新艦船これくしょん (たこ焼きうどん)
しおりを挟む

世紀末あんころもち伝説  ~スイーツなんかと一緒にしないで~

「吹雪ちゃん、睦月ちゃん、おはようっぽい~」

早朝の学生寮。すがすがしい早朝に、女の子の声が聞こえる。

「ううん…夕立ちゃん」

この子は吹雪ちゃん。どこにでもいる普通の女子学生。決して芋ねえちゃんではない。

「おはよう、夕立ちゃん」

この子は睦月ちゃん。3人で同じ部屋に寝泊りしている。

「今日はおでかけっぽい~!」

ぽいぽい言ってるのは、夕立という女の子である。

「ええと、確か、新艦船、が来るんだっけ?」

やや寝ぼけ気味の吹雪。

「ちがうよ吹雪ちゃん、新幹線よ。」

睦月が答える。

「北陸新幹線に乗るっぽい!」

 

実はこの日は、鎮守府メンバー、略してチンメンが、石川へ出張する日であった。

ラボメンなら響きは良いが、チンメンとは響きが悪い。

チンシュメンとした方が良いかもしれない。

チャーシューメンがなまったような響きである。

長門秘書官がチンメンを集める。

「ゴホン。では、これより石川へ出張に出かける。石川産あんころもちを調達し、

鎮守府の物資の拡充を行う。

念のために言っておくが、これは修学旅行ではない。

大事な事なので、もう1回言っておくが…」

「ひゃっほーい!」

テンションマックスなチャーシューメン達。

「おまえら…」

頭を抱える長門。

 

なんだかんだあって、東京駅に到着。

「睦月ちゃん、おみやげ売ってる!これいいな… 買ってこうよ!」

吹雪が目をきらきらさせて言う。

「石川への出張なんだし、石川で買った方がいいと思うよ…」

苦笑いしながら返事する睦月。

「夕立はぽいぽい焼が食べたいっぽい」

…謎の食べ物である。

 

駅のホームに立つ、一同。

 

 

そこに、轟音とともに列車が入ってくる。

ゴゴゴゴゴ  キーッ、キッ!

目の前に停車した流線型の車両。

「これが新幹線…!」息を飲む吹雪。

「大きい座薬っぽい!」驚く夕立。

新幹線をじっと見る長門。

「この車両、ぜひ我が鎮守府にも欲しいものだ。

 時速200km以上で走行する艦娘、しかも抜群の輸送能力だ」

陸奥もうんうんとうなづく。

「全車両に爆弾詰め込んで体当たりさせれば、物凄い爆発力出せそうね」

「いや陸奥… 購入していきなり自爆は無いだろう…。それはともかく。

 よーし、みんな全員いるな。じゃあ乗るぞ」

長門が合図する。

チンメン達がぞろぞろと車内に入り、それぞれ指定席に着席する。

「くーっ、座り心地、最高デース!」

大喜びする金剛。

「車内販売が楽しみね。カレーライスは売ってるのかしら」

赤城は相変わらず食欲旺盛のようである。

 

そして新幹線が動きだす。

「すごい静か…。まるで滑っているみたい」

驚く吹雪。

「おならしたら聞こえるっぽい!」

残念そうな顔をする夕立。

どんどん加速していく新幹線。

窓の外をかじりついて見ている夕立。

「景色がびゅんびゅん飛んでいくっぽい!」

 

もじもじしている吹雪。

「ん?どうしたの吹雪ちゃん?」

睦月が声をかける。

「その、トイレに行きたくて…てへへ」

席から夕立が立ち上がる。

「夕立もトイレに行くっぽい!」

「へーいブッキー、オシッコ行くですか~私も行くネー!」

金剛も立ち上がる。

「じゃあ、私も。膀胱が轟沈なんて、恥ずかしいし」

睦月も席を立つ。

ぞろぞろとトイレに向かう4人。

廊下を歩くと、両脇にトイレが見えてくる。

「これが…車内トイレ」

驚く吹雪。

「じゃあ、まずはブッキーから行ってくるネー!絞り出してくるネー!」

金剛が吹雪の肩をぽんと叩く。

「じゃ、じゃあ、行ってきます…」

唾をごくりと飲んでから、恐る恐る女子トイレに入っていく吹雪。

 

