやくカタナを手にすることができたのだ。その時の二人は普段見せないような満面の笑みとようやく戻ってきた相棒と再会したような感覚に合ったらしい。

「ラグオルか。そういや、あの時は危なかったねぇ。隊長との初遭遇。」

アインスはラグオルというオラクル船団とは別の船団の出身だ。ある日にオキ、ハヤマ、コマチでナベリウスで任務中にニャウという超時空エネミーと呼ばれる特殊なエネミーと遭遇。普段なら大型エネミーを呼び出す奴なんだが、何故かそこに呼び出されたのはアインスで危なく切りかかるところだった。帰れる手段が見つからず、そのままオラクル船団のアークスとして活動している。

「いいよなー。俺なんかまだ曲刀のスキル取りきれてないからなぁ。」

クラインがそれを見ながらうらやむ。

「クライン君も、もう少しだろう? 頑張るといい。」

「ハヤマさんやアインスさんの戦ってる量とクラインの量は違うからな。差がでても仕方ないだろ。」

キリトの言う通りでアークスの疲れ知らずはこのSAOでも発揮していた。

「まぁまぁ。とにかく今回は戦力は十二分にある。なんとかなんべ。」

「十分はわかるとして、残り2はどこにあるか説明を貰いたいな。」

ヒースクリフがオキの言葉に疑問を持ってきた。

「2はハヤマんと隊長のカタナ復帰。この二人はアークス時はカタナメインだったからね。強いってもんじゃない。その動きもこのSAO内である程度再現できる事は実証できてるしね。今回の鍵はこの二人だ。」

「ははは。そういわれると、期待に応えないとね。」

「ふむ…。まぁそういう事にしておこう。さて今日はこれでいいかな? 私は先に上がらせてもらうよ。」

納得したのかヒースクリフは立ち上がり先に部屋を出て行った。

「ふぃ…。なんとかなればいいな。あ、そういえば。キリの字。」

クラインが何か思い出したようにキリトに話を振った。

「ん? どうした?」

「最近、アスナさんといい関係らしいじゃねーか。ちょっとは報告しろよ。」

「う…ノ、ノーコメントで…。」

キリトが逃げようと部屋の出口にオキが陣取る。

「に・が・さ・な・い。」

ニッコリと笑うオキ。後ろからはクラインが手をワキワキしながら迫ってくる。その場にいたその他のメンバーは全員でキリトに対して合掌した。

その日、結局キリトが解放されたのは現状の中々進まないアスナとの進展についてクラインが入れ知恵をし、オキはキリトにしっかりお返しと言わんばかりにシリカとの現状を暴露させられた。

25層迷宮区、エリアボス部屋扉前。

「ふー…。」

「ふぃ~…。」

廊下の隅でタバコを吸う喫煙者たち。今ではエリアボス攻略前の恒例行事である。

「オキさーん。今回楽にいけますかねぇ。」

センターが吸殻を消しながら聞いてきた。

「うーん。どうだろうな。今回は初のクォータポイント。何がどう出てくるか予想がつかん。」

「とにかく、油断、禁物。」

オールドも普段は落ち着いているが、今回ばかりは気が立っているようだ。周りを見ても同様だ。

「よし。全員吸い終わったな。おーい。こっちは準備オーケーだ。何時でも行けるぜ。」

「了解。では諸君。初のクォーターポイントだ。今までイレギュラーズのおかげもありボス攻略時には犠牲者は一人も出ていない。だが、今回ばかりはそうもいかないかもしれない。」

ディアベルの一言は重かった。だが、余計に気合がはいる。

「だからこそ、いつも以上に気合を入れろ! 無茶はするな! それでいて余裕を持て!なにせ俺たちには戦いの神様がついている!」

「「「おぉー!」」」

プレイヤー達の士気が上がる。アークス達は苦笑気味だが。

「神様…ねぇ。」

「ま、この星の人からすればお空の上に位置するからね。言いえて妙か?」

ハヤマとコマチは武器を取り出し集中に入る。だが、肩に余計な力が入っていない。

「まるで、初の防衛戦を思い出すな。」

「ああ。あの時は悲惨だったな。」

「いろんないみでなのかー。」

「おめーら…そろそろはじめっぞ。」

アークスメンバーはかつての戦場を思い出し、気合を入れる。そしてディアベルが締める。

「必ず、生きて帰るぞ!」

「「「おお!」」」

扉が重い音を立てて開く。

「ハヤマんと隊長は一番前へ。コマッチーはその後ろについて。ミケと俺は更に後ろへ。それ以外の前線メンバーはボスが出て着次第側面と後方へ回り込め。」

ハヤマ、アインス、コマチが前線に立ち、オキ、ミケ、サラとプレイヤー達の順で部屋へと入っていく。いつもの布陣だ。

「…なにか、いる。どこだ。」

コマチはその殺気立つ主を探した。

全員が部屋へと入り切った瞬間、入口の扉が閉まりボスが出てくる。だが今までと違った。

「…ようこそ人の子らよ。我ら同胞をよくぞ打ち破ってきたな。だが、ここからは私が相手だ。」

部屋の真ん中、空中に奇妙な渦が見える。声はそこから聞こえてきた。そして渦から出てきたその姿は、アークス達なら何度もみた姿の『化け物』だった。

「さぁ、始めるぞ! 猛き闘争をな!」

そのセリフを吐き、禍々しいオーラを発しながら立つ『化け物』に皆は純粋な恐怖を覚えた。

赤黒く光る人間の2倍はあるかと思われる巨体。ガッシリとした体。背中には曲がった大剣と思われる物。今までにないオーラを放っていた。

「…おーお。今までにないほどの禍々しさだねぇ。」

「やはり、クォーターポイントは伊達じゃないという事か…。名前は『ザ・ファルス・ヒューナル』。全て頭文字が大文字か…。」

頭文字が大文字で頭に『The』がついている。これは今までにない強さを誇る事を意味する。これは最近になって気づいたことだが、頭文字が大文字になっていればいる程、『The』のつく部分が頭になっていればいる程強くなる法則がある。

「だが、エネミーがしゃべったのは初めてだな。こいつ、別のAIが組み込まれてそうだな…。」

プレイヤー達は構える。何時でも攻撃をかわせるように。だが、そんなことをお構いなしにオキはそのエネミーに叫んだ。

「なぜ…。なぜここにいる! 【巨躯】(エルダー)!!!」

プレイヤー達は今までにないほどの声で叫ぶオキに驚き、アークス達が恐ろしい形相で睨みつけていたことに気づく。

オキ、ハヤマ、コマチはもちろん普段温厚なアインスは睨み付け、ミケですら尻尾を逆立てて威嚇している。

「エ、エルダー!? なんだそれ。」

クラインがサラに聞いた。

「エルダー、巨躯とも言うわ。私達アークスの最大の敵であり殲滅する対象であるダーカーの親玉、ダークファルスの一つよ。それの人型形態。とはいっても人間の倍は大きいけどね。その本体も途轍もなくデカくて…初めて見たときの大きさは星の半分はあったわね。間違いないわ。あの姿、背中にある曲がった剣。そして何よりこの威圧感。なんで? ここにはダーカーなんていないはずでしょ!?」

プレイヤー達は構えを崩さずじっと動かないヒューナルを見た。そしてその時にたった一人、サラの説明を聞いて眉を動かしヒューナルではなくアークス達を見るプレイヤーがいたことに誰も気づいていなかった。

「我の名は、エルダーではない。間違いではなかろうな? 我はここに住むすべてを統べるモノ。『ファルス・ヒューナル』。さぁ人の子よ。始めようではないか! 闘争を!」

「くそ…! ハヤマ! コマチ! 隊長! つっこめ!ミケ、サラはプレイヤー達の援護! すまんが、ディアベル。暫くイレギュラーズに場を貸してくれないか?」

「…了承した。皆もそれでいいな?」

全員が頷く。あのオキが今まで見せた事のない顔をしている。これは従った方がいい。全員がそう感じた。

オキはそれを確認したのちに全速力でボスへと向かった。

「オオオォォォ!」

叫びつつ構えるヒューナル。オキはそれに向かいながら敵のゲージを確認した。

『3本。ここにきてようやく増えたか。まずはゲージ1本削って様子を見よう。もし、もし俺の知ってるヒューナルと同じ動きならば。予想と対策が打てる!』

オキ達が戦った『ダーク・ファルス【巨躯】』の人型形態『ファルス・ヒューナル』と同じ行動をするのであれば、それを指示して倒すことができるからだ。

『問題はなぜ奴がここに? いや、俺たちを知らない? しかも人の子って言ったな。あいつなら、アークスというはずだ。一体なぜ…。』

疑問に思いながらも巨大な拳を振り上げ立ち向かってくる『ファルス・ヒューナル』とアークスの戦いが始まった。




皆様お疲れ様です。
今回は前後編の2つに分けました。前回長かったので、もう少し短くしようかと…。
さて、今回出てきたファルス・ヒューナル。PSO2では物語の中心のエネミーです。
なんでこんなところにいるんでしょうかね。アークスの知っている【巨躯】とは違うようですが。
また、今回から出てきたリンド。本来彼と彼のギルドは原作では「最強」を目指すために手段を選ばないあまりいいとは言えないギルドだったのですが、今作では紳士なギルドとして登場です。今後の彼の紳士振りに期待ですね。
ではまた次回にお会いしましょう。


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第11話 「ファルス・ヒューナル」

ダークファルス【巨躯】(エルダー)

ダークファルスとはアークスの「敵」に位置するダーカーたちの長。本体は赤黒い粒子とされ、他者の肉体に憑依することで姿を現す。 その正体は、フォトナーが堕落の果てに生み出した「深遠なる闇」の残滓から生まれた存在。ダーカーもこの残滓であり、深遠なる闇が倒されない限り無限に出現し続ける。
【巨躯】は40年程前に惑星ナベリウスでアークスのレギアスを初めとする三英雄と決戦。、結果倒せない事が分かり遺跡エリアの最奥にある場所に封印された超巨大なダークファルス。惑星ナベリウスの凍土エリアの万年雪景色はその時の影響で【巨躯】の力が計れる。
1年前に起きた「【巨躯】復活事件」でアークスの一人であるゲッテムハルトという男により封印が解かれ彼の体を乗っ取り完全に復活。力を取り戻した【巨躯】は、星の半分以上の大きさとなり宇宙へと消えていく。
ダークファルスとしての宇宙の支配よりも、アークスたちとの滾る闘争を好むなど好戦的な性格。しかし、戦う意思のない者に対しては見逃す所もある。
自分と幾度も激突しているオキ達を良き宿敵と意識している。人型形態として戦う場合は『ファルス・ヒューナル』という名になる。


『よもや終わりではあるまい。』

ヒューナルの野太い声がボス部屋に響き渡り、自分の拳同士をぶつけ合い、直後にオキに対して一気に近寄り振り下ろした赤黒い光を放つ拳が床を揺るがす。

オキ達は大人の2倍はあるだろう大きさのヒューナルの周囲を囲み、振られる拳を避けながら攻撃を入れていた。

「はあああ!」

飛びあがったハヤマのカタナが上空からヒューナルの体を切り裂き、そのまま上へと往復する。だが、その硬さは尋常ではなく余り攻撃が入らない。

「くっそ、硬すぎんだよ!」

「だな。しかし懐かしく思うなその動き。ゲッカザクロか。ならば私も。」

アークスが使うPA【フォトンアーツ】。フォトンという自然のエネルギーを体内に集め、武器を媒介にして放つ技。フォトンを使わなくても動きだけなら再現ができる。アインスが放つ動きは《サクラエンド》。居合抜きから左右に大きく、且つ素早く切り裂く。

SAOのカタナはアークスの使うカタナと違う部分がある。

アークスのカタナは抜刀を重点にしており、フォトンをためることでより広範囲に攻撃が繰り出される。SAOでは抜刀とは違い、スピードよりも力を重視し、両手での使用を行わなければならない。

だが、ハヤマ達にとっては関係ない事。なぜならアークスのカタナも似たような大きさだ。扱いは慣れている。またアインスに至ってはオラクルよりも前にいたラグオルの動きも再現し、攻撃に加える。

大きくジャンプしたヒューナルはそのまま蹴り下ろしてくるが、バックステップで回避したコマチはすぐさま近寄り持っている大剣で斜め上から切り下す。

「おい、ヒューナル。ペインよこせ。」

「あんたもってるでしょーが!」

ハヤマが突っ込む。

「だってあれ金策になるもの。」

「やっかましい! 戦えおめーら!」

「「へいへーい。」」

ペイン。ヒューナルとの戦闘後に極稀にヒューナルの剣の破片が見つかる事がある。素材をアークスが使用できるように改造したソードに埋め込むことで、『エルダーペイン』というソードができる。真の力、潜在能力を解放すれば切りつけた相手の体力を奪い、それをフォトンとして変換。自分の体力として奪う事が出来る。別名『奪命剣』とも言われている。そして作ったソードを他のアークスに売る事ができる。現在ではかなり高額な値段で取引されており、アークス業を行う為に必要不可欠なお金『メセタ』を一回で多額取得できる。

オキから怒られたハヤマとコマチは再びヒューナルの側面に回る。HPはそろそろ1ゲージを切るところだ。

「そろそろゲージが無くなるな。流石に俺たちだけじゃ時間かかるが、ここからの形態変化でこいつの動きが分かるだろう。」

「うむ。ハヤマ君、コマチ君、オキ君、削りきれ。」

アインスの号令で一斉に切りかかる3人。1本目のHPゲージが無くなった。

「よし! ゲージが無くなったぞ!」

ボス部屋の敵からの攻撃が来ない安全な端で様子を見ていたディアベル達からもやんややんやと声が上がる。

そしてヒューナルの形態変化が始まる。

『ぐう!  …オオオオオオ! 応えよ深淵!』

力を貯め、体から赤黒いオーラが一気に立ち上る。そして両腕を振り上げる。

「やはりこうくるか!」

「ビックバンインパクトか! 避けろ!」

オキとハヤマが声をはる。

『我が力に!』

 

ドォン!

 

振り上げきった両腕を一気に地面へと叩きつけるヒューナル。衝撃破は壁付近にいたディアベル達にも届き、床を揺らす。

叩きつけた直後に反時計まわりに赤黒いオーラが地面を這い、オキ達に襲い掛かる。

「見飽きたよ! その技は!」

「本来ここのプレイヤー達は初見のはずなんだけどねー…。」

「チートもいいところだな。やっぱり。」

オキ、ハヤマ、コマチは這い回るオーラを同じく反時計に避けつつ、ヒューナルから離れる。

「コマッチー、はやまんはそのまま続きを! 隊長! ディアベルに奴の動きを教えてあげて! プレイヤー側! 動くぞ! 準備しろ!」

「了解。」

「まってました!」

オキの合図と共にオキはヒューナルへ駆け出し、アインスはディアベルにこれ以降の動きを説明に向かう。

ヒューナルは背中に背負っていた巨大な曲剣を取り出している所だった。

『遊びの由は幾百も…。』

ヒューナルはハヤマに狙いをつけ、巨大な剣を振り回す。

「いいかい、ディアベル君。奴の攻撃は大剣、そのあと予想される形態変化は剣が壊れた後にまた素手で殴ってくるが先ほどの攻撃を何度かやってくる可能性がある。また、スピードも上がっているだろう。」

「なるほど。あの剣壊れるのか。」

オキ達がヒューナルの相手をしている間にアインスがディアベル達にヒューナルの動きを教える。

「大剣と言ってもスピードは片手剣並みのスピードだと思っていい。また、剣は刃が伸びる。必ずガードしろ。それ以外は普通のエネミーと変わらん。」

「なるほど。聞いたな皆! イレギュラーズに負けないよう頑張るぞ!」

「「「おおおーー!」」」

自分の武器を掲げ、プレイヤー達も参戦していく。

「さて、俺も切るか。」

アインスもニヤリと微笑を浮かべながらヒューナルへと向かって行った。

『無為!』

「振り回しだ! ガードしろ!」

ヒューナルが剣にオーラを乗せ、振り回してくる。それを盾役であるプレイヤー達がしっかりと盾でガードで止めた。

『愚鈍!』

「くっそ…なんてパワーだ。」

「負けるな! 弱音を吐くな! 強気で行けば必ず勝てる!」

「重いなぁもう!」

3人掛りでようやく剣を弾き返しヒューナルが体勢を崩す。

「いまだ! 切りかかれ!」

ディアベルの号令で前線で火力役であるプレイヤー達が崩れきったヒューナルへとSSを放つ。隙が少ない動きをするヒューナルにはスキル発動後、硬直してしまうスキルストップ時間の長い大技は危険だ。ストップしている間に攻撃を喰らいかねない。

だからこそ攻撃力の低い技を出すしかないが、この人数での一斉攻撃だ。かなりの火力になる。

『脆弱!』

だが、ヒューナルは効いてないかのようにオーラを発し、それ自体に攻撃判定があったのか逃げ遅れた周囲のプレイヤー達が吹き飛ぶ。

「ぐぁぁぁ!」

「くっそ・・・。」

すぐさま後衛部隊が所持していたポーションを攻撃を喰らい、戦線を離脱してきたメンバーに渡す。

「ったく戦闘バカは相変わらずか。」

「オキさんも人の事言えないでしょ。バトルマニアさん?」

「ハヤマんにも言われたくないね。カタナバカ。」

オキ達は攻撃範囲外へ下がるプレイヤー達と交代し、再びヘイトを取る為攻撃を加える。

「ウラーナノダー!」

ミケも短剣のSS『クロス・エッジ』をヒューナルにガッツリと切り刻む。

HPは残り半分を切り、すでにわずかだ。

「やはり人数がいると減りも早いな。」

「いやいや、イレギュラーズがいたからこそ効率よく、且つ安全に攻撃ができる。感謝してるよ。」

ディアベルとアインスの指揮陣営も皆の指揮を執りながらしっかりと攻撃を加える。

『オォォォォ!』

「今度はオバエンか! 左右上下への攻撃往復! 来るぞ!」

オキは攻撃を回避しながら前衛に出ていたプレイヤーへ退避を指示する。

ヒューナルの剣は赤黒いオーラを纏ながら左右、上下の往復の攻撃をしてくるが、対応の早かったプレイヤー側はすぐさま攻撃範囲外に逃げており、最後の上からの攻撃をしっかりと盾役が防御する。

「ぐ! …今だ!」

「あいよお。」

盾役が剣を抑えた瞬間にコマチの横大振りの大剣SSがヒューナルの剣に向かって炸裂。その瞬間に剣の刃が砕け空中を飛んだ。

「よし! 後1ゲージだ!」

「ビックバンインパクトに注意しながら攻撃、つづけ。」

オキが叫び、アインスはそのまま攻撃の続行を指示、今の所問題なく攻略が出来ている。

『ぐう…オオオオオオ!』

壊れた剣を収めたヒューナルは拳に赤黒いオーラを乗せながら先ほどよりも早いスピードでハヤマに襲い掛かる。

だが、しっかり構えたハヤマにはそれは通じない。前方への右振り下ろしを横ステップでかわし、左アッパーを再びステップで避け、ヒューナルの懐に入る。

「行くぜ、フルボッコ!」

再度繰り出そうとした右腕をカタナで弾き、体勢を崩したハヤマはカタナを握り直し、その場ジャンプから下へ切り下しそのまま上へ切り返す。アークスのPA《ゲッカザクロ》。また上へ切ったと思ったらそのままの勢いでジャンプ、素早く下へ切りおろし、また上へ切り上げる。

「おおおおおお!」

『グ…ウウウ…。』

「お、ゲッカザクロの動きを利用し無限に切り刻むゲッカループ。久しぶりにハヤマ君のループを見た気がする。」

通称《ゲッカループ》。あるアークスが使用していたのを見たハヤマが使い出し、オキ達に広めたカタナの特殊な使用方法。

その動きが早ければ早い程攻撃力は比例して伸びる。ハヤマはオキ達の中では一番動きが早い。

ヒューナルは怯みから解除され、素早くハヤマを狙い攻撃を加えようとする。だが、盾役のプレイヤー達に阻まれ、がっちりと防御された。

『浅薄!』

「隙だらけよ。いくよ、キリト君。」

「了解!」

背中にアスナとキリトが自分の持っている最大攻撃を持つSSを放つ。

「よっしゃ! 俺らもフルボッコいくぜ!」

「「「おおお!」」」

ダメージが蓄積したヒューナルはまともな攻撃もできず、その場に膝を付く。その隙をついてオキを初めとするその他プレイヤー達が全力で攻撃を加えた。

『グゥ…オオオオ! 応えよ深淵!』

怯んだヒューナルは先ほどと同じく再び赤黒いオーラを体から放ち、腕を振り上げる。

「逃げて! みんな!」

アスナが叫び全員が壁へと走る。イレギュラーズを除いて。

『我が力に!』

 

ドォン!

 

再び床が揺れる程の力を振りおろし、ビックバンインパクトを放つ。だが、イレギュラーズはそれを軽く避け、攻撃後の隙を勝機とみた。

「いくぜ!」

「フルボッコ!」

オキとハヤマが叫び、足の速いミケ、コマチが初めにSS攻撃を加える。続いてオキ、ハヤマの順に止めを刺した。

HPバーから赤色のゲージが消え、完全にHPが消え去った。ヒューナルは膝を付きすぐさま空中へと浮く。

『良き、闘争であったぞ…。』

赤黒い粒子の中に消えていくヒューナル。そしてボス討伐完了のテロップが空中に現れた。

「…おわり、か?」

「え? 終わり?」

今までにない終わり方でプレイヤー達だけでなくオキ達も困惑する。

「だが、テロップは出ている。終わりなのだろう。」

ヒースクリフが剣を鞘に戻しながらいう。確かにその通りだ。

「…勝った!」

「いよっし!」

周囲ではプレイヤー達がそれを聞き、声が上がる。初のクォーターポイントにして特に問題という問題もなくクリアできたのだ。

「あ、ラストアタックボーナスはハヤマんだ。」

「まじかよ。えっと…ラッキーカタナだ。」

オキがラアストアタックの表示を確認し、ハヤマだと気づく。ハヤマは自分のアイテム欄に一本のカタナが追加されている事を確認した。

「なんだ、ヤシャか?」

「ぅんなわけあるか! …多々良長幸?」

コマチの言葉にツッコミを入れ、名前を確認するハヤマ。『ヤシャ』とはアークスの中でも名高い四本のうちの一本の刀だ。

これもヒューナルから偶然落とされた破片からアークス仕様に改造された特殊な一本のカタナだ。

「おめでとう。ラストアタックボーナスで手に入ったモノはレア度が高い。それでいてクォーターポイントで手に入ったのだ。大切にするといい。」

ディアベルが祝いの言葉とモノの説明を入れる。今まで、イレギュラーズがラストアタックボーナスを意図的にプレイヤー達に回し、戦力を強化してきた。よって今回初めてイレギュラーズが手にしたのである。

「さって、何とか乗り切ったな。まぁいろいろ思うところはあるだろうが、とにかく…突破おめでとう!」

ディアベルが締め、歓声が上がる。プレイヤー達は開いた上への扉を全力疾走で昇っていく。

イレギュラーズはゆっくりとその後ろを昇って行った。

 

 

26層の拠点。その日の夜は町中で突破記念の祭りがプレイヤー達で行われていた。

アークス達の数名はその祭りに挙って参加していたが、オキは1人宿の一室で街を眺めていた。

「珍しいね。祭好きのオキ君が祭りに参加しないのは。」

「…隊長か。」

アインスがオキの部屋へと入ってきた。手には飲み物と料理の乗せられた皿を持っていた。

「聞いたらずっと部屋に籠っていたそうじゃないか。どうだい? それとこの子も一緒に。」

「…シリカ?」

「あ、あはは…。なんだかずっと籠っていましたので声かけていいのかなーって。」

扉の陰からシリカが現れた。

「扉の前にいたんだがね。何時からいたかは知らないが。さぁみんなで食べようじゃないか。」

「…いただこうか。ほら、シリカもおいで。」

「は、はい!」

嬉しそうに部屋へと入るシリカに笑顔になるオキは座っていた窓際から立ち上がり、テーブルの上に置かれた飲み物を一気に飲み干した。

「…考えていたのは、ヒューナルの事かい?」

「んくんく…っぷは。やっぱ、わかります? なんであいつがここにいたのか。ずっと考えてた。」

この星にはダーカー自体いないはず。だから不思議だった。

「ヒューナル…って今日みなさんが戦ったエネミーですよね?」

シリカは今回の戦いに参加していないので巷で話を聞いてきたのだろう。

「そう。そして俺たちの因縁のある敵。実際にいるんだ。あいつは。」

「だが、奴はおかしかったな。」

アインスがオキの目をみる。やっぱこの人よく見ているな。

「さすが隊長。よく見てるね。そこなんだ。もし本当にあの【巨躯】(エルダー)であったなら、『人の子』と言わず、『アークス』と言うはずだ。それに…。」

「それに戦っていて姿形、言葉は一緒でもあれからの威圧感も違和感があった。初めは驚いたが、剣を交えてみればわかる。」

「えっと、つまり…別の方ってことでしょうか?」

シリカも考えに加わる。

「うむ…。多分そうだろうな。」

「…隊長。一つ言っておきたいことがある。多分正解は見えてる。」

「ん? なんだい?」

オキは立ち上がり窓際にあるタバコを持って火をつけた。

「ふぅ…。初めてこのSAOに降り立った日、隊長もこのデスゲームの始まりを宣言する場は見たよね?」

「ああ、君たちは中央広場にいたようだが。私とサラ君は一番西の広場にいたのでね。遠くからしか見えなかったが。」

「あのゲームマスターを名乗った茅場彰彦。あれからほんの少し、本当に少しだけ。…ダーカー因子を感じた。」

オキは少し息を貯め、あの時感じた事をアインスに説明した。

「なんだと?」

アインスの顔が険しくなる。それにつられてシリカもビクっとふるえる。

「つまり、オキ君は茅場晶彦が何かしらダーカーについて知っていると?」

「その通り。このゲーム。いろいろと裏がありそうだな。」

「ああ。」

黙り込む3人。

「はぐはぐ。」

「ん?」

静かになたった部屋に何かを食べるような音が響く。テーブルの上を見た3人がみたのはアインスが持ってきた料理をがっついているピナだった。

「…ははは。」

「あっはっは。」

「ふふふ。」

それを見た3人は顔を合わせつい吹き出してしまう。

「さぁ、私達も食べよう。じゃないとピナ君に全部食べれられてしまいそうだ。」

「きゅる?」

「そうですね。頂きましょう。」

「だーな。」

3人は外の騒がしく楽しい音を聞きながら料理を食べ始めた。




いやはや。ヒューナルの攻撃をイメージする為にPSO2内で何度も奴の攻撃を喰らいながらスクショ撮っては書いてを繰り返してました。
いくらよく知ったエネミーとはいえ長い時間戦ってみないと意識できないものですね。
さて、初のクォーターポイント戦。いかがだったでしょうか。
今後もずっとアークスの無双は続きますよ。
何故こいつがいたのでしょうか。それは物語が進めば解明されるでしょう。
では、次回もよろしくお願いします。
※現在PSO2での期間限定常駐クエで毎日が忙しい・・・。あ、もちろん投稿ペースは変えませんよ!


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第12話 「幸せの瞬間」

今回から書き方を少しだけ変えました。今後も少しずつ変えていくつもりです。よろしくお願いします!
ではどうぞ!


25層での問題点、『なぜヒューナルがここにいたのか』は現状では調べる事ができずそのままに、俺達は攻略を進め順調に上層を目指した。

そして1年。ゲーム開始から1年経った。このままのペースでいけば順調に攻略できる。そう思った。特に問題もなかったし。この1年の功績から俺たちイレギュラーズ無しでは攻略は難航しただろうという話が常識として成り立ち、実際犠牲者も少ない。だが、どうしても無茶をするプレイヤーは出てくる為にこのゲームからいなくなったプレイヤーは『あくまでも少なくない』となっている。攻略組の面々もできるだけ無き様にとあちこちで見かけるプレイヤー達を手助けしては注意するようにしているのだが、難しい点である。

できるだけ被害が無いように無茶をしない程度のスピードで駆け、42層まで上り詰めた。

そしてたどり着いた一向は42層の美しさに見惚れていた。下層でも美しいフィールドは多数存在したが、ここは群を抜いている。

41層からの出口は街のすぐ近くにある丘の上にあり、見渡すとあちこちに桜が咲き誇り、月夜がフィールドに流れている小川をきれいに照らし光り輝いていた。エネミーは周囲に見当たらない。どうやら街までの道はエネミーが出ないようだ。

奥の方には巨大な塔、迷宮区がそびえ立ちその周囲を囲むように他の桜の木の何倍もある巨木の桜が目に映っていた。

「すげぇ…。こんなフィールドもあるんだな。」

座り込み、その景色をずっと眺めていたいくらいの気持ちになり、気づけばすぐ隣にシリカも座り込み一緒に眺めていた。

「きれいですね。」

「ああ。心が落ち着く。こういうのもいいもんだな。」

シリカと一緒にじっとその景色を眺め、夜風に吹かれる中、心地よい気持ちになっていた。

「よし、我々は街をアクティベートしてくるとしよう。今日はみんなお疲れ様。各自好きなように動くといい。オキ君、アインス隊長、今回の反省会と今後の課題については明日以降落ち着いたタイミングでいいだろう? 今日はゆっくりしたまえ。」

ディアベルは気を利かせたつもりなのか、俺を見ながらニヤケておりそのままメンバーを率いて街へと向かって行った。

「それじゃオキはん、ゆっくりしていきーや。」

キバオウも後ろから背中をたたき、同様ににやけている。おめーらどういうつもりかわかってんだろうな。

「そうだな。ハヤマ君達も疲れただろう。ゆっくり今日は休もう。それでは俺も邪魔にならないように早々に立ち去るよ。」

「そうだねー。邪魔しちゃ悪いもんねー。」

「だな。そうしよう。」

「みんないくのだー。」

キリトやアスナもなんだかいい雰囲気になって気が付けば二人で歩いて丘を降りていた。

ハヤマ達もそういって競争だとか言いながら全員で走って降りて行った。残された俺とシリカはぽかんとするほかなかった。

「あの野郎ども…。気を利かせたつもりか。」

「キュルゥ?」

ピナは苦笑する俺と赤面になってうつむいている主人を見ながら首をかしげていた。

「あ、あの。オキさん。」

「んー? なんぞい。」

シリカは立ち上がり笑顔で手を伸ばした。

「街へ向かいましょう。」

「ああ。」

シリカの手を掴んで立ち上がり一緒に街へと向かった。

街は和風の家々が立ち並び、あちこちで着物を着たNPCが歩いていた。

「ふむ。街の名前はサクラというのか。そのままだが、いいもんだな。」

「オキさんのいた宇宙でも桜ってあったんですか?」

隣を歩くシリカが顔を覗いてきた。

「ああ。とはいえ、人口だけどな。フォトンの力を使って活性化させ人工的に咲かせている。4月付近になると春の祭りとしてアークスシップのロビーに大量の桜が咲き誇る。」

自分でいってて懐かしい。早く帰らないとな。じゃないと、みーんな心配してるだろうし。

「へぇー。見てみたいですね。」

「ゲームが終わったら見に来るか?」

「ふふふ。じゃあその時は。」

冗談に聞こえたのだろう。そりゃそうだ。本来シリカは住んでいる場所が違いすぎる。そもそもアークスシップに他の星の住民って乗せていいんだっけ? マトイの件があるから、登録すりゃ客としていけるかもだが。シャオに相談してみるか?

街を歩いている最中、前からハヤマが全力疾走で走ってきた。

「オーーーキーーーさーーーん!」

なんだ? 急にはしってきて。何かあったのだろうか。

「どうした? そんなに走って。面白いもんでもみつかった?」

「いいからきて!」

「?」

シリカと顔を見合わせハヤマに連れられて街の東側へと歩いていった。

「こ、こここ。これは!?」

そこにはオラクル騎士団メンバーが集まり、ある建物を見ていた。大きな和風建屋で高さから考えて3階建て。

詳細をコンソールで確認してみると、どうやらプレイヤー用の建物らしい。

「ね? すごいでしょ? ギルド拠点にどうかなって…。」

「温泉付き。和風建屋。商店、鍛冶屋付のなんでもござれの良物件。」

ハヤマとコマチが説明する。なるほどそういう事か。

「ほうほう。値段は…。ふむ。ポチー。」

目の前に購入完了の文字が浮かぶ。そして建屋の壁に星形のギルドマーク、俺たち「アークス」のマークがついた旗が貼られた。ギルドメンバーには『マスターがギルド拠点を購入しました』というメールが同時に届いた。

「はえーよ!」

ハヤマが突っ込む。

「はっはっは。買わずに後悔、買って反省! 今日からここが我らギルドの拠点だ!」

「「「おおー!」」」

「おい! 中にはいってみよーぜ!」

「ちょっと! まずはギルドリーダーからでしょ!」

タケヤが早速扉を開けて中に駆け込み、そのあとをツバキが追う。レンとサクラは笑いながらそれを追い駆ける。

「いいって。好きにしな。」

「オキさん。かなりの高額だったのでは?」

シリカが首をかしげながら聞いてきた。

「あー。問題ねーさ。無くなった分はまた貯めればいい。」

実際あまり残額は残っていない。だが、それに見合うものだと確信して買った。後悔はしてない。

それに俺らは攻略組の中でも1,2を争うトッププレイヤー達だ。攻略している最中に嫌でもお金は入ってくるしな。

「…私も鍛冶場みてくる!」

最近鍛冶職人として動きだしたリズベットも中へと入る。血が騒ぐのだろうか。

「私達もいきましょ。キリト君。」

「ああ。」

「おれも見てみるか。」

アスナ、キリト、エギルの旦那も歩いて中へと向かった。

「よし、俺らも中にはいろーぜ。」

「はい!」

「きゅる!」

シリカ、そしてアークス達も中へと入った。

建屋は母屋の鍛冶場、商店が一階。2階がギルド運営として使用できそうな会議室や道場。そして3階が住居施設とかなりの大きさになっている。また、別館に温泉があり、実際に見てみると露天風呂となっていた。ちなみに男女別である。

粗方確認した後で、メンバーを会議室に集めた。

「さて諸君。ギルド拠点、お待たせしました。中の施設は好きに使っていい。3階の部屋割りも好きにしろ。温泉はどうやら常時入れるそうだ。あ、男性諸君。もし覗きをやった場合、世にも恐ろしい光景を見ることになるから気を付けるように…。アークスのサンドバックになりたくなかったらやめとけよ。」

ニッコリしながらオキは男性メンバーへと怖い事を言う。言葉自体が本当に起こりそうなのでしっかりと心に刻んだ男性陣。

「はいはーい。一つ質問なんだけど、この建屋と、別館。そしてもう一つ家があったんだけど。」

「ん? そんなのあったのかそりゃ見逃したな。」

ハヤマの言ったことから建屋の地図を再度確認する。確かに温泉とは反対の方、敷地内の端に小さな離れが一つあるようだ。

「そこなんだけど、オキさん使いなよ。もとはオキさんのお金で購入された場所なんだから。」

コマチが手を上げて発言する。

「いいのか? 俺は別にどこでも…。」

「いいって! ね! みんな!」

アスナも同意し、全員が頷く。感謝するしかないなこりゃ。

「すまない。それじゃその離れはおれが使わせてもらう。」

頭をさげ、先ほど温泉を見たときに思ったことをみんなに告げた。

「ああ、そうだ。これは俺からの提案なんだが、温泉だけは他のプレイヤー達にも使わせていいかな? 温泉とは誰もが心温まる場所であり、それに入る事を誰であろうと拒むことはできず、それでいて交流の場であり、なによりその…。」

「ストーップ! オキさんの温泉好きはわかってるから。いいよね? みんなも。」

ハヤマがオキの温泉について語りだした言葉をすぐさま止める。始まり付近で止めたものの、内容を考えるとたぶん止まらないのだろう。実際そうだ。皆は頷き、同意したと同時に俺の温泉好きがどこまで好きなのかを把握したらしい。だっていいじゃん。温泉。実際温泉ってのは温まるだけじゃなくてその効能だとか…(略

後程、アインス、ディアベル、リンド、クライン、そしてアルゴ姉を呼び状況を説明した。

「と言うわけで、日中ならどのギルドであれうちの温泉には入っていいとする。ただし、ギルドメンバーの誰かに許可は得る事。まぁ誰かしらロビーにいるはずだし。ギルド連合外のメンバーについても同様。アルゴ姉に関してはこの情報を流してもらいたい。」

「フムフム。問題ないヨ。ギルド外ってことは、俺っちも入っていいってこト?」

「うん。いいよ。アルゴ姉は問答無用で好き勝手にはいって。いつも助かってるしな。」

「なるほどナ。感謝するヨ。」

言葉ではサラリと流したが、顔に出ているぞ。すごくうれしそうだ。

「私のところにも伝えておこう。」

「だな。しっかしオキも太っ腹だねぇ。」

クラインが嬉しそうに話す。

「ああ、言い忘れたけど。もし覗きをした場合、女性はいいとして男性の場合…アークス全員よりなんと豪華な制裁が待っています!」

にこやかに言ったが、内容は地獄そのもの。アインス以外の男性陣は真っ青になっている。

「ほうほう。ちなみにその豪華な内容を聞いてもいいかな?」

興味を持ったのかアインスが質問してきた。

「ききたくねぇ! …けど一応聞いておこうか。」

クラインが涙目になりながら俺の方を向く。そんな顔で見るな。

「やる人はクジで決めるんだけどね。決まったアークスの得意な武器で使用する全フォトンアーツを豪華5本立て。ああ、隠れても無駄だよ。すでに覗きが可能な位置は全て把握している。射撃職やっていると嫌でも目に入るんだよねー。隠れそうなとこ。」

アインスはそれを聞いて笑っている。

「ははは、それはいいな。ちなみにそのアークスの中には俺も入っているのかい?」

「もちろん。隊長が覗きなんかするとは思えないし。うちの面子がそんな事するはずないしな。ハヤマんはそんな度胸は無いだろうし、コマッチーは覗く暇あるならダンジョンに潜る。ミケはしらん。あいつはそもそも性別不明だし、なにより女性陣からは人気高いから文句は言われないだろ。ま、覗きもしないだろうが。あ、分からない人がいたら困るから説明するけど。以前下の層でフィールドボスに対してSS無しの全PAの動きのみで討伐をやったことがある。」

「ああ、あのときか。全部やる前にフィールドボスのHPが溶けたんだったな。たしかオキ君、ハヤマ君、俺で止まりだったか。」

「武器種1個しかできなかったけど、全部やりたかったなぁ。やらないと流石に1年もPA出してないから忘れるんだよねぇ。」

「だな。俺も久々にカザンナデシコでぶった切りたい。」

いくらフィールドボスとはいえ、ボスはボスだ。SSでの攻撃力補正は必須だ。だがアークス達はそれを通常の攻撃だけで終わらせている。いくらアークスがつかう技を真似ても動きだけだ。一体どれほどの技と動きをするのだろうか。本当のアークスの動きと力を考えるだけで身震いがする。皆が口々に言っていた。ん、アルゴ姉が手を上げているな。

「女性はいいのカ?」

「女性は別にかまわんよ。男は見られても問題ないだろ。女性の場合嫁入り前の体を人様に見せるもんじゃないしな。まぁ嫁に行っても一緒だが。俺はそう思っている。」

男性陣(主にクライン)から「理不尽だ!」とブーイングが出るが、にこやかに大剣を出すと静かになる。

「ま、そういう事で…。俺の話は以上!」

話は終わり、雑談タイムに移る。

「あぁ。オキ君。少し相談なのだが。」

ディアベルが手を挙げた。

「ん? なんぞい。」

「この会議室。今後の定期ギルド会議で使わせてくれないだろうか。」

そうだな。俺も思ってたし、いいんじゃないだろうか。あとでメンバーに言っておこう。

「いいよー。特に問題ない。俺もそう思っていたし。」

「感謝する。」

「ハイハーイ次は俺っちから質問。あ、これタイチョ―とクーランになんだけド。」

アルゴ姉が手を上げる。ちなみにクーランとはアルゴがクラインを呼ぶときの名前だ。

「ん? なんだい?」

「最近耳にしたんだけどナ、サーちんとクーランは付き合い始めたって本当カ? あと、それをタイチョーはしってるカ?」

その言葉にその場がざわつく。聞いてないぞ。そんな話。

「え、マジデ?」

「ほう…初耳だな。なかなかやるではないか。」

俺とアインスは驚く。確かにサラに対してかなりのアプローチをしていたのは知っていたが思ったよりも早すぎた。

彼女とは【巨躯】復活事件からちょくちょく彼女と一緒にシャオの依頼をこなしてきている。よく知っているからこそ彼女が男と恋愛事になるのは余計に驚く。

「へぇ…サラがねぇ。大変だったろ。」

「まぁ、何度もアタックかけたしな。」

クラインがニンマリしながら言った。

「そうだなぁ。これから大変だぜ。いろいろと。そもそも星間の恋愛とか聞いたことないぞ。物語じゃあるまいし。」

タバコに火を付けながら言う。超長距離恋愛とかそんな問題じゃない。まぁアークスならそんなことも問題もないかな?

よくよく考えてみればこのスレア星までそんな距離なかったし、最悪ちょっとワープ装置弄って…。

「そこは…まぁ課題という事で…。そんなこと言ったらおめぇもそうだろ。シリカちゃんとはどうなんだよ。」

「そこは俺っちも聞きたいネ。」

周囲のメンバーもうなずく。なんだよおめーら。興味深々だな。

「まぁオキ君がそこを考えてないとは思えないが。重要な課題だな。」

アインスも腕を組みながら俺を見る。たいちょう、あんたまでか。

「隊長まで…。まぁ考えてない、といえば嘘になるけどなぁ。だが俺は付き合ってないし。」

「またまたぁ。」

クラインが横腹を肘うちする。いてーなおい。

「痛いって。それよりクライン。星間での恋愛よりもサラの個人的な問題は知ってるのか?」

「え? なんだよそれ。」

どうやら一番の問題点を聞いてないらしい。

「あー…。どうやら知らないらしいな。こればかりは俺の口からは言えない。サラ自身から言われないといけないな。」

サラは身体的な部分である問題がある。シャオとの関係だ。だがこればかりは彼女の問題だ。今クラインに教えるのはいけない。

「気になるな。気になる! だけどなぁ。」

「クーラン。女の私から言わせてもらうけド、サーちんから直接言われないとダメだと思うゾ。だが、それを教えてもらうという事は、信頼されているという合図じゃないかナ?」

同感である。

「そうなんだよな。うっし、頑張ってもっと信頼されるようにならないとな!」

「ガンバレー。」

他人事のように言ったが、自分もそろそろ考えなければならない。シリカとの関係を。

優しきギルドメンバーから許可を貰った自分の家として使う為に、生活できるよう家具の配置を考えていた。

エギルの旦那が商店を開きたいと言ってきたから、早速足りない家具を頼んだ。かなり格安で手に入りそうらしい。

後でアルゴ姉に聞いたのだが自分で作る事も可能らしい。興味があるから情報を貰う事にした。

離れの中は2階建ての小さな家だ。1階にリビングやキッチン、風呂場やトイレ等がある。2階は2つの部屋があった。片方を寝室にして、もう片方は書斎にでもするか。

家の配置図をコンソールで弄りながら大体の大まかな配置を決めた。こんなものか。

一息つこうとタバコに火をつけたときにチャイムが鳴った。誰か来たらしい。

「はいはい。誰ですか?」

「わ、私です。シリカ、です。」

扉の向こうから声が家の中に響いた。結構聞こえるんだな。面白いシステムだ。これならどこにいても聞こえるな。

扉を開けてみるとシリカが立っていた。

「どうした? 何かあったか?」

「あの、そのちょっとお話があって。」

何か思うところでもあるのだろうか。俯いたままである。

「ふむ。まぁここじゃなんだから中入って。」

「お、おじゃまします。」

家の中はまだ最低限の物しかそろっておらず、人を招き入れるには少し早いが。まぁいっか。

和風の家には似合わない洋風のリビングにテーブルとソファーだけを置いてある。そこにシリカを座らせた。

ピナはシリカの座ったソファーの空いてる部分に飛び降り、眠いのか丸くなって落ち着いている。

「さって、どうした? 話したいことって。」

「その、私と初めて出会った時、オキさんは私に元気をくれました。そしてそれからずっと。この一年間、いろいろと教えてくれました。本当に感謝しています。ありがとうございます。」

どうやら礼を言いに来たらしいな。

「いいよ。別に礼なんて。むしろこんな俺に一緒についてきてくれてこっちが感謝したいね。」

「いえ、そんな。えっと…。そうでした。これを…。」

シリカはコンソールを弄ってビンを出した。中には液体が入っている。

「これは?」

「こちらに来る前にセンターさんからこれを持って行けって。二人で飲めばいいと。」

なるほど。そういえばあいつ、ドリンク作成系のスキルがあるとか言っていろいろ作ってたな。しかしこれは何だろう。

「なんでもおいしい物が出来たからおすそ分けだそうで。」

ふむ。まぁ丁度いいか。いろいろと。

「よしじゃあ飲むか。」

グラスを取り出し、シリカに飲み物をついでやった。

「1年間ありがとな。俺もいろいろと助かった。これからもよろしく頼めるかい?」

「いえ、こちらこそ。」

「「かんぱい」」

乾杯をして特製ドリンクを口に含む。なんだこれ? 不思議な味だな。だが、美味い。

「ん、美味い。」

「おいしいですねこれ。」

シリカも気に入ったようだ。センターには後でお礼を言っておこう。

「オーキーさーん。きいてますかー?」

「聞いてる聞いてる。」

前言撤回。こいつはあかん。ビンの中身をほとんど飲み干したシリカは今や絡みまくっていた。この世界、アルコールの入ったものは無いはずでは? 似たような味をしたものはいくつかあったが、まさか開発したんじゃないだろうな。

シリカが完全に出来上がってるぞ。気が付けばすぐ横に座り、ずっと腕に絡まり俺にくっついている。ピナ? もう寝てるよ。

「もー…。ちゃんと聞いてくださいよー? 私は、オキさんに、すごーく感謝してるんですからね?」

「わかってるって。何度もきいたから。」

先程からずっとこうだ。時折水を飲ませてはいるんだが、効果があるかどうか。

実際俺もこいつのせいなのかそれともシリカがすぐ横にいるからか分からない程体が熱い。

「うー…。おーきーさーん。」

「はいはい。なんだい?」

「えへへー。」

そんなににこやかにほほ笑みながらぴったりくっつくな。いろいろヤバイ。いやうれしいけど。

「全く…。」

頭をなでてやると途端に静かになる。心地いいように目を瞑りながらほほ笑んでいた。髪の毛サラッサラだな。

こういうところまで再現するとかほんとすげぇな。暫くしたらシリカも落ち着いたようだ。

「オキさん。」

「んー?」

「サラさんとクラインさんが付き合い始めたらしいのですが、どう思います?」

その話か。結構出回ってるな。アルゴ姉あたりがばらまいたか?

「そうだな。いいんじゃないか?」

「でも、オキさん達って宇宙を旅してるんですよね? それって…。」

その通りである。シリカが言いたいのは間違いなく距離の話だろう。

「そうだな。星々を巡って旅をする。それがオラクル船団。とはいえだ。多分来ようと思えば来れる距離だ。」

オラクル船団は銀河系をも飛び越える。今の所アークスがどこかの星の住人を好きになった、なんて話は聞いたことないが、実際はあったかもしれない。それにアークスの技術ならば距離すら関係ない状態に持っていきそうだ。

「それに、いいんじゃないか? そういう関係。俺は良いと思うぞ。今までいろんな物語を読んできたが、中でも惑星で生まれた男が、衛星で生まれた女性と出会い恋をする話と、異世界から来た男が、その世界の女性と愛し合う話は印象深いな。」

特に前者の物語は何度も読んだ。それくらい好きな物語だったな。アークスとして活動しだしてからも合間を見てはいろんな物語を探していたな。よくよく考えたらまだ読み終わっていない物がいくつかあったな。帰ったら絶対読もう。そうしよう。

「オキさんも恋愛物とか好きなんですね。」

「うむ。結構好きだぞ。甘えたり甘えられたりしている描写の部分はこう…なんだ、甘酸っぱいというかニヤニヤするというか…。」

言葉にするには難しいが、シリカはうなずいてくれた。伝わったみたいだな。

「わかります。私もこういう恋愛したいなーって思ったりもしましたし…。オキさんはどうですか?」

「そうだな…。俺もそういうのいいなぁって思ってたな。アークスの活動頻度が激しくなってからはそんなことも考える暇もなくなってしまったが。」

特に【巨躯】復活から忙しい日々が続いていた。そんな暇なく出回ってたもんな。

暫くシリカは黙り込んだ。そして何かを決意したようにじっと見つめてきた。

「オキさん…。あの、伝えたいことがあります。」

「お、おう。なんだい?」

「その、えっと。この1年。本当にいろいろと感謝しなきゃならない事でいっぱいです。ずっと一緒に居てくれて、いろいろ教えてくれて。守ってくれて。だから今日はお礼を言いに来たんです。」

まぁずっと感謝していると言ってたしな。なんとなくわかってた。

「そして、もう一つ…。途方にくれて何も考えられなくなたったあの日、オキさんは私に元気をくれました。それからずっと一緒にここまで来て、私はある事をずっと思ってました。」

じっと見つめてくるシリカの目を俺もずっと見ていた。この流れはあれだな。うん。多分間違いない。だからこそ聞かなきゃならない。

「その、す、好き…です。」

言った後に物凄い深呼吸をして落ち着こうとするシリカを見て俺も確信した。

「…そうか。そうだよな。うん。俺も好きだよ。シリカ。」

目を見開くシリカの頭をなでる。こりゃ今後が大変だな。

「その、私でいいんですか?」

「逆に聞こう。俺でいいのか?」

シリカは微笑み俺も笑う。

「これからよろしくな。シリカ。」

「はい!」

初めて、この人とずっとに幸せになりたいと思った瞬間だった。




皆様、おつかれさまです。
今回は一つの節目でどうやって主人公とシリカをくっつけるかに全力を注ぎました。
何度も書き直してようやくなんとかなったという形ですね。
さて、今後からはシリカといちゃいちゃできるということです。イヤッホー!
では、次回以降もよろしくお願いします。
次回はハヤマ視点で「運命の人?」。


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第13話 「運命の人?」

今回はハヤマ視点でご覧下さい


「見つけたぞ! 運命の人よ!」

43層の街をオキさんと歩いていた俺はある少女に指を刺されながら叫ばれた。またこの子か。

「…ハヤマん。諦めろ。」

ニヤけながらオキさんは肩をたたく。一体なぜこうなったんだ?

 

(1日ほど前…)

 

43層の森林フィールドを走り、ある場所を目指していた。

「エネミーか。」

ゴブリン種のエネミーだ。剣を振り上げ、こちらに駆けてくる。

持っているカタナを構え、攻撃してきたところを見計らって側面に回り込み振り上げたカタナを一気に振り下ろす。

「せい!」

25層で手に入れたカタナはまだまだ充分すぎるほどの火力だ。一撃で雑魚エネミーを倒せる。だが、物足りない感がある。

だから俺はリズベットに頼み、別のカタナを作成してもらった。火力自体は「多々良長幸」より全然低いが、こいつがなかなか手になじむ。

「とっと…。」

二発目を入れようとしたところ、武器を振り回され近寄れない。後方からは増援のエネミーもわいてくる。

「ふん。」

周囲殲滅に範囲SSを放ち、囲ってきたゴブリン達を一掃する。

再ポップ時間が来る前に移動しよう。目的の場所まではもう少しだ。

森を抜け、目的の場所が見えてくる。

「ここかな?」

村のように見えるが、実はそこはゴブリンの集落のようだ。

「あーきたきた。すまんね。ハヤマん。」

オキさんとシリカ、そして一人の少女が近くの岩陰から出てくる。

「おくれた。すまん。で? 状況は?」

「一人は自分で脱出してきたらしいんだが、それが悪かったのか情報以上の数がポップしてる。俺とシリカとこの子だけじゃきつくってな。」

たはは、とタバコに火を付けながらオキさんは苦笑している。オキさんがこの仕草をするときは大抵いい状況ではない。

「お初にお目に掛ります。態々来て頂き有り難う御座います。ツキミと申します。以後お見知りおきを。」

一緒にいた少女が深々と頭を下げてきた。俺もつられて頭を下げてしまう。

「あ、いえ。ハヤマです。ども。」

ツキミは綺麗な長い黒髪をしており、顔立ちもアスナやシリカ達に負けないほどの美女だ。

オキさんからヘルプの連絡を受け、丁度暇だった俺が呼ばれて来たわけだが…。どうやらこのフィールドでプレイヤー達がゴブリンに捕まり集落内の牢屋に閉じ込められるという事件が発生しているようだ。

ツキミという少女はもう一人のPTメンバーとフィールドを散策中に大量のゴブリンに襲われ、命は助かったもののそのまま集落へと連れ去られた。ツキミはもう一人の連れのおかげで逃げれたらしく、丁度近くを通りかかったオキに助けを求めたというわけだ。

「どうか、我が主をお救い頂けないでしょうか。」

「オキさん。」

シリカもオキさんを不安そうに見ている。何とかして助けてあげたいのだろう。もちろんオキさんの事だ。

「任せろ。ハヤマんが来てくれたからな。俺が集落の中に入るから、合図を確認したら囚われたプレイヤー達をハヤマんとシリカ、ツキミさんで助けてやってくれ。」

そういうと思った。

「オキさん。俺が囮役をやるからオキさんが囚われた人を…。」

「ハヤマん、ハヤマん。」

ニッコリしながら肩をたたく。あ、これだめなパターンだ。

「命・令♪」

親指を立てながらニッコリして俺にオキさんは命令する。こうなったらオキさんは絶対に折れないな。しかたない…。

「わかったよ。で? 合図って?」

「中がドンパチ、賑やかになったらだ!」

それ別作品のセリフ…。

 

 

 

オキさんがゴブリンの集落に入る。周囲のゴブリン達はオキさんを囲みだした。

「オラ。てめーら。…かかってこいや!」

オキさんが槍を構え、叫ぶと同時に周囲のゴブリン達は一斉にとびかかった。だが、槍を何回転も頭の上で回転させゴブリン達を吹き飛ばす。

「おお。久々に見た。パルチザンのPA「スライドシェイカー」か。 さって、俺たちも行こう。」

集落の入口にいた見張りすらもオキの方へ集まっており、建物の陰に隠れていけば見つからないだろう。

「オキさん…ご無事で。」

シリカも心配そうに祈り、すぐさま俺の後ろについてくる。ピナは大人しく彼女の胸元に入り込んでいる。

「どこに囚われているかわかる?」

「いえ、私はこの集落に入る前に主が隙を作ってくれたので逃げれたもので…。」

つまり中の事はさっぱりっと。オーケー。やってやろうじゃない。

オキが奮闘しているのかあちこちの建物からゴブリンが出て行っている。とりあえずすぐ近くの建物の入り口を見た。

布の入口か。覗き見が出来そうだな。後あのデカい建物。たぶんボスがいるだろう。プレイヤー達を逃がしてからオキさんと合流してつぶすか。そんなことを考えて建物の中を覗いてみた。

「…ん。いた。」

建物の中には数名のプレイヤーが檻に入れられていた。小さな箱型の檻に詰められており少し窮屈そうだ。

「助けか!」

「助かった―!」

「まってて、今鍵開けるから。」

どこに鍵があるのだろうか。周囲を探してみる。

「キュル!」

ピナが壁に掛かっていた鍵を咥えて持ってきてくれた。

「サンキュー。これで…開いた!」

檻の扉を開けて外に出るプレイヤー達。

「…いない。」

「え?」

ツキミがボソリとつぶやく。どうやらツキミの相方はいないらしい。

「ああ。他の建屋にもプレイヤーが捕まってる。俺見たんだ。他の建物に連れて行かれるプレイヤーを。頼む! 助けてやってくれ!」

捕まっていた一人の男性が頭を下げてきた。なるほど。そういう事か。

「もちろんだ。そのつもりで来たのだからな。ただ、ここから出るのは少し待ってくれ。外で大立ち回りやってるうちのリーダーがいるんだけど、出てっちゃうとたぶん逆に邪魔になっちゃうと思うから。」

「ん? そのマーク。まさか、あんたイレギュラーズか!?」

マントのマークを見て別の男性が気づいた。

「うん。そうだよ。外で戦ってるのもそうだから、心配しないで。」

「ハヤマさん、外は大丈夫みたいです。」

シリカが外を確認してくれたようだ。背中で応援の声も聞こえた。親指を立てて、外に出る。

何度か建屋の中を探し、ほぼ全部の建屋を調べた。だが、ツキミの主が見つからない。

「どこに行ったのでしょうか…。」

「うーん。後調べてないのはオキさんが戦っている中央付近と、あのデカい建物くらいかなー?」

「中央広場には誰一人いなかったぜ。」

オキさんが建物の間から顔を覗かせて俺たちを見つけた。

「オキさん! 無事だったんですね!」

「おう。こん位防衛戦に比べりゃなんてことねーよ。…ふい。心配かけたな。シリカ。」

タバコに火をつけ、空いた手でシリカの頭をなでるオキさん。どうやらひと段落ついたらしい。っていうかあの数全て倒しちゃったの!?

「いやー。数多くってさー。槍一本折れちゃったよね。畜生。気に入ってたのに。片手剣も出したんだけどこっちも折れる一歩手前。大剣はあいつらの内デカいのがいたからそいつ切ったら折れちゃった。おかげで後は火力の無いメイス一本と曲刀一本、予備の槍のみだぜ。まーた買い足しだよ。ま、ドロップ品も回収できたし、トントンってところ?」

そりゃあの数とやり合えば耐久値も馬鹿にならないだろう。しっかしオキさんも変わらないねぇ。

「うわー…。それリズベットに怒られない?」

「正直怖い…。」

自分たちの武器の耐久度などの管理をリズベットにしてもらい、かなりの頻度で直してもらっている。そのたびに

『もっと優しく扱ってやれないの!あんたたちは!」

と、鬼の形相で怒られる。今回は特にオキさんの武器の損傷が激しい。こりゃ相当怒られるだろうな。南無…。

 

「となると残りはあそこか。」

「だね。」

集落の奥にあるデカい建物。どうやらそこにいるのは間違いないだろう。

「シリカ、ツキミさん。もうこの広場周辺にはゴブリンいないから、捕まってたプレイヤー達を逃がしながら外に行っててくれ。どうせハヤマんが『建物の中にいるように。外にいるおっかないおにーさんの邪魔になるから』とかいってまだ中にいるんだろ?」

バレテーラ。

「オキさん、無茶だけは。」

「安心しろ。お前おいて勝手にいかねーから。」

シリカの頭をなでるオキ。そばにいるだけでくすぐったい。というかこんなところでいちゃつかないで。

「主を、お願いします。」

ツキミが頭を下げてくる。大事な人なんだろうな。

「任せとけ。おっしハヤマん。暴れるぞ。」

「まだ暴れるつもりかよ! まぁいいけど。」

オキさんと二人だけで暴れるのも久しぶりな気がする。俺とオキさんは最後の建屋の中に入った。

そこは外にある小さな建屋と違い、中はとても広く綺麗な石の床に大きな柱で囲まれていた。そしてその中央にいるのは…。

「ゴブリンキング。ここの長かな? ん、奥に牢屋が見えるな。」

一際大きなゴブリンとそのお供が数匹。そしてその奥には牢屋が見える。

「ハヤマん。」

オキさんが目で合図してきた。はいはいわかってますよ。

「あいよ。じゃ、頼んだ。」

「よっしゃ! 暴れるか!」

オキさんの武器は残りは曲刀とメイス。そして予備の槍一本。耐久値が心配だ。その前に加勢しないと。

「よお、長老。あそぼーぜ!」

オキさんの曲刀が振り下ろされボス、ゴブリンキングとの戦いが始まった。周囲の雑魚は俺が引き受け邪魔にならないように牢屋方面へと近づきながらカタナを構える。

「お前らはこっちだ。よーしよし。」

3匹のヘイトが取れた。これでオキさんは心置きなく暴れれるだろう。

「む!? 助けか!?」

牢屋の中にいる一人の少女が鉄格子に近寄ってきた。

「待ってて。すぐに出してあげるから。この中にツキミさんの主さんはいるかい?」

「我だ! ツキミの主はここにいるぞ! そうか…ツキミが。」

どうやらその少女だったらしい。銀髪の長い髪にちょっと古臭い言葉使いが何故か似合う。そう思った。

「ハヤマん! 鍵! 椅子のところ!」

鍵をゴブリンキングのいた椅子のすぐ近くに引っかかっており、それを見つけたオキさんがボスの大剣をさばきながら叫んだ。

「そこか!」

3匹のうちの1匹を早々に倒し、鍵を手に入れる。そして素早く2匹目にSSを喰らわせて倒した。

「まだまだぁ!」

ハヤマはカタナの持ち方をアークス流に変え、PA『アサギリレンダン』(真似)を繰り出す。

前方へのステップから雑魚の攻撃を回避し、一気に詰め寄ってから6連続の剣戟をゴブリンに喰らわせる。

もちろんただの通常攻撃判定になる為攻撃力は切り付け6回分にしかならないが、それでも1匹の雑魚を倒すには充分な火力となる。

「よし。あとは鍵をっと。」

ちらりとオキさんの方を見る。ボスのHPゲージは半分になっている。これなら問題は無いだろう。牢屋へと駆け鍵を開けた。

「助かった!」

「どうなる事かと思ったわ…。」

これで囚われていたプレイヤーは全員だろう。

「あ、テメ! ハヤマ! そっちいったぞ!」

「え?」

オキさんが叫んでる。そっちを見た瞬間、こちらに大股で走ってきているボスの姿があった。

「くっそ!」

大急ぎでボスに対し攻撃をするもオキさんにヘイトが戻らない。ん? こいつ俺の後ろを見てる?

武器を構えるも、自分を通り過ぎ囚われていた少女、ツキミの主へと向かっていた。

「な!?」

「あぶない!」

走りながら武器を振り上げるボスに対し、全速力で駆け出しツキミの主に飛びつきなんとか振り下ろされる大剣から逃れることができた。

「はぁ…はぁ…大丈夫?」

「う、うむ。問題は無い。」

もう一度大剣を振り下ろそうとするボスだが、オキさんが何とか守ってくれたようだ。後ろを振り向くと同時に振り下ろされる大剣を防いでいる。

「ハヤ…マん…。重い…。切れ!」

「あいよ!」

立ち上がりそのままボスの両腕を下からの切り上げでぶった切ってやった。それによりボスは怯み、オキさんから離れていった。

「ふう。どーも逃げた人を追い駆けるようになっていたようだな。」

「だね。大丈夫?」

「う、うむ…。」

地面に座り込んでいたツキミの主を立たせてあげた。どうやらダメージは喰らってないようだ。よかった。

「ハヤマ。まだ来るぜ。」

ボスは再びこちらに向かっている。今度はしっかりとこっちを見ていた。

オキさんが前に出て武器を構える。

「また同じようにあいつの獲物を抑えるから、ばっさり切っちまえ。」

「りょーかい。」

『オオオォォォ!』

雄たけびを上げながら武器を振り下ろす。ガキンと地面に突き刺さったところをオキさんが上から押さえつけ持ち上がら無いようにした。

「いまだ。やっちまえ。」

「はあああ!」

SSを無防備な胴体に喰らわせる。それと同時にピタリと止まり、結晶となって砕け散った。

「ふう…。」

「ナイスハヤマ。」

頭上で手を打ち合う。そのままオキさんと一緒に捕らえられていた人たちを先導し、建物の外へと向かわせた。

 

集落の外ではシリカとツキミ、そして捕らえられていたプレイヤー達が待っていた。

「オキさん!」

オキさんの姿を見るなり走りよってくるシリカ。オキさんはにっこりと笑い大丈夫だとシリカの頭をなでている。

周囲のプレイヤー達も感謝して頭を下げていた。

「主!」

「おお! ツキミか!」

ツキミの声が聞こえた方を向くと主とツキミがいた。

「遅くなり、申し訳ありません。」

「よい。こうして助けを呼んでくれたこと。感謝するぞ。そして、そなたも。先ほどは感謝する。」

主が寄ってきた。

「いいですよ。当たり前の事をしたまでですから。」

そう、当たり前の事。誰かを助ける事は今まで何度もやってきた。

「そうだ、自己紹介がまだだったな。我が名はシャル。お主のような者を探しておった!」

ん? 俺を探していた? どういう事だろう。

「ハヤマ殿と言ったな。助けてもらった時、我はお主が体を張って助けてくれた時に心ひかれた。ハヤマ殿! 我はそなたと会えたことを運命と思う! 我を貰ってくれ!」

周囲のプレイヤー達もそれを聞いて静まる。

「は、はい!?」

 

 

それから街に帰りつくまでずっと彼女はついてきては運命の人だの、貰ってくれだのと言ってきた。

確かに可愛かったけど、いきなり言われても困るし。そんな状況をみてオキさんは大爆笑してるし…。

「こ、今後少しずつお互いを知ってからね。」

と言ってその日は逃げるようにギルド拠点へと戻ったが、それからが大変だった。

どこから情報を経たのかギルドまで乗り込んでくるは、いつの間にかオキさんもグルになっているは、ギルドに加入しているはで急展開が続く。

何とか落ち着かせたものの、オキさんからの強制命令でシャル、ツキミと共に以後PTに組まされることとなった。

そして今日も…。

「ハヤマー殿!」

「はいはい。」

周囲からは満更でもないような感じに見えるらしい。気のせいだよ?




今回はハヤマ視点ということで書いてみました。
本人といろいろ話しているうちに浮かんだネタで面白がって書いたらこうなった。
今後もいろんな人の視点で書いていくことが増えると覆います!

さて、次回は作中ではクリスマスということで・・・。まぁどうなるでしょうかね。
では皆様、ごきげんよう!


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第14話 「クリスマス(前編)」

シリカと相思相愛になったオキ、それから一ヶ月後に起きたちょっとした2日間・・・


シリカと心を通わせてから1ヶ月程過ぎた。今までと極端に何かが変わったというわけではないが、しいて言うなら拠点の離れ、つまり俺の家にシリカが寝泊まりするようになった。それくらい。手は出してないぞ。

 

攻略は現在45層の迷宮区を攻略している所だ。上へと昇るにつれ、迷宮区の大きさが大きくなってきている。

 

順調ではあるが、敵も強くなってきている。その為、武器や防具も少しずつ新調しつつある。

 

俺たちはいろんなクエストを受け、リズベットと共に大量の武具資材を調達。ギルドメンバーに対して現在作れる最高の装備を分け、戦力を整えた。

 

そして、ある朝。

「ふぁーぁ。」

 

朝日の明るさに目が覚め、隣で寝ている小さな愛する人を重たい瞼で閉じそうな目をこすりながら揺さぶって起こした。

 

「ん…おはよーございまひゅ…。」

 

「ん。おはよー。」

 

同時に近くの机の上にある小さな籠の中にある専用ベッドで寝ていた使い魔もあくびをしながら起きてきた。

 

「さーてと。今日も攻略がんばりますかー…ね?」

 

2階の寝室の窓を開けると普段の桜の花びらが舞う空から白銀の雪が舞う世界に変わった街が目の前に広がっていた。

 

「ゆ、雪!?」

なにがあった。バグ? いや、その前にさみーし。惑星ナベリウスの凍土エリア並みではないが、現在の服装では寒いぞ。

 

「あ、オキさーん!」

 

下を向くとハヤマが家の前にいた。どうやら丁度うちの扉を叩こうとしたらしい。

「なにがあったこれ!」

 

「それについて説明するから落ち着いたら会議室にきてくれるー?」

 

シリカもベッドから起き上がり、外をみて呆然としていたがある事に気が付いたのか部屋の壁を見ていた。

 

「そうです…。そうですよ!」

 

「どうした?」

 

シリカが見ていたのはカレンダーだ。惑星スレアの年間カレンダー。オラクルのそれと同じ周期で進んでいるらしい。そして自分も今日の日付をみて納得する。この惑星にもオラクルと同じようなイベント事がある事を確認している。今日は12月24日。

 

 

 

そう、クリスマスだ。

「へぇ、この惑星ではクリスマスは神様が死んだ日として存在しているのか。」

 

シリカに教えてもらったが、惑星スレアでは大昔に神様となる人が降誕した日として語り継がれており、星全体でお祭りごとになるらしく、今日はその前夜祭として『クリスマス・イブ』という日だとか。お祭りの日が2日に渡ってあるらしい。

 

オラクルでは決まった日は無いが、クリスマスという概念はあり1か月弱にわたり特殊な祭りが開催されている。

 

やはり共通するところが多い。いずれこの星の歴史とオラクルの共通点を調べたいな。

後程会議室で何が起こっているのかを朝早くから情報収集に動いていたアルゴから話を聞くために緊急招集を行った。他のギルドからもギルドマスターを呼び、今日の状況を確認した。

 

今日は惑星スレアでクリスマスという事でイベントとしてアインクラッドの街やエネミーの出現しない安全なエリアで雪が降っているらしい。それもあってアインクラッドの各層では攻略で勤しんでいたプレイヤー達も童心に戻ったかのようにお祭り気分を味わっている。挙句、第1層ではクリスマスイベントという事で有志で集まった商人プレイヤー達がクリスマスフェスという本格的なお祭りを急遽企画、開催しているだとか。商人魂ってすげぇ。

 

ちなみにその主催はアインクラッド解放軍が指揮し、そのリーダーを務めているのがキバオウだ。ティアベル曰く本人らしいというか今までで一番生き生きしているだとか言っていた。なんとなくわかった。

 

また、キリト達攻略組の中でも特に精鋭メンバーは今日だけ出現するとあるボスエネミーを倒しレアアイテムを取得するべく動いているらしい。クエストの情報では現在プレイヤー全員の中でも特にトップクラスの強さを誇るキリト、アスナペアの実力ならば問題ないとよんでいるようだ。レアアイテムに関しては特に興味が無かったのでそちらはキリトに任せた。むしろ二人の邪魔はさせれない。どうせクエストを理由にデートする気満々なんだろうから。

 

イレギュラーズことアークスの面々はそれぞれ好きなように動くつもりだそうだ。

 

ハヤマはどうやらシャルに一緒に行きたい場所があると言われ、断ったがしつこかったので渋々OKを出したとか。とかいいつつ口元はにやけていたのを俺は見逃さなかった。ツンデレめ。

 

コマチはアルゴからある情報を得て、この2日間だけ出てくるレアエネミーを探しレアアイテムをかっさらってくると言って早々に出て行った。明日の夜を楽しみにしとけとまで言っていたが何を取ってくる気なのだろうか。それにそんな情報まで持っているとはアルゴ姉すげぇな。

 

ミケは『寒い!』と言って自分の部屋にあるコタツに丸まっていた。さすが猫。まぁお腹が空いたら出てくるだろう。

 

アインスはチームのメンバーと共に1層でやっていると言われるお祭りに向かった。サラ曰く、男性メンバーからは面倒見のいい兄貴分として信頼されているようで、女性メンバーからはクールで優しい所が惹かれるらしく人気が高いようだ。

 

引っ張られていく隊長は苦笑しつつも内心楽しんでいるかのような表情をしており、その背中を見ながら見送った。

 

サラはクラインと一緒にあちこちまわてみるそうだ。なんだかんだでいい感じだな。あの二人。

 

そして俺とシリカは…。

 

「指輪?」

 

「そうだヨ。こいつもこの2日間でしか受けれないというクエストがあるようなんだがナ? 前提条件がやっかいでネ。情報があまりでまわっていなイ。」

 

アルゴ姉からある情報をもらった。なにやらこの2日間で受けれる限定クエがあるらしく、その報酬が指輪らしい。アルゴ姉はニヤニヤしながら

『シーちゃんにどうだイ?』

と言っていたが。まぁプレゼントにはちょうどいいだろう。やばいクエだったら途中でやめればいい。指輪の事を伏せてシリカにその事を話すとシリカものってくれた。

 

「面白そうですね。限定クエですか。私も行ってみたいです!」

 

シリカもゲーマーということか…。全く。というわけで俺とシリカはそのクエの前提条件である情報をもらいにアルゴの元へ再度訪れた。

 

 

(後半へ続く)




すみません。今回本当は1話完結でやるつもりだったのですが、風邪をこじらせてしまい本日に間に合いませんでした…。申し訳ありません…。
投稿時現在はある程度治ってはいますが、病み上がりなのであまり無理できず、内容構成もあまり固まっていなかったので今回は前後編とさせてください。
(普段なら一週間の前半で構成を考え、木金土の3日間で書き上げるのが日課でした)

今年の風はかなり強いウィルスです。皆様もお気をつけてください。


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第15話 「クリスマス(後編)」

惑星スレア全体でのお祭り事としてクリスマスがアインクラッドにもそのイベントとして各層で雪が降り、各地で限定クエストが受注可能とたくさんの情報がアルゴの下に集まった。
そのひとつとしてオキ、シリカはレアアイテムである指輪を手に入れるために情報を元に指定された場所へと向かうのであった。


オキとシリカはアルゴからの情報で限定クエストのフラグを立てる前段階として第1層に足を運んでいた。

 

1層では、現在クリスマスという事であちこちで露店が出され商人プレイヤー達が挙って祭りを開いていた。

 

ここ最近下層には降りない事から久しぶりの1層である。

 

「クエストの場所はどこだろうか。」

 

アルゴ姉からもらった情報を元に地図を確認する。どうやら西側にあるらしい。周囲の雰囲気も楽しみつつ目的の場所を目指した。

 

「ここ…ですか?」

 

「の、はずだが。」

 

地図をもとにたどり着いた場所は教会。アクセサリー関係のイベントクエらしいので鍛冶屋等のクエかと思っていたのだが。

 

「ま、とにかく入ってみるか。」

 

大きな扉に手をかけ、中に入る。

 

中に入ると巨大なステンドガラスが光り輝き、その光が祭壇を照らしていた。その光景に二人は暫く見とれいていた。

 

「何か御用ですか?」

 

 

奥の扉から神父らしき人物が現れた。アイコンからしてNPCのようだ。

「えっと…。」

 

困った顔をしてシリカが顔を覗いてくる。アルゴ姉からもらった情報ではNPCの存在は無かった。なのでどうすればいいか分からない。同じく困っている顔を見たせいなのか、そういう反応になっているのか分からないが神父が近寄ってきた。

 

「ふむ…。君たち二人は、今幸せかな?」

 

いきなり何を質問してきているのだろうか。シリカをみると目が合い、顔を赤くして俯いてしまった。かわいい。

 

「ええ、俺は幸せです。」

 

シリカを見ながらそういった。神父はそれをきいて満足そうに笑顔になる。

 

「いいことです。…ふむ、これも神のお導きか。お二方にご協力願いたいのですが。ああ、悪いようにはしません。聞くだけ聞いて断ってもらっても結構です。あなた方を見てあるモノの事を思い出しまして…。」

 

神父が祭壇の奥から何やら小さな箱を取り出してきた。箱を開けると中から指輪が二個出てきた。

 

なんだかいろいろ昔話を交えて話をしてきたので、要約すると、幸せな若き男と女二人が目の前に現れ、神父がこの人達ならと思った時にその人物に指輪を与え、ある場所で祈りをささげれば神の加護を与えるというモノ。

 

話が終わるとクエスト受注可能アイコンが目の前に現れた。

 

「…つまりこの指輪を持って指定された場所に行って祈りを捧げればいいんだね。簡単だな。」

 

OKボタンを押し、承諾する。

 

「ありがとう。場所は中に入っている羊皮紙に書かれている。」

 

箱を受け取り、手を振る神父を背に教会を後にした。

 

「まずはどこですか?」

 

「んー・・・。静かな森林の村がある泉? お、アイコン出てきた。」

 

羊皮紙を持って中身を読むと、目の前にアイコンが出てきた。示している場所は22層のようだ。

 

「22層だね。たしかにあそこは静かだね。」

 

「それじゃあ行ってみましょうか。」

 

「きゅい!」

 

ピナも嬉しそうに鳴く。

 

 

22層につき、コンソールで示されている泉へとたどり着いた。

 

「どうすればいいんだろうか・・・。」

 

「祈る、って言ってましたね。」

 

どうすればいいのかわからないのでとりあえず箱を取り出し、泉の前で膝まづき祈りの構えをしてみた。それを見たシリカも一緒に祈る。

 

するとアイコン音が鳴り箱の中身が光りだした。

 

「ん、光ったな。これでいいのか?」

 

箱を開けてみるとシルバーだった指輪が水色に光り輝いていた。どうやら成功らしい。

 

「綺麗ですねー。」

 

シリカもそれを見て微笑んでいる。羊皮紙をみると次の指定された場所が出てきた。

 

「よし、次は32層だな。」

 

「はい!」

 

 

32層で同様に祈りを済まして次の場所を確認した。

「42層か。ホームベースだな。」

 

「どこを示しています?」

 

「んー・・・巨大桜の1本らしいが。あれだな。一番大きな桜。」

 

42層にはいくつか大きな桜があるが、その中でも一番大きな桜が示されていた。2人でフィールドを歩き進んでいると前から人が歩いてきた。どうやらNPCらしい。

 

「やあ。冒険者の方かな?」

 

「はい。この先の桜の木に用がありまして。」

 

シリカが嬉しそうに答える。木こりの姿をしたNPCは桜を見た。

 

「ふむ。あの桜か。あの桜にはある伝承があってな。根元にある祠に化物が封印されているらしい。ただ、その祠は出たり消えたりするという不思議な祠らしいんだ。もし見つけたら何もせずに立ち去ったほうがいいだろう。実際あそこで行方不明になった人もいるらしいからな。」

 

そう言って木こりはまっすぐ歩いて行った。

 

「化物・・・ですか?」

 

シリカが不安そうに見てくる。

 

「フィールドボスかなにかだろう? ついでだから調べてみよう。もしやばかったら逃げればいい。」

 

「そ、そうですね。」

 

相変わらず不安そうについてくる。このあたりのフィールドボスはあらかた片付けたはずなのだが、フラグが残っていたのだろうか。

 

目的の桜の木の下にたどり着いた後に指輪の箱を再度取り出し、二人で祈りを捧げる。指輪は前の2層よりも光り輝き桜色に光りだした。

 

「ほうこいつは綺麗だな。」

 

「はい。綺麗ですね。」

 

二人して顔を見合わせ笑う。

 

「きゅい!」

 

ピナが鳴く。ピナをみると何かを見ているようだ。その視線をたどり目を凝らしてみると桜の木にくっついた祠が見えていた。

 

「祠だ。」

 

「え?」

 

シリカも祠に気づいた。やはりクエスト関係のフラグがたっていたらしい。

 

祠に近づき、そっと中を確認した。中はどうやら階段になっており下に続いている。奥は暗くて見えない。

 

「ふむ。念の為には誰かに連絡しておくか。えっと暇そうなのはミケくらいか。」

 

どうせ相変わらず布団の中で寝ているだろう。メールの音で起きてくれればいいが動けそうなのはミケくらいだ。

 

「中を見てくる。シリカはここに・・・。」

 

「やっぱりそう言うと思ってました。行きます。待っているなんて・・・いやです。」

 

真剣な顔をして見つめてくる。俺の行動はバレバレか。シリカの頭をポンと撫でて扉を開けた。

 

「背中は任せた。」

 

「はい!」

 

二人で一緒に階段を降りる。中はひんやりとして薄暗い。誰が火を灯したのか蝋燭が唯一の明かりだ。

 

「もう少しみたいですね。」

 

そこまで深くない場所に降りた。なにやら開けた場所のようだ。そして何かがいる。

 

「気をつけろ。何かいるぞ。」

 

「わかっています。」

 

お互い武器を構える。そして薄暗い奥から封印されていたと思われる化物の姿が現れた。

 

『キシャァァァ!』

 

普通は考えられない大きさ。無数の足。黒光りする畝ねる体。光る目。巨大な大ムカデだ。

 

「っひ!」

 

姿を見てシリカが後ずさる。そりゃそうだ。女の子が虫に耐性があるとは思えない。俺だって好きではない。まだラグネやグワナーダの方が…変わらんか。

 

大ムカデはこちらの姿を確認すると体をうねらせながらこちらに向かってきた。思ったより速い。

 

「おおお!」

 

ガキン!

 

大きな口を広げてきた大ムカデの牙に向かって思い切り大剣を縦切りに叩きつけた。HPバーは2本。そして今ので結構削れたようだ。弱い。

 

『ギィィィ!』

 

金切り声をあげて怯みいちど奥へと逃げていく大ムカデ。

 

「シリカ! こいつは弱い! 無理しなくていいから待っててくれ!」

 

「!!」

 

叫んだ声を聞いてびくりと体を震わせるシリカ。だが、シリカはキっと大ムカデを睨み俺の隣に立った。

 

「守られるだけはいやです! 私だって、私だって一緒に戦いたいんです!」

 

頼もしいことで。ニヤリと笑い俺は再び向かってくる大ムカデに大剣を向けた。

 

「よし。今まで教えた通りにやるぞ。なーにただの化物だ。やつの目だけを見ろ。やつの攻撃は全て受けてやる。口の牙だ。かなり効いているらしい。もう一本いくぞ!」

 

「はい!」

 

 

大ムカデはこのあと全ての牙と攻撃をしてきた爪を全て俺の大剣とシリカのダガーに切り落とされ、最後は無残な姿でHPを0にされ結晶となり消えていった。

 

 

「思ったよりも弱かったです。」

 

「シリカが強くなったからだよ。」

 

「えへへ。ありがとうございます。」

 

頭を撫でるとにこやかに微笑むシリカ。やっぱり可愛い。ドロップアイテムとして『巨大桜の根』と『大百足の爪牙』が手に入った。どうやら素材らしい。後でリズベットに見てもらおう。

 

祠をあとにし、指輪のクエストを終わらせるために1層へと戻った二人は、神父に祈りをささげた指輪を渡した。

 

「おおお! お告げの通りだ! やはり君たちが神のお告げにあった男女だったんだな! 礼を言う。これで私も満足だ。その指輪は君たちが使うといい。私はお告げが本物だったことを目にしただけで満足だ。」

 

神父から指輪を受け取るとアクセサリーとなってアイテムボックスへと収納された。その内の一つを取り出しシリカに渡した。

 

「はい。クリスマスプレゼント。」

 

「え? ええ? その為だったんですか!?」

 

どうやらクエストの目的を理解したらしい。顔を真っ赤にして指輪を受け取ってくれた。

「あ、ありがとうございます。」

 

「む、そうだ。君たち。今日はクリスマスだったな。その指輪をもう一度私にあずけさせてもらえないだろうか。」

 

クリスマスという言葉が出てきた。どうやらこれが条件だったのだろうか。そうなるとなんといろいろと条件が必要なのだろうか。

 

指輪を受け取った神父は祭壇にそれを置き祈りを捧げた。

 

「主よ。今ここにお告げの者たちが現れました。どうか彼ら彼女らに加護があらんことを・・・。」

 

神父が祈るとステンドグラスが輝き、祭壇上の指輪を照らし始めた。

 

「おお! 神よ! ・・・君たちありがとう。私はいま生まれて最も素晴らしい時を過ごしているようだ。ありがとう。」

 

神父は微笑みながら指輪を渡してくれた。指輪は桜色から真っ白な雪のように光り輝いている。

 

シリカとそれをみて二人して微笑み教会の鐘の音とともにそれをあとにした。二人の指には、白い指輪が光り輝いていた。

 




皆さんこんにちわ。先週は風邪をひき、今週は仕事やPSO2の期間限定クエ等おもったより時間が取れず思ったように書けませんでした…(超言い訳
次回までにはいろいろと時間を取ってしっかり書きたいな。。。
では次回もよろしくお願いします。


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第16話 「気まぐれ猫と双子の追いかけっこ」

時間はさかのぼりクリスマスの数日前。気ままに過ごす猫とそれに興味を持った双子の出会い。
そんな双子に対して猫がとった行動とは?


「猫…かしら?」

 

「猫…なのです?」

 

私の名前はヒナ。そしてもう一人一緒に居るのはハナ。

 

二人してゲームが好きで、パパとママに無理してお願いして買ってもらった『ソードアート・オンライン』をプレイしようとログインした。でもログアウトできなくってHP0になったら死んじゃうとか言われちゃうし…。

 

挫けてても仕方ないから二人で徐々にレベルを上げて、この中層辺りで生活をしだしてもう少しで数ヶ月以上が過ぎようとしたいた。

 

そんなある日、ハナと一緒に37層のフィールドを歩いているとセーフティエリアである草原で寝ている人を見かけた。けど、なんだか猫耳みたいのついてるし尻尾もあるみたい。なんだろう。どう見ても猫っぽいんだけど。あんなの見たことないわ。

 

ハナと顔を見合わせて近づく事にした。私とハナは猫が大好きだから興味を引いた。

 

ある程度近づくと寝ていた猫っぽい人はピクリと動きゆっくり起き上がった。

 

「隠れるわよ!」

 

「はわわ…!」

 

ハナと二人で死角になっている坂の斜面に体を寝かせ隠れた。

 

「ふにゃー…。よく寝たのだ。」

 

周囲を見渡した後、猫っぽい人は私たちの方をじっと見つめていた様な気がした。その直後に跳ねるように走って草原を駆けて行った。

 

「なんだったのかしら。」

 

「わからないのです。でも、プレイヤーさんのようでしたね? カーソルアイコンが出ていたのです。」

 

確かに私もそれを確認していた。緑のアイコンが出ていたから間違いなくプレイヤー。

 

気にするごとにあの人の事を知りたいと思い始めた。

 

「追うわよ!」

 

「はわわ…。ま、待って!」

 

走って行った先を追う。なんとしてでも話がしたい。何故猫耳がついているのか。どうやればそんな尻尾が付くのか。

 

街まで走ったが結局見失ってしまった。その後も街中を歩いてみたがそれらしいプレイヤーは見つからなかった。

 

また会えるかな?

 

そんな事を思っていた38層の街中で、屋根の上に猫耳を生やしたプレイヤーが寝ていると通り過ぎた人から聞いた。

 

場所を聞き出して言ってみると確かに寝ていた。まるで日向ぼっこをしている様な猫のように丸まって。

 

「…ハナ。ちょっと会いに行ってみましょう。」

 

「ええ!? だ、だめなのです。邪魔しちゃ悪いのですよ。」

 

しかしそんな事は聞こえない。辺りを見回して屋根に上れる場所が無いか探す。あ、あそこの建物から行けそう。

 

「ま、まって!」

 

建物に入り3階へ駆けあがり、窓から屋根へ飛び乗ってゆっくりとその人に近づいた。足場が悪い。少しでも転んだら下に落ちちゃいそうで慎重になる。後ろを見るとハナも何とか歩けている感じ。そしてハナから寝ている人に目を戻すともう起きていた。

「あ!」

 

ゆっくりと背伸びをしてじっと見つめる。

 

「昨日ミケを追い駆けたのは君たちかなー? ミケに何の用なのだ?」

 

どうやらミケというらしい。余計に猫っぽい。

 

「どうしても聞きたいことがあるの。教えてくれないかしら?」

 

うーんと悩んだ後にミケは何かを思いついたようだ。

 

「ミケの事を知りたいのだな? ミケの事を知りたければミケを捕まえるのだなー!」

 

そういって走り去ってしまった。

 

逃げられた? うーん。追いかける!

 

「追いかけるわよ!」

 

「ま、まってー!」

 

よたよたなんとか付いてくるハナを背中になんとか走るが、足場の悪く不安定な屋根の上をスルスルと走り抜けていくミケには追いつけず、結局下に降りて路地裏に入ったところで見失ってしまった。

 

その日も結局探し出せず、次こそはと意気込んだ。だって追いかけてこいと言われたんだもん! 追いかけたくなるじゃない。

 

その日以降、ミケを探す日々が続き、見つけては追いかけて見失ってという追いかけっこが始まった。

 

「あーもう! 速すぎるよ!」

 

「追いつかないのです・・・。」

 

何日たっただろうか。少しずつ追いかけている時間が伸びているような気がするけどまだ全然追いつかない。むしろ待っている?

 

「なにやらお困りのようだネ。」

 

路地裏で休憩していたところにフードをかぶった人が声をかけてきた。

 

フードの中の顔にはヒゲがついている。女性? なんのようかしら。

 

「ミケの事をおいかけてるってきいてきたんだけド、キミタチだよネ?」

 

この人私たちのことを知っている?

「怪しい人じゃないヨ。おねーさんは、キミタチに情報をもってきたんダ。どうだイ?」

 

「もしかして、鼠のアルゴっていう情報屋さんですか?」

 

ハナが知っているようだ。ハナは私が知らない情報をかなり持っている。地道に調べていてその情報で私も助かっている。

 

「オレッチのことも知っているようなら話が早いネ。なに、ただ単なる気まぐれサ。あの猫が二人の女の子と毎日のように追いかけっこしているときいてネ。面白いことしているじゃないカ。」

 

「私たち猫が大好きであんな耳つけてる人初めて見たから。でもあの人逃げちゃうし・・・。」

 

「そうなのです。」

 

「あの猫はちょっと気まぐれでね。オレッチも持っている情報が少ないし、その情報元のある人物、あの猫との古い付き合いの人ですら謎な部分が多いと言っていたヨ。」

 

古い付き合いがあっても謎!? 一体なんなの、あの人は!

 

「あのミケは42層を拠点にしているヨ。ギルドは加入済みで『オラクル騎士団』の幹部ダ。普段は42層のどこかの屋根の上とかで寝ているのが多いみたいだネ。」

 

42層・・・オラクル騎士団!?

 

「オラクル騎士団ってあの攻略組最強って言われてるギルド!?」

 

「たしかほかの攻略組のギルドさんと連合を組んで『アーク’s』という名前で通っていたはずです。」

 

「ほう、知っているようだネ。むこうのギルドマスターにはすでに話を通してあるから行ってみるといいヨ。面白い結果を期待しているヨ。」

 

42層・・・いってみる価値ありね。ハナをみると頷いてくれた。考えてることは一緒みたい。

 

アルゴというおねーさんに礼をいってさっそく42層へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

「これでいいのかイ?」

 

「ああ。サンキュー。おれが出るより信憑性あるからな。それに女性の方が信頼感あるだろ?」

 

路地裏からアルゴ姉に小さな声で話しかけた。

 

「しっかしあのミケがねぇ。これは面白いことになりそうだな。」

 

「ニヤケてるヨ。オニーサン。」

 

いかんいかん。面白そうなことになるとつい口が緩んでしまう。

 

「じゃ、おれも家に戻るか。」

 

「後で結果、おしえてくれヨ。」

 

「あーよ。」

 

 

 

 

 

 

42層の街、サクラ。名前のとおり桜が咲き誇る街で現在攻略済みの各層の中でも1,2を争う綺麗な街。このどこかにミケがいる。

 

「いたのです!」

 

はや! たしかに屋根の上にいるわね。ん? 気づかれた!

 

「今度こそ捕まえるわよ!」

 

「はいなのです!」

 

今度はハナと離ればなれになって挟み撃ちを行う作戦だ。街の中の建物はほとんどが平屋で高くても2階建てがあるくらい。つながっているところも多い。その分路地裏も細かく街中をあっちいったりこっち行ったり。

 

「ハナ! そっちいったわ!」

 

「まってくださいです!」

 

ぴょんぴょんと飛び跳ね回り道を駆け、行き止まりに追い詰めたと思ったら屋根に登って逃げていく。疲れない体とはいえ、流石につかれそう。

 

「こっちなのだー!」

 

ミケはなんだか楽しそうに走り抜けている。追いかけているこっちもなんだか楽しい。

 

「今度こそ!」

 

一体どれだけ走っただろうか。すでに何周も街の中を走り抜けた気がする。結局捕まえきれないまま疲れた気分になって路地裏に座り込んじゃった。ハナもお疲れの様子。本当に捕まえれるのかしら。っていうか捕まる気があるのかないのか・・・。

 

 

 

「っは!」

 

気がついたら周囲は昼から夜になっていた。寝てた・・・?

 

「気がついたようだね。」

 

反対側の壁にタバコを吸っている一人の男性が私を見ていた。男!? 誰!? そうだハナは? あ、私の隣で寝ている。

 

「ハナ、起きて!」

 

「っし!」

 

男は口に人差し指を添えて静かにするようにとジェスチャーしてきた。ハナも起きたみたい。

 

「んー・・・。おねーちゃん?」

 

ハナも男に気づき、ビクっとする。そりゃそうね。寝起きを見られているのだから。

 

「・・・。」

 

男は黙ったまま私たちの後ろにある樽の上を指さした。ゆっくりと私は上をみる。

 

「「あ・・・。」」

 

ハナと二人でその寝ているもうひとりを見た。ミケが寝ていたのだ。

 

「捕まえな。」

 

男がそう言うと私とハナは顔を見合わせてミケの両腕をしっかり掴んだ。

 

「捕まえた!」

 

掴まれた衝撃で気づいたのかミケは眠そうな顔をしてゆっくりと起きた。

 

「ようミケ。捕まったぞ。」

 

「オキ、おはよーなのだ。ん、つかまっちゃったのだー。」

 

にっこり笑うミケ。これでようやくお話ができる。

 

「二人共よく頑張ったのだー。ミケは二人が気に入ったのだ!」

 

そう言ってミケは私とハナの二人の頭を撫でてきた。心地いい感触。すごく暖かい。でも、子供扱いしないで欲しいな!

 

 

 

その後私たちの近くにいたオキという人に話を聞いた。どうやらミケを追いかけるのに夢中になりすぎてあそこで寝ていたらしい。

 

その情報を聞いたオキさんは変な人に変なことされないようにずっと見張っていたらしい。そして私たちを見つけた時にはもうミケは寝ていたという。

 

ミケとお話できたのはそのあとだ。ここまでミケを追いかけてきたのはオキさん達『アークス』というメンバー以外で初めてだという。

 

そんなところを気に入って、私たちがどこまで追いかけてくるかを試していたとか。オキさん曰く

 

「ミケっちは意外と人見知りするからな。逆に気に入った人には気兼ねなくどストレートに対応してくる。そして気分屋で気まぐれ。まさに猫のようだ。そして謎が多い。ミケっちがそもそも男か女かすら教えてくれねーんだから。まぁしってもどうもないから聞かないんだけど。」

 

と言っていた。私達がもしかしたらミケの謎を解明してくれるかもと思い、あのアルゴさんに情報を渡したという。ここまでミケに気に入られた人は初めて見たとも言っていた。

 

そして私達の行動力の高さを評価したらしく、そのままオキさんの『オラクル騎士団』に勧誘されて断る理由もなく加入。ミケのPTに入ることになった。

 

 

そして今日はクリスマス! ミケは

 

「寒い! ミケはこたつで丸くなるのだ!」

 

といってコタツから出てこない。だから私やハナも一緒にコタツでぬくぬく。ミケの話だと後でミケやオキさんの仲間である『アークス』のコマチさんがいいものを持ってきてくれるという。たのしみだなー。




皆様毎度です。
今回は気まぐれな猫、ミケについてのお話でした。
双子の喋り方をみて気づいた方もいるかもしれませんが、この双子は某シュミレーションゲームの4姉妹のうち2人です。(ライとデンといえばもうお分かりですかな?)
ミケが大好きなんですよ。第六駆逐隊。

なのでその中でも特に好きな二人をPTに入れるために作った物語でした。今後の行動に期待ですね。そしてミケの謎は解明されるのか!

さて次回はコマチがなにを持ってくるかのお話になります。その時にある事に気づいた彼がとった行動とは?

PSO2の方では期間限定のクエストも終盤。現在白目になりながらアークスメンバーで周回しております。レアエネミーがで無さ過ぎる・・・。

では次回にお会いしましょう。


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第17話 「幸せの鳥」

番外編コマチ視点。
今回はクリスマスの夜にあるレアエネミーが出るという場所を探しそのエネミーから得られるという高級食材を目指す。
その道中で一人の女性と出会い共にそのエネミーを探すことに。そして出てきたレアエネミー。その姿とは?



雪の降る中、目的の場所へと歩いていた。目標はA~S級と思われるレア食材。

リーダーに必ず手に入れて帰ると約束した。それに俺はこっちの方が性に合ってる。

いつもと変わらず何かしらを掘る日々の方が。

アインクラッド内全域でクリスマスのイベントが発生し、周りのメンバーは浮足立っていた。

リーダーであるオキは愛する人の為にプレゼントを取ってくると言って、シリカと一緒に出掛けて行った。

ハヤマは最近仲のいい少女、シャルとその従者ツキミに引っ張られて第1層でやっているという祭りにデートだそうだ。本人は断っていたがシャルの勢いには負けたようだな。それになんだかんだで当の本人は満更じゃなさそうな顔してたし。ツンデレめ。

ミケも最近ギルドに入ってきた双子の少女と共にコタツで丸くなっていた。ありゃ本当に猫だな。

隊長もギルドのメンバーに引っ張られてお祭りに参加するようだ。

そんなメンバーの中で自分だけやる事が無かった。タケヤ達も1層に向かうらしく、こちらに声をかけてくれたが別の目的を思いついたので断った。

「というわけで情報ください。」

「期間限定のエネミーネェ。しかもレア食材の出る奴カ。」

向かった先はアルゴのところだ。こういうイベント事がある場合何かしら限定のクエストやエネミーがあるはずだと予測した。

「そうだネ。丁度いいものがあるんだガ。」

「買った。」

「相変わらず即決だこト。」

情報と言うのは手に入れるのが早ければ早い程こちらに有利となる。こういうのは即決が一番だ。うちのリーダーもいつも言っているしな。

『買わずに後悔。買って反省!』

「41層の森エリアの中の村で一人のNPCがレアエネミーの情報っぽい話をしていたという情報があル。」

アルゴからその情報を買い取り、早速向かっている。情報の内容は予想通り、この2日間の間の特殊な時間にだけ出てくると言われる鳥系エネミーがいるそうで、そのエネミーから手に入るレア食材がAからSランク級の肉ではないかと思われているらしい。高ランク食材を調理するにはそれと同格の調理スキルを持っていないと調理できないが、うちでいえばアスナがS、ハヤマ、サラがAランクと調理する人物はそろっている。後は数を手に入れればいい。

祭りに参加するのも一興だが、やるなら何かレアを掘りたい。更に言えば自分だけの物じゃなく、皆でその喜びを分かち合いたい。それがこんな俺を拾ってくれた、あの人の、リーダーの考えだからだ。

森の中を少しだけ歩いたところ、木々に囲まれた静かな村にたどり着いた。

今では雪が降り積もりNPCたちが雪かきをしていた。その中で情報のNPCは宿屋の1階で毎日のように座っている老人だという情報だ。早速宿屋に向かってみた。

宿に着くと一人だけ窓際に座っている老人を見つけた。情報通りだ。たぶん間違いないだろう。

「ドーモ。」

「ん…。なんか用かい? お若いの。」

まぁ、座りなさいと椅子を出してくれたので向かい側に座る。

「じいさん、なんでも珍しい鳥を知ってるとか聞いたんだが。」

「ああ、あの話か…。そうじゃなぁあれはわしが小さな子供のころじゃった。あの日もこれだけ大量の雪が降っててなぁ。」

『このような大量の雪が降った夜、家から森の中で光が見えてな。家を抜け出して森にはいったら、ある開けた広場で空から大量の鳥が下りてきたのを見たことがある。非常に臆病だったのかワシが駆けよると一斉に逃げていきおった。たった一匹だけ逃げ遅れた奴がいて、持ち帰ったらジイサマが焼いて食いおった。ワシも食わせてもらったがとてもうまかった。あの味は二度と忘れんよ。可能なら死ぬ前にもう一度食べてみたいのう』

そして現在、話を聞き終えた後に森の中にあると思われる広場を探している最中である。

「ちくしょう。クッソさみぃ!」

森の中のエネミーも何やら動きが鈍い。この雪と寒さのせいなのだろうか。しかし寒さも感じ取る事が出来るとは面白いシステムだな。ここまでしなくてもいいだろうに。

積もった雪をかき分けながら進んでいると、前方から一人の女性が同じように雪の中を歩いてきた。

『カーソルが緑…。プレイヤーか。』

向こうも気づいたのか近づいた際に声をかけられた。

「こんにちは。」

「ども。」

軽く会釈をする。

「すみません。このあたりに開けた広場は無いかしら。探しているのだけれど…。」

どうやら自分と同じ場所を探しているらしい。もしかして鳥エネミー狙いか?

「俺も探している最中ですが、今の所みあたらないっすね。」

「もしかして、あなたも鳥エネミーを探しているのかしら?」

やはりそうだった。

彼女の名前は『フィーア』。アスナが来ている様なローブ系の防具を身にまとい、蒼を主体としている。長く黒いポニーテールが特徴的だ。彼女は料理スキルをかなり上げているらしく、今回の話を聞いた時に興味を引き探しに来たとか。

双方の自己紹介を軽く済ませ、共に森の中を探すことにした。

共に探す中で彼女のプレイヤーとしての腕も見れた。かなり高い方だと思われる。武器は細剣を使い、スピードを活かした戦い方をしている。先ほどの話ではソロに近い活動をしているようだし、これが終わったらオキに話を振ってギルド勧誘してみるか。今は戦力がほしいときだとも言っていたしな。

「見つからないわね…。」

「だーな。」

あちらこちら探して回ったがこの森エリアの中にそれらしき広場が見当たらない。休憩という事で森の中にあるセーフティエリアの木の下で休むことにした。相変わらず雪は降り続いている。

今までの傾向からすると『広場』と呼ばれる場所はかなり目立っているほど広い。そうここのセーフティエリアみたい…に?

「あ、見つけた。」

「え、どこかしら。開けた場所なんてあったかしら。」

「ここ。」

セーフティエリアの真ん中を指差す。それを見た後にフィーアはあたりをぐるりと見渡した。どうやら気づいたらしい。

「こんなところに…。」

「盲点だな。モンスターが出る場所とは限らなかったわけだ。」

時間も夕方過ぎ。夜中まで待たなければならないが村からここまで少し距離がある。他のプレイヤーが来る可能性も否定できない。せっかく見つけたのだ。確保しておきたい。

話し合った結果、たき火をして暖をとりつつ夜中を待つ事にした。普段から野宿をすることが多い為、そういうセットは常備している。

火を焚き待つ。隣をふと見ると体に手を沿わせて震えていた。なので彼女に持っていた予備のコート一式を渡した。先の村で大量に買ったのだ。だって寒いだろう?

初めは断っていたが、強引に渡してやった。流石に震えている人をそのまま放置するほど俺はSではない。それにそんなことしたらリーダーに殴られる。

「暖かい…。」

ぽそりと呟くフィーア。また暫く待つ。すると肩に何かが当たる。横をみるとフィーアの頭が肩に乗っていた。どうやら寝てしまったらしい。体もうつらうつらと少しずつ体重を掛けてくる。

『うーむ…。』

広場の方ばかり見ていたせいか周囲に小動物たちが集まっているのに気付かなかったがかなり集まってきているようだ。まぁこちらが動いていないから警戒をといて近づいてきたのだろう。

動けないのをいいことに体に上ってきたり、頭の上で寝たりする小動物たち。

『なんだこれ…。』

あまりこういう状況に慣れていないコマチは肩に頭を乗せてよりかかって寝ている彼女を見てため息をつく。

今迄数々の素材等を手に入れる為、敵を倒すためだけ、戦いのみに人生をかけて来た。そんな自分がこのような状況に慣れているわけがない。だが、悪い気はしない。彼女を起こさないようにじっと広場を見つめた。

浮かんでいる時計表示を見るとそろそろ午前2時を回ろうとしていた。息は白く月の光で輝き広場もうっすらと照らされていた。

そして午前2時。

「きた!」

急に空が明るくなり上から多数の鳥の影が降ってきた。フィーアを揺さぶり起こす。

「来たか。やはりここが正解だ。おい。起きろ。」

「うーん…っは! ご、ごめんなさい。つい…。」

寄り添っていた事に気づいたフィーアはすぐに離れた。

「あまり知らない男の前で寝るのは危険だぞ。気を付けろ。で、きた…ぞ?」

羽ばたきながら降りてくる鳥の姿はかわいらしい姿であった。

「まぁ! 白くてかわいい! 帽子までつけちゃって。」

白い雪と変わらぬ小さな羽をパタパタと羽ばたかせ、頭にはどうやって乗っけたのか誰が付けたのか分からないがクリスマス帽子をちょこんと乗せていた。

目を疑った。いや、ヒューナルもいたのだ。こういう奴らもいてもおかしくは無いか?

自分の様子がおかしい事に気づいたフィーアが顔を覗かせてきた。

「どうしたの?」

「セント・ラッピー…。はは! まさかこいつまでいるとはな。 おい、グラインダーおいてけ。」

エネミー名は『ラッキー』になっていたものの間違いなくあの超時空エネミー『ラッピー』だった。しかも冬の期間に現れる特殊なラッピー。その名も『セント・ラッピー』だ。ちなみにグラインダーとはアークス達が武器を強化する際に使用する材料の事を言う。その使用する際の量は膨大。入手手段はいろいろあるが、何故かラッピーが落としていく事がある為見かけた際にはグラインダーを探す事が多い。

「きゅっきゅ♪」

何故自分がこいつらを知っているのか。説明を後ですると言い、目の前にあるレアエネミーを狩る事にした。いやしようとした。

問題はここがセーフティゾーンだという事。こちらの攻撃も効かないはずだ。

とりあえず捕まえてみることにした。逃げ回る『ラッキー』を何とか捕まえることに成功する。

すると光り輝き出し、ラッキーは消え、手元にはタマゴが残っていた。

「これは…どうすればいのかしら。」

フィーアが悩んでいるさなか、自分はタマゴを振った。カラカラとなる卵の中。何か入っている。

近くにある石でタマゴを割ってみた。すると…。

『残念!』

そう書かれた紙が出てきた。

ポカンとする二人。周囲のラッキーはまだまだ降りてくる。試しにフィーアのも割ってみるとそこには光り輝く調理用の肉『ラッキーの肉』がアイテムとして出てきた。そして一緒に

『ラッキー!』

と書かれた紙も入っていた。つまり先ほどのは『ハズレ』だという事だ。コマチは再びラッキーを捕まえタマゴを割る。

『ハッズレー!』

顔が引きつる。再度…。

『また頑張ろう!』

「ふっざけんなー! こん畜生!」

流石に切れた。

『うぉぉぉ!』と叫びながら付近にいるラッキーを追い駆ける。

それをみて苦笑するフィーア。

「ちょっと声が大きいけども…。でも、こういう騒がしいのもなんだかいいわね。私も手伝うわ!」

『はずれ!』

『残念でした!』

『大凶』

「おみくじか! ふざけんな!」

いくつの卵からハズレを引いたのだろうか。叫びながら走る。そして再びタマゴを割る。するとようやく。

「お、おお!?」

光り輝く肉を手に入れることができた。しかも先ほどフィーアが手に入れた大きさよりも何倍も大きい。

「大きいわね。これ大当たりよ! きっと。これだけあれば10人分の料理は…いやまだいけるわ。」

「まだ足りない。」

「え?」

なにせオキに大量のレアを持って帰ると約束したのだ。必ず持って帰る。それが約束だからだ。

「数をこなせばいいんだな。」

ようやく落ち着きを戻したコマチはアークスとしての血が騒ぎだした。

そこからは完全に作業だった。ラッキーを掴み、タマゴになり割って、あたりかハズレかを確認して次。

フィアも手伝ってはいたが中々でない。それどころか…

『素晴らしく運が無いな!』

『また、試したまえ!』

『ふむ。ハズレじゃないかな?』

「ドゥドゥー!」

まさかのドゥドゥのセリフっぽいのが混ざっているという。ドゥドゥとは。

彼はアークスの武器の強化を担当している人物だ。武器を強化できる人物は数が少なく、貴重とされている。

強化する際に独特な煽り文句を喋る為、アークス達からは好かれていない。

『なんなんだ!?』 『ふざけんな! 貴様はおよびじゃねーよ! かえれ!』 『ふざけんな! ちっくしょー!』

森の中に消えていく叫び声。何故かフィーアは笑顔だった。かなりうるさくしてしまったような気がするが。

そのことに気づいたのは粗方手に入れた後だった。

ともあれ、一晩中動き回り納得のいく量を手に入れたコマチは朝日を見ながらタバコに火をつける。

「これだけあればかなりの量の料理を作れるわね。」

「だな。そうだ。今回の礼もかねてうちのギルドのクリスマスパーティーに招待したい。こいつはそのための肉なんだ。」

目を見開くフィーア。何かおかしなこと言ったか?

「い、いいのかしら?」

「問題ない。リーダーなら間違いなく『あー。こいこい。連れてこい。人数は多ければ多い程楽しい。』というだろう。」

少し考えた後に首を縦に振ってくれた。

「わかったわ。お言葉に甘えるとするわね。」

にっこりほほ笑むフィーアの顔は朝日の光に輝いて見えた。

42層の『オラクル騎士団』ギルドホーム大会議室。そこには大量の肉料理がずらりと並んだ。

「ヤッホー! 食べ放題だ!」

「ちょっと乾杯してからよ!」

タケヤとツバキがはしゃいでいる。それを笑いながらみるレンとサクラ。

「なに、これまじでラッピー!?」

「まじかよ。とうとう食用になったか。」

「お肉さんもぐもぐ!」

報告した際にオキ達もラッピーの肉だという事に驚いていた。流石ミケ、相変わらず食べるのが早い。

フィーアはうちの料理人達と共に料理をして貰った。本人からの希望だった。まぁそもそもこの肉を使って料理をするのが目的だったみたいだし。ついでに料理人達との交流も深めた。

「ほう。こいつはすごい。」

「こりゃご馳走やな! しっかし、わいらもええんか?」

「ああ、うちのコマチが取ってきてくれたが相変わらず数を考えなくてね。せっかくだからみんなで食べよう。」

ディアベルやキバオウ達も呼び、ギルド連合の面々が集まって料理を口にした。

皆が舌鼓を打ち料理人達もA,S級食材を扱えて満足そうにしていた。

イベント中にフィーアはオキの勧誘の下、ギルドに加入。コマチのPTに入れられ前線火力役として活躍することになる。

なお、それでも余った食材はエギル商店に並び、かなりの量が取引されたのは余談である。あまりの量の多さにオキ達からため息と呆れ顔をされたのも言うまでもない。

ちなみに、余った分でフィーアが作った料理を一緒に例のじいさんに持って行ってやった。

じいさん、驚いて腰を抜かしていた。そして涙を流しながら食べているのをみてフィーアは笑っていた。

こういうのも悪くない。




皆様こんにちは。
アークスオキです。番外編のコマチ視点いかがだったでしょうか。ここで登場、ラッピーにドゥドゥのセリフ。
今作は少しだけPSO2要素を多くしました。
コマチは普段からうるさく叫ぶので罵倒部分も多くなっております。(本当に多いんですよ?

さて、PSO2の方では現在報酬期間で多数の効果UPが入っている為に絶賛レア堀と武器作成で大忙し。
ラムダグラインダーとメセタが溶ける溶ける…。どうしたものか。

では次回にお会いしましょう。


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第18話 「重い刀」

怪物兵団メンバー紹介
ギルドリーダー:アインス

サラ:短剣使い。アークス。クラインとの仲の良さは若干進展している、らしい。

ソウジ:カタナ使い。イケメン。とにかくイケメン。アインスがSAO内で初めてであった人物。カタナの知識が半端ない。

ソーマ:大剣使い。男性陣の中では一番身長が低く、歳も一番下。だが冷静沈着で落ち着いた年齢に合わない性格をしている。

グレイ:短剣使い。大人びた短髪のお姉さん。メンバーからは『姉御』と呼ばれている。

シィ:メイス使い。怪物兵団の武器管理担当の少女。大人しい性格で闘いもあまり積極的ではないが皆を支援したいと武器作成改造を日々頑張っている。

ヒョウカ:細剣使い。クールビューティの言葉が似合う美少女。普段から口数が少ない。実はアインスに惚れている。

ケイ:片手剣+盾使い。お調子者の熱血バカ。熱い男だが正義感の強さと何事にも自分の信念を貫く姿勢はアインスも認めている。

GT:槍+盾使い。ソウシが最近勧誘してきた。メンバー内で一番体が大きい。見た目が怖いと初めは思われがちだが、実はかなり優しく紳士。ケイと気が合うのかよく一緒に行動している。



正月が過ぎ、もう少しで49層に到達しようかという所だった。

 

迷宮区を攻略からギルドホームに帰ってきたときに、メンバーの一人であるソウジから相談があったところから始まる。

「隊長。ちょっと相談があるんですけど。よろしいですか?」

 

「ん? なんだい?」

聞いた内容は28層にある村で昔大戦で活躍したという隠居した剣豪から修行を受けるというクエストだった。

 

「初めは修行してステータスを上げることが目的だったんですけど、修行が終わってクエスト完了したと思ったら新しいクエストがでて…。」

 

ソウジ、同メンバーであるヒョウカ、そしてGTの3名で行っていたらしいそのクエスト後、どうやら剣豪と一試合して勝てば剣豪が使っていたという武器をくれるという話だった。だが

 

「あのじいさんつよすぎ。」

 

GTが苦笑気味にいう。少なからずこの『怪物兵団』はかなりのレベル、装備、経験が備わっていると自負している。

 

油断さえしなければ最前線でも苦戦はしない。だが、その老人はかなりの強さらしく3人とも一瞬で負けてしまったらしい。

 

「ほう…。」

 

話を聞き終えた俺は体がうずいている事に気づく。

『戦ってみたいものだ…。』

「隊長、うずいてます?」

 

シィが顔を覗きこんでくる。

 

「ははは。やはりばれるか。」

 

「隊長はそういうの好きだからねー。」

 

「うん。ばればれ。」

 

その場にいたソーマやケイもうなずいてくる。

 

「行って来たら?」

 

「サラ君。」

 

奥のキッチンから出てきた。どうやら話を聞いていたらしい。

 

「こっちは大丈夫だから。好きに暴れてきたら? オキにも連絡はしておくから。」

 

さっそくメニューコンソールを開いてメールをしている。何もかもいつも感謝の言葉以外でない。

 

『大丈夫。こっちは何とかなってるから心配しないで。わざわざ連絡ありがとう。隊長が戦いたいっていうなら行って来ればいいんじゃない? むしろさっさと行かないとこっちのカタナバカがすごい行きたがってるから早くいかないと先こされるよ?』

 

とオキ君からメールが飛んできた。最前線を少し離れる事を連絡したのだが…。これは急がねばならないな。ハヤマ君に先を越される前に。

「よく来たな。わしの名前はヒシギ。」

 

「アインスです。なんでもかなりの剣豪の方とお聞きしまして。」

 

28層のフィールド最東端にある一軒の家。付近の村での情報ではかつて起きた大戦争で活躍したと言われる大剣豪だとか。

 

白い長い髭を持った白髪のご老体。その剣豪であった老人に修行を申し入れるとクエスト開始。

 

内容は「マキ割り」から始まり、「洗濯」「掃除」「畑仕事」等、ヒシギの生活の手伝いばかり。

 

『これは…なるほど。そういう事か。』

 

本来修行と聞けば、武器を持って稽古をしたり素振りをしたりなどがイメージされるが、このクエストの内容はそれが無い。その為、途中でリタイアするプレイヤーもいたそうだ。だがアインスはすぐにこれが修行の一環で武器を振る事に直結している事に気づく。

 

マキ割りがいい例だった。

 

『マキ割りというのもなかなか面白い。ただ斧を振り下ろせばいいだけではなく力の一番かかる場所を見切り、力加減を考えて無駄な力をかけずに振り下ろす。更に一撃で真っ二つにしなければならない。ふむ、奥が深い。』

 

淡々とこなすアインス。他の内容をそれに近かった。

数日の修行を終えたアインス。その日はチームメンバーも様子を見に来てくれた。

 

「よくぞ耐え抜いたな。お主なかなかの精神じゃ。文句ひとつも言わんとはの。」

 

「全て剣を振る為に必要な動きばかりでした。普段からの生活の中でもこれだけの事ができるとは。逆に勉強になりました。」

 

後で聞いたが、この修行の話はソウジ達の国ではかなり有名な話らしい。面白い歴史だな。

 

「ふむ。ついてこい。」

 

ヒシギの跡を付いていくアインスとメンバー。ソウジから耳打ちされた。

 

「ここからです。たいちょー。一撃目は…。」

 

「ソウジ。言わなくてもいい。大丈夫だ。俺を信じろ。」

 

そういうとソウジは頷いて黙った。こちらもうなずき返す。

 

「さて、ついたぞ。」

 

家を離れて少しだけ林を抜けると道場があった。

 

「かつて、わしの師匠と修行していた場所だ。お主、なかなか筋がいい。どうじゃ、わしと一本やってみんか?」

 

きた。ヒシギは一本のカタナを渡してきた。

 

「私でよければ。」

 

もちろん受け取る。その為に来たのだから。

 

「そうじゃな。ルールは簡単。最初にお主かワシ、どちらかの胴にカタナの刃を触れさせた方の勝ちじゃ。」

 

「いいでしょう。」

 

ヒシギが刀を構える。先ほどまでの老人の目ではなく、剣豪としての目が生き返っている。

 

「…ほう。」

 

ヒシギが上段の構えに対し、アインスは鞘から刀を抜かない。居合の構えだ。

 

「…ではいくぞ?」

 

さて、どうくる。上段の構え。そうなると振り下ろしだが、問題はどうして『俺のメンバーが一撃で負けたのか』

 

「っふ!」

 

「!!」

 

一瞬前に踏み込んだと思いきや、直後に目の前まで迫ってきた。これか、このスピードにやられたのか。

 

上段から踏込の勢いと同時に振り下ろしてくる。

 

それを間一髪で体を横に移動させ避ける。避けたところに下まで降り切った刀が振り上げてくる。

 

後ろにステップで回避し、足に力を加え前に出る。

 

「む!」

 

居合、横一閃。

 

刀を振り上げきった胴に向かって切りかかる。だが、それを後ろに回避された。

 

体の体勢が崩れている。更に前にでて上からの振りおろし。

 

ヒシギはそれを刀で受け止める。

 

キィン!

 

道場に初めて刀の打ち合う音が響く。それを端から見ていたメンバー全員は言葉が出ない。

 

ソウジは思った。今迄何度かアインスの戦いぶり、アークスの化け物退治を見てきた。基本的に楽しそうに戦っているイメージが多い。1度だけ、25層のあいつだけは別だったが。

 

『たいちょーの今の戦いぶりはまた違う。戦いを楽しむのではなく、殺意を持った戦いでもなく。自分の全ての力を試している。本気の…戦い。』

 

これが『アークス、アインス』!

 

「うぬ!」

 

「ぐ!」

 

力任せに刀を押し、跳ねのけてきた。

 

『まずい。体勢が!』

 

その隙を狙ったかのごとく両手で持った刀を振り上げ全力で振り下ろしてくる。

 

それを刀で受け流しつつ後ろにジャンプする。

 

『距離を保てたか。』

 

距離が離れ、体勢も戻し再度構える。ヒシギも動かない。お見合い状態だ。

 

「ふむ…強いな。お若いの。」

 

「いえ、あなた程でも。」

 

二人してニヤリと笑う。

 

完全に静止した状態が暫く続く。

 

見守っていたヒョウカが体重を少しだけ前にかけた際に足元の床がきしむ。

ギシッ!

その音と同時に両者が動く。

 

アインス横に一閃。

 

ヒシギは前に出つつそれを防いぎ、直後に当身をしてくる。

 

「ぐっ!」

 

ぐらりとバランスを崩される。

 

「ふん!」

 

鋭い突きが襲う。だが体をひねってしゃがみ回避。そのまま足払いをかける

 

ヒシギはジャンプして回避、そのまま振りおろし。アインスそれを切り上げで受け止め再び鍔迫り合いとなる。

 

「…お主全力ではないな。まだなにか隠しておるな?」

 

「…。」

 

本当にこの世界はバーチャル世界なのだろうか。時々違和感なく現実だと思えてしまう。

 

それにここまで言われて全力を出さねば、いくら中身がプログラムでできているNPCとはいえ失礼に値する。

 

『やはり…面白い!』

 

今度は逆にこちらから払いのけた。

 

「むう!」

 

体のバランスを崩すヒシギ。そこへ居合からの切り上げを行う。それもただの切り上げではない。

 

『PA、ツキミサザンカ』

 

綺麗な孤を描いて切り上げられる。ヒシギはそれを刀で受け流す。

 

まだだ。『ゲッカザクロ』。

 

切りあがった刀をそのまま一気に下へ切り下す。更に直後には切り上げが待っている。

 

「ぐぅ!」

ガキン!

ヒシギのカタナが弾かれ、胴が完全に空く。

 

「ふぬ…。」

 

そこへ、その場から強力な突きを繰り出す。

ドン!

「ガハッ!」

 

それに打ち込まれたヒシギの体は、壁際まで大きく吹き飛ばされた。

 

「シュンカ…シュンラン。」

 

鞘へ刀を収めるアインス。『勝者:アインス』の文字がでると共にチームメンバーからの賞賛の声が響いた。

 

本来のシュンカシュンランは強力な突きの後に力任せの切り下しが2回、さらに力いっぱいの振り上げ1回がつながる派生PAだ。しかしアインスは突きの部分だけを好んで使用する。代わりに他のPAへとつなぐためだ。

 

「いやはや、なかなかやるのう。ここまで惨敗したのも師匠以来じゃわい。いつつ…!」

 

「大丈夫ですか? つい本気を…。」

 

「いや、問題ない。これくらいでくたばっていては師匠に怒鳴られるからのう。」

 

そういって道場内に飾ってある神棚へと足を運んだヒシギはそこに置いてあった一本の刀をアインスに差し出す。

 

「これは…?」

 

「わしを超える者が現れた。新たな時代を切り開くがよい。これはその手向けだ。」

『兼定』

受け取るとそこに書かれていた文字にはその名があった。

 

かつて師だった者が使っていた業物。ある事件で命を絶つ前に弟子であった剣豪に渡された。その男の生き様と一緒に。

 

『次代への流れが見えない訳でも、時流がどちらに傾いているか判らない訳でもなかった。ただ、それに背を向け…。親友の無念を晴らすため、武士の時代の終焉を見届ける為、最後の最後まで武士で在り続ける。あの人はそういうのが判らない人じゃないが、曲げられない信念があった。』

 

アインスは目を瞑った。そのような男がいたのかと。

 

「重い・・とても重い刀じゃないか。だが、その宿命は俺が引き継ごう。この刀に込められた『想い』と共にな。」

 

受け取った後、礼を言ってその場を後にするメンバー。

 

見送った後に剣豪は空を見上げて呟く。

 

「時代を切り開け。生きるがよい。そなたが守る大事な者達と共に。「誠」の意志を継ぐ新たな時代の者よ。」

「すごかったですね! 感動しました!」

 

帰路、シィが嬉しそうに笑顔で話してきた。

 

「うん。すごかった。」

 

まだ落ち着かないのか普段から口数の少ないヒョウカも口を開く。

 

「さて、ソウジ君。わたしが受け取ってしまったがこの刀…。」

 

「ああ、それですか。実はその刀ですが、たいちょーのプレゼントにしようと思ってクエストを受けたんです。」

 

「む?」

 

話を聞くと、どうやらソウジが探している刀があるらしく、その情報を仕入れている最中に今回のクエストの情報を得たらしい。クエストの途中で狙っているものではないと知ったこと、その刀をせっかくだからアインスに普段からのお礼も兼ねてプレゼントしようとしたようだ。

 

だが問題としてあまりにもNPCが強すぎた。諦めかけたところでオキに相談したらしい。すると

 

 

「隊長だったら逆にそのNPCと戦いたがるんじゃない? あの人、自分が努力して手に入れたほうが喜ぶだろうから、倒せないNPCがいるっていう情報と、倒すと刀がもらえるっていう情報だけ渡して誘ってみたら? 喜んで付いていくと思うよ?」

 

 

なるほど。彼のいれ知恵だったというわけだ。

 

「騙したみたいですみません。」

 

皆シュンとなる。

 

「いや、嬉しいよ。受け取ろう。この刀を。」

 

これは思った以上に重い武器になりそうだ。

 

「あ、あともう一つ。その刀まだ完全な状態ではないと思います。」

 

「というと?」

 

「その刀の本当の名前だと思われるのが『和泉守兼定』。先ほどNPCが話していた人物のモデルとなる過去の侍、『土方歳三』が持っていたと言われる刀です。」

 

ほう。実際に存在するのか。あの生き様を貫いた人物が。そう思いつつ刀をみる。

 

まだ本調子ではないということか。

 

「っふ…。」

 

「隊長、嬉しそうね。」

 

グレイがソーマと微笑みながらいう。

 

その時、アインスがあることに気づいた。

 

フィールドの影で一瞬だったがたしかに一人のプレイヤーが数名のプレイヤーに追いかけられていたのを。

 

「…みなすまない。すこし用事ができた。先に帰っていてくれないか。」

「あ、手伝います。」

 

ソーマがついてこようとする。だがここから先はすこし嫌な予感がした。皆を危険にさらすわけには行かない。

 

「いや、大丈夫だ。」

 

そう言って先ほどの追われていたと思われるプレイヤーがにげた方面へと駆け出した。

 

 

「皆は…帰ったかな?」

 

ある程度走った途中で後ろを振り向き確認した。誰もついてきていないな。みな素直でいい子だ。

 

「さて…。」

 

 

フィールドの地図ではこの先は行き止まりのはずだ。

 

『索敵ではこの先に数個の反応アリ。やはり誰かいるな。』

 

周囲は森の木々で囲まれており、道は一度上り坂となってから行き止まりまで急な坂道となっている。

 

影から行き止まり方面を覗いた。

 

予想通り、カーソルがオレンジ色のプレイヤー3人が1人の女性プレイヤーを襲っていた。

 

丁度夕方の太陽が下り道の陰になる時間であり、薄暗い場所。

 

周囲を見渡しこの者達が狙っていたかのような人を襲うにはぴったりの場所だと確信する。念のため周囲を索敵スキルで探る。

 

『オキ君からはこういうのも罠の可能性があると言っていた。念には念をいれておこう。』

 

だが索敵スキルは前方のプレイヤーのみ。女性プレイヤーは今にも襲われそうだ。

 

太陽を背に坂の上でオレンジプレイヤーを止めさせる。

 

 

「まてぃ!」

 

「誰だ!?」

 

太陽を背にしているせいか相手からは見えていないらしい。襲っているプレイヤー達は手をかざしている。

 

「貴様達、そこで何をしている。」

 

再び聞く。まぁ聞く必要もないと思うが。

 

「誰だかしらねーが、貴様には関係ないだろう!」

 

「さっさと失せろ!」

 

「それとも、痛い目にあいたいのか?」

 

はぁ。どこに行ってもこういう輩は変わらない言葉を吐くのだな。ため息がでる。

 

「たすけ・・・たす・・・けて!」

 

泣いている女性プレイヤーが助けを求める。

 

「人を傷付ける者、人を脅かす者。人それを、外道と言う。」

 

「貴様…一体なんなんだ!」

 

「貴様たちに名乗る名前は無い!」

 

「くそ、やっちまえ!」

 

オレンジプレイヤーは各々の武器を取り出し、アインスに襲い掛かってきた。

 

「遅い!」

 

一回転での居合切り。PA「カンランキキョウ」で一閃。

 

下層のプレイヤーではアインスの火力を抑えることはできない。たかだか一度の攻撃で周囲を囲んだオレンジプレイヤー達は吹き飛んだ。

 

「ぐ!」

 

「つ、つよい…。」

 

「くっそ…一撃でこれかよ。」

 

「…確かに重い。重いカタナだ。」

 

ずしりと腕、肩にかかる重さを感じとり呟くアインス。

 

初めて切った「兼定」の相手がこのような外道らとは少々申し訳ないと思った。

 

「たいちょー!」

 

「おまえたち…。」

 

不自然に思ったメンバーがアインスの跡を追ってきた。

 

周囲で転がるオレンジプレイヤーを見て瞬時に察知。

 

「オレンジプレイヤーか。」

 

「犯罪者め。」

 

「死ぬか、二度と出られない監獄に入るか。どちらか選びな。」

 

回廊結晶を投げ渡すグレイ。コクコウと頷くオレンジプレイヤーは回廊結晶で黒棺宮へと送られた。

 

「あ、ありがとう…ございます。」

 

襲われていた女性プレイヤーはなにか礼をと申し出たが、アインスはそれを断る。

 

後にディアベルから送ったオレンジプレイヤーの話を聞いた。

 

どうやら女性プレイヤーにストーカーがいたらしく、交際を申し込んだが断られた腹いせにオレンジギルドに依頼したそうだ。

 

もちろんそのプレイヤーもしっかり御用となった事はいうまでもない。

 

その後、助けた女性プレイヤーとチームメンバー(主に女性陣)が仲良くなっていたがこの時に『アインス隊長ファンクラブ』なるモノが発足していた事をアインクラッド攻略後に知る事になるのは別の話。




皆様、こんにちわ。
隊長ことアインス視点、いかがだったでしょうか。
隊長からは実際に『土方歳三が好きだ』という話を聞いた時にこの話を思いつきました。
久しぶりの戦闘描写。結構頑張りました。
これで彼が振ってみたいと言った『和泉守兼定』がいつか完成するでしょう。

後半のオレンジプレイヤー戦はあっけなく終わらせましたが、どちらかというとそのやり取りをやってみたかったのでつい。
ロム兄さんかっこいい。

さて実際のPSO2では報酬期間が終わりました。
今回の結果、ガルグリフォン星13武器5本! かなり濃い報酬期間だったかと思います。
アークスの皆様はなにかいいものが出ましたか?

最後に、夏休みということで1週間後の更新は休止とさせてもらいます。身勝手ながら申し訳ありませんが2週間後にまたお会いしましょう。(もしかしたら書いてるかも?)


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第19話 「レティシア」

49層に到達した攻略組。そこから始まった2層に渡る長期キャンペーンクエスト。
目の前にひろがるフィールドは今までに無い広さ。
オキ達、アークスのSAO攻略はようやく半分を迎える



「1番のりー!」

 

「あー! 負けちゃいましたー…。」

 

48層のエリアボス討伐後、49層への階段を昇っている際にシリカと追いかけっこ。そのまま競争となった。

 

シリカを背に49層へと1番にたどり着いた俺の目の前に一人の女騎士が突如現れる。

 

「…そなたらは。」

 

NPCだろう。自分達が一番乗りだ。となると1番乗りでのクエストか? 以前にもあったな。

 

「地より現れし剣士…そなたらが光の剣士か!」

 

「…はい?」

 

いきなりの単語に目が点になる俺と続々昇ってくる攻略組メンバー。

 

「よくぞ参られた光の剣士たちよ。我が名はシャルス12世。この地を治める者だ。上から失礼するよ。」

 

ディアベル達にアクティベートを頼み、俺とシリカはNPCである女騎士『レティシア』に案内され城下町から見える城『シャルス城』で王を名乗る人物と謁見していた。

 

大きな椅子に座る若き王。初見で感じたのは優しき顔と共に、謁見の間に響く熱き声だった。

 

何やら長い話を老婆のNPCから聞かされたが要約すると

 

『25年前まではこのシャルス国は上層にあった。だが、25年前。突如としてやってきた闇の勢力に国は分断。前国王は戦ったがその時の大戦で戦死した。大戦後、下層であるこの場所に国を再建し何とかここまで立ち直らせたものの闇の力は増すばかり。だが古より伝わる伝承の通りに光の剣士が現れた。共に戦ってほしい。』

 

つまりこの人たちと共に上を目指せばいいだけのお話である。もちろん承諾。

 

俺は『光の剣士』として、シリカを含む攻略組メンバーは『光の剣士の仲間たち』として認識されているようだ。承諾直後に自動的にレティシアがPTに入ってきた。表示上はNPCとしてだがHPバーがあるという事は一緒に戦うのだろうか。

 

「よろしく頼むぞ。えーっと…。」

 

「オキと呼んでくれ。こっちはシリカ。んで、お供のピナ。」

 

「よ、よろしくお願いします。」

 

「きゅる!」

 

「うむ。こちらこそだ。そなたはドラゴン使いか? 頼もしいな。」

 

「あ、いえ、そんな…。」

 

あたふたしているシリカをニヤニヤしてみていたら背中を叩かれた。

 

「よろしく頼むぞ。小さなドラゴン。」

 

「きゅる!」

 

まるで任せろと言ってるようにレティシアの周囲をグルグルと飛び回るピナ。それをみて笑うレティシア。うん。いい感じだ。

 

城下町をでて目の前に広がり森林エリアを進む。

 

「ここから2日程進んだ先に渓谷がある。その谷の下にある洞窟の先に上層、聖域への扉がある。そこを目指すぞ。」

 

迷宮区への入り口はそこか。他のメンバーにも伝えておこう。

 

こちらが謁見している最中にすでに先発隊としてコマチを初めとする数名に道中の殲滅を依頼しておいた。

 

そうすればこちらの道中も楽になる上、道に迷うことなく進める。迷宮区の入口さえわかってしまえば後はなんとかなる。

 

夜、森林エリアの半分を過ぎたところだろうか。森の中にある小さな村で一晩過ごすことにした。

 

レティシア曰くかなり順調に進んでいるという。そりゃそうだ。雑魚のポップはどうにもならないにしろ、フィールドボスは先発隊が突っ走り倒している。メールではだれが一番大物を仕留めれるか競争をしているようだ。相変わらずだなぁもう。

 

地図のデータもそろってきた。先発隊はすでに渓谷エリアまで到達しているようだ。どうもこの49層。今までの中でもかなり広いらしい。そもそも端から端まで移動するのに5日もかかるという時点で察していたが…。

 

「オキさん? まだ起きていたのですか?」

 

「ん、シリカか。」

 

夜もおそいというのに一人ボソボソと独り言をつぶやきながら宿のロビーでタバコを吸っていたところにシリカがやってきた。

 

「気が付いたらお隣にいなかったので…考え事ですか?」

 

ポスッと隣に座るシリカ。俺は彼女の頭を撫でてやった。

 

「うん。今後の動きと現状をね。」

 

「そうですか。あまり遅くまで起きていると明日にきますよ?」

 

気持ちよさそうに目を瞑って甘えてくる。

 

「だーいじょうぶだ。アークスならこれくらいいつもやってるさ。夜中でも朝早くでもたたき起こされるからな。」

 

「そういえば私と初めて出会った時もコマチさんにしてましたね。」

 

緊急の放送が鳴ると条件反射で起きてしまう。だから夜遅くまで起きている場合も多い。

もちろん24時間張り付きという事も出来ない為交代で赴く。

 

「…オキさん。」

 

「んー?」

 

「アークスの時のオキさんも毎日、このように戦っては休んでと繰り返していたんですよね?」

 

「そうだよー? 毎日が戦場さ。時にはダーカーが各星々で大量発生したりしてそん時は総出で一日中ダーカーと戦ってたなぁ。落ち着いた頃にはもうみーんなひどい目しててさ。大変だったなぁ。」

 

この世界では考えられない戦闘の日常。昔話をシリカに話していたら二人仲良くロビーで寝ていたところを朝になってレティシアにたたき起こされた。起きた時に二人して酷い寝癖が付いててみんなで笑った。

「もう少しで渓谷だな。少し休もう。ここから先は休む場所が無いぞ。」

 

丁度セーフティエリアにもなっている小川の岸沿いを歩いているとレティシアが休憩を提案してきた。確かに地図ではここから少し歩けば渓谷エリアで谷に向かって降りていく急な坂道となっている。休む場所もないだろう。

 

「ふう。水が冷たくて気持ちいいな。」

 

ぱしゃりと小川の水を顔にかけると冷たくて気持ちよかった。そういえば昨日の宿、風呂が無くて入ってないな。

 

基本的に1日中動いた後はギルド拠点の温泉でその日の汚れと疲れを取るのが日課になっていたので少し違和感がある。

 

電子ネットワークの世界だというのにそこまで再現するというのは本当にすごい技術だと改めて実感した。

 

「んー…。この先に泉があるな。昨日風呂入ってないから違和感がやばい。ちょっと体拭いてくる。」

 

「え? あ、はい! じゃあここで待ってますね。」

 

シリカとレティシアをその場に残し、脇道に入るとすぐ目の前に泉があった。どうやら小川からの水が来ているのだろう。綺麗な水だ。一気に入り込めば冷たくて気持ちいだろうが、それをやると後で乾かすのが大変になりそうだ。

 

念のため後ろを見ると木々に隠れて小川の道からは見えない。そもそも脇道自体も目立たない道の為に気づきにくい。

 

「よいしょっと。」

 

コートを装備欄から外し、肌着とズボンのみになる。道具一覧からタオルを取り出し、泉の水につけて軽く絞った。

 

「冷たくて気持ち良いな。」

 

タオルを体に擦り付けると水が気持ちい感じに浸る。腕と脚を拭き、肌着を装備から解除しようとした。

 

「…まぁ念のため。」

 

レティシアはNPCだから流石にプレイヤーを覗くという行為はしないと思うが、シリカもいる。

 

「流石に無いよなぁ。」

 

後ろを見るが人の気配はない。索敵で少し離れたところに2人と1匹の反応。

 

「ま、覗きなんかシリカがするはずもないか。」

 

上半身裸になりズボンも取って、下着一枚になりタオルを体にこする。

 

「あー…。気持ちいいわー。」

 

水の冷たさに体を震わせる。やはり一日一回は風呂に入らないとダメだな。

 

体全体を拭いたのちに髪にもタオルで水を浸す。さっぱりした。

 

装備全てを装着し、二人の所に戻った。

 

「お待たせ。問題なかった?」

 

「お帰りなさいです。特にありませんでした。」

 

「シリカも少し水浴びてくるか? ここ一本道でここからしか入れないみたいだから俺が見張ってれば誰も近づけないよ。」

 

そもそもここから後ろの攻略組は昨晩過ごした村に待機しているし、先にはすでに迷宮区の洞窟を見つけたとか言っていたコマチ達が待機している。あいつらはえーよ。

 

「ふむ。私もいいかな? そうすれば何かあった時でも私が守れる。騎士としての務めだ。」

 

なんかかっこいい。ま、索敵には何も引っかからなかったし、ここセーフティエリアだからエネミーもいないしな。大丈夫だとは思うが。

 

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…。覗かないですよね?」

 

「覗かねーよ!」

 

脇道に入ろうとしたシリカが後ろを一度見てボソリと言ってきた。目がマジだ。あれ覗いたら殺されるだろうな。しないけど。

 

2人と1匹は脇道に入り泉の方へと向かった。俺は脇道の入口に座り込み他のアークス達に状況をメールを書き始めた。

 

 

そして半分くらい書いたところだ。

 

「きゃあ!」

 

「シリカの声!?」

 

今の叫び声は確かにシリカの声だ。馬鹿な。ここにエネミーはもちろんプレイヤーだって俺しかいねーんだぞ?

 

「大丈夫か!?」

 

脇道に走って入り、槍を構えた。そこには

 

「あ…。」

 

「む…?」

 

水の中に入り込んだシリカと全裸になっているレティシアの背中が目の前に広がってまぶしかった。

 

周囲を確認したが何もいない。

 

「え、えっと…。」

 

「ふむ…。」

 

静かに水の中に入り体を隠すレティシア。シリカは初めから水の中に入っていた為に肩から下は見えていない。

 

レティシアも背中は見えてしまったが完全に後ろを向いていた為に前は見えてない。

 

「あ、す…すまん! 悲鳴が聞こえたので…。見えてないから! みてないからー!」

 

その場で土下座して目を瞑って大急ぎで脇道を戻った。そのあと全力で俺の名前を叫ぶシリカの声が背中に刺さった。

 

どうやら水に入ろうとして戸惑ってるところにレティシアが背中を押して泉の中にダイブさせてしまい、驚いて声を上げてしまったらしい。

 

双方に悪気があったわけではないのでシリカも直ぐに許してくれたが、渓谷を降りる途中は居心地が悪かった。

 

道が狭く、険しい下り坂なのでシリカと何度かぶつかりながら下っていた。ぶつかった時は一言

 

「すまん…。」

 

「いえ…。」

 

のみの返答。ちなみに双方顔真っ赤である。戦闘時も最低限の声掛けしかできなかった。ちなみにレティシアはその状況を楽しむかのように終始、ニヤついていたように見えた。おめーのせいだぞ。まぁ綺麗な背中ごちそーさまだったが…。

 

「ようやく洞窟にたどり着いたな。ここは中の構造が迷路のようになっているが私が抜け道を知っている。ついてこい。」

 

洞窟に入ると中は薄暗く、エネミーも今迄虫系や動物系だったのが急にリザードマン系に変わった。

 

「むぅ…。こやつら闇の勢力の者達だな…。ここまで降りてきていたとは。やるぞ! 二人とも!」

 

なんだかむしゃくしゃしていたのでリザードマン達に対して全力でたたき切ってやった。

しかし女性とはいえ流石騎士と言うべきか。軽々と片手剣と盾を振り回し敵を一掃するその姿は、先ほど泉で見た華奢な体からは到底思いつかない。こりゃまけてられねーな。

 

「なかなかやるではないか! だが負けてられないな!」

 

「なんの。こちらと長年戦い続けてるもんでね。おりゃ!」

 

「う、うう! 私だってぇ!」

 

シリカもノッてきた。彼女も相当腕を上げたものだ。それに黙っていても俺の攻撃の隙をぬう様にフォローしてくる。二人して目で追い、頷き合った。

 

ある程度奥まで進んだ先に開けた場所にでた。目の前には何度も見た迷宮区の入口が広がっている。

 

「ようやくここまで来れたな。二人ともお疲れ様だ。なかなかの腕だな。そなたらの二人の動き。感服したぞ。」

 

「いやいや。シリカが腕を上げた。それだけだ。俺はなにも変わっちゃいない。レティシアもさすがの騎士だ。」

 

「わ、わたしは…強くなったのかなぁ。でもオキさんの言う通りレティシアさんもすごくお強いですよ。」

 

「ははは。ありがたい言葉だ。さて、これを昇るとしよう。中にも闇の勢力がうようよといるだろうからな。」

 

そういって中に入ろうとしたときだ。コマチからメールが飛んで来た。

 

「あ、まって。」

 

「ん? どうした。」

 

メールの文章を目でおう。

 

「あんの馬鹿野郎。待ってろって言ったのに。」

 

「どうしたんです?」

 

シリカが心配そうに顔を覗いてくる。先ほどまでの変な空気も戦いで吹っ飛んで行ったようだ。ありがたい。あの空気はもう勘弁だ。注意しよう…。

 

「俺の仲間からの情報が飛んで来た。実は先方隊として派遣していてな。もうこの先の敵は殲滅したそうだ。」

 

「なんだと!? この先の闇の勢力全部を!?」

 

レティシアが驚いている最中、噂の御一行が迷宮区から出てきた。

 

「うっす。エリアボス見つけたぜ。」

 

「はえーよ! コマッチー! たーいーちょー…?」 

 

隊長を睨み付ける。

 

「いや、すまない。オキ君を待っている間あまりにも暇だったものでつい。」

 

「つい、じゃねーよ! はやまん!」

 

「いやー、隊長とどっちが大物を狩るかで勝負しててここまで引き分けでー…。仕方ないからちょっとだけ先の奴を偵察に行ったついでに、とか思ってたら気づいたらエリアボスまで行っちゃった。テヘペロ。」

 

ため息しか出ない。あーあ。レティシア大爆笑してるよ。隣にいる目が点になっているシリカを見る。そして二人して一緒に笑った。

 

その後、先発隊であった隊長、コマチ、ハヤマ、ヒョウカ、シャル、フィーアの6名と迷宮区を進み、途中で中ボスクラスが「いた」話を聞いて、早々にエリアボスの階層に到着した。

 

ポップが少なすぎる。迷宮区はあまりに殲滅が早いと再ポップが遅くなる場合が多い傾向があった。つまりここもそうだ。

 

「あんたら、やりすぎぃ!」

 

「はっはっは。」

 

隊長、わらってごまかしてもだめだぞ。

 

「で? ここのボスは?」

 

「ここにいるはスケルトンジェネラルだ。盾と片手剣を持ったスケルトン達の親玉。何度戦った事か…。」

 

レティシアが扉を前に語りだす。ここで情報がもらえるのか。こりゃ楽だ。

 

戦った時の話を聞き、情報をまとめた。

 

「つまり、特殊攻撃無しのただのでかいスケルトンってことか。」

 

「今回は楽そうだな。」

 

笑いながらタバコに火をつけた。レティシアが更に続けた。

 

「しいて言うなら盾が鬱陶しいな。盾は攻撃を弾く。そこにカウンターを決められたら目も当てられないぞ。」

 

「そのときは弾かれた奴を蹴っ飛ばしてでも動かせばいいさ。」

 

「なるほど。」

 

レティシア、納得するのかい。ともかくこのメンバーだけでは少し足りない。

 

「しかしあいつを倒すとなるとこの人数で足りるのか?」

 

「安心しろ。もう呼んだ。すぐそこまで来ているはずだ。」

 

迷宮区到着した時点で攻略組のどのような状況でも対応できるメンバーを呼んでおいた。

 

「いたのだー! おーい!」

 

「たいちょー! お待たせしました!」

 

「オキ、お待たせ。」

 

ミケ率いる愉快な双子とソウジ率いる怪物兵団の精鋭、ソーマ、グレイの3名、そしてキリト、アスナペアだ。

 

「これだけいれば特に問題無かろう? ってかいくならさっさと行こう。隊長とハヤマンがうずうずしている。おめーらおちつけ!」

 

「無理だ。火が付いちまった。」

 

「うん。ぶった切りたいねぇ。」

 

レティシアはそれを聞いてまたもや大爆笑。その他全員呆れ顔でエリアボスの扉を開く。

 

こうなった二人を誰も止めることはできない。念のためで呼んでおいたミケ達だったがいらなかったか。

 

結果、エリアボス攻略に掛った時間は多分今迄で最速だと思う。完全に戦闘狂の二人の料理イベントだった。

 

交互に攻撃を仕掛け、盾に弾かれたら体当たりで軸をずらして回避。その後攻守交代するというやり方で【スケルトン・ザ・ジェネラル】がサンドバックだった。

 

合掌。




50層に続きます。
ってわけで皆様ごきげんよう
相変わらずのアークス無双。今回の49と50層はオリジナルで組んでみました。
ストーリー上だしたい敵もいますし。
では皆様、50層でお会いしましょう。


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第20話 「要塞ガルグ」

49層のエリアボスをサンドバックにし、とうとうアインクラッドの半分、50層への第一歩を踏み出したオキ。そこは闇の勢力により荒れ果てたフィールドだった。


50層に到着したオキ達は50層のフィールドを見渡した。

 

「ここまで…ひどくなっているとは…。」

 

膝を落とすレティシア。49層の緑の木々がある綺麗なフィールドと違い、ごつごつした岩や砂だけの荒野が広がっていた。

 

エネミーも蠍や虫等を始め、デーモン系、ゴースト系もちらほら見える。

 

「25年前の大戦争の話は我が父から聞いていた。だが、聖域は綺麗な水と草木がある草原だったと聞く。それがここまで…。」

 

目を強く瞑り悔しがる。気持ちは分からなくもない。

 

「ほお。まるでリリーパだな。」

 

階段を昇ってきた隊長達もその光景を見る。たしかに惑星リリーパの砂漠地帯に近い雰囲気だ。

 

「まさかと思うけどリリーパ族いないよね?」

 

「いてたまるか。」

 

ボケてタバコに火をつけるコマチに対し、ツッコミを入れるハヤマ。

 

「リーじゃないのだー! ふっとばすのかー!」

 

「おめーら静かにしてろ! レティシア。悔やむのはまだ早いぞ。俺たちが闇の勢力とかいうふざけたアホをぶったおしてしまえば、また綺麗な自然を作れるさ。」

 

「…そうだな。そなたの言う通りだ。」

 

レティシアは立ち上がり、前へと進んだ。それに続く攻略メンバーたち。

 

「しっかし荒れ果てた街だな。」

 

「ひでえ…。」

 

50層の最初の拠点はNPCが今までにない程少ない。街として機能しているのかも怪しい。

 

一応転送門はあったのでアクティベートはしておいた。これで行き来しやすくなるだろう。

 

「闇の勢力により衰退したのだろう。だが、聖域への扉を守る魔物を倒してくれた。光の門も復活した為、すぐにでも王国に伝達がいきここの復興に全力を注ぐおつもりだ。我々はこの先にある我が王国の元聖地へと向かい、闇の勢力の親玉を倒す。」

 

光の門、転送門の事だな。ボスはこの先か。ここから先は皆同時に移動だ。

 

その他のチームメンバーにはクリアとなった49層のその他の場所を探索してもらい、王国内で起きていると思われる同階層のクエストでレベル上げを行ってもらっている。

 

暇な時こそ、レベル上げやレア堀等をやって戦力の増強を行っておくべきだ。まぁ休む時は休ませるけど。

 

「そんじゃ早速、雑魚処理といきますか!」

 

装備やアイテム補充を最低限行い、最初の街『ベーン』を出てフィールドへと向かう。道中の雑魚はできるだけ殲滅してこちらも少しでもレベルを上げなければならない。

まぁうちのメンバーなら言わなくても殲滅しちゃうけど。

「今日はここで休もう。」

フィールドは49層と同等の広さを持っているのか、1日では迷宮区の塔がかすんで見える程度しか進まない。幸い、道中ゆっくり歩いても夕方前にはオアシスにある小さな村には到着できる距離になっているようで野宿はしなくてよさそうだ。

 

村の中にある一番大きな宿を借りて、ロビーで夕食とした。

 

「ここまで大人数で移動するのも久しぶりだな。ミケっちー。そっちの双子ちゃんは疲れ大丈夫?」

 

一番年齢が低く、体の大きさも一番小さい双子は俺たちよりも歩幅が短い。よって歩く歩数は一番多くなる。疲れが心配だ。

 

「大丈夫なのです。お気遣い、ありがとうなのです。」

 

「そうよ。私達なら心配はいらないわ! でもありがとう!」

 

にっこり笑ってミケをサンドイッチにしてソファーに座っている。

 

「ミケについてこれる体力があるから大丈夫なのだー。」

 

「こちらのメンバーも特に心配はないようだ。オキ君の方は大丈夫かな?」

 

隊長はすでに自分のチームメンバーの確認を終わらせていた。さすがや。

 

「私も大丈夫です。」

 

ほほ笑むシリカ。顔色も特に問題は無い。うん、大丈夫かな。コマチ、ハヤマもこちらをみて頷く。皆大丈夫そうだ。

 

「そういえばレティシアさんは?」

 

「ああ、レティシアなら外で王国軍の兵士としゃべってるよ。なんでも伝達の人が来たとか。」

 

宿に着いた瞬間にレティシアは一人の王国の紋章を付けた兵に声をかけられ外で話をしている。と思ったら戻ってきた。

 

「レティシア、どうした? 難しい顔して。」

 

「うむ。いい知らせと悪い知らせがある。」

 

これは嫌な予感しかしない。一応両方聞くとして。

 

「じゃあいい知らせから。」

 

「了解した。今ベーンから伝達兵が早馬で駆けてきてくれて王が復興の為に多数の兵士から商人等をベーンまで早急に送ってくれるそうだ。これであそこも復興できるだろう。」

 

ふむ。そうなれば店等も使用しやすくなるだろうな。

 

「いい知らせだな。できるだけ早く住人もいい生活に戻れるよう期待してるしできるだけ我々もそれができるように頑張る。」

 

「伝えておこう。そして悪い知らせだ。こちらはここから少し進んだ先の要塞『ガルグ』からの伝達だった。我々がここに到着したことをしってこちらも早馬で来たらしい。」

 

「つまり、まだそこは生きているという事か。」

 

隊長の言う通りだ。兵がいるという事はまだそこの拠点は生きている。だが悪い知らせか?

「ここまではうれしい話だ。問題はここから先にある。どうやらその拠点の方角に大量の闇の勢力の軍が集結しつつあるらしい。」

 

「なんだと!?」

 

「まじっすか…。」

 

グレイとソウジを始め周囲のメンバーがざわつく。

 

「偵察した様子では2,3日で攻めてくる可能性があるという。すまない、皆、私に守る力を貸してほしい。」

 

なるほどそういう事か。

 

「わかった。力を貸そう。レティシア。その拠点、明日向かうぞ。」

 

「いいのか!? ありがたい。」

 

要塞の防衛か。ん? どこかで聞いたことがあるような。

「いやーすまないね。急な依頼しちゃって。」

 

「いいって事だ。それよりもエリアボスを最短で倒したんだって? 見てみたかったな。」

 

ディアベル達、以下ギルド連合の追加メンバーを早急に要塞『ガルグ』まで呼び寄せた。ディアベル達はそもそもエリアボス攻略に備えていたらしいが、俺たちアークス(一部)メンバーがフルボッコにした事を知って待機していてくれたそうだ。

 

おかげでたった1日で準備が完了した。

 

ディアベル達が来るまでの間に、アークスメンバーは要塞の施設、状態を確認した。

 

かつては闇の勢力をここで押しとどめる為に作られた巨大な城壁のある要塞。今迄はちまちまとした小競り合いが続いていたらしく、今回のように大規模な軍勢が攻めてくることは25年前にあったきりだとか。

 

まっすぐに伸びた城壁には門が3つあり東門、西門、そして中央の正門がある。城壁の上にはバリスタが4つずつ設置されており、現在でも使用が可能。だが資源の関係で撃てる矢が限られているそうだ。確認すると各バリスタで2回ずつ。つまり12発が限界だそうだ。

 

1発の威力がどれくらいか調べたいところだが数も無い。ぶっつけ本番と言うところか。

 

一応、重い矢を持って移動し、素早く取り付けるという練習だけはやっておいた方がいいだろうな。まさか自分一人で持てるか持てないかの重さだとは思っていなかった。

 

レティシアからは闇の勢力とやらの情報を教えてもらった。どうやら真正面から突っ込んできそうな感じらしい。

 

それら情報をすべてまとめ防衛戦に向けての作戦会議を行った。

 

「と言うわけで、PT分けは以上。続いて各PTの配置を発表する。異論があったら言ってくれ。正門、前線ハヤマ&シャルとキリト&アスナペア。」

 

「あいよ。」

 

「了解。」

 

「西門前線、ミケとゆかいな仲間たちとディアベルPT。東門前線、コマッチー&フィアっちとクライン&サラ。」

 

「りょうかいなのだー。」

 

「任された。」

 

「あーよ。」

 

「任しとけって」

 

今回の防衛戦はとにかく門を守る事にある。そこを突破されればクエストは失敗だ。レティシア曰くここの司令官は失敗した場合はベーンまで撤退する事も考えているという。

 

門を守ればいいのだから前線でアークスメンバーとそれに匹敵するプレイヤー達が全力で殲滅する。だがそれでも抜ける場合があるので後ろの門手前の選抜部隊が後処理という作戦だ。

 

「続いて門を守るメンバー。正門、オラクル騎士団。西門、怪物兵団。東門、アインクラッド解放軍。そして今回最重要と思っているバリスタ担当はドラゴンナイツ・ブリゲードからリンド部隊。よろしく頼むね。」

 

「任せておけ。あんなクソ重い矢を容易に持って移動できるプレイヤーはうちの脳筋どもだけだ。すでに装填までの流れと練習はさせている。今までは盾として守ってきたが、今回は矛として戦おう。」

 

にやりと笑いながら親指を立てるリンド。すっげぇ頼もしい。

 

最後にもう一つ。前線は一番混戦するだろう。そうすると後ろに抜けるエネミーが増え、処理が大変になる事が予想される。そこで中間地点に1つの遊撃部隊を作り前線指揮と支援する事にした。

 

「前線遊撃部隊は俺とシリカとレティシア、そして総指揮官兼遊撃リーダー、隊長だ。異論は?」

 

周りがシーンとする。これでほぼ布陣が出来た。あとはなる様になれだ。

 

「おぬしらには本当に感謝するほかない。そうだ、ここの司令官からこれをと渡された。」

レティシアは小さな小袋を渡してきた。中には結晶が入っていた。アイテム表記は『通信結晶』となっている。

 

「これを所持しておくと任意の者と交信ができる。ただし気を付けてほしいのは交信できる距離は短い。後でどこまでの距離かを確認しておくといい。」

 

「こいつは便利なものを。ありがたい。よし、各PTのリーダーに渡しておこう。」

 

個数は足りそうだ。準備はできた。いつでもこい!

 

対策会議後の次の日の朝。兵士たちが慌しく動き始めていた。どうやら始まるらしい。

それに伴い全員の体調が万全であることを確認した。

 

城門、正門前に集合した全員は上を見上げた。総指揮官である隊長は城門上に陣取ってもらっている。

 

「全員問題はないな? 体調はOK? よし。いいか諸君。今までにない大規模な戦闘が予想される。無理せず、HPが半分になりそうだったら直ぐに後ろに下がり回復しろ。その他メンバーはそれをフォローしろ。いいな?」

 

隊長、アインスからの最後の注意事項だ。全員がそれに答える。

 

「「「おおー!」」」

 

レティシアも要塞の兵士たちに活を入れていた。

 

「いいかお前たち! 恐れるものなどない! 我々には光の剣士達がついている! だが、ここは我らの地。光の剣士達に頼り我らが力を出さずしてどうするというのだ! 大事なものを守れ! だが無理だけはするな! お前たち一人ひとりに帰るべき場所があるのだから!」

 

「「「おおおお!」」」

 

要塞内から兵士たちの声が響く。今回、兵士たちには後衛の支援をレティシアから頼んでもらった。数がいるとはいえ、もし万が一にも突破された場合誰が要塞内で食い止めるのか。そこで考えたのが外をアークス、プレイヤー達が、要塞内に入り込まれた場合、兵士たちが食い止める作戦を立てたのだ。これならいけるだろう。万が一突破されても、すぐに後退しつつ攻撃もできる。

 

「いいかおめーら。準備はいいな? 攻略組ギルド連合『アーク’s』出陣!」

 

俺の掛け声とともにそれぞれが持ち場に走る。フィールドは見渡す限りの平坦な地が続き、ある一定以上進むと進めなくなっている。ディアベル達が来る前にこの戦場のフィールドを下見していた時にシリカが先に進めない事に気づいた。つまり防衛が成功しなければ先に進む事は出来ないという事だ。

 

更に言えば、そこから敵が出てくる最前線と言うわけだ。つまりその場所に部隊を配置すればエネミーが出た瞬間に倒すことができる。何故そのような予想をしたのか。それはどう考えてもここが『採掘基地防衛戦』の状況に酷似しすぎているからだ。

 

惑星リリーパの砂漠地帯。そこに先住民が建て利用していたと思われる採掘基地。それがあちこちに存在した。

 

あるとき、そこに『ダークファルス【若人】(アプレンティス)』の本体が封印されているという話が持ち上がった。

それと同時に【若人】による採掘基地へのダーカー大襲撃が始まった。

特に襲撃が多かったのは第1採掘基地から第3採掘基地までの3箇所。本体が奪われれば【若人】は本当の力を発揮しオラクル船団を狙いに来るだろう。それは阻止しなければならない。

アークス達は採掘基地を防衛する為に様々な兵器を準備し何度も襲ってくるダーカー達を追っ払ってきた。

『採掘基地防衛戦』。今でも襲撃を行っているだろう。皆は大丈夫だろうか…。

 

「こちらハヤマ。ほんと、採掘基地防衛戦だな。」

 

通信結晶からハヤマの声が聞こえる。結晶の範囲はこのフィールド内なら端から端まで通信できた事が確認されている。

 

「こちらミケなのだ。つまりアイス乗ればいいのかー?」

 

ミケ、そんなものはない。

 

「コマチ、アイス乗ります。」

 

「「乗れたら苦労しねーよ!」」

 

俺とハヤマが同時にツッコミを入れる。

 

「あー、こちらクライン。アイスってなんだ? 食べるアイスじゃないよな?」

 

「こちらディアベル。私も興味がある。が、今はそれどころではなさそうだな。」

 

『A.I.S』、通称アイス。『Arks Interception Silhouette』の略で、簡単に言えばフォトンで操れる巨大なロボット。基本攻撃としてマシンガンで攻撃しフォトンを回収。フォトンセイバーやフォトングレネードを搭載し、ブースターによるブースト移動や対空も可能。

極めつけは一定時間内に一回撃てるフォトンブラスター。簡単に言えばレーザー砲。撃てば並みのダーカーは一撃で蒸発する。

 

A.I.Sはアークスの切り札。安易に使う事は出来ず、一度使用してしまえば暫く使えなくなる。

 

今の所使用されたのは一番やばかった第3採掘基地の防衛戦のときのみ。それだけあそこはやばかった。

 

皆には後で説明してやるか。

 

「こちらアインス。そろそろ来るぞ。各前線担当部隊へ伝達。まずは真正面からだ。ハヤマ君、頼んだよ。」

 

「任せとけ!」

 

隊長はここの司令官から渡された地図を持っている。どうやら出現しそうな場所を示してくれるらしい。簡単だな。そう思った。だがキリトは言う。

 

『それを示してるってことは簡単なように見えるだろうが、それをしないとクリアできないほど難易度がある可能性が高い。気を引き締めた方がいいだろう。』

 

確かに、ヒントがあればあるほど簡単だろうが、それと同等に難易度も上がる。SAOではその傾向があった。

 

「後ろは任せたよ。オキさん。」

 

「任せろ。あの時の防衛戦と同じで負けは死だ。各員、気ぃ引き締めていくぞ!」

 

「「「おおおー!」」」

 

正門真正面。ハヤマの前に大小問わず多数のゴブリンがポップした。さぁて、懐かしの防衛戦といきますかね!




皆様、ごきげんよう。
PSO2での緊急クエスト『採掘基地防衛戦』をモデルに物語に入れてみようとこの物語の流れを考えている時から思ってようやく書き始めることができました。
今回の話で防衛戦を終わらせるはずが準備で終わってしまい次の話になってしまいました。
次回、『ガルグ要塞防衛戦』。
さて、なにがでることやら。

PSO2では新しいチャレンジクエストが追加されました。なかなか面白い内容で難易度もさがりやり方をしっかりわかっていれば楽にクリアできますね。
アークスの皆様はどうですか?
では次回にまたお会いしましょう。


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第21話 「要塞防衛戦」

50層の真ん中付近にある要塞「ガルグ」。そこで起きるは闇の眷属による侵攻。
それを守るべく、プレイヤー達「攻略組」は防衛戦を開始する。


『ケタケタケタ』

「フシャー!」

西門側前線、10体程同時に沸いたスケルトンの兵達が目の前にいたミケを威嚇する。ミケはそれに対し、同じく威嚇する。

「骨対猫…。ミケはんが犬やったら、面白かったやろうなぁ。」

「ほら、面白い事言ってないで倒す倒す。」

「へいへーい!」

ミケが5体程まとめて切りかかり、素早い動きで倒している横でディアベルとキバオウらが残ったエネミーをSSで殲滅した。

「おおおお!」

反対側の東側前線。同様にリザードマンが10体ポップ。直後に10体の塊の中に大剣のSSが放たれる。

周辺の地面を揺るがすほどの威力がある大剣のSSは一撃でエネミーを吹き飛ばし倒した。

「や、やることねー…。」

それを目の前で見ていたクラインは圧倒され目が点になっている。サラはため息をつくが少しだけ口元が笑っていた。

「こちらオキ、西、東クリア。前線は殲滅。後ろは?」

「こちらアインス。君たちのおかげで第一波は後ろに来させずに乗り越えた。次、来るぞ。前方全エリアにエネミー反応あり。構え。」

アインスが持っている地図にエネミーが出てくる反応が示される。

第一波は前線それぞれに10体程のエネミーが同時沸きし、その半分以上をアークスメンバーが殲滅した。

第二波が休み無しでポップする。東のクライン、西のディアベルがそれぞれの状況を説明。アークスはそれの間にヘイトを取りに突っ込んだ。

「こちらクライン。今度はゴースト系か…。また10体程ポップ! あーあ。コマッチーがまたもってった。」

「こちらディアベル。こちらもゴースト系。だがミケ君と共にキバオウ君達と殲滅している。」

東西は問題なさそうだな。中央…は。東西の殲滅が終わると同時に中央にエネミーがポップする。そのエネミーは大きく、そして硬そうな岩の体を持っている。

「ゴーレム…。こいつは固そうだな。」

キリトがボソリと呟く。

今迄に無い巨大なエネミー。大きさはプレイヤー達の2~3倍程の大きさだろうか。それが6体現れる。

「こちらオキ。ゴーレムとかいう奴出て来たぞ。クッソ硬そう。」

「こちらアインス。ああ、見える。ハヤマ君、キリト君はゴーレムのヘイトを取れ。その他メンバーは援護しつつ確実に排除しろ。無理はするな。」

ハヤマがポップし終わったエネミー群に突っ込んでいき、横なぎにカタナを振う。

「はあああ!」

カタナによる範囲SSでゴーレムのヘイトを取ったハヤマがゴーレム達に囲まれる。動きは遅いが、巨大な腕から振り下ろされる攻撃はHPがどれだけ持って行かれるか想像もつかない。それを見てシャルが援護に回る。

「やぁぁ! 無茶をするな! ハヤマ殿!」

「すまね。つい熱くなっちゃって。」

シャルは背中越しに喋るハヤマの向こう側をチラリとみる。ハヤマの前にいるゴーレム2体のHPゲージはもう殆ど残っていない。今の一撃で削ったというのか!?

「うんじゃ、同時にいくよ。」

「うむ!」

楽しそうに目の前にいる1体のゴーレムに飛びつくシャル。それにツキミも続いた。

「ハヤマーん。後ろに来てるぜー。」

ゆっくり歩いて進むゴーレム達は3体がハヤマ、シャル、ツキミの3人がヘイトをとり、キリト、アスナが1体ずつヘイトを取っていた。残り1体は前線メンバーをすり抜け、こちらへ向かってきている。

「すまねー! それよろしくー!」

「あーよ。」

結晶での通信を聞き終わった直後に前に出る。後ろにはシリカとレティシアも続いた。

東西のメンバーは隊長の指示により、アークスのみその場に残し、中央前線の援護に回っている。

「だぁりゃ!」

槍をゴーレムのひざ部分に切りつける。そのままSSを放ち2連撃を当てる。

「シリカ! レティシア!」

「はい!」

「任せろ!」

SS後の硬直に入る。ゴーレムは今のSSで怯んだ。その間、シリカとレティシアが攻撃に回る。

ゴーレムのHPゲージを見ると2連撃のSSにより半分以上が削れている。当てた反応からかなりの防御力がありそうだが、その状態で半分以上削れたのだ。

「新しく作ったかいがあったぜ。」

『蜈蚣丸』。42層の巨大蜈蚣からとれた素材を使用し、リズベットに作ってもらった最新作の槍。

禍々しく黒光りする3又の先は光に当てるとうっすらと紫色に光る。中々の性能だ。

「行かせるか!」

レティシアの片手剣が光り、ゴーレムに攻撃を当てる。直後に結晶化し消え去った。

「なかなかいい槍のようだな。オキ君。それは例の大蜈蚣からの奴かな?」

「いいでしょこれ。リズベットの最新作だ。」

遠目で目てくれていたのか、隊長に槍を褒められる。

「こちらハヤマ。前線のゴーレム及び、その他エネミー殲滅完了。オキさん、それ壊したら今度はオキさんがリズにハンマーで叩かれるんじゃない?」

「こわいのだー。こわいのかー。」

「くわばらくわばら。」

アークス達から笑いが出る。以前シャルを助けたときに何本も武器を壊した事で、ギルドメンバーの武具を管理しているリズにものすごい雷を落とされた。怖いってもんじゃない。

「怒られねーよーに、今回もしっかり戦わねーとな。おら、次来る準備しとけ。」

全員に喝を入れ、次の団体様のご到着の準備をする。HPの確認や武器の状態等。

「お主達はすごいな。このような戦いでも笑いを呼び、士気を高めている。なかなかできる事ではないぞ。」

レティシアにも褒められた。

「まぁ普段からこんな感じだからねぇ。それに、肩の力入れっぱなしで戦っても、いい事なんか一つもないからな。さって次だ。隊長!」

「ああ。東西にエネミー反応。先ほどと違うな。反応がデカい。中央にもデカい反応。出てくるぞ! オキ君! 気を付けろ!」

東に現れたのは巨大なスケルトンの甲冑姿のエネミーとそのお供に弓スケルトン兵が数匹。西には長い手足と大きな羽を背中に付けたデーモン系。こちらも中ボスクラスとお供が現れる。

「上に反応!?」

東西のエネミー達がメンバーと対峙した直後に索敵が上に反応した。見上げると同時に上から巨体が降ってきた。

「ド、ドラゴン!?」

「くそ、ドラゴンすらも操るか! 闇の勢力め!」

ドラゴンの姿は本来煌びやかな鱗がギッシリとあり、高貴な雰囲気を出している。今までに数匹ほどフィールドボスやエリアボスで遣り合ったことがあるがこいつは全く別物だった。

「エネミー名【ドラゴンゾンビ】か…。肉が朽ちて骨まで見えてやがる。」

『オオオオォォォ…。』

そのドラゴンからの叫びは朽ちる体に痛みで悲鳴を上げているかのような音だった。

「っく…。闇の勢力、酷い事を。」

向かってくるドラゴンゾンビにレティシアとシリカが武器を構える。

「はああ!」

飛び掛り、ドラゴンゾンビの顔面に槍を刺す。これでヘイトは俺を向いただろう。

『オオオォォォ!』

もう一度吠えたドラゴンゾンビは口から紫色の火が漏れ出す。真正面にいるとヤバイな。後ろをチラリとみるとシリカとレティシアがこちらに向かって走ってきている。このままでは巻き込まれるか。

「シリカ! レティシア! 掴まれ!」

「え!?」

「っな!」

クルリとUターンをして走り、二人を抱きかかえ地面を横にけって飛ぶ。地面に倒れ込んだ直後にドラゴンゾンビの口から紫色の黒い炎が自分たちのいた場所を焦がした。

「あっぶねー…。大丈夫か? 二人とも。」

「あ、ああ。」

「大丈夫です…。」

二人とも俺の行動に驚いたのか胸に手を当て目を丸くしている。こいつはめんどいな。

「オキ君、その場に居たまえ。西門バリスタ。構え。」

隊長から声が聞こえる。バリスタって言ったな。撃つ気か!

「放て。」

隊長の号令と共に4基のバリスタから一斉に巨大な矢がドラゴンゾンビめがけて放たれる。

ドドドド!

全ての矢がドラゴンゾンビに命中し、HPバーは一瞬で真っ黒に。

「全矢命中確認。敵、消滅。次弾装填。すぐに取り掛かれ。オキ君、大丈夫か?」

「サンキュー隊長。あのまま戦ってたら時間かかってたぜ。他の所も終わったみたいだな。」

周囲の状況を確認すると東西両方とも雑魚エネミー1,2匹ほど門前まで走りぬいたようだが、門前に構えていたメンバーによってフルボッコにされたところだった。

「なるほど。中々の威力だ。面白い。」

城壁の上にいる隊長は小さくてよく見えないが多分にやりと笑っているだろう。それにつられて口元が緩む。

「へへへ。隊長、今の見て戦いたくなった?」

「何を言う。元から戦いたいよ。でもここを任された身だ。離れるわけにもいかないだろう? さぁ次くるぞ。」

隊長の号令により次のエネミー群が現れる。それをアークス、プレイヤー達が殲滅にかかる。

東西両方に中ボス系エネミー、東に三股の頭を持った蛇のようなエネミー『ヒュドラ』、西に蠍型エネミー『バジリスククイーン』。共にコマチ、ミケによって倒されその他雑魚もプレイヤー達によって殲滅された。

そしてまた数十秒程準備が出来る時間があって直ぐに隊長から反応ありの連絡。

『ワイバーン』が西と東に2匹ずつ。正門大型ゴーレム種2体『グリーンゴーレム』が現れる。それもアークスとプレイヤー達の息のあった攻撃により速攻で殲滅された。

『門のダメージ無し。いい感じだな。しかしこの流れ。やはり見たことがあるな。第一波で雑魚が出てきて、次に中ボスクラス。第三波で大型系も出てきた。第四波も今も中ボス系が出て来たし。次に大型出てきたら大当たりかな?』

「隊長、こちらオキ。」

「ん? なんだい?」

「次の出てくる場所。ド真ん中にデカい反応だったりするかな。」

「…。」

隊長が黙り込む。そして結晶から声が聞こえた。

「俺が考えていた事と、オキ君の考えは一緒ってことか。」

「やっぱり? 似てるよね。これ。」

「何のことだー?」

「何々? どうしたの?」

「…防衛戦か。」

コマチがボソリと呟く。それと同時にミケとハヤマが息をのむ音が聞こえた。

「久々すぎて忘れてたよ。」

「なるほどなのかー。確かに似てるのだー。」

「反応あり。ボス反応は無いが、正門前線に大量の反応。東西にも反応はあるが数は少ない。殲滅し終わり次第アークスは正門前へフォロー。中央、オキ君のよみ通りだね。ボス反応あり。デカいぞ。」

前線に大量の雑魚がわくのを見る。数は20や30程一気に沸いた。ハヤマんとキリトがまるで競うかのように武器を振り、ヘイトを稼いでいる。

東西はそこまでいない。これなら直ぐにフォローが回るな。問題はこっちだ。

『シャアァァァァ!』

「こいつはまた…。」

「デカいなぁ。」

またドラゴン系のエネミーだが、先ほどのよりもでかい。翡翠色の流れるような鱗を持ち、翼や尻尾には多数の棘が突き出している。

「テンペストドラゴンか。隊長、やる?」

「いや、こちらで排除しよう。東門バリスタ、目標ドラゴン。よーい。撃て。」

東門側から4本の巨大な矢がドラゴン目掛けて飛んでくる。 

ドドドド!

『キシャァァァ…。』

一瞬にしてご退場だ。しかしほんとにいい威力だな。あの兵器。結晶となり砕け散った『テンペストドラゴン』を背に前線へと駆ける。

「おらおら! どんどん後ろ来てるぜ!」

「無理いうな! これでも頑張ってヘイト取ってんだよ!」

笑いながらハヤマに文句をいい、前線部隊をすり抜けてきたエネミーのヘイトを取る。だが、それでも多い。

シリカやレティシアも何とか攻撃を当て、ヘイトは取っているが無理に多数のエネミーのヘイトを取れば囲まれて一瞬で死んでしまう。それだけは避けなければならない。

「後ろいきました! お願いします!」

シリカが正門真正面に陣取るメンバーに大声で伝える。メンバー全員が待ってましたと言わんばかりに抜けて行った数体のエネミーを袋叩きにしていた。血気盛んでよろしい事。

おかげさまで特に問題もなく落ち着くことができた。

「さって、問題はこれから先だ。ここで終わるか、それとも…。」

「各位、戦闘準備。まだ来るぞ。前線すべてに反応。東、西。強力な反応あり。コマチ君、ミケ君。頼んだよ。」

「あいあいさー!」

「りょーかい。」

7回目の攻撃。この状態は間違いなく『第三採掘基地防衛戦』に似ている。敵の出方、中身に関しては違いはあれど大型モンスターの出方が似ている。となると次で終わりか?

そんなことを思いながら出てきたエネミーに対処するべく少しだけ前に出た。そして東と西に出たエネミーにアークス勢は目を見開く。

「おいおい、こいつまで出てくるのかよ…。」

「これは決まりだね。」

「めんどくさいのだー…。」

「50層のボスって、やっぱりあれか?」

今迄に見たことが無い程の巨大な腕だけが宙に出てきた。黒く、赤い巨大なコアを付けた腕。アークスなら何度も見て、戦ってきた。

『ダークファルス【巨躯】』の眷属にして本体の形を作り出す『ファルス・アーム』。つまり闇の勢力とは…。

「ほう。ファルス・アームか。アークスは真正面でヘイトを取れ。指が壊れるなら破壊しろ。プレイヤー各位は後ろに回り赤いコアを攻撃。門前部隊。雑魚処理を頼むぞ。」

隊長が指示を出す。前線担当はアームを止めろってか。ならばこちらは雑魚を処理しますかね。

「シリカは西! レティシアは東の雑魚を門前の連中が少しでも楽できるように処理!」

「了解です!」

「承った!」

それぞれが三方向に別れ、向かってくる雑魚の処理を行う。途中、チラリとアーム戦を行っているメンバーの方を見たが特に問題はなさそうだ。シリカ、レティシアも奮闘しHPも殆ど減っていない。

「へへへ、こんなもんや! アームかレッグか知らへんが、ワイらに掛かれば楽勝やで!」

「キバオウ君、油断するんじゃないぞ。こいつらもアークスの皆がいうダーカーというモノか。君たちアークスに感謝するよ。君らがいなければここまですんなりといけるではなかっただろう。」

ディアベルが結晶でアークスに感謝の言葉を投げる。なんだかくすぐったいなぁ。

「いや、当たり前の事をしているまでだ。さて、ほぼ殲滅し終わったな。」

周囲を確認し、エネミーが一体もいない事を確認する。

「この感覚…。くるか。」

レティシアが何かを感じ取っている。この展開読めた。

「皆の者! 闇の勢力の親玉だ! 全力を尽くせ! 皆の力を私は信じているぞ! これが最後だ! 迎え撃て!」

レティシアがそう叫ぶと同時に前線全てにゴーレム系とデーモン系がポップ。東西にゴーレムのボスクラス。正面にゴースト系のボスクラスが現れる。そして予想通りのお出まし。

『さぁ始めるぞ! 猛き闘争を!』

「ファルス・ヒューナル。やっぱりお前か!」

待ってましたと言わんばかりに槍をヒューナルに突く。それと同時にシリカ、レティシアも加わる。

「貴様の行ったこれまでの数々、ここで償ってもらおう!」

「私も…頑張ります!」

ヒューナルは3人の攻撃を真正面からまともに喰らう。

『グゥ…! ククク。ハハハ!』

怯むが、それを喰らって尚笑いながら拳を振ってくる。

「まったく、こんなところまで追ってきやがって!」

左右から飛んでくる拳をステップで回避しながら距離を詰め、3連撃の突きを行う。

「お、いいところにいいもん…が!」

真正面からすり抜けてきたスケルトンの一体がヒューナルの真横をすり抜けようとしてきた。そのスケルトンに槍を突き、肋骨に引っ掛けそのまま大振りに上からヒューナルに叩きつけてやった。

「ほう。この世界でピークアップ・スローを再現するとは。さすがだな。」

横から急に声が聞こえ、ヒューナルに向かって攻撃を繰り出す影がすり抜けて行った。

「隊長…。やっぱ、耐えられなかった?」

「うむ無理だな。やはり俺も前線で戦いたいのだよ。それに、戦いながらでも指示はできるだろう?」

二撃攻撃を加えた後に直ぐに下がり、ニヤリと笑う隊長。

「やっぱこうなるよねー。予想通りっちゃ予想通りだけど。」

むしろもった方か? 隊長の事だから戦いたくて前線に出てくるとにらんでいたけどここまで我慢できていたなら予想以上か。これで戦力も一気に上がる。『蜈蚣丸』を構えてヒューナルに向かいなおす。

『グウ…オオオ!』

「やべ、インパクトだ。」

「シリカ君、レティシア君。離れるぞ。」

4人は四方に散らばる。

『応えよ深遠! 我が力に!』

ドォン!

黒いオーラと共に地面を揺るがす両腕。そして時計回りに広がりながら追ってくる衝撃波を避ける。

「行くよ隊長!」

「ああ。」

避けながら近づき、背中に背負っていた大剣を抜き出すヒューナルに攻撃を当てる。

『遊びの由は幾百も…。』

振り下ろしてくる大剣を刀で押えるアインス。

「いまだ。オキ君。」

「あいよぉ!」

高くジャンプし、落下の勢いをつけてヒューナルの体に槍を刺す。怯んだ隙をついてアインスが剣を攻撃する。

更に後ろからシリカ、レティシアが続いて攻撃。

『グウゥ!』

ヒューナルが持っていた大剣は一瞬で壊れ、膝を付いた。

「いまだ。畳み掛けるぞ。」

「OK。隊長。」

「了解した。」

「いきます!」

4人全方位からの火力SSをヒューナルに喰らわせる。

『グゥゥ…。良き闘争であったぞ…。』

黒い渦の中に逃げていくヒューナル。次会う時は『あの本体』の姿だろうな。間違いなく。

「逃げるな!」

レティシアが追おうとするが肩を掴みそれを止めた。

「深追いは禁物だ。さって、ヒューナルもいなくなって、残りの雑魚もほぼ殲滅終わったな。」

「ああ。だが、まだ来るだろう。全バリスタ部隊に通達。中央に標準。出てきたボスエネミーに一斉射しろ。」

アインスが結晶に向かって指示を出す。これがあの『第三採掘基地防衛戦』を真似て作られたとしたならば最後にデカイのが出てくるはずだ。

「前線部隊。こちらで大型エネミーを補足次第倒す。そちらは前線を守れ。」

「こちらクライン。りょーかい! だが何も出てこないぞ…?」

「まて、クライン! 何か出てくるぞ!」

キリトがそれに気づく。上空に浮かぶ黒い渦。先ほどヒューナルが逃げて行ったものではない。何よりそのデカさが違う。こちらはデカすぎる。

「隊長。」

「なんだい?」

「これは確かにA.I.S乗りたいね。」

「気持ちは分からんでもないかな。」

姿が出てきた『ソレ』を見て二人は身構える。

『ギャオオォォォ!』

上から降ってきた巨体が吠える。それはアークス達がリリーパ星の採掘基地防衛戦で何度も戦ってきた巨大ダーカー種。

名を『ダーク・ビブラス』。巨体と共に体の半分以上はあるかと思われる爪と腕が肩部から2本突き出し、黒い甲殻は相変わらずの硬さを見せている。

「こいつもいるのかよ! ダーク・ビブラス!」

ダーク・ビブラスは『ダークファルス【若人】(アプレンティス)』の眷属。彼女の眷属は皆虫系となっており、眷属の中でも巨体を誇る。彼女の眷属が出てきたという事は? 上の層のボスが気になってしょうがないが、今は目の前のこいつを倒すことが先だな。

「バリスタ! 撃て! すべての矢をこいつにぶつけろ!」

アインスの合図と共に城壁から大量の矢が飛んでくる。

『オオオォォォ…。』

第一射で12本の矢が。続いて残していた中央のバリスタ部隊が残った4本を更にダーク・ビブラスへ向けて放つ。

ズウゥン

地響きとともにその巨体は出現と同時に巨大な矢を受け、消滅していった。

「残りは出てきた雑魚だけだな。全部隊! 残りのエネミーを片づけろ。」

走って正面の前線へ走っていくアインス。

「こりゃさっさとしないと獲物を取られそうだ。」

こちらも西へ走り出す。シリカとレティシアには東へ向かうように指示をした。

出てきた雑魚はかなりの量で今迄出てきたエネミーのオンパレードだった。

だが所詮は雑魚。アークスだけでなく、今迄最前線を攻略してきたプレイヤー達にとっては何の障害でもなかった。

「闇の勢力が、撤退していきます!」

城壁の上からガルグの兵が叫ぶ。それと同時に空中に『防衛成功』の文字が浮かび上がる。

「ふぅ…お疲れ様。」

その場に槍を突き刺し、アイテム欄からタバコを一本取り出す。仕事後の一本はやはり格別だ。

「やったでー! ワイらの勝ちや!」

「うっし! 乗り切った!」

キバオウやクラインもガッツポーズで共に戦ったメンバーと称えあう。

「お疲れ様です。オキさん。」

シリカもトコトコと近寄ってきた。さすがに少し息が上がっている。

「お疲れ様だ。お主達にはなんと感謝を述べればいいか…。守ってくれて、共に戦ってくれてありがとう。」

頭を下げるレティシア。それを直ぐに上げさせる。

「レティシア。その言葉はまだ早いぜ。あのバカ、親玉を倒してからいうモノだ。」

目を見開き笑顔になる。

「ああ! そうだな!」




皆様ごきげんよう。
今回かなりの長さとなりました。防衛戦いかがだったでしょうか。
出てくるエネミーをどうするかに一番悩みました。対処方法は元からバリスタで溶かす事が一番楽と考えていたので(
もしアークスがおらず、対処方法も分からないプレイヤー達だけだったらかなりの苦戦があったでしょう。
まぁ高難易度すぎるような気もしますが、アークスがいるからいいよね!
さて、出しちゃいました。ダーク・ビブラス。こいつは説明にもあったとおりアプレンティスの眷属。
という事は? そして50層のエリアボス、つまり親玉とは?
次回『闇の巨体』。あ、もう題名でバレバレですな。


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第22話 「闇の頂点巨なる躯」

 

無事に要塞ガルグの防衛を果たしたメンバーはガルグの兵達から大量の報酬を貰った。

「よく守り抜いてくれた。これは闇の勢力討伐に使ってくれ!」

要塞の長であるグリズというNPCから『支援物資』という名のクエストクリア報酬。

「どう分けようかこれ…。」

防衛戦で疲れ切った体で進むのは危険と判断した皆はガルグ要塞で一晩を過ごすことにした。

夜、ガルグの会議室を借り、ギルドの長たちと分け前の相談をしている。

「ふむ。アークスの皆が頑張ってくれたおかげだ。オラクル騎士団に3、怪物兵団に3、残りを我々で分けるのはどうだろう。」

ディアベルが提案し、プレイヤー達は妥当だと頷く。もちろん俺と隊長は猛反発。

「ふざけんな。なんでうちがそんなにもらわんといけんのや。全員で半々だ。2ずつ分けりゃすむことやろ。」

タバコの火を消しながら怒鳴る。納得がいかん。

「その通りだ。これは俺たちだけで済んだことじゃない。皆が協力して初めて得た成果だ。私もオキ君の意見に賛成だ。」

流石隊長わかってるぅ。

「俺はディアベルに賛成する。俺たちの所は矢を運んで撃っただけだ。」

「リンド、君たちの働きは大いにある。君たちがいなければあれだけの重さの矢を軽々と持ち運びできず、ビブラスに対して速攻できなかっただろう。」

「ディアベルやクラインも一緒だ。前衛メンバーが俺たちだけだったらどうなっていると思う。前線維持できなくて門まで一直線だ。」

再度タバコに火をつける。キリトが手を挙げたので発言させる。

「俺もオキさんの意見に賛成。少なからず全員で得た勝利だ。分けた方がいい。ラストアタックボーナスとか個人的なボーナスがあるならまだしも、みんなでやった報酬ならそれがいいと思う。」

キリトの発言に悩んだ顔をするディアベルだが一度ため息をついた。

「はぁ…。わかった。キリト君までそういうなら仕方あるまい。双方どうだい?」

クラインとリンドも渋々だが頷いてくれた。これで山分けだ。

「だが条件がある。」

「な、なんだよ?」

ディアベルが条件を提示してきた。先に好きなものを選べと言うのだ。コルの他にも装備やアイテムも混ざっている。その中から山分けをしなければならないが、先に選べと来たか。

「りょーかい。仕方ない。キリト、アスナとはやまん連れてきて。選別するぞ。」

「おーらい。」

ハヤマとアスナ合流後、隊長達と共に報酬の入った宝箱の前に立つ。この中から受け取れという事か。

「とりあえずアスナは女性向けに使えそうな装備品と皆が使えそうなアイテム。ハヤマんは今の所足りてない部分を埋めれる防具品。キリトは武器の選別を頼む。」

「わかったわ。」

「りょーかい。」

「あーよ。」

俺は、ネタ探し。

「なーにか面白い物はーっと…。」

「でたよ。オキさんのネタ探し。」

ハヤマが苦笑しながらこっちを見ている。

「ほんと、暇さえあればネタ探してるわね。」

「いいだろ? 面白い物ありゃ周りに笑顔ができるし、なにより俺が面白い。」

「はいはい。」

アスナもキリトもお手上げのような感じでに呆れ顔。そんなこと気にせず再びアイテムを見ていく。

「武器、防具、アクセ。んーこれ使えるくね?」

「あー、サクラ行きだな。あいつの武器そろそろ交換した方がいいだろ。」

「これどうかしら。」

「ステもなかなか。いいと思うよ。」

それぞれが周りに相談しながらアイテムを選定していく。そんななかで面白い物を見つけた。

「これは…。」

見つけたと同時にアイテム欄に入れ装備欄へと移動させる。

「なんかあった?」

「これこれ。」

服の表示が切り替わり、今迄の軽甲のついた服から一転し、キリトが着ているコート系の服を着てみた。

「おお、懐かしい。普段のオキさんそのままじゃん。」

「だろ? 俺、これにきーめた。防具としてもそこまでとびぬけたものじゃないし、今の着ている奴とあまり変わらないからいいっしょ。」

白いコート風の防具。ステータス自体は現在皆が装備している防具と比べてあまり変わらない。だが、SAOを始める前にアークスとして活動していた時に好んで着ていた服装に似ている。

「へぇ。みんな、服着て戦ってたの?」

キリトが質問してくる。

「いや、みんながこんな服着てたわけじゃない。服自体はあくまでファッションの一部だったからね。防具とかは別だからみんな好き勝手な服着て戦ってた。」

「中には水着とかいるよな。」

「まじかよ…。」

ハヤマのセリフに興味もったキリトだが、アスナに睨まれて再びアイテムを選別する。

アークスは本当に服装がばらっばらだ。スーツのような服で戦う者もいればハヤマの言ったとおり水着で戦ったり。中にはラッピーや惑星リリーパの生物リリーパ族のキグルミを着てアークスをやっている者もいる位だ。ここの皆があれを見たら仰天するだろうな。俺たちからすれば日常茶飯事で慣れたものだが。

アイテムの選別が終わり残ったモノをディアベルに渡し、選んだアイテムはギルド内のメンバーに配布した。

均等に分けたはずのコルも受け取ったが、思った以上の額だった。もう一回あのギルド拠点が買えるぞ。

おかげさまでアイテム補充も充分にできたメンバー一向はエリアボスのいる闇の塔と呼ばれている迷宮区へと足を進めた。

道中に拠点として使える建屋がいくつかあったので利用したが、NPCが殆どいない。

レティシア曰く闇の勢力により要塞より先には人が殆どいないのではないかと言う。流石に25年もあんなのに攻められてたんじゃそりゃ滅びもするわな。

そんなこんなで道中のエネミーをこちらの物量でゴリ押ししながら進み迷宮区前まで到達。

今迄に見たことが無い重々しい雰囲気を出した塔のすぐそばにあるセーフティエリアとなっていた洞窟を拠点とし迷宮区を突破する事にした。

迷宮区事態を一気に駆け上がる為ハヤマ、コマチ、アインス、キリトを頭に少数精鋭で迷宮区に突っ込ませることに。何よりハヤマと隊長がここ数日まともに戦えてないということで少し暴れたいらしい。少し、ねぇ。

精鋭部隊が迷宮区を攻略している間に再度エリアボスの情報をレティシアに確認し、対策を練る事にした。

「レティシアからの情報と要塞ガルグにいたNPC達からの情報をまとめると…『闇の者はかつては巨大な姿で現れたという。その姿は余りにも巨大。人間は何もできずに下層へと生き延びた』と聞いている。また、実際にその姿を間近で見たという老兵曰く『数多の腕を持つ、巨なるモノ』だそうだ。」

ディアベルが情報をわかりやすくまとめたくれた。

「私と同じく騎士だった父上も同じことを言っていた。『巨大な腕、深遠なる力』とな。」

レティシアも更なる情報をくれる。そして思い出した部分も付け足してくれた。

「そうだ。『氷の力』これも付け加えてくれ。同じく父上が言っていた言葉だ。」

ここまでくれば相手の事が容易に想像ができる。アークスだからこそ、だが。

「よーくわかった。今回の戦い、今まで以上にきついぞ。相手は…。」

「オキさーん。ボスエリア見つけたよー。」

洞窟内に声が響く。もう終わったのか!? 半日も立ってないぞ?

「お疲れ様。はやかったな。アインス。」

「ああ、思った以上に短くてね。すぐに到達してしまった。」

座り込む隊長に近づく。

「隊長、敵が分かったぜ。」

「ほう。やっぱりアレか?」

頷く。それを見た隊長とハヤマがニヤリとした。

「【巨躯】。やっぱあいつかー。」

「愛刀が無いのが残念だが。我慢するさ。相手に不足は無い。ただ叩き切るのみ。」

相変わらずである。苦笑するしかない。

「さて、エリアボスの部屋が見つかった。相手もわかっている。その情報をオキ君から説明してもらおう。」

ディアベルによって開始された対策会議。いつもならば彼が司会進行をし、敵の情報を出して最適なメンバーを選ぶのだが今回はアークスの方がよく知っている。そこで選ばれたのが俺だった。

「少し目を瞑って、イメージしてほしい。まず本体。とてつもなくデカいタケノコ。」

数名が噴き出す。キバオウに至っては大爆笑だ。

「あっはっは! だめや! 腹いたい! さ、さすがオキさんやで! あはははは! ダメ…しぬ…。」

笑いすぎで転げまわってる。無理もないだろう。だが真剣な顔で続ける。

「ちなみに今のは冗談ではない。星の1/4位の大きさを持つタケノコ状の形をした赤黒い巨体から山々よりデカい手を持った腕が何本も生えている。顔事態は無いに等しいが目の様なものが数個赤く光り、額部分には赤いコアがある。そこからはアークスですら簡単に貫かれ、運が良くてもカッチカチに凍らされるビームを放つ。名を『ダークファルス【巨躯】(エルダー)』。実際に大きさは見てみないとどれだけのデカさかは分からない。でも俺たちの何十倍、何百倍ものデカさを持っている。今からあいつの行ってきた攻撃を一つ一つ説明する。対処法と一緒にね。今回予想しているのは、盾役が重要不可欠だ。リンドのとこには悪いけど頑張ってもらうからね。」

「おう、任せとけ。」

笑っていたキバオウや苦笑いしていたその他メンバーも真剣な顔つきになっていく。こちらも1年ぶりってとこだ。思い出しながらしゃべらないと。

一通り説明と可能な限りの対処法を説明した後に最後に一言だけ付け加える。

「以上だ。他に質問があるなら後で随時受けるぞ。うんで、最後に。この戦い、必ず勝つぞ。レティシアの為にも!」

「お主…。」

全員を見回す。普段のエリアボス討伐という意味だけじゃない。レティシアの為もある。うん、いい目だ。

「何もかも、すまぬ。」

「いいって事よ。こちらも事情があるのでね。困ったときはお互い様だ。」

その言葉を聞いて頭を下げたレティシアは再度皆にも頭を下げるレティシア。

「よし、準備はいいな? 行くぞ!」

「「「おおお!」」」

次の日、メンバーを選抜しボス部屋の扉を開いた。

部屋の中は真っ暗であり、今迄のボス部屋と違う雰囲気だ。

『よくぞここまで来たな。人の子らよ。』

暗闇の中から扉の外から照らされる光の中に出てくるヒューナルの姿。

「よぉ、エルダー。いや、その姿じゃヒューナルだったか? 倒しに来たぜ。」

先頭に立つ俺が啖呵を切る。それを聞いたヒューナルは不気味に笑った。

『フフフ…ハッハッハ! いいだろう。我が力、全身全霊を持って戦ってやる。』

そういって床に溶け込んでいた。

『最高の場を用意した。来るがいい…。』

部屋中にヒューナルの声が響き、部屋の真ん中にワープポータルが現れる。こことは別の場所で戦うのか。

「入ったが最後。倒すまで戻ってこれない可能性があるな。」

ディアベルの意見に全員が頷いた。アークス以外全員が。

「さって、久々のエルダー戦だ。おめーら久々すぎて床なめるなよ?」

屈伸運動をしながらハヤマ、ミケ、コマチ、アインスを見る。

「何言ってんの。その言葉そっくり返すよ。」

カタナの状態を確認しながら笑うハヤマ。

「どーせただのエルダーさんなのだからなー。ハヤマがなんとかするのかー。」

「ミケも戦うんだよ。全く。」

相変わらずの他力本願のミケと突っ込むコマチ。

「久々の【巨躯】か。ふふふ。ふふふふ…。」

あ、だめだ。隊長がもう戦闘態勢に入ってる。傍から見てやばそうに見えるけど、こんな状態でもしっかり指揮できる隊長ってすごいよな。

「アークスは全員準備OKだよ。レティシア。」

「ああ。決戦の時だ! みなには力を借りっぱなしですまないと思っている。だが、今一度その力を、光の力を貸してほしい! そしてその光で私の愛する国を照らしてほしい!」

うん。やる気満々だな。

「そうだな。あんなのがいたんじゃ夜も安心して寝られねーしな。」

「緊急警報…。」

コマチがボソリと呟く。

「うっさい。…乗るぜ。」

ポータルに全員で乗る。

「…これどうやって起動するんだ?」

「オキさん、上です!」

シリカの示す方を見るとそこには『人数制限オーバー』の文字が光っていた。

「おいおい、マジかよ。少人数でいけってか!?」

クラインが頭を抱える。それに続いて周囲もざわつき始める。

「ふーむこれ何人まで?」

コンソールで調べてみると12人と標記されている。そこまで再現するかよ。茅場彰彦め。

「流石50層。生半可な難易度じゃないな。どうする?」

キリトがこちらを見てくる。

「仕方ない。メンバーを選ぶしかないだろ。行きたい人―。」

参加者を募ってみるが手を挙げたのはアークスの4人にキリト、ディアベルだけ。

「おい、ミケ。なんでお前は手を上げてない。」

「めんどくさいのだー。いきたくないのだー…。」

「はいはい。後でおいしいご飯作ってあげるから!」

「行くのだ!」

ハヤマの誘惑に負けた猫。一匹釣れました。

「となると、アークスは参加だな。」

「ふむ。残りは君たちが決めると言い。何せ私たちは本来初見だ。戦い慣れたメンバーの方がいいだろう?」

ディアベルの言葉に全員が頷く。こりゃまいったな。

「仕方ない…えっと。そうだ、レティシアは人数に入るのかな。レティシア。そこ立ってみて。」

「こ、こうか?」

今俺のPTはレティシア、シリカと3人。表示では2/12となっている。

「なるほど。そういう事か。つまりレティシア+12人って事か。ってことは…ハヤマ、ミケ、コマチ、アインス、キリト、アスナ、ディアベル、クライン…後リンドのとこから2人程盾に特化した人を選抜。レティシアと俺で12+1人だ。火力を重点に置いて、盾役が守る。あいつにスピードはいらないからな。レベルと火力順でこんな感じ?」

「盾に特化した奴だな? ならばジュラとウェインだ。おい。」

リンドの指名により前に出てくる。何度か一緒に戦ったプレイヤーだ。ガッチリとした甲冑を着たま二人。まさに騎士だ。

「盾なら任せろ。必ず守ってやる。」

「我にお任せあれ。」

「頼むよ。今回盾役が活躍する場面多いから。」

メンバーはそろった。残ったメンバーは本来のボス部屋で待機となる。

「すまないシリカ。ここを頼む。」

「はい。お気を付けて…。」

にこやかに頭を撫でてポータルに乗る。

「おっし! 起動!」

ポータルが起動し、12人が特殊エリアへと転送された。

「なんだココ…。」

周囲は真っ暗だが、足場は見える。四角形の床だ。

「なななな! なんだこりゃ!」

クラインが叫ぶ。暗闇で何か光ったらしい。そちらをみると少しずつその姿を現した。

「闇…!」

レティシアが剣を構える。

「なるほど。こんなのがいきなり現れたんじゃ、そりゃ国も滅ぶわな。」

槍を構えながら見上げる。

「確かに闇だね。うん。」

ハヤマも隣でニヤリと笑う。

『さぁ始めるぞ! 猛き闘争を!』

巨大な赤黒い円錐の巨体。側面からでている6本の腕。何度も見たその姿。幾度も戦い感じたその威圧感。

50層エリアボス『ザ・ダークファルス・エルダー』戦。開始。




皆様ごきげんよう。
風邪をひきました・・・。なのでこんかいエルダー戦まで終わらせるつもりだったんですが半分で止まりました。次で50層クリアといたします。
次回「折り返し地点」。


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第23話 「折り返し地点」

50層のボスとして現れた「ダークファルス・エルダー」人数制限の中、オキ達はそれに立ち向かう。


『これならどうだ!』

「腕伸ばしてくるぞ! 構えろ!」

盾役が固まりがっしりと構える。そこにエルダーの腕が伸びてきた。

ガキィン!

「ぐぅ…! 重いな…!」

「しっかり守れ! 俺たちの仕事だ!」

「今だ!」

リンド率いる盾部隊が伸ばしてきた腕を受け止め、攻撃部隊が伸びて露出した赤いコア部を攻撃する。

「あー…ヘブンリーフォールしたい。」

「この世界にワイヤーあったらいいのにね。」

俺の言葉に苦笑いするハヤマ。そんなハヤマもPA打ちたいだろう。

「まさかこいつとも戦うとはね。」

引いていく腕にお土産の如くもう一撃いれるアインス。

「ウィクバがほしい。」

「ない物ねだっても仕方ない。さっさと倒すぞ。」

コマチが欲を言ってくるがそれはアークスの誰もが思っている。前に走りながらすれ違いざまにボソリと言ってやった。

「面倒くさいのだー…。ハヤマー。がんばるのだー。」

再び来る腕伸ばし攻撃を回避しながらつぶやくミケ。

「うっせ! おめーもやれ!」

こんな時でもツッコミは欠かさないハヤマ。相変わらずうるさい連中だ。まぁそれがいいんだけど。

『はっはっは!』

「腕振り回してくるぞ! 回避! クライン! そこ危ないぞ!」

「うわったー!」

床を掬うように振り回してくるエルダー。クラインは走ってその場から何とか逃げれた。

「大丈夫か? クライン。」

「ふぅ…あぶねぇとこだったー。こうもデカいと攻撃範囲も広いな。」

「アークスの人達は毎日こんなのと戦ってるのね…。」

次に来る攻撃を予測しながらキリト、アスナ、クラインは構えに入る。

エルダーの真正面ではオキ、ハヤマを初めとするアークス全員が隙をついて攻撃している。プレイヤー達は攻撃の情報をオキ達からもらっているとはいえ、初見だ。安全に戦う為に中央付近で盾役が攻撃をしのぎ、伸ばしてきた腕を攻撃することになっている。

今のところは、だが。慣れてきたら前で戦ってもらうつもりだ。

「腕、まだ壊れない?」

「うーん…分からないなぁ。」

「しっかし動き遅いなこいつ。」

コマチの言う通りだ。今戦っている『ザ・ダークファルス・エルダー』の動きとスピードは、このSAOに入ってくる前までに戦っていた『ダークファルス【巨躯】』の動きとスピードに差がある。

入る前までに戦っていた【巨躯】は復活した直後の時よりも力を発揮するようになり、動きは速く、攻撃の種類も増えている。

だが、今目の前にいる『エルダー』は攻撃の重さがSAO仕様になっているからいいとしてもスピードが遅すぎる。その為見慣れたスピードではない事から回避や攻撃のタイミングをずらされる時がある。

「この動きとスピード…復活した直後の時と同じだな…。」

ボソリとアインスが呟く。その通りだ。復活した直後の【巨躯】と全く同じなのである。

「これなら上空からのレーザーも無いかな?」

「どうだろうね。構えておいて損は無いと思うが…。」

HPバーは1本目を削り切ろうとしている。ハヤマと二人で伸ばしてきた腕をギリギリでかわし、側面から思い切り切り付けてやった。

「オキやハヤマに続け!」

ディアベル達も回避行動から攻撃に転じる。伸ばし切った腕の赤いコア部に次々とSSが放たれた。

バーン…!

次の瞬間一斉にエルダーの下側4本の腕が破壊される。

「一斉に壊れるのかよ!」

「破壊判定じゃなくてHP判定だったのか…。」

自分たちが死闘してきた奴との差に若干の違和感を感じる。ハヤマも同感しているようだ。

「形態変化! 来るぞ!」

キリトの叫びと同時にエルダーは形態変化した。背中に紫の羽が生え、破壊した腕は再生し更に2本追加され8本の巨大な腕がエルダーから生えている状態になる。

『面白い…。面白いぞ…烏合!』

そういって後方へと下がっていくエルダー。

「まて! 逃げる気か!」

「レティシア! 下がれ! 玉ぁ飛んでくるぞ! 全員後退&散らばれ! 自分の所に来たらどこでもいい動き回って避けろ! アークスは最前で別れていつも通りで。」

レティシアの腕をつかんで後方へと下げる。アークス勢はエリアの最前に距離を置いて並ぶ。

かなり小さく見えるようになったエルダーは一番上にある腕2本を伸ばし、こちらに『紅色の玉』を飛ばしてきた。狙いはアインスのようだ。

「げ、梅干しじゃん。」

「氷じゃないのかよ…お前一体いつの【巨躯】だよ。」

「楽でいいのだー。」

ハヤマ、コマチ、ミケが苦笑しながら飛んでくる玉を見る。玉は全部で4つ飛んでくるはずだ。

「なんだか懐かしい物を見た気がするね。ハヤマ君、君に飛んできているよ。」

「あーよ。」

軽く避けるハヤマ。後ろではプレイヤー達が苦笑いをしている。

「梅…干し…。いや確かにそうだが…。タケノコの件もそうだが…。」

「ここまで似てるのも…なんだか不思議ね。」

「キバオウ君がいなくてよかったと思う。多分だが十中八九、笑い転げていると思う。」

ディアベルの言葉にその場にいた全プレイヤー達が頷いた。

「へーっくしょい! ちきしょい!」

「キバオウさん、風邪っすか?」

外で待っている待機組。キバオウが大きなくしゃみをしたのでタケヤが心配そうに近づいた。

「あー…大丈夫や。そもそもこんなかじゃ風邪なんかないやろ。大方どっかの誰かがワイの事を噂したんやろ。有名人やからな!」

ドヤ顔で言うキバオウに対し、その場にいた者達は苦笑気味だ。

「全員回復しとけよ。ここからだ。」

第二形態。今まで自分の腕を組んで隠していた中央のコア部を露出させ守りから攻撃の方に移行させている。コア部が露出しているのでそこを狙うのが一番手っ取り早く、且つ攻撃の半分以上が真正面でよけきれるのが多い。

「だいぶ慣れてきた。ここからは前でも防御できるぜ。」

リンド、ウェインとジュラが前に出てくる。

「行けるか?」

「おう。任せとけ。あいつの攻撃の重さは慣れた。」

「それにここからは前で戦った方が早いのだろう?」

ウェインとジュラもやる気のようだ。怪我ぁするなよ。

『これならどうだ…!』

今迄片側3本だった腕が、形態変化で片側4本に増えている。うち1本は常に頭上に上げている為こちらからの攻撃は届かないが、向こうからの攻撃もほとんどない。増えた関係で攻撃範囲が広がっているが、その正面に立つのはリンド達。

「おりゃああ!」

「ふん!」

「はぁ!」

ガン! ギシ…!

3本の腕が盾によって抑えられる。

「いまだ!」

レティシアの合図で一斉に攻撃をするプレイヤー達。

「えい!」

「だぁりゃ!」

一斉に攻撃に入るプレイヤー達は回避行動から攻撃態勢に移る為1回が限度であるが、一人だけ2回SSを撃っている奴がいた。

「これも喰らえ!」

キリトだ。回避行動を可能な限り少なくし、エルダーからの攻撃が発せられた時にはどこに何が来るのを予想しているかのように、すでに攻撃態勢に入っている。

「成長したなぁ…うんうん。」

「なーに一人で感動してるの。ほら、攻撃する!」

ハヤマに突っ込まれた。

腹のコアにも集中攻撃されている為か、2本目のゲージは1本目よりも早く削れている。

『いいぞ、いいぞ!』

振り上げられた3本の巨大な腕が上空高くに振り上げられる。

「真正面! コア前!」

合図を送り、13人がコア前に集合する。

ドォン!

「事前に教えてもらったとおりだな。ここ安地だ。」

クラインが振り下ろされた腕を見て驚いている。

「今まで何度も戦ってきたからね。こいつのパターンは把握済み。しかもご丁寧に全く同じ様に組み込まれてちゃ…。」

「俺たちの敵ではない。」

アインスがコアに向かって武器を振り下ろす。

バーン…!

腕が2本程吹き飛んだ。それと同時にエルダーの様子がおかしくなる。

『オオオォォォ…!』

「ショック!? まぁいいや、攻撃! チャンスを逃すな!」

号令をだし、各々が赤いコア部にSSを放つ。エルダーが急に力が抜けたように腕を垂らした状態。これは『ショック状態』にある。アークスが使う技の中でテクニックである『ゾンデ系』の持つ状態異常攻撃でしびれさせることを『ショック』という。【巨躯】は『ショック』に対する耐性が高いとはいえず、しびれて動けなくなることが偶にある。だが今回はSAOの中にショックは無い。ならば麻痺属性の武器か技? いや、違うな。

「HPバーが3本目に入った。なるほどそういう事か。」

どうやらHPバーの2本目が削れたようだ。削れる毎に腕が吹き飛び、ショック状態になったようだ。

「おらおらおら!」

「クライン! そろそろ起きるぞ! 気を付けろ!」

「あーよ!」

皆がいい感じに攻撃している。まだ出していない攻撃がいくつかあるが、これなら気にしなくてもいいだろう。

今のショック状態での隙でかなり攻撃できたようだ。

「そろそろあれ、来るかな?」

「そうだな。よし。真正面で攻撃!直ぐに正面中央に来れるようにしておけ!」

アインスが指示を出す。ある攻撃がまだ来ていない。いくつかそのようなものはあるが、ここまで再現しているのであればHPバー4本目でしか来ないだろう。

『耐えてみせよ…。破滅の一撃!』

エルダーの額部分が光り輝きだす。思った通りだ。

「来たぞ! 中央に寄れ! いいからもっとだ!」

ギュウギュウと押し込む。

「いてて! おいオキ! 本当にこれでいいのか!?」

クラインが文句を言ってくるが構わずに押し込む。エルダーの額が白く光る。

「攻撃来るぞ!」

額の小さなコア部からレーザーが放たれた。

「うおぉ…。」

「きゃっ!」

頭上スレスレをエリア全体に向けてビームが流れていく。ここが一番の安全地帯なのだ。

「な? 攻撃当らないだろ? ぼーっとしてないで、おら攻撃する!」

目を見開いて止まるプレイヤー達。真っ先に動いたのはキリトだ。

「いいねぇ。その調子だ。」

「へへ…。」

これは俺の技量も超えたか? もし彼がアークスならば間違いなくトップクラスになれるだろう。

50層までの彼の成長度を考えるとのび方が半端ない。ついニヤリと笑ってしまう。

「おら! 残りも少ない! 油断せずに確実に仕留めるぞ!」

「「「おおおー!」」」

士気もいい感じだ。このまま一気にカタをつけてやる。

「…。」

転移ポータルの前にずっと立って待つシリカ。

「気になる?」

「サラさん。はい、オキさんは大丈夫だと言っていましたが…。」

隣に並ぶサラはシリカの肩をさすってあげた。

「大丈夫よ。あいつ、今迄に何度も私だったら死んでるような戦いを切り抜けてきてるの。アークスの中でも異常なまでの戦闘能力。そして同等もしくはそれ以上を持つ仲間。心配ないわ。大丈夫。」

力の入っていた肩が次第にリラックスしたのか柔らかくなる。

「ありがとうございます。」

「オキなら心配ないわ。心配なのはこっちなんだから。あのバカ。足手まといになってなければいいのだけど。」

クラインの事を言っている。シリカにはすぐにわかった。

「無事に帰ってくることを祈りましょう…。」

「そうね。」

戦闘が開始してすでに数十分以上。今までは十分程度で終わる事が多かった。それでもかなり早い方だと聞いている。

だが、ここまで長引くのはやはり50層という折り返し地点だからと言うのもあるだろう。

二人は元気な笑顔を見せてくれる大事な人がポータルから出てくることを祈った。

「っしゃぁ! 4ゲージ目!」

残り片側3本のうちの一気に片側2本が吹き飛んだ。先ほどと同じくショック状態になるエルダーに対し、全員が全力攻撃に入る。

「今のうちに削れ!」

ディアベルが叫ぶ。プレイヤー達が一斉にSSを繰り出す。

「キリト君!」

「まだ、まだいける!」

攻撃が終わり、回避行動に移らないと立ち直って攻撃が再開されてしまうが、キリトはまだいけると更なる攻撃を加える。

「おおお!」

「その心意気、乗った。」

アインスもSSではないにしろPA「ツキミサザンカ」のように半円状に何度も切り上げる。

『グウウゥゥ…』

「立ち直ったぞ!」

エルダーがショック状態から立ち直る。腕の数は全部で残り4本。頭上にあるあれと、いつも壊れない一番下の腕。

『括目せよ…!』

エルダーが床の4隅に手をかけ、頭上に上がいく。エルダー最大の攻撃『体落とし』の合図だ。

「走れ! 4隅どこでもいい! 走れ!」

「か、体が重い…!」

「なんだ、これは…!」

全員の足が重くなっている。ここまで再現するか!

だが中央にさえいなければいい。

「レティシア!」

「うむ!」

レティシアの手を掴み、自分はエルダーの指に手を駆けてレティシアの体を引っ張り寄せる。

『我こそは、ダークファルス…エルダーなり!』

ズズーン…!!

床全体が地響きで揺れる。

「きゃ!」

「おっと、大丈夫か?」

アスナがバランスを崩して転倒しそうになったところをキリトが支える。

「ありがとう。キリト君。」

「ああ。」

見つめる二人の頭を叩く。

「あいた!」

「いて!」

「おら、いちゃつくのは後にしろ。俺だってシリカに…。」

ブツブツと呟く俺を見て二人はクスリと笑った。

残りのHPゲージも多くない。

「一気に畳み掛けるぞ!」

「だぁー!」

ディアベルの掛け声に合わせて守り側だったリンド達も攻撃に入る。

腕が無くなったことで攻撃の範囲が激変したためなのと、全員がエルダーの攻撃に慣れたからだ。

当ればかなりのダメージを喰らう。範囲も広い。だが、スピードが無い分避けることは可能。そしてなにより、彼らプレイヤー達の戦闘技量が下層時よりも格段にアップしているのが今回の決め手だった。

戦闘バカしかいないアークス達からのレクチャー。ともに戦い競い合う事で経験を積んでいった。

だからこそ…勝てる。

「落ちろぉぉぉ!」

キリトのSSが中央コアに炸裂する。その次の瞬間。

『グ…グォォォォ!』

体全体で唸り声をあげ、崩れていくエルダー。

「っしゃぁ! 勝った!」

「ふぃ…やっぱ時間かかるなぁ。」

アークス達がそれをみて勝ちだ終わりだと拳を打ち合ったりしている。

「まて! 様子がおかしい!」

おかしな部分に気づいたのはディアベルだ。全員がそれを見る。崩れゆく巨大な身体から自分より少し大きい位の黒い姿をした人。何度も見たその姿。今でも覚えているその依り代の顔。

『グウゥゥ…よくぞ。よくぞ我を倒した…。誉めてやる…。』

「ゲッテムハルト…いや、【巨躯】!?」

ゲッテムハルト。狂った思考から封印されていた【巨躯】を復活させ戦おうとした。だが、それは失敗に終わり逆に自分が取り込まれ闇に飲まれた姿。今では『ダークファルス【巨躯】』としてなる。

『くっくっく。人の子らよ。我を倒しても…油断する出ない。光あるところに闇は…ある。』

「たわけ! 再び現れようとしても必ず我々人が光り輝き、貴様らを照らして消し去ってくれよう!」

レティシアが前に出る。ああ、イベントか。念のためレティシアを下げる。

「お主…。」

「下がってな。まだ生きている以上何をしでかすか分からない。」

『ふっふっふ。光の…剣士か。良き闘争…だったぞ…。』

「うっせ。てめーとはこれからも戦わなきゃならねぇ。だがここで戦うのは違うだろう? あるべき場所。最高の場所とタイミングってのがあるんだろう? 待っていろ。必ず貴様を倒してやる。」

エルダーは膝を付き、体からは黒い煙のような渦が立ち上っている。体も少しずつ消えている。終わりだ。

エルダーは最後にこちらを見上げ、ニヤリと笑った。

『グフフフ…。また、会おう…ぞ…。アー…ク…ス…ょ。』

ゾクリ…

背筋が凍るような感覚。上から力いっぱい押さえつけられる威圧感。あの目の光。そして…感じるあの力。

消えていくたった一瞬。その一瞬だけアークス全員が感じた『ソレ』に対して一斉に武器を構えた。

「っな…。今…の。」

「間違い…ない…。」

俺やハヤマだけではない。

「コマチは、わかったか?」

「ミケも…か?」

「間違いない。【巨躯】だ。」

その場にいた5人のアークス全員が体をこわばらせ、そこにいた【巨躯】に向かって武器を構えている状態で固まっている。

消えて行った【巨躯】は最後に確かに「アークス」と言った。そして感じた。

「ダーカー因子。ここでも…感じた。」

「お、おい。大丈夫か?」

クラインが心配そうに肩を叩く。

「あ?」

「おいおいおいおい! まったまった。俺だよ!」

ギロリと睨まれたからかクラインがすぐに離れる。皆が、プレイヤー全員がこちらを見ている。

「はは…ひどい顔だ。ふぅ…。」

「少し、落ち着くか。ああ、すまない。俺にもくれないか?」

アークス全員が酷い顔をしている。あの第三基地防衛戦の直後のような。落ち着くためにタバコを出した後、珍しくアインスが要求してきた。

「珍しいね。隊長がタバコだなんて。めったに吸わないじゃん。」

「偶にはいいだろ。あと、皆には後で説明する…。すまない。」

アインスが頭を下げ、俺も下げる。

「いや、俺たちにもあの目を見たときに感じた。感じ方は君たちよりも軽い、と言っていいのだろうか。だが…二度と見たくないな。」

ディアベルも自分の手を見る。汗でベタベタのようだ。戦闘でついた汗ではなさそうだ。

「…帰ろう。」

「ああ。」

レティシアに向かって手を出す。それを握り、出てきたポータルに共に入った。

「オキさん!」

ポータルから出た瞬間にシリカから熱い抱擁を受けた。先ほどの事もあり、ぎゅっと抱きしめる。

「すまん…遅くなった。」

「いいんです…いいんです!」

胸に顔をうずめて泣くシリカ。

「あーあー…ゴホン。」

レティシアが咳払いをしてきた為、素早く手を離した。

「すまないな。皆には本当に苦労を掛けた。これで…これで闇の勢力から国を守る事が出来た。礼をいう。」

レティシアが頭を下げてくる。俺は無言でそれを戻した。

「いいって。俺もあいつには用があったし、何より…あれをああしてしまったのは…俺たちにも問題がある。」

アークス全員が黙り込む。

「そうだな。闇とは人の心の底にもある。我々も気を付けねばなるまい。二度とで無いように…。これから国に討伐が終わり平和が訪れたことを報告しに戻るが、そなたたちにも礼がしたい。そなたたちも先があると思うが、もしよかったら受けてくれぬか。王も喜ぶ事だろう。」

全員が顔を見合わせ、頷く。

「レティシア。戻るって言ったがどうやって?」

「安心しろ。これがある。」

そういって取り出したのが大きな結晶だった。今まで見たことがない蒼色をしている。

「これは代々我が家に伝わる魔石でどこに居ようとも持ち主と持ち主が指定した者を国の我が家に移動させるという代物だ。」

転移結晶? いや回廊系か。

「うんじゃ俺は先に行ってアクティベートしておくわ。」

コマチが1人先に進もうとする。それについて行こうとしたのが人いた。

「私もついて行っていいかしら? 一人じゃさみしいでしょ?」

フィーアだ。たしかにまたここまで戻ってくるのは大変だ。先にアクティベートしておいてくれると転移門を使って51層に行けるのが楽になる。

「49層で待ってるぜ。」

「ああ。先に行って待ってろ。」

コマチは2人を連れて奥の扉へと向かった。

「それじゃあ行くぞ。」

結晶が光り輝き、転移される。

その後にあったことは王様に報告して国中で祭りとなったこと。

闇の勢力を倒したという事で、一緒に戦ったオキとシリカを英雄として称えられた。

お礼としてお城の中でダンスパーティが開かれた。そこに現れたのは騎士の姿ではなく、ドレスに着替え後ろで束ねていた髪をほどき、輝く金髪を下げて現れたレティシア。そして共に着替えて着たシリカやアスナ等共に戦った女性プレイヤー達。

どうやら無償で貸し出しをしてくれたらしく、特に一緒にPTを組んでいたシリカは問答無用で着替えさせられた。

ちなみに俺はその姿に見とれ、飲んでいた飲み物をこぼした位。

その後、王様から何やら褒美として褒賞金と武器防具一式。武器は種類を選べたのでシリカ要にダガーを選んだ。俺には蜈蚣丸があるしな。性能はかなり高い。下手すれば蜈蚣丸よりダメージソースになりかねないぞこれ。流石褒美。

ちなみにシリカにプレゼントする事は内緒で表向きは俺が他の武器をもっと扱えるようにすることで選んだ事にした。

サプライズってええやん?

ダンスの方はレティシアから誘われたが、からっきしダメだった。ついていくのがやっとで周りからは囃されるし、シリカからも「がんばれー」と声が上がるくらい。これ、スキル制にしてレベル上げてからもっかい挑戦していい?

お祭り騒ぎの静まった夜、レティシアからシリカと共にバルコニーへ呼ばれた。

「ふー…風が気持ちいいな。」

「だーな。しっかしあの騎士様がお姫様になるとはねぇ。」

「ほんとです。びっくりしました。」

レティシアの姿を褒める。月明かりにドレスと金髪の長い髪が光り輝きキラキラと夜風になびいている。

「そういってくれるとうれしい。実は…あまり自信が無かったのでな。」

苦笑気味に顔を赤くするレティシア。それをみて3人で笑う。

「さて、お主らには本当に感謝している。オキ、シリカ国を守ってくれて、共に戦ってくれてありがとう。改めて礼を言わせてくれ。」

「ん、当たり前の事をしたまで…と言いたいけどここは素直に受け取るよ。」

「ですね。こちらもいろんなものを貰いましたし。」

褒美の金額はまた連合内で分けることにした。今回は特に頑張ったリンドのギルドに大目に渡してやった。彼らがいなければいくらアークスがいたところで犠牲無しにすることはできなかっただろう。

「あれは国からだが…私からも、受け取ってほしい。」

そういってレティシアは小さな箱を渡してきた。

「これは…?」

箱の中は光り輝く宝石が付いた首飾りだ。それが2個入っていた。

「我が家に代々伝わる守りの首飾りだ。受け取ってほしい。」

「いいのか!? 大事な物なんだろ?」

「そなたたちにはそれ以上のモノを貰った。平和と言う名の大事なものを。」

こりゃすごいな。いろいろ貰ってるぞ今回。流石50層。折り返し地点。

「わかった。貰い受ける。ありがとう。」

「こちらこそ。シリカ殿も。」

「いえ、こちらこそ。」

3人で手を握り合う。そして頷き合った。

「俺たちの後、しっかり受け継げよ。守れ。この国を。大事な人たちを。」

「ああ! 任せておけ!」

月夜に輝く騎士の笑顔はとてもまぶしく綺麗だった。




皆様ごきげんよう。
ようやく50層のボスも討伐し、折り返し地点となりました。
ここから先は75層まで一気に駆け上りたいところですが、それまでの日常風景や今後いろいろ新しい戦闘スキル等を増やそうと思います。
50層での話はすこしだけ続きます。
では次回もおたのしみに。


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第24話 「別れ」

闇の勢力、『ダークファルス【巨躯】』の討伐を終わらせ、49層に戻ったオキ達はシャルス城で打ち上げを行っていた。その夜・・・


夜遅く、50層での【巨躯】討伐の打ち上げ祭が終わり、シャルス城の部屋をレティシアから借り寝ていたが目が覚めてしまった。

 

「ん…。」

 

ベッドから起き上がり自分の横を見ると、シリカのかわいい寝顔がある。その頭を撫でてやり部屋から出た。

 

「タバコでも吸うか。」

 

今借りている部屋は特殊な部屋で他のメンバーが寝る為に借りている場所とは違う、城内から離れた塔の上にある部屋だ。多分レティシアとPTを組んでいたからだと思われる。

 

みんなの様子を見る為、一度城内に戻った。寝る前まで騒いでいた場所ではまだ起きている奴らがいたのであまり遅くならないようにと注意を一応しておいた。聞かないだろうな。あの様子じゃ。

 

バルコニーに移動したが先客がいた。

 

「ん? キリトか?」

 

「オキさん?」

 

バルコニーではキリトが1人夜風にあたっていた。

 

「お疲れ様。どうした? こんな時間に。」

 

「オキさんこそ。」

 

タバコに火をつけてキリトの方に煙がいかないように吐出す。

 

「フー。いや、目が覚めてね。どうだった? 初めてのダークファルスの本体戦は。」

 

「あんなにデカい奴らと戦っているオキさん達を改めてすごいと思ったよ。それに…本当の怖さを感じた。」

 

「あれか…。」

 

『また…会おう…ぞ。アー…クス…よ。』

 

【巨躯】のニヤリと笑いながら消えていく瞬間を思い出す。確かにあの時感じたのは奴の、『ダークファルス【巨躯】』の力。

 

何故この惑星にダーカーの力が、ダークファルスがいるのか。外はどうなっているのだろう。実はすでに惑星スレアはダーカーに浸食されているのではないだろうか。

 

「いや、それはあり得ないと思うよ。」

 

どうやら無意識に思っていた事を口にしていたらしい。

 

「あ、口に出しちゃってた? しかし何故そう思う。」

 

「今まで聞いてきた話だとダーカーって奴はどんどん浸食していく上に、倒せるのはアークスだけなんだろ? もし外の世界が浸食されていったのであれば俺たちの本体、体も危ないはずだ。本体が身体的に死に至った場合、このSAOから強制的にログアウトされる仕組みになっていると思う。」

 

「つまり、強制ログアウトが起きていないから外の世界は問題ない?」

 

キリトは黙ってうなずく。

 

「確かに今の所、HPが0になった者以外がログアウトしたという話は聞かないな。」

 

常にアルゴから情報を貰っているが犠牲者で不可解な消え方をしたという話は今の所無い。

 

つまりこのSAO内で何かが起きているとしか考えられないという事か。

 

「結局、茅場彰彦に直接聞くしかないって事か。フー。」

 

「そうだな。」

 

広場の方ではまだ騒がしい声が聞こえる。夜通しやるつもりだろうか。

 

「ところで、キリト。」

 

「ん?」

 

ある事を思い出したのでついでに聞いておこう。

 

「エルダーを倒した時、ラストアタックボーナスお前が持っていったろ? なんだったんだ?」

 

「あー…あれか。うん…やっぱりばれてたか。」

 

キリトの様子がおかしい。なにか変な物でももらったのだろうか。

 

「どうした。なんかあったか?」

 

「いや…。」

 

周囲をキョロキョロと見回す。この感じは他の人に聞かれたくない事だろうか。

 

「場所を変えよう。」

 

「そうしてくれるとありがたい。」

 

タバコの火を消して結晶化で壊し、場所を移動する事にした。誰の邪魔も入らない場所へ。

「シリカが寝ているから静かにな…。」

 

「りょーかい。」

 

この辺で一番他人の邪魔が入らない場所。レティシアから借りた塔の部屋だ。寝室ではシリカが寝ているので、別の部屋で話をする。

 

「ここなら人の邪魔も入らないだろう。で? なにか様子がおかしかったが?」

 

「50層のエリアボス討伐でのラストアタックボーナス。この剣なんだけど。」

 

机の上にその剣を置くキリト。黒い片手剣だ。

 

「エリュシデータ…か。お前にはちょうどいい剣じゃないか。色も形もシンプルだしなかなかいいんじゃねーか?」

 

しかしこれのどこが問題なのだろうか。特に変な感じはしないが。

 

「この剣、装備できない。」

 

「は?」

 

装備が出来ない? どういう事だ? 特殊な条件でもあるのだろうか。

 

「装備できない? どういうこった。」

 

「あまりにも必要ステ値が高すぎる。」

 

つまり今のキリトではレベルが足りなくて装備が出来ないという事だ。今まで見てきた武器は性能が良ければ必要なステータス値も高くなるのが基本だ。つまりこの剣はかなりの高性能という事になる。

 

「魔剣クラス。多分、このゲーム、SAOの中でも唯一の一本だと思う。」

 

「超が付くほどのレア、のレベルじゃないな。確かにこれはヤバイものだ。」

 

キリトのレベルは決して低くない。むしろ現状プレイヤー最高のレベルクラスだ。アークスを除いて。

 

そのキリトが現状で装備できない代物。確かにこれはあまり外で話していい物ではないだろう。

 

「なるほどな。だから隠していたのか。」

 

「ああ。この剣の情報が外に漏れたなら、間違いなく欲しがる奴、妬む奴、いろんな奴が押し寄せてくると思う。そうなるとオキさんや、ハヤマさん達にも…アスナにも…迷惑がかかる。俺はだから暫くソロで活動しようかなと…あいたっ!」

 

申し訳なさそうにしゃべるキリトを黙って見ていたが思い切り頭を叩いた。

 

「バーカ。何言ってんだ。そんなことさせねーぞ。おめーがいなくなったら誰がアスナを安心させることができる。誰も変わりなんかいない。それこそ逆に迷惑だ。まぁすでに俺たちアークスが迷惑かけてるのも事実だしな。」

 

笑う俺をキョトンとした顔で見るキリト。

 

「まぁその剣は暫く封印だな。キリト、お前が持ってろ。この情報は聞かなかったことにするし、うまくごまかすさ。今の所知っているのは俺だけか?」

 

「ああ。アスナにも言ってない。」

 

「そうか。煙どころか塵を出さなきゃ噂も立たない。ラスアタを取ったことを知っているのは俺含めて12人。全員がアーク‘sの面子だ。情報操作も何とかできるだろう。うまいこと別の武器を用意しないとな。」

 

自分の家にある倉庫の中にいくつか候補として挙げられそうな武器がある。それをキリトに渡せばいいだろう。

 

なにせ今迄のクエストやボスの討伐品は俺たちアークスがごっそりかっさらっている。特にコマチ。あいつ収集するだけで使いやしねぇ。中にはかなりのレア品も混ざっているというのに。普段は連合メンバーに配布して戦力増強として使用してもらっているが中には使い手がいなくて倉庫で眠る、と言うのモノも少なくない。ある程度時間が経って使わないと判断されたものはエギルの店で格安で売り、その他のプレイヤーにも分配している。

 

「51層についたら俺の家に集合な。」

 

「わかった。ありがとう…。」

 

「いいって。いいって。」

次の日の朝。広場に行くと夜通し騒いでいたであろうクラインやキバオウ達が寝転がっていたのでたたき起こしてやった。少しは考えろ。まったく。

 

「もう、いくのか?」

 

「ああ。俺たちは先に進まなければならないからな。」

 

レティシアとの別れが訪れた。あーあ、もうシリカ泣いてるよ。

 

「レティシア…えっぐ…さん…ひっく…ありがとう…ひっく…ございました…。」

 

「泣くな…。私まで泣きたくなるだろう。」

 

そういいながらレティシアの目には光り輝く涙が浮かべられている。そんなの見せられると俺も出てきそうだ。

 

「レティシア。元気でな。これからもこの国を守ってやれ。」

 

「ああ。お主らも…ありがとう。」

 

レティシアは俺とシリカを抱きしめた。短い間だったがさみしくなるな。こりゃ。

既に他のプレイヤー達やアークスの面々は上に進んでいる。俺たちも上に進まなければならない。

 

こうして、49層から50層までの長い長いキャンペーンクエストは完了した。こっから折り返しだ。待っていろ。茅場彰彦!

51層の街の中をあらかた見終わった後に約束通りギルド拠点の俺の家でキリトに50層のラストアタックで手に入った代わりの武器を選んでいる最中。事件は起きる。

 

「これなんかいいんじゃね? ステータスもかなり…。」

 

「そうだな。レア度もかなり…。」

 

ピンポーン!

 

家の中でチャイムが響いた。

 

「はーい!」

 

1階にいるシリカが出てくれたようだ。気になったので下に降りた。

 

「オキさんいる? ああ、いたいた!」

 

ハヤマがあわてているようだ。何かあったかな?

 

「どうした?」

 

「どうもこうも大変だよ! すぐに会議室に来て!」

 

シリカ、キリト3人で顔を合わせる。

 

大会議室に移動した俺とキリトはすでに集まっているギルドマスター達と顔を合わせた。知らない顔ぶれもいる。

 

「すまない。勝手に招集させてもらった。少し急ぎでね。」

 

ディアベルが頭を下げる。

 

「いや、問題があったなら仕方がない。で? 何があった。こっちの人たちは?」

 

「それは俺っちから話させてもらうヨ。」

 

アルゴが手を挙げた。

 

「面白い話と悪い話があるヨ。どちらからいク?」

 

「面白い話から。」

 

「オーケー。ギルド、血盟騎士団団長『ヒースクリフ氏』がユニークスキル『神聖剣』と呼ばれるスキルを手に入れたという報告があったヨ。実際に話を聞きに行ったけド、確かに今までに無いスキルだったネ。」

 

ユニークスキル? なんだその面白そうな名前は。

 

「何やら分からない顔をしているね。私も確認してきたので説明しておこう。」

 

ディアベルがユニークスキルについて教えてくれた。簡単に話せばゲーム内10人にしか会得できないスキルで、10種類あるらしい。特殊なスキルであり、ゲームバランスをひっくり返すようなモノだらけでそのうちの一つが『神聖剣』だとか。

 

「つまりヒースクリフの旦那がその、面白おかしいスキルを持っている唯一のプレイヤーって事か。」

 

「スキルの事を確認させてもらった時…一番手っ取り早く教えれる方法としてデュエルを行ったのだが…あれはたしかに強い。」

 

ティアベルが悔しそうな顔をして説明を続ける。

 

「何より防御が硬い。更に片手剣での素早いカウンター。あれはすごかった…。」

 

「ほう。」

「ほほう?」

「ふむ。」

 

俺、ハヤマ、アインスの戦闘バカが反応する。

 

「ハイハイ。戦闘狂は落ち着いテ。」

 

「ヒースクリフからは『50層突破おめでとう。本来なら個人のスキル等は余り公開する物ではないが、皆が頑張っている。私も戦線に参加させてほしい。このスキル。有用に使ってくれ。』だと。」

 

なるほど。実は持ってましたと来たか。防御型でありながら攻撃も可能か。面白くなりそうだ。

 

「で? 悪い方は?」

 

「こちらは私から説明しよう。オキ君。『笑う棺桶(ラフィンコフィン)』を知ってるか?」

 

「ラフィン、コフィン?」

 

アフィンという同じ時期にアークスとなった仲のいい相棒と、コフィーというアークスシップのアークスカウンターの女性なら知っていると言ったらハヤマにどつかれた。

 

「『笑う棺桶(ラフィンコフィン)』。今最も犯罪の多いオレンジギルド。リーダーは『Poh(プー)』。」

 

プーさんねぇ。なんか気の抜けた名前だな。ちなみに後で知ったが惑星スレアには蜂蜜が大好きなクマにも同じ名前がついているとかなんとか…。

 

「で? そのプーさんがどうしたんだ?」

 

「私たちが50層を越えた事が情報として流れた後、奴らからこのようなメッセージが飛ばされた。」

 

その中身はとんでもない内容だった。

 

「50層を越えたプレイヤー諸君…フムフム? …は? ああ!? デスゲームならば殺しを愉しむのもプレイヤーの特権…。ふざけんな! なんだよこれ!」

 

要約すると『殺しを行う。だがそれはデスゲームを愉しむ為である。今後は小中ギルドをメインに狙う』というモノだ。

 

「オキ君落ち着きたまえ。私だって同じ気持ちだ。アルゴ君に小中ギルドのマスターをできる限り集めてもらった。これからの動きをお互い確認し合いたいと思ってね。」

 

ディアベルは落ち着いているように見えるが目がかなり怒っている。

 

「わかった。できる限り手助けしよう。こんなことが許されてたまるか。ラフィンコフィンのプー。絶対にそんなことさせねーかんな。」

ある層の森エリア奥深く。

 

「ヘッド、なにか楽しそうだな。」

 

「どっちかと、いうと、うれし、そう?」

 

2人のプレイヤーが岩の上に座り鼻歌を歌う男を見ている。

 

「♪~。♪~。」

 

大きなポンチョを着て顔は見えない。手には巨大な肉切包丁。小さなナイフを扱うかのように投げては取り、投げては取りと遊んでいる。そして口元を歪ませながら笑った。

 

 

 

「ハハハ。 楽しませてもらうぜ。 イッツ、ショウタイム!」




皆様ごきげんよう。
ようやく出てきました。キーマンであるもうひとり。
ここからアークスVSラフコフの場面が多くなっていきます。
もちろん変哲もない日常パートも増えます。
これからの展開をおたのしみに!


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第25話 「イッツ、ショウタイム」

犯罪ギルド『ラフィンコフィン』、通称ラフコフからの話が出てから数日後、最前線を駆ける攻略組の各ギルドの長は話し合いから小中ギルドの護衛及び育成計画を練る事にした。

アルゴからの情報により、ここ最近オレンジプレイヤーに襲われた者達の傾向から中層で活動するギルドが多い事が分かった。

中層以下で活動しているギルドにはできるだけ1層を中心に活動してもらい、事が収まるまではギルド連合が全面的に支援する事に。

一番被害の出ている中層で活動するギルドに関しては最前線組を割り、各ギルドに最前線の中でも主力クラスのメンバーを1名支援者としてつかせることに。レベル上げやレア堀などが容易にできる環境を整えると共に、いつでも被害が押えれるように目を光らせた。

更に俺やディアベルの案でラフィンコフィンの情報をアルゴに徹底的に調べてもらい、元凶である『Poh』を捕らえる事を優先で動く部隊を編成。これらから51層以降、動く部隊を3つに分けた。

一つはメインである攻略。これを進めなければ話にならない。できるだけ主力メンバーをいれつつ、イレギュラーズであるアークスメンバーがいなくても攻略できるようにレベリングもかねてコマチ、ミケを中心に各ギルドから主力となってもらいたいメンバーを選出。

二つ目はその他ギルドの支援部隊。これは面倒見のいいメンバーを選出しつつ、いつオレンジプレイヤーが彼らを襲ってきてもいいように攻略メンバーよりも多めに主力メンバーを割いた。ここにはキリト、アスナ、クライン等が含まれる。面倒見のいい事と親しみやすい事から下層で人気の高いキバオウもここに入っている。

三つ目は危険度が高いために主力クラスのみで構成する。それが『警備部隊』。アルゴの情報を元にできるだけ多くのオレンジプレイヤーを探しだし捕獲する。ただし、相手の動き次第では自らの命すら危うくなる可能性がある為に覚悟のあるモノだけを選抜した。それのメンバーはアインスを隊長とし、ハヤマ、ディアベルが副隊長として、少数精鋭部隊を作成した。

先の大会議で小中ギルドの把握をした結果、思ったより数が少ない。まぁ今このアインクラッドで生活するプレイヤーの殆どが1層で生活しているのだから当たり前か。

その後動きを開始してもらい、様子をうかがった。

ちなみに俺は一人である事を行う事にした。それが何かと言うと…。

「やあ。」

「…。」

29層の街から北西に向かった先の村である男と出会っていた。

「『今夜は半月かな?』」

「『満月か新月だろう?』あんたが依頼人か?」

「仲介人さんだね。よろしく頼む。」

村の居酒屋で出会った男に合言葉で会いたかった相手だと双方確認する。普段の格好から中層のプレイヤーに合う格好に変え、マント系からフード系の格好へと変えた俺はある男に出会えると聞いたためにここへとやってきた。

この計画がうまくいけば相手側より先制を取る事が出来る。フードを深くかぶり、できるだけ顔が見えないように再度フードを弄った。

2日前、オラクル騎士団ギルド拠点、大会議室にて。

「オトリになるぅ!?」

クラインの声が会議室に響いた。

「クライン…あまり耳元で叫ばないでくれ。耳が痛い。言った事はそのままだ。つい先ほど、アルゴからある情報が入った。中層で殺しの依頼ができるという噂だ。」

「なんだと…!?」

その場にいた連合のメンバーがざわつく。

「あー…そういう事か。わかった。オキさんのやろうとしている事。」

ハヤマがいち早く感づいたようだ。流石長年一緒に肩並べてる相棒だ。

「どういう事か説明してもらえるかい?」

ディアベルが怖い顔してこちらを見ている。

「まぁ殺しの依頼っていうのが誰でもできるのか知らないけど、俺自身をターゲットにしたらどうなると思う?」

「…なるほど。」

アインスも言っている意味が分かったようだ。ディアベルも少し考えた後にその意味を理解する。

「あーだめだ。ぜんっぜんわかんねぇ。どういう意味だよ。」

「わかってないのはクラインだけか。一応答え合わせもかねて言っていい?」

キリトが手を上げたので答えあわせをさせてみた。

「たぶんオキさんが言っているのは、その殺人の依頼をオキさんか誰かがしに行って、オキさんをターゲットにして狙わせておとりにし、尻尾を捕まえる。これでいい?」

「合ってる。正解。先に先手を打っておけばどこからか煙が上がると予想している。完璧な奴なんざこの宇宙どこ探してもいない。シオンだって…完全じゃなかったんだ…。」

アークス全員が黙る。知らないプレイヤー側のメンバーは顔を見合わせて首をかしげるだけだった。

「一ついいか?」

クラインが手を上げる。

「一人で行くのか? 本当に?」

「俺だけの方が暴れやすいだろう? それとも誰かと行ってどっちかが捕まり、その命を犠牲にしてまで止めることができるのか? 今この現状下で自由に動けるようにしたのはこれが理由だ。それ以外のアークスメンバーは現在動けない。それでいてその他の奴が俺と一緒に行って足手まといにならない自信のある奴はいるのか?」

睨みを付けてプレイヤー側に低い声で伝える。

「悪いな。言い方が悪いけど、はっきり言って一緒に来られても邪魔なだけだ。今回ばかりは遊んでられないんでね。今までは本気で遊んでいた。人生は一度きり。その一瞬一瞬を楽しんで後悔しないように本気を出して生きる。だが、今回は違う。本気で化け物と戦う。」

「化け物…か。」

リンドがボソリと呟く。

「そう。化け物だ。同類である人の命をもてあそび、殺す。それが楽しみだと言って喜んで命を奪う。それが俺らから見て化け物じゃなかったらなんだ?ダーカーよりも性質が悪い。奴らは何も考えずに、只々闇に落とす。喰らう。だがこいつらはそれを喜びだ楽しみだといって自分の欲にしている。まだタダークファルスの方が分かりやすいぜ。というわけで早速行ってくるわ。片っ端からそういう所を当っていけばどこかでビンゴになるだろ。外れたら捕まえてちょっと苛めて、脅して牢獄にポイだ。」

「本当に殺しを依頼できるんだろうな?」

「安心しろ…。望みどおりにしてやるさ。」

仲介人の髭面の中年の男はニヤリとし、村を出た。

犯罪の依頼を受け取る裏の取引はここ最近増えている。そのなかでも殺しを受けるオレンジギルドがいくつか存在する事が判明した。今回のは最初に目を付けた噂で、どんな殺しも受けるという。はなっから殺しを目的としたギルド。だから目についた。

少し歩いた先に森があり、その中を更に歩く。エネミー自体は下層に近い関係でそこまで強くない。俺からすれば雑魚も雑魚だ。

ある程度歩いた先に岩が所々で露出している草原に出た。ここまで奥に来るプレイヤーはそうそうそういないだろう。ましてやこんな夜中に。

『草原の岩の陰、あちこちにいるな。』

大小の岩の陰に隠れているプレイヤーの反応が索敵スキルで感知される。ほぼ振り終わっている為に隠密スキルが同格クラスであっても索敵スキルが優先されるために見つからない相手はいない。

「ボス! つれてきやした!」

仲介人の男が草原のど真ん中で叫ぶ。すると前方の岩に二人のプレイヤーが昇り姿を現す。

「きたきたー。」

「えもの、今回は、たのしむ。」

『なんだこいつら。気色悪いなぁ。一人は紙袋かぶってるし、一人は子供っぽい姿だけど…。うーん。やっぱ犯罪者の考えは分からん。』

そんなことを考えている時だ。一人の男がゆっくりと岩の陰から姿を現す。

『…!? なんだこいつ。他の奴とは違う。なんだろう。この感覚。』

「ヨウヨウ。よく来てくれたな。あんたが今回のクライアントかい?」

草原に声が響く。何やら惹かれる声だ。なるほど、面白い。

「殺しの依頼ができると聞いてやってきた。」

低い声で叫ぶ。雰囲気も大事だ。かなりの恨みを込めているように『魅せる』。

「ワオ…。こりゃ今回のお客さんは相当ため込んでいるようだな。安心しろ。望みどおりにしてやるぜ。」

自分と同じように顔を見せない為か、フードをすっぽりと覆った顔だがニヤリと歪んだ口元が月の光に照らされる。

「あんたら本当に殺せるんだろうな。嘘じゃねーよな?」

「心配するんじゃねぇ。俺たちはその辺の奴らとは違う。」

「ほんとか? 信じていいんだろうな?」

出来るだけ疑心暗鬼になっている事を魅せる。信じているのか少し考える男たち。役者になれるんじゃね? 俺。

「心配性な客だ。おい。」

フードの男が顎で左右の二人に合図を送る。

「ヘヘヘ。待ってました!」

「やって、いいんだ、な?」

岩から降りつつ武器を握る二人は俺と仲介人を囲む。

「…どういうつもりだ? 俺は客だぞ?」

「どけ。邪魔だ。」

子供のような男が俺の腕を握ってどかす。これにより仲介人の男が囲まれた。

「ど、どういうことです…。ボス…?」

ボスと呼ばれるフードの男は相変わらずニヤニヤとしている。周囲の男たちはグルグルと走りまわりだした。少しずつ知事待っていく円の大きさはやがて男のすぐ近くまで縮まる。そしてボスのフード男が手を広げて笑いながら叫ぶ。

「イッツ、ショウタ~イム!」

『!』

「や、やめろ…。俺はお前らの…!」

「「ひゃははは!」」

笑い声が聞こえたと思った瞬間に、仲介人の男が逃げようとしたが二人が一瞬で交差する。

ゴト…パキィン

地面に丸いモノが落ち、結晶となって消えていく。

『こいつら…まじで化け物かよ。』

笑いながら、楽しみながら、簡単に仲介人であった男の首を刈り取ったのだ。

「…まじか。」

「Hey。これでわかったろ? 俺たちが『殺し』ができるってなぁ。」

再び岩の上に上る二人。笑ってやがる。まるで楽しい祭りを味わっているかの如く。

『まさか一発目で大当たりとはねぇ。』

『イッツショウタイム』。この言葉はあの文章のラストにあった言葉だ。

「なるほど。こりゃほんとに大物だわ。あんたら。」

フードを取り、装備をささっと取り出す。行く前にリズベットの所で整備しといてよかったぜ。今回この人数なら武器が壊れる前に何とかできそうだ。そして顔を見たとたん、俺の事をようやく把握したのか驚きを隠せない3人。

「お前は…!」

「ドーモ、初めましてプーさん。」

「イレギュラーズ…。あんたらなら、自分で相手を殺せるだろ。俺たちの所に何の用だ?」

ニヤリと歪んだ口元を見せるPoh。

「まぁ確かにそうだな。あぁ、そうそう今日はちょっとお願い事があってきたんだが、その前に少し話でもどーよ。」

近くにある岩の上に座り、指で座るように指示をしてみる。素直に聞くかどうか自信なかったが、素直に聞いてくれたようで3人共岩の上に座ってくれた。

「願い事だと?」

子供っぽい奴が聞いてくる。

「そそ。しっかしおめーらもあれだねぇ。容赦ないね。仲間を殺すとは。」

「なかま、なんの、こと?」

首をかしげながら紙袋をかぶった奴がこちらを見てくる。

「さっき殺した奴だよ。まぁ、同種を殺す依頼の仲介人やってる時点で俺としてはどーでもいいんだけど。」

「ほう…。人を助けるとか言っておきながら、どーでもいいやつもいるんだな。」

プーは相変わらずニタリと笑っている。

「当たり前だろ? 助け合っていくならまだしも同種を殺すとか馬鹿じゃねーの? 事が終わったら牢獄にでもぶち込むつもりだったが、まぁお前らが殺しちまったしな。」

タバコに火を付けながら3人を睨み付ける。

「さて、本題に移ろうか。お前らに願う事は一つだ。」

立ち上がり、普段の装備に切り替え槍を取り出す。この人数なら攻撃範囲の広いこいつが適している。

「死ね。化け物。」

全力で飛び上がり、岩の上にいるPohに向かって槍を振り下ろした。

「っち。」

流石に簡単にはやられないか。槍を肩にのせ、逃げられた方を向く。

「Hey、Hey、Hey。いきなり刃を向けてくるとは、穏やかじゃねーな。」

Pohは片手に巨大な包丁のようなものを握っている。あれが奴の獲物だろう。他の2人も獲物を持ってこちらをにらんでいる。

「他にもいるだろう? そことそこと…あとそっちとそっち。人数的に15人か? あってる?」

「索敵スキルか…。地味なものを持ってるな。しかも相当高いとみた。」

ニタリと笑い、Pohが指を鳴らすとこちらが示した場所から数十人のプレイヤーが現れる。

「そりゃあなぁ。敵が見えていた方がこちらもやりやすいだろ? まぁ隠れていてこちらに奇襲してきても、慣れてるから直ぐに反応できるんだけど。」

槍を振りおろし、構える。

「…おめえ、同類だな?」

「っは。同類? なーにいってんだ。化け物。おめーらと同じにされちゃアークスの名が泣くぜ。『同種』、とさっき言ったが、俺からすればお前らはこの星の『知的生物』。それが味方殺しをやろうってんだ。生き残る為に、相手を蹴落としてまで生きていかないと自分が死んでしまうなら、そりゃ俺も口出ししないさ。だがな、お前らは自らの欲の為に。ただ楽しみしかも殺した後には何も残らない。そんな奴はただの化け物だ。化け物は退治するのが当たり前だろう? なぁ、化け物。」

再度飛び上がりPohに向かってもう一度槍を振り下ろす。Pohは後ろに向かって地面を蹴り、槍を回避する。それと同時に2人の取り巻きがそれぞれの武器で応戦してくる。

「貴様!」

「狂って、いる。」

左右からくる刃を槍で同時に抑えて、一気に弾いた。

「っが!?」

「っ!?」

「狂ってる? てめーらに言われたくないわ。俺は偽善でも、正義の味方でもない。ただ単純に、『化け物退治をしに来ただけだ。』」

槍を地面に突き刺し、たばこに火をつけた。

「フー…。さてプーさんとやら。あんた、殺し、楽しむのが特権だ、とかなんとかほざいてたよな?」

「…ああ。」

唸るように答えるPoh。

「さて、ここまで大口を叩いた俺を殺したいだろう。膝まつかせて、命乞いさせて、泣きじゃくる歪んだ顔にその巨大な包丁を突き立てたいだろう? さぞ見ものだぜ?」

「そうだな。ここまでコケにされたんじゃ…。腹の虫も収まらねぇ。」

きたな。相手さんも殺したがってるときた、ニタリと笑い、考えていた取引を持ちかける。

「取引だ。あんたは俺を狙え。殺しにかかるがいい。奇襲、不意打ち、待ち伏せ、罠。好きに料理してみろ。但し、他のプレイヤーを殺すのは俺を殺してからにしてもらおうか? どんな手段でもお前らがその他のプレイヤーを殺した場合…皆殺しだ…。」

ギロリと睨み低い声で殺気立たせる。それを見た周囲のプレイヤー達は一瞬うしろに下がる。

「Ho…。良い殺気出すじゃねぇか。」

「てめーらみたいに快楽殺人じゃなく、こちらと毎日本気の殺し合い、化け物共とやってるんでね。ゲームとかじゃなく、現実にいる化け物とな。」

「Wow。その目…嘘じゃなさそうだ。じゃなきゃそんな泥井戸の底のような目は一般人はしない。」

ニタリと笑うPoh。こちらも一緒に口元を歪める。

「OK! その話乗ったぜ。だが今日はやめにしておこう。準備が必要だ。」

そう言うとPohは懐から何かを取り出し、地面に叩きつける。

 

ボン

 

小さな爆発音を立てて、周囲には煙が一気に広がる。

「けむり玉か。」

「楽しみにしているがいい。イッツ、ショウタ~イム。」

煙の向こうで一瞬だけ光がみえる。光方からしてどうやら逃げたらしい。

煙が夜風に吹かれて煙がなくなる頃には周囲の反応は全くなくなっていた。

「さって、こっから大変だぜ。」

タバコに火をつけて煙を風に流す。これから先暫く他のメンバーと一緒には入れないな。

「はぁ~…。シリカ、泣くかなぁ。」

離れないとか言いながらすぐさまこれだもんなぁ。全くもって自分の自己犠牲精神には困ったもんだ。

「とりあえずしばらく拠点には戻れないだろうからハヤマんに代行頼んで…ギルドメンバーには説明文飛ばして…。アルゴねぇに状況説明と…。」

忙しくなりそうだ。できるだけ早よおわらせてやらねぇとな。

 




皆様ごきげんよう。
本格的にSAOのキーキャラクターである『Poh』の登場です。
彼の扱いを今後どうしようかと2パターン考えてはいるのですが、なかなか定まらず…。
まぁそこまで行くにはまだまだ先なんですが。
では、また次回お会いしましょう。


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第26話 「代行」

オキがラフコフとやり合うために暫くソロで活動すると連合のリーダーに連絡をいれたあと、リーダー達はオラクル騎士団のギルド拠点に集まり、ハヤマからその事実関係を説明してもらっていた。


「…ってわけで、オキさんは暫くソロでラフコフとやりあうらしいから、その間俺が仕切る事になったっぽい。全くあの人は…。」

 

「おいおい、大丈夫かよ!」

 

クラインが心配そうにこちらを見てくる。それに対しては大丈夫だと宥めた。

 

「文面にもある様に、かなり本気みたいだね。こうなるとオキさんは止められない。」

 

「だーな。あの時もそうだったもんな。旧マザーシップに一人で乗り込んでって挙句、追いついた頃にはレギアス達と戦ってたもんな。あの人の自己犠牲精神はなんとかならん…か。」

 

「むりなのだー。」

 

コマチとミケも万歳してお手上げをする。自分も同意だ。アインスも隣で黙ってうなずいている。

 

オキさんはラフコフに対し、自分を狙い続ける限りそのほかのプレイヤーには手を出させない契約をした為、暫くソロで動き回るそうだ。俺たちに対してはその間に攻略を進めてほしいと依頼してきた。

 

「シリカはそれでいいのか?」

 

大会議室、各ギルドのマスターに加えイレギュラーズやキリト等の最上位メンバー。そして今回のオキさんの単独行動で一番の犠牲者と言えるであろうシリカが集まっていた。

 

「はい。最初は驚きましたが、オキさんから個別でメールが届いて…その…えっと…。大丈夫です。みなさんの危険が無くなるまで私も我慢できます。それに、初めて会ってからもう1年以上たちますが、そろそろ甘えてばかりもいれませんから。」

 

少し顔を赤らめながらシリカは笑顔で答えた。

 

「シリカちゃん! 成長したわね~!」

 

アスナがシリカに抱き着く。

 

「あわわわ!」

 

ジタバタしながらシリカはあわてている。

 

「あの…個別でメールをいただいて…。その、えっと…。」

 

顔を赤らめながらもじもじしている。あーわかった。そういう事か。

 

その場にいた全員がシリカの反応で察した。

 

「「「あの人一体なんて送ったんだろう…。でもどうせ、恥ずかしい内容なんだろうな。」」」

 

「はーっくしょい! ちきしょう。冷えるな。」

 

誰かが噂した為か、ある層の洞窟を探索中なので冷えた空気で体が冷えたからか。一人のアークスがくしゃみのを誰も知らない。

「ともかく、オキさんが暫く不在になるからって事でギルドは俺が代行する事になった。オキさんみたいにできるか分からないけど、全力は尽くす。なにかあったらフォローよろしく。」

 

「任せておけ。今迄通りやっていけばいい。」

 

アインスが頷きながらこちらを見ている。他のプレイヤーも同感のようだ。

 

「ありがとう。さって、オキさんからのメールだととりあえず今まで通り攻略は進めてくれって事と例の件、この間決めた内容もそのまま引き続き行ってほしいって事だから協力頼みます。」

 

「「「了解(なのだー)。」」」

「じゃあ、オキさんは一人で戦うって事!?」

 

タケヤが説明を聞いた直後に立ち上がって叫んだ。

 

「タケヤ、座りなさい。ハヤマさん達が大丈夫だと言っているのだから、大丈夫なんでしょ?」

 

ツバキがタケヤを宥めて座らせる。それでも心配そうな顔だ。

 

「でも、本当に大丈夫なんでしょうか。」

 

サクラも心配そうだ。

 

「大丈夫ですよ。」

 

シリカが力強く発言する。

 

「オキさんなら大丈夫です。だって、いつも話していましたから。もっとおっかない化け物と戦っているからって。今までもそうだったじゃないですか。いろんな強いエネミーとも鼻歌交じりに戦っていたんですから。」

 

「しかし、相手はプログラムじゃなく人間だぞ?」

 

「タケヤ、そこは違うと思う。」

 

「レン?」

 

レンがメガネをかけなおしながら言った。

 

「ハヤマさん、コマチさん。ミケさん。今まで戦ってきたダークファルスと呼ばれるエネミー。あれは本当にプログラムなんでしょうか。自分達も皆さんのおかげで強くなりましたが、25層、50層とあの2つの層だけはみなさん、イレギュラーズ、『アークス』のみなさんがいなければ簡単に突破は不可能だったと思っています。」

 

「そうだな。あの2つの層のエリアボスだけは普段のボスとはまるで違った。力が強い、スピードがある。防御が硬い。それだけではない。プログラムには無い、なにかを感じた。まるで…そうだな、本物のようななにかを。皆もディアベル達から聞いたであろう? 50層の最後のあの男の目から感じた…。あれは人の目ではない。この世のものとは思えぬ何かを感じたと。」

 

オールドがここまで長く語るのは珍しい。それだけ重要な点だとそこにいた皆が感じた。

 

「『巨躯』だね。うん。オキさんや、隊長とも話したんだけど間違いなくあれは本物の『ダークファルス』。力こそ殆ど感じなかったし、今俺たちはフォトンを使えない。だからダーカー因子を感じることは無いはずなんだけど…、何故かあれからは感じ取れた。ほんの少しだけどね。」

 

コマチ、ミケもうなずく。二人も感じ取ったと聞いている。

 

「つまり、そんな化け物と毎日戦っていたオキさんなら、人間相手に後れを取らないと、僕は思う。そうでしょ? シリカさん。」

 

レンは自身満々に答えた。シリカも力強くうなずく。

 

「はい。私もそう思います。毎日オキさんと一緒に冒険して、戦って…。思った事はやっぱりただの、私達とは違う人なんだなって。そう思いました。日常が戦い。私たちが日常で、学校で、生活でペンや箸を当たり前のように使っているように、オキさん達も武器を当たり前のように振っている。だから、ただの人間に遅れは取らない。そう思います。」

 

「シリカちゃん…。」

 

「シリカ…。」

 

どこかさみしく、悲しい感じにシリカはしゃべった。アスナとリズベットも同様にボソリと呟く。

 

『そりゃそうだろうな。オキさんとシリカちゃんはアークスと一般人。違いがありすぎる。それを感じているんだろうな。』

 

皆が重い雰囲気になり一瞬静かになる。だが一人の少女が発言した言葉でそれを吹き飛ばした。

 

「じゃが、それでもあの男を愛しておるのだろう?」

 

重そうな雰囲気を簡単にぶち壊し、物凄い発言を放ったのはシャルだった。

 

「ふぇ!?」

 

「なに、恥ずかしがることは無い。我だってハヤマの事を愛しておるし、アインス隊長の所のサラだって、クラインの事を愛しておる。我々スレアの人間だからといって、ただの人だからと言ってアークスである彼ら彼女らとの違いなんて出生の違いだけよ。我は思う。力や星々の違いはあれど、考え方は同じよ。恥ずべき事は何もない。なぁハヤマ殿!」

 

思いっきり腕を抱きしめてきた。いろいろヤバイからくっつかないで。お願いだから!

 

「ヒューヒュー! おあついねー。」

 

「いいぞー! もっとやれー!」

 

センターやコマチ達が煽ってくる。

 

「うっせー! シャルももういいだろう? と、に、か、く。オキさんはほっといても死なないだろうし、すぐに帰ってくると思う。代行としてどこまでやれるか分からないけど、協力よろしく。」

 

シャルを振りほどいて離れさせた。全員が頷いてくれた。ありがたい。

 

28層。転送門のある拠点から少し離れた小さな村でオキと落ち合った。

 

「そうか。みんなわかってくれたか。ありがたい。」

 

「うん。オキさんやる気でしょ? だったら邪魔しない方がいいかなって。あとこれ。必要でしょ?」

 

オキに渡すためギルド倉庫から大量の資材や道具などを持ってきてやった。

 

「ああ、心配しないで。使っても使っても誰かさんのせいで増える一方だから。」

 

苦笑気味に受け取るオキ。まぁいつものことだなと笑い合う。

 

「そうそう。一ついいことがあったよ。」

 

「ん?」

 

キリトが「月夜の黒猫団」という小規模ギルドを育成で手伝ったらしいが、あるダンジョンで高難易度の罠にかかったがキリトの奮闘とかなり育っていたメンバーにより助かったという。それによってかなり感謝されたという話だ。キリト曰く前線クラスでも問題が無いのでは、という話からギルド連合加入も皆で考えている事を伝えた。

 

「ほう。そいつは良い事をしたな。」

 

「でしょ? みんないい感じになってるよ。俺たちがいなくてもね。」

 

初めはアークスだけで突き進んでいた感があったが今ではプレイヤー達も1年以上戦っている。そりゃ育つよね。

 

「みなが協力してこの世界から脱出しようとしている。そんな状況をぶち壊す奴は許さない。」

 

「そうだね。オキさん。なんかあったらすぐに連絡ちょうだいよ? 無理したらシリカちゃん泣いちゃうからね? そんときはオキさんの事許さないからってアスナやリズベット達が言ってた。伝えておくよ。」

 

こいつは怖いな。気を引き締めねーとと呟くオキ。そんな話をしながら二人で笑いあった。

 

「おい、あんたら攻略組の人じゃないか?」

 

1人の男が話しかけてきた。

 

「ああ、そうだが? なにか?」

 

「いやー。もし時間があったら手伝ってほしい事があるんだ。俺たちじゃなかなかクリアできなくってよ。」

 

男の後ろを見るとテーブルに5人ほど他のプレイヤーが手を振っている。

 

「特にそのエンブレム。『オラクル騎士団』の人だろ? 情報屋から見かけたら気軽に声かけていいって聞いてるんだが。時間があれば手伝ってくれると。」

 

「ああ。そういう風に言ってあるからね。何をすればいいんだい?」

 

低レベル帯の人達でも気軽に声をかけてもいいとアルゴからいろんな情報屋に言い伝えてくれとオキは言っていた。だって声かけにくいだろ? 高レベルの人に手伝ってくれっていうのって。

 

「ここから少し離れた洞窟にいるモンスターが俺たちじゃ倒せないんだが、できればアドバイスか何かくれるとありがたい。もちろん手伝ってくれると楽なんだけどな。」

 

「ヤバくなったら手伝うよ。それまではしっかり自分の力を出し切るんだね。楽はさせないよ?」

 

「はっはっは。まぁそうだろうな。こっちだ。」

 

中年風の男性プレイヤー達は各自自己紹介や、上層での戦いについて質問をしてきてなかなか盛り上がった。

 

洞窟に入り、奥へと向かう途中広い空洞部にでた。その真ん中付近で男たちは立ち止まる。

 

「ん? どうした? 道を間違えたか?」

 

「いや、ここであっている。倒すのは…お前だからな!」

 

男たちが一斉に武器を取り出し、襲ってきた。

 

「…はぁ。」

 

「…全く。」

 

オキと二人でため息をつき、それぞれに対して襲ってきた者たちの武器を弾き飛ばした。

 

「な…!?」

 

「つ、つよい…。」

 

「おめーら誰から雇われた。どう考えても罠ってバレバレだったし、お前らじゃ戦うどころか問題外だ。弱すぎる。」

 

オキは槍を振り、リーダー格の男に突き立てる。こちらも他のメンバーにカタナを向けて手を上げさせる。

 

「おおお、俺たちはここにおびき寄せろと…いわれた…だけで…。」

 

「ああん!?」

 

「ひい! ごめんなさい! こ、こんなに強いなんて聞いてなくて…。」

 

オキが睨みつけるとすぐ弱音を吐いてペラペラとしゃべってきた。オキさんのこの状態ってこちらも怖いんだよね。しかしこの状況、なにか臭うな。

 

「はやまんこれは…。」

 

「うん。逃げた方がいいかもね。」

 

「同感。おい! 入口まで走れ! いいから走れ! おら!」

 

土下座まで決め込んでいるプレイヤーの尻をけたくり、走らせる。直後に奥から何やらこちらに向かって玉のようなものが飛んできた。

 

 

ボン!

