こんなの非日常 (はなみつき)
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夢現
違和感と1話




追記
アリシアの年齢を原作通りに修正
現在アリシアは9歳です


 新暦69年6月12日午後1時30分6秒

 

「戻って来たか」

 

 目の前にあるのは海鳴に流れる川。つまり、おれが過去に飛ばされる前にいた場所ということだ。

 

「もう一度母さんに会って話すことができて嬉しかった。ありがとう公輝」

「いえいえ、どういたしまして」

 

 おれが意図してやったことではないんだけどね。戻ったらタイムスリップの元凶であるオカリナを叩き割ってやろうかと思ったけど、思わぬうれしい言葉をもらったので叩き割るのは勘弁してやろう。

 

「じゃあ帰りますか」

「そうだね」

 

 色々あって疲れたのもあって二人で帰ろうとした時、

 

「おーい! フェーイトー! あ! お兄さん! お兄さんもいるじゃん! やっほー」

 

「え」

「えっ!」

 

 帰ろうとしていた反対の方からやってきたのは過去で一緒にいたアリシアちゃん。しかし、その姿は幼女のものではなく小学生位の少女のものだ。そして、その横にはアリシアさんとフェイトさんの母親であるプレシアさんがいる。

 

「姉さん……母さん……?」

「こんにちは公輝君」

「こ、こんにちは」

 

 さっきまで鬼みたいな顔で殺傷設定の魔力弾を放ってきた人と同一人物とは思えないな。

 

「どうしたのフェイト、そんな驚いたような顔して」

「え? い、いや、なんでもないよ」

 

 アリシアさんが不思議そうな様子でフェイトさんに問いかけてる。あれ? いつの間にかアリシアさんが視界から消えている。

 

「お兄さんにドーン!」

「うおっと!?」

 

 油断していたところに後ろからアリシアさんに抱き付かれたようだ。……抱き付かれた!?

 

「えへへ~やっぱりお兄さんにくっつくと良い気持ちだな~」

「ちょ、ちょっと!?」

 

 背中の服越しに感じるのは女の子特有の柔らかい感触。こ、これは男なら誰しもが憧れる「あ、当たってるんだけど……」「当ててんのよ」というシチュエーションではなかろうか!? ……でも、女の子特有の柔らかい肌の感触はするのだが、男の希望がぎっしり詰まっている部位の独特な柔らかさは感じない。うーん、残念賞。

 

(公輝、顔が緩んでいるぞ)

(そそそそんなんの当たり前だろ! こんな状況初めてだから顔が緩むのなんて当たり前だろ!)

 

 念話でリインさんがおれに注意を呼び掛けてくるがこの状況ではどうしようもない。ていうか、ユニゾンしてるリインさんの若干不満げな感情が伝わってくるのは何故だ? おれ何かしたか?

 

「こらこらアリシア、余り公輝君に迷惑かけちゃだめでしょ(いいわ、そのまま畳みかけちゃいなさい)」

「はーい(はーい)」

 

 ねえ、待って。プレシアさんがもうやめなさいって感じに言ってるのに何でさらに体をおれの背中に押しつけて来てんの? おれ、プレシアさんの発言の趣旨を取り違えてんの?

 

「ちょちょちょちょっと姉さん!? 何やってんの!?」

 

 そうだフェイトさん、もっとアリシアさんに言ってやるんだ!

 

「えへへ~いいでしょ~おんぶ~」

「うふふ……(ほら、フェイトもガンガンアタックしないとお姉ちゃんに取られちゃうわよ?)」

「え? え? ……ふぇっ!?」

 

 な、なんだ? フェイトさんが突然変な声出したと思ったら固まっちまった。

 

「か、母さんが言うんだし……そ、そうした方が良いのかな……(小声)」

「え? フェイトさん今なんt」

「えい!」

「ふぁ!?」

 

 フェイトさんは下を向いて小声で何かつぶやいたと思ったら突然おれの腕に抱き付いてくる。一体何が起こっているんだああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!?!?!?!

 フェイトさんの体はアリシアさんと違って中学1年生にしてはナイスバディな様で、腕に伝わってくるのは時にマシュマロと表現されたりするモノの感覚だ。馬鹿でかいマシュマロを触ったらこんな感じなのだろうか……はっ! いかん危ない危ない。余りの気持ち良さから思考を放棄するところだった。うん、この状況は絶対おかしいよね? おれ間違ってないよね?

 

「アリシア、そろそろ帰るわよ」

「はーい」

 

 おれの背中からアリシアさんはピョンと降りてプレシアさんの方へ駆けていく。

 

「それじゃお兄さんまた今度! フェイトもまた後でねー!」

「フェイトも暗くなる前に帰ってくるのよ」

 

 そう言い残してアリシアさんとプレシアさんはフェイトさんの家の方へ行ってしまった。

 

「行ってしまった。一体何だったんだ?」

 

 確かにアリシアちゃんはスキンシップの激しい子っぽそうだったからあの対応は分からないでもないが、女の子が男子に抱き付くというのはどうなんだろうか? ていうか……

 

「フェイトさんいつまで抱き付いてるん?」

「んんんー……え? きゃああああああぁぁぁぁ」

 

 きゃーって、きゃーって……それはちょっと傷つくんだが。

 

「ごめんね公輝! な、なんて言うか突然やりたくなっちゃったというか、なんというか……」

「はあ、まあおれは別に気にしてませんよ」

 

 いい体験できたし。

 

「そ、それじゃあ公輝、私はもう帰るよ。じゃ、じゃあね!」

「ばいばーい」

 

 さっきまで自分がしていた行為を思い出したのか、フェイトさんは頬を赤く染めながら駆け出して行ってしまった。フェイトさんが駆け出して行った方向は確かフェイトさんの家とは逆方向だった気がするのだが良いのだろうか? まあ、いいか。

 

「じゃあおれたちも家に帰るとするか」

(ああ、そうだな)

 

 長いようで短かった時間旅行を終え、時間旅行が終わったと思ったらアリシアさんとフェイトさんに抱き付かれるというイベントに遭遇した。非常に疲れたが貴重な経験をしたものだ。

 

 とりあえず、はやてとヴォルケンズにおれが時の勇者であることを自慢しなければいけないな。

 

 



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準備と体育祭と2話

なんだかはやてが自分の容姿を使って男子を言いなりにしてるみたいに見えるけど違いますからね。自分が出来ることを現在存在する条件をうまく、効率的に使いながら行った結果こうなっただけですからね。




 学校。それは、子供たちが大人になるために一般的な常識を身に着け、良い会社に就職するために良い大学に入るために良い高校に入るための勉強をする場所である。しかし、この裕福な日本と言う国に生まれた子供たちにとっては時につまらないものであり、時に退屈なものであり、時に昼寝をする場所である。

 

(いかん……昼飯食った所為というのもあるが、昨日の徹夜の所為でめちゃくちゃ眠たい……)

(おい公輝! 寝るな! もうすぐ授業が始まるぞ!)

 

 リインさんがおれの頭の中で叫んでおれの目を覚まさせようとしてくれているが、まったく効果がない。とうとう我が家に導入された最新ゲームハードであるPS3ではやてと遊びまくってたらこの様である。おれと同じように徹夜したのに、なんではやてはあんな元気なんだ? 

 もう能力使って眠気吹き飛ばしちゃおうかな……だめだ……頭がボーっとして最高の自分をイメージできない……

 

(リインさん……おれ……は……もう……だめだ……)

(公輝いいいいぃぃぃぃ!!)

 

 グー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい! てなわけで、体育祭の参加種目はこれで決定や!」

 

 ぼんやりとした意識の中、聞こえてきたのは学級委員であるはやての声だった。そういえば5時間目は来週行われる体育祭の種目を決めるんだったな。寝てしまったので楽な種目を選ぶことが出来なかった。しかし、これは完全におれの落ち度だ。例え誰もが嫌がる持久走だろうがやってやるさ。そもそも、おれにとって持久走は苦でも何でもない。能力を使えばこの学校の誰よりも速く1500メートルを走り切る自信がある。なお、能力を使わなかった場合、おれの記録はこの学校で下から数えた方が早い。

 

(む、起きたか。大変なことになっているぞ)

 

 リインさんがそう言ってくる。なーに、どんな競技でも文句は言わないよ。

 

(5種目も出るというのは中々大変だな)

 

 えっ……

 慌てて黒板に書かれている種目名と参加する人の名前を見る。

 

 二人三脚:公輝、(略)

 持久走:坂上、(略)

 借り物競争:ハムテル、(略)

 腕相撲:マサキ、(略)

 騎馬戦:キミテル、(略)

 

 このクラスで坂上も公輝もおれしかいないし、ハムテルやキミテルと呼ばれるのもおれしかいない。

 

「はあああああああああぁぁぁぁぁあ!?!?!?」

「お、ハムテルくん起きたんか。もう修正は利かへんで」

 

 おかしいだろ! 一人で5種目って……絶対だれか1種目も出ないやつがいるはずだ。

 

「ありがと~坂上く~ん」

「さんきゅーやで、ハムテルくん」

「ありがとう! 坂上くん!」

 

 そう声をあげたのはクラスの女子3人。この3人がおれが5種目出ることによって1種目も出る必要が無い人達だろう。って、おい! はやてもかよ! あとの二人は……名前が出てこない……人の名前を覚えるは難しいからな。

 

 キーンコーンカーンコーン

 

「チャイムも鳴ったことやし、今日はもう解散や。SHRは省略してええって先生も言っとったから今日ははよ帰れるでー」

 

 教室から歓声が上がる。いつものおれなら彼らと一緒になって歓声を上げていただろうが、今のおれにはそれすらできないほどの衝撃を受けている。

 

 体育祭5種目出場……

 

(マンドクセ━━━━━━('A`)━━━━━━!!)

(偶には苦労するのもいいだろ)

 

 かくして、おれは体育祭で苦労することが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 チャイムが鳴り、帰る人は帰ってしまった。いつも一緒に帰るハムテルくんも今日は先に帰ってもらった。

 ふふふ……ここまでは私の計画通りや。ハムテルくんのことやから楽そうな借り物競争に立候補するとは思うとったが、まさか競技決めの時に寝とるとはなぁ。私も管理局の仕事で夜更かしに慣れてなかったらハムテルくんみたいになっとったやろな。予定とはちょっとちゃうけど、計画通りや。

 

「まあ、これで第一段階完了や。後は……」

 

 そこにいたのは私たちのクラスで体育委員をしているジュンイチ君。第二段階で肝となる人物や。

 

「ジュンイチ君、ちょっち頼みがあるんやけど」

「な、なに、八神さん」

 

 ここでちょっちジュンイチ君について説明しよう。彼は私たちのクラスの体育委員で、体育委員会の中では借り物競争担当の委員なのである。さらに、ハムテルくんの親友でもある。まあ、ここでは関係ない情報やな。そして、このジュンイチ君、彼は聖祥大付属中学校の女神ズに並々ならぬ関心を抱いているのだ。ちなみに、自分で言うんは恥ずかしいんやけど、聖祥大付属中学校の女神ズとは、なのはちゃん、フェイトちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、そして、私ことはやてを合わせた呼び名である。

 そんな女神ズの一員である私がジュンイチ君に頼み事をして彼が断わることは難しいはずや。

 

「借り物競争で使うお題をこれに変えて欲しいんや」

 

 私はジュンイチ君に私が希望するお題が書いた紙を渡す。

 

「え、うーん。そう言われても、これは委員会で決めたことだからなぁ……」

 

 む、まだ押しが足りないんやな。まだまだ手はあるで。

 

「お礼に私の好きなコーラ味のチュッパチャップスあげるわ」

「え!? あ、うん。……じゃあ、ちょっと頑張ってみるよ」

 

 計画通り。男の子が大好きな女の子から物を貰えると知って、うれしくないはずはない! さらに、今の会話の中にはもう一つポイントがある。それは「私の好きな」と、言うところだ。ジュンイチ君が私たちのことを恋愛対象としてではなく、アイドル的な存在として見とることは、どこかのアホと違って鈍感じゃない私にはすぐわかった。好きなアイドルの好物は何か? という情報はファンにとって重大な情報や。この情報を露骨に渡すのではなく、さりげなく公開することによって無意識的にお得感を出すことが出来て効果的なんや。

 

「ほんでな、そのお題の紙をハムテルくんのコースの真ん前に置いてほしいんや。借り物競争の競技の準備をするジュンイチ君なら簡単やろ?」

「公輝のコースの前に? まあ、それはお安い御用だけど」

 

 よっしゃ! これで下準備は完了や。お題を変更できない可能性も微粒子レベルであるけど、基本的には問題ないやろ。今決まっているお題だって委員会が適当に決めたものやっていう情報は掴んどる。変更も楽なはずや。

 

「じゃ、ジュンイチ君、また明日~」

「うん。八神さん、また明日」

 

 そう言って私たちはクラスを出て家路につく。

 体育祭が楽しみや。




なんだかはやてが自分の容姿を使って男子を言いなりにしてるみたいに見えるけど違いますからね。自分が出来ることを現在存在する条件をうまく、効率的に使いながら行った結果こうなっただけですからね。(2回目)



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二人三脚と体育祭と3話

診断メーカーという名前を入力して色々なことを診断するサイトがあります。その中の一つ『あなたと付き合ったりする人の誕生日は?(作者様ツイッターID省略)』を坂上公輝でやってみた結果↓

坂上公輝と付き合ったり結婚する人の誕生日は
1月16日
2月19日
3月12日
4月30日
5月10日
6月4日←!?!?!?!?!?!?!
7月11日
8月2日
9月3日
10月25日
11月6日
12月28日

これは……

参考
はやての誕生日→6月4日
なのはの誕生日→3月15日(原作設定)


 体育祭の種目決めから早1週間。今日は中学校の数ある行事の一つ、体育祭の日だ。我らが私立聖祥大附属中学ではクラス対抗戦ではなく、学校全体を紅組と白組に分けて行われる。おれ、はやて、なのはさんが白組、フェイトさん、アリサさん、すずかさんが紅組と言う風に分けられた。

 

「とうとうこの日が来たか……」

(そこまで言うほどのことではないだろ?)

 

 リインさんは何もわかってないな。確かに競技一つ一つ自体は大したことはない。しかし、競技に出場する選手はその競技が始まる2つ前の競技が始まるときに入場門の前に集合しなければいけないのだ。つまり、

 

「休む暇がない。面倒くさい」

(まあそうなるだろうな)

 

 今回の体育祭の競技数は全部で13。二人三脚が2番目、持久走が5番目、借り物競争が7番目、腕相撲が9番目、騎馬戦が12番目。なんということでしょう、競技が終わるたびに入場門前に行かなければいけない過密スケジュールなのである。

 

「はやてのやつめ……いつか何か仕返ししてやる」

(自分の所為だろ。仕返しの事、覚えていられるといいな)

 

 最近物忘れが激しくて困ったもんです。

 

 

 

☆~第2種目二人三脚~

 

 

 

 午前の部二つ目の種目、二人三脚。おれの相棒はなのはさんだ。

 

「公輝くん、頑張ろうね!」

「がんばるずい」

 

 なのはさんとおれの足をバンドで括り付けていると、なのはさんが話しかけてくる。……そういえば、なのはさんは運動が苦手だったな。大丈夫だろうか?

 

「打ち合わせをしておこう。最初の一歩はおれの右足となのはさんの左足。そのあとは1、2 1,2で走ろう」

「うん!」

 

 そういって大きくうなずくと、なのはさんのツインテールがピョコピョコと跳ねる。

 これは関係ない話だが、なのはさんのツインテールは、なのはさんのご機嫌度を測るメーターとして使うことが出来ることに最近気が付いた。今はそこそこ機嫌が良いようだ。

 

「もうすぐスタートだ。スタート位置に着こう」

「よーし、頑張るぞっとっとっと」

 

 一人で先に行こうとするなのはさんだが、おれと足が結ばれているためそうすることが出来ずよろけてしまう。不安だな……

 スタート位置に立ち、走っていて体がずれないようになのはさんの肩に腕を回そうとするが、身長差があり肩に手を回すとなんだか違和感がある。

 

「むう……」

「あ、公輝くん、肩がやり辛いなら私の腰の辺りで持つと良いよ」

 

 なのはさんの腰……出会ったときは小学3年生と言うこともあり、ちんちくりんだった体も、中学生となり少し大人っぽくなっている。身長も伸び、胸も膨らみ始めた女性の腰の辺りを掴むというのは少々抵抗がある。

 

「む、むう……」

「? あ、私は気にしないからいいよ」

 

 察したなのはさんがおれにそう言って来てくれる。そう言うのなら遠慮なく触らせてもらおう。

 恐る恐ると言った感じでおれはなのはさんの腰に手を回す。

 

「ひゃっ!?」

 

 おれの動きは早かった。なのはさんが声を上げた瞬間になのはさんから手を離し、両手を上げる。ここまで1秒かかっていない。

 

(公輝、何をしているんだ?)

(現代の男と言うのは、自分の無実を証明するために女性が声を上げた瞬間に両手を一瞬で上げる技術を会得しているんだ)

(ふむ、中々の反応速度だった。侮れんな)

 

 リインさんが本当に不思議そうな声で聞いてくる。女には分からんでしょうねぇ、この気持ちは。

 

「ご、ごめんなさい。くすぐったくてつい……」

「いや、こっちもごめん。変に躊躇うんじゃなかった」

 

 女性とこんな風に触れ合うなんていつ振りだろうか? こっちに来てからもあったと言えばあったのだが、相手が小学生だったので何とも思わなかった。そうなると前世と言うことになるのだが……思い出せない。

 

 嘘……おれの女性経験少なすぎ!?

 

「ま、公輝くん! もうすぐスタートだよ」

「お、おう」

 

 ああ……なんだか意識し始めたらなのはさんの腰、横腹のあたりの肉の柔らかい感触が……それに、今まで気づかなかったけどなのはさんの髪の毛からシャンプーの良い香りが……こ、これはいかん……

 おれたちがスタート位置についてしばらくした後、ピストルがスタートの合図を鳴らす。おれの最初の一歩目は右足。よし、成功。次は左足を……

 

 ビターン

 

 出すことが出来なかった。おれが左足を前に出そうと浮かせた瞬間、何故かおれの右足も宙に浮く。そうするとどうなるか? 当然転倒する。

 

「いつつ……」

「ご、ごめん公輝くん! 慌てちゃって……」

「ああ、別にいいよ」

 

 転倒した時なのはさんから手は離していたので、なのはさんはバランスを崩す程度で留まっていたようだ。

 一体何をどうやったら左足を前に出して、次も左足を出すほど慌てることがあるのだろうか? どう考えても不自然だろ。

 

「まだ十分取り返せる。もう一度最初からだ」

「うん!」

 

 倒れたおれは立ち上がり、もう一度スタートさせる。おれは足同士が結ばれている右足を前に出す……

 

 ビターン

 

「ふぎゃ!?」

 

 右足を出すと、今度はなのはさんが転倒する。しっかり支えていたつもりだが、スルッと抜けてしまったようだ。

 

「大丈夫か、なのはさん!」

「ふえ~、間違えた~」

 

 おれが右足を出すと、おれの右足と固定されたなのはさんの左足が宙に浮く。その時なぜかなのはさんは自分の右足を出して歩こうとしていたようだ。……何故スタートの時と同じようにしないのか……どんだけ慌てているんだ。緊張しているのか? 確かに観客は多いが、そんなに緊張するほどではないだろう。

 

 

 

 結果、二人三脚でおれたちは見事下から数えて1位を取ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 「あう~、公輝くんとあんなに近くにいたら緊張するのは当たり前だよぉ……」

 

 坂上公輝

 

 彼との出会いがいつだったかは覚えていない。いつの間に翠屋の常連になっていて、次に会ったのは闇の書事件の時。それから、彼との本格的な交流が始まった。そして、私が墜とされた時は彼が治療してくれた。その後も彼と一緒に時間を過ごして私が彼に特別な感情を抱いてることに気が付いた。あちらがどう思っているかは知らないけど。

 でも、たぶん私じゃダメだよね? 私より多くの時間を彼と一緒に過ごして、たくさんの思い出作って、笑ったり、怒ったり、喧嘩したりしている少女のことを知っているから。彼女が彼のことをどう思っているのかも、何となくわかっているから。 

 

 

「だって、公輝くんには……」

 

 

 それは、二人三脚終了後に校舎の影で、一人の少女が言った呟き。それは誰にも聞かれることなく消えていく。

 

 

 

 

 

 




は、恥ずかしいいぃぃぃ

追記
白組VS白組になってたのを修正
リインさんとの会話を増やしました
腰に手を回す理由をやり辛いから違和感があるに変更

追記2
なのは回想追加


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持久走と体育祭と4話

作者曰く、

ちょっとやり過ぎた感はある(ブラックコーヒーを飲みながら)。


「ああ、疲れた……疲れた……」

(公輝の口から疲れたという言葉が出るとは、珍しいこともあったものだ)

 

 なのはさんとタッグを組んだ二人三脚を終え、おれは次の種目である持久走の参加者が集まる場所に来ている。

 

「疲れてないけど疲れた」

(意味が分からんぞ)

 

 おれの能力があれば体力的な意味で疲れるということはない。おれに密着していたなのはさんも、疲労を感じることなく快適に走ることが出来ただろうさ。しかし、問題は肉体ではなく精神。おれが感じているのは精神的疲労だ。

 

「観客全員に「ガンバレー」って言われるのは結構来るものがあるって初めて知ったわ……これからはああいう場面で、おれは「ガンバレー」って言わないことにしよう」

(空気の読めない男の出来上がりだな)

 

 例え周りに空気が読めない認定されようと、おれは決めた。絶対に決めたんだ。

 おれは運動会で一番遅れている子に声援を送っている人たちに声を大にして言いたい。

 

 言われている方の気持ち分かって言ってんの?

 

 と。

 周りにいる人たち×2個の眼球が放ってくる生暖かい視線、一生懸命走っているとき特有の自分を包む膜の向こう側から聞こえてくるような声援、ゴールした時にはその頑張りを称えた拍手の3連コンボ。このコンボにやられておれとなのはさんは顔真っ赤だったよ。

 しかも、今回は可愛い女の子がぴったりくっついている状況もプラスされて、3連コンボの効果は2倍に増幅! おれのS(pirit)P(oint)はもう0だよ……

 

「はぁ、もういい、切り替えよう。次は個人競技だから大丈夫だ」

 

 おれは次の持久走でグループ1位を取ることを心に決める。

 

「あ、公輝。早いね」

「ん? やあ、フェイトさん。退場門を出てすぐに入場門に来たからな」

 

 そう言ってきたのはフェイトさん。フェイトさんも持久走の参加者だ。

 ちなみに、入場門と退場門は同じものなので、退場門から出た瞬間に入場門に来たことになるのである。

 

「あはは、なるほどね。あ、もう入場だって。お互い頑張ろうね」

「おう、頑張ろうぜ」

 

 おれたちは入場門を通り、運動場に入る。

 

 

 

 

☆~第5種目持久走~

 

 

 

 持久走の参加者は各クラスの紅組と白組から一人ずつ選出する。1学年4クラス×2人×3学年ということで総勢24人。これを前半グループと後半グループの二つに分けて走るのである。おれもフェイトさんも前半グループだ。

 

(ふふふ、おれの体力回復持久走術を見せてやる)

(おい、それは卑怯だろ)

 

 リインさんがなんか言ってるが気にしない。

 持久走で一番大切なことは走る速さではない。それは体力、および体力管理だ。短距離を走るように持久走を走ったら体力が持つわけもなく、だからといって体力を出し惜しみしていたら上位になることはできない。だが、おれなら体力が減ってもすぐさま回復するため、体力の減りは考える必要はない。つまり、ずっと短距離走を走るようにして走り切ることが出来るのだ! まあ、そうするためには常に体力満タンの自分をイメージしながら走らないといけないが、そんなことは造作もないことだ。

 

「位置について……ヨーイ……」

 

 パン!

 

 そうこうしているうちに体育委員がスタートの合図をしてピストルを鳴らす。おれは体力なんか気にせずスタートダッシュを決める。他の走者は体力を温存する為か、あまりスピードは出していない……いや、あれは!

 

「公輝、良いペースだね。私も負けないよ!」

 

 おれのすぐ横にピッタリとついて並走するのはフェイトさん。そこそこのスピードを出しているにもかかわらず、息を切らせる様子もなく、おれに話しかけるという余裕まで見せつけてくる。

 

「な、なかなかやるなフェイトさん。だが、おれだって負けん!」

 

 フェイトさんの余裕さに少し顔が引き攣ってしまう。

 最初から全力全開では他の走者に申し訳ないと思って少しセーブしていたが、フェイトさんがここまでやるというのならそんなことをしている余裕はない。リミッターを外させてもらう!

 

「公輝もやるね。私だって!」

 

 第2コーナーに入るところ辺りでフェイトさんも抑えていた力を少し出したようだ。今おれが走っている速さより少し早い程度だ。

 

 は、速い……このままでは……

 

 

 

 

 

 

「ま、負けた……」

(プギャー)

 

 くそぉ、ふざけた顔で指さしてくるリインさんの顔がありありと思い浮かぶ。

 体力チートを使っても持久走でフェイトさんに勝つことが出来なかった。体力はおれの方が多いはずだ。となると、やはり原因は……

 

「おれの50メートル走のタイムが9秒台ということか」

(公輝、さっき持久走で速さは関係ないとか言ってなかったか?)

 

 違うよ! フェイトさんが規格外過ぎただけだもん! おれに落ち度はないはずだよ! 

