仮面ライダーウィザード 【異世界奮闘記】 (Mr.K)
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第一話

初投稿です。温かい目で見守って頂けると幸いです。


 青年・操真晴人は、建物の階段を駆け上がっていた。

 

 息を切らして、階段の踊り場で立ち止まる。

 

 

「はぁ…はぁ…この展開、前にもあったな…」

 

 

 晴人はまだコヨミが居た頃…金色の魔法使いによってコヨミが拐われた時の事を思い出していた。

 

 

「ちっ…急がないと!」

 

 

 晴人は再び階段を駆け上がった。

 

 その頃、その建物の屋上では、全身を漆黒のローブに身を包んだ謎の人物が立っていた。

 

 

「ふっ…目的のモノは手に入った」

 

 

 漆黒のローブを纏った人物は、声からして男のようだ。

 

 

「この世界にもう用は無い…」

 

 

 そう言って手を前に翳す。すると、男の目の前に、虹色に輝く魔方陣が現れた。

 

 男は、ゆっくりとした足取りでその魔方陣に近づく。とその時、晴人が屋上に到着した。

 

 

「待て!」

 

「追い掛けて来たか、指輪の魔法使い」

 

「お前…それを何に使うつもりだ!?」

 

「貴様に教える必要は無い」

 

「そっか。でも持ってかれると困るんだ。力づくでも返してもらう」

 

 

 晴人は、右手の中指に嵌められた「手」の意匠が施された指輪を、同じく「手」の意匠が施されたベルトのバックル部分に翳す。

 

 

『ドライバーオン、プリーズ』

 

 

 音声コールと共に晴人の腰にウィザードライバーが出現した。

 

 そして、力強く叫ぶ。

 

 

「変身!!」

 

 

 叫ぶと同時に右側に傾いているハンドオーサーを左側に傾ける。

 

 そして、既に左手の中指に嵌めていた、赤い魔宝石から削り出された指輪を翳した。

 

 

『フレイム! プリーズ』

 

 

 ベルトから音声コールが流れる。

 

 同時に指輪が輝きを放ち、燃える様な赤い魔方陣を出現させた。

 

 

『ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!』

 

 

 晴人は、ちょうど男との間に出現した魔方陣を走って通過する。

 

 魔方陣を通過した晴人の姿は、人間のそれとは明らかに違った。

 

 指輪と同じルビーを模した赤いマスク。その身を包む黒の魔法衣・ウィザードローブ。丸い形状の頭部・ベゼルフレイム。

 

 燃える炎のエレメントをその身に宿す基本形態(フレイムスタイル)の指輪の魔法使い。

 

 またの名を【仮面ライダーウィザード】。

 

 

 

 

 

 

 

 変身した晴人…もといウィザードは、男に対して蹴り等の物理攻撃を繰り出す。アクロバティックで舞う様な動きだ。

 

 しかし、全て攻撃が防御されるか躱されるかしていた。

 

 

「生身の人間に対して、変身して襲い掛かるのが貴様の流儀か?」

 

「生身の人間? 冗談でしょ。地上からこの屋上まで一気にジャンプしたくせに」

 

「鍛えているものでね。あのくらい朝飯前だ」

 

 

 会話しながらも攻撃の手を緩める事の無いウィザード。

 

 男も、このままでは埒が明かないと思ったのか、防御から一転、攻勢に移った。

 

 お互いに一歩も引かない中、ウィザードは右手の指輪を取り替え、ベルトのシフトレバーを操作しハンドオーサーを右側に傾ける。

 

 

『コネクト、プリーズ』

 

 

 音声コールと共に出現した赤い魔方陣から、ウィザードはソードモードのウィザーソードガンを取り出した。

 

 

「武器とは…あまり公平とは言えないな」

 

「あんまり余裕が無いものでね。アンタを倒して、真由ちゃん達の魔力を取り戻さないと…」

 

「貴様とは違って、彼女達は魔力を有効に使えない。我輩が使ってやった方が、有効的だ」

 

「魔力を使う? アンタ、一体何者だ。その魔力で何する気だ!?」

 

「すぐに消える貴様に、答える意味など無い!」

 

 

 男はそう言って右手を前に突き出した。

 

 次の瞬間、ウィザードは衝撃によって吹き飛ばされる。

 

 

「がぁぁぁぁぁ!?」

 

「ウィザード…お前にはここで消えてもらう」

 

 

 再び突き出した右手から先程よりも強力な衝撃波が放たれる。

 

 ウィザードは素早く右手の指輪を交換すると、ハンドオーサーを素早く右側に傾け直し、再びベルトに翳した。

 

 

『ディフェンド! プリーズ』

 

 

 出現した赤い魔方陣が盾の役割を果たし、衝撃波からウィザードを守る。

 

 が、衝撃波の威力が大きすぎた。

 

 魔方陣ごと勢い良く後ろに吹き飛ばされたウィザードは、背後の壁に全身を強打した。

 

 

「がはぁ!」

 

「無様だなウィザード。このまま消えるが良い」

 

 

 その言葉と共に男の右手がその輝きを増した。

 

 だが、その輝きが次第に小さなものになっていく。

 

 

「おや? もう時間か。どうやら命拾いしたなウィザード。あばよ」

 

 

 男はそのまま踵を返し、初めに出現させていた虹色に輝く魔方陣に向かって歩き出す。

 

 

「ま…待てよ! どこに行くつもりだ!」

 

 

 必死に身体を起こそうとするウィザード。しかし、謎の人物は、その努力虚しく虹色の魔方陣に消えた。

 

 薄れゆく意識の中で、ウィザードが最後に見たのは、漆黒のローブに身を包んだ男の恐ろしいまでに冷酷な目だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 晴人は身体に走る痛みと共に目を覚ました。

 

 いつの間にか、ウィザードの変身は解け、本来の晴人の姿に戻っていた。

 

 辺りを見渡すが、当然漆黒のローブを纏った人物は居ない。

 

 

「まさか…また世界が作り変わったとか言わないよな…」

 

 

 晴人は苦笑いを浮かべると、ゆっくりと立ち上がった。

 

 同時に再び身体中に痛みが走る。

 

 

「いっつ!」

 

 

 晴人は反射的に脇腹を押さえて蹲る。

 

 ようやく痛みが引いたのか、再びゆっくりと立ち上がった。

 

 

「……なるほど。世界が作り変わったわけでは無いみたいだな」

 

 

 いつもと変わらない街並みを眺め、安堵の表情を浮かべる晴人。

 

 一息つくと、晴人はポケットから携帯を取り出しどこかに電話をかけた。

 

 

「あ…凛子ちゃん? 悪い、逃げられた」

 

『晴人くん、今どこ?』

 

「どっかのビルの屋上」

 

『無事で良かった。すぐに病院に来て!』

 

「え? いや、俺は大丈夫だけど…」

 

『晴人くんじゃなくて、真由ちゃん達が意識不明なの! とにかく、すぐに来て!』

 

 

 その言葉を最後に電話は切れた。

 

 晴人は携帯をポケットに仕舞うと、屋上から下に降りた。

 

 地上に戻った晴人は、右手の指輪を変更してベルトに翳す。

 

 

『コネクト、プリーズ』

 

 

 赤い魔方陣から【マシンウィンガー】を取り出し、跨がる晴人。

 

 晴人は、先ほどまで居た屋上をチラリと見ると、そのまま走り出した。目的地…病院に向かって…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイクを走らせてから十分。晴人は真由や譲、昌宏が入院している病院に到着した。

 

 病院の入口には、凛子が待っていた。

 

 

「晴人くんこっち」

 

 

 バイクから降りた晴人を凛子が手招きする。

 

 待合室を通り抜け、階段を上がり、やがて集団病室にたどり着いた。

 

 

「ここに、真由ちゃんと譲くん、山本さんが入院してるわ。みんな意識と魔力を失ってる」

 

「やっぱり、俺と戦ったあの漆黒のローブ野郎が…」

 

「うん」

 

 

 病室に入った二人は、並んだ三つのベッドに横たわる三人を見ながら話す。

 

 その時、廊下を乱暴に走る足音が近づいてきた。

 

 

「おいっ! 譲が襲われたってホントか!?」

 

「ちょっ仁藤くん、声が大きい!」

 

「仁藤? お前今まで何やってたんだ?」

 

「それより凛子ちゃん! 譲は誰に襲われたんだ!?」

 

 

 突然病室に現れた青年・仁藤攻介が荒々しい口調で捲し立てる。

 

 

「落ち着け仁藤。襲撃犯はもう……」

 

 

 晴人は一拍置いてから仁藤に事情を説明した。

 

 

「晴人が取り逃がすって事は相当デキる奴だな。何てったって晴人はこの俺のライバルだからな!」

 

「仁藤…」

 

「それよりも晴人。どうにかしてそいつを追わねぇと、譲たちが目を覚まさねぇ」

 

「あぁ、そうだな」

 

 

 晴人と仁藤はお互いに決意を新たにした。

 

 病院から出た晴人は、仁藤と共に近くの公園のベンチに腰かける。

 

 凛子は三人に付き添っているため、病院に残してきた。

 

 ベンチに座り、膝の上で手を組みながら仁藤が口を開いた。

 

 

「その…【漆黒の男】は何が目的で真由ちゃん達を襲ったんだ?」

 

「解らない。でも、奪った魔力を何かヤバい事に使うのは確かだ」

 

「だが、わっかんね~! 何で晴人の魔力は狙わなかったんだ?

