絶体絶命クロスアンジュ邪っ! (監督提督)
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神隠しじゃっ!





















じーさん「えっ!?読むの!?」



 

『…以上、現場からの中継でした。繰り返しお伝えします。本日は全国的に風が強く、各地で暴風波浪警報が発令されています。沿岸部にお住まいの方は高波に、また内陸部の方は竜巻などに十分ご注意下さい』

 

それは風の強い、ある日曜日の出来事であった。

 

「うへぇ竜巻かぁ。おっかねーなー…」

 

強風でガタガタと窓が音をたてるリビングで、ニュース番組にしかめっ面を向ける少年。

ツンツン頭で白いジャケットを着込み、顔立ちはまだまだあどけない小学五年生。名を洋助という。

 

「このままだと、明日は学校休みかもなぁ。とりあえず、今日みたいな日は外に出ないで大人しくしてるのが一番だよな!」

 

人は、台風や大雨大雪など、異常気象に見舞われた時、妙にテンションが上がることがある不謹慎な生き物である。

洋助少年もまた例外ではないのだが、

 

「さーてなにして遊ぼっかなー♪ひとまずゲームでも…」

 

 

 

「オーイまごー!」

 

世の中には、例外を通り越した規格外(バカ)が存在するのである。

 

 

ガラッ

 

 

「外に遊びにいこうぜぇーっ!☆」

 

「(言ってるそばからでたよ…)」ズビーン

 

ここまでのログをいっそ清々しいほどに無視した発言と共に、襖を開け放ち現れたのは、1人の老人。

白いランニングシャツに茶色いハラマキといういかにもな出で立ち。手抜きなのかディフォルメなのか知らないが、ともかくつるんとした両手足。

胴体よりも頭が大きいドラ◯もん的なシルエット。照明を反射する光沢にまたがるすだれ状の髪がちょっと切ない。

そして何より特徴的なのは、スイカ大の顔面で異様な存在感を放ちまくる、「ヒゲ」。

 

…そう、もうおわかりいただけただろう。

 

 

 

「ワシはでんぢゃらすじーさん!世の中のあらゆる危険から安全に生き抜く方法を教えるプロじゃーーーっ!」どどーん!

 

「(誰に向かって話してんだ…?)」

 

画面の向こう側と交流を果たすのは、まだまだ先のようだ。

 

「っていうかなに言ってんだよおじいちゃん!外は竜巻が起こるかもしれないって言われるぐらい風強いんだよ!?」

 

「まごよ、昔から言うじゃろう、子供は風の子だと」

 

「それがなんだよ」

 

話が見えない、と半眼を向けられるじーさんだが、意に介した様子もなくこう続けた。

 

「子供は風の子…つまり、風は全ての子供達の親!すなわち!

 

 

 

大風の吹きすさぶ今日というこの日こそ!思う存分風に飛び付いて甘えて遊んでもらうのじゃーーーー!!」どばーん!

 

「手荒く吹っ飛ばされるわーーーい!!」

 

危険を避けるどころか、自らスキップ気分でGo to hellするような所業である。

 

…ところで、どういうわけかこの少年、本名で呼ばれることがほとんどない。[まご]と呼ばれることがほとんど…むしろそうとしか呼ばれないのである。

だが当人はさして気にした様子もなく、諦めたのか慣れてしまったのか、その心中は不明である。

 

「というワケで今回は、風の強い日にお外で安全に遊ぶ方法を、ビビっと教えてやるぜーーっ!」

 

「(まーた面倒なことに…)」

 

顔に暗い影を作るまごであったが、じーさんはこれまた気にした様子もなくにょろにょろと小躍りしている。

 

「さて、とりあえず何をして遊ぶかじゃが、せっかくイイ風が吹いていることじゃし、それを生かしたイカした遊びをしなイカ?」

 

「(よくわかんねーけど最後のアブなーーい!!)」イカむすーん

 

まぁ原作では[少年ジャ◯プ]の名前が出かかったことすらあるので、きっと大丈夫じゃなイカ?

 

「そこで、今日はこんなものを用意してみたんじゃ」

 

そう言ってじーさんは襖の陰に両手を突っ込み、大きな段ボール箱を取り出した。ドスン、と畳の上に茶色い紙製の箱が鎮座する。

 

「これって…」

 

箱の上には大きく「凧」と達筆な一文字。

 

「そのとーり……凧揚げじゃーーっ!」

 

「ムリに決まってるだろーっ!?」

 

得意気に告げるじーさんだったが、そんな馬鹿祖父にまごは速攻でNGを喰らわせる。

「こんな日に凧なんか飛ばしたって、竜巻に巻き込まれてバラバラのめちゃくちゃになるだけだよ!!」

 

「このバカチーン!!」バキッ

 

「ぬはーん!?」

 

まごは至極全うな意見を言っているだけなのだが、そんな理屈が通じるでんぢゃらすじーさんではない。

唐突に頬へパンチを打ち込まれ、床に倒れ込んでしまう。理不尽極まりない。

 

「なんで殴られたんだオレは…」

 

「まごよ!家の中で大人しくしてれば竜巻を凌げると思ったら大間違いじゃ!

竜巻を甘く見るなよ……。竜巻が起こると時空が裂けて神隠しにあうって、むかしともだちのとしひこくんが言ってた☆ミ」

 

「(としひこくんウソつきすぎーーっ!!)」ドビーン

 

それが本当なら、ハリケーン大国であるアメリカは行方不明者続出で恐ろしいことになっているだろう。下手するとゴーストタウンだらけになるやも。

 

「安心しろ、ちょっとやそっとじゃ壊れない丈夫な凧を準備するからの」

 

「丈夫な凧って、いったいそんなの

 

しゅばっ

 

どうや、って…」

 

言い切る前に、違和感を覚えたまごは自分の身体を見下ろす。

手足は開かれ、長方形の人間大はある木の枠のような物に紐でくくりつけられている。

枠の内側には細かい骨組みが張り巡らされ、全体に隙間なく貼り付けられているのは大きな紙。

それはまるで、漫画などで見る忍者が風を受けて空を飛ぶ時のようだ。

つまりは、

 

 

 

 

「凧オレーーーーーーーーーーッッ!?!?」ガビビーン

 

 

 

 

「よーしそれじゃいくぞー!」

 

「まてまてまてまてまてまてーーーッ!!」

 

戦慄するまごを尻目に、さっさと外へ出ようとするじーさんに、まごは必死で食らいつく。

このままうっかり実行されたが最後、自分の命は木っ端の如くFly awayしてしまうだろう。

 

「心配無用じゃ!これまたちょっとやそっとじゃ切れないよう荒縄だって用意してある!チクチクするぜ!」

 

「もはや凧揚げじゃねーだろクソジジィ!!」

 

「なんじゃとーっ!?」

 

とうとうブチ切れたまごから暴言が飛び出し、じーさんと一緒になってヒートアップしていく。

「うるせーバーカ!」「カピバラと結婚しろオマエは!」などと低レベルな罵り合い(?)に発展し、ついに手が出るかというところまで来て…

 

ソイツがやってきた。

 

 

ガシャーン!!

 

 

「わーーーーっ!?」

 

窓ガラスを突き破って。

 

「いったい何が…って」

 

窓からダイナミックに乱入してきたのは、2人にとってよーく見覚えのある人物。

ガラスの破片が突き刺さり流血する頭は鉛筆のようにとんがり、先がくるんと丸まった一本毛が生えている。

スーツ姿にネクタイを締め、両頬からも同じようにカールしたどじょう髭を生やす二頭身の男。

 

 

「「校長!?」」

 

 

校長。まごの通う小学校の校長先生であり、自分が一番エラくないとすまない男である。

 

「しっかりするんじゃ校長!何があったんじゃ!?」

 

「う…ここは…?じーさん…?」

 

衝撃で一瞬気を失った校長だったが、じーさんの呼びかけでどうにか意識を取り戻した。

が、既に息は絶え絶えで死に体だ。

 

「どうして窓から…?」

 

「それは…コイツじゃい…」

 

まごの問いかけに、手に持つそれをプルプル震えつつ掲げる校長。

 

「旗?」

 

人の顔ほどの大きさの旗であった。

校長の顔(あきらかに盛って描かれたイケメンフェイス)がプリントされており、根元はへし折れたのかささくれた断面を晒している。

 

「始まりは昨日のことじゃい…。放課後、校長室の机にこのカッチョいいワガハイの旗が置いてあったのじゃい…」

 

「(自分で言うなよ…)」

 

「ワガハイはさっそく、学校の時計の上にこの旗を飾ったのじゃい…。しかし今日になって…」

 

 

 

 

ーーー【回想ざます】ーーー

 

 

 

「ぐっ、マズイのじゃい。このままでは、カッチョいいワガハイのちょーカッチョいいエラさを表したハイパーカッチョいい旗が風でカッチョ悪く吹き飛んでしまうんじゃい!」カチョーン

 

ゴオォォォォ

 

「すっ、凄まじい風じゃい!早くしないと…」

 

ミシッ…ミシッ

 

「旗が!ぬおおおぉぉ!!」

 

…ボキッ!

 

「させるかぁーーーッ!!」

 

パシッ

 

「ぃよっしゃー!とったのじゃーーい!!」

 

…フワッ

 

「…へ?」

 

ビュオオオオオオ!

 

「あーーーーれーーーー………」

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

「というわけなのじゃい…ゴフッ」

 

「(バカ野郎だーーっ)」どがび〜ん

 

自己権力誇示のためならば、他の何もかも知ったこっちゃないのがこの男である。

その情熱だけは、ある意味評価されるべきなのかもしれない。情熱だけは。

 

しかし、忘れないでほしい。

今現在、この家の外は警報が出るほどの強風が吹き荒れており、突然の突入者により窓は全壊して全開の状態なのだ。

そして、まごは未だ人間凧の格好のまま…

 

「…うわっ!?」

 

 

ゴオォォォォォォォ!!

 

 

「うわああぁぁーーーー!?」

 

「まごーーーーッ!!」

 

吹き込んできた風にすくわれ、まごは窓の外へと飛び出していってしまう。

 

「やらせんッ!」

 

「お、おじいちゃん!」

 

間一髪、じーさんはくくりつけられていた縄を掴むことに成功する。

しかし、まごの身体は暴風に煽られ宙を暴れ回り、いまにも飛んで行ってしまいそうだった。

 

「おじいちゃん助けてーーーっ!!」

 

「安心しろまごよ!まごのこの命綱、絶対に離さん!ワシの命にかけても、まごは絶対に離さんッ!!」

 

「おじいちゃん…!」

 

「ぬっ、ぐぅ………っ!?」

 

「え…」

 

 

力の限り踏ん張るじーさんだが、突如その目が驚愕を浮かべる。

反射的に背後を振り返ったまごの目に、風で破れた凧の穴ごしに写ったのは、

 

 

紫電を帯びた、灰色の巨大な渦であった。

 

 

「竜巻だーーーーーっ!?」

 

「バカな!?日本であんな大きな竜巻が起こるワケがない!」

 

破天荒で知られるじーさんだが、一般常識ぐらい当然知っている。

平地の多い北米ならいざ知らず、起伏に富んだ地形の島国日本で、あんな「町を丸ごと飲み込むような竜巻」など、起こる筈がないのだ。

 

瞬間、

 

「しまっ…」

 

一瞬の驚愕。そのスキを突かれ、ついにじーさんはまごと共に外へと引きずり出されてしまう。

 

「わあぁぁーーーっ!!」

 

「まごーーーーーっ!!」

 

宙でもみくちゃにされつつ、竜巻へ一直線に吸い込まれて行く2人。

 

そしてじーさんの目に、更なる「異常」が飛び込んできた。

 

 

 

ーーージジジジジジジ…

 

 

 

「(なんじゃ!?空間が歪んで…)」

 

 

 

ジジジジジジジジジジジジジジ!!

 

 

 

「おじいちゃーーーーーん!!」

 

「まごーーーーーーーー!!」

 

異常の渦に飲み込まれ、2人は意識を手放したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……いちゃん………じい……ん…

 

「う…?」

 

おじいちゃんっ!

 

「…はっ!?」

 

自分を呼ぶ声が聞こえ、じーさんは目を覚ます。

目の前には、心配げに自分を見下ろす可愛いまごの顔があった。

 

「まご…?」

 

「よかった、目が覚めたんだねおじいちゃん」

 

「ワシは、確か竜巻に吞まれて……」

 

半身を起こし、自分が随分と寝心地の悪い、硬い所に寝かされているのにじーさんは気付く。

 

「ここは…?」

 

辺りを見回し、頭が覚醒していくにつれて、じーさんの中で違和感がどんどんと膨れ上がっていく。

 

全面灰色の、石造りで武骨な壁、床、天井。

自分が寝ていたのは、ベッドと言うにはあまりにおこがましい粗末な台。

そして最も目を引くのが、背後から僅かに光を取り入れる小さな穴と、正面に見える通路と自分たちを隔てるように嵌め込まれた鉄格子。

それはもう、みまごうことなき…

 

「牢屋?」

 

「そうなんだよ、オレもついさっき起きて、そしたらこんな牢屋の中にいて、もうなにがなんだか…」

 

「うーむ…」

 

わけがわからない、と首を振るまごの言葉を聞きながら、じーさんは考える。

 

自分たちは確かに自宅に、住み慣れた町にいた。

竜巻によって吹き飛ばされ、病院や路上、或いは山の中で倒れていることはあるにしても、牢屋にいることにはどうやっても繋がらない。

 

心当たりがあるとすれば、最後目にした、あの歪み。

 

「(アレが原因でワシらはこんなところに?それではまるで…)」

 

 

カツ、カツ、カツ…

 

 

その時だ。石の床を無機質に鳴らす、靴の音が聞こえてきた。

 

「お、おじいちゃん!誰か来るよ!?」

 

「シッ!まごよ、どんなヤツがくるかわからん。ひとまず落ち着くのじゃ!」

 

「う、うん!」

 

徐々に近付いてくる足音に耳を傾けていると、それが二重であることに気付く。どうやら、向かってきているのは二人らしかった。

 

そうして、音の主達が姿を表した。

 

 

 

「声がすると思えばやはり起きていたか。おはよう、お目覚めの気分はどうだ?」

 

「………」

 

挑発的にも取れる物言いでまず口を開いたのは、黒い長髪を後ろで束ねた女性。

切れ長の目に、赤い口紅で彩られ存在感を示す唇。

その口元は微笑を浮かべると共に、火のついた煙草を軽くくわえている。

白に黒を走らせたような服を身につけ、さらに内側の赤い白のロングコートを羽織っている。

 

一方、もう一人の女性は緑色という珍しい色合いの髪にちょこんと帽子をのせ、目元には細いフレームの眼鏡を装着している。

ただ、微笑を浮かべる黒髪の女性とはうってかわって、こちらの女性はじーさん達をまるで信じられない物を見るような、更にいえば未知の存在に向けるような目をしており、瞳には困惑の色がありありと見えた。

 

「…オマエ達は何者じゃ。ワシとワシの可愛いまごをこんなところに押し込んで、いったい何が目的なんじゃ」

 

「ほう。もしかしたら言葉すら通じないのではないかと心配してたんだがな、どうやら杞憂だったらしい。まあ、その方がこちらも手間が省けて助かると言うものだ」

 

じーさんが問いかけるも女性は無視。くつくつと笑いながら、コートで隠れていた右手を、くわえている煙草へと伸ばす。

それを目にし、じーさんとまごは息を飲んだ。

 

「この女の人、右手が…!」

 

思わず呟くまごに意を介さず、女性は煙草を口から離し紫煙を吹き出す。

 

 

手慣れた手つきで煙草を持つその右手は、鋼鉄のソレへと化していた。

 

 

「質問に答えてやろう。私はジル、ここの司令を勤めている。隣は監察官のエマ・ブロンソン殿だ。

 

 

 

 

対ドラゴン用前線軍事施設、アルゼナルへようこそ、闖入者(イレギュラー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、世の中の危険と戦う一人の老人と

 

 

 

 

苛酷な運命に抗う、不屈の姫君の

 

 

 

 

二つの世界の命運をかけた、壮絶な戦いの物語である

 

 

 

 

 

〈絶体絶命でんぢゃらすじーさん〉

 

 

 

〈クロスアンジュ 天使と竜の輪舞〉

 

 

 

〈でんぢゃらすじーさん邪〉

 

 

 

 

 

《絶体絶命クロスアンジュ邪っ!》

 

 

 

 

いま、数奇な縁が物語を紡ぎ出す---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と、まぁそんな感じで第1話いかがだったでしょうか。


主人公片方出てねぇじゃねぇか!!(サーセン

…実は次回も出番はない予定だったりします(ふるえ声



アルゼナルに漂流し、いきなり牢屋にぶちこまれてしまったじーさんとまご。
不適に笑うジルにじーさんは…
そして、そう言えばアイツはどこにいったのか。
次回にご期待下さい


…ジルが輝くのは、今回と次回を最後に当分ないかもしれない。


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おいでませアルゼナルじゃっ!