 

(卑怯な手を使ってこの様ではな)

 

 すごい言われようである。まあ、卑怯というのは否定できないが。

 

「お疲れ様。もう少しで抜かれるかと思ったよ」

「お疲れ」

 

 御冗談を。持久走の後半でも、少し汗をかきだした程度で、まだまだ表情からは余裕がにじみ出ていましたよ、フェイトさん。

 

「ほら、そこにいたら邪魔になっちゃうよ?」

「うん」

 

 そう言ってフェイトさんはおれに手を差し出してくる。現在、おれは退場門を出たところでフェイトさんに圧倒された事実に改めて衝撃を受け、崩れ落ちて四つん這い状態である。ここにいたら邪魔になることは分かっているのだが、体が動かない。想像以上にショックだったようだ。

 おれは立ち上がるためにフェイトさんの手を取ろうとするが、

 

「おーい! フェイトー! お兄さーん!」

 

 後ろからそんな声が聞こえてくる。

 この元気溌剌な声と、おれのことをお兄さんと呼ぶ人物は……

 

「あ! お兄さん、それは私に乗れってことでしょ? 行くよー、それー!」

「グハッ!」

 

 後ろからやってきたのはアリシアさんだ。今日はプレシアさんやリンディさんたちと体育祭の見学に来たのだろう。アリシアさんも私立聖祥大附属小学校に通っている三年生である。かつてのなのはさんやフェイトさんのように地球の学校に通いながら管理局の仕事をしている。プレシアさんの技術者の面を色濃く受け継いだアリシアさんは局で有望視されている人物の一人である。

 話がそれてしまったが、おれは現在ヨツンバイン状態、目の前には中腰になっておれに手を差し伸べているフェイトさん。そんな状態のおれに後ろからアリシアさんが突っ込んで来たらどうなるのっと。当然前方に倒れこむ。直立しているフェイトさんなら受け止めることもできただろうが、フェイトさんは中腰状態。そうなると、倒れ掛かってくるおれを受け止めることが出来ず、当然フェイトさんも巻き込んで転倒。

 

「ま、公輝……」

 

 頭の上から聞こえてきたのはフェイトさんの戸惑ったような声。顔を動かそうにも、なにか柔らかいモノによっておれの顔が固定されているため、動かすことが出来ない。この柔らかいモノはなんだ? …………こ、これは……

 

「ちょちょちょっと待って待って! 顔動かさないで! くすぐったいよ!」

「あれー? フェイト顔真っ赤だよー?」

 

 おれの頭の上で交わされる会話。今彼女たちがどんな顔をしているのか確認することはおれには出来ない。なぜならば、おれの頭部はフェイトさんの御足、ふとももに挟まれているのだから。

 

「むわあああぁぁぁぁ、アイイアさん、どいてくえええぇぇぇ(むわあああぁぁぁぁ、アリシアさん、どいてくれええええぇぇぇぇ)」

「公輝ぃ、動かないでぇ……」

「え? 今お兄さんなんて言った? アイエエエエ? 私は忍者じゃないよ?」

 

 おれの上にはアリシアさんが乗っかっているため、動いてフェイトさんの太ももから脱出することもできない。フェイトさんも慌てているようで、動いてこの状況を脱出しようとしない。

 

 周りの生徒が何故か手助けしてくれなかったため、この状態のまましばらく動くことが出来なかった。おれははやて、なのはさんを念話で呼び、助けを求めた。助けに来てくれるまでできるだけ動かないようにし、息もできるだけしないようにして、フェイトさんの太ももの感触をばれないようにひっそりと楽しんでいたのはおれの中だけの秘密。

 

(サイテー)

 

 どうやらリインさんにはばれていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……男の子にあんなことされちゃうなんて……でも、公輝は何も悪くないよね。うん、姉さんが全部悪い」

 

 私はさっきのことを思い出すと、顔が再び熱くなるのがわかる。

 

 坂上公輝

 

 彼には大きな恩が沢山ある。友達を助けてもらい、母を助けてもらい、姉を助けてもらった。そんな男の子に私が恩以外の特別な感情を抱くのは、そう時間はかからなかった。

 

「でも、私なんかじゃ……」

 

 私が抱いている感情と同じものを抱いている人を私は知っている。たぶん、その人は私より先に、私より強く、私より大きな感情を抱いている。

 

「ダメだよ……」

 

 人通りが少ない場所に設置されたベンチに座る少女。誰にも聞かれることはないと思っていた呟きは、おせっかいな母と姉以外の人に聞かれることなく消えていく。

 

 




体育祭編終わったら本編書きます。

追記
アリシアがミッドの学校に通っている設定を私立聖祥大附属小学校に通っている設定に変更しました。


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借り物競争とその他と体育祭と5話

べ、別に続きの話が思いつかなかったからブチギリしたわけじゃないんだからね!


「もう、疲れたよ……リインさん……」

(私はお前と心中するのはごめんだぞ)

 

 つれないなぁ、リインさん。少しはおれを元気づけてくれたっていいじゃないか。

 

「……だああああ!! もう、なんなんだよ! どこのラノベの主人公だおれは! 普通に過ごしててクラスメイトの太ももに顔を挟まれる事態になるとか、おかしいだろ!」

(でもお前そういう小説好きだろ?)

 

 え、あー、まあ……好きだけどさ……ああいうのは自分がやるものじゃないのよ。自分と関係ない誰かがやっているのを外から見るから面白いのであって、自分が当事者になったら胃が爆発すると思う。

 

「はあ……フェイトさんと顔合わせ辛くなっちまったよ……」

(フェイトも、アリシアの所為だということは分かってくれるだろう。気にすることはあるまい)

 

 ……そうかな……そうだな! うん、気持ちを切り替えよう。切り替えは大事だよな。

 

「はやてのギガウマ弁当も食ったことだし、昼の部も頑張るとしよう」

 

 持久走が終わった後、保護者席で見学していたヴォルケンズが確保していた場所に敷いてあるブルーシートに向かった。そこにはすでにはやてがおり、弁当を広げているところだった。弁当の内容はからあげ、たこさんウインナー、卵焼きなどの「運動会と言えばこれ!」って感じの弁当だった。

 ただ、一つ気がかりだったのが、はやてのニヤニヤが浮かぶのを必死に抑えながらも、ちょっとピリピリした雰囲気を放っていたことだ。すごい変な顔になっていたのだが、言わないでおいた。何か言ったらどつきまわされそうな感じだったからな。ヴォルケンズ全員がはやての弁当を食べながら冷や汗を垂らしていたことを、おれは知っている。

 

「よし、次の競技も頑張るぞっと」

(次は何が起こるんだろうな。結構楽しみにしているぞ)

 

 何も起こらないし、起こらせやしない!

 

 

 

☆~第7種目借り物競争~

 

 

 

 昼の部第1種目である借り物競争。走者はスタート位置から30メートル先の机の上に置いてあるお題が書かれた紙を一枚手に取る。お題通りのものを学校の敷地内から調達して行き、ゴールの場所にいる体育委員の人に判定してもらう。その判定でOKとでれば、ミッションクリアだ。

 

「よ、よし。おれと一緒のグループの人は全員男だ。持久走の時みたいな、あんなことは起こらなさそうだ」

(チッ)

 

 おれの安堵したような声に対して、リインさんが舌打ちをかましてくる。リインさん、一体どんなのを期待していたんだ。

 そんなくだらないことを考えていると、おれのグループが走る番が来た。今度こそ一番取ってやるぞー。

 

「位置について、ヨーイドン」

 

 体育委員がそう言うのを合図に、おれたちは課題の紙が置いてある机に一斉に走り出す。勿論、おれも例にもれず机に向かい一直線に走る。

 

「どれにするか……」

 

 紙は机の上にきれいに横一列に並べられており、このきれいな列を崩すのは個人的には惜しく思う。

 

(そこはあえて少し右側にあるやつにしよう)

 

 と、リインさんが助言してくる。それならば……

 

「せっかくだからおれはこの目の前の紙を選ぶぜ」

 

 おれは捻くれたリインさんと違ってまっすぐな人間なのさ。

 

(公輝……後悔することになるぞ(適当)……)

 

 また、リインさんは適当なことを……

 

「さてさて、問題のお題はっと……は?」

 

 は?(疑問)ではなく、は?(威圧)である。

 

 『お題:彼女』

 

 こ、こいつ……彼女いない歴23年のおれに喧嘩売っていやがるな。後7年で魔法使いに成れるっての……あ、もう魔法使いだった。誰だ、こんなお題考えたやつは。なで回してベロンベロンにさせてやる。

 

(で、どうするんだ? 審判に正直に「彼女いません」って話すか? プッ……)

(うぎぎ……)

 

 リインさんが言っているようにするのが一番正しい行動なのは分かっているのだが、ああ言われてしまっては何としてでも彼女を連れていきたい。だが、そうなると一体誰を連れて行くかということだが……

 

(はやてでいいか)

(主を偽彼女にするんだな。まあ、お前ならそうするとは思っていたが、無難すぎるな。つまらん)

 

 別にリインさんをつまらせようと思ってやってるわけじゃないし。

 小学生の時からおれとはやては彼氏彼女の関係なんじゃないか? と言われて、よくからかわれた。苗字が違うにもかかわらず、同じ家に住んでいるということもあってその噂は七五日以上の長い間言われていることもおれは知っている。この件で噂が再燃焼しても慣れたものだから、はやてがどう思うかは置いといて、おれは気にしない。そもそも、判断役がおれの知らない人ならこの話は広がらないだろう。わざわざ知らない奴の彼女が誰とか噂を流すもの好きはいないだろうしな。おれの知り合いがたまたま借り物競争のゴールの判断役なんていうことはそうそうないだろう。

 

(さてと、はやては今どこにいるのかな……ん? ん!?)

 

 はやてを見つけるために辺りを見渡していたおれは重要なことに気が付いてしまい、思わず二度見してしまう。

 

(ジュ、ジュンがゴールの判定役……だと……)

(ん? ああ、あいつは公輝の友人だな。そして、主達に何やら熱い視線をいつも向けている輩だな)

 

 彼の名前は佐藤潤一。おれが学校で一番良くつるんでいる男友達だ。あっちがどう思っているかは知らないが、おれは奴のことを親友だと思っている。あいつと一緒に話していると面白いし、やるゲームもほぼ一致しているので、しばしば遊んだりしている。しかし、あいつには欠点……というのは少し違うが、奴と付き合ううえでちょっと困った点がある。それは、あいつは、はやて、なのはさん、フェイトさん、アリサさん、すずかさんの五人のことが大好きなのだ。それの何が問題なのかって? 大問題だ。おれがはやてと仲が良いのは当然だし、色々あってなのはさんとフェイトさんと仲良くなり、そのつながりですずかさんやアリサさんとも仲良くなった。そうするとどうなるか? 男の嫉妬程見苦しいものはないとだけ言っておこう。ジュンにはあの五人とはちょっと仲が良いだけでそういう関係ではないということを必死に説明して納得してもらったのだ。

 お題→彼女で彼女=はやてと言う答えをジュンに見せたらどうなるか。ちょっと想像したくない。折角納得してもらったのに元の状態に戻ってしまう。おれが席を離れるたびに、机の中の時間割通りに並べた教科書の順番をバラバラにされたり、おれがいつも机の左側に掛けているカバンを右側に掛け替えたりと、色々な嫌がらせをまたされるかもしれない……面倒くさい奴である。だめだ、はやてを彼女として連れて行くことはできない。

 

 …………もう適当でいいや……

 

(シャマルさん、ちょっとおれの彼女の振りしてくれませんか?)

(え? 私でいいのなら、いいですよ~)

 

 念話でシャマルさんに連絡を取り、協力を申し込む。

 おれとそこそこ仲が良くて協力してくれそうな女子であるなのはさん、フェイトさん、すずかさん、アリサさんははやてと同じ理由でダメだし、シグナムさんはおそらくおれの頼みを拒否してくるだろう。ヴィータ? ヴィータを彼女として連れて行った瞬間おれは社会的に死ぬことになるから論外だ。そうなると、シャマルさんしかいないということになる。適当で良いって言ったけど、選択肢なんてないじゃないか……

 おれはシャマルさんの手を引いてお題を判断するジュンの所に行く。

 

「お、公輝か。どれどれ、お題は……って、まじかよ!? こんな美人さんが……、公輝の裏切者め!」

「うふふ」

 

 シャマルさん、何ちょっと嬉しそうにしてるんですか。

 

「あーはいはい。で、結果は?」

「ん、合格」

 

 よっしゃ! やっと一位とれたぜ! ふぅ、色々あったけど、やっぱり一位を取れると嬉しいな。さっきまで考えていた不安も少しやわらいだってもんだ。

 その後、新たな噂が学校中を巡ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 その後あったことを話そう。借り物競争の次の腕相撲大会はすずかさんにシュンコロされ、騎馬戦では大将であるアリサさんに突っ込んだ結果シュンコロされてしまった。いいとこ無しである。

 なんだかんだあった体育祭も終わり、おれたちはまたいつもの日常を謳歌している。イベントは楽しいが、それは何もない日常があってこそ楽しいのだという事をおれは何らかのイベントが終わるたびに感じるのであった。

 

 ただ、一つ変わったことがある。

 

 最近はやてのおれを見る目がなんかおかしい。

 

 




次は体育祭(はやて)会


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借り物競争と体育祭(裏)と6話

体育祭編しゅーりょー

これからネタ探しの旅に行って参ります(`・ω・´)ゞ


 

 

 

「ふっふっふー、とうとうこの時が来たんやな」

「なあはやて、さっきからどうしたんだ?」

 

 本日は中学校の体育祭。そして、午前の部は終わり、先ほど昼食の弁当を食べたところや。午前の部の二人三脚であいつがなのはちゃんといちゃいちゃしとったり、持久走が終わった後にフェイトちゃんに対してあんなことやこんなことをしとったから、つい楽しい昼食の時間に不機嫌になってしまった。自分でも柄やないってことは分かっとるんやけど、やっぱ自分の気持ちは誤魔化せへんっちゅうことやな。

 まあ、それはええんや。次は私が一番楽しみにしとった借り物競争や。

 

「楽しみ過ぎてニヤニヤを抑えるのが大変やったわ」

「シャマル、はやてどうしちまったんだと思う?」

「ヴィータちゃん、きっとはやてちゃんは疲れてるのよ」

 

 リアルに「ふふふ、駄目だ、まだ笑うな……」状態になるとは思わんかったわ。

 選手決めの日に蒔いた種が花開く時がくるんや。

 私があの時追加するように頼んだお題は『彼女』。たとえお題を変えても、あいつがこのお題を書いた紙を選ぶとは限らへん。やけど、あいつのことやから机まで一直線に走って目の前にある紙を選ぶのはほぼ確実や。そこは気にせんでもええやろう。

 せやけど、あいつがホンマに彼女、もしくは思いを寄せている人をゴールに連れて行くかと言うと、ヘタレのあいつのことやからそれはまずないやろう。きっと適当な女の子を連れて行くに決まっとる。そうなるとこれには特に意味がないのかと言うと、そういう訳でもあらへん。人間の無意識と言うものは人が思っている以上に正直な物なんや。例えば、人の話を聞いているようでも、別の何かに気を取られているときはそちらの方を見てしまったり、なんとなく上の空になっていたりする。例えば、紅茶が飲みたいときにコーヒーを勧められた時、自分はそんな気はなくても、つい渋ってしまったり。人の無意識の行動からその人の本心を読み取る技術というものを私はこの3年間の管理局の仕事で身に着けた。管理局のお偉いさん達と話し合う必要がある時なんかは、相手の様子を観察して思考を読むというのは必須技術や。

 つまり、あいつが連れて行く女子を選ぶ前に一定の時間ある女子を見る可能性がある。一定の時間と言ってもそれはほんの一瞬やろうけど、確実に通常とは違う反応を示すはずや。このことから、少なくともその女子があいつの心の中にいるんは確実や。

 もちろん、この時の女子がホンマにあいつが思いを寄せている女子かどうかは分からへん。これはちょっとした心理テストみたいなもんや。もし、なのはちゃんやフェイトちゃんの所で視線が止まったとしても気にすることはあらへん。ちょっと手を打たなあかんだけや。うん、気楽に楽しませてもらうことにしよか。

 

「お! 始まった! さあ、君の心の内側を私に曝け出すんや!」

「なあ、シグナム、ザフィーラ」

「主には何かお考えがあるのだろう」

「もしそうなら我々が気にすることではあるまい」

 

 なんや、さっきからヴィータ達がなんか言っとるようやけど、今の私には全く耳に入って来ない。

 

「ふふ、思った通りハムテルくんは私の出したお題の紙を手に取ったようや」

 

 顔を見るだけで分かるわ。「こいつ、DTのおれに喧嘩売ってるな!」みたいな顔しとるわ。ホンマに分かり易いやっちゃな。

 

「ここからが本番や」

 

 あいつは何か諦めたような顔をしてから辺りを見渡し始める。ゴールに連れて行く女の子を探しているのだろう。

 私はあいつの様子が少し変わる瞬間を見逃さないために意識を集中させる。

 

「! ここや!」

 

 今あいつは一瞬誰かに目を止めた。その直後に、意識してない人には分からない程度に二度見していた。これは私の想定と違ってビンゴかもしれへんな。

 残念なことに、あいつが目を止めた時、その視線の先にいるのは私ではなかった。ちょっとショックや。じゃあ一体誰を見てあんな反応を示したんやろう? なのはちゃんか? フェイトちゃんか? それとも、すずかちゃんか? アリサちゃんか? それともアリシアちゃんか?

 私は恐る恐るあいつの視線の先にいた人物を見る。

 

「な、ななななな……なん……やと……」

 

 あいつが目を止めた人物。それはなのはちゃんでもフェイトちゃんでもアリサちゃんでもすずかちゃんでもアリシアちゃんでもなかった。

 なにやら、シャマルがあいつに手を引かれて連れて行かれたが、今の私は放心していて気にする余裕はない。

 

「ハ、ハムテルくんは……」

 

 たとえ、なのはちゃん達が選ばれたとしても、私はこれからの努力であいつを振り向かせる自信があった。せやけど、今回の結果でちょっとわからんようになってもうた。

 なぜなら、ハムテルくんが目を止めた人物は……

 

「ハムテルくんは……ホモ……かもしれへん……」

 

 佐藤潤一だったのだから。

 

 

 

 

 

 




ハムテルくんの今後の活躍にご期待下さい。

はやては驚きすぎて心理テスト程度に考えることを忘れてしまっています。


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掃除とエロ本と7話

こっちは久しぶりですね


 

 

 最近はやてのおれに対する視線がおかしい。いや、視線だけでなく色々とおかしい所があるのだ。

 例えば、おれがなのはさん達のような女と話していると異様にこちらを観察しているような気がする。まあ、これは気の所為という事にしておくとしよう。

 次に、おれがジュンやザフィーラさんのような男と話しているとピリピリしているような、困惑しているような視線を向けてきている……気がする。これも気のせいだとしよう。

 

「だけど……」

 

 おれは自分の部屋のベッドの前で思わず一人呟いてしまう。いや、正確には一人ではないのだが。

 

「これはおかしいだろ」

(ふむ、これは一体どういった意図があるのだろうか?)

 

 では、一体何がおかしいのか。それは、おれのベッドの下だけ特別綺麗になっていることだ。おれ達も手伝うが基本的に家の掃除ははやてがしている。はやての掃除は家中万遍なく綺麗にするので、いつも八神家はピカピカだ。だが、今回はおれのベッドの下だけが他の場所とは比べ物にならないくらいピカピカなのである。文字通り輝いている。

 

「徹底的に掃除しなければいけなくなるほど汚いものがここにあったとか?」

(黒光りするGでもいたのだろうか)

 

 Gか……それはあり得るな。部屋を汚くしているつもりはないが、あいつ等はどうしてもいる所にはいるものだからな。

 

「ならば、おれもはやてのためにこの部屋のGを殲滅することにしよう」

(どうするのだ? バルサンでも焚くのか?)

 

 なるほど、確かにバルサンはGに対して有効な手段であろう。しかし、おれはそんな物には頼らないぞ!

 

「部屋をひっくり返して大掃除だ!」

(ついでにいらないものも捨てると良い)

 

 最近ミッドで見つけたおもしろい骨董屋で色々買ってたらいつの間にか部屋の中の物が増えたんだよなー。そのせいではやてには怒られるし。良い物ばっかりなのに。

 

「まあいい。さっさと始めないと日を跨ぐことになりそうだ」

(マサキなら徹夜くらいなんてことはないだろ)

 

 そりゃそうだけど、徹夜はしたいものではないのでな。

 

「やるぞー」

(頑張ってくれ)

 

 リインさんも手伝ってくれればいいのに。まあ無理なのは分かってるけどさ。

 

 

 

 

 

 

「あ、これ懐かしいな。去年のジャンプじゃん」

(捨てろ)

 

 週刊誌ってかさばるけど貯めると所有欲というかコレクター心が満たされるんだよな。どうせ読みたい漫画はコミックを買うから雑誌の方を読み返すことは無いんだけどな。

 おれはジャンプをビニールの紐でくくってまとめる。

 その作業を終わらせると次のダンボールに取り掛かる。

 

「ん? ああ、これは小学校の教科書だな」

(そんなものもう使わないだろ)

 

 おれもそう思ったんだが、もしかしたら必要になる時が来るかもしれないと思うと教科書って捨てづらいんだよ。まあ、結局再び使うなんてことは無いんですけどね。

 

「はい、いらないものはドンドン捨てちゃいましょうねー」

(初めからそうしていればいいのに)

 

 そう言われてもね。その時はどうにもできないものがあるんだよ。

 

「ん?」

 

 小学校の教科書をまとめて入れていたダンボールの中に見知らぬ封筒が入っていることに気が付いた。

 

「なんだこれ」

(封筒……マサキの成績表とかではないのか)

「おれの成績表の類は全部はやてが保管してるからそれは無いだろ。それに、これ結構厚みもあるし」

 

 改めて考えるとはやてはおれのオカンか何なのだろうか。

 おれはとりあえず封筒の中身を確かめてみる。

 

「おん? エロ漫画じゃないか。流石にこれは予想してなかった」

(ふむ、これはマサキの趣味か?)

 

 いやいや、おれはペッタンコロリものは買わない。買うんだったら貧乳でも無く爆乳でもないバランスの良い胸のって……まあ、そんなことはどうでもいい。

 おれは漫画をペラペラとめくって中身を少しだけ見てみる。

 

「おいおい、これはどうみてもR-18指定のマジもんじゃないか」

(自分で買ったんじゃないのか?)

 

 最初の数ページを見ただけでおれはそれが青少年には相応しくないものだと見極める。

 確かに、思春期真っただ中である中学生となって、大分あんなことやこんなことをしたいなーと言う気持ちが沸く様になってきたのは認める。だが、今のおれはどうあがいても中学生。こんなものを自分で手に入れることは不可能だ。そもそも購入した記憶もないし。

 

(心拍数が上がっているぞ)

「それは仕方のない事なの」

 

 男なら仕方のない事なのだ。

 

「しかし、本当にこれは一体……あ」

(思い出したか?)

 

 ああ、思い出した。これジュンに貰ったんだ。確か小6のある日に「へっへっへ……すごい物手に入ったから公輝にもやるよ」って言われてこの封筒を押し付けられたような気がする。家に帰って開けようと思ってたけど、何やかんやと用事があって開けるのをすっかり忘れてたんだ。そして、小学校を卒業したおれは小学校関係の物をすべて同じダンボールにしまった。その時にこれも紛れ込んでいたのだろう。

 

「全く、あいつはとんでもないものを押し付けてくれたものだ」

 

 そう言いながらもおれはペラペラとページをめくって中身の確認を続ける。

 

(こ、これは……不潔だ! こんなに幼い子供を……)

 

 漫画を読み進めていくと、まあ、アレなシーンが来るわけで。そこに来たところでリインさんが今までに見せたことの無いような慌てぶりを見せる。正直面白い。

 

「何慌ててるんだ。ただの漫画じゃないか」

(し、しかしだな! これはおかしいだろ!)

 

 リインさんはまだまだ日本に馴染めていないようだな(偏見)

 おれ達日本人は外人から言わせると未来に生きてるらしいしな。

 

(す、捨てろ! そんな不純異性交遊を記した本など、私のディアボリックエミッションで塵も残さず消し去ってやる!)

 

 どんだけ……

 特に興味のない分野のモノとはいえ、流石にそこまでするのは気が引けるというか、もったいない精神が待ったをかけるというか。まあ、おれが18歳になって、その時まで趣味嗜好が変わってないとも言い切れないし、とりあえず置いておこう。

 

(捨てろ~~~~~~!!)