 こう言っちゃ何だが、晴人の魔力が一番強い。魔力使って何かやるなら、それが一番確実だろ?」

 

 

 仁藤の疑問ももっともだ。

 

 事実、晴人の魔力はこの中の誰よりも強かった。

 

 仁藤の疑問に晴人が口を開きかけたその時、突如横から声が掛けられた。

 

 

「それはね、ウィザードにはまだ利用価値があるからだよん♪ 疑問は解決したかな、ビーストちゃん?」

 

 

 突如聞こえてきた声に、晴人と仁藤は素早く反応する。

 

 そこには、深紅のローブに身を包んだ幼女が仁王立ちしていた。

 

 ローブと同じ色の髪、そして輝く灼眼(しゃくがん)。見た目は八歳の幼女。だが、幼女の出す雰囲気が、ただ者ではないと感じさせる。

 

 

「何者だテメー。譲襲った奴の仲間か?」

 

「私? 私はs「皆まで言うな…」………え?」

 

「テメーが何者だろうと関係ねぇ。ここで倒すんだからな!」

 

 

 仁藤はそう言うと、右手をベルトに翳した。

 

 

『ドライバー、オン!』

 

 

 すると、音声と共に晴人のとはまた違った形のベルトが現れた。

 

 

「変ーーーーーー身!!」

 

 

 仁藤は、左手にライオンを模した指輪を嵌めると、独特のポーズを取ってベルトに指輪を嵌め込み、そのまま捻った。

 

 

『セット、オープン!』

 

 

 同時にベルトが開き、魔方陣が飛び出す。

 

 

『L・I・O・N、ライオン!』

 

 

 魔方陣が仁藤の身体を通過した後、その場には古の魔法使いが堂々と立っていた。

 

 

「ランチタイムだ! あ、でもファントムじゃねーから喰えねえか!」

 

 

 仁藤…もとい仮面ライダービーストは、専用武器のダイスサーベルを取り出す。

 

 そして単身、深紅の幼女に突撃していった。

 

 

「おい仁藤! 待てこのマヨネーズ!」

 

 

 晴人を置いて単身で突撃した仁藤を見て、晴人はそう叫び右手をベルトに翳した。

 

 

『ドライバーオン、プリーズ』

 

 

 そしてシフトレバーを操作し、右側に傾いていたハンドオーサーを左側に傾けた。

 

 

『シャバドゥビタッチヘーンシーン! シャバドゥビタッチヘーンシーン!......』

 

 

 直後、ベルトから軽快な音声コールが流れ始める。

 

 それはおよそ場違いなメロディだった。

 

 

「変身…」

 

 

 晴人はそう言って、既に左手に嵌まっていた【フレイムウィザードリング】の目の部分を右手で下ろす。

 

 そしてゆっくりとベルトに翳した。

 

 

『フレイム! プリーズ』

 

 

 音声コールと共に、晴人は左手を身体の左側に突き出す。

 

 その先に、燃えるような赤い魔方陣が出現した。

 

 

『ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!』

 

 

 出現した魔方陣がゆっくりと移動し、晴人の身体を通過する。

 

 魔方陣が通過した後には、仮面ライダーウィザードが堂々と立っていた。

 

 

「さぁ、ショータイムだ」

 

 

 ウィザードは左手を顔の横に構え、ビーストに続きその戦いのゴングを鳴らす言葉を言い放った。

 

 ビーストに続きウィザードも参戦したこの状況でも、深紅の幼女は冷静だった。

 

 

「二対一はちょーっとズルくなぁい、ビーストちゃん?」

 

「気持ち悪ぃ呼び方すんな!」

 

 

 ビーストはそう言って右手の指輪を牛の様な紋章が刻まれている指輪に変更する。

 

 そして、ベルトの右側に嵌め込んだ。

 

 

『バッファ! ゴー!』

 

 

 右側に突き出した指輪から、赤い魔方陣が出現する。

 

 

『バ、バ、ババババッファ!』

 

 

 音声と共に、魔方陣がビーストの身体を通過した。

 

 同時に、ビーストの右肩からバッファローの力を宿した茶色のマントが垂れる。

 

 バッファウィザードリングを使用することで、自身のパワーを上げたのだ。

 

 ビーストは深紅の幼女に強力な突進をかます。

 

 

「きゃっ! ちょっと~、痛いんですけどぉ~」

 

 

 堪らず悲鳴を上げる深紅の幼女。

 

 その様子を横目で見ていたウィザードも、ビーストに負けじとウィザーソードガン・ソードモードで深紅の幼女を斬りつけた。

 

 力任せの荒々しい攻撃をするビーストとは対照的に、ウィザードは流れる様に美しい剣捌きでジリジリと幼女を追い詰める。

 

 二人の動きは、一見バラバラに見えるが、ちゃんと息は合っていた。

 

 

「う~ん、やっぱり強いにゃあ」

 

「テメーなめてんのか? 何で避けてばっかで反撃しねーんだ!」

 

「私は平和主義者なんだよぅ!」

 

「つーか、譲たち襲った理由は何だ! 魔力使って何するつもりだ!? 皆まで聞いてやるから答えろ!」

 

「えー? ヤダ♪」

 

 

 次の瞬間、幼女が纏っている雰囲気が強烈な殺気に変化した。

 

 

「おいヤベーぞ、晴人」

 

「あぁ。雰囲気が変わった」

 

「えい! みんな燃えちゃえ♪」

 

 

 直後、深紅の幼女が前に突き出した右手から、火炎弾が放たれる。

 

 

「ぐはっ!」

 

「がはぁ!」

 

 

 ウィザードとビーストは火炎弾をまともに受けて吹き飛んだ。

 

 

「あはは♪ 良い感じだね♪」

 

「く…気味の悪い奴だ」

 

 

 ウィザードはそうボヤいて左手の指輪を、雫を模した青い指輪に変更し、シフトレバーを操作して再度左側に傾けたハンドオーサーに翳した。

 

 

『ウォーター! プリーズ』

 

『スィー、スィー、スィスィー!』

 

 

 手を上に翳す。そこから出現したのは、流動的に逆巻く青の魔方陣。

 

 ゆっくりと、だが確実に魔方陣はウィザードの身体を通過する。

 

 通過し終えた時、その場に立っていたのは赤い基本形態(フレイムスタイル)ではなく、流れる水のエレメントをその身に宿す青い特殊形態(ウォータースタイル)だった。

 

 雫をイメージさせるひし形に近い形状の頭部・ベゼルウォーター、水を操る事が可能で、通常スタイルの中でも魔力に優れる形態である。

 

 

「へぇ。火には水が有効だもんね♪」

 

「仁藤、こいつ何かヤバい。とっとと片付けるぞ!」

 

 

 ウィザードはそう叫ぶと、ウィザーソードガンのハンドオーサーを起動する。

 

 

『キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ! キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ!......』

 

 

 待機音声が流れる中、ウィザードは左手を握手する様にハンドオーサーに翳した。

 

 

『ウォーター! スラッシュストライク!』

 

『スイ、スイ、スイ! スイ、スイ、スイ!......』

 

 

 音声コールと共に、ウィザーソードガンが水流を纏う。

 

 そして、そのまま深紅の幼女に向けて水流の斬撃が放たれた。

 

 同時にビーストも行動する。自身が持っているダイスサーベルのダイスを回転させ、左手の指輪を横にある窪みに嵌め込んだ。

 

 

『フォー!』

 

『バッファ! セイバーストライク!』

 

 

 ダイスは4で止まり、音声コールが流れる。

 

 

「よっしゃ、行くぜ!」

 

 

 勢い良く振るったダイスサーベルの前方に魔方陣が出現し、そこからバッファローの形を取った魔力の塊が四体飛び出す。

 

 その魔力の塊は、寸分の狂いも無く、ウィザードの放った水流の斬撃と共に深紅の幼女に直撃した。

 

 激しい爆発音と共に辺りに砂塵が舞う。

 

 しかし、砂塵が晴れた時、その場には無傷の幼女がにこやかに立っていたのだった。

 

 

「まさか、もう終わりなんて言わないよね~♪ 私、まだまだ遊び足りないよん♪」

 

「く…なんて奴だ!」

 

「ウィザードもビーストちゃんももっと本気だしてよ! まだまだ上があるでしょ♪

 もっと私を楽しませて?」

 

「余裕見せやがって。こうなったら!」

 

 

 ビーストは派手な装飾のされた指輪を右手に嵌めてベルトに差し込もうとした。

 

 しかし、突如巻き起こった突風により、吹き飛ばされてしまう。

 

 同時に、ビーストの身体から火花が飛び散り、ビーストは変身が強制解除されてしまった。

 

 

「ぐがぁ!」

 

「仁藤!」

 

「ぶぅぅぅぅぅ! 何で邪魔するのさ!?」

 

 

 その姿に合わせるかのように口を尖らせて文句を言う深紅の幼女。

 

 幼女の反応を嘲笑うかのように、ビーストを吹き飛ばした突風は集束していき、人間の姿を形成していった。

 

 薄い緑色の腰まで垂れた長い髪。翡翠の瞳はまっすぐにウィザードを捉えている。

 

 年の功は二十代前半だろう。幼女と同じ様に深緑のローブに身を包んでいる。

 

 さらに、特筆すべきはそのはち切れんばかりに己を主張する胸だ。もう爆乳である。

 

 そんな深緑の爆乳女に、深紅の幼女が怒りを露にして捲し立てた。

 

 

「もう! 何で邪魔するのヒュウカ!?