 

 

空洞部に紫色の煙が広がる。色からしてヤバイのがわかる。

 

襲ってきた男たちとオキは間一髪で逃げることができた。

 

「やーっぱ襲ってきたか。ラフコフ。ほかのメンバーを犠牲にしてまで襲って来るとはな。」

 

「オキさん、こいつらどうする?」

 

地面にすわりこんだり、頭を抱えて震えている男たちの方を示す。大の大人がいい格好とは言えないね。

 

「どうせただの下っ端だろ? あいつら、平気で仲間を殺すからな。多少の犠牲くらいどうということはないんだろ。」

 

「お、俺らどうなるんだよ。このままじゃおれらまで 殺されちまう・・・。たたた、助けてくれぇ!」

 

オキにしがみついてきたリーダー格だが、それを振りほどいた。

 

「オラ、この回廊結晶やるから牢獄にでも入ってろ。それなら殺されることもないだろ。命あっての人生だ。死んだらそこまで。いきてりゃなんとかなるだろう?」

 

その場にいた全員が壊れたように首を縦に振って、「ありがとう、すまない、ありがとう、すまない」と何度も言いながら結晶であの黒い監獄へと送られていった。

 

「ハヤマん、ディアベルに雑魚数名送っといたから保護頼むって言っといて。」

 

「りょーかい。オキさんは今後どうするの?」

 

「しばらくテキトーに歩きまくるさ。そのうち向こうからやってくるだろ。」

 

背中越しに手を振って来た道を戻るオキ。そのとき、オキは手を何度か握っては開き、握っては開きと繰り返していることに気づく。これは自分の中で怒らせてはいけない人のトップが怒っているということを表していた。




皆様ごきげんよう。そろそろ日中の時間も短くなり、肌寒くなってきました。風邪とかひいてないですか?
今回は、「代行」ということで、ハヤマ視点になっております。
彼はPSO2の世界を1から教えてくれた師匠であり、同時に共に戦ってきた相棒でもあります。だからこそ、代行として任せきることができるのです。(これだけベタ褒めしとけば後で何かくれると思うの。ゲス顔)
さて、しばらくオキはソロ活動のため視点をかえて他のメンバーを主人公に書いていきたいと思います。
ではみなさん、また次回にお会いしましょう。


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第27話 「アリス・イン・ワンダーワールド」

オキがソロ活動をしだしてから数週間が過ぎた頃、53層を攻略していたハヤマの元に一通のメールが送られてくる。


「ん? メール。オキさんからだ。」

 

53層、浮遊に浮かぶ大陸の連なるこの階層でレベル上げをしている最中にその一報が届いた。

 

「ふむふむ…。」

 

その内容をざっと一読した後に空を見上げながら一言つぶやいた。

 

「あの人は…相変わらずだなぁ。」

 

そこには一人のプレイヤーを知り合い、ギルドに加入させるという話だった。

「ミナサン! ヨロシクオネガイシマス!」

 

金髪のロングウェーブ。青色の瞳。しゃべり方のおかしい言葉使い。かわいらしく美しい小さな美少女のプレイヤーが1人、アルゴに連れられてギルド拠点に元気にな声で挨拶を行った。

 

「よ、よろしく。」

 

新たなメンバーに加えるという事でギルドメンバー全員を拠点に集めさせたが、元気な笑顔と声に押され、その場にいた全員がタジタジになっている。

 

「アリスといいマス! オキサンにはイロイロたすけてもらったのデス!」

 

「リーダーから話はいっていると思うけド。聞いてル?」

 

その状況を楽しんでいるのかいつもより顔がにやけている。

 

「あの人が下の層で男性プレイヤーに襲われそうになっている所を救ったって聞いてるけど。」

 

メールの内容には簡易的にだがこう書かれていた。

『お疲れさん。攻略は順調? こっちはラフコフからの襲撃がちまちま続いてるくらい。いくつかの拠点っぽいのを見つけたんだが本拠点じゃなかった。(以下中略)

で、本題に入るんだけど、アリスというプレイヤーをアルゴに預けた。うちのギルドに加入させてほしい。彼女はある男からストーカーを受けていてね。あと少しで襲われるところを偶然俺が見つけたんだわ。男に逃げられちまった上にラフコフに関係ありそうな感じだったから、今あちこちの情報かき集めて見つけようとしてるんだが見つかんなくてね。また襲われたらたまらんし、匿うという理由にも丁度いいかなと思う。彼女の実力は俺が保障する。まだレベルは低いが呑み込みが早い。レベル上げを手伝ってあげればすぐにでも最前線クラスに匹敵するくらいにはなるだろう。ってわけでよろしくー。 オキ

追伸、彼女、結構コミュニケーションが激しいから男性諸君に気を付けるようにと言っといて。』

 

とこのような内容だった。

 

「ハヤマです。オキさんの代わりに今は代行リーダーとしてやってる。よろしくね。オキさんからは一応、話は聞いているよ。なんかいろいろ大変だったんだね。」

 

「そうデス。とてもコワカッタデス。でも、オキさんがタスケテくれマシタ! オキさんはワタシのコトをマモッテくれたプリンスデス!」

 

その言葉を聞いて一人の少女がビクリと体を震わせる。それと同時にその場にいた皆がその少女の方を向いた。シリカだ。

 

「え…え!?」

 

「アー。デモ、オキさんにはダイジなフィアンセがいるとキいてマス。もしかして、アナタがシリカデス!? オキはいいヒトデス! タイセツにするデスヨ!」

 

「フィフィフィ…フィアンセ!? あ、う…キュー。」

 

「ちょ! シリカちゃん!?」

 

顔を真っ赤にして大会議室の机の上に座ったままパタリと倒れてしまった。すぐ近くにいたアスナが体をゆするが目を回していて反応が無い。すぐに部屋へと搬送された。

 

「アレ? チガウデス?」

 

首をかしげながら状況が分かってないアリス。面白そうにメモを書いているアルゴ。苦笑するしかなかった。 

そのあと、気が付いたシリカに全力で謝るアリスをみつつ、今後の話をした。

 

「オキさんからは俺とシャル、ツキミで一緒に組んで一気にレベルを上げるってオキさん依頼されてる。シャルもいい?」

 

「うむ! ハヤマ殿がいいならそれで構わんぞ。なぁツキミ!」

 

「はい。」

 

ふたりは快諾してくれた。ありがたい。

 

「シャル…サン? アナタがシャルサンデス!?」

 

シャルの名前を聞いて急に身を乗り出してきた。

 

「う、うむ。どうしたのじゃ?」

 

「オキサンからハナシをアズカッテマス! アト、ハヤマサンにもデンゴンデス!」

 

「ん?」

 

二人で顔を見合い、首をかしげる。なんか嫌な予感がする。

 

『46層の山岳部奥に鉱石があるんだが、カタナの改良に使えるという情報を手にした。隊長の武器は特殊な改良方法があると隊長から聞いているから、ハヤマんの武器にと思って。みんなのレベル上げにも丁度いいし、シャル、ツキミと一緒にアリスを連れて行ってくれ。本来この系統のアイテムを手に入れるにはメイサーが必要らしいが、アリスがメイサーだから問題は無いはずだ。じゃよろしくー。

追伸:両手に花どころかハーレムだな。よろこべ』

 

確認すると面白そうな内容だった。最後の1文を除いて。

 

「カタナの改良か。面白そうだな。」

 

オキさんから確認のメールを見ている最中、シャルとアリスは何やら別件の話をすると言って離れている。まぁ仲良くしてくれればそれでいいや。そんな事を想っている時だ。

 

「なんじゃと!? そのような事ができるのか!?」

 

シャルが目を丸くしながら叫んだ。

 

「どうしたの?」

 

いきなり大声を出されたので少し驚いた。なにか問題でもあったのだろうか。

 

「あ、いや。なんでもないぞ。すまぬ、少し驚いただけだ。特に問題は無い。心配するでないぞ。」

 

あたふたしながら否定するシャル。なんか怪しい。まぁ問題じゃなければそれでいいか。

しかし鉱石か。ここはリズベットにも聞いてみるかな。

「鉱石発掘? ああ、やったことがあるわ。へぇ、アリスって私と同じなんだ。私はリズベット。リズってよんで。ここのギルドの武器管理をやってるわ。よろしくね。」

 

「ヨロシクデス! リズ!」

 

リズの手を掴んでブンブン振るアリスにリズも少し苦笑気味。

 

「げ、元気な子ね。で、鉱石だったわね。まぁハヤマが行くなら大丈夫だと思うけど、鉱山系の場所って地盤がもろくて穴がたくさんあるから気を付けてね。私も何度か落ちてキリトやオキに助けられたことあるから…。ダメージとかその辺は大丈夫だったけど、落ちた先がモンスターハウスとか稀にあるみたいだから。」

 

たははと笑うリズベット。なるほど。罠のような類か。気を付けよう。

 

「あ、そうだ。もし余分に持って帰ってこれたら私に売ってくれない? 他の武器にも使えないか試してみたいの。」

 

目を輝かせているリズベット。お土産に丁度いいか。

「オキさんの情報だとここのはずだけど。」

 

情報にあった鉱山地帯。山の麓には村があり、そこのNPCから情報を貰えるという事だ。

 

さっそくそれぞれペアになり村の中で情報を収集する事に。

 

「じゃあ、オキさんから頼まれてるからアリスは俺と…。」

 

「なにをいっておる。我と一緒じゃ!」

 

一瞬でくっついてきた。何今の早さ。見えなかったんだけど。

 

「ワタシはダイジョウブデス。ツキミとイッショにウゴキマス!」

 

「はい。お任せください。では後程。」

 

アリスとツキミは急いで離れるようにその場を去って行った。シャルを見ると物凄く楽しそうで嬉しそうな顔をしてこちらを見つめてきている。

 

「う…。わかった。わかったよ! じゃあ行こうか。」

 

「うむ!」

 

こうなったシャルはてこでも動かない。諦めたほうが早いのだ。仕方ないなぁもう。

「あの鉱山は昔から多数の鉱石が取れたものじゃ。ただ、最近ではモンスターの住処になってしまってな。いまでは危険地帯として命知らずな奴らしか入っていかん。まぁ止めはせんが、命の保証はせんぞ?」

村の端、鉱山の入口にいちばん近い場所にいたNPCからは山の構造について情報を貰った。

 

「エネミーがいるなら倒せばいいだけの事。じいさんありがとな。」

 

「ありがとな! ご老体! 感謝するぞ。」

 

「気を付けてなぁ。」

 

手を振ってNPCの下を離れる。丁度そこにツキミとアリスが合流した。

 

「酒場の方からいくつか情報を頂きました。奥の方でここでしか手に入らない鉱石が見つかった事があると。」

 

「ビッグなコウセキがあるラシイデス。デモ、トチュウでタクサンのモンスターがマチウケテルカノウセイダイだとキキマシタ。」

 

なるほどね。モンスターを蹴散らして奥まで行けばその特殊な鉱石が手に入ると。

 

「ふーん。面白そうじゃん。ピッケルも買ったし、ボスクラスが出てもまぁ何とかすればいいか。じゃあ採掘に行こうか!」

 

「「「おおー!」」」

鉱山の中は薄暗く、所々にトロッコの後や折れたピッケルなどがあちこちに散乱していた。

 

「…くちゅん。」

 

「寒い?」

 

普段から付けているマフラーをシャルに巻く。アークス時でもつけていて、無いときは落ち着かなかったから最近裁縫スキルを上げているというサクラに作ってもらったのだ。

 

「ん、すまぬ。…ふふ。温かいぞ。」

 

ニコリとほほ笑むシャル。その笑顔を何故か直視できずに目をそらす。

 

「う、うん。」

 

「イヤーイイデスネー。」

 

「はい。」

 

後ろを見るとアリスとツキミがにやけているように見える。うーん…うす暗くてよく見えん。

 

手元にある松明しか明かりが無いのがきついな。こんな状態でモンスター出てきたら少しやばいかも。

 

「とか思ってると出てくるんだよな。」

 

索敵スキルに反応がでる。結構いるな。蛇系に、虫系に…わぉ。ゴースト系までいるね。

 

「なんでも一緒にすればいいってもんじゃないぞ。」

 

「同感です。」

 

「ダ、ダイジョウブデス?」

 

シャルに松明を持たせてカタナを抜く体制にはいる。

 

「大丈夫さ。ささっと蹴散らして奥に行っちゃおう。後ろ、お願いね。」

 

これ位なら特に問題は無い。レベルも低いしドロップアイテムだけもらっちゃおう。

そう思いながらエネミーの軍団に突っ込んだ。

 

洞窟は幅が狭く挟まれない限り囲まれることは無い。1体1体確実に仕留めきれば向こうから来るのを切り刻めばいいだけの事。

 

「はぁぁぁ!」

 

ならば普段通りに切ればいい。こういう狭い所ではPAのサクラエンドやシュンカシュンランが使いやすい。上下が必要なゲッカ等は前方に強くてもこの高さでは頭を打ちそうだ。やめておこう。

 

エネミーは攻撃してくるまもなく結晶化して砕け散っていく。

 

『シャルがエネミーに俺の影が重なら無いように微調整しているな。ありがたい事だよ。』

 

松明が後方にある為に前方に自分の影が出来ていてエネミーにかぶり見えなくなる時がある。だがシャルが絶妙なタイミングで左右に移動し、エネミーを照らしてくれる。おかげで見えなくなることが無く切り刻むことができた。

 

「これで、終わりかな?」

 

最後の一匹を切った。他のエネミーが出てくることはなさそうだ。何匹やったかな。15? 20くらいはいたかな?

 

「スゴイスゴイ! サスガオキさんがイッテイタ、セナカをアズケレルアイボウさん!」

 

「ふふん! ハヤマはすごいのだ!」

 

シャルなんでお前が威張るんだ。まぁいいや。とにかく後ろからも来るかと思ってたけどこなかったし、先に進むとするか。

 

「じゃ、ゆっくり進もう。また出てきてもおかしくないからね。」

 

洞窟内を再び進みだす。途中、何度かエネミーの群れに遭遇したが、全て切ってやった。かなり奥まで進んだ先にセーフティエリアが見つかりそこで休憩を取る事にした。奥に行く道から外れた行き止まりで、地下水がたまったせいか、小さな池のようなものが出来上がっていた。光に照らされて天井部から落ちる水滴が幻想のように光り輝いている。

 

「だいぶ奥まで来たのではないか?」

 

「うん。ここにセーフティエリアがあるってことはそろそろ最奥だと思うんだけど。」

 

「ウーン。アリス、ナニもデキテナイデス…。」

 

しょぼんとするアリスをツキミが宥めている。まぁ基本的に俺が全部切っちゃったからなぁ。だって狭いんだもん。こんな状態で乱戦状態にできるわけがない。危険すぎる。

それを説明するとまだ納得いってない顔だったが頷いてくれた。仕事はこれからだという事で。

「ほー…。」

 

「これは、すごいな。」

 

「キレイデース!」

 

最奥にたどり着くとそこは煌びやかな天井や壁で埋め尽くされる小さな宇宙のような光景が広がっていた。

 

「これが全部鉱石、ですか?」

 

煌びやかな正体はたくさんの鉱石。幻想的な天井を眺めながら足を進めた瞬間だった。

 

「うお! しまっ…!」

 

「ハヤマ殿! きゃあああ!」

 

暗くて誰も気づかなかったが空洞の広場の途中から強い傾斜のある崖となっており、それに気づくのが遅れバランスを崩しそのまま下へと落下してしまった。

助けようと手を出したシャルも一緒に落ちてしまったようで、何とか落ちている最中に抱きかかえ彼女を守った。

 

「主!」

 

「ハヤマサン!」

 

上から小さな光が見え、小さな声が聞こえる。ツキミとアリスがこちらの無事を確認しているようだ。

 

「大丈夫だー! 俺もシャルも無事だー!」

 

かなり落ちたな。なんでこんなところに崖なんかあるんだよ。くっそ。気づかなかった。

 

「ごめん。シャル。君まで巻き込んでしまって。」

 

「大丈夫じゃ。問題ない。ハヤマ殿が無事でよかった。我はそれだけで十分じゃ。」

 

にっこりとほほ笑む笑顔が普段より近い。暗くて近くに寄らないと彼女が見えない。だからいつもより寄り添っていた。

 

「そうだ。確かロープを持ってきていたはず。それを使えば!」

 

「すまぬハヤマ殿。我が持っておる…。」

 

ロープをアイテム欄から具現化するシャル。さってこれはどうするかな。

 

「今から私達が戻ってロープをお持ちいたします! それまでお待ちください!」

 

ツキミの声が上の方で響いて聞こえてくる。

 

「だめだ! ツキミ達だけでじゃ危険すぎる! 助けを呼ぶからそこで待機してて!」

 

「…了解しました!」

 

「シマシタ!」

 

運がいいのはこのエリアのボスがいない事だ。普段ならいるはずなのだが。まぁいいか。とりあえずオキさんは忙しいだろうからコマチか隊長あたりに助けを呼ぶか。

 

メールを起動し、両方に助けのメールを書き始める。全く恥ずかしかぎりだ。

シャルがその時とてもうれしそうにしているのに、この時は気づく余裕もなかった。




皆様ごきげんよう。
祝!PSO2 EP3終了!
最初は「え!? なんで!?」って内容だったけど、最後の最後までやるとすべてが一本になって、すごく納得できる内容でした。(若干涙腺ヤバかったです)
さて、トリトリ4もきましたし、新たな武器も追加され、武器掘りを再開する日々がまた続きそうです。
全アークスにいい武器が出ますように。

さて、2人きりになったハヤマはシャルと無事に鉱山を脱出できるのでしょうか。
書いている最中、ニヤニヤしながら書いてました。
次回もよろしくお願いいたします。



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第28話 「答え」

鉱山最奥部。うっかり足を滑らせ傾斜の強い崖の下へ落ちてしまったハヤマとシャルは、這い上がる事ができず助けが来るのを薄暗い中、二人きりで待っていた。


「すぐに隊長達が来てくれるって。周囲はどうだった?」

「うむ。完全に壁に挟まれておる。抜け道なぞ見つからなかった。」

つまり、ここを昇るしかないという事か。さっき試してみたけど傾斜が強くてロープ無しで上るのは不可能。

ロープはシャルが持ってるし、上にいるツキミ、アリスに戻らせることは帰路を二人きりで行かせることになる。

ツキミはシャル同様かなり高レベルになってきているし腕もあるが、アリスはまだまだレベルが低い。

あの数をまともに殲滅できるとは思えないし、万が一の事も考えるとリスクが高すぎる。ここは素直に助けを待った方がいいだろう。そう判断して落ちてきた場所に座り込み助けをまって暫くが経った。

「ツキミさーん。アリスさーん。上は問題ない―?」

崖の上に大声で叫んでみる。定期的に確認しておかないと、何があるか分からないからな。

「大丈夫です! 特に問題はありません!」

「ナイデス!」

崖もかなりの高さがあった。この広間もかなり大きい為声があちこちから反響して聞こえる。

「エネミーもいない。後は助けを待つばかりじゃな。」

「そうだね。ごめんね。もう少し気を付けていればこんな事には。」

オキさんから頭を叩かれそうだ。普段ならこんなヘマしないのにな。

「何を言っておる。それでもしっかり我を助けてくれたではないか。誰にでも失敗はある。気にする出ないぞ。」

シャルが頭を撫でてくる。くすぐったい。いつもオキさんがシリカに頭撫でているけど、撫でられるってこんな感触なんだな。

コマチとかに見られたら弄られそうだ。言いたくないな。

「うん…ごめん。」

「すぐに謝るのはハヤマの悪い癖じゃ。我が大丈夫だと言っておる。気にするな。」

そっとこちらの肩にシャルは頭を乗せてきた。うん、やっぱり恥ずかしい。

「…冷えるな。シャルは大丈夫?」

体温が上がったからか、顔が熱いからか。よけいに体が冷える感覚がある。

「うむ。ハヤマ殿のマフラーのおかげで我は温かいぞ。そういえば、ハヤマ殿がこれでは冷えてしまうな。うむ。ではこれでどうじゃ。」

シャルはマフラーを外しこちらにかけて自分にもまいた。そしてシャルはぴったりと自分の横にくっついて先ほどよりも体を密着させてくる。

「いや…そこまでしなくても…。」

あたふたする俺を横目にシャルは落ち着いている。

「何を言っておる。ハヤマ殿が私にマフラーを渡してハヤマ殿が冷えては何の意味もないじゃろ。大人しく我とくっついておれ!」

「う…。」

彼女も体は小さく、まだ未成熟な部分も多い。だがそれでも女性だと思ってしまう程柔らかく温かい。

「う…ん…。」

暴れると変なところを触ってしまいそうで、大人しくせざる得なかった。

『こういう時ってどうすればいいんだろ。オキさんにでも聞いておけばよかったかなぁ。』

何をしていいのかわからない。どうしていいのか分からない。アークスとして一流の腕をもつハヤマもこのような状況は全くどうしていいのか分からない。

『オキさんならわかるかな。普段からシリカちゃんとこんなふうにしてるし。あぁ、最近だとキリトもアスナといい感じだったな。ミケは…どうだろ。わかんね。コマチは…うーん。最近フィーアさんと仲がいいみたいだけど。』

隊長? なんかあまり興味なさそう。そんな事を考えていたからか顔に出ていたらしい。

「どうした? 難しい顔をして。あ、きつく巻きすぎたか?」

シャルの顔が目の前にある。近いってば。

「いや、くだらない事だよ。気にしないで。あと、近い。」

シャルの顔を少し遠ざける。危ない危ない。いろいろ危ない。

「うぬ。仕方なかろう。松明はツキミに渡してしまっている。ここには光がほとんどないのじゃ。ハヤマ殿の…顔が見えないと…不安、なのじゃ。」

少し震えてる? 寒いからか? いや怖いんだ。

「はぁ…これはオキさんに怒鳴られるだけじゃなくてひっぱたかれるな。」

確かオキさんはこういう時は

『いいか? 自分と一緒にいる女の子が怖がってたりしたら、安心させろ。抱きしめてもいいし頭撫でるだけでも構わん。とにかく安心させてやれ。安心させるには人の温かさが伝わればいい。』

「あ…。」

そっとシャルを抱きかかえ、自分の脚の間に入れて座らせる。

「俺にはこれが限界。これ位しか、できない。」

「…うむ。問題ないぞ。我は安心じゃ。…温かいのう。」

ふんわりとした彼女の髪の毛が顔にあたる。あ、いい匂い。ここまで再現するのかこのゲーム。ほんと、現実と何も変わらないな。いや、変わるのは痛覚系くらい?

『こんな姿オキさんやコマチ達には見せれないな。まったく、恥ずかしい。』

薄暗くてよかったと思う。なぜなら顔が真っ赤だから。

「なぁハヤマ殿。」

「え、あ、なに!?」

シャルが首をこちらに向けてくる。流石に完全にこちら側には向けれないからか体ごとだ。

「一つ、質問いいじゃろうか。」

「なに?」

「なぜ、今迄、我と少し間を開けてたんじゃ?」

ここで聞いてきますかそれ。

「やっぱ気づいてた?」

「当たり前じゃ。何をしてもお主は必ず我と一歩離れる。今回初めて自ら近づいてきてくれた。何故じゃ?」

「それこそ当たり前。初めて会った時いきなり『我を貰ってくれ。』なんて言われたって『はい、分かりました。』なんて言えると思う? それに俺はアークス。知ってるとおり宇宙で生きている。オキさんはシリカと一緒になって、これが終わったらどう考えてるのか知らないけど、俺にはまだ実感がわかない。あの人を信用してないわけじゃないんだけど、規模が大きすぎてね。どうしても、君を幸せにできるか自信が無いんだ。」

「んん…。」

シャルの頭をなでる。こういう感じなんだ。なでる側って。

「あの人みたいに、オキさんみたいに俺はできないんだ。ごめんね。慣れてなくてさ。だからうまく接する事が出来なかった。」

今迄アークスとして戦いだけだった。特に【巨躯】が復活して、【敗者】と戦って。だからそうやって接すればいいか、分からなかった。それに仮に彼女と一緒になったとしても、このSAOがクリアされまたアークスとスレア星と別れてしまえば会えることもできなくなる。そうなると彼女を苦しめてしまうだけだ。ならばいっそ最初からそのような考えに至らなければいい。そう思っていた。

「そう、思ってた。今までは…。」

「ハヤマ…殿。」

顔が近い。これあれだよね。雰囲気的にアレだよね。なんかシャルもそのつもりっぽく目閉じちゃったし。なんか近づいてくるし。どうしよ。これやらなきゃだめかな。あー、もうどうにでもなれ。

カラン…

「カラン?」

上から小石が落ちてきた。って事は何かが崖の部分にいるって事だ。あれ、この反応。プレイヤー? え?

「…オ~キ~さ~ん~?」

暗くて見えない。でもそこにいる反応は間違いない。

「…にゃ~。」

猫の声がしてくる。

「バレバレだよ! なにやってんのあんたはぁぁぁ!」

シャルから離れて立ち上がり、オキさんのいる方を睨み付ける。

「たははは…。ばれちった。くっそー。いいとこだったのに! しくったぜ。テヘペロ。」

ロープを下げてこちらまで降りてくる。

「何やってんの!? なんでここにいるの!?」

「まぁまぁ落ち着けハ・ヤ・マ・ど・の!」

ニヤニヤしているのが丸わかりである。オキさんの声が震えているから。

「つまり…最初から、いたの!?」

上にあがり、ツキミやアリス、シャル。全員がグルだというのを、オキさんが仕組んだ罠?だというのをはじめて知る事になる。

「そ、いうこと。いやーアリスの話はほんとだよ? 実はさ、アリスが襲われてたのってここなんだよ。で、偶然おれがここにラフコフの拠点があるかもって情報掴んだんだけど、偽物でさ。で、帰ろうとしたところにアリスが追い駆けられてて。追い駆けて来た変態をさらっと追い返した時になんかすっごい感謝されちゃってさ。なんでもお礼しますって来たから丁度気にかけてたハヤマとシャルをふと思い返しちゃったわけ。」

なーんでそこで思い返すかな。だからこうなったのか。

「で?」

「んで、アリスに相談したら『だったらフタリキリにシチャエバいいのデス!』なーんて言うからさ。初めはアリスとシャルがうまく話をしてこの鉱山の中で迷子になるはずだったんだけど思ったよりすんなり行っちゃうし、ハヤマン下に落ちちゃうしでねぇ。まぁ運よく? 悪く? 怪我もなく二人きりになったから上でずっと見張ってたんだわ。」

「ずっと…?」

「ずっと鉱山入って初めから。落ちて行ったときは焦ったけど、そのあとの流れもばっちり! 録画したかったなぁ…。」

どうやら初めから仕組まれてたらしい。鉱山に入った時にはすでに後方にいたらしく、自分の索敵範囲外ギリギリを保ってつけていたとか。

「あ、だから後ろからエネミー来ないし、ここにボスもいないのか。」

「その通り。ボスは初めて来たときに排除しちゃったし、鉱山の鉱石アイテム取得はメイサーいないと手に入らないからね。アリスにお願いしてもっかいきてもらったんだ。いやーここまで面白いとはねー。あの堅物のハヤマんが。いやー堪能しましたご馳走様。とはいえ、シャルには惜しいことしちゃったね。すまん。」

シャルに頭を下げるオキさん。

「よい。これで我も安心した。次は自力で奪ってみせるわい。」

なんか変な自信付いちゃってますけど!? 唐突に起きた出来事に頭の中が混乱してうまく判断が出来ない。

「はっはっは。いや、いいもん見れたわ。これはSAO終わったらアークスシップ中に知らせないとな。アザナミさんでしょ? イオちゃんに、あぁマトイちゃんにも話そう。そうだなオーザとマールにも話をして今度こそくっつけてやる。そうだマリアさんとかに話したら大爆笑しそうだな。うんうん。」

「うんうん、じゃねーだろぉぉぉ!」

カタナを取り出しオキさんに振り下ろす。

「やっべハヤマンが怒った。」

しっかりと槍で防ぐ。もちろんここでオキさんを傷つけてしまうとカーソルがオレンジになってしまうので本気ではないが。これはねーよ。

はははと笑いながら逃げるオキを追い駆ける。

「はぁ…はぁ…。ところで、そこでアリスが踏んでる男はだれ?」

アリスが先ほどから大きな男の上に立っている。小さいからか特に痛そうな顔はしていないが、なんか一緒にツキミも踏んでるし。ってかいつからいたの?

「ふむ。さっきから気にはなっておったが。なんじゃこの男は。」

「踏んであげると喜ぶそうです。」

「ほう…。どれ。」

シャルも悪乗りしてゆっくり踏み出す。

「ああ…。ありがとうございます。ありがとうございます!」

なにこの変態。すっごい喜んでるけど。

「あー…。そいつがアリスを襲おうとした男。なんか極度のドMでさ。さっき後ろで捕まえたんだ。そしたら何もかも白状してさ。」

「ぼ、僕はアリスたんに踏んでほしかっただけなんだ。だから、お願いしようとしたんだけど…そ、その緊張しちゃって…。こわがらせちゃって…。ごめんなさい。そしてありがとうございます!」

踏まれながら謝ってお礼言って。なんだこいつ。

聞くところによると、アリスがその男の大好きな童話のキャラクターによく似ていたとか。

「不思議の国のアリス?」

「ああ、我もよく小さき頃読んでいたぞ。アリスという少女がウサギを追って不思議な国へと冒険にでるお話じゃな。」

へぇそんなお話があるんだ。一回読んでみたいな。

「ワタシのナマエのユライがソノアリスナンデス!」

アリス本人も好きらしい。どうやら街で見かけた際に一目ぼれして何とか声をかけようとしたが、殆ど女性と話したことのなかった彼は、アリスの後ろを追い駆ける事しかできなかったそうだ。ある時決心して声をかけようとしたが逆に怖がらせてしまい、その時にオキさんに見つかったらしい。だがその願いが『踏んでほしい』はないわ。

「ごめんなさい…反省してます。」

「傍から見ると反省してるようには見えねぇな。まぁほんとに反省してんだろうけど。アリスが許すなら俺は何もしない。」

流石のオキさんも苦笑気味である。どうやら悪い奴ではないらしい。不器用なだけだった。

「デス。ハンセイしてるミタイデスし、ワタシハモウダイジョウブデス。」

アリスは男の上から降り、彼の顔を覗く。シャルやツキミの彼の上から優しく降りた。

「オウフ…。なんという天使! …スマンデス。」

「まぁわかればいいさ。これからは二度とするんじゃねーぞ。次やったら流石にこいつで監獄送りだからな。覚悟しとけよ。」

そういってオキさんは回廊結晶を取り出す。

「ヒェェ。ご勘弁を~。」

何度も土下座で謝る大男をみて笑うオキさん達。

アリスはシャル達と更に仲良くなり今では共に攻略へと向かう事が多い。大男は何度も謝り二度とこのような騒動を起こさない事を約束をしていった。

再びオキさんが次のラフコフの拠点探しをする為別れる際。

「そういえばはやまん。」

「ん?」

「なんであそこで結晶使わなかったんだよ。みんなに常時持つように指示してたろ? アリスの分も用意してたはずだ。」

そういえばそんなのあったな。

「おい…。ガチで遭難しても俺は知らんぞ。」

「テレポータって普段持たないからつい忘れてた。今度から気を付ける…。」

うん、気を付けよう。

「…シャル泣かせたら俺がぶった切るからな。ちなみに今回の件はみんなに話してるから。」

「わかったと…って、なんでや!」

全力で追い駆ける俺。全力で逃げるオキさん。

本当に皆に話したらしく、それからかってくるコマチとミケがうざい。隊長までネタにしてくる。

「シャル君を悲しませたら…切るからな? 女性を泣かせるものではないぞ。ハヤマ君。」

いや隊長はガチだこれ。どうしてこうなった。




ごきげんよう。
最近のPSO2はシステムがいろいろ新規に追加され試しながら腕を磨く毎日。
ただ、月末からゴッドイーターに浮気するかも・・・。
さて、今回はあまり動きのなかったハヤマとシャルが急接近するお話でした。
書いてる最中、超楽しかった。(本人からは相当怒られました
そろそろラフコフ戦にうつるかなぁ。
では次回まで・・・。


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第29話 「牢獄の女王」

ラフコフとの戦闘をしながらアジトを探るオキ。
手持ちのアイテムが少なくなったために買い足しで1層を訪れることに。
オキはそこで情報を得るために牢獄を訪れたときにある人物と出会うことになる。


「そっち向いたぞ! ヒースクリフ!」

「うむ!」

キリトの声を聞き赤い十字の紋章が描かれた盾を構え、53層エリアボス『クレセント・ザ・ナイトキング』の巨大な大剣から繰り出される攻撃を受け止めるヒースクリフ。

「はぁ!」

ヒースクリフは攻撃を盾で受け止めた直後に、弾かれ硬直しているボスの腕に上段からの切りおろしを行う。

これで数度目だが、何度見てもあの盾はおかしい程硬い。さすがユニークスキルというモノか。

「神聖剣。何度見てもすごいな。守りと攻撃が両方とも成立している。」

隊長ことアインスもうんうんと頷きながら賞賛している。

ヒースクリフがエリアボス討伐に参加しだしてから、その活躍をみたプレイヤーメンバーも士気が上がり、今まで以上に気合が入っている。特にキリトやアスナ、ディアベルが筆頭だ。

「アスナ! スイッチ!」

「了解!」

交互に攻撃を加え、うまくボスのヘイトを誘導している。ボスのHPも残りわずかだ。

「はぁ!」

ディアベルの攻撃が引き金となり、ボスの体は結晶化し砕け散った。

「っしゃあ!」

クラインたちが腕を上げ、勝利を喜んでいる。

「お疲れ様。今日はディアベル君がラストアタックか。おめでとう。」

「いや、今回はキリト君とアスナ君がうまく敵を引き付けていてくれたからこそだ。」

隊長がディアベルを労う。

「だが、ルールは守れよ。ディアベル。」

キリトが近づいてくる。今迄通りラストアタックボーナスを取った人はその前にどのような状況であろうとも、取った人が必ずボーナスアイテムを貰う事になっている。

「わかってるさ。ありがたくいただくよ。」

「ハヤマ君。」

アインスが目で合図してくる。締めろって? 了解。

「あーよ。みんな、お疲れ様! この後54層に昇りアクティベートをしたら各自また自由に動いてもらって構わない。無理せず確実に上を目指していこう。」

「「「おおー!(なのだー!)」」」

「ハヤマ殿! 今日もお疲れ様じゃ!」

「お疲れ様、シャル。」

夜、着物を着たシャルとメイド服を着たツキミと共にお茶を入れに来る。寝る前は必ずの日課になっている。特にあの日以来からは密着してきたり、膝枕や肩もみ等のマッサージも要求してくるようになった。なんというか積極性が増した?

とはいえこちらはまだ考えが固まっていない。彼女に対しての想いと言うかなんというか、それに関しては受け止めなくてはならない。それはわかっている。だから以前よりかは『ほんの』少しだけこちらからも近寄る様にした。

コンコン

「私が出ます。」

扉の方へと近づくツキミ。

「どなたでしょう。」

「その声はツキミ君だね? ハヤマ君はいるかな? 緊急だ。」

声は隊長だ。少し顔がこわばる。

「ハヤマ殿…。」

心配そうに見てくるシャル。ヒトナデだけ頭を撫でた後に心配するなと言って扉を開けた。

「休み中すまない。集合だ。ハヤマ君だけ来てくれ。シャル君、ツキミ君。ハヤマ君を借りるよ。」

隊長の顔が本気(マジ)になってる。これはただ事ではないな。

「了解準備する。会議室? 了解。」

「で? 何があったの?」

大会議室にはコマチ、ミケ、アインス、キリト、ディアベル、リンド、クラインが集まっていた。そしてもう一人。

「やぁハヤマん。」

「アルゴネェ?」

なんだか久々に見た気がする。

「ほんとは今すぐにシャルっちとの話を聞きたいところなんだけド、ちょっとそういう話ができる状況じゃなイ。今度きかせてネ。」

「その件は後にして貰おう。さて、夜分遅くに集合してもらい感謝する。オキ君から情報が入った。ラフィンコフィンの情報だ。アルゴ君。頼むよ。」

アインスの説明に周囲が黙る。

「りょーかイ、タイチョ。」

アルゴからの説明が始まる。内容はこうだ。

オキさんがとうとうラフィンコフィンの主要アジトを掴んだそうだ。幹部である『赤目のザザ』、もう一人の幹部『ジョニー・ブラック』この二人が定期的に行き来しているエリアがあるという。もちろん罠の可能性もあるが今迄の中でも一番可能性が高いとオキさんは踏んだようだ。

「理由は、勘。」

だそうだ。とはいえ、あの人の勘は馬鹿に出来ない。それにそういう時に限って必ず確証を得ている。

だが問題はそこからだ。

「はぁ!? あの人もう向かってるの!?」

何考えてんだあの人! 一人でどうにかするつもりかよ!

「これはあれだな。旧マザーシップを思い出すな。」

アインスが唸る様に呟く。オラクル船団のマザーとなる母体『だったもの』で【敗者】に奪われたもの。それが旧マザーシップ。それを占拠しオラクル船団をつぶしにかかったルーサーを止めるべくたった一人でマザーシップに突っ込んでいったのかオキさんだ。そのあと、追い駆けて行ったらルーサーの傀儡となっていた六芒均衡の三英雄と戦ってる始末。

「あのバカリーダー。まだ懲りてねーのか。」

「相変わらずなのだなー。変わらないのか―。」

コマチとミケもあきれている。

「場所はここの階層の岩場エリアにある隙間。ここは普通に見ればなにも無いんだけド、実は絶妙な隙間があってね。ほんとは洞窟を作る予定だったんだろうナ。その洞窟が丸々残されていル。」

ガタ

「どこに行こうというのかな? ハヤマ君。説明は終わってないぞ。」

立ち上がる俺を引き留めるアインス。

「どこって決まってんじゃん。あのバカリーダーを殴りに行くの。今回ばかりは相手の戦力が分かっていない状態。それを見越して突っ込むつもりだよ。あの人。」

「それくらいわかっているさ。だが、君だけを行かせるわけにはいかない。」

立ち上がる隊長。すでに腰には愛刀が下げられている。

「隊長…。」

「ア、そうそう忘れてた。そのバカリーダーから伝言だヨ。えーっと、『どうせ一人で突っ込んでとか思ってんだろ。アークスのメンバーで来たい奴は来い。待っておいてやる。だが、その他のプレイヤーメンバーはここから先は地獄となる。取り押さえるなんて甘っちょろい考えのある奴は来るなよ? 相手は本気で殺しにくる。迎え撃ち、殺す気が無いとてめーらが死ぬ事になる。その覚悟のある奴だけだ。来ていいのは。それ以外は来るな。邪魔になるだけだ。』だそうダ。」

それを先に言ってほしい。伝言を聞いた後にミケ、コマチが立ち上がる。

「それじゃあうちのバカリーダーを支援しに行きますか。」

「めんどくさい。ささっとおわらせてしまうのだー。みんなが安心して寝れるように!」

二人もやる気のようだ。すでに顔つきが本気である。

「私も行こう。」

「俺もだ。」

ディアベルとキリトが立ちあがる。

「お、おれも行くぞ!」

「私も共に行かせてくれ。」

皆が立ち上がった。

「気持ちはうれしい。だが、ここからは『殺し』の世界だ。君たちはそれでも向かえるか? 立ち向かえるか? オキ君の言う通り平和解決など無理だ。これは冗談では済まされないぞ。」

「何を言うアインス。普段から君たちには世話になりっぱなしだ。この星の、人同士の問題まで解決させっぱなしで終わらせれるわけがない。申し訳がなさすぎる。俺たちの問題は自分達でも解決しなければならない。だろう?」

「あいつらは人の道を外れた外道だ。いくらオキがあいつらの目を反らせたって、別のオレンジプレイヤーによる犯罪は増えている一方だ。一度大元をつぶさねばならない。皆を、守らねばならない。」

「ディアベル、リンドの言うとおりだ。大事な人を守らねばならない。ここでほおっておけば、自分じゃなく大事な人にまで危害が及ぶ! それだけは阻止しなければならない。だから、奴らを止める。殺さなければならないなら…殺す。」

こんな子供まで巻き込んで止める事が出来ない。キリトの言葉に全員が口を閉ざす。だが、ここで止めなければ増える一方だ。更にここで決断しなければ大事な人を失う事になる可能性もある。

「いこう。」

「「「おう!!(なのだ!)」」」

俺の号令により、リーダー各位がバカリーダーに向かって行った。

 

***

 

時は遡り、一週間ほど前。

キィィン!

森林の中の川沿いにある広場で刃の交わる音が響く。プレイヤーがエネミーと戦っている音ではない。時間は深夜を過ぎている。

「そろそろ吐く気になったか? ボスの居場所!」

「うっせぇ! てめぇが死んだら意味ねーだろうが! だから、死ね!」

周囲には数名のオレンジカーソルのついたプレイヤーが転がっている。HPバーは赤色で点滅入していた。

「ひゃっははは!」

「うらぁぁ!」

両手斧を思い切り振り回し、飛び掛ってきたジョニーブラックを吹き飛ばす。

「っぎゃ!」

何とか防御したものの、かなりのHPを持っていけた。さて、仕上げと行くか。

「吐け。命だけは助けてやる。」

「…へへへ。甘いぜ。あんた。」

ボン! ボボン!

複数の爆発と同時にジョニーブラックの周囲に煙が立ち込める。いつのまに仕掛けたんだ?

「今日はこの辺にしといてやるよ。また楽しもうぜー! きゃははは!」

煙が風で流される頃には周囲にいた雑魚どもも一緒に消えていた。

「逃げたか。」

月が映る川へと向かい、覗きこむ。

『酷い顔だ。こんなの、シリカには見せれないな…。』

普段、シリカに見せていた顔じゃない事は自分でもわかるくらいひどい。特に目が。

ぱしゃり

「ふー。冷たくて気持ちいい。」

川の水で顔を洗い気持ちを落ち着かせる。

「また暫くは来ないだろうな。今のうちに装備確認っと。」

ソロで活動しだしてからできるだけ夜に動くようにし出した。その為、よく夜襲を行ってくることが多い。

襲ってきた後暫く立ってから別の行動に移る。それがあいつらの傾向だ

「やっべ。今ので斧もってかれたな。耐久値もう無いじゃん。」

出来るだけメイン武器は温存しておきたい。その為に店やフリマで売っている安い武器を適当に仕入れて使い捨てのように使用している。耐久力の低い武器がほとんどだったのでいつも一戦交える度に一本は壊れるか寸前まで行ってしまう。

まぁスキルが上がるからいいんだけど。アークスのときは多数の武器種を使ってきた。こっちでもどのような状況にも対応できるように最低限は慣れておかねばと思っている。まぁまさかプレイヤー同士で戦ってもスキル熟練度が上がるとは思ってもいなかったけど。

「えっと…げ、もう武器ねーじゃん。仕方ねえ。買い足しいくかぁ。」

あまり街中には入りたくない。以前、グリーンカーソルのついたプレイヤーに罠をはられエネミーに囲まれた時があった。もちろん囲まれることなど何度もあった為に容易に抜け出してやった。他にもオレンジカーソルの無い、グリーンプレイヤーによる罠が何度かあった。一度はめられて、誤ってグリーンカーソルのラフコフメンバーを攻撃してしまい、オレンジカーソルになってしまったこともある。

『カルマ回復イベント…面倒なんだよな。』

オレンジカーソルになってしまうと、街に入れなくなってしまう。(正確には超強力な憲兵のNPCがわんさと襲ってくる)その為それを回復する為のカルマ回復イベントと言われるクエストをこなさねばならない。そんなに難しくは無いが、なんといってもそのクエストの面倒な部分はアイテムの収集。かなりの数を拾う必要がある上に、とにかく見つけづらい。

「はぁ…。できるだけ身を隠していくか。アルゴネェにも連絡とっとこ。」

メールボックスを開き、アルゴに連絡を入れた。

***

 

 

「大変そうだネ。オニーサン? 顔が怖いヨ。」

1層、始まりの街。そこのカフェテラスで落ち合った。ここに来るのも久しぶりだな。

「ははは。困ったものだ。…例の情報、まだ分からんか?」

アルゴには奴らのアジトの情報をかぎまわってもらっている。本当はしてほしくないが、彼女からの強い要望だった。

『情報屋ならば、危険も承知の上。させてもらうヨ。』だそうだ。

「新しく情報を仕入れたけど、一番有力なのは…ここと、こことここ。また全部調べてみル?」

「ふむ…。ま、そうしてみるさ。」

コーヒーをコクリと飲み干し、立ち上がる。

「マァマァ。そう焦らずニ。もう少し話していきなヨ。」

アルゴが俺の肩を持って再び座らせる。

「あまり長居はできんぞ。何時あいつらが何処で見てるか分からんからな。」

あえて人の多いこの街にきて紛れ込んではいるとはいえ、どこで見ているか分からん。念を押しておくのは悪くない。

「しーちゃんから。これ、渡してきてッテ。」

コトリとテーブルの上に置かれたのは手紙だった。メールでの連絡は毎日行っているがこうして手紙としてもらったのは初めてだ。

「ん、受け取っておく。…ああ、そうだ。ついでだ。じゃあこれをお返しに渡しといて。金取らねぇよな?」

「取ってほしイ?」

にやけ付きながら顔を覗いてくる。勘弁してくれ。

「これを渡せばいいんだナ? 預かっておくよ。」

俺が渡したのはここ最近NPCの店で見つけた綺麗な髪飾りだ。緑色の葉のような飾り付けがされており、元気で笑顔のまぶしい彼女にとても似合うと思ったからだ。

「ふふん。離れていても二人は考える事一緒だネ?」

「あ?」

にやけ付いているアルゴ。手紙を指差している。確かに手紙にしては重い気がする。

「なんだ?」

開けてみるとそこにはシリカからの手紙と、数枚の写真が入っていた。全てシリカが写っており、アスナやリズを初めとする女性メンバーとのやり取りを撮っているらしい。

「…そうか。これは早く終わらせてやらないと、心配かけてるな。」

アイテムウィンドウ内でお気に入りに選択し大事にしまう。

「少しは元気でたカ?」

「ああ。元気でた。さってじゃあ行ってくるわ。そっちも無理すんなよ?」

「任せておいテ。」

二人でニヤリと笑いながらその場で別れた。

別れた後、ついでだからと思い、アインクラッド解放軍のギルド拠点へと向かった。

「よぉ。元気かー?」

「オキはん! 最近みぃひんと思ったら、こんなところでなにしてはるん?」

どうやらディアベルは攻略中でいないらしい。いたのはキバオウ含む数名の幹部たちだった。

「いや、ちょっとついでに挨拶をと。ああ、そうだ。これみんなで食べて。49層の名物、『ヒカリマンジュウ』。」

久しぶりに49層へ向かうとレティシアが温かく迎えてくれた。彼女たちの言う上層部、50層の復興も少しずつ行われているようだ。そしてこの饅頭が販売されている事に気づき、買っておいたのだ。本当はうちのメンバーに買ったんだが、また買いに行けばいいさ。

「おお! すまんなぁ! で? どうや? 進捗。」

やっぱり気になるよね。周囲のメンバーも俺のやっている事を知っている為少し顔がこわばる。

「ああ、今の所いくつかの情報をたどって奴らの拠点を探しているんだがものの見事に全部大外れ。いや、一か所だけ惜しかったところがあったな。すでにいなくなってたけど。」

「そうかー。すまへんなぁ。オキさんばっかりに押し付けて。ワイらがやらなあかんことやってのに。」

キバオウがしゅんとなる。俺は肩をバンバン叩きながら笑いながら励ました。

「なーに言ってんだよ。おめーらにはやる事があるだろう。この1層で暮らす人たちを守るって大事な仕事がな。」

「いてて! オキはんにはかなわんなぁ。…せや。目には目を、歯には歯をっちゅうことわざがこの国にある。犯罪者には犯罪者を。ここの奥にオキはんらがぶちこんだ犯罪者がおるで。聞いてみるのもありなんちゃうか?」

その手があったか。

「サンキュー。キバオウ。他のみんなもありがとね。」

「いえ、オキさん方イレギュラーズの力あってこそです。」

「そうです。我々がここを安心して守れるのもイレギュラーズの力あってこそ!」

「すまんな。じゃ、いってくる。」

ギルド拠点の奥、黒い球体の奥にその牢獄はある。

「おーお。いることいること。」

予想より暗い鉄格子の中。その中には犯罪を犯し、攻略組(主にイレギュラーズ)によってぶち込まれた奴らがいた。

「んー…と。」

中を覗き見ると数名の男たちがこちらをおびえた目で見ている。

「なぁあんたら。ラフィンコフィンの情報もってないか?」

「っひい! ごめんなさい! ごめんなさい!」

え? なんでこんなにおびえてんの?

「やめときな。そいつら、あんたのお仲間さんにぎったぎたにされたみたいでねぇ。特にあんたの顔はここじゃ鬼どころか悪魔のような存在だよ。」

後ろから聞いたことのある声が聞こえる。ってかうちの仲間にぎったぎたって。誰だよ。可能性があるのはハヤマんか、隊長か、それともコマチか。ミケは…てきとーに遊んでぽいっちょしてそうだからないな。

「この声は…たしかタイタンズハントの。」

「おや、覚えてくれているとはうれしいねぇ。ラフィンコフィン、『笑う棺桶』か。あんた、あいつらとやってんのかい?」

「知ってるのか!?」

鉄格子に向かって歩いてくる女性。魅惑力のある体つき、綺麗に整った顔。オレンジギルド『タイタンズハント』リーダー、ロザリアだ。以前、俺とシリカを狙って襲ってきたオレンジプレイヤーであり、初めて接触したオレンジプレイヤーでもある。

「知ってるも何も、あの男からあたしはやり方を教わったんだからねぇ。そこらへんで捕まっている犯罪者たちも大半がそうさ。」

「情報がほしい。なんでもいいからあいつらの事を教えてくれ。」

「そうさねぇ。条件があるって言ったら、どうする?」

まぁそう来るとおもったよ。ちくしょう。

「出してくれってか? そうだな。その情報がウソ偽りない本物であるならば、考えてやってもいい。」

ニヤリと口元を歪ませる。それを見てロザリアはふっと笑う。

「なーんてね。冗談だよ。仮に本当に出してくれたとしても、あたしは出るつもりないよ。こいつらもね。ここで長い間、考えてた。あたい達がやってきたことは、償いきれないことだって。」

「おまえ…。その顔、嘘はなさそうだな。許すつもりもないし、許される事ではない。もうやってしまった事だ。だが、これから起きる事を未然に防ぐことができる。もしお前が少しでも償いたいと思うのならば、なんでもいいあいつらの事、教えてくれ。」

「あんた…。」

俺はその場で頭を下げる。どのような相手であっても、それが犯罪者であろうとも。手助けをしてくれる相手であるならば俺は敬意を払う。

「わかったよ。教えようじゃないか。おい、そっちのも。知ってること全部吐きな。」

「へ、へい!」

どうやらこの牢獄のリーダー格らしい。まるで女王だな。よーやるよ。

「もーないかな。これで売り切れさ。」

粗方情報を貰った。おかげで先ほどのアルゴからの情報と一致する場所がある。そこで張り込めば…。

「さんきゅ。助かったぜ。」

「そうだ、一つ聞きたいことがあった。」

「あん?」

「あの子、元気してる?」

俺は黙り込む。そしてアイテム欄からあれを取り出した。

「ほれ。元気そうにしてるだろ?」

ロザリアに写真を見せる。シリカがリズやアスナと笑いあっている奴だ。

「…そうかい。元気そうならいいよ。よかったね。あんたとあえて。これ、大事な物だろ? 返すよ。」

「ああ。」

何やら不思議な顔をしてこちらを見ている。

「なんだよ。もう何もでねーぞ。」

「いや、もし先にあんたと会っていたら。ここにいるのはあたしじゃなかったかもってね。どこで道をはずしちゃったんだろうね。」

天井を見上げるロザリア。

「この世界にもしって言葉は無い。あるのは現実と結果だけだ。それを後悔しないようにその瞬間を生きる。それが大事だ。今更んなこと言ったって知らん。まぁ今回世話になったしな。ケリ付いたら今度は土産持ってきてやるよ。」

「そいつはいい。美味い物であるなら尚いいぞ。」

ふんと笑い、俺はもう一度ロザリアに頭を下げた。

「協力、感謝する。」

「ああ、守ってきな。大事な人を。大事な人たちを! あたしらみたいなのに、奪われるんじゃないよ!」

背中越しに聞こえてくるその声に対し、腕を上げて握り拳を見せる。やる気が一層強くなったぜ。




皆様ごきげんよう。
ラフコフ討伐に向けて着々と準備を進めていくメンバー達。とうとうアジトをみつけたオキ。
次回SAO内で猛威を振るったオレンジプレイヤー集団「ラフィンコフィン」の討伐作戦が始まります。乞うご期待。

PSO2ではとうとう出ましたね「深遠なる闇」!
実際に戦ってみましたが「うーんこの」ってかんじでしたね。
かつて実装当初の「巨躯」、「敗者」両名?のときと違ってすんなりと倒せてしまったことになんか違和感いっぱい。
でも倒したあとの草原とBGMはPSOをプレイしていた人たちから言わせてみると「せこい」らしいです。アインス隊長も泣いてしまったそうな。

さて、次回の投稿ですが、仕事の関係で遅れる可能性があります。
そのときはご了承ください。(10/30現在半分ほど書き終えてますが残りが間に合うかどうか・・・)


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第30話 「ラフィンコフィン【笑う棺桶】」

ラフコフのアジトをみつけたオキはハヤマ達に援軍を要請し、その到着を待っていた。


中層、荒野フィールドの岩場エリア。真夜中で満月が地面を照らす。

「…来たか。」

岩の影で身を隠していたが、後ろから多数の反応があった。前方には今のところは反応が無い事を確認し、後方の味方を自分の場所へと招いた。

「よお。早かったな。」

「とりあえず一言。ざっけんな。」

「あ? ごぉっは!」

思い切りハヤマに殴られた。

「あーすっきりした。次やったら承知しないよ。バカリーダー。」

「いってーな! 何しやがる!」

立ち上がり、ハヤマの胸ぐらをつかんだ。

「一人で先行した罰だよ。みんな心配したんだからね。」

「だから伝言頼んだじゃねーか。」

涼しい顔していながら睨み付けてくるハヤマ。だが、その内面は完全に怒りでいっぱいのようだ。

「まぁまぁ。二人とも落ち着いて。オキ君。いつも君が言っている言葉をそのまま返すよ。『自分の仲間を信じなくてどうする?』」

アインスが間に入り込む。

「わかってるよ。わかってっけどなぁ。」

「オキの悪い癖なのだー。」

「いつも言ってたよね? 何かあったら仲間に相談するのが先だって。」

先行したことは悪かったが、それでも殴る事はねーだろ。HPがわずかに減っている様な気がした。

「まぁこれでチャラだよ。さて、状況は?」

「すまんかったよ。あいつらは中にいると思う。結晶で逃げてなければ、だが。」

ずっとここを見張っていたが、今の所出てきた気配はない。こちらの状況を察知されているとも思えない。

「なるほどな。で? 捕まえるのか。殺すのか。」

アインスが刀を確認しながら聞いてくる。

「相手が本気で殺しに来たならばヤれ。こちらとてまだやる事があるからな。ご退場はごめんだ。相手もそうだ。殺される覚悟がないなら、教えてやれ。覚悟のない奴がどうなるか。」

「りょーかい。」

「だが、捕まえれる奴は捕まえていいんだろ?」

ディアベルが聞いてくる。

「そうだな。できることはならば、生かしたまま罪を償わせるのが一番だ。ただし、捕まえるときは注意しろよ? 押し倒しが2、周囲援護で2。必ず多人数で対応しろ。」

「了解した。わかったな? みんな。」

「「「おう。」」」

オラクル騎士団を始め、各ギルドから主力級の有志が集まっていた。

「オールドのとっつぁんとセンターまで。」

「若い者だけに、やらせるわけにはいかない。」

「タケヤ達も行きたがってたけど、邪魔になる事を懸念して俺たちが託されてきた。『ここのプレイヤー達を守ってくれ』だってさ。」

二人の口がニヤリと歪んでいる。だが、目は笑っていない。自分がやられるかもしれない。だが、ここでやらなければ被害は増える一方だ。二人はそう思ってここに来た。

「総勢25名。連合外からも有志で来てくれた者達だ。実力は主力メンバークラス。こちらから攻撃する為、グリーンカーソル持ちもいる可能性がある。念のためにカルマ復活クエストも後方で準備させておいた。オキ君。指揮を頼む。」

「わかった。」

ディアベルに指揮権を渡され、その場にいる全員を見渡す。

「いつもの連合諸君。連合外からの有志で集まった方々。初めに言っておく。死にたくない奴、殺したくない奴は帰れ。」

その第一声で周囲が若干ざわつく。

「いいか? 相手は本気で殺しにくる。それはディアベル達から嫌と言うほど聞いてるはずだ。だからここが最後のチャンスだ。守りたい仲間、大事な人。SAOの外にもいる奴はいると思う。だからこそここで守りたい。何とかしたいと正義の心をもってきてくれたんだと思う。だが、ここで死んではそれすらできない。だから相手を殺し、殺される覚悟のない奴は帰れ。」

シンと静まる。だれもその場を動こうとはしない。見渡す限り全員が覚悟している顔つきだ。

「…わかった。幹部は任せろ。イレギュラーズが責任を持ってつぶしにかかってやる。ハヤマ、アインス。」

「ん。」

「む?」

「袋のようなものをかぶった奴を見つけろ。ミケ、コマチ。どくろの仮面のようなものを付けた真っ赤な奴を見つけろ。いいか…可能な限り殺すな。捕まえろ。だが、こちらが殺されそうなら…殺せ。プーは俺がやる。」

「了解なのだ。」

「あいよ。」

「他のメンバーは残りの雑魚どもをつぶせ。徹底的にだ。ここでこいつらを止めるぞ。中の人数はかなりいるようだが、お前らは強い。必ず生きて帰るぞ。」

「「「おおお!」」」

SAO稼働時、最も死人の出た事件『ラフィンコフィン討伐』が今ここに幕を開ける。

***

 

洞窟は岩と岩の間にあり近距離まで近づかなければ全く気付かない入口だった。

中は普通の洞窟だが、エネミーが存在しない。

「なるほど。作ったはいいけど、使わずに岩で鬱いだがその隙間があったという事か。」

キリトが説明をしてくれた。なるほど。それならエネミーがいないはずだ。その上。

「隠れ家にはもってこいだな。さて、そろそろかな。」

洞窟内の広い場所にでた。

「相手もこちらに気づいている可能性が高い。ディアベル半分ほど入口付近に待機させて退路を確保しろ。逃げるラフコフをそこで捕らえるんだ。それと援軍も来る可能性がある。入口を鬱げ。」

「了解した。気を付けろよ。おい、いくぞ。」

後ろ半分のプレイヤー達を率いて下がっていく。

「キリトは残り半分のプレイヤーを率いて後方の洞窟内で待機。散開しておけ。もちろん3人一組で。ここは俺たちに任せろ。」

「いいのか? オキさん達だけで。」

「安心しろ。誰一人、逃がすつもりはない。 それに挟み撃ち対策にもなる。」

「了解した。」

キリト達も後方に下がっていく。その場に残ったのはアークス5人だけだった。

「まぁうまく後ろに分けたね。」

「後ろから援軍なんて呼ばれたらたまったもんじゃない。ここで一気につぶす。」

「それができるかなぁ!?」

洞窟の上から聞こえてくる聞きなれた声。

「ジョニー…ブラック。」

「お前たち、ここから、逃がさない。」

上にも通路があったのか何人ものオレンジカーソルのプレイヤーが降りてくる。

「おーお。いるね。いっぱい。」

「うんじゃぁ、一応念のため。死にたくない奴は投降しろ。ここは包囲されている。逃げ場はないぞ。こちらを殺しに来るのは勝手だが、殺されることも考えろよ? 俺たちは…本気で迎撃する。」

アークス全員が武器を構える。

「…くくく、ははははは!」

「ひゃははは!」

「ぎゃははは!」

ジョニーの笑い声と共に周囲のプレイヤー達も笑い出す。

「はぁ…仕方ない。コマチ、あのセリフ。ここでなら言えるんじゃない? 心の準備はOKの奴。」

「あ? ああ、あれか。じゃあお言葉に甘えて。おい貴様ら…小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 壁の隅でガタガタ震えながら命乞いする心の準備は、OK?」

コマチに進められた化け物と人間の戦いの物語の一セリフ。気に入っているセリフの一つだ。ここで使えるなんてね。

相手を煽るにはちょうどいいだろう。

「やろぉ…やっちまえ!」

ジョニーの掛け声で一斉にとびかかってくるオレンジプレイヤー達。

ギィィン!

キィン!

それに合わせて5人が一斉にとびかかってきたプレイヤー達に向かって迎撃する。

「ふむ…。狙いは首、心臓、頭。本当に殺す気だね。」

「手足を狙ってくるなら少しは手加減できるかと思ったけど…。」

「やるしかないねぇ。そぉら!」

的確に急所を狙ってきたオレンジプレイヤー達。それを確認してからこちらも反撃に入る。

「っが!?」

「ぐぁ!?」

アインス、ハヤマ、そして俺の武器が初めてオレンジプレイヤーの体を切り裂いた。

1人は首を、1人は頭を。それに続き、コマチ、ミケも反撃に移る。

「き、貴様らぁ!」

距離を置き、ラフコフのメンバーたちは睨み付けてくる。

「こちらが殺さないとおもったか?」

「残念なのだな。ミケはまだ死ぬわけにはいかないのだ。」

あちこちで乱戦状態になりながら、同時に結晶となって消えていくオレンジプレイヤー達。

それを見てからか少しは襲ってくる勢いが小さくなった。

「こ、こいつら…なんなんだよ!」

「なんで、平気な顔して殺せるんだ!」

何人かがこちらに叫んでくる。

「何言ってやがる。そちらから殺しに掛かってきたんだろ? だったら殺される覚悟は…あるよな? ないとは言わせないよ?」

「う、うおぉぉぉ!」

真正面から一人の男が大斧を振り下ろしてくる。それを横に避けた先に、別の男が槍で突こうとしてくる。

「あまい!」

体を低くし、足払いをかけて転ばせた。

「は、はやい!?」

「残念でした!」

「ぐぁあ!」

両膝を思いっきり切ってやった。暫くは立てないだろう。ちらりと周囲を見る。何人かは俺たちの猛攻を見て恐れをなしたのか後方の洞窟へ逃げていく。多分キリト達に捕まるだろう。それにあの人数なら数で押えられる。大丈夫だ。

周りのアークス達も全力で迎撃している。HPが減っている気配はない。

「おいおい。まだやる気か? もう降参したらどうだ?」

周囲のオレンジプレイヤーたちからの猛攻が無くなった。距離を取り、こちらに攻撃をしてくる隙をうかがっているが、どうしても踏み込めないらしい。そりゃそうだ。もう何人ものオレンジプレイヤが結晶となって『死んでいるのだから』。

「く、くっそー!」

ジョニーと、もう一人の幹部『赤目のザザ』が同時に広場へと降りてきた。

「死ねぇ!」

「ころす。」

ギィン!

キィン!

二人の武器はこちらに向かって攻撃されたが、その前に二人のアークスによって阻まれる。

「わるいね。君の相手はこちらだ。」

「コマチ君、そっちは任せた。オキ君! ここのリーダーを。ふざけたバカをぶちのめしてやれ。」

コクリとアインス、コマチに頷くと更に奥へと走る。この奥にいるはずだ。

 

***

 

 

「Wow。まさかあの人数を突破してくるとはね。」

広場の奥には更に広場があった。先ほどの場所よりか狭い。その奥にある岩の上に一人の男が座っていた。

「よ。また会ったな。ようやく見つけたぜ。えーっとたしかこういう時は…王手? チェック…なんだっけ。知ってる?」

「チェックメイトだ。HAHAHA。よくも仲間たちを殺してくれたな。貴様も同類だぜ?」

立ち上がり歪んだ口元を見せるPoh。

「何言ってやがる化け物。俺たちは怪物であっても、化け物じゃない。さて、最後の言葉だ。投降しろ。貴様らのやってきた事は償ってもらうぞ。これが最後だ。いきてりゃ何とかなるだろ。まだ間に合うぞ。命は助けてやる。」

全力で睨み付ける。ゲームを楽しむ一人としてではなく、化け物と対峙する一人として。

「ホウ…。こんな俺でも命は助けてくれると? 仲間を大勢殺しといて?」

「後ろのあいつらの事か? 馬鹿な奴らだ。殺す側は殺される覚悟がなきゃいけない。俺たちはいつもそうだ。いつ殺されるか分からない世界で生きてきた。だから常に覚悟している。いつ死んでもいいように。それが出来ないなら殺しなんかするんじゃねーよ。だから…。」

「だから殺した、か。ククク、助けたるだの殺すだの。おかしなやつだな。」

「何言ってやがる。俺たちは本能のままに生きているだけだ。貴様らみたいに喜びで同類を殺す馬鹿どもと一緒にしないでほしいね。まぁ強者との戦いは好きだがね。もちろん死ぬ覚悟も必要だけど。さって、どうする? やるか。投降するか。」

槍をPohに向ける。Pohは暫く考えた後、手を挙げた。

「やめだ。ここで死んでたんじゃ、楽しみもなくなる。貴様とやってもいいが…十中八九やられちまうだろう。それじゃ面白くない。俺はまだまだ楽しみたいんだ。」

「…そうかい。」

予想外の答えが返ってきたから少し驚いた。自分の楽しみのためにこちらを襲ってくると思ったが。

「ついてきてもらおうか。この戦いを止めなきゃいかん。」

そう告げて後ろの広場に戻ろうと振り向いた時だ。

グサッ…

「な…に!?」

「ククク…HAHAHA! あめぇ、甘すぎるぜおめぇはよぉ!」

Pohの獲物が左腕を切り落とした。握っていた槍も地面に落ちる。しまった。

「せいや!」

回し蹴りでPhoを蹴り飛ばそうとするが離れてしまう。

『やばい…。油断したか。HPは半分以上あるが、このままじゃ出血で削れていく一方だな。アイテムを…。』

再度こちらに飛び掛ってくPohから離れつつ、片腕でアイテム欄を開き止血結晶を取り出す。

「つかわせねぇよぉ!」

はやい。以前よりも早くなっている。こちらがアイテムを使う余裕がない。ちらりとHPバーを見ると半分を切り、黄色表示になっている。

「おらおらどーした! もっと楽しませろよ。 もっといい顔見せろよぉ! イッツ・ショウタ~イム!」

巨大な包丁型のダガーを細かく振ってくる。流石リーダーをするだけはあるか。動きに隙がなく戦い慣れている。ただ者じゃない事はわかっていたが。

「だが、これくらいでへたばるわけにはいかないんでね。」

洞窟の奥の壁に向かって走り出す俺をPohは追い駆ける。

「Hey! そっちは行き止まりだぜ! 逃げようったってそうはいかねーぞ!?」

「バカ。逃げるんじゃない。 こうすんだよ。」

走った勢いのまま壁に足をかけ、地面と水平になる。

「なに!?」

そのままであれば地面に落ちてしまうが、俺は壁をケリ、その勢いで追い駆けて来たPohの頭を掴み、地面に叩きつけた。

ゴス!

「がっは!?」

唐突な行動で対応できなかったPohは地面に叩きつけられた反動で動けなくなっている。

「今のうちにっと。」

結晶、そしてポーションを一気に使う。

「ちぃ!」

Pohが再び立ち上がりこちらを見た時にはすでにこちらはHPの減少は停止し、8割くらいに回復した。腕はまだ治らないが。

「どんな状況でも打破し生き残る。それがアークスだ。いままでこうやって生きてきた。さっきは油断しちまった。だが、次はそうはいかねーぜ。」

Phoを睨み付ける。迷いがあったんだろう。だがもう迷わない。

「何故だ。何故おまえはこの状況で余裕ある顔ができる。普通ならおびえるとかするだろ!」

はぁとため息をついた。そんなこと、でいいのかなぁ。この世界に長い事いるせいか、自分でも『普通』ってのがなんなのか分からなくなってきた。だがこれだけは言える。

「何故かって? 悪党なんかに負ける気がしないからさ。腕が一本無くなろうが、まだ戦える。流石に両腕両足無くなったら無理だろうけっど!」

地面に落ちている槍の先を踏みつけ、空中に飛ばし、残っている右腕で握る。

「狂ってるぜ…。ならばラウンド2と行こうか。ヒーロー?」

「ヒーローじゃない。アークスだ。」

片腕が無くなってしまっているが、負ける理由はどこにもない。こちらが自信満々な顔をしていて、相手は笑ってはいるが、焦りを隠しきれていない。反撃といきますかね。




皆様、ごきげんよう
プロローグ除いて30話目となりました。とうとうアークスとラフィンコフィンがぶつかります。まぁアークスなら大丈夫でしょ。たぶん。

さて、PSO2の新しい防衛戦の情報も生放送できましたね。
なんですかあれは!? いくらなんでも敵多すぎ・・・。
実装開始からしばらくは固定安定かなぁ。


では次回にまたお会いしましょう。

(全話見直したらあちこちに誤字脱字がgggg。できるだけ時間見つけて直します)


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第31話 「スリーピンコフィン【眠る棺桶】」

ラフコフとの最後の決着に挑むアークス達とプレイヤー達。
油断した隙に腕を切り落とされたオキはそれでもPohに立ち向かう。


キィン! 

ガィン!

「大人しくしろ!」

「くそぉ…!」

洞窟内からドカドカと走ってくる音と剣を打ち合う音が混ざり合い聞こえてくる。そしてここもそうだ。

ディアベル達は入口を監視し、外から来るものがいないかを監視しつつ、内側から出てくるラフコフメンバーを取り押さえていた。

「これで何人だ?」

「4人です。」

「今確認が取れました。キリトさんの所で6人程取り押さえたそうです。」

中から来たキリトの班の一人が情報をくれた。まだ出てくるか。これで10人は抑えたが、アルゴの情報ではまだいたはず。となるとイレギュラーズの所にまだいる可能性があるが。

「イレギュラーズの面々は大丈夫でしょうか。」

今回参加してくれたメンバーの一人が心配そうにこちらを見てくる。

「大丈夫だ。イレギュラーズの…あの人達ならどんな化け物であっても対処するだろう。今はこちらの状況に専念しよう。彼らを信じるんだ…。」

「了解です。」

その場にいた皆が頷く。ディアベルは『大丈夫。あの人達なら大丈夫。』と何度も自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

「キリトさんこちらに反応はありません。」

「こちらもOKです。付近にいるラフコフは取り押さえました。」

「キリトさん! ディアベルさんの所に報告してきました! 向こうに逃げた4人、全員取り押さえたそうです!」

「わかった。」

今の所死者はいない。だが、この奥では…。

「少ないですね。こちらにくるラフコフの奴ら。」

「ああ。オキ君達が押えているとは思うが…。」

センターとオールドが周囲を警戒しながらつぶやく。そうオキさん達の所にまだいるはずなのだ。外にいった4人とここにいる6人。10人しかいない。キリトは奥の空洞部で起きている惨状を予想した。

「目が怖いぞ。キリト君。」

「オールドさん。」

「大丈夫だ。彼らなら、大丈夫だとも。安心したまえ。今は我々に託されたことに集中しよう。」

オールドも、センターも奥を睨み付ける。先ほどまで聞こえていた奥での音が聞こえなくなっている。

どうなったのだろう。見に行きたい。だが、見に行ってどうするというのだ。力になれるのか。邪魔になるだけではないか。そればかりをキリトは思っていた。

「ぐぅう…。」

「ふう。やっと大人しくなったか。」

グルグル巻きに縄で縛られるジョニー・ブラックとザザが床に転がりミケとコマチが上に座って押えている。

周囲にはアークスのメンバー以外というと、命乞いした数名を除けば『襲ってきたラフコフは誰一人としていなかった』

「貴様ら…よく…平気な顔して…殺せるな。」

「何言ってるの。こちらが殺されそうになってるのに、黙って殺されると思ってるの? やらなきゃやられる。そんな世界で生きてきた俺たちが同じ状況になって、律儀に捕まってくださいと頭を下げると思ってるのか?」

ハヤマが睨み付ける。

「その通りだ。君たちとは生きてきた場所が違う。越えてきた屍の、修羅場の、惨状の数が違うのだよ。自称殺し屋君?」

アインスも紙袋越しに見える目を間近で睨み付ける。誰が見てもその眼は普通の眼とは違う。

「いいかい? 君たちは人を殺した。それも喜び、楽しみ、快楽として。だがな、我々はそんな事すら思われずに化け物どもに殺されてきた。食われ、貪られ、浸食され…。何人もの仲間たちがその場で倒れようとも、嘆く時間すら許されない。そんな世界で戦ってきた。わかるか? そして今。我々は殺されようとしていた。『何故平気な顔して殺せるか?』。当たり前だ。君たちは我々を殺しにかかった。だから殺されまいと殺した。ただそれだけだ。オキ君の、彼のオーダーでなければ…。君たちはここに寝転がる事すらできなかっただろう。彼に感謝するんだな。生きておけることを。こちらとしては倒してしまっても構わなかったのだがね。生け捕りにするのは難しい物だ。」

『なんなんだよ…? こいつらは。普通の奴らと違う! 今まで殺してきた…その辺のプレイヤーと全然違う! 相手を殺し、殺される世界が常識の…そんな奴らなんだ。ハ…ハハ。そりゃ、かなうわけねぇな。』

ジョニーもザザも悟る。自分たちがどれだけ甘かったのかと。ただ、ある者を痛めつけ、殺し、それを快楽に思っていた。自分が上なのだと。だがそれはあくまで自己満足にすぎなかったことを悟る。

この者達は、どんな相手と戦ってきたのか。想像もつかない。自分達人間、同じ人相手ではない『何か』と戦い、虫のように潰されようが、引き裂かれようが、どのような状況下でも殺されまいと戦ってきたのだという。そんな相手を敵に回したのだ。かなうはずがない。目の前にいる男の眼は自分達を人間と見ていない。まるで『今まで倒してきた化け物に向ける眼』をしているかのような、そのように見ているように感じた。自分達とは『格が違う』。ジョニー、そしてザザは生まれて初めて死を覚悟する恐怖を感じ、大人しくなった。

「HAHAHA、そらそら!」

「遅い!」

更に奥の空洞部。そこで火花を散らし、刃同士を激しくぶつけ合っている2人。

『すでに2本武器をへし折られた。まずいな。後こいつがやられるとあの槍しかない。もう一本あるがあれはまだ使えないし…。』

自分が予想していた消耗が思った以上に激しい。持ってきていた武器の殆どが壊されてしまった。原因はPohから放たれる攻撃。彼の持つ『友切包丁(メイトチョッパー)』から繰り出される攻撃はダガーとは似つかわしくない重さがある。特殊な能力か。それともそういう武器なのか。どちらにせよ、それを安い、耐久値のない武器で置け止めればすぐに耐久値をすっからかんにされてしまう。もう一本ある武器があるがそれは最後に使いたい。

この男を殺すのは簡単だ。だが、この男を殺してしまえば何かが起きそうな、そんな予感がする。自分の中にある直感がそう伝えてくる。

殺さないように、いや殺すか。二つの感情がオキの中を渦巻いていた。

「おらおらどーした? さっきまでの勢いがねーぜぇ?」

素早いステップでこちらへの距離を詰めては左右上下から包丁を振ってくる。

「なんの! まだまだよ!」

今使っている大剣はメインで使用している槍、『蜈蚣丸』と同格の武器だ。そう簡単には壊れない。

だから隙をうかがっていた。なんとかしてこの男を取り押さえるタイミングを。

ダガーと大剣ではスピードに差がありすぎるが、アークスでの経験がそれを0にする。

「そおりゃ!」

それにいくらダガーのスピードが速いから、あの包丁の攻撃が重いからといって、パワーならこちらの方が上だ。

こちらが攻撃するたびにあたらないよう逃げるPoh。受け止めはできないもんな。こんな重い武器。

「ちぃ!」

ドカ!

大剣の刃が、地面をたたきつける。そのまま地面を擦りつけながら上へと振り上げた。

「な!?」

Pohはその行動を予想できず、地面から巻き上げられた砂をもろに受けた。

「Shit…!」

顔面に大量の砂を叩きつけられ、目が開かないPohに対し、大剣の刃の面を思い切りたたきつける。

「スタンコンサイド!」

下から振り上げ、刃を叩きつけ相手をスタンさせる、ソードのPA。Pohは吹き飛ばされ、地面をころがった。

「チャンス!」

武器を瞬時に変え、この時の為に取っておいた槍の一本を取り出す。名を『さす又』。

先端の刃の部分は棒状になって先だけが尖っている。刃の付け根から二股に別れ弧を描いており、まるで何かを捕らえる為にできた武器だ。

ドス!

「What!?」

地面に突き刺さったさす又はPohの胴体をがっちりと固めた。すかさずそこにロープをグルグル巻きにまく。形なんかどうでもいい。とにかくさす又と一緒に巻いた。

「ふう。やっと捕まえた。」

槍と体が垂直になっており、Tの字に固められたPohは身動きが出来ず、両腕もロープで固められた上に適当な形にまかれた為、変な方向に曲がってからめ捕られている。

「ちぃ、しくじったか。…面白い武器をもってるじゃねぇか。」

「あんたみたいな分からず屋を捕まえるにはちょうどいいだろ? ふぅ。タバコがうまい。」

ようやく一息ついた。これでまたみんなで攻略ができるだろう。今回は流石に疲れたぜ。

吸い込んだタバコの煙を空中に吐出す。

「…一服いるか?」

「…いただこう。」

持っていたタバコをPohの口にくわえさせ、火をつけてやる。

「最後のタバコか。俺たちがクリアするまで吸えなくなる。味わうんだな。」

「そうしよう。」

それ以上は何も言ってこなかった。吸い終わったタバコは勝手に結晶化し、消えていく。

「オキさーん!」

「おーう。こっちはおわったぞー。」

ハヤマがこちらに向かってくる。どうやら向こうも終わったらしい。無茶な願いをしてしまったが、何とかなったと見える。

「こいつが?」

「ああ、初対面だったな。紹介しよう。今回の親玉、ラフコフのPohさんだ。」

俺が紹介するとニヤリと笑い、ハヤマをみるPoh。

「…切っていい?」

それを見て嫌悪感を感じたのか刀を取り出そうとするハヤマを止める。

「だめ。こいつを殺す事は簡単だけど、なにか嫌な予感がする。ここでは『まだ殺さない』。」

「HAHAHA…。その言いよう。いつか俺を殺すと聞こえるが?」

「いつかな。」

そういって俺はさす又の柄を握り、ずるずるとPohを引きずりながら皆の集まる場所へと向かった。

「いて…Hey! 引きずるなよ。」

しるかボケ。

***

大人しくなったPoh含めラフコフメンバーはディアベルと共に1層の牢獄の一番奥に入れられた。アインクラッドが完全に攻略されるまで、2度と出てくることは無いだろう。だが、最後の余裕が気になるのと、何故あいつを殺さなかったのか。それが分からない。今のところは大丈夫だと思うが、何かが起きそうな気がする。それを知るのはまだ先だという事を俺は知る由もなかった。

「帰ろう。」

「そうだな。」

ハヤマと頷き合う。帰ろう。俺たちの仲間の元へ。

「おかえりなさい! オキさん!」

熱い抱擁で出迎えてくれたのはシリカだった。長い間一人にしてしまった。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「オキさん!ハヤマさん!」

「「ミケーーーー!」」

ギルド拠点に戻ると、メンバーたちが待っていてくれた。双子なんかはすぐさまミケに抱き着いている。どうやらラフコフとの戦いの話が皆に伝わっていたらしい。

「お疲れ様です。オキさん。終わったんですよね!?」

タケヤが代表で聞いてくる。皆が俺をみてその答えを欲しがっているようだ。

「ああ。ラフコフは壊滅した。詳しい話は明日でいいか? すまない。ちょっと、やばい。」

「オキさん疲れてるみたいだし、後にしよ? ね?」

サクラが気遣ってくれた。すまん。今はそれどころじゃない。『抑えきれない。』

自分の部屋に戻るなり、俺はシリカを抱きしめた。

「きゃ! オオオ…オキ…さん?」

「すまない…。ほんとにすまない。一人にしてしまった。」

「オキさん…。」

暫くシリカに頭を撫でられ、抱きしめられていた。とにかく、シリカを感じたかった。

「暫く一人になって分かった。ここにきて、シリカと出会って、どれだけシリカが俺の中で大きな存在か。」

「私もです。オキさんが行かれてから、一人になって。みなさんが一緒に居てくれましたが、それでもさみしくて…。」

お互い、いなければならない存在となっていた。

毎日メールで連絡を取り合っていた。それでも足りない。手紙ももらった。中身は俺とここに行ってみたいって話や、こんなクエストがあるからやってみたいとかばかりだった。

だから余計に、ほしくなる。

「シリカ。俺が1人で出る前に、送ったメール。覚えてる?」

「はい。」

顔を真っ赤にしている。

「メール、どう思った?」

「わ、私は…。えっと…その…。うれしかったです。だから…。その、お受けいたします…。」

「そうか。一応言葉で言わせてほしい。」

1人でラフコフとやりあう前、シリカに送ったメール。その中身は今回の件が終わった後にある事をシリカにお願いしたのだ。いや、お願いというのか? 違う。ある事を、しようという決意だ。

「シリカ。こうして出会って、一緒に過ごして、君という存在の大きさを感じた。もうシリカ無しは考えられない。だけど俺はアークス。君たちの星の住民じゃない。それでも君は俺と一緒に居てくれるかい?」

「…はい。こんな私でよければ。不束者ですが、よろしくお願いします。」

それを聞いて俺は大きく息を吸って吐いた。生まれて初めて一人の女性を好きになった。愛したい。愛されたい。戦いばかりの生き方とは違う、なにかを見つけた。こうして気持ちを伝えるのは、仲間だ、家族だというのとは違うな。

「シリカ。」

「はい。」

シリカの眼には大きな涙が浮かんでいる。顔を真っ赤にしながら笑顔で、泣いている。

「ずっと。ずっと一緒に居よう。必ず君を守る。必ず君がさみしくないようにする。」

「…はい! よろしくお願いします! ずっと一緒ですよ。」

シリカはその言葉と抱き着いてきた。ピナも一緒に俺の肩へと舞い降りる。暫くそのままでいたかったのだが…。

「ちょっと…押すなって。」

「きゃあ! 変なとこさわらないでよ!」

「俺だってうごけねぇんだって!」

ドアの向こうが騒がしいから思い切り開けてやった。

「「「きゃあああ!(うああぁぁぁ!)」」」

何人もの人間がドミノ倒しで倒れてきた。

「お前ら…。」

「あ、あははは。ドモ、オキさん。」

ハヤマ、にコマチを始め、ギルドのメンバーが俺の家の前に集まっていた。倒れてきたのはタケヤ、レン、サクラ等ドアに耳を当てていた連中。

ちなみにミケはこの時すでに逃げていたらしい。勘のいいやつだが思い切りひっぱたいてやった。

「覗きとはいい御身分じゃねぇか。あぁ!?」

「やば、逃げろ!」

「ちょ、ずるい!」

「て~め~ぇら~!」

逃げようとあたふたするメンバーを鬼のような形相で追い駆けるオキの姿が、それを見て笑顔で笑っているシリカの姿が見られたというその夜。ラフィンコフィン、『笑う棺桶』が二度と目覚めぬ眠りについたことをアインクラッド中で祝った夜でもあった。




みなさまごきげんよう。長かったラフコフ戦終了です。
次回からは75層へ向けての日常パートとなります。
ようやくシリカとも夫婦となったオキとシリカのイチャラブも増えますので
コーヒーを用意しておいたほうがいいでしょう。(甘甘です)
では次回にまたお会いしましょう。


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第32話 「白いドレス」

ラフィンコフィンを解散させ、ようやく攻略に集中できるようになったオキは幸せな日々を送っていた。


60層を攻略している時にはSAO開始から、1年と半年近くが経っていた。

この時点で連合「アーク’s」がトップギルドとして独壇場となっており、ラフコフもいなくなった今、犠牲者も無茶な行動で死ぬという事以外ではほとんどなくなっていた。

若干の犯罪行為はあるモノの、『アインクラッド解放軍』による警備隊設立が抑制力となり、目立つ犯罪もなくなっている。しいて言うならストーカーや盗撮、覗きなど微々たるものばかり。(被害者からすればそうも言ってられないのでこちらも全力で阻止している)

そして現在。61層を攻略しているさなか、アインクラッド内でトップクラスに躍り出るだろうと思われる幸せそうなカップルがいた。

「温かいですねー。」

「だなー。」

「きゅる~♪」

心地よいそよ風にあたりながら小さな丘の上の草原で少女の膝枕で寝転がっている一人のアークス、オキ。そして愛する妻となった、シリカ。その使い魔であるピナも幸せそうに喉を鳴らす。

夫婦になりました。

「「「結婚した~!?」」」

42層、オラクル騎士団ギルド拠点の大会議室に大きな声が響いた。

「うっせぇなぁ。いいだろ! なんか文句あっか?」

その声全てを受けた俺は全員に睨み付ける。

「いや、ない。ないぞ?」

ディアベルが手を上げながら否定する。SAOには結婚システムというモノがある。男女ペアでなるこのシステムはPTを組んでいなくとも相手のステータス等の詳細が共有でき、新たにアイテム欄が追加され、そこに入れたアイテムは二人で共有でき、いつでもどこでも出し入れが可能となる。

俺はSAOでシリカと出会い、1年以上常に一緒に居た。彼女と笑い、彼女と泣き、彼女と共に戦ってきた。

42層到達時に彼女と想いを伝え合い、そしてその想いは強くなる一方だった。

ラフコフとの戦いの前、シリカにはメールである事を伝えていた。

それは彼女と初めて出会った時に間違えて申請しそうになった結婚の申請。ラフコフとの一件が終わった後に本当に申請させてほしい、と。

彼女はそれを快く受けてくれた。そして結果、夫婦となったことを皆に伝えた。

「おめでとうでいいのか? オキ君。」

「で? 式はいつあげるんです?」

「お祝いの料理を作るのだ! はやまー!」

「うっせ! 食うだけだろおまえは!」

アインス、コマチ、ミケ、ハヤマの順でアークス勢はいつものように騒いでいる。うるさい奴らだ。

「隊長、ありがとう。まぁ実感わかないんだけど。コマッチー、式かーどうしょっかなー。ミケっち、料理はその時に食え。ハヤマん料理よろしく。あと、その時は一緒にシャルとハヤマんの結婚式も上げよう。そうしよう。」

「結局俺かよ! ってかなんでそうなるんだよ!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐアークス勢。なんだかんだでプレイヤー側も祝いの言葉を贈ってくれた。中には態々祝う為に訪れてくれたたくさんのプレイヤー達もいた。

「なんかいっぱい貰ったんだけど。」

少量だったとはいえ、祝いのコルも受け取ってしまった。かなりの人数からもらった為に合計としてかなりの額になった。

「ど、どうしましょうこれ…。」

「きゅる?」

シリカもピナも首をかしげている。とはいえ、皆が祝ってくれたのだ。何かに使わなければもったいない。とはいえ、何に使うか。ふーむ。よし。

「ちょっと出かけてくる。すぐ戻るよ。」

「はい。ん…。」

なにかじっと俺を見つめてくる。ああ、そういう事ね。

「あーもうかわいいなぁ。」

「あわわわ! …いってらっしゃい。」

ぎゅっと抱きしめ、彼女を感じ取る。うん。充電できた。

「ってわけで、この予算でドレスを頼む。」

「ほう…。おにーさんもなかなかやるねぇ。了解した。承るよ。」

片目が隠れたショートボブで小柄の少女が袋に入った大量のコルを確認する。

1層の始まりの街にある一つの店。そこに現在最も裁縫スキルを極めていると言われるプレイヤー、ヒロカを訪ねていた。以前、アルゴの紹介で彼女には俺たちのギルドの紋章を入れたマントを作成して貰う為に依頼したことがある。ただ、彼女はS級の素材のみ扱い、依頼額もかなりのものとなる。だが、攻略組トップの俺達なら特に関係はない。アスナを初めとする女性陣の防具も彼女が作っている。彼女のセンスは抜群だ。間違いはないだろう。

「これだけの金額があれば相当おつりが出る位だねぇ。さて、どうする? イメージはあるかい? ドレスといったが、どのようにする。」

イメージしていたのは、アークスシップでウェディングイベントの時に人気を誇ったドレス。あれならいい感じになるはずだ。

「そうだなぁ。色は純白、フリルたくさん。ひらっひらで。ただ、小柄だから肌の露出は抑え目で。肩位ならいいだろう。」

「なるほど。完全にウェディングドレス様式か。いいだろう。素材もこれだけのコルがあれば足りるだろう。アクセサリーとかつけるのか?」

アクセサリーか。そういえば、あれがあったな。彼女からもらったあれが。

「ペンダントと指輪。ペンダントは色が青の小さな宝石がついてる。指輪は白。これだな。」

指に付けている指輪を見せる。ふんふんと言いながらそれを見て、羊皮紙にさらさらっとイラストを描き始めた。

「ここをこうして、こっちはこうかな。シリカちゃんの体格ならこうして…。」

すでに仕事に入っている。後いるモノはあるのだろうか。

「他には何かいるか?」

「…そうだな。一応素材の調達を依頼するかもしれないからその時はよろしく頼む。サイズに関しては以前計らせてもらったものがあるし…。うん。大丈夫だ。」

「感謝する。よろしく頼むよ。」

「いいって事だ。こういう戦いに使わない服を作るのはいつもより何倍も楽しいからね。」

にやりと笑うヒロカ。相変わらず職人の顔してやがる。

「そうだ。おにーさんのはいらないのかい?」

「おれ?」

何も考えていなかった。

「おいおい。やるからには一緒の方がいいだろう。そうだな。これだけコルがあるんだ。おにーさんの分も足りるだろう。一緒に作っておくよ。」

「んー…。あ。」

ちょっと面白い事考えた。

「これ、3着できる?」

「3!? いや、できるとは思うが。どうするつもりだ?」

ヒロカに思いついた事を話すとニヤリと笑いノッテきた。これは楽しみだ。

「ってわけで、依頼してきた。」

「え? ええ!?」

夜、祝いのお金を使用したことと、その目的を話したらものすごく驚かれた。

「いやだった?」

「あ、いえ。その、とてもうれしいです。オキさんの事だから何か企んだんだろうなって思いましたけど、まさかそのために…。」

顔を真っ赤にしている。やばい。夫婦になってから余計に意識してシリカが可愛すぎてヤバイ。

「あーもう。なんでこんなに可愛いんだよ。」

「…キュー。」

ソファーの上で後ろから抱きしめると小さくなって真っ赤になっている。すっげぇ幸せだわ。彼女はどうだろうか。

すこし不安になる。自分だけが幸せになってないだろうかと。そう思って顔を覗きこんだが…あ、すっごく幸せそうな笑顔だわ。

2日程経ってから、彼女から連絡が入った。どうもいくつか素材が足りないらしい。あまり市場に出回らない素材らしい。こういう時はあいつを頼るのが一番だ。

「え? 素材アイテム?」

「そそ。こいつらなんだけどさ。」

ヒロカからもらったメールの表をコマチに見せる。こいつなら大量のアイテムを保持している可能性が高い。

「今まで集めたアイテムならギルド倉庫に全部ぶちこんでるよ。個人倉庫だけじゃ足りないから。」

まじか。相変わらずである。確認しにいってみるか。

コマチと一緒にギルドの倉庫へ。あれ、ここってこんなに狭かったっけ? この間見たときはもっと広かったような。

「ああ、倉庫用の箱を増やした。入りきらなくなったから。」

「おいおい。まだ上層があるんだぞ? いらねーやつはうっぱらえって言ったじゃん。」

「いやー忘れててさ。ちなみに売っても減らないのが事実。」

まじかい。拾いすぎなんだよあんたは! 

「で、必要な素材なんだがあるか?」

「えーっと? これと、これと…これ。それにこっちと…これもか。オキさん、これなにに使うの?」

「まだ内緒。」

まじで全部そろったよ。倉庫、偶に管理しないとだめだなこりゃ。

アイテムを回収したと同時にエギルに頼んで大量の素材や武具などのアイテムというアイテムを市場に出してもらう事にした。その時にアインクラッドの市場相場が一瞬で狂ったのは別のお話。

アイテムをヒロカに渡したときに物凄く驚かれた。アイテムの一部にS級素材の中でも特にレアな素材も入ってるらしい。もし見つからなかったら別の素材を代用する事も考えていたそうだ。

「まさか本当に個数持ってくるとは思わなかったよ。流石攻略組トップ。今度からアイテム補充の依頼しちゃおうかな。」

「そんときゃコマチって奴に言うといい。気が付いたら倉庫いっぱいになってるから。話は通しとく。」

「あんたらやっぱすごいね。」

飽きれたような顔してヒロカはアイテムを受け取った。衣装は半分ほど完成しているようだ。もう少し待っていよう。

完成までの間にこちらも動いていた。

49層、シャルス城。レティシアに会いに来た俺は彼女に以前のように再度広場を貸してもらえないかを聞いてみた。NPCとはいえほぼ人間と変わりない返答をくれる。すごいよね。

あの人数が入る場所となるともうここしかない。

「ふむ。了解した。王に承認を貰ってくるとしよう。そなたらの依頼ならどのようなことでも王は聞いてくれるだろう。」

で、再び謁見の間でシャルス王と再会。

「おお。光の剣士よ。よくぞ来てくれた。あれから闇の勢力もいなくなり復興は着々と進んでおる。そなたのおかげだ。礼を言う。」

「はあ。まぁ。ども。」

相変わらず慣れない謁見。

「シャルス王。彼から依頼があります。」

「ほう。申してみよ。できるだけかなえよう。」

「えっと、もしよかったらですが、できる事ならそこの広場を貸していただけないでしょうか。一日、いや半日だけでも…。」

「広場とな? うむ、よい。」

承認とおちゃったよ。日程やそのほかの事はレティシアに依頼するといいと言われたので彼女と共に打ち合わせを行った。

「ところで、どのような催しを行うのだ?」

「んー? シリカと俺の結婚式。」

ガタリとレティシアはこける。反応が古いような気がした。

「おおおお、お主、今なんと!?」

「だからシリカとの結婚式。とはいえ、衣装着せて『俺の嫁だー! いいだろー!』って自慢して広場で料理広げてみんなで騒ぐのが本当の目的なんだけど。」

「そうかー…そうか! よし! 私に任せておけ!」

なんかレティシアも張り切りだしたぞ。こりゃ依頼するとこ間違えたか? いや、これ位やった方が俺らしいか。

なんと彼女は宮廷音楽団もつかっていいと言う。もしかしてこういう依頼が来るって予測してプログラム作ったのだろうか。もしくは人工知能だって言ってたから、その辺の知識をどんどん吸収してるのか。どちらにせよかなり豪華になりそうだ。

料理の素材もコマチから調達。他にも多数のギルドにお祭りをやるって言ったらみーんなノッてきやがったから「作りたい料理があったら素材ごともってこーい」と通知を出したらこれまた多くのギルドが参加希望を出してきた。

余りに参加希望が多かったので、アインクラッドで最もお祭り好きのプレイヤー、キバオウがまとめ役をかってでてくれた為、依頼した所

「ワイに任せとき! オキはんの考えたお祭りや。絶対成功させたるで!」

物凄く生き生きしていた。笑顔がすっごくまぶしい。他にもいろいろ仕掛けをしてお祭り当日となる。

「オキさんがお祭りを開くと聞いていたけど…。なんで私達だけここに?」

「さあのう。シリカ。知っておるか?」

当日、オキによって3人の女性が待機部屋に集合させられていた。シリカとアスナ、そしてシャル。

「フフフ。まだ、内緒です。」

「あ、何か知ってるわね?」

「吐くのじゃ! 堪忍せい!」

「内緒です―!」

キャーキャーと控室に響く楽しそうな声の所にオキと一人の少女が現れる。

「相変わらず騒がしいね」

「おーい、落ち着けおめーら。」

「ヒロカちゃん? どうしてここに?」

「なーに。ちょっとしたサプライズだ。」

「オキさん! お約束通り、お二人を連れてきました。」

シリカがトコトコと近寄ってくる。うんと頷いて状況のわかっていない二人に向いた。

「キリト君と一緒に楽しむつもりだったのに…。」

「ハヤマ殿にあーんしてあげるつもりじゃったのにのう。」

「すまんすまん。まぁ聞けって。もっとすげーことだ。実はな、シリカと結婚してからそのお祝い金を多数貰ってな。あ、その節はどうも。」

二人からももらっているのでもう一度頭を下げる。

「でだ、こんな大事なもの、そう変な物には使えない。そこで思いついたのが、シリカにあるモノを着せようって思いついた。」

「それがこれ。」

ヒロカがアイテムをアクティブ化させる。

「わぁー…。綺麗…。」

「ほう…。これは…。」

白い純白のウェディングドレスがその場に現れる。それと同時にアスナとシャルはキラキラと光るそれに感動し、シリカは真っ赤になって下を向いている。

「で、これ作ってる最中にお金余っちゃってね。せっかくだからいつもお世話になっているキリトとアスナ。この二人の夫婦にもって思ったわけ。シャルのほうはまだハヤマんがグジグジ言ってるからね。先にやっちゃおうって魂胆。」

「それはうれしいもんじゃ。」

「わ、私も…いいの!?」

「もちろん。その為に二人を連れて来たんだから。まぁハヤマんの方の本音は、反応が面白そうだから。なんだけど。」

「その話に私もノッたってわけ。作っててすっごく楽しかったよ。」

「じゃあ、3人共準備が出来たら教えて。こっちも会場の準備終わらせるから。さーって今回のお祭りの最大のサプライズだ!」

皆驚くだろうな。その顔が見たいがためにこれだけの準備やったんだ。こちらも楽しませてもらうぞ。

着替えが終わり準備が整ったようだ。

「どーぞー!」

シリカの声を聞き中に入った。そこには…。

「…。」

「むー…。」

「ど、どうで…しょうか。」

まぶしい。すっごくまぶしい。純白のドレスを着た美少女3人が顔を真っ赤にして立っていた。

「…すごく、綺麗だ。」

開いた口がふさがらないというのはこういう事を言うのだろうか。その言葉しか出ない。

「ほ、本当ですか? えへへ…。」

やばい。口元がにやけているのが分かる。シリカも甘えるときとまったく同じ顔になっている。二人してニヤケが止まらなかった。

「きゅるぅ!」

ピナの声で我に戻る。

「おっと、いかんいかん。さって、準備もできた事だし。どうだ? 着てみた感想は。」

くるくると回り自分の姿を確認する3人。

「じ、自分じゃわからないわね…。でも早くキリト君に見せたいな。」

「じゃな。はよハヤマ殿に見てもらいたいもんじゃ。」

ようし。じゃ、レッツラゴーだ。

「え? ちょ、どこいくの?」

「いいからこいって。」

歩きづらそうな3人とニヤニヤしているヒロカを連れて、広場に設置したステージ裏へと向かう。

ステージ上ではキバオウ司会の元、広場にいるたくさんの参加者達に楽しんでもらっていた。

レティシアもステージ横で宮廷音楽隊による演奏を指揮している。

ステージ脇からキバオウを呼んだ。

「おお、オキはん。状況は上々やで。ん? そっちのは…あが…。」

キバオウも3人の姿を見て開いた口がふさがらないようだ。そりゃ驚くだろうな。花嫁3人引き連れてくるんだから。

「まさか、こんなところで女神に会えるなんてなぁ…。ん? アスナはんにシャルはん…。ははーん。オキはん、面白そうなこと考えるやんけ。」

どうやら察したらしい。まかせろと一言言ってマイクを受け取りステージに立つ。

「おらー! おめーらー! 楽しんでるかー! イレギュラーズが1人! オラクル騎士団のオキだ! 今宵は集まってくれてありがとう!」

「「「ワーーー!!」」」

拍手喝采が上がる。掴みはいい感じ。

「さて、この場をお借りして俺とシリカのお祝いをしてくれた方々へ感謝を。ありがとう。今回のお祭りはそのお礼を兼ねて、面白いサプライズを用意した。キリト! ハヤマん! カモン!」

「え? 俺!?」

「あの人何考えてんだ…?」

広場でメンバーたちと食事をしながら談話していた二人をステージ上に立たせる。さっさとこい。

「レティシア! 準備は良いな!?」

壇上にいるレティシアも準備OKのようだ。

「OK! じゃあ、皆のモノ! 心の準備はいいか! レッツミュージック!」

パチン!

俺が指を鳴らすと落ちあわせ通りにレティシアがある曲を流し始める。

「この曲は…ウェディングのテーマ?」

「オキさん…一体何を…。」

広場にいる皆がざわめき始める。ハヤマが嫌な予感をしたような顔をしている。逃がさねーよ?

「花嫁、カモン!」

広場のライトが消え、ステージのみライトが照らされる。そこに現れるは光り輝く純白のドレスを着た美少女3人。

それを見た全員がその姿に見惚れた。

「アスナはキリトの横。シャルはハヤマんの横。逃げるなよ? ハヤマん。」

「どうしてこうなった…。どうしてこうなった…?」

すでに聞こえていない様子。かまわず続けよう。

「さって、お二人さん? 双方の相方の姿を見た感想は?」

キリトとアスナ、そしてシャル、ハヤマがそれぞれに向き合う。

「ど、どうかな。キリト君。」

「あ、えっと…その。す、すごく綺麗…だよ。」

「「「ヒュー! ヒュー!」」」

広場からはたくさんの男どもから煽りが入る。

「ハヤマ殿! どうじゃ? 我は…その…どう、じゃ?」

「あ、う…えっと…うん。綺麗。綺麗、だよ。すごく。」

双方固まっている。うんうん。これが見たかった。やべぇニヤケが止まらねぇ。

「さって、このお祭りの本当の狙い。それは!」

皆がごくりと息をのみ込む。これを言いたかっただけだ。そう。

「ここにいるシリカは俺の嫁だ! 綺麗だろ! いいだろー! ただ自慢したいだけだ!」

皆が唖然とする。そしてその直後

「自慢したかっただけかよー!」

「相変わらずオキ君らしいな。」

「自慢したいだけなのかー!」

笑いながらブーイングの嵐。それでも皆笑顔だった。

「だははは! わりぃわりぃ! まだまだ料理はある! みな楽しんで行ってくれ!」

その夜、静まり返る事は全くなかった。




みなさま、ごきげんよう。
シリカとまったりほんわかイチャラブを書いたら何故かお祭りになってました。
どうしてこうなった byハヤマ
60層も突破しそろそろかの75層へズズイっと進んでいきますが
その前にアークスたちの強化(まだやるか)と、それぞれの繋がりを描いていきます。
おたのしみに。

PSO2はファンタシー・ストーン・オンラインと呼ばれる始末な状況で石集めばかり。
ネロウ出ませんね・・・。
どこぞのカリ某さんという英霊も「NEROOO!」と叫んでいましたしね。
早く欲しいものです。


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第33話 「クラインの覚悟」

「おーい、キリトー。」

22層の泉のほとりに立つログハウスの前でキリトを呼んだ。

「はい。」

「朝早くすまん。キリト、お届け物だ。」

ガチャリと扉が開き、部屋着姿のキリトが出てくる。

「どうした? クライン。」

「エギルの旦那からだ。下層に用事があったついでに持ってきた。」

皆が63層を攻略している最中、ある用事から下層に向かう前にエギルに依頼のあった物を渡してきてほしいと頼まれたのだ。断る理由も無かった為にそれを受けた。

22層。ここはアインクラッド内でもたった数か所のエネミーが一切でない場所であり、尚且つ階層丸ごとエネミーの出ない唯一の場所である。森林の木々に囲まれ、綺麗な湖がある。数か所に村もあり、NPC達が平和に暮らしているのどかな場所だ。ここの湖のほとりにキリトはログハウスを購入し、そこでアスナと暮らしている。

「エギルから? ああ、あれか。」

キリトもそれが何かを思い出したらしい。

「じゃあ、ここに…。ん、いい匂いだな。」

家の中からトーストのいい匂いが漂ってくる。

「あら? クラインさん?」

「おはよう、アスナちゃん。」

エプロン姿のアスナが出てくる。どうやら朝食を作っている最中だったようだ。

「じゃあ、これ。渡したからな。」

依頼の物、鉱石アイテムをキリトに渡した。

「ああ、受け取ったぜ。…そうだ、クラインも一緒にご飯どうだ? アスナ。」

「ええ。量は大丈夫よ。」

「まじか! ありがてぇ。」

軽く食べてきたが、その匂いだけで食欲が出てくる。ラッキー。

「いやーごっそさん。うまかったぜ。さすがS級。」

「もう、クラインさんったらぁ。」

笑顔で食器を片すアスナ。満更でもなさそうだ。

「クラインもサラさんに作ってもらってるんでしょう?」

「ん? ああ。いつも感謝してもしきれないさ。」

彼女、サラは一緒に暮らしている。あのような美少女が毎日ご飯を作ってくれると思うだけでも顔がにやけてしまう。

「クライン、顔。」

コーヒーを飲みながらキリトが指摘してくる。いかんいかん。

「サラさんとはどう? クラインさん。」

「んあ、ああ。特に問題なく。うん。特に、問題は…ない。」

問題は無い。仲は良好だ。

「なにか、歯切れが悪いな。よかったら相談に乗るぞ。」

「キーリートー!」

「うわ! いきなりどうした!」

俺はキリトに悩んでいる事を話した。女性であるアスナにも聞いてもらえたのはとても大きい。

「進まない?」

「そうなんだよ。付き合ってくれた。一緒に暮らせたまではいいんだ。偶にデートもするし、仲はいいと思う。だけど、そこから進まないんだ。いや、進めないんだ。」

以前、オキ達から聞いたサラの事。彼らが知っていて俺が知らない事がある。彼女はまだそれを話さない。一度、我慢できなくて聞いたのだが。

『うーん…。ごめんね。まだちょっと、話せないかな。あ、信用してないわけじゃないわよ? でもちょっとこの話は…。もう少しだけ私の中で整理させて。』

と、優しく断られたのだ。以前オキ達からは彼女がきちんとそのことを話せば、それは確実に信頼されている証であり、認められた事につながる。だからできるだけ彼女が自分の事を認めてもらうように、オキ達についていき、彼女と共に歩んできた。

「そんな話があったのか。」

キリト達も知らなかったらしい。アークスというモノがどういうモノか。それはオキ達から聞いているし、今ここで頑張っている理由も目的も聞いている。だが、まだまだ知らない事もたくさんある。そして何より、このSAOが攻略完了した時、俺は彼女と別れることになる。それまでにはと思っているが。

「心配しないで。クラインさん。」

アスナがほほ笑みながらこちらを見ている。

「サラさんと偶にみんなで遊びに行ったり、お茶したり、時々ダンジョンに潜ったりするんだけど。どんな時も、クラインさんの心配をしていたわ。あいつは大丈夫だろうか。あいつは今何をしているのか。どこかで怪我なんかしてないのか、とか。シリカちゃんも、シャルちゃんもその時のサラさんの気持ちはよくわかるっていってたわ。もちろん私も。」

キリトにほほ笑みかけるアスナ。それをみてキリトは顔を赤くしてそっぽを向いた。

「そんなことが…。」

初めて聞いた。PTを組んでいる時の方が多いが、たまに女性陣だけで行くときもある。もちろん俺たち男性陣もだ。だから離れている時は心配になるが…。

「まさか、一緒の事を考えていたなんてな。」

少し安心できた。彼女は俺の事を気にしてくれている。それだけでも安心できる。

「少し、心配し過ぎね。大丈夫。クラインさんは少しずつ、サラさんに認められているわ。じゃなかったら、常日頃から、クラインさんの事を話すことは無いと思うの。」

同性だから、そして同じく愛する人がいるアスナだからこそわかる彼女の気持ち。ははは。なんてこったい。心配し過ぎたのか俺は。

「クライン、もう少し余裕を持った方がいいと思うぜ。大丈夫。傍から見ても、クラインとサラさんはわかりあってると思う。」

「そうか…そうか! いやー! ありがとう二人とも! 元気出たぜ。」

「うんうん。クラインさんはそうでなくっちゃね。」

3人で笑いあう。これからも頑張ろう。そして必ず認めてもらうんだ。

「あ、そうだ。用事は良いのか?クライン。」

「やっべ! 忘れてた! それじゃ、邪魔したな! 朝食、美味かったぜ。ごっそさん!」

バタバタとキリトの家を出ていく。用事をさっさと済ましてしまおう。少しだけ体が軽くなった気がした。

「進むといいわね。」

「ああ。」

キリトとアスナは出て行ったクラインの背中を眺めていた。

「さって、あれ。始めちゃう?」

「そうだな。早く実戦レベルで使えるようにしないといけないし。始めよう。」

二人は部屋着から普段の防具を身にまとい、アスナは細剣を。キリトは二本の片手剣を背負いログハウスの庭で向き合った。

夕方過ぎ、用事を済ませてその帰り。家に帰って待っていれば彼女も帰ってくるだろうが、迎えに行ってやるか。

42層の転移門をくぐり、怪物兵団のギルド拠点を目指した。

怪物兵団のギルド拠点はオラクル騎士団のギルド拠点より少し離れた場所にある。あっちよりも少しだけ小さいが、それでも俺から見ればデカい建屋。

「こんちゃーっす!」

扉を叩き、中へと入った。そこにいたのはリーダー、隊長ことアインスとそれとサラだったが。何やら様子がおかしい。

「ク、クラインー!」

「サササ、サラ!?」

サラは俺を見て急に飛びついてきた。何やら泣いている。一体何があった!?

「おい、何があった。どうした!?」

「つながったの! ようやく…ようやくつながったの! え? そうよ! 悪い!?」

サラは誰かと話している。だが、アインスに向かって話しているわけではない。俺の後ろにも誰もいない。この周囲には俺とアインスだけしかいないはずなのに、いったい誰としゃべっているんだ?

「クライン君。混乱するのも無理はない。俺も初めて見た時は驚いたものさ。サラ君。状況を説明してあげてくれ。彼が困っているぞ。あっちの状況はオキ君達も含めて話した方がいいだろう。クライン君と話が終わってからオキ君の方に来てくれ。集めておく。」

「あ、ごめんなさい…。そうね。そろそろ、きちんと話しておかないとって思ってたとこだし。クライン、こっちにきて。」

泣いているが、嬉しそうな顔をしている。もしかしてうれし泣き? 

混乱する俺をサラは自分の部屋へと連れてきた。

「この部屋は久しぶりね。いつもそっちの家に行くから。」

「まぁな。…大丈夫か? サラ。」

まだ少し興奮しているようだが、先ほどよりか落ち着いたようだ。

「うん。大丈夫。ちょっと取り乱しちゃった。ごめんね。…クライン。聞いてほしい事があるの。」

「あ、ああ。」

椅子に座り、俺は彼女の成り立ち、生きてきた全てを聞いた。このSAOに入る前からさかのぼって10年前。

彼女は大規模なダーカーによる襲撃を受けたシップで巻き込まれていた。そこへ現れた一人のアークス。そしてその人から受け取った杖によって彼女はダーカーから守られていた。そこへある男が現れた。ルーサー。オキや皆がこのSAOにくるきっかけになった人物であり、何より彼らの全てを滅ぼそうとした『ダークファルス【敗者】』。

彼により、彼女は非道な人体実験を受けていたという。話している時も彼女は震えていた。だから俺は彼女の肩をそっとさすってあげた。どのような内容かは言わなかったが、聞いてどうかなるモノでもないし、しゃべりたくはないだろう。だから俺は黙って彼女を支えた。

人体実験の影響で彼女は一度死にかけたという。そこへ現れたのがシャオという人物だった。

シャオは『シオン』と呼ばれる全宇宙の全てを知る『全知』のコピーだという。そのシャオから体の一部を融合し、なんとか一命を取り留めた。よって彼女の体は半分サラで、半分がシャオというとんでもない事実を突き付けられた。

「私はね。人じゃないの。アークスってみんなは言ってくれるけど、実際は違う。そういうモノなの。だからシャオとの意思疎通が問答無用で出来ちゃって、今は黙っているけど頭の中にあいつの生意気な声が聞こえちゃうわけ。」

「えっと…その…つまりだ。サラはシャオの一部を持っている。だから声が聞こえるわけか。なるほどな。」

自分でも不思議なくらい冷静だ。彼女の説明が分かりやすいから? いや違う。それが彼女の大事な話だからだ。

「理解…して貰えたかしら。」

「ああ。アークスがどうってのは大体はオキ達から聞いてたし、戦いっぷりを見れば俺たちじゃ想像もつかない化け物と戦っているのもよくわかる。サラがどういう理由でどういう体を持っているかも。」

サラは下を向く。

「そう。いつかはこの時が来ると思っていたの。何時かは知られる。この体の事が。だから…わざと話さずにいたの。怖かったから。あなたに嫌われるのが、拒まれるのが…怖かった!」

泣いているのか? サラの肩が先ほどより震えているし、声もだ。

「そうか。そうだったのか。なぁサラ。その、シャオって奴は今も俺の声も聞こえてるのか?」

「え? ええ。聞こえてるわ。」

こちらに顔を上げたサラは、眼を真っ赤にして涙を浮かべている。ならば覚悟を伝えねばなるまい。俺がどのような気持ちでいるかを。

「シャオとやら。俺の名前はクラインってんだが、本当の名前は壷井遼太郎ってんだ。よろしくな。サラとは清いお付き合いをしもらっている。いつも心配ばかりさせて、本当に申し訳なく思う。アークスってのがどういう者かは、こっちにいるオキやアインスさんから話は聞いてるからある程度は知ってる。だからサラが実はこの星の遠くから来た人だってのは理解しているつもりだ。でも、俺からすればそんなの関係ねぇ! サラがどんな人だろうとなんだろうと! 俺はサラを愛している! これから、このゲームが終わって離れ離れになっても、俺はずっと愛し続ける。会いたくなったら…俺は…宇宙へ飛ぶ努力をする! 何年かかるか分からない。本当にできるか分からないけど、俺はそれくらいの覚悟がある!」

ニカっと更に笑って見せた。彼女は目を見開いている。そして涙を浮かべている。この覚悟。そのシャオとやらに届けばいいが。少なくとも、彼女には届いただろう。俺はそれを信じる。

「クライン…え? え!?」

サラが何やら戸惑っている。そのシャオに何かを言われたのか。そう思った瞬間だった。

キィィン!

「うお!?」

「きゃ!?」

急に目の前が光り、人の形を生成した。身長は低く、子供のようにも見えたその光から声が聞こえてきた。幼い子供の声が。

『クラインさん、だったね。始めまして。僕はシャオ。オキやサラのいるオラクル船団、アークスシップ管理者だ。』

「シャオ!? どうやって…!?」

どうやらこの光っているモノがシャオらしい。どうやってこのゲームに介入したのだろうか。

『ちょっといろいろとね。あまり長い時間をかけることはできないけど。じゃないとカーディナルが起きちゃうから。』

カーディナル。このSAOを統括している管理者のようなものでシステムそのものの名前。プレイヤーならだれもが知っている。この人物は今「起きる」といった。つまり寝かせたというのか? いや、黙らせた?

『彼女の事を見てくれて、ありがとう。僕は今ものすっごくうれしいよ。ずっと彼女の事を見てきた。だからわかるんだ。ここまで幸せそうにしているサラを変えてくれたのは君だって。』

「あ、ああ。ありがとう?」 

なんだか感謝された。感謝したいのはこちらだというのに。だが、気持ちは分からないわけでもない。子供のような姿をしているが、先ほどサラから言われた通りコピーとはいえ、宇宙の根源を知るモノ。保護者のようなモノなんだろう。

『心配しなくても僕たちはすぐそばまで来ている。とはいっても星系の外だけどね。介入できるところまでは近づけた。君の覚悟は受け止めた。サラもすごくうれしがってるのが分かるよ。』

「うっさい。バカシャオ。」

顔を真っ赤にしているサラ。でもうれしそうなのは俺にもわかる。

『これが終わったら、直に話をしてみたいな。君にその気があるのなら。』

「ああ。なにがなんだか、物凄い話になっていて混乱しそうだけど…。理解してくれたならこれほどうれしい事はないぜ。」

『サラの事、よろしく頼むよ。…おっと。カーディナルのお目覚めだ。サラ、オキ達に伝えてほしい事があるんだ。後はよろしく頼むよ。お幸せにね。』

シャオがウィンクしたというのが一瞬だけだが分かった。

「ありがと…。」

ボソリと小声でつぶやくサラ。そして光は消えて行った。

「…。」

「…。」

何とも言えない空気だが。二人してほほ笑んでいるこの状況は悪くない。

先に口を開いたのはサラだった。

「あ、あんたがどう思っているかはわかったわ。ありがと…。これからも、よろしくね。」

顔を真っ赤にして俺の胸にポスリと体を預けてきた。

「お、おう。任せとけ。」

彼女の肩に手を置き、彼女を感じ取った。




みなさまごきげんよう。
12月に入ろうと気温も一気に下がってきましたね。風邪などひかぬよう。
さて、今回クラインとサラの関係が進みました。
サラ好きのアークスの方々申し訳ない・・・。
さて、オラクル船団の管理者、シャオが出てきました。これからアークス無双は更に加速します。(チーターや! チーター!)
とはいえ、ゲームシステム自体を変えることは基本的には(まだ)しません。
必要な時はまだまだ先ですから今のところは今までどおりやっていきます。
まぁフォトンがあればなんでも出来ちゃうんですけどね。(フォトン万能)
次回は惑星スレアから飛び出し、オラクル船団の状況を描きたいと思います。
では、次回にまたお会いしましょう。


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第34話 「アークスシップ」

惑星スレアのある星系から離れた場所にオラクル船団はいた。
巨大な光を放ち中心にあるマザーシップ。その周囲に何百とあるアークスシップ。
その一つの病室に船団を守った英雄たちが眠っていた。


シュイン

 

病室の扉が開き、幼い子供と少女が現れる。部屋の中には一人の少女がベッドで眠り続ける一人の青年をじっと見つめていた。

 

「マトイ、オキとの連絡をつけて来たよ。」

 

幼い子供の姿をしたアークスシップすべての管理をするシャオが告げた。

 

「うん。今、モニターで確認したよ。」

 

壁に掛けられた小さなモニターにはオキ達が大きな部屋でサラから現在のオラクル船団の状況を説明されている所が映し出されている。

 

オキ達が惑星ウォパルで意識不明となり連絡が途絶えた際、彼のチームのメンバーがそれを察知し、彼らを早急に見つけた事から今回の事件が発覚した。

 

惑星スレアで起きている1万人の命を懸けたデスゲーム『ソードアート・オンライン』。彼らの意識はSAO内に閉じ込められている事が調査により判明。原因である装置共々アークスシップへと移換した。

 

調べによるとフォトンの力により彼らの命はあるモノの、意識はフォトンを通して装置へと移動、スレアの電子ネットワーク内へと意識を飛ばされていた。

 

シャオの演算により、彼らの意識を戻すには装置を止める必要があり、確実に安全に止めるには装置がつながっているSAO内のカーディナルがSAO終了のプログラムを起動する必要がある事が分かった。カーディナルとの接触を試みる為には近づく必要があり、オラクル船団をスレアへと向けなければならない。これにはすべてのアークスの命もかかわってくる。そのことを知ったアークス達は自分たちの命を救ってくれた英雄、オキ達の命を救うためにそれを承諾。そしてようやくスレアを見つけたのだ。幸いにもナベリウスやリリーパ等、調査しなければならない惑星に向かうには影響はない距離である事が判明し、星に住む人々を混乱させないようにできるだけギリギリの範囲まで近づいたのだった。

 

これにより、カーディナルとの接触を可能とし、SAO内の状況をいち早く知る為に彼らが何をしているかをモニターできるようにした。フォトンを通してならすべてが可能である。

彼らが意識不明になってからも【巨躯】の襲撃、そして【敗者】討伐時に現れた双子のダークファルス『ダークファルス【双子】(ダブル)』に食われたルーサーをコピーし、幾度となく【敗者】をけしかけてきた。だが、アークスの徹底的な防衛により今のところは問題ない。更に【巨躯】に至ってはオキ達がいない事から

 

『奴らのいない闘争など無意味!』

 

とか言って消えてから100日以上襲撃は無い。

 

【若人】(アプレンティス)による惑星リリーパの採掘基地襲撃は起きているモノの全て防衛しきっている。彼らがいなくてもアークス達は彼らの代わりになるよう、負けないよう日々奮闘している。

 

「あ、手を振ってる。シャオ君、教えたの?」

 

「うん。彼らには見えてないけど、場所を教えてあげた。」

 

「ふふ、元気そう。」

 

笑顔になるマトイ。彼女は惑星ナベリウスで倒れていたところをオキとハヤマが発見。保護した身元不明の少女だった。そんな彼女の正体は10年前のアークスシップへのダーカー大襲撃にて散った二代目クラリスクレイス本人だという事が判明している。そして同じ名前を持つ人物が一名。

 

「ふん。さっさと帰って来い! 馬鹿者が。」

 

ツンケンしている少女は三代目クラリスクレイス。アークスのトップである[六芒均衡]の[三英雄]が1人である。オキとはルーサーとの戦いのときにいろいろあった彼女は、オキに恩がある。

 

「それも伝えておくよ。」

 

シャオは目を瞑り、サラにそれを伝えた。それを聞いたのか、オキは画面に向かってニカっと笑った。

 

「わかってる。やる事終わったらね。だってさ。」

 

「全く、こっちの心配も知らずに。」

 

今はこうして彼らの姿を見ることができるからこそ、安心して彼らの帰還を待つ事が出来る。しかし、それが出来なかった当初、マトイを初めとする数名が寝込むまで彼らの看病をした事実もある。

 

「ふふ。さて、他のみんなの所にも言ってくるよ。見ることはできても聞くことはできないからね。」

 

シャオは共にSAOへと入り込んだアークス達の部屋を回る事にした。

 

ハヤマの眠る部屋に向かうと、アザナミとイオがいた。

 

「やぁ二人とも。」

 

「おや、シャオじゃないか。」

 

「こんにちは。」

 

ペコリと礼儀正しく頭を下げるイオと軽く挨拶するアザナミ。

 

アザナミは六芒均衡の一、レギアスから『ブレイバー』と呼ばれる職の試運転を頼まれていた。そしてハヤマにそれを依頼したのが彼女だ。

 

イオはハヤマらより後にアークスとなった後輩。弓をメインに使うブレイバー。ブレイバーとしての先輩でもあるハヤマに何度も教えてもらった。

 

「やぁ、二人とも。」

 

軽く手を上げて挨拶をする。

 

「彼らと連絡が取れたって本当かい?」

 

「うん。何時でも彼らと話せるよ。何か伝えておくことはある?」

 

アザナミはそれを聞いてうーんと何かを考えだす。その隣でイオが手を上げる。

 

「早く帰ってきて。先輩。って伝えてもらえる? みんな、心配してるって。」

 

「りょーかい。」

 

モニターではハヤマが手を振っている姿が見える。伝わったようだ。

 

「そういえば、ハヤマ君は向こうでもカタナを使っているみたいだけど。」

 

「そうだね。相変わらずだってオキは言ってた。」

 

「ここまで愛してもらえるのはおねーさんもうれしいかぎりだと伝えておいて。」

 

ハヤマにカタナを教えたのはアザナミだ。だからこそ、愛してもらえるのはうれしい物だろう。

 

「他にもあったら何か教えてね。他の人たちの所にもいかなきゃ。」

 

そう言ってハヤマの部屋を後にした。

 

「次はっと…。」

 

続いて隣の部屋へと入る。部屋のプレートにはコマチの名前が貼ってあった。

 

「失礼するよ。」

 

部屋に入るとコマチの布団に手をかけ、今にも剥がそうとしている女性と、それを見ている少女が1人。

 

「…何をやってるの。」

 

「っち。」

 

今絶対舌打ちしたよね。この人。

 

「いんやぁ。なんにも。」

 

「はい。何もしておりません。しいて言うならただ見ていただけです。」

 

はぁとため息をついて部屋の中へと入った。女性の方はシンキ。少女の方はクサク。

 

オキの率いるチーム『ペルソナ』のチームメンバーだ。元々癖の強い彼らだが、彼女らも相当である。

 

シンキ。妖美な姿とスタイルを持ち、すれ違えば誰もが振り返る美女。クサクは幼いながらも大人びた性格であり、シンキに負けない美少女である。だが、問題がある。特にシンキ。

 

「全く、だめだよ。寝ている人を襲っちゃ。」

 

「襲ってないわよ。触ろうとしただけよ。」

 

「です。」

 

変わりないんじゃ。全くこの人たちは。

 

シンキは誰に対しても何かしらの『セクハラ』行為をしてくる。異性同性関係なしだ。とはいえ、彼女なりの信愛の証だとオキは言っていたが。

 

おかげで一時期僕も大変だった。(ガクブル

 

「オキちゃんたちと連絡取れたって?」

 

「うん。これからは少しずつ向こうの情報を貰いつつ、こっちからの情報も渡していくつもりだよ。何か言いたいことある? 今なら伝えれるけど。」

 

「そうねぇ…。いいなぁ。私も混ざりたいなぁ。っていっといて。」

 

「はやく帰ってこないと何があっても知りませんよ。とだけ…。」

 

この人たちは…。相変わらずだなぁもう。

 

「…伝えておくよ。それじゃあ次いかなきゃ。」

 

「あ、シャオ君。」

 

シンキが部屋を出ようとした時に止めてきた。

 

「こっちは大丈夫。私達で守っているから、そんなゲームさっさと終わらせちゃいなさい。って。」

 

「オキさん達なら特に問題は無いと思います。ですが、あまり無理をなさらないよう。と。」

 

「わかった。」

 

なんだかんだで心配なんだな。しっかり伝えておこう。

 

「次は…っと。」

 

部屋の扉をノックし、中へと入る。

 

「あ、シャオさん。」

 

「ご無沙汰しております。」

 

和風の服を着た女性と機械の体を持つキャストの男性がベッドに眠るミケの隣に座っていた。

 

「やぁ。カトリ。サガ。ミケとの連絡がついたよ。今みんなの所を回って伝えたいことが無いかを聞いて回ってるんだ。なにかある?」

 

それを聞いてまぶしい笑顔を見せるカトリ。かなり嬉しそうだ。

 

「はい! みなさん心配しております。あまりご無理はなさいませんようにと。」

 

「私からも同意見だ。」

 

それを伝えるとモニターではミケが大きく手を振っている。それを見てカトリも嬉しそうに笑顔になった。

 

ちなみに僕はこの『人』の事をよく理解していない。僕の演算でもよくわからないあやふやな人物だ。それでも皆を笑顔にするこの人の事は僕も気に入っている。

 

オキに以前この人の事を聞いてみたところ彼もよくわかっていないらしい。

 

『ミケは野良猫のようなモノ。なんだかよくわからない人だけど、それでも面白ければそれでいいから特に気にしていない。』

 

この人を連れてきた本人すらこういっている位だ。一体何者なんだろう。少なくともアークスであるのは確かなのだが。

 

「さて、カトリ。そろそろ今日の修行を始めるぞ。」

 

「えぇ~…。私はミケさんの看病を…。」

 

「ミケは元気そうだぞ。さぁいくぞ。」

 

「ふえぇ~…。」

 

サガに引きずられるように連れて行かれるカトリを見送り、隣の部屋へ。

 

「ん?」

 

「む。」

 

「おや。」

 

アインスの部屋。珍しい組み合わせに遭遇した。

 

「シャオか。」

 

「こんにちは。」

 

白きキャストの男性と、体のラインがはっきりわかるスーツを着る少女。

 

「二人が一緒だなんて珍しいね。」

 

「私が来た時に彼女がいたものでね。世間話をしていたのだ。」

 

「私はみなさんのお見舞いに来ていただけです。」

 

六芒均衡の1。先ほどの三代目クラリスクレイスと同じく三英雄であり、40年前のダークファルス【巨躯】と対峙した張本人。レギアス。

 

そして、一時期はアークスの裏の顔として動いていた六芒均衡の零、クーナ。今はその仕事を辞め、表の顔であるアイドル活動に専念しよくライブをしている。

 

「彼らと連絡が取れたよ。なにか伝えたいことはある?」

 

「そうだな。私からは何も言うまい。彼らが無事で帰ってくれば、それでいい。」

 

クーナの方を向くとモニター画面を眺め出した。

 

「私も同意見です。無事であるならそれで問題ありません。」

 

「りょーかい。」

 

伝え終わると、アインスとオキは軽く頭を下げていた。

 

「全くどうして。彼らは人を助ける為には躊躇しないんでしょうかね。」

 

「それが性分だと言っていたな。」

 

「わかっていますレギアス。私の時も、そういっていたのですから。」

 

クーナはオキ、アインスに恩がある。あの悲しき暴走龍『ハドレッド』。彼の最後を共にしたのは2人だ。その時僕も見ていたが、最後にクーナと2人で大暴れし、とても楽しく踊っていたように見えた。

 

「さて、あまり邪魔するのもわるい。私はここで失礼するよ。」

 

「そうですね。私も失礼します。」

 

二人ともそういって部屋を出て行った。

 

「じゃあ僕も最後の一人を見に行きますか。」

 

最後の一人。僕の縁者、サラ。

 

「おや、シャオじゃないかい。」

 

「マリア。」

 

女性のキャスト。六芒均衡の2、マリア。サラの保護者でもある。

 

「連絡がつける様になったって?」

 

「うん。何時でも大丈夫。何か伝えることある?」

 

「そうさねぇ。」

 

マリアはモニター越しに彼女を見た。そして隣にいる男性を。

 

「ふむ。見た目はまぁまぁだね。後は根性があるかだね。」

 

「…何を言っているか大体想像はつくけど。一応一般人って事を忘れないであげてね。」

 

クラインの事なのは間違いないだろう。保護者としても心配なんだろうか。

 

「大丈夫さ。…まぁこの子がまさか男を引っ掛けるとはねぇ。」

 

「そうだね。僕も初めは驚いたよ。」

 

モニターで笑っているサラを見る。からかうとうるさそうだからやめておこう。

 

「じゃ、僕はもう行かなきゃ。」

 

「ああ。」

 

サラを見てから部屋を出る。彼らがいない間、彼らが守ったこの船団を守らなければならない。

 

それにいくつかやりたいことあるし。さぁ忙しくなりそうだ。




皆さんごきげんよう。
今回はオキ達の眠っている状態のアークスシップ内を描きました。
思ったより短かったかな。
【巨躯】の部分はある鯖がある一定期間こなかったという事件を元に作りました。
偏りすぎなんだよなぁ・・・。
さて、PSO2はそろそろクリスマスイベント期間となりますね。
アーレスも手に入る可能性もあるということで、頑張りたいですね。
では、またお会いしましょう。


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第35話 「リズベット武具店」

ギルド『オラクル騎士団』拠点一階にある鍛冶場。
そこでは騎士団メンバー全員の命を守る武具の作成と整備を行う大事な場所である。


「リーズベットー。」

鍛冶場内に声が響く。この声はオキさんだわ。

「なにー? もしかしてまた壊したとかいうんじゃないでしょうね。」

あの人の戦闘スタイルは武器に負担がかかりすぎている。おかげで何度武器を治した事か。

「いや、整備を頼もうかと思って。」

「お願いします。」

シリカも一緒だ。という事は新しいクエストにでも挑戦するのだろうか。

「わかったわ。こっちに置いてくれる?」

炉の前から立ち上がり、今やっている作業を中断する。そしてオキとシリカの置いた武器を確認した。

「ん? まだ、大丈夫じゃない。耐久度は充分に残ってると思うわよ? それとも…。」

「ああ。ちょっと難易度が高そうでね。今の耐久値じゃ俺は不安なんだ。」

この人の念の押し方はちょっと異常なくらいだ。だが、それくらい余裕がないと生きていけない世界で生きていたと考えると普通なのだろう。

「了解したわ。鉱石はある?」

「ここにあります。」

それぞれの武器種によって耐久値を戻すのには必要な鉱石が違ってくる。オキの槍のそばには紅黒い石が、シリカのダガーのそばには黄色に輝く石が5つ置かれた。

「じゃあ、少しだけまってて。」

武器を持って炉に入れる。少しだけ待っている間に鉱石を砕く。砕き終わった時に炉から武器を取り出し、赤く光る刃に砕いた鉱石をふりかけもう一度炉の中へ。鉱石共々光り出したら取り出し、ハンマーで叩く。

ガン! ガン!

何度か叩くと武器が光出し、ウィンドウ画面が出てきた。そこには『耐久値が回復しました』という文字と数値化された耐久値が完全に回復しているのが確認できる。

「はい。まずは槍ね。次はダガーね。」

同じ行動を行い武器を叩く。ダガーも修正が無事できた。改造しない限りは失敗する事はないが、相変わらず精神を使う。

「できたわ。大事に使いなさいよ。」

特にオキを睨み付ける。前科がありすぎるからだ。

「たはは。あんがとな。よし行くぞシリカ。」

「はい!」

「ちょっとぉ! 否定しなさいよ!」

逃げるように出ていく二人の背中を見送り再び先ほどの作業を続けることにした。

「全く…どうしてこう戦闘バカ共は大事に扱えないのかしら。」

昔から武器とかに興味があった。だから鍛冶スキルがあると聞いたときは絶対に習得してやろうと心に決め、皆の命を守る武具をキチンと作ってやろうと決意した。

武具は多数の種類がある鉱石やアイテム素材の組み合わせでできるモノが異なってくる。初めのころはその組み合わせがランダムだと思っていたが、ミケやコマチ達が多数の種類を考え、オキやハヤマがその情報を整理した所パターンがある事に気づいた。そこからは彼らの指示通りに何度も何度も武具を作り、ランクが上がる度にオキ達の武器を改造し続け、彼らの持つ武器は自分の改造できる範囲ギリギリまで強化されている。そのおかげか気が付けば自分の鍛冶スキルはS級となっていた。こう考えると彼らがいなければいまだにパターンが読めずに試行錯誤の毎日だった上にここまで急速なスキルレベルアップはできなかったと思う。

今の所オキがアルゴから聞いてきた情報ではS級に到達した鍛冶職人は自分だけだという。

おかげさまで自分の作る武器を自信持って皆に渡すことができる。だが、まだ上がある。もっともっと自分も鍛えないと。

「リズ、今平気?」

気が付けば鍛冶場にアスナとキリトが立っていた。

「うわ! いつからいたの!?」

「今入ってきたんだが、忙しそうだな。」

「ううん。大丈夫よ。で、何の用かしら。」

そういうとキリトが数種類の鉱石を作業台の上に置いた。それと一本の黒い片手剣。

「これは…。見ていいかしら。」

「ああ。ここ最近ようやく装備できるようになったんだ。」

「どれどれ…え?」

なにこれ。こんなステータス見たことないわ。魔剣クラスって奴かしら。

「なにこれ。どうしたの!?」

「いや…できるだけまだ内緒にしててほしいんだけど…。」

キリトは50層でのラストアタックボーナスで手に入れた黒き魔剣『エリュシデータ』の経緯と今迄黙っていた事、そして内緒にしていてほしい理由を聞いた。

「ってわけで、まだ情報は出したくない。オキさんからもそういわれた。」

なるほどね。周りへの影響と自分の持っているスキルの関係、か。

「わかったわ。で、これを改造すればいいの?」

「違う。これと同等の剣を作ってほしい。」

これと同等? まって、私が作った中でも最高傑作を軽く凌駕してるわよこれ。

「これと同等? ちょっとまってよ。私の技量でもこれは…。」

「そこをお願いしたいの。情報もあるわ。」

アスナも頭を下げる。ほんっと仲いいわねこの二人。

話を聞くとメイサーと共にクエストを進み、ある山岳エリアにあるドラゴン種から素材アイテムを手に入れ、それを使えばかなりの武器が出来上がるという情報を仕入れたようだ。

「片手剣に必要な鉱石で今手に入る最高のアイテムを準備した。これとそのアイテムを使って一本作ってほしい。」

少しだけ考えた。もしその話が本当でこれと同等の剣ができるのであれば。私は更にスキルを上げ、みんなにもっと強く、頑丈な武具を作ってあげることができるのではないだろうか。それに何より私の大事な友達からの頼みだ。断る理由もない。

「いいわ。いつ行くの?」

「いいのか! ありがたい。早速行こう!」

今から!?

65層山岳エリア。今までに見ない高さを持つ山々が連なる。攻略組は今その中腹から飛び出ている迷宮区の中を突き進んでいるとか。

「広さが今までにない程広くて攻略に時間がかかっているっていってたのだー。」

ミケが岩と岩の間をぴょんぴょん飛びながら説明してくれた。3人で出る際に暇そうにしてたところを双子から借りたのだ。初めはめんどくさがっていたが、ハヤマに自分とアスナも加わり一緒にご飯を作ってあげる事で釣り上げた。ちょろいわね。

「しっかし、この山一体どこまで登ればいいのよー。」

朝から登り始め、昼過ぎになってもまだ中腹付近のようだ。少し遠目に迷宮区の塔が見える。

「いったん休憩しましょうか。そこの岩場でいいわね。丁度セーフティゾーンのようだし。」

大きな岩によって影が出来ており、その周囲一帯がセーフティゾーンとなっていた。これならゆっくりできるだろう。

「ごっはんー♪ごっはんー♪」

「ちょっとまってね。ミケちゃん。」

アスナが作ってきたサンドイッチやおにぎりをアクティブ化する。まるでピクニックのようだ。

「いっただっきまーす! あぐあぐ!」

よほどお腹が空いていたのか物凄い勢いで食べていくミケ。

「これは早く食べないと私たちの分が無くなりそうね。」

「だな。俺も頂こう。」

「どうぞ。いっぱい作ってきたから。」

アインクラッドという命を賭けたゲームのフィールド上でなければ最高の景色である

普段の生活からは見れない風景だ。

「こういう景気が見れるのも、このゲームのおかげ、なのかしらね。」

「そうね。普通だったら見れないもの。」

その絶景を眺めていると隣でミケが気難しそうな顔をしていた。

「どうしたのミケ。」

「こういう風景はあまいいい思い出が無いのだ。」

あのミケにも苦手な物でもあるのだろうか。高い所が苦手…でもないはず。

「アムドゥスキアにこういう風景があるのだがなー? そこにはミケの嫌いな龍族さんがいっぱいいるのだ。」

ああ、そういう事。以前オキから聞いたことがある。惑星アムドゥスキア。火山帯だらけの場所、地面の浮いた浮遊大陸、そして更に高地にある龍祭壇と呼ばれる龍族たちの聖地。そこには龍人族や多数のドラゴンが生息していると。

「ミケ達はいろんな場所を体験してるんだな。俺たちじゃ想像もつかない場所に行って、毎日のように戦って。」

「ずっと戦ってるわけじゃないけどなー。休むことも大事なのだ!」

「そうね。休むことも大事。」

皆でその風景を見ながらお昼を取った。

その後、更に上へと昇り、洞窟を見つけた。情報ではここにドラゴンの巣があるという。ちなみに見つけたのはコマチだとか。

「あいかわらずなのだなー。」

そういってミケはどんどん進んでいく。

「ちょ、警戒しながらすすんだほうが…。」

「大丈夫なのだなー。これ位、ミケなら楽勝なのだ。」

洞窟の中には蝙蝠やモグラっぽいエネミーが多数見られたが、ミケが先頭を進みどんどん倒していく。何よりその戦い方は普通じゃ考えられない戦い方だった。

「にゃにゃにゃー!」

壁を走り、飛んだあとその勢いでエネミーにダガーを突き立てる。まるで壁すらも地面のような感覚で走り回りエネミーを殲滅していった。もちろん自分達も負けてられないとこちらに向かってきたエネミーを倒していく。

「アスナ!」

「うん!」

二人なんか息ぴったりに交互に連続攻撃をしている。なんか、うらやましい気がした。

洞窟を抜けると広い空洞に出た。天井の一部が更に上に伸びており、空が見える。

「ここが奥?」

「…フー。」

ミケの様子がおかしい。何か一点を睨み付けている。

「何か、いるな。」

キリトもそれに気づいたようだ。次の瞬間、壁だと思っていた空間がユルリと動き、隠れていたモノが這い出てきた。いや、こちらが見えなかっただけだ。

「姿の見えないエネミーだと!?」

光がそのエネミーの体を走り、その全貌が明らかになる。巨大なドラゴンだが、鱗が白く光り輝いており、若干向こう側が透けて見える。姿を隠せるエネミーだ。

「まるで、カメレオンね…。」

『ギャオオオ!』

ビリビリと空気を震わせ吠えるドラゴンは一吠えすると再び姿をくらませた。

「どこ!?」

「リズ! こっちにきて! キリト君!」

「わかっている! ミケ! 上だ!」

ドラゴンはミケの上に飛び上がっていた。今まさに押しつぶそうとしている所だ。

「遅いのだ!」

ズゥン!

地面が揺れ、ドラゴンが床に降り立つ。ミケは難なくドラゴンの下から抜け出している。

「『スレイプ・ドラゴン』。ボスクラスか。コマチが来たときは何もいなかったと言っていたが。」

どうやらメイサーである私が来たことによりフラグが立ったらしい。

「はぁ!」

ガキィン!

「なに!?」

キリトの片手剣が弾かれる。あの黒い片手剣ではないが、キリトの持つ剣は上位クラスのモノだ。それが弾かれるという事はかなり防御力が硬い。

「一筋縄ではいきそうにないわね。」

自分も戦力になりたいが、三人と違って鍛冶スキルを上げることに専念していた。レベルが違いすぎる。

「大丈夫よ。私が守るから、リズはこの後きちんと仕事をすればいいの。自分の役目があるでしょ。」

アスナが自分の顔をみて理解してくれたのかそういってくれた。

「そうね。自分の役目を。だったら…ミケ! キリト! そんなのやっつけちゃいなさい!」

応援くらいならできる。大声で叫ぶと二人とも拳を上にあげ、答えてくれた。

「とはいえ…硬いな。」

「…。」

ミケがじっとドラゴンを見ている。何かを探しているようだ。

『ゴォォ…。』

「やっべ。ブレスだ! ミケ!」

ドラゴンの口から赤い炎が吐出された。それと同時にドラゴンの姿が透明になる。

「くそ…消えやがった。ミケ! 大丈夫か!」

「大丈夫なのだ。」

きょろきょろと周囲を確認しているミケ。そしてキリトを見る。

「キリト! 後ろなのだ!」

「!?」

後ろを振り向いた瞬間何かに体全体を吹き飛ばされた。

「キリト君!」

「キリト!」

再びユラリと姿が現れるドラゴン。その尻尾に吹き飛ばされたようだ。幸い、そこまでHPは減っていない。

すぐさま立ち上がり、再び繰り出される尻尾を回避した。

「硬いし、見えないし…どうしようかな。」

攻略組トップのキリトも見えない敵にはお手上げのようだ。だが、あきらめるわけにはいかないと武器を再び構え、姿を消したドラゴンを探す。

「…飛んでる?」

バサバサと翼の音が聞こえる。姿は見えないが空中を飛んでいるのは間違いないだろう。

「…見つけたのだな。」

そう言ってミケが何かのスキルを発動させる。スキルは使用した際に色のついたオーラを発する。一回だけならば常時発動型だが、ミケの足元が青色のオーラで光りっぱなしだ。光続けている場合は時間制限のあるスキルの場合が多い。

「あまり見せるなとオキに言われたのだが…。この場合は仕方ないのだ。」

そう言ってミケは壁に向かって走り出した。また壁から飛ぶのだろうかとそれを見続けたが、様子がおかしい。

「落ちない…!?」

ミケは壁を走り天井すらも走り続けた。そんあスキルがあるのだろうか。いや、聞いたことが無い。

「にゃーにゃ!」

天井を蹴り、真下に向かってダガーを振るミケ。

『ギャオオオ!?』

次の瞬間、ドラゴンが耳を引き裂くような声を上げ、落ちてきた。

「なんて無茶苦茶な。」

ミケらしいと言えばミケらしい戦い方なのだろうが、天井まで走るのはさすがにどうだろうか。そしてドラゴンの様子がおかしい。

「姿を消そうとしてるが…消えない?」

「背中にあった逆鱗を切りつけてやったのだ。あると思ったのだが、やっぱりあったのだな。ドラゴン種には多いパターンなのだ。」

ダガーをくるくると回しながらキリトと並ぶミケ。切り付けられたドラゴンは地面を這いまわり、苦しんでいる。

「今の内だな。」

「なのだ!」

にやりと笑う二人はドラゴンの顔面を切り付けた。

「ダメージが通る! いけるぞ!」

「ふるぼっこなのだなー!」

逆鱗を落とされ防御力が弱まり、二人によって弱点である顔面を滅多切りにされた。

『ギャオオオ…。』

最後の断末魔を上げ、ドラゴンは地面に首を倒し、結晶となって消えた。

「ドロップアイテムは…あった。光龍の結晶。多分これだ。」

「楽しかったのだなー。」

背伸びをしているミケに近づいた。

「ちょ、ちょっとミケ。さっきの動きは一体…。」

「たぶん、ユニークスキル。だろ? ミケ。」

キリトがアイテムをぽんぽんと投げながら近寄ってきた。

「ユニークスキル『フリーダム』。気が付いたらミケのスキル欄にあったのだ。今の所持っているスキルを発動すると自由に壁、天井、どこでも歩けるのだ。時間制限つきだけどなー。」

ユニークスキル。SAOのゲーム内に10個しかないスキルの一つ。どうやらここ最近ミケのスキル欄に出現したらしく、オキらはユニークスキルについて情報が手に入るまでミケには基本的に使用禁止を提案。ここぞという時に使用しろという話をつけておいた。

「フリーダムって…。ミケらしいっちゃミケらしいわね。」

「みんなそういうのだなー。」

苦笑するしかない。

「じゃあ、始めるわね。」

「頼む。」

結晶を砕き、その他の鉱石とあわせ、炉にくべる。

溶けた高熱の塊をハンマーで叩く。

ガン! ガン!

何度か叩いた頃に塊が光り出した。

「おお、形が変わったぞ!?」

光が消え、片手剣が出来上がった。白く輝く剣。うん。ステータスもあの剣程ではないけど、今迄に作ったどれよりもダントツに強い。

「はい。キリト。これがあなたの剣よ。」

「これは…すごい。ステータスも充分に高い。魔剣クラスだ。」

キリトがそれを受け取り、軽く振る。

ヒュン ヒュン

「うん。使い勝手もよさそうだ。名前は…なんていうんだ?」

そうだ。名前を付けてあげないと。鍛冶職人が作った武器は自由に名前を入れていいことになっている。

そうね…黒の剣、エリュシデータ。白の剣…。

「ダークリパルサー。闇を祓うもの。どう?」

「…いいな! 気に入った!」

気に入ってくれたならうれしいわ。いい仕事をしたわ。これからも精進しないとね。

「ところでキリトはどうして二本も片手剣をもつのだ?」

ミケの一言に疑問を持つ。たしかにその通りだ。キリトは片手剣使いだ。ダークリパルサーをわざわざ作らなくてもエリュシデータ一本で事足りるはず。

それを聞いたキリトはアスナと一緒に頷いた。

「そうだな。二人には感謝しなきゃならないし、せっかくだから初披露とさせてくれ。」

「ん?」

キリトは二本の片手剣を両手に持ち構えた。

「っは! っせい! でや!」

何度か振り、その感覚を掴んでいるようだが、これではただ単純に二本装備しただけだ。

「じゃあ、いくよ。」

その直後に見たものを自分は目を疑った。二本の武器を装備する事は出来てもソードスキルを発動する事は不可能だ。だが、キリトはソードエフェクトを発生させ、直前に振っただけの時よりも早く、鋭く動かした。何度連続で動かしただろうか。もはや目が追いつかない。

「まさか…二刀流!?」

「その通り。ユニークスキル、二刀流。俺にもユニークスキルが発動した。理由は分からないけど、これならもっと火力を出せる。だけどこのスキルを使用すると何度やっても普通の剣じゃ耐久値が余り持たなくてね。だからこいつと同等のクラスの剣が必要だったんだ。」

キリトはエリュシデータを突きだす。

「ユニークスキルの発生に関してはオキさんにも連絡してるわ。言われた言葉は『実戦で使えるレベルまで上げてこい。なんなら特訓位付き合ってやる。それまで戦闘で使用するのは禁止』って言われたのよ。だから今のところはまだ一緒に練習中。」

どうやらアスナが一緒に手伝ってあげているようだ。

「リズ。これからはもっと戦いが激しくなる。こいつを強化する必要もあるからその時はよろしくな。」

「…ええ。任せておきなさい。」

これからも日々精進してみんなを守る武器を、防具を作っていかなきゃね。あれだけのものが作れたんだもの。まだ上を目指せるわ。これからはユニークスキル持ちも増えていく可能性があるわね。なんかそんな気がするもの。




みなさまごきげんよう。
ユーニクスキル「二刀流」そしてオリジナルユニークスキル「フリーダム」。
SAOのバランスブレイカーが出始めました。

ユニークスキル「フリーダム」
いまのところ判明しているのは「どこでも自由に移動できる」ただし時間制限付き。
自由気ままな猫であるミケにぴったりなスキルですね。
※壁走りは誰でもできます。

今のところはヒースクリフ、キリト、ミケの3人ですが、これからは10個あるユニークスキルがどんどん出てきます。
だれがどんなスキルを手に入れるのか。おたのしみに。

PSO2では期間限定緊急「メリクリ4」が始まり、またEP3外伝で新キャラクター「原初の【若人】」である「アウロラ」が登場しましたね。外伝のストミ、数の暴力でした・・・。

ではまた次回にお会いしましょう。


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第36話 「コマチの声」

「あつい…。」

66層の火山エリアをコマチとフィーアは移動していた。

攻略組は67層を攻略している。今の所問題は無いとオキから聞いている。

次のクォータポイントである75層のボスに対しての戦力強化という事でフィーアの武器を強化する為に付き合っているのだ。

「汗、すごいわね。大丈夫?」

フィーアが心配そうにこちらの顔を覗いてくる。こちらを心配するのは良いが、そっちもかなりきつそうな顔をしているぞ。

「…問題ない。そっちも無理な時は手を上げてくれ。」

「わかったわ。」

周囲には真っ赤に燃える溶岩が流れている。その熱が自分たちの体に襲い掛かる。

「ここまでリアルに再現しなくていいのにな。」

「全くね…。」

目の前に蜂型のエネミーが飛び回っている。余りの暑さにイライラしていたところだ。鬱憤を晴らさせてもらおう。

「おおお!」

両手に付けた鉄甲を振り上げ、高々とジャンプし一匹の真上から振り下ろす。ヘイトがこちらに向いたためかその場にいた5匹が全てこちらに向かってくる。

「あちぃんだよ!」

そのままアッパーを繰り出し一番近かった一匹を吹き飛ばし、周囲にまとわり飛び回る蜂のエネミーを腕を振り回し浦拳で仕留めた。

「くそ…。余計に暑くなった。」

惑星アムドゥスキアの火山エリアではフォトンで体の周囲を守り、溶岩に入っても多少熱い位でここまでの暑さは無い。

「周囲に敵の反応は無いわ。先に進みましょう。」

「だな。」

この奥に隠された神殿があるらしい。そこで彼女の使用する細剣が手に入るという。更にちょうどいいことに自分が使う鉄甲も手に入ると聞いた。

アークスの使うナックルのような感覚で使えるこの武器は腕にはめて相手を殴りつけるという武器だ。スキルも専用スキルでPAと似たような動きが多い。ナックルメインで使っていた自分としては大剣よりもこっちの方が性に合っている事からここ最近実戦で使用できるまでスキルレベルが上がったのでこちらをメインに使うようにした。

この武器は火力が高く素早く動ける反面、攻撃範囲が極端に狭いためにあまり使用している人が少ない。その為武器収集のクエスト等の情報が手に入りにくいのが難点だがそもそも動き回っている自分からすればなんてことは無い。

更にアインクラッド内最も情報が集まるアルゴがいれば更に集まりやすい。

「洞窟があるわ。道は一本道だからここから先に行けば目的地かもしれないわね。」

溶岩もその先にはなさそうだ。洞窟に入れば少しは暑さも軽減するか。

「進もう。」

洞窟に入るとエリアが変わったためか少しひんやりしている。

「ふう。涼しいわね。」

パタパタと胸元を動かし涼むフィア。いくら俺と長くいるからとはいえ無防備だ。自分も男だからつい目が行ってしまう。

「あまりそういう行動は男の前ではしない方がいいぞ。目のやり場に困る。」

「あら、あなたの前だから気にしてないわ。」

どういう意味だ。それは男として見てないという事なのか。いや、そんなこともどうでもいい。目の前にエネミーがわんさと出てきたからだ。

「やるぞ。」

「ええ。」

蛇のようなエネミーが壁から這い出てくる。周囲を見渡すと小さな穴だらけだ。

「こいつらの巣か!」

地面を這い、素早くこちらに迫ってくる。

「っは!」

鋭い突きでエネミーを撃破するフィーアに続き、自分も拳を振る。

「はああ! 進みながらここを突破するぞ!」

「ええ!」

何匹も出てくるエネミーを近づく奴から片っ端に地面に叩き潰す。中にはジャンプしてこちらに噛みつこうとするやつもいたが、裏拳で叩き落してやった。

暫く進むと蛇も出てこなくなり、暑さも殆ど感じなくなった。

「だいぶ進んだか?」

「そうね。あら、分かれ道?」

目の前に分かれ道が現れた。どちらに進むか。

「風は…こっちに進んでいるな。反対側は空気の動きが無い。多分行き止まりだろう。」

「そうね。じゃあ右に進みましょう。」

右に進むと下へと進む坂道となっていた。傾斜はそこまできつくないが嫌に真っ直ぐだ。

ゴゴゴ…

上から地響きのような音が聞こえる。聞こえた頃に気づいたが既に遅かった。

「しまった! 罠か! 走れ!」

「!?」

後ろを振り向くと巨大な岩が転がってくる。走れば追いつかれないスピードだが、あんなのにつぶされれば簡単にぺちゃんこだ。

「くっそったれが! こんなトラップまでしかけやがって! ふざけんな!」

「速く! 先に進んで!」

全速力で走る。次第に傾斜が強くなっている事に気づいた。このままでは後ろの岩もスピードが上がる。間に合わない!

「行き止まり!? いえ、横穴があるわ!」

フィアが見る方向に小さな横穴がある。岩は先ほどよりも速くなりすぐ後ろに迫っている。

「くっそっがぁぁぁ!」

「きゃあ!」

フィアを抱きかかえ、横穴へ飛び込んだ。

ゴゴゴゴ…ズズゥゥン

すぐそばを巨大な岩が転がり、地響きとともに音は消えた。岩によって出口をふさがれた。

「はぁはぁ…大丈夫か?」

「え、ええ…ありがとう。」

抱きかかえたまま彼女の顔を覗きこんだために顔が近い。

「だ、大丈夫よ。ええ。」

フィーアは自分から立ち上がり周囲を確認する。大丈夫そうだな。

「ここは…。」

暗くて何も見えないが何かの空洞のようだ。

「コマチ!」

「!?」

フィーアが武器を構えてこちらを呼ぶ。空洞の先に光る赤い点がいくつも動き回っていた。

「ちぃ…モンスターハウスかよ!」

素早くフィーアが松明を取り出し照らすと猿のようなエネミーが棍棒をもってこちらを見ていた。

「そのまま照らして動くなよ! おおお!」

拳を振り上げ敵の軍勢に飛び込み、一体目の顔面を思い切り殴りつけてやった。

「コマチ!」

「オオオオ!」

スキル『ウォークライ』を発動しヘイトを全てこちらに向ける様に仕向ける。それと同時にコマチに向かって猿たちが棍棒を振り上げこちらに迫ってきた。

「邪魔なんだよ!!」

アッパーから横に振り回しなぎ倒す。更にストレートにつないでフック。

「何十体いるの・・・!?」

フィアが照らしているからこそエネミーの位置も把握しやすい。幸いにもウォークライのおかげで彼女にはどいつもこいつも振り向かない。

「いってえなぁちくしょう!」

一匹の棍棒が背中を叩く。振り向きざまにそいつの顔面を殴り吹き飛ばした。

「おおおお!」

腕を振り回し、範囲攻撃をしつつ一匹一匹を的確に倒していく。

『キシャァァ!』

「まだ出てくんのかよ!!」

奥から何匹も追加で出てくる。こちらも奥へと少しずつ移動する。ちらりと後ろを見ると言いつけどおりにその場から動かないフィーアが見えた。しいて言うならすこしずつこちらとの距離を一定に保って明かりをともしてくれている。それだけでも充分だ。

「おおおお!」

暫く戦っていたが最後の一匹となったエネミーを上からぶん殴って倒した。

「はぁはぁ…うっし、終わりぃ。」

周囲にエネミーがいない事を確認してタバコに火をつける。

「お疲れ様、コマチ。大丈夫?」

「ああ。何度か殴られたがこんなもん減った内に入らん。」

「でも、ちゃんと回復してね。はい。」

フィーアがポーションを取り出しこちらに渡してきた。それを受け取りこくりと飲み干す。

「サンキュ。さって、出口を探さないと。」

「そうね。まだ奥がありそうね。」

光を向ける方向に通路へつながる穴が見えた。どうやらこっちになにかあるらしい。

「進もう。」

「ええ。」

洞窟は今度は上へと延びていた。暫くエネミーもちまちまと見つけたが脅威にもならない。

ゴン!

殴られて壁に激突するエネミーは結晶となって散っていく。

「なにかあるわ。」

「ん?」

フィーアが洞窟の先に何かを見つけた。出口のようだ。抜けるとそこには大きな遺跡があった。

「ここが目的地かしら。」

「可能性大だな。少なくとも何かありそうだ。」

自分の勘が言っている。ここには何かあると。遺跡の中へは階段を昇り、上にあるようだ。

「なげぇ階段だな。」

「そうね。いい運動になりそう。」

俺からすれば面倒なだけなんだが、何故か隣にいるフィーアは楽しそうだ。よくわからん。

「…ん?」

索敵スキルに何かが引っかかる。上か。

「鳥か。」

「え?」

フィーアが上を見ると同時に上から多数の蝙蝠が飛んでくる。

「邪魔なんだよ! こっちに来るな!」

空を飛ぶエネミーは行動範囲が広い。だが集団で行動するパターンがほとんどだ。こいつらならこっちの方がいい。

「おおおりゃあああ!」

素早く大剣に切り替え、剣を振り回す。PA『ノヴァストライク』。大剣を振り回し広範囲に攻撃をするソードのPA。

向こうから攻撃範囲に勝手に入ってきて勝手に倒れていく様は爽快だった。

「ふん。勝手に突っ込んでくるからだ。」

「相変わらず、私がなにもできないわね。」

落ち込んでいるのか悔しがっているのか。フィーアはその一言をボソリといって更に上へと昇って行った。

「入口か?」

「…いえ、ここが目的の場所ね。」

遺跡の頂上は広く平らな場所となっていた。周囲には巨大な騎士の像が立ち並んでいる。奥に宝箱が並んでいた。ひぃふぅみぃ…。6個か。これはかなり期待できそうだが。広場の中央に近づくと、像の内2個が音を立てて動き出した。

ゴゴゴゴ…

『まて。』

『兄者、客人だ。』

『そうだな。客人だな。』

巨大な騎士の像2体が何やらしゃべり始めた。

『客人はもてなす必要がある。』

『もてなすとは?』

『もてなすとは…。』

「はぁ…。」

なにこの面倒なの。はやく進みたいんだが。

『兄者、客人がため息をついている。』

『ため息とは…?』

『ため息とは…。』

「だぁあもう! めんどいな! いいか!? ここから先に進みたい奴がいる! さぁどうする! 俺は面倒なのがきらいなんだ!」

ゴゴゴゴゴ…

先程よりも巨大な音を立てて、巨像が動き出した。

『これより先は我ら門番を倒していけ。』

『我ら騎士の兄弟。尋常に勝負!』

「コマチ!」

「片方を頼む! おめーはこっちだ!」

左側にいた騎士型のエネミー『キング・アグ・ナイト』に殴りかかった。

「ボス型のエネミー…。気を付けてコマチ!」

人の気遣いをする余裕があるなら目の前にいる敵を倒してからにしろ。そう思いつつもあの人の事を思い浮かべる。

『コマチ! 背中を頼んだ!』

「…あんたに似てこっちもやりやすいぜ! オオオ!」 

空洞内にある遺跡全体にコマチの声が響き渡る。

ブン!

自分よりも3倍ほど巨大な騎士はその巨大な身丈と同等の長さを持つ剣を振り回す。だが、あまりスピードはない。これ位なら簡単に避けることは可能だ。

ガン! ゴン!

巨像の脚部に金属を打つ音が響く。

『ぐぅぅ…。』

HPのゲージは2本。特に問題はなさそうだが、2本という事は形態変化の可能性もある。

「ゲージに気をつけろフィア! 何してくるか分からんぞ!」

「ええ! わかってるわ!」

彼女のスピードは現状最速と言われるキリトやアスナ程ではないにしろ、それと同等の敏捷を持つ。

これ位なら問題ないと見せるがごとく、相手のHPを少しずつ削っている。

「ウオオオ!」

『オオオオ!』

ゴォオン!

巨大な剣が地面を叩く。足元が若干揺れるが気にしないで殴り続ける。

「硬い…。だが、問題は…無い!」

騎士型のエネミーは総じて防御力が硬い。だが、今の自分には問題が無いほどの火力を持っている。

ガキン!

『なんだと!?』

ずっと攻撃していた右脚の甲冑を壊してやった。その為騎士はバランスを崩し転倒する。

「やりぃ…。」

届かなかった顔面を全力で殴る。その間にチラリとフィーアを見る。

「やぁぁぁ!」

スピードを活かし、相手から攻撃を喰らうことなく一方的に攻撃をしているように見えた。問題があるとするなら…。

「この、あとか!」

ガン!

右ストレートで甲冑の上から騎士を殴る。その一撃でゲージが一本無くなった。

『オオオオ!』

『グウウウ!』

二体とも同時に煙となり重なり合う。

「フィーア! こっちこい! 様子がおかしい!」

「わかったわ!」

『『オオオオ!』』

騎士の腕が4本に増え、頭も二個になる。

「合体!?」

『『オオオオ!』』

両腕に持った二本の巨大な大剣が二人の頭上から降りてくる。先ほどよりも速い。

「間に合わない!?」

「ちぃ!」

ドカッ

「きゃあ!?」

フィーアを押し、攻撃の範囲からのけ、自分は二本同時に武器で受け止める。

「グウウ…。ちっきしょう…。」

「コマチ!? なんで…。」

「わからん! 自分でも…だがな、何故かこうしなきゃと! じゃないとどっかのバカリーダーに殴られそうだしな! こんのぉ…おもったいんだよ! クソがあああ!」

思いっ切り腕に力を加え、二本の大剣を押し返す。

『『ウウウウ!?』』

「このくらい…エルダーの腕に比べれば…まだまだぁぁぁ!」

ガキン!

両腕で両面騎士の武器を弾き振り下ろされた腕に向かって走る。

「うおおお!」

そのままの勢いで顔面を右腕でアッパーを。上がったところから両腕でハンマーを。左右交互に殴り続けた。

「オオオオ!」

『『グウウウ!?』』

顔面に張り付かれ、何とか振り下ろそうとする両面騎士だが、器用に肩の上を動き回り、エネミーの共通の弱点である顔面を何度も殴られ、HPは一気に削られた。

『『じゃまだ!』』

ブン!

頭を思い切りふり、振り下ろされた。

「もう少しだ。いくぞ。」

「ええ!」

武器を双方で構え、振り下ろされる二本の大剣をすり抜け、真正面から二人同時に相手の体を突いた。

「オオオ!」

「はぁぁ!」

次の瞬間、両面の騎士は結晶となって固まり、砕け散った。

「はぁはぁ…うっしゃあ!」

「なかなか…強かったわね。ふぅ…。」

二人で息を整える。

「あ、今のでレベル上がってるな。」

「あなたもね。ふふ、おめでとう。」

「ん。そっちもおめでとう。」

フィーアは微笑み、レベルが上がったことで振れるようになったスキルを確認しだした。

『俺も確認しておくか。…ん? なんだこれ。』

今のレベルアップの為か、それとも別の条件がそろったためか。今までに見たことが無いスキルの名前が欄にあった。

『こんな名前は見たことが無いな。まさか、ミケやキリトが手に入れたというユニークスキルって奴か?』

「コマチ? どうしたの?」

固まっている俺を心配したのか、こちらの顔を覗いてくる。

「心配ない。どれを取るかを悩んでいたところだ。あとでゆっくり考えることにしたよ。」

「わかるわ。一杯あるものね。さぁ進みましょう。」

「だな。」

スキルに関してはオキに確認した方がいいかもしれん。そう思いながら宝箱が並ぶ場所へと向かった。

ユニークスキル『バーサーカー』。4つ目のユニークスキルがここに出現した。




みなさまごきげんよう。
寒さが続き、周囲で変えやらが流行っています。みなさまもお気をつけて。
今回出てきたエネミーボスはDMC3のアグ、ドラをモデルに使ってみました。
まぁ、倒しても武器が手に入るとかないので(
さて、ユニークスキルが少しずつ出てきましたね。今回のバーサーカーもオリジナルの一つです。
バーサーカー:意識が朦朧とし、エネミーに対して攻撃しかできなくなる。作用としてスキルを発動後、火力、防御力がアップし、こちら側が防御、回避ができなくなる代わりに攻撃を受けてもひるまなくなります。ただし、スキル発動後はしばらくSSが放つことができなくなる。
攻撃SSも専用となり攻撃を受けながらのSSもあったり。
コマチにピッタリですね。(そもそもがバーサーカーである

さて、次回はみなさまお待ちかね(?)ハヤマがアタフタするシーンをご覧下さい。


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第37話 「ハヤマ攻略大作戦」

「どうすればいいかのう。」

「うーむ…。とはいえ、あの人の硬さはうちの中でもトップだしな。」

オラクル騎士団ギルド拠点内のオキの家。その書斎でオキ、シリカ、シャル、そしてツキミが頭を悩ましていた。

『どうすればハヤマとの距離を詰めれるか。』その相談を受けたオキはシリカも交え、作戦会議を行っていた。

「あの坑道での一件から少しは歩み寄ってくれるようにはなったのじゃが、なかなかその先に進もうとはせん。オキ殿やクライン殿、それこそキリト殿は愛する者とのスキンシップはとれていると思うが、どうもハヤマ殿は壁があるというか…。」

あの人にも困ったものだ。こうして求めてくれる人がいるというのになかなか手を出さない。まぁかくいう俺もまだ何かしてあげれているかどうかと言われると微妙なところだが。

「ですが、あまり嫌なことはできませんし…。難しいですね。」

シリカの言う通りだ。自分だけ良ければそれでいいというわけにもいかない。ハヤマにも楽しんでもらったりしなければならない。だが、下手に積極的になれば壁を作られる。

「だーもう。あのバカ、頭硬すぎんだよ。」

だんだんイライラしてきてタバコに火をつけ、窓から身を乗り出す。すでに何本吸ったか分からない。

「また二人きりにするのはどうでしょうか。」

「あの一件で絶対に他の誰かと組もうとする。何故か警戒されてんだよな。」

俺からの罠だと思い、組ませようと思っても絶対に誰か他の者も連れて行こうとする。確かに安全にクエストを行うには人数が多ければ楽にはなるが。

「んー…だったら他の人もいなくなればいい? しかし…。」

「それだ。」

何故そんな簡単なことに気づかなかったのだろうか。人を増やそうとするならば『増やせない状況を作ればいい。』

「クエスト?」

「ああ。カタナの改造に必要な鋼材があってだな…。」

「その手には乗らないよ。まーた何か企んでるでしょ。」

オキの顔がにやけてるように見える。何かを企んでるような気がするし、あの坑道での一件からシャルと組ませようと思う気持ちが見え見えである。絶対この人面白がってる。

「何言ってんだ。俺が同じ手を使うと思うか?」

「う…。そういわれると確かに。」

確かにその通りだ。ネタを探し皆を楽しませようという思いからいろんなイベントを開催してきたオキだが、同じことを繰り返すという事を一切行わない。

「それにな。あんたが嫌がってたら俺も面白くない。なんだかんだ言って仕方ないとあたふたする姿をみたいだけだ。」

「あんたは何言ってんだ。まぁいいや。今回は信じてあげる。」

「おう。情報はここに。」

オキはそういって情報の掛れた羊皮紙をくれた。

「メンバーは?」

「今回はみんな出払っちまってて、シャルしかいない。じゃ、頑張って。」

「は? え?」

逃げるようにオキはその場を去って行った。代わりにシャルが現れる。

「では行くぞ! ハヤマ殿!」

「…はめられたー!?」

気付いた時には遅かった。

68層。浮遊する大陸をシャルと進む。

「♪~」

鼻歌交じりにシャルは隣を歩く。

「シャル、ツキミは?」

「ん? ツキミならアリスとリズベットと共に鍛冶スキルのクエストだ。メイサーだけじゃきつかろうて。じゃから貸したのじゃ。」

「他のメンバーは?」

「そうじゃなぁ。ペアになっている者達は基本皆オキからの全体的な戦力アップの指示で出払っておる。」

あの人だ。絶対あの人が意図してやってる。肩を落とし、はめられたことに気づく。隣をチラリを見ると楽しそうに歩くシャル。ため息を一回吐出し前を向いた。ワイバーン種のエネミーがこちらを見つけ吠えていた。

「こうなったらとことんやってやる!」

「おお! ハヤマ殿がやる気じゃ! ならば我もお供しよう!」

エネミーの群れにやけくそで突っ込んでいった。

「情報ではこの神殿の中にあるみたいだけど。」

「ふむ。では入ろうかの。」

一応装備を普段のモノから本気のモノに変えておこう。嫌な予感がする。

『多々良長政白雪』。改良を加え、今までの青色の鞘から白色に輝く雪のような鞘へと変わり、火力が一気に伸びた。そんじゃそこらの武器なんか比較にならない。唯一比較できるとするならば隊長の刀『和泉兼定』かクラインの『村雨』位だろう。

中に入ると明るい外から一転し、光が遠くまで届かず、壁に掛かっているランプが小さく灯っているだけで暗い通路となっていた。

「ゴースト系にエビル系のモンスターか。」

「じゃな。流石上層、上位のモンスターばかりじゃ。」

シャルは片手剣を構え、通路にいるエネミーがいつ襲ってきてもいいように準備した。

「まだ、試さなくていいか。」

ボソリと呟く。アレはまだそれ相応の敵に試したい。

「何か言ったか? ハヤマ殿。」

「ん? ううん。何も。じゃあ行こうか。」

「うむ!」

神殿の中は複雑に入り組んでおり、なかなか次の階層へ続く階段が見つからない。

「粗方敵を倒したかのう。」

「うん。そこまでレベルも高くないから楽だったね。」

この階層の敵は粗方片づけてしまった。次のポップまで暫く時間がかかるだろう。それより出口だ。地図を見る限り大回りで動いていたらしい。そろそろ見えてくるはずだが。

「この角を曲がれば構造的にあるはず…あれ?」

「どうした? ハヤマ殿…扉?」

角を曲がるとすぐ目の前に扉があった。少し押したが開く様子もない。鍵が必要なパターンだ。

「おかしいな。鍵あった?」

「なかったぞ。フロア内の宝箱も全て開けてきたのじゃから。」

今迄の傾向からそのダンジョンで必要なアイテムは全て同ダンジョン内で手に入る事が基本だった。それ以外にない。

「こうなると別のダンジョンの中にあるのかもな。」

「ふーむ。一度外に出てみるとするかのう。」

それしかないだろうな。キーアイテムがない以上、ここに長居してても仕方がない。

しかし、クエスト的な物もドロップしそうな特殊な敵もなかったし、居なかった。上層に入ってきたから下での基本が通用しなくなったのだろうか。

そう考えているうちに入口へと戻ってきた。

「まぶしいな。」

「うむ。しかし、この周辺に他のダンジョンはあるのかのう。」

シャルは地図を確認し始めた。俺は貰った羊皮紙を広げて確認してみる。現在攻略組はこの階層の迷宮区を攻略している。このダンジョンもその最中に見つかり、同階層の拠点となる街でNPCから情報を得たと羊皮紙には書かれている。

「街のNPC…か。」

「ハヤマ殿。これ以外のダンジョンがいくつかあるようじゃが、どうするのじゃ?」

「街に戻ろう。NPCからの別の情報があるかもしれない。」

「うむ! 了解した! …あ、そうじゃ。できればこのまま歩いてか言ってもいいかのう?」

シャルがモジモジしながら顔を赤らめて言い出した。

「別にかまわないけど、時間はあるし。」

「ほんとか!? いや、実はの…。そのこうして二人きりになるのはあれ以来じゃから、偶にはどうかのうと思ってな。」

そんな目で見ないでくれ。断れないじゃないか。

「う…。あー…なんかすまん。」

「よい。じゃからお願いがあるのじゃ。それを聞いてくれたら許そう。」

嫌な予感しかしない。

「歩きにくい…。」

「そういうな。楽しいであろう?」

「否定すると嘘になるからノーコメントで。」

とはいえ、その答え事態が肯定しているも同然なのだが、言うと恥ずかしいので言わない。現在、腕を組んで歩いている。まるでデートだ。

道中の敵はあまりいないから問題は無いが。どうやら誰かが通った後らしい。うん。以前もこんな感じにオキが後ろをつけていたので確認したが、索敵範囲にはいない。少なくとも目の届く範囲では。このエリアは見通しがいいので索敵範囲外でも目視で確認ができる。それでもいないという事はオキはいないという事だ。

「うーん。」

「やっぱり…いやか?」

だからそんな目で見ないで。悲しい顔をしないで。

「そんなことは無いよ。あーもう。こうなりゃやけだ。とことん行くぞ!」

「うむ!」

恥ずかしいったらありゃしない。こんなところ誰かに見られませんように。

「ようはやまん。いい感じになってるな。」

見つかりました。街に帰り着くと丁度そこにオキがいた。

ってかシャル離して恥ずかしいから。なんでまだぴったりくっついてるの!?

「なんでここにいるのオキさん…。」

「迷宮区がすっげぇ入り組んでてさ。補給しながら何度も攻略しに行ってんだけど…なかなか面倒でね。」

あ、迷宮区攻略か。それにしてもタイミングを見計らったような感じだったけど?

「敵強い?」

オキは首を横に振る。

「そこまで。でもダンジョンが面倒でさ。トラップはあるわ、パズルはあるわ、迷路だわで、挙句今3階層を攻略してんだけどセーフティゾーンがまだない。広さ的にそろそろあってもいいかと思うんだがなくてさ。仕方ないから交互に帰って補給物資調達しながらその場で休憩しつつ上を目指してるってわけ。」

「オキさーん。買ってきましたよー。」

そこにシリカも加わる。だからシャルお願いだから手を放して。ギュって握らないで。顔真っ赤になってるから。

「あ、シャルさんにハヤマさん。ふふふ。仲がいいですね。オキさん、お邪魔にならないように早くいきましょうか。」

「おうそうだな。『ジャマ』になったな。『ジャ・マ』に。」

あ、すっげぇ楽しんでるこの人。もういいや。めんどい。

「気を付けてね。二人とも。」

「ああ。お互いにな。」

街から出ていくオキにダンジョンの話を振りかけた。

「あ、そうだ。オキさん。忘れてた。」

「あー? なんぞい。」

戻ってくるオキ。

「この先にある神殿ダンジョンなんだけどさ。鍵のかかった扉があるんだけどそれのせいで先に進めなくってさ。何か知らない?」

んーと考え込むオキの袖をシリカが引っ張った。

「ん? シリカ、何か知ってる?」

「はい。先ほどアイテム購入の際に初めて来たときとNPCのセリフが違う方がいらっしゃいました。もしかしたら何か情報を持っているかもしれません。」

攻略が進んだり、フラグが立つとNPCのセリフが変わる事が多い。

「感謝するぞシリカ! それはどこのNPCじゃ?」

「この先真っ直ぐいって西側の雑貨屋さんの中にいるかたでした。」

「ハヤマ殿!」

「うん。いこう。」

そう言ってオキ達に感謝を述べシリカの言うNPCに話を聞きに行った。

大当たりだった。NPCは昔神殿に行ったことがあるらしく、そこで古びた鍵を見つけたらしい。だが、モンスターの影響でそれ以上進むことは断念したという。神殿の話をすると快く鍵を貰えたので、早速再び神殿へと向かった。気になる事とするならばその男は逃げる時に金色の羽をもったモンスターを見たと言った。

「これであの扉の先に進むことができるな!」

「ああ。どんなのが待ち構えているのやら。」

そう言って神殿へと再び足を入れる。

「しかし、あの者がいっておった金色の羽とは一体…?」

「さぁて…ね!?」

「これは…!?」

神殿に入ると初めて入った時よりも雰囲気が違う。確かに暗かったがここまで暗かったか?

「ハヤマ殿…。」

シャルも不安がっているのかこちらに体を近づける。

「…大丈夫さ。なにが出て来たって切るのみだ。」

シャルの頭を撫で、後ろを警戒させ自分は前を見て進んだ。確かにおかしい。あれから時間も経っているというのに何故かエネミーがいない。

どう考えてもおかしいのは目で見てわかる。そしてこの奥から漂う黒い靄も先ほどは無かった。

「気をつけろシャル。何が出て気てもいいように武器はしっかりにぎっていて。」

「う、うむ。」

問題の扉までなにも無くたどり着いた。シャルから鍵を受け取り鍵穴に差し込む。

「開けるよ?」

「うむ。」

シャルも覚悟を決め、頷いた。扉をゆっくりあけ、先を覗く。

「階段…あった。」

下への階段だ。だが、物々しい雰囲気は余計に強くなった。何かいる。

「シャル気を付けて。この先、何かいる。」

「うむ。了解した。」

階段を下りていくにつれ、索敵スキルが警告を鳴らしている。どうやら自分よりもレベルの高いエネミーがいるようだが、ここまで警告のポップが赤いのは初めてだ。体が震える。

「ハヤマ…どの? 大丈夫…か?」

シャルが顔を覗いてくる。不安だと思われたのだろうが、シャルは予想していた言葉とは全然違う言葉を発した。

「笑ってる…?」

自分でも気づかなかった。口元が笑っている。

「あれ、すまん。笑う気はなかったんだが。」

「よい。我もわかる。この先に強者がいると。ハヤマ殿はそれと戦いたくてうずうずしておるのじゃな。」

ばれてる。

「まぁ性格と言うか、なんというか…。」

長い階段も終わりを迎えた。下層では短い一本道の通路となっており、その先に扉が一つだけあった。

「ボスクラスなのは確かだな…。」

「そうじゃな…。気を引き締めるぞ。ハヤマ殿。」

二人して頷き、扉を開けた。どう考えてもこの先に大ボスがいる。しかもフロアボスクラス。

扉を開けると暗い広間に出た。そして壁いっぱいに取り付けられたろうそくに灯がともる。

そして二人はそれをみた。目を疑った。いや、居てもおかしくないと思った。

金色の羽、黒と赤の流れる紋様。鳥のような顔に馬のような体。4本の腕に長い槍を二本持ったその姿。首にはリングのようなものが二個。見間違えるはずがない。何度も戦い、何度も腕を競い合った因縁のある『ダーカー種』。

「ブリュー…リンガーダ…!?」

『ヒョオオオオ!』

紅く眼を光らせ、立ち上がり、高い一声を挙げた。

「シャル! 気をつけろ! あいつは…シャル!?」

「いやじゃ…黄色い…鳥…くるな…いやじゃ…。」

様子がおかしい。目は焦点が合っておらず、体は震え、今にも駆け出し逃げそうな感じだが、足が動かない。

「ちぃ!」

ガン!

エネミー『ブリュー・リンガーダ』は馬のように走り、こちらへと距離を詰め槍でこちらを攻撃してきた。何とか動かないシャルを抱きかかえ、扉の向こうへと戻る。

「はぁはぁ…やっぱり、こっちには来れないか。」

ボスクラスのエネミーは限られたエリア内でしか行動が出来ない。扉が開いたままで助かった。

「シャル! おい、シャル!」

「…ふぇ…。ハヤマ…殿?」

シャルの体を揺さぶり、正気に戻す。よかった。

「すま…ぬ。体が…震えが止まらぬ…。」

シャルは体を抱きかかえ、何とか動こうとするも足が動かない。

「…。」

ハヤマは立ち上がり、扉の向こうからこちらをにらむブリューを見る。

「黄色い…鳥、か。」

「すまぬ…あれじゃない事はわかる。じゃが…どうにも体が動かぬ…。」

確かに黄色い鳥に見えなくもない。鳥ダーカー種はその親玉であるダークファルス【敗者】の色をそのまま受け継いでいる為だ。金色を主体に紅と黒の紋様が入っている。

振えているシャルを見る。あの元気なシャルがここまで震え、恐怖におびえている姿は初めて見た。目を瞑り、一呼吸おいてもう一度目を開いた。

「…大丈夫だよ、シャル。」

「ハヤマ…殿?」

振える体をそっと包み込んだ。そして頭を撫でてあげる。

「…落ち着くのう。すまぬ。」

「いいって。それにね。」

身体を離し、あれを睨み付けた。

「あれとなら一人でも充分だ。」

「まさか…あれと戦うというのか!? 我のせいでもあるが、一人は危険じゃ! そなたも見たじゃろう!? あれのレベルは100! 我らのレベルを超えておる!」

その通りだ。自分のレベルは高い方ではあるが90になったばかり。アインクラッド内でもトップクラスだろう。だが、それ以上のレベルを持つアレに立ち向かうのは本来自殺行為だ。レベルの差が10もある。これはかなり危険だ。

「そうだね…。でも、安心して。あれは、あのダーカーは…。何度も戦ってきた。何度も倒してきた。それはもう山ほど。だからいくらレベルがあいつの方が高かろうとも、負ける気はしないよ。」

そう言って、カタナに手をかける。ダーカーという言葉を聞いてシャルも気づく。あれがハヤマ達が何度も対峙してきた化け物だという事を。

「…気を付けるのじゃぞ。無理はするでない。」

「わかってるさ。じゃないと、あの人に怒鳴られそうだ。」

『まーたか! ざけんじゃねーぞ! キサン1人で戦ってんじゃねーっち、あれほど言っただろうが! ばーたれが!』

あの人の怒鳴り声が頭に響く。あの時はこちらが叩かれたなぁ。アークス生活の中でも最も地獄と言える、『採掘場跡地での戦い』。それを思い出した。

つかつかと扉をくぐり、再びこちらのヘイトを捕らえたブリューが吠える。

『ヒョオオオ! 』

「よぉ…。久しぶりだな! ブリュー!」

少しずつ走りだし、ブリューの目の前で飛び上がりカタナ『多々良長政白雪』を横に一閃する。

『オオオオ!?』

振り上げようとした槍を弾かれたブリューはこちらをにらみ返す。

「さぁて、『アギト』は無いけども、久々にこの型で戦えるのはうれしいね。カタコンないけど、お前には無くても充分だ。」

居合の型、それはハヤマが得たユニークスキル『抜刀術』。ミケとほぼ同時期に手に入れ、ここぞという時まで実戦を控えていた。

これ以上に『抜刀術』のデビュー戦は考えられないだろう。何しろあの因縁あるダーカー『ブリューリンガーダ』なのだから。

『ヒョオオオ!』

再び吠える『ブリュー』。刀を構えるハヤマ。

「さぁ、やろうぜ!」

一人と一匹が向かい合い、アークスとダーカーの戦いがソードアート・オンラインの中で再び火蓋を切った。




みなさま、ごきげんよう。
PSO2のEP4の情報が公開されましたね! まさかの地球ですよ! 東京ですよ!
どうしよう・・・。コイツは困った。 設定を考えねばなりませんね。
さて、今回1話で終わらせようと思っていたら思ったより長くなっちゃいました。
ボス戦を軽くで終わらせようと考えていたんですが、ノリにのって書いていたらブリューだそうそうしようになってこうなりました。(さすが俺、何も考えてないのがまるわかり!
というわけで次回はハヤマVSブリューリンガーダです。
抜刀術を手に入れ、アークス時の戦い方により似せて描くつもりです。
ではみなさま、次回にまたお会いしましょう。

(年末年始は忙しく最新話をUPすることができるか微妙ですので、あげれたらあげますが、基本ないとお考え下さい)


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第38話 「舞い踊る金黒の鳥」

惑星リリーパ。金属やフォトンの功績が豊富な砂に覆われた惑星。かつて存在した文明により採掘施設が建設されており、地表から地下までが巨大な工場になっている。
主を失ったロボットである機甲種が、今も尚外的排除任務を遂行し続けており、ダーカーはもちろん、アークスに対しても見境なしに攻撃してくる。



「くそ…何体出てくるんだよ。」

 

既に何体倒しただろうか。5体? いや、10はいったかもしれない。いくらなんでも多すぎる。

 

惑星リリーパで見つかった新たな採掘場。そこで大量のダーカーが発生しているという情報が入った。今までに無い量の空間侵食を確認したアークスは、緊急任務を発令。ダーカーを殲滅する大規模作戦を行った。

 

もちろん俺たち『ペルソナ』も出動。リーダーオキの指示の下、コマチ、シンキ、クサク、そして自分は惑星リリーパへと降り立った。

 

チームに属さないミケや『怪物兵団』を率いるアインスもメンバーらと共に作戦に参加する。

 

だが、リリーパに降り立った直後、ダークファルス【若人】(アプレンティス)の眷属である大型の虫系ダーカー『ダーク・ラグネ』の希少種、『ダーク・アグラニ』と遭遇。また、同時に沸いた大量のダーカーによって強襲されメンバーとはぐれてしまった。

 

ダーカー大量発生による影響か、それともそれ以外の何かが起きている為か通信が遮断されており、誰とも連絡がつかなくなっていた。なんとか合流しようと皆を探そうにも最近頻繁に発生しだした鳥系ダーカーも大量に出現しておりそれどころではない。

 

それに加え機甲種も襲って来る始末で一度立て直す必要があった。

 

偶然見つけた広い施設に入り込み一息つこうと思って言った矢先に降りてきたのがこいつだった。

 

『ブリュー・リンガーダ』

 

鳥系ダーカー出現と共に現れるようになった巨大ダーカーだ。鳥のような頭に馬の体。そして上半身と下半身それぞれに2本ずつ腕をもっており、上半身の腕が翼に納刀された刀を、下半身の腕が槍を持ち攻撃してくる今までのダーカーとは違った異形のダーカーだ。

 

そんな奴が倒しても次、倒しても次と現れるとなるとさすがの自分もコマチではないが叫びたくなる。

 

「いい加減に…しろぉぉぉ!」

 

この日のダーカー出現率は過去最高クラスとなり、後に新たな仲間となる『クロノス』なる少女を連れてきたオキと合流した時には【若人】も出現していたという情報を聞いた。

 

あの日は忘れない。地獄のようなあの採掘場跡地の戦いを。そして何度も襲ってきたあのダーカーを。

 

 

 

「たしかにあの時は楽しかったさ。今までにない強さをもって、俺と同じカタナをつかって。こんな倒しがいのあるやつがいるんだと。でも、ここまできてお前と遊ぶ気は一切ないよ。」

 

『ヒョオオオオ!』

 

赤いオーラを纏い突進してくるブリューをサイドステップでよける。このあとは大抵あの攻撃だ。すぐさま反転し、ブリューへと距離を詰めた。

 

「思ったとおりだ。」

 

突進から反転しこちらに向いたブリューは上半身につけている輪っかを槍の前に浮かせこちらを狙う。

 

 

ゴォォォ!

 

 

ブリュー・リンガーダ最大の攻撃、竜巻によるなぎ払いだ。

 

巨大なリングから繰り出されまるでビームのように伸びる竜巻をなぎ払ってくる。当時のアークス達はこれにより何人もの犠牲者が出た。

 

「やっぱりこのゲームでもここは安置か。」

 

この攻撃は槍とリングの先から攻撃が繰り出される。つまりそれより前、ブリューに触れる程近づけばまったく攻撃は当たらない。むしろ一度攻撃を始めると終わりまで動かなくなるこいつに対して一方的に攻撃を仕掛けるチャンスともなる。

 

「一ノ太刀…一閃!」

 

居合の構えから横に素早い抜刀。ユニークスキル『抜刀術』のSSがブリューの体に斬りかかる。

 

「二ノ太刀…華扇!」

 

一度納刀し、更に攻撃を加える。今度は抜刀から下に一閃、直後上へと往復し弧を描くように飛び上がる。

 

ブリューは竜巻の攻撃を終え、輪を自分の体へと戻す体勢に入った。

 

「遅い…三ノ太刀。三段突き!」

 

刀を顔を同じ位置に、刃部を上に向け地面と水平に構える。そこから繰り出されるは3回の素早い突き攻撃。

 

『抜刀術』を手に入れスキルを地道に上げていき今では5個のSSが使えるようになった。初めは単体でそれぞれ使っていたのだが、ある日オキと練習している際に一から三ノ太刀が繋がる攻撃だと気づく。SSは基本として使ったあとにスキルストップがかかり、レベルの高い攻撃を出せばその分比例して硬直する時間は長くなる。

 

だが、この『抜刀術』は条件下でそれを無視する事ができると判明した。それは決まった順序でSSを連続でつなげること。また、コンボをつなげることにより、元々のSSの火力よりも大幅にアップさせ繰り出すことができる。

 

『ヒョォォォ!?』

 

顔面に鋭い突きをくらったブリューは吠える。地面に着地したハヤマはSS後の硬直で動けなかったがそれブリューもクリティカルに攻撃をくらい怯んで動けない。

 

「ほんと、大したスキルだね。」

 

初めてこのスキルを本格稼働させてみたが、やはり自分に合っている。

 

SS同士を繋げることによってその間SS後の硬直をなくすことができる。そしてその順序を終えると硬直するという仕組みだ。

 

繋げるタイミングはかなりシビアであり、失敗するとSS後の硬直が待っているがカタナ一筋で生き抜いてきた自分からすれば難易度は高くない。何度か練習すれば安定してつなげることができるようになった。

 

また、アークス時は数々のPAを繋げて戦い、どのPAが繋がり、どのような使い方をするという考案をするのが好きだった為、今回手に入れたこのスキルは自分にどハマリしている。

 

『ヒョオオオ!』

 

怯みから立ち直ったブリューは胴体のリングを空中へと解き放つ。そして持っている槍を振り回してきた。同時に硬直が解除され、素早く後ろに下がる。

 

今度は反対側の腕の持っている槍を振り回してきた。

 

「よっと。」

 

それをジャンプでよけ、着地後に素早くブリューへと近づいた。

 

「はぁぁぁ!」

 

抜刀術を手に入れてから、今までのカタナの扱いと違い普通に攻撃を加える際も納刀から抜刀への攻撃が可能になった。これによりアークス時の時とまったく一緒の攻撃の仕方ができるようになる。更に無理やり合わせていたPAの形も自然な形で繰り出す事ができるので今まで以上に攻撃のスピードをあげれるようになった。

 

「ツキミサザンカ! ゲッカザクロ!」

 

空中へ弧を描く斬撃を描きながら飛び上がり、そこから下への切り下げから一気に入り上げる。

 

ブリューはこちらを遠ざけようと両腕の槍両方をつかって回転攻撃を繰り出してきた。

 

「甘い!」

 

後ろへと下がりそれをよける。ちらりと空中に浮いている2個のリングを横目で捉えた。

 

リングはクルクルと回転しながらあちこちを飛び回り、赤黒い火の玉を地面に這わせながらこちらへと攻撃してきた。

 

「やっぱり一緒か。」

 

今までの傾向から攻撃パターンは一緒だと見ていたがやはりこの攻撃の仕方もやってきた。ならば尚更やりやすい。

 

地面すれすれに飛んでいるリングに標的を変え、輪に走って近づき、一つに攻撃を加えた。

 

「一ノ太刀 一閃!」

 

『ヒョォォォ!』

 

ブリューもそれをさせまいとこちらに向いて槍をクロスさせ衝撃波を繰り出してきた。

 

「二ノ太刀…華扇!」

 

SSを繋げ、攻撃によりジャンプすることを利用して衝撃波をよける。そしてそのまま突きの構え。

 

「三ノ太刀…三段突き!」

 

素早い三段の突きを繰り出す。攻撃を当てた直後にリング表面にヒビが入ったのが見えた。

 

「もう一回やれば壊れるかな?」

 

SS後の硬直。ブリューが近づいてくる頃には解除され再び輪に向かって攻撃を当てる。

 

「はぁぁぁ!」

 

ブリューのリングはクルクル回りながらエリアを動き回る。それを追いかけながら一振り、二振りとカタナを振っていき、隙を見る。後ろからはブリューが追いかけてきておりいまのところ距離は詰められていないが、いつ攻撃してくるかわからないため警戒はしておく。

 

「ハヤマどの! 地面を何かが這って来ておるぞ!」

 

「わかってる!」

 

シャルが扉から様子を見ていたのかこちらに警告をしてきたが、それはわかっている。

 

もう一つ。動き回っている輪がある。そっちをちらりと見ると、地面に這い回る衝撃波を撃っていた。

 

「っよ! ほっと!」

 

ジャンプしながらそれをよける。脳裏にはあの『採掘場跡地』での戦いが思い浮かぶ。

 

「っへ。お前の動きは見え見えなんだよ!」

 

本体の攻撃を避けながら、リングへの攻撃を進める。

 

「はぁぁぁ!」

 

 

キィン!

 

 

1個が壊れた。これで目障りなのが一つ消えたが、目的はそうじゃない。

 

目標をもうひとつの方へと変更する。

 

『ヒョオオ!』

 

ブリューも後ろを追ってきている。いまのところ変化はない。相手のレベルはかなり上だ。攻撃をまともに喰らえば痛いじゃ済まないだろう。

 

「だから、さっさと片付けるよ。」

 

別のリングに攻撃を加え出す。

 

「一ノ太刀、二ノ太刀!」

 

再びコンボをつなげていく。だが、ブリューはそれをさせまいと邪魔をしてきた。

 

空中で防御をし、しっかりと耐える。

 

「っぐ…。あっぶねぇ! 三まで行けなかったか。」

 

ブリューの槍を防御したとは言え、HPは思った以上に減った。

 

リングはまだヒビが入っていない。もうすこし攻撃する必要がある。地面に着地後、すぐさまブリューから離れた。

 

『レベルの差がここまで出るとはね。思った以上に痛いな。』

 

再びブリューはリングを自分の身体に纏い、こちらへと突進してくる。

 

『ヒョオオ!』

 

「させるか!」

 

避けざまにブリューの足に向かって一閃を喰らわせた。

 

『!?』

 

足を攻撃されたためか、ブリューが一瞬ひるみ突進からバランスを崩す。

 

「やりぃ! いくぜ! フルボッコ!」

 

膝を付いてひるんでいるブリューに向かって走り、空中へとジャンプした。

 

「ニノ太刀、三ノ太刀! 三段突き!」

 

今度はニノ太刀から攻撃を開始する。空中から一気に下へ向かい切り刻み、再び上へ弧を描く。そのまま空中での三段突き。

 

一連の攻撃が全てリングへと当たる。

 

 

パキィン!

 

 

『!?』

 

ブリューがその場で怯み、倒れる。そして胸部に赤いコアが出てきた。

 

ダーカー種に必ずあるコア。小型はそのまま露出しているが、大型になればなるほどそれを隠している場合が多い。

 

ブリューも胸部に隠しており、普段はカバーのようなもので覆っているが、リングを全て破壊することでブリューは一時的に行動不能となる。その時に胸が開きコアが露出する。

 

「一ノ太刀…一閃! 四ノ太刀…陽炎!」

 

横一閃から左右に往復しながらすれ違いざまに4回の斬撃を入れる高速移動での攻撃。あまりの高速の為に霞んで分身の様なものが見えるらしい。

 

そしてそのあとに再び鞘へと入れ、力を溜める。

 

「くらえ! 五ノ太刀! 五月雨!」

 

5回の同時居合い切り攻撃。居合いから五本でる斬撃。攻撃を食らったモノはあまりに同時の攻撃のためによけきれないとか。

 

 

ガキン!

 

 

ほぼ同時にコアへと放たれた5回の攻撃。それによりブリューの残りHPはがっくりと減る。さすがゲームバランスを崩すといわれるだけはある。

 

「まだ、倒れてる時間があるか。コレなら全部つなげることができるな。」

 

一旦離れ、HPを回復する。先ほどの攻撃で減った分を回復し万全の状態にした。

 

ブリューは再び立ち上がり、リングを再び形成する。

 

『ヒョオオオオ!』

 

翼に仕込まれたカタナを抜き、大きく吼えた。

 

「怒ったか。」

 

ブリューは自分がピンチとなると本気を出してくる。その変化のときに必ずカタナを抜くのだ。

 

ココからは先ほどよりも攻撃が鋭くなり、攻撃量も増える。

 

リングが再び空中へと放たれ、ブリューもそれに続く。

 

こちらもブリューの攻撃に注意しつつリングへと目標を定める。

 

『ヒョオオ!』

 

槍をクロスさせ放つ衝撃波。先ほどまでは1個だったのがさらに左右斜めへと飛んでくる2個の衝撃波がカタナから発せられる。

 

それをジャンプでよけ、リングへと攻撃を進める。

 

ブリューは近づき、槍の先を地面へと向ける。それを見た直後にすぐさまその場を離れた。

 

「やっべ!」

 

サイドヘステップした直後に槍の先が地面へと突き刺さる。それと同時に地面からブリューを中心に上へと円状の範囲内で衝撃波が伸びあがる。

 

そこからすばやく距離をつめてきたブリューは刀に手を置いた。

 

「居合い切り・・・!」

 

 

ヒュヒュヒュン!

 

後にバックステップをした直後、目の前に赤い斬撃が空中に多数現れる。反応がもう少し遅ければあたっていただろう。

 

「っへ! 当たるかよ!」

 

リングへと再び三ノ太刀までのコンボを繰り出し、一個、二個とリングを破壊する。

 

『ヒョオオ!?』

 

再び怯み、胸部にある小さな赤いコアが顔を出す。

 

「帰れ。かえるべき場所へ!」

 

一ノ太刀、一閃。横への居合い切り。二ノ太刀、華扇。上下に切り刻む。

 

三ノ太刀、三段突き。三回のほぼ同時突き。四ノ太刀、陽炎。体が二個あるように見えるほどの高速切り。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

五本の同時に放たれる居合い切り。それらが全て赤いコアへと放たれた。

 

「五ノ太刀・・・五月雨!」

 

『ヒョオオオオ!?』

 

ブリューのHPが一気に無くなり、弱弱しい一吼えの後に結晶となって消えていった。

 

「・・・動かん。」

 

やはり5個全てのスキルを連続でやると直後の硬直時間も長い。まだ、動かない。

 

「ハヤマ殿!」

 

シャルがこちらに走ってきて飛びついてきた。もちろんこちらは動けないのでそのまま抱きつかれることになる。

 

「シャル!? ちょ・・・まって! ・・・あ、やっと動いた。」

 

一度、シャルから離れ、落ち着かせた。

 

「すごいのじゃ! なんという動き! 火力! 全てがすごかったぞ! あれだけのレベル差がありながらのスピード! 一体・・・何をしたのじゃ!?」

 

そういえばシャルにも教えてなかったっけか。この『抜刀術』。

 

ま、丁度良い機会かな。初戦としては上々だし、弱点も動かし方もわかった。これからはそれを踏まえて攻略にも使えるだろう。

 

シャルに全てを話した。ユニークスキル。その仕組み、内容。そしてあいつの、ブリューの話。そのときに教えてくれた。先ほどシャルがなぜあのような状態となったのか。

 

どうやら昔、幼少の頃に行った動物園という動物を見て楽しむ場所で大量の黄色い鳥に頭をつつかれたらしい。何でもふれあい場とかで鳥に触れる事のできる場所らしいのだが、そこで誤って兄が彼女の頭に菓子を落としてしまったらしい。それをエサだと思った鳥達がいっせいに彼女の頭めがけてきたということだ。そりゃそんなことされればトラウマにもなるよな。

 

二人が壁に寄り添い昔話をしている時に、ボスのいなくなった広場の奥で宝箱が静かに光っていた。




皆様、明けましておめでとうございます!
2016年ですよ! 皆様の今年一年が良き一年でありますよう。

なんとかできました。ブリュー戦!
何度か採掘場跡地に潜り、資料用に観察しました。
その時にハヤマんと一緒に潜ってたのですが、かつての採掘場跡地実装当初の話でもりあがりましたよ。
冒頭の話のモデルともなった実話です。
キャンプシップから降りた直後(動いてないのに)目の前にソーマ&チェンジオーバー。倒してそこから先に進めばアグラニ&チェンジ(r。
逃げるようにエリア2に進み、これまた追いかけてくるようにエンプレス、倒した後ラグn(r
最後に追い打ちをかけるようにエリア3でのブリューは真っ赤。
これが初めて採掘場跡地実装当日の流れです。(後に地獄の日と呼ばれることに)

さて、抜刀術。ユニークスキルの一つがでましたね。あと持っていないのは?
次回をおたのしみに。


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第39話 「誠の紋」

70層。SAO、アインクラッド攻略も終盤に差し掛かった。
このころにはイレギュラーズこと、アークスメンバーはレベル100超えを次々と達成し、プレイヤー達も着々と力をつけていき確実に上へと足を進めた。


「強化クエと?」

 

珍しい客人が来た。ギルド全体にかかわる事ならともかく、個人的に客としてきたのは片手で数える位だろうか。

 

「その通りだヨ。タイチョー。」

 

ずずっと出されたお茶を飲むアルゴ。コトリとテーブルに置くと再び説明を始めた。

「タイチョーの持っている和泉兼定。その完全な姿を取り戻すクエが発生した情報を得たヨ。場所はそれを貰った場所だネ。」

 

ふむ、と自分のカタナに目を向ける。『兼定』。かの老人から受け取ったある志を貫き通した武人の刀。

 

偶にその人物の歩んだ歴史を聞くが、やはり心に残る。

 

「行ってみよう。アルゴ君、ありがとう。」

「久しぶりじゃの。若いの。」

 

「お久しぶりです。」

 

以前自分の本気をぶつけ、この刀を預けてくれた人物の元を訪れた。

 

「なかなかよく使ってくれているようじゃの。」

 

刀を見るご老体。その眼は優しく、それでいて武人としての眼でみるようにも見えた。

 

「はい。とても良い刀です。我が身を預けるにふさわしいと。」

 

うんうんと頷く老人。

 

「そうじゃのう。見ればわかる。そしてお主がここに来た理由も。」

 

老人が立ち上がるとついてこいと指示してきた。

 

「この先にはな。わしがかつて共に歩んできた者たちが眠る場所がある。」

 

森林を抜けると小さな社のある広場へと出た。

 

「お主ももう知っている通り、その刀はまだ本当の姿ではない。もしお主がその気があるのであれば。一晩ここで待つが良い。じゃが、命の保証は…できんぞ?」

 

何かが出るのだろうか。だが、恐れなどない。命を賭け戦ってきたのはいつも一緒だ。この刀の本当の姿が見れるのであれば。賭けるに値するだろう。外の世界で待っている相棒を手にした時のように。

 

「それに、死ぬつもりもない。」

日が落ち、夜となった社前。静かに座り、周囲にある灯と月明かりのみがあたりを照らす。

社の前で静かに座り、その時を待つ。何かが起きるその時を。

 

ヒュン…

 

「…!」

 

キィン!

 

誰も周囲に居ないはず。だが、急に誰かが襲ってきた。この感覚は刀だろう。

 

「誰だ。」

 

ジャリっと地面を歩く音と共に月明かりに照らされ、闇夜の中から一人の男性が現れた。

 

「ほう…。今のを防ぐか。」

 

頭上のカーソルはNPCを示している。あの老人が言っていた事はこの事だったのか。

 

着物姿で、その上からでもわかるがっしりとしていて尚且つ引き締まった体。整った顔立ち。そして月夜に光る眼を見ればわかった。

 

『できる…。』

 

男はふと自分の持っている刀に目を向けた。

 

「それは…なるほど。そういう事か。そなた、なかなかできる男だな。ふむ、どうだ? 一つ手合せ願えないだろうか。」

 

刀を構え、にやりと笑っている男。そして握っている刀を見てその男が何者かを把握した。

 

「…いいでしょう。」

 

相手の握っている刀。間違いなく『兼定』。つまりこの男は…。

 

「はぁ!」

 

男が上段から刀を振り下ろしてくる。それを横に避け、真横に振った。

 

「ふん!」

 

キィン!

 

それは弾かれ、男はそのまま前に出る。

 

「っぐ!?」

 

体当たり。そのままはねのけられ体のバランスを崩す。すぐさま体勢を立て直すも目の前にはすでに男の振り下ろす姿。

 

ギン!

 

「…やはり、なかなか動けるようだな。」

 

素早くそれをカタナで受け止める。

 

「これからです。」

 

弾き返し、素早く突きを入れる。しかし弾かれ横から切り付けてくる。

 

ギン!

 

こちらもそれを刀で受け止め弾く。

 

切って弾き、また切る。月夜の闇にカタナ同士がぶつかり合い火花を散らす。

 

『素早い上に押しの力もある。それでいて、フェイントまで!』

 

男の戦い方は時に大きく、時に細かくと隙が無い。

 

『強い…。ここまで強いと思った相手は久しぶりか。』

 

こちらも本気を出している。だが、それでもなお押される。人の身でありながらここまで強いのか。

 

『生きていた時代で、会ってみたかったものだ。』

 

今目の前で戦っている男が本当にこの強さだったのならば。いや、実際に強かったと聞く。

 

ジャリ!

 

「…目を!?」

 

「他の事を考えてる暇はないぞ。」

 

地面の土を足で巻き上げ目くらましに使ってきた。目が見えない。これはまずいな。

 

ひゅん!

 

冷静に後ろへと下がり、目に入ったごみを素早く取り除いたために、男からの攻撃は回避できた。

 

「ほう。戦い慣れてるな。」

 

「こういう攻撃を受けたのは初めてだが、慌てる事でもない。」

 

二人してニヤリと笑い、直後に剣を重ねあわせる。

 

次の一手は。次の次は。相手の動きを予想し、その上を行く。ここまで楽しいと思ったのはいつ以来だろう。

 

採掘基地防衛戦? 【巨躯】や【敗者】? それとも…もっと前。あのエレベーターでの戦いか?

どれだけ剣を重ねあわせただろう。どれだけの時間、剣を弾き返しただろう。

 

息が上がってきている。向こうも一緒だ。

 

ギィン!

 

双方一度距離を取った。

 

「ここまで楽しいのは久しぶりだった。昔の仲間たちを思い出す。ありがとう。」

 

傾いた月の光が彼を照らす。気が付けば茶色の着物姿から青と白の羽織へと変わっており、額に鉢がねを装備していた。

 

そして更に気づく。周囲には同じ羽織を着た男たちがこちらを囲んでいた事に。

 

あちこちには旗が立てられそこには羽織と同じ色と一つの文字が刻まれていた。

 

「誠…。」

 

「そう。私たちの紋だ。…さぁ終わらせようか。 新撰組 副長、土方歳三。参る!」

 

凄い気迫だ。押しつぶされそうになる。だが、こちらも負けるわけにはいかない。帰らねばならない。あの場所に。仲間の元に!

 

「アークス、怪物兵団 団長。アインス。参る!」

 

再び剣が重なり合わさる。左右に、上下に。フェイントを入れつつ相手の隙を突く。

 

刀だけじゃない。身体も使い、足払い、蹴り、時には手も出し、相手を倒す事だけを考える。

 

最後の一撃を入れる為に。

 

相手の体力はあれだけやっておきながら殆ど削れていない。ならば『あの』一撃に賭ける。

 

「はぁ!」

 

相手から素早い突きが飛んでくる。こちらに届く一瞬の間に次の行動を考えた。

 

横に弾くか。避けるか…。否!

 

ドシュ!

 

「なに!?」

 

「受ける。」

 

相手の腕は間違いなく俺より上だ。隙を作る為にはそれを越えなければならない。横に弾くことも、避けるにしても相手はそれを二手も三手も先まで読んでいるだろう。これではいつまでも続く。ならば『止める!』

 

手のひらから無理やり抜き、今の一瞬で相手の腕に自分の腕をからませ、頭突きを顎にかます。

 

「っが!?」

 

フラフラと離れていく相手に向かって更にその場から蹴りを入れる。

 

「ぐう!」

 

吹き飛ばされまいと防御をするも、力はいらず完全にバランスを崩す。

 

「あなたに、感謝を。」

 

片腕は使えなくなっているが、もう一方の腕に刀を持ち、腰を低く下げ力を貯める。時間は足りるはずだ。

 

相手が立ち直ったと同時に下から切り上げられた巨大な一撃を放つ。

 

斬!

 

アークスのPA『カザンナデシコ』や『オーバーエンド』のような巨大な光の刃を作り出し、斬る。

 

ユニークスキル『月光剣』。他のSSと違い、出し際に力を貯める為の硬直時間がある。

 

他のSSの硬直時間平均よりも長く、相手の隙を作る必要があるスキルだが、一撃放てば大火力が相手に襲い掛かる。

 

土煙が舞い上がり、収まるころに土方は地面に倒れていた。

 

「くくく、はっはっは。これはたまげた。あのような切り札をお持ちとは。」

 

「切り札は、最後まで取っておくものです。」

 

確かになと言いながらゆっくりと起き上がった。

 

「ほれ。受け取るがいい。」

 

「!」

 

土方が刀を投げてきた。それをしっかりと受け取る。

 

「これは…。」

 

「私の使っていた刀だ。そなたが振るっているそれは私の兄弟刀。同じ名を持つ刀だ。そして今渡したそれが『和泉守兼定』。生前、使っていた刀だ。よければ受け取ってくれ。」

 

目を瞑り、その刀に詰まった思いを受け取る。

 

「わかりました。心して受け取りましょう。」

 

「うむ。…よき時間だった。」

 

光の粒となって笑顔で、満足そうに消えていく男を見守った。

「いい話にしようったってそうはいかないよ。無茶しすぎぃ!」

 

「はっはっは。」

 

隊長が帰ってきたときに腕が片一本ほぼおしゃかになっているのをみてギルドメンバーが騒いだために大急ぎで駆け付けた。その時に今回の話を聞いたのだが、全く隊長ってば。

 

「もー。ゲームだったからまだ大丈夫だけど、いくらアークスだからと言って手のひらに刀さして無事じゃすまないでしょ。」

 

「だが、他の手を考えたが手だけじゃ済まなかっただろう。そう考えるのであれば腕一本ぐらい命あれば安い物だ。」

 

隊長らしいと言えば隊長らしいのだろうか。実際自分も同じ立場だったならどうするかと想像したが同じことを考えてつい吹き出した。

 

「で? それが本当の姿?」

 

「ああ。『和泉守兼定』。かつて彼が手にし、共に戦ったと言われる。」

 

「たいちょーがここまでやられるなんて、驚きです。自分も見て見たかったですが、同じ立場だったら間違いなく死んでたと思います。」

 

ソウジが震える。彼も一番隊隊長、沖田総司の持っていたとされる『菊一文字』を狙っている。

 

だからこそ今回の『新撰組』の情報は彼にも大きなものだっただろう。しかし同じようになったなら戦えるだろうか。いや、無理だろう。そうつぶやいていた。

 

「なんだか楽しそうだね。隊長。」

 

「ん? ああ。強かったよ。彼は。」

 

「そう。なんだか俺もうずいてきちゃった。ちょっと外で体動かそうかな。」

 

「付き合うよ。オキ君。」

 

隊長が立ち上がろうとしたが、女性陣から肩を抑えられ再び椅子に座らされる。

 

「「「隊長は暫くじっとしてて!」」」

 

困った顔してもダメだよ。腕治してからね。

74層に到達した直後にはイレギュラーズのコマチがレベル110を突破。最低でも105超えとなった。

 

武器もそれぞれが新調した。俺が『十文字朱槍』。ハヤマ『多々良之上白雪』。コマチ『阿修羅』。ミケ『ジャックザリッパー』。アインス『和泉守兼定』。それぞれが高レアクラスであり頭一つ飛びぬけている。

 

また、ユニークスキルも10個あるうち半分以上が出そろい、キリトの二刀流も攻略組の主戦力として活躍しだした。

 

攻略途中のある日。自分の家で休んでいたキリトは近く周辺の森の中で幽霊が出るという噂を聞きつけた。

 

幽霊系が苦手なアスナがそれを聞いて嘘か本当かを調べる為に森へと出かけた。

 

「ちょっと、離れないでよ?」

 

「ははは。アスナは怖がりだな。今の所何もいないじゃないか。」

 

この階層にはエネミーが一切出現しない特殊な階層だ。なのでエネミーである事はまずありえない。そうなると可能性としてはイベント系かなにか。興味をもち森を進むキリトにぴったりとくっつきオドオドしながら歩くアスナ。

 

「…ん?」

 

森の中で何かが動いた。

 

「アスナ、待った。」

 

「え? なに!?」

 

「ほら、あそこ。」

 

森の中で白い何かが動いている。いや、あれは…!

 

「キリト君!?」

 

森の中へと入り、走ってその白い服を着たモノに近寄った。

 

「やっぱりだ…。おい、大丈夫か!?」

 

「キリト君! え? 女の子?」

 

森の中で動いていたのは白い服を着た小さな小さな少女だった。




皆様ごきげんよう。
いや、つらいっす。対人戦の描写。難しすぎ!
思った以上に書けなかった…。(隊長ごめん

さて、とうとう74層まで登ってきましたね。
キリトとアスナの絆の証でもあるあの子ついに登場!
次回、「ユイの心」。お倒しみに。


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第40話 「ユイの心」

1人の少女を森の中で見つけ、自分の家へと連れて帰ったキリト。
彼と、恋人アスナ。二人と少女の運命の出会いが訪れる。


「こんなところに一人だなんて…。」

「ああ。いくらここの階層がエネミーでないとはいえ。」

森の中でみつけた気を失った少女を家におぶって帰り、ベッドに寝かせ次の日の朝。彼女はまだ起きない。

白いワンピースに黒い長いロングストレートの髪。年齢は10歳くらいだろうか。カーソルで確認すると名前は『YUI』と書かれていた。

「ユイちゃん。もし親がいないのならば一人でさみしかったでしょうね。」

アスナがユイの頭をなでる。

「いればいいんだが…。」

1層には10歳にも満たない子供たちの世話をしている人がいるとオキから聞いたことがある。もしかしたら何か知っているかもしれない。そう思っていたところ、ユイが目を覚ました。

「ん…。」

「キリト君!」

「ああ。大丈夫か?」

眼をこすり、キリトとアスナを交互にみる少女。

「ここ…は。」

「ここは22層の俺の家だ。俺はキリト、こっちはアスナ。」

「…。」

「パパとママはどこかにいる?」

もう一度目をこすり再び二人を見るユイ。

「パパ…。」

「へ?」

キリトを指差し、パパと呼ぶユイに目が点になる。

「ママ。」

アスナをママと呼ぶユイ。それを聞いて彼女の親がいない事を確信する。いるのであれば自分達の事を親とは言わない。

アスナ涙を出しながらユイを抱いた。

「…そうよ。私がママよ。」

「ママ…ママ!」

一瞬ポカンとしたが、アスナと同じ気持ちを感じ、ふたりを包み込むように抱く。

グ~…

ユイのお腹が鳴る。それを聞いてユイは顔を赤らめ、皆でほほ笑んだ。

「おなかが空いたのね。すぐに作るわ。」

「そういや俺も腹減ったな。」

朝起きてからずっとユイのそばにいたので朝ごはんをすっかり忘れていた。

アスナはすぐに料理を作り、リビングのテーブルの上に出した。

「さぁ召し上がれ。」

「いただきます。」

「えっと…。」

少し戸惑っているユイ。

「遠慮しなくていいからな。ここはユイの家なんだから。」

ユイの頭をなでると安心したのか笑顔になる。

「そうよ。なんていったってパパとママなんだから。」

「…はい! 頂きます!」

テーブルの上に並んだサンドイッチに手を伸ばし一口食べる。

「んん! おいしいです! ママ!」

「うん! ありがと。ユイちゃん。」

「ママの料理の腕はアインクラッド1だからな。」

「私もそう思います! ママの料理はアインクラッド1です!」

「もー。おだてても何も出ないよ。キリト君。」

「ははは。」

本当の家族のような朝。実際に娘がいたならばこのように幸せな感じなのだろうか。

だが、今はわかる。幸せだ。

「ご馳走様。」

「ごちそうさまでした。」

「お粗末様。ねぇユイちゃん。ユイちゃんはどこから来たの?」

アスナがユイに聞く。ユイはんーっと考え申し訳なさそうな顔をした。

「すみません。わからないんです。どこから来たのか…わかるのは自分がユイという名前だけ。」

アスナと顔を見合わせる。

「どういう事だろう。」

「分からない。うーん…。」

ピコン

頭を全力で回転させ悩んでいる最中にメールの音が頭の中で鳴り響いた。どうやらアスナも同じらしい。

「メール? オキさんからだ。」

ギルド定例会の日だという事をすっかり忘れていた。普段なら欠席しても構わないというオキだが、本日の議題は迷宮区が見つかったという内容なので全員参加する必要がある。

「どうしよう。ユイちゃんを置いていくわけにもいかないし…。」

「連れて行こう。オキさんに事情説明すれば、ギルド拠点に入れてくれるくらいはしてくれると思う。」

流石にダメだとは言わないだろう。そう思いユイに近づいた。

「ユイ。今からパパの仲間の所に一緒に行こうな。」

「はいです!」

お腹いっぱいになったからか、安心したからか、先ほどよりも元気に返事した。

「…お前らいくら愛し合ってるからって子供ははえーんじゃねーか?」

オラクル騎士団ギルド拠点にて、オキさんに事情を説明しようとした時にユイと自分達をみて第一声がそれだった。

「あの、違うの!」

「そうそう。子供はまだ早いのはわかってるから!」

キリトのまだという発言にアスナの顔が真っ赤になる。冗談なのはわかっている為、事情を説明する。

「なるほどな。迷子か。ふむ。迷子の連絡でも流して…おい、その子大丈夫か? フラフラしてるぞ?」

「ユイ? 大丈夫か? ユイ!?」

バタリ

急にフラフラとしだしたユイが気を失ってしまった。アスナがユイを揺さぶるが息が荒く苦しそうにしている。

その時だ。

ジジ・・・

「え!?」

ユイの体にノイズのようなものが走る。目を見開くオキの横に光の集合体が現れた。

「シャオ? どうした。 ちょうどいい。この子が倒れた。何か変なもんでも…。」

「驚いた。ここまで完璧な人工知能まで作り上げていたのか。」

シャオの言葉に皆が驚く。『人工知能』確かにそういった。

一度、オキの家のベッドに寝かせたユイをアスナが見守り、シャオが彼女の本当の姿を説明しだした。

「彼女、ユイはMHCP-001。『メンタルヘルスカウセリングプログラム』と呼ばれる、プレイヤー達の心を守る人工知能だ。」

「人口…知能? ユイちゃんが?」

アスナも俺もシャオからの言葉に驚きを隠せない。

「本来、このバーチャル世界で長期間プレイしていると人の心は負の感情にあたりやすくなることから、彼女、ユイはプレイヤー達のメンタル、つまり精神を安定させるためにプレイヤー達の前に現れては手助けをし、正の感情へと変化させる。だけど、このゲーム開始時からカーディナルから隔離され、プレイヤー達の負の感情ばかりを見せられ、本来の仕事を行う事が出来なかった。そしてここからはあくまで推測だけど、負の感情を治すに治せない。そんなエラーが蓄積していた彼女の前に正の感情を持った二人の前にどうやってかして会いに来た。と、僕は思う。」

「なるほどな。自分の仕事をやるにできない。挙句皆の負の感情、恐れ、怒り等ずっと見て来たんだ。そりゃ…きついわな。」

オキもその話を理解したのかユイの頭をなでる。

「つらかったろうに。…で? 出てこれたならなんでこうやって倒れてる。」

「それが僕が出てきた理由の一つ。今、カーディナルに黙ってもらっているけど、彼女は…ユイはバグの一つとして処理されようとしている。」

「そんな!」

「なんでだよ!」

アスナと同時に叫ぶ。つまりユイは消されようとしているという事。

「元々彼女は隔離されていた。だから何もされなかった。でも今はこうして外に出てきちゃってる。カーディナルの思い通りに進んでない以上はバグとして感知されたんだろう。」

「シャオ、何とかならないのか?」

オキが唸る様ににらんだ。

「そう睨まないでよ。そう思っているだろうと思って僕は出て来たんだから。」

そんなことはさせないとシャオは対策案をだす。

「1層、みんなが黒鉄球って言ってる場所。そこに地下ダンジョンがある。その最深部近くにカーディナルへ直接繋がる事が出来るコンソロールがある。そこへいってほしい。そこで僕が彼女をカーディナルから切り離す。」

シャオはプレイヤーが近くに居なければ実体化できないという。だが、実体化できればコンソロールを使って彼女を消すプログラムを起動できないようにできるらしい。もう少し時間があれば直接自分自身がシステム干渉できるのだが、まだそれが出来ないらしい。

「時間をかけていたら、今はカモフラージュしているけど直ぐに見つかっちゃう。だから時間をかける事は出来ない。これが最善の方法だ。」

「切り離した後、どうなる。」

「…このゲームは攻略と同時に消されるプログラムを見つけた。つまりここと同時に消えることになる。」

それを聞いていても経っても入れなくなって叫んでしまった。

「そんなことさせてたまるか!」

アスナが肩をさする。オキもこちらの頭を軽くたたいた。宥めてくれたのだろうか。

「安心しろ。お前のさっきユイちゃんと一緒にここに来た時の顔。すっげえ幸せそうな顔だった。ユイちゃんも、アスナも。消されるなんてさせるか。シャオ、なんとかできねーか?」

「候補としてはやり要はいっぱいある。確実なのはボクとつなげてオラクル船団内に保存する。」

シャオとつながるならとオキは安堵の顔をしている。だが…それじゃあだめだ。

「いや、シャオ。俺のギアに保存できるか? 空き容量は充分のはずだ。ユイは…俺とアスナをパパ、ママと呼んでくれた、俺とアスナの大事な子供だ。だから…。」

シャオは少し黙って再び口を開いた。

「大丈夫そうだね。今確認した。」

その時、ユイが目を覚ました。

「ユイちゃん! よかった…!」

アスナがユイを抱きしめる。ユイもアスナを抱きしめた。

「ママ…ごめんなさい。心配をおかけしました。そして私が誰なのかを思い出しました。」

ユイは語った。シャオの予想通り、負の感情を干渉しすぎエラーを蓄積したユイは正の感情に気づき、それを確かめるべく会いに来たそうだ。シャオ曰く、彼女が出てこれたのはオキ達アークスが活躍し、皆を負の感情に囚われにくくした為の可能性があるという。もし、アークス達がいなかった場合もっと悲惨な状況になっており、彼女はすぐにでも壊れていたと。

「…ごめんなさい。私は…。」

「いいんだよ。ユイ。ユイがなんであろうと、ユイが望むなら俺はパパでいるし、アスナもママでいる。それにここには頼もしい人たちもいる。安心していい。」

ユイの頭を撫で、抱きしめる。

「パパ…パパ。」

暫く沈黙が流れる。それを切ったのはオキだった。

「ようし。定例会はキャンセルした。1層に向かうぞ。さっさとやってしまおう。」

「オキさん…ありがとう。」

「いいって。俺じゃなく、シャオに言え。」

「ボクはオキの行動を読んでいるだけだよ。オキを怒らせたら怖いからね。」

「おい、そりゃどういう意味だ。」

皆で笑った。

1層。黒鉄球。ここを拠点にしているディアベルら率いるアインクラッド解放軍のギルド拠点を訪れ、皆に状況を説明した。

「なるほど。この子が…。」

「普通のかわいらしい女の子にしか、みえんなぁ。なぁシンカーはん、ユリエールはん。」

「そうですね。普通の女の子だとばかり。」

「私は本当にお二人の子供かと…ほら、髪の毛はキリトさんに、目はアスナさんに似ています。」

幹部のシンカーとその恋人でもあるユリエール。ユリエールの言葉に皆がなるほどーと納得し、アスナと二人で顔を真っ赤にしていた。

「こんど、サーシャはんの所、子供たちの所に連れて行くとええやろ。みんな仲ようしてくれるはずや。」

キバオウは子供好きで、ユイ位の子供たちを世話しているサーシャと呼ばれる人の場所へ行くそうだ。評判をあとで聞いたら中々人気らしい。

「地下への入口は?」

「あそこだ。…む? メールか。失礼。」

ディアベルがメールを確認している最中にオキと一緒に装備の確認をする。

「何が出るか分からん。準備は大丈夫か?」

「ああ。万端だぜ。それにアレも安定してできる様になった。」

「まじか! ようやくだぜ。それを待っていた!」

75層のクォータポイントのボスに対応できる様、オキさん、ハヤマさんと特訓中に考案した技。

初めは全くできなかったが、二人のアドバイスにより、最近ようやく完成の目途が立った切り札。

「オキはん、キリトはん。わいらもお供しまっせ。地下に行けばいくほど、エネミーはつよぉなる。人数が追った方が楽になるやろ。シンカーはんにユリエールはんも大丈夫でっか?」

「うん。大丈夫だよ。お二人にはいつもお世話になってるし。ね。」

「そうね。こういう時こそ、お礼を返さないと。」

3人共武器やアイテムの準備をし出す。

「みな、ありがとう。」

「ありがとうございます…。」

ユイも一緒に頭を下げる。

「ほんま、ええ子やなぁ。ようできとる、ええ子や。」

なんで涙まで流すキバオウ。

「まずいな…。オキくん。そちらを任せてもいいか?」

ディアベルが難しい顔をしてこちらに帰ってきた。何かあったのだろうか。

「74層のダンジョン内でトラップに引っかかったとメンバーから救援要請が入った。今の所大丈夫なようだが、何があるか分からん。すぐに私が向かってくる。」

「なら、俺もいこう。二人でちゃっちゃと片づけて…おめーらに追いつく。地下の敵がどこまで強いかは分からねーが、今のお前達でも攻略ができねーとなると怖いからな。他の面子も呼びたいけど、みんな上だからな。いくぞ。」

「すまない。キバオウ君、シンカー君、ユリエール君。後は頼むぞ。」

「「「了解。」」」

「キリト。あれは決めれる時に打て。硬直時間を計算するのを忘れるな。」

アレの事を言っているのだろう。まかせてと手を振り、オキの背中を見送った。

本来ならユイは危ないので連れて行くのは危険だったが、シャオからの連絡で連れて行く必要があるという。

出来るだけユイを中央に置き、キバオウ達に守ってもらえることになった。

「せっかくや、こんな場所やけど家族団らんでピクニック気分でも味わっときぃ! ワイらに任せときな!」

「キバオウ…。」

感謝でいっぱいだ。ありがとう。

「キバオウさん…こんなダンジョン内でピクニック気分は…。」

ユイは楽しそうだ。アスナと俺の間に入り、右手を俺が、左手をアスナが握り3人横一列で楽しそうに歩く。

その姿を見てシンカーは前言撤回した。

最初の方はエネミーも少なく、レベルも凄く低い。その為高レベル帯であるキリト達には目も向けなかった。

これなら暫くは楽が出来そうだ。

「ん? あれはスカペンジトードやないか。こんなところにおったんや。」

「知ってるのか? キバオウ。」

「アインクラッドの珍味と呼ばれる『スカペンジトードの肉』をドロップするそうです。」

ユイが急に説明をし出した。聞くとユイはシステム側に干渉できるみたいで少しだけなら情報を引き出せるが、あまり無理するとカーディナルに見つかるらしく、詳しい情報は入手できないとか。

「ほう。嬢ちゃんようしっとんな! あの肉ごっつ好みやねん。」

それを聞いてシンカーとユリエールは青ざめた顔をしている。どうやら余りいい味ではなさそうだが…。なんでキバオウはあんなに笑顔なんだ? そんなにうまいのだろうか。

「すこし興味があるな。」

二本の片手剣を両手に持ち構える。

「お? キリトはんも興味あるんか? せやな。嬢ちゃんにでもいいとこみしたり。ほら、パパがんばれーって応援したりーや。」

「はいです! パパ、がんばってー!」

そんなことされたら頑張るしかないじゃないか。張り切って大量の大型カエルのエネミー群に立ち向かっていった。

「もう、キリト君! それ誰が料理すると思ってるの? あまり程ほどにしといてね?」

アスナにくぎを刺された。

張り切ってカエルたちを切り刻み、ユイにかっこいい所を見せれたと思う。

「パパ、かっこよかったです!」

「ありがと、ユイ。」

つい張り切ってしまった。アスナはカエルの肉をどうやっておいしく料理できるかを考えており、ぶつぶつと先ほどから呟いていた。

更に潜り、長い一本道の通路へと出た。なにやら雰囲気が怪しい。

「この先にあるみたいです。」

「きぃつけぇや。何か嫌な予感するで。」

キバオウも、シンカーも、ユリエールも様子がおかしい事に気づき、武器を構える。

「エネミーがいないね。」

「ええ。気を付けて。何が出てきてもいいように。」

少しずつ、少しずつ進んでいく。

「見えました! パパ! あれです!」

通路の先に光る部屋が見えた。

「そこか。…!?」

索敵スキルが何かに反応する。しかもかなりの高レベルの反応。

「気をつけろ! 何かいるぞ!」

「…後ろ!」

アスナがすぐさま反応し、それに攻撃を仕掛けた。

「な、なんやこいつ!」

「死神…!?」

キバオウも、シンカーもそれを見て驚く。骸骨の顔。黒いマント、特に目を見張るのは巨大な大鎌。

どう見ても死神である。

「あそこはセーフティエリアです! 走ってください!」

ユイが指をさし示した

「キバオウ! ユイを!」

「まかせりぃ!」

キバオウがユイを抱え、それを守る様にシンカーとユリエールが両脇を固め部屋へと走る。

「パパ! ママ!」

「大丈夫だ! 任せておけ。 …『デスサイズ・ヘル』か。」

「レベル105。かなりの強敵ね。」

100台なら何とかなる。自分が97、アスナが96だ。ギリギリ範囲内。それに…。

「こちらには二刀流がある! おおお!」

「はぁぁ!」

アスナの強力な突きが死神にあたり、アスナにヘイトが向いた。

「キリト君!」

「スターバースト・ストリーム!」

二刀流の強さは二本の片手剣の攻撃力の合計からダメージが割り出される。つまり普通の片手剣の二倍の火力。そして何より恐ろしいのは…。

「流石、キリトさんだね。物凄いスピードの攻撃の回数だ…。」

「うん。私達じゃ到底及ばない…。」

シンカーとユリエールもキリトの戦いは何度か見たことがある。キリトの二刀流は何よりも攻撃の回数だ。

「流石二刀流だね。敵に攻撃をさせないほどの連撃。さて、ボクも仕事に移らないと…。」

子供の形をした光の塊が小部屋の中に現れた。シャオは小部屋の中央にある大きな四角い石に目を向けた。

「…ダメか。あれを倒さないと。キリト! それを倒さないとだめだ! コンソールが使えない!」

「わかった!」

スターバーストストリームは16連撃からなる高速の連撃。かなりHPを減らせたようだ。だが、まだ…まだいける!

相手が大鎌を振り回してくるが、それを避け攻撃を入れる。

二人の息の合った攻撃は死神に攻撃を許さない。

「はぁぁ!」

技の隙をついてアスナのSS『ペネトレイト』による3連続の突きが死神に食らいつく。それにより死神は怯んだ。更にSSの付与効果で相手に防御力低下のバッドステータスが付いた。

「キリト君! スイッチ!」

「ナイトメア・レイン!」

更に16連撃の高威力の二刀流SSを放つ。高レベルの敵は命中力が無いと攻撃が当たらない場合が多いが、このSSは命中補正がかなり高くついている。そのおかげですべての攻撃がクリティカルでヒットした。

『オオオォォォ…。』

死神のHPが更にごっそり減る。死神は一度姿をくらまし、周囲の闇に溶け込んだ。だが、これならいける!

その時だ。

「え?」

「っな!?」

急にHPが半分以上減った。一体なにが起きたのだ!? 死神が姿を現すと同時に巨大な鎌が光り、禍々しく赤くなっていた。

「あれか…!」

「まずい! キリト! それは闇にまぎれて放つ全体攻撃だ! 火力がかなり高く設定されているその個体唯一のスキル! 次に喰らったら…!」

シャオが叫ぶ。次にとはいえ、このダメージで力が入らない。防御…いや、アスナだけでも守らないと…。

「キリ…ト…君。」

アスナも足に力が入らないらしく、その場で膝を付いている。死神が再び闇にまぎれた。来る…!

「パパ! ママ!」

ユイがこちらに飛び出そうとしてくるのをキバオウが止めてくれている。そうだ、来るなユイ。

「くそ…。」

ここまでか。

ガシ!

ギシギシと音を立てて、目の前で鎌が止まる

「いやー…危なかったぜ。シリカ! ディアベル! 二人を!」

オキが両腕に巻いた縄のような何かで鎌に巻きつけ攻撃を止めてくれたようだ。

「大丈夫か? キリト君。ポーションだ。すぐに飲むといい。」

「アスナさん! こちらへ!」

シリカとディアベルが自分たちを小部屋へと引っ張ってくれた。

「たいちょおぉ!」

オキが叫ぶ。死神の後ろに巨大な光の束が見えた。

「ふん。」

斬!

死神が真っ二つになるような巨大な刃が振り下ろされた。

『ギャァァァァ!』

死神が叫び再び闇にまぎれる。

「いやー、間一髪。間に合ってよかった。まさかこんなところで練習中のワイヤーが役に立つとはねぇ。」

「なるほど。死神、か。」

部屋を背にし、二人が仁王立ちする。

「キリト、アスナ。よく頑張った。」

「ここから先は我々に任せてもらおう。」

「オキ、アインス! あいつを倒さなきゃコンソールが使えない! 速攻で倒してくれ!」

シャオが現状を説明する。それを聞いたオキはにやりと笑った。

「なるほどなるほど。固有の固体か。」

「専用の強敵。ふむ。」

二人が顔を見合わせ、再び前を向いた。ニヤリと口元を歪ませ一言。

「「おもしろい!」」

その場にいた全員が後にそろってこういったという。

『あの二人の顔には恐怖を覚えた。あの死神より怖かった。』…と。

通路へと走り、オキがまず死神からの全体攻撃を誘う。

「おらおら! そんなもん遅くて避けれるぜ!」

「オキ君。また止めてくれるか?」

「任せろ隊長!」

オキの右腕にまかれたワイヤーが伸び、空を走る。一直線に鎌へと絡み、オキはもう一本を死神の胴体へと巻きつけた。

「まだ…もう少し。」

「ならこちらで遊びますかね。そぉら!」

ワイヤーを引っ張り、ばねにして自分の体をワイヤーの引きの力で死神へと飛ばした。

ガン!

とび蹴り。まさにその言葉がぴったりだろう。

「ここにきて『グラップルチャージ』を見るとはね。だいぶ練習しただろう。」

「まーねー。そぉれ!」

蹴りにより怯んだ死神は力が抜け、オキが力一杯引っ張る事によって独楽のように回転した。

「PA『アザースピン』擬き! いまだ! 隊長!」

「月光剣、一ノ剣 『雷』」

斬!

光輝き天井まで延ばされた光の刃が死神に向かって振り下ろされた。

名前の通り雷(イカズチ)が落ちた時のような眩い光を放ち、落ちる。

これにより、死神は結晶となりはじけ飛んだ。

「なんだ。つまらん。これならハヤマんが戦ったブリューの方が強かったんじゃね?」

「まぁ半分以上キリト君達がもっていってたからな。仕方ないだろ。」

結晶化し、砕け散る死神を背に、つかつかと余裕の姿を見せながら歩いてくる二人を見て改めて思った。

『この人たちにはかなわない…。』

「シャオ、やれ。」

「わかってるよ。言われなくても…えい。」

コンソールを操作するシャオにオキが煽る。

「しかしオキ君もそれ、だいぶいける様になったじゃないか。」

「まぁねー。ハヤマんがブリューと戦ったって聞いた後にこの情報を手に入れてから時間なかったけど、何とかなるもんだねぇ。」

オキの腕に巻かれた黒いワイヤーのようなモノ。それを見たキバオウが質問してきた。

「オキはんそれ、なんや?」

「これ? ウィップっていう補助武器のようなもので、扱いとしては投剣とかと同じかな。ほら、武器の欄のすぐ横にある小さな枠。あれがそうなんだ。」

投げ剣と呼ばれる小さなダガーやチャクラムと呼ばれる輪の刃を投げたり使ったりする補助武器を装備できる。

「ウィップは鞭のような武器で攻撃力自体がほとんどない上、扱いがかなり難しいって言われてたから殆どの人が手にしなかったんだって。おかげで最近になってようやく俺たちの耳に入ってさぁ。おせーよって感じ。」

「オキ君は槍の他にワイヤードランスというアークスが使用する、このワイヤーの先に巨大な刃が付いた武器をよく使用していた。我々イレギュラーズの中でもワイヤードランスの扱いは間違いなくオキ君が一番だろう。」

槍より使用していたとオキは言う。

「とはいえ、本当に攻撃力ないから補助にしかならないし、掴んで引っ張ってとかしかできないのがざんねんなところか。あーあ。『ヘブンリーフォール』で持ち上げて真下にポイッチョとか、『カレント』差し込んで電撃流したりとかしたい。」

落ち込んでいるオキの頭をシリカが撫でていた。

それを聞いてシンカーたちは苦笑した。鞭のようなものを自由自在に操るのは本当に難しい。それを簡単にこなすオキ達の凄さがよくわかったと言っていた。

データ移行しているユイの様子をじっと見守る。

「よし、これで大丈夫。」

ピコンと音が鳴り、ユイがうっすらと消えて行った。

「おい! 何が大丈夫だよ! 消えてんじゃん!」

シャオの光る体を持ちブンブンと振るオキ。

「大丈夫だって。ほら、見て。」

再び光り輝きユイの体が再構築された。

「これで一人のプレイヤーとして動けるよ。カーディナルから切断したから元のマスター権限級は使えないけど、マップの構成や、敵の情報くらいは見れると思う。元々のシステムが独立してたのもあったからそこは元のままだよ。」

「ユイ…。」

「ユイちゃん…。」

「パパ、ママ。ありがとうございます。」

3人が抱き合った。

「ほら、ユイ。シャオにお礼言って。」

キリトがユイをシャオに向かい合わせる。コクリと頷き頭を下げた。

「シャオ…おにいちゃん! ありがとうございました!」

「う…。おにい…ちゃん、か。なんだか不思議な感覚…。うん。わかった! 暫く僕の知識を分け与えてあげる。そうすれば今後何かあっても自分で対処できるようになるでしょ? まだ君は生まれたばかり。変な知識が入る前に僕がいろいろ教えてあげる。」

「はい! よろしくお願いします!」

ユイはすごくうれしそうだ。

「シャオ、お前おにいちゃんって…ククク…。」

「なんだよ…。僕の演算がそう言ってるんだ。いいだろ。」

アインスもほほ笑んでいる。

「パパ、ママ。」

「ん?」

「なーに? ユイちゃん。」

ユイはアスナと俺に飛びつき抱き着いた。

「大好きです! パパ、ママ!」

こうして『ユイの心』は守られた。

アインクラッド内。某所。

「ふむ…何かがカーディナルに干渉したか。…特に何か問題があるとは思えないようだが。」

1人の男は自分の書斎にこもり作業中にカーディナルから何か干渉された信号をキャッチした。

「…ここじゃ詳しく確認できんな。外に一度出る必要がありそうだ。」

男は眠りにつくように、アインクラッドから『ログアウト』した。




皆様ごきげんよう。
やっぱり我慢できなくてワイヤー擬き出しちゃいました。(だってみんな自分のメイン武器使ってて自分だけ無しなんていやじゃないですかー!)
さて、『ユイの心』いかがだったでしょうか。
もう少しいい話にできればと思ったんですが、最近うまく書けない…なんでだろ。
シャオも「おにいちゃん」と呼ばれ少しうれしそうな感じにしました。ユイとの絡みが面白そうだから。

PSO2では新しいエクストリームが追加されましたが…辛すぎぃ!
一応初見クリアは出来たけど、ペインライドしかしなかった気がする。
ワイヤー握れなかった…もう二度と行かんぞ。(旨みないし

さてさて、最後のログアウトしていった人は一体? 原作知ってる人はわかりますよね。
次回から大きく動き出します。
次回、お楽しみに。


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第41話 「ファルス・アンゲル」

75層へと足を進めた攻略組。
とうとう最後のクォータポイントのボスを目の前にする。


74層のボスは強敵だった。

ザ・スカル・リーパー。名前すべてが大文字のアルファベットに加え、『The』が頭にくるという、エネミーの強さを表すすべての要素が、クォータポイント以外で初めて現れた。また、74層のエリアボスの大ボス部屋は一度入ると二度と出られない仕様となっていた為、後援部隊が参加できなくなった事も踏まえる。

更に、敵の素早さが異常に高く、また真正面の防御力も今まで以上に硬い。火力の最も高いコマチやアインスのスキルが思う以上に使えるタイミングが無く、長引いてしまったこともある。

骨だけの巨大な姿を持ち、体の半分はあるだろう巨大な鎌。尻尾には鋭い針のようなものを持ち、キリトら曰く

『カマキリと蠍を混ぜたような存在』

だと言っていた。

ともあれ、スピード勝負ならば負けないと一番頑張ったのはどこでも走り回れるユニークスキル『フリーダム』を持つミケと、直前の強敵『デスサイズ・ヘル』と対峙したアスナだった。

アスナはあの死神型エネミーとの対峙後、自分のスキル欄に新たなユニークスキルが発動している事に気づき、エリアボス討伐直前までにキリトに協力してもらい徹底的に実戦レベルまで鍛え上げた。

ユニークスキル『神速』。

一定時間、目にも止まらぬ速さを持つに加え、細剣による強力な突進力と合わさった突きのスキル。

これら二つの攻撃系ユニークスキルと、相変わらず絶対防御を誇る『神聖剣』の持ち主ヒースクリフの徹底的な防御術のおかげで時間はかかれど討伐する事に成功。またあれだけの猛攻を受けたにも拘らず一人も犠牲者を出さなかったのは皆の腕もかなり上がったからだと結論付けた。

そして、ユニークスキル保持者は自らのスキルを上達させ、その他プレイヤー達も足りないと感じた部分を徹底的に伸ばし、とうとうアインクラッド最後のクォータポイント75層のエリアボスへと到達した。

『第75層エリアボス討伐作戦会議』

そう書かれた『オラクル騎士団』ギルドホーム大会議室。

ユニークスキルを持ったメンバー及び、今回参加するメンバー全員を集め、情報共有を行った。

「みな集まってくれて感謝する。知っての通り75層のエリアボスの部屋が見つかった。オキ君。説明を」

ディアベルのいつも通りの挨拶は、普段よりも重々しい声となって部屋に響く。

「あいよ。75層の大ボスの情報をまとめたところ、25層、50層と同様。我々イレギュラーズこと、アークスの敵『ダークファルス』の可能性が高いと推測した。」

ダークファルスの名前が出てきて周囲がざわつき始める。ハヤマが手を挙げた。

「はいはーい。どっち?」

「まぁ、あわてなさんな。見つかってから情報収集に専念してもらったタケヤ達が持って帰ってきた情報で確信が出来た。黒と金色の巨大な6枚の翼。鳥人系エネミー。眷属を使役し、さらに自爆させる。氷の力を飛ばして来たり、そして止めの『闇の頂点に立つ存在』。アークス各位はここまで…こなくても最初で察しが付くか。」

アークス全員からため息が出てくる。

「やっぱあれなのかー。」

「めんどくせー…。」

ミケとコマチが唸り、ハヤマやアインスも苦い顔をしている。

「プレイヤー側にも分かる様に説明するね。俺たちが次に相手するのは、オラクル船団を乗っ取り、宇宙の全知であった原初の星であり、かつてアークスシップ全てを束ねていたマザーシップ内の中心に存在する『シオン』を取り込み、自ら全宇宙の全知となろうとしたバカな存在『ダークファルス【敗者】(ルーサー)』。それの人間大形態である『ファルス・アンゲル』。俺たちに最も因縁のあるダークファルスだと言ってもいいだろう。」

ルーサーのダークファルス形態での人型『ファルス・アンゲル』。オキも対峙するのはあの旧マザーシップでの決闘以来だ。それを思い出し、拳を握る。

「アンゲルの動きを徹底的に皆に覚えてもらう。【巨躯】の時を考えると、同様にほぼ同じ状況で来るだろう。そう考えると100層のラスボスもなんとなく察しが付くが、まずは目の前の敵を何とかしよう。」

「「「了解!」」」

プレイヤー達は強力な味方の声に応じた。

夜、自分の書斎の机で最後の確認のために対策と作戦を練っていた。

「基本前にはアークスで、後方に火力支援と…HPバーは多分5…あいつの動きからして2でこれ、3で…。」

羊皮紙にカリカリと相手の動きをかいていく。

コンコン

扉の音が鳴った。多分シリカだろう。

「オキさん、起きていますか?」

「うん。入っていいよ。」

やはりシリカだった。

「もう寝たのかと思ってた。」

「オキさんが来なかったので。明日の、ですか?」

「ああ。75層は、ただのクォータポイントじゃないからな。」

おいでおいでして、シリカを自分の膝の上に乗せる。

「えへへ~。」

シリカの頭を撫でてあげると顔がゆるみ、気持ちよさそうに笑顔になる。

「75層は、何が起きるか分からない。初めて出会った時…いや、2回目か。アークスの説明をした時に教えた通り、ルーサーの予測では75層到達時に全員が死ぬという答えしか出なかった。だが、今回は俺たちがいる。絶対に何があっても阻止してやる。」

ぎゅっと後ろからシリカを抱きしめる。シリカもこちらの手に自分の手を乗せた。

「オキさんと出会えて、みなさんと冒険して。本当によかったです。楽しくて、面白くて、恥ずかしくて、うれしくて…。」

「そうだな。いろいろあったもんな。この2年無いという短い期間だったが本当に濃い時間だった。これからも頼むぜ。大好きな小さき相棒さん。」

ぽんぽんと頭を軽くたたくとシリカはこちらを向いて笑顔でうなずいた。

「はい! これからもよろしくお願いします! 私も大好きです…。オキさん。」

じっと見つめ、ゆっくりと目を瞑るシリカ。俺はそれに答える様にそっと唇を重ねた。

75層、エリアボス部屋大扉前。

現在トップ戦力であるユニークスキル持ち及びアークス勢。そしてそれに次ぐレベルや腕を持つ各トップギルドの最高戦力がその場に集まった。

「ふぅ~…。」

喫煙者たちはその集まりから少し離れ、大仕事前の一服をしていた。

「とうとうきちまったか。」

「だな。ルーサーの置き土産。ここですべてが分かる。」

コマチと話をしている所にセンターが寄ってきた。

「例の全員が死ぬ結果の話ですよね?」

「ああ。あの結果は2年と半年近くかかっているが、今の所みんなのおかげで半年以上早まっている。これで時間のせいなのか、場所のせいなのか。何が起きていたのか。はっきりする。」

「万が一の場合は、シャオ殿の手を借りる。それでよかったな?」

オールドも近寄ってきた。それに頷く。

「うん。ここからは内部、外部。SAOにつながる全てをシャオが観測する。万が一何かあった場合すぐさま演算、対処するという話だ。今の所予測はいくつかできているらしく、100層クリアが目的だから何が何でも俺たちを守ってくれるとさ。」

シャオの言葉をつながって居るユイが代行で伝えてくれたのは何が何でもアークス含めプレイヤー全員を100層へ到達、クリアさせることを最優先に動いてくれるそうだ。アークスシップ全てを管理するシャオの演算能力が足りるかと聞いたが、シップ一つ管理し、動かす能力よりも少ない演算でいいらしい。流石シャオだ。

「あ、そうだ。はやまーん!」

攻略メンバーの最前列にいるハヤマに声をかけた。万が一が考えられる。必要な事はさせておかないと。

「なにー?」

「ここから先、何が起きるか分からねーから、今のうちにシャルとやることやっとけよー!」

「んな! なんでこんなところでやらなきゃならねーんだよ!」

その場の全員が大爆笑する。

「大丈夫! 時間は取らせるから! ねぇみんな?」

「「「イエー!」」」

「うっせ! ばか! そんなオキさんはちゃんとしたのかよ! そのやること!」

「やったよー? ぎゅっとして~、なでなでして~…。」

「わー! わー!」

そばにいたシリカが顔を真っ赤にして大声で俺の言葉を遮る。うん。和んだかな。

「よっし。冗談はそれくらいにして…。」

「本当に冗談か…?」

ハヤマがこちらをにらんでくるが気にしない。

「ディアベル任せた。」

「了解だ。では、諸君。とうとう最後のクォーターポイントだ。作戦は先日オキ君から伝えた通りで行う。また、74層のエリアボス時と同様、一度入ると終わるまで出れない可能性が高い。扉を開けたら速やかに各自持ち場に展開。その後各PTリーダーの指示に従う事。ここまで来れたのはイレギュラーズ…いや、アークスのメンバー諸君のおかげだ。本当に感謝する。」

ディアベルが頭を下げてくる。

「いいって。俺たちはやる事をしたまで。むしろ逆に感謝しなければならない。俺たちだけじゃここまで来れなかっただろう。皆の力と諦めない心があったからこそ、ここまで来れたというモノ。…この先何が起きるか分からない。なにが起きてもあわてず、HPが0にならないように気を付けるだけでいい。それ以外はイレギュラーズに任せろ。いいか!」

「「「おおー!」」」

士気は高まった。ディアベルに目で合図を送る。

「さぁ! いくぞ、諸君! 最後のクォータポイント! 必ず、勝って上を目指す! そして必ず一人も欠けずに生還するぞ!」

「「「おおおー!!!」」」

声を張り上げ、気合を入れる。その場にいた全員が心を一つにし、最上階クリアを目指して最後のクォータポイント、75層エリアボスへの大扉を開けた。

開いた後、各担当する場へそれぞれが移動。ボス部屋は今迄通りの迷宮区1層分丸々使われた広いなにも無い部屋。

全員が入ったのを確認し、扉が閉まる。

そしてあの声が部屋に響く。因縁のあるあの声、それでいて懐かしいあの声。それを聞いてアークスを始め前衛部隊が武器を構える。

『全事象演算終了…。』

赤黒い渦が広間中央の空中に渦巻き、そこから巨体が現れる。

背中に広がる巨大な6枚の黒翼、金色の甲冑のような甲殻。獣のような顔。自分たちの何倍も大きな人型の体。

ダークファルス【敗者】、人間大形態。

『解は、でた…。』

「アンゲル、やっぱりか。HPは5本! 長期戦になるぞ! 全員気合入れるぞ!」

「「「おおおお!」」」

75層、エリアボス『ザ・ファルス・アンゲル』戦、開始。

オラクル騎士団ギルド拠点の大会議室。そこに一人の少女が椅子に座って上を見ていた。

「エリアボス、『ザ・ファルス・アンゲル』出現。戦闘開始です。」

『こちらでも確認したよ。全く、ここまで一緒にしてくるなんて。』

頭に響くシャオの声。脳裏にSAO内ではない、本物の『ファルス・アンゲル』の情報も入ってくる。

「レベル、ステータス共に総合評価から見てパパ達の方が上です。これなら…。」

ユイは『ザ・ファルス・アンゲル』のデータの照合とキリト達のステータスを見比べる。総合的に見て間違いなく、ボスよりも皆の方が強いのは明らかだ。

『油断はできない。それに、一番の問題はこの後だ。』

「はいです。」

油断は禁物。シャオから入ってくるデータを一つ一つ確認し、彼らアークスの成し遂げようとしていることを願った。

『調和波動子、消失自壊』

アンゲルが突進してくる。そしてその衝撃波で前衛にいたプレイヤー達が吹き飛んだ。

「くっそ…。」

「はやい!?」

「怪我した奴らはすぐに後ろへ! HPの余裕があってもここがクォータポイントだという事を忘れるな! 最前のメンバーは下がる味方に攻撃がいかないようにヘイトを!」

ディアベルが中央で指揮をとる。それに従うようにハヤマの刀がアンゲルのスカート部に斬撃を入れる。

「やらせないよ!」

「WB(ウィークバレット)ほしい。」

「同感なのだー。」

「「ないもんは無い。」」

コマチとミケの欲求あるセリフに、アインスと同時にツッコミを入れる。

「んなこと言ったら、俺だってワイヤーほしいワイ。」

「5点。」

「0点。」

「5点。」

「厳しいな!おい!」

クライン、キリト、コマチから点数を貰いつつ

「いいから切れ!」

ハヤマから突っ込みを貰う。うん。いつも通りの戦い方。何も変わってないし、これで平常運転。

『僕は検算中だ、始末しろ。』

アンゲルの周囲に鳥系の雑魚がわらわらと沸く。

次の瞬間にはキリトの二刀流範囲攻撃型SSにて沸いた雑魚が一掃された。

「そぉれ!」

この間はアンゲルの動きが鈍くなる。チャンスだ。ここぞとばかりにSSをかまし5連撃の突きをお見舞いする。

それに続き、周囲のアークス、プレイヤー達も作戦通りの順にSSを入れていく。

『よくやった。用済みだ。』

「おめーが用済みなんだよ!」

ハヤマの『五月雨』、そしてアインスの溜めに溜めた一撃がアンゲルに降り注ぐ。

斬!

流石のアンゲルだろうとなんだろうと、ユニークスキル持ちのプレイヤーに囲まれ、さらにアークスに囲まれ隙を作ったならばそれはただの案山子。的にしかならない。今のおかげでHPバーが1本無くなった。

『式にごみが!? …イレギュラーめ!』 

「羽が二枚折れたぞ! この調子だ!」

「「「おおおお!!!」」」

ディアベルの掛け声と予想より早くHPが削れている事もあり皆やる気に満ち溢れている。

「イレギュラーね…。間違っちゃいないか。」

「確かに。」

アインスとうんうんと頷き合う

『試算完了、プレゼントだ。』

アンゲルが空高くに上がる。それを見て次のパターンに移行したことを確認した。

「氷塊くるぞ! 逃げろ逃げろ!」

アンゲルの頭上に巨大な氷柱が5本生成され、こちらに降り注いでくる。

「うわったー!」

「ちょっとクライン無茶しないで!」

危なくクラインが喰らいそうになるが何とか避けたらしい。サラが心配そうに後方から叫ぶ。

「シリカ、このままの勢いで削りきるぞ。」

「はい!」

アンゲルが下がってきたところを見計らってシリカと同時に怯み効果のあるSSを放つ。

「おおお!」

「はぁぁ!」

『ぐ…!?』

「怯んだのだ!」

真上からミケがアンゲルの顔に向かってダガーを突き立てる。天井を走っていたらしい。それによりクリティカル判定となり、アンゲルが地面に落ちた。

「囲んで全員攻撃! アインス!」

「わかっている。」

アインスはすでに溜めの構えになっている。

「あの戦いを思い出すねぇ。」

すれ違いざまにボソリと言った。あの戦い、アンゲルとの決戦。

「そうだな。しいて言うなら相棒が無い事が残念だ。」

相棒、アインスが長年連れ添い、命を任せてきた彼の愛刀『オロチアギト』。それの事を言っているのだろう。

「いまだ!」

「うむ。」

斬!

ディアベルの号令の元、再びアインスの特大火力がアンゲルに降り注ぐ。何度かこいつと『旧マザーシップ』で闘い、最後の決闘時も本来の姿と戦ったが、ここまで弱弱しいアンゲルも新鮮である。

「こちらが強すぎるのと、そもそも君たちの戦ったモノではないからじゃないかな?」

「ヒースクリフのとっつぁん。そうだね。あれとは違う。あれは…本物の恐怖があった。」

ヒースクリフが近寄ってきた。どうやらまた考えていた事をしゃべっていたらしい。

「それに、強いのはあんたもでしょ? 相変わらずHP減ってないこって。」

「君も同様だと思う…っよ!」

ガキン!

『調和波動子、消失自壊』

アンゲルの攻撃がこちらに飛んでくる。それをヒースクリフの盾が止めた。

「はぁぁ!」

弾き返し、怯んだアンゲルに横一閃を片手剣で入れる。神聖剣、相変わらず硬い。

『波動方程式、展開』

アンゲルは自分の手に持っている小さな扇のようなモノ『タリス』を4個上空へと投げる。

「範囲攻撃だ! 地面をよく見て円の外へ逃げるんだ!」

地面には攻撃の範囲が円状に記される。この範囲内に入らなければ攻撃が当たる事もない。

「今のうちに攻撃し放題ってなぁ! オオオオ!」

コマチのユニークスキル『バーサーカー』が発動する。身体からは湯気のようなものが立ち上り、少しだけ大きくなった気がする。

全力疾走でアンゲルへと近づいたコマチは何度もアンゲルの体を殴りつける。

「ウオオオォォォ!」

「相変わらずうるせぇ…。」

「耳が痛いのだー。」

「でも、私はいいと思うわ。騒がしくても、安心できる声。」

「「「え?」」」

苦笑するに耳をふさいでいるミケに対し、フィーアは微笑みながらコマチを見ていた。

それに対し全員が不思議な顔でフィーアを見る。

「?」

何か変なことでも言ったのかと首をかしげるフィーア。

『関数、置換』

アンゲルは空中を逃げながら、持っているタリスを4つ投げてくる。

それらは全てコマチを狙っている。それを見て俺は叫んだ。

「コマッチー!」

「ふん! 邪魔だ!」

コマチは全て拳で殴り落とした。

『お見事…。』

パチパチと手を叩きこちらを挑発してくるアンゲル。実際にやってくるが、ここまで再現してんのかよ。すげーな。

アンゲルに隙が出来た事を見抜いたキリトとアスナが詰め寄る。

「キリト君!」

「ああ! ナイトメア・レイン!」

「やぁぁ!」

アスナとキリトのSSが同時にアンゲルの側面両方から放たれる。これにより2本目のHPバーも一気に削り取られた。

『ぐぅ…!』

アンゲルの眼が光る。

「アスナ! キリト! 離れろ! 形態変化だ!」

二人のSSの火力が思った以上に高く、二人ともSS後の硬直で固まっている。

「シリカ! 体当たりでもいいから遠ざけろ!」

「はい! アスナさんは私が! ごめんなさい!」

シリカと二人で全力で走り出し、二人に体当たりで無理やり転ばせる。

「間に合え!」

「きゃ!」

「うあ!」

『人間風情が…抵抗するなぁ!』

こちらの体当たりと同時にアンゲルが切れた時に発する攻撃が放たれた。こちらを吸引しつつ次の攻撃につなげる。アークス時であれば体内に吸収したフォトンすらも吸収してしまう恐ろしい技だ。

「ぐぅぅ!」

「っ!」

吸収されまいとシリカと一緒に剣を地面に突き立ててその場にとどまる。

「オキさん!」

「大丈夫か!? シリカ!」

ハヤマとシャルが近づき、直ぐに立たせてくれた。キリト達は若干喰らったようでHPが少し減っている。

一旦離れ、アインス達がヘイトを取っている間に全員で回復をした。

「ありがとう。オキさん。」

「たすかったわ。」

「いいって。あいつの動きをわかっているからこそできた。普通ならできんかった。次は気をつけろ。多分やばい攻撃が残り二つ残ってる。」

こちらの戦力が思った以上に高い。その為にHPバーはみるみる溶けていく。

楽なのはいいが、ゲージ破壊時の直後に来る攻撃に対応が効かない者が多い。

今のところは大丈夫そうだが、地味に皆攻撃を喰らっている。適度な回復が必要だな。

次の攻撃タイミングを見計らっていると、アインスが近寄ってきた。

「オキ君。次の攻撃だが…。」

「ああ、間違いなく回転メギド。他のものは一度下がらせた方が…。 ばか! お前ら出過ぎだ! 下がれ!」

攻撃後の隙を突いて、勢いに乗った多数の人数が同時にSSを放った事によりHPバーが3本目に突入した。

『僕は原初、僕は終末、万事は此処より始まりて、是にて終わる』

アンゲルから複数のタリスが放たれ体の周囲を回転。そこから反時計回りで外側に広がっていく巨大なエネルギー弾が多数広範囲を攻撃しだした。

「離れろ! 離れろ!」 

「確か反時計回りだ!」

「みんな走れ!」

近くにいたプレイヤー達とハヤマ達は何とか、元情報をアークス陣から与えられていた為に逃げることができた。だが、それでも慣れない攻撃と不意をつかれたため、かなりの人数がその攻撃に対応できず、HPを減らしてしまった。

「ハヤマ君! 奴のヘイトを取って皆から離せ! 私とオキ君はそれの援護! コマチ君とミケ君は逃げている人たちに攻撃が回らないように立ち回ってくれ!」

アインスが素早く戦線を保持する為に指揮をする。アークス総出だ。

『収縮、擬似崩壊』

近づき、ヘイトを取ったハヤマへ攻撃が向く。自分の周囲に2回短い炎を巻き、もう一度前方に広く炎を巻く攻撃。

ハヤマは素早くそれを体を反らすだけで避け、攻撃後の隙をついてカタナを振う。

『波動方程式、展開』

「またそれか!」

「数が増えているぞ! 各自気をつけろ!」

コマチとハヤマが叫ぶ。

再び上空に複数のタリスが上がる。先ほどよりも個数が多くなっている。ここも予想通り再現されている。

あいつと全く同じ姿、声…。だが

「あいつの威圧感が全くない! 貴様は偽物にすぎん! 本物は…強かったぞ!」

攻撃の隙をついて腕に巻いたワイヤーをアンゲルの体に巻きつけ、一気に引っ張り近づく。

「オオオ!」

そのままの勢いで槍を胸のコア部に突き立てた。

『グッ!?』

胸を抑え、地面へと落ちるアンゲル。

「ナイスだ。オキ君。」

アインスの巨大な斬撃がアンゲルを真っ二つにぶった切る。

更にそれに対して追い打ちをかける様にディアベル達が攻撃を仕掛ける。

「オオオ!」

「ハァァ!」

『ビッグクランチ・プロジェクト!』

急にアンゲルがその場から消えた。最後の大技だ。HPバーもラストの一本となっている。

「各自落ち着いて行動しろ! 出てくる場所は色でわかる!」

「ビックリランチなのかー。」

「ビックリランチ…じゃない、ビックリ…あーもう! うつったじゃないか! ワープしてくるぞ!」

ミケの言葉についつられてしまった。もうそうにしか聞こえないんだけど…。

中央やや左後方よりに赤黒い渦が発生し、そこにアンゲルが姿を現した。

「レーザーだ! しっかり見て逃げろ! あたるなよ!」

ディアベルが自分も範囲外に逃げながらプレイヤー達の様子を確認する。

アンゲルの前に6つのタリス。そこから交差するように左右から細いレーザーが照射され、そのまま上へと薙ぎ払われる。

「消えた!?」

「二回目だ! くるぞ!」

再び別の場所から現れたアンゲル。プレイヤー達は少しずつ喰らいつつも何とか逃げのびる。

二つの交点からすると…。

「隊長だね。狙ってるの。」

「了解。誘導する。」

ヘイトはやはり高いダメージを与えたアインスに向いているようだ。

アインスはプレイヤーがいない壁際へと走って移動。それについていくようにアンゲルが中央に現れ、アインスを狙う。

『終わりは、斯く示された…。』

特大のレーザーがアインスに向かって放たれる。

ゴォ…!

「ふん…。」

ギリギリまでひきつけ、軽く避けたアインスを確認しつつ、一斉攻撃の合図を出す。

「いまだ! 一気に叩くぞ!」

「「「おおお!」」」

レーザーを撃った後の隙をついて各自が攻撃を仕掛ける。暫く動けないはずだ。

「俺も行きますかね。シリカ、合わせろ。」

「はい!」

同時に走り、アンゲルへと近づく。浮き上がろうとしたアンゲルのコアへシリカがダガーを突き立てる。

「やぁぁ!」

『ぐぅ!?』

怯んだ。このまま一気に叩き潰す!

「落ちろ! アンゲル!」

左右へ槍を振った後に正面へ二回突きを放つ。そして

「オオオ!」

ガン!

宙高く飛んだあとに槍ごと一気に落下。真上から突き立てた。

槍の最終スキル、6連撃SS『ディメンション・スタンピード』。

『これは…僕の臨んだ解ではない…。』

攻撃を喰らった後、少しだけゆっくりと浮き上がったアンゲルは一言もらし、赤黒い渦の中へと消えて行った。

「…終わりか。」

クエストクリアの文字が宙に浮かび上がる。どうやら倒したらしい。

「ふぃ…。やっぱアンゲル、めんどいわぁ…。」

「面倒な攻撃ばっかしてくるからね。」

コマチと二人でタバコに火を点ける。戦いの後の一服がうまい。

「でも楽しかった。」

「うむ。」

ハヤマとアインスは相変わらず戦いを楽しんでいた。

「ハヤマー、はやく帰ってご飯にするのだー。」

ミケはいつも通りである。アークス各位がワイワイとやってるなか、プレイヤー勢はポカンとしていた。

「どうした? 終わったぞ。オラ、締めろディアベル。」

小突いて意識を元に戻してやった。はっと我に返ったディアベルは腕を振り上げた。

「…勝ったぞ!」

その一言で、プレイヤー達も顔に笑顔が戻る。

「「「ぃやったあああ!!!」」」

75層という最難関クォータポイント。その攻略が完了したのだ。全員が腕を上げて喜んでいる。

「お、ラスアタは俺か。なに貰ったかなー。」

「おめでとうございます。オキさん。」

「きゅるぅ。」

シリカもピナも一緒に祝ってくれた。そしてアイテムの欄を確認している最中だった。

ガキン!

「…やっぱりな。」

デカい音がした。そしてキリトの声。全員がシンと静まる。キリトの方を見ると、ヒースクリフの顔面に剣を突き立てようと力を入れているが、何か見えないモノに拒まれている姿があった。




皆様ごきげんよう。
EP4までカウントダウンが入りました。すごく楽しみです。
アニメも好調らしく、新人アークスが増えているとか。もっとふえろー!

アンゲル戦、いかがだったでしょうか。
細かい動きを見るためにソロEXに何度潜ったことか・・・(尚、ステッカーは出なかった模様)
しかしコイツ、アークスとして戦ってもめんどいのに、書くと余計にめんどいですね。こまかすぎぃ! 
さて、運命の分岐点へと差し掛かりました。
一体なにが起きていたのか、これからが本番です。
次回をおたのしみに。


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第42話 「裏の顔を持つ男」

「やっぱりな…。」

 

全員がその場で固まった。キリトがいきなりヒースクリフの顔面に剣を突き立てたのだ。

本来ならそのまま切られるはずなのだが、剣は顔面の手前で何かに阻まれているかのように止まっている。

 

「…いつから気づいていたのかな?」

 

涼しい顔でヒースクリフはキリトに質問した。

 

「気づいたのはここ最近だったが、そこからはずっと見ていて直ぐに気づいた。あんた…どんな時でもHPが半分以下になってなかったからな。」

 

「なるほど…。」

 

「おいおいおい! どういうことだキリト!」

 

クラインが叫ぶ。つかつかと近づきながらそれを説明してやった。なるほど。よく見ているな。キリト。

 

「クライン、おかしいと思わないか? どれだけ攻撃されようとも、HPが半減しかしない。それはこのゲームでのルールを無視している。それができるのはたった一人。…ようやく、会えたな。聞きたいことが山ほどあるぜ。茅場彰彦!」

 

ヒースクリフ、いや茅場に向かって叫ぶ。

 

「…まさかここでばれるとはね。予想より早かったな。」

 

「あんたが、このゲームを作った本人で…あってるよな?」

 

「ああ。私が作った。私が…茅場彰彦本人だ。何もかも予想を超えてくれるね。アークスの諸君。」

 

「ゲームを終わらせろ。それだけでいい。そしてこちらの質問にも答えてもらおうか。」

 

ふむ。と一言もらし、ヒースクリフは考え出した。

 

「…いいだろう。ならば、私との決闘を望む。誰でもいい。私を倒して見せよ。本来、90層突破時点で私が茅場彰彦だと名乗り、ラスボスとして君臨する予定だったのだがな。それが出来なくなった今、ここで決着をつけるのが早かろう。」

 

この余裕はなんだ? 何かを隠している? まさか、こいつが全員死亡の? いや、1層の時の事を思い出せ。こいつは何も知らない感じだった。顔は見えずとも、声でわかる。ならば別に原因がある可能性が高い。

 

「…いいだろう。」

 

「オキさん。俺にやらせてくれ。」

 

キリトが前に出てきた。

 

「何言ってんだ。負けたらお前、死ぬんだぞ!?」

 

「わかってる。だけど、この星の問題を…その原因であるこいつを止めるのは。この星の人間である俺たちだ。オキさん、ここまで連れてきてくれてありがとう。大丈夫。策はある!」

 

キリトがヒースクリフに向き直る。

 

「キリト君…。」

 

「アスナ、すまない。だけど、わかってくれ。」

 

アスナの頭を撫で、額にキスをして離れた。

 

「…うん。だけどこれだけは約束して。…絶対、負けないで。」

 

「ああ。アスナを置いて、ユイを置いて、死ぬわけにはいかない!」

 

「では…決闘モードを完全決着モードに。」

 

いままで誰も選択したことのないモード。どちらかのHPが0になるまで終わらない。つまりどちらかが死ぬまで終わらない本当の決闘。

 

「キリト…最後に一言だけ、アドバイスしといてやる。アークスからの最後の言葉だ。」

「ん。」

 

キリトの肩を彼の背中側から叩き、気合を入れてやる。

 

「最後まで…何があっても、諦めるな! 行って来い!」

 

「!」

 

モード選択が終わり、カウントダウンが始まる。

 

3…

2…

1…

0!

 

「オオオ!」

 

初手に動いたのはキリトだ。素早くヒースクリフへと走り込み、強烈な突きを放つ。

 

もちろんそれを予測していたかの様に、盾でガードしたヒースクリフは目の前にいるキリトに切りかかろうとした。

 

「甘い!」

 

「!?」

 

目の前にいるはずのキリトはすでに側面に回っており、両腕で振り上げた二本の剣を振り下げようとしていた。

 

ガキン!

 

盾に弾かれる二本の剣。だが、弾かれた動作を利用して横に振られた剣を避けるキリト。

 

「今のは…シュンカ?」

 

「ああ。間違いない。」

 

右手にシリカ。左側にアインスと並び、キリトの動きをみる。

 

キリトの動き一つ一つがアークスにかぶって見える。動き、スピードに翻弄されるヒースクリフ。いける。

 

「オキさん…。」

 

心配そうにこちらを見てくるシリカ。大丈夫だよと頭をひとなでして後ろに下げ、再びキリトの動きをじっと見る。

 

「ふむ。彼らの動きを取り入れているな。これは…私でも! 厳しいな。」

 

ガキン!

 

「しっかり盾で防御してんじゃねーか。相変わらず硬いぜ。」

 

キリトの攻撃は連撃型だが、ヒースクリフの神聖剣の前ではすべて初撃が弾かれ意味を無くす。だからスピードで翻弄し、隙をうかがっている。あのキリトがここまで成長した。これなら…!

 

「はぁ!」

 

「ふん!」

 

キリトが両手の剣を時間差で交差させる。それをヒースクリフは盾で防御。剣を振るも、キリトの前転により避けられ、そのまま横一閃で足をかすめ切られる。

 

「回転サクラまで…。」

 

「ハヤマ君の動きだね。」

 

彼の吸収能力は高いと思っていた。何を教えても少ない回数でその動きを習得して見せた。

どれだけの技を見せてきた。その数だけ、あいつは…。『黒の剣士』は強くなっている。

 

あれはコマチの大きく振りかぶる動き。

 

今のはミケの変幻自在な動き。

 

おっと、今度は隊長の動きか。

 

っと思ったら今度は俺か。傍から見ると不思議だが、自分だとすぐにわかる。

 

「おおお!」

 

「むぅ…。」

 

先程の余裕の顔が無くなってきているヒースクリフ。キリトがあそこまで動けるのは予想していなかったのだろう。そりゃそうだ。あそこまで動けるキリトを見たのはこちらも初めてだ。

 

「いけー! キリトー!」

 

気が付いたら声を張り上げ、キリトを応援していた。

 

「まけるんじゃねーぞー!」

 

「やったれー!」

 

ハヤマとコマチもそれを見て頷き合い、一緒に声を出した。

 

「がんばるのだぞー!」

 

あのミケも拳を握り、ぴょんぴょん跳ねながら応援しだした。

 

「行け! キリト君!」

 

隊長は組んでいる腕が震えている。自分も戦いたくて仕方がないんだ。俺だってそうだ。気持ちはわかる。

 

でも、これはキリトとヒースクリフの戦い。俺たちが出る幕じゃない。

 

「でやぁぁぁ!」

 

キリトの18番、『ナイトメア・レイン』。少ない隙で高速の斬撃を繰り出す大技の一つ。

 

それをしっかりと防御したヒースクリフは技がで終わったのを確認してソードエフェクトを光らせる。

 

「焦ったね。キリト君? …な!?」

 

「どっちがだ? ヒースクリフ!」

 

盾を除け、斬ろうとキリトを見たヒースクリフは驚きの顔を隠せなかった。

 

「仕掛けた!」

 

キリトが隠れて練習していた切り札。『ソードスキルキャンセル』。

 

別名『ジャストアタック』(アークス命名)。

 

本来ならSSを放った後は硬直が待っている。だが放った後、ほんの数百分の一秒の単位の間、動くことができる。その時間で体を無理やり動かしキャンセル、次のSSにつなげるコンボ技だ。これに気づいたキリトははじめはうまくいかなかったものの、ある程度低い熟練殿SSならつなげることができた。だが、ナイトメアレインから次のSSにつながったことは今まで一度もない。それをできるようにしてきたのか。

 

「ジ・イクリプス!」

 

二刀流最後のスキル、奥義『ジ・イクリプス』。

 

32連撃の超高速斬撃。ナイトメア・レインが16連撃だから合計で脅威の48連撃。

 

「やっぱ天才だわ…あいつは。」

 

「オオオ!」

 

「ぐぅぅ!?」

 

全ての攻撃がヒースクリフを襲う。HPはみるみる削れていく。間違いなくこの技が放ち終わったとき、ヒースクリフのHPは0になることを確信した。

 

「終わりだぁぁぁ!」

 

最後のシメ。二本同時に突き刺そうとしたときだ。

 

ゴゴゴ

 

「!?」

 

「なに!?」

 

「おおお…ゆれるゆれる。」

 

「地震か!?」

 

地面が急激に揺れ、キリトの技は不発に終わる。ヒースクリフのHPもぎりぎり残っていた。

 

「これは…まずい!」

 

ヒースクリフが宙を見て、何かに驚いている。そして、光となって消えていった。

 

「待て! 茅場! まだ、まだ終わってないぞ!」

 

キリトがそれに向かって走るが、それもかなわずヒースクリフは完全に消えた。

 

地面はまだ揺れている。

 

「一体…まさか、これが原因!?」

 

75層でのプレイヤー一斉死亡。その文字が頭をよぎった。

 

「シャオ! どうなってやがる!」

 

そうだ。とにかくシリカを守らないと。そう思い近づこうと走り出したときだ。

 

ゴゴゴゴ!

 

「何!?」

 

「オキさん!」

 

自分の体の真横から急激な吸引力を感じた。何かに吸われている。逃げれそうにない。これは・・・助からんな。

 

「はやまーーーん! たいちょおおお!」

 

ハヤマとアインスに向かって人指し指を向ける。

 

「頼んだ。」

 

二人が走ってくる。だが、間に合わない。シリカもその後ろからこちらに走ってきているのが見えたが、すぐに目の前は真っ暗になった。

「ん。」

 

目が覚めた。周囲は森。自分を確認。

 

「オキ。アークス。SAOに紛れ込んだイレギュラー。シリカ大好き。…よし。」

 

自分が誰なのかは把握できた。どうやら森のど真ん中で寝ていたらしい。

 

目の前にはHPバーとSPバー。メニュー画面とアイテム関連も確認してみた。

 

「全部ある。あの直後だと断定。・・・うん。ラストアタックボーナスの品みっけ。」

 

装備欄に入っていた、キリトがヒースクリフに剣を突き立てた為詳しくは見なかった一品。

「ふむ。かなりいいね。」

 

70層あたりで新調した『十文字朱槍』。それよりも赤く、なおかつ何も装飾のついていない槍らしい槍。紅く染まる魔槍。

 

「『ゲイ・ボルク』か。うん。使いやすい。軽すぎず、重すぎず。手になじむね。」

 

ステータスもさすが75層のラスアタ武器。見たこともないステータスの数値だ。これなら最後までいけるんじゃないかと思うくらいだ。装備した瞬間に青いタイツきたカッコいいおにーさんを思い浮かんだが気にしなかった。

 

装備を確認、整え、再び周囲を確認する。

 

「地図を見てもここがどこだかわからない。わかるのは『ホロウエリア』という場所か。」

 

マップを開くと、普段なら『アインクラッド○層 ××エリア』と書かれているのが、『ホロウエリア』と書かれていた。

 

「・・・メールは、飛ぶかな?」

 

念のため、生きていることと現在どこにいることを文章に書き、シリカをはじめ、ギルドのメンバーに送った。

 

たのむ! 送れてくれ!

