噛ませ転生者のかまさない日々 (変わり身)
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零年目

神「間違えて殺しちまった! 侘びとしてリリなの世界にチート持たせて転生させたる!」

 

俺「やったぜ! じゃあ銀髪オッドアイの超イケメンにして魔力ランクSSSであと女の子AIのデバイスと身体能力もチートで頼む!!」

 

穴「よし分かったじゃあ行ってこい!!」クパァ

 

――まぁ、前日譚は大体こんなものだった。今思うと随分アホな願い事をしたもんだ。

 

*****************************

 

 

俺は二次元の女の子が大好きである。

 

物語のヒロインに抜擢される殆どの少女達は、皆が皆可愛らしく――或いは美しい微笑みを浮かべ、俺達の清い心を魅了してやまず。

均整のとれた体躯に纏う衣服の隙間からは、くすみ一つ無い滑らかな肌が覗き。俺達のゲスい劣情を刺激する。

 

多種多様に差別化された性格だって魅力の一つだ。

純情、ツンデレ、クーデレ、ヤンデレ、ボーイッシュ、その他諸々。三次元では有り得ない程に強調されたその個性は、個々の性癖に寄り添い「萌」の感情を加速させる。

多少あざとかろうが仕草が態とらしかろうが暴力ヒロインだろうが、そんな物は関係ない。可愛いければ、萌えられればそれでいい。デビルキシャーでもサラマンダーよりずっとはやいでもバッチコイだ。

 

そうして幾つもの漫画を読み、数多のアニメを見る度に、俺は彼女達と現実で出会いたいと夢想(妄想)していた。

三次元世界では草食系だった俺も、二次元世界においては肉食系に早変わり。紙や液晶の中で笑う彼女達と話したい。触れ合いたい。出来ればエッチな事もしてみたいと常々願っていたのである。

 

――だからこそ、神を名乗る存在に「魔法少女リリカルなのは」の世界に転生させてやると提案された時は狂喜乱舞した訳だ。

 

殺された事への怒りも憤りも全て吹き飛んだ。夢にまで見た二次元世界に、しかも登場人物の八割以上が可愛い女の子の作品の世界に入り込む事ができる。こんな嬉しい事があろうか否ある訳が無い。

しかもチート能力という豪華おまけ付き。これで喜ばなかったら嘘だろう。

 

俺は一秒の躊躇も無く転生を承諾し、夢想(妄想)する際に自己投影していた厨二病マックスの超格好いい理想的イケメンへと姿を変えリリなの世界へ落っこちた。

全ては二次元の女の子――なのはやフェイトやアルフやアリサやすずかやはやてやヴィータシグナムリィンその他沢山の可愛い女の子とイチャイチャするため。そう、言わばハーレムという男の夢を作るために。

 

彼女達が俺のヒロインになる、そう考えただけで穴を落下している最中もゲッスい笑いが止まらなかった。

早くリリなの世界に辿り着け、俺tueeeeはよ、桃色ネチョ空間をハリーアップ! そうして逸る心を抑えもせず、俺は穴の中を突き進み――――そして、この世界に墜落したのである。

 

 

落ちた場所は高級マンションにおける高層の一室。おそらくなのは達と一緒の学校に通えという神の粋な計らいか、体は6・7歳の物となっていた。無論、銀髪オッドアイのイケメン予備軍だ。

そして辺りを見回せば、テーブルの上に私立聖祥大学付属小学校への入学書類と桁外れの金額が記載された通帳、そして俺のデバイスらしき四角形のプレートが用意されていた。

 

この時点で喜びの限界値を超えた俺は、詳しい事を調べずにデバイスを引っ掴んで外に飛び出した。一刻も早く、俺の嫁となる筈のなのは達の姿が見たかったのだ。

膨大となっている筈の魔力の影響か、それとも身体能力チートの所為か。マンションの階段を休み無しで駆け下り続けても大して疲れは抱かなかった。

 

――待っていろなのは! 早く俺のモノにしてやる!

六歳児の体で何言ってんだって話だが、俺は真剣にそんな事を叫び散らし。満面の笑みを浮かべながらマンションの入口を開け放った――――。

 

…………のだ、が。

 

 

「……………………ウェッ?」

 

 

――三次元だった。

 

道を行きゆく老若男女、その全てが三次元。美形もいれば不細工もいる、前世で見慣れた三次元。俺の興味と性欲の対象外である三次元。

思ってたんと違う。余りのショックに呆然としていると、俺の無駄に優れた脳が神の言葉を再生させた。

 

 

即ち――「リリなの世界にチート持たせて転生させたる!」

 

 

「リリなの世界に」

 

「リリなの世界に」

 

「リリなの世界に」

 

 

――ああそうだ、神は二次元と、言ってない。

 

 

それはつまり、なのはもフェイトもアルフ以下略も、全部三次元の肉袋だという事で。

 

……例えリリなの世界であっても、そんなんじゃゲロカスじゃねぇか。

有頂天から失意のドン底に叩き落とされた俺は瞬間心をぶっ壊し、白目を剥いて血涙と泡と鼻血と耳血と血尿血便を撒き散らしつつ倒れ込んだのであった。

 

以上、導入終わり。

 

 

○月 ○日

 

 

最初こそ嘆きの極致にいた俺だったが、時間はかかったものの何とか立ち直った。

 

何時までもウダウダ鼻水を垂らしても仕方がない。死んだ俺が新しい生を得ただけでも儲けものと考えようじゃないか。

幸い住むべき場所はあるし、部屋にはパソコンテレビ空調設備が完備されている。加えて金も腐る程あるのだから、これから先食うに困る事もあるまい。

 

これならば確実に前世の俺よりも裕福な暮らしが送れるだろう。とりあえずポジティブに行こう、ポジティブに。

 

とりあえずこの世界に落とされてからの二日間の内に分かったのだが、どうやら俺には両親という存在は居ないらしい。

まぁ居てもギクシャクするだけだろうから有難いといえば有難いのだが、無駄に広いこのマンションに俺一人というのは中々に寂しいものがある。

正直もう少し狭くてもよかった。幾つも部屋があっても使わないよこんなに。

 

まぁ一応デバイスという意志を持った存在が居るには居るのだが……どうもこの四角形は無口なのか俺の事が嫌いなのか、碌に会話をしてくれない。

 

 

「なぁ、お前名前何つーの?」

 

『…………』

 

「女の子のインテリジェントデバイスで合ってるよな? 神って奴にそう頼んだし」

 

『…………』

 

「おーい。もしもーし」

 

『…………』

 

 

こんな感じである。

無口少女AIと考えれば悪くないかもしれないが、少しくらいは喋って欲しかった。その方が妄想も捗るのに。

 

まぁそれ以外に不満点のある生活環境では無い、好き勝手に生きさせて頂こう。

半ば言い聞かせるように呟きつつ、初めから置いてあったノートPCの電源を入れた。俺にとっての生活必需品たるゲーム機と漫画本とDVD、そして抱き枕各種を買い漁るのだ。

 

……なんで創作世界に居ながらこんな事をしているのだろう。そんな疑問が頭を過ぎった気がするがきっと気のせいだ、うん。

 

 

○月 ○日

 

 

ネットを回遊していて気付いたのだが、どうもこの世界のサブカルチャーは現実世界の物とは違うようだった。

 

何と言うか、全体的にパチモン臭いのだ。

例えば某配管工は微妙に名前が違うし、某人型ロボットは色が赤いし、某ときメモは題名はそのままだが虹野さんがメインヒロインとなっている。話の大筋は変わらないのだが、どうも違和感が付き纏って仕方が無い。最後以外。

 

こういうのを見ると本当に別世界にきた事を実感した。まぁ、その内慣れるだろう。とりあえず興味の湧いた物を片っ端からカートに突っ込んでいく。

いやはやネットショッピングは本当に便利だ、何せ年齢制限があって無いような物なのだから。流石に今の体じゃ18禁のあれやこれやは楽しめないので残念だが、精通までの我慢だ。フフフ。

 

そうして興味の赴くままにネットサーフィンを楽しんでいると、早速昨日注文していた分が届いたようだ。マンションのインターホンが無機質な音を奏でる。

 

 

「お届け物でーす」

 

「はーい、ありがとうございまーす」

 

「いーえー、ありゃあしたー」

 

 

……この世界が二次元ならばもう少し横柄な態度も取れたのだろうが、残念ながら三次元である。これから何度もお世話になるだろうし、お付き合いは大切にしないとね。

 

それはさておき届け物だ。

中身はこの当時の最新ゲームハードとソフト、そしてファミコンを始めとしたレトロゲーム。それから漫画本とアニメDVD、各種再生機器と抱き枕である。

本当はPCやテレビ等も最新の物にしたかったのだが、どうも調べて見る限り今あるものがそうらしい。前世では何世代も前の物だっただけに、少し驚いた。

 

これが時代かと感慨深くなりつつ、俺は早速配線を繋ぎゲームのスイッチを入れた。

俺も今まで何本ものソフトをプレイしてきたが、この世界のソフトは俺の知らない物ばかりだ。ワクワクは留まる所を知らず、美少女が描かれた抱き枕に身が沈み、コントローラーを握る手に力が篭る。

そうして始まる若干チープなOPに妙な新鮮さを感じつつ、俺はゲームの世界に没入していったのだった。ああ、やっべ超楽しい。

 

その後もゲームだけではなく次々と漫画やアニメに熱中していき、空腹で我に返った時には夜の11時をとうの昔に過ぎていた。梟の声があちらこちらで喧しい。

 

朝からやり続けていたことを考えると12時間近くぶっ続けだったようだが、身体は全く疲れた様子が無い。それどころかまだまだ余裕の有様である。

これも身体能力チートの影響だろうか? 良い貰い物をしたものだ、うん。

 

しかし空腹だけは如何ともしがたく、何か食べようと冷蔵庫を開けた。空だった。戸棚を開けた。空だった。

そういや、昨日と一昨日にヤケ食いと称して家中の食料を駆逐したんだっけ。俺はがっくりと肩を落とし、近所のコンビニへと走ったのだった。

 

……途中で補導されかかったのは、ここだけの秘密である。

 

 

○月 ○日

 

 

俺に魔力を扱う素養がある事を思い出したのは、この世界に来て一週間が経とうかといった時期だった

 

100冊以上溜まった漫画を壁一面に並べた本棚に押し込み、その壮観に悦に浸っていると突然背後から声をかけられたのだ。

振り返ってその主を探してみれば、初日以来テーブルの上に放置されたままのデバイスからだった。あれから幾ら話しかけても反応を返してくれなかったので、何時しか興味を失っていたのである。

 

……しかし、そんな彼女から声をかけられた。よく分からん感動に包まれた俺は食いつくように耳を寄せたのだが――――その高揚はすぐに沈む。

聞こえてきたのは説教と苦言、何故魔導師としての修行をしないのか。と言った物だったからだ。

 

まどうし? 一瞬何を言っているのか分からなかったが、そう言えば俺には魔力チートもあったのだっけ。三次元ショックとその後のゲーム漫画アニメ祭りで忘れてたぜハハハ。

 

何でもデバイスはそんな俺の行動が大層気に入らないらしく、感情の乗らない機械的な声で皮肉やらイヤミやらを叩きつけてくる。

正直かなりムカついたものの、前世の経験からその程度の罵倒は屁でもない。ヘッドフォンをつけてスルーさせて頂いた。

 

……だが、そうか。俺には魔力があるんだったな。

この世界が三次元である以上、女性に惚れられる可能性のある俺tueeeeeなんて行為は百害あって一利なしではある。しかし、魔法というものに純粋な興味は湧かないでもない。

 

攻撃魔法とか飛行魔法とか、ハーレムとは方向性は違うが男のロマンの一つである。興の乗った俺は未だ喚き散らすデバイスをひっつかみ、マンションの外に飛び出した。

 

 

………………………………

 

 

……結果から言おう、だめだこりゃ、やっぱ魔法とか俺に合わんわ。

 

とりあえず近所の山の中で封時結界を展開して貰い少し修行をしてみたのだが……何だろう、根本的に面倒くさい。

いや、確かに初めてデバイスを展開し変身したときや、空を飛んだりした時は楽しかった。デバイスも性格を抜きにすれば大鎌の形をしていて超格好良かったし、空高くから街を見下ろした時は感動もしたさ。

 

……でも、その他攻撃魔法系が駄目だ。威力調節に死ぬ程手間がかかる。

さすが魔力ランクSSSと言うべきか、アクセルシューターもディバインバスターも難なくぶっぱなす事は出来た。しかし、その威力が桁外れにデカかったのだ。

 

周囲の木々は欠片一つ残さず吹き飛び、地面に大穴を穿ち、山を欠けさせる。デバイスによると、その威力は非殺傷設定なんて意味をなさない程強力だったらしい。

当然そんな物を人に向けた日には、どこぞのスナイパー妹に起きた失明なんて目じゃない被害が出るそうな。

個人的にはダークヒーローっぽくて超格好いいとは思うが現実で使える訳ねぇだろがいそげな危ねぇもんぞ。

 

まぁ俺の資質からいって訓練を積めばその力も手中に収められるとの事だが、そんな事はするつもりは毛頭無い。

ここが三次元でなのは達もモッコスなのはである以上、原作介入なんてする理由も価値も無い。それに伴い戦う力を高める必要性も消滅するのだ。

マルチタスクの修練だけは気が向いたら続けてもいいかもしれないが、そんな事よりゲームに時間使った方が有意義だと思う。

 

ふむ、どうも身体能力チートとは違い魔力チートの恩恵は無さそうだな。そんな事を思いつつ、ギャースカギャースカ煩いデバイスを無視して家に帰った。

 

後日談として、それからデバイスはそれまで以上に喋らなくなった。まぁ静かでいいやと特に気していないのだが、時折ピリピリとした空気を出してきて地味にウザい。

 

 

○月 ○日

 

 

何とびっくりこの時代、まだニヨニヨ動画っぽい何かが存在していなかった。

それどころかWetubeっぽい何かすら無く、名だたる大型動画サイトにべったりだった俺は物凄いショックを受けた。

 

嘘ぉ。昔からあったと思ったのに、この時代はまだ無かったの? え、だってもう2000年代だぜ? うっそだぁ。

幸いΘちゃんねるっぽいДちゃんねるなる物はあったので何となく安心はしたが、Wetubeはこれよりも歴史が浅いのか……と微妙な気持ちになった。

 

だがДちゃんねるもДちゃんねるで全体的に空気が違い、前世の雰囲気とは大分違う感じがする。愛すべき馬鹿が多いと言うか、親しみのあるマジキチが多いと言うか。何と言ったら良いのかね。

何やらノスタルジックな気分になりながら、俺は迷う事なく「魔法少女なのはたんのエロ画像ください!」のスレを立て、中身を見る事無く閉じる。

 

おそらく今頃は多種多様のホモ画像が貼られまくっている事だろう。そんな光景を幻視しつつ、天野美紗緒似の美少女抱き枕に顔を埋め眠りに落ちるのだった。

 

……今日で徹夜何日目だったかな、とにかく俺は元気です。

 

 

○月 ○日

 

 

今日も今日とて引き篭もり生活を満喫していたら、一本の電話がかかってきた。

 

宅配トラブルでもあったかなと思い電話に出てみると、なんと私立聖祥大学付属小学校からだった。何でも「既に入学式が始まってるのですが、今日は欠席ですか?」との事だ。

あれ? 俺っていつの間に入学したの? 慌てて書類を探してみれば、そこには確かに「処理済み」の文字。どうやら俺の入学は決定されていた出来事だったらしい。

 

面倒くさいな、今更小学校なんて行く気がしねぇよ。ウンザリとした俺は欠席する旨を話したのだが、電話先の教師が「なんとか出席できませんか」と食い下がってきた。

どうやらかなりの生徒思いであるようで、学校の大切さやら色々な事を熱心に説かれ、出席して欲しいとお願いされてしまった。

 

……こんなに請われたのは前世を含めても初めてだな。そのあまりの熱意に思わず感動し頷いてしまい、俺は晴れて小学校に通う事となったとさ。

 

いや、まぁ、うん。この世界で生きるのなら学歴とかあって困るものじゃないしね。損になる事は無いんじゃない?

そんな感じで自分を騙し騙し重い腰を上げ、クローゼットの中で見つけた制服っぽい服に袖を通す。何でこんな服があるのかと以前から疑問に思っていたが、成程。これは学校の制服だったのかと今更ながら気付く。

そうしてどこから見ても恥ずかしくない小学生となった俺は、身体チートを活かしてマンションのベランダから聖洋前へと一飛び。何とか入学式が終わる前に間に合った。

 

ああ、早く帰ってときメモやりたい。

 

 

…………………………………………

 

 

入学式が終わり、クラスメイトの面通し。それなりに大きい教室の一室に案内され、出席番号順に座らされ自己紹介が始まった。

 

……とは言ってもマトモに聞く気のない俺は、その殆どを聞き流す事に務めた。

どうやら原作組と同じクラスだったらしく、途中高町なのはやアリサ・バニングスの名前を聞いた時はちらりと目を向けもしたが……まぁ、当然三次元すよね。

 

確かに整った顔立ちをしているとは思うが、それだけである。二次元どころか二・五次元にも遠く及ばず、僅かに胸に残っていた希望が木っ端微塵に砕け散った。

全ての興味が失せた俺は鞄から「Drロンで投了てみて!」という少女漫画を取り出し、隠れて熟読する事にした。身体チートを応用すれば、この程度造作もない。

 

……そうしてペラペラと漫画のページを捲っていると、隣からツンツンと二の腕をつつかれた。

目を向ければ、隣席のメガネっ娘モブが困った顔をして前の席を指差している。どうやら次は俺の番だという事を教えてくれたようだ、軽く手を挙げて感謝の意。

 

そして前の席の自己紹介が終わった後を見計らい、俺も立ち上がり自己紹介を始める――

 

 

「――どうも、六千六百六十六堂院ベルゼルシファウストです。趣味はゲームとパソコンです、これからよろしくお願いします」

 

 

――瞬間、教室内を包み込む沈黙たるや。

 

……自分では超格好いい名前として気に入っているのだが、そんなにおかしいだろうか?

 

着席し、先程のメガネっ娘をそんな疑問を込めた目で見つめてみる。視線を逸らされた。つついてみた。体を捩らせた。

 

……まぁいいさ、俺の格好良さは三次元には理解できんのだ。フン。

何故か心に隙間風が吹いた錯覚を感じながら、再び少女漫画を読み込み始めた俺であった。

 




完結から一年超えたので、こっちにも投稿。
嬉しかったのでチラ裏から引っ張り出しました。


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一年目

※この作品は日常ものなので、戦闘行為はございません。最後までだらだらのまんまです。


×月 ×日

 

 

小学校に通い始めてから数週間が過ぎたが、友達と呼べる存在はまだ出来ていない。

 

隣席のメガネっ娘とは割と喋るが友人と呼べる程親しくもないし、他の生徒に話しかけようとすると皆微妙な表情をする。

まぁ精神年齢の関係上仕方がないと言ってしまえばそこまでなのだが、家でも学校でもぼっちというのはちょっと辛いものがある。せめてアニメの事を話せる男友達くらいは欲しいものだ。そうメガネっ娘に愚痴を漏らす。

 

……え? 俺の名前が名前だからしょうがない? うるせぇバカ、メガネ叩き割るぞ。

 

――六千六百六十六堂院ベルゼルシファウスト。超格好いいと思うのに、何で皆分かってくれないんだ。

そう文句を垂れつつ嘆きのままにメガネっ娘の脇腹をチクチク突っついていると――「え、エッチな事はやめなさい!」と鋭い声が飛んできた。

 

振り返れば、目に映るのは金髪と紫髪と茶髪と黒髪。俺に負けず劣らず実にカラフルな頭髪をした、アリサ、すずか、なのはの原作メンバープラスαである。

どうやら彼女達は俺がメガネっ娘にエッチなちょっかいを出していると思ったらしく、皆ぷりぷりとほっぺたを真っ赤にしていた。

 

そう、最近気付いたのだが、何故か俺は原作メンバーの連中に好色野郎と思われているようで、女の子に近づく度こうして耳年増達が飛んでくるのだ。

 

俺が三次元に手を出すかバカタレとんだ濡れ衣だ! ……と言いたい所だがこの世界に来た理由が理由なので、にんともかんとも。

まぁ実害はないのだが毎回煩い事には変わりないので、俺は身体チートを活かし耳の中の筋肉を隆起させ彼女達の声を物理的にシャットアウトしている。チートの応用ってすげー。

 

そうして静かになった世界の中で、俺は最後の一人――黒髪の男子生徒へ視線を向ける。軽く猫背気味のその少年は、やる気の無さそうな表情で面倒臭い物を見る目を俺に向けていた。

俺の知る「魔法少女リリカルなのは」には存在しなかったはずの彼は、おそらく俺とは別のオリ主か転生者なのだろう。

 

何でもなのはとは幼馴染の関係にあるようで、その縁でアリサ達とも友人となったらしく良く四人でいる姿が目撃されている。

どう見ても面倒臭がりを自称する典型的ハーレム系やれやれ主人公なのだが、俺個人としてはあまり嫌いではない。三次元でのハーレムとか、むしろ可哀想すぎて涙が出てきそうだ。

 

「やめてー、やめてー」そろそろ巻き込まれたメガネっ娘の焦りようが哀れに感じてきたし、俺はオリ主に何とかしてくれとアイコンタクトを送る。

彼も彼で面倒くさくなっていたのか、あっさりとそれを了承。三人とメガネっ娘の間をとりなして、全員を引き連れ自らの席に戻っていった。

 

……いやはや、これ俺だけだったら何時まで経っても終わらない所だったな。オリ主に両手を合わせて拝みつつ、読書を再開。

 

ふと目を向ければ、メガネっ娘は憔悴したように机に突っ伏している所だった。黒いポニーテールが天板に広がり、まるで貞子のよう。

哀れに思った俺は、予備の漫画を彼女の頭にそっと乗せてあげた。怒られた。

 

 

×月 ×日

 

 

ああ、やはりときめきメモリアルは最高のゲームだ。

 

少し古臭さは感じるものの、魅力的なキャラクターと心を掻き毟る等身大の青い展開。流石はギャルゲーの原点にして雛形であると評価されるだけの事はある。

しかもこの世界では何故か初代のメインヒロインが虹野さん、2がメイ様、3が恵美姫となっていて、彼女達がセンターのパッケージを見た時は心臓が裏返るかと思った。

どれもこれも嘗ての俺が青春を捧げた恋人達である。ここはなんだ、天国か。

 

三次元だなんだと世界に対してグダグダ文句を垂れていたが、過去の名作達とこんな形で再会出来るとは夢にも思っていなかった。

この様子ではまだ発売されていない4のメインに据えられる娘も俺の一番好きだった瑠依かも知れない、6・7年後の発売が待ち遠しい限りである。

 

まぁそれはともかくとして、何と今度の土曜日にときメモシリーズ全体の声優イベントがある事が発覚した。

常々二次専を主張する俺ではあるが、二次元世界において声優さんの存在が如何に大切なものであるかは十二分に理解しているつもりだ。それこそ、そのイベントへの参加を超熱望する位には。

 

この世界に来た時は既に3が発売されて割と時間が経っていたために諦めかけていたので、今回のこれは正に青天の霹靂。

狂喜乱舞した俺は躊躇なくチケットを購入し、ひびきの高校のコスプレ衣装を購入しようとして――

 

 

「しまったガキだよ俺!」

 

 

そうだ、幾ら何でも幼児サイズの高校制服衣装なんてあるはずがない。

俺は絶望した。身体チートを持っていてもこればっかりはどうしようもない。せっかくのイベントだというのに、俺は映えない子供服で行くしかないのか……!

 

悔し涙が手の甲に落ちた――――その瞬間。何の前触れもなく稲妻が脳裏に迸る――!

 

――これ、バリアジャケット使えるんじゃね?

 

思い至った俺は、やはり何も言わないままのデバイスを弄り回しバリアジャケットの設定を自力で変更。小学生サイズの緑のブレザー、赤いネクタイにズボンと完璧な衣装をこしらえる事に成功した。

ついでにデバイスのサブ武器形態という欄があったので、そこにサイリウム型を登録して準備万端。そうして迎えた土曜の日、俺はにこやかにイベント会場へと出陣したのだった。

 

それはまさに夢のような時間で、この世界に来てよかったと心から思う事ができた一日だった。ああ、また行きたい物である。

 

……後日談として、デバイスが今度は常にピリピリした空気を出し続けるようになった。非常にウザい。

 

 

×月 ×日

 

 

小学校に行って帰ってくると、ちょうど夕方五時半からのアニメが始まる時間になっている。これが最近地味に嬉しい。

 

今までは家にいてパソコンやゲーム熱中しているとしばしば見逃してしまう事があったのだが、学校に行き始めてからはそれが無くなったのだ。

結果録画したまま積んで忘れ去ってしまうアニメも減ってきて、きちんとした学生生活を送る事にこんなメリットがあったとは思わなんだと感動する。

 

……まぁ結局は未視聴のDVDが積まれていく事になるのだが、現行アニメを切るよりは良いんじゃなかろうか。分かりますか、その辺の機微。

 

ともあれ今日も学校から直帰したら、買ってきた夕飯を食べつつアニメ鑑賞会だ。

これで母親の手料理があったら完璧なのだろうが、俺も食べた事ないし気にしなくても良かろう。コンビニ飯はお袋の味だ。うん。

 

さて、今日はアソボット戦記によく似てるアンロボット戦記だったっけ。さー楽しみだ。

 

 

×月 ×日

 

 

退屈な授業の暇つぶしに下手なイラストを描いて遊んでいた所、隣席のメガネっ娘が興味を示してきた。

何でも俺から借りた少女漫画を読んでからこちら、絵を描き始めたのだそうだ。

 

意外に思い絵の腕を見せて貰うように頼んだら、恥ずかしがりつつも自由帳に描き始めてくれた。その様子を見る限り、本当は俺にその話をするタイミングを計っていたのだろう。それは楽しそうにペンを動かしている。

お絵描き好きとは、やはり三次元でも女の子なんだなぁ。微笑ましく思いながら眺めていると、やがて描き上がったらしく、ページを傾けて此方に見せてきた。

 

さてさてどんなへのへのもへじが書かれているのか楽しみにしつつ、首を伸ばして覗き込み――――「お゛ッ」妙な声と共に固まった。

 

そこにあったのは、小学生の物とは思えない程に精巧に描かれた、俺が貸した少女漫画の主人公の姿だ。

トレースでも脳内模写でもない、完全にオリジナルのポーズと表情を作った女の子キャラクター。正直原作者が描いたと言われたら信じてしまいそうな程である。

 

うおおおお……余りの出来の良さに固まって声無き声を漏らしていると、メガネっ娘は緊張したように俺を見上げている事に気がついた。

え? 評価? いや凄いってこれプロレベルじゃねぇの。少なくともこのクラスで一番上手いよ。先生含めて。そんな感じで褒めちぎってみた所、メガネっ娘は嬉しそうにはにかむ。

 

……そう言えば、原作三人娘もあの年にして才能の塊みたいなもんだったし、モブの一人一人にも描写されてないだけで何らかの才能が眠っているのかもしれないなぁ。

ぽやぽやと周囲に花を飛ばすメガネっ娘を生暖かい目で見つめながらそんな事を思いつつ、俺は彼女にそっと千円札を差し出し、その絵を切り取り懐に収めたのだった。

 

 

×月 ×日

 

 

何だかんだで時は巡り、運動会の季節がやってきた。

 

これが二次元であれば女の子に良い所を見せたいと発奮するのだろうが、三次元である以上俺にそんな気は無い。

というか身体チートを持っている以上、俺が競技なんかに出たら反則も良い所だ。まともにやり合える奴なんて、多分何か力を持ってるオリ主くらいしか居ないぞ。多分。

 

正直辞退したい事この上無いのだが、学校の生徒は皆出場を義務付けられている。さてどうしたものか。

 

うんうん唸って考える。考えて、考えて、考え続けていたら何時の間にか唸り声が二重に聞こえるようになっていた。

すわ何事かと辺りを見回せば、件のオリ主が俺と同じ体勢で唸っていた。面倒臭がりというキャラ設定に従い、俺と同じくサボる方法を考えていたようだ。

 

彼もこちらに気付いたらしく、そのまま何となく見つめ合い――――声も、音も、意思疎通の必要すら無く。気づけば俺達はごく自然に手を取り合って駆け出していた。

 

――赤信号、皆で渡れば怖くない。

運動会当日。愛の駆け落ちをした俺とオリ主は、我がマンションでゲーム合宿を開き一日中遊び倒したのであったとさ。

 

当然後でオリ主諸共先生やら三人娘からしこたま怒られたのだが、それすらも何となく楽しく感じたのは何でだろう。俺ってマゾなのかしらん。

 

 

×月 ×日

 

 

最近どうもデバイスの様子がおかしい。

 

話しかけても無視されるのは当然の事だとしても、時折「あの方こそ我が主……」だの「ああ、あの方に握られたい」だの気持ちの悪い事ばかり口走っているのだ。

初めは何の事か全く分からず故障でもしたかと思っていたのだが、考える内に思い当たる事があった。オリ主だ。

 

どうもこの四角形はこの前招いたオリ主を見初めたようである。なんとまさかのNTRイベント発生だ、正直非常にどうでもいい。

 

そうして盛大に惚気る四角形曰く、やはりアイツもオリ主らしく魔力は大きな物を持っているようで、資質だけで言えば俺よりも高いのだとか。

本来の所有者である俺を目の前にしてそう得意げに語っていたが、果たしてどう反応するのが正解なのやら。とりあえず面倒だったのでゲームの電源を入れた。

 

 

『ああ、こんなキモオタでは無く、彼の下で我が力を発揮したい……』

 

「はぁ」

 

『才能を腐らせる才能を持ったこんなダメ男よりも、あの方の下で。私は……』

 

「そすか」

 

『もしあの方の下に行けるのならば、私は人間体となってどんな事でも……』

 

「はぁん」

 

 

へぇ、人間体になれたんだ。驚きの新事実な気がするが、全く興味をそそられない。だって肉体を持たない女の子AIから三次元女子に変態って、それむしろ劣化じゃね? 

