目が覚めるとAKUMA転生(仮) (床太郎)
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プロローグ"誕生"
この作品はめっちゃ不定期更新になっちゃうと思います。
拙い文章ではありますが、良かったら見ていってください。m(__)m
緋色の空、その中で一際際立つ純白の雲、眼下に幾重にも連なる家々。
この光景を俺は一体何度、見ただろう。
全てが鮮明に頭の中に焼き付いている。
ああ。今なら分かる。
あの時間が一番の心の拠り所であったと……。
幾らでも続くとさえ思えた幸せな時間。
瞼を開けるとあの眩しかった世界に戻っている。
俺はそんな妄想を一体何度、願っただろう……。
だけどそんなことある筈がない。
瞼を開けた先に広がる地獄のような惨劇を、俺は感情の欠けた目で一瞥し、血の海を歩いた……。
◆◆◆◆◆
ここは世界の中心。
幾つもの世界が一つ一つ球状となってこの空間を廻っている。
そんな世界が円を描くように廻る中心に一つの人影、いや神影があった。
全身純白の神聖を纏っているかのような外装。
背中にまでかかる白髪、長い白髭。
いかにも童話に出てくる老齢の神そのものと言っても過言では無いような容姿をしている。
いや、"ような"ではない。
紛れもなくそこにいるのは"神"なのだ。
全知全能、超越者、全ての根源であり、全てを支配するもの、それが"神"である。
そんな一見なんでもできる神だが、彼には出来ないことがあった。
"退屈"
彼はそれをここ数百年満たせたことがないのだ。
総てを超越しているからこそ総てに飽き、ただなんの目新しさもない世界の一つを眺める。
絶望とほんの少しの期待をこめて……。
◆◆◆◆◆
世界は廊だ。
幾重数多の可能性をそれ以上外へ逸脱させないための廊だ。
世界は種子だ。
未知なる成長をとげる、いや芽吹く大きな種子だ。
世界は殻だ。
外界からの干渉を決して許さない、総てを閉ざす鋼鉄の殻だ。
世界は、世界は、世界は…………。
あらゆる用途で神は世界を創った。
ならば今度はその神のルールを破ってみてはどうだろうか。
退屈な神はそう考えた。
"退屈"
これは最も狡猾で卑劣な麻薬だ。
神自ら造り上げた絶対の
もはやこの神は狂ってしまっていたのかもしれない。
世界、いや人類転生システム。
ある一つの世界の人物を別の世界に強制的にねじ込む。
全ての意思を蔑ろにして。
もともと神である自分が所有物をどう扱おうが勝手だ。
人間も他の動物を、例えば飼育している家畜を殺して喰らうのだから同じことだ。
別に対したことではない。
多少強引ではあるが神の力を持ってすれば造作もない。
ものの数秒で全工程を終了させ、実践に赴いた。
◆◆◆◆◆
瞼を開ける。
春の暖かい風が頬を撫でる。
フカフカのベットで寝ていると錯覚していたそれは鬱蒼と生い茂る草原だった。
「やっと起きたか。寝すぎじゃないか……確かに暖かくて気持ちいいけど」
「そんなこと言いながら周もさっきまで寝てたじゃない……」
周と呼ばれた男はあからさまに口笛を吹いて誤魔化す。
そんな周を見てため息をこぼす短髪で赤髪の少女。
「いつまでぼーっとしてんだよ。アキ!」
そう言われて我に返る。
そうだ。俺はここにいる美樹と周の二人で高校の卒業式のあと、近くの丘まで来てたんだった……。
「おーい。アキ~~? アキちゃ~ん? まだ寝てんの…ホガッ!?」
なおも肩を揺すって喧しく喚く周を手で顔を払いのけながらこの小さな丘に脚をつき、景色を眺める。
……うん。いつも通りの景色だ。
「どうしたの? もう見慣れたでしょ、ここの景色くらい。」
「うん。だてに十八年もここで生きてる訳じゃないしね」
「じゃあどうしたのよ」
少し不満そうに訪ねる美樹。
はは~ん。これは理由がわからなくて、もやもやする~!!って顔だな?
まあ俺も明確な理由があった訳じゃないんだけどね。
「何と無くだよ。ほんとに何と無くこの景色をみたいな~って思っただけ」
そんな俺の言葉に何を思ったのか、美樹も立ち上がり並んでこの景色を見つめる。
いきなりどうしたんだ?と聞く前に後ろから喧しいのが割り込んできた。
「あっ。お前ら二人だけずり~! 俺も並ぶ! あとアキ、加減しろよな結構痛かったぜ」
それは貴様が俺の一番気にしてる言葉を宣いやがるからだ。
なんだよアキちゃんって! 俺は決して女の子じゃない!!