「な、なんなのこれ…」

 

吹雪が固まる。

そこにあったのは、ぴかぴかに光り輝く真珠の様な便器であった。

それはまるで、うずらの卵のような形をしたモノであった。

「え…?これも、いわゆる水洗便所ってやつなの…?」

鎮守府に着任した当時、水洗便所にカルチャーショックを受けていた吹雪。

右手をゆっくりと便器のふたへと近づける。

 

「ういーん」

 

「……!!」

 

血相を変えてトイレから飛び出す吹雪。

「どうしたの吹雪ちゃん?」

睦月が心配そうに吹雪に尋ねる。

「トイレが、トイレが、ふたの所が、なんか、動いた…う、う、う、うええん」

睦月に抱き付く吹雪。

「ブッキーを泣かせる奴は許さないデース!」

金剛が勢いよくトイレに突入する。

「ヘイ!カモン!」

 

「ういーん」

 

「…!! …ハーウ・アー・ユー!?」

 

「…」

 

金剛がトイレから飛び出す。

「英語が通じないネー!」

続いて夕立がトイレに突入する。

 

「ういーん」

 

便器をじっと見つめる夕立。

ボカッ

便器のふたにゲンコツを食らわせる夕立。

「おとなしくなったっぽい」

 

みんな用を足して、自分の座席につく。

車内販売のスタッフが歩いてくる。

勢いよく手を振る赤城。

「あ、あのぅ… キ、キーマカレーはありますでしょうか…!?」

ラムネを購入して、ぐいっと飲む金剛。

「新幹線のラムネ、くーっ、最高デース!」

長門が小さい声でスタッフに声をかける。

「ところで… コアラのマーチは売ってないのか?」

 

新幹線は長いトンネルを出て、日本海側へと進んでいく。

トンネルの向こうは…雪景色でした。新潟県上越地方を通り抜けていく新幹線。

眼下に広がる銀世界。

苦笑いする長門。

「なぁ、陸奥。今は何月だ?」

ニコニコしている陸奥。

「今は8月よ」

眼下に広がる、新潟の町並。

窓に顔をくっつけながら外を覗き込む夕立たち。

「玄関が2階にあるっぽい!」

「積雪3mといった所か。ここで行軍訓練すれば、かなり鍛練になるやもしれんな」

長門がうんうんとうなづく。

「いっそ、鎮守府を新潟に移転するのはいかがかしら」

陸奥が提案する。

長門が苦笑いする。

「それもいいかもしれんな。深海棲艦もここまでは追ってはこれまい。

まさに焦土作戦だ」

 

わいわい言っているうちに、新幹線が金沢に到着する。 

防寒装備で身を包む一同。まるでロシア軍のような外見である。

長門が指示を伝える。

「では、これより、あんころもちの調達任務に入る!

  どこを探すかは各自の判断に任せる!

一応、兼六園の近くに多くあるとは聞いている!以上!」

吹雪が少しうつむく。

「あの…、長門秘書官、その…」

「ん?どうした?」長門が尋ねる。

「あんころもちって消費期限あったと思うんですが…

 大量に買って保存して、もし消費期限が切れたら…」

長門がきりっとした顔になる。

「問題はない。貯蔵場所は我らの胃袋だ。詰め込めるだけ詰め込んでくと良い」

「なるほど」

睦月がぽんと手を叩く。

「は、はあ…」

苦々しい顔をする吹雪。

さらに長門が続ける。

「とりあえず、30分、全力で探せ。もし時間内に見つからなかったら、

宿泊予定の旅館前に集合だ。生還する事を最優先にしろ」

「30分かぁ、長いなぁ。ずるる」

鼻水をすする吹雪。

 

こうして、過酷なあんころもち捜索が開始されたのであった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3泊4日 北陸、温泉の旅 