 

ともあれ、その後もデバイスは無口設定を忘れてぶちぶちぶちぶち同じ事を繰り返し、夜が更けてもその賞賛の言葉を呟き続けた。朝になっても、昼になっても、また夜が来ても、ずっとだ。

可愛い声してたし良い妄想のネタになったので最初こそ放置していたのだが、流石に一週間近くもこんな調子だとウザさのレベルが天元突破。脳内俺議員により提出された物理的排除法案を光の速さで可決した。

 

と、言っても物騒な方法では無い。市販の封筒にデバイスを放り込み、ハート型シールで蓋をしてオリ主のロッカーに放り込むだけの簡単なお仕事である。

まさに名実共に愛の贈り物。多分これから原作に関わっていく彼にとっては最高のプレゼントとなったであろう。

 

……流石にちょっと可哀想になったので、一緒にダブった虹野さんステッカーを封入しておいた。俺って優しいな。ウフフ。

 

 

×月 ×日

 

 

コタツを購入した。ついでに半纏も。

 

とりあえず居間のフローリングに電気マットを敷いて、その上に改めてテーブルを設置。そして天板と足の間にコタツ布団を挟み込み、マットとコタツ内ヒーターのコンセントを差し込んで完成だ。

そうしてふかふかの綿が詰まった緑色の半纏を羽織り、周囲にファミコンとお茶菓子と番茶を配置した上でパイルダーオン。六千六百六十六堂院ベルゼルシファウスト完全体の爆現である。

 

俺は美少女ゲームを愛していると言っても過言ではないが、その他のゲームだって普通に好きだ。

特にファミコンやPCエンジンを始めとしたレトロゲー。あの独特な操作性からくる理不尽な難易度や、コンテニューするのにもキー操作が必要な不適切さとか大好き。

何も考えずにダラダラやってると、脳から酸素がどんどん抜けて行って幸せな気分になってくるのだ。

 

あとキャラクターが妙にエロいのもいい。粗いグラフィックやドット数の関係で小さく細かく描かれた女の子とか、妄想が捗ってしょうがない。

 

ピコピコ、ピコピコ。俺の華麗なキー操作を全く反映せず、もっさりした動作で動く二頭身キャラクターを半笑いで眺めつつ番茶を啜る。

 

 

「…………」

 

 

壁一面に美少女ポスターの貼られた、だだっ広いマンションの一室。俺にとっては気まずい空気を撒き散らす装置でしかなかったデバイスも既に無く、そこには穏やかな雰囲気が漂っていた。

 

ふと見れば日はすでにとっぷりと沈み、閉め忘れたカーテンの隙間から覗く窓ガラスに銀髪オッドアイのイケメンが反射して映し出されている。言うまでもなく俺である。

 

ガラスの中で半纏を羽織った俺はとても幸せそうであり、この世界に来た当初の悲壮感など全く見い出せない。

断じてリリカルなのはの世界で超イケメンのオリ主が浮かべる表情ではないと思ったが、まぁ別にいいじゃろ。二次元なら俺も気合入れてオリ主やったけど、ここ三次元なんだもの。そらやる気なんて起きんわ。

 

間違ってるのは俺じゃない、世界の方だ――――バリボリとばかうけを咀嚼しつつそんな事を宣っていたら、元ネタとの状況のギャップに思わず吹き出してしまい煎餅の欠片が横っちょに入った。

 

痛さ八割、苦しさ二割。激痛を伴った窒息状態に悶え苦しみつつ、俺は慌てて身体チートで気道を蠢かせ煎餅を吐き出したのだった。当然やっていたゲームは時既にガメオベラ、無念。

そうして何もかもやる気がなくなり、コタツに深く身を沈める。

 

……何だ、雪が降ってんのか。通りで寒いと思ったよ。

俺は窓の外にチラつく白い粉雪を眺めながら、手元に抱き枕を引き寄せ抱きしめて。カバーに描かれた美少女の胸元に顔を寄せ、ゆっくりと目を瞑る。

 

……俺の体臭しかしないな、今度女子校生の匂いがする香水とやらを買ってみようか。そんな事を思いつつ、気持ちのいい夢の世界へと誘われていったのだった。

 




主人公の名前、どういう思考を経てこんなんなったんだっけか。
最初は六堂院朱雀とか結構普通だった気がするんだけども。六千六百六十くらい増えてるんですが、何じゃろ。


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二年目

△月 △日

 

 

春が来て、二年生となった。

 

俺は去年と変わらずサブカル漬けのまま、悠々自適且つ自堕落な生活を送っている。変わった部分といえば、ほんの少し背が伸びた事ぐらいだろう。

原作メンバーやオリ主近辺が微妙にスイーツ臭くなってきたのに比べ、何てどっしりとした安定感だろうか。自分で自分が誇らしくなるね。

 

進級したという事は当然クラス替えもあった訳だが、一部モブの入れ替えがあっただけで主要人物には変更は無かった。

俺と原作メンバーとオリ主は勿論の事、ついでにメガネっ娘も一緒。三人娘の方は露骨に「いやーん」という顔をしていた気もするが、俺とオリ主はまぁ呑気なものだ。

グダグダとだべったり、たまーにアドバンスを持ち寄ってポケモン的な何かで対戦したり。それなりに宜しくやっている。

 

ああ、それと全然関係ない話なのだが、最近になってようやくプリキュア的な何かが始まった。

やはり前世の物とは微妙に差異があるが、それでも萌えと燃えがうまく融合した作品であり楽しめる事には変わりない。

 

さて、これでようやく日曜朝六時半から始まるゴールデンパレードの要一柱がお出で遊ばされた訳だ。これからの益々充実したアニメ生活が楽しみである。

 

……俺何のために転生したのかな、自分でも分かんねぇけど別にいいやな。ハハハ。

 

 

△月 △日

 

 

せっかく六千六百六十六堂院ベルゼルシファウストという超格好いい名前のイケメンなのだから、それに見合った振る舞いをすべきではないのか。と唐突に思い立つ。

 

そうして洗面所の鏡に向かってキザなポーズをつけてみたり、蠱惑的に微笑んでみたのだが、銀髪オッドアイという事もありそういう仕草の似合う事似合う事。

おそらく世のショタコンどもは俺のウインク一つであっさりと陥落する事だろう。吐き気を催すので絶対にやらんが。

惜しむらくは格好が冴えない子供服姿であるという事だが、それを抜きにしても超格好いい。俺自身も思わず見蕩れ、うっとり。

 

何かテンションの上がった俺は、パソコンで整髪剤やらファンデーションやらを買い付け、本気で着飾ってみる事にした。

子供服の中でも精一杯スタイリッシュであろう物を選び、メイクの教導本に従い髪の毛を整え、うっすら化粧を施し透明感のある肌に仕立てる。そう、俺は持てる限りの力を尽くして自分自身を磨き上げたのだ。

 

――そうして三時間後、鏡の中に漆黒の堕天使が降臨する事となる。

 

ふんわりと外にはねた銀髪は風もないのに横へと靡き、周囲に光の粒子を振りまくマスカラの隙間からは憂いを帯びたオッドアイがゆらりと覗く。その視線で射抜かれた者は、男女問わず腰砕けになる事請け合いだ。

そして黒を基調としたレザー生地の衣服は適度に着崩され、身体チートで生み出した薄い筋肉の描く曲線が妖しく光を帯びていて。そしてアクセントに振りかけた女子校生の匂いの香水が、清潔感のある香りを辺りに漂わせる。

その姿はどこぞの有名彫刻家が手掛けた芸術品のように気品に溢れた物で、この俺ですら三十分程目を奪われてしまったくらいだ。

 

……これ程の美しさなら、もしかしてギャルゲーの中の美少女達に自意識を与える事も可能なんじゃないか? 

我に返りそう確信した俺は、一直線にゲーム部屋に向かいときメモを起動。そうしてこれまで温めてきた超格好いいポーズを決めながら、もう何度目かも分からないヒロインの攻略を開始する――――!!

 

全てが終わった後、俺はもう二度とお洒落なんてしないと、そう決めた。

 

 

△月 △日

 

 

最近、メガネっ娘と三人娘の仲が良い。

 

どうやらメガネっ娘が未だ俺からエッチな事をされていると思い込んでいるようで、半ば一方的に相談を聞いている内に仲良くなったようだ。

まぁ彼女達の事情なんぞどうでもいいのだが、メガネっ娘とは今も割とよく話す間柄なので、原作メンバーと親交を深めて居るのを見ると感慨深いものがある。

 

もしかしたら原作開始時には主要メンバーの一員になっているかもしれんな。

一般モブが原作メンバー入り、果たしてジャンルは何になるんだろう。やっぱオリ主物で良いのかな。

 

……と、そんな事を正真正銘のオリ主とポケモン的な何かで対戦しながら考えていると、上方から影が刺す。見上げてみれば、モッコスアリサが腰に手を当て得意げな顔をして立っていた。

表情からして俺に文句を言う為に来た訳では無さそうだが、では何の用だろう。疑問に思いつつ彼女を見つめていると、目の前に一枚の紙が突き出された。なにこれ。

 

首を離して焦点を合わせたそれは――何と、漫画調のタッチで描かれたアリサの姿ではござらぬか!

 

どうやら友情の印的なアレコレでメガネっ娘に描いて貰ったようだ。

原作絵に似た感じで、大きな瞳のふっくらほっぺで可愛いく描けている。丁度アリサの顔が隠れるようにして掲げられているので、絵自体がくぎゅ声で喋っているようにも見えて超グッド。

 

――そうだよ! これだよ! やっぱお前らはこうじゃないと! これこそ正しい原作メンバーの姿だよ!

 

彼女は「親友だから変な事するな」とか何とか言っているが、俺は萌えるのに忙しくてそれを理解している暇は無い。

もしやと思いギラつかせた目を右に転がせば、すずかとなのはも同じ様にイラストを掲げていた。それも可愛い二次元絵で、これがまたいい目の保養になる。

 

もう辛抱堪らん。俺は身体チートを駆使して千円札とイラストの描かれた紙をすり替えようとして――――ガチリ、と。財布を握った腕が横合いから掴まれた。

何だ何だと伸びた腕の先に目を向ければ、アドバンスSPを片手に持ったままのオリ主が神妙な顔で首を振っている。面倒事になるからそれは勘弁してやれという事らしい。

 

ええいならば直談判だ! 俺は光をも超えた速さでメガネっ娘の元へと大ジャンプ、アリサ達が持っているイラストと同じ物をくれと土下座する勢いで頼み込む。

 

メガネっ娘は最初は驚いた様子だったが、俺の言葉を理解すると周囲に花を飛ばして自由帳にペンを走らせた。

淀み無く、迷い無く。そうして驚く程の短時間でイラストを描き上げ、ニコニコと笑いながら切り取って差し出してくれた。やったぜ!

 

俺は天に昇る程に喜びながらそれを受け取り――――紙の中に描かれていた俺のイラストを見た瞬間「ちゃうねん」床と額がごっつんこ。

 

……違う、違うんだ。そういう意味じゃなくて、アリサ達のイラストが欲しかったんだよ……。

 

机に縋りつきメガネっ娘にそう懇願しようとしたが、先程の音でアリサ達がようやくこちらに気付いたらしく「あー!」と叫びながら走り寄って来た。

そうなるともう駄目だ。わいのわいのやいのやいのと騒がしくなり、中心で巻き込まれたメガネっ娘はあわあわと狼狽える事しか出来なくなるのだ。

 

 

……やっぱりこっそりすり替えて――――ガチリ。

 

分かった、じゃあ五千円で――――ガチリ。

 

よし、なら一万――――ガチリ。

 

…………良いだろう、ならば俺の秘蔵のときメモ――――ガチリ。

 

 

希望へと必死に伸ばしたその腕は、尽くオリ主に邪魔をされ。俺は涙を流しながら床に突っ伏したのだった。おのれオリ主め、俺のハーレムを邪魔するなよぉ……!

そうして後日改めて頼んだのだが、「皆の許可がないと……」と拒否られた。畜生。

 

 

△月 △日

 

 

先日の一件より、俺はクリエイティブ精神に目覚めた。超目覚めた。

 

そう、欲しい二次絵があるのなら、自分で描けばいいのである。理想の二次元なのはを、二次元アリサを、二次元すずかをその他諸々を。

前世の俺は致命的に絵心が無かった為に消費者側に回っていたが、この体は前の俺の物では無い。身体能力チートや魔法チートを備えたスーパーオリ主マンなのである。イラスト位ちょっと練習すればお茶の子さいさいその筈だ。

 

既にイラストの描き方を纏めた本や、シャーペンGペンネオピコ等のイラスト機材を購入し、そしてフォトショップにイラストスタジオといったパソコンソフトとペンタブまで用意した。

これだけの物があって、やる気もあるのだ。きっと一週間もすれば、なのは達のエロ絵も描けるまでに絵心が上達しているに違いない。多分。

 

まずは基本中の基本、ペンの使い方から勉強しよう。俺は目の前に広がる画材道具を前に指を鳴らし、タコ足のように指を蠢かせつつルパンダイブを敢行した――――!

 

 

△月 △日

 

 

よく考えたら身体はチートでも心は以前のままじゃないか。だったら絵心も昔のままに決まってる。

 

努力の残骸である紙の山をマンションの庭先で燃やしながら、俺はしょっぱい水をぽたぽた落とす。

炎の中で踊るのは、辛うじて人に見えるか見えないか、といった化け物達だ。信じられないかもしれんが、あれアリサなんだぜ。嘘みたいだろ?

 

本当はもっと時間をかけて、それこそ年単位で頑張るべきなんだろうが、三週間経っても棒人間すらまともに描けなかった時点で心が折れた。

そう言えば、学校の図工の授業でも花丸貰った事無かったっけ。俺美術とか向いてないんだな。ウフフフ。

 

――しかし、俺はここで諦める人間ではない。二次元がダメなら一次元で勝負だ。

 

絵がダメならば妄想があるじゃないか。俺の脳内に繰り広げられるなのは達のあられもない姿を文字に起こせば、その一助となるに違いあるまい。

目で二次絵を認識できないのは残念だが、過ぎた妄想は現実化するというセリフがある。この世界も創作物の世界だと言うならば、それも決してありえないとは言い切れない筈だ。

 

既にネットショップで小説の書き方を纏めた本や、原稿用紙や万年筆、ワードワープロポメラその他執筆機材は用意した。

これだけの物があって、やる気もあるのだ。きっと一週間もすれば、なのは達のエロ小説も書けるまでに筆心も上達しているに違いない。と良いな。

 

まずは基本中の基本、文法の使い方から勉強しよう。俺は目の前に広がる執筆機材を前に首を鳴らし、イカゲソのように指を蠢かせつつルパンダイブを敢行した――――!

 

 

…………………………………………

 

 

……努力の結晶である原稿用紙をマンションの庭先で燃やしながら、俺は塩辛い水をぽろぽろ零す。炎の中で踊るのは、「ました」で締める文が殆どの……まぁいいや、とにかくダメだったという事である。

 

絵もダメ、文もダメ。やはり俺は創作活動という物自体に向いていないらしい。

これは生粋の消費者としてこれからもサブカル界隈を買い支えろ。ついでに二次元なのは達を諦めろ、という神の啓示に違いない。

 

……プリメ的な何かでもやって傷ついた心を癒そう。今回は貧乳ステの子が来ればいいな。

 

俺の心身のように燃え尽きた炭を蹴り散らし、そのまま勢いよく飛び上がって部屋のベランダに着地。ゲーム部屋へと舞い戻る。

そうしてセガサターンのコントローラーを拾い上げ――――ふと、俺はまだゲームの方は挑戦していない事に気が付いた。

 

……いや、でもなぁ。絵も文もダメだったのに、何のゲームを作れと?

 

そもそもプログラミングなんて習った事ないし、どうやったら良いのかさっぱり分からん。

 

けれど漫画、アニメの分野。小説の分野と来てゲームにだけ挑戦しないというのも何か収まりが悪い気もするし……まぁ、やるだけやってみる?

俺は拾いかけたコントローラーを置き直し、パソコンを起動してプログラムの組み方を纏めたテキストデータやら各種ツクールシリーズやらを購入するのであった。

 

 

△月 △日

 

 

どっこい何とかなっちまったい。嘘だろ。

 

ストーリー性の欠片もない、不格好な棒人間が殴り合うだけの簡単な2D格闘ゲームではあるが、一からプログラムを組み上げてそれなりの形に出来ちゃった。無理だ無理だと思ってたのに、自分でもビックリだ。

 

おそらくだが、これは魔力チートの影響がでかいんじゃないかと思う。なのは世界の魔法は科学の行き着く先であるという事だし、その資質を持ってるって事はイコールそういう方向に特化した脳の構造をしている、とも言えるのではなかろうか。

今まで大して修行もしていなかった俺であるが、それでもSSSランクの端くれである。例え力を掌握していなかったとしても、その片鱗程度は引き出せていたのだろう。

 

ははぁ、成程。何か不気味な程にすらすらプログラム言語が理解できるなーと疑問は抱いていたが、そういう事だったのね。

魔力チートよ、今まで無用の長物と思っていてごめんなさい。意外な所で役に立ってくれてありがとうございます。ほんとに。

 

 

「ウフフフ」

 

 

PCに繋いだゲームパッドでグリグリ棒人間を動かしつつ、ニヤニヤと半笑い。正直素人の作品もいい所だけど、自分でサブカル関係の何かを作れた事が嬉しくてたまらん。

当初の二次元云々の目的からは大分離れてしまったし、その役にも立ちそうもないのだが……うん、まぁ。なんか満足したしこれはこれでいいや。

 

調子に乗った俺は出来上がったゲームをベクターに上げ、PCの電源を落とし床に就く。なんだか今日は割といい夢が見られそうな気がした。

 

 

△月 △日

 

 

今日はクラスの皆で遠足である。

 

向かう場所は、海鳴市の東に位置するそこそこ大きな自然公園。小学校からバスで移動し、園内をぐるりと歩き回りつつ古墳や博物館を見学するというありがちなコースだ。

一年生の頃にあった散歩レベルのものよりはランクアップしたが、どうせならゲームセンター付きの遊園地にでもして欲しかった物である。

 

どちらかといえば勉強の延長線上にある行事だが、クラスメイトのモブ達は楽しみにしていたらしく皆笑顔。

出発前のバスの中で互いにオヤツを見せ合ったり、カメラで変顔を撮影したりと各々はしゃぎ合っていた。

 

俺としては面倒臭いとしか思えず、周りの空気に馴染めず持ってきたアドバンスでトルネコ3っぽい何かをプレイする。

するとここでも隣席となったメガネっ娘がそんな俺をやんわり注意してきたので、今巷で大人気のミルモでポン的な少女漫画を渡して黙らせた。いやはや、扱いの楽な子で助かるね。

 

ともあれそんなこんなで自然公園に到着。俺達は事前に番号順で決められた班ごとに別れ、引率の教師にカルガモの親子のように連れられてハイキングを開始する。

 

入口の鉄柵を潜った俺達の目に映るのは、視界いっぱいに広がる青々とした木々の葉と、手入れされた噴水。そして園内に敷き詰められたレンガの小道からなる趣のある光景だ。

遠足なんてどうせ退屈でしかないんだろうなと思っていたが、これがなかなか良い雰囲気で少し感動してしまう。俺は歩きながら続けていたアドバンスを仕舞い込み、純粋に景色を楽しむ事にしたのだった。

 

そうして気付けば、こっそり空高くジャンプして古墳を上から眺めたり、博物館に展示されている人類進化図にオリ主と一緒に紛れ込んでみたり。結構本気で堪能していた俺がいた。

何と言うか、ゲームとは違う素朴な楽しさというか。うまく言えないがそんな感じ。

 

明日あたりから俺の散歩コースに組み込んでみようかな。テンションの上がった思考でそんな事を考えていると、俺の後ろにくっついて来るメガネっ娘が疲れたような表情を浮かべているのが目に付いた。

 

……え、何? 歩きすぎて足が痛い? しょうがないなぁこれだからガキは全く。どれ、この六千六百六十六堂院ベルゼルシファウスト様がおぶってやる。え、やだって? しっかたねぇなぁじゃあ肩車だ!

 

無駄な抵抗をするメガネっ娘を身体チートを用いて射出させ、俺の肩の上に根性合体させていたら、例によって例のごとく耳年増が降臨。

ギャーギャーとセクハラを指摘しながら追い掛けて来たので、肩車のまま逃げ回る事と相成った。すぐに三人娘諸共先生に怒られ、とくとくと説教をかまされる。

 

……こりゃメガネっ娘に悪い事したかな。と思ったけれど、ちらりと様子を伺ったら何だか楽しそうだったので良しとしよう。

 

そうしてその後も何だかんだと騒ぎ、楽しみ。俺の遠足は終わりを告げた。いやぁ、思ったより良かったな。来年の物が楽しみだ。

 

 

△月 △日

 

 

俺はコンパスが苦手だ。

 

何が苦手ってあの針。ノートに刺して「ぐるりと回す」事で綺麗な円形が描けるという噂であるが、一度も成功した試しがない。

必ず「ぐるりと回す」途中でノートから針が抜け、片側に挟んだ鉛筆が意図しない方向にすっ飛ぶのだ。

 

当然円形なぞ出来る訳が無く、仕方がないので途中からは手書きで円を完成させようとするのだが……まぁ、俺の絵心からして結果なんて分かりきっている訳で。

 

くそ、この前買った円形定規でも持って来れば良かった。

そんな後悔をしつつペンを動かしていると、隣席から妙な音が聞こえてきた。一体何ぞやと目を向けてみると――――メガネっ娘がコンパスを持たずに正円を描いていた。二度見した。

 

シャッ、シャッと軽やかな音を立てて量産されるそれは、寸分の歪みもブレも無く。どれだけ絵が上手かったらこんな機械的な動きが出来るのだろう、俺には想像もつかん。

 

……やっぱり描いて欲しいわぁ、なのは達の二次絵。何とか描いて貰う理由というか、言い訳というか。ぱっと思い付かないものかな。

 

――緊急議題「如何にして彼女を騙くらかせばエロ絵を描いてくれるのか!」

脳内俺議員が喧々諤々の論争を繰り広げたが、全く良さげな案は出なかったとさ。ああもったいね。



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三年目 1

□月 □日

 

 

原作の始まる時期に突入していた事に気付いたのは、三年生になって数週間が経った後の事だった。

 

その日の俺は、近所のゲームショップでギャルゲー漁りに熱を上げていた。最近はGジェネDS的なアレに熱中していたので、そろそろイチャコラ成分が恋しくなったのである。

いや、シーマ様とライデンとかハマーン様とクワトロとかノーマたんと種三馬鹿とかちょっと匂わす程度のはあったけどね。でも如何せん密度は濃いけど量が少ないと言うか。分かりますかねこの気持ち。

 

そうしてたまたま魔法少女物のギャルゲパッケージを手に取った際、それはもう唐突に思い出したのだ――――あ、もうなのは始まる、と。

あれだけなのはやアリサらの事を原作メンバーと呼び放っていたのに、肝心の「原作」の事をすっかり忘れていた。いや自分でも何か忘れてるよなぁとは思ってたんだよ、マジでマジで。

 

ともあれ、そんな感じでそろそろジュエルシードが街にばら蒔かれる事を予期した俺なのだが――――特に何も行動を起こす事無くゲーム漁りを続行した。

 

だって俺はデバイスすら持っていないのだ。変に介入して妙な怪我してゲームが出来なくなったら自殺物である。

それでも世界が二次元だったなら、そんな細かい事を気にしないスーパーオリ主マンが爆誕していたのだろう。だがしかし残念ながら現実という名の三次元世界ではそんな事は有り得ない。世界の違いを正しく理解しましょうね。

 

幸い俺が動かなくても、原作主人公ともう一人オリ主が既に存在しているのだ。特にオリ主の方には俺が押し付けたデバイスがある筈だし、ほっといても何とかなると思う。多分。

 

まぁそんな訳で、俺は発売されたばかりのNorthWind的な何かとライライ的な何か。ついでに前々からやりたかったレトロゲーを何本か購入し帰宅。いつもと同じように夜を徹して楽しんだのであった。

 

 

……そういえば夜中に何か聞こえた気もしたけど、もしかしてユーノの広域念話だったりしたのだろうか。

うーむ、その時俺はシナリオに感動してボロンボロン泣いていたので分からなかったが、声援くらいは送っとくべきだったかもしれん。念話のやり方も知らんかったし無理だったろうけど、ハハハ。

 

 

□月 □日

 

 

最近、WetubeならぬTheytubeという大型動画視聴サイトが開設された事を知った。

 

まだ日本語訳にはされていないようだが、あと二・三年もすれば対応してくる事だろう。その頃にはまだ無きニヨニヨ動画的な何かも(RC)版まで行っている筈だし、今後始まる動画生活が楽しみな事この上ない。

 

俺は英語の意味の分からぬまま黎明期だった頃のつべ動画を拝見しようとしたが、どうやらまだ活発化はしていないらしかった。投稿動画の数が前世の物と比べ驚く程少ないではないか。

辿ってみれば初めての動画が投稿されたのがつい先日の事で、それから一ヶ月も経っていないとの事。感心したようなショックなような、不思議な気分になる。

 

……投稿、してみるか? 今ならパイオニアになれるかもよ? 何のかは知らんけど。

良く分からない名誉欲に突き動かされた俺は、その日の内に動画の取り方、投稿の仕方をチート効果で頭に叩き込む。そして近所の電気屋まで走りビデオカメラを購入し、撮影準備を完璧に整えた。整えてしまった。

 

撮影スタジオはマンションの屋上、演目は俺が考えた超格好いい俺ダンスだ。俺が人に自慢できる物などこのチートな身体とサブカル愛だけだしね。悪いか。

 

ともあれ最後にお洒落過ぎない黒いジャージに着替え、顔バレする訳にもいかんので縁日で買ったライダーのお面を装備し準備は万端。カメラのスイッチを起動し、チートの限りを尽くして人類には到底再現不可能なスタイリッシュダンスを披露する。

 

――舞い、舞って、舞いし、舞えば、舞う。

 

正に風の如く、炎の如く、雷土の如く、雲の如く。それは柔らかくも力強い、そして何より美しさを前面に押し出した六千六百六十六堂院ベルゼルシファウストとしての最高の動きだろうと確信できる物だった。後から思えば、何か憑依してたのかもしれない。

とにかく全力で最後まで踊りきった俺は、奇妙な充実感に包まれたままカメラのスイッチを切った。後は動画の始まりと終わりの部分をカットし、暗転効果でも付ければ完成だ。

 

そうしてパソコンでの大まかな編集作業を終えた俺は、どこかワクワクした気持ちで動画を投稿したのであったとさ。

 

 

 

…………まさかこの映像が、その後五年、十年と長い期間に渡りオカルト動画として語り継がれる事になろうとは全く予想しとらんかった。

ある意味ではパイオニアにはなれたのだろうが、俺としては果てしなく遺憾な結果である。ぐむむ。

 

 

□月 □日

 

 

どうも最近街が騒がしい。

 

原作の事件の影響か、動物病院が破壊されたり大木が出現したりと物騒な出来事が絶えず、日々新聞やネットでニュースとなっている。

そしてそれに伴い、魔法関係の秘密を抱えた事で原作メンバーとオリ主の関係もピリピリしてきてるし、クラス内に何か妙な緊迫感が常に漂い続けていてお尻がムズムズして仕方がない。

 

ほら見てごらんよ、隣席のメガネっ娘も怯えて涙目になっているじゃないか。全くひどい事するなぁ。

俺はボリボリ尻を掻きながら何となしに彼女を眺め――――ピコーン、と頭の上でLED電球が輝いた。そうだ、この状況は俺の野望のために利用できるかもしれん。

 

半笑いになった俺は三人娘を心配そうに見つめるメガネっ娘に顔を寄せ、ヒソヒソと囁く。

 

 

ねぇねぇメガネ、このままで良いと思ってる? 放っておいたらどんどん仲悪くなるよ、アイツ等。いやはや大変だぁ大変だぁ。

メガネってなのはやアリサらとは親友なんだろ、だったら仲を取り持つくらいできるんじゃないかなぁ。そう、例えば――親友の証とやらのイラストとか見せてみたらどうだい? 友情を思い出したりして効果テキメンだと思うんだけども……。

 

 

……等と脳みそに浸透させるようにねっとり言い聞かせると、メガネっ娘はレンズの奥の瞳をグルグルと回転させて猛烈な勢いで絵を描き始めた。

その手の動きは最早人間技では無く、このチート視力をもってしても追いかけるのがやっとだ。そうしてみるみる内に自由帳のページに三人娘の姿が描き出されていく。

 

――名付けて、オリ主の囁き声CD作戦。適当な事を嘯きメガネっ娘をその気にさせ、彼女に原作メンバーのイラストを描かせて仲直りイベントを起こそうという考えである。

 

そしてイベントの終了後、俺は使い終わったイラストを回収してミッションコンプリート。俺は満足出来て原作メンバーは仲直りも出来てと互いにWIN―WINの関係になれるのサ!

まず確実にエロ絵では無いだろう事がちと残念だが、この際それには目を瞑ろう。メガネっ娘にイラストを描かせたらこちらの物よフフフ。

 

……そんな自分の狡猾さに慄いている間に彼女はイラストを描き上げたようで、自由帳を握り締めアリサらの元にとてちて走り寄って行った。

 

そうしてアリサ、なのは、すずかの手を引いて全員をオリ主の下に集めた後、イラストを御開帳。優しいタッチで表現された笑い合う三人娘達の姿を見せつけ、たどたどしく説得を開始した。

……何故かその絵の中には俺やオリ主の姿も描かれていたのだが、何だ。これは喜ぶべきなのかどうか。さて。

 

ともあれ、そんな感じで何か感動的な展開になっている彼女達を他所に――――俺は身体チートの応用で椅子に座った姿勢のままスライドして移動。いわゆる空気椅子の状態から、足を動かす事無く無音で現場へと近づいたのだった。

 

原作メンバー達は仲直りが終了したらしく、メガネっ娘と抱き合って美しい友情を育んでいる所だった。是非とも二次元で見たかった光景であるが、まぁ良い。

目的の自由帳はすずかに抱きしめられた際に取り落としたようで、丁度良くイラストのページを開いたまま床に転がっている。

 

多分オリ主サイドの神は、この絵の事を最後に描写しつつフェードアウトして回を締めるつもりなのだろう。

「絵の中のなのは達が浮かべる笑顔はとても綺麗なもので、それと同じ表情を浮かべる彼女達の友情はいつまでも変わらないのだろう~」と言ったナレーションを付けでもしたら完璧だ。

 

だが残念ながら、俺が存在する以上そんな爽やかには終わる事はないのだウフフフ。

浮かべていた半笑いがゲッスい笑みにダークネス進化した事を感じながら、俺はチート手刀でページを切り取ろうとして――――ガチリ。覚えのある擬音と共に腕を掴まれる。

 

 

…………(´・ω・`)というショボくれた表情で目を向ければ、そのオリ主が「それはしたらアカンやろ」的な渋い表情で俺を見つめている所だった。泣いた。

 

 

□月 □日

 

 

学校からの下校中、道端で変な感じのする宝石を見つけた。

多分これがジュエルシードなんだろう、俺の第六感とも言うべき場所がけたたましく警告音を鳴らしている。

 

……これ使えば世界を二次元にできるかな。少しだけ心を揺さぶられたが、この宝石は願いを歪めた形で叶える設定があった事を思い出す。

もし下手に手を出して、「物理的に」世界を二次元に変えられてしまったらとんでもない事になる。そうなった場合に訪れるグロ映像を想像し、侮蔑の視線と共に唾を吐きかけてやった。

 

するとどうだ、唾液に濡れたジュエルシードはぬらぬらと生理的に受け付けない光を放つようになったではないか。俺の玉の肌に一斉にぞわぞわ寒疣が立ち上がり、嫌悪感に耐え切れなくなった俺は力の限りジュエルシードを蹴っ飛ばした。

ヒュカン、ヒュカン、という軽い音が響き、一瞬遅れて空気が爆発。強大な衝撃波が前方へと流れ去る。これぞチートの正しい使い方だ。

 

蒼い閃光と化したジュエルシードは、彗星の如く空の彼方へとすっ飛んで行き――――遠くの空で何か人の様なものに激突、地上に向かって落っこちた。

フェイトかなのはかオリ主か、それともアルフか。まぁ誰でもいいやと俺はあっさりスルーして、近くの壁を駆け上がって大ジャンプ。高層マンションの俺の部屋のベランダに直接着地しダイナミック直帰を果たしたのであった。

 

 

どうでもいいが、今日は厄 友情談疑的な何かをプレイした。

……何とか女子連中には萌える事に成功したが、何故だろう。俺の心に手痛い敗北感が去来した。寝る。

 

 

□月 □日

 

 

シムシティ2000的なゲームのテンポの遅さにしょっぱい顔をしていたら、突然どこからか轟音が聞こえた。

 

慌てて窓の外を見れば海の方角の空が荒れ、海上で大きな竜巻が上がっているのが見える。これはあれか、海上の決戦シーンか。

そういや最近なのはやオリ主が学校休んでたし、そうか、もうそんな時期なのか。不思議と感慨深くなり、せっかくだから窓際にカメラを置いて撮影する事にした。

 

……あれ、俺温泉イベント呼ばれてなくね? まぁ別に興味無いから良かったけどさ。

そんなこんなでカメラの設置が終わり、再びセガサターンのコントローラを握り直しロードの完了を待っていると――先程の轟音なんて目じゃない程の雷音。遠くの空にでっかい雷が落ち、突然テレビの画面が消えた。停電である。

 

……やってくれやがったなプレシアァァァ……! 俺の組み上げた街が滅亡した事による憤怒の感情を時の庭園に向けるが、俺にはただ電気の復旧を待つ事しかできずに歯軋りギギギ。

 

そうして5.6分後にようやく電気が回復。素早い動きでセガサターンの電源を入れ直したのだが、今のでパワーメモリがイカレたのかそれとも内蔵電池が元々限界だったのか。テレビに映ったのはロゴでは無く時刻合わせの画面であり。

あーあー、色んなセーブデータが飛んだぞこれ。俺は暗澹たる気持ちになりながら、とりあえず今日の日付を打ち込んだのであった。

 

 

ちなみに今回撮影された映像をテレビ局に送ってみた所、何とニュース番組の映像資料として使って貰える事となった。

こっそりメガネっ娘に自慢すればパチパチと拍手を送られたので、嬉しくなった俺はローゼンメイデン的な漫画を頭の上に乗せてやる。

 

当然いつかのように怒られたが気にしない。そろそろ新しいジャンルにも目を向けおくれという親心さ、ハハハハ。

 

 

□月 □日

 

 

以前よりときメモが大好きだと声高に叫んでいる俺であるが、大好きなのは本家シリーズだけではない。

ぱずるだまやとっかえだま、クイズしよ、ドラマシリーズ等派生作品は勿論の事、女性向けのGirl's Sideも楽しくプレイさせて頂いた。

 

この世界ではGSのメインヒロインが葉月ではなく三原なのだがその面白さに陰りは無く、むしろ三原がメインに座った事でキャラクターの個性が強まった気がする。

……この辺、三原の性格を知っている方ならどんな具合になっているか予想できるだろう。凄いよ、色々。

 

俺としては日比谷君がヒロイン(ヒーロー?)の中では一番好きなのだが、やはり男である以上サブを固める女性キャラクターに目が行ってしまいがちだ。

特に瑞希ちゃまとたまちゃんが俺の中での二大巨塔である。容姿や声優さんが好みという事もあるのだが、瑞希ちゃまのツンデレぼっち具合や、たまちゃんの主人公への依存具合とかもうヨダレが垂れちゃう程に素晴らしい。

その分ライバルに回った反動が大きく、特にたまちゃんと喧嘩してる時なんかは心が抉られる事になるのだが……それでもやはり、彼女達の個別友情エンドを見るとこの子達が好きなのだと実感出来る。

 

しかも周りが男だらけな分、何と言うか、その……友情エンドにも妙にフローラルな香りを感じてならず。製作者の意図しない「何か」がほんのりと咲いているような……ねぇ?