じーさん「………」


………



じーさん「………」



………



じーさん「………」



…………☆ミ






じーさん「ケツからちくわが出ますようにケツからちくわが出ますようにケツからちくわが出ますように!!」


















ちくわ「にゅっ」



 

 

「対ドラゴン軍事施設…」

 

「アルゼナル、じゃと?」

 

「そうだ。[人間]のための兵器として、[人間]の駒となり、[人間]のためにドラゴンを殺す…そのための前線基地。

それを仕切っているのがこの私というワケだ」

 

そこまで言って、未だ呆けて固まったままのじーさんとまごを一瞥しつつ、黒髪の女性…ジルは再び右手の煙草へと口をつける。

 

スーーー……フーーーーッ

 

「質問は以上か?ならコチラの質問にも答えてもらおうか。貴様らには聞きたいことが山ほど……」

 

 

 

「(ヒソヒソ)まごよ、こいつイイ年してヘンなカッコしてイタイこと言ってドヤ顔しとるぞ」

 

「(ヒソヒソ)ちょ、やめなよおじいちゃん!聞こえちゃったらどうすんだよ」

 

「(ヒソヒソ)ああいうのを最近では厨二病と呼ぶのじゃ。よいかまご、間違ってもあんな大人になってはイカンぞ?当分結婚できなくなるから★」

 

「……聞こえているぞ電球頭」

 

「電球頭?あ、ナルホド確かにワシの頭まるくてツルツルのピカピカ…てコラーーーーーッ!!」

 

「ノリツッコミ!?」

 

面倒臭い。ジルは表情には出さず、内心で舌打ちをした。

 

 

 

--------

 

 

 

数時間前、まだ日も上りきらない朝方に指令室へと舞い込んできた報告。

それは近日中に実戦配備が決まっている新人メイルライダー二人からのもので、内容は「男の子らしきヒトと、人っぽい髭面のナニかが訓練場で倒れている」という非常に不可解なものだった。

ナニかに関してはひとまず置いておくとして、[男の子]というのは大問題である。

 

ありえないのだ。女性にしか発生しない[ノーマ]達のみで運営されるアルゼナルに、男子がいるということは。

 

一瞬、自分がよく知る茶髪の少年が脳裏に浮かび、肝を冷やしたジル。が、エマ監察官と共に現場へ赴くとそこには、件の少年よりも5つほど幼いであろう白いジャケットの少年と、なるほど確かに、髭面の人間離れしたシルエットのナニかが倒れ伏していた。

 

相手が男、さらに言えば人間だと思ったからだろう。エマが率先して「とりあえず医務室に運びましょう」と、[マナの光]をもって少年の身体を持ち上げようとした。だが…

 

少年を包んだマナの光は、次の瞬間霧散霧消したのである。

 

 

 

--------

 

 

 

「(世界初、ノーマの少年とナマモノ、か)」

 

その後、もう一方のナマモノもマナを打ち消すことがわかったため、気絶したままの二人を不穏分子と断定。そのまま反省房として使われている牢屋に投獄したのだった。

 

「(監察官殿は先ほどから随分と静かだが、いまだに半信半疑といった所なんだろう)」

 

普段の彼女であるならば「これだから野蛮で低俗なノーマは」ぐらいの嫌味を言う所だろうが、目の前の二人に向けられ続けているその視線には驚愕と恐れがない交ぜになっているように見える。

ノーマは女性にしか発生しない。それは、全世界で共通の常識であるからだ。

 

「(だが、そのほうがこちらにとってはやりやすい。私の好きなように話を進められるからな。…しかし)」

 

 

 

「誰が電球頭じゃえーコラ!そんなメタリックな腕でカッコつけおって!ライダー◯ン気取りかテメー!!」

 

「おじいちゃん!コロコロのマンガ以外のキャラの話はやめて!」

 

出鼻を挫かれるとはこのことか、とジルは内心ため息を漏らす。

こちらのペースでさっさと情報を聞き出すはずが、もう既にグダグダである。

 

「生憎と、この右手は正真正銘の義手だ。そこまで疑わしいのなら、身を持って体感させてやっても私は一向に構わんが?」

 

「わーっ!すみませんすみません!ホラおじいちゃんも謝って!」

 

「わり」プ~

 

「真面目にやれやジジイ!!」

 

もうさっさと指令室に戻ってしまうか…と、なんだかどうでも良くなってきてしまったジルなのであった。

 

「…ワシらに聞きたいこと、か。いいじゃろう、じゃがその前にもうひとつ聞きたいことがある」

 

「…なんだ、言ってみろ」

 

漸く話が前進し、ちょっとホッとしたジルだったりする。

 

「ワシらの他に、とんがり頭のどじょうヒゲがいた筈なんじゃ。そんなヤツに覚えはないか?」

 

「あっ、そうだった校長!」

 

竜巻に呑まれる直前、風に飛ばされ家に突っ込んできた校長。じーさんとまごがこうしてココにいる以上、校長もまた同じように巻き込まれている可能性が高い。

 

「ふん。やはり、アレも貴様らの仲間だったか」

 

「えっ?知ってるんですか!?」

 

「ああ知っているとも。ソイツの所在がそんなに気になるか?」

 

「は、はい!」

 

余裕を少し取り戻してきたジルに対して、まごは焦りを隠せずにいる。

 

「その人はオレの学校の校長先生なんですけど、自分が一番エラくないと気がすまない人で、そのためなら手段を選ばないというか何でもするというかでもその割りになんかかんや弱くて…」

 

「…話を聞く限り、ただの小悪党か何かのように聞こえるが?」

 

「それは…まぁ…」

 

事実、まご自身の校長のおかげで痛い目にあったことが何度もある。イイヤツかヤなヤツかと聞かれれば、ヤなヤツであることは違いない。

 

「まぁ校長のハナクソっぷりは今どうでもいいんじゃ。が、あんなヤツでもほっとくわけにはいかん。居場所を知ってるなら会わせてくれ、話はそれからじゃ」

 

少なくとも、いきなりヒトを牢屋に放り込むような連中が、自分たちに友好的であるとは思えない。だからこそ味方は少しでも多いほうがいいだろう…じーさんはそう考えたのだ。

もっとも、これぐらいのことは相手に読まれていることだろうとは思うので、まともにとりあってもらえるかは怪しいところである。

 

しかし、

 

「いいだろう」

 

要求は、拍子抜けなほどすんなり通った。

 

「なぬ?」

 

「い、いいんですか?」

 

「いいも何も、仲間に会いたいんだろう?別に、私にそれを止める理由はないさ」

 

そう言ってジルは懐に手をやり、チャラッという金属が軽くぶつかり合う音と共に鍵を取り出す。

そしてそのまま、躊躇なく牢の鍵穴に差し込み解錠。内と外を冷たく区切る鉄格子の扉は、いともたやすく開かれた。

 

「おっ?なんじゃ、オマエ案外素直なヤツじゃのー。ただの厨二病じゃなかったんじゃなー♪」

 

「まだ言うか…」

 

呆れるまごに構わず、上機嫌でさっさと牢から出てくるじーさん。

 

「じゃあ早速校長のところに--」

 

 

 

チャカッ

 

 

その眉間に、僅かな光源で鈍く黒光りする銃口が突きつけられた。

 

「……」

 

「おじいちゃんっ!?」

 

「仲間には会わせてやろう。だが、少しでもおかしな動きが見えれば、その時には綺麗な風穴が1つ開くことになる。それが嫌なら、大人しくしておくことだ」

 

不適に口元を歪めつつ、くわえていた煙草を左手で放り、踏み消す。

 

「言っておくが、これは忠告でもなければ警告でもない。()()だ。どんな事情があろうと、アルゼナル(ここ)に[ノーマ]としている以上は私に従ってもらう、一切の異論は認めん」

 

数秒の静寂。自身に凶器を向ける女性を、じーさんは睨むわけでもなくただ黙って見つめ返し、やがてゆっくりと首を縦に降った。

 

「…わかった、オマエの指示に従おう。じゃが、どうかまごには手を出さないと約束して欲しい、やるならばワシだけにするんじゃ」

 

「おじいちゃん……」

 

「さて、な。それは貴様ら次第だ。…監察官殿」

 

「…え?あっ。な、何です司令」

 

呼び掛けられ、ここでようやく口を開いたエマを横目に、じーさんは考える。

 

[ドラゴン] [アルゼナル] [人間のための兵器()]

 

そして、[ノーマ]

 

「話はお聞きだったと思うが、こいつらを例の場所に連れて行きます。よろしいですかな」

 

「…構いません。ですが、くれぐれも目を離さぬように。運営に支障をきたすわけにはいきませんからね」

 

「ええ、心得ておりますとも」

 

 

「(ワシらは、ワシの考えている以上の厄介事に巻き込まれてしまったのかもしれんな……)」

 

 

「では、感動の再会といこう。お仲間は今ごろ、貴様らを見つけた二人が()()()()()してやっているはずだ。ついてこい」

 

促されるまま、ジルとエマに前後を挟まれ歩き出すじーさんとまごであった。

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

「ここだ」

 

じーさん達が案内されたのは、ひやりとする牢屋とはうってかわって、ポカポカ陽気が心地いい晴天の下。つまりは屋外であった。

 

「ジャスミン、作業はどうだ?」

 

「ん?ああジルか。ちょうど今しがた終わったトコだよ」

 

「そうか、ちょうどいいタイミングだったな。ご苦労だった、ココ、ミランダ。楽にしていいぞ」

 

「「い、イエスマム!」」

 

 

一行を出迎えたのは、初老の女性と二人の少女。

 

初老の女性は頭にバンダナを巻き、淡い紫を基調とした服装で、ジルに対し応じる物腰も含め、全体的に落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

また、側には頭にゴーグルを着けたゴールデンレトリバーらしき犬が控えている。

 

それに対し少女二人は、背丈からしてまごと同い年か少し上で、ジルと同じような依託の服装で何故かヘソ出し。おまけに敬礼姿はどこかぎこちない様子で、見るからにソワソワしている。

藍色の髪をお下げにした少女がココ、モスグリーンのショートヘアーがミランダであり、その視線はチラチラとジルの背後に向いている。

 

「で、後ろのが例の連中かい?なるほど、確かに男だねェ」

 

「そうだ。すまんがそこを退いてくれるか、会わせてやると言ってしまったのでな」

 

「あいよ」

 

ここで、じーさん達は辺りを見回す。

 

目に写るのは規則正しくズラリと並んだ、綺麗に四角く加工された石の数々。

それらには皆一様にアルファベットで文字が掘り込まれており、英語のわからない二人にもこれらが何なのかハッキリとわかった。

 

「待たせたな、貴様らの仲間ならここにいる」

 

「「………」」

 

そう言うジルが手を置くのは、周りの物と同じような形をした石…墓石。

 

それには、同じようにアルファベットでこう彫られている。

 

 

 

Pencil head(えんぴつあたま)

 

 

 

 

………………。

 

 

 

 

 

「「校長すでに死んどるがなーーーーーーっっ!!!」」ガビーンズビーンドビーン

 

 

ありがとう校長。さらば校長。君は、僕たちの心の中できっと生き続けることだろう(二時間くらい)





ギャグが、ギャグがたりねェ……

当初の予定より弱冠長くなったので、ここまでで投稿。
基本的に、話の流れと構成、ネタだけを考えて執筆を始めるので、予定外の長さになることが昔から度々あるんだよなぁ。

実を言えばラ◯ダーマンかエドワー◯・エルリックと迷ったんだけどあえてライダーマ◯をチョイスしました☆



予想外と言うべきか予定調和と言うべきか、2話で早くもガッツリ死んでしまった校長。果たしてじーさんの心中は…?
そんな中、鳴り響く警報、姿を現す「敵」。どうする、じーさん!

次回もこうご期待。それではノシ


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友達になりたいんだ、じゃっ!


じーさん「きたよーっ!!ワシがきたよーーーーっ!!あははうふふどっひょひょぬしゃしゃしゃしゃーーーーーっ!!」



















じーさん「大して面白くもねぇな……」



「残念だが、そいつは見つかった時にはもう手遅れだったよ。ま、素性が知れないとは言え死体をそのまま放っておくのも後味が悪いからね、急ごしらえだが墓をたてて供養してやったのさ。

粗末なもんだが、男性ノーマのサンプルー…とか言って研究材料にされるよりは幾分マシだろうさ」

 

「それで、墓穴を掘ったのがこの二人だ。見つけたのは自分たちだからと、自ら進み出てな」

 

そう告げるジャスミンとジルの声が聞こえているのかいないのか、じーさんは驚愕の表情でよろよろと墓石に歩み寄っていく。

 

「そんな…校長が……」

 

ワナワナとうち震えるじーさんを、ココとミランダもまた悲痛な面持ちで見ている。

ドラゴンとの戦いを余儀なくされるノーマ達は、常に死と隣り合わせ。つい先日までライダー候補生だった彼女達もまた、知人や先輩であるライダー達の戦死を目にしてきたのだ。

 

「校長……校長…!」

 

目の前で咽び泣く老人の気持ちは、幼い少女達にも痛いほどよく分かるものであった。

 

「校長……っっ!!」

 

多くの少女、女性の墓に囲まれる中、じーさんの慟哭が響き渡る。

 

「校長っ!何故死んだ!何故死んでしまったんじゃあーーーーーーーっっ!!こーーーーーーーーちょーーーーーーーーッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁよくあるコトか…」ホジホジ

 

………。

 

「「えーーーーーっ!?」」ずびーん

 

…ボゴォッ!!

 

「よくねーのじゃーーーーい!!!!」

 

「「えぇえーーーーーーーーーーっっ!?!?」」ずがどびーん

 

コロッと態度を変えたじーさんがハナクソをほじりだしたその瞬間、地面を突き破り、Pencil headと彫られた墓石をひっくり返してモノホンのえんぴつあたまが飛び出した。

言うまでもなく、死んで埋葬された筈の校長その人である。

 

一部己のキャラまでぶっ壊した女性五人の叫びは、ジジイの慟哭より遥かに上回るボリュームで辺りを貫いた。

 

「校長!生きておったんじゃな、ワシは信じていたよ…」

 

「だまれクソヒゲ!!テキトーに済まそうとしてんじゃねーのじゃい!それでもキサマ主人公かーっ!?」

 

「えー、だってオマエ、だいたい一巻に一回は確実に死ぬじゃろー?作者の友達だってLINEで「校長は死ぬ、はっきりわかんだね」って言ってたしー」(実話)

 

「いらん裏話してんじゃねーよ!!」

 

さっきまで土中に埋まっていた筈の校長であるが、そんな様子は微塵もなくじーさんに詰め寄り叫んでいる。

アルゼナルの面々からしてみれば、それはもうホラーでしかないワケで…

 

「お、おばおば、おば、おばばばばばばば!?」

 

「おち、落ち着いてココっ、こっコッ、ココッコー!」

 

「…ふぅっ」

 

「ぅおっと」

 

「(まぁそーなるわな…)」

 

ココとミランダは身を寄せ合い、壊れたレディオとアホウの鶏と化しており、猛烈なめまいを起こして倒れかけたエマは傍らにいたジャスミンが咄嗟に支えたおかげで事なきを得た。

一方まごとしては、この手の不条理ネタは日常茶飯事であるからして、慣れっこである。故に、動揺する女性達を同情混じりの半笑いでただ眺めるのだった。

 

「…スーーーーーーー、フーーーーーーーーッ……」

 

ジルはと言えば、素知らぬ顔で煙草を口につけ普段よりずっと深く吸っているのだが、悲しいかな火が点いていないのに一切気付いていない。

 

「…一体どういうことだ、ジャスミン」

 

「どうもこうも、こっちが聞きたいくらいだよ。一応マギーにも見せたし、私だって埋める前に確認した。ついさっきまで、間違いなく死体だったはずだよ」

 

「じゃあ目の前でピンピンしているナマモノは一体全体なんなんだ……!?」

 

「(スイマセン、こーゆーマンガなんです…)」ち~ん

 

当惑の極みに入りつつあるジルに対して、とりあえず内心でこっそり謝罪しておくことにするまごなのであった。

 

「チッ、まぁいいのじゃい。今はそんなことより…オイ!そこのクソガキども!」ズビシッ

 

「「ヒイッ!?」」

 