 遊んでるんだから手出ししないでって言ったよね!」

 

「遊び過ぎよメラ。そろそろ戻らないと主にまた怒られますわよ?」

 

「ぶぅぅぅ。まだ遊び足りないもん!」

 

 

 幼女がそう言った瞬間、突風が吹いたかと思ったら幼女が風で拘束されていた。

 

 

「放してよぅ、このウシチチ女!」

 

「あらあら、嫉妬は見苦しいわよメラ。同い年のよしみであまり触れないでおいてあげてるのに♪」

 

「うわぁぁぁぁぁぁん! 気にしてるのにぃ!」

 

 

 地団駄を踏む幼女に対して、涼しい顔をしている爆乳女。

 

 しばらくそんなやり取りが続いていたが、やがて爆乳女…もといヒュウカがウィザードに語りかける。

 

 

「ウィザード。私たちはあなた方と事を荒立てるつもりはありません。頂いた魔力は、計画が完了すればお返しします。どうか、見逃しては頂けないでしょうか?」

 

「手を引けって? 冗談でしょ」

 

「そうですか、残念です」

 

 

 心底残念そうに溜め息をつき、ヒュウカは右手を一回祓った。

 

 突如吹き荒れる突風。ウィザードはその突風に捉えられ、身体から火花を出しながら吹き飛ばされる。

 

 地面を転がり、強制的に変身が解除されてしまった。

 

 

「ではまたいつか。次にお会いできる日を楽しみにしてますわ♪」

 

 

 ヒュウカは、依然のして空中で暴れているメラを引き連れて、虹色の光と共に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 それから数日間は、何事もなく平和に過ぎていった。

 

 真由・譲・昌宏の三人は、未だに意識不明で入院中だ。

 

 捜査も進展せず、行き詰まってる状況だった。

 

 そんな中、晴人は国安0課の木崎警視に呼ばれ、0課の本部に来ていた。

 

 

「…来たか操真晴人。早速だがこれを見ろ」

 

 

 そう言うと、木崎はノートパソコンの画面(ディスプレイ)を晴人に見せた。

 

 

「…これは?」

 

「笛木奏が生前研究していた資料だ。殆どが娘・暦を甦らせる為の研究だが、ひとつだけ全く異なる研究があった」

 

「【異次元の扉と平行世界に関する考察】…これが笛木の研究? 一体どんな研究なんだ?」

 

「さぁな。そこまでは判らん。だか、今回の事件に関わってる事は確かだ」

 

 

 木崎はそう言って画面をスクロールする。そして、ある地点で止めて、晴人に見る様に促した。

 

 

「……『魔法使いの魔力によって、別次元への扉が開くようだ。どれだけの魔力が必要かはランダムらしい。残念だが、私の魔力は使えない。他に魔法使いが居れば可能か?』…何だこれ?」

 

「要約すると、魔法使いの魔力によって、異次元への扉を開いて異世界に行く事が出来るらしい。奴等はその為に稲森真由たちから魔力を奪ったと考えるのが妥当だ」

 

 

 木崎は自分の推理を述べる。その推理は的を射たものだった。

 

 とその時、虹色の光が部屋の中に射し込んで来た。

 

 その光は、晴人には見覚えがあった。

 

 

「この光…まさか!」

 

 

 晴人は嫌な予感がし、木崎の制止を振り切って部屋を飛び出した。

 

 外に出た晴人は、虹色の光が激しい場所に向かって走る。

 

 その表情には、覚悟の色が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し戻り、五分前。周りに人気のない広場に深紅の幼女、漆黒の男、深緑の爆乳が立っていた。

 

 その他にも三人居る。それぞれ、茶色のローブ、黄色のローブ、水色のローブを着ている。

 

 

「いよいよだな…」

 

 

 漆黒の男がそう呟く。その呟きに深紅の幼女・メラが反応した。

 

 

「邪魔が入らなければ、もっと早く目的を達成できたのに~。ダクがしくじるからぁ~」

 

「我輩は別にしくじっていない! 勝手に奴が邪魔してきたのだ!」

 

「そこまでにしとき! 喧嘩両成敗やで!」

 

 

 漆黒の男・ダクと深紅の幼女・メラが言い争いを始めた瞬間、黄色のローブを着た少女が止めに入った。

 

 

「む~。でも、確かにサンの言う通りだね~」

 

「そうだな。ここは、我等の目的を速やかに遂行せねばなるまい」

 

 

 ダクはそう言うと、懐から小瓶を三個取り出した。

 

 その小瓶には、それぞれ橙、青、緑の光で満ちている。

 

 

「それが例の魔法使い達から奪った魔力かい?」

 

「意外にキレイやね~」

 

 

 茶色のローブを着た青年がダクに訊ね、サンと呼ばれた黄色のローブを着た少女は、眼を輝かせて感想を述べる。

 

 

「そうだ。ほれ」

 

 

 ダクは橙の小瓶をヒュウカに、青の小瓶を茶色のローブを着た青年に手渡し、緑の小瓶は自分の手に納める。

 

 

「さぁ、始めよう」

 

 

 ダクはそう言って緑の小瓶を上空に放り投げる。

 

 他の二人もダクに倣ってそれぞれの小瓶を放り投げた。

 

 次の瞬間、激しい虹色の光が辺りを包む。見ると、丁度三人の中心に虹色の光を放つ巨大な穴が、上空にポッカリと空いていた。

 

 

「行け! じきにこの扉は閉じる。それまでに次元を渡るのだ!」

 

 

 ダクの叫びにメラと【水色のローブ】が穴に飛び込む。

 

 それに続き、ヒュウカとサンも飛び込んだ。

 

 

「さぁ、ラド! 後は貴様だ、早く飛び込め!」

 

「ダメだよダク! 指輪の魔法使いがこっちに来た。誰かが足止めしないと!」

 

 

 ダクはラドの指差す方向を見る。そこには、こちらに向かって全力で走っている晴人の姿があった。

 

 その指には、派手な装飾が施された赤い指輪を嵌めていた。

 

 

「変身っ!」

 

『フレイム! ドラゴン!』

 

『ボー、ボー、ボーボーボー!』

 

 

 音声コールと共に、赤い魔方陣を潜る晴人。

 

 魔方陣を潜ると同時に、炎のエレメントを纏ったウィザードラゴンの幻影が数回晴人の周りを旋回し、晴人と一体化する。

 

 最後に、ウィザードラゴンの咆哮と共に晴人の姿が変わった。

 

 長く伸びた頭部のエクスドラゴロッド。丸い形状のアルターベゼルフレイム。両肩には丸い封印石・グランマジェスティが追加されている。

 

 深紅のウィザードローブはその身に宿すエレメントと同じだ。

 

 その胸部には、ウィザードラゴンの顔を模した装甲・スカルキュイラスが施されている。

 

 仮面ライダーウィザード、基本形態(フレイムスタイル)の強化形態。炎を司る魔法使い(フレイムドラゴン)の真の姿だった。

 

 

「ラド! 奴は我輩が相手をする! 貴様は扉に入れ!」

 

「それこそダメだよ! キミはこれまでの行動で力を浪費している。万全な僕が相手をするべきだ!」

 

「しかし…この扉は間もなく閉じるぞ!」

 

「だったら尚更だよ! 早く行って!」

 

 

 ラドは躊躇っているダクを虹色の穴に突き飛ばした。

 

 

「ラドぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 ダクの叫びは、虹色の穴に消えていった。

 

 その声を背中に浴びながら、ラドはウィザードと向き合う。

 

 

「時間が無いんだ。退いてくれないかな?」

 

「時間が無いのはこっちも同じだ! 退くわけにはいかない」

 

 

 ウィザードの言葉にラドは小さく舌打ちすると、右腕を岩石に変化させて殴りかかった。

 

 その一撃を紙一重で躱すウィザード。

 

 

「強化形態は伊達ではないみたいだね」

 

「悪いがそう言う事だ。逃がしはしないぞ」

 

 

 ウィザードは素早く右手の指輪を交換する。そして、右側に傾けたバンドオーサーに翳した。

 

『エキサイト、プリーズ』

 

 

 右腕のみ赤い魔方陣を潜らせるウィザード。魔方陣を潜った右腕は、物凄い筋肉に覆われていた。

 

 

「え? ちょっ…それはズルくない!?」

 

 

 ムキムキになったウィザードの右腕を必死に躱すラド。

 

 そうこうしている間に、確実に虹色の穴は小さくなっていった。

 

 

「く…次元の扉が閉じる」

 

 

 悔しそうな表情でウィザード攻撃をいなすラド。だが、次第に追い詰められていく…。

 

 

「フィナーレだ!」

 

 

 ウィザードは右手の指輪を、深紅の魔宝石が嵌め込まれた【スペシャルウィザードリング】に変更し、ベルトに翳そうとした。

 

 しかしその時、お互いに予想していなかった出来事が起きた。

 

 小さくなっていた虹色の穴が、突如再び拡張し、周囲を勢い良く吸い込み始めたのだ。

 

 

「何!?」

 

「扉に吸い込まれる。これで、帰れる!」

 

 

 笑みを浮かべるラドとは対称的に、ウィザードは何が起きているのか全く把握できていなかった。

 

 解っているのは、自分がとてつもない事に巻き込まれている事と、虹色の穴・次元の扉に吸い込まれているという事実だけだった。

 

 

 

 

 

 

(続く…)



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第二話

二話目の投稿です。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 次元の扉に吸い込まれた晴人は、現在自由落下に似た体験をしていた。

 

 扉に吸い込まれた直後に変身が強制解除された為、今は晴人の姿で落下中だ。

 

 この空間は特殊なもので、魔法がキャンセルされるらしい。その証拠に、先ほどからベルトからはエラーコールが発声されている。

 

 しばらく落下していると、虹色の光の奔流が晴人を包んだ。

 

 晴人の意識はそこで途絶えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 一体どれくらい眠っていただろう…。晴人は身体に当たる水の感触に眼を覚ました。

 

 

「………砂浜?」

 

 

 リズム良く当たっている水は、波だったのだとこの時初めて気づく。

 

 

「確か俺は…次元の扉に吸い込まれて…」

 

 

 僅かずつだが、記憶が蘇ってきた。

 

 

「そうだ、あいつは!?」

 

 

 吸い込まれる直前まで戦っていた青年の事を思い出す。茶色いローブを着た【ラド】と呼ばれていた青年。

 

 敵ではあったが、どこか憎めない青年…。その姿は周囲には無い。

 

 

「ってか、ここどこだ? 携帯は圏外だし…」

 

 

 自分の携帯に表示される【圏外】の文字。晴人は自身が置かれている状況を察し、溜め息をついた。

 

 

「……ホントに世界を渡ったみたいだな」

 

 

 その呟きに答えてくれる者は誰も居ない。晴人は、とりあえずその場から移動する事にした。

 

 

『コネクト、プリーズ』

 

 

 赤い魔方陣から愛車のバイク(マシンウィンガー)を取り出す晴人。その表情には安堵の色が浮かんでいた。

 