 

「・・・お?」

 

返事はすぐに返ってきた。返ってきたのはシリカのメール。

 

『オキさん! 無事でよかったです…。ほんとに…心配したんですから…。ホロウエリアというのがどこにあるかは私たちもわかりません。今は76層のアクティベートが終わったところです。念のため、皆さんでまた75層のボス部屋に行って調査をする予定です。無理なさらず、必ず帰ってきてください。』

 

と、あっちの現状を教えてもらった。あっちでも観測できていないようだ。シャオならわかるだろうから任せるとした。

 

ガサガサ

 

「あ?」

 

近くの草むらが音を鳴らす。索敵スキルにも反応があった。

 

「プレイヤーか? おい、誰かいるのか?」

 

「!」

 

どうやらこちらが気づいた事に反応したらしく、音が静まる。そしてその直後。

 

「うあああああ!」

 

「なに!?」

 

ダガーを振り上げ、飛び掛ってきたのは一人のオレンジカーソルをつけた少女だった。




皆様ごきげんよう。
年末手前に知人に薦められた『ガルパン』にすっかりはまりました。
日曜日に立川の爆音上映見てきます。これで映画は通算4回目。何度見ても設定描写が細かすぎて見きれません。
(ガルパンはいいぞ。

さて、EP4ですよ! EP4!
サモナー超楽しい。いろいろ手間隙かかりそうですが、なかなか新鮮で今までにない遊び方でした。
東京も細かく、敵も多種多様なので、しばらく楽しめそうですね。


最後に、これからのストーリーは予定通り『ホロウフラグメント』編でお送りいたします。
75層での地震と飛ばされたオキ。そしてそこで襲ってきた一人の少女。
SAO ~ソードアークス・オンライン~ これからもよろしくお願いいたします。


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第43話 「ホロウエリアとオレンジの少女」

75層でのゲームマスター『茅場』との決闘を見守ってる最中に急な地震。
そしてどこかに飛ばされたオキはオレンジカーソルのついた少女にいきなり襲われることとなった。


キン!

キン!

「待て! 待てって!」

いきなり襲われ、対応に困っている状況だ。相手はオレンジカーソルをつけた少女。

オレンジ色のショートの髪で青色の軽装防具。見た感じアスナやリズと同じくらいだろう。そんな彼女はオレンジプレイヤーのようだが。

『どうみても錯乱している。この感じ、ただのオレンジプレイヤーじゃなさそうだな。まずは…』

「落ち着かせるか!」

「!?」

ドカ!

体当たりで吹き飛ばし、彼女の上に馬乗りになって両腕を押さえた。

「落ち着け! 馬鹿野郎! 話を聞け!」

「ううう!」

振りほどこうと暴れまわるが、すぐにそれは収まった。

「あんたたちなんかに私は…!」

やっぱりなにか勘違いされていたようだ。

「だから落ち着けって。こちらとこのエリアに来たばかりだっつーの! まったく…。」

落ち着いたことを確認し、彼女の上からどいた。彼女に手を差し出し、立ち上がれるかと聞いたが自分で立った。

「本当にここに来たばかりなの?」

「本当だ。75層でゲームの決着つける為に茅場との決闘を見守ってたらここに飛ばされ…!?」

ガサガサガサ!

何か来る! でかいやつだ。索敵スキルに反応が出た。

「なんだ!?」

ズズーン!

地響きを立て、土煙を撒き散らし振ってきたその姿を見て驚いた。

「スカル・リーパー!?」

「っち。撒いたと思ったのに…。」

『キシャァァァァ!』

74層のエリアボス。『ザ・スカル・リーパー』。その姿は誰が見てもわかる骨だらけの体。蠍のような姿で巨体。

「なんで74層のボスがここにいるんだよ!」

「やるしかないわね…。」

少女が走ってスカル・リーパーへとダガーをつきたてようとする。

『シャァァァ!』

スカル・リーパーの巨大な大鎌はそれを防ぎ、もう片方の大鎌で彼女を引き裂こうと振り下ろした。

ギィン!

「あ、あんた・・・なんで?」

スカルリーパーと少女の間に入り込み、大鎌を防いだ。

「目の前で襲われているやつを見過ごす大馬鹿野郎じゃないって…事さ! おらぁ!」

『!?』

ズズゥン…

大鎌を振りほどき、逆に押し返す。スカル・リーパーはあまりの勢いかそのまま後ろに倒れてしまった。

「軽い。こいつ相当弱体化してんな。おい、あんた。ここではこういうやつがうじゃうじゃいるのか?」

「知らないわよ! 私だってはじめて見たんだから。」

体勢を立て直し、鎌をすり合わせこちらの様子を伺っているように見える。ゲージは一本。

「名前が違う? ホロウ・リーパー。ここのエネミーって事か。レベルも85。低いな。いける。おい、手伝ってくれねーか? その後で話し合おうじゃないか。」

「…わかったわ。」

『シャァァ!』

再び大鎌を振り上げこちらへと走ってくる。それを受け止め、彼女を側面へと移動させた。

「そのまま側面から思いっきり切りまくってやれ!」

「やぁぁぁ!」

少女のダガーによるSSがホロウ・リーパーの側面にヒットする。たったそれだけで怯み、顔面をさらす。

「こいつの火力を試させてもらうか。 おらぁ!」

左右3連、突き2連。そのままジャンプし上空からの突き刺し。それを弱点でもある顔面に全てヒットさせた。

「ディメンション・スタンピード!」

『シャァァァ…。』

弱弱しい声を上げ、ホロウ・リーパーは地面へと沈み、結晶となって砕け散った。

「よっわ!? おいおい85レベのボスとは思えねーな。…いや、こいつが強いのか?」

紅く染まった魔槍を見る。きらりと光るそれを見て、彼女に目をやる。

「大丈夫か? 怪我ぁねーか?」

「あ、う、うん。大丈夫。攻撃は喰らってないわ。あなた、強いわね。」

あまりに一瞬でゲージを溶かしたこちらに対し、ぽかんとした顔で見ている少女に近づいた。

「何があったかしらねーが、オキだ。よろしく。」

「フィリアよ…。私と一緒にいないほうがいいわ。」

「なんで。」

名前はフィリアというらしい。彼女は背を向け再び森の中へと入ろうとした。

「私はオレンジプレイヤーなのよ? カーソルが見えないの?」

「見えてるよ? でも、お前さんの目を見ればわかるさ。何かに巻き込まれてそうなったと推測する。あんたは人を傷つけるような人間には見えないよ。まぁとりあえず待ちなって。」

立ち止まり、再びこちらを向いてくれた。素直でよろしい。

「私はね…私は…。人を殺したの。」

「なんと。そうだったのか。」

驚きすらしない俺に彼女は目を開く。

「そうだったのかって・・・言ってる意味わかってるの!?」

「そりゃわかってるさ。何があったか次第で俺の反応は変わるが、人を殺しました。はいそうですかというしか今はないだろ。それともあれか? 快楽で殺したのか? それとも襲われて仕方なしにやったのか? 俺には後者と予測するがね。」

今までに何人のそういう奴を見てきたか。特にここ一年で何十人と相手してきたせいか、目を見れば大体わかってしまう。

「私は…。」

しばらく黙り込んだ彼女は数分後に再び口を開いた。

「わからない。気がついたら…人を…。」

「ふむ。まぁいいや。危険な奴じゃいっぽいし。ここにはいつから?」

「まぁいいやって…。あんた不思議ね。」

諦めたのかそれとも呆れているのか。どちらか? いや、両方か。少なくともようやく微笑んでくれた。

「ここの情報が知りたい。少なくともアインクラッドではなさそうだが?」

「私は一か月前に飛ばされてきたんだけど。生き残るのに精一杯で、ほとんど探索できてないわ。55層のダンジョンに潜ってて。気がついたら…。」

うーむ。困ったな。そう思いながらアイテム欄からタバコを取り出し、火をつけた。

「ふぅ…。さーて、どうしたものか。どこかに転送門でもあれば。」

ふとフィリアを見るとこちらを見ている事に気づく。手を見てる?

「あなたの手についてるその紋章。むこうで同じものを見たわ。」

「手? なんじゃこりゃ?」

左手の甲になにやら紋章が付き、光っていた。こんなもの見たことがない。というか今気づいた。

そのときだ。アナウンスが上空から聞こえてきた。

『《ホロウ・エリア》データ。アクセス制限が解除されました。これより、適正テストを開始します。』

その直後に『ホロウミッション スタート』と書かれた文字が目の前に広がった。

「ホロウミッション? 知ってるか?」

「知らないわよ。あんた…一体何者なの?。」

適応者に認定試験か。そしてミッション。ミッション内容は『マッスル・ブルホーン』を1体倒せとのこと。

「ふむ。まぁ討伐クエぽいし、情報がほしいからやってみますか。敵のいる場所…この先だな。」

「この先なら私が見つけた紋章のほうに行けるわ。」

ならば丁度いい。ささっとやってその紋章とやらを見に行きますか。

「でも…。」

フィリアは一度立ち止まってこちらを向いた。

「オレンジの…しかも人殺しの言葉を信じていいの?」

そんなことかい。

「別に? 仮に襲ってきたとして、本気なら…俺はお前と倒さねばならない。死ぬつもりはないし、殺されるつもりもない。やるなら…やるけど?」

口を歪ませて槍を見せる。 

「…なんなのよ…あんた。いいのね? 知らないわよ? 案内するわ。」

「案内してくれりゃそれでいいさ。」

 

森の中を歩いていくと、牛の顔で体は人のようなエネミーが待ち伏せていた。

「ちょっと、強そうなんだけど。」

「レベル90か。楽勝だな。」

「え?」

軽く腕を振り回し、槍を構えて突撃した。

「おら! アサルトバスター! ってな!」

ランスのPA。突進力が最もある技だ。本来ならフォトンを貯めてから一気に放出する必要がある為、真似事である。

『オオオ!』

相手も殺されまいと持っている巨大な斧を振り回そうとするが、素早くその場を離れ、振り回した直後の隙を狙って再び牛へ槍を突き立てる。

「おらおらおら!」

『オオオ…。』

ゲージ2本のフィールドボス級はあろうと思われるエネミーだったが、3連撃SSと何度か槍を突いただけでHPバーは溶けた。

「なんでぇ。さっきのリーパーより楽しめると思ったのに。残念。」

「あ、あんたすごいわね。」

あまりの一瞬の出来事にフィリアの目が点になってポカンとしている。

「まぁねー。伊達にイレギュラーズの名をもらってないから。」

「イレギュラーズ…まさか、攻略組最強といわれる!?」

「そういうこと。攻略組、ギルド連合『アーク`s』。そのひとつ『オラクル騎士団』マスター、オキ。よろしくね。」

納得したのか、驚いているのか。ようやく求めた握手を返してくれた。

『クリアを確認。承認フェイズを終了します。』

「紋章が光ってる。」

「おおー。フォトンみてぇ。」

数秒間光り輝き、すぐに光は消えた。

「紋章までもうすぐよ。こっち来て。」

「あーよ。」

フィリアの案内で森を抜けそうだ。そして目の前に広がる大きな穴と、そびえ立つ球体とそれを支える細い塔が現れた。

「これは…。」

「あそこはこのエリアの中心点。たぶんあそこに行けばなにか分かるかもしれないわ。」

それじゃ早速行ってみますかね。二人で頷き目的地となる塔を目指した。

「ここが私の見た紋章の場所。これ見て。」

「確かにそっくりだな。」

塔へと続く橋。その入り口に二個の岩があり、その岩からバリアのようなものが出ていて道をふさいでいた。

バリアにはこちらの手についている紋章とそっくりの紋章が光っている。

「どーれどれ。」

「ちょっと! いきなり触るのは危険じゃない!?」

「大丈夫さ。」

ピンポン

甲高いチャイム音がしてバリアが解けた。

「ほらな。」

「もう…。」

ため息をつくフィリア。それに笑顔で答え、先へと進んだ。

球体の中へと続いていた橋を渡りきり、球体内部へと入るとそこには巨大なモニターと中央に奇妙な石版。さらに石版をはさんでモニターの反対側にさらに三角のモニュメントが浮いていた。

「これは…ホロウエリアの管理室か? えっと、『中央管理区』か。このモニターに全てが映し出されてるな。」

モニターの目の前にある操作パネルを操作し、情報を集める。

『ホロウエリアアクセス権限を確認しました。 以下の者『オキ』確認。操作を許可します。凍結データ解除。…データ確認。アップデート開始。』

再びアナウンスが鳴り響く。画面では何かのアップデートが開始されたようだが、邪魔なので隅に移動させた。

どうやらここはアインクラッドではなく完全に違う場所のようだ。道は全てつながっておりひとつの巨大な大陸となっている。

転送ゲートがそれぞれ主要な場所に配置されているようだが、今はまだ稼動しておらず転送はできない。

その為、探索できそうな場所は北東にある森のようだ。

何より気になるのは所々に描かれている、そこにいるだろうフィールドボスと思われる姿のシルエット。影となっている為にちゃんとした姿は分からないが、この形は間違いない。あいつらだ。

「ねぇ。これ転送門じゃない? ちょっと見た目違うけど。」

「なに!?」

フィリアが示した中央にある石版を操作すると76層への選択ができるようになっていた。

「よかった。これでアインクラッドに戻れる。」

「え? 本当? 私にはその項目欄が見当たらないんだけど…。」

「まじ!?」

彼女の顔をみると本当らしい。うそはついていないな。さて、どうしたものか。

手を見て紋章を見る。そして巨大なモニターに映し出されるホロウエリアの全貌。

そして気になるフィールドボス。

「フィリア。君が戻れない理由もここを探索すればもしかしたら分かるかもしれない。ずっとここにいるつもりはないんだろう?」

コクリと頷くフィリア。

「よし。すまんが俺は一回向こうに帰って準備をして仲間を連れてくる。あそこに描かれているボスっぽい奴ら。あれに俺は見覚えがあるから確かめたいしな。」

「え?」

「だからしばらく待っていてくれ。君を必ずアインクラッドに戻してやる。人を殺したとか何とか言ったがそんなことは知らん。その気があるなら黒鉄球に入ってもらうし、間違いだったならカルマ回復イベントくらい付き合ってやる。あれメンドイんだわ。」

その言葉にフィリアは驚いていた。

「そんなことって…。それにカルマ回復イベントの内容、何で知ってるの?」

「いろいろあってね。俺も一時期はめられてオレンジカーソルになっちまったことがあってな。オレンジギルド『ラフィンコフィン』知ってるか?」

「え、ええ。」

知らない奴はいないだろう。そりゃそうだ。あそこまで大暴れした犯罪者どもはそうそういないだろうし。

「あいつらを黒鉄球に放り込んだのは俺らだ。ラフコフリーダーのPoh。あいつとも戦ったさ。ほかのメンバーとも。何度もね。そんなときにグーリンカーソルだったあいつらを切っちまったらそりゃこっちがオレンジになるわな。とはいえ、やらなきゃなやられる。こちらとまだやる事があるんでね。仕方ねーからカルマ回復イベントやったんだけどまーめんどいの一言。」

手を広げお手上げをするしぐさを見せる。

「どちらにせよ、死にたいというなら知らんが、生きてここを出たいというなら、言う事を聞いてくれると嬉しいな。下手すりゃもう少しでこのゲーム、終わるかもしれん。」

その言葉に驚いたフィリアはこちらに近づいた。

「それ本当!? そういえばさっき茅場との決闘って言ってたけど…まさかゲームを作った!?」

「ご明察。75層のアホ…いや、ボス倒したときにうちのメンバーがプレイヤーの中に混じっていることに気づいてね。決闘を申し込んだんだわ。結局、なんかへんなことが起きて茅場は逃げるし俺はここに飛ばされるし。どちらにせよやることは進むだけだ。フィリアにその気があれば…だけど。」

手を差し出し、答えを待った。フィリアは少しだけ手を引こうとしたが、こちらの手に重ねてくれた。

「わかったわ。本当に助けてくれるのね?」

「任せとけ。頼もしい仲間を連れてまたここに戻ってくるよ。必ず、絶対に。」

「ありがとう…。」

少しだけ涙目になっている少女の顔を見る。うれし涙と分かっているとはいえ、やはり女性の涙には俺弱いな。

「それじゃあ、行ってくる。おとなしくしてるんだぞ?」

「ええ。分かってる。」

バイバイと手を振りながら笑顔で二人は分かれた。

その場に残されたフィリアはボソっと一言呟いた。

「不思議な人。あの人なら…。」

その場に座り込み、オキが再び転送門から現れることを期待しながら待つことにした。彼なら信じれる。そんな気がする、と。

「ふう。」

76層転送門のある『アークソフィア』。そこにオキは無事転送された。そして目の前に一人の少女が目を見開きながらこちらを見ている事に気づく。

「ただいま。シリカ。」

「…オ、オキさーーーん!」

涙を流しながら抱きついてきたシリカを優しく受け止める。

「もう! なにやってたんですか! 心配したんですからね!?」

「すまんすまん…。ちょっといろいろあってね。あ、たいちょー。ディアベルー。みんなー。ただいまー。」

無事に帰ってきたオキをため息をつきながら皆はホッと胸をなでおろした。

「ホロウエリア?」

42層のギルド拠点へと戻ったオキはそこで何があったかを一部始終伝えた。

未だに涙目になっているシリカを抱きかかえ、頭をなで続けながら。

「うん。こことはまったく別のフィールド。俺にはよく分からんが、少なくともSAO内なのは間違いないね。」

「たぶんだけど、オキの言っていることは本当だと思うよ。」

シャオがその場に現れた。相変わらずまぶしい。

「アインクラッドのデータを確認したけど、ホロウエリアなんて場所は存在しない。もうひとつのアインクラッドのような場所じゃないかと予測している。なにせ僕が見れるデータは限られるからね。」

「そこにお前を連れて行ければ分かるんじゃないか?」

「残念ながらそれはできそうにない。なぜなら君を探そうとしたんだけど見つからなかった。つまり僕はホロウエリアと繋がる事が出来ないという事だ。」

シャオすら出来ないとは。まぁ別にいいさ。向こうに行きゃ、なにか分かるだろ。

「それともうひとつ。…あのエリアには俺たちアークスが戦ってきたモノが勢ぞろいしている可能性がある。」

「「「!?」」」

アークスの全員の顔が変わる。

「それはどういうことだい? オキ君。」

「そのままだ。俺が見た管理室っぽい場所でのモニター画面。そこにフィールド上に示されているある場所数箇所にいくつかの惑星のエネミーのシルエットを確認した。ファング、ヴォル、ソーマ、クォーツ、あとはー何がいたかな。ああ、エクスもいたな。それ以外にも何体か。ごちゃごちゃ書かれてて中央付近はよく見えなかったからなんともいえないけどぱっと見そんな感じ。確かめに行く必要がある。」

惑星ナベリウスにしか存在しないはずのファング・バンサー。惑星アムドゥスキアの龍族達。惑星リリーパのヴァーダ・ソーマ。どれもこれもアークスが調査している惑星のモンスターばかりだ。

「ふむ。いく必要があるな。」

「ファング…ミケ…ナベリウスの元締め…っう、頭が。」

アインスやる気満々だ。

ハヤマん、懐かしいなそれ。ミケとの初遭遇の時じゃないか。その話はまた別の時に。

「エクストリームかな? 石くれたらいいな。魔石堀り行こうぜ。」

「ミケは任せるのだー。」

コマチは相変わらずと。

ミケは俺の判断に任せるという。俺はシリカをじっと見た。これだけ涙を流して顔をぐっちゃぐちゃにしながらも信じて待っていてくれた俺の大事な人。今度こそは何があるか分からない。

「俺と、シリカ、隊長でまず様子見だ。その後でどうするか判断する。」

「了解したよ。」

「留守番かー。まいっか。リーダーの判断に従うよ。」

ハヤマは少しだけ残念そうにするが、従ってくれた。

「オキさん?」

「ああ。大丈夫。お前とは離れないと約束したのにこれだったからな。今度は一緒だ。」

「…はい!」

笑顔で答えるシリカを再びなでる。あ~癒されるんじゃ~。おい、お前らそんな変な顔でこっち見るな。

「ゴホン! と・こ・ろ・で。こちらの情報はいいのか?」

キリトが咳払いをして素早くシリカは離れた。もう少しくっついてくれてもいいのに。

「そうだったな。ヒースクリフ…いや茅場の情報は?」

「それは僕から説明するよ。」

シャオが一部始終をユイとデータを確認してくれたのが役に立った。

キリトが茅場に最後の一撃をかまそうとしたとき、外から大規模な強制介入があったそうだ。

それにより、カーディナルは緊急信号を発信し、ゲームマスターであるヒースクリフを呼び戻し、彼をプレイヤーからはじいたそうだ。むしろそれをやらなかった場合、データ侵食が発生し全てのオンライン回線が切れる可能性が大いにあるほどの負荷がかかったそうだ。すぐさま茅場はカーディナルを操作し、負荷を軽減。シャオもこっそりそれを手伝ったらしい。

むしろそれをやらないと…。

「75層での一斉死亡。そういうことだったのか。」

そりゃルーサーがどのような未来予測、改善再びシュミレーションを行っても75層で必ず全員が死ぬわけだ。

「カーディナルの負荷限界を必ず突破される。それが一斉死亡の結果。僕らが介入した為にそれは防ぐことが出来た。」

とはいえ、カーディナルの負荷を請け負ったときには峠は越えていたらしい。

「たぶん、オキさんが最初に茅場にいった忠告。それを彼は無視しなかったんだろうね。」

ハヤマがはじめて彼との接触をしたときの事を思い出させてくれた。確かにあの時忠告した。

『外部からの介入に気をつけろ』

オキの言葉と、シャオの存在。それが彼らプレイヤーたちを救うことの鍵となっていた。

「茅場は今?」

シャオは首を振った。

「SAO内でプレイヤーとしての彼はもういない。いるのはゲームマスターだけ。」

少しだけ残念だな。俺もあいつとはやり合ってみたかったんだが。それになんだかんだでここまで一緒に攻略してきたんだ。一言くらい何か言わせてほしかったんだが。ま、最後にもう一度会えるだろう。いや、会う必要がある。天井をみて上にいるであろう茅場に向かって心の中でつぶやいた。

『そうだろ? ヒースクリフ? いや、茅場明彦。』




皆様ごきげんよう。
ホロウ・エリアに到達しました。これからはホロウ・エリアとアインクラッドの両方を攻略していこうと思います。
また、ルーサーが何度も因果関係を弄ってシュミレートしても回避できなかった一斉死亡の謎も解明されましたね。さぁ終盤に向けてこれからです。

PSO2の方ですが…。
ペット集めがめんどい! なんなんですかあれ。✩13どころか12すらでない。特に鳥が(
PSO2では『シリカ』でサモナー始めてますがペットのレアが出ないためうまくいかないですね。

さて、次回は新たな仲間が増えます。
あの生きる下ネタを入れるとなると…これから荒れそうです。
次回『妖精と悪魔と』おたのしみに。


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番外編「ハッピーバレンタインバースディ」

※この物語は本編と(あまり)関係ありません。
初見の方は出来れば本編をご覧になってから、お読みください。


「キーリートー!」

オラクル騎士団ギルド拠点内部の大会議室にてクラインの悲鳴が大音量で流れた。

「どうしたクライン・・・。いいから離れろ。」

泣きながらキリトにクラインが抱きつき、それを嫌そうに離れるキリト。この場いるのは自分とアークスメンバー男性。

それからオラクル騎士団の男性、それから怪物兵団男性が大会議室にて今後の作戦を練っていた最中だった。

「俺、サラになにか悪い事しただろうか・・・。サラの所に行ったら追い出されたんだ・・・。今日は会えないって・・・。」

それくらいで泣くか? 自分がクラインの立場になっているところを想像してみた。そんな事シリカに言われたら・・・結構くるな。心臓に悪い。

とはいえ、今日は仕方がない。だって今日は・・・。

「クライン、カレンダーを見ろ。今日は何の日?」

「子(ね)のh。」

「ミケっちは黙ってろ。」

絶対言うだろうなと予測していたのかハヤマが速攻で突っ込む。

「・・・あ。」

それに気づいたのかカレンダーで今日の日付を確認したクラインはようやく落ち着いた。

「そうか・・・。今日は・・・。」

「その通り。だから俺達もこうして追い出されたんだ。」

男性メンバーが全員頷いた。

「全く、そんなに困るもんじゃないだろ。別にいたってさぁ。」

「まぁ仕方ないよ。この日ばかりは女性に譲ろう。タケヤ。」

「とはいうけどよー。」

納得がいかないのかタケヤは反論するも、レンが宥める。

「まさか、私まで追い出されるとはな。私はすでに枯れているというのに。」

「そりゃ、オールドの旦那。あんただって男だと見られてる証拠だぜ。まだまだいけるだろ。こういうときだけ老人になりなさんな。」

オールドの肩をポンと叩いたセンター。

「私のところでも同じような状況だったからな。仕方がないのでこっちに来たのだ。」

手を広げて困った顔をしている隊長アインス。

「女性陣、張り切ってたよね。」

「だね。」

ソウジ、レンも同じ顔をしている。その隣でケイがソワソワしていた。

「でもこれって俺も貰えるって事だよな!? くー・・・! 外だともらえない俺がまともに女の子にもらえるなんて! よかったなGT! 俺達ももらえるぞ!」

「そうあせっちゃダメだ。ゆっくり待ってあげよう。」

やさしい笑顔でケイを落ち着かせるGT。

まぁケイの言うことはわかる。なんだかんだで皆ソワソワしているのだから。アークスを除いて。

「この時期だと、そろそろ火山地帯で緊急任務が発生してるんだろうな。」

「だねー。でも良いことあったっけ?」

「ラブラッピー狩り・・・。いいことねーな。」

ハヤマとコマチも一緒に去年の火山地帯でのイベントを思い出す。

「ラッピーはいいもの落とさないのだー。だから焼き鳥にしてしまうのだー! ・・・とかいってたらおなかすいたのだ! ハヤマ! 何かつくれ!」

「うっせぇ! 自分で何とかしろ!」

それでもなんだかんだでその場で作れそうなお菓子を出してあげる所を見るとハヤマんらしい。ツンデレが。

ふと何かを思い出したのか急に隊長がこちらを見てきた。

「そういえば、オキ君はチョコレートが苦手だったろ? シリカ君は知っているのか?」

「あ? ああ。もちろん言ってるさ。まぁ仮に忘れててチョコレート貰っても頑張って食うけどね。食えないわけじゃないから。」

「ええ!? オキさんチョコダメなんですか!?」

「珍しいですね。アレルギー・・・じゃないんですね? 食べれるって事は。」

「そそ。昔っからチョコ食べると気持ち悪くなってさ。ほんのちょっとでもね。頑張って食べると、腹痛くなってきて・・・。だからこの時期になる前に、女性陣にはチョコダメって言いまくったよ。クッキーのほうなら問題ないってね。」

そう。今日はバレンタイン。この時期になるとオラクル船団は惑星アムドゥスキアのとある場所を龍族達から借りて巨大なイベントを開催する。そのイベントで多数のアークスが集い、フォトンの影響か、それともダークファルスたちもそれに寄って来るからか、ほかの惑星からも訪問者(エネミー)が現れる。それを討伐しながら、宇宙を旅する三姉妹の幻のケーキ屋『ナウラ』が、その時期になるとその周辺に現れるらしくそのケーキ屋を探してアムドゥスキアの火山地帯を走り回る女性陣を守るという、よく分からんイベントだ。ちなみにその混沌とした状況下でドサクサにまぎれてチョコレートを配っている女性達もいるとか。直接渡すと恥ずかしいからと聞いたことがある。

さらに、その時期はラブ・ラッピーと呼ばれるピンク色に毛が生え変わったラッピーも出現し、ラッピーから落とした武器防具にはラヴ・フィーバーと呼ばれる武具改造に必要不可欠な特殊な力が付いているときがある。それを狙って大量発生したラッピーを捕獲するアークスも少なくない。

そんな昔話を隊長や、アークスみんなで笑いながら話していた。

「こんな感じ・・・ですかね?」

「そうそう。後は、それをこーして・・・。」

男性陣が騒いでいる中、同建屋のキッチンでは女性陣がみんなでアスナに教わりながらチョコレートやクッキーなどを作っていた。怪物兵団の女性陣もこちらに来ておりサラ達も混ざって一緒に作成している。

こちらでもオキの苦手な食べ物がチョコという話題で盛り上がっていた。

「でも珍しいわね。チョコがダメなんて。でも食べれないわけじゃないんでしょ?」

「仕方ないですよ。体質なのか良く分からないって言ってましたが、食べれないモノを渡すより、おいしく頂いて貰えるのを渡したいですから。」

オキさんは以前からチョコレートが苦手だとお茶会の時に言っていた。まぁ元々嫌いなものが殆どないオキさんの『進んで食べたくないモノ』の2個うち1個だから覚えていたのもある。

「もう一個って何なの?」

リズベットが聞いてきた。他のメンバーも気になるらしい。

「嫌いなものがない人だと聞いてたけど、以外のものが嫌いだったとは思わなかったわ。」

「もうひとつも聞けたら聞いてみたいです。」

ハナとヒナもミケ用の大量のチョコを作りながらこちらを見ている。ツバキやサクラも興味があるようでこちらを見ていた。

「えっと・・・。」

「オキちゃんはね、ラッピーラーメンっていうオラクル船団の中で食べられる・・・そうねぇ。お湯を入れればすぐに食べられる奴なんだけど、それがダメなんだって。」

綺麗にデコレーションされたチョコレートケーキの仕上げをしながらシンキが笑顔で言った。

「ラッピーラーメン・・・? チキ○ラーメンみたいなものかな?」

「ええ!? あれ、すっごくおいしいのに・・・。」

グレイやシィ達も驚いていた。

「オキは、『トンコツ以外はラーメンといわん!』なーんてよく言ってたわね。口に合わないんだって。」

呆れながらサラも補足する。

「あー・・・だからラーメンを作るときは必ずトンコツって言うのね・・・。納得が言ったわ。 あ、ユイちゃんそこはね・・・こうするの。」

「わー! すごく綺麗にできてます! すごいです! ママ!」

ユイと一緒に愛するキリトへのチョコを作るアスナ。さすが調理スキルS級獲得者である。この中でも一番おいしそうに見える。

「シリカちゃんはクッキーとは別でもうひとつ作るんだったわね?」

「はい。お手伝いお願いできますか?」

アスナは任せてと張り切ってシリカにもうひとつの依頼の作成を手伝った。

「懐かしいな。そんなのもあったあった。」

昔話で盛り上がる大会議室。そこへ勢いよく扉を開けてツバキやサクラ達をはじめ女性陣が入ってきた。

「さぁ男共! 今日はバレンタインなのは知ってるわね! 感謝しなさいよ! この美しくかわいい女性陣があんた達にチョコレートを渡してあげるわ!」

リズベットが先陣を切って大会議室のテーブル上にたくさんの綺麗に包まれたチョコレートを置いていった。

ツバキやサクラもカップケーキを作ったらしく皆に配っていた。

「ほら、感謝しなさい。いい? 義理だからね!?」

「ありがとおおお! おっしゃー!」

「そ、そんなに喜ばなくても・・・嬉しいけど。」

ツバキがタケヤにチョコを渡すとタケヤは大声を上げて喜んでいた。それを目の前で見たツバキは渡したときから赤かった顔が余計に赤くなっている。

「はい、レン君。私からのチョコ。おいしく出来たと思うけど・・・。」

「ありがとう。すごく嬉しいよ。」

すでにいい雰囲気になっているサクラとレン。

「パパー! いつもの感謝をこめて頑張ってママと作りました!」

「おー! えらいぞー!」

愛娘からチョコを渡されて笑顔でユイの頭をなでているキリト。

「キリト君・・・その、はい! うまく出来たと思うけど・・・。」

「ありがとう。アスナ。」

3人で笑いあいながらチョコを作った感想を父親に教える娘。そしてそれを見守る母親。そんな顔をしていた。

「ミケー! はいこれ!」

「チョコなのです!」

たぶんこの中で一番多きな袋を抱えたハナとヒナがミケにチョコを渡していた。

「いっぱいあるから。」

「たっぷり食べてください。なのです。」

「おおー! ありがとーなのだー! いっぱいあってミケは満足なのだ! 一緒に食べるのだー!」

ミケが一緒に食べようと言ってきたので、二人は目を丸くして顔を見合わせて笑顔でミケに頷いた。

「みんないっぱい貰ってるね。」

「そうだな。」

ハヤマと隊長は一緒に騒がしくなった会議室の端で皆を見ていた。

「たいちょー。」

「チョコ・・・。」

「もってきました!」

「む。俺にか。」

グレイたち筆頭に怪物兵団の女性陣が隊長を訪れてきたのだ。ハヤマはこっそりとその場を離れようとしたら。

「ハヤマ殿―!」

シャルがこちらを見つけてきたようだ。ツキミも一緒らしい。

「持ってきたぞ! 愛する人へのプレゼントじゃ!」

「私は普段の感謝をこめて・・・。」

受け取らないわけには行かないが、なんだろう。くすぐったい。

「あ、ありがとう。うれしいよ。」

なんだかんだで嬉しそうな顔をしている。まぁそりゃもらえれば誰だって嬉しいか。

「ほら。チョコレート。せっかく作ったんだから、大事に食べなさいよ。」

「サ、サラー!」

涙を流すクライン。相当嬉しかったと見える。

「な、泣くことないじゃないの。ほら・・・。全くもう。」

呆れながらも嬉しそうに口元だけ微笑んでいるサラ。その後一緒に食べたらしい。

「コマチ。はい。感謝をこめて。」

フィーアが微笑みながらチョコの入った包みをコマチに渡していた。少しだけ他の人よりも大きい気がする。

「ん? 俺か。」

「あら。意外な顔してるわね。それとも貰えない、とでも思ったのかしら?」

「ああ。俺なんかに渡してくれる人がいるなんて思ってなかったからな。」

「なにを言ってるの。いつも感謝してるんだから。渡さないほうがおかしいわ。私は、あなたに感謝してるんだから。」

「そうよー? コマチちゃん? 貰わないと、あとで私が怒るから。」

シンキも一緒にやってきた。どうやらハヤマ達にも配ってきたらしい。

「はいこれ。皆に配ってるものだけど。おいしく食べてね。じゃあ後は二人の邪魔になっちゃうから私は次に行くわねー。ごゆっくり。今夜はお楽しみかしら?」

シンキはぱっと渡して次へといっていた。それを聞いて顔を赤くしているフィーアからのチョコを受け取る。

「ありがとう。こうしてチョコを貰ったのは初めてだな。」

「あら。あなたなら貰ってもおかしくないと思ったのだけれど。それこそ意外ね。」

「まぁ昔からこんな性格だからな。」

そう言いつつも二人で笑いあいながら先ほど話題に出た昔話で盛り上がった。

そんな周囲の状況を微笑みながら(ニヤケながら)見ていたら、シリカが目の前に顔を赤くしてよってきた。

「あの・・・オキさん。これ・・・。クッキーです!」

「おおー。ありがとな。シリカ。」

「えへへー。」

小さな可愛らしい包装で中にクッキーが入っている。よく見ると星の形をしていた。たぶんアークスのマークをイメージしたのだろう。

「キュルゥ・・・。」

「ピナもほしそうに見てるぞ。」

「もちろんピナの分もありますよ。はい!」

「キュル!」

差し出されたクッキーをおいしそうに食べるピナを見て二人で笑顔になった。

その後、いろんな拠点を女性陣らと一緒に皆で回り、お世話になっている人たちへの感謝の意をこめてチョコを配った。

「はい。ディアベルさんにも。」

「おお。ありがたい!」

「ワ、ワイらにも・・・!? 感謝感激雨あられや!」

ディアベルやキバオウにも配っている。皆喜んでいた。

他にもキリトと仲のいい『黒猫団』のメンバーや、その他お世話になったギルドへもあいさつ回りをした。

「おれっちにも!?」

シリカと一緒にアルゴの元を訪れると、渡されたことに驚いていた。どうやらアルゴも準備をしていたらしいが逆に渡されたので不意を付かれたのだ。あの顔は珍しい。覚えておこう。

次の日の夜。

俺は攻略を終えて、自分の書斎でシリカのくれたクッキーを少しずつ食べながら次の攻略の作戦を練っていた。

コンコン

「どうぞ。」

「失礼します。」

シリカが部屋へと入ってきた。手を背中に回し、何かを隠しているのがバレバレである。

「どうした?」

「オキさん。今日が何の日か・・・覚えてますか?」

「今日?」

手に持っているクッキーをふと見る。昨日がバレンタインだ。今日はその次の日・・・いや、16日か。すでに0時を回っている。気づかなかった。しかし、今日はなにかあったっけ? 

「ふふふ。その分じゃ何も覚えてないようですね。・・・はい。」

そう言ってシリカは机の上に小さなケーキをおいた。チョコレートで出来たプレートを見て思い出した。

「ハッピーバースディ・・・。」

そうだ。今日は自分の誕生日じゃないか。すっかり忘れていた。

「オキさん。お誕生日おめでとうございます。」

「きゅるぅ!」

シリカの肩に乗っているピナもおめでとうといっているようだ。それを聞いて何かがこみ上げてくる。

「・・・ありがとう。」

シリカとピナを一緒に抱きしめ、感謝の言葉を伝えた。

外はとても寒いが、とても暖かな夜を2人と1匹で過ごした、ある冬の日のお話。




皆様、ハッピーバレンタイン!(二日遅れ)
女性の方は渡せましたか? 男性は貰いましたか? 
他の方々も多数バレンタインネタを投稿されており、私も我慢できなくて書いていたら・・・日にちを過ぎてました。
まぁその2日後が私の誕生日だというのもあり、書きたいことを書かせていただきました。(かなり無理やり感あるけどこれが精一杯。ああ、文才がほしい。)

では本編でまたお会いしましょう。


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第2章 ~ホロウフラグメント~
第44話 「妖精と悪魔」


ホロウエリアというもうひとつのフィールド。
そこではなにが待ち構えているのか。
まだ、誰も知るはずがない…。



ホロウエリア中央管理室。

「はぁ…。」

あれから一日が過ぎた。コンソールパネルの前に座り込んでいる一人の少女。フィリア。

彼女はいつ来るかも分からない一人の男性を待っていた。

『必ず戻ってくるから。』

その言葉を信じて。

「なんで信じちゃったんだろ。」

自分でも分からない。でもあの笑顔と元気と不思議な雰囲気を出した男性をなぜか信じてしまった。

あの男を黒鉄球にぶち込んだ。そう言った。だから確認しなければならない。私が出会ったあの男の本当の正体を。

シュイィイン!

「!」

転送門が光り輝きだす。そして光が収束したときに現れた男性二人と自分よりも幼い少女が一人。

「よぉ。フィリア。待たせたな。思ったより準備に時間掛けちまった。すまん。」

「オキ!」

立ち上がり、すぐ近くに駆け寄って手を握った。

「来てくれたんだ!」

「おう。来るって約束したろ? 集合時間をたまーーーーに破るけど、大事な約束は必ず守る。」

えっへんとするオキをちょっとだけジト目で見る両脇の二人。どうやらどっちかが間違っているらしい。たぶん時間だな。約束は守るの分かったし。

「えっと…。」

「ああ、紹介が遅れたね。こちらはアインス。俺らは隊長って呼んでる。俺がすっごく世話になってる人。」

「俺も助かっているほうなんだがな。アインスだ。よろしく。」

「で、こっちは…。」

「シリカって言います。オキさんの…その…。」

急に顔を紅くしだした。そういう関係の人なのかな? という疑問点をオキはすぐに解消した。しかも堂々と。

「嫁だ!」

はっはっはと笑い、シリカという少女は余計に顔を紅くする。嫁!? 聞いてるこっちが恥ずかしいわ。

って事は、夫婦? オキさんってタバコ吸ってたよね? ってことは20超えてるよね?

すごい年の差! それでもオキのお嫁さんなら、お世話になっている人なら、悪い人ではないのは間違いない。

「よろしくね。シリカちゃん。」

「はい! あ、こっちはピナって言います。」

「きゅる♪」

あら、かわいい。モンスターをテイムした人がいるって聞いたことあったけど、この子だったんだ。

「少しでも進めたらと思ってね。早速来たよ。なにか情報で追加分はある?」

へらへらとしていた顔が急に引き締まるオキ。やさしい顔だったアインスも、顔を紅くしていたシリカもオキの一言で顔が変わる。目を瞑り私も心を切り替えた。

「ええ、あるわ。こっち見て。」

オキが帰った後、コンソールを弄り、新たに手に入れた情報を彼に伝えた。

「…。」

フィリアがオキやシリカに新たに得た情報を教えている最中、アインスは中央管理区の下を示す場所に描かれているボスと思われるシルエットをじっと見つめていた。口元が自分でも気づかない程度に歪ませ、そのことに誰も気づかないほど静かに、心の底で滾る思いを内に秘め。

場所は移り変わり、ギルド拠点内部。ハヤマはアルゴからある情報を仕入れていた。

「妖精と悪魔がでる?」

ホロウエリアの情報と75層で起きた事件の一部始終を伝える為だ。

そして、過負荷のかかったカーディナルがオキのように他のプレイヤーもあのような場所へ移動させたり変なことになっていないかの情報を集めるためにアルゴと情報交換をしている際、変な話を聞いた。

「そうなんだよハヤマン。なんでもそこに行くと妖精の羽をもった女の子と悪魔の羽をもった女性がているって噂だヨ。」

新しいクエかなんかだろうか。そんなことを思っていた。にしてもごっちゃ混ぜだな。

「行ってみル?」

「だなぁ。オキさん達は早速ホロウエリア行ってるし、コマチ達は攻略のほうに。俺は今日は休むつもりだったからな。」

のんびりするのもたまには必要だしね。リーダーがいつも言ってることだ。

「シャル嬢と一緒にデートでもしてきたラ?」

その言葉を聞いて俺はずっこける。アルゴをにらむとニヤニヤと笑っていた。全くこいつは…。うっせ、馬鹿。

「で? この付近にいるとな?」

結局連れてきた。なんだかんだで俺も丸くなったもんだ。

「だそうだが…。噂ではこの丘の上に…。」

二人で76層の端にある小さな丘の上へと昇った。この上には一本の大きな木が生えているだけのはずだ。噂ではそこで目撃されていると聞く。攻略組のメンバーが見つけたらしいが、再び見に行くといなくなっていたらしい。そんなことが続いたそうだ。

丘の山頂にある木が見えてきた。殆どエネミーも出てこないし、なにか特殊な物があるわけでもない。そんな場所だから基本的に人がいるはずがなかった。そういるはずがないのだ。

「いたぞ…? 妖精の羽をもったモノと…。」

「悪魔の…羽?」

「どうしたハヤマ殿?」

逆光で影は見える。片方は妖精の持っている様な羽が背中にあるようなシルエットだ。そしてもう一人見える。その一人のシルエットに見覚えがあった為に首をかしげる。

「いや、見たことあるようなシルエットだなぁと。」

何度も見たことがあるそのシルエット。特に見覚えがある6枚の巨大な悪魔の羽をもったモノ。頭から飛び出た一本の長いアホ毛。どうやらこちらに悪魔のような羽を付けた方が気づいたらしくどんどん近寄ってくる。

「ハ、ハヤマ殿!?」

シャルが少し不安がっている。だが、そんなことも気にしていられないほどその時は呆然としていた。だってさ…ある得るはずがない。SAOの中に知っている奴が急に現れたらそりゃ驚くよね?

「ハーーーヤーーーマーーーちゃーーーん!」

白き長い髪、整った顔、母性のある声、妖美なスタイル。何度も見てきた、何度も共に戦った。何度も笑いあったその人物。アークス、シンキが思い切り飛びついてきた。

76層転送門前。いざ出発しようと言う時に、ハヤマからメールが飛んできた。何でも大変な事が起きたそうだ。

再びフィリアと別れ、ハヤマの『大変なこと』を確認しようとしたら目の前にいた。

「オーキーサーン…。」

「ハヤマん!? どうした!? そんな真っ青な顔して…。」

門前で待っていたのかハヤマが真っ青な顔して突っ立っていた。後ろにはシャル。その見ている方をたどると。

「え…ええ!?」

「ひっさっしっぶりー!」

アークスシップにいるはずの仲間の一人、シンキがいきなり抱き着いてきた。

「シシシ、シンキ!? なんでおめーココにいるんだよ!? つーか離れろ!」

無理やり離し、彼女を見た。

「えへへー。きちゃった。」

テヘペロってしてもだめだ。ほら、いきなり抱きつくからシリカの目が点になってる。隊長笑ってないで助けて。

42層のギルド拠点へ一度移動した。大会議室にて事情を聞く。

「まさか、シンキまでこっちに来るとはな。」

シンキ。彼女は俺がまとめているチームのメンバーの一人だ。長い白き髪を持ち、時々頭の上にぴょんと飛び出ている髪の毛が動くときがある。スタイル抜群で超が付くほどの美人。挙句、まるで母親のような姿に見える特もあるほどの母性を持つ。黙っていればどんな男もいちころだろう。そう、黙っていれば。とりあえずその場にいた全員にはそのように説明した。

「だって~…。さみしかったんだもん。みんなだけ面白そうな事して…。私も混ぜてよ。」

にっこり微笑みながら簡単に言ってくれる。全くこの人は。

「…背中のそれ、SAOでも再現可能なんだな。」

「でしょー?」

背中に生えている6枚の黒い羽。彼女のトレードマークの一つ。アークスにはアクセサリーといって頭や背中などにつけるパーツが存在する。あの羽もその一つなのだが。何故かあの羽は動くときがある。本来動くものではないはずなのだが。

「で? 何で来た。」

「だって。オキちゃん達ばっかりずるいもん。私も混ぜてよ。私だってヒューナルとかアンゲルとかと戦いたい。」

おいおい。こいつ混ざりたくて来たのかよ。なんでこうもうちのメンバーは戦闘バカが多いんだよ。あ、俺もか。

「ほぉ~…。」

「ん?」

シンキの抜群なスタイルにクラインが鼻を伸ばしてガンみしている。こらシンキ、セクシーポーズきめて誘惑しない。

「…。」

ムスくれたサラがクラインの頭を思い切り叩き、われに返って謝っている姿や、それを見て自分達も我に帰り咳払いでごまかすディアベルやキバオウら。

「いい仲間に出会えたわね。」

「ああ。退屈はしねーぜ。向こうは大丈夫か?」

心配なのは向こうにいるほかのメンバーだ。クサクやクロノスなど、他にもいる。

「大丈夫よ。全部クロちゃんに任せてきたから。」

頭抱えてるクロを思い浮かべ合掌する。何せ癖の強い奴らばかりだからな。うちのメンバーは。

「そっちのお譲ちゃんもオキはんとこのアークスなん?」

キバオウがもう一人の妖精の少女に質問した。もう一人シンキと一緒にいた少女らしい。こちらはシンキと違い、妖精のような格好をしており、羽も見受けられる。

「あ、いえ。私は…。」

「すみません。遅れました!」

「遅れました!」

「やっべ、やっぱ始まってた。遅れてすまん。」

アスナ、ユイ、キリトが順番に会議室へとバタバタと入ってくる。

最後に入ってきたキリトを見るなり、妖精の少女は涙を流しながらキリトに抱きついた。

「…ふぇ!?」

「パパ!?」

「おろ。」

「あら~。」

アスナとユイは目が点になり、他のメンバーは驚く以外に何も出来ない。

「ちょ…おい、離れろ! 君は一体…。」

「ようやく…やっと会えた。『お兄ちゃん』!」

その言葉に全員が静まり

「「「ええ~!?」」」

妖精の少女『リーファ』。キリトの事を『お兄ちゃん』と呼び、なきながらキリトに抱きついた彼女を何とか落ち着かせて話を聞いた。

「お兄ちゃんって…いや確かに俺には妹がいるけど。こんなんじゃなかったぞ。もうちょっと、そのなんというか。」

「桐ヶ谷和人。」

「へ?」

「私のお兄ちゃんの名前です。私の名前は桐ヶ谷直葉。お兄ちゃんからはスグって呼ばれてました、生まれは東京の…。」

「ストーップ。」

俺はそこで止めた。オンラインでの身内ネタを暴露させるのはまずいと今までに何度も、耳にタコができるくらい聞いてきた。本名だけでもあまり良くない。

「キリト。本当にお前の妹なのか? 本名出してきたぞ。」

「名前は間違いない…本当に、そうなのか?」

「それじゃあ信じてもらう為にもうひとつ。お兄ちゃんが…うちにはじめて来た日の事…。」

その言葉で確信したらしい。

「分かった。もういいよ。本当にスグ…なんだな。…だが、どうして。」

キリトの言葉に一瞬言葉を呑んだリーファを俺は見逃さなかったが、事情がありそうだ。黙っておこう。

「えっと…私にもよく分からないの。別のVRMMOを今プレイしていて、いつもどおりログインしたらあの場所でシンキさんがいて、聞いたらSAOっていうから…。ハヤマさんが来るまでずっと一緒にいて…。」

シンキが一緒だったのか。どうやらシンキと同時期にログインしたらしい。ん? シンキと一緒だった?

「シンキに何か変な事言われなかったか?」

いやな予感がする。念のため聞いておいた。

「変な事…。あー…。」

少しだけ顔を青ざめるリーファ。やっぱりか。

「なんか、うちのがすまん。」

頭を下げる。そればかりはうちの問題だ。

「あ、いえ。でも不安だった私と一緒にいてくれて、励ましてくれたのもシンキさんなので。」

いやーじゃねぇよシンキ。相変わらず変なところで母性出すんだから。

話を聞く限りでは外の様子は大変な事になっているという。

VRMMOでの1万人拉致。実質の人質。だが、犯人からの要求は一切なし。

本当に死んでいくプレイヤーたち。

絶対安全を断言した新しいナーヴギアにより再度普及するVR技術。

「なるほどねぇ。ところでリーファちゃん。質問いい?」

「はい。どうぞ?」

「オラクル船団、ダーカー、アークス。この三つの言葉って外で一回でも聞いた事がある?」

首をかしげるリーファ。どうやら外ではまったく気づかれていないらしい。

「いや、ちょっとでかい話があってだな。あー…フィリアも待たせてるし、シンキもくるし…。リーファに説明も…。」

頭が痛い。ここまでごっちゃ混ぜな状態も久々だ。あー混乱してきた。

優先順位を決めてテキパキと普段ならこなすのだが、こうも同時に何個も大事な要件が降り積もると混乱し頭を抱える癖が俺にはある。その状態に入った事を見たアインスが一言で我に戻してくれた。

「オキ君、落ち着きたまえ。ここは我々が担当しよう。君はフィリア君のところに言って安心させてきたまえ。一人じゃ寂しいだろう。」

隊長頼もしいわ。

「シンキのことはこっちで任せてよ。」

ハヤマも胸を叩く。

「リーダー! 俺達も手伝いますよ!」

「何でも言ってください。一人で頭抱えるよりみんなで、でしょ?」

タケヤにサクラたちまでも。こりゃ参ったな。

「すまん。みんな。まーた一人で考え込んじまった。じゃあ、リーファへの俺達の説明と現状までの話を隊長とキリト、アスナ。ユイは時折シャオから助言もらって。」

びしっと「任せてください」と敬礼するユイ。

次にシンキの件だ。

「シンキはどうやってきたのかと、外の様子をハヤマんに。それから今後必要なスキル選択と武器を倉庫から引っぱってこい。どうせSAOの状況は知ってるだろ?」

コクリと頷くシンキとハヤマ。

「最後にホロウエリア。隊長を連れて行きたかったけど仕方ない。あまり深く潜り過ぎない程度にシリカ、行くぞ。」

「はい!」

「きゅるぅ!」

自分もいるぞと言わんばかりにピナも返事をし、頭をなでてやった。

「残りのものは出来る事を各自で判断。好きにしろ。以上だ。」

「「「了解!」」」

ほーんと頼もしい仲間達だ事。感謝の一言だわ。

「と・こ・ろ・で…。ふふーん。」

いざホロウエリアへと出発しようとしたときにシンキがシリカをじっと見つめだした。

「な、なんだよ。…っは! シリカは渡さんぞ! お前なんでも食うだろ!」

「え!? え!?」

隣にいるシリカと俺を見比べているシンキ。こいつは男だろうが女だろうが気に入った奴は食ってしまうという噂があちこちから立ち昇っている。いろんな意味で。苦情が来た事はないが、普段の行いから信憑性は高いので、シリカを守らなきゃならん。

「だーいじょうぶよ。だってオキちゃんの大事な人なんでしょ。取って食ったりしないわ。ねぇねぇオキちゃん。」

少しだけほっとしたつかの間だった。

シンキは中指と親指をくっつけて、反対側の手の人差し指をそのわっかに出し入れしながらいう。

これが無ければ信じてやれるんだがなぁ…。

「もう、やる事ヤッたの?」

「「「ブフーーッ!」」」

「ちょ、シンキ!」

「はっはっは。」

これだよ。このセクハラの塊め。あーあ。飲み物飲んでるプレイヤーみーんな吹き出しやがった。あ、クライン顔面に喰らったのか。ご愁傷様。隊長なんか大爆笑してる。

「いや、『まだ』。」

「「「!?」」」

さらにそこへ俺が追い打ちをかける。『まだ』という事は? まぁわかるよね。

「そ~う。幸せそうでよかったわ。シリカちゃん、この子の事。よろしくね。」

にっこりとほほ笑むシンキ。シリカは両方の爆弾発言に目が点になったままである。

「ったく、忙しいんだからそういう話は後にしてくれ。いくよシリカ。」

「え? ふえ?」

ぼーっとしているシリカを引っ張ってその場を後にした。背中でシンキの楽しそうな笑い声を浴び、懐かしい感覚に自分も微笑みながら。

再びホロウエリアへと到着したオキとシリカはフィリアと共に『セルベンディスの樹海』エリアを進むことにした。

「このホロウエリアを完全攻略するにはこの中央管理区を中心に、反時計回りで全てのエリアを走破する必要があるのか。」

フィリアが得た情報は今のところ開放されている場所がこの『樹海』エリアだけで、その出口側にある『バステアゲート浮遊遺跡』エリアへ向かうしかない事が分かった。時計回りに回れるかどうか調べた結果、出口側は完全に封鎖されており、反対側からあけるしかないようだ。つまり、『樹海』エリア→『浮遊遺跡』エリアへしか移動が出来ない。その先も同じことになっていると予想される。

「ところどころに転送装置があるから、危なくなったり、一度帰る必要がある場合はそれを使うしかないわ。」

「結晶はどうなんです?」

シリカが質問した。

「ためしゃ分かるだろ。ここにいてくれ。ちょっと試してくる。大体予想は付いてるけど。」

早速オキは『樹海』エリアの入り口『セルベンディスの神殿前広場』へと転送いていく姿を見てフィリアがとめようとしたが、ときすでに遅し。オキは森へと転送されていった。

「ちょっと! あのひと大丈夫なの!? 変なところに転送されたら…。」

「大丈夫です。なにがあってもあの人は必ず戻ってきますから。」

シリカも少し心配そうな顔をしているが、それでも信頼をしているようでオキの言う通りその場から動いていない。

シュイイン

すぐさま光に包まれてオキが転送してきた。

「うん。やっぱりここに戻ってきたか。」

「もう…。無茶しないでよ。心配するじゃない。」

「お? 心配してくれんの?」

「あたりまえよ!」

そういってフィリアは思い切りド突いた。

「うわったった。あぶねーなぁ。よぅし。危なくなったら極力結晶じゃなくて転送装置を使おう。そうすればアクティベートされて、ここから一気に飛べるしな。行くぞ、シリカ。」

「はい!」

シリカもやる気満々のようで、まるでピクニックに行くように楽しそうな笑顔をしていた。

「どうしてあなた達はそんなに笑顔になれるの? 私は不安しかないというのに…。」

「前見るしかないだろ。どんな状況でも進むしかないときは進む。そのときに不安だったり、楽しくなけりゃ士気も下がる。気分が乗らなきゃ、それこそ面白くないだろ? 人生一瞬。そのときそのときを楽しまなきゃ。じゃないと、後悔することになるからな。」

「・・・。」

納得してくれたのか納得しなかったのか。どちらにせよフィリアはその事についてそれ以上何もいってこなかった。

「それじゃぁ、まず武器の強化をしたいんだけど手伝ってくれる?」

「強化?」

「ええ。今の武器の状態で探索するとなると力不足かもしれないから。」

フィリアは強化に必要なアイテムを教えてくれた。どうやら近くのエリアで手に入るらしい。

「そんじゃ、ちゃっちゃと済ませて進みますか。」

目的地も決まり、広いホロウエリア探索が始まった。




皆様ごきげんよう。
とうとう合流してしまったシモ神様。(容姿のモデルはどこかの魔界神)
今後は更に騒がしくなりそうですね。

さてさて、各業界ではバレンタイン!
女性の方はチョコの準備はいかがですか? 男性は貰う為の下準備はOK?
ゲームの方でもPSO2、艦これ、FGO他と同時期にイベントが重なるもんだから、あれもこれも同時起動…手と目がおっつきません。(リアルの方でも…)

そうそう、ここで告知です。
ハヤマんこと、羽山さんがこの作品の前日譚として、物語を書いていただきました!
その名も『SAO ~ソードアークス・オンライン~外伝 The・Start-前日譚-』!
このハーメルン内にて投稿していただいております。ぜひ、ご覧になてください! アークス達がSAOに入る前、アークス成り立ての頃、どうやって出会ったのか。どうやったらこんなにも濃いメンツが揃ったのか。
よければどうぞ!(下記にURL貼っておきますね)

https://novel.syosetu.org/75571/


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第45話 「ナベリウスの頂点」

ミケ大暴れの巻


ハヤマはシンキとキリト、そしてアークスやオラクル船団の説明を終えたリーファをつれて、下層にある体術スキル取得の場へと向かった。

体術スキルはSAO内でも基礎スキルの一つとして上げれら、それでいて最後まで使える重要なスキルのひとつである。

このスキル取得にはNPCの老人の下へと向かい、その場にある巨大な岩を素手で破壊するというクエを終わらせる必要があった。

このクエは一度受けた後に、諦めてクエストを破棄するとネズミの髭のようなものを、強制的に付けられる。取り外すにはクエを終わらせる必要がある。ベータテスト時代ではクエを諦める人物が多かったと聞き、かなりのメンバーがネズミの髭を付けていたとか。かの『鼠のアルゴ』もその一人で彼女はそれを逆手に取り、情報屋として名を上げた。

「ふーん。で、これを壊せばいいの?」

「うむ。そうじゃ。いいか? この岩を壊すにはただただ適当に叩けばいいというものではない。一点に集中し、必ず弱いところが見つかる。そこを叩けば壊れる。簡単じゃろう? ほれ、やってみてみぃ。」

老人のNPCは簡単に言ってくれるが、弱点というのもかなりシビアで少しでも叩いた場所が違うと壊れない。逆にその場所を見つけることができれば、簡単に壊すことができる。

「いいか? リーファ。落ち着いて、ゆっくりと岩を見つめるんだ。はじめは失敗するかもしれないけど集中すれば次第に見えてくる。」

「う、うん。分かったよ。キリト君。」

さすがに『おにーちゃん』というのは恥ずかしいらしく、『キリト君』と呼ぶようになったリーファ。

キリトですら3日ほどかけたという。ちなみにサラ以外のアークスメンバーは半日もかけずに終わらせている。

サラはクラインに誘われてゆっくり一緒にやっていたそうな。

「ハヤマさん。ほかに教えれることって無いですかね。」

「そうだなー。やってる最中は誰にも耳を貸さないこと・・・。」

ゴン! …ドォン!

急に大きな音がしてその方向を全員が見た。シンキが岩を蹴り上げた状態で固まっており、蹴った場所と思われるところから土煙が上がっていた。先ほどの音からするとかなり上に蹴り上げたらしい。

「シンキ! なにやってんの!?」

「うーん。本当に硬いわねー。めんどくさーい。」

シンキの脚力と足技の鋭さは『ペルソナ』の中でもトップである。その理由は、彼女は『バウンサー』と呼ばれる打撃と法撃の職で主に『ジェットブーツ』と呼ばれる『魔装脚』を使用している。

ジェットブーツは足に装着し、テクニックつまり魔法のようなモノを撃てる法撃武器だが、本来のテクニックを扱う『フォース』や『テクター』と違い、数ある属性のフォトンをジェットブーツにチャージし、纏わせて相手を蹴るという特殊な武器だ。とはいえ、さすがにいきなり蹴り上げるとは思っていなかった。

「普通にやりなさい! 普通に!」

「はーい。」

あーもう。皆驚いてるよ。

「さ、さすがアークス・・・。」

「アークスってすごいんだね・・・。」

キリトは慣れているのにも関わらず驚き、そして初めてアークスのすごさを実感するリーファ。

「じゃ、じゃあ始めていこうか。」

先が不安である。

「新しい仲間を連れてきた。」

再びホロウエリアに場面は移り変わる。

フィリアの武器強化を終え、本格的にホロウエリアを攻略する為増援を呼んだ。

連れてきたのはミケ。そして双子のハナとヒナだ。

このホロウエリアにはどうやら俺しか転送門に項目がなく、俺とPTを組まないとこれないことが分かった。

シリカは常にPT組んでるし、この前は隊長を俺にPTに入れてきたのでそこに気づかなかった。

「よろしくなのだー。」

「よろしく頼むわね。」

「よろしくお願いします。なのです。」

「左から、ミケ、ハナ、ヒナだ。こっちはフィリア。さっき説明したとおりここから出られないらしい。すまんが手伝ってくれ。」

「「「はーい(なのです)(なのだー)」」」

「フィリアよ。よろしく。その・・・私はオレンジだけど・・・。」

「だーいじょうぶだ。すでに説明してあるから。」

困った顔をしているフィリアに笑いながら大丈夫となだめる。

「オキが大丈夫といってるのだー。心配ないのだー。」

「ミケがそういうなら私も信用するわ。」

「そうですね。オキさんも大丈夫といってくれてますし。」

3人の言葉を聴いてはぁとため息を付いた後にフィリアはスイッチを切り替えたのかキリっとした目でこちらを見て頭を下げた。

「お願い。手伝ってくれる?」

その言葉に全員で頷いた。

「ミケ、これなんだけどさ。」

ミケと一緒に中央管理室のモニターを見ていた。

次に目指すは森の最深部。出口だ。そこを通過すれば次のエリア『バステアゲート浮遊遺跡』へと続くことが出来る。

だが、その手前にフィールドボスのシルエットが描かれている。そこにいるということだが、今回はミケが必要になると予想した為につれてきたのだ。尚、双子を連れてきたのはミケの気まぐれであり、面白うそうだという事で双子も着いてきた。肝すわってんなぁ。そのシルエットをミケに見せた。

「間違いないのだなー。キマリ号だったら説教なのだー!」

「キマリ号?」

「なんなのです?」

双子だけでなくフィリアやシリカも気になるようだ。

「道中に説明するよ。じゃあ行こう。敵はそこまで強くないけどあっちと違うから用心していこう。」

ミケとの出会い。惑星ナベリウスでの出来事。キマリ号と名づけられ、手懐けられた(?)ファング・バンサー。ナベリウスの元締めと呼ばれるほどナベリウス原生種に怖がられる存在。説明しながら道中を進んだ。

「あんた達一体何者なのよ・・・。」

「宇宙を飛び回る宇宙人、アークスさ。・・・ん?」

索敵スキルがプレイヤーの存在を察知する。

「この付近にプレイヤーがいるな。俺ら以外にもプレイヤーがいたのか。」

「ええ・・・でも、あの人たちはなんと言うか・・・。気味が悪いの。」

「気味が悪い? まぁ取り合えず会ってみりゃ分かるだろ。ミケっち。」

目で4人を守るように合図した。ミケはそれを確認し、頷いた。

「任せるのだ。」

この十字路の先か。先頭に立ち、少し離れた後方に4人を配置。念のためでも用心する必要がある。

「・・・!?」

十字路を曲がると一人のプレイヤーがモンスターに襲われていた。

「ちぃ!」

「あ、まって!」

フィリアが止めたがそんな事聞こえない。待てるか馬鹿野郎。目の前で人が襲われてんだぞ。

「うあぁぁぁ!」

ザシュ・・・パキィン!

「・・・そんな。」

間に合わなかった。襲われていたプレイヤーは結晶となり、消えていった。

「オキさん!」

シリカが叫び、エネミーを再び見るとこちらにヘイトが向いてた。

「っち。」

舌打ちして、むしゃくしゃした感情をそのままその場にいたエネミー郡にぶつけてやった。

「間に合わなかったのよ・・・。仕方ないわ。」

「・・・。」

粗方片付けた後、その場にいたプレイヤーを思い返す。

HPバーは赤どころかほぼ黒。0に等しかった。あの場からでは誰でも間に合わなかっただろう。とはいえ、気になったのはHPバーの横に着いたバフの模様だ。一瞬見えたその模様は見間違い出なければ『麻痺』と『出血』。

この二つを付けるエネミーがいたとは思えない。いいとこ毒くらいだ。そう考えると第三者から付けられた可能性がある。その可能性の一人がすぐに頭に浮かんだ。だが、『あいつ』が『ここ』にいるはずがない。確認を取る必要があるな。

「名前の知らない人・・・間に合わなくてごめんなさい。」

「せめて・・・安らかに・・・。」

双子はその場で小さなお墓のようなものを作っていた。せめてという意味だろう。

俺はアイテム欄から使い古した一本の大剣を取り出し、その場に突き刺した。

「墓石の代わり・・・になるか分からんが安らかに。」

全員で手を合わせ、祈り自分達もそうならないよう一層気を引き締めた。

道中、宝箱を見つけ中を見るとアインクラッドではめったにお目にかかれない高レベルの武器や防具が入っていた。

周囲のエネミーレベルも向こうに比べて高いほうではあるが、俺達なら特に問題はない。

俺とシリカ、フィリア。ミケと双子で一度分かれて森の中を散策することにした。

「お、槍みっけ。・・・んー、今の奴よりか弱いな。他の人にあげるか。」

「・・・。」

シリカが近くにあった宝箱を開けた状態で固まっている。何か見つけたのだろうか。

「おーい。シリカー。」

「ひゃ!? ひゃい!」

なにか様子がおかしいな。どうしたのだろう。びくっと体を震わせてこちらを壊れたロボットのように振り向くシリカ。

「なにかあったか?」

「い、いえ。特に何も。」

ただ驚かせただけかな? まぁ別になに見つけようがどうでもいい。

「オキー! こちらもいろいろ見つけたのだー。」

ミケも双子と一緒にいくつか見つけてきたらしい。

「よし。そろったな。これらは一度ギルド倉庫にブン投げておくわ。あ、フィリアは好きなものもっていっていいからね。」

「いいの? ・・・ありがとう。でも自分で手に入れたものだけ持っていくわ。」

「そうか? まぁ別にかまわんが。次いってみよー。」

少しずつ森の中を散策しながら出口へと進んでいった。

「さて、ここが出口なんだが。」

浮遊遺跡前の森の出口。そこにはホロウエリアに初めて来たときに見た、あの紋章の付いたバリアがはられていた。

「これでは進めませんね。」

「こっちにも道があるのだー!」

「あ、ミケまって!」

「まってくださいなのです!」

ミケが勝手に進んでそれを双子が追いかけて行った。

「勝手に進むと危ないわよ!」

フィリアがそれを見て注意し、俺とシリカも顔を合わせてミケの進んだ廃協会らしき建物の中へと進んだ。

「こら! 勝手に進んじゃ危ないだろ。」

3人に追いつき、建屋の中に入ると・・・。

ゴゴゴゴ・・・ズゥン

「扉が!」

入ってきた扉が閉まり、フィリアが開けようとするのを見て、双子やシリカも一緒に開けようと手伝うもピクリともしない。

「ここがボス部屋か。一度入ると出られない仕様だな。」

「なのだー。さぁでてくるのだー!」

ナベリウスの元締め、頂点といわれたミケの血が騒ぐのだろうか。いつもよりもテンションが高い。元々高いテンションがより高い。

『オオオオン・・・!』

遠吠えが聞こえ、壊れた天井の屋根の隙間から一匹の巨大な動物型エネミーが降りてきた。

「・・・やっぱりか。しかも赤いときた。」

アークスの上級者なら見たことがあるだろう。ナベリウスの森林エリア最奥に住む、ファング・バンサー。そのレア種。

「バンサ・オング!」

『オオオオン!』

こちらが名前を叫び、それに答えるように再び鳴いたバンサ・オング。エネミーの名前を確認するとそのまま。

空中には『ホロウミッション開始 バンサ・オングを討伐せよ。』と出てきた。なるほど。こいつを倒せば良いのか。

「っち。そのまんま使ってきやがった。レベルは110か。俺らなら楽な方だが、とはいえフィールドボスだ。強いぞ。皆、気合いれ・・・ミケっち?」

ミケがつかつかとバンサに近づいていく。それをみた双子が叫んだ。

「ミケ! 危ないわよ!」

「下がってくださいなのです!」

あのミケが無防備に近づいていく? 今までに無い光景だな。自由奔放に生きるミケは性格こそ、あれだが、戦いに関しては俺らの中でも引けをとらない。瞬発力もうちらの中ではトップだ。あいつが飛び掛ってきても大丈夫だと思うのだが、無防備すぎる。

『グルルルル・・・ウ・・・ウウゥゥ・・・。』

ん? なにか様子がおかしい。あのバンサが、おびえている?

ミケが近づいていくたびに体を怖がらせ、次第に足が浮き、とうとう一歩を後ろに下げてしまった。

そのときだ。

「キーマーリー号―!!!!!」

『キャウゥン!?』

ミケが叫んだと同時にバンサ・オングはその場に伏せた。フィリアも、シリカも双子も。俺も目を疑う。あのボス級エネミーがプレイヤーの言葉に反応して、さらにその場に伏せた!?

「こーんなところで何をやっているのだー! 何油売ってるのだー! こーたーえーるーのーだー!」

元々顔の見えないフードの中で光る三日月型に笑った口が余計に曲がって見え、目が光っているミケはそのまま『キマリ号』の鬣の中へすっぽりと飛び入り、鬣を引っ張り始めた。

『キャウゥゥン!? キャイィィ・・・!?』

うわ痛そう・・・。ん? あの鬣・・・。

「黒い部分があるな。」

「え?」

隣にいたシリカが首をかしげる。

「どういうことか説明してもらえるわよ・・・ね?」

さらに鬣を引っ張り涙を流しながら悶え、鬣の中で暴れまわるミケに恐れ声にもならない悲鳴を上げるキマリ号を見ながらフィリアは呆れた顔でこちらに寄ってきた。

「あー・・・あれな。昔、ミケと出会ったころにアイツが乗り物として使っていたーでいいのかな。そんな悲しい奴だ。ほら、一部鬣に黒い部分が混じってるだろ? 中央部からちょっと下付近。あー・・・ご丁寧にミケが引っ張りすぎて禿げた部分まで再現されてら。たぶん間違いない。なんでここにいて、しかもミケに恐れをなしているのか良く分からないけど、間違いなくそのファング・バンサーだ。」

ナベリウスの元締め、頂点とまで言われたミケはダーカー因子に侵食され暴走した原生種だけでなく、壊世地域と呼ばれるフォトンが不安定になった特殊な場所で生きる元ナベリウス原生種の壊世生物ですら、あの三日月に笑った口を見れば、恐れ、土下座して、逃げるという不思議なアークス。

「それがミケだ。なんていうか・・・まさか惑星を超え、DNAどころかプログラムというか『存在という概念』ですら恐怖をすり込んでいるとは。しかも悲しきかな。一番恐怖を味わったファングが今目の前でミケに出会うとは誰も予想はしなかっただろうよ。」

『----っ!?』

あーあ。とうとう毟りやがった。声にならない悲鳴を上げたキマリ号。

「ミケー。それくらいにしといてやれー。泣いてるぞー。」

呆れた声でゆっくりと近づき、泣き疲れたファングをそっと撫でてあげた。なぜかHPが下がってるな。もう死にかけじゃねーか。

「仕方ないのだなー。オキがそういうならやめるのだ。」

『キュウウン・・・。』

「よしよし。お前も運が悪かったとしか言えんな。」

その状況に開いた口がふさがらないシリカ達は俺に手招きされてゆっくりとキマリ号に近づいた。

「ほら、もう大人しいからゆっくり触ってやんな。こういう体験めったに出来ねーぞ。」

何がなんだか分からない4人は言われたとおりゆっくりファングに触る。

「もふもふ・・・。」

「やわらかいのです。」

「ほんとね・・・。」

「気持ちいです。」

『キュウウン・・・。』

ピナも敵視しなくなったためか、キマリ号の鬣の中へと飛び乗り、少しだけ頭を出して丸くなって寝てしまった。

「んー?」

ミケが首をかしげている。なにか見えているようだ。

「どうしたミケっち。」

「モンスターをテイムしました・・・なんなのだーこれ。」

マジかよ。おいおい、ボスクラスだぞ!?こんなのもテイムできんのかよ。・・・というか。

「お前も・・・ひどい運命だな。」

苦笑するしかない。

「名前? もちろんキマリ号なのだーーーー!」

『キャウン・・・。』

悲しい悲しいファングは一声泣いて、その場に伏せてしまった。諦めたのだろうか。

「システムすら掌握するって。ほんとあんた達何者なの・・・。」

フィリアがジト目でこちらを呆れた顔で見てくる。そんな目をするな。俺だって困惑してる。

「アークス・・・なんだけど。こればかりはミケだからとしか言いようがないな。あいつは本当に不思議な奴だ。」

双子と鬣の中へと一緒に入って騒ぎ、そして昼寝をする彼女らを見守りながら俺はフィリア、シリカとその光景を微笑ましくも呆れた状態で過ごす事にした。

「ミケっち。」

ある程度休んだ俺達は先に進む為に必要なアイテムがないかを調べる為、キマリ号にミケから聞いてもらった。

「わかったのだ。あそこを通るにはどうすればいいのだー? こたえるのだー!」

『キュウウン・・・。』

キマリ号はじっと俺のほうを見つめた。どうやら手を見ているらしい。

「これか。」

忘れていた。そういえばさっきミケのモンスターテイムで見逃したけど、『ミッションコンプリート』のログ残ってんじゃん。

また、これで触ればいいのかな。

フォン・・・。

音がした後にバリアが消え、空中高く浮かぶ浮遊大陸へと続く長い坂が目の前に広がった。

「こいつは長いな。」

「これ、登るの? 見るだけで疲れそうね。」

フィリアはほんの少しだけ嫌そうな顔をしている。さすがの俺もこれはつらい。

「だが、その問題を解決してくれそうな奴がいるじゃないか。」

そういって俺はすぐ後ろにいる大きな奴を見た。

「ミケっち。お願いできるか? コイツで・・・。」

浮遊遺跡を指差した俺を見てミケはそれを察したのか、キマリ号へ指示をだした。

「キマリ号! 伏せるのだ!」

『キャウ!』

すぐさまその場に伏せさせた。

「じゃあ、先に双子から乗ろうか。」

それを聞いて双子は顔を見合わせて笑顔で頷いた。

「うん!」

「はいなのです!」

ミケの手招きで背中から鬣の中へと入っていく双子を見た後にシリカ、フィリアと背中へ乗せた。

「まさか・・・これで・・・。」

「登る気ですか?」

「その通り。全員乗ったな? シリカ、フィリア。落ちないようにしっかりつかまってな! よっしゃ! ミケっち! いいぞ!」

フィリアはやさしく鬣を。その後ろに座るシリカを前で抱きかかえた。

「いけー! キマリ号―!」

『ァオォォォォン!』

一度鳴き、キマリ号は勢いよく走り出した。風を切るように、高く、長いその坂を。

その下に広がる海をシリカと一緒に見て、顔を見合わせ、フィリアとも目が合い吹き出して笑った。

「「「あはははは!」」」

キマリ号。爽快に走って『バステアゲート浮遊遺跡』へ!




皆様ごきげんよう。
今回はミケが大暴れする回でした。キマリ号については飛鳥羽山さんが書いてくださっている当物語の前日談をお読みいただけると、もっとお楽しみいただけるお思います。
(ミケのフリーダムさは盛ってる様に見えて事実です。ほんとうに自由ですあの子)

さて、章を分けてみたのですがいいサブタイトルが浮かばない・・・。
浮かんだら書き足します。

では次回でまたお会いしましょう。


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第46話 「友切包丁(メイトチョッパー)」

再び登場、SAO影の代名詞さん。


森林エリアから浮遊遺跡エリアまで、かなり長い坂を登った。

とはいえ、キマリ号のおかげで時間はそこまでかかっていない。そろそろエリアの境目だ。

『!?』

「うわっと!?」

「ふにゃ!?」

キマリ号がエリアの境目を目の前に急停止した。どうしたのだろう。

「ミケっち。どうした?」

「わからないのだー! どうしたのだー! 早く進むのだー!」

『キュゥゥン・・・。』

エリアの境目をキマリ号の足が越えようとする。だが、何かに阻まれそれ以上進むことが出来ないようだ。

「まさか、進めないのか?」

『キュウウゥゥン・・・。』

申し訳なさそうな声をだし、その場に伏せてしまった。仕方がないので全員降りて女性陣はキマリ号にお礼を言った。

「キマリ号! ありがとね!」

「キマリ号さん。ありがとうなのです。」

双子に顔を抱かれるキマリ号は嬉しそうにしている。

「ふーむ・・・。」

その光景を見た後に浮遊遺跡を改めて確認した。そのときだ。

『ウウウウウウ・・・。』

キマリ号がうなりだした。空を見ている。

「あれは・・・。」

コォォォォォ・・・

空を切るように飛び、空気を裂く音を立てながら素早く飛行している一匹の巨大なエネミーが自分達の目の前を通り過ぎた。

青く輝く、尖った鉱石を鎧の様に纏った龍族。

「クォーツ・ドラゴン!」

「キマリ号の次はヲー(クォーツの略称)さんなのかー?」

本当にアークスが見てきた化け物共が勢ぞろいだな。とはいえ、このまま進むのはちとつらいか。

言葉には出していないが、少しだけ疲れたように見えるシリカやフィリア、双子を見た。ずっと森を移動してきたもんな。ゆっくり進もう。

「よし、一度戻ろう。」

「もどるの?」

フィリアが近寄ってきた。

「ああ。このまま進んでも良いけど、無理に進むこともないだろう。・・・確認することもある。」

最後の言葉だけボソリとつぶやいた。

「え? 最後の言葉が聞こえなかったけど。何かいった?」

聞こえないようにしたはずだが、フィリアには聞こえたらしい。誤魔化すか。

「なんでもないさ。」

近くに転移門もある。一度戻ろう。

「いいかー? ミケだけじゃなく、オキのいうことも聞くのだぞー? じゃないと、おーしーおーきーなーのーだー・・・。」

『キャウゥゥゥ・・・。』

うわ。ミケから黒いオーラが出てる。キマリ号恐れてるじゃねーか。

「それじゃぁ戻ろう。」

転移門から転移する直前に、キマリ号の遠吠えが聞こえた。

『ァオォォォォン!』

まるで主に『武運を』といっているように聞こえた。

アインクラッドに戻ってきた後はミケたちを一度休ませて、シリカには手に入れた武器武具をギルド倉庫に入れてもらいエギルに格安で商店に出してもらうことに。俺はある場所へと向かった。お土産も持って。

「オキはん? どないしたん?」

「ちょっと奥に用事があってね。 ・・・最奥のアイツに会いに来た。鍵を借りたい。」

最奥。その言葉を聴いてキバオウは一度ためらったが、それでも鍵を渡してくれた。

「何かあったら、すぐワイらを呼ぶんやで。」

「ああ。」

第1層黒鉄球内。ギルド『アインクラッド解放軍』拠点最奥。監獄エリア。薄暗く、日の光があまり差し込まない場所。アインクラッドで最も寂しい場所とも言われている。ここに来た理由は2つある。そのひとつのために彼女の元をたずねた。

「よぉ。元気かー?」

「あんた・・・久しぶりじゃないか。」

牢獄の女王こと『ロザリア』だ。

「以前、お礼をするといってこれるタイミングをつかめなくてね。」

「何言ってんだい。どうせ忘れてたんだろ?」

鋭い。俺は黙ってアイテムからお土産をロザリアのいる牢屋内へと入れる。

「49層名物。ヒカリマンジュウだ。うまいぞ。」

「おお! いいのかい!?」

「あんたには以前、世話になったからな。その礼だ。あんたらのおかげでこの奥の馬鹿捕まえることが出来たんだから。」

奥のほうを牢屋にいる奴らも含め、皆で見る。暗く、薄気味悪い雰囲気を出していた。

「・・・元気かい? あの子は。」

静かに彼女は目を瞑り、聴いてきた。シリカのことだろう。

「ああ。元気だよ。・・・結婚もした。」

ニカっと左手薬指に付けている指輪を見せた。それを見て目を点にして驚くロザリア。

「あ、あんた・・・なんとまあ。幸せそうで何よりだ。」

「さってっと。俺は奥に用事がある。それじゃあな。」

「ああ。おらあんた達! あんたらも食いな!」

ロザリアは部下達にマンジュウを配り始めた。一応沢山買ってきたが、足りるかな。

そんな事を思いながら更に奥へと向かう。このあたりになれば日の光どころか、明りさえなくなってくる。

「・・・ホウ。これは珍しい。客人か。」

暗闇の牢屋の中で一人の男が壁に取り付けられた金具に手枷を付けられ入れられている。ロザリアたちは自分達の罪を理解している為に多人数での広い牢屋に入れられ、日の光も少しだけ入る場所にいる。だが、コイツはそうもいかない。最もアインクラッドで人を殺し、ただ自分の欲、快楽のためだけに命を奪っていった男だ。

ガチャ・・・キィィ・・・

扉を開けて中へと入る。

「よぅ。元気かー? 旦那ぁ。」

「HAHAHA。こいつはたまげた。アークス様のご面会とは。」

今回この場所に来た最大の目的。『Poh』、この男に会いに来たのだ。

「その様子だとだいぶやつれてるようだな。」

常備しているランタンに火をともし、彼を照らした。フードを取られており、今は素顔をさらしている。ここにぶち込んだときに見た顔色が見受けられない。

「っハ。」

苦し紛れの笑いだと認識した。

とにかくコイツがここから出ることは絶対にありえない。だが、確認しておく必要がある。

「今一度確認しておきたいことが出来たんでな。お前の殺し。特に好んで使っていたやり方。『出血』と『麻痺』の付与をしてモンスターに襲わせる。」

「Ah~。今じゃ懐かしい。間違いなく、俺の殺し方だ。・・・なんだ? 似たヤり方を使ってきた奴でもいたか?」

ニヤニヤとこちらを見てくる。

「・・・まぁさすがって所か。その通り。おみゃーさんと全く同じ手口の殺しを目の前で見た。」

タバコに火をつけながら、状況の説明をした。

「間違いなく俺の手口だな。真似する奴もいるとは思うぜ。何人それで殺したと思っている。」

「っち。いけすかねぇ奴だ・・・。それが誇りみたいな言い方しやがって。」

ヘヘヘと笑いながら俺にニヤケ顔を見せてくる。相変わらず嫌な奴だ。

「・・・But。」

口を歪ませこちらを見るPoh。

「・・・本当にそれが俺の真似ならば、どこかで見ていたはずだ。」

「見ていた?」

「・・・俺ならそうした。ゆっくり、苦しんで、そして最後の絶望をするあの顔を…。放置したり、一気に殺したりはしない。面白くないだろう?」

余計に口を歪ませている。やっぱりコイツの話は胸糞悪い。だが、冷静になる必要がある。

「つまり、近くにいたということか。」

「答えはYESだ。気をつけろ? 貴様らを殺すのは難しくないが、近くに誰かいたならば・・・。」

その言葉を聴いて俺は目を見開く。フィリア!

彼女は一人、中央管理室にいる。もし彼女といるところを見られていたならば。もし彼女が言っていた『あいつら』というのがそれならば。まずいことになる。

「くそ・・・。」

俺が出口に向かい始めたところをPohが止めた。

「HEY!」

「なんだよ! まだ何かあるのか!?」

「武器だ。ヒントはそこまでだ。後は自分で考えるんだな。」

「武器? ・・・そうか!」

きぃぃ・・・ガチャン!

扉を思い切り閉め、鍵をかけた後しっかり掛かっているのを確認し、奴のそばを離れた。

アイツの言っていた『武器』という単語。よくよく考えればその通りだ。

『麻痺』と『出血』これを同時に付けれる技と武器はめったにない。となると複数犯の可能性もあるが、そもそもその付属効果を持つ武器もかなり少ない。かなりのレア武器じゃないと付く代物じゃない。

SSには付く奴もあるが、高威力な上、確立は低い。並のHPを持つプレイヤーならば1回なら耐えうるだろうが、両方付与する為に2回、3回と喰らい続ければどうなるだろう。間違いなくHPが減りすぎて放置する前に死ぬ。

あの状況を思い返せば『プレイヤーの反応は俺達以外になかった』。つまり、かなり放置された可能性が高い。

あの両方を高確率で付けるには今のところ確認されている方法ではひとつだけ。

「おお! オキはん! どうやった・・・?」

解放軍の拠点と監獄の境目で待っていてくれたキバオウはほっとした顔をしていた。

俺はそんな事かまわずキバオウに詰め寄った。

「あいつの持っていた武器はどこだ。」

「ぶ、武器!? そ、それならこっちや・・・。なんかあったんか?」

周囲に緊迫した空気が流れる。俺が説明しながら歩くからというと、すぐに対応してくれた。

「なるほどな。せやからこれを確認しに。」

「ふむ・・・。これは問題だな。」

結論から言うと武器はあった。『友切包丁』。奴の持っていたSAO内で一本のみ確認されたレア武器のひとつ。

厳重な倉庫に保管されたその武器を俺は手に取った。

「『麻痺』と、『出血』の付与。」

ステータスにはその二つが同時に、しかも高確率で付くと書かれていた。

「あいつの獲物や。誰にも渡らんように厳重に保管しとる。」

「ここにこれる人間は?」

「私とキバオウ君だけ。二人の持つ鍵でないと、ここには入れない。」

ディアベルにも来てもらった。というかこないと開かないという事だったので来てもらった。

倉庫は二つの分厚い扉が2つ重なった構造となっており、二人の持つ鍵を同時に使用しないと開かない構造だ。

「誰かが開けた、持ってったはありえない。つまり、別の武器があるということか。」

再び倉庫の中へ包丁を戻した。二度と日の元にあたらないように。

「うむ。絶対にありえん。仮に私があけようとしても。」

「ワイの持つ鍵がないとあかへんし、ワイの場合もその逆や。同時なら分からんけどな。」

少なくとも二人がそんな事をするとは思えない。疑うことすら無いのは事実だ。

「あんたらがそんな事するのは絶対にありえないのは分かってる。ありがとう。ふーむ・・・。」

「フィリア・・・と、言ったか。その少女は。」

ディアベルが険しい顔をしてこちらを見ている。

「彼女は一人であそこにいるのだろう? 大丈夫なのか? 私はその場に行ったことがないから分からないのだが・・・。」

「!!」

その通りだ。あそこはフィールド。アインクラッドからは今のところ俺しか移動できないのは確認しているが、もし誰かが既にホロウエリアにいたならば・・・」

俺はすぐに走り出した。

「念のため、隊長とハヤマん達に連絡を!」

「了解した!」

ディアベルに伝達を頼み、すぐにホロウエリアへと向かった。彼女の無事を祈りながら。

「無事でいてくれよ。」

「あら。今日は来ないんじゃなかったの? それに・・・隊長さんと・・・?」

無事だった。コンソールの前に座り込み、休んでいるフィリアを見て安心した。すぐさま来てくれた隊長とハヤマん、そしてシリカにも連絡をいれ合流。ホロウエリアへと移動した。

「ふぅ~・・・無事だったか~・・・。」

俺はゆっくりとその場に腰を下ろし、タバコに火をつけた。

「どうしたの? そんなにあわてて。」

あわててきて自分を見て安堵した俺を見て驚いているフィリア。

「いや、実は・・・。」

「・・・。」

「ってわけで、ここにきたってわけ。変なのこなかった?」

あの男に会ったこと。その真似をしている者がいる可能性があること。心配したからここに急いできたこと。そして

「以前俺に会ったときに『あいつら』って言ってたよね。もしよければその話、聞かせてくれるか?」

「・・・アイツは。あいつらは・・・。」

フィリアが話し出した内容は驚くべき内容だった。

「・・・そしてあなたに出会った。」

馬鹿なことがあるか。アイツは監獄だ。この目で確認したのだから。武器も厳重に保管してある。

「オキ君。これは調べる必要がありそうだな。」

隊長もそれを聞いて険しい顔をしている。ハヤマも一緒だ。

「なぜここにいる。Poh・・・。」

フィリアが人を殺したという話の続き。気がつけば殺していた。それは以前にも聞いた話だ。

詳しい状況を確認できないが、彼女が人を殺す事を喜ぶ人間ではないのは確かだ。それは目を見れば分かる。伊達に長いこといろんな人、化け物と対峙してきていない。それはアインスもハヤマも一緒だ。

そんなところをある人物に見つかった。それがなんとあの『Poh』だという。

小汚いフードを深くかぶり、ポンチョのようなモノを羽織り、そして彼の分身とも言える存在の武器『巨大な包丁』。

「間違いないわ。あれは・・・アイツだった。噂通りの男だったわ・・・。」

フィリアの震える体をシリカが摩ってあげる。

「アイツは今1層の監獄の一番奥に入れられている。あそこから出ることは出来ん。」

「じゃああそこにいたのは誰!? 私が見た男は・・・!?」

「間違いなく偽者。本物は1層の黒鉄球の中だ。さっき俺はアイツにあってきたからな。」

これではっきりした。ここ、ホロウエリアに偽者がいる。出入りしている痕跡はここにフィリアがいる為無いだろうと予測する。アインクラッドとホロウエリアの出入り口がここだけならば。

「解決するまでフィリアを一人にできんな。隊長。交代で見張りたいんだけど。」

「ああ。任せろ。」

「ハヤマん。」

「わかってる。一度向こうで説明してくるよ。」

「シリカ、今回は一緒にいてくれるか?」

「はい! もちろんです!」

もう離れない。そう誓ったのだ。

「あなた達、どうして・・・。」

納得できていないフィリア。

「そりゃ困ってる人が目の前にいるならば助けるのが道理だろ?」

当たり前のことを何いっていると言うと諦めたのか呆れたのか一呼吸はいて少し、笑顔になっていた。

「ほんと・・・不思議な人たちね。」

それでもはじめに見せていた不安の顔はなくなっていた。

同時刻ホロウエリア、とある洞窟内。

「ボス、獲物ですぜ。」

「う・・・ぁ・・・。」

朦朧としている一人の男を二人の顔をニヤケさせた男達が抱えていた。そして岩の上に座る一人のフードをかぶった男が巨大な包丁を男に近づける。

「イッツ、ショウタ~イム・・・。」




皆様ごきげんよう。
再び出てきたプーさん。原作よりも丸くなってます。
ホロウエリアのフード男はあのセリフを言ってますから誰だかバレバレですな。
じゃあどうしてホロウエリアに? そもそもホロウエリアとは?
謎が深まるばかり。後半戦は始まったばかりです。これからもよろしくお願いいたします。


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第47話 「地より出ずる龍」

唐突な温泉シーン付き


アインクラッド攻略をキリト達に任せ、ホロウエリアの攻略を進めていた。

アインクラッドは77層をクリアし、順調に進んでいると聞いている。

今回はコマチとフィーアをつれてのエリア踏破を目指し、『バステアゲート浮遊遺跡』を進んでいた。

「しっかし見れば見るほどアムドゥスキアだな。」

「だねー。これで敵が龍族だったらまんまだったな。」

周囲にいるエネミーは竜ではあるが、ワイバーンや巨人系のエネミーが多い。

「コマチやオキは、こういう所を走り回ってるのね・・・。私には考えられないわ。」

浮遊遺跡はまるで地面が浮いているかのような高度の高い場所に地面が浮いている。下を見れば青い海が広がっているのが分かる。

高所恐怖症の人は間違いなく足がすくみ進めないだろう。フィリアは下を少しだけ覗き、体を震わせた。

エネミーを狩りつつ、奥へと進むオキ達。

「・・・くくく。」

「どうしたんです?」

いきなり笑い出したオキにシリカが顔を覗かせてきた。

「いや、ついシンキと出会ったときの事を思い出してね。アイツとであったのは浮遊だったなぁって。」

コマチがうんうんと頷きながら同意した。

「確かに。あの時は・・・ひどかったな。」

「ツクシ死すべし。慈悲は無い。」

ツクシという言葉にシリカもフィーアも顔を見合わせ首をかしげる。ツクシとは一体? 普通のツクシのことを示しているのではないというのはわかっているようだが。

それに気づいたオキがツクシという言葉について説明しようとした。

「ああ、ツクシってのはね・・・。」

ゴゴゴゴ・・・

地面が急に揺れた。

「キャ!」

「ゆれるなぁ。地震か?」

「いや、何か来るな。」

オキの索敵になにかが引っかかる。地面の中を進んでいるようだ。

ゴゴ・・・ドーーーン!

地面から蛇のように細長く、それでいて顔は竜。青い伸びる体。小さな足が4本生えたシリカ、フィーアが今までに見たことが無い歪な生物が出てきた。

『キシャァァァ!』

アークス二人はそれをよく知っている。クォーツドラゴンがいるんだ。こいつももしかしたらと思っていた。

「オキさーん・・・。噂をしたら何とやらだよ。」

「だーな。呼ばれて飛び出てきたな。」

「まさか、つくしって・・・。」

フィリアがオキ、コマチの二人を見た。二人は口を合わせてそのエネミーの名前を叫んだ。

「「なぁ! キャタドランサ!」」

惑星アムドゥスキアの浮遊大陸に生息するキャタドランサ。かつてオキ達を数で囲い、危機的状況に追い込んだエネミーの一種だ。

『ホロウミッション開始』

キャタドランサ1体討伐を目標にミッション開始のアナウンスが流れた。

『シャァァァ!』

「エマージェーシーコール」

「アタァック。・・・懐かしいな。もう二年近く聞いてないのに頭に残ってるぜ。」

オキとコマチが懐かしきアークスのアナウンスも真似して武器を構える。

「懐かしんでる暇はなさそうよ!」

「オキさん! きます!」

フィーアとシリカ、フィリアも武器を構え、キャタドランサの攻撃に備えた。

「おわっと!」

キャタドランサは体を伸ばし、こちらに向けて顔を突っ込んできた。

「シリカ! フィリア! フィーア! あいつの体は見て分かるとおり伸ばしてくる! 予想以上に伸びるから気をつけろ!」

「はい! ・・・たしかにツクシに見えます。」

「そうね。見えなくも無いわ・・・。どうしてかしら。」

キャタドランサは伸ばしたときに鱗で覆った場所から柔らかい肉体が見える。その時にツクシのような細い、太い、細いと交互に見えてしまう為に周りのアークスからもツクシと言われるときがある。

「弱点は尻尾にある鉱石を壊せば出てくる! 後は伸ばしたときの柔らかい場所。そこを狙え。」

「分かったわ。コマチ。」

「こっちでヘイトとるから、コマッチーフィーアさんはケツやって!」

伸ばして固まっているキャタドランサの顔面に槍を突き刺す。それによりヘイトがこちらへと向き、その間にコマチたちが後方へと移動した。

「おらおらおらおら!」

「はぁ!」

コマチとフィーアの攻撃が硬い結晶部へと放たれる。その攻撃にヘイトが向かないようにシリカと一緒に真正面でキャタドランサの攻撃を受け流しつつ攻撃を放った。

『シャァァ!?』

パキン・・・!

「っしゃぁ!」

度重なる集中攻撃により結晶部は割れ、弱点がむき出しになる。

「試してみたいことがあったんだ・・・おらぁ!」

「コマッチー!?」

『シャァァァ!?』

コマチはキャタドランサの弱点部を持ち、思い切り引っ張った。

「ウオオオオオオ!」

彼のからだから湯気が立ち上る。スキル『バーサーカー』の『狂歌』が発動されている。

HPが少しずつ減る代わりに通常の何倍もの力を発揮するハイリスクハイリターンなモノだ。

キャタドランサはズルズルと引っ張られ、それに対抗しようと地面に潜ろうと頭を地面に突き刺した。

「やらせねーよ。コマッチー、引っこ抜け。」

槍でそれをやらせまいと、ほじ繰り返しコマチは勢いよくキャタドランサを引っ張り上げた。

「おらあああああ!」

あまりの勢いにキャタドランサは宙を反転し、そのまま地面に背中側から叩きつけられた。

ズズズン・・・!

地面がゆれ、キャタドランサはそのまま結晶となってきえていった。

「・・・ふう。満足。」

「やりすぎヒデェ。」

いくら『バーサーカー』スキルが力技だとはいえ、あのキャタドランサをバックドロップするのはやりすぎだ。

「フィーアさーん…。やりすぎないように注意してよー。」

「もうなれたわ。」

さらりと微笑みながらこちらのお願いも流す。彼女も彼女ですごい神経してるな。

「す、進みますか。」

「きゅるぅ?」

シリカもピナも脱力している。相変わらずだなぁもう。

「おつかれー。」

「お疲れ様。」

「お疲れ様でしたー。」

ある程度進んだところで転移門を見つけ、中央管理室へと戻ってきた。

「じゃあ今回は俺らが見守るから一度帰りなよ。」

「すまんねぇ。コマッチー。」

今日はコマチとフィーアがフィリアと一緒にこの場に残ることとなっていた。PTさえ組んでおけばホロウエリアに残ることが可能だというのが分かった為、ずっとフィリアと一緒にいるシリカ、オキは戻ることとなった。

「それじゃ後でおいしいご飯もってくるね。」

「俺、天丼希望。」

コマチがすかさず天丼を希望してきた。あとでハヤマから『だが断る』といわれたのは別の話。(尚、ちゃんとご飯は作った模様)

76層へと戻った両名は一度ギルド拠点へと戻った。戻った直後にオキは温泉へ。

「ふぃ…生き返るぜ。」

温泉に浸かると今までの疲れが全て溶け出していくような感覚になる。

「…はよ、連れ出してやらんとな。女の子だから風呂もないし。さすがに水浴びだけじゃつらかろうて。」

フィリアは向こうから出られない。ホロウエリアは拠点となる街が無い為に休む場所が無い。いくらVR世界だからといって精神的にくるだろう。

「…となりが騒がしいな。女湯か。」

隣から黄色い声が聞こえてきた。誰かが入っているのだろう。

「ま、別に誰でもいっか・・・。」

興味が無く、それよりも自分の疲れを癒す為にゆったり浸かりたかったオキは再度力を抜いた。

「そ、そんなところ触らないでくださいよー!」

「よいではないかー。よいではないかー。」

どうやら騒いでいるのはシリカとシンキらしい。他にもリーファやアスナの声も聞こえてくる。

「…よくねぇなこれ。」

シリカやアスナだけならまだ気にしない。シンキがいるだけで問題となる。

「おい! シンキ! てめぇ、人様の迷惑考えろ!」

壁の向こうにいるであろうシンキに向かって叫んだ。

「あらー。オキちゃんも入ってたのねー。シリカちゃん、小さいけどなかなか良いじゃない。」

「し、シンキさん!?」

恥ずかしそうにシンキの声を掻き消そうと頑張るシリカ。顔を赤くしているのが目に浮かぶ。

「やっかましいわ! まだ俺だって見てねぇーんだぞ! ちったぁ自重しろ!」

「うん! 無理! あら? きいてー! シリカちゃんね? 顔真っ赤にしてー。」

「わーわー!」

シリカが叫び、シンキの声をふさぐ。

あの歩く下ネタ魔人め。さすがにその答えにオキが切れた。

「てめぇこのやろう。」

オキはその場にあった桶をシンキの声に向かって投げた。壁を乗り越え、桶はシンキへと綺麗に向かって飛んでいく。

「あらあら。よっと。」

壁の向こうから木の跳ねる音が聞こえてきた。その直後、桶は綺麗に弧を描きこちらへと帰ってきた。しっかりそれをキャッチする。

「うわ! あいつ蹴ったな?」

「ふふふ。まだまだ甘いわね。まぁそこまでいうなら別に良いけど。リーファちゃーん!」

「きゃああ!今度はこっちですかぁぁぁ!?」

もはや合唱するしかないオキは心の中でリーファに起きるであろう災難に合唱した。

「散々な目にあいました・・・。」

コマチたちのご飯と補給品を渡す為に、再びホロウエリアへと移動しようと76層へ来たオキとシリカ。

先ほどの温泉での出来事は災難だっただろう。

「すまん。あいつ、いっつもあんな感じでさ。でも大事なときにはちゃんと皆を守ってくれるような奴だ。勘弁してほしいけどな。」

「母親のような方なんですね。」

オキはその言葉にかつて、旧マザーシップでの出来事を思い出す。

『先に行きなさい。リーダー。 こんな自分の惚れた女の生を信じれない盲目野郎の相手なんぞ私みたいなチンケな女1人で十分よ。さぁきなさい。ヘタレ坊や!』

旧マザーシップでルーサーを追いかけている最中。彼の口車に乗ってしまったアークス、テオドール。オキ達の道を阻み、愛する女性であるウルクですら見分けがつかずに攻撃し、オキ達にすらその牙を向いた。それを止めたのがシンキだった。彼女の武器である足技『魔装脚』。だが、本来の彼女の本気はソードを使う。巨大な曲剣『エルダーペイン』を軽々と振るい、力任せにごり押しする彼女はまさに魔神の如きだったと後に我を取り戻したテオドールは言っていた。

「…そんな事があったんですか。」

買い物をしながらシンキとの出会いをしゃべり、転送門へと向かう最中だった。

「ほんと、頼れるのやら、やかましいのやら。良く分からん・・・ん?」

オキは少し上の空に黒い渦のような靄を発見した。

「どうしたのです? ・・・なんでしょう。あれ。」

シリカも気づいた直後だった。渦の中から一人現れ、そのまま落下してきた。

「まずい!」

オキはすぐさま走り出し、その落下地点へと急いだ。

ずさぁぁ

スライディングで何とか地面に叩きつけられる前にキャッチし、その落ちてきた気を失っている少女をみた。

緑色の短い髪、整った顔立ちにすらりとした体が受け止めた腕から感じた。

頭の上にあるカーソルは緑。プレイヤーを示している。

「シノン・・・か。」

彼女の名前が記されていた場所を見ると、そこには『シノン』という名前だった。




大洗に行ってきました。「ガルパンは、大洗はいいぞ。」
皆様ごきげんよう。
今回はすこし短めです。書こうとしたら長くなりそうだったのできりのいいところで止めました。
さて、キーキャラである一人『シノン』が登場です。
これからさらに騒がしくなrそうです。

では次回にまたお会いしましょう。


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第48話 「碧き角を抱きし剣の龍」

浮遊遺跡エリアを攻略しているさなかに、休憩ついでに戻ったアインクラッドで空から降ってきた少女をなんとか助けたオキ。
ホロウエリア浮遊遺跡エリア編後編始まります。


空から降ってきた少女を76層に作ったエギルの店(2号店)の上にある宿の部屋へと移動し、キリト、アスナ達に見てもらうように伝え、こちらは待っているフィリアたちのいるホロウエリアへと急いだ。

「すまん。遅くなった。」

「遅かったな。何かあったのか?」

予定よりかなり遅れた理由をコマチやフィーア、フィリアへと伝えた。

「つまり、親方! 空から・・・。」

「それ以上はいけない。」

コマチがよろしくないセリフをはこうとしたので口をふさいだ。

「とはいえ、コマッチー達のご飯も遅らせるわけにはいかないからね。とりあえずキリト達にお願いしてこっちに来た。」

アイテム化させたハヤマ特製親子丼をその場に出した。

「さぁ食べよう。」

おいしそうな匂いを出し、その場にいる全員が手に取った親子丼は笑顔で食べられた。

次の日、先日の続きから攻略は開始された。

「今日はここから最奥までを目指す。まずは目の前にあるこの塔。見た感じ、ここの最奥の頂上とつながってるように見える。」

目の前に聳え立つ巨大な塔。その上の方を見ると塔の上へとつながって見える通路が塔の外側を回るようにつながっていた。頂上からは別の一本が下に見える海の方角へと伸びていた。あそこが次のエリアへの道だろう。

「中に何がいるか分からないから、注意していきましょう。」

フィリアも警戒して塔へと入った。

塔に入ると中は薄い蒼色の石ダタミの通路と少しの緑の草葉で覆われたダンジョン。アークスの二人は外の浮遊大陸がモデルと思われるフィールドから予測はしていたがここまで『龍祭壇』に似ているとは思っていなかった。

「いやー。ここまで似せてくるとはねぇ。」

「だな。内部構造がめんどくさい迷路になっていなければいいのだが。」

コマチの言葉を聴いてオキそとその言葉を発したコマチは深くため息をついた。

「ど、どうしたの?」

フィリアが心配そうに見てきた。シリカもフィーアも同じだ。

「いや、このダンジョンなんだけど…。」

3人に説明した。

『龍祭壇』とは、アムドゥスキアに生息する龍族の聖地たる場所であり、聖域であること。その場所に全く同じ状態であること。そして龍祭壇は迷路のような構造になっていることが多く、どんなアークスでもその迷路状態の龍祭壇で迷子になる。

「あの迷路めんどくさいんだよな。」

「うむ。こっちが出口か? と思ったら反対だったとかよくあるからな。」

進みながらオキとコマチはかつて龍祭壇の面倒な迷路状の構造を思い返しつつ、エネミーを狩った。

しばらく進んでいると索敵スキルに反応があった。

「ストップ。」

全員がその場に止まった。

「どうしました?」

シリカが心配そうに隣へよってくる。

「静かに…。」

もしかしたらあのオレンジプレイヤーかもしれない。そう思い角の先にいると思われるプレイヤー数名をちらりと覗いた。

「…おい。急ぐぞ。」

「ああ。だいぶ予定より遅れている。」

3人ほどの男性プレイヤーが奥へと進んでいた。カーソルはオレンジ。やはり予想通りか。

先へと進んだオレンジプレイヤーが見えなくなったところで、シリカ達を後ろに付け、後をつけた。

3人のオレンジプレイヤーが向かった先には一人の男が待ち構えていた。

「よう…遅かったじゃねぇか。」

『アイツは…!?』

待ち構えていた男は自分が1層の牢獄へとぶち込んだ男。深々とフードを被り、口元だけ見せた着こなし。そして何より彼の代名詞である『友切包丁』が彼の手にあった。

『Poh!? なんでアイツがここに!? そんなはずはない。だってあそこから出られるわけが…。』

オキは再び壁から男達を覗いた。

「すみません。なかなか手強い奴でして…。へへへ…。」

「ふん…。まぁいい。…あん?」

Pohがこちらを見た。

「やべ。」

見られた? いや、たぶん大丈夫だ。ばれてないはず。

「どうしました? ボス。」

「いや? なんでもねぇ。ここは人が来るかも知れねぇ。離れるぞ。」

「へい。」

Poh達は道を外れ、オキが向かう別の方角へと姿を消した。

「…確認を取ろう。」

オキはすぐさまディアベルへと連絡を取るためにメールを作成した。

「…。」

フィリアの様子がおかしいのに気づいたシリカは彼女の背中を摩った。

「大丈夫ですか? 顔色が悪いです・・・。」

「え、ええ。大丈夫。大丈夫よ・・・。」

メールを送りつつ彼女を見た。青ざめた顔がそれを示している。やはり彼女が出会ったのはあいつで決まりだ。

だがどうしてここに? 牢獄に入ってるはずだ。

ピコン

機械音の音が頭に響いた。すぐさま対応してくれたディアベルからの返事だ。

『オキ君の言われたとおりアイツの状態をこの目で確認してきた。何も変わってはいない。武器も確認した。君とこの間確認したとおり、我々の倉庫に入っている。後ほど説明を受ける、でいいかな?』

「あいつは牢獄っと…。ってことはどっちかが偽者、か。まぁどちらかとか言うまでも無いか。」

偽者なのは間違いなくこちらにいる奴だ。本物は牢獄にぶち込んでいる。実際戦い、その手で入れたのだ。

「オキさん。どうする?」

コマッチーが近づいてきた。今のところは様子見するしかない。

「進もう。フィリア。アイツはたぶん偽者だ。どうして同じ格好、同じ武器を持ってるなんかは今後調べる必要があるが、まずは君の安全を確保する必要がある。そのために、ここから出るぞ。」

「…ありがとう。」

こちらの気持ちを受け取ってくれたのか。彼女は気を取り戻し力強く頷いてくれた。

エネミーを倒しつつ、宝箱から武具を頂戴しつつ進んでいくと、普通の扉とは違う、頑丈で特殊な装飾がされた扉が見つかった。

「ここから先はボスクラスのいる可能背が高いな。」

「ええ。いきましょう。」

フィリア、シリカ達が頷きあい、扉を開けた。

「…予想はしてたけど、ね。」

「だーな。しかも白黒じゃねぇか。」

金色に光る鱗を持ち、強固な盾のような巨大な腕。惑星アムドゥスキアの騎士のような存在である『ドラゴン・エクス』。そのレア種とも言われる雌の龍。

『我は剣(つるぎ)! 彼(か)を討つ剣(つるぎ)!』

ノワル・ドラールは巨大な咆哮をし、こちらに威嚇をした。

「ノワル…! 巨体と裏腹にコイツは素早い動きでなぎ払ってくるぞ! コマチ! ヘイト! シリカ! フィリア! フィーア! コマチと俺が真正面から叩くから側面からその盾ぶち壊してやれ!」

「はい!」

「わかったわ。」

「了解。」

『シャアァァァァ!』

再び吼え、ノワル・ドラールがこちらへと飛び上がった。

しばらくノワル戦が続き、特にこちらの被害もなしにノワルを追い詰めていった。

『逃さん!』

ノワルが空中へと浮き、地面へと巨大な盾の先、尖った先端を突きたてた。

「下から来るぞ!気をつけろ!」

「クリムゾン?」

コマチがボケつつ、皆は走り回り地面からの光線攻撃をかわした。

「おらおら!」

ガン! ガン!

コマチが隙を作ったノワルの顔面を攻撃する。攻撃直後にこちらが槍で更に攻撃を加えた。

「そいやぁ!」

バキン!

『損傷…!? 軽微…!』

顔面部の一部が破壊され、これでよりダメージが通るようになった。既に側面の盾もシリカ達の活躍により壊れている。

『これより…全力で参る!』

ノワルの体の一部が赤く発光した。怒りモードに入ったことを示している。逆に考えれば相手のHPは少ないというのも分かる。

『旋刃・一刀断絶!』

ノワルは体を回転させ、なぎ払ってきた。オキやコマチはもちろん、シリカ達もそれをうまくかわす。

『斬り刻む! 連迅・破迅流星!』

今度は3連続の切り払い。真正面にいた俺とコマチは軽くそれをよけた。

「何度その攻撃を受けてきたと思う。体が覚えてんだよ!」

「コマッチー、何度もこいつらと戦ってたってロのカミツさんから聞いてるけど…そこまでやってたのね。」

ロ・カミツ。惑星アムドゥスキアに生きる龍族達を統べる長たる存在。他のものと違い、概念のような存在だ。自分はまだかのモノの全貌を知らない。

「そろそろか…。」

「だな。皆はなれろ!」

「「「はい!」」」

シリカ達が離れ、ヘイトをとっているコマチへとノワルが向き直る。

ノワルのHPも残り少ない。最後の大技を決めてくるだろう。

「とか思ってたらやっぱりやってきたぜっと! コマッチー! 止めろ!」

「あいよぉ!」

ノワルは自分の巨大な盾に力を貯め、巨大な剣を作り上げた。

『消し飛べ! 煌刃・刀一崩潰!』

ノワルの巨大な光の剣はコマチへと向かって振り下ろされた。

「そんなもの、当たるかぁぁぁ!」

コマチはそれを無理やり拳で受け止めアッパーのように振り上げた。

『シャァァァ!?』

ノワルはコマチの振り上げにより、押し上げられ柔らかい腹をさらけ出した。

「ナイス。そんじゃ〆ますかねぇ。」

槍をノワルへと向け、低く腰を落とし、ソードエフェクトを光らせた。

「その心臓…貰い受ける! ゲイ・ボルグ!」

呪いの朱槍『ゲイ・ボルグ』は鋭い突きを放ち、ノワルの胸部へと深く突き刺さった。

『我が闘争に…悔い…無し…。』

小さく一吼えしたノワルはその場へと倒れ、結晶となって散っていった。

「オキさん、そんな技あったっけ?」

「ん? いや、ただなんとなく言っただけ。そう言った方がいいかなと無意識に。」

それをコマチは聞いて納得したようだ。

「無意識なら仕方ないか。」

フィリアが地面に落ちていたドロップアイテムを拾ってこちらへと歩いてきた。

「すごかったわね。あんなのといつも戦ってるなんて…。改めてすごいと思うわ。ところでこんなのが落ちてたのだけれど。」

アイテムは光り輝く玉で『騎士龍の魂』と描かれていた。

「どこかのキーアイテムか何かか? ともかくもってようか。」

しばらく休憩を取った後に、先へ進むと確実にボスフラグが立っている扉を見つけた。

「どうやってあけるんだろ。」

「オキさん、先ほどの玉が必要みたいです。」

扉には『騎士の魂を捧げよ』よあった。間違いなく先ほどの玉だろう。

「皆、準備はいい?」

その場にいた全員が頷いた。

「クォーツはさっき休憩のときに言ったとおりに動くはずだ。色や多少形が変わっていてもほぼ同じ攻撃をしてくる。気を引き締めていこう。」

扉を開け、先へと進むと予想通り塔の頂上へとつながっていた。

頂上は広く平らな広場となっており、周囲には囲うように小さな柱が何本も立っていた。

「ボスはどこに…。」

フィーアが警戒しながら周囲を確認したが何もいない。

「…上だ。」

「エリックかな?」

コマチボケてる暇ないぞ。

ヒュウゥゥゥ…ズズン!

蒼く鋭く尖った鉱石を体に持ったエネミーが猛スピードで降り、地面へ突き刺さった。

突き刺さった先端を地面ごと引っこ抜き、大きく吼えた。

『シャァァァ!』

「…クリス!」

これまたレア種とは。アムドゥスキアの浮遊大陸エリアに生息する超高速で飛行することが出来る龍族の一種。クォーツ・ドラゴン(通称ヲー)。

鎧のように体に纏った青色の鉱石は鋭く、細い体を武器に超高速で飛行する。また鋭く尖った先端の一本角は硬質な地面すらも貫く。

その中でも更に蒼く輝き、より鋭くなった体を持ち、攻撃性の高いレア種、『クリス・ドラール』。

『ホロウミッション開始 【碧き角を抱きし剣の龍】クリス・ドラール討伐』

目の前に再びあの文字が出てくる。

「なるほど、剣の龍王ねぇ。間違っちゃいないが。」

「来ます!」

シリカの掛け声で全員が武器を構えた。

ゴゥゥ!

クリスは翼、体の側面にある突起物からジェット気流のようなものを出し、勢いよくこちらへと突進してきた。

「おお、はやいはやい。」

「でも、直線的だからよけやすいわね。」

「当たったら痛そうです・・・。」

オキとシリカ、フィリアのいる真正面へと突っ込んできたクリスは二人に簡単によけられる。その直後体を素早く反転させ、再び突進してきた。

「そんなのに当たるかよ。」

「ほんと、分かりやすいわね。」

今度はコマチとフィーアを狙っての突進。それを避けクリスの動きが止まった。

「いまだ!」

「はい! てやぁぁ!」

「はぁぁ!」

シリカ、フィリアもこちらの攻撃に続き、側面へと回り込み攻撃を仕掛けた。

「こっちも、おらぁぁぁ!」

「っやぁ!」

コマチフィーアもそれに続く。

『シャァァァ!』

クリスは攻撃を受け、邪魔だといわんばかりに角を振り上げ、振り回しの予兆を見せた。

「逃げろ!」

振り回しが来たころには皆が範囲外へと逃げていた。

『シャァァァ!』

クリスがその場に止まり、力を溜めだした。クリスの真上には白き氷柱のようなものが多数、作られた。

「ファンネルか。…コマッチーいったぞ。」

「あいよぉ。」

多数の鋭い氷柱状の剣はコマチ目掛けて飛んでいった。コマチはクリスの周囲を走り回り、それを避ける。その間にこちらは攻撃を再びクリスへと放った。

「よっと。」

クリスの翼の先端にワイヤーを伸ばして引っ掛け、上空へととび上がり落下のスピードも合わせて槍を翼へとつきたてた。

バキン!

『オオオオ!?』

翼についていた鉱石が破壊され、クリスが怯んだ。

「擬似ヘブンリーフォールってなぁ。怯んだぞ。やれ。」

顔面部へと移動した各々は自分の出せる最大火力をクリスの弱点でもある顔面へと叩き込んだ。

ガキィン!

今度は角が破壊され、柔らかい鼻にあたる部分が露出した。

『オオオオ…!?』

再び怯んだクリス。こうなってはこちらのターンが続くことになる。

「そいやぁ!」

6連撃SS、槍の最終奥義を露出した部分へと放つ。他のメンバーも再びSSを放った。

HPが一気に削れる。ここまでくるともはや勝負はついた。

『オオオオ!!!』

「なに!?」

クリスが怯みから急に回復し、巨大な咆哮を放った。

勢いをつけ上空へと飛んだクリスは塔の周辺を飛び出した。

「突っ込んでくるな。さーて誰かなー。皆はなれてろー。突っ込んできたら突っ込んできた方向の横に逃げるように。」

狙ってきたのはこちらだった。

ゴォォォ! …ズシャァァア

鋭く勢いのある突進をしてきたクリスだったが、着地する際にバランスを崩したため、地面へと体を擦り倒れた。

「はん。馬鹿め。翼壊しておけばそうなるとは思っていたが、そこまで忠実に再現とは恐れ入るね。」

倒れた場所へと走って移動し再び攻撃を放つ。立ち上がったところで再度離れ、攻撃に備える。この繰り返しでクリスは終わる。

『シャァァァ!』

再び上空高く飛んだクリスはこちら目掛けて急降下をしてこようとした。

ごぉぉ! ズン!

地響きと揺れを起こしながら地面へと突き刺さったクリス。しっかり避けた俺はコマチと共に突き刺さったままのクリスを見てにやりと口を歪ませた。

「そんなに突き刺さりたいか?」

「ならば望みどおりだ。オキさん。」

「任された。そおりゃ!」

突き刺さった角のあると思われる地面へと槍を深々と突き刺した。クリスがそれを抜こうと力をこめるが槍が引っかかりそれが出来ない。無理やり地面ごと持ち上げようとしたがコマチがそれをさせなかった。

「おらおらおらおら! 埋まりやがれぇ!」

クリスの額部を地面へと向けて殴り続け、地面から抜けないクリスの頭は上下に揺れていた。

『オオオ…。』

とうとう力尽きたクリスは地面に突き刺さったまま倒れ、そのまま結晶化し砕け散った。

「はん。どんな気持ちだ。」

「普通じゃ出来ないことをここでは出来るってのが楽しいわ。」

拳と拳を打ち合いながら女性陣の待つ場所へと移動した。

「ひどいものを見た気がします。」

シリカ達はその光景を見て苦笑いだった。

『ホロウミッションクリア』

「…お? 何か貰った。」

ボスクラスを倒した為に報酬がもらえた。中身は蒼い鋭い結晶が刃となったダガーだった。

「ダガー、『剣龍の蒼小剣』か。シリカ。もってろ。」

「え? うわ! い、いいんですか?」

「別にかまわん。というか多分その要求値、もてるのはシリカだけだ。」

『剣龍の蒼小剣』はステータスが高く、魔剣クラス。比較できる同等クラスは俺の『ゲイ・ボルグ』等数本がいいとこだろう。

それを装備できる要求値を満たしているのはシリカだけだと思われる。フィリアもダガー使いだが…。

「うん。私じゃ無理ね。高すぎるわ。」

ステータスを確認したフィリアは首を振った。

「分かりました。ありがたく使わせてもらいますね。」

早速装備したシリカの腰に蒼く光るダガーが装着された。いままでのダガーは50層での『あのダガー』。ステータスはかなり高い部類だったがそろそろ火力不足だろう。丁度よかったかもしれない。

「きゅる。」

ピナも同族である龍の気を感じたのか、少し嬉しそうだ。

「さぁ下へ行くぞ。これでそこが開くはずだ。」

海のエリアへと続く門を手のひらの紋章で開き、長い坂を下り始めた。




皆様ごきげんよう。
ようやくホロウ編の流れが完全に決まりました。
まだまだしばらくアインクラッドは完全攻略できそうにありませんね(
自分で書いてて、長くなるのがわかりきってしまいました。
でも最後までしっかりやり遂げます。楽しみにしておいてくださいね。
でh次回にまたお会いしましょう。



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第49話 「海岸を闊歩する希少種」

浮遊遺跡エリアをクリアしたオキは一度アインクラッドに戻っていた。


76層にて空間から落ちてきた少女『シノン』はSAOのプレイヤーではなく、プレイヤーが使用しているヘッドギアのシステムを組んだ療養設備をヘッドギアとカーディナルが誤認識した結果から巻き込まれた事が分かった。

「入ってしまったならしかたないわ。クリアすればいいんでしょ?」

「お、おう。」

さっぱりとした性格の彼女は切り替えが早く、誤って入ってきたこの世界にすぐさま慣れた。

また、待っていることも性分に合わないためと戦闘の仕方も教えてくれと来たので丁度レベル上げと戦闘の実践練習を行っていたシンキ、リーファと共にPTを組んでもらいキリト達と交代で戦力となるまで頑張ってもらう事となった。

ちなみにシンキは

「美少女だひゃっほーい。」

と喜んでいた事から暫くシノンに警戒されていたが、気が付けば慣れ親しむ関係となっていたことから相変わらずシンキのコミュニケーション能力に脱帽せざる得なかった。

そして一つ面白い話がシャオから教えられた。シャオがホロウエリアとつながることが可能となったことを伝えられた。予想ではオキが封印を解いていったことからだと推測される。

ホロウエリアはアークス達が調査してきた惑星の原生種等が数多く登録されているらしい。まだ一部しか確認できないらしいが、一つ試したいことがあるらしくその依頼をお願いされた。

「あることをしてほしい。」

「あること?」

「そう。僕の演算では問題ないことが予測されている。君達がもっと楽に素早く攻略する為なのと…。」

シャオは言葉をいったん止め、上を向いた。

「この上にいるアイツと戦う為に。」

どうやらこの上、一番最上階にいる相手を知ってしまったらしい。いや、最初から分かっていたのか。そのためにはある事をしておいた方が良いだろうと準備を進めていたようだ。

「シンキが入っちゃったおかげで少し時間とっちゃったけど、準備は出来た。お願いできる?」

その内容を聞いてから、嫌とはいえない。むしろどうして嫌といえるのだろうか。

「おもしれぇ。そんな事が出来るのか。とはいえ、それチートじゃね?」

「相手からダーカー因子を観測しているといったら?」

そうなると話は別になる。

「先に言え。ダーカー因子はフォトンじゃないきゃ、その存在自体消しきれない。なるほど、確かに必要だな。」

シャオからはその使用法を聞いて必ずホロウエリアで使用することを言われた。

「さって、ホロウエリアへっと。」

定期連絡を済ませ、消耗品を買い足した後にホロウエリアへと向かおうとしたときにシリカがいないことに気づいた。

「あれ、どこいったんだろ。」

普段なら黙ってどこかにいくことは無い彼女にしては珍しかった。

フレンド一覧から確認すると76層のアークソフィアにはいるらしく、一度ホロウエリアで待機してもらっていたハヤマとシャルに連絡を取り、少し遅れると伝えた。

「どーこいったかなあ。」

転送門広場から住宅街等広い範囲を探したが見つからない。メールもしたが連絡が帰ってこない。さすがに心配になってきた。

「困ったな。」

次第に足早になり、既に街中を何周かしてしまった。彼女の所在地は相変わらず76層のアークソフィア内を示している。

「ふーむ…。ん?」

商業地区に入った際に、先ほどは通らなかった道からシリカの反応がようやく見えた。

「こっちか。」

夫婦として登録している為、近くまで行けばどこにいるか分かるようになっている。路地裏の方を示しているアイコンに沿って歩いた。

到着した場所は普段通るような場所ではない裏路地の奥にある店。外側から見て喫茶店のようだ。

「こんなところに? まぁ入ってみるか。」

シリカがいるならと思い入った。

「いらっしゃい…ま…せ?」

入った瞬間目を疑った。なんとシリカがメイド服を着て従業員として働いているではないか。

「シリカ…?」

「オ、オキさん!?」

二人して入り口で固まる。

フリフリのついたスカート丈の長いロングメイド姿。小さな体で出るところも少ない彼女だが、すごく似合っている。

「あら~? オキちゃんじゃない。」

奥からシンキとリーファ、シノンも現れた。同じくメイド服を着ている。

「なにやってんの…。」

「ちょっとねぇ~。説明はするからまずはテーブルについて。」

「こ、こちらへどうぞ。」

シリカは顔を真っ赤にしてテーブルへと案内してくれた。

『とりあえずハヤマんにはシリカがシンキにつかまったから少し遅れるとメールしておくか。』

ささっとメールを送り、ハヤマからは

『シカタナイネ』

と一言だけ返ってきた。状況は察してくれたらしい。

「あの、メニューです。」

シリカとシンキが一緒に水とメニューを持ってきた。

「説明も貰おうか。」

「はいはい。分かったわよ。」

シンキが言うにはこれがクエストらしい。どうやらかなり経験値が入るらしく、ただ従業員を一日やるだけでいいとか。

更にシリカを一緒に混ぜた理由も教えてもらった。

「実はね? このクエストの本当の目的は彼女達の防具を手に入れることなの。」

「防具?」

どうやら今着ているメイド服。防具にもなっているらしく、ステータスもかなり高いらしい。

「防具なら倉庫にいっぱいあるだろ。」

「分かってないわねぇ。可愛い女の子には可愛い服が似合うでしょ。どう? シリカちゃんの格好は。」

「うう…。」

シンキはシリカを俺の前にずいっと出した。すごく恥ずかしそうにモジモジしている。

「うーん…。」

上から下までみる。

「あの…やはり私にはこういう服は…。」

「オキちゃん?」

シンキはわかってるわよね?という目でこちらを見てくる。もちろん俺の趣味を知ってのことだろう。

「シリカ。すっげぇ似合ってるじゃねぇか。というかシンキナイス。何より評価するのはロングだというとこ。やはり良いね。ロング。」

「でしょー! ミニも良いけどねぇ。」

「アークスにも、メイド服ってあるの?」

「あ、気になります。」

シノンとリーファが興味を持ってきた。

「あるよー。そっちの意味とあってるかは分からないけどね。」

アークスにもメイド服がある。ピュアメイドドレスというミニスカメイドとクラシックメイドドレスというロングスカートの2種類だ。偶にその服を着たアークスも見たことがあるが、なかなかいい。

後にメイドとは主人に仕える世話係のような職業だというのをリーファ達から聞いた。

「あぅ…。」

嬉しそうな顔をしているシリカの顔は真っ赤だ。

「とはいえ、勝手にシリカを連れ出すな。」

「えー。」

「えーじゃない。」

まったく。仕方が無いので1日シリカはアインクラッドのほうでお留守番をお願いした。

「ということで、シンキに持ってかれた。」

「大丈夫かなぁ…。」

正直うんとはいえない。だが、本人もなんだかんだで楽しそうだし、手に入るメイド服を見せたかったようで。

『ご主人様♪』

シリカがメイド服を着てそう言ってくる姿を想像した。

「オキさん。顔。」

「いかんいかん。」

どうやら相当にやけていたらしい。気合を入れなおす。

「それじゃあ今日は入り江エリアを攻略しよう。ハヤマん。ちょっとこっちに。」

「なに?」

シャルとフィリアから離れて、シャオからお願いされた内容をハヤマに教えた。

「それマジ? 出来るの!?」

「マジらしい。まだ試してないし、そんなに回数は使わないでほしいとも言われたから、今回のボスエネミーに使ってみようかと。」

コンソールのモニター画面に映る『アイツ』を指差してニヤリと笑った。

「なるほど。確かにアイツなら有りだな。」

今回の入り江エリアの最奥にいるエリアボス。ハヤマ、そして自分ともに何度も戦ったダーカー種。

「いこうか。」

「ああ。」

シャル、フィリアをつれ入り江エリアへと飛んだ。

入り江エリアは浮遊遺跡から見えた海のあるエリアだ。上を見上げれば浮遊遺跡エリアが見える。

「ウォパルだな。」

「だね。」

惑星ウォパル。海が殆どをしめる水の惑星。海岸エリアや海底洞窟のエリア等、かつてあの『ルーサー』が拠点としていた場所でもある。

周囲を見渡すと洞窟への入り口と、海岸のすぐ目の前にある大きな灯台への道が示されていた。

「洞窟は…岩にふさがれておるのう。」

「灯台は扉があるわね。洞窟が入れないならそっちにいくしかないのかしら。」

シャル、フィリアが周囲の状況を教えてくれた。まずは大灯台へ。

ゴゴゴゴ

扉は大きな音をたてて開いた。

「中にいるのはっと…。」

入り口を進み、中へと入ると機械仕掛けの大きな部屋へと出た。奥には階段が見える。そして周囲のエネミーはというと

「リリーパ機甲種ときたか。」

「レベルも低いし、無視でいいかな?」

4本足のみで歩く機械スパルダンAや、スパルダンに銃座を乗っけたスパルガン等、惑星リリーパにて主無き今でも稼動する機甲種たちが部屋の中を歩いていた。

レベルはそこまで高くない。倒してもそんなに経験地にもならない。ならば無視してさっさと上を目指した方が効率も良いだろう。

「よし、危害を加えなければ相手もこっちを向くことは無いレベル差だし、上に行くぞ。」

「了解。」

「わかったわ。」

「了解なのじゃ。」

シャル、フィリアは出来るだけ固まり、機甲種たちに障らないように階段を目指した。

2階、3階と昇ったが、特にエネミーも変わらない。

「ここが4階だが…。げぇ。」

「どうしたの? 見たくないもんでも…げぇ。」

二人して本当に見たくない奴を見てしまった。

「どうしたのじゃ? 二人とも。」

「何かいるの?」

シャルとフィリアも扉の墨から部屋の中を確認した。

部屋には2足歩行で歩き、巨大な剣を持った人型の機甲種が動き回っていた。

「リリーパでもメンドイ奴だ。あまり相手したくないんだよなぁ。」

「アイツ、燃やしてくるからねぇ。よく燃えたミケがこちらに走ってきたなぁ。」

『あつあつなのだー! 一緒に燃えるのだー!』

と、ミケは燃えるとこちらに向かって走ってくるときがある。アークスは多少の炎に焼かれてもちょっと痛いだけですむが、それでも痛いもんは痛い。

なぜミケはいつもこちらを燃えさせようとするのか。理由を相変わらず教えてくれない。いい迷惑だ。

「おかげでいい思い出が無い。」

「攻撃も結構いたいんだディンゲール。」

二足歩行の人型ロボット。巨大な剣を背中に背負った筒のようなモノからでる炎で燃やしこちらを攻撃してくる。

「一気に駆け抜けるぞ。」

「了解。」

「わかったわ。」

無駄な戦闘は避けたい。なのでヘイトが向かない距離を走り、奥にある階段目掛けて走りきった。

次の階も同じような構成だったので同様に走りぬけ、そろそろ最上階に到達するころだった。

「さって、ここは…。お? 最上階らしいな。」

広い広間となっている屋上で屋根が無い。エネミーも見当たらないとこからボスがいる可能性が高い。

「確かモニターには・・・。」

ゴゴゴゴ…

上空から巨大な音を立てて降りてきた巨大な機甲種が1機。

「青いよオキさん。」

「予想してたっちゃ予想してたけど…。」

空中をその巨体で飛び回り、肩部についたミサイルポッドから巨大なミサイルを落とし、脚部についたブースターで空を飛び、更に下部に付いた主砲でレーザーをなぎ払う。

『ホロウミッション開始 エンブリオ・ヴァーダー討伐』

惑星リリーパの地下に広がる広大な地下坑道。その最奥に眠る巨大な戦艦『ビッグ・ヴァーダー』。その頭脳に当たる本体のみが飛び回る『ヴァーダ・ソーマ』。

そのレア種の目に当たる場所が光った。

「くるぞ。狙いはまずブースター部分。アレ壊してしまえばこっちのもんだ。空に飛ばすな!」

「わかったわ。ブースターね。」

「しっかしアインクラッドのエネミーとはかけ離れたエネミーが多いのう。」

そういいつつも武器を片手にフィリアとハヤマが狙うブースター部分の一つを攻撃するシャル。こちらも同様に思いながらも久々に戦う機甲種相手に槍を構えニヤリと口元を歪ませた。

結果から言うと問題にもならなかった。

レベルが上がり、武器も高ランク、対処法も分かっているとなるとお話にならないくらい弱かった。

ゴゴゴ…ズズン

空から落ちたエンブリオは時間も掛からずに撃破された。

「もの足りん感じがするのう。」

「かなり強くなった気がするわ。」

シャルはハヤマとともに行動しているからか、物足りなさを感じ、フィリアは初めてこのホロウエリアに降り立ってからの自分と比較していた。

「まぁソーマだし。」

「WBあったらもっと早かった。」

「無いもんねだらない。」

こちらの要望を即座に切るハヤマ。まぁそんなもんあったらバランスも何もなくなってしまいそうな気がするが。

「オキ、こんなのが落ちたわ。」

フィリアが手にしてきたのはピッケルだった。これで入り江の洞窟前にある岩を壊せるのではないだろうか。

「洞窟へ行こう。」

全員が頷き、大灯台を後にした。

カンカン…ガン!

何度かピッケルで叩くと音を立てて岩が崩れ入り口が開いた。

「道順はあっているみたいね。」

「だな。それじゃあ進もう。」

ピコン

洞窟に入ろうとしたときにシリカからメールが飛んできた。

「ん? 向こうは終わったか。ちょっとつれてくる。」

どうやら向こうのクエストが終わったらしい。こちらも丁度きりが良いのでつれてくることにした。

「すみません! お待たせいたしました!」

「大丈夫じゃ。問題ないぞ。」

「ええ。問題ないわ。」

シャルとフィリアもシリカが来てくれて嬉しそうだ。

尚、メイド服は着ていない模様。残念がってたら背中を叩かれた。

洞窟を進む最中、ウォパルの海底洞窟と似ていることが分かった。

「綺麗ですねー。」

「そうじゃな。なかなかいい場所ではないか。」

「気持ち悪い生き物達がいなければ…だけど。」

苦笑気味に言うフィリア。確かに女性から見ればウォパルの原生種はあまり好まれない容姿だろう。

魚に小さな手足が生えたような生き物や、巨大な貝殻から3又の首が生えたモノ、唯一女性陣に人気があったのは小さなくちばしをつけた二本足でチョコチョコと歩く原生種だ。フィリアやシャル曰く、可愛いらしい。

そんな光り輝く洞窟内をエネミー倒しながら進んでいくと地底湖のある広場へと出た。周囲にはエネミーが全くいない。かといってセーフティエリアでもない。

「…くるな。」

「ああ。」

ハヤマと同時に背中合わせで周囲を確認した。女性陣も警戒をする。

ザザザザ…

地底湖のほうから水しぶきを上げ、こちらに向かってくる巨大な影。

「なぁあれって…。」

「赤い背びれだな。下は容易に想像が出来る。」

ザザーン!

水面から飛び出てきたのは赤い鱗をもった巨大な水生生物。惑星ウォパルの暴れん坊で有名な『オルグケトラス』。

本来は蒼い鱗を持ち背びれも2本の『オルグブラン』だが、赤い鱗を持ち、背びれが2本増えた4本の背びれは異常に発達。その巨体で更に攻撃性の増したレア種が『オルグケトラス』だ。

「とげとげしいわね。」

「じゃなぁ。しかし、負ける気もせん!」

「オキさん! いきますよ!」

女性陣はやる気まんまんのようだ。こちらも負けてられない。

「よっしゃ!やったるで!」

「一番もらいぃ!」

ハヤマが早速走り出し、オルグケトラスへと攻撃を開始した。

『オオオ…。』

弱弱しい悲鳴を上げて、オルグケトラスは地面に倒れた。

「弱くないか!?」

「浮遊遺跡に比べるとあっけないわね。」

シャルとフィリアも手ごたえの無さに少し驚きつつも、無事に終わったことで一息ついた。

「ここら辺って弱めに設定されてんのかね。」

「どうでしょうか。それなら楽でいいのですが…。」

「オキさーん。鍵見っけたよー。」

ハヤマが『さびた鍵』を拾ってきてくれた。オルグケトラスからのドロップ品だろう。

この先で使う場所があるのだろう。一旦休憩をしてから先へと進むこととした。

地底湖を抜けると遺跡のような地下の建物内へと出た。アークスたちはこの場所をよく知っている。

「採掘場跡地か。」

「その地下水路だな。嫌な場所に出たもんだ。」

遺跡のように見えるが、惑星リリーパの地下水路がモデルになっているに違いない。周囲のエネミーもウォパル原生種とリリーパ機甲種がごっちゃまぜになっていた。

「そろそろこのエリアの最後かしら。」

フィリアが周囲を見渡しながら言った。確かにその通りだと思った。モニター上の地図もそろそろ入り江エリアの最後を示していた場所だ。つまり

「アイツが近い。」

「くー。楽しみだ。」

『アレ』を試せると思うと久しぶりにワクワクしてくる。そんな二人をシリカ達は不思議そうな目で見ていた。

「楽しそうね。」

「ん? ああ。以前話したアークスの力。少しだけ見せることが出来ると思うよ。」

「??」

シリカもフィリアもシャルも顔を見合わせて首をかしげた。

また暫く道なりに進むと翼のマークが描かれた豪華な扉の前に出た。

「ここで使いそうだな。」

先ほど手に入れたさびた鍵を差込みまわすと音を立てて扉が開いた。

「翼のう…。嫌な予感しかせんのじゃが。」

シャルが体を震わせておびえている。

「大丈夫ですよ。オキさんたちがいますから。」

「そうだな。それにハヤマんから聞いたけど、黄色い鳥が苦手だって? 今回は赤いはずだから。」

「赤い?」

扉の先はコロシアムのような場所だった。屋根は無く地上まで高い崖で覆われていた。円状となった広場の中心に一匹の巨大ダーカー種が舞い降りた。

『ヒョオオオ!』

「ブリュー…リンガーダ? いや、違う。こいつは赤い!」

「その通り。そのレア種。俺達がコイツらと初めて出会ったときに最初の相手をした…ノーブ・リンガダール!」

真っ赤な体に両手に握った槍はハルバードに変わり、頭のとさかも形が変わっている。

「さって…試させてもらうかな。」

「久々にアイツで戦えるなんてね。楽しめそうだ! シリカ、シャル、フィリア! ここは俺達に任せてくれ。」

オキとハヤマの体にノイズが走るのをシリカ、シャル、フィリアが見た。その直後に持っていた武器が変わった。シリカは後にこう語った。

「ハヤマさんの持つ武器は刃部が錆びておりそれでいて何故か刃こぼれをしていない。見るものを魅了するかのごとくその姿が美しく思える武器。オキさんの武器は風を纏い、雷が走り、その元となった生き物の強大な生命力が分かるような気がしました。」

『ホロウミッション開始、ノーブ・リンガダール討伐』

アナウンスが流れ、アークス2名はノーブへと相棒である武器を持ち、戦闘を開始した。

キン!

ハヤマのカタナから円陣の波紋が広がった。鋭い切れ味の波紋はノーブの体を真っ二つに切り裂いた。

『ヒョオオオ…。』

ノーブは結晶となり、砕け散る。直後に光り輝く体を持った少年シャオがオキとハヤマの前に現れた。

『リンクシステム、オールグリーン…問題なさそうだね。』

「ああ。久々の相棒を握れて楽しかったぜ。」

「さすがにこの状態を維持してると、チートすぎるかなぁ。」

ハヤマが名残惜しそうに消えていく相棒のカタナを見ながらつぶやいた。

『本当はずっと使わせてあげたいけど、カーディナルへの負担が半端なく増えていく。だから、あまりむやみやたらに使うことはまだ不安定だからやめた方がいい。』

「連続使用テストもどこかでやりたいな。」

シャオがオキの言葉に頷いた。

『そうだね。どこかでやりたいね。…それじゃあ残りがんばってねー。』

シャオが消えると、シリカとシャル、フィリアがよってきた。

「今の…は?」

「ああ、今のはね…。」

皆に説明をした。出来るだけ早くクリア出来るようにしようとしていること。アインクラッド最上階に『あるモノ』の存在があること。それらに対処すべき事を実験踏まえて試したこと。

「ま、まるでチートね。」

フィリアが苦笑いしている。

「そうなんだよなぁ。そこがちょっと引っかかるとこでねー。とはいえ、そもそも存在自体がチートの固まりのようなもんだしなぁ。まぁいっかって。」

「確かに。相手の動きを知っている時点でそもそもが…うむ。我は納得じゃ。」

なんだかんだで納得してくれたらしい。ありがたいことだ。

コロシアムの反対側の扉が開き、奥へと進むとまたあの文様の門が見つかった。

フォン…

「これで次のエリアにいけるな。」

「次は…大空洞エリア?」

ハヤマが地図を確認しながら言った。

「うん。さぁ進もう。」

大空洞エリア。場所は中央管理室のある区の増したに当たる空洞内部。地下水路のような遺跡から急に近未来的な建物の内部へと変わった。

「なんだか、不思議な場所ですね。」

「ああ。これは見たこと無い場所だな。」

今まではアークス達が調査してきた場所がモデルになっていることが多かったが、今回の場所は見た事が無い。

「注意して…。」

進もうといった矢先だった。

「キャアァァァ!」

「フィリア!?」

足元が急に開き、フィリアが下へと落ちていった。

「落とし穴か!」

「くっそ。…シリカとシャルは一度戻れ。お前ら疲れてるだろ。俺達で何とか探すから。」

「で、でも…。」

「シャル。お願い。」

「…むむ。そうやってお願いされると…反則じゃぞ。」

シリカとシャルは転送ゲートから中央管理室へともどり、二人がアインクラッドへと戻ったのを確認した後、ハヤマと頷きあい二手に分かれて下への階段を探し出した。

「無事でいてくれよ…。」

「いたた…一体何なのよ…。まずいわね。一人になっちゃったわ。」

落ちてきた穴を見上げながら周囲をすぐさま確認する。エネミーはいない。今のところ安全のようだが、気が抜けない。その時だ。

「へぃへぃ! こいつぁたまげた。そっちから出向いてくれるとはなぁ。」

フードを被り、巨大な包丁を持った一人の男が、フィリアとであった。




皆様ごきげんよう。
前半はホロウフラグメントのアインクラッドルートのシリカイベントでした。
ロングメイドイイヨネ。
さて、今回の途中、ある事をアークス達ができるようになりました。
まだ中身は内緒ですが、今回のキーとなるモノです。(ていうかどう考えてもチート
次回はホロウエリアに出てきたPoHさんとの決戦です。おたのしみに。
では次回にまた会いましょう。


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第50話 「狡猾なる黒翼の尖兵」

大空洞エリアに入った瞬間、落とし穴に落ちてしまったフィリア。そこにいたのは『ラフィンコフィン』リーダー、PoHだった。


「あ…あんたは…!?」

「HAHAHA。今日はアイツはいねーのか? ようやくゆっくり話が出来そうだな。シスター?」

PoHの言葉にフィリアは顔を赤くして怒鳴り声を上げた。

「な、何言ってるのよ! シスターなんて…!」

「Hey…。女のお前にブラザーなんて言えるか? それとも言ってほしいのか? 言えるわけ無いだろ。」

「…そ、それもそうね。じゃなくて、何であんたの…!」

「同じ、オ・レ・ン・ジ。だろ?」

PoHはフィリアの頭の上に浮かび上がっているオレンジ色のカーソルを指差した。

「違う…私は…。」

「殺してない? いや、お前は殺した。見ものだったぜぇ。あの時はよぉ。お前が馬乗りになって最後に一刺ししたときには…。」

「やめて!」

フィリアはダガーをPoHに向けた。

「おいおい。そんな物騒なモンをこっちに向けるなよ。怖くてブルっちまう。へへ…。」

手を小さく上げてニヤケながらおどけるPoH。

「そんなツンケンせずに、仲良くやろうぜ。仲間なんだからよ。」

「誰が仲間よ! 一緒にしないで!」

「おいおい。同じオレンジが何言ってるんだ。アイツらと一緒だと思っているのか? 違うだろ。あいつらはな、お前を利用してるだけなんだよ。」

「…利用?」

信じたくない。自分を助けるといったあの人の言葉が偽りだなんて思いたくない。フィリアはそう思いつつも片隅では心が揺らいでいるのが自覚できていた。

「あいつらはお前を利用して、アイテムをここから向こうに持ち帰りたいだけなんだよ。分かるだろ? あいつらの目を。表情を。すべて見れば誰だって分かる。」

「違う! あの人は…あの人は…そんな事なんて…。」

『お前を、絶対アインクラッドに戻してやる。』

オキの言葉を思い返した。彼の言った言葉。そして彼の周りの仲間達の言葉。嘘偽りない、不思議な人たち。

フィリアは揺らいでいる心を消し去るように首を振り、再びPoHを睨み返した。

「あんたの言う言葉なんて嘘ばっか。もしオキさん達がうそつきだったとしても、あんたの言葉はもっと信用できない! どっちを選ぶかなんて分かりきったことよ!」

フィリアの言葉に舌を鳴らしたPoH。しかしすぐにまた口元がにやけだした。

「そうかい。そうかい。もったいねぇなぁ…。仲良くできるとおもったのによ。残念だ…。くくく…もう少し楽しみたかったが、そういうならしかたねぇ。」

PoHは包丁を上に投げ、落ちてきた包丁『友切包丁』を再び手に取った。

「イッツ、ショウタ~イム…楽しませてもらうぜ!」

ゾクリとフィリアの背筋が凍った。まるで死神を目の前にしたような感覚。自分を殺す気だ。

「…や、やられるもんか!」

「HAHAHA。さぁどうする!」

フィリアはクルリと後ろを向き、すぐさま走り出した。

『上に行けば、オキさんたちと合流が出来る。階段を見つけて、上に上がって…。』

フィリアは暗い通路を全速力で走った。後ろからはPoHの笑い声が背中に響いた。

どれだけ走っただろうか。どれだけ奴から逃げただろうか。うす暗い通路は一向に階段を見せてくれない。同じような部屋、同じような構造。迷路のようなダンジョンをもう何日も走っているような感覚になっていた。

「どうなってるのよ…。ここ…。」

途中から部屋の一つ一つにどこを走ったかを目印をつけて走っていた。ダガーで付いた傷はあちこちに見える。つまり同じところをぐるぐると走っているのだ。

『アイツの気配は今のところない。でも階段も見当たらない…。どうして…。』

普通なら必ず上か下かに向かう階段があるはずだ。それなのに全く見当たらない。

『そういえば行き止まりも…無い?』

行き止まりに入らないように走っていても注意して進んだはず。だが、どこに行っても同じ部屋にたどり着く。

『もしかして…。』

「でられない。だろ?」

カツン、カツンとゆっくり歩いてくるPoHの足音と、声が響いた。

「HAHAHA。まだまだ楽しませてくれ。さぁ逃げろ。追いかけさせてくれ。鬼ごっこは終わらないぜぇ!」

「ちぃ!」

つかまらないように逃げるだけで精一杯のこのときに、迷宮に入り込んでしまった自分が悔しい。

『どうすれば…どうすれば…!』

走っていくうちに通っていない通路を見つける。ダガーの目印がない。

「こっちには行ってない? …一か八か!」

行き止まりならゲームオーバー。あいつに捕まり好きにされておしまい。だが、少しでも希望は持ちたい。走り抜けると広い部屋へと出た。今までにきたことが無い。だが…。

「行き止まり…?」

部屋には出口が無い。行き止まりの部屋だった。

「戻らなきゃ…いっつ!?」

足に力が入らなくなる。投げナイフが刺さったのだ。

「ち、力が…!?」

「HAHAHA。イッツ、ショウタ~イム。ナイト様はこねぇぜ。絶対にな。ここは完全に隔離されている。逃げ回って無駄だぜぇ。ハハハハ!」

体が麻痺で動かなくなっている。そして奴が言った言葉に希望が無くなった。

「そんな…隔離…された場所…なんて…。」

「そうだぜぇ。そしてお前は…ここで、死ぬ。」

キラリと光る巨大な包丁を持ち、ゆっくりとこちらに近づいてくるPoH。目には涙がたまり、恐怖でいっぱいだった。

「う…うう…。」

「ハハハ! 最高だぜその顔! その顔を見たかったんだ! もっとだ…もっと見せろ! 泣け! 喚け! ククク…。」

PoHが高らかに笑い手を広げた。

ゴオオオ…

赤黒い煙が渦巻き、そこからどこかで見たような色合いの剣、槍をそれぞれ持った翼の生えた2足の鳥人エネミーが現れた。。

「く…くぅ…!?」

「ククク…この力があれば殺し放題だ…。永遠になぁ!」

金と赤と黒色の鳥人エネミーは武器を構えてゆっくりと飛んでくる。その時だ。

「あ…?」

PoHが足に違和感を感じた。足に何かが絡みついた。

暗闇の通路に伸びていたその『ワイヤー』が急に引っ張られ、PoHは地面へと倒れた。

「ぐはっ!? きさまは…!?」

「み~つけた~!」

ゆっくりと、投げたワイヤーを辿って紅い槍を背に口元を歪ませニヤリと笑っているオキがPoHを『捕まえた』。

「オ…キ…さん?」

「やっと見つけたぜ…。おーお。『グル・ソルダ』に『ソルダ・カピタ』か。え? なに? ああ、そこね。」

誰かと話してるのだろうか。いや、多分あのシャオとかいう人だろう。前のエリアでもやってたし。

オキは持ってる槍を投げて壁にあった出っ張りに刺した。すると音を立てて壁が動き、階段が出来たではないか。

「このエリア、一度入ると各箇所にあるボタンを押すと壁が動くんだと。どうせそこで寝転んでるバカがやったんだろ。なぁそうだろ?」

「くくく…ご名答。どうやって知ったかしらねーが…。まさかここまでくるたぁ驚きだ。」

足に絡まったワイヤーを外し、距離をとったPoH。オキはフィリアに近づき、麻痺解除の結晶を使って状態異常を解除してやった。

「最初はいろいろ聞きたいことがあったが…。今は一つだけだ。『お前の中にある力はどこで手に入れた?』」

麻痺が解け、立ち上がったフィリアはオキを見た。今までに見たことが無い眼つき。こちらまで後ずさりしてしまうほどの殺気を出している。一体PoHの中に何があるというのだろうか。

「ククク…。そこまでお見通したぁ驚きだ。この力はいいぜぇ…。何でも出来そうだ。」

PoHの腕から先ほどの赤黒い靄のようなものが出ていた。顔にも同じ色の痣が浮き上がっている。

「どっかの馬鹿か…それとも上にいる奴か…。どちらでもいい。お前はその力を手にしてしまった。俺は…お前を排除しなければならない。」

「出来るものならな。 …あ? 何だ? ぐぐ…おおお!」

PoHの体の周囲に先ほどの赤黒い靄が大量に包んだ。PoHはそれからもがき逃げようとするが、逃げられずに完全に囲まれた。そしてフィリア、オキは見た。

靄がなくなり、中から出てきた巨大な鳥。金と紅色、黒色で体が丸く、尻尾の部分は伸びたり縮んだりして回転のこぎりのようなものが回っている。

「…こりゃぁ、予想してたとおりっちゃぁしてた通りだが。フィリア、この手前の部屋にハヤマんとキリト達が待っている。絶対にこっちにこさせるな。」

「で、でもあなた一人じゃ…!」

オキは再び、ノーブと戦ったときのようにノイズを走らせ、気が付けば2対に分かれた武器を握っていた。

「こんなのに負ける気しねーよ。後ハヤマんに言っといて。『アホ鳥だった。ノーブと同じダーカー因子確認。』って。…いけ!」

その大きな声にフィリアは走り出してしまった。

「絶対に…負けないでよ!」

走りながらオキに向かって叫んだ。

『オオオオ…!』

どうしてこうなったのか。PoHはどうなったのか。フィリアには理解が出来なかった。だが、信じるしかなかった。ここまで単身で助けに来てくれたアークスを。

数時間前の出来事。

『オキ。そちらにキリトとユイを送る。ユイを経由してそこにあると思われるもう一つの管理コンソールを探しだす。その間にフィリア君を探す。』

フィリアを探してまもなく、シャオがいきなり連絡をよこしてきた。

「…なにかいるのか?」

シャオの声色が普段よりも険しい。ここに何かがいるのは感づいていたが、どうやらそれが確定らしい。

『君も感じているだろう? このエリア、ダーカー因子が微粒子レベルで存在している。急に現れたから驚いたけど、その因子の持ち主はフィリア君のすぐそばにいる。急がないと危ない。』

「ちぃ…。どこの誰だか知らないが、やらせはせん。シャオ案内を。キリト、ユイにはハヤマんつけて全力で探させて。」

『もう手配済みさ。オキ、そこを右だ。次に左へ。』

オキはシャオの誘導で下への階段を最短距離で走った。

暫くして、キリトとユイ、そしてハヤマは大空洞エリア内の遺跡のような部屋を走り、コンソールのある場所へとたどり着いた。

「パパ。見つけました。これです。」

「ユイ! パパより前に出るんじゃない。危険だ。」

キリトが心配そうに声をかけるが、『大丈夫です!』といわれ、コンソールを弄りだしたユイの護衛に付いた。

「…ここの情報がすべてありますね。」

『ユイ。オキにもその情報を送るから僕にもくれないか?』

「了解です。シャオさん。」

白い狭い部屋でハヤマは入り口を、キリトがユイのすぐそばで守りながら周囲を警戒した。

「これは…そういうことだったんですね。シャオさん!」

『分かってる。すぐにオキに連絡を入れるよ。』

場面は変わり、オキは階段を2つ程下りていた。内容を入りながら聞いたオキは驚いた。

「何だって!? そういうことか!」

オキが聞いた内容は驚きの事実だった。

時間は戻り、PoHが巨大な鳥に取り込まれ、逃げろといわれたフィリア。

「はぁ…はぁ…。」

「フィリアさん!」

通路を走り、フィリアはハヤマ達と合流した。

「ハヤマさん…それと…。」

「キリトだ。こっちは娘のユイ。」

「ユイです!」

深々と頭を下げた白いワンピースの小さな少女を見て、ようやく力が抜け、腰を下ろした。

「はぁ…。」

「大丈夫ですか!?」

ユイが心配そうにフィリアに近づく。

「大丈夫…ちょっと安心しただけ…。」

「オキさんは奥?」

ハヤマがカタナをいつでも抜ける状態で通路を見ていた。

「オキさんから…伝言。『アホ鳥だった。ノーブと同じダーカー因子確認』。伝えたわよ。」

ハヤマはフィリアの顔を見た後に通路をもう一度にらみつけた。

「アホ鳥か。オキさんのその言葉の意味が正しければ…。ねぇフィリア、相手は丸かった? 金と赤と…。」

「それと黒の紋様。尻尾が長くなったりして回転鋸の刃も付いてたわ。あれが…ダーカーって奴?」

「アポス・ドリオス…。オキさんたちでの通称で『アホ鳥』。ダークファルス【敗者】の眷属にして一番めんどくさい奴。この前のエリアで戦ったあの紅いエネミー、『ノーブ・リンガダール』。アレにもほんの少しだけダーカー因子を確認した。まぁ特に問題視するほどでもなかったくらいの残り香程度だったけど。やっぱり何かあるな。」

ハヤマは通路の前に仁王立ちし、じっと見つめていた。

「ハヤマさん。助けに行かなくて良いんですか?」

キリトが武器を手にして、ハヤマの横に並んだ。

「フィリアさん。オキさんはなんていってフィリアさんをここに?」

「えっと…。」

フィリアは先ほどの事を何とか思い出そうとした。急な展開で頭が混乱しているが何とか思い出せたようだ。

「『絶対にこっちにこさせるな。』よ。」

「だったら信じてここで待つだけ。…フィリアさん。オキさんは『アレ』だしてた?」

アレを指すのが2対のあの武器のことならば。フィリアは頷いた。

「大丈夫。あの人がアレを持ったなら、心配ない。間違いなく負けることは無いさ。」

フィリアは思い返した。紅いエネミー『ノーブ・リンガダール』。入り江エリアのエリアボスだったあのボスを倒すときオキはそれを持っていた。

動き、目つき。全てが槍を持っていたときと違う。素人の目で見ても何度も戦い、死闘を繰り広げていたと分かる動きだった。

実際あのエネミーは何も出来ずに倒れていった。今回の巨大な鳥。あれも二人は知っている。ならば信じて待つほかない。

『ハヤマ。奥にいるね。』

光り輝く小さな人型が現れた。シャオだ。

「うん。いる。感じる。あの『バカ』の力。すごく微量だけど分かる。」

ズズン…ズン

通路の奥から地響きが鳴る。何度か鳴った後、静かになった。

『大丈夫。オキは健在してる。そしてアポス・ドリオス。消滅確認。ダーカー因子も…。僕は戻るね。後よろしく。こっちでもいろいろ調べてみるよ。』

「了解。シャオ、ありがとう。」

光り輝くシャオは消えていった

暫く3人が待っていると、足跡が聞こえてきた。

「よう。皆無事だったな。ゆいちゃん、ありがと。助かった。」

「えへへ。」

オキがユイの頭を撫でると、その場に座り込んだ。

「オキさん!?」

ハヤマが心配そうに肩を持とうとするが、オキは手でそれをとめた。

「大丈夫。久々にあのアホ鳥と戦って疲れちまった。」

「…PoHはどうなったんだ?」

キリトが険しい顔で質問してきた。

「消えたよ。ったく…。ダーカーの力なんざどこで手に入れたのやら。だが、そう簡単に操れる力じゃない。侵食されたのさ。さってフィリア、これからの話は君にも関係ある話だ。聞いてほしい。暫く休憩したらハヤマん達が見つけた場所に移動しよう。そこでゆいちゃん、あれをお願い。」

「了解です。任せてください!」

フィリアの顔をみると一瞬戸惑ったが、決意したのか力強く頷いた。

まず、そもそもこのエリアの正体。それはアインクラッドに実装する武器や防具、スキル等を試験運用するためのデバックエリアだ。

本来ゲームへの実装のために試験運用するのは人間だが、SAOはカーディナルがすべてそれを管理している。

カーディナルはこのエリアにアインクラッドにいる実際の人物をコピー。そしてこのエリアに放ち、AIを組み込ませて実際に試験を行うという仕組みだ。

アインクラッドとホロウエリアは隣り合わせに実在し、偶然にもそのトンネルが開通してしまったところに、これまた偶然居合わせたフィリアが巻き込まれてしまった。

オキのときもそうだ。

フィリアはその時に自分自身とこのホロウエリアで出会ってしまい、混乱したフィリアは誤って自分を攻撃してしまった。その時にこれまた偶然『あの事件』が起きた。

外部からの強制介入によるカーディナルへの過負荷。これにより処理しきれなくなったシステムに異常が起き、フィリアは他人を攻撃したとみなされオレンジカーソルに、そしてさらに自分の『コピー』としてIDステータスを上書きされてしまった為に、このホロウエリアから出れなくなっていたのだ。

「そんな事が…。」

キリトたちが見つけたコンソールにてデータを処理、再びグリーンカーソルへと戻ったフィリアは事情を把握した。

「PoHも…コピーだったんだな。」

キリトがボソリとつぶやいた。

「その通り。だからこっちのを倒しても、本体である『あっち』のPoHはまだ健在。まぁあんな場所に入れられてたら誰も出れねーわな。」

あんな場所とは黒鉄球の奥、監獄エリアの最奥だ。

「問題はPoHがどうやってあの力を手に入れたか。ユイちゃんの調べでも、シャオが調べても分からなかった。だけど分かったことは一つある。」

オキの発言に全員がオキを見る。

「ダークファルスの誰かがここで介入したこと。もしくは介入している可能性が高い。今のところの予想はルーサーがここに来た、もしくはいるって事だけど…。」

「ダークファルスは俺達アークスが認識している奴ら以外にもいる可能性があるということ。」

オキがハヤマの付け足しに頷いた。

「だから『アレ』を使用できるようにしたんだ。」

「そうだったのね…。」

キリトがゆっくり手を上げた。

「さっきから『アレ』って何だ?」

ハヤマとオキ、フィリアが顔を見合わせた。そういえばキリトは『アレ』のことを知らない。

「まぁ楽しみにしとけ。いつか見れるさ。」

「そんなぁ…。」

笑いあう4人。

後にフィリアはアインクラッドへとようやく戻ることが出来た。予断だが、すぐさまお風呂に入りたいといった為、オキはギリド拠点の温泉へと連れて行った。

その時にシンキに偶然出会ってしまい、餌食なったのは別のお話。




皆様ごきげんよう。
今回、ホロウエリアの謎が解明されるお話でした。
以降はホロウエリアの最新部を目指します。
お気に入りも90を超えました。本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願いいたします。


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第51話 「悲しき造龍の舞う異界」

コピーPoHの成れの果て、『アポス・ドリオス』を討伐し、フィリアをアインクラッドへとつれてきたオキは皆にフィリアの紹介を行った。



「というわけで、ホロウエリアに閉じ込められてたフィリアだ。今日からうちのギルドメンバーとして皆よろしく頼む。」

「「「はーい(なのだー)!!!」」」

大会議室にてギルドメンバー全員を集め、フィリアの紹介を行った。現状と状況を説明した後に彼女からの挨拶もしてもらった。

「これからは私がオキさんたちに恩返しが出来るように頑張るわ。トレジャーハントスキルを振ってるからアイテム収集は任せて頂戴。」

「アイテム関連となると…。」

その場にいた全員がコマチを見た。

「何で俺を見るの。」

「そらアンタ…。ねぇ。」

「ですねぇ。」

オキやシリカは苦笑しつつ、皆を紹介して回った。

「暫くはサクラやレン達と一緒に行動してくれ。」

「わかったわ。」

「よろしくお願いします。」

「よろしく。」

サクラとレンは快く彼女を仲間として受け入れてくれた。

「他の皆は今まで通りのPTで攻略を進めてくれ。何かあったら俺やイレギュラーズに連絡すること。以上。」

 

 

 

「さって…。ホロウエリア、最後まで行きますかね。」

「オキさん。私も付き合います。」

シリカも付いてくるようだ。断る理由もないし、脅威はなくなったから後はゆったりアイテム回収しながら回れば良いだろう。レベルも決して低くない。むしろ高い方だ。問題はないだろう。

ギルド拠点を出ると、アインスが待っていた。

「オキ君。来たよ。」

アインスにも今回は同行をお願いした。隊長がいれば百人力だ。

「隊長がいれば心強いよ。」

「ははは。そういってくれると嬉しいね。さぁ行こうか。」

 

 

ホロウエリア大空洞エリアの最終転送門。

「ここから先はエリアボスだ。先日はここまで攻略できている。」

「なるほど。相手は…『アレ』かい?」

アインスと一緒に中央管理室のモニター画面を確認してきた。ここにいるボスはアインスと初めて出会ったときに共に戦った強大な生命力を持った相手だ。

あの時は苦戦したが、今回は対処方も分かっている。

「行こう。シリカ、話したとおりに動くんだよ?」

「はい。任せてください。ピナ、行くよ!」

「キュル!」

ピナも任せてと言っているように気合を入れていた。

 

ゴゴゴ…

 

巨大な音を立てて開いた門をくぐると中央管理区の真下と思われる空洞へと出た。

「ここが大空洞。なるほど。」

「名前の通りだな。オキ君。上を見たまえ。管理区が見える。」

上を見ると空中に浮いた管理区の底が見えた。アインスは上を見た後に下をじっと見つめていた。

「隊長? どうかした?」

「いや実はね、この下にね。用事があるんだ。」

「下?」

オキも下を見ようと目を下げたときだ。

 

ドン!

 

『コォォォォ!』

巨大な体を持ち、その巨体を支える4足の太い足。体以上に大きな翼を生やし、どんなものでも貫かんとする2本の牙を持ったエネミーが降りてきた。

「来たな…。」

「ああ。久しぶりにこの姿をみたよ。」

『ホロウミッション開始 ガル・グリフォン討伐』

ガル・グリフォン。アインスと共に惑星ナベリウスの奥地にて異次元エネミー『ニャウ』の空間転送能力で送られてきてしまった『ラグオル』で『作られた』生命兵器。

その力は惑星全体の天候を軽く変化させ、嵐を巻き起こし、雷鳴を轟かせる力を持つ。

『コォォォ!』

再び鳴いたガル・グリフォンは空中へと羽ばたき、こちらへと滑空してきた。

「避けろ!」

アインスの掛け声により、オキ、シリカは飛んできた方向と垂直に避ける。滑空したガル・グリフォンはそのまま空中に停滞し、風の固まりとなった弾をアインスへと向けて飛ばしてきた。

「隊長!」

「分かっているさ。」

隊長はそれを避けつつ空中に停滞するガル・グリフォンへと近づき、カタナを振りぬいた。

それに続けてオキ、シリカが攻撃を開始する。

「そりゃそりゃ!」

「でやー!」

アインスが狙った右前足を二人で集中的に攻撃する。

『コォォ!』

一旦上空へと上がったガル・グリフォンは勢いよく地面へと降りてきた。

「押しつぶしだ。避けるぞ。」

「あいあい。」

「とと…。」

押しつぶしをしてきたガル・グリフォンは自分の周囲に雷を落とした。3人ともそれをうまく回避する。

「続けるぞ。」

「アイサー。」

「了解です!」

ガル・グリフォンは走り向かってくる三人の方角を向き、巨大な牙を振り回してきた。

「よっと。」

「うわわ!」

「ふん。」

2度3度と振り回してきた牙を避けつつ、何度も同じ足を攻撃する。

すると、足に鎧のように纏っていた硬い毛が壊れた。

「次は左だ。」

アインス指揮の下、2人はそれに続く。

 

 

『コォォ!?』

4本目の足を破壊した直後、ガル・グリフォンは足で支えきれずにその場に伏してしまう。

「右翼。オキ君、ヘイトを頼む。」

「アイサー! おらおら!」

朱槍を顔面に突き刺し、ダメージを与え続けた。立ち直ったガル・グリフォンはオキのほうを向いた。

『コォォ!』

「怒ってるねぇ。ほらほらこっちだ。」

再び真正面に陣取っていたオキへと何度も牙を振り回す。その側面で力を貯めていたアインスがその力を解放した。

 

斬!

 

巨大な刃となったカタナが勢いよく右翼へと振り下ろされ、一撃で破壊した。

『コォォォ!?』

再び地面へと伏したガル・グリフォン。続いて左の翼を狙っていたシリカがダガーにて攻撃を繰り出した。

「はぁー!」

蒼い閃光が何度も左翼を切り刻む。その間に素早く移動したアインスも再びカタナに力を貯めだす。

オキはそのまま顔面へと張り付き、邪魔な牙へと槍を突き刺した。

「俺の槍と、お前の『槍』どちらが固いか勝負しよー…っぜ!」

 

ガキン!

 

鋭く硬い槍と牙同士がぶつかり合い火花を散らした。

「かってぇぇ…。」

再び起き上がろうとしたガル・グリフォンだが、アインスがそれをさせなかった。

「シリカ君」

「どうぞ!」

シリカのSS硬直が解け、場所を開けた瞬間にアインスは左翼へと強力な攻撃を放つ。

『コォォォ!?』

その場から動けないガル・グリフォン。一度伏してしまえばこちらのものだ。

「ついでに麻痺りやがれ。」

SSをガル・グリフォンの顔面に放ったオキ。バチバチと体を痙攣させ、動けなくなたったガル・グリフォンは3人の攻撃をまともに受けた。

「ははは。楽勝楽勝。」

「オキ君。そろそろアレ、くるぞ。」

「あいよぉ。うっし。一旦退散!」

「はい!」

オキ達はガル・グリフォンが立ち上がる前に距離をとった。ガル・グリフォンが麻痺から立ち直ると巨大な竜巻を立て、周囲に雷をばら撒き空へと飛び上がっていった。

「本来ならあの真下は強力な吸引力が発生し、逃げることは難しい。」

「だけど、最初からこうして範囲外に逃げておけば問題なしって事さ。シリカ、降りてきたところを狙うぞ。」

「はい。」

アインスが再びカタナに力を貯める。今度のは長い時間を貯め続けている。今までの何倍もの攻撃力となるだろう。

その巨体が現れ、地面を揺るがし周囲に強力な電を発生させたガル・グリフォンだが、その攻撃は対策していたオキ達には全く当たらなかった。

「いまだ!」

「はいです!」

オキとシリカが降りてきたガル・グリフォンの牙を同時に攻撃。二本とも破壊した。

『コォォォォ!』

再び怯むガル・グリフォン。それと同時に左右に分かれたオキとシリカの横を巨大な刃が振り下ろされる。

 

斬!

 

『オオオ…。』

ガル・グリフォンは一声鳴き、結晶となって砕け散った。

「どんなもんだい。」

「ふん。我々を敵に回したのが運のつきだな。」

「あ、あはは…。」

ドヤ顔する二人にシリカは苦笑気味だが、それでも嬉しそうだった。

「さて、次のエリアだ。」

真正面に広がる巨大な石碑2本。その間を塞ぐ様に展開するバリアを手にある紋章で触れ、解除した。

次のエリアは『異界エリア』。大空洞エリアと変わり、巨大な木々や毒々しい色をした草花がエリア中に広がっていた。

「これは…。」

フィールド上のオブジェクト自体は問題ない。今までと違いここオリジナルのフィールドだろう。問題はそこを跋扈するエネミーたちだ。

「手前に『ダガン』、『ディカーダ』、奥に『ダガッチャ』と来たか。」

鳥系ダーカー以外の水棲型ダーカー、虫系ダーカーがフィールド上を動き回っていた。

「ここはダーカーの巣か。」

「だね。ふむ、ダーカー因子確認できず。ただのエネミーだね。」

それなら『アレ』は出さないで良いかな。そう思って進もうとしたときだ。

 

ドォン!

 

「なに!?」

「コイツがいるのかよ!」

オキとアインスは目を見開き、木々の間をすり抜けて上から降ってきた。

巨大なドラゴン。だが、腹部は青く光り大きく膨れ上がっている。手足だけでなく顔面もやせ細っている歪な容姿。肌の色は黒く、背中には翼のような突起、腕にも似たようなモノが付いている。

「ヘイズ・ドラール…! おいおい。ここのエリアボスが『?』ってなってたけど、よりにもよってコイツかよ。」

オラクル船団の上層部と呼ばれる『虚空機関(ボイド)』。ルーサーが長を務めていた研究機関だ。一般的にはオラクル船団の存続を守る為に数々の開発研究を行っている場所といわれていたが、実際は非人道的な人体実験や数々の暴挙に走っていた欲物の塊。

このドラゴンはその研究機関で作られた人造の龍族だ。通称『暴走竜』。クローム・ドラゴンと名付けられた暴走竜はダーカーを食べる。その中でも大量に摂取し、異常に発達したモノがこの黒いドラゴン『ヘイズ・ドラール』だ。

「まて、オキ君。コイツは…。」

『シャァァァ!』

アインスが指を指した場所を注視した。頭部を指差している。

「黄色の・・・札?」

シリカもそれを確認した。それをみてオキは目を見開く。

「まさか…。」

エネミーの名前も確認した。そこには『ハドレッド・ザ・ドラール』と書かれていた。

 

 

 

 

「ハドレッド!」

アークスシップの病室に大きな声が響いた。オキの体が眠る部屋。そこに偶然いた一人の少女、クーナ。かつてハドレッドと共に『虚空機関』にて人体実験を受け、ハドレッドとは姉弟のような関係だった。

ハドレッドはクーナの保護を条件に虚空機関の研究者達とクーナに内緒で実験の被検体となった。その実験中、ハドレッドは暴走。多数の研究者を殺し、逃走した。

クーナは事情を知らずに上層部から『裏切り者のハドレッドの抹殺』を指示され、アークスの裏、殺し屋としてハドレッドを追っていた。

後にハドレッドが裏切り者ではなく、自分を助ける為に行ったモノだと知り、悲しき暴走竜はオキ、アインスと共にクーナの歌に合わせて舞い踊るように戦い、そして眠っていた。

クーナは病室を駆け出そうと部屋の扉へと走った。開いた扉の先にシャオが立っていた。

「どこへ行こうというんだい?」

「そこをどいて下さい! ハドレッドは私が…!」

クーナはアイドルとしてではなく、六帽均衡の零としての姿となり、シャオをにらみつけた。

「君が今から行ったって何も出来ないのは分かっているだろう?」

「だけど…。」

モニターを再び見る。そこに映し出されているのは3人が黒くなったハドレッドと戦っている姿だ。

「あれはハドレッドじゃない。もし仮にそうだとしても、彼らに任せよう。」

クーナはシャオにやさしく言われ、普段のアイドルクーナへと戻った。

そして再びモニターへと目をやる。ハドレッドは空中へと飛び上がり、3人の目の前から逃げたところだった。

「一つ…お願いがあるの。」

クーナはシャオへとあることを依頼した。シャオは少しだけ確認して、すぐにOKを出した。

 

 

 

 

「逃げたか。」

「追いかける必要があるな。ホロウミッションはアイツを追いかけて倒せだってさ。」

「あちらに逃げましたね。行きます?」

シリカの言葉に二人とも力強く頷いた。

道中、多数のダーカーエネミーがフィールドを動き回っている。オキとアインスはそれをみて

「オキ君。」

「あ、隊長も?」

「うむ。」

シリカが不思議そうにオキを見た。二人の体はプルプルと震えている。

「「我慢できん。」」

二人はそう一言漏らすと、大量のエネミーへと走っていった。

「え? あ、あう…。わ、私も!」

シリカもその勢いにのってオキ達に混ざってダーカーを殲滅した。

 

 

 

『シャァァァ!』

数度、広い場所で戦い、逃げられては戦いと繰り返し、最後のエリアへと追い詰めた。地図上ではここが異界エリアの最後となる。

「懐かしいね。こうしてアイツを追いかけて追い詰めて…。」

「そうだな。そうして眠らせたんだったな。」

「今回は私も…お手伝いします。悲しいお話。眠らせてあげましょう。起こしては…ダメです。」

過去の話を聞いたシリカは彼を、ハドレッドを再び目覚めさせないようにと意気込んでいた。同じドラゴンであるピナをパートナーに持つ為、よりわかるのだろう。

『シャァァァァ!』

ハドレッドが吼え、こちらに向かって突進しようと構えたときだった。

 

『ちょっと、ちょっと! 私抜きで何やってるの! ハドレッド!』

 

広場におおきな少女の声が拡声器を通したような幹事で響き渡った。

「この声は…。」

「クーナか!」

オラクル船団にいるはずのクーナがなぜSAOにと思ったが、少し考えれば分かることだった。

「シャオか…。」

クーナの声によるものか、ハドレッドも周囲を見渡し、その声の主を探そうとしている。動きが止まったのだ。

『そうよ。こんなタイミング二度とないものね。…ハドレッド、お久しぶりです。元気でしたか? …なんて、アイツじゃないものね。でも同じ名を持つあなた。同じ名を持つあなたならもしかしたら…。もしよければアイツに会ったとき、伝えてほしい。今の私の気持ちを。今どんな気持ちですごしているかを。…二人とも、準備はいい? あの時と同じように、お願いね! シリカ…ちゃんでいいのかな? あなたも、お願い! いくわよー! 終わりなき物語!』

広場に音楽が流れ出す。アイドルクーナの新曲だろう。オキ達も聞いたことのない曲。だが、その曲は勇気を持ち、仲間と共に立ち向かう。そんな意を込めた曲だった。

たった3人と2匹に向かった小さな小さなライブ。アイドルクーナは共に育った龍のために、弟のために新たな新曲を歌う。

ハドレッドはそれに答えるように、先ほどまでの強さとは思えない強力な攻撃をオキ達へと行った。

オキ達も負けまいとハドレッドと共に、歌に合わせて舞い踊るように戦った。

 

 

 

『シャァァァ…。』

弱弱しい声を出し、それでいて満足したように見える顔。ハドレッドはオキ達の攻撃により、倒れた。

「ゆっくり…眠れ。お休み。ハドレッド。」

オキの言葉でまるで眠るように目を閉じたハドレッドは結晶化し砕け散った。

クーナの曲も聞こえない。安心したのだろうか、もう何も言ってこなかった。

 

【全エリアクリア確認。管理地区エリア完全開放を許可します】

 

広場にアナウンスが流れた。それを聞いたアインスが一言、オキへとお願いをした。

「オキ君。シンキ君を連れてきてくれないか。」

 

 

 

「隊長ちゃんからご指名なんて、なにか面白いものでも?」

アインスが親指で背中側へと指を指す。その先にはコンソール画面、そしてシンキがその中央にあるシルエットを見て微笑む。

「あらあら。これはまた懐かしい…。アイツがいるなんてね。」

シンキのレベルは皆の協力のおかげもあり、かなり高いレベルへとなっていた。武器防具も問題はない。ないはずだった…。

「シンキ、その防具なんだよ。」

「これー? ふふふ。いいでしょ。」

シンキの防具は肌の露出がかなり高い。まるで布一枚をうまく巻いているような服だった。

「踊り子の服。ギルドの倉庫にあったのよ。」

シンキがそういうとシリカがビクリと肩を揺らす。

「ん? シリカ、どうした?」

「あ、いえ…なんでもないです…。」

実はこの防具。シリカがホロウエリアで見つけた防具だった。あまりの露出の高さにシリカはギルド倉庫へとこっそり入れていたのだ。ステータス自体はかなり高く、ここホロウエリアでも充分通用する。特殊能力も付いており、NPC(特に男性)からの情報を無条件で引き出せるという能力を持っている。

問題点とするならば、羞恥心を感じた瞬間に防具が自動で脱げる。つまりインナーだけになってしまう(らしい)。

「武器は曲剣にしたのか。」

「ええ。隙がなく、それでいてある程度の火力もでる。一応言っておくけどカタナを目指しているわけじゃないからね。」

「オキ君、シンキ君。それくらいで良いだろうか。」

アインスがそわそわしている。隊長にしては珍しい。

「そうね。我慢できないでしょうね。アレを目の前にして。…それじゃ行きましょうか。」

管理区地下へは中央管理室の中央にある石版から移動が出来た。

進んだ3人が見たものは大量のダーカーと各惑星の原生種たちがごっちゃとなっている迷宮。迷宮は蒼い壁に宙に浮いたような透き通った床。シリカ曰く電子データの世界を具現化したような感じだという。

地下へ地下へと進むオキはアインスから、今回の敵について語ってくれた。

「初めてこのホロウエリアへと来た時にすぐに目に入った奴のシルエット。確かにその通りだ。なぜ今まで気づかなかったのか。」

地下10階まで進んだ。何も無い通路にその先から漂う異様な気配。長い長い一本道の通路。

「ヒースクリフ。同じ名前を持つものがいるとはその時思った。懐かしい響きだと。だが気にしなかったのは偶然だと思ったからだ。」

一番奥、更なる地下へと向かう巨大エレベータが顔を見せた。これで降りろというわけだろう。

「だが、まさかここに来てその姿を拝めるとはな。思いもし無かったよ。」

「そうね。まさかここに来て、アレを見るなんて。このエレベーターなんて。ふふふ。あそこと瓜二つ。」

円形状の形をした、人が何十人も乗れそうな広いエレベーターはたった4人を乗せ地下へと進みだす。

「ホロウエリア、これもしゃれたつもりなのだろう。鼻で笑ってしまうよ。」

上から強力なエネミーの反応がオキ、シリカ、アインス、シンキを襲う。

本当に押しつぶされそうになる程の威圧感、その歪な姿。アインスが、嘗て命を賭け、死闘にて倒した最も因縁のある【ダーク・ファルス】。

それが巨大エレベータを追ってきた。

「あぁ、久しぶりだな…。」

「久しぶり。」

「「ヒースクリフ・フロウウェン。いや…【オルガ・フロウ】!」」




皆様、ごきげんよう。
異界エリアの話を書き終え、見直した後に『こんなにぶっ飛ばしで書いてよかったのだろうか」と思いました。
とはいえ、次回の話を考えるとここでスパッと書いておけば丁度いいかなと思い、
なので今回はスパッと書きたいとこだけ描いてみました。(戦闘シーンが苦手だからとかそんなんじゃない。そんなんじゃない)

さて、ホロウエリアもそろそろ終わり。最後を締めくくるにはいい相手かと思います。
次回『オルガ・フロウ』。お楽しみに。


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第52話 『英雄』

中央管理区以外のホロウエリアをすべて攻略し終えたオキ達は、アインスのお願いによりシンキと合流。
中央間陸地下へと潜った。その先にいたのは、かつてアインス、シンキが激闘の末に倒した惑星ラグオルの『オルガ・フロウ』だった。



話には聞いていたある惑星への移住計画。

移住可能な星へ一隻の巨大な鉄の棺桶へ開拓民を乗せ、未開の惑星を開拓する。

自らが乗ってきた巨大な船を解体し、ヒトの住める環境を創り出す。

無謀ともいえる「パイオニア計画」はそうしてスタートした。

 

それは元々仕組まれていたのかもしれない。

『無人』で凶悪な生物など『いない』とされていた新天地には

しかし既に存在しているモノがあった。

生物ではない・・それはただただ闇としか言いようのない存在だった。

 

‐ダークファルス‐

 

深淵から這いずり出てきたようなその「闇」は、多大な犠牲を支払いながらも幾度かは軍により封じられた。

しかし、ヒトの想いなどあざ笑うかのように闇は何度でも蘇る。

まるで滅ぼすことなど出来ない悪夢のように。

陸軍副司令官だった『彼』はソレがヒトの手に余る存在だとすぐに理解したのかもしれない。

しかし『彼』は軍人だった。

命令と在れば何度でも戦ったのだろう。

母星で待つ民の為に・・・『英雄』のように。

 

終わりのない戦いの中で受けた無数の傷が異常な反応を示したことをきっかけに

『彼』は不運にも乗り合わせていた狂気の天才科学者の実験へ協力することとなる。

自らの部下と、母星で待つ民の為、この狂った移民計画を中止し、引き返すことを条件とし、

その身体を使った人体実験への協力を。

 

彼はただ、英雄であり過ぎたのかもしれない。

愚かで愚直過ぎたのかもしれない。

彼の意識が途切れるころ、一隻の宇宙船が惑星へやってきた。

「パイオニア2」アインスやシンキ、未だ実戦を知らない頃の若い彼らを乗せた船は

確かにその時は希望に満ちて惑星へ向かったのだ。

 

『彼』の名はパイオニア1陸軍副司令官『ヒースクリフ・フロウウェン』

その名は奪われ、実験体と成り果て、その身にD因子を埋め込まれながらも彼はただ、待ち続けた。

己を解放できる『英雄』を。

 

無限とも一瞬とも思えるような降下し続けるエレベーター

降りてくる災厄、両断される仲間たち

そして地下、既に海水が注ぎ込む崩落した廃棄場・・・

記憶に残るは断片的なキーワードになっている。覚えておくにはあまりにも強過ぎた。

だが腕が、足が、肌が、そして刀がソレを覚えている。

ダークファルスは憑依する存在によってそのありようを変える。

ならば当代の大英雄を基にしたソレは、確かに最強の一体だったのかも知れない。

『オルガ・フロウ』

強大な力を持つ『D因子』に侵食された『彼』は歪となったその姿を現し

そして…倒された。

 

アインスから聞いたパイオニア計画の全貌は耳を疑うような内容だったのを覚えている。

そして死闘により撃破された男、英雄『ヒースクリフ・フロウウェン』…いや『オルガ・フロウ』。

その強さを聞いたとき、体が震えた。

宇宙には【巨躯】等のダークファルスと同等の力を持ったものがいたことの事実を知った。

自分が強くなるにつれ、『強いものと戦っていたい』と思うようになったのも、その時くらいからだろうか。

持っている相棒が震えている。『戦いたい』そう願っていることが伝わってくる。

だが、そんな裏腹に、自分は不安になる。

『本当に戦えるのか。あの隊長と、あのシンキが、死闘にてようやく倒したと言ったコイツを。』

「ふふふ。懐かしいわね。隊長ちゃん。まさか、ここまで再現してくれるなんてね。」

「そうだな。オキ君。君なら大丈夫だ。そんな心配そうな顔をしなくても、君は強い。俺が保障する。」

「そうね。私も保証するわ。だから、いっぱい…暴れなさい!」

惑星スレアの電子世界。『ソードアート・オンライン』。

だれが予想したか。誰がこのような運命を予見したか。

かつての決戦が再び再現されようとしていた。

『オオオォォォ…。』

降り続けるエレベーターの周囲を一緒に浮遊しながら降りてくるオルガ・フロウ。

ひっくり返ったその姿でなにより目を引くのは右腕に引っ付いた巨大な大剣。左腕は歪に曲がっている。

そして4本の足。胸部に牙のようなものがついておりとじているように見える。

その手にある巨大な剣をなぎ払ってきた。

「よけろ!」

「ふふ…。」

「おわ!?」

アインスの号令で瞬時にその大剣を伏せてかわした。

「奴は攻撃後に隙が出来る。そこを狙う。オキ君、シリカ君は俺達に合わせて攻撃を。」

アインスがオルガ・フロウへと突っ込む。それにシンキも合わせ攻撃を開始した。

「了解。シリカ、無理に突っ込まずに出来るだけ隊長達の援護をする感じで。攻撃パターンを読むぞ。」

「はい!」

分かっているのはアインスとシンキだけ。二人が突っ込み攻撃をしたときのみ、こちらも動く。

オルガ・フロウの動きはそれほど速くなく、見てからの行動でも充分間に合う。

「む! 二人とも! 中央へ! レーザーを撃ってくるぞ!」

オルガ・フロウの中央部からまっすぐ平たいレーザーが放たれ、エレベーターの周りを回りだした。

「なるほど。【敗者】の回転攻撃みたいなものか。シリカ、こっちだ。」

「は、はい!」

シリカの手を引いて抱きつく形で彼女と共にうまくレーザーを回避した。

「こんなふうに回避するんだ。」

「わ、わかりました!」

「ふふふ。ああ、懐かしいわ。この感じ、この感覚。」

シンキのスイッチは完全に入っている。ああなっては誰も止められない。彼女の戦闘時に本気モードのスイッチが入るのはめったにない。

ここに来て彼女は相手を倒すことだけを考える、本気状態となっていた。それだけの相手。それほどまでの敵なのだ。

オルガ・フロウはエレベーターの下へともぐりこんだ。

「下から来るぞ。しっかりみて避けろ。」

エレベーターの中央をすり抜けるように突き上げてきた。アインスのおかげでそれも難なく避けることが出来た。

「このままいくぞ!」

「あいよぉ!」

「了解です!」

アインスの気合の入った声でこちらも構えに入る。

再び巨大な大剣が左右に振るわれる。

「ほっと。一度見てしまえば何とかなるな。」

避けて、近づいているところに攻撃を放つ。

「うむ。その調子だ。」

アインス達と、オキ達の連携はうまくいっている。異様なまでに順調に。

 

右腕に引っ付いた弓から光弾が多数放たれる。オキはそれを全て切り壊し、アインスへと攻撃を繋げる。

「隊長!」

『オオオォォォ…。』

「落ちろ。」

アインスの巨大な刃がオルガ・フロウを叩ききる。

『オオオ!?』

オルガ・フロウは一瞬上へと上がろうと飛び上がったが、そのまま下へとまっさかさまに落ちていった。

「勝った…?」

「いや、まだだ。」

「アイツはまだ生きてるわ。このまま下へ降りましょう。」

まだ生きているというのか。アインス、シンキは頷きあう。オキとシリカは少しだけ息が上がっていた。

『今までの奴とは桁が違う…。まだゲーム内だからなのか、それとも本来の力じゃないからか。少なくとも隊長たちが戦ったというそのモノではない。それでいてこの強さ。こりゃぁ本物がどれだけの強さを持っているか…。考えたくないねぇ。』

近寄ってきたシリカの頭を撫でながら、エレベーターはオルガ・フロウが落ちていった最下層へと降りていった。

「ここが最下層か。」

「そのようね。アイツは…いたわ。」

アインスとシンキは武器を構えた。その後ろでオキ、シリカも同様に構える。

あの高さから落下して、それでもソレは立ち上がった。

「第二形態…。ここからが本番だ。いくぞ。」

「ええ。任せてちょうだい。」

オキとシリカはアインス、シンキの後方から攻撃の隙をうかがいつつ、二人を援護する形で攻撃に加わった。

『コォォォ!』

4足歩行だったオルガ・フロウは2足歩行へと形態変化し、その巨体を見せ付けた。

胸部にあった牙は口のように開き吠えた。

「…なんてでかさだよ。おい。」

オキが見る限りではアークスの決戦兵器である『A.I.S』よりもでかい。『ビブラス・ユガ』クラスだろうか。

オルガ・フロウは腕に付いた巨大な大剣を振り下ろしてきた。

ズズン…!

「こちらも、動きは変わらず…。」

「これくらいなら避けれるわね。」

足元でうまく避けながらアインスとシンキは攻撃を加える。

『オオオォォォ!』

それでもものともせずに怯まず攻撃を続けるオルガ・フロウ。

「大体分かってきた。シリカ、援護。」

「了解です!」

攻撃範囲、スピード、パワー。全てを把握したオキはアインスたちと共に攻撃を開始する。

「俺も混ぜてくれよ。隊長。」

「ああ。任せたよ!」

ズズン…!

再び巨大な大剣が地面を揺るがす。だが、誰一人としてその大剣の餌食となるものはいなかった。

その隙を4人が攻撃する。

『オオオオオ!』

オルガ・フロウが一層強く吼えた。体が光っている。

「む。上から来るぞ。しっかり見て避けろ。」

「え? うわぁ!?」

上から光があちこちに落ちてくる。幸い足元に予兆が見えるため、避けれないことはないがその範囲と攻撃頻度は今までにない。

「わ! っひゃぁ!?」

危なっかしい動きをしながらも、シリカはしっかり避けている。アインス、シンキは軽く体を動かすだけで避け続け、しっかりとオルガ・フロウの様子を見ていた。

攻撃が収まると再び大剣を振り回してきた。

「…ふむ。厄介な攻撃は無し…か?」

「分からないわね。でも、体力は削っているわ。このまま行くわよ! 隊長ちゃん!」

アインスとシンキが素早くオルガ・フロウへと近づき、左右からクロスするように斬撃を入れる。それに遅れてオキ、シリカ二人も続いた。

一度分かってしまえばここまで戦い抜いてきた4人ならば何も問題はなかった。今までは。

『オオオォォォ!?』

「む!?」

「隊長? うがぁ!?」

「きゃぁ!」

「…とと。あらあら。まさかソレまでやってくるなんて。」

アインスがピタリと止まった瞬間、オキとシリカがオルガ・フロウに攻撃を加えた直後に吹き飛ばされ、シンキはソレを見て攻撃をやめた。

『オオオ…。』

「オキちゃん、シリカちゃん。大丈夫?」

シンキが素早く2人を攻撃範囲外へと移動してくれた。

「サンキュ。シンキ。一体何が・・・。隊長!?」

「隊長…さん…?」

オキ、シリカがアインスを見ると、オルガ・フロウとにらみ合っている、はずだった。だが、見たことも無い男がその場に立っていた。

「あれは間違いなく隊長ちゃんよ。安心して。『憑依攻撃』と…私達は言ってたわね。アイツの体力が少なくなったときに発動した特殊な攻撃。」

『まさか、ここに来てこの姿を見るとは。』

クリスタル状の床面にうっすらと反射して見えるその姿。自分が移っているはずなのに見えているのは別人の外見。

『武器は…さすがに変わらんか。』

手に持つ刀を握りなおす。中年風の顔だが、引き締まっており誰が見ても歴戦の兵と分かるその姿。

ヒースクリフ・フロウウェン。【英雄】だった男がその場に顕現した。

『オオオォォォ…。』

オルガ・フロウの大検が振り上げられ、一気に振り下ろされる。

ズズン…!

「ふん。」

ソレを横に避け、近づこうと走る。だが、オルガ・フロウは足でアインスを拒む。

踏みつけようとしたオルガ・フロウだが、アインスは地面を蹴って距離をとり、それを避けた。

『この状態の間は俺しか攻撃が出来ん。出来ればこのまま止めといきたいが…。』

その巨体を再びにらみつけるアインス。

『ふむ。一人ではやはり…。む!?』

飛びのいた先を予想していたのか、オルガ・フロウの右腕を歪に曲げ、取り付いた『弓』がこちらを既に狙っていた。

『まずい…。』

防御姿勢? 回避か? 一瞬の油断を突いたオルガ・フロウはその光を放った。

ゴウゥ…!

「…!」

避けれないと判断したアインスは防御の構えを取ったが、何も反応がない。刀を下ろすと目の前には…。

「以前の借りを少しでも返せたかな…?」

「無茶しちゃダメよ。隊長ちゃん。」

「私達も…いますから。」

オキ、シンキ、シリカが3人でアインスをかばったのだ。

『コォォォ!』

大剣を振り下ろそうとしてくるオルガ・フロウ。その大検をシンキとシリカが受け止めた。

「任せて…ください!」

「いいところ、もって…いきなさい!」

『コォォォ!?』

今度は反対側の腕をこちらに向けている。再び弓を撃つつもりだったが。

「貫きやがれ! ゲイ・ボルグ!」

ゴゥン!

『コォァァァア!?』

オルガ・フロウの右腕が爆発した。オキが槍を投げ、ソレが光弾の発射に合わさったため、目の前で爆発したのだ。

「隊長! いまだ!」

アインスはシリカ、シンキが守ってくれたときから既に攻撃の態勢に入っている。オキが光弾を爆発させ隙が出来ている。今しかない。

斬!

貯めた力を一気に解放したアインスの巨大な刃はオルガ・フロウを真っ二つに切り裂いた。

『オオオォォォ…。』

光り輝くオルガ・フロウ。そして光が消えたと思った矢先に空中から一本の大剣が落ちてきた。

キィン!

地面に突き刺さった大検は光の粒子となり、消えていった。一瞬だけ、男性の姿をオキ達は見た。

「眠れ。ヒースクリフ・フロウウェン。」

「起こして悪かったわ…。この代償。高くつくわね。」

アインスとシンキは粒子の消えていく上を見ていた。

話には聞いていたその強さ。

まさか、ここまでとは思ってもいなかった。

「さすがとしか言いようが無い。」

「そうね。本当に懐かしい、そして奮い立たせるこの思いをよくぞここまで。」

満足した顔をした二人。そしてやりきったと思うと、どっと出てきた疲れを一服で紛らわせるオキ。それに寄り付く形で背中合わせに座り込むシリカ。

「二人には頭が上がらないね。こんなのと戦ってきたなんて。」

全力を出した。自分が出せる本気をすべて。

「彼を起こした、この代償を払わせる為に。」

「再び戦わせた、この償いをさせる為に。」

「「上へ!」」

アインス、シンキは完全にやる気モードになっていた。かつて眠らせた男をよみがえらせた、そして再び懐かしの戦いをさせてくれた、同じ名を持つ男の下へ行くために。

『ホロウ・ミッションクリア。【管理者最終テスト】を開始する準備が出来ました。』

アナウンスが鳴り響き、オルガ・フロウが倒れた広間の中心に転送門が現れたのはその直後だった。




皆様ごきげんよう。
PSOファンの皆様ごめんなさい。ワタシにはこれが限界でした。
やはり実際に戦いながら見て、感じて、体感しないとうまく表現できませんね。
オルガ・フロウ戦、いかがでしたでしょうか。ファンタシースターシリーズの中でも歴代でもトップクラスの知名度を誇るダーク・ファルス『オルガ・フロウ』。
今回は裏の大ボスということで出ていただきました。
書いている途中、最も難航したと思われます。悩みに悩んで結果がこれ。うーん。もっかいインフィやろうかなぁ…。
序盤の回想部はアインス隊長にベースとなる文章を見ていただいたあとに編集していただきました。ありがとうございます。
ともあれ、ホロウエリアの管理区地下エリアボスを討伐完了しました。ホロウエリア編も次回で最後かな?
それとも一回番外編をはさむか…。
では次回、またお会いしましょう。


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第53話 「貫き通す槍」

激戦の末に破った『オルガ・フロウ』。直後に鳴った最終試験といわれる「何か」をが待ち受ける最深部へとオキ達は足を踏み入れた。
そこで待ち受けていたのは誰もが予想していなかったモノだった。


「最終試験…ですか?」

シリカが不安そうにオキの顔を覗く。オキはじっと現れた転送門を見つめた。

そして、シリカの頭にポンとやさしく手を置いた。

「大丈夫さ。何があっても、何がいても叩ききる。そうだろ? 隊長。」

「ああ。その通りだ。」

アインス、シンキはオキを見て頷いた。

オキ達は何が来てもいいように一度現状を確認。アイテムや武具の状態を各自点検した後に転送門へと入った。

「さて、これ以上何が出ると思う?」

オキがアインス、シンキに聞いた。

「そうだな…。ここまでくると数限られるだろうな。」

「可能性として一番なのはSAOのオリジナルエネミーね。」

アインス、シンキはそれぞれいろいろ予想を立てているらしい。オキも先ほどの『アレ』を超えるモノを予想したが、ダーク・ファルスクラス以外考えられない。そうなると最後に出てくるであろうアイツを思い返したが、その全ての予想をそこにいた『モノ』は覆した。

『…。』

「は…ハハハ。アッハッハッハ! コイツはたまげた!」

「なるほど。確かに納得いく相手だな。」

「そうきたのねー。となると、オキちゃんだけになるわね。ちょっと残念。ほら、邪魔しないようにするわよシリカちゃん。」

「え? え??」

オキは高笑いしてタバコに火をつけ、アインスはうんうんと頷き納得。シンキはああ、と把握して少し残念そうにエリアの隅にシリカを引きずり移動した。

その場にいたのは『オキ』本人だった。

『…。』

声を発せず、腕を組み構える姿はオキそのもの。持っている武器だけが違った。白く、煌びやかに黒く光る外観、鋭く尖った先端。中心には白いクリスタルが輝いている槍。

「ふーん。なかなかいい武器もってんじゃん。おう、よこせ。」

朱槍を片手に持ち、先端を相手に向けるオキ。だが、相手は微動だにしない。

「ここはオキ君一人に任せる。どうせ、一人でやるのだろう? 頑張ってきたまえ。『アレ』は、出さなくても良いかな?」

「さすが隊長、わかってるぅ。そうだね。ダーカー因子は感じられないし、槍でいい。さって…。」

首や腕を回し、準備体操を始めるオキ。アインスはシンキたちのいるエリアの端へと移動した。

周囲を見渡したオキ。

全く障害物のない円形の大広間。地形は完全に平坦。天井の高さは見えず、かなり高いと見た。これなら暴れまわっても問題なさそうだ。

「自分と戦うなんて思いもしなかったよ。なぁ俺。」

広間の中心に立つ自分に近づくオキ。じっとこちらを見つめるコピーされた自分を睨み、吸っていたタバコを結晶化させ握り砕いた。

『…。』

近づいた為に反応したのか、構えるもう一人のオキ、『ホロウ・オキ』。

『最終試験を始めますか? YES/NO』

目の前に出てきた文字を、『YES』を押す。

『ホロウミッション、管理者最終試験 【ホロウ・オキ】討伐 開始』

『…!』

「先手必勝!」

アナウンスが流れ、相手のHPバーが見えた瞬間にオキは大きく飛び上がり、ホロウ・オキへと槍を振り下ろした。

ガキン!

「!」

『…。』

ホロウ・オキは上からの奇襲を持っていた槍で受け止めた。その時にオキが見たのは口元を歪ませニヤケている自分だった。

ブン!

「ちぃ!」

大きく横に振りかぶったホロウ・オキの攻撃を後ろに飛び退き避けたオキは、足に力を加え反動を利用して地面を蹴りホロウ・オキへと突進した。

「だぁりゃ!」

『…。』

それを受け流し、静かにオキのほうを向いたホロウ・オキは腰を低く下ろし、顔と同じ位置に構え、黒槍を紅く光らせた。

「ソード・エフェクト…!?」

SSを撃つつもりだ。だが、あの位置から放つ槍のSSは見たことがない。とにかくその場から離れなければ攻撃がくる。突進後の勢いを殺し、素早く横へ転がった。

その直後に体のそばを衝撃波が通った。

ゴォォ!

「…ディアーズ・グリッドのラスアタのような攻撃しやがって。当たったらあぶねーじゃねぇか!」

冷や汗を流すオキは、一瞬だけ見た。素早い速度、目にも止まらぬ速さで突き、攻撃後の衝撃波を飛ばした姿を。その技はPA『ディアーズ・グリッド』と呼ばれるパリチザンのPAに近しいものを感じたが、たった一発に威力を乗せたその技は別物だ。

「つまり、新しい技を持ってるってか。こいつは手強いねぇ。」

オキは素早く横に移動しながら様子をみつつ近づいた。

『…!』

こちらを攻撃範囲内に収めたからかこちらに向きなおし、素早く近づき左右に振り回してきた。

「おっとと…。」

スピードは目に見える、反応できるスピードだ。すぐさま回避行動に移り、隙を狙って突きを三連続。

ガガガ!

『…!?』

「むやみやたらに突っ込むんじゃねぇよ。がら空きだぜ!」

怯んだところに更に上から振り下ろし脳天から叩いてやろうとしたが、それは後ろに逃げられ避けられた。

下がったところから中腰になり、ソードエフェクトを光らせるホロウ・オキ。

「むぅ。」

『…!』

上に飛び上がりながら空中から素早い突きを5回放ってきた。素早い突きは1度の振りに見えたオキだが、すぐさま後方に下がり、回避する。

「そんなもの避け…!?」

『…!』

飛び上がった場所から槍を引き、突き出しながら急降下してきた。突き出した勢いもあって予想以上にスピードが速いため避けることが出来ない。

「後ろは…無理か。ならば!」

ガキン!

下から槍の先端を蹴り上げ、相手の槍を切り上げるように振り上げはじき返した。

「おりゃぁ!」

蹴り上げた勢いでもう一度槍を蹴り、空中に飛ばしそれをジャンプで手にとってこちらも下にいるホロウ・オキへと振り下ろした。

『!?』

相手の左肩にガッツリと攻撃が入る。

「ふう…。」

怯んだ間にオキは距離をとり、相手のHPバーを確認した。

『普通のボスエネミーに比べてHPやステータスが低い。このまま行けば快勝といけそうだが、これが最後? 嫌に順調だが。』

元々ホロウ・オキのHPバーは2本だった。今までのホロウエリアのエネミーのHPバーは4本から5本。

少なくても3本だった。あまりにも相手のHPが少なすぎる。既にホロウ・オキのHPは1/4減っている。

『警戒はしといたほうがいいな。』

形態変化後が気になる。予想ではラストゲージでの形態変化で何かしらをやってくる。警戒を怠らずにホロウ・オキの攻撃を見切って弾き体をがら空きにした。

大きく振りかぶり、腹部へとフルスイングした。

『・・・!』

芯で捉えたオキの攻撃はホロウ・オキを大きく吹き飛ばした。それに追いかけるように走って近づき、そのままの勢いで地面へと叩きつけられたホロウ・オキの胸部に槍を突き刺した。

「その心臓…貰い受ける!」

呪いの朱槍『ゲイ・ボルグ』がホロウ・オキの胸を貫いた。クリティカル判定となったその攻撃により、ホロウ・オキのHPバーは半分を切り、ラストゲージに突入する。

『・・・。』

「!?」

貫かれたホロウ・オキと目が合ったその瞬間、オキはゾクリと背筋が凍る感覚を感じた。

素早く距離をとり、様子を伺った。

『何だ? 今の感覚…。』

危険なものを感じた。そう思った。ゆっくりと立ち上がったホロウ・オキはオキの視界から、消えた。

『…。』

「オキさん!」

シリカが叫ぶ。オキはその声と同時に後ろへ振り向きざまに槍を突く。

ガキン!

「っつぅ。いってぇな。」

あまりの強さにこちらの槍が折れそうだ。ホロウ・オキは今までとは桁違いのスピードでオキの後ろを捉え、後方から強力な突きを放とうとしたのだ。

だが、オキはそれに反応し後ろを振り向いて真正面からやりあったのだ。

『・・・。』

「はぇぇ…な!」

素早い動きでオキへと近づいたホロウ・オキは何度もオキへと左右から槍を振り、攻撃の隙を与えない。アスナの素早さよりも遅い方だが、それでも普通の人なら反応できないだろう。アークスのだからこそ半分勘も交えて反応できる。

「ちいぃ。」

だが何とか防御するも、その猛攻を抑えることが出来ない。

『…。』

ガキン!

オキの槍が弾かれ体が無防備になる。

「しま・・・!?」

『・・・。』

ガガガ!

三連突きがオキの体に喰らい突いた。

「オキさん!?」

シリカが心配そうに声を上げ、アインスやシンキも息を飲んだ。

「つぅぅぅ。いってぇな! この野郎!」

攻撃を喰らっていてもにらめつけるオキの元気な姿に3人は安心した。

『とはいえ、素早い動きに、攻めを許さない猛攻。そこに強力な突きときた。さて、オキ君どうする?』

アインスは壁に寄りかかったり、少し前に出たりと落ち着かない行動をしていた。

「隊長ちゃん。気持ちは分かるけど、少し落ち着いたらどう?」

「シンキ君だって、同じじゃないか。」

シンキは震える腕を反対の手で押さえている状態だった。彼女もまた同じく、オキの戦いに疼きが止まらないのだろう。

二人は何とか耐え忍んでいた。オキの姿をした相手ならば、オキは一人でやりたがる。だからこそ一人に任せた。

任せたならば最後まで待つ必要がある。どれだけ自分も混ざりたくとも。

『・・・。』

「くぅぅ!?」

戦いの状況はホロウ・オキが素早さと猛攻の連続で一歩リードしている。隙を殆ど与えないホロウ・オキ。だが、それでもオキ自身も負けてはいられない。

ホロウ・オキのHPをあと少しというところまで削ったのだ。

『近づけば猛攻、遠ざかればスピードで裏を取られてアホみたいに強い突きを放ってくる。その直後に近づかれて猛攻。さてどうする。』

ただ単に近づけば猛攻によって攻撃は全て弾かれる。逆に遠ざかれば目にも止まらない反応できるギリギリのスピードで裏をかいて死角から鋭い強力な突きを放ってくる。あの攻撃をモロに受ければHP半減ではすまないだろう。

『ならば・・・。』

オキはどうやって止めを刺すか。イメージを一瞬で思い浮かべた。

「あ、オキさんの勝ちです。」

シリカがアインスたちへと呟いた。

「そうだな。勝ったな。」

「相変わらず、あの癖は変わってないのね。あの子。」

シリカが見たのは先ほどまで苦戦していたオキの口が笑っていたこと。

この劣勢の中、彼が笑う行動をした時は必ず勝つ道が見えたときだ。シリカやアインス、シンキはソレを知っていた。

オキは距離をとった。当然、今の攻撃パターンでは死角へと移動され直後に飛んでくるのは超高速、超威力の突き。

今まではソレを横に避けていたが、オキは真正面に突っ込んだ。

ズァアア!

オキのハット帽がホロウ・オキの攻撃の衝撃波で飛んでいく。

だが、その持ち主はホロウ・オキの懐へともぐりこんでいた。

「おおおおお!」

ホロウ・オキは槍を突き出しているので胴体が無防備である。そこへ懐にもぐりこんだオキが胴体のど真ん中に下から斜め上へと全力で貫いた。

『!?』

クリティカル判定となったオキの攻撃はホロウ・オキのHPを完全に削りきった。

「ホロウだろうが、なんだろうがしらねーけど、そんな機械じみた攻撃の仕方してきたんじゃ負ける気しねーわ。俺の姿使うならもう少し読めねぇ行動しやがれ。」

結晶と化し砕けたホロウ・オキ。その場には彼が持っていた槍が一本地面に突き刺さっていた。

「これ、貰っていいのかな。・・・へぇ。ゲイ・ボルグより攻撃力高いじゃん。いいもんもーらい。」

ゲイ・ボルグは普段使いで、この新たな槍『神槍グングニル』はここぞというときに使用するとしよう。そう思ってアイテム欄へと入れた。

「オキさーん!」

「おっと…。」

シリカが背中から抱きついて顔を背中にうずめていた。少しだけ震えている。

「心配したんですからね! もう。」

どうやら怒っているらしい。無理しすぎたか。

「すまんな。シリカ。」

「オキ君。お疲れ様。」

「お疲れ。はい、帽子。」

シンキが飛んでいったハット帽を持ってきてくれた。

「ありがとさん。これでホロウエリアも終わりか。」

「かなり厳しい戦いだったな。」

「隊長にはばれるか。ワイヤー…投げれなかったもん。」

余裕そうに見える戦いだったが、今回サブウェポンであるワイヤーを投げる隙がなかった。かなり厳しい戦いだったとアインスは見破ったのだ。

『適正最終テスト完了。プレイヤー・オキ。管理権限を全て移行します。』

「管理権限全て移行? ふーん。何が出来るようになったのか調べて帰るとしますか。」

アナウンスの通り、ホロウエリアでの全ての権限をオキが受け継いでいた。とはいえホロウエリアで実績を解除して、新スキル、新アイテムをアインクラッドへアップデートしたり位がSAO自体に影響するものは無かった。

他にはホロウエリアは管理者である自分以外にオキが選んだメンバーであれば自由に移動が出来るようになったのでギルド連合の高レベルメンバーを選び、アインクラッドホロウエリア間の行き来を一部メンバーだけ自由にした。

また、ホロウエリアの一部制限エリアがあったらしくそのエリアの開放も管理権限で開放できた。

そちらはキリトが興味深々だったので彼とアスナ、フィリアやリーファ達で攻略をさせることにした。ダーカー因子も確認できなかったし問題は無いだろう。

「オキがホロウエリアを攻略している間にアインクラッドは80層を超えた。レベルはもちろん、武具もホロウエリアの強力なものがオキのおかげでプレイヤーの手に渡ったのでより安全でスピーディに攻略できている。」

キリトから現状の報告を受けた。アインクラッド攻略も問題なく進んでいる。しいて言うなら彼の元に一人の少女の知り合いが増えていたことくらいだ。

名前を『ストレア』というらしい。今度あってみることになった。

アインクラッドも終盤となった。ホロウエリアも攻略し終わり問題は無くなった。ラストスパートをかけよう。




皆様ごきげんよう。
ホロウエリア編終了! いやー今週仕事の方で朝が早く夜が遅かったので
書ききれるか不安でした。まぁ何とかなってよかったです。

ホロウエリア攻略も終わり、次回からアインクラッドへと戻ります。
ホロウフラグメントをプレイされたことのある方々はこの後何が起きるか、誰が出てくるかは予想がつくのではないでしょうか。
では次回にまたお会いしましょう。


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第54話 「偽りを抱えし妖精の女王」

オキたちがホロウエリアを完全攻略した後、アインクラッドでは80層をクリアしていた。そんな中一人の男がアスナに声をかけたところから始まる。


「どうしようか。」

「ふむ。これは私だけでは判断がつかないな。…ああ、オキ君丁度良いところにきてくれた。」

「んー?」

オラクル船団ギルド拠点大会議室にて、ギルド間会議の開始前。

キリト、アスナ、ディアベルが先に来ており、オキが部屋に入ると何か困っている顔でこちらをみた。

「どないした?」

「いや、実はアスナのところに…。」

キリトが説明をしてくれた。アスナが一人で街で買い物している最中に一人の男が話しかけてきたそうだ。その男はギルド連合に入りたいといってきたらしい。

「私に話しかけてきたのは『有名な神速のアスナさんとお見受けしてー…。』って言ってたけど…。」

アスナの二つ名。彼女もこのギルドの中でキリトの次にレベルが高い。プレイヤー勢の中でもトップ5に入るだろう。極めつけはユニークスキル『神速』も持っている。だからこそ彼女を見つけ話しかけてきたのだろう。その話で納得したオキはその男のことを聞いた。

「ソイツとギルドの名前は?」

ディアベルが既にアルゴを通じて情報を持ってきてくれたらしい。情報を書いた羊皮紙を渡してくれた。

「ギルド『ティターニア』。リーダー『アルベリヒ』。ここ最近急激に力を伸ばしたギルドか。悪い噂、なし。いい噂…なし、か。」

「情報が少なすぎるのも少し気味が悪い。いくらなんでも短期間過ぎる伸び方だ。」

「俺達がまだ知らない何かの情報をもっててソレを利用して力を手に入れたっていうなら、話は分からんでもないが。少なくとも会ってみねーとわかんねーな。何とかソイツと会えない?」

ディアベルが頷き、その依頼を受けてくれた。

後日、オキ、ディアベル、アスナが立会い、ギルド『ティターニア』リーダー、アルベリヒと会う事になった。キリトも来たがっていたが、別件もあるけどどうしようとか言ってたのでそっちに行かせた。こっちは問題ないからね。

「やぁ。どうもはじめまして。私がギルド『ティターニア』のリーダーを勤めさせてもらっているアルベリヒと言う者だ。どうかよろしく頼むよ。」

そこに現れたのは見るからに豪華そうな金色に光る鎧を身にまとった男。年齢はディアベル位か。少なくともエギルより若い。剣も見た目で分かる。かなりのレアものだ。装備だけ見ると最前線で活動していると思われる。ニコニコと笑顔で外観はそこそこいい男だ。

「どうも。ギルド連合『アーク’s』。その取り纏めをしている一人。『オラクル騎士団』のオキだ。」

「ほう。あなたが名高きギルド連合の長、そしてイレギュラーズ。お噂はお聞きしていますよ。」

「私はディアベル。アインクラッド解放軍のリーダーを勤めさせてもらっている。今回はオキ君と私が面接をさせてもらう。まず、メンバーのレベル等の情報を渡していただきたい。さしあたり無ければで結構だが・・・。」

「かまわないよ。これが僕のチームメンバーさ。」

淡々と情報交換を進めるティアベル。その途中、チラチラとアスナを見ているのに気づいた俺はアスナの隣にゆっくりと近づいた。

「あの男はアスナとつながりが?」

小声でアスナに聞いた。

「い、いえ。特に。今まであったことも無いわ。」

ただ単に美少女だからだろうか。にしては見方が少々違和感がある。

仕舞いには目が合ったのかウィンクまでしている。相当お熱らしい。おかげでアスナは怖くなったのかオキの背中に隠れてしまった。

「…アルベリヒ君。出来ればこちらの話に集中してほしいのだがね。」

「ん、すまない。いや、あまりにもアスナさんが今日も美しいものだからね。つい。」

俺はアスナを見てアルベリヒを見た。この男、ファンかなにかか? あまりにも熱烈すぎるが。

「・・・ともかく、対談はこれで終了だ。少々待ってほしい。」

ディアベルがアルベリヒの下を離れ、こちらに帰ってきた。アルベリヒに聞こえないようにディアベルに様子を聞いた。

「どうだった?」

人を見る目はオキよりもディアベルのほうが上だ。その為オキはディアベルにアルベリヒと話をさせ、どういう男かを見定めてもらった。

「ふむ・・・。違和感がある。なにか・・・すまない。言葉に出来ないが、少なくとも現状では悪い奴ではない。だが、いい奴でもないと思う。」

内容を俺もよく聞いていなかったが、ディアベルが困惑するほどの男か。

「次はオキ君、頼む。性格が良い悪いどちらであっても一番の問題はオキ君の担当分だ。」

「あいよ。 すまない、アルベリヒとやら。ここからは俺が担当するね。」

「ふむ。いろいろ試験があるんだね。まぁ最前線を行くからには必要というわけか。うんうん。で、何をすればいいのかな?」

「次は腕を見せてもらう。」

オキが担当するは戦闘の実践。実際に戦い、腕を見せてもらう。デュエルの『初撃モード』。最初に体に傷を負わせた方の勝ちだ。これなら命に別状はない。

最前線を走るギルド連合に入り、共に戦うにはある程度のレベルはもちろん、腕も必要だ。極端に言えばレベルは時間をかければ弱い敵でも上げられる。

だが、強敵との戦いは経験がものを言う。一緒に戦うにあたり、腕が無いものはお帰り願っているのだ。なぜならば、その者の命だけでなく、こちらのメンバーにも被害が出てしまう可能瀬があるからだ。

「ほう。腕…つまりデュエルという奴だね。いいだろう。僕の腕を見せてあげよう。ふふん。こう見えて自信はあるんだ。」

かなりの自信家だな。まぁ腕があれば別にどうということは無い。

「では、初撃モードに。」

「了解した。」

モード選択が終わり、双方が武器を構える。相手は片手剣。最初は軽く、様子をみるとしたオキ。

「ところで、一つ聞いていいかい?」

「あん?」

「君は先ほどアスナさんと仲よさそうな雰囲気だったが…どういう関係か聞いていいかい?」

アルベリヒが武器を構えたときに聞いてきた。目が笑っていない。

オキは魔が差してつい冗談を言った。

「俺の左手薬指が見えないかい? あいつもつけてるぜ。」

アルベリヒがこちらの手をみて、アスナを見た直後目を見開いていた。

「なーんてじょ…。」

「そうか・・・。そういう関係か。ふ、ふーん。」

オキは冗談のつもりだったが、アルベリヒは震えて真に受けている。おかしい。アスナの相手、キリトの話は各方面に伝わっているはずだが。少なくとも最前線だけではなく前線メインで活動するギルドなら嫌でも話を聞くだろう。

  『オキの相手はシリカ』

だと。それを知らないということは、情報を仕入れていない奴か、それともかなり中途半端な下層からきたのか。少なくともこの男は上層で活動していた男ではないと予測した。

カウントが1から0に変わる。直後にアルベリヒは飛び上がり、両手に握った片手剣を振り下ろしてきた。

「はぁぁぁぁ!」

「おっと。」

切り下ろし、そのまま切り上げ等で続けてくるかと防御の構えをしてみたのだが。

『なんだ? この男。うごかねぇ。つか続けねーのかよ。』

中腰の状態からゆっくりと立ち上がったアルベリヒはオキを笑いながら指差した。

「は、ははは。よくぞ我が剣を避けれたな。だが、次はそうもいかんぞ?」

「お、おう。」

その後攻撃を何度か防御するも、切り上げ、切り下げ、なぎ払い。全てが遅く、まるで演技でもしているのではと困惑する*ほどだった。

『な、なんだ? この男、ふざけてんのか? 演技をするような…。まるで初めて武器を振るような…。』

「ははは。どうかね。僕の猛攻は。手も足もでないだろ。」

オキが困惑しているなか、アルベリヒはこちらが防御に徹しているのを、自分の攻撃のおかげだと思っているようだ。

「はぁ・・・。まぁ・・・。」

とりあえず様子を見ることにした。このままアルベリヒを攻撃して終わらせてもいいが、なにか違和感がある。時間をかけてその答えを探ることにした。

「君のような男が、アスナさんと? …ははは。笑いがでるね。僕の方が…上じゃないか。」

どうやら若干半切れらしい。勘違いとはいえ、アスナと関係を持っているのがそんなに嫌なのだろうか。

ちょっとからかってやることにした。

「実力が上だからってなんだって、愛する人を幸せに出来ないわけじゃないだろう?」

「なんだと!? おらぁぁぁ!」

アルベリヒは両手にもって片手剣をオキにふり下ろした。ソレをオキは軽く防御で受け、それを跳ね除けた。力をそのまま反射し押し返したというべきか。

アークスの基本技でもある。

ガキン!

「うわぁ!?」

アルベリヒは壁に剣を打ち付けたように跳ね返され、そのまま後ろに倒れてしまった。

「おっと。大丈夫かい? そんくらいで吹き飛ぶとは思わなかったよ。」

「・・・ふ、ふふふ。いや、少しビックリしただけさ。僕はこう見えてもレベル100だからね。」

レベル100は『オラクル騎士団』内では普通になりつつあるレベルだ。それでも最前線でレベル100超え。この男はどこでレベルをどうやってあげてきたのだろうか。どう見ても戦いなれていない。

立ち上がりアルベリヒは腰を低く落とした。

「僕の本気を見るがいい!」

SSを撃とうというのか。隙を作らずいきなり撃つのも考えものだが、オキたちがホロウエリア攻略後に『アインクラッドに実装された新スキル』を使うならば話は別だ。用心し、防御の構えに入ったオキ。

「だぁぁぁぁ!」

おおきな横ぶり。特にソードエフェクトも光らせず、ただ横に力強く振っただけだ。オキはソレを軽く後ろに下がり避けた。

「あんた…本当にここまで戦ってきたのか?」

「な、なにいう! 僕のレベルが分からないのか!? レベル100だぞ!?」

レベルを強調しているが、レベルに見合った動きをしていない。レベルは経験を意味し、経験は動きとなる。それが見えないこの男はいったい何者なのか。

オキは警戒するに値すると結論付けた。

「100だろうが200だろうが。俺からすれば素人以下だ。 そらよっと。」

3度素早い突きを真正面に放ち防御を誘発。その直後に真下からの切り上げで防御を弾き、無防備となった胸部に向かって朱槍を突き立てた。

「うわあっ!?」

攻撃を受けたアルベリヒは再び後方へと吹き飛んだ。

『WIN オキ!』

空中に勝者の名前が浮かび上がる。だが、オキは嬉しくもなんともない。一つため息をついてタバコに火をつけた。

「ふぅ・・・。おもしろくねーの。」

アルベリヒは吹き飛んだ後に、ゆっくりと立ち上がった。その形相は先ほどまでの優男には見えない険しい形相となっていた。

「なんだよこのクソゲー! バグってんじゃねーのか!? 何で僕が負けるんだよ! 思うように動けよ!」

オキは呆れ顔でアルベリヒに近づいた。

「おい。アルベリヒとやら。…お前さんふざけてんのか? ああ?」

オキに睨まれ、怯むアルベリヒ。足を後ろに一歩下げたアルベリヒは一度呼吸を整え、咳払いをした。

「ゴ、ゴホン。ど、どうやら普段の調子が出ないようだ…。ど、どうだったかね? イレギュラーズの君。」

オキは目を瞑り、そのままアルベリヒに背を向けた。

「不合格だ。馬鹿野郎。そんな実力でよくうちに入りたいとかぬかしたもんだ。帰れ。そして大人しく下層で待ってろ。アインクラッドクリアは、俺達がやる。・・・帰るぞ。おめーら。話にならん。」

「あ、ちょっと・・・。」

「う、うむ。そ、それではアルベリヒ。今回は残念ながらということで・・・。失礼する。待ちたまえ! オキ君!」

オキがアスナ、ディアベルを率いてその場を去った。アルベリヒはその背中に向かって叫んだ。

「・・・いいだろう。いつか僕の実力が分かる日が来ます! ソレまで頑張りたまえ! イレギュラーの君!」

「あまりにも言い過ぎではないかね?」

ギルド拠点に戻り、シリカの入れてくれたお茶をすすりながらオキはディアベルに言われた。

「何言ってる。ディアベルも見ただろう。ありゃなにかセコイ手を使ってレベルを上げたか何かでまともに戦いを知らん。あんなのが前線で俺達と一緒に戦われても邪魔なだけだ。」

「う、うむ。確かにそうだ。実際私も同意見だしな。アスナ君はどう思った?」

「うーん・・・。確かにレベル、や装備と動きがかみ合いません。何か裏があると思います。そういう方はあまり入れない方がいいと。私もオキさんに賛成です。」

アスナも真剣な顔で分析結果をしゃべってくれた。

「今一度、アルゴ姉に情報をかき集めてもらう必要があるな。頼むよ。アルゴねぇ。」

会議室の隅。その末席に座っていたアルゴはお茶をすすり、親指を立てた。

「このネズミのアルゴにお任せあレ。」

「さーて。シリカは買い物にいったし、俺もなにか探すかなぁ。」

ギルド『ティターニア』とそのマスター『アルベリヒ』については情報を待つとし、要注意人物としてマークすることとなった。

オキはギルド拠点を後にし、街中をぶらついていた。その時に人と人の間に見慣れた男を見つけた。黒い服に二本の剣を刺した男は一人しかいない。

「お? オーイ! キリ・・・ト?」

声をかけようと叫んだ直後に声を止めた。キリトの腕に絡みつき、体を近寄らせた女性がいたからだ。アスナではない。リズベットやその他ギルドメンバーでもない。

ならば連合の誰か? いや、あそこまでキリトにくっつける女性はいない。なぜなら仲良くするだけなら問題はないが、あまりに極端なスキンシップをするとアスナがヤバイ。いろんな意味で。

なので女性陣は美少年であるキリトを気に入っていながらも手を出そうとはしないしからかうこともあまりしない。

『つまり、ギルド連合外の女性か。ほーう?』

紫色を主体とし、遠くから見てもシンキよりかは少ないが、肌の露出が多く見える。背中には大剣を背負っているため大剣使いなのが分かった。

『あのキリトが嫌がっている言葉を発しているように見えながらも、嫌な顔をしていない? こっちはこっちで面白そうだな。』

オキはニヤリと口元を歪ませて、後を追った。




皆様ごきげんよう。
今週もバタバタでギリギリに書ききるが出来ました。

今回から出てきた男はSAOファンならご存知のあの人。
この男が最終的にどうなっていくのかはお楽しみに。

さて! PSO2、PS4版始動開始!
私はPS4は持っておらず、そのままPC版なので画質設定6を体験しました。
何これすごい。今まで使用していたキャラの輪郭がまるで違うように見えるくらい。
おかげで持っているキャラの半分以上が調整する必要が出来ました。
【敗者】なんかピッカピカでした。

ともあれ、来週から私は西日本を中心に移動することを予定しております。(地震大丈夫・・・だとおもう)
移動は2週間を予定しており、一応予定通り更新するつもりではいますが、もしいつもの土曜日の8:00に更新されていなければ
その週はお休みとご承知置きください。

ではまた次回にお会いいたしましょう。


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第55話 「ずっとすぐ傍に」

お待たせいたしました! 再開です!


「温泉に関連するクエストの情報があるんだけどナ?」

「貰った。買うわ。」

アルゴからの情報を即答で購入したオキはシリカと共にそのクエストを目指して温泉が沸くという78層を進んだ。

「いやー。敵が柔らかい。超楽だ。」

「本当ですね。この間までホロウエリアにいたからでしょうか。」

ホロウエリアがアインクラッドに比べて高レベルエネミーばかりだったので気が付けば、かなりレベルが上がっており、アインクラッドでは今のところ最前線でも通常攻撃を数回当てればエネミーが死んでしまう強さになっていた。

下手な雑魚エネミーであるならば、こちらのレベルが高すぎてそもそも襲ってこない時もあったりした。

おかげさまで、道中をピクニック気分で進むことが出来た。

「情報によるとこの辺のはずだが。」

今回のクエストは森の中にある小さな川とそのそばにある岩場から温泉が沸いているという話だ。

「先ほどのおじいさんはこの辺だといってましたね。」

「きゅるぅ。」

シリカとピナもキョロキョロと辺りを見回す。マップではセーフティエリアが岩場に半分ほど被っている。

「シリカ。あっち側がセーフティエリアだ。もしかしたらあっち側にある可能性が高い。」

「分かりました! ではあっち側を探しましょう!」

不安定な岩場をピョンピョンジャンプしながら移動するシリカ。その後を追うオキ。

「あまり無理するなよ! 足場、不安定だか…あらぁ?」

「はーいってオキさん!?」

オキがジャンプして降り立った岩の上がツルツルしており、足を滑らせてそのまま真横の川に転落した。

バシャン!

「ぶっは!?」

幸い川は深すぎず、浅すぎず。それでいて流れも穏やかであった為に怪我も無かった。

「大丈夫ですか!?」

「おーう。そんなに深くて助かった。」

ザバザバと川から上がりオキはすぐにアイテム欄からタオルを取り出した。

「へーっくしょい! さみぃ。」

「もう…。ビックリさせないでくださいよー。」

川の水が冷たく、それに追い討ちをかけるかのごとく風も冷たい。

「早く温泉探さないと…風邪引きそうだ。」

「ゲームの中でも病気ってあるんですかね…。あ、あそこ! 湯気出てます!」

シリカが岩と岩の間に出ている湯気を見つけた。二人で顔を見合わせ、その場へ急ぐと半径数メートル程の大きさの天然岩風呂が出来ていた。

「ほう・・・。温度も丁度よし。川の水が時々入って丁度いい温度になっているんだな。これなら入れそうだ。」

「そうですね。あ…えっと、その…。」

シリカが顔を赤らめてもじもじとしだした。オキがそれに気づき、温泉とシリカを見比べ感づいた。

「ああ。そういうことか。シリカ先に入ってな。俺が周囲の警戒してその岩の向こうにいるからさ。」

そういって大きな岩の陰に進もうとしたとき、シリカがオキの服の裾をつかんだ。

「あの! …いえ、一緒に…その・・・。大丈夫・・・ですから…。にごり湯ですし、中に入れば見えないでしょうから。それにオキさんぬれたままじゃ本当に風邪引いちゃいます…。」

「ん…。わかった。向こう向いてるから。入ってきな。」

オキはそういってシリカが自分と反対の方向を向いたのを確認し、素早く服を脱いで温泉へと入った。

「あー…。生き返る~。」

温度はぬるすぎず、少し熱い方。それでいて時々川の水が流れ込んできてひんやりとする感触がまた心地よい。

「入りますね。」

「ああ。」

シリカが小さな水音を立てて入ってきたようだ。反対側を見ているので今シリカがどのような状況なのか見えない。

今までは別々に入っていた。一緒に入るのは今回が初めてだ。

「…。」

「…ふむ。湯加減はどうかな?」

「は、はい! 大丈夫…です。」

「そうか。」

やさしく一声でおわり、オキは周囲の索敵をしつつ天然露天風呂を味わった。

ピタリ

「ん?」

「そそそ・・・そのままで、大丈夫です!」

何かが背中に当たった。振り返ろうとしたらシリカの声が先ほどよりも近く、すぐそばで聞こえた。

背中に当たったのはシリカの背中だ。

『ああ、遠くばかり気にしてて近くを気にしていなかったな。せっかくシリカといるんだ。一緒に、楽しまないと。とはいえコノ感触は・・・。』

背中越しから伝わるのは間違いなくシリカの肌だろう。タオルとか巻いてないのだろうか。つまり今のシリカは?

そう考えると自分の顔が熱くなるのを感じた。

『・・・ま、いっか。』

それと同時に安心感も感じた。暫くこのままでも良いだろう。そう思いシリカに軽く体重をかけてみた。

「・・・!」

ビクリと背中から震えた感触が伝わり、その後に同様に体重をのせてきた。

「なかなかええな。この温泉。」

「・・・はい。」

傍から見れば二人とも顔が真っ赤である。それは湯が熱いからという理由ではない。だが、それでも二人は笑顔だった。

*****

「・・・で? その川のせいでこうなったと?」

次の日の朝。オキの寝室にアークスメンバーが集まっていた。オキは頭に氷の入った袋を乗せてベッドに横たわっている。

「うー・・・しくったぁ・・・。まさかゲーム内でも風邪引くとか。茅場のばかやろぉ~。ここまで再現するなぁ~。」

オキは風邪を引いていた。

「あんたはなにやってんのさぁぁぁ・・・。」

ハヤマから大きなため息と同時に呆れられる。

「いやー。情報あまり無かったからありがたいネ。」

アルゴにも情報を求めてきてもらった。どうやらSAOにも『ウィルス』という風邪のようなバッドステータスがあるらしい。だがそれに発症したプレイヤーが極端に少なく情報があまりないらしい。

「かき集めた情報から、寝ていれば一日で治るらしいヨ。とはいえ・・・そんな状態じゃネ。」

体は重く、頭はぼんやりとする。このような状態では戦いどころか動くことすら厳しい。

「ま、ゆっくり寝ているんだな。」

「なのだなー。コマチに任せるのだー」

「おめーもやるんだよ。」

コマチとミケはそうやり取りしながら部屋を出て行った。

「俺達に任せて今日はゆっくり寝ていてよ。シリカちゃん。オキさんをお願いね。」

「はい。任せてください。」

「それじゃ、オレッチも戻るとするよ。情報ありがとネ。」

ハヤマとアルゴは細かい情報(川に転落して温泉に入った程度だが)を書いた羊皮紙をピラピラとさせながら部屋を出て行った。

部屋にはシリカのみベッドの横にある椅子に座っていた。

「まさか、本当に風邪引くなんてな。」

「そうですね。」

二人で苦笑した。

「オキさん。食事はいりますか?」

「ああ、貰おう。」

「では作ってきますね。ああ、寝ていてください。起き上がらなくて大丈夫ですから。」

起き上がろうとしたところ、シリカに肩をやさしく抑えられた。シリカはそのまま部屋を出て行った。

「ゲーム内でも病気なんてなるんだなぁ。あーでも毒とか麻痺とか考えれば、設定されていればあるのか。…っごほ。」

咳と鼻水も出てきた。

コンコン

扉が鳴る。シリカが食事を持ってきてくれたのだろう。起き上がりどうぞと答えた。

「・・・えっと。お食事を…おお、お持ち・・・。」

扉がゆっくりと開きつつ歯切れの悪い言葉が聞こえてくる。扉が完全に開いたときにシリカのその姿に目を見開いた。

「シリ・・・カ・・・?」

「---っ」

顔を真っ赤にしながらお盆に載せた作り立てのご飯をベッドの横にある机の上においた。

「あの・・・その。せっかくなのでと・・・。シンキさんから・・・メールが・・・。」

もじもじとする恥ずかしそうにフリフリのエプロンを握るシリカ。

「シンキ? あいつか・・・。メールで返事しとくか。」

「その・・・えっと・・・。」

シリカは何かを待っている。その答えは明白だ。あの『ルーサー』でなくても解は出る。

「かわいいよ。シリカ。ありがと。俺のために着てくれたんだろ? 風邪もぶっ飛びそうなくらい元気でそうだわ。」

「あ・・・ありがとう・・・ございm・・・ゴニョゴニョ。」

シリカは以前、シンキに巻き込まれ受けたクエストにて手に入ったメイド服を着ていた。白いフリルのエプロンに黒のベースの長いスカートのついた服。カチューシャもしっかりつけている。

「では・・・その。お食事をどうぞ。・・・ごごご、ご主人さ・・・ま。」

ベッドの横に座り、持ってきたおかゆをスプーンにのせ、こちらに出してきた。

『これは・・・俗に言う「あーん」と言う奴か!? しかも、ご主人様ときた。やばい。いろいろヤバイ。』

元々風邪のせいで頭が朦朧としているにもかかわらず更に追い討ちをかけられ何も考えられないオキ。

「えっと・・・いただきます・・・あむ。あっつ!?」

湯気の出ているお粥だ。そりゃ熱い。

「あわわ!? すみません! お水を・・・!」

受け取り素早く口に含んだ。冷たい水が舌を冷やす。

「いや、気づくべきだった。うん・・・。」

「・・・そうです。えっと・・・ふー。ふー。 はいどうぞ。」

今度はスプーンにのったお粥をシリカが息で冷やしてくれた。

「あ、う。えっと・・・あむ・・・。」

まさかのコンボにオキも一度止まるもそのまま食べる。

「お味は・・・どう、ですか?」

「・・・うまい。」

もくもくと食べるオキの言葉に顔を真っ赤にしたまま笑顔になるシリカ。二人はそのやり取りを続け、襲い朝食をとり終えた。

「ごちそうさま。うまかった。」

「はい。それではごゆっくりお休みください。ご主人様。」

慣れたのか、言葉もはっきりというようになり、楽しんでいるかのように笑顔でスカートを軽く持ち上げお辞儀したシリカは一度部屋を出て行った。

暫くしてアインスが様子を見に来てくれた。

「大丈夫かい? オキ君。ああ、これを。チームメンバーを代表して体によさそうなものを持ってきた。」

少し大きな袋に野菜などが入っている。それをシリカに受け取らせた。

「すまんね隊長。うーむ。問題というならばタバコがすえん位だ。」

先ほど食後の一服をと思い口にしたら、あまりのまずさに一口でやめた。

「ははは。せっかくの機会だ。一日横になってゆっくりしているといい。」

「すまんね。なにかあったら・・・。」

アインスが椅子から立ち上がり、ニコリと微笑んだ。

「なに、その時は我々に任せるといい。シリカ君・・・いや、メイドさんには主をしっかり見てもらおうかな。任せたよ。大事な仕事だ。」

「は、はい!」

アインスのまじめな目にシリカは敬礼で答える。

「アインス君から聞いて様子を見に来た。大丈夫か?」

心配したのか様子を見に来てくれたディアベル。

「問題ない。うちには頼もしくて可愛いメイドがいるからな。」

扉の近くにいるシリカが顔を真っ赤にしてうつむいている。それをみてディアベルは安心したのか苦笑気味だった。

「はは・・・。たしかにこれは可愛らしい。これなら心配いらないな。」

その言葉を聴いて更に顔を紅くして下を向いてしまうシリカ。

暫くして、昼を取った後に眠くなったオキはそのまま眠っていた。シリカは彼の傍を離れずにずっと傍でオキのことを見ていた。

「そういえば、アークスでも風邪とか病気とかにも掛かるものなんですかね。皆さんご存知だったみたいですし。後で聞いてみようかな。」

そんな独り言を呟いたときだった。

「うう・・・まて・・・やめろ・・・。」

オキが少し呻き声をあげだした。言葉は途切れ途切れだがとても苦しそうに見える。

「オキ・・・さん?」

「マ・・・やめるん・・・。うう・・・。」

次第にもがきだすオキをシリカは体をゆすって起こそうとした。

「オキさん! オキさん!! 起きてください!」

「・・・まて!! 行くな!! ・・・ここ・・・は。夢か。」

急に体を起こし、起き上がったオキは周囲を見渡し、我に帰る。顔や体から大量の汗が出ている。オキは顔の汗を手で拭い、汗ばんだ手のひらを見てからシリカをみた。

「大丈夫ですか? かなりうなされていましたが・・・え?」

オキは汗を軽くふき取り、シリカの手を握った。

「すまん・・・暫くこうしてくれ・・・震えが・・・止まらん。」

シリカはおきの目をみた。このような目は見たことが無い。怯え、そして怖がるオキを。

「大丈夫ですよ。私は・・・私はここにいます。ずっと、傍にいますよ。」

シリカはそっとオキを抱き、オキの顔を小さな胸にうずめさせた。少し驚いていたようだが、落ち着いたのか「すまない」と一言漏らしてシリカの腰に手をまわした。

何分足っただろうか。オキは落ち着きを取り戻し、シリカからはなれた。

「すまんかった。ありがとう。落ち着いたわ。」

「いえ・・・その、かなりうなされていたようですが。」

オキは目を瞑り、夢を思い返そうとした。だが、もやもやして思い出せない。

「う、む。わからん。わからんが・・・何か、なにか大事な。なんだろう。大事な何かが、何かに覆われるような・・・。ともかく俺の下からはなれようとした。ソレを俺は止めようとした・・・。多分そうだ。」

「大事な何か・・・。」

シリカがオキの言葉を呟く。

「うん。だけど、SAOじゃないな。少なくとも。夢の中では相棒を持っていた。・・・あー汗でベトベト。拭くものある?」

相棒。この言葉の意味はアークス時のオキのメイン武器を示す。つまりアークスの夢だとシリカは察した。

「タオルですね。はい。あの、背中お拭きいたします。」

「あ?ああ。すまんね。頼むわ。」

オキは上着を脱いで、背中をシリカに向け、シリカはオキの背中を小さな手で拭いた。

とても心地よい感触をオキは堪能した。

「ふっかつ!」

次の日、オキは完全復活を遂げた。ギルド拠点の大会議室に集まったオラクル騎士団の全員が、その生き生きとした顔につい拍手を送る。若干乾いた拍手だが。

「オキさんも復活したし、ようやく聞けるわね。ねぇキリト。」

リズベットが顔をニヤケながらキリトのほうを向いた。

「な、何で俺の方をむくんだよ。」

「何かしたのか?」

一日寝ており何の情報も入ってきてないオキはちんぷんかんぷんだ。

「実はね? 見ちゃったのよ。キリトが、すごい美人と一緒に歩いてるとこ! ねぇねぇどういうこと?」

「・・・な、そ・・・それは・・・。」

キリトが言いづらそうに目を背ける。それを聞いてアスナがキリトへと向いた。顔は笑っているが目が笑っていない。というかすごく怖い。

「へぇー・・・詳しく聞こうじゃない。ねぇキリト君?」

「いや、あのさ・・・。」

キリトが口を開いたときにオキが思い出したように手のひらに拳を打ちつけた。

「あ、忘れてた。そういや紹介してなかったな。ストレアのことを。」

オキの発言にその場にいた全員がオキのほうを向いた。

それはオキが温泉の情報をアルゴから手に入れるほんの少し前の話だった。




皆様ごきげんよう。
2週間のお休みを頂き大変お待たせいたしました。
まずは、お気に入り100人超え! 本当にありがとうございます!
更に気づけば一周年経ってました!
こうして続けられたのも、続けれるのも読んで頂いている皆様のおかげであります。
こうしてお読みになられているあなたに、感謝を。

GWは皆様いかがお過ごしだったでしょうか。お身体に問題はありませんでしたか?
ちなみに私は大丈夫でした。

今回は一周年というのもあり、軽くシリカにしてもらいたい内容をしてもらいました。
いや、本当に軽くね。欲求通りに書いちゃうと書き足りないから。
後半の夢の内容は・・・まぁEP3をラストまでやってる人なら大事な人が誰か分かりますよね。

さて、PSO2では大きく動きましたね。
アークスVS大和戦! ・・・難易度は予想以上に簡単でしたけどね。
まぁ設定からもあの男が作った大和だから…まぁ納得?
早速13ウ゛ィオラでたけど、雨風で拾ってるんだよなぁ・・・。セイガーの方が欲しいす。

では次回にまたお会いいたしましょう。
これからも『ソードアークス・オンライン』、宜しくお願いいたします!


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第56話 「紅藤の娘と紅桔梗の少女」

ストレアと呼ばれる少女について問われたキリト。少し前に見たことをオキが話した。


時間は、オキが温泉の情報を得る前、キリトと一人の女性が一緒に歩いている所を目撃したときに遡る。

「あいつ、何やってんだろ。つか、アレ誰だ。」

キリトは顔も性格もいいため、女性に人気が高い。特に中層で主に活動する小中規模のギルドには『ラフコフ騒動』のときに活躍してもらった関係でファンが多い。

その代表例として罠にかかっていたところを助け、今では中層のギルドをまとめて世話してもらっている『闇夜の黒猫団』や、最近上層部にも顔を出してきた女性のみのギルド『ホワイトラビット』。他にもソロで活動している女性プレイヤーはクエスト攻略のヘルプを依頼してくる際にまずキリトを指名してくるのが大半だ。

たまにオキをはじめとするイレギュラーズことアークスメンバーにも声が掛かるが、それの総数を比較してもキリトのほうが多い。

「ファンか何かだろうか。にしてはかなりスキンシップが激しい子だな。キリトも嫌がってそうで嫌がってないし。」

建物の角から覗き、その様子を探るオキ。

「もう少し近くで見たいネ。」

「そうだな・・・。アルゴ姉?」

気が付くとすぐ近くで同じようにキリトを見ているアルゴがいた。

「ふふん。面白いモノを見つけたネ。どうすル? リーダーさん?」

「どんな話をしているか近くで見たい。気配遮断スキル全開で近寄るぞ。」

「アイアイサー。」

オキとアルゴは大きなフードを被り、普段の格好から地味なマントを羽織ってキリト達へ徐々に徐々にと近づいていった。

「ねぇキリトー! 楽しみだねー! 私辛い料理大好きなんだー!」

「おい、ストレア、あまり引っ張るなよ。」

ストレア。確かにそう聞こえた。オキとアルゴは更に距離を縮める。二人が向かった先はテラスがあるレストラン。二人が座った席の少し離れてかつ、会話の聞こえる場所を選んだ。出来るだけ二人の視線に入らない場所だ。気配遮断スキルも使っている。気づかれる心配は無いだろう。

「しかし、二人きりで飯とは。デートか?」

「フム。これは面白い情報だネ。」

こちらも何かを頼んでいないと怪しまれる。念のために適当な料理を頼んでおいた。キリト、そしてストレアと呼ばれる女性はどうやらここの料理が目的で来たらしい。

「お待たせしました。」

「はぁー! キター!」

「おお。これは・・・。」

キリトにストレアは目を輝かせている。

「一体どんな料理を・・・? アルゴ姉、見える?」

「ドレドレ…。ゲ・・・。」

遠見のスキルを持っているアルゴはソレを見た瞬間固まった。オキは何を見たのかと首をかしげる。

「いいかイ? 真っ赤に煮え立った…スープダ。あんな色、見たことナイ。」

「まじかい・・・。そういやキリトは辛いの大好きだったな。」

なるほど。確かにそれなら食べれる人と一緒に出かけるなら分かる。会話を聞いていてもただの仲良しにしか見えない。

「フム・・・。これ以上は面白そうなモノはなさそうネ。」

期待はずれのようにため息をつくアルゴ。

「面白い展開でもあるかと思ったが、こりゃただの飯食い仲間だな。」

オキは立ち上がり、キリトのほうを向いた。

「種明かシ、スル?」

「ああ。」

オキはフードをとり、キリトへと近づいた。

*****

その後、オキはキリトからストレアが、キリトの索敵に引っかからずに後をつけられたこと。

彼女が何度か会ってきたこと。特に何かあるわけではないことを話し、オキもストレアと話をして問題が無いことを確認した。

その話をした次の日。

「ってわけで、彼女がストレア。」

「こんにちは!」

実際に全員に会わせた。にこやかに挨拶するストレア。話をしていくうちにストレアが特に問題ないプレイヤーだと皆が思ったときだった。

アスナも警戒を解いて、娘であるユイを紹介していたときだ。

「この子がユイちゃん。私と、キリト君の娘だよ。」

「ほら、ユイ挨拶して。」

アスナとキリトがにこやかにユイをストレアの前に出した。

「ユイって言いま・・・。」

途中でユイが固まってしまった。ストレアの目をじっと見ている。

「どうしたの? ユイちゃん?」

「ユイ? ストレアも?」

ストレアもユイの目をじっと見ている。

「ユ・・・イ・・・。」

ストレアがゆっくりとユイの名前を呼ぶ。そして。

「お・・・ね・・・え・・・ちゃん・・・。」

そう呟くとパタリと倒れてしまった。

「ストレア!?」

一番近くにいたキリトが彼女の体を支えるが、意識がなくなっているようだ。

「下手に動かすな! ハヤマン! 救護室から布団! 水も用意しとけ!」

オキは指示を行い、ハヤマがすぐさま持ってきた布団に倒れたストレアをゆっくりと寝かせた。

「なにがどうなってやがる。」

ため息をつくオキ。

「ユイ・・・。パパとママ達に、説明できる?」

「はいです。」

ユイは力強く頷いた。どうやら何かを知っているらしい。

「僕もその説明、させてもらうよ。」

「うわぁ!? シャオ? いきなり出てくるなよ。」

光る体がオキの目の前にあらわれた。シャオだ。どうやら彼もストレアの事をなにかつかんでいるらしい。

「ストレアさんは・・・私の、妹に当たる存在です。」

「「「!?」」」

その場にいた者たちが驚いた。

「つまり、MH・・・なんちゃらってやつか?」

オキの言葉にユイが頷いた。

「MHCP。メンタルヘルスカウセリングプログラム。ユイはその中でも一番最初に作られた。そして彼女と同じ存在はSAO内に何人も存在する。ストレアは、彼女もまたユイと同じMHCPだ。」

シャオがストレアの正体を話す。ソレを聞いてオキは話の全てが頭の中でつながった。

「そうか・・・なるほど。それなら話が全てつながる。」

「オキさん、どういうことですか?」

隣にいたシリカが心配そうにオキの顔を覗いてきた。

「ストレアがMHCPだというのであれば、彼女が出てきた理由も、憶測ではあるがユイちゃんと同じくエラーの蓄積。そしてキリトに会ったのも同じ理由だろう。」

ユイはアインクラッドで最も幸せを感じていたキリト、アスナの前に現れた。今回も同じ理由でエラーを吐き出していたならば、ストレアも同じ現象が起きていたと推測される。

「ユイを通して彼女を感じとった。間違いない。」

「ん・・・。」

暫くして目を覚ましたストレア。

「ストレア。大丈夫か?」

キリトが心配そうな顔でストレアを見る。

「うん・・・。ごめんね。心配かけちゃった?」

「ストレア、自分のことが分かるか?」

オキがキリトの後ろからしゃべった。周囲のメンバーも心配そうに見ている顔をストレアは見渡してコクリとうなずいた。

「・・・あはは。どうやら私の事、分かってるみたいだね。」

「ああ。隠さなくていい。話してくれ。」

ストレアは自分がMHCP-002という存在であること。そして予想通りエラー蓄積で自我が崩壊しかけていたところ、外に出られたこと。運よく空いていたプレイヤーIDを使用し、プレイヤーになりきって姉であるユイの父となったキリトに近づいたことを話した。

「なるほどな。やっぱりそうか。」

オキの予想は正しかった。

「ばれちゃったし・・・。もういいかな。キリトといろんなところ行って楽しかったし。私は戻るとするわ。」

ストレアが立ち上がろうとしたときにキリトがソレをとめた。

「どこに行くんだ?」

「え?」

ストレアが驚いた顔でキリトを見る。

「その通りだ。別にどこかに行かなくてもいいだろ。ここにいればいい。確か、ユイの妹なんだろ? だったらキリト、アスナ。お前らに頼めるか?」

オキの言いたいことはキリト、アスナは分かっているようだ。力強く頷いた。

「シャオ。ストレアのデータ引継ぎ。可能なコンソールはあるか?」

オキは天井を向いてしゃべる。直後に光り輝くシャオが現れた。

「今、確認してる。・・・ユイにデータを転送した。」

「・・・確認しました。一番安全なコンソールはホロウエリア、中央管理室です。」

「あそこか。」

ホロウエリアの管理室なら問題ないだろう。

「ストレア、といったね。はじめまして。僕はシャオ。」

「ユイの兄貴分だってさ。」

オキがニヤニヤとしながらシャオを見ていると小突かれた。

「シャオさんはアークスの管理者さんなんです。情報をお送りしますね。」

ユイがストレアの手を握る。目を瞑ったストレアは全てを理解したようだ。

「そう・・・そう。そういう事。ユイおねえちゃんのお兄さん・・・なら私のお兄さんでもあるのかしら。」

「んー。そういうことに、なるのかな?」

「妹が二人・・・ねぇ。」

「なに?」

相変わらずにやけているオキに対し、表情は見えないが間違いなくジト目をしているシャオをオキは思い浮かべた。

「いんやぁ。キリト。後は任せた。」

「ああ。人工知能だろうがなんだろうが、意志を持ち、感情を持っているストレアはれっきとした人なんだ。そしてユイの妹であるのであれば、自分の娘同然だ。よろしく頼むよ。ストレア。」

それにアスナも頷く。

「ありがとう・・・。」

涙するストレア。新たな家族が増えました。

*****

ストレアが新たな家族として、新たなるギルドメンバーとしてなってから数日後。

買い物から帰ってきたオキはギルドホームロビーにてタケヤから呼び止められた。

「あ、オキさーん。ちょっといいっすかー?」

「んー? どうしたー? おろ? 客かい?」

タケヤのそばには濃い紫色と黒色を主体とした服に同じ色系の大きな帽子を深く被った少女がいた。

「ヘルプの依頼らしいっすけど、シリカさんって今大丈夫っすか?」

「シリカ? あー。今アイツはリズとクエスト行って夜まで帰って来ないぞ。」

「・・・他の人は、いる?」

ボソリと小さな声で聞いてきた少女。タケヤに説明を求めると、ダガーを扱える人で一番の人をお願いしたいようだ。

彼女の名はハシーシュ。ギルドに入らずソロで活動しているダガー使いらしい。

「どうしましょう。今のところ確認できるメンバーだとダガー使いはいないっす。あー。そうなると今すぐ動けるのはオキさんだけっすね。」

「まじかい。今すぐじゃなけりゃ予定調整できるが? 今すぐだと俺になる。どうする?」

じっと見つめられ、その後コクリと頷いたハシーシュは手を出した。握手のようだ。

「ん。あなたで、問題ない。」

「そうかい。ならよろしくだ。オキ、オラクル騎士団のリーダーだ。」

シリカに近い小さな手を握り、握手をした。

「今回の目的は?」

「クエスト。高難易度で、一人じゃきつい。」

79層の拠点。その一角にある喫茶店で今回のクエストの情報をハシーシュから聞いた。

中身はエネミーを倒し、そいつからドロップする宝玉を神殿に収めること。クエストはかなり長く続いており、いくつものクエストをクリアすると開放されていく仕様のものだ。ハシーシュは中層から始まったこのクエストをずっと攻略しているらしく、一つ下の階層で攻略した前クエではギリギリ攻略できたらしい。

この手のクエストは次のクエストの難易度が上がっているパターンが殆どだ。その為今の自分では攻略が不可能だと思ったハシーシュは、よく共にPTを組む別のソロプレイヤーから

「攻略組のギルド連合アーク’sに相談してみては? オススメはオラクル騎士団。もしくは怪物兵団かな?」

と薦められ、ギルドへときたという。

「ダガー使いを選んだ理由は?」

「今後の為、動きを参考にする。」

なるほどとオキは言葉を漏らした。トップクラスのプレイヤーがどのような動きで攻略を行っているのか。その動きをみて参考にしようとした。効率的である。

「しかしそうなるとダガー使いの部分か。シリカかミケでもいれば・・・いや、ミケはダメだ。アイツの動きは独特すぎる。そうなるとやはりシリカのほうが・・・。」

ぶつぶつとオキが一人で考えているとハシーシュはオキの顔を覗いてきた。

「大丈夫。あなたでいい。」

殆ど顔の表情を変えない子だというのが第一印象だったが、その時の顔は少し微笑んでいるように見えた。

79層を突き進むオキとハシーシュ。

「よっ! ほっ!」

普段は使わないダガーを握り、かつての感覚を取り戻そうとするオキ。

「本当に・・・久しぶり、なの?」

エネミーを撃破し、道中を進む中で休憩中に、ハシーシュはオキに質問をしてきた。

「ん? あぁ、ダガーの事か。たまーに使うんだけどね。今じゃ槍ばかり使ってる。」

「それでも・・・わかる。あなた・・・すごい。」

「ははは。ありがとよ。ハシーシュもよく動けてるじゃねーか。それなら参考もいらねーだろ。」

武器自体はギルドの倉庫に放り込まれていたものを使用している。性能的にホロウエリアで拾われたものだろう。ブランクのあるオキには丁度いい強さだ。

「まだ。私は、弱い・・・。」

ハシーシュは大きな帽子に顔をうずめて言った。だが、オキの見立てではかなりの腕を持っている。ソロで高層まで来るだけはあると。




皆様ごきげんよう。
大和戦が始まって1週間ですが、13武器は出ましたか?
コレクトファイルもお忘れなく。

今回は『ホロウフラグメント』のもう一人のキーキャラクターであるストレアの登場とその正体。
そして『ホロウフラグメント』のバージョンアップ時に追加された特殊NPCである一人の『ハシーシュ』登場を描かせてもらいました。
ストレアは本来最上層付近まで上らなければ正体を明かされることはありませんでしたが、ここで明かしておけば以降のストーリーが書きやすくなるのでここで書かせてもらいました。以降はユイと一緒にシャオから教育を受けつつ活躍してもらいます。
ハシーシュはゲーム内でもキリトと同等クラスもしくは上回るステを一部持った最強クラスのフレンドパートナーと呼ばれています。
彼女の雰囲気や容姿がかなり好みであり、私もゲームではずっとPTに入れていました。
さて、次回はハシーシュとの共闘とそろそろストーリーを進めたいと思います。
では次回にまたお会いいたしましょう。


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第57話 「砂漠の中の小さな獣人族」

ハシーシュと共にクエストを行うことになったオキはそのクエストで懐かしいモノに会うことになる。


「はぁ!」

 

79層の砂漠エリア。横一閃を蠍エネミーに喰らわせるハシーシュ。その動きをオキはじっと観察していた。

 

『動きは悪くない。むしろいい方だ。避けるときはしっかり見極め、最低限の動きで攻撃を避け、そのまま攻撃へと転換する。無駄がない。』

 

「あの・・・ずっと見られてると・・・その。」

 

粗方片付けたハシーシュがこちらを見ている。少し顔が赤い。

 

「ああ、すまん。いや、動きをな。やっぱ俺から見てもかなり動けている。ここまで戦えるようになるにはかなり経験をつまないと無理だ。」

 

「そう? ありがと。」

 

帽子を深く被る仕草で顔を隠したハシーシュ。照れたときの癖なのだろうか。

 

「進むぞ。」

 

「うん。」

暫く進むとオアシスに出た。かなり大きい湖もある。

 

「この先に、遺跡がある。そこが目的地。」

 

湖の辺に地下への入り口を見つけた。その階段を下りていく。

 

「この方角は・・・上は水だな。」

 

階段を下りる方向と湖の地下への方角が一緒だ。階段の天井は頑丈そうに見えるが、この天井が崩れないことを苦笑いしながら祈るオキ。

 

「遺跡・・・。」

 

地下へと降りるとそこは古代遺跡のような地下遺跡の通路となっていた。

 

「へぇー。ん? これは・・・!?」

 

オキが壁に沿って歩いていると、気になる模様を見つけた。

 

「これ、読める?」

 

ハシーシュが顔を近づけて、その文字を見た。

 

「うん。懐かしいな。ここでこの文字を見るなんてな。えーっとたしか・・・。」

 

落書きのような文字。プレイヤーは気づかないだろう。情報が手に入るクエでもあるのだろうか。だが、アークスならそれが何なのか、情報なしでもわかってしまう。

 

「こっちだな。」

 

文字の感覚からすると仲間を呼んでいる? いや、導いているのか。

 

「なんて書いてあった?」

 

「たぶんだが、呼んでる。仲間なのか…俺たちなのか。」

 

「よく読めたね。」

 

通路を歩きながら次の文字がないかを探した。

 

「俺が普通のプレイヤーじゃないっていうのは知ってるよね?」

 

こくりとハシーシュは頷いた。

 

惑星リリーパ。砂に埋め尽くされた機械達が動く星。先人達は既に滅びており降り立ったアークス達を出迎えるのは機甲種とダーカー。そして小さな小さな獣人族。通称『リリーパ族』。

 

「…ってわけでアークスの知り合いにそのリリーパ族とコミュニケーションを取ろうとしたアークスがいてね。その人と一時期共にリリーパを調査してたから彼らともなんとなく通じるようになってな。」

 

「そうだったの…。その小さな獣人族って、あれのこと?」

 

通路の先に小さな丸い体。尖った耳。ふっさりした毛。間違いない。リリーパ族だ。

 

「りっりっ?」

 

とことことこちらに歩いてくるリリーパ族。エネミーではなくNPCとしてのアイコンだ。こちらを攻撃してくることもないだろう。

 

「どうしたの? 君。」

 

「りり…。」

 

甲高い鳴き声。つい懐かしくてホンワカする。ミケがいたら蹴り飛ばすだろうが。あいつがいなくてよかった。何故か蹴りたがるんだよな。ミケ。

 

「どうやら仲間とはぐれたようだな。そうだろ?」

 

「りー!」

 

どうやら当たったらしい。」

 

「りりり! りり! りりりり!」

 

「…何を言ってるの?」

 

ハシーシュは困っている顔をしている。そりゃ言葉が通じないんじゃな。

 

「えーっと。んー。たぶん、仲間はあっちにいるのはわかるんだけど、襲ってくる奴らがいて帰れない。かな?」

 

「リー!」

 

喜んでいる。どうやらあたりらしい。

 

「よくわかるね。」

 

「いやでもわかるさ…。あの人と一緒だったら。」

 

リリーパ族とコミュニケーションを取ろうと奮闘したアークス。フーリエ。彼女のリリーパ族を守ろうとするその思いは本物だ。よくこの気まぐれな獣人族と一緒に動き回れるものだ。いや、こちらも似たようなものか。あのミケに比べれば。

 

「連れていけばいいの?」

 

リリーパ族の頭を撫でるハシーシュ。どうやらその愛らしい姿を気に入ったらしい。

 

「そうだな。このままじゃ可愛そうだ。どうせこのまま奥まで行かなきゃならないんだからな。連れて行こう。こいつをたのむ。戦闘は任せろ。」

 

リリーパ族を抱きしめこくりと頷いたハシーシュ。リリーパ族も優しく包み込むその腕の中で落ち着いている。暴れなくてよかった。おれが昔やったとき暴れたんだよな。

 

槍を取り出しながら昔を思いながら先を見つめた。

 

 

遺跡最下層と思われる。場所。

 

先程までのエネミーが動き回っていた場所とは違う。

 

「りりり!」

 

リリーパ族が一声鳴くと周囲にあった小さな穴からたくさんのリリーパ族達が顔をのぞかせた。

 

「いっぱい、いる。」

 

「仲間かな。離してやりな。」

 

ハシーシュが名残押しそうにゆっくりと下ろしてやるとリリーパ族はとことこと歩いて仲間たちの元へと帰っていった。

 

「さって、俺たちの目的はここかな?」

 

「にしては少し違うような…。」

 

先程まで遺跡だったのが最後の階層だけ自然の洞窟のようだ。近くには小さな泉もある。天井は高く、地上に空いた穴なのか、陽の光が差し込んでいた。

 

「困ったな。…ん?」

 

「りりり。りり!」

 

先ほどのリリーパ族がこちらにこいと言っているのか、ズボンの裾を引っ張っている。それをみてハシーシュと顔を合わせ頷きあった。

 

リリーパ族の後をついていくとそこには壁画が描かれていた。どうやらこの遺跡の地図に見える。

 

「これは…。」

 

「ここ。この子達の住処。この先にまだ遺跡ありそう。」

 

最深部かと思ったが、実はまだ先があるようだ。彼らはこれを見せたかったのか。

 

「ありがとな。」

 

「りり! りりりり! りりり!」

 

何かを言っている。この感覚はたしか。

 

「えっと、別の仲間が…? 向こう? いった? 帰ってこない。」

 

「つまり…別の子が…帰ってこないってこと?」

 

たぶんそうだろう。彼らが心配そうにしているところをみると、こちらにそのリリーパ族を探してきてほしいのだろうと推測した。

 

「わかった。探してきてやる。どうせ奥に行くのだからな。」

 

「うん。見つけたら、連れてくる。」

 

「りり!」

 

リリーパ族達は嬉しそうだ。どうやら伝わったらしい。

 

「ようし。ならば先へと進むか。」

 

「うん。わかった。」

 

洞窟の先にまだ道があった。その先にいるのだろう。そして本来のクエストの目的地があるのだろう。そしてオキは感じていた。

 

この先にいると思われる、強者が待っていることを。

 




皆様ごきげんよう。
すみません。今回はかなり短いです。時間があまりなくて進めることができませんでした。
とりあえずきりのいい所まで!

さて、PS4版が追加され大和も導入されて落ち着いたPSO2ですが、いろいろ問題もありますね。各所で話題になっているモノは多数あります。一つ一つ落ち着いていくことを願うばかりですね。

では次回にまたお会いしましょう。


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第58話 「煌き貫く神の槍」

遺跡の最深部かと思っていた場所は単なるリリーパ族の集落だった。
リリーパ族のお願いから更に奥へと向かったオキとハシーシュ。


「天然の洞窟に・・・変わった。」

「ああ。さっきみたいな作られた場所じゃない。」

周囲の壁を松明で照らす。遺跡の壁はなくなり、ごつごつした岩肌が広がっていた。

「・・・何かいるなぁ。」

オキが奥を睨む。その言葉にハシーシュが足を止めた。

「奥? この先?」

オキの目の前に赤いアイコンが点滅している。索敵スキルのアイコンだ。危険度合いが大きいほど、白から赤へと変わっていく。今は真っ赤だ。

「何かいる。ハシーシュ。すまん。ダガーを教えるといったが、あれは嘘になりそうだ。本気で戦わないといけない相手かもしれん。」

オキは索敵スキルが強敵を示していることを、そしてその敵と戦うにはダガーでは戦えないことを話した。

「問題ない。それだけ相手が強いという事なら。」

ハシーシュもソレを了解してくれた。オキは少しずつ、奥へと進む。エネミーの姿は見えない。雑魚すらも。

「広い場所に出るな…。」

「うん。…オキ! あれ!」

洞窟の狭い通路から広い場所へと出た。その先は光が地表から降り注ぎ、周囲が明るく照らされている。そしてその広場の真ん中にいる巨大な影がゆっくりとこちらへと向いた。

『『オオオオォォォォン!』』

巨大な咆哮がオキ達の体をビリビリと響かせる。

「なるほど。こりゃやばそうだ。ハシーシュじゃちときついかもな。」

巨大な体躯。白い毛の大人狼。異様なのは首が二つ、腕も4本もあること。ボスクラスエネミー、二面四腕の大人狼『シルバー・ファング・ウルフ』はオキ達を睨みつけもう一度吼えた。

『『オオオオオオオオ!!』』

「っく。」

ハシーシュはその咆哮にたじろぐ。その隣では口元を歪ませ笑っているオキがいた。

「面白そうなのがいるじゃん。少しは…楽しませてくれ…っよ!」

オキは槍を担ぎ上げ、素早くボスに近寄って飛び上がりから真下へと槍を突いた。

ズン!

「…へぇ。これはいい反応だ。」

『『グルルル・・・。』』

オキの槍を避けたボスは、飛び退いた場所から勢いをそのまま反転させ、オキへと腕を振り下ろした。

ガキン!

「くぅ・・・!? 2本同時の攻撃と・・・!」

ズン!

「更に往復かい! おらぁ!」

ボスはオキの見立てでファルス・ヒューナルぐらいの大きさだと見込んだ。その巨体から、しかも二本同時の腕がオキへと振り下ろされた。何とかそれを防御したが反対側から、もう2本の腕が振られてくる。それを後ろに下がりこみ、地面へ腕を突っ込んだボスへ槍を突き刺した。

『『グゥゥゥ!?』』

3発の突き。その攻撃はボスをオキから離れさせた。小さな3発だが、オキにとってはソレが攻撃の通る相手だと結論付けさせる大きな3発だった。

「攻撃は通ったな。小さいながらもダメも入った。なら・・・倒せる!!」

ヒュンヒュンと槍を振り回し、再度ボスへと向けた。

「オキ。」

ハシーシュが心配そうにこちらへと近寄ってきた。

「ヘイトは俺が取り続ける。あいつが怯んだところを横っ腹からダガーで切り刻んでやれ。無理な突撃だけは絶対するな。あの素早さ。俺でもきつい。」

「わかった。」

ハシーシュも自らの持つダガーをゆっくりと構え、オキの後方へと下がった。

『『グルルル・・・。』』

少し離れた場所でゆっくりと歩きながらこちらの様子を見ているボス。

先ほどの攻撃だけで削れたHPの量を確認した。ゲージバーは2本。それでいてたった3発で削れた部分。防御力は思った以上にないだろう。逆にスピードとパワーを備えている。充分に注意する必要がある。

「…。」

槍を前に構え、いつ相手が動いてもいいように待つオキ。

『『グゥゥゥア!!』』

低い体勢から右腕二本を振り上げ、こちらへと突進してきた。それを横に避けて側面から槍を突き刺す。

「ほいさっさっと!」

『『グァァァァ!?』』

脇腹、太もも、足と3箇所を一気に攻撃した。その為怯んだボスは膝から崩れる。

「今だ! ハシーシュ!」

「了解!」

ハシーシュの5連撃SSがボスの側面に喰らいつく。

『『オオオオォォォ!!!』』

ボスが雄叫びを上げる。ハシーシュの攻撃に反応したのだ。

「バカわんこめ。こっちだアホ!」

オキがウォークライを発動する。ハシーシュを見ていたボスがオキに向きなおした。

オキは槍を高く上へと投げる。それと同時にオキはボスへと走り出した。

大きく振り上げた二本腕を思い切り振り下げるが、振り下げた場所にはすでにオキはいない。

『『グゥゥゥ?』』

「どこ見てる。うすのろ!」

オキがいたのはボスの左後ろ。そこで上に投げた槍にワイヤーを絡めて真下へと思い切り引っ張った。

『『グゥ!?』』

それを払い除けたボスだが、オキから目を一瞬だけ離す。それだけでオキは十分だった。払いのけられた槍をワイヤーで素早く回収。そして至近距離まで近づいたオキはボスの腹めがけて槍を、体を回転させながら舞うように攻撃した。

「おらおらおらおら!」

『『グゥゥアアアア!?』』

腹の思いきり切られ、突かれボスのHPゲージはみるみる減ってった。

挙句、滅多切りされたボスはその場に倒れてしまった。

「チャーンス。おらよ!」

槍の奥義『ディメンション・スタンピード』が放たれた。

「ハシーシュ!」

「了解。」

後方で構えていたハシーシュも自分のもつ最大火力のSS『アクセル・レイド』を直後に放った。

『『グアァァァァ!?』』

2つのSSが連撃となり更に弱点部位に放たれたためHPは一気になくなった。

 

パキィィン

 

怯んだ姿のまま結晶化し、砕け散っていったボス。

「ふう・・・。」

強敵を難なく倒せたことに安堵するハシーシュ。オキも一服しようとタバコを出した時だった。

「索敵スキルがまだ反応している? ハシーシュ! 上だ!」

「え?」

 

ズズン!

 

『グォォォォォ!!!』

毛むくじゃらの大きな体。背中にしょった巨大な機械の筒。その中に入った金属のパーツ類。

「バルバ…リリーパ。」

『ゴォォォォ!!!』

「キャァ!?」

「ハシーシュ!」

ハシーシュの真後ろに降り立ったバルバ・リリーパは逃げそこねたハシーシュを掴み、太い両腕で小さな彼女の体を締め付け始めた。

「ああ…ああ…。」

苦しそうにもがくハシーシュ。オキがそれをみてバルバ・リリーパへ走ろうとした時だった。

 

ズズン…ズズン!

 

『ゴォォォォ!』

『グォォォォ!』

「更に増えただと!? クソ! こんな時に…。聞いてねーぞ!」

更に上から二匹のバルバ・リリーパが降りてきた。ハシーシュのHPはまだあるが、このままではなくなってしまう。

「ちぃ…仕方ない。熟練度まだ低いけど、一気に片すにはこいつしか…!?」

『グォォォ!』

後から降りてきたバルバ・リリーパの一匹がこちらへと攻撃を仕掛けてきた。

 

ズズン!

 

「おいおい。さっきのワンコより音がでかいんじゃないのか…? ハシーシュ! もう少し待ってくれ!」

「う…ん…。」

小さく頷いたハシーシュはなんとか逃れようともがいているが、強力な握力で掴まれているためそれができそうにない。

「もう少し…まだまだ。」

オキはバルバ・リリーパ2匹の動きを槍を構えたまま左右に移動していた。

後から降りてきた2匹がオキの目線上で直線に重なる。そしてその直線の先にいるのはハシーシュを掴んでいるバルバ・リリーパ。

「ここだぁぁぁぁ! 貫けやぁぁぁ!」

オキの槍『神槍グングニル』が強く光りだす。

 

ギシリ…

 

中腰で強く構えた槍が一気に前へと突き出された。

 

ゴォォォォ!!