「それは周の自業自得よ」
「なん…だと……!?」
「はぁ……」
いつも通りの光景。
いつも通り、周が一人で暴走しそれを眺める俺、辛辣に言葉を吐く美樹。
俺達はこんな日がこれからもずっと続くと思っていた。
ただ唯一不安なのはいつも一緒だった三人の進路が全員違う大学だってことくらい。
でもそれも学校が違うだけで、どうせまたこうして一緒にいられる。
そう思っていた。
ドクンッ……ドクンッ。
だが、
終わりは唐突に訪れた。
ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ。
(なんだ? 心臓の鼓動がいきなり激しくなっていってる気がする)
ーーーーシステムチェック最終確認を行います。
頭の中で無機質な機械音のような声がした。
ーーーーシステム、オールグリーン。
ーーーーこれより人類転生システム、起動します。
(えっ?)
その言葉と同時に薄れていく意識。
(な、に…?)
支えきれなくなり後ろに倒れ込んでしまう。
「ん? どうしたのアキ?」
「おいおい。また寝るのかい? 全くお子様だな~アキちゃんは」
うっさい。
そんな言葉を言おうとして意識が途切れた。
◆◆◆◆◆
微睡みの中、うっすらと意識が覚醒した。
(ここは……どこ?)
僅かな浮遊感。
どこかへ自分の体が移動している感覚がある。
車にでも乗せられているのか?
そう思い目を開ける。
……ッ!?
広大な宇宙に似た空間。
真っ黒の空、そこかしこに散らばっている星々、似た空間ではなく宇宙そのものに自分がいた。
しかも自分はこの空間を眼にも止まらぬ速さで滑空している。
訳がわからない。
(とうとう頭が可笑しくなったか……)
この時は本当にそう思った。
(もう末期だわ……病院行こう。あっ! 綺麗なお星様だぁ)
挙げ句に逃避した。
ーーーーシステムインプット六十七パーセント。
まただ。またあの声が聞こえる。
ーーーーシステムインプット八十八パーセント。
ーーーーシステムインプット九十七、八、九、百パーセント。
ーーーー完了しました。
ーーーーこれより魂の転送ステップに移ります。
ーーーーでは言ってらっしゃいませ。
その言葉と同時にまた意識が途切れた。
◆◆◆◆◆
世界の中心で神は笑う。
「フハハハハハッ! 成功だ。さあ私を楽しませてくれ! 決して失望させるな。私の興味が失せた時、それが貴様の最期だと思え!」
また神は笑う。
新しい玩具を手に入れたと……。
今、全知全能の超越者である神の興味は全て一人の少年に向けられていた。
◆◆◆◆◆
本日何度目かの意識の覚醒。
もうちょっとやそっとじゃ驚かない。
そう思って瞼を開けるとそこには人、人、人。
幾人もの人が倒れている。
体には奇妙な黒い星形の痣ができている。
(どうなっているんだ? この痣の形は、まるで)
そう似ていたのだ。
自分が愛読していた漫画。
ディー・グレイマンのAKUMAウイルスに……。
(ぐっ!?)