 

 はいはい、リインさんうるさいですよ。

 おれは入れていた封筒に再びしまうために漫画を読み続けながら封筒を探す。

 その時、閉めていたおれの部屋の扉が開いた。

 

「さーて、今日もハムテルくんの部屋の掃除する……でー……」

 

 この状況を冷静に観察してみよう。

 

 エロ漫画を読みふけるおれ。

 

 もうこれだけで酷いシチュエーションである。つまり、何が言いたいのかと言うと。

 

「そ、そうやな……ハムテルくんも男の子やし……そういうことに興味沸くのもしゃーないやんな……」

「ちょっと待ってはやて」

 

 これは……

 

「あ、あはは……お邪魔しましたああぁぁぁ」

「待ってー!!」

 

 おれはその日、家族にエロ本がばれた時の感覚を味わった。

 

 

 



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ベッドの下とエロ本(裏)と8話

はやて は こんらん している。


 

 

 

 私は考える。

 女の子に興味が無い可能性が出てきた思い人のことを。

 

「や、やっぱりあれは間違いやんな? 流石にホの字な訳はないやんな?」

 

 私は自分に言い聞かせる。ちなみに、ここでのホの字とは「惚れる」ではなく「ホモ」のことである。

 体育祭が終わってから、私はどうやって現状を打破するかを考えるばかりや。なのはちゃんやフェイトちゃん、アリシアちゃんと話している時と、ジュンイチくんこと佐藤潤一と話している時のあいつの様子を比較してみた。どうもあいつはジュンイチくんと話している時は楽しそうというか、ウキウキしている感じがする。いや、まあ、これは単に男友達ということで気軽に話せる仲と言うだけと言えるやろう。

 ……そういえば、あいつはよくザフィーラとペッタペタひっついてる気がせんでもない。いやいや! ザフィーラはワンコみたいなもんやからそれは分からんでもない。あいつが動物大好きやのは知っとるし。

 

「はぁ……あかんなー。どうもハムテルくんがホの字であるかのように思考が偏ってまうわ」

 

 駄目や駄目や。固定概念を持つことは良くない。

 そんなら、あいつがホの字でないことを証明する何かを探すことにしよう。

 

「……さーて、そろそろ掃除でもしよかー。特にベッドの下とか意外と埃が溜るから念入りに掃除せなあかんなー」

 

 そう、ベッドの下を物色するのは掃除のためや。決して、あいつがエッチな本を隠しているだろう場所を物色するわけやないんや。例えベッドの下だけ異様にきれいになろうとこれは所謂コラテラルダメージというやつや。私の心の安寧のための致し方ない犠牲だ。

 そう心の中で呟きながら、私は掃除道具を手に、あいつの部屋へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、嘘や……エッチな本が一冊も見つからへんなんて……ホンマに男の子なんか……」

 

 あいつの部屋の掃除を念入りにやり始めてから1週間ほどが経った。

 成果はいまだに無い。エッチな本どころか少年誌に乗ってるちょっとエッチだけど健全なコミックすらない。もしかしたら……これはもしかするかもしれへん。

 

「い、いや! まだわからへん! もしかしたらもっと分かり辛い場所に隠してあるんかもしれへん!」

 

 やけど、男の子がそういうものを隠す場所はベッドの下って決まっとる。もしかしたら六法のケースをカモフラージュとして使っとったり、机の引き出しを正式な手段で開けないと発火する二重底に改造してるかもしれへん。

 

「うーん、やけどあの部屋には六法のケースもないし、引き出し付きの机も無いしなぁ」

 

 あーもう、全然わからへん。一体あいつはどこに隠してるんや。中学生男子ともなればそういう物の一つや二つ所持しとるはずや! ……女の子に興味が無いという事さえなければ……

 

「あかんな。また思考がそっちの方に行ってまいよった」

 

 両の手のひらで頬を叩き、気合を入れる。

 

「よしッ!」

 

 いつもと同じように掃除用具を手に持ち、あいつの部屋のドアを開ける。

 

「さーて、今日もハムテルくんの部屋の掃除する……でー……」

 

 今日はいつもと違い、部屋にはあいつがおった。部屋中に物が散らかり、足の踏み場もない状態に苦言の一つも言いたいところやったが、今はそんなことはどうでもいい。

 

「そ、そうやな……ハムテルくんも男の子やし……そういうことに興味沸くのもしゃーないやんな……」

 

 そう、それは今日までの一週間私が探し続けていたものであり、私が一番望んでいた光景でもある。

 

「ちょっと待ってはやて」

 

 あいつが興味があるのは男の子やない、もしくは男の子だけやないという事が分かったのは大きな進歩や。

 

「あ、あはは……お邪魔しましたああぁぁぁ」

「待ってー!!」

 

 あいつが何か言っているようだったが、部屋から走って出て行った私の耳には届かなかった。

 私はそのまま自分の部屋に向かい、ベッドに横たわる。

 

「うう……まさかこんなことやなんて……」

 

 あいつは私の希望通りにエッチな本を読んでいた。やけど、問題はその内容だ。

 人によって趣味嗜好は千差万別であり、エッチな本はその欲求を満たすために様々なジャンルが用意されている。女子高生から熟女まで。貧乳から巨乳まで。短髪からロングヘヤーまで。色白から褐色肌まで。人によってお気に入りのジャンルは違う。

 では、一体何が問題なのか。それは、

 

「まさか……ハムテルくんがロリコンやったなんて……」

 

 あいつが読みふけっていたエッチな本のジャンルはロリ。本の中では二十歳以上かもしれへんが、表紙の女の子はどう見ても小学……いや、これは言わんでおこう。私もまだ中学生やけど、昔と比べて胸も膨らんできとる。あの本の少女がストライクゾーンど真ん中やと仮定すると、私のことは範疇に無いのかもしれへん。

 

「今から矯正を……いや、それも難しいかもしれへん」

 

 あいつが普通の中学生なら、私はまだまだ何とか出来たと考えていたかもしれへん。中学生としてなじみ深い、年が近い対象をそういう目で見ていた可能性も無くはない。やけど、あいつは普通の中学生ではなく、二度目の中学生活を送っている転生人であるという事。生前のあいつは二十歳だったと聞いとる。つまり、それは自身の性的嗜好がしっかりと定まっていると言ってもいいという事や。そして、定まった嗜好を変えさせることは困難を極めるという事。

 

「私だけじゃどうしようもできへん……」

 

 私は悩む。

 果たして、この手段を取ることによって私の望む未来を手に入れることが出来るのか。やけど、自分一人ではどうにも出来ないことも事実である。かと言って、こんなような事柄に対してヴォルケンリッターのみんなが相談相手になるとは正直……シャマルなら相談相手になってくれるかもしれへんかな?

 しかし、今まで彼女たちはそういう事から縁遠い生活を送っていたことを考えると、良いアドバイスを貰えるとは思えへん。

 

 私は悩む。

 果たして、この決断をしていいのか悩む。

 私は悩む。

 そして、私は覚悟を決めた。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃんと相談するしかない!」

 

 私は最高の友達であると同時に、恋敵であるといっても良い少女たちと協力することに決めた。

 

 

 

 




はやてはみんなの気持ちに気付いています。

追記
最後の所でアリシアとも協力しようとしてましたが、ロリのアリシアには意味が薄いという事で修正しました。


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会議と紅茶と9話

公輝誘惑計画編の導入回


 

 

「二人とも、よう来てくれたな」

「うん、突然どうしたのはやてちゃん?」

「姉さんは呼ばなくてよかったの?」

 

 今、我が家の机を囲んでいるのは私、なのはちゃん、フェイトちゃんの三人。今日はヴォルケンリッターのみんなとあいつは各々の用事のため、家にはおらへん。その日を狙って私はこの二人を家へ呼んだのである。

 

 

「今日は二人と話し合いたいことがあってな。あー、アリシアちゃんは……とりあえずええんや」

 

 そう言いながら、ゲストの二人に私が淹れた紅茶を振る舞う。もちろん、自分の分を入れることも忘れない。

 ……やっぱり、紅茶を淹れる腕はあいつには敵わんな。

 そんなことを考えながら紅茶を飲む。そして、私が淹れた紅茶を飲む二人の様子を見てみる。

 

「……おいしい」

「……おいしいね、だんだん寒くなって来たから温まるよ」

 

 フェイトちゃんとなのはちゃんは私が淹れた紅茶を褒めてくれたが、一瞬間の間があったことを私は見逃さへんかった。

 二人ともあいつの紅茶の味を知っとる。おそらく、私の家で紅茶を飲むという状況は自然とあいつの紅茶の味を思い出させ、比較してまうんやろう。

 

「なあ、今二人は誰のこと考えたん?」

「えっ!」

「ッ!?」

 

 二人は目に見えて狼狽えているのがようわかる。話の切り出しどころはここやな。

 

「それで、今日集まってもろた理由なんやけど……単刀直入に聞くで?」

 

 ここで一息入れる。

 今から言おうとしていることは正直自分でもすっごい恥ずかしい。それでも、ここでやらな誰も得しない結果に成り得るんや。

 意を決して、再び話し始める。

 

「二人とも……ハムテルくん……公輝のこと好きやろ?」

「え……え? え! えー!」

「な、にゃ、にゃにお……」

 

 フェイトちゃんは顔を真っ赤にして、さっきから壊れたレコードのように「え」しか言わなくなってしまっとる。顔真っ赤のフェイトちゃんはかわええな。

 一方のなのはちゃんは、トレードマークのツインテールが上下にピョンピョン跳ねとる。なのはちゃんのテンションメーターのツインテールが今まで見たことないくらいの反応を見せている。そして、慌てて噛んじゃうなのはちゃんかわええ。

 

「私は……好きや……公輝のこと好きや」

 

 言った! 言ってもうた!

 でも、これで二人も自分の心の内に秘めていることを話易くなるはずや。

 

「二人は? 公輝のこと、好き?」

 

 初めに二人に紅茶を振る舞ったのも、二人にあいつのことを無意識的に意識させ、この質問に答えさせやすくするためのもの。まあ、これは念のための保険でしかないが。

 

「……」

「……」

 

 やはり、少女にとって、好きな人を告白するというのは中々難しいんやろう。二人とも話し始めようとしない。

 やけど、二人は話し始めてくれた。

 

「私は……私も好き……だよ。公輝くんのこと……」

「うん……私も、マサキのこと……好き……」

 

 先に話し始めたのはどちらと言う訳ではなかった。同時だったんやろう。それでも、二人の言ったことははっきりと聞き取ることが出来た。

 そうか……やっぱり二人ともそうやったか……

 ライバルが増えたことに少なからず落ち込むが、同時に二人には絶対に負けないという思いが燃え上がる。

 

「やっぱりそうなんやな。いや! それはええんや。絶対に二人には負けへんで!」

 

 私は二人に宣戦布告を行う。けど、今日の目的は二人の気持ちを知って宣戦布告することや無い。私たち三人が協力して、共通の思い人に関する問題を解決することや。

 

「そうなんやけど、公輝に関して問題があるんよ」

「「問題?」」

 

 なのはちゃんとフェイトちゃんは疑問の声を挙げる。当然やろう。一見するとあいつに問題なんてないんやから……

 私はこの間判明した驚愕の事実を二人に話すことにする。

 

「公輝は……ホモでロリコンかもしれんのや」

「えっ……」

「ホモ? ロリコン? それって何?」

 

 なのはちゃんは事の重大さがわかったようや。フェイトちゃんはホモとロリコンという言葉の意味を知らんかったみたいで、いまいちピンと来ていない様子。

 

「あ、あのねフェイトちゃん。ホモとロリコンって言うのは……」

「うんうん………………ッ!!!!」

 

 意味を知っていたなのはちゃんがフェイトちゃんに耳打ちでその言葉の意味を教えてあげている。それにしても、なのはちゃんはどうして意味を知っとったんやろな? まあ、それはええか。

 

「そ、そ、そ、それって!」

「そうや、公輝は……私たちのことを恋愛対象として見てくれへんっちゅうことや!!」

 

 な、なんだってー!

 

「それに、マサキがロリコンってことは……あ! もしかして、今日姉さんを呼ばなかったのは」

「うん、『今の』アリシアちゃんは公輝のストライクゾーンど真ん中や。やけど、一般的な人として、それはええこととは言えへん。……もちろん、個人の自由ってのもあるけど。何より! 私たちのチャンスがなくなってしまうんや!」

 

 驚愕の事実を知った時、私が一番初めに思ったこと。あいつは私の事をそう言う対象として見てくれへんと言うこと。そして、あいつはヴィータのことをそういう目で見とる可能性があるということ! 闇の書事件の時、私がヴィータとあいつが付き合っていると誤解した時があったが、それが実現しようとしとる……

 試合が始まる前から負けが決まってしまっているなんて言うのは悲しすぎる。どうせ負けるなら、試合を全力全開でやってから気持ちよく負けたい。

 

「それでな、二人にも協力してもらいたいんよ」

「私たちにできるかな……」

 

 なのはちゃんが自信なさげに言ってくる。

 さっきまでピョコピョコ動いていたなのはちゃんのツインテールはしょんぼりとしていることからも、自身のなさをうかがい知ることが出来る。

 

「それは……わからへん。やけど、やれるだけのことはやりたいやん!」

「そう……だね!」

「うん!」

 

 私の言葉に二人は賛成してくれる。

 

「私たちは恋のライバルやけど、それと同時に仲間や! 一緒に公輝の性癖を矯正したろう!」

「「おー!!」」

 

 こうして、私たちの公輝誘惑計画が始動したのである。 

 

 



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公輝とはやてと10話

先鋒戦

vs はやて


「スー……ぷはー……」

 

 おれは息を吸い込み過ぎないくらいに吸い込み、口に加えている細い棒のようなものを取り落とさないように口を小さく開け、息を吐き出す。吐き出された呼気に加えて白い煙のようなものも吐き出される。

 

 

「これ美味いな」

 

 息を吸い込んだ時に感じる芳醇な香りを楽しみながらおれは呟く。

 部屋のソファに座り、特にまじめに見てるわけでもないテレビをつけ、癖になる煙を燻らせながらボーっとするのは中々良いものだ。

 

(味はコーラで香りは紅茶。今の世の中には色々なものがあるのだな)

「本当にな」

 

 おれは口に加えている細い棒を親指と人差し指でつまみ、口から取りだす。その棒の、さっきまでおれの口の中にあった方の先には球形の物体がついている。おれの唾液によってテカテカしているその球体から白い煙が出ているのが分かる。

 棒付きキャンディである。

 

「アメと唾液が反応して煙を作りだす。その煙を口から吐き出すことによって、まだタバコを吸っちゃいけない小さいお子様でもタバコを吸っている気分に! って、嫌煙ブームの日本では絶対に売れなさそうだな」

(タバコを吸う姿がカッコいいと思うのはどこの世界でも同じという事だな)

 

 今なめているキャンディのパッケージの売り文句を口に出して読んでみると、リインさんが反応してくれる。リインさんの言い方からすると、昔のベルカでもタバコを吸う姿に憧れる青年達が沢山いたのだろうか?

 このキャンディは現在ミッドチルダで好評発売中のもので、この間管理局の仕事の関係でミッドに行ったときに見つけたのだ。

 余談だが、ミッドにコーラはない。しかし、味、色、匂い、炭酸の強さ

など様々な共通点がある飲み物はミッドにもある。その飲み物はミッドで大人気でその飲み物をフレーバーとしたお菓子が沢山あるのだ。その飲み物をおれ達地球組はコーラと呼称しているのである。

 

「そんでもってキャンディの味はコーラで、煙の香りは紅茶ってのはおれ得だな」

(そんなカオスな物を好むやつが大勢いるとは思えないがな)

 

 あたかもタバコを吸っているような姿を演出できるのがこのキャンディの売りだが、おれが目を付けた所はそこだけではない。それは、キャンディ部分がコーラの味。発生する煙の香りは紅茶の香りと言う部分だ。どちらもおれの好物だ。

 

 かつての高校の倫理教師が例え話としてこう言っていた。

 

「カレーが食べたい。だけどトンカツも食べたい。そんな相反する気持ちの時、カレーとトンカツをアウフヘーベン! それによってカツカレーをジンテーゼ召喚する!」

 

 簡単に言えば、実現不可能な矛盾する二つの事象を新たな高次の概念により、矛盾を解決するという事だ。

 コーラと紅茶を同時に飲むなんてことはナンセンスだ。しかし、このキャンディはこの矛盾を見事解決して見せた! 今この時、あの先生の言っていた言葉を真に理解できた気がする。

 

(マサキが楽しそうで何よりだ)

 

 テンション上がりまくりのおれに冷めた声音でそう言ってくるリインさん。そんなこと言って、本当はこの新感覚を味わいたいんだろ? 確かに、味覚と嗅覚の共有はしているけど、この新感覚は自分で体験してみないと実感できなものだよ。

 

「リインさんが治った時のお祝いとしてこのキャンディをあげることにしよう」

(私が文句を言える立場ではないが、もう少し他に何かないだろうか……)

 

 「ハァ……」ってため息なんかついちゃって、リインさんはガックリした様子。

 一体何が不満なのだろうか? 是非ともこの素晴らしい感覚を味わってほしいだけだというのに。

 おれはキャンディをふかし、少量の煙を勢いよく噴き出す。何をしているのかと言うと、スナメリが作るバブルリングの煙版を作ることを試みている。

 

「お、綺麗にできたな」

(ほう、やるじゃないか。ご褒美として小魚をやろう)

 

 おれはそこまでスナメリを目指しているわけではない。

 リインさんの冗談をスルーし、再びキャンディをペロペロする作業に戻る。今度は大量の煙を溜めてもっと大きい煙リングを作ってみよう。

 

「何タバコなんか吸ってんねん!?」

「フゴッ!!」

 

 どこからともなくやって来たはやてがそんなことを言いながらおれの口に含んでいたキャンディを勢いよく引き抜いた。

 思いだしてみよう。おれはキャンディを舐めていた。棒付きキャンディーを舐めるとき、大抵の人は棒の部分を軽く噛んでキャンデイが落ちないようにしているだろう。そんな状態のキャンディを勢いよく引き抜くとだな……

 

「歯が、歯がぁ~!」

「って、なんやキャンディーやん。これミッドで売っとるやつやな」

 

 キャンディ部分が歯に引っかかって「ガッ!」ってなるのは必然である。突然だったからめっちゃ痛かった。能力のおかげで痛みはほぼ一瞬で引いてくれたのが幸いだった。

 飴玉の部分からモクモクと煙が出ているのを見て、はやてもこのキャンディが何かわかったようだ。

 

「痛いじゃないか。まじでビビったぞ」

「ごめんごめん! てっきり我が家で未成年が喫煙しとると思ってな」

 

 まあ、確かにパッと見ればそう見えなくはないわな。

 

「あ、これコーラ味やん。私がもろたるわ」

「ちょっ! こら!」

 

 そう言ってはやてはおれのキャンディを口の中に含んでしまう。おれのキャンディが!

 はやてがコーラ味のチュッパチャップスを好きなことは知っていたが、おれだって好きなんだぞ! それを横取りするなんて!

 

(マサキよ、そんな泣きそうな顔をするな。みっともないぞ)

 

 な、泣きそうな顔なんてしてないやい!

 と、そんなこんなしていると、何故かはやては先ほど口に咥えたキャンディを口の中から出して飴玉の部分を見つめている。……これは、好機!

 

「隙あり!」

 

 はやてがボーっとしているうちにはやての手からキャンディを奪い返す。折角奪い返したキャンディを再び取られないようにおれはすぐさま口に咥え直す。次引き抜こうとしとしても、今度はしっかり意識しているから引き抜かれないぞ!

 

「あっ……かっ……かっ……かっ!」

「ん?」

 

 キャンディを奪い返して安堵すると同時に、はやての様子がおかしいことに気が付いた。顔を真っ赤にしてさっきから「かっかっかっか」言っている。一体どうしたというのだろう。

 

「かあああぁぁぁぁ……」

「え!? はやて!」

(主! どうなさったのです!)

 

 さっきまで「かっかっかっか」言っていたと思ったら、今度は「かー」と叫びながらどこかへ走り去って行ってしまった。まさか、こんなところでドップラー効果を実感できるとは思わなかった。

 

「はやてはどうしたんだ」

(私にもわからぬ)

 

 おれとリインさんは二人で首を捻るばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 なのはちゃんとフェイトちゃんとの会議があった日から数日。その会議で決定された計画を実行に移す時が来た。

 

「よ、よーし。やるで……やったるで!」

 

 私は家にいるあいつに聞こえないように小声で気合を入れる。

 ここのところ、あいつはヴィータのことをどのような目で見ているかを知るために観察することにした。やけど、あの二人の関係はそんな甘いものではないような気がする。軽口を言い合い、時々喧嘩をして、一緒に笑って。確かに二人の距離は近いけど、恋人と言うよりは兄妹って感じやった。たぶん、あいつにとってヴィータは家族というくくりなんやろな。

 ……そうなると、家族であり、ロリでない私の事なんて……イヤイヤイヤ! まだあきらめるような時間や無いで! 私ならできる!

 それは置いておいて、ヴィータの問題はとりあえず大丈夫やろう。これから私があいつに大人の女の子の良さを教えたるで!

 

「私まだ中学生やけど……大人でええんかな? まあ、ええか」

 

 そんなことは些細な問題や。

 フェイトちゃんには負けるけど、私のおっぱいも中々の物やと自負しとる。自称おっぱいマスターの私がそう思うんやから大丈夫や。この自慢のおっぱいをあいつの腕とか背中にアテテンノヨして、その良さを思い知らせたる!

 

「せやけど、工ど……やっぱり緊張するな……」

 

 いや! 緊張なんてしてへん! 私のメロメロボディであいつを一発K.Oや!

 決意を胸に、あいつがくつろいでいるリビングへと入る。リビングにはニュースを流しているテレビとそのテレビをボーっと見ているあいつがおる。

 

(ん?)

 

 だが、あいつの様子はいつもと違っている。口に何か加えているようだ。棒付きキャンディだろうか? いや、違う。あいつが息を吐くのが見えて分かる。何故、息を吐くのが見えるのか? それは、白い煙があいつの口から出てきたからだ。それが意味している所は……あいつ、タバコ吸っとる!

 私の動きは早かった。

 

「何タバコなんか吸ってんねん!?」

「フゴッ!!」

 

 あいつの口からタバコを引き抜く。しかし、タバコを引き抜く時何か引っかかりを感じたのと、あいつが口を押えて何やら悶えているのがおかしい。

 

「歯が、歯がぁ~!」

「って、なんやキャンディーやん。これミッドで売っとるやつやな」

 

 細い棒の先には見覚えのある球体がくっ付いている。これは棒付きキャンディや。つまり、私は思い違いをしとったちゅう訳や。

 何やらどこぞの大佐みたいなことを言っとるあいつに私はすぐに謝る。

 

「痛いじゃないか。まじでビビったぞ」

「ごめんごめん! てっきり我が家で未成年が喫煙しとると思ってな」

 

 さっきまであいつが舐めていたキャンディはモクモクと煙を挙げている。これはミッドで話題のキャンディシガレットやろう。キャンディを観察していると、私はあることに気が付いた。

 

「あ、これコーラ味やん。私がもろたるわ」

「ちょっ! こら!」

 

 キャンディのこの黒っぽい色。まさしく、私の好物コーラ味のキャンディである証拠である。それを知ってしまったら私がやることは一つしかない。

 横取りである。

 うん、思った通りこのキャンディはコーラ味や。煙のフレーバーは紅茶やろか? けったいなもん食べとんな。でも結構うまうまや。

  

 ……

 

 !

 

 私はあることに気が付いてもうた。

 それに気が付き、私はゆっくりと口に含んでいたキャンディを出す。

 飴玉の部分は私の唾液によってキラキラと光っている。

 

「隙あり!」

 

 私が手に持ったキャンディを見ていると、あいつに奪い返されてしもた。すると、それだけでなくなんの躊躇もなくそれを口の中に含む。

 つまり、それは……

 

「あっ……かっ……かっ……かっ!」

「ん?」

 

 それは、それは……

 

 

「かあああぁぁぁぁ……」

「え!? はやて!」

(主! どうなさったのです!)

 

 間接キスしてもうたあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

 あいつが何か言っていたような気がしたが、そんなことは耳に全く入らないくらい恥ずかしくなって走り出してしまった。




勝者:公輝

敗因:自爆


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公輝となのはと11話

中堅戦

vsなのは


 

 

「よしっ!」

 

 そう一言気合を入れて、私は今日のプランを確認する。

 今日ははやてちゃんとフェイトちゃんと話し合った計画を実行する日! 今日は私の番だ。

 先日、はやてちゃんが作戦を実行に移したと聞いたけど、失敗してしまったらしい。詳しいことは話してくれなかったんだけど、それ以来、はやてちゃんは公輝くんと顔を合わせるのが少し恥ずかしくなってしまったみたい。本当に、何があったんだろう?

 

「まずは、公輝くんに紅茶の淹れ方を教えてもらいながら、さりげなく距離を縮める」

 

 今日は、私に紅茶の淹れ方を教えてくれるという名目で、公輝くんを翠屋に招待している。誘うときにちょっと失敗しちゃったけど、大した問題にはならないはず。

 

「次に、一緒に淹れた紅茶で翠屋のシュークリームを食べる」

 

 あわよくば、「はい、あーん」なんかしちゃったりして。しちゃったりして!

 

「か、完璧だ……完璧すぎて自分が怖いよ」

 

 私は自分の考えたプランの完璧さに感心してしまう。こんな風に公輝くんに近づけば、きっと彼もドキドキするよね? だって、私がそうなんだもん。

 これで普通の感覚を思いだしてくれるはずなの!

 

「こんにちはー」

 

 そんなことを考えていると、どうやら公輝くんが来たようだ。

 よーし、作戦開始!

 

 

 

 

 

 

「それにしても、さっきのなのはさん変だったな」

(確かに、挙動不審だったな)

 

 おれは今、なのはさんに翠屋に来て欲しいというお誘いを受けたため、翠屋に向かっている途中である。

 学校が終わった直後になのはさんが、

 

「きょ、今日時間空いてる? ま、ま、公輝くんがよければ、私に……その……こ、ここ紅茶んんっ! 紅茶の淹れ方を、教えて欲しいんだ」 

 

 と、言ってきたのだ。

 

「……罠か?」

(一体、何のためにだ?)

 

 それだ。なのはさんがおれを罠に掛ける動機が分からない。もし、この誘いがはやてによるものだったとしたら完全に罠であると確信できるんだが、今回のお誘いはなのはさんによるものだ。

 

(マサキの中の主は一体どうなっているんだ)

「隙あらばおれに何かして来ようとしてくるだろ」

 

 全く、おれはこんな悪戯娘に育てた覚えはないんだがな。

 

(主もそんな覚えはないだろうな)

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。今の問題は、なのはさんが何故おれを呼んだのかという問題だ。

 

「そもそもコウチャンの入れ方ってなんだ?」

(心当たりはないのか?)

 

 うーん、コウチャン……紅茶ん……甲ちゃん……あ!

 

「なるほど、そう言うことか……」

(知っているのかマサキ!)

 

 全ての疑問は解消した。

 

「コウチャンとはつまり甲ちゃんを示す。これはこの間のアップデートで追加された瑞鶴改二甲及び、翔鶴改二甲のことだ。甲ちゃんの入れ方、つまり、五航戦改二甲の入手方法を聞きたかったんだ。五航戦改二甲の入手方法は試製カタパルトの入手方法と同義」

 

 おれは一息付いて結論付ける。

 

「なのはさんはおれに試製カタパルトの入手方法を教えて欲しいんだ!」

(な、なんだってー!)