「長門秘書官!」

吹雪が長門の前に立つ。

「吹雪、あんころもちは…」

恐る恐る問う長門。

「申し訳ありません…!! …何の製菓も得られませんでしたあぁぁ!!」

泣きじゃくる吹雪。

「ま、まあ良い。よくやった吹雪。寒さに耐えてよくやった。感動した!」

「棲姫なき構造改革っぽい!」

夕立がすかさず突っ込みを入れる。

ぞろぞろと艦娘たちが集まってくる。

みんな疲れ果てている様子である。

ある者は目の下にあざを作り、ある者は松葉つえをつき、

ある者は鼻血を出しており、まさに凄惨な光景であった。

長門の目にきらりと涙が浮かぶ。

「よし、とりあえず任務完了だ。では、これから旅館で休憩を取る」

「ひゃっほーい!」

湧き上がる一同。

 

そんな訳で、とある金沢の旅館にやってきた訳だが…

「お待ちしておりました」

若い女性が深々と頭を下げる。

「女将の、白鷹と申します」

「いえいえ、あまりお気を使わず…」

会釈する長門。

「ところで、…母君はいかがなされた?」

長門が問う。

「先代・白鷹は、先日隠居する事になり、わたくしが跡を継ぐこととなりました」

白鷹が答える。

「そうか…」

遠い目をする長門。

中から若い仲居が出てくる。

振り返る白鷹。

「輝、剣、お客様をご案内して」

「はい」

2人の仲居が深々と頭を下げる。

 

「かがやき、つるぎ、ですか。良い名前ですね」

陸奥がにっこりする。

「綺麗な女性ね」

少しうっとりした目になる吹雪。

「吹雪ちゃん、浮気は良くないっぽい!」

むくれる夕立。

 

旅館の中、廊下をぞろぞろ歩くチンシュメン達。

空中庭園のような旅館である。

「ひゃあああ、豪華絢爛、なんか、宮殿みたい!」

目を白黒させる吹雪。

「なんか夢見てるみたい…」

ぼうっとした表情の睦月。

「確か、ノドグロって魚と、シロエビって小さいエビが食べ放題らしいわね」

嬉しそうな赤城。

「よく分からないんですが、ノドグロってどんな魚なんですか?」

吹雪にとって、聞いた事も見た事もないような魚である。教科書にはのってない。

赤城がよだれをたらしながら答える。

「深海魚よ。高級食材になってるわ」

「高級…ですか。ううーん。お寿司だといくらくらいするんですか?」

「そうね、1貫400円ってところかしらね」

「400円!」

目を丸くする吹雪。

「鎮守府の予算から出てるんだよね…」

ちょっと後ろめたそうな睦月。

続いて、夕立が納得いかないような顔をする。

「国民の血税っぽい!」

 

 

そろぞれの居間に着き、くつろぐ艦娘たち。

「あー、帰りたくなーい」

幸せそうな顔をして大の字になる吹雪。

 

その頃、長門と陸奥は、深刻そうな顔をしながら話し合いをしていた。

「まさか日本海側からとは…」

「ヲ級、それも強化したのが1隻。さらにイ級が無数に集結してるみたいね。

 どうする長門?」

「鎮守府からの報告が早かったのが不幸中の幸いだ。

最新鋭の通信機器も導入したからな」

「スマートフォンね。鎮守府の予算の3分の2を費やしたかいがあったわね」

 

う~~~

 

旅館内にサイレンの音が鳴り響く。

「え?なに?」

あたりを見回す吹雪。

 

「こちら長門。艦娘に告ぐ。緊急事態が発生した。日本海よりヲ級改が1隻、

 多数のイ級が出現、こちらに向かっている」

「ヲ級改って…倒したはずじゃ」

青ざめる睦月。

「やばいっぽい!」

ぶるぶる震える夕立。

「全力を持って上陸を阻止する!さもなくば金沢が火の海に…」

その時、大きな爆発音が聞こえる。

 

ドーン!

 