 

「良かった。魔法は使える」

 

 

 晴人は一息つくと、バイクに跨がって先に進み始めた。

 

 しばらく走ると、周囲の景色に変化が起こる。先ほどとは異なり、小さい木々や茂み等が目立ち始めたのだ。潮の香りももうしない。

 

 しかし、晴人にとってそんなことはどうでも良かった。晴人は、今世紀最大のピンチに陥っていたのだ。

 

 

「…………どこだここ?」

 

 

 迷ったのである。何せ右も左も解らない異世界なのだ。迷うのは当然といえる。

 

 晴人はバイクを止めると、右手の指輪を交換しベルトに翳した。

 

 

『ガルーダ、プリーズ』

 

 

 晴人は使い魔を召喚し、人が居そうな場所の捜索を頼む。

 

 

「…とりあえず人を探してくれ。これじゃあマトモに動けない」

 

 

 晴人の言葉に、ガルーダは頷くとすぐに飛び立っていった。

 

 ふぅ、と一息ついた晴人は、【コネクトウィザードリング】を使用して、ハングリーのドーナツ(プレーンシュガー)を取り出し、近くの岩に腰かける。

 

 

「やっぱコレでしょ♪」

 

 

 美味そうにドーナツをかじる晴人。いつもならここで何かしらの邪魔が入るのだが、今回は心配ないようだった。

 

 と安堵していたのも束の間、背後から低い唸り声が聞こえてきて、思わずヒヤリとする。

 

 振り返ると、紅蓮の毛並みをもつ狼に似た動物がヨダレを垂らしてこちらを見ていた。

 

 

「でかっ!?」

 

 

 晴人は、その狼の大きさに目を見開いた。少なく見積もっても、体長三メートルはある。

 

 狼の目は、完全に晴人をロックオンしていた。

 

 苦笑いを浮かべながらゆっくりと立ち上がる晴人。そして、狼を刺激しないように、ゆっくり後退りを始めた。

 

 たがその努力虚しく、狼は晴人を食べようとその大きな口を開けて突っ込んで来る。

 

 あまりにも咄嗟の事で、晴人は反応出来なかった。

 

 晴人は、この後起こるであろう結果を覚悟し目を閉じた。

 

 「らしくない」…晴人はそう思った。だが、いつまで経っても何の衝撃も来ない。

 

 不思議に思って目を開けた晴人は、驚くべき光景を目の当たりにした。

 

 

「よぅ、無事か青年?」

 

 

 そこには、巨大なメイスで紅蓮の狼の押さえつける少女の姿があった。

 

 流れる様な腰まで伸びた青髪。褐色の肌は、必要最低限の箇所を除いて限界まで露出している。

 

 出る所は出ていて、引き締まるべき箇所はちゃんと引き締まっている。所謂、ボン・キュッ・ボンの体型だった。

 

 少女は、晴人を見て声高らかに宣言する。

 

 

「青年、手を貸してやるぜ!」

 

「えっと…キミは誰?」

 

「おっと…詳しい話は後だ。まずはこの紅蓮狼(クリムゾンウルフ)を倒すのが先だ!」

 

 

 少女はそう言うが早いか紅蓮狼をメイスで殴り飛ばす。

 

 

「すっげぇ怪力…」

 

「何か言ったか?」

 

 

 晴人の呟きが聞こえたらしく、ギロリと睨む少女。どうやら性格はかなり攻撃的なようだ。

 

 殴り飛ばされた紅蓮狼は、体勢を低くして飛び掛かる準備をしている。完全に攻撃体勢だった。

 

 

「仕方ない」

 

『ドライバーオン、プリーズ』

 

 

 溜め息をついて晴人はベルトを出現させる。

 

 

『シャバドゥビタッチヘーンシーン! シャバドゥビタッチヘーンシーン!......』

 

 

 軽快に流れる待機音声。それを聞いた少女は、あからさまに顔をしかめた。

 

 

(やかま)しっ! 何だソレ!?」

 

「変身!」

 

『フレイム! プリーズ』

 

『ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!』

 

 

 基本形態(フレイムスタイル)変身した晴人を見て口笛を吹く少女。

 

 

「すげぇなソレ。魔武装か?」

 

「魔武装? 何ソレ…」

 

「属性を自分の身体に纏わせて強化する技さ。でも、基本魔武装は姿変わらない筈だけどな~」

 

 

 そう言って首を傾げる少女。

 

 

「ふ~ん。ま、魔武装ではないと思うよ。

 俺はウィザード。しがない魔法使いさ!」

 

「魔法…使い…」

 

 

 唖然とした感じで少女が呟く。

 

 そんな少女を尻目に、晴人は【ウィザーソードガン】を取り寄せて紅蓮狼に向かっていった。

 

 しばらくポカンとしていた少女だったが、すぐにウィザードに続く。

 

 

「青年! お前、魔法使いだったんだな!」

 

「まぁね。ところで、後で色々聞きたい事があるんだけど…?」

 

 

 ウィザードと少女は、紅蓮狼の相手をしながら会話する。

 

 

「いいぜ。何でも聞きにこい!」

 

「んじゃ、とっとと片付けるか」

 

 

 ウィザードはそう言ってウィザーソードガンをガンモードにしてハンドオーサーを起動させた。

 

 

『キャモナ・シューティング・シェイクハンズ! キャモナ・シューティング・シェイクハンズ!......』

 

『フレイム! シューティングストライク!』

 

『ヒー、ヒー、ヒー! ヒー、ヒー、ヒー!......』

 

「フィナーレだ。はぁっ!」

 

 

 気合いと共に、ウィザーソードガンの銃口から炎の塊が紅蓮狼に向けて勢い良く発射された。

 

 だが、その一撃が紅蓮狼に届く事はなかった。紅蓮狼の手前で吸い込まれる様に消えたのだ。

 

 

「へぇ~、火は効かないわけか…」

 

「あいつは火属性の攻撃を無力化するアビリティを持ってる。火は効かねぇぞ!」

 

「なるほど…だったらこれだ!」

 

 

 ウィザードは右手の指輪を、青い魔宝石が嵌め込まれた派手な装飾の指輪に換えてハンドオーサーに翳した。

 

 

『ウォーター! ドラゴン!』

 

『ジャバジャババシャーン、ザブンザブーン!』

 

 

 青い魔方陣と共に、水のエレメントを纏ったドラゴンの幻影がウィザードと一体化する。

 

 絶大な水の魔力が、ドラゴンの咆哮と共にウィザードの姿を変えた。

 

 雫を模したひし形に近い形状のアルターベゼルウォーター。両肩にはひし形の封印石が追加されている。

 

 胸部には、フレイムドラゴンと同じくウィザードラゴンの顔を模した装甲が施されていた。

 

 その身に宿すエレメントと同じ、澄んだ青のウィザードローブをはためかせて、特殊形態(ウォータースタイル)の強化形態・水を司どる魔法使い(ウォータードラゴン)が静かに立っていた。

 

 

「わぁお。アンタ、複数の属性が使えるんだな!」

 

 

 感心する少女。そんな少女を尻目に、ウィザードはウィザーソードガンをソードモードに変更して紅蓮狼に斬りかかる。

 

 吹き飛ばされた紅蓮狼は、体勢を崩しながらも、その口から大きな火球を放った。

 

 放たれた火球は、まっすぐにウィザードを狙う。

 

 だが、ウィザードはあくまでも冷静だった。落ち着いて、右手の指輪を【ウォータードラゴンウィザードリング】と同じ魔宝石から削り出された指輪に取り替えると、ハンドオーサーに翳した。

 

 

『チョーイイネ! ブリザード、サイコー!』

 

 

 音声コールと同時に右手を前に翳す。すると、青い魔方陣が出現し、凄まじい冷気を放出し始めた。

 

 冷気はあっという間に放たれた火球を呑み込み、一瞬で周囲を白銀に変える。

 

 いつの間にか、紅蓮狼も氷漬けになっている。

 

 

「お前、氷も操れるのか…?」

 

「まぁね。今度こそフィナーレだ!」

 

 

 ウィザードは紅蓮狼に対して悠々と宣言する。

 

 同時に、深紅の魔宝石が嵌め込まれた指輪を右手に嵌めた。

 

 

『チョーイイネ! スペシャル、サイコー!』

 

 

 青の魔方陣から再びドラゴンの幻影が出現し、ウィザードラゴンの体の一部をウィザードの身体に具現化させた。

 

 ウォータードラゴンが具現化させたソレは…。

 

 

「ソレ、尻尾…か?」

 

 

 少女の呟き通り、ウィザードの腰部からウィザードラゴンの尻尾・ドラゴテイルが出現していた。

 

 

「はぁぁっ!!」

 

 

 気合いと同時にドラゴテイルを紅蓮狼に叩き付ける。

 

 ウォータードラゴンの必殺技『ドラゴンスマッシュ』が決まり、紅蓮狼の躰が砕け散り、戦闘終了(フィナーレ)を意味する青い魔方陣と共に消滅した。

 

 

「ふぃ~」

 

 

 それを確認すると、ウィザードは変身を解除する。

 

 纏っていた魔力が結晶となって流れ落ち、元の晴人の姿に戻った。

 

 

「それで、キミは誰? そしてここはどこなんだ?」

 

「私はラン。そしてここは【ヴィガルニア】だ!

 にしても、アンタ強ーんだな! あのBランクの紅蓮狼をあっさり倒すなんて…もしかして、余計な事しちゃったか?」

 

「そんなことないよ。助かった、ありがとう」

 

 

 晴人の言葉に、少女・ランは頬を赤らめる。

 

 

「詳しい話は私ん家で良いか? ここじゃ、またさっきみたいな魔物が襲ってくるからな」

 

「判った。お邪魔させてもらうよ」

 

「よっしゃ! じゃあ、着いてこい!