そんな考察と同時に流れ込んでくる記憶。
レベル1として人を殺した記憶。
レベル2として壊滅させた人間どもの村の記憶。
レベル3として同胞を喰らい壊し続けた記憶。
レベル4として殲滅した、1国の人々。
そして、そして、そして……。
「グアアアアアアアアァァァァァァァァァァアアアアッ!!!」
◆◆◆◆◆
太平洋のど真ん中に浮かぶ巨島。
そこには一つの大きな国が
この日、人類史に大きな変革がもたらされる。
一夜にしてその国が滅んだ。
そこには人が一切おらず、あったのは無数の服とそれに付着している奇妙な砂だったと言う。
突如として消えた国。
だが実際は違う。
もしこの事実を知ることが出来たら、彼らはこう表現するだろう。
"世界初のレベル5誕生"と。
感想、アドバイス等してくれると嬉しいです。
よろしくお願いします。
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レベル5
え、えーっと今回独自解釈というか独自設定が含まれております。
ご了承くださいm(__)m
AKUMA。
暗黒物質であるダークマターを核として千年伯爵がイノセンスに対抗させるために造り上げた悪性兵器の総称。
巨大な大砲をも弾く硬質なボディ、人間の空腹にも似た殺人衝動を持つ。
AKUMAは憎悪や絶望といった負のフラストレーションによって進化する。
AKUMAの進化は明らかに人へとその姿を近付けようとする傾向がある。
レベル2で自我を持ち、レベル3で人形を形成し、レベル4で胎盤から産まれ落ちる。
そしてレベル5。
姿形は人のそれとそう大差ない。
レベル5の進化を遂げたAKUMAは完全な肉体を形成する。
柔軟な皮膚でありながら、何よりも硬くより強硬な肉体。
AKUMAはレベル5になって初めて人間を完全に超越した存在へと昇華する。
自身に肉体を形成させることで自律することができるイノセンスーー
レベル5はそれと同じようなことがダークマターにも発現したといえよう。
ただの兵器でありながら、その力はアポクリフォスと同等、つまり主であるノアの一族と同等か、それ以上の力を持ったAKUMA。
そんなレベル5という存在は何を思い、何を観るのだろうか。
◆◆◆◆◆
『無理すんなよ……。オレはさ、何があっても味方だから……』
『ごめん……。ごめんよネア……』
『これで全部元通リ♥ マナ=D=キャンベル。すべてオマエのせいデスヨ♥』
AKUMAとしての記憶が流れ込んだあとに見た
……これは、千年伯爵の過去?
我ながら呆れる。
あれだけの殺戮現場を自分が加害者として追体験したというのに、心が壊れていない以前に違うことを考える余裕があるなんて。
無意識に目を逸らしたのか、それとももうすでに心までも化け物になってしまったのか……。
あの宇宙のような空間で意識が途切れる前に聞こえた言葉。多分あれはこの世界の神のような存在であるのは間違いない。
そう思わせるほどの威厳や風格があの言葉にはあった。
俺をこんなところに連れてきたのは神だとでもいうのか?
『ひっ。た、助けて。し、死にたくないッ!!』
『お願いだ!! どうか息子だけは、この子だけは助けてくれッ!!』
『クソッ。このバケモノがぁぁぁぁぁああああッ!!!』
クソッ。
深く深く思考に浸れば浸るほど声はより鮮明に聞こえてくる。
俺は無理矢理、思考に蓋をすることでその悪夢から逃走を開始する。
考えるな。これは俺じゃない。だから、俺はなにも悪くない!!
そうして自分に暗示にも似た何かをかけながら、俺は頭の片隅で思うんだ。
"どうして俺はこんなところにいるんだろう"って……。
◆◆◆◆◆
真っ暗な世界。
そこに幾つもの蝋燭が無数に連なっており、辺りを照らしている。
そのちょうど真ん中に大きな体躯をもった人間?が椅子に鎮座していた。
彼は人に似た化け物を思わせるような容姿をしている。
頭にシルクハットを被っているので髪型は伺えないが表情が特徴的だ。
顎と口が異様に長い。そして剥き出しの鋭い白い歯。
白い燕尾服のような服装でどこの部分がとは言わないが、ある部分がはち切れんばかりにぱんぱんに膨らんでいる。
明らかに人の容姿から逸脱しすぎている。
そんな彼は大きな椅子に座りながら鼻歌混じりに編み物をしている。
案外、見た目によらず器用なのだ。
まあ巷で言う"できるデブ"という奴だ。
「ぐっ!?」
いきなりの頭痛に顔をしかめる。
痛みで手に持っていた編み物道具を落としてしまった。
それと同時に何かノイズのようなものが頭を駆け回り、やがて明確な声へと変わる。
『あれ? アキ? もう卒業式始まっちゃうぜ! 何処いくんだよ!?』
『ありがとうアキ……。そうよね。別に卒業するだけであって一生のお別れじゃないよね。約束よ! 絶対だから!!』