まぁとにかくメインのヒーロー(ヒロイン?)達に加えてサブキャラ達も皆魅力的で、GSは凄く良い作品という事だ。うん。

 

それこそ女性向けを謳っているにも関わらず男も楽しめる作りとなっているので、世のノンケ達諸君も是非プレイしてみて欲しい。どちらかは分からないが、新しい世界が見えるようになる筈だから――――

 

 

……そんな独り言を即興で宣いつつ、俺はオリ主の下駄箱に態々買った新品のときメモGS、それと本編の3をそっと放り込み、閉じる。

 

アイツが前にやりたいけど恥ずかしくて買えないと言っていたソフト達だ。まだアースラからは帰ってきていないようだが、これなら三人娘に悟られる事無く彼の手に渡らせる事が出来るだろう。

原作介入を頑張っている筈のオリ主に対する、俺からの慰労プレゼントだ。時期的にそろそろ一期も終わると思うし、全てが済んだ後にでもゆっくり楽しんで欲しい。

 

「――フッ」ニヒルに唇を上げ、俺は下駄箱前から立ち去ったのだった。

 

 

□月 □日

 

 

――――Дちゃんねるに野菜レイパーが降臨した。

それを知った瞬間、俺は堪らず白目を剥いて歯茎をむき出しにして舌をうねらせ尻を突き出してしまった。俺にとってはそれ程の衝撃だったのである。

 

 

「う、嘘……だろう?」

 

 

……鳥肌が止まらない。知識だけでは知っていたが、よもや自分が奴の伝説的凶悪犯罪を目撃する事になろうとは思ってもみなかった。

 

俺は震える指先を何とかいなし、スレを開いてマウスホイールをくるくると回す。すると奴の餌食となった哀れな被害者(ウリ科)のあられもない写真が目に飛び込み、思わず息を吹き出した。

そうして俺と同じく居合わせたVIPPERが上げる静止の声も聞かぬまま――奴は、自らの「それ」を差し込んだのだ。一切の躊躇も容赦も無く、一息に。

 

 

――それは、確かに外道であった。

 

 

何て酷い事をするのだろう。俺達は掲示板を通して繰り広げられるその悲惨な光景に口端を歪め、奴への罵倒の言葉を書き込んでいく。

「やめろ!」「早まるな!」「いやあああ!」「通報しました、農家に」しかし野菜レイパーはそんな幾つもの糾弾など物ともせず、コトが済んだ哀れな被害者を切り刻んだ挙句、牛肉や玉ねぎと共にフライパンで熱を通し、しかも塩コショウまで振りかけてしまった。

そのおよそ人間とは思えない残虐行為に、徹夜明けの胃袋が悲鳴を上げる。

 

……そして全てが終わり、証拠が隠滅された事を確認した後。俺は「乙」と書き込みスレを閉じた。

瞼の裏に浮かぶのは、皿に盛り付けられた被害者の無残な姿だ。俺はギリリと唇を引き締めるが、端から漏れる唾液を止める事は出来なかった。

 

――やってやるよ、畜生。

 

我慢できなくなった俺は決心と共に大きく目を見開き、財布を片手にベランダから飛び出した。現在時刻は未だ朝の六時半、スーパーもまだ空いてない時間帯だ。

ならば行くべき所は農家のみ。俺は身体チートを最大限に駆使し、被害者の――ニガウリの生産地として有名な沖縄の方角へと超大ジャンプを行った――――!

 

……そうして何だかんだで出来上がったゴーヤーチャンプルは、素人が作ったにしては中々の出来だった。結構料理出来る人だったんだな、俺。

 

 

□月 □日

 

 

 

なのはとオリ主が帰ってきた。どうやら一期が終わったらしい。

 

随分長い事居なかった気がしたが、数えてみたら一ヶ月近く経っていたようだ。アリサやすずか、メガネっ娘達が駆け寄り、やいのやいのと騒いでいる。

……こんだけ居なくて、進級とか大丈夫なのだろうか。まぁ義務教育だから退学は無さそうだが、これから補習が大変そうである。ポケモンの厳選を行いつつ心の中で合掌した。

 

そのまま暇つぶしに彼らの話に聞き耳を立てていると、新しく三人の友達が出来たとか出来ないとか言う発言が飛び出してくる。

三人? 二人は多分フェイトとアルフの事だとしても、もう一人? ユーノか? それともクロノか?

 

……もしかしてアレか。アリシアとか助けちゃったパターンだったりするのかしら。何かそんな気がする。

ちらりと伺う二人の顔には悔恨や悲壮感といった負の感情は欠片も浮かんでいないし、この分じゃプレシアも助かってるかもしれんなぁ。原作大ブレイクだ。すごいなオリ主、良く頑張った。

 

俺のデバイスだった四角形も役に立ったのだろうか。今度さりげなく聞いてみよう――そう考えながら漫然と眺めていたら、オリ主が何やらこっそりとメガネっ娘に写真のような物を渡していた。

……何やってるんだあいつ。メガネっ娘も突然の事に戸惑っていたようだが、やがて頷きこっそり三人娘から離れて自由帳に写真を模写。そうして切り取ったそれを抱えて、とてちて俺の下へと近付いて来る。

 

はてさて何じゃらほい。疑問に思いつつも一連の流れを見守っていると、彼女はこっそり俺にイラストを差し出して――――「ッ!?」

 

ビックリした。何せそこに描かれていたのは、魔法少女リリカルなのはの名シーン。公園で一時の別れを告げるなのはとフェイトのイラストであったのだから。

バッ! と顔を上げれば、オリ主がこちらに自らの傷だらけな球型デバイスとは別の、見覚えのある四角形を翳し唇の端を上げていて。そして、念話が一つ飛んでくる。

 

 

――――まだGSしかやってねーけど、俺的にはヒムロッチとしほタンが面倒臭くなくて良かった。

 

 

まぁね! ヒムロッチは爆弾つかないし、しほタンはあんまベタベタしてこないしね! 良いよね!! ワハハハ!

俺は感動と感謝に打ち震えつつイラストを折り曲げないようしまい込み、オリ主に向かって身体チートを用いた最高のサムズアップをかました。ドパン! と空気の破裂する音がしたが、何処もおかしくはない。

 

そうして上がったテンションのまま、手近にあったメガネっ娘の頭を少々乱暴に撫でくり回していると――「何してるのー!」とやっぱり耳年増が出現。目をグルングルン回転させふらつくメガネっ娘を抱き寄せ、犬のように威嚇してきた。

後はまぁ、何時もの騒ぎである。三人娘が俺にギャーギャーと言い募り、俺は耳の中を塞ぎ、メガネっ娘は狼狽えて。そうしてオリ主がやれやれと溜息を吐きながらそれを収めにかかる。そんなテンプレ。

 

ああ、早く帰ってイラストをゆっくり眺めたいな、とりあえず帰りに額縁でも買ってくべぇ。そんな何だか幸せな心持ちの中、俺は三人娘を無視してポケモンを再開したのだった。

 

 

……あ? 天然6V? 嘘こけバグだろこれ。




※ 「野菜レイパー」検索注意。


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三年目 2

◇月 ◇日

 

 

ざらざら、ざらざら。大粒の雨が土砂の如く降りしきる。

 

窓の外に目を向ければ、濁った鉛色の雲が空を覆っていた。その厚っこさと色の濃さを見る限り、雨はまだ暫く降り続けるであろう事が伺える。

俺としては雨は結構好きなのでそれでもいいんだけども、やはり何となく鬱な気分になるのは止めようがない。ダラダラと寝転がりながらその音色を聞いていた。

 

ざらざら、ざらざら。いやぁ、にしたって何とも眠くなる音である。低気圧のせいか脳も身体も異常な程に怠くて堪らず、ゲームをする事すら億劫で堪らない。

やっぱこんな日はアニメと漫画に限るな。最近ゲーム漬けだったお陰か未視聴の積みDVDもちょっとシャレにならなくなってきたし、いい機会だ。少しは消化しておこう。

 

俺は本棚のように並んだDVDラックからFF:Uっぽい何かを取り出し再生機器にセット、湿気でひりつく膝を引きずり抱き枕に体を埋めた。

なんとこの世界はどこぞの会社が映画制作を行わず赤字を生み出す事が無かった世界線だったらしく、きちんと完結まで持って行ってくれていたのだ。嬉しい限りである。

 

俺がこの世界に来た当初はそれに気付かず見逃しまくっていたのだが、次番組の時期になっても終わらなかった事により発覚。

結局途中から見る気にもなれず、DVDを買っただけで何となくズルズルと引き伸ばして居たのである。いやはやお恥ずかしい、新聞のテレビ欄くらい見とけって話だ。

 

まぁそれはさておき上映スタート。主人公の一角であるハヤカワ姉弟が異世界に迷い込む様をのっそり鑑賞する。

大抵の異世界モノに言える事ではあるが、異世界転移とか聞くと何かシンパシー感じちゃうよね。まぁあっちはチート貰ってないけど。つか今見るとリサだいぶエロいなぁ。

 

……ちょっと肌寒く感じてきたのでタオルケットを用意し、ついでにお茶菓子と焙じ茶をテーブルに配置。そうして深くソファにもたれ掛かる。

すると偶然にも超リラックスする姿勢を見つけ「ほぉ゛ンぉぉ……」声にならない嬌声を上げた。

 

 

「……お前に相応しいソイルはきまったぁー……」

 

 

そうして俺はモソモソと大福を頬張り、指についた白い粉を弄びつつアニメの世界に没入していくのであったとさ。

そーれダイフクホワイツ。ぱらぱら。

 

 

◇月 ◇日

 

 

夏休み明け、メガネっ娘からお土産を貰った。水族館で買ったというイルカのキーホルダーだ。そんな事よりエロ絵以下略。

話を聞くと夏休み中にオリ主含めた原作メンバー達と泊まりがけで遊びに行ってきたらしく、俺を誘えなかった事を申し訳なく思い買ってきてくれたのだという。

 

そうかそうか、俺が30日耐久アニメパレードを開いていた最中に、彼女はそこまでなのは達原作メンバーと親しくなったのか。

最初はただのモブだったのになぁ……そう思うと心に良く分からない温かみが湧いてくる。強いて言うなら自分の作ったオリキャラが公式に採用された気分というべきか、不思議な感覚だ。

 

……そして俺から少し離れた所でアリサ以下二名が得意気に笑っていたので、これからもこの子をよろしくお願いしますとその場のノリで頭を下げてみた。

そうしたら何故か「悔しがりなさいよ! 当たり前でしょ!」と良く分からん感じで怒られた。なんでやねん。これだから三次元は読みにくくていかんのだ、選択肢を寄越せ選択肢を。

 

 

とりあえずキーホルダーは筆箱に付けておく事にする。メガネっ娘が嬉しそうに笑ってたので、この選択は間違っていない筈だ。多分

 

 

◇月 ◇日

 

 

我が家でゴールデンアイっぽいゲームで遊んでいると、インターホンのチャイムが鳴った。

 

結構いい所(死にそう)だったので無視しようとも思ったが、遊びに来たぞーとオリ主の声が聞こえたので仕方なく重い腰を上げる。

そうして今度から合鍵でも渡しとくかなぁと思いつつ扉を開けると――――最早見慣れた面倒臭そうな顔の他に、女顔の少年の姿があった。

 

……誰? 一瞬思考に空白が生まれたが、オリ主がユーノと呼んだ事で疑問は氷解する。ははぁ、これがユーノ・スクライアの実物か。初めて見た。

 

なるほどこれはショタコン大歓喜ですわと一人頷いていると、そんな俺の顔を見たユーノが微妙な表情をしてオリ主に耳打ちをしている。

別段興味も無いので聞く気は無かったのが、俺のチート聴力がその小さな音を無意識のうちに拾ってしまったようだ。聞こえて来るのは本当に小さな囁き声で――「君、こんないやらしそうな人と友達なの?」瞬間、俺は勢い良く扉を閉じた。

 

しかしオリ主の爪先が扉の隙間にねじ込まれ、強引に開け放たれ室内への侵入を許してしまう。チート持ちの俺より力あるとか何者だよ。そうかオリ主か。

まぁ上げてしまったものは仕方がないので、ユーノに対しイケメンチビームを照射しつつも居間に案内してやる。オラついてこい淫獣、遅れんじゃねぇよ淫獣!

 

そうやって助平呼ばわりの意趣返しに淫獣呼ばわりしてやると、ユーノは慌てた様子で謝罪し、弁解し始めた。何でも俺の身体がとてもいやらしい雰囲気を纏っていて、存在自体が卑猥に見えたのだとかなんとか。喧嘩売っとんのか。

よっぽど尻にコロコロカーペットを突っ込んでコロコロカーペットしてやろうかと思ったが、割と真面目な話らしく詳しい話を聞いてやる事にした。

 

彼曰く、俺の内包する魔力から常にいやらしい波動が出続けていて、周りの人々に俺が「エッチな人物」だという印象を与えている……らしい。ユーノは俺を魔法関係の人物だと知らない所為か所々ぼかされた説明だったが、多分そういう感じだった筈だ。

 

ハハハ、そんな馬鹿な――――そう軽く笑って一蹴したい所だったが、しかしこの世界に来る前の希望に溢れた俺を思い出すとあながち無いとも言い切れないのが怖い。

転生前の「原作キャラのハーレムが欲しい」「女の子デバイスくれ」「原作キャラに俺tueeeするんだい」という欲望や願いが強すぎて、与えられた身体にまで妙な影響を及ぼした――とか。それを否定する要素が無いのだ。

 

もしかしたら、アリサ達名ありの原作キャラや四角形に嫌われているのもその所為だったりするのかもしれん。その証拠に、元より興味の外にあったモブやオリ主達は俺に何も感じていないようだったし。

うわぁ、何か正解っぽいぞ。これはちょっと困った事になっ――――

 

 

「……いや、困りはしないか」

 

 

そうだな、だって三次元だもんな。幾ら原作キャラでも三次元ならどう思われたって別にいいやな。

 

それより長年の疑問に一応の答えが出て、何だかスッキリした気分だ。先程とは打って変わって爽やかにユーノを案内する。淫獣とか言っちゃってごめんね? 待っててね今お茶菓子用意するから、ウフフフ。

 

ユーノは突然態度の変わった俺に不気味なものを見る視線を向けてきたが、促されるまま部屋に上がり込み――壁一面に貼られた美少女ポスターやタペストリーを見て凝固した。

「やっぱりいやらしい人だよ……!」そうしてオリ主に助けを求める視線を向けたが、残念。奴は今日借りてく美少女ゲームを吟味している最中である。

 

彼は一緒に攻略本も借りて行き、一週目から利用するギャルゲーマーとしては外道な部類に入るのだが、「ゲームの中でくらい面倒臭くない女付き合いがしてぇ……」という切実な一言を聞いてから俺は黙認する事にしている。

三次元ハーレムなんて可哀想な状況に陥ってしまったのだ、それ位のお目こぼしはしてやってもバチは当たるまい。うん。

 

 

そうしてその後、俺とオリ主はユーノを巻き込んでゴールデンアイ、ゲッターラブ、スマブラの64対戦ゲーム三種の神器……っぽい何かで盛り上がった。

 

最初は泣きそうになって戸惑っていたユーノだったものの、黄金銃で虐殺され、麗香爆弾を浴び、自殺ドンキー殺法を受け終えた時には立派な戦士へと成長。

チョップを使いこなし、デートイベントを次々潰し、崖掴まりの妨害をする。その先の先まで見据えた計略で敵をハメ殺す戦法は正に智将。俺達はとんでもない化け物を生み出してしまったのかもしれない……!

 

とりあえずムカついたので、爆ボンっぽい何かで調子に乗ったユーノをオリ主と結託しボムサンドの刑に処して爆殺してやった。いやぁ、ユーノの悲鳴はエロいなぁ。

 

 

◇月 ◇日

 

 

夜中ダラダラとスーチーパイっぽい何かをプレイしていたら、突然胸元から手が生えてきた。

 

何の前触れもなく、にょっきりと。妙な光と共に現れた女性の腕らしきそれは、同じく胸から飛び出してきた何か宝石のような物を掴み取ろうとしているようにも見える。

……あれ、もしかしてこれA'sのアレか。シャマルの使う旅の鏡とかいう残酷チート技で、宝石は俺のリンカーコアと。そうか、もうそんな時期なのか……。

 

身体をチートで無理やり動かしてカーテンの外を見てみると、少し離れたビルの屋上で何かが発光している様が俺のチート眼球に映る。多分あそこで術を行使しているんだろう。

何日も続いた徹夜の所為か、頭がぼんやりしていてあんまり痛さ苦しさは感じないから良かったものの、物凄い勢いで力が抜けていく。どうすっかなこれ。

 

何か原作に関わる事をしておくべきだろうか。いやでもそっち担当はオリ主だしなぁ、俺としてはデバイスをやった時点でお役御免のつもりだったんだが。

 

そんな事をうんうん考えている内にもどんどんと目が霞んでくる。おそらく後二分も持たずに俺は気絶するだろう。

何か今しか出来ない事はないか、今しか出来ない事は。妙な義務感に駆られた俺は、白みがかった思考の中で必死に考え続け――――ピコーン! と頭の上にロウソクが灯った。

 

――そうだ、今こそ俺の新たな可能性が開く時なのだ。

 

 

「ぐ……うおおお……!」

 

 

俺は掠れた声を上げつつ戸棚の中からビデオカメラを取り出し、適当な場所に設置しスイッチを入れ――――その眼前で腕と脛と頭頂部を床に押し付け、服をはだけさせた上で胸を空へと突き出した。少々変則的なブリッジの姿勢である。

そうしてぷるぷると震えながら最大限腕を突っ張ってシャマルの腕を空高く持ち上げ、「――あはぁぁああああああああぁあンッ!!」残る全ての力を持って幼気な少年を意識して叫ぶ。加えて、表情も艶かしくする事を忘れずに。

 

するとそこが限界だったらしい。ちょっと力んだ拍子に俺のリンカーコアがピキリという音を立て、何やら慌てた様子でシャマルの腕が引っ込んだ。

これにて作戦終了である。残された俺はブリッジのまま白目を剥き、ぼやけた視界に緑で金髪の女性が駆け寄ってくる姿を幻視しつつ気絶したのだったとさ。

 

 

さて、そんなこんなで迎えた翌日の朝。俺は布団の中で目が覚めた。おそらくシャマルが介抱か何かしたのだろう、アフターケアも万全でよろしんじゃないですかね。

 

しかし今はそんな事はどうでも良いのだ。気を抜けば気絶しそうな程に体力を消耗した身体を引き摺って、カメラの確認へと向かう。

件のカメラは床からテーブルの上に置き直されていた。ひょっとしてテープが抜き取られたかとも思ったが、流石にそこまではしなかったようだ。俺は半笑いになりながら、震える手で再生ボタンを押しこんだ――――。

 

 

――――そこに映っていたのは、薄暗い部屋の中で体を突き上げ悲痛な悲鳴を上げる銀髪オッドアイの美少年のあられもない姿だ。

 

艶かしく眉を歪め、口端から涎を垂らし。見ようによっては胸から突き出した腕に性的興奮を感じているようにも見える。これまでの俺とは違う、倒錯的な雰囲気を前面に押し出したエロチシズム溢れる光景である。

 

 

「フ……フヘ、ウフフフ……」

 

 

……見てよ、本当にギリギリの状態でしか撮れなかっただろうこの俺の艶姿。

 

何とも淫靡、何とも耽美。これだから俺は超格好いいんだ、三次元に産まれた生ける二.五次元たる美しい俺の新たな一面が花開いてしまったよ。フフ。

そうして俺は俺の美しさを再確認。ビデオデータを六千六百六十六堂院ベルゼルシファウストファイルに厳重に保管し、学校に休みの連絡を入れた後うっとりしながら再び意識を手放したのであった。がくり。

 

 

◇月 ◇日

 

 

疲れが取れない。

 

先日のリンカーコアぶっこ抜きからこちら、どうも身体が怠くて堪らない。熱は無いにも関わらず関節の節々は痛むし、頭はふらつくし、まるでインフルエンザを患った時のようだ。

身体チートが無ければ心臓を動かす事すら億劫で、学校も休んで今日で四日目。まぁ何時もと変わらずにゲームしたりアニメ見たりしてる訳だが、常に疲れた状態なのは如何ともしがたい。寝落ち率が高すぎる。

 

なのはの時って確か数日で治ってたよなぁ、だったらもうそろそろ何とかなっても良い筈なんだが。

スースーと胸元から何かが漏れる感覚を感じながらサヴァイヴっぽい何かを鑑賞していると、聞き慣れたインターホンのチャイムが鳴る。

 

ここ最近見なかったオリ主がゲームレンタルに来たのかと思ったが、カメラを見てみればそこに居たのはメガネっ娘だった。

何でもオリ主から住所を聞いて様子を見に来てくれたようで、ついでに学校のプリント類も持ってきてくれたそうな。ここまでの歩き疲れと高級マンションに対する萎縮の中に、俺に対する心配が見えて何か嬉しい。

 

まぁこのまま追い返す理由も無いので、俺はマンションのエントランスを開放し玄関の鍵を開けようとして――――はたと気付き、居間の中を見回した。

そうして俺の目に映るのは、壁伝いに並んだ大量の漫画本とゲーム機、ソフト、フィギュア、アニメDVDの山。そしてクリアファイルに入れた美少女ポスターが壁一面に隙間無く掛けられた光景だ。

 

……招くの? この部屋に? オタク臭丸出しのこの場所に……? それって俺にとっての自殺行為なんじゃ――――

 

 

「ま、いっか」

 

 

俺は家でも学校でも何も隠してないからな。にも関わらず普通に接してくるメガネっ娘なら大丈夫だべ。そんな良く分からん信頼を感じつつ特に何も考えず鍵をオープン、彼女を部屋へと招き入れた。

メガネっ娘は最初俺の聖域に驚いたようだったが、すぐに興味津々とした様子であれこれと見回し始めた。その姿には嫌悪感は感じられず、純粋な好奇心だけが伺える。な? 言っただろ?

 

何となく得意げな気分になりながら、原作連中の様子や俺の持つグッズの事を話しつつ一時停止していたアニメを再開。するとメガネっ娘も興味があるらしく、彼女も一緒になってサヴァイヴ鑑賞をする事になった。

まぁまだ序盤だし、犯罪者三人組のシーン以外は特に問題ある場面もないだろう。そんな感じでしばらくは穏やかな時間が流れていたのだが――――テレビの中でシャアラが小説を書いているシーンを見ていたら、ふと思い付く事があった。体を引きずり、PC横の戸棚を開く。

 

そうしてメガネっ娘が不思議そうにこちらを見つめるのを他所に、一つのダンボールを引っ張り出して彼女の目の前に置いた。中身は、二年生の頃に絵の練習に使った画材道具一式である。

あれから半年くらい経って居るものの、未開封のまま仕舞い込んでいた物が殆どなのでまだ使える物もあるだろう。俺は見舞ってくれたせめてもの礼として、これらをメガネっ娘へと差し出したのだった。

 

……え? いらない物の押し付け? 恩を売っての打算? 何とでも言うが良いわフハハハ。

 

最初こそは申し訳ないからと遠慮していた彼女だったが、チラチラと視線が彷徨い興味を隠せていない。

素直になーれと何時かのようにねちっこく耳元で説得すると、目をグルグル回しながら了承。焼却の生き残りであるスケッチブックやペン類を受け取ってくれる事となった。相変わらず扱いやすい奴である

 

まぁ流石にフォトショップといったペイントソフト類は彼女に自由に使えるPCがない事と、値段的に高すぎる事を理由に拒否されたので仕方なく諦める事にしたのだが――――その時、俺の頭に悪魔的な名案が過ぎった。

 

――――そうだ、この家に限りPCとソフトの貸し出しを許可する形にすればいい。そうすればPC内のイラストのデータを後でこっそり拝見できる。

 

例えそれが書きかけの練習絵であろうと、メガネっ娘の絵の上手さから言って相当高いレベルの筈だ。締め切り間際のエロ同人作家の走り書きにも萌えられる俺には何の問題もありはしない……ッ!

 

一瞬の内にそこまで考えた俺は俺議会にレンタル制度法案を提出。俺議員の全員が賛成の意を示した。

臨時議員のメガネっ娘も本当はソフトを使ってみたかったようで満場一致で法案成立、条約締結の内閣樹立。上手い事妥協点を見出した事にテンションの上がった俺は、もうそろそろ門限の時間だと帰り支度を始めたメガネっ娘を送るべく、ベランダへ続く窓を開けた――――!

 

 

……開けてどうしようとしたのだろう。流石に今の最悪なコンディションでダイナミック直帰を、それも人一人背負った状態でやるのはリスキーに過ぎるだろう。

我に返って頭が冷えた俺は素直に玄関まで付き添い、見えなくなるまで手を振るに留めたのだった。

 

…………今日は大人しく寝とこう、うん。

 

 

◇月 ◇日

 

 

未だ胸から何か漏れてる感覚はするが、一応体力的には回復した。

体の怠さも大凡は無くなり、ダイナミック直帰も難なくこなせる程だ。なのでちょくちょく家に遊びに来るようになったメガネっ娘にベランダの窓を開けながら「俺がタクシーになるぜ!」と提案したのだが、青い顔で首を振られてしまった。手っ取り早いのになぁ。

 

そうして久しぶりに学校に登校したのだが、何故かアリサとすずかが浮き足立っていたのが気にかかった。聞き耳を立ててみると、どうやら近々なのはの友人が転入してくるのだそうだ。十中八九フェイトの事だろう。

 

……とすると、もう少しで原作カルテットが完成するのか。この世界が二次元なら夢のハーレムが完成したのに、つくづく三次元である事が惜しまれる。

俺は手の届かない理想郷を妄想しつつ、溜息。憂鬱な気分を上げるためストレンジ・プラスっぽい漫画の最新刊を開いた。

 

……そう言えばオリ主となのはの姿が見えんな。漫画を楽しみつつさりげなく教室の入口を注視していたのだが、結局始業のベルが鳴っても彼らは姿を現さなかった。今日は欠席のようだ。

多分A'sを頑張ってるんだろうなぁ。是非とも俺の仇を打ってくれたまえ。

 

そんな感じで適当に応援しつつ、欠伸をしながらオリ主達の健闘を祈ったのであった。

 

 

――後日フェイトが転入してきたのだが、俺の姿を見た瞬間「……うわ、いやらしい……」と宣いやがって下さった。

声だけだったらご褒美だったのにな、ホント何で二次元じゃないのかと小一時間以下略。

 

 

◇月 ◇日

 

 

胸から漏れ出てた何かが止まった。

 

……本当なら喜ばしいと思うべきなのだが、どうもやらかしてしまった感じがする。

何というか致命傷的な何かを自然治癒に任せてしまい、致命的な結果になった気がしてならない。良く分からんが後遺症とか大丈夫かしら。

 

 

まぁそんな不気味でくだらん話はさておいて。

以前俺とメガネっ娘が結んだPCとソフトを貸し出す契約だが、あれから二週間近く経った今も尚続行中だ。

 

よほど絵を描く事が好きなのだろう。ペイントツールという新しい機材に彼女は興味津々のようで、アニメやゲームを楽しむ俺の背後で家の門限一杯までマンションに居座りPCに齧り付いている姿がちょくちょく見られるようになっている。

慣れぬペンタブを前に四苦八苦する彼女は楽しそうな表情を浮かべており、絵を書く事が好きだという気持ちが俺にも伝わって来る程だ。

 

上手く描けると嬉しそうにPC画面を指さして見せてきたりして、そこまで楽しみ喜んでくれるとこちらも貸出した甲斐があるという物。何となく鼻が高くなった気分である。

……しかし帰宅の時間が来る度に、後ろ髪を引かれた物欲し気な表情を浮かべるのは何とかならんものか。何故か意地悪をしている気になるぞ。

 

ともかくとして、今日もそんな感じでメガネっ娘が帰宅した後にPCに残ったイラストデータを半笑いで眺めていたのだが――ずらりと並ぶ画像データの中に一つ。以前俺が成り行きで作った棒人間格闘ゲーム、その題名が付けられたファイルがぽつんと存在しているのが目に付いた。

何でこんな所にこんな名前が? 疑問に思い開いてみると、そこには可愛い女の子キャラクターが――おそらくは操作キャラの棒人間を擬人化したと思われるイラストが描かれていた。棒人間を擬人化というのも変な話ではあるが。

 

どうやらPCを弄っている最中に、デスクトップに放置していた件の格闘ゲームを偶然にも発見して遊んだ事があるらしい。

しかもそれなりの思い入れを抱いてくれたのか、デコボコとした線で作られたキャラの不格好さが無駄にリファインされ特徴に当てはめられていて、元棒人間である事が一発で分かる良く出来たイラストである。

 

…………何だろう。凄いとは思うのだが俺的に結構キッツいんですが。萌えるんだけど心が痛む、萌えるんだけども恥ずかしい……!