自分たちを思い切り指差してくる校長(ゾンビ)に、少女二人はビクッと体を震わせ顔を青くする。

 

「キサマら、小娘の分際でよくもこのワガハイを地面の下なんぞに押し込んでくれたな…。万死に値するのじゃい…!」

 

「ふえぇ…」

 

「…なっ、なによ!死んでたんだからちゃんと埋葬してあげたんじゃないのよ!来ないでこのえんぴつゾンビっ!」

 

「み、ミランダちゃん!?」

 

「えんぴつゾンビぃぃ~?」

 

自分がココを守らないと、とミランダは果敢に声を上げる。が、指を鳴らしせまる校長は不気味に笑みを深めるのみである。

 

「ぐふふ…。口答えとはますます生意気なガキんちょなのじゃい。ならばお望みどーり!キサマらはワガハイの手で直々に…」

 

校長が両手を掲げて自身の身長の何倍もの高さで跳躍、

 

「ぶちコロしちゃりゅりょれーーーーーっ!!」

 

血走った目を光らせ、二人の頭上へと飛びかかった。

二人が思わず目を瞑り、そして……

 

 

 

 

 

 

「えーい☆」

 

ごしゃっ

 

「ほぎょ~~~っ!?」

 

じーさんが手にした校長の墓石が降り下ろされ、校長は叩き落とされるばかりかそのまま地面と鈍器に顔面がサンドイッチされることとなった。

校長の自業自得であるが、その際にじーさんの腕がにょーーーんと伸びていたので、目撃してしまったジルが眉間を揉みほぐしていた。

 

「ジジイキサマーーッ!!邪魔すんじゃねーのじゃい!」

 

「うるせーバーカ!オマエごときが美少女アニメのキャラにおさわりなんて一億万年早いわーーーっ!!」

 

「(数字が幼稚園児だーっ)」みそ~ん

 

「…ええいうるさい!もうこの際そのえんぴつ頭の生死はどうでもいい!」

 

アルゼナルの面々からすればいつになく荒れた様子で、ジルは二人のヒゲを黙らせるよう声を張り上げた。

このままでは状況が一向に進まないばかりか、自分の頭までおかしくなってしまいそうだったからだ。脳みそまで機械仕掛けにはなりたくない。

 

「とにかく!約束は果たした以上、貴様らの知りうることを洗いざらい吐いてもらう。わかっているな!?」

 

「なんじゃいキサマ!このワガハイに命令する気かーっ!?」

 

「校長先生は黙っててください!話進まねーから!」

 

「で、では尋問室へ…」

 

知恵熱気味なのか、頭を押さえつつエマが一歩踏み出した。

 

 

その瞬間、耳障りなけたたましい音が辺りに鳴り響く。

じーさん達からしても明らかな、警報だ。

 

 

「「!!」」

 

「な、何!?何の音!?」

 

「ちぃ、面倒な時に…。監察官、司令室へ」

 

「はい。ですが…」

 

「オイ!何が起こってるんじゃ!?」

 

「フン、決まっている。敵襲だ」

 

敵性体襲来。その一言に、三人は息を呑んだ。

 

「敵じゃと!?まさか、さっき言ってたドラゴンかっ!?」

 

「他になにがある。言った筈だ、ここはドラゴンと戦う最前線だと」

 

「いや、ワシはてっきりオマエさんの脳内設定だとばかり…」

 

「黙れ、声帯を引っこ抜くぞクソジジイ」

 

「こえーよ!?力ワザにも程があるじゃろ!!」

 

「やってる場合ですか司令!!」

 

エマが痛む頭にむち打ち割って入る。

今もなお警報はなり続けており、基地内のノーマ達は戦闘準備に走り出しているのだ。司令官がいつまでも油を売ってていい筈はない。

 

「わかっている!ジャスミン、悪いがこの三人を尋問室へ適当に放り込んでおいてくれ。必要なら複数人監視に付けても構わん」

 

「やれやれ荷が重いねぇ。わかったよ、わかったからさっさと行ってきな」

 

「頼む。そこの馬鹿共!くれぐれも、妙な気を起こすんじゃないぞ」

 

ギロリ、とじーさん達を一瞥してから、ジルはツカツカと足早に去っていき、エマもそれに追随していったのだった。

 

「行っちゃったね…」

 

「ウム…」

 

「おのれあの女~~。世界一エライワガハイに向かって好き放題言いおってェ~!ヤツの今晩の味噌汁に白髪染めをたっぷり混ぜてやるのじゃい~!」

 

「くだらねーコトすんなっ!」

 

「やれやれ、とんでもない連中が迷い混んできたみたいだねぇ」

 

そう一人ごちてから、さてと、とジャスミンは三人に向き直った。

 

「自己紹介がまだだったね。私はジャスミン、ここアルゼナルでジャスミン・モールって市場を切り盛りしてる。おそらく今後、なにかとよく顔を合わすことになるだろうからね、よろしく頼むよ」

 

「あ、ハイ。よろしくお願いします」

 

「いい返事だ。そしてこっちが…ん?」

 

ふと、少女二人がいないことに気づく。

辺りを見回してみれば、随分と離れた位置から遠巻きにこちらを窺っていた。

 

「なにしてんだか二人揃って。ココ!ミランダ!こっちきな!」

 

「「は、ハイっ!」」

 

小走りで寄ってくる二人。

自己紹介をジャスミンに促され、藍色の髪の少女ココは、まごを前にして目を白黒させだした。

 

「え、えっと、その………うぅ」

 

「?……あのー、」

 

「はっ、ハイ!!」

 

「うぉっ?」

 

小首をかしげるまごが恐る恐る声をかけてみると、ココは跳び上がるカエルかなにかのようにピシャンッ、と背筋を正した。

 

「はじめましぇて、ココでしゅっ!」

 

 

………。

 

 

「…噛んだぁ」

 

「えぇー…」

 

ココ、大事なところで運悪くカミカミ。自滅した挙げ句しゃがみこみ、真っ赤になり沈没してしまった。

 

「あはは…。えっと…あ、あたしはミランダっていうんだ。その……そっちの名前も、聞かせてもらっていいかな?」

 

「あ、うん。オレは洋助、よろしく」

 

「こっちこそ、その…よろしくねっ」

 

ミランダもまた、噛みこそしないが視線があっちこっちにふよふよ舞っている。

あからさまな緊張の様子に、まごも戸惑いを覚えてきていた。もっとも、女の子とはいえ同年代の相手なので、内心ちょっとほっとしていたりもするのだが。

気付けば、警報はひとまず鳴りやんだようだった。

 

「あの…さ、二人とも固いっていうか、ちょっと緊張し過ぎなんじゃ?」

 

「まぁ無理もないさ。この島にいる大多数は、男を生で見たことなんざ一度たりともないだろうからね」

 

「え?」

 

「なんだ、聞いてないのかい?ノーマは女しか生まれない。だから、風紀上の観点からアルゼナルには女しかいない。あんた達は異質も異質なのさ」

 

「…えぇええ!?」

 

「変な声出すんじゃないよ。ったく、別に驚くことでもないだろうに、本当にどっから来たんだろうねぇあんた達は」

 

と、呆れたと言うようなジャスミンに、まごはそもそもの疑問と謎を思い出す。

じーさんや校長が空気を盛大にブレイクしていたせいで頭の片隅に追いやられていたが、自分たちの身に降りかかった事態に関して、未だ何ひとつわからないでいるのだ。

 

ここはどこなのか、そもそも日本なのか。何故、どうやって自分たちはこんな所にいるのか。

 

アルゼナルやドラゴンはともかく、「ノーマ」。女性達が()()()()のように発するこの単語の意味がさっぱりわからない。

 

「あ、あの…ヨウスケ、くん?」

 

「…へっ?」

 

頭を抱えそうになった時、どうやら復帰したらしいココがおっかなびっくり自分の名前を呼んでいる。

 

…ふと気づく。

 

「(そーいえば名前で誰かに呼ばれたのって……16年ぶりじゃね!?)」なすーん

 

でんぢゃらすじーさんの前身である読み切り、「ぼくのおじいちゃん」(2000年発表)まで遡っていた。

名前を呼ばれてちょっと感動してしまった自分がいたたまれなくなってしまったまごである。

 

「わ、私ね、男の人って本や映像でしか見たことなくって、絶対に会うことなんてないだろうって思ってて…。だから、初めて男の人に会えたのが、しかも同い年ぐらいだっていうのがなんだか嬉しくって………えと、つまり何が言いたいかと言うと…」

 

顔を仄かに赤らめ指先をちょんちょんつついていたココだったが、やがて意を決したように視線を上げて、ハッキリと告げた。

 

「私たちと、お友だちになってくれませんかっ!?」

 

眉を逆ハの字にしてまっすぐ見つめてくるココに、まごは何やらヘンな顔になってしまいそうになるが何とかこらえつつ、

 

「い、いいよ?」

 

短くOKを伝えると、ココの表情が一気に輝く。そんなストレートな反応を目の当たりにしたまごの頬もまた、慣れない展開で赤くなっていた。

 

「あ、ありがとう!よろしくねっ」

 

「ココったら、ちゃっかり私まで巻き込んじゃって」

 

「えっ?ミランダちゃん、嫌だった?」

 

「まさか、そんなわけないでしょ。ってことで、私のこともよろしくね、ヨウスケ」

 

「う、うん。こっちこそ」

 

女の子に名前を呼ばれるくすぐったさを感じつつも、牢で目覚めてから初めて純粋な笑顔を浮かべることができたまごだった。

 

「…あー、ゴホン」

 

と、少年少女を見守っていたジャスミンが、遠慮がちに口を開く。

 

「邪魔するようで悪いけど、坊や…ヨウスケって言ったね」

 

「はい、そうですけど」

 

 

 

「お前さんちのじいさん、いつの間にやら姿が見えなくなっちまってるんだが…」

 

「……え"っ!?あ、あれっ!?」

 

バツ悪そうに頭をかくジャスミンにそう言われ、慌てて周囲を見回す。

右を見る。

左を見る。

後ろを見る。

念のため地面と空も見る。

 

「おじいちゃんっ!?校長先生!?」

 

「まいったねこりゃ…。ジルになんて説明したもんか」

 

はぁ、とジャスミンが嘆息したその時、どこからかジェット噴射のような音が耳につく。

まご以外はすぐに合点がいったようで、島から離れていく複数の機影を視線ですぐに捉えていた。

 

「出ていったようだね。今日の当直は、第一中隊だったかね」

 

「だ、第一中隊…!」

 

「私たち、もうすぐあの部隊に…」

 

「あぁ、そういやあんた達はあそこに配属だったね。なら、隊長(ゾーラ)には気を付けなよ、あいつは本当に見境ってモンがないからねぇまったく。なにかあれば、遠慮なく副隊長(サリア)にでも言いつけてやんな。そんなの気にするヤツじゃあないが、まぁ泣き寝入りするよりはマシさ」

 

「「…イエス・マム」」

 

「………」

 

三人の会話を聞き流しながら、まごは小さくなっていく機影群をじっと見つめていた。

 

「? どうかしたの?」

 

「ヨウスケくん?」

 

まごは、直感的にこう思った。

 

 

 

 

 

すごく、イ ヤ な 予 感 が す る 。

 

 

 




文章が肥大化する一途ワロエナイ(白目)

というわけで、ドラゴン戦およびアンジュ登場は次回に持ち越しです
書きたいことがどんどん増えて、当初の予定通りの構成で書いていたら、低く見積もっても一万字を軽く越える量に…オリジナル話書くと長大になるのも昔からの悪い癖…orz

原作が始まれば、もっとテンポ良くいけるかと思いますのであと1話、導入にお付き合いください


次回、天使と竜が舞う戦場で、ついにでんじーギャグが牙を剥く!?
それではまたノシ


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倒せドラゴンじゃっ!


ミランダがにらんだ

ミランダ(ネコ装束)
「…なんであたしがこんな格好……ぐぬぬ」

まご・ココ
「(かわいい……)」

じーさん
「(レバニラ食いてぇ……)」




『第一中隊、まもなく視認可能域に入ります』

 

対ドラゴン用機動兵器、パラメイル。

 

ノーマの棺桶とも称されるソレは今、眼下に海面を見下ろす中で7機で編隊を組み、空を駆けていた。

 

しかし、中隊と言う割にカラーリングはバラバラで統一性がなく、それも赤、青、黄、緑、桃、そして橙に紫と、見ようによっては戦隊ヒーロー物をリスペクトしているようにも見てとれた。

 

「数と識別は?」

 

『確認できるだけで、スクーナー級が10、ガレオン級が1です』

 

「ふぅん…。デカブツが厄介だが、大した数じゃないね」

 

ウェーブがかった見事なブロンドの長髪を風になびかせ、紫色にペイントされた指揮官機(アーキバス)に騎乗する隊長のゾーラは、オペレーターとの通信ののち、直ぐ様周囲の部下達へと通達する。

 

「全員聞こえたな!相手は少数だ、小物を速やかに各個撃破しつつ、大物を包囲。集中放火でとっととカタをつけるよ!」

 

「「イエス・マム!」」

 

淀みない斉唱は軍隊教育の賜物か。

が、メイルライダーと呼ばれる彼女らのその表情はバラバラで、内2名は不満げな様子を隠そうともしていなかった。

 

「ったく、これじゃあ今回も大した稼ぎにならないじゃねぇか、張り合いでねーっつの」

 

「出撃コストばかりかかる……実入りが益々減る……ハァ…」

 

ぼやくのは、オレンジでハネた髪が特徴のロザリーと、淡いアクアブルーの髪で片目を隠し、後ろを赤い髪止めで三つ編み一本にまとめたクリス。

機体は連装砲を背負った中距離装備の黄色い量産機(グレイブ)と、キャノン砲を標準装備した黄緑の砲戦仕様機(ハウザー)

ロザリーは単純に報酬が少なくなることが不満なだけなのだが、クリスに至っては持ち前のネガティブ思考も相まって既に陰鬱としている。

 

「なに?二人揃って戦意喪失?なら、アンタ達の取り分もアタシがもらってやるよ」

 

「ばっ!?勝手なコト言ってんじゃねーよヒルダ!」

 

「いつも私たちよりずっと稼いでるクセに…」

 

不適な笑みで不穏な事をさらりと口にしたのは、ゾーラと同じくウェーブがかった、こちらは鮮やかな赤い髪をツインテールにした、ヒルダ。

乗機はロザリーと同じグレイブであるが、こちらは出力と装甲に強化を施した高機動型であり、実力者向けの調整が為されている。

 

「はいはい、敵さんはもうすぐなんだから、三人とも喧嘩しないの。サリアちゃんに怒られちゃうわよ?」

 

「そーそー。それに、もしうっかりエルシャまで怒らせちゃったらそりゃあもう大変なことに~」

 

「…それは私が一人で怒っても大したことないと言いたいの?ヴィヴィアン」

 

「うわっ、ヤブヘビ?」

 

「一言多いのよ、ヴィヴィちゃん?」

 

そして、橙、桃、青…水色の機体に跨がるのが、エルシャ、ヴィヴィアン、サリアの三人。

 

ピンク色の長髪で背中を隠したエルシャの機体はハウザー。長距離ライフルを携行した、高火力支援機となっている。ピンクハインrナンデモナイデス

 

サリアは紺の髪をヒルダと同じくツインテールにしている、がこちらはストレート。機体はアーキバスで、出力並びに通信・索敵能力が強化されたゾーラ機と異なり、ライダーの適性に合わせ長距離狙撃用へ特化した調整が施されている。

 

サーモンピンクのショートカットにピョンと立ったアホ毛が可愛らしい。そんな中隊最年少ヴィヴィアンの機体は他のどの隊員とも共通しない、高機動試作機(レイザー)

この機体は機動力を高めるため装甲が限界まで削られており、結果出力バランスが崩れ、非常に扱いの難しいピーキーな仕様となってしまった物である。

事実、実戦でこの機体を使用しているのは、現在ヴィヴィアンのみである。

 

「無駄話はそこまでだ、奴さんのお出ましだよ!」

 

と、ついに敵の姿が見えた。悠然と空を進む大型ドラゴン(ガレオン級)一頭に小型ドラゴン(スクーナー級)が複数侍るようにして飛行していた。

 

「数はほぼ想定通り…。お前達、手はず通りだ。ぬかるんじゃないよ!」

 

「「イエス・マム!!」」

 

ゾーラの声に続けて再びの斉唱。ライダー達の目に戦いの灯が点る。

 

「…おろ?」

 

…が、しかしここで、約一名が気付いた。気付いてしまった。

 

「…うーん、ちょーーっとここでクイズだぁ!」

 

「はぁ?」

 

