紅茶のおかわりはいかがですか?(GJ部二次創作に移行しました) (橘田 露草)
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ゆうしょく

はじめまして&こんにちは!
くーさんこと露草です。
ちなみに4作目です。
管理できるかなぁ…(^^;)

実は、同ペンネームでほのぼの小説をもう一本書いているのですが、くすっと笑えるがコンセプトの向こうとは違い、ホントのほのぼの小説です。
まあ、癒しをあたえられたら~というわけで 笑

では、ゆったりふわふわ物語をお楽しみください(^^)


「ワンコ!メシはまだか~!」

 

いつものくちなし寮。

夕食を作っていた仔犬(こいぬ)は、台所に入ってきた風鈴(かざり)にいきなり怒鳴られた。

もうそんな時間かと慌てて時計を見るが、まだ6時前だった。

 

「まだできてませんよー。」

 

別に仔犬の準備が遅いわけではない。

仕込みは朝にすでに終わっている。

そもそもいつも夕食は7時だ。

 

「今日は何だ。」

 

いいにおいがしたのか駆けよってくる。

 

「シチューですよー。まだまだ寒いですからね。」

 

仔犬の言葉を聞いているのかいないのか、風鈴は鍋を見つめ目を輝かしている。

仔犬はそれを見て苦笑しながら鍋を回す。

そろそろ生クリームを出さないと。

 

「ただいま。いいにおいがするね。」

「ただいまです~。」

 

その時、2人の少女が台所入ってきた。

すでに4人だが、この寮の台所はとても広く、人数が増えても狭い気がまったくしない。

 

「お帰りなさい。御籤(みくじ)さん、風羽(ふうう)ちゃん。」

 

調理中のため鍋から離れられない仔犬が声を掛ける。

ちなみに風鈴は無視だ。

 

「この匂いはシチューかな?」

「そうですよー。まだ時間かかりますけど。」

 

放課後はすぐ帰っているが、寮の家事すべてを担当している彼はなかなか忙しい。

そのため、料理も時間かかってしまうのだ。

 

「いやいや、焦らなくても大丈夫だよ。ワンコくんは十分、料理作るの早いし。それに今日はポテチを買ってきたから。」

「ありがとうございますー。でも、食事前にお菓子を食べるのはダメですー。」

「あ、私も食べるぞ!」

 

ようやく飽きたのか風鈴が鍋を離れる。

だから、ダメですって。

 

「ワンちゃん、昨日作ったプリンがあるので、出しといてくださいね~。」

「りょーかい。ありがとー。」

 

この台所を預かるのは仔犬と風羽の2人のため、当然仔犬もプリンの存在に気づいていたが、あえて今気づいたふりをする。

ちなみに、食事に関しての配分は、普段の食事が仔犬、おやつやデザートが風羽となっている。

 

そうして、何だかんだで料理ができ、食堂でみんなで食べる。

 

「うっめー!」

「うん、さすがワンコくん。ウチのシェフにも勝るとも劣らない出来栄えだよ。」

「おいしーです。」

 

食事の評価はおおむね良好。

だが、仔犬にはまだ仕事がある。

一人前の食事を持って2階の個人の部屋の方を目指す。

そして、いつも通りその中の1つの部屋をノックする。

 

(のぞみ)さん、夕食を持ってきましたよー。」

 

返事もいつも通り無い。

 

「ここに置いておきますねー。」

 

そして、お盆を置いて立ち去る。

次に来るのは、1時間後に器の回収する時だ。

 

「ワンコ~!お代わりだ!」

 

階段を降りようとすると階下から風鈴の叫ぶ声が聞こえた。

食堂から階段まではそれなりに離れているのだが。

 

「やれやれ…。」

 

ため息とともに、仔犬は自分の仕事をするため急いだ。




くちなし寮

学園にある小さな木造の寮。
元は生徒会役員用の寮だったが、女子寮別館としてつくりかえられた。

寮生は、寮長で高等部2年生の琴町風鈴、同じく2年生の西宮御籤、中等部2年生の波真野希、初等部3年生の琴町風羽、そして女子寮唯一の男子にして中等部1年生の雛森仔犬の計5名。
しかし、部屋の余りはまだある。


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くちなし寮の朝

こんにちは!
くーさんこと露草です。

ホントの日常小説ですから、どうなんですかね~?
と、書きながら不安に思ったり 笑

どうでもいいですけど、"不安"を"ふわん"って打っちゃって「何で変換できないんだろう」ってずっと思っていたそんな作者です。

そんな話とともに、第2話をどうぞ。


ピピピッ

5時にセットした目覚まし時計の音で仔犬は目が覚める。

この寮のほとんどすべての家事をやっている彼は一番に下に降りる。

 

「さて、洗濯機は回したし、朝ごはんとお弁当と夕食の仕込みをしないと。」

 

そうして仔犬は台所に立つ。

調理開始から30分。

お弁当の準備がほぼ終わり、粗熱が取れるのを待っていると、風鈴が起きてきた。

 

「おはようございます、寮長。」

 

仔犬は風鈴を寮長と呼ぶ。

特に言われたからでは無いが、なんとなく「さん」付けや先輩は違う気がしたのだ。

 

「おはよぉ~。」

 

ぼさぼさ頭のまま眠そうな声であいさつをする。

いつもの強気さは見る影もなく、思わずちょっとかわいいと思ってしまう。

 

「ワンコぉ、何かじゅーすちょ~だい。」

 

食堂の風鈴の椅子にだらんと座り、仔犬に催促をする。

 

「はいはい。」

 

そして、仔犬は風鈴のご所望の物の準備をする。

口元をにやにやとさせながら。

 

「はい、どうぞ。甘いトロピカルジュースですよ。」

「ありがとぉ~。」

 

だらけた口調で返し、そのままジュースを一気飲みする。

そして、一気に噴き出した。

 

「すっぱっーーー!!?こ、これグレープフルーツジュースだろっ!?」

 

叫んだ風鈴が仔犬を睨みつける。

だが、仔犬はすでに調理に戻っていた。

 

「目が覚めたなら、パジャマとか洗濯物出しといてくださいねー。寮長いつも出すの遅いんですから…っていたいいたいですって!!」

 

いたずらをした後輩(ワンコ)の背中にとびかかり、あたまぐりぐりを仕掛ける。

 

「お・ま・え・はッ!ワンコのくせに逆らったな~!」

「ぎ、ギブです!いたいいたい!!」

 

すでに仔犬は半泣きだが、風鈴は手を止めない。

これも先輩の自分に反逆した罰なのだ。

 

「朝からにぎやかだね。」

「姉さまとワンちゃんはいつも仲良しですね~。」

 

風鈴の声に起こされたのか、御籤と風羽も食堂へ降りてきた。

御籤はすでに制服姿だ。

 

「み、御籤さん!寮長を止めてください~!」

「ふむ、見たところ風鈴のやっていることは悪さをした後輩の指導だろう。なら、君が悪い。諦めたまえ。」

 

そう言って顔を洗いに行ってしまった。

 

「ふ、風羽ちゃん!助けて!」

「ふふ、姉さまとワンちゃんはいつも仲良しで嫉妬しちゃいますね~。」

 

そう言っていつも通りニコニコ笑っているだけだ。

結局、仔犬が解放されたのは、気絶しかけるギリギリの20分後だった。

 

 

 

「ほら、遅刻するぞ!」

「ま、待ってください!」

 

朝のお仕置きのせいで、朝食を食べ、洗濯物を干し終わった頃には、いつもより大分出るのが遅くなってしまった。

いくら学校の敷地内とはいえ、走らないと間に合わない時間だ。

中等部より距離がある高等部組と初等部組はすでに行ってしまった。

仔犬も慌てて追いかける。

その前に、開かずの部屋状態になってる一室をノックする。

 

「じゃあ、行ってきますね希さん。」

 

慌しく彼らの一日が始まる。




雛森 仔犬(Koinu hinamori)

中等部1年生。15歳。通称「ワンコ」。一応主人公。
くちなし寮の家事をほぼすべてやっており、家事スキルは高い。
まさに理想のお母さん。
人畜無害を絵に描いたような少年で、争い事は絶対しない。
もちろん女性に手なんて出さない(2重の意味で)。
自分では、特に個性は無いと思っている。

☆呼び方
・風鈴→寮長
・御籤→御籤さん
・風羽→風羽ちゃん
・希→希さん


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御籤さんと過ごす日曜日

こんにちは!
くーさんこと露草です。

まずは謝辞を。
お二方とも、さっそくのお気に入り登録ありがとうございます!
如月さんは"ゆるっと"の方の登録もありがとうございます!
ぜひご尊顔をお見せいただけたらと思います。
つきましては感想欄の方で……とこれ以上はルール違反ですね(笑)

最初なのでまずは人物紹介込みの個別回から始まります。
楽しんでいただけたら…と思います(^^♪

では、どうぞ!


御籤さんと過ごす日曜日

 

日曜日の朝。

仔犬は、寮の郵便を取りに歩いていた。

この学園では手紙や荷物は、高等部校舎の郵便置き場に各寮ごとの郵便入れによって分けてある。

くちなし寮には手紙はあまり届くことはないが、御籤が新聞を取っているため、それを取りに行くのは仔犬の仕事だ。

 

「あれ?これ誰のだろう。」

 

珍しく新聞以外に小包が届いていた。

持ってみると意外と重い。

 

「受取人は……御籤さん?」

 

仔犬は新聞と小包を持ち寮に戻った。

そして、食堂で仔犬の作った朝ごはんを食べている御籤に声を掛ける。

 

「御籤さん、これ届いてましたよー。」

「ああ、すまない。」

 

そうして、仔犬から荷物を受け取る。

 

「何か買ったんですかー?」

「本をね。何冊か買ったんだ。」

「へー。」

 

仔犬はマンガとライトノベルが多いが、割と本を読むのが好きだ。

もしかしたら、御籤と本の話題で話せるかもしれない。

 

「どんな本なんですか?」

「数学書や色々かな。」

「ごめんなさい。」

 

全然話の合うものではなかった。

急に謝られた御籤は目を丸くした。

 

「ど、どうしたんだい?」

「御籤さんと自分を同じところに立たせた僕がバカでした。」

 

御籤さんは頭が良い。

そのため、読書の考えそのものが違うのだろう。

 

「そうだ、ワンコくん。この後時間あるかい?」

「え?あ、はい。大丈夫ですよ。」

 

家事はまだあるものの少しなら問題ない。

 

「なら、本の整頓を手伝ってもらいないか?」

 

 

 

「いいよ、入りたまえ。」

「し、失礼します。」

 

御籤の部屋に入るのは初めてだった。

部屋の掃除も各個人で、仔犬は入ること禁止にされている。

 

「うわー、本がいっぱい。」

 

壁には本棚が何個もあり、その全部に本が詰め込まれていた。

 

「気が付いたらたまり過ぎていてね。少し処分しないと。」

 

さっき御籤本人も言っていたが、数学書などの学物書が多い。

中には、英語や仔犬が見たこともない言葉で書かれた本もある。

 

「こんなの読めるんですか?」

「いや、さすがに辞書を使いながらだけどね。」

 

御籤はそう言うが、仔犬なら辞書があっても読む気がしないだろう。

そう言えばさっき届いた小包をまだ開けていなかった。

 

「あ、さっきの荷物開けておきますね。」

 

親切心で仔犬が段ボールのガムテープをはがす。

その途端、御籤が焦りだす。

 

「ま、待ってくれ!それは私が…」

「え?」

 

御籤が言い終わる前に段ボールが開いてしまう。

中には一冊の数学書、そして。

 

「これって、風羽ちゃんも読んでいる本ですよね?」

 

それは、風羽が持っているのと同じ本だった。

本と言っても恋愛小説だが。

 

「ああ、見られてしまった…。」

 

仔犬がそう言った途端、御籤はorzのポーズになる。

 

「え、えっと、何かまずいことがあったんですか?」

 

仔犬は驚き聞く。

正直隠すほどのことでもない気がするが。

 

「私は、ワンコくんにとってかっこいい先輩でいたかったのだ…。」

 

落ち込んだ顔で言われるが、仔犬はわからないのか不思議そうな顔をする。

 

「恋愛小説が好きな御籤さんもかわいくていいと思いますけど。」

 

何の気も無しにそう言うと、御籤は少し顔を上げる。

 

「か、かわいい…か?」

「ええ、かわいいと思いますよ。」

 

おずおずと言う御籤に、仔犬はもう一度言う。

御籤の頬がほのかに赤らんでいることには気付かない。

 

「そ、そうか。ならいい…のかな?」

 

そうして、箱の小説を回収する御籤。

その様子を見て、やっぱりかわいいなと思う仔犬だった。




西宮 御籤 (mikuzi nishimiya)

高校2年生。
落ち着いたまじめな性格で、頭もいい。
風鈴とはクラスメートでもあり、幼馴染。
本が好きで、よく読んでいる。
以前は読書というと学術書だったが、最近では仔犬や風羽の影響で、ラノベや恋愛小説にも手を出している。

☆呼び方
・仔犬→ワンコくん
・風鈴→かざり
・風羽→風羽くん
・希→希


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風羽ちゃんと過ごす日曜日

こんにちは!
くーさんこと露草です。

何かちょっと遅くなっちゃいましたね~(^^;)
GWの間はスマホで更新しようと思っていたのですが、なぜかスマホじゃまったくネタが思いつかないという(笑)
う~ん、なんででしょう?

感想はホントに何でもいただけたらすごく嬉しいですよ~♪
面白いでも、ここがミスってるでも、ブサイク野郎でも、このメガネでも。
ただ、メガネって言ったら腹パンですけどね♪(^^)

と言うわけで、本編どうぞ!





「ここでベーキングパウダーを入れます~。」

「わかった。これぐらい?」

「はい、それでオッケーですよ~。」

 

御籤の部屋の本の整理を終え、昼食を食べた昼下がり。

仔犬は風羽にケーキの作り方を習っていた。

 

「さすがワンちゃん手際がいいですね~。ホントにお菓子作りしたことないんですか?」

「うん。僕はどちらかというと実用的な料理が多かったから。」

 

仔犬は両親が共働きであまり家にいない上、妹もまだ幼い。

また完全な独学だったため、お菓子作りはあまり興味をもったことがなかった。

 

「ワンちゃんならすぐにわたしよりうまくなっちゃいそうですね~。」

「そ、そうかな?」

 

お世辞だと思うが、褒められて悪い気はしない。

ましてや、相手はすごく年下とはいえ、美少女だ。

 

生地をオーブンに入れ焼く。

そして、泡立てた生クリームといちごを載せたら完成だ。

 

「こんなにキレイに作れるなんてすごいですよ~、ワンちゃん!」

「先生の教え方がうまいからですよー。」

「えへへっ♪先生だなんて照れちゃいますよ~。」

 

仔犬の言葉に頬を赤くして照れる風羽。

まるで新婚さんのようなやり取りに仔犬も思わず照れてしまう。

さすがに恥ずかしくなり、仔犬は慌てて話を変える。

 

「じゃ、じゃあ紅茶を入れて食べようか。」

「あ、はい。じゃあ、わたしが淹れますよ~。」

 

すぐに甘い雰囲気は霧散し、仔犬は少し残念に思ってしまう。

そんな気を知ってか知らずか風羽は、仔犬に笑顔で話す。

 

「昨日、おいしいダージリン買ってきたんですよ~。ちょっと待っててくださいね。」

「あ、うん。じゃあ、これテラスで食べよっか。」

「いいですね~。いいお天気ですし。」

 

寮の庭にはちょっとしたテラスとテーブルがある。

最も、使い始めたのは暖かくなった最近であるが。

仔犬はそのテーブルにケーキを置く。

 

「じゃあ、寮長たちを……って、あ。」

 

そう言えば、風鈴は一番に朝食を食べてすぐどこかへ出かけていた。

御籤はさっき仔犬と片付けた本を知り合いの古本屋に持って行った。

希はいるが、開かずの扉は開かない。

それはつまり。

 

「2人きりですね~。」

 

湯気の立つ紅茶を2つとケーキ持ってテラスにやって来る。

どうやら、2人しかいないことには気付いていたようだ。

 

「あ、うん。」

 

別に緊張はしない。

年下過ぎる女の子には、女性というより妹の感覚に近い。

 

「2人きり、だね。」

「2人きりですね~。」

 

仔犬の隣に座り、にこにこと仔犬を見る風羽。

甘い紅茶の香るテラス。

たった2人のお茶会が始まった。




琴町 風羽 (fuu kotomachi)

初等部2年生。7歳。
のんびりぽわぽわな天然さん。
お菓子作りが得意で、くちなし寮のおやつ番。
いつも笑顔で怒ったり悲しい顔はしたことがない。

☆呼び方
・仔犬→ワンちゃん
・風鈴→姉さま
・御籤→御籤さん
・希→希さん



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開かずの扉の開き方①

こんにちは!
くーさんこと露草です。

UAもうすぐ200ということでちょっとテンションが上がっています~!
毎日投稿できないのにこれだけの方に読んでいただけていることに感謝感激雨嵐という感じですよ。
これからもよろしくお願いします<(_ _)>

後報告です。
この小説では、報告せずに過去編をやろうと思っています。
実験とみなさんにちょっとしたいたずらってことで(笑)

では、本編をどうぞ!
長くなりそうなので分けました(笑)



仔犬が入寮した次の日。

仔犬は、夕食を作る風羽の手伝いをしていた。

明日からは、仔犬も食事作りのローテーションに入るため、今日の担当の風羽の手伝いをしていた。

 

「えっと、スプーンってどこです…かな?」

「そこの引き出しですよ~。」

 

まだ食器や鍋などの配置は覚えていないため聞きながら作業する。

風羽からは名前で呼んでいいと言われたが、年下とはいえ照れくさい。

敬語にしようかどうかも迷うくらいだ。

もうすぐ春休みも終わり、中学に入学するため少しは慣れておきたいが。

 

「あれ、雛森さん違いますよ~。」

「え、何が?」

 

教えてもらった引き出しから出したのに、咎められる。

 

「4つじゃなくて、5つですよ~。」

「え、でも。」

 

仔犬と風鈴と御籤と風羽。

全員で4人で合っている。

 

「希さんの分も用意しないと怒られちゃいますよ~。」

「の、希さん?」

 

初めて聞いた名前に仔犬は戸惑う。

 

「あれ?雛森さんに教えませんでしたっけ?ここにはもう1人いるんですよ~。」

「あ、もしかして…。」

 

部屋の1つが鍵付きだったのを仔犬は思い出した。

他の部屋には鍵はついていない。

 

「開かずの扉は開かない。」

「へ?」

 

急に風羽が格言みたいなことを言う。

 

「姉さまが言ってたんですよ~。だから希さんの部屋は開かずの扉って呼ばれてます。」

「開かずの扉ねぇ…。」

 

スプーンをもう1つ出しながら仔犬は言う。

まるで宝の部屋みたいだなと思う。

風羽は作ったカレーを手早く皿に入れお盆に乗せる。

 

「じゃあ、希さんにおいてきますね~。」

「あ、うん。こっちは後はやっておくよ。」

「はい、お願いします~。」

 

風羽が台所を出ていく。

仔犬は他のみんなのカレーをよそいながら、希のことが頭から離れなかった。

 

次の日の夕食。

風羽が持って行くと言ってくれたが、それを断り自分で持って行く。

扉の前で深呼吸し、風羽ちゃんから言われた通り、2回ノックする。

 

「希さん、夕食ですよー。」

 

返事はない。

これも風羽から言われていたこと。

 

「置いておきますねー。」

 

持ってきたスパゲティーを乗せたお盆を床に置く。

1時間後取りに来たら仔犬の仕事は終わり。

でも、最後に一言だけ足しておく。

 

「あったかいうちに食べてくださいねー。」

 

それだけ言って階段を降りる。

そして、みんなと一緒に夕食を食べた。

みんなおいしいおいしいと言ってくれたのが仔犬はすごく嬉しかった。

 

1時間後、お皿を回収しに行くとスパゲティーも付け合わせのサラダとスープも完食していた。

ちょっと嬉しくなり、台所に行くと皿を洗っていた風羽が驚いた顔をする。

 

「希さん、全部食べたんですか~!」

「?いつもは違うの?」

「いつもは半分ぐらいしか食べてくれないんですよ~。」

 

眉毛を下げ、少し困った顔をして笑う風羽。

しかし、聞いた話は仔犬には意外だった。

 

「もしかしたら、雛森さんのご飯が好きなのかもですね~。すごくおいしかったですし。」

「そう…なのかな?」

 

そうなら少し嬉しい。

もしかしたら開かずの扉を開けるかもしれない。

 

 




☆その時食堂では…

風鈴「アイツ飯作るのウマかったんだな。」
御籤「今朝見たけど、家事も完璧だね。」
風羽「色々手伝ってもらっちゃいました~。」
風鈴「よし、アイツこの寮の家事担当決定な。」


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開かずの扉の開き方②

こんにちは!
くーさんこと露草です。

話すことマジでないなぁ…(^^;)
えっと、ぼくの中学の時の黒歴史でも話しましょうか?
え、いらない?でしょうね!

はじまりまーす(^^



「希さんってどういう方なんですか?」

 

朝ごはんの時間。

仔犬は風鈴のおかわりをよそいながら質問する。

あの後、風鈴から家事担当を命じられ、今日の朝ごはんも仔犬が作った。

 

「何だよ惚れたか?」

「まだ顔も知らない方ですよー。」

 

風鈴はにやにやとしながら仔犬をからかう。

 

「風鈴、からかうのはよくないよ。」

「何だよ、ミクは相変わらずまじめだな。」

 

御籤がたしなめるが、風鈴はにやにや顔をやめない。

風鈴は御籤をミクとあだ名で呼ぶ。

御籤は風鈴を風鈴と名前で呼ぶ。

その関係がどこかうらやましく、自分も早く名前で呼べるようにならなくてはと思ってしまう。

 

「希くんは、キミの1学年上だね。確か去年入ってきたのだったかな。」

「あ、中等部の先輩だったんですか。」

 

仔犬の1学年上ということは中等部2年生だ。

 

「ただ、学校には行ってないみたいだけどね。」

「え?それってまさか。」

「ヒッキーだよ。ヒッキー。」

 

身もふたもないことを言う風鈴。

だが、それで仔犬は納得した。

 

「その…なんで引きこもっているんですか?」

「さあね。プライベートに関わることだし、さすがにそこまでは知らないよ。」

 

仔犬が聞くも、御籤も事情は知らないようだ。

もしかしたら、あえて教えないのかもしれないが。

 

「知りたいなら自分で聞けよ。」

 

食後のお茶を飲みながら風鈴が言う。

突き放すような言い方だったが、仔犬は諦めるつもりはなかった。

 

 

 

決心したもののなかなか話す機会は訪れず、学校も始まり今日は日曜日。

いつの間にか入寮から一週間以上が経ってしまっていた。

 

「はあ…、どうすればいいかな…。」

 

夕方。

畳んだ洗濯物を運びながら仔犬はため息をつく。

洗濯物は部屋の前に置いておき、仔犬が洗って畳んだらまた部屋の前に戻すというのが前に聞いたこの寮のルールらしい。

各部屋に服を置きに行くため、仔犬は階段を上っていた。

 

「ない…ないよぉ…。」

「ん?」

 

ふと小さな声が聞こえた。

風鈴と御籤はまだ帰ってきてない。

風羽は下で、さっき使ったティーセットやケーキを作るのに使った道具を洗っているはずだ。

もしや泥棒かと思い、警戒する。

 

「どこにいっちゃったんだろう…。」

 

そこにいたのは泥棒ではなく、白い髪をツインテールにした小柄な女の子だった。

何かを探しているのかしゃがみこんで床を見ている。

しかし、仔犬には見覚えがない。

 

「っ!?だれ!?」

 

仔犬の姿に気が付いたのか少女が見てくる。

 

「え、男の子!?ここ女子寮なのに…。」

 

驚く少女。

やっぱり仔犬には見覚えがない女の子だ。

だが、もしかしてという人はいる。

 

「の、希さん…?」

 

仔犬の言葉に驚く少女。

 

「なんで私の名前…!ひ、ひいっ!?」

「あ、ちょっと!?」

 

おびえた様子で慌てて少女は部屋に戻ってしまう。

はじめましては最悪の形で終わってしまった。



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開かずの扉の開き方③

こんにちは!
くーさんこと露草です。

書けていたんですけど、これでいいのか迷い3日間…。
いいや出しちゃえと思い切りようやく投稿しました(笑)
日常系なのに悩んじゃうのは文才がないゆえか……orz

あ、本編行きまーす(^^;)


初めての対面が失敗に終わった後、仔犬は失意の中夕食を作っていた。

いきなり現れてびっくりさせてしまった自分が悪いのだが、さすがにおびえられたのは傷ついた。

気が進まないが、希に夕食を持って行く用意をする。

 

「あれ、なんだろこれ?」

 

冷蔵庫の下に何か挟まっていた。

引っ張り出してみると、1枚の紙だった。

 

「これって…マンガの原稿?」

 

読んでみると、少女マンガのようだった。

さすがに1枚では話は分からないが、かなり上手い絵だ。

だがマンガを書くような人はここにはいない。

 

「もしかして…。」

 

先ほど何かを探していた希の姿を思い出した。

 

 

 

夕食のシチューと一緒に原稿を持って行く。

もしかしたらただの勘違いかもしれないが。

希の部屋をノックし、声をかける。

 

「あの、希さん。この原稿って…。」

 

バタン!

仔犬が言い終わる前に中から少女が出てきた。

そして、原稿を奪い取られる。

 

「よ、よかった~!明日締めきりなのにもうダメかと思った!」

 

希は、胸に原稿を抱きしめて半泣きになる。

 

「あ、あの…。」

「…ふぇ?」

 

どうやら原稿に気をとられて仔犬のことに気が付いていなかったらしい。

 

「あ!?さっ、さっきの!?」

「あ、あの!この前入寮した雛森仔犬と言います!」

 

また逃げられる前に一言で言う。

 

「後、夕食をお持ちしました!」

 

そう言いながらお盆を見せる。

希はお盆をじっと見た後、仔犬を見た。

 

「…も、もしかして最近のご飯って。」

「あ、はい。僕が作りました。」

 

仔犬がそう言うと、希の警戒心が薄れ、笑顔になった。

 

「すっっっごくおいしかったよ!あんなおいしいごはん初めて食べた!」

「そ、それはありがとうございます。」

 

いきなり褒められたのと少女の笑顔に仔犬は照れてしまう。

 

「えっと、希さんはもしかしてマンガ書いてるんですか?」

「え?あ、うん。……見る?」

 

そう言って希は仔犬を部屋に招き入れた。

 

「うわあ、すごい…。」

 

御籤の部屋に入った時も驚いたが、この部屋もすごい。

ただし、別の意味で。

 

「原稿とマンガだらけじゃないですか。掃除しないんですか?」

「うっ………掃除苦手…。」

 

 

呆れた目で仔犬が見ると、希は気まずそうに目をそらした。

部屋の中は床一面に原稿の紙とマンガが散らばっていた。

ゴミはないので悪臭はしないが、さすがに汚い。

仔犬が散らばる原稿の1枚を取る。

 

「あ、やっぱりうまいですよね、この絵。」

「そ、そう?」

 

言葉ではそうでもないように言うが、表情はものすごく嬉しそうだ。

 

「はい、好きな絵です。」

「す、好き!?私のこと!?」

「へっ?いや、絵のことですけど…。」

「あ、そっそうだよね…。こんなマンガ書いているなんか好きになる訳ないよね…。」

 

勝手に驚いたり、落ち込んだりする希に不思議そうな顔をする仔犬。

 

「おい、ワンコー!」

 

階下から風鈴の声が聞こえた。

 

「あ、はい!今行きますー!じゃあ、もう行きますね、希さん。」

「あ、あの!」

 

そう言って部屋を出ようとすると、希に服の袖をつかまれた。

 

「あ、明日も来てくれる…?マンガ読ませてあげるから…。」

 

そう小さな声で言った。

そう言われたら断れないし、元々断る理由もないわけで。

 

「…取りあえずはお掃除からですね。」

 

仔犬がそう返すと嬉しそうに笑った。

開かずの扉の住人はなかなか手のかかる、でもとてもかわいい女の子だった。

 




波真野 希 (Nozomi namimano)

中等部2年生。14歳。
引きこもりで超インドアな女の子。
気が小さく、やや妄想ぐせなところがある。
マンガ家を目指しており、投稿したら落ちるを繰り返している。
顔を知らなかった時から仔犬のご飯が大好き!

☆呼び方
・仔犬→雛森くん
・風鈴→風鈴さん
・御籤→御籤さん
・風羽→風羽ちゃん



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お弁当攻防戦

こんにちは!
くーさんこと露草です。

暑いですね~。
このまま暑くなったら冬はもっと暑くなるんじゃないですかね~。

あ、どうぞ。


4限終了の鐘が鳴り、お昼休み。

仔犬のクラスである中等部1年1組も騒がしくなる。

 

「ヒナ~、今日もお前は弁当か?」

 

花沢類斗(はなざわ るいと)が後ろの席の仔犬に声をかける。

名字で前後の席のためすぐに仲良くなった2人はすでに親友と呼べるほどになっていた。

ちなみに、ヒナというのは仔犬の教室でのあだ名だ。

雛森だからヒナ。

あだ名なんて単純なものだ。

 

「うん、そうだよ。類斗は?」

「弁当。紗南が作ってきてくれるってさ。」

「おばさまもおじさまもいらっしゃいませんから仕方なしですよ。」

 

2人が話していると少女の声が割り込んできた。

類斗の左隣の席の四倉紗南(しくら さな)だ。

この2人は幼馴染らしい。

 

「あはは、いつも2人は仲いいよね~。」

 

そう言いながら、仔犬の左隣の席の紫藤莉乃(しどう りの)も話に加わる。

 

「で、どうしよっか?今日はどこで食べる?」

「いつも通り、屋上でいいだろ。」

 

そう言って席を立つ4人。

仲良しの4人は初等部の頃からいつも一緒に弁当を食べている。

 

 

 

そして、屋上。

雨風で錆びたベンチの中でも若干きれいな2つのベンチに座る4人。

ちなみに、右のベンチに類斗と仔犬、左のベンチに紗南、莉乃だ。

 

「じゃあ、紗南弁当!」

「…どの立場で上から目線で言ってるのでしょうか、あなたは。ひ、ヒナさんもよろしければどうぞ!」

 

類斗に弁当を渡しながら、仔犬にやたらと大きい別の弁当を勧める。

紗南は類斗には普通に話すのに、仔犬に話す時には緊張したように話す。

仔犬はその理由はよくわからない。

 

「じゃ、じゃあ、あたしのもどうぞヒナくん!」

 

類斗には目もくれず、仔犬にこれまた大きな弁当を渡す莉乃。

だが、もちろん仔犬には朝自分で作った弁当がある。

 

「じゃあ、少しだけ。」

 

そう言って先に勧めてくれた紗南の弁当をつまむ。

古武道の名家を実家に持つ彼女は、弁当も純和食だ。

ただし、ほとんどはお正月でしか目にしないような豪華な食材だが。

 

「うん、おいしい。紗南さんの和食は安心するね。」

「そ、そうですか。それはよかったです。」

 

顔を真っ赤にして嬉しそうに自慢の長い黒髪をいじる。

 

「おい、紗南!俺の方そんなイセエビとかないぐはっ!」

 

紗南にみぞおちを殴られ吹き飛ぶ類斗。

いつもの光景だからみんな気にしない。

 

「じゃあ、莉乃さんももらっていい?」

「もっちろん!」

 

そう言って莉乃の弁当もつまむ。

帰国子女の彼女の弁当は洋食だ。

グラタンやオムライスといったメニューをかわいらしく飾っている。

 

「うん、おいしい。莉乃さんのご飯はいつでもおいしいよ。」

「あはは~、ありがとヒナくん!」

 

ふわふわした茶髪を揺らしながら嬉しそうにニコニコする。

 

「じゃあ、俺もひとくぐぼっ!?」

 

莉乃に背中を蹴られ地面を滑る類斗。

やはりいつもの光景だからみんな気にしない。

 

「莉乃のお弁当は味が濃過ぎるし、栄養も偏りそうです。」

「紗南こそ味薄いし、おばあちゃんみたいなお弁当じゃん。」

「ヒナさんは私のご飯を安心するって言ってくれました!」

「ヒナくんはあたしのご飯はいつでもおいしいって言ってくれたもん!」

 

そう言って争う紗南と莉乃。

これもいつもの光景だ。

 

「平和だねー。」

 

家から持ってきたお茶を飲みながら仔犬は呟いた。




〇仔犬の一言
「ヒナってあだ名単純すぎないですかー?」



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あだ名は必要

こんにちは!
くーさんこと露草です。

書くことがない…。
あ、ちなみにぼくのあだ名はちゃん付けが多かったりします。
男でちゃん付けって個人的には微妙ですが 笑

じゃあ、始まりまーす(^^)


それは、仔犬が入寮して間もないまだ春休みのこと。

 

「やっぱ、あだ名が必要だよな。」

 

不意に風鈴がそう言った。

 

「うん、そうかもしれない。いや必要だね。」

 

御籤も風鈴に続ける。

 

「いいですね~」

 

食器を並べながら風羽も同意する。

 

「えっと、誰のですか?」

 

夕食の煮物を作っていた仔犬も話に加わろうとするも、今一つ3人の言っていることがわからず、話に付いていけない。

 

「おまえだよっ!」

 

そう言って仔犬の背にしがみつき頭をぐりぐりする。

 

「痛い!めちゃくちゃ痛いですって、寮長!!」

 

先輩で女の子だから振り落とすわけにもいかず、仔犬はただ耐える。

 

「風鈴、火の近くで暴れたら危ないよ。」

 

御籤が風鈴を止めてくれるが、どこかずれている。

風鈴は気が済んだのか背中から飛び降りた。

 

「あーもう。痛いですよー。」

「おまえが人の話を聞いてないからだ。」

「寮長ちっちゃいのに力強いですよね。」

 

まだ少し痛む頭を押さえながら仔犬が言うと、

 

「るさい!またぐりぐりするぞ!」

「いや、なんでですかー!」

 

痛いのは嫌だし、また怒られるのも嫌なので火を止め椅子に座る。

もう料理はほぼ終わってる。

 

「大体あだ名ってなんですかー。名前ならありますよ仔犬ですよ。」

「却下。つまらん。」

 

名前をつまらないって言われさすがにムッとなる。

まあ、悪気はないのだろうから何も言わないが。

 

「愛称って大事ですよ~。」

 

楽しそうに風羽が言う。

 

「こういうのってやっぱり印象ですかね~。お姉さまと御籤さんはどう思いますか~?」

 

その言葉に風鈴も御籤も本気で考える。

仔犬は何とか止めたいが、3人ともすごく楽しそうにしているため諦める。

無理ならすぐ白旗を上げるのが仔犬のモットーだ。

と、御籤が手を上げ、

 

「キュイジーヌ。」

 

とボソッと呟いた。

 

「給仕犬ってなんですか?」

 

意味が分からず、御籤に尋ねる。

 

「給仕犬じゃなくてキュイジーヌ。フランス語で台所とか料理って意味だね。料理が得意な君にはぴったりだと思うよ。それに君も言ったけど、犬って聞こえるからね。」

「うむむ……。」

 

真剣に考える風鈴。

そして、カッと目を開け、

 

「却下!きれいすぎる!」

 

そう言った。

仔犬としては悪くないと思ったが、風鈴には駄目だったようだ。

 

「ん、わかった。」

 

御籤も食い下がらず、引き下がる。

 

「犬っころはどうだ?」

 

自分で提案したくせに面倒になったのか風鈴が適当な意見を言う。

 

「やですよー。何かいじめられてるみたいですー。」

「じゃあ、キュイジーヌっころで決定。」

 

もっとひどいあだ名になった!

 

「決定しないでくださいー。後、合体させないでくださいよー。」

「ワンコさんってどうですか?」

 

と、ずっと考えていた風羽がこのタイミングで意見を出す。

 

「仔犬を言い換えてワンコさんで。」

 

ここにきてある意味定番なあだ名が来た。

この辺で止めておかないともっと変なあだ名になってしまうかもしれない。

 

「いいですね!ワンコすごくいいと思います!」

 

仔犬は慌ててそう言った。

そう言うと風鈴は、

 

「じゃあ、おまえのあだ名はワンコな!」

 

そう宣言した。

なんだかんだあだ名が決まってしまったが、仔犬には別に不満はなかった。

普通にあだ名っぽいし、風羽が付けてくれたんだし。

 

仔犬のあだ名はこうして決まった。




風鈴のぐりぐり

小柄な風鈴が背中に飛び乗り、頭をぐりぐりする必殺技。
的確にツボを刺激するため超痛い。

被害の9割9分が仔犬。


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ハンゲキ

こんにちは!
くーさんだよっ!

さて、今回は仔犬と希のいちゃいちゃ回です。
なんだかんだ仲良しなんですよ、この2人。

では、どうぞ!


夕食の片付けが終わり、仔犬が自室でゴロゴロしているとメールが来た。

相手は希。

唯一着信音を変えている相手だからすぐにわかる。

何かあった時のためにと教えておいたアドレスだが、仔犬になついたのか割と頻繁に連絡が来るようになった。

 

『ごめんね!もし大丈夫だったらちょっと私の部屋に来てくれないかな?』

 

内容も予想通り。

返事はせず、そのまま彼女の部屋をノックする。

 

「希さん?仔犬です。」

 

仔犬が声をかけると、すぐにドアが開く。

 

「は、入って。」

「お邪魔します。」

 

少し前まで散らかっていた部屋だが、仔犬がちょこちょこ掃除をしているため、それなりにきれいになっている。

 

「ごめんね…。今日もお願いしていい?」

 

申し訳なさそうに言う希。

 

「ええ、大丈夫ですよ。」

 

そう言い、テーブルの前のクッションに座る。

目の前には真っ白な原稿用紙が8枚。

 

「締め切りいつでしたっけ?」

 

勉強机に座った希はあからさまにビクッとする。

 

「うっ……あさって。」

「はぁ……、ご飯はちゃんと食べてくださいね。」

 

ため息をつきながら仔犬はそう言う。

でも、希の夢のためと説得は諦める。

ふと希を見ると、ジト目で仔犬をにらんでいた。

 

「な、何ですか?」

「……私の方が年上なのに雛森くんすごく偉そう。」

「そ、そんなことないですよ!」

 

気分を害してしまったのかと仔犬は慌てる。

だが、堪え切れないようにニヤニヤとしていることでからかわれたことに気づく。

 

「もう、ひどいですよー!」

「あはは、ごめんね。何か雛森くん見てるとからかいたくなっちゃうんだ。」

 

反撃して満足したのか希は作業に戻る。

仔犬も作業を始めようとするが、からかわれて悔しいままだ。

よし、反撃の反撃だ。

 

「希さん。」

 

仔犬が希の方を向いて呼ぶ。

 

「ん、何?」

 

作業の手を止めずに希が返す。

 

「好きです。」

「……へ?」

 

手が止まり、ポカンとした目で仔犬を見る。

仔犬は立ち上がり、希の横に立つ。

そして真剣な目で言葉を続ける。

 

「希さんが好きです。僕と結婚を前提に付き合ってください。」

「はぁ……。」

 

仔犬の言葉を聞いてもまだポカンとした顔をしたままだ。

すると、意味を理解したのか、ボンッと顔が赤くなる。

 

「ふぇええええええ!!!?」

 

そして叫んだ。

 

「ちょ、ちょっと雛森くん!?」

 

仔犬はすごく慌ててる希の手を取りキスをする。

 

「ふぁあ!」

 

ますます顔を赤くさせ、変な声を出す希。

気のせいか頭から湯気が出ているような気がする。

すると、赤い顔のまま仔犬の手をつかむ。

 

「あ、あのね!まだ会ったばかりだからまだお互いのことを……でも私は雛森くんが……。」

「あ、希さん!?」

 

そこでオーバーヒートしてしまったのか気絶してしまう。

真っ赤な顔だが、どこかにやけているように見える。

 

「ちょっとやりすぎちゃったかな……?」

 

反撃というには少しやりすぎた気がする。

この後、目を覚ました希に冗談だと言ったらめちゃくちゃ怒られたのはまた別の話。



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ハンゲキの代償

こんにちは!
くーさんだよぉ~!

前回の続きといいますか、後日談みたいのです 笑
ざっくり言うと ┌(┌^o^ )┐ホモォ な顔文字が大活躍する回ですね~。

でも、仔犬くんが悪いんだからしかたない!
ついでにぼくが書いてみたかったからさ!(←おい)

では、どうぞ!


「ただいまですー。」

 

今日仔犬は学校の帰りに買い物に行っていた。

そのため、いつもより遅くに帰るとすでに全員帰っていた。

 

「ワンコ座れ。」

 

リビングに入ると、風鈴ににらまれ座るように命令された。

だが、仔犬には怒られるようなことをした記憶はない。

 

「えっと、僕何かしちゃいました?」

 

風鈴にそう聞くと、ゆっくりと口を開いた。

 

「おまえこの前希をからかっただろ?」

「え?……あ。」

 

そう風鈴から言われ、仔犬は何のことか思い出した。

希にからかわれ、仕返しに冗談で告白をした時だ。

あの時は大変だった。

あの後、希は3日もの間話してくれなくて、必死に謝りようやく許してもらえたのだ。

 

「おまえはひどいな。」

「ご、ごめんなさい。」

 

仔犬自身あれは自分が悪かったと思っている。

 

「だからおまえに罰を与える。」

「罰ですか?」

「おまえの友達の……あの男子名前何だっけ?」

「あ、もしかして類斗ですか?」

 

仔犬には他にも男子の友人はいるが、風鈴に話したことがあるのは類斗だけだ。

 

「ああ、その騒がしい男子。」

「えっと、類斗がどうかしたんですか?」

 

この話に類斗が関係あるとは思えないが。

 

「そいつに告白しろ。」

「……は?」

「希に告白したんだからそいつにもできるだろ。」

「い、いやいや!類斗は男子ですよ!」

 

類斗も仔犬も男子。

もちろん仔犬にはそっちの趣味はない。

 

「明日、告白しなかったら寮に入れないからな。」

「そ、そんな…。」

 

困った仔犬は、御籤と風羽を見る。

だが、御籤は首を振る。

 

「因果応報。悪いことをしたら戻ってくるんだよ。諦めたまえ。」

 

風羽はいつも通りの笑顔で、

 

「ワンちゃんと花沢くん仲良しですよね~。」

 

と困っていることにすら気づいてくれない。

四面楚歌。

万事休すだった。

 

 

 

 

 

次の日の放課後、仔犬はあの後風鈴から渡されたメモに従い類斗を屋上に呼び出した。

屋上へ行くと、類斗フェンスに寄りかかってコーラを飲んでいた。

 

「おーいヒナ。呼び出すなんてどうした?」

 

類斗がいつものように軽く話しかけるが、仔犬にはそんな余裕はない。

落ち着け。メモの通りに言えばいいんだ。

 

「類斗。」

「ん?おう。」

「好きです。」

「おう……………………へ?」

 

昨日の仔犬と同じように戸惑う。

仔犬も今すぐにでもネタばらししたいが、風鈴に怒られるのもイヤなので続けざるを得ない。

えっと、次は確か…。

 

「類斗。」

「ん?……ってうぉう!?」

 

類斗が寄りかかっていたフェンスに手を突く。

壁ドンならぬフェンスドンだ。

 

「小学生の時から好きだったんだ。僕と付き合ってほしい。」

「え、ほ、ホントか?」

「うん。」

 

そう言うと、類斗はさらに戸惑う。

仔犬としては誰かが来て勘違いされないうちに、早く断られネタばらししたいのだが。

しばらく何か考えていた後、顔を上げ仔犬を見る。

 

「あの、そのさ、いきなり言われたし、今まで考えたことがなかったからさ。」

「あ、うん。いきなりでごめんね。」

 

いつもの類斗らしくなくボソボソと話すせいで聞き取りづらい。

 

「でも、お前がそう言ってくれたからちゃんと……真剣に考えるからさ……。」

「えっと、類斗ごめん。もう少し大きく話してくれると。」

 

今度は小さすぎて聞き取れなかった。

すると、類斗は仔犬の横をすり抜け、

 

「だからごめん!」

 

そのまま叫んで行ってしまった。

 

「あ、類斗!」

 

慌てて仔犬が振りむくもすでにいない。

 

「ごめんってことは……よかった断ってくれたのか。」

 

ネタばらしするのは忘れていたが、もしかしたら嘘だって気づいたのかもしれない。

メモの内容も全部やったし、これで風鈴も許してくれるだろう。

そう思い、仔犬は夕飯のメニューを考えながら下校した。

 

 

 

 

「……ヒナ、カッコよかったよな。」

 

教室で類斗がそう呟いたのを仔犬は知らない。

 



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寮長とのゴールデンウィーク

こんにちは!
くーさんだよぉ~♪

前回,BなL風味にしちゃったので今回は少し長めのいちゃほのです 笑

あ、後ネタ募集します。
一応、ほのぼのなのでえっちなのは無しでお願いします(n*´ω`*n)
どっちにしろ書けないです 笑

ではでは、「紅茶」12話目、どうぞ(^^)/
今回は4つに分けます。


「ふぁ~、目が痛いよ~!」

「あ、寮長包丁持って暴れないでくださいよー。」

 

いつもと同じ寮……ではなく、仔犬はゴールデンウィーク使って、風鈴と風羽の実家である琴町家に来ていた。

実家は資産家だと話には聞いていたが、想像以上の家だった。

与えられた部屋もどう使えばいいのかわからず、隅っこに小さく荷物をまとめただけであとはずっと椅子に座っていた。

その椅子すらふっかふかだった。

 

「だってだって!コレすげー痛いんだもん!!」

「玉ねぎはそういうものなんですよー。」

 

そして、夕飯時。

本来ならばメイドさんに作ってもらうところをなぜか風鈴が作ると言い出したのだ。

ところが。

 

「うぎゃー!手を切ったー!」

「ばんそこう貼りますから動かないでください!」

 

想像以上の風鈴のポンコツっぷりで作業は全然進まない。

ハンバーグを作ると決めて30分。

ようやく玉ねぎが切り終わったところだ。

 

「あの寮長。僕が代りましょうか?」

 

このままではどんどん夕食が遅くなってしまう。

 

「うっ…………だ、だめだ!私が作るって決めたから作るんだ!!」

 

仔犬が代ろうとするも風鈴は自分が作ると言って聞かない。

説得を諦めた仔犬は少しでも風鈴がスムーズにできるように食材の準備や調味料の準備をする。

そして、1時間弱。

 

「こ、これでひっくり返せばいいのか……?」

「はい、そろそろいいと思いますよ。」

 

ようやく片面を焼くところまできた。

もうすぐ完成だ。

だが、風鈴はなぜかひっくり返そうとしない。

 

「寮長、そろそろひっくり返さないと焦げちゃいますよ……?」

「わ、わかってる!黙って見てろ!」

 

どうやら、重要なこの場面で風鈴は怖くなってしまったらしい。

フライ返しを持つ手がプルプルと震えている。

 

「ああ、もう。」

 

さすがに危なっかしくて風鈴の手を包むようにフライ返しを持つ。

 

「う、うわぁ!」

「あ、ちょっと!」

 

と、その途端、風鈴が勢いよくフライ返しを上げてしまった。

そのせいでハンバーグは宙を飛び床に落ちてしまう。

 

「あーもう、何してるんですか寮長。」

「お、お、おまえこそ何をしてるんだ!恥を知れ!!」

 

落ちてしまったハンバーグに見向きもせず、まっ赤な顔で仔犬をにらんでくる。

 

「何って、お手伝いしようとしただけですよー。」

「バカかおまえは!黙って見てろって言っただろうが!!」

 

なぜ風鈴が怒るのかわからず首をかしげる仔犬。

だが、このままでは話は平行線だ。

 

「とにかく落ちたの片付けますよー。」

 

幸いにも多めに作っておいたので、1個ぐらいなら問題ない。

だが、風鈴はにらんだままだ。

 

「おまえが悪いんだから、おまえが食べろ。寮長命令だ。」

「いやですよ。病気になっちゃうじゃないですか。」

 

仔犬は即座に言った。

今の風鈴はどこかおかしい。

 

「ふん!おまえなんて犬っころだ。野良犬だ。駄犬だ。ワンコ失格だ。」

 

やっぱりわけがわからない。

1か月過ごしたことで、風鈴のわがままや無茶な命令にはだいぶ慣れてきたつもりだ。

だけど、今の風鈴の気持ちはわからない。

 

「あれ……?」

 

そこで仔犬は気づいた。

落ちてしまったハンバーグは他のハンバーグに比べて2回りくらい大きい。

作っていたのは仔犬と風鈴と風羽の分だけ。

風鈴は小柄なため、あまり食べない。

風羽は成長期でよく食べるが、それでもこの量は食べれない。

ということは、このハンバーグは。

 

「……わかりました。」

「ふぇ?」

 

そう言って仔犬はしゃがみ込み、地面に触れてない上の部分を手でつかんだ。

無作法だが仕方ない。

 

「お、おい!や、やっぱ、いいっ……、な?び、ビョーキになっちゃうよぅ……。」

 

いかにも弱々しい声で風鈴はそう言った。

自分が言ったくせにと仔犬は苦笑する。

 

「大丈夫ですよ。あむっ。」

「あっ!?おいワンコ!」

 

そのまま口を開け食べる。

玉ねぎは大きいし、味付けも薄い。

お肉も片面しか焼いていないため生焼けだ。

正直言ってすごくまずい。

でも。

 

「とってもおいしいですよ、寮長。」

「っ!?」

 

風鈴が自分を想って作ってくれたのがすごく嬉しかった.

そのまま上の方のは全部食べる。

地面に触ったのは風鈴が泣きながら「もういい」と言ったため処分した。

 

「さ、そろそろ再開しましょうか。」

 

早くしないと、もう8時だ。

風羽がおなかをすかせてるだろう。

そう言って仔犬は消したコンロに火を付ける。

そのせいで、風鈴が小さく呟いた「……バカ」という言葉は聞き逃してしまった。

 




次回は御籤さん回です!(^◇^)


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御籤さんとのゴールデンウィーク

こんにちは!
くーさんだよぉ~!

シリーズは書き溜めがしやすいからいいですよね~。
なので、明日も投稿します(^^
お楽しみに!

では、どうぞ!