 

羞恥にゾクゾクしつつもマウスホイールをギュルギュルしていくと、その他にも動きを付けたパターンが何種類かあるようだった。

このまま見なかった事にするのは容易いのだが、それだと何か負けた気がして悔しい気もする。まぁせっかくなので、格闘ゲームの棒人間グラフィックと取っ替えてみようかね。

 

俺のドット打ちの腕は棒人間の惨状からしてお察しであるが、今回は元絵があるのである程度は様になるだろう。イザとなったらペラ勢にすりゃ良し。

 

ウーフフフ、自分の絵を勝手に利用される恥ずかしさをメガネも味わってみると良い。俺はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、ポチポチ作業を開始したのであった。

 

 

◇月 ◇日

 

 

虹野さん、メイ様、恵美姫。そのほか大勢の魅力的なヒロイン達。

学校の終業式を終え帰宅したマンションにて、プリントしたときメモシリーズ歴代ヒロインの一枚絵に囲まれクリスマスパーティを開いていると、突然世界の色が変わった。封時結界である。

 

何で急に結界? 何かあったっけ? 暫くクエスチョンマークを飛ばしていると、窓の外から爆発音が轟いた。あ、そうか今日は総力戦の日だったな。

パーティを一旦中断しカーテンを開ければ、少し離れた場所で大戦争が起こっていた。おそらくリィンフォースと戦っているのだろう、あちらこちらで色鮮やかな魔力光が炸裂している。

 

よく目を凝らしてみると見知った顔が沢山だ。

真っ赤な手甲と大鎌を装備したオリ主や無手で頑張ってるユーノに、カートリッジをガシュンガシュン言わせているなのはとフェイト。

それに加えて何か思ったよりも若々しいプレシアとリニスのような女性、アリシアっぽい奴の姿は見えなかったが、それでも錚々たる面子だ。

 

凄いな、殆ど一期オールスターじゃないか。手に持ったままだったフライドチキンをムシャムシャしながら感動する。俺は三次元には萌えないが、燃える事はできるのだ。

そんな迫力ある戦闘シーンを繰り広げるオリ主達を応援しつつ、チート視力で彼らの姿を追っていると――戦場から少し離れた場所にアリサ達の姿を発見した。彼女達は突然の非日常に狼狽え、焦っているようだ。

 

あー、こんなシーンもあったっけなとぼへーっと眺めていると、どうも人数が一人多い。アリサ、すずかの他にメガネっ娘がそこに加わっていた。わーお。

ついに完全に原作サブキャラコースですか。何となく嬉しく思いつつ目を丸くしていると――――戦いの最中で彼女達を見つけたリィンフォースがごんぶとビームを発射した。物凄い衝撃と共に、通り道のビルが次々吹き飛んでいく。すげぇ、ハリウッド映画のCGみたいだ。

 

直撃したらタダじゃ済まなそうだが、まぁ原作じゃなのは達が反応してたし大丈夫だべ。そうタカをくくって目を向ければ、件のなのははオリ主やフェイト達共々、リィンフォースの魔法で生み出されたらしい銀髪オッドアイの触手に絡まれ身動きが取れなくなっていた。かなりブッサイクにされているがアレ俺じゃねぇか!

どうやら俺の魔力が収集された所為で、原作の何かが悪い方向にブレイクされたらしい。言っとくけど俺の所為じゃねぇぞ全部シャマルの所為だからな!

 

――――あのクソ俺触手! このままじゃメガネ達が死……ッ!?

 

超格好いい俺とは似ても似つかぬ触手への憤りと、顔見知りのピンチによる焦りで混乱した俺は、感情のままに勢い良く窓ガラスを開け放つ。

当時の俺が何を考えていたのか。後でよく考えてもイマイチ分からんかったが、しかしまぁ悪いものではなかった筈だ。多分。

 

そうして今まさに欝展開が発生しようとしている空間へ突っ込むべく、チートの許す限りの力を足に込め――――思い切りそれを解き放とうとした瞬間、突然俺触手がなのは達を投げ捨てた。あれっ?

 

本当に、ポイっと。それは何の興味も感じられず、心底どうでもいいと言った風情であり。なのは達も一瞬呆けた様子だったが、直ぐに我に返りアリサ達の下へ急行。何とかギリギリのタイミングで彼女達を守りきる事に成功する。

そしてアースラに保護されたのか、三人の姿が何処かへ転送されて行くのを見て俺はホッと一息。あぁ心臓に悪い、これだから三次元はいかんのだ、伏線無しで予想外の事が起こりよる。

 

ともあれこりゃもう心配いらんだろう。俺はいそいそと窓を閉め直しつつ、不可解な行動をした俺触手へと視線を戻して、「……?」首をかしげた。

 

俺触手の様子がどうもおかしいのだ。ニョロニョロとした身体を丸め、細かく震えながら何か魔力のような物を漏らしている。

最初は何をしているのか分からなかったが――その気持ち悪そうな様子を見ている内に、ふと思い当たる事があった。

 

――そう、俺触手は吐いていたのだ。何も戻す物の無い身体から無理やり魔力を捻り出し、ゲロゲロと、ゲロゲロと。

 

 

「…………可哀想に」

 

 

……思えば、幾らブサイクでもこの俺の要素を持っているのである。三次元相手に触手リョナプレイなんて物をさせられそうになった暁には、そりゃゲロの一つも吐くだろう。

うむうむとこれ以上無い程に俺は共感。そのまま何となく俺触手――否、彼が苦しむ姿を見つめていると、少しずつその身体が消えていく。どうやらゲロのしすぎで身体を構成する魔力が足りなくなってきたらしい。

 

……醜く、しかし決して穢くは無いその散り際に、俺は何とも哀しい気持ちになりながらこれ以上は見ていられないとカーテンを閉めた。

そうしてときメモヒロイン達の元へと舞い戻り、彼の事を悼みつつ合掌。窓の外で再び巻き起こる轟音を無視して、戦いが終わるまでの間ヒロイン達と共に黙祷を捧げ続けたのであった――――

 

 

 

……今日がこれって事は、明日でA'sも大体終了か。結界が解かれた後、ときメモ攻略パレードを行っている内にふとそんな事を思う。

 

残りの原作本編は後十年後。舞台も地球から離れちゃうし、俺が原作のシーンを見る事ももう無いだろうな――そんな微妙な寂寥感を抱きつつ、俺は決闘と言いながら召喚魔法に頼る自称友人に奥義を叩き込んだのだったとさ。

いやぁ、自分で言っててなんだが恋愛シミュレーションの描写じゃねぇよな、これ。

 

 

◇月 ◇日

 

 

ピンポーン、とまたまたチャイムが鳴った。

 

インターホン画面を見れば、シャマルっぽい女性と何故か生き残ってるリィンフォースっぽい女性が菓子折を持ってマンションのエントランスインターホン前に立っていた。多分、魔力収集のお詫び回りとかそんなんだろう。

正直どうでも良かったので最初は居留守しようとも思ったのだが――カメラに映るその表情はとても申し訳なさそうで、無視するのも気が咎め仕方なく招いてやる事にする。優しいな俺。

 

そうして部屋の扉を開ければ、俺の顔を見た銀髪の方が「う……なんてエッ」とか宣いやがったので最後まで言葉を聞く事無く菓子折だけ強奪して扉を閉めた。バンバンとドアを叩く音がするが、俺は知らんも。知ーらんも。

 

 

ともかく菓子折の確認である。少しワクワクしつつ開いてみれば、どうやら中身はシュークリームとオリジナルブレンドのコーヒー豆のようだった。前者はともかく後者はあまり馴染みの無い物なので、少々扱いに困る。

まぁ捨てるのも勿体無いし、せっかくなのでコーヒーメーカーを特急で取り寄せ淹れてみたのだが――これがまた趣深く、大変よろしい感じである。

 

コポコポという独特な音と、ふんわりと漂うコーヒーの良い香り。穏やかな雰囲気が部屋に広がり、心がしっとりしてとても落ち着く。

肝心の味も酸っぱすぎず苦すぎず、一緒に入っていたシュークリームと合うようになっていて良い塩梅だ。

 

どこの製品かなと紙袋を見てみれば、そこには燦然と輝く「喫茶店翠屋」の文字。成程そりゃあ美味しい筈だわ。俺は多分高町の男衆に痴漢扱いされてズンバラリンされるかもだから行けんけど。

 

……ネット販売とかやってないかな。早速検索にかけたが、残念ながら通販はやっていないようであったとさ。無念。

 



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四年目

●月 ●日

 

 

さて、四年生である。

 

これで通算三度目のクラス替えなのだが、俺、原作メンバー、メガネっ娘、オリ主の何時もの面子は誰一人欠ける事無く同じクラスになった。

絆というか腐れ縁というか、ここまで来ると何らかの意志を感じなくもない。多分残り二年も一緒なんだろうな。きっと。

 

で、今回も三人娘からは「うひゃー」という顔をされた訳だが、今回はそこにフェイトとはやても加わって「うぎゃー」という顔になっている。

仕方ないので以前練習した蠱惑的なスマイルとウインクをしてやったら、「ほぎゃー」という表情で顔を背けられた。俺の勝ちだ、ウフフ。

 

 

しかし四年生となるとあれだ、確か保健体育の授業が性の分野に入る時期じゃなかったかな。オリ主もこれから大変になりそうだ。

今までは耳年増のクセに、オリ主の近くに擦り寄ったり昼食の時に隣に座ったりといった地味なアプローチしかして来なかったなのは達だが、今以上にしっかりとした知識を付けたらどんな行動をしてくる事やら。

見る限りじゃフェイトとはやてもハーレムメンバーに加わっているようだし、もしそれにアルフやアリシアやヴォルケンリッター達も含まれるのならば人数的にもヤバイ事になりそう。

 

少なくともboat.に乗るような展開にならないよう注意しろよ。とポケモン対戦していたオリ主に語れば、彼は絶望した表情でフォレトスに大爆発を使わせた。落ち着けよ。

 

 

そうそう、今年アニメ関係でとても嬉しい事があった。そう、あの妖逆門が放映開始されたのだ。

正確には「っぽい何か」で展開的にも多々違う部分があるのだろうが嬉しい事に変わりない。ワクワクとドキドキ、そして少しの寂寥感を感じさせるげぇむを再びリアルタイムで見る事が出来ようとは望外の喜び。転生して良かった。

 

それに妖逆門には清、鳥妖、きみどり、アキと言った可愛い女の子も多いし、ストーリーにもかなり熱い物がある。俺的に今期一番の期待作である。あぁ楽しみだ。

 

……前回は入手できなかった鳥妖の同人誌、今回は手に入れられるだろうか。コミケへの不法侵入を考える俺であった。

 

 

●月 ●日

 

 

以前ゴーヤーチャンプルを作ってからというもの、ちょくちょく料理をするようになった。

 

と言ってもそんなに手の込んだものではなく、味噌汁やらオムレツやらカレーやらの手軽に作れる家庭料理が殆どである。

何たらのソテーだの何たらのスパゲッティとかはそこらのファミレスに行った際に良く食べるので、それ以外の物が食べたかったのだ。

 

いやしかし前世含めてまともに料理をした事のない俺だったが、結構いい感じに料理できる物なんだな。無論初心者臭さは抜けないが、少なくとも美味しいと感じる物は安定して作れるようになった。

これも身体チートの影響かとも思ったものの、味見をしているのはあくまで俺である。流石に味覚まではチートの範囲に含まれないと思うのだが……はてさて。

 

それはさて置き手料理の味をしめ始めた俺は、今度は煮物類に挑戦しようと思っている。そう、肉じゃが、かぼちゃのそぼろ煮、お煮しめ等の家庭の看板とも言える料理だ。

各々の家庭の味がモロに出るタイプのものであるが、前世含めお袋の味がコンビニ弁当であった俺に果たしてどこまでの物が出来るのか。楽しみでもあり不安でもある。

 

……まぁ、とりあえずやってみない事には始まらんか。これまで出来た物からしてそれなりの物は作れるだろうし、頑張って六千六百六十六堂院の家庭の味を生み出してみせようじゃないか。

俺は気合を一つ入れ、煮物用の鍋をポチった上で近所のスーパーに材料を買いに走ったのだった。

 

 

そうして出来上がった肉じゃがはまぁまぁの出来だったが、少し甘かった。

だが醤油をひと匙加えたらいい感じになったので、これからはそれを隠し味として一先ずの完成とする事にしよう。中々家庭的っぽくて良いんじゃなかろうか。うむ。

 

 

●月 ●日

 

 

どうやら林間学校という物があるらしい。

 

何でも以前訪れた自然公園にはキャンプスペースもあるらしく、そこで男女分かれて一泊二日の共同生活を送るそうな。

 

プリントを見る限りじゃ、短い時間とは言え自然の空気に触れ感受性やら何やらを養う事を目的としているらしいが……まぁ場所も場所だし泊まりがけの遠足という認識でよかろう。

実際他のモブ達も同じ認識でいるようだし、特に難しく考える必要もあるまい。俺は鼻歌を歌いつつ大きめのリュックに旅のしおりで禁止されているゲーム、漫画類を詰め込んでいくのだった。全く持ってタチの悪い不良生徒である。

 

 

――そうして迎えた当日に訪れたキャンプ場。深い緑に覆われた山中にあるその場所は、街に溢れるコンクリートジャングルとは一線を画す青々とした別世界だった。

 

左に目を向けても右に目を向けても視界に映るのは木々と葉の群れだけで、俺たち男子一同が一泊する予定の宿ですらも木材で出来たログハウスだ。当然部屋の中も簡単な蛍光灯があるだけでベッドすら無く、寝袋を床に並べて寝るらしい。

……正直言って現在の快適な文明的生活に慣れ切った俺達には割とキツい物があるが、何となく心は高揚する。冒険家とかキャンプ、旅好きな連中の気持ちの一端を理解したような気がした。

 

ともあれ班ごとに決められた宿に荷物を置いた俺達は、同じく班で固まったまま引率の教師に連れられて移動を始める。しおりに書かれた予定に従い、山中のハイキングコースの散策を行うのだ。

 

まぁ班とは言っても俺は名前と言動のせいで、オリ主はいつもなのは達女子と行動しているため思春期男子モブの嫉妬やら反感を買っているらしく、自然と溢れて二人組になってしまう訳で。転生者には厳しい世の中だよ全く。

せっかくなので、この際お互いの一般人から逸脱した身体能力を持って好き勝手に山中を跳ね回る事にした。木の枝を猿のように飛び渡りつつ忍者ごっこをしたり、山頂から思いっきり飛び上がって空からの絶景を楽しんだり、結構充実した時間を過ごせたのではなかろうか。

 

 

そうして正午の時間を回れば、ハイキングの途中で合流した女子達と共にバーベキュー場での昼食である。

生の肉や生の野菜と言った加工されていない食材を用いて、各班ごとに協力して調理するのだ。流石に小学生という事もありレシピくらいは配布されるのだが……まぁ、子供のやる事だからね。大変だよね。

 

ピンク色の生肉にキャーキャー言ったり、火加減に四苦八苦したり。あちらこちらで悲鳴が聞こえてくる。特に生肉は鶏の頭と内臓だけをとっぱらったシンプルな物で、俺達の班の男子も刃物を差し込む事を躊躇っているようだ。

仕方がないので多少なりとも料理に慣れた俺が引き受けてやる事にする――――と、何やらモブ男子とオリ主がこちらを尊敬の目で見つめてくるようになった。何だよ気持ち悪いなお前ら。

 

と言うかモブは良いとしても、何でオリ主までそんな目で見るんだ。確かお前もテンプレに沿って両親居ない設定だった筈だから調理くらい……何? 家ではなのはが料理作って来てくれてるから作った事無い? 最近ははやてからも?

馬鹿お前何でも面倒くさがってそんな事までやらせてっからハーレムなんて事になるんだよ。おいモブども、この六千六百六十六堂院ベルゼルシファウスト様が許可してやるからコイツちょっとどうにかしろ。

 

そんな号令に従い嫉妬のままにオリ主に襲いかかるモブどもを他所に、俺は黙々と調理を進めカレーを完成させ白米を炊き上げる。まぁ特別良くもないが、絶対に不味くはないだろう出来だ。

他のサラダとかスープはオリ主と彼に一瞬で返り討ちにされたモブに任せておいた。途中ギャースカギャースカ喧しかった物の、それなりの形にはなったようなので良しとしておこう。

 

そうして出来上がった昼食をバーベキュー場横に設置された食事場に座り食べていると――同じく調理が終わったらしいなのは達が近付いて来た。当然メガネっ娘を除きこちらには来ず、オリ主の元に向かっていった訳だが。

 

さて、原作キャラの料理はどんなもんか。隣に座ってきたメガネっ娘に許可を貰い、カレーを一口味見させて貰う。

うむ、当然だが俺のより数段うまい。あっちにはやてが居る以上当たり前だけど。

 

話を聞けば、なのはとはやて、そしてメガネっ娘の三人で作り上げたらしい。……残りの連中は? と聞けばそっと目を逸らされた。なるほどなるほど、正直なやつめウフフ。

 

半笑いになりながらアリサ達の事について更に詳しい話を聞こうとすると、突然オリ主の傍にいた原作メンバー全員がくるっとこちらを振り向いた。

多分、俺が料理出来る事か何かを聞いたのだろう。その目には「このカレーほんとにアンタが作ったの?」という猜疑心が色濃く現れている。

 

……ほぅほぅそんな目を俺に向けてもいいのかな? 俺はニヤリと笑み一つ。

そうしてまず最初に調理担当のなのは達三人を指差し、首を落として負けを認めるポーズをとった。その上で残りのアリサら三人に向かって、髪を掻き上げ唇を釣り上げた勝ち誇った表情をくれてやる。

 

――そして、一言。

 

 

「すまんなァ。お前らより料理が上手くって」ドヤッフォォォゥゥゥゥゥゥゥゥゥォォォァァァァァァ

 

 

――――その時のアリサ達メシマズ(推察)組の表情たるや、鬼が降臨したかと思った程で。

 

流石にヤベェと思った俺は手持ちのカレーをかき込み「あーうっめぇなぁ俺の作ったカレー!」大声で最後のひと押し。チートを用いて全力で高飛びしたのだった。

 

 

 

その後は特に予定の無い自由時間だったので、木陰でゲームして遊んだり、人知を超えた水切りをしてビショビショになったりと自由気ままに時を過ごし。

日が落ちた後は用意された夕食を食べ、大浴場で俺の美しい肉体を特別にモブの目に晒してやった。さーて何人のショタホモが誕生したかな? ああ、罪な男だな、俺。

 

そうして最後の締め括りはログハウス内で携帯ゲーム大会だ。そう、班員の奴らにもこっそりとDSを持ってきた奴らがいたのである。

 

持ち寄ったのはパワポケ8やマリオカート、テトリス……っぽい何かといった対戦もできるソフト達。

俺達はこういった場の定番である好きな女の子の話を修学旅行に持ち越す勢いで全力で楽しみ、それはもう盛り上がり。盛り上がり過ぎて教師が怒鳴り込んできた。

 

瞬間に俺の身体チートでモブ達の意識を飛ばさなければゲーム機を没収されていただろう。何故かオリ主がこちらを外道でも見るような目で見てきたが、ゲーム没収と気絶なら気絶を選ぶだろう普通。

 

 

まぁそんなこんなで終わった林間学校だったが、何かモブ達との距離が縮まったような、そんな一日と少しだった。また来たいもんだ。

今度は来年の臨海学校と六年時の修学旅行か。旅行イベントが多くていいね、この学校。

 

 

●月 ●日

 

 

以前からチマチマと続けている棒人間格闘ゲームのキャライラストのドット打ちをしていると、オリ主とユーノが遊びに来た。

去年の一件からこちら、彼らとは二週間に一回程度の割合で顔を突き合わせ俺の家に集まりゲーム合宿を開いているのである。

 

当初こそ「いやらしい、いやらしい」等と文句ばっかり言っていたユーノであるが、最近はもう俺達の側にどっぷりだ。

バテン・カイトスっぽい何かに感動したり、いっきっぽい何かの理不尽さに狂った様に笑ったり、Piaキャロ3っぽい奴のアドバンス版をプレイし本家に手を出したり。ある意味では俺以上に楽しそうにやっている。

 

中でもユーノが得意としているのは、SRPGと格闘ゲームだ。前者は分かるが、格闘ゲーム? 俺も最初は疑問符を浮かべたものだが、侮ってはいけない。

何とユーノはその女顔に見合わぬ変態じみた観察眼を駆使して一つ一つのフレームを見極め、その隙間を縫い的確に攻撃を当ててきやがるのである。

 

どれだけ防御を固めても、どれだけ当て身を張っても。的確なレバー操作とキー入力によりタイミングをずらされ、そうして晒されたほんの一瞬の空白にフルコンボが叩き込まれるのだ。

流石はデバイスなしでヴォルケンリッターと渡り合うだけの事はあるのだろう、俺が言えた義理ではないがチートも良い所である。

 

彼に格闘ゲームで勝てる方法と言ったら、オリ主と二人結託してユーノ自身にちょっかいをかけるくらいしか無い。そうすればリアルファイトで俺たちの勝利だ。卑怯くせぇ。

 

 

ともあれ、そうして今日もやいのやいのと騒いでいた訳なのだが……休憩時間、ユーノ達が棒人間格闘ゲームの事に興味を持ってきた。どうやら放置したままだったパソコン画面を覗いたらしい、作りかけのエディット画面を指差し何やらワクワクとした表情を浮かべている。

まぁその気持ちは分からなくもない、俺も初めてツクールをプレイした時は言い知れぬ高揚感を抱いたものだ。完成させた試しがないけど。

 

とりあえず特に隠す気もないので事のあらましを話してやっていた所、その場の流れで「お前らならどんなキャラを作るよ」という話題に発展。

そこらにあったチラシの裏にマジックペンで適当な絵を描き、やれ投げキャラだ中距離キャラだ自爆技だと好き勝手に案を出し合い。そうして気づけば調子に乗って三キャラ分のプログラムまで組んでしまった。

当然グラフィックは凸凹棒人間であり、その不格好さに三人でバカ笑いしながら適当に動かしていたら調整まで完了していた始末。何やってんだろな俺達。

 

しかしこのまま埋もれさせるのも勿体ないので、続編としてベクターに上げておく事にする。いや図らずもクリエイティブな行動をしてしまった、何となく満足感を得た俺達はそのまま打ち上げにファミレスへと旅立ったのであった。

 

 

――後日、この三キャラ分のイラストがメガネっ娘ファイルに追加されていた。それを二人に見せると、片方は顔を手で隠し片方は床に突っ伏し悶える事になったとさ。

 

そうだろうそうだろう、嬉し恥ずかし変な気分だろうよ、フフフ。俺もだ。

 

 

●月 ●日

 

 

シャマルとリィンフォースとはやてが家に来た。

 

まぁ以前来た時とは違って皆どこか真剣な表情で、面倒事の匂いがプンプンしたので居留守させてもらったが。チャイム? 無視無視。

彼女達はしばらくエントランスで俺の反応を待っていたようだったが、やがて諦めたのかポストに手紙を突っ込んで踵を返していった。何だったんだあいつら。

 

後でその手紙を確認してみれば、俺の体の事で少し話があるらしいとの事だった。これはあれかな。俺のリンカーコア関連かな。

 

……以前A'sの時にリンカーコアらしき部分に異常を感じていたが、この様子だと本気で何かありそうだ。いや、もしかして結構やばい事になってたりして?

少し不安になった俺は翌日学校ではやてに話を聞いてみる事にした。いやお前俺に話しかけられただけでしょっぱそうな顔するなよ、呼んだのお前じゃねぇか。

 

ともかく放課後に八神家に招かれ、詳しい説明を受ける事になった――のだが。玄関通ってヴォルケンズと面通しした瞬間「やらしい奴だ」「いやらしい男だな」「いやらしいな」「い、淫靡な男の子……」「やはりエッチだ」もう帰っていいすか。

 

そうしてぐったりとやる気の無くなったまま話を聞くと、魔法関連の事を掻い摘んで説明された後に俺のリンカーコアの話に移った。

心なし背筋を伸ばして聞けば――――何と、俺のリンカーコアが破損し、妙な具合に自然治癒してしまった為に魔法を行使をする際痛みを伴うようになったらしい。

 

「……お、おう」何か思っていた以上にどうでもよかった。はやて達は何故か悲痛な表情をして頭を下げているが、ちょっと拍子抜けも良い所である。

他に何か悪影響とか無いのかと聞いてみてもそれだけっぽいし、なーんだ不安になって損した。来なくても良かったなこりゃ。

 

え? いやだってねぇ。チートされた俺の頭脳は魔力なしでも変わんないだろうし、そもそも魔法なんて何年も使ってない上に今後使う予定も無いし。ねぇ? ならいいよ許すよ何かくれ。

 

いい加減面倒になってきた俺は、何やら鬼気迫る様子で謝ったり管理局がどーだ入局が云々と続けている八神一派を適当に流し、再び用意されていた菓子折りを半ば強奪。呼び止める声を聞かずに八神家からスタコラサッサと退散する。

そうしてチート脚力で宙を舞いつつ、ちらりと菓子折の中身を覗いてみれば――そこにあったのは、やはりというべきか翠屋製のコーヒー豆の姿だ。ふむ、これがタダで貰えるんならリンカーコア破損の元手は余裕で取れたんじゃなかろうか。

 

俺はプラスに傾いた等価交換に鼻歌フフン。調子に乗って手近にあったビル壁をアクロバティックに駆け上り、くるくる回りつつダイナミック直帰を果たしたのであった。十点満点!

 

 

……で、まぁ後日判明した事なのだが、どうやらはやてはリンカーコア破損の代償として、ひょっとしたら俺にいやらしい何かを強要されるのではと思っていたようだ。

何ておぞましい事を考えるのだろう、はやての自意識過剰ぶりに体の震えを禁じ得ない俺だった。

 

 

●月 ●日

 

 

枕をな、新調したんだ。

 

暑かったし、何時も使っていたクッションの物ではなく、蕎麦殻の詰まった涼し気なやつ。最初はちょっと高さがあって使いにくかったのだが、中身を少し抜いて調節したら大変素敵な事になった。

後頭部から側頭部にかけて独特の薄い香りと軽い感触が包み込み、同時に柔らかく支えてくれて。そして頭を動かす毎に耳元でザラザラとした音が聞こえ、それがまた落ち着く事落ち着く事。のび太君程とは言わずとも、5分あれば余裕で夢の中である。

 

そこから何となく蕎麦殻製品にハマり、蕎麦殻のクッションだとか抱き枕だとか、更には蕎麦殻お手玉なる物も買ってみた。

どれもこれも触り心地がよく、特にクッションなんかは体を埋めているだけで気持ちがよくて寝落ち率がとんでもないレベルにまで急上昇してしまった。これはイカンな、変えるつもりは全く無いけど。

 

しかし勢いで買ったお手玉だけが使い道が無いままだ。かと言って捨てるのも勿体なくて嫌な感じであるし、どうした物か。ポンポンしながら考える。ポンポンしながら考えて、ポンポンしながら考え続けていたらそれが結構楽しくて、いつの間にやらの俺の密かなマイブームとなっていた。

アニメを視聴中に手慰みにポンポン、鍋が煮えるまでの時間潰しにポンポン。主に家の中での空いた時間にポンポンポンと。これが結構良い感じに心が安らぐのだ。

 

流石にチートを使っての全力お手玉はしないように心がけている。

一度調子に乗って外出先の公園で全力ポンポンしていた時があったのだが、うっかり手を滑らせて道を走る黒塗りのベンツに直撃させてしまい、車を横転させてしまったのだ。チートって怖いね。

 

いや待ってくれって違うんだ聞いてくれよ刑事さん、よもや飛び出した蕎麦殻が散弾の如くタイヤを穿ち貫くとは思っていなかったんだ。だって所詮は蕎麦殻なんだぜ?