「何よヴィヴィアン。そんなの後でいくらでも聞くから今は集中しなさい!」

 

 

 

 

「サリアとヒルダのー、うしろの正面は誰でしょ~かっ!」

 

 

 

 

「…後ろの正面?」

 

「ったく、こんなタイミングで一体なんだってん…」

 

 

 

 

 

 

 

ズゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

 

 

 

 

 

「「 」」

 

二人は言葉を失った。何故なら、

 

 

 

それぞれの真後ろに、8頭身でブーメランパンツ一丁のゴリマッチョなヒゲが鎮座していたからである。

 

しかも、なんかジットリムワッとしてる。

 

 

 

 

「「んな~~~~~~~~ッッ!?!?」」ズガビーン

 

 

 

「フッフッフッ、ついにワシらの出番が来たようじゃな校長」

 

「ぐっふっふっふっ、ドラゴンと言えど所詮はトカゲ。ワガハイのパワーで指全部つき指させてやるのじゃい…」

 

「ならばワシは、奴らのヒジというヒジのイヤな所をぶん殴って腕をビリビリさせてやるぜ…」

 

「「ヌッフッフッフッフッフッフッフッフッ☆」」

 

「「(むさいのがなんか地味なこと言ってる!?)」」ずも~ん

 

何故か8頭身で、何故かマッチョで、しかし首から上だけいつも通りの、じーさんと校長の姿がうら若き乙女の背後にあった。

突如として身に降りかかったシュールさと汗臭さに、ヒルダとサリアの思考は停止せざるを得なかった。

 

「「………」」

 

「すっげー!ムキムキだムキムキ!」

 

ゾーラ以下他の隊員も同様で、目の前の怪奇現象にただただ呆然としている。約一名、無邪気にはしゃいでいる者もいるが。

 

「…誰!?」

 

「ってゆーかナニ!?」

 

絞り出されるようにこぼれたクリスとロザリーの一声に、ヒルダとサリアは我に返った。

 

「な、何なんだお前!!いつからそこにいた!?」

 

「まーまー落ち着け。あんまカリカリすっと、ハゲるぞ?」

 

「テメーに言われたかねえよっ!!」

 

「騎乗した時には間違いなくいなかった筈なのに、一体いつの間に…っていうか何で誰も気付かないのよ!それに…」

 

「オイキサマ!ブツブツ言ってないでさっさとワガハイを奴らの前へ連れていくのじゃい!!尾てい骨コナゴナにするぞ!!」

 

「初めて出会った男の人が、コレだなんて……」

 

激昂するヒルダと、ささやかな憧れが穢されうちひしがれるサリア。

謎のナマモノ出現により、「戦いの灯」なんてものは誕生日ケーキの蝋燭かの如く儚く霧散。

もはや空気は放送事故気分である。

 

 

 

 

 

シャアアアアッ!!

 

 

 

 

 

そんな隙が見逃されるほど、彼女らの戦場(そら)は甘くはなかった。

 

「全機散開!!」

 

「「っ!!」」

 

スクーナー級が数体迫りくるのに対し、ゾーラの指示が飛ぶ。

隊員達は反射的に機体を翻し、全機どうにか事なきを得た。弾の一発も入れぬうちに落とされるなど洒落にもならない。

 

「のわーーーっ!?」

 

「ぐわーーーっ!!」

 

しかし急な機動である。対照的に、じーさんと校長は慣れない慣性とGに悲鳴を上げる。

その拍子(?)に、二人はいつもの2頭身に戻ってしまっていた。

 

「キサマーッ!なんじゃい今のは!もっと丁寧に操縦しねーかコラ!!」

 

「ああもううるさい!!…ってなんか縮んでる!?」

 

「危うくゲロ吐くとこだったじゃねーか!いいのか!?オマエの背中にぶちまけていいのか!?」

 

「こっちもかよ!?ってか本当にやったら殺す!!」

 

そうこうしている間にも、戦場は動いていく。

第一中隊の前方からは大型を含む後続のドラゴン達が迫りつつあった。

 

「ちっ、先手を取られるなんざ面白くない!全機、駆逐形態!体勢を立て直せ!!」

 

「「イエス・マム!!」」

 

ゾーラのを筆頭に、それぞれの機体が姿を変える。

跨がる少女を抱きしめるように覆い隠すと、それを基点に各部がスライド。

両足、両腕、頭、そして翼。

 

何もかもが完璧と言われるこの世界で、唯一悪意と理不尽を背負わされる彼女達ノーマ。

 

それらをその身に宿し、共に果てる天使(棺桶)こそが、パラメイルである。

 

 

…なのだが、

 

 

「おぉっ!戦闘機がロボットにトランスフォーム(変身)したのじゃい!…ん?何でワガハイの乗ってるコイツはこのまんまなんじゃい?」

 

「したくてもできないのよっ!」

 

「どゆこと?」

 

「後ろ見なさい!!」

 

「へ?」

 

 

シギャアアアッ!!

 

 

「のお~~ッッ!?」

 

あろうことか、初撃を空振ったドラゴン達の全てが真っ先に並んで飛ぶサリア機とヒルダ機に狙いを定めて来たのである。

背後から喰らいつかんと牙を剥き出しにし、追跡してくるその数、5匹。

 

「ったく!なんでよりによってこっちにばっか群がってくるんだよ!?」

 

「ヤツらめ、さてはワシがカッチョイイからひがんじょるな」

 

「うるっさい!!いちいちウザいんだよハゲ!!」

 

実際は、加齢臭(他と違う臭い)がドラゴン達にとってウザかったからだったりする。

ともかく、ここまま変形などすれば隙を突かれてあっという間に四人は食い殺されてしまうだろう。

 

「おのれ小癪な~~!ならば、ワガハイの必殺技で目にもの見せてやるのじゃい!!」

 

「ちょっと!お願いだから余計なことしないで!」

 

「はあぁ~~~~~……!!」

 

「聞けぇーっ!!」

 

サリアの叫びも空しく、校長は何やら額に青筋を立てて体に力を込め始める。

 

すると、

 

「…!?なんだ、急に雲が!?」

 

ゾーラが発砲しつつ辺りを見回せば、ついさっきまで雲ひとつない青空だったはずが、どこからともなく真っ黒い雲々が湧いて出て、上空を覆い隠そうとしていた。

 

「喰らうがいい!これぞワガハイの必殺…」

 

 

ゴロゴロゴロ…

 

 

黒雲の中で稲光がほとばしった、次の瞬間。

 

 

 

「校長サンダーーーーーーッッ!!」

 

 

 

黒雲、雷雲から電が降り注ぎ、敵の体を貫いた。

 

ギャアアッ!?

 

予期せぬ一撃を喰らい、ドラゴン達が空中で悶える。

 

「っ、今だクリス!!」

 

「う、うん!」

 

何が何だかわからないが好機。ロザリー機とクリス機がすかさず、ちょうど前方にいた2匹へそれぞれアサルトライフルの引き金を引く。

なすすべなく直撃を受けたスクーナー級2匹は、血しぶきを上げながら落ちていった。

 

「っしゃいただきィ!」

 

「でも、今の何…?」

 

それは、サリアが一番言いたいことだった。

 

「がーっはっはっはっ!!やってやったのじゃーい!!」

 

「あ、あなた一体…!?」

 

「よーし、このまま畳み掛けてくれるわーーーッ!!とうっ!!」

 

「あ、ちょっと待ちなさい!?」

 

サリアの制止も聞かず、校長はアーキバスから跳躍。近くにいたドラゴン一体へと躍りかかった。

 

「必殺!校長スーパーハイパーミラクルマーベラステクニックウンバボーメキシカンスピードワンダフルカメハメマンチカンポチョムキンバーニングアイアンザブングルライトニングスターフォークセクシュアルワイルドボンバーダイナミックシルバニアうっふんあっはんデュエリストドラグーンホワイトミラバケッソえ~~~~~~~~と」

 

 

 

カ プ ♪

 

 

 

「ぎゃあぁ~~~~……」

 

ガブガブムシャムシャパリパリマグマグ

 

哀れ、校長はスクーナー級にあっさりいただかれてしまったのであった。(あんまりおいしくなかった)

 

ッドーーン!!

 

ギャアッ!?

 

「…えーと、ついうっかり撃っちゃったんだけど、良かったのかしら?」

 

「本当に、一体なんだったの…?」

 

「な~~~む~~~」

 

ついでに、校長を補食したドラゴンもまた、エルシャ機の砲撃で落とされてしまったのだった。

 

ありがとう校長!さようなら校長!キミの勇姿はきっと語り継がれることだろう。(チャーハン作ってる間くらい)

 

「なんじゃ、アイツもう死んだのか」

 

「はっ、お仲間が死んだのに随分薄情なもんだね!」

 

「イヤだって、今日でもう2回目じゃし」

 

「は?」

 

「っ、ヒルダ前!」

 

サリアの声に視線を戻せば、ヒルダ機の行く手を遮るように、ガレオン級のその巨体が迫っていた。

 

「ちィ!?次から次へと面倒くさい!!」

 

「おっしゃー!今度はワシの番じゃあーーっ!」

 

「ほんとメンドくせぇ…」

 

言うが早いが、じーさんはグレイブの上で器用に片足で立ち、両手を頭上横に掲げてみせる。いわゆる、荒ぶる鷹のポーズだ。

 

「ドラゴンよ!ワシの必殺、失恋大爆笑パンチを受けるがいい!」

 

「どんな技だよ!?」

 

「いくぞぉぉぉっ!!」

 

じーさんもまた跳躍。ガレオン級の眼前へ飛び掛かり、

 

 

「喰らえ必殺…ぐへっ!?」

 

 

「オイ痛いって!その歯鋭くて痛いってぎゃあああ!?」

 

 

「ゴメンなさい!!イヤマジでゴメンなさい!!」

 

 

勝 て ま せ ん で し た (はぁと)

 

 

「…は、ハハッ。ようやくうっとおしいのがいなくなって――」

 

ガシッ

 

「イヤー、惜しかったなー」ボロッ

 

「どうやって戻ってきた!?」

 

 

「ねぇエルシャエルシャ!今腕がにょーんって!」

 

「ええそうねヴィヴィちゃん。あんまり見たくはなかったわね…」

 

麦わらの海賊よろしくのリターンを目にし、ニッコニコなヴィヴィアンと頭痛を覚えるエルシャであった。

 

 

オォォォーーーンッッ!!

 

空間を揺らがすような唸り声とともに、ガレオン級が再びヒルダとじーさんへ迫る。

 

「クソッ!こうなったらあの《伝説の剣》を使うしかない!!」

 

「イキナリなんの話!?ってかもう何でもいいからそこで大人しくしてろ!」

 

「その剣ははるか昔、世界を脅かす邪竜を倒した聖なる王子の腹心が使ったとされ――」

 

「人の話を聞け!!だいたいんなもんどこにあるってんだ!!」

 

「ここにある!!はぁぁーーー……」

 

目を閉じ、全身に力を込めるじーさん。

すると、その体が光り始めた。

 

「おい、まさか――」

 

「はぁぁーーーーーーーー…ッッ」

 

光は眩さを増し、その力はどんどんと大きくなっていく。

 

そしてついに、

 

「はぁぁーーーっ……ハァッ!!」

 

カッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

すぽっ

 

 

「「………」」

 

じーさんの手により抜かれたソレは、一瞬滑らかになびいてから、瞬時に硬化。

 

ジグザグという、剣としては歪なフォルム。

 

真紅に彩られた美しいその刀身は、陽光を反射し煌めく。

 

巨大な敵を討ち果たさんと握られたソレは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒルダのツインテールの、かたっぽ。

 

 

「はあァァアアアアアアアアア!?!?!?」どびび~~ん

 

 

「よっしゃいくぜ!」

 

「今何が起こった!?アタシに何が起こった!?なんか頭の重心おかしいんだけど!!ヒルダ泣いちゃう!!」

 

「とりゃーッ!!」

 

「オイ待てジジィーーーーッッ!!」

 

ヒルダの悲鳴とともに、じーさんは先程よりずっと高く跳んだ。

ガレオン級の頭上まで上がり、空中で剣を掲げる。

ほんの一瞬空中で制止し…

 

 

 

 

G(じー)サンダーソーーーーーードッッ!!!!」

 

 

落下とともに、縦一文字に振り下ろした。

 

 

 

「…ていうか、形が似てるだけじゃん」

 

「え、クリスわかんのかよ!?」

 

「うん、スマブラ出てたし」

 

「はい?」

 

 

 

ザンッ!!

 

グギャアアーーーッ!?

 

ガレオン級は首から腹まで一直線に切り裂かれ、激痛で悲鳴を上げる。

そこへ、間髪入れずに紫の機影が突撃した。

 

「ダメ押しだ、持っていきなァッ!!」

 

ゾーラのアーキバスが、腹の傷口へ容赦なく右手を叩き込み、その内側へ凍結バレットと呼ばれる必殺兵装をぶちかます。

ガレオン級は体の至る所から氷柱をつき出させ、断末魔の声を上げながら墜ちていった。

さらに言えば、今のが最後の一体。他のスクーナー級も全てゾーラとヴィヴィアンを中心に撃破され、壊滅。戦闘終了である。

 

で、じーさんと言えば、

 

「誰かぁーー!!助けてくれーーーッ!!」

 

そのまま、重力に従ってぐんぐん落ちていっていた。と、そこへ、

 

「キャーーッチ!」

 

「おぉっ!!」

 

ヴィヴィアンのレイザーが持ち前のスピードを生かし、猛追。見事、じーさんの体をその手に収めてみせた。

 

「イヤーすまん、おかげで助かった」

 

「どーいたしましてっ♪それよりスゴいねおっちゃん!ねね、今のどうやったの!?」

 

「フフ、知りたいか?」

 

「知りたい知りたーい!」

 

「いいからさっさとアタシのソレ返せボケェェェ!!」

 

コクピットから顔を出し屈託ない笑みを見せるヴィヴィアン。

それにじーさんが気を良くするのも束の間、怒髪天のヒルダが変形したグレイブで猛接近してきていた。声だけでわかる、鬼の形相だと。

 

「うわちゃあ、ヒルダマジギレだぁ」

 

「ホント短気なヤツじゃのー、不屈のエースオブエースが聞いて呆れるわ」

 

「使い尽くされたネタ出してんじゃねぇよッ!!」

 

ヴィヴィアンと同じようにコクピットから身をのりだしてくるヒルダ。

その頭は、対の片方を失ったなんちゃってサイドテールと化していた。

 

「しょうがないのー。ホレ」

 

そう言ってグレイブに飛び乗ったじーさんは、元に戻ったヒルダの髪を頭へとくっつける。

 

ガキィィィィン!

 

「なんかあり得ない音したぞ!?てめぇマジでアタシになにしやがった!?」

 

「まーそういう季節だから♪」

 

「そんな季節あるかクソ野郎ッ!!」

 

「おおっと」ピョイーン

 

「すっげーヒルダ、ガンダムみたいじゃん!」

 

「お前後で覚えてろよヴィヴィアン…」

 

不穏な効果音とともに戻ってきた髪の房をしきりに確認するヒルダ。なんの異常もないのが返って不気味であった。

グレイブからレイザーの肩へ飛び移ったじーさんに、ヴィヴィアンは問いかける。

 

「ところでさー、おっちゃん何者?」

 

「ワシか?」

 

その問いに、じーさんは声高らかに答えた。

 

 

 

「ワシはでんぢゃらすじーさん!世の中のありとあらゆる危険から安全に生き抜く方法を教えるプロじゃーーーーっ!!」ばばーん!