 っとその前に、知り合いを迎えに行かなきゃならねぇんだが、良いか?」

 

「もちろん」

 

「よし! じゃあ、出発だ!」

 

 

 嬉しそうに晴人を手招きするランに、晴人もまた笑みを浮かべながら着いていった。

 

 この時、晴人はこの先に驚愕の事実が待ち受けているとは、夢にも思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇が支配する空間。その空間を照らすのは、二本の松明だけだ。

 

 そんな薄暗い空間で、数人の男女が何やら話していた。

 

 

「――――――以上が報告の全てです。奴等は次元の扉を通って戻って来たようですね…」

 

「ふむ。こちらの準備は整った、もう奴等は敵ではない。

 問題は一緒にやって来た指輪の魔法使い(ウィザード)だな…早急に始末せよ」

 

「はっ! では、グリズリー…ウィザードを始末して来なさい」

 

 

 その言葉の直後、背後の暗闇から大柄な体躯の大男が姿を現す。

 

 

「はい。招かれざる客の始末…我にお任せ下さい」

 

 

 一礼した大男の周囲の空間が陽炎の様に歪み、一瞬で姿を変えた。

 

 鋭い目と牙を持ち、頭部には熊の様な丸い耳がある。身体は更に巨大になっていた。

 

 ファントム・グリズリーの本来の姿がそこにはあった。

 

 グリズリーは再び一礼すると、闇に姿を消した。

 

 

「………グリズリーは捨て駒だ。文句はないね、リヴァイアサン」

 

 

 グリズリーの気配が完全に無くなった後、闇の中から声が発せられる。

 

 

「もちろんです、オロチ様。あやつには我等の悲願の礎となってもらいましょう」

 

 

 そう言って闇の中から姿を現す女性。見た目は二十代前半で、青い髪に青い瞳をしている。確実に美人の部類に入る容姿だ。

 

 

「ふむ。この世界を我等ファントムの世に変える。邪魔する者は容赦するな」

 

「はっ!」

 

 

 リヴァイアサンと呼ばれた女性は、一礼すると闇に消えた。

 

 

「私はしばらく休む。灯りを消せ、トロール」

 

「ウス!」

 

 

 低いしわがれ声と共に、二本の松明が消える。

 

 

「ごゆっくりお休み下せぇ、オロチ様。あっしは外で見張っておりますんで」

 

 

 しわがれ声はそれだけ言うと、気配を消した。後には暗闇と静寂だけが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 周囲が開けたサバンナの様な荒れた場所で、ウィザードに変身した晴人の声が轟いた。

 

 現在晴人は、フレイムドラゴンとなっている。

 

 そして相手は、漆黒のローブに身を包む男・ダクだった。

 

 ランに着いていった晴人は、知り合いとの待ち合わせ場所に到着。

 

 そこで待っていた六人は、つい先ほどまで晴人が敵だと思っていた存在だったのだ。

 

 すぐさま晴人は変身し、ダクとの戦闘になった。そして今に至る訳だ。

 

 少し離れた場所では、ラン達が二人の戦いを観戦していた。

 

 

「あ~あ、や~っぱりこうなったかぁ」

 

 

 呆れたように溜め息をつくメラ。

 

 

「あの二人…何かあったのか?」

 

「あの二人と言うより私たちとちょっと揉めたんです」

 

 

 ランの問いにヒュウカが答える。

 

 

「まぁ、ウィザードはホンマの事を知らんだけやねん。あーなるんも無理ないわな」

 

「大体、ウィザード()に真実を教えないダクも悪いと思うよ。最初から素直に言えば、彼なら協力してくれただろうし…」

 

「…同意…」

 

 

 サンがウィザードに同情し、ラドがダクの文句を言う。それに水色のローブを纏った女性・アクアが同意した。

 

 そんなやりとりを見ていたランは、ダクの不器用さに深い溜め息をついた。

 

 一方のウィザードとダクは未だに戦闘を続けていた。

 

 

「待て待て我輩の話を聞け! 話せば判る!」

 

 

 ダクは必死に敵意が無い事をアピールするが、ウィザードの攻撃は止まらない。

 

 

「この期に及んで、一体何の話をするんだ?」

 

「とにかく待て! 奪った魔力ならもう返した!」

 

「…………何?」

 

 

 その言葉にウィザードの攻撃が止まる。

 

 ダクはホッとしたように持っていた武器を下ろした。

 

 

「実は、我輩達がこの世界に帰還する為に使用した次元の扉は、魔法使いの魔力によって出現するのだ」

 

「あぁ、知ってる。ある研究者の資料で見た」

 

 

 ウィザードは変身を解除せずに相槌を打った。ダクは話を続ける。

 

 

「我等は魔力を持たん、故にこうするしか無かったのだ。

 次元の扉の出現に使用した魔力は、一定時間で元に戻るのだ。おそらく、我等が魔力を奪った魔法使い達は既に目覚めている」

 

「え…じゃあ、何でもっと早く言わないんだ?」

 

 

 いつの間にか変身を解除した晴人がダクに訊ねる。その問いに答えたのはダクではなくメラだった。

 

 

「それは、ウィザードを【ヴィガルニア】(こっち)に連れて来る為だよん♪」

 

「俺を連れて来る為?」

 

「今この世界は危機に瀕してるんだよ。人に化ける魔物が民を虐殺してるのよね」

 

「人に化ける魔物? まさか…」

 

 

 晴人はそのワードに反応する。元の世界で嫌という程戦ってきた存在。自分の中にも居る存在。

 

 それが、次元を越えた先にも存在していたとは驚きだった。だが、不自然ではない。

 

 生来、魔力の高い人間…所謂【ゲート】が絶望した時に生まれるファントムは、例え次元を越えていても現れる可能性はあるのだ。

 

 もし、人に化ける魔物=ファントムなのだとしたら、晴人は戦う覚悟は出来ている。自分は、最後の希望なのだから…。

 

 

「で、我輩達はその集団と一戦交えた際にその中の一人に異次元へと飛ばされてしまったのだ」

 

「なるほど」

 

「だからウィザードには奴等を倒す手伝いをして欲しいんだよん。頼めるかにゃあ?」

 

 

 メラの質問に晴人は一同を見渡す。晴人の答えは決まっていた。

 

 

「事情は解った。俺で良かったら協力するよ。俺は、最後の希望だから…」

 

 

 晴人はそう言って、左手を握って前に突き出した。そこには赤く煌めく指輪が嵌まっている。

 

 その時、どこからともなく大声が響いた。

 

 

「では、その最後の希望を絶ってやろう!」

 

 

 声がした方向を全員が見る。そこには、傭兵のような逞しい体をした大男が立っていた。

 

 大男はゆっくりと近づいてくる。

 

 その服装は、明らかに晴人が居た世界のそれだった。

 

 ゆっくりと近づいて来る大男。すると、周囲の空間が陽炎のように歪み、その姿が変化した。

 

 その場に居た全員が警戒する。その中で、メラが声を上げた。

 

 

「あいつ。前に戦った集団の中に居た…つまり敵だよ!」

 

「待て!」

 

 

 晴人は今にも飛び掛かろうとするメラを晴人が手で制す。

 

 

「ウィザード…?」

 

「この世界にもファントムは居るのか。ゴメン。俺、君たちを誤解してたみたいだ…」

 

 

 そう言って指輪をベルトに翳す。

 

 

『ドライバーオン、プリーズ』

 

 

 ベルトが出現するのすぐさまハンドオーサーを左側に傾ける。

 

 

『シャバドゥビタッチヘーンシーン! シャバドゥビタッチヘーンシーン!......』

 

 

 ベルトから例によって軽快な待機音声コールが流れる。

 

 晴人は左手に【フレイムウィザードリング】を嵌めてハンドオーサーに翳した。

 

 

『フレイム! プリーズ』

 

『ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!』

 

 

 フレイムスタイルに変身した晴人は、ゆっくりと左手を顔の横に翳した。

 

 

「さぁ、ショータイムだ!」

 

 

 駆け出すウィザード。同時に、ファントム・グリズリーもウィザードに向かって駆け出した。

 

 手元に取り寄せたウィザーソードガンで攻撃するウィザード。一方で、グリズリーはその長く鋭い爪で攻撃していた。

 

 流れる様なアクロバティクな動きに翻弄されながらも、グリズリーは攻撃を仕掛ける。

 

 一方のウィザードも、自身の攻撃がグリズリーの爪で防がれていることに若干の苛立ちを感じていた。

 

 その時、グリズリーの爪がウィザードの胴体を捉える。

 

 激しい火花を撒き散らしながら吹き飛ばされるウィザード。グリズリー畳み掛けるように追撃する。

 

 

「く…」

 

 

 次第に防戦一方になるウィザード。マスクで表情は窺えないが、恐らく焦りの表情を浮かべているはずだ。

 

 

「ぐぁぁぁぁ!」

 

 

 再び攻撃を受けて吹き飛ぶウィザード。

 

 グリズリーはニヤリと笑うと、ウィザードに語りかけた。

 

 

「何だ? もう終りか指輪の魔法使い」

 

「もう終り? んな訳ないでしょ」

 

 

 ウィザードはそう言いつつ左手の指輪を黄色い魔宝石から削り出された指輪に換える。

 

 そして、再び左側に傾けたハンドオーサーに翳した。

 

 

『ランド! プリーズ』

 

 

 左手を足元に翳す。そこから土を纏う黄色の魔方陣が出現し、ゆっくりと上昇していく。

 

 

『ドッドッドッドドドン、ドンドッドッドン!』

 

 

 完全に通過した後には、ウィザードの姿を変化させていた。

 

 土のエレメントをその身に宿すウィザードの剛力形態(ランドスタイル)。ベゼルランドの形状は力強さを感じさせる四角形だ。

 

 

「仕切り直しと行こうぜ!」

 

「そうこなくては…楽しくなってきたぞ!」

 

「アンタ戦闘狂かよ」

 

 

 そう言いながら右手に持つウィザーソードガンを振りかぶり、ウィザードはグリズリーに向かっていった。

 