……にしても、中に乗ってたチンピラみたいなオッサンどもは大丈夫だったかね。事故を察知したのか、後ろから凄い殺気のイケメンが走ってきたからつい吃驚して、乗員の救助もそこそこに慰謝料の札束だけ投げつけて逃げてきたんだけど。ヤクザ関係だったら嫌だなぁ。

まぁ離れた所で警察とか救急車とか色々呼んだし、ニュースにはなってないから大きな事態にはならなかったのだろう。ならまぁ、金も払ったし俺の美しさに免じて許してくれるはずだ。きっと。

 

……そういや後日、その件に関して何故かすずかに(嫌々ながら)感謝されたんだが、あれは意味が分からんかった。まぁ俺の知らんとこで何かあったんだろうな、いつもの事だ。

 

 

「……ぽーんぽーんと」

 

 

……ポンポン、ポンポン。

そうして今日も俺はクッションに身を埋め、コーヒーメーカーから漂う深い香りにうつつを抜かし、アニメを見ながらお手玉をする。

 

うむ、幸せである。

 

 

●月 ●日

 

 

もうそろそろニヨニヨ動画ならぬニカニカ動画がサービスを開始する。

 

一年前に始まったTheytubeと並び、ニカニカ動画は健全な動画ライフには必要不可欠な存在だ。

前世でよく利用していたアニメチャンネルが本格的に始まるのはもう少し先だろうが、他のコンテンツにも面白い動画が沢山投稿されるだろうし、来たるべきその日が楽しみな事この上無い。

 

……そういえば、以前投稿した俺のスタイリッシュダンスであるが、寄せられたコメントが殆ど英語の物だった為どのような評価を受けているのかが全く分からなかった。

試しに翻訳サイトで訳してみたのだが、【あなたはゴブリンだを長く動かしたことの目的で行きました、何地球の世界で!】と言ったエキサイトな文となっていて意味が把握できないのだ。せめて一目で分かる評価ゲージのような物が欲しかった。

 

しかしニカニカ動画は付けられるコメントも日本語であるだろうし、サービスが始まったらあの動画をもう一回投稿してみても良いかもしれない。

そうだ、本人だと証明するためにまた新しいダンスを踊ってみるのはどうだろうか。今度はそうだな、A'sで花開いた俺の淫靡さを前面に押し出した感じで……。

 

……そんな事を思いつつクネクネやっていると、オリ主が気味の悪い物を見るような目でこちらを見ている事に気がついた。

超格好いいだろ? という意味を込めて先日会得した淫靡ウインクをしてやると、奴は口に手を当てて蹲る。どういう意味だよお前。「全く失礼な奴だよなぁ」とひっそり近くまで擦り寄って来ていたメガネっ娘に同意を求めれば、何とも微妙な表情で目を逸らされた。だからどういう意味だっつーに。

 

全く本当にダメだな三次元は。やはり俺の美しさを理解できるのは二次元女子だけのようだ。謝るメガネっ娘の頭をくしゃくしゃしながら、俺はアンニュイな溜息を吐きだした。

 

 

……あ、そうだ、なんならゲーム合宿の時にでも実況動画撮るのも良さげじゃね。タイトルは「【ガヤ実況】小学生三人がガチ対戦やってみた」とかで。

おお、なんか結構いける気が。え? しない? ああそう。

 

 

●月 ●日

 

 

今更だが、原作の五人娘は結構モテる。

 

良くラブレターを貰うだの貰わないだのアリサやすずかが言っているのを耳にするし、フェイトやなのはも告白を受けたとか何とか言っていたのでまぁ間違いないだろう。はやては知らんが。

 

ともあれ、確かに彼女達は(三次元の)ガキにしては整った顔をしているとも思うし、体のバランスだって(三次元にしては)悪くない。レベルで言えば三・二次元くらいだ。単位がわからん? 察しろ。

多分世を生きる男共にとって、そんな彼女達は物凄く魅力的に映るのだろう。そんなのより虹野さんとかメイ様の方が良いと思うんだけどな、ホント理解できん。

 

今でも時々思うんだが、もしこの世界が二次元だったならあの五人でハーレム作ってた筈なんだよなぁ。

何で二次元の世界に生まれてこなかったんだ、そうすればこの六千六百六十六堂院ベルゼルシファウストの伴侶になる事が出来たのに。ホント勿体無い勿体無い。

 

……いや、そもそも二次元の世界に飛び込んできたのは俺の方か。あれ、つー事はこの世界を三次元にしたのは俺なのか? 俺戦犯? いやいやんな訳ねぇだろ、こんなに二次元を愛しているのに。

それを言うなら俺の他にもう一人この世界に飛び込んできた奴が居るから、そいつの方が戦犯に違いない。なぁオリ主君、もしそうだったら絶対に君を許さないよウッフッフ。

 

……でもアイツも結構二次専の気があるしなぁ。この前俺の部屋からときメモGS2と六ツ星きらり……っぽい物を持ってったし。つか後者は修羅場ゲーなんだが大丈夫なのだろうか。

結局何が悪くてこの世界は三次元になったんだろなぁ。ぽっくんちっとも分からんちーん。

 

 

そうそう、そのオリ主は容姿で言うとレベル三・五次元程度である。それなのに五人娘にモテるもんだから俺以外の男子の嫉妬を買って日々大変であるらしい。

しかも五人娘は場所を問わずにオリ主スキスキオーラを放つもんだから倍率ドン。さらに倍! てなもんで。

 

この前の林間学校以来、ウチのクラスの連中とはそれなりに仲良くなったようだが……しかしあと少しで五年生に進級しクラス替えが待っている。それを伝えた時のオリ主の表情と言ったら、もう。

とりあえず近々またゲーム合宿を開くつもりでいるが、それで少しでも元気になれば幸いである。俺は深く溜息を吐き、視界の端でハーレムに囲まれるオリ主に深く合掌したのであった。

 

 

ちなみに後日、そりゃもう渋ーい顔をしたオリ主から六ツ星きらりが返却された。だろうよ、ハーレム築いてる奴にはまぁキツかろう。

流石に哀れに思った俺は、もう一つの人生たるCLANNADっぽい何かを貸してやる事にした。それを見たオリ主は感動に打ち震え、お互いにチートを用いてガッッチリ握手。バゥッ! と辺りに衝撃波が撒き散らされたが何処もおかしくはないのだ。




レベル=二次元に近いほど高評価。


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五年目

∀月 ∀日

 

 

五年生。

 

上級生となりそろそろ卒業の足音が聞こえて来たが、俺は変わらずにアニメ、漫画、ゲーム三昧の日々を送っている。

クラスのモブの中には早めの中二病に突入し「アニメなんてだっせー」とか宣っている愚か者も居るが、そういう奴に限って大学生位になってからカムバックして「ああ、当時見ときゃ良かった」と後悔する羽目になるのだ。と言うか、しろ。

 

まぁそんな事はさておいて。

俺のマンションにオリ主、ユーノとメガネっ娘が訪れるようになって久しいが、先の休日に遂に一同が鉢合わせした。

 

アイツ等が来るようになってから何年経っているんだという話だが、メガネっ娘は基本的に毎日来るものの放課後から門限までの短い時間にしか居ないし、休日も午後一時から三時間ほど。

対してオリ主達は休日の夕方から翌日の午前中までの泊まりがけでというパターンだった為に、微妙にタイミングを外していたのだ。彼らが早めに来る事がなければ今回もまたすれ違っていただろう。

 

何となく間男のようなハラハラした気分で見ていたが、全員顔見知りだった事もありあっさり打ち解け和気藹々とそれぞれの作業(遊び)に取り掛かっていった。

 

俺的にはユーノとメガネっ娘が知り合いだった事に驚いたのだが、そう言えばA'sの時に魔法関係の事を知ったようだし、その時の縁なのだろう。

せっかくなのでそれに気付かなかい振りをして「あれ、二人知り合いなの?」という空気を出してみれば、予想以上にメガネっ娘があわあわと慌てふためいていて見ててほっこりした。

魔法バレ云々でアレコレ考えているのだろう、既に知ってる事になってるんだけどな。ハハハ。

 

ともあれ、いい機会だと思ったので以前より暇な時にダラダラと作っていた例の棒人間格闘ゲームのグラフィック差し替えバージョンをお披露目してみた。

中割りを打ち込むのがかなり面倒だったのでサボりサボりやってたら年単位の時間がかかってしまったが、何とか完成できて良かった良かった。

 

それなりに真面目に取り組んだのでそれなりの出来にはなっているはずだし、ただの棒人間ゲームから随分と立派になったもんだ。

これまでの事を思い出しつつ感慨に耽っていると、メガネっ娘が花を飛ばしつつ喜びの声を上げた。どうも自分の絵が動いているのが嬉しいらしい。凄かろう凄かろう、フフフ。

 

他の二人もキャラ作成に絡んでいる分感動したようにゲームをプレイしているし、いやはや、作成者としては嬉しい限り。鼻がクリエイティブに高くなるね。

 

結局その日はメガネっ娘が帰宅するまでそのまま格闘ゲームで遊び込む事となった。

当初はメガネっ娘に格ゲーの洗礼を浴びせてやろうと画策した俺とオリ主だったが、絵を描いているおかげか手先が器用で中々に強く逆にこちらがリンチされてしまった。嘘ーん。

 

そうしてユーノとメガネっ娘が頂上決戦を繰り広げている背後で、俺とオリ主は仲良く体育座りで応援したのだったとさ。

……俺製作者なんだけどな、高い鼻がクリエイティブに折れちまったい。

 

ちなみに更なる続編としてベクターに上げた所、反応はそれなりに上々だった。後でホームページでも作ってみるかなぁ、そんな事を考える俺である。

 

 

∀月 ∀日

 

 

いやはや、今年は俺好みのアニメが多すぎて笑いが止まらない。

 

グレンラガンにらき☆すたにキミキスにひぐらしにバッカーノに電脳コイルにみなみけにプリキュア5にしゅごキャラにDTBについでにファイテンションデパート他多数。燃えから萌えまで四月から来年まで休む暇もないアニメパレードである。

まぁ前にも言った様に全て「っぽい何か」が付くのだが、それでも期待値が高い事には変わらない。毎日の深夜と休日の朝が楽しみで堪らん。DVDデッキの録画予約もフル稼働だ。

 

困ったな、これで益々積みアニメが増えてしまうぞい――――放課後前の掃除中そんな事を半笑いでオリ主と駄弁っていた所、何故かアリサが突っかかってきた。何でもオリ主に変な事教えるなとの事らしい。

……何、お前まだこいつらにオタク趣味の事バレてねぇの? そんな視線を向けてやれば、ミッフィーの様な表情をして顔を逸らされた。やめろよその顔気持ち悪ぃな。

 

ともあれ噛み付いてくるアリサを適当にあしらっていた俺だったが、彼女が放った「アニメは子供の見る者」という戯けた言葉を聞いた瞬間頭蓋を突き破り勢いよくラガンが飛び出してしまった。おお、それは俺達のような存在には禁句も良いとこであるぞ。

 

まぁ「いや実際俺達子供じゃねぇか」という一言で簡単に論破する事は出来るのだが、それでは中の人的に何か納得がいかん。

さーて早速発見されたこの早期中二病患者をどうこましてやろうかと考えていると――ガチリ、と。最早懐かしい擬音と共にオリ主がアリサの肩に手をかけた。彼の目はいつぞやのリィンフォース戦の時よりギラギラと煌き、何時もの面倒気な空気は欠片も無い。

ふむ、どうやら彼の琴線にも触れてしまったようである。まぁリリカルなのはのオリ主になろうなんて奴は基本オタクですしね、さもありなん。

 

そうしてそんな一種異様な雰囲気にたじろいだアリサを引きずり、オリ主は「ゴゴゴゴ」という効果音を残し下校していったのだった。どさくさに紛れて掃除当番サボりやがったよアイツ。

何時もと違うその様子に他の原作メンバーも不思議がっていたが、俺から言う事は何も無い。強いて言うならば、世の中には口に出しただけで戦争が始まる言葉がある、それだけである。

 

俺は遠い目でそんな事を思いつつ、邪魔な「ゴゴゴゴ」を教室の窓から投げ捨てたのだった。

 

 

……で、後日。帰った後に何があったのかは知らないが、メガネっ娘とこっそりアニメの話で盛り上がるアリサの姿がちょくちょくと確認されるようになった。

話題はプリキュアやしゅごキャラ、電脳コイルと相応の時間帯に放送されている物で、他の原作メンバーにバレないようヒソヒソ声で話していたりと初心者っぽくてほっこりする。何のかって? 察しなさいよ。

 

……せっかくの逆襲のチャンスであるが、俺は見ないふりをしてやる事にする。何というか、彼女には極めれば女版の俺になりそうな気配がするのである。

新たな仲間が生まれようとしているのに、その誕生を邪魔する事はあるまいて。俺はいい仕事をしたと汗を拭うオリ主とハイタッチを交わしたのであった。いぇー。

 

 

∀月 ∀日

 

 

さて、以前俺がやりたいとぼんやり思っていたニカニカ動画での実況プレイ関係であるが、何とかオリ主とユーノの理解を頂き投稿に漕ぎ着ける事が出来た。やったね。

 

まぁ俺がネタバレされるのが嫌いなのでレトロゲー縛り、しかも実況を意識しない単なる対戦動画なのだが、まぁいいだろう。どうせゲーム合宿のついでだし。

それにオリ主のデバイスを使って集音する事によりマイク無しのごく自然な会話が録音できるし、互いの名前呼びもいい感じに編集してくれるし、ゲーム画面も同様だ。やりやすいったらありゃしない。

 

……ただ、その録音と名前の編集を任せているオリ主のデバイス(丸い方)が俺の名前だけ無編集で通そうとするのはどういうこっちゃ。俺にもプライバシーを寄越しなさいよちょっと。

指の油を擦りつけながらそう抗議してみたのだが、帰ってきたのは『だって64ですし、何より六千六百六十六堂院ですよ?』うるせぇよタコ。

お前らも何とか言ってくれとユーノ達に振り向けば「仕方ないよ六千六百六十六堂院だもん」「しかもベルゼルシファウストだもんなぁ」うっせばーか俺の格好良さを理解しない奴は疾く散れッ!

 

自力で編集しようにも俺だけピー音を入れると不自然感が半端ないので、仕方がなくそのままで動画を投稿する羽目になったのだが――今の所、俺の名前が出ても視聴者の誰一人としてそれが本名だと気付いていない。

やはり三次元は俺に厳しい世界のようだ。次に転生する時は二次元に行けたらいいな、そんな事を呟いたらゲーム画面担当の四角形に鼻で笑われた。おめぇはブレねぇなぁホントに。

 

だがまぁガキ三人が素の状態でギャーギャー騒いで居るだけの動画にもかかわらず割と楽しんでいる人は多いようで、批判コメもそこそこに高評価を頂いている。

何というか、アレだ。皆で一緒にゲームしてる感覚でニヤニヤするよね。

 

……異世界転生までしてする事が実況プレイかよ。心のどこかで常識的な俺が呆れたような気がしたが、直ぐに俺議員にタコ殴られ埋葬されたので知らんぷりである。

ともかく次は何をプレイしようかな。二週に一度のゲーム合宿が更に楽しくなり、気合を入れてレトロゲー選びを行う俺であった。

 

 

……俺の淫靡ダンスの評価? いいじゃないかそんなんどうでも。

 

 

∀月 ∀日

 

 

スーパーロボット大戦Wっぽい何かの四週目が終えた。

 

いやはや、やはりWはスパロボDSシリーズの中で随一の作品である。

特に複数作品のクロスオーバーの仕方がすばらしい。設定からロボからキャラクターから違和感なく一つに練り込み、感動や熱血を生み出すその完成度たるや神ゲーの名に相応しい。

 

家族の繋がりを通して成長する主人公、アキトとガイによる劇場版バージョンの合体攻撃、カナードとの和解、ロウの赤い一撃、そして最終決戦での総力戦。どれもこれもが号泣物の熱え具合である。

そして何より女の子だ。可愛い女の子がたくさん出て、しかもおっぱいが自然に揺れるようになったのが超嬉しい。ミヒロたんにアカネたんにシホミさんにアリアちゃん、ちっぱいからおっぱいまでプルンとしていい感じなのだ。

 

……その分ディセイバーが女の子だと思っている俺としては、彼女の胸揺れ一枚絵が無いのが残念でならない。

まぁ量産型の強化ザコ敵である以上仕方ないといえば仕方ないのだが、せめてバストアップくらいは欲しかった。クローン系美少女とか結構好みの属性であるし、Wのネタスレでは普通に可愛い女の子やってたし。

 

そうして悶々とする感情を持て余していたのだが――――その時、残念ならば作ればいいと俺のクリエイティブ精神が囁いた。そう、つまりはメガネっ娘への懇願である。

 

思い立ったら即行動。俺は何時もの様に背後でペンタブを弄っていたメガネっ娘の耳元でねっとり囁き、唆し。グルグル状態にして了承させた。そうして顔グラしか元絵の無い状況からディセイバーの全身図と一枚絵を描き出して貰ったのだ。

彼女の元となった二人(三人?)のイラストを組み合わせて半ばイメージで描き上げたらしいが、これがまたそれっぽい出来であり。本人も良い勉強になったと満足そうだったので、お互いに得る物のある唆しだったのではなかろうか。

 

そして以前のドットポチポチ作業で培った技術を活かし、見事な乳揺れを作り上げた俺はそれをPCのスクリーンセーバーにして悦に浸る事にしたのだが――まぁ、何時もPCを使ってるのが誰なのかを考えれば明らかなミスでしたよね。

 

結果としてこれ以上無い程に赤面し狼狽える事となったメガネっ娘は、そう言ったエロ方向に関して警戒する事になり唆し辛くなってしまった。

うむ、一応は目的は達成したが、最終目的であるなのは達のエロ絵は更に遠のいた訳である。くそぅ。

 

 

∀月 ∀日

 

 

やっぱり俺って格好いいと思うんだよ。

 

サラッサラの銀髪に、フィギュアの如く整った容姿。体のバランスだって完璧に均整取れてるし、オッドアイというミステリアス要素まである。

キャーキャー言われる事はあっても、不気味がられるなんてあってはならん筈なのだ。いや三次元でキャーキャーなんて言われたくもないんだけどさ。

 

ともかく何が言いたいかというと、俺のダンスがオカルト扱いされるのが納得いかんという話だ。この前Дちゃんねるのオカ板の心霊映像スレで俺のダンス動画を見かけた時は怒気で服が破けたわ。どこの世紀末だっていうね。

 

ちょっと残像残したり二十メートルくらいすっ飛んだり関節ぐねんぐねんしたりしただけで、どうして天狗とまで言われなきゃいけないんだ。そんなのよりもっとマジキチが居るだろうよ、馬の被り物して全裸で毒物かっ食らうアイツとかさぁ。

調べてみたら天狗ってゴブリンとも表現するらしいし、つまりTheytubeでの評価もそういう感じって事じゃねぇか。いい加減泣くぞ俺も。

 

――六千六百六十六堂院ベルゼルシファウストは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の三次元世界を塗り替えねばならぬと決意した。

 

この俺の美しさが過小評価されたまま泣き寝入りして溜まるものか、絶対にこの世に蔓延る衆愚共に俺の超絶格好良さを伝えてやらねばならんのだ! だって二・五次元の俺より美しいのは二次元の存在だけだもん! レベル三次元の範疇に収まってる奴らに思い知らさねばなるまい。

 

……そうして俺は、目の曇りまくった世の節穴達の為にも踊る事にした。ゲーム実況をやってるアカウントを使って、ひっそりと踊り続けた。

ダンス時には常に黒ジャージとライダーお面を着用しているのがもどかしい所だが、身バレして周りの奴らに何かあっても嫌なのでまぁしょうがあるまい。

 

例え暗黒舞踏と呼ばれようが天狗ダンスと呼ばれようが、実況の傍ら踊りに踊り、踊り続ける。そう、俺は決して負けないのだ。俺は俺の美しさを、格好良さを伝えるため。これからも俺ダンスを舞い続けるだろう。

 

踊れ俺! 進め俺! 三次元への反逆は今始まったばかりである――――!

 

 

 

……後日、ニカニカ大百科に「天狗の人」という記事が出来た事を風の噂で知った。

見ていないから分からないが、俺でない事を祈るばかりである。

 

 

∀月 ∀日

 

 

最近さ、梅昆布茶にハマったんだよね。俺。

 

スーパーで食材の買出しに行った際、梅と昆布のお茶とは変わった物が売っているなと思い買ってきたのだが、それが予想外の方向で美味だったのである。

例えるならば、梅茶漬けの素から煎餅や海苔やその他余計な物をとっぱらった感じ、と言うべきか。普通のお茶とは違い、何とも食欲をそそる香りと味だ。

 

ご飯にかけてお茶漬けにしても良いし、小腹が空いた時の足しにもなる。しかも七味唐辛子を加えれば尚グッド。

煎餅や大福にはちょっと合わないのだが、食事の時に一杯あるといいアクセントになる。チャーハンや煮物の隠し味としても使えるし、中々に優秀な存在だ。

 

俺は顆粒タイプの小袋分け24本パックを毎回買っているのだが、すぐに無くなるしゴミは邪魔になるしと色々面倒だ。なのでもう少し大きな物が無いかなーとネットで検索をかけてみたら、何と業務用梅昆布茶パックなるものを見つけた。

……何の業務に使うん? 疑問に思ったもののまぁ良いかと頼んでみたのだが、届いたものは顆粒がみっちり詰まった大きな缶詰だった。サイズで言えばHGハイゴッグの箱より少し小さいくらい。でっけぇ!

 

まぁ使う分には特に問題なかったので、適当にスプーンで掬いつつ美味しく飲んでいたのだが――――俺の管理方法がダメだったのか、湿気にやられて顆粒が潰れ粘土モドキになってしまった。

いや、お湯を入れれば普通に梅昆布茶なのだが、スプーンで掬う際に毎回「ネチッ」という音がするようになって微妙な気分になるのだ。いや美味しいんだよ、美味しいんだけどもさぁ……。

 

……オリ主を見ている限り、面倒臭がっても碌な事にならないのは分かっていたじゃないか。

反省した俺はこれからは面倒臭がらずに、小まめに自力でスーパーに仕入れに行く事を決意したのであった。

 

うーむ、どんどん主婦化が進んでおる気がするな。まぁ良いけど。

 

 

∀月 ∀日

 

 

さて、二泊三日からなる臨海学校の日がやって来た。

 

海に臨むと書いて臨海と読むのだから当然海の周辺に赴く訳なのだが、何でこんなクソ寒い時期にしたのかが分からん。どうせなら夏の方が良いと思うんだが。

他のモブや原作メンバーも同じように思っているのか、宿泊施設へ向かうバスの中でも夏の海に来たかったという話題が多かった。それでも楽しみな事には変わりなかったようだけど。

 

そうして海鳴市の端にある海浜公園までやって来た俺達だったが、やはり冬の海周辺は寒い寒い。俺はチートで体温を上げていたために何とも無かったものの、それが出来ない他の奴らはブルブルと震えている程だ。

しかしながら、俺と似たような事をやって五人娘に引っ付かれ動き難そうにしているオリ主。そしてそれに嫉妬の炎を燃やすモブどもはその限りでは無いようで、片やピンク、片や黒赤と妙な色の付いた熱が広がっていた。マセてんなぁお前ら。

 

まぁそんなギスギスした空気の中、ちゃっかり俺をホッカイロ替わりにしていたメガネっ娘と共に教師の後を追いかけ宿泊棟へと到着。去年と同じく男女に別れ、それぞれの部屋に荷物を置いた後公園内のハイキングを行った。

 

海辺を沿う小道を磯の香りを感じつつ、てくてく歩く。流石の俺やオリ主もこんな精密機械にとっての地獄とも言える場所でゲームをする気にはなれず、のんびりダラダラ無駄話に興じる。

ホタテ食べてぇなぁ、海苔くいてぇなぁ、カニって良く見るとバッタみてぇだよなぁ。そんな実りの全く無い会話であるが、気付けば周囲のモブとも会話が花開いていた。

そこにはオリ主への嫉妬などは微塵も感じられず、あれだけヨコシマってたのが嘘のよう。女の子が絡まなければ普通の態度に戻るあたり、よく悪くも思春期男子という事だろうか。

 

ともかくそんな感じであれこれと話していると、話題は今日の昼飯の事へと移動する。どうやら去年と同じく昼食は自分達で調理する形式らしく、前に一緒の班だった奴は今回も俺に殆どを任せる心積もりのようだ。ヤだよ少しは自分でやれよ。

山と違って今度は海なのだ。肉類じゃなくて魚介類中心だろうし、それならお前らでも何とかなるだろう――そう言って突き放せばオリ主も混ざっての大ブーイングである。他力本願も良い所だよ全く。

 

そうしてギャーギャーやっている内に、ハイキングコースの終わりである砂丘エリアに到着。ここからは別ルートを歩いていた女子と合流し、一旦の休憩を挟んだ後バーベキュー場へと移動し昼食の時間だ。

……そして女子と合流したという事は、当然オリ主周りの原作娘ペンタゴンも完成する訳で。それに伴い一旦は下火だった嫉妬やら何やらが再着火。あっという間に友情の花が散ったね、がっくり頭を垂れるオリ主にナムナムと合掌する。

 

 

まぁ下らん話はさておくとして、昼食は海の幸たっぷりの海鮮鍋だそうだ。

ホタテ、カニ、タラ、海藻類その他色々。とにかく旨味の出そうな色んな物を一つの鍋で煮るという豪快な料理である。

 

切った具材を入れ、煮込み、味噌を溶くだけという比較的作りやすい鍋料理。流石に今回はアリサ達でも上手く作れるだろう――そう思って具を煮込んでいる間に視線を女子の方に向けてれみれば、彼女達は何故かマヨネーズを持っていてなのは達に止められていた。ネタだろ、流石に。

……いや、こっちはこっちで塩を塊ごと入れようとしたり、無駄に薪をくべて火を強めるアホンダラが居るからあまり強くは言えないんだけどもね。やめなさいよ汁気が飛ぶから。

 

でもまぁ、何だかんだ俺達も彼女達も美味しい料理は作れたんじゃなかろうか。後でメガネっ娘のお椀から一口貰ってみれば、俺の鍋と大して変わらん普通に美味い味だったし。ふむ、今年はドローだな、フフ。

 

とにもかくにも賑やかな昼食を終え、次は森中の広場での自由時間だ。

様々なアスレチックが設置された広場の中を、腹一杯になったガキどもがわらわらと騒ぎ回る。そんなガキの一人である俺も例外に漏れず、丘の上から続くチューブ状の長い滑り台を駆け上ったり、ロッククライム用の岩壁を足だけで踏破したりと自由気ままに楽しんだ。違う意味で例外に漏れている気もするが、それはさて置き。

 

夕方になり宿泊棟に戻り、少し早めの夕食をとり宿泊棟から少し離れた場所にある大浴場にて入浴。そうして就寝時間まで再びの自由時間である。

去年はゲーム大会を開いた俺達だったが、今回はちょっとアダルトに枕投げ大会だ。むしろ子供に逆戻りしてるって? さて聞こえんな。

 

まぁ俺とオリ主が参加すればただの虐殺にしかならんので、俺達は避けに徹する。前屈し、海老反り、腰をグラインド。四方八方に飛び交う枕を上半身だけで避けてみたりして。

調子に乗って残像を生み出しつつ六千手六百阿修羅六十六観音などと嘯いていたら、「キメェ!」の一言と共に亜音速を超えた枕が顔面に飛んできた。おいおいルール違反とは酷いじゃねぇか、そりゃ俺でも避けきれんて。

 

バボン! と。俺の顔に当たった枕が喧しい音を立て弾け飛ぶ。そうして中身の綿が白い欠片となって辺りを漂い、ふわふわと、きらきらと。その中心に崩れ落ちる俺を更に美しく、幻想的に際立たせるのだ。

 

ああ、カメラ持って来りゃ良かった――絶好の俺シャッターチャンスを物に出来なかった事を悔しく思いつつ意識を手放し、俺の臨海学校一日目は(強制的に)終了したのであったとさ。

 

 

………………………………………………………………

 

 

早朝、五時。

 

無理やり意識を持って行かれ早く眠ってしまった影響か、その日は結構早めに目が覚めた。

……うーむ、気絶した後でベッドに放り込んでくれたのは有難いが、出来れば姿勢とかも考えて欲しかった。首とか背骨とかバッキバキに固まって完全に寝違えている、チートがなかったら今日一日地獄だったぞ。

 

バキボキと無理やり筋肉と骨を伸ばしつつ、周囲のモブの事なぞ何も考えずにカーテンを開ける。流石に寒い時期とは言っても既に日は昇りかけており、薄らとした光が部屋の中に差し込んだ。

窓ガラスの結露を拭ってみれば、眼下には自然豊かな森と何処までも広がる海の姿が見えた。未だ完全に日光の当たりきっていないその光景は、踏み荒らされていない新雪を思い起こさせるようで、俺の中の散歩心がむくむくと鎌首を擡げた。

 

……旅のしおりには七時に完全起床と書いてあるし、時間的にはまだ余裕はある。俺はすぐ様学校指定のジャージに着替え、外へと飛び出したのだった。

 

いやはや、潮の香りが混じった清々しい朝の空気が俺の肺を洗い流し、何だか気分がとてもスッキリした。上機嫌になった俺は七時少し前に部屋へと戻り、その上向いた気分のまま爆睡していたオリ主の脇腹に「おはようございまーす!」元気よく踵をめり込ませる。そりゃもうゴリっと。

おお、突然の衝撃にベッドから転げ落ち声もなく苦しむオリ主の姿の何と目に優しい事か。昨日の仕打ちから言ってこのくらいの事してもバチは当たらんじゃろ、フハハハ。

 

 

で、クラス揃ってバイキング形式の朝食をとった後、俺達は水族館へと向かった。

教員に連れられた先でそれぞれ一時解散し、多種多様の魚介類が泳ぐ水槽を見学していく。俺としてはクラゲが一番のお気に入りだ。あのフワフワした感じとか、何とも神秘的で見てて飽きないと思いませんか。

 

……多くのクラゲに囲まれた俺、ああ、何と神秘的で格好いいのだろう。そんな事を夢想しつつ、クラゲ関係の水槽はゆっくり、それ以外はチャカチャカ歩いて見て回る。そうして展示コーナーの終わりにさしかかった時、五人娘達が巨大なエイを眺めきゃあきゃあ言っている姿を見つけた。

すると向こうもこちらを見つけたらしく、それまでの表情から一転げっそりした顔をされる。ハハハ、その反応はもう見飽きたぞ、もうちょい変化をつけたまえ。

 

見た所オリ主の奴がいないようだったので一緒に回ってないのかと尋ねれば、先に土産屋に行っているとの事だった。

もう見たいクラゲは見たし、俺も何か買ってくべかな。そう思い挨拶もそこそこに別れ、土産屋に突入。お菓子やら煎餅やらを買い漁る事にした。

 

そうして様々な商品を見ている内に――ふと、以前貰ったイルカのキーホルダーを思い出す。

……ふむ、あの時のお返しをするのも悪くはあるまい。俺は両手に山ほど乗ったお菓子の群れの頂上に良さげに思った物をチートで射出し、一緒に会計を済ます。にしてもちょっと買いすぎたかな、どうやって持ち帰ろう。

 

まぁイザとなればチートで持って家まで投げればマンションのベランダまでは届くだろう。そう楽観的に考え、水族館内でのレストランでの昼食に舌鼓を打った。

いやー、魚介類を見て和んだ後に、その魚介類を料理を出すのはどうなんだろね。そのへんの機微を無視する俺やオリ主はともかく、他の奴らはかなり微妙な表情してたぞ。

 

 

さて、いよいよ臨海学校も後半戦。二日目の午後は希望者ごとに分かれての選択行動である。

海水での塩作り、浜辺の砂や貝を用いてのペットボトルアート、そしてルアー作りの三つのコースから好きなものを選び、それぞれ体験授業のような物を行うのだ。

 

俺が選んだのは塩作り。出来上がった物は持って帰って良いという話であるし、帰ったら調味料として使わせてもらう所存である。

そうして塩作りの用意がされている場所に案内されていけば、そこでフェイト、はやて、なのはの超必持ちスリーマンセルにかち合った。やぁさっきぶり。

ルアーの方に行ったオリ主の奴と一緒でなくてもいいのかと問いかければ、この塩を使って料理を作ってやるそうな。愛されてるねぇ、全然羨ましくないけど。

 

ともあれ塩作りのスタートである。やり方は簡単。まず二人組を作り、海水を汲んでくる役と鍋の中身をかき混ぜる役に分かれてそれぞれの作業を行うだけだ。

フフ、俺程の格好良さともなると二人組を作る段階で相手が萎縮し結構手間取ってしまうのであるが、今回は教師の方で振り分けしてくれて助かった。もうオリ主が居ないからどうしたもんかと。

 

俺と組む事が出来た幸運なモブ夫を鍋回し係に任命し、俺は海水汲みの方に回る事にする。まぁ途中は地味な絵ヅラが続くので特に描写する事は無いのだが、モブ夫とはちょっと仲良くなった。どうでもいいな。

それで完成した塩なのだが、俺には市販の物と何が違うのか良く分らんかった。でも何となくミネラルやらそんな感じの物がたっぷりな詰まっているような気がする。思い込みかしら。

 

まぁ単純作業の割には中々に楽しかったな。うん。

 

 

午後の予定も終わり、宿泊棟に戻っての夕食。今回でここでの宿泊も最後かと思うと、何やら感慨深いものがあるなぁ。まだ一泊しかしてないけどさ。

何やらしっとりした気分の中で夕食を終え、俺達は入浴時間になるまで自室待機だ。予定としてはクラスごとに順繰りに大浴場を利用していく形をとっているのだが、今日は俺達のクラスが一番最後の時間帯であるらしい。

 

それぞれ花札やDSで遊びつつ時間を潰し、入浴時間が来た頃には外はとっぷりと日が沈んでいた。街灯があるとはいえ、懐中電灯がなければ歩く事すらままならんだろう。俺はチート視力で何とかなるが。

 

そうして大浴場に到着すれば――お待ちかね第三回俺の美裸鑑賞会の開催だ。フフフ、今日は何人のモブの若芽が淫靡なる開花を果たすかな?