 

 おれは証明終了と言わんばかりにドヤ顔でリインさんに説明する。

 

(って、そんな訳ないだろ。それだけならマサキを翠屋に誘う必要はない)

 

 それもそうだ。本当にそれが聞きたかったのなら、その場で聞けばいいだけなのだから。それなら一体、コウチャンとは……

 

(考えても仕方がないだろ。もう着いたぞ)

 

 そんなことを考えながら歩いていると、翠屋の前まで来ていた。

 翠屋のドアに手を掛け開けようとしたおれだが、そこでピタッと止まる。

 

(? どうかしたか)

「もし、なのはさんがおれを罠に掛けるとしたら、ドアに設置すると思うんだ」

(ゲームのやり過ぎだな)

 

 そんなこと言ったって、最近やってるゲームの所為でそう言うことに敏感になってるんだよ。敵がいないと思ったらしれっとクレイモアがこんにちはしてくる。本当に心臓に悪い。でも、やめられない。

 

(いいから早く入れ)

 

 リインさんに急かされ、おれはしぶしぶドアを開ける。

 

「こんにちはー」

 

 何があろうと動じるものか!

 

 

 

 

「何だ、紅茶の淹れ方だったのか」

「え? なんだと思ったの?」

 

 おれはなのはさんに「今日は何でおれは呼ばれたんですか?」って聞いた。そうしたらきょとんとした表情で紅茶の淹れ方を教えて欲しいと言ってくれた。なんだ、コウチャンとは紅茶の事だったのか。おれの推理は大外れだった。

 

「いや、うん。まあ、それはいいじゃないか。じゃあ早速始めよう」

「ん?」

 

 なのはさんは納得した様子ではなかったが、特に気にしないことにしたようだ。おれもその方が助かる。

 

「いやー、楽しみだな。公輝くんが淹れる紅茶」

「えっ! お父さん?」

「こんにちは、士郎さん」

 

 さっきまで厨房にいたであろう士郎さんが姿を見せる。そんな士郎さんに対し、おれはすかさず挨拶をする。人との交流の基本はまず挨拶から。それが目上の人となるとなおさら重要だ。

 

「こんにちは、公輝くん。君の淹れるミルクティーの噂はなのはからよく聞いているよ。楽しみだな」

「ははは……翠屋の店長さんに期待されたら流石に緊張しますね」

 

 翠屋は喫茶店。普通のランチメニューなどもあるが、メインはケーキやシュークリーム等だ。それに合わせて飲み物が用意されているのは必然である。ここのオススメはマスター(士郎さん)のコーヒーではあるが、士郎さんが淹れる紅茶もまた絶品であることに違いはない。実際に飲んだおれが言うんだから間違いない。

 そんな人に期待されたら流石に緊張してしまう。ここはおれも本気を出さざるを得ないな!

 

「よしっ、なのはさん! そうとなれば、おれが全力で教えてあげよう!」

「は、はいっ!」

  

 なのはさんの気合は十分。おれの持つすべてをなのはさんに教え込もうじゃないか!

 こうして、マサキのパーフェクト紅茶の淹れ方教室が始まった。

 

 

 

 

 

 

「なのはさん! レシピとは秘訣! 先人達が経験に経験を重ねて作り上げた宝。まずはそれの通り、完璧に作ることが大切だ! ミリグラム単位の誤差は仕方がないが、誤差はないに越したことはない!」

「はい!」

 

 紅茶を淹れるための下準備をした後、最初は茶葉をポットに入れるところだ。おれが参照していたおいしい紅茶のレシピを思いだしながら、なのはさんに茶葉の分量を教える。とりあえず、カップ2杯半位の紅茶で良いかと思い、茶葉を5グラムと言う。すると、流石は喫茶店の娘と言った所だろうか、なのはさんはティースプーン山盛り2杯分の茶葉をポットに入れた。

 しかし、それではだめだ。それでは約5グラムでしかない。確かに、何度も紅茶を淹れることによって自分の好みの茶葉の分量を感覚的に把握することもできるようになるが、今はまだその段階ではないはずだ。

 なので、細かいことだがそこは徹底させてもらう。

 

「茶葉を多少増やすか減らすで味は変わるから、気を付けるんだ」

「はい!」

 

 そんなことをしていると、温めていた水が頃合いになって来た。そこで次の説明に移る。

 

「紅茶を淹れるときのお湯は完全に沸騰させちゃいけないんだ。完全に沸騰させちゃうと、上手くホッピングしないから良い具合に抽出できない。目安としては、5円玉くらいの泡が、水面真ん中からボコボコ立つくらいが目安かな。大体90度から95度位って言われてる」

「はい!」

「今日は説明のために時間を掛けてやってるけど、出来ればお湯を準備してから手早く茶葉をポットに入れた方が良いよ。ゆっくりやって、折角いい温度のお湯が冷めちゃうと意味無いしね。それに、茶葉を長い間空気に晒しちゃうと、少しかもしれないけど風味が逃げちゃうからね」

「はい!」

 

 ここで軽く注意なんかを入れながら、どんどん説明していく。なのはさんもメモを取りながらしっかり聞いてくれるもんだから、おれも楽しくなってきてしまった。

 

「よし、次はお湯を注ぐよ!」

「はい!」

 

 そんな感じで紅茶教室を続けていったのだった。

 途中でリインさんがおれに(本気過ぎだろ……)って言ってたけど、気にせずに全力全開を出してしまった。

 

 二人で淹れた紅茶は最高の出来で、翠屋のシュークリームをおやつに美味しくいただきました。

 

 

 

 

「「「「「ご馳走様でした」」」」」

 

 テーブルに座っているみんなが声を合わせて食後の挨拶をする。

 

「今日は食後のデザートがあるから楽しみにしててね?」

「やった!」

 

 お母さんの言葉に、お姉ちゃんが喜んでいるようだった。

 

「それじゃあなのは、お願いね」

「任せて!」

 

 私はお母さんにあることを頼まれる。それは、私が今日の放課後を全部掛けて学んだ事。そう、紅茶を淹れることだ。

 

(まずは、カップをお湯で温めて、次は紅茶を淹れる用のお湯を用意する)

 

 私は公輝くん教わったことを一つ一つ思いだしながら確実に、完璧にこなして行く。

 

(茶葉の計測は正確に。お湯の注ぎ方は茶葉がホッピングする程度かつ丁寧に)

 

 紅茶をおいしく入れるコツは全ての手順を丁寧に行うこと。その言葉を忘れずにやっていく。

 

「な、なんかなのはがすごい本気だ……」

「ああ、すごい集中力だ」

 

 傍で見て居たお姉ちゃんとお兄ちゃんが何か言っているが、今の私には何も聞こえない。全ての意識を紅茶を淹れるという行為に注ぐ。

 

(蒸らす時間も紅茶の味を左右する大事な要素。ここで気を抜いちゃいけない)

 

 私はとりあえず、みんながおいしく楽しめる濃さの紅茶を淹れるため、一番基本の蒸らし時間を選択する。

 

 ……

 

 今!

 

 無駄な振動でポットを揺らさないように、しかし、手早くポットを掴み、みんなのカップに紅茶を注いでいく。

 全員のカップに紅茶を注ぎ終え、私は初めて気を抜くことが出来る。

 

「やった……やったよ! 私、できたよ!」

「お? 出来たのか。それじゃあ、みんないただこうか」

 

 どうやら、デザートのシュークリムはすでに準備が出来ていて、みんな私が淹れる紅茶待ちだったみたい。

 お父さんがそう言うと、みんなはまず紅茶を一飲みする。

 この瞬間は緊張する……みんなは美味しいって言ってくれるだろうか?

 

「ん~!! おいしい!」

「ほう……おいしいよ、なのは」

 

 最初に反応したのはお姉ちゃんだった。お姉ちゃんには好評だったみたい。次はお兄ちゃん。お兄ちゃんも美味しいって言ってくれた。それに、お兄ちゃんのあんな安らかな顔は初めて見た気がする。

 

「美味しいわ、なのは。毎日お願いしたい位!」

「おっ、これは翠屋(うち)の看板メニューにできるぞ」

 

 お母さんも喜んでくれたみたい! それに、お父さん、流石にそれは言い過ぎだよー。

 

「えへへ~。ありがとう! だけど、看板メニューにするなら公輝くんをアルバイトとして雇った方がいいんじゃない?」

 

 私が公輝くんをアルバイトとして雇った方が良いのでは? と、言うと、お父さんは「それもいいな」なんて言いだしてしまった。あれ? そうしたら、公輝くんと一緒に居れる時間が増える? それはいい考えだ!

 

「ん?」

 

 その時、私は大事なことを思いだした。

 公輝くんと……一緒に……居る?

 

「あー!!」

「ど、どうしたなのは?」

 

 突然叫び出した私に驚いた様子でお父さんが聞いてくる。でも、今はそんなこと気にはしていられない。

 

「忘れてたあああぁぁぁぁぁ!!」

 

 紅茶を淹れるのに一所懸命過ぎて、考えていたプランを実行するのを忘れていたのだった。

 

 




勝者:公輝

敗因:熱中しすぎた



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公輝とフェイトと12話

大将戦

vsフェイト

wiki引用あり


 学生をやっていると、うれしくてうれしくて堪らない至高の瞬間という物が三つある。

 一つ目は夏休みに入る直前のホームルームの時間。夏休みという学生にとって何事にも代えがたい一ヶ月以上の休日。友達と遊びまくったり、気になるあの子と一夏の思い出を作ったり、夏休みの宿題にひいひい言ったり。そんな楽しい時間が始まる合図の時こそが夏休みに入る直前のホームルームだ。

 二つ目は冬休みに入る直前のホームルームの時間。冬休みは夏休みに比べて期間は二週間ほどと短い。しかし、冬休みの間にはクリスマス、コミケ、大晦日、元旦とイベント盛りだくさんなのだ。そんな年を跨ぐ休みが始まる合図の時こそが冬休みに入る直前のホームルームだ。

 そして、最後は……

 

「よっしゃー! やっと土曜日だ!」

 

 金曜日のホームルームである。言うまでもなく、金曜日の次の日は土曜日。

 聖祥中学校は私立の学校であるため、ゆとり時代の今なお土曜授業を採用している。しかし、土曜日の授業は午前中だけのため、あって無いようなものだ。土曜日も十分に体を休める日と言うことが出来る。

 

「そんじゃ、明日学校が終わった後行くか」

「おう、一緒に散財しようぜ」

 

 担任が連絡事項を言い終え、今日の学校から解放されたおれは後ろに座っているジュンに話しかける。一週間ほど前からおれ達二人で計画していた秋葉原で遊ぶ予定についてだ。

 おれとジュンはオタク系の趣味がばっちり合っている。合ったからこそここまで仲がよくなれたと言っても過言ではないだろう。そんな奴と秋葉原を練り歩くのはきっと楽しい。

 

「マサキ、ちょっといい?」

 

 そんな話をしていると、フェイトさんがおれの机の前まで来ていた。何か用事があるようで、おれに話しかけてくる。

 

「どうぞ?」

 

 おれはオーケーの意味も込めて、フェイトさんの話を促す。

 

「うん、そのね……」

 

 フェイトさんは何か言いづらそうにしている。一体何なのだろうか。そこまで緊張されるとおれまで緊張してしまう。

 すると、覚悟を決めたかのような仕草を見せたフェイトさんがおれの方に向き直り、話の続きをする。

 

「付き合って欲しいの!」

 

 金曜日のホームルーム後と言うことでざわついていた教室が一瞬で静まり返る。 

 

 ………………………………………………………………ん?

 聞き間違いじゃなかったら「付き合って欲しい」と言われたか。ああ、これは所謂「買い物に付き合って欲しい」と言うやつか? いや、待て。それだけだったら何故フェイトさんはあそこまで緊張していたんだ? 何故あそこまで覚悟を決めたような仕草をしたんだ? それはそれ相応の発言だったという事ではなかろうか? うぬぼれかもしれないが、おれとフェイトさんの仲は良いし、親友だと思っている。それこそ、買い物に付き合って欲しいなら何も気にすることなく誘い、誘われる位には。

 これは……もしかするともしかするかもしれない。フェイトさんはおれに対してそういう関係になりたいと告白してくれたのかもしれない。こんな人の多い所で言うのは、おれ達の関係性を周りに見せつけるためか? フェイトさんがそんなに積極的だったなんて知らなかった。

 

「……」

 

 余りの事実におれはすぐに返事をすることが出来ない。

 ああ、そうさ。正直、こんなに可愛い女の子に告白されてめちゃくちゃ嬉しいさ。だけど、こう言ったことはすぐに決めちゃいけないよな。フェイトさんは友達だが、そう言った関係になるというのは大事なことだ。やはりこう言ったことは時間を掛けて考えたい。中学生の恋愛なんて一月も続けばいい方なのに、何をそんなに重く考えているんだと思うだろう。フェイトさんがどうなのかは知らないが、おれの恋愛観は大人なのだ。恋愛は大事にしたい。

 だから、とりあえず返答は明日まで待ってもらうことにしよう。それで、今日は考えに考えて明日返事を返そう。

 

「うん」

 

 静まり返っていた教室が沸く。

 

 おれのばっかああああああああああああああああああああああああ!!!!

 前世今世と合わせてもうすぐ魔法使いに成ろうとしているおれは無意識の内にYESと返事をしてしまう。

 言い訳はしない! 焦っていたことも認める! 可愛い女の子に告白されて断る男がどこにいるってんだよ!

 やっちまったなぁ……でも、まあ、言ってしまった物は仕方ない。せめて、フェイトさんに見損なわれないように彼女の彼氏として頑張ろうではないか。

 

(マサキ、ニヤついているぞ)

 

 この状況を喜ばない男がいるならそいつは女の子に興味がないかロリコンだろ。

 

「やった!」

 

 おれの返事を聞き、フェイトさんは手をパンッと合わせて喜んでいる。今まではこう言うしぐさに何とも思わなかったが、こうなってみるとすごい可愛いな……

 

「それじゃあ、明日昼の二時に駅前の銅像集合でいいかな?」

 

 再び教室が静まり返る。

 

 ………………………………………………………………ん?

 あれ? もしかして、「買い物に付き合って」の方で合ってたのか? という事は……おれ勘違いしてた!?

 静まり返った教室にいるクラスメイト達はおれの方を何とも言えない目で見つめてくる。こっち見んな!

 

(チョッギッ、プルリリィィィィィィイ!!!!)

 

 リインさんうるさいよ! 分かってるよ! こんな恥ずかしい勘違いしてたおれが一番恥ずかしいんだから追い打ちかけないでよ! トゲピーの鳴き声がこんなにも鋭い刃物になるとは思ってもいなかった。

 

「あ、もしかして何か用事があったかな?」

 

 おれが何も言わなかったことで、考え事をしていると思ったフェイトさんが聞いてくる。

 

「大丈夫だよ、テスタロッサさん! 明日俺と公輝で出かける予定だったけど、それは日曜日でもいいから」

 

 おれが恥ずかしさを表に出さないように呆けていると、ジュンがフェイトさんと話す。

 

「え? でも、ジュンの方が先に約束してたんなら……私の方こそ日曜日でいいし」

「良いって、良いって! 土曜日はテスタロッサさんに譲るよ!」

「そう? ありがとう、ジュン」

「いやぁ~どういたしまして」

 

 あの……おれを置いて話を進めないで下さい……ああ、恥ずかしい。

 フェイトさんがおれに告白(間違い)した時はものすごい形相をしていたジュンだったが、今は慈愛に満ちた顔をしておれを見てくる。その顔やめたまえ。悲しくなって来る。

 

「マサキ、また明日ね」

「ああ、うん。また明日」

 

 平静を装うことに全力を出してフェイトさんに別れの挨拶をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 土曜日。今日はフェイトさんとお出かけの日だ。とりあえず、男のマナーとして待ち合わせの30分前に集合場所に来ている。

 あの後、家に帰ってからはやてに弄られると思っていたのだが、はやての対応はいつも通りだった。はやてもおれ達と同じクラスであるため、あの騒ぎを聞いていたはずだが、そのことに関して何も言われなかった。逆に不気味である。

 

「だが待ってほしい。これはデートなのではなかろうか」

(お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな)

 

 そう思う方がおれの精神的に優しいからそう思うことにしよう。

 告白かと思ったらお買い物の誘いだったからがっかりしてしまったが、よく考えたら可愛い女の子からデートに誘われたんだ。うん、これはとても喜ばしいことじゃないか。

 

「マサキ、ごめん待たせちゃったかな?」

「いや、全然待ってないさ」

 

 そんなことを考えていると、フェイトさんがやって来た。おれがここに来たのが一時半で、今は一時四十五分。そんなつもりはなかったのだが、思った以上に考えに耽っていたようだ。

 と、そんなことはどうでもいい。やって来たフェイトさんの今日の服装は白のブラウスに黒のスカートだ。シンプルながらフェイトさんの可愛さを倍増させている。フェイトさんの私服を見ることは偶にあったが、こんな状況でみると不覚にもドキドキしてしまう。

 

「それで、何を買いに行くの?」

「え? あー……と、とりあえず、色々見て回ろう!」

 

 えっ、目的の物は無いの!? まあ、適当に回って遊ぶのも楽しいよな。

 それは置いておいて、こういう時は女の子の服装を褒めるべきなのだろうか? やはり、褒めるべきなのだろう。

 

「フェイトさん、すっごいかわいいよ」

「え!? あ、ありがとう……」

 

 何だこれ……恥ずかしすぎて穴があったら入りたい。こんなことを何食わぬ顔で言う主人公達の精神は鋼鉄製に違いない。

 

「……それじゃあ、行こうか」

「……うん」

 

 とりあえず、海鳴の駅前を歩くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「どうかな?」

 

 さっきまで来ていた服の上にカーディガンを羽織ったフェイトさんが試着室のカーテンを開ける。

 

「よく似合ってるよ。今頃の女子高生って感じだ。これから寒くなるしちょうどいいかもね」

「まだ中学生だけどね」

 

 しばらく歩いたところで、フェイトさんが服を買いたいという事だったので、手頃な値段で色々な種類の物を置いている服屋に入ることにした。

 フェイトさんが気になった物を手に取り、それらを試着する。観客おれ一人のファッションショーの最中だ。いやー、役得役得。

 

「じゃあこれは買おうかな」

 

 そう言ってフェイトさんは試着室のカーテンを閉める。

 

(マサキ、ニヤついているぞ)

 

 そりゃニヤつきもするって、リインさんよ。このどう考えてもデートとしか思えない状況で、相方の女の子の服選びを手伝うなんて言うのは男なら誰もが夢見ることだろう。

 と、しばらくすると、カーテンが引かれる音がする。フェイトさんは次はどんな服を見せてくれるのだろう?

 

「って、どわあああああ!」

 

 試着室から姿を見せたのは、上はピンク色のキャミソールだけを着ているフェイトさんだった。

 

「ど、どうかな?」

 

 フェイトさんはそんな風に聞いてくる。

 キャミソールと言うのは、細い肩紐で吊るし肩を露出する形状の袖なしの女性用の上半身用下着ないし上衣だ。人によってはアウターとして着て、キャミソールを周りに見せることもあるが、普通だったら下着にするようなものだ。

 キャミソールが薄い服だという事もあるが、何より問題なのが……その……フェイトさんの中学生と思えない豊満なオパーイのタニーマが見えていることだ。

 フェイトさんのオパーイが平均より大きいことは知っていたが、こんなにしっかりと見たことは無い。

 フェイトさんはマントを外すと実はとんでもないバリアジャケットを着ている。それを見る機会がこれまで無かったわけではない。しかし、それはフェイトさんのオパーイがまだまだ小さかった小学三年生の時。おれがフェイトさんを初めて見た時こう感じたんだ。

 

「なんか、犯罪臭がすごい」

 

 それ以来、フェイトさんがバリアジャケットを着ているときはフェイトさんを直視しないようにした。そのため、フェイトさんのオパーイの成長具合なんて詳しく把握していないのだ。まあ、事細かにしてたらそれはそれで大問題だが。

 まあ、そんなことは今どうでもいい。とりあえず、おれが言えるのはこれだけだった。

 

「これからの時期それは寒いと思う」

「そ、そうだよね! うん。これは今回はいいかな」

 

 そう言って、フェイトさんは再び試着室のカーテンを閉める。

 

(マサキ、流石に今の感想はないだろ)

「おれもそう思う」

 

 その後、フェイトさんはカーディガンを含めたいくつかの服を購入して店を出た。

 もちろん、荷物はおれが持ちました。男の嗜みだよね。

 

 

 

 

 

 

「そ、そそそい! そそそい! そそそそそそい!」

「えっ! えっ! えっ!」

 

 服屋で見たことはとりあえずなかったことにして、おれ達はゲーセンに来ている。ゲーセンなら大抵ある太鼓の達人をプレイ中だ。

 おれは地元ではそこそこ有名な太鼓の達人の達人と知られていたのだぜ!

 

「やったぜ」

「ふえー……」

 

 今は初めてやるフェイトさんのために難易度ふつうでプレイしているんだが、フェイトさんにとってはそれでも難しかったようだ。

 いつもすごい速さで空を飛んでいるフェイトさんにとって流れてくる音符に合わせて太鼓を叩くのは簡単だと思ったのだが、それとこれとはまた別みたいだね。

 

「プリクラだ……そうだマサキ、プリクラ撮ろう?」

「え。あ、うん」

 

 プリクラ。女の子なら使う人も多いだろう。だが、男だったら、使う人は沢山使うが、使わない人は全く使わない。男の場合はリアルが充実してない限り縁のない機械だ。

 つまり……

 

(今のおれのリアルは充実しているな……)

(ふっ)

 

 おい! 鼻で笑うなよリインさん! 今までのおれはリアルが充実してなかったから使う機会なんて無かったんだよ。

 リインさんの事は無視しつつ、おれとフェイトさんはプリクラの機械の中へと入る。コインを入れると、音声が流れて手順を説明していく。

 

「ほらマサキ! もっと近づいて!」

「そ、そうだな」

 

 そう言ったと思ったらフェイトさんとおれは写真の枠の真ん中になるように、できるだけ大きく写るようにお互いに近づく。

 ち、近い……フェイトさんの髪からシャンプーの匂いが分かるくらいに近い!

 

『じゃあ撮るよ! 3,2,1!』

 

 機械の音声がそう言うと、シャッター音が鳴る。

 上手く笑えただろうか? 隣に可愛い女の子が居てガチガチに緊張している男子中学生の図になってるとしか思えない。

 一枚目とはまた別のポーズをとって二枚目に備える。

 

『二枚目行くよ! 3,2,1!』

 

 またさっきのようにシャッター音が鳴る瞬間、プリクラの筐体に掛かっている暖簾(?)がはためくのが分かった。

 

「!? はやて!」

「なのは!」 

 

 誰かが乱入してきたと思ったら、なんとそれははやてとなのはさんだったのだ。

 

「何ではやてが……」

「ほらほら、またすぐ次の写真撮るんやで!」

「なのはも……」

「フェイトちゃん! 折角だから色んな写真撮ろうよ!」

 

 二人の勢いに流されるようにしておれとフェイトさんだけだった写真の中にはやてとなのはさんが追加されることになった。

 

 

 

 

 

 

「そんで、二人は何でここに?」

 

 プリクラを撮り終わり、落書きも全部やってプリントアウトされたものを分けてみんなに配ってから突然現れたはやてとなのはさんに気になっていたことを聞くことにした。

 

偶々二人を(気になったから)見つけたから(最初から)驚かしたろと(二人を)思ったんや(つけてたんや)

二人だけで(フェイトちゃんが)楽しんでずるいから、(私たちの協定違反)私たちも混ぜて(しそうだったから)もらおうと思って(止めようと思って)

 

 二人によるとそう言うことらしい。ん? なんでフェイトさんちょっと顔引き攣ってるんだ?

 それはそれとして偶然とはいえ、こうやってみんなそろったのならみんなで遊ぶのが良いだろう。という事で、結局四人で遊ぶことになりました。

 

 

 あれ? フェイトさんはなんで最初からはやてとなのはさんを誘わずにおれだけを誘ったんだろう? 男の子の観点から服を見て貰いたかったのかな?

 

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

 私は自分の部屋のベッドに腰かける。鞄から今日とったプリクラでとった写真を見る。そこには、私と男の子が二人で写っているのが一枚。残りの写真はそれに加えて二人の少女が写っている。

 

「今日は楽しかった」

 

 今日はあの人と一緒に街で遊んで来た。その中でちょっと大胆にアピールしてみた時に分かったのだが、彼はちゃんと女の子に反応しているようだった。彼の趣味が一般的になったのか、それともそもそもはやてがもたらした情報が間違っていたのかは分からない。だけど、これは好機と思い、私はあの人にもっとアピールすることにしてみた。

 

「なのはとはやての目が笑ってなくて怖かったなー……」

 

 二人の少女とはお互いに協力するためにある協定が交わされていた。それは私たちが協力している間は彼に必要以上のアピールはしないという事。どうやら今回はそこのところにひっかかったらしい。

 

「うーん、何がいけなかったんだろう?」

 

 私が二人にどのような作戦をしたのか話を聞くと、二人ともが話を逸らすものだから何がいけないのか基準が分からない。

 

「フェイトーご飯できたよー」

「今行くよ」

 

 とりあえず、今日は充実した一日だったと、ツーショットの写真を見ながら思うのだった。

 

 




結果:時間切れ、フェイトの判定勝ち

時間切れ原因:教室で待ち合わせ場所と時間を話したこと


次回!誘惑編完結!