 グリズリーの爪の一撃を左手で受け止め、右手のウィザーソードガンで切りつける。

 

 火花を散らしつつ後退するグリズリーに、追撃の蹴りを放つウィザード。その攻撃には一切の手加減は無かった。

 

 

「く…なかなかやるなウィザード。そうでなければ面白くない」

 

「そういう戦闘狂発言は止めてくれ。フェニックス(あいつ)思い出して鳥肌立つんだよ」

 

「関係ないな!」

 

 

 瞬間、グリズリーの両目が光を放ちその体をさらに巨大にさせた。ゆうに三メートルはある。

 

 

「おいおいおい、そんな事も出来んのかよ!」

 

 

 驚きの声を上げるウィザード。だが、巨大になった反面、敏捷性は落ちるようで、その動きにはキレが無い。

 

 

「図体ばかりでかくて動きはノロマか…。でかけりゃ良いってものでも無いでしょ」

 

 

 そう言って左手の指輪を素早く交換する。行使したのは緑の指輪。ベルトに翳した後頭上に翳す。

 

 

『ハリケーン! プリーズ』

 

『フー、フー、フーフーフーフー!』

 

 

 出現した風を纏う緑の魔方陣を通過し、ウィザードの姿が再び変化した。

 

 風のエレメントをその身に宿すウィザードの敏捷形態(ハリケーンスタイル)。緑色に煌めくベゼルハリケーンの形状は逆三角形だ。

 

 手に持つウィザーソードガンを逆手に持ち変え、身体に風を纏わせて空を飛ぶ。

 

 それは正に魔法使いと呼ぶに相応しい姿だった。

 

 高速で飛行しながら連続攻撃を決めるウィザードに、グリズリーは為す術が無かった。

 

 斬っては離れ、斬っては離れのヒットアンドアウェイを繰り返すウィザード。

 

 グリズリーはもうボロボロだった。

 

 止めを刺すべく、ウィザードはウィザーソードガンのハンドオーサーを起動する。

 

 必殺技発動の待機音声が流れ、ウィザードが左手を翳そうとしたその瞬間、メラの叫び声が木霊した。

 

 

「ちょっと待ってよぅ!」

 

「んあ?」

 

「こいつ、前の戦闘で私が相手をしてたんだよぅ。だから、後は譲ってもらえないかなぁ? 決着、着けたいんだ」

 

「判った。そういう事なら後の事はメラに任せる」

 

 

 ウィザードはそう言うと左手の指輪を換えた。

 

 

『フレイム! ドラゴン!』

 

『ボー、ボー、ボーボーボー!』

 

 

 一瞬のうちにフレイムドラゴンに変化(チェンジ)する。

 

 そして、右手に紫色の魔宝石から削り出された指輪を嵌めた。

 

 この指輪は、ファントム・オーガを倒した後、笛木の家を調べていた木崎警視から受け取った、言わば笛木の形見の指輪だった。

 

 ハンドオーサーを右側に傾ける。

 

 

『ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー! ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー!......』

 

 

 待機状態を意味する音声コールが鳴り響く。

 

 一瞬の躊躇いの後、ウィザードは指輪をハンドオーサーに翳した。

 

 

『エクスプロージョン、プリーズ』

 

 

 音声コールと共に右手を前に突き出す。すると、グリズリーの周囲に激しい爆発が起こった。

 

 まともに喰らい吹き飛ばされるグリズリー。転がっていった先には、メラが立っていた。

 

 

「ありがとウィザード♪ 後でチューしてあげる♪」

 

「それは勘弁して欲しいね。ま、気持ちだけ受け取っておくよ」

 

 

 ウィザードはいざというときの為に変身は解除せずにラン達の待機している場所に向かう。

 

 

「良いのか?」

 

「あぁ。残念だが、俺のショーはここまでだ。ここからは…メラのショータイムだ」

 

 

 そこからはメラの一方的なお仕置きだった。

 

 ウィザードの攻撃によって既に弱っていた事を差し引いても、メラは強かった。

 

 グリズリーの巨大な体は、強大なパワーがまったく機能せず、ただの的でしかなくなっていた。

 

 メラは全身に炎を纏い、グリズリーを攻撃する。

 

 流石に危険を感じたグリズリーは、逃走を計ろうとした。

 

 

「逃げるの? じゃぁ、止め!」

 

 

 メラは両手を頭上に翳す。そこから巨大な灼熱の球体が出現した。

 

 

「ひ…ひぃぃぃぃ! 助け…」

 

「喰らえ、『灼熱の隕石(メテオフレア)』!」

 

 

 メラの怒りの一撃を受けたグリズリーは、断末魔の叫びと共に消滅した。

 

 

「終わったか…」

 

「ふぃ~」

 

 

 一息ついて変身を解除するウィザード。そこにメラが近づいて来た。

 

 

「任せてくれてありがと♪」

 

 

 そう言って晴人の頬にキスするメラ。

 

 

「……え?」

 

「おうおう、お熱い事ですなぁウィザード」

 

 

 ダクが茶化す。見ると、全員がニヤニヤしていた。

 

 だが、忘れてはいけない。メラが幼女体型だということを…。生憎、晴人にそんな趣味は無かった。

 

 戦闘が終了し、一同は改めて再会を喜んだ。

 

 しばらくしてから、ランが口を開く。

 

 

「じゃあ、隠れ家に行くか」

 

「そうだね。こんな所に長居は無用だ」

 

 

 ランの提案にラドが賛成する。その中で晴人が手を上げた。

 

 

「あの~俺は行っても良いのかな?」

 

「もちろん、歓迎するで~! もうウチら仲間やん!」

 

「…歓迎…」

 

 

 おずおずと聞いた晴人に、満面の笑みで答えるサン。アクアも無表情だが歓迎してくれるようだ。

 

 一同は足並みを揃えて隠れ家に向かった。

 

 隠れ家は街から少し離れた郊外にあった。

 

 晴人が想像していた廃墟とは違い、レンガ造りのちゃんとした家だった。

 

 

「へぇ~。意外と普通の家なんだな」

 

「偏見だぞソレ。廃墟とかだったらいかにもですぐにバレるだろ?」

 

「そういうもんかね」

 

「ハルト、ここが我輩達の隠れ家『アルカンシエル』だ」

 

「へぇ~、ネーミングぴったりじゃん」

 

「さぁ、入った入った!」

 

 

 ランに急かされ、晴人は隠れ家の中に入った。

 

 隠れ家の中は案外普通の構造になっており、パッと見では隠れ家には思えなかった。

 

 

「ここは普通の生活を送るスペースだ。ホントの隠れ家は地下だよ」

 

 

 そう言って床を指差すラン。晴人は大体予想していたのであまり驚かなかった。

 

 しばらくリビングの様な少し広いスペースで寛いでいると、玄関の扉が開き誰かが入って来る。

 

 気配は段々とリビングに近づいて来た。

 

 リビングの扉を開き一人の少女が入ってくる。

 

 その少女は、最初晴人の姿に驚いていたが、やがて笑顔を見せて口を開いた。

 

 

「ただいま。お客さん来てるんだね、こんにちは♪」

 

「おかえり。さっき私達を助けてくれたハルトだって…どうしたハルト?」

 

 

 晴人は帰ってきた少女を見て固まっている。それは、あまりにも知り合いにそっくりだったからだ。

 

 いや、そっくりという言葉は語弊がある。まさに生き写しだったのだ。

 

 

「…コヨ…ミ…?」

 

 

 グレムリンの攻撃によって消滅した筈の人物。

 

 自分が魔法使いとなるキッカケを作り、自分に魔法使いになる事を薦めた人物の娘。コヨミだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(続く…)



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第三話

 暗闇の中に佇む一人の女性、ファントム・リヴァイアサン。

 

 セミロングの青い髪。深海の様に深く美しい青い瞳。美しくも鋭い顔立ち。

 

 どこか儚げなその視線は、暗闇の中心を見据えている。

 

 髪の色と同じ青のドレスを着ているリヴァイアサンは、その口をゆっくりと開いた。

 

 

「計画通り、グリズリーは指輪の魔法使いに倒されました。次はどうされますか?」

 

「そうか…では次から本格的に殲滅する。グリズリーの戦闘でウィザードのデータは完全に揃った。ウィザードを消すことなど容易い」

 

「おっしゃる通りですオロチ様。すぐに次の刺客を送ります」

 

「理想の為に…頼むぞリヴァイアサン」

 

「仰せのままに、オロチ様」

 

 

 リヴァイアサンは声が発せられている暗闇に向かって一礼し、踵を返した。

 

 幕で遮断された部屋から出たリヴァイアサンは、廊下を歩き、日の光が差し込む礼拝堂の様な部屋に入る。

 

 その部屋には先客が居た。灰色のロングコートを羽織った茶髪の男だ。

 

 

「あら、来てたの?」

 

「リヴァイアサンか…相変わらずオロチにベッタリか?」

 

「「様」を着けろバジリスク! オロチ様を愚弄する気か!?」

 

 

 リヴァイアサンが怒鳴る。バジリスクと呼ばれた男は、それを鼻で笑うと立ち上がった。

 

 

「別に愚弄しちゃいないさ。オロチだって無理に様を着ける必要はないって言ってるし、好きに呼ばせてもらうぜ」

 

「貴様!」

 

「熱くなるなよ。お前の取り柄は冷静さだろ?」

 

「くっ…」

 

 

 自分のペースを乱されたリヴァイアサンは歯噛みする。この男にはいつもペースを乱される為、リヴァイアサンは好きではなかった。

 

 

「お前、グリズリーを捨て石にしたらしいじゃねーか」

 

「勘違いするな。奴が任務に失敗しただけの事だ」

 

「指輪の魔法使いか? そもそも、次元の扉を出現させたのはナイトメアだろ?