成長期を迎え更に格好良さに磨きがかかったこの肉体、さぁとくと見るが宜しい――――そうやって格好いいポーズをとっていたら、オリ主に湯船に蹴り落とされた。鼻の奥にお湯が入って痛いよぅ。

 

 

とにもかくにも入浴が済み、火照った身体を自販機の飲み物で冷ましつつオリ主と共に浴場施設のロビーでダラダラしていると、女湯の方角から女子連中が俺達(正確にはオリ主)の下に近付いて来た。

どうやら入浴時間が被っていたらしく、全員風呂上がりのほっこりした雰囲気を放っている。シャンプーか石鹸か。何や甘い香りが俺達の方に漂ってくる……のだが、今飲んでいる飲み物との不和がヤバイんであんま近づかんで欲しい。おえ。

 

顔の周りをパタパタやりつつ臭気を散らし、アルミ缶を一気に傾けていると、その間に何やら一緒に宿泊棟まで戻る話になったようだ。

俺は? と顔を指差して存在をアピールしてみるのだが、彼女達はオリ主をドナドナしていくのに夢中で見てすらいねぇ。まぁ相変わらずの扱いだよね。

 

……まぁ俺一人ここに居てもする事無いし、あいつらに付いて帰るかね。ふむ、と俺は軽い溜息を一つ吐き、困ったように右往左往していたメガネっ娘を伴い帰りへの道を歩きだしたのだった。

 

 

 

暗いね。足元がよく見えないし、手繋いでいい? あ、じゃあ私も。あー! ちょっとあんた達ー! キャッキャウフフ。

 

前方に見えるイチャコラ空間に適当なアテレコを嵌め込んで遊びながら、てこてこ歩く。あー下んね。

よくもまぁあそこまで恥知らずな事が出来るもんだ、ああいうのは次元の壁を挟んで行うのが一般的だろうに。液晶やブラウン管でも可。

 

そうしてなんやかんやと隣を歩くメガネっ娘とお喋りつつ道を進んでいると――前方のハーレム陣が立ち止まる。一体何ぞやと視線の先を見てみれば、帰り道にある丘の上から夜の海を一望しているようだった。はいはいスチル回収スチル回収。

 

まぁせっかくなので俺達もイベント進行の邪魔にならない位置に陣取り、夜の海を眺める事にする。

 

 

「……ほぅぉー」

 

 

何か変な声が出た。

 

まず俺達の目に映るのは、地平線の向こうまで続く満点の星空だ。浜辺には空を写したような真っ黒な波が押し寄せて、その黒いキャンパスに遠くの灯台や橋の放つ明かりが光の絵画を描き出す。

ゆらゆらと、こうこうと。白、橙、青、緑――様々な色の光は波の揺れにより一秒ごとにその形を変化させ、柔らかくも鮮烈な光景を意識へと焼き付けてくる。それは一種催眠術のようでもあり、見る者の視線を惹きつけて離さない。

 

そうして棒立ちになる俺達に吹き抜ける冷たい潮風が火照った体をじわじわと冷まして。同時に濃い潮の香りが鼻をつき、ここが海である事を強烈に印象づけるのだ。

 

……あぁ、これは、何か。すごく良い感じだ。

 

 

「……ふむ……」

 

 

風呂上がりの気怠い感覚と合わせて、何とも表現し辛い心地良さが俺の身体を包み込む。

家で寛いでいる時とは別種の安心感というか、在るべき場所に在るべき何かがすっぽり収まった感覚というか。そんな感じの穏やかなもの。……在るべき場所と、すっぽりな何かですってよ。ふぅん。

 

袖の触れ合う感覚に何となく隣を見れば、メガネっ娘も同じような気持ちのようだった。興奮から来るキラキラとした輝きと同時、とんでもなく穏やかな感情を瞳に湛えて海を見つめている。菩薩か。

 

 

――この空気を再現できるチートがあれば、貰っといても良かったかもしれんなぁ。

そんな雰囲気ぶち壊しの益体も無い事を考えつつ、俺達はしばらくその美しい光景を眺め続けたのであった。あぁ、和む。

 

 

 

……そうして迎えた三日目の午前中。俺達は今までお世話になった宿泊施設の皆様にお礼を言い、海浜公園を後にした。

いやはや、まぁ何だかんだ楽しい二泊だったな。やいのやいの騒がしいバスの中で、潮風に当てられベタついた髪を整えつつそう思う。うひーごっわごわ。

 

学校に到着するまでの暇つぶしに、お手玉をスタイリッシュポンポンしながら隣席のメガネっ娘の拍手を受けていると、視界の端でオリ主がぐったりしているのに気が付いた。何か今にも死にそうな様相である。

 

ああ、そう言えばお前あの後どうなったん? 俺らはお前から意識外してたんで見てなかったんだけど。

そう問いかければ、奴は果てしなく面倒臭そうな表情を浮かべてDSライトを取り落とした。しょうがないので爪先で受け止め、そのまま放り投げお手玉に加えておく。何かイベント起きたっぽいなこりゃ。

 

まぁお前ハーレム系のオリ主だし、そっちの神がスクイズ好きじゃなきゃ丸く収まるべ。

そんな感じで適当に励ませば、何とかポケモンが出来るくらいには回復した。流石面倒臭がり自称してるだけあって、こいつ自身も大概面倒な奴である。

 

そうして後はバスガイドに旅の感想を聞かれたり。メガネっ娘へのお土産返しである貝のぬいぐるみストラップをお手玉して、うっかりミスった振りして彼女に投げ渡したりしている内に学校に到着。俺達の臨海学校は終わりを告げたのであったとさ。

さて、また機会があったら行ってみたいもんだ。去年も似たような事言った気がするけどな。ハハハ。

 

 

……ちなみに、バスの出発前にマンションのベランダに向けて遠投した菓子類なのだが、きちんと届いては居たものの見事に中身が砕けていた。

 

いや一応食べられるには食べられるので成功といえば成功なのだが……まぁ、負けだよな。これ。

割れたマンタクッキーをポリポリ食べつつ、妙な敗北感に打ちひしがれる俺だった。

 




主人公は自分を誰よりも格好いいと信じて譲らない男なので、二次元に行って積極的になったら噛ませとしての役割を全うし闇の書の闇にパックンされて退場します。怖いね。


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六年目

※ この回には地理に関して致命的な間違いがあります。
  ただまぁ書き直すと別物になっちゃうし、何より面倒なのでそのままです。
  気になった人はごめんね。


◎月 ◎日

 

 

6年生になった。

 

最上級生となり、あと少しで卒業かと思うと何やら感慨深くなる今日この頃。俺は何か大切な事を忘れているような気がしてならないでいた。

割と重要な事だったような、そうでないような。さて、何だったっけかなぁ。このチート頭脳を持ってしても思い出せん。

 

そんな魚の小骨が喉に引っかかった様なモヤモヤ感に唸っていると、オリ主がなのはを伴って登校して来た。時計を見れば朝8時20分過ぎ、遅刻ギリギリの時間帯である。

何か最近アイツ等時間にルーズだよな。この前なんてフェイトとはやても一緒になって昼休みを過ぎてから登校してきた程だし、また補習とかになるぞ。

 

……もしかしてアレか、ついに年齢認証ページを越えて「がっついて来て朝が辛いの……」状態に至ったか。声だけ聞きたいから録音して寄越して。

オリ主に小型レコーダーを渡しながらそう問いかければ、死ぬ程面倒臭そうな顔で否定する。その表情で返すのも凄いよな、純情さとか欠片も無い。

 

ともあれ話を聞いてみればどうやら魔法関係のアレやコレやで忙しく、慢性的に寝不足気味らしい。

何でも最近上の方から結構無茶な任務を言い渡されてあっちこっちの世界を飛び回っており、昨日も夕方から呼ばれて長い事出撃していてあんまり寝てないそうな。

 

成程、そりゃあ面倒くさがりのお前には辛かろう。俺は机に突っ伏し「面倒くせぇ面倒くせぇ」と念仏のように唱え始めたオリ主の横にそっとお煮しめ(手作り)の入ったタッパーを置き、ニヒルに立ち去る。

休み時間にこっそりモソモソするつもりだったオヤツだが、まぁくれてやるよ。腹が減ったらダイナミックで一旦帰りゃいいしね、学校からマンションまで往復2分もかからんもの。

 

そうして机に戻り家族ゲームっぽい何かの最新刊を読みふけっていると、突っ伏したオリ主になのはが近づいて励まし始めた。自分も疲れている筈なのに健気な事よ、これで二次元だったら以下略。

にしても、何というかアレである。ただでさえ原作ヒロインと言う強力無比な属性を持っているのに、幼なじみなんて属性も追加されたらもう完全に正妻で「あ、撃墜」唐突に忘れていた事を思い出した。

 

そうだ、確かなのはは小五の冬に任務先で大怪我するんだった……! その原作知識に一瞬で血の気が下がり、咄嗟に携帯で日付を確認。いやだからもう6年生になったんだっつーに。

どうやら少しばかり混乱しているようだ。俺は数年間愛用している女子校生香水を手首にふりかけ、深呼吸。これはメイ様の香りだと妄想し、気分を落ち着かせる事に努めた。逆にムラっときた。だから落ち着け。

 

 

……そうして冷静になってみたのだが、まぁ考えれば当たり前の話である。原作と違い、なのはにはほっといたら面倒臭さを拗らせて死にかねん幼なじみが居るのだ。

小さい頃からそんなのの世話を焼いていれば幼少時のコンプレックスだの魔法への傾倒だかも少ないだろうし、もしかしたら現時点でオリ主>>>魔法とかになってんじゃねぇの? そりゃイベント自体盛大にブレイクされてもおかしくないわ。

 

おそらくオリ主が家事もしない面倒臭がりである限り、なのはも彼の事を優先して任務にかまける事も無かろうて。

んだよ焦って損した。俺は溜息を一つ吐き、再び漫画を読み込み始めたのだったとさ。

 

 

……やはり家族ゲームは二巻からが本番だよな。匂わせる程度のエロ要素がかぐわしくて堪らんわぁ。

 

 

◎月 ◎日

 

 

俺はパワポケ2が大好きです。何故って? ハーレムエンドがあるから。

 

まぁそれに到達するのも真っ当にやれば事前準備が必要な上、ランダム要素が良い感じに絡むので結構大変なのであるが、やっぱり夢があっていいよね。羨ましい限りだ。

……あれも転生ほぼ必須なのになぁ、同じ転生者なのに何で俺の方はこんな有様なんだろうな。全部三次元の所為だ。

 

ともあれパワポケの話だ。今俺がプレイしているのはパワポケ10……っぽい何かなのだが、やはり面白い事に変わりは無い。特にサクセス。

 

10のサクセスの舞台は前時代的で閉鎖的な学校。その野球部に入部した主人公は先輩の厳しいシゴキに耐えながら、甲子園を目指して血と汗とその他色んな汁を流しつつ野球選手として成長してく――というのが大まかなストーリーだ。

共に野球を愛する仲間達やムッサイ先輩やホモ後輩と切磋琢磨し野球魂を蓄え、ライバルの待つ甲子園へと一直線に目指していくスポ根ものとしての定番をキッチリ抑えた展開はかなり熱い物がある。特にライバルルート時に岡田と知り合った上で迎える甲子園決勝はもう燃える燃える。

どいつもこいつも野球が好きな事が伝わって来るような、それはもう渋い試合が繰り広げられるのだ。難易度的にも超渋いよ、土方お前ホームラン打ち過ぎなんじゃアホタレ!

 

……まぁ、彼女候補に目を向けた途端にSF展開溢れる超能力バトル物にその姿を変える訳だが、それはそれで嫌いではない。むしろ大好きである。

さらもナオも五十鈴もしあーんもカズもタエちゃんも蘭ちゃんも陸手先生も可愛いし、みんな良い娘だ。ちょっと攻略しくじると自殺したり悪墜ちしちゃうのが難点だけど、その分ベストエンドに到達した時は心に暖かいものが湧いてくる。

え? バッド見すぎて心が血塗れになっただけじゃねぇのって? 聞こえんな!

 

まぁともかくそんな感じで野球がしたくなった俺とオリ主とユーノは、ゲーム合宿を途中で抜け出し近所の公園までやって来た訳だ。どこも破綻していない完璧な流れだな。うむ。

 

と言っても三人じゃ野球なんてできっこ無いから、とりあえずキャッチボールから始める事にしたんだが――まぁ、俺とオリ主の膂力から言ってどうなるのか予想付きますわな。四年ほど早い魔球リーグ編の開幕である。

吹き荒れる土煙、破裂する衝撃波。ここがそれなりに広い敷地を持つ場所で無ければちょっとえらい事になっていただろう。俺達ってすごいね。

 

そうしてパシコーンパシコーンやっている内に何かお手玉してる時みたいに楽しくなってきて、徐々にボールを増やしていったら何か紛争地域みたいな感じになってしまった。

ズドドド、と絶え間無く轟音が響き、弾けた土が頬に飛ぶ。おまけにせっかく用意したグローブも破けて空に飛んで行き――思わず目で追いかけ集中力が途切れた瞬間に俺の全身に魔球がめり込んだ。もう超痛い事痛い事。

 

まぁ何とか軽い突き指で済んだのだが、落ち着いて辺りを見回せば何時の間にかユーノの姿が消えていた。先にマンションへ戻ったんかなーと思いキャッチ紛争を切り上げ公園を整地して帰ったのだが、ゲーム部屋は無人のままだ。どこ行ったんだアイツ。

仕方がないので二人して魂斗羅で死にまくっていたら、突然ストラグルバインドで身体の自由を封じられラウンドシールドのカドで脳天をかち割られた。「おぉ゛ぉ゛おおンぉぉ」涙目になって見上げれば、そこには頭から二匹のフェレットを生やしたユーノが仁王立ち。ツノのつもりかそれ。

 

何でも衝撃波に巻き込まれ隣町にまで飛ばされていたようで、もうちょい僕の事を考えろとクドクドと説教されてしまった。いやごめんね、ホント。

 

そしてユーノが帰り際に買ってきてくれたというお土産のマドレーヌを三人で食べながら、ゲーム合宿を再開。パワポケ10の装甲車バトルディッガー編を5日交代でプレイする事となった。

 

ハハハ、方針が定まんなくてクリアできねぇ。ハハハハハハハ。

 

 

◎月 ◎日

 

 

最近は暑い日が続いているものの、俺の部屋は快適である。

冷房はガンガンかけてるし、日差しからの熱は特殊性の窓ガラスに遮られ伝わりにくい。ミンミンと喧しいセミの音だって完全にシャットアウト。まさに天国の様な環境と言っても過言ではない。

 

あまりにも天国過ぎて恐ろしくなったので、布団と一緒に毛布も日干ししてしまった。太陽の光を思う存分吸った布団達はフカフカと柔らかな魔力を発し、俺を惹きつけて止まない。

もうおっそろしくなってその日は冷房を消す事無く、その毛布を被ってぐっすり眠ってしまった。何日も徹夜を続けていたせいか泥のように眠り、起きた時には何と二日が過ぎていた。夏休みでなかったら欠席扱いされていた所だ、何と恐ろしい。

 

冷房と毛布の組み合わせの危険性をこれ以上無い程に理解した俺は、毛布を封印しようと押し入れを開いたのだが――――しかし、ダメだ。毛布を持つ手が動かない。幾らチートを用いて動かそうとも、俺の意思を反映せず身体が言う事を聞いてくれないのである。

このままではアニメ鑑賞やゲームをする時間が取れなくなってしまう。そう思い焦るのだけれど、やはりどうにもならん。流石に丸々二日間眠る事は無くなったが、それでも夜の九時から朝六時まではぐっすりだ。

 

ああ、これでは規則正しい生活に引き込まれる……! それは俺みたいな存在にとっては致命傷もいいとこだ、だって積みDVD積み漫画積みゲー積み小説がえらい事になってしまう。恐ろしい恐ろしい。

 

 

……まぁ詰まるところ、毛布が気持ちよくて堪らん訳だ。アレかな、この毛布ももう結構使ってるから、妖怪暮露々々団になっちゃったんかな。

そう思ったら何か可愛く見えてきて、思わず美少女布団カバーを買ってしまった。抱き枕と合わせてもうハーレム同衾状態。環境が更に天国に近づいてしまった。

 

このまま行ったら最終的にどうなってしまうのか――いやはや全くすんげぇ恐ろしい話だよ。うん。

 

 

◎月 ◎日

 

 

録画していたペルソナ・トリニティソウルっぽい何かを視聴していたら、何時もの様に後ろでPCを弄っていたメガネっ娘が小さく悲鳴を上げた。

 

何、ゴキブリでも出たの? そう思って彼女に振り向けば、何やら目元を抱き枕で覆って目隠しをしていた。どうもモニターを見ないようにしているらしい。

疑問に思った俺が近づいてPC画面を見てみれば――――そこには、ブッスブスで血みどろのグロCGが映っていた。良く良く見ればそれはPC版Chaos;HEADっぽい何かの「張り付け」犠牲者遭遇シーンのようだった。

 

どうやらデスクトップに置いていたショートカットを何かの拍子にクリックしてしまい、そのまま何となくプレイしていたらしい。そういや俺プレイし終わった後ディスク抜き出してなかったっけな、すっかり忘れてた。

まぁジャンルがグロサスペンスだとは思わなかったのだろうな。アイコンはヒロインの女の子の顔であるし、オープニングを見ても女の子同士の超能力バトル物としか見えないよね、これ。

 

とりあえず頑なに画面を見ないでいるメガネっ娘に「消しとく?」と聞いたら物凄い勢いで頷かれたので、一応進行状況をセーブしてウィンドウを閉じる。

そうしてメガネっ娘の抱いていた抱き枕を回収し、俺は定位置へと戻りアニメ鑑賞を再開した。……ナイトハルトって結構気持ち悪い感じで個性的なのに、よくあそこまで進めたよな。鼻先にほんのりと蜜柑の香りを感じつつ、妙な所に感心。

 

それからメガネっ娘はその後PCに向かい合う気になれなかったようで、大人しく俺の横に腰を下ろしアニメ鑑賞の姿勢をとった。なので上映作品をバトルスピリッツに切り替え、のほほんとしたひと時を過ごしたのであったとさ。

 

 

……で、後日の話。あれだけ怖がっていたにも関わらず、PCの前で青い顔してChaos;HEADをプレイするメガネっ娘の姿がよく目撃されるようになった。

 

何でも怖いのは嫌いなのだが、それ以上に話の続きが気になるらしい。いやはやカオへファンが増えたようで何よりだね、フフフ。

しかしグロシーンに遭遇する度に一々悲鳴を上げたり、俺の服の裾を摘んだりするのはどうにかならんものか。アニメの時は良いんだが、ゲームやってる時にされると集中切れて割と致命的なんですがねぇ。

 

仕方ないので「悲鳴を上げる時には顔をうずめて思う存分摘みなさい」と予備の抱き枕(無地)を一つ貸し出す事となった。彼女も意外と気に入ったらしく、有効に使ってくれているようで何よりである。

プレイし終わった後も家に来る度に抱きついてくれているし、もうあれは彼女専用機という事にしても良いかもしれんね。

 

……そういやこの前、布団カバーと一緒にときメモGSの葉月君抱き枕カバーを買ったっけな。贈呈するべきか否か、はてさて。

 

 

◎月 ◎日

 

 

欲しい本があったので本屋に立ち寄ったら、何やら本を探しているフェイトに遭遇した。

 

相変わらず嫌そうな表情をしている彼女に問いかければ、何でも修学旅行に訪れる奈良、鎌倉のガイドブックを探していたらしい。

ああ、そう言えばあともう少しで修学旅行の時期なのか……。ゲームやアニメばっかり堪能してる内に随分と時が経ったものである、光陰矢の如しとはよく言ったもんだ。

 

何となく感慨深くなって頷いていると、フェイトは俺から視線を外し本棚の探索を再開。何冊も並んでいる同じような内容のガイドブックを見比べ始める。どれも変わらんと思うのは俺が実行動派だからだろうか。さて。

 

まぁ好きに悩めばいいさ。そうして俺も目的のブツを手に入れようと歩き出した――――ふと思うところがあり、振り返る。

そういやこいつらって俺を嫌ってる割にはちゃんと会話するんだよな。今だってあれだけ「いやらしい痴漢さんみたい」とか表現してた俺を視界に入れる場所に立ったまま逃げずに立ち読みしてるし。三次元の考える事は良く分からん。

 

少しばかり気にはなったが……まぁ別段それ以上の興味は引かれない。俺はそのまま彼女を素通りして階段を上がり、本屋のある複合ビルの上階にあるメロンブックスっぽい店に移動。

暖簾をくぐった瞬間店員が何やら困惑した目で見つめてきたが、それ以上の接触は無かった。堂々としていれば意外と声をかけられないものなのだよウフフ。

……流石に会員カードまでは作れないため18禁系のアレソレをレジに持っていくと弾かれるけどもな。畜生。

 

ともあれ、そうして通販では在庫無しで手に入れられなかった同人誌(非エロ)を購入し、ホクホク顔で一階にある本屋まで戻る。そうして通り道の店内を通り抜ける際に再びすれ違えば、フェイトは未だうんうんと唸っていた。

どうやら二冊までは絞れたらしいのだが、どちらも良い感じにガイドしてくれているらしく決めきれないらしい。二人(冊)の間でフラフラするたぁビッチな奴め! どうせなら俺のように胸を張ってハーレムを狙え!

 

欲しかった同人誌をゲットし上機嫌だった俺は、上がったテンションのまま悩むフェイトの手からガイドブック二冊を奪い取りレジに直行。両方共買ってやる事にした。

後ろで何やかんや騒いでいるフェイトを無視して紙袋に入れられたそれを投げ渡してやれば、彼女は何とも形容しがたい表情で頭を下げ、お礼と共にポツリと一言。「もしかしたら君はいやらしい痴漢さんでは無く、いやらしい漢さんかもしれない」何言ってんだお前は。

 

そうして頓珍漢な事を言い出したフェイトとギャースカ言い合いつつ別れ、マンションに帰宅。煎餅をボリボリ齧りつつ同人誌を堪能したのであったとさ。

 

 

……にしても。フェイトと、同人誌か。うにで種な人はこの世界では何を描くんだろうなぁ……。

 

 

◎月 ◎日

 

 

最近ぬか漬けが美味しくて仕方がない。

 

いやスーパーで糠床セットが売ってたんで興味本位で買ってみたのだが、思いの外良い感じでハマってしまったのである。

程良いしょっぱさと独特の風味と食感。そのまま食べても炒めても美味いし、醤油や七味をかけると尚グッド。逐一かき混ぜないといけないのが割と面倒ではあるが、アニメ見ながらやってれば苦にもならないし、いや良い買い物をしたもんだ。うん。

 

漬ける野菜はきゅうりに白菜にナスにオクラ、個人的には山芋なんかも結構好きだ。あのシャリシャリ感とねっとり感は他の漬物とは一線を画す魅力を持っている。

更に醤油を一垂らしして白米と一緒に食べると最高だ、とろろを想起させ幾らでも箸が進んで止まらない。まぁお茶漬けや炒め物等に出来ないのが少し残念だが、それを補って余りある美味しさだ。

 

炒め物といえば、白菜の漬物をチャーハンに混ぜて食べるのも良い。以前より刻んだ梅干を入れたりして作ってはいたが、それとは別種の酸っぱさがいいアクセントなるのだ。

それに加え、俺はそのチャーハンに梅昆布茶をかけて変則的なお茶漬けにして食べていたりする。これがまた食欲を掻き立てて美味いんだ、幾らでも食えるね。

 

まぁそれもこれもアレだな。俺の格好良さのおかげだな。糠をかき回す際に俺の手から何かが染み出しているんだろうな。ウフフ。

だって美味とは「美しい味」と書くのだ、ならばそれは俺の味という事だろう? フッフッフ、さぁ我が身の美しさを吸って更に美味しくなるが良い――――!

 

……などと半笑いになりつつ、俺は今日もニチニチと糠床を掻き回すのであった。

 

 

ちなみに、作った漬物を俺の家によく来る面子にお茶菓子として出した所、約一名から「ババ臭ぇ」との評価を頂いた。

そんな事言うアホンダラにはあげません! と漬物の入った器を下げようとしたら「不味いとは言ってねぇだろ」とチートを超える力でガッチリ抱え込むように死守された。美味いなら美味いと正直に言えという話である。ぷんぷん。

 

 

◎月 ◎日

 

 

さぁ修学旅行だ。

日程は去年の臨海学校と同じく二泊三日。バスと電車を乗り継ぎ奈良と鎌倉を回る、修学旅行としては定番のコースである。

 

一日目と三日目は教師に連れられての名所見学となるが、二日目だけは班で分かれての自由見学となっている。当然事前に班分けがなされる訳だが、今回は男女混合での班分けとなった。

男子と女子で別々幾人かのグループを作り、後にそれを超融合。最終的に8、9人程度の班を錬成させるのである。

 

俺としては今回はオリ主と組むのは止めておく事にした。男女混合という事ならまず確実に原作メンバーは奴と組もうとする筈だし、そこに俺がくっついていたら当然喧しい事になるからだ。のほほんと観光したい俺にとってそれは余り好ましい物では無い。

となるとオリ主の班には別のモブが組み込まれる事になるだろうが……まぁ頑張ってくれとしか言えんわな。精々ハーレム横目に肩身の狭さを感じながら友情を育んでくれたまえ。ハハハ。

 

と、そんな感じでそこらを歩いていたモブ夫を引っ捕まえ、彼をダシにグループを作ろうかと考えていたのだが――――ガチリ。突然オリ主が俺の腕を引っ掴み、気付けばあれよあれよと言う間に何時もの面子での班が結成されていた。なんでやねん。

 

え? お前達それで良いの? そんな疑問に満ちた目を向ければ、原作娘達も各々ブチブチ言いつつ俺が班に入るのが当然という意見で纏まっていたし、意味が分からん。お前ら俺を嫌ってんじゃなかったんか。

しばらく疑問符を飛ばしていた俺だったが、メガネっ娘が最早定位置となった俺の隣で嬉しそうにしていたのを見て「まぁいいか」と流されてやる事にする。お互い納得しているのなら、これはこれで気兼ねしなくて楽だしね。

 

 

で、迎えた修学旅行当日。学校ではなく直に海鳴駅に集合した俺達は、電車に乗って奈良方面へと旅立った。

 

おそらく二日目の自由行動の練習なのだろう。その際最初に自分で切符を買う、というイベントが挟まった。まぁ移動には電車を使う事もあるだろうし、教師達の粋な計らいと言っても良いんじゃなかろうか。

俺やオリ主がサクサク切符を買い終えるのとは裏腹に、殆どの奴が券売機の前で戸惑っていたのが微笑ましい。電車の中でその事を話題に出せばアリサが噛み付いてきたが、それは墓穴というものであるフフフ。

 

とにもかくにも電車は進む。俺は窓の外に流れる景色を眺めつつ、ウノをしたりトランプをしたりする原作メンバーを横目にイナズマイレブンをプレイ。旅行の席で無粋だって? 知らんなこれが俺である。

どの程度の技なら俺でも再現できるかなーと思いつつカチカチやっていると、後ろの席でなのはの叫び声が聞こえてきた。どうも大貧民でドンケツになったらしい。「やーい貧乏人」と半笑いで声をかければ、何故か俺も無理やり強制参加させられた。藪蛇でござる。

 

フフフ、良かろう。命と人生を代償にマジモンの金持ちとなった俺の力を思い知らせてくれるわ! そう言って意気揚々と勝負に臨んだ俺だったが、結果は平民。富豪にも貧民にもなれない何とも中途半端な地位だったが、まぁこれはこれで俺らしい。そう拍子抜けしつつ妙に納得した俺であった。

……ちなみに、大貧民の地位はオリ主に落ち着いた。それに関しては全員一致で「あぁ~」と納得の声を漏らし、オリ主の面倒臭さゲージを急上昇させる事態になったのだがまぁどうでもいいやな。

 

 

そんなこんなで目的地である奈良に到着。電車からバスに乗り換え、奈良公園へ。教師に引っぱられ、旅のしおりを片手にぶらぶら園内を歩き回る。

荒池園地だとか正倉院だとか依水園だとか、趣深い風景を見学。この日のために購入し改造を施した虹野さんデジカメをフル稼働し、景色を写真に収めていく。後でPCのデスクトップにでも設定しよっと。

 

いやそれにしても綺麗である。時期が時期だけに紅葉も鮮やかで美しいし、見ていて心が癒される。やはりこういった自然物に関しては三次元の方が良い感じだな。

うんうんと頷きながら風景を堪能していると、俺の後ろを付いて来たメガネっ娘がちょっと疲れたような表情を……ん? 何か前にもあったよなこんな事。

 

あまり死ニコルアバンが好きじゃなかった俺は会話イベントを省いて彼女を射出させ、今蘇る根性合体。記憶に残るあの頃より密度の増した感覚に思わず「成長したなぁ」ポロっと零した所、彼女は俺の美しい髪に顔を押し付けか細い声を上げたまま動かなくなった。

うむ、以前のように原作メンバーからセクハラだと文句を飛ばされたが、今回は自分でもそう思う。仕方がないのでおんぶに方針転換し、残りの道をてくてく歩いたのだった。いやごめんねぇ。

 

 

そうして昼食を摂った後。しばしの間自由行動の時間を与えられた俺達は、各々好き勝手に動く事にした。

と言っても流石にこのような場所でヤンチャをすれば周囲にえらい被害が出る事は想像に難くないので、チートは用いないように留意する。

 

ユーノくん、君の説教は俺の中で生きているよ。晴れた空にフェレットの笑顔(存命中)を浮かべつつ石畳に腰掛け、のたのた近寄ってくる鹿にエサを放り投げ、まったりと時を過ごす。

エサは勿論かの有名な鹿せんべいだ。売店で売ってた物を買ってきたのだが、この辺の鹿って金払ったら寄ってくんのな。店売りの商品には手を付けない所を見ると、随分調教されているようだ。全くやーらしぃんだから。

 

そんな事を呟きつつせんべいを高く上げ鹿にお辞儀をさせていると、遠くの方ですずかが鹿に集られ曼荼羅が展開されている姿が目に付いた。何やってんだアイツ等。

まぁすずかって変換すると鈴鹿って一番先に出るし、相性は良いのかもしれん。もしかしたら野生の勘で夜の一族的なアレコレを感じ取っているのかもなぁ。はよせんべい寄越せと催促する鹿の角につつかれながら、そんな事を考察する。

 

はいはい分かった今やるよ。上げていたせんべいを鹿に差し出せば、それはそれは美味そうに齧り付き、噛み砕く。

……そんなに美味しいのかね。興味が湧いたので試しに齧ってみれば…………うん、まぁ。不味くはない、が、美味くもない。やはり鹿専用だな。

何か体に悪い気がしたので、チート胃袋を稼働させ無理やり消化させた。この体は大抵の毒物なら問題なく分解できるので、腹を下す事も無いだろう。俺は口内に残った米糠の味を流すべく、自販機を探しに歩きだした。コーヒー飲みたい。

 

 

奈良公園を離れたた後も一つ二つと観光地を周り、鎌倉方面にある宿泊ホテルに着いた時には既に夕方となっていた。

鎌倉という地にぴったりの和風テイストなホテルである。俺達に割り当てられた部屋も畳の敷かれたそれなりに広い部屋で、屏風とかツボとか置かれていて中々良い雰囲気だ。

 

もしかして漫画みたいに掛け軸の裏に隠し通路でも無いかなーと散策をしている内に、いつの間にやら夕食の時間。そうして教師に連行された先、大きな宴会場で出された何か高そうな和食にテンションの上がる事上がる事。そらもう隣に座ったオリ主とすげぇすげぇ言い合いつつ夢中でモグモグである。

特に漬物が美味しく、これを作ったものは俺より少し下くらいの美しさに違いあるまいと確信したね。まぁ三次元の範疇は出ないだろうがな!

 

ともあれ夕食が終わり、入浴タイム。去年のように突き落とされるのも嫌なのでさっさと入り、部屋に戻った頃にはもうそろそろ六時になろうかならないかという時間だった。さぁ六時アニメの始まりだ。

今回の作品はソウルイーターっぽい何かである。同室のモブ達に反対されるかとも思ったが、結構見ている奴も居るようで特に問題も無く出張版アニメ鑑賞会を開始。

 

いやー阿修羅って何度見ても気持ち悪いなぁ。お前らもそう思うだろと同意を求め振り返れば、オリ主含めた全員の視線が俺に注がれていた。成程、お前らは喧嘩がしたいんだな。いいだろういいだろう。

 

……しかし、まともに戦えばオリ主に一撃でノされてしまう。さてどうしたもんか。

そうやって悩んでいると、ソウルイーターのEDが流れてきた。画面に映るマカ達の踊っているかのような映像と軽快なリズムを聞いている内に――ピンと来た。そうだ、俺の土壌であるダンス勝負なら負けんぞ!