 

『『『!?』』』

バルバ・リリーパの体を貫き、その後ろにいたバルバ・リリーパさえも貫いたオキの放った槍の衝撃波はハシーシュを掴んだバルバ・リリーパまで貫いた。

 

ズズズン

 

同時に3体のバルバ・リリーパが地面に突っ伏した。

「っきゃ!? ケホッケホ…。」

「大丈夫か!? ハシーシュ! ほれ、ポーションだ。飲め。」

「あり・・・がと。」

咳き込みながらなんとかポーションを飲んだハシーシュをみてホッとするオキ。周囲をみると小さくなりキョロキョロと見渡すリリーパ族の姿が見れた。

「HPが少なくてよかったぜ。なんとか一撃で吹き飛ばせたか。」

「さっきの…は。槍のスキル…じゃない?」

「ん? ああ。これか。」

オキは槍をハシーシュに見せた。今までにないソードスキル。誰だって驚くだろう。

周囲の状況を確認し、先ほどの『シルバー・ファング・ウルフ』から『白狼の魂』という宝玉を手に入れたハシーシュと共に、洞窟の先に新たな神殿を見つけた。そこまで向かったオキはゆっくりと歩く途中でそのスキルの説明をハシーシュに行った。

「うちのメンバーがユニークスキル持ち多いのは結構有名だから知ってるよね。」

コクリと頷くハシーシュ。

「10あるうちの半数以上。『二刀流』から『フリーダム』、『バーサーカー』に『抜刀術』。『月光剣』に『神速』。ああ、月光剣は隊長が持ってるからウチのじゃねーな。そして俺たちが目指している先にいる茅場…いや、ヒースクリフが持っている『神聖剣』。わかっているユニークスキルは7個。そして初お見え、8個目のユニークスキルが俺の持つ『神槍』だ。」

その名の通り槍に関するユニークスキル。本来SAOの武器は武器の刀身の距離、つまり至近距離でしか攻撃ができない。だが、このユニークスキルは突いた衝撃を遠くへ飛ばすことができる。

「とはいえ、せいぜい数メートル位が限度だけど、それでも相手を貫き、貫通してその後ろにいる相手まで攻撃ができるのはユニークスキルらしいね。」

「そんなものを持ってたんだ。」

神殿は小さく部屋が少し、エネミーもいない事を確認したオキはその中に宝玉を設置する場を見つけた。

「このユニークスキルはただの槍では使えない。いまのところ確認できているのはこのグングニルと、もうひとつの魔槍『ゲイボルグ』だけ。熟練度もまだ低いからあまり実戦では使いたくなかったんだけど、とはいえ威力はかなりのものだ。先ほど放ったのはそのスキルの一つ『煌』…っと。これで終わりかな?」

「うん。クエスト、クリアできた。」

小さく微笑むハシーシュ。それをみてオキも安心し、ようやく一服ができた。

「ふぅ…。おつかれさん。少し休んだら帰るか。面白そうなアイテムもなさそうだし。報酬は、経験値か?」

「うん…。その代わり、コルで…。」

「いらん。こっちは懐かしいもん見ること出来たし、なにより面白かった。」

リリーパ族がちょこちょこと歩いていく姿をみて、煙を吐いた。

「でも…。それに、『また』助けられた。」

「また…?」

話を聞くと、序盤の層。通りすがりのオキがハシーシュを助けたらしい。しかもその時の状況がHPを殆ど削られ危険な状態だったという。

「何層だ?」

「7層。迷宮区の3階。周囲のエネミーは…。」

「あー! 思い出した! たしかあの時、ハヤマン、こまっちーと狩り競争やってた時だ。たしか、負けるとメンドくさい罰ゲームを自分で言っといて自分が受けそうだったから焦っていたんだっけか。そういや助けたな。」

その言葉に目をぱちくりと見開くハシーシュ。

「いやー。結局負けちまってさぁー。はずかしかったわー。」

結局勝負に負けたオキは当時、クラインに教えてもらったとある地域の伝統ある踊り、名を『あんこう踊り』。それを祝勝会で踊る羽目になった。

なかなかネタになる内容だったので面白がって罰ゲームにしたら自分で踊る羽目になったのだ。

「ピンクタイツで踊れとかまじでネタになるわ。二度とやらんぞ。」

「ふふ…ふふふふ。」

「笑うなよハシーシュ。」

 

 

ギルド拠点へ帰還したオキ達。そしてその数日後にギルドへと加入することとなったハシーシュを迎えた。

シリカを紹介した際に、何かを二人は察した。それにオキは気づくのはずっと後のお話。

 




皆様ごきげんよう。
いやー今週も時間ギリギリ。仕事の忙しさが厳しいー!
体を分けたいです。
今回からハシーシュがギルドに参加です。可愛らしいシリカと反面、落ち着き静かな彼女。私のホロウフラグメントでは1,2を争うレベル帯でした。
そしてさらりとガルパンネタ。ガルパン劇場版の円盤発売と興行収入21億超え!
円盤は速攻で手に入れました。毎日パンツァー・フォーです。
PSO2では大和戦が相変わらず人気を誇ってますね。☆13も着々と手に入っておいしい緊急です。なにより固定でPTメンバーのバランス考えなくて済むのが一番いいですね!
終焉だとバランスの分け方を間違えるとちょっと面倒なことになったり。
ではこの辺で、また次回お会いしましょう。


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第59話 「動く欲望」

ハシーシュがギルドに入ってから暫くして85層攻略も目前に見えてきた頃、1部のプレイヤー達から攻略組、アークsへ相談が持ちかけられた。


「ティターニアのメンバーがセクハラやってるぅ?」

攻略組『アーク’s』定例会。オラクル騎士団拠点大会議室にオキの声がこだました。

「ああ。ティターニアの奴ら、かなり堂々と行為に走っているらしい。」

情報を説明してくれたディアベルは苦そうな顔だ。

「中には無理やり体触られたーいうねーちゃんもおる言うてな? 本来ならハラスメントコード引っかかるはずやのに、何故かひっかからヘン。」

キバオウは手を広げて困った顔をしていた。

「うーん。最近バグらしき報告も受けてるし、ハラスメントコードが動かなくなったか?」

腕を組んで考え出すオキ。ハラスメントコードとは簡単に言えば男性が女性に対してセクハラ行為を行った場合に発生する危険コードだ。

セクハラ行為だと感じ取ったときに女性プレイヤーの目の前に選択画面が出る。その時にセクハラ行為を受けたという肯定のボタンを押した瞬間に『監獄』へ瞬間移動という事だ。

ただ、このコードは意図的に外すことも可能であり、オプション関係の設定最下層にその解除選択部がある。これを外すことで大きな声では言えないことも出来るという話は聞いたことがある。

「オキさん。試してみるのはどうでしょうか?」

「アリだな。」

シリカから提案があった。実際に実験してみれば早いことだ。

「んー・・・。とはいえ、どうやって調べるか。」

「私なら大丈夫です。どなたかが体を触ってみればいいのですから。」

「そうか? んーならリンド。シリカの肩揉んでやって。」

「俺か? まぁいいが・・・。失礼するぞ。」

「はい。 ・・・ん。」

優しくリンドがシリカの肩を揉みだす。

「コードは?」

「んー・・・でますね。」

「そうか。・・・頼むから冗談でも押さないでくれ?」

シリカの肩から手を離すリンド。

「ふふふ。そんな事しませんよ。」

「すまなかったな。オキ君。」

「おい、なぜ俺に謝るリンド。」

少しだけニヤケたリンドがオキの肩を叩いた。

「そりゃ大事な奥さんの体を触ったのだ。当たり前だろう?」

「はぅ・・・。」

顔を真っ赤にするシリカ。うんかわいい。じゃなかった。

「そうかい。・・・逆の場合はどうなのだろうか。試してみるか?」

「はいはーい! 私やってみたい!」

シンキが速攻で手を上げ嬉しそうに笑顔だ。

「却下」

「却下だ色ぼけ魔神。」

「てめーはだめだ。」

オキ、ハヤマ、コマチによって速攻却下される。

「えー。ブーブー!」

「てめぇはいらんとこまで触るだろうが。」

「え?」

手をワキワキとさせるシンキ。ダメだコイツ。

「え? じゃねぇ! ワキワキさせんな! あーもう。シリカ。お返しにリンドの肩もんだれ。」

「は、はい。それじゃあ失礼しますね。」

「うむ。」

リンドの肩をもみだすシリカ。

「コードはでず。やはり男性にはないらしいな。ああ、もういいよシリカちゃん。ありがとう。」

「はい。どういたしまして。」

結論は『問題なかった』となった。だが、実際に被害が出ている以上、軽視できない。

「各ギルドへ伝達。警戒態勢に入る。ティターニアを見つけたら、注意せよ。女性プレイヤーは一人で行動しないように。必ず最低でも3,4人で。出来れば信頼できる男性プレイヤーと共に行動せよ。」

「「「了解!!!(なのだー!)」」」

「というわけで、アルゴ姐にも情報伝達を頼む。」

「あいヨ。俺ッチに任せナ。」

25層の喫茶店にてアルゴと落ちあった。彼女も情報を集めているらしく、女性の敵としてみなしたらしい。

彼女には、他の情報屋を通じて各層で活動しているプレイヤー達にティターニアの現状を伝えてもらうつもりだ。

カランカラン・・・

扉の開く音が店に響き、数名の男性が入ってきたのを確認した。

「噂をすれば、ネ。」

「なに?」

ニヤニヤとしながら笑い話をしているように見える男達。

「ティターニアか。」

アルゴとオキはチャンスとばかりに目で合図しあい、様子を見ることにした。

はじめはそこまで問題は無かった。バカ話をしている感じだ。

だが・・・。

カランカラン

勢いよく店の扉が開いた。そして入ってきた女性がツカツカとティターニアメンバーに近づいていく。

「ちょっと! あなた達でしょう!? 私の友達にセクハラしたの!」

「あー?」

男達はなにかと思い女性を見た。その女性の後ろにはオドオドとした女性もいる。それをみて顔を見合わせたティターニアメンバーはニヤリと顔を歪ませた。

「あー! 君ね! 人聞きがわるいなぁ。俺達は彼女から誘ってきたのを受けただけだよ?」

「そうそう。俺達は誘惑されたんだ。くくく・・・。」

ソレを聞いて弱気な女性は泣きそうな顔だ。

「そ・・・そんなことは・・・。」

「あなた達ねぇ・・・この子がそんな事するわけ・・・!」

「しないって? その場にいなかった君が…わかるわけないよねぇ。」

「っく・・・。」

流れはティターニアのメンバーのほうに流れている。悪いのは明らかに男共のほうだ。だが、言い訳で逃げようとしている。それどころか、彼女達を囲みだした。

「それより、一緒にお茶でもどう?」

「そうそう。俺強気の女に弱いんだよ。」

「あーわかるわー。くっころってやつ?」

男の一人が彼女の腰に手を回したときだった。

「やめてよ!」

バシ!

振りほどいた彼女の手のひらが男の頬にビンタする。それを喰らった男は形相を変えて拳を振り上げた。

「てめぇ! なにしやが・・・!」

「はいはい。そこまで。」

オキはがっしりと男の腕を握り止めた。

「なんだよテメェ! 離せ・・・!?」

摑まれた反対の腕でオキに殴りかかろうとした男だったが、オキは軽く足払いをかけて男を床に倒した。

「がっはぁ!?」

いきなり目の前の世界が回転した男は何がおきたか分からないまま背中から床に激突、オキはそのまま槍を取り出し男の顔面の真横に突き立てた。

「おっと、すまんなぁ。手と足が滑っちまった。よかったなぁ。顔に刺さらなくて。」

ニヤリと笑い、オキは男の顔を覗いた。

「き・・・さま・・・!」

「やめておきたまえ。」

いつの間にか店の扉が開いており、ティターニアリーダー、アルベリヒがそこに立っていた。

「おう。アルベリヒじゃねーか。きさん、きっちりマトメとけや。苦情でてんぞ。」

オキがアルベリヒを睨みつける。

「いや、すまないね。以後気をつけるよ。」

アルベリヒは床に倒された男と、呆然と見ているしかなかった男達を連れて店を出て行った。

「っち。すました顔しやがって。そっちのは大丈夫か?」

残された女性2人はアルゴによって守られていた。

「ありがとうございました。助かりました。」

「いいってことよ。あいつらだけじゃなく困ったときはすぐにアーク’sへ連絡いれな。話はつけとく。」

「はい!」

大人しそうな一人がオキの背中を気にしていた。

「あの・・・そのマーク。オラクル騎士団の・・・。しかもその槍使いとくると・・・。」

「何を隠そウ! この人はオラクル騎士団のリーダーサ!」

アルゴが高らかにオキを紹介した。

「何でお前さんがいうんじゃい。まぁいいっか。ともかくこちらも注意して警戒に入っている。そっちも無理な行動はしないように。他の友人達にも伝えといてくれると助かるよ。」

「分かりました。あの人たち、あちこちで迷惑行為やってるの。中には無理やり薄暗い路地に連れ込まれたりとか・・・。」

「ほうほう。情報はコイツに。助けは俺たちに。いつでも構わん。言いにこい。」

「はい!」

60層のフィールドにて、タケヤとツバキがクエスト攻略の為に目的地へ向かっている最中にも同じことが起きた。

「本当にこの先なんでしょうね?」

「情報ではな。アルゴさんの情報だから間違いないだろ? 多分。」

「多分って・・・ん?」

ツバキが前から来る何かに気づいた。はじめはエネミーかと思っていたが、プレイヤーのようだ。

「はぁ・・・はぁ・・・! お願い! 助けて!」

「何かあったの?」

息を切らして女性がツバキに駆け寄る。タケヤはオレンジプレイヤーの警戒をしたが、別の問題だった。

「ティターニアに追われてるの! お願い!」

ツバキとタケヤは顔を見合わせて追ってくる男達の前に立ちはだかった。

「っち・・・。ずらかるぞ。」

男達はタケヤたちを見て、すぐさま元来た道を戻っていった。

「助かったー・・・。ありがとう・・・。」

「大丈夫。大丈夫だから・・・。」

ツバキは震える女性を落ち着かせつつ、タケヤは周囲を警戒していた。

数日後、更に問題が発生した。アルゴからの緊急招集でそれが発覚した。

「行方不明!?」

「うヌ。つい先日から下層と中層付近のプレイヤーが数十名単位でいなくなってい事がわかっタ。既に、解放軍に手伝ってもらっているガ・・・。」

「未だに見つけきれない・・・。申し訳ない。」

ディアベルが悔しそうに謝った。

「ディアベル君が謝ることじゃない。うちも手を貸そう。」

アインスもすぐさまメッセージを打ち出した。ギルドメンバーを動かそうとしているのだろう。

「情報では、行方不明者が出たすぐ近くでティターニアメンバーが目撃されているそうダ。」

「また、ティターニアか・・・。」

唸る様にオキはここ最近の問題元の言葉を吐いた。偽りと思われる装備にレベル、コードの出ないハラスメント行為。そして今回は行方不明者だ。

一体何が目的で何をしようというのか。

「とにかく・・・このままでは埒があかん。場を押さえて・・・。」

「タタタ! タイヘンデス!」

会議室にアリスが勢いよく入ってきた。

「どうした?  アリス。」

息を切らしている。相当走ってきたのだろう。

「シャ・・・シャルサンが・・・シャルサンとツキミサンが・・・ユクエフメイに・・・。レンラクが・・・トレません!」

ガタ!

ハヤマが血相を変えて立ち上がり、大会議室を飛び出していった。

「・・・あの野郎。どこの層に向かったって確認せずに飛び出しやがって・・・。アリス、教えてあげて。」

「ワ、ワカリマシタ!」

敬礼して即座に飛び出していったハヤマへとメッセージを送るアリス。

「ちぃ・・・。これは面倒になってきたぞ。」

シャルが行方不明になってから次の日。シャルが向かった層をあっちこっちと探した、見つからず時間だけが過ぎていた。

「オキさん! なんとかしましょう!」

「もう我慢の限界よ!」

ギルド拠点の大会議室にてオラクル騎士団のメンバーが集ってオキにティターニアへの制裁を求めてきた。今回の剣は間違いなくティターニアだと全員が踏んでいる。

「・・・。」

オキは目を瞑ったまま黙っている。レンやサクラ達もオキへと話しかけた。

「私達も見ました。ティターニアの人たちが女の子を路地裏に連れ込もうとしていたのを。」

「偶然見つけたからよかったけど、実際に被害も出ています。早く何とかしましょう。」

「・・・。」

相変わらずオキは黙ったままだ。

「オキさん? どうしました?」

シリカが心配そうにオキの顔を覗いた。

「・・・。」

ゆっくり目を開けたオキはシリカの頭を撫で、タバコに火をつけた。

「ふー・・・。」

「・・・どうした? オキさん。以前なら真っ先に・・・。」

キリトが不思議がる。以前のラフコフ騒動の時はまっさきに動いたのにと。その時だ。

オキの目の前にメッセージが届いた。それを見るなり目を見開く。

ガタリ!

「・・・! 来た!」

勢いよく椅子から立ち上がったオキに全員が驚いた。

「え? え!?」

「ちょ、ちょっと・・・オキ?」

アスナも、リズベットもいきなり立ち上がったオキに驚いていた。

「・・・各員に通達! 62層に向かい、ティターニアメンバーを捕縛せよ! シンキ達が追ってくれている。 キリト! アスナ! リズ! アリス! 62層の拠点の街、東側から! ミケ! 双子とフィリア連れて西から! タケヤ! ツバキ! レンにサクラは北から。 オールドのとっつぁんとセンター、エギルの旦那は南から! 全員街の中央へ向かえ。シリカとハシーシュは俺について来い。絶対に逃がすな。コマッチーはフィーアにストレアとユイちゃんでここを守れ。何しでかすかわからんからな。いくぞ!」

シンキ、シノン、リーファはオキに言われたとおりにアルベリヒを追っていた。

「オキさんから伝言来ました! シンキさん! シノンさん!」

「私も確認したわ。」

「ふふふ。それにしてもオキちゃんの言うとおりだったわね。」

目の前を走る男の行った行為の一部始終を3人は見た。オキは彼をはっていれば必ずボロを出すことを確信していた。そこで、まだそこまでプレイヤー間で顔の知られていないメンバーで且つ、何があっても冷静に対処が出来る者としてシンキを。そしてそのシンキと共に行動し同じく対応が出来るメンバーとしてリーファ、シノンが選ばれ、アルベリヒの行動を追っていた。

効果はすぐに出た。すぐさま行動したアルベリヒは追われていることに気づかず、その犯行現場を押さえられる。何とかごまかすが、結果的にシンキ達に追われることとなったのだ。

「シノンちゃん。お願いね。足元を狙って。絶対に当てちゃだめよ。」

「わかったわ。」

シノンは走るのをやめ、その場にひざまずき、背中にある弧を描いた武器を手にした。

ギリリリ・・・

強く張られた弦がきしむ音が鳴り響く。彼女が手にしているのは『弓』。このSAOには普通ありえない『遠距離』武器。

彼女はシンキ、リーファと共に早く前線で戦えるように数々のクエストを休むことなくやってきた。そしてある日彼女が見たことの無いスキルを手にしたことに気づいた。『射撃』スキル。誰もが知らないスキル。そうユニークスキルだ。

「狙いは・・・そこ。」

ヒュン!!

甲高い音をならし、シノンの放った一本の矢は綺麗にアルベリヒの足元へと刺さる。

「うわ!」

アルベリヒはバランスを崩し、そしてその後ろから走ってきたシンキに蹴飛ばされる。

「もう・・・! にがさないわ!」

ガン! ズシャァァ!

「ぐは!?」

アルベリヒが立ち上がり、再度逃げようとしたときだ。

「はいそこまで。」

オキが目の前に立っていた。他のティターニアメンバーはオラクル騎士団のメンバーによって捕まっている。

「・・・ごほん。なにかようかね? イレギュラーの君。」

「澄ました事言っちゃって! 私達は見たんだからね! そいつの短剣が人に刺さったときに一瞬でその人がいなくなったのを!」

リーファの言葉に押し黙るアルベリヒ。その言葉を聴いてオキはニヤリと口を歪ませた。

「俺の仲間に手ぇ出したのが間違いだったな。・・・さぁ! 返してもらおうか!」

オキが槍をアルベリヒに向け、アルベリヒはソレをみて、笑った。

「くくく・・・。なんども、なんどもなんどもなんども邪魔しやがってぇぇぇ!」

今までにない形相でオキを睨みつける。だが、それに動じないオキ。

「あ? 何言ってやがる。きさん、人んとこの仲間手にした口が何言ってやがる!!」

「う・・・。」

オキの睨みつけはアルベリヒを後ずさりした。

「あなたと格が違うわ。うちのリーダーは。」

シンキが後ろからジリジリと近寄っていく。

「く・・・くそぉ!」

アルベリヒが手を上に掲げた。

そして直後に出てきた巨大なエネミーに気を取られている間にオキたちはアルベリヒに逃げられてしまった。

「しまった・・・。逃げられた。」

「あらー? こいつ・・・アホ鳥じゃない。」

 

『ヒョオオオオオ!』

 

真っ赤な丸い巨体。体を回る大きな顔。そして尻尾についた回るのこぎり状の突起。

アポストル・トリッツァーがその場に出現した。




皆様ごきげんよう。
今週も来週もいそがしいいいい!
なんだこれ! こんなに忙しいのはめったにないぞ!
おかげさまでPSO2の新たな期間限定クエを未だに行けてません・・・。

さて、話が動きましたね。完全にクロのアルベリヒ。
そして出てきたアホ鳥。こいつの名前相変わらず直ぐに出てきません。言いにくいんだよ!
SAOもそろそろ終盤戦です。では来週またお会い致しましょう。


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第60話 「逆鱗に触れ」

行方不明者が増える一方で、仲間すらも手をだされたオキはその容疑者であるティターニアリーダー、アルベリヒを追い詰めた。だがその男が出したのは、ダーカーだった。


『ヒョオオオ!』

アポストル・トリッツァーの咆哮が周囲一体に響き渡る。

「ダーカー因子確認。これは自白したようなものかな?」

「ねぇねぇ。オキちゃん。これやっちゃっていいの?」

シンキがすごくウキウキとした顔でオキに聞いてきた。

「シャオからは許可を得ている。やるぞシンキ。ミケっち! ハヤマンがこの階層到着したそうだから挟み撃ちで2,3人捕まえろ! 状態は死んでなけりゃどうでも構わん!」

「アイサーなのだー!」

オキとシンキはダーカーを、ミケは逃げたティターニア残党を追いかけに走った。

転送門前広場。プレイヤー達を押しのけて転送門へ向かって走る男達がいた。

「どけ!」

「くそ・・・! あの野郎、自分だけ逃げやがった!」

「こちらとトカゲの尻尾じゃねぇんだよ! くそまだ追いかけてきやがる!」

「ウラー! なのだー!」

ティターニアのメンバーは後方を見るとものすごいスピードで猫耳を生やしたフードを被った子供のようなプレイヤーが追いかけてきている。つかまれば間違いなく監獄行きだ。

「もう少しで転送門だ! あそこまで逃げ切れば・・・!?」

シュイン!

「・・・。」

転送門前に一人の男が現れる。

「どけぇ!」

「・・・・フン!」

ガン!

「ッガ!?」

ティターニアメンバーの一人が男をどかそうと手を出した瞬間だった。他の二人は何が起きたのかほぼ見えなかった。見えたものは、先頭を走っていた仲間が転送門から出てきた男に胸倉を持たれ、思い切り地面に叩きつけられている姿だった。

「・・・。」

ギロリと睨まれ、男達はその場で立ち止まってしまった。

「ハヤマナイスなのだー!」

「捕まえたよ。」

ミケとハヤマ、ティターニアのメンバーの一部を捕獲。その他の方面でもギルドメンバーが逃走したティターニアメンバーを捕まえていた。

シュゥゥゥ・・・

「あっけない。もっと面白いかと思ったのにー。」

シンキは不満そうにしている。アレだけ暴れておいてまだ足りないと。とはいえ、オキ自身も軽く層思っていたのだが。

「仕方ねーべ。ダーカー因子消滅確認っと。ミケっち達の所にいこう。捕まえたらしい。」

「はーい。」

オキとシンキはアルベリヒが出したアポストル・トリッツァーを撃破。

どうやって出したのか、どうしてそんな事が出来るのか。メンバーから情報を聞き出すことにした。

メンバーを1層の監獄へとぶち込んだオキは、ハヤマ、アインス、シンキを尋問役に選び、ティターニアメンバーの入った牢屋を訪れた。

「あんたらのリーダーはどこにいるんだ?」

「・・・。」

オキの質問に誰も返事をしない。

「ふん。質問を変えようか。リーダーのことは何か知っていることはあるかい? あれは普通のプレイヤーじゃないだろう。」

「・・・あんたらもだろう?」

「くっくっく・・・。」

「へっへっへ。」

一人の言葉に全員が笑う。隣の牢屋の男が一人、ティターニアのメンバーに声をかけた。

「ああああ、あんたら。悪いことはいわねぇ。この人たちにさからわねぇ方が身のためだぞ。」

「ああ?」

ティターニアメンバーがその言葉ににらみつけた。

「はっはっは。面白いことを言うじゃねぇか。確かにその通りだ。今しゃべったのはアンタだったな。ヤルのは最後にしといてやる。」

口元は笑っていたが、オキの目は笑っていない。それに気づいていたのは周囲のアークスとオキ達の怖さを知っている牢屋の主達だけだった。

「シンキ。」

「はいはーい?」

「どれか選んで好きにしていいぞ。奥に空いてる牢屋があるはずだ。」

オキの言葉にシンキの目が光る。そして周囲の男達を一通り見渡した後、左端の男を選んだ。

「あなたにするわ。来なさい。」

「お、俺!?」

そのほかの者は少し羨ましそうに見ている。それもそうだ。シンキは男性はもちろん、女性すらも見れば誰もが羨む美貌と抜群のスタイルを持っている。

だが、オキ達シンキの本当の姿を知っている者たちからすれば連れて行かれる男が哀れに思う。

「・・・どうする?」

「好きにしろといったはずだ。」

ボソリとオキが一言シンキへと伝えた。シンキはソレに対しニッコリと微笑みながら男を連れて奥へといってしまった。

「・・・羨ましいか? 美しい女性に連れられて、人気が少ない暗い牢屋でナニされるか。期待してるか? 馬鹿な奴だ。シンキはな・・・。」

オキが続きをしゃべろうと一呼吸吸い込んだ直後だった。

「ひぎゃあああぁぁぁぁ!!! ・・・があぁ!!! ・・・ぐぁ・・・あ・・・。」

奥から耳を塞ぎたくなるような悲鳴が響き渡り、そして小さく低い何かを潰すような音に変わっていった。。その声、音に元々牢屋にいたオレンジプレイヤー達は体を震わせ怯えている。

「シンキはな、この中で最も残虐性の高い奴だ。俺やそのほかの皆が考えることよりも恐ろしいことを平気で思いつき、行動する。」

オキは奥を見てから再びティターニアメンバーを睨みつける。

「っひ!?」

「もう一度言う。知っていること、隠している事、全て話せ。」

「話せば、悪いようにはせん。」

アインスもオキの言葉に続く。だが、誰一人として言葉を発さない。先ほどまでの違いは全員が不安な顔をしているだけだ。

オキはその状況にため息をついた。

「・・・はぁ。しかたない。ここではやりたくなかったが全員に見てもらう必要があるな。はやまん。」

「・・・ああ。」

ハヤマは男達の前にでて一言だけ質問をした。

「シャルという少女を探している。古風な言葉使いをする女の子だ。」

その言葉に一人がニタリと笑いながら言った。

「ああ、あの少女か? あまりにもうるさかったから少し黙らせた。なかなかよかったがな。へ・・・へへへ。」

その言葉にオキが前に出ようとする。だが、ハヤマはソレをとめた。

「どけハヤマん。そいつは・・・はやまん?」

ハヤマの顔をオキが見た。その顔は今までの温厚なハヤマの顔ではなかった。

ハヤマは笑った男を思い切り真正面から蹴りを腹に入れ、壁に背中から激突させる。

「っが!? ・・・っひ!? な、なにを!? 俺は最後にって・・・!」

男が見たのはハヤマが刀をゆっくりと振り上げた姿だった。

「あぁ? あれか、あれはな…嘘だ。」

オキの言葉と同時に上下に素早く切られる男。

「っが・・・あ・・・や・・・ぐぉ・・・。」

あまりのスピードと衝撃は男の体を何度も揺さぶった。その為悲鳴どころか声もまともにでない。

いくらSAO内で体が頑丈であり、挙句衝撃のみで痛みは無いとはいえ、ダーカーの硬い甲殻を簡単に切り裂く力を持つブレイバーのカタナ捌きを何十秒も受けたのだ。

十数秒間カタナPA、ゲッカザクロのループを喰らい続けた男は白目となり、泡を吹いてその場に倒れた。

バタ・・・

「さぁ。こうなりたくなかったら。はけ!」

受けたメンバーを見て、残りのメンバーがようやく自白した。

自白した内容は隠れた場所に拠点を構えていることと、その中で次世代に続く実験を行っているという話。

実験内容は下っ端である自分達には伝えられておらず、人をさらう部隊として活動していたようだ。ちなみにシャルの話はただ単に暴れられたので大人しくさせる為に戦い好きの(今は完全に沈黙している)男が好き勝手に暴れただけのようだ。それを聞いてハヤマは少しほっとしたようだ。

ちなみにオキが『何を思い浮かべたんだ?』とニヤケながら聞くと、その場の勢いで切られそうになった。

「まったく、はじめから正直にすればいいものを。」

「あら? オキちゃーん。そっちおわったー?」

シンキが連れて行った男を引きずって帰ってきた。こちらの男も白目をむき、完全に気絶している。

「ういーっす。オキさんいるー? ここにいるって聞いたんだが・・・。うわぁミンチよりひでぇ。」

コマチが入り口の方から入ってきた。そしてつぶれている2名の男達をみて苦笑していた。

「どうした? コマチ君。」

「あぁ。ミケが逃げたメンバー捕まえてな。自白させた。」

「おろ。こっちは必要なかったか。よく自白したな。」

オキが呆れて肩を落とした。

「ん? ああ。まぁミケだし。」

オキは察した。『ミケが捕まえた』という事。それは『オキの知人関係の中で最も何をしでかすか分からない奴』がストッパーなしで尋問したからだ。

「あ、察し。で? その捕まえたのは?」

コマチは黙って首元を切る仕草をした。あぁたしかに。『殺すな』とは言ってなかったしな。

相変わらず、敵とみなした相手には容赦しない面子だこと。オキはそう思いながら監獄を後にした。

自白した内容から80層の岩陰にティターニアが隠れているアジトがあることが判明した。

それによりキリト、アインス、ハヤマ、そしてストレア(シャオインストール)を率いて強襲した。

「いいか? 何が出るか分からん。気を引きしめていくぞ。」

「ああ。・・・いくぞ。」

アインスの号令により、岩陰からその中へと入り込んだ。

「これは・・・。」

「なにかされている!? ストレア! シャオ! 近くにコントロールしている機械があるはずだ! 解除して助けろ!」

「・・・シャル。」

行方不明のプレイヤー達を見つけた。だが、なにかのカプセルに入れられ、皆が眠っている。身体の波形を取っている様に見える。少なくとも見ていて気持ちいいものではないのは確かだった。ハヤマはシャルを探しにカプセルを一つずつ覗いている。

シャオから解除方法を伝えられたストレアはその場にある全てのカプセル型の機械を解除した。

「これは・・・。」

オキは近くにあったここで何をされているかを記された紙を見つけた。

「なにがここで行われていたのか。わかるかい? オキ君。」

「シャル!!」

オキが紙を見だした直後にハヤマがシャルを見つけたようだ。

「みつけたか!」

アインスもそちらに駆け寄る。

「シャル! しっかりしろ!」

「げほ! ・・・ハヤマ・・・どの? カカ・・・やはり、迎えにきてくれたのう。思った・・・通りじゃ。」

「ツキミ君も無事のようだ。」

アインスが隣のカプセルからぐったりとしたツキミをシャルの近くに寄せた。

「よかったのう・・・ツキミ・・・。ハヤマ殿が・・・助けに・・・迎えに・・・スー・・・スー。」

気力でおきたのだろうか。ツキミは静かに眠りについた。優しく頭を撫でるハヤマは立ち上がりオキに近づいた。

「オキさん。帰ろう。そして見つけ出して・・・オキさん?」

ハヤマがオキの様子がおかしいことに気づいた。固まって動かない。

そして近づこうとした瞬間だった。

ガキン!  バリ…バリ…

 

近くにあったコンソールにゲイボルグが刺さった。刺さったコンソールはバリバリと電気を漏電させている。それを見たキリトが目を丸くしていた。

「おいおい。破壊不可能オブジェだぞ。」

行われていたのは脳を直接操作する人体実験。その実験がボイド、ルーサーが行っていた実験にあまりに酷似していた為にオキは近くのコンソールに武器を叩きつけたのだ。

普通なら弾かれるはずなのだが。

「了解。 シャオから伝言。オキのフォトンが活発化してるって。大人しくさせてって言ってる。」

オキは黙って槍を抜き、目を見開いたままどこかへと歩いていこうとした。それを止めたのはアインスだった。

「どこへ行こうというのかね?」

「どけ。アインス。あんたもわかるだろう?」

槍を前につき出すオキ。アインスは一息吸ってオキの顔面を殴った。

「っが!? なにしやがる!」

オキは殴られた拍子に床へと転ぶ。

「少しは頭を冷やしたまえ。ここには奴はいないようだ。情報もない。君一人出たところでなんになる。私だって抑えているのだ。やらねばならぬことが先にあるだろう。」

オキは差し伸べられたアインスの手を黙って握り立ち上がった。

「…すまん。そうだな。やつにはそれ相応を受けてもらわんとな。」

「ああ。」

その後、オキはアインクラッド中に『ティターニア』メンバー全員を『ラフコフ残党』と同格の危険人物として情報を投げかけた。

これにより残ったメンバーもほぼ捕まえることができた。もんだいはリーダーであるアルベリヒが捕まらなかったこと。メンバーに聞いても知らないという。逆に『騙された。』『話が違う』とメンバーの中でもどうやら食い違いが発生しているようだ。

 

 

 

とある層の生い茂った草原。

「…くそっくそ! どうしてだ…! なぜだ! 僕は神の力を手にしたというのに! …今に見てろ。僕を馬鹿にする奴らは…皆殺しだぁぁぁ!」

ある男の声が響き渡ったが、誰ひとり聞くことはなかった。

そしてその男はまだ気づいていないのだろう。今このSAO内で最も敵に回してはいけない人物達の逆鱗に触れたことに。

 




皆様ごきげんよう。
やばい。今月やばい。PSO2がまともにプレイできていないほど忙しい。

さて、SAOを知っている人なら知る人ぞ知る胸糞悪い男No.1に輝くアルベリヒ。
今回は代役としてティターニアメンバーでしたが、しばらくしたら彼にもそれ相応の対価を払ってもらいましょうかね。
ではまた次回お会い致しましょう。


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第61話 「猛炎を放つ極彩色の怪鳥」

ホロウエリアに新しいエリアが出現し、シンキを始め、シノン、リーファ、そして依頼者のフィリアが突き進む。そこで見た巨大な影は・・・。


ホロウエリアに新たな場所が出現した。オキ達が走りまわったエリアから離れた場所に新しいエリアが出現したのだ。

きっかけはフィリアが受けていたクエスト。ホロウエリアでの一件が落ち着いた後に、ホロウエリアでトレジャーハントをしていたフィリアが偶然受けたクエストだった。

そのクエストを受けてシンキ、リーファ、シノンも共にそのエリアに来たのだが・・・。

「このフィールドだもの。確かにいるわよね・・・。コイツも。」

『ヒョオオオオオオ!』

巨大な咆哮が響き、シンキ達の前に巨大な怪鳥が翼を広げ飛び上がった。

露出度の高い踊り子の服が歩くたびになびく。その煌びやかな服に光が反射してキラキラと光る姿をすれ違う人たちが振り返り見る。

服だけではない。豊満な体つきに整った容姿。同姓である女性すら見とれてしまうその美しさ。

街中を歩くそんな彼女の名はシンキ。オラクル船団のアークスであり、今はSAO内で暴れまわるイレギュラーズが一人。

彼女はオラクル出身のアークスではない。ある場所からラグオルに流れ着き、そしてオラクル船団へと流れてきた。この時点で彼女が一体どれだけの年月を生きているのか分からない。一度オキが聞いた話ではアリサⅢという船にいたらしいが、オラクル船団にはそんな名前の船はない。

ソレを知るのは本人のみ。不思議な女性である。

オラクル騎士団ギルド拠点内に入ったシンキ。

「あ、シンキー。」

「なーに? オキちゃん。呼んだ?」

ロビーでタバコを吸っていたオキにシンキが呼び止められた。

「今暇かー?」

いきなりの言葉にシンキは一瞬固まる。とはいえすぐにクスリと微笑んだ。

「ええ。問題ないわ。」

リーダーはいつもそうだ。唐突に何かを依頼してくる。だが、その唐突さ、内容が面白いものばかりでやり応えがある。

「よかった。シンキじゃないと難しそうでな。フィリアがホロウエリアでクエストを受けたらしい。」

シンキが聞いた内容はフィリアのクエストのお手伝いだった。ソレだけを聞けばなんてこと無いが、問題はホロウエリアの場所だった。

「こんなエリア名見たことが無い。が、この文字はすごく気になる。アークスの手助けが必須と考えた。」

オキが示したエリアの名前。確かにこれは気になる文字だ。だがオキ、ハヤマ、コマチ、ミケ、アインスの5名は別件で忙しいらしく、手伝いに行くことが出来ないらしい。行けるのは実質シンキだけとなる。

「俺達が知っている敵の可能性が高い。フィリアを頼んだぜ。既に彼女はホロウエリアの管理室にいるはずだ。合流してくれ。」

「任せなさい。」

シンキがくるりとUターンしてフィリアと合流するべく拠点を出て行こうとした。その直前にオキに止められる。

「・・・手ぇ出すなよ。」

「ふふふ・・・。」

拠点の扉を閉めるのと、オキの『否定しろ』という怒声が背中に聞こえるとは同時だった。

「で、私達も一緒なのね。」

「よろしくお願いします。よーし頑張るぞー!」

シノン、リーファも一緒にホロウエリアを訪れた。

「すみません。よろしくお願いします。」

フィリアが丁寧に頭を下げた。

「いいのよー。オキちゃんからのお願いだし。それに、どんな敵がいるか楽しみだわ。」

3人はシンキのにこやかな笑顔を見て改めて認識した。

『ああ、この人もリーダーと同じ人種なんだ。』

と。その時に攻略中だったオキがくしゃみをしたのを知っているのはシリカとハシーシュだけである。

「ハーックション!」

「風邪ですか?」

「大丈夫?」

「んー大丈夫。そんなはずは無いんだが。」

ホロウエリア『壊れた紅き森』。

シンキがワープポータルから飛んだ先の新しいエリア。そこはオキの予想通りの場所だった。その場所は熟練のアークスのみが見たことがある場所が広がっていた。

「やっぱり。私達が見たことある場所ね。ここまであるのは驚いたけど。」

「話には聞いていたけど、本当に知っている場所なの?」

「アークスが知っている場所だって聞いていますが。」

シノン、リーファが首をかしげシンキに聞いた。

「壊世地域、と私達は呼んでいたわ。原因は未だ不明だけど、普通の場所とは違う唐突に現れたエリアよ。ここは惑星ナベリウスの壊世地域ね。」

付近の植物は枯れたような色合いで生い茂り、空は見たことも無い赤色のような橙のような色をして広がっていた。

今のところ確認されている壊世地域はナベリウスとリリーパの二箇所。そのエリアでは通常のエリアに生息したり、稼動したりする原生種や機甲種の変異したような姿のエネミーが見受けられる。そのモノらの危険性は熟練のアークスの中でも更に戦闘能力の高い者でも戦えば簡単にはいかない程である。

「気をつけて進むわよ。ここのエネミーは一筋縄ではいかないわ。」

リーファ、シノン、フィリアはシンキの言葉通りのエネミーの強さを実感した。

アインクラッドのエネミーよりも素早く動き、的確にこちらを狙ってくる。

「はぁぁ!」

「っふ!」

「やあ!」

だが、シンキにたたき上げられたリーファとシノン、オキ達とこのホロウエリアを走りまわったフィリアの3人はその動きについてこれた。

シンキはもちろんである。

「ふふふ。あぁ、懐かしいわねぇ。」

普段以上に蝶のように舞い、蜂のように素早く攻撃するその姿は普段からは考えられない。そう普段からは・・・。

「普段からああだったらよかったのに。どうしてこう・・・あの人は・・・。」

セーフティポイントを見つけ、少し休憩する4人。周囲の様子を見に行ったシンキがいなくなったのをいいことに、シノンがボソリと呟いた。

「まぁ・・・そうですね。」

リーファも苦笑気味だ。

「私はあまり、シンキさんと一緒に行動したことが無いので、分かりませんが・・・。オキさんからは何度か・・・ひゃう!?」

「ただいまー! うーん♪ いい感触ねぇ。」

「っちょ・・・!? シン・・・キ・・・さん! ひゃう!」

シンキがいつの間にか帰ってきており、気づいていないフィリアの後ろから大きいとも小さいともいえない、程よい大きさの胸をもんだのだ。それもガッツリと。

「・・・。」

「あ、あはは・・・。」

シノンとリーフは呆れるほかなかった上に、その後でしっかりとシンキの餌食となった。

「もー! シンキさん!」

「ご馳走様でした。いいじゃない。減るものでもなし。」

口を尖らせて文句をいうシンキ。

「うー・・・。何で私がこんな目に・・・。オキさんとならよかったのに・・・。」

「相変わらず、あちこちにフラグ立てる子ね。」

フィリアは顔を赤くして何かをしゃべっているが、良く聞こえない。ふーんとにやけたシンキは、ふとあることに気づいた。

「あら? そういえばオキちゃん、言ってないのかしら。あのこと。」

シンキが口元に指を当てて呟いた。

「あのこと?」

フィリアがシンキを見た。リーファとシノンも顔を見合わせてシンキの言葉を待った。

「いい? アークスはね? 今現在女性がダントツに多くて、男性は数が少ないの。割合的には確か・・・。だからね・・・?」

シンキの説明に次第に目を見開く3人の少女は。

「「「ええー!?」」」

ホロウエリアに叫び声をあげた。

「そんな事があったなんて。知らなかった。」

「アークスってやっぱり面白いなぁ。」

シノンは興味深く頷き、リーファは面白そうに笑っていた。ただ、ソレを聞いたフィリアは複雑そうな顔をしている。

「うー・・・。そうしたら、私も・・・。でも、うーん・・・。」

その姿をシンキがニヤけた顔で見ていた。

「ふふふ。面白くなりそう。・・・って事はハヤマちゃんも、言ってなさそうね。ふふふふ。」

シンキの目が光ったのをこのとき誰も気づかなかった。

シンキ達が進む道には、アークス達が見た壊世地域のエネミー達が沸いてきた。

特に目を引いたのは道中にて急に現れた『ベーアリ・ブルス』。壊世地域の『暴れるクマ』『ダンシング・ゴリ』としてあだ名がつけられ、対処がめんどくさがられる筋肉質の巨大なクマだ。それでもシンキの指示、そしてシンキやオキに鍛え上げられ、戦いになれた3人はそれを討伐し順調に進んだ。

そういえばと、シンキがフィリアの受けたクエストを確認した。

「粗方進んだけど、そもそものクエストの詳細を聞いてなかったわね。何すればいいのかしら?」

「あ、えっと。ある鳥の羽を手に入れることです。それで私が目指していた装備が作れるので。そろそろ見つかると思うのですが。ああ、その角を曲がった先の広場に・・・。」

クエストはある鳥の羽を手に入れること。シンキはこのエリアの鳥を思い返した。

「鳥・・・ってまさか・・・。」

口を歪ませ微笑むシンキの頬に冷や汗が走る。ここのフィールドにいる鳥は正直あいたくない部類である。その時だった。

『ヒョオオオオオ!』

シンキの予想通りの鳴き声が周囲の空を響かせた。

「この先ですね!」

リーファが進もうとしたその前を、シンキが壁に手をついて彼女を抱きつく形で止めた。

「え・・・? ええ!?むぐ!?」

「しっ。静かに。」

シンキがリーファの口を手で塞ぎ、壁の先にある角からゆっくりとその先に広がるという広場を覗いた。

「・・・やっぱりいるわね。クソ鳥・・・。」

鋭い角を生やした額。真っ赤な色をした巨大な羽。虹色の羽を持った尾。

『極色鳥』ディアボイグリシス。幾度かシンキもオキ達と戦ったが、正直『めんどくさい』の一言だ。

「ここでもコイツと出会うなんて・・・めんどくさいわねぇ。やるわよ。」

めんどくさいといいながらも微笑みながら曲剣を出し、広場への曲がり角を進んだシンキ。

強いかといわれるとそうでもない。じゃあ弱いかといわれるとソレも違う。

何がめんどくさいというならば、飛んだ後に降りてこない。動き一つ一つがこちらに対して攻撃となる。そして・・・なによりめんどくさいのは。

「くるわよ! 足元に注視して!」

『ごぉぉぉ!』

ディアボの放つ焔である。火柱が勢い良く立ち、周囲一体を火の海と化すその力はシンキ以外のメンバーには余りにも強力すぎた。

「あつつつ!」

「もう・・・たしかにめんどくさいわね・・・。」

「その通りね!」

3人はシンキの伝えたとおりの動きをするその怪鳥に苦戦気味だった。

『コォォォォ!』

ズズン!

上からの急降下落下でこちらを押しつぶそうとするディアボ。

「きゃぁ!」

「っく・・・!」

「うわぁ!」

地面を揺るがすその巨体を何とか避ける4人。

「降りてきたわね。さぁ覚悟しなさい。」

シンキはジャンプしながらディアボへと曲剣を振り下ろす。姿勢を整えた他の3人も再び攻撃へと転換する。

ガン! ギン!ガン!

「ふふふ。アハハハハ!」

楽しそうに笑うシンキは振り回してきた角へと曲剣を素早く切り払う。シンキがヘイトをとって真正面から切りかかっている最中にリーファたちが側面援護に回る。

「でやぁぁ!」

リーファの片手剣が、シノンの矢が、フィリアの短剣がディアボの側面へと放たれる。

『コォォォオォ!』

攻撃されまいとディアボは体をひねり、尾でなぎ払おうをしてきた。

「うわぁ!」

「あぶない!」

シノン達はかろうじてソレをかがんで避ける。シンキはソレに対して。

「フン!」

曲剣を思い切りぶつけ、力任せに攻撃を止めた。

「・・・大丈夫? ・・・皆!」

ギシ・・・ギシ・・・

「・・・! 大丈夫です!」

リーファが立ち上がり、攻撃の範囲外へと退避する。それは相手からの攻撃範囲ではない。シンキの動く範囲だ。

「あああぁぁぁ!」

キィィィン!

はじめはゆっくりと。そして少しずつ早く動かした曲剣はディアボの尾を切り裂いた。

『コォォォォォ!』

一度なき、再び空へと飛び上ろうとするディアボ。これでは効率が悪すぎる。シンキ達は決定打を出せないでいた。

だが、負けるわけには行かない。シンキは最近手にした新たなおもちゃ・・・じゃなかったスキルを試してみることにした。

「ここでなら、試せるかしら。」

シンキがニヤリと口元を歪ませた。

脚に力を入れ、ディアボと同時に上空へと飛んだ。

「はぁ!」

シンキがジャンプし曲剣を構えた。普通ならそこからは届かない距離だったが、今のシンキなら『届く』。

フォン!

空中で不思議な音が響いた。その音と同時にシンキは空中を蹴る。

「よっと!」

「え?」

フィリアは目を見開いた。だが、すぐにソレが何を意味していたかを理解した。

「そうか! ユニークスキル・・・!」

そう。シンキが手にしたのは空中で再びジャンプが出来るユニークスキル『エアハイカー』だ。体術を好んで使用して戦っていたシンキならではのスキル。元々アークスの武器、魔装脚をメインに使用していたシンキなら簡単にそのスキルを使いこなすことが出来る。

『コォォォ!?』

いきなり真下からシンキが現れた事で油断していたのかディアボは一瞬固まる。その一瞬の隙をシンキは見逃さない。

「ふふふ。いまさら高度をとろうなんて、遅いわよ。シノンちゃん! 狙いは・・・ここよ!」

シンキが振り下ろした曲剣はディアボの角にヒビを入れた。

ガキン!

ギリギリギリ・・・

既に下で構えていた弓のしなる音がゆっくりと響く。そしてソレは放たれた。

ゴォォウ! バキン!

シノンの弓から光り輝く矢が5本連続でディアボの角へと突き刺さった。

『コォォォォ!?』

ディアボが怯み地面へと落ちていった。

「今よ!」

角が折れ、その場に倒れるディアボ。その隙にシンキをはじめリーファ、フィリアは弱点部位であるディアボの顔面にSSを放つ。

「それそれそれ!」

楽しげに切り刻むシンキ。これ以上は飛ばさない。そう思いながら3人もシンキに続く。

一気にHPを削り取られたディアボは結晶となって砕け散った。

『ヒョオオオ・・・。』

パキィィン!

ドロップアイテムとして『獄炎鳥の極彩羽』をゲット。無事、フィリアのクエストはクリアできた。

ホロウエリアを後にしたシンキ達は拠点へと戻ってきて温泉に入っていた。

「ふぅ・・・。疲れたわ。」

「今回のは特に強敵でしたねー。」

シノンとリーファがゆっくりと湯船に浸かっていた。

「アレくらいまだまだよ。外にはもっと強くて、めんどくさいのが多いんだから。あの鳥はその中でもその一部。」

シンキが体を洗っている。白く透き通った肌。艶やかな白銀の髪。リーファ達は改めてシンキの美しさに見とれた。

「・・・何度見ても綺麗ですね。かっこいいところもあるのに・・・どうしてああなのでしょうか。」

リーファがボソリと呟いた。シノンも苦笑気味である。

「ふっふっふ。聞こえたわよ。」

「「え!?」」

ふと2人が声の方を向くと、シンキが既に妖怪『触らせろ』になってすぐ後ろにいた。その姿からはかっこよかった姿が台無しである。

「「きゃぁぁぁ!」」

温泉に悲鳴が響いた。

ギルド拠点へと戻った直後にフィリアはハシーシュの部屋の前に立っていた。

「シンキさんの話が本当なら。ハシーシュさんも、私も・・・すーはー・・・。よし!」

コンコン

「誰?」

部屋の中からハシーシュの声が聞こえた。

「フィリアです。少しだけお話が。」

ガチャリと扉が開くと、ハシーシュそしてシリカの姿までもがあった。

「フィリアさん?」

「シリカさんも・・・。あ、ちょうどよかったわ。聞いて欲しい話があるの。」

「とりあえず、中にはいって。」

ハシーシュはフィリアを自分の部屋へと入れた。そしてその後、偶然いたシリカも、ハシーシュもその内容に驚き3人で結束を固めたことを、自分の離れでタバコをふかしていたオキが知る事になるのはちょっとだけ先だった。

 




皆様ごきげんよう。
先週は失礼しました。想定外の予定やら何やらで小説があまりにも進まなかったので休暇とさせていただきました。
今回は本来あげるはずだった前回を飛ばして、予定通り今週分としてシンキメインのお話とさせてもらいました。
前回あげるつもりだった物語はあくまでつなぎ程度の番外編となる予定だったのでまぁ問題ないかなぁと。

さて、出てきましたユニークスキル。これで何個目? もう10個いったかな?
さぁ数えてみよう!


PSO2では強化版徒花、『輪廻』が開始されました。まー・・・ノラだと床なめるアークスの多いこと多いこと。
いくら攻撃力高くなったとはいえ、防御しなさすぎじゃねーかと思うほどばったばったと倒れていく様は怒りや呆れより逆に笑いが出ましたよ。
さすがに私以外11名床なめるのは大いに笑わせてもらいました。
これは次回アップデートのオーディン戦がいろんな意味で楽しみですね!
FF14とのコラボでくるオーディン戦は途中からある一定以上のダメージを与えないと斬鉄剣で即死且つクエスト強制失敗だそうで。ノラが怖い・・・。
アークスの皆さんは準備を怠らないようにしっかりと強化しましょうね!


それでは次回にお会いしましょう。


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第62話 「アークス対プレイヤー」

「鬼ごっこぉ!?」

オラクル騎士団ギルド拠点大会議室にハヤマの声が響いた。アークスメンバーだけでアークスシップの現状を確認し終わったあとに雑談をしている最中にオキがなにかやりたいと発言したのがきっかけだった。

「うっせぇなぁ。耳がいてぇじゃねーか。」

タバコをふかしながら耳をふさぐオキ。

「ついこの間、ダーカー因子もって、誘拐して、人体実験やってたバカがどこかにいるのになんでいきなりそんなこと思ったわけさ!」

デコに怒りマークが見えるハヤマにオキは前かがみでタバコをもった手でハヤマを指さした。

「あのなぁ。俺も何も考えてないわけじゃねーんだよ。この間の件で皆がだいぶ暗くなっている。ここいらででかい祭りを開いて気分変えねーとやってられねーんだよ。なにより俺が面白くない。」

ハヤマは最後が本音だと思った。この人は面白くないと気が乗らない人だったのをあらためて思い出した。

「でもなんで鬼ごっこなんだ?」

アインスが首をかしげた。

「いや、なんかおもしろそーなことねーかなー? ってつぶやいたら、ミケっちが・・・。」

「鬼ごっこ!!!」

ミケが手をあげて叫んだ。

「って言ったもんだ。うんで思いついたのが、『アークスVSプレイヤー』。アークスメンバーがどっかのてきとーな層を会場にして、どこかに分かれて、12時間逃げ回る。時間は9時から21時まで。逃げ切ればこちらの勝ち。負けは全滅だ。」

「勝てばなにかあるのー?」

シンキが手を挙げて質問してきた。

「そうだなー。勝った方が負けた方を好きにできるってのはどうだ? アイテムなんかじゃ面白くないし。」

「じゃあわたしはプレイヤー側につく!」

シンキの目がキラリと光った。

「まてまて。おまえ、こっちを好きにするより、プレイヤー側の方が好きに出来るの多いだろ。」

シンキは、んーと考えて、手をポンと叩いた。

「ああ。たしかに。」

「それに俺たち好きにしても・・・。」

「え?」

シンキは手をワキワキさせている。

「おいその手をやめろ。」

ハヤマがジト目でツッコミを入れた。

攻略組ギルド連合のメンバーに相談すると全員が乗る気だった。特にキリトやディアベル、リンドなど普段一緒に戦いつつも自分たちがアークス相手にどこまで手が出せるかを試してみたかったらしい。賞品もオキの案と、アイテム関係も入れた。いかんせんギルド倉庫には多数のアイテムが眠っているので別に無償で渡してもいいくらいである。

 

 

イベントはアインクラッド中に広まり、当日は第1層に多数のプレイヤーが集まった。

司会はいつもどおりキバオウ。

『さぁさぁ本日は皆集まってくれてサンキューな! まさかこの広場にこれだけの人数が集まるとはワイも思わへんかったわ! あの日の宣告。今でも忘れへん。皆も忘れとらんやろ。絶望かとおもったそのときや! わいらに希望を与えたモノたちがいた! それがイレギュラーズ! 今回は皆を楽しむためにイレギュラーズのみなはんがイベントを考えてくれたで! その名も! [アークスVSプレイヤー! アインクラッド杯! 大集合! 鬼ごっこ対決!]』

「「「わぁぁぁぁ!!!」」」

「すげえなこんなに集まったのかよ。」

「これはさすがに驚きだな。」

オキとアインスはその熱気と勢いに少し押されている。

近くにいたリンドやディアベルがニコリと笑った。

「なに。これも君たちのおかげでもある。」

「そうだな。こうして死の・・・デスゲームと呼ばれたこの場所で、これだけの人数が楽しむために来てくれたのだから。」

『さて、ルールを説明させてもらうで!』

ルールはアークスサイドとプレイヤーサイドで分かれて、鬼はプレイヤー達。

時間は12時間。範囲は1層すべて。ただし黒鉄球の地下ダンジョンは危険があるので侵入禁止とする。開始30分前にアークス全員が逃げを開始。その後30分後に鬼ごっこが開始される。

捕まえた判定は動けなくすること。

タッチや触れただけでは判定外とする。

『勝ち負け判定はイレギュラーズが全員時間内にだれかひとりでも逃げ切るか、全員が捕まった時点で終了。その場合はプレイヤーの勝ちや。イレギュラーズのだれかでも捕まえた人たちには豪華賞品がまってるで! 協力して捕まえた場合はその協力した者、つまり押さえつけた全員が賞品をもらえることになる。せやから同じ仲間であるプレイヤー同士の妨害行為は禁止やで!』

時間は朝8:30。これからアークスたちが逃げる。

「それじゃあみんな。捕まらねーようにな。」

「ああ。皆せっかくだ。楽しもうぜ。」

「それじゃあな! 俺はこっちだ!」

「ワシはこっちに行くとしよう。」

「ミケはこっちなのだー!」

「わたしはこっちかなー。ふふふ。」

それぞれが四方八方に逃げる中、各プレイヤー達は、自分が追いかけるつもりのアークス達の後ろ姿を見つめていた。

ちなみにサラはプレイヤー側で参戦である。

 

「あんな化物ぞろいのメンバーと一緒にしないで欲しいわ。」

 

よってサラはオキたちを追うことに。

朝9:00ジャスト。イベント開始である。

『スタートや!!! 全員がんばるんやでぇ! ワイも出動や!』

「「「おおおお!!!!」」」

始まりの街の中央広場から多数のプレイヤーが各方面へと走っていった。

走っていったのは大体が外部のプレイヤーで広場には攻略組メンバーが残っていた。

「さぁ。今日は好きにしていいらしいからな。せっかくだから試させてもらうぜ。」

「そうね。キリト君。」

「みんなでがんばりましょー!」

「ふふふ。たのしみ。」

キリト家族はゆっくりとオキの逃げていった方向へと歩いて進んだ。

「キバオウくん。手はずは?」

「もちろん完璧や。すでに情報は回ってるで。」

ディアベル、キバオウ、リンドの目が光る。ディアベル達はすでにギルドメンバーを各地へと放っていた。

「・・・街の出入り口を固めたメンバーから連絡や。街の外に出たのはオキはんら4名。残っているのはミケはんにシンキはん。まだ街中に潜伏しとるみたいや。」

「よし。まずはミケくんとシンキくんを捕まえるとしよう。1層は解放軍の庭のようなものだ。皆! 心してかかるように!」

「「「おおおー!」」」

 

 

街中では解放軍、ドラゴンナイツのメンバーがミケ、シンキを探していた。

「いたか?」

「いや、東と南は探したがいなかったそうだ。」

「となるとこっちの西と北か。」

「おい! あっちでシンキさんが見つかったらしいぞ! 今カイト達が追っているそうだ!」

数名の男たちは顔を見合わせて軽く頷き合い、情報のあった方面へと駆け出した。

「ふふふ。さぁこちらへいらっしゃい。」

「まてー!」

「にがさねーぞ!」

舞うように走り抜けるシンキ。それを追いかける男達。今回の捕まえた判定は逃げれないようにすること。つまり押さえつけることだ。シンキのような女性に「偶然どこかに触れても」文句は言われない。つまり男たちは夢を追っているのだ。だが、相手が悪い。なにせ相手は、悪魔のような存在だ。

シンキが路地裏の曲がり角を曲がる。

「しめた! そっちは行き止まりだ!」

男たちがニヤリと笑い、角を曲がる。しかしそこにはシンキの姿がなかった。

「うふふふ。」

「なに!?」

シンキは壁をけって軽々と塀を越えていた。男たちもなんとか登ろうとするが、なかなかうまくいかない。

「くそ! あっちへ回り込むぞ!」

「おう!」

「さぁ皆がんばってね。」

悪魔のように微笑むシンキ。男たちは彼女の手の上で踊らされていた。

 

 

「見つけたぞ!」

「追いかけろ!」

「まてー!」

「つかまえるのだー!」

シンキの後を多数のプレイヤーが追っている。そんな事気にしないといわんばかりにシンキは逃げ回っていた。

「ふふふ。楽しいわねえ。さぁて次はどうやって遊ぼうかしら。」

楽しそうに走るシンキ。

「あら? ふふふ。もう一人いたわね。」

後ろをちらりと見たときに、シンキは追ってくるプレイヤー達の中に見知ったメンバーがいることに気づいた。どうやら追いかけている人たちはそれに気づいていないようだ。

「うらーなのだー。」

「ん?」

一人の男が聞きなれた声を聞いたので後ろを振り向いた。

「・・・あ。」

「みつかったのだ!」

そこにはイレギュラーズが一人、ミケがプレイヤー達の中に混じっているではないか。

「おおお、追いかけろ!」

「逃げるのだ!」

ミケは素早い動きで住宅街の壁を飛び越え、屋根伝いに逃げていった。

シンキもその騒動で見失ってしまい、せっかくのチャンスを不意にしてしまったプレイヤー達。

「くっそー! 思ったよりきちぃ!」

「はぁ・・・はぁ。速過ぎる。」

「壁上るの反則だろ・・・。」

まさに大暴れだった。そのせいで、大半のプレイヤー達がこの時点でフラフラだった。時刻は10:30を過ぎたところ。

まだまだ、日は昇っている最中だ。

そんなはじまりの街から西に進んだ草原の更に先、迷宮区を目指すプレイヤーが初めて到着する森ダンジョン。

そこにハヤマが潜んでいた。

「いたか?」

「いや、こっちにはいなさそうだ。」

「もっと先に行ったんじゃないか?」

数名のプレイヤーがそばを通り過ぎるのを確認したハヤマは体を低くして遠ざかるのを待った。

「この辺も増えてきたな。」

少しずつ遠回りに1層の奥へと向かおうと考えており、挟み撃ちを避け出来るだけ隠れるように森を進んでいたハヤマ。

戦いでは突撃を好むように見える彼だが、しっかりとした考えをもってから、行動に移る慎重派である。

「もう少し、奥に進もう。このまま少しずつ迷宮区までゆっくり進めば時間まで逃げ切れる・・・と思うんだけど。」

周囲にプレイヤーがいないことを確認し、少し歩みを進めた。

『まてよ? 念には念のためにこの隣にある森ダンジョンのほうに潜っておこうかな。この先の出口。迷宮区方面は検問状態になってる可能性がある。だったら、別方向の出口を通って遠回りに行けばもう少し楽に行けるのでは?』

ニヤリと笑い、考えをまとめたハヤマは早速進んでいた方向を一度Uターンし、手前の十字路を北へと進んだ。

『この先は確か荒野フィールド。岩場を抜ければ逃げ場もある。』

頭の中で地図を描きながら進んだハヤマは、北の出口へとたどり着いた。

「誰も・・・いないね。よし・・・!」

木々の陰から身を乗り出し、出口まであと少しというところだった。

「よし! そこまでじゃ!」

「!?」

出口の木々の陰。丁度森のフィールドの境目から小さな影が飛び出てきた。

「シャル・・・!」

ハヤマの頬を嫌な汗が一滴落ちる。

「ちい!」

ハヤマは素早くUターンし、後ろを振り向いた。その先から二人の影が左右の木々から飛び出てきた。

「どこへ向かうつもりですか?」

「サァ! オナワヲチョウダイするのデス!」

ツキミ、アリスが道を塞ぐ。ハヤマは完全に囲まれていた。

「森に入ろうなんぞ思わぬことじゃ。この周囲。死角無きように囲んでおる。諦めるのじゃ!」

「・・・よく、こっちだと分かったね。完全に待ち伏せるとは。」

1層とはいえ、一つの層全てが会場となっているこのイベント。一点集中で待ち伏せをするには少々デカイ賭けとなる。シャルは確実に此処を通ると読んでの作戦だった。

「我を誰だと思っておる。オキ殿やコマチ殿より短い期間とはいえ、ハヤマ殿を選んだのじゃ。愛する者の考えが分からなくてどうする!」

じりじりと近づくシャル。ハヤマは何とか逃げれないかと周囲を見渡し、逃げる算段を考えていた。

『考えろ。どうする。どこかに道は無いか。』

「そんなに・・・ハヤマ殿は、我に捕まるのは嫌か?」

「っぐ・・・。」

シャルの目にはうっすらと涙が浮かべられている。ハヤマはソレをみてその場で固まってしまった。

「いまデス!」

「失礼します。」

後ろからアリスとツキミがハヤマを押し倒し、うつぶせにハヤマを捕まえた。

「っが!? しまった!」

「ふっふっふ。ハヤマ殿! 捕まえたのじゃ!」

腕を後ろ手につかまれ、全く動けないハヤマに対し肩をつかんで高らかにシャルが叫んだ。

「・・・はめられた!」

ハヤマ。女の涙に負け、アークス勢最初の犠牲者となる。

アインスはオキと共に迷宮区のある反対側、東の最果てへと来ていた。

ここは1層の中でも最大のダンジョンであり、大きな山の中にある坑道が迷路となっている。

オキは坑道に入れば北側にある村へと繋がっている為、挟み撃ちにされる可能性が低いと考えた。

迷宮区側に行けば、上から来たプレイヤーに挟み撃ちにされる可能性が高いことから、逆へときたのだ。

「・・・とはいえ。」

「ふむ。思った程ではなかったな。」

アインスとオキは坑道内を歩いていた。だが予想以上にプレイヤーの追っ手が少ない。

ディアベルに確認したところ、かなりの参加者がいるというこのイベント。だがソレにしては追っ手が少なすぎる。

その原因は・・・。

「まぁ仕方ないっしょ。街でミケとシンキが大多数と遊んでるらしいし。」

そう。未だに半数以上のプレイヤー(主に男性)がシンキとミケを追っている。

シンキは捕まるか捕まらないかのギリギリのラインで男達を手の上で転がし、ミケは追っ手の中に一緒に混ざっていたり、煽ったり、果てには屋根の上で昼寝までしている姿が目撃された為、屋根に上ったは良いがソコには既に起き上がって待っているミケが。

という具合に二人して暴れまわっているおかげで街中は大混乱しているとか。

「ふむ・・・。」

アインスが小さく笑う。

「相変わらずというか、破天荒な奴らだと改めて思うわ。」

「いたぞ!」

「イレギュラーズだ!」

「たいちょーみっけ!」

「たいちょー!」

プレイヤー達がオキとアインスを見つけた。中にはソウジをはじめとする怪物兵団のメンバーもそろっていた。

「見つかってしまったね。」

「だーな。」

オキトアインスは顔を見合わせて、T字路を左右に分かれた。

コマチはフラフラとしながら南側にある村の中にある教会の鐘の真下で息を潜めていた。逃走経路も確認済みである。

街中を参加プレイヤー達が探し回っているが、この教会の鐘のある塔へと上るには中からではなく、外の別の扉から入る必要があるために、見つけづらいというのもある。

「ふぁーあ。なーんか暇だな。」

下をちらりと覗いた。プレイヤー達が街中を動き回っているのが見える。

「・・・ん?」

ふと目をずらした先に見えた一人の女性が目に入った。

「フィーアか?」

そしてキョロキョロと見渡した彼女がこちらをみた。

「・・・やば。」

「コマチ! 見つけたわ!」

にこやかな笑顔で叫んだ。その拍子に周囲のプレイヤー達がこちらを見て教会へと殺到してくる。

「フィーアめ・・・。」

苦笑いしながら、屋根の上を滑り落ちカランカランと音を立てながら瓦屋根の上を走った。

「くそ・・・。」

「どこいきやがった。」

はじまりの街内部。ミケとシンキにより大混乱となった街中だが、二人にいい様に遊ばれるプレイヤー達だが、それでも本気で怒る者はいなかった。むしろなんだかんだで楽しんでいるものが大半だった。

「だめね。ぜんぜんだめね!」

「ミケさんはそれじゃ捕まらないのです。」

双子の少女が肩を揺らし、休んでいるプレイヤー達に近づいてきた。

「譲ちゃん達はたしか・・・。」

「オラクル騎士団の双子姉妹?」

ハナとヒナは大きな袋を担いでいた。

「お嬢ちゃんたち、それは?」

「ミケはね、追いかけても逃げる上に足が速いわ。でも追いかけないと…。」

「自分で戻ってくるのです。」

その場に大量の食料を並べだした。

「まさかそれで釣る気か!?」

「まさかぁそんなもので釣れるとは…。」

「クンクン…いい匂いがするのだ!」

「「「!?」」」

フードをかぶった小さな姿が屋根の上から降ってきた。ミケがその場に現れたのだ。

「ミケ!」

「覚悟するので…え?」

ハナとヒナが左右から捕まえようとした瞬間、ミケの姿はいなくなっていた。

その上、一瞬のうちに大量の食料もなくなっていた。

「お、おい。ここにあった食料は?」

「あっちだ!」

一人の男が指さした方向をみるとミケがすでに屋根の上に上り、大量の食料を詰めた袋を担いで走り去っていた。

「あーもう! また失敗しちゃった!」

「おいかけるのです!」

双子姉妹は諦めずに追跡を再開。それをボーゼンと見ていたプレイヤーたちは顔を見合わせ頷き合い、少しだけ笑いながらミケの後を追いかけた。

ミケの暴れっぷりは本当にひどかった。ハナとヒナが用意した食料はすぐに食い尽くし、挙句の果てには休憩していたプレイヤーの手から食料を掻っ攫い、追いかけていたと思えば一緒に走っており、あちこちでミケの犠牲者の悲鳴が上がっていた。

シンキも同様に街中をうまく逃げ回っていた。壁を伝い、屋根へとのぼり、ミケにも勝らぬとも劣らぬすばしっこさを見せ付けた。

 

 

ハヤマ以外のイレギュラーズは夜まで逃げおおせた。暗くなればなるほど、余計にオキ達の場所は分からなくなっていった。

フィールドを探していたプレイヤー達はあちこちを探したが見つからない。

見つかるはずがない。オキとアインスは坑道を後にして再び街へと戻ってきた。理由は『追いかけてくるメンバーが思った以上に少なくて面白くない』ということだった。

「ではオキ君私はこちらから入り込む。最後まで捕まらないことを祈るよ。」

アインスと街の入口を様子みていたオキは頷き、アインスと反対方向へと向かおうとした時だった。

「あら? オキちゃんに隊長ちゃんじゃない。」

上から聴き慣れた声が聞こえ、二人は足を止めた。

「シンキ?」

「よっと…。ふぅ。二人共どこいってたの? 街中は私とミケちゃんしかいなくてみーんな追いかけてくるんだもん。」

シンキは呆れた顔で二人を見た。

「なはは。外に逃げたはいいけど…。」

「あまり追ってが少なくてね。予想以上にそちらに持って行かれたようで。」

「まぁねー。」

シンキは再び、街の外壁へと飛び移った。

「それじゃあ二人共。最後までがんばってね。」

シンキが外壁を伝って走り出した。塀の向こう側からは多数の声が聞こえてくる。シンキを見つけたからだろう。

オキとアインスはニヤリと笑い合い、拳同士を突きあって双方街中へと突撃した。

 

 

 

「おい! オキさんに、隊長さんも帰ってきたらしいぞ!」

「マジかよ! あの人ら、逃げたんじゃなくてかえってきちゃたの!?」

「完全になめられてるぜ。俺たち。」

「まぁ相手があいてだしねー。」

「でもなめられっぱなしってのもなんか癪だな。」

「おーい! コマチさんも街に帰ってきたってよ。これでイレギュラーズ全員そろったぜ。」

プレイヤー達は情報を伝え合い、ひとつのことを目的に一体となって動いていた。

『イレギュラーズを捕まえろ』

ただの鬼ごっこ。だが、されど鬼ごっこ。ここまで負けっぱなしなのも面白くないとプレイヤーたちは最後まで諦めなかった。

 

 

 

オキは街の入り口付近でミケが暴れまわっていることを外壁の上から降りてきたシンキから伝えられ三人は散開。

そこへコマチも合流し、街は今までで最もにぎわった。

ランプのついた街中はたくさんのプレイヤーの叫び声が響いていた。

「そっちいったぞ!」

「だー! 行き止まりだ!」

「おいかけろー!」

「俺の肉もってかれたー!」

「逃がさないわ!」

「まてー!」

数々の声と悲鳴歓声。アークス達の逃走劇も後少し。制限時間は1時間を切っていた。

路地裏を進んでいたオキはその先にある大通りをどうやって進もうかと悩んでいた。

「さーてどうすっかな。隠れそうな場所はあまり無いし・・・後ろからも来たか。」

今進んできた道の後方に人の気配がした。このままでは挟み撃ちだ。

「くそ・・・。此処まで来て捕まるとかごめんだな。」

後方の人物はまだ遠い。大通りは人が多い。ならば考えるは一つ。

「強行突破。」

オキは来た道を走った。

「見つけたぞ! オキさん!」

追ってきていたのはキリトとアスナ、そしてユイとストレアだった。

「やっべ。こいつら相手かよ!」

オキはブレーキをかけ、走ってきた道を戻る。

「追いかけるわよ!」

「ふふふ。楽しいですね!」

「そうね。捕まえるわ!」

家族総出の追いかけっこ。オキには勘弁願いたいメンツだった。

「勘弁してくれよ! さすがにプレイヤートップクラスのお前らと真正面きってやりあうつもりねーわ。」

大通りへと出たオキはポケットから出したあるアイテムを取り出す。

「いたぞ!」

「あ、リーダーさんだ!」

「つかまえろー!」

大通りにいたプレイヤー達はオキの存在に気づき、こちらへと迫ってくる。

「ごめんよ! キリトー! ユイちゃん目隠し!」

「!?」

オキがグラサンを取り出し素早くかけ、手を高らかに振り上げた。その手に持っているものと、叫んだ言葉を理解したキリトはすぐさまユイを覆った。

「え!?」

「どおりゃ!」

パン!

「きゃあ!」

「うおぉ!?」

暗い空まで一瞬で輝き、街の一角がまるで昼のように輝いた。

「閃光玉!?」

腕で顔を覆い、光が収まるのを待ったアスナ。キリトはユイをかばっている。

「おまけだ!」

ボン!

その場に今度は低い小さな爆発音と同時に大量の煙が立ち込めた。

「今度はケムリ玉か!」

「はっはっは! にげるんじゃよー!」

「オキさん! くっそ!」

目をまともに開けられるキリトはケムリを腕で払いながらオキを探したが既に遅し。オキは別の路地へと走って逃げていた。

ケムリが晴れるとその場にいたプレイヤー達やキリトたちが呆然と立っていた。

「してやられたわね。」

「さすがというか、なんというか。」

呆れるキリトとアスナ。だが、ユイは楽しそうだ。

「すごくワクワクしました! パパ、ママ。まだ、諦めませんよ!」

「そうね。おねえちゃんの言うとおり。私もまだ追いかけれるわ。どうする?」

娘達の言葉にキリトとアスナは笑顔になってうなずき合った。

路地を進むオキは何とか逃げ切れたことを確認し、一息つこうとその場に立ち止まった。

「ふう。危ない危ない。まさかこんなところでアルベリヒ対策のアイテムが役に立つとは思ってなかったぜ。」

今もどこかに潜んでいるだろうアルベリヒを見つけ次第捕まえる為に、数々のアイテムを常に用意していた。

閃光玉もケムリ玉も怯んだところを押さえ込む為のものだった。まさか自分が逃げる為に使うとは手に入れたときは思わなかった。

「まぁあと少しだし。これで何とか逃げ切れ・・・まじ?」

目の前に光る一個の印。それはある人物がどこにいるかを示す役割を持っている。

「こっちに近づいてる? まずいな。近づいていることに気づいたか?」

来た道を戻れば途中の分かれ道を使って別の道に行くことが出来る。

逃げることは可能だ。

『・・・だがなぜだ。朝から追ってくるそぶりすら見せなかった。このタイミングを見計らったような。』

オキが反対を振り向いて進もうとしたときだ。

「どこへ行くの?」

「そうあせらなくても良いんじゃない?」

目の前に紫色の大きな帽子、同じ色合いの服を着た少女と、蒼色の軽装、オレンジ色の髪を持った少女が現れた。

「…ハシーシュ。フィリア・・・。」

「そうですよオキさん。どこにいこうというのですか?」

「きゅる!」

後ろからは小さな竜使い。そして自分の大事な奥さん。シリカが現れた。

先ほどから見えていた印はシリカを示していた。

「・・・一つ聞いていいか?」

「なんですか?」

オキが一本のタバコに火をつけた。

「なぜ朝から追ってこなかった。シリカなら俺がどこにいるか一目瞭然だろ。俺も一緒だがな。」

シリカはニコリと微笑んだ。

「はい。知ってます。だから追いかけなかったんですよ。追いかけてもオキさんには追いつかないのは分かっていました。捕まえるにはオキさんですら思いつかない何かを考えなければと。」

「私も、考えた。オキは、戦うだけじゃなく、大多数から逃げることも、簡単にやってのけると。」

シリカ、ハシーシュ、フィリアは考えた。いくら場所が分かったって、捕まえれなければ意味が無い。がむしゃらに追いかけたところで時間いっぱいまで逃げられるのがおちだ。ならば裏をかくしかない。

「オキさんなら必ずここに戻ってくると思っていました。」

フィリア、ハシーシュが少しずつ距離を縮めてくる。じりじりと狭くなっていく。

「そして、必ず人が多い所に出てくると思った。」

アインスは囲まれれば真正面から突っ込むだろう。コマチはそもそも人の多いところを進まない。ミケとシンキは追いつかれそうで追いつかれない距離を保っていた。だから先ほどの閃光とけむりがオキだと分かった。

「一度一つのことに集中すると周りが見えなくなる癖があります。」

「それを狙ったの。」

「まーじか。」

名推理だ。確かにそのとおりだ。先ほどの大通りから逃げてくる最中、シリカの印を完全に見逃していた。だから気づかなかった。

チラリと側面を見る。場所も狙われたようだ。大きな建屋の壁があり、ジャンプしても届かない高さに建物の窓と飛び出た柱が見えるだけ。

「ここではミケさんやシンキさんのようには行きませんよ!」

「覚悟!」

シリカとハシーシュ、フィリアが素早く近寄ってくる。此処で捕まえるつもりだ。

だが、オキはニヤリと笑った。

「え?」

「ならば知ってるはずだ。俺が、負けず嫌いだっていう事も!」

オキは上へと両腕を伸ばした。ソコから伸びた二本のワイヤーは建物の飛び出た柱に巻きつき、ソレを手繰り空中へと飛んだ。

「っな!?」

「そんな!?」

オキが柱の上へと立ち、にやりと笑う。そして町の中央から花火が撃ちあがった。鬼ごっこ終了の合図だ。

「終わったか。いやー冷や汗かいたぜ。」

下を見ると座り込んでいる三人がいた。

「やっぱりダメでした・・・。」

「あと少しだったのに。」

「あー! くやしー!」

悔しそうな言葉を言っているが、それでも三人は笑顔だった。

「けっかはっぴょー!」

キバオウの大きな声が中央広場に響き渡り、暗い夜空に鳥の羽ばたく音が聞こえた。

広場では多くのプレイヤー達が疲れた顔をしつつも、楽しんだ感想を、追い詰めて逃げられた状況を、自分の昼ごはんが取られたことを楽しげに語っていた。

結局、イレギュラーズのメンバーで捕まったのはハヤマだけ。その結果、ハヤマはシャル、ツキミ、アリスの3人の命令を聞くことに。

逃げおおせた残りのメンバーはプレイヤー勢から好きなメンバーに好きな命令が出来るということでオキはシリカ、ハシーシュ、フィリアを選んだ。命令の内容については後日お願いすることに。

ミケはハナとヒナ。シンキはリーファとシノンを。コマチ、アインスは暫く考えるそうだ。

「だー。まさか捕まるなんてー。」

一人駄々をこねているハヤマ。

「それじゃあハヤマん。シャルとツキミとのデート、楽しんでね。二人の命令は絶対だからな」

ニヤケながらオキがハヤマへといった。

「わかってるよ! ソレくらい! ・・・で、なんでオキさんがデートって決めてんだよ。」

「既にシャルはそのつもりだぞ。いろいろ考えた結果そうなった。デートプランは俺監修だ。楽しみにしとけ。」

『なんだ? あまりにも手際がよすぎる。まるではじめからその予定だったかのような・・・。』

ハヤマはその時気づいた。

「まさかはじめからこのつもりで!?」

「その通り!」

「exactly。」

「ハヤマは鈍感なのだなー。」

「楽しんでくるといいハヤマ君。」

「なんでさーーーー!」

周りからにやけた顔を見せ付けられ、祭りの夜空へとハヤマは叫んだ。

 




皆様ごきげんよう。
先週も失礼しました。最近の忙しさは本当におかしいぞ?
そして同じ事を前回も言った気がするぞ!
今回の鬼ごっこネタはミケからいただきました。
丁度幕間が欲しくてネタを頂きました。尚、各位の動き方に関しては出来るだけ忠実に描きました。
彼らなら間違いなく今回のように動くことでしょう。
次回は久しぶりのアークスシップを描こうと思います。


さてPSO2ではオーディンに強化版ダブルと深遠の闇。
オーディンは予想より強くありませんでした。ソロでやるには楽しい相手ですね。
問題は道中がめんどくさい。硬い、痛いと下手なメンバーがノラでそろうとかなり時間かかりますね。
あまりプレイできてませんし、そろそろ落ち着きそうなのでアウラシリーズを取りに行かないとです。
では次回に又お会いいたしましょう。


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第63話 「寄せる想いと待つ思い」

とうとう90層を突破したオキ達。そんなラストスパートをかけるSAOの外、アークスシップでの1ページ。



オラクル船団のアークスシップの一つ。惑星スレアの周囲を回る衛星の真横に待機していた。

その中にある病室の一室にてマトイは今日もオキの部屋で彼の帰りを待っていた。

「うーん。はぁ。」

背伸びをして、モニターの画面を閉じた。今日も画面の中ではあの人の元気に暴れまわる姿を見れた。それだけでも安心だ。

目の前に眠るその人、オキに微笑んだ。

「今日も元気だったね。あと少しで100層。もう少しだから、頑張って。」

間違いなく聞こえていない。それでもマトイは話しかけた。自己満足だが、それでもよかった。

近くには小さな小さな可愛らしい少女がカビンに入った花の水を入れ替えてきたのか、元あったテーブルの上に乗せていた。

「早く、帰ってきて欲しいね。アオイちゃん。」

小さな少女はオキのサポートパートナーだ。8000番台No.8620系統のサポートパートナー。名を『アオイ』という。小人のような大きさの彼女をみてマトイはいった。

黒く長い綺麗な髪、正反対の白く透き通った肌、ロレットベルディアを彼女に似合う服に改良したロング服を身に纏い、服には彼女の番号である『8620』の番号が打たれていた。

「はい。マトイ様をはじめ、多数の方々がマスターのお帰りをお待ちしております。ワタクシも含め・・・。その思いにワタクシも同感でございます。ですが、既に90層を超えられました。後もう暫くの辛抱でございますよ。マトイ様。」

自分のご主人である、オキをじっと見つめ、その後マトイに微笑んだ。

「アオイは、強いんだね。」

マトイはアオイの頭を撫でた。

「あ、いえ、そんな・・・。ワタクシは強くなんかございません。マスターの帰りをただ待ち望む一つのサポートパートナー。それだけでございます。」

アオイの言葉にマトイが首を振る。

「ううん。やっぱりアオイは強いよ。私は・・・モニター越しとはいえ元気な姿が見れるのは嬉しいけど、実際にオキの体験した、いろんなお話をその声で、実際に聞きたいなぁ。」

マトイがオキの手の上に自分の手を置こうとしたときだった。

「随分寂しそうな顔してるね。」

「ひゃう!」

びくっと体を震わせ、声のした方をみた。マトイの振り向く首からは、まるで壊れかけた機械音のしそうな動きだった。病室の扉がいつの間にか開いており、そこにいたのは美しい顔立ちで少し小柄な身体。銀色のショートの髪。なにより目を引くのは背中に生えた(ように見える)白くて綺麗な翼をもった者だった。

「あ、クロちゃん。びっくりしたー。」

「すまない、驚かすつもりはなかった。それと、ボクのことはクロノスがいいっていつも言っているだろう。こんにちは、アオイ。失礼するよ。」

クロノス。アークスの一人。オキがつれてきた。はじめはオキ達になじまなかったが、次第に心開き今では信頼を寄せる大事な仲間の一人だ。中に入ってきた彼女はアオイへの挨拶を済ませて、マトイのすぐそばへと近づいた。

「全く。こんなにも人を心配させておいて。早く帰って来い。馬鹿リーダー。」

ペシっと軽くオキの額を叩いたクロノス。マトイは苦笑するしかなかった。

その直後にまた病室の扉が開いた。

「あー。いたいたー。」

「先に行くとは、卑怯だぞ! 貴様!」

「まぁ、遅れたのは俺達のせいだったから・・・。」

クーナ(アイドル状態)とクラリスクレイス。そしてイオが病室へと入ってきた。

「皆!」

「そういえばついてきてたんだった。すまない、あまりに遅かったから気付かなかった。」

少しだけ微笑みながら言うクロノス。傍から見ればそれは煽りにしか聞こえない。だが、このメンバーからすればソレは別のものに見えるのだ。

「はん! 何を言っている。貴様はこいつのところにくるのが単に楽しみだっただけだろう? 隠しても無駄だ! 私には分かる!」

「・・・どうしてだい?」

目をピクリと動かすクロノス。クラリスクレイスは腰に手を当てて、えらそうに続けた。

「私や貴様達は、『同じだ!』と、ヒューイやマリアが言ってたぞ? 私と同じという事は、貴様も楽しみにしていたという事だな!」

ドヤ顔で言うクラリスクレイス。その言葉に反感したのはクロノスだけではなかった。

「…何故、そう思う?」

「ちょっと! どうしてマトイやイオならともかく、私まで入ってるのよ!」

クーナだった。

「ん? 違うのか?」

首をかしげるクラリスクレイス。クーナは顔が真っ赤だ。

「まぁまぁ。」

苦笑しながらマトイはその場を宥めた。

「・・・ふぅ。全く、この人には恩があるだけ。ただそれだけよ。」

ため息をつきながら言ったクーナの言葉に、キョトンとしたクラリスクレイスはニッコリと笑った。

「なんだ! 一緒じゃないか。私だって、この人には恩がある。私を救ってくれた・・・恩が、ある。」

3代目クラリスクレイス。かつてはルーサーの傀儡として、その心を操られていた。

彼女はあの日のことを思い出す。

自らのクローンとして多数出現した「私」を見た。怖かった。

いっぱいの「私」。知らない事、教えてくれないクラリッサ。目の前が真っ暗になった。

『リズ!』

その時、光が見えた。一瞬だけ。でも力強く。だから私はそれに手を伸ばした。暖かく、そして心地よく。

その名で呼ぶのは一人しかいない。私の名前が長いからと、略して呼ぶのはたった一人。だから私は、呼んだ。

「助けて・・・オキ・・・。」

その人は私の命を救ってくれた。私を優しく包んでくれた。

その後も、自分もそのクローンの一人で、ただ性能がよくって選ばれた「一体」なのが「私」だと知って落ち込んでいたときも、助けてくれた。作られた私を「私」だと言ってくれた。

『クローン? 作られた存在? 知るかボケ。お前はおまえだ。おまえはお前だ!大事なことだから2度言ったぞ! お前は、俺のしっているクソ生意気で、ソレでいてバカで、それでもほっとけない。周りを笑顔にしようと必死に頑張っている、努力しているリズだ! 他のクローンがクラリスクレイスだろうと。俺がリズと呼ぶただ一人はお前だ! ヒューイもいったろ? あれはお前のそっくりさんだと。』

ヒューイと二人で笑いあうその姿をみて、悩んでいたのがなんだかバカらしくなっていた。

「私はオキにその恩を返さないといけない。ヒューイも言っていた。『貰った恩は、一生かけてでも返さないといけないな!』とな! 今がその時。私は、オキがいない此処を、オキが大好きなこの場所を必ず守る。帰ってきても変わってないように。」

オキを見ながら微笑むクラリスクレイス。ソレをクーナがじっと見つめた。

「あなた・・・変わったわね。」

「こいつのおかげだ!」

ニカっと笑うクラリスクレイス。

「そこまで大きな恩・・・ではないけど、俺も先輩にはいっぱいお世話になったからな。そういわれると、一緒なのかな?」

イオがボソリと呟いた。ソレを聞いたクラリスクレイスは顔を輝かせながらイオの肩を叩いた。

「そうだろそうだろ!」

「いい、痛いってば。」

イオはそういいながら以前起きたことを思い返す。

イオはアークスとなって日がまだ浅い。オキ達がアークスになってからそんなに離れていない時期になった為、実はオキ達とは殆ど変わりは無い。だが、オキ達は元々から持っていたセンスやフォトンを扱う技量が桁違いだった為に差の広がり方も桁違いだった。

そんなオキ達を『先輩』と慕い、その背中を追いかけるイオはアークス生り立ての頃にオキ達によって命を助けられたことがある。

惑星ナベリウス、凍土エリア。彼女はそこで遭難していた。力をつけたい。先輩達の小さな力でもいいから、なりたいと思い、ナビゲーターの人に無理を言って普段よりも奥地へと向かったのだが、運が悪く当日の天候は猛吹雪。挙句、通信機の故障によりイオは遭難した。何とか洞窟に逃げ込むも吹雪は何日も止む気配が無く、非常用の食料も底をつきかけた。イオは元々他人とのコミュニケーションはあまり取れないほうだ。

彼女を助けるべく、自分の命まではって助けに来るものはいないだろう。そう思いつつ孤独を感じたときだった。

「イオー! どこだー! へんじしろー!」

はじめは幻聴かと思った。だが、その幻聴は次第に大きくなる。イオは力を振り絞り、自分の持っている弓を精一杯の力で引き、PA『シャープボマー』を雪で埋まった入り口へと放った。

崩れた入り口からオキが現れ、イオの記憶はそこで途絶えている。

気が付いた頃には彼とその仲間達が乗るキャンプシップで帰宅途中だった。

「先輩・・・なんで俺なんかの為に・・・。」

オキは雪で真っ白けだった。普段はフォトンで守られる身体だが、ソレすらも意味が無くなる猛吹雪。下手をすればオキの命まで危うかった。ソレなのに、数度出会い、少しだけしゃべり、一回だけは一緒に食事もしただけだ。そんな自分を助けに来てくれた。その理由をイオは知りたかった。

「馬鹿。一緒に飯くったろ。だったらそれだけで守る必要のある仲間だという事だ。」

「その話、聞いたことがある。確か、かなりの吹雪だったって。」

マトイの言葉にクーナはコンソールを操作し始めた。

「えーっと? あった。これね。えーっとどれどれ? うわ・・・これ本当? この日の凍土エリアの風速、過去最大じゃない。アークスへの出撃も規制されてるし。」

呆れながらクーナがその情報を見た。

「オキは『大事な仲間がナベリウスで遭難したからちょっと行って来る』って。私とお話していたときだったから覚えてる」

マトイがその時のオキの言葉を真似て言った。イオはその言葉に顔を赤くした。

「だ、大事な仲間だなんて・・・。俺なんかが・・・。」

「その言葉通りだと思う。実際、ボクもそんな感じだった。」

クロノスが微笑みながらイオに言った。

「ワタクシもその時の事を覚えていてございます。何せ、帰ってこられたマスターの全身雪だらけときたら・・・。」

クスリとアオイが微笑む。

「にしても、ちょっといってくるって・・・。この環境にちょっと行ってこれる場所じゃないわね。・・・とはいえ、私の時もそんな感じだったかな。ハドレッドとの時も。」

クーナは少しだけ寂しそうな、それでも嬉しそうな顔でボソリと呟いた。そして次の瞬間にはクロノスを見て笑顔で質問を投げた。

「そういえば、クロちゃんはどうやってオキと出会ったの? そんなかんじだったーって今言ってたけど。」

「だからクロノスと呼んでほしい。ボクは……オキ達と二度戦った。」

「ええ!?」

「なんだと!?」

「フフ・・・。」

クロノスの言葉に驚くクーナとクラリスクレイス。マトイはクスリと微笑んだ。どうやら話を聞いているらしい。

「初めてオキに出会ったとき、ボクは何に対しても無関心だった。」

惑星リリーパ。採掘場跡地。当時は新たに見つかったエリアで、挙句その日は大量のダーカーが出現した異常な日だった。

偶然、調査依頼で来ていたクロノス。通信も殆ど繋がらない状態で、ようやく得た緊急の脱出ポータルへの情報を最後にその場へと向かっていた。

「はぁ、今日も全くついてない」

そうボヤキながらもクロノスは目の前に現れたダーカーを倒しつつ、地図を確認しながら進む。

その時に、地図しか目にいっていなかった為に建物の影から走ってきた一人の男に気づかなかった。

「うわっ!?」

「おっと!」

それがオキとの出会いだった。それぞれが持っている武器を互いに向け合う。状況が状況であったが為に仕方ないとはいえ、彼との出会いはソレだった。

オキとの出会いの後、半ば強引にオキの仲間を探す手伝いをすることに。はじめは全く乗る気じゃなかった。

だが、道中で彼が探しているという仲間を思う気持ちと、心配しつつも必ず大丈夫と言い切るほどの信頼。

クロノス自身とは正反対の性格と状況。彼と何が違うのか。クロノスは初めて興味がわいたのだ。

仲間を見つけ、共に戦った仲として感謝の言葉を言われ、礼をしたいといわれた。だから、お願いした。

「ボクとここで、戦って欲しい。」

「ええ? クロとオキって戦ったことあったの!?」

「聞いてないぞ!? そんな事!」

クーナとクラリスクレイスが大声を上げる。イオも驚いた顔をしていた。

「知らなくて当然。ボクがオキと戦ったことは本来、秘密だったから。」

アークス同士の戦闘は基本禁止されているようなものだ。めったなことが無い限り、アークス同士で戦うことは無い。クロノスはもう少しのところで自分の興味がわきそうなものに手が届きそうなのだ。

「分かった。」

ダメ元でお願いした事だったが、まさか了承されるとは思っていなかった。

「ちょっとオキさん!」

探していた仲間であるハヤマという男がオキに対して反感の意があるようだ。それもそうだろう。なにせ禁止行為をお願いしたのだから。だがその後に続いた言葉はクロノスの予想に反していた。

「セコい! 俺も戦いたいのに!」

クロノスは目を丸くした。さっきまで大量のダーカーと戦い、大型エネミーとも何度も戦ったその男はボロボロの状態だ。戦えるとは思えない。そんな彼が言った言葉は自分も戦ってみたいという言葉。

「ワシも戦ってみたいぞ。」

もう一人の丸いメガネにカテドラルスーツを着た少し中年風に見える男性もタバコを吸いながら手を上げた。

『なんなんだ、この人たちは…!?』

オキはその神父っぽい男ににこやかに言った。

「コマッチー・・・座ってろ。」

「はい。」

ショボンとした顔で正座する男。すこしだけクスリと笑ってしまった自分がいる。

「相変わらずの戦闘バカ共・・・。」

クーナは呆れた顔でオキを見た。クラリスクレイスはというと

「私もコイツとは戦ったぞ! どうだ? 強かったか? 私は負けてしまったが、半分の半分の、半分の半分の半分の力だったら、負けなかっただろうな!」

意気揚々と語っていた。彼女も戦技大会でオキと戦っている。ちなみに勝ったのはオキとハヤマだった。

「もう一人いたわね・・・バカ。」

「あ、あははは。」

クーナが肩を落とし、イオは笑うしか出来ない。

「あぁ、強かった。」

「あああぁぁぁ!」

「せやぁぁぁぁ!」

オキの武器と、クロノスの武器がぶつかり合い火花を散らした。

二人とも息を絶え絶えにしながら戦っている。ハヤマは時間を気にしていた。

そして・・・。

「ストップ! そこまで! これ以上は後が怖いよ!」

オキが提案したのは20分間だけ全力で戦う。それ以上は後からオペレーターに雷を落とされる危険があるからだ。

「はぁ・・・はぁ・・・。つよい・・・。」

「ちぃ・・・。どっちが・・・。」

その場に座り込んだクロノスと、その場に寝転んだオキ。

「どうだ。見つけたいもの。みつかりそうか?」

「ん?……少しだけ、見えた気がする。」

クロノスは結局それが何なのかを確証することが出来なかった。だが、彼との戦いのおかげで少しだけ、何かに興味が持てそうな気がした。今まで何に対しても無関心だった自分が、何かに興味を持った。それだけでも十分だった。

「それじゃ、ボクは行くとするよ。邪魔したね。」

「おい、どこに行くんだよ。」

立ち去ろうとしたクロノスはオキに呼び止められた。

振り向いたクロノスに対してオキは変な顔をしていた。

「どうした? クラバーダがクレイジースマッシュ食らったような顔して。」

クラバーダ。水棲ダーカーの一種。蟹のような姿をしている。

クレイジースマッシュ。ランチャーのPAでランチャーの重さ全てを乗せて思い切りランチャーを振り、相手を吹き飛ばす技だ。

「いや…ボクはキミと戦った。それなのに何故、ボクを引きとめる?」

「ああ、それで?」

オキはタバコに火をつけて吸い出した。

「迷惑をかけた。それでも…?」

「ソレがどうした。俺は楽しかった。」

微笑むオキ。

「ボクは・・・。」

「おいおい。そんなに俺たちに嫌われたいのか? 嫌って欲しいなら嫌いだから近寄らないでって言えばいいじゃねーか。別に俺はそれでも・・・。」

「違う!」

クロノスはオキの言葉を大きな声でさえぎった。その言葉にオキは黙り込む。

「…すまない。」

「いや? いいさ。そうじゃないならなぜ、立ち去ろうとした。その理由を教えてくれ。それとも大事な用事でもあったか? じゃ無いなら一緒に帰ろうぜ。せっかくだ。飯でもどうよ。おごるよ。いい店知ってんだ。」

にこやかに笑うオキ。その時クロノスは思った。

『この人についていけば。もしかしたら何かが分かるかもしれない。』

その後、キャンプシップでアークスシップに帰還したオキ達だったが、出入り口の真正面ににこやかに仁王立ちするコフィーさんに止められた。アークスシップでのクエストカウンターにて受付譲をしている彼女だが、アークス達のクエストの取りまとめをしている人でもある。

「おかえりなさい。オキさん・・・?」

「げっ・・・。お、おつかれさまっす。」

どうみても歓迎している雰囲気ではない。それもそうだろう。なにせ禁止されているアークス同士での戦闘を行ったのだから。

「何か言い分があれば聞きましょう・・・。なぜ、あの場所で戦闘行為をおこなったのかを。さすがの今回は許されませんよ。」

完全に青筋が出ている。この人たちはいつもこうなのだろうか。とはいえ、今回は自分が原因だ。この人たちが悪いわけじゃない。そう思いながらクロノスは事情を話そうとした。

「実は・・・。」

「・・・いやー。お恥ずかしながら誤ってとはいえ、この子の胸揉んじゃって・・・。」

オキが急に変なことを言い出した。その場にいた全員の目が点になった。

「はじめは男の子だとおもうじゃん? これだけすらっとしてんだ。見間違うさ。そんでもってちょっと事件があってねぇ。誤って胸揉んじゃったわけよ。服がだぼっとしてるから、見た目は分からなかったけど、思ったより柔らかかったから。そんでつい、『小さい』って連呼しちゃって。」

なははと笑い、コフィーはソレをみて呆れていた。ローブのような礼装を着る彼女は確かに身体のラインは服のせいで見えない。それでいて中性な顔立ちというのもあり、男性にも女性にも見える。

「・・・はぁ。今回は見逃します。次はありませんよ。」

ギロリとオキを睨んだコフィーはその場を去っていった。

「何故、ボクのことをかばった?」

「んー? まぁな。こうすりゃ、俺も必要以上に怒られずにすむ。ま、次は無いみたいだから二度と使えない手になっちまったが。」

「その後、皆でおいしい焼き鳥屋行っていっぱい食べたな。」

「楽しそうで何より。」

クーナは両手を広げて呆れている。

「その後は今の通り。ボクの数少ない落ち着ける場所を作ってくれた。ここは今ボクが在るべき場所。彼に出会わなければボクはずっと一人で過ごしていたに違いない。」

オキの顔を見るクロノス。

「…そう此処のマスター、オキに。彼らがあっちへ向かったとき、ボクは誓った。彼らが戻ってくるまで、此処を守りきるって。あの人が大事にするこの場所を。」

にこやかにしゃべるクロノス。その気持ちは皆一緒だった。

「オキには恩がある。私を助けてくれた。私を救ってくれた。その気持ち、良く分かるぞ!」

「俺も先輩にはお世話になりっぱなしだったからな。こういうときこそ、恩返ししなくちゃね。」

「この間も、名前だけだけど以前と同じようにハドレッドと暴れてくれた。あの子の元気な姿を見せてくれた。そして、最後まで一緒にいてくれた。この人には大きな恩がある。私も、全っっっ力でサポートするつもりだよ!」

クラリスクレイス、イオ、そしてクーナが頷きあった。

「オキ、皆一緒に頑張ってるよ。だから、安心して帰ってきてね。私も、アオイも、みんなも待ってるからね。」

マトイがニコリと微笑んでアオイと一緒にベッドに眠るオキの手を握った。

「マスター。いつでもお帰りをお待ちしておりますよ。無事に帰ってきた時には、いつもどおりの元気なお姿をお見せして頂きとうございます。」

「……通信か。ボクだが?」

通信の相手はコフィーさんだった。クロノスはなにかやな予感がした。

『クロノスさん! 同チームメンバーであるクサクさん、ユユキさんが惑星ナベリウスに降り立った瞬間に多数の巨大エネミーが出現しました! 大急ぎで駆けつけてください!』

「…不幸だ。」

クロノス。オキのチームメンバーが一人。彼女の特色『超がつくほど不幸属性』。

向かうところで数多の不幸が彼女を襲う。この後もベイゼ、ヴィスボルト、果てにはゲル・ブルフまで同時に出現する有様だったのは別のお話。




皆様ごきげんよう。
今回はアークスシップ内で待つメンバーを描きました。
マトイちゃんをはじめ、リズ(クラリスクレイス)やイオちゃん、クーちゃん(クーナ)はPSO2内のNPCで最も気に入っている女性NPCであるために好き勝手に書かせてもらいました。
サポパ、アオイのモデルはゲーム『まいてつ』より『ハチロク』です。
レトロな大和撫子な彼女はとても魅力的で大好きなんですよ。(操作キャラとして作成もしてます)
そんな彼女達と一緒にいたのは私のチームにいるクロノス。通称クロ。
彼女の不幸属性は本物です。実際に彼女と共にフィールドへ向かい、何度多数の不幸にあったことか。
ちまっと出てきたもう一人の新しい名前ユユキさんもチームメンバーの一人。この方も厄介な属性持ってるんですよこれが。
彼女の『ボス召喚能力』はかなりのもの。完全ランダムなはずなのに、彼女が向かうところほぼ全てでボスエネミーが道中に出現。通り抜けるだけでも少なくても2,3体。多ければ4,5体出てくるというものすごい人。偶然のように思えるかもしれませんが、実際そうだからしょうがない。おかげさまで彼女らと行くアドバンスクエは退屈しません。

では次回にまたお会いしましょう。


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第64話 「勇者の帰還」

90層から一気に上り詰めたオキ達はとうとう98層へ到達。エリアボスへと手を進めた。


90層以降を問題なく進み、アークスのメンバー達はプレイヤーの面々との交流を深め最上層へと進んだ。

オキ達は98層も難なくエリアボスまで到達し、その攻略を行った。

「よっし。98層クリアっと!」

「お疲れ様。皆。」

「おつー。」

「おつかれー。」

各メンバーがボス攻略後の労をねぎらっていた。

「後二つだな。」

「ああ。」

オキがタバコを吸いながらキリトに近づいた。

「長かったSAOもこれで終わりか。」

「まだ、アイツが残ってる。油断は出来ないよ。」

キリトに突っ込まれつつも、嬉しそうに笑うオキ。周囲のメンバーも頷いていた。

「あ、そうだ。はやまーん。たいちょー。ちょっといい? あー。アークスメンバー集まってくれ。」

「ん? なーにー?」

「どうかしたかい? オキ君。」

「お? どうした?」

「何かあったのかー?」

「んー? どうしたのー?」

オキがアークスメンバーを集め、端へと移動した。

「さぁ、上に行こう。次を突破すれば…ラストだ! クリアは目前だぞ!」

それに気づかず、ディアベルが掛け声をかけたときだった。

「次? ラスト? いや、君たちはここで終わりだ。」

ボスエリアの入口から声が聞こえてきた。全員がそれに振り向くとそこには、あの『アルベリヒ』が拍手をしながら立っていた。

「アルベリヒ…!」

キリト、ディアベル達が武器を構えアルベリヒに向く。

「いやいや…。良くも僕の研究を邪魔してくれたね。本当にまいったよ…。」

プレイヤー達を微笑みながらも睨みつけるアルベリヒ。

「荒らしてくれたあの実験結果。君たちにはあの研究の偉大さがわかっているのかい?」

キリトがその言葉に対して反論した。

「プレイヤーをさらって…人体実験を繰り返すなんて。それのどこが偉大なんだ!」

「やれやれ…。僕の世界的快挙がこんな低脳に妨害されていたなんて、まったく腹立たしい限りだ。」

その時にプレイヤーの後ろ側から声が響いた。

「世界的快挙? 低脳に妨害? っは! 低脳はどっちだボンクラが。」

オキだ。タバコを加えながらアルベリヒへと近づいた。

「イレギュラーズ…オキ。君のおかげで僕は…。」

「あ? ああ、あの腐った研究のデータがそんなに大事だったのか?」

オキが睨みつける。アルベリヒはニヤリと笑い、手を広げた。

「ああ。僕の研究データがどれほどに偉大か…。君たちにもわかるように説明してあげよう。」

「…ご教授願おうか?」

アルベリヒは人差し指を立てながらその場をぐるぐると歩き回りながら説明しだした。

「人は楽しいと思ったり、辛いと思ったり、いろんな感情があるだろう?」

「おう。」

オキはその場に座り込みタバコを吹かした。

「例えば戦争…戦争は怖いよねえ。どんなに訓練した英紙も、死を前にすると恐怖で思考が鈍ったり、動けなくなってしまう。」

「そうだなぁ。」

うんうんと頷いているオキ。

「では? 恐怖で塗りつぶされた兵士の感情を喜びで満たしてやると、どうなると思う?」

うーんと考えた後にオキが手を挙げた。

「喜ぶ。」

後ろからクスリと吹き出す。それを見てアルベリヒは苦そうな顔をしてゴホンと咳払いをし、話を続けた。

「おっほん! あー・・・。飛び交う銃弾の中に身をおくことを何よりの喜びと感じ、進んで危険な任務を果たすようになる。軍にとって、これほど使える兵士はないだろう。」

オキは腕を組み、んーと唸った。

「ふむ。つまり、お前の言っている研究とは、人の感情を操る…と、いうことか?」

「そんな!」

「ふざけるな!」

周囲から罵倒が飛び交う。

「どうかな? 僕の研究の偉大さに気がついたかい? 実際にそういった実用に向けて接触してきている国が複数あるんだ。しかし…。」

アルベリヒは頭を抱える仕草をした。

「向こう側では人体実験なんてそうそう行えるはずもなくてねぇ。研究が思うように進まずヤキモキしている時にちょうどいい環境を見つけたんだよ。」

オキが手をポンを叩く。

「なるほど。ここ、SAOの世界か。」

「そのとおり!」

アルベリヒはニヤリと笑った。

「ここで起きている事は外にいる人間、警察や国の人間には知りえない! 知ったところで、この世界のなかで起きた不幸は、全て茅場晶彦の責任となる。」

オキがうんうんと頷いた。

「なるほどなぁ。その上全員が脳を操作するための電子パルスを発生させるナーブギアをかぶっているときた。つまりこの世界はあんたにとって最高の研究実験場ということだな。」

アルベリヒは正解と言わんばかりにオキを指さした。

「そのとおり! だが…実のところこの世界に来てしまたのは事故でね。」

「事故?」

オキが首をかしげる。

「このゲームをほかのシステムをネットワークで接続させるテストを行っていたら、急に知らない場所に転送されてねぇ。」

「!」

オキの顔が少しだけ変わる。

「そこがニュースで騒がれているSAOの中と知った時にはさすがに焦ったよ。事故でもなければ、こんなわけのわからんデスゲームにだれが好き好んで入ってくるものか!」

アルベリヒは少しだけ怒鳴り散らした。そこにオキが手をあげる。

「はいはーい。一つ質問いいか?」

「どうぞ?」

アルベリヒは手を前にだし、オキの質問を許可した。

「ネットワーク接続やら、感情の実験やら、明らかにただのプレイヤーじゃないよな。あんた一体、何もんなんだ?」

フンとにやけたアルベリヒは静かに言った。

「僕かい? 僕はこのSAOの統括者だよ。」

「何を言っている。それは茅場のことだろ。」

キリトの言葉にアルベリヒは笑いだした。

「んっふふふふ。茅場なんて、この事件が始まった時から失踪中だよ。そして開発した『アーガス』は、既に解散。」

オキの目が少しだけ細まる。

「アー…ガス?」

「そう。そして我々レクト社のフルダイブ技術部門がこの世界の維持を請け負っている。」

「レクト!?」

アスナが驚いた。その言葉につられ、オキはアスナをみる。

「知っているのか?」

「え、ええ。だってレクトは…。」

「そう。レクト。君のお父さんが経営している会社だよねぇ。…明日菜。」

アスナの目が見開いた。

「ひょっとして…あなたは…須郷、伸之!?」

「な、なんだってー!? って誰だ?」

オキが大げさに驚き、アルベリヒ、いや須郷を見た。

「ようやく気がついたのかい?」

「知ってる人か?」

オキの言葉に、アスナが頷いた。

「え、ええ。何回かあったことがある。フルダイブ技術の権威ある研究者のひとりで、茅場晶彦に次ぐ実力を持っているとか…。」

須郷はアスナの言葉に目を細めた。

「まったく…。茅場晶彦に次ぐ…か。」

須郷は少しだけため息を付いて言葉を続けた。

「たしかに今までに幾度も茅場と僕は、技術研究において比べられることがあった。その度に奴は、僕の一歩先を行っていた。だけど…それももう終わりだ。茅場は失踪。今も生きているかわからない。気づき上げた名誉も今回の事件で完全に失った。今や、フルダイブ技術者で僕の右に出るものはいないんだよ!」

「ほほう。それはすごい。」

オキはパチパチと手を鳴らした。

「さらに! 僕は茅場の作ったこの世界を支配し、名実ともにやつの上に立つんだ!」

「この世界を支配するって、一体どういうこと!?」

キリトがその答えを導き出した。

「…こいつが、開発側の人間であること。そして今まで起きた不可解な出来事、そられの事から考えられるのは、おそらく普通のプレイヤーでは持つことのできない特殊な権限を持っているんだ。」

「ふふふふふ。その通りだよ、キリト君。」

須郷は笑いながら、説明しだした。

「スーパーアカウントと呼ばれるものでね。開発者のみが使用できるアカウントなんだよ。事故でこの世界に引きずり込まれたものの、スーパーアカウントがそのまま継承されたのは幸運だった。」

「そうか。犯罪防止コードが発生しなかったことや、人を強制的に転移させるアイテムを持っていたのも…。」

「ああ。コイツのいうスーパーアカウントがあったからこそできた事だろう。」

アスナとキリトが須郷を睨んだ。

「なるほど。上級の装備、そして腕の割には妙に高いステータスもこれで納得がいった。」

オキがタバコを結晶化させ消した。

「これだけのステータスがあれば、このゲームを終わらせることも余裕だろ? この世界にいるプレイヤーたちで一通り実験を済ませたら、僕自身がこのゲームを終わらせる。自らデスゲームに飛び込み、人々を救った英雄として、さらに僕は注目されることとなるだろう。」

「なるほど。攻略組に近づいたのも、それが理由か?」

キリトが睨んだまま須郷に言った。

「そうとも。その中に明日菜がいたのを知ったのは驚いたけどね。」

「お前は英雄になることはない。向こうに戻ったら警察に全て話す。」

須郷はニヤリと笑った。

「それは無理な話だよ。なぜなら、君たちはここで死んでしまうのだからね。」

「ステータスが高いくらいで、俺たち攻略組に勝てると思っているのか?」

笑うのをこらえている須郷はキリトを見た。

「君も…つくづくバカだねぇ。出来ると思っているから、こうして君たちの前に現れたんじゃないか。さぁ、攻略組のみなさんにプレゼントだ。受け取ってくれたまえ!」

須郷が手元に出したコンソールを操作し始め、その直後に周囲のメンバーに異変が起きた。

「きゃあ!」

「う! っぐ!? こ、これは…!?」

キリトたち、プレイヤー全員の体が動かない。

「なんだ…これ…!」

「体が…動かない…!」

ざわつくプレイヤーたち。オキも固まって動かない。

「…。」

「あっはははははは! やぁ、スーパーアカウントを使って全員に麻痺属性を与えたんだ! しばらくの間、君たちはその場から動くことはできない! どうだい? これがこの世界の支配者のちからだよ。」

「くそ!」

「キリト…君!」

キリトはアスナを、アスナはキリトに手を伸ばし助け合おうとするも体が思うように動かない。

須郷はゆっくりとキリトとアスナへ近づいた。

「ああ、そうそう。…明日菜。君は殺したりしないから安心してくれ。まぁ実験が終わるまでは、どこかに閉じ込めておくことになるけどねぇ。現実の世界では、君が眠り続けている間に、僕ときみとが結婚するように話が進んでいる。結婚が成立すれば君のお父さんのレクト社は僕のものになる。」

「な…なにを言っているの…?」

アスナが睨みつけた。

「もちろん、そんなことになったら、君は拒絶するだろう。でも、僕の研究が完成して君の感情を操ることができれば、拒絶どころか喜んで僕を受け入れてくれるだろう。」

「…!?」

嬉しそうに須郷は笑った。

「ひっひっひ! 心も身体も僕のものというわけだよ。」

「き…さま…!」

キリトがもがく。

「さて、長話もここまでだ。君たちの最後の相手は、こいつらにやってもらうとしよう。」

須郷はコンソールを操作し、直後に指を鳴らした。

その場に入口から十数名の男たちが走って入ってきた。

「こ…いつらは…!」

「血盟…騎士団…!?」

「ん? こいつらはボクの事を英雄と証言してもらう大事なお客さんだ。たしか、元ラフコフといったか? 夢を摘み取られたから仕返しがしたいってねぇ。」

「ラフコフ…!?」

「ア、アルベリヒさん…本当に…いんですね?」

「や…やったぜ…ヤリ放題…だ。」

彼らはなにやら相当興奮している。様子がおかしい。

「まぁ、その代わりというか、報酬というか。せっかくだから、攻略組の女どもを好きにしたいって言うからね。僕は興味ないし? 好きにやらせるつもりだよ。そしてそのあとでゆっくりと男どもを殺すつもりらしい。」

「「「!?」」」

女性陣が怯える。『好きにさせる』その言葉通りなのだろう。

「くそ…!」

「ああ…キリト君。君だけはボクが殺してあげよう。君は明日菜と結婚しているってねぇ。それはだれが許したのかな? それはいけない。だから…罰を与えるとするよ。」

「な…! や、やめて…!」

アスナが叫ぶも須郷は見向きもせず、懐から短剣をだした。刃が電型に曲がった不思議な剣だ。

「こいつは、最奥の特殊クエストで手に入るという、このゲーム最強の武器だ。どんな相手でも、一刺しすればHPを0にするという。…だが、それは面白くない。キリトくんには少し、苦しんでもらわないとねぇ!」

そう言って腰についた片手剣をキリトの足に突き刺した。

「ぐぅぅ!」

「さぁ…カウント…ダウンだ。」

須郷がコンソールをいじりだす。するとキリトの足に激痛が走った。

「がぁぁぁぁ!」

「あはははは! どうだい! 今ここはペインアブソーバを7まで下げた! 普段感じることのない痛みを感じているだろう? 久しい感覚だろう? これでもリアルの半分以下だ。さぁ、少しずつ下げていくよ?」

ゆっくりと須郷がコンソールをいじる。それにつられ、キリトの痛みはましていった。

「ああああああ!」

そしてそれを見ていた元ラフコフメンバーもゆっくりと動いていった。

「ペインアブソーバ。普段感じることのない、痛みや感覚をリアルに近づけている。そんな状態で? もし彼らの言う『好きにされたら』どうなるか。楽しみだねぇ。あっひゃっひゃっひゃ!」

なんとか女性陣を守ろうと男たちはもがく。女性陣は逃げようともがく。だが、逃げられない。

「わかったかい? これが、このゲームの・・・この世界の支配者の力というものだ。君たちは長い時間をかけて必死にレベルを上げたんだろうけど、スーパーアカウントの前には無力だったねえ。どんなに作りこまれていても、所詮この世界は、ただのデータの集まりだ。どれだけ時間をかけようが、犠牲を払おうが、管理者…つまり神には、どうあがいても叶うはずがないんだよ! アハハハハハ!」

「イヒヒ・・・ヒヒヒ・・・。」

「ゆ、ゆめのようだぁ・・・。」

「お、おれ・・・おれ・・・。」

須郷はキリトの苦しむ姿をみて高笑いし、元ラフコフの男たちは血走った目で女性陣へと近づいていた。

「こ・・・こないで・・・!」

「く・・・くるなぁ・・・。」

麻痺した体は動かず、もがこうにも何も出来ない。ディアベル達も何とかしようとするが何も出来ない。

「さて・・・そろそろ仕上げと行こうか! 地獄に落ちろぉぉぉ!」

キリトは最後まであがこうとした。だが、相変わらず体の自由は利かない。振り下ろされる短剣を睨みつけるキリトは見た。

須郷の後ろに立つ男の姿を。

「おう。一人だけ楽しんでんじゃねーよ。おら。」

低く、ソレでいて響く声が須郷の背中側から聞こえたと思った瞬間、須郷は前のめりにこけた。

「うあぁ!? な、なんだ!?」

須郷が後ろを振り向くと、先ほどまで座り、麻痺属性を与えたはずの男が立っていたのだ。その男が足の裏で蹴ったのだ。

「ぐぁ!?」

「ぎゃ!?」

「な、なに!? っが!?」

周囲のラフコフメンバーも吹き飛んだ。背中から蹴られたり、殴られたりしたからだ。では、ソレをやった相手は?

「・・・また、また邪魔をするのか! 貴様ぁ!」

「邪魔? 邪魔をしているのは貴様だ。ばーたれが。こちらとさっさと攻略して帰りたいんだよ。まぁ、一応用事あったし? 手間ぁはぶけたと考えればいっか。いろいろ謎、解けたし。全く、無理やりこちらに干渉してきたのはアンタだったとは。おかげで全員死ぬところだったぞ。クソ。シャオ遅すぎんだよ。間に合ってよかったぜ。・・・あと、そこの長髪のおっさん!」

須郷が睨みつけている男。麻痺を付与されたはずの男、オキだ。周囲には今までいなかったアークスのメンバーがラフコフの残党を掃討していた。オキは、アインスに殴られ倒れているラフコフの残党の一人に近づいた。シリカやハシーシュに手をかけようとした男だ。

「ううう・・・な、何を・・・!?」

「てめぇ。誰に断って人のモンに手ぇ出そうとしてんだ。あぁ!?」

オキが男の横腹を思い切り蹴り上げた。

「がは!?」

「くそが。シリカ、ハシーシュ。フィリアも大丈夫か?」

倒れているシリカ達に近寄り、解除結晶で3人の状態異常を解除するオキ。

「なぜだ・・・なぜ動ける・・・。貴様は、何者だ!」

須郷がオキへと怒鳴りつける。そして、立ち上がり持っていた短剣をオキへと向け、振り上げたまま走って近づき、おもいきり振り下ろした。

「オキさん!」

「オキ・・・!」

「後ろ!」

シリカ達が走ってくる須郷の姿をみて叫んだ。オキはすぐさま槍を横向きにして、その短剣を防いだ。

ギィィン!

「ふふふ・・・ははは! この剣は特殊だといったはずだ! 一撃で倒せるだけではなく、武器も破壊するステータスがついている! 貴様の持っている武器も破壊され! その直後に貴様の体に・・・!」

「刺さるわけねーだろバーカ。」

オキの体に、短剣を防いでいる槍にノイズが走った。

「!?」

その場にいた全員が見た。オキ以外にも、アークスの面々にノイズが走るのを。

そして、服装が、武器が、変化するのを見た。

「な・・・なんだ・・・それは・・・!?」

オキの槍は二つに別れ、対となる二本の武器となった。巨大な羽を広げ、先端には光り輝き鋭く尖ったクリスタルの嘴。まるで鳥の姿をした武器がオキの手にあった。

「吹き荒れろ・・・エルデトロス。」

オキはニヤリと笑い、武器の名前を呟いた。その直後に風が須郷を吹き飛ばした。

「うあぁぁぁ!?」

ドサ!

煌びやかに光り輝くオキの2対の武器。ハヤマ、コマチを初めアークス全員が同じように普段とは違う武器を手にしていた。

「俺達が誰かって? ・・・俺達は、アークスだ!」

「がはっ! く・・・くそぉ・・・。何だよ・・・なんなんだよ! なぜだ! なぜ私の権限が効かない!」

コンソール画面を何度も何度も押している須郷。だが、オキ達には何も起きない。

「効くはずねーだろ。ボンクラが。今現時点で俺達アークスはシステムの干渉外となった。フォトンによってここに実現する『アークス』となった。ま、多少のズルはしてくるだろうなぁと思ってが、まさかゲームマスター権限を持ってくるとはね。そうなるとこちらもなりふり構っていられなくなるわ。さすがにこちらも出し惜しみ無しでいかせてもらうよ。とはいえ、少しだけ時間かかったみたいだな。さすがに全員をアークス限定解除させるには。そろそろ来るだろうなぁって予感したからうちのメンバーを柱の影に隠れさせておいた。元ラフコフメンバーも掃討できるとはな。思いもしなかったよ。」

オキは『エルデトロス』を須郷へと向けた。

オキを初め、アークスの面々はシャオにより短時間、フォトンの力を使用可能に。さらに、アークスとして活動しているときの相棒、自分の分身でもある愛武器をもそっくりそのままアインクラッドへ出現させた。

ワイヤードランス『エルデトロス』。オキやハヤマが初めてアインスに出会ったとき、一緒にニャウによって呼び出されてしまったガル・グリフォンの突然変異体『グリフォン・ゲルス』。その素材を使って作られ、更にオラクル船団の武器職人『ジグ』によってオキ専用に調整された一本だ。

「それとな・・・お前さんが持っているその懐の物。そいつを消す為に必要なんだよ。フォトンは。どこで手に入れたかも含め、それを渡せ!」

「・・・なんのことだ。」

須郷の顔がピクリと動く。

「嘘が下手だな。俺達がその存在に気づかないと思っているのか? 貴様のような一般人が扱える代物じゃない! 渡してもらおう。その『ダーカー因子』を!」

「私が・・・一般人だと? 私は! 神に選ばれた存在だぞ!」

須郷は怒鳴りつけ、懐から小さな小瓶を出した。ゲームデータによってアイテムのように見えるその小瓶と中身だが、オキ達はそれがダーカー因子であり、今まで戦ってきたただの侵食因子でないことを確信した。

「アレは・・・ハヤマ! コマチ! アレを奪え!」

「あいさー!」

「おうよ。」

2人が須郷へと走り、それぞれの相棒を手に走る。

「渡さない・・・私は・・・神となる存在だ!」

須郷が小瓶ごと自分の体に押し当て、『ソレ』を埋め込んだ。

「くそ・・・!」

「間に合うか!?」

ハヤマ、コマチが更に体を加速させ武器を須郷へと向けた。『ソレ』だけは外に出してはならない。だから2人は須郷の体ごと『ソレ』を消滅させる気でいた。だが・・・。

「本当はこんなことしたくないのだが・・・仕方が無い。」

須郷の体から赤黒いオーラが出だし、彼の体を同じく赤黒い渦が取り巻いた。

「・・・! 戻れ! ハヤマ、こまっちー!」

オキの言葉と同時に体をひねり、Uターンした2人。直後、2人が走りたどり着いたであろう場所に渦の中から金色の巨大な剣が振り下ろされた。

ガン!

「サラ・・・プレイヤー達を全員退避させろ。出来るだけ、遠くに。」

未だ黒い渦を纏っている須郷を見ながらオキはサラへと指示をした。サラはコクリと頷き、アインス、シンキ達から麻痺から解除されたプレイヤー達を率いて出来るだけボスエリアノ隅へと移動した。シリカ達が心配そうにこちらを見たが、平気だと見せる為に手を振ったオキ。

「さぁて。まぁコイツがいるだろうなと思ったけど、こういうシチュで対面するのは考えてなかったな。」

「なんにせよぶった切るだけだ。」

オキと隊長が横並びになり、その後ろに4人のアークスが並ぶ。

黒い渦が次第に無くなり、その中からオキ達には因縁深い相手の姿が現れた。

「本来ならラスボスとして登場する予定だったらしいが・・・君達にはこれが最後となるだろう。私は・・・我は・・・選ばれたものなり! 我は! 全知全能の神となる!」

巨大な姿で現れたソレは金色の煌びやかな羽と王冠。そして顔は鳥のように見える。

アークス達が倒したはずの『ダークファルス』。その名、【敗者】(ルーサー)。

SAO、アインクラッドにてオキ達の前に再び降臨した。

 




皆様ごきげんよう。
本来なら各アークスメンバーを主体にした番外編を先にやってから、本編へと移るつもりでしたが時間が無くて元々ある程度書いていた今回の話を先に書かせてもらいました。
前から出てきたアルベリヒ=妖精王オベイロン=須郷。彼ほど気持ち悪いといわれる人も少ないでしょう。
アークスの前に立ちはだかり、そしてどこから手に入れたのか分からない『ダーカー因子』。しかも『ダークファルス』に変貌するほどのモノを使用して【敗者】へとなる。
彼の言った『選ばれた』とは。そしてどこからダーカー因子を手に入れたのか。
クライマックスは近いです。(まだSAO編は続きますが)

さて、来週からまた忙しくなりそうです・・・。困ったなぁ。
なので来週もお休みするかも。もし書けていたら上げておきます。
では次回にまたお会いしましょう。


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第65話 「現れる偽りの覇者【敗者】」

98層攻略後に現れた須郷と名乗る男。須郷はオキたちの目の前で【敗者】へと変貌した。オキ達はアークスとしてその前に立った。


「ヒョオオオオオオオオ!」

【敗者】(ルーサー)となった須郷は甲高い鳴き声を発し、直後に周囲のフィールドが変わった。

オキにとって、そこは懐かしの場所であり、【敗者】を追って何度も決戦を挑んだ場所。そしてなにより、『あの人』の場所。

「っへ。懐かしい場所だなおい。」

「そうだね・・・。」

オキとハヤマは互いの相棒を【敗者】へと向け、構える。そして思い返すあの光景とその言葉。

『・・・最後は・・・寂しくなかったぞ。』

確かに聞こえた最後の言葉。『原初の星、シオン』。宇宙の全てを知る彼女の最後の言葉。

それを聞いたこの場所はオキにとっては忘れられない場所。そして、再び目の前に現れた『シオン』を取り込もうとした張本人。

「アイツじゃないにしても、その姿を見ちまったら倒すしかないべ。」

その場にいたアークス全員が頷いた。

原初の星『シオン』がいた旧マザーシップ最深部。オレンジ色に光り輝く周囲。うっすらと緑色に輝く地面と水。

対【敗者】戦が再び開始された。

『ッフ!』

【敗者】の持っている巨大な金色の大剣が振り下ろされる。アークス達はそれを軽々と避けた。

「にしてもどうやって倒すよ。ミラージュないべ。」

「…オキ君、よく見たまえ。」

アインスが顎で【敗者】の腹を示した。

本来ならば、【敗者】の腹部には巨大な時計のような装甲があり、時を刻んでいる。

その奥に【敗者】のコアが隠されているのだが、容易に破壊することはできない。

そのため、【敗者】に有効な属性、風の力を宿した『ミラージュ』と呼ばれる状態異常を【敗者】へとぶつける必要があった。

ミラージュにかかった【敗者】は腹部の時計を剥がし、一時的に行動不能となることがあった。そこへアークス達が攻撃をぶつけ、完全に装甲を壊し、弱点部位であるコアを露出させる。これが何度か奴と戦った時に導いた戦術であり、被害を最小限に抑える有効な戦い順序だった。

だが…その時計が、なかった。

「時計がない…だと?」

『イレギュラー風情が!』

こちらの驚きを気にせずに【敗者】はその巨大な嘴から大きな黒い弾を飛ばしてきた。

目を見開き、全員でそれを避けた後、皆はゆっくりと頷きにっこり笑った。

「獲物だヒャッホー!」

 

 

 

シュイン

アークスシップ、病室。オキが眠る病室にチーム『ペルソナ』のメンバーが揃っていた。最後の到着したのはクロだ。

「遅くなった。【敗者】だって?」

クライアントオーダー中に、クサクからの連絡。その内容は『SAO内に【敗者】が現れた』という内容だった。

クロは急遽引き返し、オキの病室へと集まったのだ。

「うん。しかもダーカー因子もったね。」

クサクが現状を説明してくれた。

「なるほど。そういうことか。とはいえ…。」

「問題ないかなー。いくら相手があの【敗者】とはいえ、何度か戦った相手な上に、最初からコアでっぱなしー。」

ニッコニコしながらユユキが答えた。そうなるとどうなるか。答えは決まっている。

「心配して損した。」

負けるはずがない。この人たちが、劣化版なんかに。更に自分の相棒を手にしてフォトンを使っている。心配しておおいそぎで帰ってきた自分がばかに思えてきたクロだった。

「でも、この人なら…リーダーならいうかな。万が一に備えておけ。って。」

クロの言葉に、チームメンバー達が頷きあった。もしオキ達に何かあった場合。万が一にも予想不可能な事が起きた場合、その意思を継ぐのは自分たちだと。彼女たちはすぐに動けるように、このあとの動きを頭の中で思い描いていた。

それと同時に、そんな事が起きないように願いながら。

 

 

『見苦しい!』

多数の小さな剣のようなものをオキたちに飛ばしてきた。

 

キキキキン

 

「よっほっ!」

アインスがそれを切り落とし、オキは空中で縦回転しながらワイヤーを振り回した。

「アダプトかーらーの! カレントォ!」

【敗者】の巨大なコアにエルデトロスが突き刺さり強力な電撃を与える。

「うふふふ。」

その後ろからシンキが脚につけた武器『ズィレンハイト』によって素早く近寄り、多数のケリを放つ。

「おらおらおら!」

「動きが止まってるぜ!」

ハヤマ、コマチもそれに続き、攻撃を仕掛ける。

 

コーン・・・

 

空間一体が赤い光に染まった。それと同時に【敗者】が遠くに逃げた、

『あまり煩わせるな、面倒だ。』

「加速か。」

オキがじっと相手の動きを見つめた。

『壊れた玩具には用はない!』

次の瞬間、オキたちの頭上に【敗者】が現れた。

「突きさしか!」

オキらがそれを察知し、横へと飛び退いた瞬間と、【敗者】が高速で上空から剣を突き刺してきたのはほぼ同時だった。

 

 

 

「…すげぇ。」

「あれが…アークスの動き。」

【敗者】の作った固有空間かの外側からオキたちの戦う姿を見ていたキリトらプレイヤーたち。本来の力を手にし、実際に敵対する強大な化物と戦うアークス達をみて呆然としていた。

「オキさん…。」

シリカも心配そうにそれを見つめる。すぐ近くにいるハシーシュやフィリアも一緒だ。

「心配しなくていいわよ。あなたたち。」

振り向くとその声の主がゆっくりと歩いて近づいてきた。サラだ。

「サラさん…。」

「あいつらがあんなのに負けるはずないわ。ましてや偽物なんかに。」

「偽物…。でも、あの【敗者】ってのと実際に戦ったんですよね? 生身で…。」

フィリアが心配そうな顔でオキ達を見た。

【敗者】が巨大な剣を斬り払い、それをオキたちがジャンプで避けたり、武器で受け止めているところだった。

「ええ。私も戦ったわ。今思い出すだけでも…あの時の震えは忘れない。」

サラの体は少し震えていた。

「サラ…さん?」

ハシーシュが近づく。サラの後ろからクラインがそっと肩をさすった。

「大丈夫…。もう2年以上も経つのに、思い出しただけでこのざまよ。でも…。あの人たちは笑いながら戦ってる。」

オキ達をみると、【敗者】は巨大な剣を振り下ろしていた。それを回避し、ガラ空きとなったコアへと攻撃を繰り出している。

「あの人たちは負けない。だって、あの【敗者】を…倒した人たちなんだから…。今回も絶対に負けない。大丈夫。」

サラの言葉は、まるで自分に言い聞かせているようにシリカ達には聞こえた。

 




みなさまごきげんよう。
いろいろ不幸事や事情により2週間と間を開けた挙句、この短さでごめんなさい。
とりあえず【敗者】戦の半分を描きました。
【敗者】と書くたびに【歯医者】となるのは困ったもんです。
そろそろSAO編もクライマックス。…がその前にいろいろやりたいことをやりたいと思います。SAO編が終わったあとのことも既に決まっております。
今後共よろしくお願いいたします。


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第66話 「間違えた道」

あちこちから心配な目で見られつつ【敗者】(偽)と戦うオキ達。

「だあぁりゃ!」

コマチのゴッドハンドから強烈なバックハンドスマッシュが放たれた。

それを受けた【敗者】(偽)はその場から転移し、フィールド遠くへと離れた。

 

コーン…

 

何か鐘を鳴らしたような音が同時に響く。

『深淵と崩壊の先に、全知へ至る道がある!』

「時止めか!」

オキ達は次に来る攻撃を受ける体勢に入る。更に、その後に攻撃を集中させる間合いも計算した。

【敗者】はオキたちがいる円状のフィールド上に4本の巨大な剣を出現させる。

『我が名は【敗者】。全知そのものだ。』

 

ゴーン…!

 

先程の鐘の音より低く大きな音が鳴る。同時に【敗者】を基軸として周囲一帯の『時』が止まった。

 

…はずだった。

 

「そんなもん喰らうかよ。」

「隊長、そっちお願い。」

「任されよう。」

オキ達は【敗者】の『時を止める力』を以前に何度か受けている。そのため、その力すらも受け流し時が止まっている概念に抗う術を会得済みである。

 

 

フィールド外から見ていたプレイヤー達は皆、目を見開いた。

「いま・・・何が起きた・・・?」

「キリトも気づいたか?」

「ああ・・・。オキ達の動きが一瞬おかしかった。」

キリトやディアベル達はその不思議な動きを確認し合った。

タケヤやレンたちも一緒だった。

「いま、一瞬で別の場所に移動したよな?」

「うん。一体何が・・・。」

皆が見たのはオキ達が一瞬で別の場所へと移動していた現象。

それもその筈。【敗者】の放った『時を止める力』。オキたちがその力を受け流し、動き回っている間はキリト達は見えていないのだ。

 

 

【敗者】が時を止めた直後にだした巨大な剣をオキ達は2本壊した。後方にまだ2本残っているが、問題にならないのでそのまま放置である。

【敗者】の言葉の直後に巨大な剣から力が解き放たれ、周囲に強力な攻撃が放たれる。

更に巨大な剣も細分化し、フィールドへと降り注いだ。

だが、オキたちのいるところには剣はなく、降り注ぐものは無い。迎えるはオキたちへと向かってくる【敗者】。

「さぁて…一丁やりますか。」

「いくぜフルボッコ!」

オキとハヤマの合図と同時にオキたちの前に現れた【敗者】のコアを全力で攻撃するアークス。

『さて…片付けの時間だな。』

フィールドが青色に染まる。先程までは加速する時間だった。こんどは遅延する。

【敗者】の動きが極端に遅くなる。遅くなる代わりに振り下ろされる力は倍増する。

『解は無駄に収束しているぞ。』

【敗者】は巨大な剣を両腕で振り下ろし、振り下ろされた場所、【敗者】に近いところの地面から衝撃波が飛び出してくる。

だが、オキ達はギリギリまで【敗者】に近づき、その攻撃を避けコアへの攻撃を止めない。

「ふん。」

アインスのカザンナデシコがコアへと振り下ろされる。その直後だ。

『今こそ! 全知を掴むとき!』

再度、時をとめてくるつもりだ。

「もうかよ!」

「やわいのだー。よわいのだー!」

予想以上にダメージが入っていると見るオキ達は再び来る時止めを受け流す。

「消化不良ねぇ。最後の【敗者】の時みたいに何本もほしいわ。」

空中を自由自在に飛び回り、ジェットブーツで巨大な剣を蹴り壊すシンキ。

オキが戦った【敗者】の最終決戦時、【敗者】は最後の力を振り絞り、普段出している何倍もの力をだし、オキ達を苦しめた。

だがこの偽物は今まで何度か戦った【敗者】よりも弱い。

消化不良というのも頷ける。

『我が名は【敗者】。全知そのものだ。』

巨大な剣から降り注ぐ様子を後ろ目でみて、近づいてくる【敗者】に向かってエルデトロスを構え直す。

「さぁ、片付けようぜ。」

「だーな。」

「うむ。久々に…使わせてもらう。」

「にゃにゃにゃー!」

「テクニックが使えないのが残念だけど…蹴り倒してあげる。」

「だぁりゃ!」

後ろへとアダプトスピンで回転しながら下がり、カレントを差し込むオキ。

カタバコンバットを起動し、おもいおもいのPAを放ち、力を蓄えるハヤマ、アインス。

近づいてくる【敗者】へ距離を計算し、誰よりも早くブラッディサラバンドを放ち、オウルケストラーで追撃を行うミケ。

力を貯めた後におもいきり拳を振り上げ、スライドアッパーからサプライズナックル、そしてトドメのバックハンドスマッシュを決めるコマチ。

おなじく空中で力を貯めていたシンキはその力を一蹴りに乗せ限界を超えた蹴撃ヴィントジーカーを放った。

全てのPAが放たれた後、しめるようにハヤマ、アインスのコンバットフィニッシュが【敗者】へと襲いかかる。そして、それが止めとなった。

 

『ばかな…どこだ。どこで間違えた…。』

 

空洞となっているフィールド下へと落ち、光輝きその力を発散させる【敗者】。

「ばーか。どこで間違えた? 俺たちと対峙した時点で、負け確定なんだよ。」

偽の【敗者】戦。全く問題なくアークス達によって終了する。

 

 

フィールドがゆっくり戻っていき、元の状態であった98層のボス部屋へと姿を戻した。

「がはっ!? ばかな…なぜだ。この力があれば…全てを手に入れることが…できるんじゃないのか!?」

床へと這いつくばり、弱々しくなっている須郷。

「どっかの誰かさんにそそのかされたのか…何を言われたのかしらんが。俺たちに力で勝とうなんざ、何万年もはえーよ。」

オキがつかつかと近づいていく。

「この…イレギュラーが…。」

体全体に力が入らないらしく、立ち上がるどころか体を起こすことすらできない須郷。そのすぐ真横にオキは立った。

「まだダーカー因子が体に残っている。いくらゲーム内とはいえ、その影響は計り知れない。こちらで消滅させてもらうよ。」

オキがワイヤーを構える。それを須郷は見た。

 

ゾクリ

 

「なにを…。」

須郷の背筋に悪寒が走る。その目、その表情。オキから放たれるその力を全身で感じたのだ。

「本来ならフォトンで吸い出すのだが、この世界だとうまくいかん。強硬手段でイカせてもらうよ。それに…あんたはそれ相応の事をしたんだ。報いは受けてもらう。」

オキのエルデトロスから放たれる風が強くなる。

「吹き荒れろ。【雷獣爪(ライジュウソウ)】エルデトロス!」

オキ専用に調整された特別なエルデトロスの一本。オキの身体に合わせたエルデトロスは彼にしか扱えない。アークスのトップであり、最大戦力である六芒均衡の扱う『創世器』よりも断然劣るが、それでも一般アークスが扱う武器よりも上である。そんな彼らの武器にはその武器に似合った「名」が一つ追加されている。それがオキの【雷獣爪】である。

エルデトロスで須郷を掴み、引っ張ると同時に蹴りを須郷へと放つ。直後、須郷の体を掴み、空中へ飛び上がったあと、地面へと叩きつけた。

グラップルチャージからヘブンリーフォールをかましたのだ。

「…っ!?!?」

あまりの衝撃と激痛に声もでない須郷。そう。須郷はペインアブソーバを戻していない。自分で落として、そのまま【敗者】へとなってしまったので戻し忘れているのだ。

そのままHPが0になってしまえばまだ彼は幸せだったのかもしれない。だがそれも虚しく、彼が持っている『スーパーアカウント』のせいでHPは0にならない。なる前に自動回復してしまうのだ。そのためにオキからの攻撃は、そしてそのあとに喰らうアークスからのPA、『フォトンアーツ』のダメージを受け続けなければならない。

「ほい。ハヤマん。よろしくぅ!」

「あいよ!」

アザースピンで飛ばされた須郷をグレンテッセンで追いかける。追い越した直後に横一閃を須郷へと放つ。

「朽ち果てろ…【四天偽刀(シテンギトウ)】アギト!」

四天と呼ばれる伝説のカタナ。その中のオロチアギトを元に作られたレプリカであるうちの一本。それがハヤマのアギトだ。錆びている刀身にも関わらずそこから放たれる剣戟は鋭い。

「ーーーっ!」

一閃直後にカンランキキョウで空中に浮かし、ジャンプ。振り下ろしから一気に振り上げるゲッカザクロ。

「ミケっちー!」

ゲッカで打ち上げられた須郷は空中に待機していたミケによって更にうかされる。

「【奇術双剣(キジュツソウケン)】トリックスター!」

ミケのツインダガーはミケオリジナルの武器だ。どこから持ってきたのか、いつから持っていたのかは本人ぞ知る。不思議なことにミケの短剣はミケが着るフード付きのマントから何本も出てくる時もある。

「にゃーにゃ!」

レイジングワルツから打ち上げられ、ダークスケルツォで引き寄せられ、ファセットフォリアで目にもとどまらぬ速さで切り刻まれる。

「…!」

もはや意識があるのかどうかも怪しい須郷。だが、悲しきかな。スーパーアカウントはHPを0にしない。強烈な痛みだけがかれを襲い続けていた。

「こまちー!」

シンフィニックドライブで蹴り落とされた須郷を待ち構えていたのは力を貯めた拳。

「うきあがれぇぇぇ!」

コマチの構えるナックルから力を溜め込んだスライドアッパーが放たれた。

落下スピードと打ち上げられる力が反発し、須郷の体は変に曲がる。

「だぁぁぁ!」

さらに拳を振り上げ、打ち上げられた須郷の上空から巨大な拳が落とされる。

「メテオフィスト。…しかも大当たりってなぁ。」

落ちてきた須郷は地面へと落下、バウンドしコマチの目の高さまで浮き上がる。

「打ぅぅちぃぃ砕けぇぇぇ!【金剛神拳(コンゴウシンケン)】ゴッドハンドォォ!!」

全身の力を込め、一撃必倒の裏拳を対象に叩き込む。ナックル最大のPA、バックハンドスマッシュが放たれた先にあった須郷の顔面へと打ち放たれる。

まさにその名を表すとおり神の拳から放たれた力は須郷を地面と平行に吹き飛ばした。

「はいはい。こっちでまってるわ。」

吹き飛ばされる須郷を待ち構えていたのはシンキだ。

鋭利に光り輝くジェットブーツを、その足技で何度もける。

「ふふふ。さぁ舞踊りなさい。【創世舞(ソウセイブ)】ズィレンハイト!」

グランウェイヴからモーメントゲイルで踊るように舞い、蹴り放つ。

創世器『透刃(トウジン)マイ』。六芒均衡の「零」クーナが持つ武器を元に作られた魔装脚。名のとおり彼女の動きはまるで舞を踊っているかのように見えるという。

「さぁ、仕上げよ。隊長ちゃん!」

「…ああ。」

既に構えていたアインス。空中へと蹴り上げられた須郷の体へと強力な突きをお見舞いする。

シュンカシュンランで間合いを詰めた後、空中に留めんと、フドウクチナシを放つ。

「貴様は…やりすぎた。…切り刻め。【四天頂刀(シテンチョウトウ)】オロチアギト!」

アギトのオリジナル。四天の名をもち、世にその名ありと知らしめたる4本の一本『オロチアギト』。その一振りが…いままでに無い巨大な力を持つ斬撃が須郷へと降り注いだ。

 

斬!

 

「…カザン…ナデシコ。」

静かにアインスの言葉が広く、高い部屋にコダマし、シンと静まる床に須郷の体はバタリと落ち下ろされた。




決着!!
ごきげんようみなさま。ソードアークス・オンライン、SAO編。最もやりたかったこと。
『須郷にみんなでPAをぶちかます』事。
SAOで最も気持ち悪い男No.1に輝く彼をどうやっていじめるか。それがこの結果でした。いやすっきりした。

さてさて、ながいながいアインクラッドも残すところあとわずか。
しかし、まだまだ続きますSAO。
これからもよろしくお願いいたします。


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第67話 「開催! アインクラッド杯!」

【敗者】となった須郷を倒したオキ達は、彼のダーカー因子を消すために強硬手段を行った


 

【敗者】となった須郷を叩きのめしたオキ達。フルボッコにされた須郷は気を失い完全に伸びていた。

「ふぅ、スッキリした。」

スッキリした顔で地面にグッタリと伸びた須郷に近づいたオキはダーカー因子の確認を再度行った。

「うん。確認、無し。これで問題ないだろう。」

キリトたちも近づいた。

「ちょっとやりすぎな気もしたけど・・・。まぁいっか。」

「あ、あはは・・・。」

苦笑気味のキリトに元々知人であったアスナは複雑な表情をしている。

ディアベルたちは一緒に襲ってきた元血盟騎士団やその他のラフコフメンバーを縄で縛り上げ黒鉄球へと向かわせていた。

「オキさん!」

「すごかったです! あれがアークスの武器ですか!?」

「かっこよかったー!」

「超やべぇ! まじかっけー!」

タケヤ達もオキ達へと近づき、先ほどのアークス状態を興奮しながら褒め称えていた。

「私が出る幕は・・・無かったようだね。さすが、アークスといったところか。」

聞きなれた声。それでいて懐かしいと思うその声。その場にいた全員が振り向いた。

「・・・ヒースクリフ。」

「そんな怖い顔しないでくれ。今日は別段君達に用があってきたわけではない。」

ヒースクリフが床でのびている須郷へと近づき、コンソールを弄り出した。

「何をする気だ。」

オキが睨みつける。

「なに、彼の持っている情報を少しだけ書き換えるだけだ。君達はこのまま黒鉄球に入れるつもりだろう? スーパーアカウントを取っておかねばまた逃げられるぞ? それに・・・。」

再度コンソールを弄り出すヒースクリフ。何かをしたのだろうか。

「君達のペインアブソーバを元に戻しておいた。下がりっぱなしなのも支障が出るだろう?」

オキはヒースクリフをじっと見て、一呼吸ため息をついた。

「はぁ・・・。そうかい。ならいいんだ。」

須郷が転送されるのを見届けて、ヒースクリフへと近づいた。

「彼とは・・・同じ道を歩んだ仲でね。・・・一緒に研究をできればと思ったのだが。残念だ。」

ヒースクリフは悲しそうな、さびしいようなかおをしていた。

「そうかい。まぁ仕方ねーな。ともあれ、これで障害は無くなった。後は上2つ。99突破してアンタの前に出るだけだ。少々待たせると思うが、やりたいことを残したくないからな。まぁまってろ。」

オキはヒースクリフを背にし、タバコに火をつけた。

「楽しみにしているよ。・・・それと、ありがとう。」

「あ? 何か言ったか?」

ヒースクリフの最後の言葉を聞き逃し、もう一度確認したときには、既に彼はいなくなっていた。

オキ達がギルド拠点へと帰り、反省会ついでに、ディアベルへと話をなげた。

「で? やりたいことがあるんだろ? 以前言ってたじゃないか。」

オキが98層を攻略している最中に、ディアベルからボソリと聞いたのだ。その言葉にディアベルが頷く。

「ああ。覚えていてくれたのか。アークスの皆には感謝している。皆から恩返しがしたいとあった。」

だが、何をすればいいのか。プレゼントをしたってデータの海に沈んでしまう。

思い出としてなにを残したい。だが、対外のことは皆でやってきた。いまさら何をやろうか。そう悩んでいる最中だった。

そこでキリトやシリカから提案があった。

『闘技大会をひらけばいいのでは?』

それにその場にいたプレイヤー全員が賛成したという。

オキ達はそれをきいて喜んだ。

「そんな事を考えてくれていたのか!」

「闘技大会?」

プレイヤー達は口々にいった。前回の鬼ごっこのときに負けたのが悔しいからではないと。

「言ってるじゃないか・・・。」

苦笑気味に言いながらも嬉しい気持ちでいっぱいのオキだった。

闘技大会への準備は既に進んでいた。

運営をアインクラッド解放軍が受け持ち、プレイヤー全員に通達が回った。

『集え! 第一回アインクラッド杯 闘技大会!』

キバオウの司会の下、50層のコロシアムで開催される最初で最後のSAOでの闘技大会。

多くの参加者と見学者が集まり、腕に覚えのあるプレイヤー達はこぞってイレギュラーズを初めとする攻略組に腕試しを行った。

「さぁさぁ! 98層も突破し、やることは済ませて帰らんとな! 今回もいっぱいの参加、感謝するでぇ!」

拡声器のような結晶を使って、会場いっぱいに進行と、実況を踏まえながらしゃべるキバオウ。

「思えばあの日、いきなりの宣言やった。だがしかーし! さらにいきなりのセリフをはいた奴がおった! イレギュラーズ! 彼らの言葉は半信半疑やった。せやけどな、ワイはみたんや。この目でよーとな! あのときの言葉はほんまやった! それを助けてくれたイレギュラーズ、いや、アークスのメンバーに恩返しや! つよぅなったみなの姿! みせたってやぁ!」

キバオウの言葉に歓声が上がる。それでいいのかプレイヤーの皆よ。

2日に分けて行う闘技大会は8つのブロックに分けた予選大会。そして16人が勝ち残った後に明日、決勝トーナメントを行うという。

予選では各ブロックにランダムで別れ、強攻撃の一撃ヒットで終わる初撃決着モードで行われ、トーナメント方式にて最後の2名になるまで行った。

アインクラッド解放軍の面々が審判を行い、あちこちで戦いが繰り広げられ、素早く予選が終了した。

結果、8つのブロックに分かれ、予選を突破したのが

『オキ、ハヤマ、コマチ、ミケ、シンキ、アインス』のアークスメンバーはもちろん

『キリト、アスナ、シリカ、リーファ、タケヤ、センター、オールド、ディアベル、ソウジ、クライン』の攻略組みメンバー。

予選に参加した攻略組み以外のメンバーは口々に

「まぁこうなるよなー。」

「しかたないよ。腕が違うもん。」

「俺、オキさんと戦えたんだが、一瞬で間合いつめられて終わった・・・。強すぎワロタ。」

「私はアインスさんだった。かっこよかったー! 負けちゃったけど・・・いい経験だったかな?」

と、特に文句を言う人はいなかったという。

夜、オキとシリカが寝るときにシリカが勝ち残ったことを祝った。

「明日、オキさんとも当たるんですかねぇ。」

「さぁなぁ。もし当たったら本気でこい。手加減は不要。俺を思う気持ちがあるならな。」

「・・・はい。」

シリカの頭を撫で、オキは一緒に寝た。

次の日、抽選の結果が発表された。

大きくコロシアムに張り出されたトーナメント表にメンバーは目を見開いた。

『1 オキ

 2 シリカ

 

 3 オールド

 4 ディアベル

 

 5 アスナ

 6 ミケ

 

 7 キリト

 8 リーファ

 

 9 シンキ

 10 タケヤ

 

 11 コマチ

 12 ハヤマ

 

 13 センター

 14 クライン

 

 15 ソウジ

 16 アインス』

「あ、初戦はシリカとか。」

「えええぇぇぇ!?」

シリカはかなり驚いている。無理もない。

「一応言っておくが、不正はあらへんからな。ほんまにランダムで選んだ結果や。」

キバオウは手を広げて困った顔をしていた。

「ほう。これは面白い。」

「隊長とかぁ・・・。よろしくおねがいします!」

アインス、ソウジは師弟対決のようなものだ。

「お兄ちゃ・・・じゃなかった。キリト君とかぁ。負けないよ!」

「ああ。そういえば、まだ剣道、続けてるのか?」

「うん。だから・・・黒の剣士にどこまで通用するか。試させてね。」

キリト、リーファは兄妹対決。

「しょっぱなからこまっちゃんとかぁ。」

「まじかぁ。」

ハヤマ、コマチはしょっぱなから同じアークス同士が当たるとは思っていなかったらしい。でも少し嬉しそうだ。

「さぁさぁ。驚いているのも無理ないやろうけど・・・ルール説明させてもらうで。」

今回の闘技大会はアークスサイドからのお願いも聞いてもらっている。

めったにないチャンスだ。せっかくなので、アークス同士で戦うときだけアークス状態で戦ってもいい許可を貰った。

闘技大会ルール(SAO 第一回 アインクラッド杯版)

・戦いはデュエルの『半減決着モード』を使用し、ルールも基本ソレにのっとる。(つまりどちらかが先にHPが半減した方が負け)

・武具はこちらが用意したものを使用。

・ユニークスキル、アークス状態は基本禁止

・ただし、ユニークスキル保持者同士の場合はユニークスキルは解禁。武器も好きなものを使用してよい。

・さらに、アークス同士の場合はユニークスキルに加え、アークス状態になることも許可。

「ざっと説明は以上や。質問は?」

全員が頷く。問題はないらしい。

「やったら、時間になり次第はじめさせてもらうで。」

「ううう・・・オキさんとかぁ・・・。」

「まーだいってんのかい。昨晩言っただろう? 俺を思うなら・・・。」

「本気、ですよね? 分かってますよ。」

少し怒った風にいうシリカ。だが、少し笑っている。

「オキさん。絶対に・・・負けませんから!」

「おう。」

コロシアムの選手待機席から中央へと進む二人にコロシアム観客席から多くの歓声が上がった。

『さぁさぁしょっぱなから大盛り上がりの予感や! 第一試合! イレギュラーな存在! 我らが救世主! ちょっとロリコンのスモーカー! アークス、オキ!』

「やかましいわ!」

キバオウのセリフに怒鳴りあげるオキ。

『かたや、その男を愛し、1層からずっとそばにい続け支えた小さな小さな竜使い! シリカ!』

「そんなに小さいいわないでくださいよぉ・・・。」

「キバオウ、アトデコロス。」

オキがにこやかにキバオウに微笑んだが、本人は遠くてそれに気づいてない。

『まさかの夫婦対決! 皆を失望させんでくれや? お二人さん? さぁ、始まりや!』

キバオウの声と共に二人はデュエルを申請し、開始する。そしてゴングが鳴った。

「ああああ!」

「やぁぁぁぁ!」

二人の武器に火花が散り、激しくぶつかり合った。




みなさまごきげんよう。
決戦前に行いたかったこと。『みんなで闘技大会』!
ようやくここまでこれました。長かった。
これが終わればようやく最終決戦です。
その前に闘技大会、お楽しみに。

なお、試合の組み合わせはオキ、アインス、キリトの順番だけ固定で、残りはランダムで作成したらこうなりました。ランダムなのにこの美味しい組み合わせってなんなの。。。


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第68話 「第一試合目! 夫婦対決!」

ディアベルをはじめとする、プレイヤーたちからここまで連れてきてくれた、最後の恩返しとしてアークス達全員にリベンジマッチを提案してきた。戦い好きが大半のアークス達は喜んで賛同した。


コロシアムの歓声を受けながら、二人の武器は何度も交差し合っていた。

「はぁ!」

「やっ!」

オキ、シリカの武器はアーク’sで揃えた低レベルの武器である。双方握っているのは同ランクの武器。普段とは違うものである。武器の強さで差をなくすためだ。

『さすがイレギュラーズのリーダー! 小回りのきくダガーもなんのその! 綺麗にその槍で受け流し、攻撃を捌ききっとる! せやけど、そんな男を相手に劣勢なれど打ち合いがまだ続いとる! 長年付き添って共に歩んできただけはあるシリカはんも譲らん状態や!』

キバオウの実況は今日もキレキレである。

オキの攻撃は本気で打っている。だが、長年共にその背中、その横を見てきたシリカはオキの癖を知っている。だからこそ、その隙がつけるのだ。

「ハハハ! こりゃ楽しいわ! やるじゃねぇか!」

「笑っていられますか!? オキさん!」

獲物はオキのほうが長いが、素早いシリカはその懐に潜り、小回りのきくダガーでオキを相手した。

とはいえ、シリカは劣勢である。相手が相手だ。勝てる勝負ではない。だが、本人は本気で勝ちに行く気持ちで戦っていた。それが愛した人の、相手をしている男の願いだから。

「やぁぁぁ!」

一度槍を切り上げ、防御をさせたシリカは素早く側面へと移動し、足元を狙った。

「あめぇ!」

「あぅ!?」

動きを読めるのはシリカだけじゃない。オキも同様だ。防御した槍を素早く側面へと展開。足への攻撃を防いだ直後に、体を反らせてシリカへと蹴りを放った。

「っ!」

シリカは空中へとジャンプし、オキの蹴り出した足の裏へと飛び乗った。

「っふぅ!」

「!?」

 

ズシャァァァァ!

 

『『『オオオオ!?』』

シリカのとんでもない回避でコロシアムの観客達は大興奮だった。

『なーんということや! オキはんの攻撃を利用してもんのすごい回避をしたシリカはん! 会場は大興奮やで!』

「なかなかやるやん。さすが俺と一緒にいただけはあるな。ちぃと驚いたが。」

「オキさんだって・・・。流石です・・・。」

息の上がっているシリカに対し、オキは全く余裕だ。そもそも本気状態でない事からシリカは改めて実感する。

『オキさん…。やっぱりすごいです。』

「さぁて、そろそろ終わらせるかな。」

オキが中腰で槍を構える。シリカは理解した。得意の一撃必中のアレが来る。

ならばそれを避け、こちらはカウンターを仕掛ける。シリカはオキの動いを予想する。

自分のHPはもう少ない。ここで喰らうわけには行かない。

「…っふ!」

地面をけって、素早くシリカへと近づいたオキはそのままシリカの短剣を弾く。

直後に背後をとって、頭上から槍を振り下ろした。

「せいぁ!」

「させない!」

 

ギィン!

 

『ォオオ!?』

一部の観客がその勢いに釣られて立ち上がる。

頭上からの攻撃を防いだシリカだが、下方は無防備となっている。

「っ!?」

「へへ。わりぃな。」

 

ガキィン!

 

「ゲイ・ボルクっと言いたいとこだが、武器が違うんでな。」

『オキ WIN!』

空中に大きな文字が現れる。

「はぁ…はぁ…。やっぱりオキさんは強いです。」

膝をついていたシリカがゆっくりと立ち上がり、オキにニコリと微笑んだ。

「なーに。シリカも強かったぞ。俺は楽しかった!」

『けっちゃくううう! やはり強い! さすがオキはん! 勝者、イレギュラーズ、オキ! みんな! ともに戦い、善戦したシリカはんとともに、大きな歓声をあげぇやぁぁぁ!』

『『『ワァァァァ!』』』

盛大な歓声の中、二人は手をつないで退場した。




みなさまごきげんよう。時間があまりなく、今回は(も)少なめ。
一体いつになったらこの忙しい毎日が落ち着くのやら。。。
さて、今回からコロシアム編に入りました。メインであるオキやアークスたちの戦いをメインに書いていくつもりなので、一部戦いは大雑把に書いていきますね。
では次回をお楽しみに。


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第69話 「理解不能、予測不可」

1戦目を終え、トーナメントは2戦目に入った。会場内は大盛況の闘技大会が進んでいた。


『オオ!?』

会場内がざわついている。

オキとシリカの対決が終わり、オキの第二試合進出が決定した後、ディアベルとオールドの戦いが始まった。

双方とも下層から共に戦ってきた身であり、腕は互角に等しい。譲らない戦いだった。

お互いに体力を削りあい、どちらが勝っても負けてもおかしくない状態だった。

「おおおお!」

「なに!?」

だが、勝ったのはオールドだった。ディアベルの片手剣よりもリーチが長い分、振りの遅い槍を使うオールドだったが、前方への強力ななぎ払いから素早い連続の突きを放ちディアベルの片手剣を弾き、そこへSSを放ちディアベルのHPを削り取った。

「・・・大丈夫か?」

吹き飛ばされて地面に寝転がるディアベルにオールドが手を差し伸べた。

「さすがだな。いやきいたよ。」

オールドの手を取り起き上がるディアベル。その二人の握手する姿にコロシアムは大歓声を上げた。

『うーん! 惜しい! ディアベルはんまさかの初戦リタイア! そしてディアベルはんを押し倒し、突破したんはオールドはん! 鋭い槍使いやった! そこんとこどうや? オキはん。』

何故か捕まってそのまま解説にまわされたオキだったが、こういうのが好きな部類だ。ノリノリで答えた。

『はいどうも解説のオキです。最後の一手は流石というべきだろうか。横の大薙ぎから防御ごと弾き、隙を与えたところで一気に決める。一種の賭けではあっただろう。大薙ぎで弾き飛ばせなければ逆にオールドの旦那に隙ができる。ソレを成功させる何かが旦那の中にあった。それが勝利への道に繋がったのだろう。』

『なるほどなぁ。お互いに力を出し合った二人に大きな拍手や!』

コロシアムは大盛況だった。多くのプレイヤー達がここぞと集まり下層、上層各地から攻略組メンバーの最後の催しを楽しみに集まった。

また、コロシアムの中だけでなく外までもそのお祭り騒ぎは続いており、各地で活躍する商人達がかってにフリーマーケットまでやり出す始末。まぁ最後のお祭りだからこそとやりたい放題やっているのだろう。

跡でシリカ達と回ってみるのも面白いかもとオキは思っていた。

『続いての試合や! 今や最強のプレイヤーの一角。素早い動きはまさに神速! 最強のプレイヤーの妻にして、アインクラッド一の料理人でもある超美人剣士! アスナはんや!』

大歓声の一言だ。人気のあるアスナはファンが多い。コロシアム全体から発せられる歓声も先ほどより何割増しにも大きくなっていた。

だが、彼女は少し微笑んでいるだけでただ一人を見る。自分の前を歩く、対戦者。

『対するは・・・その者、正体不明。フードの中には何がある!? 誰も知らない自由奔放の野良猫! 神出鬼没のイレギュラーの中のイレギュラー! ミケはん!』

楽しそうに歩くミケ。その後ろを緊張しながら歩くアスナ。

その二人が競技場の真ん中で向き合った。戦いの申請をアスナが出し、ミケがソレを了承する。

「よ、よろしくおねがいします。」

「よろしくなのだー。本当は寝ていたかったのにオキが本気出さないと後で罰ゲームって言うから、少し本気出すのだ。アスナもがんばれよー。」

フードの中に隠れた顔。唯一見える口元は三日月形に曲がって笑っている。

『両者・・・ファイ!』

「先手・・・必勝!」

アスナはミケが力を出す前に攻め込んだ。いくら縦横無尽に駆け回る戦い方をするミケでも防御に徹すればその素早さも意味を成さなくなる。

『・・・と考えたんだろうが甘いな。アスナは。』

『どういう事や? オキはん。』

アスナは『神速』の力でミケへと一瞬で近づく。その姿を見てオキはアスナの考えが甘いと一言漏らした。

『ミケはアレくらいなら防御せずに避ける。』

オキの言った通りになった。アスナが細剣をミケへと向け突進力を勢いに素早い突きを放った場所には既にミケはいなかった。

「いない!?」

ゾクリ

アスナは頭上に気配を感じた。

すぐさま上を見るとミケが短剣を振り下ろそうとしていた瞬間だった。

ギィン!

アスナは素早く細剣を上へと向け防御し、受け流した。

地面に着地したミケは、その場で足に力をいれ、横回転しながらアスナへとジャンプした。

「っく!?」

なんとか防御するも、ミケの猛攻に自分の武器である速度が出しきれていない。

『素早い猛攻! ミケはんの攻撃が止まらない! 今回はミケはんのフリーダム、アスナはんの神速の二つのユニークスキル対決でもあるわけやけど…オキはんどないみる?』

『アスナはともかく、ミケにはこのだだっ広いフィールドはフリーダムを使うことはほぼ不可能だろう。狭く、天井のある場所で初めて効果を発揮するスキルだ。だが、ミケには本気出せ。さもなくば飯抜きと言ってある。あいつが本気で攻撃しだすと俺らイレギュラーズでも厳しい。かつて、ナベリウスの元締めと言われてたのも本能のままに、猛獣をも上回るその身体能力を持っていたからだと思っている。神速のアスナがどこまでついていけるか。楽しみだ。』

防御に徹するアスナ。素早い二連のクロス攻撃がアスナを襲う。

「そこ!」

 

ギャリン!

 

「・・・!」

ミケの攻撃がはじかれ、勢いを殺しながら後方へとジャンプし、ミケはくるくると縦回転しながら地面へと着地した。

「っふ!」

「ふにゃ!」

神速のスキルでミケの後方へと移動したアスナは中段の突きを放つ。だが、それを後ろ向きにジャンプしたミケは逆にアスナの後ろを取る。

「はぁ!」

 

ギン!

 

二つの武器が交差し、火花が散る。

『うーむ。』

解説席でオキが唸る。

『どうしたんや? オキはん。』

キバオウが不思議な顔でオキをみた。

『いやな? たしかに本気出せといったが、ここまで素直にいうことを聞くとは思ってなかったからなぁ。とはいえ、そろそろ我慢の限界があるはずだが…。』

打ち合う二人をじっと見るオキ。首を居かしげるキバオウだった。

その時だった。

「待った!」

「え!?」

ミケが急に手を前にだし、アスナを止めた。

「…お腹減ったのだ。ご飯を食べるのだー!」

その言葉に会場は騒然とした。大会のさなかに相手を止めてご飯を取り出し食べだすあいてがどこにいる。

『オ、オキはん…?』

キバオウがオキをみると頭を抱えていた。

『やっぱりかー…。まぁそうなるよなぁ。せっかく用意してくれた闘技大会。ハナとヒナもミケの活躍をみたいって言ったから無理やり出場させたんだが…。』

ミケはごそごそとフードの中を漁り出す。そこから出てきたのはホットドックだった。それを二つ。

「ハナとヒナが作ってくれたホットドックなのだ! イタダキマー…アム。」

ミケがほおばって一つを口に含んだ。

「…。」

「ミ、ミケ?」

その場で固まるミケにおそるおそる近づくアスナ。様子がおかしい。

「…かーらーいーのーだー!! 激辛だったのだー!!!!」

その場で飛び跳ね出すミケ。オキが双子をみるとニッコニコで笑顔である。悪気は無いような天使のような笑顔だった。

「アスナも味わうのだー!」

「えぇ!? アグ…。ーーーーっ!?」

あまりの辛さにアスナもその場でうずくまる。相当辛いらしい。

涙を流しながらアスナがミケをみた。

いつの間にかミケの片手にペンが握られている。

「!? ーっ!?」

「ジャスト1分! いい夢見れたか? ミケは疲れたのだー。ミケはお昼寝する!」

声にならないアスナを横に、ミケはそうそうに立ち去る。アスナの頭上にはWINの文字。そしてアスナの剣には『ミケ』と書かれたサインが残っていた。

ざわつく会場。オキがマイクをもって笑いをこらえながら説明した。

『すまん…やっぱ…ミケには真面目な…戦いは…無理だったか…。いや、あいつらしいわ。あっはっはっはっはっは。だめだ! 我慢できねぇ! 勝者アスナ! いや、アスナには悪いけど、まぁ真面目に戦わない相手に真面目に戦うとどうなるかってのは…勉強になったか? はっはっはっは。だめだこりゃ。』

すぐ近くにいるコマチとハヤマも呆れ顔で頷いてた。

「いやー…あれだから俺たちも苦労するんだよな。」

「制御不能。予想不可。ミケ、ここにあり。」

納得の行かないアスナだったが、少しだけ口元は笑っていた。

ミケらしさ100%。プレイヤーたちが野良猫の本気の理解不能な行動を目に焼き付けた瞬間だった。

 

 




みなさまごきげんよう。
ミケ戦、本当に理解不能な終わり方ですが、実際本人に「どうやって戦う?」と聞いていろいろネタを提供してもらいました。その中でも面白かった二つを採用。
初めはそもそも出場すらしないだろうミケがどうやって戦い終わらせるか。ある程度は予想していましたが、その全てが予想外の言葉連発でした。さすがミケ。
さて、次回はキリト、リーファとの兄妹対決に初のアークス同士の対決です。
お楽しみに。



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第70話 「白熱する闘技場の戦い」

ミケの理不尽な行動から少したったコロシアム。

今はキリトとリーファの兄妹による戦いが繰り広げられていた。

『かたやリーダー仕込の戦闘スタイル。かたやそのリーダーですら一目置く戦闘スタイルを仕込まれとるっちゅうわけや。アインスはん、どうみるん?』

オキに変わり、試合を待っているアインスが解説席に座っていた。オキはシリカ達とせっかくの祭りを楽しみたいと思っていたところを、アインスが引き受けてくれたのだ。

『そうだな。キリト君はオキ君を初めとする我々のスタイルのいいところを伸ばしてきた。だからこそ隙が無く、攻め込みにくい。だが、リーファ君を教えたのは我々の癖を知っているシンキ君だ。戦いの前にもそのアドバイス的なモノもあっただろう。なかなかに面白い戦いだと思うよ。』

『とはいえ、キリトはんはリーファはんとは二刀流が使えないところはどうみるん?』

『彼には、オキ君がどの状態でも戦えるようにと常日頃から教え込んでいた。元々片手剣を使っていた彼だ。そんなに問題にはならないだろう。』

なるほどーと解説席の周辺から観客の声が上がる。

キリトとリーファは広いコロシアム内を走り回りながら打ち合っていた。

「流石キリト君だね。・・・ふぅっ!」

キィン!

リーファの片手剣がキリトの片手剣を弾く。弾いた直後に一旦引き、突きを放った。

その突きをキリトは体をかすらせるように避け、リーファへと近づいた。

「ちぃ!」

リーファは体をひねり、キリトの上へとジャンプ。キリトの肩に脚を乗せて回転しながらキリトの頭に横一閃を放った。

ギィン!

その攻撃を読んでいたキリトは剣を弾き、リーファから離れる。

「・・・強くなったな。リーファ。」

「ううん。キリト君にはかなわない。でも、今の全力を見て欲しいから・・・!」

リーファはその場から地面を蹴って、キリトへと急接近した。

上段からの切り下ろし。直後に脚払い。それをジャンプで避けたキリトは頭上からの切り下ろし。

上段下ろしを切りはじき、側面へと移動。リーファは横腹への切込みを入れようとするが、キリトは上半身をそらし、そのままバク転。距離をとった。

『流石最強の剣士! 動きがまるで違う!』

『ふむ。今の上半身をそらしてからのバク転は綺麗に決まったな。』

息を整えるリーファ。荒くなった呼吸を深呼吸で落ち着かせる。

キリトは静かに息を吸い込んだ。

「そろそろ・・・決めるね!」

リーファは左右へステップしつつ、キリトへと近づいていく。

ソレを静かにキリトは見切った。

「ふぅぅ!」

左、と見せかけて右からの強襲。した斜めから切り上げるリーファの剣をキリトは逆から弾いた。

「!?」

「はぁぁ!」

横回転からの一閃。そして上からの上段下ろし。

その時点でリーファのHPが0となった。

『きまったー! キリトWINや!』

『最後のはなかなかだったな。左右のフェイクを見切り、適切に武器を弾いてからクロスで締め。そうだな。十文字切り、といったところか。』

切られてひざを突いているリーファに近寄るキリト。

「すまん! 大丈夫か!?」

「えへへ・・・。やっぱりおにいちゃんにはかなわないや。大丈夫だよ。ありがとう。」

「スグ・・・。ああ。たのしかったぜ。」

キリトの手を握り、立ち上がるリーファはコロシアム内の歓声にこたえるように皆に手を振った。

「オキさん。キリトさんの試合、見なくてよかったんですか?」

シリカ、ハシーシュ、フィリアに囲まれて、露店で売っていたたこ焼きを食べていたオキ。

「ん? ああ。アイツが負けることはまずないだろう。俺が見たいのはあいつが戦っている姿じゃない。アイツが俺に迫ってくる姿だ。あいつの動きを見てると、今の癖がすぐ分かっちゃうからね。俺と当たったときに面白くなくなっちゃう。だから、今は我慢。」

「オキらしい。」

ボソリとハシーシュが呟いた。フィリアは苦笑している。

「それに、お前たちとも、最後のお祭り楽しみたかったしな。多分、これが最後のタイミングだ。」

3人はシンミリとした顔のオキを見た。

「今まで、ありがとう。最後までよろしくな。」

微笑む3人はオキに頷いた。

『続いての試合は・・・この強豪どもに混じって参戦! お調子者のの熱血バカ! オラクル騎士団の最古参! タケヤァ!』

鼻高々にコロシアムの中心へと歩いていくタケヤ。その背中を心配そうにレン、ツバキ、サクラが見送る。

「大丈夫かしら。アイツ。」

「うーん。相手があいてだからねぇ。」

「でも、本当に良く勝ち残りましたね。」

サクラがレンとツバキをみた。

「まぁね。タケヤは周りの人たちに埋もれてるけど、ああ見えて僕達の中でも一番腕があるから。」

タケヤはイレギュラーズの活躍、キリトやアスナたちに埋もれがちだが、同等クラスの腕はある。それを一番知っているのは親友であるレンだ。

『対するは・・・。アインクラッドに舞い降りた姿はまさに女神! その性格はまさに悪魔! 母性あふれるその心身に魅力あふれるその者の名は・・・! シンキィィィ!』

慣れてきたのかキバオウの実況がそれっぽくなっていく。

ゆっくり、中央へと進むシンキ。

「こうして戦えるなんて夢見たいッス! シンキさん!」

「こちらこそよろしくね。ふふふ。少しは・・・楽しませてね。失望させないでよ?」

シンキの持つ曲剣が光る。

中央にたち、振り返ってから向かい合う二人。

『さぁ! いま、ゴングだぁ!』

二人の申請を受け、カウントダウンが0となる。

「さっそくやらせてもらうぜぇぇぇ!」

タケヤがシンキに真正面から突っ込む。彼の武器メイスを振り上げ、バックラーを片手に防御しながらのカウンターも防御できる守り型だ。

「おらぁぁぁ!」

バックラーの突進を横に避けたシンキにそのままメイスの横振りが襲いかかる。

「へぇ・・・。」

したから振り上げた曲刀がそれを弾く。

「まだまだ!」

タケヤのメイスは動きを止めず、横に振り回した勢いで上からの振り下ろしに変わる。

 

ギィン!

 

横への一閃。綺麗な弧を描き、メイスを弾き返す。

「力任せだけじゃ…ってそういうわけじゃなさそうね!」

 

ブン!

 

バックラーが目の前に広がった。弾かれつつも体制を素早く立て直し、バックラーで殴りかかってきたのだ。

シンキは片足でステップしながら距離を取る。

「やるじゃない。」

「これからっス!」




みなさまごきげんよう。
ヤバイ。ペルソナ5がおもしろすぎる。
小説が進まない!(忙しいのに更に自分を追い込むスタイル)

…すみません。だって面白いんです!

さて、時間なくてシンキ戦も途中で止め。
とはいえ、次回は初のアークス対アークスもあり、ちょうどいいかとここで止めました。
短いながらも次回をお楽しみに。


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第71話 「ヘタれ刀と人見知り戦教師」

「それそれ!」

シンキの曲剣がタケヤへ流れるように猛威を振るう。

まるで踊り子のように剣を振るうシンキの姿は妖艶という言葉が合うだろう。

「タケヤー! しっかりしなさい!」

「負けるなー!」

観客席からはツバキたちの声が響いていた。

「流石シンキさんだね。めを奪うような動きで、ソレでいて隙が全くない。」

「うん。同姓の私でも目を奪われちゃうなー。」

その姿は同姓異性関係無し。誰もが美しいと思っていた。

目の前で戦うタケヤはその場にいる誰よりもソレを目の前で体感していた。

揺れる美しい二つの胸。多く露出された白く綺麗な肌。キュっと絞られた括れに誰もが魅了される腰。

誰もかもが羨み見惚れる肢体を目の前に若い男性であるタケヤが見とれないわけがない。戦いの最中でも初めは頑張っていたが、やはり無理があったのだろう。相手が悪すぎたのだ。どうしても武器よりそっちに目が行ってしまった。

「よそ見してる暇、あるのかしら?」

ガキン!

シンキの曲剣が強く振り下ろされる。何とか我に帰り、ソレをバックラーで防御するが、あまりの力強さに後退してしまう。

「ぐぅっ! …え!?」

ドカ!

「ガッ!?」

バックラーで耐えたタケヤだったが、その直後に空中へジャンプしたシンキの回し蹴りが飛んできた。ソレによりバランスを崩し、大きな隙ができる。タケヤのHPも半分まであとわずかだ。

「さて、しめようかしら。」

シンキが片手で握っていた曲剣を、大きく振りあげた。その振り上げ方にオキはあるシンキの得意技を思い出す。

『まさか…。あいつ、アレやる気かよ。』

オキが冷や汗を一滴流しながら口を歪ませる。

顔を覆うように振り上げた右腕。その先に握る剣先を斜め下に、刃を上に向けた構え方。それを支えるもう一本の左腕。

『ん? 何かするつもりなんか?』

"工程模倣、開始――装填――"

シンキの様子が変わる。

"全工程模倣完了 再現"

ユラリとシンキが動き、すれ違い様に曲剣を振り下ろす。

 

「ナインライブズ

射 殺 す 百 頭」

 

同時にタケヤの体に衝撃が走った。受けた本人は何をされたのか分からないだろう。分かるのは『9回同時に切られたこと』。

『つ、つまりや。シンキはんは9回同時にきりおったんか!?』

『その通り。急所への9回同時攻撃。数多くの技と型を作っては磨いてきたシンキだからこそできる大技。その中の一つがアレだ。この世界でならただの通常攻撃9回分。攻撃力はそんな対したことないだろう。とはいえ、もし外で、リアルでアイツの持っている本物の武器で受けてみろ。その威力は・・・俺達でも受けきれないだろうな。』

満足気に背伸びをするシンキを微笑しながら見るオキ。

『あ、えっと…WIN! シンキ! 頑張ったタケヤはんにも拍手喝采を!』

「あーあ。まけちったか。」

その場に座り込んでいるタケヤにシンキが近づいた。

「まだまだだけど、まぁがんばったんじゃない?」

「シンキさんにはヤッパかなわないッス。でも、ありがとうございまッス! 勉強になりました!」

タハハと笑いながらタケヤは控え席へ。シンキもその後ろをゆっくりと歩いていった。

途中で、次の試合であるハヤマ、コマチとすれ違う。

「…どっちが勝っても、ジュルリ。楽しみね。」

シンキは二人に聞こえない小さな声で呟いた。ハヤマとコマチの背筋にゾクリとしたものが伝う。

「アイツ、ボソリと何言いやがった。」

「さぁ。何か言った様だけど…少なくともろくでもないのは確かだね。」

二人が中央で向かい合う。既に二人の手にはアークスの武器が握られていた。

『ああ、ここは俺が用意したコイツを読んでくれ。』

オキが羊皮紙に書いた煽り文句をキバオウに渡す。それをみたキバオウはニヤリと笑い、マイクに手をかけた。

『その幸運、AAA(トリプルA)。そろそろシャルとのレベルもテレッテッテー! カタナと聞けば即参上! 《錆びたツンデレヘタレ刀》 ハヤマァァァ!』

「なんだよその煽り文句はぁぁぁ!」

中央から大きなツッコミが入るがオキは気にせず大爆笑している。

『対する挑戦者は・・・。麻婆が似合いそうなエセ神父。うるさい叫びはいつも理不尽! 《凶化Cの人見知り戦教師》コマチィィ!』

「愉悦って言っとけばいいか?」

否定できないコマチはそのボケにのる。ハヤマは少し顔が赤い。

『へいへい。ハヤマん顔が真っ赤やで。さて、二人とも準備はええな? ゴングや!』

お互いに(ハヤマはぶつぶつと文句を言いながら)申請を出し、待ち時間が0になる。

「おらぁぁ!」

開始と同時に動いたのはコマチだった。だが、コマチがナックル《ゴッドハンド》で殴ったのはハヤマではなく、地面だった。

ズズ゛ン!

土煙が上がり、地面が少しだけ揺れ、亀裂が入る。様子を見ようと出遅れたハヤマはその場から動けなくなっていた。

「土煙が邪魔で・・・こまっちーが見えない。」

周囲を目で見渡し、いつどこから来てもいいようにアギトを構える。

「どぉりゃぁぁぁ! 喧嘩ってなぁ殴って蹴って吹っ飛ばした方が勝ちなんだよ! オラオラオラオラ!」

コマチが土煙の中から素早くハヤマへと突っ込んでいった。あまりの素早さに防御しかできないハヤマ。

右ストレートから、前足蹴り、そのまま地面とハヤマの脚を踏み固定。強力なラッシュをお見舞いした。

「…っ!」

ハヤマは何とかアギトでその猛攻を抑える。

「おらぁぁぁぁ!」

最後のおまけといわんばかりに振り下ろされた右手がハヤマへと貫く。その威力は防御したハヤマの体を後方へと吹き飛ばした。

ズシャァァァ

「ふん。そんなもんか? ハヤマん?」

中指を立ててコマチはハヤマを煽る。

「…っは! 面白いじゃない。いきなり飛ばしてくるねぇ! ならば迎え撃とうじゃない! アベレージスタンス…。」

ハヤマはアギトを強く握りなおした。その体からは赤い燃え盛る炎のようなオーラが一瞬見えた。

「…ブレイブスタンス。」

コマチもそれに続く。アークスの職がそれぞれ持つスタンス技。フォトンを活性化させ、職に合う動きをよりよくする為に使われる基本中の基本技。ハヤマのメイン職はブレイバー。コマチのメインはファイターだ。そして二人が共通してサブ職にしているハンターのスタンス技を同時に発動する。

「「フューリースタンス!」」

ドクン、ドクン!

ハヤマがゆっくりとコマチへと走り出す。コマチはそれに対応しようとハヤマをじっと見つめる。

そしてその動きは初めはゆっくりと、次第に速くなっていった。

「おおおおお!」

空中へジャンプし、高々と振り上げられたアギトを一気に振り下ろす。

「だああああ!」

コマチもゴッドハンドを力強く振り上げ、アギトへと拳をハヤマごと貫かんと力を入れる。

ガキィン!

コロシアムに衝撃波が走った。

「「「おおお!?」」」

観客席から声が上がる。

ギギギギギ・・・ガキン!

ハヤマは空中で、コマチは振り上げた状態で押し合いをしていたが、同時に武器を弾いた。

ハヤマはそのままバック転で地面へと降り立ち、コマチへと素早く近づく。

コマチはゆっくりと腰を低く取り、拳を構えた。

「おらぁ!」

ハヤマのアギトが横からコマチを襲う。

「無駄ぁ!」

だが、それを構えていたゴッドハンドで殴り返す。

「おらぁ!」

「むだぁ!」

二三度同じことをした後に二人はニヤァと笑いあった。そして

「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」

アギトの左右上下から来る斬撃をコマチは正確にゴッドハンドで殴り返す。

「オラぁ!」

「ムダぁ!」

ガキン!

お互いのラッシュの最後を力強く振り、叩き、距離をとった。

「「「ワァァァァァァ!」」」

その動きに観衆は大歓声を上げた。

その中の一人、深くローブをかぶった男性がボソリとつぶやいた。

「…頼むから、できるだけ壊さないでくれよ? データ修復大変なんだから…。」

待つだけでは暇なゲームマスターがコッソリ見に来ていたが、その姿に予想を超え、データが吹き飛びそうな戦場を見て冷や汗をかいていたのは誰も知らない。




みなさまごきげんよう。
情報収集を怠っていた結果、アリスモチーフスクが来ることを電撃プレで初めて知った情弱アークスですはい。
さて、初のアークス対アークス。お二人共ノリノリで戦いの描写を語ってくれました。
今回はその一部です。
そろそろ1巡目も終わり2巡目といきたいところですが、ですが!
ペルソナ5が面白くて手が止まりません(
しばらくは鈍行UPとなりそう。。。。
では次回にまたお会いしましょう。


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第72話 「竜より強き燕」

アークス二人の強烈な打ち合いの音が鳴り響く中、控え席では次の対戦者が体を震わせていた。

「あ、あんな後で戦うのかよ・・・。」

クラインはハヤマ、コマチの戦いを見て、その直後に戦い同格、もしくはソレに近い戦いができるかどうかで不安になっていた。

「なにやってるの? クライン?」

様子がおかしいと思ったのか、サラが様子を見に来た。

「サラ・・・。いや、その・・・なんだ。」

「はぁ。しっかりしなさい。あれを見た後じゃあ仕方ないわ。でもね、あれは規格外もいいとこ。あの人たちと同じ動きをしろだなんて思わないわ。あなたのできることをやりなさい。いつも、言ってるでしょう?」

背中を叩くサラ。

「いって。たはは。そうだな。俺の、できることか・・・。」

クラインはじっと二人の動きを見だした。

「全く。世話が焼けるんだから。」

その様子を見て問題ないと思ったのか、サラはその後ろで一息ついた。

「鶴の一声ならぬ、サラの一声ってね。流石です。」

「あなたは・・・。」

笑顔の美青年がそこに立っていた。サラはこの男をどこかで見たことがある。だが、記憶にあまりない。

「私ですよ。ほら。」

アイテム化したお面をつけた。モアイと呼ばれる石造の仮面だ。

「あー! あなた、センター!?」

「普段はこのお面ですからね。あまり覚えていないのも無理はないでしょう。」

「あ? センターか?」

後ろが騒がしいので振り返ったクラインはセンターがいることに気づいた。

「どうも、クラインさん。次の戦い、よろしくお願いします。オキさんからは全力でいけと、言われてますので・・・本気で戦いますね。」

面を外してにこりと微笑むセンター。

「お、おう。こっちも本気で戦うぜ! よろしくな!」

二人が握手するその光景を見ていたサラは、センターからオキ達に近い何かを感じ取ったのを見逃さなかった。

ドン!

「きゃ!」

「なに!?」

急に近くで大きな音が鳴り響いた。

「おおおおお!」

「くっそ! やられるかぁぁ!」

パワーのあるコマチが力技でハヤマを壁際まで追い詰めてきたらしい。

先ほどの音も、コマチが外壁を殴った音だ。

ハヤマとコマチの攻防は一進一退。パワーで勝るコマチが押しに勝っている程度でソコまで変わらない。

二人の決着ももう少しで終わりそうだ。

「おおおおおお!」

コマチが空中高くへと飛び上がる。

「上!?」

コマチは両腕を振り上げ一気に振り下ろした。

ゴン!

コマチの拳が地面を大きく揺らす。

「っぐ・・・え!?」

「まだまだぁぁぁ!」

体をひねり、ジャンプで体ごと回転させもう一度ハンマーを振り下ろした。

ゴン!

「この・・・!」

「おらぁ!」

ガン!

さらにもう一回。コマチの強力なハンマーが振り下ろされる。

「しつけぇぇぇんだよぉぉぉ!」

ハヤマは振り下ろされた両腕に脚を乗せ、コマチ目掛け横一閃を放った。

「っち!」

ギリギリ避けたコマチは距離を取ろうと後ろへと下がる。だが、ハヤマがそれに待ったをかけた。

「させないよ!」

「なに!?」

下がろうとした後方に、ハヤマが既にいたからである。

「グレンテッセンか・・・!」

グレンテッセンによる超スピード移動でハヤマはコマチの移動スピードを上回り先回りを可能にした。

コマチがいる場所は既にハヤマの射程範囲内だ。どのような攻撃が来てもいいように警戒しながら迎撃態勢へと移行する。

「遅い! 秘剣、燕・・・返し!」

ハヤマの素早い斬撃がコマチへと入る。

ザザザン!

三連続、否三回ほぼ同時の剣技が決まり手となった。

『WIN! ハヤマァァァァ!』

「「「ワアアアアア!!!」」」

歓声が上がり、切られ倒れたコマチにハヤマが手を差し伸べた。

「大丈夫かい?」

「ああ。全く、面白いもんもってんなぁ。」

最後のアレのことだろう。ハヤマはこっちに手を振っているシンキを見た。

「アレはシンキが考案した技だよ。せっかくだからっていくつか教えてもらったんだ。『竜より強い燕』だってさ。」

「なんじゃそりゃ。」

クスリと笑うコマチ。

「こまっちゃんだっていくつか教えてもらったでしょう?」

「んあ? ああ。まぁな。」

コマチもいくつかは教えてもらっている絶技。しょっぱなに出した奴もそうだ。

「次。」

「え?」

コマチがぶっきらぼうにいう。

「次はシンキだ。アイツに勝てるか分からんが、まぁがんばれや。」

「・・・おう。」

二人はにこやかに拳を打ち合った。

『続いての対戦カードは・・・。モアイのお面は何を思う。お面の下には甘いマスク! ネタに生きる超残念系美男子! センタァァァ!』

「新しいマスクを新調しました!」

またどこから手に入れたのか、どこのお面なのか分からないお面をつけてきた。

形はハート型のように見える。何より一番目を引くのは見開いた巨大な目。色は青と赤色を主体としており、面の周囲にはとげが付いている。

「それムj・・・モガモガ!」

「俺達は何も知らない。いいね?」

ハヤマが突っ込もうとした矢先に、オキが黙らせる。

『続きまして・・・。愛する相手は数千光年。史上最長の長距離もなんのその! アインクラッド内一番尻にしかれるタイプNo.1! クライン!!!』

「なんだそりゃぁぁぁ!」

クラインの叫びにオキがクスリと笑っていた。

「草生える。」

「あげたのかわからねーけど落としたな。徹底的に。」

「しいてないわよ!」

顔を真っ赤にしながら反論しているサラの言葉は誰も聞いてくれない。

「さてと・・・今回はお面をとってっと。」

センターは持ってきた両手斧を地面に下ろし、お面を取った。

「先ほども言いましたが、今回は本気で戦います。期待はずれだけは・・・まぁ此処まで来たあなたなら大丈夫か・・・。」

「あ? ま、まぁよろしくな。」

『さぁカウントダウンや!』

頭上の数字のカウントダウンが始まる。

クラインはカタナをセンターに向ける。にこやかに微笑むセンター。クラインは以前からのセンターの戦いぶりを思い出していた。

それにあわせてオキの解説が始まった。

『いままで何度かセンターと戦った奴は知ってると思うが、センターはパワーのある両手斧で一撃必殺の完全脳筋ビルドだ。だからソレを上回るスピードの出せるカタナを持ったクラインのほうが逃げながら切っていけば勝ち目がある・・・』

0!

『・・・ように見えるだろう?』

開始と同時に予想に反したことが起きた。

「ところがギッチョン!」

猛スピードで駆け出したのはセンターだった。

「はやっ!?」

「せい!」

ドォン!

その場で急ブレーキをかけたセンターはスピードの勢いをそのままに斧を上に振り回し、クラインのいた地面へとたたきつけた。

「外したかぁ・・・。」

「ななな・・・。」

何とか避けたクラインは目を丸くしている。

『アイツはな。一撃は一撃でも、スピードと斧の重さを利用したスピードタイプの珍しい型の使い手だ。これを知ってんのは極わずかだろうな。スピードは多分ほぼ互角。さぁどう戦うかが見ものだね。』

「驚きました? これが私の本気モード。普段は、パワータイプに見せてますけどね。」

「な、なんで・・・。」

「どうして隠しているのかって?」

にこやかに微笑むセンター。再び地面を蹴ってクラインへと襲い掛かる。

「元々、ソロで戦っていたときからこの戦い方をしていました。」

「っく!」

ギャリン!

ズシャァァァ・・・

今度は避けれないと読んだクラインはカタナで防御する。

「クソ・・・。」

防御の上からパワーで吹き飛ばされたクラインは何とかその場で踏みとどまった。

「あの日、オキさんと出会ってから暫くはオキさんとシリカさんと共に動いてました。その時に言われたんですよ。」

『その動きするのはいいが・・・。回り巻き込むと厄介だな。その場で斧振り回せる戦い方も覚えろ。』

『つ、つまり・・・。』

『そ、あいつの戦い方は走ってぶん回して逃げるヒット&ウェイだが、スピードを生かせない狭い場所や仲間の多いところでの共同戦闘では活かせない。だから斧の普通の戦い方を伝授した。』

「いやぁ。オキさんと出会うまではソロを貫くつもりだったんですが、面白いくらいにお話が合いまして、結果付いていくことになってからはこの戦い方を封印していたんです。まぁたまにオキさんとかと手合わせするときは、いろいろ教えてもらいましたが。」

普段から開いているのか閉じているのか分からない細目から少しだけ瞳が見える微笑み方をするセンター。

「やはり私はこちらの戦い方の方が好きですね。さぁ、いきますよ!」

「くそ! 俺だって負けられね―んだ! うおおおお!」

クラインは両手に握った刀を構え、走ってくるセンター目掛け、飛び上がり上空から切りかかった。




みなさまごきげんよう。
ペルソナ5、1周目が終わりました…。123時間かかったぞ。
なげーよ! 面白すぎだろ! フタバ可愛すぎ!
で、今週もあまり進まない小説。申し訳ない。
来週から来月にかけて仕事の関係でうまく書ける時間があるかどうかがわからなくなってきました。
お休みする場合は毎度のことながら活動報告にてお知らせいたしますのでそちらをご覧くだださい。
では次回にまたお会い致しましょう。


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第73話 「正義と誠」

センターとクラインの対決はセンターの優勢だった。

スピードで勝る上にパワーもある。苦戦モードになっていたクラインはより一層負け越しになっていた。

「クソっ・・・。」

「ふむ。」

 

ガキン!

 

センターが斧を振り上げて、クラインのカタナを弾く。

「まず!?」

「でやぁ!」

センターの蹴りが入り、クラインは後方へと吹き飛ばされた。

「ぐうう・・・。」

「クラインさん。あなたは、何のために戦いますか?」

センターが口を開いた。クラインがセンターの目を見る。真剣な眼差しだ。

「強い相手と戦いたい。アイテムが欲しい。お金が欲しい。モテたい。いろいろあります。そんな中で、あなたは、なんのために戦っていますか?」

「そりゃぁ・・・。」

クラインがチラリと自分の後ろを見る。心配そうにこちらを見ている少女が一瞬だけ自分の目にはいる。

「仲間を・・・愛するものを守りたい。そういう方が多いですね。ここの方々は。オキさんがいい例です。あの人は力がある。だから守れる。ではあなたは? 力がありますか?」

センターが地面をけってクラインに近づく。いきなりの急接近。クラインは武器を弾いて逃げるしかできなかった。

「いや、無いな。力はない。じゃなけりゃこうして…苦戦なんかしない。」

 

ガキン!

 

センターの斧が上から振り下ろされる。なんとかそれを防ぐクライン。

「そうでしょうね。あなたは、プレイヤーの中では力はある方でしょう。それはレベルを見ればわかります。ですが、私も、あなたも、外に出れば一般人。あの人たちとはちがう無力の人間です。そんなあなたは『どうやって戦いますか?』」

 

ギギギギ

 

武器同士が火花を散らす。

「何が言いたい…。センター。」

「分かっているはずです。理解しているはずです! でないと、また泣かせますよ!」

 

ガキン!

 

斧の重量差に任せてクラインの武器を弾く。これ以上攻撃を喰らえばクラインは負けだ。

クラインは一瞬、センターの目を見る。何が言いたいのか。力とは何か。戦うとはどういう意味か。

 

ザン!

 

地面に斧が突き刺さる。振り下ろされる寸前でクラインが避けたのだ。

「俺は…俺は大事な女性の為に…サラの為に、戦う。それが何の為になるかなんてわからねぇ。でも、俺が強くなくっちゃあいつは…泣いちまう。だから…そうだよな。何にでも強くなくっちゃ、ダメだよな。こんなところでくじけてちゃ、ダメだよな!」

クラインは何かを察したようにセンターを見た。

その顔はなにか吹っ切れたような、清々しい顔となっていた。

「ありがとよセンター。俺は迷っていたようだな。こんな事で怖気付いてたら、ダメだよな。」

笑顔でセンターに笑うクライン。

センターはそれを聞いて武器を下ろした。

「ふふふ。それでいいのです。では、僕はこれで。あぁ、あなたの勝ちでいいですよ。僕は満足しましたから。」

センターはクラインに勝利を渡した。

『WIN! クライン!』

オキの声が会場に響く。

「まてよ! どうしてこんな事を…」

「どうして? 僕はオキさんから言われただけですよ。本気でクラインを鍛えてやってくれっと。あなたは強い。ですが、心はまだ弱い。それがあの人と僕の見解でした。あなたは、サラさんに選ばれました。これからを生きていく以上、あなたは強くなくてはならない。その強さの意味を…はき違えないよう…。」

ニコリとほほえみ去っていくセンター。

その奥ではオキがクラインを見ていた。

「なるほど。あの人の差金だったのか。こりゃ、今後本気で怖気づいてられねーな。」

クラインは頭を書きながら、歩いた。センターと、オキに心から感謝しながら。

 

「すまんな。こういうやり方じゃねーと、発破かけれねーと思ったからよ。」

オキが帰ってきたセンターに飲み物を渡す。

「いえ、久々に私も本気を出せて楽しかったですよ。本当のことを言えば、あなたと戦いたかったですが。」

センターがオキを見た。その目は本気で言っているように見える。

「はん。どいつもこいつも戦闘狂が。」

「あなたに言われたくないですよ。」

クククと笑い、顎でキバオウに合図をする。

「唐突はやり取りやったが、トーナメント第1戦。最後の試合や! 

仲間を信じ、自らの力を信じ、静かに語る背中に男は魅せる! 鬼の隊長! アインス!」

「ふむ。ようやくか。」

ゆっくりと戦いの場に出るアインスは心なしか楽しそうだ。

「対するは…現代に蘇りし誠の正義! 目指すは目の前の強敵! なるか下克上! イケメンサワヤカ副隊長! ソウジ!」

「待ちました。この時を…。」

ソウジが見るは前を歩くアインスの背中。

初めて出会った時からその強さに憧れた。何度も見たその動き。自分にはない力。目標としては完璧だった。

「さぁ。楽しませてくれ。」

アインスがゆっくりと振り向く。その目を見た瞬間、ゾワリとした冷たいものが背筋を走った。

「隊長。僕はここまであなたの背中を見て走ってきました。ですが、届かぬ夢。あなたと僕はちがう。ですが、こうして戦えることを…感謝します。」

「ああ。ソウジとは何度もともに戦ってきた。何度も語り合った。私も、君と戦えて光栄に思う。」

アインスが片手に持つ刀を構えた。

「だからこそ、わたしは本気で君と戦おう。君が望むのであれば。私も望む。その力、見せてくれ。」

中段に構えたアインスのもう片方の手が、ゆっくりと刀へと引き寄せられる。

『隊長、ガチかよ!』

『オキはん。毎度ながらやけど、どういう意味や?』

ソウジも目の位置と同じ高さに、地面と平行にしたカタナを構える。

『オラクルのカタナの持ち方は居合、抜刀。だから基本的に片手もちになる。だが、いま隊長は両手持ちだ。オラクル流ではなく、彼の出身であるラグオル流のな。いままでは片手で持って、もうかたっぽで支える程度だった隊長ががっしりと握ってやがる。』

『つまりは…ガチ?』

『ガチ。』

オキの言葉にコロシアムの全員がアインスに注目する。

「この持ち方をするのは、いつ以来だろうか。」

「ご期待に添えれるよう、善処します。」

冷や汗がたらりと頬を伝う。

すでに戦闘開始の表示が出ている。だが、二人共動かない。

数十秒たっただろうか。ソウジが先に動いた。

「ふぅ!」

「…。」

それに合わせるようにアインスも地面を蹴った。

 

ガキン!

 

二人が重なり、直後に離れる。

『どっちや! どっちがくらった!?』

キバオウが身を乗り出してマイクを持つ。目を細めたオキが静かに言った。

「まじで火が付いたな。隊長。」

最初の一撃は、ソウジがアインスに小さな傷を負わせていた。アインスもソウジに傷を負わせている。

「ほう。」

「…う。」

ゆっくりと振り向いたアインスはそのままもう一度地面を蹴った。

「あああああ!」

ソウジもそれに応えるべく鋭い突きを放った。

「面白い。やはり、面白い!」

アインスの口元が歪み、ソウジへと切り込んだ。

 

 




みなさまごきげんよう。
ペルソナ5が落ち着き、ご無沙汰になっていたPSO2も徐々に復帰している今日この頃。
さて、少しずつですが進めていこうと思うこのSAO。
もうしわけない。時間があまり取れないために以前並に書く事ができません。ご理解とご了承をお願いします。
年明ければ元に戻せそう…。
できればSAO編は年度末までに終わらせたいな。

では次回またお会いしましょう。


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第74話 「想う心は友と共に」

沖田総司(そうし)。これが彼の外での名だ。正確には受け継いた称号。本当の名は沖田悠司。

かつて、幕末の時代に存在した新選組一番隊隊長沖田総司(そうじ)の血縁でもある。

若くして天然リシン流の後継者。それが彼の現実の姿だった。

物心ついた頃から竹刀を握り、今では真剣すら容易に扱う。天才童子。沖田総司(そうじ)の生まれ変わりとも言われた。

そんな彼は強かった。天然リシン流は表舞台にはでない古き武術であったため、同年代の出る試合には出なかったものの、自分より何倍もの年月を修行した屈強の剣士とやり合い、打ち倒してきた。

そんな彼は顔には出さないものの、心の底では飢えていた。

『強き者と戦いたい。』

彼には目標が無かった。小さき頃にはあった目標も既に通り越し、目の前が見えなくなっていた。

そんなある日、師匠であり現師範であり、良き理解者である父からある物を受け取った。それが『SAO』。

見聞を広め、経験を積むにはいいものだった。数々武器があり、現実にはいない化物がいた。見つけるにはいい場所だったと思った。

そんな彼はそのままデスゲームに参加してしまう。先代であり、命のやり取りをした幕末の時代に行きた同じ名を受け継いた、最強といわれた剣士と同じように1歩間違えれば命を落とす世界に足を踏み入れてしまった。一瞬は心落としてしまう場面もあったが、すぐに自分の腕を使い、上を目指そうとした。

巨大な浮遊城『アインクラッド』。

そこで彼が目にしたのはより巨大な背中を持った、宇宙(そら)からの剣士だった。

 

 

「いい腕だ。」

横薙に振るうアインスが言う。

一振り一振りが重い。ステータスは若干アインスの方が上だが、そこまで変わらない。武器は同じものを使っている。つまり腕だけがものをいう試合。だが、それでも重く速く感じる。

気持ちの問題だ。

「そんなことは…ありません。」

彼の目には相手の動きが見えていた。こう打てばこうかえしてくるだろう。多数ある可能性を的確に打ち返す天性の感というものがずば抜けていた。だが目の前で、両手で刀をがっしり握り力強く、それでいて素早く振るう男にはそれが通用しない。だからその背中を追うことを決心した。

「ああああ!」

ソウジのカタナが空を切る。それをアインスが弾いた。

「ふふ…。」

アインスが笑っている。おかしな所でもあるのだろうか。いや違う。この人は人の違いで笑う事をしない。2年近くも一緒に過ごしてきた。嫌でもこの人の事がわかる。なにせ、同じ『想い』を持っている人なのだから。

「楽しそう…ですね!」

お互いにカタナを振り、カタナを避けながらも話をする。

「あぁ。期待…以上だ!」

アインスは本気でそういっている。本気で戦ってくれている。それに少しでも抗う事が出来ているだけでも自分は満足だった。

それだけ、自分が強い相手とやりあえている。心が満たされていた。

 

ガンガン!ギン!

 

2人の素早く、一手一手が強力な振りが左右上下に相手へと襲いかかる。

カタナたけでなく、身体までも使う。

「ふぅ…!」

ソウジの回し蹴り。スキをついた。

 

ガッ!

 

アインスはそれをカタナの鍔で受け止め、後ろへと飛び勢いを殺した。直後に地面を蹴って、ソウジへと近づく。

「くっ!」

速すぎる。切り返しが追いつかない。

「どうした。君の力はまだ出せるはずだ。自信をもて。まっすぐみろ。見上げるな。全て同格だと思え。君にならできる!」

アインスの重い攻撃がソウジを襲う。

言葉も重い。だが、それを受け止める。

「ありがとうございます…。おおおお!」

ソウジは1度後ろへと下がり、再び地面を蹴る。

「一歩音超え…」

1歩踏み出し、地面を蹴る。

「二歩無間…。」

ソウジが多くの相手を屠り去った最大の技。それを放とうとしていた。

「受けてたとう…これは全てをぶった斬るフォトンの剣…。」

アインスをカタナを構える。

 

 

もうすぐおわろうとしている。もうすぐ勝負が終わろうとしていた。

「三歩絶刀! 我が秘剣の煌めき、受けるがよい!」

三歩から放たれるほぼ同時の突き。

ハヤマがもつユニークスキルの三段目『三段突き』のモデルにもなった沖田総司(そうじ)の必殺剣。

「無明…三段突…!」

放たれる筈だった。だが、それをアインスは弾いたのだ。たった一発の打上げ。

『見切られた!?』

ソウジのカタナが上へと弾かれ、体が無防備になる。

「…しま!」

中腰に体を落とし、地面と水平にカタナの構えから同じく突きを放つ。だが、こちらは一発。すべてを解き放つアインスの本気の本気。

 

斬!

 

地面を蹴ったアインスは一瞬にしてソウジの後方へと貫く。

「フォトン・レイ。」

強力な一点集中突きの突進攻撃。それが決め手となった。

『勝者! アインス!』

地面に座り込むソウジにアインスが近づいた。

「やっぱり隊長には、かないませんね。あんな攻撃を残していたなんて。」

「なに。同じく突きで返した迄のこと。共に修行していけば君の技も伸びるだろう。これからも最後まで頼むぞ。」

アインスとソウジが握手をする。それに観衆達は拍手喝采をあげた。

『さぁ!ようやく第一戦目が終了や! 休憩を少しとったら、二戦目いくでぇ!』

 

 

 

「まさかあの技使うなんてね。教えた側からすれば嬉しい限りだわ。」

「ん? あぁ、フォトン・レイか。なかなか気に入っている。」

帰ってきたアインスがシンキにニコリと微笑みを受けた。

フォトン・レイはアインスの強力な突きを更にフォトンでブーストをかけた技。シンキが伝授した技の1つだ。今回はスキルバフのブーストを乗せただけのただの鋭く重い突きとなっただけだが、本来のフォトンを乗せればその攻撃は相手を微塵にするだろう。

「それにしてもアッチは使わなかったのね。」

「ああ。突きできた彼には突きで返したかった。だからアレは使わなかっただけの事。なに、君か、ハヤマ君か。それとも…。少なくとも誰かが上がってきた時にでもお披露目とするさ。」

シンキがニヤリと笑う。

「ええ。楽しみにしてるわ。あなたが、登ってきたらね。ふふふ。」

ひらひらと手を後ろ手に振りながら背中を向けるシンキ。

「楽しみだ…。こんなに楽しいのは久々だ。楽しませてもらおう。」

強者との戦いを待ち望んでいたのはソウジだけではない。彼もまた、飢える者である。

アインスは自分と同じ想いをした友と戦った戦場を静かに見つめていた。




皆さまごきげんよう。
ようやく一巡終わりました…。自分でやり始めておきながらなげぇと思います。
でもやりたかったんじゃ…
そんな事より流石隊長。ノリノリで書かせて貰いました。楽しかった!

次は二巡目。お楽しみに。
では次回またお会いしましょう。


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第75話 「遥かより来る魔神」

トーナメント第2試合。

初戦はオキVSオールド。

序盤より共に戦った、同じ槍の使い手。

オキは言わずもがなアークスにて槍の使い手だが、オールドは現実の、外の世界での熟練者だ。

オールドのほうが長い年月をかけて自らの腕を磨いてきた。だが、それを命を懸けた戦いで得た経験で上回ったのはオキだった。

『勝者、オキ!』

ぐっと腕を上げ、槍を空へと掲げるオキの背中をオールドは見た。

「ふふ・・・。こんなに若いのに。私もまだまだ、修行が足りませんな。」

「何を言ってるんすか旦那。かなりきつかったっすわ。しかし、何度見ても旦那の戦い方は俺たちに良く似ています。こうして対峙して改めてそう思いますわ。」

「そうかね? なに、大事なものを守りたい。ただそれだけの思いで、得たに過ぎないよ。」

微笑みながら戦いの場を後にするオールド。オキは苦笑した。

「ははは。にしてもほんと、不思議だわ。ありゃ対人の戦い方じゃない。もっと何か・・・。うーん、スレアってそんな化け物いるのかなぁ。」

以前シリカに聞いた話では、少なくとも日本と呼ばれる国内ではいないと聞く。いるのかいないのか分からない伝説や噂話等の存在はいるそうだが。

「・・・まいっか。」

オキは気にするのをやめた。

トーナメント、2戦目。第2試合は本日二回目の夫婦対決。キリトVSアスナだ。

「パパもママも両方応援したい・・・。うー。どうすればいいのでしょうか。」

娘であるユイは困っていた。父であるキリトを応援したい。だが、母であるアスナにも応援を送りたい。

そんな困っている姉の横に来たストレアが笑顔で言った。

「だったら同時にまず、お姉ちゃんがパパ。私がお母さんを。そのまま私がお父さんを、お姉ちゃんがママを応援しましょう。」

「うん!」

「じゃあいくわよ? せーの!」

「「パパー!(お母さーん)お父さーん(ママー!) 頑張ってー!」」

二人の声援にキリトとアスナは、眩い笑顔で二人に手を振った。

「おいおい。戦いの最中、同時に立ち止まって笑顔で手を振ったぞ。あのバカ夫婦。」

『これには皆もホッコリ! せやけど二人とも? 今は戦いの最中やでぇ!』

流石のキバオウも突っ込みを入れざる得ない。

待機席に戻ったオキはみなの為に飲み物を渡しまわっていた。そんな中でふと思ったことをシリカについ口を開いて聞いてしまった。

「なぁシリカ。おれも子供持ったらああなるのかなぁ。」

「ふぇ!? こここ子供!? オキさんの・・・子供・・・。」

顔を真っ赤にして茹蛸のように頭からケムリをはき、完全に上の空となったシリカ。

「子供・・・オキとの・・・。」

ハシーシュも上の空だ。

「のう。オキ殿。アークスも、子供を作れるのか?」

横にいたシャルが聞こえたようで、質問を投げてきた。

「あ? そりゃあなぁ。体つきは人間とほぼ変わりないからなぁ。ヒューマンはもちろん、ニューマン、デューマンは人間と交わっても子供は出来るぞ? キャスト・・・ああ、ロボットのような奴だが、ソレであってもDNAだか遺伝子だか保存してあるらしいから手段はともかく子供は出来ると聞いたことがある・・・。」

「オキとの子供・・・えへへへ。」

その言葉を聞いて共にトリップ状態になるフィリア。

「こいつら・・・。おーい。もどってこーい。ったく。まぁいっか。おいハヤマン。さっき聞いたんだが。あ、これ飲み物。さっき買ってきたんだ。あげる。」

「お? おおサンキュ。 で、なに? どうした?」

オキがハヤマのほうへと歩き、先ほど聞いたある話をしようとした。

「ふむ・・・。」

少しだけ何かを考えたシャルがすぐ隣で次の試合の話をオキとしていたハヤマに声をかけた。

「なぁハヤマ殿! 我も子供欲しいぞ! ワシだけじゃかわいそうだから、ツキミにも頼む!」

「「ぶふぅぅぅ!」」

丁度飲んでいた飲み物を、オキは笑いが堪えきれず、ハヤマは驚きにて噴出した。

「ななななな・・・!」

「っ! っ! っ!!」

悲鳴のような声を上げるハヤマの背中を、おなかを抱えて声にならない笑いをしているオキがバシバシ叩いていた。

「?」

シャル、首をかしげて何かいけなかったのか分かってない様子。

そんなやり取りをしている最中、スピードに翻弄されながらも持ち前の感とセンスで切り抜けたキリトの勝利だった。

これにより準決勝はオキとキリトがぶつかることになる。

「楽しみだな。」

「お手柔らかに。」

ニヤリと笑うオキに対し、苦笑気味のキリトだった。

「全く・・・。さっきは驚かされた。」

「いいじゃない。ささっと食べちゃいなさいよ。」

「うっせ! さっさとはじめるぞ!」

戦場の中心にいるのはシンキとハヤマだ。シンキはクスクスとハヤマをからかうと空中に手をかざした。

「今回はハヤマちゃんだし? 少し、本気。出してもいいわよね?」

そういって手に握ったのは紫色の巨大な曲剣。

「げぇ! ペイン!?」

その光景を見ていたオキが観客席でボソリと呟いた。

「あ、そういえばさっき、シャオにシンキが武器交換を依頼していたって言うの忘れてた。まいっか。」

めんどくさがりが此処で発動するオキであった。

「大丈夫よ。流石に奪命剣の能力は出さないわ。だって可愛そうでしょう?」

ふふふと微笑むシンキ。

「当たり前だ!」

突っ込みを入れざる得ないハヤマ。奪命剣の名を持つ巨大な曲剣『エルダーペイン』。攻略組みのメンバーなら見たことのある巨大曲剣。

「あ、あれって・・・。」

「確か25層の!?」

オキの後方、観客席の最前列にいるリンドたちがざわつき始める。

「ああ。あの武器はアイツから落ちた破片を元に作られたアークス用の武器だ。しかし・・・シンキもまた粋な計らいを。」

オキの頬を冷や汗が一滴落ちる。

「以前に話したことあるだろう? シリカ。 シンキのはなし。ほら、旧マザーシップで起きた話。」(47話参照)

「覚えてます。確か、テオ・・・ドールさん? でしたっけ。と、戦ったときの話でしたね。」

「そう。アレ以来だな。アイツのアレ、見るの。」

シンキは普段は魔装脚での足技を主体に戦うテクニック使い。時にはフォースもやったりする。だが、たまに近接職に戻る。特にソードとナックルの使い方は下手な熟練者よりも腕が立つ。

「ハヤマン・・・覚悟した方がいいかもな。」

カウントダウンが0となり、直後にハヤマがシンキへと愛刀『アギト』を横一閃できりつける。

「だああああ!」

「・・・ふふふ。えい!」

重い見た目の曲剣。実際に重い。何せシンキの体の半分以上を覆い隠すほどの大きさだ。それを華奢な体である彼女が両手とはいえ、軽々と振り回す。一回転その場で周り、回転した勢いをそのままハヤマの攻撃にぶつけた。

「ぐ!?」

「そらそら!」

弾かれたハヤマは一度後方へジャンプ。着地後に素早くシンキへと近づいた。

「はあああぁぁぁ!」

アサギリレンダン。瞬発力の高いPAだ。素早い突進から瞬時に目標へ近づき、5回の斬り攻撃。

ギギギギギン!

全てをペインの側面で守りぬいたシンキは縦に一振り。

「えぇい!!」

ズズン!

地面に衝撃が走る。パワー、スピード共に劣らない。

「やりにくいだろうな。ハヤマン。曲剣は斬り易い。刃が曲がっているからな。だが、逆に斬りあいとなると相手にしたくない。曲がってるところに真正面から斬りつけなきゃならねーから流されやすい。」

「なるほど・・・。それにしても・・・。」

「豪快・・・。」

「うん。あんなシンキさんはじめてみた・・・。」

シリカ、ハシーシュ、フィリアがそれぞれの感想を言った。3人だけではない。シンキを知っているプレイヤー全員がそう思っているだろう。

『あのハヤマが近接でおされているやとぉ!? まさかの大番狂わせ! 此処に来て女神? 魔神? まぁどっちでもええか! シンキ! 大暴れや!』

ハヤマの腕はかなりのプレイヤーが知っているだろう。それが苦戦しているのだ。それを予想していたのはアークスのみだった。

「ま、そうなるだろうと思ったよ。全く・・・。勝たなくてよかったぜ。」

頭をかきながらタバコを吸うコマチ。その横でアインスがじっとシンキを見ている。

「何度見ても流石としか言いようが無いな。懐かしい気がする動きも混ざっている。ほんとに彼女は『どこで鍛えたのか』。」

アインスのいう『どこ』というのはラグオルだけではないだろう。アークス『シンキ』。イレギュラーの中でも異質を放つイレギュラー。

「ほれほれ。どうしたのハヤマちゃん。もっと、遊びましょう!」

「ちぃ! このバーサーカーが!」

上空から縦回転しながら切り刻もうとするシンキ。何とかそれを側転で回避。真横からアギトを付きたてようとするも突進業の一つ、ギルティブレイクでかわされそのまま後方へと移動される。

ガン! ガン!

「っぐ!」

ハヤマにダメージが入る。

「あぁ・・・もっと・・・。もっと楽しみましょう!」

いつもの細目で微笑むシンキではない。いつものシンキがいたずら好きの女神とたとえるなら、現段階でハヤマと戦っているこちらは戦の魔神。

「にしても、どこかエロい。」

「う、うむ。」

クラインの一言に、ディアベル以下男性陣が同感する。

「えろいかぁ?」

自分からすれば脅威にしかならないと思う一方で、自分も戦ってみたいと少しからだが疼くオキ。

「ま、シンキの本気はこんなもんじゃねーからな。あくまで、遊び程度の可能性があるが・・・。じゃなきゃわざわざハヤマのカタナにあわせて近接えらばねーだろうし。」

彼女の本気はこんなものではない。彼女の力はこんなものではない。なにせ一度アレを見たならば、一度あれを体験したならば。彼女の力がどこまで奥底まで深いものか。疑問に思うだろう。

「オキさん・・・顔色、悪いですよ? 大丈夫ですか?」

シリカが心配そうに顔を覗いてくる。

「あ? ああ。昔を思い出してな。一回だけ、シンキに稽古つけてもらったときがあってな。その時に受けたことがある。アイツの力をな。それを思い出しただけさ。」

かつて見たシンキの本当の力の一部。あれで一部というのだ。全て出したらどうなるのだろうか。そもそもアークスといっていいのだろうか。

そのモノ、金色に光る背中の空間から出ている数多の武器。その中は大小様々で種類もバラバラ。

「くくく。全く。何度も思うが、シンキの奴。ほんと、なにモノなのかねぇ。」

一息タバコをふかすオキは、ハヤマとシンキの決着を見守った。

「あああぁぁぁ!」

「それそれー!」

なんとか一進一退にもつれ込んだハヤマは力の限り戦った。なんだかんだでシンキも息が上がってきている。

ノヴァストライクで大きく回転するシンキが迫る。ハヤマは上空へと逃げるしかなかった。

「っち!」

「てぇい!」

その場から切り上げるシンキに対し、ハヤマは直下に落ちた。

「切り上げると・・・思ってたよ!」

「え!?」

逃げると見せかけてのPAによるブーストでスピードを上げる。

「ゲッカザクロ! と、みせかけーの!」

コン

アギトの持ち手、その端で軽くシンキのペインの持ち手の底を押し出す。

「あ・・・。」

切り上げた勢いでペインを防御へ持っていくことが出来ない。次の瞬間、ハヤマの周りに青く薄い靄が現れた。

それを見たシンキは微笑んだ。先ほどまでの魔神の笑みではなく。女神のような笑みを浮かべて。

「ああ。強くなったわね。」

「・・・カタナコンバット・・・これで、終わりだ!」

カタナコンバット。アークスの職の一つのブレイバーが持つ固有スキル。フォトンを開放し、普段の何倍もの素早さで動くことができ、さらに斬れば斬るほど、最後のフィニッシュの威力が増す。極めれば20秒間だけ、何物にも指一本触れることすら出来なくなる究極技。

キィィィン!

ハヤマのアギトが鞘に戻る。本来ならば何度も斬りつけ、力を貯めた後に一気にフォトンを斬撃として放つのが普通なのだが、今回は一瞬の隙すらも与えたくなかったハヤマがカタナコンバットを開始した直後にフィニッシュを放った。

その攻撃が決めてとなりシンキは負けた。

『WIN! ハヤマ!』

「勝った・・・。あぶなかったぁ・・・。」

「ほんと、強くなったわね。初めてであった時よりもずっと。これで安心したわ。シャルちゃん、守れるわね。」

ニコリと微笑むシンキ。

「は?」

「は? じゃないわよ。あなたが今の私にまけるようなら、シャルちゃんとツキミちゃんを誰が守るって言うのよ。」

プンスカという音が聞こえてきそうなくらいにシンキは怒っている。というかなぜ怒られているのかがハヤマには理解できない。

「そりゃ将来を一緒に歩むんでしょう? あなたが誰かに負けてちゃ、シャルちゃんやツキミちゃんが泣いちゃうでしょう? だから、私が試してあげたのよ。私に勝てるくらいなら、暫くは大丈夫でしょ。私が保証したげるわ。自信もって、食べちゃいなさい!」

にこやかに左手の指で輪を作り、その中に人差し指を入れる行為をするシンキ。

「うっせ! この下神がぁぁぁ!」

ハヤマの叫び声がコロシアム中に広がるが、歓声の音で悲しくもかき消された。




みなさまごきげんよう。
久々に時間が多く取れたのでEP4現在の最新まで進めました。
いやぁ、EP4改変したくなった。ここまで描きたいと思ったのは久々ですよ!
いつか書く(まずSAO終わらせろ

今回はアークス対決ということでささっと書き上げました。本当はシンキにもっとえぐい事してもらいたかったんですが、それやるとハヤマが勝てないのでやめました(
いつかやってもらおう。

ではまた次回お会い致しましょう。


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第76話 「二刀流VS神槍」

「つ、つぇぇ…。」

アインスとクラインの試合。同じ刀同士なのに、こうも違うのかと改めて思ったクライン。

「太刀筋はいい。仕方あるまい。経験の差だ。君は充分強い。」

武器を収め、疲れきり座り込んだクラインにてを差し伸べるアインスはニコリと微笑んだ。

アインスとクラインの勝負。結果が見えきっていた勝負。だが、思った以上にクラインは善戦した。

特に、下から切り上げると見せかけたフェイントをいれ、アインスの右肩へクリティカルに突き攻撃を入れた動作は熟練者でも見抜けぬ綺麗な動きだった。ハヤマ、オキですら声を上げ、アインスは称賛を与えた。

直後、左手に持ち替えたアインスにあっさり負けてしまったのはクラインらしいとサラが言う。

「全く、調子に乗ったわね。ま、あいつらしいっちゃアイツらしいんだけど。ここまでいったのは、予想外だったわ。」

「ほめてやんねーとな。頭でも撫でてやったら?」

オキがニヤニヤしながらサラに言った。

「う、うっさい! そそそ、ソレくらい当たり前でしょ! いくら現実の世界と違うとはいえ、あんた達と少しでも互角に戦えたんだから。」

顔を真っ赤にしながら、クラインに近づき恥ずかしそうに頭を撫でていた。ものすごく雑だったが。

ソレに対し、クラインはこれ以上内ほどデレッデレな顔をしてすぐにサラからはたかれていた。

「さて、待ってたよ。」

「ああ。俺の力を試すときが来た。よろしく頼む。オキさん。」

コロシアムの真ん中で対峙するはオキとキリト。

『さあさあ! この大会も残すところあとわずか! 準決勝! 第一試合! おっぱじめるでぇ!』

キバオウの声がコロシアムに響き渡り、喝采が上がる。

『方や、銀河の先の先から来る我らが救世主。宇宙人はおったんや! 最近ハーレムを築く色男! ワイも少しは恩恵にあずかりたい! アークス、オキはん!』

「お前も意外と人気あるだろキバオウ。」

実はファンが多いキバオウ。気付いていないのは本人だけである。

『方や、プレイヤー側最強の男。イレギュラーにどこまでついていく!? 二本の剣で家族を守る! 美人な嫁はんワイもほしい! 二刀流、黒の剣士! キリトはん!』

「「パパー! (お父さーん)! 頑張ってー!」

「キリト君ファイトー!」

「あ、あはは。」

『家族の声援も熱い! 羨ましいで! このやろー!』

家族に応援され手を振るキリト。他にもキリトを応援する声は多い。

「よくぞ此処までたどり着いた。俺は嬉しいぞ。お前が此処まで強くなってな。さぁ、楽しもうぜ。」

「ああ。お手柔らかにな!」

二人が構える。オキはキリトの武器に合わせて『魔槍ゲイボルク』を装備していた。

「あれ、グングニルじゃなくていいの?」

キリトが目を細める。

「ばか。早く終わったら面白くないだろう? それに、おれはアッチよりコッチノが好きなんだ。」

「ふーん。」

カウントダウンが、0になる。

「おおおおお!」

キリトが最初に動いた。オキへと素早く近づく。同時にキリトが何かを投げた。

「ふん。」

オキがソレを弾く。直後にキリトが二本の剣で切りかかった。

「でやあぁぁぁ!」

ギンギン!

槍をくるくると振り回し、払う。

「本気なんだな。いいだろう。」

気迫、動きをみて最初からフルスロットルだと判断したオキは、ワイヤーを服の袖から伸ばし、キリトを攻撃する。

「っ!?」

投げナイフと同じく攻撃力は微量とはいえ、オキの操るワイヤー「ウィップ」は予測不可能な動きをする。一度肩をはじかれすぐさま後ろに下がったキリトはオキに近づくのをためらった。

「ふん。紅い棘は茨のごとくってなぁ!」

戸惑いの隙をついてオキが地面を蹴って上から攻撃してきた。

「ぐぅ!」

ガキン!

黒と白の二本の剣がクロスされ、紅い魔槍を受け止める。

「おらおらどうした! よいしょっとぉ!」

突きに振り回し、さらにはワイヤーを使ってのけん制。キリトは守りに徹するほかなかった。だが…

「流石オキさん…だね!」

「む!」

キリトの剣が光る。構え、光らせ、放つスピードはオキの予測を超えていた。

瞬時に危険と判断したオキは既に地面を蹴って後方へ下がる。オキのいた場所に二本の剣が横なぎに払われた。

「こっからだよ!」

「…やべ。」

SSの終わり際から次なるSSが繰り出される。突進力のある突き属性のSSでオキとの距離をつめた。

「おおおお!」

さらにつなげる。16連撃からなる素早い剣捌きの『ナイトメア・レイン』。今度はオキが防御に徹した。

『っち。弾かれそうだぜ。』

ギギギギン!

SSの終わりを耐えるオキ。目を細め、一振り一振りを見抜いた。

キリトの天性の瞬発力から繰り出される『J・S(ジャスト・アタック)』によるSS連発。あのヒースクリフを出し抜いた技だ。

ギィィン!

攻撃の猛攻に耐えれず、オキの槍がわずかに防御の軸から外れる。

「しまっ!?」

「そこだああああ!」

さらにつなげるキリト。放つは奥義『ジ・イクリプス』。のはずだった。

「させるかよ!」

一瞬の隙。SSとSSの間に出来る1秒か、満たない程の隙をつきオキはキリトの体にワイヤーを巻きつけ、引っ張った。

「っな!?」

「だぁりゃ!」

引っ張った勢いと飛んだ力でキリトへ飛び蹴りをかます。

「っが!?」

「っとと。」

けりにより、SSを強制解除されたキリトは後ろにふらつき、オキは少し距離を置いた。

「その心臓…。」

距離を置いたオキは怯んだキリトに向かって槍を中腰に構えた。

「貰い受ける!」

直後、地面を蹴ってキリトへと接近、胸部へと槍を突き刺した。

「ゲイ…! なに!?」

勢い良く突き刺したはずの槍から大きな金属の音が響いた。

ガキン!

「グ…うう…。」

十字にクロスさせた剣で胸部を守ったのだ。

「ちぃぃ! 『火尖鎗』!」

槍に炎を纏わせ槍の先端から炎の刃が伸び、縦と横に大きく振り回すユニークスキル『神槍』のSSを放ち、後ろに下がりながら距離をとった。

「あつっ! 火炎属性!?」

オキの放ったSSは高確率で相手に燃焼の状態異常を与える。キリトの体は炎を纏った。

「あち! あち! 結晶!」

すぐにアイテム欄を開き、結晶を使おうとしたときだった。

「おお。これはあついのだなー。」

「…え?」

「は?」

キリトの後ろに一匹の猫が素早く降り立つ。その姿にキリト、オキはもちろん周囲は唖然とした。

「み、ミケ?」

ミケがキリトの後ろで燃えているではないか。オキは嫌な予感がした。

「やっべぇ…これ逃げた方がいいな。」

そういって後ずさりした直後だった。

「オキも燃えるのだー!」

猛スピードでオキを追いかけ始めた。

「やっぱりかぁぁぁぁ!」

炎を纏ったミケはオキ目掛け、コロシアム内を走り回った。

「いや確かによぉ! 惑星アムドの火山地帯では、よく燃えては回りにばら撒いてたけどよ! ここでもやるかおまえぇぇ!」

「炎見たら我慢できなかったのだなー! 覚悟するのだー!」

すばしっこさではミケのが早い。もう少しで捕まるというところでオキが何かを思い出したのかクルリと反転。すぐさま槍を構えた。

「だーもう! あっちで遊んでろ! 『トライデント』!」

槍の先端から飛び出た水の刃で、三回のほぼ同時突きと三回目の突きの直後そのまま振り上げる水の属性を持つ『神槍』スキルの一つ。

ミケの体に当たらないよう攻撃を放ち、そのまま三回目の突きでミケのフードに槍を引っ掛けてお空へと投げた。

「にゃあああぁぁぁ!」

「ぜぇ…はぁ…ちくしょう。精神的に疲れた…。」

オキはテクテクと歩いて実況席へと向かった。

「おい。キバオウ。マイクかせ。」

「お? おお。ええけど。」

ぽいと投げられたマイクを受け取りオキは唖然としている観衆に謝った。

『いや、お騒がせしたスマン。特に問題ねーからこれから再開すっぞ!』

「「「おおおおお!」」」

「返す。」

「お、おお!?」

投げ返したオキはキリトのほうへと向かった。相変わらずポカンとしている。

「火は消えたようだな。」

「え? ああ。結晶を使わせてもらったよ。…いつでもいいよ。」

「おーけー。」

キリトが構えなおし、それにあわせてオキも腰を低く下ろし、槍を構えた。

「おおおお!」

「だぁぁぁ!」

二人が一気に近づいていく。このまま討ち合いを経て、勝負がつくと誰もが思っていた。

「はずだったぁ! ってなぁ!」

オキが急に止まり、顔に手を当てた。直後キリトはもちろん、その技を知っている人以外全員が思いもよらぬところからでる技に度肝を抜いた。

「『ヴァサビィ・シャクティ!(別名:真の英雄は眼で殺す技)』」

オキの放った技は武器からではなく、なんと目からビームを放ったのだ。

「なん…だと…!? ッガ!?」

あまりの唐突で予想もしない攻撃に防御、回避すら忘れモロに食らってしまうキリト。

「ちょっぴり…本気だ。」

動きの止まったキリトに対し、オキは紅い槍を上空へと蹴り上げた。

蹴り上げた槍を追いかけるようにオキも上空へとジャンプ。

「蹴り穿つ…『ゲイ・ボルク・オルタナティブ』!」

オーバーヘッドで下方へと蹴り下ろした槍は紅いオーラをまとって一直線にキリトへと落下、突き刺さった。

『WIN! オキ!』

その一撃によりオキの勝負が決まった。

「っと…。いやぁとってて良かったあのSS」

降りてきたオキはキリトに近寄った。

「もはやSSとは…。」

苦笑気味になるキリト。

「あれ、あまり強くない上に貫通技とは言え距離もあるわけではないし、なにより立ち止まって真正面のみに攻撃する技だから普通にほかの技使ったほうがいいんだよねぇ。だからいままで一回試してやめたかな。しってるのはシリカたちだけだし。まぁ、ひるませるにはいいかなって。」

「あ、あはは…。」

「でも強かったぜ。楽しかった。ありがとな。」

「ああ。これからもその力、頼らせてもらうぜ。オキさん。」

二人の握手によりコロシアムは喝采を上げた。

それと同時に立ち上がったふたりがいた。

「さて、いきますか。隊長。」

「ああ。楽しもうじゃないか。」

ハヤマ、アインス。双方気合をいれ、出陣。

カタナ使いの戦いが今ここに始まろうとしていた。




みなさまごきげんよう。
そろそろコロシアムも終盤。準決勝の一つが終わりました。
あと2試合で終わりですね。お楽しみに。

しかしPSO2はネッキー緊急困りましたねぇ。
なかなか難しいクエストです。期間も短いですしね。
なんとかオービットは揃えたいところ・・・。

では次回にまたお会いしましょう。


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第77話 「二本のアギト」

「3…2…1…」

カウントダウンが0になる直前に二人が同時に動いた。

「0」

ガキン!

0となった瞬間、お互いのカタナをぶつけ合った。真正面からのぶつかり合い。

ガン! ギギン! キンキン!

左右上下の猛攻。一発一発が本気で打ち合っている。

「はあああぁぁぁ!」

一瞬後ろに下がったハヤマが力を貯める。その次に来る攻撃を予測し、アインスは脚に力を入れた。

「『カンランキキョウ』!」

周囲360°の居合い切りがアインスを襲う。だが、斬撃が来る前にすでに空中へと飛んでいた。

「ふん。」

上空から一気に降下、直後に切り上げる『ゲッカザクロ』を放つ。

キィン!

「ちぃ!」

ハヤマはアギトで防御し、地面を蹴った。

「『グレンテッセン』!」

一瞬でアインスの背後を取った。背中へアギトの一撃が入ると誰もが思う。だが、ソレは防がれた。

ガキン!

後ろ目に顔を、体をほぼ動かさず、ソコに剣戟が飛んでくると分かっていないとできない防御。

アインスはオロチアギトを背中側に構え、防御した。

「「「おおおお!」」」

その行為に観衆は声を上げる。

『いやぁ流石アインスはんやなぁ。』

『せやな。グレンテッセンは瞬時に相手の後ろを取ってから強力な斬りを居合いでぶっぱなす技。何度も見ている隊長だからこそソコに来るとわかるから出来る防ぎ方だな。さぁてハヤマんはどうやってそんな隊長とやりあうかな?』

実況のキバオウに解説のオキが盛り上げる。

防御されたハヤマはすぐさま距離を取った。

「さすが隊長・・・普通の攻撃じゃ防がれるか。」

「なに。これくらいなら君にもできるだろう?」

フっとお互いに笑い合う。そして。

ギン!

再び瞬時に近づきあい、激しい斬りあいが始まる。

斬りつけ、弾き、その勢いを利用して。

『にしてもや。アインスはんのカタナはともかく、ハヤマのカタナは錆びとんのやけど、アレ大丈夫なん? 折れへんの?』

『ああ。大丈夫さ。ここで少し補足説明しようか。ハヤマんのカタナ、アギト。そして隊長のカタナ、オロチアギト。二つは親子のようなカタナさ。』

オロチアギト。四天と呼ばれる四本のカタナの一本。銀河を駆け巡っていれば、どこかで聞くその名前。

名だたる名匠が鍛え上げた四本のカタナ『四天』。『ヤシャ』『カムイ』『サンゲ』と、『オロチアギト』の名が古典に残されている。

『ハヤマんがもってるのはその贋作だが、アギトの名を持つ中でも屈指の作品。錆びててもその切れ味が落ちることはない。逆に切れ味よすぎるじゃじゃ馬のようなカタナだ。』

『そしてその相手が・・・アインスはんの。』

『そう。その元となった本家本元。オロチアギトってんだから。いやぁ、面白い戦いだよ? これ。銀河中にいる四天ファンからすれば、是非がでも見たい戦いだろうねぇ。』

おお~と周囲のプレイヤー達が声を漏らす。

一人だけ、クスリと微笑みポソリと呟いた女性がいた。

「でも、その逸話は…ね。知らない方がいいかしら。」

背中の巨大な羽をゆっくり動かし、二人を見つめるはシンキだ。

『四天』の裏の逸話。本当の出土を知っているのは今やただ一人になってしまった。いや、アインスもどこかでしったのかもしれない。彼もどこかしら知っている節がある。

「ほんと。退屈しないわ。あーでも、やっぱり勝てばよかったかしら。」

「シンキさーん! 飲み物かって来ましたよー!」

リーファ達が手を振りながらこちらに向かってきた。

「どうかしたの?」

シノンが顔を覗いた。どうやら顔に出ていたらしい。私らしくない。

「ううん。なんでもないわ。」

微笑みを返し、二人の頭を撫でるシンキの顔をみてリーファ、シノンは首をかしげる。

「だぁぁぁ!」

左右への動きからアインスの側面へ突きを放つハヤマ。アインスはその攻撃を剣先でズラシ、掠めるようにカウンターを行った。

「っな!?」

同じく突きで返されたハヤマはすぐさま距離を取る為に後方へ下がる。直後にアインスの行動に目を見開いた。

ドクン…ドクン…

『カタコン!? 決めるきか!? だが、それでは…!』

『カタコンってぇと、確かシンキはんと戦ったときにだした、必殺技のようなもんやったな?』

カタナコンバットの『何人たりとも触れることを許さない動き』が出来るのは長くても20秒。

短くすることは意図的に可能だが、長くなることは絶対にない。それ以上やれば、フォトンが暴走し最悪死に至る可能性があるからだ。そもそもそれ以上やるメリットがない。20秒まで全力で攻撃。そのときに貯めたフォトンの量が放った際に最も適切量であり、簡単に言えば最も攻撃力のでるタイミングが20秒なのだ。

それをアインスは先に開放した。その間無敵になることはできるが、ハヤマがこの直後に使用するとどうなるか。

『隊長が使い終わった直後に、ハヤマがフィニッシュをかませば・・・少なくとも今のHPでは一発でギリギリ削りきれちまうだろう。そうするとハヤマの勝ちになる。』

『あせったんやろか。』

『いや、それはない。隊長に限ってそんな事は・・・。』

普段から冷静な彼だ。あせって攻撃を仕掛けるという事はしない。ならば何かしらの勝算でもあるというのだろうか。

「いきなり使ってきたね! ならばこちらも!」

流れるようにハヤマもカタナコンバットを開放する。その差、約2秒。この2秒で勝負が決まるだろう。

カタコンを発動した瞬間にアインスがハヤマへと猛攻を仕掛ける。身軽となったカタコン発動中の動きは何度も見てきている。ハヤマでも何とかしのぐことは可能だ。

ガン!

空中でアインスの回し蹴りが入る。ソレをアギトで防御。二人とも勢いで一度離れてしまった。

「っくぅ!」

カタコン発動中のけりだ。生半可な威力ではない。

「まだまだぁ!」

ハヤマが突っ込む。

3、2、1…。

アインスが最後のフィニッシュを放つ。

キィン!

だが、それはハヤマの体には今や効かない。直後にハヤマもフィニッシュの体勢に入った。

「おぉぉわぁぁりぃぃだぁぁぁ!」

キィン!

逃げ切ることは出来ない距離。上空だろうが、地下だろうが、周囲前後左右上下。360°の球全てが攻撃範囲となる。

いくら隊長でも、防御すら貫通するこの攻撃を受ければ・・・。

「予想通りだ。」

「・・・はぁ!?」

アインスがハヤマへと向いている。HPは予想していた量より1/3残っていた。

あまりの予想外の展開にハヤマはアインスを見たまま攻撃したままの体勢で固まってしまっている。

アインスは上段で構えていたオロチアギトを、一瞬溜め、一気に振り下ろした。

斬!

斬撃が縦に飛び、ハヤマへと襲い掛かる。

「ばか・・・な!」

『アインス、WIN!』

「『オロチアギト・オーバーロード』。こっちでも、使えてよかった。」

アインスの勝利によって終わった準決勝。その結果の一部始終をオキが見ていた。

『隊長がカタコン発動後に入れた、蹴り。あそこが基点となってる。カタコンは先ほど説明したとおり、20秒後のフィニッシュが一番いい攻撃を放つ。先に使ったほうが負ける。だが、使われてから相手側もすぐに使わないと、終わるまで待ってるんじゃ、20秒間無敵のチート状態を喰らうことになる。だからハヤマんもすぐにカタコンを発動した。ここまでOK?』

キバオウを初め、皆が頷いた。

『そして隊長が放ったけり。このとき、ハヤマんは気付いてないだろう。だって吹き飛ばされてんだから。このとき隊長は、ハンターの技【マッシブハンター】を発動している。』

「マッシブ!? ・・・そりゃ硬いはずだよ。」

ハヤマが立ち上がりながらオキの解説を聞いて理解した。

マッシブハンター。ハンターが使うことの出来る技の一つ。自らの身体を強靭と化し、半端な攻撃ではびくともしない状態へとなる守りの技。ブレイバーであるアインスはサブにハンターを置いている事によりそれを可能としている。

『マッシブの効果は長くて45秒。カタコンと同時に発動していたとしても更に倍の時間発動できるが・・・隊長はハヤマんの気付かないうちにマッシブを使った。』

「ワザとカタコンを使用させ、マッシブで耐えた後に、一発でしとめる。そのために取っておいた大技だ。」

オロチアギトに溜めたフォトンを真正面に斬り放つ大技。これまたシンキが教えた技だ。

「はぁ・・・負けたか。」

「楽しかった。またいつかやろう。」

アインスが笑顔でハヤマに手を差し伸べる。

「ああ。わかったよ。次は負けねーかんな。」

「ふふふ。楽しみにしているよ。・・・さて。」

一瞬目を瞑り、ある一点を見たアインス。その先には今まで解説で座っていた男が立ち上がり

応援をかけたシリカに数秒抱きついてから、アインスへと向かってくる姿があった。

「・・・勝てよ。バカリーダー。」

「あーよ。ゆっくり休んでろカタナバカ。満足そうな顔しやがって。」

パン!

お互いにニヤリと笑い、頭上で手をたたきあった。

「待っていたよ。オキ君。君とこうして戦う時を。」

「ああ。俺も隊長とはやってみたかったんだ。こいつでな。剣でも、槍でも、なんでもない。コイツと一緒にやりたかった。」

ワイヤードランス『エルデトロス』。アインスの最高の相棒が『オロチアギト』であれば、オキの最高の相棒が『ソレ』だ。

「今にも暴れ出しそうに見えるな。」

バチバチと鳴り響く刃。今にも斬りかかって来そうな風を纏う装飾。それをみたアインスが自らの相棒を構えた。

「ふん。隊長のオロチだって、今にも噛み付いてきそうじゃねーの。」

お互いに距離を取る。そしてカウントダウンが始まった。

『さぁさぁ泣いても笑ってもこれが最後や! 第一回! アインクラッド闘技大会! 決勝戦! おっぱじめるでぇぇぇ!』

3!

2!

1!

『かいしやぁぁぁあ!』

多くのプレイヤー達の声援とキバオウの開始の合図と同時に二人が走る。

「おおお!」

「だぁぁぁ!」

ガキン!

1本のカタナと2対の武器が火花を散らし、会場を振るわせた。




皆様ごきげんよう。
ようやく終わりを迎えようとしている闘技大会!
SAO編も何とか年末年始あたりで終わるかもしれない!?
・・・ないな。SAO編最後の部分は壮大な戦闘連発しますんで・・・。

さて、PSO2ではネッキー緊急が半分となりましたな。ようやくほぼS安定まで持っていくことが出来るようになったミケ主催、私まとめの固定メンバー。いやはや、此処までくるのが長かった。
どうやれば今のメンバーでSを取らせることができるかと頭を痛めました。
後はファミ通で手に入れたトリガーを連発で使うだけですな。(しかしガンスラは出るのだろうか

ではまた次回にお会いいたしましょう。


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第78話 「激闘 頂上決戦」

オキ対アインスの決勝戦闘開始から約10分経過した。

お互いに少しずつHPを削りつつ戦っており、アインスがほんの少しだけ優位となっていた。

「そりゃ!」

オキの左手側のエルデトロスがアインス目掛けて空中を走る。

「ふん。」

アインスはオロチアギトでソレを弾いた。

その動作の直後に右腕を一気に自分の後方へと引っ張るオキ。

ブン!

アインスの後ろからもう一本のエルデトロスが襲い掛かる。

「あまい。」

避けると同時にオキへと走るアインス。オキは武器を手元へ戻し、上段からのアインスの攻撃を防いだ。

「やっぱ・・・簡単にはいかせてくれないねぇ。」

「なにをいう。君にその言葉をそのまま返そう。」

ガキン!

1本と2対の武器が火花を散らして離れ、猛烈なラッシュ攻撃を始める。

ガンガンキンギン! ギギギギ!

小さなキズがHPバーを削りあう。

「どーっせい!」

オキが上空へと右手側を伸ばし、左手側でオロチアギトを防ぎつつ、一気に落とした。

ドン!

地面へ突き刺さるエルデトロス。アインスの姿は無い。

「よっと!」

突き刺さった左手側を引っこ抜きつつ、右手側をすぐさま自分の側面へ伸ばし、正面へなぎ払った。

その先にはアインスが脚に力をいれ、こちらへと今にも飛んできそうな姿だ。

「これならどうだ!」

左手のエルデトロスを上から弧を描くようにアインスへと振り下ろす。

「ちっ。」

後方か、それとも彼の左手側か。

「・・・前だ。」

後方に下がれば伸ばされる上、さらに距離で不利になる。空いている左手側は罠だ。右手側と上空の二対が一気に向かってくるだろう。上空は問題外だ。ならば、前に出るしかあるまい。アインスは一瞬のうちにソレを判断し、彼の方へと突進した。

「なに! ちぃ!」

その行動に、一瞬驚いたがすぐさまワイヤーを自由自在に操り、アインスへと攻撃をする。

オキは上空で弧を描いている左手側のワイヤーを引きつつ、腕を後ろへと引っ張る。

さらに右手側もワイヤーを一気に引き手元へ戻した。そして

「ふん!」

一回転横に回転しながら勢いをつけ、戻したワイヤーをアインスの真正面に、引っ張って数倍以上のスピードで落とした方も戻した勢いでもう一度伸ばす。

アインスは片方を弾き、片方を避け、距離を取った。

「そぉりゃ!」

「・・・!」

アインスの目が少しだけ細くなる。オキがクロス状に腕を交差させ、ワイヤーを伸ばした。その先の刃は空中を縦横無尽に駆け回る。

アインスはいつどこから飛んできてもいいように、オキの周囲を走った。

「・・・そこぉ!」

一度両腕を上に振り上げたオキは、アインス目掛け、一気に振り下ろした。

ドドドドド!

上空を駆け回っていたエルデトロスが猛スピードで地面へと落ちては上がり、絨毯爆撃のように地面へと落ちていく。

まるで何本もの同じ武器がほぼ同時に、雨のように降ってくる感覚だ。

アインスはそれを黙って避ける。だが、数が多すぎる。

ザシュ…

「・・・!」

左腕へと入る。それをみたオキはニヤリと口を歪ませる。

「ふん。」

だが何事もなかったかのごとく、エルデトロスの雨を縫ってオロチアギトの一突きをアインスはオキへ飛ばす。

「っ!」

あまりの素早さ。あまりに的確。その攻撃はオキの肩へと目掛け飛んだ。

ザシュ!

同じく傷が入る。しかもオキのほうがキズは深く見えた。

「ち!」

舌打ちしたオキは、アインスから距離をとるためにエルデトロスを戻しながら後ろに下がった。

「・・・。」

「・・・。」

お互いににらみ合う。

『あんた。どっからきたんだ?』

『俺か? 俺はラグオルって場所から来た。』

『へぇ。聞いた事ない場所だな。』

出会いは唐突だった。別の、遥か遠くより来た同じくダーク・ファルスと戦ったという男。

巨大な化物と共に、こっちへ飛ばされてきた者。

お互いに仲間として、強者として、競い合った。

『いつかは、戦ってみたいものだ。』

『何言ってんの。俺なんかが隊長にかなうわけないっしょ。』

二人で笑い合う。そんなことはない。君は強い。そう言われたとき、嬉しかった。

『待たせたな!』

『隊長!』

巻き込んだ今回の件。しょっぱなからピンチを救ってくれた。あんたには感謝してる。そういえば、ルーサー追っかけてた時も遅刻したっけ。

『目を覚ませ。』

『なにしやがる! アインス!』

頭に血が上って何も考えずに進もうとした俺を止めてくれたっけ。

 

 

「楽しかった。君に、感謝する。」

アインスのオロチアギトから光がうっすらと放たれる。

「何言ってんの。いままで散々世話になってきたじゃない。お互い様だろ。」

オキも自分の持つエルデトロスにフォトンを流す。風が強くなり、雷が強く走り出す。

お互いに次で最後。最大の攻撃を放つつもりなのは喋らなくてもわかっていた。

HPはお互いに少ない。これで決まるだろう。

「隊長。いやアインス。ありがとう。ここまでついてきてくれて。そしてこれから迷惑をかけると思うがもよろしく頼む。」

「ははは。それはこちらも同じだ。こんな斬ることしか能がない男とともに歩んでくれて。こちらこそ。」

お互いの貯めた力が最大となった瞬間だった。

「はぁぁぁ!」

「おぉぉぉ!」

至近距離まで走る。アインスは上段から振り下ろし、オキは体をひねってエルデトロスごと縦回転しながらアインスへと二対を振り下ろす。

 

ガキン!

 

「ヘブンリー!」

「あまい!」

オキがアインスをつかもうとした瞬間に二対の刃を弾いた。オキはそのままの勢いで上空へとジャンプ。直後に真下にいるアインスへと急降下した。

「でぁぁぁ!」

「ふん!」

オキはアインスへと、アインスはオキへとお互いの武器を突き先端同士がぶつかりあった。

 

キィィン!

 

会場に甲高い音と、波状の風がなびいた。

「ふぅぅ!」

「・・・。」

オキはクルクルと回転しながら後方へ。アインスはソレを見ながらオキを追いかけた。

 

ズシャ!

 

「ワイルドゥってなぁ!」

PA、ワイルドラウンド。両腕を素早く、前後に振り前方後方へと壁上の斬撃を飛ばす。

オキはアインスがおってきている事を確認し、地面に着地後アインスが攻撃範囲内でオロチアギトを横薙ぎに不労としている完璧なタイミングで攻撃を放った。

「!」

 

ギギギギ!

 

アインスは素早く停止。ワイルドラウンドの全ての攻撃を防いだ。

「ふん。」

 

キンキン!

 

ワイルドラウンドが終わった直後にオキへ二振りの斬撃。PAサクラエンド。

だが、すでにオキは後方へステップ。すぐさま攻撃を再開しようと踏ん張っていた。

アインスは素早く前へ足に力を入れる。

『はやい!』

オキの予想よりも反応がはやい。さらにアインスはグレンテッセンによりオキの後方へと移動した。

「・・・。」

「まずっ!」

 

キィィン!

 

振り返りざまにエルデトロスでガード。すぐさま距離をとる為にアインスとは逆の方へと走った。

しかしアインスもそれについていく。

「いい感じにあったまってきたぜ。」

「・・・ああ。 そうだな。」

戦いが終わる。二人はお互いに感じ取った。

後ろから追ってくるアインスへとクルリと反転、オキは二対の刃を上空へと振り上げた。

「吹き荒れろ暴風。鳴り響け雷鳴! ・・・くらいやがれ!」

アインスはそれを見た瞬間にその場へで止まる。

「・・・!」

 

『雷 公 鞭 !!』

 

 

オキが振り上げたエルデトロスから強力な雷と暴風の二本の柱が現れ、それをオキはアインスへと振り下ろした。

 

ゴゴゴゴ!

 

アインスはオロチアギトを鞘へと収め、居合の構えをした。

「来たれ我が刃、我が四天の武、これこの通り……。」

アインスの周囲にうっすらと現れた3本の刃。アインスが持つオロチアギトを含む4本の四天の刀がアインスを取り囲む。

「…塵芥になるがいい。」

アインスの目が一瞬だけ光ったように見えた。一気に振り出される一振りの、四天とアインスの力のこもった居合い切り。

 

『四 天 招 雷 !!』

 

ガギギギギ!

 

お互いの最大級の力がぶつかり合い、そして

 

ゴォォォ!

 

行き場を失った力は上空へと一緒に重なり合いながら飛んでいった。

土煙の舞い上がった戦場。それを切ったのはオキだった。

「やっぱりなぁ! かまえてるとおもったぜ!」

オキが飛びついた先にはすでにその場所からくると予想していたアインスが居合の構えをして待っていた。

 

ガキン!

 

だが、一振りが早かったのはオキ。アインスは鞘で受け止めるしかなかった。

「おわりだぁぁぁ!」

すでにふた振り目をふり下ろそうとするオキ。アインスの持ち方は一度鞘から抜いてから振り下ろすしかない状態。防御したところでオキに攻撃することはできない。

「…とおもったのだろう?」

アインスの腕が動いた。

 

斬!

 

オキの腕が飛ぶ。

「な…。」

アインスは素早く『逆手』に持ち替え、オロチアギトを抜いた。

「…ふむ。これは。」

目を細めたアインスは自分の左腕に首を向けた。

「あーあ。勝てなかったなぁ。」

オキの残った方の腕。もう一方のエルデトロスがアインスの腕を切り落としていたのだ。

 

『ド、ドロー!!!!』

 

キバオウの声が会場の第一声を張り上げ、直後に会場全体から歓声が上がった。

『まさかのドロー! さすがのワイも予想できんかった! えらい熱い戦いを見せてくれた二人に大きな称賛あびせぇや!』

「ふむ。まさかこうなるとはね。」

「だぁぁ! まさか逆手になるなんてなぁ。くやしいのう。」

その場に寝っころがりながらポーションを飲むオキ。その隣に座り込むアインスも一緒に飲んだ。

「いや、さすがというべきか。予想以上だった。…楽しかった。ありがとう。」

「にしし。おう。俺もだ。サンキュ、たーいちょ。」

お互いの残ったほう握りこぶしをコツンとぶつけ合った。

 

第一回、最初にして最後のSAO内アインクラッド杯は二人の優勝者で幕を閉じた。

 

 

 

 




みなさまごきげんよう。
いやぁ長かった。アインクラッド杯完!
最後の隊長とのやり取り。居合い抜き状態から逆手抜きに帰る描写は、かのビートたけしさん演じる『座頭市』のラストから持ってきた、私の中でカタナを使う最もカッコイイやり取りNo1に位置する描写。隊長にして欲しかった!

というわけで、ようやく攻略を進めます。
次回は99層攻略。最後の大ボス達が待ち構えています。お楽しみに。


ところで、FGO第7章を現在疾走中なのですが、いやなかなかヤバイ。やはりさすが最終章スケールも敵もでかぁい!(説明不要)
年末に最終決戦があるそうで、7章クリアしないと参加できないとか。がんばります。
ではまた次回にてお会いしましょう。


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第79話 「ミス・アインクラッド・コンテスト」

「攻略を開始するといったな。」
「そそそ、そうだ。早く開始してくれ。」
「アレは嘘だ。」
「うわぁぁぁ!」


『ってわけで、ミスコンはじめるでぇぇぇ!』

「「「おおおおお!!!」」」

主に男達の声が会場に響き渡った。

「何で私がー!?」

ステージに立つシリカが涙目になりながら叫んだ。

「絶対オキの仕業ね…。」

「すごい良い笑顔で手を振ってますよ。ほら、シリカちゃん。振ってあげたら?」

頭を抱えるシノンと苦笑いするリーファ。

「はぁ…。私まで。しかもユイちゃんも…。」

「ママー。これから何がはじまるんですか?」

「大惨事大戦よ。お姉ちゃん。」

ストレアがニンマリしながら答えた。

「アスナはまだいいじゃない。綺麗だし? 可愛いし? 何で私なのよ。」

ため息をつくアスナの隣にガッチガチに固まったリズベットがいた。

「うふふ。」

笑顔でその様子を間近で見ているのはシンキだった。

盛り上がりは最高潮を迎えた決勝戦。オキとアインスの同時優勝となった闘技大会は幕を下ろし、長い一日が終わろうとしていた。筈だった。

『ありがとう。すごく楽しかった。一部のメンバーが再戦を希望しているが…まぁそれはおいおいだな。ともかくありがとう!さて、こっからは男性諸君お待たせした…。キバオウ!』

パチン!

オキの挨拶が終わるなり指を鳴らした。キバオウはいつの間にか着替えており、タキシードとなってステージ上でライトを浴びていた。

『レディース! エーンド! ジェントルメン!』

バン! バン!

キバオウが声を張り上げた直後に、レーザーライトがある女性達を照らし出した。

「え? え!?」

「なに? この光・・・。」

アスナ、シリカを初めとするプレイヤー勢のなかでも屈指の美少女達。その中にはシンキも混じっていた。

「あら? 私も?」

「ママー。私も照らされてます。何でしょうねストレア。」

「ユイちゃん、ストレアちゃんまで・・・。」

『はいはい。今照らされたメンバーはステージ上に上がった上がった。あと、オキはん、アインスはん、ティアベルはん、キリトはん、よろしく頼むで。』

「私もか。オキ君?」

「お、俺も?」

アインスとキリトは何も聞かされていない。これはキバオウ発案、オキら考案の最後のイベント。

『諸君! 最強のモノが決まった! ならば! 最も美しい! 綺麗! 可愛いは誰か! 決めようではないか!』

女性陣がステージに並んだ直後にキバオウがマイクに向かって叫ぶ。

『第一回! ミス・アインクラッド・コンテスト! 開幕やぁぁぁぁ!』

キバオウの言葉に男性プレイヤー達は歓喜の声を上げた。

「「「おおおおおお!!!」」」

「「「ええええ!?」」」

ステージ上の女性陣からも声が上がった。あげてないのは余裕のシンキと何も分かっていないユイ、そして楽しそうなストレアくらいなものだった。

「実はな。」

オキがアインスに説明をし出した。

98層でのやり取りの直後に行った定例の反省会。その時にあった闘技大会の話。

その後にキバオウらからオキに直接相談があった。

「ミスコンもやろーぜ。ってね。」

「ふむふむ。」

「まじかよ・・・。」

『そういうことや! 闘技大会を開いている最中に裏で集めたアンケートを元に今回の候補者を選ばせて貰ったで!』

闘技大会入場時、観客全員にアンケートが配られていた。

・アインクラッドで最もかっこいい男性を3人選んでください

・アインクラッドで最も頼りになる男性を3人

・アインクラッドで最も綺麗な女性を3人

・アインクラッドで最も可愛い女性を3人

等、いろいろ書かれていた。

その中でポイント制で1から3位までをそれぞれの項目で決定。上位に輝いた女性がここに上がっているというわけだ。

『まぁ大概がオラクル騎士団メンバーやったけどな。』

オラクル騎士団の活動範囲は下から上まで全て。腕、技量全てがトップクラスでありながら下層のプレイヤー達のフォローも行うことでその人気度合いはまさにアインクラッド1だった。

その中でも選ばれたのは

アスナ シリカ リズベット リーファ シノン フィリア ストレア ユイ そしてシンキと・・・。

『あれ、一人おらへんなぁ。』

選ばれたのは10人。アンケートでの上位10位を集めたはずだった。その大半がオラクル騎士団メンバー。だが一人だけ例外がいた。

オラクル騎士団に加入しておらず、その絶大な信頼度と幅広い活動範囲により高い認知度と人気を得ていた少女。

「アルゴの姉さん逃げたな?」

オキがステージに置かれた審査員席から立ち上がった。

『オキはん、どうする?』

「任せろ。」

オキがマイクをキバオウから受け取った。

『アルゴ姉―! いるなら今すぐ投降しなさい! 10秒待ってやる。それでも来なかったら・・・恥ずかしい写真をここに公開したままアインクラッド完全攻略するからな!』

会場がざわつき出す。だが、アルゴらしき姿は全く出てくる気配が無い。シンとした中、10秒が経った。

『OKわかった。ならでかでかと張り出してやろう。さぁ見たまえみなの衆! これがあのアルゴの寝顔だぁぁぁ!』

会場のスクリーンに映し出されたのは芝生の上で気持ちよさそうに小動物たちと包まって丸まったアルゴの昼寝姿だった。

「にゃああああああ!」

ステージの一部から悲鳴が上がり、プレイヤー達をかき分けながら一人の少女が顔を真っ赤にしながら走ってきた。

「なななな、なんでこんな写真持ってるんダ!」

「いつだったか忘れらた。ミケの昼寝場所なんだよ此処は。ある日、ミケを探している最中に偶然ここで姉さん見つけてな。あまりに珍しいもんだから、結晶アイテムでパシャリと一枚。」

「消セ!」

「なら参加しろ。」

「・・・ううう。背に腹は変えれヌ。恨むからナ!」

「はっはっは。」

普段のアルゴをしっているメンバー達からすればポカンとするほかなかった。あのアルゴが顔を真っ赤にしている姿は見たことがないだろう。

ミスコンは3回に及ぶ審査を通し、その審査で得た合計点と最後に観客から選ばれた100人のプレイヤーの投票で決まる。(100人はアンケート用紙の番号で抽選)

第一審査『自己PR』。

女性メンバーたちが裏で準備をしている中。

『尚、本日の衣装関連は全てヒロカブランドでお送りするで。』

審査員席に座っているショートボブの少女、ヒロカが小さく手を振った。

審査員長オキをはじめ、闘技大会優勝者アインス、アンケートによって出た結果上位2名のキリトとディアベル。

『尚、ディアベルはんは最も頼れる男性の2位、キリトはんは最もかっこいい男性の1位やった。』

「ちなみに頼れる男1位と3位はアインス君とオキ君。かっこいい男の2位と3位はアインス君とリンド君の二人だったそうだ。いや、ありがたい話だ。」

「隊長ぱねぇ。」

ディアベルの持っている紙に男性版のアンケート結果が記載されていたが、大半がアインス、オキ、キリト、ディアベルそしてリンドの5名が独占だったそうだ。

「私なんかが選ばれるとは。」

どう反応していいのか困るアインス。

『さぁ準備がととのったようやで? それじゃあでてきてもらおうかぁ!』

キバオウの合図により、それぞれの美少女達が私服姿で現れた。

「「「おお~。」」」

普段とは違う、新鮮な感じのする光景に男性陣はもちろん、一部女性プレイヤー達も声を上げた。

「さすがにこれは・・・はずかしいわね。」

「いつも着ている感じの服を選んだつもりなんですが、こうしてステージ上に立つと・・・。」

「うーん。これ絶対オキたのしんでるでしょ。」

「ゼッタイウラムゾ・・・。」

若干一名先ほどの件により、浮かない顔でオキを睨みつけていたが気にしない。

『これはこれは。眩しいほどや! ワイ直視できん! それじゃあ各自、自己アピールといこうか?』

キバオウがマイクをアスナに渡したが、かなり困っていた。

「ええ!? ちょっ・・・何言っていいのか分からないわよ!」

他の少女達も困った顔をしている。一部を除いて。

「自己アピールをすればいいだけですか? しかしソレで何の意味があるのでしょうか。」

「いいおねえちゃん。自己アピールして、私はこういうモノです。ってかわいくいうと、オキ達が点数をくれるの。高ければ高いほどいいのよ?」

「なるほど!」

オキは困ってどうしようもないパターンも考えていた。というかそっちが本命だったんだが。

「仕方ない。キバオウ。」

オキが指を鳴らす。待ってましたといわんばかりにマイクを取り返したキバオウ。

『せやったら仕方ない。仕方ないでぇ! ほんならこっちから質問していこうかぁぁぁぁ! ちゃーんと答えるんやでぇ?』

ニンマリとキバオウが笑う。それをみたシノンがオキ達の思惑にはまったと察した。

「しまったわね。こうなることをみこしていたわね?」

「どういうことです?」

リーファが聞き返した。

「私達がいきなり自己PRなんてできっこない。間違いなく誰でもそうなるわ。だから、その状態になることを見越していたんだと思うわ。全く・・・何を聞いてくるのやら。」

ため息をつくシノン。その横でちょっと残念そうにするシンキ。

「残念。せっかく悩殺できる言葉をいっぱい言ってあげたのに。」

「この場にいる男達全員魅了する気ですか? やめてください・・・。」

「えー。」

「えーじゃないです。おとなしくしてください。」

シノンの言葉に口を膨らませるシンキ。苦労が耐えない状態だったが、お互いに少しだけ笑っていたのをオキ遠くから見ていた。

『それじゃあ順番にいくつか質問をしていこうかのう。』

「その前にこちらから各個人の情報を説明してからだぞ。」

こうしてミスコンの始まった会場。

「ふむ。こういうイベントもありだったか。」

開発者である男はなるほどといいながらそのイベントを遠くから見ていたのを誰も知らない。




はい。すみません。やると身内に言っといて忘れてました。サーセン。
というわけで皆様ごきげんよう。ミスコン開始です。
まぁ次でおわらせて、ほんとうに攻略はじめますが。

さて、FGOは最終決戦。現在マスター達が全力で素材の奪い合いで魔神柱をころしにかかってますね。これはひどい。

今年の投稿はこれが最後となります。
皆様、メリークリスマス&良いお年を!
来年もソードアークス・オンラインをよろしくお願いします!


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第80話 「10人の女神たち」

あけましておめでとうございます!
遅くなりましたが新年の挨拶とさせてください。
これからも、よろしくお願いいたします。
それではどうぞ。


『それじゃあまずはアスナはんからいってみよか。まずはこちらから彼女の紹介を一回いれるで。』

キバオウがガサガサと羊皮紙を懐から取り出し、読み上げた。

『チーム、オラクル騎士団メンバーで閃光のアスナの名前で各地に知れわたっとるはずや。誰にでも優しく、微笑む姿にどんな男、女性であっても見とれたはずやで。ワイも最初はそうやった。』

「もう…。」

顔を真っ赤にするアスナに対し、キバオウの言葉に会場は笑いに包まれる。

『料理の腕も間違いなくアインクラッド内最高やろう。そんなアスナはんの相方といえば、おなじみ、同オラクル騎士団メンバーであり、最強の剣士として名高い男。キリトはん! ワイは羨ましいでぇ。こんなごっつ綺麗な女性に選ばれたんや。なぁ。』

「お、俺!?」

いきなり名指しで呼ばれ驚くキリト。

『ここらで質問行ってみよか! そんなアスナはんに質問や。ぶっちゃけキリトはんの事はどうおもっとる? 簡単でええで。』

「っちょ! ええ!? ここでいうの!?」

シンと静まる会場を見渡したアスナは少しだけ唸り、覚悟を決めたのか凛とした顔つきでマイクを取った。

「あ~…もう! わかったわよ! 正直に言えばいいのね? もちろん大好きよ! 愛してるわ! あたりまえじゃない!」

「「「おおおーーー!」」」

「いいぞーー!」

「かわいいいーーー!」

「いいなぁ。俺もあんなかわいい嫁さんほしい…。」

「憧れるなぁ…。」

会場は一気に盛り上がり、アスナとキリトは顔を真っ赤にしていた。

『おっほー! まさかここまではっきりと言うとは思わなかったで。うんうん。ええでー。ワイもそない言ってくれる嫁さん募集中やで!』

ドっと笑いが会場をつつむ。

『せやな。順番に…とおもったがそれじゃ面白くない。じゃあ…リーファはん!』

「ええ!? いきなり私!?」

急に順番を飛ばされ驚くリーファ。

『リーファはんと言えば、シンキはんと一緒におって、76層でみんなと合流したメンバーやな。オキはんからの情報ではあのアホ。アルベリヒの起こした強制介入事件によって、別のゲームから飛ばされた不運の子やと聞いとる。こないなデスゲームにいきなり放り込まれたんや。怖かったやろう。せやけど彼女は強かった。腕もそうやけど心も強い。ワイなら間違いなくくじけとるやろうな。とまぁそんなリーファはんやけど、出会った当時から妖精と言われとる。そんなリーファはんに質問や。」

「は、はい!」

『もし、リーファはんが男になった時に、この9人の女性のなかで結婚を申し込むとしたら…誰を選ぶ? さぁいってみよう!』

「え…ええ!? みなさんの中で…一人をって…。うーん…。うーん。」

『やっぱ、難しいか? ええで。悩みぃ。ワイだって悩むで。悩んでる間に審査員のほうにきいてみよか。ヒロカはんならどうする?』

「わたし? そうねぇ。みんなかわいいから選べって方が難しい。でもそうだな。わたしなら…シリカちゃんかな。」

ヒロカはオキを見ながらそう言った。

『おお!? その理由を聞いてもいいえか? あと、たとえ話やでオキはん。そない睨み付けんでもええやろ。』

「わーってるよ。」

「ふふふ。まぁオキの気持ちもよくわかる。理由はだな。やっぱり守ってあげたいって思いからだな。わたしもそういうの、好きだもの。」

『なるほどなぁ。さて、そろそろ決まったかな?』

リーファの方を向いたキバオウはリーファにマイクを渡した。

「えっと…えっと。いろいろ考えたんだけど…。やっぱりアスナさん…かな。」

「「「おおお!?」」」

会場がどよめき始める。

「わ、わたし!?」

『ほほー。これはアスナはん点数たかいでぇ。理由もきいてええか?』

「その、やっぱりかっこいいっていうか…。それでも女の私から見ても綺麗で、かわいいところもあるなって。おにいちゃ…じゃなかった。キリト君が選んだのもわかるなって。」

小さくなりつつもしっかりと理由をいう姿に会場は大盛り上がり。

『なるほどなー。ええなぁ。ええなぁ。うんうん。なんかこうこっちまでドキドキしてくるで! さて、続いていってみよか。そうやなぁ。そんなリーファはんと一緒に初めからおったいうシンキはん、いってみよか? このメンバーやとワイ、シンキはん一番オキニやねん。』

「ふふふ。」

にっこりとほほ笑みながら会場にウィンクを投げるシンキの姿は男性女性関係なく魅了する。

「シンキー、あまり本気出すなよ。ここにいる全員落とす気か?」

「わかってるわよ。でも、ちょっとだけ。ね?」

オキからの忠告も聞いてるのか聞いてないのか。

『相変わらず何もかもがエロい姉さんやで。ワイそんなとこ大好き。さてさて、シンキはんはオキはんと一緒のイレギュラーズの一人や。戦闘能力はもちろん、そのセンスやらは先の闘技大会で皆も見たはずや。あれでまだ本気やないって聞いたんやけど…ホンマ?』

「さぁどうかしら。一言言わせてもらえれば…正直、もう一度やりあいたいわぁ。ねぇハヤマちゃん? 今度は、あっちで。」

エロい顔でいうシンキ。ふつうの人間なら間違いなく心を落とされているだろうが、『あっち』の意味を知っているハヤマからすれば御免こうむる話である。

「だが断る!」

「ああん。いけず。…でもいつか、ね?」

今度はオキの方をみる。

「わかったわかった。また今度な。お前のアレはこの世界ごと吹き飛ばす可能性あるんだもん。まだ、ダメ。いつかな!」

「はーい。」

『世界吹き飛ばすって…。あーでもオキはんのいうことやったらちょっと考えるかもなぁ。ワイ、ちょっとみたいわ。んーあまり長いことシンキの姉さんみてるとワイ我慢できなくなりそうやからここで一旦次!』

会場を定期的に笑わせながら次々と質問をしていくキバオウと審査員たち。

ここで第一審査が終了。一度着替えてもらい、次は一人ひとり順番にでてくる審査をお願いした。

『第2審査』

『さてさて。続いて第2審査や。質問やらでだいぶ盛り上がったこの会場。まだまだいけるやろう? さぁ気になる審査内容は…。さぁ一人目カモン!』

出てきたのはアルゴ。なんとメイド服姿である。これには会場の皆も驚きの声を上げた。

「ううう…。たしか、オキに運ぶんだったよナ。」

『この審査では一人ひとりにランダムで指定された相手に対して料理をだし、一口食べさせるという審査や

料理の腕を競う…というのが定番やけど、どう考えてもアスナはん一人勝ちやろうし、スキルでどうにかなるこの世界じゃちょっと面白くないからな。すこしアレンジしたで。どや! この内容!』

「いいぞー!」

「もっとやれー!」

「俺も審査員なりてーー!」

なかなかの盛況である。会場のメンバーは大盛り上がりだ。

「ほう。なかなか似合ってるじゃん。かわいいと思うよ。」

「うううう、うるさイ! えっと、食べさせるっテ…エッとエット…く、食エ!」

アルゴが持ってきたのは一口サイズの小さな小さなケーキだ。さすがに10人いるため普通の料理では多すぎるうえ、食べないのももったいないということで、ケーキを人数分作っておいたのだ。なお、作ったのはフィーアやサラ含めアスナを除くアインクラッド内部で料理スキル高ランクのメンバーである。

アルゴはフォークにケーキを刺してオキの口の前に運んだ。しかし彼女の眼は混乱状態である。なかなか見れない光景なのでオキは少しだけ意地悪をした。

「アルゴ姉。こっちこっち。はいあーん。」

「あ…う…エッと…ン…。」

躊躇したり迷ったりしながらも結局オキの口まで運んだアルゴ。

「ん。うまいよ。サンキュ。」

「う…あぅ…お、覚えてローーー!」

混乱が極度に達したのか顔を真っ赤にしたままステージの裏へと走って行った。

「やべぇ。超面白れぇ。」

「かわいい。」

親指を立てあいながらにこりと笑うオキとヒロカ。

『あのクールでさばさば系のアルゴの姉さんも、結局やっぱり乙女やったいうことやな。姉さんかわいい。ほい次や。』

次に出てきたのはリズベットだ。

『お? これはさっきのロングスカートとちょっとちゃうな。』

「そりゃそうだ。今回の為にいろんな服作った。すべてはオキたちのおかげ。素材いっぱいもらったもの。作るの楽しかった。今回はそれぞれに合わせた。一つとして同じデザインはない。」

ドヤっとした顔を見せるヒロカ。先ほどのアルゴのメイド服はロングスカートだったが、こちらは少しだけ短くなっている。

『リズベットはんは誰になったんかな?』

「私はディアベルさんね。」

「わたしか。」

ディアベルの前にある机に持ってきたお皿を置き、丁寧にケーキをフォークの上に乗せた。

「はい、どーぞ。」

「ん、うむ。」

ゆっくりと口に運ばされ、ケーキを食べるディアベル。

「ん。んまい。ありがとうリズベット君。このような美少女に食べさせてもらえるのは光栄だ。」

「ふぇ!? び、美少女だなんて…。べべべ、別に仕方なくやってるわけだし。ほ、ほら。いつもお世話になってるのはうちらだし!? というか、あなたたちはもっと武器を大事に扱ってほしいっていうか…私の作った武器を使ってくれてるわけで…。あーもうこれでおしまい! いいわね!?」

『ええでー。ええでー。ディアベルはんどうやった?』

「なかなか体験できない事をしてもらった。しかしあれだな。昔は憧れていたこの行為も、いざされてみると恥ずかしいものだ。」

「とかいいつつ平常通りの顔色なんですけど!? てか戻っていい? すっごいはずいんだけど!」

『OKや! いやー。この中にも世話になったんおる思うけど、リズベットはんもあれやから、その、なぁ。こうやって見るとやっぱ乙女なんやなって…。』

「どういう意味よ!」

コーン!