 奴はどこだ? お前の部下じゃねーか」

 

「さぁ。私にも奴がどこに居るのかは知らない」

 

 

 リヴァイアサンは首を横に振る。

 

 

「ところで、貴方は今まで何をしてたの?」

 

「ちょ~とな。俺は俺で計画があるのさ」

 

 

 バジリスクの言葉にリヴァイアサンはあからさまに顔をしかめた。

 

 

「オロチ様の計画に従わないと?」

 

「そうは言ってねぇ。だが、今回は俺も独自に動かせてもらうだけだ。オロチ"様"の理想を叶える為にな」

 

 

 バジリスクはそう言ってその場から立ち去る。残されたリヴァイアサンは、しばらくバジリスクの後ろ姿を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、隠れ家【アルカンシエル】では、コヨミの登場で晴人が呆然としていた。

 

 

「コヨミ…何で?」

 

「え? あなた、私を知ってるの?」

 

 

 可愛らしく小首を傾げるコヨミ。仕草、表情、声色、性格…全てが晴人の知るコヨミだった。

 

 今はもう会うことが出来ない懐かしの人物と同じ姿の少女の登場に、晴人は混乱した。

 

 頭では別人だと解っていても、目から入ってくる情報がそれを受け入れない。

 

 

「なぁハルト。お前コヨミを知ってんのか?」

 

「……まぁね。正確には、俺が居た世界の知り合いに生き写しなんだよ」

 

「へぇ~珍しい事もあったもんだな」

 

「ここは俺にとって異世界だ。別に不思議じゃないさ…それより、詳しい話を聞かせてくれ」

 

 

 無理矢理納得させた晴人は、ランに説明を促す。

 

 

「そうだな。実は――――」

 

 

 ランは前置きしてから話始めた。

 

 

 

 

 

 時は遡り一年前、平和そのものだった【ヴィガルニア】に突如として邪悪な闇が舞い降りた。

 

 自らを【オロチ】と呼称するその闇は、【ヴィガルニア】の人々を混乱と恐怖のドン底に陥れた。

 

 僅か一日で【ヴィガルニア】最大の王国を蹂躙したオロチは、何人かの国民を捕らえて姿を消した。

 

 その後、連れ去られた人々を見た者は一人も居ない。

 

 しばらく後にとある山奥で、赤い光といくつかの小さな紫の光を見た者が数人居た。

 

 その目撃者の話では、その小さな紫色の光の数は、連れ去られて行方不明になった国民の人数と同じだったという。

 

 その更に数日後、連れ去られた一人の男性が王国の村に帰って来た。

 

 彼の名はハデルヤ。しがない鍛冶屋の息子だった。

 

 彼の両親は大変喜んだ。

 

 

「無事だったんだなハデルヤ!」

 

「心配したのよ! 一体何があったの!?」

 

 

 涙を流しながら語りかける両親。その中心にある息子の邪悪な笑みに気づかずに…。

 

 

「とにかく無事で良かった」

 

「無事? 笑わせんなよ人間風情が…。ハデルヤは絶望して死んだ。俺というファントムを産み出してなぁ!」

 

 

 そう叫ぶと同時に姿を変える。その姿は、怪物そのものだった。

 

 

「俺はフェンリル。貴様らを葬るファントムの名だ、覚えておけ!!」

 

 

 その後、その村で村人を見た者は居ない。

 

 その村を訪れた者は語る。【絶望の村】だった、と。

 

 

 

 

 

「……【絶望の村】、か…」

 

 

 ランの話が終わると、晴人は呟いた。

 

 

「【絶望の村】はこの近くにあるのさ…」

 

「へぇ~。この近くにあるんだ」

 

「そして夜な夜な、村人達の苦しそうな呻き声が…」

 

 

 そこまで言うと部屋の明かりが突然消える。そして晴人の耳元で…。

 

 

「うぅぅぅぅぁぁぁぁ……」

 

 

 低い呻き声が響いた。

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 悲鳴を上げる晴人。そこで部屋の明かりが点いた。

 

 晴人が辺りを見渡すと、ニヤニヤと笑っているランや他の面々。

 

 サンに至っては、床を拳で叩いて爆笑している。

 

 

「お前ら…」

 

 

 晴人のこめかみに青筋が浮かぶ。

 

 

「怪談話は夜にやるもんだぜ」

 

 

 晴人はそう言って右手に指輪を嵌める。黒色の魔宝石から削り出された指輪だ。

 

 ベルトのバックル状態のハンドオーサーに翳した。

 

 

『ホラー、プリーズ』

 

 

 正面に出現した黒い魔方陣から、靄と共に数々の悪霊や怨霊の幻影が現れた。

 

 パニックになる一同。晴人はそれを見てイタズラっ子の様にニヤリと笑った。

 

 

「おかえしだ。これがホントの心霊体験ってね♪」

 

「冗談きついよハルトぉ~!」

 

 

 メラが両目に涙を溜めて口を尖らせる。ヒュウカ達女性陣も涙目だ。

 

 

「貴様の魔法は洒落にならん!」

 

「アレって、君の居た世界の幽霊たちでしょ? けっこう怖いじゃん…」

 

「…同意…」

 

「ホンマ心臓止まるかと思たで! 冗談も大概にせぇや!」

 

「悪い悪い。ちょっとやってみたくなってね」

 

 

 イタズラっぽく微笑む晴人。

 

 使用した指輪は【ホラーウィザードリング】。黒い魔宝石から削り出された指輪で、使用すると魔力量に応じた数の幽霊が出現する効果がある。戦闘向けではない指輪だ。

 

 しばらくして落ち着きを取り戻した一同は、各々自分のやるべき事をし始めた。

 

 

「え? メラが料理するのか!?」

 

「ぶぅぅぅ! 失礼だぞぅ! こう見えても、私けっこう上手なんだからね!」

 

「まぁ、私も一緒に作るから大丈夫ですよハルトさん♪」

 

「そっか、それなら安心だ」

 

「うぇぇぇぇぇぇん!」

 

 

 それからしばらく隠れ家【アルカンシエル】には、メラの泣き声が響いていた。

 

 数分後、妙に張り切ったメラと、そんなメラに若干引いているヒュウカは料理を作っていた。

 

 

「む~。目にもの見せてやるんだからぁ!」

 

 

 妙に気合いが入っているメラ。どうやら晴人に言われた言葉がよほどショックだったようだ。

 

 

「どーしよアレ。ちょっとからかい過ぎたかな?」

 

「気にせんでええよ。いつもの事やから」

 

 

 ちょっとやり過ぎたと後悔している晴人に、サンが優しく語りかける。

 

 

「あの娘のポジションは弄られキャラやねん。それに、メラはハルトが気に入ってんねんで?」

 

「え?」

 

「あん時も「ウィザードと遊べる!」言うて、ダクの制止も聞かんと会いに行ってしもて…ダク(なだ)めんの大変やってんで?」

 

「なるほど。これは謝るべき…なのか?」

 

「別に謝らんでもええよ。ハルトの所為や無いからな」

 

「仲…良いんだな」

 

「ハルトは居らんの? 元の世界で帰りを待ってる人は…」

 

 

 サンの言葉で晴人の脳裏に【面影堂】の面々が過る。

 

 凛子、瞬平、輪島のおっちゃん…。そして、いつしかライバルであり戦友でもある仁藤。

 

 

「今頃心配してるかな…みんな」

 

「帰りたくなった?」

 

「いや。まだ帰る訳にはいかないよ。ファントムを倒すまでは…ね」

 

「ふぅん。頼りにしてるで~魔法使いさん♪」

 

「任せて。俺が最後の希望だ」

 

「頼もしな~」

 

「もし…」

 

「え?」

 

「もし、絶望しそうになったら……俺が希望になってやるよ」

 

 

 笑顔で右手に嵌められた指輪を前に翳し、そう宣言する晴人を見て、サンは顔を赤らめた。

 

 その様子を影から見ていたラドとダクは…。

 

 

「ねぇダク…ハルトって女たらしなのかな?」

 

「かもな。しかも天然女たらしときたもんだ。羨ましい~」

 

「ダク…キャラが壊れてるよ…」

 

 

 そんなやり取りをしている二人だった。

 

 そうこうしている間に、無事に料理が完成したようだ。

 

 メラとヒュウカの二人が次々と食卓に料理を運ぶ。

 

 晴人とサンも手伝い、瞬く間に食卓は料理で埋め尽くされた。

 

 

「多いな。短時間でこれだけの量を作れるとは…相変わらず流石だな二人とも」

 

 

 ダクが二人を労う。全員が食卓に揃った時点で、夕食が開始された。

 

 まず晴人は、卓上の中央に置かれている大皿に手を伸ばす。そこには、唐揚げが置かれていた。

 

 

「ドーナツも美味いけど…こっちも中々だね」

 

「せやろ!? メラが作る唐揚げは美味しいんや!」

 

「そんな誉めても何も出ないよぅ!」

 

 

 食卓を笑いが包んだ。

 

 晴人はコヨミが普通に食事しているのに驚いた。

 

 やはりここは世界が違うのだと改めて実感する。例え世界が変わっても、この笑顔は守り抜こう、晴人そう心に誓った。

 

 しばらくして食事を終えた一同は、少し話をしたあと就寝した。

 

 

「ベッドはこれを使ってくれ。何かあったら私に言ってくれよ」

 

「ありがと。じゃ、おやすみラン」

 

 

 晴人は短く返事をして横になる。今日は色々な事があって疲れたようだ。

 

 横になってしばらくすると、晴人は静かな寝息をたて始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらい寝ていただろうか…。晴人は誰かに名前を呼ばれてふと目を覚ました。

 

 

「…………ここは?」

 

 

 晴人は自分が居る場所に驚く。そこは【アルカンシエル】のベッドの上では無く、辺り一面のお花畑だった。

 

 

「………何で?」

 

 

 呟く晴人。その疑問も当然と言える。

 

 起き上がった晴人は辺りを見渡す。しかし、人っ子一人居ない。

 

 

『晴人…』

 

「!?」

 

 

 その時、晴人は自身を呼ぶ声を聞く。その声は、晴人がよく知る人物の声だった。

 

 

「コヨミか! どこに居る!?」

 