「ふぅ……。」

 

仔犬は、名前も聞いたことのないごちそうや大人の会話で盛り上がっている集団から離れたところで1人座っていた。

今日は御籤の祖父の誕生日らしく、御籤の幼なじみである風鈴、風羽とともに仔犬も西宮家に招かれていた。

だが、この雰囲気に慣れない仔犬は退屈を持て余していた。

 

「お1人かな?」

「え?あ、御籤さん。」

 

ぼぉーとしていると、手にオレンジジュースを2つ持った御籤がいた。

1つを仔犬の前に置いてくれたため、「ども」と小さく返事する。

 

「楽しんでいただけてるかな?」

「ええ、まあ……。」

「歯切れが悪いな。ふふっ、ここにいるのはお祖父様の知り合いか、お祖父様と親しくなりたくて必死な人たちばかりだからね。退屈だろう?」

「い、いえそんなことは……。」

 

せっかく招待してくれたのに申し訳ないと焦る仔犬。

だが、そんな様子を見ても御籤は苦笑したままだ。

 

「そうなのか。私は退屈だからワンコくんに付き合って欲しかったのだが、楽しんでるなら仕方ないかな。」

「え?あっ!そ、そのすごく退屈でつまんないなぁって思っていて!!あ、違う!」

 

慌てて失礼なことを言ってしまい焦る仔犬。

だが、笑いを堪えてる様子を見てからかわれていることに気付いた。

 

「もう、ひどいですよー。」

「ごめんごめん。じゃあ、改めて付き合ってくれないかな?」

「……よろこんで。」

 

御籤に付いていくと、パーティー会場どころか外に出ていく。

そして。

 

「うわぁ……。」

「ふふっ、すごいだろう。」

 

連れてこられたのは、プラネタリウムだった。

満点の空に星々が輝いている。

 

「ここは、小さい頃から私が嫌なことや悲しいことが会った時によく来ていた場所なんだ。確か風鈴と会ったのもここだったね」

「寮長と?」

「うん。今日と同じようにパーティーの日だったね。私がいつものようにパーティーを抜け出してここに来ていたら、彼女は迷子になってここに来たんだ。」

「へぇ~。」

 

そういえば、風鈴はものすごい方向音痴だった。

前に一緒に買い物に行った時には、スーパーの中で1時間探し回ったほどだ。

 

「『何してるんだ?』と聞かれたから、『星を見ているんだ』と答えたんだ。素っ気ないと思うけど、当時の私はそんなに友達付き合いが好きじゃなかったからね。そうしたら風鈴はなんて言ったと思う?」

 

隣の席から御籤がそんなことを聞いてくる。

 

「う~ん。私も見る、とか?」

「ならこんな親しくはならなかっただろうね。私が出て行ってしまっただろうから。」

 

どうやら不正解らしい。

いつの間にか星より御籤の話に聞き入っていた。

 

「正解は……『つまらん、外行くぞ』だよ。」

「あはは、寮長らしいですねー。」

 

あの頃からゴーイングマイウェイだったのかと苦笑してしまう。

 

「でも、あの強引さが会ったからこそ私は彼女に興味を持ったんだろう。あの時私を引っ張り出してくれた彼女は親友あり私の誇りだよ。」

 

御籤は、仔犬より風鈴のことも風羽のことも知っている。

それを埋めることはできない。

それが少し悔しかったりする。

そんなことを考えているのが照れくさくなり、慌てて御籤に話しかける。

 

「もっと、寮長の話を聞かせてくださいよ。」

 

そう言うと、御籤はなぜかほおをふくらめた。

 

「ふ~ん。ワンコくんは風鈴にしか興味がないんだね。」

「そ、そんなことないですよ!」

「……まあ、その話は今度本物の星を見ながらにしようか。」

「え?あ……はい。」

 

これは、もしかしてデートの誘いだろうか。

それとも、みんなでということだろうか。

 

「ん?どうしたんだい?」

「な、なんでもないですよ!」

 

いだずらっぽく笑う御籤に慌てる仔犬。

そんな2人の上を流れ星が流れていった。

 



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風羽ちゃんとのゴールデンウィーク

こんにちは!
くーさんでゲスよ!

連続投稿3日目です(^^)/
さてどこまで続くやら(^◇^)

では、どうぞ!



「ごめんなさい、ワンちゃん。一緒に来てもらっちゃって~。」

「全然気にしなくていいよ。久しぶりに行きたいと思ったし。」

 

今日は風羽に頼まれ、一緒に買い物に来ていた。

寮から2駅先にある大きなショッピングモールはゴールデンウィークだからか結構混んでいた。

 

「あれ?前にも来たことがあるんですか?」

 

久し振りと言ったからだろうか、不思議そうに風羽が聞いてきた。

 

「うん。このすぐ近くなんだよ実家。」

 

本当は寮に入るまでもなく近くに家があるのだが、中学生ならではの自立したい気持ちで寮生活を両親にお願いした。

そのため、実家の里帰りも日帰りで帰ってきたのだ。

 

と、話しているうちに到着した。

5月とはいえ、少しずつあたたかくなってきた季節には、クーラーはありがたい。

寮にはクーラーがないからなおさらだ。

 

「ワンちゃん、このお店に入りますよ~。」

「あ、うん。了解。」

 

風羽が靴屋に入っていく。

服だったらともかく、靴は全然わからない。

風羽が買い物している間、仔犬は椅子に座りだらーんとしていた。

 

「ワンちゃん、次行きますよ。」

 

15分ぐらいで風羽は買い物を終えた。

すでに両手に袋を持っている。

 

「あ、持つよ。」

「ありがとうございます~。」

 

風羽から袋を受け取る仔犬。

しかし、意外だった。

女の子の買い物は長いと聞いていたから、早さにびっくりした。

 

「じゃあ、次はここです~。」

「え!?」

 

次のお店は、さっきのお店の隣だった。

 

「また15分ぐらいで終わりますから~。」

「も、もしかして全部行くの?」

「?もちろんですよ?」

 

当たり前のように言う風羽に驚きを隠せない仔犬。

さっきも言ったがここは大きなショッピングモール。

お店の数もかなりのものだ。

 

「じゃあ、行ってきますね~。」

「あ、ちょ、風羽ちゃん!?」

 

それから1階をすべて回り、荷物が20個を超えた頃一度ティーブレイクを入れてくれた。

 

「ご、ごめんなさい。わたし服のことになると周りが見えなくなっちゃって……。」

「い、いや大丈夫だよ……。」

 

荷物は配達を頼んだため、手元にはない。

帰り持っていく必要がないと思うと少しは気が楽だ。

 

「そういえばあんなに服買うのに、風羽ちゃんあんまり服持ってないよね。」

 

洗濯をしているとわかるが、風羽のは同じ服をよく見かける。

今日みていたら20数着は買っているが。

 

「ああ、あれはお姉ちゃんとか風陽ちゃん……従妹の服なんですよ~。」

「自分の服はいいの?」

「はい。」

 

にっこりと笑う風羽はやっぱり天使だと思う。

自分が満足するより他人のために。

そしてそれに満足を感じるんだろう。

ちょっとだけ自分に似てるな、と思ってしまう。

 

「あ、そうだ。」

 

体を動かした瞬間、ポケットに入れていた物を思い出す。

 

「?ワンちゃんどうしました?」

「はい、これ。」

「あ、これって……ブレスレット。」

「さっき買っていたクリーム色のワンピースに合うと思って、思わず買っちゃったんだよ。」

 

風羽は驚いた顔をしている。

そして、段々笑顔になる。

 

「あの服だけはわたしのにしましょうか。」

「え?」

 

ブレスレットの包装を取り、手首につける。

そして、天使のような笑顔を仔犬に見せた。

 

「仔犬くんありがとうございます。」

 

不意に本名で呼ばれ、思わず照れてしまう。

と、風羽は立ち上がる。

 

「じゃあ、次は2階に行きましょうか!」

「え!?まだ行くの!?」

「これのお礼にワンちゃんにも服を選びますね~。」

「え、ちょっと!?」

 

そのまま引きずられて、結局日が暮れるまで1日中買い物をした。



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希さんとのゴールデンウイーク

コンバトラー!
くーさんでゲス(^^)

連続投稿4日目!ということでだんだん時間が遅くなっているのが気になるところですが、もう少し頑張りたいなと 笑

ではどうぞ!


「あっ、雛森くんこっちこっち!」

 

奥の方の席から希が手を振っている。

ゴールデンウィーク最終日。

仔犬はさっき出かけていたばかりの希から呼び出され、喫茶店に来ていたのだ。

 

「希さんどうしたんですか……って。」

 

希だけかと思ったら向かいの席にスーツの女性がいた。

24、5歳だろうか、落ち着いた雰囲気で紅茶を飲んでいる。

希と同じくきれいな白髪だが、ツインテールの希と違いストレートにしているようだ。

もしかしたら姉妹だろうか。

 

「貴方が雛森くんね?」

 

女性が紅茶を置いて口を開いた。

 

「あ、はい。雛森仔犬です。」

 

仔犬も慌てて挨拶をする。

御籤とまた違った落ち着いた雰囲気に緊張してしまう。

と、女性はスーツ懐から名刺を出した。

 

「希の担当編集の波真野叶(なみまの かなえ)よ。気軽にかなたんって呼んでくれればいいわ。」

「お姉ちゃんその年でかなたんって……。」

「黙りなさい、希。後、次年齢のこと言ったら次から締め切り3日にするわよ。」

「む、無理だよ!」

 

仲がいいのだろう。

歳の離れた姉妹とは思えないほど楽しそうに話している。

おかげで仔犬は置いてけぼりだ。

 

「と、ごめんなさい雛森くん。今日呼んだのは貴方にお願いがあるの。」

「お願いですか?」

「ええ。希が月刊誌で漫画を書いてるのは知ってるわね。」

「はい。」

 

仔犬自身がたまに手伝っているのだからもちろん知っている。

後輩男子に一目惚れし、片思いするという恋愛マンガだ。

 

「実は、編集部の方で希にアシスタントをつける件が持ち上がっているの。週刊誌よりは忙しくないとはいえ、1人じゃ大変だし、それに…。」

 

と、突然言葉を切り、希を見た。

仔犬も希を見ると顔が真っ赤になっていた。

 

「姉の私がいうのもなんだけど、この子はかわいいからね。アシスタントになりたいって人もかなりいるのよ。」

「確かに希さんかわいいですよねー。」

「っ!?」

 

仔犬の何気ない言葉に顔を伏せる希。

仔犬からには見えないが、ものすごくにやにやと顔が緩んでる。

 

「でもこの子は人見知りだし、一緒に仕事をやる以上この子の部屋に入れなければならないわ。」

「仕事場を用意することはできないんですか?」

「そしたら、貴方と一緒に仕事できなくなるでしょ。この子いつも楽しみにしてるのよ、あなたと絵を書くの。」

「お、お姉ちゃん……!」

 

もう希はかわいそうなほど真っ赤だ。

日をあまり浴びないから色が白いため、赤くなるとすごくわかりやすい。

 

「そこで、彼氏の貴方にお願いしようと思って。どうかしら?」

「……は?」

「お姉ちゃん何言ってるの!?」

 

彼氏と言われ、唖然となる仔犬に対し、希は半泣きで立ち上がる。

だが、周りに注目されているのに気付き、おずおずと座る。

 

「え?だって貴方が自分で……ふぅん、なるほど。事情は何となく察したわ。」

 

にやりと笑い、仔犬と希を見る叶だが、仔犬には何のことかさっぱりわからない。

とりあえず勘違いは解けたのだろうと自己完結する。

 

「それで、どう?受けてくれたらもちろんギャラは払うけど。希から聞いたけど貴方はなかなか多忙だって聞いたから無理なら構わないわよ。」

「う~ん、そうですね…。」

 

アシスタントということは、いつものようにたまに手伝うだけではだめだろう。

だが、仔犬は寮の家事すべてを担当しているので今でもかなり忙しい。

ましてや、自分はまだ中学生だ。

 

だが、自分以外の誰かが希と一緒に漫画を描く。

今までのように、楽しく一緒に描けなくなる。

それはなんとなく、すごくイヤだった。

 

チラッと希を見ると、何かを期待する目で仔犬を見ている。

なら、仔犬の答えは決まっている。

 

「わかりました。アシスタントの件受けます。」

「……ありがとう。希の言う通り優しい子ね。」

 

そして紅茶を一気に飲み立ち上がった。

 

「契約のことはこちらでやっておくわ。これからはアシスタントと担当編集としてもよろしくね。」

「あっ、はい!よろしくお願いします。」

「もしくは……。」

 

叶はそう言いながら希を見る。

 

「義弟と義姉の関係でも構わないわ。」

「お姉ちゃん!?」

「じゃあね。」

 

そう言って叶は行ってしまった。

 

「あはは……、面白いお姉さんですね。」

 

精一杯のフォローをするも、仔犬もすごく疲れていた。

これからかかわることになるかと思うと、少しだけ憂鬱だった。

 

「さて、どうしましょうか……。」

 

真っ赤になり過ぎて気絶してしまった希を見ながら仔犬はため息つく。

結局、希が目を覚ましたのは30分後のことだった。



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仔犬不在

こんにちは!
くーさんでっす♪

バイト行かなきゃなので前書き無しです!

では、どうぞ!(^^♪


「ただいまー。」

「おかえり、風鈴。」

「姉さま、お帰りなさいです~」

 

風鈴が寮に帰ると、リビングで紅茶を飲む御籤と風羽がいた。

だが、いつも台所に立っている仔犬の姿は見えない。

「姉さまの分も入れますね~」と風羽が台所に立ち上がる。

 

「ワンコがいないな。あいつどうしたんだ?」

「今日は用事があるって聞いているけど。」

「用事ってなんだよ。あいつは家事ほっぽり出してどこ行ってるんだよ。」

「さあね、訊いてないよ。プライベートに踏み込みすぎるのはよくないからね。親しき仲にもだよ。」

「使えんな。」

「すまないね。」

 

風鈴の言葉にやれやれと肩を竦める御籤。

ならばと風羽を見る。

 

「なあ、風羽。」

「ごはんならワンちゃんが出かける前に作ってくれたコロッケがありますよ~。」

「いや、そうじゃなくてな」

「あと、昨日作ったシュークリームがありますよ~。」

「……もういい。」

 

相変わらずズレてる風羽にため息をつくと淹れてくれた紅茶に口をつける。

と、ドアが開き希が入ってきた。

 

「あ、希さん!希さんも紅茶を飲みますか?」

「あ、うん。ありがとね、風羽ちゃん。」

「いえいえ~。」

 

そう言ってソファーに座る希。

仔犬と何やら約束したようで、最近は作業中以外は部屋から出るようになったのだ。

仔犬以外がお互いに初めての自己紹介をしたのもその時だ。

 

「お疲れ様、希くん。順調かな?」

「あ、来月の分は何とか描けました。雛森くんが昨日遅くまで手伝ってくれましたから。」

 

そう言ってほほ笑む希。

まだ硬いところがあるものの少しずつ軟化してきた。

 

「なあ、希。ワンコどこ行ったか知らないか?」

「え?あ、そう言えば出掛けるって言ってましたね。病院かなんかかなって思ってたんですけど。」

「は!?あいつどこか悪いのか?」

「ご、ごめんなさい!そうかなぁと思っただけで聞いていません!」

「こら、風鈴。別に病気じゃないみたいだよ。妹さんの誕生日だって。」

 

おびえる希の頭をなでる御籤がそう言う。

 

「あいつ妹いたのかよ!ってミクおまえ知らないって言ってたじゃん!嘘つきめ!」

「今メールしてみたんだよ。妹さんの12歳の誕生日だって。」

「おい、ミク!私が退屈してるとメールしろ!」

「12歳ってことは来年中学生ですか~。この学園に入るんですかね~?」

「えっと……。風鈴の相手は私がしているからゆっくりしてきていいんだよ……っと。送信。」

「おいこらミク。お前話聞いてねーだろ。」

「ワンコくんを見習ってスルースキルを身に着けることにしてね。彼の風鈴の扱い方は幼馴染で一日の長があるはずの私でも驚きだ。」

「妹さんって来年うちに入るんですか?よかったら今度寮にこっそり連れてきませんか?……っと。送信。」

「風羽くんのメールはカラフルだね。」

「つーか、ほとんど絵文字じゃん。」

「かわいいですよー。」

「そういえば彼の妹さんもすごくかわいいらしいよ。」

「聞いてねーて。」

「あ、あの…。」

 

と、しばらく黙っていた希がおずおずと口を開いた。

 

「雛森くんそろそろ帰るそうです。プレゼントを渡すだけだったみたいで。」

「……おまえ何気にオイシイとこ持ってくよな。」

 

仔犬がいない寮はいつも以上に騒がしい。

 




希ちゃんが外に出てきた理由はまた個別回で書きます。
次回『ギャクテン』


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調べもの

こんにちは!
くーさんこと露草です。

そろそろ前書きに書くネタを探したい……(;´・ω・)

では、どうぞ!(^^)/


夕食後のまったり時間。

仔犬は、リビングで宿題をやっていた。

 

「あの御籤さん。」

「ん?何かな、ワンコくん。」

「蜘蛛の糸の作者ってなんでしたっけ?」

「芥川龍之介だよ。」

「どもです。」

 

カリカリとシャーペンを走らせる。

御籤は頭がいいから中学生の勉強なら楽々と答えてくれる。

こういう時、年上がいると助かる。

 

「三四郎は?」

「夏目漱石。」

「どもです。」

 

紅茶を片手に本を飲みながら御籤は答える。

国語は苦手なので、こうやって教えてもらえるとすごくはかどる。

国語を終えた仔犬は鞄からもうひとつの宿題の歴史のプリントを取り出す。

 

「おい、ワンコ。」

「なんですかー?」

 

風鈴が話しかけてくるが、集中していたので生返事で答える。

 

「なんで私に聞かない?」

「あ、御籤さん。」

「おい、ワンコ。」

 

風鈴の声が聞こえないわけではないが、仔犬は一回集中したら最後までやってしまいたいタイプなので、御籤にまた聞いた。

 

「坂本龍馬の使っていた拳銃の名前をこたえよ。」

「いやすまない、わからないね。というか、それ中学でやっているのかな?」

「二階堂先生ですよー。」

「ああ、あの幕末オタクの二階堂かー!アイツ声小さくて何言ってんのかわからないよな!」

 

風鈴は一人で大爆笑しているが、仔犬は笑えない。

提出は明日なのだ。

 

「ん、ちょっと待ちたまえ。」

 

と、御籤は立ち上がり2階に行った。

すぐに戻ってきたが、その手に一冊のファイルを持っていた。

 

「はい。これは、先輩方がいろいろな教科の宿題を集めてつづってあるから、二階堂教諭の宿題ならあるかもしれないよ。」

「あ、ありがとうございますー。」

 

だが、ずいぶん古いし年代もばらばらだ。

探すのは少し骨が折れる。

と、台所にいた風羽がティーポット片手に戻ってくる。

 

「よかったら、寮長の部屋にパソコンありますよ~。使います?」

「あ、頼めるかな?」

 

パソコンなら一発で調べられる。

そして風羽は、みんなのカップに紅茶を満たしながら呟いた。

 

「ググれこのカス。」

「……はい?」

 

思わず、聞き返してしまう。

いや、聞き間違いだろう。

 

「ググれこのカス。」

 

にこにことくり返す。

 

「え、えっと風羽ちゃん……?」

 

思わず震えてくる。

何か怒らせてしまったのか。

 

「グ・グ・れ・こ・の・カ・ス・や・ろ・う。」

 

ゆっくりと区切って言われた。

もしかしたら、御籤に簡単に答えを教えてもらって楽してたから怒ってるのだろうか。

きっとそうだ。

仔犬はすごく反省した。

猛反省した。

 

「ググれこのカスやろう。」

「ご、ごめんなさいー!」

 

半泣きになってそう言うが、風羽はにこにこしたままだ。

いつもはかわいい笑顔だが、今は震えるほど怖い。

と、風羽は仔犬の様子を不思議そうに見る。

そして、手をポンッとやった。

 

「もしかしてワンちゃん知らないんですか~?」

「え?」

「ググれカスって、『あなたを応援してます』って意味なんですよ~。」

 

仔犬は、恐らくそう仕向けたであろう姉の方を見た。

風鈴は、視線をそらせ、吹けないくせに口笛を吹いていた。




次回は1000突破記念で希特別回です。


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キボウのノゾミ

こんにちは!
くーさんこと露草です(^^)

なんとこの小説UA1000突破しました!
これもひとえに僕の才能の……嘘です調子のってごめんなさい。
皆々様のおかげです!ども!!!

これからも露草、そして紅茶その他3作をよろしくお願いしますm(__)m

では、どうぞ!



「希さん終わりましたよー。」

 

仔犬は、ペンを置いてそう言った。

今日も希の部屋で漫画のアシスタント。

段々慣れてきたのか、数分もあれば終わるようになってきた。

 

「希さん?」

 

希が何も答えないので机の方を向くと、希はこっちを見ていた。

ぼぉーと仔犬を見てくる。

一瞬ビクッとするが、視線を見ると希は仔犬の顔を見ているのではない。

そのもっと下。

 

「希さんってば。」

「ふぇ?あ、ご、ごめん!何かな?」

 

やっぱり聞いてなかった。

多分、見てたのは。

 

「気になりますか、制服?」

「う、ううん!そんなことないよ!でも珍しいね。」

 

希が焦りながらそう言う。

確かに、仔犬はいつもは夕食を作るときに私服に着替える。

だが、今日は類斗に頼まれ、代わりに生徒会に行っていたため帰りが遅くなってしまった。

 

「今日は帰り遅くなっちゃいましたから。気になるなら着替えてきますよ。」

「べ、別に大丈夫だよ!それより早く終わらせないと締切がまずいし!」

「まだ1週間ありますし、それにもう終わりましたよ。」

 

そう言いながら仔犬はさっき描き終えた紙を渡す。

そして、そのまま聞いてみた。

 

「希さんはなんで学校に行かないんですか?」

「え?べ、別に理由なんてないよ!」

「お願いします。希さんが行かない理由教えてください。」

 

プライベートなことに踏み込むべきではないのはわかってる。

だが、知りたかった。

 

「……どうしても?」

「どうしても。」

「……誰にも言わない?」

「言いません。僕だけの心にしまっておきます。」

 

そう言うと、諦めたのかぽつぽつと話し始めた。

 

「私ね、小学校の間ずっと入院してたんだ。それが治って中1の2学期から行き始めたんだけど、もうその頃にはクラスのグループができちゃってて、なんか行き辛くなっちゃったんだ。」

「……。」

 

希の言葉を仔犬は黙って聞いていた。

 

「あっ、でも入院している間に暇で漫画描いていたら賞に受かったんだよ!だから、全然気にしてないの!」

 

仔犬が黙っている様子を勘違いしたのか希が慌てて言う。

でも、仔犬には嘘だとわかった。

もし気にしてないなら、あんな顔で仔犬の制服を見ているわけがない。

 

「……希さんは、僕がアシスタントをする条件って何か聞いてますか?」

「えっ?えっと、アシスタント料でしょ?あの時、お姉ちゃんが言っていたし。」

「いいえ、違います。」

 

叶からは聞いてないらしい。

最も、仔犬が伝えるべきだと思い黙っていたのだろうが。

 

「アシスタント料は断りました。」

「え!?な、なんで?」

「その代わり。」

 

ここで言葉を切る。

希が受け入れてくれるかまだ不安だ。

 

「希さんが毎日学校に通うことを条件にしました。」

「……え?」

 

希はすごく驚いている。

そりゃそうだと仔犬も苦笑する。

 

「希さんが学校に行く限り僕はアシスタントを続けます。」

「……なんで?なんでそこまで私と学校に行かせたがるの?」

 

そんなの決まっている。

 

「希さんと一緒に学校に行きたいから。それだけの理由じゃ足りませんか?」

「っ!?」

 

仔犬がそう言った途端、希は真っ赤になった。

目の端に涙が滲んでる。

 

「でも私は……。」

 

だが、まだ希は逡巡している。

まだ言葉は足りないのか。

 

「希さんと学校行きたいなぁー。」

「……。」

「希さんがいないと中等部の人僕だけなんだよなぁー。」

「……。」

「じゃあ、アシスタントの件断るしかないなぁー。」

「それはダメぇ!!」

「え?」

「あうっ!?」

 

希が急に大きな声を出したため、驚いてしまう。

すると、希もそれに気が付いたのか変な声をあげて慌てて口を閉じる。

ジト目で仔犬をにらんでくる。

 

「も、もう……雛森くんばか。いじわる。」

「あはは、ごめんなさい。」

 

真っ赤になっている希がとてもかわいくて、仔犬は笑ってしまう。

頬を膨らませた希はそっぽを向いてしまった。

 

「……朝一緒に行ってくれる?」

「もちろんです。」

「……休み時間とかお昼休み毎回教室行くよ?」

「いつでも来てください。歓迎しますよー。」

「……ずーっとずーっとそばにいるよ?」

「友達ですから当たり前ですよー。」

「……じゃあ、行く。」

「ありがとうございます。」

 

ふてくされるように言う希に、にこにこと仔犬は笑う。

 

「あっ、後お仕事以外の時は下に降りてきてくださいねー。」

「もうっ、わかったよ!行けばいいんでしょ!」

「ちゃんとみんなに自己紹介もしましょうねー。」

「雛森くんのばか!知らないっ!」

 

この後、調子に乗ってまた怒らせてしまった希に必死で土下座して謝ったのだった。




ちなみに仔犬くんは生徒会にも所属しちゃってます。
その辺の話もそう遠くなく書きます。
ていうか、そのうち書きます 笑
あれですね、仔犬くんいつか過労でぶっ倒れそうですね~(-_-;)

次回!「公園にて」
お楽しみに!(^◇^)


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公園にて?

こんにちは!
くーさんこと露草です。

ホントに話すことがないです……(^^;)
あ、他の小説更新こそしていませんが、ほぼ書いてあるのでそのうち投稿します。

では、どうぞ!(^^)/


5月も終わりに差し掛かったある日の夕方。

仔犬は、学校の帰りに買い物に行っていた。

買い物を終え、寮の近くの公園に着いた時、見知った姿を見かけた。

 

「あれ、寮長?」

 

一瞬だけだが、ベンチのあたりにくせっ毛の長い髪が見えた。

妹の風羽と同じ桃色の髪。

 

「そう言えば、今日高等部は午前までって御籤さんが言ってたっけ。」

 

それなら公園にいるのも頷ける。

風鈴は休みの日はよく外で遊んでいるからだ。

たまに髪に木の枝や葉っぱがつけてくる時もある。

いつもきれいにするのは仔犬の仕事である。

 

「寮長ーっ!」

 

呼びかけてみるが、聞こえなかったようだ。

 

公園の入り口まで戻り、敷地中に入る。

家からは遠いし、寮に入ってからは忙しかったのもあって、この公園に入るのは初めてだ。

アスファルトの道から葉桜が沢山生えている涼しい緑地に入っていき、てくてく歩く。

だだっ広い公園を横断しているうちに、仔犬はふと、風鈴の座るベンチの近くに2匹の犬がいるのが分かった。

大きい犬と小さな子犬だった。

 

「ゔー!わんわん!」

 

大きい犬が吠える。

雑種だろうか、遠くから見てる仔犬ですら恐くなってくる。

 

「わ……わんわん……。」

 

子犬は怯えているのか小さく吠える。

風鈴は何も言わない。

じっと目を閉じている。

 

「わんわん!がるるる!!」

「わ、わんわん!」

 

2匹の犬が吠える。

もしかして風鈴は襲われているのか。

一瞬慌てるも、仔犬は気づいた。

2匹の犬は、お互いと風鈴を見ながら吠えているような。

まるで風鈴に何か訴えかけるような。

 

と、風鈴が目を開けた。

 

「わんわわん!わん!」

 

そして吠えた。

 

「わ、わん!わんわん!」

「わん!」

 

なぜか焦っているように見える大きい犬が再び吠えるも風鈴が一喝するように吠えた。

 

「わん!」

「く、くぅ~ん。」

 

風鈴に吠えられた大きな犬は、子犬の方を向いて首を下げる。

まるで謝ってるかのように。

 

「わん!」

 

そして、風鈴が吠えた途端、犬はどこかに走り去っていった。

と、子犬が風鈴に近づき足をなめた。

 

「くぅ~ん。」

「わんわん。」

 

風鈴と子犬がじゃれあう。

それはまるで1人と1匹が、犬語で本当に会話しているように思ってしまいそうだった。

 

「ま、まさかね。」

 

仔犬はぶんぶんと首を振った。

と、風鈴が顔をすいっと、いきなり仔犬に向けてきた。

 

「おい、ワンコ。なにやってんだおまえ。」

 

そして、立ち上がった風鈴が子犬を持って仔犬に近づいてくる。

腕に抱かれた子犬は小さく舌を出している。

近くで見ると、子犬はまだ産まれて数か月くらいの小さな犬だった。

 

「き、気づいていたんですか……。い、いつから?」

「最初からだよ。おまえの犬耳みてーな茶髪は目立つんだよ。」

 

仔犬が風鈴を気づいた理由と似た理由だった。

というか、最初からってどのあたりだろう、と思うが、それはそれとして別のことを訊いてみる。

 

「あの、さっき話していたんですか?」

 

何だか自分の中では犬と話していたのだと決定している感じで、仔犬はそう聞いた。

 

「ん、あのバカがコイツをいじめてたから怒ったんだよ。まー、コイツがアイツの餌を盗ったのも悪いんだけどな。」

 

そう言って子犬に小さくデコピンをする。

子犬は「きゃん!」と小さく鳴く。

 

「痛いじゃない。反省しろ。」

 

風鈴の方も、本当に話しているようにそう言ってくる。

 

「……寮長は犬語話せたんですねー。」

「おう。」

 

さも当たり前のようにそう言ってくる。

冗談だったのに肯定されてしまったようで、とても変な気分だった。

 

「なあ、ワンコ。」

「なんですかー?」

「コイツ連れて帰ってもいい?」

「ちゃんと世話してくださいねー。」

 

まあ、いいか。

考えることを諦めた仔犬は、頭の上に子犬を乗せた風鈴と一緒に寮への帰り道を歩いた。




次回!「母の日」
お楽しみに!(^◇^)


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母の日

こんにちは!
くーさんこと露草です。

さあ、今回はすっかり忘れていた母の日です。
当然くちなし寮のお母さんも祝われるわけで。
あ、時系列は今回は無視してください 笑
書くのを忘れていただけなので。

しかも、2600オーバーで「紅茶」史上最長です(^^)/
むしろこっちが特別回ではないかという感じですが(^^;)

では、どうぞ!
一応言っておくと、ワンコの呼び方はミスじゃないですよ 笑



5月の第2日曜日、今日は母の日だ。

生徒会の用事で学校に来ていた仔犬が帰り道を歩いていると、電話が鳴った。

 

「はい、仔犬です。……あ、届いた?……良かった……いえいえ……はいはーい。」

 

1分ほどで電話を切る。

相手は母親だった。

仕送りの残りと貯めてあったお小遣いで小さなブローチを贈ったのだが、喜んでくれたようだ。

直接渡すのは照れくさくて配送という方法を選んでしまい、帰ってくると思っていた妹を怒らせてしまったが。

 

「ただいまですー。」

 

仔犬が寮に入ると、廊下の先のリビングのドアが開いた。

 

「おい、仔犬!」

「え?はーい。」

 

ドアから顔を出した風鈴に呼ばれ、リビングに入る。

と、ソファーをポンポンと叩き、

 

「ここ座れよ。」

「は、はい。」

 

何かいつもと違う。

何か企んでいるのかと仔犬は警戒する。

 

「うひゃあ!?」

 

と、後ろから肩を揉まれた。

 

「あっ!おい動くなよ。」

 

後ろを見ると、風鈴が仔犬の肩に手を置いていた。

 

「な、何するんですか!?」

「なにって肩もみだよ。今日は母の日だろ。おまえはこの寮のお母さんなんだから。」

「お母さんって……。」

 

確かに寮の家事はほとんど仔犬がやっていて、最近は学校でもお母さんと呼ばれるようになってきた。

仔犬としては少し不本意だったりする。

 

「ほら、おまえは私たちのために色々やってくれてるじゃん。」

「そ、そんなの普通のことですよ。」

 

仔犬も男の子。

女の子が自分の肩を揉んでいるというのはさすがに緊張してくる。

いつもは気にならないはずの風鈴の髪のいい匂いですら気になり、どきどきしてしまう。

赤くなった顔を隠したくて思わず下を向いてしまう。

と、肩もみの手が止まった。

 

「あのさ、私さ……。」

「ふぁい!?」

 

不意に耳元で囁かれ、変な声を出してしまう。

慌てて顔を上げると、いつのまにか目の前に頬を仄かに赤くした風鈴が立っていた。

と思うと、手指を前に組んでみて、ぐーって伸ばしてみたり、あちこちきょろきょろしたりと落ち着かない。

なんだか、風鈴らしくない。

なんだが、女の子っぽい。

 

「前からさ、おまえがこの寮にやって来た時からさ、いいなって思ってたんだよ。」

「な、なんですか寮長。い、いきなり……。」

「いいから聞けって。……お願い聞いて、仔犬。」

「き、聞きますけど。」

 

風鈴の態度にどうしたらいいのかわからず、思わず姿勢を正してしまう。

 

「よくおまえのことからかったり、ぐりぐりしてるけどさ。別におまえのこと嫌ってるわけじゃないんだ。それどころかさ……」

「はい!もちろんわかってます。」

 

風鈴がまだ何か言いかけていたが、慌てて言葉をはさむ。

それ以上続きを言わせてはいけない気がして。

 

「そっか……。よかった……。」

 

そして風鈴は小さく笑った。

その姿にまた胸が高まってしまう。

 

「あれ?仔犬くん帰ってきていたんですか?お帰りなさい~。」

 

と、リビングのドアが開き風羽が入ってきた。

さっきまでの風鈴との会話を聞かれたのか焦り、仔犬が何か言おうとする。

だが、

 

「なあ、風羽。」

 

その前に風鈴が口を開いてしまう。

 

「はい、何ですか~?」

 

風羽はいつもの笑顔のままだ。

 

「おまえも仔犬のこと好きか?」

 

風鈴がそう聞くと、風羽は心なしかいつもよりも笑顔になった。

 

「はい。好きですよ。」

 

そう言ってソファー越しに後ろから抱き付いてきた。

小学生のため、膨らみはないものの柔らかくて暖かい。

仔犬はプチパニックになるが、かすかに残った冷静な部分で考える。

風羽は誰にでも優しく、誰にでも天使。

だから、風羽の場合の『好き』は、人類全部大好きの『好き』だということはわかっている。

だがとてもじゃないが、そういう意味で言っているようには思えない。

というか、今、風鈴はおまえ『も』と言った。

ということは――――――

 

「あ、あのそれってどういう意味で……。」

 

言葉が続かない。

そんな仔犬の様子を見て、風鈴は小さく苦笑した後、仔犬の目を上目づかいで見た。

 

「……ばか。言わせんなよ。」

 

まさか。まさかまさかまさか。

突然起こった出来事に頭の方が追い付かない。

 

「ずいぶん、楽しそうなことをしているね。」

 

と、またドアの方から声が聞こえた。

御籤と、後ろには希もいる。

 

「み、御籤さん、希さん!?あの、これは、違くて。」

 

仔犬は慌てるも、御籤は小さく笑った。

 

「風鈴たちの気持ちは知ったようだね。だけど……。」

 

その言葉と同時に仔犬の右腕に抱き付く。

御籤の温かさと香りが仔犬の右腕を包み込む。

 

「ゲームに負けるのは性に合わないな。ましてやこのゲームならなおさらね。」

「み、御籤さん……。」

「覚悟するといい、仔犬くん。」

 

仔犬はもうパニックだ。

と、左腕にも暖かさを感じた。

こちらは御籤よりも小柄だが、御籤以上に暖かい。

 

「希さん!?」

「あ、あのね!私も、だから!」

 

落ち着いた香りの御籤とは違った甘い香りが仔犬の鼻孔をくすぐる。

 

「頑張るからね、仔犬くん!」

「の、希さん……。」

 

希の潤んだ顔に仔犬はもう目が回ってくる。

 

「あぁん、もう。抱きつけませんよ~。」

「ふふっ、風鈴はどうする?」

「決まってんだろ。」

「あ、寮長!?」

 

風鈴は正面から抱き着いてくる。

御籤と希に両側から抱き着かれ、後ろからは風羽。さらに正面からは風鈴。

 

うわ。うわぁ。うわぁぁ。

仔犬はほとんどパニックになっていた。

なんでいきなり自分がこんなにモテているかわからない。

でも悪い気はしない。

きっと自分の魅力がようやく評価されたに違いない。

これまで頑張ってきたことがようやく評価されたのだ。

これが伝説の『モテ期』っていうのか。

どうしよう。

誰を選べばいいんだろう。

いや、選ばなくてもいいかも。

このままみんなでいられればそれでいい。

 

「御籤撮れたか?」

「うん。ばっちりだね。風鈴がワンコくんをうまくソファーへ誘導してくれたおかげだよ。」

 

と、不意にそんな声が聞こえ我に返る。

いつのまにかみんなもうくっついていない。

 

「ごめんなさい~、ワンちゃん。」

「ご、ごめんね、雛森くん。」

 

申し訳なさそうな顔をした風羽と、罪悪感を感じているのがありありとわかる希は仔犬に謝ってくる。

 

「も、もしかしてこれって……。」

「母の日のドッキリだよ。」

「『もしもワンコくんが急にモテたらどうするか?』だね。企画が風鈴、脚本が私、役者は全員かな。」

 

仔犬はやっと理解した。

そう言えば、誰も決定的な一言は言っていない。

仔犬の勘違い、考え過ぎだと言われたらそれまでの言葉だ。

唯一、風羽だけは『好き』と言っていたが、他ならぬ仔犬自身が理解していた。

風羽の『好き』は、人類全部大好きの『好き』だと。

 

「男ってのは、いつでも誰でもどんな時でも自分がモテていると思っているというのはホントか。」

 

風鈴が呟く。

その目はひどく冷たい。

さっきまでの恋する乙女のような姿はどこにもなかった。

 

「ああ。ホントなんだな。」

 

仔犬がソファーから崩れると同時にそう呟いた。




次回!「母の日、その後」
お楽しみに!(^◇^)

感想もお待ちしています!
お気に入り登録していただいた方にはお礼だけでも言わせて欲しいです(^^♪


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生徒会の双子

コンバトラー!
くーさんこと露草です!(^^)!

というわけで、連続更新断たれちゃった♪てへぺろ 
…これ男がやると死ぬほど寒いっスね~(-_-;)

じゃあ、どうぞ!


ある日の放課後。

仔犬は中等部生徒会室を目指して廊下を歩いていた。

というのも、仔犬は一応生徒会書記に所属しているのだ。

もっとも、仕事もそんなにないので毎日参加しているわけではないが。

 

「あれ?」

 

ふと、近くの教室から見覚えのある少女が出てきた。

ゆるふわっとした長い金髪が肩に揺れている。

頭にピンクに白の大きな水玉のリボンをくくりつけている。

仔犬と同じく生徒会所属の2年生の先輩だ。

聞いた話では希と同じクラスらしい。

 

「こんにちはー。」

 

仔犬は声をかけた。

仕事中だったら声はかけないが、出てきたということは終わったんだろう。

 

「あ、仔犬くんこんにちは♪」

 

いつもの笑顔が返ってくる。

優雅さと明るさを持ち合わせた完璧なスマイルだった。

 

「今日は生徒会休みですか?」

「いえ、少しだけ仕事がありますよ。桜花(おうか)が留守番してくれてます。」

「あ、そっか。そうですよね。」

 

彼女たちは双子の姉妹。

片方が外で仕事をしてるなら、もう片方は生徒会室で仕事をする。

もう2か月近く仲良くしているのにうっかりしていた。

 

「では、私はまだ仕事があるので。」

 

礼儀正しく一礼し、彼女は廊下を歩いて行った。

その後姿を見送り、さあ行こうと思った時、仔犬は「あれっ?」と思った。

 

「今、桜花がって言った…?でもさっき話していたのが桜花さんだよね?」

 

双子の姉妹の名前は、桜花(おうか)向日葵(ひまわり)

お姉さんが桜花で、妹が向日葵。

桜花が会長で、向日葵が副会長。

双子なので姉妹といってもほとんど変わらないからか、お互い名前で呼び合っている。

確かに同一人物と言っても信じてしまうくらいそっくりだが、見間違えるはずがない。

 

そんなことを考えていると、生徒会室についた。

ノックをすると、「はーい」と声が掛かったため入室する。

 

「あら、仔犬くん。いらっしゃい。」

 

さっき廊下で会った顔とまったく同じ顔。

優雅で明るい笑顔も声も同じ。

双子と知っていてもみんな驚いてしまう。

 

「今日はどうしましたか?」

 

笑顔でそう聞いてくるが、仔犬は別のことを考えていた。

さっき廊下であった少女の言葉を信じるなら目の前にいるのは桜花さんのはずだ。

だが、前にいるのは、会長席にこそ座っているものの向日葵さんだ。

 

 

「桜花さん……じゃなくて会長に持っていくように花沢庶務に頼まれまして。」

 

桜花と向日葵はいつもは優しいが、生徒会室で役職名以外で呼ぶことを嫌う。

そのため、桜花は会長、向日葵は副会長、類斗は花沢庶務と言い直さなくてはならない。

そのくせ、この2人は普通に名前で呼ぶんだから不思議だ。

 

「そう。じゃあ、受け取るわね。」

 

彼女が手を伸ばしてくる。

まあ、いいかと仔犬も渡した。

折角なので、雑談代わりに聞いてみる。

 

「そういえば、何で向日葵さん会長席に座っているんですか?」

「え?」

 

彼女が固まった。

 

「あれ?向日葵さん?」

 

仔犬が不思議に思っていると、氷が解けるようにだんだん動き出す。

何か怒らせてしまったのだろうか?

 

「あ、そっか。すいません。副会長でしたね。」

 

雑談とはいえ、役職名で呼ばなきゃいけない。

これは未だに慣れない。

 

「そ、そうじゃなくて!」

 

だが、彼女は別のことで怒っているようだ。

というより、驚いているように見える。

彼女は深呼吸を数回して、上目遣いで見てくる。

 

「あの、何でわかったんですか……?」

 

そんな様子にまた不思議そうな顔をする仔犬。

少女――――向日葵が怒っている理由がわからない。

 

「何でって当たり前でしょ?」

「だから、どうしてですか~!?」

 

どうしてですかと言われてもわかるんだからしょうがない。

 

「私たちそっくりだから、親も間違えるんですよ!」

「いや、間違えないでしょう。」

「何で間違えないんですか!!どこで見分けてるんですか!?」

「見分けるも何も普通にわかるんですが……。」

 

もしかしたら、いたずらのつもりだったのだろうか。

そうだったら、だまされてあげた方がよかったかもしれない。

でももう手遅れなわけで。

 

仔犬は困ってしまった。

と、ドアが開き、さっき廊下で会った少女が入ってきた。

 

「外まで聞こえましたよ。何を騒いでいるんですか?」

「あ、桜花(おうか)さん。僕もよくわからなくて……。」

 

そう言い訳すると、桜花も固まった。

そして、2人揃って叫んだ。

 

「「なんでわかるんですかぁ~!?」」

「えぇ……。」

 

2人とも怒らせてしまった。

なぜ怒らせてしまったのかさっぱりわからない。

とりあえず何か言わないと。

 

「え、えっと……俺のかわいい子猫ちゃんたちを間違えるわけないだろう?」

「「っ!?」」

 

咄嗟に、昨日読んだラノベのセリフを言ってしまった。

ヤバい、恥ずかしすぎる。

思わず顔を伏せるが、2人も黙ったままだ。

そっと顔を上げると、2人とも固まっていた。

おそるおそる声をかけてみる。

 

「えっと、桜花さん?」

「……。」

 

桜花は何も言わない。

心なしか頭から湯気が出ている気がする。

 

「えっと、向日葵さん?」

「……。」

 

向日葵も何も言わない。

何となく顔がトマトと見間違えるくらい真っ赤になっている気がする。

 

「えっと、書類を……。」

「「……。」」

 

2人も何も言わない。

結局フリーズが解けたのは1時間が過ぎた頃だった。

 

えぇ……わかるよねぇ?




初島家風呂場――――



桜花「なんでアイツわかるのよ!?絶対次はだましてやるんだから!」
向日葵「子猫ちゃんって言われたね……。」
桜花「それは……。」
向日葵「すごくかっこよかった……。」
桜花「それはまあ……否定しないけど。」
向日葵「仔犬くん……今何してるのかな?」
桜花「え、向日葵?……ねえちょっと。」


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雨漏り

コンバトラー!
くーさんこと露草です(^^)/

この前、この小説を読んでいる友達から、「仔犬ってことは犬なの?」という質問があったため一応補足です。
仔犬くんの種族?は……(ドラムロール)……人間です!
おもしろかったので、ネタに使わせてもらいました(^o^)
ごめんね☆

という完全な内輪受けの話でスタートです 笑

ではどうぞ!


じめじめした天気が今日も続いている。

この季節は仕方ないとはいえ、今日も雨が降り続いていた。

夕食を終え、仔犬は風鈴と御籤とともにリビングでまったりとしていた。

ちなみに、希は自室でマンガ作業、風羽はなぜか初等部の女子寮に行っていた。

 

「雨やみませんねー。」

 

リビングで紅茶を飲みながら、仔犬は誰にともなく呟いた。

寮の家事を任されている仔犬にとって雨は、食材が腐りやすかったり、洗濯ができなかったりとかなりやっかいだ。

別に雨自体は嫌いじゃなのだが。

 

「ん~、そろそろだよな。なあ、ミク?」

「うん、そろそろだね。」

 

風鈴と御籤が妙な話している。

 

「はい?なにがです?」

 

噛み合わない話題に、仔犬は聞き返した。

 

「ボロだからな。」

「住めば都だよ。」

「賭けるか。ミクの予想は?」

「う~ん。風羽くんの部屋かな?」

「じゃあ、私は空き部屋全部だ。」

「それじゃ賭けにならないだろう。」

 

仔犬の頭上を飛び越えて、2人で交信中だ。

話の内容も分からないし、相手にもしてもらえない。

ちょっと悲しい。

 

「きゃあああああああああ!!」

 

と、上から叫び声が聞こえた。

 

「希さん!?」

 

仔犬は急いでリビングを飛び出し、階段を上る。

いつもならノックをするが、それさえ忘れ、勢いよくドアを開けた。

 

「希さんどうし……うわっ!?」

「ふぇ~ん!仔犬く~ん!!」

 

ドアを開けた途端、半泣きで希が抱き付いてきた。

小柄な体にしては大きめなのが押し付けられ思わず焦ってしまう。

 

「の、希さん!どうしたんですか?」

「部屋が~!私のマンガが~!」

 

希を抱きしめながら部屋を見ると、希の机のあたりに天井から水が落ちていた。

恐らく、その机の上に乗せられていたであろう原稿はお亡くなりになったんだろう。

 

「あー、雨漏りですか。」

「明日締切なのに~!」

 

仔犬は思わず拍子抜けしてしまうが、希としては必死だろう。

特に最近希は別の雑誌での連載も決まったのだから。

 

「あーえっと、今日僕が徹夜で手伝ってあげますから。」

 

とりあえず、頭を撫でながらそう言う。

そうすると、希は泣き止んだ。

 

「……ホント?」

「ホントですよー。」

「……わかった。」

 

と、そしたら離れてくれた。

ちょっと名残惜しかったのは内緒だ。

 

「最初雨漏りしたのは希の部屋だったか。」

「賭けは胴元が勝ちかな?」

「誰だよ胴元。」

 

と、いつの間にか風鈴と御籤が部屋の前に来ていた。

 

「おい、ワンコ。ほら。」

 

そして、手に持った空のカップを投げてきた。

 

「あ、どーも。」

 

部屋に入り、雨漏りの下に置く。

見回してみたら、雨漏りは一か所だけのようだ。

 

「なぜか、毎年どこか一か所雨漏りするんだよなー。絶対一か所だけなのが不思議だけだけど。」

「古い木造物件だからね仕方ないと言えるね。」

「去年は、空き部屋でしたから油断してました……。」

 

今年から寮に入った仔犬にはわからないが、風鈴たちの様子を見るに毎年のことなのだろう。

 

「取り敢えず、希くんには別室で寝てもらうとして。」

「そろそろ風羽が帰ってくるはずだ。」

 

と、玄関のドアが開く音と、「ただいまです~」という声が聞こえた。

そして階段を上がってくる。

 

「おまたせです~。洗面器とバケツとタライ、そのほか色々借りてきました~。」

 

風羽は両手で持てるだけの容器を、そして後ろには初等部らしき女の子も容器を持って数人来ていた。

なぜか仔犬を見ながら、赤くなってキャーキャー騒いでいる。

 

みんなで手分けして容器を置いて。

仔犬が初めて体験する雨漏りはこうして過ぎて行った。




お気に入りがついに16になりました!
登録していただいた皆々様、そして感想をいただいているお三方!
本っっっっっっっっっっ当にありがとうございます!!!!
愛してますっ!(BL的な意味ではなく 笑)

次回っていうか明日!「相合傘」
お楽しみに!


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相合い傘

コンバトラー!
くーさんこと露草です(^^)

やっと時間軸が現実に追いついた感じですかね~。
まあ、速攻で過ぎ去っていくつもりですが 笑

さて、今回はザ・超短編です。
ショートストーリーをウリとしたこの小説には、ある意味らしい話です 笑

では、どうぞ!(*^_^*)


「うわぁ、結構降ってるなー。」

 

放課後の初等部校舎。

生徒会の用事で初等部に来ていた仔犬が帰ろうとすると、さっきよりも雨は強くなっていた。

傘を広げ、寮に帰ろうとすると偶然2年生の靴箱に見覚えのある姿を見かけた。

どうしたんだろうと思い、近寄って話かける。

 

「風羽ちゃん何してるの?」

「あ、ワンちゃん。」

 

向こうも仔犬に気が付いたのか笑顔を見せる。

 

「友達でも待っているの?」

「いえ、違うんです。実は、誰かがわたしの傘を間違えて持って帰っちゃったみたいで~。」

「あー、そうなんだ。」

「はい。どうしましょう~?」

 

困ったような笑顔をする風羽ちゃん。

寮は学校の敷地内だが、端っこの方だ。

歩いて15分ほど。

男の仔犬ならともかく、女の子でしかも小学生の風羽なら風邪をひいてしまうかもしれない。

 

「よかったら入ってく?」

「え?でも。」

「帰るところ同じなんだから構わないよ。それより風羽ちゃんが濡れちゃうのが心配だよ。」

「じゃあ……お願いします。」

 

そう言って傘に入ってくる風羽。

仔犬も風羽も小柄なため2人で入っても問題はない。

 

「じゃあ、行こっか。」

「はいっ!」

 

そう言って歩き出す。

 

「雨だねー。」

「雨ですね~。」

 

話すのは雑談ともいえない会話。

そして、沈黙。

思えば風羽とは家事を一緒にやるなど一緒にいる時間は多かったのに、普通の話はしたことが無い気がする。

料理とかそういった話はたくさんするのに。

だからこういう時、ちょっと困ってしまう。

 

「あの、ワンちゃん。」

 

不意に風羽が口を開いた。

 

「ん?なに風羽ちゃん?」

 

仔犬がそう返すと少しためらってから小さく呟いた。

 

「手をつないでもらえませんか?」

 

上目づかいで仔犬を見てくる。

控えめな風羽にしては珍しいお願いに驚くが、仔犬に断る理由はない。

 

「うん、もちろんだよ。」

 

そう言って仔犬自ら手をつなぐ。

すると、風羽は少し顔を赤くし、照れたようにはにかんだんだ。

 

「えへへっ♪ありがとうです、ワンちゃん!」

「いえいえ。」

 

仔犬にとって妹のような存在の風羽だが、こうやって笑顔を向けられると少し照れてしまう。

 

「ワンちゃんは雨は好きですか~?」

「う~ん、嫌いじゃないかな?風羽ちゃんは?」

「わたしは外で遊べませんし、あんまり好きじゃなかったです。でも」

 

そこで言葉を区切る風羽。

そして、仔犬の目を見つめ、微笑んだ。

 

「でも、今日は忘れられない日になりました。雨に感謝です~。」

 

1つの傘に2人。

15分の道のりはあっという間だった。




次回!「雨宿り」
お楽しみに!(*^_^*)


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雨宿り

コンバトラー!
くーさんこと露草です(*^^*)

レポート誰か代わってくれませんかね……(^^;)
宗教とか全然わからんのですよ~orz
ミッション系の辛いところです 笑
まあ、そんな愚痴は置いておきましょうか。

では、どうぞ!