旅館の天井に大きな穴が開く。

「艦砲射撃…思ったより早かったわね」やや冷や汗を流す陸奥。

「ただちに出撃!」長門がフル装備になる。

「お待ちください!」

白鷹と輝、剣が駆け寄ってくる。

「女将…」

「お客様にそんな事をさせる訳にはいきません!ここは私達にお任せ下さい!」

「しかし白鷹」

「長門さん」

長門を制止する白鷹。

「…分かった」

吹雪たちの方を見る長門。

「本作戦の指揮権は、鎮守府から白鷹へと移行する。我々は待機だ」

「え、女将さんが…?」

状況をうまく呑み込めない吹雪達。

その時、白鷹たち3人の身体が光り輝く。

「…!」

まばゆい光におもわず目を細める艦娘達。

白鷹、輝、剣、3人の身体が着物に包まれる。

「加賀友禅、この私も初めてみた」

白鷹達の衣装、艤装をまじまじと見つめる長門。

陸奥も驚きの表情を見せる

「一航戦の加賀さんからは聞いていましたが、これが噂に名高い…」

「ああ。北陸を守護する3柱神、はくたか、かがやき、つるぎ、だ」

光が収まる。閉じていた目をゆっくり開く3人。

「行ってまいります」

3人の身体がきらりと青く光る。

「え…?」吹雪が言葉を発し終えるやいなや

次の瞬間には3人の姿が消えていた。

「消え…た?」

言葉を失う吹雪。

ふうっとため息をつく長門。

「念のために行っておくが、彼女たちは軍属ではない。

各都道府県には、大抵ああいう守護神がいて、その地域を守っている」

「私達も行かなくていいんですか?」不安そうに問う吹雪。

 

「おそらく戦いは今晩にも終わるでしょう。

 みなさんはお風呂にでも入って待っていてくださいな」

「そうそう。せっかくの北陸旅行、ゆっくり楽しんでいって下さい」

振り返り、驚く長門。目の前に初老の女性が立っていた。

「せ…先代殿!それに、雷鳥殿…!」

先代白鷹。この旅館を築きあげ、そして3人の後継者を育てあげた人物である。

そして白鷹と双璧をなすかつての守護神、雷鳥。

雷撃の神と呼ばれた伝説級の艦娘である。

先代白鷹がにっこりほほ笑む。

「つくづく隠居もつまらないものです。

しかし、これからは彼女たちの時代ですからね…」

 

日本海上空。

3つの光が姿を現す。白鷹、輝、そして剣。

「あれね。」

眼下には、ヲ級改を先頭に、数百はいるであろうイ級の大艦隊。

ヲ級たちが上空の3人に気付き、一斉に対空砲火を始める。

数千発の光の弾が上空に放たれる。

加賀友禅の衣で身を包む3人。

飛んでくる弾丸が3人の目の前10mほどで消えていく。

「トライアングル・トレイン」

3人を結ぶ光の線が現れ、その内側が白く光り始める。

「除雪」

三角形の光が真っ直ぐ海面へと降りる。その光は、まさに三角形の柱である。

イ級大艦隊の中央あたりがすっぽりと三角の形に消失する。

異常事態に気付き、撤退を始めるヲ級たち。

「敵艦隊、戦意喪失。ではこれより旅館に戻ります」

3人が再びきらりと光り、海上から姿を消す。

 

鎮守府では、長門のスマートフォン経由で逐次報告が送られてきていた。

「…との事です、加賀さん」

通信兵が報告する。

「そうですか、姉さんたちが…」

涙ぐむ加賀。

鎮守府の空、北陸の空。土地は違えど、見えるのは同じ空であった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

るろうに艦船 ~帝都編~

「東京に帰ってきたっぽい!」

金沢豪遊の旅、もとい、物資調達の任務を終えて東京に帰ってきた、

鎮守府メンバー一同。

人は彼女達の事を、鎮守府メンバー、略してチンシュメンと呼ぶ。

「よし、みんなそろってるな」

長門がメンバーに点呼を取り、人数を確認する。

「では、そろそろお昼だ。何か食べてこようか」

長門が提案する。

「やっぱ、これも税金なのよね…」

後ろめたそうな睦月。

「そうだ、私の知り合いに、おいしい目玉焼き屋がいる」

「!」

長門の提案に、驚く一同。

この世界において、目玉焼きとは、究極の中の究極と呼ばれるごちそうであった。

この世で最も簡単で、最も極めるのが難しい、まさに究極。

「赤城さん!」

倒れそうになる赤城を抱きかかえる吹雪。

目玉焼きの「め」の字で卒倒したようである。

「場所は秋葉原。食いたければ食うが良い。そこに全てを置いてきた…!」

さすが長門、艦娘王である。艦娘王に私はなる!