『聞いて晴人。今、【ヴィガルニア】は危機に瀕してる』

 

「知ってるよ。ファントムだろ?」

 

『ただのファントムじゃないわ』

 

「どういう意味? ただのファントムじゃないって…」

 

『最強最悪のファントムよ。名前は【オロチ】』

 

「オロチ……」

 

『気をつけて晴人。それから、【ヴィガルニア】を救って。貴方は最後の希望よ』

 

「わかったよコヨミ。俺が必ず救う。だから安心して眠ってて」

 

 

 その言葉に安堵するかのように、コヨミの声は気配を消した。

 

 同時に晴人は強烈な眠気によって、再び眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 【アルカンシエル】のベッドの上で晴人は目を覚ました。

 

 あれは夢だったのだろうか……。目を閉じると鮮明に脳裏に浮かぶ先ほどの光景。

 

 出てきたコヨミは、晴人がよく知るコヨミだった。

 

 おそらく現実と夢が融合したものだったのだろう、そう結論付けた晴人は、コヨミの言葉を思い出す。

 

「最強最悪のファントム」……コヨミは確かにそう言った。

 

 

「……オロチ……か…」

 

 

 晴人の呟きは闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝。柔らかな日射しに照らされ、晴人は再び目を覚ました。

 

 

「ふぁぁぁ~~ぁぁ……」

 

 

 大きな欠伸をひとつつくと、ベッドから起き上がる。

 

 リビングに向かうと、既に全員が揃っていた。

 

 

「あ、お寝坊な魔法使いさんが起きて来たで~」

 

「遅いよ晴人ぉ~!」

 

「悪い悪い。おかげで良く眠れたよ」

 

 

 晴人は苦笑いしながら頭を掻く。

 

 

「晴人、貴様はこれからどうするのだ?」

 

「俺? 俺は…その辺をぶらぶらするかな。この世界を見て回りたいからさ」

 

「呑気なものだな」

 

「その呑気さが俺の取り柄さ。夜には戻るよ」

 

 

 晴人はそう言うと、笑みを浮かべて【アルカンシエル】から外に出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マシンウィンガーに跨がり、アクセルを噴かす。

 

 

「さぁて、行きますか」

 

 

 晴人はヘルメットを被るとバイクを走らせる。

 

 10分くらいだろうか、ちょっとした広場に到着し、晴人はバイクから降りる。

 

 周りには暖かな日射しの下、多くの人々で賑わっていた。

 

 

「こうやって見ると、ファントムの影響なんか感じられないな……」

 

 

 晴人は近くの噴水の淵に腰掛け、外出の際ランから渡されたドーナツを頬張った。

 

 

「もし、そこのお若い方…」

 

「ん? 俺の事?」

 

 

 ふと顔をあげると、にこやかに微笑む初老の紳士が晴人を見ていた。

 

 

「貴方、指輪の魔法使いさんですか?」

 

「そういうアンタは、ファントムさん…だよね?」

 

「御名答。お初にお目に掛かります。(わたくし)、ファントム・ヤタガラスと申します。以後、お見知り置きを……と言っても、貴方はここで死ぬのですが…」

 

 

 初老の紳士はファントム本来の姿に戻ると、周囲に灰色の石をばらまいた。

 

 それは徐々に形を成していき、ついに二つの角を持つ【グール】と呼ばれるファントムの(しもべ)に変化する。

 

 

「随分と大人数だな」

 

「パーティは多い方が楽しめるのでね」

 

「…なるほど。ファントムにしては良いこと言うじゃん」

 

「お褒めに預かり恐縮です。お礼に、出来るだけ痛くないように殺して差し上げます、よ!」

 

「おっと! はは…せっかちさんは嫌われるぜ?」

 

 

 ヤタガラスの攻撃を躱した晴人は、ベルトを指輪をベルトに翳す。

 

 

『ドライバーオン、プリーズ』

 

『シャバドゥビタッチヘーンシーン! シャバドゥビタッチヘーンシーン!......』

 

『ランド! プリーズ』

 

「変身!」

 

『ドッドッドッドドドン、ドンドッドッドン!』

 

 

 出現した黄色い魔方陣を潜った晴人は、剛力形態(ランドスタイル)に変身していた。

 

 

「さぁ、ショータイムだ!」

 

「料金は払いませんよ!」

 

「それならツケにしといてやるよ!」

 

 

 ウィザードはそう言ってウィザーソードガンを取り出す。

 

 そしてヤタガラスを切る、斬る、切り裂く。

 

 ヤタガラスは火花を撒き散らしながら転げ回った。

 

 

「く…流石にお強い! ですが!」

 

 

 次の瞬間、ヤタガラスの両目が鈍く輝き、黒い光弾を飛ばす。

 

 

「おっと!」

 

 

 躱すウィザード。だが、その隙にヤタガラスはその場から姿を消した。

 

 

「どこ行った!」

 

「上ですよ!」

 

 

 突如真上からヤタガラスの声が響く。見上げると、まさにヤタガラスが攻撃を仕掛ける瞬間だった。

 

 咄嗟の事で反応出来なかったウィザードは、ヤタガラスの攻撃をまともに喰らう。

 

 

「アンタ、空も飛べるのか!」

 

「カラスが飛べるのは当然ですよ」

 

 

 小馬鹿にしたように笑うヤタガラス。

 

 

「そうか。だが、飛べるのはお前だけじゃないさ!」

 

『ハリケーン! ドラゴン!』

 

『ビュー、ビュー、ビュービュービュビュー!』

 

 

 緑色の魔方陣と共に風のエレメントを纏ったドラゴンの幻影が出現し、ウィザードと一体化する。

 

 絶大な風の魔力が、ドラゴンの咆哮と共にウィザードの姿を変えた。

 

 頭部のアルターベゼルハリケーンは通常(ハリケーン)スタイルと同様に逆三角形。両肩には逆三角形の封印石が追加されている。

 

 胸部には、ウィザードラゴンの顔を模した装甲が施されている。

 

 その身に宿すエレメントと同じ、緑一色のウィザードローブ。周囲に荒れ狂う風を従えた敏捷形態(ハリケーンスタイル)の強化形態・風を司る魔法使い(ハリケーンドラゴン)がその姿を現した。

 

 ウィザードはウィザーソードガン・ソードモードのハンドオーサーを起動させ、右手の指輪を翳した。

 

 

『コピー、プリーズ』

 

 

 魔方陣と共にウィザードの左手にウィザーソードガンがもう一振り現れる。

 

 

「お前に構ってる時間は無くてね。悪いが一気に決めさせてもらう!」

 

 

 そう言うと、ウィザードは再びウィザーソードガンのハンドオーサーを起動し、指輪を翳した。

 

 

『『ハリケーン! スラッシュストライク!』』

 

『『ビュー、ビュー、ビュー! ビュー、ビュー、ビュー!......』』

 

 

 音声コールと同時に二振りあるウィザーソードガンの刀身が風を纏う。

 

 

「はあっ!」

 

 

 短い気合いと共に振られたウィザーソードガンから風のエレメントを纏う斬撃が放たれる。

 

 その斬撃は寸分の違いもなくヤタガラスを直撃した。

 

 だが、ヤタガラスは吹き飛ばされた程度でまだ倒されてはいない。

 

 ウィザードは再び左手の指輪を変えた。

 

 

『ランド! ドラゴン!』

 

『ダン、デン、ドン、ズドゴーン! ダン、デン、ドゴーン!』

 

 

 黄色い魔方陣と共に土のエレメントを纏ったドラゴンの幻影が現れる。

 

 咆哮を上げながらウィザードと一体化すると、ウィザードの姿がまた変わった。

 

 力強さを感じさせる四角形のアルターベゼルランド。両肩には四角形の封印石が備わり、胸部にはウィザードラゴンの顔を模した装甲が施されている。

 

 黄色のウィザードローブはその身に宿すエレメントを十分に表現している。

 

 大地を司る魔法使い(ランドドラゴン)……ウィザードの剛力形態(ランドスタイル)を強化した姿である。

 

 ゆっくりと構えを取るウィザード。

 

 その視線はヤタガラスをしっかりと捉えていた。

 

 

「やれやれ。その姿で空を飛べる私とやり合うつもりですか?」

 

「いくらでも手はあるんでね!」

 

『チョーイイネ! グラヴィティ、サイコー!』

 

 

 ベルトに翳した指輪に込められた魔法が発動する。重力を操るその魔法は、ヤタガラスの動きを完全に封じた。

 

 

「フィナーレだ!」

 

『チョーイイネ! キックストライク、サイコー!』

 

 

 右足の下に魔方陣が現れ、土のエレメントを纏う。

 

 

「やられる訳にはいきません!」

 

 

 瞬間、ヤタガラスはその身を翻して姿を消した。

 

 

「くっ……逃がしたか」

 

 

 変身を解除する晴人。気付けば、周りにはかなりの人だかりが出来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人里離れた山の中にひっそりと聳える廃墟と化した古城。そんな古城の中に、ヤタガラス(人間形態)が静かに座っていた。

 

 

「随分と勝手な真似をしてくれたみたいね……ヤタガラス!」

 

「ほぅ。リヴァイアサンですか……これは珍しいお客様ですね」

 

「貴様……何故オロチ様の作戦に従わない!?」

 

「お言葉ですが、私はバジリスク様の指示に従っただけです。オロチ殿に逆らうつもりは毛頭ありませんが、従うつもりもまたありません」

 

「貴様っ!」

 

 

 リヴァイアサンは怒りを露にする。彼女にとって、ヤタガラスはバジリスクと同様に嫌な相手だった。

 

 

「まぁまぁ、方法は違えど我等の最終目的は同じ。少しは信用して欲しいものです」

 

「……ふん、まぁ良い。それで? ウィザードはどうなってるの?」

 

「えぇ、()()彼なら…倒すのも容易いかと」

 

「そ。じゃぁそっちは任せるわ」

 

 

 リヴァイアサンは踵を返すと再び闇の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(続く…)



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