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公輝とアリシアと13話

やっと書く時間が取れました。
アリシアはミッドの学校に通っていることにしていましたが、私立聖祥大附属小学校に通っていることに変更しました。


番外戦

vsアリシア


 

 

「はぁ……まさかみんな失敗するやなんてな……」

「え?」

「そうだね……相手は強敵だったね」

 

 約一週間前、ここにいるなのはちゃんとフェイトちゃんと協力して作戦を立て、実行に移した計画。

 公輝誘惑計画。

 しかし、その結果は芳しくあらへんかった。あいつの恋愛対象が男なのか女なのかをはっきりさせる。万が一男だった場合は矯正するということを目的にした計画やったけど、ここにいる誰一人としてその目標を達成することはできへんかった。

 

「一体どうしたらよかったんや……」

「もっと積極的にアタックしなきゃいけなかったんじゃないかな?」

「あのー……」

 

 確かになのはちゃんの言う通り、押しが足らへんかったのかもしれへん。あいつのガードは鉄壁やから、それを崩すにはそれ相応の威力が必要やった。

 

「よし、次はもっと過激なアッピルであいつを誘惑するんや!」

「おー!」

 

 今後の方針も決まったことやし、次の機会に向けて計画を練ろう。

 

「……私は上手くいきそうだったのに……」

「「上手くいきすぎてたの!!」」

 

 実はこの中でフェイトちゃんは中々ええところまで行っとった。しかし、私となのはちゃんと協議した結果、フェイトちゃんのやり方はアウトと言うことになり、ストップを掛けて強制的に失敗と言うことにした。

 決して……決して!! あのままいくと二人が良い雰囲気になって、今回の戦術目標どころか戦略目標すら達成しそうやったから邪魔したわけやないんや!

 

「もう……あの後マサキにはっきりと聞こうとしてたのに……」

「フェイトちゃん、ごめんって」

 

 頬を膨らませて怒ってますアピールをしているフェイトちゃんになのはちゃんが困った顔で謝っている。

 

「はぁ……結局公輝はホモでロリコンなんやろか?」

 

 これをはっきりさせるだけやったのに、なんでこうなったとしか言えへんな。もうあいつに直接聞いてみたろか? そうするのが一番早い気がしてきたわ。ていうか、何で私はこんな回りくどい方法を取ろうと思ったんや。全くもって謎やな。

 そんなことを頭の片隅で考えながら、私たちは再び頭を悩まし始める。

 

「ホモでロリコンってどういう意味? 分からないことはお兄さんに聞いてみよう! お兄さーん」

 

 ん? 今の誰や。なんやフェイトちゃんの声に似とったような、やけどちょっと違うような?

 その誰かの声が聞こえた後、玄関の方からこんな話声が聞こえてきた。

 

「お兄さんってホモでロリコンなの?」

「ふぁー!?!?」

 

 

 

 

「はぁ……まさか店が休みとは……」

 

 今日は学校は休みである。学校の宿題もなく、管理局の仕事もないので、趣味に時間を費やそうと思ったのだ。ゲームセンターで一日潰そうと思ったのだが、改装のため閉店中とは想定外だった。

 

(今日は家でゆっくりしろという神からのお告げだ)

「そういうことかね」

 

 やろうと思ったことが何らかの理由で出来なかった時はこう考えるのが一番だ。

 

「あ! お兄さんだ! おーい!」

 

 家へ向かう道を歩いていると、そんな声を掛けられた。おれのことをお兄さんと呼ぶのは一人しかいない。

 

「やあ、アリシアさん」

 

 フェイトさんのお姉さんであるアリシアさんだ。

 

「アリシアさんは買い物?」

「違うよ。暇だったからお散歩してたの」

 

 なるほど散歩か。散歩はいいよな。物事が煮詰まった時に散歩をすると気が紛れる。おれも浪人時代よく散歩したものだ。散歩の先にあるカードショップに時間をごっそり持って行かれたのも今ではいい思い出。珍しいカード、持っていないレアカード、無駄に高価なレアカードは見ているだけで楽しいからな。

 

「そうか、じゃあ家来るか? 甘いミルクティーをご馳走しよう」

「やったー! お兄さんのミルクティー!」

 

 いやはや、これだけ喜んでもらえると振る舞う側としては嬉しいものだな。

 

(あ、マサキが幼女を家へ連れ込もうとしている)

 

 なんてこと言うんだリインさんは! おれは幼女を専門に狙う誘拐犯ではないぞ! 失礼な人だ、まったく。

 と、そんなこんなで八神家に到着する。すでに家の近くまで来ていたので正味五分もかかっていない。

 

「どうぞ、アリシアさん」

「お邪魔しまーす!」

 

 おれがドアを開けてアリシアさんを家の中へ促すと、彼女は走ってリビングの方へ向かっていった。その勢いで脱がれたアリシアさんの靴はバラバラになってしまっている。それを出船状態に揃えてからおれも靴を脱ぐ。

 

「ん? 誰か来てるのか」

 

 よく見るはやての靴と普段ここにはない靴が二足並んでいる。おそらくなのはさん、フェイトさん、すずかさん、アリサさんの内の誰かと言った所だろう。ちなみに、ヴォルケンズは全員揃ってミッドに行っているので、ヴォルケンズの靴はここにはない。

 おれもはやて達がいるであろうリビングに向かうことにする。向かおうとすると、リビングからアリシアさんが走って戻って来た。一体どうしたのだろうか。

 そんなことを考えていると、アリシアさんはとんでもないことを言い放った。

 

「お兄さんってホモでロリコンなの?」

「ふぁー!?!?」

(あっはっは! マサ、マサキが……あっはっはっは!!)

 

 一体……どうして……おれがホモでロリコンとかいう最強の矛盾の塊みたいなものであるという疑惑を掛けられているんだ? いかん! これは即刻弁明して認識を改めてもらわねば! ていうか、リインさん笑い過ぎィ!

 

「それで、ホモでロリコンってどういう……」

「いいか、アリシアさん」

「えっ」

 

 おれはアリシアさんの肩をガッシリ掴んで全力でお話する。

 

「おれはホモでもなければロリコンでもない。おれは女の子が好きだからな。世間一般の男子と同じように女性の好みもしっかりあるから。まず、髪は肩を超えるくらいの長さだ。ロングの女の子も可愛いが、おれの好みとしてはちょっと長いくらいの髪が大好きだ。癖っ毛よりはストレートの方が好きかな。そんで、次はおっぱい。おれも男の端くれであるから大きいおっぱいは一種の夢だ。大きいことは良い事だ。しかし、それは所詮夢だ。現実的に、結婚を前提にお付き合いする女性だということを考えると、BかCくらいがベストだ。そんでもってお腹及び腰周り。ぽっちゃりした女の子の安定感が悪いとは全く思わない。だが、やはりボン・キュッ・ボンという言葉があるように、おれもキュッ・ボンとなったのが好み。と、なんだかんだと言ったが、外見はそこまで重視しない。いや、一人の男の希望としてこうだったら良いなとは思うが、それだけで一生の伴侶を決めるような男ではないぞ。やっぱり、人は中身だからな。その人の内面をよく知ったうえで、おれはその人の事を好きになるだろう。あ、飯は美味いとなおいいな」

「あ、うん……」

 

 ……おれは何を言ってるんだ……

 いくら驚きの疑惑を掛けられて、テンパっていたとは言え、友達の女の子に自分の性癖を全力で語るというのは……これはただの変態ではなかろうか?

 

(ほーん、マサキはストレートのセミロングで、胸はBからC、お腹と腰はキュッ・ボンって感じで、性格が良くて料理が上手い女性が好みなのか)

 

 だあああああ! 上手くまとめやがって! 全くその通りだよこんチクショウ!

 

「アリシアさん。とりあえず、おれはホモでロリコンではないという部分以外は忘れてくれ」

「あ、はい」

 

 はぁー……こんな時は紅茶を飲んで心を落ち着かせるのが良い。うん、そうしよう。とりあえずリビングに上着を置いてこよう。

 

「うっ!?」

 

 おれはあることをすっかり忘れていた。今、この家にはおれとアリシアさん以外に三人の人物が居ると言うことに。

 

「はやて……なのはさん……フェイトさん……」

「……」

「……」

「……」

 

 正直、さっきのことを聞いていたのがアリシアさんだけだったら、そこまで深刻に考えてはいなかった。研究者としてものすごい才能を見せ、立場上フェイトさんのお姉さんのアリシアさんではあるが、精神面は歳相応のお子ちゃまだ。九歳の幼女に自分の性癖を暴露してもさして問題は無いだろう……あれ? それはそれで大問題な気がしないでもない。

 まあ、そんなことはどうでもいい。問題はおれと同い年の少女達に今の話を聞かれたという事だ。中学生の彼女たちは多感なお年頃。こう言った話題には敏感であろう。そして、おれみたいな割と近い位置にいる男が性癖を暴露するとどうなるか?

 嫌われるっ!

 

「今の話……聞こえてた?」

 

 そう言ったおれの声は震えていたかもしれない。

 

「髪はセミロング……」

 

 なのはさんが言う。

 

「む、胸はそこそこ……」

 

 フェイトさんが言う。

 

「料理上手……」

 

 はやてが言う。

 

「全部聞かれてたあああああああああああ!!!! うわああああああああああああああ!!!!」

 

 自分の部屋に駆けこんで、閉じこもったおれを誰が責められただろうか。

 

 

 

 

 結局、その後枕に顔を埋めて眠ってしまった。リインさんがあのことに関して一言も茶化してこなかったことからも彼女がどれだけ同情しているかが伺える。

 三十分程も寝ると、気持ちも落ち着くものだ。おれはさっきのことは全部夢だったと考えることにして、アリシアさんに約束のミルクティーを振る舞うことにする。

 リビングに向かうと、ミルクティーを所望するアリシアさん、いつもツインテールにしている髪を何故か解いているなのはさん、自分の胸に手を当てつつ、「髪切ろうかな……」なんて言ってるフェイトさん、料理雑誌をいつも以上ににらみつけているはやてがいた。

 

 どうでもいいけどフェイトさん、そんな綺麗なロングヘアーをばっさり切っちゃうのはもったいないと思う。




勝者:アリシア

次章、決戦編。お楽しみに!


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告白と14話と……

書きながらどっかで見た流れなんだよなーって考え続けて、書き終わって気が付いた。
シャナだこれー!


 

 今日も今日とて私、なのはちゃん、フェイトちゃんは私の家に集まってお話をしている。今回はあいつの予定的にはお話し中に帰って来ることは無いことは確実や。安心して突っ込んだ話をすることにする。

 まあ、前回はそのアクシデントのおかげで思わぬ収穫があったわけやが。

 

「なんや、色々あったけど、私たちの作戦は完遂された」

 

 私は友達(ライバル)達に語り掛ける。

 

「あいつはちゃんと普通の人と同じ感性の持ち主やってことがわかった。自分で言うてたことやけど、あの必死さ加減から見るにホンマのことやろ」

 

 私と共に机を囲んでいる彼女たちは無言で頷く。

 彼女たちの目はこれまでにないほど真剣でいて、いつも以上に緊張している。おそらく、彼女たちも私がこれから言おうとしていることがなんとなく分かっているんやろう。

 

「今週末、勝負を仕掛けようと思ってる」

「!」

「……ッ」

 

 私の発言を聞いたなのはちゃんとフェイトちゃんは息を飲み緊張をさっき以上に露わにするが、やはりそうなったかという納得の表情も見せる。

 

「それに当たって二人の意見を聞きたいんやけど……二人はどうする? 二人の決意がまだ決まって無いようなら私はもう少しだけ待つ」

 

 ここで私だけがあいつに思いをぶつけるのはフェアやない。

 なのはちゃんとフェイトちゃんは友達と書いてライバルと読み、宿敵と書いて戦友と読む。そんな関係や。そんな関係の二人を差し置いて私だけが行動を起こすなんて言う気はさらさらあらへん。

 私たちにあるのはみんな同じ条件で戦って、みんな負けるか、一人が勝つか。それだけや。もちろん、ここにいる三人はその結果がどうあれ恨み言を言う人はおらへん。

 

「で、どうなん?」

 

 私は再び確認をする。

 

「私は……ううん……私もやるよ!」

 

 なのはちゃんが参加表明をする。

 

「もちろん私も……やる!」

 

 なのはちゃんに続いてフェイトちゃんも参加表明をする。

 フェイトちゃんの表明はなのはちゃんのそれより少し遅れを取ったように見えたが、なのはちゃんの発言がちょっとでも遅れとったらフェイトちゃんが先に言っとったやろう。それだけ二人の思いと決意は確かなもので、どちらが勝っているとか、そう言うこともない。もちろん、私も負ける気はせん。

 

「うん、二人ならそう言うと思ったで」

 

 そう言うと、私は自然と笑顔になる。それに二人も同じように笑顔になる。

 

「そんなら、これから最終決戦の話をしよか」

 

 私、なのはちゃん、フェイトちゃんの三人だけの話し合いは続く。

 

 

 

 

「うー……だんだんと冷える季節になって来たな」

(もう12月だものな。時間の流れという物は本当に早い)

 

 時間の流れが早い。結構なことじゃないか。それは今が楽しいって言うことの裏返しなんだからな。かくいうおれも、時間の流れが早いと感じてる。

 おれとリインさんは今日も今日とていつも通りだ。

 いつも通りでないといえば今の状況とかだろう。

 

「駅で待ち合わせじゃなくて、みんなおれん家に集まってから行けばいいのに」

(まあ、そう言うな。主達は先に用事を済ませると言っていただろう)

 

 今おれはこの12月の寒空の下、駅前の待ち合わせスポットとして有名な銅像前にいる。待っている相手ははやて、なのはさん、フェイトさん。久しぶりにみんなで遊びに行こうとなり、それにおれも誘われた形だ。

 その時、おれが「買い物か? 買い物でいいんだな?」って聞いたのは仕方がないと思う。

 そんなことより、なんでおれ達は駅前で待ち合わせなんて言う面倒なことをしているかだ。なのはさんとフェイトさんと一緒に遊ぶのに待ち合わせをするのは何も不思議なことではない。しかし、同じ家に住んでいるはやてと一緒にこの場に来ていないのはおかしいだろう。

 それは、はやて達はここに来る前に三人でしなければいけない用事があるそうで、それをすましてからここに来ることになっているからだ。

 

「早く来ないかなー。寒いから早くどっか建物に入りたいぜ」

(ふむ、どうやらその願いは神に届いたようだぞ)

 

 リインさんにそう言われて辺りを見回してみる。すると、周りから少し浮いている(かわいさ的な意味で)三人の少女達がこちらに向かって来ているのが見えた。

 気の所為かもしれないが、彼女たちの傍を通った男たちはもれなく彼女たちを気に掛けているような気がする。

 

「待たせたな、ハムテルくん」

「ごめんなさい、待った?」

「おまたせ」

 

 彼女たちもこちらに気付いたようで、はやて、なのはさん、フェイトさんが順番に声をかけてくる。

 

「いんや、そんなに待ってないぞ」

 

 実際にそんなに待っていないのでおれはそう言う。だが、今の季節は冬と言うこともあり、とても寒いのがちょっと辛かった。それを示すように、彼女たちも厚めのコートを着用している。そういえば、はやてがしているマフラーはおれがかつて誕生日プレゼントとして渡したものだな。こうやって使ってくれると製作者としては嬉しいものだ。

 それにしても、可愛い服で着飾っていると言う訳でないのに、コート等を羽織っている姿で人目を集めるなのはさん達はやっぱり相当可愛いんだなと思う。きっと何かがにじみ出ているのだろう。

 

「そんじゃま、行こうか」

 

 そう言っておれはみんなを促す。さっさとどっかの店内に入って暖を取りたい。決して、「その可愛い娘三人と一緒にいるお前は何者なんだ」という男たちからの無言の圧力に耐え切れなくなったわけではない。決してない。

 

 

 

 

 おれ達はあの後、海鳴駅駅前という中々の場所に位置するショッピングセンターに来ている。食料品、衣料品、薬品、スポーツ用品、娯楽品、エトセトラ、エトセトラ。ここに来れば欲しいものは大抵手に入る大型のショッピングモールだ。家族連れで来るも良し、学生が学校帰りや休日に遊ぶも良しの市民の遊び場である。

 

「ふぅ……あったけー……けど、上着着てると暑いな」

 

 地球温暖化? 何それ美味しいの? と、いわんばかりに暖房をガンガンつけているようで、店内はかなり暖かった。

 おれはそう言いながら羽織っていた上着を脱いでいると、フェイトさん達もそう思ったようで、着ていた上着を脱ぎ出した。

 

「ん? どうしたのマサキ?」

「えあ!? あ、いいや。何でもない」

 

 ボーっと彼女たちを見ていると、フェイトさん疑問に思われたようだ。

 分厚い上着を脱ぐことによって今まで隠されていた彼女たちの私服が見える様になった。そんな三人が可愛かったからつい見惚れてしまったのは男なら仕方のない事だろう。

 本来ならここで彼女たちの服装を褒めるのが男の嗜みなのだが、前回フェイトさん相手にやって、ものすごく恥ずかしい思いをしたのは記憶に新しい。しかし、やはり何も言わないというのは失礼に当たるのではなかろうか。ど、どうすればいいんだ……

 

「……私には言ってくれへんのやな……」

「……わたしも言ってほしかったかな……」

 

 おれはどうするのが男として正しくて、かつ恥ずかしくないのかを考えていると、はやてとなのはさんが何かを言った気がした。

 

「え? 今二人なんて言った?」

「「何でもない!」」

「んん?」

 

 そう言うと、なのはさんとはやてはどんどん歩いて先に行ってしまう。

 なんでもいいけど、頬を膨らませている二人の様子は小動物のようで可愛い。

 

「なんなんだ?」

(マサキは難聴系主人公の才能があるな)

 

 むっ! 今のリインさんの発言はおれの悪口っぽかったから聞こえないぞ! おれの耳は都合の悪いことは聞こえないのだ!

 

「……今日は私も言われたわけじゃないけどね……」

「え? 何フェイトさん?」

 

 そう言ってフェイトさんも二人の後を追っていく。

 ちょっと! みんな声が小さくて聞き取れないよ。一応学校の聴力検査では問題なしと出ているが、ショッピングモールのような騒がしい場所ではある程度声を張ってもらわないと聞こえない。

 

(ハァ……)

 

 リインさんのため息だけははっきりと聞こえたのが印象的だった。

 

 

 

 

 その後、おれ達はショッピングモールを遊び尽くした。

 手始めにゲーセンで定番のゲームを遊んで回り、喉が渇いたからお菓子を食べながらお茶が飲める店に入る。ガラス越しによさげな服が見えると女子勢は店に入りおれもそれに付いて行く。適当に付いて行ったら女性用下着の専門店に入りそうになって危なかった。おれも彼女たちに付き合ってもらって本屋やCDショップを見たりした。

 

 楽しい時間という物はあっという間に過ぎ去っていくものだ。年単位の時間でさえ早いと感じるのだから数時間なんてあっという間に過ぎ去ってしまう。

 

「いやー、遊んだ遊んだ!」

「うん! 楽しかったね!」

 

 はやてとなのはさんも今日の数時間を楽しんでいたようだ。

 

「マサキも楽しかった?」

「もちのろん。やっぱりこういう場所にみんなで来ると楽しいよな」

 

 フェイトさんがおれに聞いてくるが、そんなの当たり前だ。それに、これは言う訳にはいかないが、可愛い女の子、それも三人と一緒に遊んで楽しくないわけがない。

 まあ、これは気ごころの知れた女の子限定であるのだが。道端ですれ違った可愛い女の子をナンパするような男のことを好ましく思うことは出来ないが、その強靭な精神は称賛に値すると思う。おれだったら恥ずかしくて会話を盛り上げるどころか話しかけることすらできないだろう。

 

「お、着いたで。ここやここ」

「わー!」

「綺麗……」

「これはなかなか」

(流石は主だな) 

 

 ショッピングモールで遊んだ後、それで家に帰るのかと思ったのだが、はやてがみんなに見せたいベストプレイスがあるとのことで、そこへ案内してもらった。

 そこは海鳴の街を見渡せる位の高台で、今が夕暮れ時と言うこともあって、おれを含めたみんなはその景色に息を飲んだ。

 田舎過ぎず、都会過ぎず。海と山が近くにあり自然豊かな良い街だという事を再確認させられる様だ。冬の澄んだ空気のおかげで海鳴の街並みはいつも以上に美しく見える。

 いつも近くにありすぎて気がつかなかったが、少し視点を変えて見ると今まで知らなかったことを知ることが出来た。そんなことを考えていると、はやて、なのはさん、フェイトさんが話し始めた。

 

「あんな、ハムテルくん。ちょっと話があるんや」

「ん?」

 

 おれは見て居た海鳴の街並みから目を離し、はやての方へ振り向く。すると、そこにはいつも以上に真剣な目つきをしたはやてがおれのことを見つめていた。だが、それははやてだけでなく、なのはさんとフェイトさんもはやてと同じような雰囲気を出しておれを見ていた。

 

 

「なんだ、そんな顔して。こわいな」

 

 それはおれの正直な気持ちだった。今までこんなことは無かった。突然こんな風に見つめられると、流石のおれでも緊張してしまう。

 だが、三人はおれの気持ちなど知ったことかというように話しだした。

 

「公輝」

 

 はやてがおれのことを愛称ではなく、名前で呼ぶ。

 

「私たち」

 

 フェイトさんがいつか見たような覚悟を決めた様子で言う。

 

「あなたのことが!」

 

 なのはさんが砲撃を撃つ直前に相手をロックオンする時のような目を向けながら言う。

 

「「「大好きです!!」」」

 

 

 

 

 

 あの後のことはよく覚えていない。

 情けないことだが、彼女たちに告白されて呆然としてしまった。

 かろうじて、「答えは出来れば早い内に」「おれがどんな答えを出そうとも、三人はその結果を受け入れる」と、言う旨の話をしていたのは覚えている。彼女たちは自身の思いを告げると先に帰って行った。おそらく、おれがみんなと一緒に居ると気まずいだろうと気を回してくれたのだろう。まあ、おれの帰る場所ははやての帰る場所でもあるから余り意味は無いのだが。

 

「……告白……だよな……」

 

 海鳴の街を一望することが出来る場所にあのままずっといても仕方がないと思ったおれはその場を離れることにした。気付いた時には三十分程経っていた。

 

「おれは……」

 

 この間フェイトさんから買い物に付き合って欲しいと言われたのを勘違いしてしまったことがあった。その時のおれはフェイトさんと恋仲になるということを了承してしまった。だが、こういう言い方はあまり良くないが、その場の雰囲気に流された感があるのは否めない。人目のある前での告白(のようなもの)。そこでごめんなさいと言うのは難しいだろう。もちろん、そんなつもりでYESと答えたわけではなかったと思うが、無意識の内にやってしまっていたのかもしれない。

 しかし、今回は違う。あの場には告白をした人とされた人しかいなかった。そして、今回は勘違いでもなく、彼女たちは考える時間を与えてくれた。

 考えれば考えるほど自分はどうすればいいのか……いや……自分はどうしたいのかが分からなくなる。

 おれにとってはやては家族だし、なのはさんとフェイトさんは親友だ。その関係が男女の仲になるというのは正直あまり想像できない。

 

「……どうすれば……」

(……キッ! マサキッ!)

 

 おれは考えることに夢中になっていたようで、リインさんがおれに声を掛けてくれていた事に気付くのが遅れてしまった。

 

(前に誰かいる! 気を付けろ!)

「え?」

「サカウエ先生ですね。ドクターがお呼びです。一緒について来てもらいます」

 

 家に帰らなければいけないが、何となく帰るのが憚られたおれは人通りの少ない裏通りを使いながら回り道をしていた。こんなことをしても何の意味もないということは分かっているのだが、そうせずにはいられなかった。

 そんな人通りの少ない道は明かりも少ないため薄暗い。どうやら今目の前にいる不審者にそこを狙われたようだ。

 

(リインさん……頼んだ)

(任せておけ)

 

 おれは体の操作権をリインさんに渡して目の前の不審者をどうにかしてもらうことにした。

 

「動くな。その方が自身の身のためだぞ」

(クッ……いつの間に後ろに……全く気が付かなかった)

 

 リインさんが動きだそうとした瞬間、後ろから声を掛けられる。後ろにいる人物から感じる気配はまるでおれに刃物を突き付けているかのようだ。その気配だけで動くと大変なことになるだろうと推測できる。

 

「それでは行きましょう」

 

 前に立っていた女性がこちらに近づいてくる。今まで街灯に照らされていなかったその人物はこちらに近づくことによって街灯が照らす明かりの範囲内に入る。その不審者は紫髪で長髪の女性だった。

 その女性がそう言うと、魔法陣が展開される。何らかの魔法を行使する気のようだ。

 

(これは……転移魔法か!)

 

 リインさんによるとどうやら転移魔法のようだ。そうなると、おれはこれからどこかへ連れて行かれるのだろう。

 

(マサキ、私とのユニゾンを解除しろ。主達にこの事を知らせてくる)

(でも、おれとのユニゾンを解除したら……)

 

 リインさんを通した夜天の書の修復はまだ完了していない。この状態でユニゾンを解除してしまったらまた闇の書に戻ってしまうのではないだろうか?

 

(問題ない。私の修復は想定以上の早さで行われている。今ならユニゾンを解いても、良くはならないだろうが悪くもならない。それくらいには夜天の書の主導権は私が握っている)

 

 どうやらリインさんは大丈夫なようだ。それなら何とかなるだろうか。

 

「それでは向かいます」

 

 不審者の女性は準備が整ったことを伝える。

 

(私はお前との魔力の繋がりを頼りにマサキの元へ主達の元へ連れて行く! 心配するな)

 

 リインさんはおれを安心させようと声を掛けてくれる。彼女がここまで言うのなら大丈夫だろう。

 

((ユニゾンアウト))

「転移」

 

 紫髪の女性が転移魔法を行使するよりほんの少し先に、おれとリインさんのユニゾンが解かれる。その一瞬の内にリインさんが転移に巻き込まれないように素早くこの場を離れたのが見える。

 

(リインさん頼んだ)

(ああ)

 

 その念話を最後に、おれは不審者に誘拐された。




決戦編と言ったな、あれは嘘だ。
これから始まるのは誘拐編だったのだ!