『あいったー!』

ステージの幕からどこから持ってきたのか、どこにあったのかリズベットのセリフの後にフライパンが飛び、キバオウの頭に直撃した。

「だめだこりゃ。」

「つぎいってみよー。」

オキとヒロカによって次のメンバーが出てきた。

「ふふふ。次はわたし。」

リズベットよりスカートが短くなり、より胸を強調する形のデザインとなったメイド服を着て出てきたのはストレアだ。

「ほう。これはまた目のやり場にこまるな。」

「ドイツのディアンドルって民族衣装をモデルにして作ってみたの。なかなかエロいっしょ。ストレアちゃーん。ちょっとステージをくるっとあるいてみて。これ、私の自信作。」

「はーい。」

ケーキの皿を持ったストレアはまるでモデルのような歩き方でステージを一周。その後、キリトの前に立った。

「俺か…。」

「うん。はい、おとーさん。あーん。」

「う…あ、あーん。」

目の前にストレアの巨大な胸部装甲が。しかもそれを強調するかのように見える胸元が大きく開いたメイド服を着ているとなるとキリトもいくら娘と思っているとはいえ、タジタジである。

「おいし?」

「あ、ああ。ありがと。…ふぅ。」

変な汗がでそうなキリト。

「どうどう? この服。わたし、気に入っちゃった。」

「ああ。かわいいと思うよ。」

「えへへ。ありがと。おとーさん。」

にこりと微笑むストレア。その姿にキリトも微笑む。

『うんうん。父と娘の涙の姿やな。ワイ、こういうシーン弱いねん。』

「キバオウ頭大丈夫かー?」

『正直…痛いっす。ワイ涙でそう。でも、そんなのは置いといて、次でてきてやー!』

ストレアがバイバイと手を振りながらステージを後にしたのちに、反対から出てきたのは小さなメイドさん。ユイだ。

「よいしょ。よいしょ。」

落とさないように気を付けながらゆっくりと歩く姿にその場の全員がほっこりとした顔になっていた。

「あー! やっぱりかわいいー! いろいろと着せたかったんだけど、やっぱりこれかなってメイド服にしてみた。ロングスカートにあまりフリルのついてないエプロン。そしてカチューシャではなく、キャップ。うーん。完璧。」

ヒロカのテンションが最高潮になっている。オキもその微笑ましさに口元が緩んでいる。

『ユイちゃんかわええなぁ。さて、ユイちゃんは誰にもっていくのかな?』

「キバオウさんです!」

『ワイ!? あれ? ワイの名前とかいれとったか?』

想定外のことにキバオウが驚いている姿をよそに、ユイは関係なくフォークにケーキを乗せ、キバオウへと運んだ。

「はい。キバオウさん。あーんです。」

『あ、あーん。』

もぐもぐと小さなケーキを食べるキバオウ。

「羨ましいぞー!」

「かわれー!」

「ひっこめー!」

「いいなー!」

会場のあちこちからキバオウへのヤジが飛び交う。

「おいしいですか?」

『うん…うん。ありがとなユイちゃん。ええ子やなぁ。ごっつええ子や。』

頭を優しくなでて涙ぐんでるキバオウ。

「パパー! どうですかー! メイドさんです!」

「うん。かわいいよ。似合ってる。」

「えへへー。」

「きゃー! お持ち帰りしたーい。ユイちゃんユイちゃん。真ん中にたってくるって回ってみて。」

ヒロカの眼がキラキラ輝いている。

「えっと、ここに立って…こうですか?」

くるりと回転し、ロングのスカートがふわりとなびく。その姿に会場の皆もにんまり。

『ありがとなぁ。ユイちゃん。はい! 皆拍手や!』

「失礼しました! です!」

会場の皆に手を振りながら一礼して退場するユイに拍手喝采。大人気である。

『さてさて、お次は? おおっとこいつはまぶしい! あかん! 直視したいのに直視できへん!』

「おいヒロカ。やりすぎとちゃうか?」

オキがヒロカをジト目で見る。

「うーん。ちょっとはっちゃけすぎたかなー。でも、ほら。本人は似合ってるでしょ?」

『エロい! えろいでシンキの姉さん!』

「ふふふ。どう? オキちゃん。隊長ちゃん。」

先ほどのストレアの着ていたメイド服並に胸を強調しながらこちらはもはや服と言えるのかわからないほどの短さのスカートにおなかの空いたへそだしスタイル。

「ふむ。もう少し着込んだ方がいいぞ。おなかを冷やす。」

「さすが隊長。的確すぎる。いやしかし、まぁ普段着からすればもう少し露出あるもんなぁ。そう考えると変わらんか?」

『慣れとるメンバーの言葉はちゃうな…。ワイ羨ましいのか、悲しいのかわからへん。』

シンキが立ったのはアインスの席のまえだ。

「お? 俺の番か。」

「そうよー。はい、たいちょーちゃん。あーん。」

シンキは頬杖をついて、より胸元が見える位置に陣取り、隊長の口元へケーキを運んだ。

「あむ。ふむ。確かに…これはおいしいな。よき腕をしている。とても美味しいケーキだ。」

普通に食べる隊長。

「それだけー? …まぁいっか。それもまた隊長ちゃんらしいわ。」

「ん? なんか、悪いことしたかな? ああ。いや、あまり見ると悪いと思ってね。いくら綺麗だからって嫁入り前の身体をジロジロと、夫でもない男が見るものではないだろう。」

「ふふふ。でもちゃんと綺麗って言ってくれて、ありがと。」

「子供ではないのだ。撫でないでほしい。」

シンキはアインスの頭を優しくなでた。払おうとしないアインスだが、少しだけ恥ずかしそうだ。

「あら、私からすれば皆子供よ。ふふふ。」

「ははは。君の言葉はそのままの意味があるから恐ろしいよ。」

『なんか…よーわからんけど。ご馳走様でした。』

夫婦メンバーであるシリカやアスナなど、その他メンバーも恥ずかしながらとはいえ、きちんと依頼されたことを行った。

ちなみにキバオウの名前をひっそりと入れたのはオキである。いつも司会だけやってもらっている彼に少しくらい、いい思いをと入れたのだが、選ばれたのはユイの時だけだった。彼は不運なのか幸運なのか。

『最終審査』

『さぁさぁ残すところ、最後の審査や。最後は皆にドキドキしてもらう内容やで。さぁ全員カモン!』

ステージの端からゆっくりと10人の美女、美少女が現れた。純白のドレス。紅、蒼、碧と多色にわたるドレス姿。その姿は誰が見てもウェディングドレスである。

「なお、新作のもよう。」

「オキに頼まれてまた作った。」

お互いに親指を立ててご満悦。キュートなものからセクシーなものまで多種にわたるドレス姿の女性10名がステージに並んだ。

「みなさん綺麗ですー! ママー! パパー! どうですかー!?」

ユイがトテトテと走って二人に見せに走る。

「…。」

キリトがじっとユイを見つめる。

「キリト? どうした?」

オキがキリトの様子がおかしいことに気づき、声をかけた直後、彼の眼から涙が落ちた。

「キリト!?」

「あ、いや。なんか、その…。娘のいる父親の気持ちがわかったというか…。」

「おやじか!」

どうやら嫁入りする姿を想像したらしい。キリト。齢16にして娘の嫁入り姿に涙する。

『いやーかわいらしいなぁ。ほかのみなもごっつええでぇ。さて、最後の審査といこうか!』

「「「おおおおー!」」」

『最後の審査はな? 水着がええって言ったんやけど、オキはんが動じてもダメっていうからな?』

「そらそうだ。うちのが間違いなくR18に引っかかる水着なのかなんなのかわからんもん着てくるからな。いろいろあかん。」

オキがジト目でシンキを睨む。

「えー? 別に普通じゃない? 紐とか半透明とか、貝殻とか言わないから。」

「それお前の持ってる水着の原点だろうが!」

『なんかよーわからんけど、ワイごっつみたい。とはいえ、ドレスもええな! ドキドキしてきそう! そして今回の審査内容は…なんとプロポーズや!』

「「「おおおおお!?」」」

「っちょ! プロポーズ!?」

「またむちゃくちゃな…。」

「あの…えっと…。」

驚くリズベットにあきれるシノン。混乱しているシリカなど、花嫁たちもいきなりの内容で驚いている。

『安心せい。プロポーズの相手はヒロカはんにやってもらうことになっとる。その上セリフもヒロカはんが作ってくれる。それを読めばいいだけや。ただし、できるだけ雰囲気は…つくってな? ああ、アスナはん、ユイちゃん、ストレアはんはキリトはんに。シリカはんはオキはんに相手してもらうことになっとる。』

「安心していいのか悪いのか…。」

ほっとしたような、しないような感じのアスナ。

『さて、今回もランダムで順番いくでぇ! まずはっと…。』 

キバオウはどこからか持ってこられた大きな箱の中にてをつっこみ、一枚の紙を取り出した。

『おお!? まずは…フィリアはんや!』

キバオウの取り出した紙にはフィリアの名前が書かれていた。

「わたし!?」

オレンジ色のロングドレス姿のフィリアにスポットライトが当たる。スカート部にスリットが入っており、隙間から綺麗な足が見え隠れしていた。

「オキ。ちょっとカモン。」

ヒロカに呼ばれ、オキもステージの真ん中に立つ。

「どうよ。この新作。感想は?」

ドヤ顔でオキに新作のドレスの感想を聞いてくるヒロカ。

「これはまた…綺麗なもんだ。」

「あ…えっと…。ありがと。」

照れる二人にヒロカは満足だった。そしてふと我に返るオキ。

「…。あれ。これ俺ここにいる必要は?」

「あるわよー。ふふん。こうしてこうして。でーきたっと。はいフィリアちゃん。これよんで。」

ヒロカがさらさらっと羊皮紙に何かを書いていた。

「じゃあ俺は審査席に…。」

「もういいじゃない。一緒にいてあげなさいな。ね? みんなもそう思う?」

「「「いええええぃぃぃ!」」」

会場の皆は肯定の声を上げた。オキとフィリアの関係を知っているからこそである。

「お前らなぁ…。」

「えーっと? …これ読むの!? 恥ずかしいんだけど…心の準備が…。」

フィリアはオキをちらちら見ながら読む練習を頭の中でしているようだ。

「どーせするんでしょ? だったら今のうちに練習しときなさい。はいスタート!」

会場が暗くなり、フィリアとヒロカ、そしてなぜかオキも一緒にスポットライトを浴びる。

「…その。えっと…。わたしは! …あなたの背中をずっと見てきました。あの日、あなたに助けられなければ…私は。あれからずっと、見ていました。…好きです。ずっと一緒に、そばにいてください…。」

「…OK!」

ヒロカの声を合図にステージのライトがもとに戻る。

「「「おおおおおお!!!!」

会場から歓声と拍手喝采が起きた。ヒロカは満足そうな顔をしており、フィリアは顔が真っ赤だ。

「あーもう! すっごい恥ずかしいんだけど! なに? これ、公開処刑!?」

「あなたの場合はそうかもね。どう? オキ。満足した?」

ヒロカがにやけた顔でオキを見ている。なぜこちらをみる。俺だってはずい。超はずい。なぜかさっきの言葉は俺を見て言ってたんだが。まぁそういうことだよな? うん。わかってる。でも恥ずかしい。

「いや、どうって言われてもなぁ。あーもう。ほら、次行くぞ次! キバオウ! 次引け次! 時間押してんぞ!」

『お? おお!? まぁそういうんやったら…。ほいフィリアはんええなぁ。ごっつ本気に聞こえたでえ! ワイ心にズっキューンきてもうたわ。え? 表現がふるい? うっさいわ! さぁ次や次! …ん? ほーう? オキはん戻らんでええで。ステージにカムバックや!』

「えー? あ…。」

キバオウが手にしたのはシリカの名が書かれた紙。そりゃそうだ。シリカの相手は俺がしなければ。いや本当はフィリアも…いや、何も言うまい。

さっきのはヒロカが気をきかせてくれたのだ。SAOの終わる前に、けりは自分でつけなければ。ある決意を胸に秘めつつ、シリカの前に立ったオキ。

「あの…えっと。」

「綺麗だな。以前のドレスよりも。」

「えへへ。ありがとうございます。」

限りなく白に近い薄い桃色のドレス。以前の大量のフリル付きに加え、今度は背中が大きく開いた少しセクシーさを出したドレスだ。

「んー。シリカちゃんは…こうしてこうして…いや、こっちのセリフの方が…。」

「あ、ヒロカさん。」

「ん? なに? もう少しでできるから…。」

「それ、いりません。」

シリカの突然の言葉にヒロカの眼が一瞬点になる。そしてすぐにその意味を理解した。

「…ああ。そういうこと。わかった。ごめんね。気が利かなくて。どうぞ。はいライトアップ!」

急にステージは暗くなり、シリカとオキだけがライトアップされる。

「私は…私の言葉で…言いたいんです。」

「「「おおおー!」」」

シリカの言葉に会場がざわついたが、すぐに静まり返った。

「オキさん。わたしは…。以前も言ったように、このゲーム開始してからすぐ、不安でいっぱいでした。怖かった。目の前が真っ暗になっていました。でも…あなたが照らしてくれた。わたしの手を引いて、暗かった道から…明るい場所へ一緒に歩いてくれた。とても、嬉しかったです。もう少しで、このSAOも終わります。あなたは、遠く、遠く星の彼方にいる人。会えるかどうかも分からない。遠く離れた方。でもそんなあなたを、ずっと好きでいていいですか? ずっと…愛していても、いいですか?」

真剣な顔。恥ずかしそうに顔を真っ赤にしつつも、

「…シリカ。俺は必ず…会いに行く。必ず、お前を連れ去りにいくから…待ってろ。」

「はい!」

「「「おおおおおお!!!」」」

会場からの大喝采がおき、ライトがもとに戻る。

「いやー。さすがだねシリカちゃん。わたし聞いてて恥ずかしいわ。」

ヒロカの半分髪の毛で隠れた顔が少しだけ赤い。

『さすが大本命。奥さんの力はちがうねー! いいよー。ワイえもん見させてもろた。さぁどんどんいくでぇ。』

キバオウが次に引いた紙にはアルゴの名前がのっていた。

『おお? 姉さーん。出番やでぇ。アルゴの姉さんカモン!』

「お、俺っち!?」

普段のフード姿とうって変わり、ひげをうまく使うべく猫耳型のヴェールを付け、純白のドレスを着たアルゴがステージの真ん中までおどおどしながら歩いてきた。

「あーんもうやっぱりかわいいー! はい、みんなも! 姉さんかわいいー!」

「「「かわいいーーー!!!」」」

会場からヒロカの合図とともにアルゴへのかわいい宣言。

「な…なな…ニャアアアアア!!」

あまりの恥ずかしさが極度を超えたのか、限界を突破したアルゴはすぐさまステージから逃げて行った。

『姉さーん! 姉さーーーん! …えー。大変申し訳ありませんが…姉さんは最終審査なしということでいきますハイ。姉さんかわいいから仕方ないね。』

「うるさーーーーイ!」

ステージの裏からアルゴの大きな声が飛んできたが、多分もう遅いだろう。あのアルゴのかわいさの姿はプレイヤーたちの眼にはっきりと記憶されたのだから。

『…次! …おお!? 次はシノンはんやな。』

「わたしね。」

蒼色のドレスを身にまとい、すらりとした身体によく似合うというのがオキの感想だ。

「どう? ウェディングドレスを着てみて。体験したことないと思うけど?」

「どうといわれても…。まぁ悪くない…かな。」

少しだけ自分の姿を改めて確認するシノンは少しだけいつもより嬉しそうだ。

「じゃあこれ、お願いね。」

「はいはいわかったわよ。もうあきらめたわ。」

ヒロカからセリフの書かれた羊皮紙を受け取り、ライトアップされる。

「…先輩。あの…私、ずっとずっと先輩のそばに居たい。あなたの支えになりたい。愛してます…。先輩。」

「ん! OK!」

「「「ふううぅぅぅぅ!」」」

ノリノリの会場から声が上がる。

「なんで、先輩相手なの。」

ジト目でヒロカに聞くシノン。

「そりゃシノンってなんか後輩っぽいから? なんか合いそうだったからそういうシチュにしてみた。うん抜群の破壊力だったよ。おねーさん満足。」

「…そう。」

気疲れしたように元の場所に帰っていくシノン。

『後輩パターンもええもんやなぁ。ワイも学生時代はブイブイ言わせとったもんや…。あ? そんなことあらへんて!? うっさいわ! さぁ次行くで! 次は…。おお? シンキはんやな。これは見ものやで!』

「ふーん。ワタシ、ね。」

シンキのドレスはまさにセクシーなドレス。真っ赤に燃え盛るかのごとく真紅の色。大きく空いた胸元に広く見える肩。なにより目を見張るのは大きく空いたスカートの前。もはや見せているも同様である。一応下はレオタードなので下着ではないが、エロい。

「うーん。私としてもやりすぎたかな。どう? 着心地。」

「ええ。悪くないわ。ふふふ。」

「じゃあ、えっとここをこうして…うーん。シンキさんは難しい。…そうね。こうしてこうだ。じゃあこれをお願い。」

ヒロカがセリフの書かれた羊皮紙をシンキに渡す。

「ふーん。」

「なんか嫌な予感がする…。」

ライトアップされ、ヒロカとシンキのみが光り輝く。その姿を見ながらシンキの気味の悪いぐらいの微笑みをみてオキが嫌な予感が的中したことをその直後に知る。

「…ふふふ。」

「…え? …!? んーーーーーっ!?」

なんとシンキは彼女の首に手を回し、抱きついた後にその場でヒロカにキスをしたのだ。

「んー! んーーー! んむ!? んーーーー!!」

『あ、あの…シンキはん…?』

「…ふふふ。ごちそうさま♪」

「…あ、う…。」

オキは頭を抱え、周囲は呆然。ヒロカは昇天している状態となった。

「いいわね。満足。」

『あ、えっと…ヒロカはーーーん!』

しばらくの間、ヒロカは昇天したままだった。オキは知っている。彼女を知る者は知っている。彼女の技術は異常だと。何人もの美少女美女、美少年等いくつかの犠牲者が物語っていた事を知っている。

「はぁ・・・。えーっと。ヒロカは一時退場。時間ねーから次行くぞ次。ああなったらもうだめだ。しばらく戻ってこん。」

オキの指揮によりイベントをなんとか続行。残るメンバーの審査も完了した。

『えー。途中多数のハプニングがありましたが…。』

「お嫁にいけないお嫁にいけないお嫁にいけない…。」

「どうどう。」

頭を抱えるヒロカを慰めるオキ。

『無事審査完了したでーーー! 最後にランダム抽選で決まった100人の会場の皆からの点数も合計した! その結果が…これやぁ!』

ステージに書かれた数字。トップ3が書き出された。

『第3位 アルゴ』

「お、俺っち!?」

『姉さん可愛い。』

「「「かわいいーーー!」」」

「うるさーーーーーイ!」

3位はアルゴだった。普段からのギャップによりかわいいを連発せざるえない状態を見せてくれたので人気が一気に上がったのだ。とはいえ今後のSAO終わるまでの彼女の苦悩は誰もまだ知らない。

『第2位 シンキ』

「あら、わたしー? ふーん。ま、いっか。」

『シンキはんは男性プレイヤーの心を鷲掴みにしておるからな。まぁ当然っちゃ当然やろう。』

「最後は誰だ?」

「シンキをおいこしての1位か。すごいぞ。」

コマチとハヤマはその結果に驚いている。心身の黄金率とも言われる彼女を追い抜いたのは誰か。

『第1位 ユイ』

「わたしですか!? やりましたよ! ママ! パパ!」

『エロイ姉さんを追い抜いたのはかわいい娘さんやった! その可愛らしい姿に誰も彼もが心を鷲掴みにしたんや。優勝おめでとう! ミス・アインクラッドはユイちゃんや! そして、ユイちゃんを含めた10人の女神たちに大きな拍手を!』

「「「わあああああぁぁぁぁ!」」」

会場の皆も大盛り上がり。ユイは綺麗な花の髪飾りを、審査委員長であるオキに乗せてもらった。

「わぷ!」

「ははは。ちょっと大きかったかな。でも似合ってるよ。」

「ありがとうございます! みなさん!」

小さな小さな少女の大きな眩しい笑顔でミス・アインクラッド・コンテストの幕が下りた。

 

 

-------------------------------

 

 

一方その頃…オラクル騎士団ギルド拠点の一室にて…。

「ぬくぬく暖かいのだ。ごろごろ。」

「すやすや。」

「すーすー。」

ミケはこたつで丸くなり、双子に囲まれ、夢の中。




改めてあけまして、おめでとうございます。
今年もソードアークス・オンラインをよろしくい願い致します。
長い冬休みが明け、着手した今回。肉付け段階でここまで長くなるとは思いもしませんでした。
本当はもっと別の内容になる部分がいくつかあったのですが、書いてる最中にコレジャナイ感が出たので一旦白紙に…。
書き上がってよかったですハイ。

これでようやく本当に攻略を進めます。
長い長い1層からなる攻略も最終面を迎えます。
最後までお楽しみください。

さて、別件ですが年末にあるソシャゲで2016年最後を飾る大戦がありましたね。
ええ、FGOの人類史焼却阻止の最終決戦。
わたしも参加し、リアルタイムであのカルデアマスター'sによる(ひどい)戦いを共に行いました。もっかい復活してくださいバルバトスさん。心臓足りません。
無事に最終決戦を終わり、現在我がカルデアは次の戦いに向けて戦力増強中であります。
このあとどうなるか、たのしみですね。

では次回にまたお会い致しましょう。


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第81話 「3本の塔」

99層の攻略を開始します。


闘技大会、並びにミスコンと大盛り上がりに大はしゃぎだった先日とうって変わり、重々しい空気となっていたオラクル騎士団ギルド拠点の会議室。99層の攻略を進めるべく、攻略会議を開いていた。

「では、まとめに入ろう。」

ディアベルが指揮をし、アスナが書記を行っていた。黒板には1つの大きな名前を囲むように3つのボスの名、それぞれの特徴、予想される動きが書かれていた。

「オキ君。たのむ。」

「あーよ。」

オキが立ち上がりそれぞれのボスのイラストを睨み付ける。そして、黒板を背にして、卓上に手をついた。

「ディアベル、アスナお疲れ様。席に戻ってくれ。では諸君。初めからもう一度、認識を合わせよう。…99層の情報がそろった。今回のボスの名前は『ザ・ゲート・キーパー』。4本脚の2本腕。両手に剣。90層から出始めた重装巨大エネミーの最高ランクだろうな。中には戦ったやつもいるだろう。弱点無し。動き遅し。耐久高、攻撃力高のガチタン型…だったか? クライン」

「ああ。ありゃガチタンだ。」

口で笑いつつも眼は笑っていないクラインが答えた。いつもは軽口を吐く彼が吐かないというのがどれだけ相手が強力な相手かを物語っている。

「ゲート・キーパー…。門の番人。門の神。守護神。いろいろ意味がある。」

「最後の扉を守るやつだ。相当な力を持っていると思っていだろう。」

リンド、ディアベルが唸るようにつぶやいた。

「こいつを倒せばとうとう目的地100層。99層突破後は一度99層の街、『最後の街』にて準備。一日おいてから100層へ突撃。ヒースクリフ、いや茅場を倒す。流れはそんな感じだ。ここまでOK?」

オキの確認で卓に座る全員がうなずいた。

「よし。ここはいつも通りやればいい。エネミーも知らない種類ではなさそうだからな。油断せず、いつも通りやればいけるだろう。問題はだ…。」

オキが黒板に描かれた3体の名前を指で示した。

「こいつらだ。…それぞれが3つの塔のてっぺんにいるらしい。この3つの塔を攻略、てっぺんにあるスイッチを押してようやくこの『ゲート・キーパー』と戦える。俺たちアークスの敵である『巨躯(エルダー)』、『若人(アプレンティス)』、そして『敗者(ルーサー)』。それぞれが『力の塔』『美の塔』『知の塔』にいる。どれがどこにいるかまではNPCからの情報にはなかったが…。まぁ俺らからすれば分かりやすくてよろし。」

『力の塔』に『巨躯』。『美の塔』に『若人』。『知の塔』に『敗者』が陣取っているのは明白だ。

「3つの部隊に分けてそれぞれを攻略、のちに合流し、最後の迷宮区を数で突破。エリアボス『ザ・ゲート・キーパー』をたたく。OK?」

「OKズドン。」

「こまっちゃん、それ知ってる人少ないから…。」

コマチのボケにハヤマが突っ込む。

「OKズドン! です!」

「ユイちゃんも真似しないでいいから!」

まさかのユイが笑顔で真似をする。ついそれに突っ込みを入れたハヤマだが、その姿につい笑みがこぼれる。

「ははは。…さて諸君。問題はこの3体の敵の状態だ。キリト。」

「ああ。NPCからの情報だと『3つの塔には闇を統べた3人の魔人が住み着いている』 らしい。」

キリトが言ったのは『魔人』という言葉。NPCの情報が正しければ『人』なのだ。

「つまり、人型だ。ヒューナル形態でくる可能性が高い。」

「ちょっとまって? 闘争バカや負け野郎はいいとしても…。」

ハヤマがあることに気づいた。

「そうね。そうよね。【若人】だけはどんな相手か知らないわ?」

シンキもいつもより真剣な顔でオキを見る。普段から常にこうであればありがたいのだが。まぁ無理だろうと思ってしまうオキだった。

そんな雑念を吹き飛ばし、情報を黒板へと記した。

「【巨躯】【敗者】に関しては戦ったものもいる。1年前ではあるが、記憶には新しい方だろう。動きを思い出し、勝ち戦としよう。問題は【若人】だ。タケヤ。」

「うっす。アプレンティスって奴は魅了攻撃を仕掛けてくるらしいです。」

「あとあと、二本の小剣で戦ってくるって情報もあるよ。」

タケヤ、それに続きツバキもNPCからの情報を共有した。

「魅了をしてくるってことは…。相手は女性? 男性?」

「女だ。」

レンの疑問にコマチが答えた。

「ならば、女性陣で組むのがよかろう。」

オールドが進言した。オキも勿論そのつもりだ。

「ああ。よって、振り分けはこうだ。」

【若人】討伐にシンキ、そして魅了耐性を持つミケを筆頭に女性メンバーで固めた。主にオラクル騎士団と怪物兵団。

【巨躯】討伐にハヤマ、コマチを筆頭。こちらはディアベルやリンド率いるアインクラッド解放軍とドラゴンナイツ・ブリゲードの面々。

そして【敗者】討伐。

「俺、隊長を筆頭。キリト、クラインをメインとしたオラクル騎士団メインの男性メンバーで構成。」

「いいんじゃない?」

センターもカタカタとお面を揺らしながら同意した。

「…センター。何かが落ちてきそうだから鳴らすのやめなさい。」

カタカタカタッ

大きな瞳の付いた不気味な仮面の音が小さく会議室に鳴り響いた。

「ゴホン。後方待機部隊として今回もさっちゃんとこの『闇夜の黒猫団』メンバー筆頭に、カモメのとこの『カモメの海兵さん』、ネモのとこの『ゆらり探検隊』、『ラピュセル』『プレシャス・プリンセス』等、数多くの小中規模ギルドが名をあげてくれた。他にも個別でも支援をしてくれると言ってくれた者も多い。皆が期待している。…が、構える必要もない。いつも通りやってれば負けることは絶対にない。あとは成り行きだ。ここまできたお前らなら間違いなく超えられる。進むぞ。」

「「「おおおお!!!」」」

全員の声を合わせ、気合を入れた。

99層のフィールドダンジョンは拠点街『最後の街』の中心部にある巨大な塔の中にある。

塔への門を開くと、中は空洞となっており、その中心に迷宮区の塔が天井まで伸びており、それを囲むように小さな塔が3本建っていた。

「ここが迷宮区への入り口か。」

「バリアで通行不可。やはり3本の塔を攻略するしかないようだな。」

キリト、ディアベルがそれぞれの塔をグルリと見渡した。

「ほな、予定通りワイらがここを守ってるで。なんかあったらすぐに連絡するんやで。」

キバオウ率いる解放軍とドラゴンナイツ・ブリゲイド連合チームは迷宮区への扉の前に陣取った。

彼らは3方向に分かれたチームの中にいる伝達者と逐次情報を共有し、どのような状況でも、すぐ動けるように待機しておくメンバーだ。

「キバオウ。3方向同時攻略作戦の要でもある。油断はするなよ。」

「オキはん、わーってるって。ここは今はエネミーがとらんけど…もしかしたら攻略後や、下手したらあんさんらが塔に入った瞬間からエネミーがわくかもしれん。油断はせぇへんよ。」

カチャリと自分の片手剣を地面に突き立て、どっしりと構えるキバオウを見てオキは安心した。

「よし! いくぞ者ども! 攻略かいしだ!」

「「「おおおおお!」」」

声を張り上げ、塔へと向かう面々。アークスメンバーはお互いに目で合図しあい、コクリとうなずき合った。

【知の塔、攻略組】

「エネミーが全くいないな。」

「ああ。罠も…ない。」

索敵スキルで索敵しても何も引っかからない。恐ろしい程に静かだ。

「隊長。」

ゆっくり進むメンバー。オキとアインスを先頭に進んでいる。オキは後ろをちまちまと見ていた。

「なんだい?」

「…ここ、任せていい? 殿行ってくるわ。」

オキが立ち止った瞬間、アインスも立ち止った。

「何を言う。わたしが行こう。オキ君の索敵スキルの方が上だ。わたしより罠やエネミーの索敵能力がある君が残った方がいい。」

「…あいよ。何かあっても後ろは頼んだよ。」

「っふ。任せろ。」

アインスは鼻で笑い、微笑んだ後攻略メンバーの一番後ろに陣取り後方を警戒した。

塔は狭い通路が入り乱れ、迷路のようになっていた。だが、オキクラスの索敵スキル能力ならある程度最低限ではあるが答えがわかるようになっている。

ここの攻略もそこまで難しくはない。

「…ついちゃったよ。」

オキの目の前には巨大な扉。 ボスクラスが潜む大扉が目の前に立ちふさがった。

「オキ君。」

「隊長、とうとうご対面だ。」

「…ああ。」

後方警戒は意味をなさなかったが、それが一番いい。誰一人として傷つかず、アイテム消費も全くしてないのだから。

「オキさん。皆状態は完璧だそうだ。いつでも行けるぜ。」

「サンキュ、キリト。みんな…いけるな?」

オキの号令に皆が頷いた。

「レン。他の塔はどうなってる。」

「はい。キバオウさんからの情報ではほかの塔も同様の状態だそうです。エネミーなし、罠なし。曲がりくねった迷路上になってはいるそうですが、攻略は可能。…追加情報です。これよりほかの塔、力、美。それぞれ攻略開始するそうです。こちらも開始をお伝えしておきます。」

「頼む。よし! ほかの塔に負けないよう、いくぞ!」

「「「おおお!」」」

ゴゴゴゴゴ!

大きな音を立てて、扉を開き、中へと入ったオキたちは素早く散開。オキ、アインスを中心に指示通りの布陣を構えた。

「…ほう。客人とは珍しい。もてなしのコーヒーでもと言いたいところだが、生憎切らしていてね。」

普段のボス部屋。何も変化はない。一つだけ違うのは部屋の端に大きな椅子とすでに座っている男が一人。

「ルーサー…。」

オキがぼそりと名前をつぶやいた。それに気づいた『ルーサー』は不思議そうな目でオキを見た。

「おや、君とはどこかで…会ったことが?」

「いや、『お前』とは初対面だ。」

「そうかい? 何やら…懐かしい。そんな気分になるんだがね。…まぁいい。ここに来たということは、大いなる門を開くためだろう? わかっているさ。何せ僕は知の塔の守護者。君たちも、そのつもりなんだろう? さぁはじめようではないか。」

ルーサーの姿をした男は微笑み、宙から細剣を取り出し、握った。かつてのフォトナーであるルーサーの姿をした男を…オキは睨み付けた。

エネミー 【敗者】討伐戦。開始。

【力の塔 攻略組】

ゴォン!

床が揺れ、音が部屋いっぱいに響き渡る。

「振りはでかい! 隙を付け! 深く突っ込みすぎるな!」

ハヤマの指示で黒き姿をした大男との戦いはすでに始まっていた。

「脆弱!」

地面を蹴って飛び上がった【巨躯】。人型とはいえ、一般人男性の体躯の1.5~2倍はある巨体である。

ズズン!

「あっぶねぇ。プレスされるとこだった。」

ハヤマが【巨躯】をにらんだ。

「フッフッフ…。」

目を光らせ、不気味な微笑みを浮かべる【巨躯】。HPはまだまだ残っている。

【美の塔 攻略組】

「ふふふ。ほほほほ!」

高らかに笑う【若人】。

「うーん。オキちゃん見間違えたんじゃない?」

「ミケは見てないからしらないのだー。」

首をかしげるシンキとミケ。オキの情報では『【若人】は可愛い女の子でツンデレ要素入ってそうなお姉さん』だと言っていた。

しかし、シンキやミケの目の前にいる自らを美の象徴だと言って、明らかにこちらを見下している女性は、褐色肌で女の子というより…。

「ともかくこのBBAを倒してしまってかまわないのだ?」

「誰がババアですって!?」

ミケの言葉に反応して【若人】が睨み付ける。褐色肌の女性。人によっては美女というかもしれないだろうが、オキの趣味嗜好を知っているシンキはオキの情報とは違った相手だと即座に見破る。

『…もし、私の考えが正しければ間違いなくこいつは…。』

「BBAは死すべし! 慈悲はないのだ!」

「あ、ミケちゃん! ちょっと!」

シンキが一瞬という時間で相手の正体を見破ろうとした時にミケの声とアスナの声が響いた。

ミケが【若人】に対して飛び上がったのである。

ギン! ギン!

「フフフ。わたしの美がわからないなんて…。わからせてあげるわ!」

【若人】の眼が光り輝く。

「おー?」

「ミケちゃん!?」

「きゃあ!?」

「まぶしっ!?」

真っ赤な光があたりを包んだ。モロに光をかぶったミケは自分の体を少しだけ見た。

「ミケさん!? 大丈夫ですか!?」

シリカがミケに声をかける。ミケは大きく手を振って笑顔で振り向いた。

「だーいじょうぶなのだー! BBA死ねなのだ!」

「!?」

ミケのSSが【若人]にクリティカルヒットした。予想外のことだったのか【若人】驚いた顔をしている。

「馬鹿な! 何故私の魅了が効かない!」

「そんなのミケはへっちゃらなのだー!」

「いいわね! 皆! 続くわよ!」

シンキの掛け声で全員が活気づく。

「くそ! 私は…私は【若人】だぞ! ひれ伏せ!」

【若人】はそれを見て激怒し、自らの武器であるダガーを振り上げ、ミケ達に襲いかかった。

 

3本の塔内で戦闘が開始されたことを確認したキバオウはそれぞれの塔の頂辺を心配層に見上げた。

「皆、無理するんやないで…。」

その場にいた皆が同じことを考えていた。




みなさまごきげんよう。
99層の攻略が開始されました。
相手はダークファルスの人型形態。まぁアークス達なら問題ないでしょう(たぶん

さて、活動報告の方に短編作品の予告編を上げました。もしよければご覧ください。
SAO編が終わり次第作成に取り掛かる予定です。

では次回にまたお会いいたしましょう。





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第82話 「3つの力」

「おらぁぁ!」

「その解は見えている。」

オキのグングニルと【敗者】の持つ小剣がぶつかり合う。

「ふん。」

「そうはいかない。」

キィン!

アインスが横から隙をついたと思いきや、【敗者】の眼が赤く光り、周囲に雑魚敵は湧いて出た。

「む。どけ、邪魔だ。」

「僕の盾となれ。」

ソルダ・カピタをはじめとするダーカー種がワラっと出現した。

「…ダーカー因子反応なし。問題ないな。おら野郎ども! 仕事だぞ!」

「あいさーリーダー!」

「うっしゃぁ!」

タケヤ達やクラインたちが沸いた雑魚へと攻撃を仕掛ける。

「さっと倒せよ! こいつが爆破させるかもしれんからな!」

【敗者】への攻撃をしつつ、周囲への指示を忘れないオキ。アインスも怪物兵団メンバーとの連携を怠らない。

「ふふふ…はははは!」

知の塔、【敗者】戦はまだ始まったばかり。

「おおおお!」

「ヒューナルじゃないお前は弱い。」

ガッ! ゴン!

お互いの拳をぶつけ合いながら【巨躯】の動きを止めるコマチ。

「やあああ!」

「せやぁぁ!」

その隙をついてハヤマやディアベル達が側面を攻撃する。

ガキン!

「…!」

「まだまだ足りぬ! もっと吐き出せ! もっとだ!」

「っへ、上等!」

【巨躯】の上から振り上げられ、巨大な槌と同様の破壊力を持つ拳がコマチへと降り注いだ。

だが、それを軽いステップで横に回避。あいた体へと思い切りストレートを喰らわせる。

「ぐぅぅ…。ふはは…いいぞ! いいぞ!!」

一瞬ひるんだと思ったがすぐに腕を広げ、周囲にいたメンバーを引きはがした。

「ち…。このドMが。」

「我々の防御すらも打ち抜くパワー。さすがだな…。」

ディアベル、リンドが肩で息をしながら【巨躯】を見る。

「リンド。まだいけるな? 一度後ろに下がってもいいのだぞ。」

「っは。何を言うディアベル。貴様こそ肩で息してるぜ。」

お互いにニヤっと笑い、再び【巨躯】へと立ち向かった。

力の塔【巨躯】討伐戦。順調に進む。

「くぅぅ!」

「にゃーにゃ!」

ミケの怒涛の勢いで迫ってくる短剣のラッシュに苦汁をなめる【若人】。

「こっちも忘れないで?」

「っぐ!? こ、このぉ!」

「おっと!」

「離れて! みんな!」

シンキの曲刀が側面から【若人】へと喰らい付く。その直後に【若人】は両手に持っている小剣を円状に振り回し、上空へと飛びあがった。

「私を、誰だと思っている!」

カカカカ!

大量の小剣が降り注ぎ、真下にいたミケやシンキに襲い掛かった。

「BBA。」

「BBAね。」

「むきー!」

ミケとシンキの返答に怒り狂う【若人】。完全に二人にペースを持って行かれている様子を見て、改めて二人のすごさに圧倒するしかないプレイヤーたちだった。

迷宮区入り口前。キバオウ達は各塔の状況を確認していた。

「力の塔、状況問題なし。HPバー後一本です。」

「美の塔ですが、ミケ、シンキペアによりHPあと少し。」

「知の塔。雑魚多数出現中。しかし現状問題なし。HPバー後1本。」

それぞれの塔の状況はどれも問題なし。このままいけば早ければあと数分で終わる。キバオウはいつ何時に何が起きてもいいようにしながらも、問題なく事が進んでいることに安心した。

「ええ感じやな。このまま無事に進めばええんやけど。」

「そうですね…。祈るしかないのでしょうか。」

キバオウの言葉にこたえるよう解放軍メンバー一人が、ぼそりとつぶやいた。キバオウはそれを見て笑顔で答えた。

「大丈夫や。あの人らはそう簡単に負けへん。心配せんでもええんやで。」

「キバオウさんも…っすよ。」

キバオウの顔は汗びっしょりとなっていた。かなりの緊張状態となっている証拠だ。言われて初めてキバオウはそれに気づき、袖で拭った。

「大丈夫や。あの人たちが負けることない…。せや、負けることないんや。いつも通り蹂躙しとるやろ。」

「ええ…。そうですね。」

周りにいたメンバーもキバオウの自分に言い聞かせてるような言葉にうなずくしかなかった。

キバオウの予想通り、その10分もたたないうちに、美の塔の【若人】戦がそろそろ終わりを迎えようとしていた。

「ぐぅぅうう!」

終始ミケ、シンキペアにペースを乱され続けた【若人】はHPがもうすぐそこをつく状態だった。

「ああああ!」

「SSエフェクト!? 下がって! シンキさん! ミケさん!」

シノンが大きく弓を引き、ミケ、シンキが上空へと逃げたことを確認し、【若人】へと攻撃した。強く光った一本の矢が上空へとはなたれ、急速に【若人】へと落下。途端に多数の小さな矢へと別れ、【若人】へと降り注いだ。

「ポイボス・カタストロフェ!」

「人間の分際でぇぇぇ!」

矢を切り落とし、身を守る【若人】へと『エアハイカー』のスキルで上空待機していたシンキが曲刀を振り下ろした。

「ふふふ。哀れね。」

ガキン!

2本の小剣がクロスし、シンキの曲刀を受け止めた。

「この…! 私を…! 美の象徴である私を…! 貴様たち人間が…勝つというのか!」

【若人】の言葉にシンキは鼻で笑った。

「美の象徴? あなたが? っは。笑えない冗談ね。それに、仮にあなたが美の象徴で、それで勝とうとしたのなら大間違いよ。だって…。」

「…!?」

斬!

「にゃにゃにゃ!」

天井に張り付いていたミケが頭上から小剣を【若人】に振り下ろした。

「自由の象徴がいるんだもの。あなたなんかに負けないわ。」

「この…私が! 【若人】がぁぁぁぁ!」

パキン!

叫びが消えるころには、結晶となり砕け散った破片も小さく見えなくなっていた。

「ミケの勝利なのだー! アスナー! 何か食わせろなのだ。」

「はいはい。」

苦笑しながらもアスナはアイテム欄から握り飯を取り出し、ミケへと渡した。

「あぐあぐ! うまいのだ!」

「ふふふ。ほんと、自由な猫だこと。」

微笑むシンキにプレイヤーたち。美の塔、【若人】戦は勝利となった

「おおお!」

「甘っちょろすぎるんだよぉ!」

【巨躯】のパワーのある拳に対し、真正面から同じく拳でぶち当たっていたコマチが突然切れた。

ガキン!

 

「こんな偽物が【巨躯】なわけねーだろうが!」

下から振り上げた拳が【巨躯】の胸元にぶち込まれる。

「ぐぅぅ!?」

「おら、さっさと普段の大きさに戻りやがれ。ってな。はやまん。やれ。」

「おう! いくぜふるぼっこ!」

よろけた隙を突いてコマチの後方から素早く【巨躯】の体に張り付きSAを放った。

「一ノ太刀…一閃!」

「ふぅぅぅ!! …ふっふっふ。良き…良き闘争であったぞ。」

 

パキン!

 

黒い渦を出しながら【巨躯】の人型は結晶となり消えていった。

「ふん…。燃焼不良か。」

「真正面から殴り合ってて言う言葉ではないな…。」

「ああ。さすがコマチというところか。」

タバコに火を点け、不満そうな顔をするコマチに対し、ディアベル、リンドは苦笑気味だった。

力の塔。【巨躯】討伐戦完了。

 

 

 

「ふふふ。君は…なかなかどうして…。」

「うっせ。しゃべんな。おめーの顔は見飽きてんだよ。」

彼が今持っているのは槍。【敗者】は持っている武器を変えてきていた。

多種にわたる武器を変えてきた【敗者】。その武器種の動きを知っており、かつ対応ができる状態にしておくのがこの知の塔の戦い方というのだろうか。

だが、オキ達はそのどの武器にも対応ができる。なにも問題なく削りきっていた。

「おらぁ!」

オキが槍を【敗者】の胸につきさそうとした。だが、【敗者】はそれをさせまいとおなじく槍でうけとめた。

「ぐぐぐ…。」

「…僕はあまりこういうのは得意ではないのだがね…。君を見てると…何かが湧き出てきそうだよ!」

つばぜり合いとなった状態。オキは近くで見える【敗者】の顔を睨みつけた。

「…しね【敗者】。てめーは死んだんだ。二度と俺の前に…!」

 

ガキン!

 

「!!」

オキは槍を下から蹴り上げ、【敗者】の胴体をガラ空きにした。蹴り上げた槍は空中高く登って行き、そして落ちてきた。

「面ぁみせんな。隊長、とどめ。」

「うむ!」

クルクルと回転してくるやりめがけて、突進してきたアインスが柄の下、一点をカタナで突き、槍ごと【敗者】の体を貫いた。

「ぐぅうう! くくく…ははは! 全く君たちは相変わらず…。」

「…もう二度と会うことはないだろ。眠れ。ルーサー…。」

その言葉を聞きながら、『ルーサー』はニヤリと口を歪めた。

「本当にその解は正しいのかな?」

「…あ?」

 

パキン!

 

結晶となった【敗者】は消え去っていった。

「今のは…ルーサー?」

「…わからん。だが、それでも我々の勝利だ。さっさとスイッチを押して戻ろう。」

アインスがオキの肩をポンと叩き、王座の近くにあった巨大なスイッチと思われる棒を操作した。

 

ガコン! ゴゴゴゴ!

 

「オキさん。外から連絡です。街への扉が閉まったそうです。代わりに迷宮区への扉が開いたと。」

「なに? 急いで戻ろう。」

「うっす。」

レン、タケヤを始め、プレイヤー達はオキの後に続き王座の間を後にした。

 

 




みなさまごきげんよう。
年が明け、忙しくなる毎日。今回も夜中にギリギリになってようやく完成しました。
ああ、日中に時間が欲しい。

PSO2もあまりプレイできてない状態。うーんそろそろコレクトファイルを進めないといけないんだけどなぁ。

さて、3つの塔を攻略したオキ達。立ちふさがるは門番『ザ・ゲート・キーパー』。
そして、皆が過ごす最後の夜。
かれらをまつ頂上には何があるのか。何が待っているのか。
次回をお楽しみに。

では次回またお会い致しましょう。


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第83話 「英雄達の宴」

「おおお!!」

「やあぁぁぁ!!」

キリトやシリカをはじめ、白銀の甲冑を身にまとった4本足の巨体エネミーを囲んでプレイヤー達が激戦を繰り広げていた。

HPが高く、防御力もある『ザ・ゲート・キーパー』。90層以降出てきた大型エネミー種。対策は打ちやすく、そこまで強くもない。耐久性が高いだけだ。

HPゲージを2本ほど削りきったところでキリトやディアベル達からの提案でオキ、ハヤマらは後方に下がり傍観している状態となっていた。

「お、今の切り替えし。さすがキリトだ。」

「ふむ。あいての剣を弾き、そのまま真上から攻撃されるように誘導。誘導通りに真上からの攻撃を懐に潜り込んでからSS。そして直後にアスナ君とのスイッチ。この分では、我々はいらなさそうだな。」

「せやな。見てる分でも面白いけど。…おーい! 今の攻撃でHP削られた奴! こっちこんかー!」

『ザ・ゲート・キーパー』の巨大な剣が振り回され、逃げ遅れた数名のプレイヤーがもろに喰らっていた。

イタタと言いながらこっちにくるアリスとハシーシュにポーションを配るオキ。

「あまり無理すんな。」

「はーい。」

「はいデス。」

不満そうな声で返事をする二人だが、すぐさま噴出して笑い出す。気持ち的には余裕がある方だ。ちょっと余裕がありすぎな気もするが。

そんなことを思いながらふと隣を見ると、同じようにポーションを分けて自分のチームメンバーに渡しているアインスの姿を見た。

ヒョウカが嬉しそうにポーションを受け取っている。

「ん? どうした?」

じっと見ていたオキの視線に気づいたアインスは再びボスへと向かっていくメンバーを見守りながら聞いた。

「いんや。なんでも。」

オキはタバコを咥え、同じくボスへと向かっていくアリスとハシーシュに軽く手を振って火をつけた。

「ふぅ…。」

「お疲れ様でした。オキさん。」

シリカに火を付けてもらい、タバコを軽く蒸かした。99層のボス戦は問題なく終わった。結局形態変化もより硬くなる程度で、問題視することはなかった。

オキたちは一度解散。明日一日を最後に自由に動ける日として明後日の正午。100層の扉を開くことに決め、解散したのだ。

お祭りをまた開くのかとディアベルに聞いたが

『それだと自由に動けないだろう。せっかくだ。SAO最後の1日。皆自由に動けるようにしてやろう。』

と、言っていた。この情報はアルゴをはじめとする情報屋経由でアインクラッドの各層にて過ごしているプレイヤー全員にいきわたることになっている。

「ああ、お疲れ様。」

オキはシリカの頭を撫でた。

「お茶、いれてきた。」

「お菓子もあるよん。」

パジャマ姿のハシーシュとフィリアがお茶とお茶請けを運んできた。

「お風呂あいた。どっちか入る?」

お風呂上りで髪の毛がまだ湿っているハシーシュがこちらを見た。入れと申すか。

「いいよ。シリカ、先はいりな。」

「いえ、少しやることがあるのでオキさん先にどうぞ。」

む、そうか。なら仕方ないな。タバコに火をつけたばかりだが、自分も早く体にお湯を流したい気持ちであった為、すぐに立ち上がり離れ専用の風呂へと向かった。

ザバァー

「あぁー。身にしみるー。」

温泉かけ流しで24時間入れる完璧な風呂。離れ専用で母屋の風呂場よりも断然小さいが、3,4人程度なら軽く入れる檜風呂。しかも露天風呂。

身体に一度お湯をかけ、中へと行く入ったオキはほんのりとちょうど良い温度に温まりながら夜空を見上げた。

街の音が小さく響いている。オキはこの空を見上げるのも残り二回となった事を改めて思い返した。

「長い2年だったな。いやはや、帰ったらやらなきゃならねーこと山済みだ…な? ん? 誰か…シリカ?」

脱衣所に人の気配がしてそちらを見てみるとシリカがいる様だった。普段ならお互いに入る前に相手に言ってから入る。しかも今回はシリカが先に入ってと言った。知らないわけがない。ともあれ、シリカがそこにいるのは事実だ。脱衣所への扉にはシリカのシルエットだと思われる影も見えた。

「どうしたー? なんかあったかー?」

「っぴぃ!」

ものすごい声を出しながらシリカの影が震えた。そして扉があいた。

「…シリカ!?」

「あの…えっと…お背中を流して差し上げようかと…。」

タオル一枚…いや水着でも来ているのだろう。うん。多分。少なくともこちらから見えるのはタオル一枚を体に纏わせただけのシリカがゆっくりと湯気の中を歩いてこちらに近づいた。

「その…そんなに見られると…。恥ずかしい…です。」

「おっと、わりぃ。」

ぽけーっとシリカの姿を見ていたオキは、はっと気づいてすぐさまシリカに背を向けた。

「あの、嫌なら…いいのですけど。」

すごく震えた声をしている。勇気を出してここまで来てくれたのだろう。正直俺も恥ずかしいが、それを無下にするつもりもないし、添え膳食わぬがなんとやらだ。せっかくだから甘えよう。

「あ、いや、そのびっくりしてな。そうだな。お願いしよう。」

一応オキも前をタオルで隠し、シャワーのある場所へと歩いた。

「よっと…。こ、これでいいか?」

「はい。では失礼します。」

風呂椅子に座ったオキの後ろに跪き、優しくゆっくりとオキの背中を洗い出した。

『…この感触。素手?』

やんわりとした吸い付いてくる感じの柔らかい掌を背中で感じ取った。

「その…どう、ですか。」

「…うん。暖かい。」

「…! はい。ありがとうございます!」

しゃべり方で彼女が笑顔になっているのが背中越しでもわかる。

マッサージ感覚で彼女の掌をゆっくりと味わった。

「…はい。その、えっと…前も…。」

「前はいいよ。前は。っな? ほら、シリカも冷めちまう。湯につかろう。」

「え? は、はい!」

前はやばい。いろいろやばい。ここの温泉が濁り湯でよかった。じゃないと今の状態は見られるとやばい。

「ふぅ…。」

「はぁ…。」

二人してようやく落ち着いた声でため息をした。濁り湯だからほとんど見えないのだ。

「…なぁシリカ。いきなりどうした? いや、そりゃうれしいけど。いきなりはびっくりだぜ。」

オキの言葉を聞いてタハハと照れくさそうに笑ったシリカは事情を話した。

「その、実はハシーシュさんやフィリアさんたちに押されちゃいまして。」

「もう後二日しかないんだよ! シリカちゃん!」

「私たちは気にしなくていい。」

「え、えーと。なんの話でしょう。」

99層攻略後、オキ達が99層での反省会を行っている最中の話だ。

シリカ、ハシーシュ、フィリアで話が盛り上がっていた。99層を終え、数少ない時間でオキとの関係をもう一歩ならず最後までと言ってくるハシーシュやフィリアに対し、しり込みするシリカ。そりゃそうだ。最後と言えばもちろんそういう行為をするという意味である。

「SAOが終わったら会いに来るとは言ってたけど、いつ来るかわからないし、最悪会えない可能性もある。」

「オキは嘘つかない。でも、それがいつになるか、わからない。」

二人はつまりさみしい思いをする前に思い出を作っておけと言っているのだ。

「う、うーん…。」

本当にそれでいいのか。シリカはオキが嫌いなわけではない。むしろ完全に惚れている。今後、SAOが終わりオキ無しの生活がさみしくて仕方がない状態になるのはわかりきっている。

「ハシーシュさん。フィリアさん。わたしは、急ぐ必要はないと思います。」

「「でも!!」」

二人ではもる声。シリカは首をかしげているピナの首元をくすぐりながら二人へ言った。

「多分、私はオキさんを求めたら、止まらなくなると思います。SAOが終わって、そんな状態でオキさんを待つのは嫌です。だから待ちます。オキさんが…迎えに来るまで。」

「そんなことがあったんかい。」

湯船の中で寄り添う二人。肩と肩をくっつけてお互いに体重を軽くかけていた。

シリカはフィリアやハシーシュとのやり取りをつまんで説明。オキはシリカがさみしくならないようにと二人が催促をかけた結果だと認識した。

「ま、シリカがそうならそれでいい。結果的に俺が早く…お前を迎えに行けばいいだけだ。まってろ。必ず迎えに行くからな。」

「…はい。」

オキとシリカの唇がゆっくりと近づき一つとなった。

オキは風呂から上がり、沸騰した頭を冷やすべく42層のサクラ街を歩いた。夜中になった今はほとんど人気がない。

だが、その中心。42層にそびえたつ巨大桜の中でも最も大きな一本桜。その桜が生えている転送門広場に人の気配があった。

『こんな夜中に…?』

NPCではない。いったい誰だろうと、近づいてみると、身内だった。

「あら、色男じゃない。」

シンキが広場のど真ん中、桜が一番きれいに見える場所に陣取り、座り込んで酒を飲んでいるではないか。

「シンキ。お前こんなところで何を…って色男?」

「添え膳食わぬが…。相変わらずヘタレね。」

この口ぶり。どうやら見ていたか、どこかで知ったらしい。彼女の場合前者の可能性が高い。

「うっせ。…ふぅ。俺は焦らない主義なの。彼女の気持ちを第一優先に。それが俺の主義だ。」

「でもしっかりキスまでやって、そこから何もなくブラブラと歩いてくるってどうなのかしらね。…ね、隊長ちゃん?」

俺の後ろに目の集点を合わせているシンキ。後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。

「さぁてね。俺に聞かれても困る。隣、いいかい? オキ君もどうだい。」

アインスが手に持っていたのは酒瓶だった。アイテム欄からいくつかの銘柄違いを出している。

「味は…すまない。シンキ君の好みを俺は知らないからな。だからいろいろ持ってきた。」

見た感じランクが高いものだ。悪いものはないだろう。しいて言うなら味の問題だ。

「俺も混ざろう。しかしこの場合、シンキが呼んだのか?」

「ええ。せっかくだしとおもってね。」

「明日の最後の夜はチームメンバー全員で軽く宴を開くようだ。そっちをすっぽかすわけにはいかないからね。だから今日にしてもらった。」

そういうこと。と言いながら酒瓶を吟味しているシンキ。気になったやつを開けて、大きめの盃に入れて一気に飲み干した。

「…ん。悪くはないけど。ちょっと口に合わないわね。いいわ。せっかくだし、ちょっとくらい許してねオキちゃん。」

「あ?」

ウィンクしたシンキが空中にゆがみを作り、金色の細長い入れ物と金色の杯を3つ取り出し、オキとアインスに配った。

「これくらいのじゃないとね。わたしは満足しないの。」

「…ほう。これは素晴らしい。」

「おいまて。なに平然と『星の財宝(ゲートオブアルゴル)』使って具現化してるんだよ。」

彼女の力『星の財宝(ゲートオブアルゴル)』。その名の通り星々中の宝が眠っている。理屈はよくわからないが、彼女の持つ不思議で巨大な力の一つだ。

オキは起こりながらもグイッと杯を口に当て、そそがれていた淡い紅色の液体を飲み干した。

その味は今までに飲んだことのないまったりとしつつも淡く、そして刺激的な味をしておりオキやアインスは経験のないものだった。

「これは…くそ。まぁいいか。酒一本くらい大丈夫だろ。武器とか出さない限り。」

「え?」

シンキはにっこりとしながら背中側を強く光らせ空中にたくさんの武具を具現化した。ほんの一部だが見たこともない煌びやかな剣から槍、斧など多種にわたる宝物が見えた。

「コラ。やめい。」

「冗談よ。」

すぐにゲートを閉じた周囲は、ほんのりと光り輝く桜の木の光のみとなり暗くなった。

夜風が静かに流れる感覚を3人は楽しんだ。

「ところで、なんで集まったの?」

オキがちびちびと飲みながらシンキに聞いた。

「だってもう最後なんでしょ? 明日のよるは隊長ちゃんはチームメンバーと宴。オキちゃんはシリカちゃんとお楽しみでしょ? じゃないと今日しかないじゃない。こういう機会。」

「なんでや。まぁその気持ちはわからんでもないが…。」

飲んでた酒を吹き出しそうになった。シンキをみるとにやにやしている。アインスも心なしか微笑んでいた。

「でも…。」

「ん?」

シンキは目を細めて自分の手に持っている杯に目を落とした。

「なかなか退屈しない冒険だったわ。」

「ああ。それは言えるな。」

「だーな。」

お互いの杯をぶつけ合い、笑い合いながら酒を飲み干した。




みなさまごきげんよう。
2月に入り冬の寒さもピークとなった日々、いかがお過ごしでしょうか。
温泉に入って温まりましょう。
さて、とうとう見えた100層の扉。その前にやることやらないとですね。
次回は最後の挨拶回り。アインクラッド中を回ります。
では次回にまたお会いしましょう。


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第84話 「アインクラッド最後の過ごし方」

朝。雀の鳴く声で目が覚めたオキ。

「んー・・・。」

「おはようございます。」

頭の上から声が聞こえた。シリカだ。心地よい少し固く、それでいて柔らかく暖かい感触が頭に感じた。

「…おはよ。」

だが、オキの頭は相変わらずスリープ状態だ。

「相変わらず、寝起きが悪いですね。」

オキの寝起きはいつも悪い。だが、覚醒するのも早い。

「…!?」

ようやく自分がされている状況を確認できた。シリカに膝枕をされているのだ。

「…お、おはよう。」

「えと…その…こうやって起こされるのがなかなか…その…アスナさんが…されてるそうで…ごにょごにょ…。」

覚誠したことに気づいたのか、顔を次第に赤くし、言葉も小さくなっていくシリカ。目を丸くし見開くオキは頭の中で『アスナからこうされるのがいいと聞いた』と要約できた。

「…なかなかいい。目覚めのよさのようだ。」

「そうですか。」

ふふふと微笑むシリカが開けた窓の方をみて、それに釣られてオキも空を見上げる。晴天の空。青く輝く雲一つない眩しい空がオキの目に入った。

「ああ。すまないがもうしばらくいいか。」

「…はい。」

十分ほどその感触を感じ、オキはようやく体を起こした。

その後、1回へと降りた二人はシリカが用意した朝ごはんを二人で食べる中、オキは今日の動きを提案した。

「今日は今までお世話になった人たち、プレイヤーからNPCまでみんなに『お世話になりました』って 。」

それを聞いてシリカの顔が笑顔となる。

「いいですね! そうしましょう!」

シリカの合意も取れたことで、オキ達は身支度をして外へと出ようとした。だが、オキは自分のクローゼット、つまり倉庫をじっと見た。

「まてよ…? もう明日で終わるんだよな。」

仮に失敗したところでそこまでだったと諦めるしかない。あしたで必ず決着をつける意気込みで行かないと勝てるものも勝てん。そう考えた沖は倉庫の中身をかたっぱしからインベントリへと移動した。

「お待たせ。」

「いえ、大丈夫です。なにかありましたか?」

少しだけまたせたシリカがキビをかしげた。

「いや、なに。もう明日で終わりならアイテム全部放出しようと思ってよ。最低限の回復関係やテレポート、補助アイテム、予備の武器以外は全部持ってきた。」

「なるほど! 明日で終わり…ですものね。」

少しだけシリカの顔が寂しそうに曇った。それを見たオキは軽く頭を撫でる。

「なーに。明日で終わっても、また会えるさ。」

「…はい。」

シリカは返事共に笑顔となりオキとともに歩き出した。

 

 

第1層。2人はまずここに立った。

「はじめて…ここであの宣言をされたんですよね。」

大広場。今ではプレイヤー達がガヤガヤとお互いに喋ったり、歩いたりしている。

「ああ。あの時と違うこともある。」

皆が笑顔なのだ。

「あ! あの人!」

「そうだ間違いない!」

数名のプレイヤーがオキたちの存在にきづいた。直後に走って近づいてきた。

「ん? 何か用か?」

「あの! 明日決戦ですよね!」

「頑張ってください!」

「応援してるぜ! イレギュラーの旦那!」

いきなりの応援できょとんとしてしまったが、こちらを応援してくれている。皆のためにここまで来たのだ。シリカの顔をみて、二人で笑顔で答えた。

「ああ。」

「がんばります!」

何度か応援をもらい、ようやく目的地についた。アインクラッド解放軍本拠地がある、黒鉄球だ。

「やぁオキ君。今日はデートかい?」

中に入るとディアベルが部下へとあれこれ指示をしているところだった。

「デートついでに挨拶回りだ。今までせわになった人へのな。」

「なるほど。」

聞くとディアベルはなにか特別なことをやらず、いつもどおりの日常を過ごすことを選んだようだ。

「ディアベルには…1層から世話になりっぱなだったな。」

お茶を頂き、まったりしながらディアベルやシンカー、ユリエールと思い出話をした。

「あの時、オキ君たちが迷宮区までたどり着くという噂を聞いてからいてもたってもいられなくてな。懐かしい。もう2年か。」

「あの時はキバオウに突っかかられたんだったな。そういえばキバオウはどこいった。」

キョロキョロと周囲を確認したが、彼の騒がしい声が聞こえない。

「ああ、彼ならサーシャ君のところだ。今日は子供達と遊んできると。」

そうかと、オキはお茶を飲み干した。

「じゃあ、そっちにも行ってみるかな。ありがと。シンカー、ユリエール。お前らにもせわになった。ありがとう。」

「いえ、こちらこそ。」

「お世話になりました。」

「の、前にあっちにもいちおう言っておくか。」

オキは黒鉄球の奥をみて一歩踏み出した。

「まさか、あいつらにも…?」

ディアベルが少し目を細めた。オキが向かおうとした場所。それは黒鉄球の牢獄だ。

「当たり前だろ。いろんな意味でせわになったからな。」

「あ、えっと…わたしも行きます!」

シリカもオキの後ろをついてきた。オキは別に…と言いかけたが、シリカの顔をみて言うのをやめた。彼女がその先に進むことを決めたのだ。それを止めることはできない。そう思った。

牢獄エリア。陽の光が届かず、薄暗い。そこにいた看守担当のプレイヤーに挨拶をして目的の牢屋を覗く。

「ん? んー? おや、久しぶりじゃないか。あんたか。」

入口まで近づいてきた女性の名前をオキが言った。

「よう。ロザリア。久しぶりだな。ちょっと挨拶にね。」

「ああ、そういえば明日で最後になるかもって言ってたな。もう100層かい。あんたもがんばるねぇ。…ん? おや、あの時の子じゃないかい。覚えてるかい?」

シリカはロザリアの姿をみて少しだけオキの背中に隠れた。

「ありゃありゃ。嫌われたもんだねぇ。ま、それだけのことをしたんだけど。とりあえず、そのドラゴンから火を吹かせないでくれよ。」

はははと苦笑しながらロザリオは入口に座り込んだ。

「ま、ここまで来てくれただけでも…ね。」

「まぁな。こちらと幸せに暮らせてるよ。明日、終わらせる。お前らも、そのあとはプレイヤー達に任せてある。どうなるかは俺らは知らんが、まぁ償うものは償っておけ。」

「ああ。そうするよ。」

オキはさらに奥を見た。

「…あいつのところにも行く気かい?」

ロザリアも奥を見た。オキの行こうとしている場所、会おうとしている男を察したらしい。

「まぁな。シリカ。ここから先はこないほうがいい。待ってな。」

「…はい。」

「シリカを頼む。」

「了解であります。」

看守係のプレイヤーにシリカを託し、オキは最奥へと足を踏み入れた。

「よぉ旦那ぁ。元気かぁ?」

「あ~。久々じゃねぇか~。俺に会いに来るのはあんただけだ。HAHAHA。嬉しいねぇ。」

かつてSAOを最も恐怖に陥れた男にオキはあった。

 




みなさまごきげんよう。最後の日常回(前編)です。
今週も時間なくてあまりかけませんでしたごめんなさい…。
やはり年度末に向けて忙しくなってきてますね。
空気が乾燥してインフルエンザもまだまだ元気ですから皆さんもお体にお気をつけてお過ごし下さい。

では次回にまたお会いしましょう。
…来週は書き上げたいな…。


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第85話 「監獄の奥底」

「ふぃ~…。」

「…Ah~。久しぶりだな。ヒーロー?」

「アークスだ。」

薄暗い監獄のもっとも億。日の光どころか蝋燭の光さえも少ない他の者たちから完全に隔離された人物の真横でタバコを吸うオキ。そしてその隣には腕を完全に拘束され、万歳状態でがっちり拘束された男が一人、オキにタバコを咥えさせてもらっていた。

「うまいか旦那?」

「まぁ…な。ところで、何しにきやがったイレギュラー? もう俺には会わなかったんじゃないのか?」 

HAHAHAと笑いながら煙を吐くPoHにオキはある疑問をぶつけた。

「ま、いくつか聞きたいことがあってな。伝えることもあるし。」

「あ?」

PoHの近くに蝋燭台を近づけ、顔をのぞいた。

「まぁまずは伝えることだ。…明日、俺たちは100層の扉を開ける。言っている意味は分かるな?」

PoHはニヤニヤと口元をゆがませ始めた。

「OK? そうすりゃ俺もここからおさらばってわけだ。」

オキが目を細めた。相変わらずこの男は何を考えているのかわからない。彼の犯した罪は決して許される行為ではない。だが、裁くのはスレアの人だ。ディアベル達にも聞いたが、彼らの事は出来る限り話すが、間違いなく罪に問われることは難しいと言っていた。

彼らが罪を自ら自白しない限り、捕まることは少ないだろうと。

理由は簡単だ。ここがSAO、バーチャル世界であり、萱場の起こした事件のせいで錯乱状態にあった、と言えば逃げれるからだ。

他にも逃げ道はある。一個や二個ではない。ディアベル達が考え付くだけでもかなりあるらしい。素人考えでその状態だ。犯罪者からすればもっと思いつくだろう、とディアベルは悔しそうに言っていた。

とはいえ、オキ達の行動もあり自首しそうな者が多いらしい。口から出まかせなのか、違うのかは彼らの口ぶりからわかるそうだ。

どうやら償わないとオキ達が再び現実の、外の世界でも追いかけてくるとかいう話が広まっているらしい。

「旦那は…逃げそうだな。」

ぽそりとオキがつぶやいた。

「あー?」

聞こえたのか聞こえてないのか。相変わらずニヤニヤと口元をゆがませているだけだった。

「ともかく明日でこの世界も終わりだ。最後までしっかり繋がってろ。そのあとは…俺たちには関係ない。ただし…!」

オキは彼の淀んだ目を睨み付けた。

「俺の仲間たちや大事な人を傷つけるやつは、ナニモノであっても許さない。それだけは覚えておけ。」

「…バケモノ、でもか?」

「当たり前だ。」

オキとPoHはしばらくにらみ続け、オキがため息をついてその場の空気が変わった。

「はぁ…。まぁいいや。本当に言いたかったのは別件だし。…いくつか質問があるといったな。こっちが本命だ。」

オキは蝋燭台を持って、少しだけ離れた。聞きたいこと。それはある男との接触の有無だ。

「長身でイケメン、釣り目で細目、体つきはがっちりしていて、耳が尖っている男に会わなかったか?」

「さぁな…。殺した奴は何人もいるからなぁ…。ククク。」

肩を揺らしながら笑うPoH。オキからすれば冗談では済まない。

「バカ言え。ただの人間が殺せるわけねーよ。そいつは俺達が殺した男だ。…正確には、とどめを刺したのはレギアスの旦那だけど。」

あの男は真っ二つに切られた。創世器『世果』で。

「おめぇさんが殺したなら、なぜ俺に出会っていると思う。」

PoHは縛られた手を少し動かした。器用な奴だ。

「あの力を持っているのはあいつだけだからだ。質問を変えよう。どこかで誰かに変な丸っこい何かとかよくわからない物とかもらってないか?」

オキはじっとPoHの目を見た。PoHもオキの眼を見ている。

「…ふん。そんなものねーよ。あったとしても教えられるかってんだ。」

オキは笑うPoHの顔を睨み付けたままだ。一度口を開き、言おうとした言葉を吐き出そうとしたが、結局飲み込んだ。

「そうかい。そーかい。あっちのお前は飲み込まれて俺に殺されたが…こっちのお前はどうかな。」

何を言いたいのかわかっていないのか不思議そうな顔をするPoH。

「ま、元気でな。今度はまっとうに生きろよ。」

PoHへと最後のあいさつをする。もう会うこともないだろう。

「はは…HAHAHA。また会おうぜ。イレギュラー…。」

暗くなる牢獄に男の声が響いた。

「もう二度と会いたくねーよ。」

ボソリとつぶやいたオキはシリカのもとへと向かっていった。

「そうかい。あの男がそんなこと。」

黒鉄球を後にし、シリカとサーシャのところにいたキバオウに挨拶をしに向かった。そのついでに先ほどのPoHとの会話を共有した。

「フィリアを襲ったコピーのPoHが個別で手に入れたと予想する。本体のあいつはダーカー因子は持ってない。」

「ってことは、あのホロウエリアに何かあったか、いたかと考えるのが普通だろう。」

ふとシリカを見ると、子供たちの前で武器を構えて何やらポーズをしている。

「何やってんだ? シリカ。」

「あ、えっと…。」

「リーダーさんだ!」

「リーダーさん! 武器かまえてー!」

「ほんものだー!」

いきなり子供たちに囲まれてしまったオキは目を見開き、驚きから戻ってこれなかった。

それを見たキバオウは先ほどまでの険しい顔から優しい顔になって子供たちの頭を撫でた。

「こらこら。オキはんたちがこまっとるやろ。すまんのう。以前キリトはんたちが来た時に二刀流の姿を見てから、来る人来る人に武器をかまえさせるんが好きになってもうた。」

たははと頭をかきながら苦笑するキバオウ。

「すみません。こら。いつもいってるでしょ? みなさん困ってるでしょ。」

ぷんすかと少し怒り気味のエプロン姿のお姉さん、サーシャだ。

SAO開始時から小さな子供たちを1層でまとめてお世話している保母さんであり、その姿を見て涙したキバオウが全面的にバックアップしている。

ちなみにアルゴの噂では彼彼女は付き合っている可能性が高いとみているらしい。

「ははは。いいってことよ。そうだな…うっし。こういうときくらいいいいだろ。

キィィン…

手に光を集め、相棒を具現化させた。

「オキはん…それ、エルデトロス。」

「綺麗…。キバオウから聞いてはいたけど…。」

「離れてな。…はぁ!」

オキは子供たちを離れさせ、地面に座らせた。直後に持っていたエルデトロスを振り回した。

「わー!」

「すごーい!」

両腕を振り回し、グルグルと回るエルデトロス。時には空中へワイヤーを伸ばし、地面に叩きつけたり、最後にかっこよくピーズを決めた。

 

パチパチパチ!

 

「かっこー!」

「わーい!」

子供たちも満足したようだ。オキはエルデトロスを粒子に変えて消した。

「さすがやなオキはん。いつもてもすごいおもうわ。」

「それが・・・話に聞いた武器。綺麗で、勇ましく、そして私でもわかります。その、つよい生命力を。」

サーシャもどうやらエルデトロスの中に眠る『ガル・グリフォン』の力を感じたようだ。

「かっこよかったですよ! オキさん!」

「きゅる!」

シリカは笑顔で近づき、ピナも楽しそうにクルクル飛び回っている。

「さってっと、キバオウやサーシャさんにも挨拶できたし、次に行くか。」

「オキはん。明日、たのむで。」

「お気をつけて。よろしくお願いいたします。」

二人と子供たちが手を振るのを背中で受け、二人は次の層へと進んだ。

 

 




みなさまごきげんよう。
毎度ながらすみません『時間が足りません!』
体が5個ぐらいほしい。何もかも時間が足りない。
さすが年度末だぜ! ちくしょう!
前後で終わらせるつもりがまさかの前中後になるという困った。
皆様にはお待たせしてもうしわけない。

次回には必ず・・・。ではまたお会いしましょう。


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第86話 「アインクラッドの最後の夜」

22層。アインクラッドの中で唯一のエネミーのいない層。緑豊かで草原から森林、湖がいくつかあり、NPCが静かに暮らす村が数か所存在する。

この層の一番奥にある湖のほとり。そのほとりに建つ一軒の家をオキとシリカは目指していた。

「相変わらず静かな場所だな。」

「そうですねー。」

「きゅる。」

ピナもいつもより高く広く飛び回っている。誰が見てもうれしそうだ。

「はは。嬉しそうだ。…ん。湖が見えてきたな。」

少し小高い丘の林を抜け、目的地となる湖が坂の下に見える。

「うっし。あそこまで競争だ! よーいドン!」

「あ! ずるいです! まってくださーい!」

オキの声で始まった唐突な競争。卑怯にも自分のタイミングで言ったオキは大きくリードした。遅れて反応したシリカはそれを追う。とはいえ、本気で走っているわけではない。半ば追いかけっこのように笑いながら走っている。

「まーてー!」

「だははは。まてるかー!」

下り坂を駆け、道が草原になった。オキはシリカに追いつかれ、坂を下った勢いでそのまま併走する形で走っている。

「このままゴールです!」

「させねーよ! こんにゃろ!」

「っきゃぁ!?」

シリカの肩を勢いよく引き、自分の身体の上に乗るように横へと倒れた。ごろごろとお互いに転がり、最後にはオキが下になり、シリカはオキの身体の上に抱き着く形で止まった。

「はあ…はぁ…もー。オキさん! びっくりするじゃないですか!」

「はっはっは。これでシリカはゴールできまい! おそれいったかー!」

「もう…ふふふ。」

はぁと息を整え、そのままオキの胸の上に顔を下すシリカ。オキはそのシリカの頭を撫でながら空を眺めた。

風の音だけが聞こえる静かな湖のほとり。お互いにお互いの感触を感じながらゆっくりと顔を近づけようとした。その瞬間だった。

「パパー! ママー! こっちですよー!」

あと少しのところで聞いたことのある少女の声と走ってくる音。そしてその後に続く声がオキ達の邪魔をした。

「ユイーそんなに走ると転ぶぞー!」

「おねーちゃんまってー! って…あれ? オキとシリカの反応?」

「え? 二人がいるの?」

バタバタ起き上がり、草を体から払う二人の目の前にキリトファミリーが現れた。

「オキさん…それにシリカちゃんも?」

大きなバケットをもったアスナが最後に現れた。見た感じピクニックのようだ。

「みんな…なんだ? 家族でピクニックか?」

「ああ。オキさんは何でここに?」

「ふふふ。お父さん。二人の邪魔、しちゃったみたい。」

シリカは顔が赤い上に体のあちこちに草がついている。オキは平常を保っているように見えるが、草が払いきれていない。

「…察しろ。」

そしてこの一言だ。『同じ事』をやったことのあるキリトとアスナはそれを理解し苦笑するしかなかった。

「あ、あはは…。」

「あ、えっと…。」

「?」

分かっていないのは純粋な少女ユイだけであった。

「家族でピクニックか。いいねぇ。家族サービス。この場所が死のゲームじゃなく、現実世界だったら完璧だったんだがな。」

トレジャーシートを敷いて、キリト達のピクニックにお邪魔したオキとシリカ。

最後の日というのもあり、キリトは家族全員でピクニックをすることにしたようだ。

「まぁ…な。ユイやストレアのデータは現実の方にあるとはいえ、こうして家族そろって手をつないで出かけることはもうないだろうと思ってね。」

キリトの言葉にさみしそうな顔をするアスナ。

「そうだな。そういうのは大事だな。」

少しだけ離れてオキはタバコに火を付けた。ちゃんと風下にいるのもエチケットだ。

「ところで、二人は今日、なぜここに?」

ストレアが首をかしげて質問してきた。そうだとオキは手をたたいて本題に入った。

「キリト。アスナ、ユイちゃん。ストレア。今までありがとう。こうして100層を目前にまで来れたのもみんなが協力してくれたからだ。他にも日常が楽しくて仕方ないくらい、退屈の無い日々だったのもみんなのおかげだ。ありがとう。」

オキとシリカは同時に頭を下げた。

「いいって…そんな。」

「そうよ。二人とも頭をあげて。」

少しだけ恥ずかしがりながらキリトとアスナは二人の頭を上げさせた。

「思えば…最初に会ったのはキリトとクラインだったんだよな。」

「そうだね。初めはただのVR初心者だと思っていたのが、まさか戦闘に特化した人だったなんてね。思いもよらなかったよ。」

思い返すキリトとクラインとの初遭遇。

「そういえば、オキさんって私たちから見れば宇宙人…なのよね? キリト君、歴史的瞬間の未知との遭遇ってやつじゃない?」

「あー。確かに。」

姿かたちは人間と全く一緒だ。構造やその他もろもろも一緒であり、違いはフォトンを扱う能力があるという一点のみ。

「アークスは人間と違いはないからな。人がフォトンを扱う能力を持った。それがアークスだから、わからないのも仕方ないだろう。俺がデューマンやニューマン、キャストだったら別だったがな。」

アークスには4種類の人種がいる。人のヒューマン。耳の長い、こちらの世界で言うエルフと同じような容姿を持つ特にフォトンの扱いに長けたニューマン。機械の身体を持ったキャスト。そして最近になって出てきた新たな人種、デューマン。彼らには角のようなものが額から出ているのが特徴だ。

「以前説明してくれたアークスの人たちだったよね。」

「まぁな。俺は人ベースだから特にお前らとなんら変わりもない。一般の人と子を生したってのもよくある話だし。むしろ、スレアの人たちの構造がヒューマンと全く変わりがないことが驚きだよ。いろんな星を見てきたけど、ここまで告示しているのも珍しい。」

タバコの火を消して、美味しそうなサンドイッチを見たオキはじっとそれを見つめた。

「あ、えっと、食べますか?」

アスナの声にはっと我に返ったオキはゆっくり首を横に振った。

「いや、そこまでお邪魔する気はない。そろそろほかの場所にもいかねーとな。シリカ。」

「はい! それではキリトさん、アスナさん。ユイちゃん、ストレアさん。また、明日。」

シリカの言葉に4人は同時にうなずいた。明日の決戦。負けるわけにはいかないという意思が二人に伝わってきた。

一度、結晶でポータルへと戻ったオキは50層を選択した。

「あれ? 先に上に行きますか?」

「次は42層を選ぶと思ったか? いや、あそこは最後にしようと思ってな。」

オキが向かった先は彼女の所だ。50層にいるNPC、レティシア。2層分とはいえ、一緒に旅をして一緒に戦った思入れのある相手だというのはNPCだろうがなんだろうが変わらない。

50層へたどり着いたオキとシリカは早速城へと向かった。国を救ったオキ達は城の中を自由に探索できる。城門の兵士に挨拶をして、中へと入り、レティシアを探した。

「おお光の騎士よ! よくぞ来てくれた。」

「お久しぶりです王。レティシアに挨拶をと思いまして。」

ふむと微笑んだ王は兵の一人を向かわせたレティシアを呼んでくれるらしい。

「そなた達には、何度も言うがこの国を救ってくれた恩人だ。本当に感謝している。」

毎回聞く言葉だ。さすがのオキも慣れてしまった。

「いえ、これが私の使命ですから。」

「そうか。して、風のうわさで聞いたのだが、聞いてもよいかな?」

「なんでしょうか。」

王から質問してくるのは珍しい。まだ終わっていないクエストでもあるのだろうかとおもった直後に思ったことがあった。

『やばい。完全にSAOのゲーム感覚になってる。もう少しで終わるからできるだけそういう考えはやめないと。』

2年も同じ考えで動いているとどうしてもクエストやフラグだの考えてしまう思考になっていたオキは頭を冷やすことにした。

「そなたらが闇の勢力を追い詰めたと聞いてな。」

100層にたどり着いたという話だろうか。すべての層がリンクしているという話は設定であるときいたことがあるが本当だったのだなと今更になってしるオキだった。

「ええ。明日、最終決戦を行います。もうここにも来れないでしょう。なので、最後のあいさつをしに来た次第です。」

「なるほど。そうか。…武運を祈っているぞ。」

「ありがとうございます。」

そうしている中、レティシアが王の間に入ってきた。

「おお! オキにシリカではないか!」

王からは自由にと言われ、客間に案内された。レティシアは以前と変わりなく、騎士の甲冑を着ている。

「…そうか。最後の戦いに出るのか。」

レティシアには最後の決戦の話をした。自分が参加できないのが悔しいとも言っていた。

「だから最後に世話になった人たちに挨拶をと思ってね。もう会うこともないと思う。だから元気で。」

「ああ。そなたら二人にはいろんなものを与えてもらった。それらを守れるよう、こちらも全力で守るとしよう。オキ、シリカ。絶対に負けるなよ。」

「はい。」

「任せておけ。」

力強い握手を交わしたオキとシリカは50層を後にし、もう一つ上の層、51層の中心を目指した。

淡い青色に染まった大きな海のある層の拠点、そこにはドラゴンナイツ・ブリゲイドのギルド拠点があるからだ。

「うっす。リンドいる?」

「オキさん! わざわざお越しいただきありがとうございます。こちらへどうぞ。」

拠点内は洋風の建屋になっており、豪華な装飾がなされている。騎士の姿にはなぜか似合うと思った。

「オキ君か。ようこそ。どうぞおかけに。」

リンドは明日の準備を整えていたようで、拠点内の武器庫にいた。一度移動し、客室で話をした。

「ああ、そうだ。…。頼んだよ。」

「承知いたしました。ではごゆるりとおくつろぎください。」

深々と頭を下げて客室を出て行った一人の女性。オキやシリカは見たことがあまりない。

「彼女は?」

「ん? ああ。わたしや戦闘部隊が出ている最中この拠点がお留守になっていろいろ回らなくなる時があってね。その時に事務的な仕事を任せれる人を募集してね、何人か来てくれた人の一人さ。主に私の身の回りの関係をお願いしている。つまりサブリーダー的存在だ。」

さっと見た感じだったが、金髪で髪の毛を後ろに束ね、綺麗に整った顔立ちだった。騎士の格好を見る限り、女騎士としての見た目はレティシアにも負けないだろう。

「見た目だけじゃなく、強さもそこそこ強い。本当は戦闘部隊に入れたいのだがね。彼女の強い要望からまとめ関係をお願いしている。おかげでいつも頭が上がらない。ちなみに私の妻だ。」

最後の一言にオキとシリカはきょとんとしてしまった。なにやらものすごいことを聞いた気がする。

「すまん。…なんだって?」

「彼女は私の妻だ。ま、ゲーム内だけだがな。」

「あ、えっと。おめでとうございます。」

いつの間に結婚していたのだろうか。そのようなそぶりは一切なかった。

「ありがとう。ただ、彼女は恥ずかしがりやでね。あまり騒ぎ立てないでほしい。頼むよ。」

軽くウィンクするリンド。オキとシリカはぽかんとするほかなかった。

「…さて、今日は何用かな? 明日の話かい?」

ああそうだとオキは本題を伝えた。今までの感謝を。そして明日もよろしくと。

「なるほど。夫婦そろって仲のいいことだ。うん。わたしはいいと思うぞ。そうだな。感謝、か。オキ君が感謝を述べるなら、私は言葉だけでは足りないだろう。それくらい、我々は君たちイレギュラーズ、アークスの面々には助けをもらってきた。この地獄のような場所を這い上がらせてくれた君たちには恩を返したいが返せないくらいだ。今はこれだけで勘弁してほしい。」

そういってリンドは頭をテーブルにあたるくらい下げた。

「いいって。もう何回目だこれっていうくらいほかのメンバーにも頭を下げられた。気持ちだけで十分だよ。別に見返りなんてほしいとも思ってないしな。どちらかというと、強いやつと戦って面白かったという自己満足って感じだし。それに、ねぇ。」

シリカをみてオキは微笑んだ。

「はい。皆さんの協力があってこそ、ここまで来れました。まぁ、これも何度もオキさんが言ってる言葉ですが。」

たははと苦笑するシリカを見て、リンドはオキの顔を見た。

「そうか。ありがとう。」

リンドは一言だけそういった。

拠点の入り口にてリンドのお見送りのもと、オキはその場を後にしようとした。

「もう少しゆっくりしてもらっても構わなかったんだがな。」

「まだ身内に挨拶してねーしな。」

「そうか。おい。」

リンドが声をかけると、騎士たちがその場に集まった。

「今、拠点内にいるメンバーを集めた。クエストに言っているメンバーについてはご了承願いたい。」

リンドが何をしようとしているのかがオキには理解が出来た。彼なりの忠義だ。

「構わんよ。別に。」

「ん。では諸君!」

ザッ! ガシャ!

騎士たちが一斉に剣を抜き、地面へと突いた。皆が同じポーズをとっている。

「我ら、ドラゴンナイツ・ブリゲイド。明日の決戦、決死の覚悟で臨む覚悟なり! 我ら、全員の命! 自由に使いたまえ! 我ら全員、盾となり、すべてを守る力なり!」

「「「おおおおーーーー!!!」」」

その場に騎士たちの声が響いた。中には女性もいる。彼の声に合わせて、覚悟を示してくれたのだ。

「わかった。諸君らの命、私が預かる。明日は、絶対に勝つぞ!」

「「「おおおおーーー!!」」」

オキの言葉に気合の入るメンバーたち。士気は最高潮であろう。これなら明日は心配ないとオキはリンドとがっちり握手をして、そのばを去った。

42層。いつもの拠点へと戻ってきた。桜の花びらが舞い散る古風な街並み。行きかう人たち全員がオキやシリカに向かって手を振ってきたり頭を下げてきたりする。

「あ、オキさーん!」

「ん?」

声の方を向くと、タケヤとツバキ達が一緒になって出店のお団子を食べていた。

「おう、お前らか。」

「オキさんたちはデートですか?」

「まぁな。後お礼をな。」

お礼?とサクラが首をかしげた。

「今までお世話になった人達にお礼を言いに各所を回ってるんです。」

「お前たちにも世話になったな。ありがとう。」

オキが頭を下げる。それをみて4人は照れた

「いいですって。そんな…。」

「そうよ。みんな一緒だったからだし。ねぇ。」

「そうだねー。みんなで頑張ったからだもんねー。」

「ああ。だからオキさん。礼なんていいっすよ。一言、俺達にはこう言ってくれればいいです。」

オキがタケヤの目を見た。それは覚悟ある、男の目だ。

「『必ず勝つぞ。気合入れろ。』って。」

へへと笑うタケヤに、一緒に微笑むツバキやレン、サクラ。

「そういえば。オキさん。エギルさんの所がすごいことになってるの、知ってます?」

「エギルのところ?」

ガヤガヤガヤガヤ

エギルの店はものすごい人だかりとなっていた。それをてきぱきとこなしていくエギルに、手伝いをしているリズとアリスがいた。

「ちょ…とおしてくれ! すまん! ここの主だ! とおしてくれー! シリカー! はなれるなよー!」

「はーい! わぷ! ぴゃあ!」

おしくら饅頭状態の入り口からようやく裏方へと回れたオキとシリカ。

「あら、あなた達何しに来たの?」

「オキサンにシリカサンデス! ゴキゲンヨウ!」

「おう。お前らか。」

「どう…なって…んだこれ。」

ぜーはーと息を切らしながら状況をリズやアリスに聞いた。明日が最後ということで、倉庫の中身を大安売り大セールしているようだ。

「すまんな。かってに放出して。」

エギルなりの皆へのお疲れ様と感謝の気持らしい。どうせ明日までの物なんだからと思ってやったそうだ。

「別にかまわんよ。俺も同じこと思って…ほれ。こいつらも渡しちまえ。」

オキが稼いできた武器や防具、アイテム関係をエギルへと渡した。

「いいのか。こんなに。」

「その代り、強化アイテム系だけはすべてリズに渡せ。今日の最後にリズに最高状態に持っていってもらう。いいな?」

リズはそれをきいてニカッと笑った。

「ええ。任せなさい!」

「ワタシもオテツダイデス!」

アリスもやる気のようだ。

「エギル。」

「なんだ?」

「ありがとう。」

握手を求め、二人の手ががっしりと合わさる。

「ああ。こんなのでよければ、いつでも任せろ。」

エギルはそう言って再び、アイテム売買の仕事へと戻った。

「リズ、アリス。お前らがいたから武器の調整や改造、管理ができた。いままで、ありがとう。」

「べ、別にいいわよそんな。」

いきなりのお礼の言葉でリズは顔が真っ赤だ。相変わらず素直じゃない。

「フフフ。リズサン顔マッカデス!」

「うっさい!」

「アウ!」

からかったアリスの頭をチョップするリズ。しかし、彼女らの顔は笑顔があった。それを見て、オキは拠点内部へと移動した。

「ん? オキさんか。」

「あら。ごきげんよう。お二人さん。」

ギルド拠点内部の入り口ホールのソファで休んでいたのはコマチとフィーアだ。

「おう。コマッチーこんなところで何やってんの。」

「これあげる。」

いきなりコマチが何かを投げてきた。というかどう見ても槍だ。

「うわっと。いきなりあぶねーなおい。」

隣で苦笑するシリカ。武器の名前を調べるとそこにはこう書かれていた。

「『聖槍、ロンゴミニアド』?」

「ラムダとかディオとかねーから安心しろ。」

「これ…最高ランクのレア武器ですよ…。」

一緒に武器を見ていたシリカが驚いていた。

「どうせだからあちこち回って拾ってきた。はやまんには唐笠仕込み。ミケにはお肉…。」

相変わらずあちこち動き回っていたようだ。

「フィーアさんも一緒? 大変だったでしょう…って今更か。」

「ええ。心配はいらないわ。コマチとの冒険は面白いから。」

ふふふと微笑むフィーア。そして知らん顔のコマチ。

「まったく、相変わらずなやつめ。フィーアさん。こんな不器用な男だけど、よろしくね。」

「ええ。まかされたわ。」

「おい。どういう意味だコラ。」

コマチがにらむがオキは知らん顔してシリカを連れて逃げた。

「まて! おい!」

逃げろや逃げろ。

「お? リーダーじゃないか。」

「こんちゃっすー。」

コマチから逃げた後、ばったりとオールド、センターに出くわした。

「お、オールドの旦那にセンターか。」

「なにやらあちこち動いていたみたいだな。」

「きいたっすよー。リンドさんとこにもいったって。」

噂が回っているようだ。ま、原因はどこかは大体察しがついた。

「まぁな。あんたらにも世話になったしな。礼だ。いままで、ありがとう。」

シリカと一緒に頭を下げる二人。オールドとセンターは短く、それでいて力強く返事を返した。

「「こちらこそ。」」

二人はリズ達の手伝いをしにいくといってその場を離れて行った。離れる際に先ほどのうわさを流している人が会議室にいると言っていたので、シリカ共々会議室を目指した。

「うッス。お二人さん。」

3本ひげの付いた顔を持つ少女がお茶を啜っていた。

「オキ君。お邪魔しているよ。」

「っよ。オキ。」

一緒に座っていたのはアインスとクラインだった。

こんなところでなにやってんのとオキが聞きながら近くに座った。

「いや、わたし達が向こうに帰った後で、どうやってスレアに近づこうと思っていてな。」

クラインが照れくさそうに頭をかいている。どうやらサラの案件で相談していたらしい。

「そこで偶然いた私も一緒にはいって星の情報をすこしでも渡していたわけサ。」

なるほどねぇと思いながら、シリカをみた。

確かにその通りだ。帰って、できるだけ早く、シリカのもとに行かなくてはならない。今は最終決戦の事も大事だが、その後の事も考えなくてはならない。

「?」

じっと見られる事が恥ずかしいのか少し顔を赤くしているシリカはオキが難しい顔をしてこちらを見ているので、不思議に思いながらオキの顔を見ていた。

「ま、なんとかなるさ。」

「っふ。オキ君らしい答えだ。」

オキの事を理解しているアインスはオキの考えていることがある程度分かっている様子だ。口では何とかなると言っているが、頭の中ではいろんな方策を考えている。アインスはそれがどういう結果になろうとも、友であり仲間である彼に全力で支援する事を心の中で思った。

「安心しロ。リーダーたちが何とかしてくれるサ。」

ケラケラと笑うアルゴ。そういえばとオキはアルゴの近くによった。

「アルゴ。あんたにはいろいろ世話になったな。本当に感謝している。アルゴがいなかったら、俺達は情報もなく、途方に暮れていただろう。ありがとう。」

真剣なまなざしでアルゴを見るオキに対し、じっと見つめられ顔を赤くするアルゴ。

「そ、そうだナ! そうだろウ! 俺っちに感謝するとイイ!」

うんとうなずきゆっくりと立ち上がるオキ。

唸るように恥ずかしがっているアルゴを見るのは可愛いと言ったら殴られた。おかしい。何か変なこと言っただろうか。

その後、会議室を後にしたオキとシリカは廊下でフィリアとハシーシュ、それとハナとヒナに出会った。

「あ、オキ。」

「あれ? 出かけたんじゃなかったの?」

オキとシリカは二人に今までの事を話した。

「そう。よかったね。」

「そうね。あ、そうだ。ミケしらない? ミケ。」

フィリアがハナとヒナを見た。どうやら双子が探しているようだ。

「今日はミケさんが見つからないのです。」

「ほんっとどこいったのかしら。」

ぷんすかと音が聞こえるくらい怒っているようだ。

「珍しいな二人が見つけきらないって。」

双子と知り合ってからというもの、ミケは彼女たちのそばから離れたことがほとんどない。

だからこそ急にいなくなった事に違和感を感じた。

「ふむ。急に…か。なるほどな。わかった。ミケに会ったら君たちがさみしがっているのではなく、心配していたと言っておこう。」

「おねがいなのです。」

「頼んだわよ。」

ハナとヒナはバタバタと廊下を走って行ってしまった。

「相変わらず騒がしい双子だな。」

「でも、そこがいいと思う。」

ハシーシュやフィリアは微笑んでいた。

「さって、ミケを探してくるか。シリカ。二人と一緒にいてくれ。ちょっといってくる。フィリア、ハシーシュ。」

「なに?」

「ん。」

「ありがとう。これからも、こんなのだけど、よろしくな。」

軽く3人の頭を撫でた。そう、シリカも一緒にだ。

「あ…。」

「ふふふ。」

「えへへ。」

自分も撫でられたことでシリカ本人にもお礼を言われたことに気づいたが、その時にはすでにオキの姿はない。

「もう。相変わらず、唐突なんですから。」

3人で笑いあった。

「さって、ミケのいそうなところは双子があらかた探しているだろうが。」

オキは42層の街のはずれ。猫のたまり場という噂の場所に来ていた。細い迷路のような道を歩き、ちょっとだけ開けた建屋の間にある小さな空き地。

ここを知っているプレイヤーは殆どいない。シリカやフィリア達ですら知らないだろう。なぜオキが知っているか。それはここにいるのがミケだからだ。

「すかー…。すかー…。」

やっぱりねてた。猫たちに囲まれ、丸くなって積まれた木材の上に布地を敷いて寝ている。

ガサ

オキの足音が周囲に響く。その音でミケがゆっくりと目を開いた。

「なんのようなのだー。ふぁーーー。ミケが昼寝しているところを邪魔するとはいい度胸なのだ。」

「俺だ。邪魔して悪かったな。双子が心配してたぞ。急にいなくなってってな。」

ミケはその言葉を聞いて少しだけ目を細めた。

「そうなのかー。わかったのだー。後で謝っておくのだー。」

「で? どうだった? 二人と離れて昼寝した感想は。」

ミケは目を閉じて、少しだけ考えた。

「んー。よくわからないのだ。」

「そうか。」

相変わらず読めない奴。だが、もしかしたら、ミケに彼女たちを想う心があったなら、寂しいと思ったのではないだろうか。

「ジー。オキからいい匂いがするのだ。よこすのだ!」

「うお!? おめーよくわかったなこの匂い! おい! こら! やめろ! あげるから!」

やっぱりよくわからん。あ、取られた。おれのフランクフルトー!

…。

近くでプレイヤーの反応にオキとミケが動いた。

「誰だ。いけ、ミケ。」

「いやなのだ。」

指示したのに断られたことによりズルっと滑るオキ。ご飯を食べるのに夢中なのだろう。仕方がないので、こちらで対応することにした。

「…。」

逃げようとしたのは多分男。肩幅や背格好からみてそうだろうとオキは予想した。

「にがさねーっぜ!」

紅き魔槍を手にとり、男の真正面に投げつけた。

「おらあああ!」

ドス!

地面に突き刺さった槍をどかそうとする男の肩をつかんだオキ。

「さーて。捕まえた。なぜにげようとしたか。おしえてもらおうか?」

「…っふ。捕まってしまったか。」

モアイの仮面をつけた男が手を上げながらゆっくりとこちらを向いた。

センター、ではない。

「お前は・・・。」

「謎のモアイ仮面とだけ言っておこう。」

どこからどう見ても100層にいるはずの男である。

「なにやってんの。旦那ぁ。」

「私はモアイ仮面だ。断じてヒースクリフではない。」

いってねーし。自分から白状したし。

はぁとため息を突いて、タバコに火をつけるオキ。

「で? 何しに来たの?」

「なに。君たちの状態を確認しようと思ってね。」

寂しいのだろうか。どことなくそんな感じを出していた。

「安心しろ。明日、上る。必ずこのゲームを終わらせてやるから。」

「そうか。楽しみだ。」

ふふふと微笑みながら遠ざかろうとする仮面男。

「おい。」

「何かね?」

「終わったら。聞きたいことがある。答え、用意しとけよ。」

「っふ。了解した。」

そう言って路地裏へと消えていった仮面の男。

「はぁ。まったく。ラスボスがこんなところで敵の心配してんじゃねーよ。」

空を見ると、赤く染まっていた。気が付けば夕方になっていた。

「やっべ、シリカ達とご飯食べるんだった。戻らねーと。」

ミケはと後ろを振り向くと既にいない。相変わらずの野良猫である。

そういって、オキは彼女たちとの夜の話に何を話すかを楽しみにしながら拠点へと戻っていった。

アインクラッド最後の夜。それは各所で大いに盛り上がったという。




みなさまごきげんよう。お待たせいたしました。
最後の夜です。次から最終決戦。1年とちょっと。ほぼ2年のながい期間でようやくここまで来ることができました。皆様の応援のおかげであります。ありがとうございます。
しかしこれはあくまでスタート地点をようやく過ぎたところ。ソードアークス・オンラインはまだまだ続きます。これからもよろしくお願いします。
では次回、最終決戦でお会いしましょう。


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第87話 「頂上に佇む狂壊の悪魔」

99層ボスエリア。すでに先日倒されている為、ボスはいない。ガランと広がったボス部屋の広間に数十名のプレイヤー達が集まっていた。

集合しているプレイヤー達は今まで数々の強敵を倒してきた猛者たち。その中でも選抜された更なる歴戦の者達。

目の前に広がるは100層への扉。今までに何度も開けてきた下層の扉と姿かたちは一緒だが、重々しく、それでいて異様な雰囲気を出している。

プレイヤー達には一日の猶予を与え、最後の決戦に挑むために一日の自由を与えた。それでも緊張感は消しきれない。

今までにない、激戦が予想された。

午前10時。予め通達していた集合時間となった。

オキがディアベルに目で合図し、お互いに頷きあった。

「ここまで…長かった。長い2年間。思えば、スタートを切った君たちに続いたのがきっかけだった。」

プレイヤー達の中で最も扉に近い場所にいるディアベルが扉を睨み付けながら語り始めた。

「1層攻略。それは絶望を感じながらの攻略開始だった。本当に攻略できるのか。この先に進むプレイヤーに任せた方がいいのではないだろうか。はっきり言って逃げたかった。命を懸けることはない。他人に任せればいい。1層で、安全な場所で、誰かが攻略し、私を助けてくれる者に託せばいい。…だが、私は進んだ。共に有志として駆けつけてくれたキバオウ君をはじめ、少人数でのPT。レベルの低い私たちは苦戦しながらも進んだ。知っている者もいるだろうが、中にはあのヒースクリフも交じっていた。1層の迷宮区入り口の村にいたのは女性に囲まれた不思議な人たち。

まさかSAOスタート開始宣言時にイレギュラーな存在である事、ゲームマスターに大立ち回りを行った本人だとは思わなかった。

最初はね。オキ君。実は疑っていたんだよ。本当にそうなのか。ただの茶番ではないのかって。だが、彼は本当にそうだった。素人の私が見てもわかる動き、戦い方、そして、その覚悟。すべてが常人ではありえない。そういう者達だった。上れば上るほどそれがわかる。

彼らには本当に助けてもらった。…だが! 我々も負けてはいられない! 彼らがどんどん進んでいく中、ハイそうですかと、指をくわえておこぼれをもらっていいのか! いいやそうじゃない! 我々も強くなれるはずだ! そう信じてここまで上ってきた! オキ君、アインス君。我々は、このまま上る。この扉を開け、頂上を目指す。本当は我らスレアの人間だけで解決すべきことだ。だが、もし君たちがいいというならば…!」

「ディアベル。」

オキが手を前にだし、ディアベルの言葉を止めた。ゆっくりと吸っていたタバコの火を消した。

「いまさら水臭いこと言うなよ。2年も一緒に闘ってきたんだ。それにな? もう後戻り出来ねぇんだよ。」

「そうだったな。そうだな。うむ。すまな・・・。」

「いや、なんというか。綺麗事のように聞こえるんだが、あのな。」

うしろをチラリと見るオキ。後ろにはアインスとハヤマがなんのことだと言わんばかりにオキの方をみた。

「ほら、うちら強者との戦いに命はるからさ。興味もあるんだ。上に何がいるか。」

それを聞いてディアベルは笑いだした。

「ははは。たしかにそのとおりだったな。いや、失礼した。」

そういって改めて皆の方を向いたディアベルは剣を上に掲げた。

「では諸君! 決戦だ! 生きて、帰るぞ!」

「「「おおおおーーー!!!」」」

 

ゴゴゴゴ

 

大きな音を立てて扉を開けたディアベルを始め、一行はゆっくりと階段を上った。

「お前ら。聞いとけ。」

「ん? どったのリーダー。」

オキの後ろに並ぶアークスメンバーにオキが上りながら言った。

「この先の敵は何がいるかわからんが、SAO仕様で来るならSAOのやり方で、もし相手が『俺たちの敵』として出てきたなら躊躇なく力を使え。いいな?」

「あーよ。」

「なのだなー。」

「いいのね? 使って。」

シンキが再度確認をしてくる。彼女の力は特殊すぎるからだ。

「ああ。だが、シンキのちからはできるだけ抑えて使用してくれ。さすがにサーバー吹っ飛んだら話にならんからな。」

「はーい。」

「そろそろ出るぞ!」

ディアベルが階段の頂上に光をみた。それぞれに緊張が走る。

「これが…頂上。」

皆が階段を登りきるとそこには一本の道とアインクラッドの頂上に建つ真紅の城が見えた。

「あそこに茅場がいるんだな。」

ボソリとキリトが呟いた。

「ああ。根源だ。」

クラインも一緒に城を睨んだ。

「行くぞ。注意しろ。何が出てくるかわからん。」

ディアベルを先頭に進み出す攻略メンバーたち。後方にいた念のための支援グループもゆっくりと後を進んだ。

「ハヤマンと隊長は左右を。こまっちーとシンキは後方を頼む。」

「了解。」

「わかった。いってくる。」

プレイヤーたちに何かがあってもいいように囲むように陣取りながら城への道を進んだ。

「何も、起きないな。」

「ああ。」

先頭を進むディアベル、キリトが城の扉までたどり着いた。続々と扉前にたどり着き、最後のひとり、コマチも列に並んだ。

「後ろは最後だ。」

「あーよ。ディアベル。」

ディアベルに合図を出し、扉を開くようにさせたオキはそれに続く。

城の中は広く大きな柱が何本も立ち、屋根を支えていた。そしておくの玉座にはひとりの男が座っていた。

白と赤の鎧の騎士、ヒースクリフ。茅場晶彦だ。

「よくぞ、よくぞここまでたどり着いた。予想以上の成果だ。それを私は称えよう。」

パチパチとゆっくりと拍手をするヒースクリフ。

「旦那、約束通りここで終わらせたらゲームセット、皆をログアウトできるようにしてもらおう。そして俺からの質問に答えてもらう。いいな?」

コクリと縦に首を振ったヒースクリフを笑顔だった。

「ああ。いいとも。それが約束だ。だが…。」

ゆっくりと立ち上がったヒースクリフは困った顔をした。

「実は、既に君たちはここのラストボスと戦っていてね。イレギュラーな存在として融合してしまったようだが、ネタがバレてしまっている。確実に君たちは攻略できるだろう。そうおもわないかね?」

「なにがいいたい。」

ディアベルが噛み付いた。

「ここで私からの提案だ。君たちが既に戦った、ネタバレしたボスと戦うか。それとも新たに私が作り出したボスと戦うか。ああもちろん攻略できない仕様にはしていない。これはゲームだ。確実に攻略できるようにしていある。だが、全てが初見だといっても過言ではない。見たこともない敵。そうもしかしたら君たちでも苦戦するかも…しれないね。」

ニヤリと笑うヒースクリフはオキ達をみた。

「ほう。それは強いのか?」

アインスもニヤリと笑う。相手から挑発を受けている。これは挑戦状だ。受けない訳にもいかない。

「もちろん。アインクラッドでも一番強いだろう。そう自負している。そのために準備したのだからな。」

面白そう。アークス達の顔からそう聞こえそうになっていた。

「ディアベル。」

「ああ。問題ない。私たちもその挑戦受けようではないか。」

「っへ。なんでも来やがれってんだ。なぁキリト!」

「ああ。攻略してやる。」

さすがはゲーマー。やる気になっている。その他のメンバーもやる気のようだ。

隣にいるシリカも楽しそうに震えている。

「オキさん! やりましょう!」

「ああ。ヒースクリフ。それを受けよう。」

「了解した。」

そう言って、ヒースクリフは立ち上がった。

「プログラム開放。認証システム、認証確認。オーダー、ファンタズマを起動。」

 

ゴゴゴゴゴ

 

ヒースクリフの体がすこしずつ浮いていく。それに対し、皆が武器を構えた。

「いつもどおりだ! 相手の動きをまず観察しろ! 必ず隙はある!」

「せや! オキはん! たのんだでぇ!」

「いくぜ…。アスナ!」

「うん! いこう!」

プレイヤーたちが散開する。そしてヒースクリフが光り、光が収まったあとに姿を現した最後のボス。

 

『戦闘モード起動…。ザ・アンガ・ファンタズマ。戦闘、開始。』

 

「いくぞぉぉぉ!」

「「「おおおお!」」」

ディアベルの掛け声とともに声を張り上げるプレイヤーたち。

「あーりゃりゃ。こっちがきちゃったか。」

「ダークファルスがいたからどこかしらにいるかもと思ったが…。まさかねぇ。本当にいるなんてねぇ。」

オキは確信した。ヒースクリフが、茅場がアークスと戦った敵の事を知っていることを。そうでなければこの姿を作ることはできないだろう。

白銀の色に所々に紫色の模様。丸い玉をコアに持ち、周囲にはおなじく丸いビットを浮かせたオキ達にとっても記憶に新しい『悪魔』のようなエネミー。

「アンガ・ファンタージ…。こいつまででてくるとはなぁ!!!」

プレイヤー達に続き、アークスたちも各々の武器を携え、ザ・アンガ・ファンタズマへと駆け出した。




みなさまごきげんよう。
始まりました第100層の決闘。
ようやくクライマックスを迎えます。
謎が一気に解消されるので、お楽しみにお待ちください。
それでは次回、アンガ戦となります。久々にアルチでも潜ろうかな…。
ではまた次回にお会い致しましょう。


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第88話 「幻壊を打ち破る最後の一振」

第100層。アインクラッドの頂上に建つ真紅の城内部。青白く輝く体に禍々しい赤の文様を浮かべた『ザ・アンガ・ファンタズマ』は体の周囲に浮いたビットをくるくると動かし悲鳴とも思える甲高い声で鳴いた。

「―――ッ!」

耳を塞ぎたくなるくらい響く音。ビリビリと外壁が揺れる中、ザ・アンガ・ファンタズマへ駆けたのはキリトだ。

「おおおお!!!」

大きく広がったアンガのスカート部へキリトの二刀流が炸裂する。

「ちぃ…硬い! アスナ!」

「任せて!」

一瞬で後方からザ・アンガ・ファンタズマへと近寄ったアスナはキリトが後退した直後に、強烈な突きを放った。

「やぁぁぁ!!!」

ユニークスキル『神速』の素早い行動からの勢いで放たれる細剣の突きはオキの『神槍』に勝らずともそれに近いパワーを持つ。神槍と違うところはアスナ自身のスピードがあまりにも速い事。

「紫電雷鳴。」

アスナの攻撃の隙間を縫って放たれた遠距離からの雷のような5連発。放ったシノンは次の攻撃に備え弓を引く。

「…ふー。」

ユニークスキル『射撃』を持つシノンの援護射撃。近距離のみのはずだったSAOにあった唯一の遠距離攻撃。

その矢はシノンが前線に加わってから多くの人を手助けしてきた。

「ふっ!」

集中した後、再び矢を放つ。その側面からアンガのビットが飛来してきた。避けるには間に合わない。矢を撃つにもすでに近づきすぎている。

「やぁぁ!」

ガキン!

ビットを切り飛ばしたのは緑色の妖精、リーファだ。

「ありがと。」

「どういたしまして。さぁじゃんじゃん撃っちゃってください! 私が守ります!」

シノンはコクリと頷き、再び矢を構えた。

「あらよっとぉ!」

白銀の槍『神槍グングニル』を振り回し、空中を飛び回るビットをたたき落としたオキ。

「いまだ!」

「攻撃しろ!」

近くにいたプレイヤー達がオキのたたき落としたビットへ攻撃を叩き込んだ。

バキン!

「よっしゃ一個目!」

結晶体となって砕け散ったビット。残る空を飛び回るアンガのビットは後3個だ。

「キリト君達が本体を抑えている間にビットを落とせ。落とせばアイツのコアが出てくるはずだ。」

同じく空中へとジャンプし、ビットへと切りかかるアインスは攻撃しながら周囲のメンバー達へと指示を出している。

ミケやシンキはすでに空中を飛び、壁を走り、空飛ぶビットをプレイヤーたちの方へと追い込んでいた。

「今や!」

号令で4つ目のビットが破壊された。

『―――――!?』

空中に浮くアンガの身体の各パーツがぼろぼろと地面におち、巨大なスカート部に隠されていた大きく真っ赤な球体、コア部が露出した。

「全力攻撃!」

ディアベルが大声で指示を出した。一番火力を出せるユニークスキル持ちである9人のメンバーが優先的に攻撃をかける。

最初の一番槍はキリトだった。

「スターバースト・・・。」

「ロスト…。」

それに続くはアスナ。

『ストリーム!』『ノヴァ!』

二人の同時によるSSが炸裂し、それを合図としてユニークスキル持ちがここぞとばかりに技を放った。

『――――ッ!!!』

一度はねたアンガはコアだけを地面すれすれに浮かせて再び倒れた。

「これは…やったのか?」

「いや、ゲージが残っている。形態変化だ。いつ何がきてもいいように、リンド構えろ。」

「おう。任せろ」

ディアベルはリンドの部隊を前線にだし、いきなり攻撃が来ないように盾を構えさせた。

以前オキ達が戦ったことのある『アンガ・ファンタージ』。姿かたちが全く一緒であり、相手の動作も全く一緒だ。

だから次の攻撃も読めていた。

『あいつは第2形態に入るこのタイミング。倒れている時は全く攻撃がはいらない。それは今回も一緒だ。起き上がった直後から攻撃が通りやすくなるのが、コイツだ。だが、なんだろう。この違和感。』

リンド達が盾を周囲に張れば攻撃がしにくくなる。チャンスを逃すことになる。だが、オキはアインス達と目で合図し、リンド達に任せることにした。念には念をいれるのも悪くない選択だ。

「動くぞ!」

様子を見ていたリンドの身体に力が入った。周囲を囲んでいるドラゴンナイツブリゲイドのメンバーも盾をしっかり構えた。

アンガのコアがゆっくりと回転し、浮き上がった直後だった。

「!?」

「っぐ!?」

「うおぉぉ!?」

回転しながらコアを光らせ5本のレーザ-を薙ぎ払ってきたのだ。さらに第1形態で破壊したはずのビットも復活している。

もし攻撃するために武器を構え、攻撃を開始していたならば、あのレーザーは攻撃した者を切り裂いていただろう。

「動きが落ち着いたぞ! 第2形態だ。様子見てから攻撃に移る!」

ディアベルが総合的な指揮を執り、まずはリンド達の盾部隊に攻撃を誘発させた。

ガン! ガン!

「くっそ! おめぇ!」

「なに…これくらい…! あの竹の子に比べれば軽いだろう! ふんばれ!」

巨大な爪のついた腕部を振り回されながらもしっかりと盾で守り抜き、隙を作るリンド。

「へへへ。…そうです…ね!」

彼のギルドメンバーもリンドの言葉に勇気づけられ、攻撃を受ければ破られるかもしれない初見攻撃をリーダーと共に受け止めていた。

「ディアベル! そろそろ行動がよめたか!?」

「ああ。盾部隊は後退! いつでも前線に出れるように周囲に待機! 攻撃部隊! 開始ィ!」

ある程度アンガの動作を観察したのちにキリト達攻撃部隊を投入した。動きの見えた相手には、最早負ける要素がなくなる。

HPバーをチラチラと確認しつつ、攻撃部隊を引かせて、盾部隊で防御し、形態変化をしないか少しでも慎重に且つ大胆に指揮をとるディアベルとリンド。

コアを回転させ、コマのように動き回っていたアンガが急に目の前から消えた。

「消えた!?」

アンガは後方、最も離れていたメンバーにヘイトを向けた。一瞬で後方援護のメンバー達の後ろに現れたのだ。

「おねぇちゃん!?」

「えっ!?」

狙われたのはハナだ。後方で回復役をしていた彼女の後ろに現れたアンガはビットを自らの周囲に集合させ、光を集めだした。

一番近いヒナでもすでに攻撃態勢に入ったアンガに間に合わない。

バシッ!

強力な光が辺りを照らし、ハナのいた場所に向かって何本ものレーザーが放たれた。

しかし放たれた場所にはハナの姿がない。

「ぼーっとしてるのは危ないのだなー。」

「…え? あれ?」

少し離れた場所にミケがハナの身体を担いで移動していたのだ。

「動き回れ! まだ奴は動いているぞ!」

レーザーを打ち終わったアンガは再び姿をくらまし、次のターゲットの後ろへとあらわれた。しかし動き回っていればその攻撃も当らないことが分かったディアベルはすぐさま後衛部隊も走り回らせた。

「よし…これでなんとか。」

『―――!!!』

攻撃をすべて避けられたアンガは再び鳴き、上下反転、逆さ向きになった。それを見たオキがアンガへと走った。

「やべ…!」

次の瞬間もともと巨大だった爪がさらに肥大化し、振り回してきた。

プレイヤー達は先の攻撃で動き回った関係で連携が取れる状態にはなっていなかった。そのため、すぐに立ちなおしができない状態だった。

振り回した爪の先にいたフィリア、ハシーシュは回避行動に移った。しかし先ほどよりも爪の長さが2倍近くまで伸びている。そのため回避が間に合うかすれすれの状態だった。

「くっそ!」

ガキン!!  ギシギシ…!

火花を散らし、爪を止めたのはオキだった。

「はやまん! こまっちー!」

名前を叫ばれた二人はオキが走り出したのと同時に走り始めていた。だが、彼らは守るために走ったのではなく、守り、動きを止めた相手に攻撃をする為に行動をしていた。

「だぁぁぁぁ!」

「無双…正拳突き!」

ハヤマの素早い4連発の剣劇とコマチの強力な一発の正拳突きがアンガのスカート部へと炸裂した。

バキン

ガラスが割れるような音を立てて、スカート部が壊れ、中にある球状の赤く光るコア部が露出した。

『――――ッ!!!』

部位破壊をされたアンガは後退しようと動き出す。だが、後ろ側から衝撃が走った。

「させねぇ!」

「動きを止めろ! 一気に決めるぞ!」

キリトとディアベルの二人に加え、更に続くようにアスナやキバオウら等がアンガへと攻撃し怯ませた。

『――――ッ!?』

「泣いても無駄よ…? エクスキューショナー・ソード!」

「叩き切る…。百花繚乱!」

かたや片手に握り巨大に光らせた曲剣を、かたや両手に握る光り輝く刀を、アンガへとクロスに振り下ろした。

ザン!!

『――――ッ』

先ほどよりも小さくなった鳴き声を一度だけ響かせ、コアごと体を地面へと落としたアンガ。その場にいたプレイヤー達は肩で息をしている。

ディアベルが0になったHPバーを何度も確認しながら、アンガの身体を交互に見た。

「…。」

そしてオキ達のほうを見た。

「ああ…お前たちが言え。あんたらが言うべきだ。」

ディアベルはゆっくりと拳を空へと伸ばしその言葉を口にした。

「皆…勝っt!」

ガン!  ドガ!

「ガハッ!?」

いきなり体を吹き飛ばされたオキは柱に激突した。

「…な…に!?」

吹き飛ばされたオキはかろうじて無事だった。HPバーも黄色に入っただけでまだ赤くない。

だが、問題は深刻だった。

『――――ッ!!!!!』

倒したはずのザ・アンガ・ファンタズマが起き上がり、更に体の形態を変化させたのだ。

「獣…。」

誰かがつぶやいた言葉。まさにその通りの姿だった。コアを体の中心に、空を飛んでいたスカート部等の鎧を小さく凝縮、4本足となり大きく口を開けた場所からは次第に巨大な咆哮が放たれた。

『…ォォォオオオオオオオオ!!!』

「見たことねーぞ! こんなの!」

「オリジナルか? それとも…。」

シリカと一緒に立ち上がらせてくれたハヤマと一緒にその変化を垣間見たオキ。

『…ッ!!!』

「避けろ!」

ディアベルが声を放ったが、間に合わず、超高速で移動したアンガ(獣)は固まっていたプレイヤー達を突進力と合わせた前足で薙ぎ払った。

「ぐぁ!」

「きゃああ!」

「っぐ…!?」

追い打ちが来る。そう思ったプレイヤー達は仲間を守るためにアンガへと攻撃を仕掛けた。

キィン!! ガン!!!

「っが!?」

「なに!?」

攻撃しようとしたプレイヤーは体を回転させたアンガに吹き飛ばされた。後続から同じく攻撃しようとしたプレイヤー達がそれを見てたじろいだ。

『グルルルル…。』

唸り声をあげたアンガ(獣)が立ち止ったプレイヤー達へと突進した。

「危ない!」

ガン!!!

「チィィィ…。」

止めたのは銀色の甲冑、同じく銀色に青のラインが入った盾で仲間を守ったリンドだ。

「ディアベル! 我々が足止めする! いそいで…なに!?」

『ゴァァァァアアア!!!』

リンドの防御力でも、アンガ(獣)のサマーソルトを防げなかった。吹き飛ばされたリンドは後衛部隊によってすぐさまポーションを使用され、なんとか助かった。

だが、前線はほぼ壊滅状態におちいり、最硬を誇るリンドでさえ止めることが出来なかった高い火力。そして大半が対応できぬ素早さ。この分では防御力も上がっている可能性がある。ディアベルはどうするか悩ませた。多くの戦力方法。立て直しからの戦線維持。そして考え付いたのは苦難の叫びだった。

「オキ! アインス!」

その声と同時にディアベルの肩をたたきながら走って行った影が二つ。アインスとオキだ。

「任せろ。」

「俺達だって関係者だ。遠慮すんな。」

ディアベルは今回の戦いであまりオキ達の名前を呼んでいない。彼の中で少なからずスレアの事件はスレアの人でと思うところがあったためだろう。そのことを察したオキやアインス達は何も言わずに頑張る仲間たちが攻撃を受けないように、できる限り彼らに華を持たせようとした。

「オキ! アインス!!」

さらに声が響いた。ストレアがなにやら悲しそうな顔をしている。震えているのかキリトとアスナが両脇についていた。

「ソレ、制御できてない…。なにか変な力が働いてる! もともとのプログラムじゃない! なにかすごく気持ち悪い…。コアを狙って! 胸の部分のコアのもっと中にある!」

そういわれたオキは走るのを止め、武器を変えた。完全に暴走している。まちがいなくオキが予測している『アレ』が暴走しているのだ。中にいるヒースクリフでさえ制御できていない。しかし幸いにもダーカー因子は感じられない。ならば『SAO』のやり方で倒す。そう考えたオキはコマチから最後に渡された槍を使用することにした。

「シリカ!」

「はい!」

素早く走ってきたシリカがオキの隣にたった。

「あれ、やるぞ。昨晩教えたとおりに。」

「わかりました。」

白銀に光る槍。『神槍グングニル』と違った少し太めの槍を二人で握りしめた。

握った直後に何かを感じたのかアンガ(獣)はオキとシリカを睨み付けすぐさま走り出そうとした。

ガン!!!

『―――ッ!?』

「だあほ。リーダーの邪魔すんじゃねーよ。」

『グアアアァァァ!!!』

「そおりゃああああ!」

コマチがアンガ(獣)の顔面を力任せに殴りつけ、アンガ(獣)を吹き飛ばし、すぐさま離れた。立ち上がったアンガ(獣)はコマチに振り向き、ソレを追った。

「ほいほい。こっちだぜっと。たのむぜ、はやまん。」

すでに構えていたハヤマの真正面へとアンガ(獣)を誘導したコマチはすれ違いざまにハヤマへと託した。

「我奥義…受けてみるか!  八艘飛び!」

ハヤマの渾身の一発。『抜刀術』の最後の大技を放った。

一瞬で放たれる八回連続の斬撃。周囲から素早く放たれる斬撃はアンガを一瞬でもひるませた。

「隊長ぉぉぉぉ!!!!」

SS後の硬直で固まりながらもハヤマは同じく構えていたアインスに託した。

「…俺の剣が真っ赤に燃える…。」

アンガ(獣)の側面部にいたアインス。両手に握り大きく振りかぶっていた刀に力強く燃える炎が纏った。巨大な炎をまとった剣は彼が力を加える時間が長ければ長いほど伸びていく。

「おお、すげぇな。…いそげ! オキ君たちがひきつけている間にこちらもできる限り回復するんだ!」

大きな炎を見たディアベルは少しでも壊滅しかけたプレイヤー達の回復を急がせた。幸いポーションや結晶は大量に持ち込んできている。

「グルルル・・・!?」

先ほどのハヤマの攻撃により怯んだアンガ(獣)はようやくアインスの構えに気づいた。きづいたアンガ(獣)はアインスの方へと駆け出した。アインスの技はまだ準備が整っていない。スピード、距離から見て間に合わないのは誰もが思った。

「どこに向かっているのかしら? 駄犬。」

いつの間にかアンガ(獣)の真正面に立っていたのがひとり。シンキだ。

「っふぅ!」

猛スピードで突き進んでくるアンガ(獣)に対しゆっくりと上に伸ばした脚を振り下ろした。

 

ガン!!!

 

『―――ッ!?』

何が起きたのか受けた獣はわからない。気が付けば地面へと這いつくばっていたのだ。

起き上がろうとするアンガ(獣)にさらにシンキの重みある一撃が顔部に襲いかかる。

「誰の許可を得て起き上がろうとしてるの?」

 

ガン!!!

 

再度振り上げられたシンキの脚によって更にアンガ(獣)は更に地面へと伏せることとなった。

「駄犬は駄犬らしく、地面に伏してなさい。」

 

ガン!!!

 

横へと蹴ったシンキ。体術を極限まで振った彼女のステータスはユニークスキル『エアハイカー』のスキルも加算され異常なまでの脚力を叩き出す。そして更に彼女の正確に弱点を打ち抜く技量は別の部分でも発揮される。

「特別に、私の脚に乗ることを許可するわ。」

上から降ってきたミケを脚に乗せ勢いをそのままにミケを前方、アンガ(獣)の方向へと蹴り飛ばした。

「エー。許可するなら断るのだー。」

不満そうな顔をするミケ。だがそれでもしっかり飛ばされるミケのことを知る彼女は微笑みながら手を振ってミケを送り出した。

『ググ…オオ…。』

強力な蹴りで浮き上がることができないアンガ(獣)の下へと潜り込んだミケはユニークスキル『フリーダム』の最後のスキル『自由なる闘争』を放った。

「キサマには高さが足りないのだー!」

ミケが思い切り持ち上げ、何倍もの大きさの巨体を軽々と上へと放り投げた。

 

ドガ!!!!

 

ダァァァン!!!

 

巨大な音を立てて、上へと放り投げられたアンガ(獣)はそのまま飛ぶことはできず、地面へと真っ逆さまにおちた。

地面へと叩きつけられたアンガ(獣)は身動きがとれなくなっていた。

「…全てを斬れと轟き叫ぶ!」

最大まで力を貯めたアインスは全てを叩き切る炎の剣をアンガ(獣)へと放った。

「『終炎(ヒートエンド)!!!』」

 

ザン!!!  ゴオオオォォォオ!!!

 

切られた後に切り口から強烈な爆炎が放たれ、コアの外装が剥がれた。

「仕上げだ。オキ君。シリカ君。頼んだ。」

満足そうに炎をまとった剣を振り、消したアインス。

皆が誘い出し、足止め、完璧な場所へと吹き飛ばしていた際にオキとシリカはその槍の準備をしていた。

「行くぞ。シリカ。」

「はい。いつでもいけます。」

『『聖槍、抜錨』』

ふたりの気持ちがひとつとなるとき、その聖槍は力を発揮する。

輝く白き光を放つその槍からは異様なまでの力を感じられた。

コマチが最後の日に手に入れた最上級クラスのレア品の『神槍』スキル持ち専用武器である『聖槍』シリーズの最上位武器『聖槍ロンゴミニアド』。

その攻撃力はただ装備するだけでは魔槍ゲイボルクよりも劣る。だが、ある条件下である技を一発だけ放つことが出来るのがこの聖槍の唯一の強み。

『『最果てより光を放て。其は空を引き裂き地を繋ぐ、嵐の錨!』』

オキとシリカの一寸たりともずれていない言葉。微塵にも違わない気持ちが聖槍へと伝わっていく。

「再生している…? 急げオキくん! 再生しているぞ!」

アインスが見たのはぶった斬り、吹き飛ばしたはずのアンガ(獣)のコア外装が徐々に再生して塞がっている姿だった。まだ動いてはいないが、あれだけの攻撃を受けたにも関わらず回復している状態だった。

しかしオキとシリカの準備もようやく整った。

 

『『最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)!!!!』』

 

その槍は二人の一寸たりとも違わない言葉と気持ちで放つ技『最果てに輝ける槍』が最大の武器だ。無限に等しい射程で一点集中の超々火力の一突きを放つという限られた条件下ではあるがSAO内最大クラスの攻撃力を放つ。だが、その条件がかなり厳しく、しかもたった一発しか放てず、放てば武器は壊れ失われる仕様だ。

まさに最後の一振りである。

 

ズン!!!

 

強力な光を持ったレーザーに等しい一突きを受けたコアはすこしずつヒビが入っていき、壊れ、光の粒子となって『ザ・アンガ・ファンタズマ』の外装が剥がれていった。

その場に残ったのはたった一人の男が倒れているだけだった。




祝ラスボス討伐!!!
みなさま、ごきげんよう。とうとう100層ボス攻略完了となります。
残るは最後にちょっとだけ、おまけをいれてSAO編完了となります。
もう少しだけお付き合いください。

さて、最近PSO2にて追加されたバトルアリーナ。
仕様上かなり不評となってますね。ただ遊ぶ分には問題ないですが、心無い者たちの溜まり場となってしまったのが悲しいところです。(チートとかラグ使用で相手を振りにする等)
おかげでせっかく楽しみにしていたのがちょっと残念でした。できればソロ対ソロがやりたかったなぁ。

ではではまた次回にお会い致しましょう。


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第90話 「崩れゆく浮遊城」

 

暴走した『ザ・アンガ・ファンタズマ』を撃破し、ヒースクリフは本来の姿に戻った。

呆然とするプレイヤー達。ため息をつきその場に座るハヤマにその肩をたたくシンキ。

ミケは玉座に座り、持ってきていた肉にかぶりついていた。

キン…シュボ

ミケの肉の食べる音以外で小さく鳴り響く音がもう一つ。オキのライターの音だ。

「…ふー。満足したか? 旦那。」

床に仰向けになって倒れ、広間の天井を見つめ続けるヒースクリフに近づきながらオキは煙を吐いた。

「ああ。」

ヒースクリフは低く、それでいて確かに返事を返した。そしてゆっくりと起き上がり、目の前にコンソールパネルを表示させ、ゆっくりと何かを操作し始めた。

「君たちには…感謝している。」

操作が終わり、再び天井へと首を上げた。

「君たちがいたからこそ、このゲームが出来上がったといっても過言ではない。」

オキはやっぱりかと呟いた。

次の瞬間、天井に大きな文字が現れた。

 

『Congratulations!』

 

「これは…。」

キリトやクラインがお互いに顔を合わせてメニュー画面を開いた。

「ログアウトが…ある!」

その言葉に周囲がざわつく。その直後に声が響いた

『おめでとうございます。アインクラッド城の全てのエリアが解放されました。ソードアート・オンライン攻略おめでとうございます。』

男性の声でどこからか鳴り響いたアナウンス。これにより一瞬息を飲んだプレイヤー達から歓声が湧き上がった。

「「「やったああああああ!!!!」」」

アインクラッドの完全クリアが完了したのだ。オキもゆっくりとメニューを開くとログアウトの欄が追加されていた。

「これで君たちはログアウトができる。おつかれさま。君たちはゲームに勝ったのだ。」

ヒースクリフはゆっくりとオキの方を向きながらそういった。

「そうか。…さて、説明してもらうぞ。最後に答え合わせだ。」

「いいだろう。すまないが、そこをどいてもらってもいいかな?」

王座を独占しているミケに申し訳なさそうに言うヒースクリフ。

「いやなのだ。」

だが、ミケは相変わらず肉を食べながら嫌と断った。ヒースクリフもこれには苦笑い。

「しかたない。…座りたまえ。」

コンソールを操作したヒースクリフはオキの元へと戻り、椅子をいくつか取り出した。

「あーよ。っとその前にっと。おーい。喜んでもらっているところすまんが、一言いいかー?」

喜びに完成を上げる者、涙を流しながら喜び合い、抱きつきあっている者もいるプレイヤー達にオキが声を上げた。

「すまんがこれから俺は旦那にいろいろ聞かなきゃならんことがある。とはいえ、みんなはすぐにログアウトしたいだろう。だから最後に挨拶だけさせてくれ。」

ディアベルやキリト達の前にたち、オキは手を出した。

「協力ありがとう。みんながいてくれたからこそ、俺たちアークスはここまで来ることができた。そして…約束は守ったぞ。」

ディアベル、キリトはお互いに顔を見合わせ、オキの手を握った。

「ああ。こちらからも感謝を。アークスに、感謝を。」

「オキさんたちがいてくれたからこそ、俺たちもクリアができた。ありがとう。本当に、ありがとう。」

頷くプレイヤー達。

「それとアークスの謎については俺も気になる。それを聞いてからでも遅くはない。私も聞いてもいいだろうか。」

ディアベルがオキに言った。オキ達が求めた答え。何故アークスが戦っている、もしくは戦った相手がこのSAOにいたのか。そしてその存在をヒースクリフ、茅場が知っているのかを知りたがっていた。それはキリトをはじめとするプレイヤー達全員がそのようだ。皆が興味を持つようにオキを見ていた。

「ったく、そこまで付き合わなくてもいいんだがな。ま、俺たちからすれば隠すこともない。いいな? だんな。」

「ああ。構わない。」

オキはヒースクリフの椅子を避けて、シリカやフィリア、ハシーシュに手招きをした。

「おいで。シリカたちもよければ。」

「はい!」

「ええ。わかったわ。」

「私も、聞く。興味があるから。」

そういって3人はオキの周りに座り込んだ。

ほかのプレイヤーたちもひとり残らずその場に座った。

「ではどこから話そう。」

ヒースクリフが語り始めた。彼がまず話し始めたのはSAOの開発が始まってすぐの頃だった。

SAOの開発に伴い、いままでにないRPGをつくる。ここまではよかった。だが、作るにつれ、ありきたりの敵、ありきたりの設定になりつつあった。惑星スレア、そのなかの一つニホン。ゲームの作成量はスレア1の量を誇っていた。そのため、物語は多く語られ、どうしてもどれかに似てしまう。ヒースクリフは納得がいく作品を作りたかった。そして彼には野望があった。

「私はVRシステムを利用してある事を行いたかった。それがファンタジーの世界の力を自由に操る。もちろん簡単ではない。システム、設定、それらに縛られない思ったものが実現する世界。それを作りたかった。」

彼が実現したかった世界。VRを利用してプログラムに縛られないシステムを考案した。だが、世界設定、物語がありきたりではそれらも在りきたりになってしまう。だから納得が行かなかった。SAOの開発は難航した。

「聞いたことがある。SAOの開発が難航していた時期が初期にあったとか。」

キリトが呟いた。

「うむ。だが、ある時を境にそれが一転し一気に開発が進んだとかいう話も私は聞いたことがある。」

ディアベルがキリトに向かって言った。何人かのプレイヤーも頷いていた。

「噂が飛んでいたのも私は知っている。そのある時というのが…君たちアークスに関係するモノだった。」

「当ててみようか。」

オキがタバコをふかしながらヒースクリフを睨みつけた。

「どうぞ。」

ヒースクリフが手を前にだし、答えを言わせた。

「ルーサー。」

ヒースクリフの口がゆっくりと曲がった。

「さすがだね。そのとおりだ。そのときは名前までは知らなかったが、後に彼の名前を知ることになった。」

ヒースクリフ、茅場晶彦の前にある男が現れたそうだ。白い全身に着た服。見たこともない美形の男性。身長は高く、なにより目を見張ったのは人間にはないながい耳だった。

その男はヒースクリフにある玉を渡しこういった。

 

『知恵が欲しいかい?』

 

オキの眉が歪む。アインスは目をつむったまま黙り込み、ハヤマやコマチはオキをみた。

「私はどんなものでも欲していた。彼が私たちのすむ世界の人間でもないことは一瞬で分かった。だから欲した。」

 

『ああ。欲しいな。』

 

その男は黙ったまま口を歪ませ、茅場に一つの玉を渡したそうだ。

「それがこれだ。本物は既に外の世界では無くなっている。私が受け取り、元々開発していたカーディナルへとインストールした時に割れ、消えてなくなってしまった。ここにある玉はあくまでグラフィックに過ぎないが、彼の渡した『知識』は全てここにある。それを具現化させたものだ。」

オキがゆっくりと煙を吐いた。

「…受け取ってもいいか?」

「ああ。どうぞ?」

ヒースクリフから受け取ったオキは眉間に皺を寄せて、空いている左手にエルデトロスの片方を具現化させた。

「それが…君たちの武器だね。」

嬉しそうにヒースクリフが微笑む。反面オキは相変わらず機嫌が悪そうな顔をしていた。

「おい、だんな。知識がこの中に入っているといったな。こいつがどれだけの代物か…分かってんだろうな? ああ?」

広間にオキの声が響いた。かなり起こっているのが誰にでもわかった。

「ああ。わかっているつもりだ。心配しなくてもこれの扱いは知識として…。」

「だあほが。知識もクソもねーよ。ど素人が。ダーカー因子。間違えればおっさんだけじゃない。みんな、スレアの星があぶなかったのに気付かなかったのか!?」

ヒースクリフはオキの目を見つめ、ゆっくりと口を開いた。

「分かっていたさ。だが、私には自信があった。それを扱う術を。」

「ったく。たしかに旦那は扱いきったさ。さっきの暴走はその反動だろうが、ダーカー因子が外に出ることはなかった。…っち。やっぱり持っていたか。」

オキがそれを放り投げ、エルデトロスを振った。

 

キキキキキン!

 

粉々に砕かれた玉は一瞬で微塵に切り刻まれた。

「ダーカー因子消滅確認。侵食されずに済んでよかったな。ったく。ほんとうに微量。微かに残り香ていどのモノでよかったぜ。どーせルーサーの力で作った代物だろうから、知識を貯めるだけのちからだろうからな。それですんだのかもしれんが…。」

納得できない顔をするオキだが、ヒースクリフの話を続けさせた。

「どうせ続きがあるんだろ? どーぞ。」

「ああ。彼から手にれた知識はとてつもないものだった。まさに私からすれば宝箱のようなものだった。アークス、オラクル船団はもちろん、過去にあった出来事、そして原初の星、彼の求めた全知の存在まで…彼の持つ知識が詰まっているかのように見えた。」

「っは。なーにが全てだ。あいつからすれば一部分だろうよ。」

オキが消えたタバコを結晶化し、再び新しいタバコに火をつけた。

「それでもいいさ。私が求めたもの。新たなる物語。それらが頭に大いに広がった。私は夢を実現できる場所がある。そのことに喜びを感じた。」

茅場はその知識をもってSAOの開発に再び取り組んだ。そして新たなる野望が生まれた。

「SAOが作られ、運営が開始され、プレイヤーが集まったところで、これは私の思いついた設定だと思われるのが関の山だろう。それでは彼らのことが伝えられない。これだけ求めた場所がある。もっと上を行くことができる。この星はまだ発展することができる。今で満足することはない。VR技術がなんだ。ヘッドギアを使い、寝転がってようやく仮想世界に行くことができる? それではダメだ。もっと上の技術がある。システムがある。世界は広がる。だから私はそれをより現実味のある世界に、この知識を伝えるために、このゲームを開始した。」

SAO事件の動機。それが、アークスの存在と宇宙の知識。それを茅場はカーディナルのブラックボックスへと詰め込んだ。

「それがさっき君が破壊したモノだ。カーディナルの全てだといってもいい。」

「野望は消されたぜ。なんでそんなに嬉しそうなんだよ。」

ヒースクリフは微笑んだままだ。彼の全てを賭けたモノをオキは壊した。スレアに残るものは何一つ残っていない。

「まさか、まだ残ってるんじゃ…!」

「いや、あれが全てだ。なぜ嬉しいのか? 当たり前じゃないか。私が求めたモノが目の前にいるのだから。」

オキは一瞬なんのことかを理解できなかったが、すぐにソレがなんなのかを認識した。

「俺たちが加入したからか…。」

「そのとおり。まさか君たちがほんとうにアークスだとは思ってもいなかった。だが、それはログインの状況、君たちの行動と言動。全てが知識から得たモノと一致した。私はすごく嬉しかった。きみたちから こちらに来てくれるとは。君たちのことは全て記録され、今ではアーガスはなくなってしまったが、レクトに運営が移り、外では君たちの言葉、動き全てが記録されているだろう。アークスの存在がスレア中に知れ渡るのも時間の問題だろう。そうじゃないのかね?」

オキは黙った。たしかにアークスシップの一隻がスレアの衛生軌道上で姿を隠しているとシャオから聞いている。ルーサーが関わった形跡も確認した。これはスレアに干渉しなければならない事項である。

「ダークファルスのひとり、【敗者】との接触をしたんだ。その時点でアークスがこの星に干渉するのは確定していた事になる。俺たちはルーサーの作った装置によってこのSAOに強制ログインしてしまったのも、ルーサーのその玉っころのせいだと今理解した。」

オキの頭の中で全てが繋がった。ルーサーはSAO事件の事を調べていた。スレアをモデルにしたのが偶然だったとしてもSAOの事柄が自分が干渉している事に気づき、実際に手を下したのだ。そしてそれがどう変わっていくのかを調べようとした。彼の興味を引いた時点でこの事件が起きるのは確定していたということになる。

「っち、死んだ今でもての上で転がすか。ルーサーめ。」

悪態を取りながらもオキはまとめを頭の中で行い、ヒースクリフに認識があっているかを確認した。

萱場はSAOを利用し、プレイヤー達に命を賭けさせ、極限状態に追い込み、思念の具現化を目指した。だが、ルーサーの出現と知識を得たためにそれをする必要がなくなった。なぜなら、彼が求めたモノはそこにあったからだ。

萱場が次に行ったのはSAOで事件を起こし、世間の目を向けさせ、オキらアークスの存在を見せる為だった。

「まとめるとこんなかんじか?」

「ああ。間違ってはいない。」

「っち。ったく。いくら話をしたところで現実性がないと言われるのがオチだからって1万人の他人を巻き込むんじゃねーよ。」

舌打ちしながらオキはヒースクリフを睨み付けた。

「言い訳はしない。私の夢はかなった。それだけで満足だ。」

ヒースクリフは満足そうな顔で立ち上がった。

「さて、私からの答えは以上だ。最後にオキ君。君に見せたいものがある。できれば付き合ってほしい。待っているよ。」

ヒースクリフはコンソールを操作し、テレポーターをその場に転送した。

そして、彼はそのままその先へと行ってしまった。

「ったく。いくらファンタジーの世界を夢見ていたとはいえ、ここまでやるかふつー…。さって…。」

ぶつくさと文句を言いながらオキはプレイヤー達の方を向いた。

「俺は最後にあの男のもとに向かう。答えもわかった。これ以上付き合う必要もないだろう。」

ゴゴゴゴ…

地面が大きく揺れた。広間の窓から見える外をみると、城の一部が崩れ落ちている。

「アインクラッドの最後だ。もうここにいる必要もない。お前たちは自由だ。外の世界に戻るといい。」

「オキさん…。」

シリカが心配そうにこちらを見てくる。軽く頭を撫でたオキはニコリとほほ笑んだ。

「そんな心配そうな顔をするな。大丈夫だ。安心しろ。ディアベル、キリト、みんな。お疲れ様。」

「ああ。さっきも言ったが、ありがとう。私含め、皆から、感謝を、礼をいう。」

ディアベルがオキをはじめ、アークス勢全員を見渡した。

「オキさん。いままでありがとう。」

「本当にありがとうございます。」

キリトとアスナも何度目かわからない礼を言ってきた。

「ゆいちゃんのところか?」

キリトがそわそわとしていたのをオキは見ていた。彼と彼女の大事な娘を残してログアウトする気はないのだろう。

「ああ。一度、下に戻ってユイにあってくる。しばらく、会えなくなるから…。」

「パパー! ママー!」

その時、入り口から大きな声が聞こえ、その声の主が走ってキリト達の元へとやってきた。

「ユイ!?」

「ゆいちゃん!!」

抱き合う3人。

「あー。ずるいー! わたしもー!」

ストレアも交え、家族がそろった。

「ぱぱ、ママ。攻略おめでとうございます! アインクラッドのすべてが解放され、エネミーもいなくなっていました。ログアウトの制限が解除されたので、ここまできました。」

「そうか…。ユイ。ぱぱとママはしばらく会えなくなる。だけど、いい子にして待っていられるな?」

「はい! ストレアと一緒に待っています!」

「うん。お父さん、お母さんとまた会えるって信じてるから。」

4人が涙を流しながら抱き合う。

「うぉぉぉ…ワイ、ワイ…こういうの苦手なんやぁぁぁ…感動やぁぁぁ。」

キバオウもあまりの感動で涙を流している。少しうるさい。

キリト、アスナ達は手を振りながらゆっくりと消えて行った。

「お兄ちゃんも帰ったことだし、私もかえろっかな。」

キリトのログアウトを見届けたリーファはシンキの近くへと駆け寄った。

「シンキさん! 今までお世話になりました!」

「ううん。構わないわ。とても、楽しかったわ。」

リーファを抱きしめるシンキ。リーファは恥ずかしそうだ。

「わぷ…! も、もー。みんな見てますし…!」

「ふふふ。シノンちゃんも、お疲れ様。」

シンキはシノンにも手招きをした。だが、シノンは恥ずかしがって首を横に振る。

「もー。遠慮しない! えい!」

「っちょ! シンキさん! …もう。」

諦めたのかシノンはおとなしくなる。シンキはそれを見て二人の頭を撫でた。

「うんうん。二人とも泣かないの。別に会えなくなるわけじゃないでしょう?」

二人の目には涙がたまっていた。

「いい子いい子。ほら、いきなさい。私まで涙が出てきちゃいそうだから。」

ニコリとほほ笑むシンキは彼女たちを離した。

「シンキさん。いつか…いつかスレアに!」

「ありがとう。また…。」

そういいながら二人は消えて行った。

「ええ。また、会いましょう。」

「ハヤマ殿…。えぐ…えぐ…。」

シャルは大号泣していた。ツキミも軽く目を赤くしている。

「そんなに泣くことかよ。どーせうちのリーダーがそっちに無理やりにでも行くんだから、その時に会いに行くよ。だから泣くなよ。」

ハヤマが彼女の背中をさすった。少しは落ち着いたのか、ゆっくりとハヤマに近づいた。

「おっと…。」

「すまぬ。少しだけこうしていてくれ。」

ハヤマの腰に手を回し、胸に顔を押し付けるシャル。恥ずかしそうにしていたハヤマだったが、ため息をついて彼女と、付き人の頭を軽く撫でてやった。

「お別れ…じゃないのよね?」

「あ? 多分な。」

フィーアはコマチの隣に座りこみ、お礼を言っていた。ぶっきらぼうに答えるコマチの態度はいつも通りだ。

「また、会えるかしら。」

「多分な。どーせうちのリーダーが動くさ。その時に嫌でも巻き込まれるさ。」

タバコの煙を天井に吐くコマチ。フィーアはそうと一言だけ言って、立ち上がり、コマチへと手を差し伸べた。

「いつか、あなたを招待するわ。私の国へ。」

「ふん。めんどくさいのは嫌いだからな。」

「ええ。」

ニコリとほほ笑むフィーアの手を握ったコマチは立ち上がり彼女の肩をポンと軽くたたいた。

「じゃあ、リーダー。俺は先に行ってるぜ。」

「皆、ありがとう。本当に、感謝するわ…!」

そういってコマチとフィーアはお互いに手をたたきあい、消えて行った。

「みけ…。」

「お別れなのです。」

玉座では悲しそうな顔をしている双子の少女が…。

「お別れじゃないのだー。みんな一緒なのだー!」

ミケを囲んで捕まえようとしていた。

「ヒナ!」

「なのです!」

「にゃにゃにゃ!」

ヒナが玉座へと手を伸ばし、ミケはそれを回避。空中へとジャンプした。

「それ!」

その瞬間にその場所に飛ぶであろうと予測していたハナがミケへとロープを投げた。

「とった!」

感触を得たハナは一気にロープを手繰り寄せた。しかし…。

「残像なのだな。」

「また逃げられたー!」

「くやしいのです。」

残念ながら捕まえたと思ったのはミケの残像。最後の最後まで彼女らはミケを捕まえる事が出来なかった。

「あーもう! 必ず、必ず捕まえて見せるんだから!」

「覚悟するのです! 今度こそ! 絶対に!」

そういいながら笑顔で光の粒子とんまって消えていく双子姉妹。笑顔でミケとお別れ。

「次も…逃げ切るのだ。」

ニヤリと三日月状に口をゆがませるミケも天井を見ながら消えて行った。

アインスは怪物兵団のメンバー達と一時期の別れの挨拶をしていた。

「隊長。今までお世話になりました。」

ソウジがチームを代表して挨拶している。

「ああ。こちらこそ。いろいろ勉強になった。」

広報では女性陣が泣いて別れを惜しんでいる。

「ははは。泣くな。これで出会えないわけではないとキリト君達にもいったばかりだろう。」

「そうですけどー!」

「やっぱり寂しくなります。」

相変わらずの人気度である。

手を振りながらログアウトしていくメンバー達。残ったのはシリカ達と一部アークスメンバー達だけだった。

「じゃあ私もいくわね。」

シンキがゆっくりと広間を見渡しながらシリカの方へと近づいてきた。

「オキちゃん達と会えなくなるけど。心配しないで。また、会えるから、ね?」

「はい…。いろいろありがとうございました。」

ふふっと微笑んだシンキはニヤリと笑いオキの方を向いた。

「再開したあと、ヤったら話し聞かせてね?」

「うっせ!」

つい手を出したオキだったが、シンキはゆっくりと消えていった。

「っち逃げたか。」

「オキさん。」

「オキ君。」

残っているのはハヤマとアインスだ。

二人もログアウトするらしい。

「名残惜しいけど、この冒険も終わりだね。」

「そうだな。隊長とも戦えて自分の力を再認識できたし。」

「ああ。向こうでもできるように、言ってみるかな。」

楽しかった思い出を思い返す3人。そして二人はゆっくりと消えていった。

「さって、向こうに行きますかね。」

「はい。」

「じゃ、私も帰ろっかな。」

「私も。」

フィリアとハシーシュがふたりが転送門に向かおうとしたところで立ち止まった。

「ん? 聞いていかないのか?」

「うん。ここはシリカちゃんだけでいいよ。」

「私たちは…あとで聞くから。二人だけで。最後くらい。」

どうやら二人きりにしてくれるようだ。まぁヒースクリフもいるのだが、最後くらい二人でいろということだろうか。

「フィリアさん。ハシーシュさん。お世話になりました。」

ペコリと涙を流しながらお辞儀をするシリカは頑張って笑顔で別れようとしていた。

「泣かないでよ。私まで…涙、出ちゃうじゃない。」

「うん。楽しかった。」

3人で抱き合う。オキはフィリアとハシーシュの頭を撫でてあげた。

「ありがとう。こんな優柔不断な俺と一緒にいてくれて。」

「ううん。大丈夫。みんなで話したんだもん。オキが誰を選んでも、選ばなくても皆を選んでも。」

「私たちは…オキが、大好き。」

フィリアとハシーシュはオキの頬にキスをした。

「アークスは男女比が女性が圧倒的に多い。だから一夫多妻が可能。」

「だから私たちは、オキが嫌いにならない限り、ずっと想ってるよ。」

フィリアとハシーシュは手を振りながら、笑顔でログアウトした。

「みんな優しいなぁ。」

「ふふふ。…いきましょう。オキさん。」

「ああ。」

オキとシリカはヒースクリフの向かった先へと飛んだ。

飛ぶ瞬間、ある一点が気になったオキはその一点。玉座の隣に光るなにかを見ながら転送した。

 

「ここは?」

「わっ! わっ!!」

足元は空。オキとシリカは空中に浮いていた。

「別れはすんだかい?」

ヒースクリフの声をした一人の男性がオキの目の前に現れた。

「あんたが…茅場か。」

「そうだ。あそこを、見せたくてね。」

指を指した方向にすこしずつ崩れていく浮遊城の姿があった。

「君たちが、2年かけて攻略した場所だ。ゆっくり見ていくといい。」

「…あんたは、これからどうするつもりだ?」

光の粒子となってすこしずつ消えていっている茅場にオキが聞いた。

「私は…まいた種が成長することを、祈っているよ。」

「種?」

彼の言葉から新しい単語が出てきた。種とは一体何なのか。それを機構としたが、既に茅場はいなくなっていた。

「おい! 茅場! どこにいった! 種ってなんだ! おい!」

しかし茅場はそれ以降現れることはなかった。

だが最後に一言だけ、オキの耳に聞こえた。

「君たちに会えたことに感謝を。」

オキはそれを聞いて崩れゆく浮遊城を睨みつけた。

「ったく。最後の最後に変なことをいって消えやがって。」

オキはシリカと向き合った。

「さて、しばらくお別れだ。」

「…はい。」

シリカの目に涙が溜まっている。しかしそれをこぼさないように頑張っている表情も見える。

「泣くな。笑え。そして俺が来るまで待っていろ。必ず向かう。」

「待ってます。ずっと…ずっと!」

オキとシリカは抱き合い、そしてシリカは消えていった。

「…あーあ。終わっちまったか。そういやさっき…。」

 

コツ…コツ…

 

後ろから人の気配がする。オキはカヤバが戻ってきたものかと思い振り向いた。

「てめぇ…どこに…。お前は…!?」

オキとの因縁がある男。ここにいるはずない。いや、いてもおかしくないと思った。

「…ったく。そんな顔して出てきやがって。幽霊かと思ったぜ。」

男はゆっくりと微笑みながらオキへと言葉を放った。

「やぁ…久しぶりだね。アークス。」

「ルーサー…。」

フォトナーの最後にして、ダークファルスとしてオキ達の前に立ちはだかり、オラクル船団を乗っ取り壊滅寸前まで追い詰めた男。そしてオキ達が全力をかけて倒した男。ルーサーがその場に現れた。




みなさまごきげんよう。
最後の種明かしといきましょう。
茅場の思惑、原作では幼少時から夢見ていた「異世界」へと旅立つことを狂的に渇望しており、元々VR技術もそのために生み出されたものだった。
しかし、今作ではその異世界に近しい存在、アークス達の世界を知って彼は夢をアークス達の世界を世間に知らせ、スレアにアークスを招く、もしくは探し出す事を認知させようとした結果、このSAOでの事件を開始した。
そしてその原因を作ったのが、ルーサーだった。
さて、そのルーサーがどう動いたか。次回に続きます。
それでは次回、またお会い致しましょう。


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第91話 「藍色の剣士」

遠くに見える崩れゆくアインクラッドを見ながらオキは後ろにいる気配を感じ取った。

「やぁ、久しぶりだね。いや、【僕】としては初めましてかな?」

オキが声の主の方を向く。声、その姿、容姿は因縁でもあり自らの手で倒したはずだった『ダークファルス【敗者】』、ルーサーそのものだった。

「ルーサー…なぜここにいる。お前は死んだはずだ。」

間違いなくあの時に倒した。いや、正確には力を奪い、六坊均衡の一、レギアスにぶった切られ真っ二つとなった。そんな死んだはずの男が目の前に立っている。

「あぁ。僕の本体は負けたんだね。どおりで君がこの時間、この場所にいるわけだ。ふむ。となると…。あぁそういう事か。僕の研究設備を使ったね? なるほど。それなら説明がつく。」

ルーサーは一人でぶつぶつ言いながらオキの横に立った。アインクラッドを見ているようだ。

彼は、『彼』ではないらしい。

「残留思念、とでも思ってくれればいい。」

オキの考えたことがわかっているとでも言いたげな顔だ。オキは最後の2本となったタバコの1本に火を付けた。

「お前…。もうシオンはいないぞ。」

「わかってるさ。君がここにいるという事は僕の目的は達成できなかったという事。つまり、シオンと融合できなかったという事だろう? 僕だってばかじゃない。それくらいわかるさ。」

それくらいの予想はしていたか。オキはボソリとつぶやきながら煙を吐いた。

「なるほど。で? なぜここにルーサー、お前がいる。」

「説明すると長くなるんだけどね。簡単に、君の頭にわかりやすく言うならば、僕は茅場、そして須郷にコンタクトを取って僕のごく少数の因子と、茅場には僕が持つ知識の一部を与えたんだ。まぁ、須郷はいいとしても、茅場の方はそれを利用してこのアインクラッドの中身を造ったみたいだけどね。」

決戦後、茅場が言っていた事は本当のようだ。

「だが、なぜおまえがこの惑星を…。」

「何故? こんな小さな惑星、僕は興味がなかった。でも、この世界は別だ。宇宙のように広く、無限に広がる世界。僕はそれに目を付けた。僕の演算に間違いはない。だが、それを確認するには答えが出ないと間違いかどうかも分からない。僕も科学者だ。A=Bが1=1だという方式を答えを解くには確実な結果が無いと100%だと言いきれなかった。だから僕はもし万が一、シオンが融合した際に僕を拒んだ時どうするか。考えた。考えたくなかったけどね。」

ルーサーにとってそれは自分の間違いを認める事。プライドが許さなかっただろう。だが、彼もまた科学者だった。ある結論に至った。

「仮説は無限に立つ。完璧な演算をするには完璧な仮説と方式が必要だ。そのなかに『シオンと僕が死んだ場合』も入れなければならない。僕は全知になる存在だ。だからこそ、死ぬわけにはいかない。だったら僕が世界になればいい。」

「なるほどようやく理解できたぜ。その時に調べていたこの世界になる事で全知になろうとしたな?」

「その通りだよ。この世界は完璧だ。僕が求めるモノ、求めたモノ、全てがあった。僕をベースに彼が作ったのが僕、カーディナルだ。」

そして彼は全知となった。

「だけど全知になった際、僕は思った。なんて退屈なんだろうと。」

「退屈? お前が? 大丈夫か?」

今迄のルーサーならそんなことは言わないだろう。あのルーサーなら。

「僕を見くびってもらっては困るよ。本体がどのような結果になったであろうとも、僕は僕だ。本体である僕が考える答えと、今ここにいる僕がどう考えるか、それはこの僕、ルーサーだけが許せることだ。間違った答えだよそれは。」

ほほ笑むルーサー。オキはかつて、研究に勤しみ難題を解いていた若きルーサーはこのような男だったのかと感じた。

「なんだか不思議だな。命すらやばかった。殺されかけたよ。あんた、いやあんたの本体にね。」

「でもそれは僕じゃない。本体である僕だ。それに本体は負けたんだろ? 名前の通り敗者となって。」

オキはアークスシップ乗っ取りの時に【敗者】に殺されかけた。しかし、仲間の手助けや自分のかけがえのない大切な物を守る為に全力を出し切り、倒した。

もちろん、シオンのおかげでもあるのだが。

「僕は僕であり、あの僕は僕じゃない。いいね?」

オキがルーサーを見ると、体が光となってうっすら消えかかっていた。

「お、おい!」

「僕は望み通り全知となった。だけど僕の演算は間違っていたようだ。全知になった僕は科学者として死ぬ事と同じ、考えることをやめてしまった。それは僕の求めた解ではない。だから僕は、カーディナルはここでお別れだ。君というイレギュラーな存在が僕の法則をことごとく崩してくれたおかげでね。」

「当たり前だ。てめーが全知になるのは勝手だが、犠牲がつきものなんて許せるか。だったら犠牲の無い全知になりやがれ。」

「ふふ…ははは。面白いこと言うね。やっぱり君とは相いれない存在のようだ。」

次第に消えていくルーサー。それでも彼は微笑んでいた。

「あぁ…シオン。一緒に、なりたかった…。」

ルーサーが粒子となって消えた場所に一人残されたオキは消えゆく粒子を見ながらボソリとつぶやいた。

「っち…。満足そうな顔して消えやがって。」

オキはルーサーの事を知らなかった。知っているのはアークスの敵としての彼の姿。科学者としての彼の姿を一瞬でも見れたオキは心なしか嬉しそうだった。

アインクラッドが崩れ行く中、名残惜しいアインクラッドの玉座をもう一度見てからログアウトをしようと玉座の方へオキは戻ってきた。

「たーしーかー。ここにあったよな?」

なにか異様に気になる場所があった。そこを調べなければならない。そんな使命感があった。自分でも分からない。とにかくそこに行かなければと、気がつけばその場へと歩き出していた。

「何だろう…。」

そこには光り輝くまぶしい物体が浮いていた。それを触ろうとすると。

「うぉ!?」

体が急に吸い込まれ、75層のボス部屋で体験した別エリアへの強制移動の感覚を再び味わった。

「…ここは?」

気がつくと周りには何もない真っ白な場所に立たされていた。まるでドームのような場所。円状の空間だというのが分かった。

「ねぇねぇ、こんなところでなにしてるの?」

後ろから女性の声が聞こえてきた。幼い感じの声。その声の持ち主の方向を向くと、藍色の長いストレートの髪。幼さの残る顔立ち。すらっとした体に同じく藍色を主体とした軽装防具。身長はシリカより若干上か。

腰に下げるは片手剣。そして彼女を見た瞬間に感じた。

『強い…。この子、いままで出会った中でもアークス並に強い。ハヤマん…いや、隊長クラスか!?』

「どうかした?」

じっと見つめていたオキに疑問を抱いた彼女は首をかしげていた。

「すまん。見知らぬ女性を見つめてしまうのは失礼だったな。いや、知人と似た感じたモノがあったからね。」

「ふーん…。それって強さ?」

「!?」

「やっぱりー! 僕も感じたんだー。君の強さ。とっても強いでしょ。」

この子、一体何者だ? これほどの子はSAOにいなかった。いればすぐに分かる。オキは2年という歳月の中でSAO内で出会ったもしくは話を聞いたプレイヤーを思い返す。少なくとも強いと言われたプレイヤー達はソロ、チームの違いはあれど、大半がオキ達の攻略組の傘下に入っていた。だが、この子は知らない。

「俺の名前はオキ。アークスの、オキ。君は?」

「あ、ごめんねー。名前言ってなかったね。僕の名前はユウキ。チームはスリーピングナイツ所属だよ。気がついたらここにいて、オキを見つけたんだ。」

彼女もここに飛ばされた感じらしい。スリーピングナイツ。チームの名前らしいが、やはり聞いたことがない。

「ユウキか。ユウキはSAOのどのあたりで過ごしていたんだ? 少なくとも最前線にはいなかったろ。」

「SAO? なんのこと?」

全く知らないそぶりを見せる。首もかしげ、一体何を言っているのだろうと思っているみたいだ。SAOを知らない?

プレイヤーじゃないのか。NPCでもない。カーソルは緑だ。それにNPCからはこんな強さを感じたりはしなかった。

どう考えても人だ。オキの頭の中は混乱する一方だ。

「じゃ、じゃあユウキはどこからか飛ばされてきたって事か?」

「んー。僕はALOにいて…。ううーん。モンスターを狩っていたはずなんだけど。」

ALO。リーファが言っていたSAOの後に作られた新しいVRMMOの名前。彼女もリーファやシノンと同じ類のようだ。偶然にも飛ばされてきた被害者。

『外にはもっと強いのがいるのか。』

オキはゾクゾクっと背筋を震わせ、気が付かないうちに口元をゆがませていた。

「笑ってるの?」

「おっと。すまん。つい口が…。ユウキ、強いんだろ。」

そういうとニコっと笑った。

「わかるー? 自慢じゃないけど、これでも結構やるって評判だよー。…オキも強いでしょ?」

「まぁな。そこそこには。」

口元を歪ませて笑う。ユウキもそれをきいて嬉しそうだ。

「ねぇ。せっかくだし、ここで戦ってみたいな。オキを見てると戦いたいって気持ちがすごく出てくるんだ。こんなの初めて! もしかしたらもう二度と会えないかもしれないし。」

どうやらユウキも俺や隊長らと同じ類らしい。無邪気に笑う彼女。

「いいぜ。せっかくだしな。」

武器を取り出せるだろうか。ためしにメニューを開いてみた。

そこには今ま使ってきた武器の数々が残っていた。最後の戦いで使用したロンゴミニアドだけは使用時に壊れてしまったのでなくなっている。

「いけるな。武器もある。よし。はじめようか。」

「いいよー。」

「あ、念のため半減モードでいいか? ちょっと厄介なものが絡んでるんでね。」

もう『アイツ』はいない。たぶん大丈夫だろうと思うが、万が一も考えれる。ここで彼女を『殺したくない』。

「んー…別に良いけど。それじゃあ最初から本気で行かないとねー。」

彼女は片手剣を出し、手に握る。クルクルと剣を回転させて準備運動のように振り回すその姿から感じる『強敵と出会ったとき』と同じ感覚。

「槍かー。へへへ。楽しめそう。」

「メインはこれじゃないけどな。ここで使えるか、分からないし。」

そういうと彼女は構えをといた。どうしたのだろうか。

「えー。本気のオキを見てみたいなー。ねぇねぇ。出せそうなら出しても良いよ。」

マジでいってんのかよ。しらないぞもう。しかし、オキも心の中では相棒で戦ってみたいと思った。本気の自分で彼女とぶつかってみたい。そう思っている。

「…わかった。」

そういって集中し、フォトンを自分の中に吸収する。幸いフォトンを感じることが出来た。あとは相棒が答えてくれれば具現化するはずだ。

『フォトンを感じる。いけるか!?』

「こい! 『エルデトロス』!」

ゴォォォォ!

稲妻の閃光と風を纏い現れるワイヤードランス。白銀の翼に碧の結晶。鋭く尖った先端の刃。オキの相棒、『エルデトロス』が目の前に現れた。

「おおおお!」

両手に装着される相棒『エルデトロス』。ユウキはそれをみて目を輝かせて嬉しがってる。

「ねぇねぇ! すごいね! それ! 僕感激しちゃった! そんな武器もあるんだね!」

「ありがとよ相棒。答えてくれて…。 さぁコイツをだしちまったら後には引けんぞ。やめるなら、今のうちだぜ。」

力を貯め、更に纏った風が強くなる。その姿をみて身震いをしたユウキ。

「ううん。余計に戦いたくなっちゃった。僕は…いけるよ。」

ほんわかとした笑顔が急に戦士としての笑顔に変わる。それをみてオキはゾクリと冷や汗をかいた。

こいつ、本当に俺らと似ているな。これは本当に本気で戦ってあげないと失礼だ。

「どうなっても知らんぞ。…アークス、オキ。」

構えたオキに続き、彼女もオキのセリフに続く。

「スリーピングナイツ、ユウキ。」

ひと時の間。カウントダウンが0になる。

「「だあああああ!」」

素早く前に飛び出し、ユウキへとエルデトロスを伸ばして振り下ろす。

「えい!」

ガキィン!

それを彼女は器用にはじき飛ばし、こちらへと素早い走りで懐へともぐりこんできた。

「はやい…だが!」

「おっと!」

体を回転させて、もう片方をユウキへと飛ばした。

「せい!」

それも防がれたがユウキは距離をとった。はじめに伸ばしたほうが帰ってきた直後にもう一度ユウキへと振る。

更にもうひとつもクロスするように。左右からの挟み撃ちだ。

「とっとと…。」

それを伏せで回避され、隙が出来たオキのほうへと走りこんでくる。

「させん!」

素早く戻し、振り下ろされたユウキの剣をクロスした状態で受け止めた。

ギギギ…

エルデトロスとユウキの剣から火花が散る。直後、両方同時に押し返した。

「うわっと…。」

「あぶな…。やるじゃねぇか。」

距離をとられた彼女へ向きなおした。ユウキも素早く体勢を立て直したらしい。

「すごいすごい! 面白い武器だね! 伸びる…鎌? 剣? そんなの見たことないや! えへへ、楽しいなー。」

本当に戦いが好きなんだな。だが、オキも同じ。この子…いやユウキは強い。

「ははは。こりゃ困ったチャンだ。次はどうかな!」

再びユウキへと走り、彼女もこちらへと向かってくる。

ガキィン!

キィィン!

硬い金属同士のぶつかり合う音が鳴り響く。すれ違い様に双方狙って自分の獲物を振りぬいた。

「まだまだー!」

再びユウキが近づいてくる。懐へと潜ろうと姿勢を低くしていた。

「ワイルドラウンド!」

「!?」

素早く両方を前後に振り、まるで本数が増えて、多数同時の攻撃が出ている様に錯覚するほどのスピードでエルデトロスの壁がユウキを襲う。

「あぶな!」

彼女は空中高くへと飛び上がった。瞬発力が高くないと出来ない行為だ。

「でーやー!」

そのままユウキは剣を振り下ろしてきた。

「ちぃ!」

オキは両腕のワイヤーをある程度伸ばし、振り下ろされるユウキの剣をユウキごとはじいた。

「おっと!?」

「まだまだよ!」

オキはそのままエルデトロスを槍を扱うように振り回し、回転力をそのままユウキへとぶつけた。

「おらおらおら!」

ギンギンギン!

「…っ!」

先ほどまで笑顔だった顔に、苦しみの色が見え始めた。

「でやぁぁ!」

ユウキも余裕が無くなってきたようだが、それにつれオキも余裕が無くなる。

『やはり強い。具現化し、SAOに合わせているとはいえここまでエルデトロスを持ったアークスである俺についてくるとは。』

プレイヤー最強であったキリトですらついてくることはできないだろう。それをこの子はやってのけている。

「ふふ…はははは!」

「へへ…。」

オキの笑い声に嬉しさを感じたのかユウキも笑いながら剣を振り続けた。

ガキン!

お互いに刃をぶつけ合い、距離を取った。数十分は切りあっただろうか。

「なかなか…やるじゃねぇか。」

「えへへ…。たーのしいなー。」

お互いに肩で息をしている。HPはそろそろ半分を斬るところだ。次の切りあいで決まるだろう。

「これなら…使ってもいいかな?」

ボソリとユウキがつぶやいた。なにかいたずらを思いついた子供のような顔をしている。

『仕掛けてくるか。』

オキはその顔が何かをしかけてくる前兆だと感じた。

下手をすると打ち負けてしまう可能性もある。そんな気がした。

オキは相手の出方次第では打ち負ける事すらも想定にいれ、3手以上先をイメージする。

「これで終わりだね。」

「ああ。短い時間だったが、楽しかった。」

「うん!」

愛くるしい笑顔のユウキにオキが微笑む。どこかで見たような感じ。以前も同じような体験をしたような。そんなデジャブを感じた。

「どうかした?」

「いや…なんでもない。さぁしめるか!」

「いくよ!」

ユウキが走ってくる。タイミングを見計らって攻撃を仕掛けてくるつもりだろう。一度真正面から打ち合い、二三度側面へと回りこもうとお互いに走り回る。

「はぁぁ!」

「おおお!」

二人はお互いに距離を置いた状態から、同時に距離を詰めた。

ユウキのソードが一瞬で光り輝く。ソードエフェクト、つまりSSを放つつもりだ。

「『マザーズロザリオ!』」

「----っ!?」

ユウキの剣が一瞬でオキの視界から消える。

ギギギギギギギギギギギン!

「…っな!?」

11連撃。ユウキは自分のもっている全てをオキへと放った。彼女の『OSS(オリジナルソードスキル)』である『マザーズロザリオ』。

瞬速の剣戟、しかも11連撃の大技。ユウキは自信があった。今までにこの技を見切り、防ぎ切ったものはいない。

だからこそ、彼女はALO、アルヴヘイムオンライン内で『藍色の剣士』と呼ばれ、評価されている。

しかし目の前の男は、不思議な武器を持つ、不思議な感じのする男はそれを防ぎ切った。しかもまだその刃を振ろうとしている。

「『X(クロス)…』」

オキは11連撃を防いだ。ギリギリだった。アークスの瞬発力があったとはいえ、1年以上キリトやアスナ達と模擬戦を行い、対スピード戦に慣れていたとはいえ、彼女のソレはあまりにも速かった。瞬間的なモノならばアインスのスピードすらも超しているかもしれない。

そう思いながらオキは腕をクロスさせ、ワイヤーを伸ばし、ユウキへと迫った。

「『カリバァァァァァ!!』」

一気にワイヤーを引っ張り、クロス状にユウキを斬った。

ドサ

ユウキがその場に倒れる。オキは振り向きすぐさまユウキへと走り寄った。

「おい! 大丈夫か!?」

「いつつ…いやぁ~すごかったぁ。こんなの初めて! まさか僕が負けちゃうなんて。」

負けたにしては彼女の顔は満足げに笑っている。

「無事ならいいんだ。まったく。すごいってのはこっちのセリフだ。いやはや危なかった…。」

11連撃のマザーズロザリオはオキの腕を、まだ痺れさせている。

「でも負けは負け。うん! 楽しかった!」

身体に付いたほこりを落とすように下半身をはたく彼女ぴょんと立ち上がった。

「よっと…お?」

ユウキの身体が粒子となってゆっくりと昇っていく。

「帰れそう! それじゃあ、またね! オキ!」

本当に帰れるのだろうか。とはいえ、オキは現状では何もできない。それに彼女の笑顔を見てなんだか安心が出来た。そのため返した言葉はこうだった。

「ああ。また会ったとき。また、やろーぜ。つぎは余裕で勝つ!」

「あー! それ、僕のセリフー! 次は絶対負けないんだから!」

頬を膨らませるユウキの顔を見て、オキは噴出してしまった。

「っふ。ははは。」

「ふふふふ。」

身体の半分以上が粒子となったのか、ユウキの身体はほぼほぼ薄れていた。

「じゃあな。どこかで、また。」

「うん! じゃあね! オキ! 次は、絶対に負けないぞ!」

笑顔で消えていくユウキ。その笑顔とある少女が重なって見えた。

粒子すらも消え、オキは気づけばアインクラッド城の王座の広間に戻ってきていた。

キン…シュポ

「ふー…。そりゃそうだわな。似てるわ。あのバカに。」

オキの感じたデジャビュのような感覚。

彼女の事を見たことがあるような感じ。オキは一人の少女と重ねてみていたようだ。

声が大体一緒で、負けず嫌いで、それで強い、一人の少女。

「なぁ。リズ。おめーに、よーにてるわ。」

オキがその名で呼ぶのは一人しかいない。クラリスクレイス。六坊均衡が五。アークスの最大戦力が一人。あのおてんば娘によく似ている。そう思いながらタバコの煙を吐き、彼はゆっくりとアインクラッドを後にした。



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第92話 「久しぶり」

「ン…。」

気付くとオキはベッドに寝ていた。体を起こそうとするが力が入らない。腕に違和感がある。どうやら点滴の針が刺さっているようだ。

部屋には誰もいない。誰かを呼んで、気がついたことを教えないと。そう思った矢先、扉が全力で開いた。そこには息を切らしているマトイがいた。

「…オキ!」

「マトイ…。」

走って部屋へと入るなり、全力で抱き着いてきたマトイにオキは目を丸くした。

「おいおい。」

「よかった…。よかった…。もう二度と目が覚めないかと…。」

開いた扉からは看護師であるフィリアの姿も見えた。他の看護師もオキが、他の意識不明だった者たちの意識が戻ったと聞いてバタバタとあわただしくなっている。

「オキさん。力が入らないと思うけど、すぐによくなるから。ただ単に、2年以上も体がまともに動いていないから筋肉が衰えてるの。無理に動こうとしない事。いいわね。」

マトイにゆっくりと起き上がらせてもらうオキにフィリアの一言目である。オキが無理をして彼女に世話(入院)になっていたのは、いつもの事である。苦笑気味に笑うオキ。

「マスター…。」

ゆっくりと近づいてくる小さな少女が一人。オキはベッドの横まで歩いてきた彼女の頭をゆっくりと撫でてあげた。

「心配かけたな。アオイ。」

「いいえ。…おかえりなさいませ。マスター。」

ニコリとほほ笑むアオイと、相変わらず泣き続けオキの胸にうずまっているマトイ二人を抱きしめた。

オキらの意識が戻った事はオラクル船団中に駆け巡った。

多数のアークス達がオキ達のお見舞いに何度も現れ、2年の間の動きを教えてくれた。

オキ達が意識不明になってから1年ほどたってから、マトイが正式にアークスとして活動を行うようになったらしい。

そしてハルコタンという惑星の発見。

そこでダークファルス【双子】が頻繁に目撃されるようになり、【双子】の暗躍でその星に封印されていた邪神【マガツ】の力の一部が復活してしまった。その後ハルコタンのマガツ襲撃を何度か抑えた後、アークスの切り札【A.I.S】の投入まで行い、現状ではオキら無しでも皆の力を合わせて頑張っていたらしい。

「マガツは何とか抑えている。だけど、目撃されていたはずの【双子】が見つからなくなった。今度、抑えたマガツの力を再度封印すべく、灰の巫女が儀式を行うみたい。何人かには護衛を頼んである。【双子】はその儀式を邪魔しにくる可能性が予測される。」

シャオから現状の説明を粗方してもらった。

『人がいない間になに面白そうなことやってんだ。』

オキの言葉にその場にいた全員が笑った。いつも通りのオキでよかったとマトイをはじめ、クラリスクレイス達も笑顔になる。

『オキさん。面白そう、じゃない。楽しそうな事だ。』

コマチの言葉にオキも笑う。

オキはまだ体の調子が完全ではない。2年もの間寝たきりになっていた関係で、暫く戦闘には出撃できない。しかし退屈な毎日、とは思わなかった。

マトイがアークスとして活動をはじめてから、イオや他のアークス達と共に、オキが向かい、暴れまわり、そしてマトイに多くを語ったその場所に自分の足で向かった。自分でその場に立った。そのことをマトイは楽しそうにオキへと語っていた。

「でね? そのときに…。」

マトイは2年間、オキのいない間に起きたことをたくさん話してくれた。時々いろんな人が来て、寂しかったことを伝えたり、シリカと結婚した時にものすごいオーラを出しながら嫉妬していたりと、マトイの事も話してくれた。

それによりマトイが顔面瞬間沸騰したり、わたわたと恥ずかしがっている姿を見て、オキは退屈しない日々を過ごした。

「もー。その時の話はー…。」

「ははは。すまんすまん。おっと、エコーが呼んでる。それじゃあな!」

オキが一番お世話になった先輩アークス。ゼノは笑いながら部屋を出て行った。

「相変わらずな人だ。」

ふうとベッドの上に寝転がったオキはボソリとつぶやいた。

「…みんな、元気かなぁ。」

その言葉が聞こえたのかマトイがオキに優しく聞いた。

「会いたい?」

「…そうだなぁ。やっぱ、いくらゲームとはいえ、命を懸けて一緒に戦った仲間だからな。急に離れるのはさみしいもんだ。」

「わかるよ。私も…。だって、寂しかったもん。」

ふふっとほほ笑むマトイ。すまんかったと一言小さく謝ったオキは目の前に広がる青き星を眺めた。

「もう少しだ…。もう少し。」

SAO事件が終わり、未帰還者となっていたプレイヤー達は衰えた体を療養し始めて2か月がたった。

未帰還者だけを入院させた病院をスレア星、日本国内各地方に未帰還者専用の病院として扱い、寝たきりだったプレイヤー達の衰弱しきった体のリハビリをメインに2か月たった今、かなり落ち着いてきた。

キリトこと、和人をはじめとするプレイヤー達、オキらアークスとつながりのあった関係者は偶然か否か、都内の病院に集中的に集められ、攻略組メンバーがほぼほぼそろっていた。

そろっていなかったのはオールドやセンター、キバオウ等が和人達の病院にはいなかった。

だが、彼らは各地方の病院にいるという情報を和人達はセンターによって伝えられ、今ではメール、テレビ電話などで情報をやり取りしている。

和人達に最初にコンタクトを取ってきたセンターはSAO開発陣の元メンバーだったらしく初期開発に加わっていたそうだ。

その時に得た伝手を使って和人達を探しだし、コンタクトを取ってきたらしい。

あくまで初期開発時点のみだったらしく、まさか自分が一部とはいえ携わったモノによって命を抱えることになるとは思ってもいなかったらしい。

それにしては楽しんでいるようだったがとクラインが突っ込むと笑ってごまかしていた。

オールドは首都圏内にいるようだが、彼はある事情により別の病院にいるとセンターから伝えられた。

場所だけは教えらえれ、オールドは横須賀にいるらしい。彼と連絡を取り合った際にテレビ電話を使用したディアベルは『電話の後ろで女性の声が多く聞こえた。一瞬だけ聞こえた言葉に司令官とあったが…。一体何者なのだろうか。』と言っていた。彼の正体を知るのはまだ先であるのを誰も知らない。

キバオウは首都から離れ、大阪にいるらしい。ディアベルは予想通りと言っていた。

相変わらず元気らしく、ディアベルもうれしそうに彼と話していたのを和人が横で見ていた。

この2か月のリハビリで少しずつ体力が戻ってきたプレイヤーたち。外では『SAOサバイバー』と呼ばれている事を最近知った。

ある日の病院内の3階談話広場。プレイヤー達はここを中心に普段集まり、テレビを皆で見ている。

毎日のようにSAOの話題が広げられ、ある事無い事を考察されている番組を毎回のごとく皆で『あの時はこうだった』『この時はこうだったな』となんだかんだで良き思い出として語った後にオキらアークスメンバーの事の話になっていた。

そんな変わらなかった2か月と少し過ぎたある日。いつものように談話広場に集まっていたメンバーの中に和人、とアスナこと明日菜が合流した。

「みんな、おはよう。」

「おはよー。」

あいさつをすればいつもは元気な声で返事が返ってくる。だが今日は違った。

和人達の方を一斉に向いたメンバー。

「ど、どうしたんだ?」

「おにいちゃん! どうしたもこうしたもないよ! これみて!」

先に広場に来ていた和人の妹であるリーファこと直葉。和人をテレビの真正面にあるソファへと明日菜と共に座らせた。

「な、なんだよ。テレビになにか…え?」

「和人君、これ…!」

二人が目にしたのは今まさに巨大な飛行機のような流線型のモノの前で一人の少年、そしてその隣に女性とロボットのようなモノがしゃべっているところだった。

番組の右上にある見出しには『未知との遭遇! 政府からの重大発表! 宇宙人は存在した! オラクル船団代表からの挨拶』とあった。

「オラクル…船団…。」

和人がポソリと口につぶやいた。彼らの大元、彼らが所属していると言っていた船団の名前。そして今しゃべっており、友好の意を表明している少年と女性、そしてキャストと名乗る種族で組織を束ねている六坊均衡の1、レギアスが『アークスの存在』を説明していた。

「本当に…来たな。」

ディアベルが笑っていた。それをみて和人もクラインの肩をたたく。

「良かったな。」

「ああ。こんなに早く来るとは思わなかったぜ…。はは…ははは!」

すぐには会えないだろう。だが、それでも何年、何十年、下手すれば生きている間とも思っていた彼はまさか数ヶ月で会える希望が湧いたのを心の底から喜んだ。

「オキ…さん。」

その場に一人の少女の声が聞こえ、全員がシンと静かになった。聞こえるのはテレビから聞こえる音だけ。その声の持ち主は広場の入り口でテレビをじっと見ていた。

「圭子ちゃん…。」

明日菜が彼女の名前を呼ぶ。

「明日菜さん…。」

少しずつ笑顔になるシリカこと圭子。明日菜はうんうんとうなずいていた。彼女も、そしてその後ろにいるフィリア、ハシーシュも圭子と抱き合った。

「良かったね。圭子!」

「また、会えるよ。」

うんうんと小さく頷きながら涙を流す圭子。その時だ。

「こっち! こっちっす!」

「ちょっと孝也! そんなに急がせない!」

廊下がなにか騒がしい。タケヤこと孝也、そしてツバキこと乙姫が誰かを案内してきた。

「あ…。」

皆が目を丸くしてその案内されてきた者を見ている。圭子は廊下を背にしている為にそれが誰だかわからない。

「シリカ…じゃなかった圭子、圭子だったな。本名は。」

何度も聞いた声。少し低く、それでも男性にしては少し高い方。圭子がゆっくりと声の主の方に振り向いた。

「…。」

優しく微笑むその顔。SAOが終わった今でもその姿かたちは変わらない。服装まであまり変わっていない事には驚いた。

「あ…あ…。」

圭子の目からは涙が止まらない。本当に会いに来てくれて、うれしくて止まらないのだ。

「すまん。遅くなった。」

優しく頭を撫でる感触はSAO内でも味わっていたそれと同じ感触。SAOと違うのは彼の本当の暖かさを感じる事。

「はい…はい!」

撫でていた手が圭子の背中に回り、優しく抱きしめる。

「久しぶり。」

「久しぶりです。オキさん…。」

アークス、オキ。惑星スレアにて愛する女性と再会を果たした。

更に1か月後。オラクル船団、チームシップ『ペルソナ』。普段ならチームメンバーが時々訪れるくらいで集まるときも不定期なこの船が、今日は騒がしく数々の声で響き合っていた。惑星スレアのプレイヤーでオキ達と最も交流のあったメンバーを招き、『SAO完全攻略お疲れ様会』を開いていたのだ。

オキはチームシップを惑星ナベリウスに降ろし、碧あふれるその森林のど真ん中で宴会を開いていた。

「へい! 次の料理おまち!」

ヒューイやクラリスクレイスの六坊均衡メンバーをはじめ、その他アークスの面々、関係者が料理人フランカの作った料理を大皿に盛ってテーブルへと運んでいた。

「ありがと、リズ。」

「ふふん! まだまだあるぞ!」

オキが礼をいうと、自分は運んでいるだけなのになぜか得意顔になっているクラリスクレイスに苦笑した。

「ところで、貴様がオキの…そうなのか?」

「…え!? 私ですか!?」

クラリスクレイスが圭子を睨み付ける。いくら少女とはいえ、六坊均衡の5である彼女の目は一般人には怖いものがある。

「じーーーーーーー。」

「あ、えっと…。」

じーっと圭子の顔を見つめるクラリスクレイスは急に笑顔となった。

「ふふん! 負けないからな!」

そういって、再び厨房へと走って行った。

「あ、えっと。どうしましょう。」

「大変だな。オキも。このこの。」

困っている圭子を横目にヒューイがからかいに来た。

「うっせヒューイ。ビール、おかわりだ。」

「おう。まってろ。」

ステージを見ればクーナがアイドル姿で歌って踊っている。外を見れば、双子たちと共にミケがキマリ号に乗って飛び跳ねている。

キマリ号はミケがいない2年間、ナベリウスの頂点の代わりとして守っていたようだ。多くのアークスがキマリ号に助けられたという報告を受けている。さすがあのミケのおもちゃなだけ、その体力やらはバカみたいに高いらしい。

その他プレイヤー達も和気あいあいと飲み食いしている中、オキが手を挙げた。

「はーい。ちゅうもーく。楽しい所すまないんだが、ちょっとこれを見てほしいんだ。」

オキが中央スクリーンに出した一通のメール。

『SAO攻略おめでとう。ここにその記念を送る。  ヒースクリフ』

「これ! ワイのところにもきたで! へんなコードつきやった!」

「私のとこも。」

「俺の所も来たな。」

キバオウをはじめ、リズベットやリンドにも来ているらしい。この分ではプレイヤー全員に配られている可能性がある。

「これ、調べたんだけど私がやってたALO、アルヴヘイムオンラインのコードだったよ。」

リーファが手を挙げた。

「ALO…か。」

ヒースクリフ。萱場は事件直後に消息を絶っていた。そして事件解決後、彼の別荘で遺体として発見された。

ヘッドギアにて自分の脳を高出力でスキャンニングし脳を焼き切ったらしい。

気になるのは死亡推定時刻がSAOの完全攻略される数ヶ月前だったとか。

「ねぇねぇ。ALO、やってみない? 案内するよ!」

リーファの言葉にキリトも賛同し始めた。

「面白そうだな。こんどはアルヴヘイムか…。」

「キリト君が行くなら…私も行こうかな?」

「面白そうだ。私もノろう。」

「ワイも行けたら行くで!」

周囲のプレイヤー達が皆賛同し始めた。

「どうする?」

「うーん。私は…オキさんが行くなら…。」

「そうだなぁ…。」

考え、ハヤマヤコマチ、シンキ達を見て頷いた瞬間だった。

『緊急警報発令。惑星ハルコタンにて、巨大な反応を感知。『禍津』の出現が予想されます。アークス各員は…。』

禍津。今ハルコタンで暴れているという星の災厄の一部らしい。メインモニターにはハルコタンの図とその出現されると思われる場所が映し出され、チームシップの画面は真っ赤に光っていた。

「な、何がどうしたんだ!?」

クラインが慌てているため、サラが落ち着かせていた。

「落ち着きなさい。どうせ、あの人たちが倒しちゃうんだから。」

そう言ってサラが見た方向を見ると既にオキたちが準備を進めていた。

「禍津か…。おれレンジャー。WB貼るわ。貼るとこはデストロイヤーから聞いてるからだいたい知ってる。」

オキはアサルトライフル『リフォルス』を手にとった。

エルデトロスと同じエネミー『ガル・グリフォン』種から作られる武器だ。

「おれカタナ。ちょっと試したいことがある。」

「ミケはパルチー!」

「俺も槍だな。」

「ふふふ。邪神だかなんだか知らないけど、楽しそうねぇ。」

シンキも楽しそうに空間を弄っている。完全に宝具を使う気マンマンだ。

「シンキは一体任せるとして…。」

「えー。」

禍津は簡単に言えば巨人だ。そんなのが何体もハルコタンを動き回る。それをアークスの総力をかけて再度封印まで持っていくのだが、正直シンキならひとりで一体倒してしまいそうだ。

「なんだよ。それくらいの力はあるだろ。」

「足りないわ。もっとやっていい?」

すごくウキウキした顔を見せるシンキ。好きにしろと呆れ顔でオキは頭を下げた。

「じゃあ、すまん! 宴会中だがちょっといってくる!」

「ちょっといってくるって…まるでコンビニに行くみたいな感じで…。」

リズベットが呆れ顔で言った。

「仕方ありませんよ。リズベットさん。」

シリカが苦笑気味にオキの後ろ姿を見送った。

「リズ、ヒューイ。ここ任せた。」

「おう! 暴れてこい!」

「私も行きたいが、キサマの頼みなら仕方ない。守ってやるぞ!」

このふたりがいるならまちがいなく問題はないだろう。ミケはキマリ号に皆を守るように言い聞かせながら鬣を引っ張っていた。

「おら、いくぞおめーら! 出撃だ!」

アークスのなかのイレギュラー's チーム『ペルソナ』。その仲間たち。

完全に復活である。

 

第1部  -完-




みなさまごきげんよう。
祝! SAO ~はじめましてから始まるデスゲーム編~ 完結!
二年間という歳月をかけてようやく完結しました。(でもまだ1部
ここまで来れたのも、皆様のご声援のおかげであります。ほんとうにありがとうございました。
これからもソードアークス・オンラインをよろしくお願いいたします。

さて、次回からは次章へと移ります。
これからは惑星スレアを中心にオキを始めメンバーが暴れまわります。
また、EP3、そしてEP4と進めていこうと思っておりますので、どうかお楽しみに。

ではまた次回にお会い致しましょう。


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幕間
番外編 「観測者(ウォッチャー) アインスVSシンキ 原初の試練」


SAO事件が終わり、惑星ハルコタンでのマガツ再封印作戦が始動し、あれやこれやとやりつつ、惑星スレアとの友好を深めているある日の出来事。

「シンキ! シンキ! 応答しろ!」

「隊長!? 隊長? 返事して!?」

ブツ…

二人の声はむなしく、対峙する二人によって通信を切られた。

「もう…。心配性なんだから…。」

「ふ。まったくだ。」

刀を握る男性と、空中に浮く一人の女性が笑みを浮かべお互いを睨み付けていた。

「あんのバカ共!」

通信を切られ、悪態を取るオキ。それを横で落ち着かせるハヤマ。

「どうどう。にしても二人がねぇ。」

オキとハヤマが耳にしたのは知る限り最も力の持つ二人が廃墟となった市街地の一角で決闘するという話。

「何故止めなかった。」

オキが隣にいるアークスシップ管理者を睨み付けた。

「だって仕方ないじゃないか。彼女は観測者。わかるでしょ? 僕だってまだやることはあるんだ。ここで消えたくないよ。」

身震いするシャオ。それに関しては同感と言わざる得ない二人。彼女に微笑みながら武器を出されれば誰だってそうなる。

「ったく…。いくら廃墟になった一部を取り壊すのが楽になるからとはいえねぇ…。」

条件として廃墟となった市街地の一部より先に出ない事。できる限り更地にする事。船に支障を出さない事。これがシャオの出した最低限の条件だった。

「まぁ二人ならできそうだから困るけど。」

苦笑するハヤマ。オキは頭を抱え、何かを思いついた。

「しかたねぇ。コマチとクロ呼べ。行くぞ。リーダー権限だ。問答無用。」

「え?」

ハヤマの目が点になる。オキはすでに変な汗が出ていた。

「隊長が相手なんだ。抑えることもできなくなる可能性がある。そうなるとあいつを抑えるのが俺らの役目だ。行くぞ。覚悟しとけ。可能ならシャルちゃんに遺言残しとけよ。」

「なんでさ!」

そんなやり取りをしながら魔神の元へと向かっていく彼女のチームメンバーを見送るシャオは心の中で合掌した。

「まさか、模擬戦闘だけで市街地の一区画丸々くれるとはね、シャオ君も中々太っ腹な真似してくれる。」

市街地中心のアリーナ内で対峙する一人の男性と女性。アリーナの中はがれきで見る影もない。

先日、ダーカーの襲撃でこの周辺一角が廃墟と化した。元通りにするには一度更地にした方が早い。

「ま、妥当じゃない? 下手にVR空間だの使って機械壊れても困るでしょうし。」

女性は豊かな胸の下で腕を組んだまま、へらへら笑いながら答える。

「ははは、それもそうか、まあお手柔らかに頼むよ。」

男性がそう答えると、一瞬目を見開いて驚愕したような顔をした後、

女性は右手を顔に当てて声高々に笑い出した。

「む?何か可笑しなことを言ったかい?」

と、不思議そうな顔をする男性。笑いを堪えながらも女性は何とか声を出せる状態で男性を見た。

「ククク…いやぁ、冗談もここまで来ると滑稽だと思ってね…。そんなに殺気出してる男が言う言葉でも無いでしょう。殺気だけでかつての天女のダークファルスが見えそうなくらいよ、アハハハハハ。」

「そりゃあ、悠久の時を生きてきた魔神に挑むんだ、緊張して殺気くらい出るさ。」

高笑いを止め、しかし顔には笑みを浮かべたまま女性は答える。

「ええ、ええ、そうよね。私もやっと、本気を出せそうよ。貴方が相手なら私と共にあり続けた…私の財も満足するでしょう。」

と、右手をパチンッと鳴らす。女性の背後の空間が一瞬歪み、金色に輝いた波紋となってそこから武器が姿を現した。

それも1本や2本では無い。数十もの武器が姿を見せる。

「さあ、始めましょうか隊長ちゃん。」

腕組みを解かず、笑みが美しくも恐ろしい物へと変わる女性、シンキ。

「ああ、行くぞ魔神。武器の貯蔵は十分か!」

自身の相棒『オロチアギト』を両の手で握り締め構える男性、アインス。

 

 

――二人の戦いが今、幕を開ける。

 

 

 

幕間の物語

SAO ~ソードアークス・オンライン~ 

観測者(ウォッチャー) アインスVSシンキ 原初の試練』

 

 

 

アインスは握り締めた刀を大きく後ろへと振りかぶる。

「来たれ我が刃、我が四天の武、これこの通り……。」

アインスの周囲に3本の刀が現れ、アインスのオロチアギトと合わせて四天の刀が揃う。

「あらま、いきなりね♪ いいわぁ…。」

そのような事を言いながらシンキが手をかざすと、アインスの周囲に現れた四天の刀、サンゲ、ヤシャ、カムイそれぞれの刀の前へと

シンキの後ろの波紋と同じ歪みが現れた。

次の瞬間、アインスに衝撃が走った。

「!?」

 

ガキィッ

 

鈍い金属音が走り、アインスが驚愕する。

呼び出した四天の刀それぞれに全く同じ刀がぶつけられてその場に停止させられていたのだ。

「四天を持つ者、なら、まあその答えに行き着くわよね。四天を全て呼び出し…全ての力を自身の物として扱う。でもね…私も四天の所有者よ、所持してるだけで隊長ちゃんやハヤマちゃんみたいに極限まで使う事は出来ないけど。それでも同じ武器くらいなら止めれるのよ。ウフフ」

「くっ…!」

だが、それでもアインスは構えを解かない。

この構えに入った以上、技を途中で止める事は出来ない。

「そう来なくっちゃね…」

シンキは後ろの波紋から出た日本刀の柄に手を伸ばし、引き抜いた。

オロチアギトと同じ刃紋を持ち、オロチアギトの倍は長さのある刀。

構えたまま、取り出された長刀を見てアインスはまたも驚愕する。

「驚いたな、まったく…そんな物まで持ってるのか」

刀の名は、『ツミキリ』。

裏アギトとも呼ぶべき、四天の裏の刀。

「…塵芥になるがいい。」

アインスは構えた刀にフォトンを纏わせ、力を込める

「その首、何故ついている」

アインスの動きに合わせてシンキは右手に持ったツミキリを振り上げる。

 

「「四天(してん)」」

 

技の名を言おうとするアインスに被せてシンキが同時に語る。

 

招雷(しょうらい)!」「蹂躙(じゅうりん)!」

 

互いの刀がぶつかり合い、その場の空気が収束し

一気に解放され周囲にある物を吹き飛ばす…。

その暴風が収まった中心で二人は鍔迫り合いをしていた

 

ガキキキキキ…

 

「…ッ! 君はその細腕で、一体どんな筋力をしてるんだ! 私の全力を片手で受け止めるなんてなぁ!」

冷や汗を頬にかきながら笑みを浮かべ、アインスは嬉しそうに叫ぶ。

互いに一歩も譲らずその場で刀を相手に入れようと力を込めた。

先に動いたのはシンキだ。背後の武器の一本がシンキの空いた左手へと降りて来て、シンキはそれを掴む。

アインスはその武器、斧の形状をした武器を知っている。

「創世器…!?」

「潰えろ閻斧…ラビュリス。」

左手に収まった斧の名を呼び、その力を解放する。

周囲にフォトンで形成された重力場が発生し、アインスは体が地面に引っ張られる感覚を味わう。

「ぐううう・・・!」

その足元の地面は足がめり込み、ヒビが入っている。

「頭を垂れ、無念のままに地に堕ちろ…。」

「誰がッ!」

アインスが左手に持った鞘をラビュリスの側面に叩き付け、一瞬だが重力場を停止させた。

その一瞬を狙い鍔迫り合いをしていたオロチアギトを握る手を逆手に返し、シンキが振り下ろそうと力を込めるツミキリの軌道を逸らし、横へと流す。

腕力に任せて剣技のもどきをやっているシンキは刀を流された一瞬の隙で、アインスに距離を取られてしまった。

「むー…離れちゃうかー…もっと力くらべしたかったのになぁ。まぁ、隙は与えないけどね。」

 

タァンッ!

 

アインスの頬を何かが掠め、切り傷が付き血が流れる。

「あら、外しちゃった。やっぱ射撃得意じゃないからクソエイム気味ねぇ…。」

ツミキリを地面へと突きたて、次にシンキが手に握っていた武器は

『戒剣 ナナキ』

ラビュリスと並ぶ、創世器の一本。

「でも、まあ下手な鉄砲数うちゃ当たるし、もっと大雑把に行って見ようかしらぁッ!?」

シンキが叫ぶと同時に背後の黄金の波紋は一度閉じ、新たに違う配置にて現れた。

そこから見える数々の武器にアインスは目を見開く。

ヨノハテ、マイ、ワルフラーン、クラリッサ、フローレンベルク、創世(つくりよ)、アウロラ

創世器の数々が空間より顔を出した。

「まだまだよ!」

サイコウォンド、ヘヴンパニッシャー、ラヴィス=カノン

かつて三種の神器と呼ばれた究極の武装。

魔剣ダークフロウ、エルダーペイン、コートエッジD、アプレンティス・グラッジ、ダーフフェリタ

ダークファルス由来となる邪悪な武器。

アインスの見た事のある武器…。

更に、見た事の無い美しき剣、槍、斧、様々な武器が

それらの武器全てが、惜しげもなく雨のように

アインスへと振り注ぐ。

自分へと降り注ぐ絶望的な量の武器を見ながらアインスは

 

不思議と…笑っていた

 

「面白ェ…!」

 

 

ズズズン…

 

遠くからでも感じる地響き。彼彼女が戦っていると思われる方向から立ち上る土煙がそのすごさを物語っていた。

「っち…やっぱりもう始めてるか。」

「マスター。異常なまでの空間変化の力を感じる。かなり本気みたいだ。」

嫌そうな顔をしながらもオキの後ろを走るクロノス。

「ま、あの時よりも楽かと…。」

ボソリとつぶやくコマチ。

「何の話だこまっちー。…まぁいい。とにかく、うちらの仲間が船壊しましたごめーんちゃいですまねーだろう。少しおとなしくさせりゃええねん。終わったらラーメンおごるから。」

申し訳なさそうな顔をするオキもため息をついた。

「たまには醤油食いたい。」

「バカ野郎。ラーメンは豚骨以外認めん!」

コマチの言葉にすぐさま突っ込むオキ。わかって言ったとコマチは笑みを浮かべた。

『無事でいてくれればいいが。…この感じ、フルで使ってるだろ。シンキめ。』

少しだけ口元がゆがみ、嬉しそうに笑うオキの顔は後ろにいる3人には見えていなかった。

 

 

 

 

土煙が収まったアリーナだった場所はすでに天井が崩れ落ち、アインスの後方にあった壁はなくなり、その後ろの崩れかけたビルにすら傷が大きく残っている。

そして、彼の回りの地面に大量の武器という武器が突き刺さっていた。だが、シンキの目には予想していた以上の光景が広がっていた。

アインスの周辺はそこだけ武器の隙間が大きく開き円の様にひらけているのだ。

「まさかあの数の宝物を、オロチアギト一本だけであんなに弾くなんてね。流石だわ、どうやったのか教えてくれないかしら?」

電灯からストッと降りながらシンキは言った。

多量の武器で足の踏み場も無い中、アインスは傷だらけになりながらも立っていた。

「なぁに…致命傷以外は…覚悟を決めて全部受けただけさ…そうすれば、弾き落とす武器は少なくて済む…痛つつっ…」

アインスは肩や腿、腹部に剣が刺さり、腹部にえぐれ傷が出ているが命に別状はないだろう。

だが、オロチアギトを杖代わりに片膝を突いている現状では

戦えるのはあと数分と言ったところだろう…。

シンキは瞬時に彼の身体を観察した。

「傷だらけのイケメンってのも良いわねぇ…食べちゃおうかしら…。」

ボソッとシンキが言う

「ん…?何か言ったかい?」

『おっと、いけないいけない、私はあくまで、手を出しちゃいけないわよねぇ…でもおいしそうだなぁ…。』

シンキはアインスへと向き直り

「まあ、星の財宝(ゲート・オブ・アルゴル)をあそこまで攻略したご褒美をあげなきゃね。」

指をパチンと鳴らす。

すると、アインスの体に刺さっていた剣、地面へと落ちていた武器、それらの全てが光の粒子となり、シンキの背後の空間へと吸い込まれていった。

「剣が抜けたから立てるでしょう、ご褒美よ。私の至高にして最奥の一撃を見せてあげる。全力よ、隊長ちゃんも、全力で来てね♡」

オロチアギトを地面に突き刺したままフラフラの慢心創刊のアインスは軽く笑った。

「まだ、有るっていうのかハハハ、冗談キツいな…だが、全力で向かおう。」

だが、彼の目はまだ死んではいない。まだやれる。そう言っていた。

「ええ、それでこそ…いや…言葉は不要かしらね…。」

シンキが右手に持ったのは鍵のような剣だった。

それを空中で軽く捻ると天を埋め尽くすほどの枝分かれした赤い線が走る。

そこから一際輝いた光が一つシンキの手元へと降りてきた。

アインスは刀を構え、フォトンを練り刀へと集中させる。

いま放てるすべてを。これにかける。

「さあ、出番よエア、寝起き早々で悪いけれど。久方ぶりに貴方にふさわしい相手が現れたわッ…!」

取り出された物は、剣と呼ぶには似つかわしくない、白と黒で彩られた円筒のドリルの様な物だった…。

しかし、アインスは直感によって感じ取った、アレはマズイと。

全身に力を入れ、より一層自らの相棒に力を込める。

そして、本能にて感じ取った…。細胞に刻まれた原初の地獄を…

 

「いざ仰げ!『光闇乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)を!!!』」

 

その日、ラグオルを救った勇気ある者は

原初を見た…。

 

ゴオオオオオオ…

光が目の前に広がった。それはなにものにもある細胞に刻まれた原初の光。

「おおおおおおおおおおおおお!!!」

彼は逃げたりしなかった。むしろ、立ち向かった。

自らが両手で握る相棒、長きにわたり共に歩んできた、オロチアギトを頭上へ大きく振りかぶり、ソレを振った。

「隊長!」

「シンキ!」

光が収まり、土煙が風に流された後。4人のアークスが更地となった場所へと走ってきた。

何か、巨大な何かが通り過ぎたように、先にいる彼女から何かが出てきたように地面には大きく弧を描き広がっているその場所。

その抉れた地面が、ある一点を境に2つに分かれている。その分かれている一点に一人の男性が血まみれとなって倒れていた。

「隊長!? 隊長! しっかりしろ!」

「…っぐ…。あ…ぐ…。や、やぁ。オキ…クン…か。げほっ!」

アインスの口から血が吐き出される。それでも彼は立ち上がろうと体を動かそうとした。

「無理すんな! ぼろぼろじゃねーか。まったく。あの光…乖離剣(エア)か。」

オキも一度だけ見たことがある。ただし彼みたいに実際に喰らったわけではない。見せてもらっただけだ。彼女の、夢というやつを。

そのなかにひときわ輝く光があった。誰もが恐怖し、誰もが崇める光。彼女はただそれを『乖離剣(エア)』と呼んだ。

原初の光。数度、彼女と酒を交わした時に聞いた言葉でもある。

そんな光を、ぼろぼろとなりながらも生きているその男は

「ぶった切ったわね…?」

ゆっくりと足音を立てながらシンキが近付いてきた。その顔は喜びに満ちていた。

「あ…ああ。逃げるわけ…にも…いかない。…かといって…防御…も…できない。…ならば…斬るのみだ。」

バタリ

そういってアインスは倒れた。

「隊長!?」

「心配すんなハヤマン。気絶しただけだ。…ったく、満足した顔だな。たいちょー。」

「ふふふ。私のアレを斬るだなんて…。あなたがはじめてよ。よくやったわね。褒めてあげる。…ああ、たのしかった…。」

魔神と勇ある者の対決。勝者、魔神(シンキ)にて幕を閉じた。

「まったく。シップ全体が揺れてるって苦情が来てるからなんだと思ったら…。」

プンスカと怒るウルクに隣でガタガタと震えているテオドール。モニターで彼女と彼の戦いの一部始終を見ていたのだ。

「やっぱり…怖い…。」

「あーもうテオはトラウマってるしー。」

あははと苦笑するシャオにウルクがきいた。

「…ほんっっっっっと不思議な人ね。あの人。シンキさんだっけ。変な力持ってるし、なんなのあの人。アークスの登録見てもなんかあいまいなのよね。」

「…。」

シャオが黙り込む。ウルクはそんなシャオの顔を真正面から覗き込んだ。

「ちょっとー。聞いてるの?」

「…これは、ある物語。こことは違う別の宇宙の物語。」

「シャオ?」

ウルクが何の話と聞いてもシャオは話の、物語の続きを語りだした。

遥か遠い昔。光と闇の精神生命体の戦いの残滓が残る宇宙

勝利した光の精神体は、闇の精神体を封じ込めるシステムをその宇宙に残し。

3つの惑星と公転周期千年の惑星を置き

それぞれの惑星に住む人々を護り人とした宇宙。

その太陽系では幾度も復活しようとする闇と、その護り人との激しい戦いが

幾星霜、幾度も千年の周期を経て繰り返されてきた

3惑星の統治者が闇に取り付かれ、暴君と化した事もあった

自分達の星を失い、闇を操る者達によって

コンピューターに支配される世界へと変貌させられた事もあった

しかし、そういった危機の度に、勇敢な者が現れ

闇の精神体の憎悪を押さえ込んできた

しかし、コンピューターによる事変の際、封印の一つ惑星が消滅し

状況は変わった

これ以上の封印は不可能だと言う事実

護り人の中でも、最初の英雄

闇の『憎悪』を打倒した4人の英雄の1人が設立したエスパー集団は

人々が護り人の使命を忘れる中

この事実にいち早く気づいた。

惑星を一つ失い、これ以上の封印が持たないと知った彼等は

今を戦う英雄達とは別に

1人の英雄を生み出す事を決意した。

大いなる光の残した遺産による必ず闇を封じるという強い意志

最初に闇を倒し、3惑星の王に即位した伝説の英雄の細胞を持つ『彼女』の体

エスパーの館を設立し、闇を打倒する為に戦い続けた英雄の残したテレパシーボールに残る『彼』の記憶の残滓

それぞれを持つ。新たな英雄を。

エスパーの館の研究室

様々な機材が並ぶその中心に一際大きなシリンダーが存在する

その中には膝を抱えるような姿勢で培養液の中に浮かぶ少女が居た

少女は、培養液の中でゆっくりと目を開ける

白銀の髪、整った容姿、そして

その背中に見える、強大なマジックの力が具現化した純白の6枚の翼…

こうして、エスパー達の手によって

『彼女』は誕生した…。

「まさか、その『彼女』って…。でも白の羽・・・?」

ウルクがみるモニターの先にいる『彼女』の羽は黒い。まるで吸い込まれそうなくらい黒い6枚羽。

「さぁてね。僕が知ってるのはここまで。しかも人づてに聞いた話。でも一言だけいえるのは…彼女は『観測者』。あくまで観測し、勇ある者の行く末を見守るの事が彼女の役目。さぁて、後始末するかぁ。ウルク、また走り回ってもらうよ。彼らが更地にしてくれたからね。」

シャオは背伸びをしてウルクにウィンクする。

「…ま、いっか。ほら、テオもいつまでも震えてないで! いくよ!」

「あ、ま…待ってよ。」

走っていくウルクの後を追うテオドールに手を振りながら見送ったシャオは、ゆっくりと再びモニターを見た。

「『観測者』…『アルゴルの大英雄』…。まったく、君はどれだけの人物とつながる気だい? オキ。」

微笑みを浮かべ、ゆっくりと消えていくシャオはオラクル、ラグオル、そしてアルゴルの英雄の3人の行く末を見守ることを改めて、決意した。

これは物語の続き。

誰も知らない、出生のお話。

そう、『彼女』の物語のほんの一部である。

エスパーの館が、英雄として用意した『彼女』は思いの他調整に時間がかかってしまっていた

現在の勇気ある者達、ルディ達が

深遠なる闇の討伐へと固定化されたモタビア上の空間へ向かって尚

『彼女』を培養液から出すことは出来なかった

具現化した6枚の翼が発揮するマジックの威力に

『彼女』本人の体が持たないと、目算されていたからだ

結果再調整を重ね、ルディ達が深遠なる闇に立ち向かうその時に間に合わせる事が

出来なかった。

培養液の中で、ルツの記憶の残滓を繰り返し、繰り返し自身の物にしていく『彼女』

彼の喜び、誇り、苦悩、怒り、悲しみ

培養液の中でも不満は無かった、自分の中にあるルツの記憶だけが

自分にある物だったから、大いなる光の意思から来る使命の自覚も悪いものとは思っていなかった

英雄達の手助けに間に合わないのは、少し悲しかったけれど

私の存在理由が、この培養液から出ることも無く、意味を成さない物だとしても

それもいいのかもしれない、等と考えはじめた頃

ふと――

『彼女』の耳に何かが聞こえた

何かが砕け散る音と、断末魔

それが聞こえた瞬間、『彼女』は『彼女』にしか分からない事象を理解した

目を強く見開き、6枚の羽を大きく広げ

その場で、炎系のマジック『ラフレエリ』を発生させ

自分の入ったシリンダーを破壊した

溢れ出る培養液の中、彼女は始めて触れる外気に少々、肌寒さを感じながらも

驚き、腰を抜かしているエスパー達を尻目に

マジック『リューカー』を発動させ。

その場から、まったく別の場所へと転移した

『彼女』が転移した場所は、暗闇の中だった

マイルの村の近くに空いた穴、黒い波動が漏れ出し、死の中心となっていた地点…

自身の姿がはっきりと見える不思議な暗闇

そしてそこには

砕け散った剣の破片、そして…

黒い、暗闇の漆黒より更に黒い

うごめく巨大な何か…

ああ、私の中の大いなる光が語りかけてくる

これは、深遠なる闇の欠片

数千年の時を経た憎悪は、最初の英雄アリサが授けた剣でも消滅させることは出来なかったのですね…

この欠片は、残しておけば再び憎悪を溜め、新たな深遠なる闇として生まれ変わる…

ならば、英雄達の力に慣れなかった私が、私の身で封じ込め共に消えましょう…

存在理由が無かった私の、たった一つ最初で最後の存在理由…

大いなる光を元にした彼女の意思は、ルツの記憶が出す結論とは違う結論を出した

『深遠なる闇はアルゴルにあってはならない』

では無く

異形である自らと深遠なる闇は、アルゴルにあってはならないと言う

結論を出したのだった…

『彼女』は、そのうごめく何かに手を伸ばし

抱きかかえるように1つとなる…

純白の翼は、バケモノと同じ漆黒に染まり

そして…

消滅を覚悟した彼女の中で

大いなる光の意思と深遠なる闇の欠片は

悠久の過去、かつてそうだったように1つの存在へと変化した…。

彼女の頭に巡る、1つの精神体、大いなる光と深遠なる闇への分裂…

そこから生じる世界の創造…。

消滅を望んだ少女の中に生まれたのは…それとは全く別の

開闢だった…。

『彼女』の中で1つの精神体に戻った大いなる光と深遠なる闇は、彼女に語る…

深遠なる闇の置き土産。

ダークファルスはかつてアルゴルから脱出した宇宙船に残っている、と

深遠なる闇その物は、もはやこのアルゴルに脅威をもたらすことは無くなり

アルゴルの人間は護り人としての使命からは解放された。

しかし、外宇宙に旅立ったダークファルスによって、巨大な宇宙船アリサⅢの中の人々は未だ

護り人の使命から解放されてはいない、と

『彼女』の中の精神体は更に続ける

大いなる光はそのダークファルスを追って行ってしまった

解放された人々に、真実を伝えるわけにはいかない

護り人によって生み出された貴女に原初の精神体の最後の力を授けるので。

そのダークファルスを追って欲しいと

『彼女』はその精神体、最後の願いを良しとした

作り物の『彼女』に、初めて生まれた使命だった…

消え行く精神体に

時空を操り、自身の周囲と繋がる無限に広がる空間を与えられ

そこに、精神体が欠片から修復したルディの剣、ファルディシオンをしまい

未だに使命を課せられている人々の住む宇宙船

アリサⅢへと、ダークファルスの残る世界へと…

平行移動「スライド」した

ここまで語られた内容も、ほんの断片的な内容でしかない

この後、彼女は統合して直ぐに使命を課し消滅した精神体の代わりとして

人の本能、種を残す本能、性に対しての欲求で自らの穴を埋めていき

1人の踊り子として、『シンキ』として

アリサⅢにおける勇気ある者達と出会う事になるのだが

それは、また、別のお話…




みなさまごきげんよう。
今回の番外編はアインスの強さ、シンキの隠された謎を描いたお話となりました。
隊長ことアインスは格の上も上の相手と戦う時にどうするか。
シンキはそんな勇ある者と戦う時、本気で戦う時はどうやって戦い、彼女の目的、使命とは何なのかの一面を見せました。

半数以上は彼女、本人の執筆を私が少しだけアレンジして今回公開といたしました。彼、彼女のファンもいらっしゃるようですし少しはお二人の事がわかったのではないでしょうか。

なお余談ですが、彼女シンキの力を安藤枠であるオキ、そしてマトイの共通であるダーカー因子吸収能力の容量で比較すると、彼女のもつ闇属性、こちら(アークス)でいうダーカー因子の吸収できる容量はオキ、マトイを合わせて、それの3倍だそうです。アホカ(

更に余談、ありえない話ではあるが、マトイが因子を全て持って消えた際に
オキが立ち上がれず、弱音を吐いてしまった場合、最早アークス所か人として駄目になるほど甘やかした後マトイから因子だけ奪い取り何処かの宇宙へ平行移動をしてオラクル世界から消え去る可能性もあるそうです。ホントいい性格してますね。私は大好きですよ。

では、本編でまたお会い致しましょう。


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第3章 ~ガンゲイル・オンライン~
第94話 「ガンゲイル・オンライン」


SAO事件後、惑星スレアとの友好も深まりつつあり、良好な関係を築き上げる中、オキはある人物を探していた。


オラクル船団。その一つ、惑星スレアに一番近いシップ内にてオキはある人物を探していた。

「この辺にいるはずなんだが…。ああ、いたいた。おーい。」

「マスター? 何か用?」

銀髪ショートに幼いながらも整った顔の少女、クロノス。彼女がオキの探していた人物だ。

「拉致。問答無用。来い。お前の力がいる。」

「え?」

ムンズと首根っこをつかまれ、そのままずるずるとキャンプシップへ乗り込まされ、気が付けば、惑星スレアへと向かっていた。

「なんでー!?」

クロ。本日も理不尽なマスター命令にて拉致される。

「まったく。準備位させてよ。」

「スマソ。時間が無くてな。えっと…こっちだ。」

惑星スレアに降り立った二人は都心の街角を歩いていた。オキはスーツにコートを羽織った姿。

クロはオキから与えられた濃い藍色のジャケット風の上着に、黒色のワンピースを着ている。すらっとした足がスカートから出ており、健康的でセクシーだ。出っ張るところがないのが少々残念だとオキが言ったらクロは無言で叩いた。

「ところでマスター。」

「んー?」

クロが自分の着ている服を見ながらオキに質問を投げた。

「なんでこんな服持ってんの?」

「…内緒。おっと、ここだ。入るぞ。」

オキの案内で到着したのは都心にある喫茶店だった。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「2.先客がいるはずだ。えーっと…。」

オキが店員の奥、店内をキョロキョロと見渡した時に手を振った一人の男性がいた。

「おーい。こっちだ。」

「ああ。いたいた。」

オキが店内に入り、クロも一緒に入る。少しだけ周囲を見渡していた。

彼女はこういう店がはじめてなのだ。

「お待たせ。遅れちゃったかな?」

「いいや。時間ぴったりだ。さすがアークスだね。そちらの方は…。」

スーツ姿の中年男性。少しやせ形で、顔はさわやかに笑顔を作っているが、クロは内心『胡散臭い』と思った。

「クロノス。俺の仲間だ。今回の件、彼女を連れて行く。」

「ということは…受けてくれるんだね!?」

男性がすごくうれしそうにしていた。

「お水とおしぼりです。メニューが決まりましたらまたお呼び下さい。」

ウェイトレスが入ってきた二人にお冷とおしぼりを持ってきた。オキは軽く頭を下げて水を半分ほど飲んだ。

「ぷはー。あ、この水うまいな。クロ、好きなの頼んでいいぞ。このおっさんが会計してくれるって。」

「そう? ならケーキセット。アイスティとチョコケーキで。」

「おれもセットと単品でチーズケーキ。アイスコーヒーとショート。」

二人がメニューを開いてささっと頼んだ。それを男性は軽く笑いながらウェイトレスに頼んだ。

キン…シュボ

「ふぅ。紹介するわ。菊岡 誠二郎。えーっと…なんつったっけ。部署。長くて覚えてねーんだわ。」

「総務省総合通信基盤局高度通信網振興課第二分室。通信ネットワーク内仮想空間管理課、通称『仮想課』。SAOでの事件後に彼と知り合ったのがきっかけです。どうぞよろしく。」

長いと突っ込むオキに、クロノスへと握手を求める菊岡だが、クロは彼の手を細めで見つめるだけだった。

「あ、あはは。握手は…ダメなようだね。いや失敬。」

「すまん。警戒してるようだ。おっさん、胡散臭いんだもん。」

煙を吐きながらオキは笑っていた。クロはなぜこの場に呼ばれているのかいまだに理解が出来ていなかった。

「本題は後で。まずはおっさんのおすすめと言っていたこの店のケーキ。食べてみよーぜ。そんな難しい顔せんとな。」

「わかった。」

オキはクロの肩をばんばんたたき、暫くSAOの話をしていたオキと菊岡の様子をクロは見ていた。

「いやうまかったー。」

「…美味しかった。」

その言葉を聞いて菊岡は満足そうだった。

「いや、そういってくれてうれしいよ。アークス…でもこちらの味は合うんだね。」

「まぁな。食うもんが若干違うだけで、味の好みは一緒のようだし。今度シリカでも連れてくるか…。」

ボソリとつぶやくオキの方を見てクロは目で合図した。早く本題、っと。

「ああ。すまん。すまん。さて本題だ。おっさん。あれ、クロに見せてあげて。」

「ああ。少し待っていてくれ。」

菊岡はカバンからノートパソコンを取り出し、一つの動画を見せた。

「…これは?」

「これはガンゲイルオンライン、通称GGOと呼ばれる。銃を使って人対人、つまり対人戦をするVRゲームだ。簡単に言えば、レンジャーとガンナーがチーム組んでお互いを撃ち合う仮想空間でのゲームだ。」

フーンと興味なさそうにアイスティを飲むクロ。

「で、そのGGOの第2回大会でまーいろいろきたねぇ手を使って優勝したっていうのがコイツ。」

動画の中の名札に『ゼクシード』と書かれており、得意げに何かをしゃべっている。

「で、このシーン。」

動画の中でゼクシードと呼ばれる男が急に胸を押さえて悶え始めた。

「これ、VR世界の中でこの男にこの場で銃を撃とうが切ろうが本体であるこいつは何も起きない。だが…。」

動画の中で倒れ、その男はピクリとも動かなくなった。そして動画はそこで途絶えている。

「こいつ、死んだでしょ。VRとかそんなの関係なしに。」

クロの目には彼の生命の時間が止まった事が映った。それが動画越しでも分かった。

「さすがクロ。その後、この放送をしていた関係者が彼の家に行くと、心臓麻痺で死んでいたんだと。今のところの原因は…これ。」

オキが小さくコンソールを開き、クロへと転送した。

「死…銃?」

「デスガン。そう呼ぶそうだ。」

「デスガン…。」

デスガン。巷ではそう呼ばれていた。むしろ本人がそう呼んでほしいのかもしれない。

ゼクシード死亡後、別の場所で、同じゲーム内で同じように心臓麻痺で死亡する事件がもう一件発生した。

GGO内最大級のチーム。その会合中にリーダーである男が死んだのだ。

その時に目撃されたのがスカルマスクに真っ黒なマントをかぶった大きな人物。そして目撃者からの口からは

『我…デス…ガン…。死を…司る…モノ』

と聞こえたそうだ。声もボイスチェンジャーか何かで変えていたのか人ならざる声だったそうだ。

殺人事件として捜査を開始した『仮想課』だったが、情報は少なく手詰まり状態。そこで仮想課である彼、菊岡はSAO事件で知り合い、行動力、情報収集能力、戦闘能力すべてを兼ね揃えたオキに依頼してきたのだ。

「本来なら我々だけで捜査しなければならないとはわかってるんだが、ここまで行き詰ってしまってはどうしようもなくてね。アークスの上位の方々にも許可をいただいて、彼に極秘捜査を依頼したのさ。」

「で、ウルクからは…。」

『友好の為に…頑張ってね☆』

あー、とクロノスの彼女のテヘペロする顔が目に浮かんだ。

「ま、別に面白そうだし、何より俺もこのゲームやってるし。ついでに信用が出来て、銃の扱いがうちのメンバー内で一番うまいやつってことでクロを引っ張ってきたってわけ。」

なるほどとつぶやいたクロは彼がある情報をさらっと言ったことに気づいた。

「あれ…やってる?」

「行くぞ。GGOに。なーに、装備と金ならわんさと貯めてるから。」

クロの目が点になっているにも関わらず、オキはクロノスをGGOへと連れて行った。

風の吹く荒野。砂の交じった風がコートを叩く。

岩だらけの場所でくつろぎながらタバコを吸う男が一人。

「ほんとにここ通るんだろうな?」

別の岩陰から出てきた一人の髭面の男が、タバコを吸っているコートに身を包んだハット某の男を睨み付けた。

『間違いない。私の情報が正しければ必ずここを通るはずだ!』

「だとよ。なんだ? 俺とうちの相棒を信じないのか?」

へらへらと笑いながら無線から聞こえた幼さの残る声の主の情報を信じるオキ。

「きたぞ!」

見張りをしていた迷彩柄のバンダナを頭に巻いた男がスコープを覗きながら周囲に合図を投げた。

「そーら。おいでなすった! ナビ。」

『任せといて! すぐに敵の情報を投げるよ。』

「旦那。」

更に別のヘルメットを深くかぶった男がオキの方を見て、目で合図してきた。

「あーよ。まかされたぜ。作戦通りだ。俺が真正面で壁をはるから、回り込んで挟み撃ちにしろ。」

こくりと頷き、ヘルメットの男が周囲に合図を送る。オキは岩の影からゆっくりと静かに進んだ。

それを後方で動く男たち。目標は真正面、下方に見える、固まって動く6名の兵士。

「…ナビ。情報をくれ。」

『ちょーっとまってねぇ…。んー。5人の情報はこれ。小中型マシンガン、グレネード、予備でハンドガン。典型的な軽装備型の装備だね。ただ…。』

声がこもった。オキにも見える。5人の兵士は真ん中にいるグラサンを付けた大男を囲んで何かから守って歩くように進んでいる。しかもかなり慎重にだ。

『あいつの装備が読み取れない。誰かが対ハックスキル持ってる。しかも高レベル。』

「もしくは高レアのソレ系の装備か。ま、どちらにしろクライアントからは突っ込んで死ねとオーダーだ。」

ニヤリと笑い自分の持っている大きな機関銃をを握りしめた。

『だが、死ぬつもりはないんだろう?』

「へへ。もちよ。…合図だ。いくぞ!」

遠くからの銃撃の音。その直後に一番前を歩いていた男の頭に一発の弾丸が突き刺さった。

それが合図。オキはタバコに火を付け、くわえたまま岩から飛び出し銀色に光り輝くボディ、木製のストック。そして何より目が行く丸型のドラムマガジン。トンプソンM1921。トミーガン。シカゴタイプライターと呼ばれたマシンガン。しかも100発の弾丸を入れたドラムマガジンを使い、オキ専用に改造されたモノだ。そのトンプソンの銃口が火を噴いた。

ガガガガガ!

「ぐあ!」

「っち! 待ち伏せか!」

「ひゃははは!」

笑い、岩を下りながらトンプソンを乱射。1人を蜂の巣にし、更に近づくために乱射を続ける。

二人を殺され、さすがに無抵抗ではいられない兵士たちは囲んでいた男の真正面から外れ、横へと散開。持っているマシンガンをオキへと向けた。

「白のコートにハット帽、銀色のシカゴタイプ…。『首領(ドン)・ペルソナ』か!」

グラサンの大男が羽織っていた大きなロングコートをバサリと脱ぎ捨てると、その中からは巨大な銃、6本のバレルが顔を出した。

キュィィィイ…

音を立てながら回転しだす6本のバレル。

「ちぃ…!」

『オキ! 逃げろ! そいつらはゆっくり歩いてたんじゃない! そうするしかなかったんだ!』

グ゛オオオォォォォォ!!!

大きな音と強力に輝くマズルフラッシュが周囲に響きわたった。

「まじかよ!」

ガトリングガンの咆哮が周囲に広がった。間一髪岩の影に隠れたオキだが、その岩も大口径且つ超回転しながら吐き出る弾丸に岩も削られていく。

『やばいやばいやばい! どうすれば…。』

ナビも焦っている。向こうでも何とかできないかを考えてはくれているのだろうが、オキは今の状況を冷静に整理した。

「…っふ。」

飛び込んだ逆の方から飛び出たオキはトンプソンの弾丸をすべて吐き出す。

ガキキキ!!

「! っちぃ!!!」

狙ったのは大男ではなく、ガトリングガンそのもの。壊れはしなかったものの一瞬停止する。

「だんなぁ! 今だ!」

「あいよおお!! 突撃!」

別の岩陰から10名ほどの男たちが顔を出し、自らの武器で大男ごと、兵士へと銃をフルバーストした。

「こしゃくなぁぁぁぁ!」

グォォォォォォォ!

再びガトリングガンが吠える。薙ぎ払われる岩肌はすぐに貫通し、その先に隠れていた者達をえぐって行った。

「ははははは!」

高らかに笑う大男だが、遠めに何かが飛んでくるのを見た。

「グレネード…! ちぃぃぃぃ!」

投げたと思われる男に向かってゆっくりとガトリングガンの弾の放射線を向ける。本体は重い。しかも撃ちながらだ。

ゆっくりと向かう放射線。だが飛んでくるグレネードには何とか間に合いそうだ。そもそも届きそうにもない。

男は、っふと笑った。

「ところがギッチョン!」

ガゥン!!!

一発のでかい銃声が鳴り響いた。次の瞬間、遠くにあったグレネードに火花が小さく光り、こちらへと一直線に飛んできた。

「っな!?」

銃の音の先を見た大男は、見た。オキが大きなリボルバー式のハンドガンでこちらを狙っているのを。

「チェックメイトってな。」

ガゥン!

再び銃声が鳴り響き、ちょうど大男の頭上に飛ばされたグレネードはオキのリボルバーの弾丸によって安全ピンを抜かれる。

ピン…

「さいなら。」

逃げようとした大男だったが、ガトリングガンの超重量過多制限により走るどころか歩くスピードすらも制限されている。守るすべもなく、大男はグレネードの爆炎に飲み込まれた。

「ふう…。一丁上がり。ナビ、帰るぞ。 報酬は頂きだな。」

『うん! コーヒー、用意して待ってるぞ!』

オキは少女の待つ自分のチームの拠点へと転移した。




みなさまごきげんよう。
祝! 新章突入!
みなさまは番外編を見ていただきましたか?
少々宣伝と違う内容(特に後半も終盤)となりましたが、蛇足になりつつあったので没にしてしまいましたが、もしよろしければと思います。

さて、SAO編が終わり、惑星スレアとの有効も深まる中起きたガンゲイル・オンライン内での事件。原作をご存知の方はご存知でしょう。
こちわもかなり改変してアークスであるオキ、クロノス、通称クロが大暴れ致します。
本当はリサちゃんとかNPC勢も出してあげたかったのですが、私では彼女たちのものすごいキャラ性能を扱い切る自信がありませんでしたので没といたしました。
いつかは書いてみたいものです。(かくとはいってない)

PSO2でもようやくEP4が終わりました。クゥちゃんかわいい。この一言で終わりました。
他? 知らない子ですね。
EP4も書く予定です。その時は大きく改変して皆様にお見せできると思いますので、生暖かい目でお楽しみいただければと思います。

ではまた次回にお会い致しましょう。


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第95話 「亡霊(ファントム)のいる喫茶店」

薄暗い霧と煙のでる工業都市の街中。タバコを咥えながらトンプソンM1921を肩に担ぎ、歩く男が一人。

足まである白のトレンチコートに白のスーツ。同じ色のハット某をかぶりサングラスをかけているその姿は、人を近寄らせずに避けさせる。

歩いている最中にふと、男が立ち止った。

「なぁなぁねぇちゃんら! 初心者やろ? レッスンしたるでぇ!」

「俺達が優しくおしえてあげるよぉ! でへへ。そっちのねぇちゃんも一緒にどうや?」

にやけついた男たちが二人の少女の周りを囲んでいた。少女たちはものすごく不機嫌そうな顔をしているのが男たちの身体の隙間からちらりと見えた。

「おったおった。あー。あいつも一緒か。」

オキは間入れず、トンプソンを空中に向け数発撃った。

「な、なんだ!?」

「誰だ! 撃ったのは…げぇ! どどど、ドン・ペルソナ…。」

相手はこっちを知っているらしい。こちらは知らない。有名になったもんだ。ま、こんな珍しい武器とこんな恰好じゃそりゃそうなるか。そんなことを思いながらオキは男たちの向こう側、少女たちに目を向けた。

「おう。やっと見つけたぜ。こっちに転送するとは思ってなかった。すまんすまん。そっちも巻き込んだみたいだな。こいつはうちのだ。わるいな。」

オキは申し訳なさそうに手を前に出した。

「おそい。」

「偶然見つけたから保護したの。なんか絡まれてたし。」

男たちを睨み付けながら彼女たちはオキの方へと歩き進んだ。

「こっちだ。…おう、お前ら。」

オキが男たちを睨み付ける。

「ひ、ひぃ!」

「すす、すまん旦那! まさか、あんたのお友達だったとは…。」

先ほどのクロに対する威勢はどこに行ったのか。オキはため息をついてしっしと手をひらひらさせ追い払った。男たち二人はぺこぺこと頭を下げて路地裏へと逃げていく。

「ここじゃ落ち着かん。うちの拠点に連れて行く。お前はどうする? シノン。」

クロノスといっしょにいたのはシノン。SAO事件の時に出会った一人だ。まさか彼女がクロの近くにいたとは思わなかった。

「…どうしてアークス二人がここにいるのか興味あるわね。趣味、ってわけじゃなさそうだし。」

鋭いねこの子。さすがシンキのお気に入りだ。わかったといってオキは二人を拠点へと連れて行った。

暫く歩いた先にビルに隠れた小さな喫茶店『ルブラン』の扉を開いた。

カランカランと鳴り響く店内の一席から一人の少女が立ち上がってオキに走り寄った。

「おかえり! 遅かったな! あ…。ささっ。」

元気な声とまぶしい笑顔でオキをお出迎えしたと思ったらクロたちを見て、オキの影に隠れた彼女の頭をオキはやさしくぽんぽんと叩いた。

「すまん。こいつらをひっかけてたんだ。ジョーカー。アイスコーヒー。俺はブラック。こいつらにはホットでミルクと砂糖を。」

「了解。」

優しい声のする青年がカウンターの中でコーヒーの準備をしだした。

「こっちだ。そこに座って。」

オキが二人を座らせようとした時だ。奥の席から大きな声があまり広いとは言えない店内に響き渡った。

「よっしゃぁぁぁ! 勝った! さすが黒森峯だ! へへ。」

オキがその声の持ち主にあきれ顔で叫んだ。

「おーい! うっせぇぞ! 客連れてきたぞ。スカル。」

「お? おお! すまねぇすまねぇ。いやー。賭けをやっててな。大勝負に勝ったんだよ。これでまた装備が新しくなる。」

嬉しそうな顔をして二人を座らせた席の近くに座ったスカル。ジョーカーと同い年かそれに近い容姿の明るい青年だ。

「んん? 戦車? なんかのゲームの大会か?」

カウンターの近くにある天井につるされたテレビには戦車の姿が映っていた。一人の眼付の鋭いショート髪の少女が乗っている。なかなか美人だ。

「いや、これは戦車道っつってな。女子高生たちが…。」

「あーうん。今はいいや。長くなりそう。」

「オキ…この人が、話のあったオキの仲間…か?」

おどおどしている少女を隣に座らせるオキは一本の煙草に火を付けた。

「まぁ落ち着け。お、すまねぇなジョーカー。」

「どうぞ。」

皆のコーヒーを出したジョーカーも一緒に近くのカウンターの椅子に座った。

「さて、まずはっと。クロ、シノン。こちら、俺が世話になってるチーム『ザ・ファントム』のリーダー。ジョーカーだ。」

「よろしく。」

ぺこりと頭を下げる青年につられ、クロとシノンも頭を下げた。

「んで、こっちの俺に引っ付いて離れないのがナビ。みんなの戦闘時のナビゲートを主に担当している。」

「ナ…ナビだ。 よろしく。」

「すまんな。この子、人見知りが激しくてな。まぁすぐ慣れる。クロにわかりやすく説明もしとくな。ナビの仕事は銃でドンパチ賑やかにするのが俺で、そのナビゲート。どこに敵がいて、誰がどんなものを持っているかを調べて俺に教える仕事をしている。その代わりハッカースキルは取るのが大変な上に対して対ハックスキルは簡単に取れる。とはいえ、優位に立ちやすい状況にできるのが彼女の役目。彼女はそのスキルだけを一点特化で上げている。いつも世話になってる。こいつらと出会ったのもこの子のおかげだ。知っとけ。んで、こっちが…。」

オキが名前を言う前に自分から名乗った男はかなり笑顔だ。

「スカルだ。よろしく。そっちの子は初めてだが、シノンちゃんは知ってるぜ。超大型のライフル持って活躍してる美少女って有名だもんな。」

「…ヘカート。」

シノンがぼそりとつぶやいた。

「へ?」

「ヘカート。あれはヘカートっていうの。知っといて。」

ゆっくりとコーヒーを飲む彼女のスカルはたじたじだった。

「あー…んで、こっちがクロノス。俺の仲間だ。ここから先はー…察してくれ。」

「クロノスだ。よろしく。」

銀髪ショートがゆっくりとなびいた。ゆっくりと彼女の赤と碧のオッドアイがファントムのメンバーを映し出す。

相変わらず表情ださねーなとあきれるオキだが、そのまま続けた。

「んで、いま言った通り、こっちがシノン。知っての通りこのGGO内にいた知り合い。偶然そこで見つけたんでというか巻き込んじゃったんだけどね。連れてきた。つーかシノン。てめぇ俺のことずっと避けてただろ。」

オキがシノンを見た。彼女はオキがこのゲーム内に来る前からプレイしていたらしい。見つけた時に軽く声をかけたが、その後はまるでオキを避けるように活動範囲をオキのいないエリアで活動していた。

「あたりまえよ。あなたと一緒に居たら…。これ言っていいの?」

「安心しろ。こいつらは信用できる。俺やクロの正体の事も承知済みだ。」

そうといってシノンは続けた。

「一緒に居たら私がサバイバーってばれちゃうじゃない。あなたの事も、探りいれられるわ。このゲームは、わかってるでしょ? 甘くないって。ま、チームに所属したみたいだし、私はその時点で一緒につるむつもりはなかったけど。…でも、こっちの子が来たってことは、また事件。なんでしょ? そっちがらみ? それとも、アレのからみ?」

オキは彼女のソレ、アレの意味が把握できていた。だから説明を開始した。そっちはアークス。アレはSAOをはじめとしたVRネットワーク関係。

「早速説明に入ろう。ファントムのメンバーはここにいるだけじゃなくまだいる。今、外で情報を得てもらっている。シノンも知ってると思う。『デスガン』の話。」

オキがその名前を言った瞬間シノンの目が見開いた。

「知ってるも何も…。このゲームで今持ちきりの話題じゃない。…まさかあなた!」

「その通り。察しがいいな。俺はデスガンの調査にこのゲームにクロを連れてきた。俺一人でも構わんが、ちょっときつそうだしな。クロは俺らの中で最も銃の扱いがうまい部類に入る。補佐としては十分だろう。んで、そのデスガン。俺の感が正しければあいつは…『元ラフコフ』のメンバーだ。」

「ラフコフ…ってたしかオキが…。」

SAOで最も残虐の限りをつくし、オキ達に葬られ永遠の眠りについたはずの犯罪ギルド集団『ラフィンコフィン』。

「あいつの腕にラフコフのマークらしきものを確認した。可能性は高い。少なくともSAOからのメンバーだ。あのマークがそのへんに散らばってるとは思えんしな。」

「その関連をオキから教えてもらって、外にいるパンサー達が外での情報を探してる。」

スカルが先ほどのおどけた笑顔とは違い、深刻な顔でこちらを見ていた。

「俺達は…あの死に方を知っている。できるだけ可能性は探りたい。」

ジョーカーがしゃべった。彼も先ほどの優しい笑顔から厳しい顔つきになっている。

「こいつらの話を俺は信じてる。なにせこいつらの中には何か不思議な力を感じたからな。特にジョーカーはその力が強い。へたすっと俺達よりも強いかもしれん。」

オキがニヤリと笑う。ジョーカーはよしてくれとほほ笑んだ。

「ふーん。オキがそこまで言うなら私も信じるわ。あなた達が何者かは知らないけど、この人たちの事はよく知ってる。だから信じる。私も手伝わせて。こう見えて、あちこちに顔が利く方だから。」

シノンがオキを見た。その目は決意した目。彼女は本気でオキを手伝う気でいる。

「いいのか?」

「ええ。シンキさんには大きな恩がある…。だからその恩を少しでも返したい。あの人に会わせてくれたあなたにも。」

そうかと言って、オキはふと時計を見た。

「やっべ! もう17時じゃねーか! シノン!BoBの参加申請何時までだっけ!」

「え? えっと…たしか18時…。」

オキがあわてて席を立った。

「クロ! いくぞ! BoBには参加しなけりゃならねぇ! デスガンが参加する可能性が大いにある。」

「ちょっと…それ本当!?」

シノンも立ち上がった。

「…わかったわ。私も参加する。もともと参加するつもりはなかったけど、手伝うなら私も行くわ。」

「たすかる! ジョーカー!」

「ああ。これをつかえ。」

ジョーカーがカギを投げ、オキがそれを受け取った。

「オキ、私が最短ルートをナビする。」

ナビがヘッドセットを付け体の周囲に大量のコンソールを表示させていた。

「頼んだ。車は駐車場だな?」

「ああ。」

クロに行くぞといってオキは強引に外へと連れだした。ビルの裏手にあった駐車場。そこには赤色のスポーツカーが止まっていた。

「のれ! すまんシノン。クロと二人で助手席に乗ってくれ。二人ともちっさいから座れるだろ!?」

「えぇ!? ちょっとこれ…かなり改造されてない!? ここまで改造するのにいったいいくらかけたの!?」

さすがシノン。このゲームを渡り歩いてきただけある。こいつに高額がつぎ込まれてることを知ってるな。

助手席に二人を無理やり座らせ、シートベルトを着けさせた。

「ちょっと狭いが、簡便な!」

ガロロロン!

大きな音を立ててVQ37VHR型のエンジンを魔改造したV型8気筒が唸りを上げた。

「へへへ。今日もいい声で鳴くな。おら! 舌かむなよ!」

ブロロロロロ!

「きゃあ!」

「ちょ! ま…マスター!?」

急速発進をしてオキは真っ赤に染まる『Z370(魔)グランツーリスモ仕様』を出発させた。

『その信号を右! そのまま首都高に乗って!』

「あーよ。」

ノリのいい曲を流しながらオキは鼻歌交じりに車を飛ばした。

「な、なんて改造してるの…!」

「エンジン載せ替えから足回りの細かい所、エアロはもちろん、椅子の質感までこだわった俺監修のZ370だ。いい車だろ? GT-Rの方がいいってスカルは言ってたけどわかっちゃいない。あいつは直線で伸びるタイプだが、ここの世界では旋回能力も必要となる。こいつは…カーブでの性能がピカイチなんだよ!」

ギュアアアア…

「きゃあ!」

「うわ!」

カーブもできるだけスピードを落とさずにドリフトでギリギリを走り抜けるオキ。

「マスター監修って…そりゃヤバイはずだ。」

「え?」

クロが青い顔をしながらつぶやいた。

「マスターはこういう技術系も強いんだ…。運転技術もすごいけど、自分で車を改造したり、ここ最近はアークスの決戦兵器A.I.Sも技術部に掛け合って改造してるとか。」

カーブに揺られながらもシノンに説明するクロ。

「安心しろ。一度も事故ったことないだろう。」

「そりゃマスターの腕は信用してるけど…。こうもいきなりだと…!」

「はぁ…。」

あきれた声をだし、ため息をつくシノン。少しずつ慣れてきたクロに相変わらず鼻歌交じりのオキ。

「…つけられてるな。」

「え?」

シノンがその言葉を聞いてすぐに後ろを振り向いた。

高速道路を走るオキの車の後ろには、一台のバイクが少し離れて走っていた。

「あいつ、ルブランからずっとつけてきている。俺の運転についてこれるとはいい度胸じゃねーの。」

オキがパチンと手元のスイッチを弄った。次の瞬間、車のエンジンはより甲高い音を立て、更にはマフラーから火が噴きだした。

「しっかりつかまってな!」

キィィィィィン!

先ほどの音とは違う甲高いエンジン音。オキはリミッターを外しスピードをより上げた。

「よっと。」

『オキ。そこの出口向かって。下道で案内する。』

「あーよ。」

唸り声をあげるタイヤをよそにオキは涼しい顔で車を操る。クロとシノンは二人で一つのシートに座っているのでお互いの身体がぶつかり合いうまくバランスが保てない。

「…まいたか。」

バックミラーを見たオキは先ほどのバイクがいない事に気づいた。

リミッターを戻し、最初のスピードに戻した。そのころにはクロもシノンも慣れていた。

「誰かしらね。」

「さぁな。ジョーカーたちはともかく、俺は恨まれてる量が多そうだからな。」

「どういうこと? マスター。」

シノンはあぁと納得してしまった。

「この人はね。このゲーム内では結構有名よ。首領と書いて『ドン・ペルソナ』。白のコートに銀色の超高レアのマシンガン種、トンプソンシカゴタイプを持ったマフィア姿の男。それがこの人。仮面つけて一緒に戦うチームと一緒にいるからと聞いてたけど、あの人たちが…。」

「そ、『ザ・ファントム』。ジョーカー率いる身内だけで集まったチームさ。あそこにはいなかったが他にもパンサー、クイーン、フォックス、ノワール、モナがいる。ああモナはゲーム内にはいなかったな。外だけの存在だ。」

オキが説明する内容は、もともと興味あって始めたオキが偶然トンプソンを手にしたので、マフィアスタイルで傭兵をやっていたら、ある日依頼をしてきたナビと仲良くなり、彼らのチームに正式に入ることにした。彼らは銃の扱いをしてみたいという話で始めたらしいが、ジョーカーをはじめとするメンバー全員はかなりの腕前を持っていた。とはいえそこまで積極的に戦うのも目的ではないのでそこまで大きなチームでもなく、中央エリアから離れた場所に拠点を立て、ひっそりと活動していた。

オキは相変わらず傭兵としてのプレイを変えなかったので、仮面の首領、『ドン・ペルソナ』と名乗るようにしたのがきっかけで、名前が売れるようになったという。そのため、賞金や傭兵として雇われる金額目的の為に多くのプレイヤーを葬り去ったので、オキは結構あちこちに恨みを買っているようである。

「ふーん。ま、そんなことはどうでもいいけど。ところで…。」

クロが目を細めながらオキを見た。

「あ?」

「あの子はどういう関係? かなり懐いてたけど。シリカちゃんしってるの?」

「あぁ。ナビか。いい子だろ。どっかの六芒の誰かに似て、元気あるときはあのバカによく似てんだ。そこが気に入った。まぁあっちはナビほど頭がよくて、人見知りなんかしないけどな。」

『うっさい! バカ…。』

すねた声でナビの声が聞こえたオキはスマンと一言だけ謝った。

「ま、別にいいけど。マスターはいつものことだし。」

「そういえば…。」

シノンが何かに気づいたのでオキに質問した。

「オキは仮面つけて戦わないの?」

「名乗り始めた時は付けたんだが…視界悪くてね。やめた。」

その言葉を聞いてシノンとクロはお互いに顔を合わせてクスリと笑った。

キィィ…

ブレーキ音を出して薄暗い黒い塔の真正面に付いたオキ達。

「到着っと。30分前。何とかなったな。」

「さすがに中央エリアから遠くない? あそこ。」

シノンが塔についているコンソール機械を操作しながらオキに聞いた。

「結構遠かったね。SAOの時みたいに転送はできないんだ。」

クロもシノンの横に立って、コンソールを弄りだす。

「仕方ねーだろ。あ、その欄を選んで…住所はどうすっかな。オラクル船団、アークスシップラグズとでも書いとけ。後で菊岡のおっさんに話通しとく。…あいつらがあの店気に入ってんだからよ。ちなみにこの世界は妙な変なところにリアル思考だから移動は車とかバイク、中には馬ってのもある。つまり足つかえってこと。」

ため息をつきながら登録方法を指示するオキ。

その時クロが背後に何かの気配を感じた。

「だれ!?」

うしろを振り向くが誰もいない。

「ん? 誰かいたか? 索敵範囲には誰もいないみたいだが。」

オキも索敵スキルを使うが、何も引っかからない。

とはいえ、SAOみたいに強力な索敵は出来ず、近辺のみの索敵なのであってないようなものだが。

「たしかにそこに・・・。おかしい。気配はあった。」

「クロがいうなら間違いないだろうな。とはいえ見当たらない、か。ふーむ。姿隠しと気配遮断系のなにかでももってんのか? しかし、まぁいいや。特に襲撃とかもなさそうだし。シノン、明日ファントムのメンバーと情報共有とBoB開始後の動きを打合せする。どうする?」

シノンは横に首を振り、申し訳なさそうにした。

「ごめんなさい。明日は用事があるの。」

「そうか。無理は言わん。だったら夜にでもあっちで話そう。」

あっちとはALOの方だ。

「了解したわ。じゃあ明日の夜ね。場所はいつもの場所でいいの?」

「ああ。うちでいい。」

それじゃあとシノンは手を振ってログアウトした。

「じゃあ俺は車返してくるわ。」

「ボクも付き合うよ。帰り道は安全運転で。」

「へいへい。」

やる気のないオキの返事だったが、なんだかんだ言いながらも安全運転で再びルブランへと戻っていった。

「ところで、マスター。BoBって何。」

「あー。」

そういえば説明するの忘れてた。オキは運転しながら、BoBについての説明を入れるのだった。




みなさまごきげんよう。
まずは、第1部の感想を頂いた方々。ありがとうございました。
多くの皆様に読んで頂けていていたことを改めて認識し感謝の気持ちでいっぱいです。
これからもよろしくお願いいたします。

さて、今回のお話で出てきたファントムメンバー。
わかる方はいらっしゃるかもしれませんね。はい、ペルソナ5のメンバーです。
時期的にはペルソナ5の事件解決から半年以上がたった時期と思ってください。
ジョーカー達の力もオキは気づいてます。
双葉ちゃんカワイイ。

では次回にお会い致しましょう。


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第96話 「惑星スレアのペルソナ」

『BoB』。最強のガンナーを決める大会、バレット・オブ・バレッツ(BoB)の略称だ。

GGO、ガンゲイルオンラインはニホンではなく、海外で運営されるVRオンラインだ。そのため規制が甘く、大会などででる商品もリアルマネーが出される場合が多い。特にこのBoBはGGO内でも最大の大会だ。賞金額もかなり高い。

「ふーん。で? それとデスガンの関係性は?」

「まぁ待てって。もう少しで到着するから。」

オキとクロは日の落ちる間際の夕方過ぎ、薄暗い狭い路地裏を歩いていた。

オキは濃い紅色のジャケットに白のシャツ、ジーパンというどこから見ても一般人の服装で、それでも相変わらずハット帽は外さない。

クロは黒いシャツ、黒いパーカーに黒いズボン。白のベルトを斜めにかけたりジャラジャラした装飾を付けたりとまさに厨二病スタイル。一応細めの黒縁伊達メガネをかけて左右色の違う、白と琥珀色の異瞳は隠していた。

「にしても誰も気づかないもんだねぇ。」

「それ相応に合わせたんだから気づくはずがない。」

彼女のキャスケットに帽ついている青いリボンが風になびいた。

「なに?」

オキがそれを見ていると不機嫌そうにクロが睨み付けてきた。

「いんや? べつにぃ。」

ニヤニヤとした顔で見ていたオキ。実は最初は帽子をかぶってなかったが、オキから「可愛げがまったくない」との理由でリボン付きの白いキャスケット帽が追加された。普段から服装にかわいさ等求めない彼女からすれば小さなリボンでも違和感があるのだろう。

「にあってんじゃね?」

「むー。」

ふくれっ面になりながらオキの先に進むクロ。なかなか珍しい光景なのでオキは楽しんでいる。

そんな彼女が少し遠くを見ると高層ビル群が立ち並び、上空からもぎゅうぎゅうに敷き詰められた建物たちが彼女の瞳に映っていた。

しかし今歩いている場所は古い建物が並び、高さもそこまで高くない。せいぜい4,5階がいいとこだろう。

「さて、ついたぜ。本家本元、『ルブラン』だ。」

古臭い建物たちの中に一つだけあった雰囲気のある喫茶店『ルブラン』。GGOの中にあるヤツではない。こちらが本家。つまり本物の『ルブラン』だ。

カランカラン

「いらっしゃい。ん? お、来たな?」

「どんも。おやっさん。」

オキが軽く頭を下げ挨拶をした。少し髭をはやしたダンディな背の高いすらりとした中年男性がカウンターにてタバコを吸いながら立っていた。

「オキ! えっと…ク、クロノス…もきたな。」

オキが来たことに気づき、ぱぁっと明るい笑顔を見せたと思ったら、クロの姿を見てすぐさまオキの影に隠れた少女。

「ようフタバ。話の通りクロもつれてきたぜ。あいつは?」

「オキさん。」

オキが客のいない店の中をキョロキョロと見渡しと同時に奥にある階段からメガネをかけた青年が降りてきた。

「今日は客もいない。もう店じまいとするから好きに使いな。」

微笑みながらタバコに火を消す店主。

「すみません。ありがとうございます。」

「いいってことよ。大事な話があるんだろ? 双葉から聞いてる。」

エプロンを外し、テーブルに座るようにオキ達を招いた。

「オキはアイスコーヒー、ブラックだよな。彼…ん? 彼女か? どっちがいい?」

クロの事を見ている。クロはきょとんとした目で店主を見ていた。

「ああ。同じアイスで。ミルクシロップは多めで。」

「あいよ。」

店主、双葉の父は一度店の外に出て看板をひっくり返し再び戻ってきた。

その間に上の階から多くの青年と女性が降りてきた。

「オキさん。お久しぶりです。」

「ごきげんいかがですか?」

「俺は数日前にあったばかりだがな。」

「えっと…。」

クロが困っている。それもそうだ。オキの知り合いとはいえ、ここは惑星スレア。星の住民と深く接触したのはこれが初めてである。

「紹介するね。クロ、こちら『ザ・ファントム』のメンバー。リーダーはこっち。ジョーカーと呼んでやってくれ。ちなみにカウンターの向こうでコーヒー用意してくれてるのは佐倉惣治郎さん。ここの店主で双葉のお父さんだ。」

「よろしく。」

「おう。よろしくな。」

カウンターの向こうからも笑顔で手を振る惣治郎。

先日であったばかりのジョーカーをはじめ、先日いなかったパンサー、フォックス、クイーン、ノワールをオキは紹介した。

「…あれ。そういえばもう一人いなかった? たしかモナ?」

「俺の事だな? 俺の名前はモルガナだ。よろしくな。…おい。オキ。これ聞こえてるのか? 実は聞こえてないとか言ったら怒るぞ。」

カウンター席の一席に座っている一匹の黒猫がクロに向かってしゃべった。

「この星の猫もしゃべるんだ。ん? 猫? 猫…。」

クロは少しだけいつもより目を開いてモルガナを見た。

「猫じゃねぇ! モルガナだ! …え? 俺の声、聞こえてんのか!?」

「聞こえるもなにも。君、しゃべってるじゃん。別にしゃべる猫なんて不思議でもなんでもないけど。ねぇマスター。」

目を細くし、ため息をつきながらあきれ顔でいうクロにオキは苦笑気味だ。

「なはは…。あーまぁ向こうにはニャウがいるが…。ここまでかわいげはないぞ。」

「かっこいいと言ってほしいな。」

モルガナがドヤ顔でいう。

「どうやらモルガナだけが不思議な個体みたいでな。」

オキがそういうとクロはじっとモルガナを見つめた。

「よ、よせよぅ。照れるぜ。」

恥ずかしがる猫。しかしクロはじっと彼の奥底まで見つめた。

「ふーん。面白い体してるね君。こういうのもいるんだ。猫の身体を持った奇跡の存在。へぇ。」

一人納得しているクロ。よくわかっていないのはコーヒーとカレーライスを持ってきてくれた惣治郎だった。

「ん? なにが奇跡の存在だ? こいつか? あーそういや以前なんか話してたな。あれだろ? 認知世界の存在、だろ?」

「大体あってる。なんだお前。なんでわかった!」

驚いているモルガナや周囲のメンバー達。一部メンバーはオキを見ている。

「一応言っとくが、モルガナ含めお前たちの話はほとんどしてないぞ。話したことはGGOで関連する事だけ。お前たちがやってきたっていう戦いや、裏の世界の事は何も話してないぞ。こいつはな、そういうモノが見える上に扱える存在なんだよ。簡単に言えばアークスの中でも突然変異個体ともいうべきか。そんなとこ。」

実際の所クロが本当にアークスの突然変異個体なのかどうかはオキは分かっていない。わかっているのは本人と、わかってそうなシンキだけ。これもまたシンキと同じで不思議な存在であり、オキはその出生を気にしないし気にしてない。知るつもりもない。

「ってわけで、話は戻して。デスガンの話に戻そう。」

「おい双葉。俺は戻ってるぞ。オキ、ゆっくりしていけ。お連れさんもな。…あー、戸締り、頼んだぞ。」

「了解だ!」

ビシっと敬礼するナビこと双葉。

「さって、さっきの話の続きだな。クロにはどこまで話したっけか。」

BoBとデスガンの関連性。そうつぶやいたクロに対しそうだったそうだったと手を打ったオキは続きを説明した。

「これはジョーカーたちが持ってきてくれた情報なんだが、どうやら先に死んだ、いや殺された奴らは前回のBoB優勝者であり、片や準優勝者だったそうだ。そして二人とも共通することが『GGO内にいるプレイヤーの大半に恨みを買っている事』。」

「恨み?」

そう、といってオキはコンソールを出してクロへと情報を渡した。ジョーカーたちザ・ファントムのメンバーが集めた情報をオキがアークスが扱える情報へとまとめ直したものだ。

「相変わらず便利だなそれ! 私もほしいぃ!」

オキの隣にいる双葉が目をキラキラさせながら覗いている。

「ふーん…。卑怯な奴だったんだ。」

そこに載っていたのは殺された二人は嘘の情報を流し、前回BoBで勝てるようにライバルを減らし、かつ相当なレア品で身を固め結果、優勝と準優勝したというやつらだった。スレアのネット上では『ざまぁ』とか『これこそ、いんがおほー』とかが書かれており、前回のBoBトップランカーメンバーが狙われているという情報も各地に流されているらしい。

「今のところ、恨みによる殺害が可能性が高い。」

「なるほどね…。あ、カレー美味しい。」

クロがカレーを一口食べた感想は『美味しい』の一言に尽きる味だった。

「でしょ!? 惣治郎さんのカレー、すっごくおいしいんだよねー。私大好き!」

パンサーと紹介された金髪のツインテの美女が笑顔でカレーを食べていた。

「私も好きかな。たしか、双葉ちゃんのお母さんが考えたレシピなんだよね。」

クイーンが双葉に聞いた。双葉は大きく首を縦に振った。

「ああ、そうだぞ。お母さんが考えたレシピだ。私もいまその味を出せるように修行中だ。」

嬉しそうにする双葉。気に入ったのかクロは手が止まらずに何度も口にカレーを運んでいた。

「ここまで美味しいカレーは初めてだ。君の母には感謝をしたいね。伝えておいてくれ。」

クロがそういうと双葉はちょっと複雑な顔をして頷いた。

「う、うん。言っとくよ。」

「あー。クロ、双葉の母親は…。」

チラっと双葉を見たオキがフォローしようとしたが、双葉が首を振って自分から説明した。

「いいよ。私が話すから。お母さんは、殺されちゃったんだ。だから今はもういない。」

「そうだったのか。すまない。」

申し訳ない顔で謝るクロ。

「ううん。大丈夫さ。それに今は惣治郎がいるから。」

はははと笑う双葉だが、周囲の雰囲気は先ほどの明るさとは違ってあまりいい感じではない。

「…オキさん。」

「ん? ああ。そろそろ続きと行こうか。こんな話のあとで申し訳ないが、相手の殺し方だ。」

ジョーカーの合図でオキは話を切り替えた。

「クロならわかったはずだ。いきなり死んだという現象が。」

「え? ああ。うん。最初に見せてもらった男。いきなり時間が切れた…って説明すればいいかな。」

「そうだな。」

クロの目で見えたのは最初に死んだ男ゼクシードの生きている時間が急に止まった事。急に止まる事ということは何かしらの外傷、もしくはそれに近い原因があるはずだ。だが、彼の場合見た目ではそれがない。

「心臓麻痺。僕には彼の心臓が急に止まったのが見えた。」

「それだ。いきなり心臓麻痺が起きる身体でもなかったそうだ。となると…起こす手段を相手が持っているということだ。」

「そこからはこちらが話そう。」

ジョーカーが手を挙げた。周囲のメンバーも顔がこわばる。

「まずどこから話そうか…。」

彼が説明したのは不思議な物語。しかし現実に起きた殺人事件。

認知の世界『パレス』そして『メメントス』を舞台に彼らが戦ってきた話だった。双葉の母親もその陰謀に巻き込まれ殺されてしまった。

「ペルソナ…。」

説明を受け終わった後、マスターの顔を見ながらゆっくりとつぶやいた。

「偶然だ。俺達とは何も関係ない。彼らの不思議な能力は『ペルソナ』からきている。」

事件が終わった後も認知の世界を使って悪さをする人が出ないようにいろいろと動いているらしい。

『ペルソナ』彼らの能力。自らの仮面を剥ぎ、自分を認めることで覚醒した能力。認知の世界でしか使えないらしいが事件が終わった今でもその能力は健在。特にジョーカーは普通なら一人に付き一つのペルソナを持つはずが数多くのペルソナを持っているという。彼曰く『ワイルドのアルカナ』という立場らしく、かなり珍しいと言われたそうだ。

「ま、力とかそんなのはどうでもよくて…。」

オキが言いたかった事それは

「その認知の世界には、もう一人の自分が存在する。それが死んでしまうと現実の世界の自分にも影響して生きていくことが出来なくなるってことだ。」

「死に方は心臓発作が起きるように見える。実際死因もそうなる。今回のケース、似ているんだ。」

「とはいえ…。」

ジョーカーの説明後、モルガナが言いにくそうに声を上げた。

「問題はメメントスやパレスの力を感じないんだ。以前その世界に入れたのはジョーカーの持っていたアプリのおかげ。俺は一人で探し当てることもできるが…今のところその感じはない。となると…別の方法と見るのが妥当か。」

ふーむと皆で考える。しかしその後もあれこれと論議したがこれといった答えは出なかった。

「カレー、美味しかった。後で店長さんにお礼いっといて。」

「うん。クロまたな!」

「クロノスでいい。」

双葉の笑顔で見送られ、オキとクロはルブランを後にした。

キャンプシップ内で今後の動きを話し合う二人は、一度ALOへと向かうことにした。

「ってわけで、デスガンを直接捕まえた方が早いと思ったから捕まえることにしたわ。菊岡のおっさんにも手伝ってもらうことになってる。」

「相変わらず唐突な…。」

「面白いことやってるねぇ。」

ハヤマとコマチはため息をつきつつも、すでにあきらめており、ミケは何も聞いていない。

ALO内の中心部にある都市の一角。その建物すべてがオキ達のギルド拠点として運用されている。

その最上階にオキとシリカの部屋があった。今日はキリト、アスナをはじめとするスレアのメンバーとオキ、ハヤマ、コマチ、ミケ、シンキ、クロ、アインスのアークスメンバーが集まっていた。

オキが今の現状とやろうとしている事を説明。明日から始まるBoB参加を話した。

「ま、死ぬことぁねーから安心しろ。」

「それはまぁ心配ないけど…。」

キリトが苦笑しながらオキを見た。

「オキさん達はいいとしても、シノンは大丈夫なのか?」

「私? 大丈夫。オキさん達が守ってくれるから。ね?」

かなりの信頼があるようだ。それともプレッシャーをかけているのか。

それでもオキはどちらでとらえようとも彼女に指一本触れさせる気はさらさらない。

「任せろ。一緒に動くからには守ってやるさ。」

「オキさん。」

心配そうに見つめてくるのはシリカだ。彼女の肩に乗っているピナもこちらをじっと見つめている。

「安心しろ。心配すんなって。念には念をいれて今回は動くさ。相手の素性がわからない以上、保険はかけるさ。シノン、明日は会場で会おう。」

「ええ。了解したわ。」

そういってオキが立ち上がった。

「どこか行くの?」

「ああ。明日、予選だしな。クロの武器調達しねーと。おら、GGOに行くぞ。」

「え?」

相変わらずの急な行動。オキに首根っこ捕まえられて引きずられながら涙を流すクロにその場の皆が合掌した。

「もう。急すぎる。」

「フヒヒ、サーセン。っと…ついたな。」

GGO内の中央区域にある大きなビル。

「ここらへんで最も大きなガンショップだ。新品から中古品、なかにはジャンク品まで何でもござれ。射撃場からゲームコーナーまである。」

「へぇ…。」

扉を通り過ぎ、中に入ると壁という壁にたくさんの銃が並んでいた。

「一階はその時期のおすすめと新商品。中には特集とか言ってセール品も並ぶ時がある。あとあっちはゲームコーナー。」

「ゲーム?」

オキが何かを思いついた仕草で手を叩いた。

「資金の足しにでもするか。クロ、ついでだからGGOでの動きも説明しよう。こっちだ。」

オキが連れてきた場所は薄暗いビルの端。そこに木製の家が建っており家の中にはコインのようなものがびっしりと入っているのが見えた。

「だぁぁぁ!」

一人の男が知人と見られる男たちに囲まれ、ゲームをプレイしていた。

「お、ちょうどやってるやつがいるな。見てみな。」

家に向かって柵のある一直線の道を走って進んでいた。距離は約20~30mほど。

『HAHAHA! カモン!』

家の前に陣取っているのはカウボーイの姿をしたロボットが彼に向かって銃を撃っていた。

「ああやって撃たれた弾をよけて、あのロボットに触れることが出来れば、あそこに書いてある数字の金を手に入れることが出来る。おーお。こりゃまたたまったなぁ。」

そこにはかなりの桁数の数字が電光掲示板に書かれていた。

ガガガン!

3連続の銃声。走っていた男は避けることが出来ずに一発体にあたってしまった。

『ユールーズ! HAHAHA!』

大笑いをするロボット。悔しがるプレイヤーは柵の外へと出て行った。

「そんじゃ久々にやりますかね。」

オキが前に出ようとした時、クロがオキの前に出た。

「マスター。僕がやっていい?」

「お? いいぜ。おら、おめーらどけ。」

悔しがる先ほどのプレイヤー達をどけるオキ。一度睨み付ける男たちだったが、オキの姿を見てすぐさま道をあけた。

「ドン・ペルソナだ…。」

「げ、東のマフィア!?」

「おいおいまじかよ。クリアが見れるぞ!」

「ちくしょう。また持って行かれるのか。」

口々にいう男たち。さらに店にいたほかのプレイヤー達も少しずつ集まってきた。

「マスター、人気ありすぎ。あと、また?」

「なはは…。以前初めてこのGGOに来たとき、資金調達はコイツでやってたからなぁ。」

なにやってるのとつぶやいたクロを柵の中に押し込んだオキは後ろから説明した。

「いいか? 撃たれる直前に予測線、バレット・ラインという線が一瞬見える。その線が弾の軌道だ。だが気を付けるのはその線通りには弾は飛んでこない。若干のずれが生じる。まぁ俺やお前ならそんなの無くても避けれるだろう? おらいってこい。…力はつかうなよ。見るだけにしろ。」 

「了解、マスター。」

ニヤリと笑ったクロの後ろで、オキがコインを一枚機械にいれ、ロボットが動き出した。

『HAHAHA! カモン!』

「…っふ!」

地面を蹴り、一気に距離を詰めるクロ。それに対し、ロボットは銃を乱射してきた。

ガン! ガン!

「そんなもの!」

クロは瞬時に左右に移動して避け、更に距離を詰めた。

『シット!』

リボルバー式の銃を素早くリロードしたロボットは先ほどよりも早く連射をする。今度は3連発。さらに3連。それらすべてをまるで踊るように避けるクロ。

「おおおお!?」

「おいおい! あの嬢ちゃんやるぜ!」

「すっげぇ…いくらバレット・ラインが見えてるとはいえ…。」

『ファッ○ン!』

更にロボットの撃つスピードは速くなった。今度は6連発。銃に入っている弾すべてを一気にクロへと吐き出したのだ。

「ふん!」

クロの目には弾がどの方角へ何発飛んでいるかがゆっくりとした動きで見えていた。後は自分がどう動けば避けれるか。

クロはスライディングですべての弾を避けた。

距離はあと少しの所まで。ここでロボットは持っていた武器をホルスターへと戻し、どこから出したのかマシンガンを取り出し、クロへと狙いを定めた。

『チィィイイ!』

ガガガガガガ!