 

 

 

「デンジャラス爺さん、ねぇ。名は体を表すとはよく言ったモンじゃないか」

 

「お姉さま?」

 

「こいつは、しばらく退屈しないで済みそうだねェ。フフ」

 

「あ、あはは…」

 

 

 

 

[推奨OP、「でんぢゃらすじーさん愛の歌」http://youtu.be/8x3uDPgm8Qk]

 

 

 

 

――――――――――

 

一方その頃、アルゼナルでは…

 

「………戦闘は終了。敵残存戦力、ありません」

 

「…第一中隊全機、損傷なし…」

 

「現在、ヴィヴィアン機に……えと、なにかヘンなのが…司令?」

 

「スーーーーーーーーーーーーッ、フゥーーーーーーーーーーー……」

 

戦場をリアルタイムでモニタリングしていた司令室は、何とも言えない空気が充満していた。

そんな中でもどうにか声を絞り出し、職務を全うしようと努める3人の少女オペレーター達だったが、肝心の司令であるジルは、ただひたすらケムリを入れては出すひとになっていた。

 

「…ジル、それで何本目だい?」

 

「……22本」

 

「この短時間で一箱空けちまったのかい…。程々にしときなよ?」

 

「…ヨウスケ?あんたのおじいさん…人間?ノーマとか人間とか、そういう意味じゃなくて」

 

「うんまぁ………一応」

 

「一応てあんたね…。しかも何よその間は」

 

その中には、まごのイヤな予感に従って戦場の様子を見るべくやってきたジャスミン達の姿もあった。なお、ココは先程から口を半開きにして固まってしまっている。

 

「…少年、さっきはすまなかったな」

 

「え!?あ、いや別に気にしてませんから…」

 

「アレとは一緒に暮らしているのか?」

 

「そうですけど…」

 

「そうか……。その歳で、随分苦労してきたんだろうな…」

 

「……えぇ、そりゃあもう…」

 

柄でもないが、今この時、少なくともまご(この少年)に対しては、誰よりも優しくなれる気がしたジルなのであった。

 

「…さて、監察官。これからどうしたものかな」

 

「静かにしてください司令。今、ミスルギ皇国で第一皇女アンジュリーゼ殿下の洗礼の儀が執り行われているんです。邪魔をしないでもらえますか?」

 

「……いや、すまなかった。どうぞ心行くまで見ていてくれ」

 

監察官のエマは、マナによって開いている空間モニターを凝視している。どうやら皇室式典の中継を見ているらしいが、今は勤務中である。

常日頃は規律に人一倍厳しい彼女のそんな様子に、ジルは口を挟むことなど到底できなかった。

 

チラリと戦場を映すモニターを一瞥してから、ジルはゆっくりと席を立つ。

 

「あっ、司令?どちらへ…」

 

「医務室だ。さっきから胃の痛みが酷くてな…。胃薬をもらってくる」

 

「そ、そうですか…」

 

「なんかもう、ホント色々ゴメンなさい…」

 

複数のいたたまれない視線に見送られ、ジルが司令室を後にしようとした、その時、

 

「……はっ?え、えぇっっ!?」

 

中継を見ていたエマが、すっとんきょうな声とともに勢い良く立ち上がった。

 

「どうかしたのかい?」

 

「こ、こんなことが…」

 

「「?」」

 

ワナワナと震えるエマを怪訝に思い、ジャスミン達四人がその背後からモニターを覗くと、

 

 

 

そこには、自身が下等生物(ノーマ)であると実兄から暴露され、呆然と立ち尽くすアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの姿が映っていたのだった。

 

 

 




ミュウツーを購入したので、しばらくぶりにスマブラをプレイ

その後執筆作業再開。黒餡の設定を洗い直すべくWikiや公式サイトを眺め始める

ヒルダの立ち絵を見た際、その波打った髪が目に止まる

「……サンダーソードっぽくね?」

それだけです。ええそれだけですとも
諸事情により、中途半端なところで更新が少々延びてしまいました。申し訳ありません。
4話にして、とうとうじーさん達がやりたい放題を始めました。書いていて非常に楽しかったですw
が、こんなのはまだまだ序の口。ジルの胃袋は果たしてどれだけもつかな!?


次回、自身の正体がノーマであると知らされ、目の前で母も死に、わけもわからず打ちのめされたままアルゼナルへとやってくるアンジュリーゼ。
そんな彼女を出迎えたのは、二人の女性と、一人のヒゲジジイであった。アンジュリーゼの運命やいかに!?
それではまた次回ノシ


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プリンセスアイタタ、じゃっ!


じーさん
「うえぇぇんびええぇぇん!!おがぁぢゃああぁぁぁぁぁん!!!!」



アンジュ(長髪)
「な、なんなのですかアレは……」




「1203-77ノーマ、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ。ミスルギ皇国出身の16歳……16歳ねぇ」

 

「………」

 

快晴だった日中とはうって変わり雷雨となった晩。

その一室は無骨で、精神的嫌悪感を感じる内装はいっそ時代錯誤的であり、真っ当なことに使われるのではないことが一目瞭然であった。

 

手元の空間モニターで資料を眺めるのはエマ。

その資料が示しているのは、目の前でただ呆然と立ち尽くす、豪奢なドレスに手枷というミスマッチな格好をした少女のパーソナルデータ。

 

大国、ミスルギ皇国の第一皇女であるアンジュリーゼは今日、国中のあらゆる人々からの祝福とともに洗礼の儀を迎えた筈だった。

しかしその式典の最中、実兄である第一皇子ジュリオ・飛鳥・ミスルギにより、当人ですら知らなかった秘密を暴露され、幸福な一日は一転、悪夢の始まりと化したのである。

 

 

第一皇女、アンジュリーゼはノーマである。

 

 

人間から突然変異で生まれる、マナの光を拒む存在。

野蛮で凶悪で下劣とされる畜生。

そんなノーマであるというのだ、この自分が。

 

向けられていた数多の祝福は一瞬にして冷えきり、同じ数だけの…否、それ以上の憎悪が叩き付けられることとなった。

 

そして、母は自分を庇って……。

 

「マナを使えるよう見せかけるため、専属の従者が着いていたということですが…それにしてもよくもまぁボロが出なかったものですね」

 

「……ここはどこなのですか?」

 

目の前の眼鏡の女性が何を話しているのか、アンジュリーゼには理解できなかった。むしろ、脳が理解を拒否していると言っていい。

 

(わたくし)の身に、何が起こっているというのですか…?」

 

今はただ、この悪夢から目覚めたい。この手枷(おもし)を外してほしい。

 

「…司令?どうかしましたか…って!?ちょ、待っ――」

 

どうか、夢なら覚めて――

 

 

 

 

「フン!!」

 

ズドムッ

 

「ぐぇふ!?!?」

 

 

夢じゃなかった。何故なら、腹に刺さったボディブローの痛みが本物だったから。

 

 

「ゲホッゴホッガホッおぇッ!!」

 

「ちょっと!?何をしてるんですかあなたは!!」

 

「なんだ?これくらい、今更珍しいことでもないだろう」

 

「それはそうですが、いくらなんでもいきなり過ぎるでしょう!?」

 

()()()()はさっさと終わらせるに限る。監察官殿も、進んで見たいものではないだろう?…もしや、そういった趣味をお持ちかな?」

 

「はぁ!?」

 

とは言うものの、本当であれば「上げて落とす」くらいのことはするつもりであったジル。

自分の見立てが正しければ、この「元」皇女は()()の重要な切り札に成りうるかもしれない存在だ。初印象で己の立場を思い知らせておくに越したことはない。

 

しかし残念なことに…

 

 

 

「うぐ…」キリキリキリキリ…

 

 

 

ジルは、まだ胃袋(おなか)が痛いのだった。

 

 

 

――回想でゲス――

 

「…では、尋問を始める。まずは貴様らの出自についてから話してもらおう」

 

「フン!ワガハイを差し置いて上から目線で話しおって気に食わんのじゃい…。そんなに話してほしくば…」

 

「ほしくば、なんだ?」

 

「カネよこせーーーっ¥」カネーン

 

「(#^ω^)」ピキ

 

「ねーねー、そんなヤツほっといてワシに色々聞いてみ聞いてみ?」

 

「……貴様らは、どこからどうやってここにきた?」

 

「テメェに話すことなどねぇ!」ずぅ~ん

 

「(##^ω^)」ピキピキ

 

「あの、必要なことならオレが話しますから…」

 

―――――――――

 

 

 

「ええい、連中さえいなければ…!」キリキリキリキリキリキリ…

 

「…ああ、そういうことだったんですね……」

 

じーさん(と、食われた筈の校長)のお陰でジルの調子はすっかり狂わされっぱなしである。

尋問の内容にしても、わかったことといえば、

 

[マナもノーマもない、この世界の大常識が通じない場所で暮らしていたということ]

[竜巻による超常現象に巻き込まれ、気付いたらアルゼナルだったということ]

 

おおまかには、この2点のみ。

実はジルとしては思い当たるふしが無いわけではないのだが、それにしても荒唐無稽な話であった。

 

そんなこんなで、ジルの肉体的、精神的疲労はこのわずか半日で相当なモノとなっており、ぶっちゃけさっさと部屋に帰って休みたいのが本音だった。

 

「立て」グイッ

 

「痛っ!?離しなさい無礼者!!」

 

「黙れ。私は貴様の身の上話や言い訳など興味もないし聞く耳ももたん。いいな?()皇女殿下」

「な、なにを…」

 

「お前は今日から[アンジュ]だ。身分も財産も何もないただの[アンジュ]だ」

 

「わけのわからないことを…きゃあっ!?」

 

掴み上げていたアンジュリーゼ改めアンジュを無造作に下ろし、ジルは煙草を手に取る。

 

「所持品を没収し、身体検査を始める。監察官、準備を」

 

「わ、私に一体何をする気なのですか!?」

 

「いいから黙っていろ。なに、天井のシミでも数えていればすぐ終わる」

 

「もっと言い方というものがあるでしょう、まったく…」

 

嗜虐的なその笑みには、自身のストレス発散も兼ねているだろうことがハッキリとわかる。

そんなジルの物言いに嫌悪感を露にしつつも、エマはアンジュに歩み寄り、イヤリングネックレス等の装飾を外すべく手を伸ばす。

 

「いやっ!やめなさい!私はミスルギ皇国第一皇女、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギなるぞ!?」

 

「ああもう、じっとしてなさい!」

 

揉み合いになる二人を眺めながら、ジルは煙草をくわえてライターを取り出し、ニヤリとサディスティックに笑った。

 

「さて…せいぜい使える程度に壊してやるとするか」

 

カチッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

にゅーーーっ

 

 

「「……」」

 

「よう☆」

 

 

 

♪ライターつけたらにゅるっと(にゅるっと)

♪危険なじーさん登場(※ポンポコリン風)

 

 

 

「「のぉ~~~~~~~~ッッ!?!?!?」」ズジビーン

 

 

ジルのライターから、まるで絵の具のチューブか何かのようにじーさんが姿を現した。もはや手品とかそんなチャチな次元を軽く超越している。

 

「どうじゃー!びっくりしたじゃろー?♪」

 

「どっ、どこからでてきた貴様ァッ!!」

 

「イヤな、表のドアカギがかかっててのー。せっかくだからちょっと趣向を凝らしてみました◎」

 

「そんな化け物一直線な創意工夫はいりませんっ!!というか、そもそも鍵のかかっている部屋に無断で入るんじゃありません!!」

 

怪奇現象再び(それも至近距離)。

あたふたと距離を取る二人に、じーさんは「ところで」と要件を切り出した。

 

「さっき、身体検査をするとか聞こえたんじゃが…」

 

「貴様には関係ない。部外者はさっさと出ていけ」

 

「そうです!まさか、仮にも女性の身体検査を見たいと言うんですか!?破廉恥な!!」

 

「破廉恥じゃと?…いかーーーーん!!」

 

大口を開け迫ってきたじーさんに、二人はさらに後ずさる。

 

「身体検査はキケンじゃ!!オマエらには40分早いわーーっ!!」

 

「短い!?」

 

「何が危険だ。貴様に口出しされる謂れなどない!」

 

「いいや、オマエ達はわかっとらん!いいか?身体検査がどれくらいキケンかとゆーと…」

 

 

――――

 

「しんたいけんさをはじめるぞー」

 

「やめてー、いたくしないでー」

 

「えーい」

 

ずぷっ

 

「アッーーー」

 

 

 

ドカーーーーン!!!!

 

「「ぎゃーーーーっっ!!!!」」

 

――――

 

 

「こっ、これくらい…」ガクガクブルブル

 

「「(身体検査関係ねぇーーっ)」」なす~ん

 

爆発への脈絡が意味不明過ぎだった。

 

「というワケで、ワシがオマエらに安全な身体検査のやり方を教えてやるぞーっ!」

 

ブイサインのじーさんにエマがどうしたものかと頭を抱える一方、ジルは予想外の返答をした。

 

「…わかった、聞くだけ聞いてやろう」

 

「司令!?」

 

何故!?と振り向くエマに、ジルは顔を寄せて耳打ちをする。

 

「(ヒソヒソ)このままでは時間を無駄にするだけだ。なら、下手に刺激せず言わせたいだけ言わせてしまったほうが早く済む」

 

「(ヒソヒソ)な、なるほど一理ありますね。それでいきましょう!」

 

簡潔に打ち合わせを済ませ、二人は改めてじーさんに向き直った。

多少のことでは動揺せぬよう覚悟を決めて。

 

「よーしいくぞー!簡単じゃからしっかり覚えてねー?」

 

「「は、はーい」」

 

 

 

 

 

 

「まず、両手の指を10本生やせ!」ウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネ

 

「「できるかーーーーーーッッ!!!!」」ぬびびーん

 

するだけ無駄だった覚悟(笑)。

 

「えーっできねーのー!?そんなんじゃ嫁にいく時笑われちまうぜー!?」ウネウネウネウネ

 

「黙れ糞髭!!貴様は私達を何処のエイリアンに嫁入りさせる気だ!?」

 

「なーにが不満なんじゃ!?寄生獣みたいでカッコイイじゃろーが!ミギーにヒダリーでなんか得した気分だろーがオイ!」ウネウネウネウネ

 

「そんな奇形になってまで得したくなどありませんッッ!!」

 

ウネウネにゅるにゅる変形する謎のナマモノと、それと言い合う女性二人。

 

「…なに?なんなの?なんなの一体…!?」

 

そんな奇妙な光景を、アンジュは部屋のすみで顔を青くして見ていた。

 

「悪夢だわ…こんなの悪夢に決まってる!」

 

ただでさえいっぱいいっぱいだった彼女の精神は、いよいよ限界を迎えていた。

 

「た、助けて…」

 

半ば忘れ去られてしまった少女は、恥も外聞もなく悲鳴をあげるのだった。

 

「助けてモモカぁーーーーーーっっ!!!!」

 

 

…その後、なんやかんやでアンジュの身体検査はお流れとなり、そのまま忘れられ実施されることはついになかったそうな。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「…えー、ではおさらいしておきましょう」

 

 

Dimensional

Rift

Attuned

Gargantuan

Organic

Neototypes

 

 

「訳すると、[時空を越えてやって来る巨大敵性生物]となり、頭文字を取って[ドラゴン]と呼ばれています」

 

 

「でぃ、でぃめんしょなる…ええっと…」

 

「ごちゃごちゃしてて覚えづらいのー。

 

Daikon

Renkon

Asupara

Gobou

Ooba

Ninjin

 

…で充分じゃろ」

 

「ただ野菜並べただけじゃねーか!」

 

翌日、じーさん達は幼年部の子供達に混ざり授業を受けていた。

その背後には、授業参観よろしく…実際は監視目的のジルとエマの姿がある。

正直、ジル達からすればじーさん達は色んな意味で不穏分子以外の何物でもないのだが、昨日のデタラメぶりからして、ただ幽閉しただけで抑えられるモノではないというのもまた明白。

ならば、アルゼナル(ここ)での常識をきちんと把握させておいたほうが、無知のままおかしな暴走かまされるよりかはマシだと考えたのだった。

じーさん達にしても、見知らぬ場所で何もわからないまま居心地の悪い思いはしたくなかったので、渡りに舟であった。

 

ただし、

 

「じゃい~~……」ち~ん

 

コイツは例外だった。

 

「しっかし、見事なアイアンクローじゃったのー…文字通り」

 

「うん…まあ、校長先生の自業自得だけど…」

 

校長は気絶し、椅子に縄で縛り付けられていた。

連れてこられた初めに、

「先生であるワガハイがガキ共と授業なんか受けてられるかーっ!!」

と、教師役の女性を押し退け教壇を占拠し、自分のエラさについて演説を始めようとしたのだ。が、ジルから義手でのアイアンクローを顔面に喰らい、断末魔と共にあえなく撃沈したのである。

 

そして、じーさん達に並んでもう一人、授業に対し上の空の人物がいた。

 

「……」

 

アンジュである。

彼女もまた、急遽幼年部の教室に机が用意された一人だ。

しかし、その目は常に机の表面に注がれ続けており、ずっと無反応を貫いていた。

 

まるで、自分はここにいないとでも言うかのように。

 

「…ウーム……」

 

そんなアンジュを、じーさんは時折横目で見ていたのだった。

 

「ノーマはドラゴンを倒すための兵器としてのみ、生きることが許されます。そのことを肝に命じ、戦いに励みましょう」

 

「「イエス・マム!」」

 

ノーマの子供達が元気良く斉唱する。

授業も一区切り付き、それを見計らってジルが口を開いた。

 

「大体こんなところか。わかったか、お前達」

 

「………もうすぐ、ミスルギ皇国から解放命令が、届くはず、です………」

「…ふっ」

 