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不老不死と髪と15話

            |
             |  彡⌒ミ
            \ (´・ω・`) また髪の話してる・・・
             (|   |)::::
              (γ /:::::::
               し \:::
                  \


 

 今私は、なのはちゃん、フェイトちゃんと一緒に喫茶翠屋に来ている。もうすぐで閉店だが、今日は閉店まで居させてもらうつもりや。あいつも家に帰り辛いと思うけど、それは私やて同じこと。ここで三人で打ち上げっちゅうか、反省会っちゅうか、まあそんな適当な理由をつけてここにいさせてもらっとる。

 

「はー……とうとう言ってもうたな……」

「はやてちゃん、それもう四回目だよ」

「私たちにできることは全部やったんだから」

 

 確かにそうや。私たちにできることは全部やった。

 最後の作戦会議で私たちはあいつをショッピングに誘った。しかし、実際はショッピングとは名ばかりのデートや。まあ、あいつはそんなことは全く思ってへんかったやろけど。

 とにかく、私たちは三人であいつをデートに誘うことにした。それはあいつが一番良い答えを出すための参考にしてもらうつもりの物。もしかしたらそんなものはいらんお世話なのかもしれへん。やけど、これはどんな結果に成ろうとも、私たちが心の残りを失くすための悪あがきでもあった。

 そのデートが終わった後は私なりにええ雰囲気の場所にあいつを連れて行き、私たちはその思いを告げた。

 告げたことに対して私は後悔もは無い。後悔はないけど……

 

「はぁ……」

「はやてちゃんってこう言うことは引きずるんだね」

「慣れてへんからなぁ……はぁ……」

 

 やはり、落ち着かないものは落ち着かない。私はさっき思い人に告白をした。そして、今は結果待ち。誰だってこの時間は緊張の一瞬のはずや。この瞬間に慣れとる奴なんてそうはおらんやろう。

 

「うふふ……青春ね」

「ああ。青春は良いものだ」

 

 店じまいの準備をしているなのはちゃんの両親である桃子さんと士郎さんがなんとも温かい目をこちらに向けながら話している。あの……恥ずかしいんでそれ以上は……

 

「あうあうあー」

「はやてちゃんうるさいよ」

「はやてうるさい」

 

 あかん。だんだんなのはちゃんとフェイトちゃんの私に対する扱い方が雑になって来とる。これは二人もなんだかんだ言って大分キとるな。

 そんな生ぬるいながらもゆったりとした時間が流れていた。

 しかし、その時間は思いもよらない来客によってぶち壊された。

 

「主! ここにおられましたか!」

「リ、リイン!?」

 

 翠屋に駆けこんできたのはあいつとユニゾンして夜天の書の修復を行っているはずのリインフォースやった。

 

「な、何で……いや! それよりも……本当に……?」

「申し訳ありません主。そのことについては後程」

 

 私は今この場に居るはずがない人物が目の前におって頭が混乱してしまう。なのはちゃんやフェイトちゃんも予想外だったようで目を見張っている。士郎さんと桃子さんは状況が分からず反応に困っているようや。突然駆けこんできた迷惑な客ならやんわりと追い出してたかもしれんけど、私が反応したから様子を見とるんやろう。

 

「主だけでなく、なのはとフェイトも。これから話す内容を落ち着いて聞いてください」

 

 リインはそう前置きをした。

 彼女が何を言おうとしとるのか想像は全くできへん。やけど、何かとんでもなく嫌な予感がする。

 一息付いてリインは話し始めた。

 

「マサキが……誘拐されました」

 

 ゆう……かい……?

 誘拐?

 なんやそれ。

 そんなことは……許されへん。絶対にや……

 だって……

 

「「「まだ答えを聞いてない!」」」

 

 リインが言ったことを理解した私たちは同時に叫んだ。そして、あいつを取り戻すために行動を開始した。

 

 

 

 

 おれは誘拐された。

 まさか、こんな貴重な経験をするなんて……全く嬉しくない。

 

「やあマサキくん。調子はどうかな」

「少なくとも良くはない」

「ふむ、甘いものでも用意させよう。ウーノ、頼んだよ」

「承りました」

 

 おれに話しかけてきたのは紺色のスーツの上からヨレヨレの白衣をまとった紫髪の男性。奴は自分のことをジェイル・スカリエッティと名乗った。

 ウーノとはあの道でおれに話しかけてきた紫髪の女性であり、今この部屋から出て行った人のことだ。

 

「しかし、君の稀少技能(レアスキル)は本当によくわからないね。君の唾液、血液、髪の毛、果ては君の体細胞も使ってみたが、そのレアスキルを再現することは出来なかったよ」

「おれに言われてもな。自分でもさっぱりだ」

 

 ちなみに、今おれは拘束されていない。それどころか、相手の重要人物であると思われるドクター(スカリエッティ)とおれとの間にアクリル板などの遮るものもない。よほど自信があるのか、おれがそんなことはしないと思っているのか。いまいちよくわからない。

 それどころか、何か不都合な点があればすぐに解消してくれる。さっきウーノさんが作ってくれた料理はかなり美味しかった。

 

「君の体の一部のどこかしらに触れていれば生き物の怪我や病気はもとから無かったかのようになる。だが、君から離れた君の一部では効果が無い。ふーむ……」

 

 スカリエッティはおれの能力に興味があるらしい。全く……それだったらこんな誘拐なんて手段を用いず、直接頼めばいいのに。

 

「そういえば、どうしてあんたはおれの能力を再現したいんだ?」

「む? 気になるかね?」

「そりゃ、自分がこんなことになってる理由くらいは知りたいさ」

 

 おれはかねてより疑問に思っていたことを聞くことにする。さっき家に帰してくれと頼んだが、それは出来ないと言って拒否されてしまった。なので、救出部隊が来るまで暇だからお話でもして時間を潰すことにした。

 

「では、教えてあげよう! 私は」

「失礼します。紅茶とケーキをお持ちしました」

「あ、どうもありがとうございます」

 

 スカリエッティが話し始めようとしていた所にウーノさんがお盆に乗せた紅茶とケーキを持ってきた。その紅茶とケーキをおれの前に置くと、一礼して出て行ってしまった。

 

「あれ? 私の分は? まあ、いいか」

 

 スカリエッティは特に気にした様子もなくさっきの話の続きをし始めた。

 

「ごほん。私はご覧の通り科学者だ」

 

 そう言いながらスカリエッティは椅子から立ちあがり、着ている白衣を見せつけるかのようにひらひらさせる。

 確かに、見た目は科学者だ。少なくとも謎のヘルメットと謎のマスクをつけてほぼ真っ赤な服を着て自分のことを軍人だという奴よりは説得力がある。

 

「凝った研究をするには色々と必要なものがあってね」

「お金か」

 

 おれは自分の予測を口にする。どこの世界でも科学の発展に戦争と金は付き物だ。

 

「そうだね。そういう必要なものを提供してくれるスポンサーが私には付いている。この研究所の場所なんかも彼らから快く提供してもらったよ」

 

 快く(意味深)。いや、気にしないでおこう。

 

「だが、彼らは善意の心で私に寄付してくれているわけではない。彼らは私を支援することによって、それ相応の対価を得るんだ」

 

 当然と言えば当然だろう。スポンサーという物は自分が資金等を提供することによって、時に技術を、時に利益を、時に組織の力を得る。

 

「ところでマサキくん。金も権力も名声も女もしくは男も、すべてを手に入れた人間は次に何を欲しがると思う?」

 

 金、権力、名声、人間。それは権力者が持っているものであり、また常に追い求めている物でもある。しかし、人の身で手に入れることが出来るものを全て手に入れた人間が次に欲しがるもの。それは……

 

「永遠の命……とか?」

「その通り! 永遠の命! 死の無い生! ここでは死ぬことのない生が命であるのかという議論は置いておくとしよう」

 

 スカリエッティは命の話をし始めるとどんどんテンションが上がっていく。

 

「だが、強欲な彼らは不死だけでは飽き足らず、実際は不老も同時にお望みなのさ」

 

 不老不死。

 それは地球のかつての権力者たちも血眼になって探したものだ。

 不老と不死がイコールでないのは有名な話だろう。別にどうでもいいけど、不老じゃないが不死の人間は歳を取り続けるとどうなるのだろうかと。老いて体を自由に動かすこともできず、内臓系も弱り切る。それでも死ぬことは無い。きっと死ねない体を恨むことだろう。

 

「私はこう見えても生命を専門とする科学者でね。生命を探求する研究者として、命の循環を止めてしまう不老不死は決して触れてはいけない禁忌だ。だが同時に! 命を絶やさないための研究は生命を専門とする研究者が取り組まずにはいられない至上命題でもあるのだよ!」

「なるほど。それでおれの能力に目を付けたわけだ」

 

 合点が言った。スカリエッティがおれの能力を利用としようとしたのは不老不死を実現するためだったのか。

 確かに、おれの能力を利用すればそんなこともできるかもしれない。しかし、人間である限りはいずれ死ぬという事は人間を構成する肉体、魂、精神の全てに刻み込まれている。そこを無意識の内でも認識している限りは不老不死は無理だろう。もし、自分は老いることも無く、死ぬことも無いと心の底から信じられる人間が居るとしたら、それは人間じゃないか何も知らない無垢な子供くらいだろう。それとも催眠術でも使って思いこませるか?

 

「そう! まさに神の御業! 人の身でありながら神の御業を行使出来たら、これはとてもおもしろいだろうね……」

 

 スカリエッティは「クックック……」なんて笑いをしている。その表情はとても楽しそうで愉しそうだ。こいつはヤバイ奴なんだなと再認識させられる。

 

「ここでまた質問なんだが」

 

 さっきまでのハイテンションは嘘だったかのように落ち着いた様子で椅子に座り直す。

 

「権力者達は不老不死と同時に大抵もう一つ欲しいものがあるんだ。それは何だと思う?」

 

 すべてを手に入れた権力者が不老不死と同時に望むもの。なんだろう。永遠の命はすぐに答えられたが、もう一つの望むものは分からなかった。

 

「分からないかい? それじゃ教えてあげよう」

 

 スカさんは姿勢を改めて、指を組んで肘をつく、所謂ゲンドウポースを取ってゆっくりと話し始める。

 

「……髪だ」

「神……」

 

 そうだ、何でおれはこんな単純なことを忘れていたんだ。

 

「そう。髪の復活だ」

「神の……復活……」

 

 宗教。

 

 それは信じるものも居れば信じないものも居る。そんなあやふやなものだ。しかし、それを信じるものは確かにいる。生活に困窮する者、一般的な生活をする者、所謂上流階級の者。そして……時の権力者。

 欧州において、一国を治める王達にとってキリスト教は大きな存在だったという。キリスト教の名の下には王すらも一人の信者でしかない。

 日本の天皇陛下やキリスト教のローマ法王等、彼らはその地に根付く宗教において大きな役割を果たす人物だ。その性質上、時に彼らは一国の王すらも凌駕する権威を持つこともある。

 ところで、神はいるのだろうか? この質問にはだれも答えることは出来ないだろう。だが、少なくともおれは超自然的な力を持った所謂『神』と呼ばれる存在はいると思う。例えば地球と生物の存在。地球に生物が住めるという状況は本当に奇跡的な現象なのだ。それをやってしまった何かが居ると考えるのは自然なことだろう。

 クリスマスにはツリーを飾り、正月には神社に行き、葬式はお寺に頼む。そんな典型的な日本人である、宗教に対して適当な感覚を持っているおれでさえそう考えるのだ。宗教に対して真剣に考えている人だったら……

 

「彼らは失くしてしまったモノ()を取り返したいそうだよ」

「なるほど……」

 

 果たして神と呼んで崇め奉っている存在を現世に復活させることは教えに反していたりしないのだろうか? それは置いておいても、自分が神と信じているモノに一度は会ってみたいと考えるのは仕方のない事だろう。

 

「全く……あのハゲどもはどうしようもないな」

「おいおい……」

 

 ハゲって……地球以外の宗教についてそれほど詳しい訳ではないけど、それは剃髪してるんだろ。聖職者に対してその呼び方はあんまりじゃないか。

 スカリエッティは溜息をつく。どうやら彼にとって、神の復活は永遠の命の実現とは違って興味を引くものでは無いみたいだ。

 彼は神学者ではなく、科学者。その立場上神という存在に対しては懐疑的なのだろう。

 だけど……神の復活とおれの能力に何の関係が? たぶん、おれなんかじゃ思いも付かな事を考えているんだろう、スカリエッティは。聞いても理解できないだろうから質問はしないでおく。

 

「さて、ケーキも食べ終わったようだし、本題に入ろうか」

 

 おれがケーキを食べ終わり、紅茶を飲み終わったのを見定めて、そう言った。

 

 スカリエッティの浮かべる薄い笑みに何とも嫌な予感がした。




か→み↑
か↑み↓

追記
再現という言葉を使いすぎていたのが気になったので、一部変更。


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救出と返事と16話

ちょっとエロいかな?まあ、問題ないでしょう。

今の時期に稼働しているナンバーズはⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳの四人と言うことにします。

追記
プレシアさんが生きてるのにリンディさんのことをフェイトの母親としていたことを修正しました。


 

 

 私はクロノくんのお母さんであるリンディ・ハラオウンさんと話している。

 

「ごめんなさいね、みんな……今すぐ動ける部隊は無いみたいで」

「いいえ! そんな。私たちが現場に向かうための手続きをこんなに早く済ませてくれただけで十分です」

 

 リンディさんは申し訳なさそうな顔で私に言ってくる。やけど、あいつの誘拐が判明してからリンディさんに相談したら、信じられへん早さで管理外世界への転移の許可や、救出作戦実行の許可を取ってくれた。

 残念ながら、今すぐ動ける武装隊はおらんようで、基本的に私、なのはちゃん、フェイトちゃんだけでやらなあかん。そして、ヴォルケンリッターのみんなにも同じことが言える。ヴォルケンリッターのみんなは最近管理局の仕事で一週間程別行動しとる。今からみんなを呼ぶには時間があらへん。

 

「今ではマサキくんはあなた達と同じように管理局にとって無くてはならない存在です。もちろん、それだけじゃなく私個人としても応援してるわ。がんばってね!」

「「「はい!」」」

 

 リンディさんの激励の言葉を受けて、私たちは様々な思いを込めて応える。

 

「現場での指揮を執る。なのはちゃん、フェイトちゃん。準備はええか?」

「もちろんだよ」

「大丈夫」

 

 リンディさんとの話を終えた私は二人に準備ができたかどうか確認をする。まあ、そんな必要はなかったようやけど。

 

「よし! 出撃や!」

「「おー!」」

 

 私たちの思いに対する返事をする前にいなくなるなんてのは絶対に許さへんからな!

 

 

 

 

「ちょっとついて来てもらいたい」

 

 スカリエッティはそう言い、椅子から立ちあがる。その場から動かない所を見ると、どうやらおれが動くのを待っているようだ。

 仕方ない、どうせ拒否権は無いんだ。おれは嫌な予感を抱きながらも彼に付いて行く。

 

「マサキくんは人間の子供は生後まもなく、視力0.02程と言うのは知っているかい?」

 

 コツコツと足音を鳴らしながら歩いていたスカリエッティは突然おれにそう聞いて来た。一体どういった意図があるのかさっぱりわからないが一応答えておく。

 

「確か、母親が赤ちゃんを抱っこすると、母親の顔がよく見える程度の視力……なんだったか」

「うん、その通りだ。マサキくんはこのことをどう思う?」

 

 今度はそのことに対しておれがどう思うか聞いて来た。やはり、彼がどういった意図でこの質問をしてきたのか分からない。

 

「どうって……よくできてるなーって?」

「そう! 生物と言うのはよくできているんだ!」

 

 両腕を大きく広げて、空を仰ぎ見るような動作をするスカリエッティ。その様子は後ろ姿からだけでもテンションが上がっていることが分かる。どうやらおれは奴のスイッチを入れてしまったようだ。

 どうもスカリエッティは生物、ひいては生命に関する話題になるとテンションが高くなる傾向にある。確かに、それを専門とする研究者であることを考えるとそれは自然なことではあるが、付き合わされる側からすると若干ウザい。

 

「その生物の行動に、体を構成する要素に、一見無意味に思える思考に。その全てに生物がより生き残るために必要なことを含んでいるんだ! では、その生物の生き残るための知恵。財産と言ってもいい。それらは一体誰から受け継がれるのか?」

 

 歩き続けながらもスカリエッティは話を続ける。それはまるで、先生が生徒に教えるように。

 

「それは親だ。では、その親は一体誰から? それはさらにその親からだ。こうやって、生物の財産は当代の個体へ連綿と受け継がれている。考えて見給えマサキくん。君の体を構成する細胞の一つ一つが君の祖先達からの贈り物なんだ。その才能(スキル)すらもね」

 

 長い廊下を歩き終え、おれは別の広い部屋へと案内された。目的地はそこだったようで、さっきまで背中を見せていたスカリエッティはこちらに向き直る。

 

「だから私は生物が本来持つ力を利用することにした。ポチっとな」

「なっ!?」

 

 スカリエッティが合図とともに、いつの間にか持っていた何かのスイッチを押す。すると、おれの後ろに板がせり上がり、おれはその板にバインドによって縛りつけられる。板はおれを縛りつけたまま90度回転し、台に寝かせられる格好となった。

 

「君の体細胞は私に何も語ってはくれなかったからね。そこで、君の性細胞に聞くことにした」

「は?」

 

 え? まさか……そんな。嫌だよ! よく知らない科学者におれの性細胞を提供するとか! だからと言って、知り合いの科学者に提供するのはもっと嫌だが。

 それに性細胞を提供するってことは……な、ナニをする気なんだ! この変態!

 

「体細胞クローンを作るのも手だが、これは時間が掛かるからね。とりあえずこれは後回しにすることにしたんだ」

「いや、そんなこと聞いてないから」

 

 スカリエッティは何がそんなに可笑しいのか、ニヤニヤと笑いながらおれに近づいてくる。おい、バカやめろ。近づくな変態。

 

「なに、君にとっても悪い話ではないはずだ。ギブアンドテイクだよ」

 

 そう言って「クックック」と奴は演技じみた笑いをする。ふむ、何かおれと取引をするという事だろうか。どんな好条件だろうと全部突っぱねてやる。

 

「ドクター、お呼びでしょうか」

「はーい、ドクター。何か御用?」

「やあ、来てくれたようだね二人とも」

 

 さっきおれ達が入って来た入り口から二人の女性が入って来る。一人はウーノさんで、もう一人は茶色の髪を後ろで二つに結び、丸メガネを掛けた見知らぬ女性だ。

 

「彼女の名前はクアットロ。仲良くしてくれ給え」

「あらあら、あなたが最近話題のおまぬけな先生ね。よろしく~」

 

 どうやら、クアットロと言う名の女性はおれと仲良くする気はないようだった。しかし、おれは彼女の姿をある人物とダブって見えていた。そのおかげというのだろうか? おれは彼女に対して悪い印象を持つことが出来なかった。

 

「近所の……おばさん!」

「なっ!?」

 

 クアットロさんの容姿は近所のおばさんの若い頃がこうだったといわれれば納得できる位には似ている。特に髪の広がり具合が結構近い所がある。

 あの人にはとてもお世話になったから、どうしてもそんな人にどことなく似ている彼女に悪感情は抱けない。

 

「うむ、どうやら二人とも仲良くなったようだね」

「ドクター、一度眼下へ行った方が良いかと?」

「む、そうかい? 視力が2.1なのが隠れた自慢なんだがね。クアットロがそう言うなら今度行ってみるとしよう」

 

 クアットロさんはウーノさんとは違って、スカリエッティに対してあまり遠慮はしない人のようだ。

 

「さて、二人が来たから話を進めよう」

 

 スカリエッティは話を再開する。そして、一息ついて奴はこう言い放った。

 

「マサキくんにはこの二人のどちらかとヤッてもらおうと思う」

「……は?」

 

 あれ? 聞き間違えたかな。ヤる? ……あー、あの「今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをして貰います」って感じかな。時々殺すの隠語としてヤると表現されるしな。

 しかし、困った今はリインさんとユニゾンしていないから戦いなんてできないぞ。

 

「ん? ああ。安心し給え。彼女たちは私の最高傑作だ。完成度は折り紙付きだ」

「何も安心できねーよ!?」

「きっと気持ちいいはずだよ」

 

 Oh……どう考えても殺し合いではないよ。最高傑作とか、完成度とかいまいちよくわからない所もあったが、これは間違いない。スカリエッティは彼女たちを使ってR18的なことをさせる気だ。

 ちょっといいかもって一瞬でも思ってしまった。だけど仕方ないよね。だって、童貞だもの(直球)。

 

「……そ、そこの二人は嫌だよな! こんなよく知らない男とそんな事するなんて!」

 

 おれは苦し紛れに反論を行う。反論をするまでに少し間が空いてしまったのは気の所為だ。気の所為だったら気の所為だ。

 

「ふむ、二人はどうだい?」

 

 スカリエッティがウーノさんとクアットロさんにそう聞く。よし、これで二人が拒否すれば回避できるはずだ。

 

「ドクターがそうしろと言うのであれば私は構いません。私としてはドクター専用でいたいですが」

「えっ」

「私は嫌ですわ。こんな男なんて」

 

 ウーノさんは消極的承諾。クアットロさんは拒否。

 おかしいだろ。普通はクアットロさんの反応が正しいはずだ。

 て言うか、なんでスカリエッティはウーノさんの発言に若干引きながら疑問を呈しているんだ。ウーノさんとスカリエッティはそういう関係ではないのか? しかし、そういう関係だったとしたらスカリエッティは自分のパートナーを他の男と関係を持たせようとさせる変態になるぞ。やはり変態か。

 

「では、ウーノに頼むとしよう」

「やーめーろー!」

 

 おれはせめてもの反抗としてじたばたするが、おれを捕えるバインドはかなり固い。

 

「ドクター? 集合せよとのことでしたが、何かありましたか?」

 

 ウーノさんがこちらに歩いてこようとしていた時、再び入口の方から声が聞こえてきた。声の主は金髪長髪のこれまた綺麗な女性だった。

 

「おや? ドゥーエか。任務の方はどうしたんだい?」

「今日は休暇なので、久々に姉妹の顔でも見ようかと思いまして」

 

 その女性の名前はドゥーエと言うらしい。

 

「ちょうどよかった。ドゥーエはどうだい? 彼とヤッてみるかい?」

 

 スカリエッティはドゥーエさんにも聞いている。いやいや、女性にそんな聞き方があるかよ。しかも、そんな直球な聞き方で……

 

「いいですね。ヤります」

 

 即答だった。

 

「いやいやいやいや! 駄目だろ! もっと自分を大事にしろよ!」

 

 それよりも、彼女は何の話か理解してるのだろうか?

 

「ん? 何か勘違いをなさっていますね」

 

 ドゥーエさんは目を伏せ、まるでできの悪い子供に悟らせるかの様にこう言った。

 

「私、ショタコンなんで大丈夫です」

「なん……だと……」

 

 二度目の人生を歩み出してから、そういう行為を気にするようなことは一度もなかったから気付かなかったが……

 

「おれ自身が……ショタだったのか……」

 

 まだおれの年齢は十三歳。おれ自身が所謂ショタコンと呼ばれる人種の標的にされることなんて想像もしていなかったため、ほんの一瞬だけ頭が真っ白になってしまう。

 

「はーい、それじゃあ脱ぎ脱ぎしましょうね~」

「って!? や、やめろー!」

 

 その隙をつかれておれはドゥーエさんにマウントポジションを取られてしまう。

 やばい、このままではおれの貞操が……

 

「はーあ、下らない。私は自分の部屋に戻らせてもらいますわ、ドクター」

「おや? クアットロは見ないのかい?」

「興味ないですもの」

 

 ズボンに手を掛けてくるドゥーエさんに必死に抵抗していると、クアットロさんはそう言ってこの部屋を出る。

 スカリエッティよ、行為の一部始終を見るつもりなのか……全く、度し難いな。

 

「「「「え?」」」」

 

 クアットロさんは部屋を出て行った。いや、正確には出て行こうとした。ドアをくぐろうとした瞬間、ピンク色のゴン太ビームが研究所の壁と一緒にクアットロさんを貫いて行ったのだ。

 このビームは……なのはさんのスターライトブレイカー!