 

俺は意気揚々と着ていた浴衣を脱ぎ、美しい肉体を誇示させつつスペースチャンネル的ダンスバトルで勝負を仕掛けた。ノされた。

まぁ何とか気絶はしないで済んだが、そりゃないだろう。もうちょっと乗ってこいよお前さぁ。そう文句を言えば帰ってくるのは「面倒臭ぇ」ふざけんな。

 

お前なんてなのは達に構い殺されてしまえば良いのだ。そうブチブチと呟きつつ、その後も花札やらオセロやらで騒いで一日目の夜は更けていったのだった。

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

二日目の朝。

 

いやにスッキリとした目覚めのまま挨拶をしたのだが、誰一人として返事は帰ってこなかった。見れば他の奴らは皆熟睡しているようで、畳に並べられた布団イモムシ共が規則正しく寝息を立てていた。

時計を見れば早朝4時半。どうも俺は旅行先だと早起きになるらしい。

 

無理やり起こすのもアレなので、去年と同じく朝散歩に行くことにしよう。俺は瞬時に私服に着替え、ベランダの鍵を開けて街中に飛び出した。

やはり観光地というべきか中々に風情のある街並だったが、所々普通にコンビニが立っているのが結構シュールだ。まぁ人が住んでいる以上当たり前なんだけども。

 

せっかくなので、昨日チートを使えなかった分全力で建物渡りをしてみた。スパイダーマンのように屋根から屋根へ飛び移り、空中の高い場所から街中を見下ろす。

……うむ、ここから見るとやはり寺や自然豊かな公園といった観光名所が多々あるんだな。その壮観に大変満足した俺は、さっき見かけたコンビニに寄って同室の奴らにアーモンドチョコを買ってってやった。

 

俺と違ってお前らは小遣い限られてるもんなぁ、いやぁ俺ってば優しすぎてやんなるわァ。そう言ったら大顰蹙を買ったのだが、何故だろう。まっこと三次元とは奇っ怪である。

 

 

まぁとにかく朝食も済み、ホテルの従業員に別れを告げていざ鎌倉へ。バスに乗って鎌倉駅前まで移動し、そこから班ごとの自由行動に移る。

午後4時までに宿泊先のホテルに辿り着きさえすれば、どこに行っても構わないそうだ。まぁ俺はどこでも楽しめる自信があるので、予定組みは原作メンバーとメガネっ娘に丸投げをしたのだが……はてさてどこに行く事やら。ワクワクである。

 

あっちへキャーキャーこっちへキャーキャー、キョロキョロと落ち着きの無いアリサを先頭に鎌倉の街中を歩く。まるでテンションの高い外国人観光客みたいだ、いや実際そうなのか?

 

ともあれやっぱり朝散歩した時も思ったが、表通りから裏通りまで趣のある場所が多いね。ただ歩いているだけで和んでくる。

のんびりだらだらまったりと。当然の如くメガネを伴いつつ、前方を進む賑やかな連中の声を聞き流しながらのたのたと進む。多少遅れても俺なら一飛びで追いつけるので問題あるまい、それより景色を楽しもうぜ景色を。ウフフ。

 

そんな感じで各々好き勝手に散策していると、第一の目的地であるらしい円覚寺に到着。美しい景色の心奪われつつ、広い土地の中をデジカメ構えて練り歩く。

鮮やかな赤や黄色に染まる紅葉も池の流れも大変によろしく、俺も心の赴くままに写真をカシャカシャ。あ、そういやここって撮影大丈夫だったっけ? 不安になったものの、フェイトの広げるガイドブックには商業に利用しない限りOKと書かれていたので問題なかろう、多分。

 

その際後ろから覗き込まれたフェイトが俺の淫靡魔力に当てられ「ぞわっとくる、ぞわっときたよ」と鳥肌を立てていた気もするが、まぁ些細な事だよね。あー、和むわぁー。

 

そうして俺がカメラマンになって記念写真を撮ってやったり、班全員で薬師如来に手を合わせたり。それぞれ十二分に堪能した上で俺達は円覚寺を後にし、東慶寺、浄智寺、鶴岡八幡宮と目的地を順繰りに回っていく。

どこもかしこも静かな雰囲気の漂う落ち着いた場所で、日本の心やら和の何たらとか、とにかくそういった物が何となく理解できたような気がした。いやぁ、自分で言うのもなんだが絶対理解してねぇよなこの言い方。ハハハ。

 

……そういえば、俺の会った神とかはこういったお寺に祀られてるような存在だったのだろうか。でも何か根本的に違う存在っぽい気がする。

正観音菩薩立像、三世仏坐像と続けて拝んでいる内にそんな事を考えたが、まぁ答えなんて出ないんだろうな。とりあえず転生仏神とかそんな感じで済ましておこうと鎌倉丼を食べつつ思う。次は二次元で頼むよ神様。

 

 

ともあれその後も明月院や江ノ島など様々な名所を見て回り、途中の小町通りの道がすらにも土産屋を何軒も梯子した。五人娘どもが寄り集まって騒いでいるのを尻目に、俺も鳩サブレーを始めとした銘菓類を気の向くまま片っ端から買い込んでいく。

するとその姿を見ていたオリ主がぽつりと「お前ってスネ夫みたいだよな」とか漏らしくさりやがった。いやどうせなら花輪くんの方にしろよ、あいつアレでもイケメン設定だった筈なんだから。

とりあえずその言葉に乗ってやり、「しょうがないなぁ全くのび太は、ほれ貧乏なお前に一つプレゼントしてやるよ」と裏声で宣いつつ「ハーレム万歳」と書かれたTシャツを渡してやれば、奴は「天狗」と書かれたTシャツを渡してきやがった。おぅ表に出ろダンスバトルだ。

 

光の速さでノされた後、他にも漬物かなんか無いかなーと土産屋の店内をウロウロしていると、木刀が売っているのを見つけた。こういうのって京都じゃなかったっけ、疑問には思ったが記念に一本購入。ベルトの横に差し込んでサムライ気分を味わった。

後はAI入ったガントレットがあれば完璧なんだけどな。そうだオリ主ちょっとお前のデバイス貸してくれ。いや四角形じゃなくてね。

 

そうしてグダグダやりつつも時は過ぎていき――――そして、気が付けば午後三時を回った所。もうそろそろ今日のホテルへの移動をしなければならい時間帯となっていた。

 

五人娘はまだまだ見て回りたいと後ろ髪を引かれている様子だったが、流石に半日ずっと騒ぎっぱなしは疲れたようで、口数が少なくなっている。メガネなんぞ今にも寝てしまいそうで誰かに寄っかかっていなければ進めない程だ、体力ねぇなぁ。

 

また今度個人で旅行に来ればいいじゃないの。俺とオリ主がそう宥めれば、今度は家族やユーノやヴォルケンリッターと一緒に来ようという話になり少なかった口数が復活。きゃいきゃいと楽しげに先の予定を話し始めた。

……しかし、何でナチュラルに俺も旅行メンバーに入ってるのだろうか。まぁ別に構わないっちゃ構わんのだけれども……何、喜ぶ所なのかしら、ここ。

 

さておき。そんなこんなでホテルへの道を歩む俺達だったが、少し時間があるという事で最後に行きがけにある土産屋に寄る事に。

当然俺も意気揚々と突入し、興味の惹かれたものを購入。ホクホク顔で店から出てみれば――店前のベンチで待っていたメガネっ娘が居眠りをしていた。仕方ないので無理やり背負ってホテル前まで持ってってやる事にした……のだ、が。待っても待っても他の奴らが出て来ない。

 

もうすぐ時間だぞ何やってんだよと店内を覗いてみれば、最後の土産選びという事で気合が入ってしまったようだ。皆騒ぎつつも真剣な表情で、まだまだ時間がかかりそうである。

……メガネっ娘と先にホテル行ってっかなぁ。腕時計を見ながらそんな事も思ったが……まぁ、別にいいかと思い直す。

 

――心落ち着く鎌倉の街を照らす、穏やかな夕日。軽い疲労と荷物の重みを感じながら眺めるそれもなかなかにオツなものであり、遅刻で怒られる程度なら別にいいかという気分になったのだ。

 

ああ、収まってる収まってる――――そうしてベンチでのんびりと夕日の鑑賞をしていると、ようやく時間の事に気がついたのか慌てた様子で五人娘が飛び出してきた。おお、おかえり。

 

「何で教えてくれなかったの!?」知るかよそんなん自分で時間管理しときなさいよ。理不尽に飛んでくる文句をテケトーに流しつつ、俺は一足先にメガネっ娘を背負って走り出す。途中で起きたかな、まぁいいや。

直後に後ろから幾つもの急ぎ足が聞こえて来たが、はてさて間に合うかね。そんな感じで二日目は慌ただしく終了したのだったとさ。

 

……まぁ結果としては五分ほど到着が遅れたものの、予定時間を指示した教師自身が遅刻したというオチがついた。当然怒られるはずも無く、なのは達は心底ホッとしたようである。

 

 

 

 

で、ホテルだ。

 

今回の宿も前回に引き続き和風テイストの物で、畳に襖に掛け軸と要点を抑えた部屋作りとなっていた。やっぱこういうの良いな、俺のマンションもちょっと内装変えてみるかね。

 

早めの夕食、入浴とつつがなく事が済み。お待ちかね昨日と同じくアニメ鑑賞会へ……進みたかったんだけどな。流石に6年男子できらりん☆レボリューションっぽい何かを見ていた奴は居なかったらしく、強烈な反対意見に流され鑑賞会は中止となった。ぐっすん。

幸いホテルのロビーにある誰も居ない待合室にテレビが設置してあったので、ちょちょっとチャンネルを弄りそちらで見る事にする。まぁ家に帰れば録画はしてあるんだけどさ。直で見たい複雑なオタク心といいますか、分かりますでしょ?

 

そうして柔らかいソファに身を沈めつつ、きらりがアイドルとしてブンチャカしているのを見ていると――何時の間にか、隣に誰かの体温を感じていた。それが誰の物かなんて姿を見なくても分かり切っているので、視線をやらないままにのんびり会話。

すると何でも今現在男子部屋に女子連中で遊びに行くベッタベタなイベントが発生しているらしく、途中で俺を見つけたコイツはこっそり抜け出してきたらしい。

 

……となると、うーむ。きらりん☆レボリューションは終わったのだが、今戻ったらアレだよな。色々と騒がしくなってる最中だろうな。時計をちらりと見つつぼんやりと思考。

じゃあ、もう少しここで時間を潰してから戻るかね。特に良く考える事も無くそう決めた俺は、次に始まったロンブーの怪傑!トリックスターを惰性で二人、鑑賞する事にしたのだった。スキバラはガレッジのが一番面白かったよなぁ。

 

 

その後、ドラえもんとクレヨンしんちゃんまで見終え割り振られた部屋に帰ってみれば、グチャグチャになった布団と汗だくの男子諸君の姿があった。

多分騒ぎすぎて教師でも見回りに来て、慌てて隠れるなりなんなりしたんだろう。まぁラブコメにありがちな展開だよね。GSにもあったよ。

 

俺は鮮やかなテンプレに一種感動さえしつつ、部屋中の窓を開けて換気。そうしてチートの応用で一瞬で乱れた布団を直し、悠々と学園天国パラドキシアを開いて寛ぎ始めた。

…………視界の隅に黄昏ているオリ主の姿が見えた気がするが、おおっと六千六百六十六堂院選手は美麗にこれをスルー。見ないふりして黒花子さんに萌える事に務めるのだったとさ。

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

 

次の日の朝。ホテルを出発した俺達は再び奈良公園に訪れた後、海鳴市へ帰宅の途についた。

 

奈良公園では初日と違い最初から自由行動を言い渡され、気ままに園内の散策を楽しんだ。とは言ってもバスの周辺を彷徨いただけなのだが、まぁ俺はどんな場所でもぶらりぶらりと適当に歩けば結構楽しい気分になれる人なので割と有意義に過ごせたと思っている。

いやはや、数年前なら絶対家でゲームやら何やらしている方が良いと答えていた筈なのに、随分と安上がりになったもんだ。いや家のグッズの総額はとんでもない事になってんだけどな、ウフフフ。

 

にしてもまぁ楽しかったなぁ修学旅行。海鳴駅に向かう電車の中でデジカメで撮った写真を眺め、ここ数日の記憶を掘り起こしほっこり。

そうしてなのは達に目を向けてみると、座席の背もたれに体重を預けぐっすりと眠っているようだ。無理もあるまい、話では夜中遅くまで起きていたみたいだし、いい加減電池が切れたんだろう。

 

 

「…………ふむ」

 

 

肩にもたれ掛かる重さを感じながら、ため息一つ。頬杖を突き窓の外へと目を向けた。

視界に映るのは、後方に勢いよく流れていく街並みや森の姿だ。俺のチート眼球には小さな看板の文字一つから葉の葉脈まで事細かに見る事が出来――――それを認識する度に、何やら寂しい気分になってくる。

 

……そうだよなぁ、もう小学生も終わりなんだよなぁ。何かゲームばっかりしていたような気がするね。

 

殆どのイベントも消化し、残るは卒業式だけ。ついこの間入学したばかりだと思ったのに、いつの間にやらもうこんな時期だよ。ビックリする程山も谷も無かった六年間だった。まぁ後悔は無いんだけども。

 

俺はとりあえず義務教育の期間である中学までは学校に通うつもりでいるが、聖洋の中等部は男子校と女子校に分かれているんだよな。もう会わないなんて事にはならないだろうが、それでももうこいつら全員と一緒に学校イベントをこなす事は無いだろう。

そう考えると何かしんみり。今この時にも過ぎる一分一秒がとても貴重な物に思えてくるから不思議である。

 

「……ハイハイハイハイ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ! 修学旅行は帰るまでが修学旅行ですからねッ!」何となく焦った俺は手を叩きながら喧しく騒ぎ回り、せっかくの修学旅行に寝ているボケどもを叩き起こした。

原作メンバーやオリ主は安眠を妨害された事にご立腹のようだったが、そんな事知らん。昼寝なんて15分だけでいいんだ、それだけ寝れば午後はスッキリと動けるようになるんだから。

 

ともかくいいから起きて俺の相手をしろタコ! ほれトランプか!? ウノか!? 人生ゲームか!? 何でも良いから何かやるぞアホンダラ!!

ギャースカギャースカ、どったんばったん。俺は無駄にデジカメのシャッターを切りながら、ともすれば寝そうになる奴らを鼓舞し、抓り。無理やりテーブルゲームに参加させる。

 

当然その内容なんてゲームとして成立しない程にグダグダなものだった訳だが、一先ず寂しさは払拭された。そうだよ、これで良いんだ。

オリ主のガチパンチを必死の思いで避けつつ、俺はひっそりと満足感を抱き。列車が海鳴へとたどり着くまでの数時間、何時ものように何時もの面子で何時もの諍いを続けたのだった――――

 

 

◎月 ◎日

 

 

――卒業式、である。

 

 

今日この日を持って、俺達の小学校での生活は終わりを告げる。ガキ目児童科からクソガキ目少年少女科に分類されるようになり、中学生という一つ上の段階へステップアップするのだ。

六年間慣れ親しんだ学校にもう通えなくなった。それを思うと、俺のような不良生徒でも少しばかりおセンチな気分になるね。窓だけじゃなくてもっと昇降口も使ってやりゃ良かったかな。

 

ともあれ何時も通りに登校した俺達は、少しの注意を受けた後体育館へと移動する。そうして校長の長話、卒業証書授与、在校生の祝辞に生徒会長たるアリサの謝辞――完璧に、一部の隙もなくカッチカチに形式張られた卒業式を終え、最後のホームルームを教室で行った。

 

担任の教師が涙を浮かべながら一人一人に祝いの言葉を告げ、卒業証書の入った筒を渡していく。ある生徒は自信を湛えながら、ある生徒は笑顔で、ある生徒は泣きながら受け取り、何処か神妙な雰囲気が教室内に広がっていく。

それはモブよりも理知的で強靭なメンタルを持っている筈の原作メンバー達も例外ではないようだ。アリサもすずかもなのはもフェイトもはやても皆が皆教師からの励ましの言葉を受けて、感慨深げに卒業証書を握り締め涙と共に微笑みを浮かべていた。

 

……果たしてその胸中にはどのような思いが渦巻いているのだろう。まぁ少なくとも「問題オセロがよく卒業できたなぁ」と言われた俺とオリ主よりは綺麗な心持ちだろうな。絶対。

つかオリ主の黒髪はともかくとして俺のコレは銀髪であって白髪じゃないんだっつーの。せめてシルバー&ブラックで銀黒コンビとかさ。全然関係無いが過去編のアルゴノート格好良かったよなぁ、全体としてはユグドラッグ編が好きだったけど。

 

ともあれ、そんなこんなで卒業式はその殆どの日程を終了し、校庭での解散となった。

そうして下級生のモブ共が作った花のアーチを潜る俺の胸裡には割と大きな隙間風が差し込む。あーあー、もう卒業しちゃったよ本当に。別に俺の生活には大きな変化なんて無いだろうけど、何かねぇ。

 

全てのアーチを通過し、校門に寄りかかり大きな溜息を吐く。視線の先には保護者の面々と喜び合うモブの姿だ。前世含めて親と笑いあった経験が無い俺にはどうでもいい光景ではあるが、ああいうの見てると改めて全部終わったという感覚が湧いてくるなぁ。

そしてその中には原作メンバーは勿論メガネっ娘の姿もあったりして、微笑ましいやら寂しいやら複雑な気分である。

 

 

……何時までもこうして浸ってても意味無いか。大体卒業なんてもう何回もときメモで経験してきたしね、今更だ今更。さっさと帰って誕生でもプレイした方が有意義だ。

そう自分に言い聞かせ、卒業証書の筒をポンポコ言わせながら帰ろうとして――――ガチリ。背後から肩口を強く掴まれた。

 

擬音から誰か確信しつつ振り向けば、そこに居たのはやっぱりオリ主だ。彼は何時もの面倒そうな表情で、万力の様な力で持って俺の方を締め上げている。肩痛いんで離してくれぃ。

 

しかし彼は身を捩る俺を気にする事無く、クイッと顎を背後に振る。体をずらしてその先を見れば――多分アリサかすずかの家の物だろう。如何にも金持ち然としたリムジンが道端に駐車していた。

だから何だと疑問符を浮かべる俺を他所に、オリ主は肩を掴んだままズカズカと進み。件のリムジンに躊躇無く俺を放り込んだ。いや本当に何なんだよ一体。後から乗車してきたオリ主に話を聞いてみると、これからアリサの家で身内だけの卒業パーティを開くから一緒に来いとの事らしい。

 

……まぁ別に良いんだが、それって俺が参加しても良いの? もし原作メンバーの家族までパーティに参加するんだったら、高町一家とか俺の淫靡魔力でちょっと物騒な事になると思うが。

こっそり逃げる用意をしつつそう問いかければ、奴は超面倒臭そうな目をして「俺もちょっと気まずいんだよ」ああ成り行きとは言えハーレム作ってますもんね、そりゃ親御さんからはねっちりした目で見られるでしょうよ。

 

しかも「お前が居れば多分俺は目立たないしな」なんて言っちゃってくれやがりまして畜生結局は避雷針仲間が一本欲しかっただけかよ! ええいこんな所に居られるか俺は帰るぞ! 

フラグを吐き捨て車の外に飛び出そうとすれば、オリ主は俺の腰元にガッチリ腕を回して「逃げられない!」の姿勢。やめろ離せボケナス! 針のむしろには一人で座れ!

 

そんなこんなでギャーギャーやっていると、アリサ、なのは、フェイト、メガネっ娘とそのご家族達が乗車してきた。すずかとはやてが居ないようだが、あちらはあちらで大人数になるようなので別々に向かうようだ。いや今はそんなのどうでも良くてだな。

 

うぬぬ、今まで面識の無かった高町父母、バニングス父、リンディっぽい人の「いやらしい子が居る……」といった視線が痛い事痛い事。加えて隣でホッと一息ついてるメンドクサ怪人がイラつく事この上無い。

助けを求めてアリサに視線をやれば――彼女達は意地悪そうな笑みを浮かべて鮫島っぽい人に出発を促した。ひっでぇ奴らだよ本当。

 

……まぁこうなった物は仕方がない。パーティというからには何か美味いものでも出るだろうし、せいぜい堪能して帰るとするかね。俺は話しかけてくるメガネっ娘の両親に応対しつつ、心中で腹を決め。初めてのバニングス邸にドナドナされていくのであったとさ。

卒業式の感慨もまぁどこかへ消えちゃって、せっかくのアンニュイな雰囲気がぶち壊しである。でも何でか半笑いになっちゃうのが悔しかった。畜生フフフ。

 




マテリアルズは、主人公の知らない内にどこぞの姉妹に連れられて異世界に旅立ちました。


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七年目

⊂月 ⊂日

 

 

今日から俺も中学生である。

 

流石私立校というべきか、中等部における制服はスタンダードな物では無く、聖祥独自の物と思われる白一色に濃紺のアクセントが入った詰襟制服である。こんなんまどマギでしか見た事無いぞ。

着るのにも結構勇気が要りそうなシロモノであるが――まぁ俺は超格好いいので完璧に着こなす事が出来た訳だ。部屋の姿見の前でポーズをとってみたのだが、バイオリン少年なんぞ目じゃないくらいに格好いいな俺、ハハハ。

 

……しかしこれは俺だからこその結果であって、他のモブ達はそうではあるまい。幾ら髪の毛の色とか結構カラフルな奴が多いといえど、普通の三次元連中には荷が重いんじゃないか?

もしかしたら中学のクラスはなかなかシュールな事になるかもなぁ。そう思ってちょっとワクワクしながら入学式に臨んだのだが……意外や意外。割と違和感の無い絵ヅラに収まっていた。

 

流石に坊主頭のゴリラっぽい男子生徒は多少違和感があったものの、それでもどこか精悍な雰囲気を引き立てている気がする。そりゃ違和感が激しかったら制服に採用されないよな、どこか拍子抜けしながら一人で納得。

特にここに来てもまーだ一緒のクラスだったオリ主の似合う事似合う事。彼自身はザ・平凡といった風の容姿なのだが、返ってその無個性さが制服の気品さを引き立て無駄に清潔感が溢れる感じになっているのだ。性格から考えれば爆笑モンである。

 

そうして式が終わり、割り振られた教室に移動。今後の事に思いを馳せる。中学校か、この男だらけの園ではどんな日々が待っているのだろうね。とりあえずゲームとアニメ漬けなのは変わらないだろうけど。

というか今年の年末は待ちに待ったときメモ4の発売だ。加えてラブプラスも発売されるし、年の後半はギャルゲー的に充実した日々になる事は確定しているかな。いやー楽しみだなぁ。

 

その輝かしくすんばらしい未来予想に半笑いになっていると、やがて始業時間になり教師が現れた。そうして軽い挨拶が終わった後にホームルームに入り、自己紹介タイムへ。

……ちらり。隣を見たがそこに居たのはさっきも見た坊主頭のモブだった。少し迷ったが、とりあえず気にせずに読書を続ける事にする。

 

今日の本はバッカーノっぽい何かの漫画版だ。一応設定的には小説の1931に繋がっているという話だが……まぁ雑誌休刊の煽りを受けた後付けだよな。フフフ、流石誤字から新しいキャラや設定を生み出す作者さんだけはあるという事だろうか、後のシリーズでジャッカローゼらしき男がちょろっと描写された時はそりゃもう興奮したものだ。

そういえばDS版1931の死亡遊戯モドキに出てきた連中も後から拾ってくれんのかな。色々と無茶苦茶なギャグテイスト溢れる奴らだったが、ジャグジーに惚れたくぎゅ声の女の子とか可愛くて良かったんだけど。

 

……と、そんな事を思っている間に自己紹介はすぐそこまで迫って来ていたらしい。前の席の奴が着席し、教室中の視線が俺へと向けられる。

 

よかろう、ならば聞くがいい――――俺は30を優に超える視線の中で勢いよく立ち上がり、胸元をはだけさせ髪を掻き上げる。そうして朝に姿見の前で研究した格好いいポーズをビシ決め、一言。

 

 

 

「――――六千六百六十六堂院ベルゼルシファウストだ。趣味はゲームとパソコンとお手玉、これからよろしくお願いしよう」

 

 

 

――――瞬間、教室内を包み込む沈黙たるや。

 

 

何というか、最早職人芸ですよね。この六年近くどんだけ同じ事繰り返してきたと思ってんだドアホウが!

教室の何とも言えない雰囲気を流し着席した俺は、隣席の坊主頭に目を向けてみる。ムッツリと目を瞑った。つついてみた。微動だにしない。

 

……やっぱゴリってる奴はダメだな、長い事慣れ親しんだ奴じゃないと。何故か心に隙間風が吹いた錯覚を感じながら、今度は小説版1931臨時急行編を読み込み始めた俺であった。

 

 

⊂月 ⊂日

 

 

中学に上がり男女別々になった俺達だったが、学校内ではともかくとして学校外で会う機会はそんなに減っていなかったりする。

そう、俺のマンションに来る面子三人はまぁ当然として、原作メンバーの奴らともちょくちょく顔を合わせているのである。卒業したら縁が切れると思ってた俺としては、そりゃもう意外だったともさ。

 

原因は卒業式後のバニングス邸でのパーティだ。あの一件より高町一家と面識を持ちそれなりに気兼ね無く翠屋に行けるようになった為、コーヒーを購入しに行った際に結構な頻度でかち合うようになってしまったのである。むしろ学校外に関しては会う機会が増えていると言っても過言では無い。

当然奴らとは顔を合わす度にギャースカ騒ぐ事になるのだが、でもこれ俺の所為じゃ無いよね。強いて言うなら俺を引っ張ったオリ主やそれを許可したアリサ達だべ。俺悪くねぇだ。

 

まぁともあれ、そんな感じで騒がしい付き合いは変わらず継続中という事である。嬉しいのかそうでないのか良く分からんなハハハハ。

 

……にしても高町一家が意外と話せる人達で助かったな、「店のコーヒー美味いっすよ!」と熱弁したのが良かったのだろうか。これからは好きな時に豆を手に入れる事が出来るようになって大変満足である。

良い香りを立て始めたコーヒーメーカーを眺めうむうむと頷き、お手玉をポンポンと回す。いやぁ実に落ち着くひと時だ。ほっこりまったり。

 

そうして来客用のカップを用意しているうちに出来上がったコーヒーを啜り――ふと思い立ち、保温ポットを持ってテレビ前のソファに陣取った。そうしてWiiの電源を入れ、アークライズファンタジアのディスクを差し込む。

今の頭が冴えて落ち着いた状態ならば、詰将棋じみた謁見の間での対鬼畜三人組戦を打倒出来るかもしれん。フフフ、ドーピングされた俺の先読みに敗れるが良い。

 

……まぁ結局は一手ミスってヤンデールの堕歌で一掃。体勢を立て直せないままログレスでこんがりローストされた訳だが。いやはや、頭の冴えには効果無くとも荒んだ心を癒す為にこのコーヒーは超有用だね、本当泣きたくなる程に。畜生。

 

ぐったりとカフェイン臭い溜息を吐き出していると、何時もの如くインターホンが鳴った。

はてさてオリ主かメガネっ娘か、俺は持っていたクラコンを放り出し相手の顔も見ないままにロックを外したのだった。まぁそんな日常である。変わんねー。

 

 

⊂月 ⊂日

 

 

マインドシーカー……っぽい何か。

最早伝説と化したクソ……いやいや、超能力者育成アドベンチャーゲームである。

 

 

未だに研究者の間でマジモンの超能力者かどうかの議論の交わされるエスパーキヨタの指導の下、透視やら念力やらサイキックパワーを開発する……らしい。

この色々な意味で妖気漂う一品を、俺、オリ主、ユーノの魔力持ち三人でやったらどうなるか。というのが今回のゲーム合宿のテーマである。うっひょうヤな予感しかしねぇ、俺ゾクゾクしてきた。雨降ってるからかな。

 

いやいやもしかしたら凄い事になるかもしれないじゃないか、最初から決め付けてかかるのは良くないぞ。うん。

如何にもな地雷臭に酸っぱい顔をしているオリ主とユーノの肩を叩き、カセットをフーフーしてファミコンにガチャコン。妙に緊張しつつ電源を入れ――――気の抜けるBGMと共に過酷極まる修行は幕を開けたのだった。

 

 

ゲームとしてはアドベンチャー形式であり、俺達三人の分身たるゆうのくん(三文字で手頃だった)が、講師たるエスパーキヨタのアドバイスを受けつつコンピューターの出題に答えていく……という流れだ。

話だけ聞くとシンプルで簡単そうに見えるのだが、これがかなり難しい。なにせ出題される内容がちょっとおかしいのである。

 

裏返しになったカードの模様を当てる、5つのランプのうち光る物だけを当てる、念力を込めてボタンを押してランプを点灯させる。これらを何のヒントも無く成功するまでやらなくちゃいけないのだ。どれもこれも完全な運ゲーじゃねぇか。

俺達も大なり小なり魔法なんて非常識に関わる人間であるが、これは流石にキツいキツい。何度も失敗し不合格を言い渡され、そりゃもうアホみたいに苦戦した。途中途中で挟まれるリラクゼーションタイムがまた良い感じにぼんやりしていて、なんか洗脳されている気分になってくる。たしけて。

 

これはもうある種の拷問じゃないのかと思わないでもなかったが、俺達は諦めずに挑戦し続けた。時間も深夜帯に突入し、何だか無性におかしくなっていたのだ。二つの意味でな!

 

ともあれ俺が身体チートに任せてボタンを連打し、ユーノが画面から某かの乱数らしき物を読み取り、眠ったオリ主を二人がかりで蹴っ飛ばし。卒業試験からPSIレベル上げまで変な笑い声を上げつつ突破。

そうして妙なハイテンションに至った勢いのまま最終試練に突入。これまで培ったエスパー(?)能力をフルに使い、エスパーキヨタの待つ扉の向こう側へと辿り着かんと決死の戦いを挑んだのだった。馬鹿か。

 

……が、そこから何度挑戦しても一向に扉を突破する事が出来ない……! 流石は最終局面であるというべきか、念力でのランプ点灯を40回中24回成功させろというアホみたいな試練が立ちはだかったのである。

 

一見すると何かいけそうな気がするのだが、とにかく当たらん。連打しても読み取っても24回目の壁がどうやっても越せないのだ。

ふと窓の外を見れば既に日は昇っており、プレイし始めてから長い時間が経っている事が伺えた。ここらがもう潮時だ……オリ主とユーノが廃人となり倒れる中、俺の脳裏にそんな言葉が過ぎる。

 

そして遂には目も霞んできて、俺自身も廃人の仲間入りしようとした――その瞬間、画面でアラームが鳴り響く。咄嗟に顔を上げてみれば、そこには大きく口を開けた扉の姿があるではないか! どうやら無茶苦茶に連打している内に何時の間にか壁を突破したらしい。

超能力ってなんだっけという疑問が浮かんだ気もするが、俺はいい子なので深い事は考えない! そんな事よりキヨタだ! 会いたかったわ一発殴らせろ!

 

訳も分からず興奮した気分の中、ゆうのくんはその扉を潜った……が、しかしそこにあったのは第二の試練。透視能力で本物の扉を見抜き、再び開錠しろとの事らしい。もう息絶えるしかないよねゲレゲレゲレ。

 

……今なら分かるぞ、この場にいる三人は同じ気持ちを抱いていると。やったねこれで俺もエスパーだ!

精神的疲労からくる無気力感でふわふわと定まらない意識の中、俺はそんな事を思いつつ意識を手放したのだったとさ。もうぜってぇやんねぇ。

 

 

 

で、後日。オリ主とユーノの魔道士としてのランクが爆発的に上がったという話を風の噂で耳にした。いやはや、これでStrikerSも有利に事が運びそうじゃないか。良かった良かった。

 

 

「…………」

 

 

…………いや、流石に関係無いよな? 俺も最近使うスプーンがよく曲がるんだが、ただ力で曲げちゃってるだけだよな? ほら、俺ってチート持ちだし。

柄の部分がぐんにゃりしたコーヒー用のスプーンを力ずくでまっすぐに直しつつ、自分にそう言い聞かせる俺だった。おいやめろよ何か怖いんだけど。ねぇちょっと。

 

 

⊂月 ⊂日

 

 

原作メンバーが海に行くらしい。

 

夏休み。クーラーの効いた室内で希望号のプラモデルを作っていると、何時も通り部屋に入り浸っていたメガネっ娘がそんな事を言い出したのだが、それを俺に言ってどうしようと言うのだろう。勝手に行ってくればいいんじゃないすかね。

もしかして小遣いの催促か? おぉ随分とまぁちゃっかりするようになって、何となく嬉しくなりながら財布に手をかけると慌てた様子で止められた。え、違うん?