「うわぁ!もう前が見えないな。」

 

夕食の買い物の帰り道、ものすごい量の雨が降ってきた。

天気予報では降水確率0%と言っていたので、仔犬はうっかり傘を持ってくるのを忘れていた。

 

「とりあえず、雨宿りしないと……。」

 

近くに風鈴がよく行っている公園がある。

あそこなら大きな東屋があるはずだ。

公園に走ると、記憶の通り東屋があり急いで入った。

 

「ふう……。何とか落ち着いたかな。」

 

カバンに入れていたタオルで髪を拭く。

ぐっしょり濡れてしまったワイシャツを絞ると、大量の水が出てきた。

帰って早く洗わないと、明日着れなくなってしまう。

と、物音が聞こえた。

 

「うん?ワンコくん?」

「え?あ、御籤さん。」

 

呼ばれて振り向くと柱の向こうから制服姿の御籤が現れた。

柱で見えなかったから全然気づかなかった。

 

「見たところ買い物の帰りだったのかな?」

「はい。その帰りに降られちゃいましたー。御籤さんは?」

「本を買いに行っててね。お互い運が悪いね。」

 

そう言って御籤は苦笑する。

 

「あ、よかったらタオルを使いま……って御籤さん!」

「うん?どうしたのかな?」

「服、服!制服が!」

「服?何を……あっ!?」

 

夏服に衣替えになったため、御籤も上はブラウスだった。

当然雨に濡れると透ける。

仔犬は御籤のスレンダーな膨らみと水色の下着をはっきりと見てしまった。

忘れようと頭を振るも、刻み付けたように鮮明に覚えてしまっている。

 

「こ、これ使ってください!」

 

慌ててさっきのタオルを渡すと、御籤は体に巻いた。

そしてもう手遅れだが目を強くつぶる。

一瞬見えた御籤の顔は、これ以上ないくらい真っ赤だった。

 

「み、見たかな?」

 

小さく御籤が呟く。

咄嗟に誤魔化そうとするが、見てしまったのは本当なので正直に言う。

 

「ご、ごめんなさい。」

「い、いやわざとじゃないだろう。」

「も、もちろんですよ!」

「な、なら仕方ないさ。」

「……。」

「……。」

 

2人とも黙ってしまった。

すごく気まずい。

何か言うべきかと悩むが、何を言ってもセクハラになってしまうような気がした。

 

「ふっ、ふふふ。」

 

と、急に御籤の笑い声が聞こえた。

思わず目を開けると、御籤が笑っていた。

 

「さて、ワンコくん。覚悟はできているかな?」

「な、何の話ですか?」

 

いつものような知的な笑みとは違い、壊れたように笑う。

めちゃくちゃ怖い。

 

「女の体を見たんだ。何をされて文句は言えないだろう?」

「ちょ、ちょっと御籤さん!」

 

そんな言い方をしたら仔犬が無理やり何かしたように聞こえてしまう。

 

「ふふふ。ワンコく~ん?」

「ご、ごめんなさいー!」

 

慌てて東屋から出て駆け出す。

いつの間にか雨は上がっていた。



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お昼寝

コンバトラー!
くーさんこと露草です(*^^*)

暑いですね~。
この季節はテンションも食欲も落ちちゃいます……。
でも、執筆意欲だけは落とさないように頑張りたいです。

では、どうぞ!(≧▽≦)


「寮長ー。」

 

日曜日の夕方。

仔犬はめちゃくちゃ困っていた。

さっきから1時間ほど身動ぎ1つできない。

すると玄関から音がして、リビングのドアが開いた。

 

「ただいま……ん?」

 

帰ってきた御籤に慌てて指を口に当ててしーってやる。

怪訝な顔をした御籤だったが、仔犬の膝に乗るものを見て理解する。

一瞬にやっとした後、仔犬を見て口を開く。

 

『寝てるのかい?』

 

口パクで言う御籤に仔犬は頷きだけ返す。

御籤が見ているのは仔犬の膝の上。

熟睡している風鈴だった。

 

談話室のソファーで仔犬と風鈴が並んでラノベを読んでいた時だった。

そろそろ夕食の支度をしようと思い、立ち上がろうとしたら、不意に膝の上に重さを感じた。

驚いて見てみると、すぅすぅといびきをかく風鈴がいた。

何回か声を掛けて見たが、全然起きてくれない。

それから1時間、全く起きてくれなかった。

 

「寮長そろそろ夕飯作らないとー。」

 

御籤が自室に戻った後、風鈴に小さく呟くも全然起きる気配がない。

そもそも、本気で起こすつもりならもっと大きな声を出すか、ゆすり起こせばいい。

それをしないで風鈴を寝かしたままにしているところは仔犬の優しさだろう。

 

ふと、風鈴の桃色の髪が目に入った。

毎朝セットが大変だとボヤいている長いくせっ毛。

が、近くで見ると艶のあるきれいな髪だった。

 

触ってみたい。

ふと、そんな考えが浮かんだ。

 

「ちょ、ちょっとだけなら……。」

 

そう思ってしまったら止まらない。

緊張に震える手でゆっくりと髪に触れる。

 

「ん……。」

 

小さく風鈴が身動ぎする。

軽く撫でてみると、すっと手が通る柔らかい髪だった。

 

「んっ……。」

 

さっきよりも大きな身動ぎに一瞬びっくりとするが、髪を撫でるたびつぶる目が柔らかくなり、犬のように唇をぺろぺろとしている。

どうやら気持ちがいいようだ。

思い切ってほっぺを付いてみる。

 

ぷよっぷよっ。

柔らかい感触に思わずドキドキしてくる。

何回も触っていると、風鈴が上を向いた。

 

「ふぁ!?」

 

そして、いきなり指をくわえられた。

ぺろぺろと舌でなめたり、甘噛みしてくる。

その感触に、思わず鳥肌が立ってしまう。

 

「痛っ!」

 

今度は甘噛みではなく、風鈴の歯並びのいい歯で本気でかまれた。

めちゃくちゃ痛い。

慌てて指を風鈴の口から引き抜く。

 

「も、もしかして起きているんですか、寮長……?」

「……すぅすぅ。」

 

小さないびきが返ってくるが、一瞬答えが遅れた気がする。

起きてるのか起きてないのか、どっちだか分からない。

 

「ま、まさかね……?」

 

これ以上のいたずらは止めよう。

そう思い、そのまま髪だけ撫で続ける。

 

結局、風鈴が起きたのは、夕飯時をとっくに通り過ぎた9時だった。




次回はまたシリーズ!
「寮長くる」
お楽しみに!(^^)


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寮長くる

コンバトラー!
くーさんこと露草です(^^)

最近バトルガールのゲーム始めたんですが、ミミちゃんことミシェルちゃんが可愛すぎます!
あんな感じなのに、意外と大きいのがたまら……ゲフンゲフン!
かわいい女の子を純粋かつ邪な目で愛してる、くーさんです(^^)

では、どうぞ!(*^^*)





いつもの昼休み。

久しぶりの晴れとあって屋上で昼食を食べた仔犬たちが教室に戻ると、やけに教室が騒がしかった。

あそこは仔犬たちのクラスだ。

 

「何だぁ?」

 

類斗がそう言うももちろん誰もわからない。

と、教室から学級委員の三村一樹(みむら かずき)が出てきた。

 

「あっ、ヒナ!お前に客だぞ。」

「客?」

 

今日は特に約束した相手はいない。

首を傾げながら教室に入ると、中心あたりで人だかりができていた。

 

「きゃー、かわいい!」

「ねぇねぇ、お菓子食べる?」

 

集まっているのは女の子ばかりで、男子たちは「どうにかしろよ」という目で仔犬を見てくる。

 

「おい!おまえら私は先輩だぞ。とりあえずそのポッキー寄越せ。」

 

何か聞きなれた声が聞こえてきて、仔犬はぎくりと身を固めた。

まさかと思ったが、風鈴だった。

尊大に仔犬の席に座り、腕組みをしてクラスの女子からいちご味のポッキーをあーんされていた。

と、仔犬と目が合った。

 

「おっ、ワンコ来たかっ!」

 

そう言い、足が床に届いていなかった椅子から飛び降りる。

立ち上がってもやっぱり小さい。

寮ならさらに小さい風羽がいるため違和感がないが、こうしてクラスメートの女子たちの中に並ぶと、そのちっこさが一際よく目立つ。

 

「ワンコって誰?」

「多分、ヒナお母さんのことじゃないかな?」

「ワンコって……ヒナお母さんってペットなの?」

 

クラスメートが噂し合う。

いつの間にか遠巻きに見ていたはずの男子は仔犬を睨んでいた。

 

「おい、ワンコ。よくわからないけど、褒められているみたいだぞ。」

 

身長差10㎝をものともせず、風鈴は女子たちを下から見下ろしている。

 

「褒められてませんよ。僕ペットでもお母さんでもないですから。」

 

後半は少し大きめに言う。

誤解されるのはさすがに困る。

お母さんと言われるのは半分諦めている。

 

「じゃあね~、ワンコお母さん。」

「変な合体しないでくださいー!」

 

仔犬の言葉を無視しながら、女子たちがようやく離れる。

ため息しながら、風鈴を小さく睨む。

 

「ほら、広まっちゃいましたよー。どうしてくれるんですか?」

「おまえワンコっていうのやなの?」

 

少し泣きそうな顔で言われ、仔犬は慌てた。

 

「そ、そんなことないですよ!」

「じゃあ、いいじゃん。」

「いいのかなぁ……?」

 

相変わらず風鈴は強引だ。

寮でも教室でも変わらない。

 

「で、今日はどうしたんですか?」

 

ようやく本題を切り出す。

これを聞くまでにものすごく精神的に疲れたが。

 

「ん?ああ。今日、夕飯は友達と女子寮で食べるからいらないって言おうと思ってな。」

「メールでいいですよー、そんなの。」

「きょ、教室ではケータイ使っちゃダメなんだぞ!」

「急に常識人にならないでくださいー。」

 

両手でガオーッと怒る風鈴にやれやれと言う。

ホントはケータイをうまく使えないって理由だけなのは分かっている。

 

「なあなあ、ヒナ。この子お前の妹?」

「か、かわいいですね……!」

「うん!めちゃくちゃかわいい子だね~!」

 

話が一段落ついたのを悟ったのか、類斗、紗南、莉乃の3人も近づいてきた。

完全に風鈴を年下だと思っているみたいだが。

 

「ウチの寮の寮長だよ。あと、高2だから。先輩だからね。」

「嘘、マジで!?サーセン、先輩!」

「なんだこれは。おい、ワンコ。おまえの友達か?イケメンだな。」

「前話したじゃないですか。初等部からの友人の類斗です。あと、イケメンはイケメンですが、残念なイケメンです。」

「おっ、先輩わかりますか。おい、紗南、莉乃!俺イケメンだってさ。」

「先輩きれいな髪ですね。シャンプー何使っているんですか?」

「肌もすべすべぷにぷに~」

「おい、無視すんなよ!」

「「うるさい(です)」」

「がふっ!?」

 

2人に鳩尾を蹴っ飛ばされ、机を巻き込み吹き飛ぶ類斗。

 

「花沢、ちゃんと机直しておけよー。」

 

クラスメートにそう言われたが、類斗は倒れたまま何も答えない。

心なしか頭のあたりに赤い水たまりができている気がするが、いつものことなので誰も気にしない。

 

「愉快なやつだな、ワンコ。これ欲しいな。」

「ウチは女子寮じゃないですかー。」

 

最も男子の仔犬がいる時点で女子寮と言っていいのか怪しいが。

 

「しかし、ちっちゃいとは聞いていたがホントにちっちゃいな。」

 

と、一樹が風鈴の上に手を置いて、なでなでした。

仔犬は慄然とした。

風鈴に『小さい』は絶対に禁忌(タブー)だ。

撫でるのも禁忌。

一樹は2重の禁忌に触れていた。

 

「がおぉー!」

 

ぐりぐり。

一樹の背中に飛び乗り、頭をぐりぐりする。

 

「うおー!痛ぇー!!痛ぇぇー!!!全然離れねー!!!!お、おい、ヒナ何とかしてくれ!」

「無理です、一樹くん。耐えてください。」

 

禁忌を犯せば当然罰がある。

それは、春の次に夏が来るくらい当然のことだ。

しばらくして気が済んだのか、風鈴は一樹の背中から跳躍した。

スタっと、床に立つ。

相変わらず猫のように身軽だ。

 

「何あの危険な先輩……。」

 

仔犬の後ろでおびえる一樹。

風鈴は「ふん」とばかりにふんぞり返っていた。

 

「寮長そろそろ帰ってくださいー。」

 

昼休みのはずなのに全く休めなかった。

 

この後の5時間目。

疲れて居眠りした仔犬が廊下に立たされたのは、また別の話。




ちなみに今回登場した、三村一樹くんはぼくの大好きな某お笑い芸人からとりました。
昨日これ書いていた時、ちょうど観ていたので 笑
あ、次回も登場します。

次回!「御籤さんくる」
お楽しみに!(*^^*)


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御籤さんくる

コンバトラー!
くーさんこと露草です(*^^*)

39℃の熱を出して昨日までぶっ倒れてました~(^^;)
いやいや、お腹は痛いし、下痢だし、なのに咳が出ないから全く風邪ひいているように見えないという困った事態でした。

みなさん体調にはマジで気を付けましょう!
帰ったら手洗い、うがい!これくーさんとの約束ですよ~!!(^◇^)

では、久々の更新です。
どうぞ!


いつもの学校。いつもの中等部1年1組……ではなく、図書室。

今日の授業は教室ではなく、図書室で行われていた。

 

「じゃあ、5人で班組んでー。1班に3人ずつ2年生の先輩を付けるから。」

 

1組の教師の董子先生の号令でクラスメートがそれぞれ班を作る。

仔犬も類斗らいつものメンバーに一樹を加えた班で組む。

今日の授業は、高等部2年生の先輩と合同授業なので風鈴と御籤が教室に来ていた。

そして。

 

「よろしく頼むよ。」

 

御籤と他の2年生の先輩2人が仔犬たちの班に来た。

 

「うおっ、美人のおねーさん!おい、ヒナ、一樹!俺たちあたりだぜ!」

「3人とも美人だな~!」

 

テンションを上げる類斗と一樹。

それを呆れた目で見る紗南と莉乃。

仔犬は、隣に座った知り合いの先輩(御籤)に困ったように笑う。

 

「えっと、その……すいません。」

「ふふっ。元気でいいと思うよ。」

 

御籤はいつものように優雅に笑う。

それにバカ2人はテンションを上げてるが。

 

「じゃあ、自己紹介したら課題に取り掛かってね~。」

 

その号令とともにどの班も騒がしくなる。

仔犬たちの班でも2年生の自己紹介が始まった。

そして、今度は1年生。

 

「んじゃあ、俺から!」

 

手を上げ、なぜか立ち上がる類斗。

 

「花沢類斗ッス!クールで優しいイケメ「おーい、花沢!次妄言吐いたら数学問答無用で赤点にするからな。」って先生何で俺だけそんな辛辣なんスか!?」

 

クラスメートだけでなく、先生にもいじられる類斗。

もちろんこれもいつも通りだ。

それでビビったのか、一樹は普通に自己紹介をする。

紗南と莉乃も片方は清楚に、片方は明るく自己紹介をする。

そして、仔犬の番になった。

 

「えっと、雛森仔犬です。よろしくお願いします。」

「ねえねえ!」

 

シンプルな挨拶で終わろうとしたら、先輩たちから声を掛けられた。

 

「君が雛森くん?」

「女子寮で唯一の男子の?」

「え?あ、はい。」

 

びっくりしたが、何とか答える仔犬。

というか、自分はそんなに有名なのだろうか。

そんなことを考えていたのに気付いたのか、先輩たちは笑顔で補足する。

 

「だって、あの風鈴ちゃんが自ら引っ張ったという男の子だもん~。」

「ただでさえ男子は少ないんだし、噂にもなるよ~。」

「そ、そうなんですか……。」

 

自分の知らないところでそんな噂をされていたことを知り驚く仔犬。

確かに元女子高のこの学校は男子は少ないが、もちろん男子は仔犬だけではない。

 

「「後、かわいいから!」」

 

声をそろえて自分のコンプレックスを言われ、愕然となる。

だが、仕方ないとため息をついて諦める。

そもそも噂されるようなことは何もないし、誰かと恋愛関係になっている訳でもないんだから。

 

「おい!おまえらここはこーするんだ!」

 

少し離れた班から風鈴の声が響く。

相変わらずだなと苦笑すると、誰かに手をつかまれる。

びっくりして振り向くと御籤が仔犬の手を握っていた。

 

「風鈴が気になるかい?」

「え?い、いや、そんなこと。」

 

耳元で囁かれ思わずビクッとしてしまう。

御籤はクスッと微笑む。

いつも通り優雅に、だけど少し妖艶に。

 

「ふふっ、だけど今日は私の番だからね。ちゃんと私を見てくれたまえ。」

「……え?あの、…………え?」

 

意味深なことを言ってみんなとの話に戻る御籤。

仔犬はいきなり言われたことの意味が分からず、目をぱちくりしてしまう。

結局授業が終わるまで、つないだ手は離してくれなかった。




次回「風羽ちゃん来る」
お楽しみに!(≧ω≦)

あ、後今回から、登場するキャラのプロフィールを書きます。
参考にしていただけたら~と思います 笑
今後も追加予定です(*^^*)
では、最初は主人公!




☆雛森 仔犬(Koinu Hinamori)
○学年:中等部1年生
○身長:145センチ
○体重:43キロ
○髪の色・髪型:茶色の猫っ毛で、頭頂部が犬耳のようになっている。
○性格:控えめで、戦いを好まない。
○家族構成:父、母、妹2人
○備考:本人は気付いていないが、可愛い系のイケメン。
    その小柄な体躯も相俟って初等部ではかなりモテていた。
    紗南と莉乃が必死で女の子から守っていたのは、もちろん知らない。


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風羽ちゃんくる

ぼくがガンダムだ!(≧▽≦)
嘘です、露草です 笑

段々2000文字超えるのが余裕になってきました~。
でも10000とか余裕で超える人もいるんですよね~。
うん、ぼくにゃ無理ですね(^^;)
レポートもこれぐらい余裕で書けたらなぁ……orz

では、どうぞ!


いつもの昼休み。いつもの1年1組。

今日も雨のため、仔犬たちは教室でお弁当で食べていた。

 

「でさ、そこでキャプテンがパス出したところを俺がシュート!いやぁ、またモテモテになるなぁ~俺!」

「ヒナさん、今日は筑前煮を作ってきました。食べてみてください。」

「ヒナくん、次はあたしのオムライス食べてみて!」

「って何でお前らはいつも俺を無視するんだよぉぉぉぉ!!!」

 

いつも通り紗南と莉乃が仔犬にお弁当を勧め、類斗が無視される。

 

「花沢くんうるさいー!」

「何で俺!?」

 

学級委員の女子に注意され、半泣きになる類斗。

もちろん、いつも通りのため誰も気にしない。

 

「こんにちは~。」

 

ドアの開く音とともに元気な声が教室に響く。

 

「あれ、風羽ちゃん?」

 

そこにいたのは、風羽だった。

初等部と中等部の校舎は近いが、今まで来たことはなかったはずだ。

 

「あっ、ワンちゃ~ん!」

 

仔犬に気付いたのかニコニコとしながら近づいてくる風羽。

周りの男子は、「またヒナか」と嫉妬をはらんだ目をする。

なぜか仔犬はゾクッとした。

 

「あっ!もう、なんでワンちゃんお弁当食べちゃってるんですか~!」

「へ?」

 

昼休みだからご飯を食べているのは普通のはずなのだが。

仔犬には風羽がなぜ怒っているのかわからない。

 

「メール送ったのに~!見てませんか?」

 

そう言われ、慌ててスマホを取り出す。

すると、確かにメールが届いていた。

 

「あっ、ごめん。気付かなかった。」

「もう~!」

 

謝ると、風羽はぷく~っと頬を膨らめた。

だが、仔犬の顔を見てぷっと噴出した。

 

「ワンちゃん、ごはんつぶついてますよ~。ほっぺたに。」

「え?どこ?」

「逆ですよ~。はい。」

 

と、風羽が頬に手を伸ばし、取ってくれた。

 

「あ、ありがとう。」

 

年下とはいえ、少し照れてしまう。

と、聞くのを忘れてた。

 

「そ、そうだ。風羽ちゃん今日はどうしたの?」

「えへへっ!実はですね~。」

 

風羽は後ろ手に持った何かを、取り出してこようとした。

その時――――――

 

「お、おいヒナ!この可愛い子誰だよ。」

「すごいお人形さんみたいですね。」

「か、可愛いっっ!!!」

 

今まで呆気にとられていた3人が動き出した。

 

「えっと、この子は初等部2年生の琴町風羽ちゃん。この前来た寮長の妹さんだよ。」

「琴町風羽です~。よろしくお願いします。」

 

姉とは違い、きちんと挨拶をする風羽。

後でいっぱい褒めてあげよう。

と、席から立ち上がった類斗が風羽の前に膝をついた。

 

「美しいお嬢さん!俺は花沢類斗といいます。どうか、あなたのメアドを教えてください!」

「うわぁ……、類斗くんってロリコンだったの……?」

「私も初めて知りました。本気で幼なじみ解消したいです。」

「ちょっと待てや、お前ら!俺はロリコンじゃねぇぞ!」

「類斗、風羽ちゃんがびっくりするから黙ってください。」

 

類斗の無駄に大きな声のせいで風羽は驚いていた。

風羽を守るのは、お兄ちゃん的立場の仔犬の役目だ。

 

「ごめんね、風羽ちゃん。さっき何言いかけていたの?」

「あっ、そうでした!」

 

そしてゴソゴソと包みを開ける風羽。

 

「はい、ワンちゃん。これどうぞ!」

「え?これって……」

 

可愛い柄のナプキンに包まれたそれは、どうみてもお弁当箱に見えた。

 

「おっ、愛妻弁当か!」

「いいなぁ~。」

「おい!お前らさっきはロリコンだ何だ言ってたじゃないか!?」

「「「「「「「「だってヒナ(くん)だから。」」」」」」」」」」」」」」」

「何でだよ!?」

 

類斗が何か騒いでいるが、仔犬は聞いていなかった。

と、いうより考えていた。

 

いつも寮のみんなのお弁当を作っているのは仔犬だ。

だから、お弁当が被ってしまうのも予想できたはずだし、そもそも仔犬が気付かない間にお弁当を作るのは不可能のはずだ。

 

「えっと、開けていい?」

「はい、もちろん!」

 

怪訝な顔をして風羽に聞くと、笑顔が返ってきた。

 

「あ、これって。」

「うおっ!うまそうなケーキ!」

 

中に入っていたのは、ショートケーキだった。

中にはドライアイスも入っている。

 

「家庭科室の冷蔵庫に入れさせてもらってたんですよ~。さっきとってきました。」

 

そういえば、ケーキなら昨日作っていた。

勝手にお弁当だと思っていたからそこに結びつかなかった。

 

「ごめんなさい、4つしかなくて。」

「いやいや、ありがとう。せっかくだから、紗南さんと莉乃さんと……類斗もどう?」

 

いつもお世話になっている紗南と莉乃におすそ分けした。

最後の類斗に関しては、泣きそうな顔で見つめられたから仕方なしだ。

 

「いいのですか?」

「じゃあ遠慮なく!」

「ヒナぁぁぁぁぁぁ!!!!お前は一生の友達だぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そう言って3人はケーキに手を伸ばす。

 

「おいしいです。風羽さんお見事ですね。」

「すっごいおいしいよ、風羽ちゃん!」

「こ、これが風羽様が俺のためにその御手で作られたケーキ……。」

「えっと、誰も類斗のためなんて言ってないよ。」

 

類斗にそうツッコむも、風羽はニコニコとしている。

仔犬も一口食べる。

 

「うん、美味しい。」

「よかったです~。」

 

と、仔犬は気付いた。

ケーキは4つ、仔犬と類斗と紗南と莉乃で4つ。

風羽の分はない。

 

「?どうしましたか、ワンちゃん?」

 

もしかしたら、寮に帰ればまだあるのかもしれない。

でも今ここでは食べれない。

 

「はい、風羽ちゃん。あーん。」

「……え?」

 

いきなり目の前にケーキを差し出され、目を丸くする風羽。

 

「えっと、おすそ分け……かな?」

 

誤魔化すようにそう言う。

さすがにちょっと恥ずかしかった。

 

「……えへへっ!あーん。」

 

パクッと食べる風羽。

そしてニッコリと笑った。

 

「ありがとうございます、ワンちゃん!」

 

いつもの教室。

いつもの中等部1年1組。

でもいつもとちょっと違うお昼休みだった。




☆琴町 風鈴(Furin Kotomachi)
○学年:高等部2年生
○身長:139センチ
○体重:37キロ
○髪の色・髪型:桃色の腰まである長いくせっ毛。
        寝起きは直すのに1時間以上かかるため、風羽にやってもらっている。
○性格:ゴーイングマイウェイ、わがまま
○家族構成:父、母、妹(風羽)、従妹(風陽)
○備考:仔犬をくちなし寮に引っ張ってきた張本人。
    「身長」と「頭に手を置く」は絶対のタブー。
    ぐりぐりも危険。退屈も暇も危険。    





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希さんくる

露草です……20代になっても、彼女いない歴=年齢とです……。
はい!というわけで露草です(*^^*)

6月ももう終わりですね~。
7月になったら夏休み!
家族や仲間や恋人や海へ行ったり、キャンプしたり!
夕方の海でちゅーしたり!
まあ、非リア充のぼくのスケジュール帳は真っ白ですが(^^;
べ、別に悲しくなんてないんだからね!!(つД`)

では、どうぞ!(≧ω≦)


いつもの昼休み。

いつものメンバー。

仔犬たちは、屋上でお弁当を広げていた。

 

「ヒナさん?お弁当食べないんですか?」

 

弁当を広げていない仔犬に紗南が不思議そうに聞いてくる。

 

「あっ、えっと、今日はもう1人待っててね。」

「もう1人って誰だよ?」

 

すでにお弁当を広げている類斗が聞いてくる。

と、ドアが開くことが聞こえた。

そして、白髪の少女が顔を出した。

 

「えっと、雛森くん……?」

「あっ、希さん!こっちです。」

 

恐る恐る屋上に入ってくる希を迎えに行く。

 

「お弁当は持ってきましたか?」

「う、うん。言われた通り持ってきたよ。」

 

最近、昼休みは寮の誰かがきていたが、希は仔犬が自ら呼んだのだ。

そして、いきなり来た希に驚いている3人の元へ連れて行く。

 

「お、おいヒナ!このかわいい子誰だよ!?」

 

女の子が大好きな類斗が嬉しそうに言う。

隣の2人の女の子に白い目を向けられることには気づいていない。

 

「2年生の先輩の波真野希さんだよ。うちの寮の人。」

「な、波真野希です……。よ、よろしくお願いします!」

 

顔を下げて若干震えている希。

寮のみんなと話すことには慣れてきたようだが、いまだに知らない人と話すことは苦手なようだ。

 

「大歓迎っすよ先輩!!」

「希先輩かわいい~!」

「私より小柄なのに大きいなんて不公平です……。」

 

類斗と莉乃が元気よく希を歓迎する。

なぜか紗南だけは、希の身長に比べてかなり大きめの部位を睨んでいたが。

 

「じゃあ、ここへどうぞ希さん。」

「う、うん。ありがとう雛森くん。」

 

安心できるように手をつないで隣へ誘導する。

まだクラスの人となじめてないことを聞いた仔犬は、少しでも人と話すことに慣れて欲しいと今回の昼食に呼んだのだ。

できれば紗南や莉乃と仲良くして欲しい。

類斗は正直どうでもいい。

 

「じゃあ、ご飯食べよっか。」

「そうですね。早くしないとお昼休み終わってしまいますし。」

 

紗南の言葉でみんな包みを開く。

 

「あ、ヒナくんと希先輩って同じお弁当なんですね~。」

「う、うん。毎朝雛森くんが作ってくれるんだ。」

「うらやましいですね。希先輩はヒナさんの料理何が好きですか?」

「シチュー……かな。すっごくおいしいんだよ。」

 

仔犬は少し驚いていた。

紗南と莉乃が積極的に話してくれているとはいえ、寮以外の人とこんなに話している希は見たことがない。

希も変わろうとしている―――――そう考えると仔犬はたまらず嬉しかった。

今日はごほうびにシチューを作ろうと決めた。

 

「希先輩……いやのぞみん先輩~!俺とも話してくださいよ~!」

「ひっ!?」

 

いきなり話し掛けてきた類斗に怯える希。

やはりまだ男の子は苦手なようだ。

 

「類斗、次希さんの半径1000メートル以内に近づいたら屋上から突き落としますからねー。」

「や、やめろヒナ!ていうか半径1000メートルって1キロじゃねーか!い、いや、ごめんなさいヒナ様!」

 

ボソッと仔犬が呟いた言葉と笑顔にめちゃくちゃ震えて屋上から逃げ出す類斗。

何を怯えてるんだろう、普通の笑顔なのに。

 

「こ、怖い雛森くん……。」

「あ、あれがヒナさんの恐怖の笑顔です……。」

「類斗くん生きてるかな……。」

 

なぜか3人も震えている。

仔犬にはなぜかわからない。

 

「どうしたんですか3人とも?ご飯食べましょう。」

「は、はいそうですね!あっ、ヒナさん、今日は煮つけを作ってきましたよ。」

「あっ!あたしはチーズハンバーグだよ!」

 

そう言っていつも通り弁当箱を差し出す2人。

仔犬もいつも通りおいしいと返し、お礼に自分の弁当箱からにくじゃがを差し出す。

と、なぜか隣から視線を感じた。

 

「え、えっと希さん?なぜにらんでらっしゃるのでしょうか?」

「……いつもこんなことしてるの?」

「へ?」

 

いきなり聞かれとぼけた声を返してしまう。

こんなこと、というとお弁当の交換のことだろうか。

 

「えっと、お弁当の交換ならいつもしてますよ?」

 

そういうと頬を膨らめ、さらににらんでくる希。

と、小さく口を開いた。

 

「……私も交換したい。」

「いや、僕と希さんのお弁当ほとんど同じですって。」

 

さっきも言ったが、寮のお弁当は全員仔犬が作っている。

好き嫌いや量もあるため多少は違うが、それでも交換するほどは違わない。

 

「じゃあ、このミニハンバーグ!」

「僕もありますよー。」

「じゃあ、ウインナー!」

「それもありますって。」

「じゃあじゃあ……!」

 

なぜか必死にお弁当を交換したがる希。

仔犬は理由がわからなくて首を傾げてしまう。

 

「……じゃあ、卵焼きは?」

「あ、それは。」

 

仔犬にも卵焼きはあるが、仔犬のはほうれん草入り、ほうれん草が苦手な希のは玉ねぎが入っている。

つまり、ちょっとだけ違った。

 

「でも、これほうれん草入りですよ。」

「い、いいの!はい、交換!」

「あっ!」

 

そのまま希はパクリと食べてしまった。

 

「に、苦い……。」

「はいはい、お茶どーぞ。」

「あ、ありがと……。」

 

涙目でお茶をコクコクと飲む希。

ちょっとかわいいなと思ってしまったのは内緒。




今日はプロフィール休みです!<(_ _)>

次回!「林間学校(準備編)」
お楽しみに!(*^^*)


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期末テスト

コンバトラー!
くーさんこと露草です(*^^*)

久々の投稿です!
最近雨ばっかりで集中力が落ち気味です……(≧◇≦)
暑いのもヤですが、じめじめなのもヤです!
そんなストレスフルでストレシングでストレッサーな露草さんです 笑

ではどうぞ!(≧▽≦)


6月も終わりのある日。

くちなし寮の談話室はいつもとは違う雰囲気になっていた。

一週間後にある一学期の期末テストに向けてみんなノートや教科書を広げ勉強をしていのた。

 

「あー、もー、めんどくせー。何で高校ってこんな範囲広いんだよ。」

「期末テストはある意味その学期の総復習だからね。必然的に内容は広くなるものさ。」

 

高等部の2人は並んで座って勉強をしている。

クラスが同じで学んでいることも同じなので、互いに教え合いながらやっている。

最も、ほとんど教えているのは御籤だが。

 

「はいみなさーん。焼きたてのクッキーですよ~。チョコチップとメープルと抹茶ですよ~。」

「紅茶も淹れましたよー。」

 

クッキーと紅茶を載せたお盆を持った風羽と仔犬が談話室に入ってきた。

 

「おおっ!風羽、クッキー寄越せ!」

「まだまだお代わりありますからね~。」

 

風羽がテーブルに置く前にクッキーに飛び込んでくる風鈴。

相当うっぷんが溜まっていたのか両手にクッキーを持って食べている。

それを苦笑して見ながら仔犬は紅茶を御籤の前に置く。

 

「ん、ありがとうワンコくん。」

「どうですか、調子は?」

 

休憩のため、教科書を一か所にまとめていた御籤に聞く。

 

「私は見直し程度の復習だし、風鈴もそこそこ悪くないからね。ただ問題は……。」

「ああ、やっぱり……。」

 

仔犬と御籤は同じ方を向く。

 

「うぅ……、全然わからないよぅ……。」

 

そこには、泣きながら問題集をやっている希がいた。

さすがに無視するのはかわいそうなため仔犬は希のところに行く。

 

「えっと、希さん……。」

「うぅ……あ、雛森くん……?」

 

涙目で仔犬を見上げる希。

こんな時だが、思わず可愛いなと思ってしまう。

 

「雛森くーん!!」

「うわぁ!?」

 

椅子から仔犬の胸元に飛び込んできた。

仔犬も驚くも背中をよしよしと撫でてあげる。

 

「やっぱり難しいですか?」

「うん……ごめんね、せっかく雛森くんが先生にお願いしてくれたのに。」

「気にしないでくださいって言ったじゃないですかー。」

 

ほとんど学校に行けなかった希は当然ながら授業も受けていない。

だから、中学校で学ぶ内容はほとんどわからない。

本当は希の担任は今回は課題プリントでいいと言っていたのだが、希自身が1人だけテストを受けないというのを良しとしなかったのだ。

 

そこで、希の問題を1年生の内容にして欲しいと仔犬が担当教師全員にお願いしに行ったのだ。

中等部でかなり有名な仔犬の頼みだったためか、あっさりと全員受けてくれた。

 

「分からないところは僕もお手伝いしますからー。」

「……うんっ!頑張るよ!」

 

気合が入ったのか続きをやろうとする希。

が、仔犬がそれを止める。

 

「その前に、冷めないうちにクッキーと紅茶どうぞ。」

「あ、そうだった……。えっと、じゃあいただきます。」

 

希は恥ずかしそう笑い、テーブルの真ん中に置かれたお皿の抹茶クッキーに手を伸ばした。

 

「おいしい!すごくおいしいよ!」

「風羽ちゃんと2人で作ったんですよー。口に合ったならよかったです。」

 

そして、給仕をしていた仔犬と風羽も席に着く。

ちょっとしたお茶会だ。

 

と、口いっぱいにクッキーを頬張っていた風鈴が仔犬の方を向いた。

 

「ていうか、おまえは勉強しなくていいのかよ。おまえらも期末だろ?」

「ええ、高等部と同じ来週ですよ。」

 

初等部の風羽はともかく、仔犬たち中等部1年生には当然期末試験がある。

5教科に加えて、音楽、美術、技術・家庭科の9教科だ。

高等部と同じく平均点の60%以下なら赤点だ。

 

「しろよ勉強!赤点とかとったらぐりぐりの刑だぞ!」

「大丈夫ですよー。多分そこそこの点数は取れると思います。」

 

毎日の寮の家事に希のアシスタント、さらには生徒会にも所属している仔犬はすごく多忙だ。

だから、勉強に回せる時間は限りなく少ない。

そのため、授業をしっかり聞いてなるべく軽い復習で済むようにしているのだ。

最も、試験勉強をする時間がなかったのは今に始まった話ではないが。

 

「ずりーよ!今日は家事手伝ってやるからおまえもここで勉強しろ!」

「あーはいはい。わかりました。」

 

寮長がそう言うなら逆らわない。

それに、たまにはみんなで勉強するのもいいだろう。

白旗を揚げた仔犬は部屋に教科書を取りに向かった。

 




☆期末テスト結果(赤点は平均点の60%以下)

○仔犬
 9教科平均点: 88点(学年平均:約73点)  順位: 22位(168人中)
感想:「まあまあでしたよー」
○風鈴
 5教科平均点: 68点(学年平均:約70点) 順位: 88位(210人中)
感想:「び、びみょー」

○御籤
 5教科平均点:100点(学年平均: 〃 ) 順位: 1位( 〃 )
感想:「テスト勉強はテスト前じゃなくて普段からやるものだからね」

○希
 9教科平均点: 42点(学年平均:約71点) 順位:171位(181人中)
感想:「あ、危なかったよぉ~!」


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林間学校(準備編)

私だ。おまえだったのか。
はいどーも、露草です(*^^*)

最近投稿頻度が落ちてますよね~。
ちょっと反省したので、どうにかします!(^^;)

というわけで、どうぞ!(≧▽≦)



「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~!?」

 

いつもの夕方。

いつものくちなし寮。

今日はなぜか仔犬の叫び声が響いていた。

 

「の、希さんどういうことですか!?」

「だ、だから私は林間学校に行かないって言ってるの!!」

 

ことの始まりは10分前。

夕食前、談話室でみんなまったりしていた時だった。

 

「そう言えば、中等部の林間学校はもうすぐじゃなかったかな?」

 

不意に御籤が口を開いた。

 

「あ、はい、明後日ですよー。その間の家事は風羽ちゃんにお願いしました。」

「ワンちゃんにお願いされました~。」

「ふむ、ワンコくんと希くんを除いて3人なら風羽くんの負担にならないかな。」

「まあ、ワンコたちがいない4日だけなら私たちも手伝ってやるよ。」

 

林間学校は3泊4日なので、仔犬は料理ができない。

そこで、仔犬が入寮するまで家事を担当していた風羽に頼んだところ、笑顔で了承してくれたのだ。

御籤と風鈴が手伝ってくれるなら安心だろう。

 

「ちょ、ちょっと待って雛森くん!?」

「?どうしました希さん?」

 

急に大きな声を出した希に首を傾げる仔犬。

 

「林間学校って私も行くの!?」

「えっと、もちろんですよ。」

 

林間学校は1年生と2年生の合同で行われる。

当然、仔犬も希も参加することになる。

仔犬はなぜ今更そんな質問するのかわからなかった。

 

「……ない。」

「はい?」

 

希が小さく何かを呟いた。

 

「行かない!林間学校なんて絶対に行かない!」

 

そして現在こうなっている。

 

「行かないなんてそんなのだめですよ!?」

「やだ!知らない人とずっと一緒にいるなんて!それに男の子もいるし……。」

 

元から人と話すのが苦手な上、しばらく引きこもっていたため、希は知らない人と話すのが苦手になっていた。

ましてや男の子と話すなんて絶対無理だろう。

 

「でも桜花さんと向日葵さん……会長さんと副会長さんが同じ班ですよ!」

 

桜花と向日葵が同じクラスと聞いた時、仔犬は2人に希のことを見てくれるように頼んだのだ。

自分でも若干過保護ではないかと思ったが、少しでも希に学園生活を楽しんで欲しいと思い、頼むことにした。

 

「それでもヤなの!絶対行かないからね!」

 

困ってしまった仔犬は、風鈴にどうにかして欲しいと目で訴えた。

少し考えた風鈴が口を開く。

 

「おい、希。そういう時は気合だ!気合で頑張れ!」

「ムリです!」

 

コンマ数秒で一蹴された風鈴は「なんでだよ」と不満そうな顔をしている。

いや、さすがに根性論は無いだろう。

仕方なく今度は御籤を見る。

だが、御籤は首を振る。

 

「無理やりやるのは得策ではないよ。ここは希くんの心が変わるのを待つしかない。」

 

確かに長期的に見ればそれが効果的かもしれないが、林間学校は明後日。

さすがに時間が足りな過ぎる。

最後の希望とばかりに風羽にお願いする。

 

「えっと、希さん。そういう時はかぼちゃだと思えばいいんですよ~。」

「それ緊張した時のだろ。」

「さすがに今は関係ないと思うけど……。」

 

論外だった。

こんな時なのに、意外と風羽は天然なんだなぁと思ってしまった。

 

「希さんどうしても嫌ですか?」

 

仔犬は半ば諦めながらそう言った。

 

「だって……知らない人たちと班を組んで一緒に行動するんでしょ?そんなのムリだよ……。」

 

希もこれがいいとは思ってないんだろう。

声がとても小さい。

と、希が勘違いしていることに気付いた。

 

「えっと、班は希さんたちと僕たちが一緒ですよ。」

「……へ?」

「1年生と2年生をくっつけた班になるのは知ってますよね?だから、希さんは僕と同じ班ですよ。」

 

林間学校の班決めをする時、希のクラスの担任から希と同じ班になってくれないか頼まれたのだ。

希はまだ親しい友人ができていないため、仲のいい仔犬と一緒なら林間学校を楽しめるかもしれないということらしい。

仔犬はもちろん、一緒に班を組んだ類斗たちもすぐにOKしてくれた。

 

「雛森くんと同じ班なの?」

「はい。」

「林間学校の間、ずっと一緒にいられるの?」

「お風呂とか寝る時は無理ですけど、基本なら。」

「……じゃあ行く。」

「はい……って、へ?」

「雛森くんと一緒ならいいよ。林間学校私も行く。」

「あっ、はい……。えっと、ありがとうございます?」

 

急に意見を180度変えた希に驚くも、行ってくれるならこれで安心だ。

だが、希がなぜすごく嬉しそうな顔をしているのか、仔犬にはわからなかった。




その後の希(inお風呂)

(雛森くんとずっと一緒……雛森くんとずっと一緒……雛森くんとずっと一緒……雛森くんとずっと一緒……雛森くんとずっといっしょ…………楽しみっ♪)



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寮長と内緒の電話

こんばんは、大英帝国図書館特殊工作部の露草です。
うそです、ただの露草です(*^^*)

女の子との電話ってめちゃくちゃ緊張しますけど、すごく楽しいですよね~。
まあ、そんな機会片手で数えられるくらいしかないんですけどね!(^^;)

ではどうぞ!
今回は林間学校の夜が舞台です。
そしてシリーズです(^^)


着メロが鳴った。

男だらけの枕投げ大会という昼間の疲れと夜中のテンションに任せたイベントも終わり、仔犬がうとうとしていた時のことだった。

スマホの時計を見ると1時を回ったところだ。

 

「おいヒナ、ケータイ切っとけよ……。」

「ごめん。」

 

小さく文句を言った一樹に謝り、部屋を出る。

無駄にお金のあるこの学園では、林間学校の建物もバカでかい。

班のメンバーから女子を抜いた仔犬、類斗、一樹で一部屋を占領していた。

 

そのまま自動販売機以外の電気が消えた休憩所に行く。

着信は切れてしまったので履歴を確認すると意外な名前がそこにあった。

 

「え?寮長?」

 

そこにあったのは風鈴の名前だった。

風鈴は小柄で体力もないためすぐに寝てしまう。

だからこんな時間にかけてくるはずはないのだが。

首を傾げながらリダイヤルする。

1回か、二回かの短い通話音でガチャって音がする。

 

「もしもし?」

「……」

 

はじめは無音。

かすかに息遣いが聞こえる以外何も聞こえない。

 

「もしもし?寮長?りょーちょー?」

「……ワンコか?」

 

何度か呼びかけるとようやく返事してくれた。

やっぱり風鈴だ。

 

「はい、雛森ですよ。どうしましたか、寮長?」

「その……、なんだ……。」

 

いつもゴーイングマイウェイな風鈴にしては妙に歯切れが悪い。

何か話しにくい話なんだろうか。

 

「きょ、今日は青空だな。」

「いやもう夜ですよ。」

「……」

「……」

 

わけのわからないことを言った風鈴に思わずつっこんでしまう。

そしたら、無言が続いてしまった。

 

「あの、さ。ちょっとおまえに聞きたいことがあってさ。」

「聞きたいこと?何ですか?」

 

こんな夜中にかけてくるほどのことだ。

もしかしたら急ぎの用事なのかもしれない。

 

「おまえさ、1週間前の放課後さ、高等部の中庭にいただろ?」

「え?あ、はい。確かにいましたね。」

「その、さ。見ちゃったんだよ。おまえが5人ぐらいの中等部のやつらと中庭の木がいっぱいある方に連れてかれていたのを。」

「あ……。あはは、見ちゃいましたか?」

 

風鈴が言っているのは、中等部の3年生に中庭に呼び出された時のことだろう。

放課後は高等部の中庭はほとんど人は来ない。

だから彼らもまさか見られているとは思わなかったのだろう。

 

「そのさ、おまえってさ、その……いじめられてるのか?」

「へっ?い、いや違いますよ!?僕はいじめられてなんかないです!」

 

仔犬の言う通りいじめと言うほどのものではない。

単純に男子生徒の嫉妬だ。

ちっちゃくてかわいい風鈴と、クールビューティーな御籤は当然高等部では人気がある。

その彼女らと仲が良く、あまつさえ同居しているというならば気に入らないという人もいるだろう。

もちろん仔犬もこのままでいいとは思っていない。

今はまだ「彼女らと特別な関係になるな」と言われているだけだが、そのうち手が出されるかもしれない。

自分が被害を受けるならまだいいが、もしかしたら彼女らに手を出されるかもしれない。

仔犬自身今どう対処しようか考え中なのだ。

 

「そのさ、それってさ……。」

「は、はい。」

 

弁解して解決するかと思ったが、まだ風鈴は何か言おうとしている。

 

「もしかして私のせい……なのか?」

「……はい?」

「い、いやだっておまえをくちなし寮に誘ったのは私だし……。」

「違います!それは絶対違います!」

 

変な勘違いをする風鈴に慌てる仔犬。

これはちゃんと弁解しなければならない。

 

「むしろ僕は寮長に感謝しているんですよ!」

「……感謝?」

「はい、すっっっっごく感謝しています!」

 

ちゃんと納得してもらうために力強く言う仔犬。

でもこの気持ちはホントだ。

 

「覚えてます?寮長と初めて会った時のこと。」

「……覚えてるよ。あの時おまえアホ面してたもんなー。」

「いや、そりゃいきなり女子寮に来いって言われたら戸惑いますって。」

 

寮長―――――その時は琴町先輩と呼んでいた少女に会ったのは初等部の卒業式の3日後のことだった。

中等部の男子寮の申請をしたはずが、なぜか女子寮で登録されてしまっていたのだ。

理由は単純、仔犬の男だか女だかわかりにくい名前を勘違いして登録してしまったらしい。

途方に暮れていると偶然通りかかった風鈴に「おまえどうかしたのか?」と聞かれたのだ。

思わず仔犬が話してしまうと風鈴は少し考えた後、こう言った。

「ならウチの寮に来い。」と。

 

「だから僕は寮長に感謝しています。だからどんな理由があっても寮長を恨むなんてことはあり得ません。」

「そ、そうか……。」

 

まだ納得してないのかまだ歯切れが悪い。

 

「い、いやおまえがそこまで思ってくれてたって思って。」

「もちろんですよ。僕は寮長に感謝してますし、大好きですよ。」

「だいすっ!?」

 

驚いたのか急に噛んでしまう風鈴。

仔犬としては先輩に敬意と敬愛を現したつもりだったのだが。

と、壁の時計を見ると2時を回っていた。

 

「寮長さすがにそろそろ戻らないと。」

「そ、そうだな!おまえは戻るだよな!」

 

なぜか慌ててる風鈴はもはや呂律もまわってない。

 

「じゃあ、おやす……。」

「ま、待て!」

 

風鈴が急に大きな声を出し、仔犬の言葉を遮った。

 

「あのさ、最後にさ……。」

「はい?」

 

少しためらったような雰囲気を出した後、意を決したように言った。

 

「あの時みたいに私のこと呼んでくれないか?」

 

あの時というとさっきまで話していた会った時のことだろうか。

まあ、別に断る理由もない。

 

「おやすみなさい、琴町先輩。」

 

ガチャン。

いきなり切られてしまった。

理由はわからないが、これで風鈴の不安はなくなったのだろう。

仔犬はスマホをポケットにしまい、あくびをしながら部屋に帰った。



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御籤さんと内緒の電話

こんにちは。
座布団と幸せ運ぶ露草です(*^^*)

今更気付いたのですが、30話突破してました 笑
いやいや、作者がいまさら気付くのもどうかと思いますが、ホントに気付いてなかったんですよね~。
そんな作者なぼくです(^^;)

ではどうぞ!