それに対しアンジュは絞り出すように一言ゆっくりと呟いたのだが、それは返答ではなく自身に言い聞かせるための呪文であった。

 

「オッケーオッケーマジオッケー♪もうドラゴンだろーとドラゴンボールだろーとなんでもこいっつーの♪」

 

「ヨウスケはどうだ?何か分からなければ言ってみろ」

 

「(シカト!?)」

 

「え、ええっと…じゃあ1つだけ」

 

軽くショックなじーさんを横目で見つつ、まごは恐る恐るその場で起立する。すると、

 

 

じぃっ

 

 

「ウッ!?」

 

教室の子供達…のみならず教師の女性の視線までもが、まごへ一斉に集中した。

その目は個人差こそあれ、いずれも初めて見る男子に興味津々といった様子で爛々としており、まごはおっかないやら気恥ずかしいやら。レーザービームでも出てるんじゃないかという錯覚に陥るほどであった。

ちらりとジルへと目を向けてみても、苦笑とともに首を振られてしまう。「諦めろ」ということらしい。

 

「(や、やりづれぇ…)」

 

しかしもう立ってしまった以上、「何でもないです」で着席するのも気まずい。

ひきつる頬をどうにか抑え、咳払いを1つ。まごは自分の純粋な疑問を口にした。

 

 

 

「どうして、ノーマの人達はこんなに差別されるんですか?」

 

 

 

ぽかん、と場の女性全員が呆気にとられ、固まった。

 

「マナとかノーマとか、その辺りのことは大体わかりましたけど、でもマナを使えない人がノーマなら、マナを使える人達はそれを助けようとか、そういう風には思わないんですか?」

 

それは、小学生でもう学ぶことである。

例えば、盲目の人。難聴の人。足腰が不自由な人。

そういった、一般と比べ身体能力的に劣ってしまっている人達を助け、できるだけ平等に、社会の一員として共に生きようするのが健常者のあるべき姿であろう。

それは、マナを使える人間使えない人間にしても、同じことではないのか?まごはそう思ったのだ。

 

暫く沈黙が続き、まずエマがずり落ちた眼鏡を直しつつ、呆れ半分、怒り半分といった表情で口を開いた。

 

「あな――

 

 

「あなたは、何を言っているのですか」

 

 

そんなエマをも遮り、唐突に立ち上がったのは、アンジュ。

 

「あ、アンジュ…さん?」

 

「ノーマは、人々の幸福の光であるマナを拒絶する、反社会的で、暴力的で、下劣な生き物…人間ではないのです」

 

それまでの無口ぶりがまるで嘘だったかのように、アンジュの声は流暢に、そして大きくなっていく。

 

「あなたがどこの田舎者なのかは知りませんが、今まさにここでの授業を聞いていたでしょう!?居眠りでもしていたのですか!?

ノーマは淘汰されて然るべき穢れた存在なのです、疑問の余地などありません!

男性のノーマと聞いて半信半疑でしたが、どうやら本当だったようですね。そんなことを考えているから、マナの恩恵を失った非人間に――」

 

 

 

 

「「黙れ!!」」

 

 

 

 

「ッ!?」

 

重なった一喝。

アンジュの身をビクリとすくませ、口を閉じさせたのは、

 

「おじいちゃん…ジルさん…」

 

じーさんは、まごでも滅多に見ないような目付きでギロリ、とアンジュを睨む。

ヒッ、と短い悲鳴が上がった。

 

「…今回は見逃してやろう、アンジュとやら。じゃが、もしまたワシの愛するまごに「非人間」などと口にしたら……その時は、容赦せんぞ」

 

「ぁ……っっ」

 

気圧されるままに、アンジュはゆっくりと腰を下ろしていった。

 

「(ほう……。得体の知れない妖怪だとばかり思っていたが、なかなかどうして言うじゃないか)」

 

そんな中で、ジルはじーさんへの評価を少しだけ改めていた。

しかし表情には出さない。

 

「すまんな、ヨウスケ。…だが、アンジュの言うことはあながち間違ってもいない」

 

「えっ?」

 

「ノーマが差別される理由。それは、結局の所…

 

 

ノーマが、ノーマだからさ」

 

言い切るやいなや、ジルはアンジュの腕を掴み無理矢理立たせ、硬直したままの周囲を置き去りに歩き出した。

 

「監察官、アンジュの教育課程を修了。本日付で第一中隊に配属する」

 

「…はっ、え?だ、第一中隊!?」

 

「はっ…離して!離してください!!」

 

「司令!ちょっと、待ちなさい!」

 

そのまま、ジルはアンジュを引き摺りながら、エマはそれを追うようにして、教室を後にしていった。

 

「まご、ワシらもついてってみよーぜ?」

 

「え、なんで?」

 

「いいからいくぞーっ」

 

「ちょ、おわっ!?」

 

さらにじーさんとまごもまた、ジル達を追って出ていったのだった。

 

 

 

しーん……

 

 

「せんせー」

「…はいっ!?あ、え?どうしたの?」

 

「これ、どうするの?」

 

「じゃいぃ……」

 

「 」

 




ゲス姫様はゲスってなんぼ(ゲス顔)

今回も予定より短い構成になってしまいました。話進まねぇぇ……

もうちょい、文章を効率良く組むやり方を考えようと思います。
そろそろ原作見直さないとなぁ。

次回、一日ぶりに第一中隊と再会するじーさん。アンジュは数日の訓練の後、ついに実戦へと飛び立つ。しかし、彼女のとった行動は…

それではまた次回ノシノシ


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は~じめましてはド~キドキ~じゃっ!

【おしおきコーナー】

このコーナーは、誰かがおしおきを受けるコーナーである


じーさん「おしおきおしおきー♪」

校長「誰かなおしおきー♪」



[くじ箱]


校長「おしおきおしおきー♪」

じーさん「誰かなおしおきー♪」


ジャカジャカジャカジャカ~~……じゃん!






くじ「作者」





作者「ほんぎょお~~~~~~~~!?!?」ギリギリギリギリボキボキボキボキ

※すみませんでした


「ねぇ、司令と監察官の後ろにいるのって…」

 

「あぁ、アレが噂の…」

 

「実はノーマだったミスルギ皇国のオヒメサマと、世界初の男の子のノーマ…」

 

「それと、ドラゴンを生身で叩っ切ったっていう……えっと」

 

「…うんと」

 

「あの…」

 

 

 

「「なに、アレ…?」」どび~ん

 

 

 

「見ろまごよ、女のコ達がワシらのことをウワサしちょるぞ。イヤ~モテる男は辛いの~ひゃっひゃっひゃっ♪」

 

「ウワサの意味合いが違うと思うよおじいちゃん…」なすーん

 

「「………」」

 

ジルを先頭に通路を歩く一同。

教室を出てからこれまで何人かのノーマ達とすれ違っていたが、彼女らの取るリアクションは皆同じであった。

アンジュとまごを興味深げに眺めた後、視線がじーさんに行ったところで、皆一様に困惑を浮かべるのである。

一方でジルとエマ、そしてアンジュは無視を決め込んでいた。余計な疲労を避けるため、そして胃袋の平和のため、だ。

もっとも、アンジュのそれはまた意味の異なるものであったが。

 

「ところでジルよ、ワシらをドコヘつれてくつもりなんじゃ」

 

「……私が連れて出たのはアンジュだけだ。貴様らまで呼んだ覚えはない」

 

「まーそうカタイこと言うなって、ワシとオマエの仲じゃろー?」

 

「黙れ。付いてきたければ勝手に付いてくればいい…、ただしその耳障りな口は閉じておけ。縫い合わせられたくなければな」

 

「ホント可愛げのないヤツじゃのー、読者人気落ちてもワシゃ知らんぞ?」

 

「……チッ」

 

やれやれと肩をすくめるじーさんに、憎々しげに舌打ちするジル。

 

「(読者人気とか以前に、オレ達の立場がどんどん危うくなってってる気がする…)」

 

「…はあぁぁ……」

 

そんなやり取りに、まごは顔を青くしひきつらせ、エマは盛大な溜め息を吐くのであった。

 

 

そんなこんなしつつ、やがてジルが1つの扉の前で歩を止め、脇のコンソールを操作する。どうやら目的地のようだ。

操作を受け付けて、自動で開いた扉の向こうには、ボックス型の機械らしきものがズラリと並んでいた。側面には扉がそれぞれ付いており、中に入れるらしかった。

 

「なんじゃアレ?」

 

「なんの部屋なんですか?ここ」

 

「シミュレーター室です。ここでライダー達の操縦訓練を行っています」

 

「アンジュ、あそこにいるのがお前の同僚達だ」

 

「え…?」

 

ジルが顎で示した先には、こちらに背を向けるゾーラを中心に第一中隊の面々が集まっていた。中には、ココとミランダの姿もある。

 

「あ、じーさんだ!おーい!」

 

「おーヴィヴィアン」

 

「げ…」

 

いち早く気付いたヴィヴィアンが、棒付きキャンディをくわえたままじーさんへ元気良く腕を振る。

その一方でヒルダが露骨に顔をしかめた所で、ゾーラも振り向きジルの姿を確認すると、手慣れた様子で敬礼してみせた。

 

「司令官に敬礼!」

 

それに続き、他全員も一斉に敬礼。新人二人が半拍ほど遅れたのはご愛嬌。

ジルもまた軽く敬礼して返し、アンジュを伴って歩み寄っていく。

 

「ゾーラ、例の新人だ。…余計なオマケもついてきてるが、あとは任せる」

 

「イエス・マム。司令はこれからどちらへ?」

 

「……医務室だ」

 

ジルは吐き捨てるように言うと、エマを連れてツカツカ足早に出ていってしまった。

 

「…お大事に」

 

そんなジルの疲れた背中を、ゾーラは苦笑とともに見送ったのだった。

 

「ようこそ、死の第一中隊へ。あたしが隊長のゾーラだ」

 

「死って、随分と物騒じゃのー…」

 

「ハッ、まぁ違いないが、アルゼナル(ここ)じゃ一番実入りがいいからね。それより、昨日は世話になったねぇ、デンジャラス爺さん?」

 

 

「ちがーーーう!!」グオッ

 

 

「っ!?」

 

と、突如普段の5倍ほど巨大化したじーさんの顔面が眼前に迫り、さしものゾーラも思わず後ずさる。その後ろに控えている少女達も、一様にビクッと体をを震わせていた。

 

「ワシはでん()ゃらすじーさん!!間違えてんじゃねーよッ!!オマエそれググッた時

 

もしかして→でんぢゃらすじーさん

 

って出てくるお決まりのヤツだからなえーコラ!!」

 

「あ、あぁわかったよ、悪かったね。悪かったから顔はさっさと戻してくれ…」

 

「ーったく」

 

しゅるしゅると元のサイズに縮んでいくヒゲ面を目の当たりにして、第一中隊は改めて思った。

 

やっぱコイツ、人間じゃねぇ…と。

 

「ありがちなマチガイしおってからに…ん?」

 

ふと、じーさんは違和感に気付いた。

先程から、隣のまごが微動だにしないのだ。

 

「まご、どうしたんじゃ?腹でも痛いのか?」

 

「………」

 

「…んん?」

 

固まったままのまごが、口を半開きにしたまま見つめる先。それは…

 

 

 

ヒ<ボイーン

 

ゾ<ボボイーン

 

エ<ボボボイーン

 

サ<ないーん

 

 

 

おっぱいが、いっぱい❤

 

 

 

「なに見てんだテメェクソまごーーーーッッ!!!」ジジィパーンチ!!

 

「びゃーーーーっっ!?!?」ドカーッ!

 

じーさんの容赦ない拳がまごの顔面に炸裂した。

 

「いっ、いきなり殴るコトないだろーっ!?」

 

「うるさーい!このドスケベ!!ここぞとばかりにガン見しおって、オッパイ星人かオマエわ!」

 

」ぺっぺぺぺつにつぉんなコトねーしっ!!「

 

「声裏返して喋るな!!」

 

「……ミランダちゃん、男の子ってみんなああなのかな…?」

 

「あたしにだってわかんないわよ、そんなの…」

 

「…ヨウスケくんのえっち」

 

嗚呼、悲しきは男子の本能か。子供であろうと大人であろうと、男はおっぱいを求めずにはいられないのか。

かく言う作者も子供の頃は、近所の林に捨ててあったピンクチラシを…やっぱ何でもないです。

 

「…ねぇ何故かしら。私、今すっっっごい不愉快な扱いをされた気がするんだけど」

 

「あら、急にどうしたの?サリアちゃん」どたぷーん

 

「……くっ!!」

 

「まぁ、サリアじゃエルシャの四次元バストには敵わないにゃー」

 

「怒るわよヴィヴィアン…」

 

なくはないです。

 

それはさておき、実際問題としてまごが釘付けにされてしまったのも、まぁ致し方ないと言えよう。

第一中隊全員が着ているのは、メイルライダー専用のライダースーツ。

これは胸元が大きく開き、おなかは丸出し、内腿も丸出し、と非常に露出度の高いデザインとなっていた。

長期の任務や待機時の排泄の利便性など、諸々の事情を考慮した結果、こうなったのだと言う。ホンマかいな。

 

「つーかオマエら!そんなヘンタイチックなスーツ普通に着こなしてんじゃねーよ!!ワシがむしろ間違ってんのかと一瞬自分を疑ったっつーの!!」

 

「と言われても、これが正規の服装だからねぇ。…それよりボウヤ?」

 

「…へっ!?」

 

ゾーラが腰を曲げ妖艶な笑みで、顔を赤くしたまごへずいと迫った。

そうなれば、顔と顔はまさに目と鼻の先。おまけに視線を少し下にやれば、赤い花柄のタトゥーの入った豊満な谷間が飛び込んできてしまう。

 

「フフ、お姉さん達のカラダに興味津々ってわけかい?まだ11って聞いてたが、随分とおませさんじゃないか。…それとも、男ってのはそういうモンなのかねェ?」

 

「いっいやっ、あのその…」

 

至近距離であるがゆえ、ゾーラが喋ればその微かな吐息がまごの口元をくすぐっていく。

まだ思春期にも入っていない少年には、いささか刺激的すぎた。もはや、まごの顔は茹で蛸の如くまっかっかである。

 

「すっかり緊張しちまって…可愛いねェ。実を言えば、あたしも(あんた)に興味津々でねえ…教えてくれないか?(あたしたち)と違うトコロをイロイロと、さ…」

 

「え、えぇぇ…」

 

そろり、とゾーラの右手が動きだす。

指先がゆっくりとまごの下半身へと伸びていきそして…

 

 

 

 

「イイ加減にしろコラーーーーーッッ!!!!」ジジィキーック!!

 

「おっと」ヒョイ

 

「びょーーーーっっ!?!?」バキイッ!

 

じーさんが背後から跳び蹴りで強襲。

しかしゾーラにはあっさり避けられてしまい、その一撃はまたもまごへと見舞われることとなり、少年の身は哀れにも吹っ飛んでいってしまった。

 

「急に何すんだい、危ないじゃないか」

 

「危ないじゃないか、じゃねーーーよ!!オマエこちとらかれこれ15年よい子のコロコロで連載続けてんだぞ!?そんなガチでまいっちんぐ❤な展開許されると思ってんのかーーっ!?」

 

「別に構わんさ、どうせ画面の向こうは大きなお友達しかいやしないんだ」

 

「身も蓋もないコト言ってんじゃねーよ!!」

 

「おじいちゃんそれ…似たようなやりとりもうしたよ…」

 

「ヨウスケくん大丈夫!?」

 

先ほどのパンチに続きキックまで喰らい、倒れ込んだまごを流石に見かねたらしいココが駆け寄ってくる。やや遅れてミランダも一緒だ。

 

「あてて…」

 

「ちょっと、大丈夫?あのじいさん容赦なさすぎでしょ」

 

「ハハ…まぁ大したことないから」

 

「本当に?無理しちゃダメだよ?」

 

「ウン、ほんとに大丈…ぶ……」

 

「「?」」

 

忘れないでいただきたいが、先述したヘンタイチックなスーツは、第一中隊全員が着込んでいる。

もちろんココとミランダも例外ではなく、まごの視線はいやが応にもその大きく晒された慎ましい未成熟な胸元へと注がれ……

 

「「…っっ!?」」

 

瞬間、少女二人もまた茹で蛸と化した。

 

 

「「ヨウスケ(くん)のエッチ!!」」バチコーン!