 

「何!? トーレに警戒させていたはずだが」

 

 トーレとは、おれが誘拐された時に、おれの後ろで脅して来た人の事だ。ウーノさんのような紫髪であるが、短髪の見た目武闘派の女性だ。

 

「モニターに出します」

 

 スカリエッティは今まで見せたことのない焦った表情をしている。ウーノさんは空間にいくつかのモニターを出し、研究所内を映し出して行く。

 その中の一つにバインドによって亀甲縛りにされ、適当に転がされているトーレさんが映った。

 

「この一見亀甲縛りだが、結び方が間違っている似非亀甲縛りは……はやてか!」

 

 おれははやても来てくれたことを知って安堵する。

 

「流石に彼女たちは強……」

 

 スカリエッティの言葉はそこで遮られる。なぜなら、おれの傍で立っていたスカリエッティが突然消えたのだ。

 スカリエッティが消える直前、おれは光を見た。それは金色に輝く電光だった。そんな、驚異的なスピードを実現する人をおれは一人しか知らない。

 フェイトさんも来てくれたのだ。

 だが、フェイトさんはこの場にはいない。おそらく、フェイトさんはその自慢のスピードを全力全開にしてスカリエッティに突っ込んだのだろう。そう、自身も止まることが出来ないスピードで。

 

「ドクター!」

 

 スカリエッティの身を案じて、ウーノさんがスカリエッティが飛ばされた方へ向かって行った。

 

「ドクター、これはいけません。私がつきっきりで看護して差し上げます」

「え? いや、そこまで酷い怪我では……」

「いえ、それはドクターの思いこみです。大丈夫です。全て私にお任せください」

「え、あ、ちょっ」

 

 声だけしか聞こえなかったが、スカリエッティはウーノさんにどこかへ連れて行かれた様だ。そのまま二人でよろしくやっていればいいよ。

 はやて、なのはさん、フェイトさんの三人が来てくれたという事は、おれの身の安全は保障されたと言うことと同義だ。

 

「な、な、な……」

 

 ドゥーエさんは今だに混乱しているようだ。おれの上で。

 なんでもいいから早くおれの上からどいて欲しい。

 

「デアボリックエミッション! ミニバージョン!」

 

 なのはさんのビームによって一直線に穴が空いた壁の先からはやての声が聞こえた。

 ……デアボリックエミッションって、すごい魔力の塊みたいなのが中心部から外周部への向きで衝撃が広がっていき、辺りを一掃する魔法だったよな。以前見せてもらったことがあるが、とてつもないものだったことは覚えている。

 思いだしてみよう。クアットロさんはなのはさんによって撃ち取られ、スカリエッティとウーノは二人でどこかへ行った。つまり、この場に居るのはおれと、おれに対してマウントポジションを未だ維持しているドゥーエさんだけだ。という事は、はやてのデアボリックエミッションはドゥーエさんに対して行使されたものと思われる。そもそも、個人に対して行使する魔法ではない。

 

「きゃああああああああああああああ!!!!」

「うわああああああああああああああ!!!! 鼻が! 鼻が削れるうううううううぅぅぅぅ!!!!」

 

 さっき、はやてはミニバージョンと言っていたが、おれとドゥーエさんの距離はとても近い。

 ドゥーエさんの上半身はデアボリックエミッションにすっかり包み込まれてしまった。そして、その魔力の塊はおれの鼻先まで来ている。

 怖すぎる。

 しばらくすると、デアボリックエミッションは消える。魔力ダメージを相当受けたであろうドゥーエさんは気絶してしまったようで、力を失くした彼女はおれが寝かせられている台から転がり落ちる。

 

「助かった……のか?」

「お待たせ、マサキ」

 

 おれは「ふう……」と、一つため息をする。それと同時におれを縛っていたバインドがフェイトさんによって解除される。

 

「ハムテルくん! 大丈夫やったか!」

「公輝くん! 怪我はない!」

「フェイトさん、はやて、なのはさん……ありがとう」

 

 本当に……本当にありがとう……

 もう少しでおれはまだ肉体年齢的に昇っちゃいけない階段を昇るところだった。

 そうだ、感謝をしなければいけない人がもう一人いたんだった。

 

「リインさんもありがとう」

(どういたしまして、マサキ)

 

 それははやてとユニゾンしているリインさんだ。彼女がこの三人を連れて来てくれなかったらと思うと……

 

「じゃあ、帰ろうか」

「待って」

 

 色々あり過ぎて疲れたおれは家へ帰ることを提案したが、はやてがそれに待ったを掛ける。

 

「ほんまやったら、ハムテルくんも疲れとるやろうから、また今度にしたかったんやけど、もう私たちは我慢できへん!」

 

 はやてはどこか追い詰められた様子でおれに訴えてくる。おれはなのはさんとフェイトさんの事を見る。どうやら言葉にはしないが、彼女たちも同じ意見らしい。

 ……どうやら、先延ばしにすることは出来なさそうだ。

 おれは誘拐されても、あのことを考えることをやめたわけではなかった。しかし、誘拐という思わぬ事態に直面し、おれはそのことを頭の片隅に追いやっていたのも事実。

 だが、やはり答えなければいけないのだろう。

 

「返事……か」

「うん」

 

 はやても、なのはさんも、フェイトさんも、そしておれも。この場にいる全員がそれを望んでいる。

 

 この場に静寂が包み込む。

 

 ここでおれが答えを先延ばしにしても、彼女たちはまだ待ってくれるかもしれない。ああは言っているが、彼女たちはおれに考える時間をもう少しくれるだろう。

 

「おれは……」

 

 だけど、事態の先延ばしはおれ自身も望んではいない。それはあまり良い選択肢ではないから。もちろん、だからと言って適当な選択をするわけではない。

 なぜなら、答えはとうに決まっているんだから。

 決まったのはいつだろうか。もしかしたら、彼女たちに思いを告げられる以前から無意識の内に考えていたかもしれない。

 どちらにしろ、もう考える時間は……必要ない!

 

「おれは」




はやてがわざわざデアボリックエミッションを使ったのは公輝くんに対する嫌がらせの意味もちょっとだけ込められてたり。


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終わりと始まりと最終話

これはオマージュ。オマージュなんだ……


 おれは気づいたらそこに居た。

 

「あん?」

 

 見上げれば青い空と白い雲。 

 見下げればおれ達が住む街、海鳴市が見える。

 どうやら、おれは空に浮いているようだ。しかし、感覚的には空に立っている感じだ。

 おれは自分だけでは魔力が足りないため、飛行魔法はおろか、宙に浮くことすらもできない。リインさんとユニゾンしている感覚が無いため、これはあり得ないのだ。つまりこれは夢だろう。

 

「夢……か……」

 

 夢の中なら独り言を呟いてもいいよな。これで実は誰かに聞かれてるなんてことがあれば恥ずかしいが、やはり声を出すという事は状況の把握に努めるのにとても役に立つ。

 夢だという自覚ができたところで、おれは夢を見る前のことを思いだす。つまり、それは意識を失う前のこと。

 長い付き合いの少女達からの告白。そして、それに対する返事。

 そう。おれは確かに返事をしたのだ。

 返事をしたと言うことは選んだという事だ。誰も選ばなかったという選択はしていない。おれはあの三人の中から一人を選んだ。だけど……

 

「おれは……誰を……選んだんだっけ……」

 

 思いだせない。

 思いだせない。

 何でこんな大事なことが思いだせないんだ!

 

「思いだせん!」

 

 おれは思わず頭を抱えてしまう。

 

 

 

 そんな時、おれは拍手の音を聞いた。

 まさか今までの独り言からの不自然な挙動を見られたのか! そう思ったおれは拍手をしている人物を確かめるために慌てて振り返る。

 

「……ジュン?」

 

 おれの後ろに立って拍手をしていたのは、親友である佐藤潤一だった。

 

「おめでとう」

 

 ジュンは拍手をしながらおれに対してそう言った。一体あいつは何に対しておめでとうと言ったんだ? 

 おれはその意図が分からず困惑するが、また別のところから拍手の音が聞こえてきた。

 

「「おめでとう」」

「……アリサさん、すずかさん?」

 

 これまたクラスメイトのアリサさんとすずかさんだ。彼女たちもジュンと同じように拍手と称賛の言葉をおれに送る。

 

「おめでとう」

「リンディさん?」

 

 クロノさんの母親のリンディさん。

 

「「おめでとう」」

「士郎さん、桃子さん?」

 

 なのはさんの父親の士郎さんと母親の桃子さん。

 

「「おめでとう」」

「プレシアさん、アリシアさん?」

 

 フェイトさんの母親であるプレシアさんとお姉さんのアリシアさん。

 

「おめでとう」

「スカさん、ウーノさん、ドゥーエさん、トーレさん、クアットロさん?」

 

 スカさんが代表として称賛の言葉を口にし、その後ろで彼の娘たちが手を叩いている。

 いつの間にか知り合いや友人がおれの周りを取り囲んで拍手をするといういような状況になっている。そんな状況で、おれはあることに気付く。

 彼女たちが居ないことに。

 

「「「おめでとう」」」

 

 そんなことを考えた時、聞こえてきたのは彼女たちの声だった。

 

「なのはさん」

 

 彼女の笑顔はいつもおれを笑顔にさせた。

 

「フェイトさん」

 

 彼女のほほ笑みはいつもおれを安心させた。

 

 そして……

 

「はやて」

 

 彼女の破顔はいつもおれを幸せにさせた。

 

 他のみんなと同じように「おめでとう」と言いながら手を叩いている彼女たち。

 そして、彼女たちは全員笑っていた。

 だけど、おれは腑に落ちないことがある。

 

「これ、どういう状況?」

 

 それは、今の状況だ。

 

 夢の中のおれはここで意識が途切れる。きっと目が覚めるのだろう。

 

 その時、ここには居なかった女性の笑い声がかすかに聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

□ □ □ □ □

 

「……! ……ルくん!」

 

□ □ □ □

 

「……ーよ! はよ……!」

 

□ □ □

 

「……ーい! ……寝とるんか?」

 

□ □

 

「……。もうすぐで……!」

 

 

「はよ、起き! ハムテルくん!」

「イテッ!」

 

 おでこにちょっとした衝撃を感じておれの意識は急浮上させられた。目を開けると、そこには手を手刀の形にして振り下ろしたはやての姿が目に映る。

 

「な~にするー……」

 

 寝起きと言うこともあっておれの言葉は情けない感じに間延びしている。

 

「そんなぐっすり眠れるくらいにアインスの膝枕は気持ちよかったんやな」

 

 はやてのその言葉を聞いて今の状況がだんだんとわかった来た。今枕にしているものがフニフニで心地よい温かさだったことに疑問を覚えていたのだが、なるほど。どうやらリインさんの太ももの感触だったらしい。

 だから、おれははやての言葉に修正をしなければならない。

 

「膝枕じゃなくて……太もも枕だろ常考」

「……それは寝ぼけとるんか? それとも酔うとるんか?」

 

 確かにまだ寝ぼけているし、酔いも残っているだろう。そうでなければ恥ずかし気も無くリインさんの太ももを今も枕にし続けるなんてことはしない。あ~、心地よいんじゃ~。

 

「ええから、はよ起き!」

「あうん」

 

 はやてはおれの両手を掴み、無理やり上半身を立ちあがらせる。かなりの勢いで引っ張られたので頭だけが置いて行かれるかと思った。そのおかげで眠気も酔いも吹っ飛んで行ってしまう。

 

「もう年越しそば出来たで」

「そうか。除夜の鐘も聞かないとな」

「ミッドに除夜の鐘は無いやろ。まだ寝ぼけとるんか?」

 

 あれ? ここは海鳴じゃなかったっけ? ……ああ、ここはミッドだったな。

 おれはカレンダー機能付きの時計を見る。

 

 新暦81年12月31日午後11時40分。

 つまり、後20分程で年は明け、新暦82年を迎えようとしている訳だ。

 今日は大晦日と言うこともあり、普段はあまり飲まない酒を買って来てみんなで飲んだんだ。それで良い感じに酔いが回り調子良くなって、さらに飲んだような気がする。たぶん、その所為で眠ってしまったのだろう。

 

「何でもええけど、はよ来てな。みんなハムテルくん待ちやで」

「ああ、すまん」

 

 そう言ってはやては年越しそばが用意されているであろうテーブルのある部屋へ行ってしまう。

 

「リインさんごめんな? 足痺れただろ」

 

 おれはさっきまで枕にしていたリインさんに謝罪の言葉を伝える。いつ寝てしまったのか覚えていないが、はやてのあの言い方だとかなり長い間リインさんの太ももを下敷きにしていたようだ。

 

「そんなことはないさ。その間ずっとマサキが私に触れていたのだからな。疲れなどと言う物とは縁が無い」

「それもそっか」

 

 おれをずっと膝枕をしていたという事は、おれの能力の影響をリインさんはずっと受けていたことになる。そうなると彼女の足が痺れるという事にはならないはずだ。むしろ、溜っていた疲れも無くなったことだろう。

 それならば、おれは謝罪ではなくこの言葉を送らなければいけない。

 

「ありがとうな、リインさん」

「どういたしまして」

 

 おれは「よっこいせ」と言いながら立ちあがり、みんなが待っている部屋へ向かおうとする。

 

「マサキ」

「ん?」

 

 部屋へ行こうとした俺をリインさんが呼び止める。

 

「良い夢見れたか?」

 

 リインさんはそんなことを聞いて来た。

 夢か……

 確かに夢を見た気がする。

 運動会でラノベの主人公みたいになったり。

 家族にエロ本が見つかって大変なことになったり。

 何故かホモロリコンの容疑を掛けられたリ。

 誰かに誘拐されて、誰かにヤられそうになったり。

 そして……うーん……? 何かとてつもない一大事が起きたような気がするんだが……駄目だ。全く思いだせない。

 まあ、夢なんてものはこんなものだ。何かの夢を見たことは覚えているのに内容は大まかなことしか覚えていない。詳細を思いだそうかと思ったら、次の瞬間には夢の内容を全く思いだすことが出来なくなる。

 だけど、これだけはわかる。

 

「ああ。中々良い夢だった」

「フフッ……そうか」

 

 リインさんはそれだけ聞くと、先にみんなが待つ部屋へ行ってしまった。

 なんなんだ? よくわからないがおれもリインさんの後に付いて行く。

 

「遅いぞマサキ」

「すまんすまん」

 

 ヴィータがおれに文句を言ってくる。きっとはやてのギガウマ年越しそばが待ちきれなかったのだろう。明日ははやてのギガウマ御節が待っているというのにそんなことで大丈夫か?

 

「アインスの膝枕はそんなに良かったか」

「やっぱりマサキは変態だな」

「ノーコメントで」

 

 おれにからかった様子で聞いてくるシグナムさん。正直言って大変素晴らしいものでした。

 ていうか、アギトちゃん「やっぱり」って何? 君の中のおれのイメージは一体誰に植え付けられた。ん? 教えてごらん。お兄さん怒らないから。教えてごらん。

 

「む! キミテルさん! お姉ちゃんの太ももの一人占めは許せません!」

「じゃあ今日はリインさんの太ももをベッドにして寝るといいよ」

「それはいい考えです!」

 

 リインちゃんが「天才か!」って顔をしておれのことを見てくる。だけど、それだとリインさんが寝がえりをうつと、リインちゃんがプチッといっちゃう気がするのだが……言わないでおこう。

 

「同志マサキは膝枕をお望みですか? それなら私の太ももをいくらでも貸し出しましょう」

「あっ、ドゥーエさんは……遠慮しておきます」

「? 何故です」

 

 何故かドゥーエさんには近づいてはいけないような気がするんだ。何故だろう……

 

「早く座れ」

「……はい」

 

 ザフィーラさん……

 なんか……すいません……

 

「みんなー! これで完成ですよー!」

 

 キッチンの方から薄くスライスされたかまぼこを持ったシャマルさんが現れる。そして、手に持ったかまぼこを年越しそばの上に一つ一つ置いて行く。

 シャマルさん……いや、最後の作業は大切だよな。画竜点睛って言うし。年越しそばにとってのかまぼこは、絵に描いた竜にとっての目玉と同じくらい大切だもんな。

 

「な、何ですか! みんなそんな目で見て!」

 

 シャマルさんは座っているみんなの生暖かい目に釈然としない様子をしながらも自分の席につく。

 

「はいはい、みんな座ったな?」

 

 最後に八神家の家長であるはやてが席につく。

 

「今年も色々あったな~私もお腹刺されたりしたし」

「流石にあれは肝が冷えたぞ。もうあんなことは勘弁してくれ」

 

 はやてが刺された件は今年を代表とするような大事件と関連しているのだが、この事を話すのは今は止めておこう。

 

「でも、何があってもハムテルくんが助けてくれるやろ?」

「おう。おれの目の届かない所で死なれない限りは、絶対に助けてやるよ」

 

 と、意気込んで言ってみたものの、言ってからだんだん恥ずかしくなって来た。

 

「お、もうすぐで今年も終わりや。みんな、準備はええか?」

 

 はやての言葉にこの場に居るみんなが「もちろん!」と返す。

 時計を見ると、今年ももう残り数秒だ。そんなことを考えているともう来年が今年になり、今年が去年になる。

 

「「「「「「「「「ハッピー! ニューイヤー!」」」」」」」」」

 

 これは去年の終わり。

 そして、今年の始まり。

 また今日から新しい日常が始まる。

 

 この話は子供()時代の終わり。

 これからは大人(現実)時代の始まり。

 

 

 

 

 

 それは小さな切っ掛けなのかもしれない。

 しかし、小さな切っ掛けは大きな結果をもたらす最初の一歩だ。

 

 

 

 

 

 

 

 これは、変なところでヘタレる主の少女と恩人であり元パートナーだった少年の関係をちょっとだけ後押ししたいと思った、一人のユニゾンデバイスによるお話。

 

 

 おわり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、はやて」

「なんや?」

 

 そばを食べ終わり、おれが淹れた紅茶を飲んで一息付いているはやてにおれは言う。

 

「髪、伸びたな」

「そうやな~。ええ感じやろ?」

 

 はやてはそう言いながら伸びた髪を指に絡めてクルクルと弄る。

 かつては肩に届くか届かないか位であったはやての髪は、今や肩を少し超え、肩甲骨の辺りに届く位になっている。

 今まで特に気にしていなかったが、今日はやけにはやての髪が気になった。

 確かにはやての言う通りだ。不覚にも良いと思ってしまったのは事実である。

 

「まあせやろな。公輝くんの好みにドストライクやもんな?」

「何で知ってるんだよ!」

 

 しかし、そう言った時のはやての笑顔を見ると細かいことなんてどうでも良くなってしまう。

 これは家族の弱みなのか。

 それとも男の弱みなのか。

 

 

 はじまる?




 はい! これで終わりです!
 伏線も何もあったものじゃなかったですけど、とりあえずこのお話はおしまいです。こんな幕引きですみません! 許してください! 何でもしますから!
 まあ、それは置いておいて。
 みなさん、最後まで読んで頂きありがとうございました。
 一応この先のお話も想定しております。



 公輝たちは今年で26歳になる。周りの同僚達もどんどん結婚していき、「自分もそろそろ……」と焦りだした青年達。
 そんな中、リインフォースの後押しもあって公輝ははやてのことを意識し始める。しかし、はやて本人はその変化には気付かず、相変わらずヘタレてしまう。一方、なのはとフェイトは公輝の変化に何となく気がついていた。
 二人の少女は親友の二人をくっつけようと画策するのであった。

 歳を取ることで様々な知識(性知識とか)を得たかつての少女達。子供(夢)時代とは比べ物に成らないほどの苛烈なアピールを公輝は捌ききることができるのか!?

 魔法恋戦記リリカルまさき
 はじまる?



 書くかどうかの予定は全くの未定です。面白いアイデアが思い浮かべば書きます。
 どう見ても二期があるかのように終わったけど、円盤が余り売れなかったアニメの二期を期待するくらいの感覚で期待していてください。

 お疲れ様でした。


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現実という名のCパート
女子会と飲み会と1話


続くと思った?続いたよ。
本編考えてたらこっちが先に降りて来た。
またしばらくお付き合いください。


 

 

 

「フェイトちゃーん!」

「なのは!」

 

 私は向こうからやって来るフェイトちゃんを見つけると手を振って呼びかける。フェイトちゃんも私に気付いたようで笑顔を浮かべながら手を振り返してくれる。

 ミッドチルドの首都クラナガンの夜。仕事帰りの人達によって道は埋め尽くされている。それでもフェイトちゃんの綺麗な金髪のロングヘアーのおかげで一瞬で判別することが出来る。

 私の栗色の髪だと人混みに紛れちゃうかな?

 

「それじゃ行こうか」

「そうだね」

 

 目指すは居酒屋!

 

 

 

 

 

 

 やって来たのはグラナガンにある行きつけの居酒屋。

 居酒屋と聞くと仕事終わりのおじ様たちが集う場所のようなイメージがあるが、この店は女性が入りやすいように内装は明めで、甘めのサワーの種類が豊富。もちろん、食事は女性が好む物を豊富に取りそろえている。

 これらの理由でこの店は女性が行きやすいことで定評がある店なのである。

 

「私はカシオレと野菜のスティックを。なのはは?」

「私もカシオレと焼き鳥を……塩で!」

 

 やっぱりお酒のあては焼き鳥でしょ!

 ここの店の焼き鳥は良い物を使ってるみたいでとってもおいしい。

 一噛みすると口の中に溢れる肉汁。

 固すぎる事はなく、柔らかすぎることのない良い歯ごたえ。

 そして、この店で扱っている秘伝のタレと塩!

 タレも塩もどっちも美味しいから迷ってしまうけど、今日の気分は塩なので塩にすることにした。

 

「なのはは相変わらず焼き鳥好きだね」

「美味しいからね。フェイトちゃんにもあげる!」

「ふふ……ありがとう」

 

 可愛いもの見ているような、可愛くないものを見ているような何とも言えない表情を浮かべながらほほ笑むフェイトちゃん。

 一体どうしたんだろう?

 ……!

 わかった! フェイトちゃんはカシオレと焼き鳥の組み合わせが許せないんだね!

 

「大丈夫だよフェイトちゃん。次はビール頼むから!」

「なのは……」

 

 あ! フェイトちゃんが安心したような生暖かい目でこっちを見てくる。

 うんうん、やっぱり思った通りだ。美味しい焼き鳥はどんな組み合わせでも美味しくいただけるけど、やっぱり焼き鳥に合わせるお酒はビールだよね!

 ちゃんと私がビールと焼き鳥を合わせると聞いてフェイトちゃんも安心しているみたい。

 

「それにしても、はやては来られなくて残念だね」

「うん、最近はやてちゃん忙しいみたいだもんね」

 

 エクリイプスウイルスによって巻き起こされた大事件。その後始末で今日も遅くまで仕事らしい。やっぱり部隊長っていうのは大変だ。

 

「カシスオレンジ二つ、野菜スティック、焼き鳥お持ちいたしました」

「あ、来た来た」

「ありがとうございます」

 

 スタッフの女性が二杯カシオレ、コップに入った野菜のスティックと焼き鳥を持ってきてくれる。

 焼き鳥の内訳はモモ二本と皮一本。湯気を上げている焼き鳥は自身がアツアツであることをこれでもかというほど私に主張し、さらに焼けた肉の良い匂いが食べてくれと訴えかけて来ているみたいだ。

 ジュルリ……へっへっへ……そんなに焦らなくてもしっかり美味しい内に食べちゃうよ……おっと、焼き鳥が美味しそうだからにやけちゃいそうだった。

 

「そ、それじゃあ乾杯しようか」

「そうだね」

 

 フェイトちゃんもこう言っていることだし、二人で乾杯することにしよう。

 

「はい! 今日もお疲れ様。乾杯!」

「かんぱーい」

 

 私とフェイトちゃんはグラス同士を軽くぶつけ合う。

 二人の間に上下関係はない。対等な相手とのサシ飲みであるためグラスのぶつけ方も適当だ。

 私はカシオレをゴクゴクと飲んでいき、グラスを口から離した時には中身は残り三分の一程度にまで減っていた。

 この店のメインターゲットは女性ということでアルコールは弱めだ。だから甘いジュースのようにゴクゴク行けてしまう。

 

「ふぅ……そして、お次は……」

 

 お酒を飲んで一息ついたので、皿の上に並んでいる三本の焼き鳥に目標を定める。

 ターゲットは二本あるモモ。モモ、皮、モモの順に楽しむのだ。

 

「あー……んっ! …………んー!!」

 

 串の一番前に刺さっているモモ肉を口の中に含み、串を引き抜く。そうすることで目的の肉だけが口の中に取り残されることになる。

 後は口の中の肉を噛み締めて味わうだけ。

 時々焼き鳥を頼むと、あらかじめ串から肉を外して箸で食べる人を見るけど、私からするとあれは邪道。焼き鳥を串から外すとそれはただの焼いた鳥! 焼き鳥じゃなくて焼いた鳥!

 みんなで食べられるようにってそう言う人達は言うけど、本当にナンセンスだと思う。出席している人に焼き鳥を味わってほしいのならみんなの分の焼き鳥を頼むべき。もしくは、串から直接食べてもらうべき。

 ちなみに、フェイトちゃんには私が今食べている串を渡して一口食べてもらった。

 

「すいませーん! ナマチュー一つくださーい!」

 

 カシオレを飲みきってしまう前に次の飲み物をあらかじめ頼んでおく。こうすることで飲み物が目の前に無い時間を短くすることが出来る。もちろん、飲み物が目の前に二つある状態にはさせない。そうすると無駄にグラスを占有してしまい、お店に迷惑を掛けてしまう。

 そんなことはしてはいけない。

 私は残ったカシオレを飲みつつモモ肉を食べていく。

 

「お待たせいたしました」

「どーも」

 

 スッタフの人がビールを運んで来、空いたグラスを持って戻っていった。

 やって来たビールを早速一飲み。

 昔は苦いだけで何が美味しいのかさっぱりわからなかったビールだけれども、いつの間にか美味しく飲めるようになっていた。美味しく感じるようになったのっていつだっけ? まあ、いっか。美味しいに越したことは無いよね。

 次の目標は皮。

 実は私はモモと皮だったら皮の方が好き。

 焦げた鳥皮のカリカリ感が何とも言えないんだよね。

 

「はふー……」

 

 皮のカリカリ感を堪能しながら噛んでいると皮のうま味が口全体に広がっていく。その美味しさに堪らず手を頬に当てて息が漏れてしまう。

 

「し・あ・わ・せ……」

「あはは……なのは、ここに来るとすごい幸せそうな顔するね」

 

 そりゃ、幸せだからね!

 フェイトちゃんは野菜スティックの中のキュウリスティックをぽりぽりと食べている。なんだかハムスターみたいで可愛い。いや、どちらかと言うとウサギさんかな? どちらにしてもかわいい。

 少し食べて落ち着いたところで、これからはフェイトちゃんとのお話しタイムだ。

 

「そうそう、ウチの隊のエーミちゃんとビー君が結婚することになったんだよ」

「へー! それはおめでたいね。同じ部隊内の人と結婚かぁ」

「それでね、お祝いの品を考えてるんだけど、何が良いかな?」

 

 ありがたいことに、私は二人の結婚式に御呼ばれしている。そして、二人の結婚を祝うために贈り物をしなきゃいけない。

 

「うーん、結婚式のお祝いだと……お鍋とかかな?」

「お鍋はシーディちゃんの結婚のお祝いであげたんだよねー」

「じゃあ、おそろいのカップは?」

「カップはイフ君の結婚のお祝いであげた」

「え? じゃ、じゃあ、食器セットとか?」

「食器セットは……ああ、ジエイチ君のお祝いで」

「うーん、うーん……あ! フォトフレームなんてどうかな!」

「フォトフレームはイケちゃんのお祝い」

「……別に他の人にあげたお祝いとかぶっちゃってもいいんじゃない?」

「それもそうだね」

 

 フェイトちゃんにこのまま意見を出してもらっても終わりが見えなさそうなので妥協することにする。よく考えれば全部違う物をあげる必要はないもんね。二人のお祝いはお鍋にしよう。そうしよう。

 

「それにしても、なのはは色んな人の結婚式に出てるんだね」

「そうだねー。改めて考えると周りの人たちがどんどん結婚してるよ」

 

 うーん、それにしても……最近周りで結婚する人多いな……。

 むぅ……ちょっと羨ましい。

 フェイトちゃんは結婚についてどう思ってるんだろう?