バイブレーションが鳴った。

時間は昨日と同じく1時過ぎ。

何となく電話が来ることを予想していた仔犬はすでに部屋を抜け出し休憩所にいた。

 

「あれ?」

 

表示されている番号は知らない番号だった。

しかし、相手は予想がついている。

 

「はい、もしもし。」

「……」

 

電話の向こうから聞こえてくるのは息遣いだけ。

ここも昨日と同じ。

 

「……君の妹を誘拐した。返して欲しかったら君の好きな女の子の名前を叫びたまえ。」

「ウチの妹はこの時間とっくに寝てますし、好きな女の子はいませんよ御籤さん。」

 

相手は一瞬ビクッとした後、負けを認めるようにため息をついた。

 

「むう、よくわかったね。」

「御籤さんの声は大好きですから。」

「ふふっ。私も君の声は好きだよ。」

 

常識人の会話は冗談も結構真面目。

もしもこんなこと風鈴や希に言おうものならめちゃくちゃ怒られ、しばらくは口をきいてくれないだろう。

 

「というか、御籤さんケータイ持ってましたっけ?」

 

仔犬が思い返す限り御籤がケータイを持っていたのを見たことがない。

番号も教えてもらってないからてっきりケータイを持ってないと思っていた。

 

「実は今日風鈴に付いてもらってケータイを買ってきたんだ。」

「ああ、そう言えば今日は土曜日でしたねー。忘れてました。」

「うむ、私もついにケータイデビューだ。」

「じゃあ、この番号後で登録しておきますね。」

 

仔犬のスマホには類斗やクラスメートなど30人ほどが登録されている。

少し前まではアドレス帳に他のクラスの女の子など数10人の番号が載っていたはずなのだが、この前実家に帰って妹と一緒に寝た時、朝起きたらなぜか消えていたのだ。

あれは仔犬の中でも不思議な事件な事件の1つだ。

 

「名前もかっこいいんだ。銀色のケータイっていうらしい。」

「銀色?」

 

一瞬意味が分からず考えるが、すぐに「ああ、なるほど」と納得する。

銀色=シルバー、つまりシルバーケータイだ。

実はこう見えても御籤はすごく機械音痴だ。

恐らく一緒に行った風鈴がわざと言ったに違いない。

風鈴のことだから優しさ2割、いたずら心8割だろう。

 

「すごいんだよ、これは。何と2つに折れて小さくすることができるんだ。これならポケットにも入れられる。」

「ああ、なるほど……。うん、それはすごいですねー。」

 

一瞬ホントのことを言おうかと迷ったが、言わなかった。

今のうちにホントのことを言った方がいいのはわかっている。

でも、電話の向こうでものすごく嬉しそうにしているであろう御籤ががっかりする顔が見たくなかったのだ。

 

「それにどうやらカメラも撮れるらしい。まだ私にはその資格がないのか使うことができないのだが。」

「あー、じゃあ帰ったら教えますよ。他にも使ってみたい機能あります。」

「どうやらお財布の代わりにもなるらしい。それも使ってみたい。」

「わかりましたー。でも御籤さんのケータイってその機能付いているんですかね?」

 

御籤との楽しい会話は御籤のケータイの電池が切れる朝まで続いた。

翌日はホントに眠くて、朝食や朝の先生の話の間とか完全にぐーすか寝てしまった。



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風羽ちゃんと内緒の電話

真実はいつも1つ!
こんばんは、露草です(*^^*)

某番組で家を建てるコーナーをやってますが、まだ21のぼくにはイマイチ家が欲しいなぁって感覚が湧かないんですよね~。
彼女か奥さんでもできればそんな気持ちが湧くんですかね~?
そしたら、ぼくのスペック的に後数十年は無理なんですが(^^;)
あ、でも料理はするので大きなキッチンは欲しいなと思ったり 笑

ではどうぞ!(≧▽≦)



バイブレーションが鳴った。

休憩所でスマホを握りしめたままうとうとしていた仔犬は、目をこすって電話に出た。

もちろん相手はわかっている。

 

「こんばんは、風羽ちゃん。」

「こんばんは~、ワンちゃん!何でわたしだとわかったんですか~?」

「あはは、何となくかな?」

 

仔犬は適当にごまかす。

正直に言うならおとといが風鈴、昨日が御籤だったから、次は風羽だろうと確信していたのだが。

 

「姉さまがワンちゃんに電話しろって言ってたんですけど、何ででしょう~?」

「さあなんでだろうねー?僕もわからない。」

 

これはホント。

何たった4日留守にしているだけなのにわざわざ電話する理由がわからない。

 

「あっ!でもわたしワンちゃんとお話したかったことがあるんですよ~。」

「お話?何?」

「ほら、この前わたしワンちゃんからプレゼントもらったじゃないですか?」

「プレゼント?」

 

一瞬何のことだろうと思ったが、すぐに思い出した。

 

「もしかしてブレスレットのこと?」

「そうです!それです~!」

 

2か月前のゴールデンウィークに仔犬が風羽にブレスレットをプレゼントしたのだ。

女の子にアクセサリーをあげるのは妹以外初めてだったからものすごく緊張したのを覚えている。

 

「あれすっごく大事にしているんですよ~。大切に大切にしまってます。」

「そう?よかった。」

 

あの日以来つけてくれてなかったからてっきり気に入らなかったのかと思っていた。

大事にしてくれていたと知って、嬉しいけどちょっと照れくさい。

 

「で、そのお礼をしたいなぁって思って。」

「お礼なんていいよ。風羽ちゃんが大事にしてくれてたってだけで僕は満足だよ。」

「ダメです~!わたしがお礼したいからワンちゃんに拒否権はありません~♪」

 

楽しそうに言う風羽。

恐らく、仔犬が一度断るといるのは予想していたのだろう。

なら仔犬にできるのは白旗を振るだけだ。

 

「わかった、わかった。で、お礼って何するの?」

「あっ、そうです。あの、今度一緒にお出かけしませんか?」

「お出かけ?」

「はい!ワンちゃんの行きたいところどこでもいいですよ!もちろんわたしがおごっちゃいます!」

「あはは……、おごり……ねぇ。」

 

一緒にお出かけしようというだけならすぐOK出すところだが、おごられるというのは苦笑せざるを得ない。

小学生女子におごられる中学生男子。

うん、完全にアウトだ。

 

「そもそもお金あるの、風羽ちゃん?」

「はい!お小遣いを貯めた分が、えっと、ひいふうみい……3000円あります!」

「3000円かー。」

 

恐らく、100円玉と10円玉ばかりの風羽が必死に貯めた分だろう。

彼女の家はお金持ちだが、父親がしっかりしている人でお小遣いは常識の範囲内にされているらしい。

風鈴はたまに「高校生のお小遣いにしては少ない」とよく文句を言っているが。

 

「うーん。じゃあどうしようかな?」

 

仔犬は少し考える。

もちろん風羽のお小遣いを使う気なんてさらさら無い。

仔犬は母親が送ってくれたお小遣いと貯金を頭の中で計算する。

 

「じゃあ、遊園地行こうか。」

「遊園地です?」

「うん、ちょっと行ったとこにある小さな遊園地。どうかな?」

「……。」

 

風羽はなぜか何も答えない。

やっぱり子供扱いし過ぎたかと仔犬が反省する。

 

「あの……。」

「うん?何?」

 

小さく呟くように言う風羽。

 

「ワンちゃんわたしのために遊園地って言ったんですよね?」

「うっ!?」

「やっぱり……。」

 

どうやらバレていたらしい。

この分では、風羽に払わせる気がないのもバレているだろう。

 

「どうしてですか?わたしがおごっちゃいますって言いましたよね~?」

 

何やら怒っている気がする。

いや、確実に怒っている。

頬を膨らめ、「怒ってますよアピール」をする風羽が想像できる。

そしてそれがめちゃくちゃ可愛いのも想像できる。

 

「い、いや風羽ちゃんこの前テレビやってた遊園地特集すごく楽しそうに観てたよね?だからいいかなと思って。」

「ワンちゃんへのお礼なんですよ~!」

「だからだよ。」

 

ここで言葉を切る。

 

「風羽ちゃんが楽しそうにしているのが僕が一番嬉しいことだから。だから遊園地一緒に行きたいんだ。」

「ワンちゃん……。」

 

怒りから一転、感極まった声を出す風羽に途端に恥ずかしくなる仔犬。

 

「そ、そういうわけで、一緒に遊園地行ってくれるかな?」

「……もう、それはわたしのセリフですよ~。ワンちゃんわたしと遊園地行ってくれますか?」

「あはは、よろこんで。」

「えへへ♪」

 

電話だから顔は見えないが、絶対風羽が笑顔なのがわかる。

それだけで仔犬はもうお腹いっぱいだ。

 

「っと、風羽ちゃん。そろそろ寝た方がいいよ。」

 

時刻はもうすぐ日が変わる頃だ。

妹分に夜更かしをさせるわけにはいかない。

 

「そうですね。電話する前はあんなに緊張していたのに、ワンちゃんと話してたら眠くなってきちゃいました~。」

「じゃあ、お休み。」

 

そう言って電話を切ろうとする。

 

「あっ、待ってくださいワンちゃん!」

 

風羽の慌てたような声が飛び込んできた。

 

「うん?」

「ワンちゃんわたしがお礼するって言ったのにさせてくれませんでしたよね?」

「へ?あ、うん。」

「だから~。」

 

なぜか仔犬の頬に汗が伝う。

 

「デートの日、罰をしますね♪」

「……へ?」

 

何を言っているかわからなかった。

でも少なくともこれはわかる。

今の風羽はさっき以上の笑顔のはずだ。

 

「じゃあ、おやすみなさい~。」

 

そしてプツッと電話が切れる。

何か最後不穏な言葉が聞こえたような。

ていうか、お出かけじゃなくて、デートって聞こえたような。

 

色々な意味で今日も眠れなそうだなと仔犬は思った。



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希さんと内緒の電話

お兄ちゃんどいて!そいつ殺せない!
はいどーも、露草です(*^^*)

みなさんはヤンデレは好きですか?
ぼくは結構好きだったりします。
むしろぼくがヤンデレても面白そうな気がしますが 笑
まあ、ぼくはツンデレですがね~(^^)

では、どうぞ!(≧▽≦)


着メロが鳴った。

時計を見ると時刻は2時。

林間学校で疲れてめちゃくちゃ眠かったが、何とか起きていた仔犬は電話に出る。

相手はもちろんわかってる。

 

「はい、雛森です。」

「こ、こんばんは、波真野です。ごめんね、寝てたよね。」

「こんばんは、希さん。本読んでましたから寝てませんよー。」

 

やっぱり相手は希だった。

3日前が風鈴、おとといが御籤、昨日が風羽だったから何となく電話が掛かってくる気がしたのだ。

頑張って起きててよかった。

 

「希さんどうしたんですか?」

「あ、あのね、ちょっと雛森君とお話ししたくて……。」

「それなら希さんの部屋に行きましょうか?」

 

希の部屋は仔犬の2部屋隣。

歩いて5秒もかからない。

 

「だめ!!」

「うわっ!」

 

急に希が大きな声を出したのでびっくりしてしまう。

 

「私子供っぽいパジャマだから恥ずかしいもん!」

「えっと、僕は気にしませんよー。」

「私が気にするのっ!」

 

なぜか怒られてしまった。

仔犬としては、洗濯の時にみんなのパジャマどころか下着も見慣れているので今更何とも思わないのだが。

これを言ったらさらに怒られそうなので口を紡ぐ。

と、ためらいつつ希が口を開く。

 

「あの、その……林間学校楽しかったね!」

「はい、そうですねー。」

 

会話終了。

電話の向こうで希の「あうあう」って声が聞こえる。

希がなぜ電話してきたのかよくわからないが、何となくいじめたくなってわざと会話を続けさせない。

先輩なのに希はなぜかいじめたくなる。

 

「あ、あのね、雛森くん。」

「はい、何ですか?」

「わたしは決めました!」

「はい……へ?」

「私はこれから雛森くんに頼り過ぎないようにします!」

「……はぁ。」

 

思わず間抜けな声が出てしまう。

希が突然の宣言した理由も希の言っている意味もよくわからない。

 

「林間学校の間ずっと雛森くんに助けてもらっちゃったし、それ以外でもいつも助けられちゃってるもん!だからこれからはなるべく頼らないようにします!」

「僕は気にしませんって。」

「私が気にするの!」

 

また怒られた。

 

「それにこの前思ったの。雛森くんに依存し過ぎじゃないかって。もし雛森くんにいなくなっちゃったら私また引きこもっちゃうかもしれないし……。」

「ああ、なるほど……。」

 

仔犬が外へ連れ出してくれたおかげで希は外の世界に出ることができた。

でも、そのせいで彼女は仔犬に頼りすぎるようになってしまった。

 

「で、でも私を外に連れ出してくれた雛森くんには感謝しているんだよ。一生かけても返せないくらいの大きな大きな贈り物をくれたの。」

「あはは、ありがとうございます。」

 

希が前向きになってくれたのはとても嬉しい。

でも、どこか寂しいと思ってしまい、我ながら少し苦笑してしまう。

まるで手のかかる娘が嫁いでしまうような気持ちだ。

 

「とってもいいことだと思いますよ。」

「うん!あっ、それでね!」

 

電話の向こうでがさごそという音が聞こえる。

 

「色々ルール決めて書いてみたの。聞いてくれる?」

「もちろん。」

「えっとね……1つ!メールは1日20回まで!」

「はい……はい?え、えっとすいません希さんもう一回いいですか?」

 

聞き間違いかと思い、もう一度頼む。

 

「1つ!メールは1日20回まで!」

「ああ、聞き間違いじゃなかったんですねー。」

 

確かに今の時点で希からのメールは50通近くなので、半分以下に減らしたと言える。

仔犬的には、一緒の寮なのに何でそんなに頻繁にメールする必要があるのかなと疑問に思っていたが。

 

「2つ!なるべく雛森くんと一緒にいない!」

「”なるべく”なんですねー。」

「うん。学校の中では我慢する!」

 

林間学校の間は朝昼夜ずっと一緒にいて、ずっと仔犬の服の袖をつかんでいたのだ。

紗南たちや生徒会姉妹とはかなり仲良くなったものの、仔犬と一緒にいる時間の方が圧倒的に長かった。

ちなみに類斗と一樹に至っては、怖がられて一言すら口をきいてもらえなかった。

 

「3つ!雛森くんが他の女の子と一緒にいてもイライラしたり、雛森くんにお仕置きしようとしたりしない!」

「えっと……思ってるんですか?」

「うん。なぜかはわからないんだけど、最近雛森くんが女の子と思ってるとすごくイライラしちゃうの。」

「しちゃうんですかー。」

 

希にもなぜか分からないなら、仔犬にもわかるわけがない。

というか、これは友達の関係なんだろうか。

何か友達というものをはるかに超えているような。

なぜか怖くなって考えるのをやめた。

 

「えっと……、ゆっくりやっていきましょうか。」

「うん!わたし頑張るね!」

 

元気よく希は言った。

とりあえず、女の子には少し気を付けようと仔犬は思った。




次回は、メイン4人の一切出ない幼なじみたちの話をやろうかと思ってます。
シリーズにするかいつも通り1話完結にするかはまだ書いてないのでわかりませんが 笑
あ、ネタバレするといつも通り類斗くんは被害にあいます(^^)/

それでは(*^^*)


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お宅訪問①~紗南編~

あいうぃるばっく!
おはようございます、露草です(*^^*)
初めての朝投稿です!

今日はバイトなので更新しないつもりだったのですが、なんか書けちゃいました 笑
まあ、一時間程度で書いたやつなのでクオリティには期待しないでください。
類斗くんをいじめたいだけの100%趣味の回ですから 笑

思いのほか長くなってしまったので3話に分けます。
ちょうど7月のネタもそんなに思いついてなかったのでこれで8月の方に回せます~。
ちなみにこの話から夏休みなので、やっとリアルを追い抜いた形でしょうか 笑
どっかの借金執事の物語みたいにサザエさん状態になるのは避けたいので 笑
あ、一応言っておきますけど、ぼくこのマンガ全巻持ってるくらい大好きですからね~。
サンデーさん勘違いしないでくださいね(^^;)

長くなりました 笑
ではどうぞ!(≧▽≦)



夏休み初日。

日差しの強い中、仔犬と幼なじみ4人は駅にいた。

 

「ごめんねーパパの仕事の都合で初日になっちゃって。」

 

莉乃が申し訳なさそうな顔でそう言う。

 

「別にかまねーよ。俺は暇だし。」

「私も構いませんよ。特に帰る日も指定されてませんし、うちは父も母もいつでも家にいますから。」

「僕も大丈夫だよ。だから気にしないで莉乃さん。」

「うぅー!ありがとう、ヒナくん、紗南!」

「俺は!?」

「る……類斗くんも……あり……がと」

「そんなに俺にお礼言いたくないの!?」

 

相変わらず類斗を雑に扱いながら歩く。

今回なぜこの4人が一緒にいるかというと単純に類斗と紗南と莉乃の帰省だ。

この3人は家が近く、日にちを合わせて一緒に帰ることにしたのだ。

仔犬はせっかくだからと一緒に付いてきた。

家は紗南が泊めてくれるらしい。

 

「つーか、ヒナ。何で琴音(ことね)唄音(うたね)連れてこなかったんだよ?」

 

琴音と唄音は仔犬の双子の妹だ。

小学校6年生のやんちゃ盛りの少女たち。

最近は仔犬があまり帰らないので、2日に1遍は電話してくる。

 

「うちは遠いし、今日は暑いからねー。それに寮から迎えに行ってまた来るのも大変だし。」

 

同じ小学校の4人であるが、仔犬の家は学区ぎりぎりの少し遠いところにある。

少しずれていたら、類斗たちと出会うことは無かったかもしれないと思うと人生は不思議である。

 

「今度是非会いたいですね。その、あ、挨拶もしたいですし……。」

「確か2人が好きなのは、苺とサクランボで。好きなテレビは……。」

 

何やらぶつぶつと呟いている紗南と莉乃。

 

「2人もどうしたんだろう?」

「まあそりゃ、将来の小姑とは仲良くしておきたいよなぁ。」

「小姑?」

「あーわからねぇならいいや。ていうか、お前はそのまま純粋でいてくれ。」

 

首を傾げる仔犬にやれやれいった顔で苦笑する類斗。

 

「つーか、着いたぞ。ほら紗南。」

 

いつの間にか、「四倉」と表札が書かれた家の前に着いていた。

 

「へ?……あっ、はい!えっとここが私の家です。」

「うわぁ、大きいねー。」

 

初めて紗南の家に来た仔犬は素直に驚く。

木でできた門扉をくぐると、古めかしいながらも歴史的な大きな日本家屋があった。

庭には小さな池があり、その向こうには話に聞いていた道場だろうか、大きな建物がある。

さすがに風鈴と風羽の琴町家、御籤の西宮家ほどではないがそれでも十分広い。

紗南が玄関の引き戸を開け、3人を招き入れる。

 

「どうぞ。父と母も待ってますから。」

「おじゃましまーす。」

「「お、おじゃまします……。」」

 

幼なじみの類斗は勝手知ったる感じで、初めての仔犬と莉乃は少し緊張しながら入る。

と、奥から着物の男性が来た。

 

「お父様、ただいま帰りました。」

「うん、お帰り紗南。」

「友達を連れてきました。クラスメートの雛森仔犬くんと紫藤莉乃さんです。」

「ひ、雛森です。」

「紫藤です。」

 

紗南の紹介に続いて自己紹介をする。

本当ならもう少しちゃんと挨拶したいが、緊張で頭が回らない。

 

「うむ、よく来たね。紗南の父の虎徹(こてつ)だ。」

 

武道で引き締まった体に似合わず、柔和な笑顔を浮かべる虎徹。

とりあえず怖い人じゃなかったとわかり、仔犬と莉乃は安心する。

 

「ヒナくんと莉乃さんのことは紗南からよく聞いているよ。」

「お、お父様!」

「これからも紗南と仲良くしてほしい。」

「も、もちろんです。紗南さんは僕たちにとても優しくてすごくかわいい子です。こちらこそお願いします。」

「紗南はあたしにとって親友です!いつまでも仲良しですよ!」

「も、もうヒナさんも莉乃もやめてください!」

 

真っ赤になって照れる紗南。

と、ここでほぼ空気になっていた類斗が前に出る。

 

「あのー、おじさん。俺には一切触れてくれないんスか?」

 

と、類斗の存在に気付いた途端虎徹の目が鋭くなる。

 

「てめぇ、誰の許しがあって入ってきやがった……。」

「いや、普通に紗南の……ぐほっ!?」

「気安く紗南って呼ぶな!?俺はお前のことを認めんからな!」

「またかよおっさん!?だから俺と紗南は何でもないって……おぐっ!?」

「また呼んだな!来い類斗!もう二度と紗南の名前が呼べないほど投げ飛ばしてやる!」

「殺す気かおっさん!」

 

襟首をつかまれ外に出されそうになるのを、必死で引き戸に捕まる類斗。

 

「えっと……どういうこと?」

 

仔犬には全く状況がわからない。

 

「はぁ……。父は私が類斗に片思いしてのだと思っているんですよ……。」

「えっ!?好きなの!?」

「好きじゃないです!」

 

勘違いする仔犬に怒る。

 

「父はこの前、初めてライトノベルというものを読んで、すべての幼なじみの女の子は幼なじみの男の子に片思いをしていると勘違いしたみたいです。」

「あーなるほど。」

 

仔犬もラノベが好きなのでよく読んでいる。

だからわかるが、ラノベに関わらず、マンガでも幼なじみが主人公に好意を持ってる率はかなり高い。

なので、紗南が類斗に片思いしてると勘違いしてしまうのも無理はないのかもしれない。

 

「それは大変だねー。」

「……いえ、むしろ好都合です。これならいくらヒナさんを家に連れ込んでも……」

「えっと、ごめん紗南さん。もう少し大きな声で話してくれないかな?」

 

「好都合です」の後から急に言葉が小さくなり聞き取れなかった。

何やらだんだん顔が赤くなっているが。

 

「……玄関で何を騒いでるんですか?」

 

と、奥から今度は女性が出てきた。

20歳ぐらいの若い美人だ。

 

「お帰りなさい、紗南さん。」

「ただいま帰りました、お母様。」

「「お母様!?」」

 

あまりに若々しいためてっきり姉だと思っていた仔犬と莉乃は、めちゃくちゃ驚いた。

 

「あらお友達?」

「はい。先ほどお父様にも挨拶を終えました。」

「そう。あなた、うるさいから静かにして頂戴。」

「……むう。類斗これで許すと思うなよ。」

 

いつの間にか類斗は外に引きずりだされていた。

手にはばらばらになった引き戸の残骸が握られていた。

 

「いや、助けろよ!何普通に談笑してんだよ!」

「ごめん類斗くん。素で忘れてたよ。」

「忘れるなよ!後いい加減誤解解けよ、紗南!」

「類斗がボコボコにされて解決するならこれが最善の手ですよ。」

「俺が最悪の手なんですけど!?ていうか、ガチで手がちぎれそうになったわ!?」

「お母様、荷物置きましたら莉乃の家に挨拶に行ってきます。」

「あらそう。じゃあ、ご飯の支度と泊まる部屋の準備をしておきますね。」

「お願いします。」

「近いとはいえ、暑いから気をつけてな。」

「ありがとうございます、お父様。」

「もう、お前ら一家大っ嫌いだわ!!」

 

家族ぐるみでの類斗いじり。

これももちろん日常だ。




というわけでこんな感じで類斗くんいじめします 笑
もしも類斗ファンの方がいましたら不快になるかもしれませんが、彼はこういう時が一番輝いているのでご了承ください。
お詫びに、類斗×仔犬のBでLな感じのも書きますから!
あ、ちなみにこの2人のカップリングでいい名前が思いついた方がいましたら教えてください。

また、今日はもう一話夜に投稿します。
20時に投稿予定なので、よかったら読んでみてください。

そんな感じで締めます 笑
では次回もよしなに(*^^*)


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お宅訪問②~類斗編~

最後のガラスをぶち破れ!
こんばんは、露草です。(*^^*)

もしかしたら読んでいただけた方もいるかもしれませんが、今日はこの話の前に朝投稿してたりします。
なので、未読の方は一個前の①から読んでいただいた方が楽しめるかもです。
もう、朝言いたいこと言ったのでいうことはありません!

ではどうぞ!(≧▽≦)


「じゃあ、次は類斗くん家かな?」

 

紗南の家を出た4人は、暑い中次の目的地を決めていた。

 

「まあお隣ですし。って、到着しましたよ。」

 

紗南が立ち止ったのは、普通に一般的な民家だった。

これが類斗の家だ。

紗南の隣にあるから小さく見えるだけで普通にちゃんとした家だ。

 

「い、いや俺の家は最後にしよう。なんなら行かなくてもいい。」

「ど、どうしたの類斗?」

 

顔に脂汗をびっしりとさせてる類斗は確実に暑さ以外の理由で汗をかいている。

心なしか震えているような気もする。

 

「だってアイツがいるじゃん!俺アイツにだけは会いたくない!」

「うるさいーーー!ちょっと人の家の前で何騒いでるんですかーーー!」

 

と、ドアが勢いよく開き、小柄な少女が出てきた。

アイスを口にくわえ、タンクトップをだらしなくまくってお腹をかじっている。

彼女の名前は、花沢斗愛(とあ)

類斗の妹で小学6年生。

聞いた話では、琴音と唄音とも同じクラスで友達らしい。

 

「まったくただでさえ暑いのにイライラさせないで……って、え?」

 

仔犬の目が合った途端、少女は目を大きく見開いた。

 

「こ、仔犬お兄ちゃん……?」

「うん、久し振り斗愛ちゃん。」

「お、お兄ちゃん!」

「うわっ!?」

 

仔犬がニコッと微笑んだ瞬間、斗愛が飛び込んできた。

 

「久し振り!手紙も何も寄越さないから心配したんだよ!」

「あはは、ごめん。向こうに行ってから結構忙しくて。」

「もうっ!あた――――じゃなくて斗愛すっごく寂しかったんだよ、仔犬お兄ちゃん……。」

「ごめんね、斗愛ちゃん。」

 

そして、いつものように髪を撫でる。

小学校の頃初めて会ってから彼女はこれをするとすぐにご機嫌になるのだ。

 

「んっ、やっぱり仔犬お兄ちゃんのなでなで最高ぉ~!お兄ちゃん大好き♪」

「僕も大好きだよ。」

「えへへ~♪」

「相変わらずだな、お前らは……。」

 

イチャイチャとする仔犬と斗愛に呆れる類斗。

心なしか隣の少女たちの目からハイライトがなくなってきた気がするので早急に何とかして欲しいのだが。

 

「おい、斗愛。」

「あ?あ、いたの、駄に貴。」

「駄に貴!?」

「駄目でゴミでカスな兄貴の略よ。アンタなんて駄に貴で充分でしょ。」

「想像以上にひどい略だった!?」

「あ、相変わらずだね……。」

「この本性を知ればヒナさんも引くと思うのですが……。」

「はっ、あたしがそんなミスするわけないでしょ。この気持ちは嘘じゃないの。あたしは誰よりもお兄ちゃんが大好きなんだから。」

 

驚くべきなのはこの会話が一切仔犬に聞こえないように最小限の声で行われていることだ。

なので、仔犬は離れたところで「相変わらず仲良いなぁ」って思っている。

誰かが仔犬に密告すればいいのかもしれないが、紗南と莉乃は同じ気持ちを持つ者同士ということで見逃し、類斗に至ってはバラしたら明日の命が無い。

 

「なあ、頼むからその駄に貴というのやめてくれ……。」

「じゃあ、臭豆腐ゴミ太郎ね。」

「……すいません、駄に貴でいいです。」

「最初からそう言えばいいのよ、せっかくツンデレで対応してあげてるんだから。ね、ツン担当。」

「何でツンデレをツン担当とデレ担当に分けてるんだよ!聞いたことねぇよ、そんなの!」

 

ちなみに、言わずもがなデレ担当は仔犬だ。

 

「ねぇ、暑いしそろそろ移動しない?」

「じゃあ、仔犬お兄ちゃん斗愛の部屋に行こーよ!斗愛がジュース飲ませてあげるよ……口移しで。」

「?ごめん斗愛ちゃん最後聞こえなかった。」

「や~ん、斗愛は仔犬お兄ちゃんが大好きってことだよ♪」

「い、いや待て斗愛。狭い家に上げるのも何だし、俺たちは莉乃の家に行ってくるよ。」

 

さすがにこのまま仔犬を家に行かせると妹が暴走しかねないため慌てて止める。

 

「え~!なんでお兄ちゃん!」

 

仔犬が近くにいるため、演技を貫く斗愛。

だが、仔犬に見えないよう類斗の方を向いた斗愛の顔は鬼のように類斗を睨み付けていた。

舌っ足らずな声に鬼の形相でめちゃくちゃ怖い。

 

「僕は気にしないよ、類斗。」

「俺たち男は気にしなくても女子は気にするって!な、2人とも。」

 

仔犬が紗南と莉乃の方を向くと、首がちぎれるのではないかというくらい首を振っていた。

この2人もさすがにまずいと結託していた。

 

「そう?じゃあ、ごめんね斗愛ちゃん。僕たちそろそろ行くよ。」

「……ちっ、余計なことしやがって。あっ、じゃあ、お兄ちゃんの番号教えて!ケータイ買ってもらったんだ!」

「もちろん、いいよ。はい。」

「……うんOKだよ!いつでも連絡していい?」

「大丈夫だよ。忙しかったら遅くなるかもしれないけどなるべく電話もメールも返すよ。」

「やった~!仔犬お兄ちゃん大好き♪」

「……女って怖えぇ。」

 

好きな男を何としても手に入れようと黒く笑う少女と何も気づかない少年。

それを見て類斗は今年はどんな怪談を聞いても怖くないなと思った。




そ、想像以上に斗愛様が怖かった……(^^;)
斗愛様はそのうちヤンデレにもなれそうですよね~。
うん、女の子超怖い。

次回は最後の1人の家です。
最もまだノープランなので、今日のバイト中に考えますが 笑

では次回もよしなに(*^^*)


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お宅訪問③~莉乃編~

コンバトラー!
露草です(*^^*)

また日が空いてしまいましたね~(^^;)
反省します。安政します。大獄です。

説明しよう!
安政の大獄とは、井伊ちゃんが「井伊ちゃん、おこだぞ!激おこだぞ~!」って行った弾圧ってなにこれ井伊ちゃん超可愛い。

はいというわけで「紅茶」スタートです♪(≧▽≦)



斗愛と別れ、歩き出した4人は莉乃の紫藤家を目指していた。

 

「しっかし、莉乃の家がこんな近いとはなぁ。」

 

類斗が呟いた。

莉乃の家は類斗や紗南の家から10分ほどの位置にあったのだ。

 

「こっちにいた時会ったりしなかったの?」

「う~ん、あたしは記憶にないなぁ~。もしかしたらどっかですれ違ったりはしてるかもしれないけど。」

「私たちもないですね。初等部の1年生の時同じクラスになったのが初めてですね。」

 

そんな雑談をしながら歩くと住宅街に出た。

 

「あっ、ここがあたしの家だよ。」

「ウチよりでけぇな……。」

「あはは、正確にはお姉ちゃんの家だけどね。」

「お姉ちゃん?紗南さんのお父さんとお母さんは?」

「あはは、自由な人たちでね。あたしが中学生になったと同時にハワイに引っ越しちゃったんだよね~。何か夢だった見たい。」

「そりゃ自由っていうより……。」

「はちゃめちゃな親御さんですね……。」

「あはは……。」

 

類斗と紗南は呆れ、聞いた本人の仔犬は反応に困ったように笑うしかなかった。

 

「どうぞー。」

「「「お邪魔します。」」」

 

家に入り、リビングに通される。

 

「お姉ちゃんただいまー。」

「おじゃましまうおぉぉぉぉ!!!?」

「ど、どうしたんですか類斗……ってきゃあ!?」

 

仔犬たちがリビングに入るとソファの上に黒髪の長い女性が寝ていた。

その姿はどうみても貞子だった。

 

「り、莉乃さん!大丈夫なんですかこの人!?」

「あー、大丈夫。それお姉ちゃんだから。」

 

仔犬も焦って莉乃に聞くと、莉乃はあっけらかんとそう言った。

と、テーブルやその周りにクシャクシャに丸められた紙が散らばっていた。

大量のペンや鉛筆も転がっている。

チラッと見た仔犬はその一連のセットに見覚えのあること気付いた。

 

「こ、これって……。」

「あー、やめとけ紗南。お前には刺激が強すぎる。」

 

紙に描かれていたのは仔犬の思った通りマンガの原稿だった。

内容は、かわいい男の子と眼鏡のドS系っぽい男の子がキスしたり、抱き合ったり、それ以上のことをしたり。

つまりBLだった。

 

「あはは……、お姉ちゃん漫画家なんだよ。紫菜(しな)ってペンネームの。」

 

まさか自分の周りに2人も漫画家がいるとは思わなかった。

もしかしたら、希か叶が知ってるかもなと少しだけ思った。

 

「こ、こんな破廉恥なものを……。ふあぁ、こんなことまで……。」

 

頭から湯気を出しながら赤面している紗南。

 

「あはは、ごめんね紗南。それにしてもヒナくんと類斗くんは平気なんだね。」

「僕はラノベ好きだし。」

「俺は……その、最近は嫌いじゃなくてな。」

 

なぜかチラチラと仔犬を見てくる類斗。

と、ソファで寝ていた女性がもぞもぞと動き出した。

 

「あ、お姉ちゃん起きた?」

「ん、莉乃ちゃん?帰ってたの?」

「そ~だよ。あ、なんか飲む?」

「ん、コーヒー。」

「は~い。あ、ヒナくんたちのも淹れてくるから適当に座ってて。」

 

そう言って台所に行く莉乃。

適当に座っててと言ったが、唯一あるソファが占領されているので床に座るしかない。

と、彼女が仔犬たちを見てきた。

 

「……誰?」

 

不審そうというよりは、普通に誰だろうというように聞いてくる。

 

「あ、莉乃さんのクラスメートの雛森です。お邪魔してます。」

「同じく花沢っす。」

「……」

「おーい紗南。」

「はっ!?あ、し、四倉です。」

「……紫藤莉菜(しどう りな)。よろしく。」

 

あまり興味がないのかチラッと見ただけでまた伏せてしまった。

と、莉乃が戻ってきた。

 

「はーい、持ってきたよ~。お姉ちゃんはコーヒー、みんなには紅茶だよ。お菓子も持ってきたから。」

「あ、ありがとう莉乃さん。」

「うおっ、うまそう!」

 

莉乃が持ってきたのは紅茶と色とりどりのマカロンだった。

仔犬たちの作るお菓子とは違うプロのきれいなお菓子だ。

そこでしばし談笑する。

 

「ヒナそれうまそうだな。」

「リンゴかな。食べる?」

「お、サンキュー。」

 

半分ほど残ったそれをいつも通り類斗にあーんして食べさせる。

 

「これもうまいな。ヒナ、これラズベリーだけど食うか?」

「うん、ありがとう。」

 

さっきとは逆に類斗が仔犬にあーんする。

ラズベリーの味が口中に広がった。

 

「うん、おいしい。」

「だろ?」

「Foooooooooooooooo!!!!」

「「「うわっ(うおっ、きゃ)!!」」」

「ど、どうしたのお姉ちゃん!?」

 

いきなり莉菜が叫んだため、4人とも驚いてしまう。

だが、聞いてないのか目をぎらぎらと輝かせた莉菜がぎろりと仔犬と類斗を見た。

 

「……アンタたちそういう関係?」

「へ?そういう関係って?」

「だから、男同士で愛し合うあたしのマンガみたいな関係よ。」

「ち、違います!!類斗はただの友達です!」

「そうです!ヒナさんはノーマルです!」

「変な勘違いしないでよ、お姉ちゃん!!」

 

いきなり莉菜に言われ、慌てて弁解する仔犬。

なぜか紗南と莉乃も仔犬以上に必死に弁解していた。

 

「……そこまで言わなくてもいいじゃねぇかよ。」

 

1人ふて腐れた類斗の言葉は莉菜以外誰も聞いてなかった。

 

「なるほどね。アンタたちの関係が分かったわ。その上でお願いがあるの。」

「お願い……ですか?」

 

聞いてはいけないような気がしたが、4ヶ月近くもの間、女の子の世話をしていた仔犬に聞かないという選択肢は選べなかった。

 

「アンタたち、あたしのマンガのネタ出しに協力しなさい。」

「「……はい?」」

 

仔犬も類斗も意味が分からず間抜けな声をだしてしまう。

 

「だからアンタたちが絡んであたしにその様子を見せてくれればいいのよ。」

「えっと、何のために……?」

「最近スランプなのよ。だから刺激があれば話が思いつくと思うわ。」

「あー。えっと……。」

 

莉菜には悪いが、仔犬は断るつもりでいた。

類斗とは普通以上に仲がいいのは自覚しているが、さすがにそこまでの趣味はない。

それに親友なら、あーんしたり、一緒に風呂に入ったり、同じベッドで寝るのも普通らしい。

それが男の友情だと類斗が教えてくれたのだ。

そう思い断ろうとしたら莉菜がさらに言葉を続けた。

 

「あ、もちろんただとは言わないわ。あたしにできることならなんでもするわよ。」

 

そう言われた途端、仔犬は思い出した。

思い出したのは、前に漫画家の友達がいないと言っていたこと。

性格にはちょっと困ったところがあるが、莉乃の姉なら信用ができる。

もしかしたら希の初めての漫画家友達に慣れるかもしれない。

 

「ちなみに莉菜さんっていくつですか?」

「ん?ああ、16だけど?ってまさかあたしが欲しいとか。」

 

莉菜が何か言っていたが、後半はまったく聞いてなかった。

16歳なら希ともそんなに歳が離れてないし、会話も合うかもしれない。

仔犬がそう考えていると、今までしゃべってなかった紗南と莉乃が立ち上がった。

 

「ちょっと待って、お姉ちゃん!?」

「何よ、莉乃ちゃん。」

「類斗じゃなくてもいいんじゃないですか!?た、たとえば私……とか。」

「紗南抜け駆け禁止!あたしがやるよお姉ちゃん!」

「いや、あたしのマンガBLだから。あーでもアンタたちが男装するならいいわよ。」

「「する(します)!!」」

 

会話は聞こえないもののなぜか仔犬は寒気を感じた。

ヤバいと思い、慌てて類斗の手をつかむ。

 

「り、莉菜さん!僕やります!相手は類斗でお願いします!」

「お、おいヒナ!」

「ん、りょーかい。じゃあ、台本と衣装ね。」

 

仔犬が了承した途端、なぜか向こうから2人分の怖いオーラが漂ってきて背中がブルっと震える。

絶対にそっちは見てはいけないと思い、振り向かない。

と、類斗が仔犬の服の袖を小さく引っ張った。

 

「……なあ、なんで俺なんだよ。紗南や莉乃でもいいだろ。」

「ん?あー。」

 

仔犬も理由はわからない。

ただ、なぜか類斗以外を選んだらいけないような気がしてしまったから。

だが、そんなこと類斗に言ってもしょうがないのでちょっとぼかす。

 

「えっと……類斗以外には考えられなかったからかな?」

「……ぐはっ。」

「へ?ちょ、類斗大丈夫!?めちゃくちゃ鼻血出してるけど!?失血死しかけてるから!?」

「……お前がそう言うなら俺も覚悟を決めるぜ。今日から俺もアイツらのライバルだ……。」

「類斗しゃべっちゃダメだって!?めちゃくちゃ口に入ってるけど!?溺死しかけてるから!?」

 

この後、仔犬と輸血した類斗はBでLな絡みをやった。

その時、類斗がやたらと仔犬にべたべた触れようとしていたのはまた別の話。




おまけ

「あ、あの莉菜さん……。」
「ん?何、紗南ちゃん?」
「さっきのマンガってどこで売ってますか……?」
「……もしかして興味持った?」
「……少し///」
「全部で20冊くらいあるけどどうする?」
「……全部お願いします。」


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ご飯屋さん

コンバトラー!(≧▽≦)
くーさんこと露草ですってそれは違うよ!

久々です。
テスト勉強中に合間合間で書いていたので思いの外時間が掛かっちゃいました(^^;)

久々ついでにお知らせがあります。
そんな大したことではないですが、あとがきまで見ていただけたら~と思います。

では、どうぞ!(*^^*)


夏休みが始まって3日ほど経ったある日の夕方。

仔犬たちは学校から10分ほどのところにある商店街に来ていた。

 

「あっちぃな……。」

「夕方は気温が低くなる分、西日が差すからね。」

 

前を歩く風鈴と御籤。

風鈴は暑さにだらだらと歩いている。

それを見て御籤は苦笑する。

彼女は暑さに強いのか汗1つ掻いていない。

 

「もうすぐでお店につきますよ~。」

「雛森くんわたしもうダメかも……。」

「頑張ってください希さん。もうすぐ着くみたいですから頑張りましょうー。」

 

風羽は子供らしく元気に歩いている。

希は引きこもり生活が続いていたせいかかなりしんどそうで、仔犬にもたれかかってしまっている。

希の体力の無さはかなりのもので、聞いた話では体育でやった50メートル走すら走り切れなかったらしい。

なのに、マンガなら3日は徹夜しても平気らしい。

 

「というか、寮長。こんなところにお店なんてあるんですか?」

 

ことの始まりは1時間ほど前のことだった。

いつも通り夕飯の買い物に出かけようとすると、風鈴に止められた。

どうやら彼女のおすすめの店を夕飯にしようとするらしい。

もちろん仔犬には拒否権はないし、仔犬自身風鈴に逆らう気もない。

 

「なんだよ、先輩を信用してないのかよ。」

「信頼はしてますけど、信用は微妙です。」

「同じじゃないかよ。」

「違いますって。」

 

そんな話をしていると、前風鈴と御籤が足を止めた。

 

「ここだよ。」

「ここ……ですか。」

 

そこは商店街の一角にある小さな中華料理屋さんだった。

汚い訳ではないが、明らかにあまり繁盛していないとわかるさびれた店というのが仔犬の第一印象だった。

 

「ワンコ、何してんだ?さっさと入れよ。」

「あ、はい。」

 

いつの間にか全員中に入っていたので慌てて仔犬も追いかける。

中も掃除はされているもののなぜか雑多な印象を受ける。

 

「へい、らっしゃい……って久しぶりだな琴町の嬢ちゃんたち。」

「おう、オヤジー!座敷いいよな?」

 

おじさんが答えるよりも早く、風鈴は自分の家のように上がり込む。

畳もテーブルもきれいに掃除してあるようだが、なぜかこけしやら日本人形みたいなのが置いてある。

風鈴はテーブルの上を肘で払って、余計なものをざっくりと雑に片付けていた。

適当に転がされているのに店主さんも特に怒ってるような様子はみられない。

なんか子供の頃からのなじみの店という感じだ。

 

「お、見慣れない顔があるな。新しく寮に入ったやつか?」

「あ、はい。中等部1年生の雛森仔犬です。」

「美人に囲まれていてうらやましいな、犬吉(いぬきち)。どれがお前のコレだよ?」

 

と、おじさんが小指を立てるハンドサインをしてきた。

仔犬は恥ずかしくてうつむいてしまう。

思わず変なあだ名を付けられたのに気付かないくらいだ。

風羽は意味が分からなかったのか、不思議そうにきょとんとしている。

御籤と希は意味が分かってしまったのか、真っ赤になって目を反らしている。

風鈴はニヤニヤと笑って仔犬を見ている。

 

「さ、さて帰りも遅くなってしまうし、早く注文しよう!」

「そ、そうですね!」

 

空気が気まずくなり、慌てて御籤と仔犬が話を変える。

風鈴は、「なんだよ、つまんねー」と言っていたが、完全スルーだ。

 

「おすすめの料理はこれとかこれだな。これもうまいぞ。」

「あー、じゃあ適当に頼んでみんなで分けましょうか。」

 

風鈴のおすすめを何個か注文すると、おじさんは「あいよー」と言って厨房の方へ行った。

さっきから、女の子と話すたびにニヤニヤと仔犬を見ていたので正直すごく邪魔だった。

 

「それにしても、よくこんなお店ご存知でしたねー。」

「ここのオヤジはウチの父親の同級生なんだよ。」

「ワンコくんが入寮する前はよく来ていたんだよ。毎日風羽くんに任せるのも大変だしね。」

「あ、でも私も初めてだから一緒だね、雛森くん♪」

 

適当に選んだのかと思いきや、意外とみんな何度も来ている店だったらしい。

初めてなのは、入寮したばかりの仔犬と元引きこもりの希だけのようだ。

 

「はいよ!チンジャオロースお待ち!」

「おっ、来た来た。」

 

おじさんが湯気の立つ大皿とテーブルの上に置く。

風羽が一緒に置かれた小皿にみんなの分を取り分けた。

 

「はいどうぞ、ワンちゃん。」

「あっ、ありがとう。」

 

小皿いっぱい乗せられたチンジャオロースを受け取る。

5人で分けたのにまだ半分以上残っている。

 

「「「「「いただきます。」」」」」

 

挨拶し、食べ始める。

仔犬も一口食べる。

 

「お、おいしい……!」

 

食べた瞬間、あまりのおいしさにびっくりした。

食材は特別変わったものはないが、味付けが絶品だった。

仔犬自身、寮のみんながおいしいと言ってくれるので多少料理に自信があったのだが、さすがプロだなと思った。

 

「これすごくおいしいですねー。」

「ん?ああ、うん。」

 

仔犬は風鈴に同意を求めたが、なぜか風鈴は首を傾げていた。

希以外のみんなも首を傾げている。

 

「なぁ、オヤジ。これ味付け変えた?」

「ん?別に変えてねぇよ。」

 

その答えを聞いても首を傾げたままだ。

もう一回口を付けようとするが、仔犬がそれを止める。

 

「ちょっと待ってください。」

 

もしかしたら風鈴の分に分けられたのは変なものが入っていたのかもしれない。

風鈴の皿に手を伸ばし、慎重に一口食べる。

 

「あれ?普通においしいですよ?」

 

仔犬に分けられた分と同じおいしいチンジャオロースの味がする。

同じ大皿なのだから当然だが、特に腐っているような感じもしない。

 

「んーでも何か違うんだよな。前よりもおいしくない。」

 

風鈴は納得しない。

そうなると仔犬にもどうすることもできない。

 

「ああ、わかった。」

 

ポンッと手の平を叩く御籤。

 

「ワンコくんが入寮して以来ワンコくんのおいしい料理を毎日食べていたからね。舌が肥えてしまったんだろう。」

「あー、だからか。」

 

それで納得したのか食事を再開する風鈴。

だが、今度は仔犬が納得しない。

 

「でも、僕の料理はこんなにおいしくないですよ?」

 

プロと素人なんだから当たり前だが、仔犬の料理はおじさんの足元にも及ばない。

と、くすりと御籤が笑った。

 

「ワンコくんの料理はみんなの好みや体調に合わせて作っているだろう?だからワンコくんの料理がみんな好きなんだよ。それを差し引いても君の作る料理は十分以上にお金を取れるものさ。私が保証する。」

「そう……なんですか。」

 

真っ正面から素直にそう言われ、恥ずかしいより嬉しさがこみあげてくる。

そして、もっとおいしいものを御籤たちに作ってあげたいと思った。

 

「おい、何やってんだよ。食わねーとなくなるぞ。」

 

いつの間にかテーブルの上所狭しと料理が並べられていた。

すでにみんな食べている。

最初に来たチンジャオロースにいたってはもうほとんど残ってない。

 

「あっ、食べます!食べますって!」

 

慌てて自分の分をよそう。

ちなみにどの料理も絶品だった。

この日から、仔犬はこのおじさんに料理で勝つことが目標になった。




~おまけ~
「僕を弟子にしてください!」
「……ウチの修業は厳しいぜ。」



読んでいただきありがとうございます(≧▽≦)

前書きにも言いましたが、お知らせです。
明後日木曜日、オリジナルの新作を一本投稿します。
……はい、「何個書くつもりだよ!」、「だったら他のを書き進めんかい!」って自分に散々ツッコミましたよ。
でも仕方ないじゃん、思いついちゃったんだから!(逆ギレ
多分、「紅茶」と同じ時間に投稿するので両方読んでいただけたら~って思います(*^^*)

~新作情報~
天使な天使による恋愛成就大作戦
〇ジャンル:学園ラブコメファンタジー
〇更新頻度:ちょこちょこ
〇タグ(仮):学園 ラブコメ ハーレム ショタ シリアスは嫌い ファンタジー   


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ひざまくら

コンバトラー!
くーさんこと露草です(*^^*)

久々の更新です(≧▽≦)
いやぁ、やっと定期テストが終わり、夏休みが始まりましたよ。
みなさんはどんな夏をお過ごしですか?(^^)

恋人と夏祭りに行ったり、家族とキャンプをしたり、はたまた海で泳いだり。
夢が広がりますね~。

ぼく?ぼくはアレですよ。
セント・マリオネットくん(扇風機・9歳)に仕事を与えないといけませんから外出できないんですよ。
いや~、残念だなぁ~!泣いてないですよーーーー!
リア充爆発しろーーーーーーーーー!!!!!!

はい、「紅茶」はじまります!orz


7月も夏休みも数日が経ったある日の夕方。

この日は夏にしては比較的涼しい日だった。

 

「ただいまー。」

「おかえり、風鈴。」

 

女子寮の方に遊びに行っていた風鈴が寮に帰った。

談話室に入ると御籤で座っていた。

 

「あー腹減った……って何してんだミク。」

「ん?ああ、疲れていたのかいつの間にか寝てしまったんだ。」

 

風鈴が本を読んでいる御籤を見てそう言った。

正確には、御籤の膝の上に乗っているもの。

 

「すぅすぅ……。」

 

御籤に膝枕されていて気持ちよさそうに寝ている仔犬だった。

風鈴は寝ている仔犬に近づき、指で突く。

 

「おい、ワンコ。何寝てるんだよ。」

「こらこら。ワンコ君は疲れてるみたいだから寝かしておいてくれたまえ。」

「えー!腹減ったのに!」

 

不満そうにしながらも声を落として話しているあたり、風鈴も無理やり起こすつもりはないようだ。

 

「……まぬけ面だな。」

「ふふっ、存外可愛らしいと思うけどね。」

 

御籤が仔犬の髪を軽く撫でると気持ちいいのか頬が緩んだ気がした。

中性的な顔と小柄なのも相俟って一見したら可愛い女の子にしか見えない。

 

と、風鈴が仔犬の髪を撫でる御籤の手と仔犬の顔をチラチラ見ているのことに、御籤は気付いた。

風鈴は、何か言いたいが言えないというような顔をしている。

 

「風鈴も膝枕するかい?」

「はぁ!?」

 

御籤が悪戯っぽくそう言うと、風鈴は驚いたような顔して大きな声を出した。

 

「こら、起きてしまうだろう。」

「おまえが変なこというからだろーが!」

 

頬を少し赤くさせ怒る風鈴。

仕方ないなと素直じゃない親友にため息つく。

 

「少し膝がしびれてしまったから交代してくれると助かるのだが。」

 

そう御籤が言うと、怒っていたはずの風鈴が動きを止めた。

そして。

 

「し、仕方ねーな。ほら代われ。」

「ふふっ、よろしく頼むよ。」

 

仔犬を起こさないように慎重に場所を入れ替わる。

 

「うおっ!け、結構重いな。」

 

小柄なはずの仔犬の予想外の重さに驚く風鈴。

そして、おずおずと手を髪に伸ばす。

 

「や、柔らかいな。」

「そうだね。さすがに女の子並みというほどではないけど、男の子の硬い髪ってほどでもないかな。」

 

そして小さく髪をすく。

また軽く身動ぎした仔犬に風鈴はビクッとなる。

 

「お、起こしちゃったか……?」

「大丈夫。気持ちよさそうにぐっすり眠ってるよ。」

「そ、そうか気持ちいいのか……。」

 

気持ちよさそうと言われ、さっきより少し強く撫でる。

風鈴の頬もさっきより赤い。

そのまま10分ほど撫で続けてると玄関から音が聞こえた。

 

「ただいま帰りました~。」

「お、おい風羽!シーだシー!」

 

元気よくただいまをした風羽に慌てて風鈴が注意する。

ご丁寧に口に指をあてるジェスチャー付きだ。

寝ている仔犬に気付いた風羽がゆっくりと駆け寄る。

 

「ワンちゃんどうかしたんですか……?」

「心配ないよ。疲れて寝てるだけ。」

 

病気と勘違いしたのか心配そうに言う風羽に御籤が答える。

それを聞いて風羽も安心した顔をする。

 

「ワンちゃんよく寝てますね~。」

「うむ。だから起こさないであげようと思ってね。すまないが夕飯は少し遅くなるかもしれない。」

「あっ、はい。えっと、それはいいんですけど~。」

 

風羽は羨ましそうに風鈴を見ていた。

その視線に気づいた風鈴は撫でる手を止める。

 

「おい、風羽代われ。私は疲れた。」

「え!?いいんですか姉さま!?」

 

目を輝かして喜ぶ風羽。

それに苦笑しながら風鈴は場所を入れ替わる。

と、立ち上がった時御籤が小さく呟いた。

 

「……よかったのかい?」

「ん?何のことだよ。」

「もう少しやりたかったんじゃいかと思ってね。」

「ばっ!?ち、ちげーよ!疲れたって言ってるだろ!」

「ふふっ、ならそういうことにしておこう。」

「おまえ全然わかってないだろ!」

 

ニヤニヤと笑う御籤に顔を赤くて反論する風鈴。

 

「ワンちゃんどうですか?気持ちいいですか~?」

 

ニコニコと仔犬の髪を撫でる風羽。

隣りで騒いでる風鈴と御籤の言葉が入ってこないくらい自分の世界に入ってしまっている。

当然、寝ている仔犬は返事はしないが、へにゃっとした顔を見る限り気持ちいいのだろう。

 

「じゃあ、次はマッサージを……ってワンちゃん結構筋肉あるんですね~。」

 

腕を揉み揉みとマッサージする風羽は、意外とある仔犬の筋肉に驚く。

 

「じゃあ、次は顔をしますね~。」

 

風羽が仔犬の顔をマッサージする。

すると口のあたりに来た時、不意に仔犬がペロっと風羽の指をなめた。

 

「うひゃう!?もうっ!くすぐったいですよワンちゃん~!」

 

笑顔で小さく怒る風羽。

もちろん仔犬はわざとではないし、風羽も別に怒ってはいない。

そんな感じでマッサージをすること10分、その時階段を降りる音が聞こえた。

そして、談話室のドアが開く。

顔を出したのは希だ。

 

「雛森くんいる?……あっ、みなさんお帰りだったんですね。」

「ただいま、希くん。仕事中だったのかな?」

「はい、上で来月の描いていました。ちょっと雛森くんに手伝って欲しいことがあって。」

「そうか。でも今は……。」

「?どうかしたんです……へ?」

 

その時、これ以上ないほどニコニコした風羽に膝枕されている仔犬を見つけた。

 

「え、えっと?」

「疲れていたみたいでね。寝ているんだ。」

「あっ、そうでしたか。」

 

希の目の色が消えた気がして慌てて御籤が説明する。

すると、やっと状況を理解したのか、いつもの柔和な顔に戻った。

 

「い、いいなぁ……。」

「よかったら希さんも膝枕しますか~?」

「ふぇ!?」

 

小さな呟きを聞いた風羽は希にも勧める。

 

「い、いいの?」

「もちろんですよ~。」

 

そう言って場所を変わろうとする風羽。

希も最初は驚いていたが、ゆっくりと近づいてくる。

 

「はいどうぞ~。」

「じゃ、じゃあ失礼します。って結構重いね。」

 

仔犬の重さに驚きながら髪を撫でる。

と、さすがに動かし過ぎたのかさっきより大きく身動ぎする仔犬。

 

「……ん、のぞみさん。」

 

まだ寝ぼけているのかぼぉーっと希を見る。

 

ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ!