 

「ぶべら!?」

 

 

おもっくそひっぱたかれました。本当にありがとうございます。

 

「今日オレ殴られてばっかり…」

 

「あぁっ!?ご、ゴメンねヨウスケ!つい…」

 

「ごご、ごめんなさい!本当にごめんなさい!痛かった?痛かったよね!?」

 

「いや、ウン、オレのほうこそマジでごめんなさい…」

 

 

「…まごがだんだんラブコメ主人公みたくなっとっとる……」

 

「クク、初々しいねェ。まとめて食べちゃいたいくらいだよ」

 

「んっ…ゴホン!」

 

困惑するじーさんと舌なめずりをするゾーラ。

その背後で、これ見よがしに咳払いを1つしたのは、サリア。

 

「隊長、お遊びはそれくらいにして、そろそろ…」

 

「っ…」

 

サリアが横目で指し示したのは、所在なさげに棒立ちしているアンジュ。

自分に注意が向けられたのに気付き、庇うように身を縮こませていた。

 

「おっと悪い悪い。すっかりほったらかしにしちまったねぇ」

 

「ち、近寄らないで!」

 

拒絶するも当然の如くスルーされ、アンジュの目の前に迫ったゾーラは、その体を上から下まで舐めるように眺めていく。下からまた上まで戻り一往復したところでニヤリと、まごへ向けたものと同種の笑みを浮かべた。

 

「せっかくの初顔合わせなんだ。そんな所で突っ立ってないで、前へ出な」

 

「ひっ!?」

 

横へと歩を進めたゾーラの手が、すれ違いざまアンジュの尻をヌルリとこれまた舐めるように押し出した。いっそ堂々たるセクハラぶりであるが、ゾーラにとってはこの程度日常茶飯事である。

 

「副長、紹介してやんな」

 

「イエス・マム。パラメイル第一中隊副隊長、サリアよ」

 

不敵に笑うゾーラとは対照的に、サリアは淡々と自己紹介を済ませ、他の隊員達を一人ずつ指していく。

 

「こっちが突撃兵のヴィヴィアンと…」

 

「やっほ♪」

 

 

 

「……」

 

アンジュが前に出されたことで、まごは先ほどの事を思い出していた。

 

 

――――

 

「ノーマは、人々の幸福の光であるマナを拒絶する、反社会的で、暴力的で、下劣な生き物…人間ではないのです」

 

「ノーマは淘汰されて然るべき穢れた存在なのです、疑問の余地などありません!」

 

――――

 

 

「…まごよ」

 

「あ…何?おじいちゃん」

 

「さっきのことなら、気にするな」

 

「えっ?」

 

ずばり考えていたことを言い当てられ、そんなに顔に出てたのかな、とまごは目をパチクリさせる。

 

「ヒトの考え方は国や地域によって様々じゃ。じゃが、それ以前にヒトとヒトは同じ生き物同士…差別なんてものは、ヒトの身勝手な思い込みに過ぎないんじゃ」

 

「おじいちゃん…」

 

「オマエのキモチは決して間違っておらん、だから胸を張るんじゃ。アンジュもいつかきっと、わかってくれる日がくるハズじゃろう」

 

「…うん、そうだよね!」

 

にこやかにそう告げるじーさんの言葉に、まごは自信がつくのを感じた。ハッキリとしたその語調には、それだけの説得力があった。

 

「(やっぱり何だかんだ言っても、おじいちゃんはスゴいや)」

 

改めてそう思うまごであった。

 

 

 

「軽砲兵のロザリーに、重砲兵のクリスと――」

 

「これ……全部ノーマなのですか」

 

 

「「 」」

 

 

「はっ、アタシたちノーマは物扱いか」

 

「このアマ…!」

 

「そうだよ、みんなアンジュと同じノーマ!仲良くしよーね♪」

 

「違います!!私はミスルギ皇国第一皇女、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギです!断じてノーマなどでは――

 

 

 

 

「言ってるそばからコラーーーーーッッ!!!!」ポチッ

 

「ササキ!」ずど――ん!!

 

「ありま~~~~~っっ!?!?」

 

アンジュ、おし(りに)つぶされる☆

 

じーさんがハラマキから何かのボタンを取り出し、押した瞬間、ゴリマッチョでブーメランパンツ一丁のおっさんが、胡座をかき腕組みしたポーズでアンジュの頭上から降ってきて下敷きにしたのである。ケツで。

おっさんはたらこ唇で半眼、ハゲ頭の両対に1つずつ髪の房がちょこんと生え、額には「ささき」と平仮名で3文字書かれていた。

 

「人がせっかくフォローしてやったっつーのに速攻でぶち壊してんじゃねーよ!!チョーシに乗ったらブッ飛ばすって前回言ったばっかだろーがテメー!!」

 

「ググッ…しっ、知ったことではありません!!このっこのっ…どきなさい不埒者!!」

 

「……」

 

なんとか抜け出そうともがくアンジュだが、おっさんの尻はビクともしない。

 

「いやていうか、どっから出て来たんだよコイツ…!?」

 

「そそ、そうだよ!アルゼナルは男子禁制だったんじゃねぇのか!?」

 

「つっこむとこそこじゃないよロザリー!」

 

「おぉ~っ!またムキムキだぁ!」ペタペタ

 

「ヴィヴィちゃんっ、無闇に触っちゃダメよ!」

 

「ヘェ…こいつはなかなかイイカラダしてるなァ」ペタペタ

 

「隊長まで何してるんですかっ!!ちょっと!何なのよこの人は!?」

 

「ム?」

 

サリアが唾を飛ばすかの勢いでじーさんに迫る。

 

「彼は《おしおきのささきさん》。ワシの古い友人で、いざというときに呼べば駆けつけてくれるんじゃ」

 

「その割には随分前に一回出たっきり出番なかったよーな…」(※絶体絶命7巻参照)

 

「呼べばって…でも確かに上から…いやでも天井にそんな仕掛けは…いやいやいやいや…」

 

うんうん唸りだすサリアだが、この手のギャグマンガにマトモな論理を求めることがそもそもの間違いである(真理)。

 

「くっ…このぉっ…」

 

「さて、アンジュよ。少しは反省したか?」

 

ささきさんの下でもがくアンジュにじーさんは声をかける。

しかし、

 

「誰が!汚らわしい分際でっ!!」

 

その口は一切改まるところを知らず、なおも噛みつかんと罵声を上げた。

 

「ムゥ、往生際の悪いヤツじゃの…」

 

「黙りなさい!マナを扱えない下等な存在のくせにッ」

 

「でもアンジュも使えないんでしょ?マナ」

 

ヴィヴィアンがさらりとそう口にすると、怒りを湛えた目に明らかな動揺が浮かぶ。

 

「そ、それは一時的にマナの光が届かないからで、この島から出れば…」

 

「…クッ、ハッハッハッハッ!!」

 

突然、ゾーラが大きく笑った。何事かと全員の注目が集まる中で、彼女はやれやれと首を振る。

 

「司令め、とんでもないのを回してきたな…、状況認識も出来てないとんだ不良品じゃないか。これなら、落ち着いてる分じーさんとボウヤのほうがよっぽどマシってもんだ」

 

「「(イヤそれはどうだろう…)」」

 

珍しく、サリアとヒルダの意見が合致したが声には出さなかった。

 

「はは、不良品でしかもオッサンの尻に敷かながら粋がってんすかァコイツ?」

 

「ウワァ痛すぎ…」

 

ゾーラに同調し、ロザリーとクリスもまた見下ろし見下し嘲る。この二人、常日頃からゾーラをお姉様と呼び慕っていた。

 

「なにを、不良品はお前達の方で…っ!?」

 

ダンッ、と再び口を開こうとした眼前が、白いブーツで勢いよく踏み鳴らされる。ヒルダだ。

 

「流石はハイソなお姫さま、そんなザマでも上から目線とは恐れ入ります…でも」

 

這いつくばるアンジュに顔を寄せ、ニヤリと笑う。

 

「身の程をわきまえな、痛姫」

 

「~~っ」

 

対照的に屈辱で顔を歪めるアンジュとヒルダが睨み合う。

まさに、その時だった。

 

 

 

 

ブブーッ

 

 

「………///」

 

ささきさんが、恥ずかしげに頬を染めた。

 

 

「「※☆⑱×♀∀㍑∮ΔДωゑゐ㈱◎¥╋AZ~~~~!?!?」」の~ん

 

少女が二人、声にならない悲鳴をあげた。

ささきさん、ついうっかり屁をこいてしまったのである。

 

「うわぉキョーレツ…」

 

「ヒルダちゃん昨日から踏んだり蹴ったりね…」

 

さしものヴィヴィアンとエルシャもドン引きだった。

 

「アッハッハッハッハッハッ!!あんたも存外マヌケだねェヒルダ!!」

 

「だーっはっはっはっ!!バッカでー!だっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!」

 

「「(サイテーだこの人達…)」」どび~ん

 

身悶える二人を尻目に大爆笑のゾーラとじーさん。

ささきさんよりむしろそんな大人二人にドン引きのまご達年少者トリオであった。

 

「ハッハッハッ…ふぅ。さて、いい加減遊びはここまでだ」

 

ようやっと落ち着きを取り戻したゾーラが、表情を引き締め全員を見渡す。

 

「これより訓練を始める!エルシャ、ロザリー、クリス。一緒にきな、遠距離砲撃戦のパターンを試す!」

 

「「はい!」」

 

「サリア、ヒルダ、ヴィヴィアンは新人教育!しっかりやれ!」

 

「「はい!」」

 

「…はい」

 

「じーさんとボウヤは好きに見学していきな、あたしが許可する!ただし妙なちょっかいは出すんじゃないよ?」

 

「おーぅおっけー☆」

 

「(大丈夫かな~…)」

 

 

「よし、全員かかれ!!」

 

「「イエス・マム!」」

 

ゾーラの号令で、少女達が一斉に動き出したのだった。

 

 

 

 

なお、ささきさんはアンジュとヒルダに頭を下げると、普通に扉を通って去っていきました。

 

「ちなみに、ささきさんの出番は当分ありません♨」

 

「(イミねぇーーっ)」ズビーン

 




ななボイスとゆかりボイスにおっさんの尻と屁をぶちかますという暴挙。

遅くなり申し訳ありません、監督提督です。
理由はいくつかありますが大半は自分の怠惰が原因です、本当にすみません。
おまけに予告通りの所まで進めませんでした、会話書いてると楽しくてついつい伸びてしまう…これでもネタ二つくらいカットしたんですが…

さて、本編中じーさんとゾーラが妙に仲が良かったのですが、何気にこの二人似てるんじゃないかと思っています。
破天荒だけど仲間思いで面倒見が良く、なんやかんや周りから慕われている、というね。

それではまた次回。今度こそはそう遠くない内に…
ではノシノシ


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マズいメシで戦ができるかーーッ!!じゃっ!

じーさん「ココのココはココナッツのココというココはココにココッコココココケコッコー☆」

まご「何をゆーとるんだオマエわっ!!」

ココ「ココはココでココにココが……あれっ?ココってどういう意味だっけ…」

ミランダ「自分の名前でゲシュタルト崩壊起こしてるよこの子!?」

※はじまります



「例の新人ですが、基礎体力、反射神経、格闘対応能力、更に戦術論の理解度。全てにおいて平均値を上回っています」

 

「随分と優秀じゃないか」

 

「ノーマの中では、ですが」

 

アンジュが第一中隊に配属されて数日、ジルはエマと共にその間に行われた体力テスト及び訓練等の報告書に目を通していた。

結果は上々。厳しい内容であったが、アンジュは元皇族という肩書きに似合わぬ身体能力でついてきていた。文武両道で通してきていたのが功を奏したのだろう。

もっとも、当人としては甚だ不本意だろうが。

 

「(加えて、パラメイルの操縦技術にも光あり、と…。フ、まったくもって都合がいい)」

 

ジルが内心でほくそ笑む中、エマは眼鏡を軽く直してから、さらに続けた。

 

 

 

「それと、例の老人ですが…」

 

「すまないが用事を思い出した。失礼する」

 

「待ちなさい」

 

ジルはにげだした!

 

しかしまわりこまれてしまった!

 

「司令…気持ちはよ~~くわかりますが、自分が無視していい立場でないのはわかりきっていることでしょう?」

 

「…あぁ、わかっている。ああわかっているとも。…で?」

 

「…はぁぁ……。ええとですね…」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

【居住区画・通路にて】

 

校長「おのれあのクソ鉄腕女め、ワガハイを散々コケにしおって~~」

 

校長「ならば、ヤツの部屋に忍び込んで…」

 

校長「ヤツの服という服(パンツ含む)に《校長!エライ!世界一!イカす☆》と油性ペンでサインしまくってやるのじゃーーーい!!」どーん!

 

 

 

 

じーさん《スイッチグッ↓》

 

ドカーーーン!!

 

校長「かしもとーーーーッッ!?!?」

 

まご「…まぁ、そらそうなるわな」

 

 

 

―――――

 

 

 

【倉庫にて】

 

まご「おじいちゃーーん!どこー!?」

 

ココ「おじいさーん!」

 

ミランダ「ったく、いい年したじいさんがかくれんぼだなんて…。っていうか、ホントどこに隠れたのよ…」

 

まご「おじいちゃーん!もうギブアップだから出て来てよーっ!」

 

 

じーさん(平面)「やれやれ、だらしないヤツラじゃのー」ぺらーん

 

 

ま・ミ「「どおォーーーーっっ!?!?」」ビックゥ

 

ココ「こっ、コンテナの間のほっそいスキマに!?!?」

 

じーさん(平)「かくれんぼもロクにできんとは…これじゃから現代っ子はまったく!」ぺらぺら

 

まご「できるのはオマエだけじゃーーっ!!」

 

ミランダ「いーからさっさと元に戻りなさいキモチ悪い!!」

 

 

 

―――――

 

 

 

【パラメイル格納庫にて】

 

校長「ちくしょー、じーさんまでもワガハイの邪魔をしくさりおって~~」

 

校長「なら、ここにあるロボットを改造して…」

 

校長「ワガハイ専用の《校長☆スペシャルブリリアントカスタム》にして鉄腕女ともどもギッタンギッタンにしてやるのじゃーーーい!!」ばーん!

 

 

?「そうはさせないゼ!」

 

校長「ムッ!何奴じゃい!?」

 

 

♪ナナナナナナナナ7階!(7階!)

 

♪ナナナナナナナナ7階!(7階!)

 

♪ワンツースリーフォーファイブシックス!なな!

 

♪住宅、ヒーロー、7階建てマ~~ン!

 

 

7階建てマン「オレは住宅ヒーロー、7階建てマンだベイベ!オレの頭の7階建てがある限り、キサマの好きにはさせないゼ!」

 

校長「何をこしゃくな~。ならばキサマから先に血祭りにあげてやるのじゃい…!」

 

7階建てマン「望むところだベイベ!かかってこい!」

 

校長「舐めるなよ~、勝つのはワガハイじゃーーい!!」

 

7階建てマン「いくぞぉ!!」

 

 

「「うおおおおおおおおおっ!!」」

 

 

 

 

じーさん《グイッ↓》

 

ドカーーーン!!

 

校・7「「さわだーーーーッッ!?!?」」

 

まご「今のヤツなに!?」ずべーん

 

メイ「ってかアンタ達何やってんのぉ!?!?だれか消火器!早くっ!!」

 

「「い、イエス・マム!!」」

 

 

 

―――――

 

 

 

【幼年部にて】

 

おちんちんのうた

作詞・作曲 じーさん

 

♪おちーんちん、おちーんちん、おちーんちん(チャッチャラ~チャッチャラ~)

 

♪おちんちーん、おちんちーん、おちんちんちーん

 

♪おちーん、おちーん

 

♪はぁ~~~~~~

 

♪おちんちーーん(チャッチャッ!)

 

 

 

女の子「なにそれ、ヘンなうたー」

 

じーさん「そんなことはないぞー?コレはワシのいたとこじゃオマエ達ぐらいの子供はみーんな歌ってるんじゃぞー?」

 

少女達「「へぇぇ~~…」」

 

じーさん「よーし、それじゃみんなで一緒に歌うのじゃー!サン、ハイ…」

 

まご「トンでもない大ウソついてんじゃねぇーーーーッッ!!!!」ぐおーっ

 

エルシャ「あらあらまあまあ…ウフフフフフフフフフフフ」

 

ヴィヴィアン「(笑ってるけどむっちゃ怖ーーーーっ!!)」

 

 

―――――

 

 

 

【医務室前にて】

 

校長「くそ~~、悔しいが一人では限界があるのじゃい……。オイキサマ!」

 

アンジュ「…なにか?」

 

校長「喜ぶがいい!鉄腕女に歯向かう者同士、特別にキサマをワガハイの部下にしてやるのじゃーーーい!!」ぼーん!