そして一行は秋葉原へと向かう事となった。

 

「ここが、例のお店だ」

チンシュメンの前に、ボロボロの幽霊屋敷のような木造の小屋のようなものが建っている。

げんこつしたら、今にも崩れそうである。

「そうそう、金剛、お前は後ろに…」

「フォーロミー!」

長門が言いかける瞬間、思いっ切り戸を引く金剛。

秋葉原のゲーセンでパンチングマシーンを3台ほどぶっ壊した張本人である。

電車内で痴漢を退治したこともある。相手は総合格闘家だったが、

ストレート一閃で失神KOだったらしい。

まさに電車女である。

「どしゃん」

玄関が崩れ落ちる。

「ヘーイ、ナイスデース!」

あはは…と苦笑いする金剛。

「主人、いるか?」

長門が言う。

奥に進む長門。

「失礼します」

後ろを歩くチンシュメン。

店の奥、調理場に…女性が1人立っていた。

「あ、あの…」

「吹雪」

言いかける吹雪を遮る長門。

女性の目の前に卵が浮かぶ。

その次の瞬間、卵の殻が砕け散り、お椀の中に生卵が落ちる。

「相変わらずの腕…だな」

ふうと息をつく長門。

「目玉焼き道、永世10段。七冠王、泊地棲姫」

パチパチと手を叩く長門。

奥からドカドカと女の子が走ってくる。

「ほっぽは、たこ焼き食べたい」

ほっぽをよしよしと撫でる泊地棲姫。

「ごめんね、たこ焼きは無いの…」

「うーうーうー」

ちょっとふてくされた顔のほっぽ。

「すまん、玄関を壊した」

謝る長門。

「いいのよ、あの戸は横に引いたら壊れるの…」

「え?」

「後ろに引いたら、ちゃんと開くのよ」

「なっ…!」

ちょっと長門がへこむ。

「そ、そうか、どちらにせよ、すまんな。ええと…」

長門の後ろにいる一同。

「よし、じゃあ、ここで目玉焼きを食べるとしよう」

こうして、チンシュメン達は目玉焼きを食べることとなった。

「まずは、目玉焼きの刺身です」

「おぉ…」

息を飲むチンシュメン一同。

「ポン酢か醤油で召し上がって下さい」

吹雪が一切れにポン酢をかけて口に入れる。

「どうだ?」

長門が聞く。

もぐもぐ食べる吹雪。

「はい、おいしいです」

 

こうして一同は目玉焼き屋を後にし、

東京を離れる事となった。

「疲れたな。よし、今日は一泊しよう」

「わーい」

長門の提案に湧き上がるチンシュメン達。

「じゃあ、とりあえずビジネスホテルにでも泊まるか」

「いつもの場所ね。長門…」

うふふと笑う陸奥。

タクシーに乗ってホテルの前に到着する。

「大日本帝国ホテル…なんかすごい名前ね」

驚く睦月。

「ホテル大蔵省、ホテルネオオータニってのも候補にあったらしいね…」

あまりよく分からない、という表情の吹雪。

ぷいとする夕立。

「国民の血税っぽい!」

 

豪華なホテルである。くらくらする吹雪。

吹雪にとって宿泊所といえば、田舎の民家の屋根裏部屋というイメージであった。

屋根裏部屋というと、魔法使いの少女が住んでいて、

ステキな男の子とゴールインできるという話を小さな頃から聞かされていた。

だからこそ、吹雪の家の玄関の傘立てには、いつもほうきが置いてある。

いつか、にしんパイを持って王子さまが訪れる事を夢見て…。

ホテルのロビーでチェックインを済まし、部屋に向かう一同。

見渡す限り、豪華絢爛である。

廊下のところどころにシャンデリアが飾ってある。

純金、プラチナ、そして宝石が散りばめられているらしい。

「バッキンガム宮殿よりすごいネー!」

驚く金剛。

それぞれ自分の部屋に入り、トイレを済ませて、テーブルのお菓子をちょっと食べる。

「なんだろう…このお菓子。ん?長崎かすてら?」

むしゃむしゃカステラを食べる吹雪。

ロビーに集合。

「部屋によーしみんな風呂入るぞー」

長門は風呂が好きである。諸君、長門は風呂が好きだ。

「洗いっこしましょうか」

陸奥がうっとり顔でいう。

「おいおい陸奥…。君はあれだ、のぼせて、いきなり轟沈しないようにな」

そんな訳で、とりあえずホテルの露天風呂に入ることとなる。

 