 

「……ふぇ?」

 

20数回聞こえた音と光に覚醒する仔犬。

 

「えっと、希さん?」

「へっ!?お、起きちゃったの雛森くん!?」

「あ、はいそれで……いったい何を?」

 

仔犬の目の前にはカメラモードになったスマホを構える希。

さっぱり状況がわからない。

 

「の、希くんさすがにそれは……。」

「完全に盗撮だよな。」

「あっ、希さん。それ現像したら一枚ください。」

 

風鈴たちが何か言ってるが起きたての頭では考えが回らない。

と、みるみるうちに希が赤くなった。

 

「こ、これは違うの!?違うんだからーーーー!?」

「へ?希さ……ぐふっ!?」

 

急に希が立ち上がったせいでソファから落下する仔犬。

しこたま頭を打った仔犬が目を覚ましたのはさらに1時間後のことだった。




~おまけ~

仔犬「そういえば、さっきふわふわの雲の上に乗ってる夢を見たんですよー。」
風鈴「ふぅん。」
仔犬「どれも柔らかさとか匂いが違って気持ちよかったです。」
風鈴「……でどれが一番気持ちよかったんだ?」
仔犬「えっと……夢だから忘れちゃいました。」
風鈴「もげろ。」


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双子と旅行

コンバトラー!
くーさんこと露草です(*^^*)

さて、今回から作中も8月に入っていくわけですが、8月編は全部個別(もしくは2人)のデート回にしようかなと思ってます。
いちゃほのを名乗る以上、そこは頑張りますよ~(^◇^)

それから新作ですが、もう一度書き直しをしようと思い削除しました。
なので未定にしておきます。

では、どうぞ!(≧▽≦)


8月に入り、ますます暑くなったある日。

仔犬は学校のある町ではなく、新幹線の中にいた。

 

「あの、本当に僕までついてきちゃってもよかったのでしょうか?」

 

もう何度目かわからない質問をしてしまう。

そうじゃないと話が持たない。

 

「構いませんよ。仔犬くんも生徒会なんですから。」

 

向かいの席で雑誌を読んでいた向日葵がそう答える。

水色のワンピースに白い帽子がとても似合っている。

まるで避暑地のお嬢様という感じだ。

 

「当たり前でしょ!アンタも花沢みたいにさぼるつもり?」

 

向日葵の隣の席で窓にかじりついて外を見ていた桜花が答える。

服装は向日葵と同じだが感じる印象が全く違う。

向日葵の印象が避暑地のお嬢様なら、桜花の印象は元気溌剌な子供という感じだ。

仔犬としてはちょっぴり風鈴に似ている気がする。

 

なぜ仔犬がこの双子の姉妹と新幹線に乗ってるのか、簡単にいうなら3年生の修学旅行の下見だ。

桜花たち曰く、生徒会の仕事には3年生が修学旅行を充実できるように下見をすることが仕事の一つらしい。

そこで半ば幽霊化しているものの生徒会書記である仔犬にも召集がかかったのだ。

 

「そう言えばなんで類斗はいないんでしょうか?」

 

これも何度目かの質問。

仔犬がOKなら類斗も庶務なので参加する資格は十分にあると思うのだが。

 

「生徒会の経費ですから3人が限界なんですよ。」

 

向日葵がそう答える。

修学旅行先の京都まではそれなりにお金がかかる。

だがら人数は最小限で行かざるを得ない。

 

「それに4人で同じ部屋はさすがに狭いわよ。」

 

桜花がそう答える。

さっき新幹線に乗る前に聞いたのだが、どうやら宿泊先は1部屋しかとってないらしい。

仔犬は必死に説得したのだが、経費削減を突き付けられたのと2人が全く意識していないのに気付いて仕方なく折れたのだ。

 

「後、もう1つなんですけど。」

「しつこいわね。何よ?」

「どうしたんですか?」

 

桜花がいらいらしたようにそう言う。

もっとも、同じ質問を何度も繰り返している仔犬が悪いのだが。

 

「お2人のその話し方なんですか?」

 

これは初めての質問。

そうしたら、桜花も向日葵も初めて固まった。

そして数秒後、大きくため息をついた。

 

「アンタの前で取り繕ってもしょうがないでしょ。なぜかアンタだけはあたしたちのこと見分けられるんだから。」

「普通にわかりますよー?」

「14年間親ですら見分けられなかったのになんでわかるのよ!」

 

今日の集合場所でもいたずらした2人だったが、仔犬にはあっさりばれてしまったのだった。

それから桜花はこの話し方でしゃべっている。

 

「え、じゃあいつもの話し方は?」

「ひまの真似よ。私のしゃべり方だと会長っぽくないし。」

「あら?私は別に桜花の真似できますよ?」

「しなくていいわよ。」

 

クスクスと笑う向日葵を軽く睨む桜花。

そういう様子を見てやっとこの2人の違いに分かるくらいだ。

 

「本当になんでわかるのでしょうね~?仔犬くんは不思議な人です。」

「絶っっっっっっっ対、旅行中にだましてやるんだからね!」

 

向日葵は別に気にしていないようだが、桜花からはライバル認定されてしまったようだ。

なのに、ちゃんと見分けられると嬉しそうな顔をするのだから女の子は不思議だ。

 

「旅行じゃなくて下見でしょう?」

「同じよ。生徒会のお金で遊びほうけるの去年から楽しみにしていたんだから。」

「去年も生徒会にこそ所属していましたが行けませんでしたからね~。さすがにじっくりと観光するのは無理ですが、色々なところに行けますからそれなりに楽しめると思いますよ。」

 

去年も生徒会に所属していた桜花と向日葵は内容こそ知っているようだが、行ったことはなかったらしい。

仔犬は今年から中等部に入ったのでもちろん初めてだ。

 

「2泊3日なんてなかなか奮発しましたね。」

「修学旅行に行く人数とコースを考えたら3日は必要ですから。」

 

この学園は生徒数も多いため、1か所に固まりすぎないようにそれぞれのコースごとで動くのだ。

金閣寺など定番のものは被ってはいるが、それでも数が多く3日でもかなりギリギリらしい。

 

「ねー、仔犬。」

「はい、なんですか桜花さん?」

 

向日葵と話していると不意に桜花から話しかけられた。

そちらを向くとなぜか桜花がジト目でにらんでいた。

 

「な、なんですか桜花さん?」

「……それ。」

「それ?」

 

このバージョンの桜花は指示語ばかり使うからわからないことが多い。

こんなところも風鈴に似ているなと思ってしまう。

 

「桜花さんっていうの。学校じゃなんだからそれやめなさい。」

「え、でも、この方が話しやすいですし。」

「じゃあさん付け禁止。生徒会長命令。」

 

まさかの権力行使だった。

そうなったら仔犬には白旗を振るしかない。

 

「じゃあ、なんて呼べばいいですか?」

「桜花様か桜花姫様で。」

「拒否します。」

「何でよ!!」

 

さすがにその呼び方は恥ずかしい。

桜花も外で「桜花姫様~!」とか呼ばれたら絶対恥ずかしいと思うが。

 

「いいですね。じゃあ、私もお願いします。」

 

雑誌をほっぽり出して向日葵も加わる。

ぽわぽわした感じをしているが、根は姉と同じくいたずら好きなんだろう。

 

「じゃあ、私はひまちゃんでお願いします。」

「ひ、ひまちゃんですか?」

「ひ、ひまちゃんじゃなくてひまちゃんですよ。子供の頃そう呼ばれてましたので。」

「……どうしても?」

「どうしても♪」

 

そう言ってにっこり笑う向日葵。

ここまで期待されたら仔犬も断れない。

 

「えっと、じゃあ言いますね。」

「はい。」

「ひ、ひまちゃん!」

「はい♪なんですか仔犬くん?」

 

にこにこと笑う向日葵。

名前の通り向日葵の大輪のような笑顔だ。

と、そでをだれかにくいくいっと引っ張られた。

 

「どうしました桜花さん?」

「……呼びなさいよ。」

「はい?」

 

小さく桜花が呟いたが聞き取れない。

 

「私のことおーちゃんって呼びなさい!」

「は、はい。えっと、おーちゃん?」

「っ!?」

 

さっきの向日葵とは違い、緊張もへったくれもない呼び方。

だが、桜花は真っ赤になっていた。

 

「も、もう着くわよ!早く降りる支度しなさい!」

「ふふっ、桜花かわいい。」

「ひま後で覚えてなさいよ!ほら、仔犬!アンタもぼーっとしてないで慌てて支度しなさい!」

「はい、おーちゃん。」

「っ!?か、からかうなぁー!!」

 

新幹線はもうすぐ京都につく。

仔犬たちの旅行はまだはじまったばかりだ。




次回は誰でしょう? 笑
お楽しみに!(≧▽≦)


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かんびょう①

コンバトラー!!
くーさんこと露草です(*^^*)

お久しぶりです!
今日は前書きは無しな感じで(笑)

はい、じゃあ久しぶりの「紅茶」をどうぞ!(≧▽≦)



夏休みのある日の朝。

中等部女子寮の紗南と莉乃の部屋。

 

「37.5……。うん、大分下がってきたね。」

「すいません、莉乃……。部活も大会があって忙しいのに。」

 

申し訳なさそうに言う紗南。

 

「気にしない気にしない!熱を出したら助けるのが親友だよ!」

 

気にしてないというように快活に笑う莉乃。

風邪を引いたのか昨日から熱で寝込んでいた紗南だったが、陸上部の練習を休んで1日中看病してくれたおかげで熱は大分下がった。

これなら明日には自分の茶道部にも顔を出せそうだ。

 

「でも今日はさすがに出なくちゃいけなくて!ぶちょーから昨日怒られちゃって。」

 

申し訳ない!と手を合わせて謝る莉乃。

紗南のせいで怒られたのに全く気にしてないあたり本当に優しい幼なじみだ。

 

「大丈夫ですよ。もう熱も下がりましたし自分のことは自分でできます。」

「そっか~。なら大丈夫かな?」

 

安心したのかにっこり笑う莉乃。

 

「あっそうだ!代わりに助っ人頼んでおいたからお昼前にはくると思うよ。」

「そんな気にしなくていいのに。」

「大丈夫!あの子も快く受けてくれたし、お世話には実績があるから。」

 

それから10分後、莉乃は部活へと出かけて行った。

 

「ふう、汗もかいてしまいましたしシャワーでも浴びましょうか。」

 

無駄にお金のあるこの学園では部屋それぞれに浴室やトイレがある。

紗南は服を脱いでシャワーを浴びる。

熱と暑さで寝汗をかいていた体にシャワーのぬるいお湯が気もちいい。

 

そして、シャワーを堪能した紗南が浴室から出るとピンポーンとドアのチャイムが鳴った。

 

「もしかして莉乃の言っていた助っ人でしょうか?」

 

わざわざ来てもらったのに申し訳ないと体を拭くのもそこそこに玄関に行く。

女子寮は男子禁制なので、女子生徒だろうとバスタオルを巻いただけの姿だ。

昔は礼儀作法に厳しい紗南だったが、お堅いこと大嫌いの莉乃と何年もいたからか大分緩和されていたのだった。

もっとも。

 

「いらっしゃ……!?」

「こんにちは莉乃さ……!?」

 

そういう油断がこういう失敗を招くのだが。

扉の前にいたのは男子生徒(・ ・ ・ ・)のはずの雛森仔犬だった。

 

「きゃああああああああああああ!!!」

「ご、ごめんなさい!!!」

 

慌てて扉を閉める仔犬。

叫び声を聞いて寮監が飛んできたのは言うまでもない。

 

「ご、ごめんなさい……。」

「いえ、こちらこそ叫んでしまって申し訳ありません……。」

 

寮監にたっぷり怒られた2人はお互いに謝っていた。

まださっきのショックからか顔をそらしたままだが。

 

「え、えっと、ヒナさんが助っ人さんってことでよろしいですか?」

「う、うんそうだよ。莉乃さんに頼まれたんだ。」

 

少し落ち着いた2人はようやく話ができるほどになった。

 

「よかった、結構元気そうだね。」

「ええ、莉乃のおかげです。」

 

と、莉乃は仔犬が持ってきた袋に気付いた。

 

「ヒナさんそれって……。」

「あ、うん。もしお腹すいていたらおかゆでも作ろうかと思って。でも考えてみたら食堂でよかったね。」

 

この学園では帰省しない生徒や仕事のある教師のために休み中でも食堂が開いている。

部屋にも簡単な台所があるので紗南や莉乃はいつもはお弁当を作るために使っているが、休みに入ってからは主に食堂を利用している。

彼女たちがお弁当を作ってあげたい想い人も休みだからだ。

 

「その……もしご迷惑でなければヒナさんに作っていただいてもいいですか?」

「え?別にいいけど……。食堂の方が手っ取り早くない?」

「い、いえ食堂はこの時間はかなり混んでますし、暑いですし……。それにヒナさんのご飯はおいしいですから。」

 

紗南の言っていることは嘘ではない。

さすがに全部の寮の食堂を開くわけにはいかないため、一番広い高等部男子寮の食堂だけが開かれているのだ。

だが、広いと言ってもかなりの人数がいるのでかなり混雑している。

そのため、人口密度も高く、クーラーが効いている食堂でもめちゃくちゃ暑い。

仔犬が料理上手なのは言うまでもない。

 

「じゃあ、台所借りるね。」

「ええどうぞ。調味料も自由に使ってください。」

 

そして料理を始める仔犬。

暑いし、自分の寮のもあるというのに全くめんどくさいという顔を見せない仔犬。

 

「結婚したらこんな感じなのでしょうか……。」

 

思わず呟いてしまう。

紗南のために料理を作る仔犬。

「おいしい?」って聞かれおいしいと答えるとすごく嬉しそうな仔犬。

あーんしてくれる仔犬。

そして、そして、そして、一緒にお風呂に入ったり、一緒に同じベッドで……。

 

「って私はなんて想像をしているんですか!」

 

クラスではお堅い委員長をしている自分があまりに恥ずかしい妄想をしていることに顔が赤くなる。

思わず布団をゴロゴロ転がって悶えてしまう。

だが――――――――悪くない、いや素晴らしい妄想だった。

 

「えっと、どうかした?紗南さん。」

 

いつの間にか料理を終えた仔犬が紗南を見て首を傾げていた。

手には湯気が立つ土鍋を乗せたお盆を持っている。

 

「な、何でもないですよ!それよりできました?」

「うん、ありあわせでごめんだけど。」

 

そう言って土鍋をテーブルに置く仔犬。

 

「じゃ~ん!雛森特製柚子みかんがゆです!」

 

元気づけようとしているのか仔犬はいつもよりテンション高い。

そういう仔犬の優しさが紗南は好きなところだ。

 

「ふふっ、じゃあいただきます。」

「どうぞー。」

 

ふーふーと軽く冷まして一口食べる。

 

「すごくおいしいです!ありがとうございますヒナさん。」

「よかった。いっぱい食べてね。」

 

布団の周囲を片づけていた仔犬が嬉しそうに喜ぶ。

ふと、さっきの妄想を思い出した。

 

「あ、あのヒナさん……。」

「ん?どうかした?」

 

恥ずかしいが、勇気を出して言ってみる。

 

「あーん……してくれませんか?」

 

もしかしたら断られるかもしれない。

いや多分断られるだろう。

だが、仔犬の答えは意外だった。

 

「ん、いいよ。はい、あーん。」

 

ためらうこともなくふーふーと冷まし口にスプーンを紗南に向ける。

断られなかったのは嬉しいが、まさかやってくれるとは思わなくて真っ赤になってしまう。

 

「あ、あーん。」

 

 

真っ赤になりながらパクッと食べる。

 

「お、おいしいです……。」

 

味なんて全くわからない。

だが、気づいていない仔犬は普通に喜ぶ。

 

「そっか。もう一回する?」

 

そう言われるが、慌てて首を横に振る。

一回でも心臓が爆発しそうなのにこれ以上されたらホントに死んでしまうかもしれない。

 

「じゃあ、僕は片づけに戻るね。」

 

そう言ってスプーンを紗南に渡す仔犬。

だが、紗南は全く聞いてなかった。

 

ライバルの莉乃がくれたチャンス。

もしかしたらこんなチャンスは二度とないかもしれない。

――――伝えるなら今かもしれない。

 

「あ、あのヒナさん。実は私……貴方のことが「あ、紗南さん。」……ってはい?」

 

急に口を出した仔犬が紗南の布団を指差す。

正確には枕の下を。

 

「本を下敷きにしちゃってるよ。」

 

そう言って布団に近づく仔犬。

 

「え?あ……ああ、ダメですヒナさん!!」

「へ?」

 

だが、時は既に遅し。

仔犬は本を既に取り出していた。

 

「……え?『拓哉と正広の禁じられた一夜』?こ、これって……。」

 

仔犬がタイトルを読み上げた瞬間。

羞恥心がマックスに達した紗南は気絶した。

 

 

 

「……ん。」

 

気絶した紗南が目覚めた時にはすでに夕方だった。

異様にきれいになった部屋を見るに仔犬が掃除までしてくれたのだろう。

テーブルの上を見ると、帰る旨を書いた仔犬の手紙と夕食の分だと思われる煮物や焼き魚が並べられてあった。

そして。

 

「な……なな……ななな……!」

 

テーブルの上にきれいに整頓された最近買った大量のBでLな本で。

 

「ヒナさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん~!!!!」

 

この後、ショックで熱の上がった紗南は3日間寝込んだ。




はい、というわけで次回予告!
と言っても①って書いたから次回はわかりますよね!
次回は残りの幼なじみのどっちでしょう? 笑
嘘です、2回連続でBなLを書いたらソッチの小説になっちゃいます(^^;
では、おまけをどうぞ!
次回もよろ!


~おまけ~
〇1年前の仔犬(小6)と妹(小5)

「にーたん、あーんして食べさせて。」
「はいはい。」
「にーたん、汗かいちゃったから拭いて。」
「はいはい。」
「にーたん、眠れないから一緒に寝て。」
「はいはい。」

――――こうして仔犬は女の子の看病に慣れたのだった。


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かんびょう②

コンバトラー!(≧▽≦)
くーさんこと露草です。

お待たせしました!
「待ってたよ、くーさん!」という方、ありがとうございます!
「は?別に待ってねーよメガネ。」という方、ちょっと校舎裏来いやぁぁぁぁぁ!!
そんなメガネな露草さんです 笑

では、「紅茶」43話どうぞ!!(^◇^)



夏休みのある日の昼過ぎ。

中等部女子寮の紗南と莉乃の部屋。

 

「37.2……。大分下がってきましたね。」

「本当っ!?よかった~。色々ありがとね、紗南。」

 

計測した体温計を見ながら言う紗南に莉乃がお礼をする。

 

「もしかしたら私がうつしてしまったのかもしれませんし、当然ですよ。」

 

そう言って申し訳なさそうな顔をする紗南。

紗南が完全回復した次の日、莉乃が熱を出して倒れてしまったのだ。

 

「大丈夫だってば!それに紗南だけいい思いするのはずるいじゃん。」

「はぁ……。全く莉乃は……って来たようですね。」

 

トントンって小さなノックが聞こえ扉に近づく紗南。

開けると予想通りの人だった。

 

「こんにちは紗南さん。莉乃さんはどうですか?」

「やっほーヒナくん!!」

「……見ての通りですよ。本当に熱があったか疑わしくなるくらいです。」

「紗南ひどっ!!昨日はすごく大変だったんだよ。」

 

呆れる紗南にぶーぶー怒る莉乃。

相変わらずこの幼なじみは仲がいい。

 

「えっと、紗南さんの時と同じように看病すればいいんだよね?」

「ええ。まあ、すでに熱は下がってますし、昼食も済ませましたから。私も夕方には帰ります。」

「ヒナくんに作って欲しかったのに~!」

「ほとんど治ってるのにそこまでお世話を掛けるわけにはいきません!」

「まあまあ、莉乃さんには今度作ってあげるから。」

 

危うくケンカに発展しそうになった2人に慌てて介入する仔犬。

仔犬としては自分の料理程度でなんでこんなことになるのかよくわからないが。

 

「ホント!?ありがとヒナくん!」

「ヒナさんは甘すぎます!」

 

笑顔の莉乃となぜか怒る紗南。

結局、仔犬が責められることになってしまう。

 

「そ、それより紗南さん。そろそろ行かなくていいの?」

「はっ!?す、すみませんじゃあよろしくお願いします!莉乃もちゃんと寝てるように!」

「「行ってらっしゃい。」」

「行ってきます!」

 

慌てて出て行く紗南。

2人きりになった途端、無言になってしまう。

 

「そういえば、莉乃さんと2人きりって珍しいよね。」

「だね~。いつも紗南か類斗が絶対いたし。」

「それに昔は莉乃さんは何かあったらすぐ泣いちゃうくらいの泣き虫だったし。」

「わーわー!!そ、それはもう忘れて!」

「はいはい。」

 

珍しく悪戯っぽく笑う仔犬。

もちろん莉乃も覚えている。

そしてその度に助けてくれたのが仔犬だった。

だから莉乃は仔犬が大好きなのだ。

だから誰にも仔犬は渡せない。

 

「あ、ヒナくん。さっそくだけど頼んでいい?」

「はい?何ですか?」

「その……汗かいちゃったから拭いてくれないかな?」

 

そう言いながらパジャマをはだけ、白い背中を仔犬に向ける莉乃。

さすがに同年代に比べてかなり大きい希ほどではないが、小さいを通り越してむしろ憐れになるほどの紗南よりはある。

同年代でもある方だろう。

 

もちろん、莉乃もめちゃくちゃ恥ずかしい。

仔犬には見えてないだろうが、莉乃の顔はこれ以上ないくらい真っ赤になっている。

でも、この朴念仁を打倒するにはこれくらいしないといけない。

きっと、純朴な仔犬のことだから照れて真っ赤になるだろう。

と、思いきや。

 

「うん、いいよ。」

「……へ?」

「じゃあ、やるね。」

「ちょ、ちょヒナく……ふぁ……。」

 

端的にいうとめちゃくちゃ気持ちよかった。

汗をかいた体に冷たい水が気持ちいい。

仔犬も相手が女の子だというのもあってか、絶妙な力でやっている。

 

「よし、終わり。前もやる?」

 

そう聞かれ、慌てて首を横に振る。

自分でやっておきながら何だが、これは恥ずかしすぎる。

それに当初の目的も達成できなかった。

 

「じゃあ、僕は洗濯物畳むから。」

 

そう言ってタオルを莉乃に渡す仔犬。

そして莉乃が体を拭きやすいように背中を向ける。

 

「むう……。」

 

体の前の方を拭きながらチラッと仔犬を見ると、かごの中に入った洗濯物を畳んでいた。

その中には、紗南と莉乃の下着もあるはずだが、気にした様子もない。

 

「ヒナくんはあたしのことなんて興味ないのかな……?」

 

思わず小さく呟いてしまう。

大好きな男の子が自分に全く興味がない。

ここまで意識されてないかと思うと悔しいどころか、悲しくなってしまう。

思わず涙がにじんでしまう。

 

「それにしても。」

 

不意に仔犬が口を開いた。

でも、悲しみの底に沈んでいる莉乃には届かない。

 

「莉乃さんと2人っきりって緊張するねー。」

「……へ?」

 

今彼はなんと言ったか。

 

「ね、ねぇ!」

「はい?どうしました莉乃さん?」

「ひ、ヒナくんはあたしと一緒にいて緊張しているの?」

「えっと、もちろんだよ。」

 

何でもないように言う仔犬。

 

「莉乃さんみたいに可愛い子といると、意識しちゃって落ち着かないよ。」

「そ、それは女の子として?」

「?もちろん。莉乃さんはとても可愛い女の子だよ。」

 

嬉しい。

ただただ嬉しい。

思わず、上半身が裸であることも忘れて仔犬に飛び込んでしまった。

 

「うわぁ!!ちょ、どうしたの莉乃さん!?」

「ヒナくん大好きだよぉ~!」

「ちょ、服を着てくださいって!!」

 

恐らくこれだけのことをしても仔犬は莉乃の気持ちに気付かないだろう。

だが、絶対振り向かせて見せる。

莉乃はそう誓った。

 




というわけで、前回に引き続き紗南・莉乃の幼なじみコンビの回でした。

今更になりますが、この2人は他のみんなとは違うところがあります。
それは、仔犬に対する好意を全開にした話になっていることです。
そう言った違いも楽しんでいただけたらと思ったり、思わなかったり 笑
そんなほぼメインよりのサブヒロインという立ち位置の2人です(*^^*)

まあ、一緒の寮に住んでませんし、幼なじみ負けフラグという恐ろしい用語もありますし……ね? 笑

では次回!
そろそろちゃんと連続更新しますよ~ 笑


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寮長との夏休み

コンバトラー!(≧▽≦)
くーさんこと露草です。

さて、寝ようとした深夜2時。
突然ネタを思いついたぼくは執筆を始めました。
そして、現在4時!
書き上げました、超眠い!
今日ぼくバイトなんだけどなぁ……(^^;

そんな話をまさかの夜にするという 笑
これがタイマーのすごさです!(←そこじゃねぇ)

そんな感じでデート回もいよいよメインの4人!
結構イチャイチャさせましたけど、どうですか!?

では、お楽しみください(*^^*)
どうぞ!


夏休みも半ばに入ったある日。

仔犬は実家から車で1時間ほどのウォーターパークに来ていた。

貸し切りなので人っ子ひとりいない。

 

「うわぁ、広いなぁ。」

 

もちろん仔犬がパークを貸し切れるわけもなく、ある人に招待されたのだ。

不思議なことに仔犬の周りにはそれを可能な人物が結構いるのだ。

 

「なーにたそがれているんだよ。」

 

と、女子更衣室の出口がある方からその招待してくれた人が出てきた。

風鈴だ。

腰に手を当てジト目で仔犬を見ている。

 

「いや、貸し切りって初めてですけどすごいですねー。」

「いちおー、バイトだけどな。あ、パパからバイト代預かってるから後で渡す。」

「いえいえ!招待してもらったのにそんなのもらえませんよ!」

「返されたって困るっての。もらえるもんは何でももらっとけって。」

 

なぜ仔犬と風鈴がこんなところに来ているのか、端的に言うとバイトだ。

風鈴の父親が新たに経営するウォーターパークで実際に遊んでみて、何か不満や悪いところがないかチェックするという内容らしい。

昨日の夜、風鈴から連絡を受け慌てて支度をしたのだ。

断ったら大変なことになりそうだし、単純に仔犬も興味があった。

最も、ある条件があるのだが。

 

「ていうか、おまえ何か言うことないのかよ?」

「へ?あ、招待してくれてありがとうございます……?」

「ちげーよ、ばか。」

 

結局怒られてしまった。

といっても別段風鈴に変わったところは――――とそこまで考えてやっと気づいた。

 

「あ、もしかして水着ですか?」

 

プールだから当然なのだが、風鈴は水着を着ていた。

オレンジのチェックのワンピース。

腰のあたりがスカートみたいにひらひらしている。

 

「遅い!で、何か言うことがあるだろ?」

「えっと……。」

 

そう言われ、仔犬は風鈴をよく観察する。

背の低い仔犬より20センチ以上小さい身長。

膨らみという言葉を全く寄せ付けない、兆しすら見せない胸部。

小さいお尻に、すらっとしてるとはお世辞にも言えない手足。

 

「何と言うか、小学生みた……痛い!痛いですって寮長!!」

「答えが遅い!!しかも言うに事欠いてそれかよ!」

 

仔犬が言い終わるよりも先に飛び掛かった風鈴がぐりぐりの刑をしてきたのだ。

広いパークに仔犬の悲鳴が響く。

 

「痛いっ!じょ、冗談ですって!すごく可愛くて思わず見とれちゃいました!!」

 

慌ててちゃんとした感想を言う。

実際、風鈴の水着姿はとても可愛らしく、その残念さを補ってあまりあるほど可憐だった。

まるで水辺の妖精のようだ。

 

「痛たた……ってあれ?」

 

と、仔犬が感想を言った途端、ぐりぐりが止まった。

同時に首のあたりに乗っかっていた重みも消える。

 

「寮長?」

 

罰にしては短めだ。

いつもなら今のより3分以上長い。

 

「その……なんだ。お、おまえも似合ってると思うぞ。け、結構鍛えてるんだな……。」

「まあ、生徒会や普段の買い物で重たいものも持ったりしていますし。」

 

なぜか仔犬に背中を見せた風鈴が褒めてくれる。

だが、顔が見えないので、まだ怒っているのか、それとも許してくれたのかわからない。

さっきの言動を見るに、恐らく怒っていないと思うが。

 

「そ、そんなことより早く行くぞ!」

「あ、はい。」

 

風鈴がそう言ったので、歩き出そうとする仔犬。

だが、風鈴はその場に立ち止ったままだ。

 

「おい、ワンコ!手、手!」

「手?……あー。」

 

すっかり忘れていた。

このバイトの条件として、カップルのように手をつないで1日過ごすように言われていたのだ。

理由としては、カップルの視点の方が気付きやすいから、というものらしいが効果があるのかはイマイチわからない。

 

「ほら、さっさと手を寄越せよ。」

「はいはい。」

 

そう言って手を差し出す。

年齢こそ風鈴が3つ年上だが、風鈴の小ささもあり、傍からみたら兄と妹のようだろう。

 

「ん。」

「ふぇ!?」

 

風鈴がぎゅっと手を握った瞬間、思わず変な言葉が出てしまった。

子供のような手だと思っていた風鈴の手は温かく、女性らしいすべすべした手だった。

今更だが、手を繋いでるから距離が近い。

風鈴の髪のシャンプーの匂いまでわかるほどだ。

 

「ふぇってなんだよ。」

 

動揺した仔犬をニヤニヤと見てくる風鈴。

なぜかその笑顔も直視できなくなってしまう。

 

「ほら、行くぞ。」

「あっ、はい!」

 

風鈴に手を引かれ歩き出す。

5分ぐらい歩いただろうか、ようやく仔犬も落ち着いてきた。

 

「うし、ここでいいだろ。」

「え?でも、ここって……。」

 

プールサイドにある小さな滑り台。

プールの中にあるジャングルジム。

そして、仔犬の太ももぐらいまでしかないであろう水深。

 

どう見ても子供用プールだった。

 

「こんなところ楽しくないですよー。まずは波の出るプールとかウォータースライダーとか行きましょうよ。」

「だ、だめだ!こーゆー子供の遊ぶところが安全じゃないと危ないんだぞ!」

 

風鈴の意見にも一理あるが、せっかくなのでまずは遊びたい。

というか、別に仔犬たちの目的は検査ではない。

普通に遊んで気になるところを見つけるだけのはずだ。

 

「大丈夫ですって。それよりスライダー乗りたくてうずうずしちゃってます。」

「その……だ、だめなんだぞ!」

 

なぜか必死になって子供用プール以外に行くのを拒否する風鈴。

もはや言い訳にもなっていない。

 

「もしかして寮長……泳げないんですか?」

「なっ!?」

 

なぜバレた!?と言わんばかりの驚きようだが、丸わかりだ。

 

「というか、水泳の授業の時はどうしていたんですか?休んでいたんですか?」

 

仔犬たちの学校にはプールがあるので、当然授業もある。

仔犬自身、夏休み前の授業ですでに何回かプールにも入っている。

 

「お、おまえ、女子に水泳の授業休む理由を聞くなんて恥ずかしくないのか!」

「べ、別にそういう意味で聞いたわけではないですよ!」

 

単純にどんな理由で休んでいるのか聞こうとしたのに、とんだ勘違いをされてしまった。

余談だが、去年の仔犬はなぜたまに女の子が水泳の授業を休むのか理由がわからず、その日休んでいた紗南に聞いてめちゃくちゃ怒られたのだった。

 

「一応、授業に出てるってことで評価はもらってるよ。他の競技で頑張ってるから赤点にもなってないし。」

「あー、なるほど。」

 

誤解が解け、ちゃんとした理由もわかり納得した。

と、仔犬は風鈴に提案してみた。

 

「じゃあ、練習しましょうよ。」

「い、いいよ……。すぐ泳げるように何かなんないだろうし。」

「でも、夏休み明けたらまた水泳の授業ありますよー。」

「うっ……。」

 

風鈴もこのままでいいとは思ってないのか歯切れが悪い。

今のうちにと畳みかける。

 

「練習しましょうよ。僕が教えてあげますから。」

「……わかった。」

 

ややあって短い肯定がきた。

 

「じゃあ、移動しましょうか。」

 

さすがにこの浅いプールでは泳げない。

すぐ近くにある競泳用のプールに移ることにする。

仔犬が風鈴の手を引き歩き出すと、ゆっくりではあるが付いて来てくれた。

 

「じゃあ、まずはバタ足をやりましょうか。」

「ぜ、絶対離すなよ。」

「離しませんって。」

 

不安なのか、いつもより弱気に風鈴が言う。

もし、水を怖がっていたりするのなら、なかなか一苦労になるが、幸い入るのは平気なようだ。

 

「それで足をバタバタって……そうです、体の力を抜いてください。」

「こ、こうか?」

「はい、そうです。じゃあ次は顔を入れてみましょうか。」

「お、おう!」

 

実際にやってみると、生来の運動神経の良さからか、すぐにバタ足とクロールをマスターした。

体力がないので、25メートルはキツそうだが、半分くらいは何とかいけるようになった。

 

「すごいじゃないですか、寮長!」

「ま、まあな……。」

 

心なしか風鈴にも自信が戻ってきたようで表情も明るくなってきた。

さっきまでの弱気な風鈴もかわいいが、やっぱり風鈴は自信満々な方が風鈴らしい気がした。

 

「よし、泳げるようになったし、他のプール行くか。」

「あはは、寮長いつもの感じに戻りましたね。」

 

そう言いながら、風鈴の後にプールを出ると、なぜか風鈴がジト目で睨んでいた。

 

「な、なんですか寮長?」

「……それ。」

「へ?」

 

それと言われても仔犬には何のことかわからない。

 

「名前だよ。ここは寮じゃねーし、わたしたちはこ、こここ恋人なんだろ?」

「あ、はい。そうでしたね。」

 

会ったばかりこそ風鈴先輩と呼んでいたが、寮に入って4ヶ月ですっかり寮長呼びに慣れてしまったのだ。

 

「じゃあ、なんてお呼びしましょうか?」

 

仔犬が考えるよりも、と風鈴に尋ねる。

 

「……って。」

「え?ごめんなさい何ですか?」

 

何か言ったようだが、小さくて聞き取れなかった。

 

「りんちゃんって……。風鈴だからりんちゃんって呼んでいい。」

「りんちゃんですか?えっと、年上なのにちゃん付けしていいんですか?」

「……いいに決まってるだろ。」

 

そこで言葉を切る風鈴。

と、仔犬の目をまっすぐ見てきた。

 

「だって、わたしたちは……恋人なんだから。」

「!?」

 

そのうるんだ目を見て思わずドキってしてしまう。

さっきまで特に気にしてなかったはずの呼び方が急に恥ずかしくなる。

 

「じゃ、じゃあ、呼びますね。」

「お、おう!どんとこい!」

 

名前を呼ぶだけなのになぜかおかしなテンションになってしまう2人。

 

「り、りんちゃん……。」

「お、おう……。その……仔犬。」

「は、はい……。」

 

名前を呼び合っただけなのに、思わず2人とも赤面して目を背けてしまう。

とてもじゃないがお互いの顔なんて見れない。

 

「よ、よし!じゃあ、スライダー行くぞ!」

「は、はい!」

「その次は波のプールだ!」

「はい!」

「楽しむぞ、仔犬!」

「はい、りんちゃん!」

 

赤い顔のまま走りだす2人。

恥ずかしくてまだ顔は見れない。

だが、2人の手はしっかりと繋がれていた。




あ、最近言わなくなってましたが、感想&誤字訂正募集中です。
それなりにメンタル強いので、批判も全然オッケーですよ!(^◇^)
ていうか、いつも感想くれる方が、優しいめっちゃいい人なので、たまには批判されたいかなって……。
べ、別にドMじゃないんだからね!(-_-;)

大体そんな感じです 笑
では次回はクールなお姉さんとのデートです(*^^*)

次回もよろっクサー♪(←今回から採用の挨拶)


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御籤さんとの夏休み

コンバトラー!(≧▽≦)
くーさんこと露草です。

追試のレポートがやっと終わりました~。
さて、結果はどうなることやら(笑)

そんな感じでどうぞ!(^◇^)


夏のある日の夕方。

仔犬は自宅から少し離れた駅にいた。

ここである人を待っているのだが。

 

「あっ、あれかな?」

 

駅のロータリーに、どう見ても高級車としか思えない車が入ってきた。

仔犬の目の前で車は止まった。

運転手から出てきた初老の男性が後部座席を開けると、仔犬を呼び出した張本人が出てきた。

 

「御籤さん。」

「すまない、少し遅れてしまったね。」

「いえ、大丈夫ですよ。」

 

すまなそうに言う御籤だが、ほんの1、2分なのでまったく気にしていない。

 

「では、御籤様。私はこれで。」

「ああ、ありがとう。」

 

運転手さんは御籤と仔犬に一礼し、車に乗って行ってしまった。

 

「ところで一体なんの用だった……って聞くまでもなさそうですねー。」

 

御籤は浴衣姿だった。

彼女の髪と同じ藍色の落ち着いた浴衣がよく似合っている。

今になって気づいたが、いつもはストレートにしている長い髪を頭の上で巻いている。

それだけなのにまるで別人のようだ。

 

「近くでお祭りがあるみたいでね。よかったらワンコくんに付き合ってもらえたらと思って。」

「ああ、そういうことだったんですか。もちろん構いませんよ。」

「ふふっ、ありがとう。」

 

いつもとは違う可憐な笑顔に思わずドキッとしてしまう。

 

「で、でもそういうことなら僕も浴衣を着てくればよかったですねー。」

 

御籤が呼び出した理由が内緒だったので普通の服で来てしまった。

 

「ふふっ、まあそれは次回の楽しみにしておこう。」

「あはは、そんなカッコいいもんじゃないと思いますけどね。」

「それとも……私の浴衣を貸そうかな?」

「それは絶対やめてください。」

 

いらずらっぽく笑う御籤に苦笑を返す。

悲しいかな、仔犬と御籤は身長がほとんど変わらないので間違いなく着れてしまうだろうが。

 

「さて、そろそろ行こう。」

「あっ、はい。」

 

駅の周りにはお祭りに行くのか、ちらほらと浴衣姿の人がいる。

少し早目に行かないとかなり混雑しそうだ。

 

「ん、ワンコくん。」

 

御籤が手を差し出してくる。

一瞬戸惑うも、意味がわかり苦笑する。

 

「……それは男の役目のような気がしますけど。」

 

差し出された手を握る。

少し照れたようにお互いの顔を見た後、2人は祭り会場の神社に歩き始めた。

 

 

駅から数分、祭り会場の神社に着いた。

まだ夕方だからか人はそこまでではない。

仔犬たちは並んで花火の見えるところまで歩く。

 

「花火は7時からみたいだね。」

 

入り口で配っていたパンフレットを読みながら御籤が言う。

 

「後、1時間ちょっとですかねー。屋台でも回ります?」

 

御籤にそう言うが、答えが返ってこない。

 

「御籤さん?」

 

振り返ってみると、1つの屋台の前で御籤が足を止めていた。

 

「御籤さん、どうしたんですか?」

「……ワンコくん、これは何だろうか?」

「へ?これって……綿あめのですか?」

 

御籤の目線の先を見てみると、わたがしの屋台があった。

屋台の周りには、綿菓子の入ったビニールの袋が並べられている。

子供向けのお菓子だからか、プリントされているアニメの絵柄は日曜日の朝やっているようなものばかりだ。

 

「もしかして……綿あめ食べたことないんですか?」

「う、うむ。本では読んだことあるから存在は知っていたが。」

「存在って。」

 

言い訳するように言う御籤に苦笑する仔犬。

 

「……食べたいですか?」

 

そう仔犬が聞くと、ちぎれるのではないかというくらい首を縦に振る。

仔犬は御籤と手を繋ぎながら屋台に近づく。

並んでいる人もまだいないので、すぐに注文する。

 

「おじさん綿あめ1つください。」

「おうっ!まいどあり!」

 

そう答えた屋台のおじさんがざらめを機械の真ん中の穴に入れる。

チラッと御籤を見ると、ドキドキと機会を見つめている。

すると、機械から溶けて綿状になった飴が出てきた。

 

「うわっ!わ、ワンコ君なんか出てきたっ!」

 

驚いて声を上げる御籤。

 

「綿あめはこの綿を割り箸でくるくるってするんですよー。」

「ほぉ……。」

 

楽しそうに綿菓子ができる様子を見つめる御籤。

やがて、できた綿菓子をおじさんが渡してくれる。

 

「はい、200円。美人さんだから少し多めにしておいたぞ。」

「ありがとうございます。はい、御籤さん。」

 

受け取った綿菓子を御籤に渡す。

近くでそれを見た御籤は、目を輝かしていた。

 

「あ、お金……。」

「せっかくですからおごらせてくださいよ。それより食べてくださいー。」

「……あ、ありがとう。じゃあ、いただきます。」

 

そう言って御籤は綿菓子にかぶりつく。

その瞬間、目を見開いた。

 

「こ、これは!優しい甘さとこのふわふわ感。風羽くんのお菓子とは違うおいしさだ!」

「そ、そこまでですか……?」

 

ものすごく大絶賛する御籤にちょっと引く仔犬。

普段はゆっくりと食べる御籤が1分ほどで食べてしまう。

 

「おいしかったですか?」

「うむ、本だけではわからないこともあるんだね。」

 

その勢いのまま、仔犬と御籤は色々な屋台を回った。

たこ焼き、お好み焼き、人形焼……そのどれも御籤は目を輝かせていた。

 

そして、お腹がいっぱいになった2人は、花火の時間が迫ってるのもあり会場から少し離れた高台に移動した。

会場から離れているからか、人はまばらだ。

夏の夜の涼しさと無言の2人。

いつもなら気まずくなってしまうような場面でも、今回はなぜか落ち着けた。

 

「……軽蔑したかな?」

 

不意に御籤が呟いた。

何のことかわからず、仔犬は首を傾げてしまう。

それに気づいたのか、苦笑しながら御籤が言葉を続ける。

 

「知識はあっても体験はしたことがない。普通の人なら必ず経験したことがあることなのにね。」

 

そう言われてやっとわかった。

御籤は、自分が知識だけの無知であることを気にしているのだ。

たこ焼きもお好み焼きも、お祭りも普通の人なら体験したことがあるはずなのに。

 

「……楽しくなかったですか?」

「ううん、違うよ。すごく楽しかった。だからこそ、自分の無知が恥ずかしい。」

 

自嘲するように笑う。

 

「私は何も知らないんだ。」

 

その姿がなぜか嫌で。

そんな顔をしている御籤が嫌で。

仔犬は思わず口を開いていた。

 

「……一緒に知りましょうよ。」

「……え?」

 

御籤の目をまっすぐ見つめる。

 

「知らないことは知ればいいんです。体験すればいいんです。その時には、僕がずっと一緒にいますから。」

 

驚いたような顔をする御籤。

御籤の事情はほとんど知らない。

でも、一緒にいたら。

一緒にいるからこそ、御籤の世界が広げられるのではないか。

 

「相変わらず……キミは優しいね。」

 

目の端に涙を浮かべた御籤が笑う。

 

「ワンコくん。」

 

不意に御籤が真剣な目で仔犬を見る。

 

「私は……。」

 

少しためらうように御籤が口を開く。

 

「私はキミのことが……。」

 

パーン!!

大きな音とともに空に大輪が咲いた。

御籤の声はそれにかき消されてしまう。

 

「すいません御籤さん。今なんて言いました?」

 

仔犬が御籤を見ると、なぜか笑いを堪えるように御籤が震えていた。

 

「くっ、くくくっ!あはははははっ!」

「み、御籤さん?」

「そう簡単に神様は助けてくれない……か。ふふっ、仕方ない。しばらくはこの関係を楽しむとするかな。」

 

御籤が言っている意味はわからないが、何やら吹っ切れたようだ。

 

「きれいだね、ワンコくん。」

「ええ。きれいですね、御籤さん。」

 

「もう大丈夫」。

そう伝えるかのように御籤は、つながれた手を強く握った。



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風羽ちゃんとの夏休み

コンバトラー!(≧▽≦)
いまさらですが、夏終わりましたね~。
今年も何もなかったなぁ……(遠い目

まあ、大学生なので後1か月近くあるんですけどね~(笑)
まだぼくの夏は終わらない!!!
橘田先生の次回作……じゃなくて次回夏にご期待ください!!

では、どうぞ!(^◇^)
今回は少し長めです。




8月も後半のある日の朝。

仔犬は自宅から離れた駅にいた。

改札を出て、すでに着いているらしい相手を探す。

 

「あっ、ワンちゃんここです~!」

 

その声を聞いて振り向くと、改札を出てすぐのところに待ち合わせの相手がいた。

風羽だ。

 

「ごめんね、待たせたかな?」

「待ってないですよ……って言いたいところですけど、実は3回ぐらい迷子と間違われちゃいました。」

 

困ったように笑う風羽。

やはり小学生が1人でいたら目立つのだろう。

 

「ならもう少し早く来ればよかったね。」

 

待たせないように約束の時間より早く来たつもりだったが、大分待たせてしまったようだ。

今回は心配して声を掛けてくれた人だったみたいだが、もしかしたら誘拐されてしまうかもしれない。

次は気をつけようと心に誓った。

 

「あっ、いえ!わたしが楽しみで早く来ちゃっただけなので!気にしないでください。」

「あ、うん。でも次は気を付けるよ。」

「あっ……。」

「うん?」

 

仔犬は無意識で言ったのだろう。

でも、「次は」ということは。

それは、次の機会があるということで。

 

「……えへへっ!じゃあ、次は気を付けてくださいね♪」

「え?あ、うん。」

 

急に笑顔になった風羽を訝しむも、手を握られそれを忘れてしまう。

 

「じゃあ、行きましょう!」

「うん、そうだね。」

 

中のいい兄妹のような2人は歩き出した。

 

 

「うわぁ、こんなところに遊園地があったんですね~!わたし遊園地初めてなんです!」

「あんまり大きいところじゃないんだけどねー。小さい頃はよく来てたんだ。」

 

駅から少し歩くと、目的の遊園地に着いた。

遊園地と言っても大きいものではなく、田舎によくあるような小さな遊園地だが。

夏休みだから少し並んでいる。

 

「じゃあ、行こうか。」

 

少し並び、受付に着くと受付のおじさんが驚いた顔をした。

小さい頃から顔なじみの人だ。

 

「久しぶりだな坊主!」

「お久しぶりです。大人1枚、子供1枚お願いします。」

「おっ、可愛い子だな。なんだ今日は妹ちゃんじゃないのか?」

「あはは、デート……なんですかね?」

 

冗談っぽく仔犬がいうと、ガハハとおじさんが笑った。

そして、おじさんは風羽に顔を向ける。

 

「こんにちは、お嬢ちゃん。」

「こんにちは~!ワンちゃんの彼女の風羽です!」

「そうかそうか!イケメンの彼氏できてよかったなお嬢ちゃん。」

「はい!」

 

ニコニコと笑う風羽の頭を撫でるおじさん。

しばらく来ていなかったのに変わらないその姿に仔犬はクスっと笑ってしまう。

 

「ほら、大人1枚に子供1枚!」

「あ、お願いします。」

 

おじさんにお金を渡すと、とたんに風羽が慌てだした。

 

「あっ、ワンちゃん!わたしが払いますよ~!」

 

そう言えば、これは風羽がお礼したいと誘ったデートだった。

すっかり忘れていたが、もちろん払わせる気は全くない仔犬は何とか誤魔化そうとする。

 

「えっと、混んできたし取り敢えずは僕が払っておくよ。」

「そうだぞ、嬢ちゃん。それにここでおごられておくのもいい女の特徴だぞ。」

「いい女の……。じゃ、じゃあ、ワンちゃんお願いします。」

「ん、了解。じゃあ、お願いします。」

「おう、楽しんで来いよ。」

 

おじさんの言葉を背中に受け、歩く2人。

風羽はまださっきのおじさんの言葉が離れないのか、ぼぉーとした顔をしている。

 

「風羽ちゃん、まずはどこに行こうか?」

「あっ……はい!わたしはあのジェットコースターに乗りたいです。」

「うっ、あれか……。」

 

風羽が指差したのはジェットコースターだった。

だが、仔犬は小さい頃からあのジェットコースターが苦手だ。

以前妹と来た時には、妹に付き合わされて数十回乗らされたのがトラウマだ。

 

「いや……ですか?」

 

悲しそうに言う風羽。

さすがに、「嫌。乗りたくない。」とは言えない。

そもそも、自分は5つも年上なのだ。

 

「だ、大丈夫。僕も乗りたいと思っていたから。」

「じゃあ、行きましょう!」

「あ、走ると転んじゃうよ風羽ちゃん。」

「あっ!」

 

ジェットコースターに走りだそうとした風羽が何かを思い出したように足を止めた。

 

「忘れてました~。」

「ん?なんのこと?」

「罰ですよ!ワンちゃんの罰?」

「罰?」

 

何のことだろうと考え、思い出した。

そう言えば、林間学校の夜電話した時、電話を切る最後に「罰を与える」と言っていた。

 

「だから、罰として今日はわたしのこと風羽って呼び捨てにしてください!」

「えっ?ど、どうしても?」

「はい!」

 

突然のことに戸惑う仔犬。

女の子を呼び捨てにするのが苦手な仔犬には確かに罰だ。

風羽はそんなこと知らないだろうが、図らずもなかなか辛い罰になってしまった。

 

「あー、えっと……。」

 

期待してキラキラと仔犬を見つめる風羽。

またしても断れない。

 

「ふ、風羽。」

「はい!」

 

何とか言えると、風羽はとても嬉しそうに笑った。

 

「何か照れますね~!」

「……僕は風羽ちゃんより顔が真っ赤だと思うけど。」

「あっ、戻ってます!ダメですよ、デートが終わるまでです!」

「わ、わかったって……風羽。」

 

まだ、ぎこちなく風羽の名を呼ぶ仔犬。

慣れるのはまだ時間がかかりそうだ。

 

「じゃあ、ジェットコースター行きましょう~!」

「ちょ、ちょっと待ってまだ心の準備をさせてー!」

 

 

そして、1時間後。

 

「大丈夫ですかワンちゃん……?」

「だ、大丈夫……。」

 

通算7回乗った後、仔犬はベンチでぐったりとしていた。

心配そうに風羽が見てくる。

 

「ごめんなさい……。夢中になってワンちゃんのこと考えてませんでした……。」

「もう大丈夫だって。さ、次の行こうよ。」

 

そう言って仔犬は何でもないように立ち上がる。

休んで調子がよくなったものの、半分はやせ我慢だ。

だが、せっかく風羽が楽しんでくれているのにこんなところで時間をつぶすわけには行かない。

 

「……はい!」

 

風羽も仔犬が我慢しているのに気付いたようだが、仔犬の気持ちを汲んで何も言わなかった。

 

そして、昼食をはさんで2人は色々なアトラクションに乗った。

メリーゴーランド、コーヒーカップ、ゲームセンター……。

初めて遊園地に来た風羽も、久し振りに来た仔犬も存分に楽しんだ。

そして、閉館まであと、2時間となった頃。

 

「風羽ちゃ……じゃなくて風羽。次どこに行こうか?」

 

仔犬が園内の地図を読みながら風羽に声をかける。

だが、風羽の声が返ってこない。

 

「風羽?……ってあれ?」

 

いつの間にか隣を歩いていたはずの風羽の姿が見えない。

慌ててあたりを見回してみるが、どこにもいない。

仔犬はさっと青ざめた。

まさか、風羽は迷子になってしまったのか。

それならまだいい、もしかしたら誰かに誘拐されたかも。

 

「っ!?風羽!!」

 

慌てて走りまわる仔犬。

だが、どこにも姿が見えない。

 

「くそっ!僕がちゃんと見てないせいで!!」

 

名前を呼びながら園内を駆け回る仔犬。

だが、1時間探し回ったのに風羽には会えなかった。

 

「はあはあ……。どうしよう……!!」

「あっ!」

「えっ!?」

 

後ろから聞き覚えのある声が聞こえ振り向くと、風羽がいた。

ぷんぷんと怒っている。

 

「もうっ!探しましたよ……ってふぁ!?」

「風羽!!よかった!!」

 

風羽の姿が見えた途端、思わず抱きしめてしまった。

 

「大丈夫だった!?けがしてない?」

「へ?けがってなんのことですか?」

「ん?」

 

どうも話がかみ合わない。

そもそもなんで風羽が怒っているのだろう。

 

「わたしトイレに行ってきますってワンちゃんに言ったじゃないですか。」

「え?」

「出てきたらワンちゃんがどこにもいないから心配しましたよ~!」

 

話から察するに、風羽はトイレに行っていただけのようだ。

そう言えば、さっき風羽が迷子になったと思った場所はトイレの近くだった。

恐らく、地図に集中して聞いてなかったのだろう。

 

「なんだ、僕の勘違いだったのか……。」

 