『フハハハハハッ! 成功だ。さあ私を楽しませてくれ! 決して失望させるな。私の興味が失せた時、それが貴様の最期だと思え!』
それは一人の少年の記憶の一部。
「どうしたの? 千年公……?」
「痛っ!? いたたたたたッ!? ちょ、ろーとタマ!? 痛いっ。いたいレロ!!」
短い黒髪で褐色の肌をした少女、ロードが一種の暇潰しなのか喋るカボチャを縦に引っ張りながら、巨大な体躯をもつ男、千年伯爵に問いかける。
「忌々しい神メ♥ 我輩のかわいいAKUMAちゃんになんてことしてくれるんですカ♥」
「何かあったの?」
「それがですネ♥ 憎き神がAKUMAの核たる我輩の魂の一部に違う人間の魂を移植させられましタ♥ さっきの頭痛は魂と魂の融合により互いの記憶が覗けたときの拒否反応でしょウ♥」
何処からともなく取り出したハンカチを今にも千切れんばかりに噛んで引っ張りながら答える。
ムキーーー!! と、効果音が出そうだ。
「……へえ。名前は何て言うのぉ?」
「"アキ"だそうでス♥」
その言葉にロードは新しい玩具が見つかった子供のように、無邪気に微笑んだ。
◆◆◆◆◆
俺は今、よくわからない状況に陥っている。
なんかモヤモヤした黒い空。空飛ぶ蝋燭。乱雑に散らばったぬいぐるみ。そしてその中央に白いテーブルと二つの椅子。そこに座るボーイッシュな褐色少女と俺。…………わからん。
どうしてこうなった……。
数分前。
やっとのことで思考に蓋をするのに成功し、ここにいても仕方ないと動き出そうとしたときだった。
最初、黒い靄のようなものが出現し、次第に広がりそこから扉が現れた。
そして扉が開いたと同時に吸い込まれて気が付いたらこの状況。
まさかの急展開。
目の前でニコニコしながらこちらを見ている少女はノアの長子、ロードだろう。そしてこの空間もロードが造った夢の世界だと思う。
いきなりバレた。
まあ突然コントロールの聞かなくなったAKUMAがいたら不審がるのも当然だと思うが……。
取り敢えずわかりきってはいるがほんの少しの希望を込めて此処が何処なのか聞いてみることにする。
「あ、あの。此処って何処だかわかりますか?」
「ここは僕が造り出した夢の世界だよぉ」
俺が反応を示したのが嬉しいのか、より一層笑みを深めながら答える少女……。
……完全に希望が途絶えた。
いきなり何処かへ飛ばされ、目を覚ますとAKUMAになっていた。そしてお次は扉に吸い込まれて気付いたらノアに拉致監禁……。
……これなんて無理ゲー?と、思った自分は悪くないと思う。
そんな俺の心の葛藤を知ってか知らずか目の前の少女は新たな爆弾を投下する。
「君がアキでしょ? AKUMAに魂を移植された人間」
……急いで座っていた椅子から飛び退く。
なんで俺のことを知っているんだ?
「アハハハッ。分かりやすい反応ぉ。なんでそんなに驚いてるの? 千年公は互いの記憶が覗けたっていってたから君もみてるはずなんだけどなぁ」
……記憶? ああ。あのときのあれか。
てことは俺のことあっちに筒抜けだったってこと!?
まあこっちも見てるのだからお互い様だけど。
尚も話を続けようとするロード。
だがその声は新たな乱入者によって遮られた。
「シーーーーーッ!! ろーとタマ、シーーーーーッ!! こんなガラクタと喋っちゃダメレロ!!」
「えー、なんでぇ?」
「勝手に伯爵タマのシナリオにないことしちゃダメレロ! ましてやこんなガラクタとの接触なんて……帰ったら伯爵タマにおしりペンペンされるレロ!!」
「千年公は僕にそんなことしないもん」
尚もぎゃぁぁぁあああっと喚く突然乱入して来た変な物体。
普通の傘の先にハロウィンによくあるかぼちゃを取り付けた何とも趣味の悪いデザインだ。その上いきなり喋りだすのだからそれはもうとても気持ちが悪い。
別にあんなかぼちゃにガラクタ呼ばわりされたからこんな辛辣な表現になった訳じゃない。たぶん。
「ハッ!? 今なにか馬鹿にされたような気がするレロ」
「いやそんなことないよ。ただ気持ち悪いと思っただけだから」
「心の中だけでなく声に出して直接言ったレロ!?」
尚も火花を散らして睨み合う俺と傘。
そんな中、ロードは一人マイペースに話を続ける。
「そもそもアキ自体が千年公のシナリオに無いイレギュラーなんだから関係ないよね。だからねぇ。僕と遊ぼぉ」
その言葉と同時にいくつもの扉が出現し、そこから数え切れないほど大量のAKUMAが文字通り雪崩れ込むように押し寄せてくる。
「えっ!? ちょっとストップ!! 待ってお願いちょっと待っぎゃぁぁぁあああ」
「えっ!? レロも巻き添え!?」
この日、二つのガラクタの悲鳴が世界に響き渡った……。
なんかコメディっぽい終わり方になってしまった。
次回はバトル会だと思う。(たぶん)
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