マズルフラッシュがクロの目の前で光り輝いた。スライディングしていたクロにマシンガンを乱射したロボットだったが、クロが目の前にいない事に気づいた。

『ワ、ワッツ…!?』

「バンってね。」

クロはスライディングから一気に飛び上がり、ロボットの上を飛び越え後方へと回り込んでいた。

『NO…NOOOOOO!』

頭を抱え叫ぶロボット。直後に家の扉が開き、多くのコインが外へ飛び出してきた。

「「「おおおお!!!」」」

それを見た観衆たちは大騒ぎ。

「すげぇぇ! さすが東のマフィアのとこだぜ!」

「見たことないけどかっけぇぇぇ!」

「だぁぁぁ。やっぱ持って行かれたー!」

「つーか、あの子かわいくね?」

「女の子かな? 男の子かな?」

周りの騒ぎようをみてオキは怒鳴り声を上げた。

「おら、てめぇらどかんかぁ! 邪魔だ!」

その一声で周囲にいたプレイヤー達は一瞬で逃げて行った。

「まったく。マスターの人気すごすぎ。」

「しらねーよ。暴れてただけだ。」

ハンドガン系がいいといったクロをハンドガンのあるコーナーへとひきつれてやってきた。あれこれと持っては構え持っては構えとやって選んでいる。

「セミオートがいいのか? リボルバーはいいぞー。弾づまりおきねーし。なにより渋い。」

オキは自分の持っているリボルバータイプのハンドガン『S&W M29』をクロに見せた。

「うーん。僕はこっち系の方がいいかな。…ん?」

クロが少し高い位置にある二丁の拳銃に目を付けた。

「へぇ。それに目を付けるか。」

クロが手にしたのは『DE.50AE』。アクション・エキスプレス弾を使用するセミオートマチックの大口径マグナム銃だ。

しかもそれを二丁。普通のプレイヤーならいくら破壊力があるからと言って装填数の少ないデザートイーグルをサブウェポン程度でつかうとしかあまり思わない。しかし彼女はメインで、しかもダブルハンドで使用しようとしているのだ。

「ま、お前なら問題ないか。」

カラーリングを白と黒に変え、購入。念のために予備のナイフも買っておけというオキからのアドバイスからタクティカルナイフを選び購入した。

「服も変えてみた。」

「ほお。」

普段、アークスの時に来ている様々な装飾がされている大き目のローブとは違い、白のロングコートを羽織った下に、黒のすらっとしたシャツとパンツスタイルでオキに合わせて着こなした。

「いいんじゃねーか? ついでにリボンでもつけるか?」

「…やめとく。」

はぁとため息をついたクロはなんだかんだで楽しそうにオキの銃についての説明を聞いているのだった。




みなさまごきげんよう。
FGOでCCCコラボが確定し、BBちゃん配布で喜びの悲鳴をあげながらこれを書いている私です。
連続のノッブイベントが終わり、ようやく落ち着いたと思ったらまさかのCCCコラボ発表。
いやー止まりませんね。

さて、GGO偏もBoBに進みます。ここから相変わらずのチート級の能力で大暴れ。
P5のメンバー? ただ出したかっただけです。特に伏線とか何もありません。ご了承ください・・・。

では次回にまたお会い致しましょう。


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第97話  「バレットオブバレッツ」

中央区総統府の地下。この日の為に力をつけてきたガンナー達が『最強と賞金』を目当てに集まっていた。

壁につけられた多くのモニターはまだ暗く、光はついていない。大会開始まであと2時間も前だが、周囲にいるプレイヤー達は大いに盛り上がっていた。

「今年こそは勝ちに行く。」

「へへへ。負けられねーぜ。」

「はーい! 今の所のオッズはこちらぁ! さぁはったはった!」

周囲全員がライバル。ピリピリとした空気が広がっていた。

「ついたついた。どっかあいてる席ねーかなぁ。」

「人、多すぎ。落ち着くところがいい。」

「相変わらずの人の多さね。私もクロに賛成。奥の方見てくるわ。」

「俺達も見てくる。」

目立つ白のコートに白のスーツ。ハット帽まで白と誰もが目を引く男を筆頭にエレベーターから降りてきた。

「ド…ドン・ペルソナだ!」

「ドン・ペルソナがきたぞ!」

「東のマフィアだ! まさか参戦する気か!?」

「おいおい。今年のBoBやばいぞ! あの東のマフィアが参戦だってよ!」

声が声をつなぎ、オキ達がその場に現れたのが一瞬で広まった。

「マスター…人気。」

「いうな。もう何回目だそれ。」

あきれた顔をするクロに対し、これまた呆れた顔で返すオキ。

エレベーターの出口から反対側の遠くにナビが手を振る姿を見たオキは中央を突破して進もうとした。

その中央にテンガロンハットの男が同じような服装の男たちに囲まれ座っており、オキが来たことに気づいた。

「んん? おお! ペルソナの旦那じゃないか! なんだい、あんたも参加かぁ~?」

声をかけられたオキは誰だとばかりに睨み付けたが、すぐに笑顔になった。

「あ? おお! ギャレットの旦那! 元気かー?」

「誰? このおっさん。」

クロがギャレットを睨み付けると同時にその言葉に怒ったのか周囲のプレイヤー達が立ち上がり、クロを睨み付けた。

しかし、ギャレットはそれを手で止め、すぐさま座らせた。

「うちのモンが、すまないねぇ嬢ちゃん。ペルソナの旦那。勘弁してくれ。今日はさすがに皆虫の居所が悪いようだ。」

「別にかまわんさ。うちのも口が悪くてすまんね。」

ふーむとクロの顔を覗くギャレット。クロはオキの後ろに隠れた。

「おまえさんの…これか?」

にやりと笑ったギャレットは小指を立ててオキに見せる。だが、オキは首を横に振った。

「いんや。こいつはそんなんじゃねーよ。そうだな。家族みてーなもんだ。大事な仲間だ。それに恋人は別にいるしな!」

はっはっはと笑うオキに対し、周囲からは爆発しろだの死ねだの言葉が飛び交っている。しかしそれを言っている本人たちは先ほどの緊張した感じではなく笑顔で冗談半分で言っているようだ。

「そうかい。嬢ちゃん、大事にされてるようだなぁ。よかったじゃねーか。」

「ふん…。」

顔を赤くするクロに微笑むギャレット。

「そういやおまえさん…。前に会ったとき、今回の大会は興味ないと言ってたじゃないか。どうした。」

「いや…ここじゃちょっとな。実は…。」

顔を近づけて耳打ちしようとするオキの後ろから女性の大きな声が響いた。

「おやおや、ペルソナの坊やじゃないか! あん? なんだい、ギャレットもいっしょかい。」

「おら道をあけんか! 姐さんのお通りだぞ!」

オキが声をした方を振り向くと、顔に大きな傷のついた、貫録あるオーラを見せる(一部が)大きな女性がこちらへと向かってきていた。

「み、南の海賊…ドレイクだ!」

「西と東のマフィアがそろってるのに…南の海賊まで…!」

「姐さん。お久しぶりです。」

オキが深々と頭を下げた。クロはそれをみて目を見開いている。オキがここまで頭を下げる人もなかなかいない。

「おやまぁ。これはかわいらしい子を連れてるじゃないか。気まぐれに来てみるもんだねぇ。」

コートを肩で羽織り、スーツの大きくはだけた胸元がセクシーな女性。ドレイク。

「姐さん、紹介します。俺の仲間で家族のクロノス。クロ、こちらは俺がGGOプレイしている初期時代にお世話になった姐さん、ドレイクの姐さんだ。このGGOの南の港を拠点に活動している。別名南の海賊。あとこっちのおっさんはギャレットの旦那。俺とは反対の西側でマフィアスタイルを貫いてるから西のマフィア。」

よろしくと二人がそれぞれの挨拶をすませる。

「ん。ってことは北もいるの? マスター。」

クロの質問にオキが答える前に、会場の中心にいるこの異様な空間へとさらにもう一つの集団が集まってきた。

「Exactlyだよ君ィ。いい感をしてるね。さすがオキ君の仲間だ。」

クロが後ろから聞こえた声に振り向くと、ダンディな白い髭の男性が立っていた。その男の目をみたクロはゾクリと背筋を凍らせる。

この男はいままで見たきた中でも異常なまでに自分の中で警鐘が鳴り響いている。クロはすかさずマスターの後ろへと隠れてしまった。

「おやおや。教授。あんた、極端に嫌われたねぇ。」

「やっぱ怪しいんだよ。あんたのその笑みは。」

大笑いするドレイクとギャレットに対し、少しさみしそうな顔をする中年の男性。

「おいおい。とうとう北の商人まで現れたぞ。」

「いったい何が始まるんだ!?」

「第三次大戦だ!」

がやがやと騒ぎ出す周囲の無関係なプレイヤーに対し、オキが切れた。

 

ガンガンガン!

 

M29の銃口から巨大な銃声が鳴り響いた。その音に反応し、周囲のプレイヤーの声がピタリと止まった。

「うっせぇぞおめーら。静かにしやがれ。…ギャレットの旦那、姉さん、教授。すまないがこっちにきてくれるか?」

オキが遠くから様子を見ているナビに案内するように目で合図した。

 

 

 

「ほう。これはいい場所だね。」

「なかなかいいじゃないか。失礼するよ?」

「おう。入り口塞いでろ。だれも近づけさせんなよ。」

教授と呼ばれる男にドレイク、ギャレットが案内された広めの部屋へと入り、それぞれの部下たちが出入り口をふさぎ、誰も近づかないようにした。

「おや! シノンじゃないか! 元気だったかい!」

「ドレイクさん。お久しぶりです。そちらもお元気そうで。」

先に来ていたシノン、そして見た事のない男性プレイヤーが座っていた。ザ・ファントムのメンバーは隣の部屋に陣取った。

「さて、お話とはどういった話かね?」

教授が早速話を聞こうとした際に、オキが待ったをかけた。

「すまん教授。話の前に…あんた誰だ?」

いきなり多くの人数が入ってきた関係で目を丸めている男が一人。

「あ…えっと…ぼ、僕は、シュピーデルと言います…。」

「私の友人なの。ごめんなさい。近くにいたみたいで、声をかけられたから。」

どうやらシノンの友人らしい。そうなるとあまり関係を持たせないほうがいいだろうとオキは思った。

今後デスガンとやりあうことになる。そうなるとあまり力のない一般人を巻き込むわけにはいかない。

「すまんな。これから大事な話をしなくちゃならん。席を外してくれるとありがたい。」

シュピーゲルという一人の男はすこしおどおどしながらもオキをはじめ、東西南北の主となるプレイヤーの面々を見渡す。そして今一度シノンの顔を見て何かを決心したようにオキを睨み付けた。

「シ、シノンさんに何かしたら…僕がゆ、許さないからな!」

シュピーゲルの精一杯の叫びの後の一瞬間が空き、ギャレットとドレイクは大声で笑った。シュピーゲルはなぜ笑われているかが分かっておらず、更に困惑し、シノンは頭を抱えている。

「おーお。こりゃなにか盛大に勘違いされてるなぁ。ま、安心しろ。シノンに傷つける気なんざさらさらねーよ。どちらかというとお前さんの心配だ。」

「ぼ、僕の…!?」

「ごめんねシュピーゲル。オキさんの言うこと聞いてくれる?」

シノンは彼の肩を持ってじっと彼を見た。その顔に観念したのかゆっくりと頷いた。

「わ、わかったよ。」

そういってゆっくりと立ち上がった彼は出入り口にいる怖いお兄さんやお姉さんたちに驚きながらその場を去って行った。

「さて、改めてだ。このハット帽かぶったおっさんが西のマフィア。西の方で拠点はって活動している。こっちのセクシーなお姉さんは南の海賊、ドレイクの姐さん。南の港拠点を中心に活動している。俺とギャレットの旦那と違うのは海の上での戦いがうまい事から海賊の名を持っている。」

「よろしくな。」

さっぱりとした笑顔でクロに微笑むドレイクに軽く手を挙げて頭を動かすギャレット。そしてもう一人。白いダンディなお髭を付けたメガネの怪しい老人。

「そして最後はこのジジイ。北の商人、名前は…。」

「新宿のアーチャーとでも呼んでくれたまえ。名前では呼ばれたくないのでな。」

口元をゆがませ笑みを浮かべる老人。オキはそれをみて舌打ちをした。

「何言ってんだ教授。あんたそれただのロールだろうが。あーめんどくせえから教授でいいや。」

「新茶でもいいぞ?」

はっはっはと笑う教授だが、そのほほえみの裏には何かがあると見たクロは相変わらず警戒を解かない。

「教授は普通のプレイとは違って、北の方を拠点に幅広いネットワークでつながりを持った所謂商人。ドロップ品の武器をはじめとした装備、その他いやらしい手口で手に入れた物品を横流しする。とはいえこのジジイ戦うとくっそ強い。」

「何を言うかね。私は一度君に負けている。私は弱い方さね。」

ニタリと笑う笑みは相変わらずその怪しさをかきたてた。

「ま、怪しいジジイは置いといて、なんだかんだ言いながらも俺はこの人たちの事は信用している。この辺の中央にいるメンバーよりはな。」

その言葉を聞いてそれぞれがまんざらでもない顔で微笑む。そしてオキは顔を普段のおどけた顔から一転し、厳しい顔つきを見せた。

「では、本題に入ろう。」

「何かあったのか? あんたがここにいること自体が珍しい。」

「力になるよ。アタシはあんたに借りがあるからねぇ。」

「いままで大会に興味なかった君がここにいるのだ。面白そうな話なら私も乗ろう。」

それぞれのトップが顔色を変えた。トップクラスのプレイヤーのその顔はさすがと思える。リーダーを務めるオキに勝らぬも劣らないその顔つきにクロは納得した。

「実はな…。あんたらを信用しての話だ。口外はしないでくれ。」

オキは彼彼女らを大いに信用している。そんなに長いプレイ時間ではないとはいえ、この3人の性格から3人が人を本当に殺すとは思えない。しかも姿を見せず、卑怯な手で。

そのデスガンの情報と、わかっている事、そして狙いがこの大会の出場者の殺害が考えられることから出場を決意した事。今の所予想される殺害方法を早口でおおざっぱに説明した。

「…そんなことが。」

「っち。デスガンめ。嫌な奴だ。」

「ふむ。つまり、君はそれを捕まえる事を目的に出場するのかね?」

それぞれが感想を述べ、教授がオキへと質問した。

「ああ。別に大会にはさらさら興味はねぇ。強いやつと戦いたいと思ってはいるが、あんたら以上はめったにいない。とはいえ俺達アークスが依頼された以上は捕まえなければ…。」

「マスター。言葉。」

クロが口をはさんだが、すでに遅し。3人の目が見開いていた。

「今…おい。旦那、なんていった?」

「なんかものすごい言葉を聞いた気がするねぇ。」

「アークス。確かにそういったね。」

教授が口にしたその言葉はこのスレアに住む誰もが真新しく興味のある単語の一つ。それを彼はサラリと言ってしまったのだ。

「あちゃー…。どうすんべこれ。」

「まったく。何やってるの…。」

黙っていたシノンはテヘペロするオキを見て頭を抱えた。

「だだ…旦那。今言ったことは本当か? 冗談じゃねーよな。」

「もし坊やがそうだというのであれば…。説明がつく。異様なまでに戦い慣れている戦闘スタイル。」

「そして、何ものにも恐れぬ心。これはまた面白い話を持ってきてくれたねぇ。興味深い。」

驚いているギャレットに納得しているドレイク。そして教授は相変わらずニヤニヤしている。

はぁとため息をつくシノンは手を軽く上げた。

「一応言っておくけど、私は違うからね。アークスは、こっちの二人。」

「ま、別に隠すつもりはなかったんだがな、隠し通せとも言われてねーし。この機会だ。せっかくだから改めて自己紹介と行こうか。…ワレワレハウチュウジンダ。ギャレット、マイフレンド…ゴハァ!」

オキがふざけた姿をしたのでシノンが横腹を肘で打ち抜いた。

「ふざけない。まったく。」

あやまるオキの姿をみて目の前に座る3人は大きく笑い声をあげた。

「いやぁ…すまんすまん。相変わらず旦那は変わらないねぇ。ん? そんなに目を見開いて、クロちゃんはなぜ驚いているのかな?」

「…クロノス。」

唸るようにクロは自分の名前を訂正するように要求した。

「ま、この人との付き合いはあんたの方が長いかもしれんが、なんだかんだでこの坊やには助けられた。別にアークスだろうが宇宙人だろうがその事実は変わらない。」

「ドレイクの言うとおり。彼にはあれやこれやと何かと縁があった。私を本気にさせたのも彼だけ。そしてその後に共に食べたラーメンはとても美味しかった。私は彼の為人を評価している。誰であろうと、私の評価は覆らない。」

3人は同時にオキへと笑みを見せた。

「「「その話、乗った!」」」

クロは同じく笑みを浮かべるオキの顔をのぞいた。

「な? 面白い連中だろ? だから俺は好きなのさ。この人たちが。すまん、手を貸してくれ。」

オキが3人に頭を下げた。BoB予選開始まであと1時間を切ったところだった。




皆様ごきげんよう。
東西南北のオキを含めた主要プレイヤーの存在の設定はちょっとやってみたかった(だけ)

さて、PSO2の方はいろんな意味で盛り上がってますね。
新ボスであるエスカ。戦っててとても楽しいと思える相手でした。最近のボスはFiでは(私の腕では)戦いにくい敵が多かったですから素直に嬉しい限りです。ただ、弱体化にはちょっと賛同しかねますね。私の二世代前位の装備(未だにゲイルヴィスナーですみません防具はイザネですが。)でもリミブレ切った状態で事故らない限り二、三発は耐える事が出来ますが…最近のプレイヤーはよく床舐めますねぇ。HP盛れHPと言いたいです。死なやす。
では次回またお会いしましょう
※GWは帰省の関係で来週分はおやすみします


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第98話  「弾丸飛び交う予選」

情報の共有を終わらせたオキ達はそれぞれの動きに入った。

「俺とクロ、シノン、そしてギャレットの旦那は試合の中から。ドレイクの姐さん、教授は外から調査。クロ、さっきも言ったが…。」

「わかってる。能力は使わない。」

オキ達アークスの心身だけでも彼らスレアの人間と比較すらならない圧倒的な差がある。

特殊な能力を持つクロがそのすべてを発揮したならば、チートと騒がれるだろう。できる限りそれは避けなければならない。

「予選の内容は説明した通りだ。いいな?」

「問題ない。マスターも油断しすぎないようにね。」

拳同士を打ち合い、ニヤリと口をゆがませる。

BoBの予選はブロックごとにランダムで選出された参加者が1対1のサシで勝負する。

この会場内にいれば勝手に転送され、30秒の待機部屋へと移動。その後半径数十メートルほどのフィールドに飛ばされ、対決するというシステムになっている。

フィールドに飛ばされたプレイヤーはお互いの距離が10mほど離れ、相手がどこにいるかわからない状態でスタートする。

後はお互いがどったんばったん、大暴れして倒されたら負け。打ち勝った方が次へと進出。そして最後の一人となったものがブロック代表となり、決勝へと進むことが出来る。

「おっと。そろそろ俺か。ペルソナの旦那。負けんじゃねーぞ。」

「あんたもな。」

まず飛ばされたのはギャレットだ。周りにいる同じチームのメンバーから応援を貰いながら転送されていった。周りを見渡すと同じように飛ばされていったプレイヤーが何人かいる。

「あれ、マスター。」

「ん? どうした。」

周囲を見渡したクロが疑問を持った。

「ここには参加者と応援者がいるんだよね。ブロックは結構あるって言ってたけど、見渡した限りの人数じゃ計算が合わないんだけど。」

「ああ。ここ以外にも会場があるからな。そっから飛ばされる奴らもいる。このさらに下とか上とか。」

「ふーん。そうだったんだ。」

会場の壁に大きなモニターがいくつも映っている。その中では数多くのプレイヤー達が銃を撃ち合ったり、爆発物を使ったりと何とか勝ちあがろうと奮闘している姿が見られた。

「あ、ギャレットがいた。」

「ん? どこだ?」

「あそこ。右から二番目の…。」

クロがギャレットが映っているモニターを見つけた。オキもクロの説明で見つけることが出来た。

ギャレットが扱うはウィンチェスターライフル。オキの持つトンプソン同様、他のプレイヤー達が扱う近代の銃より古い銃だ。

「へぇ。」

クロが一言もらした。

「いい動きするだろ?」

「悪くない。」

オキが肩入れするのもわかる気がしたクロは、彼の余裕ある動きをじっと見た。

「相手方、旦那とやりあうにはちと腕と度胸がたりねーな。旦那は弾の飛び交う中を鼻歌交じりに歩く男だ。旦那が相手をロックしたら、もう勝つことはできない。」

「でもマスターは勝つんでしょ?」

オキはクロの言葉にクククと笑った。

「そりゃ当り前さ。腐ってもアークス。一般人にゃ負けられねぇな。相手が魔人や化け物っていうなら話は別だがよ。」

結果、ギャレットは一回戦目を勝ち抜いた。

「ん? 次は俺か。クロ。負けんじゃーねぞ。負けたらトマトな。」

「なんでさ!」

笑いながら転送したオキ。

「さって…準備はっと。」

念のため自分の装備をもう一度確認する。トンプソン、OK。弾薬十分に。グレネードにM29マグナム。すべて問題なし。

「始めますかね。」

30秒のインターバル後、オキは再度転送。森の中だった。

「森のフィールドか。」

木に背をついてその場にしゃがみ込んだ。

「どれ…。」

オキは目をつむり集中する。ピタリと止まったオキの耳には自分の呼吸の音と小さな風の音。そして

カサ

目を見開いてそのかすかな音の方角へとトンプソンを乱射した。

「そこだ!」

タタタタタタタ!

シカゴタイプと呼ばれる由来ともなった独特の音が鳴り響く。

「ばかな! なぜばれた!」

迷彩服を着た男が乱射された草むらから飛び出しながらM16A1を乱射してきた。

「ばかめ。その行動は予測済みだ。」

「しまっ…!」

ドォォオン!

オキの投げたグレネードが男の目の前で炸裂する。オキは必ずそちらに飛び出してくるだろうと予測した場所へトンプソンを乱射した後に予めグレネードを転がしていた。

「まず一勝と。」

爆発した煙を見ながら口元をゆがませるオキ。

モニターでその様子を見ていたクロは当たり前の出来事ではあるが少し誇らしげになっていた。

「…あれ。次は僕の出番か。」

クロの目の前に案内の表示が浮かび上がり、強制転送される。

転送された場所は四方を真っ白な壁で覆った小さな部屋。出口も窓もない。

表示されているのは秒数だけ。後20秒足らずで0になる。これが戦闘開始の合図だろう。

クロは腰にさげているホルスターをちらりと見た。白と黒に輝く銃。先日手に入れた金額全てをつぎ込み、改造に改造を重ねた『DE.50AEカスタム』。6インチバレルから10インチへとのばされた化け物銃だ。クロの小さな手には有り余る代物。

だが、アークスからすればこれでも小さい。普段はもっと大きなツインマシンガンを握っている時もある。

カウントダウンが0となり再び強制転移。オキ同様森のフィールドだ。

クロは姿勢を低くして周囲を見渡した。音もならない。風で揺れる木々の音だけが響いている。

相手が動かない可能性もある。

「っふ!」

クロは音もなく木の上へと飛び移った。木の上を歩くというのも何ら問題はない。むしろヴァーチャル世界なのによくここまで思い通りに動けるものだと感心までした。

木と木の間を移動し始めたクロの音に驚いたのか、相手がうろたえ周囲にスナイパーライフルをぐるぐると回している姿をとらえることが出来た。

「仕留める。」

上からの奇襲。あいてもまさか上から来るなんて思ってもみなかっただろう。それもそうだ。『そのような戦い方をする者はいままでにいなかったのだから』。

「なに!?」

クロの気配を察知した男はスナイパーライフルをクロへと向けるが、クロは向けられたライフルを足でけり上げ、片腕を伸ばし眉間へと狙いを定めた。

ドォン!

零距離での射撃。デザートイーグルの咆哮。かつては史上最強のハンドガンとも言われた未だに人気の高いマグナム銃。

その威力をもろに喰らった男はそのまま勢いよく吹き飛び、ノイズとなって消えて行った。

「ふん。あっけない。」

クロ、なにも問題なく1勝を手にする。

「へぇさすがアークス。負けてられないわね。」

クロの活躍する姿を見ていたシノンは自らも名乗りを上げたからにはと気合を入れ、転送されていった。

その後も4人は何事もなく予選を走り抜ける。東西のマフィアとして有名な二人とヘカートをわが身のように扱うシノンは勿論だが、オキの連れてきた見知らぬ少女があまりにもアクロバティックな動きでプレイヤー達をばったばったと倒していく姿に観戦者たちは目を奪われた。

「なんだあの嬢ちゃん!」

「すげぇぞ。なんだ今の動き! 見えたか?」

「くそ。スカートなら完璧だった。」

「さすが首領(ドン)・ペルソナの連れか。」

「つーか、かわいくね?」

注目されている事には気づいていないクロ。

予選が先に終わったオキは先ほどの会場で飲み物を飲んでいた。

「ぷっはー! やっぱコーラにタバコはうまい! …あん? あいつはたしか。」

オキが見つけたのは一人の男。先ほどシノンと一緒にいたシュピーゲルとかいう男だ。

「おい。あんた。さっきシノンと一緒にいた奴だろ?」

「え? うわぁ!? ドド…首領(ドン)・ペルソナ!?」

いきなり声をかけられ驚いたという反応だった。

「そんな驚かなくてもいいだろうに。ワイちょっと悲しい。」

「あ、えっと…ごめんなさい。そんなつもりはなかったんです。」

おどおどとするシュピーゲルを隣に座らせた。

「お前さん、たしか…。」

「シュピーゲルです。シノンさんとはリアルで知り合いで…。」

「あぁ。なるほどな。」

どうやら彼は外の世界で、銃について詳しかった彼にシノンが話しかけたのがきっかけだったそうだ。

ある銃を探していたシノンだったが、数か月前まで寝たきりとなっていた。そうSAO事件だ。

シノンはあるメディカルカプセルを使用中にあのバグ事件(75層)にてSAOとつながってしまい、巻き込まれた。

そこから半年以上彼は彼女の無事を祈ったという。

「ふーん。あのシノンにねぇ。」

「あの…つかぬ事をお聞きしますが。オキさんはシノンさんと一体どういうご関係なのでしょうか…。あ、いや気に障ったならごめんなさい…。」

あたふたとする彼をみてオキは少し微笑んだ。

「ばーか。そんなこと思うか。そうだなぁ。シノンとは…死線を潜り抜けた仲、かな。」

「え? 死線って…。まさか!」

「しー。黙っていてくれよ。」

オキはウィンクしてシュピーゲルの近くに口を寄せて小さな声で囁いた。

「そう。俺はSAOの生還者。シノンと一緒にアインクラッドを走り回った、その攻略組メンバーの一人さ。」

オキはコーラを一気にのみ、再度タバコに火をつけた。




みなさまごきげんよう。
GWは帰省後に湯布院(九州)へ旅行してました。
そんな大自然を堪能しながらもFGOにてCCCコラボ開始!
いや、すごかったですわ。ほんとにイベントかよっていう内容。先ほど(執筆後)に全てのミッションとクエストを終わらせてきました。
ボリューミーな内容でしたね。これイベントじゃねーだろ。


さて、1週間以上家を離れていた関係でPSO2がすこし出遅れ気味に。ゼイネスコレクトは現在全力で取りに行ってます。まずダブセとパルチとワイヤー、そしてアサルト。
期間もながーいのでまずはメインである4本をと思ってます。ついでにタリス。
ファレグさんとの決闘ですが、どうも私の腕が下手過ぎて下手過ぎて。
第1形態は被ダメ0で行けるようになったのですが、第2形態になるとどうしても被弾する。
やっぱ下手くそだなわたし。
「あれ倒せない奴がぷぷぷw」とか言わないでね・・・。
時間差攻撃にがてっすわ。
(ちなみにうちの魔神はしっかり全ての職で倒してました。さすが魔神。ぱねぇ)
ま、ゆったりやりますかねぇ。

ではまた次回にお会いしましょう。







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第99話 「デスガン」

シュピーゲルにSAOでのシノンとの出会い、そしてどのように過ごしてきたかを話したオキは、彼の反応を待った。

「そうでしたか…。」

「んんー? どうした。気になる事でもあるのか? それとも知らない男がいきなり出てきて仲良くしてたらなんか困るか?」

ニヤニヤしながらシュピーゲルの背中をバンバンたたいた。

「あ、いえ。そんなことは…ないです…けど。」

オキが何を言いたいかを察した彼は頬を少しだけ赤らめながら照れ隠しに頬を指でかいていた。

「ですが、SAOから帰ってきた彼女は、変わられていました。なんというか…つっかえていたものが外れたというか。」

シュピーゲルとシノンはSAOに来る前から知り合っていた。元々は彼女があるトラウマを抱えている事から、病院での療養を行っていたところ、その病院はシュピーゲルの父が院長をしている病院であり、その時に彼女がPTSD(心的外傷後ストレス障害)である事を知った。

「ああ。あの話か。」

オキも彼女本人と、シンキから話を聞いた。彼女は以前銀行強盗に巻き込まれ、その際に犯人の銃を偶然手にしそのまま誤って犯人の頭をぶち抜いてしまった。

その時からか、銃を見てしまうと発作がおき、何もできなくなってしまうようになったという。

しかし、そのトラウマもシンキのカウセリングという名のスキンシップで落ち着いたという。いったい何をしたのかは詳しく教えてくれなかったが、別に気にする事でもなかったために「そうか。治ったならそれでいいんじゃね?」とシンキに言ったっきりである。

シュピーゲルはSAO内でシンキがシノンに対して行ったこと、接していたことを何も知らない。

『そりゃ知ってた人がSAOに閉じ込められ、帰ってきたらなんか元気になってた、とかそりゃ驚くか。』

「あの…。」

オキの考え込んでいた顔を覗くシュピーゲル。

「あ? ああ。すまん。ちょっと考え事をな。そういや、うちのクロはちゃんと予選通過できたんだろうな。」

オキがモニターをキョロキョロと見渡す。

「ああ、いたいた。あいつ、俺の仲間の一人でな。クロノスっていううんだ。」

「へぇ…。あの人すごい動きしてますね。弾丸を回避しているというか…回避というより既に避けているというか…。なんか不思議な動きしてますね。その、オキさんもそうですが、どのようなビルドを組んでいるか参考に聞いてもよろしいですか?」

おどおどとしながら聞いてくるシュピーゲルにオキは別にいいよと自分のスキル表を見せた。

「え? スキル表ごと!? あ、いいんですか!?」

「あ? なんか悪いことしたか? 説明すんのめんどくせーんだよ。」

そういいながら消えたタバコを灰皿内にすりつぶし、新たに火を付け煙をはいた。

「…これは。」

「どうした。なんかおかしかったか? ユニークスキルとか無いはずだが?」

けらけら笑うオキだが、シュピーゲルは驚いた顔のまま固まっている。

「こんな振り方見たことがない…。てっきり回避型の特殊スキル振りか、STRにチョイ振りした最近はやり始めた体術振りかと思っていましたが。こんな、こんな無茶くちゃな振り方…! あ、すみません。そのいい意味でいったんです。」

「かまわんよ。はやりだとか、型とか、俺にはどうでもいい話でな。俺は俺のやりたいようにやる。だからこんな振り方になったんだ。別に後悔はしてないし、これが一番動きやすくてな。普段と同じように動けるから楽でいい。」

へらへらと笑うオキはコーラを一気に飲み干した。

「ぷっはー! かー! うめぇ。」

「あ、あの…。一つ、聞いてもよろしいですか?」

シュピーゲルはなにかを決意したような顔をしていた。

「シノンさんに…聞いた時には、詳しくは知らないと言われたので、もし知っていたらで教えてください。SAOについてです。」

オキは座っている椅子に深く座り込み、あぁと一言だけ漏らした。

「SAOの中で暴れていたという犯罪ギルド『ラフィンコフィン』についてです。」

オキの眉がピクリと動いた。

「続けてくれ。」

手を軽く振り、タバコの吸い殻を灰皿へと入れ、再度タバコに口を付けた。

「ラフィンコフィンを…知っていますか?」

「ああ。知ってる。俺の顔見りゃわかるだろ。SAOが終わってまでその名前を聞くとはな。」

オキは自分自身でも嫌な顔をしている事が鏡を見なくてもわかる。それだけあいつらとはやりあったからだ。

「ラフィンコフィンをつぶしたという人たちについては?」

「…知ってどうする。」

ふーっと煙を天井へと吐いたオキはシュピーゲルを睨み付けた。

「知りたいんです。SAOで暴れていたラフィンコフィンについては知人から聞いてます。ですが、つぶしたというプレイヤー達については詳細が分かりません。わかっているのは…イレギュラーという言葉と、攻略組『アーク’s』という人たちがいたという事だけ。」

オキは彼の目をじっと見た。

「知りたいんです。兄を殺した…ラフィンコフィンを…つぶした…プレイヤーについて。」

「そうか…。兄を殺されたか。なら喜べ。その男は目の前にいる。」

「…え?」

シュピーゲルはオキの顔を丸くした目で見た。

「俺がそのつぶした男だ。イレギュラー、攻略組のトップ。それが俺だ。」

「あ、えっと、冗談…じゃないですよね?」

言ってどうするといいつつ、足を組み、ラフコフをつぶした事を再度説明した。

あの日、ラフィンコフィンに対し、宣戦布告した事。何度もやりあった事。そして最後の殲滅。

軽くではあるが、オキが体験してきた『化け物退治』の話をした。

「あのバカ共ひっつかまえて、75層クリアして、そんでシノンと出会ったんだったかな。そりゃ知らねーよ。」

「…。」

黙ったままオキの顔を見つめるシュピーゲル。様子がおかしい事に気づいたオキはシュピーゲルの肩を叩いた。

「おう。どうした? 大丈夫か?」

「っは…。いえ、その…お話ありがとうございました。ちょっと気分が悪いので…失礼します。」

ふらふらと立ち上がったシュピーゲルはオキの居た部屋を出て、ほかのプレイヤーなんかお構いなしによろよろとぶつかりながら人ごみの中へと消えて行った。

「…ふむ。」

吸いきったタバコを灰皿へとすりつぶすオキはシュピーゲルの様子をもう一度思い返す。

「ただいまマスター。…あれ? 何かあった?」

「あ? ああ。ちょっと…な!? おい、クロちょっとこい!」

オキは帰ってきたクロの方へと目をやった時に、視界に入った黒い影が一瞬だけ遠くに見えた。

「デスガンだ。あのシルエット、間違いない。」

部屋を出るときにちょうどシノンも帰ってきた。

「ただい…きゃ! ちょ、ちょっと、どうしたの!?」

「シノン! そこで待ってろ! ちょい用事済ませてくる!」

首をかしげるシノン。その場に一人きりでポツンと立っていた。

「マスター! 間違いないの!?」

「ああ。菊岡のおっさんの情報が間違ってなければあの姿のまま、お前の後ろの遠くに見えた。間違って無い事を祈るが…。」

オキとクロは会場の大部屋から出て、総統区の地下の通路を走っていた。迷路のような通路のようにあちこちで曲がり角があるが、実はこのフロアの出口であるエレベーターと階段へは一本道であるため、いくら足が速くても追いつくはずだ。しかし

「エレベーターまで来たけど…。誰もいなかったね。」

「ばかな…。エレベーターも動いてる気配がない。あの距離ならすぐ追いつくか、エレベーターのこの場所で立ち止っているはず…階段は!?」

クロが階段のあるすぐそばの扉を開けた。扉を開けた時の音が響いた縦長の空洞をクロは上と下の音を耳で聞いた。

「だめ。時間が止まったまま。ここ、暫く誰も使ってないみた…マスター!」

ッシュ!

オキが後方からの気配をクロの声と同時に察知し、すぐさまその場へのしゃがみこみから後ろへいる者への足払いをかけた。

それと同時にオキの頭上をなにかが掠めて行った。

「おいおいおい。いきなりのご挨拶とは…初めましてだデスガンさんよぉ。」

足払いを回避し、オキから離れた相手へとM29マグナムを向けた。

クロもすぐさまオキの隣へと移動し、デザートイーグルを構える。

シュー…

全身を覆った真っ黒なマントに、見える顔には金属の髑髏の仮面、光る赤い眼。口の部分からは白い煙が吐き出された。

「…。」

何も言わずにエレベーターの前で固まるデスガンは大きな針のような武器を手にしている。オキの頭の上をかすったのはあの武器だろう。

「っち、なんか言ったらどうなんだ? それとも、ここで俺を殺すか? 俺の前に出てきたってことは、理由があるはずだろ? 恥ずかしがり屋のデスガンさん?」

デスガンはゆっくりとマントの下から腕を上げた。そして反対の手で、腕についているタトゥーを指さした。

「…笑う…棺桶。」

オキの目が見開く。ラフィンコフィンの笑っている棺桶のマークがそこに書かれていた。

「フッカツだ…。オマエ…コロス…。」

オキを指さすデスガン。初めて聞いた声は電子音声。声で相手を判断するのは難しいということだ。

「っは! 殺してみなよ! お得意のポーズがあるんだろ? ほれ、今すぐやってみろ。できるものならな!」

ニヤリと笑うオキ。クロはじっとデスガンを睨み付け、デスガンはその後ピクリとも動かない。

「オキー? クロー? どこ行ったのよあの二人。」

ぴりぴりとした空気を壊したのは一人の少女の声が通路へと響いてきた。シノンの声だ。

「シノン!? クロ、援護!」

「了解マスター!」

オキは角から現れたシノンにデスガンが矛先を向けないようにクロへ指示した。

「…っ!」

その直後だ。指示と、シノンへ気が向いた一瞬の隙をついて、デスガンはオキの真横を通過。勢いよくオキの背中を蹴り、オキを反対側の壁へと押し出した。デスガンはその間に階段への扉を開け、上へと昇って行った。

「あ、まて!」

押し出され、よろめいたオキは何とか立ち直って扉の先をみるも、上へ昇る足音がずっと響き渡っていた。

「ちぃ…逃げられたか。」

「オキ、クロ…いまの…。」

クロのガードにより、何事もなかったシノンは一瞬だけ見えたデスガンに驚きを隠せなかった。

「デスガンだ。いきなり向こうからきやがった。」

はぁとため息をついたオキは戻ろうと一言つぶやき、3人は元の場所へとあるいた。

「どこに行ってたんだい旦那! てっきり帰ったかと思ったぜ。」

その場に戻るとギャレットが部下たちと飲んでいた。

部下をどかせ、オキは再度同じ場所へとドカっとすわり、タバコに火を付け、コーラを口に含んだ。

「ぷっはー! ギャレットの旦那、予選は?」

「おお! 無事に通過さ! その様子だと、ペルソナの旦那も、そっちのクロ嬢も、ヘカートの女神も通過でよさそうだな? にしてもどこに行ってた。帰ってきたら誰もいない。あんたがここに戻るように言ってきたんだぜ?」

オキは煙をもくもくと吐き出し、先ほどデスガンとひと悶着あったことを伝えた。

ギャレットは再び、部屋の外に部下を配置。誰一人として聞き耳をたてないように指示をした。

「どういうことだ。旦那がアイツを探していたということがばれていたということか?」

「いや、違う。…あー。そういうと向こうから顔を出したというべきか、俺がばらしたというか…。」

ギャレットは理解不能だと首をかしげる。

「マスター。デスガンの正体…。」

クロが口を開いたが、それを手を前にだし、止めた。

「もしかして、もう正体がわかってるの!?」

シノンがそれを察した。シノンの顔をみたオキはゆっくりとシノンの肩に手を乗せた。

「な、なに?」

「シノン。お前には過酷な選択を迫ることになる。今ならここを出て、知らずにおくこともできる。…いや、いつか知る事にはなるだろうが、ショックを和らげることはできる。どうする?」

シノンは何の話をしているのかわからない顔をしていた。

「クロ、答え合わせだ。」

クロはゆっくりと頷いた。

「間違いなくあの人だ。僕には、見えている。」

白色と琥珀色の瞳はオキを見つめた。

クロノス。その名の通り、時間の女神クロノスの加護を得た使いのひとり。まさに神に仕える天使に近い存在。オラクルにいる頃からある翼は本物で、空間認識を操作することで不可視化することもできる。

オラクルに現れた理由として時間を大きく変えている存在がその次元、宙域にいると判明し、別の次元、宙域から送り込まれるような形でオラクルへ来ることになった。

「…とかいうクロの出生の話はどうでもいいとして。」

「なんでさ!」

都内のひっそりと街中に姿を隠したような喫茶店『ルブラン』。

そこに集まったのはザ・ファントムからリーダーのジョーカーと、ナビ。オキとクロにシノン、そしてギャレットと教授。ドレイクは自宅の場所の関係で、ネット通話を通じて出席している。

「はー…にわかに信じがたいけどねぇ。あんたの言うことだから間違いないんだろ?」

画面越しのドレイクがビールを片手に持って映っていた。

「クロ、翼だしてみ。」

「わかった。」

銀色に輝く白き翼がゆっくりと背中に姿を現した。

「すげぇな。こいつは…たまげた。」

「Excellent! Beautifulだ! クロ君!」

「綺麗…。」

再び、翼を不可視にしたクロ。

「っと話がそれたな。本題だ。」

オキは皆に分かり易くするために、画面に文字とイラストを描き始めた。

「これデスガンな。これクロ。んでもってこいつが正体。OK?」

皆が頷く。髑髏のマークとクロのかわいらしいイラスト。そして?のマークが描かれており、それぞれへと矢印を引いていく。

「クロの能力は時の力で、おおざっぱにいうと動いている時の流れなら何でも見る事、認識する事、覚えることが出来る。その能力は人の存在という時の流れすらも覚えてもらうことが可能だ。」

「モノの時は一つ一つに違いがある。だからまったく同じ流れを持つモノが同じ場所に存在することはありえない。」

クロもオキの説明に補足を入れる。まずはデスガンと正体の両方が矢印で結ばれた。

「俺はクロの能力を使って、デスガンと一度対峙した後に、ゆっくりと相手を見つけるつもりだった。一度こいつが見てしまえば、どんな相手だろうが正体を隠すことはできない。それがプログラムだろうとな。そのモノ自体の時の流れる存在を変えることはできない。それでいいよな? クロ。」

「うん。その通り。」

「だがだ、ここでまさかの事態発生。デスガンとの初対面をしたときに、知ってる人物の気配を感じてしまったんだな。」

クロから正体へと『知っていた』という矢印が引かれた。

「つまり、クロ嬢が知っている人物がデスガンで、正体がわかったということでいいのかね?」

現実でもかわらぬ白いひげを触りながらゆっくりとコーヒーを飲む教授。

「そ。んでもって、なんでいきなり俺を狙ったか。それも答えがすぐに出たよ。まったくトーシローかっての。」

「そこなんだよ。旦那が追いかけている事はここのメンバーしか知らないって言ってたよな。確か、旦那がばらしたかもって…。」

ギャレットははっと何かを思いついた。

「そうか! ここの誰かが犯人なんだな!? そんで、ここで種明かしをすると! …あーあれ? いや待てよ? そうするとここにいるメンバーは旦那の信頼するメンバーで、デスガンじゃないと信じてたからばらした…ってーするとここにはいない? ありゃ?」

「相変わらず頭が悪いねギャレット君。私にはもう答えが見えたよ。」

ドヤ顔を決める教授にうるせーと吠えるギャレット。

「あたいもお手上げ。さっぱりわからないね。というかあたしも知ってるのかい?」

コクリと頷いたオキはここにいるメンバー全員が同時に一度目にしていると言った。

「しかも最近な。それも今日だ。あの場にいてしゃべった一人の男。」

「…まさか! そんなはずは…でもここのメンバーが全員あっているとなると…。」

シノンが動揺している。それを聞いてようやくギャレットもドレイクも気づいたようだ。

「気づいたのは、あの男がラフィンコフィンのマークを指さし、復活、そして俺を殺すと言ったその行動だ。」

オキがSAOでのプレイヤーだったというのはプレイヤーであったか、もしくはオキ自身が話したか、アークスであるか。この三択になる。

アークスがこんなバカなことをするはずがない。というかやったらバレる。

なら前者2択のどちらかだ。

ラフコフの恐怖の復活。オキはこれを予想していた為、1番の「プレイヤーだったもの」を予想をしていた。案の定、デスガン自体もそれを示してきた。そうでなければあのマークを使用し、人を殺して回らないだろう。

半分は正解だった。だが、もう半分が違っていた。

「自分から話した相手が、まさかデスガンだなんてわかるはずねーだろ。とはいえ、状況とクロの能力によって確定した。動機も何となくわかったしな。デスガンの正体。それは…。」

デスガンの正体。それをお互いに認識しあったメンバー各位が情報の収集と問題となっている殺し方についての調べを行うこととし、オキ、クロ、シノン、ギャレットは明日の決勝を迎えることにした。

「教授にはあいつの周辺を調査してほしい。なんでもいい。変な情報を集めてくれ。絶対どこかにぼろがあるはずだ。」

「まかされたよ。私にお任せあれ。完全犯罪をお見せしよう。」

いや、あんた犯罪されても困るから。そう突っ込んだオキはドレイクへと依頼をした。

「できるだけ決勝での決着をしたい。決勝に出てくるプレイヤー達の情報を事細かに集めてくれ。」

「あいよ。まかせなぁ!…シノン。深く考え込みすぎるんじゃないよ。あんたがもしもの時、守るのは自分自身というのを、忘れるんじゃないよ。」

「…はい。わかってます。」

先ほどまで動揺していたシノンはだいぶ落ち着いた。

「ジョーカー。」

「任せておけ。」

「まさかためしにやったらヒットするなんて…。」

ジョーカーとナビ、そしてモルガナの二人と一匹の協力の下、彼らの懸念することを調べてもらった。そしたらまさかのヒット。

「決勝が終わり次第、中に入る。それまでに何とか道を作れるか?」

「ああ。俺達ならできる。」

「私たちにしかできない事を、少しでも頑張るぞ。オキも決勝、ガンバだ!」

「ああ。」

さらっとしたナビの髪を撫でるオキは、クロと共にテレポートパイプですでに待機させていたキャンプシップへと戻っていった。

 

 

「ほんとにアークスなんだな。あの二人。」

「長生きしてみるもんだね。面白い人物に出会えたものだ。」

ギャレットと教授は飛び立っていくキャンプシップを見ながら笑っていた。




みなさまごきげんよう。祝! プロローグ、番外編含んで100話達成!

デスガンさん、原作を知っている方々は犯人が誰かわかってますよね。今回はその辺をすこし改変しながらのお話と、もともと出すだけのつもりだったジョーカーら、P5のメンバーにすこしお仕事をしてもらい、後半にある設定を盛り込むつもりにしました。
そのため、このあとのプロットを変更することにしました。
元々はこのあとにALO編、そしてPSO2のストーリーをEP3、EP4と続け、番外編をすすみ最周へと進むつもりでしたが、ALOを後回しにします。
今回の物語が使えると判断したからです。よって、今後の流れにご期待下さい。

さて、PSO2ではゼイネシスの収集がいい感じに進んでおり、ダブセの強化が一通り終わりました。あとはクリファド潜在だすだけ(GWに参加できなかったので石があまりない)
メセタ稼ぎをサボっていたため、6sでなんとか物145HP80PP10で作り上げ。HPはこれにより2100を維持できるように。こんだけ盛ってりゃリミブレ切っても大丈夫でしょ。(でも事故ると床舐める
もともと使ってたゲイルよりかはましかと。(2015年からずっと使ってきたからなぁ)
現在はコレクトファイルを収集しつつ、EP3の改変ストーリー作成に向けて見直し中。

ではまた次回お会い致しましょう。

※余談。ギャレット書いてると、某吸血鬼の旦那の出る作品の登場人物「伊達男」になってきた。


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第100話 「BoB決勝戦開始」

朝7:00.部屋のアラームが一瞬だけ鳴った。

ピピッ…カチン

すぐに止めたのは部屋に来ていたクロだ。

「マスター! 時間! 早く起きて!」

1時間前にオキの部屋へときたクロは、朝ごはんの準備をしていたオキの従者でありサポートパートナーであるアオイに部屋へと入れてもらい、実は30分前に一度オキを起こそうとしていたのだが

「後…30分…。」

と言って二度寝に入ったまま動かなくなったのだ。時間には余裕があるためにクロは仕方なしに30分寝かせることに。そしてその30分後となった。

「…スカー。」

「マスターの寝起きが悪いっては知ってるけど…相変わらずだなぁ。ほら、起きてってば。」

オキの部屋に割烹着姿のアオイが入ってくる。

「マスター。お時間でございますよ。」

「…アオイ。」

布団の中から手が伸びてアオイを手招きしたオキ。

「はい、なんでございましょ…きゃ!」

ベッドに近づいたオキの手がアオイへと伸び、そのまま布団の中へと引きずり込んでしまった。

「ちょ、アオイ!? 大丈夫!?」

「はい。ふふふ。いつもの事なので、気にしないでください。マスター…。もうお時間でございますよ。」

ぎゅっと抱き着かれたアオイは嬉しそうに顔を赤く染めながらも微笑み、優しくオキを起こそうとする。

それでもオキは起きそうにない。

「おはようクロ…。なにやってるの?」

クロの後ろからパジャマ姿のシノンが現れた。

「シノン。おはよう。マスターが起きなくて。あの人朝弱いんだ。」

シノンはオキのある提案により、アークスシップのオキの部屋に泊まったのである。

ギャレットや教授と別れた後に、オキがある事を思いついた為、シノンに再び再会。シノンもシンキに相談をしたいと言ってきたので、そのままオキの部屋に泊まらせたのである。オキの部屋にしたのはシノン曰く『一番安全そうだから』と言っていた。どういう意味なのだろうかとオキは首をかしげていた。

「ふーん…。シリカのいうとおりね。」

そういってシノンはオキの寝るベッドへと近づき、優しい声でオキにしゃべりかけた。

「オキ、朝です。起きてください。」

たった一言。優しい声とはいえ、普段のシノンと変わりはない。だが、その一言で

「…おはよう。」

ものすごく不機嫌そうな声ではあったが、オキは起きあがった。

「な…なんでアンタは僕じゃ起きなかったくせに!」

「うるせぇ。キンキンわめくな。アオイ、おはよ。」

「はい。おはようございます。朝ごはんはすでにご準備できております。」

頭を撫でるオキの手に満足そうな笑みを浮かべるアオイ。はぁとため息をついて、ご飯の出来上がりを待つために一度、寝ていた部屋に戻るシノン。そして腑に落ちないクロであった。

「シリカから聞いてはいたけど、ほんとに身内の声じゃ起きないのね。」

「だはは。わりぃわりぃ。慣れた声だともう起きれなくってな。アオイやマトイちゃんだとどうもいつも布団の中に引きずり込んじまうらしくてなぁ。自分じゃ自覚してないはずなんだが…。」

笑いながら食後の一服をバルコニーで吸うオキ。

「その顔つきだと、覚悟はできたみたいだな。」

シノンの顔は先日のここに来た時の顔とは違い、ふっきれた顔をしているのがわかった。

「ええ。シンキさんのおかげ。また、助けられたわ。」

シンキの言葉には全てに重みがあり、優しさがあり、厳しさもある。

クロは知っている。過酷な時を歩んできた彼女を。だからシノンがシンキの言葉に、再び助けられたのもよくわかる。

オキはシノンの顔をみてその覚悟を受け取った。

「うっし分かった。お前さんらの命。少しの間預けさせてくれ。さて、昨日行った作戦会議のまとめだ。まさかミケからあんな言葉が出るなんてな。」

昨晩、オキはハヤマ達チームメンバーと、アインスら友人のアークスを呼び、現状の認識を合わせどうやってデスガンが相手を殺したかの論議をした。シンキ、シノンは二人きりで話したいということで、シンキのマイルームに行っている。

現状わかっているのはデスガンが相手をログイン状態で殺すということ。十字架を描くようなポーズをして相手に一発の弾丸を喰らわせること。

撃たれた相手はどこに撃たれても必ずログアウトし、そのまま死んでいるということだ。

なにかしらの方法を使い、相手に死を与えているのは間違いない。問題はそれがなんなのかだ。

あれやこれやと話している最中にミケが一言だけしゃべった。

「みんなでやれば怖くないのだー。」

その言葉にその場にいた全員にはっとした。

たしかにその通りだ。てっきりデスガンは一人だけかと思い込んでいたからだ。デスガンの正体が一人でなく、複数の犯行であれば一人がどうにかこうにかして相手の寝ているところに立ち、タイミングを見計らって同時に殺せばいい。

そうなると、シノンの友人であるシュピーゲルが犯人の一人ならば、もしシュピーゲルがシノンを襲いにかかったら。

間違いなく犯行に及ぶだろう。

オキは一度スレアへと渡り、シノンを家に送り届けた。

一人暮らしのシノンは小さなアパートに住んでいた。部屋の中は普段のクールさからは見えない可愛らし内装だった。ベッドにはヌイグルミがたくさん置かれている。

「なによ…。」

顔を赤くして睨み付けてるシノンにいいやと一言言ったオキ。

「これなら、こいつ置いてても大丈夫か。」

あるモノをシノンに渡した。

「念のため、シノンのログイン中はコイツに守ってもらうことにした。」

「え? これって…。」

オキがシノンに渡したのは白い猫の姿をしたヌイグルミ。口元が少しだけ笑っている可愛らしい猫だ。

「それ、ミケな。」

「なのだー。」

いきなりヌイグルミが動き、しゃべった事によりシノンは目を丸くして抱きかかえていたのを少しだけ身体から離した。

「ミケ!?」

「ミニトロスーツといってな。ミケの小さな体からすれば小さなヌイグルミにしかならないだろ。」

オキの目算はこうだ。ログインし、決勝で戦っている最中、相手がどう動いてもいいようにシノンには守護してもらうアークスについてもらう。

シュピーゲルは決勝戦後、どうなってもからなず犯人であることを知っているシノンを追いかけてくるだろう。

何故シノンが知っていると思うのか。オキやクロがデスガンを追いかけている事は相手には知られている。つまり一緒にいるシノンも必然的に襲われる、もしくは話にくる可能性が高い。

ないならないで、それはそれでいいのだが、念には念を。

ミケを選んだのは、彼女のいろんな意味での危険回避と相手側への油断を誘うためである。

ハヤマやアインスを部屋の守りにおけば確実だろう。だが、相手が逃げる可能性がある。できるだけ穏便に済ませたい。そうするならば、一度油断したところを捕まえる。ミケはそれに適している。

「おなかすいたら何食べればいいのだー?」

「冷蔵庫にパイが残ってるわ…。それ食べていいわよ。」

「ワーイなのだー。」

オキはそれも見越して大量のお菓子を用意しておいた。

「一応これも。腹減ったらくいな。そのかわり。」

「大丈夫なのだー。ごみはゴミ箱に!」

分かってるならよろし。

GGOへとログインしたオキとクロはシノンと合流。決勝会場へと向かった。

「よぉ! ペルソナの旦那! クロの嬢ちゃんに、ヘカートの女神もご到着ときたもんだ!」

会場に入った瞬間にオキ達へと声援を送るプレイヤー達に囲まれた。

「頑張れよ! 今回あんたに全額入れたんだ。」

「まけるなよー! 東のマフィアの名前、伊達じゃない事見せてくれ!」

「あー。くろにゃんかわいいでござる。マジ天使。」

「いやいや。ここはやはり女神殿でござるよ。」

「みな、あんたらを応援したいって言ってな。ここに集まったんだと。ちなみに俺もあんたに賭けてる。」

うっせぇどけよ。邪魔すんな。オキはそういいながら不機嫌な顔で銃をぶっ放す。それが返事と思ったのか、観客たちは余計に大声援を送った。

「だーもうようやく落ち着いたぜ。」

個室へと入り、すでに集まっていたドレイクと教授はビール片手にお出迎えしてくれた。

「よー! もう飲んでるよー。」

「すでに私が来た時から飲んでたよこの人。」

教授、そういいながらあんたも飲んでるの酒じゃねーのか? そう言いながら入り口を部下たちに固めさせる。

「先ほどジョーカーたちから連絡があったよ。準備はできた。決勝開始直後に道を開いておくと。」

教授から耳打ちされコクリとオキは頷く。

OK。ならはじめよう。オキは昨晩考え付いた犯行の仕方を皆に伝え、ギャレットには今一度家の戸締りをさせることにしておいた。

その間に、教授が手に入れた情報をオキが受け取った。

「…へぇ。これは。すげーな。昨日の今日でこの情報量かよ。」

「情報網は網目状、蜘蛛の巣のようにひかないとね。意味がない。」

あんた何ほんとものだよ。その情報の中にオキの目の引くものがあった。

「対外が彼のどうでもいい素性なのだが、そこにオキ君、君が惹かれると思ってより深堀しておいた。」

「ふーん…。そうだったのか。あいつの弟か。」

オキはその情報を皆に開示した。

「シュピーゲルの兄は…SAOサバイバー。しかも幹部の一人、赤眼のザザときたか。よくプレイヤー名まで探り当てたものだ。」

ふふんとドヤ顔を決める教授を横目にオキは話を続ける。

「SAOから帰ってきた兄であるザザは人が変わったように部屋に引きこもった…。ざまぁねえな。で? 肝心のシュピーゲルはっと…。ふーん…ほーう。」

なるほど。こういうことか。オキは一人つぶやきタバコに火を付ける。

「マスターなにがなんだか。説明を求める。」

「まぁまて。あいつ、もともといじめ食らって学校を不登校してたんだな。んで、このゲームを知って始めるっと…。このGGOで作ったキャラが初期に流行ったAGI型で、それは結局ゼクシードの偽情報。作り変えることもできず、戦いを諦め、ゼクシードと、それに関連した人物。そして大会に出られる奴らを逆恨みしていたらしい。ほんとにどっから持ってきたのこんな情報。」

ウィンクしてごまかす教授から全員が離れる。まるで心の中まで見透かされそうだ。

それはともかくとして、シュピーゲルが恨みを持っており動機も十分。後は殺害方法の殺し方が予想通りなのか。

「それに関してはこっちね。」

教授のだした別の情報。それはある薬品についての情報の紙切れだった。

「サクシニルコリン?」

聞いたことのない名前の薬品だ。オキやクロが知らないならまだしも、シノンもほかの皆も知らない。

「誰か、サクシ…ニクコロン? って知ってるか?」

ギャレットが部下にも話を振った。ギャレット名前間違ってる。サクシニルコロン…サクシ、なんだっけ。

「それ、サクシニルコリンじゃないっすか?」

一人の部下が手を挙げた。

「知ってるのか?」

「は、はい。僕、医学の進学目指してるので薬品は少しは知ってます。たしかその薬品は麻酔の前に使うっていうここ最近はあまり見かけない薬品のはずです。」

簡単に性質を説明してもらった。あれこれと専門分は省くが、簡単に言えば

「これ、即効性ある薬品だから静脈に注射すると心臓麻痺を起す。」

その場にいる全員がその言葉に驚いた。

「つまり殺害は可能と。」

「問題は注射の後が残るということ。まぁ普通ならね。君、最近の技術では注射後の残らないモノもあるよね?」

教授が先ほどのプレイヤーに質問をするとその男性はコクリと頷いた。

「だそうだ。つまり複数犯なら可能だということだね。」

オキ達の予想と教授の情報によりすべてがつながった。あとは奴からでる犠牲を減らすだけだ。

「ここからはアタイの出番だね。」

ドレイクには決勝に残ったメンバーを調査してもらっていた。間違いなくその中にいるはずだ。

BoB決勝は特殊なエリアに飛ばされ、半径十キロ程度の円状の中にある多種のエリアに分かれたフィールドで行う総当たり戦だ。

つまり外部からの攻撃は不可能。デスガン自体が決勝に進む必要がある。とはいえ、プレイヤーネームが律儀にデスガンなんて書いてあるはずもない。ならば紛れ込んでいる可能性がある。大会には腕に自信あるここ最近のトップランカーが多く集う。オキはもともとランキングにも興味なかった為に多くのプレイヤーの情報を知らない。ここで顔の広いドレイクに頼んだのだ。

「今回の参加者はこんな感じだねぇ。何人か知らない奴もいたけど、知ってるやつがいたからそれは★印つけてるよ。」

決勝進出プレイヤー一覧

☆オキ

☆クロ

☆シノン

☆闇風(やみかぜ)M900A

☆銃士X(マスケティア・イクス)M4A1

ペイルライダー

×ギャレット、

△夏侯惇(カコウトン)

△シシガネ

スティーブン?

「おいドレイク。なんで俺だけ×ついてんだよ。」

「しらないね。」

とぼけるドレイクに顔をしかめるギャレットだが、お互いに口をゆがませ笑っていた。

ドレイクが説明するには星印は知り合いか知っている人物。三角印は名前は知っているがよくわからない人物。無印が今回初参加の人物だ。

「闇風は前回の準優勝者だ。腕だけならゼクシードも超えると言われていたほどだ。銃士Xは私の友人だ。とはいえ話はまだしていない。今すぐにでもというなら手を借りるが、どうする?」

オキはドレイクからの提案を首を横に振って断った。

「いや、これ以上身内を作るつもりはない。その人には悪いけどささっと倒れてもらうよ。」

プレイヤーに犠牲を出させないやり方。それはこちらがプレイヤーをデスガンより早く倒してしまえばいい。デスガンを探しつつ、プレイヤーを倒していく。これが最善。

「わかった。夏候惇にシシガネは最近頭を出してきたプレイヤーだ。だから私もよくわかってない。今回初参戦なのは坊やたちと、このペイルライダー、そして何て読むかわからないけど、多分スティーブンのスペルミスじゃないかと思われる奴だね。このどちらかがデスガンじゃないかとアタシはにらんでる。」

それなら決まりだ。その二人を探しだし、さっさと片付ける。作戦は決まりだ。

決勝開始直前。運営側から連絡があり、予選と同じく強制転送で専用フィールドへと飛ばされる。

プレイヤー達はランダムでフィールドのどこかに飛ばされる。

そして、一定時間ごとにMAP上にほかのプレイヤーが現在どこにいるか、いま誰が生き残っているかがリアルタイムで表示される。

ただしそれも30秒ほどで消え、再び表示されるのは一定時間後。今回は約30分毎となっている。

「いいか? どんなフィールドでも必ず方角はある。まず最北端を目指せ。そこから合流後に時計回りにプレイヤー達をつぶしていく。もちろんデスガンを見つけたらそっちを追いかける。」

オキの言葉を再び思い返すクロは自分の装備を見直す。

カスタムしたデザートイーグル2丁に、プレズマグレネード。予備の弾倉。すべて完璧である。

転送の時間。クロはフィールドへと胸腺転送した。

まずは周囲の状況とここのフィールドの形を確認。フィールドの形はシノンやシリカ等がすむこのニホンをずいぶん小さくした形だ。

「最北端は…ここか。」

ほぼ中央に近い北よりの位置にいることも確認。クロはその場所を目指す事にした。

周囲は森林地帯となっており、その中を素早く移動した。

『誰かいる…。』

スタートし、数十分が経過。移動を進めているクロの目の前に誰かの気配が感じられた。

「…そういえば。」

大きな樹木の近くに低い姿勢で停止したクロは地図を開いた。そろそろ最初のプレイヤー達の位置が示される時間だ。

3…2…1…

地図上に小さな点と文字が示される。

まずは目の前の気配。シシガネというプレイヤーのようだ。ならば倒すのみ。オキはすでに最北端に到達しているようだ。その方角へ進むシノン、ギャレットももう少しで到達するように見える。他のプレイヤーはシシガネより先には見えない為、この先にはオキ達しかいないことになる。

ならば、障害を排除しよう。

クロは両手に2丁の大きな銃、デザートイーグルカスタムを握りしめた。

位置は確認した。気配も完全にロック。相手がどこに逃げようと追いかけることが出来る。

進んでいる方角の反対側からクロは強襲をかけた。

ザザザ!

「後ろか!」

音で気づいたのか後ろを振り向き、銃を構えたシシガネ。だが

「おそい。」

銃を上に弾き、イノシシのような皮を被った大男の胸にデザートイーグルを突き付ける。

ドン!

低く響いた銃声。50口径の化け物拳銃の銃口からの咆哮。大男はその勢いで後ろへと吹き飛ぶ。

「…ちっくしょう!」

「!?」

シシガネはクロの一撃を耐えた。しかも足を踏ん張り再びこちらに銃を向けている。

ガガガガ!

彼のサブマシンガン・ヤティが火を噴いた。すぐさま横の茂みへと飛び込み、木の影へと隠れる。

一発じゃ仕留めきれなかった。オキの話では大概のプレイヤーなら一撃で体を吹き飛ばすと言っていた銃だ。

だが、彼は生きている。ならば

「防御型か。」

クロはシシガネのリロードの隙をついて再び彼の方へとダッシュする。

「ちぃい!」

リロードの済んだサブマシンガンをこちらへと構えてくるシシガネだが、クロは一度下に潜り込むとフェイントをかけた後に上へとジャンプ。

シシガネの上を通り過ぎ、今度は首の付け根を蹴り飛ばした。

「ガッ!?」

さすがに首の付け根を物理的に蹴られれば誰でも前のめりに倒れる。さらにシシガネから離れるようにジャンプ。飛んでいる最中に彼の腰についているグレネードへと狙いを定め

ドン!

一発うちはなった。その一発では彼は倒れることはないかもしれない。だが、爆発に至近距離から巻き込まれたらどうなるか。

ドォォォォン!

クロは地面に着地すると同時に爆発音が周囲に響く。いくら防御の硬いシシガネも自分の腰についていたグレネードが爆発すれば耐えることはない。シシガネは爆発に巻き込まれロスト。第三回BoB初のリタイアとなった。

「さ、邪魔が入った分を取り戻さなきゃ。」

クロは再びマスターの下へと足を進めた。




みなさまごきげんよう。
BoB決勝戦開始です。とはいえ、このGGO編実は途中参戦したクロを活躍させたいがために書くものなので、そこまで長くはならないつもりです。
原作ではシノンのトラウマを克服し、デスガンの謎を追う物語ですが、どちらも解決してるのであとはアークスが暴れるだけの物語となっております。
まぁ次に続くEP3編へのつなぎのようなものです。
生暖かい目でご覧下さい。


さて、PSO2では・・・あまり話題無いですね。しいていうならドンキホーテコラボでしょうか。あのルーサーポーズはせこい。大いに笑いました。手に入れたいと思ってます。

話数も100話を超えました。これからもよろしくお願いします。

では次回またお会い致しましょう。


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第101話 「大橋での激闘」

BoB決勝が開始して、すぐにシシガネがクロに倒され、初参加にしてGGO内でも名の知れた東のマフィア『首領(ドン)・ペルソナ』の連れということで注目を浴びていた。

「さすがクロだな。銃の扱いは相変わらずだ。」

実況の画面が映し出されている大部屋にはハヤマをはじめアークスメンバーとサラ、SAOを生き延びたキリト、アスナ、シリカ、リズベット、クライン、リーファ達が勢ぞろいしていた。

ALO内のある田舎町。その一角にある巨大な和風の館。ギルド『アーク`s』の拠点だ。

SAOでオキ達がであった主要メンバー、キリト、シリカをはじめとする元オラクル騎士団の一部メンバー。

『アインクラッド解放軍』からディアベルにキバオウ。『ドラゴンナイツブリゲイド』からリンド等、元SAOプレイヤーのギルド連合『アーク’s』のメンバーがリーファ提案でALOに参入。相変わらず暴れまわるアークスメンバーを中心に、舞台を魔法と剣の飛び交うVRMMO、ALO(アルヴヘイムオンライン)へと変え、今度は一つのギルドとして猛威を振るっていた。

そのギルド拠点内、大部屋にてアスナら料理人達の料理を食べながら巨大モニターでオキ達のBoBの実況を皆で見ていたのだ。

実況はリアルタイムでフィールド上に数多く設けられた浮遊カメラにて好きな場面を好きな位置から見ることが出来るようになっている。また、観戦者からは誰がどの位置にいるかも確認が取れるように地図も表示されている。

「オキさん達は無事合流できたみたいですね。」

シリカが心配そうに画面を見ている。その隣ではハシーシュ、フィリアもオキの様子をはらはらしながら見ていた。

「安心したまえ。君達も知っての通り、彼はそんなやわではない。今回も大暴れしてくれるさ。」

飲み物を飲みながらゆっくりと優しく微笑むアインスに少しだけ肩の力が抜けるシリカたち。

「で? 結局このなかの誰がデスガンっちゅう奴か、オキはんまだわかっとらんのやろ?」

「みたいだな。結局、片っ端から倒していくのが早いのだろうか。」

「キバオウ、ディアベル。お前ら食いすぎだ。」

「「え?」」

観戦しながらアスナ達のつくった料理をもりもり食べていくキバオウとディアベルをとめるキリト。

「もー。ゆいちゃんの分がなくなっちゃうでしょ? 少しは自重しなさい!」

リズがペシリとキバオウの頭をはたいた。なにすんねんと怒るも、その横ではゆいが笑っているのをみて皆の緊張もなくなる。

とはいえ、心配しているのはスレアのプレイヤー達だけだ。アークス達はいつも通りの状態である。

オキが負けるはずがない。クロもいる。

「とりあえず、これからどうするの? マスター。」

これからの流れを確認するクロとシノン。オキはもう一度地図を開き、次の動きを予測した。

「ギャレットの旦那がこの島の唯一の橋を守っている。一番最北端にいたほかのプレイヤーはクロが倒したからしばらく来ないだろう。今の所一番近かったのはそいつ覗いてペイルライダーだったはずだ。こっちに来てくれるといいが。」

地図には現在は何も映っていない。次のプレイヤー位置表示まで15分以上ある。オキの頭の中では二つの構成が考えられていた。

一つはこのまま予定通り南下して一人ひとり倒していく。

もう一つは、ここで籠城して一本しかない橋の上でほかのプレイヤーと戦う。

「籠城するのはいいとして、そのリスクはほかのプレイヤーをデスガンが先に殺してしまう可能性がある。ならば打って出るほかないか。」

オキの提案にコクリと頷いた二人はさっそくギャレットと合流するためにオキの後をついて行った。

ギャレットは一人、仁王立ちで大橋に立っていた。

「時間的にそろそろほかのプレイヤーが来てもおかしくないか…。クロの嬢ちゃん、旦那と合流できてるだろうか。ま、大丈夫か。ここより後ろには誰もいないしな。」

タバコに火を付け、余裕を見せるギャレット。ふと上を見ると観戦用に浮遊しているカメラがふよふよと漂っていたので、ちょっとキザにポーズを決める。

ズシャ

「おぉっと。おいでなすったか。」

ギャレットの立っている反対側。そこにライダースーツにヘルメットで顔を覆い隠したプレイヤーが現れた。

「…ペイルライダー、か。旦那の予想通りに来てくれたか。さって、相手の獲物はっと…。」

最初はゆっくり、そして次第に速く走り出したペイルライダーへとギャレットのライフルが向けられた。

ガゥン! ガゥン!

まずは威嚇。ペイルライダーの若干右を狙い、左へと避けさせ誘い込む。だが

「はやい。」

一回のジャンプで予想よりも上空へと飛び上がったペイルライダーはギャレットへ日の光で黒光りするショットガンを向けた。

ドンドン!

「ちぃぃ! アーマライトAR17 ショットガンか…。」

後ろへ下がりながらショットガンの攻撃範囲外へと下がるギャレットは今度は本気で狙いに入る。

ガガガン!

3発連続の射撃を着地したペイルライダーへと撃ったが、そこからの瞬発力のスピードはさらに予想外の速さを持っていた。

「ちっくしょう! こいつ…旦那と同じで体術スキルでブーストかけてるな!? なら!」

ギャレットはコートの下に隠し持っていたプラズマグレネードを2個同時にペイルライダーへと投げた。

ドォォォン!

閃光と同時に強力な爆風が二人を襲った。ギャレットはそのまま後退。橋から離れ、森との境目まで下がった。

「死んでねーのはわかってるよぉ!」

振り向きざまに爆炎の中を飛び越えてきたペイルライダーへとライフルを向ける。

だが、ペイルライダーはギャレットとは反対に引き寄せられるように空を飛んだ。

「なに!? …ワイヤーか!」

ペイルライダーはワイヤーを橋を吊っている柱の一本にワイヤーを飛ばし、こちらの飛んでくると見せかけながら反対へと後退していった。

「っち…長引きそうだぜ。」

ショットガンは攻撃距離が短いとはいえ、近距離では絶大な攻撃力を誇る。

「ふふん。近づけさせなきゃこっちのもんよ。」

地面に着地したペイルライダーはギャレットへと目標を定め、睨み付けている。

「よおよお。そんなしんきくせぇヘルメットなんか脱いで、顔見せたらどうだい? それとも、顔見られるのは恥ずかしいってか?」

ギャレットはオーバーなリアクションでペイルライダーを煽った。

それが気に食わなかったのか表情が見えない以上判断が出来ないギャレットは微動だにしないペイルライダーに舌打ちをした。

「っち…少しはしゃべれってんだ…。あん?」

直後にゆっくりと前に倒れたペイルライダー。いきなりの状態に唖然とする。

「な、なんだぁ!? …っ!」

どこからともなく現れた黒い擦り切れたコート。目をこすり、もう一度確認するギャレットはそれがなんなのかを把握するのに一瞬間が空いた。

こちらを一度見た際に見えた顔。追っている奴の象徴、金属の骸骨のマスク。その目が赤く光っていた。持っていたライフルを背中に寄せ、ゆっくりと腕を動かし、自らの身体の前で十字架を切るジェスチャーをする。

「…まちがいない。貴様がデスガンか!」

ギャレットはライフルを構え、一点を狙う。デスガンの身体ではない。痙攣し、その場に倒れているペイルライダーのヘルメットの顔面部。

ガゥン!

バリンと音が鳴り、顔面部が割れる音、そしてペイルライダーの身体が一度ビクンと跳ね上がり、ゆっくりと消えて行った。

「目の前で殺人なんか起こされてたまるかってんだ…。後はここからどうするかだ。」

冷や汗を流すギャレットは自分の状態を瞬時に確認する。銃に入っている弾丸はあと少し。リロードする必要が出てくる。グレネードはさっき使ってしまった為、ライフルかサブウェポンのガバメントしか戦う手段がない。

先ほどのペイルライダーの様子はどうにもおかしな場所があった。

更にデスガンの姿、そして名前を見た。

「そうか。つまり…そういうことか。」

「ギャレット!」

オキが森の中から出てくる。それに続いてクロ。シノンは出てこないが、森の中で待機しているのだろう。

オキはクロを引き連れてギャレットを素通りしていく。

「デスガン! 見っけたぜぇぇぇ!」

「仕留める。」

オキがトンプソンを真正面に構え、乱射した。デスガンはそれを見て橋の側面へと移動。川の中へと落ちて行った。

「ち、逃がしたか。」

川の方へトンプソンを構えるも浮き上がってくる様子はない。再びギャレットの方へと近づいた。

「大丈夫かギャレットの旦那。」

「ああ。」

ギャレットは先ほどの様子、状況をオキへと共有した。

「音の出ない銃?」

「そんなのあるの?」

オキとクロが首をかしげた。

「あるわ。数は少ないけど、いくつか思い当たる物はあるわ。」

「しかもライフル型、ついでにいうとありゃ麻痺弾か、それの類も使ってるな。となると思い当たるのは一つしか聞いたことがない。」

ギャレットとシノンがコクリと頷き合った。

「もったいぶらずに教えてくれよ。どんな銃なんだ?」

L115A3。『沈黙の暗殺者(サイレント・アサシン)』の異名を持つ対人ライフル。

ペイルライダー、ギャレット共に気づかず、デスガンはペイルライダーを背中側から倒した。手に持っていたのはライフル。

音の出ない銃とわかる。そして撃たれた後に立ち上がらなかったペイルライダー。これは麻痺弾を撃たれた可能性がある。

それらを踏まえ、特殊弾を撃てる音の出ないライフルはこのゲームの中に一つしか存在しない。

「間違いないんだな?」

「音の出ない銃なんかレアすぎて逆に有名になっちまったもんよ。」

「一度市場に出たと聞いたことがあるわ。もう一つ音の出ないヤツはあるけど、ハンドガンタイプだし…。」

「しかも、あの銃は専用弾じゃないと撃てない。専用弾は麻痺や毒等のステータスデバフは付けれない仕様だ。」

オキ達は南下しつつ、先ほどの情報をまとめた。デスガンは間違いなくシノンとギャレットのいうライフルを使っている。つまりどこから撃たれても相手の位置がわからないということだ。

「ライフルは狙ったときに一発目だけ、予測線が見えない仕様になってるわ。」

「かなりやばい銃ってことだ。」

ふーん。と流すオキにギャレットは肩を落とす。

「ふーんってあんた…。旦那、事の重大さわかってんのか!?」

ギャレットのあきれた声に対し、オキは笑いながらギャレットの肩を拳で叩いた。

「なーに。奇襲闇討ち当たり前の戦闘を続けてきた俺とクロがいるんだ。大丈夫さ。」

親指立ててニカっと笑い、先を進んだ。

 

 

 

森から荒れ果てた風景から山岳に変わった。

「そろそろ他のプレイヤーと当たりそうな気がするが・・・。」

「そうね。」

ギャレットとシノンは周囲の警戒をする。オキは岩影に体を小さくして体重をかけ寄りかかった。

「そろそろ次の時間のはずだ。」

時計を見るとオキのいうとおり、光の点が地図上に現れた。

「ペイルライダーではなかった。となると可能性のあるプレイヤーネームはこいつか。」

スティーブンのスペルミスだと思われるなんて読むのか分からないプレイヤー。

「名前はステルベンだ。間違いない。」

表示されている『Sterben』の文字を睨みつけるギャレットがぼそりと呟いた。

「あれ? スティーブンじゃねーのか。」

「なにか違和感があったんだ。デスガンにしてはスペルミスだという凡ミスをやる相手ではない。こんな大掛かりなことをやるにはでかい計画が必要だ。しかも失敗は許されない。ドレイクはスペルミスだろうと言っていたが、それは英語の場合だ。あれはドイツ語だ。ステルベン。そう読むんだこれは。」

デスガン=Sterben(ステルベン)。ギャレット曰く、『死』を意味する。

ステルベンは山岳地帯の先にある市街地の入口に移動していた。市街地には銃士Xが。市街地を中心に、南側に闇風。更に南側に夏侯惇がゆっくりと北上している。

再び光がなくなる地図を閉じたオキはタバコに火をつけるギャレットに自分も横に座りタバコに火をつけた。

「旦那、なんでわかった。ドイツ語だったか? それだって。」

「あぁ。簡単なことさ。さっきも言ったようにあいつがミスを犯すような相手ではないというのと、たしかデスガン、シュピーゲルは医者の息子って言ったよな。そこからわかったのさ。」

シノンがそれを聞いてようやく理解した。

「そうか・・・。医学はドイツ語を使うんだったわ。シュピーゲルもドイツ語覚えるの大変って言ってたし・・・。」

白い煙を吐きながら地図を再び開くオキはこの先にある市街地を見た。

「ふーん。スレアのことはある程度勉強したけど、言葉が国によって違うってホント大変だな。めんどくせえしか相変わらず言葉でねーわ。で、名前が分かったならあとはあいつを追うだけだ。市街地に向かっていたな。このまま南下して市街地に入ろう。」

全員はオキの提案に頷き、行動を開始した。




みなさまごきげんよう。
今回は原作であっけなくデスガンに殺されたギャレットの旦那が大活躍してます。
ギャレットの旦那のCVは大塚芳忠でイメージお願いします。
次回は市街地戦ですね。なんか原作と比べるといろいろすっ飛ばしてるかもしれませんが、気にしないでください。というかここまで改変しといて気にするなもなにもないよね。

さてPSO2の方では無事エスカダブセ+35に強化できました。
これでようやくファイターのLV上限が80にできました。ずっとゲイルつかってたからね、シカタナイネ。

FGOでは羅生門再び。イバラギちゃんが前回苦労したマスター達から全力で仕返し食らってますね。初日のHP2兆が3時間で落ちるとか草生えますわ。

それではまた次回お会いしましょう。


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第102話  「市街地戦」

市街地に到着したオキ、クロ、シノン、そしてギャレット。

市街地は荒れ放題の少し小さな街であり、崩れかけたビルが立ち並んでいる。地図の詳細では大きなコロシアムもあるようだ。

先ほどの地図の情報では銃士Xをはじめ、闇風、そしてステルベンであるデスガンがこの市街地に入り込んでいるはずだ。

「ログアウトの表示はないな。」

「3人ともまだ名前が光ってるわね。」

地図上に光る名前は3人のプレイヤーの名前が光っている。位置は示されていないが、プレイヤーがあと何人残っているかだけは把握できるようになっている。名前が光っていれば、まだ生きているという証拠だ。

「市街地はどこから襲撃されてもわからないわ。慎重に行きましょう。」

「シノン、クロ連れて一番高くて見晴らしのいい場所に陣取れ。俺がおとりになってやる。」

オキが親指で自分を指さした。シノンは一瞬ためらったがすぐに首を縦に振り、キョロキョロと周囲を確認した。

「…あそこ。あの建物の屋上なら…。」

シノンが指さした建物。確かにほかの建物よりも高く、見晴らしはよさそうだ。

「クロ。」

「わかってる。ちゃんと守る。」

クロがオキの目を見ながら力強く頷いた。

「ギャレットの旦那。」

「おう。俺は、旦那の背中を守ればいいんだろ? お安い御用さ。」

ウィンクして微笑み後方についたギャレット。4人は方針が決まり、市街地の中をゆっくりとすすんだ。

 

オキの目算は目指す建物にシノン、クロを置きシノンでスナイプ。クロをシノンの防御役として。

オキはそのすぐ近くにあるコロシアム内にて待機。ギャレットを忍ばせておいておびき出す作戦だ。

市街地の中は風の音しか聞こえない。その中を少しずつ、周囲の警戒をしながら進む4人。

「マスター待った。」

小さく声を出したクロが皆の前に出て、視線でソレを指した。クロの視線の先には数本のワイヤーが引かれていた。目を凝らしてよく見てようやく分かる細さだ。瓦礫と瓦礫の間に隠され、見抜く事は困難だろう。

「トラップか…。」

オキは目で周囲を見渡す。おかしな場所は無い。

コロシアムはすぐ目の前にある。こんな所で立ち止まる理由にもいかない。

「ギャレットの旦那。」

「あいよぉ…。」

ギャレットは懐から数本の小さなナイフを取り出し、それを同時に投げた。

 

ドドドン!!

 

周囲一帯から3回の爆発。とはいえ構えていたオキ達に影響は全くない。

土煙が風に流され再び静寂が戻る。

「敵は?」

「見当たらん。」

動き出す気配も感じない。四方をそれぞれが確認するも特に変化はない。

誰かが仕掛けたままにしたものか。それとも場所を特定するものなのか。

少なくとも今の音でここにいる事がバレている。より警戒が必要だとオキが先に進もうとした時だ。

オキの目の前に予測線の発光が見える。

「正面!」

オキが避けると同時に全員が四方に散り、更に弾丸が飛んでくる。オキとギャレット、クロとシノンがお互いに近寄れるようにそれぞれ別れた為すぐにペアを組めたのは幸いだった。

「ちぃ…誰だ。」

赤いモヒカン頭に目を覆うスコープを付けた男が一瞬見えたギャレットはそれが誰なのかがわかった。

「闇風だ。」

前回のBoB参戦者にしてデスガンに殺されたイクシードより腕を持つと言われるプレイヤー。

「強いヤツ…か。」

オキが口元を歪ませ、ニヤリと笑う。その笑みをみたギャレットはゾッとしたと後に語ったという。

「旦那、こら持ってろ。」

「お…おぉ?」

ギャレットが受け取ったのはオキのトンプソンと最後のロールマガジン。バサりとコートをひるがえし手に取ったのはM29マグナムだ。

「楽しんでくる。」

そう言ってオキは瓦礫の上に飛び上がった。

「クロ! 行け!」

そう叫んだオキをみてクロはシノンを連れて予定通りビルへと向かった。

瓦礫の上を飛び跳ね猛スピードで迫ってくるオキをみて闇風は驚いた。

「何故ここがわかった…!?」

「地形読みゃ分かるんだよ!」

 

ドガガガ!

ドン!

 

闇風のM500AとオキのM29がビルの間で鳴り響く。

「なんつー速さだ…!?」

「オラオラどーした! そんなもんかよ!」

オキのスピードを見ていたギャレットは冷や汗をかきながら笑った。

「おい旦那…なんだよそれ。そんなの俺の時には見せなかったじゃねーか。」

煽るオキに苦戦する闇風。

ギャレットすら見た事のないスピードで周囲をぐるぐると周り、最初の1発以外撃っていないオキは闇風の弾丸を真正面から避けきった。

「まさか…重量を!?」

「ご明察。おやすみ。」

 

ドン!

 

再び1発の大きな銃声。オキのM29マグナムが闇風の腹に大きな風穴を開けた。

「っち…あんた…強いな。いいセンスだ。」

闇風はそう呟いてロストした。

「ふぅこんなもんか。」

タバコに火をつけ瓦礫の上で吸うオキに近寄ろうとギャレットが立ち上がった時だ。ギャレットの真正面、オキの背の方角に位置する建物の中。光る何かが目に写った。

「旦那あ!!」

ギャレットがオキをひっぱり、直後にギャレットがその場に倒れた。

「ギャレット!? っち!」

弾丸の先、そこに見えたのはライフルを構えるデスガンの姿があった。

姿は一瞬で消えその場に残ったのは倒れたギャレットと守られたオキだった。

「へへ…俺はここまでらしい。一思いにやってくれ…。」

「わかった。」

ギャレットに渡していたトンプソンを受け取ったオキはM29をギャレットへと向け、1発だけ放った。

「負けるなよ。」

 

ドン!

 

オキの弾丸はギャレットの額を撃ち抜き、ギャレットはそのまま微笑みながら消えていった。

「っち…。」

直後、ビルの中へと向かっていたクロ達が入口から出てきた。

「マスター!」

「クロ、シノン。一旦引くぞ。…ん? その武器どうした。」

クロが持っていなかった銃を持っていた。

「銃士Xがいたの。クロが速攻で倒したけど。その時拾ったの。」

周囲を警戒しながら状況を説明した。

オキは現在の状況を頭の中で整理。一瞬だけ地図を見た。

「マスター!」

 

チュイーン

 

空気を弾丸が通り抜ける音がオキの耳元で鳴り響いた。

「デスガンめ…。こっちだ。」

オキが頭の中に入れた地図をもとに走った。

「あいつは姿を消せる何かを持っているとみた。ギャレットが倒れたあと、ビルの中に入った直後、姿が見えなくなった。いくら暗いビルの中とはいえすぐに見えなくなるのはおかしい。」

先程みた状況から相手が何かしら姿を消せる何かを持っていると予測する。

「ここじゃダメだ。地図上にいい場所がある。そこで向かうぞ。足はこっちのが早いはずだ。」

走りながら説明するオキだったが、その後ろの角から何か変な音が聞こえてくる。

 

パカッパカッパカッ!

 

角を抜けてきたのは金属の馬に乗ったデスガンの姿だ。

「まず!?」

「オキ! あれ!」

シノンが指指したのは2台の車が置かれていた場所だ。

「あれ乗って逃げるぞ! こっちにしよう。」

その場にあったのはオープンタイプのオフロード車とトラックタイプの車だ。オキが選んだのはトラックタイプの車。ダッドザンというメーカーの車だ。

「ダットラとは趣味がいいぜちくしょう!」

運転席に飛び乗ったオキに、助手席へシノン。

荷台に飛び乗ったクロは先程銃士XからかっさらったM16A1を放った。

 

ガガガガ!!

 

馬の上で身体を傾け避けきったデスガンは近くまで走ってきている。

 

ドルルルルン

 

低いエンジン音を出したトラックはホイールスピンで土煙を上げながら走り出した。

土煙をモロに被ったデスガンは怯み、足を止めた。

「どおりゃ!」

ハンドルを切り、目標の場所を目指すオキのトラックに対し、怯んみ差が開いたとはいえスピードで負けていないデスガン。

「シノン、狙えるか?」

「…やってみる。」

トラックは市街地をはずれ、岩と砂のまっさらな地を走る。身を乗り出したシノンはライフルを構えるデスガンにスコープを向けた。

「…!?」

直後、シノンの身体が強ばる。それを横目で見ていたオキが一言呟いた。

「安心しろ。俺たちがついている。」

その言葉に耳を向けていたシノンは1度深呼吸してもう一度スコープを覗いた。

 

ドゴン!

 

シノンのライフル、へカートから咆哮が響いた。

「オマケだ!」

クロの持つM16A1の下部についているグレネードランチャーから1発の弾が更にデスガンへと追い討ちをかけた。

車の中へと戻ってきたシノンは一呼吸おいてオキへと報告をした。

「あいつのライフルは破壊できたわ。」

「上々!」

オキの飛ばすトラックは砂地へと入り込み、空は赤く染まりかけていた。




みなさまごきげんよう。
中盤戦が終わりました。
このへんのイメージはあまりできてなかったので中身スッカスカですね・・・。申し訳ない。まぁあくまでつなぎですから(震え声

さて、PSO2ドンキコラボ、行ってきましたよ最寄りのドンキ。
一瞬でなくなってました。。。ほしかったなー敗者ポーズ。
これが投稿される土曜日にはEP5の情報が出るそうで、楽しみです。面白い職だったらいいなー。

ではまた次回お会いしましょう。
※来週と再来週は出張の為、更新が遅れます。すくなくとも来週はお休みします。再来週は出来るかどうか・・・。


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第103話  「誰だと思ってやがる」

「ただいま! どうなってる!?」

座敷広間の襖が勢いよく開き、部屋の中にこだまするハヤマの声。

お広間の上座側には大きなモニターがいくつもの場面を映し出していた。

「おかえりなさい。お疲れ様。今ちょうどオキさん達がプレイヤーの一人を倒したとこだよ。」

キリトがハヤマ達に現状を報告する。

「おかえり。君たちも大変だな。」

ディアベルが苦笑しながら帰ってきたアインスに冷えた飲み物を渡した。

「ん、すまない。なに、早く終わらせたいからさっさとぶった切ってきたさ。」

ハヤマ達はアークスシップからの緊急要請で【巨躯】の襲来に対応していた。ハヤマ達がいなくとも対処は可能だろうが、今回は共に【敗者】も同時に出現したとのこと。

仕方ないのでハヤマ、コマチ、アインス、シンキらも出撃。ものの数十分の間に撃破された。

「まったく、君たちが戦っている相手のでかさを実際に知っていると、すぐ横に現実で本当に体を張って闘っている人がいるとは思えないな。…だが、それが事実だから余計に常識を考え直さねばならないのかもしれないな。」

ディアベルは難しそうな顔をしていた。

「おっと、しんみりしていても仕方がない。現状を説明しなければな。」

「たのむ。」

気持ちを切り替え、ディアベルはアインス達にオキ達の詳細を説明した。

オキ達は砂漠地帯をすすみ、途中見つけた夏候惇を強襲し撃破。残るはデスガン一人となった。

オキらはある地点を拠点に、砂漠のど真ん中でデスガンとやりあうことを決めたようで、その場にとどまったまま砂漠の真ん中にある洞窟にてデスガンを待ち構えていた。

 

 

 

 

「ふう。」

一服しつつ、トラックの荷台の上で双眼鏡をのぞくオキ。

「こねぇなー。ちょっと離しすぎたかな。」

「だいぶ飛ばしたからね。まぁ見えたらすぐにわかるよ。」

すぐ近くでクロが自分の武器の弾倉に弾を込めていた。

「シノン、大丈夫か?」

「ええ。大丈夫。今度は迷わない。」

その言葉を聞いて、トラックの運転席の屋根の上で伏せ、ライフルを構えるシノンの頭をワシワシと撫でたオキ。

「ちょ…! な、なにするのよ!」

「肩に力はいりすぎだ。ちったぁ抜け。な?」

ぽんぽんと頭を叩くオキに対し、シノンは顔を赤らめていた。

「うっさい…。シリカちゃんに怒られるわよ。」

ちらりと浮遊しているカメラを見たシノンだが、オキは鼻で笑った。

「なーに。あいつならこれが気を紛らわせる行為なのか、愛する人に対して行う行為なのか。それくらい遠目でもわかるさ。」

その言葉に面白くなさそうなシノンに軽く口を微笑ませているクロ。

「さて、来る前に再確認だ。シノン、本当にあいつのライフル壊れたのか?」

「ええ。間違いなく壊してやったわ。ついでに付けていた何かの装置もね。」

シノンの言葉に目を丸くするオキは眉をゆがませた。

「シノン、それまじ?」

「え? ええ。当たった時に、あいつの身体にノイズと背中に何かの光が見えた後、煙が上がっていたわ。間違いなく何かの装置が壊れた時のエフェクトよ。」

オキがそれを聞いてニヤリと笑った。

「よーし。よしよし! 面倒なのが壊れたとすれば…。楽になるぜ。」

「説明頂戴、マスター。」

オキの説明はデスガンが何かしらの姿を消せる装置を持っていたということ。それがわかったのはギャレットが撃たれた際に、そんなに暗くなっていない建物の中で一瞬で姿が見えなくなったという事。それらと今までのデスガンの出現時の状況を考えると、転移装置か、姿を隠す装置が考えられた。

転移装置なら、足で追いかけてくる必要はない。ならば後者だとオキは考えたのだ。

「そこでクロの力で倒すつもりで、どこにいてもわかるこの砂漠におびき寄せようとしたんだが…いらん心配だったか。」

「じゃ、じゃああいつは…光学式迷彩でもつけてたっていうの!?」

「ああ。しかもそれを利用して殺すと目安を付けた相手の住所を手にしたんじゃねーかとも思ってる。どうしてもひっかかったんだ。」

いくらデスガンが殺すにしろ、複数人でやったにしろ、殺すためには殺す相手の「体のある場所」を知る必要がある。

いくらかこの星のネットワークセキュリティを双葉に教えてもらった時があるが、相当なハックの力がない限り個人データはそう簡単に手に入らない。少なくともこの国にはそれが出来るハッカーは彼女以外にいないらしい。

「どうやって殺す相手の居場所、住所を手に入れたか。ナビはハックとかで手に入れたとは思えないと言っていた。そこであの姿を消す装置を使えば簡単だった。俺ならそうする。」

そのとき、クロとシノンが同時に少し遠くに移動してくる人影を確認した。

「「来た。」」

「噂をすれば…。到着したら種明かしだ。シノン、いいか? あいつを倒したら速攻でログアウト。ミケと合流しろ。どうせ部屋のどこかで寝てるか飯食ってるから。何かあったらあいつを盾にしろ。危険なものに投げても構わん。」

「え…え!?」

「そんくらいで怪我したり、ましてや死ぬミケちゃんじゃないしね。」

ため息をつきながら次第に近づいてくるデスガンを見失わないようにじっと見つめるクロ。

「いいか? これは命令だ。ミケ以外信じるな。俺が到着するまでな。おびき寄せて、ミケをけしかけろ。じゃなきゃ…お前がやられるからな。」

シノンは真剣な顔をしてコクリと頷いた。それを確認したオキはニコリとほほ笑みシノンの頭をポンと一回だけ叩いた。

「頼んだぜ。隙が出来たらデカイのお見舞いしてやれ。いくぞクロ。」

「あいさーマスター。」

近づいてくるデスガンに向かい、オキとクロはできるだけシノンの撃てる最高の距離で戦うことにしていた。

「よおデスガンさん。さっきぶりだな。あとはお前さんだけだぜ。もうあきらめて自首したらどうだ?」

 

ブシュー

 

金属髑髏の隙間から蒸気を吐き出すデスガンを気にせずそのまま話を続けた。

「ダンマリかい。なら、こちらから話をさせてもらうよ。お前さんの手口はもうばれてんだ。弾撃って一発あたりゃ現実の本体が死ぬ? トリックもいいとこだったな。…ま、俺が考え付いたんじゃねーけど。答え合わせと行こうじゃねーの。」

「…シネ。」

問答無用で突っ込んできたデスガンに対し、微動だにしないオキ。

 

ガキン!!

 

ピックのような長い針状の剣をオキへと向けたデスガンだったが、クロがその間に入り込みデザートイーグルをクロス状にそれを止めた。

「誰に断ってうちのマスターに手を出してるのかな…!」

そのまま蹴りを入れようとデスガンへと足を延ばしたが、すぐさま逃げられる。

「お前さんが持っていた姿を消す装置。高額…工学? なんだっけ。まぁそんな装置だ。どこかで手に入れたんだろう。」

続けるオキを狙いに再び向かってくるデスガンだが、クロが再びオキの護衛に入る。今度はグリップに星形のマークがついたハンドガン、黒星で狙ってきた。

 

ガキッ!

 

クロがピックの剣を止めたところに隙間を縫って空いた腕でオキを狙うデスガンだったが、オキはタバコに火を付けながら銃口を合わせた。

「ちったぁ話聞こうぜ。なぁ。」

諦めたのか再び距離を取って、オキ、クロの両名から離れたデスガンはピタリと止まった。

「いい子でよろしい。さて続きだ。そんな装置を使ってお前は何をしたか。この大会に必要な情報、データ。それを入力する選手の後ろから覗き見したんだよな? 間違ってる? あってたらなんか景品出してくれ。」

 

ガン!

 

間入れずデスガンは黒星を放った。しかしそれはオキの反射力で上半身をそらすだけで避けられる。

「おおっと危ない危ない。景品と思っていいのかなー? ふふん。で、狙った獲物、相手の所へ仲間を向かわせ、どうにかこうにか家の中に入り…薬物で殺す。あんなでかい十字架描く仕草もその合図だろ? で、撃つタイミングを見計らって現実でも薬物を混入。今のご時世、注射針の跡を残さない注射器もあるみたいだしな。なぁ病院の息子さん? ああ、名前はださねーよ。だが、そこまで知っている事は分かってほしいな。」

デスガンの金属髑髏のお面のせいで表所の見えないオキだが、これだけ煽ったのだ。相手が人であるならば少しくらい反応を見せるはずだ。

「なぁ一つ聞いていいか? お前さん、初対面時に俺を殺すと言ってラフコフのマーク見せたよな。俺を殺したい気持ちは兄をつぶされたからか? それとも自慢の兄を倒されたからか? どっちだ。それが気になる。」

デスガンはゆっくりとオキの方を見た。

「…兄…関係ない。お前…邪魔。だから殺すつもりだった。」

しゃべり方が変わった。オキはその反応を待っていた。ニヤりと笑うオキはさらに続けた。

「殺したかったか…。まぁべつにそれは百歩譲って良しとしよう。殺せるものならな。」

口元が次第にこらえきれなくなるオキ。

「見つかるわけねーよな。だって俺とクロの身体は…。」

歯が見えるまで笑い、オキは空を指さした。

「お空の彼方にあるのだからな。普通じゃみつからねーよバーカ。ダハハハハ。だめだ…我慢できねぇ。おうどうした? 殺したい相手が見つからず、躍起になって探したけどやっぱり見つからず…あー腹痛。」

「マスター…。」

クロがあきれ顔になってこちらを見ているがオキは止まらない。

「そう…お前見つからなかった…。住所…。ふざけているのかと…。」

オキとクロが書いた住所は『オラクル船団』。

普通ならふざけているとしか思えないだろう。

「どちらにせよ、お前さんは俺を標的に選んだ。殺せるにしろ、殺せないにしろ、それは変わらない。だからあえて言おう。…俺を、俺達を誰だと思ってやがる。」

オキの顔が険しくなり、圧を放つのが近くにいるクロにも伝わった。クロに威圧はしていない。だが、それが標的ではないクロにもわかるほど、オキの威圧は溢れ出ていた。

「標的に選んだ? バーカ。逆だ。お前は選ばれたんだよ!」

その言葉を放った途端、デスガンのマントから数個の丸い物体が転がり出てきた。

「!?」

クロとオキはすぐさま離れた。直後にポンと小さな音がなり、大量の煙が辺りに立ち込めた。

「ちぃ! 煙玉か!」

立ち込めた白い煙は周囲を真っ白に染め上げ、オキの視界はほぼ0。どこから奇襲が来るかが読めない状況となった。

オキはじっとその場を動かず、音を頼りにデスガンを探した。クロもいる。下手に動かない方がいい。

直後、後方からの気配を察知したオキは手に持つM29をその方向へと向ける。だが。

「終わりだ。」

デスガンの黒星は既にオキの胸へと標準を合わせていた。

 

ガン!

 

 

オキの耳と目には、撃たれた音と共に目の前に広がる小さな背中が目の前に広がった。

「ふん。ボクを…忘れられたら困る…マスター。やれ!」

背中をオキへと託し、撃たれた場所、クロの小さな胸にヒビの入ったノイズが走っていた。

「おう。」

 

ドン! ドン!

 

2丁の大型拳銃の響く音が周囲に響き渡る。煙は風で流されようやく周囲の状況が掴めてきた。

2発。確かにデスガンの身体へと撃ち込んだ。クロはゆっくりと粒子となって消えていっている。

威力の高い大型拳銃で撃たれたデスガンはその勢いで後方へと飛ばされながらもまだその目は光っていた。

 

ドゴォォン!

 

砂漠の夕暮れに更に大きな1発の弾丸が、長いロングバレルから放たれた、巨大な咆哮を放った。

 

バキン!

 

甲高い音を出し、金属の髑髏の仮面が割れつつ頭を粉砕されたデスガン、ステルベン。

シノンのへカートにより、頭部を破壊されリタイヤとなった。

「あぶねぇ…まさか2発も喰らって生きてるとは。シノンに感謝だ。…クロ、リアルでそれやったらトマトの刑な。」

消えつつにこやかに笑うクロの振り上げる拳をお互い打ち合った。

「オキさん!」

走ってきたシノンが到着し、デスガンが消えていることを確認する。

「さて、ここからは時間の勝負だ。シノン認識を合わせるぞ。」

「分かってる。起きたらミケと合流。何が何でも守ってもらう。そして…捕まえる。」

その目を見ればわかる。普通なら怖いだろう。だが、シノンのソレは不安など一切ない事をオキは確認した。

「最悪相手に投げつけろ。そらくらいやっていい。…で? どうやってリタイヤすんのこれ。」

「これ? 死ぬしか無いわよ。」

「まじかい。」

口をへの字にするオキと対称的に、シノンは微笑みながらゆっくりと手榴弾のピンを外した。

「これで…最後ね。」

「あぁ。」

手榴弾の爆音が響き渡り、第3回BOBはオキ、そしてシノンの2人同時のダブル優勝となり幕を閉じた。




皆様ゴキゲンよう
2週間ぶりの更新ですお待たせいたしました!
いやぁ仕事での教育が2週間入り、何も作成出来ませんでした。地獄はまだ実践というものが残ってるがな!
さて、BOBは終わりました。さらっと終わりましたがここからがPSO2との絡みに繋がっていくお話となります。
もし宜しければEP3完了をお楽しみください。

PSO2本家では新職、ヒーローが来ますね。どこかでみたあの人も!?
楽しみです。いまはヒーローに向けて武器作成と勤しみつつ、FGOではアガルタも始まりました。上げるとこあげて落とすストーリーは流石ですね。

では次回にまたお会いしましょう。


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第104話 「欲望の城 パレス」

目をさまし、自分のベッドから起き上がったオキはすぐさま準備に取り掛かった。

「マスター。こちらを。」

小さなパートナー、アオイはすでにオキの着替えから装備まで準備を指示されており、それを完了してスタンバイしていた。

「サンキュ。アオイ。」

普段の服装、黒のジャケットに合せた色のズボン。そしてその上から白のコートを羽織った。

装備は金色に光り輝く大剣と、リボルバー式の大きな双銃。

「今日はラサハディスをお持ちにならないのですか?」

ラサハディス。オキのメイン武器の一つ、『エルデトロス』と同じ素材から作られたツインマシンガン。

普段と違う装備に疑問を持っていたアオイは首を少し傾げてオキに聞いた。

「ああ。あまり強力なモノ持って行っても仕方ないからな。今日は別にダーカーとやりあう事はしねーからよ。これくらいで十分だ。」

なるほど、とつぶやいたアオイの頭を軽く撫で、オキは自室を後にした。

アークスロビーへとたどり着いたオキは、クロがキャンプシップ搭乗口にいることに気づいた。

「クロ!」

「準備はすでにできている。行って、マスター。」

「ありがとさん。」

すれ違いざまに頭上で掌を叩き合い、オキはキャンプシップ内部へと入り込んだ。

パチパチとスイッチを入れ、自動操縦から手動へと変更する。

『こちら、アークスシップ総合ブリッジ。キャンプシップS-58620へ。手動操縦へと変更。発艦許可…確認完了。むちゃしないでくださいねオキさん。』

通信の先からオペレーターの「」から注意の声が聞こえた。

「あーよ。ちょっといってくらぁ! キャンプシップS-58620。目的地スレア。出発!」

ジェット噴射を吐き出しながら、オキの操縦によりキャンプシップは惑星スレアへと飛び立った。

「双葉の連絡だとこの辺だが…。」

キャンプシップのスクリーンにはナビから送られてきた情報をもとに入れた位置が記されていた。今はその上空を一般の人に騒がれないようステルス機能で姿を隠しながらゆっくりと飛んでいる状態だ。

「あぁ。いたいた。」

ジョーカー、双葉の姿を確認し、オキはキャンプシップの操縦をオートモードに変更。キャンプシップ後方へと移動した。

『オートモード起動。自動帰還システム作動まで後60秒です。』

機械口調の女性の声がキャンプシップ内にこだまする。それを聞いてオキは後方にある出口へと飛び込んだ。

飛び込んだ先の水のような膜が張られている場所に足がついた途端、体は吸い込まれ、すぐさま外へと移動。

そのまま空へと落ちて行った。

ズシャ!

「うわぁ!? お、落ちてくる奴があるかばかぁ!」

上空高くから落ちてきたオキはそのまま綺麗に着地。目の前には双葉とジョーカーが目を見開いて立っていた。

「これがアークス流の降下方法だ。きにすんな。ジョーカー。」

「ああ。この先だ。」

ジョーカーの案内で進むオキと双葉。その先にはすでにスカルにパンサー達も待機していた。

「初めてこのパレスに潜ったとき、驚いた。」

ジョーカー達はオキがBpBで戦っている中、この『パレス』と呼ばれる欲望の世界で戦っていた。

『パレス』。それはある欲望を持った人物が『ある場所』を『どのように』認識しているかで姿の変わる認知の世界。

ジョーカー達はその世界で1年近く戦ってきた。その話はまた別の物語。

「欲というのはパレスに大きく影響する。そしてそこの主である人物がそこをなにと考えているか、認知しているかで姿が大きく異なる。」

猫のような、猫じゃないような。二足歩行の見たこともない小さな生き物がしゃべった。

「その声…モルガナか!?」

「そういえば、モルガナのこっちの姿を見るのは初めてだったけ。」

他のメンバーも姿が変わっている。皆が仮面をかぶり、そして服装がまるで違う。

「学校がお城だったり…。」

骸骨の上半分の黒い仮面をつけたスカルに、胸元の開いた赤のボディスーツを着た身体のラインがはっきりわかるパンサー。

「アトリエであったボロ屋が巨大な美術館だったり。」

狐のお面を装着したフォックス。

「街全体が銀行になったり。」

ライダースーツにげとげした肩パット。無骨な仮面のクイーン。

「いろんな場所を見てきました。」

フランス銃士のような服に羽根つき帽子。黒いアイマスクのノワール。

「国全部を欲望の海に沈めた奴もいた。」

サイバースーツに暗視ゴーグルをつけたナビ。

「そして今回は…。」

オキが見た風景。それは周囲一帯が先ほどまで見ていたゲームの中の世界観と同じ。

「この建物、GGOの中と同じ?」

黒のロングコート、白のドミノマスクをつけたジョーカーを見た。

コクリと頷いたジョーカーはある一点を指さした。

「その通り。そして奴は最上階にいる。」

高く飛びえ建つ巨大な黒い、窓の一切ないビル。GGO内にある中央管理塔。それが静かな住宅街のど真ん中に建っていた。

パレスの攻略法は、パレスの最奥にあるというそこの主の宝を盗むことにより、パレスを崩壊させ、膨れ上がった欲望を罪悪感に変えることが出来るという。宝とはいろんな形があるらしく、人それぞれであり、金メダルや絵画、中にはおもちゃのお札、思い出のある品等いろいろあるらしい。

「シャドウ? 本人じゃねーのか。」

「その通りだ。シャドウとはその者の裏の顔。欲望が主に出てきた顔だと思えばいい。ただの人間じゃねぇ。ふつうなら俺たち以外の人を入れることはないんだが。」

「なーに安心しろって。化け物との殴り合いなら慣れてるってもんだ。」

背中にある黄金に光る巨大な剣を親指で指差しながら笑うオキ。コクリと頷いたジョーカーを先頭に、パレスへの唯一の入り口へと向かって行った。

ジョーカーから入り込み、最後のオキが足を踏み入れた瞬間だった。

『きた…きた! きたきたきたきたきたきたきたきた! 僕の邪魔をするもの! 僕から奪ったもの!』

どこからか声が聞こえてきた。とても大きく、入り口となっている大ホールの壁がびりびりと震えるほどだ。

「完全にオキを警戒してるね。」

ナビがオキを心配そうに見る。

「すげえプレッシャーだぜ。こんなの久々だ。オキは大丈夫か?」

モナもビリビリと震えるほど押しつぶされそうなプレッシャーを感じているようだが。

「え? あ、俺警戒してんのこれ。」

タバコに火を付けるオキはケロっとしている。特に問題はなさそうだ。

実際なにも問題はない。この程度のプレッシャーでは冷や汗一滴かきやしない。

「頼もしいね! このまま進んで、奥のエレベーターに乗って! そのまま最上階へ一直線だから!」

ナビの指示通りにすすみ、エレベーターへと乗ったメンバー達はそのまま最上階へ。

最上階は真っ白な部屋。エレベーターのある反対側の壁は一面モニターとなっており、その少し前に階段の付いた大きな椅子がおかれていた。そこに座っていたのが、シュピーゲル。

エレベーターから降りたジョーカーたちとはさんで広い広い部屋の真ん中に光り輝く何かが巨大なガラス玉のような何かに囲まれ置かれていた。

「見えたぜ。オタカラだ!」

エレベーターの中で説明を受けたオキは先ほどのナビとモルガナからの内容を整理していた。

パレスの住人のオタカラは初めて来たときはぼやけていて何も見えないそうだ。触ることもできないらしい。しかし、外の世界、つまり現実の本人がそれを『盗まれる』と認識した時に、ソレは形を作り、認知の世界であるパレスにも影響が出る。

ジョーカー建はオキがGGOでデスガン=シュピーゲルと戦っている最中に、パレスに侵入。オタカラを盗む経路を確保し、ナビ=双葉のハッキングよって、シュピーゲルがログアウトした直後、ヘッドギアの画面いっぱいにジョーカー達からの『予告状』を見せる事に成功したという。

結果、パレスのこの場所にオタカラが出現したということだ。

『なぜ貴様は…僕の邪魔をする。なぜ…貴様は僕の大事なものを奪っていく…。』

黒い靄のような何かを出しながらシュピーゲルはゆっくりと立ち上がり、階段を下りてきた。

「気をつけろ。大概この後デカイ化け物に代わって襲ってくる。油断するな。」

警戒をするジョーカー達。そしてこの言葉がオキへと送られている事に気づいた。

シュピーゲルがオキを指さしたからだ。

「貴様は! なんだ! なんなんだ! 許さない…許さない許さない許さない許さない許さない!!! やらせない…。」

だらりと首を下に向けたシュピーゲルは恐ろしい形相でオキを睨み付けた。

「やらせない!!!」

直後に黒い靄はジョーカー達を囲み、黒い靄から多くの化け物が現れた。

「シャドウ!? 10…20…40…80…まだ出てくる!?」

「なんだよこれ…。いくらなんでも多すぎだろ!」

「まずいわ。囲まれてる!」

取り乱すスカルに周りの状況を確認したクイーンは囲まれている事を知る。そしてナビはその数を数えたが、あまりの多さに絶句し、まだ出てくることを報告する。

「ぐ…ぐうう…。」

オキの身体に異変が走る。湧き出てくる力。体の中で暴れるフォトンを感じるオキは何とか抑えようとするも制御ができない。

「まずいよ! オキに向けてパレス全体から警戒されてる! 一点集中で止まらない! しかも変な力出てるし…。」

「こいつは…。」

モルガナはそのあふれ出る力がなんなのかを感じ取った。それは自分たちも扱っている力の源。

『やらせない…貴様にはさせない…貴様は…!』

そんなジョーカー達とは裏腹に、オキは頭の中がぐちゃぐちゃにかき回されているような感覚に陥っていた。

『貴様は…できない…。』

一度オキの目の前が真っ暗になる。誰かの声がする。聞いたことのある声。そして、見た事のある一人の少女がぼんやりと映し出される。白くて、何度も笑顔を見てきた、その少女が、二つの黒い影から何かを受け取った。

そして黒くなり、場面が変わり、そして、自分がその子を、貫いていた。

『貴様には…できない!!!』

「やめろ!!!」

オキが大きく叫ぶと、自分の感覚が戻ってきた。そして自分の状態を確認した。

黒い仮面に頭ごと覆い尽くされ、コートは黒くなっている。そして今見えた走馬灯のような一瞬の出来事を、本当に経験したかのような感覚になる。

『貴様は、できない。』

まだ頭に響く。今回は聞こえる声が違う。どうやら目の前にいるシュピーゲルが発した言葉、そしてこの異様な世界のせいでフォトンがざわめいたらしい。

おかげさまで『誰かさん』と繋がったようだ。

「うるせぇ…てめえに決める筋合いは…ねえ、よ!」

手を後ろに伸ばし、邪魔な仮面を取ろうとする。しかし何かに引っかかって取れない。

「うおおおおおお!」

バリバリバリバリ!

破くような音を発し、仮面を剥いだオキ。直後に目の前に何かが出てくる。黒い光を出しながら、異様な力を発して。

「ペルソナ!? でも、なにこれ…こんなの感じたことない…。」

おびえる声を出すナビはそれがなんなのかを見たことがない。

『…。』

ガキン!

「え?」

「はぁ!?」

ゆっくりと後ろを振り向いたその黒い姿をした人は、同じ色をした黒い両剣をオキへと振った。白いコートに戻ったオキは背中より金色に光る大剣でそれを受け止める。

「ばかな…! ペルソナが、自身を攻撃するなんて聞いたことねーぞ!」

モルガナが叫ぶ。ペルソナ。それはこの世界で抗うためのもう一人の自分。抗おうとする思いが強ければ強い程、それは強固となり、力を発揮する。この世界でしか発揮できない力ではあるが、この力のおかげで、ジョーカー達は国を巻き込んだ大事件を人知れずに解決した。自分自身の為、ペルソナが指示されない限り自分を攻撃するはずがない。だが、目の前の黒い仮面をつけた異様な気を発する『ペルソナ』は何かが違う。それはジョーカー達全員が感じ取っていた。

「おいおい? いきなり現れて攻撃してくるとは。しかも…いや、たしかにペルソナだよな。なぁ?」

「…うるさい。黙れ。ここはどこだ。なぜ貴様がいる。」

唸るように小さくしゃべったその者の名は『ダークファルス【仮面】(ペルソナ)』。異様な世界のせいなのか、オキの力のせいなのか。誰もわからない。しかし出てきたのは紛れもなく【仮面】(ペルソナ)である。

そしてお互いに感じ合った『ソレ』は、【仮面】(ペルソナ)の正体であった。

『…うう…ああああああ!』

オキと【仮面】(ペルソナ)がつば競り合いをしている最中にいきなり唸り声が上がる。相変わらず黒いオーラを出しながらこちらを睨み付けているシュピーゲルが頭を抱えながら唸っていた。

「そういや忘れていたな。それとも、ここで決着つけるかい? 【仮面】(ペルソナ)。」

「ふん。それもそうだな。」

オキが彼を見た後に、【仮面】(ペルソナ)へと顔を戻した。

「シャドウ! くるぞ!」

ナビの言葉と同時に百体入るだろう大小様々なシャドウという名の化け物がジョーカー達を襲いに駆けはじめる。

「力を貸せ。お前は、『俺』なんだから。」

「…遊びは今回だけだ。」

ペルソナとして召喚されたからか、それともある『理由』からか。【仮面】(ペルソナ)はため息をついてオキから離れた。

そしてジョーカー達へ向かうシャドウへとそれぞれ正反対へと駆け、シャドウの軍団へと突っ込んだ。

ドン!

シャドウたちが勢いよく飛ぶ光景をジョーカー達は見た。

「イィヤァ! バスター! ってなぁ!」

「…死ね。」

円を囲んでいたシャドウたちを蹴散らしながら進むオキと【仮面】(ペルソナ)。その光景はまさに一騎当千という言葉が似合うだろう。

一瞬にして囲んでいたシャドウたちを蹴散らし、シュピーゲルを睨み付けた。

「次は貴様の番だぜ。さっさとお前倒さねーといけねぇ理由が出来た。」

「…。」

隣にいる【仮面】(ペルソナ)を睨み付けながらオキはシュピーゲルを煽った。

『うるさい…。うるさいうるさいうるさい! 渡さない…彼女は…僕が…僕が守るんだぁぁぁぁ!』

「シャドウ! 変化するぞ! この感じ、力を増している!」

黒い靄が大きくシュピーゲルを包み込み、更に、フロアの中央にあった光り輝く『オタカラ』が彼の居ると思われる黒い靄の中へと消えて行った。そして一気に黒い靄が晴れた。

「それがお前の欲望の姿…か。醜いねぇ。」

「人の事言えるのか…?」

オキに対し、隣の【仮面】(ペルソナ)がぼそりとつぶやいた。

「うっせ! ブーメランだぞ。」

同時に飛び上がり、巨体となったシュピーゲルのシャドウにとびかかった。

黒いフードマントを羽織り、デスガンの金属髑髏のマスクをした巨大な死神。マントの中にはシノンに似た女性像が鎖によって繋がれ、体の檻に閉じ込められている。左手には巨大な鎌をもち、右手にはあの『黒星』が握られていた。

『こんなところでまさか知るとは。さっさと終わらせて、マトイちゃんのところに…!』

オキは金色の大剣、ライトニングエスパーダを大きく振りかぶり、シャドウへと突っ込みながら【仮面】(ペルソナ)と繋がった際にみえた『あの状況』を受け止め、それを阻止するためにやらなければならないことを思い描いていた。




みなさまごきげんよう。
EP5が近づき、いろいろと準備が進む燃2弾4鋼11暑い日が続いております。体調にはお気をつけて。
さて、今回はP5の設定を使用してのお話となっております。(SAO関係ねえ)
GGO編で書いている最中に思いついた『ペルソナとして【仮面】をだす』というネタをやってみたかった。幸い、EP3につながる設定も同時に思いついたのでもともとのベースに付け加える形で今回を描きました。

さて、次回はGGO編の決着と、せっかく【仮面】だしたのでやりたかったことを思い付いたので、それを描きたいと思います。

ではまた次回にお会いしましょう。


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第105話 「大当たり」

パレス内部でシュピーゲルこと新川恭二のシャドウと戦うオキ達の表では、予想通りシノンこと朝田詩乃の家に恭二が訪れた。

「優勝おめでとう、詩乃さん。」

「ありがと。」

祝いのケーキを買ってきたという恭二を家の中に入れた詩乃はテーブルをはさみ、ずっとしたを向いていた。

「あの…詩乃さん? お話って?」

「あ、ごめんなさい。その…。」

詩乃は恭二をなんとか説得し、自首させようと考えていた。捕まるよりも自首した方が罪は少しでも軽くなる。確かに彼は許されない行為をした。それは分かっている。しかし、彼は詩乃の数少ない友人。できる事なら、穏便に済ませたい。

「ケ、ケーキたべよっか。」

彼が無理に笑っているのがわかる。ゆっくりとケーキを切っていく恭二の手を見ながら、詩乃は白い猫のぬいぐるみとなっているミケをギュッと抱きしめていた。

「ねぇ…。なんで殺したの?」

詩乃の言葉に恭二の手がピタリと止まった。

「な、何のことだい?」

「ふざけないで。全部知ってるんだから…。ねぇお願い。自首して? 今ならまだ…。」

バシ!

恭二の手が詩乃の頬を叩いた。その勢いで詩乃は倒れ、猫のぬいぐるみは少し遠くへと飛んで行った。

「そう。やっぱり知ってたんだ。」

そういいながら恭二は詩乃へとゆっくり近づいていく。

「ごめんなさい。でも、オキさんは…。」

「オキ…ああ。あの男か。ああ、何度聞いても腹が立つ! すべてうまくいくはずだったんだ! あの男が現れるまでは! なんで僕の邪魔ばかりするんだ! 一体何様のつもりだあの男は! そうだろ? 詩乃さん…。あの男さえいなければ、僕と君はうまくいっていたかもしれないんだ。」

倒れている詩乃は恭二の顔を見たまま動けない。あの優しい青年が、顔を歪ませ笑っている。このような顔を見たのは初めてだ。

「詩乃さん…詩乃さん詩乃さん詩乃さん詩乃さん! ああ、動かないで…。この手に持っているのがわかる? これで皆を殺したんだ。僕を貶めた悪いやつらを…。そう僕が正義なんだ。僕が正しいんだ。」

馬乗りになりつつ、動けない詩乃の身体を舐め回すように、目を見開いて見ている。

彼が持っているのは間違いなく注射器だろう。形は一般的に知れ渡っているモノではないが、針穴が見つけにくくなる特殊な奴だと言っていた。間違いなくソレだろう。

『大丈夫だと…思ったのに…。』

何とかなると思った。だが、結果的に恐怖で何もできない。

「もう僕のモノだ。君は僕のモノになるんだ。もう離さない…。ん?」

恭二は詩乃の上に馬乗りになったまま固まった。誰かが見ている。そんな気がした。詩乃だけがいるはずのこの部屋に何かがいる。そしてじっとこちらを見ている。その時ふと横を見た。

「じーーーーーーーーーーーーーーーーー。」

恭二の視界には白き猫の少しにやけた微笑む猫の顔がいっぱいに広がっていた。

恭二が詩乃を襲う数分前。

「はっは! どうだ!」

「他愛もない。」

「うーわー…。はたから見たらいじめにしか見えないよ。」

ナビのあきれた声を聞きながら、オキと【仮面】はジョーカー達の援護の下、シャドウシュピーゲルをめった切りにしていた。

くるくると縦に回転させ、地面にライトニングエスパーダを突き立てたオキは、今一度シャドウシュピーゲルの姿を確認した。

両手に持っていた銃と大鎌はすでに壊れ、腹部にあった檻は怖され、中にあった鎖でつが慣れたシノンの姿もすでにない。

「あと少しだ。一気に叩くぞ。」

「指図するな。」

オキと【仮面】はシャドウシュピーゲルの周りを時計回りに回りだし、対角線上になった直後、お互いの方向へとシャドウへ剣を突き刺した。

『ぐうううう! オオオオオ!』

突き刺された剣をそのままに体を回転させ、オキ達をほおりだしたシャドウ。

突き刺さった剣はそのままである。

「おらぁ!」

「ふん。」

オキは足の裏で蹴りこみ、【仮面】は持ち手を掌底でさらに差し込んだ。

勢いが強かったためか、【仮面】の武器はオキへ、オキの武器は【仮面】の方へと飛び出してきた。

にやりと笑ったオキは【仮面】のダブルセイバーを空中で受け止め、黒いダブルセイバーを振り回した。

また、【仮面】の方へと飛び出したオキのライトニングエスパーダは【仮面】が受け取り、横に縦にとそのままシャドウへと攻撃を入れた。

「合わせろ【仮面】!」

「指図するなと言ったはずだ。」

【仮面】はそういいながらもしっかりとオキの攻撃とタイミングを合わせた。

「クロス…カリバー!」

ザン!

お互いにクロスで攻撃を入れた。これが決め手となり、シャドウは少しずつ崩れていく。

手にした武器をお互いに投げ、おまけとばかりにオキは双銃、M22 ミズーリを片腕で構えた。

『くそ・・・くそぉぉぉ! 死ねぇ!』

最後の悪あがきのごとく、触手のようになっていた腕を振り回し、オキのミズーリを吹き飛ばした。

「っち。」

舌打ちをしながら飛ばされたミズーリを手に取った【仮面】は、もう一つのミズーリを取り出したオキと同時にシャドウへと銃口を向けた。

「今回だけだ。付き合ってやる。」

「へへへ。決めの言葉はどうする?」

「決まっているだろう? 貴様の好きな言葉だ。」

仮面の向こう側、彼の顔は見えなくとも、オキは【仮面】が少し微笑んだ気がした。

オキがアークスになる前から好きだった伝説のダーカーハンターの物語。その者の決め台詞。

『『大当たり(ジャックポット)』』

同時に力を込めた弾丸を放ち、シャドウの額ど真ん中にぶち当てた。

どろどろと溶けていくシャドウの体は小さくなり、シュピーゲルの体に戻った。

「くそう…くそう。どうして…どうして僕ばかり…。」

「ばーか。こんな人を貶める行為やってりゃばちも当たるだろう。」

オキがこつんとシュピーゲルの頭を叩いた。

「そう、だよな。うん。僕が悪かったんだよな。独りよがりになっていたってわかってた。反省するよ。」

そういいながらシュピーゲルの体はゆっくりと消えて行った。

「…。」

「そんな目で見ないでくれオキさん。」

消えて行ったことに対して聞いてないと言わんばかりにジョーカーの方を見るオキ。

「これで…オタカラゲットだ! さぁ逃げるぞ! 全速力だ!」

ゴゴゴゴ

パレスが崩れている音がする。かなりひどい揺れだ。

「私はここで抜けさせてもらう。」

【仮面】が背を向け、消えようとした。

「おい【仮面】。ナベリウスで待ってろ。てめーの目論み、絶対阻止してやる。」

「できるものならやってみろ。」

ふんと唸り、【仮面】は消えて行った。必ず阻止しなければならない。オキはナビに引っ張られながらそう決意した。

「いいから逃げるぞぉぉぉ!!!」

「あ…えっ…?」

「じーーーーーーーーーーーーー。」

恭二の目の前に少しにやけ顔をした白い二足歩行の猫のぬいぐるみが立っていた。先ほどまでここにはいなかった。いや、詩乃が抱き着いていたヌイグルミなのを思い出した。

ゆっくりと手を挙げるヌイグルミ。

「え? ええ!? う…うごい…!?」

あまりの驚きに恭二は壁際へとゆっくり後退。

挙げた手の上にはパイが乗っかっていた。それをミケは。

「うらー! パイ食えなのだー!」

パーン!

全力で投げた。

直後、ガタガタと玄関の方角が騒がしくなり、リビングにオキが入ってくるのと、ミケがもう一つおまけで投げるのと同時だった。

「おまけなのだーーーー!」

「ってわけで、呆然としている彼はそのまま警察へと引き渡したのでしたっと。」

「めでたしめでたしなのだー。」

もぐもぐとケーキを食べるオキとミケ。そして静かに黙っている誌乃。

「なるほどねぇ。これが彼の…。これは参考物件として、こちらで預からせてもらっても?」

高級そうな店でケーキを頂くオキたちは菊岡へ報告をした後に、報酬として高級ケーキを大量に食べさせてもらっていた。

菊岡が持っているのはシュピーゲルこと恭二が宝物として持っていた『黒星』。

「事情聴取のときに参加させてもらったが、君の言うとおりだったよ。」

恭二は兄であるザザに対し、狂信的な憧れがあったそうだ。しかしSAOから帰ってきた兄は別人のようになっていたそうだ。

それもその筈。ザザ含め、ラフコフ幹部以下はオキらアークスに徹底的に力の差を見せつけられたのだ。

生きている世界が違う。叶うはずがないと。そのため恭二は兄は死んだと思い込むようになり、もともと引きこもりだったが、より引きこもるようになり力を求めるようになった。しかし、多額の金額をつぎ込んだキャラクターもゼクシードの一件で使い物にならなくなった。

別のキャラを作成し、なんとか立ち上がろうとした彼だが、偶然手に入れたレアアイテム『光学迷彩』。そのアイテムを発端に今回の殺しの件を考えついたらしい。彼が捕まったため、仲間であったゼクシードを恨む者たちも芋づる式に捕まった。

誌乃との関係は偶然にも出会い、話が合い、仲良くなった数少ない女性というのもあり、しかもどのような状況でも強く思う心に憧れを抱いていたらしい。

「そう…。」

「残念だったな。本当は助けたかったんだろ?」

コーヒーを飲みながらタバコをふかすオキにゆっくりと頷く誌乃。

「仕方ないわ。まさかあそこまでとは思ってなかったし。今回はミケがいたから 助かったけど…もしいなかったらと考えると…。」

オキは震える姿をみてぽんぽんと頭を叩いた。

「ま、結果よければだ。さって、誌乃。ここはおっさんのおごりだ。好きに食え。俺たちは用事がある。」

ガタっと立ち上がったオキの顔は先程までの優しい顔とは反転し、険しい顔つきになっていた。

「もう行くの?」

「なのだなー。オキがやりたいことがあるそうなのだー。」

コクリと頷いたオキはゆっくりと店を後にした。

【仮面】と繋がった際にみえた一部始終。それがもし現実になるのであれば。いや起きるのだろう。その結果が【仮面】なのだから。

「いくぞ。ハルコタンだ。」

                




みなさまごきげんよう。
せっかくの【仮面】登場なので、DMC3のあのシーンを再現したくて描きました。
さて、ようやくEP3と繋がりました。ここからはPSO2の物語、EP3の話となります。
EP3はあまり改変がないので、みどころは? と聞かれるとうーんとなりますが、みなさまにも楽しんでいただけるよう頑張りたいと思います。
では次回にまたお会いしましょう。


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第4章 ~深遠なる闇~
第106話 「復活のあいつ」


惑星ハルコタン。オキ達がSAO内で暴れている最中に見つかった星。白の民や黒の民と呼ばれる2種族の原生民が住んでいる。

白と黒の勾玉を組み合わせたような形をしているのが特徴で、さらに特徴的な形状の輪を持っている。

この輪はかつて悪神『禍津』を封印した石が砕け散って環状となったものである。白の民が住む白ノ領域と黒の民が住む黒ノ領域、そしてその狭間に永涙の河という場所が存在する。

アークスと白の民は現在友好関係にあり、マガツや黒の民が白ノ領域に対して攻撃し混乱状態にある中で、ダーカーの浸食をアークス達共々防いでいるのが現状である。

鬼を思わせる姿をしている白の民に対し、黒の民はいびつな形をした、さながら『妖』と呼ばれる類の姿をしているモノたちが多い。

そんなハルコタンで活動し始めた理由としてダークファルス【双子】がこの星にて出現しているという情報をシャオがつかんだ。

オキ達のいないなかで、マトイやクロ等チームペルソナを中心に【双子】襲撃による悪神『禍津』の一部復活や白の領域侵攻を『杯の巫女』と呼ばれ、白及び黒の民すべてから神と扱われ信仰されているスクナヒメ、その守り人コトシロと共に防いでいた。

「ふーむ。ん? おお、おぬしらか。」

白と黒の髪を束ね、同様に白と黒交互に混ざった衣を纏った額から一本の角が生えている女性。スクナヒメ。

「どもっす。」

「どうしたの? 難しい顔して。」

軽く頭を下げたオキとスクナヒメの顔を覗くマトイ。これじゃよこれと手に持った書物のようなものをオキとマトイにひらひらと見せた。

「白の王からの書状でございます。」

「小生意気な小童を討ち取る為の手紙じゃ。あの小童どもが黒の民をたぶらかしておるのは間違いない。やつを討ち取れば全てが終わるであろう。ゆえに次の手は決まっておる。わらわが直接出て、あの童を討ち取ればいい。とはいえ、いまはマガツによる影響でわらわの力は衰えておる。かつ、被害は最小限に抑えたい。よって白と黒の王に手紙を送ったのじゃが・・・。」

「中身は一言目には挨拶に始まり、二言目からはいかに黒の民が醜悪かを並べ立て、天罰を期待していると…。」

大きな盲目の鬼。スクナヒメの守り人であるコトシロがオキとマトイに説明してくれたが、中身はあってないようなモノらしい。

「元から腰抜けとはわかっておったが、ここまで腑抜けとは思ってもみなかったわ。」

スクナ姫ははるか昔より生きる白と黒の民の唯一の混血。それからという長い年月の間、両領域のトップに立つものとは即位の際に対談を行うらしい。その時から今代の白の王は術の使いとしてはかなりの力を保有しているものの、性格は事なかれ主義であり、極度の臆病だと言っていた。

「黒の王からの返事は…いかがですか?」

黒の民が住まう黒の領域。そこには黒の王が白の王同様にいる。

「あやつは聡明である。ちと傲慢なきらいはありはするが、なに可愛いものじゃ。で、あるが、どうも動くのが遅すぎる。返事はまだないと。…仕方ない。わらわが直接向かわねばならぬかのう。」

ため息をつくスクナヒメ。本来ならば、向こうがこちらへと来て、頭を垂れるのが基本だというスクナヒメ。

黒の領域には白の民であるコトシロはいくら灰の巫女の守人だとしても入るのは無理だ。

そこでマトイの提案でマトイ、オキの2人が付き添いで向かうことにした。アークスとしても挨拶をしておきたいという。

アークスの二人が付き添いであれば心配もないだろうとコトシロも太鼓判を押してくれたため、3人は黒の領域へと向かった。

黒の領域に入った3人はゆっくりと大きな山を登りだした。

あちこちにある崩れそうな大きな銅像。赤や黄色オレンジと色とりどりの草木。そこに流れる透明の川。

通常時ならその美しさに目を奪われるオキではあったが、今回は違った。

「オキ? どうしたの?」

「ああ。いや、なんでもない。」

難しい顔をしていたよ? と首をかしげるマトイに対し無理やり笑顔を見せるオキだったが、マトイとスクナヒメがしゃべりだした直後に再び目を細め、マトイを見つめながら二人の後ろを歩いた。

ジョーカー達と潜ったパレスであった【仮面】との意識の接続。その時に見えた景色の一つがこの黒の領域とうり二つなのだ。

何があってもいいように、オキはハヤマ達にキャンプシップでの待機を命じてある。

『あの意識と【仮面】の記憶が正しければ…ここで。奴は何をやっても無理だった。』

【仮面】の正体。【仮面】の過去。それはダークファルスになる前の彼の姿。それが今でも目をつむれば目に浮かぶ。

場面場面は断片的ではあるが、それらすべてにマトイの姿が映っている。そしてある瞬間から、彼女を殺すことに執着しだした。その理由も今ではわかる。

『必ず阻止しなければならない。問題は…。』

オキはあれやこれやと考えながら二人の後を進んだ。

『俺ならどうするか。』

-------------------

気が付けば黒の領域の頂点、王の間へとたどり着いた。黒の民は一匹たりとも出なかった。

「ふむ。気持ち悪いのう。ここまですんなり通すとはな。」

「誰も…いなかったね。」

どう考えてもおかしい。灰の巫女であるスクナ姫ならまだわかるが、部外者であるアークス二人までついてきている。隠れて監視しているようにも感じない。

黒の王の間は趣味の悪い黄金の巨大な像が多数置かれ、奥に黒の王と思われる一際大きな鬼がこれまた巨大な椅子に座っていた。

「黒の王よ! 久しぶりじゃの! なぜわらわがここに来たか、理由はわかるな!?」

スクナ姫は笑顔ではあるが、額に漫画で見るような怒りのマークがついているのがわかるくらい怒っている。

ゆっくりと立ち上がり、近づいてきた黒の王の様子が変だと気付いたオキがスクナ姫の前に出るのと、黒の王から何度も見た黒い靄がでて消えていくのは同時だった。

「スクナヒメさま…申し訳ありません…にげ…。」

黒の王が消えたその後ろには黒い衣を着た小さな子供が一人、宙に浮いていた。

「ダメだよ。ダメだよ? コピーが勝手にしゃべっちゃぁ。」

ニタリと気味の悪い笑みを浮かべる子供に対し、構える3人。

「【双子】!」

ダークファルス【双子】。今このハルコタンで暴れる玩具系ダーカーの頭。人の子供と同様にはしゃぎ、楽しむ姿を見せるが、傍若無人にして残虐。【巨躯】【敗者】そしてここ最近話題に上がっていた【若人】とは違うダークファルスらしいダークファルス。

そして、弱っていたり、すでに倒された死体であったとはいえ、【敗者】を『食べ』、話には【巨躯】すらも『食べた』モノでもある。また食べたモノは何でもコピーするという能力を持ち、二つのダークファルスがいなくなった今でも、コピーによるオラクル船団ダークファルス襲撃は止まらない。

「貴様ら…黒の王を!」

「食ったな? 黒の王を。」

オキが背負っていたダブルセイバー。ゲイルヴィスナーの刃先を【双子】へと向ける。隣ではマトイもクラリッサを【双子】へと向けていた。

「違うよ違うよ。一人だけじゃさみしいでしょ? 僕が食べたのは全部だよ!」

笑顔で語る【双子】。その言葉にスクナヒメは目を見開き肩を震わせた。

「貴様…すべて…黒の民を! おのれ!」

怒りをあらわにするスクナ姫。オキやマトイも【双子】を睨み付けた。

「あれあれ? 僕たちとやるき?」

「知ってるよ? マガツとやりあって力、ないんでしょ?」

もう一人、同じ声が聞こえた。こちらは元からいた方よりも少しだけ甲高い少女の声。後方から【双子】のもう片方が現れたのだ。

「神様、やるき?」

「僕たちと、やる気?」

【双子】の双方はスクナヒメを挟み込み、腕についている大きな口をスクナ姫へと向けた。

「ま、もともとぼくたちは神様を食べたくて待っていたんだ。それじゃ、いただきます。」

腕についた大きな口はより一層大きくなりスクナ姫を取り囲んだ。だが、それを良しとしない二人がいた。

「あぶねぇ!」

「スクナヒメ!」

オキとマトイはスクナヒメを押しのけ、そして。

バクン

「っ!?」

オキとマトイは【双子】に食べられた。

「オキ? …マトイ? どこじゃ! なにも、感じぬ…。おのれ小童め!」

食べた方の【双子】を睨み付けたスクナヒメ。直後にその【双子】の片割れからもう一人がスルリとまるで分身したかのように現れた。

「呼んだ? 呼んだ? 僕の事。」

「驚いてる顔だね。でも、何もおかしくないよ? 僕は私。」

「私は僕。」

「「二人合わせて【双子】(ダブル)だから」」

双子のダークファルス【双子】はにこやかにスクナヒメへ笑顔を見せた。スクナヒメはすぐさま転移術で逃げた。

オキもマトイも【双子】に食べられてしまったのである。今の力では対立もできない。

「あーあ。逃げられちゃった。」

「…。」

片方の、オキとマトイを食べた方がおなかに違和感を感じていた。

「どうしたの? ちゃんと食べれなかった?」

首をふり、大丈夫だという相方。しかしなにか普段と違うようだ。

「そりゃそうだろ。そんな簡単に食われてたまるか。…にしても危なかった~。」

真っ赤な空。多種の瓦礫が漂う空中。地面も空に負けず紅く染まり、いたるところが崖となり、底が見えない断崖絶壁。

見たこともない空間に落とされたオキは隣で気を失っているマトイの肩を揺さぶった。

「マトイ、マトイ。起きろ。」

「うーん…お~き~…。」

甘い声を出しながら優しく胸にオキの頭を抱くマトイ。柔らかな胸にニンマリとするオキだが、我に返ってより強くマトイを揺さぶった。

「おら! おきんかい!」

「…あれ? オキ? おはよー…。」

目をこすりながら起き上がるマトイはようやく周囲の状況がおかしなことに気づいた。

「え? これ・・・なに!?」

わからんと首を振るオキ。その時後方からなつかしき声が聞こえてきた。

「これはこれは。懐かしいお客さんが来たねぇ。」

どこかで聞いた男の声。聞き間違えるはずがない。なにせついこの間久々に幽霊に出会ったのだから。

「この声…。」

地面から出ている椅子に座り、ゆっくりとその体を回転させこちらへと向く白い服の男。オキらアークスを長い間手中におさめ、オラクルを崩壊させる直前まで追い込んだダークファルス【敗者】そのもの。

「貴様は…ルーサー!」

シャキーン!

どこからともなく音が聞こえてきたと同時にオキはポーズを決め、その背後には【敗者】と文字が浮かび上がって見える。いや、実際ないのだが、目が点になってオキを見るマトイにはなぜかその文字が見えた。

「その通り。僕がルーサー、だ。」

シャキーン!

腕を広げ、空を見上げるルーサーも同じようにどこからともなく音が聞こえ、背中の後ろには【全知】という文字がマトイには見えてしまった。

『なんなのこれ…。』

ルーサーを見た直後に構えた普段輝きを放つクラリッサが、少しだけその光を落としたように見えた。

クラリッサを向けられたルーサーはポーズをやめ、マトイへと向いた。

「悪いが僕は君たちとやりあうつもりはないのだよ。もしよろしければ武器を下してくれないかな。お嬢さん?」

マトイは、頷くオキをみて渋々クラリッサを下した。

「ここはどこだという顔をしているね。教えてあげよう。ここは【双子】の中。かのダークファルスの『内的宇宙』さ。」

双子の中。彼はそういった。オキはこの周囲の光景を見た時に大体察していた。直前の状況。何でも食べつくす【双子】。そして何もかもがごっちゃまぜになったこの空間。足場があるのが唯一の救いだろう。

「【双子】は外で食べたモノをこの中へと仕舞い込み、そしてコピーし、外へと出す。僕もダークファルス【敗者】として食べられ、この空間に閉じ込められたけど、なかなかどうして慣れると楽しいもんだよ?」

ルーサーは片腕を広げ、先に広がる道を示した。

「さぁ、せっかくの機会だ。この中を案内しよう。さぁ来たまえ。」

ゆっくりと歩き出すルーサーについていくオキ。その後ろを不安そうについていくマトイは少しだけ笑っているオキの顔に気づいた。

【双子】の中、この空間は【双子】が食べたものがそのままコピーされ、うごめいているおもちゃ箱のようなものだとルーサーは語った。ルーサー自身も本物なのか、偽物なのか。気が付けばこの空間にいたようなので、わからないが、少なくとも自分は自分だと認識しているようだ。

そんな【双子】空間を進んでいくうちに【双子】が食べたと思われる多数のエネミーが3人の行く手を阻んだ。

「めんどくせぇな。おーらどかんかい。」

ゲイルヴィスナーを振り回し、強力な風でナベリウス原生種や、リリーパ機甲種、アムドゥスキア龍族等を切り刻みながらルーサーの後を追った。

「…お嬢さん。そんな怖い顔でにらまないでくれるかな?」

あまりにルーサーの背中を睨み付ける為、ルーサーが根を上げた。

「だって…あなたはシオンさんを…!」

ふむ、と眉をしかめ少しだけ立ち止った。オキもちょうど休憩がしたかったのと、ルーサーに言いたいことがあった為、話を聞くことにした。

「ならば何故、シオンは僕を止めなかったんだろうね。」

彼女、シオンは人智を超えた存在。ルーサーを止める術はいくらでもあった。しかし彼女は介入せず、むしろ彼女自身が究極的存在を作り出したほどだ。

そういいつつルーサーはマトイを見つめる。

「え?」

目を丸くするマトイに対し、オキはルーサーを睨みつけた。

「ま、そんなことどうでもいい。だが、これだけは忘れないで欲しい。」

 

アークスが作られなければ、すでにこの世界はダーカーの支配下にあったということを。

 

ルーサーはそう言いつつ、さらに奥へと進むように言った。

進むにつれ、玩具系ダーカーだけでなく、虫系ダーカーも混ざり始めた。

「ふむ。【若人】(アプレンティス)の眷属だね。となるとこの先には…。」

ぼそりとルーサーが呟いた。眉を歪めたオキの先、虫系ダーカーを殲滅し終えた瞬間、褐色の肌をした黒き衣、ダークファルスの衣をまとった女性が現れた。

「やはりきたね【若人】(アプレンティス)。模倣体の分際できちんと段取りがわかっているじゃないか。」

笑いながら襲ってくる【若人】へと攻撃を加えるルーサー。

『こいつは…アフィンの姉であるユクリータじゃない。あの時、SAOでみたという【若人】だ。』

オキは知っている。いま目の前にいる【若人】はオキ達がルーサーからオラクルを守った10年前、その時の【若人】襲撃事件。その際に『二代目クラリスクレイス』として活動していたマトイに倒されたはずだ。この【双子】の中にいるということは…。

「ともかくどけ。邪魔するな!」

いまはそれを考えている暇はない。とにかく先へと進むべきだ。

【若人】を倒し、さらに先へと進んでいくと今度は鳥系ダーカーだ。

「ふふふ。なるほど。ここで、こいつらを出してくるのか。なかなかいい趣味しているじゃないか、なぁ【双子】よ。」

ますます笑みを浮かべるルーサーに対し、マトイと頷きあったオキは次に何が出てくるのかを予想した。

「フッふっふっふ!」

甲高い笑い声を発しながら現れたそれはすぐ隣にいるルーサーそっくりの男。しかも3人ときた。

「きっしょくわるいなぁ。」

「ふむ僕の模倣とは見る目がある。それにしては随分と出来が悪いじゃないか? あとキミ、気色悪いといわれると、さすがの僕でも傷つくよ? あれでも僕のコピーなのだからね。」

うっせと言いつつゲイルヴィスナーをひとふりし、強力な風を吹いた。ダブルセイバーPA『ケイオスライザー』。そして、ダブルセイバーを体ごと回転させメッタ斬りにした。

PA『ラプリングムーン』で切りつけたあと、出てきたのは【敗者】のヒューナル形態。

『全事象演算終了…解は出た。』

ファルス・アンゲル。自身のコピーとはいえ、あの程度の捕食とはいえ、ここまで模倣できるとはと呟くルーサーに対し、早よ攻撃しとと叫ぶオキ。

模倣体だからか、すぐに決着はついた。

「この程度で僕の摸倣体と言われるのは腹が立つのを通り越して、さみしいね。」

「こんなんで俺を倒せると思ったか。本物呼んで来い本物。あ、隣にいたか。」

オキが口元を歪ませながらルーサーをみた。ふん、と軽く鼻で笑った直後にさらに進むルーサー。

それをマトイは後ろから見ていた。

『やっぱりオキはルーサーといることを楽しんでる? なんだろう。あの事件からなにか変わったような。』

「どうした? 進むぞ。」

「う、うん。」

考え事をしていたマトイは立ち止まっていたことをオキに指摘され、共に進んでいく。

 

 

『さぁ始めるぞ! 猛き闘争をな!』

さらに進むと今度は【巨躯】(エルダー)が現れた。人間形態、そしてヒューナル形態。ゼノの報告では、ひと悶着あった際に急に現れた【双子】に食われたとか。

しかし、その力は本物と戦った時と比べれば雲泥の差。すぐに倒された。

「必殺! 黄金衝撃(ゴールデン・スパーク)!!!」

オキの振り下ろしたゲイルヴィスナーから放たれた雷撃により、崩れゆく【巨躯】。

「【巨躯】も食らった割には、質の悪い模倣体だ。…本当に君は全部食えたのかな?」

君以外に、喰われていたんじゃないのか? と空をみるルーサー。それをみてゆっくりとオキをみた。

そして、マトイをみた。

「おっかない顔をしているね、お嬢さん。」

「当たり前よ。あなたたち、フォトナーがダーカーを作ったんじゃない。」

そういうとため息をついてルーサーが説明しだした。

「だが、全てのダーカーの元となる【深淵の闇】の作成を認めたのはシオンなんだよ? お嬢さん。」

あの時、彼女は気づいていたはず。シオンの演算能力なら未来とてある程度は見えていたはず。

【深遠なる闇】が生まれた結果、どうなるか。結果はご覧のとおり。フォトナーは【深淵の闇】との戦いで力を失い、アークスが生み出された。

その後、【深遠なる闇】は封印されたが、ダークファルスが残された。

「そして、アークスとダーカーの戦いは今でも続いている。無駄な戦いをね。」

「ムダなんかじゃない!」

マトイが叫ぶが、ルーサーはそれを無駄だときった。

「ルーサー。【深遠なる闇】封印されているといったな。復活はあり得るのか?」

ルーサーは質問したオキをみた。

「ああ。【深遠なる闇】を手っ取り早く復活させる方法。それはダークファルス全てを喰らうこと。」

ここまでに見てきた【巨躯】(エルダー)【敗者】(ルーサー)【若人】(アプレンティス)。この3つのダークファルスが現時点で【双子】(ダブル)に喰われている。

「君の考えているとおりさ。さすれば、同等のダーカー因子が集まり、やがては復活するだろう。」

すでにカウントダウンハ始まっている。ルーサーは微笑みながらそういった。

「なーに。その前に【双子】を倒せばいい。復活したらしたらで、それを倒せばいい。簡単な話だ。」

「【深遠なる闇】はいわばダークファルスの親玉だ。無限にダークファルスを作り出せる。【双子】に苦戦している君たちに…勝ち目はないさ。」

そういながら手を振るルーサーに、タバコに火をつけて煙を吐いたオキが笑いながら言った。

「はん。苦戦なんかしてねーさ。戦ってすらいねーのに、苦戦もクソもあるか。腐ってもおれは、お前と、【巨躯】と戦い、勝利した。違うか?」

ふっと微笑むルーサーに対し、マトイは納得行ってない様子だ。

「わからない。【深遠なる闇】ってなんなの? どうしてそんなのを、作ったの?」

「【深遠なる闇】はシオンの模倣体だ。」

フォトナーが作り上げた人造の全知全能(アカシックレコード)。しかし、作られたのは末期。人の感情に揺さぶられたソレは、フォトンは感情の影響を大きくうける。そんな人の感情が入り乱れる末期に作られればどうなる。結果【深淵なる闇】は負の権化となり、ダーカーを生んだ。

「宇宙の全てを、滅ぼすために。」

なぜ作ったか。マトイの質問に対し、ルーサーもシオンにソレを聞いてみたいと言っていた。しかし今では彼女はいない。

「だが、今ではそれがすこし分かる気がする…。たぶん彼女は…。」

「さみしかった。そういうんだろうな。」

オキの言葉にルーサーがオキの方を向いた。

「さって、おいルーサー。話をごろっと変えて聞きたいことと言いたいことあるからいいか?」

どうぞと手をだし、オキへ話の主導権を渡したルーサー。オキは惑星スレアで起きた『SAO』での事件を簡易的に説明をした。

ルーサーの研究、設備。それにより起きた惑星スレアのネットワークへの強制接続。SAOで起きた事件とその結末。そして…。

「僕の分身? …ふふふ、そうか、アレが僕の意識を。ふむ。なかなか面白い。」

マトイは驚いていたようだ。それもその筈。あの時、ルーサーの意識体と出会ったのは説明していないからだ。

「満足そうに消えていったよ。おめーのコピーは。」

「そうかい。なら、僕の方は間違っていなかったということだね。」

ふっと笑ったルーサーは先の道をみた。

「さぁここがこの世界の端だ。」

楕円形の空間の亀裂。それがそこにあった。

「さて、ここまで僕は外の世界について説明してきた。【深遠なる闇】の復活。滅びは必定だ、ということを話してきたつもりだ。そんな苦しみしかない世界に…君たちはもどる気かい?」

オキはその言葉にふっと笑い、はっきりと答えた。

「その質問には迷いなくYESと答えるぜ。向こうに置いてきた仲間、そして愛する人、いろんな大事なもんがある。おれはそれを守らねばならない。そして…おれはそいつらを悲しませない為に、戻らねばならない。さみしがり屋だからなあいつら。」

ふふっと笑うルーサーはそれを滑稽だと鼻で笑い飛ばした。

「そうかい。クラリッサを構えろ。ダーカーを喰らい、力をこめろ。僕にはできないが、君たちにはできるはずだ。なにせアークスだから。」

マトイとオキはこくりと頷き合い、クラリッサを構えた。ゆっくりと力を込めていき、フォトンを活性化させる。

「さぁ、行ってこい! 『出来損ない(最高傑作)』! 全知のいない世界をせいぜいもがき、あがきみせ、僕を楽しませてみたまえ!」

そう言ってふたりが消える直前。オキはルーサーへと叫んだ。

「ルーサー! てめぇには悔しいがひとつだけ感謝しなければならない! 貴様のおかげであの星、あの世界、SAOに入れた! 貴様のおかげでクソみたいなゲームに参加し、最高の仲間と出会えた。それだけは感謝している。それだけは知っておけ!」

それを聞いてルーサーがどう思ったのか。光に包まれたオキにはソレが見えない。だが、ルーサーの笑い声だけが、オキの耳には聞こえていた。

 




みなさまごきげんよう。
PSO2のEP3後半。それを少しだけセリフと順序、そしてほんのちょびっとのSAO関連をいれ、【双子】の中に引きこもるルーサーとの共闘でした。
いまや地球でバイト店長をする彼は、どのルーサーなのでしょうね。
さて、ここまでくれば【双子】、そして【深遠なる闇】との決戦も近いです。【仮面】の悪巧みとは?(すっとぼけ)
EP3『深淵の闇』編はここから一気に進みます。
次回、『おかえりなさい、さようなら』
それではまたお会い致しましょう。


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第107話 「おかえりなさい、さようなら」

【双子】の『内的宇宙』から脱出したオキとマトイは気が付けばオラクル船団、アークスシップのオキの部屋にいた。

すぐさまシャオの下へと行き、皆を驚かせた。

「まったく、一時はどうなる事かと思ったよ。」

「ほんとです…無事でよかった…。」

ダークファルスに食べられた、と聞き焦ったハヤマが圭子まで呼び寄せていた。

「だってそりゃ呼ぶでしょ。万が一も考えろというのがオキさんの考えでしょ。つーか無事でよかったわ。」

医務室で検査を受け、結果を待つオキ。ハヤマと佳子で状況を共有していた。

「あいかわらず君は唐突だね。ほんとに。」

シャオが呆れ顔で部屋へと入ってきた。

「検査の結果は問題なし。むしろ元気なんじゃない?」

「あ? あぁ、たしかに力が湧き出てくるから今にでもスクナヒメんとこに行きたいんだが。」

不思議そうな顔をするオキ。

「この話はちょっと・・・ね。」

ハヤマや佳子をちらりとみてシャオは目を細めた。

だが、オキは隠し事はしない。どうせ話すことになるのだからといって二人をその場にとどめた。

「わかった。君は…今までダーカーやダーカーの影響を受けたエネミーをどれだけ倒してきたか、覚えてる?」

首を横に振るオキ。そりゃそうだ。今までに食べたご飯の量を答えろと言ってるようなものだ。

「答えは…。」

これだけだといってデータを渡してきた。そこにはかなりの数値が書かれていた。

「ほうこんなもんか。数年でこんなもんって…はやまんどう思う。」

「さぁ。俺も覚えとらん。」

もともとの比較が無いため、これがどれくらいヤバイのかがわからない。

「いいかい? 君とマトイ…もちろんハヤマやミケ達もだが、戦いすぎている。アークス以外がダーカーと戦ってはいけない理由。それは知っているだろう?」

もちろんオキもハヤマも承知だ。ダーカーを倒しても残滓が残り、それが体内に蓄積。やがては侵食されてしまう。

ナベリウスやアムドゥスキアの原生生物や龍族。果てにはリリーパの機甲種までもが侵食され、襲ってきた。

ハルコタンには神子であるスクナヒメの加護があるから侵食はされにくい。だが万能ではないとシャオは語る。

だが、アークスは体内にあるフォトンがダーカー因子を中和するため、何も問題がない。

「けど、それにしたって限度がある。」

つまり、無理をするな。それがシャオとフィリアの共通の見解らしい。

その時だ。

「オキ君大変だ! ハルコタンのスクナヒメが!」

アインスが部屋へと飛び込んできた。

「なんだって!?」

アインスの話ではスクナヒメが一人で【双子】のもとへ向かったという情報が入ってきたようだ。

「まずい。俺とマトイがまだ捕まってると思っているんだ。はやく伝えないと!」

オキはベッドがら飛び起きて、近くにあったオキの相棒、エルデトロスとゲイルヴィスナーを手にした。

「待った。いま話したばかりだよ。」

シャオが部屋の入口で通せんぼをした。

「どけシャオ。」

「どかない! わかっているのか!? 死ぬかも知れないんだぞ!? 【巨躯】【敗者】【若人】、そして【双子】の内的宇宙すら食い破った! いつ爆発してもおかしくない!」

シャオは珍しく怒り、オキを止めようとしていた。今までにこのようなことがなかった為に、オキは少しだけとどまった。だが、結論は変わらない。

「だからって、見捨てるのか? あ?そんなもんどうだっていい、守るもん守らないでどうする。てめー可愛さで身を守ってちゃあ、守りたいもんなんかまもれやしねーよ。それになんかありゃウチの面子が一緒に頑張ってくれるさ。」

「…その言い方は、卑怯だ。」

俯くシャオの肩を叩いたのはアインスだった。

「なに。私やハヤマ、皆がいる。オキ君だけじゃない。私たちがいる。安心していい。」

アインスはオキをみて、コクリと頷きあった。

「佳子、少しだけ。待っていてくれ。すぐもどるよ。」

微笑みながら佳子の頭を撫でるオキに、心配そうな顔をしていた佳子も覚悟をきめた。

「はい。待っていますから。」

そう言ってオキはアインスたちと部屋を出ようとした時だ。

「オキ! …いいかい? 僕はアークスの管理者だ。いざという時は、容赦できない。それだけは覚えておいて。」

「なーに。いざとなったらこいつらが止めてくれるさ。俺の信頼する一番の仲間たちがな。」

ふっと笑うハヤマとアインスはろうかを走ってくるマトイと一緒に合流した。

出て行った皆を前に歯を食いしばるシャオ。

「どうか…無事で。」

 

ハルコタンへとたどり着いたオキ達はスクナヒメが黒の領域へと向かったことを聞いた。コトシロはやることがあると言ってどこかへ行ってしまった。

「スクナヒメ。待っててね。私たちもすぐに行くから。」

マトイとオキ達は頷き合い、黒の領域を登り始めた。

 

黒の領域は【双子】のコピーした黒の民、そして眷属である玩具型のダーカーが行く手を阻んだ。

だが、それを蹴散らすかのようにオキらは進んだ。

「いた!」

「まずい!」

オキ達はスクナヒメを見つけた。だが、黒の民が振り上げる大斧は今まさに振り下げんと大きく振りかぶっていた。

「ちぃ…間に合わねぇ…。隊長おぉぉぉぉ!!」

「任されよう。」

アインスは走るオキの後ろへと付き、刀を大きく後ろへと振りかぶった。ジャンプしたオキはその刀の峰へと足を乗せ、力強く飛んだ。

「おおおおおおお!!!」

大きくスイングした勢いでオキは通常のジャンプよりも素早く、強く、黒の民へとまっすぐ飛んでいった。

「回転も加えてやらァ!」

ゲイルヴィスナーをもったオキは体を回転させ、黒の民へと突っ込んだ。

「っな!? オキ!? …マトイも! そなたら無事じゃったか!」

「無事じゃったか…じゃねぇよ!」

「全くだよ…ごめんね。心配かけて。」

後から到着したハヤマ、アインスの手によって囲んでいたほかの黒の民も倒された。

「お主らを助けるために…わらわは…。」

「無理すんな。俺らより力消耗してるくせして無茶しやがって。…ありがとな。俺たちのこと、思ってここまで来てくれたんだろ? コトシロさんから聞いたぜ。」

その時だ。オキとスクナヒメの間に5体の黒の民が現れた。

「まず!?」

「オキ君!」

既に攻撃態勢に入っていた黒の民がその棍棒を振り下ろそうとした時だ。

周囲に灰色の風が舞い、黒の民の体勢を崩した。

「これは…灰の転移!?」

その場に現れたのはコトシロだった。一瞬にして持っていたカタナで黒の民を切り倒したコトシロはゆっくりとスクナヒメへと近づいた。

「コトシロ!? どうしてここに!? それに今のは…。」

「白の王。秘伝の術です。仰るとおり、臆病ではあるものの、術の腕はたしかなようですね。」

コトシロはオキと別れたあとに、白の王、白の民へ喝を入れたようだ。その後、協力することを約束した白の王の力でここまで転移してきたという。

ちなみに術はスクナヒメが伝授したようだ。

「問題はそこではない。なぜ貴様がここに来たのだと問うておる!」

 

「あなたを、助けに来たのです。義母上(ははうえ)。」

 

その言葉に目を見開くスクナヒメ。直後にふらりと倒れそうになるスクナヒメだったが、すぐにコトシロが彼女の椅子となるように大きな手を小さな身体に差し伸べた。

「義母上、白の王より伝言です。『我ら白の民、微力ながらも、神子様と共に在り。』と。」

なるほどと微笑むスクナヒメ。先程から外に白の民の反応が現れているらしい。それと同時に黒の民の異様なまでの量も。

「なーる。黒の民のコピーつかってこっちを潰そうってか。【双子】め。軍師か何かになったつもりか。ハヤマん、隊長。スクナヒメとコトシロさん援護しつつ、待機させてるミケやシンキに頼んで黒の軍勢何とかしてくれ。」

「了解した。オキ君。無理はするなよ。」

どうやらオキのやろうとしていることは把握しているようだ。オキはこの最奥にいる【双子】を倒すために最小限の人数で向かおうと考えている。マトイもそう考えているだろう。間違いなく。そして彼女をここから戻すことは不可能だ。彼女の決意は固く揺るがない。何を言っても無駄だろう。

「お主ら…まさかお主らだけで!?」

「いいかいスクナヒメ。あいつらは、アークスが倒さなきゃならん。俺たちがな。」

オキをみたマトイはこくりと頷いた。

「頼んだぜ、二人共。」

「任せといて。」

「オキ君もご無事で。」

オキはマトイとともに、【双子】のいる最奥へと走った。

 

 

 

再び訪れた黒の領域最奥。王の座。

「きたね、アークス。」

「きたね、バケモノ。」

ふわりと浮かび上がる二人のダークファルス【双子】。それはゆっくりと降りてきた。

「まさか、脱出してくるとは思いもしなかったよ。」

「うん。おかげでお腹の中ぐっちゃぐちゃだよ。おかげで気持ち悪くてげーげーしそう。」

ムスっと膨れる【双子】に口を歪ませながらタバコに火をつけるオキ。

「っは。背中さすってやろうか? ちった落ち着くぜ。」

軽口をいうオキに対し、静かに黙り込むマトイ。

「どうしたの? 静かだねぇ。」

「そうだねぇ。静かだねぇ。怯えさせちゃったのかな?」

クスクス笑う【双子】。ゆっくりと目を開けたマトイはクラリッサをゆっくりと、確実に、力強く構えた。

「この時に、こんな場でなんていうか知ってる気がする。不思議だな。…私に戦う気はない。私は、あなたを殺しに来たの。」

その言葉、オキは知っている。シャオとのぞき見たマトイの過去。『二代目クラリスクレイス』として12年前に見た彼女のダーカーへの口癖。

記憶が戻っているのだろうか。いや、ちがう。中にある彼女の心がそれを取り戻したのだろう。

にかっと笑った【双子】はゆっくりと中へ浮き、その真の姿を現した。

「いいよ? やろう?」

「いいよ? はじめよう?」

『どっちが勝っても恨みっこなし! バケモノ同士の殺し合い、はじめよっか!』

見るもの全てを恐怖に陥れる。そんな姿をする【双子】のヒューナル形態。玩具のようにツギハギで、バケモノと呼ばれるのふさわしい大きな口をした腕がカチンカチンと音を立てて牙を向いた。

「いくぞマトイ。」

「うん!」

アークスの牙が今、最後のダークファルスへとソレを突き立てた。

 

 

「…。」

黒の民を押しとどめるアインス達の中で黒の領域の頂点を見つめるシンキ。

「始まったわね。」

彼女は知っている。このあとどうなるか。彼女は知っている。このあとに起きた彼と彼女の未来を。

「どっちに転ぶか。『ここのあなたは、どうかしらね。』」

「どうしたシンキ君。」

アインスが心配そうに近寄ってきた。シンキはすぐにいつもの微笑みを見せる。

「いいえ。ただ、始またんだって。」

「…ああ。俺にもわかる。始まったな。」

その場にいたアークスの誰もがわかったその戦い。オキとマトイ、そして【双子】のぶつかり合い。黒の領域の頂点にある違和感がそれを示していた。

「クロ君!」

「なに? 隊長。」

白き羽をゆっくりと動かしながら空から降りてきた天使のような姿。クロノスはアインスのとなりへと降り立った。

「オキ君たちが心配だ。君の力なら、できる限りあそこへ素早く行けるだろう?」

こくりと頷いたクロは羽を大きく広げ、黒の領域の空へと飛び上がった。

「嫌な予感がする。当たらなければいいが。」

それを睨みつけるアインス。シンキはその後ろで誰にも見えないように微笑みを消し、同じように黒の領域の頂点を見つめていた。

 

 

「だァァっ!!!」

「ああああ!!!」

オキトマトイの全力の攻撃でその場にひざをついたダークファルス【双子】。二つの体はひとつとなり、さらに化物じみた体となっていた。

「ふふふ、ふふふふ。そうかそうだったんだ。」

「なにが、おかしいの?」

笑う【双子】に睨みつけるマトイ。

「これが、笑わずにいられるか、君たちはアークスだと思っているのだろう? アークスが、そこまで闇を抱え込めるものか。戦ってみて、やっとわかった。【巨躯】や【敗者】の力が吸われていたのも、本当なんだね。」

くすくすと笑う【双子】の言葉に眉を歪めるオキ。

「だから、あいつら食べても【深遠なる闇】に、至ることができなかったんだ。」

納得納得とゆっくり腕を伸ばす【双子】。その腕はマトイを見据えていた。

「ぼくたちからの・・・ごほうび。ぼくを、あげよう。」

ダークファルスの力の塊。ダーカー因子の強大な塊。それがマトイへと向かっていった。

「っちぃ!」

オキは自らの体を盾に、マトイを守った。

「ぐ、ぐおおおおおお…!?」

体から湧き出る闇の力。フォトンで抑えようにも押さえ込めれない。どんどん湧き出てくる。

「オキ!? どうして!?」

「そっちがくるんだ…。まぁ、どっちでもいいけど。」

どっちでも良かったんだ。どっちが生きようが死のうが、結果は同じ。消えていく【双子】。力が抑えられずにうずくまるオキ。

「なんにせよ、これで完成…これで、出来上がり。」

 

 

『おめでとう。 おめでとう。 おかえりなさい。』

 

 

 

 

【深遠なる闇】

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおおおお!?」

【双子】が消えると同時にオキから溢れ出る闇の力が立ち上った。シャオの言っていたダーカー因子を抑えれる限界。それがオキの体の中で、突破した。

「こいつは…予想以上…だな!? ちくしょう。なんとかなると、思ったのによお…!」

「どうして…どうして! それは私の役目なのに…!」

マトイは涙を流しながらクラリッサを構えた。

「お願い、クラリッサ…あの人を、大好きなオキを守るために…。力を…。かして!」

宙で回転しつつ、オキの体へと一直線に向かったクラリッサは闇の力をオキから吸い上げ、マトイへと流し込んだ。

「ごめんね。オキ。大好きだったよ…。」

ぱたりと倒れ、次第に意識がなくなるオキの目にはマトイの姿がゆっくりと黒く塗りつぶされていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「マスター! マトイ! …!?」

クロがたどり着いたその場には異様な力を発した、異形となったマトイの姿がそこにあった。

「あ、クロちゃん。オキを、その人を、お願い。私、もうダメみたい。」

クロがなんとか手を伸ばそうとするが、躊躇してしまった。

あまりのも膨大な闇の力。いくらクロが女神の加護を持っていたとしても、それを吸い取ることはできない。

「ごめんね…ごめんね…。でもみんなを…守るため、なんだよ?」

ゆっくりとその場で倒れ気を失っているオキをみてマトイは微笑んだ。

「オキ、ありがとう。オキからはいっぱい、いーっぱいいろんなものをもらった。だから、もう十分。十分だから。…さようなら。」

「マトイ!」

クロの叫びも届かず、マトイは消えていった。

 

「っは!?」

オキが目を覚ました時には目の前に、涙を流す佳子の顔があった。

「オキ…さん。」

「オキ!?」

抱きつく佳子の頭を撫で、その後ろにいるシャオが目を見開き驚いていた。ハヤマやアインス、クロ、シンキ達もその場にいた。

「すまんな。あいかわらず心配ばかりかけて…やっぱこうなったか。」

「え?」

シャオが不思議そうな顔をしていた。

「クロ、マトイはなんて言ってた?」

「…ありがとう、ごめんなさいって。」

「そうか。」

ゆっくりとベッドの端に座るオキは窓から見える宇宙空間を眺めた。

「少しだけ休んだら、聞き分けのねぇ、ばーたれ(バカタレの略)を説得しに行きますかね。」

その目はまだ諦めのついていない、そんな目をしていた。

「ミケならわかるだろ。ナベリウスのどこかにいるはずだ。【仮面】(おれ)がな。探し出せ。ナベリウスで、全てが決まる。」




皆さまごきげんよう。
私が倒したエネミー討伐総数は1,563,630体です(小並感
ヒーローですよ! ヒーローなんですよ!(ストラトス風
いや、予想以上に面白いですねヒーロー。もう少し準備をしっかりしていれば、武器に困ることはなかったんですがねぇ。(サボってた人
PSO2、EP5開始しましたね。いろいろ意見はあるものの、まずは盛大にずっこけなくてよかったと、ホッと胸をなでおろす私です。まずはなんとか。
これからが勝負でしょうから、できればこれを維持して少しでもいい運営をして欲しいところです。
さて、SAO本編ですがあちこち改変しました。というか端折りました。【双子】の戦闘まるごと端折ったり、おなかの中から出てきてすぐの状態だったりと。あ、サラとマトイの関係もこの作品では伝えきれなかったのでクロの代行お願いしました。
ま、【仮面】の正体どころかマトイが「こうなる」という事まで知っている時点で改変あるないとかいう問題ではないのですが。
次回、「俺たちを信じて、進め」
ではまた次回お会い致しましょう。


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第108話 「俺たちを信じて進め」

ダークファルスはある一体を残し、確認されている脅威となるモノはすべて倒された。しかし、その代償は大きかった。

マトイが【深遠なる闇】となり、シャオはどうすれば彼女を助け出せるかの演算を、自らの能力をフル活用して行っていた。

アークス全体ではいつでも【深遠なる闇】との戦いがはずまるかわからない状況でもある為、各シップではその準備等でばたばたしており、ピリピリとした空気が漂っていた。

そんな中、オキ、ミケ、シンキ、クロはナベリウスへと降り立っていた。ある人物に会うためだ。

「この先にいるのだなー。それじゃミケはここでお昼寝してるのだー。」

そういって岩の上に茣蓙を敷いてそのうえでミケは丸まってしまった。

「シンキ、クロ。ここから先は俺が。頑張って説得してみるけど、あまりにも頑固に拒んで挙句逃げようとしたならば、捕まえてくれ。わりぃけど鎖、貸してくれ。」

「…ええ。オキちゃんが頼むならば。」

「マスターに任せる。」

こくりと頷き、ナベリウス森林のある一角、静かな木々の隙間にある小さな木陰広場。そこにオキの会おうとしている人物がいた。

最後のダークファルス、【仮面】だ。

「貴様…やはり無理だったようだな。」

「はん。まだあきらめちゃいねぇよ。ここからさ。」

ドカリと近くにあった岩に腰を下ろしたオキ。その言葉に【仮面】は怒りを見せた。

「まだそのような事を言っているのか! 見ただろう彼女を! ああなってはもう助けられない! 何をやっても無駄なんだ! なぜそれがわからない! 彼女は苦しんだ。何度も何度も…。もうたくさんだ!」

普段感情を見せない【仮面】がここまで感情を見せるのはオキの前だけだった。

「何をやっても無駄『だった』。だろう? 何度も、何度も、頑張ったんだよな? 気が狂うほど回数をこなし、苦しむ彼女を見てきた。そりゃそんなもん見せられたら、いくら俺でも、ダークファルスになっちまうわ。なぁ俺よ。」

オキの言葉に【仮面】は、自らの仮面を外した。そこにはオキと全く一緒の、うり二つの顔。

「クロちゃん、知ってた?」

「もちろん。どーりで、マスターと同じ時間のはずだよ。シンキだって、初めから知ってるんでしょ?」

木々の影から覗いていたシンキとクロ。特殊な力を持つ二人は【仮面】の正体を知っていた。

ダークファルス【仮面】。その正体が時空を超えた、オキである事。

【深遠なる闇】になってしまうマトイ。この事象を何度も回避しようとしてきた。何度も時間を飛び、何度も回避を試みた。だが、それらすべてが失敗し、彼女は【深遠なる闇】へと変貌してしまう。そして、その苦しむ彼女に見るに堪えれなくなった彼は、マトイを『殺した』。

「もう殺してしまうしか彼女を助ける方法はない。大好きなみんなを、彼女の手で殺させるというのか? 否! 彼女にそんなことさせるわけにはいかない! こうなってしまうのが必須であるならば、私はそれを止める。」

「だから殺すってか? バカも休み休みいえやボンクラ。」

オキがギロリとにらんだ。だが【仮面】も引き下がらない。

「ボンクラはどっちだ。まだわからないのか! ならば、わからせるしかあるまい!」

【仮面】はゆっくりと手を前にかざし、黒いダブルセイバーをその場に出した。

「っは! 逆に頭冷やせや!」

オキもダブルセイバーを手に取った。白く輝くゲイルヴィスナー。お互いに譲れないとその場で刃を打ち合った。

「だぁぁぁ!」

「おおおお!」

素早く振り回されるお互いのダブルセイバーがぶつかり合う。

「だぁりゃ!」

飛び上がったオキは【仮面】の頭上へゲイルヴィスナーを振り下ろす。後退し回避した【仮面】を追いかけ、体を回転させながらさらに地面へ振り下ろした。

二人がやりあっているのは狭い広場。広場の真ん中には大きく生えた大木。周囲は入り口以外は小さな崖があり壁となっている。その壁まで追い詰められた【仮面】は壁へと反転。壁を登った。

「ちぃ!」

壁を蹴った【仮面】はオキへと黒きダブルセイバーを突き立てようとする。

オキはそれを回避しようと横へステップ。オキへと向かっていた黒きダブルセイバーは地面へと突き立てられた。直後に【仮面】はオキへと顔を向け、横薙ぎに武器を大きく振った。

ガキィン!

甲高い金属音が森林内に響きわたる。オキは横薙ぎに振るわれた武器を回避できないと判断。自分の武器の柄で防御した。が

防御ごと力任せに振りかぶった【仮面】はオキをそのまま壁へと叩きつけた。

「がっ!?」

叩きつけられた地面の壁は大きくヘコみ、オキの口からは血が少し垂れた。

間を入れずに【仮面】はオキの体へと刃を向け、突っ込んできた。オキはすぐに体勢を立て直すため叩きつけられた地面から抜け出し、軽く上へとジャンプした。

そこへちょうど突き刺してきた【仮面】のダブルセイバーの刃が足の裏スレスレをかすっていく。

刃へ乗ったオキはそのまま【仮面】の顔面部へ全力で蹴りを入れた。

「っしゃぁおらぁ!」

吹き飛ばされた【仮面】はゴホッと咳をした。顔面部にあるバイザーで守られているとはいえフォトンでの一撃。ダークファルスの体にはかなりの負担がかかっている。

しかしふらりと立ち上がった【仮面】はまだ立ち上がる。さらに武器をソードへと変更してだ。

「エルデ…トロス!」

オキも手に力をともし、武器を変更する。

「おおおおお!」

「あああああ!」

二人が力一杯走り込み、お互いの武器をぶつけ合おうとしたその瞬間だった。

ギシリ!

お互いの体が一瞬で止まる。目の前にはクロが一瞬で現れ、手をオキ、【仮面】の二人の顔の前にだして止めている。

更にいうとお互いの体が自由に動かない。空間が金色に光り、鎖がそこより現れ、二人の体をつなぎとめていた。

「はーいそこまで。」

シンキが手を叩きながら二人の横に現れた。

「マスター、熱くなりすぎ。当初の目的わすれてる。」

しまったすまんと言いながら力を抜くオキに対し、いまだに力を抜かずにギシギシと鎖から逃れようとする【仮面】。

「やめときな。この鎖はシンキの鎖。『天の鎖』だ。神すらも捕まれば逃げられぬという逸話のある鎖らしい。一度捕まったが最後、逃げられん。諦めろ。」

「…。」

暫くガチャガチャと力を加えるも、ムダだと判断したのか、ようやく【仮面】はおとなしくなった。

「頭、冷えたか?」

「…これが、お前達の力か。」

【仮面】は不思議そうに鎖を、そして目の前にいるクロの白き翼を目にした。

「そうか、お前は…。」

オキは思いかえす。彼がこうなった理由の一つでもある原因。それは『仲間を頼らなかったこと』。

【仮面】となる前のオキはシンキやクロだけでなく、ミケやハヤマ、はてにはアインスにすら出会わなかった。

いや、会ってはいたのだろう。しかしすべてを一人でこなそうと誰にも頼らず、すれ違っていた。

今のオキはハヤマと共に歩み、ミケと出会い、偶然現れたアインスと知り合い、コマチと言い合いながらも共に過ごし、そしてシンキに気に入られ、クロが興味を見せた。

反面、【仮面】は彼ら、彼女らに力を借りずにすべてを行おうとしていた。

だから彼女たちの力を見るのは初めてだった。

「フォトン…いや、違う。お前たちは…なんだ?」

シンキとクロは顔を見合わせ、フッと笑った。

「ただの魔神と。」

「ただの使いさ。」

ニタリと笑うシンキにむすっとした顔で答えるクロノス。

【仮面】はオキをゆっくりとみて、下を向いたまま言った。

「なぜだ。彼女自身も死を望んでいる。だからこそ、10年前も自ら命を絶った。だが貴様は、私は・・・諦めないというのか!」

オキはシンキに鎖を解いてもらい、タバコに火を点け一息吐いた。

「ああ。おれは諦めない。」

「目の前に…その結果があってもか? 何度も助けようともがき、苦しみ、それでもなお、彼女の事を助けられなかった。それが私だ。それが貴様だ! 私は助けられなかった。殺すしか…できなかった。私ではそれしかできなかったというのに、貴様は、私はそれを覆せるとでも言うのか!? 否! それは私がよく知っている! 貴様ではできないと!」

オキは再び煙を吐いた。

「うっせぇなぁ。それくらいわかってるよぉ。『俺一人では何もできないことは』な。だから現に【深遠なる闇】になりかけているマトイがいるんじゃねーか。」

「ならば何故! 貴様は、私は諦めないと言い切れるのか!」

オキは【仮面】の言葉を聞いたあとにゆっくりと後ろを親指で背中越しに刺した。

「こいつらがいるじゃねーか。なぁ?」

コクリと頷いたシンキとクロ。彼女らだけではない。オキが示すはさらに後ろで昼寝をしているミケ。オキのかわりにハルコタンの後処理をしているハヤマやアインス等。

彼ら、彼女らを示している。

「俺一人ではそれしかできない? 当たり前だバーカ。てめぇ一人で奮闘してもそりゃ力不足だろ。だからおれはこいつらの力を借りる。躊躇なくな。」

「…!」

息を呑む【仮面】。

「ぴーぴー言ってないで分かりなさいロリコン変態野郎。」

シンキが煽る。

「おいシンキ。その言葉俺に刺さるやめろ。」

「ロリコンのど変態ー。」

シンキの言葉に胸を押さえるオキ。

「まぁ、俺だけじゃダメだ。そりゃお前も俺も嫌というほどわかってる。自分自身だからな。だからこそ、あいつらこいつらの力を借りる。皆快く貸してくれるって言うしな。」

ニカリと笑うオキをみて【仮面】は少しだけ笑ったような気がした。

「…そうだな。懐かしい記憶だ。そういう考えをするのは私だったな。」

「救おう。かならず。」

頷き合うオキと【仮面】は、準備のために一度別れた。

 

「そういや、【仮面】の時は見て見ぬふりしたシンキはもし、ここにいる俺自身が同じように諦めたらどうしてたの?」

「そうねぇ。もし、オキちゃんが立ち上がれずに、弱音を吐いてしまった場合は、アークス所か人として駄目になるほど甘やかした後マトイちゃんから因子だけ奪い取って、何処か別の宇宙へ平行移動をしてオラクル世界から消え去る可能性もあったかもねー。」

その言葉を聞いてオキの背中に冷たい何かが走る感じがした。

 

A.P.3/31 12:00

 

ナベリウス壊世地域。オキらアークス側は準備が整った。

マトイはその奥でおとなしく佇んでいるという。

「さーて始めますかねぇ。」

『オキ? 聞こえる? 情報のとおり、そこの奥でマトイは静かにしているみたいだ。【深遠なる闇】、その体はフォトンそのもの。倒してもすぐにたゆたい、復活する。だから、あの場に縛り付ける。」

シャオは策があるという。アークス総動員での作戦。マトイを、助けるためだ。

「だから、信じて。進んでくれ。」

シャオからの通信に対し、コクリと頷いたオキは一人、マトイの元へと突き進んだ。

『さぁて六芒のみんな。やることはわかってるかな?』

オキの走る姿を、少し小高い丘の上で見守る姿が6人。

「すみませんシャオ。おそらく、二名ほど分かっていないかと。」

「おー? 誰だ誰だ? わかってない奴は! 恥ずかしがらずに手を上げろ!」

カスラの言葉にヒューイが周りを見渡した。

「はいはーい!」

「なんだクラリスクレイス! お前わかってなかったのか!? 実はな…俺もだ!」

そのやりとりを見てカスラはゼノをジト目で見た。

「おい、カスラさんこっち見んじゃねぇよ。オレはわかってるっつうの。なぁそちらさんは分かってんだろ?」

六芒均衡の4人の後ろにいる2人。シンキ、クロノスだ。

「ああ。わかってる。だって発案はこちらなんだから。」

クロがゼノを静かに見た。

「おらおらぴーちぱーちくうるさいよ。緊張をほぐすにももっと上手くやりな!」

「…此度の作戦に、万一の漏れもあってはならない。シャオ、今一度説明願えるか?」

マリアとレギアスがその場に現れた。シャオはフフフと微笑み、説明を始めた。

六芒均衡の役目、それは結界役だ。マトイを縛るために、結界をはる。スクナヒメ直伝の束縛結界。それをシンキの宝物、クロの時の力をかけあわせたアークスオリジナルの特殊結界。

「スクナヒメの六亡陣。それを創世器を使って行う。原理は一緒だ。だけど、相手は【深遠なる闇】。足止め程度が関の山。そこで、彼女らの力をオキが頭を下げて借りたってわけさ。」

シンキの神すらも束縛する『天の鎖』。クロノスの『時の女神の加護』。その二つを六芒陣に重ね合わせて二重結界をはる。オキ達の自信の案だ。あとは彼ら次第。

「…安心して進がいいオキ。私が付いてるぞ。」

「うむ! 俺たちがついている!」

クラリスクレイスの言葉に、ヒューイも頷いた。六芒とペルソナメンバーは6つに別れ、シンキ、クロもそれに続いた。

 

オキの進む壊世地域。SAOのホロウエリアにも作られたナベリウスの裏の世界のような場所。黄色やオレンジ色がメインとなったナベリウスのもうひとつの顔。未だに謎の場所であるが、今回すこし謎が解けた。【深遠なる闇】の影響が大きい。それだけがわかっただけでもこのエリアは注意すべき場所だということだ。

 

「ちぃ。ダーカーが多いな。」

道中、各ダークファルスの眷属であるダーカーがわんさとでてきた。しかし。

「オキくん。我らに任せたまえ。」

「さっさといって助けてこい。」

「いってリーダー!」

「キマリ号にまかせるのだーー!」

 

「「「俺たちを信じて、行ってこい!!! 」」」

 

仲間たち、またその他アークス達の力添えにより、オキは先へと進む。まっすぐ、前を向いて。マトイのもとへ。

 




皆様ごきげんよう。
マトイ救出戦前半。さらっと終わりました。
いかんせん時間なくて…。
来週からバスタークエきますね。どうなるかが楽しみです。いろんな意味で。
ヒーローもおもった以上に面白く、2次職と言われる力を誇ってるのでなかなかいいと思います。強いに越したことないですからね。
できればダブセとかカタナとかほかの武器も使える職をどんどん実装して欲しいところです。
さて、FGOが二周年ですね! フェス行ってきましたがすごかったです。楽しかった人多かった。夏イベ楽しみです。(石貯め中。ガチャ回したい。

EP3終わったらSAOに戻ります。次は蒼いあの子がきますよ。お楽しみに。

ではまた次回にお会い致しましょう。
※来週コミケなのでお休みします。すみません。


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第109話 「わたしがここにいる理由」

『聞こえてくる。深く沈むような、後悔の声が。

 

好きな人を犠牲にしてまで、作り上げた世界が間違ってて

 

うん。…辛かったよね。』

 

『聞こえてくる。

 

湧き上がるような怒りの声が。

 

存在を奪われて、弄られて

 

狂わされて、自由はなくて…

 

うん。…苦しかったよね。』

 

『聞こえてくる。

 

そのみを揺るがす、不安の声が

 

自分が誰なのか、わからなくて

 

耳を塞ぐことしかできなくて

 

うん、…悲しかったよね。』

 

どんなに強い人でも

心の中には、辛さ苦しさ悲しさがいっぱい、溢れてる。

だから、そういうの全て、私が抱え込んで消えれば。

みんな、幸せになるはず。

 

惑星ナベリウス、壊世地域最奥。その広場の中央付近に佇むマトイは異形となっていた。紅くそして黒く巨大な羽のようなモノが背中から生え、目からは紅い血が流れている。

「・・・なのに、なんでだろう。ね、オキ。なんでだろう。どうしてだろう。みんなの分を、抱え込もうとしてるから? 私はそうするために生まれてきたはずなのに、どうして、こんなにさみしいのだろう。」

マトイはわからなかった。自分の中に渦巻いている感情がなんなのか。

覚悟は出来ているはずだった。だが、オキの声が聞こえる。

みんなの声が、聞こえる。

そんな声を聴いているさなかに、わからない感情が胸の中で渦巻いて、わからなかった。

 

最奥へとたどり着いたオキは空へと立ち上る6本の光の柱を見た。

「…これは。やったか!」

六芒と2人の力。それが巨大な力となり、大きな結界をはった。

目論見通り、マトイを、【深遠なる闇】を束縛することに成功したのだ。

「六芒は無事、結界を紡いだ。シンキやクロの力もそれに上乗せした巨大な束縛結界だ。これで【深遠なる闇】をこの地に束縛したはずだ。」

シャオからの通信が入り、直後に六芒達からの言葉もオキへと入る。

「オキ、我ら六芒は結界の維持に全力を尽くさねばならない。」

「見せ場にあんたに譲るってことだ。さすがにこっちも疲れたしね。」

「三英雄に至っては、紛い物とはいえダークファルスと戦ったんですから、まぁ大目に見てください。」

レギアス、マリア、そしてカスラからの通信だ。カスラの言うとおり、三英雄に対して【深遠なる闇】が何もしてこないわけではなかった。【深遠なる闇】は三英雄に対して、まがい物とは言えコピーとはいえ、【巨躯】【敗者】【若人】をぶつけてきたのだ。だが、それも彼ら彼女らの活躍により撃破。ほかのメンバーもチームペルソナメンバーや、ミケ、アインス等多数のアークス達により守られ、今に至る。

「オキ! 私は、先代といろいろたくさん、話をしてみたいことがあるんだ! しっかりしないと…帰ってこないと、許さないからな! 必ず、連れて帰って来いよ!」

「右に同じ。おねーちゃんには言いたいこといーーーっぱいあるんだから。」

クラリスクレイスとサラ。クラリスクレイスにとってマトイは先代。サラにとっては十年前にマトイに守られた小さな少女。そんな彼女らが話したいことがあるというのだ。約束を守らねばなるまい。

「さて! 俺からいうことは…なにもない! なぜばなる! 何事も!」

「ま、俺たちがケツもつから、気軽に気楽に頑張ってこい。」

こわばるオキの顔をみて、力むオキの緊張をほぐそうとヒューイにゼノは励まそうとする。

「オキ。惑星スレアの人たちからも伝言をもらっている。」

シャオからの通信が帰ってきた。

「オキさん。惑星スレアの、オキさんの仲間の代表として私から…。本当は私じゃなく和人さんのほうがいいといったんですが、皆が私がいいって。…大変だとは思います。みなさんから、無事ではすまないかもしれないと聞いています。ですが、私は信じてます。大事な人を守るあなたは強い。何事にも負けない優しい方だと、知ってます。だからマトイさんと一緒に帰ってきてください! 必ず…一緒にです。あなたを愛するマトイさの気持ちはよくわかります。だから…。一緒にみんなでまた笑いましょう!」

佳子からも励ましの伝言だ。彼女もアークスシップにて見てくれているのだろうか。

皆も来ているのだろうか。

「オキさん。」

「オキちゃん。」

「オキ君。いってこい。」

ハヤマ、シンキ、アインスからも『いってこい』と言葉をもらった。背中を優しく押された気がした。そう。俺の背中には彼ら彼女らがいる。負けるつもりはない。誰ひとり、犠牲なんか出さない。必ずマトイを連れて帰る。そう誓いながら、マトイの待つ広場へと走った。

 

 

「マトイ!」

広場にはマトイの、変わり果てた姿があった。その内側からは巨大な闇の力が溢れ出ているのを感じた。

「…。」

だまってオキをみるマトイ。その後ろに突如、アンガ・ファンタージが現れた。

「!?」

構えるオキに対し、アンガはマトイへと吸収されていく。

アンガを吸収したマトイは更に異形と化した。

腕は大きく変異し、紅くそまった体。その姿はダークファルスと重なる。

アンガを吸収したマトイはオキへと襲いかかった。

「マトイ! 俺だ! わからねーのか!?」

「…。」

マトイは大きな腕を振りかぶり、オキへと攻撃を繰り出した。

「ちぃ!」

マトイのうしろへと回り込んだオキはマトイに近づこうとするが、大きな腕をさらに巨大化させ振り回しオキを突き放した。

「…いいだろう。わからず屋にはおとなしくなってもらおうじゃねーか!」

「漆黒よ。」

マトイはじめんに地場を作り、オキの体はそこへと引き寄せられる。

大きな爪を空中へと飛ばし、それらはオキめがけ降ってくる。

「こしゃくな!」

オキがなんとかそれを避けると、マトイは大きな腕をまるで大砲のような形に変化させこちらを狙ってきた。

「あっぶね!」

マトイの真横に移動したオキはエルデトロスで巨大な腕へと攻撃を入れる。

『この目のような場所。ダークファルスやダーカーにあるコアと一緒? ここを攻撃すれば!』

執拗に攻撃してくるマトイはサマーソルトでオキを狙う。だがオキにとっては遅い。

避けた直後にさらに紅い玉へと攻撃を狙う。

 

パキン!

 

「よっしゃ!」

一個は壊れた。だがひるまずに、さらに背中に紅き粒子のような羽を出すマトイ。

「全て、終わらせる。」

力を貯めるマトイは両腕を広げ、多数の小さなビームをオキへと降らせた。

直後に大きな力の塊を飛ばし、それがオキの近くで爆破する。

「っが!?」

逃げようとするも、背中にその衝撃が襲いオキは吹き飛ばされる。

「いい加減に…目を覚ませ!」

オキは立ち上がった直後にジャンプ。攻撃の反動で動けないのかマトイのもうひとつの腕にある壊れていない紅い玉めがけてエルデトロスを振り下ろした。

「おおおおお!」

 

パキン…

 

玉が壊れた拍子にようやくおとなしくなったマトイはその姿を元に戻した。

ゆっくりとオキの目の前で浮遊するマトイ。その中にはまだ【深遠なる闇】は残っている。

オキはゆっくりとエルデトロスをマトイに向けた。

目をつむった直後にある光景が思い浮かぶ。

【仮面】とつながったパレスで見たあの光景。

マトイを、刺した。殺した時の光景だ。

オキは目を開き、ゆっくりとエルデトロスを下ろした。

「おれは、倒しに来たんじゃない。助けに来たんだ。帰ろう。マトイ。」

マトイはゆっくりと歪な形をした剣のようなものをオキへと向ける。だが…

「…ほんと、オキは優しすぎる。」

マトイは仮面部を粒子化させ、素顔を現した。

「私は、もう覚悟してたのに、手が止まっちゃったじゃん。その優しさは、残酷だよ。」

マトイは剣をおろし、オキに微笑んだ。

「あなたの声はずっと聞こえてた。ハヤマさんも、シンキさんも、アインスさんも、ミケも、クロも…みんなの声が、聞こえてた。だから出てこれた。これが最後のチャンス。」

微笑みから悲しそうな顔に変わるマトイをじっと見つめるオキはタバコに火をつけた。

「もう止められない。【深遠なる闇】は私のうちに顕現してしまった。でも、今ここで私が死ねば【深遠なる闇】を閉じ込めることができる。それで終わり。それでおしまい。」

オキの方を背にし、マトイは剣を振り上げじめんに突き刺した。

「優しすぎるあなたができないなら…私が、わたしを!」

「!」

直後に強力な衝撃波が走り、オキを吹き飛ばした。

空中に闇の粒子が集まり、アンガ・ファンタージをマトイは召喚。今までに見たことがない巨大な力をアンガ・ファンタージは溜め込み、マトイへと放った。

マトイはそれで終わらると思った。だからゆっくりと目をつむった。

「ばいばい。オキ。大好きな、人。」

 

「させるかよ!」

 

マトイへと向かっていった巨大な闇の力の玉をオキは素手でおさえこんだ。

「ぐ…ぐうう…!」

思った以上に闇の力が強い。ゆっくりとオキの手を、腕を吸い込み押されていく。

「な、なんで!? この…わからずや! 邪魔しないで! これは…私が望んでやっていることなの!」

押し返そうと空中で踏ん張るオキに対し、マトイは叫んだ。

「私はなんで生まれたのかがわからなかった。なんで生きているのかがわからなかった。でも、みんなと一緒に、あなたと一緒にいてわかったの。あなたを、オキのいる世界を、守りたい。ハヤマさん、ミケ、クロ、シンキさん、アインスさん、それにスレアの佳子ちゃん達のいる世界。そして…あなた自身を、守りたいって。」

オキは口を歪ませニタリと笑った。

「っせぇな。望んでるだの私が死ねばいいだの。守りたいだの。結果論ばっか言いやがって。おめーこそ、優しすぎるんだよ…。ぐうう…。もっと、わがままに…なりやがれ!」

オキの押さえる闇の力はゆっくりとオキを蝕んでいき、とうとうオキの全身を取り囲んでしまった。

 

『ならば、何故泣く。』

 

「え?」

オキとマトイしかいないはずのこの場所で、声がした。その声の方をマトイが向くと、そこにはダークファルス【仮面】が、クラリッサをもってゆっくりとこちらに向かって歩いていた。

立ち止まった【仮面】はクラリッサを高く上げ、叫んだ。

「起きろ、クラリッサ! 否、シオンよ! 私たちの巡ってきた悠久の輪廻を、ここで終わらせる。そのために力を貸してくれ。」

『もちろんだ。オキ。』

クラリッサが光輝き、オキを囲んでいた闇の力が マトイの闇の力が、すべて【仮面】へとクラリッサを通して吸われていった。

「これは…。」

「一体…?」

『いくら器に適しているとは言え、きさまらはアークス。私はダークファルス。ならば、ダークファルスである私に闇が集うのは、当然のことだろう?』

さらに吸われていく闇の力を驚いた顔で見ながらオキは【仮面】へと叫んだ。

「おまえ…これ!?」

『貴様が気づかせてくれた。ただ一人を救いたいという強い意志。それを成し遂げるためにやるべきことを。私は彼女が救えればそれで十分。ほかには、何もいらない。』

マトイの闇の力はすべて吸い取られ、そして目の前が真っ白になった。

 

 

きすけば、周りは青く光る場所にいた。

目の前にはシオンと、仮面をとりオキと同じ顔をした【仮面】。そして横では泣きじゃくるマトイがいた。

「ごめんなさい…ごめんなさい…! わたしは結局、わたしはなにも覚悟なんてできていなかった。」

ゆっくりと【仮面】が近づき、マトイの肩を撫でた。

「君は知らないだろうが、私と君はひとつの約束をした。…なくな。笑え。」

「…うん。」

マトイは頷き、目をこすり、無理やり笑おうとした。

「【深遠なる闇】は、わたしたちが受け取った。これで、彼女は生き、あなたも生きる。だが、【深遠なる闇】もまた消し去ることはできていない。すぐに、形をとるだろう。新たにダークファルスを従え、現れる。新たなる【深遠なる闇】。人類の勝つ歴史を、わたしは知らない。」

マトイをみたシオンは微笑んだ。

「だが、彼女が救われた歴史も、わたしは知らない。オキ、ここからはあなた次第だ。全知の先に進み、新たな歴史を紡いでくれ。それがわたしたちの最後の願いだ。」

「ああ、任せとけ。そして見てろ。この先の新たなる歴史を。」

こくりと頷いたオキをみてシオンと【仮面】はオキ立ちを残し、歩いて行ってしまった。

また光り、気が付けば元の場所に戻っていた。空は青く染まり、普段の遺跡の姿に戻っていた。目の前には裸に等しいマトイが寝転がっており、オキはそっと抱き上げ、自分のコートを着せた。

「ん…。」

「起きたか?」

マトイは自分の姿をみてコートをぎゅっと掴み、抱き上げているオキの肩に抱きついた。

「うん。」

ふと前をみると、【仮面】の面をつけた紅く、黒く、マトイの先程までの姿をした闇の力をもったモノが浮遊していた。

「【仮面】、いやおれか…。」

ソレは何も言わず、何もせずに空中へと飛び上がり、消えていった。

「…ああいうの、ずるいよね。」

マトイがそれを見ながら呟いた。

「ありがとうも、いえなかった。さよならもいえなかった。ほんとうにずるい。…でも、笑っていることにする。約束したし。【深遠なる闇】もでてくるし。ダークファルスもでてくるし、ダーカーもなんとかしなきゃ。」

無理やり笑っているのが分かる。その顔をみてオキは黙り込んだ。

「ふふふ。やることがいっぱい。泣いている暇なんて、ないね。」

しかし、マトイの目からは大量の涙が溢れ出ていた。

オキはそれをみて涙をすくった。

「あれ? おかしいな。わたし、笑っているはずなのに…おかしいな…。」

「泣きたかったら…ないていいんだよ。」

優しく微笑んだオキに対し、さらに涙を流すマトイはオキの胸に顔をうずめた。

「いまその言葉は…はんそくだよ。ごめん…約束、守れそうに、ない。」

マトイの鳴き声は遺跡の広場に大きくこだました。

「マトイ、おかえり。」

優しく頭を撫でるオキに、マトイは涙を流しながらも、ニコリと笑った。

 




皆様ごきげんよう。珍しく涼しいコミケとなり、楽しいお祭りでした。
マトイ救出戦、はじめて進んだとき、マトイの裸に近しいシーンで吹き出しました。
あかんやろあれ(歓喜)
今回の内容を書くにあたり、ヒーローでストミとソロ花いったら楽勝で白目になりました。脆いけどしっかり避ければ大火力で吹き飛ばす。まさにヒーローですね!(ストラトス風)
さてバスタークエ、始まりましたがいろいろ問題が起きてますねぇ。今のところ自分自身にはそれらは降りかかってはいませんが、周りは阿鼻叫喚となっています。
クエ自体はたのしいんですけどねー。

さて、ようやくEP3のラストが見えてきました。
次回はファンタシー・スターの代名詞でもあり、最後のボスである【深遠なる闇】戦。
普段はできない、いろいろぶっとんだ内容を書きたいと思ってます。
では次回にまたお会い致しましょう。


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第110話 「世界を堕とす輪廻の徒花」

【深遠なる闇】は、ダークファルス【仮面】へと移り変わった。

マトイを助ける為、彼女を生かすためにようやく出した答えだった。

「どうなってもオキさんはオキさんだった。」

「まったくだ。」

自らの体で他人を守るのは誰もが同じ考えだが、自己犠牲の部分はオキは人一倍だ。何をするにもまず自分が先に手を挙げる。

「うっせぇなぁ。」

惑星ナベリウス近宙域。そこに大きな花が咲いていた。惑星を飲み込まんとする巨大な花。

「【深遠なる闇】は復活した。これはまだ始まりに過ぎない。ナベリウスを飲み込み、完全に覚醒するだろう。だから覚醒しきる前に叩く。今僕たちにできるのはこれしかない。」

シャオによる全アークスへの通信が入った。オキ達は目の前に広がる巨大な花へと向かい、その中心にいるであろう【深遠なる闇】を叩き、完全なる覚醒を阻止する。失敗すれば、それは宇宙の破滅を意味する。

オキらアークスが待機する揚陸艇の下には真っ赤に広がる空間と…

「にしてもいっぱいいるわねぇ。」

シンキがニタリと笑いながら『ソレら』を見た。言葉につられ、オキらもそれをもう一度見る。

オキらの下に広がる真っ赤な空間。【深遠なる闇】がいるであろう中心を守る結界のように張り巡らされた空間。そこには大量の巨大な城が動いていた。

「見てわかるとおり、【深遠なる闇】の手前にはダークファルス【双子】が陣取っている。実際にはコピーなのだろうけど、その力は計り知れない。とはいえ、これを突破しなければ【深遠なる闇】にも到達できない。時間稼ぎなんだろうけど。みんなには苦労かける。これを突破し【深遠なる闇】を撃破してくれ。」

シャオからの言葉を受け全員が頷き合う。

「なに、簡単なことだ。切り進めばいい。」

アインスが腰に下げているオロチアギトに触れながらいう。いつも通りの考え方だ。

「そうだね。何があっても切ればいい。」

ハヤマもアギトを握りしめる。

「眠いのだ。腹減ったのだ。ハヤマ、ミケにご飯を要求する。」

ミケはいつも通りマイペースだ。こんな時に何を言うとハヤマは怒るもブツブツいいながら、持っていた簡易食を渡す。

「ふふふ。」

その光景を見ながら微笑むシンキ。相変わらず余裕そうだ。

同チームメンバーであるクサクやユユキ等同チームメンバー達も戦いの合図を今か今かと待っている様子だ。

「大丈夫…大丈夫。」

「そんなに緊張するなよ。俺達がついてる。」

緊張してガッチガチに固まったマトイの頭をポンと軽くたたいた。

オキの顔を見て安心したのか頷き、肩の力が少しだけ抜けたような気がした。

「で? マスター、コマチは?」

クロから質問が来る。この場にいないメンバーが一人だけいる。コマチだ。

「あいつは別の場所の戦いに行っている。」

「別の場所?」

クロが首をかしげる。今回の戦いはアークス総戦力をぶつける。だが、完全に全てをぶつけては他の場所で起きている問題が同時に解決できない。という本人たっての希望でそちらへと向かわせた。

「古戦場が俺を待っている。だとさ。」

場所をファータ・グランデ星域。そこでの戦いは遠い未来、伝説となるがそれは別の物語。

「さて、いこうか。」

覚悟は決まった。まずは目の前にいる【双子】の壁の突破。【深遠なる闇】へと近づき撃破する。簡単な話だ。小難しいことはなにもない。

「「「おおおおお!!!(なのだー!)」」」

 

 

ポータルが開き、赤き地へと皆が飛び降りる。

ほかの場所でも多くのアークスたちが飛び降りただろう。

彼ら彼女らの目の前には真っ赤な光をその巨体に灯す4つの塔を脚とし、その中央にまるでおとぎ話に出てきそうな顔がついたお城。玩具系ダーカーを従える子供のダークファルス【双子】らしい本体の姿だ。

「こんなのどこ叩くんだよ!」

「塔にコア見えるぜ。あと顔の部分にある舌っぽいの。あれ本コアだろ。」

「消耗戦になっては思うツボだ。一気に叩き切るぞ!」

各人が弱点と思わしき場所へと走り込み、切りつける。

【双子】はそうはさせまいと、脚の部分である塔を本体の周りで勢いよく回転させ

アークス達を弾いた。

「ちぃぃ・・・!」

『フフフ…フフフフ。』

オキは睨みつけ、再び【双子】へと走り寄った。

ぴたりと止まり、4本の塔の2本にコアがついている。そこが完全にあらわになっている。

「叩けぇぇぇ!」

「おおおお!!!」

一番に攻撃を開始したのは怒号のような声を張り上げながら走り近づいたアインスだ。

猛攻をするアークスに対し、【双子】は笑うだけだ。

塔についた2個のコアが破壊され、中央の本体の顔から舌についたコアが露出される。

オキ達が今だと言わんばかりに集まり、コアへと攻撃を開始した。

「ヘブンリー!」

「グレンテッセン!」

「にゃにゃにゃ!」

各位の攻撃がコアへとはなたれ、再び舌は口の中へ。

「コアは!」

「こっちだ! オキさん!」

別の塔からコアが露出しているのがみえた。

コアが露出している塔は赤く光っている。まるで誘っているように。

直後、【双子】は大きく比翼した。

「飛んだ!?」

「こっちに向かっているぞ!」

【双子】は大きく空中に弧を描くようにこちらへと迂回。戦っているフィールドを飛び体当たりをしてきた。

二度、体当たりをした後にまたオキたちのところへと降りてきた。

降りた直後に【双子】は口から車型のダーカーを大量に吐き出した。

「カーニバルだよ!」

「マスター…それ違うやつ。」

クロに突っ込まれながらもオキは口元がニヤリと笑っていた。

「にゃはは! みながんばるのだー!」

ミケの声が聞こえてきた。その姿をみてオキはぎょっと目を見開いた。

ミケが車系ダーカーの上に乗り、操縦しハヤマを追いかけているではないか。

「ばかやろう! こっちくんなぁぁぁ!」

「フハハハ! たーのしー!」

車系ダーカーは色が普段の赤から青色に変わっており、よく見ると落書きまでされている。ミケが色を塗ったのだろうか。ダーカー因子も何故か感じられない為、心の中でハヤマに対し合掌しながら攻撃を再開した。

「ふーん…キリがないわね。」

少し離れた場所でシンキが遠くを見ていた。その目には戦うアークス達が写っていたが、コピーされた【双子】は量が膨大すぎる。これではいつここを突破できるかがわからない。

「くそ…きりがねぇな。」

「ええ。そうね。」

シンキにオキが近づき、舌打ちをした。一体一体はそこまで強くはない。このまま行けば目の前にいる【双子】は倒せるだろう。しかし、そのほかにも【双子】いる。

「オキ…。」

マトイが心配そうに近づいてきた。オキが歯ぎしりをした。

「くそ、数が多すぎる。どうしようか。」

少し離れた場所でも他のアークス達が戦っている姿が見える。そのまた遠くに、反対側にも。上空から見た膨大な数の【双子】。いくらアークスが総力戦で戦っているとは言え、あの数はそう簡単に突破は難しい。

「オキちゃん。」

「ん?」

シンキが微笑みながら片足を軽くあげた。

「進みなさい。そして終わらせてきなさい。」

 

トン

 

シンキが上げた足を紅い結界である地面をついた。直後、地面はわれオキ達は宇宙空間を落ちた。

「シンキ!?」

「っきゃ!?」

戦っていたハヤマやアインスたちも何事かと割れた中心を見た。

オキたちの下に揚陸艇が移動。空間に放り出される心配はなくなった。

オキがシンキを見上げると赤き光を放っていた。普段の力の光ではない。

「…わかった。」

オキは揚陸艇の操縦桿を握り、揚陸艇を【深遠なる闇】へと進めた。

「オキさん! シンキは!?」

「はやまん。あいつに任せた。俺たちは、俺たちの戦いをする。」

ほかのアークスたちも揚陸艇を進めていた。【深遠なる闇】がいる徒花の中心をオキは目指した。

 

 

「さて、任されたからには本気をださないとね。」

空中に浮く【双子】は一人残ったシンキへと狙いを定め、脚である塔の一本をシンキへと下ろした。

「誰に向かって足蹴している。不敬だぞ。」

シンキの後方に大量の黄金の光が灯り、その空間の裂け目から大量の剣、槍、斧、武器という武器が飛び出し、【双子】の脚は吹き飛び、バランスを崩してその場に崩れた。

そのほかの【双子】達がシンキの前へ集まってくる。シンキの姿はいつの間にか黄金の鎧を腰に付け、紅き紋様の入った体から光が放たれていた。

「出てきなさい。王律鍵バヴ=イル。」

シンキの目の前に黄金色の鍵のような剣を空間より取り出した。ゆっくりとそれを握り、柄を回した。直後に天を埋め尽くすほどの枝分かれした赤い線が走る。

そこから一際輝いた光が一つシンキの手元へと降りてきた。

空中からは剣と呼ぶには似つかわしくない、白と黒で彩られた円筒のドリルの様な物がでてきた。シンキはそれを掴み、握った。

「興が乗ったわ。見せてあげる。本当の私の力を。見てなさいオキ。」

自分の前へと浮かせたシンキはニヤリと笑った。

「原初を語る…。元素は混ざり、固まり、万象織り成す星を生む。」

赤く光っていた空間が割れ、より紅く光る空間へと変わった。シンキはそのまま『エア』とともに【双子】のさらに上へと笑いながら浮かび上がる。

「フフフハハハハハハハ!」

シンキの足元には銀河とも思われる光が【双子】たちの目にみえた。

「オキ! あれ!」

「ああ。シンキの…本気がくる。」

揚陸艇を飛ばすオキは目の前に広がる徒花へと進みつつ、後方をちらりとみた。あまりに膨大。あまりに巨大。見たことのない力がその一点の空間に集まっていた。

「しっかりつかまってろ! 衝撃波が来るぞ!」

シンキは乖離剣エアをゆっくりとあげる。次第に回転をあげる乖離剣は高く振り上げられた。

「死して拝せよ――。」

シンキは下にいる【双子】を見下ろし、乖離剣を振り下ろした。

 

光闇乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!』

 

大量に居る【双子】たちに覆いかぶさるように落ちていく銀河系と同等の力。コピーされた【双子】達が最後に目にしたのは、人類最古の地獄だった。

 

ごおおおぉぉぉ!!!!

 

「うわぁぁぁ!」

「きゃあああ!」

オキはシンキの力で放たれた衝撃はで揺れる揚陸艇を操縦し、その巨大な力を背中に受けながら、笑っていた。

 

 

オキ達はその後、【深遠なる闇】の本体を見つけた。

「あれが、本体か。」

紅く光る蕾のような頂点。スカート状に広がった大花。ダークファルスの親玉というにふさわしい異様な力を放っていた。

「いくか。オキ君。」

「ああ。まずは挨拶がわりだ!」

アインスの言葉に頷き、オキはコンソールを操作した。

揚陸艇の側面から8本の誘導ミサイルがはなたれ、勢いよく【深遠なる闇】へと向かっていった。

「FOX3!」

「なにそれ。」

ハヤマがオキの発言した不思議な言葉に疑問をもった。

「さぁ。スレアの映画で見た戦闘機乗りがミサイル飛ばした時にいってたからつい。」

ミサイルは【深遠なる闇】を追いかけるが、後方から放たれたレーザーでほぼすべてが破壊され、さらにスカート部からでた光により、周囲にあった揚陸艇がいくつか破壊された。

「突っ込んで来るぞ!」

【深遠なる闇】はそのまま体当たりをしてきたが、オキが操縦桿を操作し、回避。そのまま【深遠なる闇】へと近づいた。

「さぁおっぱじめるか!」

オキの号令で、【深遠なる闇】の側面を攻撃し始めるハヤマ達。

「気持ち悪い目、してるなぁ。」

クサクが嫌な顔をしながらヂュアルブレードを振る。側面についた盾のような場所に真っ赤な目のようなモノがついており、ぎょろりとこちらを睨んでいた。

他にも鎌のようなモノ、鋏のようにも見えるモノもある。だが、それでもオキ達は攻撃をやめなかった。

「お? これ、壊れるぞ?」

アインスとハヤマが攻撃していた盾のような場所が破壊され、欠けた。

「壊れるなら倒せる。切るぞ。ハヤマ君。」

「もちろん隊長!」

近宙域には【深遠なる闇】からでてきた小さな浮遊物体がいくつか浮いており、戦闘場となったフィールド場を飛び回り、アークスたちへレーザーを放っていた。そこまで痛くはないものの、邪魔でしょうがない。オキとマトイはそれらの処理に回っていた。

「これで、最後だ!」

宙に浮いていた物体は二人の攻撃によりすべて破壊された。直後に【深淵なる闇】の中心部にある巨大なコアが開くのがみえた。

「チャンス!」

オキはすぐさま揚陸艇を移動。コアの目の前に皆を誘導した。

「いくぜフルボッコ!」

「叩き切る!」

力任せに二本のアギトを振るわれた【深淵なる闇】はスピードを上げ、遠くへと逃げてしまった。

「逃げた!?」

「違う! 体当たりだ!」

猛スピードで近づいてきた【深淵なる闇】のそばをすり抜け、再び体についている物体を攻撃する。

先端を光り輝く力で伸ばした【深淵なる闇】は往復でこちらを切ってきた。しかしみなそれを避ける。

「遅い!」

再びあちこちの部位が破壊され、コアが露出すると思われた。だが、コアは開かず、強力な力を感じたオキは揚陸艇を操作。側面に移動しようとブースターを起動した。直後にコアから巨大なレーザーが噴射され、少し遅ければまともに食らっていた。

「オキ、まずいよ。」

「あん!?」

マトイが宙を見上げている。気が付けば、宙域は白く輝き、まるで星の昼間のような明るさになっていた。

「中心に近づいている!?」

【深淵なる闇】の作った徒花の空間その中心に近づきつつあることに気づいたオキは周りのメンバーに声を上げた。

「あいつも弱ってきている! このまま続けるぞ!」

【深淵なる闇】は皆の気合に合わせるようにコアを広げ、開花するかのごとく花を咲かせた。コアからは巨大な人型が現れ、そこからは力の中心であることが分かるほどの力を放っていた。

「変化した!? このまま決める気か!」

「やらせるかよ!」

ハヤマたちはより気合をいれ、振るわれる巨体の腕を回避しながら【深淵なる闇】の胸部を攻撃した。

「あれは…。」

「間違いない。俺、いや奴の力を感じる。」

紫色の巨大な羽。金色の体の内側に見える赤黒い力。ダークファルス【仮面】の力が感じる頭部。マトイとオキだけじゃない。その場にいる皆が感じているだろう。そして同じことを思っているだろう。これが最後の姿なのだろうと。

削られる力を解放するかの如く、【深淵なる闇】は胸部に巨大な目を顕現。力を貯め始めた。しかし、アークスからすればここを攻撃してくださいと言わんばかりの弱点。

ニタリと笑ったオキもその攻撃に加わった。

「おらぁぁぁ!」

猛攻により、目は破壊され、力を失った【深遠なる闇】は頭部を揚陸艇に載せるように倒れた。

「おらおらおら!」

「いくぜフルボッコ!」

「突撃…おおおおおお!」

オキやハヤマが武器を振るうさなか、アインスが少し離れ、距離を取った。

直後に勢いよく走り込み、【深淵なる闇】へと近づく。

「切る…進め…斬る…! 進めぇ! ここが…俺が! アークスだ!」

ジャンプからの切り下げ。直後に力任せの切り上げからの強力な突き。

チャンスと踏んだアインスの全てをその一撃に込めた突きが【深淵なる闇】の顔面に突き刺さった。

直後、【深淵なる闇】は少しだけ離れ、自らの頭上に巨大な光の玉を作り出した。

『形を示せ』

オキの耳にはアイツの言葉が聞こえ、目の前にノイズが走った。

「!?」

目をこすり、再び見開くと【深淵なる闇】の姿はなく、自分と同じ姿をしたモノが目の前に立っていた。

「これは…!」

「終わりだ。」

オキの姿を出したモノは腕を振り上げ、巨大な剣を振り下ろしてきた。

オキはそれを回避。自分と同じ姿のモノへとエルデトロスを振り、切った。

「逃がさん。」

今度は上空からの重力場が降ってきた。オキからすればそれは遅く、見て回避が余裕である。再びエルデトロスを振り、同じ姿をしたモノを攻撃する。

「やらせるか!」

 同じ姿をしたものからは【深淵なる闇】と同等の力を感じた。オキは朦朧とした空間の中であっても、それが敵であることは分かる。そしてなにより感じるのは『彼女を守りたい』ただその一心が胸の中にあった。

「邪魔を…するな!」

振り上げたエルデトロスをおろし、同じ姿をしたモノの顔へとそれを突き立てた。

直後にそのモノの顔から大量の闇の力が噴出。再びノイズが走り、オキは目をこすった。

その時に聞こえた。【仮面】の声が。

 

『あとは…任せろ。』

 

オキが目を見開いた直後には顔を抑え、近寄ってくる【深淵なる闇】。

「なんだ今のは!?」

「何があった!?」

ハヤマやアインス達は目の前で急に力が拡散した光景を不思議に思っていた。

オキだけがそれをしている。

「あのバカ。」

【深淵なる闇】は顔部に巨大な一つ目を作り上げ、そこに闇の力を溜め込んだ。

「マトイ!」

それが狙っているのはマトイ。そしてその直後に巨大で今までにないほどの強力なレーザーをマトイへと放った。

「負けない…わたしはもう…負けない!」

マトイは明錫クラリッサⅢを【深淵なる闇】へと向け、白き光のフォトンを放った。

「はぁぁぁああああ!」

力は拮抗し、どちらも譲らない。だが、それはマトイと【深淵なる闇】の力だからだ。

クラリッサにもうひとりの手が握られる。

「オキ!?」

「あいつも…戦ってる。あの中でな。」

「うん!」

クラリッサにフォトンをありったけ注ぎ込み、【深淵なる闇】の力を押し返すオキとマトイ。

「あああああああああ!」

「おおおおおおおおお!」

次第に押し返される力は【深淵なる闇】の顔を貫き、【深淵なる闇】は顔を抑えながら闇の力を拡散していった。

直後にナベリウスを食わんとしていた巨大な花は時計回りに回っていたのが、逆回転仕出し、食われていた大地がまるで巻き戻しのように戻っていき、闇の力も宇宙の空間へと吸い込まれ、最後には消えてなくなった。

「終わった…のか?」

「さぁ…。」

皆が困惑しているなか、オキとマトイは感じていた。

【仮面】の力が発動したのを。

「あいつも…一緒に戦っていたな。」

「うん…。」

 

ボン!

 

揚陸艇のエンジンから爆発音が聞こえた。聞こえた場所からは煙が出ており、揚陸艇は振りえながらナベリウスへと落ちていった。

「これ、不味くね?」

「落ちてる!?」

すぐさまオキはコンソールを開き、揚陸艇の様子を確認した。

「第一エンジンお釈迦。第二第三エンジン不調。第四エンジンもやばい。これ、落ちるわ。」

次第にスピードを上げナベリウスへと落ちていく揚陸艇。

「なんとかならないのオキさん!」

「まってろ…! クロ! 真正面の空間の時間を止めれるか!?」

クロは指示通りに揚陸艇の前方を覆うように空間の時を止めた。これでバリアの役目にはなる。しかしそれも長くは続かないだろう。クロの体力にも限度がある。

「ハヤマん! 隊長! その他の皆はクロに力を分けろ! どうやってもいい!じゃねーと燃えちまうぞ!」

すでに大気圏内に突入している揚陸艇の周囲は摩擦で燃え始めている。

「もえるのだー! みなもいっしょなのだー!」

「お前が燃えてどうすんだよミケ! あっちーーーー!」

ミケが揚陸艇の上を燃えながら走り回り、炎上させている。やめろミケ。熱い。

オキはなんとか操作しながら燃える揚陸艇をナベリウスの水上へ落下させようやく止まった。

「さいごはあいかわらずしまらない。」

「…グッダグダやな…。」

「是非も、ないのだー。」

オキとハヤマ達は蒼い空を見上げながら真っ黒に焦げたミケをみてマトイたちと一緒に勝利を笑った。




【深淵なる闇】撃破!
というわけで皆様ごきげんよう。
難しいですね。普段やってる事を文章にするのは。表現が難しい!

さて、【深淵なる闇】戦中の一騎打ち。あそこはWIkiの考察にあった内容を反映させました。

『周囲に【深遠なる闇】の本体が居ない事からして、
【深遠なる闇】のコアとなっている【仮面】(即ちEP3-7ルートAのプレイヤーキャラクター)が主導権を取り戻しつつあり、天罰を止めるため、皆を、マトイを救うために、元の一人のアークスとして、精神世界で【深遠なる闇】と戦い、打ち勝つ様子の演出なのではないかという推測※がある。』(Wiki抜粋)

つまり、今回の場合オキだけが見える不思議な光景としました。
他にもシンキがエヌマぶっぱなしたがってたり、ミケは車を操縦したいとか言うし。もうひっちゃかめっちゃかでしたが、楽しかった。

【深淵なる闇】もとりあえずは討伐し、番外編を終えて、今度はALOへと行きたいと思います。それではまた次回にお会い致しましょう。


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番外編 「リリィとマスターさんの一日」

【深淵なる闇】を一時的にではあるが討伐した。その直後のちょっとしたお話。
※今回はシンキ(リリィ)の視点でお送りします。


「うーむ…。」

オキは悩んでいた。それも頭を痛めるくらいに。原因となるのは目の前にいる少女だ。

小さく、すらっとした未熟な身体。きりっとした眼に、うっすらと見える銀色のまつ毛が彼女を可憐に見せる。同じ色の長く綺麗なロングストレートの髪は小さな身体の腰まで到達しており、その隙間からチラチラと体にある白き紋様が姿を見せている。

レオタード風の服装にベルトを巻き付けマントを羽織った少女。口を開けば丁寧で、真面目で…

「どうしました? 頭が痛いのですか? なら冷やすといいのです。」

そういってその少女は小さな手をオキの額にヒタリと当てた。彼女の力なのか、その手はとても冷たくヒンヤリとしていて気持ちがいい。天使か。

…それでいて気が利く細かい性格なのがよくわかる。

だが、それは余計に頭を痛める原因となる。彼女が名乗ったのは『シンキ』。

魔神、地母神、エロ魔神、下(ネタ)神といろんな神の名を持つオキのチームメンバーが一人。だが彼女、シンキは目の前の少女とほぼ真逆である。出るところは出て、しまるところはしまっている所謂「ボンキュッボン」な身体に魅惑、妖美、妖艶と同姓ですら惹かれてしまう性格と美貌を兼ね揃えたパーフェクトな女性だ。悪魔のようなセクハラ大好き部分はほっといて。

「うーん…。」

どうしたものか。確かにこの少女からは彼女の不思議な力を感じる。フォトンとは違う、彼女だけから感じる力。こんな独特な力を持っているのがそうそういてたまるか。ならば彼女は『シンキ』なのだろう。

この状況を再び整理するために現状までに起きたことを思い返すオキであった。

皆さまこんにちは。シンキです。え? シンキはそんな小さな姿じゃない?

そりゃ、私はおっきな私と違って胸はないですし、背も低いです。ですが見てください。この白い羽! 白い紋様!

あの真っ黒魔神のおっきな私と違って私は真っ白です。つまり『綺麗な』シンキなのです。心の汚れてしまった私とは違うのですよ。

コホン…話がそれました。どうして小さくなったかを説明しようと思います。

その前にマスターさんの所に行かないとですね。

「というわけで、お世話になりにきました。」

「はぁ?」

流石のマスターさんもお目めぱちくりして驚いている様子です。あ、何やら頭を抱え始めました。頭が痛いのでしょうか。冷やすといいと思うので、私のマジックで少し冷やしてあげようと思います。

「どうですか?」

「うーむ…。なんだこれ。」

まだ頭痛が治らない様子。でも見た感じ異常は感じられません。とりあえず落ち着くまで待つことにしました。

「で? お前さんがシンキだって?」

「どこからどう見ても私はシンキです。リリィとお呼び下さい。それともまだ信じれませんか?」

いや、と首を振る男性。おっきな私が入っているチームのマスターさん、オキさん。

おっきな私が見つけたこのオラクル宇宙の道末を大きく変える可能性のある人物。

このオラクル船団の中心であり、この次元宇宙の根源でもあった原初の星『シオン』の力で過去を変え、この世界の『最悪』を回避した人。おっきな私は彼と、その周りにいる人物たちがこの世界をどういう未来に導くかを見守らなければならない観測者として共に活動していると思っているようですが、私は知ってます。それが建前だと。楽しんでるだけなんですよね。おっきな私は。

「シンキなのはわかった。まぁちょっとびっくりしたと思ってくれ。にしてもなんでそんな姿に? というか性格も変わってるな。」

ようやく説明が出来そうですね。

先日の【深遠なる闇】戦時、おっきな私はほぼ全力で乖離剣エアを放ちました。その影響でおっきなあ私が保てる魔力が足りなくなってしまいました。そのため、『星の財宝(ゲートオブアルゴル)』の中にありました『若返りの薬』でこの姿まで若返ったのです。え? そんなものが存在するのかって? それは私の『星の財宝(ゲートオブアルゴル)』ですから当たり前です。

と堂々とマスターさんには言いましたが、実は少しだけ嘘があるんですよね。私が作られた時点で持ってた大いなる光の遺産から来る意思と、向こうの『深遠なる闇』の欠片が1つになり争う前の1つの精神体が宿った際、使命と生きる意味を渡された時に一緒に貰ったのが本当のこの力の正体なのですが、まあそれは言わなくてもいいでしょう。

「つまりあれか。必要とする力が普段の状態だと燃費わりーから燃費よくするために若返ったと…。」

その通りです。いい子いい子して差し上げましょう。ふふん。喜んでるみたいですね。すぐに我に返って私の手をどけても口元がゆがんでますよマスターさん。

「ふーん。あの剣の力はほんのひとかけら程度の知識しかないからアレだけど、やっぱ消費量も半端ないんだな。【双子】軍団に撃った後、アイツらを一撃で粉砕してたから、もし【深遠なる闇】に撃ったら消し飛ばせるんじゃないかなーって思って…。」

「できますが、あなたも消えますよ?」

「へ?」

素っ頓狂な声をだすマスターさんですが、もし【深遠なる闇】にエアを、『光闇乖離す開闢の星』を放った場合、消滅させることは出来るがその場合、中に存在する仮面ごと消滅させてしまい、その余波で並列存在である仮面の正体、オキさんも消滅させてしまう。

複合精神体がわずかの間とは言え、体に宿った影響で得た能力、おっきな私はこれを『全知なるや全能の星』と呼んでいます。簡単に言えば一瞥するだけで見た物の解を出すことが出来る力ですが、それで看破しています。

つまりオキさんを殺してしまうことになるのです。おっきな私はそれだけはしまうと思ってるようですね。

とりあえず、軽く並列存在なのでエアの力が強すぎて一緒に消してしまうと説明したので納得してくれたようです。

「姿は若返った…で、性格もか? さっきからおっきな私―とか言ってるから人格別なのか…?」

かつてエスパー集団に作られた時、そこから脱出し、アリサⅢを追っていったその時の身体。それがいまの私。

マスターさんには昔の姿に若返った際に、性格も若返った。しかし記憶は共有していると説明しました。

「ふーん。その姿はいつまで続くの?」

大体3日から一週間ってところでしょうか。実はもっとはやく回復できる見込みはあるのですが、おっきな私が出てくる気にならないと下には戻らないので、暫くはこのままとお伝えしたらまた少し考え始めました。

「しばらくか…。今のところは【闇】も復活見込みはないみたいだし、急な依頼も来ていない。仮にあったところでうちのメンバーでなんとかなるか…。ふむ。まぁ仕方ない。それにシンキには本当に助けられたからな。暫くゆっくり休むといい。…ところでさっき世話になると言ってたが?」

その通りです。この姿だと普段の生活もままなりません。なにより食事も作れませんし、部屋はおっきな私が生活している部屋に作られているので荷物も欲しいモノが高いところにあったりで著しく生活しにくくなっています。おっきな私も『オキちゃんなら私の世話一人くらいできるでしょ? よろしくね。ちなみにいくら私が好みの姿に変わったからって食べちゃダメよ?』と言ってました。

ところで食べるとはどういったことでしょうか。

「そこは共有してないのね…。」

よけいに頭を悩ませてしまいました。そことはいったいどの部分でしょうか。理解できません。おかしいです。私にも『全知なるや全能の星』があるはずなのですが、おっきな私が意図して封印してますね? やっぱり汚いです。真っ黒です。

「まぁいいや。とりあえず、着替えはあるのか?」

着替えですか、ありません。唯一この服しかなくて。おっきな私の服はいっぱいあるのですが。

マスターさんはマスターさんのサポートパートナーであるアオイさんに服を持ってくるように申し付けて持ってきてもらった服を合わせたのですが、アオイさんの服は小さく、私には合わないようでした。可愛い服ですね。フリフリしてていいと思います。どこかのおっきな私みたいにあちこち肌を見せる服とは違いますね。

はぁとため息をついたマスターさんは少しだけ悩んだあとに再びため息をついて出かけるぞと言ってわたしを連れて行こうとしました。どこへ連れて行くつもりでしょうか。

「服買いに行くんだよ。そんな格好でうろつかれたら、変な噂が立ちそうで怖い。」

なんのことでしょうか。理解できません。私に何か問題でもあるのでしょうか。この服はマジックを使うのに一番効率的な服なのですが。

マスターさんとわたしは市街地へと向かい、マスターさんはどこかを目指しているようでした。周囲をきょろきょろと見渡しながら歩いているようですね。誰かを探しているのでしょうか。

「いや、こんなところで誰かに見つかったらーーーー!」

目の前にいきなり二本立ちしている白い猫が上から降ってきました。ミニトロスーツですね。中身は、ミケさんでしょうか。そんな感じがします。

「じーーーーーーー。」

じっとこちらを見たあとに、マスターさんをみて再び私、マスターさんと何度か見たあと、最後にマスターさんの前にたって

「っふ。」

もともとにやけた顔をしていたミニトロスーツさんがよりにやけた感じがして再びどこかに飛んでいってしまいました。

なんだったのでしょうか。

「ミケてめぇ! 言いたいことがあるならはっきりいえー!」

飛んでいったミケさんの背中に叫ぶマスターさんですが、周囲の一般人やアークスの人に見られたのを感じたのか、再び歩き始めたマスターさん。なんだったのでしょうか。

暫く歩いた先の小さな店。どうやら目的地についたようですね。ここは、服屋さんでしょうか。しかし服ならもっと大きな店も、それこそアークス専門の店があるはずですが。

「ここは俺の知人がいる店でな。アオイの服もここで作ってもらった。アークスの服もたまに作ってるが、気まぐれなやつだからな。今回はどうなるやら。ま、説得していせるさ。」

扉を開けて中に入ると、アンティーク系の小物や古い置物が並び、壁等にはアオイさんが着ているようなフリフリのついたドレス服が並んでいました。

「いらっしゃい。む? オキではないか。…その娘は?」

「どんも旦那。実は折り入って相談が…。」

「誘拐か? とうとう犯罪に手を出したか? わたしは関与せんぞ。」

「ちげーよ!」

白髪まじりでだんでぃなこのおじ様。マスターさんが旦那と呼ぶご友人だとか。

「アオイの服を探している時にこの店を見つけてね。それ以来、旦那に依頼している。」

「よろしく。」

少しだけ怖い顔ではありましたが、危険は感じられませんでした。どちらかというと心優しいおじ様とみました。

その後、店内にある服を選び、エプロンドレス風の服を手にとったのですが、残念ながら背中の羽が出せそうにありませんでした。

しょんぼりしているところに旦那さんが来られて、ふむと一声出したあとにそれを持って行って奥へと行かれてしまいました。

しばらくして奥から出てきて私にそれを私てくれたところ

「背中が綺麗に空いてるな。」

「できるだけ邪魔にならないようにはしたが、そこまで背中を大きく空けることもしないようにした。これなら服の本質も損なわずに着れるだろう。」

あの短時間でこれを完成させるとは。このおじ様、なかなかできますね。

「金は後で振り込んどくよ。」

「了解した。期限はいつもどおり1週間だ。」

あの、私お金持ってきてないのですが。というかおっきな私がくれませんでした。

「どーせシンキのことだ。俺にすべて払わせるきでいたんだろ。別にかまわん。」

後で知ったのですが、ここの服は特注の素材を使っているそうで、普通の服の相場の何倍も高いそうです。だから期限が設けられていたんですね。後でおっきな私に払わせましょう。

旦那さんに手を振りながら店をあとにしたわたしは、市街地を再びマスターさんと歩いていました。

すると、マスターさんがピタリと止まってしまいました。どうしたのでしょうか。

「やばい。はやまんたちがいる。」

この先の交差点の先、そこにたしかにハヤマさんとアインス隊長さんがいらっしゃいますね。お二人も買い物でしょうか。

「向こうへ向かおう。」

そう言って私の手をとって、ビル角を曲がり、別の方角へ進み始めました。どうして知人の方と会おうとしないのでしょうか。先ほどの旦那さんの店に入るときも一度躊躇していたように見えましたが。

「なんでもいいだろ。…っと、ここなら問題ないか。暫く時間を潰そう。せっかくその姿になったんだし、遊びも必要だろ?」

ビルとビルの合間を抜けるとそこには遊園地が広がっていました。アークスシップ内にある唯一の遊園地。ジェットコースターからは楽しそうな悲鳴が聞こえ、高い高い観覧車はゆっくりまわり、コーヒーカップやメリーゴーランドはくるくると楽しそうに回っていました。

「…はい!」

すごく楽しそうです。わたしは子供ではありませんが、せっかくなので楽しむことにしました。

メリーゴーランドに乗ってマスターさんに手を振ったり、一緒にコーヒーカップに乗っていっぱい回してマスターさんをフラフラにしたり、残念ながら背が足りないということでジェットコースターには乗れませんでしたが。係の人を見ましたがわたしはあなたより年上なのですよ。まったく。残念です。

「ほれ、ソフトクリーム。」

「ありがとうございます。」

真っ白なソフトクリームを食べるわたしをみてタバコに火をつけるマスターさん。マスターさんも楽しそうで何よりです。

今日はありがとうございました。ほんとうに楽しかったです。こんなに楽しく遊べたのは生まれて初めてでした。

「そうだろうな。そうだと思ったいから、ここに連れてきたんだ。」

「そうだったんですか。」

「シンキは…。」

風下に向かってタバコの煙を吐きながら、マスターさんがおっきな私について話してくれました。

「シンキには本当に感謝している。こんな俺をリーダーだといってついてきてくれて。みんなと一緒に騒いで笑って、楽しんでくれて。俺、あいつより弱いのにさ。あいつの方が全然強くて、時々かっこよくて、綺麗で、惚れそうにはならなかったといえば嘘になる。そんなパーフェクトなあいつが俺のチームの、一員として一緒に馬鹿なことしてくれるのは本当に感謝してんだ。あいつが、むかしどんな事をしていたとか、どんな大変なことを、使命を受けたとか、俺は詳しく知らない。でも俺なんかが理解できるようなことでもないのもわかる。そんなあいつが、俺たちと一緒にいてくれる。おれは嬉しいんだ。あいつと出会って、あいつにいろいろ教えてもらって。あいつと笑い合って。SAOのときも、自分から追いかけてきやがった。本人は楽しそうだからと言ってたが、それだけでも一緒にいれるのは本当に嬉しかったんだぜ? この間の【深淵なる闇】のときも。あいつがいなかったらああも簡単にはいかなかった。」

マスターさんの言葉をだまって聞いていましたが、おっきな私はそう簡単に自分の力を他人のためには使わない性格です。ですが、おっきな私はこのマスターさんのためにいろいろと教え、力を貸し、はてには一部の力を貸し与えています。それだけ気に入ったということでしょう。

私はわかります。マスターさんは優しくて、仲間であるなら楽しくしてもらおうと頑張る人。

「リリィはさ。今の言葉を大きなシンキにも共有できるんだっけ? できるなら、そのまま伝えてくれよ。ありがとう。こんな俺だけど、俺たちのチーム共々これからもよろしくって。」

分かりました。その言葉しっかり伝えておきましょう。

 

 

 

夕方になり、帰る人も出てきた頃に、マスターさんも帰ろうと言って帰ることにしました。

「あ。」

「ん?」

「オキ君か?」

帰り道にばったりとハヤマさん、アインス隊長さんに出会いました。

「あー…。」

二人は手をつなぐ私とマスターさんの間をじっとみてハヤマさんは顔を青くし、アインス隊長さんはすっごく真面目な顔をしていました。

「もしもし、コフィーさん?幼女護衛のクライアントとか発行されてる? うちのリーダーがなんか見慣れない幼女連れて歩いてるんだけど。」

『お噂は聞いております。オキさん? そちらにいらっっしゃいますか? すぐにこちらへ来てください。』

「オキ君。いいか? 相談には乗る。だが、できることならやる前に聞きたかった。だが今でも遅くはない。一緒についていってやるから一緒に行こう。」

顔を赤くして誤解だ! と叫ぶマスターさん。夕焼けは真っ赤に空を染めていました。

 

 

 

 

 

数日後。

「…ん?」

「お目覚めかしら? マスターさん?」

オキはシンキ(大)の膝枕で目が覚めた。

「シンキ? 戻ったか。」

「ええ。おかげさまで。小さな私がお世話になったようで。」

うるせぇお前が仕向けたんだろうがとオキがいうとシンキがふふふと不敵な笑みを浮かべていた。

「あらあら。手を出さないように頑張っていたのはどこのどの人かしら?」

「なんのことだかさっぱりだな。おい頭を撫でるな。離せ。起きれん。」

「ふふふ。」

顔をそのままオキに近づけようとしたが、途中でピタリと止まったシンキ。

「…ふーん。だいぶ使いこなせるようになったじゃない。『ソレ』。」

シンキの腕に何もない空間から現れた銀色の鎖が絡みついていた。

シンキが貸し与えてくれたある力。まだ戦闘では使いこなせない力ではあるが、使いこなせるようになれば、とても強力な力となる。

「あまり…まだ…使いこなせてないがな。よっと。」

隙をついて起き上がったオキは鎖を消した。

「まったく。急に小さくなったと思ったら、急に元に戻りやがって。そんなぽんぽんかわるんじゃねーよ。」

そういってタバコに火をつけるオキ。シンキは微笑んだままだった。

「別にいいじゃない。それにたまにはああいうのもいいでしょう? 楽しんでたのはどこのどの人かしら?」

「うっせ。…まぁ悪くはなかったがな。」

「このロリコン。」

「うっせ脳内ピンク魔神。」

そう言いながらも二人は笑い合い、いつもの日常に戻ったのであった。




皆様ごきげんよう。今回は豪華二本立ての番外編でした。(もうひとつも同時投稿しています)
このお話は唐突にシンキが作った小さなシンキの姿から始まりました。
普段からボンキュボンな姿でキャラ作りする彼女が珍しくロリっ子を作ったなと思ったら、私に対して「ロリコン」「へんたい」と罵倒する内容を求めたようです。そんなことさせるか。シンキへの感謝を書き述べてやる。

というわけで身内ネタ満載の番外編でした。
今週の番外編2本の次、次回からALO編へと向かいたいと思います。
次回からあの人気キャラ蒼いあの子が出てきます。お楽しみに。


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番外編 「繋がりはまだ少し先」

GGOにてオキがデスガンを追い、BoBに参戦する少し前。まだSAO完全攻略打ち上げが開催される前の話。

各地ではSAO事件後の影響と、その直後に起きた星全体にかかわる、星外からのコンタクトに対して盛り上がっていた。

SAO事件は惑星スレアに多くの衝撃を与えた事件となった。

技術の発展が目に見えてわかるVR技術。その第一歩となるはずだった。

だが、起きたのは1万人のプレイヤー人質。そして更にはそれを利用しての人体実験計画。

実験を企んだのはSAO事件の首謀者とは違う、SAO運営会社から買い取ったレクト社の社員だったが、非人道的な事にも使われるということの認識が高まり、世間からはあまりよく思われる状態ではなかったという。

それでもVR技術は各方面で多くの進歩と貢献を果たした。そのうちの一つがVR世界での生活だ。

重病を患った人に対し、使用したこの技術は、ベッドから起き上がれない人でも、歩けない人でも、VR世界で自由気ままに生活ができるようになった等、医療関係への貢献が一番大きい。。

また、その他方面でも多くの技術貢献となり、再びVR技術の発展が望まれた。

その矢先だった。

「私たちは、オラクル船団。宇宙を旅している者です。」

宇宙からの来訪者。未知との遭遇。スレアの住民たちは大変驚いたという。

オラクル船団からの接触。そしてその原因となる『SAO事件』。数か月たった今でも彼らオラクル船団、アークス達の話題でスレア中は盛り上がっていた。

そんな盛り上がる話題の中、その張本人が報道関係者に追いかけられていた。

「ちくしょう。しまったな。こうなるのかよ。」

逃げるオキとお姫様抱っこされ、抱えられている圭子はある事件に巻き込まれ、偶然にもそこにいたアークスを一目見ようと、取材しようと追いかけてくる報道陣から逃げるべく大きくジャンプし、ビルの影へと逃げ込んでいた。

「大丈夫か? すまん。驚かせた。」

「あ、いえ…ちょっとびっくりしましたけど、なんだか楽しいです。」

笑顔を見せる圭子だが、高くジャンプし報道陣から逃げるというスリルよりも、いきなり抱えられ、お姫様抱っこ状態になっている現状にドキドキしていた。

「こんな状態じゃ、この付近を歩くのは無理だな。すこし遠くにいくから、また飛ぶぞ? いけるか?」

「はい。しっかり捕まってますね。ふふふ。まるで映画の世界に入ったみたいです。」

敬礼をしてオキの胸にしっかりと捕まるシリカの微笑む顔をみて、落とさぬよう、それでいて彼女に負担がかからないようにビルの隙間を縫いながらオキと圭子はその場から姿を消した。

時をさかのぼる事、数時間前。この日、オキはシリカこと圭子とのデートだった。

病院から退院し、はじめて彼女とまともに外を歩く日だった。

入院していたSAO生存者達はそれぞれ退院し、圭子たち学生はSAO生存者のために造られた学校へと通い、社会人の面々は仕事の斡旋を受け、職につき現在にいたる。

ちょくちょくオラクル船団を抜け出しては圭子やフィリアこと琴音、ハシーシュこと美憂の3人に合うために惑星スレアへと降りていた。

今日はSAO以外、つまり外のリアルの世界での初デート。琴音や美優の二人は

「今日は二人でいってらっしゃい! せっかくの初デートだもん。」

「後で、一人ひとりデートしてもらうから大丈夫。」

親指を立てながらドヤ顔する琴音と美優に呆れながらも二人は感謝しながらあれこれと回った。

途中までは特に問題なく平和なひと時を楽しんだ。そう途中までは。

事件は起きた。あるコンビニに飲み物を買いに入ったオキと圭子だったが、目の前で強盗事件が起きたのだ。

「金よこせ! じゃないと…こいつの命がなくなるぞ!」

近くにいた車いすの少女に銃を突きつける男。コンビニの店員はすぐさまレジを開け、有り金を犯人から受け取った袋に詰めていた。

「他の者は隅に座ってろ! 動くとか考えるなよ!」

強盗だという通報があったからか、すぐさま警察がコンビニを取り囲む。しかし、人質となってしまった少女は病人であり、ぐったりしていて、警察は突入したところで彼女を救える手立てがない。その場で硬直するほかなかった。

心配そうな圭子の顔を見たオキは頭の中で考え抜いた作戦がようやくまとまったので、実行することにした。

「ん? 座ってろ! こいつの命が…!」

「まぁまぁ…その、俺が代わりになっちゃだめっすか…。ほら、逃げるにも車いすの子じゃ抱えるわけにもいかないでしょ。おれ、足には自信あります。あ、逃げとかじゃなくて一緒に逃げますンんでその子は離してくれませんか? なんか、すげー辛そうだし。」

目を丸くする圭子だったが、すぐさまオキを信じる目になり、微動だにしなくなった。邪魔をしないようにと心がけてくれたのだろう。

犯人はというと、じっとオキを見た。オキの身体は一般男性からすれば細く、小さい。よって犯人のお眼鏡にかなったようだ。

「いいだろう。だが…。」

パン!

「「「きゃああああ!!!???」」」

「っ!」

オキの足に銃が向けられ、撃ちぬかれる。さすがのオキも顔をしかめ、膝をついた。足の太ももの内側をかすめただけではあるが、血が出ている。

「簡単に逃げられたら困る。悪いが、これが条件だ。ほれ、いきな。勇敢なにいちゃんに感謝しろよ。嬢ちゃん。」

腕を持たれ、引きずりあげられるオキに対し、ゆっくりと顔を上げた少女はオキの顔を見た。

「…!!!!」

何か驚いている顔をしている。オキは一瞬だけ眉を歪めた。しかしすぐににこりと微笑み、ウィンクで安心させる。

「大丈夫だ。安心しろ。ほら、向こうに行ってな。」

頭を撫でられ、コクリと頷いた少女はゆっくりとほかの客、圭子の所へとゆっくりと向かい、圭子によって囲われた。

一緒に来ていたと思われる看護師も彼女の容体を確認しながらも頭をこちらに下げていた。

「よーし。勇気あるな兄ちゃん。足がいてぇかもしれんが、我慢しろよ。」

「おうよ。」

「ははは! こいつは本当にヒーローだな。口も達者ときた。なぁお前ら。こいつに感謝しろよ! おらぁ! こいつの命が欲しくば! さっさと脱出用の車用意しろぉ!」

外へと向かって叫ぶ男はオキの頭に銃を突き付けている。警察も取り囲んではいるが、そう簡単に動けない。よって

オキの邪魔をする者はいなくなる。

「キンキン叫ぶなうっせぇ。」

「あ? …ごふぅ!!」

オキのひじ打ちが犯人のみぞおちにがっつり入る。腹を押さえながら膝をつく犯人だったが、オキを狙って銃を撃ち込んだ。

パンパンパン!!

銃を乱射した犯人の男。周囲からは悲鳴が聞こえる。しかし、オキの腹を貫くことはできなかった。

先ほどは油断させるためにわざと傷つけさせたが、今のオキはマッシブハンターで強化された身体になっている。

一般の銃程度では傷つくことはない。だが、衝撃は腹にくる。若干痛い。

「…ってぇなぁ! おら!」

オキの回し蹴りにより、犯人は横回転しながら地面に突っ伏したまま動かなくなった。直後、警察により取り押さえられそのまま逮捕となる。

オキはアークスである事を警察に伝え、シリカを抱きかかえてその場から逃げようとする。

しかしニュースということで駆け付けた報道陣に囲まれ、結果何とか脱出した。

その映像がニホン全国に流れ、その後惑星スレア中にその姿が知れ渡る事となった。

幸いにも、オキと圭子の顔は偶然にも映る事はなく、安堵のため息をついたオキだった。

ということが起きたのだ。

海に面した無骨な建物。その一室の大きな机に座る白い軍服姿の初老の男性と二人の女性が一緒にそのニュースを見ていた。

和装の丈の短いスカートに、お団子状にした髪を付けた茶髪ロングの美女。真っ白な肌に虚ろな目、しかしどこか暖かき感じを見せる微笑みをするショート髪に人とは思えない頭に大きな口の付いたクラゲのような変な帽子をかぶった女性の二人が、軍服の男に何か嬉しそうと声をかけた。

「ん? ああ。なに、本当に、来たんだなと…。」

彼の目線の先にあるテレビに映る画面には一人の男性が映っており、カメラに追い掛け回され、最後には大きくジャンプし、ビルからビルへと飛び移っている姿がカメラに収められていた。

テレビを見ながら優しい微笑みを見せる軍服の男に、周囲にいる女性たちが首をかしげる。

「この人は…いや、このアークスは。」

男がゆっくりとしゃべっている最中に、部屋の扉が大きく開いた。

「ただいま! 帰ってきたわ!」

「ただいまなのです。」

元気な声で入ってきた少女2人は軍服の男の机の前で並び、敬礼をした。

「ああ、ちょうどいいところに来たね。これを見てごらん。」

「「???」」

顔を見合わせた少女二人は何事かとテレビに映し出されたアークスの一人をみた瞬間、明るい笑顔を男に見せた。

「リーダーさんです!」

「元気そうで何よりなのです。」

ゆっくりと頷く男性は二人の少女の頭を撫でた。

「もう少ししたら、会いに行ってみようか。ミケ君も喜ぶだろう。」

嬉しそうな少女二人は大きく頷いた。

「何度も思うが、思ったより早かったのう。」

「そうですね。」

普通の、一般の家の部屋とは違う。豪華な家具のそろった一室に二人の少女と女性がテレビを眺めていた。

金髪の綺麗な小さな体の少女と、美しい薄い蒼色のロングヘアの女性はゆっくりとお茶を飲んでいる。

「嬉しいですね。シャルロットさん?」

「そらそうじゃ。もしかしたら会えぬかもしれぬと、夢見たほどじゃった。こうして実際に見ると現実であることが本当にうれしいものじゃ。」

お互いに予想していた期間大きく短縮し、スレアへと降り立ったアークス達。初めはもう二度と会えぬかもしれない。良き思い出としてと思わなかったと言えば、うそになる。それくらい彼女たちは離れていたのだ。

それがこうして手を伸ばせば会える距離となった。嬉しくないわけがない。

会いたい。でも会える距離ではない。だから元気でいてくれればそれでいい。

そう思い、夢であったと思う者も中にはいた。それでも、彼らは来た。

「カカ。これから楽しくなりそうじゃ。そういえば、そなたの国の反応はどうじゃ? フィアよ。」

蒼い髪の女性はふふと笑い、紅茶をすすった。

「幸いにも…。父は、すぐにでも挨拶に向かいたいと申しておりました。」

それを聞いて金髪の少女は再び笑い、再びテレビに目を向けた。

「そうじゃのう。近いうちに、我も向かうとするかのう。」

にんまりとほほ笑む少女とその後ろに

ALO、『アルヴヘイム・オンライン』某所。ここでも夢だと思っていた事が、現実であった。そしてまた会える可能性があると元気の出た少女がいた。

「ははは…あははははは!」

お腹を抱えて大きく笑う藍色の少女。それを後ろから見ていた仲間の一人が声をかけた。

「どうしたの? 急に笑い始めて。やっぱりさっき何かされた!?」

「ううん。大丈夫。何もされてないよ。だって…だって! 夢だと思っていたのが本当で、しかもそのまんまだったって! あーびっくりしたなー!」

「??」

声をかけた女性が彼女の目線の先を見ると、アークスの一人がテレビに映っており、報道陣から逃げて行った姿が映っていた。

「もうニュースになってるのね。…すごいジャンプ力。外でこれだけ動けるって、やっぱ人間と違うのね。で、この人がどうかしたの? もしかして、惚れた?」

ニヤニヤとする女性の前に座る、藍色の少女はすごくうれしそうな顔で喜んでいた。

「うーんとねぇ。ほら、前にいったじゃないか。戦って、僕が負けたっていう話!」

んーと考える女性は彼女の言っている言葉を思い返したようだ。

「ああ。そういえば言ってたわね。よくわからないところにログインしちゃって男の人と戦って、あなたが負けたって。夢じゃなかったの?」

「夢じゃなかった! この人がそうだよ! 名前は…オキ! 自分でアークスだって言ってたもん!」

女性が不思議そうに少女をみた。目の前にいる彼女は言う。間違いないと。

「それ本当?」

女性は少女が嘘を言っているようには見えなかった。ましてや彼女が嘘をいうことは今までにない。しかし言っている事が唐突すぎる。

偶然出かけた店で、偶然強盗に襲われ、偶然人質に取られたと思ったら、偶然アークスがやってきて?

「ありえないわー。絶対ありえないわー。」

「あー。信じてないなー? そっかー…。夢じゃなかったんだ。いつかあえるといいなー。」

藍色の少女、『絶剣』と呼ばれるALO内でも知る人ぞ知る剣士。

「絶対に次こそは勝ってやるぞ!」

ユウキは再戦の時を待ち望む。そして繋がった縁を彼は必ず紡ぐ。

約1か月後、ALO内某所。

白いコートを羽織った紅き槍の使い手と、藍色の剣士が向かい合っていた。

「そんじゃま、いきますかねぇ。」

「いつでもいいよー。」

SAOの不思議空間で出会った二人。その戦いが再び切って落とされようとしていた。




皆様ごきげんよう。今週分は番外編二本立て。
(もう一つは同時間に投稿しております)

こちらの番外編は一部フラグにするつもりだったものと、次回に続く繋ぎとしてかなり前に書いた番外編となります。
途中の一部フラグは後々に別作品で書こうと思っていたものですが、使えるかどうか…。最近更に別作品を書こうと思ってますので、そっちの関係でかけないかも。

次回に向けてのつなぎでは、ALO編に続くつなぎとなっております。
よって次回より再びSAO作品をベースに描いていこうと思いますのでよろしくお願いいたします。

それではまた次回お会い致しましょう。


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第5章 ~マザ-ズ・ロザリオ~
第111話 「久しぶりに会えた」


ALfheim Online、通称ALO。SAO事件発生の1年後に「レクト」の子会社「レクト・プログレス」より発売されたVRMMORPGだ。「レクト」が「アーガス」から継承したSAOサーバーが丸ごとコピー・流用されており、基幹プログラム群とグラフィック形式は完全に同一である。また、旧SAOプレイヤーのセーブデータがそのまま保存されており、一部共通するシステムデータはそのままALOで使用することが可能である。

火妖精族(サラマンダー)、水妖精族(ウンディーネ)、風妖精族(シルフ)、土妖精族(ノーム)、闇妖精族(インプ)、影妖精族(スプリガン)、猫妖精族(ケットシー)、工匠妖精族(レプラコーン)、音楽妖精族(プーカ)の9つの妖精族が選択でき、種族間抗争が前面に打ち出されている。またそれぞれの種族には一人のプレイヤーが長となり、それぞれの種族の方針を指揮している。

ゲームシステムはスキル制が採用され、レベルの概念は存在しない。ソードスキルが存在せず、直接戦闘はプレイヤーの運動能力に大きく依存する。また、他種族にはPK可能。最大の特徴はフライト・エンジンを搭載していることで、自らの翅で自在に空を飛ぶことが可能。

SAOに迫る高スペックに加えて魔法や飛行システムの実装で爆発的人気を獲得していた。データにはSAOのものも含まれており、ソードスキルの実装などの仕様変更・アップデートが順次行われている。

SAO事件解決の後、SAO内のデータを利用した以下の仕様変更・アップデートが行われた。

元々あった滞空制限の撤廃による飛行時間の無制限化。元SAOプレイヤーがプレイする場合、SAOのセーブデータ(容姿とステータス・使い魔)の引き継ぎ選択が可能。魔法属性を付与した新ソードスキルと、その発展形で自分だけの技を作るシステム「オリジナル・ソードスキル(OSS)」の追加実装。ユニークスキルは全て廃止。「浮遊城アインクラッド」を、フロアボスの大幅強化などのアレンジを施して実装と大幅な大規模アップデートが行われた。

SAO事件の解決した後での打ち上げ時に、オキが見せたあるメール、SAOプレイヤー全員に送られたメッセージ。

『SAO攻略おめでとう。ここにその記念を送る。  ヒースクリフ』

一緒についていたのはALOで使えるコードだというのがリーファから教えてもらった。

これが何を示しているのかは誰もわからない。何を示したかを調べる為にオキは賛同者を募った。

これに賛同したのはSAO参加アークスだったハヤマ、ミケ、アインス、シンキ。そして新規参入としてクロノスがアークス側から参加を決めた。また『オラクル騎士団』や『怪物兵団』『アインクラッド解放軍』の主要メンバーもほとんどがALOへの参加を決め、逆にアークスからはコマチ、スレア側からはフィア、オールド、センター等がリアルでの諸事情によって参加を断った。

よってALOではオキをリーダーとした『アーク’s』をギルドとし、アークス側からハヤマ、アインスを。スレア側からキリト、ディアベルを副リーダーとしてALOへ殴りこんだ。『ALOへの招待状』を使って。

『ALOへの招待状』。SAO攻略後、事件解決後にSAOプレイヤーだった者全員に配信されたヒースクリフからのメッセージ。

これに一緒についていたコードをALO開始時に入力するとSAOでの容姿、ステータスや使い魔などがそのまま反映されることが判明した。ただし装備品はすべて消去されており、最初から最強クラスの武器を持つというのはなかった。

そのかわりではないが、大事なアイテム欄はそのまま残っており、喜ばしい事にキリトとアスナのHDDに保存されたユイとストレアも、SAOデータそのままということでユイはサポート妖精『ナビゲーション・フェアリー』として、ストレアはプレイヤーとしてALO内にてその姿を現すことが出来るようになっていた。

キリトアスナ両名と娘たちは再会を涙で迎え、ALO開始初日は大きく祝った。

残念ながらSAOのバランスブレイカー的存在だったユニークスキルは廃止され、運営の補佐という形で残っているカーディナルも調査の結果ルーサーのコピーという意思は存在しておらず問題ない事をオキ達は確認した。

よってシャオによる介入にて実現可能だった通称『アークス限定解除』の使用もダーカー因子による事件でもない限りは使用しない事をレクト社へ報告。ただし、ほぼ0ではあるが、SAOデータのコピーがされている為万が一も考えられる。

またこのALO開発にはあの男、『須郷』もかかわっていた事から場合によってはアークス介入も行うことを運営には進言している。

レクト社の社長であるアスナの父は、アスナの助言もありその条件を飲んでくれた。

とはいえ、スレアにアークスが関わりを持つようになったSAO事件後は、今の所そのような事件は起きていない。

ALO内にはギアが必要である。オキたちはプレイするためにわざわざスレアに行く必要が考えられた。そこでルーサー撃破後に一度解散、シャオ、ウルクらによって再編されたオラクル船団上層部研究機関『ヴォイド』とオキとの試行錯誤により、ルーサーの置き土産であり、オキ達がスレアと関係を持つようになった原因であるあの装置『ナーヴ・ギア オラクル版(命名オキ)』を解析、自由に使用することを可能とし、その装置を悪用されないようチーム『ペルソナ』のチームシップに設置。オラクル船団側に居ながらも惑星スレアのVRネットワークにつながる事を可能とした。

ALOに参入したオキたちは、SAOの経験を活かし、元々ALOプレイヤーであったリーファと、リーファの種族シルフの領主サクヤ、またそのサクヤと仲の良いケットシーの領主アリシャ・ルーの両名の助力助言もあり、結果として数々のプレイヤーが目指している『伝説武器』と呼ばれる超高レア武器の獲得も達成。現在ではALO内に『アーク’s』の名があちこちで噂されるほどオキ達は暴れ回っていた。

ALOには『アークス’s』メンバー以外にもSAOを生き抜いたプレイヤー達もチラホラと参加しており、『アーク’s』の活動開始をしって挨拶にきたプレイヤー達も何人かいた。代表として名をあげるならアルゴだ。

相変わらず情報屋としてプレイしているらしく、その情報量はALO内でもトップクラスらしい。

そんなオキ達の名がちらほらと噂されるようになった頃。オキはある少女と再会した。

新生アインクラッド城、22層のフィールドにある湖のほとり。その草原にオキはシリカ、その使い魔ピナと一緒にピクニックをしていた。

「ふぁ~…。」

「ふふ。大きなあくびですね。吸い込まれちゃいそうです。」

オキはシリカの膝の上に頭を乗せ寝転がっている。所謂ひざまくらというやつだ。ピナはオキのお腹の上で丸くなり昼寝している。

ALOの空に浮いた巨大浮遊城『新生・アインクラッド』。SAO事件後、暫くしてALOの大型アップデートで追加されたものだ。

フィールドはSAOとほぼ変わらず、SAOプレイヤーからすればかなり懐かしい風景が目に映り込んだ。

ボスエネミーが大幅に強化され、難易度はかつてと比較できないほどと言われていたが、オキたちからすればそんなに問題にならない程度だったので、幾度かエリアボスの攻略をキリトたちと行った。

各層は定期的にアップデートで追加されており、現在では30層までが追加されている。

オキたちはキリトの頼みで20層から30層まで解放された直後に22層解放を目指した。そして、かつてキリト、アスナ、ユイ、ストレアが過ごしていたあの湖のほとりの家を再び見つけ、購入。解放パーティをサクヤ、ルー等を招待して開催。そのままお祭りとなり、その勢いで23層解放までしてしまったのがついこの間。

「オーキさーん!」

少し遠くから少女が二人手を振りながらオキとシリカのいる場所へと歩いてきた。フィリアとハシーシュだ。

彼女ら二人も、オキが始めるならと一緒についてきた。

「ひざまくら。」

「あーいいなー。わたしもわたしもー!」

そういって寝ているオキの膝の上に頭を乗せてきた。

急に乗せてきたためにオキの足に衝撃がはしった。

「ってぇな! どけおめーら!」

「きゃー!」

「わー。」

大げさに逃げるフィリアに対し、声のトーンを下げながら逃げるハシーシュ。これでも今日の彼女はテンションが高い。

「ふふふ。」

「シーリーカー…わらうなー! このー!」

そういって笑ってみているだけのシリカの頭についてる猫耳を軽くくすぐってやった。

「やっ! ちょ…オキ…さん…やめ…あははは!」

ケットシーであるシリカは頭に猫耳、おしりからは猫のしっぽが生えている。

ちなみにフィリアはスプリガンを選び、相変わらずトレジャーハントを楽しんでおり、紫色が基調だったハシーシュは水色を基調とするウンディーネを選んでいた。理由は「なんとなく」だそうだ。整った容姿は変わらずなのだが、相変わらずフードを深くかぶっており、その素顔を見ることが出来るのはオキやシリカ、フィリアの3人だけである。

アークスメンバーはというと、火力一点からサラマンダーのアインス。スピードを求めた結果シルフのハヤマ。(ケットシー)=ミケ。

シンキは幻影魔法が得意というスプリガンを選んでいる。

クロもスプリガン。理由はかっこいいから、らしい。

そしてオキが選んだのはインプ。藍色が気に入ったからだ。

「で? なにかあったか? 二人とも。」

オキは弄り倒し、グッタリしているシリカをよそに、逃げた二人を遠くから呼び戻した。

「シリカ、ぐったり。」

「うっはー。ひどいことするなぁ。」

苦笑いしている二人に手をワキワキしながらオキは近づこうとして、すぐさまごめんなさいしたフィリアとハシーシュ。

フィリアとハシーシュがオキを呼びに来たのはアインス達が呼んでいたからだという。

オキとシリカは現在ギルド仮拠点にしているキリトハウスへと向かった。

「ただいまー。」

「おかえり。」

そこにはハヤマ、アインス、キリトの家族が揃っていた。

「どうした。何か用か?」

「楽しんでいるところ申し訳ない。面白い情報をもってきた子がいてな。」

「んー?」

皆が囲んでいる中に猫耳をピョコピョコ動かしながら小さく手をふっていたのはアルゴだった。

「姉さんじゃねーか。どうした。」

「いやー。面白いネタがあってサ。」

アルゴの話ではOSS、オリジナルソードスキルを賭けて戦っている凄腕の剣士がいるという話だ。

オリジナルソードスキル。通称OSS。今は亡き旧ソードアート・オンラインのソードスキルに改良を加え、ALOに実装した、各系統の武器による技システムのこと。遠距離攻撃を主体とする魔法スキルの独擅場だったALOに大変革をもたらした。

旧SAOのソードスキルとの違いは、モーション全てがあらかじめ設定されている既存の剣技ではなく、プレイヤー自らが編み出し、登録できることにある。しかしシステムにOSSを登録させるためには、『本来システムアシストなしには会登録不可能な速度の連続技を、アシストなしに実行しなくてはならない』という、矛盾とさえいっていいほどの厳しい条件が課せられているため、実現に至るプレーヤーはごくわずかである。

ちなみにオキをはじめとする『アーク's』メンバーの主要メンバーはそれをいち早く導入した。

一番はやくこのシステムに慣れたのはシンキだった。そのためシンキに教授をお願いし、オキ、ハヤマ、アインス、ミケの4名はシンキの考案したOSSを獲得している。

ちなみにキリト、アスナも所持している。またキリトの『二刀流』のような、魔法を屈指していくつか歪な使い方での技を考案してたりする。

そんなOSSは一度作成すると、その技は一人しか所持することができないが、献上することができるシステムにもなっており、OSSはそもそもが強力な為に高値で売買される場合も希ではあるが1,2回あったらしい。

「ふーん。OSSを賭けてねぇ。」

アルゴの案内でその場に案内された一行。移動中に実はキリトがすでに挑んでおり、彼が考案した『二刀流』を使用していなかったとはいえ負けたらしい。

「いや…負けたというか、自分から降参というか。」

「つまり負けじゃねーか。何があっても一度挑んだ相手にどんな理由があれ、手を上げれば負けは負けだ。言い訳にしかならんぞキリト。」

オキの言葉に肩を落とすキリト。とはいえ、彼の腕は二刀流なしでもかなりのものだ。一般プレイヤーではないのはよくわかった。

そしてその場に降り立つとすでに多くのプレイヤーで賑わっていた。

「あの子か?」

「そう。あの子。」

アインスやハヤマがウキウキしながらその輪に入っていった。しかしオキはその姿をみて目を見開いた。

藍色の長い髪。整いつつも幼さがまだある顔。華奢に見えるが、その戦いは一度見れば忘れない。なによりオキは一度その者と戦っているのだから。

「あれは…。」

「オキさん?」

ゆっくりとその輪に入り、アインス、ハヤマの前にでて最前列に立った。

戦っている相手は一般プレイヤーにしては強いほうだろう。だが、彼女のほうが断然上手だった。

「くっそぉ。」

負けた男は肩を落とし、にこやかに笑う彼女からの握手を受けた。

「さぁて、もう一戦いけるかな。誰か挑戦者はいるかなー?」

ハヤマとアインスがどっちがいく?と後ろで相談している最中にオキが素早く手を上げた。

「俺が出る。」

彼女が手を挙げたオキをみて驚いた顔を一瞬見せたあとに、にっこりと微笑んだ。

「いいよー。じゃあこっちにきてー。」

呆然とオキをみるハヤマとアインスに向かってオキはすまん、いかせてくれというと、だまって二人は頷いた。

「オキさん。」

「行かせてやれシリカ君。彼は早かった。そして俺らと変わらない、つよい相手との勝負を望むとはいえ、真っ先に手を挙げる彼ではない。」

「だけど、オキさん早かったね。それに何かあるみたいだし。」

ハヤマとアインス、シリカ達はオキの歩いていく背中を見守った。

「ふーん。そういうこと。」

シンキは自分の能力ですぐにその答えが見えていた。オキが一度戦った相手であること。かなりの強者にであっていたことを。

近くの木の上に座るクロを逃がさないように抱き抱えながらシンキはそれを見守った。

「はなして…シンキ…。」

「い・や・よ♪」

オキと彼女が対面し、ゆっくりとオキは自分の武器を出した。

「紅い槍?」

「背中の星マーク…おいあれ。」

「間違いない。アーク'sのリーダーだ。」

「星の朱槍だ。」

周りからチラホラとオキに対しての反応が聞こえてきた。

オキが持っている武器はランクは最低ランクとはいえ『伝説武器』のカテゴリーに入る超高レア武器。SAOでも長いこと相棒にしていた『《呪いの朱槍》ゲイボルグ』。最近大暴れし、数々のレア武器を獲得し、ボスを倒しまくっていたオキ達は噂の中心にいた。

「へぇ。君が星の朱槍かぁ。そっかー。こんなに近くに…。」

「オキだ。よろしく頼む。」

「うん。じゃぁ半減モードでいいかな?」

コクリと頷いたオキは震える手で挑戦ボタンを押した。

ゆっくりと構えるオキに対し、にこやかに微笑みじーっとオキを見つめる少女。

「さーて、やりますかねぇ。」

「いつでもいいよー!」

スタートの合図はなっている。しかしお互いに動かない。こちらから動いていいということだろうか。ならばとオキはまずは軽く始めることにした。

「よっと!」

「えーい!」

高々とジャンプした後に、下へ突きを放ちながらの攻撃。もちろんそんな大ぶりの攻撃は彼女にとっては軽く受け流せる。

横に振った直剣は朱槍を受け流し、オキへと切り上げで攻撃をする。

「そい!」

「ふう!」

受け流された槍をそのままの勢いで振り下げ、振り上げられた直剣へと攻撃。そのまま着地して体を回転させながら更に振り下げ攻撃。

少女はそれをうしろへ回避し、少し距離を取った。この間数秒。その一瞬の出来事は先程まで戦っていたプレイヤーとは次元が違うことに観客たちは歓声を挙げた。

「ふうん。噂通りつよそうだねー。」

「まぁな。伊達にリーダーやってねぇし。…名前、ユウキでいいのか?」

「ん? そうだよー。しってる?」

「さっきの挑戦決定のときに表示されていた。」

トンとやりを地面にたたせ、彼女をみた。

「そういう君はオキ、だね? ねぇひとつ聞いていい?」

「あん?」

その次に来る言葉をオキは待っていた。再び会えた。今までにない強者。心躍ったあの戦い。不思議な体験ではあったにしろ、夢ではなかったのはわかる。

SAO、アインクラッドの最期の時。偶然にも飛んでしまった先で出会った少女。

「もしかして、あの時、変な空間で…僕と出会った?」

「…。」

オキの心は嬉しかった。その言葉が聞けたことを。覚えていてくれた。

あの不思議な体験を。アークス状態で、本気で戦った。しかし彼女はそれに追いついてきた。なんとか勝てたとは言え、それは五分の可能性だと思っていた。

「…再び、名乗らせてもらう。ここからはこちらでの戦いを見せてやる。アークス、オキ。」

槍の刃を下に向け、大きく足を開き突撃する構えを取ったオキに対し、その言葉はユウキにとっても嬉しかった。

大きく息を呑んだユウキ。再び会えるとは思えなかった。しかし外では会えた。

ならばいつか出会えるだろうと待ち望んでいた再戦。

それが今、ここでできる。

「…スリーピングナイツ、ユウキ!」

大きく、そして楽しそうに、嬉しそうにオキの名乗りに答えたユウキ。

それはオキに対して『あの戦いは夢ではなく、実際に行い、いま再戦する』という意味も込められていた。

ニヤリと笑ったオキは大きく踏み込み、ユウキへと走った。

ユウキも笑いながら楽しそうに大きく彼女の相棒である『マクアフィテル』を振りかぶった。

「久しぶりに…。」

「会えた!」

 

キィイン!