そう思ったら力が抜けてきた。

思わずへたり込んでしまう。

と、仔犬の額の汗に気付いたのか風羽がおずおずと声を掛けた。

 

「すごい汗です……。もしかしてわたしが迷子になったと思って探し回ってくれたんですか?」

「あはは、勘違いだったけどね。」

「えっと、ごめんなさい。ちゃんとワンちゃんの返事を待ってから行かないとでした。」

「ううん、そんなことないよ!僕がちゃんと話聞いてなかっただけだから。」

 

もとはと言えば、仔犬がすべて元凶だ。

風羽には謝る必要はないし、謝られても困ってしまう。

 

「で、でも……。」

「じゃあ、この話は終わり。さあ、もう残り少ないけど遊ぼっか。」

 

なおも言いいかける風羽にそう言って話を終わらせる。

せっかくの楽しい日に謝ってばっかりもつまらない。

後40分ほどだが、まだ少しだけ遊べる。

 

「じゃあ……観覧車に乗りたいです。」

「ん、じゃあ行こう。」

 

そう言って自ら風羽の手をとる。

風羽は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに仔犬の手を握った。

 

そして観覧車の中。

風羽と仔犬は隣合わせになって座っていた。

 

「うわあ、きれいですね~!」

「うん、すごいね。」

 

夕日を見つめる2人。

夕焼け空と少し夜の色になった空との景色はまさに幻想的だった。

と、風羽が居住まいを正し、仔犬の方を向いた。

 

「ワンちゃん、今日はありがとうございました。」

「楽しかったかな?」

「はい、とっても!」

「なら、僕も嬉しいよ。」

 

夕焼けに仄かに赤く染められた風羽の笑顔を見て、今日連れて来てよかったなと仔犬は思った。

 

「ワンちゃん。」

「ん?」

「わたしは……」

 

風羽はとても真剣な顔をしていた。

まるで今から告白をするかのように。

 

「わたしは……すごく優しくて、笑顔が可愛くて、すごく温かい……。」

 

そこで言葉を切る風羽。

仔犬の目を見つめる。

いつもと変わらない暖かさに満ちた優しい目を。

 

「ワンちゃんのことが大好きです。」

「あ……うん。僕も風羽ちゃんのことが大好きだよ。」

 

(もう、また風羽ちゃんに戻ってますよ)と口の中だけで呟く。

さっき抱きしめてくれた時は名前で呼んでくれたのに。

まだ、子供扱いされているし、きっと勇気を出した言葉の真意にも気付いていないのだろう。

それは悔しいし、早く大人になりたいとも思う。

だけど、大人になった自分のことを受け入れてくれるかわからない。

だから、今はこのままで。

 

「ワンちゃん。」

「ん?何……ってえ!?な、なんでほっぺに……。」

 

軽くほっぺにキスをしただけでうろたえる仔犬。

それを見て思わず吹き出してしまう。

 

(いつかわたしを選んでくださいね。)

悪戯の成功した小悪魔のように風羽は笑った。

 

 



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希さんとの夏休み

コンバトリック&トリート!!(≧▽≦)
くーさんこと露草です。

お久です!
最近バイトや学校が忙しくなかなか書く暇も読んでる暇もありませんでした~(^^;)
なので、せっかくほぼ皆勤賞で感想書いていた某作者さんの小説にもほぼ顔を出せないという;つД`)
すこーしだけ余裕が出てきたので、ちょこちょこ更新再開しようかと(笑)
バイト中や授業中に貯めたアイデアもとい妄想もすごいことになってますし。
頻度は高くないかもしれませんが、これからも露草をよろっ!です(^◇^)

ではでは、久し振りのあのコールで始めましょうか!
紅茶の果てまで!イッテq!(※今後このコールで始まることはありません。)

あ、48話始まりまーす。


夏も終わりに近づいたある日の朝。

仔犬はいつか来た喫茶店に向かって歩いていた。

 

カランコロンと音を立てるドアを開ける。

すでに来ているらしい待ち人を探して店内を見渡すと、仔犬の姿に気付いた少女が手を振っていた。

 

「こんにちは、希さん。」

「こんにちは、雛森くん!呼び出してごめんね。あ、何か飲んでから行く?」

「いえ、希さんがよければ早速行きますか?時間もかかるみたいですし。」

「そっか。じゃあ、行こう。案内するよ。」

 

希とともに喫茶店を出て十分ちょっと。

大きなマンションが見えてきた。

 

「ここだよ。」

「ここ……ですか?」

 

予想外に大きいマンションに驚きながらオートロックの玄関を通ってエレベーターに乗る。

8階で降りてすぐの部屋、そこのインターフォンを希は押した。

だが、少し待っても誰も出てこない。

 

「あれ?留守ですか?」

「あぁ……。多分大丈夫だよ。」

 

希がそう言った後、ドアが開く。

 

「何よぉ、朝っぱらから……。朝早くにインターフォン押しちゃいけないってお母さんに教えられなかったの……。」

「もう10時だし、お母さんは同じでしょお姉ちゃん。」

「こんにちは叶さん。」

「ん、久し振り雛森くん。んで、何の用?結婚の報告?」

「違いますっ!掃除しに行くって言ったでしょ。雛森くんに手伝いをお願いしたの。」

 

中から出てきたのは、希の姉の叶だった。

ぐしゃぐしゃになったワイシャツにずれたメガネの姿で、頭を押さえ眠そうにしている。

きれいなストレートの白髪も寝ぐせで大変になっている。

そして、仄かにお酒臭い気がする。

 

「また編集部の人たちと夜中まで飲んでたんでしょ?」

「だって営業部のやつらが勝負しかけてきたから……あ、いたたっ!」

「はぁ……。取り敢えず入るよ。あ、雛森くんもどうぞ。」

「あ、はい。おじゃまします。」

 

そう言ってまだ頭を押さえる叶を放って部屋に入る希。

仔犬も遅れて部屋に入る。

マンションの外見同様中も広く、5つほどのドアが見える。

1人暮らしとしてはかなりのものだろう。

だが。

 

「うわぁ、これはひどいですね……。」

「はぁ……。春休みに帰った時片付けたのに……。」

 

リビングに入ると、中は脱ぎ捨てられたスーツや洗濯物の山、転がった大量のビール缶などかなりごちゃごちゃしていた。

その光景に驚く仔犬と呆れてため息をつく希。

 

「まあ、寝に帰ってるだけだからね~。だから仕方ないね、うん。」

 

そんな2人を見ても叶はまったく反省していない。

いつの間に持ってきたのかコップに入れた水を飲んでいる。

 

「……ごめんね、雛森くん。ここは私がやるからお姉ちゃんの仕事部屋お願いしていい?多分そっちもひどいから。お姉ちゃんもちゃんと働かないと怒るからね!」

「あ、はい。えっと叶さん案内お願いできますか?」

「うぃ~。こっちだよ。」

 

リビングを出てすぐの部屋に入る叶。

仔犬も「お邪魔します」と言い入る。

 

「あー、こっちも結構ひどいですねー。」

「まあ、ほとんど仕事で使った書類だから、適当に捨ててくれて構わないよ。」

「いや、そういうわけにはいきませんって。」

 

そう言って落ちてた丸まった紙をゴミ箱に捨てる叶。

希に厳しく言われたからか真面目にやるようだ。

仔犬もゴミ袋を広げ、わかりやすいゴミを入れる。

 

「何と言うか、叶さんって前と印象が違いますよね。」

「んー?雛森くんはどんな印象を受けたのかな?」

「えっと、仕事ができるっていうか、希さんにも厳しいお姉さんなのかなって。」

 

初めて会った時には、何となく大人という感じがした気がする。

それが今は希の方がむしろ姉のようだ。

 

「あー、それは叶さん外行きバージョンの方ね。」

「外行きバージョン?」

「ほら、さすがに仕事中にまでだらしない叶さんでいるわけにはいかないでしょ?だから仕事中は真面目な叶さんになっているというわけですよー。本来の叶さんはこんな感じです。えっへん。」

「そんなことで威張らないでくださいー。」

 

もはや呆れを通り越して笑えてくる仔犬。

どうやらこの人は生粋のダメ人間のようだ。

 

「でも、この姿を見たってことは君を信頼しているってことよ。これで希を嫁にあげるまで後1ポイントね。」

「いつからポイントなんてつけてたんですか。というか、僕も希さんもまだ結婚できないですよ。」

「それはつまり、年齢がOKならいいということかな?」

「揚げ足取らないでくださいよー。」

「……あの子結構おっぱい大きいわよ。叶さんよりは小さいけど。」

「ノーコメントですー。」

 

そんな会話しながらやること一時間。

ようやく少し片付いてきた。

 

「叶さん、このファイルってどうします?」

「あー、引き出しの3番目に放り込んでおいて。」

「はい。」

 

ファイルを持って机に近づく仔犬。

だが、机には2つ引き出しがあった。

 

「こっちかな?ん、開かない?」

 

右の方の引き出しの3番目を開けようとすると、中で引っかかっているのか開かない。

 

「ん……ん!?雛森くんそっちは開けちゃ……!?」

「へ?」

 

なぜか叶が制してきたがその前に引き出しは開いてしまった。

その途端、中から大量の紙が出てくる。

 

「あ、す、すみません!ってこれ……。」

 

慌てて拾おうとすると、その紙が何なのか気が付いた。

 

「あっちゃー。見られちったか。」

「これって……小説の原稿ですよね?」

 

中から出てきたのは原稿用紙びっしりと書かれた小説の原稿だった。

引き出しの中にも束になった原稿が大量に入っている。

そして、それはこの掃除中何度も見た字だった。

 

「それにこれって叶さんの字ですよね?」

「……ぴんぽーん。いやぁ、人に原稿見られるって恥ずかしいねー。」

 

少し頬を赤くした叶が照れたように言う。

 

「それねー、あたしが高校生の時書いてた小説なのよ。」

「叶さん小説家になりたかったんですか?」

「うん。まあ、才能なかったのか、賞に応募しても鳴かず飛ばずで。結局諦めて編集者を目指したってわけ。」

「そう……なんですか。」

「そしたら、妹は小学生であんなマンガ描けるほどの才能があってさ。だから採用通知来てた小説の出版社を蹴ってギリギリあの出版社に入ったってわけ。うまいことあの子の担当になれたし。」

「……。」

「だから、叶さんはあの子に夢を託したわけですよ。はい、そんな叶さんの物語でした。次の上映は未定でーす。」

 

けらけらと笑う叶。

その言葉からは本当にもう小説への未練はないように聞こえる。

 

「……これ読ませてもらってもいいですか?」

「んー?やめときなって。駄作も駄作。高校生の妄想だらけのつまんない小説よ。」

「構いません。読ませてください。」

「……何?あたしをバカにするつもり?駄作だって言ってるんだから返しなさいよ。」

 

明らかに不機嫌な顔になる叶。

だが、仔犬は気付いていた。

 

「この原稿用紙最近デザインが変わったみたいなんですよ。うちクラスの子が前の方がよかったってぼやいてました。」

「……。」

「これ最近書いたものですよね?」

「……はぁ、あたしもその子に一票ね。もう二度とここの文房具は買わないわ。」

 

諦めたように薄く笑う叶。

やはり仔犬の言ったことがあっていたようだ。

 

「夢を諦められないんですね。」

「そんな簡単に諦められる夢なら元から目指さないわよ。憐れだって思うでしょ?」

「そんなことないです。」

「……まあ、もう今更投稿する気も起きないし、どうせ誰もこんなの読みたいと……。」

 

僅かに目を潤ませる叶。

だが、そんな叶に仔犬はにっこりと笑った。

 

「叶さん。」

「……何?」

「読ませてくださいっていってるじゃないですか。」

「……え?」

 

驚いたように仔犬の見つめる叶。

仔犬はさらに言葉を続ける。

 

「もし投稿する気がないならそれでも構いません。でも僕は読みたいんです。波真野叶先生の小説が。」

「……。」

「もしよかったら……僕だけのために小説を書いてください。僕はちゃんと読みますから。」

 

仔犬の目をまっすぐ見る叶。

だが、不意に後ろを向いた。

後ろからなのでよくわからないが、目をごしごしとこすっているようだ。

 

「あぁ……もう!雛森くん2個訂正!」

「へ?」

「まず、1つ目!あたしの小説を君だけに読ませるなんてもったいから、あたしは100万……いや200万部売れる作家になるわ!」

「あ、はい。」

「次!あたしのペンネームはロシアン斎藤よ。本名では活動してないわ。」

「はい……ってええっ!?いや、ダサ……。」

「何か言った?」

「何でもないです!」

「ならばよし!」

 

立て続けの言葉で息切れをしたのか、ハアハアと息をする叶。

と、急に顔を近づけてきた。

 

「え?え?」

「後……これは訂正じゃなくてお願いだけど……。もしあたしが作家デビューしたら、あたしと……。」

 

叶が何かすごいことを言おうとした瞬間、ドアが開いた。

そして、エプロンをした希が入ってきた。

 

「お姉ちゃん、雛森くん。ご飯ができたよ……って、ふ、2人とも何してるの!?」

 

顔を近づけている仔犬と叶を見て顔を真っ赤にする希。

 

「ちっ……。我が妹ながら察しがいいわね。」

「えっと……叶さん?」

「まあ、いっか。さてご飯ご飯~。」

 

きょとんとしている仔犬と顔を真っ赤にした希を置いて部屋を出て行こうとする叶。

 

「ちょ、ちょっと待ってお姉ちゃん!今雛森くんに何しようとしたの!?」

「あ、仔犬くん。最近、この子花嫁修業とか言って料理の練習してるからそこそこおいしいと思うわよ。」

「さらっと何暴露してるの!?ていうか、仔犬くんって……。ねえ、掃除中に何があったの!?」

「今日のお昼はなーにかな♪」

「質問に答えて!あっ、後で雛森くんもお仕置きだからね!」

 

ぎゃあぎゃあ騒ぐ姉妹を見て、仔犬もクスッと笑う。

叶が笑顔に戻って本当によかった。

 

「仔犬くん、早くしないとハンバーグ食べちゃうよー。」

「はーい。」

 

仔犬も部屋を後にする。

できれば、希のお仕置きが軽いものならいいなと考えながら。

 




次回!新キャラあるかも!
みんなもポケモ○ゲットじゃぞ!(^◇^)
僕は、妖○ウォッチ派ですが(笑)


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学校見学

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

やっっっっっと8月編最後の話が書けました~!(≧ω≦)
中々新キャラのキャラができずに時間がかかってしまいました(^^;

これで紅茶2周目に出したいキャラの3人のうち2人が出てきました。
ってこの話あとで8月の方に挿入するつもりなので前書きが変なことになっちゃいますね(笑)

まあ、そんな細かいことは置いといて「紅茶」本当の49話!
どうぞ!(*^^*)
あっ、こんだけ時間かけてこのクオリティかよっていうのは無しね!(^^;



夏も1週間を切ったある日の朝。

仔犬は高等部の体育館にいた。

 

「ふぁ~。」

 

寮にいるのが仔犬1人のため、昨日は思わず夜更かししてしまった。

思わずあくびをしてしまう。

 

今日は学園での学校見学の日。

顔をちらっとしか見たことがない高等部や初等部の先生が前に並ぶ中、生徒会に所属するものの仕事がない仔犬は体育館の後ろの方にいた。

 

 

『――――続いて中等部会長からの挨拶です。』

 

高等部の主任先生に呼ばれ、仔犬もよく知っている先輩が一礼し壇上に立つ。

 

『こんにちは、皆さん。中等部会長の――――』

 

壇上ではきはきと話す少女を目にしながらもう一度あくびをする。

 

「どうしたんですか、仔犬くん?」

 

と、後ろから声がかけられる。

振り向くと壇上で話している彼女にそっくりな少女がにっこりと笑って立っていた。

 

「すいません、昨日実は夜更かししてしまって。」

「ふふっ、だめですよ。そんなことしてたら会長が怒りますよ。」

「それはいやですねー。」

 

小さい声で楽しそうに談笑する2人。

と、不意に仔犬が真顔になった。

 

「……それで、何で桜花さんがここにいるんですか?向日葵さんに挨拶押し付けて。」

 

そう仔犬が言った瞬間、彼女―――桜花はため息をついて顔に手を当てる。

 

「あーもー、なんでアンタはわかるのかな?」

「いや、だからわかりますって。」

「言っておくけど、ここにいる中で入れ替わりに気付いてるの私と向日葵とアンタだけよ。」

 

ジト目で仔犬を睨む桜花だが、当然のことだと思っている仔犬にはどうすることもできない。

 

「そ、それで何で桜花さんはここにいるんですか?」

「私は堅苦しいの嫌いだから。あーゆーのはヒマに任せておけばいいのよ。」

「えっと、つまりめんどくさいってことですよね?」

「……うっさいバカ。」

 

目を反らす桜花。

それが可愛らしくて思わずクスッと笑ってしまう。

 

『――――ではこれから高等部、中等部、初等部に分かれて学校見学を行います。』

 

いつの間にか、向日葵の挨拶も終わっていて仔犬も知ってる中等部の主任先生が締めをしていた。

 

「さて、お仕事ですよ雛森書記。私も行ってきますね。」

 

礼儀正しいいつもの姿に戻した桜花は、中等部見学者の元に歩いていく。

と、仔犬のもとにさっきまで壇上に立っていた向日葵が近づいてきた。

 

「仔犬くん申し訳ないですがこの書類を高等部の生徒会室に置いてきていただけませんか?思ったよりも時間が押してしまい行けなさそうなので」

「生徒会室ですね?もちろん構いませんよ。」

 

書記として学校見学会に参加しているものの、まだ1年生の仔犬には仕事はない。

桜花からは、見回りをしながら迷子になっている生徒や、何か聞かれた時に対応するように言われているもののそうそう仕事は無いだろう。

 

向日葵と別れて10分後、仔犬は高等部生徒会室を目指して歩いていた。

と、体育館から仔犬の後ろをこっそり付けていた少女がいた。

だが、仔犬は全く気付いていない。

 

「わっ!!」

「うわぁ!?」

 

ドアを開けようとした途端、後ろから大きな声をかけられ仔犬は思わず腰を抜かしてしまった。

仔犬の手から舞ったプリントが床にばら撒かれる。

 

「な、何!?」

「あっちゃ~。ごめんねお兄さん、ちょっとやりすぎちゃった。」

 

その声に振り向くと、両手を前に合わせて謝る少女がいた。

タンクトップに短パンの快活そうな少女だ。

小柄な体を見るに学校見学に来た小学生だろう。

 

 

「えっと君は?」

「その前にプリント片付けようよ。ボクも手伝うからさ。」

「あ、うん。」

 

そう言って床に散らばったプリントを拾い集める少女。

そんな様子を見て不思議と仔犬も落ち着いてきた。

プリントを集めた少女は仔犬が開けた生徒会室に入ろうとする。

 

「あっ、部外者は……。」

「固いこと言わない、言わない。」

 

仔犬の制止を無視して中に入ってしまう。

仕方なく仔犬も中に入る。

高等部の生徒会室は中等部のとほとんど変わらなかった。

プリントを置いて、うろちょろしていた少女に声をかける。

 

「えっと、きみ?」

「…ん?ボクのこと?」

 

なんて呼んだらいいかわからず、変な呼び方をしてしまう。

少女は一拍遅れて反応する。

 

「あ、うん。そろそろ戻ろうか。」

「えーもう?」

 

少女は不満そうだが、そのうち誰かが彼女を探しに来てしまう。

と、誰かが生徒会室のドアを叩く。

 

「失礼します。仔犬くんいますか?」

 

中に入ってきたのは向日葵だった。

 

「向日葵さん?」

「あっ、仔犬くん大変です~!1人中等部の見学の方がいなくなってしまって。」

「それってボクのこと?」

 

向日葵の話に割り込むように少女が口を開く。

 

「ああ、よかったです~。仔犬くんが保護していてくれたのですね。ありがとうございます。」

「ああ、いえ。」

 

何もしていないのにお礼を言われて戸惑ってしまう。

と、少女はニコッと笑って仔犬の方を向いた。

 

「お兄さん色々ありがとね!お礼にボクの名前を教えてあげる!」

 

そう言って何かのポーズを決める。

 

風間 未来(かざま みらい)!お兄さんの婚約者だよ!」

 

そして、少女───未来は衝撃的なことを言った。

その言葉に仔犬も向日葵も固まる。

 

「来年からよろしくねっ!お兄……じゃなくて、せーんぱいっ♪」

 

そう言い残して生徒会室を出ていく。

ギギギと音が聞こえそうなほどぎこちなく、仔犬のほうを見る向日葵。

 

「……仔犬くん、後で詳しい話聞かせてくださいね♪」

 

仔犬はそこからしばらくの間動けなかった。

 

帰りの車の中。

後ろの席に座った未来がイヤホンで音楽を聴いていた。

いつもより数倍楽しそうな未来を見て運転手が話しかける。

 

「お嬢様いかがでしたか?」

 

その言葉を聞き、にっこり笑う未来。

 

「うん、何かいい人っぽかったよ。それに写真で見るより全然カッコよかった!」

 

そして、照れたように笑った。

お見合い写真を見た時はぼんやりした気持ちだったが、今確信した。

 

「何だか好きになっちゃったかも♪」

 



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あるかもしれない未来~My princesses!~

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

お久もお久!大お久ですよ!!(;^ω^)
年末なのにまだ9月の話という状態から抜け出すためにちょっち頑張ろうと思う露草さんです(^^♪

今回は特別回と称しまして本編とはまた違う未来の話にしようと思います。
といいますのもですね~、この「紅茶」は10話で1ヶ月の時間軸なのですが、各10話目は「あるかもしれない未来シリーズ」という甘々な恋愛模様を書こうかと思ってます。
もし好評であれば次の9月編でも書こうと思いますが、いかがでしょう?(^^)

では、記念すべき50話どうぞ!
初回は、風鈴ちゃん!


あたたかな春のある日。

仔犬は、お腹に重さを感じて目を覚ました。

 

「あっ、パパおはよっ!!」

「……おはよう風里(かざり)。重いから降りてくれるとうれしいな」

「は~い!」

 

ぴょんとベッドから飛び降りる娘を横目に時計を手に取る。

 

「まだ5時30分……」

 

仔犬がかけたアラームまでまだ1時間以上ある。

軽く風里を睨むと、にぱっと笑い返してきた。

その悪気の一切ない笑顔にため息をついて諦める。

 

「パパ!今日なんの日か知ってる?」

「はいはい……風里」

 

にこにこ笑う娘に仔犬も笑う。

何て言ったって今日は。

 

「誕生日おめでとう」

「えへへ、ありがとう♪」

 

彼女の誕生日なのだから。

 

 

火を点けたフライパンに溶いた卵とベーコンを入れて焼く。

ダイニングテーブルにできたものを並べる頃、母親を起こしに行った娘の声と階段を降りる2つの足音が聞こえてきた。

 

「ほら、ママ!ごはんもうできるよ!」

「勘弁してくれよ……。まだ6時だぞ……」

 

元気よく母親の手を引っ張る娘と半分寝ているような声を出すその母親が台所に入ってきた。

その様子を見て思わず苦笑してしまう。

 

「おはよう、風鈴ちゃん」

「おはようじゃねーよ……。こっちは昨日遅くまで仕事してたんだぞ……。」

 

あくびをしながら仔犬を睨む彼の妻で風里の母親の風鈴。

その姿は、7歳になる娘がいるのかと疑うほど小柄だ。

というか幼い。

大学を卒業して8年も経つというのに、その姿は彼が知っている高校2年生の頃とほとんど変わらない。

 

「えっと、お疲れさま……なのかな?ごはん食べれる?」

「……食べるけど」

 

纏わりついてくる娘を軽くあしらいながら席に座る。

仔犬も粗方用意を終え席に着く。

 

「ほら、風里。ごはんだから席に着きなさい」

「は~い」

 

元気だが、しっかりと言うことを聞く風里の頭を軽く撫で、手を合わせる。

 

「じゃあ、いただきます」

「「いただきます」」

 

3人そろって挨拶した後、食事に手を付ける。

3人暮らしになってからは、風鈴の仕事がある日はごはん、休みの日はパンとなっている。

もちろん用意するのは、主夫の仔犬だ。

 

「ママ!きょうはかざりのたんじょうびだよ!」

「知ってる。だからさっきおめでとうって言っただろ」

「もー!それだけじゃやだ!」

「じゃあ、商品券やるよ。昨日うちの部下からもらったから」

「さすがに7歳の子に商品券はないと思うよ、風鈴ちゃん」

 

子供がいるからか食事の時間はまあまあ賑やかだ。

思わず、寮にいた頃のことを思い出す。

 

「パパどのー!かざりはゆうえんちをしょもーします!」

「遊園地?僕は構わないけど、風鈴ちゃんは?」

 

仔犬は風鈴に顔を向ける。

うつらうつらしながらパンをはむはむと噛んでいた風鈴は、あくびをして答える。

 

「別にいいけどさー、コイツがいける遊園地なんてあるのか?こんなチビじゃ何も乗れないだろ?」

「むー、ママだってちびっこじゃん!」

「おまえよりはデカいっつーの」

「まあまあ。そこは多分大丈夫だと思うよ」

 

仔犬は中学の時、風羽と行った遊園地を頭に浮かべる。

ここからじゃ少し距離があるものの、あそこなら風里の身長でも大丈夫だろう。

 

「じゃあ行こうか、遊園地」

「ホント!?ぱぱだーいすき」

「おまえは相変わらずコイツに甘いな……」

 

時間は朝6時30分。

雛森風里の誕生日はまだ始まったばかりだ。

 

 

「わあ~!!パパいっぱい乗り物があるよ!」

「あっ、勝手に行ったらダメだよ!」

 

嬉しそうに飛び回る風里。

その様子を見ただけで連れてきた甲斐がある。

 

「ふ~ん、よくこんな遊園地あるの知ってたな」

 

移動中に軽く寝たおかげか、軽いあくび一つだけで仔犬に近づいてくる風鈴。

 

「昔よく行っていたところなんだ。前、風羽ちゃんとも来たことあるよ」

「ほぉ~、妻の前で浮気自慢とは勇気あるな」

「違うって!中学の時の話だよ!」

「……まあ、おまえは私にメロメロだもんな」

「はいはい、メロメロですよ……」

 

普段の仕事に加え、次期社長のための研修が忙しく、最近あまり話せなかったためか、いつも以上に仔犬をからかってくる。

最も、仔犬がメロメロだと言った時には仄かに顔を赤くしていたが。

と、不意に2人手が引っ張られる。

 

「もー!パパもママも2人でしゃべってないでよ!今日はふうりの日だよ!」

「ごめんごめん」

「ダメですー!罰としてパパはふうりとメリーゴーランド乗ること!」

「え!?さすがにあの子供向けのメリーゴーランドは恥ずかしいんだけど……」

「よし、私がビデオ撮ってやるから行ってこい」

「よろしくママ!」

 

メリーゴーランドに引っ張られていく夫を見ながら、にやりといたずらっぽく笑う。

 

「さてと、久し振りの家族サービスと行くかな」

 

そう言って2人を追いかけて歩いて行った。

 

 

「くぅ……くぅ……」

「すっかり疲れて寝ちゃったな」

「あはは、そうだね」

 

仔犬に背負われた娘を見ながら2人で笑いあう。

あれから遊び続け、時間はすでに夕方。

後1時間もすれば閉館の時間だ。

と、目の前にベンチを見つける。

 

「ちょっと座ろうか?」

「ん」

 

園内の小さな池のそばのベンチに座る。

眠り続けている娘は膝の上に乗せる。

 

「今日はありがとね。風里すごく楽しそうだった」

 

膝の上の娘をなでながら風鈴に言う。

風里はくすぐったそうに微かに笑みを作る。

 

「別に私も楽しかったしな。それに……あんまりコイツに構ってあげられてないからな。忘れられたら困る」

 

ふにーっと愛娘のほっぺを軽く引っ張る風鈴。

母親譲りのぷにぷにほっぺをいじられ風里はわずかに顔をしかめる。

そんな姿も可愛くて仔犬もまたつい笑みがこぼれる。

 

「ふふっ、そうだね。もしかしたら風羽ちゃんの方が家にいるかも」

「まあ、いつの間にか旦那と娘が妹に取られていたら負けた気がして悔しいし、もう少し帰るようにしないとな」

「風羽ちゃんはそんなことしないって」

「ん?だってアイツは今でも……ってそういえば鈍感だっけなおまえ」

 

呆れたようにため息をつく風鈴。

こんな様子では、きっと気づいていないだろう。

20歳を超えさらに可愛くなった妹が義兄である仔犬を奪い取ろうと虎視眈々と狙っていることに。

 

「あ、そうだ」

「ん?」

 

横に置いてあったカバンを手に取る仔犬。

そして中から1個の箱を取り出した。

そしてそれを風鈴に差し出す。

 

「誕生日おめでとう、風鈴ちゃん」

「……おまえな、30歳の誕生日がめでたいわけないだろ」

 

軽く睨みながら箱を受け取る風鈴。

そう、今日は風里の誕生日でもあり、風鈴の誕生日でもあったのだ。

最も、7年前に風里が生まれてからは、風鈴自ら風里メインの誕生日にするようになったが。

それでも毎年プレゼントをくれる仔犬は優しいというか、律儀というかという感じだ。

 

「……ネックレス」

「この前、可愛いの見つけたんだ。ちなみにこの子がね」

「……ありがとな仔犬。風里もな」

 

ガシガシと雑に風里の頭を撫でる。

と、風鈴が不意に仔犬の顔を見た。

だが、なぜか顔を赤くし目を泳がしている。

 

「……その、さ」

「うん?」

「もうひとつプレゼントもらっていいか?」

「え?えっと、これしか用意してないけど。ケーキなら家だし」

 

仔犬は風鈴の様子が変なことには気づいているが、なぜかはわからない。

 

「そうじゃなくて……その久しぶりにさ……ち、チューとかさ……?」

「……へ?」

 

思わぬ言葉にまぬけな声が出てしまう。

と、言葉の意味が分かり、なぜ風鈴の顔が真っ赤なのかも気づいた。

 

「あ……うん……。チューだよね……?」

「い、いやならいいけど……」

「ううん、いやじゃないよ!」

 

不安げな表情に慌てて首を振る。

 

「じゃあ……ん。」

 

目をつぶり、少し唇を突き出す風鈴。

完全にキス待ちの顔だ。

 

「う、うんわかった……。」

 

顔を近づける仔犬。

何度もしているのになぜか自分まで顔が赤くなってくる。

そして。

 

「ん」

 

軽く触れるようなキス。

10秒ほどで離れる。

 

「えっと、これでいいかな?」

「いや、もっとしてほ……うあ!?お前いつから!?」

 

トロンとした顔をしていた風鈴がぎょっとした顔をする。

風鈴の目線を追うとそこには。

 

「じー」

 

顔を仄かに赤くし、ぼおーっとしている風里がいた。

 

「か、風里!?いつから起きてたの!?」

「ママとパパがちゅーしてたときからだよ~」

 

いたずらっぽく笑う風里。

まだ少し顔が赤いが。

 

「パパ!かざりにもプレゼントちょうだい!」

「だ、だめだ!このプレゼントは私専用だ!」

「えー!?ママばっかりずるい!かざりもパパとちゅーしたい!」

「ち、ちゅーとか言うな!恥ずかしいだろ!」

 

同レベルで争う母子とそれに苦笑する父親。

誕生日終了まで後5時間。

家に帰ってからが大変だなぁと思う仔犬だった。




ちなみに風鈴も「かざり」なんですよね~。
まあ、あだ名であまり呼ばれない子なので初回のフリガナ以来出番はなかなかありませんが(笑)

次回は9月編……と言いたいのですが、実は8月編はまだ1話足りなくて……(^^;
新ヒロインも出るので水曜日までにはあげないなーって思ってたりいなかったり(笑)

では、次回もよろっ!です。
あ、ちゃんと続けるので感想・評価もよろっ!です(^ω^)


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仔犬、怒る?

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

今更ですが、あおこそですっ!(≧ω≦)
あおこそは、あけおめことよろをさらに略した画期的な挨拶です(笑)
今年も紅茶含め、橘田の小説をよろっ!です。

前回8月の話が1話足りないと言いましたが、なかなか難産でして……。
まあ、すぐには本編にも絡まないというわけで書けるまではちょっと待ってお兄さん状態です。
8.6秒バズーカーには今年も頑張って生き残って欲しいなと思います(笑)

では、紅茶51話どうぞ!(^^)


ある日の夕方。

風鈴はソファに座って漫画を読んでいた。

だが、さっきから10分近く以上たつのに1ページも進んでいない。

風鈴の視線は台所にいる仔犬に向いていた。

 

「おい、ワンコ。」

 

風鈴がそう声をかける。

仔犬は一瞬反応をし、こっちを向いたがすぐに顔を戻してしまう。

さっきからこの繰り返しだ。

風鈴がいつものように「ただいま」と声を掛けた時も、さっきのように呼んだ時も一瞬風鈴の方を見るもののなぜか無視されてしまう。

風鈴は集中できなくなった漫画を閉じ、台所にいる仔犬のもとに向かった。

 

「なぁ、ワンコ。」

 

また無視。

一瞬反応するので聞こえてないわけではないだろう。

何かしてしまったのかと思ったが、そもそも朝いつも通り朝食を食べ登校した後はさっきまで会っていなかったのだ。

 

「おい、なんで無視してんだよ。私が何かしたか?」

 

理由がわからず思わず語気を荒げてしまう。

仔犬はさっきよりも大きくビクッとしたが、やはり無視だ。

と、コンロの火を止め、仔犬がこちらを向いた。

 

「……寮長にはわかりませんよ。」

 

そう呟き仔犬は行ってしまった。

明らかな拒否反応に「どういう意味だよ」と聞くこともできず風鈴は固まってしまった。

 

「ただいま、ワンコくん頼まれたものを買ってきたよ。」

「ただいま帰りました~。」

 

と、リビングに買い物袋を提げた御籤と風羽が入ってきた。

どうやら仔犬から買い物を頼まれたようだ。

 

「ん?どうしたんだい風鈴?」

 

反応のない風鈴に怪訝な顔をする御籤。

 

「かざ………泣いているのかい?」

「み、ミク……。」

 

泣きながら風鈴は御籤に抱き着いてきた。

 

「ね、姉さまどうしたんですか~!?どこか痛いんですか~?」

 

いきなり泣き出した風鈴に慌てる風羽。

御籤は風鈴の背中を優しく撫でる。

 

「何があったのかな?」

「うっうっ……ワンコのやつがわたしを無視した……わたしアイツに嫌われたのかも……。」

 

御籤の優しい言葉に泣きながら答える風鈴。

 

「落ち着いて。ゆっくりでいいから何があったのか話してごらん。」

 

風鈴は時々嗚咽を混ぜながらさっきまでのことを話した。

聞き終えた後、御籤は小さくため息をついた。

 

「なるほど……。状況は呑み込めたよ。そして原因もね。」

「えっ、御籤さん何でワンちゃんが怒っているのかわかったんですか~?」

 

もしものためと救急箱を持ってきた風羽が御籤に尋ねる。

御籤は困ったように小さく笑った。

 

「この間似たようなことがあっただろう?」

「似たようなこと……ですか~?」

「ほら、この前風羽くんが大号泣した。」

「あっ!ということは……。」

「おそらく間違いないだろう。急なワンコくんの態度の豹変にも頷ける。実際に私も受けたしね。」

 

御籤の話で風羽にも心当たりがあったのか、御籤と同じように困った笑顔をした。

 

「……ミク、原因ってなんだよ?やっぱりアイツ私が嫌いになったのか?」

 

少し落ち着いたのかいつもの様子に少しだけ戻った風鈴が尋ねる。

だが、嫌いという言葉でさっきまでのことを思い出しまた涙腺が潤みそうになる。

 

「ん、それは違うよ。原因はワンコくん……っていうのも少し違うかもしれないね。でも少なくともワンコくんは風鈴を嫌ってはいないよ。」

「ほ、ホントか?」

 

まだ不安そうな顔でそう言う風鈴。

 

「ワンコくんの部屋に行ってみたらどうかな?きっと彼も事情を話してくれると思うよ。」

「……うん。」

 

御籤から離れて廊下につながるドアを開ける。

部屋のある2階へ上ったその時。

 

「あっ。」

 

部屋から仔犬が出てきた。

ゆっくり風鈴の方へ向かってくる。

 

「ワン「寮長、ごめんなさい!」」

 

風鈴が何か言おうとした途端、仔犬が勢いよく頭を下げそれを遮った。

 

「無視してごめんなさい!なかなか心の整理がつかなくて……。」

 

必死に謝る仔犬。

なぜ無視されたのか、そして謝っているのかわからないが、嫌われてはいないようだ。

と、その瞬間さっきまで止まっていた涙があふれ出す。

 

「……バカワンコ。私嫌われたのかと思ったんだぞ……。」

「寮長を嫌いになることなんてありませんよ。そりゃグリグリとかはやめて欲しいですけど……。」

「うるさいっ!おまえは100グリグリの刑だ!」

 

仔犬に飛び掛かる風鈴。

 

「え、ちょ、やめ!痛い痛い!寮長やめてください。」

 

そして5分後、100グリグリの刑を終えた風鈴はいつもの姿に完全に戻っていた。

頭を押さえてうずくまる仔犬をジト目で睨む。

 

「で、何で無視してたんだよ。」

「痛た……。実は今日生徒会の用事で高等部に用があって行ったんです。」

 

若干涙目になりながら仔犬が話す。

 

「2年生の教室のところを通った時、寮長の姿が見えたんですよ。」

「そりゃ私は高等部2年だからな。」

「その時、クラスの男子の先輩と話しているのを見て……その何か嫌な気持ちになっちゃって。」

「嫌な気持ち?」

 

よく意味がわからず尋ねる風鈴に、言いにくそうに仔犬が言う。

 

「僕の知らない高等部での姿をクラスの人たちは知っているんだなぁって思って。そしたら寮長と話しづらくなってしまったんです。」

「はぁ?全然わかんねーよ。どういう意味だよ?」

「僕だってわかりませんよー。この前、御籤さんが告白されていたのを見ちゃったり、風羽ちゃんが男の子たちと遊んでいる時にも同じ気持ちになって。2人に聞いてみたんですけど、御籤さんにははぐらかされてしまいましたし、風羽ちゃんはわかんないみたいで。」

 

話はわかったものの風鈴も仔犬自身も意味が分からなければ意味がない。

ふと、風鈴が気付く。

 

「ていうか、その理屈だとおまえもこの寮での私の姿を知ってるんじゃないか?」

「あっ。」

 

今更気付いたようで、困ったように笑う仔犬。

風鈴も呆れた顔をするが、ばからしくなって笑えてきた。

 

「あーもうやめだ。ほらメシにするぞ!」

「あ、寮長。さっきのことホントに……。」

「いいから忘れろ!……泣いたの恥ずかしいし、私も忘れるから。」

「ご、ごめんなさい……。」

「もういいって言ってるだろ。しつこいからおまえ今日ごはんだけな。」

「え!?ちょっと待ってくださいよ、寮長!?」

 

階段を下りていく仔犬と風鈴。

仔犬が気付くのはまだまだ先。




宣伝ですが、最近新作の「神戸蛍の日常的すぎる毎日」の投稿を始めました。
定期試験が近くなかなか更新できないかもしれませんが、読んでいただけたらと思います。
他の2つもちゃんと更新する気はあるので、大丈夫ですよ~(笑)


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仔犬のペット

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

急に寒くなってきましたね~。
皆様お風邪を引いてはございませんでしょうか?と、丁寧に言ってみました(笑)
僕は毎年インフルやってるんですよね。
でも注射はしない!怖いから!
ともあれ、体調にはお気を付けくださいです♪(^^)

では、紅茶52話どうぞ!(^ω^)




夏の暑さが残るある日の休日。

仔犬たちがリビングでのんびりと過ごしていると、突然、風鈴が口を開いた。

 

「おまえって希に懐かれているよな。」

「……へ?」

 

誰に言っているのだろうと、思わず仔犬が顔を上げる。

風鈴は仔犬をじっと見ていた。

 

「えっと、僕ですか?」

「お前以外に誰がいるんだよ。」

「えっと、風羽ちゃんとか?」

 

最年少で元気な風羽と物静かで控えめな希は意外と仲がいい。

そう思って言ってみたのだが。

 

「風羽もだけどよ、おまえがダントツだろ。」

「そうなんですかねー?」

「おまえ気づいてないかもしれないけどな、アイツいつもおまえの右側に座るんだよ。」

「そうなんですか?」

 

それは気づかなかった。

そういえば、ご飯の時も、希の部屋にいる時も、このリビングでのんびりしている時も希の定位置は右側の席だ。

偶然だと思って気にも留めてなかった。

 

「ほら、おまえに懐いてるだろ。」

「というか、その懐いてるってやめてくださいよー。何かペットみたいです。」

「なーミク!おまえは何か無いのか?アイツが懐いてるって情報。」

 

仔犬の言葉を無視して、御籤に話しかける。

御籤は読んでいた英語で書かれたタイトルすらわからない本を閉じた。

 

「ふむ、主観的な観測になるけど、希くんが名前を呼ぶのは、ワンコくんが8割、風羽くんが1割9分、残りの1分を風鈴と私が分け合うというように思えるね。」

「あんましゃべんないしなー。別に仲悪いわけじゃないから安心しろよ、ワンコ。」

「あ、はい。」

 

最後のは仔犬に気を使ったのか、風鈴が付け加える。

それにしてもこれも意外な情報だった。

同じ中学の先輩後輩という以外にも漫画家と手伝いという関係でもあるからだろうか。

 

「後は、咄嗟の時にワンコくんに頼るような印象を受けるね。それが彼に解決できるかを度外視にして。」

「あー、よく見るなそれ。さすがに中二の問題を後輩に聞いてもわかるわけないのにな。」

 

確かに授業でわからないことがあるとすぐに仔犬の部屋を訪ねてくる気がする。

希のは特別に難易度を下げてあるようなので仔犬も何とか解けるが、たまにわからなくて御籤に聞いてしまう。

 

「ほら、やっぱりあいつお前に懐いてんじゃん。」

「そう……なんですかね?」

 

だんだんそんな気がしてきた。

と、リビングのドアが開いた。

そしておぼんを持った風羽が入ってきた。

 

「お茶淹れてきましたよ~。」

「あっ、ありがとう風羽ちゃん。おぼん貰うよ。」

「ありがとうございます~。」

 

風羽からお茶の載ったおぼんを受け取り、お茶を配る。

一口飲むと、甘い香りと仄かな苦みがした。

相変わらず風羽の淹れるお茶はおいしい。

 

「なあ、風羽。おまえは希がワンコに懐いてるって話何かないか?」

「ちょ、風羽ちゃんにも聞くんですか?」

「当たり前だろ。で、どうなんだ風羽。」

 

風羽は少しの間きょとんとした後、またいつもの笑顔になった。

 

「希さんとワンちゃん仲良しですよね~。」

 

天使はいつでも天使だった。

 

「そーゆーんじゃなくて、コイツらがいちゃいちゃしてた情報だよ。」

「いちゃいちゃはしてませんよー。」

「う~ん、そうですね~。」

 

風羽はちょっと考えた後、ぽんっと手を打った。

 

「あっ、昨日わたしが帰った時、ワンちゃんが希さんにお菓子をあーんしていました。」

「ぶっ!?」

 

風羽の言葉に思わず、吹き出す仔犬。

にやにやと風鈴がこっちを見てくる。

 

「おまえ何寮でいちゃいちゃしてんだよ。」

「いちゃいちゃはしてませんって!あの時は希さんが体育で手を痛めたって言ってたので、あーんしてあげただけですよ!」

 

慌てて弁解する。

というか見られていたのか。

 

「そうだったんですか~。」

「ま、そんなことだろーな。」

「ふむ……、そういったやり方もあるんだね。」

 

反応は三者三様。

だが、とりあえず信じてもらえたようだ。

そういえば、あの後夕食では普通に箸を使っていたが治ったのだろうか。

 

「やっぱりアイツはおまえに懐いてるだろ。アレだな、ご主人様とペットの主従関係ってやつだな。」

「何か変な関係みたいなのでやめてくださいー。」

 

そういう言い方をされると、別の意味に聞こえてしまう。

 

「は?何で変な関係なんだよ。」

 

意味が分かっていないのか、風鈴は首を傾げる。

御籤はわかったのか仄かに顔を赤らめ、風羽はいつも通りにこにこしてる。

 

「というわけでだ!」

 

風鈴が突然大声を出す。

 

「今日から私たちにもあーんするように!」

「へ?」

 

突然の宣言に理解が追い付かない。

 

「ふむ、これはまたローテーションを決めないといけないね。」

「じゃあ、後でお菓子作っておきますね~。」

 

あっちはあっちで勝手に決められていた。

 

「ただいま……ってどうかしたんですか……?」

 

学校の保健室に行っていた希が帰ってきた。

 

「あ、希さんおかえりなさい。手大丈夫でしたか?」

「あ、うん。異常なかったよ。あ、でも。」

 

希が仔犬に近づいてくる。

仄かに顔が赤い気がするのは気のせいだろうか。

 

「まだちょっとだけ手が痛いからまたあーんして欲しいな……?」

 

結局、今日は初回ということで全員にあーんすることになった。

夕飯がいつもの2倍近く掛かったのは言うまでもなかった。

 




あーんしたいよぉぉぉぉぉぉ~!!
なんで仔犬くんはできて僕はできないんですか~!
募集しますか!?感想欄で疑似あーんでもやりますか!?(暴走中
……失礼心の声が出てしまいました(^^;

次回は生徒会のお二人ですかね~。
今回があーんだけに、類斗くんとのアッー!も面白そうですが(笑)
どちらになるか予想してみてください♪(^^)
目標は明日ですが、さてどうなるでしょう?(不敵な笑み

次回もよろしくお願いします(^ω^)


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双子の勝負

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

寒いですね~。
何か前回も同じようなこと言った気がしますけど気にしない!ドラゲナイ!