「すごい…ミネストローネのお風呂…」

驚く吹雪。

トマトソースのお湯。野菜の具がぷかぷか浮いている。

浴室内においしそうなイタリアンの香りが漂う。

ちなみに新潟にはイタリアンという謎の県民食があるらしい。

見た目は焼うどん、ソースはトマトケチャップである。

もちろん吹雪たちも食している。

「飲んでもいいかな?」

お湯をごくごくと飲む吹雪。

続いて睦月もお湯を飲む。

「おいしーい!」

隣では、赤城が風呂の具をむしゃむしゃ食べている。

「おいおい、晩ごはん前なんだから、食べ過ぎない方が…」

前菜の食べ過ぎをちょっと心配する長門。

ゆったりする一同。

「いーい、湯っだぁな~ あははん」

くつろぐ長門。

「あははん」

にやにやする陸奥。

「ゴホン。い、いや…なかなか良い湯であるな」

少し赤くなる長門。

「おいしそうね、長門。食べちゃおうかしら」

何を食べたいのか名言しない陸奥。危ない女性である。

「ん?」

何かに気付く。吹雪。

「なんかどんどん熱くなってきたような…」

立ち上がる夕立。

「ゆでられてるっぽい!」

 

お風呂から出て、

食堂に集まる一同。

「すごい…」

息を飲む吹雪。

目の前には半径3mのテーブル、その真ん中に高さ1mほどのカニの山が出来ている。

ずらりと並ぶシャンパン。寿司コーナーには大トロがずらりと並び、

うなぎのかば焼きを料理人が目の前でじゅうじゅう焼いている。

「タラバガニ食べ放題だって…」

同じく息を飲む睦月。

「食欲には抗えないのね…」

バケツ1杯のよだれを流す赤城。

ぷーっと膨れる夕立。

「国民の血税っぽい!」

高級シャンパンを飲み干す金剛。

「ぷはーっ!くーっ!最高デース!」

ラムネの一気飲みシーンは、もはや金剛のための役になっているようである。

このシーンをCMに使っても良いくらいである。

「バァーニングぅ、あぶるぅ~!あぶるぅ~!あぶ~ぅるぅ!」

うなぎのかば焼きを手に大はしゃぎする金剛。

「金剛さん、酔っ払ってますね…」

心配そうにみつめる吹雪。

長門がチキンをもぎゅもぎゅしながら現れる。

「大丈夫だ。いつもの彼女だ。アルコールは入っていない。

 彼女の場合、普段酔っていて、アルコールが入ると、しらふになる」

しらふになった金剛というのも見てみたいものである。

金剛がチキンを手にしてくるくる回りだす。

「ローリングぅ~!ラアァーブぅ~!」

金剛がチキンを持つ。金剛のチキンである。黄金ではない。黄金よりも肉質が固い。

「君…ちょっと静かにしたまえ」

おじさんが近づいてくる。

「ラァ~ブゥ~!」

おじさんに裏拳を打ち込む金剛。

「ぶっ」

1mほど吹っ飛ぶおじさん。

「しゅ、首相、大丈夫ですか!?」

黒服の男が集まってくる。

「あれ?どこかで見た事のあるおっさんっぽい」

「確か…新聞で見たような」

「え?もしかして…首相?」

夕立、吹雪、睦月が顔を見合わせる。

「し、失礼しました」

長門が金剛の頭を押さえながら謝る。

「いいんです、いいんです。

 あべこべミックス第4の矢、それは萌えです!

 萌えでこの国の経済は変わるんです!」

鼻にちり紙を詰め込む首相おじさん。

「はて、君はどこかで…」

「海軍鎮守府、連合艦隊所属、秘書官の長門です」

丁寧にお辞儀する長門。

「おお、君が長門君か、ぜひお会いしたかった。

どうだ、大和君は元気でやっとるか?陸奥君、沈んでないだろうな?」

話が弾む上層部。

猛烈な勢いでタラバガニを食べる吹雪。

「食いだめ、食いだめ、食いだめ」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。