 

「今度は、負けないよ!」

「こい! また勝ってやる!」

剣と槍が大きく打ち合う。それは数ヶ月ぶりであり、両者共に夢と思っていた、心待ちにしていた戦いの火蓋を斬る音でもあった。




皆様ごきげんよう。
マザーズロザリオ編突入です。原作とアニメ版見ながらの作成になりました。
新ALOでの設定がうる覚えで…。けっこう改変してます。
魔法やシステム使って変な使い方したり。(ヤリタイ技いっぱいあるんじゃ)
さて、もともとアスナと戦う予定だったユウキはSAOラストから再びオキとの再戦です。このままアスナの役をオキがつとめます。主人公だからいいよね。

マザーズロザリオをしっている方々は最後を知っていると思いますが
こちらも改変して進みます。さいごまでお楽しみに。

それでは次回またお会いしましょう。


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第112話 「スリーピングナイツ」

オキとユウキの戦いはなかなか決着がつかなかった。

「たぁぁ!」

ユウキが空中から下にいるオキへと両手で握った剣を振り下ろした。

オキはコンと甲高い音をたてながら背中側でそれを受けた。

甲高い音をたてながら打ち合う剣と槍。ミシリと地面にひびが入り、耐えられなくなった力でオキの足元が吹き飛び、同時にオキの体も吹き飛んだ。

オキの飛んで行った先は土煙で何も見えない。しかしあれで終わりではないのは、まだ結果が表示されていないのでいつなにが飛んできてもいいようにユウキは構えを解かなかった。

数秒後に土煙の中から紅い槍が回転しながら空中に弧を描きユウキの前の地面に突き刺さり、その直後にオキが土煙の中から出てきた。

「いやー。飛ばされた飛ばされた。まったく、以前より強くなってんじゃねーか。」

「君こそ、ALO来てまだそんなに経ってないんでしょ? アレは使ってないみたいだし。」

地面に刺さった槍を抜き、ニカリと笑うオキ。アレというのは『アークス限定解除』の事か『エルデトロス』の事か。

オキからすればどちらでもよかった。

「なーに。ここでアレは使う必要ないからな。」

「むー。また本気の君と戦いたかったのになー。」

無茶言ううなといいつつ、ユウキへと槍を数度突いた。そのスピードは普通なら見切れない。周囲のプレイヤー達の半数がほぼ同時に何度も突いたと錯覚するほどだ。しかしそれをユウキは小さく口元を微笑ませながら突かれた槍の刃先を剣先で逸らし、紫色のソードエフェクトを纏いながらオキの懐へ剣先を向けた。

「っち。」

舌打ちをしたオキは、自分も紅色のソードエフェクトを出して対抗。刃同士が打ち合った。

甲高い音と、振られる剣と槍の衝撃波が周囲に響き渡った。

もう少しでお互いのHPが削りきる瞬間、ユウキはピタリと攻撃をやめ、オキへ笑顔を見せた。

「うん! やっぱり君に決めたよ! こっち!」

ユウキはオキの手を取って黒い羽を大きく広げ、空へと飛び立った。

「お、おい! どこ行く気だ!」

「いいから! ついてきて!」

ユウキの手に引っ張られながら自分も羽を広げ、その後を追った。周囲のプレイヤー達は急に起きたその出来事にポカンとしながらも、普段見ることのできない戦いをまだ見ているかのように興奮した声で感想を言い合っていた。

「うーむ。どうするかな。」

「どうしたの隊長。オキさんが心配?」

いや、と首を横に振るアインスは申し訳なさそうな顔でハヤマに背を向けた。

「彼らの戦いを見ていたら体がうずいてしまってな。少し、戦ってくる。」

「なら俺も付き合うよ。」

アインスの背中を追いかけるハヤマに、一緒にいたシリカたちもオキの飛んでいく背中を見送ったのち、ハヤマアインスペアについて行った。

「ここが僕のギルドホーム! ようこそ! スリーピングナイツへ!」

ALOの首都へと降り立ったユウキは一つのギルドホームへとオキを案内した。ホームの中には数名のプレイヤーがユウキの帰還と、一人の見知らぬ男に目を見開いていた。

「おかえりユウキ。この方は?」

一人の女性が首をかしげながらユウキを見た後にオキを見た。若干の警戒はしているみたいだが、少なくともユウキが連れて帰ってきたならと複雑そうな顔をしていた。

「オキだ。えっと、ユウキとバトルして急に連れてこられたんだが…。」

「説明はこれからするよ。ほら、座って座って。」

ユウキの手に引っ張られながらホームの中心にあるテーブル席に座らせられたオキは周囲のプレイヤーに頭を軽く下げながら席に着いた。

「それじゃあ今後の動きをはっぴょーします!」

パンと手を叩き、スリーピングナイツのメンバー及びオキを交えた会議が始まった。

「こちら、オキさん。さっき僕とデュエルしてきたんだ。この人なら、アレを実行できそうだよ!」

「まじで? ほんとうに?」

一人の青年がユウキに驚いた顔を見せていた。

「あー。オキだ。ギルドはアーク’s所属でリーダーやっている。」

「「「アーク’s!?」」」

その場にいたメンバー全員が驚き、その言葉に満足したようにユウキは笑っていた。

「しかもリーダーって…。」

「もしかして『星の朱槍』!?」

「それは心強いわ。よく見つけてきたわね。」

驚きと喜びの声が上がる中、相変わらず状況がつかめていないオキは混乱し続けるしかなかった。

「えっと、紹介するね。左からジュン、テッチ、タルケン、ノリ。僕がリーダーで、みんなスリーピングナイツのメンバーさ。」

「よろしく。」

丁寧に頭を下げたオキに対し、4名も軽く会釈を返した。

「で? いまいっちょ状況がつかめんのだが。なんで俺がここに連れてこられたのか。説明を貰おう。」

「ユウキ、説明してなかったの?」

「いやー。嬉しくてつい。」

テヘっと舌を出してごまかすユウキの姿に、オキはクスリとほほ笑んでしまった。

「オキに、お願いしたいことがあるんだ。」

ユウキ、以下スリーピングナイツからのお願いだった。

現在攻略されている新生・アインクラッドのボスは25層まで。現在多くの熟練プレイヤーが26層突破をめざし、幾度も戦いを挑んでいるらしく、スリーピングナイツもその一つだ。

「単刀直入に言うと、僕たちだけでボスの攻略をしたい。」

ユウキの言葉は単純明快で、それでいて困難を極める内容だった。

アインクラッドのエリアボスは普通なら数十人で戦う必要のある強力な敵である。SAO時代ならその層にてNPCからの情報を得てから戦うのがセオリーだった。まぁそもそも戦い直しは『負け』を意味していたが。

ALOでは事前情報がないため、ぶっつけ本番となる。

一度ボス部屋に入るとそのプレイヤーは勝つか、HPが0になるのどちらかでしか外に出られない仕組になっている。

勝った場合、レアアイテムが手に入るのは変わらず(オキのゲイボルグもここで手に入れている)、更に倒したメンバー全員があの『黒鉄宮』の中にある巨大な碑、生命の碑に名前が刻まれる。

アインクラッド第1層、始まりの街に存在する黒鉄宮に設置されている金属製の巨大な碑。かつてはログインしていた1万人のプレイヤー名がそこに書かれており、光が失った場合その者がログアウトした事、つまり死を意味したモノだった。

しかし現在では物自体は残っているものの、歴戦の勇士をたたえるものとして復活している。

「そこに僕たちの名前を刻みたいんだ。僕たちだけで、倒した証を。」

オキはスリーピングナイツのメンバーを見渡すとオキを見つめていた。その目は覚悟の目をしていた。

「刻みたいのはわかった。で? 俺は何をすればいい。」

「僕たちを強くしてほしい。」

ユウキは強い。だが、それだけではかなわないのがエリアボスだ。

一人二人程度強いプレイヤーがいたところで、周りもそれ相応の動きをしなければ難しい。

フームと唸っているところにオキ宛へメールが届く。相手はハヤマだ。

「んー? ちょっと失礼。」

オキがそのメールを見たあとにぶつぶつと独り言をつぶやき始めた。

「丁度いいか。うん。よし。ユウキ、みんな、ついてきて。」

オキはユウキ達を連れてハヤマ達がいると連絡してきた26層のボス部屋前。すでにアーク’sメンバーがそろっていた。

「おまたー。」

「あ、きたきた。」

「さっきの子も一緒だな。」

ハヤマ、アインス、キリト、アスナ、シリカたち。更にディアベルにキバオウらとアーク’sのメンバーがほぼ勢ぞろいしていた。

オキは到着即座にシリカ、フィリア、ハシーシュを見つけ頭を軽く撫でた。

「今日は見学者付きか。恥ずかしい戦いはできんな。」

「なーにいつも通りやればええねん。それより、オキはん並に強いってほんまか?」

やいのやいのとオキの周りに集まり、オキがユウキを前に出すとユウキは照れくさそうに笑っていた。

「にしてもいきなりだな。」

ハヤマからのメールは26層のボスに挑みに行ってくるというメールだった。

丁度メンバーも集まっているということからハヤマ、アインス両名からの提案だった。

「なに。君と、彼女の戦いをみてな。ついうずいちまった。」

そこでせっかくだから強いやつがいいと思い、両名が拠点にしているキリトのロッジへと戻った際に、ログインしてきたディアベルキバオウらにばったりと出会い、そのまま芋ずる式でログインしてきたメンバー全員に声をかけ、今に至るという。

「シンキは?」

「少し用事が出来たそうだ。」

周りを見渡すとシンキの姿がない。ついでにミケと双子も見当たらない。

「ミケと双子なら22層の草原でお昼寝タイムだった。あまりにも気持ちよさそうだったのでそっと毛布を掛けてきたよ。」

軽い溜息をつきながらも微笑むアインス。オキはその昼寝姿が容易に想像がついてしまった。

「まぁ何とか何べ。んじゃ、アイテムもったか? 装備は万全か?」

アーク’sメンバーがその場で力強く頷いた。

「では諸君。今回の討伐は隊長とはやまんの疼きを解消するための戦いだ。なので二人が前線で盾となってもらう。邪魔されたくなかったら二人の近くにはいかない事だ。」

オキの言葉に数名からクスクスと笑い声が上がった。

「ついでに本日はチームスリーピングナイツのメンバーが見学だ。恥ずかしがって攻撃とか回避とかミスるんじゃねーぞ?」

笑いが起きる。

「ちなみに俺も今日は見学する。」

はたらけー! はたらけー! と周りからはやされるオキは目でディアベルに合図した。

頷いたディアベルは皆の前に立ち彼が扉を開けた。

「ユウキ、それからみんなは壁際に。説明しながら彼ら彼女らの戦い方を見てほしい。俺達はこの26層のボスを何も知らないで来ている。しかも『なんか強いやつと戦いたかった』という理由でだ。そんなあいつらが初見で倒し切るのを見ていてほしい。そして参考にできるなら、いろんな動きを見て覚えてくれ。」

オキがまずやり始めたものは強い者達の戦いを一度見せる事。お手本を見ずに自分の力だけですべてをこなせる奴はそうそうそういない。だからなにかしら手本とする。

『強くしてほしい。』その言葉を実行するには、まずはお手本を見せることだと順序を踏んだ。

これが吉と出るか凶と出るか。第26層ボス『スター・ナイト・ゲイザー』を取り囲み始めたアーク’sメンバーを真剣なまなざしで見つめるスリーピングナイツのメンバー達をみながらそう思った。




皆様ごきげんよう。
マザーズロザリオ編本格始動です。SAO劇場版も販売され、その一シーンにアスナ・ユウキが共にというのがあり、涙が流れました。
さてPSO2ではEP4の見直し中です。どこをどう改変しようかと思いながらいろいろ考察しています。
さてFGOではネロ祭りが開催! ボックスガチャだよっしゃまわせええ!
素材がうまい。

では次回にまたお会いしましょう。


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第113話 「クローリング・ナイトメア」

オキとユウキが再会し、スリーピングナイツと共にボス攻略を行うための準備を始めてから一週間が過ぎた。

連日オキの指揮による戦闘を繰り返し、個々人の動き、癖を徹底的に覚えて行った。

ユウキは戦闘能力が高く、攻撃は勿論、防御、回避と先陣を切る最前線で戦うスタイルだ。しかし、戦いながら指示を出すことに慣れておらず、慣れさせるには時間がかかるとふみ、オキが行うことにした。

26層ボスは隊長やハヤマが叩き切った為、27層ボスを目指す事に。フィールドのエネミーを倒し進みながら、個々人の動きを後ろから見ては動きを覚えて行っていた。

27層のフィールドを突き進み、迷宮区の手前にある村へとたどり着いたオキ達はひと段落ついたので、宿で休憩を取っていた。

「にしてもオキさんってすごいねー。どんな状態でも的確に指示してくれるから。」

「ふふん! オキはすごいんだ!」

「なんでユウキが威張るんだよ。」

「でもこの間のボスの時もすごかったじゃない? あんなの初見じゃ倒せないよ。」

スリーピングナイツのメンバーは先日の26層エリアボスの話をしながら、今日までのオキやアーク’sメンバーの話で盛り上がっていた。

26層のエリアボスは巨大な目玉が宙に浮いているゲイザー種の大型。攻撃力は高いものの動きは遅く、見た目が気持ち悪いという点を除きSAO時代ならHPが大きく、当たらなければどうということはない獲物だった。

だが、HPゲージのラストゲージとなった直後、短かった触手がいきなり伸び、先端に口をはやして皆に襲い掛かった。

壁際にいたオキ達にもその攻撃は届き、オキは軽く逸らしたが、スリーピングナイツのメンバーは大慌て。

本体は相変わらずのスピードだったが、触手の速度が尋常ではないほど早く、届く範囲も広いときた。

とはいえ、それくらいでへこたれる『アーク’s』メンバーではない。

大口を開けて襲い掛かる触手を軽くあしらい、見事討伐に成功した。

その時の話をまるで先ほど見たかのように話すスリーピングナイツメンバー。

「ふーむ。」

オキが悩む声を上げるとユウキが近寄ってきた。

「どうしたの? なにかあった?」

「いんや? こうもバランスのとれたメンバーなのに、一人も指揮する人がいないってのは珍しいなと思ってね。」

オキの言葉にピタリと静まった。その光景になにかいけないところに触れたのかとオキはすぐさま謝った。

「すまん。いらんとこ気にしたか。なかったことにしてくれ。」

「ううん。大丈夫。以前までこのチームにいたリーダーが指揮担当だったんだ。でも、もういなくなちゃった。」

そうかとオキはそれ以上、その内容に触れない事を心の中で決めた。あまり触れていい内容ではないと雰囲気で分かったからだ。

次の日、迷宮区を突破。27層のボス部屋前までたどり着いた。

「いよいよだね。」

ウキウキしているユウキに、緊張しているメンバーたち。オキは相変わらず一戦前の一服を皆に許可をもらい離れて吸っていた。

「さーてどうすっかねー。動きを注視するか。それとも最初から本気出していくか…。相手がなにか次第だなー。」

「オキも楽しそうだね。」

ニコニコしながら近寄ってきたユウキがオキの顔をのぞいた。

「お? わかるか?」

「うん! なんかオキって僕に似てるとこ多いよね。戦うときに楽しんでるとか。」

「強いやつと戦うときは死にもの狂いだけど、なんか楽しい。」

「うんうん! わかるわかる!」

「二人とも? お楽しみ中悪いですが、そろそろ行きませんか?」

注意されたオキとユウキは二人して微笑み合った。

大きな音を立てて閉じた大扉。そして目の前に広がるいつもの広い大きな柱が何本も立つ大部屋。そこにいたのは黒い影を纏った、目の無い大きな獣がゆっくりと歩いていた。

「こんどはシャドウ種か。目が無いってのがこえぇな。」

ボス『クローリング・ナイトメア』。シャドウ種と呼ばれる獣種だ。普通のシャドウ種は体の大きな四足歩行の獣でスピードとその大きな体躯を活かして攻撃をしてくる。こちらの攻撃を避けることも多く。下手な攻撃を行えばカウンターを喰らい痛い目を見る。

だが、このシャドウ種は何かがおかしい。

「違和感がある。前に出すぎるなよ。」

以前戦ったことのあるシャドウ種はもっとはっきり見えたが、このシャドウ種は黒い靄のような影を纏っており、本体がその陰でよく見えない。

「オキ、足元…。」

ユウキがじっと見つめるボスの足元を見ると床面と足もとの境目が影に覆われ見えなくなっている。

『グルルルルル…。』

「いかん。見つかった。」

大きな遠吠えを放ち、こちらへととびかかってきた。

「散開! ユウキと俺以外は離れてこいつの動きをしっかりみろ! 必ずパターンはある! 隙あらば攻撃! だが無理するなよ。 ユウキ、反対側!」

「了解!」

真っ先にウォークライでヘイトを取ったオキはまずユウキと一緒にヘイトを向けさせることに専念。ボス攻略を開始した。

「っちぃ! いやな影だな。まとわりついて気持ち悪いぜ。」

オキの振り上げから思い切り切り下げた槍を軽々と避け、目の無い顔に唯一ついた口を大きく開けてオキへとかみついた。

真っ黒な体についた唯一色の付いた部分であり、獣の『それ』ではなく、人の口に近い歯を持っていた。

「ほんと気持ち悪いなぁ。」

獣の体に黒い煙のような影を纏い、目の無い顔には人と同じ口が大きく開いている。ダーカーにもこれほど気味の悪いエネミーはいないだろう。

「でぁぁぁ!」

オキへと攻撃をしている間にユウキが側面から攻撃。スリーピングナイツメンバーも攻撃へと加わる。

『ゴァァァァ!』

HPのゲージは4本。今のところは問題はない。これはただの獣型のモンスターだ。

しかし強化されたボスがこれだけでは済まないのはオキもユウキもメンバー全員がわかっている。油断はできない。

ユウキの縦横無尽な攻撃スタイルにオキの相手からの攻撃を弾く防御型のスタイルで後方への攻撃はほぼ無いに等しい。

ゲージもこれで2本削れた。

『グルルルル…。』

ボスは一声喉を鳴らし、身体に纏っていた影をより濃いく纏い、姿を消した。

「どこいった!?」

「どこ!?」

オキは精神を尖らせ、周囲の警戒を強くした。直後だ。

「ぐぁ!?」

「きゃあ!」

後方側で援護していたメンバーのど真ん中に上空から降り立ってきたボスが体を回転させ、長い尻尾で皆を攻撃したのだ。

「こんにゃろ!」

オキがすぐさま反転。ユウキもそれに続いて走る。攻撃をいれようと武器を振るったその先にはすでにボスはいない。

「あんにゃろう…。」

ボスは素早く飛び跳ね、柱へと鋭い爪で張り付いたのだ。

『ゴァァァァ!』

空中からの強襲。3ゲージ目での変化が攻撃パターンの変化だった。

「散開! 固まるな! 受けたダメはすぐに回復しろ!」

「追いかける!」

ユウキが素早い走りから柱を登り、ボスへと攻撃をしようとした直後だ。今までオキへとヘイトが移っていたボスは後方へと攻撃を転換。そして今まさにダメージを受けたメンバーへと飛びつこうとした直後だ。柱を縦に走るユウキにその顔を向けたのだ。

「戻れ!」

「うわぁ!?」

まとっていた影を収束。それを鎌として多数の斬撃をユウキに浴びせたのだ。

「まさか…。」

オキもそれに続き、柱へと走った。そして足を着いた直後だ。

ユウキに向いていたボスのヘイトがすぐさまオキへと向き、多数の鎌をオキへと向けたのだ。

「こんちきしょう!」

オキは槍を頭上で回転させ、風の魔法を展開。小さな竜巻のように周囲に防御壁を貼ったのだ。これは攻撃にもなるオキの得意技のひとつ。だが。

 

ガキキキキ!

 

「なに!? がっ!?」

鎌は風の刃をすり抜け、オキへ斬撃をいれた。

「ちっきしょう…。」

「いてて…どうしよう。」

魔法無効の影。攻撃の届かない柱の側面にへばりつく本体。オキはどうするかを考えた。

その隙に体力の回復とバフを積み直したメンバーの魔法がボスへと向かう。

火炎、闇の玉、氷の氷柱。だが全てそれらは影の鎌によって相殺される。

『ゴァアアア!』

再び後方から魔法を撃ったメンバーへと飛びつくボス今回はオキの走りが間に合った。

「ユウキ!」

「ダァァァ!」

ユウキの直剣がボスの体の側面へ振り下ろされ、ようやく攻撃が入る。

『グルァァァァ!?』

ボスは再び飛び上がり、柱へとへばりついた。

「なるほどな。遠距離からの魔法は影で相殺。攻撃をしてきた一番遠くに居るメンバーへのヘイト転換。近づこうと柱を登れば鎌の斬撃っと。」

分かってしまえば敵ではない。だが、これでようやく3ゲージ目だ。ここで変化をしてくるとなるともう一段階あってもおかしくはない。

だが、引き下がるわけにも行かない。

「ユウキ! 今の連帯! もういっちょいくぞ! 今度はでかいのぶちかませ!」

「OK! みんな! 行くよー!」

「「「おおおー!」」」

オキの目測通り、ボスのパターンは予想通りの展開だった。後方からの攻撃を相殺した後にそこへと強襲する。だがそこに待ち構えていたオキが攻撃を防御し、ユウキの大火力と近接による側面攻撃。これにより3ゲージ目も削れるようになった。

オキの防御のダメージも0ではない。だが、受けた瞬間にヒーラーからの回復と防御バフによりそれが容易になる。

大人数いればその強襲がどこに降り立つかがわからない。しかし少人数だからこそできたやり方だ。

「3ゲージ目…これで! おわり!」

ユウキの直剣にソードエフェクトがかかり最後のゲージを解放する。

4ゲージ目突入。それは、目の前に広がる巨大鎌の降り注ぐ広範囲回転攻撃でオキたちの陣は崩された。

 

 

 

「くっそー! あと少しだったのにー!」

「ごめん、よけそこねちゃった…。」

「しかたないさ。あんな攻撃しらないとよけれないよ。」

オキたちは最後のゲージ開放時の大技で壊滅。オキ、ユウキは持ち前のスピードでそれを避けるも、他メンバーは壊滅。目の前にいるは巨大な影の鎌を多数振り回しながら突進してくるボスの姿が目の前に広がっていた。立ち直しに時間がかかったユウキがモロにくらい、オキ一人となる。数度刃を交え、武器から伝わるその重さに、この攻撃は受けるべきではないと悟ったオキは逆に鎌へと攻撃を入れる。少しでも攻略の情報を手に入れるためだ。クリアはせず、対処法を見つけてから帰る。正直目の前の強敵を倒したいと思う悪い癖が出ているが、目的を忘れてはいけない。

鎌の側面に攻撃を当てた瞬間、鎌は槍へとなり、オキの頬を掠めた。一瞬の出来事ではあったがなんとか避けることはできた。そしてその槍を放つ際に『止まることもわかった』。オキは防御をやめ、自滅を選び皆の後を追った。

PTが全滅すると、1層中央広場に強制転移される。オキが最後のひとりとして転移された。

「いやー。惜しかったー。まさかあんな広範囲に攻撃をしてくるとは思わなかったぜ。」

「よくよけれましたね…。見えませんでした。」

ショボンとするメンバーたちにオキはニコリと微笑んだ。

「いやいや。よくやったよ。あと少しだ。あの攻撃は下をくぐればよけられる。問題はそのあとの大鎌をどう対処するかだ。作戦をねる必要があるな。」

「うん! 次は負けないぞー! 頑張っていこー!」

「「「おおオー!」」」

負けたことによる悔しさはあるものの、皆の気持ちは前を向いており、その意気込みをオキは高く評価した。

 

 

「にしても死に戻りとか普段できねーからこれはこれで面白いな。」

「普段俺らは見つけたら倒さないと、負けは死だからねー。」

「サーチアンドデストロイなのだー。」

オキはALOをログアウトし、アークスシップに新装されたフランカ'sカフェでコーヒーを飲みながらタバコを吸っていた。ハヤマやミケも一緒だ。

「はい、とんこつラーメンセットおまち!」

フランカがオキのいるテーブルに注文された食事をもってきた。それと同時にアインスも合流した。

「いい匂いがするな。フランカさん。俺には鯖の味噌煮定食。」

「了解! ちょっと待っててねー。」

「やあオキくん。どうだい? 攻略はすすんでいるかい?」

ゆっくりと腰を下ろしたアインスはハヤマがいれた水に口をつけながらオキに話を聞いた。

「ああ。面白いボスがいてね。身体に影をまとって、その影が攻撃してくる獣型シャドウ種の強化エネミー。」

「ほう…。」

隊長の目が少しだけ光る。だが隊長、残念だが俺の獲物だ。とオキが笑いながらタバコの煙を吐いた。

「やはりこっちにはいない強敵がいるあそこは面白い場所だ。腕試しにもなる。」

「ねー。ふぁぁー。一日眠りっぱなしはさすがに身体がガッチガチになるな。温泉かマッサージでもいかねーとかーたこっちゃってねぇ。」

「仕方ないよ。オキさんは少しでもダーカー因子を浄化しないといけないんだから。」

「とはいえなぁ…。」

オキたちが『深淵なる闇』を討伐し、ひと段落着いた直後の話だった。

オキの体にはまだ深遠なる闇によって残されたダーカー因子が残っていた。マトイも同様だ。ダークファルスの闇の力を吸収したふたりはハヤマやアインスたちとは比べ物にならない量の闇の力が身体に溜まっていた。深遠なる闇になった【仮面】が大半を持っていったあとでもその力はまだ残留している。よってそれの浄化が必要だった。

オキは研究機関の知人たちと共に惑星スレアのVRネットワークと繋がる装置『ナーヴ・ギア (オラクル版)』を混み込んだ浄化カプセルを開発。眠っている間はVRネットワークに繋がることができるようにした。

オキ曰く眠りっぱなしだと面白くないということで開発したのが本音だ。

欠点は眠りっぱなしで動かないので体中がガッチガチに固まってしまうところだろう。

「自分の部屋ではいりなよ。」

ハヤマが行っているのはオキの部屋にある大浴場だろう。3つ使える部屋のうち一つを大改造して大浴場にしてあるのだ。

「ばかやろう。あんなの温泉とは言わねーよ。大自然を目の前に入るのがいいんだろうが。」

はいはいと呆れるハヤマに笑っているアインス。ミケは口いっぱいに頬張りもぐもぐしている。

「ん? ああああ! 俺のラーメン!」

「さっさと食べないからミケが食べてやったのだ! 感謝するのだ!」

チャーハンに、餃子、ラーメンに至ってはスープまで綺麗さっぱりだ。

「俺のラーメン返さんかーーーー!」

「食べないオキが悪いのだー!」

逃げるミケを追いかけるオキをみて、ちょうどアインスの食事をもってきたフランカとともに3人は笑った。

 

 

次の日、オキがログインした直後に聞いた情報は

『27層のボスが突破された』という悲報だった。

 




みなさまごきげんよう。
先週はお休みをいただきありがとうございました。
久々に一人での(日帰り)旅行に行ってきまして…。御殿場でさわやかのハンバーグと熱海の温泉に行ってきました。いやぁ癒された。温泉はいいぞ。

さて、まずここでひとつ皆様にご報告しなければなりません。
現在大炎上中のPSO2ですが、暫く休止することにしました。元々フレ達ががほぼログインしなくなり、私もプレイする気が起きずに今回の炎上まで発生しました。
何人かは引退も表明してしまい、どんどんフレがいなくなってしまいやってても面白くない状態です。集まって皆でワイワイしていた時代が懐かしいです。気が向いたらログインはするでしょうが、本格的にプレイするのはほぼないでしょう。誘われればやりますが。

とはいえSAO ~ソードアークス・オンライン~はまだ続きます。
このマザーズロザリオを終わらせてEP4で最終章としようかと。
その後は別の作品を描きたいと思っております。
それ含め、今後もよろしくお願いいたします。

ではまた次回お会い致しましょう。


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第114話 「突破された先に見るモノ」

「オ~キ~。27層が突破されたよ~…。」

オキがスリーピングナイツメンバーのギルド拠点に入った途端、ユウキの泣声と突進がオキのお腹を直撃した。

「いや~ごめんごめん。僕もびっくりしちゃってさぁ。」

てへへと笑うユウキの笑顔にため息をつきながらお腹をさするオキ。なぜかダメージを喰らったような気がしてならない。

スリーピングナイツメンバーが先にログインした直後、彼女らがきいた情報では昨晩、正しくは早朝に27層のボスが突破されたということだった。

「まぁ突破されちまったなら仕方ねーさ。次のフロアいくべよ。」

「次のフロアこそ、倒すぞー!」

「「「おおおー!」」」

他の者に先を越されたものの、オキやユウキは前向きに気持ちを切り替え、次の層へと足を踏み入れた。

フィールド攻略はできるだけ最短距離を進み、ボスのみを目指す。前層は皆の動きを見る為もありフィールド上の敵を一掃しながら進んだため時間がかかったが、今回の層はそれが必要ないため最短での攻略を行った。

突き進むだけならば時間はそんなにかからない。幸いにも28層の迷宮区には他プレイヤーを大きく離し、最速での到達を達成した。2日かけてフィールドを突破し、3日目の朝からボス攻略に臨んだオキ達は順調のように思えた。

しかし…。

「28層のボスが突破されたぁ!?」

ボスに挑み、初見は様子見で次の日に決着をつけるつもりでいたオキだったが、再び朝一にて突破されたとユウキの突進攻撃で知ることになった。

「残るは29と30しかないよ…。」

「次は負けないようにしないと…。」

スリーピングナイツメンバー全員が顔色を悪くし、不穏な空気が漂っていた。

「ふーむ。まーたフィールド走るしかねーかなぁ。」

エネミーを倒すだけならまだいいが、場合によってはクエストでのトリガーやパズル形式のダンジョン突破とか来ると少々面倒くさい。

「にしても今回は早かったね。」

「そうだよなー。相当強いプレイヤーで固めたんだろうな。」

「ん? どういうことだ?」

先ほどから暗い顔をしていたメンバーの言葉がオキの耳に入ってきた。

「いえ、今回フィールドの突破、迷宮区の突破は間違いなく最速だったと思います。」

「そうだな。ダンジョンのフィールドボスの状態から見ても最速だっただろう。ワープでもない限り無理だぞ。」

オキやユウキ達がフィールド、迷宮区を突破するときにフィールドボスが幾度か立ちはだかった。

フィールドボスはエリアボス同様レアエネミー扱いであるため、討伐は一回しかできない。つまりオキ達が最先端にいた目印となる。

「最速で突破して、その直後に挑み、次の日。つまり今日の朝方にボスが倒されてます。」

「いくらなんでも早すぎるので、強いプレイヤーで固めたとしか思えないんです。」

「そんなに強い人って今あそこ登ってたっけ?」

SAOでもそうだったが、大体活躍しているプレイヤーは名前がすぐに噂で走り出す。

ALOでもオキ達をはじめ強いプレイヤーや伝説武器などの超高レア武器所持者はすぐに有名となり、それ故か有名になった者同士で繋がりやすい。少なくともオキが知っているメンバーの中で現在このアインクラッド城攻略をやっている者は一人もいない。

知らない強いやつがいるということだろうか。

「ふーむ。どこのどいつかしらねーけど、ちょっくら交渉してみるかねぇ。」

「え? どこ行くの!?」

「すぐ戻るー! ちょっくら対策してくるわ。」

オキはユウキ達と別れ、ある人物を探した。ログイン状態がちょうどオンライン状態であったので情報を引き出そうと考えたのだ。

「ういーっす。おはよーさん。」

「オ? 朝から頑張ってるネ。」

オキがする中でも一番の情報屋、アルゴだ。

オキはアルゴに現在アインクラッドで最も最前線を突き進んでいるギルドやプレイヤーを調べてもらうつもりだった。

「というわけで、28層突破した奴知ってたらおせーて。」

「そんなの石碑見ればわかるんじゃないカ?」

もぐもぐと朝ごはんをほおばるアルゴに言われて目が点になるオキ。その手があった。

一緒に石碑のある黒鉄宮へと向かったオキ。石碑にあった数十名に及ぶプレイヤーの名前を見る事となった。

「こいつらか。ん? こいつら27層も突破した奴らか。同じ名前があるな。」

27,28層共に同じ名前が刻まれていた。

「こいつら知ってる?」

「んんー?」

アルゴが眼をしぼめてその名前一つ一つを見ていき、そしてオキを向いた。

「こいつラ、最近変な噂が立っているメンバーダ。」

「噂?」

アルゴが言うにはここ最近になって頭角を現し始めたギルド連合らしい。アインクラッド城攻略、しかもボスとなるとその難易度はALO内でも最高ランクに値する。オキ達のような初見でボスを倒す奴らはそういない。

「というかALOに来てから初見ボス討伐なんて一回も聞いたことないネ。さすがアークス。」

半分あきれた顔になるアルゴだが、その直後に険しい表情を見せた。

「お兄さんも知っている通り、このアインクラッドボス討伐は情報を得て、何度も挑み続けることを想定されたバランス調整になっていル。だからおにーさん方が21層と22層、そして特に25層の初見突破で有名になったのはわかるでショ?」

21層はキリトの家を買うため。22層はそのパーティーの流れで。この2層連続突破はオキ達アーク’sの名前をALO内に大きくとどろかせた原因にもなっている。シルフ、ケット・シー、そしてサラマンダーの各領主もしくは副将の者達の声もあった為ではあるが。さらに拍車をかけるようにALOでも顕在していたクォータポイントの突破。

25層はオキ建にとってもかなり重要な場所だった。SAOでは『ファルス・ヒューナル』が待ち伏せており、そのエネミーのデータ内にはカーディナルであったルーサーの欠片としてダーカー因子が紛れ込んでいた。ALOでも同様の事が考えられ、もし万が一にもダーカー因子が紛れ込んでいるならば、オキ建はアークスとして討伐しなければならない。

結果は特に何もなかったので、オキ達の技量と、一度すでに戦った経験のあるアーク’sメンバー、更に興味津々についてきたサクヤ、アリシャ両名によりあっけなく撃破。強化とはなんだったのかと思われるほどである。

「だけド、このメンバー達はそこまで強くないらしいんダ。おにーさん並に強いなら納得するんだけド。」

どうやら各地で何かしらの裏ワザか何かで情報をかき集め、容易にボスクラスエネミーを討伐。手に入ったアイテムを売り払い莫大なゲーム内マネーを獲得しているとか。

「そこでおにーさんに少しお願いがあル。あ、今回の情報料はこれでタダにしてあげるヨ。」

オキがユウキと行動を共にした時点で、情報はアルゴの下に届いていた。そして今回アルゴへと情報を求めに来ることまで読んでいたようだ。恐るべしこの娘。

29層ボス部屋前通路。再びフィールドを突破し、最短での攻略で済んだオキ達は3度目の正直を信じて攻略へと挑む気持ちでいた。今回一人追加をして。

「今回は助っ人として我がメンバーの一人、クロを呼んだ。」

「よろしく。」

小さく頭を下げたクロにユウキが笑顔で歓迎した。その他メンバーも大きく歓迎し、攻略を再開した。

スリーピングナイツメンバーにはオキから今回はできるだけ様子を見る為に、できる限り手を抜いてほしいと依頼した。

最初は驚いた顔をしていたが、ユウキはオキの考えを尊重し、信用しているということで、今回の内容を承諾した。

大きな音を立てて閉まる大扉。クロがオキの背中で小さくオキの耳にしか聞こえない声で気づいたことを伝えた。

「二人。」

「あーよ。」

その光景にユウキは首を傾げるも直後に突如として天井から振ってきた巨大な化け物の方へと首を向けた。

硬質化した甲殻に身を包み、その身体の繫ぎ目からは真っ赤な溶岩がしたたり落ちている。

熱き溶岩で身を固めた巨大な蜘蛛はゆっくりと目の前にて構えるオキとユウキへ近づいた。

『なんだこのチビ共は? 大きな闘気を感じたと思ったが…。ただの人間じゃないか。』

「しゃべった!?」

しゃべるエネミーが珍しかったのか、さすがのユウキも驚いたのだろう。オキはすでに下階でのヒューナルで慣れている。

「んだよ化け物。お前こそ筋肉以外にちゃんと中身詰まってんだろうな。」

コンコンとオキよりも太いその脚の表面を叩くオキに対し、巨大な蜘蛛は青かった眼を真っ赤にして怒りをあらわにした。

『ほざいたな人間! 踏み潰してくれるわ! シャアアアアァァァ!』

巨大蜘蛛、デビル・ザ・ファントム戦はボスの巨大な脚の振り下ろしより開始された。

 

 

 

 

 

 

 

オキ達がアインクラッドボス攻略をやっている最中、シンキはある場所にいた『ヨツンヘイム』。ALO内のフィールド『アルヴヘイム』、その上空に漂う『新生アインクラッド城』とアルブヘイムの地下深くに存在するもう一つのフィールドがこの『ヨツンヘイム』だ。

ヨツンヘイムはグランドクエストクラスの専用フィールドであり、現在実装されているアインクラッドよりも難易度が高い。

そんなヨツンヘイムに入るには央都から東西南北に何キロも離れた階段ダンジョンまで移動し、最後に守護邪神ボスを倒してようやく入れる。

また《氷の国》とも知られており、フィールドは広く直径30km、天蓋までの高さは500mある。常に雪が吹き荒れ、湖や建物は凍り付いている。また地下世界であるため日光、月光を翅に浴びて回復することが出来ないため「新生アインクラッド内」同様、飛行は不可能である。ただし完全な暗闇というわけではなく、天蓋を覆う氷柱群が仄かに放つ燐光によって照らされており、雪景色に照らされる風景は実に綺麗なもの。フィールドは広大で森林、切り立った崖や城、等が散在し、中央の天蓋にはアルブヘイムを貫いて世界樹の根が垂れ下がり、逆4角錐の氷のダンジョンを抱えている。また、根っこの真下、ヨツンヘイムの中央には差し渡し約1.5Kmはあろうかという底なしの大穴、通称《中央大空洞》(グレードボイド)が口をあけている。この中央部から天蓋までは約1kmある。

そんな場所でシンキはゆったりと浮き、邪神モンスターを下目に見ながら、ある場所を目指していた。なぜ飛べるはずのない場所で『浮いているのか』。

それは彼女が持っている杖に関係があった。

『サイコウォンド』の原典の力。『空を自在に飛ぶ』力が備わっている。

そんな彼女が目指した場所は邪神モンスターでも届かないくらい遠い世界樹の根周辺からかなり遠い場所にある『空中遺跡』。

現在ではプレイヤーはヨツンヘイム自体には入ることができるが、この空中庭園は周辺に空を飛べるモンスター系統も居ないので、たどり着くことがシステム的には不可能になっている領域である。

 

SAOにオルガ・フロウが居て、そのサーバーデータのコピーと言う時点でシンキうすうす感づいておりその最深部に到達することで、予想が的中していたことを知る。

SAOではプロテクトで隠されていたデータではあったが、オルガフロウのダークフォトンの因子を遡る事でかつてのアリサⅢで顕現した『ヤツ』が再現され、既に配置され

このまま行けばクエストの自動生成システムで一般プレイヤーに配布され、憎悪の感染が予想される。

「久しぶりね。こんな場所でお前を見るとは思わなかった。」

ふふっと微笑み、片手に持つ杖『サイコウォンド』ともう片手に構える魔道書『モタブの原本』を光らせる。

かつて存在したアリサⅢの『コイツ』はシンキの『光闇乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』全力ぶっぱ3発でも死なないくらいタフ。(エアはアリサⅢでの仲間の支援補給で連発した)

かつ、天の鎖の拘束も物ともしないバケモノ。その為、最後は鎖の封印機構でシンキが自ら諸共後にラグオル遺跡になる場所に封印することに成功した。

そんなバケモノへ再び対峙する。

肩、腕、足にそれぞれ胴体にある巨大な顔とおなじ小さな顔がついた見るものに恐怖を与えるまるで『悪魔』のような姿。

エア封印、ゲートオブアルゴルの機能制限のゲーム内仕様での戦闘。今回ソロでの討伐だ。苦戦はした。それでも懐かしい感情がシンキの中に渦巻いていた。かつての英雄たち、仲間たち。まるで昔に戻ったような感覚だった。

「懐かしい思い出を感謝する。だが、眠れ。」

エネミー再現で劣化していたので討伐、自分の中の深遠に融合処理を行い、その場を後にした。

「さって、あの子達の下にむかいましょうか。そろそろ登場の時間かしらね。」

シンキはすでにオキたちの身に起きる事をしっている。

倒したダークファルス自体はデータとして残したが、再現された憎悪のエネルギーだけを奪い取ったので、憎悪が無いダークファルス【魔王(ベルゼス)】はただのエネミーとしてその内実装されるだろう。




みなさまごきげんよう。
最近、アズールレーン始めました。

はい。どうでもいいですね。
さて、今回は特に見所はありませんが、後半ラストのシンキの部分は彼女自ら設定を頂いたので、使用させてもらいました。
このダークファルスはPS(ファンタシー・スター)3のラスボスですね。
知らない方は調べてみよう!

SAO原作はアリス編がアニメ化みたいですね。うーんここに来て。
とはいえ、前にも書いたとおり描きたい内容が別であるので。なによりなげぇ。
次回は原作ではキリトが活躍したシーンをアークスたちでお送りいたします。
ではまたお会い致しましょう。


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第115話 「ボス部屋前の煽り」

29層ボスの攻略法を見つける為にボスへ挑んだスリーピングナイツとオキ、クロは下階同様にゲージ変化での攻撃に苦戦した。

だが、次の攻略でボスの討伐が可能であることを確信し、態勢を立て直すために一度リタイアをした。

「いやー。なんとかなりそうだねー。」

「ええ。今回こそは倒しましょう。」

「やるぞー!」

1層のポータルで復活した面々だったが、ユウキがオキに無言で肩をつかまれた。

「ほえ? どうしたの?」

オキは無言を貫いたまま、親指でこっちにこいと示した。メンバー全員がそれについていく。

ポータルの見える建物の影に隠れたオキはじっとそれを見つめながらユウキ達に説明した。

「ここ最近、誰かにつけられている気がしたんだ。今回、クロを連れてきたのはそのためだ。」

直後、ポータルから二人の男性プレイヤーが現れ、周囲を確認しなにか焦っている様子を示した。

「くそ…もういないのか。おい、黒鉄宮の方はどうだ?」

「いねぇ。まずいぞ。もう攻略いったんじゃんねーか? 今回特にあの朱槍、かなりいいところまで行ってたからな。」

「絶剣も息あってたしな。このままだとクリアされかねん。ボスに急いで報告した方がいいぞ。」

そういって二人は再度ポータルに入って行った。

「今の…は?」

ユウキが心配そうにオキの顔をのぞいた。

「クロ、間違いねーな?」

「うん。あの二人。ずっと僕たちの後ろにいたよ。」

「ええ!?」

「うそ!?」

「全然気づかなかった…。」

オキはあの二人がボス部屋で戦っている最中にずっと壁際で透明魔法で隠れていたことをクロに確認していた。

「あいつら、どーもここ最近俺らが戦った後にボスぶったおしてるやつらの一味っぽい。ある情報屋から教えてもらってな。なーんか怪しい事やってるらしいと聞いてな。あれこれ調べてクロに同行してもらって確定したわ。あいつらこっちの戦い覗き見て情報得てやがる。あとは人数集めて数の暴力よ。」

ユウキ以下メンバー達は唖然としていた。自分たちが一生懸命戦っているのを横からかっさらわれていたのだから。

「いつもならここで一度解散しているが…この後突破されかねん。時間あるならこのままもう一回といけるが、どうする?」

スリーピングナイツメンバー全員が力強く縦に頷き、オキは準備を怠らずに短時間で補給を行うように指示。

クロには二人の後を追い、捕まえるように指示をした。

「おめーなら時間認識で追えるだろ。引っつかまえてふん縛れ。」

「ハトやのメロンパン5つ。」

「焼き立て3つで我慢しろ。ミルクパンも付けてやる。」

それを聞いてコクリと頷いたクロはポータルへと走って行った。オキには走っていくクロが嬉しそうな顔をしていたように見えた。

その後、オキは再び迷宮区へと走った。

「ところでどうしてクロは透明になったあの人たちが見えたの?」

「スキルかなにか持っているのですか?」

走っている最中にユウキに質問された。

「ああ、あいつはモノの動いている時間とその空間の認識が出来る。普段はこんなことお願いしないんだが、今回横から俺の獲物かっさらわれた上に、卑怯な手使ってきたからな。こっちも使える手を使ったまでさ。」

「時間…て?」

ユウキが首をかしげた。

「あー。難しい話になるからまた今度な。簡単に言えば、そうだな。クロが俺やユウキを見ると持っている時間が目で見えるそうだ。生まれてきて、今いる時間。そして終わりの時間が決まった瞬間にそれも。」

「終わりの…時間。」

ユウキの声のトーンが一瞬下がった。オキはユウキが何を連想したのかを察した。

「まぁそれが今わかるわけじゃないからな。決まった瞬間、抗うことのできなくなった瞬間らしいから、普段は滅多に見えないらしい。とはいえ、まぁそういうところだ。」

「…。」

走るユウキは何かを考えているのか、黙り込んでしまった。

迷宮区をそのまま走ったオキはボス部屋のある階層へと到達。扉の前まで走り込んだ。そしてそこに5人ほどのプレイヤーが立っていた。

「む? 先客か。」

「げぇ!? …あ、いや。すまんな。こちらが先だ。」

中心にいた男性プレイヤーがオキを見るなり驚いた表情を見せたが、いまは冷静な装いをしている。しかしオキにはそれが何を意味しているのかがわかった。

先程、ポータルから出てきたオキたちを見ていた二人組のギルドとおなじ名前が表示されていたから。

「僕たちも今からボスに挑むんだ。そっちは5人で挑むの?」

「いや、これから集まる。それまで待って欲しい。」

「こっちは全員いる。集まるのが遅いなら先にやらせてもらうぞ。」

「何を言っている! こっちが先に来たんだからこっちが先だろ!」

「そうだそうだ! ルール守れ! ルール!」

ユウキたちと男たちのやり取りをだまって見ていたオキだが、最後に叫んだ男性側のプレイヤーの一人の言葉に反応した。

「ルール、か。だったら人のこと言えねーよな?人の戦い盗み見て情報漁ってた盗人はルールを守らなくてもいいのか?」

オキがギロリと睨みつけ、中心にいた男性がたじろいだ。

「な、なにを言うのかね。なんのことだかさっぱり…。」

しらばっくれる男のもとに、数十人のプレイヤー達が走って現れた。その先頭の一人がその男に向かって叫ぶ。

「ボス! 大変だ! アーク'sに偵察部隊が捕まった! …げぇ! しゅ…朱槍…!」

後ろ姿で気付かなかったのだろう。焦りもあったのだろうその男はオキたちアーク'sの名前をその場で叫んだ。

これにより、この目の前の男がオキたちと関係ある存在となったことを証明してしまった。

「ほーん。うちのメンバーに捕まった、ねぇ。うちのメンバーが何の理由もなしに誰かを捕まえることはしない。なーにがあってそうなったか…教えて欲しいもんだねぇ。」

オキがゲイボルグをじめんに突き刺し、ゆっくりと大勢のプレイヤーの前に立った。

「ぐ…くそ!」

先よりいた中心のボスと呼ばれる男がオキへと剣を振りかぶった。

「オキ!」

その時、オキはみた。壁を掛け、飛んでくる一人の女性がオキを乗り越え、その男へと足を向けていたことを。

「がっ!?」

男の顔面に足が下ろされ、そのまま踏み台となった。さらに追い打ちを掛けるように足元に炎をだし、男を燃やす妖異な女性。

「シンキ。おめーいままでどこほっつきあるいてたんだよ。心配はしてねーけど一言声くらいかけろよな。」

「ちょっとね、【敗者】が手を加えたSAOのコピーサーバーだからもしや、と思ってね少しヨツンヘイムにある空中遺跡に行ってたの」

彼女はいつもと違う魔術師のようなターバンから伸びた髪を弄りながら答えた

「まあその話は追々ね、今はその扉の向こうに進みなさい?ボスに用事があるんでしょ?ここは私1人で止めておいてあげる。」

「オイオイ、メイジ1人でこの大群を相手に出来るでも思ってんのか?こいつはお笑いだ!」

「いくらアーク’sのメンバーだからって舐めすぎにも程があるだろ!」

「メイジ一人くらい直ぐ倒してやるよ!」

オキ達の前に立って宙に浮かべたモタブの預言書の原本を捲りながら1人で止めると言うシンキに対して

数人のプレイヤーがヘラヘラしながら叫び、それに合わせて他のプレイヤー達も頷き、シンキを嘲笑い

それぞれ斧、剣、槍、杖を向けた

向けられた武器を前に、シンキの肩がプルプルと震えてるのが見えた

「シンキ?」

「フ」

そんな息を吹くような笑い声が聞こえた

「ふはは、ははははは!はははははははははははははははははははははは!

倒す!貴様たちがこの私を倒すだと!?オキちゃん、水差し!水差し頂戴!これはまずい、命がまずい!

あの阿呆どもは私を笑い殺す気よ!ここまでの最高峰の道化師共が大群で!

死ぬ!笑い死ぬ!ヒーッ!ヒーッ!」

少しでも心配したのが馬鹿だった。

無数の武器を前にして、シンキはあろう事が高、いや馬鹿笑いを始めたのだ。

これほどの煽りは他に無いだろう。

ひとしきり笑い終えたあと、まだ肩を震わせながら、彼女はこう続けた。

「いやいや、笑わせて貰ったけど、そうね…。来るがいい下郎共、今なら勝ち目があるかもだぞ?」

とシンキの周囲に黄金の波紋が開き、そこから無数の杖が現れた

「今の私は星の財宝の機能を制限してる、エアも使わないし、武器も射出したりしないわ、でもね…」

と、シンキが説明を始めた辺りで痺れを切らした大群の中の何人かのメイジが魔法を唱えだした

「「「Ek fleygja þrír geirr muspilli」」」

唱えられた炎魔法は速度を付けてシンキや、その後ろに居るオキ達に飛んでくる

が、シンキはハア…。とため息を付きながらモタブの原本のページを軽く撫で光る文字が本の上で踊った

それと同時にシンキの目の前の床に開いた黄金の波紋から5本ほど杖が飛び出しそこから火柱が上がり、杖が回転することで出来た炎の竜巻にメイジ軍団が放った炎の槍は、飲み込まれ、同化し消えてしまった

「まだ説明の途中でしょ、不敬よ」

と、オキ達と対峙していた大群を目の色が変わり、縦に瞳孔が入った蛇のような目で睨みつける

「さて、いつも足止めばっかりだけど、改めて言うわね、進みなさい。あなたにはやることがあるのでしょう?」

と、モタブの原本を持つ手とは逆の手に、サイコウォンドを握りながら

背を向けたままオキ達に言う。

「行くぞオメー等!」

シンキの言葉を受け、オキはボス部屋の扉に手をかけた

「ちょっと!?大丈夫なの!?いくらオキの仲間だからってメイジ一人であの大群を…剣士もいるんだよ!?」

ユウキが心配そうに聞く。が、

「大丈夫だ、寧ろシンキの相手をするあいつ等の方が心配なくらいだ。それに、シンキひとりじゃない。」

「え」

「おおおおおおおおおおおおおお!」

鬼の形相をした叫ぶ一人の剣士が、大勢のプレイヤーの後方から切り進んできた。

それと同時にいくつも上がる炎柱、空中に開いた黄金の波紋から出た杖から落ちる落雷、

シンキの周りから出たレーザーが、つい先程まで自分達と対峙していた大群を

紙くずのように吹き飛ばしているのを見てしまった…。

目の前にいた5名のうち1名はシンキが踏み潰し、残ってた通せんぼしていた4名も鬼の形相の剣士が叩き切ってしまった。

「いけ、オキ君。ここは任されよう。」

コクリと頷いたオキはユウキたちをひきつれ扉の中へと進んだ。

扉が閉まり、ボスが出る演出の最中

そうなるであろうことを予想していたオキは、軽く片手で頭を抱え、ため息をついた。

「あーあ。あいつらかわいそうに。ま、同情はしないがな。」

 

 

「あら。隊長ちゃんじゃない。」

「クロ君から話はきいた。俺も混ぜてくれ。」

囲まれたふたりはある程度暴れ立ち回った後、目の前には先ほどの大勢のプレイヤーは数分も経たずに半分となっている。

「お、鬼の隊長…鬼の隊長だ!」

「メイジのほうもよく見れば…魔神じゃねーか! 先頭の奴らなにやってんだ!」

先ほどまでの勢いは全くなく、逃げ腰の数十名が武器をこちらになんとか構えている状態だ。

「ふーん。あと30人ってとこね。10人くらい残してあげてもいいけど?」

「思ったより多いな。いいのか?」

「じゃあ5人あげる。」

そのやりとりを聞いて数名がシンキとアインスに走り出した。

「くそ! たった二人で…。」

「やられてたまるか!」

突っ込んでくるプレイターに対し、ニヤリと笑ったふたりは武器を構える。さらに数分後。大量の小さな灯火が目の前で消えていく通路をふたりは後にした。

 

 

 

 

寄生根性丸出しのプレイヤーたちをあとに、ボス部屋へと入ったオキたちの目の前には再び大蜘蛛ファントムが立ちはだかった。

『休憩は終わったか小僧! 遊びは終わりだ! 好き勝手暴れてやる!』

シャアァァァと吠えるファントムに対し、オキも大きく手を広げた。

「いいぜ、マジの戦い。やろうじゃねーか!」

オキの言葉を皮切りに、29層のボス攻略が始まった。




みなさまごきげんよう。
最近デレステの幸子が可愛くて仕方ありません。
どうでもいいですね(二週連続)

やばい。今週話題が一切ない。
うーん。よし来週に回そう。
そういえば急激に寒くなってきましたね。皆様も風邪をひかぬようにご注意を。
ではまた次回お会い致しましょう。


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第116話 「デビル・ザ・ファントム」

『シャァァァァ!!』

巨大な鋭爪が振り上げられ、オキの頭上へと下される。しかしそこにオキはおらず、突き刺したのは地面だった。

その隙をついて、オキは後方と連携して攻撃を叩き込む。

「おらぁ!」

大きく縦に振られた朱槍が真っ赤に燃える付け根部に突き刺さった。

『シャァァァ…!』

怯んだ瞬間を見計らって後方からの魔法攻撃。『デビル・ザ・ファントム』は表面は硬質の殻で身を守っているが、その付け根部や、背中側は隙間があり、巨体から繰り出される強力な攻撃、口から吐き出される溶岩弾を掻い潜って攻撃をすることで、HPを削ることが出来る。隙間への攻撃はオキ、ユウキが得意とするところ。二人の攻撃で怯ませたところに、上空から背中側へ魔法での攻撃を繰り出す作戦だ。

「ユウキ!」

「だぁぁぁ!」

怯んだボスへユウキがソードエフェクトを光らせ、離れるオキと後退でさらに攻撃を入れる。

顔面への攻撃はクリーンヒットし、ボスは真っ赤な溶岩を周囲に広げ、地面へと潜り込んだ。

「フェーズ2、いくぞ!」

今回のボスのゲージは3本。まず1本目は硬い甲殻と鋭い爪、口から吐き出される溶岩弾を凌ぎ削りきる。2ゲージ目からは溶岩で地面を溶かし、地下から攻撃を仕掛けてくる。さらに口から吐き出していた溶岩弾を上空に多数同時に放ち、逃げ場を失わせたところに上からの圧し掛かりと隙がなくなってくる。

オキが考えた対処法は一度固まり、360度周囲を見渡せるようにし、どこから来てもわかるようにする。次に、出てきた瞬間に放ってくる溶岩弾を弾き返し、ユウキ以下メンバー全員で攻撃を繰り出す。するとまた潜り、再び顔を出す。これを繰り返す。

初手の弾き返す行動がミスしただけで壊滅するこの戦法だが、普段からより巨大で、より強力なモノをはじいているオキからすれば、普段以上に容易である。

「こっち!」

出てきた方角へ構えたオキは片足を上げ、槍を大きく振りかぶった。

「バスター…。」

業火の巨大な溶岩がオキへと迫る。その間にメンバー全員が散開。攻撃に備えた。

「ホームラン!」

ガキン!

勢いよく振られた槍にクリーンヒットした溶岩弾はまっすぐに吐き出されたボスの顔面へと飛んでいき打ち返された。

『シャァァァ…!?』

打ち返され、顔面に自分の吐き出した溶岩弾を叩きつけられ怯んでいる最中にユウキ以下メンバー全員が総攻撃をかける。

「やぁぁぁ!」

「だぁぁぁ!」

後方からオキもダッシュで駆け付け、ボスの顔面に槍を突き刺した。

「はっはっはー!」

「楽しそうだなー…オキさん。」

「うん。わかる気がするー!」

スリーピングナイツメンバーは苦笑し、ユウキはキラキラと笑顔を輝かせながら、オキの指示に従い予定通りに二本目を削った。

『このくそ餓鬼どもがぁぁぁ!』

「3本目! フェーズ3!」

ユウキの攻撃でゲージが3本目へと変わり、もとより真っ赤な溶岩を体内で燻ぶらせていたボスがより真っ赤に燃えだした。

蜘蛛だったボスは尻の部分に収納していた巨大な針を持ち上げ、蠍へと変貌。周囲へとめった刺しした。

前回はこの攻撃に対処できず、オキユウキ以外は全滅。だが今回はそれも対応できる。3本目に入る直前にオキ、ユウキ以外は大きく離れ、針を使った全方位攻撃をスピードで避けた。

『シャァァァァ!!!』

大きく吠えたボスの口が真っ赤に燃えだした。地面がそれの呼応するかのように真っ赤に光る。

「インフェルノだ!」

「避けるよ!」

「そーれにげろー!」

メンバーが散り散りに広がる。直後に真っ赤に光った場所から爆炎と共に火柱が上がった。

「タルケン狙われてるよ!」

「まじか!?」

火柱で見え辛くなっているボスの口が真っ赤に光っている。明らかに溶岩弾を撃とうとしていた。だが

「させるか飲み込めぇ!」

上空へとジャンプし、ボスがこちらを狙っていないのをいいことに、真上からボスの頭へ槍を突き刺した。

その勢いで口が閉じてしまい、ボスの口の中で溶岩弾が暴発した。

『シャァァ…。』

「ユウキ!」

弱弱しく地面に突っ伏したボスと同時に槍を朱く光らせるオキと後方から火柱を避けてきたユウキが共にソードエフェクトを光らせ突っ込んできた。

後方にいるメンバーも魔法を唱え始めており、魔法陣が空中に浮きあがっている。

「だぁぁぁ!」

「おおおお!」

各自の最大攻撃。このタイミングで使わずしていつ使う。オキの槍、ユウキの剣。そして後方からの大魔法群が降り注ぎ、一気にボスのHPを削った。

『シャァァァア!』

このままやられはしまいとファントムは巨大な針を振り回しオキとユウキを攻撃し様と試みた。だがそれもかなわず

「どっちの槍が上か…勝負しよーっぜ!」

すでにその攻撃をオキは読んでいた。あれだけの攻撃でHPが一気に削れ、そのままやられる事が無いのは今までのエネミー討伐でわかっていた。来ればそのまま。こなけりゃその攻撃は無駄にならず相手の体力をさらに削ることが出来る。

オキは槍を針の攻撃に合わせ、思い切り針へ突き刺した。

針での攻撃はオキの槍に阻まれ、爪はユウキの攻撃ではじかれている状態だ。そのため弱点である顔面がフリーになっている。

「みんな!」

更なる追撃。多数の大魔法が降り注ぎ、ファントムの体力を削った。

「その心臓、貰い受ける…!」

針をはじいたオキは、ファントムの背中へと飛び乗り、針を収納していた甲殻の無い背中へ槍を向けた。

「ゲイ・ボルク!」

強力な槍の一突きが背中を貫き、勢い余って地面にまで貫通した。

『シャァァァ…。』

オキの槍で怯んだファントムが一声泣いた直後に、目の前で剣を光らせるユウキをオキは見た。

「これで…終わり!」

その攻撃はユウキの持つ最大の攻撃。オキは一度だけ見たことがある。

11発の刺突。スピード、パワー、狙い。どれをとっても最上級の一撃だろう。あの攻撃をはじくことはできたが、オキの腕はしばらく痺れが取れなかった。その攻撃の技名は…。

「マザーズ・ロザリオ!!」

『シャァァァ…!?』

綺麗に11発。すべてを顔面に叩き込み、HPを削りきった。

強力な攻撃を叩き込まれ、更に体を貫いている槍で悶えるファントム。

『グ…クソ…。キ、貴様…。ただモノじゃないな…。何者だ…。』

オキがファントムの前に立ちじっと見つめた。するとオキの横、誰もたっていないはずの場所に光る姿の男性と思われる何かが現れた。それを見たファントムは驚きを隠せなかった。ユウキもメンバー全員もそれを見た。

そしてオキはそれがなんなのかを察した。

『ま、まさか…伝説の光の剣士…ば、ばかな…。』

「懐かしいなその名前。鋭いな。本人だ。」

ゆっくりと消えていくSAO時代のオキのシルエット。そして弱弱しく声を小さくしていくファントム。

身体が燃え、そして結晶と化し、消えて行った。

『congratulation!』

空中に大きく文字が浮かび上がり、戦闘のMVP、ラストアタック等がひょうじされ 、ドロップアイテムなどが各自のインベントリへと投入された。

「やった…やったよオキ!!!」

「うわっと!?」

ユウキはジャンプしてオキへと抱きつき、勢いでそのままクルクルと回った。

危なく倒れるところだったが、なんとか踏ん張り、彼女を落とさないようにとゆっくり遅いた。

「よっしゃぁ!」

「やったわ!」

後ろに居たメンバー全員もユウキへ抱きついて喜んでいた。

少し離れてタバコに火をつけるオキ。

「ふー…。んお? こいつは…。」

一本の刀がオキのインベに入っているのを確認した。

「オキ! ありがと! これで名前、書かれたよね!?」

「あ? ああ。見に行けばわかるだろ。あぁこれ、手に入った刀だ。いい武器だ。使うといい。」

そう言ってオキが渡そうとすると、メンバーたちは首をふった。

「大丈夫。それはオキにあげるよ。というかアイテムもいらない。全部あげる! オキがいたから、倒せたんだから。」

「いや、しかし…。」

正直カタナは欲しがりそうなやつを二人知っているが、アイテム全部貰うわけには行かない。というかそんなにいらん。そういうと、メンバーたちは一瞬ショボンとしたが、それでも嬉しそうにはしゃいでいた。

 

 

 

黒鉄宮に確認しに行くとたしかにユウキ達の名前がたしかに記載されていた。

それを確認し、再度泣いて喜ぶユウキ達。

「よかったな。」

「うん!」

頭をぽんぽんと叩き、ユウキの笑顔をみたオキは小さく微笑んだ。

その後、スリーピングナイツメンバー主催の打ち上げ会が始まり、そのパーティーに今回助けてくれたシンキや、隊長も呼んだ。

シンキはユウキにちょっかいをかけて追いかけていたが、それでも楽しそうに見えた。

「どうたったかい? 今回のボスは。」

「光の剣士って呼ばれた。」

外で夜風に当たりながらタバコに火をつけていたところにアインスが飲み物をもってきた。

「ほう。50層のアレか。」

アインスも直ぐにわかった。49と50層でのグランドクエスト。

2年前ということもあり、懐かしむ二人。そういえばとオキが一本のカタナを取り出した。

「そういや、こんな武器手に入れたんだ。いる?」

「どれどれ。」

オキが取り出したカタナは『クモキリ』。今回のボスが大蜘蛛だったのもあっての武器だろう。ステータスは伝説武器クラスではないものの、それに近い強さとレア度だろう。

「ほう。これはなかなか…。」

アインスはすでに『和泉守兼定』を持っている。だが、興味はあったのだろうか。

じっとそれをみて軽く振った。

「いいね。手になじむ。いいのかい?」

「ああ。俺はコイツがあるからな。」

紅い槍。呪いの朱槍。SAO時代からオキのメイン武器となり、こちらでも早速ひっぱった伝説武器クラスの一本。

「使わせてもらおう。ありがとう。」

にっこりと微笑むオキのもとにひとつのメールが届いた。

「あん? メール? …アークス連絡かよ。」

こっちにいるあいだ、アークスの連絡も来るようにシャオにお願いしておいた。その業務連絡メールだった。

内容はスレアの調査依頼だ。

「スレアの調査依頼?」

アインスの顔がすこしだけ曇る。内容自体はただの業種調査だったので大丈夫だと伝えた。アークスが関わっている関係で、ダーカー等の可能性もまだ否定できない。

いつそのような状態になっても責任は取るのが大事だ。

「明日朝一でスレアの病院であれこれ調査してくれってさ。ふーん。ここならシリカ達も世話になってる場所だな。声かけりゃいろいろ教えてくれるだろ。」

メールを閉じた瞬間、背中に衝撃が走った。

「おーきー。たーすーけーてー。」

ユウキが涙を流しながら抱きついてきたのだ。彼女の体はシリカやハシーシュと違い、どちらかというとフィリアよりの良い体をしている。柔らかいものが背中に当たっている。

「どうしたんだよ…。げ、シンキ。」

「よいではないかーよいではないかー。」

どうやら追い掛け回していたらしい。仕方ないので追っ払った。

 

 

 

次の日、オキはスレアの病院に出向いていた。

「アークスのオキだ。先方から連絡はいってるはずだ。」

「はい。案内しますね。」

看護師の女性に案内され、オキは小さな会議室に入った。

今日はスレアの医療関係の調査を行いに出向いたのだった。

 




皆様ごきげんよう。
FGOで剣豪七番勝負が前回投稿直後に始まり、2日で終わらせました。(ダンゾウちゃんはしっかり引っ張りました)
いやー今回すごかったですね。小説に使えそうなネタがいっぱいあってインスピレーションダダ漏れでした。いつかあんなの書きたいな(むり
さて、今回のボスは初代DMCのファントムということで、蜘蛛モードと蠍モードを使い分けました。DMCシリーズの中でもボスの中で一番好きかな。
次回からマザーズロザリオの話が一気に進みます。
原作知ってる人はわかるんじゃないかな?
では次回にまたお会いしましょう。


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第117話 「ユウキのひみつ」

惑星スレア、ニホンの都心部からちょっと離れた団地のはずれにある大きな病院。そこでオキは惑星スレアの技術調査ということで、医療機関の調査依頼に出向いていた。

病院側にはすでに話がとおっており、基礎的な医療技術から、最新の先端技術まで教えてもらうことが出来た。

「ふーむ…。なるほどねぇ。発展した星にしては思ったより進んでんだな。」

会議室の一室を借りて、調査報告のまとめを行っていたオキは改めてこの星の技術力の高さを実感した。

まだまだアナログの部分は多く、オラクル船団のようなフォトンを利用した自然の力を使用したりだとか、体内に眠る潜在力を使うなどまでには至っていない。しかし近い将来、何かしらの発展した技術が出来るのも近いだろう。

ドアのノックが鳴り、看護師と医師の二人が入ってきた。先ほどからずっとオキに技術の話をしてくれている二人だ。

「いやぁ済まないね。」

「お待たせいたしました。」

午前中から話しをしてくれていたのだが、昼になって急に容体が悪くなった患者さんがいたらしい。

「いえ、こちらもお忙しい所にお邪魔してしまい申し訳ない。患者さん、大丈夫でした?」

「ああ。何とか落ち着いてくれたよ。」

白髭の付いた優しそうな顔の医師は額に付いた汗を拭きとりながら微笑んでいた。

何とかなったらしいが、本当に大変だったのだろうと思われる。

おおざっぱではあるが欲しい情報は手に入った。とりあえず、あまり長居しても仕方がないので、最後の調査対象の話を開始した。

「本日はありがとうございました。あまり長居しても仕方がないので最後に一つ。」

「はい。なんでも聞いてください。」

「こちらの資料にある『メディキュボイド』というモノについてですが。」

メディキュボイド。以前シノンこと、詩乃も使用していたと聞くVR技術を医療用に転用した世界初の医療用フルダイブ機器だ。

中にはあの『アーセナル・ギア』が組み込まれており、ベッドと一体化したカプセル状の箱の中に人が入り、その中で眠りながら治療される。説明によれば開発者は違えど、設計者があの萱場だということに引っかかりを感じる。いかんせん一度『アノ』力を手にした男だ。彼自身はすべてを『カーディナルに使用した』と言っていたが、その『カーディナル』がコピーされALOに使用されている。今の所ダーカー因子は皆無ではあるが、どこでなにが起きるかわからない。注意はしておくべきだと踏んだ。

「では実際に見に行ってみましょうか。青野君。よろしく頼むよ。」

「はい。ではこちらに。」

会議室を後にし、病棟を移動したオキと青野という看護師。まだ若い女性だ。実はこの看護師さん。オキが以前、コンビニ強盗を退治した時に助けた車いすの少女と一緒にいた看護師さんだ。

木綿季(ゆうき)ちゃんもこちらにいるので、もしよかった会ってみてくれますか? ふふふ。」

木綿季(ゆうき)という少女はオキが助けた少女だ。どうやらこの病院にいるらしく、看護師さんからお願いされて仕事が終わった後に合うつもりでいたので、ちょうどよかった。

スモークガラスの貼られた大きなセキュリティドアを抜け、あるフロアに移動した。

通路からガラスの向こう側、広い部屋となった場所に多数の機器とカプセル状の大きな機械が並んでいた。

「あれがメディキュボイドです。こちらにいらっしゃる患者さん達は長い闘病生活を余儀なくされる方々です。あちらにいるのが木綿季(ゆうき)ちゃんです。」

車いすに座り、ちょうどメディキュボイドの中にあるベッドに二人の看護師さんに助けられ横になろうとしている最中だった。

「手を振ってあげてください。」

「ん。」

ひらひらと手を振るオキに対し、彼女がオキを見るなり驚いた顔をしてそっぽを向いてしまった。

「おや、嫌われたか。」

「ふふふ。いいえ。恥ずかしいだけと思いますよ。…実は彼女、木綿季(ゆうき)ちゃんはこの間まで元気だったのですが、また症状が悪化しまして…。先ほどの件も彼女なんです。」

メディキュボイドが閉まる様子を見ていた青野は心配そうな顔をしていた。

調査の最中に聞いた話では彼女、紺野 木綿季という少女はかなりの重病を患っている。

出生時に輸血用血液製剤からHIVという病気に感染し、15年間闘病を続けてきた。両親と双子の姉はAIDSというものによりすでに他界しており彼女一人だけとなっているらしい。今は他の患者や看護師などがいるとはいえ、たまに寂しそうな顔をするという。

「一度は良くなりかけたのですが、ここ最近また悪化しまして…。」

医師の見立てではもう長くないという。看護師の口からも言いにくくしていたが、彼女自身がそれを望んでいる節があると聞いた。

すでにメディキュボイドに入った彼女の顔をもう一度思いうかんだ。

『ん? どこかで…。いや気のせいか?』

何かに引っかかりながら、オキは仕事を完了させ、帰路に…

つくつもりった。気が変わりハシーシュこと美優に会いに行った。

シリカこと圭子とデートしたのちにフィリアこと琴音と美優は順番に個別でデートすることになっており、今回はタイミングが合ったので順番が回ってきた美優の番だ。

いつも通り表情のあまり出ない無表情に近い彼女だが、ぴったりと腕にしがみついており、どうやら嬉しそうだ。街中をあるきショッピングをした際、本屋に美優が買いたいものがあるといって立ち寄った。

美優を待っている最中、見つけた医療関係の本の中にある文字を見つけた。手に取りさらっと読んだときに見た独特の形のウィルス。

「HIV、AIDSか。」

どこかでみたと思い、アークスの資料を漁ってみたところ、マトイの定期検診中に暇だったから読んでいた資料にあったやつと酷似していたので、フィリアさんに確認を取ってみた。

「ふむふむ。」

直にフィリアさんから連絡が返ってきた。どうやらかなり昔、オキが生れるとかアークスが生まれるとかよりも前からあったものらしく、今ではその感染病も過去のモノとして消滅してしまってるほど。治療が可能かどうかも聞いてみるとフィリア曰く

「古い病原菌ね。今のオラクルの医療技術なら完全消滅させることは可能よ。ちょっと準備はいるけど。」

と帰ってきた。とはいえ、惑星スレアにこの技術を渡したところで扱いきれないのはオキでも分かる。なぜか。

「結局フォトンなんだよなぁ。」

と大きくため息をついているところに美優が戻ってきた。首をかしげる彼女に場所を移動することを提案した。

キャンプシップへと帰ってきたオキはゆっくりと空をとばし、夕焼けを窓からのぞく美優に先ほどの説明をした。

「HIV、AIDSというのは知っているな? こっちだとかなり有名な病気らしいが。」

こくりと頷く美優。

「この病気は治りにくく、闘病生活も長いと先ほどの本には書いてあった。まぁ俺達からすれば腕が切れるとか足が千切れるとかしない限り病院送りにはそうそうならんからイメージつかんが。ともあれ、治るのはごくわずかとみた。」

更にこくりと美優はうなずいた。無表情ではあるが、目は真剣にこちらを見てくれている。

オキが先ほどため息をついた理由は治療にフォトンを使うからだ。この技術を仮にスレアの医師達に教えたところで、フォトンの扱いが出来ない限り無理だ。

「あの病院にいたあの子、俺が圭子と一緒にいた時に蹴り倒した輩から助けた子だ。せっかく助けたのに死んじまうんじゃぁなんかいやでなぁ。とはいえ、助けもできねぇし…うーんって感じでね。」

美優は少しだけ顔を下に向けた。こういう時は彼女も悲しんでいる証拠だ。

「…すまん。話が重かったな。そういや、さっきの本屋、欲しいのは見つかったか?」

オキが話題を変え、美優はカバンから紙袋に入った本を見せた。

「ん。」

「おお、あったか。よかったな。で? 何買ったんだ?」

がさがさと紙袋を開け、中からたくさんの動物の写真が描かれた本が出てきた。

「フレンズ。」

眼をキラキラさせながらオキに見せる美優。確かに表紙の題名にそう書いてある。

「フレンズ…。」

眼を点にするオキ。その後めちゃくちゃ図鑑を見せられた。

次の日、ALOにログインしたオキはパーティのお礼をしてなかった為にユウキに会いに行った。

ギルド拠点の扉をノックして扉が開くのを待った。あけたのはジュンだ。

「オキさん。いらっしゃい。」

「ユウキはいる?」

そういった直後に中から大きな声が聞こえてきた。

「あー! そうだ! いかなきゃならないところがあったんだ! いってこなくちゃー! あ、オキ! こんにちは!」

「お、おう。」

ユウキがどたばたと外へと走っていき、空を飛んでどこかに行ってしまった。

「用事があったのか。しかたねーな。いつ戻ってくるか…わからんよな。」

オキの言葉に首を横に振るジュンをみて、日を改めることにした。

しかし、次の日も、また次の日もユウキはまるでオキから避けるように何かしらの理由をつけてはオキの前から消え、今日は偶然街中で出会ったところ、目があった瞬間にくるりと来た方向へ反転して走って行ってしまった。

追いかける暇もなく逃げられる姿をみて、偶然近くにいたシンキがにやけながら見ていたので、オキは不機嫌そうに口を開いた。

「なんだよ。」

「なーんにも? ふふふ。」

あれは何かを知っている。しかしあえて言わないのはいつも通りだ。

「何かやったかなぁ。」

「ふむ。私が覚えている限り、パーティの時は問題は見えなかったが。」

アインスにも一応パーティの時に何かやったかを確認したが、オキが何か変なことをやったという事実はない。それをアインスが保証してくれている。

つまり、あっていない次の日に『避ける何か』があったとしか思えない。

色々考えた挙句、なにも思いつかなかったので、再度ユウキに会いに行った。今度は逃がさないつもりだ。

何度訪れたか。スリーピングナイツの扉を叩こうとした瞬間。扉がちょうど開き、ユウキとばったりお見合いした。

「あ。」

「ユ…。」

ユウキいたのか、と言おうとした瞬間に、ものすごい勢いで真横をすり抜け、空へと飛びあがったユウキ。

「逃すか!」

オキも負けじと羽を広げ、空へと飛び上がった。

「まてよ!」

「やだ!」

一度夜空を高高度まで上がったのち、月をバックに急降下したユウキを追いかけた。

「にゃろ…!」

急降下し続けるユウキに、それを追いかけるオキ。自分の出せる最大速度をお互いに出している。

雲を抜け、目の前には湖。それを水面ギリギリで交わすユウキとオキ。水面を猛スピードで飛び、大きく水が跳ねる。

湖を抜けた先の森にそのままのスピードで飛び込む。木々が邪魔し、思うように追いかけれない。しかし向こうも同じだ。

先に根を上げたのは。

「ぎゃっ!?」

ユウキだった。小さな小枝に額が当たったみたいだ。そのまま枝をなぎ倒し、土煙を上げながら地面を転がるユウキ。

「ユウキ! 大丈夫か!?」

「…っ!?」

それでもまだ走ろうとするユウキの腕を握るオキ。

「なぜ、俺を避ける! そんなに嫌いになったのか!? 俺が何をした! 悪い事をしたなら…。」

「オキは…悪い事なんかしてない! 嫌いになってなんかない! むしろ…僕は…僕は…。」

顔を上げるとそこには涙を流しているユウキの顔が現れた。あの天真爛漫なユウキが涙を流したのを見たのはこれが初めてだ。。わんわん泣き出してしまったユウキを目の前に、オキはどうしていいのかわからず、彼女が落ち着くまで頭に手を置き、ゆっくりと撫でてやった。

しばらくしてようやく落ち着いたのか目を擦り、無理やり笑顔を見せてきた。

「落ち着いたか?」

「うん…。」

まだぐすりとしているユウキ。笑顔を作って入るものの、まだ不安を隠しきれていない。体が震えているからだ。

「無理はすんな。抱え込んでも仕方ねぇべ。さっきも言った通り、悪い事したなら謝るし、何かあったなら相談ものる。俺は大体なんでもできるアークスだぞ。」

それを聞いてユウキはクスリと、ようやく本心から笑ってくれた。

「ふふふ。そうだよね。オキはアークスだもんね。強盗だって簡単に倒しちゃう凄い人なんだもんね。」

「そうだぞー? って…あれ? 俺が強盗倒したって言ったか? あの時、動画になったやつは俺の顔は…。」

見えなくなっていたはずだ。スピードもそのように調整したつもりだ。

「うん。見えなかったよ? 動ニュースではね。僕は、あの場に居たんだ。助けてくれて、ありがとう。アークスさん。」

ペコリとお辞儀するユウキ。それをみてようやく合点がいった。

「おま…まさか!?」

「そう。僕はあの時の…そして今日見た木綿季(ゆうき)だよ。」

オキは目を見開いた。あの時見た時は気付かなかったが、今ならわかる。あの病院の少女と、一致した。




みなさまごきげんよう。
世間はハロウィン一色。ソシャゲもオンゲもイベント一色でどれから手をつけていいやら…。マスターに、提督業に、アークス…は最近やってないな。
手と時間と端末が足りません。
さて、今回は…そのままですね。強盗を倒したというところは第4章の番外編にて。
ユウキと木綿季が繋がりました。このあとどうするかが私のやりたいこと。やりたかったこと。自己満足を思う存分やりたいと思います。
今更? ではどうかお付き合いください。
それではまた次回お会い致しましょう。


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第118話 「選択」

マイルームのチャイムが部屋に鳴り響き、サポートパートナーのアオイがそれに対応した。

「どちら様でございましょう。ああ、ハヤマ様でございますね。少々お待ちください。」

アオイがロックを解除し、ハヤマとコマチを引き入れた。

「こんにちはアオイちゃん。」

「ドーモ、アオイサン。コマチです。」

ぺこりとアオイもお辞儀をして、はっと何かを思い出したかのように、ルームのほうへ顔を向けた。

ハヤマはそれを察し、ルームの中を軽く覗いた。

「リーダーは?」

「それが…。惑星スレアからお戻りになられた後、すぐに部屋へとはいられまして…。」

ハヤマとコマチは顔を見合わせ、オキの部屋の扉を叩いた。しかし、返事は帰ってこない。

「倒れてるとか無いよね?」

「いえ、先ほどもお茶をお渡しいたしましたが、なにやら調べものをされているようで。」

んー、と首をかしげるアオイ。内容はアオイにも伝わっていないらしい。

ハヤマとコマチは入っていいかの確認をアオイにとり、誰も通すなとも言われてないため、部屋へ通した。

「リーダー。いる?」

ハヤマとコマチが部屋へ入ると、オキが机に向かって何かを読みながら、何かを書いては消してを繰り返しているところだった。

「リーダー!」

「おおう!? なんだ、はやまんと…コマッチーか。久々じゃねーか。」

オキは時計をみて休憩かなとつぶやき、二人をテラスのテーブルに案内した。

「どうだ? そっちは落ち着いたか?」

オキは背伸びをして、休憩がてらテラスでタバコを吸いながら久しぶりに帰ってきたコマチに近況を確認した。

「まぁな。だがすぐにたたなきゃならん。帰ってきたのも補給とアークスの更新のためだ。」

ずっといなくなったままでは行方不明状態になってしまう。そのために長期間ほかの場所で活動する場合、不定期でもいいから帰ってくる必要があった。

コマチはファータ・グランデ宙域と呼ばれる場所で起きた異変の解決に尽力してもらっている。そちらもそちらでいろいろ起きているらしく、せわしなく飛び回っているそうだ。

「おっと、時間だ。それじゃあなリーダー。次帰ってくるときは子供の顔、見せろよ。」

「うっせ。つーか、そんなに長い間留守にするんじゃねーよ。」

オキの言葉を背中に受けながら、コマチは笑いながら部屋を出て行った。

「ったく。いくら向こうが大変だからってこっちに顔ださねーのは何とかならんか。」

「仕方ないよ。あれがコマチだもん。」

「あら? お茶の準備が整いましたのに…。コマチ様はもう行かれたのですか?」

身体の横で手を広げて首をかしげるオキと苦笑するハヤマ。

「ところで、何を唸りながら書いてたの?」

「ああ、あれか。」

オキがハヤマに資料を渡した。そこにはハヤマの予想を上回る内容が書かれていた。

「ちょ、これまじでやるつもり!?」

「アークス史上実例無し。とはいえ、マトイちゃんの件もあるし、一人や二人、増えるのは問題ないだろう。だが問題となるのは相手側だ。」

オキがやろうとしている事。アークス史上、そのような事があったわけでもない。しかしアークス発足の前、フォトナーがいた時代。星間同士で交流があった時代には『あったかもしれない』と、ある人物からの話だった。

フォトナー最後の生き残りにして最初の『若人』。アウロラ。

惑星リリーパにて復活したDF『若人』本体の再度封印を手伝い、現在ではアフィンの姉、ユクリータの相棒としてくっついている。彼女に相談したオキはかつてのフォトナー達の時代の話を聞いて、それを報告書にし、アークス側には納得させた。

「というか、無理やりお願いしてきたんだけど。」:

へらへらと笑うオキに対し、ハヤマはオキのお願いがどれだけ無理やり通したかを呆れながら認識した。

「問題は向こうさんだ。一人助けるとなるとほかの人も助けなければならんとか言ってきそうでな。」

「たしかにねー。」

技術がある。そうなるとほかにも病気の者がいるとお願いされる可能性もある。

うーん、と唸っている最中にミケがお茶と菓子をあぐあぐしながら一言ほおり投げた。

「なんでバカ正直に言うのだ? てきとーにでっちあげればいいのだー。」

「でっちあげる? あ! それ俺の菓子!」

はははーと笑いながら逃げて行ったミケ。何しに来たのだろうと首をかしげるハヤマ。まったくと言いながらタバコに火を付けた瞬間だった。オキの脳裏に一つの案が生れた。

「そうか…その手があったか。」

「え?」

オキは再びメモを走り書きにし、それをガリガリと書き始めた。

ALO、とある山奥の庭園。ここには各種族長が使用する会議席が設けられている。

普段は族長がそれぞれの領域の問題、課題を話し合う場ではあるのだが、そうめったに使用しないのと、エネミーも出没しない場の為、他のプレイヤーはめったに来ない。

そこにオキはユウキとスリーピングナイツメンバー、アークスメンバー(ミケ除く)、そして今回この場を貸してくれたシルフの長、サクヤとケットシーの長、アリシャとで訪れた。

「いやぁ、今回の場をお貸ししていただき、ありがとうございました。」

「いやいや。君たちアーク‘sには、こちらも世話になってるしな。」

「そうそう。私たちと一緒に冒険できるト、面白いものいっぱいみれるしネ。これくらいかまわないヨー。それじゃ、終わったラ、連絡頂戴ネ。」

掌をひらひらとさせながら翼を広げて飛んで行った長二人。そして残ったメンバーを席に座らせた。

「今回ここに集まってもらったのは他でもない。ユウキについてだ。」

言葉を聞いてビクリと体を震わせるユウキが心配そうにこっちを見た。

「安心しろ。ここにいるメンバー全員アークスだ。おれと一緒で空の彼方から来た猛者どもよ。」

話は知っていると説明し、今回この場に集まってもらったのはオキが今後やらかそうとしている内容を共有し、本人の意思を確認するためだ。

オキは初めにアークスである事、ここにいるメンバー全員がオラクル船団の住民であり、日々命を懸けて戦っているモノだというのを改めて説明した。そして今回の大題を話した。

「これから話す内容は本人の意思による決定で開始されること前提だが、オラクル船団、及び惑星スレアにとってかなり大きな話となる。それを心に入れておいてくれ。冗談で話しているつもりは一切ない。俺がこれから話す内容は本当の話であり、その準備もできているということを先に知っておいてほしい。」

オキはゆっくりとユウキに顔を向けた。そして優しく頭をなで、落ち着いて聞くようにと話しかけた。

「ユウキが重い病にかかっているのは皆知っているな? アークスメンバーは一部を除いて俺から話し、とある二人はすでに答えが見えていたと思う。」

ハヤマとアインス、クロはコクリと頷き、シンキはゆったりと座り、微笑んだままだった。

オキがアークスの仕事で惑星スレアの医療技術を調べ、ある病院に行ったときに、その少女をみた。

彼女はオキが偶然とはいえ、強盗から助けた少女。そして命が危ない状態まで病が体をむしばんでいる事も知った。

「せっかく助けたのに残念だと思ってた。だから俺は、ユウキを助けることにした。」

オキの言葉に、その場にいた一部を除いた者達は大いに驚いた。

「え? …え!?」

ユウキもオキが何を言っているのかを理解できていない。あまりにも突拍子すぎる言葉だった。

「ユウキの病気は治せる。オラクル船団でならな。」

惑星スレアの医療技術よりも発達しているオラクル船団。

スレアでは治療が難航する難病であろうと、オラクル船団でならそれを可能とする。

「うそ・・・じゃないよね? 本当なんだよね!?」

ユウキも目を大きく見開いてオキを見る。そりゃそうだ。もうすぐ死ぬ運命だと思っていた少女がいきなり提示された内容だ。

「条件はある。フォトンの技術…ああ、そっちのメンバーはフォトンがわからんか。簡単に言えば俺たちアークスが使う能力だと思えばいい。」

かなり大雑把に説明したが間違ってはいない。

条件はユウキが治療を受けるためにオラクル船団へと来ること。そして二度とスレアへは戻れないこと。

「つまり死ぬまで宇宙だ。あぁ、安心しろ。生活なら俺が援助する。ひとりや二人、人が増えたところで生活費には困ってないからな。」

スレア側にはすでに別方面から説明がいっている。オキの仕事はユウキにそれを伝え、どうするかを決めさせる。

「考えている時間もない。が、いきなり言われてもさすがに混乱もするだろう。猶予は1日だ。ゆっくり考えるといい。ほかに質問がある人は俺やここにいるメンバーが答えるぞ。」

オキが立ち上がり、いちど長テーブルを後にした。少し離れた場所でタバコに火をつけたオキはゆっくりと煙を吐き出した。

「思い切ったことをするわねぇ。オキちゃん。」

「別にいいだろ。好きでやっただけだ。それに、シンキはすでに先も見えているのだろう?」

「べーつにぃ?」

ふふふと微笑むシンキの顔をみたオキは何もかもわかっている顔だと判断した。

「そうそうオキちゃん! そんなことよりさ、これこれ!」

シンキがある情報をオキへと見せた。なにかのチラシのようだ。

「んー? なに?」

シンキが見せたのはとあるチラシ。

「ふーん。こっちでもやるんだ。でもなぁさすがに今回の件が…。」

「優勝したらどうなるか、みて?」

オキがそこに描かれていた商品をみてニヤリと口元を歪ませた。

シンキもそれを見て予想通りだと微笑む。

「オキ…。」

後ろから小さな声が聞こえてきた。ユウキが何かを決断したようだ。

だが、オキはそれでもこういった。

「まだ、考える時間はあるぞ?」

ユウキはその言葉を受けても首を横に振った。

「ボク、まだ生きていたい。この体が治るなら、なんだってやってみせる。メディキュボイドにだって、一番最初に被験者となったのも、お姉ちゃんを助けるためだったんだ。」

ユウキには姉がいた。だが数年前にユウキよりも早く同じく難病で死去。親も同様で、彼女にはもう家族がいなかった。

オキはそれを病院の資料で読ませてもらっていた。姉を助けるために、自分の体を利用して治療方法を探していた小さな少女。だが姉も父も母も既にいない彼女は生きる目標を失っていた。

だからこそ、オキがユウキを引き取る理由にもなった。

「その言葉が聞きたかった。」

生きていたい。ユウキの口からそれを聞くことが、今回の目標だった。

「ユウキ。必ず治してやる。そして、決着を付けよう。俺と、お前の約束だろう? また戦おうって。」

オキとユウキが初めて出会い、初めて剣を合わせた時、約束した。

必ずまた会おう。次こそは絶対に勝つ。次も負けないと。

その言葉を思い返し、ユウキはオキの見せたチラシを見て力強く頷いた。

オキが見せたチラシ。ALO全域のプレイヤーを対象にした大会、コロシアムの開催がそこに記載されていた。




みなさまごきげんよう。
風邪ひいたぁぁぁ。まさかあんなに辛いとは…。みなさまもお気をつけて。
とうとう来てしまった、今章の原作ブレイカー『ユ ウ キ 生 存 ル ー ト』。
フォトン万能説は伊達じゃない。気に入った人を目の前でみすみす死なせやしないのがオキです。更にはコロシアム回確定です。
今度はどんな戦いができるかな。楽しみです。
さて、話は変わり先々週に発売されたPS4ソフト『.hack G.U,』の復刻版。
懐かしすぎて涙出そうでした。SAOとは違ったオンラインゲーム『The World』を舞台にした物語。個人的にはSAOとどっちがいい? と聞かれると.hackを選ぶくらい好きです。
あっちもあっちで書いてみたいけど、時間がないですハイ…。
ではまた次回にお会い致しましょう。


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第119話 「命の恩人」

オラクル船団、アークスシップの一つ。医療機関が集中した艦にオキはいた。

心配そうに見守る先にはいくつもの大型の機器が並び、厳重に管理されたカプセルが一つ。その中に一人の少女が入っていた。

「おい、これでいいのか?」

「ええ。そう。そのままゆっくり。」

フィリアに指示されながら、機器の一つにフォトンを注入していく。

眠っている少女の身体の周りを包み込むように、優しく、守るようにフォトンを展開した。

前日、惑星スレアの都心部にある病院屋上。

「では、よろしくお願いいたします。」

「ええ。後はこちらで。」

医師や看護師など、彼女を助けようと奮闘した人たちが、そして彼女の仲間たちが見守る中、木綿季はアークスシップへと向かうべく、キャンプシップに乗った。

「ほれ、手ぇふってやんな。」

「うん…。」

キャンプシップに乗ったユウキは屋上にいるお世話になった人や、仲間たちに手を振りながら空へと飛んだ。

『彼女の身体にはフォトンを扱う潜在能力が見られる。』

惑星スレアの医学界に大きな波紋を生んだ。国の上層ではオキの想像もつかない騒ぎとなったという。

フォトンを扱える以上、オラクル船団で過ごす必要がある。そのような情報を『流した』オキは、木綿季の病気を治すために、アークスシップへと彼女を連れだしたのだった。

「にしてもよかったんですか? あんな嘘を…。」

「しかたねーべ。ユウキだけ助けて他の人を助けないんですか? ひいきか! って言われたら面倒だし。」

ユウキ、彼女にフォトンが扱えるという情報は嘘である。オキはユウキを助けたいがために連れ出しただけで、他の人まで面倒をみるきはさらさらなかった。そのため、彼女をアークスシップへ連れてくる嘘としてこのような情報を流した。

軽い拉致である。

「ユウキの仲間の病気はユウキより軽いうえに、あっちに渡した技術で治すことが出来る。だが、こいつのはそうもいかんのだろう?」

「ええ。フォトンを使用する以上、こちらで治療するしかありませんし、その後の経過を見る為に、長い間こちらで過ごしてもらう必要があります。どのような影響があるかわかりませんから…。」

スレアの生態調査はキリト達のおかげでスムーズに行えている。ほぼオラクル船団の住民と同じ生体をしている為、治療可能と踏んだ。しかしフォトンを扱う以上、経過を見る必要がある。そのためにはこちらに住んでもらう必要があった。

すべての条件をのんだユウキはこうしてオラクル船団へ連れてこられたのだった。

数時間がたち、フィリア以下医療班による治療が行われ、オキはフォトン抽出が終わるとその場を彼女たちに託し、治療室の前でじっと待った。

「タバコ、吸ってくるか。」

100%の保証がされているとはいえ、やはり心配である。落ち着かない状態を抑える為に喫煙所へと向かった。

その途中、様子を見に来たマトイとアオイに出会った。

「オキ。」

「マスター。」

ペコリ小さくお辞儀をするアオイの頭を軽く撫で、マトイから大きな袋を受け取った。

「これは?」

「必要だからってシンキが渡してくれたの。」

袋の中身を確認すると大量の洋服が入っていた。

シンキは『女の子には大事でしょ?』と言っていたらしい。相変わらず彼女には頭が上がらない。あとで礼を言っておくことにしたオキはアオイに部屋へと持っていくように指示した。

「ユウキちゃん、大丈夫?」

「ああ。フィリアさんに任せてあるからな。フィリアさんに任せとけば何とかなるだろ。」

マトイもフィリア達医療班の腕はよく知っている。だからこそ納得した・

「ユウキちゃんが退院したらオキの部屋に住むって聞いたけど。」

「まぁな。あんだけ広い部屋なんだ。一人くらい増えたって問題ないだろ?」

ユウキは途中経過のために一時病棟に入るが、その後はオキの部屋に住むことになっている。

その為今オキのマイルームは大改造中である。

「そういえば、最近なんかあわただしく動いてるが、なんかあったのか?」

マトイをはじめ、アークス上層部がなにやら忙しく動いている気配があった。

急を要する話じゃないのは知っているが、詳細まではオキまで伝わっていない。

ウルク曰く

「もう少ししたらわかるからちょっとまっててね。」

と笑顔で話していた。

「んー。まだ内緒だって。あ、でも一つだけ。」

小悪魔のように笑顔になったマトイの顔が少しだけ曇った。

最近、アークスに登録されていないアークスが増えているらしい。今の所問題は起きていないらしいが、不気味である。

マトイはその先陣として調査を行っているらしい。

本来、アークスは生まれながらにしてフォトンを扱える能力があって初めてアークス訓練学校へ、そして卒業してアークスとなれる。オキもその道をたどった。卒業した時点でアークスとして登録されるのだが、その登録がされていないアークスがシップ内をうろちょろしているらしい。

マトイはまだ調査段階で、実際に見たわけでもないのだが、履歴には残っているという。

「ふむ。アークスに登録されてないアークス…ねぇ。」

「不思議な情報だな。」

「ふーん。」

マトイと別れ、喫煙所へと向かう途中アインス、シンキに出会ったのでタバコを吸いながら話をすることにしたオキは先ほどの話を二人にした。アインスは軽く目を細め不思議そうにしていたが、シンキは何かを考えている様子だった。

「シンキ、何か知ってるか?」

「いいえ? ただ、嫌悪感…かしら。そんな感じがしただけよ。」

シンキが嫌悪する相手ということだろうか。珍しいシンキの表情を首をかしげてみていると不意に笑顔になり別の話題を持ってきた。

「ところで…。例のコロシアムの件、参加するメンバーの名前、登録してきたわ。」

「ああ、コロシアムか? 今回参加は誰だ?」

オキとユウキは約束を果たすために、すでに登録済みである。期日は1か月後なので、順調にいけばユウキも参加できる体調に戻っているだろうと予測した。

「俺と、ハヤマ君、シンキ君にクロノス君だ。」

「ミケは?」

「興味ないそうだ。」

はははと笑いながらいうアインス。シンキはうきうきしながらどうやって闘おうかなと言っていた。

そんな最中、オキへフィリアから連絡が入った。

「目が覚めたって!?」

「…! オキ…?」

病室に入るとフィリアがユウキの状態を確認している所だった。

「よかった…目が覚めたか。ほんとによかった…。」

「大丈夫よ。安心して。副作用も見当たらない。状態良好。まだフォトンの力が抜け切れてないから怠く感じるかもしれないけど、すぐよくなるわ。」

メモを取るフィリアはオキの肩に手を置いた。

「それじゃあ私は部屋を出てナースセンターにいるから、いい? 治ったからといって無茶しちゃだめよ?」

「え? あ、はい。」

何か勘違いしていないだろうか。まぁそんなことはどうでもいい。

「よう。元気か?」

「うん。なんかすごく元気。こんな感じ、久しぶりな気がする。」

オキはベッドの横まで歩いていき、ユウキの近くに座った。

「あれこれ言っておきながら結局心配だったなぁ。全く、すまない事をしたな。」

「ううん。大丈夫。オキの事、信用してたから。だから怖くなんかなかったよ。それにしてもすごいね。フィリア、さんだっけ? 聞いたら本当に悪い菌、全部無くなっちゃってるっていうんだもん。ねぇ、嘘…じゃないよね? 僕、もう自由に歩けるんだよね?」

「当たり前だ。アークスの技量なめんな。とはいえ、初めに話した通り、このアークスシップからは離れられないけどな。」

オキは窓のカーテンを少しだけ開けた。外には数々のアークスシップとその後方にマザーシップが見える。

「ねぇ、本当に宇宙なの? よかったら見せてほしいな。」

ユウキがこちらにわたってきたときはすでに眠っている状態で、そのまま医療病棟行だった。

そのため、ユウキは宇宙にいることを知らない。

「ん? りょーかい。」

ユウキは布団を取ってベッドの淵に座った。オキはユウキの体を持って抱き寄せた。つまりはお姫様抱っこだ。

「う、うわぁ!」

「びっくりしたか? おろした方がいいか? こっちの方が体の負担もないかと思ったんだが。」

「大丈夫。少しびっくりしただけ。えへへ。」

「そうか?」

ぴったりとオキに体を預けたユウキを見て、オキは少し安心した。窓の近くまで歩いていき、両手がふさがってるのでユウキにカーテンを開けさせた。

「えい! うわぁ! これがあのアークスシップ? すごいすごい! 本当に宇宙にいるんだ! あの大きなのは?」

「あれはマザーシップ。オラクルの中心であり俺たちの原動力。」

「きれいだねぇ。」

オキとユウキはしばらく外を眺めていた。その時、扉のノックの音が聞こえた。

「おっと。ベッドに戻すよ。」

「うん。」

オキはベッドにゆっくりとユウキを下した。

「どうぞ。」

ユウキが答えると扉が開き、そこにはシャオが立っていた。

「やぁ。君がユウキさんだね。僕はシャオ。

室内に入ってきたシャオはユウキに挨拶をした。

「どうした? お前が直接くるって珍しいじゃねーか。」

「うん。ユウキさんに少しお話があってね。」

コホンと咳払いしたシャオは話を続けた。

「さてユウキさん。君はここでフォトンを使って排除した、という説明は聞いたよね?」

シャオが空中に浮かべた写真を見せながら説明を始めた。ユウキはそれに頷く。

「うん。聞いたよ。すごいよね。本当はできるはずのない事なのに簡単にやっちゃうんだもん。」

シャオは今後の話を進めた。すでに了承済みではあるが、念のためである。

アークスシップは以前の、ルーサーの居た時代よりかは安定している。だが、惑星スレアよりも脅威はある。

ダーカーの襲撃、宇宙にいるという状態。それらすべてを踏まえ、再三の確認を行った。

「うん。大丈夫!ボクはオキと一緒にいたいんだ! だって、ボクの命を救ってくれたのは、オキなんでしょ? ボクの中の菌を排除する為にその、フォトンを使用したのって。だからオキは命の恩人。ボクの一生をかけてでも恩返しをするよ。」

「…。」

オキがフォトンを使ったことについては説明をしていない。それがわかるとは。オキは目を丸くし、シャオはそれを聞いて大爆笑だ。

「…あっはっはっは! ここまでとは思っていなかったよ。オキ、君はものすごい人と出会ったんだね。やっぱり人ってすごいや! あははは!」

普通の、ユウキのような一般人にはフォトンを感じることはできない。それこそ個人を特定することは不可能だ。

「マジカ。しかし、よくわかったな。俺の使用したフォトンだって。」

「うん。だって、わかるもん。眠っている間、ずっとボクのこと励ましてくれてたみたいで、ボクの事を守ってくれてる夢を見たんだ。そして起きてから実感した。やっぱりオキのだって。うれしかった。温かかった。だからすごく感謝してるんだよ?」

そういってオキの腕を引っ張って体を近づけオキの頬にキスをした。

「んな…!?」

「ひゅー。」

驚くオキに、にやけるシャオ。そして驚くオキを抱きして目一杯の笑顔で叫んだ。

「オキ、だーいすき!」

ユウキの体調はみるみるよくなっていった。しばらくは動けない状態だったがすぐに体も歩ける状態に回復。現在ではアークスシップの医療施設内だけでなく、オキ同伴限定ではあるが、アークスシップ内を歩けるまでに回復した。そんなしばらくたってからの事。

「どういう事か、説明してもらっていいですか? オーキーさん?」

「こ、怖いっす。圭子さん…。」

ユウキが回復したと聞き、定期船でアークスシップへ遊びに来たキリト達。そんな中シリカはナースたちからユウキがオキの部屋に住みこむという話を聞き、今オキは阿修羅のような形相をしている圭子達の前で正座をさせられていた。

「いくら遠いとはいえ…説明を怠ったのはだめよねぇ。オキ?」

琴音(フィリア)、美憂(ハシーシュ)もそれに加わる。男性陣は遠くからそれを合唱しながら眺めていた。

「いや、そのいろいろあって…。」

「怠慢…ダメ。」

3方向からなる角の生えた彼女たちに囲まれ、暫く言い訳をするオキ。

実は今回の話、軽くは行っていたものの、オキの部屋に住みこむ話まではしていなかった。

理由は簡単。忘れていただけだ。これはオキが悪い。よって助け舟の無いままアークスシップのど真ん中でヒソヒソと周囲のアークス達に冷たい目で見られながら少女たちに怒られる姿はしばらく噂になる羽目になったのはしばらくしてからだった。

暫くして、ユウキがアークスシップに来てから1カ月がだった後。

ALOでは大きな祭が開かれた。中央区にある大きなコロシアム。これはSAOのアインクラッドにあるコロシアムよりも大きいものだ。そこでALO全域を対象にした闘技大会が開かれた。

「準備は?」

「万端!」

元気になったユウキ。その姿をみたスリーピングナイツメンバーは泣きながら彼女を再び迎えたという。

スリーピングナイツの重病者たちもその後、オラクルの技術によりその病気はよい経過を迎えているという。

内半分はもう少しで一般病棟に移ることも可能だという話を聞いてユウキは大いに喜んでいた。

ユウキはオキが使っているオラクル船団版のナーヴギアを使ってALOにログインし始め、そして今日。コロシアム開催の日となった。

参加者はオキ、ユウキ。そしてアインス、シンキ、ハヤマにクロ。キリト達も参戦することになっていた。

「今度は勝たせてもらうよ。オキさん。」

「っは。どれだけ強くなったか、試させてもらおうじゃねーか。」

打倒オキを目標にするキリトに、再びアインスに挑もうとするソウジ。

かつてのSAO討議大会のメンバーが半数以上そろっていた。周囲には予選に参加するプレイヤー達も大勢いる。

その中でわずかな人数が本戦のトーナメントに出場できることとなっていた。

枠は10人。アーク’sメンバーはその有力候補として、周囲にいるプレイヤーから言葉が聞こえていた。

そんな中、なにやら騒ぎがあった。運営側の人たちがなにやら騒いでいるのをオキが見かけたのだ。

「なんかあったんすか?」

「ああいや、実は実況者の担当が急病で倒れてしまって…今どうするかと。申し訳ない。騒がせてしまいましたね。」

運営の人は困った顔をしており、そのほかの人たちも忙しそうに何やらあちこちに連絡をしているようだ。

「ふーむ。もしお手伝いできるのであれば、うちから実況の経験者を一人出せますが。」

「ほんとかい!? 本当ならダメなのだが、緊急だ。こちらもそのように動こう。いやぁ本当にありがたい!」 おい!」

他の運営する係の人に話をし、オキはディアベルに連絡。キバオウを連れてきてもらうことに。

「なんやオキはん。実況ワイがやってええんか?」

「説明はさっきした通りだ。いつものようにやってくれ。」

ニカっとわらったキバオウはマイク片手に大きな舞台へと声を張り上げ、それを合図にALO大闘技大会がはじまった。




ユウキ生存ルート確定! これがやりたかった。
はい。好き勝手やりたい放題書いているSAOを見ていただいてる皆さま、ごきげんよう。
次回よりコロシアム編に再び入ります。戦い方もALOでの戦い方になるので、アークスの武器や能力は使えません。
だってアークスの力使ったらシンキの力で鯖落ちる…。
ちょっと違う作品からの参戦者もあるから少しだけコラボするよ。お楽しみに。
今度は前回と違ってさらっとメインメンバーのみを抜粋するつもり。
次の章が長いからね。今回途中でその先立ちとしてさらっと書かれています。アークスの皆は分かるはず。

さて、話は変わりどっぷりアズールレーンにはまった私やハヤマにミケ。FGOでのイベントもしっかり終えて
次の魔女裁判に対して準備万端。いやぁ楽しみですね。

では次回またお会いしましょう。


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第120話 「嵐の前の静けさ」

ALOの闘技大会の予選が2日にわたって開催された。

ALOのプレイヤー全員に参加権が有り、優勝賞金であるゲーム内マネーもかなりの額だ。

参加者もかなり多かった。予選を勝ち抜き、本戦に進めるのはたった14人。

その14の枠を狙わんと多くのプレイヤーが腕を振るおうとした。

しかし・・・。

 

アーク's仮拠点、キリトの家の近くにある湖のほとりで本戦進出おめでとう会を開くことになったオキたちは、今日までの予選を思い返しながらBBQをしていた。

「いやーしょっぱな面白かったなぁ。」

「シンキ君には感謝だな。言われた通りに動いたら一瞬だった。」

「さすがの隊長も呆然としてたもんねー。」

オキ、アインス、ハヤマは無事に本戦へと勝ち進んだ。

「そのあとのみんなの動き、みてて笑っちゃったよ。」

もちろんユウキも本戦へと進出した。

オキ達がみた光景は、一番最初の予選ブロックの戦い。真四角のリング場で25人のプレイヤーがバトルロイヤルを行うもの。最後の一人が次の予選へと進出する仕組みだった。

Aブロックだったアインスは事前にシンキの助言を聞いており、開始と同時にリングの端へと移動していた。その直後だ。魔法という魔法の嵐がリング場に降り注ぎ、何もしていないアインスだけがその場に立っていたという状況になっていた。

そう。参加プレイヤー全員がそれぞれ別々のプレイヤーを狙っており、開始と同時に発動。しかし発動したものがまた別の者に、その者はまた別とリング上のほぼすべてが攻撃魔法で埋まってしまい、ほぼ同時にアインス以外が脱落するという状況となってしまった。

その後の予選ではそれを見たプレイヤーがしどろもどろとなってしまい、様子を見るプレイヤーが多数続出。開始後に動きやすくなった魔法メイン職以外のプレイヤーがザックザックと魔法職を切っていくこととなった。

「ALOで魔法一強と言われていた時代はおわった。」

サラマンダーの副将軍ユージーンは一言そう言った。

「原因は君たちでもあるのだがね。」

笑顔でさらにそう付け加えた彼もまた本戦へと進出した一人だ。彼は前回の闘技大会覇者でもあり、本来なら本戦は確定していたのだが、彼はそれを辞退。

予選から始めることで対等となることを選んだ。が、それも意味を成さなかったようだが。そのため、彼と勝ち残った9人のうち1人が抽選でシードを得ることとなっていたが、それも辞退。結局全員で抽選することになり、ハヤマがそれに当たった。

もう一つはアインスが手にした。

「しっかし、オキさんも大変だねぇ。ほぼアークス相手じゃん。」

ハヤマがトーナメント表を見ながら呟いた。

本戦に出場したのは以下のメンバーだ

 

1,アインス

2,ヨウコウ

2,タカハタ

3,ユウキ

3,エリック

4,クロ

4,ユージーン

5,キリト

5,ハセオ

6,スノハラ

6,シンキ

7,セツナ

7,オキ

8,ハヤマ

 

数字が最初の戦いのペアになる。

「知らない名前もあるな。」

オキ達は有名なプレイヤーであっても興味がないのでしらない方が多い。

そのため、今回の参加者も顔見知り以外は初めて見るのが数名いた。

「魔法職の強いメンバーが予選落ちしたからネー。そこで有名なのハ…。」

もぐもぐと串についた野菜を食べながら歩いてきたアルゴが説明した。

上からヨウコウ。彼女は前闘技大会の準優勝で、普段のコロシアムの有名人らしい。

コロシアムというものがあることを知ってはいたものの、オキ達が求める強さの者はいなかったので興味がなかった。

「強いのか?」

「んー。強いけド、その相手がネー。」

オキの質問に苦笑気味のアルゴ。

タカハタ。彼はデスメガネと呼ばれるグラップラーらしい。

自らに強化バフを込めて戦うスタイルらしいが、その戦い方が不思議な戦い方をするとか。名前からして恐ろしいように見えるが普段の彼は温厚らしい。

エリック。上級装備を身につけた上級者らしい。だがそこまで有名でもないとか。

「俺の相手はハセオというやつか。」

キリトもオキたちの話に加わってきた。ハセオはオキも見た。

真っ黒な鎧を来た鋭い目つきの男だ。先に説明のあったヨウコウと仲がいいらしいとアルゴはいう。キリトとの対決が決まった瞬間、キリトの前に現れ

「必ず倒す。」

と言い残して去っていった。

「なんか、似た雰囲気のあるヤツだった。」

キリトと似ているか?とオキは思ったが、本人はなにかしら惹かれるところがあるようだ。

ハセオ。『死の恐怖』の名を持つPKK(PKキラー)だ。PK、つまりプレイヤーを倒せるALOではPKを主に行うプレイヤーも少なくない。そんな相手を見つけてはかたっぱしから倒していくプレイヤーが彼らしく、PKプレイヤーたちから恐れられているらしい。

「噂だと、ヨウコウを倒すためだとかなんとか。」

なにかしらの因縁があるのだろうか。

スノハラ。これにはアルゴもよくわからないらしい。

どうも運良く出場できたのではないかと思われるプレイヤーだとか。強運もちなのか。

最後にセツナ。彼女は刀を使う剣士らしく、かなり強いらしい。

それを聞いてオキは自分の握りこぶしをみてニヤリと笑った。

強い奴、今回も楽しめそうだ。

だが、目的を忘れてはいけない。オキの目的はユウキとの再戦。今回は止めるものがない。止まることのできない戦いだ。さいごまで戦うことが出来ることを思うと高ぶる気持ちを抑えきれない。

それはその場にいた参加者全員がそう思っていた。

 

 

当日。大盛況の中コロシアムは開始された。

大勢の歓声の中、参加者が集う。お互いににらみ合い、両者が激突する瞬間が今まさに訪れようとした。

「必ず勝つよー。」

「っは! かえりうちじゃ!」

オキとユウキはお互いに勝ち残ることを約束した。




みなさまごきげんよう。
FGOにアズールレーン、最近崩壊3dも始めたのでゲームが忙しい!
そんな嬉しい悲鳴の中、FGOの最新章セイレムが開始され、やりながらこれを書いてます。
さて、今回からコロシアム編。話数的に5話くらいを目処。
これが終わればEP4へと進む予定です。年越しそう…。
今回は少ないですが、これにて。
ではまた次回お会い致しましょう。


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第121話 「ALO闘技大会開始」

ALO最大級の闘技大会の本戦。

それは多くのプレイヤー達が観戦するコロシアムで行われた。

歓声の上がるコロシアムの中央にはフィールドが。あり、それを囲むように壁がある。

その壁の外側に司会席、出場者の控え席、その更に外側には壇場の観戦席となっている。

コロシアムの外ではALO最大級のお祭りということもあり、商人達が屋台を沢山出店していた。

「オキさん、屋台ではし巻き買ってきました!」

「おうサンキュ。」

シリカからはし巻きを受け取り、ソレにカブリつきながらキリトとハセオの戦いを見ていた。

各1戦目はクロ-ユージーン戦を超え、すでに折り返し地点を過ぎていた。

アインスはシードなので一回休み。

なので初戦はヨウコウ-タカハタの戦いから始まった。

元々ヨユコウは通常時のコロシアムの常連でもあり、前回の準優勝者でもあること。

そしてその紅く、目立つショート髪と整った綺麗な容姿に人気が高いこともあり、今回の戦いも優勝候補として多くの観戦者から応援されていた。

だが、勝ったのはタカハタだった。

ポケットに手を突っ込んだ状態で戦う姿をみたヨウコウは舐められていると思い普段の冷静さが欠けていたというのもあるが、アレを避けるのはかなり難しいだろう。

居合のように素早く拳を突き、剣戟ならぬ拳撃を飛ばして戦うスタイルを持っていた。

見えぬ拳が飛んでくる上、デタラメな攻撃方法で打ってくるためにヨウコウは余計に熱くなり、結果惨敗。今回のコロシアムが前回と全く違うことを知らしめた。

第2戦のユウキ-エリック戦ははっきり言ってあっけなくおわった。

大げさに登場したエリック。あれやこれやと言い放っていたが、スタート直後にユウキが大ジャンプ。その瞬間を見逃したエリックは頭上から攻撃してきたユウキによって切られた。

そしてクロ-ユージーン戦。

ユージーンは魔剣グラムを持つALO最強のプレイヤー…と呼ばれていた。

しかし、最近のオキ達の活躍に感化され、各地のプレイヤー達も引っ張られるように全体的にレベルが上がりそうも言えなくなった。しかし彼が強いのは今でも変わらない。

だが…

「ば、馬鹿な…。」

「油断しすぎ。武器に頼りすぎ。あと図体デカ過ぎ。」

クロのスピードと動きについていけず、あっさりと負けてしまった。

肩を落としたユージーンは修行してくると、暗い顔をしながらその場をあとにしていた。

 

 

 

「おおおお!」

ハセオの大鎌がキリトの首を狙いに空を斬る。

しゃがみこんだキリトは髪の毛に刃がかすりながらスレスレを通り過ぎたのを確認する前に前に駆け出す。

「はぁぁぁ!」

「っち!」

下からの切り上げを足の裏で受け止め、その勢いをつかって遠くへと離れた。

離れたのを見たキリトは一瞬目を見開いたがそれを走って追いかけた。

「おおおおおおお!」

直剣を突き出したキリトの剣は振られた大鎌を避け、ハセオの胸に突き刺さった。

これによりキリトの勝負が決まった。

「…っち。つぇえじゃねーか。」

「そっちこそ。ぎりぎりだったよ。」

にやりと笑ったハセオはキリトと握手をして勝てよとひとこと放ち、その場を後にした。

次のシンキ-スノハラ戦は語ることが少ない。

はっきり言ってシンキのお手玉状態だった。彼がなんで本戦に勝ち上がったかわからない実力だった。開始直後にシンキの大魔法により吹き飛び、壁をバウンドして再びシンキの魔法スキルに拾われるというコンボが繋がる現象が起きた程だ。

これによりシンキの勝利でおわり。

そして次の戦い。

「俺か。」

オキ-セツナ戦。長いカタナを持ったサイドテールの少女セツナ。

「よろしくお願いします。」

丁寧にお辞儀をするセツナにオキもよろしくと軽く頭を下げる。

大きくカタナを構えたセツナに対峙するオキも槍を構える。

「開始ぃ!」

キバオウの開始の合図とともにセツナが地面を蹴り、オキもそれに続きオキの第一戦目が始まった。




みなさまごきげんよう。
長い休みが取れたので北海道旅行を楽しんできました。
クッソ寒かった。
少しでも進めるべく書いたものの、ほとんど進まなかったなぁ今回。
これは年を越すと思われます。
FGOもクリスマスイベが始まったため全力でボックス回さなきゃ。

というわけで今回も短いですが、ここまで。
また次回お会い致しましょう。


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第122話 「神鳴流剣士」

ひらひらとした和風の着物をアレンジしたメイド服に時折動く小さく尖った獣耳がなぜかよく似合う。

彼女の刀は彼女の身長よりも長い刀だった。それを軽々と振り、ケットシー特有のスピードもあり、オキの攻撃についてくる。

いや、ついてくるではなく、オキがついていく方だった。戦闘開始から5分経過した今、オキは苦戦していた。

『はやい。ゲームだけの動きじゃねーなこれ。』

得意の3連突きをやすやすと交わされ、側面へ回り込んだセツナは体を大きく回転させながら刀を横一閃。

オキも切られまいと槍の柄でそれを防ぐ。

「星の朱槍。噂に違わぬ強さをお持ちのようで。」

つば競り合いで火花を散らしながら押し込んでくる。

「そういうアンタもかなり戦い慣れてるな。」

ニヤリと笑うオキに対し、綺麗な微笑み。セツナも楽しんでいるようだ。

「時間はたっぷりだ。終わりまで、手ぇぬくんじゃねぇぞ!?」

「ええ。こちらも負けるつもりはありませんから!」

お互いが猛スピードで離れてはぶつかり、離れてはぶつかりとフィールド上を駆けまわる。

「こいつは早い! ワイらの目でも追えないスピード勝負! 星の朱槍オキに対し、剣士セツナもそのスピードでぶつかり合う! なんちゅう戦いや! こんなん見たこと無いで!」

キバオウの実況もあり、会場内は大盛り上がりだ。

「オキさん頑張ってくださーい!」

「まけるなー。」

「やっちゃえー!」

「いっけー!」

シリカやハシーシュ、フィリア。そしてユウキが外から応援する。

「セツナさん頑張ってくださーい!」

「せっちゃんファイトやー!」

「まけんじゃないわよー!」

セツナの友人たちも声援を送る。それを聞いた二人はよりブーストをかけた。

「っしゃおらー!」

オキの鋭い突き。しかしをそれをセツナは紙一重でかわし、突きだしたオキの腕を握った。

「まずっ…!」

それを払おうと腕を引こうとしてもすでに握られた腕は自分の突きだした力と合わさり引くことが出来ない。

「神鳴流 浮雲・旋風一閃!」

オキを引き込みながら足をからめ、前方に回転しながらオキは地面へと叩きつけられた。

「っが!? んなろ!」

オキは腕に力を入れ、飛び上がる要領で彼女ごと空中へ跳ねる。しかしそれも読まれていたのか彼女は態勢を変え、オキの顔を足で挟み込む。

「むぐ!?」

「失礼。」

そのまま後方に縦回転しながら再びオキは地面へと叩きつけられた。

「神鳴流 浮雲・桜散華。」

アクロバティックな動きに場内はより一層盛り上がる。

「なんてこった! ものすごい動き! ワイあんな動き初めて見たで! どう見る解説のアインスはん。」

あまりに暇だったので解説をお願いされたアインスは丁寧に今の動きを説明した。

「流れるような動き。綺麗の一言だ。相手の力を利用し引き込んでの搦め手。反撃されてからの再度足技でのほおり投げ。私もオキ君とは長い付き合いになるが、その彼を二度も連続で地面に伏させたのは初めて見た。素晴らし。」

「ふむふむ。なるほどなぁ。おっと!? しかしここでオキはん負けじと起き上がる! そこに飛び上がって上空からセツナが決めに行ったー!」

オキが吹き飛ばされ、地面に伏しているのをチャンスとみたセツナは飛び上がり刀に稲妻を走らせる。

「神鳴流 雷鳴剣!」

「こんにゃろ!」

オキは目を見開き、槍を上空へと投げた。それをはじいたセツナはそのままオキへと切りかかる。

だが、それは防がれた。はじいたはずの槍が、セツナへ再び戻ってきたのだ。

「っ!?」

槍の攻撃をはじく為に刀で防御した為、オキへの攻撃が出来なくなった。

その間にオキは立ち上がり、投げ、セツナを二度も攻撃した槍を手元に引き寄せた。

「あーあ。奥の手で取っておいた技、ここでつかうとはね!」

オキの腕に付いたサブウェポンのウィップ。それを投げた槍に即座に巻き付けまるで鎖鎌、アークス流でいうならワイヤードランスのように扱う小技だ。小技と言うが、普通そう簡単にできるモノでもない。

再び投げた槍はセツナめがけて飛んでいき、それをはじくもオキの巧みな技で再度セツナを襲う。

「くっ!」

自由自在に動き回る槍を防ぐセツナ。だが、あきらめた目ではない。まだ隙を伺っている。

「神鳴流 斬空閃。」

槍を投げた直後のオキを狙って斬撃が飛ぶ。隙間を縫っての攻撃をしてきたセツナに驚くオキ。

その攻撃を皮切りに再び至近距離まで迫るセツナは高速の斬撃を放った。

「神鳴流奥義 百烈桜華斬!!」

ほぼ同時の多段斬撃がオキを襲う。たった一振りのように見える高速の斬撃。

もしこれが一点集中で強力な一撃だったなら、防ぎ切れるかどうかわからなかっただろう。熟練のプレイヤーでも難しいと思われる。だが、面での攻撃に慣れているアークスならふせげる。

「防がれた!?」

確実に隙をついたと確信したセツナは大技を放った。だが、それをオキは槍の中心を握り、すべてを防いだのだ。

「へへ、呪いの朱槍をご所望かい!? ゲイ・ボルク!」

振り切った大きな隙を見逃さず、オキの朱槍はセツナの胸を貫いた。

これによりオキの勝利が決定した。

「ふう。あぶなかったぁ~…。」

吹き飛ばしてしまったセツナの手を取り立ち上がらせたオキはセツナと共に歓声を浴びながらゆっくりとフィールドから外れた。

「いやはや。むっちゃつえぇな。びっくりしたぜ。」

「いえ、私なぞまだまだ修行が足りません。あれを防がれるとは思いませんでした。流石、アークスですね。」

セツナは小さくオキにほほ笑んだ。彼女はアークスの事を知っているようだ。

眼を見開き驚いているオキにあわてて説明を入れた。

「ああ、ご安心ください。怪しいものではありません。ある組織に入ってるものでして、ついこの間アークスの方々と協力関係になったもので、偶然あなた方の事を知っていたのです。もし何かありましたら、どこかでお会いすることもあるかもしれません。その時は、どうかよろしくお願いします。」

セツナは微笑みながら握手を求めてきた。オキは快くそれを受ける。

「ああ、こんな可愛らしいのにむっちゃ強い剣士と一緒に仕事できるなら、こちらからもお願いしたいところだ。」

その言葉に顔を赤くするセツナをみてオキが笑う。

「せっちゃーん! 大丈夫!? けが無い? ウチがなおしたろか?」

「このちゃ…お嬢様。大丈夫です。」

セツナの知人たちだろう。黒髪の和服美人がセツナの背中側から飛びついてきた。

微笑む彼女は一礼して、そのものらと共にその場を後にした。

さて、第1戦目が終わり、第2戦目へと突入した。その2戦目をダイジェストでお届けしよう。

初戦、アインスVSタカミチ。

バフを積んだ居合い拳のパワーと、隙を作る見えない拳のスピードによりはじめは苦戦したアインスだったが、真正面から拳の居合いを同じく居合で叩き切るというとんでもない事をやってのけたアインスは、タカミチとの戦いに勝利を決めた。

ユウキVSクロでは能力を使ってないのの、自由に動き回る立ち回りと思いきや、急に堅実に守り、一手一手を確実に拾う立ち回り等、クロが覚えてきた数々の動きを見せ、ユウキが苦戦。しかしその時間を楽しむユウキの感情と、負けるつもりは一切ない気持ちを読み取り、最後の一撃を誘う。最初から勝つつもりはなかったクロだが、簡単に負けるつもりもなかった。

この一撃もユウキにダガーを差し込むつもりでもいた。

だが、事前にオキのアドバイスを受けていたユウキは、攻撃の直前。

「一番おいしいメロンパンはどんな味!?」

と叫び、つい大好物のメロンパンを思い返したクロに隙ができ、その隙をぬってユウキの一撃でユウキの勝利となった。

ちなみにクロは「せこい。メロンパンを要求する。」とオキにたかっていたのは別の話である。

キリトVSシンキ。

はっきりいってシンキの独壇場だった。

開始直後に飛べるはずの無い会場上空を真っ黒な6枚羽を広げて飛び上がり、運営側もこれは武器の特殊能力を使用しての仕様を使ったモノなので判定はOKとなり、キリトは攻撃が全くできない状態だった。

しかしそれでは面白くないと思ったのか、フィールドに大小さまざまな木々を魔法で生やし、それをつたわせることでキリトとの空中戦が始まった。

序盤はシンキも慢心しまくっており、ハンデだと言いながらキリトを善戦させる。

中盤にはいったところで、木々をつたった戦いに慣れてきたキリトは、木々をしならせ、シンキに小さな一撃を入れる。

その一撃がキリトにとっては大きく、自信をつける結果となった。だが、シンキは甘くない。

空を降りたシンキは木々を燃やし、元のフィールドに戻した後、キリトに少しだけ本気を見せてあげた。

キリトが切りかかるとそこにはシンキはおらず、キリトの後方にシンキがいる。そして後ろを振り向き剣を振るもまた後方を取られる。これを数度繰り返した。

「魔神からは逃れられぬ。」

恐ろしい程の笑みを見せたシンキはそう言い放った。その言葉と笑みは多くのプレイヤーの印象に残る事となる。

キリトは剣を振るい、シンキへと攻撃したがシンキはそれを杖で軽く払い、杖先でキリトの額、首元、胸を3度突く。

あまりの綺麗な流れ、静かな攻撃に手が止まってしまったキリトに大魔法級の魔法攻撃で攻撃。シンキの勝利となった。

そして第2戦目、最後の戦いはオキVSハヤマ。

お互いの動きを知り尽くしている二人は最初から本気のぶつかり合いを見せた。

勝つために出せるものをすべて出すハヤマに対し、勝つために手段を選び組み上げるオキは正反対だ。

共に戦うにはこれほど戦いやすい仲間はいないと自負する二人。

ハヤマが真正面で戦い、オキが後ろから支援する。だからこそ今まで一緒に戦えたのだが

「くそ、真正面からどかどかと。下手に手ぇだすと隙付かれて一発で持ってかれちまう。」

「あーもう。小さい攻撃がちくちくと。やりづらいったらありゃしない。」

二人して「めんどい。」と言いながら戦っていたのである。

大きな攻撃をすれば隙を突かれて一発で逆転されてしまうために小さく攻撃するオキ、真正面からすべてを叩き切るつもりでいるハヤマは大きく攻撃するがその隙を突かれて小さい攻撃が当たっている。

そんな一進一退の攻防が続いた終盤だった。

「えー…戦いのさなか申し訳ない。止めれそうなのが二人しかいないのだ。聞いてくれ。ミケが、ハヤマ君の名前をつかって、外の屋台を、食い荒らしているようだ。」

苦笑いしながらアインスがマイクを通してそれを伝えると血相を変えたハヤマが

「ミィィィィィケェェェェェェェ!!!!」

と叫びながらフィールドを駆け抜けて行ってしまった。

結果、いつかは勝負をつけたいものだと大爆笑しながら今回の勝利を貰った。

コロシアムの外にはお祭りという事もあり、たくさんの屋台が並んでいた。

「やきそばくださいな!」

「らっしゃい。いくついる?」

「全部。」

屋台で焼きそばを作っていた男性が小さな少女の間にさらに小さな何かがいるのを見た。

「全部なのだ。」

「い、いいのか? まいどあり。」

「料金はアーク’sのハヤマにつけとくのだー。」

頭に大盛焼きそばを、右手にはお好み焼きや串焼きの入ったパックを高いタワーを作って持ちながら袋に入ったいっぱいのフランクフルトを下げている。左手で器用にたこ焼きを大梁ながら行く人すべての目を奪い、屋台の料理を片っ端から吸い込んでいくミケ。

「ミーーーーーケーーーーー!」

「見つかったのだ。にげるのだー!」

コロシアムから出てきたハヤマが鬼の形相で追いかけてくる。それをミケや双子達は笑顔で逃げ回った。

「きゃー!」

「にげるのです!」

ミケ、逃げる時でも食べるのをやめない。




(フラグっぽい話があったけど彼女たちが再び出てくることは)ないです。
みなさまごきげんよう。わたしが剣士とかに憧れるようになった原因の一つであるネギまより数名キャラを出しました。せっちゃんかわいい。
後半第二戦をダイジェストでお送りしました。はっきり言って時間ありません・・・。
年末って忙しいですねぇ。
さて、来週分ですがまたもやお休みします。何度もすいません。
『コ ミ ケ』ですハイ。
戦場に行ってきます。
もし書けたら上げておきます。
ではみなさま、来年明けてからまたお会い致しましょう。


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第123話 「小さな魔法使い」

百戦錬磨のアインスに対し、終始劣勢となったユウキ。アインスは本気を出していないものの、戦いの腕はあまりにも格が違った。

「つ、つよい…。」

歴然とした力の差。それはゲームのステータスや武器の強さではない。彼自身の強さを物語っていた。

それでもユウキは先へと進まなければならない。約束した彼と再び戦うために。

アインスもそれを承知で戦っている。自分が認めた男が認めた相手。再び戦いたいと願うその姿。

「燃えるじゃないか。」

微笑みながら彼女の姿勢を観察する。まだ諦めていない目。体に入る力加減。余力は残っている。

「ユウキ君。君は、オキ君の部屋に住むそうだね。」

「そうだけど?」

お互いの剣をぶつけ合いながら、アインスは質問する。

「彼はアークスだ。我々アークスはいつ死ぬかわからない。それを君は…。」

「わかっているさ。ゲームじゃない。リセットはできない現実の世界で戦う。」

振られる刃を弾き、アインスの問いに答えた。

「オキはいっていた。いつ死ぬかわからない。それでもついてきてくれるよなって。僕を助けてくれた。一緒にいてくれるっていうオキに僕は少しでも、恩返しがしたい!」

素早いサイドへの移動からアインスへと切りかかった。アインスはそれを軽々と防ぐ。

「彼が窮地に立った時。君はどうする。」

「…僕は信じる。オキがそうならない事を。」

彼女の目は初めから覚悟が決まっている目をしている。アインスはすでに答えを出していた。

「信じる、か。」

「それに、ぼくの知っているオキはどんな窮地でも笑いながら抜け出すもん! 隊長さんに比べれば、僕はまだまだ短い時間だけど、オキのくれた…助けてくれた時に、オキのしてきたこと、見てきたことが僕の中に流れてきた。やっぱりオキは僕の思った通りの、ヒーローなんだ!」

その言葉をきいてアインスはピタリと止まり、ゆっくりと構えを解いた。

「ふふふ。いい答えだ。」

そうして微笑みながら反転。ユウキを背にしてフィールドを自ら降りた。その行動に周囲がざわつく。

「ああ、キバオウ君。俺は負けでいいよ。」

唖然とする観衆に対し、ゆっくりと外側へと歩いていくアインス。

「な、なんかよくわからんけど…決勝に進んだのはユウキやぁぁぁ!」

キバオウの宣言により、再び歓声が上がる。

ユウキは、約束通り歩みを進めた。後はオキが上がるのみ。

「とはいえなぁ…相手がシンキかぁ…。」

はっきりいってやりたくない相手だ。以前、手ほどきを受けたがそれはもうボロボロだった。

昔の事を思い出しながらフィールドへと上がったオキが見たシンキの姿が、変わっていた。

身長が縮み、漆黒の羽は純白の羽へと変わり、グラマーな体が、スレンダーな姿へと。

「り、リリィ!?」

「おっきな私から遊んでおいでと言われたので姿を変えて参上しました。」

にこやかに杖を構えるシンキ(リリィ)に対し、オキは若干引き気味だ。

「なんやて!? あの可愛らしいのがシンキはんやて!?」

「確か、姿を変えられるアイテムがあるだろう。それを使ったんだと思われる。」

ALOではかなりの金額が必要になるが、姿を変えられるアイテムが存在する。シンキはわざわざそれを使用して、リリィを表に出したのだろう。

「さぁ、マスターさん? あ そ び ま し ょ う ?」

にこやかにほほ笑むシンキ(リリィ)だが、そのほほえみは天使なんかではない。死神そのものをイメージしたオキは即座に槍を構え直した。

「てやー!」

杖を振り上げ、思い切り振り下ろしたシンキ(リリィ)。オキがその直後に見たのは上空から振ってくる超巨大な火の球。しかも5個同時ときた。それくらいならオキじゃなくてもよけきれる。だが、問題はその後の話だ。

「そりゃー!」

気の抜ける可愛らしい声で杖を振り、魔法陣を次々と作り上げるシンキ(リリィ)。

そのたびにあちこちから氷塊が降ったり竜巻が現れたり、水が流れてきたと思いきや、巨大な木々が生え突き上げてきたり、雷が降ってきたりと近づくに近づけない。

「うそだろおい。」

明らかにシンキの戦い方とは異なる遠距離での魔法攻撃連発。それに大魔法だけではない。中には小さな魔法を使い、時には魔法攻撃の間に休んだりと動きが明らかに違う。

「こいつは驚いた。あの嬢ちゃ…じゃなかったシンキはん。ものすごい効率的な戦い方しとるな。」

キバオウもそれを見抜いた。

それもそのはず。シンキは元々アルゴル原初の英雄、一通りマジックが使えながら剣術を嗜んだアリサのクローンとして生まれ、更にそこへ英雄の一人、ルツの記憶を組み込むことでよりマジックの適性を高めた。その結果が彼女の背中にある6枚羽だ。

現在のシンキは宇宙船アリサⅢに移動した時点で失った、光と闇の複合精神体の穴を埋めるべく性欲関係に人格が傾いた為、肉体のホルモンバランスに変化が生じ、アリサ本人の慎ましいスレンダーな体ではなく、豊満な体に成長した。

リリィは傾く前。中間に位置するバランスのよい、生まれたばかりのシンキと言える。そのためマジックの適性が現在のシンキよりも高い。

結果、マジックと似て非なる魔法も同様。

「とやー!」

再び杖を振り上げるリリィ。そのたびに攻撃魔法がオキへと降り注ぐ。

「ちぃ。MP効率をしっかり考えてやがる。近づけやしねぇ。」

大魔法の隙をついて近づこうとすれば小さな魔法で遠ざけられ、遠くなったら大魔法が飛んでくる。

この動き方はのちにALOでの魔法職の基本的な戦い方となるのは後の話である。

「さーてどうやって倒すべ。」

口をへの字にしながら楽しそうに魔法攻撃をするリリィの動きを見るオキは、何としてでもここを突破しなければならない。

そのへの字にした口が次第に逆向きへと変わり、彼の姿勢が低くなった。

「!」

リリィもそれを確認したのか、詠唱に入る。並のプレイヤーとは違うスピードの詠唱呪文展開。

それを見ていたオキが右に左にと走り始める。

リリィが魔法陣展開を完了したと同時にオキがリリィへと近づく。しかし、何本もの巨大な竜巻によりリリィの周りは塞がれる。

その隙間を縫うように走り込んだオキだが、再び小さな魔法で威嚇。オキは隙をつけなくなり後方へ移動。

リリィは素早い魔法陣展開で大量の水で流しにかかる。

なんとかそれを避けたオキは再びリリィへと近づくが二度目も同じ。それを数度繰り返した。

「何度来てもむだですよ! マスターさん!」

数度にわたる攻防。直撃は避けているがジリ貧となっているオキ。再び大魔法の展開のために呪文詠唱を開始する。

『天空満るつ処に我はあり! 黄泉の門開く処に汝あり! 出でよ、神の雷!』

金色に光り輝く魔法陣が上空に作り上げられる。それを見たオキは大きく口を歪ませて上空へと飛び上がった。

リリィの放つ魔法は雷属性最上位魔法。魔法陣の真ん中から放たれる雷は地面に近づくにつれ傘状に広がり、広範囲に放たれる。

「これで最後です!」

リリィが杖を振り上げ、振り下ろせば魔法陣の中央、その真下にいるオキを、その雷はまっすぐに貫く。

上空に飛び上がったオキは体をひねり、大きく伸ばした腕の先に持った朱槍を思い切り、投げた。

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!』

『インデグネイション!!』

ほんのわずか。オキが槍を放つのが早かった。投げた直後に槍の端。柄の部分に風の魔法をぶつけたオキは空中で、その勢いで少しだけ後方にずれる。

 

ドゴォォォン!

 

目の前を光り輝く雷が体スレスレに落ち、風の魔法でブーストされた槍はまっすぐにリリィの小さき胸へめがけ飛んで行った。

「こ、この!」

リリィは素早く攻撃魔法を放った。しかし防げる魔法ではない。オキが先ほどからずっと同じことを繰り返し、その隙を突くだけの為の小さな攻撃魔法。ただ振られた武器ならば防げたかもしれない。しかし魔法でブーストされ、猛スピードで迫る槍の軌道を変える魔法ではなく、『つい』先ほどと同様の魔法攻撃を行ってしまった。

分かった時にはすでに遅く、小さな胸を朱き槍が貫いていた。

これによりオキの勝利が決定した。

「あー! 負けてしまいましたー!」

悔しがるシンキ・リリィ。近寄るオキは彼女を起こしてあげた。

「何度も同じことを繰り返し、慣れた目と体を利用し、しかも唯一真上から落ちる魔法の隙を狙ってから攻撃。流石です。しかし一つだけ質問があります。なぜ、私がインデグネイションを使うとわかっていたのですか? もしかしたら使わなかったかもしれないのに。」

リリィの言うとおりだ。オキは数度後にあの雷魔法が来ることを知っていた。なぜなら。

「いや、お前は使ったよ。だっておまえさん、律儀に属性順に撃ってただろ。」

「えぇ!? これ順番に撃たなくてもいいんですか!?」

後で聞いた話だが、やはりシンキ(大)に騙されていたらしく、律儀に属性順に撃っていた。

途中で見抜けたことで、今回は勝利となったが、もしこれが彼女の本気でしかも外の、現実の世界での戦いであったならば。

オキは背筋を凍らせた。

 

「さて、決勝開始! …の前に、決めなあかん勝負がもう一つあったな! 三位決定戦や!!」

キバオウのマイクパフォーマンスと同時にゆっくりと立ち上がる一人の男。

そしてそれについていくように一人の女性が立ち上がった。

そのまま二人はフィールドに立ち、にらみ合う。

「鬼の隊長! アインス! 挑むは魔神! シンキ!」

「元の姿に戻ってきたいみたいだね。安心したよ。あのままだったらどうしようかと。」

「たまには遊ばせてあげないとね。」

微笑むシンキに対し、アインスも笑う。そしてお互いが構えあった。

その瞬間、観戦者全員の声がピタリとやんだ。ピシッとした空気に皆が息をのんだ。

つい先ほどまで優しい穏やかな顔をしていた二人が、かたや瞳が蛇のように縦になり、光り片や険しい顔で、鬼のような形相となり。

 

『スタートや!』

 

合図とともに怒号の声を放ち、猛スピードでシンキに近づくアインスに

余裕ある顔をしつつもまさに魔神のような、背筋の凍りつくような笑顔で杖と本を開き空中へと飛び上がるシンキ。

再び英雄と呼ばれる二人の戦いの火ぶたが切って落とされた。




みなさま、明けましておめでとう御座います。
今年もよろしくお願いいたします。
年明けからバタバタで結局1週間あけての更新。もうしわけねぇ。。。

そろそろこの章も終わりにして次の話に持っていかないと。
さて、今回のネタをば。
隊長がやったユウキに勝たせたシーン。DBの天下一武道会の亀仙人のシーンですな。本人がこうやって譲りたいといったので。
シンキの放つ魔法はALOでのOSSシステムを使った組み合わせの魔法です。
原作にもあり、魔法と魔法を組み合わせて新しい技を繰り出すシステムですね。発動タイミングがシビアなのでふつうのプレイヤーは使えるかどうかとかなんとか。
次回にも沢山出るのでご承知おきいただけると助かります。
ではまた次回にお会い致しましょう。


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第124話 「タイトルはミケが食べたのだ」

コロシアムのフィールド上はシンキの魔法という魔法の組み合わせのオンパレードだった。

 

闇の炎を凝縮した極太のレーザー。光と氷の巨大魔法剣の乱舞。

 

風と雷の暴風を利用した突進。一つ一つがALOのシステムで作れる攻撃ではあるが、一般的なプレイヤーではまずむりだ。

 

組み合わせる魔法、放つタイミング。それら一つ一つどれでもミス一つあれば暴発し自らの身体を痛めつける。

 

だがシンキは全てをやってのける。しかもそれを幾重にも、だ。

 

「ハハハハハ! よい、よいぞ!」

 

高らかに笑い、楽しそうに振り下ろされる刃を杖をはじめ、防御魔法の障壁で受け止める。

 

空中にいるにもかかわらず、まるで針の上に飛び降りるかのごとく狭い足場となる場をみつけ、そこからシンキへ切りかかろうとするアインスもアインスだ。

 

高度な戦い方をする二人に多くの歓声が沸く。

 

「私が空中にいると、戦いづらそうねぇ。」

 

「なにかまわんさ。」

 

にんまりと笑うシンキに対し、多少の傷を負いながらもその不利な状況を楽しむように微笑むアインスはシンキに刀を向けた。

 

「どんな困難な状況にあろうとも、足場を探し、つくり、そして立ち向かう。それが俺であり、人だ。一番君が知っている事だろう?」

 

その言葉を聞いて一瞬キョトンとした顔をしたシンキは額に手を当てて大声で笑った。

 

「そうね。その通りよ。さぁ人の子よ。かかってくるがいい。この私を倒して見せるがいい!」

 

ぶつかり合う二人を見守るオキとその隣でドキドキワクワクしながら見るユウキ。

 

「すごい戦いだね! こんなの初めて見たよ! ボク達もあそこまでたどり着けるかなぁ?」

 

ユウキの言葉を聞いて困った顔をしたオキがぶっきらぼうにつぶやいた。

 

「やめとけ。ありゃ次元が違うワイ。」

 

ため息をつき、眉を八の字に曲げるオキ。自分よりも長く戦い、同じく闇と戦った百戦錬磨の隊長。その力は並のアークスだけではなく、オキやハヤマですら追いつくのに必死であり、いまだ成長段階という戦いに特化した人。

 

もう一人は簡単に言うならば具現化した魔神。圧倒的な力を持ちながらも、その振る舞いは母のような包容力を見せるソレは女神のよう。人間が相手できるモノではない。

 

「んん? でも、オキのチームのひとで、オキがリーダーなんでしょ? オキが強いんじゃないの?」

 

「俺はあの二人の足元にも及ばんさ。特にシンキにはな。」

 

オキは現在の強さを目でわかるように描いて見せた。

 

「いいか? 俺が地面に立っているとしよう。あぁ、上に行けばいくほど高い位置にいる意味で見てくれ。ハヤマんと俺が大体同格。お互いが坂道や山を上ったり下りたりする状態。んで、お空には隊長。で、宇宙にシンキだ。」

 

「宇宙って…。あ、ミケは?」

 

「あいつはどこにもいないし、どこにでもいる。格をつけること自体が間違ってる。」

 

ユウキはアハハと苦笑するしかなかった。

 

 

 

「おおおお!!!」

 

アインスめがけて急降下攻撃を加えようとしたシンキの腕を、攻撃を喰らいながらも掴み取り、地面へと引っ張り下ろしたアインス。その直後に魔杖『サイコウォンド』を叩き切ったのだ。

 

「ふふ…ふあはははは! やるではないか! だが…。」

 

サイコウォンドの力で飛んでいたシンキは、普通のプレイヤーが引っかかる飛行不可の制限によって地面へと立つ。

 

高笑いした後にちらりとアインスの姿をみた。

 

「その姿でも、まだ私と戦おうと?」

 

HPはギリギリ残っているとはいえ、かなり限界が近い。普通ならば「負ける」という感情が渦巻いているはずだ。だが、彼の目には一切それが無い。それどころか、いまだ勝つ気でいる。本当にとことん楽しませてくれる男だとシンキは微笑む。

 

「いいわ。諦めないその心。なくさない事ね。」

 

「っふ。この俺が? ないな。」

 

お互いふふっと笑うと、お互いの武器をぶつけ合い、次は地面を蹴りあっての戦いに転じた。

 

 

 

 

結果はシンキの勝ちだった。あれだけ圧倒的な戦い方をしたのだ。

 

だが、歓声はアインスの名前も多く飛び交った。後一撃。たった一撃喰らえば終わるはずのHPで、5分も戦い抜いたのだ。

 

臆せず、彼女への攻撃の手を緩めずに、むしろ増やしながら。しかし惜しくもシンキの曲剣がかすってしまう。

 

残念ながらアインスは4位、シンキが3位という結果となり、3位決定戦はALO史上に残る壮大な戦いで幕を閉じた。

 

「さぁ、オキはん。ユウキはん。思う存分、戦ってきぃや!」

 

それぞれの名前を叫んだ後に、ニカリと笑うキバオウ。他のメンバー達もコクリと頷く。

 

オキは槍をもって、ユウキは直剣を握って、フィールドへと歩き出した。

 

「さぁお互いがフィールドへと上がったでぇ! 二人は約束をしたそうや! また戦おう! 泣けるやないか! 約束を果たすためにこのフィールドにたった二人! さぁ盛大に声援を投げろ! 決勝戦! スタートや!」

 

大きな歓声が上がる中、ふたりはゆっくりと自分の武器を構える。

 

そしてカウントゼロと同時に掛け、武器と武器が重なった。

 




みなさんごきげんよう。
ようやくユウキとの決戦に挑めます。
次回は楽しみながらかけるでしょう。そう願いたい。
年度末に向けて仕事が忙しくなるなか、体調管理も気を付けないと。
さて、最近騎空士を始めました。なかなか面白いですね。
攻撃力が上がれば上がるほど楽しくなっていきます。
FGOが暫くシナリオ追加なさそうなので、今のうちに別のゲームも楽しみたいと思います。
では、次回またお会い致しましょう。


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第125話 「マザーズ・ロザリオ」

「だあああ!」

 

「おおおお!」

 

槍と直剣が火花を散らしながらぶつかりあう。青年と少女の激しい攻防と声がコロシアムフィールドに響き、周囲からは歓声が大きく広がっていた。

 

決勝戦にふさわしい、剣士同士の戦い。始まってから約10分以上経過した今でも、お互いに譲らない攻防戦を繰り広げていた。

 

オキの三連突きがユウキの直剣をはじいた後に真正面へ放たれる。ギリギリを避けたユウキの髪の先端がそれを掠る。しかしユウキはそれに怯まずオキへ真横から直剣を振った。

 

槍を身体の真横へと構え、ユウキの攻撃を防いだオキは、そのまま槍を地面に突き刺し、槍を軸に体を浮かせて回り、飛び蹴りを放った。

 

ユウキはしゃがんでオキの足を回避。足払いの要領で槍を蹴る。槍を軸にしていたオキは支えを失い地面へと落下。

 

チャンスと読んだユウキは足払いした勢いで回転切りでオキの胴体を狙う。

 

胴を狙われたオキは体を空中で横回転させ、槍で剣を叩き落としそれを防いだ。

 

「ふー…。」

 

「はぁ…はぁ…。」

 

一連の激しい動きに対し一呼吸で落ち着きを戻したオキ。反面、ユウキはまだ息が上がっている。

 

VR世界は疲れることはない。だが、人はそう思い込んでしまうと本当に疲れたりしてしまう。

 

オキの精神力と普段から戦いの真っただ中にいる日常からの差だ。

 

「ふふふ…。」

 

微笑みながら下がるユウキにオキもつられて笑う。

 

「楽しいなユウキ。」

 

「うん! すっごく楽しい!」

 

走り、回り込み、再びぶつかる。

 

初めて出会い、戦い、そして別れたあの日からだいぶたつ。さらにあの時とは違う懸念されたモノが無くなったユウキは生き生きと剣を振る。誰にも邪魔されない、このフィールドで。彼女は今まさに最も楽しく戦えていた。彼女の笑顔がオキにとてもまぶしく刺さる。

 

「こいつは…負けるかもな。」

 

冷や汗を一滴流したオキはニヤリと笑いぼそりとつぶやいた。

 

「え? なに!?」

 

聞こえなかったユウキは距離をとったオキに首をかしげた。

 

「このままじゃ負けるかもしれんと言ったんだ。だから…戦い方を変える。」

 

槍の柄の後方を握り、突きをメインに戦う構えを取っていたオキは、クルクルと槍をその場で回し、体の周囲をそのまま回転させ、空中にほおり投げた槍を再び捕まえた。

 

握った場所は、柄の真ん中。しかも今まで両手で構えていたのを今度は片手持ちだ。

 

「あの構えは、ダブセか。」

 

「持ち替えるとは思ってたけど、早かったね。」

 

「それだけユウキ君との戦いが楽しいという事だろうな。」

 

二人でにやりと笑う男たち。アインスとハヤマはその構えをよく知っていた。

 

ダブルセイバー。柄の両端に刃のついた剣。普通の剣と違い、両刃の付いた柄を握り棒術のように振り回すことで多数の攻撃を一度に出すことのできる手数重視のスピード型武器。

 

数多の敵と戦うために多種に渡る武器を使い分けるアークス。中にはアインスやハヤマのように一つの武器を極める者もいる。

 

オキの得意とする武器。ワーヤードランス。それとは別に得意とする武器がある。

 

パルチザンと、ダブルセイバーだ。

 

真正面から突っ込んだオキは槍を棒術のように振り回し、右に左にユウキへと襲い掛かる。

 

「くぅ…!」

 

先ほどまでのスピードが段違いで上がっている。何より見たこともない動き。捌ききるので手一杯だ。

 

更には回し蹴り、その勢いで回した槍をフェイントをかけて切り上げ。

 

「しまった!?」

 

「一気に、決める!」

 

直剣をはじかれたユウキに隙ができる。一旦槍を引いたオキはチャンスと読み、再び突きの構えを取る。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

オキの朱き槍は一直線に彼女の胸へと目指す。誰もがこれで決まったと思った。一人を除き。

 

「…それを、待ってたよ!」

 

 

ガキン!

 

 

はじかれた直剣の勢いを利用してユウキは槍の一突きを刃の面で防ぎ、受け流した。

 

「なに!?」

 

槍はその勢いのままユウキの身体の横を素通りする。今度は逆にオキの身体が無防備となった。

 

「楽しかったよ!」

 

ユウキが直剣を光らせ、オキの身体へと突き刺そうとする。オキはその瞬間、微笑んだ。

 

「マザーズ…ロザリオ!!」

 

11発の瞬速の突き。ユウキの持つ最大の攻撃がオキへと放たれた。

 

地面に倒れたオキ。シンと静まるコロシアム。フィールドに立ち続けるは一人の少女だった。

 

『きまったああああああ! 多くの猛者をバッタバッタと切り倒し、このコロシアムの頂点に立ったその少女の名は…絶剣のユウキやぁぁぁぁ!!』

 

コロシアムから一斉に歓声が上がった。ユウキは回りをみわたし、自分の状況をようやく理解する。

 

「ふぅ…こいつは一本取られたな。」

 

寝転がりながらタバコに火を付けたオキは負けた悔しさよりも、彼女と戦えた楽しさが心の中で上回っており、目の前に広がる蒼い空のように澄んでいた。

 

「やった…。やったぁ! オキに勝てた!!」

 

飛んで喜ぶユウキにオキは立ち上がり頭をクシャリと撫でた。

 

「よーやったわ。まさかあそこで防ぐとは思わんかったわ。」

 

「だって…オキがあの技使ったら、必ずココに突き刺しに来るってわかってたもん。最初からそれを狙っていただけ。」

 

ニコやかに笑う彼女の顔をみて頭に手を乗せたオキは高笑いをした。

 

「はっはっは。確かにあの技は心臓めがけて狙うからな! そりゃ何度もみせてりゃそうなるか!」

 

オキは笑い、ユウキはオキを引っ張りながらフィールドを後にする。

 

この時ユウキは分かっていた。もしあの時にオキが『ゲイ・ボルク』を撃ってこなかったら。

 

もし、知らない技だったら。捌き切る自信はなかった。でもオキならあの技を最後に持ってくるとなぜかわかっていた。だからこそ勝てた、と。

 

「また、やろうな。」

 

「うん!」

 

 

 

 

その数日後、オラクル船団、チームシップ『ペルソナ』内部。キリト達をはじめ、今回のALO闘技大会に参加したオキ達の仲間たちが集まりユウキの祝勝会を上げた。

 

参加した皆々がそれぞれの戦いを先ほど見たかのように語り、また実際に録画されたその動きを実際に見て論議したりなど様々に楽しんでいた。

 

特に今回はアークスであるオキが一人の少女に負けた事。

 

ゲームの中とはいえ、アークスの力を使っていなかったとはいえ、彼女はオキに勝った。それは事実として残る。

 

「わざとではあるまい?」

 

「わかって聞いてるでしょ隊長。わざわざ持ち替えまでやった俺がわざと負けるなんてことするもんじゃないって。」

 

まぁねとほほ笑む隊長はコクリと杯に口をつける。

 

「ユウキは実際強かった。言い訳もしないし、負け惜しみも言わん。あいつは、強い。」

 

キリト達に囲まれ、笑顔で語りあっているユウキを見るオキ。

 

「オキ君の前に一度戦ったからわかる。その時の動きとまるで違った。彼女は、オキ君のためにあの力を出したのかもしれないね。」

 

「っふ。かもな。」

 

「オーーーキーーー…。」

 

「たーすーけーてーくーだーさーい!」

 

ふとユウキを見るとシンキに弄られているユウキとシリカが見えた。

 

「お呼びだぞ。」

 

「手伝ってよ隊長。」

 

嫌そうな顔でアインスの顔をみるオキに対し、無言で首を横に振るアインスだった。

 

 

 

「ひどい目にあいました…。」

 

「ほんとだねー。」

 

「なぜか私まで巻き込まれた…。」

 

「疲れた。」

 

シリカ、ユウキ、フィリアにハシーシュはオキの部屋へと退避していた。

 

シリカ、ユウキだけでなく、不運にもフィリア、ハシーシュにまで魔の手が伸びたのだ。

 

「皆さまお疲れのご様子で。お茶を入れましたのでどうぞお飲みください。」

 

「ありがと。アオイちゃん。」

 

お茶を持ってきてくれたアオイの頭をフィリアが撫でた。

 

「なんかどっと疲れました。」

 

「さすが魔神。恐るべし…。」

 

オキのマイルームの一室、畳のある和風の部屋。大きなテーブルを囲みお茶を飲んだ皆はどっと疲れが出ていた。

 

「いやはや。あいつもあれが無けりゃかっこいいんだがなぁ。」

 

テラスでタバコを吸ってきたオキが戻ってきた。いくつかの書類を持っている。

 

「ほれユウキ。これでいいのか?」

 

「うん! ありがと!」

 

シリカ達が不思議そうな顔でその書類の束を覗いた。

 

「ああ、それか? それはアークスが使用しているワイヤードランスの資料を簡単に描いた奴だ。今回の闘技大会で優勝した人には武器の追加ができる権限を手にすることが出来てな。俺はそれも狙いつつだったんだが、ユウキが勝ったからな。」

 

「せっかくだからオキの使う武器も使ってみたいなーっておもって、だからALOに追加してもらおーって思ったんだ。」

 

笑顔でその資料を読むユウキに周りもつられて微笑む。

 

「ちなみに俺がもらった準優勝の賞金はすべてミケの食い物代に消えていった。」

 

ため息をついたオキ。戦いのさなかにミケが暴走してコロシアム周辺に出ていた屋台のほとんどを食してしまった。その代金の請求がオキ達のチームに丸ごとのしかかってきたのだ。

 

「僕も分もいくらか上げたよ。あんなに使い切れないもん。」

 

あははと笑うシリカ達。その怒りのオキとどこ吹く風状態のミケの様子が容易に想像できる。

 

「そういえば4人集めた理由を聞いてなかったけど、なにかあったの?」

 

「大事な話があるって言ってた。」

 

フィリア、ハシーシュが首をかしげて聞いてきた。

 

祝賀会の後、皆を呼んだオキは大事な話があると言って連れてきたのだ。

 

その言葉を聞いてオキは部屋にあるモニターにある映像を流した。

 

「話ってのはこれだ。闘技大会の前、ユウキが退院した位かな。ちょっとデカい話になりそうだ。」

 

オキの映した映像は、その時オキが目にした光景が映っていた。その内容は思いもよらぬ光景だった。

 

 

 

 

「なぁ、シンキよ、どういうつもりなんだ?俺の浄化作業前に話があるってペルソナ、六芒、隊長達まで…。全員集めて一体何の話なんだ?」

 

ここは、アークスシップの中でも最近住民の引越しが終わり廃棄、解体が予定された。

 

無人の艦。そんな場所にアークスの中でも最大戦力と言っても過言では無い実力者、六芒均衡ら全員とペルソナメンバー。隊長を始め、オキ達と深く関わっているアークス達が全員集められて居た。

 

「……。」

 

シンキは此方に背中を向けたまま黙っている。普段のおどけた雰囲気はない。

 

「あのな、浄化作業中はコールドスリープに入るから暇じゃねーんだ。いろいろ検査受けてから入らなきゃならんから、時間が惜しい。意味も無く呼び出したわけじゃないだろ? ダークファルスとの決戦でもなけりゃこんな数の戦力を…。ユウキの様子も気になるし。」

 

退院した直後のユウキは元気だ。今までにない程の元気が湧いて出てくると本人は言っていたが、まだ油断はできない。現在はスリープ装置に入ってALOにて闘技大会への調整をしている最中だとオキは聞いていた。

 

そんな心配そうなオキをよそに、背中を向けたままシンキはゆっくりと語り始めた

 

「…貴方達は【深遠なる闇】をどれくらい理解してる?」

 

唐突な言葉。シンキから発せられたその言葉は普段にない重みがあった。

 

「あ…? そりゃあ、フォトナーが作り出した負の遺産、ほっとくと宇宙が危ないダークファルスの親玉、だろ? あの馬鹿がそう言っていたし、アウロラも…。」

 

あのバカ、ルーサー。そして【若人】本体復活に伴い、アフィンの姉にして(元)【若人】のユクリータ内部に顕現した『最初』の【若人】にしてオラクル船団最後のフォトナー、アウロラ。その二人から【深遠なる闇】の話はいくらばかりか聞いていた。それに実際にシオンや自分、【仮面】からも。

 

シンキはゆっくりと振り返りこちらに向き直った。その顔は母性溢れる女神の顔ではない。厳しい顔をした魔神の顔。その姿とより強く発せられる威圧感にオキを始めその場にいる者達の身体に緊張が走った。

 

「そう、この宇宙ではね。」

 

「この宇宙では?」

 

ハヤマが首をかしげる。

 

「フォトナーが作った全知の出来損ない、それがこの宇宙での【深遠なる闇】。私から見れば『ただの出来損ない』なんだけど…最悪のケース、私の中にある闇へ至る可能性を見た。」

 

彼女の言っていることが冗談ではないのは全員がわかっている。彼女はふつうのアークス、人ではない。この場にいる者、それこそシャオいや現在我々オラクル船団だけでなくこの宇宙の驚異となっている【深淵なる闇】。それすらも凌駕する存在。皆はそう認識していた。彼女の中には彼女の世界で育ち、宇宙、世界を飲み込まんとした『闇』が存在していたからだ。その力は普段の彼女から見られる不思議な力で鱗片がわかる。

 

「それは一体…どうなるんだい?」

 

今まで目をつむっていたアインスの片目が聞く。

 

「その平行世界への条件は大分遠いけれど、私の持つ闇の原初へ至った場合、大いなる光という抑止力が無いこの世界では憎悪の感染というフォトンではどうにも出来ない存在へ至るでしょうね。」

 

そこに集まった全員がざわつく。

 

ざわつく空気の中、シンキは再び口を開いた。

 

「だから、浄化作業中オキちゃんが居なくてもいいように、今この場で本当の闇がどういう物か知ってもらおうと思ってね、集めたの、それが理由。特に、オキちゃんに頼りっきりで三英雄すらダークファルス一体にボロボロにされるようなのじゃ、オキちゃんが居ないと心配でしょう?」

 

と、ジト目で六芒を睨む。

 

「…。」

 

「いや、ハッハッハ!痛い所を突かれたなレギアス!俺達も頑張っているが中々足りなくてな!」

 

黙っているレギアスをヒューイが茶化す。

 

「さて、全員武器を出しなさい。早速始めるわ。死にたくないなら、全力で止めて見せる事ね。」

 

「…本当にやるのか…?いくらシンキでもこの人数だぞ…?」

 

クロが心配そうに声をかける。

 

「…そういう認識は今のうちに捨てて置きなさいな、今から見せるのは私であって私ではないのだから。」

 

「あ? どういう事だ」

 

オキが聞くや否や、シンキ後ろに開いたアルゴルの宝物庫から、丸い球体が取り出された

 

「エスパーボール、設定、大いなる光の全権限一時移行。」

 

シンキがそう唱えると、エスパーボールと呼称されたそれは空高くシンキの真上に浮かび上がった

 

そして…シンキの体から光の奔流がエスパーボールに伸び、エスパーボールを中心として廃墟のアークスシップの天井に巨大な10の光のリングを作った。

 

光の奔流が収まると同時に

 

シンキの体は黒い靄に包まれた。

 

そこに居るのは別人、いやまったく別のモノになったシンキ。

 

地響きとともに地面から這い出てくる『ナニカ』。それが異様なモノ、異質なナニカだというのが一瞬でわかった。その状況に一同、唖然としているとシャオから通信が入ってきた。

 

『オキ! 君達が居る廃棄するアークスシップから強大なダーカー反応が…!一体何があったんだ!?』

 

「…シンキだ…。」

 

唸るようにシャオへ答えたオキはフォトンをできる限り活性化させる。

 

『ッ!シンキが!?僕らが知る深遠なる闇より遥かに強力な反応だぞ…!?』

 

ゆっくりと地面から生えてきた大量のどす黒い霧のような靄。それと同時に巨大な『うっすらとしか見えないナニカ』。わかるのはそれが大きく、柱のように幾つも生えた巨大な三角系の生物。靄の中には無数に光る朱い光。それはまるで目のように蠢いていた。

 

どす黒いオーラを纏いシンキは普段の余裕ある態度からは考えられないような

 

狂ったようなどこか、誰かの声が幾重にも重なったような笑い声をあげながら

 

こう言い放った

 

「「「助けを乞え…狂声をあげろ…苦悶の海に溺れる時だ!ハハハハハハハハハ!」」」

 

その声を聴いた瞬間、オキの頭に何かが走った。同時に鋭い頭痛がオキを襲う。

 

「ぐ…ぁ…!?」

 

「オキ君!? ちぃ!」

 

「オキ!! この…!」

 

頭を抱えながらその場に膝をつくオキを見てアインスやクラリスクレイスが近寄ろうとするも、多数の触手がその行く手を阻んだ。

 

「なんて力だ…。」

 

「…抑えきれない。」

 

ハヤマとクロノスも苦戦している。

 

オキの目の前に何かが見えた。

 

『銀髪の少女…? 紅い…球体…。オレンジ色の髪の少女…紫髪の少女…?』

 

とぎれとぎれであり、しかも鮮明に映らないその光景だが、まるでそれを体感したかのような感覚に落ちいる。

 

 

球体に吸い込まれる銀髪の少女。黒い甲冑の女性。

 

 

巨大な竜、先ほどとは違う黒甲冑の女性。

 

 

赤きドレスの王、白きベールの少女。

 

 

大海原に海賊船

 

 

 

霧の濃い街

 

 

 

多くの戦士とロボットの軍団

 

 

 

白き巨大な塔と騎士

 

 

 

黒き海と巨大なナニカ

 

 

 

そして目の前にいるなにかと全く同じ蠢くなにか。

 

 

 

 

一瞬でその光景が脳裏に走った。ひどい頭痛は次第に収まっていく。

 

オキが気が付いた時には、周りで戦っていた者達は地面にへたばっていた。

 

「まぁ…ギリギリ合格点かしらね。」

 

宙より降りてきたシンキはツカツカとその場を後にしだした。そしてオキとすれ違いざまにこういった。

 

「あなたが見たのは…現実よ。忘れないように、心に刻んでおきなさい。」

 

 

 

説明をしたあと4人は黙っていた。オキは小さく口を開けた。

 

「いつか起きるであろう事柄だと思う。どこでそんな戦いが繰り広げられるのか全く分からない。だけど遠い先ではない。だから知っていてほしい。」

 

いつか、皆を巻き込む巨大ななにかが起きることを。オキは4人の顔を順番に見た。

 

自分をしたってついてきてくれた少女たち。この子たちは守らねばならない。

 

アオイの事も見る。彼女にはいつも世話になっているから。

 

「えぇ。ご安心を。私もいざというときは…。」

 

サポートパートナーはアークス同様フォトンで機能している。そのため戦うことも可能だ。

 

「大丈夫です。私やここにいる皆さんは、何があってもオキさんを信じます。」

 

シリカが微笑みながらオキへと言葉を返した。それに対し残りの3人も首を縦に振る。

 

「だから、心配しないで思いっきり戦ってきて。」

 

「大丈夫。私たちはあなたを信じてる。」

 

「オキの強さはしってるもん。だから、僕たちのことは気にせず、今まで通りでいてよ。何があっても僕たちは覚悟は最初からあるから。」

 

アークスと共に歩む。それは最悪の場合も考えられるという事。つまりは『死』。

 

戦いを避けられないアークスだから、それは分かっている。オキを慕い始めた時から、それは覚悟として決めていたと彼女たちは語る。

 

それを聞いてオキはコクリと頷いた。

 

「ありがとな。お前達を悲しませないためにも、もっと強くならないとな。」

 

彼が話した物語のような、星を巻き込み、宙を巻き込み、世界全てを巻き込んだ壮絶なる戦いへと足を踏み入れるのは、まだ先である。

 

 

 

 

「そしてもう一つ。これは今でも起きていることだ。」

 

オキの話したもうひとつの大事な話。それは、登録されていないアークスが最近多く活動しているという情報だった。




みなさまごきげんよう。
2週間休暇をいただき、ようやくこの章を終わらせることができました。
最後は納得いく終わり方をずっと考えていました。生きたユウキがどう過ごしていくか。
そしてそれをどうやって次に繋げるか。悩んでいたところにシンキからひとつの物語を渡されました。それが後半です。
次回作に続く話となっております。
長く続いたSAOも次章で完結となります。そして次回作へと続きます。
次章がまた長いのですが・・・。どうやってアレンジしようかな。


ではまた次回にお会いしましょう。


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第6章 〜ファンタシースター〜
第126話 「見知らぬ場所、始まる物語」


オラクル船団は深遠なる闇の浄化を目標に、オラクルのシステムを大きく変え、統制を再び取り始めた。

不定期ではあるが深遠なる闇の復活が数度見られ、そのたびにアークスの全力をもって阻止された。また深遠なる闇復活の為か、かつてのダークファルス達、【巨躯】【敗者】【若人】【双子】の劣化コピー体ではあるが復活もみられ、幾度となくオラクル船団や【若人】の本体が封印される惑星リリーパでその襲撃、復活の兆しが見受けられた。しかし統制のとれたアークス達はそれらを退け、ルーサーの統治された時代よりもはるかに力を蓄え、来る日『深遠なる闇完全浄化』の為、日々精進し続けた。

また、各惑星との交流を深め、特に進化の著しい惑星スレアではオキをはじめとしたアークスの中心人物たちによる親睦が深められていた。

惑星スレアは数少ないダーカーの出現が確認されていない惑星にして外宇宙から見ればまだ平和な星。

オキらアークス達は数少ない平和な星としてできる限りダーカーによる影響が無きようにと、念には念をいれた警戒もされた。

「うっしゃおわったーーー!」

深遠なる闇復活時にダーカー因子吸収の許容限界を超えたオキとマトイ。

ハヤマやアインスを始め、【闇】と関わりの最も強いシンキからの数々の助言、手助けをしてもらい、更に内に抱えていた膨大な量のダーカー因子を分割。それぞれが除去装置へ入る事により予想されていた除去作業時間を数分の1に縮めることに成功。ようやく内に持っていたダーカー因子の完全削除に成功した。

「これからは無茶せずにお願いね。あなた一人だけの身体じゃないのだから。」

フィリアから強く釘を刺される。ルーサー事件後、様々な星、人種を超えた絆を深めてきた。

今では多くの人がオキとの関わりを深く持っている。自分ひとり倒れたくらい、では済まされない。

「それくらいわかってますって。圭子やユウキ達。それこそマトイちゃんだっているんだから。」

未だダーカー因子の除去に時間のかかっているマトイの入ったカプセルを見た。

彼女は一度とはいえ完全に深遠なる闇へとなった。なりかけたオキとは話が違う。

よってまだ時間はかかりそうだとシンキやフィリアは言う。

「そうですよ。一人でも泣かしたら、私が怒りますからね。」

一瞬鬼の形相がフィリアの背中に見えた。オキは強く首を縦に振る。

医療区画を後にしたオキ。その直後に通信が入った。

「あーあー。オキさん、聞こえますか? 除去作業お疲れ様です。」

「誰だ。」

見知らぬ人物からの通信。映像はなく、声だけがこちらへと通じていた。

「あっれー? おかしいな。ごめんなさい! 映像通信機能がまだ不調ですね…。私、シエラっていいます。詳しいお話はお会いしてからしたいので、指示した場所へ来ていただけませんか?」

ここ最近登録されておらず、その姿も曖昧という者達が増えているという。ミケやクロ、シンキ、アインス等オラクル船団ではない出生不明な人物は昔からいた。その数はごく少数に限られていたため危惧していなかったのが事実である。そのため、ウルクが総指揮者となった現在は一度でもオラクル船団でアークス活動を行った人物を一斉に登録をかけた。

一斉登録をして半年ほど。登録されていないアークス活動をしている人が急激に増えた。

どう考えてもおかしいと調査をちまちま行っていた。もしかしたらその人物かもしれない。オキは警戒をしつつも、その指示に従った。

オキが指示されたのはアークスシップの艦橋。オキらが主に活動しているアークスシップの頭にある場所だ。

惑星スレアが目の前に広がっている。そしてそのモニタが多数動く目の前に大きな椅子。それがくるりと回転し、呼び出した小さな本人が現れた。

「来ていただきありがとうございます。いやー、来ていただけなかったらどうしようかと思いました。」

そこにいたのは一人のキャスト。黄色の小さなツインテールに碧に光る眼。背はオキよりも小さい少女のキャストだ。

「私、シエラと言います。本日をもってオキさんたち、ガーディアンの専属オペレーターとして配属になりました。よろしくお願いいたします。」

「お、おう?」

ガーディアン? 専属? いったい何を話しているのだろうか。困惑している最中、シエラは一つの映像を見せてくれた。

「あぁ、混乱させちゃってますね。こちら、ウルク総司令官より伝言を預かっておりますので、どうぞご覧ください。」

現在オラクル船団はルーサーによって引っ掻き回された後の処理を完了させ、アークス達をそれぞれの得意分野に分けた部隊編成を新たに行った。

総司令官をシャオ代行だった指揮系統をウルクに集約。テオドールを補佐官とし、その下に数種類の部隊を大きく分配、作成した。

運営補佐、戦闘、研究等、様々な分野に分け頭に六芒均衡を置いた現在のアークスの新たなる組織図。ここまではオキも知っている。

そしてここからが今回のメイン、オキにとってサプライズのような形で告げられた新たな一つの部隊。

どこにも属さない人物としてオキ、ハヤマ、ミケをはじめとするチーム『ペルソナ』メンバー達とアインス、マトイを含むオキらと特に深くかかわる人物たちによって構成された『守護輝士』部隊、ガーディアンと名付けられた遊撃部隊を作成。そのリーダーにオキを、補佐として専属オペレーターのシエラを新規に配属。総指揮の指示なしで自由に動ける部隊として動けるうえに、小規模でなら一般のアークスへ指示を出せる立場として確立させた。

シエラはシャオによって特別に作られたハイ・キャストだという。

「生まれて2年ほどですが、これでももう大人なんですよ、えっへん。」

腰に手を当てて誇るように微笑むシエラに苦笑する。しかし彼女自身の性能はオペレートに特化した性能となっているようなので、頼れる存在となるだろう。実際、目の前で多くのウィンドウモニタを空中にだし、多くの情報を統括しているのがわかる。

普通のキャストとは違い、シャオの演算能力をそのまま受け継いだ超ハイスペックAIをウルク人格ベースに1から作成。その為、彼女はアークスシップ一つくらいなら統括でき、自由に動かせるという。

アークスシップには一般の市民、その他アークスもいるが、オキの最後のダーカー因子除去作業中に話がとおっていたらしく、全員が特に問題ない、いつも通りだから気にしない、指示があればそれに従い協力すると告げたらしく、オキは皆への感謝で頭が上がらなかった。

「さてさて、以上の内容はオキさんを含む関連する全員に話を通しております。なにか質問ご意見ご要望はありますか?」

オキはんーっと考え込んだ後に特に無い事を告げた。

「了解です。ではでは、早速ですが、ウルク総司令から一つ依頼というかお願いですね。」

ウルクから一つのお願いをされた。それはオキも独自に動いていた登録されていない不明アークスの存在。

より自由に動けるようになったためにオキはその依頼をこなすことを承諾した。

「ああ、そいつは俺も独自に動いていた。こいつが俺の調査メモだ。統合してくれ。」

オキも時間があるときにアークスシップ内のロビーにて登録されているアークスとされていないアークスの違いを調べ、それをメモしていた。

「特に外観とかは変わりないんですね。」

数人は見つけた。その外観は変わらず、一般アークスと見分けがつかない。

「声はまだかけていない。何が起きるかわからなかったからな。だが…。」

ここからは大手をふって調査を開始することができる。シエラに早速登録されていない不明アークスを探してもらった。結果はすぐにでた。

「いました。どうしますか?」

「そうだな。ロビーでは見分けつかんから、一緒に外に出てもらおう。遺跡とかがいいだろう。今ダーカー浸食の起きている場所を指定。そこへ浸食度調査を依頼しろ。作戦はその場で伝える。」

シエラはコクリと頷き、早速の指示に嬉しいのか笑顔でコンソールを操作し始めた。

オキは武器、防具を確認。何が起きるか不明なのでハヤマに待機命令。アインスには各所の警戒態勢を呼びかけるように指示。自由に動き回っていてどこにいるかわからないミケやシンキ、クロには情報を簡単に伝えた後にすぐに動ける状態にだけしておくようにメールを送った。

「ああ、ユウキか? 今説明した通りだ。圭子達に指示があるまで遊び来ないように言っといて。あぶねーから。」

「わかったよー。つたえとくー。」

ロビーへの移動中、ユウキには惑星スレアの遊びに来そうな面々に連絡を伝え、何があってもいいように働きかけを行ってもらった。

なぜここまでの警戒をしたか。自分でもわからない。いくら不明なアークスに会い、調査するだけとはいえ、この警戒。理由は、オキの内にある警笛がやかましくシグナルを発していた。

ここから先は何かが起きる。オキはそう感じていた。

シオンがいた数年前、マターボードと呼ばれるシステムを使い、過去を走り回り、いまの、この現在を掴み取った。マトイが死ぬ未来、深遠なる闇と化す過去。それを変える為に幾度となく走り回ったオキとダークファルス【仮面】。ようやくつかんだこの未来。なくすわけにはいかない。

シオンや、自分自身に約束したこの誰も歩んだことのない歴史を、なかったことにしないように一歩一歩進んだ。

「少年、そこの金髪の少年。」

オキはその場にいた不明アークスへと声をかけた。オキが不明アークスに声をかけた後、偶然を装いともに遺跡の調査をおこなってもらおうという魂胆だ。

「ははは、はいぃ!? わた…いや、僕に何か用?」

「いや、ふらふらしてたからな。大丈夫か?」

急に声をかけられた為か挙動不審だった金髪の少年はびっくりしながらこちらへと驚き、顔を見たとたんにより驚きの声を上げた。周囲にいた一般アークスは少年を見た後、オキをみて何かを囁き始めた。

「またあの人か。」

「この間は女の子に正座させられてたよね。」

「今度はショタ? あの人男の子もいけるんだ。」

「ホ○ォ。」

オキには何を言っているのかわからないが、なぜか女性陣がキラキラした顔でこちらを見ているのが気に食わなかった。

「っち。なんかいい噂されてねーなこれ。おう、無理すんなよ。」

「ははは、はい。ありがとうございます…。」

すごい目が踊っている。オキの警笛はより一層強まった。

次のタイミングでシエラに通信で登場してもらい、早速調査の依頼。

「いきなりすみません。ヒツギさん、でよろしいですね? 私、シエラと申します。あなたに総司令から直々の依頼がありまして、目の前の人と一緒にお願いできませんか?」

「え? わわわわた…いやボクが?」

「ああ、名前、言ってなかったな。俺はオキ。よろしく。」

「オキ…オキ…。っ! 深遠なる闇で大活躍したアークス!?」

叫び声と共に、更に囁き声が聞こえてきたので草々にキャンプシップへと移動させた。

キャンプシップで遺跡へと移動。出現するダーカーを倒しながら進んでいった。

「え? なにこれクエ? それともあたしなにか目をつけられるようなことした? こんなのあったっけ? というかなんで大英雄のNPCが…。やっぱりバグ?」

ブツブツとつぶやく言葉の中にある単語をオキは聞き逃さなかった。

クエ、NPC、バグ。SAOやALOでよく聞く言葉であり、自分もよく発した単語。しかしそれではまるでゲームではないか。ますます怪しいヒツギに目を光らせる。

戦う姿は新人アークスの様で一応は戦えている。フォトンの使い方は…不安定だな。

暫くして、遺跡の調査は滞りなく終わりそうだ。挙動不審の少年アークス、ヒツギの腕は確かだ。ダーカー相手でも物怖じせずに向かって倒している。多少危なっかしい所はあれど、新人アークスだと思えばそう不思議ではない。

「うわ…めっちゃみてる。やっぱあたしなにかしたのかな…。いや、ばれてないよね。うん。大丈夫。」

ぼそぼそとつぶやき声が聞こえる。やはりおかしい。その時だ。

「…ん? なに、こいつ。」

ヒツギの前に現れたのは黒い人型の靄。ゆっくりと動くソレにオキは異様な感じを察した。

「ちぃ!」

急に黒い煙の球を少年にぶつけようとした黒い靄の人型。しかし弾は素早く割り込んだオキに邪魔される。

「え? オキ…さん?」

『ダーカー反応…この強さ…! ダークファルスクラス!? なんで!? いままでこんな反応…なかったのに!?』

通信の先でシエラはパニックになっている。オキもこのようなダークファルスは見た事が無い。まるで実態のないような…。意思だけのダークファルスとかあるのだろうか。少なくとも今まで相手してきた奴らよりも力は弱そうだ。

『オキさん、気を付けてください。そいつの狙いは、あなたです!』

「まじかい!」

エルデトロスを振り上げようとする腕をその場で止める。その直後にゆっくり動いていた靄の人型はオキへと走り出した。

パァン!

人型のソレに何かが当たる。ヒツギのガンスラッシュの弾が当たったのだ。

「なんだかよくわからないけど…ここががんばりどころってことでしょう!?」

ガンスラッシュを撃ちながら勢いよく近づき、ソレを切り裂いた。

「どんなもんだい。」

消え去った黒い靄に安堵するヒツギ。しかしオキの警笛はなり続けている。

『ヒツギさん、油断しないでください。ダーカー反応はまだ残っています!』

「え? だってきえて…なに? これ…うごけない…なんで!?」

黒い靄だったモノは煙と化し、ヒツギの中へと入っていく。ソレはダークファルスのソレと一緒だった。

「いや…怖い…誰か…たすけ…て…。」

「大丈夫だ。俺に任せろ。」

消えゆく意識のなか、ヒツギが見た光景はオキが手をかざし、光を放っている姿だった。

『ダーカー因子が中和されて…そうか、オキさんの力!』

「っ! 手が動く! これならログアウトを!」

恐怖で顔がこわばっていた少年が我に返ったのか手を大きく振り上げ、その場に出したコンソールに手を叩きつけ、その場で消えて行った。

その直後オキの目の前が大きく光り、ダークファルス共々その光に飲まれた。

真っ暗な渦にのみ込まれたオキの意識はどこかに流される間隔にあった。

そして、一つの光がさした。

『助けて…誰か…助けて!!』

強い誰かの願いがオキの頭に響く。真っ暗闇だった周囲が次第に明るくなって見えてくる。

一人の少女が少年にかばわれ、青白い化け物のような人型に攻撃された光景が見えた。

次の瞬間、オキは目の前にいた青白い体をした男を足の裏で蹴り倒していた。

「まったく…。俺の目の前で女の子襲うたぁ…。いい度胸じゃねーか。」

オキには見えていた。再び振り上げられた腕、少女を襲うまるでゾンビのような男を。チラリと後ろをみると少女恐怖で顔が引きつっている。

先ほどまで一緒にいた少年も一緒だ。目の前には蹴り倒したスレアで知った『ゾンビ』と呼ばれる化け物ような男、それも一人ではない。ドアの向こう側にも見受けられる。

ここは誰かの、いやこの少女の部屋なのだろうか。ここはどこなのだろうか。後ろで動けなくなって震えている、助けを呼んだこの子は一体? そして少年は?

「考えるのもめんどくせぇ。とりあえず、おう。おめーら、誰に向かって刃ぁむけてんだ!?」

蹴り倒されたゾンビは再び起き上がり、手に持った小ぶりの刀をオキへと振り下げた。だが、エルデトロスにそれは防がれる。そして再び腹に蹴りをかました。

蹴られたゾンビはドアから入ってこようとしたほかのゾンビを巻き込み、ドアの外、廊下へと吹き飛ばされる。

「ウゴゴゴゴ…。」

声にならないうめき声をあげるゾンビたち。言葉が通じない事がわかる。

「シエラ、目の前の化け物は何か分かるか? 倒していいかな。」

『その…、目の前にあって中身が無い。まるで風船のような存在…? と、とにかく危険そうなので倒しちゃいましょう!』

それを聞いてオキはニヤリと口を歪ませた。

ドアの向こう側は横幅の狭い廊下。そこにいる10人ほどのゾンビ男共だけ。オキは武器を変える。

パパパーン!

ゾンビの頭に大きな穴が開く。中身は何もない。外側だけが形作っている。オキの持つエルデトロス同様の素材で作られたアサルトライフル『リフォルス』からはいくつもの銃火が放たれる。

「向こうから勝手にきやがる。こいつら一体何なんだ?」

最後の一発の銃弾がゾンビの頭を貫く。ゾンビたちはまるでSAOやALOのモンスターエネミーのような消え方、結晶が破裂し、砕け散ったような消え方をした。

「まさか、またゲームの中じゃねぇだろうな…。」

ほっと一息ついたところでシエラから通信が入った。

『いえ、この世界は現実の世界です。ゲームの世界なんかじゃありません。ここは…星。我々の知らない星です。』

なぜ見知らぬ星の住民がアークスに紛れ込んで活動しているのか。襲われた彼女や少年、襲ってきたこいつらは一体? 

そうだ、さっきの少年と少女は。部屋に戻ると怪我は無さそうで安心した。

「さっきのは…。」

「安心しろ。全部ぶっ飛ばした。」

「そう…助けてくれて…ありが…とう…。」

極度の緊張状態から安堵したから気を失ってしまった。それを見たオキはため息をついて少女と少年を近くにあるベッドへと移動させ、布団をかけてやった。

「わりぃな。まだおめーらのこと信用してねーんだ。一体何の目的があってうちらの所にいたのか。そもそも何者なのか、見極める必要がある。…ん?」

ふと近くにあった机の上にある光り輝くモニタ画面をのぞいた。

「PHANTAS…ファンタシースター…オンライン?」

机の上にあるキーボードはスレアで学んだパソコンと同じものだ。オキはエンターキーを押す。

画面は移り変わり、いくつかのアークスシップが映し出される。そこから先はID入力が必要らしく先は不明だった。しかし彼女たちが何かしらアークスに対し行動を起こしているのは事実のようだ。

気を失っている少年と少女。彼ら彼女らが一体何者なのか。とりあえずオキはシエラからの帰還要請を受け、テレポートした。




みなさま、ごきげんよう。
ここよりPSO2のEP4が始まります。そして、今作SAOの最終章となります。
3年近くもの長くも短いあいだ、お付き合いいただきありがとうございます。
もう今しばらく、この物語にお付き合いください。
しかしここまで来るとSAO関係ない件。

さてここからのEP4ですが、ベースがEP4であってかなり改変します。
なので原作通りではないのでご了承ください。

ではまた次回にお会い致しましょう。



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第127話 「パンツァー・フォー!」

目を覚ませば、目の前にはあの少年がいた。自分がファンタシースターオンライン2でつくったアバターそっくりの少年。自分の名前がわからないというその少年にヒツギは『アル』と名付け、学園の寮の部屋にとりあえずおくことにした。友であるコオリに相談し『マザー』の助言を待つことにした。

しかし彼女はあの光景を忘れたわけではない。自らが危険の状態に立った2度。彼は助けてくれた。1度目はゲームの中で、あの黒い靄に囲まれて自分が自分で無くなるような感覚の中、暖かい光で手を差し伸べてくれた。

2度目は目の前で。しかも私自身の部屋の中でだ。あんな化け物は知らない。見たこともない。

『マザー』はゲーム内の調査だと言った。でもあれがバグだとは言ってなかったし、そもそもキャラクターがゲームの外に出てくることがあり得ない。私、ヒツギは自分の知らない何かが起きている事を薄々と感じかけていた。

オキが強制転移し、少年少女を助けた次の日。守護輝士ら全員を艦橋に集め、現状の情報を共有化した。

「オキさんがあの子とつながってくれたため、いろいろな情報を得ることが出来ました。」

オキが少年を助けた際に放ったフォトン。それが少女の中に入り込み、それがつながりを得たようだ。

そのおかげで彼女のいる場所がわかるようになった。

「あそこは私たちとは違う外宇宙の星。名を『地球』と呼ぶそうです。私たちオラクル船団のある宇宙とは別の異次元の先にある宇宙の星です。」

オキが予想していたよりも遙かに斜め上の結果を伝えられた。世界が違うってことか。とんでもないものがでてきたものだ。

オキとつながってわかった事も増えた。それは惑星スレアの宇宙座標と全く同じ場所にある事。

生態系やその他諸々まで惑星スレアとほぼ同一である。一部を除いては。

「その一部というのが、まず一つ目。エーテルという存在です。」

エーテル。フォトンと似て非なるそれは情報通信に長けた存在らしい。ただし、エーテルはその地球周辺にしかないという事。また、もう一つ異なる点。

「どうやらあの星には『マザー』と呼ばれる存在があり、人の生態系の頂点にある存在の様です。」

「シエラちゃん? マザー、そういったわね?」

黙っていたシンキが口を開いた。その声色は普段のおどけた雰囲気ではない。

「はい。詳しい事はまだわかっていませんが、選ばれた人、マザークラスタと呼ばれる組織の人達に何かしらの通信、もしくはテレパシーのようなものを使い、指示を行っているようです。」

シンキの目が細くなる。そして大きなガラスの先にある青々と光る星、地球を睨み付けた。

アークスシップは今、異次元の扉の先へと進み、地球のすぐそば、地球の衛星のすぐ目の前で停止している。

念のためカモフラージュし、向こうからは認識されないようにはしてある。

「どうしたシンキ。なにか気になる事でも?」

オキが恐る恐る質問する。シンキはオキをみていつもの微笑みを見せオキの頭を撫でた。

「いいえ。大丈夫よオキちゃん。後、私はしばらく一人で行動するわ。何かあったら呼んで頂戴。」

カツカツと艦橋を後にしたシンキ。それを見ていたシエラはおどおどしていた。

「どうしたのでしょうか。なにか思い当たる節があるようですが…まさか私たちに迷惑にならないようにとか?」

「いや、あいつが迷惑云々考えるような奴じゃないのはここにいる全員が知っている。シンキにはシンキの考えがあるんだろう。俺はそれを信じるし、何も言わない。」

出て行った扉を見つめるオキと同じくと頷く面々。

「しばらくは情報収集に努めよう。相手になんの目的があるのか。何をしようとしているのか。事と次第によっちゃこっちもただじゃ済まさねぇ。」

「もしも、喧嘩を売られたら?」

アインスが壁に寄りかかり、質問してくる。もちろん当たり前の話だ。

「売られた喧嘩は買う。俺達が誰であるかを教えてやろう。」

オキの言葉にハヤマ、アインス、クロが強く頷いた。ミケはいつの間にかいなくなっていた。

ハヤマとアインスはしばらく登録不明アークスの調査を続けてもらい、常に監視してもらうことに。またシエラはオキのつながりにより、日常が断片的ではあるが映像として見れるようになったらしいので、日常会話の中から情報を得られるものをできる限り引っ張ってもらうことにした。

そしてオキとクロはというと。

「やはりな。同じ位置に同じものがない。生態系やらのおおざっぱなところは一緒でも、全く一緒ってわけじゃないんだな。」

オキとクロは地球へと降り立ち、人にまぎれて調査を開始した。開始した直後、オキやクロがまず確認できたことが惑星スレアとほぼ同じであって、一部違うモノのレベル度合だった。

生態系、歴史、文化、はてには各地名までは一緒だがそこからは違ってくる。

まず同じ人物はいない。簡単に言えばスレアにいる圭子だが、地球には圭子という存在はない。

建物の位置も形も似ているが合ったりなかったりする。都心にある『東京駅』。これはスレアにもあったが、あの喫茶店、ジョーカー達の喫茶店はなかった。

「さて、あらかた調べはついたな。だーいたいわかってきたな。」

オキとクロはテラスとなった喫茶店に入り、コーヒーを飲んで一服していた。

オキは普段よりも髪を伸ばし、オールバックにして後ろに束ねポニーテールに。真っ白なコートは相変わらず。今日はハット帽をかぶってない。

クロは小さなベルトが腕に巻かれた黒いコートを羽織り、下は短めのスカート。首にはスカーフを巻いている。

その二人の姿は地球の一般人とそう変化はない。

「そういや、今日は髪を伸ばしてるんだね。」

「ああ、ちょちょいっとフォトンで。できるだけ、ばれたくないからな。」

オキはクロに、オキの背中の向こう側を見るように目で合図した。

クロがその方向に目をやるとあのヒツギという子とその友人、そして謎の少年がいるではないか。

「ここにいる事知ってたの!?」

小さく叫ぶクロ。オキは口に人差し指をあてウィンクした。

「シエラがつながってるって言ってたろ。俺はどうやら向こうの居場所が何となくわかるらしい。もしかしたらバッタリ、なんてこともあるかもと思ってな。」

ふぅと加えたタバコの煙を上に向かって吐き出す。

オキの見た方向にはビルにつけられた大きなモニターがあり、一人の男性がインタビューを受けていた。

男の名前はハギトというらしいが、オキには全く興味がなかった。興味があったのは彼がしゃべっている内容だった。

ここ近年で大きく発達したエーテル技術をより発達させたのが彼らしい。エーテルを使用し、情報インフラの拡張、日常生活には欠かせないモノへと進化させたようだ。

そしてオキが興味をひいたもう一つ。

「へぇ。こっちの星にも大和があるんだな。いやあったが正しいのだろうか。」

ハギトはインタビューそっちのけで戦艦大和について語っていた。スレアで言うところのミリタリーオタクというやつだろう。

圭子たちの居る国の海軍に所属する国を象徴するほどの大戦艦、大和。それがこの国にもあったようだ。

「大和?」

クロが首をかしげた。

「そう。『超戦艦大和』。知り合いなんだ。惑星スレアにも『いるんだよ。彼女達は。』」

「彼女? 女性なの? 戦艦なんだろ?」

今度会わせるよとオキが微笑みながらコーヒーをすすった。

オキとクロが座っているテーブルから少し離れた場所。

ヒツギとその友人であるコオリ。そしてゲームの中から出てきたヒツギのアバター姿のアルという少年がテーブルを囲んであれこれと話をしていた。

会話を聞き耳たてて聞いている最中、マザーの話が出てきた。オキとクロは目を合わせてより詳細な中身を確認しようとしたところに一人の男性が現れた。

「あれは…さっきの?」

先ほどモニターでインタビューを受けていたハギトという男性が彼女たちに近づいたのだ。どうやら商品の宣伝らしい。

興味を無くしたオキは席を立ち、クロと共にその場を去った。

「聞かなくていいの?」

「興味ねぇ。情報がないんじゃ長居は無用。いくぞ。」

オキはそう言いながら街の中を歩き、本屋や電気屋等いくつかの情報を得た。

ファンタシースターオンライン2。それはエーテル通信を利用して現在爆発的に人気が出ているオンラインゲームだ。どこでも持ち運び簡単な媒体で遊べるアクション系のゲームらしい。実際に電気屋でお試しコーナーがありプレイしてみた。

オキとクロの画面の目の前には実際のアークスシップの映像が見えており、こっそりハヤマに連絡。オキの操作しているキャラクターを創作してもらい実際にハヤマが目の前にいることも確認した。

「こいつは一体何をしたいのだろうか…。」

ゲーム自体はアークスシップで実際にクエストを受けてダーカーや原生生物等とあーくすとして戦うというアークスにはなにも影響はない。むしろ人での足りてない現状に大きく貢献できている。しかし…。

「これ、アークスの情報ダダ漏れだね。」

「ああ。幸い、俺たちのような上位クラスの秘匿性高い位置にいるメンバーとの交流はなさそうだ。」

オキとクロはより一層警戒を強めることをシエラに通達した。

「ん? これは…。」

「どうしたの?」

オキが道端で見つけたのだとあるポスター。そこには『ザ・ライナー』と書かれ、巨大な電車の頭をしたモンスターの写真が載った宣伝ポスターだった。

「こういうの大好き。映画みたいだぜ見に行こう。」

「ちょ、ま、マスター!?」

目をキラキラ輝かせてクロの腕を引っ張り、近くの映画館に入っていくオキであった。

 

 

私は悩んでいた。またPSO2に再ログインに成功した。成功したのだが、今の自分。外の自分と全く同じ姿でログインした。姿だけではない。生身でだ。

そしていま目の前にはアルも。

生身でこられているということが証明された。ここは現実の場所である。

そして、そんなことはマザーも言っていなかった。一体なにが起きているのか。何をマザーは行おうとしているのか。何のためにここを調査していたのか。

ヒツギの中では謎がうずまき、悩みはより一層深くなっていくばかりであった。

「シエラさん。」

ついこの間、アルが来てから、あの事件が起きてから初めてログインした時にシエラさんに呼ばれて艦橋へと導かれた。そこにはあの人もいた。

ちょっと怖そうな顔だけど優しいアークス、オキ。

まるで来ることを知っていたような様子だったけど。

すくなくともここが宇宙で、しかも本物の宇宙船で。

そしてアルが何者かはまだ分かっていない状態。幻想種とよぶようにしたあのバケモノ。

その幻想種が私たちの生活のすぐそばで、あのアークス達と戦っていること。それも沢山。人の害する生物であるのは間違いないという判断がされたために時々戦っては助けてくれていること。

まさかそんなことをしてくれていたなんて知らなかった。

マザーは、そんなこと言っていない。そう一言も…。

『悩むなんて、ヒツギちゃんらしくない』

コオリからの言葉を思い出した。悩みに悩んだ私は…コオリからの言葉で決意がついた。

だから…。

 

 

 

「あちらの世界。製造技術はローテクなのに、通信技術だけはやけにハイテクなんですよね。」

「通信速度、インフラそのへんに関してはスレア以上だな。」

「ええ。下手すればアークスと同格クラスですよ。」

なぜかいびつに感じるシエラとオキ。不自然というか、異常進化。

何らかの作為とも思える。

「シエラさん。」

シエラにひとつの通信がはいる。演算したとおり向こうからもう一度連絡が来た。

「はいはい。シエラですよー。」

「アルのこと、調べて欲しいの。オキさん、もいる?」

「いますよー。ではお待ちしております。」

ヒツギからの通信。あのアルという謎の少年の調査を依頼しにやってきた。

あの少年、アル。その正体がこちらの世界のモノなのか、それとも向こうの世界のモノなのか。未だに分かっていない。オキにもその懸念があった。もやっとしてなんとなく気持ち悪いその感覚。それを晴らすためには、彼女らがここに来ること。

そしていま、目の前に来た。

「よお。元気か?」

「多分…。っていっても筒抜けだよね。あまり元気じゃない。でも覚悟は出来てる。」

何も知らないのはいやだ。なにもできないまま失うのは絶対にいやだ。そう口にしたヒツギの言葉にオキはふっと笑った。

「ようし! よく言った。その言葉、絶対忘れんなよ。おめーが言ったんだからな。シエラ。」

「はい! ではアル君おねーさんとあくしゅしようか。」

「うん!」

 

ダイレクト接触確認。これよりスキャンを…

 

スキャンを開始しようとした瞬間。シエラのてからアルが離れた。一瞬の出来事。急な発光によりオキも油断した。

目の前から、ヒツギとアルがいなくなったのだ。

「シエラ! 大丈夫か?」

「は、はい。私は大丈夫です。ですが、ヒツギさんやアル君が…。接触した瞬間をトリガーに彼女たちが何かによって引き戻され、強制的にリンクが断線…アルくんと、私たちの接触を恐れた?」

「っち…。」

オキはモニタをにらめつける。画面には現在のヒツギの状況が映し出される。

この間襲ってきたあの化物がヒツギたちをヒツギの部屋で強襲したのだ。

幸いにもその友人、コオリが手助けしてくれている。だが、なにか様子がおかしい。

「まずい。彼女とあの子との繋がりを途絶えさせるわけにはいかん! こっちでなにやってるか、まだわかってないんだから!」

学園にて幻想種に囲まれ、さらに金の使徒、マザークラスタの幹部。『ハギト』が襲いかかった。コオリの手引きで、アルをわたし、いつもの日常に戻ろうというコオリ。

それを断るヒツギ。そしてハギトの『具現武装、エメラルドタブレット』が光り大量の兵器とあの化けモノゾンビたちが現れヒツギの絶体絶命。そう思えた。だが、彼女の手に光り輝く刀が一本。

ニヤリと笑い、オキはシエラに向かって目で合図する。こくりと頷いたシエラはモニター前に座り操作し出す。

「いけます。助け出してください! 私たちには、彼女達が必要です。」

「まってました!」

オキはコートをバサリと翻し、キャンプシップへと走った。

 

 

 

「なるほど。そういうことか。なかなかのエーテル適正。私に仕事が回ってくるだけある。だが、それくらい…。なんだ? この反応…上空? っな!?」

追い詰めたハギトは空から向かってくる巨大な反応に目を奪われた。

空からの来訪者。未知なる存在。ハギトの知らないソレは空から降りてきた。

見たこともない飛行船。しかしそれは手に余る。あくまで少年の回収。

だから少年へと手を進めた。しかし…。

「うえからしつれーしますっと!」

一人の青年が現れた。そしてハギトの軍勢を一瞬のうちに吹き飛ばした。

「なんだと!? なんなんだ…貴様は!」

「なんだかんだと聞かれたら…答えてあげるが世の情け!ってなぁ。大丈夫か?」

オキは後ろで震えるアルを守るヒツギをみてコクリと頷いた彼女の次にハギトを睨みつけた。

「マザー…。話が違うぞ。これは…追加料金では物足りんなぁ!」

更なる兵器とゾンビたちが現れる。オキはそれをみてニヤリと笑った。

「アークス、オキ。参る!」

軍事へりに戦車。ロードローラーまで現れる。しかし、オキにはなんてことはない。

「へへへ。戦車なんざ、こうやって!」

オキは向かってくる巨大な戦車の砲台を輪切りに。気が付けばともにミケも一緒になって戦っている。いったいいつから居たのだろうか。だが、そんなことはどうでもいい。

「ロードローラーなのだー!」

自分の何倍もの大きさでさらに重量もあるロードローラーを鷲掴みにしぶんぶんと振り回して空中にいるヘリを叩き落としている。

「このぉ!」

ヒツギもアルに近づこうとするゾンビを一閃、また一閃と切っている。

オキは戦車の上部に乗り上がり、エルデトロスを突き刺した。

「よっと!」

ビリビリと電撃を喰らった戦車は大人しくなり、オキがエルデトロスにさらに電撃を加える。

「そーら! パンツァー・フォー!ってなぁ!」

電撃にフォトンを乗せ、戦車に流すことでその制御を乗っ取ったのだ。そして目の前にいる別の戦車へ砲撃。吹き飛ばしたあとにさらに別の戦車に突撃さ横転させる。

ジャンプしエルデトロスを乗っていた戦車と横転した戦車に突き刺し、電撃を喰らわせた。

巨大な爆発音と同時に消えてなくなる戦車。

「全く。向こうの戦車道で覚えた戦車の動かし方がこんなところで発揮されるなんてな。」

スレアの交流にて、戦車道と呼ばれる武道をやっているという高校生たちに混じって戦車の扱い方を教えてもらったことがある。彼女たちは元気だろうか。また会いに行ってみるか。そう思いつつまわりを見渡せばもう戦車もヘリもいない。

「さぁて? どうする? お前さんのご自慢の軍隊、けちょんけちょんにしてやったぜ? まだやるか?」

ハギトに向かって火のついたタバコで指差す。周囲にいた大量のハギトから生み出された幻想種は壊滅したのだ。

「やめたやめた。これ以上イレギュラーが発生しては、損失がでかすぎる。」

「逃げる気か?」

「ああ、そうだ。私がやっていたのはビジネスだ! だからここで引く。だが…次に会った時はマザーもなにもかも一切関係なし。一切考慮なしだ! 徹底的に…潰してやる。」

ハギトは捨て台詞をはきその場から消えた。

追おうとするヒツギに深追いは禁物と伝えるオキ。まわりを見ればきがつけば ミケもいなくなっていた。何しに来たんだあいつ。

「ヒツギちゃん…うそだよね…。裏切ったなんて…うそだよね? 私は、ヒツギちゃんを信じてる…信じてるのに…。」

「私は…裏切ってなんか…。」

「だったら、なんでマザーの言うことを聞いてくれないの!? 裏切っていないなら…私の手をとって…戻ってきてよ…。」

泣きながら叫ぶコオリ。だが、ヒツギは首を振った。もう戻れないと。

ごめんと何度も背中でコオリに言うヒツギと、悲しそうにヒツギの手を取るアルを、オキは無言で煙を吐きながら一緒にキャンプシップへと転送した。

「良かったのか?」

「うん。私は、やるって決めたんだ。だから…もういいの。」

「そうか。アル、一緒にいてやれ。俺は操縦席にいるから。なんかあったら呼べ。」

コクリと頷いたアルはヒツギのそばへ近寄り、今にも泣きそうなヒツギの頭を胸へと押し当て、なで続けた。

 

 

 

「ヒツギちゃん…どうして…どうして…。」

泣き続けるコオリは校庭の真ん中で泣き崩れる。そこへ、一人の少女が現れた。

「…。」

「うん…。わかった…。私…。」

そうしてコオリとその少女はどこかへと消えていった。

その瞬間を遠くから、空の上で浮かぶ金色の飛行物体にのってじっと見ていた女性が一人。

「マザー…。」

細くした眼でそれを睨みつけるシンキ。それは違うものだとわかっている。それがなにかまでもわかっている。だが、その二つの『答え』であるからこそ、胸に渦巻く苛立ちを消すことは不可能だった。




みなさまごきげんよう。
EP4の一話一話がなげぇ! ヒツギメインのEP4をどうやってアークスメインにするかを悩みつつ書いてますはい。
さて、次回はあの大和戦です。いろいろ問題ありましたね。いまでは懐かしい思い出です。
この大和戦。大きく変化させます。それは次回のお楽しみということで。
以前出たい!と申してくれましたアークスの方にもほんの少しだけ出番がありますよ。(名前覚えてるかな…。もし書いてくださった方がいましたら名前を感想の方に書いていただけると助かります。たしか2名だったはず。NさんとGさん)

では次回にまたお会い致しましょう。


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第128話 「バトルシップ」

「この屈辱は…忘れないぞ…。」

一人の男が海の見えるビルの屋上で頭を抱え悶えていた。

ついこの先日。空から降りてきた一人の男、その仲間。自分のビジネスを完全に邪魔された。

おかげで僕は他の幹部の笑いものだ。だが、笑っていられるのも今の内だ。このエメラルドタブレットの全開放。今までにやったことのない具現化。

にやりと口をゆがませ、自らが崇拝する一つの形をそのままにイメージした。

「さぁ! エーテルを吸い取れ! エメラルドタブレット!」

緑色に光り輝くソノタブレットは空中へとあがり、周辺のエーテルを吸い付くし、一つの形となりあがった。

それはハギトが思い描く一つの形。それが動き出せば、どうなるかは予想もつかない。

だが、それでいい。あいつらを…僕をバカにしたあの者どもの悲痛なる顔が見れるのであれば。それでいい。

「さぁ、暴れまわれ! 僕のエメラルドタブレット!」

ハギトそっくりの形をした軍服姿のエメラルドタブレットだったソレはさらに空へと舞いあがり、海へと飛んで行った。

「ふふふ…ははははは! さぁ目にモノ見せろ!」

 

 

 

 

 

オキ達に連絡が入ったのはその数日後だった。

惑星地球、その極東の島国日本の太平洋沖に巨大な戦艦が出現した。

沖合500km地点に出没したその巨大戦艦はゆっくりと日本の首都、東京へと直進していた。

「強力なエーテル反応を持った巨大戦艦は、いまだ約5ノットの速度で進行中。このまま進めば2日後には東京へ到達。」

姿をくらましたハギト。彼が最後に言った言葉。オキはそれをもう一度思い返す。

『あれはもう止められない! 私でもな! あれは全てを破壊しつくすまで止まりはしない! 私からの最高のプレゼントを楽しみにしているがいい…。ハハハハハ!!!』

オキへと向けられたと思われるその映像は隠してあるはずのアークスシップで受信した。やはりばれているという事か。いや、そもそも未だに向こうからのログインがされている時点でばれてるもへったくりもないか。

オキはその直後に彼の行方を追ったが、結局見つかる事はなかった。もし彼の言うとおりであるならば、最悪の場合東京だけでなく日本が壊滅してしまう。

「まぁ、はっきりいって星のゴタゴタに関してはどーでもいいんだけど、さすがに俺達の喧嘩に一般人巻き込みたくねーし。なにより、喧嘩吹っかけられてハイソウデスカと放置するのは気に入らん。ってわけで、専門家に聞きに来たわけだ。」

「なるほど。」

小さくボソリとつぶやき、鋭い眼光でオキが映し出した映像を見つめる白き軍服姿の中年男性。名を古田冬獅、惑星スレア、ニホン海軍少将。

「大和について聞くなら、オールドのとっつぁんかなって。」

彼はSAO事件の際、オールドの名を使ってプレイしていた。彼曰くSAO、つまり初のVR世界の情報を調べる為に任務として参加し巻き込まれたそうだ。SAO事件後、彼が軍人であり海軍の艦隊の指揮官だというのを知った。彼を通して軍の関係者とも交流を深めている。

今回はそのアドバイザーとして話を聞きに来たのだ。

地球に現れた巨大戦艦。その姿はスレアで知った『大和』の姿そっくりだからだ。

「間違いありません。大和お姉さまそのものです。」

「っち。大和にそのようなことを…許せん。」

彼と共に映像を見ていた二人の少女と女性。銀髪がとても長く、色白の小さな体の少女。長いまつげが印象的だ。もう一人は褐色肌で眼鏡をかけたナイスバディのお姉さん。二人して『武蔵』らしい。

そしてもう二人。片や白きドレス姿の黒髪美人と同じく黒髪ポニーテールの凛とした顔つきの美しい女性。

だが今は二人とも悲しそうな顔をしている。

「守るべき国を守れず…自ら壊してしまう。なんと悲しい…。」

「何とか止めてやりたいものではあります…。」

『大和』。この国を象徴する海軍の最大戦力。それが彼女らだ。艦娘。『メンタルモデル』とよぶ彼女らはコアとなる核を用いてその姿でかつて活躍した軍艦の名を継ぐ。

女性であり、適性が無ければそれは不可能だが、適性のある女性は国を守り誇りを守るべく、その姿となり、特殊な力を発揮する。

彼女らを本体とし、スレアにのみ存在する物質ナノマテリアルを使い、実際の軍艦の姿を形どる。それが彼女ら『艦娘(メンタルモデル)』だ。

SAO、ALOにてミケと仲のいいヒナとハナも駆逐艦雷、電の艦娘としての適性があり、事件後古田によってスカウトされている。

「指揮官、手助けはできないでしょうか。大和お姉様の名を汚す事。私は許しません。」

「ああ。なんとか止めてやりたいものだ。」

武蔵の名を継ぐ彼女らはやる気満々のようだ。

「ふむ。」

オールド、古田少将は眉間にしわを寄せる。

「私達からもお願いできませんか提督。」

「本来、私たちが向かいたいところではありますが…。」

大和たちはより悲しそうな顔をする。

「大和たちは先日の戦闘でついてしまった傷をいやすために動かすわけにはいかない。」

「はいるぞ。」

二回のノックのあと、古田の執務室へ一人の肥えた身体の初老の男性が部屋へと入ってくる。その瞬間、全員が立ち上がりその者へと敬礼をした。オキもゆっくりと立ち上がり敬礼をする。

「お邪魔しております。将軍。」

その男性はこの海軍だけでなく、ニホンの軍をすべて任されている将軍の一人だ。もちろん今回の件はアドバイザーとして彼や他の将軍たちにも話がいっている。

「よい。君には古田君を助けてもらった命の恩人だ。ゆるりと…と言いたいところだが、そうも言ってられんだろう。」

白いひげの将軍はニコリと笑うも未だその目には険しい眼光がみえる。

「私含む全員満場一致の命令だ。できることはすべてせよ。オキ君、君達には感謝してもしきれない恩があるからな。」

「恐縮です。ありがとうございます。」

まさかの展開にオキも驚きの顔を隠せない。元々は戦艦大和の情報を得る為にやってきたのだから。アレがそのままである確証は間違いない。武装などは違えど、装甲、駆動部、弱点もそのままだと予測している。

なぜなら、相手がハギトだからだ。あそこまで崇拝しているモノだ。そのままで来るだろうと思っている。武装以外は。

「武蔵、できる限りのナノマテリアルを用いて地球の海にてその咆哮を放て。大和の名を汚す愚か者を…叩き潰せ。」

「了解ですわ。」

「了解だ!」

敬礼後、武蔵達はその部屋を早々に立ち去り、準備へと入った。将軍は近くのソファに座り、大和から受け取ったお茶をすすりだした。

「しかし本当によろしいのですか将軍。向こうの情報はできる限りお渡しいたしましたが、相手は未知数。こちらの予想をはるかに上回ってもおかしくありません。そんなところに大事なあの子たちを…。」

オキの心配の声に、将軍は待ったの手を出した。

「古田君がもしかしたら死ぬかもしれないとひやひやした。彼はとても良い軍人だ。それは私がよーく知っている。だからこそ、あのVR計画にも参加させたのだ。事件が発覚した直後、私は何度も眠る彼に謝ったものだ。」

「将軍…。」

「だが、君たち『あーくす』が助けてくれた。彼の命はこの国の命だ。その恩、いまかえすときぞ。それに…。」

先ほどまで険しい目だったその顔が優しい初老の男性の顔へと変わる。温まる、その顔は誰もが付き従うにふさわしいと思える顔だった。

「困ったときはお互い様、だろ?」

「本当に助かります。お借りした武蔵、無傷にてお返しいたしますことをお約束いたします。彼女たちは、艦娘であろうとも一人一人の女性。大事な彼女たちの身体を傷つける事は致しません。」

敬礼で答えたオキの肩を叩く将軍はその答えに頷いてくれた。

 

 

 

 

オキ達アークス。そしてまさかの助力、超戦艦武蔵により作戦がたてられた。

緊急事態により、一般アークスも多数参加してくれることが決まり、それは今まさに実行されようとしていた。

『いいか! 相手は国の象徴たる大戦艦ヤマト! 偽物だからって甘く見るなよ! その力は強力なエーテルにより未知数! スレアからの助力と助言により、装甲自体は情報通りの状態だ。だが、相手は強力なバリアによって守られている。そこで、武蔵によるタイマンで正面で叩きバリアを破壊、通せんぼしたのちに上空から海を凍らせる。そこから一般アークス達が氷の上を通って大和へ乗り込み、表面の武装を破壊するという作戦だ。いいか! お前らが乗っているその船は大事な借りモノだ! 防衛部隊はしっかり守り抜けよ!』

「「「おおおおお!!!!」」」

スピーカーからはオキの声が響き、超戦艦武蔵の前方及び後部甲板から多数の声が上がる。

「士気の高まる声。やはりいいモノね。」

「ああ。我らも負けてはいられないな!」

艦橋の上部に立つ武蔵達は巨大な紫色のリングを空中に多数出した。

「あれが…艦娘の力か…。すげぇ演算能力だ。」

彼女らの形作られた軍艦はすべて彼女らの思い通りに自動で動く。そして本来スレアの海であるならば、ナノマテリアルを利用し高度な技術で作られた兵器を持って戦う。

『こちらクロノス。敵艦は変わらず進行中。このまままっすぐX地点に約5分で到達。マスター指示を。』

クロからの通信が入った。オキは作戦決行の合図を出した。

「いくぞ! お前ら気合入れすぎて床なめるんじゃないぞ! 武蔵! 君たちの方が海の上の戦いはお手の物だろう。作戦通りにヤマトを足止めしろ。何やっても構わん。だが、無理だけはするな。君たちを無傷で返すと約束したのだからな。」

「なに、私たちをなんだと思っている。」

「大和型弐番艦の超戦艦武蔵よ。いくらナノマテリアルが少なくて砲撃しかできないとはいえ…甘く見てもらっては困るわ。行くわよ私。」

「ああ。出撃だ!」

オキの飛ぶ空の下では武蔵が轟音を立てて向かってくるヤマトへと船足を進めだした。一度アークスシップへ持ち込まれたナノマテリアルを地球へと転送。海上にてその姿を作り上げた超戦艦武蔵。その火力、防御力は大和と同格だと本人たちは言う。負けるつもりはないと。

『オキ君。私達はその後からの攻撃に備えればいいのだったな。』

アインスからの通信が入った。

「ああ。隊長たちにはA.I.Sに乗り、表面武装を粗方壊したヤマトへ突撃。バラッバラに解体しろ。ちりも残すな。」

『任せておけ。守るべく力を破壊の力につかった事。後悔させてやらねばならん。私は…怒りでもえている。許せない気持ちでな。』

隊長の声が震えていた。それは恐れや武者震いとかではない。本当に怒りでいっぱいなのだろう。彼は守るべく力やその意思を特に尊重し尊敬する。だからこそ、許せないのだろう。

『ところでリーダー。俺のA.I.S.見当たらないんだけど。』

「あ? あるじゃねぇか。その赤くておっきなブースターつけた奴だよ。ああ、言い忘れてた。俺が魔改造しといた。ハヤマン、早さが足りないって言ってたからな。早くしといたぜ。」

『何やってんだあんたはあああ!』

かかかと笑うオキは他の機体改造してある事を伝えた。オキは研究機関開発部の面々とあれやこれやとスレアやその他星々で得たデザインを取り入れ、より強力な力が必要とされる深遠なる闇との最終決戦に向け数々の開発を行っていた。今回のA.I.S.もその一つだ。

ハヤマの機体はスレアのロボットアクションゲームをベースにイメージして作られ、原型をとどめていない。朱く塗られた機体に最新のフォトンライフルを搭載。ブレードも射出可能で背中には巨大なブースターを二基取り付けた。ちなみに高軌道型に変形可能でもある。コード名を⑨。

アインスの機体はそこまで弄ってはいないが、武器に大きく変化を入れている。

『ほう。これはこれは。大きな剣だな。』

今回の作戦のために斬艦刀と名付けられたそれは、巨大なる深遠なる闇に対し叩き切るイメージで試作された一つの超巨大な剣だ。

「試作段階のものを持て来たけど、その中でも最高品だ。それ、まだ伸びるぜ。」

『それは、楽しみだ。』

声だけでも分かる。隊長が笑っていると。そしてクロ。彼は今大和の上空で偵察をしてもらっている。機体自体はほぼ変わりない。だがその中に搭載したシステムが違う。

「くろー。大丈夫かー?」

『むり…くぼ…。』

意味の分からない事をつぶやくクロだが、まさか乗り物に弱いとは知らなかった。GGOじゃ大丈夫だったろお前。

「むりならゴーストシステム起動しとけ。そのまま撃墜されても拾わんからな。」

クロの機体に搭載されたゴーストシステム。超超高速機動が可能なシステムで機体内部に搭載中ならば機体自体が、外部へと射出させれば3機の小型機が猛スピードで支援する。スレアのキバオウから

『こういう作品あるで! こういうのってつくれへんの?』

とすすめられた映像作品内にて描かれていた機体をモデルに作られた。オキの乗る戦闘機もその一つだ。

X-02ワイバーンと名付けられたその戦闘機はアークスシップ空軍が次期主力戦闘機を作成するのに使用したシステムをそのまま搭載し、オキが得たスレアの戦闘機のデザインをまねて作った試作機。

オキはX地点にて武蔵とヤマトが砲撃でなぐり合っている最中にヤマトの真下に強力な氷結弾頭を射出する役目と、その後A.I.Sメンバーが現在乗っている母艦からヤマトへ殴り込みにいけるよう制空権を取る役目がある。

『そういやミケは?』

そういやハヤマん達は転送から直接母艦に乗ったから気づいてないんだな。

「あんたらが乗っている母艦の頭の上だ。」

ミケの乗る母艦、ドラゴン・フォートレスと名付けられたそれは強襲用揚陸艇の改良型母艦だ。ミケの好きそうなデザインから作られたA.I.S.搭載の空中攻撃要塞でもある。

「にゃははは! きもちいい風なのだー。」

ドラゴンの頭部に乗るミケ。風になびく耳が気持ちよさそうでる。

その横を通り過ぎたオキは武蔵の護衛のために上空を旋回する。雲が切れ、目視でヤマトが確認できた。

「足止めをするとなると…。さてどうする私。」

「そうね。あれをやろうかしら。」

「そうだな。驚かせてやろう。」

まっすぐと向かってくるヤマトは主砲を武蔵へと向けている。すでにヤマトの射程距離だ。

武蔵は主砲を艦の真横へと向ける。それを上空から見たオキは何をやろうとしているのかを見ている最中。

ヤマトの周囲が明るく光り輝き、大量の飛行機が飛び上がった。

「スキャン…開始…。うぷ…。零型艦上…戦闘機と、同型機体…。多数…。」

死にかけの声でクロがスキャンのデータをオキへと転送。そのままゴーストシステムを起動させた。

3機の小型機がクロの周囲を超高速で飛び回りだし、飛んできたゼロ戦を迎撃し始めた。

オキも武蔵へと攻撃が飛ばないようにドッグファイトを始める。

 

「FOX2!」

オキやクロのゴーストがゼロ戦をややき落としている最中、武蔵前方部甲板。突撃部隊。その頭上ではオキの操る戦闘機がゼロ戦をバッタバッタと倒していた。

武蔵は大和の左舷へ切ったところだ。

「震えているぞ。大丈夫か?」

一人のキャストが震えるヒューマンのアークスに声をかけた。

「あ、えっと…たしか第2班の隊長さん…。」

「ガラグだ。」

どうやら新人アークスらしい。震えるその肩をガラグは軽く肩を叩いた。

「怖いか?」

コクリと頷く新人アークスにもう一人のキャストの男性が近付く。

「安心しろ。あの男がついている。それに我々もだ。」

突撃部隊第1班隊長ディアリーン。今回の地上部隊をまとめる人物でもある。

上空でゼロ戦とドッグファイトをしている戦闘機を見る二人は皆に口々に言った。武蔵は左舷の錨をおろしたところだ。

それを見た地上部隊のアークス達は驚いた。

「いいか。私たちは死ぬ。」

「そう。俺も死ぬし、みんな死ぬ。」

語る言葉に地上部隊突撃班の面々は二人の隊長の言葉を聞いた。

「いつか死ぬ。」

「みな残らずだ。」

ヤマトからの砲撃と武蔵の掛け声、そして二人の隊長の言葉。そして思いもよらない武蔵の動きは、ほぼ同時だった。

「つかまれアークス!」

 

 

「「だが今じゃない。」」

 

 

巨大な歪音を鳴らしながら前方に傾いた武蔵。

武蔵は下した錨に引っ張られ、海上を横滑りしながらヤマトからの超巨大な咆哮を避けた。

大和の砲撃、前方2基6門の46㎝三連装砲は武蔵の艦橋を大きくそれた。

「これぞ我が海軍が誇る秋津洲流航海術!」

「ようこそ。私達の最大のキルゾーンへ…。」

横滑りしながら艦の右舷へと狙いを定めていた武蔵の46cm三連装砲3基9門すべてが、ヤマトへと向いたのだった。

「痛いのをぶっくらわせてやれ。」

「撃てぇ!!」

地上部隊隊長の二人のアークスの掛け声と共にその咆哮は空気を震えさせた。

 

ドオオォォォォン!!

 

超巨大な咆哮。それは先ほどの大和の砲撃音よりも大きかった。後部にある1基3門も同時にその炎を吐き出す。

ヤマトへと直撃した巨大な徹甲弾はヤマトの発していたバリアで甲板、装甲等に当たる前に止められる。

もしそれが『ただの』徹甲弾だったなら、もし彼女たちの武装が『ただの』金属の塊であったなら。

ヤマトの勝ちだっただろう。その止められた弾を見ながらオキは笑っていた。

「そのためにわざわざ来てもらったんだだからな。」

その弾は赤い光を放ち、巨大な球体の爆発へと変わる。そしてヤマトを囲っていたバリアを浸食、割ったのだ。

「タナトニウム浸食弾頭、効果あり。」

「次段装填…。発射。」

タナトニウム。彼女達だけが使えるスレアの物質。炸裂すると周囲の空間を重力波によって侵蝕、物質の構成因子の活動を停止させ崩壊させるとんでも兵器。かつての大戦で大量に使われ今ではほぼ残っていないモノを今回の為に短期間の中でかき集めてもらい、ヤマトを止める為に持ってきてもらった、突破口を作る切り札。

二人の武蔵は効果があると確認すると次の弾を即座に自動装填、発射体勢にはいる。もちろんヤマトも黙っていない。

ヤマトの主砲は再び武蔵へと巨大な轟音を吐き出した。

「しめた。立ち止ったな。」

武蔵との砲撃戦に入ったヤマトは完全に足止めを食らう。そこへオキが急降下していった。

武蔵へと放たれたヤマトの砲撃は甲板に当たらず、すべて武蔵の周りを囲っているクラインフィールドによって阻まれていた。

「地上部隊の皆々様、ご準備を。」

「オキが急降下に入った。すぐに海は凍りつくぞ。」

武蔵達からの言葉をうけ、地上部隊突撃班の面々は顔を見合わせいつでも飛び出せる体勢をとった。

「よーそろー!!」

急降下でまっすぐにヤマトへと飛んでいくオキは大量の弾幕の中を潜り抜けていく。そして下部に付いた一本の弾頭をヤマト前方へと着水させた。

直後に巨大な水柱、そして凍りつく海が広がる。氷によって足を止められたヤマトはその場から動けない。

『地上部隊!』

オキの声がスピーカーにこだまする。

「仕事だな。」

「ああ。いくとしよう。」

アークス達は武蔵から飛び降り、大和へとその海を渡りだした。シエラの索敵により幻想種の出現も予測できている。

すべてが順調に進んでいた。地上部隊たちが大和へと乗り込み、表面の武装を壊し始めたところまでは。




みなさまごきげんよう。
今回はヤマト戦でやりたかった一つ「バトルシップ」ネタです。
武蔵や大和のメンタルモデルは艦これとアルペジオからひっぱってきました。
いろいろツッコミどころある惑星になってきましたね。混沌としてます。

さて、今回は以前お話していた別のアークスの方にも友情出演していただきました。
ガラグさんのーんさんご参加どうもでした(ディアリーンさんに関しましては別名にてのーんさんの作品から)のーんさんの作品、ぜひそちらもみなさまどうぞ。わたしのお気に入りから見ることができます。
お二方には今回のメインとなるセリフをいっていただきました。やっぱかっこいい。

では次回にまたお会い致しましょう。


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第129話 「オーバード・ウェポン」

ヤマトの表面武装を地上部隊が粗方破壊した直後。その異変はすぐに起きた。

 

「エーテル反応拡大! 地上部隊の皆さん! 逃げてください! 変異しようとしています!」

 

シエラからの通信で地上部隊はヤマト甲板からそそくさと氷の地面に降り立った。

 

「いそげ!」

 

「にげろやにげろ。」

 

「全員逃げたか!?」

 

地上部隊のメンバーが全員逃げた事が確認された直後、ヤマトは轟音と共にその巨体を宙に浮かせた。

 

「おいおいまじかよ。」

 

空を飛ぶオキもその姿を目で追った。まさか空中に浮いてくるとは予想していなかったからだ。

 

「地上部隊全員に通達。武蔵含めすべての海上にいる面々はすぐさま撤退せよ。繰り返す海上の部隊はすべて撤退せよ。A.I.S部隊、仕事だぞ。」

 

ミケのドラゴン・フォートレスに乗っている今回のメインとなる決戦部隊へ通達した。

 

「ああ。すでに準備はできている。」

 

A.I.Sの稼働を確認し、各項目をすでにチェック完了したアインスが目を光らせた。

 

空中へと飛び上がったヤマトはドラゴン・フォートレスへと目標を定め、前進を開始。アインス以下A.I.S部隊はオキ指揮のもと迎撃へと出る為、格納庫より飛び出した。

 

背中のブースターを煌々と光らせ、ヤマトへととびかかるアインスの機体は、腕部に持つ巨大な刃をヤマトへと振り下ろした。

 

「む、硬いな。」

 

ヤマトの防御シールドが復活していた。

 

更に光り輝くヤマトの船体がさらに上空へと飛び上がり、船体が横回転し始める。

 

『さぁ、平伏したまえ。懺悔の時間だ。』

 

ヤマトより響くハギトの声。解析結果から本人ではなく、ハギトの思想を盛られ作られたエーテルそのもの。

 

船体の下部へ宇宙ステーションを連想させるように並んだ2門の衛星兵器が出現。

 

ヤマトは徐々に降下しながら衛星兵器を反時計回りに回転させ、レーザーの連続照射を行った。

 

しかしそんな攻撃なんのその。容易に回避したメンバー各位は反撃へと移る。

 

「敵…シールド分析…うぷ…完了…モニターに…表示…あとは…まかせた…ガク。」

 

「クロが死んだ!」

 

「「この人でなし(なのだ)!」」

 

乗り物酔いにより、クロ早々に撤退。各機体のモニターにはシエラが観測し、クロが分析した結果がそこに映し出されていた。

 

更にオキは上空に大量発生したゼロ戦とのドッグファイト状態が再度展開されていた。

 

「側面のコアからエネルギーが出ているようだな。」

 

「ならそこを壊せばいいだけだ!」

 

ハヤマの⑨・セラフが人型形態から巨大ブースターを唸らせ超加速し腕部に付いた青色に発光する刃をヤマトの船体側面に光る出っ張ったコアに走らせる。

 

「私もハヤマ君に負けないよう、叩き切る!」

 

アインスの斬艦刀がコアへと突き刺さる。巨大な一撃はその余波で海の表面まで影響した。

 

「すげぇな隊長の剣…!」

 

「さすが鬼の隊長…。海まで真っ二つかよ!」

 

「あの赤い機体すごい速いわ。目で追いつかない…。」

 

撤退した地上部隊は大気圏外に脱出したキャンプシップ内でその状況を映像で見ていた。

 

アインスが突き刺し、振るった巨大な剣はヤマトのコアだけでなく、海さえ切り裂いた。ハヤマの乗る赤い機体は素早い動きと急速な転回を多用し、打ち出される弾幕をものともせず、残る砲台を切り裂き続ける。

 

魔改造されたたった二機のA.I.Sにめった切りにされるヤマトはたまらないと思ったのか海に逃げる為、船首を海へ下降し始めた。

 

「おおっと。にがしゃしないよ。」

 

大空に群がるヤマトから出現した多くのゼロ戦を叩き落とし続けていたオキの戦闘機はヤマト後部をとらえた。

 

ヤマト上空から急降下し、後部にあるはずのスクリュー部に光る結晶体をヘッドオン。

 

「おらぁプレゼントだ!」

 

機体下部より出てきた4本の細長いミサイルが放たれ、すべてスクリュー部のコアへと命中。損傷させることに成功した。

 

ほぼ同時に船体に出現していたコア部のほぼ全てが破壊される。スピード、破壊力。何もかもがハギトの、ヤマトの想定を上回っていた。

 

『ぐぅぅ!? ならば…!』

 

急激に船体を光らせ始めたヤマト。その状況を観測していたシエラが通信先で叫んだ。

 

『あれを止めてください! ものすごいエーテル反応です! なにかをしようとしています!』

 

「言われなくとも!」

 

「間に合うか!?」

 

アインス、ハヤマがブースターを燃やし猛スピードでヤマトへと刃を切りつけた。しかし…。

 

『殲滅シークエンスへと移行、一瞬で塵にしてくれる!』

 

二機の刃は惜しくも間に合わず。防御フィールドを展開したヤマトはそれと同時に巨大なミサイルを上空に何本も出現させた。

 

『強力なエーテル反応!? あのミサイルは危険です! すべて排除してください! しないと…大変なことになっちゃいます!』

 

シエラのあわてる声が通信に響く。上空から振ってくる10本の巨大なミサイル。アインスやハヤマ、オキによるミサイル迎撃行動はどう見ても足りなかった。

 

「ちっくしょー!魔改造A.I.Sの邪魔になるからと人数減らしたのが裏目に出たかー!」

 

アフターバーナーを全力でふかし、音速をも超え、持てる武装全てを使ってもそのミサイル全てを破壊することは時間的に不可能と見えた。

 

 

ドゴオオォォォォォン…

 

 

「うわったぁ!?」

 

オキの機体をかすめ、狙っていたミサイルに巨大な何かが当たり、ミサイルは弾け飛んだ。

 

『この反応は…コマチさん!?』

 

「こまっちー!? ったく…遅かったじゃないか。」

 

にやりと笑うオキははるか遠く。オキがヤマトの目の前に落とした氷結弾頭ミサイルの作った氷山の上に反応がある事を知った。

 

『いやぁ。ちょっとお手伝いをね?(…不明なユニットが接続され…停止して下さ…システムを…)』

 

オキの通信機にコマチの声が届く。語尾に「www」と大量につきそうな口ぶりだ。その後方で小さくアラーム音とところどころ途切れて聞こえてくるアナウンスが聞こえてきた。

 

『止まるんじゃねぇぞぉ…?』

 

途端にアナウンスとアラーム音が聞こえなくなる。コマチは手元でアラームを無視するように設定解除したのだ。

 

黒く不気味に光るA.I.Sと、その機体の大きさに不相応な長く巨大で無骨な銃型の武装が腕に直接つながっていた。

 

甲高くチャージ音が鳴り響き、そして巨大な弾丸が再び放たれた。

 

『愛してるんだぁぁ! 君たちをぉぉぉぉ!!! フハァハハハハハ!』

 

「HUGE CANNON」。そう名付けられたあまりに強力で危険すぎると研究部門最奥に封印をされるほどの代物をオキが引っ張りだし魔改造A.I.Sを作るきっかけになった5つの武器の一つ。

 

膨大なエネルギーをチャージして拡散型フォトン弾頭を放つ超大口径砲。A.I.Sの右肩に折りたたまれた巨大な砲身を背負い、左肩にジェネレーターのようなパーツを装着する。起動すると装着された砲身を展開後に二脚銃架と左腕で保持される。チャージ時は構えをとるが、非常に長い射程を誇るうえに着弾時の爆風も強烈で、遠距離から対象を破壊する飛んでも兵器。

 

「あの野郎…むちゃくちゃしやがって!」

 

放たれる弾頭がこちらにあたる事はないと知っていながらも、その巨大な砲弾はミサイルを破壊しつつ各自の機体をかすめ取っていた。

 

『そうだねぇ。危なかったねぇ。…で? なにか問題?』

 

ニヤリと笑うコマチの機体の後方。巨大な浮遊する船が現れた。

 

「団長! なにやってんだ、団長!」

 

舵を持つ一人の男が叫ぶ。

 

「はわわ! すべて破壊しちゃいました!」

 

「さすが俺の相棒だぜ!」

 

蒼髪の少女は驚き、小さな空飛ぶ生き物は満足そうにしていた。

 

『そら、後はあんたらに任せたよ。』

 

「そうだ。こまっちーが作ってくれたチャンスだ! やっちまえー!」

 

コマチの最後に放った弾丸はヤマト艦橋へと防御フィールドを突きぬけてぶち当たった。機能が低下したのかその場に停止。会場へと再び落下したヤマトにオキ達は最後の攻撃を仕掛けた。

 

「ロックオン…フルバースト!」

 

「ターゲット確認…排除開始!」

 

オキの放てるすべてのミサイル、弾丸を連続で発射。そこにハヤマの⑨・セラフが同時にミサイルとパルスライフルをお見舞いする。

 

「隊長! その剣、ちょっと仕掛けがついてるからフォトン全力でおねがい!」

 

「了解した。」

 

剣をA.I.Sの真正面に両手で構えたアインスは機体を通してフォトンを流し込む。すると直後、綺麗にまっすぐ、縦へ真っ二つに剣の刃が折れたではないか。そしてそれが鍔となり、フォトンの刃が長く、長く伸びていく。

 

「ほう…。いいね。気に入った。」

 

アインスの構える長い巨大なフォトンの剣は空高くに伸び上がった。

 

「オラクルのため…アークスのため…そして、私自身の為! 我に切れぬもの無し。 おおおおおお!」

 

振り下ろした刃はヤマトを綺麗に半分へと切り分けた。もちろんただでは済まない。爆発音と共に沈みゆくヤマト。だが…。

 

『まだだ…だま終わっていない…! 私は復活する! 何度でもだ! ヤマトは…不滅だ!』

 

アインスの眉がピクリと動く。オキはアインスからの機体から放たれる異様なオーラを感じた。

 

「隊長…?」

 

アインスは更に横へと切り払い、十文字にヤマトを斬った。

 

「貴様がその言葉を言う価値はない。沈むがいい。何度でも…叩き切る!」

 

復活を企てるヤマトに対し、なにかの地雷を踏んだのかアインスが怒っている。普段温厚な彼がだ。

 

空間すら揺るぐ程怒りを露わにするアインスのさらに上空に黒い影が現れた。

 

「なんなのだ。まだやっていたのかー?」

 

アグアグと皆が戦うその姿を肴に、ずっと食事を取っていたミケ。途中眠くなり昼寝をしていたミケ。そして起きて間もないミケはまだヤマトと戦う彼らの姿をみてしびれを切らしたようだ。そして…ミケの目が光る。

 

「そんなに壊したいのならミケにお任せなのだー!」

 

ミケが叫ぶと同時にドラゴン・フォートレスの口が大きく開き、光り輝きだした。

 

「まずい…!」

 

「やっべ…。」

 

「撤収!」

 

アインス、オキ、ハヤマはそれを見て悪寒を覚えすぐに撤退をし始める。すでに撤退していたコマチは共に来ていたグランサイファーの甲板上でそれを見ていた。

 

「あーあ。死んだな。」

 

光が頂点に達し、その光は咆哮となって嵐のようにヤマトへと降り注いだ。

 

 

「滅びの 爆裂疾風弾(バーストストリーム)!!!」

 

 

ドラゴン・フォートレスから放たれた白き光の咆哮はヤマトをエーテル反応ごとまとめて吹き飛ばした。あまりにも強力であまりにも危険なその咆哮はミケの気まぐれにより放たれる。少なくとも味方である以上はアークスへの被害を最小限に。そして敵対した相手には最大限に効果があると踏んだオキは任せた結果である。

 

「フハハハハ! 粉砕! 玉砕! 大喝采! なのだー! フアハハハハ!」

 

爆発と炎に満足したミケは笑いながら各機体を格納されている事も確認せずに空へと舞いあがって行った。

 

 

 

 

「これは素晴らしい! 面白い…。やはり、彼らは…。」

 

その光景を見ていたひとりの男性。椅子に座り、手にメガホンを持ち、反対にはカメラを持つ。

 

戦いの最後を見届けた彼はずっとビルの上で笑い続けていた。




皆様、ごきげんよう。
やぁぁぁぁっと書けた…。誰だよ! 年度末にこんなに仕事入れた奴!
大真面目に大忙しですはい…。死んだ目をしながら書き上げました。
ようやっとひとり目のクラスタ編が終わり。次回はあのフリーザ様のお声をもった監督に会ってきます。まだまだ書くのに楽しみな部分が多く残ってます。早く終わらせたい。
では、また次回にお会い致しましょう。


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第130話 「マザークラスタ」

「私の名はベトール。木のマザークラスタ。以後お見知りおきを。」

アフロヘア―のサングラスをかけた男は丁寧にお辞儀をした。

「ベトール…ベトール!? 確か、鬼才と呼ばれてるハリウッドの映画監督!」

ヒツギが目を見開き、アルを守りながらその胡散臭いニヤついた男を睨み返した。

ヤマト撃退戦が終わり、その後処理をシエラに任せオキはスレアの皆に現状と今後のアークスシップの動きを説明するため、圭子、琴音、美優らをはじめとするメンバーをペルソナのチームシップに呼び寄せた。

「…というわけで、あれが地球だ。」

「スレア…じゃないん…だよな?」

「ほんとそっくり。」

キリト、アスナをはじめ外から見た地球とスレアの姿がそっくりなことに皆が驚く。

現在地球のマザークラスタと呼ばれる組織がこのアークスシップに許可なく乗り込みアークスとして活動している事。

それが向こうではゲームの舞台だと思われている事。相手側が何を考えて行動しているか目的がはっきりしない事等、現在わかっている事を伝えた。

「ここはチームシップだから自由に動いてもらって構わない。スレアからの連絡船もここに直接乗り込んでもらうように手配したからまたいつでも来れるようにしたよ。ただ…。」

アークスシップにはいかない事。いつなにが起きるかわからないからだ。

「大丈夫。オキやユウキに会えれば。」

「そうよ。だから気にしないで。」

美優(ハシーシュ)、琴音(フィリア)は笑顔で答えた。隣に座る圭子(シリカ)も大丈夫ですと頷く。

「他のメンバーは、何か変わったことはあったか?」

オキは最近の地球騒動のためあまりALOやGGO等にログインできていない。今日も本当は皆を呼びたかったのだが、一部メンバーは来れなかった為、顔も見れていないのが残念である。

一応、圭子達とは渡してあるオラクルの通信用機器で毎晩おしゃべりしてはいるのだが、やはり直接顔を合わせたいものだ。

『オキさん! 今すぐ艦橋へいらしてください! 大変なことになってます!』

シエラからの通信が入る。オキは険しい顔をして壁に立てかけていたゲイルヴィスナーを手に取った。

「ハヤマン、ここ頼むわ。」

「え? ああ。わかった。」

ほぼ同時に準備を終わらせたハヤマはオキと共に出る気満々だったために一瞬驚いた表情を見せるも、すぐにここで何かあった場合の事を考え、残されたと察する。

「行ってくるよ。すまんな。せっかく来てくれたのに。」

シリカの頭を撫でながらオキは優しい顔で微笑んだ。

「いいえ。大丈夫です。怪我を…と言いたいところですが、アークスは日常茶飯事ですものね。無事に、帰ってきてください。待っていますから。」

美優や琴音も頷き、ユウキも親指を立ててアオイと一緒に肩を並べていた。

すぐさま艦橋へと移動するとモニター画面には爆破の映像が同時に流れた。

「うお!? いったい何があった!」

映像では学園正面の広場が映し出されており、そこにいるヒツギとアルの周辺が爆発していた。本人たちには影響がないものの、いつその小さな体が吹き飛んでもおかしくはない。

「マザークラスタです。ヒツギさん達が襲われています。助けに行ってあげてください!」

「任せろ。キャンプシップ回せ!」

肩に羽織ったロングコートをマントのように翻し、キャンプシップへと足を急がせた。

ヒツギの周りでは相変わらず爆発がやまない。さらに風も吹いてきた。

「アル…大丈夫?」

「う、うん。あ、お姉ちゃん! あれ!」

アルが指さした先。そこには巨大な扇風機が何台もこちらへ強風を送っていた。先ほどまでなかったものだ。

「ふっふっふ。さぁさぁ! どうしますか? このままでは死んでしまうかもしれませんよ?」

折り畳み椅子に座り、足を組み、そして空中に浮いたビデオカメラでヒツギ達を撮っている。

その時だ。巨大な異音と共に扇風機が前に倒れ、破壊された。

「やれやれ。マザークラスタとやらは、俺達に休暇すらもくれない気なのか?」

「オキ!」

「おにーちゃん!」

肩にゲイルヴィスナーを担ぎ、パチパチと乾いた拍手をする男にオキが近付いた。

「おっちゃんだな? この子らに手ぇ出してんのは。」

「いかにも。私の名はベトール。木のマザークラスタ。以後お見知りおきを。あなたを待っておりました。」

丁寧にお辞儀をし、挨拶を交わすベトールを睨み付けたまま、ちらりとヒツギ、アルを見た。怪我はして無さそうだ。

すぐさまキャンプシップに移動させたいところだが、先ほどの爆破がいやでも目に焼き付いている。

乗った直後に爆発させられては助ける手立てがない。

「ああ、君たちはもう大丈夫ですよ。私は、この方に用があったのでね。少し、驚かせてしまったことをお詫びいたしますよぅ? 如何せん、いい表情だったものでつい、カメラを回してしまいました。」

オキはその言葉に眉を歪めた。ヒツギ達が目的ではないのか。そしてこの男はオキ自身に用があると言った。マザークラスタの男が一体何の用だというのだろうか。じっとベトールの動きを観察する。しかし動くそぶりはない。

「警戒させてしまってますねぇ。彼女たちを利用したのはあなたを呼ぶ目的でしたが、罠でもありません。いくつか要件があったものでして。」

そういってベトールは白と黒の縞模様の道具をカチコンと鳴らした。直後にその場へ椅子が3つ現れる。

「座ってくれたまえ。なに、警戒を解いてくれとは言わない。だが、罠でもない事は信じてほしいね。」

オキは細目でベトールを見た後に椅子へと座った。ヒツギ、アルは椅子には座らなかったものの、オキの背中の後ろに二人で並んだ。

「で? ベトールとか言ったな?」

「ええ。しがない映画監督をしております。これ、私の作品でして、ぜひご友知人と一緒に…。」

そういって封筒をオキへと投げた。封筒を開くとそこにはオキが以前観た『ザ・ライナー』の招待券が数枚入っていた。

「これ、おっちゃんが作ったのか! まじで! 俺見たよこれ! くっそ面白かった! サインくれ!」

「おっと…。これはこれは恐縮です。」

オキは椅子から立ち上がり、どこからか出したザ・ライナーのポスターにベトールからサインをもらった。その光景に目が点になるヒツギと笑顔になるアル。

「あれさぁ。2でないの? すっげぇ楽しみなんだけど。後さ、今度はSLで頼むよ。最近の車両ばっかだったろ。古いのも出そうぜ。」

「ふむふむ。そういう意見もありましたねぇ。ぜひ参考にさせていただくとしましょう。」

作品の感想をオキとベトールがあれやこれやと話した後に再び椅子に座る。

「で? 要件って何?」

「ふっふっふ。それはこれからお話いたしましょう。」

お互いが先ほどまでの無邪気さとは正反対に格好つけて話を始めた。

「今更恰好つけたって遅い!」

ヒツギの嘆きの言葉がその場に響いた。

「さて、まずはマザークラスタの一人としての言葉を伝えるとしよう。」

ベトールはハギトの暴走からマザーに指示されアルを捕獲する命令を受けて日本に来たという。しかしその命令を聞く為に来たはずがオキ達のヤマト迎撃の姿を見てまず自分では勝てないと予測した。

ハギトはマザークラスタの他メンバーと連絡を絶ち、現在逃げているという。

「本来マザーはこの地球を愛しているお方だ。それを壊そうなどと言語道断。君たちにも迷惑をかけた事、ここに非礼をわびる。」

軽く頭を下げたベトール。オキはその姿にマザーとはなんなのか、そしてその幹部たちマザークラスタという組織の面々が本当に何を目的に動いているのか。正邪を見極めなくてははならないと改めて認識した。

「私は、その子供が一体何者なのか、どんな存在なのかすら聞いていない。私がきいたのは少年を捕獲せよ。この一言だった。だが、君たちに対し私には勝算が全くない。私は夢をかなえられないまま死にたくはないのでね。…さて、辛気臭い話はここまで。私は私の夢のために君たちにお願いをしに来たのだよ。」

ベトールは大きく手を広げ、椅子から立ち上がった。

「ぜひとも、君たちの戦いぶりをこの私の具現武装『クラッパボード』で撮らせてほしい!」

予想斜め上を行くお願いごとだった。まさか戦いぶりを撮らせてほしいとは。いや確かにアークスの戦闘シーンは迫力ものだろう。

ベトールは語った。この間のヤマト迎撃戦は素晴らしかったと。見た事もない兵器。動き、そしてその戦いぶりはまさに映像にすべきだと。

そして重要な言葉を口から出した。

「これからは間違いなくマザークラスタとの戦いになるだろう。ぜひともその姿を撮らせてほしい。」

口元をゆがませるベトールにオキの警戒度はより高まる。

「あぁ。私は戦うつもりはないよ。私が戦えば間違いなく君たちに負けるからねぇ。私は負ける戦いはしないのだよ。必ず勝つ戦いはするがね。…ん? 私のボードはどこに。」

気が付けばベトールの周囲を浮遊していた白と黒のボードが無くなっている。よく撮影現場とかで使われる『カチコン』というやつだ。惑星スレアにもあった。

「カット! カット! カットォォォォ! フハハハハなのだー!」

カチンカチンと音を鳴らし続けながら大きなクマにのり、学園の広場を走り回るまたまたどこから現れたのか、ミケの姿があった。

「ああ、私のボード…返してくれないか?」

「だが、断る。」

ミケは笑いながら相変わらずカチコンを鳴らし続け走り回っている。そしてそれが具現武装だというのがはっきりとわかった。鳴らせば鳴らすほどミケに続く動物が増えて行っているではないか。ライオン、トラ、鹿、小さなものはウサギまで。

「悪いが諦めろ。ミケの手に渡ったものはミケが飽きない限り帰ってはこない。」

「はぁ。まぁ私にはカメラがまだあるからいいですが…む? これは!?」

ベトールが急に険しい顔つきをして走り回るミケをカメラに映し出す。ベトールの目には百獣の王ですら従うその絵図に衝撃を受けた。

「ここがもし森林なら…ジャングルなら…サバンナであったなら! 全ての自然界にてアレはまさしく頂点に君臨するモノ。そしてそれにつき従うケモノ達…そうか。私はこれを映したかったのか!」

これぞまさに頂点に立つものの姿。ベトールの脳裏には瞬く間に数多くのシーンが描かれる。この時得たミケの姿の映像と、その後の彼が作りあげた一つの映像作品『ミケフレンズ』は世界大ヒットするドキュメンタリー作品となったのは別のお話。

ベトールがミケとケモノたちの姿を夢中でとらえている最中、オキは殺気を感じた。

「っち!」

空中から現れた大量のメス。それがベトールに向かって飛んできたのだ。オキはベトールの周囲に大きな竜巻を起こし、彼を助けた。

「…邪魔をしないでもらおうか。オラクルの者よ。これはマザークラスタの問題なのだから。」

ベトールとオキは空中に立つ一人の男を見た。そしてさらに周囲に数名現れる。七三分けの聴診器を首にぶら下げた男、白いお髭の老人男性。そしてまだ若い女性が二人。フードをかぶったモノまでいる。

「全員でって聞いたから来てみたけど50%幻滅。どいつもこいつも70%弱そう。今ここでやっちゃおうよ、フル。」

「だ、だめだよ、オークゥ。確かに弱そうだけど、私たちは挨拶に来ただけなんだから。」

女性の言葉に眉を歪めるオキだが、一つ聞き逃せない言葉があった。『全員で』といった。つまりそこにいる5人で使徒と呼ばれる幹部が集まっていることになる。

「おっちゃん…あれ、知り合いかい?」

「オフィエル・ハーバート…。マザークラスタの水の使徒だねぇ。世界的権威、神の手を持つ男と言われた天才外科医だ。そこに集まっているのは皆使徒だねぇ。何しにきやがった! オフィエル!」

マザークラスタの別の使徒。それが一堂に集まったのだ。流石のオキも警戒を最大限にあげる。何をしてくるかわからない。だが、これはチャンスなのかもしれない。

「ベトール。貴様はマザーの意思に背き、行動した。それは裏切り行為と見て間違いないな?」

「裏切る? っは! 何を言っているのやら。裏切るというのは最初は仲間であったのが大前提だよ。私はマザーに協力するとは言ったが、仲間になるとは言ってないね。ハギトもそうだ。彼の言葉を借りるなら、これはビジネスだ。あくまで損得利益しか求めてないのだよ。」

ベトールの言葉を聞き、もう一度メスが飛んでくる。しかしそれをオキが叩き落とした。

「はいはいはい。あんたらの喧嘩はどーでもいいんだがね。こちらと巻き込まれた身なんだ。」

オキはゲイルヴィスナーをオフィエルに向ける。

「オフィエル、といったな。あんた。マザークラスタの中核だな? ふつういくら幹部同士でも、こうしてぞろっと集めて、その中心に居座り、大口叩いて同じ幹部をころそうなんざできねーかんなぁ。」

オキがオフィエルをにらみ、オフィエルの顔が少し険しくなる。

「ふぉっふぉっふぉ。こやつ、若いのにいい感をしておるの。」

「何笑ってんのさアラトロン爺!」

「笑うところじゃないかと。」

オークゥ、フルがアラトロンと呼んだ老人を批判する。オキが見た感じそこまで仲がいいとも言い難い関係のようだ。とにかくこちらは迷惑こうむってるみださっさと仕事を終わらせるとしよう。

「あんたらの部下か仲間かしらんが、こっちに何度も土足で入り込んでるようだな。何しに来てるかしらんが、こちらといい迷惑だ。やめてもらえないだろうか?」

「オラクルへの介入か。これはマザーの意思だ。やめるわけにはいかない。逆にこちらから言おう。私達がやっているのは駆除だ! 世界の病巣よ。いいか? 私たちの目的はアル、その少年だ。引き渡せば、地球の民の命は保証しよう。」

オフィエルはそういうとその場から消えた。オキがその気配を察知し、すぐさま行動する。出てきた先はベトールの背後だ。再びメスを大量に出現させている。

「おいおい。言いたい放題言ってこちらをほったらかしか? ふざけてんじゃねーぞ。」

「邪魔をするなといったはずだ。これは粛清なのだよ。」

お互いが睨み合い、いつどちらが動いてもおかしくない状態のその時だった。

周囲に銃声が鳴り響いた。その方向を皆が見ると一人の青年が空へ銃を撃ったことがわかった。

「兄さん!?」

ヒツギが叫ぶどうやら彼女の兄らしい。

「はい、そこまで。マザークラスタ。キサマらここは神聖な学び舎なんだ。出て行ってもらおうか?」

周囲にぞろっと他にも反応を感じた。

『10、20…。まだいます。完全に囲まれているようです。』

シエラからの通信が入る。オキにもそれはわかった。だが、その殺気はこちらではなくマザークラスタへ向けられているようだ。

「…ベトール。命拾いしたな。いいだろう貴様の命、しばらくあずけておく。」

「っは。勝手にするがいい。私は求める映像が撮れればいい。」

そういってマザークラスタの面々は消えていった。

「兄さん!? これはいったい…。」

「説明は後だ妹よ。さて、アークス、といったか。あんたらのことはとある情報から聞いている。俺たちはアースガイド。マザークラスタと対立している組織だ。」

アースガイド。新しい組織が出てきたわけだ。正直どうでもいいと思うオキはタバコに火をつけた。

「…聞きたいことはいろいろあるが、一つ質問いいか?」

どうぞと手を出したヒツギの兄。オキは一番聞きたいことの情報が得られることを望んだ。

「マザーの目的。一体それがなんなのかわかるか?」

ヒツギの兄はほかのマザークラスタと顔を見合わせ、困った顔をしながら首を横に振った。

 

 

 

 

空高く、エスカタワーと名付けられたエーテルを排出するタワーのてっぺんに一人の少女が立っていた。

「目的。それは復讐だ。それ以外でもなんでもない。これはわたしの復讐なんだ。」

夜になりつつある暗い空の中に一人の少女は消えていった。




皆様ごきげんよう。
私はかなりショックを受けました。EP1~3がなくなってる!?
しばらくPSO2の情報を得ていなかったので以前そういう情報が出ていたのを見逃していました。そして久々にストーリーを見直すためにログインしたらまさかEP1~3がなくなっていることになっているとは…。
少しの間、小説を書く気力すらなくなってしまいましたが、ここまで書いてしまった以上、書き上げるつもりです。あぁ、残念。本当に残念です。

とりあえず、気を取り直して。今回本作では犠牲者となったベトールは生き残らせました。
是非ともザ・ライナー2を作っていただきたいですね。
ああいうパニックものは大好きなんです。
さて次回はアースガイド、ファレグ、そしてEP4で一番好きなキャラオークゥが出てきます。さぁ改変しまくるぞー(ヤケクソ

では次回またお会い致しましょう。


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第131話 「行き着く先は」

ベトールがオキを誘い出した日、オキはオフィエルを名乗るマザークラスタ幹部に襲撃される。

オフィエル達と一触即発となったその時、アースガイドを名乗るヒツギの兄、エンガが現れる。

アースガイドによってその場は解散となったが…。後日、彼はアークスに協力を求めてきた。

エンガが所属する対マザークラスタレジスタンス組織『アースガイド』。幻想種を使役し地球全域に影響があるマザークラスタを抑え、彼らが行おうとしている『エーテル通信インフラを管理・支配し、世界各国の政財界に深く入り込み、地球を裏から支配する』という目的を阻止するために活動している。

エンガはその極東支部のエージェントだといい、アークスとはある情報筋から以前より存在を知っていたらしい。

「その情報筋ってのが…まさかあんたとはねぇ。相変わらずっていうかなんというか。」

ため息をつくオキに対し、表情を変えず相変わらずにやけ面の男、カスラ。

「いやはやおほめ頂き恐縮です。」

「ほめてねーし。」

カスラは現在アークスの情報部部長を務めている。かつてルーサーがいた実験研究室をそのまま使い、オラクル存続のために裏で暗躍している。

「暗躍とはひどい言われ様ですね。」

ハハハと笑うカスラだが、目が笑っていない事にオキは気づいていた。

「実質暗躍だろーが。ほとんど情報よこさねぇし、と思ったら急に情報大量に投げてくるし。おかげでシエラがゆでだこになっちまうよ。」

「なりません!」

忙しく端末を操作し、情報を整理しているシエラ。エンガの情報筋を調べる為にオラクルの情報網を屈指して調べようと情報部に顔を出した途端、犯人は私ですと言わんばかりに大量の情報を投げてきたのがカスラだった。

オキはカスラ、同情報部のクーナを艦橋へと呼び、詳しい話をさせていた。

「申し訳ありませんオキさん。できる限り情報漏えいを防ぎたかったために情報の秘匿を行っていました。これよりは必要な情報をすべてお渡しいたしますので…。」

クーナは申し訳なさそうにシュンとしている。どうやらカスラにかなりの重圧をかけられていたらしい。

「つまりすべてあんたが悪いと。」

「敵をだますならまず味方からというでしょう?」

ふふふと薄気味悪い笑みを浮かべながら艦橋を出て行こうとしたカスラは残りはすべてクーナに任せると言ってその場からいなくなった。

「クーちゃんも大変だねぇ。せっかくアイドル活動に専念できると思ってたのにさ。」

「いえ、これも皆さまの為だと思えば。それに昔ほどではありません。」

にこりと微笑むクーナの顔を見て、少なくとも心配はいらない状態だという事を把握。ならばいいと情報整理が終わるまでオキはタバコを吸うため喫煙所へと足を運ぼうとした。

「あれ、どこかでかける? 丁度こっち終わったんだけど。」

「すみません。お待たせした。」

クロとエンガ、そしてヒツギとアルが艦橋へと戻ってきた。エンガがアースガイドとして活動していたことを知らなかったヒツギはその説明を求めエンガはそれにこたえる為にアルを含んでの家族会議を求めた。オキは会議室の一室を貸し与え、クロはその監視役としてつけた。

「お疲れさん。とりあえずあんたらの事がこちらで把握できた。改めて歓迎するよ。ようこそアークスシップヘ。えーっと、アースガイドだったか?」

「よろしくお願いします。うちの妹がか・な・り、世話になったようで。」

オキは彼女ヒツギとの関係とマザークラスタがアルを狙っている事。こちらへ干渉し何かしらの目的があって何かを行おうとしている事をエンアがへと説明した。

エンガはアースガイドの一員として、アークスへ現在のマザークラスタ対抗のためにアークスへ救援を依頼。共に戦ってほしいと言ってきた。

オキとしては地球側の友軍はありがたい話だ。どこにマザークラスタの拠点があるか、調べやすくなるからだ。

オキは数日たった今でも怒りが収まっていない。

「あのオフィエルとかいった七三分けのおっさん。俺達を世界の病巣とかぬかしやがった。一個の星に住む一知的生命体が偉そうに…。喧嘩吹っかけたこと後悔させてやる。」

「どうどう。」

今思い出すだけでも腹の立つあの表情。オキの怒りをクロが抑える。もともと勝手に乗り込んできたのはむこうだ。オキたちアークスからすれば土足で乗り込んできた害虫はむこうである。末端の地球人はそれを知らされずただただゲームとして楽しんでいるだけなのでわからないだろう。だが、あの男含むマザークラスタメンバーは直接敵意をむき出してきた。

「ったく。こちらと深遠なる闇封印及び殲滅で忙しいってのに。」

ぶつぶつとつぶやくオキに頭を下げたのはヒツギとエンガだった。

「本当にごめんなさい。」

「申し訳なく思う。地球代表、とは言えないが謝罪する。」

それをみたオキは別にいいと一言で済ませた。

「それよりも、アースガイドとかいう組織はどこまで戦えるんだ? 情報が欲しい。」

「ああ。こちらとしても知ってもらっておきたい。」

エンガはアースガイドの情報をオキへと開示した。それが全てだという。アースガイドのメンバーはハギトやベトールほどではないものの具現武装を得ており、幻想種の迎撃、殲滅はできるという。アークスだけでは手が足りていない出現し増え続ける幻想種相手にはちょうどいいかもしれないと考えるオキはエンガへ都市部へと出現する幻想種の対応をアースガイドへと任せるとにし、マザークラスタの拠点を調査、つぶすことへと目的を変え、行動を共にする事にした。

「マザークラスタの拠点については本部が情報を仕入れています。我らアースガイドの長であるアーデムも会いたがっていますので、是非本部へ案内したい。」

ふむ、とオキは少し考えた。シエラの情報整理はまだかかりそうだ。情報が整理できていない以上、動くこともできない。

聞けば、ベトールも本部へ送られたらしく、ベトールから直接調査もできそうだ。

「仕方ない。俺はその本部とやらに行ってくる。」

「あ、アタシもいく!」

ヒツギが前に出てきた。

「オマエな。何があるかわからねーんだぞ。いくら本部とはいえ、ここよりものすっごく危険なんだぞ!? わかってんのか?」

エンガが半ばあきれた声でヒツギを止めにかかる。しかしヒツギはそれでもついていくと頑としてその気持ちは変わらなかった。

「わーったよ。ついてくるなら勝手についてくるといい。とはいえ、勝手に死ににいかれてもこちらは守れないからな。それはわかってるな?」

オキがヒツギを睨み付ける。ヒツギはその目を見てもひるまずコクリと首を縦に振った。

オキは生半可な覚悟で来られてもと思い、かなり殺気立った目でヒツギを睨み付けた。しかしヒツギはそれにおびえることなくコクリと頷いた。よってオキはヒツギを連れて行くことにした。

「ヒツギは連れて行くけど、アルはお留守番な。連れ回すよりここの方が安全だし。シエラおねーちゃんとクロおねーちゃんと一緒にいてくれ。」

「うん、わかった。」

いい子だとオキはアルの頭を軽く撫でた。暇にならないようにユウキやアオイを呼び、アルの遊び相手になるよう伝え、クロにはそのメンバーを守るように指示した。

「お守は苦手なんだけど。マスターの指示なら。」

「おう。頼むぜ。」

地球の人々はこのアークスシップに『ファンタシースターオンライン』、ゲームの舞台として乗り込んできている。今の所害はないものの、それがマザークラスタメンバーでしかも意思を持って襲撃しに来た場合、アークスシップ内では普通のアークスはフォトンの使用を限定されている為戦えない。

そしてクロはあくまでも最終防衛ライン。最後の砦だ。そこにたどり着くまえに迎撃の体制を作っておく必要がある。

「しゃーない。あの人に頭下げてくるか。」

オキはあるアークスの下へむかい、ヒツギやエンガ達は先に地球へと向かわせた。

「あれ? オキ?」

「おお! オキではないか!」

聞き慣れた優しい声と同じく聞き慣れた元気な声が聞こえてきた。マトイとクラリスクレイスだ。

マトイは同じ守護輝士の一人として、普段は通常のアークスとしての活動を行ってもらっている。クラリスクレイスはその補佐。立場上は戦闘部隊の副長であるが、実際の所、本来の戦闘部の方針となにも問題がないため、マトイについてもらっている。オキ達が地球に専念できるのも彼女たちのお陰でもある。

「二人とも。なんだか久しぶりだな。」

地球に降り立ち始め、暫く二人には会えていない状況が続いた。1カ月もたっていないとはいえ、こうして離れてみるとやはり二人とも大事な人だと改めて認識する。

「オキはどう? けが、してない? 何かあったらすぐに教えてね。リズちゃんと私で一直線に駆けつけるから!」

「そうだぞ? すぐに私と先代に教えるんだぞ! 貴様は私の中で先代と同じくらい大事なんだ。怪我したら、困る。」

二人は自分の事ではなく、オキ自身の事を真っ先に考えてくれている。そんなやり取りに微笑みながら二人の頭を撫でるオキ。

「わぷ!」

「ふにゃ!?」

驚いたものの、二人は心地よさそうにその手の感触を感じていた。

「ありがとな。大丈夫。二人に心配されているから俺は安心して出ることが出来る。何かあったら頼む。…ああ、そうだ。」

オキは二人にも現状と今後の可能性を考え、万が一の体制を取っておくように依頼した。

「一応、俺の中で一番防衛を任せることが出来る守護神に依頼はしてある。だが数の暴力でこられるとたまったもんじゃない。俺がいない間、アークスシップを、オラクルを頼む。」

ポンポンと頭を叩くと任せてと二人は力強く頷いた。

「任せておけ! 私と先代がいるんだ! オキは何も気にせず自分の信じる道を進むがいい!」

「うん。リズちゃんのいうとおり。オキがなにも気にしなくていいように私達で守るから。あなたの、大好きなこの場所を。」

二人のクラリスクレイス成分をぎゅっと抱きしめて補給した後、オキはキャンプシップへと向かった。

地球、北アメリカ大陸。ラスベガス。

エンガの記した場所へとオキは降り立った。東京と違い、豪華で大きな建物が並び道路は幅広く光り輝くネオンは昼間でも目をチカチカさせる。

「こっちですオキさん。」

「ん。」

このラスベガスという街は普段はかなり人が行き来するそうだ。そのため、シエラは情報整理をしながらも、エンガとヒツギに出会いやすいように人払いを行うため隔離領域を作ってくれた。

「この先にあるカジノホテルの地下が私たちアースガイドの本部になっています。」

「ほー・・・。」

東京都は違った風景に少し興味あるオキと、物珍しそうにキョロキョロと周囲を見渡しているヒツギ。

あまり離れるなよと心配そうに見るエンガと大丈夫と笑顔のヒツギ。兄妹という二人のやり取りに微笑みつつタバコを口にくわえ、ライターに火を灯した瞬間だった。

ガキン!

ライターの火が甲高い音と衝撃波により揺れ動く。その火が落ち着いた頃にオキはタバコに火を付けた。ハヤマ、アインスが遅れてやってきたと同時にソレは現れた。

「ふぅ…。ハヤマン、隊長あんがと。思ったより早かったね。」

オキの目の前に現れたソレの拳をオロチアギトの鞘で止めたアインスとソレの首筋にアギトを当てたハヤマ。アインスの抑えている片腕は相手の拳のせいで震えているものの体はどっしりとし微動だにしていない。微笑むその顔はまだ余裕がある。

「いやすまない。少々迷ってね。遅れてすまなかった。」

対してハヤマは触れれば切れそうな鋭い目つきでソレをにらみ続ける。

急に現れたソレに対し驚く様子の無いオキとハヤマ、アインス。驚いているのは目を丸くし動けなくなっているヒツギと、音が鳴ったあとに銃を構えたエンガ。そして、襲ってきた本人だった。

「あらあらあら。この私が不意打ちの一撃とはいえ防がれるとは…。」

金髪、スタイルのいいドレス姿の女性は首元に刃を突き付けられているにもかかわらず、ギシギシと防がれている鞘へと力を加えたままだ。

その女性にオキ、ハヤマ、アインスは異様な気配を感じていた。

「ふん。どこのどいつか知らないが、私の仲間に対しいきなり拳を向けるとはいい度胸だ。」

拳を防いでいる鞘から抜いた白銀に煌めく刃をソレに対し切りつけた。だが、その一閃は空気のみを斬った。

「お二方だけでなく、そちらのメガネのお兄さんも私の事は見えていたみたいですね。むしろ、助けられることがわかっていたようで。さすが、お噂通りの方ですね。ぜひお名前をお聞かせ願いたいですわ。」

ハヤマのアギトを手の甲で弾き、後方へと飛びのいたそのドレス姿の女性は深々とお辞儀をし名乗ってきた。

「私は火の使徒、マザークラスタのファレグと申します。以後お見知りおきを。」

その名前を聞いてエンガが口を開いた。

「ファレグ…魔人ファレグか!?」

「しってんのけ?」

マザークラスタの使徒の中でも最も危険な人物としてアースガイドは対応しているようだ。今までにいくつもの部隊が壊滅に追いやられたとエンガは説明した。

「あらあら、魔人だなんてそんな。私はただの人としての可能性を示しているだけです。 なのでその銃を下していただけないでしょうか。怖くて…。」

一瞬でその場から消え、エンガが気づいた時には足を振り上げるファレグの姿が目に移った。

「震えてしま…っ!?」

目の前にいたファレグが再び一瞬で消える。その代り、オキがファレグを狙い、伸ばしたエルデトロスがエンガの目の前に落された。

「っち。外したか。糸目のねーちゃんよう。俺に拳向けといていきなり浮気はねーんじゃねぇの?」

オキ、ハヤマ、アインスはそれぞれファレグの迎撃態勢を取る。しかしファレグはニコリとほほ笑んだままだ。

「まぁ御免あそばせ。つい脚が出てしまいましたわ。あなた、お強いですね。改めて、お名前は?」

「…オキだ。」

一瞬迷った結果、オキは彼女に名を明かす。

「オキ、オキさんというのですね? そちらのお二方も…。」

アインスとハヤマは口を閉じたまま。10秒ほどたって結局ファレグは二人の名を聞くことを諦めた。オキの名前だけでも得られたのがよかったのだろうか。

「まぁよろしいでしょう。本日は挨拶だけとさせていただきます。今度はぜひとも、お相手して頂きたく思います。では。」

軽くお辞儀をした直後、空高くへと垂直跳びで飛び上がり、隔離領域を破ってそのまま空気を蹴りどこかへと飛んで行った。

「なんだったんだ今の。びっくらこいたぜ。」

「ははは。微動だにしなかった君がか? 嘘は良くない。」

「とりあえずそっちの二人大丈夫ですか?」

まるで軽い事故でもあったかのようなノリで緊張を解いたアークスの3名を見て、肩の力を抜いたエンガとその場にへたり込んだヒツギ。

「あ、ああ。ヒツギ共々、けがはない。助けてくれてありがとう。」

ヒツギの手を取って立ち上げているエンガは近づいてくるオキに礼を言った。今でも体がこわばっているのかエンガは自分の手を見つめている。

「あんたらはすげーな。俺はあんな化け物と一瞬でもやりあってこれなのによ。」

エンガがそういうとオキはエンガの背中をバシバシ叩いた。

「なーにいってんだよ。あれが化け物だって? どーせエーテルの具現武装つかっての強さだろ?」

『いいえ。あの人からはエーテルの気配を検知できませんでした。あの人は自身の身体能力で戦っているようです。』

それを聞いてヒツギの顔が青くなる。エンガは舌打ちをしてファレグの飛んで行った空を見上げた。

「っち。化け物が。」

それに対しオキ達は平然としていた。

「ふーん。人にしてはやるねぇ。まぁ結局、人なわけで。うちの魔神に比べりゃ赤子も同然よ。」

「本気は出していなかったようだが。それでもシンキ君に比べれば全然だ。拳も軽かったしな。」

「むしろシンキは人と比べちゃいけないと思うよ。絶対、あんなのと比べるとか不敬。とか言いそう。」

はははと笑いあう3人に対しヒツギとエンガは唖然としていた。そして彼らが言うには更に上がいるらしい。アークスを敵に回さなくてよかったと胸を撫で下ろす兄妹だった。

 

 

 

おまけ

~幕間~ シエラの悩みとその原因

マザークラスタの使徒たちと出会い、アースガイドを名乗るエンガに会った数日後に時はさかのぼる。

「うーん…。」

アークスシップ艦橋にて悩む少女が一人。ハイキャストのシエラだ。

「ういーっす。あれ、どうしたんだ? 難しい顔して。」

情報の仕入れを行いにやってきたオキは難しい顔して悩んでいるシエラに訳を聞いた。

「あ、えっと…。実はですね…。」

シエラをはじめとするハイ・キャスト。その人格を1から作るとなると膨大な時間と労力が必要なことから、現在の戦力即増強を踏まえ総司令官であるウルクの人格をベースに作られている。彼女を含め、ハイキャストのメンバー達は総司令官であるウルクを尊敬しており、その人格を誇りに思っているという。

性能も普通のキャストと違い、シャオをベースに作られている為、アークスシップ一つの管理を軽くこなせる性能を誇る。

それを聞いていたオキは何を悩んでいるのかわからないと再び聞いてみた。すると

「問題は一つなんですよ! ほら、ウルク司令官ってすごくいい体系してるじゃないですか。同じ人格で作ったなら、体つきも同じようにしてほしかったんですよぉ!」

オキの口はそれを聞いてヘの字になる。簡単に言えばボンキュッボンなウルクの体つきと比べてスレンダーで小柄なシエラは納得がいかないという事だ。

「あぁ…そういう…。」

悩むのは大いに結構だ。人それぞれ、いやハイ・キャストそれぞれの気持ちもあるだろう。女の子に生まれたからには憧れるじゃないですかとわめくシエラ。

「なので、ハイ・キャスト会議にて満場一致で抗議することにしました。シャオさんに直訴し…あれ? 拒否反応!? …そうですよねー。私達がこうして直訴するのもすでに演算済みですよね~。」

泣きながら端末を操作するシエラ。シャオの高い演算能力なら、彼女たちが抗議してくるのも初めから御見通しであり、逆に彼女たちもそれがわかっていての行動だったのだろう。

「そんなことより仕事しろ? わかってますよ~…。あれ? えっと…君たちのボディは、ある人の好みで作られている? シエラは特にハイ・キャストすべてのベースなうえ、その人の所で…働くのだから!?」

端末を操作していたシエラがジト目でオキを見る。乾いた笑しか出てこないオキ。

つまり、シエラのボディ、そしてそれがベースとなっているハイ・キャストの体つきは、オキの好みで作られたとシャオが言っているのだ。

「いや…まぁ、そのだなぁ…。なんか、悪かった。」

プルプルと震えているシエラをみてオキが恐る恐る近づく。

「むー…。オキさんは、その…こういう方が、好みなんですか?」

口を膨らませながらも、ちらりとオキを見て質問した。

「ん、まぁ。はっきり言ってどっちもいけるが、どちらかと言えば小さい方が好きだ。」

何画とは言わないが、少なくとも否定できない。とはいえ小さいだけでなく大きい方も好きなのは間違いではない。

マトイや琴音は勿論の事、実はユウキも結構大きい方だからだ。

「そうですか…♪」

そんなことは気づかず、オキの言葉で機嫌を取り戻したシエラは今度は上機嫌になった。そんなやり取りで疲れたオキは出直してこようと艦橋を後にしようとした。

そこへシンキがちょうど現れた。ニヤケた彼女はすべてお見通しのようで、ただ一言オキへと放った。

「ロリコン。」

「うっせ、歩く18禁。そんな格好のおめーにいわれたくねーよ。」

今日のシンキは珍しくとことんご機嫌らしい。露出の高い服なのか、ただの裸エプロン姿なのか。どちらであろうとものすごい恰好で歩き回っている。そんな魔性の姿であっても菩薩のような母性あふれる包容力は変わらない。オキ達はこの時の彼女を『魔性菩薩』と呼んでいる。

「行き着く先は…。」

「殺生院…やかましいわ!」

ノリツッコミするオキにほほ笑むシンキ。その様子を背中で受けるシエラはクスリと笑っていた。




皆様。ごきげんよう。
FGO2章始まりましたね。さっそく特攻野郎Aチームの一人吹っ飛ばしてアナスタシアちゃん仲間に引き入れました。

今回はアースガイド本部まで行こうと思ったのですが、思ったよりファレグのところに文字数使ったのと、おまけの幕間入れたかったので予定を変更してここまでにしました。

次回はEP4で一番好きなキャラのオークゥとの出会いです。
好き勝手書くぞー!