そういえば、バレンタインまで後1か月もうないんですよね~。
さて、15日の半額チョコを買い占めましょうかね(笑)
私、超甘党ですので~♪

今日は最後にお知らせがあります。
なので、最後まで見ていただけたら~です(笑)

では、紅茶53話どうぞ!(*^ω^*)



ある日の放課後。

仔犬は生徒会室で作業をしていた。

 

「うしっ、これで終わり!」

 

仔犬の隣の席でパソコンで書類作成をしていた類斗が印刷ボタンを押す。

コピー機から出てきたプリントにミスがないか確認し、近くにいた仔犬に声を掛ける。

 

「ヒナー、何か手伝うことあるか?」

「ん、大丈夫。僕も終わったよ」

 

仔犬も書き終えた書類から顔を上げる。

10月にある文化祭と体育祭のために放課後に毎日籠って5日間。

ようやく全部終わったのだ。

 

「会長、副会長ー!そっちはどうっすかー?」

 

類斗が残りの2人を呼ぶ。

そこまで広くない生徒会室で大声を出す必要はないのだが、運動部ゆえか。

 

「こちらも終わりましたよ。後、花沢くんはもう少し静かにしてください」

「こちらもですよ。花沢くんはまだ元気なようですが」

「俺多分ヒナの3倍は作業したんですけど!?もう少し労わってくれませんかね!?」

「雛森さん、お疲れさまでした」

「寮のことも忙しいのにごめんなさい」

「いえ、大丈夫ですよ」

「……生徒会でいじめが発生してる」

 

いつも通り類斗がいじられる。

前までは結構堅苦しい場だったのだが、今は仔犬たちの教室のように賑やかだ。

 

「じゃあ、俺この書類提出してきます」

「ええ、そのまま部活に出ていただいても構いませんよ」

「了解っすー!じゃあ、また明日なヒナ!」

「うん、また明日」

 

ひらひらと手を振って類斗が生徒会室を出ていく。

その1分後、副会長席に座っていた桜花が顔を机につける。

仔犬は既に気づいていたが、また席を入れ替えていたのだ。

 

「あー、やっと終わった~!!」

 

ここ5日間ずっと作業していたため、喜びも大きいのだろう。

久し振りに笑顔が見える。

 

「書類に不備もないですし、後は当日で十分だと思いますよぉ」

 

書類を確認していた向日葵がそう答える。

彼女はいつもと変わらず疲れも出さない。

 

「よし、祝杯をあげましょ!ひま、とっておきのお菓子とお茶を出してきて!」

「仕方ないですねぇ。仔犬くんあんこは大丈夫ですか?」

「あ、はい。大丈夫です。」

 

戸棚の奥から茶筒と四角い箱を取り出す向日葵。

箱には、「羊羹」と書かれていた。

 

「おいしいのよ、ここの羊羹」

「それだけに私たちもあまり食べられないんですよぉ~。」

 

桜花と向日葵の家はそれなりに大きい家と聞いている。

そんな2人がなかなか食べられないならば、すごい高級品なのだろう。

 

「それにしても花沢は面白いね~。いじりがあるよ」

「もう、桜花。あまりふざけたら花沢くんがかわいそうですよぉ」

「ひまだってやったじゃん」

「仕方なくです~」

 

姉妹が楽しそうに談笑するのを見ているとふと気が付いた。

 

「そういえば最近生徒会室でも普段の口調になったんですねー」

 

以前は生徒会室では苗字に役職やきっちりとした敬語といった少し固い感じだった。

それが今では普段の姿を出している。

 

「ん~、だってアンタの前じゃ真似しててもしょうがないし、約束も果たせたしね」

「約束?」

「前会長とやったトランプの罰ゲームですよぉ~。1年間生徒会室では反町さんの真似をするという」

 

疑問を浮かべる仔犬に向日葵が説明する。

どうやらその罰ゲームの1年間というのが夏休みに過ぎたようだ。

ちなみに反町さんというのは、姉妹の家の執事らしいが、仔犬は会ったことがないので性別すら知らない。

 

「あっ、しまった忘れてた」

「どうしましたか、桜花?」

 

手を顔に当てる桜花。

一体どうしたのだろう。

 

「体育祭の生徒会チームの組み合わせまだやってなかった」

「そういえば後回しにして忘れてましたねぇ~」

 

仔犬も思い出した。

仔犬たちの学園では文化祭を4日、体育祭を2日かけてやるのだ。

初等部、中等部、高等部と、生徒が多いため普通より期間が長い。

 

「生徒会チームって部活ごとのやつですよね?」

 

学年・クラス関係なく、部活別でやる競技がいくつかある。

中等部以上なので、去年まで初等部だった仔犬はよく知らないのだが。

 

「ん、そう。別に勝っても負けても何もないけどね。あーでも、花沢はサッカー部優先か」

 

そう言って桜花はまだ白紙のプリントを出す。

競技別に出る選手を書いて提出するのだ。

 

「部活対抗リレーはとも棄権かしら」

「人数足りないから仕方ないですねぇ~」

 

生徒会は男女合わせても4人しかいない。

本来は5人なのだが、会計が空席のため1人足りない。

 

「あ、仔犬」

「はい?」

 

不意に桜花から声を掛けられた。

 

「男女混合2人3脚はあたしとアンタだから」

「あ、はい」

 

仔犬としては別に出たい競技もないので勝手に決めてもらった方がいい。

運動は嫌いではないが、運動会がめんどくさいことには変わりないのだ。

 

「桜花ちょっと待ってください~」

 

と、そこまで黙って見ていた向日葵が口を開く。

 

「ほらここ。桜花はその前の中等部選抜リレーでアンカーですよねぇ。私が2人3脚代わりますよぉ~」

 

にっこりとアドバイスする向日葵。

だが、どこかその笑顔は笑っていない気がした。

 

「あたしは体力あるから大丈夫よ。それにアンタだって出るじゃない」

「私が走るのは最初の方ですから~」

 

どっちも譲らない様子に仔犬は不思議そうな顔をする。

というか、男女混合なら別に仔犬と類との組み合わせでも構わないと思うのだが。

と、桜花がニヤリと笑う。

 

「2人3脚の後って中等部副会長が壇上に立つ予定よね?準備があるから出れないはずよ」

 

勝利の笑みを浮かべる桜花。

だが、向日葵もまた笑っていた。

 

「あっ、それは桜花が出てください♪」

「はぁ!?」

 

向日葵の言葉に驚く桜花。

無理もない。今まで向日葵が自分の仕事をサボったことなどないからだ。

 

「ちょ、ちょっとそれは副会長の仕事って……」

「いつも妹に押し付けてるくせにですか~?ひどいお姉ちゃんですねぇ~」

 

そう言われたら桜花は言い返せない。

いつも押し付けていたツケが回ったのだ。

 

「というわけで~仔犬くん」

「……あ、はい?」

 

よくわからない勝負をする2人をぼーっと見ていた仔犬。

そのせいで反応が遅れる。

 

「2人3脚頑張りましょうね♪」

 

にこにこ満面の笑みを浮かべる妹と机に顔をつけてうなだれる姉。

向日葵の完全勝利だった。

 




というわけで、お知らせです。

新作……とはちょっと違うのですが、サークルの一環で小説を書いてみるってなったらしいです(笑)
もう1月以上前なので終わってるかもですが、まあ書いてみようと思います。

キャラ設定、舞台は、なろうやピクシブの方で書いている「高階珠璃」さんという方が考えてくれました~。
珠璃さんも同タイトルで書いてるみたいです。
なので、そちらもチェックです!
あ、これ宣伝じゃないですからね~(^^;

そしてタイトルですが……
「ブラッドロード」といいます。
バトルものでして、露草小説の例に漏れず恋愛&ハーレム要素ありです(笑)
それに加えて僕の小説である「情報屋家業は幼女とともに」の設定を交えた感じを構想しています。

早ければ明日21時、できているところまで投稿します。
一応、「紅茶」がメインなので不定期更新となると思います。


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無口な少女

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

今回は拙僧の新作である「ブラッドロード」との同時投稿です。
もし、ご覧になってない方は読んでみてください(*^^*)
あ、宣伝じゃないですからね~(^^;

それにしても僕は明日テストにも関わらず何してるんでしょうね~?(^ω^;)
テストの前に掃除したくなるって聞きますけど、小説を書きたくもなるんですね~。
そんな僕は今たまらず掃除がしたいです(笑)

では、「紅茶」54話どうぞ!(^ω^)



残暑も少しずつ和らいできたある日の午後。

仔犬は知らない家のリビングにいた。

 

「いたっ!」

 

頬に消毒液を塗られ思わず悲鳴を上げる。

 

「うごかない。」

 

目の前にいる少女が無表情にそう言った。

だが、仔犬にはなぜか少し怒っているように聞こえた。

仔犬はなぜこんなところで怪我の治療を受けているのだろうと1人思った。

彼女のことは名前すら知らないのに。

 

 

彼女と出会ったのは、20分前。

仔犬は少し遠くのスーパーへ買い物へ来ていた。

その時、目の前で悪そうな人に絡まれている彼女を見かけ、咄嗟に手を引いて逃げたのだ。

それだけならカッコよかったのだが、途中で転んでしまい頬に擦り傷を作ってしまったのだ。

何となく情けない気がする。

帰ろうとするも、彼女が怪我の治療をすると引き止め、家に引っ張ったのだ。

 

「えっと、……あの。」

 

名前を呼ぼうとしても名前がわからない。

それを察したのか小さく首を傾げた後、手をぽんっと打った。

 

「はちじゅうご。」

「へ?」

 

彼女がポツリと呟いた。

無口な子なのか声が小さく聴き取りづらい。

 

「はちじゅうご、せんち。だよ?」

「な、なんの数字ですかそれ?」

 

彼女はとても小柄だが、さすがに85センチじゃない。

ということは、と思ったがこれ以上はダメだとちゃんと説明する。

 

「えっと、名前聞いてもいいですか?」

「ん。なまえ?」

 

また首をかしげる彼女。

癖なのだろうか。

 

「ん。あおは、あお。じゅうご。」

「あおさんというんですか。」

 

指を1本と5本立てる姿はすごく可愛らしい。

というか、先輩だったのか。

 

「僕は雛森仔犬って言います。13歳ですからあおさんより年下ですねー。」

「あお、せんぱい?」

「はい、先輩ですね。」

 

自分を指してまた首を傾げる彼女。

変わらず無表情なのだが、なぜか喜んでいる気がした。

 

「あお、せんぱい。ぽちの、せんぱい。」

 

むふーっと鼻から息を吐く彼女。

なぜか得意気だ。

 

「ポチって僕のことですかー?」

「ん。あおは、せんぱい。ぽちは、あおの、ぺっと。」

「ペットですかー。」

 

初対面の人にペット扱いされた。

まあいいかと諦める。

 

「ポチ、あお、たすけてくれた。いいこ、なでなで、する。」

 

仔犬の頭に手を当てようと、むーっと背伸びをする彼女。

だが、座っているままじゃ届かないようだ。

立ち上がり、必死に背伸びをするもかなり小柄な彼女ではそれでも厳しそうだ。

彼女を見て仔犬は年上にも拘らず可愛いなと思い、少しだけ頭を下げ撫でやすいようにしてあげる。

 

「♪」

 

ようやく届いたのか嬉しそうに仔犬の頭を撫でる。

わしゃわしゃっと撫でる姿は本当の犬を撫でているようだった。

と、疲れたのか手を止める。

 

「あ、ありがとうございましたー。」

「ん。あお、つかれた。」

 

ぽてんっと仔犬の膝に座る彼女。

仔犬も全然重たくないので気にしない。

 

「えっと、あおさん。僕そろそろ帰らないと。」

 

すでに時間は夕方。

そろそろ帰らないと夕食の時間に間に合わない。

彼女は後ろを向いて仔犬をじっと見た。

 

「ぽち、ここ、くらす?」

「へ?」

「あお、ぽち、かいぬし。ぺっと、いっしょ、くらす。」

 

彼女の言葉を頭で考える。

つまり、自分は仔犬の飼い主だから一緒に暮らす、と。

 

「えっと、僕にも家があってー。」

「……だめ?」

「そんな目で見ないで下さいよー。」

 

うるうるとした目で仔犬を見つめる。

それを見てダメとは言いにくい。

 

「えっと、……ごめんなさい。」

「……」

 

無言で仔犬をじっと見る。

 

「……また、くる?」

「はい?」

「また、あそび、くる?」

「え、はい。もちろんいいですよ。」

 

こっちまではあんまり来ないのだが、少しくらい寄る時間はあるだろう。

そう言うと、彼女は小さくため息をついた。

 

「ぺっと、わがまま、ゆるす。あお、かいぬし、だから。」

「えっと……ありがとうございます。」

「そのかわり。」

 

そこで言葉を切る彼女。

そして。

 

「つぎ、ぽち、なでなで、してね。」

 

わずかに笑ったような気がした。




活動報告でキャラプロを作ろうと思います。
話の進捗状況に応じて、加えていきます。

キャラ結構多いので簡単にですが(笑)


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くんくん

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

前書きに書くこと段々なくなってきますなぁ~(^^;
今3本書いているので、報告することもないという(笑)

いえーい!いえーい!ふぅーーーー!ひぁうぃーごー!
……壊れてませんよ~。
露草さん元気ですよ~(-_-;)

もういいや!
では、「紅茶」55話どうぞ!(^ω^)



ある日の放課後。

ある日の夕方のくちなし寮。

 

「ただいまです。」

 

学園から帰った希がリビングに入る。

台所に仔犬がいないということはまだ買い物から帰ってないのだろう。

 

「おかえりなさいです~、希さん。」

「ただいま、風羽ちゃ……何してるの?」

 

リビングにいたのは風羽だけだった。

テーブルに置いた洗濯物を畳んでいる。

それはいつものことなのだが。

 

「それって雛森くんのTシャツだよね?」

「はい、そうですよ~。」

 

風羽は、なぜか仔犬のTシャツを顔に当てていたのだ。

 

「えっとですね~、昨日わたしの友達とワンちゃんが遊んでくれたんですよ~。」

「あ、遊んだ!?……風羽ちゃんの友達って同じクラスの?」

「はい~。」

 

なぜか驚いた顔をする希に笑顔で答える。

 

「うぅ……、雛森くん小学生が好きだったんだ……。で、でも身長ならそんな変わらないし、私でも……。」

 

ぶつぶつと何か呟いている希。

いったいどうしたのだろうか。

 

「ドッチボールとか鬼ごっこやったんですよ~。とっても楽しかったです。」

「……へ?ど、ドッチボール?」

「?はい。」

「……わ、忘れて!うわぁ、恥ずかしい……。」

 

なぜか顔を真っ赤にしている希。

風羽にはよくわからない。

 

「そ、それで?」

「あっ、それでですね~。1人転んじゃった子がいて、ワンちゃんが保健室までおんぶしてってくれたんですよ~。」

「ふふっ、相変わらず雛森くんは優しいね。」

「はいっ!それで今朝その子と会った時、ワンちゃんからいい匂いしたって言ってまして~。」

「いい匂い?」

「はい~。それで昨日来ていたシャツを嗅いでみたんです~。」

 

ようやく事情がわかった。

だが、仔犬の匂いとはどんなものなんだろうか。

 

「それで、匂いはどうだった?」

「それが洗剤の匂いしかしなくて~。」

 

風羽がシャツを渡してくれたので、少しだけ嗅いでみる。

 

「うん、洗剤の匂いだね。」

 

シャツからはみんなと同じ洗剤の匂いしかしなかった。

これでは仔犬の匂いはわからない。

と、希は思い出した。

 

「雛森くんが寝ている時のシャツは?洗っちゃった?」

「あっ、まだ洗ってないです~。持ってきますね~。」

 

急いでリビングを出ていく風羽。

数秒後、仔犬が今朝着ていたでシャツを持ってくる。

 

「えっと、じゃあ嗅いでみる?」

「はいっ!」

 

2人で並んで仔犬のシャツに顔を近づける。

そして。

 

「くんくん。」

「すーすー。」

 

匂いを嗅いでみる。

 

「ん、汗の匂いと……ちょっと甘い匂いがするかも。」

 

まだ夜は少し暑いからか、少しの汗の匂いとそれとはまた違う匂いがする。

 

「いい匂いです~。わたしこの匂い好きです~。」

「う、うん。私も好きかも……。」

 

2人とも夢中になってシャツの匂いを嗅ぐ。

少し頭がぼぉーとしてきた。

 

「あっ、他にもありましたよ~。」

「えっと、ハーフパンツと……こ、これって雛森くんの……。」

 

風羽が持ってきたのは、仔犬のハーフパンツとパンツだった。

ごくりとのどが鳴る。

 

「……希さんどうしましょう~?」

「ど、どうしましょうって。」

「わたし、すごく嗅ぎたいです~!」

 

風羽はおもちゃを得た子供のように仔犬のパンツに目が釘付けだった。

 

「じゃ、じゃあ……ちょっとだけ。」

 

意思に負け、風羽と目を合わせる。

なぜか2人とも目を合わせることができなかった。

そして。

 

「くん……。」

「すー……。」

 

匂いを嗅いだ瞬間。

 

「ただいま帰りましたー。」

「にゃあああああ~!?」

「ひゃあああああ~!?」

 

リビングが開き、買い物袋を提げた仔犬が入ってきた。

仔犬はいきなり悲鳴を上げた2人に驚いた顔を向ける。

 

「ど、どうしました?」

「な、何でもないよ!ねっ、風羽ちゃん!?」

「は、はい~!何でもないですよ~!」

 

とっさに後ろに隠した服が見えないようにする希。

嘘が苦手な2人だったが、仔犬には気づかれなかったようだ。

 

「すぐごはん作りますからねー。」

「わ、わぁ、楽しみだなぁ~!」

「で、ですね~。」

 

にっこり笑う仔犬に汗びっしょりの顔で無理やり笑った。

 

その日、仔犬のシャツとパンツが紛失したらしい。

 




控えめ系むっつり説というのが僕の中で形成されつつありますが、みなさんはどう思います?(≧ω≦)
クンカネタは大好きなのでまたやってみたかったり(笑)


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寮長と添い寝

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

まだまだ寒いですね~。
最近風邪をひきがちなんですよ僕。
お風呂上りに裸で牛乳を飲み、扇風機で「ワレワレハウチュウジンダ」をやり、腕立て伏せを100回した後寝ると、次の日には絶対風邪をひいてしまいます……(^^;
反省して、明日から牛乳はホットにしようと思います(笑)

というわけで紅茶56話、どうぞ!(^ω^)
あ、シリーズです。


ある日の夜。

ある日のくちなし寮。

 

仔犬は自分の部屋でのんびりしていた。

そろそろ寝ようかとパジャマに着替え、ベッドに入ろうとした時。

トントンとドアを叩く小さなノックが聞こえた。

こんな夜に誰だろうと首をかしげながらドアを開ける。

 

「はーい……って寮長?」

「お、おう……。」

 

ドアを開けたところにいたのは風鈴だった。

なぜか若干顔を伏せ、枕を抱えている。

 

「どうしたんですかー、こんな遅くに。」

「……その、な。」

 

言いづらそうに口ごもる風鈴。

それを見て仔犬は察する。

 

「もう、だから怖いの見たら眠れなくなりますよって言ったでしょう。」

「う、うるせーな……。」

 

ため息をつく仔犬に目をそらす風鈴。

さっきまで風鈴は、テレビでやっていたゾンビ映画を観ていたのだ。

仔犬が一応注意したのだが、聞く耳持たずだった。

察するに怖くて眠れないのだろう。

 

「どうしましょうかねー。」

 

時刻はすでに夜11時。

御籤も風羽もすでに寝ている。

希は仔犬よりも夜更かしだが、2人眠れるほど片付いてはいない。

 

「あ、あのさ……。」

「はい?」

 

小さな声で風鈴が呟いた。

 

「お、おまえの部屋で寝ちゃダメか……?」

「……へ?」

 

風鈴の言葉に仔犬は思わず間抜けな声が出てしまう。

確かにそれが一番いいのだろう。

だけど。

 

「ダメですよー。寮長一応女の子なんですから。」

「一応ってなんだ一応って。あー、もういいから部屋入れろ!」

「あっ!」

 

風鈴は無理やり仔犬の部屋に入った。

そして、ベッドに勝手に飛び込んで毛布を被ってしまった。

 

「もう、寮長ー。」

「私はここで寝る!おまえも寝ろ!」

 

風鈴は聞く耳持たない。

仕方ないと電気を消し、ベッドに入る。

布団に入ると、風鈴の匂いを感じ思わず緊張してしまう。

仔犬も風鈴に背を向ける。

 

「さ、寒くないですかー?」

「だ、大丈夫だ……。」

 

風鈴は壁を向いているので顔が見えない。

それでよかったと思う。

恐らく今の仔犬の顔は真っ赤だろうから。

 

そのまま、10分。

仔犬は緊張からまだ眠れずにいた。

 

「……なぁ。」

「ふぇ!?な、なんですか?」

 

いきなり話しかけられドキッとする。

思わず振り返りそうになって慌てて顔を元に戻す。

 

「何か話せよ。」

「何かって何ですか……?」

「何でもいいよ。」

 

風鈴の無茶ぶりに急いで何か考える。

緊張と風鈴の甘い匂いで頭がうまく回らない。

 

「じゃあ、うちのクラスの柊さんのことなんですけど。」

「待て。」

「この前……ってはい?」

 

話そうと思った途端止められた。

背中合わせなのになぜか怒っているような気がした。

 

「そいつは女子か?」

「え、あ、はい。女の子ですよ。」

「じゃあ、ダメだ。別の話にしろ。」

「なんでですかー。」

「何ででもだ。女子の話はダメだ。」

 

仕方なく類斗や一樹といったクラスの男子や昔の話をする。

話していると、時折小さく笑う声が聞こえてくる。

やがて、小さな寝息が聞こえてきたので話すのをやめる。

仔犬は振り返り、眠る風鈴の方を向いた。

相変わらず顔は見えない。

 

「……お休みなさい寮長。」

 

小さくそう呟き仔犬も眠った。




風鈴の表情は、みなさんのご想像にお任せということで(笑)
ちなみにうちでは、寝る時に使う小さな電球のことをオレンジとかこだまと呼ぶのですが、みなさんはなんと呼びますか?
という感想目当てなのがあからさまな質問をしてみたり(*^^*)

では、次回もよろっ!です(≧ω≦)


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御籤さんと添い寝

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

さて、段々この元ネタといいますか、参考にしたものがバレつつあるこの小説です(笑)
一応、ネタを借りることはあっても完パクはしないので、見逃して欲しいなぁ~と思ったり(*^^*)
もし見逃せないとしたら裁判ですね~。
僕の逆転○判で鍛えた弁護力を魅せてあげますよ( ̄▽ ̄)

と、報告です!
今回は、以前より遅れてました8月編最後の話を同時投稿します。
49話の「学校見学」というタイトルなのでもしよければ読んでみてください(≧ω≦)

では、「紅茶」57話どうぞ!(^^)



ある日の夜中。

ある日のくちなし寮。

 

仔犬は部屋で勉強をしていた。

そろそろかと思った頃、ドアをトントンと叩く音が聞こえた。

すぐにドアを開ける。

 

「こんばんは、御籤さん。」

「こんばんは、ワンコくん。」

 

部屋の外にいたのは御籤だった。

昨日の風鈴と同じくパジャマ姿で枕を持っている。

追い返すわけにも、またその気もないので部屋に招き入れる。

 

「またいつものローテーションですか?」

「またいつものローテーションだね。」

 

仔犬が苦笑していると、御籤は机の上の教科書とノートに気が付いた。

 

「すまない。勉強中だったかな?」

「あ、いえ。もう終わりましたから。御籤さんはもう寝ますか?」

「ん、構わなければお願いしたいかな。」

 

御籤は昨日の風鈴と同じくベッドの奥に寝る。

 

「失礼します。」

 

電気を消した後、ひと声かけベッドに入る。

昨日の風鈴とは違い、落ち着いた、でも同じくいい匂いを感じ思わず顔が赤くなる。

と、天井を向きながら御籤が口を開いた。

 

「そう言えば、あの映画も観たよ。」

「あの?……ああ、昨日のゾンビ映画ですか?」

「うん。実に興味深かったよ。死者も泳ぐことができるとは思わなかったね。」

 

御籤のいつもと変わらず落ち着いた雰囲気に緊張もなくなってきた。

思わず軽口も出てしまう。

 

「御籤さんは、ゾンビに襲われたとしても落ち着いていそうですねー。」

「そう思うかい?意外と怖がって震えてるかもしれないよ?」

「あはは、想像できないです。」

 

仔犬がそう笑うと、御籤は急に黙りこっちを向いてきた。

なぜか不機嫌そうな顔をしている。

そして、頬をつねられる。

ちょっと痛い。

 

「みくふぃふぁん?」

「……どうやらキミの私に対するイメージを変えないといけないようだね。」

 

そしてもっとつねられる。

かなり痛くなってきた。

 

「いふぁい!いふぁいれす!」

「反省したかな?」

 

仔犬はぶんぶんと何回も頭を縦に振る。

そうすると、手を放してくれた。

 

「いたた……もうひどいですよ、御籤さん。」

「おや、反省してないみたいだね。」

「ご、ごめんなさい!」

 

また手を伸ばしてきたので慌てて謝る。

すると、不機嫌そうな顔をしつつも伸ばした手を引っ込めてくれた。

 

「私も女の子なんだからね。だから。」

 

そして、手を握られる。

温かい、けれど仔犬よりも小さい女の子の手だった。

 

「ちゃんと守って欲しいかな。」

 

いたずらっ子のような笑顔でそういわれ思わずドキッとする。

なんて返事するべきか迷いそして口を開く。

 

「……わかりました。えっと、その時はちゃんと御籤さんのことを守ります。」

「ん、合格。」

 

その言葉を最後に2人とも黙る。

そしていつの間にか仔犬は寝てしまった。

 

「その時、か。もしキミがいいならばずっと……。」

 

意識が沈む前に聞こえた声は夢だったのかそれとも。

次の日、つながれたままの手を見て2人とも真っ赤になったのは言うまでもない。

 




今回は短めでしたかね?(笑)
次はお分かりの通り最年少のあの子です (ゝω・)


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風羽ちゃんと添い寝

コンバトラー!(*^^*)
くーさんこと露草です。

あ~、空を飛びたいですね~。
空を飛んで花火みたいに爆発したいです(^^)
いや、爆発しちゃうのかよ。

どうせ爆発するなら、リア充的な意味で爆発したいなと思うバレンタイン6日前の僕です(笑)

では、「紅茶」58話どうぞ!(≧ω≦)☆


ある日の夜中。

ある日のくちなし寮。

 

お風呂上がりの仔犬は、台所から持ってきた牛乳を飲んでいた。

と、ドアがトントンと叩かれた。

すぐにドアを開ける。

 

「こんばんは、風羽ちゃん。」

「わわっ!すごいです~、ワンちゃん!どうしてわたしだってわかったんですか~?」

「あはは、なんでだと思う?」

「う~ん、なんででしょう?」

 

そこにいたのは、やっぱり風羽だった。

前の2人と同じくパジャマ姿で、手に小さなぬいぐるみを持っていた。

ホントはローテーションでわかっていたのだが、冗談のようにそう言う。

頑張って考えている風羽が可愛くて思わずクスッとなってしまう。

部屋に招き入れると、風羽は机の上に載っている飲みかけの牛乳に気が付いた。

 

「あっ、牛乳飲んでいたんですか~?」

「あ、うん。飲む?」

「はい!……あっ、でもさっき歯を磨いちゃって。」

 

しょぼんとなる風羽。

恐らく、厳しい家の執事さんに禁止されているのだろう。

 

「別に気にしなくてもいいんじゃない?」

「ダメですよ~!」

 

あんまり気にするタイプじゃない仔犬がそう言うと、風羽に怒られた。

虫歯菌がどうとかお説教されたが、7歳の女の子が聞きかじりのことを言ってる姿を見て思わず笑ってしまう。

すると、また怒られる。

 

「もうっ!ワンちゃんももう一回歯磨きに行きますよ!」

「はいはい。」

 

風羽に見張られてもう一回歯磨きする。

部屋に戻ると、風羽は小さくあくびをした。

時計を見ると、すでに11時。

いつもの風羽ならとっくに寝ている時間だろう。

 

「風羽ちゃんもう寝る?」

「ふぁい……。」

 

すでにうとうとしている風羽をベッドに寝かせる。

電気を消して仔犬も寝ようとすると、袖を引っ張られた。

 

「どうしたの、風羽ちゃん?」

「ワンちゃん……ギュッとしてください……。」

 

半分閉じた目でそうねだってくる。

滅多にない風羽のお願いだが、仔犬は何をしたらいいのか戸惑う。

いや、正確にはわかっているのだがどうするべきかと思っていた。

 

「えっと、ギュッとって?」

「ギュッと抱きしめてください……。」

 

ちゃんと言われ逃げ道をなくす。

覚悟を決め、仔犬は正面から風羽を抱きしめた。

 

「こ、こんな感じ?」

「んっ……。」

 

小さく声を上げる風羽。

口元が綻んでいるということは嫌がってるわけではなさそうだ。

この距離だとまだ小さい子供とはいえ、風羽の柔らかい匂いがわかった。

小さくても女の子なんだなぁ、と当然のことながら思ってしまう。

 

「もっとギュッとしてください……。」

「も、もっと?」

 

お願いされ、少しだけ力を強くする。

細い風羽はそれだけで折れてしまいそうだった。

 

「ワンちゃんの匂いがします……。」

「あっ、ごめん臭い?」

 

さっき風呂に入ったばかりなのだが。

慌てて離れようとすると、風羽からも抱きしめられた。

 

「いい匂いです……。せっけんと……ワンちゃんのいい匂いがします……。」

「そ、そう?」

 

抱きしめられさっきよりも距離が近くなる。

風羽の甘い匂いがさらに強くなり、顔も触れそうなほど近い。

目を瞑っている風羽は気づいてないかもしれないが、普通に起きている仔犬には風羽のまつげの1本1本すら見える。

しばらく2人とも沈黙する。

 

「ワンちゃん……。」

「ん?」

 

不意に風羽が呟いた。

 

「だぁいすきです……。」

 

そう呟き、後は寝息に変わる。

仔犬はすぅすぅと小さな寝息を立てる風羽の頭に手を置きなでる。

 

「僕も大好きだよ、風羽ちゃん。」

 

そう呟くと、照れているかのように風羽は小さく身じろぎした。

そのまま風羽を抱きしめ、仔犬は眠った。

朝、うとうとしてて夜のことを覚えていない風羽は仔犬に抱きしめられた自分を見て真っ赤になっていた。

 




寝ている女の子の顔って萌えません? (*ゝω・*)
最もリアルで見たことないんですけどね~(^^;

では、また次回!
明日書けるかな~(笑)


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希さんと添い寝

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

最近前書きに書いている内容が、壊れた露草さんか、バレンタインに対する恨みみたいになっている気がします(^^;
これはよくない!と反省したので、バレンタインから離れようと思います。

そう言えば、来月にはひな祭りやホワイトデーとか……(トラウマの開く音
……ふっ、女の子もいないのに僕にホワイトデーなんて関係ないのですよ。

何かガチで落ち込んできたのでそろそろ行きましょうか(^^;
では、「紅茶」59話どうぞ!(*^^*)




ある日の夜中。

ある日のくちなし寮。

 

仔犬は部屋の椅子でうとうとしていた。

今日がローテーションの最後なのだが、今日の相手はかなり夜ふかしな人だ。

と、トントンとドアを叩く音がした。

寝ぼけた頭を振り、慌ててドアを開ける。

 

「こんばんは、希さん。」

「こんばんは、雛森くん。」

 

部屋に招き入れる。

すると、希は申し訳なさそうな顔をした。

 

「ごめんね、雛森くん。遅くなっちゃった。」

 

時計を見るとすでに夜の2時。

いつも5時に起きる仔犬はもうあまり眠れない。

 

「大丈夫ですよー。マンガ描き終わりました?」

「うん、今日の分は終わったよ。」

 

仔犬が笑顔でそう言うと、希も小さく笑ってくれた。

 

「じゃあ、寝ましょうか?」

 

3日前からいつも通りになったベッドの奥を譲る。

だが、希はじっと立ったまま入らない。

すると、ためらいがちに口を開いた。

 

「あ、あのね雛森くん。ちょっとお願いあるんだけど……?」

「はい?どうしました?」

「パジャマで作業してたらインクこぼしちゃって……。」

 

また申し訳なさそうな顔をする。

今更ながら気付いたが、希はパジャマ姿ではなく、普通の私服だ。

 

「あ~、じゃあ明日洗っておきますよ。」

「そ、そうじゃなくて……。」

 

仔犬がそう返すが、なぜか希は顔を伏せもじもじしてる。

そしてもごもごと口ごもった後、顔を上げた。

 

「ひ、雛森くんのパジャマ借りたらダメかな……?」

「……はい?」

 

希が何を言ったのか呑み込めず、間抜けな声が出る。

そして意味が分かると、首を傾げた。

 

「いやその服でいいんじゃないですかー?」

 

希が着ているのはTシャツ。

別にそれで寝ても問題ないと思うのだが。

 

「だ、だめだよ!これ大事な服だから!」

「いや、それ希さんが普段着に使っているやつじゃ……。」

「い、いいから貸して!」

 

ものすごく焦った顔をした希は勢いよくまくしたてる。

希らしくないその勢いに押され、タンスから服を出す。

さすがにパジャマは合わないので仔犬のTシャツを出す。

それを受け取った希はその場でTシャツを脱いだ。

それを見て仔犬は真っ赤になって慌てる。

 

「ちょ、ちょっと希さん!?なんでここで着替えるんですか!?」

「だ、だって早くしないと雛森くん寝る時間なくなっちゃうし……。」

「大丈夫ですから!部屋で着替えてきてください!」

「で、でも、わたし下着つけてると眠れないから……。」

「わー!わー!」

 

暴走状態になった希は自分でも何言ってるかわかっていないようだ。

仔犬は急いで耳をふさぐも途中まで聞こえてしまった。

結局、無理やり希を部屋から追い出し、自分の部屋に行ってもらった。

5分後、仔犬のTシャツを着て、顔を真っ赤にさせた希が戻ってくる。

 

「さ、さっきは申し訳ありませんでした……。」

「い、いえ……。」

 

2人とも目を合わせられず気まずい雰囲気が漂う。

 

「ね、寝ましょうかー!」

「そ、そうだね!」

 

無理やり明るい声を出し、ベッドに寝る。

まだ2人とも顔を合わせられず、背中合わせで寝っ転がる。

やがてうとうとしてきた頃、背中から声をかけられる。

 

「……ねえ雛森くん。」

 

はい、と答えようとしたが、眠くて答えられない。

そして、仔犬は完全に眠ってしまった。

 

「雛森くん、もう寝ちゃった?」

 

すうすうと寝息を立てる仔犬の顔を見る。

 

「何か女の子みたいで可愛いなぁ♪……でも」

 

後ろから控えめにギュッと抱きしめる。

 

「こうして触ってみると男の子なんだよね……。」

 

もしも仔犬が起きていたらこんなこと絶対できないだろう。

だったらと勇気を出す。

 

「え、えいっ!」

 

そして、自分の枕から仔犬の枕に移る。

仔犬の髪が顔に触れるほど近い。

もしも仔犬がこっちを向いてしまったら、きっと。

そんな考えをしている自分が恥ずかしくなる。

すると、今更気付く。

 

「わ、わたし、雛森くんのベッドで、雛森くんの枕で、雛森くんの服を着て寝てるんだよね……。」

 

そして。

 

「ね、眠れるわけないよぉ~!」

 

心の中で叫ぶ。

結局、仔犬が起きるまで一睡もできなかった。

その後、授業中に爆睡してしまい、先生にめちゃくちゃ怒られるのはまた別の話。




彼シャツっていうみたいですね~、こういうシチュ(^◇^)
個人的には結構好きだったりしますが、みなさんはどうですか?

ちなみに朝仔犬が洗濯をしようとした時、インクで汚れたパジャマなどどこにもなかったそうな……(なぜか怪談っぽく 笑
まあ、その辺はご想像にお任せしますってことで(笑)

次回は、60話なので「あるかもしれない未来」の第2弾となります(*^^*)
おわかりだと思いますが、御籤さん回です。
一応目標は明日ですが、まあ期待はしないでください(笑)

では、また明日お会いできることを祈って……<(_ _)>
感想&お気に入りお待ちしています(≧ω≦)


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あるかもしれない未来~A mischief message~

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

さて、今回は特別回「あるかもしれない未来」を書かせていただきました~。
ヒロインは御籤です。
ちなみに英語の意味は「いたずらなメッセージ」です(*^^*)


まあ、今回はよけいな前書き無しにして、ちゃっちゃと行きましょうか(笑)
では、「紅茶」60話どうぞ! (*ゝω・*)
あ、ついでに7000UA突破記念です。


夏休みのある日。

仔犬と御籤は町の図書館に来ていた。

仔犬は、奥の方に置かれたテーブルで参考書とノートを広げている。

 

「あ、御籤さんこの問題って……。」

「ん?ああ、これはここに代入して……。」

 

仔犬が聞くと、隣に座った御籤は読んでいた本から顔を上げノートを見る。

暑い中歩いてきたも関わらず、御籤は汗1つ書いていなかった。

 

「結構難しいですよねー。」

「まあ、風鈴でも入れた大学だし、そこまでじゃないかな?」

「だってあの時は、寮長……じゃなくて風鈴さんめちゃくちゃ勉強してたじゃないですかー。」

「随分不満が多いね。……もしかして、私と同じ大学に行きたくないのかな?」

「そ、そんなことないですよ!風鈴さんと御籤さんと希さんと同じ大学に行きたいです!」

「……ふふっ、君はずるいね。」

 

小声でそんな談笑しながら勉強を進める。

図書館で勉強することと決めたのは昨日の夜。

高校3年生で今年大学受験の仔犬は、御籤たちのいる大学を目指して勉強中だった。

御籤は風鈴のレベルに合わせた大学と言っていたため、そこそこ成績優秀の仔犬ならそこまで大変ではないが、油断は禁物だ。

というか、成績が壊滅的だった希をどうやって合格させたのかが気になって仕方ない。

希に聞こうとすると、「思い出したくない」と言ってぶるぶる震えるのだ。

 

「それにしてもデートがここでよかったんですか?」

 

昨日の夜も本当はデートの行き先の話をするつもりだった。

だが、御籤の提案で図書館になったのだ。

 

「受験生の君を遊ばせるわけにはいかないからね。それにここなら私は私で楽しめるから。」

 

そう言って、どこにあったのか見たこともない言語で書かれた本を読む御籤。

彼女もまた、大学4年生で就活中のはずなのだが、実家の会社に入社を決め、すでに会計などを手伝っているらしい。

 

と、仔犬の隣のテーブルに4人組の男女が来た。

彼らも受験生らしく、参考書を広げ難しい顔で見ている。

迷惑にならないようあまり話さない方がいいだろう。

そう思い、目の前の参考書に集中する。

 

1時間ほど経っただろうか、仔犬がうーんと伸びをする。

すると、横から小さなメモ用紙が置かれた。

首を傾げ、メモを読んでみる。

 

『全然構ってくれないね。』

 

驚いてメモを置いた張本人を見る。

彼女はしーっと口に指を当てる。

やむなく仔犬もメモに書く。

 

『ごめんなさい。集中してました。』

 

そして、隣に渡す。

すると、すぐに返ってくる。

 

『別にいいよ。君が恋人をほったらかすような人だとは知らなかったけど。』

 

また、隣の彼女を見る。

本の陰に隠れて顔は見えないが、メッセージを見るに拗ねてしまったようだ。

慌てて書いて渡す。

 

『ほったらかすつもりはなかったんです。本当にごめんなさい。』

『本当に反省しているかい?』

『してます!すごくしています!』

 

しゃべれないので、お互い声に出した会話はない。

怒ってはいないようだが、逆にこの沈黙が怖い。

 

『言葉だけでは信用ができないね。』

『ごめんなさい!何でもしますから!』

 

そう書いてメモを渡す。

すると、それを読んだ御籤が固まった。

そして、迷ったように逡巡すると何かを書いた。

と思ったら慌ててそれを消し、下に違う言葉を書く。

そしてそれを仔犬に渡した。

 

『後で、ケーキでもごちそうしてくれたまえ。』

 

そう書いてあったが、むしろ仔犬は最初に書いてあった言葉が気になった。

残念ながらボールペンでぐしゃぐしゃになっており、読むことはできない。

チラッと御籤を見ると、わずかに顔が見える。

その頬は少しだけ赤くなっているように見えた。

少し迷い、言葉を書く。

 

『わかりました。お詫びに2つ叶えますのでさっきのことも叶えますよ。』

 

本の隙間からちらっとそのメモを見た御籤は、今度こそ本当に固まった。

手から滑り落ちた本が鈍い音を立てる。

隣の男性が眉をひそめて彼女をにらんだが、御籤はそれすらも気づいていないようだ。

真っ赤になった顔でメモを見ている。

一体さっきなんて書いたのだろう。

 

やがて彼女は恐る恐るペンを持った。

そして、何かを書こうとする。

だが、震えるペンはまともに文字が書けない。

すると、彼女はペンを置いた。

 

「来たまえ!」

「うわっ!」

 

突如、鞄を持ち、立ち上がった彼女に腕を持って引っ張られる。

周辺にいた人たちが驚いたように見るが、御籤は構うことなく歩き出す。

仔犬は慌てて鞄だけ掴む。

 

「み、御籤さん!?」

 

仔犬が神籤を呼ぶが、彼女は全く止まらない。

そして、自動ドアを抜け外に出た時ようやく彼女は止まった。

 

「はぁはぁ……。み、御籤さんどうしたのですか?」

 

引っ張られ息を乱した仔犬が問う。

すると、御籤がこっちを向いた。

ただでさえ赤かった顔がさらに真っ赤になる。

 

「……本当に」

「はい?」

 

御籤が小さく呟く。

そして、伏せた顔を上げる。

 

「本当に何でもしてくれるんだね?」

「え、ええ。僕にできることならば。」

 

一体何を言われるのだろうと仔犬が思っていると、御籤は鞄からクリアファイルを出した。

そして、中の折りたたまれた紙を渡した。

何だろうと仔犬がそれを開くと。

 

「これ……婚姻届ですか?」

 

それは婚姻届だった。

よく見ると、御籤の名前含め必要な部分は全部書いてある。

後は、夫になるものを書くだけだ。

 

「君が卒業したら渡そうと思っていたのだが……もし構わなければ預かっていてくれないか?」

「これ……僕にですか?」

「全部私に言わせるつもりかな?」

 

真っ赤な顔でにらんでくる御籤。

御籤に珍しいその表情に思わず写真が撮りたくなるが、そこは自制する。

 

「あの、僕からも御籤さんに渡したいものがあるんです。」

 

そして、鞄からリボンと包装に包まれた小さな箱を取り出した。

それを御籤に渡す。

 

「本当は夜渡そうと思ったんですけど、受け取ってください。」

 

御籤は恐る恐るそれを受け取る。

 

「……開けていいかな?」

 

仔犬は頷きだけ返す。

御籤がゆっくりとリボンを解き包装を開けると、小さな白い箱が出てきた。

そして、それを開ける。

 

「……きれいだ。」

 

御籤は思わず呟いた。

中に入っていたのは、2つの指輪だった。

 

「誕生日おめでとうございます、御籤さん。」

「そうか……今日は私の誕生日だったか。」

 

自分の誕生日にも関わらずすっかり忘れていた。

通りで昨日使用人たちが慌ただしかったはずだ。

仔犬が指輪を取り出す。

 

「手を貸してください、御籤さん。」

「ん。」

 

手を差し出すと、御籤の薬指にはめた。

 

「御籤さんには相応しくない安物で申し訳ないですけど。」

「いや……すごく嬉しいよ。」

 

いつの間にか、涙が頬を伝っていた。

確かに高いものではないだろう。

だが、金額ではなく、それをくれた仔犬の気持ちが嬉しかった。

それを聞いてにっこりと仔犬は笑った。

 

「御籤さん。」

「……はい。」

「こんな僕ですけど、もしよかったらずっと一緒にいてくれませんか?」

 

彼が差し出したのは、いつの間したのか、すべてサインされた婚姻届だった。

御籤の答えは決まっている。

 

「……私の方こそお願いします。」

 

そして、2人は仔犬の誕生日を待って入籍した。

その後、風鈴、風羽、希の3人や元生徒会に元同級生、さらには元後輩に彼らの姉妹までも巻き込んだ仔犬争奪戦が始まるのだが、それはまたいつか。




というわけでいかがでしたでしょうか?(^◇^)
王道中の王道でいってみましたが、これはこれでアリじゃないです?(笑)
タイトルの「いたずらなメッセージ」は、御籤かと思いきや仔犬というミスリードでした。
いや、こんなのミスリードじゃねーよというツッコミはなしでお願いしますね~。
多分マジ泣きするので(笑)

ちなみに手紙の部分は実話です。
といっても内容は全く違い、勉強中の男の子の友人を邪魔するいたずらだったのですが(笑)
なぜか「露草:」みたいにチャット形式で書いていたあの頃の僕が不思議過ぎます(^^;

次回からは10月編となります。
ある意味節目なので、もしかしたら連続投稿途切れるかもしれません。
まあ、頑張りますけどね(笑)

では、また次回お会いしましょう<(_ _)>
感想&お気に入り&評価お待ちしています(≧ω≦)


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パックジュース

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

ちょっとだけお久し振りですね~(^^)
そして、ついにバレンタインが来ました!

…え?もちろん一切もらえてないですよ?
普通に1人でチョコパフェ食べてきましたよ~。
めっちゃおいしかったですけど、なぜかすごい悲しかったです(^^;
来年頑張ろう!(´;ω;`)

では、「紅茶」61話スタートです(*^^*)


10月になったある日のお昼休み。

 

仔犬たちはいつも通り屋上でお弁当を広げていた。

メンバーは仲良し4人組と希。

 

「はい、ヒナさん今日は筑前煮を作ってきたんですよ。」

「あたしのクリームパスタも自信作だよ!」

 

紗南と莉乃が自分たちのお弁当を勧める。

その相手はもちろん。

 

「あ、ありがと……。じゃあ、僕のもどうぞ。」

 

困ったように少し笑いながら、仔犬もお弁当を勧める。

これもいつも通りだ。

 

「むぅ……。」

 

希は、箸をくわえてうなるような声を出す。

希の食べているお弁当は仔犬の作ったものなので交換できないのだ。

そんないつも通りの風景を横目に、類斗は買ってきたパックジュースを飲む。

 

「ん、ヒナこれ結構うまい。」

 

お弁当攻撃から逃れようと仔犬が類斗に顔を向ける。

 

「それ新しいの?」

「おう。あそこの自販機のやつ。一口飲むか?」

「ありがと。」

 

そう言って類斗はパックジュースを仔犬に渡す。

受け取った仔犬は一口飲む。

 

「あ、おいしい。」

「だろ?」

 

そう言って仔犬は飲み物を返した。

と、その時、屋上のドアが開いた。

 

「あ、いた。ヒナくーん!」

 

そして、同じクラスの柊さんが顔を出した。

 

「柊さん?どうかした?」

「うちの先生が呼んでたよ。職員室に来てくれって。」

「ん、了解。」

「じゃあ、あたしは教室戻るから。」

 

そう言い残して柊さんは屋上から出ていった。

仔犬は4人の方に顔を向け立ち上がる。

 

「と、いうわけで行って来ますー。」

 

4人からの行ってらっしゃい、を受け仔犬も屋上を出て行った。

 

「んじゃ、俺たちもちゃっとと飯を……。」

 

そう言おうとした途端、類斗に3人の視線が集まる。

正確には、類斗の手に持つパックジュースのストローに。

 

「ヒナさんが……。」

「口をつけた……。」

「ストロー……。」

 

3人の声が順番に繋がる。

仔犬が口をつけた飲み物。

ということは、言うまでもないだろう。

 

「……ああ、なるほど。間接キスか。」

 

類斗もやっと理解する。

そして、3人の前にパックジュースを置く。

 

「よろしければどーぞ。」

 

そう言った途端、3人の間にピリッとした空気が走る。

そして、3人とも目を合わせる。

 

「わ、私今日飲み物忘れてしまったのでいただいていいですよね?」

「紗南ちゃ~ん!素直に言えばいいんじゃないかな?これほしいんでしょ?」

「な!?そ、そういう莉乃はどうなんですか!?」

「あたしは紗南と違うから。すごく欲しいよ♪」

「うっ!?……わ、私も欲しいです!」

 

紗南と莉乃が2人で争っている頃。

こっそり希が手を伸ばす。

 

「「波真野(のぞみん)先輩!」」

「うにゃう!?ご、ごめんなさい!」

 

だが、ばれてしまった。

2人に怒られ、しゅんとなる希。

 

「波真野先輩はヒナさんと同じ寮なんですからここは譲ってください!」

「そーだよっ!のぞみん先輩はいつもやってるでしょ!」

「や、やってないよ!……2回くらいしか。」

「「やってるじゃん(じゃないですか)!」」

 

パックジュース1つで醜い争いをする3人。

一方その頃、類斗は。

 

「あーうまい。」

 

飲み物がなくなってしまったため、仔犬の水筒のお茶を勝手に飲んでいた。

これも間接キスなのだが、3人は気づかない。

そんな争いを続けて数分後、紗南がパンっと手を打った。

 

「このままでは埒があきません。それにそろそろヒナさんが戻ってきてしまうかもしれません。」

「じゃあどうするの?」

「ここは平等に……じゃんけんをしましょう!」

「……しかたないね。のぞみん先輩もそれでいい?」

「う、うん。」

 

1回勝負のじゃんけん。

3人とも真剣な顔になる。

そして。

 

「「「じゃんけんぽん!」」」

 

希と莉乃がグー、紗南はパーだった。

 

「ま、負けた……。」

「ふっふっふ、正義は勝つのですよ。」

 

いつもはしない笑みをし、パックジュースを手にする紗南。

悔しそうな顔の莉乃は飛びついた。

 

「なっ!?莉乃何をするんですか!?」

「じゃんけんで決めるのがおかしいんだよっ!よこせー!」

「ふ、2人とも落ち着いて……。」

 

もみ合う紗南と梨乃。

それを止めようとする希。

そして、紗南の手からジュースが零れ落ちる。

 

「「「あ……。」」」

 

床に落下するパックジュース。

落ちた瞬間亀裂ができたのか、中身がこぼれていく。

 

「「「あー!!!!」」」

 

慌てて拾うもジュースはほとんど零れてしまった。

ストローは無事だが、一度床に落ちたものをくわえるのは乙女として致命的だろう。

 

仔犬が戻った時見たのは、落ち込んだ3人と床に広がったジュースの水たまり、そしてほとんどなくなったお茶の水筒だった。

 

 




間接チューは好みがわかれると思いますけどどうでしょう?(^◇^)
最近潔癖症の方も多いですしね~。
僕は全然気にしないのですが、イケメンさんじゃないのでしてくれないです(笑)

次回はまだ思いついてないので明日書けるかはわかりません。
もしアレでしたら、希望のシチュや好きなシチュを募集してみましょうか?(^^♪
感想でもメールでもいいのでもし何か思いつけばいつでも連絡ください♪ (*ゝω・*)



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王様ゲーム

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

今回は62話にして初のリクエストです!(*^^*)
正確にはリクエストじゃないかもですが、細かいことはいいのです(笑)

もしも今回のが面白いと思っていただけたらぜひアイデアをお願いします!
ヒロイン指定があればかまいませんし、なかったら僕が書きやすい子を選びます。
感想でも活動報告でもメッセージでもいいので募集してま~す(≧ω≦)

では、「紅茶」62話どうぞ! (*ゝω・*)



ある日の夜。

いつものくちなし寮。

 

「王様だーれだ!」

 

風鈴の声でみんな自分の割り箸を見る。

希はおずおずと手を挙げる。

 

「わ、私です……。えっと、じゃあ4番の人が王様にお茶を淹れてくるでお願いします。」

「あ、わたしです~。行ってきますね~。」

 

4番だった風羽が希のマグカップを持って台所に行く。

すぐに温かい紅茶を持ってくる。

 

「はい、希さんどうぞ~。」

「ごめんね。風羽ちゃん。」

 

王様なのに申し訳なさそうな顔をする希。

 

「おい風羽、今の希は王様だぞ。ちゃんと敬えよ。」

「あっ、そうでした~。王様お茶をどうぞ~。」

「や、やめて。恥ずかしいよ……。」

 

にこにこと笑う風羽と顔を少し赤くする希。

性格は全然違っても仲良しな2人に仔犬もクスッとなる。

なぜ王様ゲームをやっているのか、それは15分前に遡る。

 

「王様ゲームやるぞ!」

 

夕食の後のまったりタイム。

仔犬が風羽とともにお皿を洗っていると、突如風鈴が大声でそう言った。

 

「姉さま、王様ゲームってですか~?」

 

王様ゲームを知らないらしい風羽が風鈴に聞く。

風鈴はなぜか胸を張る。

 

「王様ゲームっていうのはな、王様になったヤツが臣下をいじめるんだ。」

「え~、いじめはよくないですよ~。」

「寮長!純粋な風羽ちゃんに嘘を教えないでください!」

 

風鈴から風羽を守るため、前に立ち手を広げる。

風鈴はすでに飽きたらしく標的を変える。

 

「おいミク、希。おまえらはやるだろ?」

「私は構わないけど。」

「私も今日はやることありませんし。」

「よし、ミク割り箸を用意しろ!」

 

ゲーム好きの御籤と用事のない希は乗り気なようだ。

慌てて仔犬が止める。

 

「ダメですよ!子供もいるのにいくないです!」

「おまえも子供だろーが。というか、別に年齢関係ないだろこのゲーム。」

「でも……。」

「だったら、おまえが王様になって終了宣言すりゃいーだろ。」

 

そう言われ、仕方なく頷いてしまった。

それから7周したが、まだ仔犬は王様になれてなかった。

今のところ軽いのばかりだが、早めに止めた方がいいだろう。

 

「よし、王様だーれだ!」

 

一斉に割り箸を引く。

仔犬が引いたのは2番。

また王様になれなかった。

 

「私だね。」

 

御籤が手を挙げる。

そして、暫し悩んだ後。

 

「じゃあ、1番と2番はゲーム終了まで手をつなぐ、でどうだろう?」

「ええ!?」

 

4周目にして初めて当たってしまった。

そして1番は。

 

「その反応はワンコみてーだな。で、1番は?」

「わ、私です……。」

 

希が手を挙げる。

ゲーム終了までということは、仔犬が王様になるか風羽が寝る時間になるまで。

下手をすると、後1時間以上繋いだままだ。

 

「よし、風羽!おまえ席動け!こっち来い!」

「わかりました~!」

 

仔犬の隣にいた風羽が動き、希がやってくる。

そして、恐る恐る手を伸ばす。

 

「じゃ、じゃあお願いします。」

「あっ、はい。」

 

ギュッと手を握る。

 

「ふわっ!?」

 

変な声を上げる希に仔犬もどきまぎする。

 

「ご、ごめんなさい強かったですか?」

「う、ううん……。男の子の手だなぁって思って。」

 

顔を赤くしながらも嬉しそうな希。

仔犬は赤い顔を見られるのが恥ずかしくて顔を背けてしまう。

結局は反対の隣の風鈴にからかわれるのだが。

 

「よし、王様だーれだ!」

 

右手がふさがっているため、左手で引く。

引いた数字はまた2番だった。

 

「おっ、私だな。」

 

王様は風鈴のようだ。

にやにやと仔犬の方を向いてくる。

 

「おいワンコ。おまえ1番か?それとも2番か?」

「ちょ!?それルール違反じゃないですか!?」

 

審判役でもある御籤に文句を言う。

 

「心理戦の一種だからルール違反とは言いにくいかな?とはいえ、風鈴。女の子としてやめなさい。」

「わーったよ。」

 

御籤に注意され、頬を膨らませる風鈴。

 

「じゃあ、2番が4番が膝だっこな。」

 

また仔犬が当たった。

さすがにインチキじゃないかと物言いする。

 

「寮長見ましたよね!」

「見てねーよ。おまえがわかりやす過ぎるんだ。」

「さすがに証拠不十分だね。」

 

今度は御籤も守ってくれなかった。

仔犬も仕方なく矛を収める。

 

「で、4番誰だよ?」

「あ、わたしです~!」

 

風羽が嬉しそうに手を挙げる。

仔犬はちょっとだけ安心する。

風羽なら子供だし、軽いから大丈夫だろう。

トトトっと仔犬の元によって来る。

 

「あっ、ワンちゃんあぐらになってくれますか~?」

「あ、うん。」

「じゃあ、失礼しますね。」

 

風羽が仔犬の膝に乗る。

想像通りめちゃくちゃ軽い。

 

「おいワンコ。手を風羽に回せよ。」

「はい。」

 

右手は希と手を繋いだままなので、左手で抱きしめる。

風羽のお腹は子供らしく柔らかく、体温が高かった。

 

「おーおー、なかなかカオスになっているなぁ。」

「そう思うなら手加減してくださいよー。」

 

右手は希、左手と膝は風羽でふさがっている。

一見したら相当の遊び人のようだ。

 

「よし、王様だーれだ!」

 

ちょっとだけ左手を離して割り箸をとる。

風羽の番号を見ないように番号を確認する。

番号はまたまた2番だった。

 

「また私だな。」

 

風鈴が手を挙げる。

仔犬が0回なのに対し、風鈴はすでに3回目だ。

 

「じゃあ、2番と3番がフレンチキスでどーだ!」

 

また、仔犬が当たった。

 

「な、な、な……!?」

 

驚愕の顔をしている御籤。

どうやら3番は彼女らしい。

だがキスとはいえ、フレンチキスならそこまでではないだろう。

 

「えっと、寮長。ほっぺでいいですよね?」

「フレンチなんだから口でいいだろー。それにあいつファーストキスじゃないし。」

「ええ!?そうなんですか御籤さん!?」

「違う!最初にしたのが風鈴というだけで、男の子とするのは初めてだ!……じゃなくてさすがにダメだろう!?」

 

真っ赤になりそう言う御籤。

 

「ダメだ!王様の言うことは絶対なんだぞ!」

「くっ……。」

「別におまえがいやならやめてもいいぞ。ただし、おまえの負けになるけどな。」

 

風鈴がそう煽る。

幼なじみのため、ゲーム好きの御籤がそう言われたら引き下がれないのを知っている。

そして、風鈴の予想通り。

 

「し、仕方ない。いいかなワンコくん!」

「別に負けてもいいんじゃ……。」

「それはできない!」

「で、でも……」

「いいから!男なら覚悟を決めたまえ!」

 

もはや御籤自身自分が何を言っているのかわかっていない。

自棄になったように、仔犬の顔に手を添える。

徐々に2人の顔が近づく。

うるさいほど響く心臓の鼓動はどちらのものか。

そして。

 

「んっ!」

 

唇に触れ、一瞬だけ咥内をなめられた。

そして、すぐに御籤は離れた。

 

「はあはあ……。こ、これで許してくれ。」

「お、おまえなにやってんだよ!?フレンチキスだからちょっとつけるだけだろ!?」

 

爆発するのではないかと言うほど真っ赤になった御籤。

予想外の大人なキスを見て、自分の命令なのに風鈴も狼狽する。

仔犬もまた状況が呑み込めず、ぼぉーとなめられた口を押えていた。

ようやく落ち着いた御籤が恨めしそうに2人を見る。

 

「……ちなみにフレンチキスは、ディ、ディープキスのことだ。ちょっとつけるのはバードキスだろう。」

 

また少し赤くなりながら知識を披露する。

仔犬も風鈴も勘違いしていた。

 

「じゃ、じゃあ解散するか。」

 

結局これ以上はやめようとなり、風鈴が終了宣言した。

次の日の朝、顔を合わせた仔犬と御籤は目が合わせられなかったという。

 




意外とフレンチキスの意味を勘違いしている人が多いようで(^^)
初めて知った時は、自分が人生で「フレンチキスをしよう」という機会に恵まれなかったことに本気で感謝しました(^^;
下手したら青い制服のお兄ちゃんにお世話になるところでした(笑)


前書きにも書きましたが、いかがでしたでしょうか?
Rの壁を超えそうなものはダメですが、もし考えていただけたら頑張って書きますよ~。

ではまた次回もよろ!です(*^^*)


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希の成長

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

というわけで今回は日常回です!
……うそです、これが日常回なら今までのは何だったんだという(笑)
じゃあ、逆に練習代わりに非日常回をやってみましょうか?(*^^*)

殺害された希。ダイイングメッセージは「葉っぱ男」。
探偵ワンコが事件に挑む!
「犯人はあなたですね――――くーさん!」
「しょ、しょしょしょしょしょしょ証拠はあるるるるるにょかね!?」
一体犯人は誰なのか!?そのうち公開!