 

アンジュ「はぁ!?いきなりなんなのですか!?」

 

 

 

 

じーさん《グッ↓》

 

ドカーーーン!!

 

校・ア「「あなくぼーーーーッッ!?!?」」

 

まご「(アンジュさん何もしてないのに巻き込まれたーッ!!)」どびーん

 

アンジュ「なぜ、わたくしま…で……」

 

マギー「はーい、ケガ人2名ごあんな~い♪」

 

 

―――――

 

 

 

 

「……と言った具合で、基地内のあらゆる場所で騒動を起こしており、また火薬の無断使用による物的損害や負傷者も報告されています」

 

「………」キリキリキリキリキリキリ

 

僅かな間で予想を超える惨状となっている事実に、ジルは頭を…いや胃の辺りをおさえた。

 

「…ジル司令」

 

そんな苦悶を浮かべるジルの肩に、エマは優しく労るように手を置いた。

 

「エマ監察官…」

 

「一緒に行きましょう。医務室…」キリキリキリキリキリキリ

 

「…あぁ、そうしようか」キリキリキリキリキリキリ

 

普段はあくまで仕事上の関係でしかない二人。

しかし、この時ばかりは心と心が通じあったような、そんな気がしてならないジルとエマなのであった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

時間はお昼時、食堂は昼食を取るノーマ達で賑わっていた。

そんな中で、階段を上がった上段の隅の席で、食事の盛られたプレートを睨み付けている者がいた。

アンジュである。

 

「……」

 

スプーンを手に取り、手前のライスへと差し入れてみる。

ニチャア…というねばついた音がして、つまりは明らかな水分過多を物語っていた。

 

「…はーっ……」

 

ため息をもらしつつスプーンを下ろし、アンジュは額に手を置いた。

ここ数日、激しい訓練が続いていたこともあり我慢していたが、それもいよいよ限界を迎えつつあった。

 

ここで出される食事、ハッキリ言ってメシマズも良いところなのだ。

 

アンジュは思う。自身の舌が肥えているのもあるだろうが、それにしてももう少しどうにかならないのかと。

食べれば食べるほど食欲が減退していく料理など、アンジュにとっては初めてのことである。まさしく、豚の餌を出されている気分だった。

いっそノーマには相応しいのだろうが、しかし、自分は――

 

「おやおや痛姫サマ。あんなになんでもできちゃう御方が好き嫌い?」

 

アンジュは食欲とともに落ち込んでいた気分がますます滅入っていくのを感じた。

視線を上げれば案の定、下品な笑みを浮かべる水、赤、橙。

顔合わせ以来、何かにつけてつっかかってくる3人組だが……アンジュはその名前を覚えていない。覚える価値に値しなかった。

 

「よくないねェ、ちゃんと食べないと…」

 

言いながら向かいに座った橙…ロザリーは、アンジュの食事を自分のプレートへ移し変えていく。

 

「いざってとき戦えないよぉ~?」

 

たっぷり皮肉を込めながらひとしきり移し終えると、これ見よがしに食べ始め、

 

 

「そんなモノ、よく食べられますわね」

 

「…っんな!」

 

さらりとそう返され、逆に固まってしまった。

 

「あらあら、清楚でハイソな痛姫サマのお口には合わない、と?」

 

ロザリーが固まり、クリスがアンジュを睨む中、自分の食事を口に運びながらヒルダは皮肉を重ねる。

それにも、アンジュはただただ無感動。

 

「このッ、お高くとまってんじゃ――

 

 

 

「どーーーーーーん!!」

 

 

 

「…げっ」

 

「…あっ」

 

「……」

 

わなわな震えるロザリーが手元のお冷やを投げつけようとしたその時、低音の叫びが響くと同時に何かに気付いたらしいヒルダ、クリス、そしてアンジュがテーブルから素早く一歩退く。

 

「…え?」

 

唯一反応の遅れたロザリー。何なのかと声のほうへ向けば…

 

 

べちゃっ

 

 

「 」

 

今しがた口にしようとしていたプレートと同じ物が、まるごと顔面へと飛来してきたのである。それも、盛りたてアツアツ。

 

「…ぅあっちゃちゃちゃちゃぁッッ!?」

 

「「うわぁ…」」

 

当然、ロザリーの顔面はただではすまない。

顔についた米やら何やらを払おうとし、その場で小躍りするハメとなってしまった。

ドン引きの他2人の横でアンジュは思った。無様、と。

 

「ってぇ、なにしやがんだコラァッ!!」

 

二重の意味で顔を真っ赤にしたロザリーが怒号を上げるが、しかし、犯人は彼女のことなど目もくれていなかった。

 

 

「キサマーッ!なんなんじゃこのメシはーーーーッ!!」

 

「ちょっと、やめなよおじいちゃん!」

 

案の定、じーさんの仕業であった。

額に青筋を立て、盛り付けをしている女性を指差しまくしたてる。

 

「ごはんはベチャベチャ!卵焼きはパサパサ!ポテサラはドロドロ!遠藤さんはマッチョ!やる気あんのかコラーーッ!!」

 

「(遠藤さんて誰だよ…)」がぼーん

 

「あーあ、また始まった…」

 

「あわわ…」

 

まごが制止するも収まるはずはなく、一緒であったミランダは呆れと共に肩をすくめ、ココは泡食っていた。

 

「ちっ…。嫌なら食わなくたっていいんだよ」

 

それに対し女性は悪びれる様子もなく、面倒臭いとばかりにあっさりと突っぱねた。

ぬぐぐ、とじーさんが唸る。

 

「おのれぇ~。タダ飯食ってるだけに我慢してたが、しかしもう限界じゃ……ならば!」

 

くわっと目を見開き、高らかに言い放った。

 

 

「キサマらの料理をうまくする方法を、《あの方》に教えてもらおう!!」どどーん!

 

「あ、おじいさんが教えるんじゃないんだ…」

 

「ココ、しーっ!」

 

 

 

 

 

☆ボンバー井上のニコニコお料理コーナー☆

 

 

♪ルルルルル~

 

♪ラララララ~

 

 

「……」コワモテカクガリー

 

「井上先生、今日はどんな料理を教えてくれるんですか?」

 

 

 

「バカヤロウ!!」ドンガラガッシャーン!

 

 

 

「料理ってのは、自分で編み出すもんじゃーーーーいッッ!!!!」ばぼーん!!

 

 

 

㊧ボンバー井上のニコニコお料理コーナー㊨

 

[完]

 

 

 

「「(教える気ねぇじゃん!!)」」ずび~ん

 

単なる文字数の無駄遣いであった。

 

 

 

「ミ、ミランダ?おじいちゃんほっとくワケには…」

 

「いーのいーの、ヨウスケだってツッコミばっかじゃ疲れるでしょ?」

 

「本当に大丈夫かな…」

 

一方、茶番の隙をついてミランダはまごの手を引き、半ば強引にその場を後にしていた。

ちらちら後ろを気にするココであったが、ふと前方の階段を降りてくる眩い金髪に気付く。

アンジュだ。こちらはじーさんが騒いでいるのに便乗したクチである。

すると、おろおろしていたココの困り顔がとたんに喜色満面になっていく。

 

「アンジュさん!」

 

「…?」

 

 

呼ぶ声に嘲りや敵意を感じなかったからだろう、訝しげに振り向いたアンジュへ、ココは小走りで駆け寄っていった。

 

「あ、あの!えっと、えーっとぉ…」

 

「……」

 

が、しかし。近づいたは良いものの、しどろもどろになってしまいココはうまいこと話すことができない。

赤い顔でチラチラ目で伺ってくるその姿は小動物のようで、なかなかに愛らしいものだが、無表情を貫くアンジュの内心は疑問が膨らむばかりであった。

 

「いやー、やっぱり名前覚えられてなかったかぁ」

 

そこへ、見かねたミランダがココの隣に並び、フォローに入る。

 

「あたしミランダ、こっちはココ。ヨウスケは…流石に知ってるかな」

 

「ど、どうも…」

 

「…わたくしに何か?」

 

「そんな身構えないでよ。実はこの子、あんたにもベタ惚れでさー、ずっとアンジュの話ばっかりしてるんだよね」

 

アンジュは目を丸くした。まさかこのノーマだらけの島で、敵意害意ならともかく好意を向けてくる人物がいるとは思っても見なかったからだ。

 

「だ、だってアンジュさん、凄く綺麗なのに何でもできちゃうし、お姫様なんて、絵本の中だけだと思ってたし…」

 

はにかむココに、なにやらデジャヴを感じたまご。

ふと、何かが耳に引っ掛かった。

 

「…ん?あんたに()って…」

 

「…!?」

 

「そうそう、最近のココはすっかり夢中だからねー、アンジュとヨモゴッ!?」

 

「~~~ッ!!」

 

苦笑するミランダの口を、ココが慌てて塞ぐ。その顔はいよいよ真っ赤になってきていた。

 

「ミランダちゃんダメ!それ以上はダメ!」

 

「~~ぷはっ。ごめんごめん、つい口がすべっちゃって」

 

「もう…」

 

「えーと…」

 

「ヨウスケくんは気にしないで!!というか気にしちゃダメ!!絶対だよ!?いい!?」

 

「あ、はい」

 

わけがわからないまごだったが、控えめなココらしからぬ剣幕に、選択肢はハイかイエスしか許されなかった。

 

一方で、アンジュもまた困惑を覚え始めていた。

目の前のココは、笑ったり怒ったり、表情がころころと変わる。

年相応に無邪気な仕草は、そう、まるで――

 

「…違う」

 

「え?」

 

「あ…いえ、なんでもありません…」

 

アンジュは顔には出ないようにしつつ、頭をよぎった思考を強引に握りつぶした。

 

「まっ、何にせよ同じ新人同士なんだし、仲良くしよ。わからないことがあればなんでも聞いてよ」

 

「……」

 

アンジュは、にこやかにそう言うミランダと、ココ達を順番に目だけで見ていく。

人をみる目はあるつもりだ。少なくとも、この3人から邪な思惑は感じれなかった。

なので、

 

「では…」

 

少々不本意ながら、厚意に甘えることにしたのだった。

 

 

 

―――――

 

 

 

「はい、まいどあり」

 

「ありがとうございます!」

 

場所は移ってジャスミンモール。

ここはジャスミンの切り盛りするアルゼナル唯一の商店であり、店主いわく「パンティから戦車砲まで揃う」らしい。

ここで、ノーマ達は各々が稼いだ(キャッシュ)を支払い、必需品や嗜好品を購入していくのである。

 

「はい、どうぞ」

 

ココはジャスミンから受け取った商品を手に小走りで一同のもとへ戻ってくると、アンジュに差し出した。

物は紙とペンであり、アンジュが事前に渡されていたキャッシュで買ったものである。

アンジュがまず聞いたこととは、『買い物の仕方』であった。

 

「まさか、買い物のやり方を教えてほしい、とはねえ」

 

「アンジュさんは、外の世界ではどうやってお買い物してたんですか?」

 

ココの問いに、アンジュは渡された品を眺めていた顔を上げ、彼女を一瞥してからどこか遠くを見つめた。

 

「…望めば何だって手に入りました。望んだ物が手に入る、望んだ自分がある。

かつての暴力や差別が無い。困った事は何一つ無くマナの光に満ちていました」

 

すると、今度はまごが目を丸くさせた。

 

「え、じゃあお金の仕組み自体なくて、食べ物も、オモチャも、服も、全部マナで解決してたってことですか?」

 

「ええ、その通りです」

 

「へえぇ…」

 

マナの世界を想像するまごの隣で、ココが感激だと言わんばかりに胸で両手を組み合わせる。

 

「本当にあったんだ、魔法の国!」

 

 

 

―――――

 

 

 

「魔法の国、か…」

 

夜、与えられた簡素な部屋で、じーさんはまごから一連のやり取りについて聞いていた。

 

「そーなんだよ。スゴいよね、マナって。お金が無くても何でも手に入るなんて夢みたいじゃん」

 

「……」

 

まごはベッドに腰掛け、無邪気に足を振っていた。

確かに、何の対価もなくありとあらゆるものが手に入り、職も遊びも思いのまま。無益な争いなどは何一つない。

そんな世界は、まさに究極の理想郷と言えよう。

 

しかし。

 

「まごよ」

 

「なに?おじいちゃん」

 

「その世界は、歪んでおる!」

 

「えっ?」

 

じーさんは断言した。

 

「歪んでるって、ちょっと大袈裟なんじゃ…」

 

「お金がなくとも物が手に入る世界、苦労せずとも好きな職業になれる世界、病気も何もマナさえあればへっちゃらな世界……。たしかに、それはとても魅力的に聞こえるかもしれんな。じゃがな、

 

 

それは、『人間』を『ヒト』でなくしてしまう世界じゃ!」

 

じーさんの見解は、衝撃的なものであった。

理想郷が、人間をヒトでなくしてしまう…極論とも暴論ともとれるその言葉に、まごは唖然としてしまっていた。

 

「おじいちゃん、それってどういう…」

 

「まごに完全にわかってもらうにはまだ早いかもしれん …。けど、これだけは覚えておいておくれ」

 

 

 

「光と闇は表裏一体…。闇を拒絶する世界に、光などありはしないのじゃ…!」

 

「……」

 

それが何を意味するのか、まごにはよく分からなかった。あえて言えば、どこぞのマンガのセリフをパクってきたんじゃないかと思った。

しかし、自身を見つめるじーさんの目はひたすら真摯な色をおびており、無視してはいけないんだと、笑い飛ばしていいことでは決してないのだろうと、強くそう感じた。

 

「おじいちゃん…」

 

じーさんが回りくどいことを言うとき、それは何か重要な意味が込められている時がある。過去、巻き込まれてきたいくつかの事件でもそうだった。

もっと詳しく聞くべきだと思い、まごが口を開いた――その時。

 

 

 

ビーッ ビーッ ビーッ

 

 

 

「「!!」」

 

夜であることなぞお構い無しとばかりに無遠慮な警報(アラート)がけたたましく鳴り響く。

 

緊急事態――すなわち、ドラゴン出現の報である。

 

「ムッ、敵襲か!よし、ちょっくらいってくるぜ!」

 

「あっ!?ちょっとおじいちゃん!」

 

「なーに、心配するな。ワシは必ず生きて帰ってくる!むろん、第一中隊(アイツら)も一緒にな」

 

そう言ってサムズアップすると、じーさんは部屋を飛び出していった。また誰かのパラメイルに便乗する気なのだろう。

 

「……なんだろう」

 

しかし裏腹に、じーさんが走り去っていった廊下にぽつんと佇むまごの胸中には、言い知れぬなにかがじわじわと広がりつつあった。

寒気にも似た、気持ちの悪い奇妙な感覚。

 

 

「何か、嫌な予感がする……」

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

人が死んだ。

 

「……なんなの、あれ」

 

自分の目の前で、いともたやすく、いっそ滑稽なほどあっけなく。

 

『ドラゴン、コンタクト!』

 

あれが、ドラゴン。

 

あれが、敵。

 

あれを倒せと、そう言うのか。

 

なんの冗談だ。

 

「なんなのよ……なんだって言うのよ……!?」

 

馬鹿げてる。

 

こんなの現実なわけがない。

 

しかし……

 

 

シャギャアアアッ!!

 

「ひっ……!?」

 

逃避するアンジュを嘲笑うかのように、ガレオン級が雄叫びをあげるのだった。

 

同時に、第一中隊の面々ははるか眼下の海面を見つめ、思う。

 

「「(ああ、やっぱり死んだか……

 

 

 

 

 

 

校長……)」」

 

 

 

『ながとしーーーーッッ!?!?』

 

 

 

ありがとう校長!さらば校長!キミの勇気は、きっと伝説となるだろう!祖師ヶ谷大蔵あたりで!

 

「作者め、ネタが出ないからってテキトーに地元の名前使いおったな」

 

「いらんことを言うなクソジジィ!!」

 

「最近、ミランダちゃんの口がどんどん悪くなってる気が…」

 

「フフ、そうやって子供は大人になってくもんなのさ」

 

「なんの話ですか隊長」

 

 

つづく!

 




7話だから7階建てマンが登場したぜベイベ!ひねりとかそんなん知らないぜベイベ!
なお、校長の断末魔は分かる人ならわかるであろう、コロコロではおなじみのギャグマンガ作家様がたの名前を拝借しました。

延びたし伸びた……。すみません更新が安定せず。

しかし、皆さんのコメントは確かに僕の力になっています!
情けない限りではありますが、叱咤激励のほどどうかよろしくお願いいたします!

さて、サラッと折れたココの死亡フラグ。どうあって校長は死んだのか、次回は少し時間を遡った所からはじまります。

ではまた次回ノシ


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