 

「フェイトちゃんはイイ人居ないの?」

 

 私はフェイトちゃんに親指を立ててそう聞く。

 

「え! い、居ないよ! うん……居ないよ……」

 

 フェイトちゃんは慌てたようにして答える。そして、答えてから悲しくなったのかな? 声が次第に小さくなっていった。

 

「エリオ君はどうなの?」

「……なのは」

「嘘嘘! 冗談! あはは、何かへんなこと言っちゃったね。私よっぱらっちゃったかな! あはは……」

 

 光源氏みたいに理想の彼氏を育ててるのかとふと思って軽い気持ちで聞いてみたら、フェイトちゃんに凄い目で見られた。

 光が一切ない目でじっとりと見つめられるのがこんなに怖いなんて知らなかった。

 

「そう言うなのはこそ、彼氏は居ないの?」

「居ないよ。もし居たらフェイトちゃん達に真っ先に報告するし」

 

 それにしても彼氏かー。できるのかな? 全然想像できないや。

 それに結婚するっていうことは、いずれ……そ、そういうこともするんだよね? うん、なんだか彼氏彼女持ちって違う世界の生き物みたいに思えて来た。

 

「ユーノはどうなの? なのはと仲が良い男の子筆頭じゃない?」

「ユーノ君? うーん、どうだろう。今でもユーノ君の事は友達と思ってるし、そういう対象として見た事はないかな」

「……ユーノも大変だ」

「? 何か言った?」

「いいや、気のせいだよ」

 

 おかしいな。フェイトちゃんが何か言ったように聞こえたんだけど、気のせいだったのかな?

 

「ユーノは駄目かー。お兄ちゃんがエイミィと結婚してなかったら、なのはと結婚してたかな?」

「えー! どうかなー?」

 

 フェイトちゃんのお兄ちゃん、クロノ君かぁ…… 

 うーん、やっぱり想像つかないかな。

 

「それじゃあ……マサキとか?」

「公輝君? ないない。と言うより、公輝君を取っちゃったらはやてちゃんに何されるかわかったもんじゃないよ!」

「ふふ、そうだね」

 

 公輝君、はやてちゃんの家の居候を自称しているがもう実質八神家の一員と言っても過言ではない青年。

 彼との付き合いもフェイトちゃんやはやてちゃんとの付き合いと同じ位になる。

 

「はやてちゃんはあれで隠してるつもりなのかな?」

「見ててすぐわかるよね。まあ、肝心の本人には気付かれてないからいいんじゃないかな?」

 

 八神はやては坂上公輝に恋をしている。

 はやてちゃんが公輝君に恋愛感情を持つようになったのはいつなんだろう?

 あの二人は私と知り合った時からお互いの距離が近かったけど、それは家族としての距離に見えた。そして、彼らと交友を持つようになって数年経った頃だろうか? いつの間にかはやてちゃんは公輝君に恋してた気がする。

 変化はゆっくりだった。だけど、確実にはやてちゃんは公輝君のことを強く思うようになってたと思う。

 その様子を私達は優しく見ていたけど、結局今の今まで大きな進展は全くなしである。

 

「もう……はやても可哀想だよね。マサキは自分の事を思っている女の子が居ることに早く気付いてほしいよ。何度伝えたくなったことか」

「あはは、わかるわかる。はやてちゃんがさり気なくアピールしてるのに公輝君ったらスルーしちゃうんだもんね。まあ、はやてちゃんのアピールもさり気なさすぎるのは問題だと思うけど」

 

 二人の仲が進まないのは公輝君が全面的に悪い訳ではない。

 いつも大胆なはやてちゃんが変なところでへたれる所為で公輝君が気付かないんだよね。だけど、こういう場合はどんな小さなことでも男の子は気付いてあげなきゃいけないんだよね。

 小さな変化か……

 ……そういえば……

 

「ねえ、最近公輝君、ちょっと変じゃない?」

「なのはもそう思う? 実は私も気になってたんだよね」

 

 そう、それは今年に入ってから感じていた違和感。

 はやてちゃんと公輝君の中は相変わらず良い。家族的な意味で。

 しかし、二人が話している姿を見ると何とも言えぬ違和感を抱いたのだ。

 

「……」

「……」

 

 フェイトちゃんもその違和感の正体を明かそうと考えているのだろう。

 私たちは一旦話すことをやめ、飲み物もそっちのけにし、まぶたを閉じて熟考する。

 考えろ。思い出せ。

 何がおかしい?

 二人が話している時、何がおかしかった?

 今までと違う所を思い出せ!

 

 ……

 

「「あ」」

 

 わかった。

 私は違和感の正体に気がついた。

 それとほぼ同時にフェイトちゃんも気がついたようだ。

 私たちは答え合わせをするように声を合わせて言う。

 

「公輝君がはやてちゃんに目を合わせてない!」

「マサキがはやての目を見られてない!」

 

 表現の仕方こそ違うが、私とフェイトちゃんの答えは同じだ。

 公輝君は人と話す時、人の目を真っ直ぐに見て話す癖がある。それはもう彼と話している自分が恥ずかしくて目をそらしたくなるくらいこっちの目を見てくる。

 そんな彼がはやてちゃんと話している時に限って視線を少しだけ、本当に少しだけ下げているのだ。

 外側から見ることができる第三者だからこそ気がつくことができた小さな変化。

 そして、この変化が示す答えは……

 

「公輝君がはやてちゃんの事を意識してる!」

「マサキがはやてのことを意識してる!」

 

 机に乗り出すようにして私とフェイトちゃんは見つめあう。

 そして、得られた答えに満足するようにお互いうなずくと、私たちは宣言する。

 

「「あの二人をくっつけよう!」」

 

 その後、私とフェイトちゃんとで二人をくっつけるための作戦会議をしたのだった。

 それはもう、残っていたモモ肉の存在を忘れてしまう程熱中して。

 

 



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映画と恋愛アドバイザーと2話

え?似たような話を読んだ?
それは夢だからセーフ


 それは、ある日の夕食後のお茶の時間のことだった。

 はやてが二枚の縦長の紙をひらひらとこちらに見せつけてきたのだ。

 

「映画のチケットか?」

「そうや、今話題の4DXやで。中々ええ席の予約が取れたんよ。一緒に行かへん?」

「何!? 本当か! 行く行く!」

 

 はやてが唐突にこんなことを言い出したものだから始めは何か企んでいるのではと怪しんだのだが、はやてが4DXと言った瞬間に肯定の意を示す。

 うん、我ながら現金な奴だと思う。でもさ、普通ならはやての誘いに何の疑いもなく乗るよ?

 だけど、はやての顔をよーく見て欲しい。

 瞬きの回数がやけに多いことが見てとれる。この癖が出ているときは大抵何か焦っているか緊張しているかだ。そこから考えられることは映画のチケットを餌におれに何かして欲しいのだろう。

 はやての立場上お金は使いきれないほど稼いでいるから、おれの財布を当てにすることは余り無い。無いわけではないが。おおよそ、おれをつれ回して荷物持ちにでもする腹つもりだろう。

 まあ、今話題の映画のためだ。荷物持ち位喜んでやらせて貰おうじゃないか。

 荷物持ちとなる覚悟を決めたおれはふとあることに気が付いた。

 

「あれ? 二枚ってことは…… おれとはやてで行くのか? ヴィータも見たがってただろ」

 

 ちなみに、その映画は女子高生が戦車を乗り回して日本一になる物語だ。

 ヴィータもこれのテレビシリーズを見ていたし、映画化が決定しておれとはやてとヴィータの三人で喜んだことも記憶に新しい。

 ヴィータも映画を見たいはずなのだ。

 

「あ、あたしは別にいいよ…… うん、二人で行って来いよ(震え声)」

 

 なんであいつ声震えてるんだよ。絶対見たいんだろ。

 怪しい…… 怪しいが、特に理由も思い付かない。

 まあ、ヴィータがそう言うなら遠慮無く楽しませてもらうとしよう。

 

「それじゃあ、次の休みに地球に帰るか」

「うん!」

 

 

 そう言うと、はやては満面の笑みを浮かべて返事をするのだった。

 

 

 

 すごい嬉しそうだな。映画が楽しみな気持ちはよくわかるぞ。

 おれも楽しみだ!

 

 

 

 

 

 

 よし!

 

 ハムテル君とデートの約束を取り付けることに成功した私は心の中でガッツポーズをとる。

 そう、デートだ。相手がデートと認識してへんことはわかっとる。やけど、この小さな積み重ねが大事だってなのはちゃんとフェイトちゃんが言っていた。

 ……冷静に考えると全く当てにならん気がしてきたわ。

 

 とは言え、二人のアドバイザーは本気で手伝ってくれるみたいやし、ちょっち頑張ってみようかな。

 

 私は二人と話したときのことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい二人とも。すぐにお茶用意するね」

 

 今日は仕事はお休み。

 なのはちゃんとフェイトちゃんも休みが重なったということで、久しぶりに三人でお茶会をやろうということになった。

 そう言うわけで、私は手早くそれでいて出来るだけ丁寧に紅茶を淹れ、御菓子も持って二人のもとへ行く。

 家に紅茶教の信者が居るせいで私まで紅茶の淹れかたに気を使うようになってもうた。

 

「お待たせー」

「ありがとう」

「良い香りだね」

 

 紅茶とお菓子をテーブルの上に置き、ゆるーいお茶会ということで始まりの挨拶とかそんなものは無く、思い思いにお菓子をつまみ紅茶を飲み始める。

 

「……」

「……」

「……すみませんね、同居人が淹れる紅茶程美味しくのうて」

「そ、そんなことないよ! はやてちゃんの淹れてくれた紅茶もとっても美味しいよ!」

「なのはの言う通りだよ、はやて! ただ、ちょっとマサキが淹れてくれる紅茶は美味しすぎるだけで、はやての紅茶もとっても美味しいよ!」

 

 私のちょっとした意地悪に二人はあたふたしながら私に対してフォローをしてくれる。

 実際あいつが淹れてくれる紅茶は美味しいから困る。ミッドチルダに引っ越す前になのはちゃんのお父さんが割りと真剣にあいつを店で働かせようと勧誘していたのも今となっては懐かしい。

 

「正直、紅茶に関してはお父さんが淹れてくれるものでも満足出来なくなっちゃったんだよね」

「あはは…… 私も自分で淹れては首を傾げながら飲んでるよ」

 

 どうやら私も含めてここに居る全員があいつの(紅茶)でなければ満足出来ない体になってしまっているらしい。

 

「今日公輝君は居ないの?」

「うん、街に遊びに行ってるで。何や、ハムテル君に用事でもあるん?」

 

 なのはちゃんがあいつの不在を確認すると、フェイトちゃんと向き合って頷き合う。一体なんなんやろう?

 取り合えず私はクッキーに吸いとられた口内の水分を補充するために紅茶を一口飲む。

 ……うん、やっぱりなんか物足りんな。

 

「単刀直入に言うね。はやてちゃんは公輝君のことが好きだよね」

「……ッ!?!?!?!? げほっ! げほっ!」

 

 なのはちゃんの思わぬ発言に飲んでいた紅茶を口からぶちまけそうになる。やけど、何とか堪えて吐き出す前に飲み込むことに成功する。お陰で紅茶が変なところに入ってもた……

 

「はー、ビックリした。もう、突然何言うてんねん。そんなことあらへんよ」

 

 本当の所はそんなことある。

 

 それでも、「はい、そうです」と正直に答えるのは恥ずかしすぎる。ここは嘘をつかせてもらう。

 しかし、長い管理局で培った本音を隠して冷静な返しは流石やと自分で自分を褒めてやりたい。

 

「ねえ、はやて、知ってる? はやては嘘をつくと頬にえくぼが出来るんだよ」

 

 ななななんやて! いや、そんなことは無いはずや。そう、これは私にえくぼが出来ていることを確めさせるためのブラフ。ふっ、そんな単純な罠に引っ掛かる程私は甘くはないで。フェイトちゃん!

 

「はっはっはー、嘘嘘。そんな適当言うたって私は騙されへんで」

「うん、そうだね。今のは嘘。でもね、はやてちゃんって、慌てたり、緊張したりすると瞬きの回数が増えるんだよ。これはホント」

 

 ホゲー。

 そ、そんな癖が有ったんか…… 確かに、思い返してみるとえらい瞬きをしている気がする。

 

「ね? はやてちゃん、隠すことはないよ。はやてちゃんの気持ちはみんな知ってるから。思われてる本人以外は……」

「そうだよはやて。それに、私たちの仲で隠し事は無駄だよ? 本人は気付いてないっぽいけど……」

 

 え…… そんなにバレバレやったんか。

 て言うか、そんなバレバレやのに私の気持ちに気付かんあいつって…… 鈍感はラノベの主人公の特権やっちゅうに!

 て、現実逃避しても駄目か。

 うーん……

 

 ……

 

 しゃーない。

 

 二人にはもうバレとるみたいやし、パーっと本音明かそう。

 

「確かに、私はハムテル君のことが…… す、好きやと…… 思う……」

「「うん、やっぱりね」」

 

 何これ。何これ?

 めっちゃ恥ずかしいんやけど。

 なんや二人がめちゃくちゃ優しい目でこっちのことを見てくる。そんな目で見られると、何て言うか、困るわ。

 

「やっと素直になったね」

「はやてとマサキのやり取りを端から見てるとじれったくて仕方なかったからね」

 

 やめてー! そんなふんわりとした笑みを浮かべながらこっちを見ないでー!

 まるで恋する娘を見る親の様な眼差しをされると恥ずかしくてしゃあないわ!

 あー、顔があっついわー……

 

「そう言うわけで! 私とフェイトちゃんではやてちゃんの恋路を協力しようってことになったの!」

「はい?」

 

 どういうわけでそうなるんや。

 

「はやては心配しないで大丈夫。私となのはではやてを全力で応援するから」

 

 心配しかないんやけど。

 なんたってこの二人の恋愛経験は……ん?

 

「もしかして、二人とも私で遊んどるんちゃうか?」

「「……」」

 

 あ! 絶対にそうや!

 自分等が恋愛とかそういうことに全然縁がないから、私を恋愛ゲームの主人公に見立てて楽しむ気やな!

 

「そ、そんなことないよ。私たちは二人が幸せになれたらなーって」

「うんうん、そうだよ」

「……ホンマかいな」

 

 なのはちゃんとフェイトちゃんのことをジトーっと見つめ続ける。しかし、今度は二人とも慌てた様子は見せず真剣な表情でこちらを見つめてくる。

 

「はあ……わかった! こうなったら二人には最後までつきおうてもらうで!」

「任せて!」

「私も頑張るから!」

 

 こうして私に二人の恋愛アドバイザーが着くこととなった。

 それにしても、二人とも恋愛経験はないはず。

 

 ……

 

 不安やわぁ。

 

 とりあえず、私はなのはちゃんが提案した『予定を立てやすく、自然と近くに相手に寄り、さらに誘いやすく、何度でも楽しめる』と言う様々なメリットを持つ映画デートを採用することにした。

 

 ちなみに、後で『映画館 デート メリット』でグーグル先生に聞いてみたらなのはちゃんが言ってた事そのまんまの記事があったのは余談や。



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原付とタンデムと3話

「じゃあすずかさん、明日来るからまたその時はよろしく」

「私からもよろしゅうな」

「もちろんですよ」

 

 現在地点はすずかさんの屋敷の門前。

 おれとはやてはすずかさんに挨拶をして目的地である映画館へと赴こうとしているところだ。

 何故すずかさんと挨拶を交わしているのか? それはミッドチルダと地球をつなぐ地球側のポートが設置されている場所の一つがすずかさんの家だから。別にアリサさんの家に設置されたポートを使っても良いのだが、特に深い意味もなく今回はすずかさん家のポートを使わせてもらった。

 

 さて、そんなことは置いておいて、早く出発しよう。

 そう決意したおれはポケットからキーを取りだして「決闘開始(セットアップ)」と念じる。すると、キーは一瞬輝き、その姿を真の姿へと変え、おれの隣に現れる。

 

「あれ? 公輝君、それって……」

 

 

 ふっふっふー。

 よくぞ聞いてくれましたすずかさん! 

 おれの隣に現れた『それ』を見た人は皆揃ってこう言うだろう。『原付』、と。

 

 おば様達がちょっと買物に行くときによく使うスクーターでもない。(スクーターも原付ではあるけどなんか違うじゃん?)

 ちょい悪のおじ様が革ジャンを羽織って乗り回すバイクでもない。

 そう、それはThe・原付。原付of原付。 

 スクーターの様にシンプルでシュっとした見た目をしているわけでもなく、バイクの様に厳つい機械という印象を与えることもない。ちょうどその中間に位置しているかのような見た目。それがこいつ。

 

 その原付の中でもこの機種は指折りの耐久性を誇り、サラダ油を入れても動いたなどと言う笑い話(本当かも知れない)が存在する。

 その質実剛健という言葉を体現したような原付の名は! 

 

「カブだね」

 

 そう、カブ。

 すずかさんの言うとおり、相棒(こいつ)の愛称はカブ。正式名称はスーパーカブ。ちなみに110ccタイプ。

 日本で最も有名な原付と言っても過言ではないのではなかろうか。

 しかし、こいつはただのカブではない! 

 

「それって、デバイス?」

「デバイスではないよ。ミッドの友達にちょこっと弄って、便利にしてもらったんだ」

 

 地球でカブを購入したのち、スカさんの所に持ち込んで改造してらったのだ。スカさんの改造によって魔導師が持つデバイスの様に持ち運びが楽ちんである。一体この質量がどういう仕組みでキー一本分になっているのかは突っ込んではいけない。魔法世界驚異の技術だ。

 さらにそれだけでなく、デュエルディスクを取り付けることによってライディングデュエルが可能となる。

 しかも脳波コントロールできる。(ライディングデュエル中の操作は基本的にオートパイロトだが、例外的な操作をしたい時はハンドルやアクセルを使用することなく脳波で全て行える)

 違法改造なのでは? と、考える人もいるだろう。外見はデュエルディスクを取り付けなければ通常のカブと変わらないし、走行という観点で性能は一切変わっていないから大丈夫。たぶん。メイビー……。お巡りさんに止められてもこいつの中まで検められることはないだろう。

 

 ところでお気づきだろうか? 

 このスーパーカブ110改め、スーパーカブ110DW(デュエルホイール)はおれがスカさんに依頼したDホイールの完成形なのだ。

 

 こいつで空を飛んで逃げ回るフッケバイン一味に対し、決闘(デュエル)で拘束したことは記憶に新しい。ちなみに、カブ110DWは空を飛ぶと操縦者共々金色に輝く。それはもう金ぴかに。百式って名前にしてもよかったかもしれない。

 まあ、どうでもいい話か。

 

「ほれ、はやて」

「ん」

 

 はやてにジェットヘルメット渡し、おれ自身もヘルメットをかぶってからカブDWのエンジンをかける。セルスイッチを一回ポチっと押すだけでコイツは軽快なエンジン音を奏でる。

 うん、問題はない…… 調子はいいみたいだ。

 

「それじゃあ行ってきまーす」

「ほんなら行ってきまーす」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 はやてはタンデムシートに座ると、片足をステップに乗せる。腕はおれの腰に回して落ちないようにしっかりと固定する。

 おい、はやてよ。今は止まってるから良いけども、走行中におれの腹を摘まんだりくすぐったりするんじゃないぞ? こけるぞ。こけたら最悪お前のキレイな肌がおろし金でおろしたみたいになるからな。

 

 ……よし、出発だ! 

 

 ギアをニュートラルから1速へ上げ、右手のグリップを軽くひねるとおれたちは目的地へと走り出した。

 

「……大丈夫かなぁ」

 

 すずかさんの声はアクセルによって唸りだしたエンジン音と風の音にかき消されておれには聞こえなかった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 目的の映画館は海鳴から少し遠い街にある。今回観る予定の映画は通常の映画ではなく、映画の状況に合わせて観客たちもそれを体感して実感できる4DXだ。4DXは特別に整備された映画館でしか観ることが出来ず、基本的に観るためには都会にある大きな映画館まで足を運ぶしかない。

 つまり何が言いたいかというと、残念ながら海鳴には4DXを備える映画館が無かったのだ。

 

 すずかさん宅を発ってしばらく。隣町へと続く県道に出たところで後ろにいるはやてが念話で話しかけてくる。

 念話、良いよね。エンジン音にかき消されないように大声を張る必要もないし、メットの中にインカムを仕込む必要もない。バイカーは全員念話を使えるようになれば便利だと思うよ。

 

『それにしても、ハムテル君バイクの免許なんて取ってたんやな』

『おう。昔からカブには乗って見たくてな。それにどうせなら原付二種の方が色々と都合が良いから頑張ったぜ』

 

 原付二種は原付以上、所謂普通のバイク以下に位置する原付だ。原付二種に乗ることが出来ればスピードは60キロまで出せるし、面倒な二段階右折はしなくていいし、タンデムだって許されている。手軽さと利便性を兼ね備えたサイキョーの二輪だとおれは勝手に思っている。

 

『それにしても、車の運転は渋っとったのに、二輪はいけるんやな』

『……いや、普通にめっちゃ怖い』

 

 はい。ここまで色々と原付二種の良さについて語って来たけど……うん。やっぱ公道を走るのはクッソ怖いわ。

 法定速度まで出すことが出来るから後続車に追い抜きを掛けられることはよっぽどのことが無い限り無いんだけれども、生身で60キロを感じるのはすっっっげぇ怖い。何て言うか、速さをその身で感じる。フェイトさんとかこれ以上の速さで空を飛んでるような気がするけど、怖くないんだろうか? 

 

 とはいえ、そうは言っても何だかんだで速さにはすぐ慣れるものだ。走り出しは若干ビビッたけども、今は大分周りを見る余裕も出来ている。では、何が怖いのかというと……

 

(タンデムこええええええええええええええええええ!!!!)

 

 タンデム。二人乗りともいう。タンデムシートに人を乗せて走行するのはかなり怖い。

 後ろに数十キロもある人間を乗せていると原付のケツが重くなる。バランスがいつもと違って操縦にすごい違和感がある。

 そして、うっかり車体を傾けすぎると二人仲良く投げ出されておろし大根……いや、おろし人間になってしまう。おれだけなら兎も角、同乗者を怪我させる危険性があるのはヤバイ。おれが居れば傷もきれいさっぱり無くせるとはいえ、転んだ瞬間はどう考えても超痛い。

 ギャン泣きする自身もある。……ギャン泣きで済めばいい方だ。

 

『大丈夫かいな?』

『大丈夫だ、問題ない』

『めっちゃ不安になって来たわぁ……』

 

 免許取得後1年しないとタンデムが許可されない理由がわかるなぁ。

 

 何だかんだ言いながらと、おれたちは目的地へと進む。車の通りが少ないのが幸いだった……ッ!? 

 

 何事!?

 

 タンデムの感覚にも慣れ始め、このまま何事もなく目的地に到着できますようにと心の中で祈っていた時、急にはやてがこれまで以上に身体を密着させてきたのだ。

 ヤ、ヤメロ! 突然座る体勢を変えるんじゃない、はやて! 突然のバランスの変化に戸惑うわ! 

 

『……ど、どうや?』

「何が!?」

 

 思わず念話ではなく口に出して聞き返してしまう。それくらい動揺しているのだ。

 やっば、背中に冷汗かいてきたわ。

 

『気持ち良い感触が、……あるやろ?』

 

 はい!? 何の事!? 風の感触の事か? 

 

 今そんなものを味わっている余裕は……

 

「ない!」

「……」

 

 よ、よ~し……いいぞ。今のバランスにも慣れて来た。

 よしよし、おれは着実に上達している。

 

「……ふん!」

「あびゃ!」

 

 

 おれの背中から体を離したと思ったら突然背中を叩くはやて。

 マジでやめて! シャレにならん! 転んでもおれは知らんぞ!? 

 

 

 あ、出発前にミラーで見えたすずかさんが心配するような表情をしてた理由が分かった。

 

 おれ操縦のタンデムを不安に思ってたんだわ。

 

 

 

 ★

 

 

 

 なんやかんやありながらも、私達は目的の映画館がある大型ショッピングモールに到達することが出来た。

 

「何事も無くてよかった」

「……せやな」

 

 そう。こいつの言う通り何事もなく目的地に来ることが出来たんわええんやけど……。

 こいつ! あろうことかタンデム中に私が『当ててんのよ』したったのに、その感想が「ない!」やで! 誰がない乳や! なのはちゃんよりはあるわい! フェイトちゃんには負けるかもしれんけど……ほんま信じられへんわ。

 タンデムって言うたら、もっとこう……二人の身体が密着することでドキドキワクワクするもんとちゃうんか!? 

 勇気出して抱き着いた私がアホみたいやん! 

 

 私は駐輪場にカブを止めて二人分のヘルメットをハンドルにひっかけているこいつにじっとりとした目線を向けてしまう。

 

「ん? 何?」

 

 全く……まあええわ。

 今回の目的は映画や。タンデムは前座にすぎひんのやからな! 

 

「ハムテル君の背中が汗でぐしょぐしょで気持ち悪かったなって思っただけや」

「……それは許して」

 

 

 

 




落としどころは考えてます。
あとは間の話を思いついたら適当に書いていきますよ。


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