はい、ウソ予告はここまでにしてそろそろいきましょうか?(笑)
では、紅茶63話スタートです(^ω^)



10月に入ったある日。

朝の中等部2年1組の前の廊下。

希は、一緒に登校してきた仔犬と別れ、自分の教室に来ていた。

 

「すーはーすーはー……。よし、今日こそ。」

 

気合を込め、教室の戸を開ける。

朝の騒がしい教室に入り、すうっと息を吸う。

そして。

 

「お、おは……ようございます。」

 

元気よく挨拶するつもりだったのだが、希の口から出てきたのは、「おは……」だけで後は口の中で小さくなってしまった。

その言葉は誰にも届くことなく消えてしまう。

しょぼーんとして自分の席に座ると、誰かが希の席に近づいてきた。

 

「おはようございます、波真野さん。」

「あっ!お、おはようございます副会長さん!」

 

にっこりと笑う少女は、中等部副会長の初島向日葵だった。

希と同じ1組のクラスメイトだ。

前は「初島さん」と呼んでいたのだが、隣のクラスの桜花会長とややこしいので副会長と呼ぶようになった。

 

「さっきの挨拶は仔犬くんとの約束ですか?」

「はい……。クラスに早く馴染めるようにって。」

「ふふっ、相変わらず仔犬くんは優しいですね。」

 

笑顔でそう言う向日葵。

仔犬とは同じ生徒会で仲がいいようで、希が孤立しないように積極的に話すようにお願いされたらしい。

2組の桜花もわざわざ隣の教室に来て話しに来てくれるのだ。

それだけ仔犬から信頼されているのだと羨ましくなる。

それに対して自分は、仔犬との約束1つ果たせないのだ。

情けないし、向日葵と仔犬の仲に嫉妬してしまう自分が恥ずかしい。

 

「雛森くんがせっかく言ってくれたのに……。」

「焦らずゆっくりとですよ、波真野さん。」

 

優しく微笑む向日葵。

そんな彼女に希も笑顔になってしまう。

と、そんな2人の様子に気付いた少女が1人。

 

「ねーねー、副会長と波真野さんってよく話しているよね?」

「ふぇ!?」

 

急に話しかけられビクッとなる希。

話しかけたのは希の隣の席の少女だった。

赤茶色の髪に制服を着崩した姿は、一見すると怖く見える。

 

「あっ、ごめん驚かしちゃった?」

「い、いえ……。」

 

その時、ベルが鳴った。

 

「それでは、波真野さんまた。」

「あ、はい!」

 

向日葵が席に戻ってすぐ担任が入ってくる。

そのままホームルームが始まった。

希が担任の話を聞いていると、トントンっと机を叩かれた。

驚いて隣を見ると、さっきの少女だった。

 

「さっき驚かしてごめんね。」

 

小さな声で呟く彼女。

 

「いえ気にしてませんから……。え、えっと……。」

「ん?ああ。」

 

彼女の名前がわからず、困ってしまう希。

彼女はそんな希を不思議そうに見ていたが、得心したのか頷いた。

 

「あたしは金毘羅寧々(こんぴら ねね)だよ。」

「ご、ごめんなさい名前覚えていなくて……。えっと、金毘羅さん……?」

「あー、できれば名前で呼んでくれると嬉しいかな?」

「えっと、寧々さん。」

「さん付けは禁止で。あっ、もちろん君付けはもっとだめだよ。」

「じゃ、じゃあ、寧々ちゃん。」

「うんっ、合格!よろしくね!」

 

ニコッと笑い手を差し出してくる寧々に、一泊遅れて慌てて手を差し出す希。

見た目に反し、すごくいい人だ。

彼女の笑顔は、向日葵の清楚な笑顔と違い、風羽のような無邪気な笑顔だった。

 

「あたしも希ちゃんって呼んでいい?」

「う、うん。ね、寧々ちゃん。」

 

向日葵以外に初めてできた友達の名をかみしめるように呟く。

残念ながら自力で作ることはできなかったが、すごく嬉しい。

早く帰って今日のことを仔犬に話したい。

 

「おーい波真野、きんぴら!私語するなら廊下出すぞ!」

 

と、思ったよりも声が大きかったのか担任に怒られてしまった。

 

「ご、ごめんなさい!」

「ごめんって先生ー!てゆーか、きんぴらじゃなくて金毘羅だってば!」

 

慌てて謝る希と謝りながらも頬を膨らめる寧々。

そんな2人にクラスメートはくすくす笑う。

そして、ホームルームが終わると寧々の周りにクラスメートが集まってきた。

女子だけでなく、男子もいる。

 

「珍しく怒られていたじゃん、きんぴら~!」

「あんたまできんぴらいうな~!」

「でも寧々珍しく起きてたじゃん。」

「だよなー、金毘羅結構寝てるだろ?」

 

寧々を中心として話している様子を見て希は驚いた。

そして、同時に落ち込む。

寧々は自分とは違い、たくさんの友達がいる。

自分はその1人に過ぎないのだ。

 

と、寧々が希の手を引っ張った。

そしてみんなの前に押し出される。

 

「さっき友達になった希ちゃん!みんな仲良くしてあげてね!」

「ね、寧々ちゃん!?」

 

急にたくさんの視線を感じ焦る希。

だが、寧々は逃がしてくれない。

 

「ほら、希ちゃん!みんなに挨拶!」

「ふぇぇ~!?」

 

助けを求めようと、席で本を読んでいた向日葵に顔を向ける。

視線に気づいた彼女は、顔をあげ、そしてにっこり微笑んだ。

つまり、『頑張れ』ということだ。

仕方ないと覚悟を決める。

 

「な、波真野希です……。よ、よろしくお願い……します。」

 

何とか聞こえるような小さな声でそう呟く。

これが希の限界だった。

だが、周りの少女たちは沸き立った。

 

「よろしくね!波真野さん!」

「うわぁ、近くで見ると髪きれー!」

「ホントだ!ねぇ、波真野さんいつもどんなシャンプー使ってるの?」

 

元気な少女たちにもみくちゃにされる希。

戸惑いながらもきちんと返事をする。

 

「な、なあ。波真野って結構かわいいよな?」

「ああ、いつも暗いから気づかなかったけど。」

 

恥じらいながらの自己紹介に男子たちも沸き立つ。

男子たちの中で希は、暗い少女から恥ずかしがり屋のかわいい少女にランクアップした。

と、1人の男子が希に近づく。

 

「なあ、波……。」

「ひぃ!?」

 

だが、男子の苦手な希は小さな悲鳴を上げる。

名前すら呼ばせてもらえなかった。

 

「ちょっと!波真野さんが怖がるからあっち行きなさいよ!」

 

女子の1人が、その男子を輪から追い出す。

悲鳴を上げられ、女子から追い出された男子は完全に心が折れ、ずこずこと他の男子の元へ引き下がった。

女子から希への質問ラッシュはまだ続く。

 

「というか、波真野さんって女子寮にいたっけ?」

「あっ、私知ってる!波真野さんってくちなし寮にいるんでしょ!」

「くしなし寮って女子寮なのにイケメンの男子がいるってやつ?」

 

と、話題がくちなし寮、そして仔犬の話になる。

 

「へー、ねぇ希ちゃん。その男子ってどんな子?」

 

寧々が希に話を振る。

すると。

 

「雛森くんは、すごく優しくて、かっこよくて、かわいくて、料理が上手で……。後、近づくといい匂いがして……。」

 

真っ赤になった顔でそう呟く希。

心なしかだらしない笑顔になっている。

それは、周りの女子に希の気持ちを察しさせ、ついでに希が気になりだした男子を玉砕させるには十分だった。

 

「あ、後ね、この前のことなんだけどね……。」

「あー、うん……。」

 

完全に惚気になった甘々な話を聞きながら、寧々は少しだけ友達になったことを後悔したという。




というわけで、怖そうなのにもんげーいい子の寧々ちゃんでした。
いや~、この話考えた時には一切登場させるつもりがなかった子です(笑)
姉さん的な寧々と気弱な希は反対のようで意外と相性がいいのではないかと思います。
その内、うちのお母さん担当ワンコくんと勝負させてみようかな?(*^^*)

寧々について活動報告にキャラプロ追加しておきます。

では、感想・評価・お気に入りお待ちしています<(_ _)>
あ、リクエスト&アイデアも随時募集中です(≧ω≦)
また次回お会いしましょう!


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小さな嫉妬

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

少しずつあったかくなってきたかなという気がしないでもないですね~。
そろそろコートがきつくなってきたかもですが、僕はコートを手放すことはありません!
なぜならば……コートを着た主人公かっけーな人だからです私は(笑)
え、中二病ですよ?もう7年前なのにいまだ脳内中二病ですよ私?

というわけで、恋ができない中二病な僕をこれからもお願いします<(_ _)>
なんの挨拶でしょうね、これ(^^;

では、「紅茶」64話スタートです!(*^^*)
あ、下にお知らせがあります。


ある日の学園。

仔犬は用事のため初等部のグラウンドに向かって歩いていた。

中等部は初等部よりも終わるのが遅くすでに待たせてしまっている。

ちょっとだけ早歩きする。

 

「あっ、ワンちゃん!こっちですよ~。」

 

グラウンドに近づくと風羽が仔犬に手を振っていた。

彼女が待ち合わせの人だ。

 

「ごめん、遅くなっちゃったね。」

「いえいえ~。みんな向こうにいますから~。」

 

風羽に手を引かれ、グラウンドを歩く。

すると、たくさんの小学生がいた。

男の子も女の子もいる。

 

「あっ、お兄ちゃん来たよ!」

 

仔犬に気づいた女の子が指を指す。

すると、他の子たちも気づいたようで仔犬に手を振る。

 

「兄ちゃん遅せーぞ!」

「うわっ!?ごめんごめん。」

 

1人の男の子がそう言いながら仔犬に飛びかかる。

それについで他の子たちも仔犬の周りに集まってきた。

彼らは風羽と同じクラスの子たちだ。

前に風羽に誘われて一緒に遊んだのだが、懐かれたのか風羽にまた遊んで欲しいとお願いしたらしい。

 

「あっ、ちょ、ちょっと痛い!」

 

男の子がポカポカ殴ってくる。

子供たちにしてみればじゃれているだけだろうが、手加減なしなので結構痛い。

それに気付いた風羽が止めようとする。

 

「あの……」

「もうっ、けいたくん!仔犬お兄ちゃんが痛がってるよ!」

 

だが、それより先に女の子が止めてくれた。

 

「あっ、ごめん兄ちゃん……。」

「ん、大丈夫だよけいたくん。ゆかちゃんもありがとね。」

 

謝るけいたの頭を撫で、女の子にお礼を言う。

ゆかと呼ばれた少女はぱあっと目を輝かせる。

 

「仔犬お兄ちゃんわたしの名前覚えてくれたんだ!」

「え?うん。そりゃもちろんだけど。」

「うれしい~!」

 

けいたを止めたはずのゆかまで飛びついてくる。

 

「痛たた!?ちょ、ゆかちゃん!?」

「仔犬お兄ちゃ~ん♪」

 

そんな風にもみくちゃになっている仔犬を見ながら風羽は嬉しそうに笑った。

けれど、ちょっとだけ寂しい気がした。

 

「じゃあ、鬼ごっこやるぞ!じゃんけんして分かれろ!」

 

ようやく落ち着いた頃、けいたの一声でみんなじゃんけんをする。

じゃんけんしようと風羽が仔犬に近づく。

 

「あの、ワンちゃん」

「おい、兄ちゃん!俺とじゃんけんしようぜ!」

 

だが、それより先に他の男子が仔犬とじゃんけんしてしまう。

 

「風羽ちゃん、まだじゃんけんしてないならわたしとしよう?」

「あ、えっと……はい。」

 

結局、風羽は他の女の子とじゃんけんをした。

 

「1、2、3……。」

 

鬼となった子たちが数える中、逃げる方になった仔犬は逃げていた。

だが、相手は小学生。

さすがに本気で逃げるわけにはいかず適当に逃げて捕まろうかなと思っていた。

 

「あっ、ワンちゃん~!」

 

隠れ場所を探していると、風羽に会った。

 

「風羽ちゃんも逃げる方だったんだ。」

「はい!」

 

にこにこと笑顔で近づいてくる風羽。

だが、仔犬はちょっとだけ違和感を感じた。

 

「風羽ちゃんどうかした?」

「え?」

 

仔犬の言葉に不思議そうな顔をする風羽。

 

「いや、何というかちょっとだけいつもとちがうなって。」

「……」

「風羽ちゃん?やっぱり具合でも悪い?」

 

心配そうな仔犬の声にはっとなる風羽。

 

「い、いえ、大丈夫ですよ~。それよりどっか隠れましょうか。」

 

いつもの笑顔でそう返され、仔犬も勘違いだったかと思う。

 

「ん、そうだね。どっかいい場所ある?」

「えっと……あっ、いい場所がありますよ~。」

 

そう言う風羽に付いて行くと彼女はグラウンドの隅にある建物に入った。

ここはハードルやボールの置いてある体育用具室だ。

 

「ここなら隠れられますよ~。」

 

そう言いながら電気をつけドアを閉める風羽。

窓もない密室なので、電気をつけないと全く見えない。

 

「でもここはさすがにルール違反じゃないかな。」

 

用具室に隠れてしまったら子供たちでは見つけるのは困難だろう。

せっかくの風羽の提案だが、これでは他の子供に申し訳ない。

 

「風羽ちゃん外に出ようか……」

 

そう仔犬が言おうとした瞬間。

 

「!?ふ、風羽ちゃんどうしたの……?」

 

後ろを振り向くと、背中からギュッと風羽に抱きしめられていた。

仔犬の背中にくっつけているため、顔は見えない。

 

「……ワンちゃん。」

「ん?」

 

小さく風羽が仔犬を呼んだ。

 

「わたし、さっき嘘ついちゃいました……。」

「え?」

「寂しかったんです……。ワンちゃんが全然構ってくれなくて……。」

「あ……。」

 

そう言えば、今日は他の子にかまけて、ほとんど風羽と話していなかった。

いつも話しているからと思っていたが、それでも風羽は寂しかったのだろう。

 

「ワンちゃん、みんなから『お兄ちゃん』って呼ばれて嬉しそうで……。」

「あ、うん……。」

 

それは、ホントだ。

お兄ちゃんと呼ばれたことで、実家の妹たちを思い出したからだ。

それに純粋に慕ってくれるのが嬉しかった。

 

「それにデレデレしてたです……。」

「で、デレデレはしてないよ!?」

 

さすがにデレデレはしてない。

してないはずだ。

してないと思いたい。

 

「ワンちゃんはわたしのお兄ちゃんなんです……。わたしのものなんです……。」

「風羽ちゃん……。」

 

そこで顔を上げる風羽。

ほおを膨らませ、目には涙がにじんでいた。

いつも優しく笑顔の風羽にしては珍しいわがまま。

子供らしい素直な嫉妬だ。

 

「じゃあさ……。」

「はい……?」

 

優しく抱擁を解き、しゃがんで風羽の頭をなでる。

そしてもう片方の手を風羽の手とつなぎ、ぎゅっと握る。

 

「今日はこうやって手をつないでよっか。」

「あ……。」

 

握られた手を見てみるみるうちに嬉しそうな顔をする風羽。

とその時。

 

「あっ、兄ちゃんと風羽いた!」

 

ドアが開き、けいたや他の子が入ってきた。

 

「あはは、見つかっちゃったね。」

 

さすがは子供。

絶対見つけられないと思ったのに見つかってしまった。

 

「兄ちゃんずりーぞ!」

「ごめんごめん。風羽ちゃん行こう?」

 

仔犬はつながった手の先、風羽にそう言う。

すると、風羽はニコッと笑った。

 

「ワンちゃんはわたしのお兄ちゃんじゃないですね~。」

「え?」

 

突然の言葉に驚く仔犬。

だが、風羽は言葉を続ける。

 

「ワンちゃんはお兄ちゃんじゃなくて……。」

 

顔を近づける風羽。

そして、仔犬の頬に柔らかい感触が当たった。

 

「えへへ~♪」

「……へ?」

 

少し赤くなった顔でにっこり笑う風羽。

そんな風羽に思わずドキッとしてしまう仔犬。

結局、仔犬はさっきの言葉の続きを聞くことはできなかった。




風羽の言葉の続きは皆さんのご想像にお任せということで(笑)

ちなみにうちの方では、けいどろという鬼ごっこがあるのですがどうやらこれは地域ごとで名前が違うみたいですね~。
僕は、鬼ごっこでは正面からの前転で逃げるという技を持っていましたが、終ぞ成功することはありませんでした(笑)

では、お知らせです(*^^*)
5月より更新を止めている「ゆるっと」ですが、どうにか復活させようと今動いています。
ですが、「紅茶」と同系統の日常系ということもあり、どういう方向性で書くべきか迷っていたりします。
そこで、アイデアを募集したいと思います。
ぜひ皆々様のお力をお貸しいただければと思います(^◇^)
もちろん、紅茶のシチュ募集も続いてますので両方ともお願いします。

感想、活動報告、メッセージどれでもいいのでよろしくお願いします<(_ _)>


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あお、再び

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

222の日ということで、全国の兄兄兄さんに向けた話にしてみました(*^^*)
僕にもリアル妹がいるのですが、残念ながらアニメでおなじみのブラコンではなく(笑)

そう言えば、リアル兄弟姉妹がいる人は二次元でもそれには萌えないと聞いたことがあるのですが、どうなんですかね~?
あ、ちなみに僕は普通に萌えます(笑)

そんな感じで行きましょうか~。
では、「紅茶」65話スタートです(≧ω≦)


ある日の休日。

ある日の昼下がり。

 

仔犬は、水色の髪の少女と会っていた。

9月に知り合ったばかりのあおだ。

特売でスーパーに行ったところ、またもや偶然会い、また家に引っ張り込まれたのだ。

あおの部屋で対面する。

 

「久し振りですね、あおさん。」

「……」

「えっと、元気でした?」

「……」

 

沈黙に耐えられず仔犬が話しかけるものの、あおは全く話さない。

じーっと仔犬を見ている。

 

「……あおさん、もしかして怒ってます?」

「……はぁ。」

 

恐る恐る言う仔犬にため息をつく。

そして、また無表情に睨んでくる。

 

「ぽち。わるいこ。」

「へ?」

「ぽち。ぜんぜん。かえらなかった。」

「え、えっと……。」

「しつけする。」

 

そう言い、覆いかぶさってくるあお。

 

「ちょ、ちょっとあおさん!?」

「ぽち。お手。」

 

慌てる仔犬に手を差し出し出すあお。

これはどう考えてもアレだろう。

 

「わ、わん……。」

「ぽち。おかわり。」

 

今度は逆の手を出す。

 

「わん。」

 

仔犬もおとなしく従う。

 

「ぽち。ちんちん。」

「ちょ!?女の子がそんなこと言っちゃダメですって!」

「ぽち。言うこと聞く。」

 

無表情でそう言うあお。

なぜ仔犬が焦っているのかわからないようだ。

 

「バン。」

「え……う、うわぁ~。」

 

倒れる演技をする仔犬。

だが、あまりに下手すぎたためか微妙な空気になる。

その時ドアが開いた。

そしてあおと同じ髪の色をした男が入ってくる。

 

「おーい、あおい。辞書貸し……。」

 

仔犬を見て固まる彼。

仔犬よりも10歳ぐらい年上だろう。

彼を見てあおいはいつも通りの無表情で首をかしげる。

 

「おにいちゃん。なに?」

 

お兄ちゃんということは彼はあおの兄なのか。

彼は数秒固まった後、仔犬をにらんだ。

 

「貴様、あおいの何だ。」

「へ?」

「彼氏か?彼氏だったら潰すぞ。」

「え、えっと……。」

 

ものすごい剣幕で仔犬をにらむ彼。

何といわれても答えようがなく、仔犬も困ってしまう。

 

「おにいちゃん。」

「ちょっと待ってろあおい。今この茶髪野郎を追い出すから。」

 

仔犬から目を離すことなく答える。

そんな彼に一言。

 

「おにいちゃん。うるさい。」

 

繰り返された言葉に固まる彼。

そして、ギギギと音が立ちそうなほどぎこちなく振り向く。

 

「あ、あお……。今おにいちゃんのことうるさいって……。」

「うるさい。」

「ごめんなさい!」

 

勢いよく土下座する彼。

仔犬は話についていけず戸惑ってしまう。

 

「あお。じゃなくてぽちに。」

「ごめんなさいぽちさん!」

 

土下座しながら回転するという芸当を見せ、仔犬にも土下座する彼。

 

「じこしょうかい。」

「あおいの兄の道灯寺悟(どうとうじ さとる)です!」

 

単語のみで兄に命令するあおと、妹に忠実に従う悟。

力関係は明確だった。

 

「というか、あおさんってあおいって名前なんですか?」

「うん。どうとうじあおい。しょくぶつのあおい。」

 

植物のあおいと聞いて一瞬戸惑う仔犬。

ややあって「葵」のことだと察する。

 

「どうとうじ。おてら。」

「ああ、そういえばそんなお寺がありましたねー。」

「あお。おぼうさん。」

「お坊さんですかー。」

 

むふーっと大きな胸を張る葵。

無表情なのになぜか自慢気な顔に見えた。

 

「どうとうじ。いく?」

「いいですけど……えっと悟さんは?」

「いらない。」

 

バッサリと兄を切る葵。

「ぐはっ」と悟がまたショックを受ける。

だが、彼は顔をあげた。

 

「な、なあ葵お兄ちゃんも一緒に……」

「ぽち。いこ。」

「は、はあ……。」

 

兄を完全に無視し、仔犬の手を引く葵。

悟は真っ白になっていた。

その後、仔犬と葵は日が暮れるまで遊んだのだった。

 




というわけで、あおちゃんの本名がわかりましたね~。
ここからは、「葵」表記でいきますので、覚えてあげてくださいね! (*ゝω・*)
髪が水色なのに葵ちゃんという何ともややこしい感じですが(笑)

そして、シスコン悟お兄ちゃんは類斗くんと同じいじられの匂いが……(笑)
え?いじりますよ?そのために彼は生まれてきたんですから(ひどい
そんな道灯寺兄妹でした(*^^*)

今日は一応、「ブラロー」、「紅茶」の2本投稿が目標です。
木曜日まで勉強で書けませんしね~。
もし、全然投稿されてなかったら「間に合わなかったんかい!」とツッコんでいただければ喜びます(変態じゃないですよ? 笑)

では、また次回!(≧ω≦)


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寮長との文化祭

コンバトラー!(≧ω≦)
くーさんこと露草です。

ひっさしぶりの更新ですよぉ~!(*^^*)
危うく1か月過ぎるところでした(^^;
もう春なのに話はまだ秋!とこのままではやっべぇぞ状態なので更新頑張りたいなぁと思ったり思わなかったりします(笑)

ホストやりたいですね(唐突
え?何となく思いついただけなので特に意味はないですよ?
だから話を広げるつもりもないですね~(ドヤ顔
なんだこの中身のない話(笑)

では、久し振りの「紅茶」66話どうぞ!(^◇^)




いつもの秋の日。

いつもの学校。

だが、今日は少しだけ違っていた。

 

今日は学園の文化祭なのだ。

小中高合同で3日間の文化祭を行った後、2日間の体育祭をそのまま行う。

今日はその初日。

外部の人が入れるのは明日からなので、今日は学園の生徒のみが楽しそうに遊んでいる。

 

「遅っせぇな…。」

 

高等部の昇降口の前。

風鈴はイライラとしながらある人を待っていた。

待ち合わせ時間は13時なのにすでに13時15分。

完全に遅刻だった。

と、壁にもたれ掛かる風鈴に影が差した。

 

「はぁはぁ……。りょ、寮長遅くなりました……。」

「おいワンコ遅い……ってなんだよその恰好。」

 

説教しようとした風鈴だったが、待ち人の恰好を見て思わず吹き出してしまう。

 

「寮長ひどいですよー。急いで来たのに。」

 

待ち人――――仔犬は真っ赤になりながら不満を言う。

その服装はなぜか執事服だった。

 

「わるいわるい。で、なんで執事服なんだよ?」

「うちのクラスの模擬店、執事メイド喫茶なんですよ……。長引いちゃって着替える時間もなかったですし。」

 

恐らく顔が真っ赤なのはここまで来る間恥ずかしかったからだろう。

 

「おまえに執事服を着せたやつは優秀だな。くちなし寮長特別賞をくれてやろう。」

「わぁー、柊さんとても喜ぶと思いますよー。」

 

まったく感情の籠ってない声を返す仔犬。

柊さんは同じクラスで、最近席替えで仔犬の前の席になった女の子だ。

ポニーテールでかわいい子なのだが、執事メイド喫茶を提案した時見せた黒い笑顔を仔犬は忘れていない。

 

「冗談はさておき、結構似合うと思うぞ。」

「笑いながら言われても信じられませんよー!」

 

ふざけて言った風鈴だったが、実際は本心から言っていた。

女の子と遜色ないほどかわいらしい仔犬だが、執事服を着ると何となく男らしく見える。

少しだけドキドキしてしまったのは内緒だ。

 

「そういえば、寮長の家って執事さんもいるんですか?」

「いやウチにはメイドさんしかいないぞ。ミクのとこは弟が執事見習いやってるみたいだけど。」

「へー。」

 

御籤に弟がいるとは聞いていたがまだ会ったことない。

 

「しゃべってないでそろそろ行くか。昼は食べたか?」

「いえ、まだですよ。」

「んじゃ、まずは昼飯だな。」

「そうですねー。」

 

そう言って歩き出す仔犬だが、なぜか風鈴はついてこない。

首を傾げ尋ねる。

 

「寮長どうしたんですか?」

「おまえなぁ……。」

 

呆れたように手を頭に当てる風鈴。

仔犬にはなぜだかわからない。

 

「執事というのは3歩下がって付いてくるもんだろうが。」

「えー?執事ってそんなのでしたっけ?」

「そんなのだよ。ほら私の後に付いて来い。」

 

そう言って歩き出す風鈴。

仔犬はそういうものかと3歩分空けて後ろについていく。

 

「で、おまえは何が食べたいんだよ?」

「えっと、寮長にお任せしますよ。」

「お任せってのが一番困るんだけどなぁ。」

 

そう言いながらも風鈴は屋外テントで高等部のクラスがやっているお好み焼き屋に並んだ。

仔犬は空いているベンチを見つけ座って待つと、なぜかお好み焼きを1つだけ買ってきた。

 

「ほら。」

「あ、ども。って寮長は食べないんですか?」

 

2人いるのに買ってきたのは1個。

自分で買ってこいということだろうか。

 

「何やってるんだよ。」

 

なぜか口を開けて待っている風鈴。

 

「えっと……?」

「あーんだよ。執事は主人にあーんするんだよ。」

「そうなんですか?」

 

風鈴がそう言うならそうなんだろう。

パックを開け、一口サイズに切る。

 

「はいあーん。」

「あ、あーん。」

 

パクっと一口で食べる。

 

「おいしいですか?」

「……味なんてわかんねーよ。」

 

少し赤くなった顔でそう呟く風鈴。

照れるならやめればいいのに。

仔犬も一口食べる。

 

「あ、おいしいですねー。」

 

甘みのあるソースで結構おいしい。

さすがにお店には敵わないが、生徒が作っているのでは十分だろう。

 

「お、おまえバカか!?」

 

さっきよりも顔を真っ赤にする風鈴。

それを見てようやく気付いた。

お好み焼きが1つしかないのだから当然箸も1つだけだ。

そしてこれは風鈴がさっき使った箸で。

仔犬も真っ赤になる。

 

「す、すいません!新しいのもらってきます!」

 

慌てて新しい箸をもらいに行こうと立ち上がる。

すると、風鈴が服の袖を掴んだ。

 

「寮長?」

「……いよ。」

「え?」

 

風鈴が何か呟く。

 

「それでいい!ほら早く食べさせろ!」

「は、はい!」

 

真っ赤な顔で怒鳴られ、急いで切り分ける。

 

「あ、あーん。」

 

赤い顔でもぐもぐと食べる。

 

「う、うまいな……。」

「そ、そうですね……。」

 

お互い顔を合わせられず、でもあーんはキチンとやり食べ進める。

最後の一口は風鈴が食べた。

 

「ご、ごちそうさまでした。」

「……おう。」

 

お好み焼き1枚食べるのに30分近くかかってしまった。

 

「あーもう!次の店行くぞ!」

 

勢いよく風鈴が立ち上がる。

 

「次はおまえがおごりな!」

「……あはは、お手柔らかにお願いします。」

 

どちらともなく自然と手をつなぎ歩き出す。

しばらく経ってからそれに気づき、お互い照れ合ったのはまた別の話。




ホストのいいところは女の子と喋れるところですかね~。
あんまり女の子と話すことが得意ではないので何か羨ましいですね。
まあ、そうでもなくちゃこんな妄想だらけの小説書けないのですが(笑)

と、なぜか結局ホストの話続けてしまいましたがこんな感じでいいんですかね?(笑)
ホストのみなさんにもぜひ読んでほしいなと思います(^^)/

そんな感じです(笑)
では、また次回!


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御籤さんとの文化祭

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

春ですなぁ~(*^^*)
春というと色々ありますが、みなさんは何を想像します?
僕は今度学校である健康診断ですね~。
とりあえず、残り2日でどれくらい体重を落とせるか頑張りたいと思います(笑)
目指せ、三浦○馬!(不可能

どうでもいいですけど、春を「創造」ってやるとものすごく壮大に感じますね(^^;
(確認するまで上の「想像」が誤字ってたのです 笑)

では、「紅茶」67話どうぞ!(≧ω≦)
今回は短めです。



文化祭2日目のお昼頃。

昨日とは違い、保護者や子供たちといった外部の人たちもいる校舎。

御籤は1年生の教室がある廊下を歩いていた。

そして、1組の前で止まった。

 

「これは……すごいね。」

 

教室の前には行列ができていた。

喫茶店をやっているとは聞いていたが、ここまで大盛況だとは思わなかった。

御籤は受付をやっている男子生徒のもとに行く。

 

「えっと花沢くんだったかな?」

「はい?……あ、西宮先輩!お久し振りっす!」

 

受付をやっていた類斗が御籤に気づき、笑顔で答える。

類斗に会ったのは1度だけだったが覚えてくれたようだ。

 

「ワン……雛森くんはいるかな?」

「ヒナっすか?あーまあ中にどうぞ。」

「いいのかな?結構並んでるみたいだけど。」

「いいっすいいっす。怒られたら俺が責任とりますから。」

「じゃあ、遠慮なく。」

「へーい。おい、柊!」

 

類斗が教室の中に呼びかけると、メイド服姿の女子生徒が出てきた。

仔犬のクラスメートの柊さんだ。

ちなみに名札に書かれている名前は下の名前の智花(ともか)をもじった『ともにゃん』だ。

 

「はいはい、一名様どうぞ~!」

 

柊さん、もといともにゃんの案内で2人掛けの席に通される。

そこに1人のメイドさんがやってくる。

 

「お帰りなさいませ、おじょ……!?」

「ん?」

 

途中で固まった少女に怪訝とした顔を向ける御籤。

と、誰だか気が付いた。

 

「やあ、ワンコくん。よく似合っているね。」

「み、御籤さんなんでここに……。」

 

そこにいたのは、仔犬だった。

髪と同じうす茶色のウィッグはつけているもののどうみても女の子にしか見えない。

ちなみに名札の名前は、『ポチ』だった。

 

「どうしてって、約束の時間になっても待ち合わせに来ないからだよ。」

「え?……うわっ、もうこんな時間!?す、すいません!」

 

壁の時計を見てびっくりした。

完全にすっぽかしていた。

 

「いやいや、大方忙しくてなかなか抜けられなかったんだろう。気にしてないよ。」

「本当にごめんなさい。でもまだ抜けられる感じじゃ……。」

「大丈夫だよ、君の仕事ぶりで楽しませてもらうから。」

「あはは、お手柔らかにお願いします……。」

 

仔犬は苦笑しながら御籤にメニューを渡した。

 

「そうだね、コーヒーはあるかな?」

「はい、ブラックでいいんですよね?」

「いや……。」

 

そこで御籤はニヤッと笑った。

仔犬にもゾクッと怖気が走る。

間違いない、あれは風鈴もよくやる意地悪する時の顔だ。

 

「”メイドさん特製らぶらぶウインナーコーヒー”をいただこう。」

「うぇ!?そ、それは……。」

「ん?ダメなのかな?」

「い、いえ……かしこまりました。」

 

思いっきり嫌そうな顔した仔犬が去って数分。

ソーサーに乗ったコーヒーカップを持ってきた。

反対の手にはポイップクリームが握られている。

 

「お待たせしました。それでは私が魔法をかけますね。」

 

仔犬がポイップクリームでハートを描く。

そして胸の前で手を作る。

 

「わんわんわーん!ポチのご主人様への愛を受け取って欲しいわん!」

 

真っ赤な顔で無理やり笑顔を作りながらやけくそ気味に叫ぶ仔犬。

やばい、いじめたい。

込みあがる嗜虐心を必死に堪える御籤。

 

「ありがたくいただくよ……ポチちゃん。」

「うっ……うわぁんー!」

 

ダメだ、我慢できなかった。

仔犬をいじめたくなる風鈴の気持ちがちょっとわかった。

半泣きになった仔犬は厨房に引っ込んでしまった。

反省しつつ湯気の立つコーヒーを一口。

 

「ん、おいしいね。」

 

カバンから本を取り出し、のんびりとした午後を過ごす。

ちなみにこれを見た人たちによる、仔犬指名のウインナーコーヒーの注文が相次いだという。

 




というわけで、ドSな御籤さんの回でした(笑)
前回も登場した柊さんこと智花ちゃんも中々のドSなので、是非とも「仔犬くんをいぢめるの会」を発足して欲しいなと思います。

やれやれ、普通の僕にはドSのみなさんの気持ちがよくわかりませんね~(呆)
……女の子は泣くギリギリで優しくしてまたいぢめるのが楽しいのに(ボソッ

おっと素が出そうになっちまったぜ☆
というわけでまた次回!(*^^*)


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風羽ちゃんとの体育祭

コンバトラー!(^◇^)
くーさんこと露草です。

さて20引く19年ぶりにこの挨拶をしたわけですが、みなさんいかがお過ごしですか!?
夏ですね!暑いですね!!5月ですけど!!!

というハイテンションでお送りする久し振りの『紅茶』なわけですが、1年更新していないにも関わらずUAは1万を超え、お気に入りは91という……。
ハーメルンぱねーっすね……。

というわけでぜひともお気に入りを消さないでくれたらありがたいなぁーと思いつつ、行きましょうか!
では、『紅茶』68話スタートです!


『落とし物のお知らせをします。グラウンド西側に青いケースに入ったデジカメを――――』

 

そんな放送を背に高等部のグラウンドを出て数分。

着いたのは目的地の中等部と初等部間の中庭だった。

 

「あっ、ワンちゃんここです~!」

 

ベンチの横でブンブンと手を振るのは約束の相手、風羽ちゃん。

仔犬も振り返しつつ、彼女に近づく。

 

「風羽ちゃん、お疲れ様」

「おつかれさまです~、ワンちゃん」

 

ほにゃぁと笑う風羽に仔犬も思わず笑顔になる。

そして、2人で少し錆びたベンチに座る。

 

1日目の体育祭で一緒に昼食を食べようと提案……というより控えめなお願いされたのは昨日の夜。

勿論断る理由なんてない仔犬は快く承諾し、さて何を作ろうかと考える。

そんな仔犬にもう1つ風羽がお願いをした。

それが。

 

「はいっ、これがワンちゃんの分のお弁当です~!」

 

寮のどこにあったのか水色のハンカチに包まれたお弁当を差し出す風羽。

ありがとうと受け取りながら、風鈴なら『ワンコの餌』とでもいいそうだなと思い苦笑する。

水筒と2つのコップを取り出し、お茶を注いでくれる。

 

「改めておつかれさまです~!午後も頑張りましょう」

「ん、頑張ろうね」

 

コツンとプラスチックのコップを当て乾杯する。

 

「ワンちゃんお弁当食べてみてくださいです!」

「わかった、ちょっと待っててね」

 

ハンカチをほどきながらチラリと横を向くと、風羽が不安と期待の入り混じった変な顔をしていた。

そんな風羽にかわいいなと思いつつ蓋を開ける。

 

「おおっ!」

 

思わず声が出てしまった。

ふりかけのかかったごはんに卵焼き、唐揚げ、肉団子、そして仔犬の好きな豆腐の白和えなどシンプルながらもすごくおいしそうなお弁当だった。

 

「じゃあ、いただくね」

 

手を合わせてまずは卵焼きに箸を伸ばす。

そして1口。

 

「ん、おいしいよ」

 

仔犬のよく作る出汁の卵焼きとは違い、砂糖の入った甘い卵焼きだった。

これはこれですごくおいしい。

 

「よかったです~」

 

途端にいつもの笑顔に戻る風羽。

安心したのかようやく自分のお弁当を取り出した。

仔犬と色違いのピンクのハンカチのお弁当だった。

 

お弁当を楽しみつつ、午前の部の話に花を咲かせる。

 

「ワンちゃんと会長さんの二人三脚すごかったですねぇ~」

「ああ、あれね……」

 

午前の部最後の競技が例の『男女混合二人三脚』だった。

出たのは、仔犬と会長である桜花……ではなく、姉のサボりの分の借りを返してもらった副会長の向日葵だった。

練習の時やたらと転んでは仔犬の上に倒れ込むという向日葵だったが、本番ではそんな様子は一切無しでぶっちぎりの1位だった。

練習の時、桜花の視線が毎日とても痛かったことを仔犬は覚えている。

 

「いいなぁって思いました~」

「え、そう?」

 

風羽も二人三脚に出たかったのかと思う仔犬。

苦笑しながら風羽が仔犬の勘違いを否定する。

 

「二人三脚じゃなくて、ワンちゃんと一緒に競技に出ることがですよ~」

 

いつもの笑顔ながら少し寂しそうな顔をする風羽。

中等部と初等部が関わる競技は少ないし、そもそも仔犬たち中等部1年生と風羽たち初等部2年生が交わる競技は1つもない。

そんな空気を察し、仔犬は話題を変える。

 

「そういえば、風羽ちゃんも徒競走頑張ったね」

「……えへへ、負けちゃいましたけど」

 

風羽に笑顔が戻り、一安心する。

風鈴に教えてもらったが、風羽と一緒に走った子のうち2人は陸上クラブに所属している結構速い子らしい。

そんな子たちがいる中で2位を取ったのだから流石風鈴の妹ということだ。

 

そんな話をしつつ、お弁当を平らげお茶を片手にまったりする。

 

「あっそうです!」

 

急に風羽が声を上げた。

 

「ん、どうしたの?」

「午後のプログラムに自由参加のペア障害物競走がありましたよね!それ一緒に出ましょう~!」

「ああ、そういえば」

 

言われて仔犬も思い出す。

2人で手をつないでハードルや網くぐりで順位を競うという正確には父兄参加の競技だが、生徒が出てもいいらしい。

運動があんまり好きではない仔犬だが、さっきの風羽の顔を見ておきながら断ることはできなかった。

 

「じゃあ、出ようか」

「はいっ、楽しみにしてますね~!」

 

ニコッと笑う風羽とは対象的に、午後の疲労を考えつつ少しぬるくなったお茶をすする仔犬だった。




久々ですがめちゃくちゃ楽しかったです(笑)
不定期にゆっくり更新していきますので、是非ともこれからも読んでいただければと思います。

にしてもしばらく離れていたからか文のセンス落ちた気がします(^^;

で、ではっ!
そんな感じで次回もよろしくです。

感想・高低両評価・お気に入りお待ちしています(^_-)-☆


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希さんとの体育祭

コンバトラー!!(^◇^)
くーさんことハイパー露草です。
さて皆さん……

まじくそすいませんでしたーーーーー!!!(土下座中

気がついたら秋が終わって新年すら終わってましたよ!!
あけましておめでとうございます!!(超絶遅い

謝罪は後書きに後回しして、とりあえず本編行きましょう!
では、「ゆるっと」……えっと、多分69話どうぞ!!(≧ω≦)
ロックだぜ!



保健室。

椅子に座って本を読んでいた仔犬は、カーテンの奥から音が聞こえたのに気づいた。

 

「……ここは?」

 

小さい声が聞こえた、ということは起きたのだろう。

本を閉じてカーテンの方に向かう。

 

「希さん、雛森です」

「……雛森くん?」

 

驚かない様に小さな声で言うと、向こうからも声が返ってきた。

 

「はい。カーテン開けてもいいですか?」

「……うん」

 

「うん」だけだといいのか悪いのかわかりにくいなぁと思いつつゆっくりカーテンを開ける。

そこにはベッドに体を起こした希の姿があった。

 

「あっ、無理しない方がいいですよ」

「ここは……保健室?どうして私ここに……」

 

きょとんとしていた希だったが不意にはっとした顔をする。

 

「そっか私倒れちゃったんだ……」

「ええ。保健室の先生が言うには軽い熱中症らしいです」

 

今日は午後から結構暑くなった。

日ごろあまり外に出ない希にはかなり辛かっただろう。

 

「っ!?そうだ、体育祭!!」

 

慌てて窓の外を見る希。

だが。

 

「あっ……」

 

時刻はすでに夕方。

今の季節では外はすでに真っ暗だった。

 

「そっか……最後まで頑張れなかったんだ」

 

その呟きに仔犬は何も答えられない。

それは体育祭の前に希が宣言した『最後まで頑張る』という宣言。

それを守れなかったということだから。

 

小学校、そして中学1年生とまともに学校に通っていなかった希にとっては初めての体育祭で、今年はさらに仔犬たちくちなし寮の面々も応援してくれていた。

それだけに倒れてしまった自分が許せなかった。

 

「希さん……」

 

仔犬は必死にかけるべき言葉を考える。

『倒れたのは最後の方だった』、それを伝えても何の意味もない。

『希は頑張った』、本人が自分を許せないのにそんな言葉は届かない。

いくつもの言葉を考えては消してを繰り返す。

そして。

 

「……次は」

 

目の前の少女に告げる。

 

「来年は僕が希さんとずっと一緒にいます。寮長、御籤さん、風羽ちゃんにも協力してもらいます。もし倒れそうになったら叩いてでも起こしますよ」

「……え?」

 

慰めではなく、次の誓い。

希一人で頑張れないならみんなで支えればいい。

 

「だから、来年こそ最後まで頑張りましょう」

「……雛森くん」

 

希の目から涙が零れる。

それを見てなぜか仔犬は慌てる。

 

「わぁ!?の、希さんなんでまた泣くんですか!?あっ、叩くっていうのは嘘ですからね!?」

 

希の涙の意味を勘違いして慌てる仔犬。

それを見て思わず。

 

「くすっ……。ふふふっ」

 

最後まで頑張れなかった体育祭。

その反省、そして次の誓いを手にした希は嬉しそうに笑うのだった。




というわけでやっと10月編最終話(特別回を残して)です…。
「そろそろ今の季節と重なる」と感想に書いてくださった方がいますが、それから4か月私が遅れることとなりました。
とりあえず追いつく!話はそこからだ!!

ツイッター、インスタ、フェイスブックで応援募集してます!
一切僕やってないですけど!!

ではこのままハイテンションで終わります。
ではでは~♪(^ω^)


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葵のぼうけん

コンバトラー!(^v^)
くーさんこと露草です。

久々の2夜連続投稿です。
さて今回は風羽の未来編……のつもりでしたが、話数がなぜか69話で一個足りてないのでその補填回とします。

というわけで今回は葵の特別回です!
さてろりきょぬー好き用意はいいですか!!

では、「紅茶」真の69話にして特別回スタートです♪(^x^)


朝の道灯寺本堂。

畳の真ん中で葵は寝っ転がりぼぉーっとしていた。

今日は休日で学校はない。

だからといって何か予定があるわけでもない。

 

端的に言えば退屈だった。

 

「……そうだ」

 

のそのそと、だが葵にしては速い動作で起き上がる。

そして縁側から庭に出る。

 

「ぽち、会う」

 

そのまま門の方へ歩いていく。

どうやら今日の予定は決まったらしい。

 

 

 

 

 

門を出てとりあえず商店街の方まで歩いたところではっと立ち止まる。

 

「いえ、しらない」

 

葵は彼の家を知らなかった。

電話番号やアドレスも知らない、というか葵自身がケータイを持ってないので知ってても意味がない。

 

「むう」

 

当然だが会う約束もしてない。

いつも偶然に会えるのだが今日はなかなか会えない。

 

「ぽち、わるいこ。かいぬし、ぴんち、たすけない」

 

彼が聞いたら『無茶ですよー』と苦笑しそうなことを呟く。

仕方なく商店街を過ぎ、彼と初めて会ったスーパーまで行く。

しかし。

 

「いない」

 

30分以上探したがどこにもいなかった。

スーパーで買ったアイスバーを手に公園のベンチに座る。

もう10月になるというのに結構暑い。

 

「おいし」

 

イチゴミルクの甘さに疲れた体が癒される。

しばらくして食べ終わった葵はゴミ箱に棒を捨て立ち上がる。

 

また歩き続けること1時間。

流石に歩き疲れた葵は壁に寄りかかって休む。

すると、目の前のものに気付いた。

 

「あれ」

 

そこにいたのは、葵と同い年ぐらいの男子たちだった。

どこかに遊びに行くのか楽しそうに話している。

だが、葵が気になったのは男子たちではなく、その服。

つまり制服だった。

 

「ぽち、おなじ、きてた」

 

前に学校帰りの彼もまた同じ制服を着ていたのだ。

ということは彼の通う学校がすぐそばにあるということだ。

 

「……がんばる」

 

ようやく見えてきた希望にやる気が出てくる。

残念ながら葵にはどこの学校かまではわからなかったが、それでもそう遠くないはずと頑張れることができた。

 

そしてさらに歩くこと20分。

偶然は突然やってきた。

 

「あれ、あおさん?」

 

彼だった。

買い物袋片手に葵の姿を見て驚いた顔をしている。

 

「どうしてここに……」

 

言いかけた彼の言葉は遮られた。

彼に向かって飛び込んできた葵を慌てて受け止める。

 

「わわっ!?あ、あおさんどうしたんですか?」

 

慌てつつ、思わず落とした買い物袋に卵を買わなくてよかったとどうでもいい安心をする仔犬。

そんな彼に葵は一言。

 

「……きちゃった」

 

それだけ呟いた。

こうして葵の冒険は無事終了したのだった。




ちなみに葵の足がちっちゃくて遅かっただけで道灯寺と仔犬たちの学園(くちなし寮)はそんなに離れてないです。
隣町で、仔犬がたまに使うスーパーだと考えると精々、徒歩20分程度です。
それに1時間半かけている葵ちゃんというね。

こういうあたりにちっちゃい子可愛い感ありません?(笑)

さて次回は風羽のあるかもしれない未来編です。
仔犬とのラブラブ夫婦物語か、あるいは風鈴にNTRれた物語か、もしくは風羽の病ん病んっ!物語か……。
とりあえず後者の2つを書き出したら僕を思いっきりぶん殴ってください(笑)

では、また次回!
感想、評価、お気に入りお待ちしています(≧ω≦)


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作者からのお知らせ(バットニュースじゃないです)

こんばんは!

くーさんこと露草です。

 

「紅茶」をお気に入り登録してくださった皆様はお久しぶりです。

今投稿している「姪セク」から来てくれた方はありがとうございます。

どちらでもなく見に来てくれた方は、特に何もないです 笑

 

橘田露草のファーストグラビア〜真夏のhappy present〜好評発売中です。

嘘です、ごめんなさい。

 

では真面目な話を。

1年半まで投稿していたこの小説ですが、訳あってしばらく更新ストップしていました。

その訳というのが、この小説の元ネタにあります。

 

お察しの方もいる通り、この小説は『GJ部』という小説をオマージュしています。

といいますのも、自分は日常系小説が大好きで、じゃあ自分が書くとなったらと考えたら真っ先に浮かんだのがGJ部でした。

 

おかげでスムーズに書けていたのですが、段々自分の小説がオマージュじゃなくてパクりじゃないかと悩むようになり書けなくなってしまいました。

 

というわけで!

明日8月22日21時より、GJ部の二次創作を新規投稿します!

タイトルは『GJ部の傍観者〜紅茶〜』です。

紅茶いらなくねっ!?

 

内容は、原作準拠+オリジナルです。

主人公は仔犬くんから、天使文(あまつか ふみ)くんという男の子に変わります。

読書家で成績優秀な男の子でありながら、社会に馴れ合いたくないという理由でGJ部に入部した変わり者の男の子です。

勿論、京夜を始めとした原作キャラも出ます!というか出ないと話回らないです。

 

あとあとっ!僕の小説にもGJ部に負けない魅力的なキャラがいると自負しています!

オリジナル展開には幼馴染ズやあおたちも出していきます!

 

二次創作経験は貧弱なので、読者の皆様から色々なアドバイスをいただきながら書いていきたいなぁと思います。

是非とも応援もといお手伝いよろしくお願いします!

 

では、明日21時!生まれ変わった紅茶をみてください。

原作のところはGJ部になるのでご注意を!

 

文字数が足りないので、キャラプロを。

 

名前;天使 文(あまつか ふみ)

役職;天使家長男兼末っ子

学年・年齢;中等部1年生・13歳

部活;GJ部(中等部のではなく本家の部員)

容姿;身長は姉の真央とほぼ同じで小柄な方

髪は桃色が光に透ける黒(唯一自分の色が入ってない真央か らはよく文句を言われる)

呼び方;

京夜→四ノ宮さん

真央→お姉ちゃん

紫音→皇さん

恵→メグお姉ちゃん

綺羅々→キララ

環→タマちゃん

霞→霞先輩

聖羅→聖羅ちゃん

ジェラルディン→ジルさん



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