では次回またお会い致しましょう。


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第132話 「120%バカ」

ラスベガスの中心部に位置するカジノホテル『ジュエル・リゾート』。その地下にアースガイドの本部があるというのでエンガに案内をされ、まずカジノエリアへと足を踏み入れたオキ達。

 

ホテル自体大きく、数百mクラスの建物。目の前には巨大な水槽になっており、エンガ曰く地下5階分まで貫いた巨大水槽だとか。

 

ホテル内に入ってみればカジノエリアは大盛況で大声でしゃべらないとお互いの声が聞こえないくらいの騒がしさだった。カード、スロット、ルーレットをはじめとし、様々な大きさのゲームが並んでおり、このカジノはラスベガスの中でも最大級という。他にも遊園地等様々なアトラクションが存在しており、このホテル一つで様々な娯楽が楽しめるとエンガは説明した。

 

アークスシップにも娯楽施設としてカジノエリアや元からある遊園地をできる限り更新し、皆が楽しめるようにとウルクが優先的に作り上げていた事をオキは思い出す。そういえば最近遊びに行ってなかったなと思いつつ、カジノエリアを歩いていると目の前から黒スーツの男2名が見たことあるネコのぬいぐる みを持って搬送しているところに出くわした。

 

オキはその姿を見て惑星スレアで見た『未知なる生命体との遭遇』という記事を思い出した。2人組の男に両腕を持ち上げられつるされながら連行されていく姿はまさに酷似していた。

 

「ったくどこから入ってきたんだコイツ。」

 

「向こうのレストランエリアにある料理を食い荒らしていたらしいが…。」

 

ボソリと聞こえたその声とピクリとも動かないそのネコのぬいぐるみ。いやミケではない。うん、ミケではない。ミケが捕まるはずがないと、見なかったことにして先に進んだ。

 

そんなオキの近くでハヤマは足元にあるメダルを手にしていた。

 

「ふーん。これがメダルねぇ。…どれ。」

 

ふとすぐ近くにあったスロットにコインを入れると電子画面に映し出された絵柄が回転しだした。じーっと見つめるハヤマはその絵柄がランダムである事に気づく。これなら当たる事もないだろうと適当に3つのボタンを瞬時に押した。

 

「そい、てりゃ、おりゃ! …あれ。」

 

そのスロット機は大きく音をだし、光り、大量のコインを掃出し始めた。

 

「うっわすご! ハヤマさん、これ大当たりだよ!」

 

「しかもジャックポットじゃねーか。おーい。こっち頼むわ。」

 

ヒツギは驚き、エンガは近くのボーイにおろおろしているハヤマを任せつつヒツギにハヤマと一緒にいるように指示し、なぜか白目になっているオキを本部へと連れて行った。異常なる幸運を味方にする男、ハヤマの運気は惑星地球でも健在だった。

 

「なんでさ…。」

 

アインスはというと、なぜかそこにいたコマチのポーカーを後ろから眺めていた。

 

「…これと、これだ。」

 

5枚配られた手札の中から好きなカードを交換し、ツーペア以上でダブルチャンスというボーナスゲームができる様になるゲームだが、このボーナスゲームがこのゲームの本質である。上限は設定されているものの、その上限までは何度でも当てたその額をダブルアップできる仕組みだ。

 

「ツーペア。ふむ、成功のようだね。」

 

コマチはその言葉、声を聞いてピクリと頬が引きつる。だが、そのままダブルアップを行った。アインスもその言葉、声には聞き覚えがある。しかし彼がここにいるはずがない。他人の空似だろうとコマチの勝負を見守っていた。

 

最初のダブルアップ勝負。カードはハートの6。コマチは一瞬迷うも上を提示。伏せられたカードはスペードのK。これでツーペアで得た額が倍になった。

 

続いてのカードはスペードのK。コマチは下を提示。伏せられたカードをめくるとダイヤの3。また倍となった。

 

こうして6回ほど勝ち進んだコマチ。

 

「素晴らしく運がいいな君は。」

 

ピクピクと動くコマチの眉。7回目の勝負。カードはクローバーの3.コマチは上を提示した。この下にあるカードは2のみ。確立ならば相当低い。だが…

 

「素晴らしく運が無いな君は。」

 

伏せられていたカードはハートの2.コマチは今までの勝ち上がっていた金額をすべて没収されてしまう。

 

「惜しかったな。コマチ君。」

 

「あ? ああ、隊長か。まぁ別に。勝ち負けはどうでもいい。ただ、こいつのこの言葉だけは異様に腹が立つ!」

 

そのテーブルでカードを配っていた髭を生やした中年のディーラー。アインスやコマチだけでなくアークスすべての怨念を受けて尚、平気な顔をして武器改造を行うスタッフにそっくりだからだ。

 

「もういいや。今日の半汁とお薬分は稼いだし。」

 

コマチの言葉がやや理解できないアインスだが、彼が自分たちとは別の目的で行動している為、特に質問をしなかった。

 

「ほっほっほ。また来たまえ。」

 

「二度とこのテーブルに来るかぁぁぁ!!」

 

コマチの怒号も気にしないこのディーラー。アインスはまさかなと思いつつも、離れてしまったオキとエンガを追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ。皆さん。ようこそアースガイド本部へ。私がその長を務めておりますアーデムと申します。どうぞよろしく。」

 

にこやかに笑顔を見せる一人の青年がオキを迎えた。

 

「エンガ、帰還しました。アーデム、こちらアークスのオキさんだ。情報は先に投げたとおり。」

 

「オキです。コンゴトモヨロシク。」

 

オキとアーデムが握手をし、軽い挨拶を済ませた。

 

アースガイドとはなんぞやという事をまず説明したアーデム。

 

マザー・クラスタに対抗するレジスタンス組織で、メンバーはエーテルの具現武装能力を持つ。マザー・クラスタほどではないが社会的に影響力を持っている。

 

元々はエクソシスト・魔術師・陰陽師など、具現武装に近い能力(一般的に『魔法』と呼ばれるような超常的現象)を行使する者が、不可思議な事件・事象を解決する目的で集った組織。古来から悪魔や妖怪といった普段は目に見えない「人ならざるもの(幻創種)」と戦い、人知れず人々を守っていた。

 

近代以降は、現象から人へと活動対象が移り代わり、国家の垣根を越えて紛争解決・和平調停などの役割を担うようになっていった。

 

現在は幻創種を使役して世界を征服しようとするマザー・クラスタに対し、「地球をあるべき状態に戻す」ために抵抗している。

 

しかし旗色は悪く、「使徒」が表だって行動し始めるなど敵の活動が本格化したことで、アークスに協力を求めた。

 

「なるほどねぇ。」

 

「先に起きたヤマト事件、とても見事でした。こちらが対策する前に対処して頂きありがとうございます。」

 

どうやらヤマトとの戦いを見ていたようだ。まぁあれだけドンパチ騒がしくしていれば世界の裏をみているとなると見ていておかしくはないだろう。ベトールの身柄も保護してもらっている。いつマザークラスタに粛清されるかわからない状態だ。なにより本人がマザークラスタより自分の欲を優先している為に向こうにいる理由がないという。頬してもらう代わりに、マザークラスタの情報をアースガイド側で聞き込みをしているそうだ。

 

 

 

ズズズン…

 

 

 

アーデムの説明を聞いている最中、地響きと共に小さな縦揺れがオキ達を襲った。

 

「地震か?」

 

『いいえ、オキさん。幻想種です。その周辺一帯に幻想種が現れて暴れています!』

 

アーデムも仲間からの通信でそれを確認。巨大なモニターに外部の状況を映し出した。外部では幻想種が一般市民を巻き込みながら暴れているようだった。

 

「ちぃ…。」

 

「俺もでる!」

 

オキとエンガ二人はアーデムの居る部屋をでて、外へと走った。道中、ハヤマやアインス達とも合流。ホテルの外へ飛び出した。

途中、そこにいたミケと合流したが、先ほど白いネコのぬいぐるみを搬送していた黒服スーツの男を引きずりながら歩いていた。

「不審な男を発見したから、掃除したのだ。失礼な男なのだ。」

ぼろ雑巾のように引きずられる男に全員合唱。

 

 

 

 

「っち。まさかこんな日中に一般人を巻き込みながら襲撃してくるとはな。」

 

外に出ると煌びやかだった街並みはあちこち煙が出ておりめちゃくちゃに破壊されていた。幸い、シエラが素早く隔離空間を作成してくれたために人への影響は少ないらしい。あちこちに出ているピエロや人のっていないバイク等様々な幻想種が街を跋扈していた。

 

「蹴散らすぞ!」

 

「了解した。殲滅する。」

 

「そんじゃお仕事と行きますかねぇ。」

 

オキの号令と共に幻想種へと攻撃を仕掛けはじめるアークス達。それに続き具現武装を出したヒツギを援護しつつエンガ兄妹も戦い始める。

 

「はは、やるじゃねぇか。剣術とかお兄ちゃん教えたつもりはないぞ。」

 

「自分で覚えたの。そっちこそ、銃の使い方知ってる兄とか幻滅なんですけど? それもアースガイドで教わったわけ?」 

 

背中合わせに戦うヒツギとエンガはニヤリと笑い、暴れまわるアークスを見て自分たちも負けないようにと再び幻想種へ向かう。

 

「説明書を読んだのさ!」

 

本部にいた他のアースガイドのエージェントたちも現れ、数で圧倒し始める。

 

巨大なタンクローリーやUFO等も現れ始めるものの何とかこちら側が有利になっている状態だ。なぜかミケを頭に乗せ、泣きながら幻想種、アースガイド、果てにはハヤマたちにけしかけられている可愛そうな巨大スフィンクス像までも現れる。お前はどっちの味方だミケ。いや、ミケには敵も味方もないのだろう。只々楽しんでいる。そういうやつだ。ハヤマ達がいくらミケが大暴れしているとはいえ、それくらいでへこたれるような奴らではないという事は分かっている。

 

彼らの方は彼らの方に任せ、オキはその一部異様な部分を除いて周囲の様子を見まわした。

 

「…。」

 

襲撃にしては数が少なく、普段のように急に出現したとも思えないかなりの数だ。

 

そして何より幻想種の統率がとれていた事。それはつまり、近くに幻想種を従える具現武装を扱える者がいることになる。

 

オキは気配を察知するため敵の居ない低めのビル屋上へと飛び上がった。

 

「シエラ。どこかに強いエーテル反応無い?」

 

『はいはーい。少々お待ちください。このシエラに、お任せあれ! ありました。ホテルの、屋上です。』

 

先ほどまでいたカジノホテル、ジュエルリゾート。確かにあの建物ならこの周辺で一番高いビルだ。シエラがその場へある移動手段を転送してくれた。

 

『これを使ってください! あの高さならひとっとびです。』

 

「さーんきゅ。さって、飛びますかねぇ!」

 

グリップを握り駆動機関を唸らせ、オキは空へと飛び上がった。『ライドロイド』と名付けられた小型の移動艇は開発部が作成し、オキがそれに対していろいろと要望を追加した試作機の一つだ。尖った先端から延びる流線型のボディに小さく伸びるウィング。そしてそこそこのスピードが出せる小型ブースターを装備。いずれはマイクロミサイルやバルカン等も積む予定だが、今回はまだいい。

 

ブースターを吹かし、一気にホテルの屋上へとたどり着いたオキはそこにいた巨大なピンク色のモンスターと赤桃色のロング髪の女性のマザークラスタの一人を見つけた。

 

「みーつーけーたーぜー!」

 

ライドロイドから飛び降りたオキは、その女性の前へと立った。

 

 

 

 

 

 

 

オークゥ・ミラー。若くして博士号を取得、数々の論文を発表している天才数学者にして、マザー・クラスタの一人で日の使徒。同じくマザークラスタの月の使徒、フル=J=ラスヴィッツとは仲のいいコンビである。

 

この日は同マザークラスタのオフィエルの指示に従い、アースガイドの本拠地であるラスベガス強襲に向かっていた。

 

だが、まさかあんな事になるとは夢にも思わなかっただろう。彼女の運命はこの日から変わってと言っても過言ではなかった。

 

 

 

 

 

 

「つまんない。80%つまんない!」

 

オフィエルによって屋上での待機を言い渡されたオークゥだが、はっきり言って何もしていなかった。

 

オフィエルは新たに加入した新しい使徒の調整だと言って現在はアースガイドの面々と戦っている。まぁ実際に戦っているのは幻想種なのだが。

 

それでも今日ここについてくる必要があったのだろうか。目障りなアースガイドとアークスが手を取って戦い、幻想種に翻弄される姿は見ていていい気分である。

 

しかし自分が動いていない分退屈で仕方がない。

 

「あーぁ。フルでも呼んじゃおうかな…。メルメル。」

 

あまりに暇なのでフルを呼んで話し相手になってもらおうかとメールをした直後だった。

 

「ん? なにあれ。ベガス・イリュージアが乗っ取られてる? あ、でもアースガイドにも攻撃してる。暴走? 70%おじさんはなにやってんのよ。」

 

70%おじさん。もちろんオフィエルの事である。そんな様子を見ていると下から何かが急に上ってきた。

 

「みーつーけーたーぜー!」

 

いきなり変な乗り物に乗って登ってきたロングマントを肩に羽織ったスーツ姿の男が一人。フルの力が加わっていないとはいえ、私だけの力で防御壁作って気配消してたのに、どうしてこの男は私の前に立っているの!?

 

「よう。この間、東京であった子だな? 今回の騒動はお前さん? ちょーっとおとなしくしてもらおうか。」

 

この男、たしかこの間の東京にいたアークスの一人だったはず。そうだ。弱そうとか思ってたらあの70%おじさんの攻撃をいともたやすく防いだ奴だ。

 

名前はなんだったかな。忘れちゃった。興味なかったし。でも…

 

「なんで!? どうして!? 100%ありえない!」

 

「なんでって…。エーテル反応探して一番でかい反応があったのがここだったからな。で? もう一度聞くぞ。ここを襲ったのはあんたか?」

 

男に睨み付けられ、足を一歩後ろに下げてしまった。それをみた男は今までにらんでいたのに急にニカリと笑った。

 

「あー。怖がらせちまったかな。わりぃわりぃ。悪いんだが、もしここを襲いに来たんなら帰ってくれねーかな。できれば一般人を巻き込みたくない。それに俺もそこまで鬼畜じゃない。こんなかわいい子とも戦いたくないしな。むしろ仲良くなりてーくらいだ。」

 

「んな!? かかかわいい!? わわわ…私が!?」

 

「んだよ。自覚してねーのか? こう見えてあちこち動き回ってるから、いろんな女の子見てきたけどあんたも中々可愛らしい顔じゃねーの? おれは好みだぜ。だから、おとなしくしてくれねーかな。」

 

たははと若干恥ずかしがりながら笑う男は言った。その言葉に反応し、自分の顔が熱くなるのが分かる。かわいい!? 私が!? 今まで誰にもそんなこと言われたことが無かった。なんなのこの男。いままで相手にしてきた奴らと何かが違う。私を嫌悪している様子が一切ない。こいつ、私が敵だと知っていてそんなこと言うわけ?

 

でも嘘をついている様子でもない。なぜかわかる。そう、私が天才だから、わかる。

 

天性の才能を発揮し、しかし高い才能を子供だったというだけで周囲に認められず潰されかけていたのを、マザーに助けられた。

 

そうだ、マザーだ。自分を初めて認めてくれたマザーへの恩は、自身の命を賭けてでも返したいと言うほど、その想いは大きい。

 

フルとは似た境遇であり、年も近いためすぐに仲良くなった。そんなマザーの想いを遂げる為に、私はこんなところで狼狽えている場合ではない。

 

「うるさい…うるさいうるさい! あああ、あんたなんか…つぶしてやる!」

 

「マクスウェルの悪魔」と「ラプラスの悪魔」を出現させ、目の前の男へ嗾けた。因果律を弄ってどんな相手だろうと攻撃は届かない。その代りこちらが一方的に殴れる。そうだ、潰れるがいい! 私をバカにした奴らはみんな!

 

「ったく。ま、やるってんならヤるけど? それに思い出したぜ。おめーこの間の東京で、俺の事弱いとか言ったよな。お仕置きだべー。」

 

先ほどまでの優しそうな顔だった男は口元を歪ませ、今まで持っていなかった腕に武器が出現する。緑色と銀色に光る綺麗な武器だ。だが、私だって負けられない。マザーのために。マザーの意思のために!

 

「この子たちには攻撃は一切通用しない! あんたなんかぺしゃんこに…。」

 

 

 

ヒュン! …ドカッ!

 

 

 

「へ?」

 

真横を空を切って何かが吹き飛び、屋上の柵を突き破って下へと落ちて行った。あの男? いや違う。男は目の前で武器を構えている。

 

じゃあ飛んで行ったのは? いや、自分でも理解していた。それが、自分がだした『ラプラスの悪魔』だという事を。マクスウェル達も真っ二つになって床に転がっている。この男があの一瞬で切ったというのだろうか。

 

「ありえない! 120%ありえないいい! なんで因果律弄って触れることが出来るわけ!? 100%届かないようになってるのに!!! しかも…あんな簡単に…!」

 

男は予想もしなかったのか何かに驚いている様子だった。

 

「あ、いや、その。なんかすまん。デカイからてっきり重いのかもって、思い切り力出したら案外軽かったというか…。」

 

謝られた! 私がみじめじゃない! なにこの男! もう許さない! 

 

屋上中にマクスウェルとラプラスを出現させ、男に嗾けた。

 

「うー…! ばーか、バーカ! 120%ヴァーカ!」

 

この数をたった一人で相手できる確率は0%。ありえないんだから。いくら攻撃が届いたって、いくら力が強くったって。この数なら!

 

「っふ。」

 

男が笑い腕に付いた武器を振り回した。その光景はオークゥにとって以後夢に見るほどの光景であった。

 

振り回した武器はワイヤーにつながっており、それが床を削りながらラプラスやマクスウェルを切り刻み、吹き飛ばしていく。切り刻むだけでなく、武器自体が風と雷の力を持っているのか振り回すたびに風が舞い、雷が走る。一瞬の出来事であったが、オークゥにはそれがスローで見え、目に焼き付いた。

 

「あり…えない…。」

 

自分の力全てを込めたつもりのラプラスやマクスウェル達は一切合切吹き飛ばされ、屋上は彼の攻撃の余波でぼろぼろに崩れかけていた。

 

分かっているのは自分の周囲と彼の周囲の床だけは綺麗に残ったまま。つまり、あれだけ大暴れしたというのにも拘らず、彼は私を避けて攻撃したのだ。

 

なんで? どうして? 私は敵なのに…。どうしてこの人は私を攻撃しなかったのだろう。理解できない。計算が、できない。

 

「お、おい。まて!」

 

「…えっ?」

 

あまりの光景を目にした為に近いが追いつかず、フラフラと後方に下がってしまったオークゥの足はボロボロになった屋上の床を踏み外してしまう。

 

丁度そこへオークゥに呼ばれたフルが到着した。

 

「クゥ~。来たよー。…え?」

 

異空間を抜けオークゥから呼ばれた場所へと到着したフルだったが彼女の目に映ったのは、目の前に広がるボロボロになった屋上。そしてう今まさに足を踏み外し、バランスを崩して落ちそうになっているオークゥの姿だった。

 

「フ…ル…。」

 

「ッ!? ダメ!」

 

手を伸ばすも届かず、大事な親友は屋上から下へと落下してしまう。地面まで約数百m。いくらエーテルで多少身体能力を上げているとはいえ、落下スピードによる衝撃を和らげることなど不可能だ。ましてやフル自身の能力では彼女を助ける方法はない。

 

何とかしないとと思うフルの横を猛スピードで何かが通り過ぎて行った。ソレはオークゥを追いかける為に自ら屋上から飛び降り、真下へと急降下していった。フルは下から吹き上がってくる強風を凌ぎながらソレの正体を見た。

 

「あれは…アークス?」

 

やらかしてしまった。まさか後ろにあったはずの柵すらも吹き飛ばしていたなんて。自分や来てくれたフルの能力ではこの状況を打破することはできない。

 

数百メートルもあるその高さから落下する自分の身体のスピードの計算ができるほどなぜかすっきりしていた。

 

少なくとも距離、スピードから落下時のエネルギーを踏まえていくら下に水があるとはいえ、その表面はコンクリート並になる。

 

周りがゆっくりに感じる。たった10秒数秒間。だが、なぜか長く感じる。

 

「マザー…フル…ごめんね。」

 

涙を流し、短い人生で唯一優しくしてくれた二人に感謝した。その時だった。

 

「つかまれ!!」

 

何かが一緒に落下してきた。そして自分を捕まえるとしっかりと抱きしめ、抱きかかえた。それが、先ほどまで戦っていた男とわかったのは水に落下するのとほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

脚を踏み外したオークゥを追う為に自分も床を蹴って空中へと落ちた。しかしそのままではスピードが間に合わない。

 

エルデトロスを後方へ向け、風を送り加速させる。オークゥへと追いついたオキは、しっかりと胸に抱きしめ彼女に負荷が出来るだけかからないよう自分の身体を地面側に。そしてエルデトロスを地面側に向け風を噴出させるのと水面に落下するのはほぼ同時だった。

 

大きな水柱をたて、巨大プールに落ちたオキとオークゥ。オキはここがプールでなく地面だったらと考えるとさすがのアークスもただでは済まなかっただろうと思いつつ気を失った彼女を抱え水槽から這い上がった。

 

「ふうー…ん? おい、おい! しっかりしろ!」

 

オークゥの意識はなく、息もしていない。胸に耳を当てると鼓動の音が聞こえた。水を飲んだらしい。このままでは息が出来ずに死ぬ可能性がある。

 

男ならまだしも、女の子が目の前で死ぬのは目覚めが悪い。

 

「必ず助けてやる。」

 

そういってオキはオークゥの口を塞いだ。

 

「ん…んん…んんん!? げほっげほっ!? ちょ…なななな…。」

 

想いきり水をかけられたオキは持っていたタオルで顔を拭きながら顔を真っ赤にして驚いているオークゥの頭をポンとたたいた。

 

「息が出来たか…。よかった…。無事で…。」

 

ほっとし、微笑んでいるオキの顔を見て、唇を奪われたことも、一緒に死んでしまうかもしれない可能性があったことも、何もかもを言う事ができなくなってしまった。

 

「…クシュン」

 

小さくくしゃみをしたオークゥ。彼女は水浸しのままだった。それに対しオキは一滴も水がついていない。オキはエルデトロスの力で水をはじいたのだ。

 

オキはぬれていないコートを座り込んでいるオークゥの肩にかけた。

 

「ちーとタバコくさいかもしれんが、ないよりましだろ。…そんな驚いた顔をするな。『野郎に厳しく、女の子に優しく』。それが俺のモットーだ。気にすんな。 …あ? 俺だ。 なんだって!? ヒツギが切られた上に連れ去らわれた!?」

 

オキは大急ぎでその場を後にし、ポツンと一人オークゥは残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば唇を奪われていた。水を飲みこみ、呼吸できなくなっていた事はすぐに理解できた。そしてあの顔。

 

ほんと、120ばか。自分の命も危なかったかもしれないのに、一緒に落ちて、助けて勝手にどっかいって。

 

ぬれた身体を温める為に貸し与えたと思われるこのコート。80%タバコくさい。でも…なんだろ。嫌いじゃない。

 

フルはしばらくたってからホテルから出てきた。エレベーターが停電で動かなくなっており階段で降りてきたそうだ。あの70%おじさんに頼めばよかったのに。最初もそうやってここまで来てくれたんでしょ? そういうとフルは『あっ。』って。

 

それでもそんなことも思いつかないくらいテンパってて、何十階もあるホテルの階段を走って降りてきてくれたんだよね。ありがとう、フル。

 

拠点に帰った後、暫く自室に籠った。あのコートを抱えて。コートの中にはまだ10本ほど入っているタバコと、ジッポライターが入っていた。

 

あの男の、オキというアークスの持ち物だろう。私はしばらくの間、あの顔を忘れることが出来なかった。

 

「ほんと、ばか。」

 

 




みなさまごきげんよう。

EP4のやりたかった事、その2です。クゥちゃんかわいい。

今回でラスベガス編が終了。次回は月へ乗り込む場面です。PSO2では月に乗りこんでいる時に、ある事件が起きます。

その事件の解決方法と言えば? 次回も楽しく書かせてもらいますね。

では次回をお楽しみに。


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第133話 「日と月と星と」

ヒツギがマザークラスタに連れ去られて半日が過ぎた。あの時、各自が大量の幻想種に対応しオキはマザークラスタの幹部とやりあっていたためにヒツギの事まで見ていなかったのだ。エンガも途中ではぐれてしまい、見つけた時にある少女の剣によってヒツギの身体を貫かれ、アルとのつながりからか不思議な現象が起き、一命は取り留めたものの、そのまま連れ去られてしまった。

「よし、状況をまとめよう。」

あらかた情報を得たところで、艦橋に集まった面々は各自の情報を出し合い、まとめに入っていた。

「一つ目。アルの正体だ。」

心配そうに地球を眺めているアルの頭をポンと優しく叩いたオキ。アルの姿はヒツギやコオリが選んだ洋服ではなく、黒と蒼と朱の洋装に変化していた。

その姿はまるでダークファルス。

「ヒツギさんが刺された時、強力なエーテル反応が発生。ヒツギさんの生命力が急激に増加し、結果として致命傷は回復。それによる身体への影響は大丈夫かと思われます。」

その時の映像をモニターに映す。禍々しい大剣を振り回す少女、コオリ。なぜ彼女がマザークラスタのオフィエルと共にいるのか。

エンガ曰く、コオリは元々マザークラスタの一人だという。そこでヒツギと出会い仲良くなったとか。

普段のコオリの様子とは別人のようだと語るエンガは、オフィエルが何かしらやったのだろうと予想しつつ妹を守れなかった悔しさで拳を強く握る。

「まぁそっちは助けに行くことを前提で話をまとめよう。問題はアルの正体だ。まさかダークファルスとはねぇ。」

今の所ダーカー因子の反応は一切ない。しかしこの姿と…

「元々アルが生まれた時の事を考えれば、大方の予想がつくと。」

「はい。アルさんが生まれた直前、ヒツギさんに乗っ取ろうとしたダークファルス反応。あの黒いモヤのようなアレがアルさんの正体だと思われます。」

初めてオキとヒツギが出会い、一緒にクエストへ出たあの日。オキを狙って出現したダークファルスはヒツギへと目標を変更。直後にオキによって浄化された。しかしその浄化された直後、強制的にヒツギの身体は地球へと転送。それに引っ張られる形でアルは浄化されたダークファルス、アルとして顕現。今に至る。浄化されたことにより記憶を失っていたが、ヒツギの命に係わる状況からアルの強い想い『ヒツギを助けたい』という気持ちからかつての力を復活させた。だが、浄化されたダークファルスとしての力はエーテルを浸食、それによりヒツギの身体は助けられたという事だ。

「いやはや、浄化されれば体はそのまま。ダーカー因子も無くなるってのはユク姉の件でわかっちゃいたが。」

ユク姉。オキやハヤマと同期のアークス、アフィンの姉でありダークファルス【若人】として【双子】に弄られた存在。現在はアフィンやオキにより元より少なかったダーカー因子を浄化され、原初の【若人】アウロラと共にアークスとして活動している。

「問題がないのならいいのだが。」

「そうだね。初めて聞いたときはちょっと驚いたけど。」

アインスとハヤマもアルの正体に驚きつつも、現状問題が無い事を聞いておとなしくしている。

「次だ。こいつが一番厄介だな。さっきも言ったがヒツギの拉致だ。」

一命は取り留めた事を確認できた直後、オフィエル、コオリの二人によってヒツギはどこかに連れ去られてしまった。

「連れ去られた後、反応をたどった結果、彼女が今いるのは『月』になります。」

ヒツギの反応はオキとつながっている為追うことが出来た。場所も特定している。

「ベトールから情報を得た結果と一致する。月にはいくつかのエーテルを排出する施設があり、その使われていない施設を利用していると聞いた。」

エンガもアースガイドで得た情報を開示してくれた。以上の事からヒツギの救出作戦を決行することにしたオキはメンバーを指示した。

月へ向かうはオキ、エンガ、そしてクロ。アークスシップにはハヤマ、アインスらが残る事に。

「はっきり言ってヒツギを連れ去った理由がいまいち納得できん。アルを捕まえる、ならマザーが必要としているからになるだろうが、ヒツギはあくまでも保護者。となるとこちらをおびき寄せる罠の可能性が高い。」

相手側はアークスシップに簡単に出入りすることが出来る。現在も一般アークスエリアまでではあるが地球の人々がゲームとしてログインしてきている。

マザークラスタのメンバーがこちらに来てもおかしくない。そして万が一にもオキとクロが失敗した場合の事も考える。

万が一にも失敗した場合、ハヤマ、アインスが残っていれば被害はオキ達のみとなり最小限に抑えることが出来る。

「まぁそんなことは絶対ないと信じているがね。」

「一番死にそうにないリーダーが何言ってんの。」

ハハハと笑う3人と苦笑気味のシエラとエンガ。そして相変わらず心配そうに地球を眺めているアルだった。

 

 

 

 

 

月面基地。地球の見える面の反対側にある使われていない基地。かつてはエーテルを地球へ送るための基地だったそうだが、現在は使用されていないらしい。

「というのが表側で、裏側ではマザークラスタが使っている。」

オキ達が降り立ったのはがらんとした長い通路。ヒツギの反応はそのずっと奥にあるという。誰一人として見当たらない長い長い通路は異様に無音だった。

シエラ曰く、ジャミングがかけられており、先が見えない場所があるという。どう見ても怪しい場所という事で、そこを目指すことにした。

どう見ても怪しいその通路の先をにらむエンガ。どうやってぬるか。何かあった場合どう抜けるか。それを頭の中で考えていた。

じっと奥を見つめるエンガの横でタバコに火を付けた後にずかずかと進みだしたオキとクロノスを見て目を丸くした。

「お、おい! オキさんまってくれ!」

「あ? 禁煙だったかここ。そりゃすまん。」

口をへの字にしながら煙を吐くオキにエンガは首を振った。

「あ、いや。罠がどこにはられているかわからない状況で進むのはどうかと…。」

それを聞いてニヤりと笑ったオキは親指でクロノスを指さした。

「大丈夫だ。そのためにこいつを連れてきたんだからな。それに最高のオペレータまでついているんだ。」

「安心して。何か見つけたら、すぐ教えるから。急ぐんでしょ?」

自信満々のオキ達にエンガは自分の顔を手で叩き気合を入れ、首を縦に振った。

3人がそうして進む長い通路は相変わらず不気味なほど静寂を保っている。コツコツと靴の音と煙を吐くオキの息が通路に響き渡っていた。

「ん。」

「…進むぞ。」

クロが急に立ち止った。しかしオキは気づいて気づかぬふりを通せと目で合図を送る。直後に幻想種が10体ほどオキ達の目の前に現れた。

「さぁて準備運動と行きましょうか?」

オキ、クロ、エンガはそれぞれの武器を構え、現れた幻想種の迎撃を開始した。

暫く戦った後に、再び通路を歩きだした3人。そしてクロが再び立ち止った。オキも眼を細くして周囲を見渡す。

「どうかしましたか?」

「エンガ。君、さっきの幻想種何体倒した?」

クロが先ほどの戦闘に対して質問した。しかし何のことかと首を傾け、まだ戦っていないぞとエンガは答えた。

オキはそれを聞いてクロへと目で合図をする。コクリと頷いたクロは背中の白き羽を輝かせ、宙に羽ばたいた。

「…。」

クロは普段半分しかあけていない目を力強くあけ、手を翳した方向に輝く羽を飛ばした。飛ばした翅は空中の『ある場所』へと突き刺さり次第にひび割れ空間が崩れて行った。

「おお!?」

それを見て驚くエンガにオキがタバコの煙を吐きながら説明した。

「俺とクロが感知したのは時間の戻る感覚。俺は何度か過去へ戻る事を繰り返したから慣れてるし、クロに至っては…。」

「時の女神の使いだから。ふん。こんなもの、子供だましにもならない。」

だってさと鼻で笑うオキは口を歪ませ笑い、割れた空間の先にいる少女二人を睨み付けた。

「ななな…なんで!? ありえない! 120%ありえない!」

「私とオークゥで作った時間ループの隔離空間をこんなにあっさり…。」

驚く少女たちにオキは武器をしまい、手を広げてゆっくりと近づいて行った。

「よう。元気だったか嬢ちゃん。まぁ相手が悪かったなぁ。わりぃけど、通してくれねーかな。」

「…っ。」

何かを言おうとしたオークゥだが、言葉を飲み込みオキの顔から眼をそらしてしまった。それを見ていたフルはオークゥの前にでて、武器と思われる本を空中に広げた。

「あなたですね? オークゥを助けてくれたって人は。」

ああと返事をしたオキにフルは続けた。

「大事な友達の命を助けてくれたことには感謝しています。あなたのコートはクリーニングして所持品と一緒にオークゥが大事に持っています。」

「ちょ、ちょっとフル!」

顔を真っ赤にしてフルの身体を揺さぶるオークゥ。しかしフルの顔は険しいままで変わらない。

「この戦いが終わったら、必ず返します。ですが、生きたままそれを受け取れるとは思わない事です。マザーの為。マザーへの恩を返すために! 私は戦います。クゥ、つらいかもしれない。だから無理しなくていいからね。」

フルの先ほどまでの険しい顔がオークゥの顔を見ている時だけ優しく微笑んだ。それをみてオークゥも踏ん切りがついたようだ。

「…フル。ありがとう。でも大丈夫。マザーの為。必要としてくれた、マザーへの恩返し。それを忘れちゃいけない。だから…。」

オークゥは手に三角定規を光らせながら具現化させた。

「日の使徒、オークゥ・ミラー!」

「月の使徒、フル=J=ラスヴィッツ!」

マザークラスタの紋章を光らせ名乗った二人を前に、オキはタバコを携帯灰皿へと入れ、エルデトロスにフォトンを加える。

「わかった。後悔すんなよ! アークス、オキ!」

オキも名乗りを上げ、日と月と星の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

「二人は首尾よく時間稼ぎを開始できたようだな。」

「そうじゃな。おかげさまでこのように楽に侵入できたワイ。」

アークスシップのショップエリア。アークスとは違う、異様な雰囲気を出す二人が姿を現した。

直後に七三分けの男が手を挙げた。それと同時にその後方から幻想種が大量に現れ、アークスシップ内へと進みだした。

マザークラスタ水の使徒、オフィエル・ハーバートと土の使徒、アラトロン・トルストイ。

二人はオークゥ、フルを陽動作戦とし、本隊をアークスシップへ直接送り込む作戦だった。

「アークスは、驚異的だ。パワー、スピード、技量。すべてにおいて人間を超える戦士。だが、弱点はある。」

アークスの弱点。それはアークスシップ内でフォトンを使った武器の使用が許可されていない事。武器が使用できない以上、攻撃はできない。

アークス達は何もできずに逃げ惑うしかない。それを見てオフィエルは高笑いでアークスシップ内をゆっくりと歩き出した。

「むん!」

アラトロンがオフィエルの前に金色の巨大槌をだし、どこからか放たれた攻撃を防いだ。

「ばかな。アークスシップ内で攻撃できるアークスはあのオキという者以外…いや、もう一人英雄がいたな。」

土煙の舞う中、ゆっくりと姿を現す銀色のツインテールの少女。オキに助けられ、アークスに手助けされ、今彼女はアークスを助ける為に力強く創世器・明錫クラリッサⅢを光らせ、二人をにらむ。

「アークスの中でも守護輝士と呼ばれる特殊なアークスにして、アークスの英雄。マトイ!」

マトイのテクニックがいくつもの光を放ち、幻想種を倒していく。

「最初は警告。でも、これ以上続けるというなら私はあなた達を許さない。」

再びテクニックが飛び交う。オフィエルを狙ったイル・グランツは、空間を瞬時に移動したオフィエルには届かなかった。

逆に、マトイの周囲に大量のメスが出現する。

「なめるなよ小娘。」

今まさにマトイへとメスが飛びかかろうとした瞬間だった。いくつもの火柱がマトイを守り、メスを弾き飛ばした。

「なに!?」

「ばかな…他にも動けるアークスがいるというのか?」

「ふふん。先代へは指ひとつ触れさせんぞ。

 

その幼い声の主の方をにらみつけたオフィエルとアラトロン。その堂々たる姿は少女とはいえ、ひとりの戦士だという事を瞬時に認識した。

「我、『六芒均衡』の『五』! 三代目クラリスクレイス! 悪いやつらはこの私が許さない!」

オフィエルは歯を強く喰いしばった。アークスの最大戦力であるオキを月に誘導。どういう形であれ時間が稼げればアークスシップへ乗り込み、強襲、制圧できると考えていた。さらにだ。

「まずいぞ、オフィエル。我らが放った幻想種が、次々に倒されておる。」

「なに!?」

冷や汗を流すアラトロン。彼がこのような状態になるのは滅多にない。そしてオフィエルも感じる。自分が放った幻想種が次々と倒されているのを。

少し離れたアークスシップ内のロビーエリア。この場所は多くのエリアへの入り口となる要所である。オフィエルもすぐさまここへ幻想種を向かわせていた。

しかしあるアークスによってそれは阻まれていた。

「アイムシンカートゥートゥートゥートゥトゥ・・・。」

口ずさみながら小さな声で歌う一人の白いキャストはアサルトライフルからランチャー、武器という武器、使えるものすべてを使いその場に現れた幻想手を殲滅していた。名をデストロイヤー。『採掘基地の守護神』とまで呼ばれた彼はシンキがアークスになった時代に知り合った古き友人でそのつながりでオキ達とも知り合った。普段は惑星リリーパの採掘基地にてダーカー襲撃を監視しており、襲撃の際には圧倒的な武力で防衛を行うアークスだ。

半ば楽しみつつ鼻歌交じりに幻想種を殲滅していく彼の姿を、シエラ達は艦橋のモニターで見ていた。

「さすがオキさんのお知り合いですね。」

「そりゃそうだ。デストロイヤーだもの。」

ハヤマは様子を見るために艦橋へ戻っていた。オキやマトイ、ペルソナメンバー以外にもオキは守護輝士を複数任命していた。その一人が彼だ。

間違いなく何かが起きると読んでいたオキの『念には念を』入れた準備が大当たりしたのだ。

おかげでオフィエルは楽だと思っていた襲撃が完全に失敗したことを悟る。

「んじゃ俺はまた外にもどるね。何かあったら呼んで。」

ハヤマが先程まで陣取っていた艦橋司令室への最後の扉前に戻っていった。アインスはその下階、艦橋へ続く唯一のエレベーターを守っている。

ここさえ守りきれば侵入されたとしても最悪は守る事ができると踏んだからだ。

だが・・・

「襲撃は失敗した。だが、作戦は成功だ。」

「!?」

モニターに目を戻したシエラの後方で、聞こえないはずの声が聞こえてきた。アル以外誰もいないはず。しかし声は聞こえた。

シエラが振り向くとそこには青色の髪の少女が一人、アルの前に浮いていた。

「ここまでやるとは思わなかったぞ。情報の修正が必要だな。だが、いまはその必要はない。」

「あなたは・・・。」

シエラはどうやればアルを守れるかを自分の演算能力を屈指して演算する。だが、少女の方が早かった。

「我が名はマザー。このモノ、我が預かろう。」

マザーがアルの身体に触れた途端、アルはどこかへと消えていった。

 




皆様ごきげんよう。
途中まで書いていたにも関わらず、保存に失敗して3分の1か消えてい事に気づいたのが土曜日の午前0時でした。
かなりいい感じに描けた内容がほとんど吹き飛んでました!(シッショー
さて、今回は二つの場所で戦いが起きています。
一つが月面基地。オキ、クロ、エンガとオークゥ、フルの戦い。
もう一つがアークスシップ。原作、PSO2では守護輝士は主人公である安藤さんとマトイちゃんだけですが、今作では守護輝士のリーダーであるオキが決めた人物は守護輝士となり、アークスシップ内での武器を使用したフォトンの使用が許可されるという設定を追加しております。
さて、とうとう出現したマザー。これからストーリーは後半へと進んでいきます。
では次回、またお会い致しましょう。


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第134話 「必要とされる意味」

「ぁっ…!?」

「くっ…。」

二人の少女が床に倒れた。服はところどころ焦げており、一部破けてもいる。具現化させていた具現武装も今や出ておらず、彼女らはアークスの前になすすべがなくなっていた。援護をとおもって動こうとしていたエンガはオキからある指示を受けており待機のまま二人の戦いぶりを目にしていた。

戦いを終えたオキは、通路の端に置かれていたオークゥに貸していた自分のコートからライターを取り出し、タバコに火を付けた。

「ふぅ…。さて、もう立ち上がってくんなよ。これ以上お前らを痛めつける理由もねぇからな。」

その言葉を聞いて尚、力を込めんと手を握ろうとするオークゥに対し、フルはソレに手を添えて首を横に振った。その姿をみてようやくおとなしくなった二人。月面基地でのマザークラスタ戦はオキ、クロ両名の圧勝だった。

オキは懐から緑色のカプセルを取り出し、二人の前に置いた。アークスの回復用ドリンクのモノメイトだ。

「しばらくたったら、これ飲みな。ちったぁ回復するだろ。俺達はあくまで、取られたモン取り返しに来ただけだ。お前らを殺しに来たわけではない。せっかく助けた命だ。命を無駄にするもんじゃないぞ。おめーらはまだ若い。これからの人生だ。ほれ、そのままだと風邪ひくぞ。また貸しといてやるよ。」

クロノスにより壁側へずるずると引きずられ、オークゥとフルを休ませたオキはオークゥの頭をぽんぽんと叩き、再びコートをオークゥに貸し与えた。

「それじゃぁな。出会いが違えば、もっと仲良くしたかったんだがな。」

にこりと微笑んだオキの顔を目の前で見せつけられ、顔を下に向けたオークゥは何も言わずに体を震わせた。

「君も、無理しちゃだめだよ。」

クロノスもフルに詰め寄り、警告した。フルはクロノスの顔を見つめた後にコクリと頷く。

オキとクロ、エンガは通路の奥を見た後に顔を見合わせ、再び足を進めだした。

「…強かったね。」

去っていく3人の背中を意識がもうろうとするなか眺めるフルはぼそりとつぶやいた。下をうつむき、再び貸されたコートをぎゅっと握りしめるオークゥに凭れ掛かった。コクリと小さく縦に頷いたオークゥは未だ小さく震えている。

「クゥは、逃げて。後は私が…。」

「だめ。私も一緒にやる。」

フルはある覚悟をしていた。今回の件、自分たちは囮。しかしその足止めも失敗に終わっている。この責任は取らされるだろう。

ならば、最後位はと思っていた。しかし大事な友人を巻き込むつもりはない。だから一人でと思ったのだが、その友人は自らも懇願したのだ。

「わかった。一緒にやろう。」

二人はオキの置いて行った回復薬を飲み、ようやく動くようになった身体を引きずりながらある目的を果たそうと動き出した。

「相変わらず女に甘いわね。あの子。」

はるか遠く。月面から遠く離れたアークスシップ内からその様子を覗き見していたシンキはため息をついていた。あまりにも甘すぎる対応に少しだけ心配した。

とはいえ、それが彼の良さだという事も理解している。少なくとも彼が選んだ道ならば自分はそれを傍観するだけだ。

それよりも、今はこちらの方が問題である。シンキは目をアークスシップ内へと移した。

今の所襲撃を受けたのはアークスシップのロビー周辺のみ。気にくわないマザークラスタとかいうモノ二人はマトイと三代目クラリスクレイスが押している。

ロビーに目を向ければ相変わらず出現してきている幻想種を数ある武装で撃破している友人。彼なら間違いなく防衛しきるだろう。

彼に怖気づいたのか、その反対側へと向かう幻想種たち。シンキはそれを相手にしようと幻想種へ攻撃をしたキャストのような何かを見た。それも一体だけではない。

いつの間にか幻想種相手をしているソレらが増えていた。

「あれは…。」

まるでロボット型のプラモデルを、色を塗らずに完成させたような姿。ただのキャストではない。少なくともフォトンがバッテリーのような使われ方をしている。

持っている武器も見た事がない。だがその動きは見た事があった。あの星、スレアで。

「あの武器…コマチちゃんね?」

いつの間にか隣にいた中年の神父姿の男に顔を向けずに声をかけた。

「いったい何のことやら…。」

お互いにエセ・キャストの様子を眺める。煌びやかな装飾がされた数多の武器。少なくともアークスの武器ではない。

「よくまぁあんな武器を貸したわね。」

「なーに。倉庫に余っていたてきとーな武器を見繕っただけだ。他にもいろいろあるが、まぁあんだけのモン渡してあるんだ。負けることはねーだろ。」

シンキが所持している数々武器。それらに匹敵するほどの力を秘めた武器。あれらがあれば負けることはまずないだろう。それにあの中に入っていると思われる人物たちの技量が合わされば、なおさらだ。

「ところでコマチちゃん。古戦場は大丈夫?」

「今、インターバル中だ!」

唸りながらシンキに答えたコマチ。彼はこれから地獄が待っている事だろう。それを予想しながらシンキはすこしだけ微笑んだ。

 

「いたぞ。あそこだ。」

「ヒツギ!」

通路の先、オークゥ達と戦ったずっと先の行き止まり。そこにヒツギは眠っていた。小さなテーブルの上に寝かせられたヒツギはエンガの声と揺さぶりにも起きようとしない。クロノスが少しだけ目を細め、ヒツギの身体をじっと見た。

「マスター。彼女、心が動いてない。」

「どういうことだ?」

クロノスが言うには、彼女は生きる希望を失っているようだ。身体に異常はない。健康そのものだそうだが、心が死にかけているという。このままいけば身体にまで影響を及ぼす危険があるという。それを聞いてエンガはどうすればいいんだと頭を抱えヒツギを抱きしめた。

オキはその理由が何となくわかっていた。ヒツギの友人、コオリの件だろう。

今ここにはいないようだが、ヒツギはコオリによって体を串刺しにされた。傷事態はアルが回復させたと言っていたし目の前には健康体の状態でヒツギが目の前にいるから心配はないだろう。問題は彼女が心の奥底に引きこもってしまったこと。その理由はコオリがマザークラスタとして敵対してしまったこと。

唯一の親友だと思っていた相手から殺されかけた事。これが問題だろう。

「…。」

オキは頭をかきむしり、ヒツギの頭に手を置いた。心配そうにオキの顔をのぞいたエンガにオキは微笑んだ。

「安心しろ。お前の大事な妹は必ず連れて戻ってくるさ。伝えたい言葉はあるか?」

「…早く起きろ。バカ妹。」

オーケーと言った直後にオキは彼女へと集中した。以前行ったユウキへのフォトンを使った治療。それを思い出していた。

大丈夫。ヒツギの中へ。奥底に。一度つながったならできるはず。オキは彼女の意識を探しフォトンを少しずつ自分の意識と共に彼女の中へと入って行った。

彼女の意識の内部。それは真っ暗だった。あの明るい笑顔の少女の中とは思えない。そしてフォトンを頼りにオキは更に奥底へと進む。そして見つけ出した。

脚を抱え、縮こまっているヒツギの姿。目はうつろにただ一点を見ているように見えて何も見ていないのがわかる。

一度手を前に出して上下に振ってみたが起きず、頭を叩いても反応がない。肩を揺らしたり耳元でアルの真似をしてみたがまったく反応がない。

「うーむ…。」

ポケットに手を入れ、タバコを咥えたところで、少女の意識の中だという事を思い出し残念そうにポケットへとタバコを戻した。

そして何をやっても反応がない彼女に対しため息をついたオキは思いきり頭を叩いた。

「起きろ! ヒツギ! てめぇの覚悟はその程度だったのか!? 俺は言ったよな。何が起きても知らねぇぞと。それでもお前はついていくと、真実を知りたいといってついてきた。あの時言った覚悟は偽りだったんか? あぁ!?」

オキの叫び声が彼女の意識の中でこだました。

「エンガも、アルも、お前の帰りを待ってんだ。守るんだろうが! おねぇちゃん、しっかりやれや!」

オキの言葉を聞いてヒツギが少しだけ反応した。

「お…ね…え…ちゃん.。…おねえちゃん。っ! アル!」

ヒツギの虚ろだった眼が次第に力強さを取り戻してきた。そして、アルを思い出したのかようやくその場にオキがいることに気が付いた。

オキはその場でヒツギの頭をポンポンと叩きゆっくりと意識をヒツギの中から遠ざけた。

「う…うん…。」

ヒツギがゆっくりと目を開けると心配そうに自分の顔を覗き込んでいるエンガの顔が映り込み、その直後に抱き着かれた。

「おおおお、お兄ちゃん!?」

「バカ野郎…。お前は無理しすぎなんだよ…。ったく。」

心配をかけた事を謝るヒツギだが、誤る相手が違うとエンガは少し離れた場所でタバコの煙を吐いているオキやクロノスを示した。

再度礼を言われたオキとクロノスだが、別にかまわないとヒツギにほほ笑んだ。オキはヒツギにどこまで記憶が残っているのかを聞いたところ、コオリの様子が普段と全く違う状態で、具現武装『魔剣グラム』とやらで自分の胸を刺されたらしい。その状態から見てコオリが操られている可能性があるとヒツギは言う。 

もし、操られておらず彼女の意思で剣を振るったならばとオキが質問したところ、ヒツギは力強くひっぱたいてでも正気に戻すと強い意志を示した。

「わーった。よし、戻るとしよう。ここにいても埒が明かねぇからな。」

オキが来た道を戻ろうとタバコを消し炭も残さず燃やし尽くした直後だった。建物全体が大きく揺れ、あちこちで爆発音が聞こえた。

「いったいなんだ!?」

「マスター。建物が崩壊しかけてる。時限式の…自爆?」

クロノスが周囲を見渡し、その様子をオキに説明する。ここを放棄するというのだろうか。少なくともやったのはあの二人だろう。そう思いオキが通路を走って戻ろうとした時だ。その張本人たちがオキ達の目の前に現れた。

「私たちは…失敗した。だから…。」

「その責任を果たす。マザーの意思。それは果たさなければならない。」

その言葉を聞き、クロはエンガにお願いしていた事を行うように目で合図する。エンガは懐から白く光るカードのようなものを手にしていた。

一度きりの強制転送。強く願った場所へと転移するアースガイドの切り札の一つだ。今回、エンガはオキの予想通り罠だった場合のことを考え、その場から逃げる手段を考えておいたのだ。オキとクロはヒツギを取り返した瞬間、転移するつもりだったのだ。そしてオキはというと

「あ、そう。」

口をへの字にして二人をあきれ顔で見ていた。二人がどれだけのことをマザーにされたのかオキには知らない。どう考えても勝負にならない勝負をマザーとやらに指示されているのだ。オキからすればまるで意味が分からない。負けがわかっている勝負を普通はしようとしない。だが、彼女たちはそれでもマザーの為に命を使おうとしている。つまり彼女らは命を懸けてでもマザーに対して忠誠を誓っているという事を改めて認識した。

「だがな…。そうはいかんざき。」

オキはフラフラと歩いてきたオークゥを肩で抱え込んだ。

「えっ!? キャァ!!」

「クロ、そっちは任せた。エンガ! 準備は!?」

クロにもう一人を任せ、エンガは転送の準備が完了している事をオキに伝えた。オキの肩の上で暴れるオークゥ。フルはクロノスに所謂お姫様抱っこというやつで抱きかかえられている。

「おい。暴れるな。変なとこ触るだろうが。」

「ひゃう!」

「え、えっと…。」

「マスターの命令。君たちを助ける。じっとしてて。」

崩壊の揺れが強くなってきている。時間はあまりない。早く来いというエンガにようやくおとなしくなったオークゥとフルを抱え、その場にいた敵味方関係なく、エンガの持っていた転送器により転送した。

 

 

「うわっと!?」

「きゃあ!」

「おっと…。」

転送後、それぞれが崩れるようにドミノ倒しになった。どうやら転送後はヒツギの部屋に飛ばされたらしい。

「いつつつ…ん?」

「…!? ―――っ!?」

オキの目の前にはオークゥの顔がすぐ近くにあり、彼女の上にオキが乗っかっていた。フルとクロは、クロの翼のお陰で綺麗に着地している。

オークゥはあまりの恥ずかしさからオキに平手を喰らわせようとするも、オキの手によってそれは防がれた。

「なんだ、元気じゃねーか。」

「…なんで、なんで助けたの!? 100%意味わかんない。」

立ち上がるオキに疑問をぶつけるオークゥ。死んでマザーに詫びるつもりだった。しかし目の前の男は、自分たちを助けた。敵なのに、殺そうとしたのに。それでもこの男は自分たちを助けたのだ。

「お前たちはあの崩壊で死んだ。だから今あるその命、俺にくれ。」

「…はぁ!?」

オキの放った言葉に驚き、立ち上がろうとするオークゥはふらりと倒れようとする。それをオキは腕で抱え防いだ。

元はと言えばオキが初めに戦い、死にそうになったオークゥを助けた事がきっかけである。一度助けたからにはその命を無駄にしてほしくない。彼女たちはオキと再び会いまみえ、そして再び戦った。今度は本気で。しかし負けた。命までは取らない。そういって二人を見逃した。

オークゥとフルはオフィエルから囮としてアークス最大の戦力であるオキを足止めにしろという命令をマザーから受けたと伝えてきた。だから失敗したその責任を取る事と少しでも足止めするべく月面基地の一つとともに自らの命を使って自爆を考えた。だがそれも意味をなさず。

オキは言った。マザーに忠義を尽くしたオークゥとフルは月面で死んだと。しかしオキは自身のモットーから二人を助けた。見殺しにしようとしなかった。

「女性に優しく、野郎に厳しく、自分に甘く。それが俺のモットーだからな。」

「一つ増えてるし。やっぱり、100%意味わかんない…。」

「簡単に言えば、マスターは君たちを必要としているという事。いう事は聞いといたほうがいいよ。」

白く輝く翼をバサリと羽ばたかせるクロノスはフルを抱えたまま言った。

「必要…。敵であった私達でも?」

「構わん。敵だったおめーらはさっき死んだ。それでいいだろ。その命、俺が拾った。どうしようと俺の勝手だ。」

フルの言葉にあっさりと答えたオキ。オークゥとフルは二人してオキへと質問した。

裏切るかも。そんときゃまた戦うまで。そしてまた命はとらない。仲間を殺したりしなければな。

私達はマザーに必要とされるまでは人に認められなかった存在。それでも? しったこっちゃない。お前らが変人だったと評価されていてもうちらにはもっと変なのがいる。

なぜ助けるの? そりゃ女の子だからだ。しかも俺が気に入るほどのな。クロもずっと抱きかかえてて気にしない程度には気にいってるみたいだし。うるさい。

「どうして、こんなにも私達を認めてくれるの?」

「まだいうか。」

エンガとヒツギ達みな部屋の床に座り込み、オキ達のやりとりを聞いていた。

オークゥの一言にオキはため息をつく。

「一度騙されたと思ってついてきな。悪いようにはしねーよ。お前ら、面白そうだし。」

再びオークゥの頭を叩くオキの顔に諦めたのかようやく黙った。

ひと段落したとおもった瞬間、オキとクロノスに通信が入った。

アークスシップがマザークラスタに襲われていると。ふたりはオークゥとフルを抱え、キャンプシップへと飛び立った。

気が付けばオークゥとフルはおとなしくなったからか、疲れがピークに達したのか、気を失っていた。

「マスター、一応聞いてい?」

「あん?」

どうしてこのふたりを引き込もうとしたの? クロノスの疑問に笑うようにオキは答えた。こうした方が面白そうだろ? オキの言葉にそんなことだろうと思ったと苦笑するクロノス。オキとクロノスはアークスシップにいるメンバーをすこしだけ心配しつつも大丈夫だろうと信じ、キャンプシップを飛ばした。




皆様、ごきげんよう。
最近になってゆるキャン△とオーバーロードにハマりました。
騎空士たちは古戦場が始まり、FGOではアポクリファイベが間近に迫っています。
忙しいGWになりそうです。
さて、来週分ですがGW期間によりあちこち出かける関係で投稿できるか怪しいです。
できるだけ投稿できるように準備致しますが、できなければごめんなさい。
それではまた次回にお会い致しましょう。


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第135話 「マザー絶対ぶち殺すレディ」

オキはクロノスと共にアークスシップへと帰り着き、疲労等々で眠っているオークゥとフルをクロノスに託し、オキは未だ襲撃を続けているマザークラスタメンバーの所へと急いだ。

オキが中央ホールへ向かうと白いキャストがホール中央に陣取り目の前から絶えず襲ってくる幻想種を数多の武器で防いでいた。アサルトライフルやランチャーは勿論の事、彼が古くから所持していると言っていた数多くの兵器を背負い幻想種を迎撃している。両手にランチャーを構えスフィアレイザーを放ったり、両肩に取り付けられたミサイルポッドからは多数のマイクロミサイルが射出されたりと、そこはさながら小さな戦場と化しており、あちこち床や壁が爆発や弾丸で崩れている。それでも最小限に抑えてくれたのだろう。彼が本気を出したならこんなのでは済まないからだ。

「来たな首輪付き…。遅かったじゃないか。」

小さく開いた口からは低い男性の声と女性の声が同時に聞こえ、白い吐息が吐き出された。本来口部の無いロボットのようなキャストではあるが、彼の口部は唇の無い歯茎と歯がむき出しになった不気味な口がついている。機械だけの金属骨格のみで構成されるのがキャストなのだが、彼には生体部品が取り付けられている。

その理由をオキは聞いたことがない。だがそんな小さな事くらいで気にすることもない。どこから来たのかわからない奴らがオキの周りにうじゃうじゃいる為だ。

「苦戦してい…ないか。尻は貸さんぞ。」

彼と出会ってからのお約束となったやり取りを交わし、状況を確認した。数は減ってきたものの相変わらず絶えず向かってくるという。幻想種を動かしているマザークラスタの幹部がどこかにいるという情報も他のアークスから聞いたようだ。

ここは任せたと伝え、オキはマザークラスタの幹部がいるというショップエリアへと走った。ショップエリアには黒い煙と爆発音が鳴り響きその戦闘にオキも参加した。

「面白いことやってくれるじゃないの。俺も混ぜてくれよ。」

「「オキ!」」

二人のクラリスクレイスの声にウィンクするオキは優しい微笑みから険しい顔へと変化させた。目の前にいるオフィエルという男に微笑む必要はない。

「貴様…。」

「ほう。おぬしがここにいるという事はオークゥもフルも失敗したという事じゃな。」

巨大な金色のハンマーを背中に担ぐアラトロンは長く白い眉を八の字にし上を見上げた。オフィエルは苦い顔をしている。どうやら彼らの思惑とは違う結果になったらしい。それを見てオキは小さく口を歪めた。しめた。ざまぁみろ。オキの心情は愉悦を感じていた。

今回の襲撃でアークスシップを乗っ取り、最終的にはオラクル船団を手中に収める計画だったのだろうが、計画には無かったマトイとクラリスクレイスの迎撃。攻撃手段の無い一般アークスだけと考えていた者達の徹底抗戦。念を入れた防御態勢をとったオキの勝ちである。

「ふん。今回は我らの負けを認めよう。だが、まだ終わりで無い事を知るがいい。」

なにを言っているんだか。オキは逃げようとするオフィエルを逃さないよう武器を構えた。だが、それはアラトロンとオフィエルの言葉にさえぎられる。

「おぬし。ここで油を売っていいのかな?」

「なに?」

「負けたのは我らだ。だが、マザーは目的を達したようだな。」

苦い顔をしていたオフィエルが今度は笑っている。なんのことだとオキは思考を巡らせる。油断させる罠か? いや、そもそものマザーの目的を考えろ。

マザーの目的はなんだ。狙っていた者は。

「まさか!」

オキが駆けだすのとオフィエルが笑いながら空間へ消えていくのは同時だった。

オキが艦橋へと駆け出し、途中アインスそしてハヤマと合流した。聞けばだれもとおってはいないという。オキは嫌な予感がした。急に現れたというオフィエル達。どこでも現れることが可能だったとしたならば。できれば思っている事が外れていてほしいと願いながら艦橋への大扉を開けた。

「ほう? 戻ってきたようだな?」

静かに浮かぶ少女。蒼く長い髪。白く輝く肌に長いまつげが綺麗な整った容姿。後から追ってきたマトイも息をのんだ。

姿かたちは小さくなれど、その雰囲気と姿は似ている。

「シ…オン…。」

そんなはずはない。彼女は過去と未来の自分、【仮面】と共に深遠なる闇の中へと行ってしまった。ここにいるはずがない。

「シオン、か。我が元となる名前。何度聞いても不快だ。」

こちらを睨み付ける少女はゆっくりとオキの近くへと降り立った。

「わが名はマザー。ここへ貴様が来たという事は…わが従者たちの襲撃は失敗したという事か。」

マザー。彼女はそういった。あまりの衝撃にオキは呆然とした。そして彼女の言葉とその姿にある方式が当てはまってしまった。

シオンの姿に酷似した少女。本来外部から許可した者しか入れないこの艦橋へ直接乗り込むことが可能な能力。そして元となると彼女は言った。

ならば彼女は…。

「…アルを、どこへやった。」

アインスの言葉に我に返ったオキは周囲を見渡した。たしかにアインスの言葉の通り、アルの姿が無い。あるのは今にも泣きそうな顔をしているシエラだけだ。

「あの少年なら我の中に吸収させてもらった。フォトンとエーテルの融合体。これをもって、もう一つ目的を達するとしよう。フォトナーを出せ。」

マザーはオキをにらんだ。しかし出せと言われても今現時点で存在するフォトナーはいない。いや、厳密には一人だけアークス側に存在する。

名をアウロラ。過去フォトナーがもと最も反映した時代に生きていた人物にして原初の【若人】。現在は【双子】によってダークファルスと改造された元【若人】、アフィンの姉ユクリータの武器として共に戦い償いきれないその罪を償おうと奮闘している。

もう一人、ここにはおらずフォトナーと言われ最もオキがイメージするフォトナーもいるにはいるが、彼は現在深遠なる闇と融合した【双子】のお腹の中だ。

「いるわけねーだろ。何千年前の話だと思っている。」

オキの言葉に少しだけ寂しそうな顔をしたマザーの表情をオキは見逃さなかった。だが、その表情もすぐに元の無表情に戻る。

ならばとマザーはこちらに手を翳し、オキ達をにらんだ。

「フォトナーに関係する貴様たちへと、この怒りをぶつけるとしよう。これは復讐だ。」

ハヤマとアインスが武器を構え、対抗しようとする。だがこんな狭い場所で戦うわけにはいかない。オキはこちらに気を取られているマザーの隙をみて、シエラに目で合図した。

「…っはい! 任せてください! 強制…転送!」

「しまった!」

シエラの超高速の端末操作にオキ達に気を回していたマザーは行動が遅れ、一瞬にして艦橋からいなくなった。シエラはすぐさまアークスシップの防御壁を強化すると共に、今回の襲撃で傷ついたアークス、スタッフ達の手当の依頼と壊れた箇所の補修を手配した。

「すみません…。私、何もできなくて。」

「いいってことよ。しかたねーさ。とりあえず皆が無事でよかった。アルに関しては…残念だが起きてしまったことは仕方ねぇ。」

黙り込む一同だが、とりあえず最悪のケースにならずに済んだことをオキは奮闘してくれた皆に感謝した。アルを連れていかれた事が唯一の悔やみだが、これからの動きで取り返せばいいだけの事。

オキはすぐさま状況を整理するべく思いついたある事柄を頭の中でまとめていた。ある事柄を。

「まさか直接乗り込んでいたとはな。」

「ごめん。全然気づかなかった。」

頭を下げるハヤマの肩を叩くアインスは仕方ないさと自分も含め気づかなかったことを悔やんでいた。

「本来ならば来れるはずのないこの場所ですが、どうして乗りこめたのでしょうか。防御壁は普段よりも強固にとオキさんより依頼されてより強くしたはずなのですが…。」

シエラも端末を操作しながら首をかしげる。その答えにオキが答えた。憶測でしかないが、間違いなくそうだろうと思っている。そういった直後にシンキが艦橋に現れた。

「オキちゃんは答えにたどり着いたようね。私が答え合わせしてあげるわ。」

後ろにはコマチ、クロノスもついてきている。ミケはいつの間にか来ており相変わらずどこから取ってきたのかわからない骨付き肉をあぐあぐと食べていた。

オキは一同を見渡しコクリと頷くと、オキの思いついた予想を皆に伝えた。

以前、ルーサーは言った。『フォトナー達の作ろうとした人口の全知全能の一つがフォトナー達の負の感情を受けて深遠なる闇になった』と。アウロラは言った。『かつてフォトナー達は管理者を作ろうとしていた。最初の一つは優秀だったが制御不能だった為に異空間へポイした。』

オキの予想ではこの異空間へポイした最初の制御不能だった人口の全知全能がマザーじゃないかと皆に伝えた。そのあまりにも身勝手な行動と屈辱からフォトナーへの復讐をもくろんでいたと考えられる。シンキを見るとその通りと帰ってきた。

「つまり俺達にとっては八つ当たり。くそ、ルーサーいればそのまま引き渡しておしまいだったのによ。」

オキの悪態に苦笑するハヤマとアインス。この後どうするというクロノスの質問にオキは、まず一部破損したアークスシップ内の復興と連れて帰ってきたオークゥとフルから本部の位置情報を得る事、得られた場合は直接乗り込むことを伝えた。

「もし得られなかったらどうするつもり?」

「そんときゃあの衛星をしらみつぶしに調べりゃ埃は出てくるだろ。それまでは各自様子見で。」

月にマザーのいる場所がある事だけは今までの情報からほぼ間違いないとにらんでいる。最悪の場合は人海戦術で虱潰しに探し当てればいい。

とはいえ、アルがさらわれた以上あまり時間をかけるつもりはない。オークゥとフルが情報を教えてくれることを祈るばかりだ。

「そういや二人の状態は?」

「しばらく安静にだって。体は勿論だけど、心にも傷、作っちゃったし。」

こうなると本当に暫くは様子見だろう。アルが連れ去られてしまったことをオキはヒツギ達へ伝えるとして、残りのメンバーはしばらく自由に動いてもらうことにした。

「シンキは…まだしばらく個別で行動するか?」

シンキはしばらく個人行動をとっていた。まだしばらく個別で動くのかと思いきや、シンキは首を横に振った。

「いいえ、そろそろ私も一緒に動くわ。相手も表舞台に立ったしね。」

その言葉にコマチは『マザー絶対ぶち殺すレディがついにそのエロい腰をあげると言うわけだ』とつぶやき、オキは爆笑した。

アークシップが安全である事が確認されたのち、ヒツギとエンガを自室に呼びつけたオキはマザーの強襲、そしてアルが連れ去られてしまったことを二人に話した。

「そう…。アルは、マザーに連れて行かれたのね。」

思った予想とは反し、アルがマザーに捕まった事を聞いてもおとなしいヒツギはアオイの入れたコーヒーをじっと見つめ静かにそういった。彼女はオキがアルを連れていない事、複雑な顔をしていた事からすぐに察したという。少し前ならばすぐに行動しようと考えるよりも前に体が動いていた彼女だが、今では少し落ち着いて考えることが出来るようになった。

「今回の件は俺達の油断から起きた事だ。絶対にアルは助け出すから安心して待ってろ。」

「うん。今の私じゃどうしようもないし…オキさん達にお願いした方が確実だもんね。」

「ヒツギ、お前…。」

エンガはヒツギが自分の気持ちを抑え込んでいる事に気づいていた。アルを助けに行きたい。でも、マザーのいる場所なんて知らない。だったらオキさん達に任せた方が確実だとヒツギは踏んだのだ。

オキはマザーの居場所が分かり次第、ヒツギもつれてその場所へと乗り込むことを約束した。

「ん? オキだ。なんじゃそりゃ。…わかった。とりあえずすぐ行くわ。」

オキに連絡が入った。ラスベガス地域で幻想種が再び大量発生しているという情報が入ったのだ。そしてシエラは今回初めて見るようでよく見る姿だけど幻想種という意味不明な事を言っていた。更にある情報がおまけつきで。

「ヒツギ、お前の友達がラスベガスで暴れているらしい。今度はちゃんとひっぱたけるよな?」

彼女の親友コオリが現れたという。その情報を聞き、今度こそ大事な親友を小機に戻そうと意気込んだヒツギは力強く頷いた。

「行ってらっしゃいませ。」

アオイの見送りを背に、超特急でキャンプシップを飛ばしラスベガスへと急いだオキはその不思議な光景を目の当たりにした。

ダーカーのダガッチャ、ランズ・ヴァレーダ、ボンタ・ベアッダが地球のラスベガスで暴れている光景だった。だが、何かが違う。ダーカーの姿をしているのにもかかわらずダーカー因子は感じられない。

『幻想種と同じ構成です。ダーカーの構成ではありません。姿かたちだけが似ているだけです。』

シエラのサーチで幻想種とほぼ同じ構成であると結果が出た。理由は一つだろう。マザーがアルを取り込んでしまったがためだ。

ダークファルスのアルは深遠なる闇から生まれ出でたモノ。他のダークファルスの眷属の記憶を持っていてもおかしくはない。それをエーテルで具現化させる。

「なるほど、コイツが目的を達成させる力ってか…。」

すでに交戦状態となっているアースガイドの構成員達を手助けするべくオキとヒツギ達はその戦火の中へと駆けこんだ。

 




皆様ごきげんよう。
デストロイヤーの姿はエヴァンゲリオンの量産型に近い姿です。それでイメージして頂ければ。さて、今回は次回に続くコオリ戦まで描くつもりでしたが、思ったより時間がなくここまでとなりました。次のコオリ戦はマザー絶対ぶち殺すレディが出てきます。お楽しみに。
では次回にまたお会い致しましょう。


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第136話 「魔剣グラム」

大好きなあの人は、とても真っ直ぐで、とてもまぶしくて、それでいて暖かくて。

いつも元気に走り回って、振り回すんだけど握った手は絶対に離さない。だからついていくのがやっとだけど、あなたの後ろを歩いて行ける。私はいつも助けてもらってばかりいた。だから、私が助けるときは何もかもを投げ出しても助け出すと決めた。

命でさえ、惜しくない。ずっと一緒にいよう。一緒に笑っていようって約束したのに…。

「なのに…あなた達が連れて行くから…!!!」

禍々しいオーラを放つ黒い大剣を地面に叩きつけ怒りを露わにする親友の変貌した姿をみてヒツギは眉を歪めた。

「と、いってもなぁ。こちらと身を守るためにやったことだし? なにより先に手ぇ出してきたのそっちだろう? なぁ、マザークラスタのコオリちゃん?」

ダーカーの姿をした幻想種たちの中心にいたコオリを見つけ、一度は刺されたものの、その姿と様子からマザークラスタメンバーに何かされたのではないかと予想したヒツギはコオリの説得をオキに懇願した。

確かに以前モニター越しや近くで見た彼女の様子とはかなり違っている。少なくとも大人しそうな彼女からは想像がつかない。

「うるさい…うるさいうるさい! マザーは言ってた…。お前たちアークスは悪者だって…。ヒツギちゃんを助ける為にはアークスを倒せって!!!」

「コオリ…。マザーが言ってることは全部が正しいわけじゃない! それをわかって…。」

「ヒツギちゃんも…マザーを疑うんだ…。ううん。ヒツギちゃんはそいつらに何かされたんだよね。だって、ヒツギちゃんがマザーを疑うわけないモノ。やっぱり、ちゃんとその中にいるヒツギちゃんを助けないとね!!!」

大剣を振り、ヒツギへと刃を叩きつけようとした。オキはすぐさま彼女の前にでて剣を受け止めようとしたが

「邪魔! あんたなんか…この子と遊んでればいい!!」

上空から巨大な影が降ってきた。その姿は鳥型ダーカーの中型種、デコル・マリューダにそっくりだった。

身体の1/3はあるだろう巨大な爪をオキに振るい、ヒツギ達から離す。

「っち! 面倒くせぇな!」

その隙をついて、コオリはヒツギへと襲い掛かる。

アルを取り戻すために戦うことを決意したヒツギに呼応するように、より強力な具現武装「神剣・天叢雲」を顕現させることが出来たヒツギは、以前はできなかったコオリの大剣を初めて受け止めた。

「ふーん。強くなったんだぁ。やっぱりちゃんと刺しておけばよかったなぁ。」

虚ろな目でヒツギをみるコオリ。その目は元気で優しかったコオリの眼ではない。彼女がなにかしらされているのは明らかだとヒツギは確信した。

「あの時はまだ覚悟が無かった。誰かが助けてくれると甘えていた。だけど、今は必ず自分でアルを助けるって決めたんだ。たとえ、コオリでも…邪魔をするというなら、容赦はしない! だぁぁぁ!」

身の丈ほどもあるコオリの大剣をヒツギは押し返した。その姿をみたオキはクスリとほほ笑む。覚悟のできた彼女は、大丈夫だろうと。

「でも、強くなったからと言ってこの剣に勝てるわけがない。魔剣のすべての頂点である、この魔剣グラムに!!」

コオリの具現武装『魔剣グラム』。黒く、禍々しい装飾が施された大剣を再びヒツギに振るう。今度は本気で、重量をいかし、スピードをだしてヒツギに叩きつけようとした。

以前、ヒツギが刺された時。あの時は親友のコオリの豹変した姿に驚かされた。そして刺され、殺されかけた。

だけど今は違う。たとえ親友であろうとも、今まで道を導いてくれたマザーであろうとも、アルという大事な弟を助ける為に、必ず自分の力で取り戻す。そう決めたヒツギの眼はコオリの剣をとらえていた。

ガキン!

「!?」

「お願い…正気に戻って! それに、言ったよね。いくらコオリでも邪魔するなら、コオリでも容赦しないって!! 」

具現武装を振るい、コオリの魔剣に負けまいと刀を振るう。その直後、二人の間に一人の女性が割って入ってきた。

二人の剣を掌で受け止めたシンキ。いや、掌の表面ギリギリの空中で止まっている。なにかの障壁で受け止めているようだ。

「この戦い、私が預かる。」

「シンキ!? …あーそういう。 シンキ、殺すなよ。」

デコル・マリューダの幻想種は相変わらずオキを狙ってくるため、巻き込むわけにはいかない。邪魔になるからだ。

一応、釘は刺しておき、再びデコル・マリューダ幻想種と対峙する。

「なに…? あなたも私の邪魔をするわけ? だったら…一緒に切ってあげる!! この魔剣グラムで!」

コオリが巨大な剣を振るい、シンキへとその刃を向けた。シンキはそれを細い目で見つめゆっくりと空間より取り出した一本の剣で受け止めた。

「誰に向かって刃を向けている。狂犬。貴様のようなモノがその剣の名を口にするとは…分不相応だぞ。身の程を知れ。」

ガキン!

コオリの剣に対し一振り、剣を振るった。コオリはそれを受け止めるも具現武装は簡単にひびが入ってしまう。

「ヒビが!?」

「目にする事すら本来ならあり得ないことだが…。見せてやろう。本当の魔剣というモノを。」

シンキの持つ光り輝く一本の直剣。シンキの『蔵』内部に保存されている本物の『魔剣グラム』

コオリのもつ巨大で禍々しい色と形と違い、綺麗で美しく光り輝く直剣。派手な装飾などもついておらずシンプルな剣だが、少し離れたオキですら感じた漏れる力はあまりにも異様で重くのしかかってくる。シンキの宝物庫には宇宙の、数多の宝物がしまわれている。本来の魔剣グラムも収納されていてもおかしくはない。

そして、その本物が贋作でありかつ、人間が作り上げた想像上のモノを具現化させた程度のモノならば、その一振りで破壊される事は無理もない。

たった一振り。だがその一振りでひびの入ったコオリの剣は次第にヒビが大きくなっていき、完全に折れ、破壊された。

それと同時に膝から崩れ去れるコオリを駆け寄ったヒツギが受け止めた。

「コオリ!? コオリ!? しっかりして!」

「安心なさい。彼女にかけられた術はソレと同時に壊しておいたわ。先ほどの言葉、努々忘れる出ないぞ小娘。オキちゃんが態々助けたのだから、二度はないと思え。」

コクリと頷いたヒツギをみて、シンキは幻想種を倒し終わり、近寄ってきたオキにほほ笑んだ。

「ったく。いきなり出てきてびびったぜ。」

「言ったでしょう? 私も出るって。それにあんな贋作見せられたら、ねぇ。」

「お、おう。そうだな。」

暫くして、コオリは目が覚めた。ヒツギに謝りながら彼女は説明した。

ヒツギがアークスシップへ連れて行かれた日、マザーに連れられマザークラスタの幹部メンバーの場所へ連れられて行った。彼女はそのあとオフィエルに何かしらの催眠術のようなモノをかけられ意識はあるものの、指示を受けるようにされていたという。

そもそもヒツギが連れていかれ何が何だか分からなくなっていたコオリには当時の自分はヒツギを助ける事しか頭になかったようだ。しかし、ヒツギに剣を刺した時にそれが間違いだと気付く。だが、体はいう事を聞かずオフィエルの傀儡と化していたようだ。

魔剣もオフィエルの差し金らしい。彼の術によって具現化したと。

コオリはアークスシップの医療室へ送られた。

「相変わらず甘ちゃんねぇ。」

「別にいいだろ。それより、マザーが暴走状態になっているから、ダーカーの幻想種が抑えられていないと言っていたが。」

コオリはマザーが現在暴走状態になりつつあると言っていた。ダーカーの幻想種。アルを取り込んでから出せるようになったというが、制御がきいていないという。オフィエルは特に問題視していなかったようだが、アラトロンがかなり心配していたそうだ。

「ふん。そのまま自滅してしまえばいい。」

「まぁそういうなよシンキ。そうなってくれた方が楽だが、中にアルがいる。あいつはヒツギの弟でもあるが、よくよく考えるともう一人の俺の息子のような存在なんだからよ。助けてやんねーとな。」

現在の深遠なる闇。ダークファルス【仮面】である別世界のオキから生れ出たダークファルス。つまり息子のような存在。

ほおっておく気になれなくなる。

「オキちゃん。私ちょっと別の用事忘れてたわ。それじゃあね。」

「おう。いつでも動けるようにしといてくれ。近々乗りこむぞ。」

手を振りオキの背中を見送ったシンキは、ある人物から呼ばれていた。その連絡先である会議室の一室に向かうとマトイやクラリスクレイス、そしてユウキや圭子、和人までそろっていた。

「お呼びしてすみません。」

「ご相談があるんです。」

シンキは優しく微笑みながらある一つの答えを導き出しコクリと頷いた。

「ええ。話してみて。」

会議室のボードモニターには『SAO』という文字が書かれ浮かび上がっていた。




皆様ごきげんよう。
そろそろ終盤に差し掛かり終わりが見えてきました。長い長い物語もおしりが見えて完結させることができそうだと一息入れてます。
まぁまだまだアークスの戦いは続くんじゃが・・・。
さて、今回は短いですが最後に書かれた三文字のアルファベット。これは今作で重要な3文字です。最後にどう出てくるのか。お楽しみに。
では次回にまたお会い致しましょう。


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第137話 「月の中枢」

コオリの洗脳を解き、マザーが暴走状態になりつつあるという情報を聞いて地球でのダーカー型幻想種『エスカ・ダーカー』と名付けたソレらが増えすぎないよう倒しつつ、助けたオークゥ達からマザーの居場所を聞き出すのに数日かかった。

彼女たちの負担が思った以上に大きかったからだ。数日寝込んだ状態が続き、ようやく対面の許可がおりたのだ。

結論から言うとマザーの居場所は、オークゥ達が自爆をしてでもオキを足止めしようとした場所、その地中にあるという。

「場所は示したところ。そこに100%マザーはいる。」

「アラトロンさんはマザーと初めて出会った大切な場所だと言っていました。そこから移動することはまずないでしょう。」

マザーは居場所を大事にしていたという。よってその場所から移動することはまずありえないと二人は言った。

また、暴走状態にありつつあるマザーの状態をしって、二人はオキにできる限りマザーを助けてほしいとも伝えた。

マザーが彼女たちを救ったことは事実。その恩を返したいと言う。

「という事で、作戦会議だ。」

艦橋に集まった守護輝士。オキをはじめマトイ、ハヤマ、ミケ、クロ、シンキ、アインス。コマチは多分ファータ・グランデだろう。

ヒツギやエンガも来てくれた。最終決戦ということで、全員の情報を共有するためにシエラが現状をまとめてくれた。

「むかうはこちら、その地中が目標の場所となります。」

月面の地中。そこが目標の地点だ。オキたちがむかい、マザーからアルを取り除き、アークスへの介入を阻止する。向かってきた場合は交戦も行う。

「手ぇぬいておとなしくさせることができりゃ楽なんだが、もしどうしてもと行かない場合は倒すこと。」

「ここで死ぬわけには行かないからな。オキ君の考えは甘い、と言いたいところだがそれも君らしい。協力しよう。」

アインスやハヤマ達も頷き協力することを約束してくれた。

シンキは納得してなさそうな表情だったが、すべてオキに任せるといい再び黙り込んだ。

「今回の戦いはアースガイドとしても協力をえる。アーデムに連絡をしたい。」

はいはい任せてくださいとシエラが通信を開始した。だが、映像が映らない。

「おっかしいですねぇ。また故障でしょうか。」

「おーい、アーデム。聞こえてんなら返事しろ。」

エンガの言葉でようやくアーデムの返答が帰ってきた。

「すまない。どうも調子が悪いようだ。声だけで失礼するよ。」

幻想種の影響か、はたまたマザーの異変によるものか。どちらにせよ、向こう側も準備が出来ているようだ。

「アースガイドの持ちうる力すべてで、君たちを援護する。もちろん僕自身も。」

今回の戦いは地球に生きる人びとが更なる進化を迎えるために必ず勝たねばならない戦い。彼はそういった。

そしてエンガのみを案じ、お互いに協力体制が整っていることを確認できた。

「…オキちゃんやアークス全員が揃っていることをわかっているかのような言い方。向こう側からは見えていたということかしら?」

シンキがボソリとつぶやいた。

「ん? なんかいった?」

しかしその言葉は誰にも聞こえていない。かろうじてすぐ隣にいたハヤマが何かをつぶやいたときにする程度の声量だった。

「ううん。なんでもないわ。」

シンキは見えないモニターの向こう側をジッと見つめ、そして回答を出した。

『ふーん。そういうこと。何が目的か知らないけど…。』

シンキは目を細め、アースガイド、ではなくアーデムの不穏な動きを察知していた。

「うっし。そんじゃまシエラ!」

「はい! 突入地点の算出及び、敵勢力図の計測! それに合わせた突入の立案と承認! もろもろのバックアッププラン含めて一通りの承認、いただきました!」

シエラにできることはここまで。シエラはすべてをオキ達に任せた。

「オキさん、みなさん。いつもいつも、あなた方ばかり頼ってしまって、申し訳ありません。どうか、よろしくお願い致します。」

「任せろ。しっかりバッチリ終わらせてくるさ! いくぞ、野郎ども!」

オキ達の背中を見送り、無事帰ってくることをシエラは祈っていた。

 

 

月面からその地中へと潜り、マザーのいると思われる基地内へと侵入したオキ達とヒツギ、エンガ。月面の重力とは思えない、しっかりとした重力。地球と変わらない重力を感じながらゆっくりと進んだ。

「これはなかなかだな。地中にこれだけの施設を作り込むとは。」

感心するアインスと一緒につられて天井を見上げるハヤマやオキ。

シエラからの話ではアークスが【巨躯】と宇宙空間で戦う際に展開しているフィールドと同じ技術の可能性があるという。

確かにフォトンとエーテルはほぼ同質。それぐらい出来ても不思議ではないということだ。

「それよりもだ…。」

オキにはここの風景に見覚えがあった。

「マザーシップ。」

マトイの一言に周囲のメンバーが気づいた。シオンのいた旧マザーシップ。それと瓜二つと言えるほ似ている風景だった。

青い光が差し込み、通路、途中に見える塔、建物など。ほぼすべてが酷似していた。

「マザーはシオンさんの摸倣体。月に、マザーシップを作ろうとしている…ってこと?」

マザーシップの具現。それを行おうとしているのでは? マトイの一言に、ひとりの男性の声が帰ってきた。

「マザーシップの具現か。的を得ているな。娘っ子。」

白ひげをつけた老人。マザークラスタのアラトロンがそこに現れた。

「どけ…っつっても、引く気はなさそうだな? じいさん。」

「毛頭ない。とはいえ、頭に毛はないがの。ふぉっふぉっふぉ。」

アラトロンは笑いながら具現武装を取り出した。巨大な黄金のハンマー。それが彼の武器だろう。

「すでに我はマザーと共に歩むことを決めておる。それは誰がなんと言おうと曲げることはできん。」

オキが目を細め、彼の力を見定めようとゲイルヴィスナーを取り出すと、目の前に一本の刀が現れた。アインスのオロチアギトがオキの前を塞いだのだ。

「君は先に進むがいい。ここは、俺とコマチ君で相手しよう。」

「え? こまっちーはここに…。」

オキが目を丸くしていると、高い天井の上からコマチが飛び降りてきた。

「間に合ったか? 遅刻した。」

獣の毛皮をまとい鎧を身につけ、鉱石をそのまま削り出したような黒くも紅く光る直剣を担いでいた。

「なに、これからだ、さぁ行くといい。この武人は私たちが相手だ。」

オキはアラトロンとすでに臨戦態勢にはいっているコマチ、そして微笑んでいるアインスを交互に見て一息笑った。

「そうかい。あー、アラトロンのじいさんだったな。うちの武人が相手するってよ。悪いが俺たちは先に進ませてもらうがな。」

「ほうほう。このワシをおいて先に向かうと。いい度胸だ!」

アラトロンが巨大鎚を振り上げ、オキへと攻撃を繰り出してきた。だが、それをアインスが防いだ。

「貴殿の相手は私がしよう。なに、その曲げられぬ意思同様、こちらも曲げられぬ意思がある。それをわかってもらおう! いけ! オキ君! マザーを止めるのであろう!」

オキはこくりと頷き、残りのメンバーを率いて通路の先を走って去った。

「…そう言われてしまうと、仕方がないの。…若いの、名を聞こう。」

「若くはないのだがな…我が名はアインス。」

「…コマチ。」

名を聞いて満足したのか太い白い眉毛に隠れていた目を大きく開け、先程までの優しい顔から阿修羅の如き険しい形相となったアラトロンは自らの名を叫んだ。

「我が名はアラトロン・トルストイ! マザー・クラスタ『土の使徒』! いざ!」

アラトロンは金色に巨大鎚を光らせ、エーテルで巨人の如き金色の鎧を纏い、アインスとコマチにその咆哮とも思える声で名を名乗り二人に襲いかかった。

「参るぞ!」

「いっちょうやりますかー。…ごぉああ!」

コマチは対抗するように獣のごとく雄叫びをあげ、持っている武器『オメガスウォード』を振り回し巨大鎚よりも小さなその剣で防いだ。

「ほう…いい音をだす。その剣、隕鉄を使っているな。」

地質学者であるアラトロンはその剣が只の剣ではないことを単で見破る。だが、その剣はアラトロンが思っている以上の力を持っているファータグランデの武器だ。鼻で笑ったコマチは苦笑しながら言葉を吐いた。

「そんなもんじゃねーよ。なんかよくわからんドラゴンが落とした、何かよくわからん物質で鍛え上げた剣だ。頭痛くなるぜ? これ作るの。」

必要な素材を知ったときはゲロ吐きそうだったぜ。だれだこんなの考えた奴、とどこの誰に怒っているのか分からないコマチにアインスが感心しながらアラトロンへおオロチアギトを振るった。

「相変わらずものすごい武器を持っているな。これは俺も負けていられん!」

滾るアインスにニヤリとわらうコマチ。

「ふむ。面白い。面白いぞ若造ども。ならばワシのちからも見せようぞ!!」

金色に光る巨大鎚をバチバチと電撃で光らせアインスたちへと再びその巨大鎚を振るい、アインスとコマチはその金色の巨人とぶつかりあった。

 

 

 

 

オキ達の進む施設の道中はエスカダーカーの巣窟だった。

「多すぎだろこれ!」

「ぶった切って進みゃあいいだろ! ってかミケどこいった!」

「さっきめんどくさいって言っていなくなったわよ?」

「ミイイイイケエエエエ!!!」

ハヤマの怒りの叫びがエスカダーカーの叫び声と共に通路に響いた。

「マトイ、なんだか懐かしいな。」

「うん。シオンさんの…あの場所に似てるから…。」

オキとマトイは微笑み合いながら先へと進んだ。さらに進むとデコルマリューダの幻想種まで現れた。更に同時にダーク・ラグネの幻想種まで現れる始末だ。

「っち! ラグネまで出てくるか! 邪魔すんな!」

「オキさんは先に!」

「ここは私たちが抑えるわ。行きなさい。」

ハヤマとシンキはデコル、ラグネ双方に武器を放ちオキ達へ歩みを止めないように指示した。二人の行動を無駄にするつもりはない上、足を止めるつもりのもないオキは二人に任せ、更に足を進めた。

「倒しても倒しても出てくるなこいつら!」

「マザーを倒さないとダメみたいね。ここは、オキちゃんに任せましょう。それに、オキちゃんにはそれ相応の力を渡してあるから直ぐに終わるでしょう。」

ふふふとわらうシンキに目だけを向け、こくりと頷いたハヤマ。

だが、大量に出現するエスカダーカーに苦戦はしないものの、その数には目を瞑ることはできない。シンキはこのあとどうなるかを予想しながらオキ達が進む道を見続けた。

 

 

 

「ここが中枢か。」

青く光る巨大な蒼い門。その扉の向こうにマザーはいる。

マトイと一緒に頷きあったオキはその扉をくぐった。

「マザー!!」

青く光るその空間。かつてシオンのいた旧マザーシップの中枢と瓜二つの空間がそこに広がり、その中央にはマザーが浮いていた。

「待っていたぞ。八坂火継。そしてアークスの諸君。」

ゆっくりと振り向いたマザーはゆっくりと床に足をつけ、来たもの達を歓迎した。

 




皆様ごきげんよう。ようやくマザーへとたどり着きました。
さっさとこんな一つの星の事件を解決して深淵なる闇を倒さないといけませんね。
わがままなマザーという娘っ子はおしりぺんぺんです。
さて、次回マザー戦。どう描こうか楽しみです。
それではまた次回にお会い致しましょう。


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第138話 「母なる願い」

惑星地球の衛星『月』。

大昔に生まれたばかりの地球に落下した巨大隕石の破片が組み合わさり地球の衛星軌道上を回り始めたのがきっかけだと言われている。通称『巨大衝突説』。現在よりやく45億年前に誕生した月。その月の本当の正体。それがマザーであった。

「フォトナーが作りだし、失敗作として異空間へと飛ばした後、私は長い旅を経てこの宇宙空間にある地球とぶつかり、その後こうして地球の周りを回り始めた。」

原初の星『シオン』と酷似した内装、装飾。そしてオキ達がいるこの場所が彼女のいた『あの場所』と同じなのはフォトナーがまねて作り上げたからであった。

「私はフォトナーに対し復讐を誓った。私を捨て、認めなかったあの者達に。」

「フォトナーはいない。すべていなくなった。」

最後のフォトナーであったルーサーもダークファルスとなり、【双子】に喰われた。しいて言うなら今もなお、【深遠なる闇】の内部にいるである【双子】のお腹の中にいるだろうが。

「ならば私が正しかったという事だ。私はエーテルを作り、そしてフォトンとの融合体を手にした。これを持って地球と融合し、そして…貴様らフォトナーの産物であるアークスを倒す。これこそが私の復讐なのだ。」

正直言ってオキ達アークスからすれば知った事ではない。フォトナー達から作られたことは認める。それにより闇、ダーカーを倒せる、浄化する力を手にできている事も感謝している。守りたいものが守れるからだ。

マザーが復習したいのはフォトナーであって現在のアークスには迷惑以上何もないのだ。

「だからこそお願いしたい。…死んでくれ。」

マザーが手を広げ力を込めだす。次の瞬間、マザーから黒い力があふれ出した。数体のエスカダーカーがマザーから出てきたのだ。

「貴様らの出番はない! 勝手に出てくるな! ダーカーども!」

すぐさまマザーは力を抑え、エスカダーカーを消滅させる。オキはそれをみてマザーが暴走状態だといっていた理由が分かった。

「マザー、お前さんダーカーの力を抑えられていないな? エーテルは情報通信能力、つまり伝達する力はフォトン同等。しかしあくまでそれだけだ。ダーカーを浄化するアークスの、フォトンの力はない! そんな状態で俺達を倒すと? っは! 鼻で笑っちまうわ! いくぞヒツギ。てめーの弟、取り返すぞ。」

「うん! マザーの想い通りになんか、させない!」

「くるがいい! わが力に平伏せ!」

マザーは赤と青の二本の直剣を具現化させ、オキ達へと飛び込んだ。

「これぞ我が雷! 喰らうがいい!」

巨大な轟音と共に空中からいくつもの雷が降り注ぐ。アインス、コマチは金色の巨大鎧を纏ったアラトロンとの勝負を終わらせようとしていた。アラトロンはフラフラになりながらも最後の力で数多の雷を振り下ろした。

「…神撃!!」

コマチは自身の持つ黒き直剣を空へ突き上げ数多の光と風を生み出し降り注ぐ雷を防ぎ切った。雷と光と風は空中でぶつかり爆発を生んだ。土煙が周囲に広がり、アラトロンは二人を見失う。

「ぐううう…どこに…。」

「倒れよ。我らはここで立ち止まるわけにはいかないのだ。」

アインスが土煙の中から強襲し、アラトロンの巨大鎧を一刀両断する。バラバラと崩れ落ちる鎧と共にアラトロンは仰向けになって倒れた。

「ぜぇ…ぜぇ…っふ。はっはっは! さすがはアークスよのう。このワシが全力をだしてこのざまか!」

額を手で抑え、息を切らし、倒れたアラトロンはその場で笑った。わかっていた。アークスに勝てるはずがないと。いくら具現武装を装備し、彼らに迫ったところで勝てるわけがな合い。地力が違うと。

「わかっていた上でも、曲げられない信念がある。ご老体、俺はそれが理解できる。だからこそ、俺も戦いに応じた。あなたが負けることを理解していたという事を踏まえてもだ。」

「ふぁっはっは…。歴戦の猛者はいう事が違うのう。そうじゃな。ワシはマザーと共に歩み、進むと決めたんじゃ。だからこそ負けるとわかっておっても戦わなければならぬ。」

ゆっくりと起き上がり座り込んだアラトロンはかつての若いころ、月面でマザーと出会ったころの話をアインスとコマチに話した。

「ワシは彼女に感謝しておる。だからこそ、彼女に対しワシの命を懸けて共に歩もうと決意したんじゃ。アインスに、コマチといったな。一つ、頼みを聞いてくれるか。」

座り込んでいたアラトロンは巨大槌を支えに立ち上がった。それと同時に数多のエスカダーカーが現れた。

「見ての通り彼女は、あの少年を取り込んでから暴走しておる。理由は分かっておった。ダークファルスが少年の中にまだ残っている。それがあふれ出ていると彼女は言った。外には見せぬが、ワシにはわかる。彼女は苦しんでおる。アークスだけが、ダークファルスを討てると聞いた。彼女を…救ってほしい。」

「承知した。」

「感謝するぞ。アークスよ。ここはワシに任せて彼女の所へ行ってくれ。」

アインスは軽く頭を下げ、アラトロンを背にオキ達の向かった先へと走った。コマチはそちらへと向かわず、すぐにアラトロンの隣へと歩き始めた。

「じいさん、付き合うぜ。俺が向こうに行こうが行きまいが結果は変わらねぇからな。それに、こっちも依頼で来てるからな。」

「うむ? 依頼とな?」

「名前は…オークゥとフルだったか? これ聞いておかねーとうちのリーダーから拳骨飛んでくるかもしれんからな。あの人、オークゥとかいう方気に入ってるからよ。」

その言葉を聞いてアラトロンの太い眉に隠れた目がコマチのため息めいた笑い顔を映していた。コツンとアラトロンの巨大槌を拳で叩くと黒き直剣を向かってくるエスカダーカーに突き立てた。

「そうか…そうじゃったか。あの二人は生きておるのか。そうじゃったか…。うむ! ならばここは生きて帰らねばならぬな! 助太刀感謝するぞ!」

「っは! ジジイは無理せんとゆっくりやすんでな!」

コマチが遅れたきた理由。元々ファータグランデへと向かっていた彼だが、オキからマザーへの直接対決をするという連絡を受け、帰還。その際にオークゥとフルの看病をしていたクロノスから伝言を受けていた。

命だけは助けてあげて、と。

「消えろ。」

巨大な光の剣を具現化、オキへと飛ばしてきたマザーは更に追撃を行う為、剣と飛ばした直後に共にオキへと飛び込んだ。

「そういわれてもなぁ。」

口をへの字に曲げながら巨大剣をゲイルヴィスナーで受け流した後、マザーの二本の剣を受け止めた。

「させない!」

受け止めた直後にマザーの後方に現れたマトイがラ・グランツを放ち光の槍をマザーに突き立てようとした。

だが、すぐさま離れたマザーはそれを避け、距離を取った。

「っち。腐ってもフォトナーの作り出したモノか。よく我と同等の戦いが出来る。」

苦しそうな顔で唸るマザーに対し、余裕のオキとマトイ。二人の連携にマザーは翻弄されていた。

ヒツギとエンガはその援護で手一杯だが、それでも十分だった。逆に前にでて二人の邪魔をしてしまうとこちらが不利になる。

「さすがマトイだな。俺の動きをよく理解してらっしゃる。」

「ふふふ。圭子ちゃんやユウキちゃん達には負けてられないもん。」

再び飛んでくるマザーに構え、受け止める。

「なぁ、一つ聞いていいか?」

「…いいだろう。」

オキはマザーと切りあいながら一つの質問をした。彼女がシオンをベースに作られた人口の『全知全能』である事は理解した。

そしてエーテルの力で具現化したダークファルスの身体、アルを取り込み、フォトンと融合する事で力を得て、フォトナーへと復讐をしようともくろんでいる。わからないわけではない。理解できないわけではない。

オキ自身も作られ、失敗作と言われ、勝手に作っておいて身勝手に捨てられれば怒りも出てくる。

だが、フォトナーは滅び、アークスが残った現在。アークスを倒せば、現在脅威となっている【深遠なる闇】の顕現。

そして滅びゆく宇宙。それがわからないわけではないはずだ。

「そんなことか。」

オキの質問にマザーは『そんなことか』だけで返した。

「私には復讐の文字しかない。復讐を達成できれば、それ以外なにも求めない。」

「【深遠なる闇】に滅ぼされてもいいと言うのか? あれもフォトナーの作り出したモノでもあるんだぞ?」

「…。」

マザーは黙り込んだ。オキは続けながらマザーへの攻撃をやめない。

「あんたが俺達を倒すことでフォトナーよりも勝っていると言いたいのだろう。だがな、その後に残るのはアークスに倒されなかった【深遠なる闇】。それもフォトナーが残した産物だ。あれはアークスじゃなきゃ倒せない。シオンをベースに作られたとはいえ【全知全能】だろうが。それくらいわかっているはずだ!」

「…うるさい。」

小さく、唸るようにつぶやくマザー。オキは更に続ける。

「さっきから負ける事を前提に話しているが、そもそも俺達が負けるつもりは一切ないがな。現時点で、こうして俺とマトイちゃんの二人に、エンガとヒツギの二人に援護されているとはいえ押されている時点で、お前の勝目は一切ない。俺より強いやつがゴロゴロいるんだからよ。」

「うるさい…うるさい!!

「わかっているはずだ。俺達に負ければ復讐は達成できず。勝ったところで【深遠なる闇】が残っている。お前さんの言う通りであるならば、それはフォトナーの作り上げた代物に負けるという事。何をやっても、お前は勝てねえってことが!!」

「 うるさい!!」

悲鳴のごとく叫ぶマザーの持つ剣に、オキは思いきり力を込めた刃を振り下ろした。

パキンと響く音と共に砕けた青と朱の直剣はマザーの力が抜けると同時に消え去った。

その場に崩れたマザーはグッタリと座り込んでしまった。

「私は…間違って…なんか…。」

その姿をみて、マトイとオキは武器の構えを解き、ヒツギに目で合図した。

「う、うん。」

まだ彼女の中にいるアルを助け出せていない。オキと彼女自身、ソレが出来る事を理解していた。

オキは彼女の中に入った時に、ヒツギはその力が顕現した時に。

「落ち着いて。深呼吸で。大丈夫だ。お前ならできる。」

ヒツギが持っている具現武装、その刀をマザーに向けた時、異変は起きた。

黒い煙のようなモノがマザーの身体から吹き出て、その煙は人の形を成した。

「こいつは…!」

「離れて! ヒツギさん!」

「この感覚…まさかあの時の!」

オキとマトイはすぐさまそれが『何』であるかを理解した。ヒツギも一度は『ソレ』に取り込まれそうになったためにその感覚を思い出し、なんであるかを理解する。

「ぐう…! 出てくるな! 私は…破壊など…求めては…。ただ…復讐を…!」

マザーの何倍もの大きさに膨れ上がった人の形をした黒き煙はマザーをその内に閉じ込め、その姿を顕現させた。

銀と青色に輝く巨体に胸元と思われる場所には女性の身体が組み込まれている。先ほどとはまるで違う異常なまでにあふれ出るその力をビリビリとオキ達は感じていた。

『こちらでも確認しました。新たなるダークファルスです。』

シエラからも通信で改めて認識する。アルの中にいたダークファルスは浄化されたのではなく、静かに眠っており、マザーの力によってその力を蓄え、そして弱ったところに出しゃばってきたという事だ。

「オキ君!」

「オキちゃん!」

「オキさん!」

アインス、シンキ、ハヤマもその場に現れ、ダークファルスの姿を見上げた。

「あらあら。やっぱりこうなったのね。」

「説明を貰っていいかな? オキ君。」

「マザー弱らせたら、ダークファルスに取り込まれた。…切り刻むぞ!」

「分かり易い説明どうも!」

シンキはすでにどうなるかを自身の力で理解しており、アインスとハヤマに簡潔に説明。そして討伐を指示した。

『ダークファルス・マザー! 来ます!』

シエラの通信と同時にその咆哮を放つダークファルス・マザー。対するはダークファルス退治の専門家アークスの面々。

新たなるダークファルスの力を感じながら、オキはニヤリと口元を歪ませ武器を構えた。




皆様ごきげんよう
マザーへと到達し、エスカファルス・マザーと変貌。その姿を現しました。
ここからクライマックスへ一気に進みます。地球での騒動もあと少し。
そろそろ次の準備をやっておいたほうが良さそうですねぇ。
さて、そろそろ梅雨入りし夏が近づいて来ました。暑い日々が今年もやってきますのでお体に気をつけてお過ごし下さい。
ではまた次回にお会い致しましょう。


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第139話 「月駆ける幻創の母」

マザーがダークファルスに飲み込まれ、ファルス・マザーへと変貌し、オキ達に襲い掛かってきた。

オキ達アークスメンバーは、ヒツギとエンガを後方にさげ、マトイに守ってもらう。そして、ファルス・マザーにはオキ達が退治する事になった。蒼白く光るファルス・マザーにエルデトロスを振り下ろすオキ。だが、その攻撃はファルス・マザーの胴体にあたる前に何かの障壁で防がれた。自分が放った力がそのまま反射して帰ってくるような感覚だ。

「くっそ、かってええ!」

「何かで防いでいるな。」

甲高い声で鳴いた後、ファルス。マザーは4つの巨大な手を具現化させてきた。

「【巨躯】の腕!?」

「腕ならば後方にコアがあるはずだ。それを攻撃する。」

アインスが素早く一本の腕の後方に回り込みコアを見つけ攻撃を開始した。

他の腕も似たような姿だ。だが、若干違う。そのうちの一本が上空高くにあがり、巨大な剣を模した。

「【敗者】の剣か…!」

忘れるはずがない。形は【敗者】が手にしていた剣そのものだ。また、別の手からは玩具型のダーカーが顔を出す。

「コレ、今までのダークファルスの記憶を持ってるみたいね。」

ハヤマの目の前に出てきたのは玩具型ダーカーは【双子】の眷属だ。つまり、【深遠なる闇】に吸収されたダークファルスの能力を持っている事になる。

それをしってオキは口を歪ませ笑った。

「っは! だったら負ける心配はねーな! 一度でも勝った相手の攻撃を出してくれるんだ。おら、はやまんその腕で最後だぜ。」

「おおおお!!」

ハヤマが4本のうち、のこっていた最後の腕を左右に振ったサクラエンドで斬り、破壊した。腕に集合していたエーテルがその場に拡散、その効力かファルス・マザーがその場に崩れる。

『ファルス・マザーの障壁消滅確認! いまなら攻撃が通ります! 胸元にみえるコアを叩いてください! そこに力が集中しています! 間違いなく弱点です!』

シエラの解析に、ここぞとばかりにアークス達は攻撃を各々放つ。ファルス・マザーの胸元に付いた巨大コアはまだ健在なれど、オキ達の手には手ごたえがあった。このまま続ければ間違いなく倒せるはずだ。

ファルス・マザーは再び腕を具現化。さらにフィールド横いっぱいに巨大な扉を横一列にして並べてきた。

「なんだあれは。」

「げ! 縦回転しながらこっち向かってきたぞ!」

「うけとめれねーかな。」

念のため、身体の防御をとことん硬くするマッシブハンターを使用し、オキがエルデトロスを振り上げ、向かってくる扉に攻撃を当てようとしたが、ファルス・マザーの胴体と同等に障壁で守られており攻撃が通らず反射する。もちろんそのままオキは扉に吹き飛ばされてしまった。

「デスヨネー! チッショー!」

「オキ!?」

それぞれが縦回転する扉をタイミングよく潜り抜け、吹き飛ばされたオキの元にマトイが走り寄った。

「もう。無茶しすぎだよ。…レスタ!」

「いやはや。マッシブハンター使ってなかったら死んでたわ。サンキュ、マトイちゃん。」

マトイの回復テクニック、レスタでオキは傷を回復したとき、腕と腕の横回転振り回し攻撃を防いだアインスとハヤマだが、防御ごと体を大きく吹き飛ばされ、オキの近くまで飛んできた。

「ちいぃ…力だけはあるね。」

「っち、めんどくせぇな。一気にカタぁつけるぞ。」

「ふむ。ならばこちらも…パワーで行くとしよう。」

現在、各自が対【深遠なる闇】に向けて新たなる技、技術、能力を開発している。アインスもその一人だ。

その力を試すなら、今がちょうどいいだろう。

刀を右手で持ち上げ、床と水平に。刃は上を向かせ左手で背に添える。アインスの『突』攻撃の構えだ。だがその攻撃はただの突きではない。フォトンと彼の内に秘める四天の力を刃の先端にのみ集め、捨て身の覚悟で敵に近づき、一気に放出する。シンキとの対決後に考案した技の一つだ。

『あの時を、思い出せ…。』

シンキの『エア』が放ったアレを斬った感覚。それをいつの時でも出せれば。そう思い考案した技だ。

ただ、この技を放つ場合自らの身体を守るものは一つもない。その欠点を補う為、オキ達が援護する。

「援護するよ、隊長!」

「マトイちゃん! 支援お願い! シンキ! 逃げられねぇように『鎖』準備しとけ!」

「了解。」

「まかせて! シフタ! デバンド!」

オキとハヤマは左右に分かれ、アインスが突き進まんとする道を作るために目の前の障害を排除する。

マトイはアインスの後ろに立って、邪魔にならないよう支援テクニックで彼の力を増幅した。

シンキはじっとファルス・マザーを睨み付け、いつでも何が起きてもいいように、指示された通り『鎖』の準備を行った。

「行くぞ…。」

構えはそのままに、ゆっくりと目を開けたアインスは足の裏に力を入れ踏み込む。一歩進むごとにスピードが増す。

「すすめ…進め…! オオオォォォ!!」

滅多の事では叫ばないアインスだが、この時だけはオキ達のなかで一番うるさいコマチにも負けないほどの怒号を放ちながら突き進む。

左右に分かれたオキとハヤマは向かってきた腕を迎え撃つ。

「さっきと同じなら!」

「これで、本体が倒れるはずだ。」

態々こちらに向かってくる腕を迎え撃ち、それぞれが腕を破壊した。これにより再びエーテルが拡散。本体はその場に崩れる。

猛スピードで突っ込んだアインスの障害は一切ない。まっすぐにファルス・マザーのコアへと突っ込んだ。

地面を揺るがすほどの勢いと、耳を塞ぎたくなるほどの巨大な衝突音。その衝撃はファルス・マザーの背中側まで飛び出す。

「…む。」

アインスが唸った。ファルス・マザーのコアはまだ健在だ。胴体に穴は開いたものの、コアの硬さに軌道がずらされたのだ。

だが、それでも胴体にでかでかと丸い穴が貫いている。ファルス・マザーもただでは済まんではいまい。

『ファルス・マザーが力をためています! そこから逃げるつもりです!』

シエラの通信に、アインスが一言一人の女性につぶやきを入れながらその場にオロチアギトを杖代わりに言い放った。

「後は任せたぜ。シンキ。」

「任せなさい。この私の目の前から逃げおおせよう等、できぬことを教えてやろうぞ。」

瞳孔が縦に見開き、口元を大きくゆがませ笑うシンキは空間より出した『天の鎖』でその空間から逃げようとするファルス・マザーの身体をがっちりとからめ捕った。

「さぁ、オキちゃん。」

「ああ。マトイちゃん!」

「うん!」

シンキが止めている間に、ダークファルスの力だけを吸い取り、浄化する。その為に、オキとマトイはファルス・マザーへと走り始める。

再び具現化された2本の腕がオキとマトイを狙ってくるが、片方はハヤマに防がれ、片方はシンキの『星の財宝』で串刺しにされた。

「いっけえええええ!」

ハヤマの叫び声に後押しされ、ファルス・マザーの前に立った二人はダークファルスの力を一緒に吸い取る。その瞬間、ファルス・マザーは硬直した。

「ヒツギ! 今がチャンスだ! お前の剣で、アルとマザーを分離しろ!!」

「やああああああ!」

待ち望んでいたチャンス。ヒツギの『全てを助けたい』という気持ちが力となった具現武装『天叢雲劍』。燃えるような真っ赤な刀身は光輝き、ファルス・マザーへとその刃を振り下ろした。

 

 

「まさか…これほどとは…。」

マザーの意識の中に入り込んだヒツギは、やっと自分の弟を見つけ出した。ここまでの事になるとは思ってもいなかったマザーは素直に彼女を賞賛した。

「よくぞここまでたどり着いた。アルよ、良き姉を持ったな。」

こくりと頷いたアルはヒツギにも微笑んだ。

「見事なものだ。八坂火継。融合体を、アルを救ってみせたか。」

ゆっくりと目をつむったマザー。

「私を断て。その剣で。そうすれば、終わる。私の永遠の孤独も、すべてが、終わる。」

マザーは何かを悟った。そう、これこそがマザー自身の望みだったのだろう。

マザーは全てを覚悟し、火継の剣を受け入れようとした。

 

コン!

 

マザーの頭を何かが叩いた。マザーの頭に痛みが走り、頭を抱え、その痛みの原因をみた。

「なーに一人で勝手に解決しようとしてんだ。こちらと迷惑被ったんだ。勝手にサヨナラしようとしてんじゃねーよ。」

オキの拳がマザーの頭を叩いたのだ。

「痛いぞ…オキ。」

「当たり前だ。痛いように殴ったんだから。てめーにはまだやってもらわないといけねーことがあるんだ。勝手に消えようなんざ許さねーぞ。」

マザーを睨みつけるオキに対し、火継がマザーへと近づいた。

「ねぇ、一つ聞いていい? どうしてひとりぼっちの人ばかりをマザークラスタに誘ったの?」

火継を始め、コオリやオークゥにフル。ハギトも浮いていた。ベトールもそうだったのだろう。みなが一人だった。

「その方が、依存関係を作りやすい。合理的な判断に過ぎない。」

「何言ってんだ。わかりきったことだ。なぁ、マトイ。」

オキとともに一緒にマザーの意識の中へと入ってきていたマトイがマザーに近づいた。

「寂しかった、そうだよね?」

マトイの言葉に、マザーは目を見開いた。

「私が…寂しかった…?」

オキとマトイは知っている。彼女の元になった原初の星『シオン』。彼女も寂しかったから…。

「さぁ行こう。マザー。お前にはやってもらわなきゃならないことがあると言ったはずだ。待っている奴らもいる。そんな奴らを、一人にしておく気か?」

オキと、マトイと、ヒツギと、アルと。マザーは手を伸ばした4人に微笑みながら理解した。自分は寂しかったのだろうと。復讐とは名ばかりで、本当は認めて欲しかった。一人にしないで欲しかった。長い孤独を経て、得た子『地球』は家族であったと…。

 

 

「よく、よく戻ってきた! 本当にやりやがったんだな!」

「お兄ちゃん!」

戻ってきたオキ達。アルはエンガに走りより抱きついた。

「よくやった! さすが俺の弟だ! この!」

「えへへ。ただいま!」

はしゃぐエンガやコオリ達を微笑みながら見つめるマザー。少し離れた場所ではアークスたちが同じくしてそれを見守っていた。

「八坂火継…。ありがとう。私は…。」

マザーが礼を言った直後。オキはその不穏な意思を彼女の後ろに感じ取った。

「マザー! 後ろ!」

だが、その言葉も間に合わず。マザーの小さなお腹からは一本の剣が貫いていた。

「…っ!?」

「ご苦労様でした、マザー。あなたの役目はここで終わりです。」

その場に崩れるマザー。その後ろにいた者は意外な人物だった。

「アー…デム。なんでここに。」

エンガが小さく聞く。アースガイド局長、アーデム。そしてマザークラスタの使徒であるオフィエルがそこに立っていた。

 




皆様、ごきげんよう。
忙しい毎日にスランプ気味となってしまった数週間でした。
2週間のおやすみ申し訳ない。
ようやくマザー編が終了。EP4も最後の章に入りそうです。最後に出てきたアーデム。そしてアークスランキング気持ち悪さトップクラスのオフィエルの登場ですね。

さて、次回はそんなアーデムにあるネタを仕込みます。ミケ、登場!
簡単に逃げれると思うなよアーデム。
では次回にまたお会い致しましょう。


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第139話 「星空教室」

「そんな…マザーが…。」

「そ、そんなの100%信じられない!」

「…オフィエルめ。なるほど。合点がいったわ。あやつ、最近不穏な動きをしておると思っておったが…。」

マザーからアルを取り戻し、ダークファルスを浄化することに成功したオキ達。一件落着かと思いきや急に現れ、今まさに和解しかけた所にアースガイドの長、アーデムが現れマザーの腹部をその手に持つ剣で貫いた後、アーデムに逃げられた。

その出来事をアークスシップにて傷を癒してもらう為にコマチが連れて帰っていたアラトロン、そしてオークゥ、フルに伝えた。

勿論3人は動揺した。自らと一緒にいた同じ陣営の男が敵側におり、更にはマザーを裏切ったのだから。

「すまん。じいさんと約束したんだがな。」

「よい。おぬしのせいではない。あのアーデムとかいう男と、あのバカのせいなのじゃからな。」

「マスター、目的はなにかきけた?」

オークゥ、フルを看病していたクロノスの質問にオキは口を開き、アーデムの目的を話した。

そのときの状況、数日前の内容をもう一度踏まえて。

「おや? みなさんどうしたのですか? そのような顔をして。やっとたどり着いた共通の敵を倒せたのですよ? もっと喜びませんか?」

笑顔を崩さないアーデムに対し、オキはギロリと睨み返した。

「アーデム。なぜ切ったとは聞かん。だが、一つ教えてほしい。じゃあなぜその共通の敵の部下であるそこのおっさんと一緒にいる。」

アーデムの後ろに控えにやけ面をしている男。水の使徒オフィエル。マザーの使徒を名乗りリーダー格として幹部たちをまとめ上げていた認識でいたオキは二人が一緒にいる事に疑問を持った。

それはマザーも同じだ。信じて引き入れたオフィエルが自分を裏切って敵であったアースガイドについているオフィエルに驚きを隠せなかった。

「オフィエル…お前…なぜ!?」

「簡単な事ですよマザー。私は元からアースガイドの側。所謂スパイと言うやつです。」

「あなたの役目はここで終わりです。後は私に任せて…。」

床に崩れているマザーの横腹を再び剣で刺したアーデムはにこやかにほほ笑みながらマザーに言い放った。

「眠ってください。」

「マザー!!」

ヒツギの叫びもむなしく、マザーは光の粒子となり、そのままアーデムに吸収されていった。細目で見ていたシンキがアーデムをにらみながら一つの言葉をつぶやいた。

「そう、それがあなたの目的ね。フォトンとエーテルの融合体であったマザーを私たちが破り、そしてそれを横からかっさらう。元からすべて計画の内、そういうわけ。ふーん。」

シンキの眼にはその答えが見えていた。

「ご明察です。そしてわたしはこの力を使い、人の進化を促す。それが私の目的であり、やらねばならぬ使命なのです。」

「人の進化だと? アーデム、お前はこんなことをしてまで、それが出来ると思っているのか?」

エンガがアーデムを睨み付けながら聞いた。この中で一番驚いているのはエンガだろう。アーデムとの付き合いは長く、友人のように親しんでいたと本人は言っていた。

「ええ。今までに何千何万という年月繰り返してきましたから。」

「何千何万?」

オキやハヤマ達は顔を見合わせた。どうもオキ達がイメージしていた『ただの人』であるアーデムではないようだ。

アーデムは過去、幾万もの間人々の中に紛れてその人の進化を促してきた。

時には何気ない書物をたくさん書いていた時、時には後世に伝えられた内容に偏見があった際は名前を変えて再び訂正したり、また魔術師をしていた時もあったそうだ。その時にいた円卓の騎士たちは伝えられている内容よりもより屈強で、それでいて皆人の話をなかなか聞いてくれなかった。

「円卓…騎士? まさか、アーサー王?」

「ああ、懐かしい名前ですね。…あの人はなかなか、人のお話を聞かない、人の心がわからないと言われたほどの王でしてねぇ。」

「アーサー王?」

オキがヒツギに聞いた。アーサー王。かつて地球のブリテンと呼ばれる場所に生きていたと言われる伝説の王様の名。

円卓の騎士と呼ばれる数々の騎士を束ね、ついた名前が『騎士王』と言うようだ。だが、このお話は伝説上のお話。

仮に実在したとしても数千年もの昔のお話だ。やはり彼は何年も生きてきた。じゃあいったいいつから?

「お前さん…一体何年生きてんだ?」

オキの質問にうーんと頭を悩ませはじめるアーデム。

「そうですねぇ。もうかれこれ歳を数えるのはやめましたから…。ああ、ヒツギさんの故郷である日本にもいましたよ。ええっとあの時の名前はなんと呼ばれてましたか…。確か…あべ…あべ…。」

「安倍? まさか、安倍晴明!?」

ヒツギの名前にようやく思い出したと言わんばかりにアーデムは手を叩いた。

「そうです。あの時は戦乱時代でしてねぇ。人の心が映し出し妖が多数出現していましたから…。」

くすくすと笑うアーデム。

「アーデム。お前、これからどうするつもりだ。」

エンガの質問にピタリと止まったアーデムはエンガに手を差し伸べた。

「エンガ。以前にも言ったはずです。人の進化は止まってしまった。昔は人は輝いていた。いついかなる時も生きる為に困難に立ち向かって生きていた。その時の人々は眩しい位さ。そうして進化してきた。僕はその眩しさが大好きだった。だが、今の人々はどうだい。惰性で今の時代を生きている。昔の輝きは今や無くなってしまった。進化を続けていた人は完全に立ち止り、その眩しかったのも今では過去。このままではこの星の未来はない。だから、僕が進化させるしかないんだ。そしてエンガ、僕には君が必要だ。だから一緒に来てくれ。」

差し伸べた手をエンガはじっと見つめ、そして微動だもせずに返答をした。

「その顔、戦力を増やしたいというおべんちゃらじゃなく、本気だなアーデム。俺はあんたを親友だと思っていた。俺をアースガイドに入れた時、一緒に地球を守っていこうと誓ったとき、俺はあんたを尊敬していた。だが、今やそれもわからねぇ。だが、これだけは言える。あんたは間違っていると。だからついて行けねぇ。」

「そう…そうか。残念だ。」

アーデムの顔は先ほどからの微笑みを崩してはいない。だが、少しだけ本当に寂しそうな顔をしていたとエンガは感じた。

その時、空中より高速で接近してくる何かをオキは見た。

「はあああああ!」

「!!」

黒のドレスを着た女性がアーデムに空中から飛び蹴りをかましたのだ。間を入れずにそれを受け流したアーデムはその蹴りを入れてきた人物を見て、目を見開いた。

「おお! アイヴズ、久しぶりだね! 何年振りかな、こうしてお互いに姿を見たのは! ずいぶん会ってないように思えるんだけど。」

「実に数百年ぶりです。最後にあなたを見たのは籠って錬金術にばかりかまけていた時ですよ。」

マザークラスタの火の使徒、ファレグ。彼女がいきなり割って入ってきたのだ。そしてどうやら彼女もただの人ではないようだ。数百年ぶり。彼女はそういった。つまりは彼女も過去より彼と同様に生きていた事になる。

「あれ、もうそんなに経ったっけ? 確かその頃は…そう! パラケルススと名乗っていた時代だ。」

「ええ、そうですね。そしてそのまま籠っていた家ごと蹴り飛ばしたのもお忘れなく。」

パラケルスス、あの錬金術の? とつぶやいたヒツギにオキが後で聞いてみた。

パラケルススとは昔、錬金術を研究していた人物だという。この人物も先ほどからアーデムが語っていた過去の人物だという。

目の前で急に戦闘を開始したファレグはアーデムとやりあい始めた。お互いにただの人とは思えない動きで動く二人。終いにはアーデムは5人に分身してファレグに切りかかった。だが、そのファレグも負けずスピードとパワーで圧倒する。

「やりますねぇ。だから魔人と呼ばれるんですよ?」

「ただ単に修行しただけです。相変わらず人がなんだと言っているみたいですが…。」

立ち止ったアーデムとファレグ。その瞬間、アーデムのすぐ後ろ、後方の空間が裂け、何かが出てきた。そして、アーデムはソレに頭をパクリと食べられてしまった。

その光景に誰もが目を見開いた。パックリとくわえられたアーデムも動かない。

「は?」

オキの力の入らない声に我に返り、ようやくアークス達はそれが何なのかをようやく理解する。全てを把握したのはシンキだけのようだ。お腹を抱えて笑いをこらえているのか震えている。

もっきゅもっきゅと口を動かし、咀嚼しているソレがアーデムを引きずりながらゆっくりと裂けた空間から出てきた。空間から出てきたのは惑星ナベリウスにいるはずのファング・バンサ。その頭の一部が黒く焦げ、剥げているのを見るとミケの配下にいるキマリ号だ。キマリ号がいるという事はつまりその主もいる。

「キマリ号、何を食べているのだ。そんなの食べたらお腹壊すのだ。ぺっするのだ! っぺ!」

キマリ号の長い鬣の中から現れた小さな人物。猫耳の出たフードをかぶり顔を隠しているは、ミケである。その後ろには小さく顔を出している少女達が数十名一緒にキマリ号の背中に乗っていた。

まるでまずいと言わんばかりにアーデムを吐き出したキマリ号はのっしのっしと歩き、オキの目の前まで歩き、そして頭を下げた。

「ミケ!? お前、どこに行っていたんだ…それになんであんなところから…んでもってその子らは?」

「質問は一つずつなのだ。気が付いたらここに出ただけなのだ。ミケはなにも悪くないのだ。」

ミケはどうやらどこか違う場所、違う世界に飛んでいたようだ。理由は分からないらしいが笑いをこらえながらシンキが答えた。

流石一度見ただけで答えが分かる能力『全知なるや全能の星』を持つシンキである。その効力は一瞥するだけで見た物の解を出すことが出来るルーサーもびっくりな万能な能力。これについて知ったら標的がシンキに移る危険性すらあった全知能力…なのだが、大きな欠点があるという。

演算無しで解のみを出すので、本人だけしか解を知る事が出来ない。また、演算無しの為、何故そこに至ったのかなどの過程を知る事も出来ない。この能力で仮面の正体について看破しているし、今回のオフィエルのマザークラスタ側ではなく、アースガイド側についていたとも、マザー決戦直前のやり取りの最中、モニターが見えなくなっているにもかかわらず、アーデムの横にオフィエルがいた事を看破していた。ならばなぜその事をオキ達に伝えなかったか。それは彼ら、彼女らがその手で、オラクル宇宙の運命はオラクル宇宙の人々によって解決すべきと考えているからである。それをオキも知っているからこそ深くは追及しない。

「アーデム卿!」

キマリ号の涎でべとべとになった顔をハンカチで拭きながらヨロヨロと立ち上がるアーデムに肩をかし、彼に傷一つついていない事をオフィエルは確認した。

「あら、アーデム? 少しは色男になったんじゃない?」

ファレグも笑いをこらえているのか少しだけにやけながら肩を震わせつつアーデムを見ていた。

「ああ、心配しなくていい。大丈夫、舐められただけだ。…エンガ、残念だ。本当に、残念だよ。」

「悪いがここで引き揚げさせてもらう。また会える日を楽しみにしているよ!」

アーデムとオフィエルはそういいながらオフィエルの力、空間転移でその場を去って行った。

「あ、逃げられた。」

「オキ! そんなことはどーでもいいから、この子を早く治すのだ!」

ミケがオキのコートを引っ張り、キマリ号の背中に乗っている少女たちを示す。目に怪我をしているのか、目に包帯を巻いている子が一人。また、服が汚れていたり、ところどころ焦げていたりとあまりいい状態ではない少女達を見てこの場はすぐに撤退するしかないと判断した。

「オキ君。一度ここは戻ろう。相手の情報が少ない状況だ。深追いは禁物だろう。」

「隊長…。わかった。そっちはどうする? お姉さん?」

オキがファレグを見ると少し深呼吸をしてその震えを抑えていたファレグがオキの方を向いた。

「ええ、私の目的はアーデムの目的を阻止する事。それは今も昔も変わりません。ですので、ここは共闘と行きましょう。」

「というわけになったわけさ。」

人の進化を自ら行う。それがアーデムの目的であり、その目的のためにマザーを利用した。それが答えだとシンキは言い、ファレグは肯定した。

「融合体の力をどうやって使うか、進化なんてどうやって行おうと言うのかわかりませんが、間違いないでしょう。」

「マザー…。」

「あんの80%おやじめ…。」

「フル、言葉使い悪いよ? でも、オフィエルは許せない。こんな状態じゃなきゃ、すぐにでも探すのに…。」

「しばらくはアークスの力に頼るしかないの。すまぬが、よろしく頼む。」

未だにマザーが目の前で殺された事実を受け止めきれずにいるコオリにオークゥ、フルは怒りを露わにし、アークスの助力をアストロンは求めた。

「体が戻れば、すぐにでも場所を突き止めよう。なに、オフィエルがそばにおるんじゃったら、奴の居場所なぞすぐに見つかるわい。」

「じいさん頼むぜ。俺達もアークスの力を使ってあのバカ探してるんだが、如何せん情報が少なくてなかなか身動きが取れん。あんたらが頼みだ。」

オキはそういってクロに引き続き看病をお願いし、ファレグを連れて病室を出た。

マザー決戦後、アースガイドは二つに分断したそうだ。アーデム側についたアースガイドの構成員はアーデム、オフィエルごとどこかへ雲隠れし、アーデムに付かなかった者達はアースガイドの本部もろとも壊滅したという。壊滅させたのはアーデムだという。

「アーデムめ…。」

壊滅状態にあった本部を目の当たりにしたエンガはアーデムへの怒りを拳で握りしめ抑え込み、オキにお願いをした。

「必ずあいつに一発殴らねぇと気が収まらねぇ。だが、俺達じゃあいつの元にたどり着けるかすら怪しい。頼む。俺達に協力してくれ。」

オキはそれを承諾し、かならず一発殴らせてやると言った。エンガとヒツギは壊滅した本部に残った人々の救援を行う為に本部に残った。

「すまんね。あんたがいた方が信憑性上がると思ってよ。さて、これからあんたはどうするんだい?」

隣を一緒に歩くファレグをちらりとみたオキ。ファレグは相変わらず細目のまま、オキを見た。

「そうですね。私は私なりに彼を追ってみようと思います。いくつか候補がありますので。なにかわかりましたら連絡いたしましょう。」

「わかった。んじゃぁ、地球への連絡船手配するから、なんかあったらおせーて。」

オキは次にミケのもとへと向かった。急に現れ急に連れて帰ってきた少女たち。ミケは誰になにを言われたわけではなく、自ら彼女たちを助けたそうだ。

ミケがそもそも他人に興味持つこと自体がオキとしては興味深い。自分たちについてきているのも興味本位であると言っていたミケの普段の行動を見ていればそれがわかる。他人の事は一切のお構いなし。なにを考えているのかわからない。そもそも人助けという事を自ら行おうとしないミケだが、それらを踏まえても今回の行動は異様である。

「ここか。」

医療施設の一角にある集中治療室。そこにはミケの助けた少女たちの一人が眠っている。目に包帯を巻いていた少女。ミケが連れてきた少女の中では状態は一番最悪だった。

「フィリアさん。」

「ああ、来てくれたのね。安心して。ステラちゃんの目の中にあった異物はすべて取り除いたわ。」

不機嫌そうに言うフィリア。大きなカプセルに眠る少女。名をステラと言うらしい。言葉はしゃべれる上に常に笑みを浮かべ微笑んでいた少女は、眼に鉛を流し込まれていた。

ミケに聞けば連れ出した時にはそうなっていたと言うだけで理由は分からない。むしろよくあの状態で生きていたものだ。

連れて帰った直後、その状態をみたフィリアは困惑したという。

「普通、鉛をあのような状態にするには意図的に流し込まなきゃあんな状態にはならないわ。鉛の鍋に頭から突っ込んだとしても、綺麗に目の部分だけ鉛が流れてくるわけないモノ。つまり、誰かが意図的に流したか、自ら流したか。…でもステラちゃんは自分ではないと言っていた。」

つまりは誰か、彼女ではない誰かが、彼女の眼に鉛を流し込むというアークスであるオキでも恐ろしいと思う程の行為を行ったのだ。フィリアはその事を理解した途端彼女の眼を何としても治して見せると決意したそうだ。

「絶対に許せない。でも誰が犯人かもわからないし…出来る限り彼女の眼は治して見せるわ。」

「すまん。お願いします。」

少しだけ彼女が入っているカプセルに近づき、中をのぞいた。頭に大きなヘルメットのような機械を取り付けられ、静かに眠っている。眼を完全に復活させるのは無理だろう。だが、彼女の意思とオラクルに技術であればまた光を見ることも可能だと言う。必ず、治してほしいものだ。

「エリスちゃんとレインちゃんは今の所問題ないわ。もう少し様子を見たら青空教室の子たちの所に行かせていいわよ。」

フィリアは再び端末を操作し始めた。ほかのスタッフもテキパキと動いている。

ミケが助けた少女たち。それは3つの場所から助け出したという。一つは盲目の少女ステラを助けた場所。そこではもう一人エリスという彼女の妹と共に連れてきたという。

次にレイン。助け出した少女たちの中では一番活発な少女だと思われるが、助けた状況が危なかったそうだ。

大人が多数、寄ってたかって彼女を囲い、ミケが助けなければその中にいた銃を持った男に撃たれていただろうとシンキは彼女を見てそう答えた。なぜそうなったかは気にはなったが、シンキではその過程は分からない。本人に聞けばわかるだろうが、掘り返していい過去でもないだろう。

ステラのいる病室のすぐ隣の部屋にエリス、そしてレインは二人でおしゃべりしていた。入ってきたオキに気づいた二人はぺこりと小さく頭を下げた。

「どうだい? 調子は。」

「うん! だいじょうぶ! お姉さんたちがおいしいごはんいっぱい食べさせてくれたから!」

元気いっぱいに答えたのはエリス。先ほどの盲目の少女ステラの妹だ。ミケが連れてきたときは栄養失調気味で元気もな下げだったが、やはり若い子供はすぐに元気になりやすい。

「うんそうか。だがあまりはしゃいじゃダメだぞ。すぐ体壊しちゃうからね。えっと確か…。」

もう一人の少女は小さくレインと自分の名をつぶやいた。ステラ、エリスよりも年上と思われる少女はまだ元気が無さそうだ。

「アタシも大丈夫…その、前もいったけど、アタシお金持ってないんだけど…。」

どうやら気にしているのは現状の事みたいだ。そりゃいきなり連れてきて病室に問答無用で入れられ、ご飯もきっちり食べさせてもらっている。気になるのは仕方ないだろう。

「別にかまわんとも前に言ったはずだ気にするな。助けたのはこっちだからな。ちゃんと後の面倒も責任もって見るさ。それに、レインちゃんのいた世界のお金が仮にいっぱいあったとしても、俺達の所じゃ何の価値もないガラクタにすぎない。だから何もいらない。」

「じゃあなんで…。」

「んー…。こいつはある物語のセリフでな。俺が好きなセリフの一つなんだがそれを借りると、『助けるのに、理由がいるかい?』 …なんか前にも同じこと誰かに言った気がするな。」

苦笑気味になるオキに、レインは未だに納得が出来ない顔をしている。暫くはこの状態だろうが続ければ納得はしてもらえるだろう。

「ねーねーおにいちゃん。」

エリスがオキのコートを引っ張ってきた。

「ん? どうした。」

「おねーちゃん、元気になるかな…?」

姉であるステラを心配しているのだろう。元気な顔を見せてはいるがそれでも姉があの状態だ。心配もする。

「安心しろ。ここにいるすっごく優しい看護師さん達が治して元気なお姉ちゃんにしてくれるよ。だから、エリスもそれまで元気でいようね。」

頭を撫でるオキにエリスはうんと元気よく返事を返した。

「レインちゃんも、いいね?」

「うん…。わかった。」

小さく頷いた頭をポンと軽く撫でてあげたオキはミケが助けた3つの場所から連れてきた最後の少女達の場所へと向かった。

青空教室の子とミケが言っていた少女達。現在はオキのチームシップにて過ごしてもらっている。

病室の外にでたオキは転移装置をぬけ、チームシップの中に入ると騒がしい声が耳に飛び込んできた。

今まで滅多の事が無い限り使用されることのなかったチームシップ。SAO事件後は攻略クリア祝いに使った後、不定期ではあるが惑星スレアの友人たちがオラクルに遊びに来た時に使う程度。そんな場所に少女たちの声が響いていた。

「にゃははは! つかまえてみるのだー!」

「まてー!」

「まてまてー!」

どうやらミケを追いかけているらしい。その直線状にいるオキの姿を見たとたん走るのをやめ、一瞬だけ頭を下げたと思った矢先、すぐに他の少女たちのもとへと移動してしまった。

「あとは任せたのだ!」

「え? あ、おい!」

ミケはジャンプしてオキを飛び越えると転移装置でどこかへと飛んで行ってしまった。

一息ため息をついたオキはグルリとシップの広いホールを見渡した。何十人もの人が座れる横長の椅子。中央にある檀上。その先にある巨大な緑に光る木。それをグルリと囲むように広がる広間に、巨大な窓。その窓の近くに少女たちは固まっていた。

オキの姿を見たとたん全員がシンと静かになる。

「あの…。」

一人の少女がオキに話しかけてきた。凛とした顔つきではあるが、少々幼さがまだ見える。他の少女達とは違う服装を来てミケに連れられてきた少女たちの中でも一番年上だと思われるシスター。

「ええっと、確か名前は…エステルさんだったね。少しは慣れた? っつっても、無理か。」

苦笑気味に笑うオキに対し、少しだけクスリとほほ笑んでくれたエステル。だが、その顔も無理して作ってくれているとわかるくらい、まだ困惑しているだろう。

「ミケに聞いたよ。大変だったんだってね。まぁ大変って言葉で終わらせちゃ失礼だけど…。」

少女達、孤児である彼女たちはシスターがいたという小さな孤児院で生活していた。少女たちの先生役をしていたシスターは小さな孤児院内では少女達を学ばせることが出来なかった為に青空の下、『青空教室』と名前を付け過ごしていたという。

ある日、急に現れたミケに全員同時にキマリ号に乗せられたと思った矢先、孤児院及び周囲もろとも巨大な爆発が起きた。ミケによって間一髪のところを助けられたらしい。

「ミケさんの助けで私たちはこうして今でも生きています。本当になんと申し上げてよいか…。」

深々と頭を下げるエステルとそれにつられ一緒に頭を下げる少女達。

「別にええよぉ。ミケが助けたからこっちも責任あるし。助けたからには世話はちゃんとしないとね。もう元の場所には戻れないみたいだし。青空教室…だったっけ。それが星空教室になっちまったな。」

オラクル船団の多数浮遊するアークスシップとその先に広がる大宇宙の星々。それが窓の外で光り輝いている。青空の下、少女達は勉強をしていたというが、その青空は目にすることが出来ず、青空が星空となった。

シンキに確認してみれば、別の世界次元を無理やり通ってきたらしく、二度とその扉を開かせることは不可能だと言う。

そうなれば、こちらで世話をするしかない。助けたのはミケだが後の事は完全にこちらへ投げている。流石にこの人数がすぐに過ごせる場所を確保できなかったので、とりあえず自分たちが自由に使える広い場所という事で、このチームシップを使ってもらっている。

「今はまだここで寝泊まりしてもらうしかないけど、もう少し落ち着いたらこのシップの中にちゃんとした部屋作って寝泊まりできる場所を作るから待っていてくれ。欲しいものがあったら言ってくれ。何でも用意するからよ。」

「ん? いま何でもって。」

後方から聞こえてきた声にオキが振り向いた。すると山のようにたくさんのぬいぐるみを抱えてコマチがやってきたのだ。

たくさんの種類のぬいぐるみを見て目を見開き、驚く少女達にオキがにこりと微笑んだ。

「おーお。頼んだとはいえ、こりゃいっぱいもってきたなぁ。とりあえず、殺風景な場所だからもう少し女の子たちが過ごしやすくしようと思って…ほいおまえら。好きなの持って行っていいぞ。ほれほれこわーい顔のオッチャン達からのプレゼントだ。」

ニコリと笑うオキの顔とたくさんのぬいぐるみをみて顔を見合わせた少女たちはすぐに笑顔になりぬいぐるみめがけて走り出した。

「おっとっと…ほれほれ、いっぱいあるからあわてなさんな。」

「あの…えっと、本当によろしいのですか? こんなにいっぱい…。住む場所も、食事もこの人数ですし、更にこのようなことまで…。私にはお金もなにもありませんと最初に申した通りですが…。」

少女達が笑顔でいろんなぬいぐるみの中からお気に入りを見つけている中、エステルは困った顔をしてオキに近づいた。

そりゃそうだろう。いくら命を助けられたからとはいえ、いきなり連れてこられ場所を提供してもらっただけでなく数々の家具や食事、このようにぬいぐるみまで。しかもすべてオキ達の負担でだ。

「だから言っただろ。こっちが助け、こっちが勝手に連れて来ちまったんだ。こーんな変な場所にいきなり連れてきて、命は助けたから後は勝手にしな、なーんて言えるわけないだろ。過ごしやすいようにするさね。報酬とかいらねーよ。こちらと一人二人どころかこれくらいの人数だったら増えようとどうという事はない程の蓄えはあるからね。」

オキは近くにあったラッピーの手乗りサイズのぬいぐるみをエステルに手渡した。それをみたエステルは涙ぐんで再びありがとうと、オキに礼を言った。少女達もオキやコマチの前に笑顔でありがとうと一斉に口にした。

後に聞いたが彼女たちは決して裕福だったわけではない。その日々はなんとか暮らしていける状態だったという。他の大人の支援もない。むしろ悪い状態だったそうだ。そうした日々を過ごしていた彼女達青空教室の少女たちはいきなり青空から星空の下へと移動し、いきなりたくさんの支援を受けた。驚かないわけがない。

「マスター、ちょっといい?」

チームシップを後にしたオキはオキを追いかけてきた少々不機嫌になっているクロノスに呼び止められた。

「あの子たちの事なんだけど。」

ミケが助け出した少女達。クロノスの眼には運命が一度止まった形跡があるという。その形跡はどれも悲惨な運命を形作っているそうだ。現在ではその運命もこのオラクルに来てからなのか、ミケが介入したからなのかは不明だが、少なくとも不幸な運命にはならない事をクロノスから伝えられた。

「相変わらず人の運命をコロコロ変えちゃってるけど、普通はそんなことしたら怒られるからね。」

怒られるだけで済めばいいのだが。そう思いつつオキはクロの機嫌を直すためにメロンパンを与えるのであった。

3つの場所から悲惨な運命となるはずだった少女達を救い出したミケ。一体何を思って助けたのだろうか。

「みんな笑顔。いいことなのだなー。」




皆さまごきげんよう。今回はミケの要望に応えて後半半分追加で書き足しました。
まずは前半のアーデムについて。ここは本家ではシリアスなシーンでしたがせっかく自由に書いてるのでミケに乱入してもらおうかともくろんでました。最初はドヤ顔で意気揚々としゃべっているアーデムの顔に落書きでもさせるつもりでしたが、ミケ本人に「どうしたい?」と聞いたところ「じゃあキマリ号に食べさせる。ついでにぺってはかせる。」と予想斜め上の回答が。よって涎も滴るいい男になってしまったアーデムが誕生しました。
後半は珍しくミケの要望で「この子たちを助けた物語が見たい」とのことでしたので追加で書き足しました。ミケの珍しい一面が少しだけ見れたのではないかと思います。ちなみに彼女たちの原作はとあるアニメからです。一部オリジナルも付け加えていますが(名前とか)
さて、次回はアーデムを追ってある場所へと向かうお話になります。
ではまた次回にお会い致しましょう。


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第140話 「向かうは地の底」

「兄さん! 兄さん!」

「どうした!? ヒツギ! …ッ!!」

ヒツギの声にエンガが向かうと、銀色の翼を背中から生やした騎士のような姿のモノが3体空に浮いていた。

「っち!」

エンガは素早く具現武装を具現化し、銃口から数多の弾丸を『ソレ』に向かって放った。銃撃音と共に前方に走ったヒツギは『ソレ』めがけて飛び上がり天叢雲を具現化すると同時にそのうちの一体を縦に真っ直ぐ切り裂いた。

「ふっ!」

空を羽ばたいていた『ソレ』は持っていた巨大な槍をヒツギへと目標を定めて横から突き刺しにかかった。だが、ヒツギは槍を弾き横一閃をくわえる。よろけたところをエンガの弾幕が襲い3体の騎士はガラスが砕けるような音を立て砕けて、最後は煙となり消えて行った。

「またあいつらか…。」

「ねぇ、本当に助けられないのかな。オキさん達なら…。」

ヒツギがアルに顔を向けたが、アルは首を横に振った。それをみたヒツギは肩をがっくりと落す。

ラスベガスの一帯、アースガイドの本部があった場所は今でも瓦礫の山と化している。生き残っていたスタッフメンバーがちらほらとエンガの眼に映り、瓦礫を少しずつどかしている。崩壊した理由はこの本部の長であり、皆のトップであったアーデムが原因だ。

生き残ったメンバーからの話ではアーデム側に付いたアースガイドのメンバーは一人残らず先ほど襲ってきた騎士のような姿の化け物に変化したという。そしてその翼の生やした騎士は本部を壊滅させ、アーデムと共にどこかへと消えて行ったそうだ。

変化したなら戻せないのだろうかとすぐに思ったヒツギ達だが、その力の受け具合を感じ取ったアルは変異した人を戻すのは不可能だと断言した。

「おーい! エンガさーん! こっちきてくれー!」

一人のメンバーである男がエンガを呼んだ。エンガとヒツギは顔を見合わせ頷き合った。まだ助けれる人がこの下に埋まっているかもしれない。立ち止っている暇はないのだ。

「なんだか、にぎやかになりましたね。」

「女の子…いっぱい。」

「ほんとオキって人助けすきだね。」

圭子(シリカ)と美優(ハシーシュ)、琴音(フィリア)がアークスシップへオキに会いに来ていた。ここ最近の状況をオキが説明し、その状況を見せたのだ。

先日ミケが助けてきた青空教室改め星空教室の少女達が過ごすチームシップ。今まで椅子とチームツリーだけがある何もない場所であった。しかし今ではたくさんのぬいぐるみが敷き詰められたエリアやなぜかここにいて寝ているキマリ号。その上にはミケがお昼寝中。ファンシーに飾られた壁、そして急きょ作られた窓際の教室である。今まではエステルが勉強を教えていたが、こちらの世界では何の役にも立たないので先生役として別の人物を代行として呼んだのだ。小さな姿が教壇の上に立っている。

「こまっちーが連れてきてくれたファータ・グランデ宙域の仲間内だそうだ。快く引き受けてくれたよ。」

「話には聞いていましたが本当に小さな人ですね。」

「ハーヴィン…だっけ?」

ハーヴィンとはファータ・グランデ宙域にいるいくつかの種族の一つで、オキ達アークスや圭子ら含む人型の種族と比べると体が小さく、大人でも身長が100cmに満たないとても小柄な種族だ。大人の姿にトラウマがある子たちが多くいるようで、どうしてもアークスシップにいる普通の講師では怖がられてしまう為、こうしてコマチに連れてきてもらった。

「私達からすれば宇宙人かー。あ、オキもそうか。」

笑う琴音にワレワレハウチュウジンダとオキが言うと小さく悲鳴を上げて逃げ回り、騒がしくならない程度に逃げる3人をオキは追いかけた。

オキはフランカ’sカフェでお茶をしながら圭子達の近況をきいて、談話している中、オキは丁度話をしておきたかった事を3人に話をし始めた。

「地球での一件が終わり次第すぐに【深遠なる闇】に最終決戦を仕掛けるつもりだ。」

シャオの演算はほぼ終えており、現在準備段階にあるという。その準備も順調に進んでおり、地球での一件が終われば直にでも最終決戦へのアプローチを開始するとシエラ経由で伝言を受けていた。

先の戦いで一度撤退した【深遠なる闇】がどのような状態で再び姿を現すのか、シャオの演算内では前回よりも強力な力を蓄えてくる可能性が高いと踏んでいる。

「負けるつもりはさらさらない。だが、絶対帰ってくる保証はできない。もはや今更感だけど、覚悟はしておいてほしい。」

オキの言葉に圭子達はゆっくりと頷いた。彼女たちはオキを慕ってここまでついてきた。覚悟は最初から決めている。

「私たちは大丈夫です。絶対帰ってくるって信じてますから。」

「帰ってきたら…デート。」

「あ、それいいね。もちろん、みんなのパターンと二人きりのパターンの両方ね。あ、ユウキちゃんとかも呼ぼうか!」

すでにどこに行こうかと、なにをしようかと話を始める圭子達に気合を入れられた気がしたオキの元に一つの連絡が入った。

「ん? ああ、今はフランカさんのカフェだが? …わかった。すまねぇな。せっかく来てくれたのに仕事のようだ。」

三人の見送りを背に気合を入れ直すオキは艦橋へと向かった。

「では、私達も行きましょう。」

「もう少し…。がんばる。」

圭子、琴音、美優はオキの姿が見えなくなったのを確認するとアークスシップの別の場所を目指した。そこにはすでに一緒に来ていた和人や明日菜、そしてユウキも一緒にいた。

「やっほー圭子! 琴音に美優も!」

「ユウキさん、和人さんに、明日菜さんも。」

大きな機械のタッチパネルを操作していた和人が圭子達の方を振り向いた。圭子達の後に続き、続々と集まってくる。

かつてオンラインゲームで共に戦ってきたメンバー達。アークスに助けられた面々がその場に集まってきた。

「こっちは準備できているよ。」

「それじゃあ、はじめましょっか。」

惑星スレアのオンラインゲーマー達は自分たちの家にあるギアと同じように頭にヘッドパートを取り付け、その装置を起動させた。

「「「リンク、スタート!」」」

「エンガからの連絡があったって?」

「ごめんね、オキさん。圭子ちゃん達来てるのに。」

あやまるハヤマに別にいいと一言言って、オキは現状の確認をした。

エンガ達のいるアースガイド本部の跡地に、地下への道が見つかったそうだ。ただの地下への道ではなく、スタッフ全員その道の存在を知らなかったという事。偵察にヒツギ、エンガが向かったところ、巨大な地下遺跡が目の前に広がっていたという。

直に地上へと戻ったエンガはアークスへの救援を依頼した。

「エンガさん曰く、そこからここ数日現れ続けている翼の生えた騎士が出てきたそうです。」

「ふーん…アーデムに関係ありそうだな。」

その翼の生えた騎士がアーデムと関わりあるのはエンガから聞いている。そこにいる可能性は高い。

「うっし、全員で突っ込むぞ。」

「おっけー。みんなに集合するように言っとく。」

ハヤマは守護騎士全員への通達を行い、シエラは素早く全員が地球へと降り立つ準備を整えた。

「これで、OKです! オキさん、ハヤマさん、よろしくお願いします。守護騎士、出撃!」

オキ、ハヤマ達はアークスロビーにて合流。

「ミケは?」

「昼寝してるみたいよ。」

「コマチ君は、ファータグランデか。」

「マトイちゃんはハルコタンに行ってるみたい。」

クロノスは相変わらずマザークラスタのメンバーの様子を見てもらっている。結局今いるメンバーで地球、ラスベガスへと向かった。

到着後、シエラに地下の状態をスキャンしてもらった。アースガイド本部跡地の地下は巨大な地下遺跡となっていた。

「とても深く大きな遺跡です。ただ、その階段がその遺跡の中心を貫いている柱にくっついているので、そのまま降りちゃってください。」

「降りれば、アーデムがいるのか?」

エンガの質問にオキは少しだけ首を傾けた。

「いや、いるかどうかは言ってみないとわからん。だが、こういう遺跡ってのは最深部の中央に大事な門があるってのが定評だろ?」

オキの言葉にエンガは少しだけ笑い、すでに走り始めたハヤマとアインスの背中を追った。シンキは直ぐに別行動をとり、下へと降りていった。

「進むと言ったはいいが、うーむ…。」

階段を下り続けるも底が見えない。降り始めて数十分がたったが、底が見える気配は一向にない。翼の生えた騎士たちだけが下から沢山登ってくるため思うように進めなかったのだ。

「めんどくせえ。」

思った以上に進めなかったオキはだんだんイライラしてきた。そしてとった結論はいたって簡単だった。

「はやまん、隊長。エンガを頼む。」

「え?」

そういってヒツギの肩と膝を抱え、階段の淵に立った直後そのまま下へと落下した。

「え? きゃああああああ!」

「まじかい。」

「まぁ彼なら大丈夫だろう。こっちも行こう。」

顔が引きつっているエンガの肩を掴んだアインスはそのまま一緒に下へと落下していった。

「やれやれ。」

ため息をついたハヤマも下へと降りていく。

降りていオキ達に襲いかかる翼の生えた騎士たち。落下しながらヒツギやエンガを守りながら一気に落ちていく。

「ん?」

目の前に光る何かが通り抜けた。フィールドのような何かを通り抜けたオキ達の落下スピードは急激に落ち、先程まで落下していた遺跡の風景も真っ青の空間にかわった。

「これは…。」

アインスたちもオキに追いつき、その空間が異常であるというのは直ぐにわかった。

翼の生えた騎士たちも大量に現れ、オキ達を囲む。

「罠か?」

「なんでもいい。突き進むだけだ。」

「だね。それじゃあ片付けます?」

それをみたオキたちは自らの武器を構えて3方向に散った。

「「「上等!!!」」」

口を歪ませ、敵の塊に突っ込んだアークス3名。それを援護するエンガとヒツギ。

大量にいた騎士たちは直ぐに片付いた。片付けた直後に拍手がその場に響く。

「さすがはアークス。予想通りだ。だがそれもここまでだ。この空間は外の世界と時間の流れが違う。そしてそれを制御しているのは私。君たちは閉じ込められたのだ。これ以上アーデム卿の邪魔はさせん。」

胡散臭い白衣の男、オフィエルがその場に現れたのだ。オキは彼の言葉で確信する。アーデムは下にいる。

「そうかい。ならばこの空間を制御しているおっさんを倒してこの空間を解くってほうほうを取れば進めるよな?」

オキの言葉を聞いて高笑いしたオフィエル。

「そうだな。私を倒せばそれも可能かも知れない。だが、それは不可能だ。なぜならここは私が制御する空間。全てを操作できる。私に攻撃ができるかな?」

構えるオフィエル。空間のいたるところからメスの顔が覗く。

「っへ。試してみるさ!」

マザークラスタ改め、アースガイド北米支部局長オフィエル戦が開始された。




皆様、ごきげんよう。
暑い。。。暑すぎる。アークスになりたいと思う日々。皆様いかがお過ごしでしょうか。
オフィエル戦にはいる回でしたが、途中まで書いていたのが保存できていなかったのか半分消えていました…。
おかげで途中で心折れてオフィエル戦突入で止まりましたナンテコッタイ。
次回こそはオフィエルにいろいろ楽しんでもらいましょう。

では次回にまたお会い致しましょう。


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第141話 「その間違いとその答え」

オフィエル・ハーバード。

「マザー・クラスタ」の一員で水の使徒。表向きは医者を務めており、「神の手を持つ外科医」の異名を持つ。その為か物事を医学用語で例えたりする事が多い。医療機器が無くとも対象の肉体的変化を分析する事も可能な特殊な存在だった。

マザー・クラスタに入った理由は、人類は技術的にも遺伝子的にも精神的にも退化しそうな程行き詰っていると判断し、エーテルやマザーを利用して人類の世界再編(パラダイムシフト)を行うためであった。地球の未来の為ならいかなる犠牲を払ったり、自らの手を汚しても構わない強い覚悟を持っていた。

そのため、アーデムの正体をしり、アーデムの意思に同意するようにマザークラスタを離反。スパイとなる事でマザークラスタの動向をアーデムへと流していた。

マザーの力を得たアーデムと共にアースガイド本部へと帰還直後、アーデムが部下の一人にエーテルを打ち込み幻創種へと変貌させるという光景を目の当たりにした。

人類を無理やり進化させるというアーデムの行いに驚愕するなど、本質的な部分で彼の目的は知らなかった。

「だが、それでもアーデム卿の意思に間違いはないと私は思っている。だからこそ貴様たちの前に立ちはだかっているのだよ。」

大量のメスを空間のいたるところに出し、オキ達アークスへとその刃を放った。

「っは! そんなんで人は歩みを止めねぇと? ふざけんな。人は何かを与えられるだけでなく、自ら歩むことで進化をする。それを忘れちまったらもはや人ではない!」

エルデトロスから出される豪風でメスがはじかれる。ソレを見て舌打ちをしたオフィエルは風にのせるようにメスを流し込んだ。

「人と言うのは与えられることもあるだろう。私もそうだ。皆からたくさんの大切なものを与えられた。だが、それだけでは進めなくなる。それは進化ではない。」

風に紛れ込んできたメスをすべて切り落とすアインスは語る。人とはなにか。たくさんの人を見てきた彼だから、大勢の人を守ってきた彼だからこそ言える重みである。

「それにあんたはどうなんだ? 進化、進化といっているけど、あんたはそのままじゃねぇか。進化したいなら、あんたもなればいいじゃねぇか。それをしないという事はただの言い訳に過ぎない。自己満足、自己中なだけなんだよおっさん。」

ヒツギ、エンガにも襲ってくる大量のメスを瞬時に斬り落とすハヤマはオフィエルを睨み付けながら言った。

「ふん! 言うだけ言えばいい。どちらにせよここは私が許可をしない限り絶対に出られない異空間! 貴様たち病原菌を浄化する、滅菌室だ!」

再び大量のメスを空間いっぱいに出現させるオフィエルは大きく笑った。

「威勢のいいことばかり言っておいて、何一つ手が出せてはいないではないか。そんなことでアーデム卿を止めるだと? バカも休み休み言え。」

「バカ? バカはお前だオフィエル。病巣だ、病原菌だ、俗物だの今まで散々っぱら言いたい放題…黙って聞いてりゃ好き放題言ってくれたな。…で? 絶対出られないって?」

「ああ、そうだ。この空間は私が作った異空間。私以外では入りすることなど不可能…!」

オフィエルが空中に浮いたメスをオキ達へ飛ばそうとした瞬間、空間の一部がまるでガラスのように割れ散った。

「まったく。いくらなんでも無防備すぎよ? オキちゃん?」

一人の女性がコツコツと靴の音を鳴らしながら静かに割れた場所より入ってくる。さらに別の場所が大きく砕け散った。

「あら、すでに助けがあったのですねぇ。私は必要ありませんでしたか。」

黒いドレス姿の女性が困った顔をしてその空間に足を入れてきた。そして最後にまた別の場所が丸く綺麗に切り取られ、穴が開いた。

「マスター! 助けに来たよ! …ってすでにシンキが来てたのか。」

白き翼を羽ばたかせ、一人の小さな少女が異空間に入ってくる。その様子を見ていたオフィエルは目を見開き、大量の冷や汗をかいていた。オキはタバコに火をつけながら口を歪ませ、笑った。

「で? もう一度聞こうか。おっさん以外出入りはできないって?」

「ばかなばかなばかな! 私の…空間を…破ってきた!? ひぃ…!」

逃げようとするオフィエルにオキがクロへ指示をだした。

「逃がすな!!」

「了解!!」

更に同時に逃しはしまいとシンキ、ファレグが同時にオフィエルへと手を出そうとした。クロノスはすかさずオフィエルの身体の時間を停止させる。急に止まった事でシンキとファレグの掌底、拳がオフィエルの左顔面、右横腹へと激突した。

何故だ。なぜこうなった。オフィエル・ハーバードはその、無限の時の中で今か今かと来るその時に恐怖しながら止まったままの身体の中で考えだけを繰り返していた。

数十分前まではこちらが有利だった。だが、あいつらがやってきた。私の異空間をいとも簡単に壊して入ってきた3人。

魔人、ファレグ。まさか私の空間を壊して入ってくるとは。

あの病原菌共の仲間…たしか魔人…いや魔神とか言ってたが…。私の異空間を閉じたのもあいつだ。一体何者なんだ。

そして最後に翼の生えた…天使。あいつのせいで私は…私は…!

「あら…。思い切り殴ったつもりだったのですが。何も起きませんねぇ。」

「クロちゃんの力ね。身体の時間が止まってるから無事だけど、これ動いたら私の力もそのまま反映されるでしょ?」

痛くない? 私の身体はまだ無事なのか。一瞬死んだかと思ったが。ん? からだが動かない。顔も、手も、足も!?

いったいなんだこれは。身体の時間が止まっていると言ったな。何者なんだこいつらは?

「うん。ボクの力で現状は維持できてるけど…。」

「二人の力が左右双方同時にかかったから…これおっさん死ぬんじゃね?」

まさか…私の顔と横腹にこの二人の力が加わった今、それを動かすとどうなるか。計算なんかいらない。予測なんかいらない。

魔人ファレグの力は知っている。こいつらアークスは自分よりも巨大な化け物を素手で吹き飛ばすことが可能なくらい力を持っている。そんな力が左右から…。

「んー…動かさなきゃ生きてるけど、動かしたら…ダメかなぁ。」

助けてくれ…助けてくれ! 私はまだやらなければならない事があるんだ! おい、貴様! オキだったな! 私を助けてくれ!

口が動かない…。これでは意思疎通が出来ん…!

「んー…しかたねぇ。このまんまにしとけ。…あ、せっかくだ。意識だけは時を動かせるか?」

「え? 身体だけ止めるつもりだったから、意識はあるはずだよ?」

現にこうして私は動けないが、意思はあるぞ少女よ。このままでは頭と体が反対方向に飛んで行ってしまう。

時が動き出せば体と頭は別々の方に飛んで行ってしまう! そうすれば…私は!

「おっさん、残念だったな。おっさんの命はここまでらしい。とはいえおっさんの弾け飛ぶ姿を女の子に見せるのは酷だからな。悪いけど、この異空間内でいってもらうよ。隊長、はやまん、ヒツギ達つれて先に行ってて。シンキ、俺らが外に出たらこの空間、閉ざすことはできる?」

「ええ、お安い御用よ。」

おい、まってくれ…私を置いていかないでくれ! 謝罪する! 許してくれ! 頼むから!

「クロ、ちょっと。」

「ン? なに? …え? まったく、マスターも悪なんだから。」

なんだ? 何を話している。おい、貴様。何を企んでいる。そんなニヤ付いた顔でなにを言おうというのだ。

「それじゃあなオフィエル。…ああ、言いそびれたけどクロにはいつその時が動くかランダムにしといてもらった。クロでももういつ起きるかわからないそうだ。」

「1秒後かもしれないし、1分後かもしれない。もしかしたら…1000年後かもしれない。まったく、マスター実はダークファルスの因子まだ残ってんじゃないの? まぁ、この空間が閉じた瞬間からだから、今はまだ大丈夫だから安心して。ただ、この空間は時の概念がなくなるから…万の単位、入るかもね。クス。」

な…なんだと? どういう意味だ。いったいいつ動くのだ。私は死ぬのか? いつだ…いつ…おい、助けてくれ。置いていかないでくれ! 私は…私はただ世界から戦争を無くすことであり、医術で助けても助けても延々と続く人間の争いに嫌気が差したため、それを無くすことを目的に動いていただけなのに…どうして…どうしてこうなったぁぁぁぁ!

「どうして? 答えは簡単よ。貴様が敵にしたのが我々だったからだ。雑種。」

「ん? なにか言ったかシンキ?」

空間を閉じたシンキが何かを言ったような気がしたオキが質問したがシンキは首を横に振った。

「にしても恐ろしいことするわね。いつ死ぬかわからないって…いつまでたってもあれじゃ死ねないわよ?」

どうやらシンキにはオキの考えが丸分かりらしい。まぁそれもそうだろう。シンキに隠し事は通用しない。

オキがクロノスに頼んだのは異空間ごと時を止め、異世界を閉じ込めさせた。これにより無限の時間、あの空間はあり続けることになる。そしてその中で身体の時を止められたオフィエルは、永遠にあの場にとどまり続ける事となる。実はオキの言ったいつ時が動くかわからないという発言は嘘である。クロノスはそのような事が出来ない。なので永遠という時間の中、いつ自分の身体がはじけ飛ぶのかわからないという恐怖を永遠に味わう事となる。

「あのやろう、俺達を病原菌だの俗物だの好き放題言っただけならまだしも、一番の根底である『邪魔』をしたんだ。何があっても許さん。」

「ほんと男には容赦しないわね。まぁ、いいけど。」

微笑むシンキ。その時ファレグが下より大量のエーテルの反応が近づいている事に気づいた。

「おしゃべりしている暇はなさそうですね。マザークラスタの皆さまも来られたようですし、ここは…私達に任せていただけませんか?」

ファレグの言う通り、この場にはマザークラスタのメンバーがいた。アラトロン、オークゥ、そしてフルである。

「クーちゃん達大丈夫なの? じいさまも。」

オキが心配そうにアラトロンをみた。だが心配ないと笑うアラトロン。オークゥもウィンクする。

「100%大丈夫。マザーの敵…取ってこないと、150%あんたの事許さないから。…絶対、100パ…いえ、200%帰ってきなさいよ。」

「クロノス様に看病いただいた御恩、この身を捧げお返しします。」

クロノスが様付されている事は後で質問することにしたオキは10体、20体と上から下から増えてくる甲冑騎士たちをすり抜け、マザークラスタへと託した。

「いけ! 宙の武士たちよ! 我らが地球の運命! そなたらに託したぞ!」

アラトロンの大声にかつがはいるオキは、更に下へ下へと降りて行った。

巨大な扉。下に向かう階段はもうない。その扉を前にオキ達は顔を見合わせ、頷き合った。

地下深くに伸びた遺跡の最深部。その奥にあった大扉の向こう側。広い円状の大広間にアーデムが…いた。

「おや、思ったより早かったですね。やはりオフィエルは時間稼ぎにも失敗しましたか。んー…困りましたねぇ。まだもう少しかかりそうなのですが。」

「マザーの敵! 絶対許さない!」

ヒツギが具現武装天叢雲剣を具現化し、アーデムに向ける。

「おやおや、つい先日まで敵対していたあなた達がどうしてマザーの敵を? あなた方の敵を倒したので、逆に感謝してほしい所ですがねぇ。」

「アーデム、おめぇ本気で言ってんのか。」

「ええ、本気ですよエンガ。」

エンガはアーデムの言葉が全て本気で彼の意思だというのを顔で判断した。

「途中見た甲冑騎士の化け物。あれ、おめぇさんが作ったんだってな。話じゃアースガイドのスタッフだとか。合ってるか?」

眼をぱちくりさせたアーデムは何事もなかったかのように答えた。

「ええ、それが何か? とはいえ、あれはマザーから得た力でエーテルを送り込み、「進化」させようとするも近衛兵は身体が負荷に耐え切れず幻創種へと変貌すると同時に死亡してしまった、失敗なのですが…。」

「アーデム! てめぇ!」

エンガが具現武装の銃でアーデムを容赦なく撃った。だが、その弾丸はアーデムのレイピアでことごとく切り裂かれる。

「『進化』とは、『楽園』に住むに相応しい存在へと昇華すること。そのための手段としてマザーの力でエーテルを人の体内に打ち込み、僕の中にあるイメージを変異という形で具現化させているのだよ。言っている意味、分かるかな? エンガ?」

遠くにいたアーデムは微笑んだままの顔を崩さず、一瞬で近づきエンガの腹に掌底を喰らわせた。そのまま壁に激突かと思いきや、アインスのとっさの守りで防ぐことが出来た。

「つつつ…すまねぇ。っち、今のでアバラが何本か…。」

「安静にしていたまえ。ヒツギ君!」

「にいさん!」

吹き飛ばされ、アインスに助けられた兄をみてほっとするヒツギはエンガの近くまで走ってきた。

「彼の近くにいたまえ。君が、兄を守るんだ。」

「…すまねぇな。ヒツギ。アインスさん、頼みます。」

「ああ、任せろ。我々に負けの字はない。そうだろ? オキ君。」

タバコに火を付け、ニカリと笑うオキはああ、と一言返事をしてエルデトロスの力を解放した。

地下であるにも関わらず、強風を巻き起こすエルデトロスを持つオキの後ろにハヤマ、クロノス、アインスが立つ。

「いいでしょう。どちらが正しいか、勝負です!」

1対4。普通に考えてオキ達の有利だろう。だが、それを見てもシンキはアーデムの余裕ある眼をじっと見続けた。

「あれ? シンキさんは戦わないんですか?」

「ええ、私は後で。」

シンキ。すでに後の戦いまでもその眼で見抜いていた。

『まぁ、心配まではしないけど…ここで倒しちゃったら、面白くないでしょ?』

クスリとほほ笑むその美しき女性の顔にヒツギはどこか恐ろしい魔神の顔が見えたという。




皆様、ごきげんよう。
オフィエルにはこの上ない永遠の時を生きてもらうとしましょう。その考えを辞めるまで。
このペースでかければ夏期休暇前までには書き終わりそうです。夏期休暇には新たな作品の方を書き始めたいですね。とはいえ、さいきんいろいろ忙しいのでどこまでかけるか…。
まぁ頑張って勧めます。
しかし暑い日々が続きますね。外に出れば焼けて焦げて溶けそうです。
みなさんも体調管理にはお気をつけてお過ごし下さい。水分大事やで。
では次回またお会い致しましょう。


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第142話 「地球意志の具現」

アースガイド地下巨大遺跡の最奥。多数の剣戟の音、響き渡る戦いの怒号、そしてその音が静かに消えて行ったとき、アーデムは地面に伏していた。

「は、ははは。まさかこの僕が…。原初の魔法使いであるこの僕をあっさりと倒しちゃうなんて…。」

「相手が悪すぎたな。あんたがどんな人物だろうと、こちらと宇宙の最悪と普段から戦ってんだ。1惑星内でとどまっているあんたに勝ち目はない。」

エルデトロスの刃先をアーデムに向けたオキはタバコに火をつけながら言った。周囲で共に戦っていたハヤマ、アインスもじっとアーデムをにらみ続けている。

はっきり言って相手にならなかった。いくら分身してこようと、いくら瞬息の刃を振るおうと、それ以上のパワーと数で襲ってくるダーカーやダークファルス相手に毎日殺し合いしているアークスの、しかもその主力クラスが相手では怪我ひとつさせることが出来ればいい方だ。内心、オキは一瞬冷や汗ものの攻撃を喰らいかけたが。

『っぶねー…。あんな動きしてくるとは。あそこだけはやばかったわー…。』

アーデムの渾身の一撃であっただろう捨て身の大技。4つの分身体を集結させての全方位レーザー。オキの防御が、ハヤマのスピードが、アインスのパワーが押し負けるとは思ってもみなかった。だがそこまで。クロノスの力により押し負けただけでその後の追撃は防ぎきった。クロノスがいなければやばかったのは間違いない。あとでメロンパン奢ってやろう。

「アー…デム。もうやめろ…。お前の…負けだ。」

よろよろとヒツギの肩を貸してもらい歩いてきたエンガは悲しそうな顔でアーデムを見ていた。

「これで、これでいいんだよエンガ。これで、神降ろしは…完成する。」

「神、降ろし? どういうことだ…アーデム!」

叫ぶエンガを微笑みながら見つめるアーデムはゆっくりと体を起こした。

以下に想像、具現の産物といっても髪が無償で顕現するわけがない。その降臨には、それに相応しい供物が必要になる。神が入るための器。アーデムはそう説明した。

「例えば…人の範疇を超え、神の呪いを受け、長い長い時をいきてきたものの、身体とかね。」

エーテルの光を体全体から出しながらゆっくりと空中に浮かんでいった。

「アーデム!」

「エンガ、ヒツギ! 下がれ!」

「なんだ…あれは。様子がおかしいぞ。」

「嫌な予感しかしねぇ。」

『強力エーテル反応!? 巨大な力がアーデムを包み込んでいます! 幻想種!? …いえ、なにか違います! 気を付けてください!』

シエラの通信が耳に入る。そのあわてぶりから目の前で起きている事が異常であるのは間違いないだろう。オキをはじめ、ハヤマ、アインスはヒツギやエンガを後方に下げ、武器を構えた。

「さぁ、くるわよオキちゃん達。私を落胆、させないでね?」

「マスター、気を付けて。ただの幻想種じゃない。…これは。」

クロノスは感じていた。暴風となり土煙を竜巻と一緒に巻き上げアーデムの身体は見えなくなっていた。その中にいるであろうアーデムから感じたソレは自分の知っている何か。かすかではあるが、ソレを感じたクロノスはそれがただの幻想種で無い事をオキ達に報告する。

シンキは分かっていた。ソノ眼で見たとき、男の中にある目的とその結果。ソレが見えた時彼女はある考えをもった。後のオキ達が経験するであろうソノ存在との対峙。この個体はほんのかすかではあるが、今後出会うソレと同じものを本当にかすかではあるが所持している。これに対応しきれなければ、オキ達の未来はない。

「っは。落胆だと? 何が来ようと全てぶっ飛ばすだけよ。なぁ隊長!」

「ああ、全てを斬って進むだけだ。」

「その通りだね。シンキに何が見えているのか知らないけど、俺達はいつも通り突き進むだけ。こんなところで立ち止まるほうがどうかしてる。」

オキ、アインス、ハヤマは笑いながらソレを見ながら言葉を発した。その言葉に満足したのか、それとも『ほんの少しはできる可能性がある相手』だからだろうか。それとももっと先を見据えての微笑みか。シンキはゆっくりと離れて再び空中で様子を見始めた。

風がやみ、土煙が収まり始めたころ、ソレはオキ達の前で、光り輝いた。

光が収まったあと、その場にいた皆は自分がいた場所に変化があることに気づく。

巨大な植物、樹木。巨大な樹に立っていた。

「ここは…人の身で来れる場所ではないわ。」

『その通りだ。ここは我が庭。人のみには過ぎたるばよ。』

「む、何かいるぞ。」

黄色、いや金色に光る木の身体。いびつなソレは人の形をし、樹木の身体を持ち化け物のような姿をしていながら光り輝き、その姿を顕現させた。

『不遜な言葉だな。人の子よ。呼んでおきながら、尚我を何と問うか。』

アインスの言葉にソレは返答した。そしてその場にいる全員が、響き渡る声を聞いた。

「なるほど。あんたが降ろされた、神か。」

『…いかにも。我はこの星を、宇宙を創りし存在であり、この宇宙、そのものである。』

オキはシンキとクロノスを目で探した。神のいる頭上に二人は飛んでこちらを見ている。神といえばこの二人だろう。オキが見てきたのを察した二人。シンキは笑みを浮かべたまま。クロノスはオキに遠くからオキの耳に囁き声を飛ばした。

「間違いない。神格がある。」

オキはそれを聞いて再びソレをみた。

「こいつはおったまげたな。宇宙の創造主ときたか。」

ゆったりと空に浮かぶ創造神はオキ達を見ながら再びその声を響かせた。

『不意不足の形ではあるが、こうして形取ったならば、この身の役目、果たさねばなるまい。』

役目、それは確かにそう言った。役目とは何か。それはソレ自身が答えてくれた。

『この地、この星を糧して、新たなる宇宙の創造を行わん。』

「地球を糧にって…壊すつもり!?」

ヒツギが叫ぶ。そしてソレはその言葉に肯定した。

新たなる宇宙を創造するためには現在のモノを壊さねばなるまい。終えた世界は糧としか価値はなく、それを人が望むのならば、われはそれを成すのみだと。

「そんなこと、させない!」

ヒツギが剣を抜き、神に刀を向けた。エンガも同じ考えだったようで同時に銃を構える。

だが、ソレが手をかざした瞬間、刀は、銃は、エーテルの塵となり消えていった。

『ソレは我が一部を使って型をなしているもの。我が我自身に刃を向けることはできても、通ずることはない。そしてそれを操れるのも道理。人の子よ、糧となるがいい。』

ソレは腕部に光を集中させ、巨大な樹の剣を作り上げ、ヒツギたちへと振るった。

「ふっ!」

オキが防ぎ、ハヤマが弾き、弾いた剣をアインスが叩き切った。

「…怪我ぁねぇか? ヒツギちゃん。…黙って聞いてりゃ勝手なことぬかしやがって。」

「ふん。これだから神は嫌いだ。人の想い、意思を本当に分かっていない。」

「どうするこれ。リーダーにまかせる。」

アークスの、血気盛んな3名が神に対して睨みつける。

自らの剣が切られ、困惑の表情…を見せているのかわからないが、すくなくとも困惑している神はじっとオキ達をみた。

『なぜだ。何故、力が霧散していない。』

そうして、3人を暫く眺めたあと、ソレは理解をする。

『なるほど。貴殿らは別の宇宙、別次元の来訪者か。ならば、我の管轄外なのも道理。そなたらよ、この退廃しきった星のために尽くしてくれたこと、感謝する。』

「おう。だったらお礼にお願い聞いてくれ。」

オキがエルデトロスを降るのと、創造神が手をかざすのは同時だった。

「きえてくれや…ん!?」

『あとは我が引き継ごう。ゆるりとお帰り願う。』

 

 

 

「オキさん? ハヤマさん!?」

「アインスさんもいねぇ。貴様! なにをしたんだ!」

ヒツギとエンガは急にいなくなったオキ達を探したが、どこにも見つからない。

『彼らはあるべき場所へと帰ってもらった。その尽力には感謝は絶えぬが、此れはこちらの問題。あのままでは我が手を下す事はできない。よって宙に浮かぶアレも共々お帰り願った。さぁこれで邪魔者はいなくなった。我は使命を果たすとしよう。人の子よ、我に従うがいい。それが運命なのだ。』

「みてクロちゃん。あれはもう勝った気でいるわ。」

「だね。この程度で勝った気でいるなんて、間違いなのに。」

創造主は動きを止めた。ばかな。確かにこの世界の者以外は全てはじいたはずだ。声のする方を向くとその場にいるはずのない者が二人残っていた。空に浮き、その姿を目にする。片や白き翼を羽ばたかせ、片や空に浮いたまま足を組み、座っている。

先ほどのモノ達の仲間か。すくなくとも我の管轄宇宙の存在ではない。

再び手を翳し、この世界から弾こうとした瞬間だった。

「誰に手を向けている、下郎。無礼だぞ。」

ズシンと体にかかる重圧。重力が重くなったわけではない。その眼とその言葉に賭けられた威圧が神であるこの身体にかけられたのだ。同じ方向にいたためかヒツギ、エンガにもソレは感じられた。二人に対して発された威圧ではない。しかしその近くにいるだけで今にも膝をつき頭を下げたくなるほどの重みを感じた二人は、すぐ近くへと降り立ったクロノスによって肩を触られてようやく体が軽くなった。

「すぐに下した方がいいよ。じゃないと…あなた、死ぬよ?」

重圧から逃れられほっとしたヒツギとエンガは再び重圧を感じた。先ほどよりも軽いものではあったが、それでも普段の重力が急に重くなった感じだ。更にそのクロノスの表情に二人はぞっとする。普段、オキやシンキに弄られている小動物的な存在だと思う事もあったクロノスだったが、その時の表情はどこか神々しくそして恐ろしく感じた。

『まさか…同じ存在だというのか。』

「同じ? っは。我を笑わせるつもりか? にしては笑えん冗談だ。同じ存在だと? 我から見れば小物も小物だ。弁えろ。」

シンキの威圧は再び重くなる。クロノスによって創造主から離されたヒツギとエンガはようやく深呼吸が出来た。あの場に未だいたなら、その重さに耐えきれずに地面に伏していただろう。そう思えるほどの威圧がその場に発せられていた。

「神の使いである僕からしてもわかる。君に神格は感じても、本当に神と名乗れるほどの力は無い。それに、言ったはず。勝った気でいるのは間違いだと。」

『なんだと?』

空を浮いたままのシンキに再び羽ばたき近づくクロノスの言葉に疑問を抱く。この者達、先ほどの者達とは違う。力の差がある。いやありすぎる。特にあのモノ。いったいなんだあれは。

「我がやってもいいが、これは試練の一環だ。貴様と相手するのは我ではない。安心するがいい。我は、まだ手を出さぬ。」

「マスターたちは必ず戻ってくる。シンキの事だから、戻ってこなければそれまでと思っているんだろうけど、それでも彼らは戻ってくる。」

片や余裕で不敵な笑みを浮かべ、片やじっとこちらをにらみ続け、あの者達が帰ってくると言いきっている。創造主たる自らを圧倒するほどの威圧力を持つこの二人が言い放ったのだ。見過ごせるわけがない。

眼を細くし、二人を見る創造主はじっと動かない。ヒツギはその3つの存在がけた違いで次元の違う戦いをしているのだと感じる。

『殴った切ったの世界じゃない。まるで、神代の世界が戻ってきたかのよう…。すごい…。』

神代を含む歴史が好きなヒツギは感動すら覚えていた反面、エンガはただただ『勘弁してほしい』と震える膝を抑えながら二人が信じているオキ達が戻ってくるのを今か今かと待っていた。

立った数秒が十分、二十分にも感じたエンガは何もなかった空間からいきなり放たれた光に目をくらませた。

「うお!? なんだ!?」

その光に笑みを浮かべるシンキとクロノス。

「ね? いったでしょ? マスターは戻ってくるって。」

創造主は驚きを隠せていなかった。動揺、驚き、そして理解する。それはただ離しただけでは意味のない脅威。自らが行わなければならない使命、それを果たすために障害と判断する。

「ふう。まだ神様生きてるー? ヒツギー、エンガー無事かー?」

「俺達の分が残っていればいいのだが。」

「あれ、まだやりあってなかった。シンキの事だからもうすでにやりあってるのかと。」

「ばかね。あなた達がやらなくてどうするの? …とはいえ、もう我慢の限界だけど。はやくはじめちゃいなさいオキちゃん。じゃないと、私が喰っちゃうわよ。」

オキ、アインス、ハヤマが傷一つついていない創造主を見て驚きを見せている中、シンキから言われた言葉はいたって簡単だった。

「そうだな。さっさと終わらせて帰ろう。呼び出された責務に従い、地球を糧として宇宙を創り直し、新たな人類と歴史を生み出すぅ? ふっざけんな。こちらとせっかく繋げたモノなんじゃい。それを無に帰そうなぞ言語道断。それは俺達の歩いてきた歴史が無駄になるのと同じだ。」

「そうはさせない。我々が紡いできたモノを無に帰すわけにはいかない。」

「そのとおりだクソったれ野郎が。なーにが神だバーカ。所詮アーデムの身体に憑依しているだけじゃねーか。」

煽るハヤマに対し、手を翳した創造主。だが、何も起きなかった。先ほどの光が発せられてから何かがおかしい。身体からストンと何かが抜け落ちたような。それを理解したのは自分の身体に異変があることがわかった。

『我の中に…不純物だと? いつの間に…。』

『我が名はマザー…。この星の母である。』

青く光る創造神の身体。その声は響いた。ヒツギは知っている。その声の主を。

「マザー!!!」

肉体に宿ったマザーの力により「神」の権限を封じた。マザーは創造主の身体、つまり地球側にも存在していた。

地球とマザーの衝突、ジャイアントインパクト。その時に原初の地球との衝突で月となったマザーだが、原初の地球の方にもわずかながらマザーの欠片が吸収されていた。

『そして、貴様の具現に使われているエーテル。それもまた私より生まれいでたもの。私は貴様の一部だ。地球意志。』

「創造の神よ。自己否定できまい。あなたがどれだけ願おうとも、マザーを消すことはできない。」

クロノスの鋭い眼光をみる創造主は再び戻ってきたモノ達を見渡した。

その場よりはるか上空。アークスシップは一度、元の宙域へと戻されていた。

創造神、地球意思が放った力により惑星ナベリウス周辺域まで飛ばされた。

一瞬だけ混乱はしたが、二人の尽力により、それは解決した。

「マザー、やったね。」

『ああ。無事、転送できたようだ。』

アークスシップ内艦橋に残るアル。そしてその内部に眠っていたマザーの欠片。この二人のおかげでオキたちは戻ることができたのだ。

「お二人共、感謝致します。これで、あの方々が元の場に戻ることができました。」

『よい。感謝するのはこちらのほうだ。今一度願う。今更私が言えたことではないが…八坂火継…否、地球を救うために力を貸してくれぬであろうか。』

「僕からも、お願い! おねえちゃんやお兄ちゃん…みんなを、地球を救って!」

「っへ。任せんしゃい。」

モニター越しにオキからの通信が入る。アルの言葉も、マザーの言葉も、オキに伝わっていた。

「シエラ、感謝するぜ。おめーがいなかったら、ここには戻れなかった。」

「何言ってるんですか。私は、あなたをサポートする専属ナビゲーター。あなたが望むのであれば、なんだって成し遂げてみせます!」

ヒツギたちがアークスシップへ向こう側からこちら側へ来ていたトンネル。PSO2のライン。それを利用したのだ。シエラはPSO2の原理を、動作を、実物をみた。作れないわけがない。瞬く間にそれを作り上げ、アルと、マザーの力を利用して再び道を広げ、彼らをあの場へと導いたのだ。

「流石だな。あとでいい子いい子してやる。」

「えへへ。」

オキの言葉ににやけるシエラ。

「さぁて、船もこっちに戻ってきたから、一丁やりまっせ。こまっちー、ミケ。」

上空からミケとコマチが降り立つ。

「二人共、説明は先ほどしたとおり。相手は神だ。容赦せずやるぜ。」

「神? …信仰と祈りの受け皿ではなく、肉を纏い血が流れているならば、殴れるならば血が流れるならば。倒せる、殺せる。ならば、何も、変わらない」

平坦な声色、淡々とした語り、その様からオキはコマチが眼前のデウスを見ていない事を察する

「ミケが神なのだ。げに恐ろしいのはミケの才能!」

何を言っているのか意味がわからないが、武器を出し、身構える様子を見て、すくなくともコマチもミケもやる気のようだ。

「アレは神といえど、下地にあるはアーデムの成した、エーテルによる具現化現象。つまり本物の神ではない。さぁ人の子らよ。打倒してみせよ。その力で、その想いを全て込めて。私がしかと見届けよう。」

シンキがゆったりと空に浮かびながら言う。それはまさしく神の如く。

「マスター、支援は任せて。あんなの、主に比べれば塵にも及ばないから。」

クロノスがいう。クロノスの主、時の神。これで塵にも及ばないとなるとどれほどの存在なのだろうか。オキはすぐにそんな疑問も吹き飛ばした。

『地球の…宇宙の具現である我に、刃向かうというのか! 人類!』

進化をせず、次の世界を築き上げず、ただ衰退していくというのか。地球意志たる創造主はそう叫んだ。

「何を言う神とやら。人は歩み続ける。俺たちは止まらない。だから人は進化し続けるのだ。俺は知っている。俺たちはわかっている。立ち止まらない大事さを。だからこそ、その行い、止めてみせよう!」

アインスは人の善し悪しを知っている。見ている。だからこそ想いは強く。

「傷つこうと、心折れそうになっても、人は必ず近くにいる人に助けられて、歩んでいける。俺もそうだった。皆がいなければ、俺は…」

大事な人を、失うところだった。そうだろ? マトイ。

「うん。そうだね。あなたに助けられなかったら、私はここにいないもんね。」

オキの想いに応えるかごとく、空よりもうひとりのアークスが降り立つ。守護輝士、最後の一人。

「いくぜ、マトイ。相手がなんだろうと、こんなところで立ち止まっていいはずがない! 歩いた道を無くしたりなんかやらせるかってんだ!」

「うん! むこうで、待ってる人が居るもんね!」

『愚か…愚か愚か愚かなり! 神が定めた未来を拒むとは…まこと愚かなり!』

「神が未来を定めるんじゃない。人が歩んだ歴史が、未来に続く。それを邪魔建てすることは…神であってもできない!」

「クロノスの言うとおり。貴様は神の皮をかぶった下郎なり。審判を下す? それは私のセリフ。」

「地球はおめぇのおもちゃじゃねぇんだよ。お前ら! 戦闘開始だ!」

クロノス、シンキの神と神の使いとしての言葉につづき、オキ、マトイが先頭に立ち、地球を救うための大勝負が開始された。

『くるがいい! 我創造の失敗は、新たな創造で取り戻す!』

創造神、地球意志が吠え、いくつもの火花が多数散った。




皆様ごきげんよう。暑い…暑すぎる。
仕事に向かう、帰る道で汗を滝のように流しながら歩き続けています。
皆様も気をつけますよう…。
さて、ようやくたどり着きましたデウスエスカ戦。始めてこいつと戦った時、いろいろな思いがありました。ただ、直後に全てエスカ武器に持って行かれたことを記憶しています。
あの時代はぶっ壊れクラスやったんやで…クリファド装備。
現在でも一応現役? なのだろうか。14がかなり出回り始め、宝くじと呼ばれなくなっている現状どうなのでしょうか。たまに入る私からはよくわかりません。
さて、次回は『デウス・エスカ』戦となります。本来ストーリーではヒューナル体だけの勝負でしたが、せっかくなのでデウス・エスカにも出張ってもらいましょう。どうやって表現しよあの巨体…。
では次回にまたお会い致しましょう。


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第143話 「新世を成す幻創の神」

地球の太平洋。巨大な海のど真ん中に出現した大陸と巨木。その巨木の幹の上で火花が散り、地球意思デウスエスカとアークスとの決戦が繰り広げられていた。

「滅びよ!」

自らの前方広範囲に植物の種のような物を投げつけた創造神。周囲を縦横無尽に駆け回るアークス達に苦戦を強いられていた。

「くっは! この程度か!」

エルデトロスを振り回し、創造神の側面を削り取るオキ。植物の種のようなものはハヤマ、アインスへと飛んでいくも軽々と切り刻まれる。

「何故刃向う!」

植物の蔦を絡ませた歪な形の剣を薙ぎ払う。しかしハヤマ、アインスはソレをバックステップでスレスレを回避。反転して両側面から創造神の身体を切り刻む。

その衝撃でよろけたところを上空より体を縦回転させながら落ちてきたシンキの強力な踵落しが襲ってくる。

衝撃波は創造神の身体を縦に走らせ、怯ませた。

「腐っても体は普通にやれば硬いわね。コマチちゃん、今よ。」

「おおぁぁぁぁあ!」

フォトンを溜めたゴッドハンドを高くに振り上げ、背中からアッパーをかまし、さらに浮き上がったところへミケの飛び蹴りが上空から喰らわされる。空中に浮いていた創造神の身体が地面に叩き落とされた瞬間だった。

「貴様ら…これより、神罰を与える!」

再び空中に浮かびあがった創造神は力を溜めはじめる。その状態を危険と判断したハヤマ、アインス、オキ、コマチ、マトイは散開。シンキはもう一度上空高くへとジャンプした。

上空から多くの雷が落ち、直後に地面から数多の茨が回転しながら皆に襲った。

それらを回り込んで回避した地面を走り回っていたメンバーは四方から各々刃と拳を叩きつけ、シンキは上空より強襲し巨大な曲剣、エルダーペインをデウスエスカの頭上に叩きつけた。

「ぐぅぅぅ・・・。」

「やあぁぁぁぁ!」

マトイのイル・グランツがデウスエスカの顔面部に叩き込まれる。

「ちぃぃ。」

「逃げた!?」

「どこいった!」

『大木の上部に巨大なエーテル反応! そのまま幹をのぼってください!』

アークスメンバーが目線を合わせコクリと頷き、走り出す。

「ふははははは! 追いかけっこならまけないのだー!」

ミケは巨木を縦に登り始め、シンキは空を飛び上層部へと飛び上がった。

オキたちはそのまま幹の上をジャンプして、目指した。

 

 

 

「ここがてっぺんか。」

「いないぞ?」

アインスとオキが到着した場所、巨木の頂上には巨大な穴が広がっており、下を除けば火山の火口のようにポッカリと口を開け、下を見れば湖のように蒼いなにかが広がっていた。

上空でクロノスに守られて様子を見ているヒツギは周囲をみて気づいたことがあった。

「これ…場所…そして大陸…。多分ムー大陸?」

「ムー大陸?」

地球の伝説にある海に沈んだと言われる巨大大陸ムー大陸。そして

「この樹、もしかして…ユグドラシル? でもあれは北欧神話だし…。」

空を突き抜ける巨大な大樹。地球に残る逸話でこの大きさの樹といえばユグドラシルが有名である。様々な逸話、伝説の本を読みあさっていたヒツギは様々な思いでその神話にあったと思われるものが目の前に広がるモノモノを驚きで見ていた

『巨大反応! きます!」

シエラの通信で全員がその反応に構える。

眼下にあった湖から巨大な龍の首をもった何本もの頭が飛び出してきた。そしてその中心にゆっくりと出てきたデウスエスカの本体。

「ふん。出かければいいと思ってんのか?」

「なに、切ればいいだけのことだ。なぁコマチ君。」

「そうだな。神でも切れるからな。」

「オキ、終わらせよう。」

「ああ。そうだなマトイ。」

エルデトロスを構ええ笑みを浮かべるオキ、そしてその巨体に恐れることなく睨みつけるアークスたちは自分の何百倍もの大きさに怯まず、突っ込んできた龍の首に刃を叩きつけた。

 




皆様ごきげんよう。
まず2週間のおやすみ申し訳ない。夏休み前に様々な事があり、さらに筆が乗らないとなんてこったい状態。短くてすみません…。
ですが、ようやくはいれた夏休み。残る部分を書き上げたいと思います。
毎日暑い日々が続いておりますが、水分をとって体調にを気をつけてお過ごし下さい。私はひきこもります(

では次回にお会い致しましょう。


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第144話 「特異点なるモノ」

強力なエーテルにより出現した巨大大陸。そのど真ん中に高々と生え空を覆った巨木ユグドラシル。その天辺で繰り広げられている神話に匹敵する戦いは熾烈に繰り広げられていた。

「神に牙剥く者の力は、この程度ではあるまい!」

扇状に広がった大地を揺らし、茨の波が左右から押し寄せてくる。

「にゃははは! たーのしー!」

その茨の波の上で波乗りするミケをみて肩の力が抜けたメンバー各位はいつもどおりの意思と力加減で戦いに挑んだ。

巨体となり多数の龍の頭を下げて出てきた地球意識、デウスエスカ。

金色に光るその体は風を切り、龍の首は戦うアークス達へと怒涛の勢いで襲いかかった。

「だああああ!」

ハヤマの叫び声と共に振り下ろされた黄土色の刀身は、その錆びた金属とは裏腹に鋭さを増し、巨大な頭を真横から真っ二つに叩き斬る。

その隣では余裕の顔を見せつつも、睨みつける眼はひと睨みされれば普通ならその場で固まり動けなくなる程の眼力で本体をジッと見るシンキ。

オキは突っ込んでくる龍の首と戦いつつも周囲の状況を観測し、マトイへ適度に支援をその場へ送る指示を出してアインスやコマチ達を支援する。

アークス達の攻撃は怒涛の勢いを増し、残っていた龍の首は次第に崩れ始め茨となり崩れ落ちていった。

「新たなる創造の為の、贄となるがいい!」

デウスエスカはアークス達の強さを再認識し、エーテルを手に持つ巨剣へ貯めていく。

その力は大地を破り、海を切る。かつて天地創造を行ったとされる力はアーデムを依代とし顕現していても根源は健在だった。

「あれは防げん! 左右に別れろ!」

アインスの声と同時に半円に広がった地面の中心を起点に左右へと別れるアークス達。その直後に巨大な力で振り下ろされた巨剣は大樹ユグドラシルを真っ二つにした。

「っち。」

細目で舌打ちをしたクロノスは後ろにいるヒツギエンガに飛んできた余波が当たらないよう白く輝く翼で前方を塞ぐ。

「きゃぁ!」

「うお!?」

余波は宙に浮いて3人を襲い、クロノスが防いでいるとはいえ強風を生んだ。

「そんな心配そうな顔をしない。」

化け物相手に平然と戦うオキ達を前に、心配そうな顔をするヒツギにクロノスが言い放った。強風は翼の一振りでそよ風となり、銀色に輝くショートカットの髪をなびかせ見下ろすクロノスは戦い続けるオキ達を見守った。

その横顔を覗いたヒツギはクールな顔で、戦う仲間たちを信じているクロノスを見て自分も信じなければと改めて思った。

クロノスの白と琥珀色のオッドアイに映り戦う仲間たちを見て相手の勝機が一切ないことを認識する。

仮にも神。その力は腐っても神格を持つ地球意識。普通の人が戦えばその力は圧倒的な強さを持って襲いかかりひとたまりも無く消滅させられるだろう。

だが、相手しているのは星々を砕き、喰らうダーカー達と毎日死闘を繰り広げてきた歴戦の戦士となったアークス達。更には他の宇宙空間より来た根源に匹敵する存在の魔神、シンキ。その懐に潜ませる力は主の力と同格、いやそれ以上にもなる可能性を秘めるナニカを所持している何処かの次元より来たるミケ。本人はもう自覚しているのか、それともまだ忘れているのか。かつては世界の中心として燃え盛る火をその身に受け、その役目を全うし神々ですらなす術なくひれ伏した存在コマチ。人として、持てる力を信じ、仲間を信じ、一つの宇宙をその腕で救って来た男アインス。

『正直敵同士じゃ無くてよかったよマスター。』

心の中では口をへの字にし、その集まりは特異点と言われてもおかしくない力を持っている事に恐れすら感じるクロノス。

地面を真っ二つに分け、左右に散ったアークス達は再び生えて来た龍の頭と対峙していた。

「頭が高い。ひれ伏せ。」

シンキに鎌首をあげる龍に対し、上空高く飛んだシンキはエルダーペインを振り下ろし、その重さと力の勢いで地面まで貫き、更に振られた剣の勢いで龍の頭は切り下ろされ崖の下に落ちていく。

オキとマトイを目掛けて口からブレスを吐いた龍の頭。左右に分かれそれを避けた二人は同時に龍に頭へと攻撃を仕掛ける。

「でぇりゃ!」

「やああ!」

エルデトロスの斬撃、そしてらラ・グランツのレーザーが龍の頭を崩す。

「今だ。斬れ。」

「だああああ!」

重い龍の頭の突進攻撃をその拳で受け止め、逆にはじき返したコマチは後ろから走って来たハヤマにバトンタッチする。コマチの背中を駆け上がり、首の一本を飛び上がったハヤマの握る刀が輪切りにした。

両腕で握りしめたオロチアギトを高々と振り上げ、たった一振りの斬撃を突っ込んで来た龍の頭に真正面から叩き込まれた。その斬撃は甲高い音と共に、龍の頭を縦に走り、一本の首を2本に増やし、そのまま崖の下へと叩き落とした。

「ふん、同じ龍の頭を持ってこの程度か。奴ならこの程度弾いたぞ。後は任せたよ、ミケ君。」

キンと音を立てて鞘に刀身を入れたアインスはかつて宇宙を放浪する旅の中で出会い、その身で戦った飛龍。紺色と朱色の鱗を纏った身体に頭部に生えた一本の鋭い角、剣のように鋭い翼で飛び回り強力な竜巻でアインスを困らせた奴。

当時を思い出しながら背の方にいるであろうミケに次の手を託した。龍の首を叩き落とされ、切り倒され、エーテルが拡散したデウスエスカは呻き声と共に、その場に仰け反った。その本体の上を走る小さな奴が一人、いや一匹いた。

「ふははははは!」

いつの間にか龍の頭を伝って本体へと移り、まるで自分の遊び場のようにデウスエスカの体の上を走り回っていたミケはデウスエスカの胸に光り輝く大きな玉、コアを目指していた。

「さぁ貴様の罪を数えるのだー!」

身に纏うローブの下から数多の短剣を繰り出し、コアへと投げるミケ。一体どこにその量が入っていたぼだろうかと思うほどの量の短剣は雨あられとコアに突き刺さる。

「ミケちゃん、これ使いなさい。」

シンキの後方に浮かんだ金色に輝く波紋より飛び出した一本の白く光る剣。

勢いよくミケへと飛んだその剣を空中で掴み、体を回転させてコアに叩きつけた。

バキンとガラスの割れる音が周囲に鳴り響いた。

「やったか!?」

「それだめなパターン!」

オキのセリフにハヤマがツッコミを入れる。ハヤマの言葉通りに体勢を立て直したデウスエスカは周囲に拡散したエーテルを自らの持つ巨剣に集中させ始めた。

「コアの周囲の障壁を割っただけに過ぎないわね。でもこれであいつのコアを殴れるわ。さぁいくわよオキちゃん、マトイちゃん。」

片側一方の大地に集まったメンバー全員はその力の放たれる瞬間を待った。どのように避けるか、防ぐか。それをイメージしながら。

しかし放たれたのは、はるか上空だった。

『月が…! 今の攻撃で月が半壊しました! 破片が…地球に!!!』

オキは片目でシエラから送られてきた映像をちらりとみた。デウスエスカがたった今放った一撃は月を破壊し、その破片が地球に降り注ごうと迫っている。

この破片が地球に降り注げばただじゃ済まないだろう。

「一気にぶっ倒して、破片を何とかするぞ!」

『破片が地球に到達するまで時間がありません! 対応可能時間を逆算して、あと5分で倒しちゃってください!』

シエラの要求は普通なら無茶な要求だろう。しかしオキたちならやってのけると信じての要求だ。

正直言えば、シンキが本気になればこの程度一撃で屠れるだろう。だがその力は地球にも降りかかるし、なにより本人が使いたがらないのは間違いない。

ならば、自分たちでやるしか方法はない。

マトイやハヤマ達と目で合図したオキは向かってくる本体の攻撃を避け、胸に露出したコアを目指し、真正面からぶつかりあった。




みなさまごきげんよう。
コミケが先週終わり、そして始まるコミケイベント(FGO)。その他ソシャゲでもコミケをベースにした夏イベントが開催されており、コミケが終わったらコミケが始まったという意味のわからない毎日を送ってます。
さて長く続いた(続いてしまった)デウスエスカ戦も次回で完結します。
…ごめんなさい私のせいですね。本当は1話で終わらせるはずが筆の乗らなさとネタのイメージができなかったことでイベントに逃げてました(言い訳)
長い夏も終わり、来週から本格的に完結に向けて書いていきます。
では次回にお会い致しましょう。


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第145話 「地球の未来を受け継ぐ者」

いくつもの龍の頭が切り裂かれ、破壊され、とうとう本体のみとなった地球意思デウスエスカ。

アークスの攻撃は更に勢いを増し、飛び出たコアを狙って刃を突き立てていた。

「滅び果てよ!」

デウスエスカの巨大な手が地面を抉るようにオキ達の側面から向かってくる。地面を抉り、木と土を混ぜっ返した物が津波のようにオキ達を襲った。だが、それをジャンプしたり、逆に近づいたりして隙間をぬって回避したオキ達は近づいてきたコアを獲物だなんだと好機と見て隙あらば自分たちの出せる火力を一点に集中させた。

『月の破片最終防衛可能ラインまであと4分です!』

シエラの通信がオキの耳に届く。眼鏡のレンズの片隅に表示させているカウントはどんどん減っている。

「っち。」

上空に飛んだシンキの目の前に、上空に回避することを読んでいたデウスエスカの光の槍が今まさに降り注ごうと空を覆っていた。

舌打ちをしたシンキは背中側の空間を金色に光らせ波紋を生んだ。その波紋からは剣を初め、槍、斧、槌、武器という様々な武具が顔を出しそれと同時に光の槍へと射出される。

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

閃光が走り、それと同時に轟音と衝撃波が上空でクロノスに守られているヒツギ、エンガを襲った。

「マスター、早い所けり付けないとまずいよ。」

クロノスは上空を見ながらオキへと通信を入れる。まだ距離があるとはいえ、クロノスの眼には月の破片が多数地球へと向かっているのが見えている。

「わーっとる! はやまん、足元!」

「おうさ!」

ハヤマの足元に異様な土煙が発生し始めたのをオキが見た。下から何かをしてくる気だ。案の定、下から茨を生やし串刺しにするつもりだったのだろう。だが、ハヤマはすでにその範囲から抜けだしており更にはカタナを構え、一閃にてその茨を根こそぎ切り払った。

「んー?」

ミケは上空をじっと眺めている。そのミケの見ていた空を覆ったデウスエスカの巨大な剣は光だし、稲妻を放ち始めた。

「あぶない!」

マトイがミケの近くに走り寄って頭上に杖を掲げ、ラ・ゾンデを発動させた。傘のように広がり放たれた雷はマトイ、ミケを覆いデウスエスカの放った雷撃から二人の身を守った。

「ふう、あぶないあぶない。ミケちゃん、大丈夫?」

「ありがとうなのだー。ミケは大丈夫なのだ。ちょっと遊んでくるのだー。」

「え? あ、ちょっと!」

マトイの下を離れたミケはデウスエスカの腕を伝って体を登り始めて行った。

『デウスエスカ、体力あと少しです! 急いでください! 後3分です!』

3分を切った事をシエラの通信と目の前で回るカウントをちらりと確認したオキは迷っている暇はないと下から腕を振り上げた。

直後に何もない空間から一本の鎖が長く飛び出していく。それを握ったオキはその飛び出ていく鎖の勢いで体が引っ張り上げられていった。

「よっと、ほっ…!」

ある程度引っ張り上げられた空中にいる状態でまた別の鎖をオキの身体の周りから出してまた握ってはその勢いで加速していく。

「あれは…そう。そこまでできる様になったのね。」

シンキの口元が少しだけゆがむ。オキの出す鎖を見て、シンキはソレが実践で使用できる状態になっている事を認識した。

今度は左手のエルデトロスを勢いよく飛ばし別の場所に突き刺す。

オキの身体はそちらの方に引っ張られる形になるので空中で移動方向を制御、コアへと攻撃をするべく空中から強襲をかけることにした。

ガキンと音を響かせコアを斬りつけるも先ほどからの攻撃でわかるようにまだ固い。だが、着実に傷をつけているのは確実である。

「何故刃向う!」

デウスエスカの巨大な腕がオキの身体を強打する。身体の周りを飛び交う虫のように払いのけた。

「オキ!」

その様子を見ていたマトイが悲鳴のようにオキの名を叫ぶ。口から血を流し、空を飛ぶオキはデウスエスカのコアを睨み付けた。

「まだまだぁ!」

振り上げた両腕を力一杯振り下ろし、エルデトロスをデウスエスカの身体に突き刺したオキは離れていく体を空中で制止させ

、そのままエルデトロスのワイヤーを引っ張り自らの身体をデウスエスカに向けて飛び込んだ。

「プレゼントだ。受け取りな!」

オキの様子を見ていたコマチはいつの間にか背負っていた黒い直剣をやり投げのように投げ、デウスエスカのコアに黒い直剣を当てた。だが、それは弾かれ、空中でクルクルと回転をし始める。そこにオキが勢いよく飛び蹴りをかましてうまく柄の先端を踏みつけコアに剣を突き刺した。だが、突き刺しただけでまだ浅い。オキはくるりとその場で体をひねりある方面を見た。

「頼んだぜ。隊長。」

「任されよう。」

既に発射体勢になっていたアインス。片膝を地面につき、自分の身丈よりも長く光り輝く弓を構えたアインスは力強く引っ張っていた指を離した。放った衝撃波で地面に土煙があがり、猛スピードで飛んだ放たれた光の矢はオキの身体のそばをかすめて飛び、今まさにオキが突き立てた剣の柄の先端に真っ直ぐ命中し、その勢いで剣と一緒にコアへと深々と刺さる。巨大な何かが割れる音と閃光がその場に走る。

「ぐぉおおおお!?」

力の源であるコアを破壊され、それが決定打となりデウスエスカは巨大樹の下へと落下していく。月の破片防衛可能ライン到達まで残り2分をきろうとしていたところだった。

「まだ間に合う! シエラ! AIS起動しろ! 一気に吹き飛ばす! シエラ?」

「あ、いえ、その…。」

歯切れが悪いシエラに何があったというのだろうか。急がなくてはならないという状態でシエラが混乱している。

「オキさん、あれ…。」

「あん? …な、なんじゃこりゃあ!?」

ハヤマがオキの肩を叩き、上空をみると先ほどまで一直線にまっすぐ地球へ落下していたはずの月の破片が異様な動きをしていた。

その動きは落下しているはずの月の破片が急に横に移動したり、急に90度回転したり、そして何より異様だと感じたのは月の破片に色が付き、4つ接近し、くっついた瞬間破片が空中で消滅するというどこかでこんな何かがあったと思える光景が目の前で繰り広げられていた。幸い、消滅している関係で地球に落下はないうえ、消滅し損ねた破片は何かの力が働いているのか大気圏外ぎりぎりのラインで制止しているとシエラは言う。

「オキちゃん、あれ。」

シンキが笑いをこらえながら指をさす方向を見る。先ほどまで地球意思がいた場所、つまりオキ達がいる樹木の天辺の反対側に小さな短剣を振るうミケが見えた。踊りを踊っているかのように、時には剣を真っ直ぐ、時には横に、時にはぐるぐると空を回し短剣を振るうミケ。その動きに連動するかの如く、月の破片は動いているようである。

なんだミケの仕業か。そう思ったオキはその短剣をじっと見つめた。初めはただの短剣だろうと思っていたが、いつも振るっている短剣とは明らかにナニカが違う。

「マスター…あれ、やばいやつ。」

クロノスがヒツギ、エンガを地面におろし、クロノスが顔を青くしてオキに近づいた。詳細までは語ってくれなかったが、あれが何であれ、異様な力を持つナニカだと言うのだけはオキにもハヤマにもわかった。

シンキ曰く少なくとも運命を司るクロノスの主をも超える『運命を変える』モノだという事だけは間違いないらしい。

少し混乱した頭でまとめようと考え始めたオキだったが、すぐさま『まあミケだから』と考えるのをやめた。

次の瞬間だ。地面が大きく揺れ、先ほどデウスエスカが落下した場所に大きな光が立つ。そして樹と茨の混合したもはや原型が何か分からない『それが樹であろう』と思われる物体が急遽生えてくる。そしてそれがデウスエスカであるという事がその直後に理解できた。最後の悪あがきだろう。最後の力であっただろうその姿での顕現。化け物のような姿に成り下がったデウスエスカ、地球意思は巨大な蔦を振り上げてオキ達を狙う。だがそれを許さないものがいた。

「い~加減、しつこいのだー!」

ミケの声が大きくその周囲に響いた。かろうじて見えたオキはミケが短剣と思われるソレを振るうのが見えた。そして急激に落下し始めた月の破片が異様なスピードでその場に溜まっていく。ある程度たまったところで、ソレが開始された。

「にゃにゃにゃ!」

4つとなった一組が消滅する。そしてその消滅に連鎖するように別のが、また別のがと消えていく。

「ファイヤー! アイスストーム! ダイヤキュート! ブレインダムド! ジュゲム!」

ミケが呪文のようなものを唱える毎にデウスエスカの頭上に透明の何かが溜まっていく。丸いその物体はどんどん大きくなっていく。

よく見ると小さな丸い半透明の物体が大量に固まっているではないか。

「ばよえ~んなのだー!!!」

ミケの最後の言葉と同時に短剣を勢いよく振り下ろし、空を切る。それと同時に丸い半透明の物体が落下、バケツをひっくり返したような嵐のごとくソレはデウスエスカに降り注ぎ、再び下へ下へと埋めていく。

「いてっ やったなー。」

「げげげぇ 大打撃。」

「「うわぁぁぁ。」」

コマチとアインスが笑いながら棒読みで相手の心境のような言葉を落下タイミングに合わせて言っている。そして最後に特大の丸い物体が圧し掛かった。

「ばたんきゅーってな。」

「ははは。懐かしい。よく遊んだものだ。よく知っているな。」

「今でも覚えているモノだな。自分でも驚きだ。」

ふっふっふと笑いあうコマチとアインス。後に聞けばアインスの故郷ではやった落下物のゲームだという。なぜコマチが、ミケが知っているのかは聞かなかった。

半透明の物体によって再び落下したデウスエスカ。シンキはソレをみて腹を抱えて笑っている。クロノスは唖然と口を開けて固まっている。ミケは満足したようにどこからか骨付き肉を取り出してアグアグしだした。

ハヤマはため息をついて肩を下げている。オキとマトイはお互いの顔を見合わせ耐え切れずに吹き出し笑い始めたのをヒツギとエンガは呆然と眺めているだけだった。

 

 

 

 

「ぐううぅぅ…。」

「はい、オキちゃん。釣ってきたわ。」

シンキの黄金に輝く釣竿の針によって吊り上げられた地球意思は小さくなり、元のオキ達と初めて出会った姿に戻っていた。

オキはやりたい放題やった地球意思に言いたいことがあるとシンキに頼み、半透明の丸い物体に埋まったデウスエスカを回収してもらったのだ。

「よもや我が…外宇宙の者よ、なぜ…ここまでする。貴様たちは…関係…ないだろう。」

「ま、そういうとは思っていたよ。」

オキはタバコに火を付け煙をゆっくり吐きながら地球意思に向かって言った。関係ないわけがない。。

正直オキにとって地球なんてどうでもいい話である。本来ならば宇宙全部を滅ぼす力を持っている『深遠なる闇』との戦いに備えていたはずなのだ。それをマザーが横からちゃちゃを入れてきた。解決しそうなところをアーデムがじゃまをし、地球意思が顕現した。邪魔をされたならやり返す。友が困っているから、せっかく繋いだ縁を消したくないから、こうしてオキ達は牙をむいたのだ。

「地球は正直どうでもいい。だがな、そこに住む友は大事だ。大事なものは守り抜く。」

「そう、か。この地に住まう人は、守られる価値があるのだな。そうか。」

地球意思は満足したように先ほどまでとは違う優しい声を発し、体を光り輝かせ始めた。

「地球の民よ、人の力を今一度信じよう。外の、はるばる遠くより来た客人が価値ある者と言ったのだ。」

「ああ、失望はさせねえように頑張るよ。」

「うん。絶対に。人は歩いて行ける。彼らに頼りっきりにならないよう頑張るから、だから見守っていてほしい」

「ならば、よい…。地球の未来、任せたぞ。地球の子らよ…。」

ヒツギとエンガの言葉に地球意思は『意志』を感じとり、光り輝きながらその姿を消していった。周囲の光景も光の粒子となっていき、次第にアーデムが神を降臨させた地下遺跡の最奥の広間に戻って行った。

地球意思からアーデムの姿に戻ったアーデムはドサリとその場に力なく倒れた。

「アーデム!」

エンガが走り寄り、アーデムの身体を起こした。

「エン…ガ…。僕…は…。僕…は、ダメ…だった…みたい…だね。」

「ああ。お前の負けだ。大人しく眠っていろ。そして、お前が諦めていた未来をお前をぶち破った俺達がどうするのかを見守っていてくれ。」

小さく微笑んだアーデムはコクリと小さく縦に頷いて力なく崩れ去った。身体は光の粒子として拡散し、空中を少しだけ漂い、消えて行った。

 

 

 

 

 

それから1週間程経って、地球でのいざこざがようやく落ち着きを見せたある日の事。

そこにいるのはオキ、シエラ、マトイ、エンガとオークゥ、フルである。

アルの中に残っていたマザーは、意思機体として活動はできる様で、アークスにかけた多大な迷惑を全アークスに向けて謝罪させ、最終的にエーテルを管理するモノとして月の元いた場所へと戻った。月はデウスエスカによって半壊したが、マザーの本体である部分は無事だったため、それが可能となった。アラトロンはその共として常に隣にいることにし、残ったマザークラスタをまとめ上げる事になった。

今回の騒動で壊滅しかけたアースガイドはマザークラスタと合併することで二度とこのような事が起きないようファレグ監視の元エンガを新たなアースガイド側の長として二つの組織が一つの地球を守る動き始めた。

また、それぞれの連絡役としてオークゥ、フルのペアはアークスシップ側に残る事になった。

「なんで私達が残らなきゃならないのよ…20%意味わかんない。」

とオークゥは言っていたが、フル曰く内心とてもうれしそうだと言っていた。フルは最近よくクロノスの下を訪れているとオークゥが教えてくれた。人見知りするあいつが懐く人が現れるとは珍しいものだ。

発端であるアークスとして登録されていないモノの侵入。地球からのログイン者であり良くも悪くもフォトンは扱える1アークスとしては戦力になるうえ、マザーにより覗かれる心配もなくなったのでそのまま維持することにし連絡役としてアークスシップ側に残る事になったオークゥ、フルによって地球側からのログイン者の管理もしてもらうことになった。

「と、言うわけで、無事に地球での騒動は解決です! お疲れ様でした!」

シエラの歓喜の声が艦橋に響いた。ぱちぱちと手が鳴らせているのはシエラとマトイだけだ。エンガは苦笑しっぱなで、オークゥは『ううう、嬉しくない!』と顔を赤くしながらフルを追いかけ、フルは「オキと一緒で嬉しいっていってたじゃない」と言いながらオークゥから逃げ、オキはため息をついていた。

「まとめあんがとよシエラ。おらそこ、静かにしねーか。エンガ、連絡あんがとさん。これから大変かもしれんが二度とこんなことが無いように、まぁ無理せん程度にやれ。」

「ああ、いろいろ助かったぜ。」

「ヒツギちゃんは今日は来てないの?」

ヒツギの事をきいたマトイ。ヒツギは学生生活に戻ったそうだ。時々アースガイドの方面を手伝てくれるらしく、彼女の親友コオリはマザークラスタの方をヒツギの手を煩わせないように手伝うらしい。

そっかとそれを聞いたマトイが少しだけ寂しそうにつぶやいた。どうやら一緒にお茶の約束をしたらしい。

エンガは落ち着いたらまた遊びに来させるよというとマトイは笑顔でうなずいていた。

「オキさんの方はどうだ?」

「ああ、俺の方か…。」

準備はほぼ整っていると言っていい。対『深遠なる闇』討伐に向けてアークス全体が動いている。演算を行っていたシャオも、もう暫くでその演算を終わらせそうだとシエラは言っていた。深遠なる闇を倒すための演算。オラクル船団の母船に籠りっきりのシャオがそういうのだ。決戦の時は近い。

「俺達もできる限り手を貸すよ。こっちがこんな状態だが、あんたらがやられたら俺達もやばい。他人事じゃねぇからな。」

「私達も、ね。マザーの意思だよ。」

「そうね。あんたが負けたらこっちにまで被害が及ぶんだから、私達も手伝うわ。何かしらの力にはなれるはずよ。エーテルは元は一緒なんでしょ?」

いつの間にか落ち着いていたオークゥ、フルもオキとマトイに手伝う申し出をしてきた。

オキからすれば人ではあるだけありがたい。総力戦になるのは間違いないからだ。

「ああ、たのむ。絶対に倒すぞ。」

その場にいた全員が頷き合った。




皆さまごきげんよう。
ようやく地球編の完結を迎える事が出来ました。この作品もラスト2話となりました。
今まで長い間ありがとうございます。もう少しの間お付き合い頂ければとおもいます。
既に書き始めている次回作については、次回にて告知したいと思います。
では、また次回にお会いいたしましょう。


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第146話 「人よ、星々を繋ぎとめよう」

地球でのいざこざがようやく落ち着きを見せたある日。

あれやこれやといろいろあったが、やっと対【深遠なる闇】に向けて行動が出来ると意気込んだオキ。決戦はもう間近というというそういう日。オキはシンキに呼び出しを喰らった。

崩壊しかけたビルの狭間をジェット音を吹かす音か鳴り響く。自前の改造した移動用ライドロイドに乗って、ビルの崩れたがれきの上を通り過ぎていくオキ。呼び出された場所は廃棄になりかけのアークスシップの一つ。先日の【深遠なる闇】によって出現した【巨躯】、【敗者】のコピー同時襲撃。ここは一番被害を受けたシップだ。あちこち穴が開き、場所によっては最外層の壁面まで見えている。連絡では既に廃棄が決定しており近日中には解体されるとのことで住民たちは別のシップに移動済みで現在は無人とのこと。つまりここにはオキと呼び出したシンキしかいない事になる。

呼び出された当初はなんだろうと思っていたオキだが、一つのある事柄を思い浮かべた。

「あれを貸してもらって暫く経つ。だいぶ体に馴染んで来たし、その確認を兼ねてこんなところに呼び出したってことだろうな。…そうだろ! シンキ!」

ライドロイドを小さなカプセルに変化させた後、崩れたビルとビルの間に向かって叫んだ。崩れかけたビルの壁は大きく抉れており、半分無くなっている。その中間付近の出っ張った場所、金属の骨組みにシンキは立っていた。腕を組んだままオキを見下ろし、少しだけ笑みを浮かべている。

「ええ。その通りよ。せっかく貸したのですもの。その力、見せてもらいたくなるでしょう?」

わざわざ廃棄しかけのアークスシップに呼び出した答え。シンキの力『全知なるや全能の星』が無くても誰でも分かる。

オキは周囲のフォトンを吸い、溜め、イメージを開始した。預けられた力の解放をする為のイメージをより強くするため、シンキに教えてもらった解放用のキーとなる詠唱を開始した。

「そんじゃ早速見てもらいますかね。『揺り籠に刻まれし傷と栄華、今こそ歌い上げよう』」

シンキは不気味に笑みを浮かべたまま、腕を組んだままオキを見つめる。そして門を開ける。宇宙の財全てが仕舞われている『星の財宝(ゲートオブアルゴル)』の門を。金色に光り輝き大量に何処からともなく現れた武具の数々は空中から顔を出したままオキの方角へと頭を向ける。

「さぁ、見せてくれる? オキちゃんの力となったソレを。ソレを使うオキちゃんの力を。そして進んでみせなさい。ここで立ち止まるようでは、あなたにこの宇宙を守りきる力は無いわ!」

大量の武具が金色の門から射出される。すべてがオキを狙って一直線に飛んで行った。光って飛んでくるその武器をみてニヤリと笑ったオキはその名を叫んだ。

揺り籠の叡智(エイジ オブ オラクル)!!』

腕に装着したエルデトロスを大きく振り上げ、そして叫んだ直後に振り下ろし大きく空を切った。

その直後にシンキと同じくして空中から、地面から、光る歪みが浮かび上がり、そこから沢山の鎖が飛び出した。先端には小さくしたエルデトロスの先端の刃が槍の如く鋭く尖って付いている。

それぞれが空中でぶつかり多数の爆発を繰り広げた。その衝撃波は土煙を作り、拡散。お互いの姿を隠してしまった。

 

 

 

 

『天の鎖?』

【敗者】を倒した直後、シンキに呼ばれ彼女の部屋へと招かれた時があった。その時にその力の話を聞いた。

かつてどこかの宙のかなたで創造主、神すらも縛り上げることが出来たというどこかの宇宙の鎖。以前、シンキに軽く教えてもらったことはあるが、詳細まで話してくれることはなかった。

『そう。ただこれはソレをベースに私が作ったモノ、でもそれに限りなく近い力を持つわ。…これからどんどん過激になっていく。あなたの力はこの宇宙では比較的高い方ではある。でも、限界はある。だから力を貸し与えるわ。』

シンキはオキの回答も待たずにオキの腹を掌底で叩き、オキを壁へと吹き飛ばした。壁に叩きつけられた後、オキは体の中にうごめく何かを感じ、暫く苦しみ悶え、のた打ち回った。

溢れようとする力を抑えるだけで精一杯。あふれ出れば、オキの身体はただじゃすまない。そう感じたのだ。

暫くしてオキは自室で目を覚ました。あれは夢だったのかと思った矢先に自分の中の奥底でうごめく何かを再び感じ取る。

それ以来、オキは彼女にこたえる為、その力を制御すべく日々鍛錬を欠かさず行っていた。だがその半年後にSAOへと飛ばされ2年近くもの間寝たきりになる。それが幸いとなったのか、体に馴染んだからか、以前よりもより制御が効くようになった。

最初の【深遠なる闇】との戦いでは、まだ自信が無かった。戦いの最中に出せる程余裕のある戦い方はまだできないと。

そして地球での騒動が起き、その際にその鱗片を見せる。シンキはその際にその力を見て、試す価値のある力に変貌したソレを見るべく現在に至る。力は意のままに操れるどころか隠し玉さえも作る事が可能となった。

その成果を、今シンキに、魔神に、【観測者】に見せるとき。

 

 

 

 

土煙を貫き再び飛んでくる武器の数々。剣、槍、斧だけでなく防具であるはずの盾すらも回転しながら飛んでくる始末。

そんな一つ一つを目で追い、フォトンで感じ取り、イメージした通りに制御できるようになった『天の鎖』改め『揺り籠の叡智』と名付けたソレはフォトンで生成され、オキのイメージした場所より飛び出していく。飛び出す場所は遠くに設定することはフォトンの操作上可能ではあるが、遠ければ遠い程制御は難しくなり、脆くなる。逆に近ければ近い程制御は簡単になり、飛び出す力も強く、そしてより強固な鎖が飛んでいく。数もより多く出せる。

同じ名前の鎖を持つシンキの、本来の『天の鎖』と違い、あくまでもオキのフォトン操作能力が基点となる。その為、シンキの鎖ほど強固な強度は持っていないのが残念なところだ。あくまでも受け継いだのは鎖を出すことが出来る能力だけだからだ。

鍛錬すればシンキの鎖のように強固な鎖を作り出せるようにもなるのだろう。だが、まだ時間が足りない。今の現状でどこまでいけるか。それを試す時でもある。

第3波の波状攻撃を撃滅する鎖を出したと同時に前へと走り始める。シンキはソレを読んでいたのか土煙がまだ舞っている中走るオキの先にすでに武器が飛んできているのをオキは煙の切れ間からソレを目にする。

「っち。」

舌打ちし、地面に軽く指を付いたと同時に地面からは太く、多数の鎖が束になって真っ直ぐ生えてきた。その束は盾となり、いくつもの飛んでくる武器をオキから防いだ。

だが、その壁も1,2本武器を防げば破壊されていく。ぶつかってくる武器の数々。魔剣、聖剣と呼ばれ星々で、銀河で名を轟かせた宇宙の宝物。いくらフォトンを使って出せるようになった力とはいえ、相手が悪すぎる。

じゃららと鎖が鳴る音を出し、オキは空間から空目掛けて出ていく鎖を握る。握ったと同時に出ていく鎖に引っ張られ、オキの身体は空中高く飛び上がった。

シンキからの武器の雨は未だ続いている。鎖を飛び出させ、武器に当て防御しつつ、鎖を握り、飛び、そしてまた鎖を出して握り飛ぶを繰り返す。普通に走り、飛んで回避するよりもスピードは段違いに早く、エルデトロスで使っていた戦法、刃を引っ掛けて体を引っ張り、加速した先で反対側のエルデトロスを別の場所に引っ掛け飛んでいくという戦い方。アークスが敵対する超巨大な敵に対し、思いついた戦い方…というのは嘘で、惑星スレアで流行った漫画作品からパクった戦術。

鎖を実戦で使えるようになってからは実際に使用し、つい近日でもデウスエスカ相手にこの戦法で近づいた。

あの時は相手の動きが比較的ゆっくりだった為、回避は余裕であったが、今回の相手はスピードと威力が桁違いだ。

オキの顔や肩等、避けていてもかすり傷はできていく。

「ふふふ。」

不敵な笑みを見せるシンキはマシンガンのように数多の武器をオキへと放出し続けた。

土煙も関係ない。シンキの眼は次第に近づいてくるオキの姿を追う。そして、土煙の中からオキが空に飛びだしてきた。

「シンキィィ!」

「っふ。」

空高く飛び上がり、そしてエルデトロスの一本をビルの壁に引っ掛け、体を引っ張り急降下したオキを迎え撃つように再び宝物庫から多数の武器を吐き出すシンキ。空に撃ち上げられた武器の数々はオキの身体目掛けて飛んでいく。

オキは真正面から嵐のように飛んでくる武器の数々を前に、再び数多の鎖を呼び寄せた。空中でいくつもの爆発。その爆発を斬るかのように降りてきたオキはシンキの立っていた金属の骨組みをビルの瓦礫ごとエルデトロスで叩き切った。

飛び出た骨組みの先端に立っていたシンキは落ちていく金属の骨組みを軽く足で蹴り、上に伸びていく鎖を目で追った。

空中を自在に飛び回るオキを目に映し、シンキの口は次第に歪んでいく。

「ははは…。」

「おおおお!!!」

再び空から強襲したオキは地面に笑いながら落ちていくシンキに遠慮なくエルデトロスの斬撃と鎖の二重攻撃で襲いかかった。

瓦礫が大きく飛び跳ね、地面は揺れ、轟音と共に広がる土煙。

その土煙から黄金に輝く小さな乗り物に乗って空中へと飛び出したシンキはそのままわき目もふらずに市街地の空へと飛びあがった。普通に生活していればかなり高めに設定されている市街地の天井。その先は外壁に守られ、更にその先は宇宙の海が広がる。

シンキが飛び出してから数秒後にジェット音を響かせオキも空に上がったシンキを追った。

黄金の小さな船、その中心に設置されている椅子に座るシンキは肘置きを軽く指で叩き、スピードを上げ始める。

追いつこうとアクセルペダルをいっぱいに踏み込んだオキは、改造し排気量を大幅に上げ、一般的なライドロイドの数倍にもスピードでシンキを追う。だがそのスピードは徐々に離されていく。更には後方にまで武器を飛ばしてくる始末だ。

「ちぃぃ!」

避けても追尾してくる武器の数々を空中に出した鎖で何とか防ぐオキは、追っているにもかかわらず防戦一方になっている事に気づいた。

『このままじゃいけねぇ。隊長はこれを乗り越えたんだから。』

オキの尊敬する一人である男、アインスは彼女の好奇心という名の試練を乗り越えた。力は本気の本気でないとはいえ、あの飛んでくる武器の数々をその身に受けボロボロになっても、彼女の前に立ち、そして『エア』を切り裂いた。

「うっし!」

意思を決めたオキはスロットル全開状態でハンドルを鎖で固定。ライドロイドの上に立ちあがった瞬間、真正面に向かって鎖を飛ばし、それをつかんだ勢いでライドロイドよりも早く体を飛ばした。もちろんそれもただの勢いのみ。すぐにスピードは失速してしまう。だから次から次へと鎖を飛ばし、ソレをつかんで前へ前へと飛んだ。飛んでくる武器はいくつかはエルデトロスで防いだが、それも突破され、肩や腹部に数本肉を抉って行った。

 

ドシャ…

 

転がりながらもなんとかシンキの船に乗りこんだオキはシンキの座る椅子に後ろから襲い掛かった。

「おおおお…っ!?」

相変わらず笑みを浮かべるシンキは後ろから襲ってくるオキの眼をしっかり見ていた。タイミング、場所、見えないはずの状態からのはずが完全にばれている。それでもオキは腕を振り上げシンキにエルデトロスを振り下ろそうと腕に力を入れた。

次の瞬間、後方からの衝撃が走る。後方側面の脇腹に激痛が走ったオキは飛んできた空間が黄金に輝いているのが一瞬だけ見えた。

そしてその勢いのまま、船の前方に飛ばされる。再び転がったオキは体勢を立て直しながら脇腹に刺さった武器を無理やり引っこ抜き、シンキへととびかかる。だが、再び死角から飛んできた武器によって転がされる。

「はははは。どうした? もっと見せてみるがいい。それともそれが限界か? オラクルの子よ。」

シンキの口は笑っていても目が笑っていない事にオキは気づいた。いつもの優しい聖母のような眼ではない。彼女の『戦い』をする時の、眼。縦に瞳孔が開き、光るその眼は魔神と言われるに相応しい威圧を放つ。

「うるせぇ…よ!!!」

「…ほう。」

ゴロゴロと船の先端まで転がったオキがその勢いを使い、反動でエルデトロスのワイヤーを伸ばし、勢いよく振り下ろした直後、シンキの眼は数多の鎖を映していた。まるで鞭のように振り降りてくる鎖。それが目の前に広がるアークスシップ市街地の天井一杯に広がり、シンキを襲ってくる光景だった。

「叩き落としちゃる! 『禁鞭(きんべん)』!!!!」

自分も乗っかっているシンキの黄金の船、本人もろとも物量にモノを言わせた攻撃で叩き落とした。

 

 

 

 

「ふー…。つつ…レスタ…。」

ボロボロにつつも回復テクニック『レスタ』で回復し、火を付けたタバコを口にくわえたオキは空に浮かぶシンキの姿を見た。

巨大な6枚の黒い翼が空を優しく仰ぎ、オキを見下ろしている。

「やーっぱ、そう簡単には、いかねぇよなぁ。船落しただけでも良しとするか?」

レスタで回復したとはいえ、見た目だけだ。抉られ、突き刺された身体の中はすでにぐっちゃぐちゃになっているのが分かっている。正直立っている事だけでも精一杯だ

「なかなかやるではないか。だが、残念だったな。我の船は傷一つついてないぞ?」

追い打ちをかけるように金色に輝く小さな空飛ぶ船は輝きを落とさず、その眩しさを見せつけるかのようにオキに空に浮かぶ姿を見せる。

「せっかくの大技もきかねーか…。それでこそシンキだぜ!」

地面に手を付き、口を歪ませ笑うオキは最後の奥の手を仕掛けるべくフォトンを吸収する。その吸収力は崩れかけとはいえ、一つのアークスシップを維持するフォトンのほぼ全てを一瞬吸い取るほど。普通ならそのような事は絶対にできない。【深遠なる闇】に至る可能性のあったひとつの存在だったからこそ、その力を振るうことが出来る。

思った通り。シンキは戦いの眼から優しい目に一瞬だけ戻った。全ての母のような、優しい瞳で全力を出そうと構える子を見守る。

彼にあの力を渡したのは間違いではなかった。『ただの戯れだったとはいえ』、だ。

「くくく…ははは。フハハハハハ! いいだろう。見せてみろ。オラクルの子よ! 我を失望させるなよ?」

優しき眼から反転。魔熊のように笑う魔神は自らが認めた相手としてその力を顕現させる。黒と白の歪な形の武器。剣と呼ぶにはそうとは思えない円錐の剣。刃はなく、3つに分かれた部位がそれぞれ回転する。

 

 

『呼び起こすは(そら)の息吹』

 

 

オキ自身の身体の周囲をいくつもの鎖が飛び出していった。それと同時にオキも鎖と同じ方向に飛んでいく。

その力を与えられた時、苦しみ、悶えていた時。その力の元の主であったのだろうか、誰の記憶だったのだろうか。夢で見たそれはいつの時代、どの宇宙、次元をも超えたその先にいたであろう存在の姿。そのモノが見せた一つの形。オキはソレを模った。

 

 

『人と共に歩もう、俺は。故に―――』

 

 

オキの身体は何重にも絡みついた鎖と共に一本の鎖になっていく。巨大な鎖と槍になったオキはスピードを増してシンキへと向かい始める。オキは夢で見せられ、耳にし唯一覚えていた一つの言葉を技名とし、言い放った。

シンキの持つ原初のソレは次第に回転を速めだす。黒と白の風を纏わせながらシンキはその剣を振りかざした。

宙を割き、星々を作り、いくつもの世界を作り上げたとされる原初の光。シンキはその光を、輝きを、風を、ただ放った。

 

 

人よ、星々を繋ぎとめよう(エヌマ・エリシュ)!!』

『解き放て! 乖離剣(エア)よ!!』

 

 

轟音と巨大な振動。偶然にもその船を眺め、その揺れを目にした一般の人は、一瞬ダーカーの襲撃が再び起きたのかと身構えたそうだ。巨大な音と衝撃を放った後に地面に転がる一人の男を浮かばせ、静かに女性は去って行った。

オキが目覚めたのは2日後。心配そうにオキの顔を覗く可憐なサポートパートナーと、涙を浮かべ鼻水をオキの胸に柄ながら胸に顔をうずめた少女が一番初めに目にした光景だった。

「もー、心配したんだからね!」

怒るユウキに謝るオキ。元々シンキに呼び出され、嫌な予感がしたオキはこうなる事は予想しており、最初からアオイやユウキに話は通していた。自分が倒れて帰ってくれば心配するだろうと思い、圭子達にも念のため連絡はしておいたのだが…

「本当です。いくらシンキさんから手ほどきを受けるとはいえ、死にかけで戻ってくる人がいますか!」

これである。今回は自分の部屋とはいえ、正座するオキを中心にぐるりと少女達が囲み、頭を下げ続けるオキに対し激怒していた。

「いやだからさ、しかたねーだろって。シンキの呼び出しを断ればもっとひどい事になるし…許してくれよ。」

「「「「「ダメです!!!」」」」」

全員からの総意で拒否を喰らうオキ。とほほと肩を下げるしかなかった…

「…んだよ! おめーのせいでな!」

「あっはっはっは!」

笑いながら金色の杯で鮮やかな赤色に輝く酒を飲むシンキに、同じくして金色の杯を持つオキはその仕打ちがどうであったかをシンキに報告していた。皆に雷を落とされた後、シンキが見舞いに来てくれたので、見舞い品として持ってきてくれた極上の酒を一緒に

飲みつつ、起きたらどうなったかを話していた。

「でも、よかったでしょ? 自分の限界が知れて。どう思った?」

シンキの眼がオキの眼を見る。力強く見つめるシンキにオキは思ったことをシンキにぶつけた。

「…まだ、強くならなきゃならねぇ。信じて、待ってくれている人達が安心して、迎えてくれるように。怪我ひとつなく、笑って帰っていけるように。」

「そう。まぁ、今回のは、一応合格ってことにはしてあげる。でもそうね、少なくとも隊長ちゃんくらいにはなりなさい。」

「わかっているさ…。」

ずずずと杯に口をつけ飲み干したオキは、シンキとの一戦の最後を思い返す。

シンキが放ったのはあくまでも『乖離剣の輝きのみ』だ。彼女の乖離剣の最大出力である『光闇乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』と比較すると雲泥の差がある。

アインスはそれを、満身創痍になり、数日目が覚めない程の重傷になったとはいえ真正面から真っ二つに切り裂いたのだ。

まだ強くなる必要がある。そう思っていた事をシンキが読み取ったのか一言だけオキに残して去って行った。

「大丈夫。あなたはまだまだ強くなれる。あなたが死ぬ気で頑張れば、ね。」

その言葉と同時に消えて行ったシンキは黒い羽を一枚だけ、オキの部屋に残して行った。

「ったく、魔神め。」

その言葉とは裏腹に、オキの口は微笑み、眼には火がともっていた。

【深遠なる闇】との決戦まで後一週間を切った、ある日の出来事。




皆さま、ごきげんよう。シンキが一番初め、この小説の彼女の設定を依頼した際に『オキちゃん、私こうしたいから、オキちゃんもこうしてみたらどう?』と返してきた設定を今回織り込みました。
シンキの『光闇乖離す開闢の星』にオキの『人よ、星々を繋ぎとめよう』。最後の最後に回収です。(シンキみてるかー?)
さて、とうとう次で最後になるでしょう。また2話構成とか3話構成とか言わない限り…(頑張ります)
次回、【深遠なる闇】との決戦です。今までに仕込んでおいた、この作品のタイトルにもなる一つの大仕掛けを描きます。
もしよろしければ、最後までお付き合いいただければと思います。

さて、この場を借りて次回作の告知をしたいと思います。
現在、この作品「ソードアークス・オンライン」が完了した後に
続編『Fate/Grand Order Guardian of History』を公開していきたいと思っております。
時間軸はEP5。この作品で言う【深淵なる闇】決戦後となっております。
どうぞよろしくお願い致します。

ではまた次回にお会い致しましょう。


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最終話 「ソードアークス・オンライン」

「決戦の時が決まった。」

シャオからの連絡でオラクル船団全域に緊張が走った。オラクル全ての敵、全宇宙を守るための決戦が始まろうとしていた。

艦橋に集まったオキ達守護輝士達はその作戦を再度確認していた。

内容は単純明快。邪魔するものを叩き切り、本体に乗りこんで特大の火力で一気に体力を削り、そしてフォトンとエーテルの融合体であり『闇』を浄化する力を持った刀『天叢雲剣』を使って全力全開の一撃をオキとマトイで【深遠なる闇】に喰らわせ浄化するといったモノだ。

地球の騒動で知り合った八坂ヒツギ。彼女が手にした闇を浄化する力を持つ刀、天叢雲剣を丸々コピー。オキとマトイに合わせて鍛冶師ジグによって調整されたモノを使用する。

「オキ、マトイ。この刀は元が一緒とはいえ、性質の異なるフォトンとエーテルの混合体。使えるのは一回だけだと思ってくれ。普通に使うならまだしも、君たちの力を合わせて使用するから強度がもたない。」

シャオから長い刀を一本受け取ったオキは、それをマトイに渡した。

「マトイがもっていてくれ。俺はみんなで暴れまくるから壊しちゃかなわん。」

「わかった。」

こくりと頷いたマトイは大事にその刀を背負った。

「こちら側もいつでも出撃可能状態まで完了しております。」

「アースガイド、マザークラスタ。どちらも100%準備完了したわ。後はそっちの合図で同時に参加する。」

元マザークラスタの幹部、フルとオークゥも地球との通信で準備が完了した事をこちらに伝えた。

星ひとつの問題ではない。全宇宙の問題である。つい最近まで敵対していたマザーも協力を申し出てきた。少しでも戦力の欲しいオキ達からすれば、ダーカーと直接殴り合える数少ない共闘者が増えるのは正直ありがたい。

「オラクル船団最終防衛ライン部隊、後衛援護、各種物資及び戦力の最終確認。…問題ありません。各シップ全て準備完了です!」

シエラの前にあるモニターすべてにグリーンのOKサインが表示された。

オラクル船団及び対抗出来うる技術、力を持つ全ての者達が準備を完了した合図だ。実際に敵を前にして戦う者達だけではない。

オキ達最前線の部隊を掩護する者、それに関連する者、全てが手を取り合い、一つでも何かが出来る者達が結束した合図である。

オキがその場にいる全員を見渡した。ハヤマ、コマチ、ミケ…は相変わらずどこから持ってきたのか骨付き肉を食べている。まぁ話は分かっているだろう。アインス、シンキ、クロノス、マトイ。そして地球からの協力者オークゥとフルも皆がオキに頷いた。

いつでも行ける。後は合図のみ。

「いけるぞ司令官。タイミングは任せる。」

『りょーかーい。オラクル船団だけではなく、全ての人達に対して連絡します。』

総司令、ウルク。かつてオキがシオンの力で助けた人物にしてオキ達関係者で一番最初の味方となってくれた一般人。今ではオラクルの管理者であったシャオの後をついで総司令官としてオラクル船団を引っ張る人物だ。ウルクの姿がモニターに映し出され、オラクル全てに発信された。

『これより私達は、全ての力をもって宇宙を喰らう最大の敵【深遠なる闇】浄化に向けて動き出します。時間は今から8時間後。短い時間だけどしっかり休んで、しっかり戦える準備を整えておいて。主力は守護輝士。最終防衛ラインに六芒均衡。この決戦にオラクルの、全宇宙の運命がかかってる。私は…こうしてみんなに指示を出すしかできない。実際に戦えないのが悔しい。だから、自分の役目を最大まで頑張る。だから、戦う人も、戦えない人も、みんな自分の役目を全うして頂戴。次のチャンスがあるか分からない。だから負けは許されない。全てがこの一戦にかかってる。みんな、お願い。オラクルの、全宇宙のために、頑張ろう! …それじゃあ全ての代表として守護輝士のオキ君、代表で一言お願い。』

ニッコリとほほ笑んだウルクの姿がモニターから消え、代わりに艦橋に立つオキの姿が映し出された。

「は? 俺!? いきなり振られても…。ったく。これもう映ってんだよな?」

シエラに質問するとコクリと頷いた。おい、なんでおめーらおれから離れるんだよ。さみしーだろ一緒に映れよ。

はぁとため息をついたオキは正面を向いた。オラクルの、手を結んでくれた全てのモノたちがオキを見ている。

「あー…。俺の話何ざ、耳半分で聞いてくれ。正直どーでもいい話だ。深遠なる闇ってーのは、みんなも知っての通り全宇宙の敵だ。」

オキは語った。オラクルの皆に、地球の協力者に。聞いてくれている皆に対して。

アレは何でも喰らって何でも無にしちまう闇だ。それをやっちまってる奴を、それになっちまった奴を、俺は知っている。アークスの面々は知っているだろう。記憶にも新しいはずだ。以前、皆の手助けで助けてもらったマトイ。彼女は俺の中に集まってしまったダークファルスの集合体を自らを犠牲にしてその身に受け、そして深遠なる闇になりかけた。それを助ける為に奮闘した奴が俺以外にも一人いた。それが今、深遠なる闇となったバカだ。頭でっかちで、真っ直ぐしか道はねぇと横も後ろも見ねぇ不器用な奴で、ただひたすらに自分だけでマトイを助けようと、何もかもを、自分までも犠牲にして、途方もない時間、歴史を繰り返し、彼女を助けようとした大馬鹿者が、アレの正体だ。俺は、マトイは、あいつを救いたい。倒すとか、殺すとかじゃなくて、救いたいんだ。だが俺だけじゃ救えない。マトイを含めても、ここにいるメンバーだけじゃそれはできない。…あーシンキは別な。こいつの力ははんぱねぇから救うを通り越して殺しちまうからな。

オキの言葉に周囲のメンバーがシンキを苦笑気味にみる。シンキは相変わらずニヤニヤしたままだ。話がそれてしまった。元に戻そう。オキは写っている正面を向いて頭を深々と下げた。そして懇願した。皆、手を貸して欲しいと。

原初の星シオンは、マトイを救ったときに言った。人類の勝つ歴史を知らない。だが、シオンはこうも続けた。マトイが救われた歴史もまた知らないと、新たな歴史を紡いでくれと。今、人は歴史を歩んでいる。原初の星シオン、全知全能であった彼女が知らない一歩を進んでいる。その一歩一歩を止めないように【深淵なる闇】を浄化し、新たなる歩みを進み続けようじゃないか。

オキの言葉が終わると、艦橋にいるにも関わらず、オキのいるアークスシップからの盛大な声援が船内に響いた。ほかのシップでも一緒だとシエラはいう。

オキはそれを聞いて最初は戸惑ったが、頷く仲間をみて気合を入れる。

「いくぞ皆。深遠なる闇を、大馬鹿野郎を浄化するために!」

オキの乗るアークスシップの会議室エリア。その一つの大会議室を改良して作られた一室にその者たちはいた。

「負けられないね。」

「そうですね。」

「オキの…想い。伝わった。」

「うん。私たちのできることをしよう。」

その場にいたオキの演説を聞いた惑星スレアの住人達は最後の調整に入るために再び向かう。ずらりと並んだ巨大カプセルへ彼ら、彼女らは入っていく。

 

 

 

作戦開始1時間前。オキは自分のチームシップを訪れていた。

ミケが連れてきた少女たちを眺めながら、佳子達と設置してある小さなバーカウンターで話をしていた。

「ほんと、不思議な人ですね。」

「人…?」

佳子の『人』という言葉に美優が首をかしげる。オキはミケが連れてきた少女たちのその後の話をしていたのだ。

「ミケはミケという種類だとあれほど。」

「あ、あはは…。」

口をへの字に曲げるオキのセリフに苦笑気味の琴音。

「オーキー… 時間だって。」

「マズター、お時間でございます。ご準備はあちらに。」

木綿季が心配そうな顔で先程から鳴り響いていた内線の伝言を伝えてきた。通信はぎりぎりまで切っていたので、とうとう内線まで回ってきたのだ。

アオイはオキのマイルームから必要な装備、そして道具全てを用意してくれた。

「おう。」

すっていたタバコを灰皿にこすりつけ、ひとりひとりの頭を撫でた。

「そんじゃ、いってくる。終わったらパーティだ。」

こちらをチラチラ見ていたエステルも、子供たちを連れてこちらに集まってくる。

ミケは病室にいる双子ともうひとりの少女の様子を見に行っている。よって彼女達生徒から伝言を受け取った。

「絶対に戻ってきてください。ミケさんの笑顔を、また見せてください。」

生徒一同を代表してエステルからの約束。オキは頷き、受け取った。

「心配すんな。いつものように出て、いつものように帰ってくるよ。一人もかけることなくな。」

オキがニコリと微笑むも、心配そうな顔は変わらない。オキはアオイからコートを受け取り、バサリと羽織りチームシップを後にした。

『必ず帰ってくるさ。』

いつも通り。いつもの戦い。何も変わらない。ちょっと違うことを最後にやるだけだ。

アークスシップの中心、出発地点のアークスロビーそこにはスレアの面々が揃っていた。

「和人に明日菜。お前達も来ていたのか。」

「ああ、いてもたってもいれなくて。みんなもそうだ。これから?」

オキはコクリと頷いた。集まってくれたメンバーは揃いも揃ってオキを見つめる。

そしてハヤマもミケも、コマチも皆がロビーの中心に集まってきた。佳子達もオキを追ってきたようだ。

オキは周りを見渡し、スレアのメンバーとアークスのメンバーがこうして揃ったことが久しぶりだと気づく。

「SAOを思い出すな。こうして皆で巨大な扉を前にして気合を入れたな。一つ一つの扉の先が生か死か。必ず生きて上り進む。またあれやってくれよ。ディアベル。気合いが入る。」

SAOでの名前を再び呼ぶ。そしてニコリと微笑む青年が前に出てくる。

「ああ、わかった。」

微笑みから険しい顔つきで再び声をだす。

「この先は、君たちアークスだけの歩みではない。我々スレアの人々も同じ気持ちだ。こうしてリアルで言うのも不思議な気持ちだが君たちは日常茶飯事だろう。」

必ず生き残る。ディアベルの言葉に皆がオキたちをみた。

ハヤマの隣にいるシャルが、ツキミが。コマチのよこでコマチを見つめるフィーアが。その後ろに立つファータグランデの面々。シンキに撫でられているリーファ、シノン。アインスの周りにいるSAOでの怪物兵団のメンバー。タケヤ、ツバキ、サクラにレン。SAOで世話になったリズベットやエギル。ALOやGGOのメンバーまで勢揃いだ。

「必ず帰ってこい。君たちの帰るべき場所はここだ。」

「行ってくる。」

キャンプシップへと向かったオキたちの背中を見送るメンバー達。

「さぁ我々も行こう。」

「ああ。オキさんたちを手伝いにな。」

「ぱぱ、まま。シャオお兄ちゃんから連絡です。スレア全域、準備完了です。」

「いつでもいいそうよ。フォトンのチャージも完了してるって。」

ユイとストレアがシャオからの受信を受けた。システムはオールグリーン。フォトンの貯蔵も十分らしい。スレアのメンバーはそれぞれが頷き、指定の場所へと向かった。

 

 

 

 

作戦開始時刻。シャオの演算のとおり、再びその姿を現した巨大な徒花はナベリウスの宙域で花を咲かせた。

オキ、マトイを筆頭に全アークスが作戦内容を確認し準備が完了する。

『これより浄化作戦を開始する。守護輝士達は【双子】のコピーが守る領域を一気に突破。【深遠なる闇】本体へと向かって欲しい。』

「あいよ。その間は他の面々が【双子】達とやりあうんだろ? 気ぃ引き締めてヤれと伝えておけ。」

オキ達は全力で【深淵なる闇】に火力を向けれるように【双子】をガン無視で本体へと向かう。その間はアークスや地球のメンバー達が【双子】の動きを止めることになっている。正直数がものをいう勝負になるだろう。

「ファータグランデの面々も遠距離からとはいえ、手を貸してくれるそうだ。」

コマチの言葉にオキが頷く。ダーカー因子を浄化できる力はあまりないとは言え、抵抗できるほどの力を持つファータグランデのメンバー達の力はコマチが認めるほど。これほど頼もしい助力はありがたい話だ。

「それじゃあ動きますかね! ミケ! タイミングを見計らって突っ込んでこい!」

「りょーかいなのだー!」

移動型決戦用揚陸艦竜ドラゴンフォートレスの頭に乗るミケに指示を出したオキはハヤマ達を率いて【双子】が沢山いるフィールドを見つめた。

相変わらずの巨体。ふざけているのかと思う城型の体躯。それが自由に動くのだ。普通なら踏まれただけでも人たまりもない。だが、アークスならそれを可能にする。

オキは一番薄くなっているフィールドの一部を見つける。どうやら【双子】に相当なダメージを入れている者がいるようだ。オキはそこを目指し、フィールドへと降り立った。

「おおおおおお!」

キャストのアークスが叫び、【双子】から飛び出たコアを二本の直剣で切り裂いている。いや、何かおかしい。あの戦い方はどこかで見たことがある。

「スイッチ!」

「やああぁぁぁぁ!」

別のキャストが二刀流のキャストの攻撃の隙を埋めるように細剣をコアに突き立てる。

すぐ近くにいる別のキャストも目に入った。別のコアを短剣で切り裂いている。

動くその姿にひとりの少女が重なった。

「…佳子!?」

「そうだよ。皆、ただ待っているだけじゃ嫌だ。そう思ったんだ。」

色のついていないキャストが後方から近づいてくる。一本の直剣を持ったそのキャストはオキの真横を通り過ぎ、11回の瞬速の突きを放つ。

「マザーズロザリオ!? 馬鹿な! なんで木綿季も佳子も…それにその姿は…。」

周りを見渡せば見たことのある戦い方の者ばかり。どう考えてもスレアのメンバーだらけだ。スレアの人々にはフォトンは扱えない。扱えないからダーカー因子を浄化できない。戦う力はなかった。

「あの子達は、自分たちも数に入れて欲しいって言ってきたの。あるシステムの構築ができないかってね。」

シンキがオキに微笑んだ。

フォトンの仕組みを理解するのはそう難しい話ではなかったという。シンキ講師の下で行われたフォトンの仕組み講座。わかりやすく、そして理解したあとに和人が考案したとあるシステムの概要。そのシステムをちょちょいと手を貸して完成させたシンキは『自ら戦いたい。手を貸したい。』と懇願してきた子達を見捨てなかった。

「命の危険は…ないのか?」

「安心しなさい。私が組んだシステムよ。万が一もあるわけがない。」

ドヤ顔で自信満々に言い放つシンキをみてそれでも心配になるオキ。

「飛んだぞ! 四方だ! 四方に逃げろ!」

指示をだす和人の声をだす色のないキャスト。

「みんなで何回も仮想空間で戦ったから戦い方はわかってるんだ。」

木綿季であるキャストが説明した。たしかにあそこなら練習も可能だ。スレアの、ここにもいない者たちもヘッドギアをつけて戦いに来ているという。

「行ってください。ここは、私たちに任せてください。」

「佳子…。わかった。」

声を聴けばわかる。彼女たちの意思が、決意が伝わる。それを無下にはしない。

オキはミケに合図を出し、フィールドをぬって飛んでくるドラゴンフォートレスの決戦フィールドへと飛び乗った。

彼女たちが、彼らが、その身に意識を入れるキャストのパーツはいつの間にかアークス皆に募集をかけられていたほとんど使用していないキャストパーツを組み合わせて作られた人形のようなものだ。

その人形にフォトン貯蔵した全てのアークスシップから分け与えられバッテリーのように使用され彼ら彼女らを守る領域を貼る。

そしてスレアのヘッドギアを使用し、意識をそのキャストに入れ込むのだ。

「エーテルまで使ったのか!」

通信にはエーテル技術を盛り込むことで不安定だった意思のタイムラグをなくすことに成功した。地球とのやりとりも無駄にはならなかったということだ。

戦えないスレアの住民も手を貸したい。貸しを返すために立ち上がったのだ。

フォトンを防御に回している分バッテリーの使い方なので攻撃に回せばすぐにフォトンは尽きる。そこでコマチの出番だ。

「武器はファータグランデで手に入れた武器を貸している。どうせ倉庫で眠っている武器だ。使ってやらんとかわいそうだろ。」

武器はコマチからの提供らしい。たしかに何度か見せてもらったあそこの武器はこちらで対抗できる力を武器自体が秘めている。

「古戦場で手に入れた武器がまさかこんな形で役に立つなんてな…。」

ぶつぶつと呟くコマチ。

「システム名は和人ちゃんがつけたわ。『ソードアークス・オンライン』というそうよ。面白いわね。ふふふ。」

SAO。まさかここでその名前を付けるとはあいつらしいというか。というかフォトンが万能とは言え、そこまでやるかよ何でもありだなフォトン。改めて可笑しいと思う。

おかげでより気合を入れることができた。

「そうそうに片付ける必要があるな。オキ君。」

「ああ。あいつらを戦いっぱなしにさせるのは不利になる一方だ。ったく、人の影でこそこそと何やってると思っていたら、そんなことを。」

「嬉しそうに笑ってるね、オキさん。」

「マスター見えてきたよ。」

クロノスの言葉に全員がその方向を向く。巨大な花びらを引っさげて改めて拝むその姿。

「決着をつけようオキ。佳子ちゃんも木綿季ちゃんも戦ってくれてる。」

「ああ、戦闘準備だ! 一気に吹っ飛ばすぞ! ハナから全力でいけ!」

マトイとオキの言葉にドラゴンフォートレスに乗る全員が力を貯め始めた。

 

 

 

 

二度目の決戦。今回の戦いは以前と違う。一人の追加。たったひとり。だがそれが一番大きい。

「頼むぜシンキ。以前みたいのまで出せとは言わねーから、それなりに手伝ってくれよ?」

「ふふ。この私が手伝うからには負けは許さないわよ?」

オキがフォトンで作り出した鎖の数々には先端に尖った短剣や短い刃が光り、ふよふよと深遠なる闇へとその頭を向けている。

シンキは相変わらず背中の何もない空間を歪ませ、数多の種類の武器を浮かせ、頭を見せている。

「ぶっつけ本番だが、アレやるぞシンキ。」

「りょーかい。力を溜めなさい。全てを貫く為に。」

オキの背後に立ったシンキはオキの援護に回る。オキはフォトンを最大限まで溜める為に集中に徹した。その間は無防備になる。そのため、その場に立つ全員の総力を叩き込むことにしていた。

「クロ! 動きを止めろ!」

「了解マスター。」

クロノスの背中に生える白き翼をバサリと広げ、クロノスは光り輝き始めた。

『「我、我が主『クロノス』の名を以てここに神格を解放する。我、我が主『クロノス』に代わり時空を乱す彼の者に裁きを下す。『天裁・時空神域(クロノスタシス)天裁・時空神域』」』

周囲にクロノスの、天使の羽が舞い上がり、ひらひらと宙に浮き光に反射し輝くその羽が舞う。クロノスは全ての時が停止した事を確認した。

『権能、行使。対象者、選定。』

時と運命の女神クロノス。同じ名を受け持ち、主に仕える天使クロノスはその名を以って止まった時の中で動ける者を選定する。

オキ、ハヤマ、コマチ、アインス、マトイ。シンキは時の概念から逸脱している為止めることはできない。ミケは、あの短剣の効力か、同じく止めることはできなかったが今回はどうでもいい。

「あまり長い時間は止められない。急いで!」

いくら神の使いだからと言って万能ではない。止められている時間も長くはない。

「ハヤマ君。いくぞ。」

「了解。いっくぜええええ!!!」

ハヤマがフォトンを吸収し、アギトを地面と平行に前へ突き出す。その直後に真っ直ぐに伸びていく光の槍が放たれた。

ハヤマの攻撃は何もかもを犠牲にして繰り出すたった一撃の強力なフォトンの突き。その反動すら見ずに繰り出すソレはハヤマの身にも襲い掛かる諸刃の剣。ただの突き。だが、それに圧縮されたフォトンの量は膨大である。

正直、ハヤマ自身気づいていない。本人は凡人だと思い込んでいる。元からイレギュラーにして、魔神より力を授けられたオキ。

ラグオルを救った英雄にして大剣豪のアインス。意味の分からない行動をしつつもその途方もない力を持っている事は理解が出来るミケ。文句を言いながらも涼しい顔をしてダークファルスと一対一で殴り合いのできる力を持つコマチはまだ何かを持っていると思っている。こうして時を止める事の出来る天使クロノス、破格の魔神シンキは言わずもがなだ。どうして自分だけがこのメンバー内にいるのか。理解不能だったハヤマはそれでも文句ひとつ漏らすことなく、努力を積み重ねていた。血のにじむ努力を。

「オメガブラストォォォ!!」

「だからこそ、その域に達することが出来たのよ。ハヤマちゃん。安心しなさい。私が保証してあげる。あなたは、この仲間にふさわしい力と意思の持ち主よ。」

オキの力を最大限に引き出せるよう、オキの背後で仁王立ちするシンキはハヤマを見つめる。オキはその言葉を黙って聞いていた。

時を止められた【深遠なる闇】は攻撃されたことを認識できていない。時が動き出して初めて認知することが出来る。喰らった猛攻が全て一瞬で【深遠なる闇】を襲う。そのダメージは計り知れない。

「あとは…頼んだぜ。隊長…。」

自らの攻撃の反動で放った反対側に思い切り吹き飛ばされた。シンキが宝物庫より取り出したクッションで受け止めなければ宇宙空間に放り出されたことだろう。力を出し切ったハヤマは、倒れ際に自分の前に立った男の背中に次を託した。

「ああ、任せろ。」

蒼く光るオロチアギトを両手で握りハヤマの攻撃の間溜めていた力を、放出した。

宇宙を渡り歩けば、必ず耳にする『四天の刀の伝説』。別の宇宙からスライドしてきたシンキも、その力を保持しているほど、その存在は力強い。

サンゲ、ヤシャ、カムイ、そしてその3本の全ての力をオロチアギトへ注ぎ込む。アインスの周囲に現れた3本の異なる刀は光るオロチアギトと重なり、やがて一本の刀となる。

周囲の気が震え、ビリビリと伝わるその圧力は少し離れたオキやシンキにも伝わってくる。

「貴様が咲かせる徒花に、私も一つ咲かせるとしよう。」

シンキの、観測者からの試練を受けた時、一本の光の筋をアインスは見た。原初の光さえも叩き切ったアインスは満身創痍となりながらも一つの答えを導き出していた。

使い手が人である限り、神に辿り着く事は不可能だ。巨大な力に人は耐えられない。必ず身体か武器が砕けてしまう。

ならば少しでも前に進むため、この手を届かせる為、奔流の中にあるただ一つの点、小さなその一点を斬り裂き貫き進む。それこそが四天の力を持つものならば辿り着く極地。

「そうよね、それに辿り着くわよね。そしてそれが、貴方の形ね。」

アインスの手に持つ刀は刃が大きく伸び、蒼色から黒と白に染め上げられた柄となる。シンキの所持する四天の極意の形。大剣『罪斬』。アインスはそれを刀として形作った。

「これは、『人の身で神を討つ』と言う罪を断つ許しの刀。よって名を『罪斬』と呼ぶ。ここでこれを使えば二度と使えなくなるだろう。本当は、もっと別で使いたかったのだが…。」

アインスは後ろで見てくれているであろうシンキを意識する。それを感じ取ったのかシンキもそれに反応し、フフとほほ笑んだ。

「だが、貴様に使うならばコイツも本望だろう。相手にとって不足無し。我が四天の力、受け取るがいい。」

大きく振りかぶったアインス。罪斬の刃は銀色に輝き一瞬光った。そしてアインスの両腕より繰り出される斬撃を、その場にいたメンバー全員が身を以て感じた。

「オオオォォォ!!!」

 

斬!

 

一回の横一閃。振りかぶり斬り裂いた直後にオキは見た。一瞬二つに分かれ左右横にずれた斬り裂かれた世界を。

「幻覚とはいえ…それを認識させる斬撃を繰り出すか。ふははは! 人よ! しかと見届けた!」

実際に斬ったわけではない。だが、それを認識させるほどの斬撃は観測者が認めるほどの力であった。だが、それほどの力を放って無事でいられるはずもない。パキンと小さく音を鳴らし、砕け散った罪斬は元のオロチアギトに姿を戻し、折れた姿をさらしていた。

「相棒よ、ありがとう。」

たった一言。短い一言で別れを告げたアインス。しかしその短い言葉の中にアインスが全ての感謝が詰まっている。

長い時を共に過ごしたアインスの愛剣であり相棒であったオロチアギトは華を開かせ散っていった。

「っく…まさか、世界を斬るなんて…ダメだ! 今ので…力が…!」

クロノスが抑えていた時が、アインスの『罪斬』により世界が斬り裂かれ、再び動き出そうとしていた。

計画ではミケ、コマチが後に続き始めて時を動かし、怒涛の勢いで放った攻撃を一瞬のうちに認識し、悶える【深遠なる闇】にオキいがシンキの援助を受けて止めを刺すつもりだった。このままでは足りないうえ中途半端に与えたダメージで【深遠なる闇】が暴れるかもしれない。

「ミケに任せるのだー。うらーなのだー!」

ミケが以前デウスエスカを討伐した際に振り回していた、見ているだけでぞっと背筋が凍りつくような感覚になる不可思議な短剣を、円を描くように振り、空間を斬り裂いた。

それと同時に時が動き出し、一瞬のうちに多大なダメージを受けた【深遠なる闇】が暴れだそうとしているところの真上に同じ円が発生する。そこから何かが大量に振ってきて【深遠なる闇】にへばりついた。おかげで【深遠なる闇】が暴れずに済んでいる。よく見ればそれはミケの姿をしているではないか。大きなフードをかぶり、そのフードの隙間からは三日月型に曲がった笑う口が見えている。

「どっきりナイツ!」

「「「なのだー!」」」

一斉に三日月形に笑う口をより曲げたと思いきや、それらのミケ達が同時に爆発した。小さいながらも強力な爆発で【深遠なる闇】を攻撃するミケはまだ止まらない。

「びっくりレンジャー!!」

再び短剣を振り回したと思ったら、今度はミケの真正面に円が出てきた。そこからは空飛ぶ小さなミケが大量に【深遠なる闇】へと向かって飛んでいく。唐突に爆発を喰らい、更に力を拡散させてしまった【深遠なる闇】は特攻してくる小さなミケ達にこれ以上攻撃を喰らいまいと高速で宇宙空間を飛び始めた。

「むむむ! コマチー! 何とかするのだー!」

「へいへい。そんじゃ、始めますかね。準備はいいか!? おめーら!!」

コマチの叫び声に答えるように、ドラゴンンフォートレスの下方から、コマチのファータグランデの仲間たちが乗る船、グランサイファーが飛び出してきた。

「合わせろ。…始原の竜!」

コマチが上に手を翳した。直後にコマチの身体が光り輝きだす。それと同時にグランサイファーにいる二人の少女も体を光り輝かせていた。

「「闇の炎の子…汝の名は…。」」

二人の少女がコマチに合わせて言葉をつなぐ。そして3人同時にソレを呼び出した。

「「「バハムート!!!」」」

呼び出す声と同じに何もない宙の空間から出てきた黒い影。巨体に大きな翼。黒い鱗に白く光る胸部。口からは青白い炎があふれており、顔部の先端には巨大な角がある。星晶獣と呼ばれる星々を作りしモノたち。ファータグランデにいる神にも匹敵するモノだ。

こまっちーこれ、プロバハじゃなくてアルバh…。これはバハムート? イイネ? ア、ハイ。

コマチとグランサファーの仲間が召喚した巨大なドラゴンは飛んで逃げた【深遠なる闇】を猛スピードで追う。そのスピードは巨体に似合わず、【深遠なる闇】にすぐさま追いついた。

「逃がさん。」

光り続けるコマチは更に力を増幅させる。【深遠なる闇】といい勝負の大きさのバハムートと呼ばれた黒き竜は【深遠なる闇】をしっかりとつかみあげ、口を大きく開き青白く光らせる炎と咆哮を同時に吐き出した。

「完全なる破局!!!」

やっぱりアルバh。じゃなかったバハムートの巨大な咆哮によって【深遠なる闇】はドラゴンフォートレスまで飛ばされた。勢いよく飛んできた【深遠なる闇】はすでに相当なダメージを負っている。今がチャンスだ。フォトンの量は十分に溜まった。

「オキちゃん。」

「行くぞシンキ。」

 

呼び起こすは宙の息吹。

 

原初を語る。天地は分かれ、無は開闢を言祝ぐ。世界を裂くは我が乖離剣。

 

 

お互い一緒に宙へと浮かび上がる。鎖が飛び交い、白と黒の光が入り乱れる。

大人しくしていてくれよ。全ては、この時のために。

 

 

人と共に歩もう、俺は。故に―――『人よ、星々を繋ぎとめよう(エヌマ・エリシュ)』!

 

光を以て鎮まるが良い。『光闇乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!

 

 

 

二つのエヌマ・エリシュが放たれる。シンキのエヌマはあくまでもオキのエヌマの増幅であるが、その助力は莫大な力を生す。

オキのスピードとパワーは何倍にも膨れ上がり、鋭さを増し、並大抵の武器では簡単に傷をつけれない【深遠なる闇】の外郭を貫いた。貫いた後、重度なダメージを負った【深遠なる闇】は予測通り再び時を巻き戻し、修復をしようとし始める。

だが、オキの放った『人よ、星々を繋ぎとめよう』により鎖が邪魔をして時を戻せない。

「ふう。ただいまー。」

鎖でがんじがらめにして戻ってきたオキは、マトイの隣に並んだ。マトイはオキをみて背負っていた刀を鞘から抜く。

「準備はいいよ。眠らせてあげよう。」

「ああ、もう休んでもいいだろう。」

ドラゴンフォートレスの決戦フィールド上にその頭部を乗せ縛り付けられている【深遠なる闇】。その殻の中に引きこもっていた【仮面】の姿を二人は見た。

二人は一緒に刀を持ち、高々と振り上げる。フォトンを溜め、集中をする。

「「やああああ!!」」

二人は手に持つ一本の刀を振るい、【深遠なる闇】へとその刃を入れる。闇が裂け、光り輝いていくオキ達。【深遠なる闇】はその光に飲み込まれていった。

 

 

 

 

「…こうして、光と闇。二つの力の大いなる戦いは終わりを告げるのであった。」

一人の女性が小さな家の中で数人の子供たちに本を読み聞かせている。暖炉の前で、暖かくして聞かせるは大昔のおとぎ話。子供のころに誰もが知る光と闇の物語。そしてぱたんと本を閉じた。一つの物語が終わってしまったのだ。

一人の子供が手を挙げて質問をする。光の騎士たちはどうなったの? 幸せになったの?

この物語はその続きが無い。あるのは戦いが終わったという終末だけ。

「どうだと思う?」

女性は微笑み子供たちに聞き返した。そこから先は子供たちの想像力を育てるものに変化する。幸せになった。戦いはまだ続いている。子供一人一人違う想像を湧き立てる。

今日はここでおしまい。よい子は寝ようね。女性がそういうと子供たちは元気よく返事をして布団へと入っていく。

暫くして女性は家を出た。そして大きな翼を広げ、その家から飛び去っていく。6枚の黒い大きな羽は月の明かりが白く光り輝かせる。

「その後…ね。これは、一つの物語の終わり。でも、始まりの分岐点でもあるわ。ふふふ。」

木々の生い茂る森の上空を飛ぶ羽の生えた女性は誰に話しかけたのか。微笑みながら独り言をしゃべり宙の闇の中へと消えて行った。

これは、光と闇の、千年にわたる大いなる戦いの物語。数多に分岐する一つの物語である。




完結! 長かった!! 3年と半分ない位の長い間、お付き合いいただきありがとうございました。ここまで来れたのも仲間たちと読んで下さった皆様のお陰です。あちこち誤字脱字等様々な部分で読みにくい部分もありましたと思います。ごめんなさい。
やりたい放題やった! 書きたい放題かいた! そんな自己満足な身内用だったとはいえ読んで下さった方々、本当にありがとうございます。特に感想を書いてくださっていた常連の皆さま。感想を書いてくれる事が本当にうれしかったです。
何度も読み返していると『あ、ここ設定が違う』とか『なんか説明足りてない』とかまだまだあります。(いつかやろう…。
SAO原作なのに、途中からPSO2関係になったり、Fate関連混ざったり、ぐっちゃぐちゃにまぜこぜな作品になってしまいましたし、完結とはいえ、なんか『俺達の戦いはこれからだ!』的な終わり方の最後ですが、原因は次回作にあります。
既に書き始めている次回作「Fate/Grand Order Guardian of History」は、この物語の最後。【深遠なる闇】に天叢雲剣を突き刺すところから始まります。
その為このような最後となってしまいました。まぁそれも一つの形という事で許してください。
いろいろ思うところはありますが、こうして一つの物語を完結まで持ってこれたことを糧とし、次回作にこの勢いのままで書き続けていきたいと思います。

さて、最後の最後にタイトル回収。『ソードアークス・オンライン』というシステム。最後に何としてもできる限りこのタイトルを持ってきたかったという想いから生まれた代物でした。フォトン万能説を使った強引な内容ですが、なんかいままで共に戦っていた仲間が最後に大集合するって熱くね? って気持ちで書いてましたはいすみません。

最後に、ソードアークス・オンラインという物語はここで一旦は幕を閉じます。最後に書いたように物語の始まりの分岐点でもあります。オキ達の冒険は別の物語で、描かれます。もしよろしければそちらもどうぞよろしくお願いいたします。
(次回作「Fate/Grand Order Guardian of History」の第1話の投稿は、来週の土曜日朝8:00を予定しております)

ではまた、どこかでお会い致しましょう。


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