 

詳しく話を聞けば、どうやら俺も一緒に行かないかと誘われているらしい。何か最近妙にフレンドリーだよなアイツ等、ちょっと背中が痒い痒い。

まぁ特に断る理由も必要もないので適当に了承しておくと、メガネっ娘は嬉しそうに微笑んだ。そうかそうか、そんなに美しい俺の水着姿が見たいのか。これはちょっとばかり気合を入れてやろうかね、ウフフ。

 

幸いにして彼女が提示した日程にはまだ時間的猶予がある。ならば俺に相応しい大胆な水着を新調してもよろしかろう――そう思った俺はすぐさまネットを回遊。水着の選定に乗り出した。

 

すると出るわ出るわ大胆な水着がもうワラワラと。大事な部分を残して全体が穴だらけになっているような物やら、変態仮面のようなパンツのゴムを肩まで上げた形状の物まで。多種多様なエロ水着がディスプレイいっぱいに広がった。

今まで男の水着なんてどれも似たような物だと思っていたのだが、こうして見ると結構色んなタイプがあるんだな。半ば感心しつつマウスホイールを回し――「……ッ!」ンズキュバッキューン! と胸を撃ち抜かれる逸品を見つけた。

 

それは所謂ボクサーパンツと呼ばれる形状の物で、通常の物とは違い二枚一組で着用するユニークな代物だった。パッと見拳銃のホルスターに見えなくもなく、非常に格好良くて心惹かれる。

……二枚一組、その意味が分かるだろうか。そう、左右の足に一枚ずつ通し、股間をクロスるように隠しつつ腰に引っ掛けるだけという色々と危なげな水着なのである。特に後ろの防御力が無いに等しい。お尻の割れ目も丸見えだし、動けばその奥のお宝穴まで見えてしまいそうだ。

 

流石の俺もこれは大胆すぎるかと躊躇したのだが……この水着ならば俺の美しさ、格好良さを十二分に引き立ててくれるだろうと踏み、一息にポチる。心臓をドッキンドッキン高鳴らせて待っていれば、翌日にはブツが到着。ちゃんと内容物が分からないよう梱包して頂きありがとうございます、ホントに。

で、姿見の前で試着していたら何かテンションが上がってきて、せっかくだから俺専用の物にしてしまおうと最寄りの業者にペイントカスタマイズまでオーダー。右足用にハイゴッグ、左足用には希望号と水棲ロボット仕様の特注水着を作り上げてしまった。いやぁ良いねぇ良いねぇ超格好いいねぇコレ!

 

まぁ本当はときメモヒロインの絵をペイントしたかったのだが、それをしたら彼女達を穢してしまう気がしてどうしても出来なかった。ああ、俺ってホント一途で純粋なんだから。

ともあれこれはこれで超気に入っている。学校の水着もこれで通そうかな。そうウキウキしつつ、俺は旅行の日を楽しみに指折り数えていたのだった。いやはや、皆にセクシーボディを晒す瞬間が楽しみである。

 

 

…………そうして迎えた旅行当日。例の水着を身に付け自信満々に砂浜に繰り出した俺だったが、女子連中にポーズを決めた瞬間に悲鳴を上げられ、直後にオリ主のニーソバットを叩き込まれ昏倒。今後の人生全てにおいて普通水着の着用を強制されるという悲劇に見舞われた。

 

俺の美しさに見合う普通水着がある物か! という魂の叫びも届く事は無く、結局は旅行中も地味な水着を着て過ごす事となったとさ。海や水族館が楽しかっただけにそれだけが残念でならん、全く美意識の欠如した連中である。

ちなみに俺専用水着は捨てるのも勿体無いので部屋に飾る事にした。すると時折メガネっ娘が俺と水着をチラチラ見比べるようになったのだが、見たいのだろうか。言えば喜んで見せてやるのにねぇ。

 

……あ? 女性陣の水着? 原作メンバーは普通に似合ってたし、メガネっ娘も普通に可愛かったんじゃないの? いやそんな事より俺の水着の話の方が重要だろうに全くどいつもこいつも。

 

 

⊂月 ⊂日

 

 

隣席の無口ゴリラ坊主が……いや、これは話す程の事じゃないか。

 

それよりもこの前とある同人2D格ゲーエンジンのトーナメント動画を見てたんだが、何とそれに俺達の作った格闘ゲームの棒人間が参戦していた。

まぁフリーのゲームとして上げてたし特に問題は無いのだが、ホームページも作りかけのまま放置していて連絡先も指定してなかったもんだから事前情報が全く無く、OPで名前とグラを見た時は目ん玉が飛び出すかと思ったわ。

 

しかもちょっと調べてみればカラーチェンジでの強さ調節が妙に細かく、1Pでのカンフーマンにも勝てない弱キャラっぷりから12Pでの鬼巫女と互角にやり会える強キャラ設定まで幅広し。更に技の種類もカオスな事になっていて物凄い魔改造ぶりだった。

元はパンチとキックと特殊技2、3個しか使えないお遊びで作ったキャラであるが、よもやこの様な形で衆目に晒される事となろうとは。

 

……何でこんなマイナーなキャラをここまで弄ったのかは分からんが、何というか、アレだな。作者的にちょっと嬉しい感じがするよな、フフフ。

この程度だったら自分で棒人間を描いた方が良いだろうに、わざわざ俺の棒人間を使ってくれるという事はそれなりに愛着を持っていてくれていると見て良いだろうし、何かこそばゆいぞ。

 

そういや、前に作ったグラ差し替え版格闘ゲーム。PCのファイルに閉まったままどこにも上げてなかったっけ。せっかくだからちょっと適当に手直しして公開してみっかな。

今度はちゃんとホームページも作って、技の種類も背景グラフィックも揃えて。ちゃんとした格ゲーの体裁を整えてみようじゃないか。おお、ちょっとワクワクしてきた。

 

そうして何やら妙に高揚してきた俺は、作りかけのホームページを完成させるべくPCに向き直った――――

 

 

……のだ、が。編集ページのパスワードを忘れて手を加える事が出来ねぇ……! 仕方なく色々と心当たりを当たってみたが、全部ダメ。こうなったら一から作り直すか、あー面倒く……さくない! 全然面倒臭くないぞッ!! 

危ないなぁ、この頃気を抜くと奴が侵食してきよる。こめかみを伝う冷や汗を拭いつつ、キーボードをヘコヘコ鳴らし始めた俺だった。

 

 

⊂月 ⊂日

 

 

ときメモGSでは、ゲームを始めるに当たり主人公の部屋の内装を決める事ができる。

 

その種類は大抵3つ、シンプルな普通の部屋、オシャレな洋風の部屋、そして落ち着く和風の部屋だ。表現の違いはやや有るものの、大体のナンバリングではこれらに限定されている。

選ぶ部屋の種類によってステータスやキャラの登場順に若干の変化が見られるのだが、まぁよっぽど効率を求めない限りは余り気にしなくても良いシステムだ。俺は気にするけど。

 

そしてときメモの血脈を受け継ぐラブプラスでもそれは例外ではない。私立十羽野高校に転校してきた主人公は、新生活を送るに当たり先述の三つの中から部屋のデザインを選ぶ事になるのだ。

俺(六堂院ベル。愛称ヘー)が選んだのは和風な部屋である。いやはや去年の鎌倉旅行よりこちら、和室というものに結構な憧れを感じてたんだよね。

 

それでまぁいい機会だったので、現実世界の俺(六千六百六十六堂院ベルゼルシファウスト。愛称漆黒の堕天使)の部屋も和風に模様替えをする事にした。ゲームの中の俺とより一層深くシンクロ出来るかもしれんしね。

 

畳を敷いたり、壁紙を変えたり、壺を置いたり、俺執筆の掛け軸を掛けたり。部屋にあるグッズの量が量だけに結構手間取ったが、チートを用いてわずか半日で終わらせた。いや本当に万能で助かるな、貰って良かった!

まぁ美少女ポスターとかフィギュアを置いているのは変わらないのだが、それを差し引いても出来上がった和室は中々良い感じになったと思うんだ。特に畳とかな。冬にコタツを出す時が楽しみで仕方がない。

 

そうしてこの模様替えを行った後、俺の部屋に入り浸る連中がそれこそ自室もかくやという勢いでまったり寛ぐようになった。そんなに畳が心地いいか。

いやそれ自体は別に良いんだけどさ、ちょくちょく私物置いて帰るの止めてくれっかな。特にユーノの異世界文字で書かれた分厚い本とか超邪魔なんだけど、さっさと持って帰れよもう。

 

まぁそれはともかくとして、俺は今日も蕎麦殻クッションに身を埋めつつ、マナカの攻略を進めるのであった。最終的には全員攻略してハーレムを作り上げる所存である。ムフッフ。

 

 

 

……後でそれを翠屋にいる連中に得意げに語れば女の敵を見る目を注がれたのだが、お前らそれ視点を変えたブーメランだって気づいてんのか?

よっぽどそう叫びたかったが、あんまり他の奴らに構ってるとリンコがいじけちゃうのでスルーさせていただいた。おーよしよし、そんなにツンケンするんじゃないよヌホホホホ。

 

 

⊂月 ⊂日

 

 

ラーメンが食べたい。

 

ときメモ4で正司と伝説を作っている最中唐突にそう思い立った俺は、湧き上がる衝動に従い下半身を飲み込んで離さないコタツからチートを使って脱出。戸棚を開けてインスタントラーメンの類を探した。

すると1袋だけ残っていたチキンラーメンを発見、他にも無いか探してみたがそれ以外には無いようだ。カップラーメンなら作るの楽だったんだけどな……。

 

少々面倒臭さを…………うん、感じねぇっつってんだべさ。我に返った俺は身体を包み込む寒さを吹き飛ばすように腕を回し、意気揚々と食器棚から丼を取り出した。

ついでに冷蔵庫から常に作って置いてある刻みネギと卵を取り出し、さぁ今まさにチキンラーメンを開封しようとした瞬間――――ピンポーン、とチャイムが鳴った。なんだよ誰だよもー。

 

少しばかりイライラしつつカメラを覗けば、そこに居たのはメガネっ娘。時計を見ればそろそろ彼女が来る時間帯だった。こりゃうっかり。

……これ、一人だけラーメン食べていい匂いさせるのも悪いよなぁ。そう思った俺は泣く泣くラーメンの用意を仕舞い込み、マンションのロックを外したのだった。腹減った。

 

そうして何時も通りの日常を過ごしていた俺達だったが、妙に萎れつつ梅昆布茶を啜る俺を見咎めたらしいメガネっ娘が何事かと訪ねて来た。いやね、ラーメン食べたいの。ラーメンラーメンラーメンメーン。

 

……まるで駄々っ子のように足をバタバタさせつつ美しく呻いていると、彼女は苦笑を一つ零し。食べたかったら食べても良いと仰って下さった。うーん気持ちは嬉しいんだけどなぁ、何か気が進まんのよなぁ。

そんなモヤモヤした気持ちを持て余しつつ、更に激しく足をバタバタバタバタさせ――――ピン、と頭の上に出現したユンゲラーがフラッシュを使用した。そうだ、一人で食べるのがモヤっとするなら二人で食べに行けばいいのだ。

 

幸いメガネの門限も中学生となった事で少しは伸びたようだし、加えて卒業式に会ったあの親御さんの様子なら夕飯を食べて帰るくらいの事は許してくれるだろう。多分。

 

さぁ行くぞメガネェ! 俺の知る中で一番うまいラーメン屋を超ご紹介差し上げてしんぜようでござ候――――!

……そう叫びつつ勢いよくベランダに続く窓を開け放ち親指を立てれば、彼女は青い顔で首を振る。えー? 嫌なの? でも早いんだぜ? 嫌? ああそう。

 

しかしまぁラーメン屋に行く事自体は嫌ではなかったようなので、メガネの親御さんに許可を取り普通にマンションを出発。どうも彼女はラーメン屋に行った事が無いらしく、どこかそわそわしていたのが印象的だった。まぁ落ち着き給えさ。

 

いやぁ、ゲーム合宿明けとかの時に良く野郎共で行くんだけどさ、特に濃厚白湯とんこつが美味しいんだ。サイドは砂肝揚げが中々……。なんて事を腹を鳴らすついでにグダグダ語りつつ、駅前にある俺行きつけのラーメン屋までのんびりと歩く。

もう暦上は冬に入っている所為か外は完全に日が落ち、凍える程に寒かった。大丈夫か、と聞けばホッカイロがあるから平気だそうだ。なーんか前にもこんなんあったよな、臨海学校の時だっけ?

 

当時の事を思い出し懐かしい気分になりながら、俺達二人はゆっくりと街の灯りに溶け込んでいったのだったとさ。

 

そうして食べたラーメンは腹が減っていたせいか物凄く美味かった。食い終わって満足しつつ隣を見れば、メガネのメガネが曇ってたんで思わず激写しちまったよ、ハハハ。

 

 

⊂月 ⊂日

 

 

……久々に、Nepheshelをプレイしたんだ。「っぽい何か」だけどさ。

 

今から6年近く前に作成されたフリーソフトなのだが、ベクターを覗いていたらたまたま見つけて懐かしくなってダウンロードしたのだ。

思えば、これが俺の初めて触れたPCゲームだった訳だ。いやはや懐かしいね、本当に。

 

全体的な見た目は典型的なツクール作品なのだが完成度が高く、独特のしっとりした雰囲気と骨太な難易度がプレイヤーを惹きつけて離さない。特に宝探し要素が楽しくて仕方がなく、当時は数時間ぶっ続けで洞窟に潜り続けたものだ。

 

キャラクターも個性的な奴らが多かった。ファル、ティララ、ディーヴァ……主人公を取り巻く三人の女の子もそれぞれ可愛く魅力的で、プログラムファイルに入っていた一枚絵をよく鑑賞していたっけ。

しかも覚醒後はチートかって位に強くなるもんだから、ボスや赤モンスター狩りやらずっと頼りっぱなしだったなぁ。時の砂を使って無理やりディーヴァのブーストを開放したのも良い思い出である。

 

……しかしながら、俺としては主要キャラでない数多くのNPC達が心に残っている。ストーリーというか、世界の探索が進む度に主人公の顔見知りである冒険者達が死んで行くのだ。

一人、また一人と。主人公は遺跡を進んだ先、洞窟を進んだ先で彼らの死に様を目撃する事となるのだが……誰も彼もが悲惨な最期だった。専用の顔グラも何もない汎用グラフィックなのだが、NPCの全員に性格付けがなされているため死亡した時の喪失感が凄まじいんだ。

 

そうして最終的には酒場に誰も居なくなってしまうのだが……もう、ねぇ。幾ら調停のオーブを手に入れてハーレムを築いていたとしても、全然嬉しくなかった。むしろ虚しさすら感じたね。

今やってもその面白さと寂寥感に陰りは無く、何とも言えない感情が胸中に渦巻いている。まぁ、アレだ。うまく言えないがとても素晴らしいゲームだという事だ。古い作品ではあるがまだ公開されているので、諸君らも是非プレイしてみて欲しい。

 

調べてみればBGM集も同人で発売されているらしく、俺は一も二も無くカートに入れさせて貰った。この作品は音楽も素晴らしかったから。

「でっでっでー、でっでっででー、でっでっでー、っでっでっででー↑」ほれ、今もディーヴァ覚醒BGMを口ずさめるぞ。いや合ってるかどうかは微妙だが。

 

 

そうだ、これは本当に面白いんだ――――そう呟いて感慨深くゲームパッドをグリグリ動かしている俺の心で、何かが熱を持ち始めた。

 

それはこれまでも何回か抱いた感覚。グツグツと煮えたぎる、何かを生み出したいという感情。所謂、俺がクリエイティブ精神と呼んでいる衝動である。

今までのようなエロが絡んだ物ではない。棒人間格闘ゲームを作った時と似たようなそれは静かに、しかし際限なく沸騰し続け。そして遂には俺の心の中にいるオリ主を釜茹での刑に処して白骨に溶かしてしまった。いやグロいグロい。

 

…………格闘ゲーム、本気でちゃんと完成させてみようかな。妙にやる気に満ち溢れた気分の中で俺はぼんやりとそう思い、同じゲーム好きとしての知恵を借りるべくオリ主とユーノに連絡を入れたのだった。

まぁ結局は各々好き勝手に意見を出し合う感じになるんだろうけど、ちょこーっと真面目に頑張ってみたくなったのだ。似合わないって? うるせぇほっとけ。

 

……ああ、それと追加グラフィックも必要だよな。後でメガネっ娘を唆しとこっと。




>プレシア
「あなたは人形なの!」とか何とか言ってしまった手前、引っ込みがつかなくなってここ三年近く家庭環境がドロっていたご様子。
裏でオリ主が面倒だ面倒だ呻きつつ説得を頑張っているらしく、サーチャーでこっそり卒業式を見て号泣したとかしないとか。やったぜフラグ増強だ!


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八年目

☆月 ☆日

 

 

中学二年生。世間やネットを始めとした様々な場所で「人生で一番香ばしい時期」と表現される学年である。

 

当然俺の教室内にもそりゃあもう香ばしい空気が蔓延している。少し右に視線をやれば「俺って異端? 俺って異端?」少し左に視線をやれば「女って面倒くせぇわー」うるせぇ面倒なのはお前だボケオリ主気取ってんじゃねぇよこのタコ。

他にもタバコも吸わないくせにライター(オイル切れ)をこっそり隠し持ってるようなタイプから、さよならを「バイにゃら」とか挨拶を変な風にアレンジしたりしてるタイプまで実に幅広い。

 

クラス殆どの連中が何かしら浮ついた言動をしており、そうでないのは俺とオリ主とついでに無口ゴリラだけだよ。俺らこそがクラス内の清涼剤だな!

……そう言ったら二人から何とも言えない表情を向けられたのだが、そりゃあ一体どういう意味だ。まるで俺が香ばしい奴みたいじゃないか、失礼にも程がある。

 

良いか、よく聞けな? だって俺格好いいんだぞ? 思い込みとか勘違いとかじゃなくて、実際に純然たる事実且つ世界の法則に基づいて運命的に美しいと決定付けられてるんだぞ。そんな俺が香ばしく在る筈がなかろう。な?

仕方なく俺自ら懇切丁寧に教えを説いてやったのだが、奴らは更に表現しがたい顔をして黙り込み終ぞ納得を示してくれる事は無かった。全く理解力低いアホはこれだからイカン。

 

 

まぁそれはともかくとして、最近俺の周りに人が寄ってくるようになった。どうも俺の格好良さに気付いた連中が現れ始めたようだ。これまでの話から言うと喧嘩を売られてるようにしか感じられんなハハハハ。

 

俺としては尊敬の目を向けてくる奴をわざわざ遠ざける必要性も感じられないので放置しているのだが……その中には「どこで染めてるの?」とか「どこのカラコン使ってんの?」とか「本名は?」とか罰当たりな事を聞いてくる輩もいて困った物だ。

これは神より直々に与えられし唯一無二の天然物であるわ! と叫んで病院からの証明書と保険証を見せれば大抵は分かってくれるのだが、その後の態度が生暖かくなるのはどうにかならんモンかね。

本当に生暖かい目で見られるのはお前らだろうに。「なぁ?」とオリ主とゴリラに同意を求めれば返ってくるのは当然生暖かい視線だし、ええい俺の味方は居ないのか味方は!

 

……俺、格好いいよなぁ? ちょっと不安に思った時もあるが、鏡を見たらイケメンが映っていたので、多分みんな嫉妬してるんだろうな。いやはや二・五次元は辛いね本当、ハハハハ。

 

 

☆月 ☆日

 

 

何だろうな、どうも最近物足りなさというか、焦燥感というか。そんな物を感じる。

 

いつも通りゲームとアニメにどっぷり浸かり充実した日々を過ごしている筈なのに、足元からジリジリと何かが迫っている感じがしてしょうがない。視線を下に向けても長い脚が映るだけだし、何だろうねこの気持ち。

スズネノセブンっぽい何かをプレイしながら片手間に心当たりを探ったが、すみれちゃんに萌えている内に薄れてきたのでまぁ大した事じゃないだろう、きっと。

 

 

それよりもコーヒーメーカーが壊れてしまった事の方がよっぽど重大事だ。「ごぽ……ごぼぁっ」とか妙ちきりんな音を立ててるんだけど、お前どうした今にも死にそうだぞ。

かれこれ5年ほど愛用している代物であるが、ご臨終にはちょっと早いきがするぞぅ? 慌てて取説を引っ張り出して点検してみれば、どうも様々な部分のフィルターが目詰まりし切っていたらしい。そういや最近深いとこまで掃除してなかったもんなぁ。

 

調べてみた限りでは業者に依頼せずとも自力で何とかできる範囲っぽかったので、洗浄用クエン酸やら専用の器具を購入し整備してみる。

そうして中身を開いてみたのだが……まぁ結構凄い事になってたね。外見だけでは分からなかったが、フィルターの入れ替えや容器の水洗いだけでは落ちなかった湯垢やら何やらが色々と。掃除サボり過ぎてたなこりゃ。

まぁこれはこれでいい機会かもしれん。せっかくなので侘びと感謝の気持ちを込め、パーツの一個一個まで念を入れていい感じにして労ってやろう。俺って優しいな本当。

 

細かい部分の湯垢までキチンと落とし、溶けかけていた耐熱チューブを入れ替えて。そうして全行程が終了する頃には、少し古びた感のあったコーヒーメーカーは内外共に新品と変わらぬ状態にまでメタモルフォーゼ。

「やだ、これが私……!?」裏声でメーカーの気持ちを代弁しつつ、問題ないかどうかを実際に稼働させてチェックする。うむ、心なしか以前よりも美味いコーヒーになっている気がするな。

 

ただの気のせいかもしれんが、実際に良い香りがするのは確かなのだからまぁ良いじゃないか。大変満足した俺は上機嫌にメーカーの頭を撫でつける。

すると俺の手の動きに反応したように一際大きく蒸気を噴き出したりして、それがもう可愛くって可愛くって仕方ない。やっぱ手をかけた分愛着も深まるモンだよなぁ、と一人得心。

 

 

どうしよ、何か名前でも付けてやった方が良いだろうかね。中々良さげな女の子の名前を幾つか頭に浮かべつつ、コーヒーカップを傾ける俺だった。

 

 

☆月 ☆日

 

 

休日。

のたのた気ままに街中を歩いていたら、デート中のすずかとアリサに出くわした。

 

デートと言ってもフローラルな物ではなく友達同士の遊び回りのようなものっぽいが、最近あれなんだろ? そういうのって友デートとかデー友とか言うんだろ? じゃあデートでも良いよな。いやどうでもいいか。

ともあれ俺としては散歩の途中だったし特に用もなかったので、挨拶もそこそこに通りすがろうとしたのだが……気づけばアリサに引きずられ二人に同行する事となっていた。何で? いやマジで意味分からん。

 

いつの間にお前らにフラグ立てたっけ、と問えば絶望的に酸っぱい顔をされたのでピンク色の用事ではないようだが、はてさて。まぁこれから当てもなくブラブラするつもりだった訳だし、付き合ってやってもよかろう。

仲良くくっちゃべりながら歩いている二人の背を見ながら、ゆっくりとくっついていく。何となく修学旅行のことを思い出してしんみりするな、これ。

 

そうして何だかんだ言い合いつつ、三人してあっちへフラフラこっちへフラフラ、公園からデパートまで海鳴の様々な場所を歩き回った。どうやら具体的な目的等は無いようで、本当に単なる遊びに出かけているだけらしい。なら何で俺を誘ったよ。

疑問には思ったが、俺も俺で結構楽しんだので文句はない。デパートでは新しいバスタオルとかプラモデルとか買えたしね、むしろ普通に散歩するより良かったかもしれん。ウフフ。

 

そんなこんなで12時も過ぎ、デパートの7階だか8階だかにあるフードコーナーで昼食を摂る事に。金持ちだからこんな所には来ないと思っていたが、良くなのは達と訪れるらしく随分とこなれた様子である。変に庶民的だなこいつら。

 

ともかく件の昼食メニューなのだが、アリサは寿司、すずかはうどん、俺はラーメンと見事に別れた。種類としては俺とすずかが似通っていたので、折衷案としてそばの店に入る事にする。

大丈夫だってネギとろ丼とかあるって、な? ブチブチ言ってるアリサを宥めつつ店内に入り、四人がけのテーブル席に座りそれぞれのメニューを頼んでほっと一息。ここまで歩きっぱなしだったせいか、二人共少し疲れが見えていた。チート持ってない奴は大変ですなぁハハハ。

 

そのまま軽く雑談を交わしつつ暇を潰していたのだが――――ふと、アリサが「アンタって何時も気持ち悪い嫌いな奴のまま変わらなくて、何か安心するわ」と宣いやがって下さった。すずかもそれに同意しているし、これは喧嘩を売られていると見てよござんす?

良いだろうならばダンスで勝負よ! とポーズをビシ決め迫れば、彼女達は吐き気を抑えるような仕草をしつつ一応の謝罪をしてくれた。全く誠意は感じられなかったが勘弁してやろう、俺は優しいから。優しいからな。そう、優しくて、美しいのだから。フフ。

 

でもまぁ、この俺嫌い筆頭のアリサが俺の顔を見て「安心する」なんて異常事態も良いとこだ。とりあえずそのまま詳しい事を聞いてやる事にする。

不満げな顔で訥々と語るアリサ曰く、何でも最近オリ主やなのは達と距離を感じる事があるそうな。ハーレムカーストから転落したのかとも思ったが、そういう事でもないご様子。

 

彼らが賑やかに話す話題に入れなかったり、みんな集まっての外出を断られたり、すずか宅でのお茶会をドタキャンされたり。魔法組との間で度々すれ違いが起きているのだとか。

今日も本当はアリサの家でお茶会をやる筈だったそうだが、急な任務が入ったとかで突然断られダメになったらしい。後でフォローはしてくれるそうだが。

 

成程お前らのデートは振られた者同士の傷心デートだったのねと頷けば、アリサからはキンキン声を、すずかからは紅い視線を送られた。いやすまんて冗談ですって。

 

……にしても、オリ主達ねぇ。まぁアイツ等も任務やらで忙しいらしいしなぁ……そう呟けば、二人から驚いた顔をされた。おや、そういえば俺が魔法関係を知ってる事になってるって言ってなかったっけ。まぁいいか。

ともあれそうして管理局の仕事が大変なんだろうと言ってみたが、アリサとすずかもそれは分かっているようである。しかし感情面では納得していないようで、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。

 

……まぁ、それも仕方なし。こいつらは魔法が使える訳でもない正真正銘の一般人(なのか? まぁ魔力持ちでは無い)だ。これからミッドチルダに活躍の場所を移すオリ主達とは、どうしたって接点が薄くなってしまう。

話題の事も、予定の事も。ドタキャンの事だってこれから先どんどん増えていくだろう。何せアイツ等は既にStrikerSの門戸を叩いてしまったのだ。平和な地球よりも、大小様々な伏線が張られ始めた向こう側の世界に比重が寄っていくのは必定である。

 

サブキャラとメインキャラの間には、俺達如きにはどうにもできん壁が構築され始めている。もう数年もしない内に、アイツ等は完全に――――……そこまで考えて、気づく。

 

 

「…………あぁ、『俺達』ね。ふぅん……」

 

 

……足元から何かが迫り寄ってくるような、決して小さくはない焦燥感。

 

成程成程。これがお前らが感じている事ね。こりゃ確かに変わらない物を見て安心したくもなりますわな、ハハハ。

何も言わないままそう明るく笑い飛ばしたが――何となく俺が自分達と同じ感覚を共有したと分かったのだろう、彼女達は複雑な表情で黙り込む。そうして料理が届くまでの間、俺達は特に会話する事無く沈黙し続けたのだった。

 

 

……で、その後。昼食を食べて腹が膨れた俺達は、気を取り直して近所のゲーセンやアミューズメントパークで遊び倒した。

アイドルマスターっぽい何かでアリサとくぎゅったり、ギルティギアっぽい何かで地団駄勢に遭遇したり、すずかと超次元卓球で盛り上がったり。何かを忘れるように騒がしく、楽しく。力の限り、全力で。

そういや二人と言い合うのは何回もあったが、遊ぶのは初めてな気がするな。まぁ割かし悪くない感覚だ。クレーンゲームの戦利品であるシンケンジャーっぽいキーホルダーを三人で山分けしつつ、そんな事を思った。

 

そうして慌ただしく一日が過ぎ、「またね」という挨拶と共に解散。それぞれの家へと帰宅した。

夕日の中をゆっくりと歩く俺の鞄には、SDのシンケンブルー(またはヒタチ・イズル)がゆらゆらと揺れている。今頃は他の二人の鞄でもピンクとイエローが揺れている事だろう。

 

「…………」そうして何となくしんみりした気分のまま、じりじりと歩く。

いや、まぁ。凄く楽しくはあったよな。殆どが悪態での会話だったとは言え、それはそれで遠慮なんて欠片もなくて楽だった。機会があればまた顔を突き合わせてやっても良いかもしれん。

 

 

……もしかしたらあと1年ちょいもすれば自然とそうなるかもな――何て、考えすぎかしらん。

 

俺は前方に伸びる影を眺め、ため息を一つ。購入したハンブラビを振り回しつつ、マンションへの道を辿っていったのだったとさ。あー、何ともかんともうっつっつ。

 

 

☆月 ☆日

 

 

以前から制作を進めていた改良版棒人間格闘ゲームだが、先日ついに完成した。

 

元の4キャラから更に4キャラ+隠しキャラ一体を追加し、技もそれぞれ平均して7~8つに増強。ユーノの手も借りて軽いストーリーモードも導入し、メガネっ娘の描いた一枚絵も随所に散りばめられている。

ホームページも立ち上げたし、少なくとも同人作品としてはどこに出しても恥ずかしくない出来にはなっている筈だ、多分。いや頑張った頑張った。

 

そうして完成祝いに俺の部屋に入り浸っている連中で遊んでいたのだが――――どうにも一味足りない気がする。例えるならば俺の肉じゃがに入れ忘れた醤油一差し、みたいな。

 

まぁ言ってしまえば声が足りないのである。どれだけグリグリ動いてバシンバシン技を出したとしても、ずっと無言のままだから味気なく感じてしまうのだ。

そういう物だと割り切れば気にならないのだろうけども、数多のギャルゲでのフルボイスに慣れきってしまった俺(とオリ主とユーノ)の耳にはどうにも物足りない。ディズィー然りザッパ然り、エロさや基地外さ……というかキャラの個性を出すのにやっぱ声って重要だと思うんですよ、うん。

 

この際声の依頼を出そうか、という案も出たには出たのだが……何だか気が進まない。せっかくここまで自分達だけで作ってきたのだから、最後の仕上げまで自分達で仕上げたいと思ったのだ。

とりあえず自分達で4キャラ分声を当ててみたのだが、残り5キャラをどうするかが問題だ。演技力なんてある筈も無い俺らには声の使い分けなんて出来ないし、メガネなんて恥ずか死にそうになりながらやっとの思いで1キャラ分だ。他のキャラを任せられる余裕もなし。

 

さて、ならばどうするか……そう思いつつユーノの被ダメ喘ぎ声をリピート再生していると――――ピン! と頭の上でドムが拡散ビーム砲を放った。そうだ、俺達の周りにはプロの声優とそっくりそのままの声域を持つ原作メンバーが居るじゃないか! 

 

しかも人数は丁度5人だ、人数的にもぴったしである。思い立った俺はすかさずオリ主に指示を出し、奴のハーレムメンバーをここに呼び寄せる事にした。

……のだが、何も知らずにノコノコとやって来た彼女達はまず俺の部屋の内装にドン引き、更に俺達が頼んだ声当ての内容に逃げ出そうとしやがった。しょうがないのでチートを使って「オリ主を一日好きにできる券」を一瞬で制作し譲渡する事によって協力を得る事に成功。直後にガチパンチが俺の頬に炸裂したが、まぁそれで済むなら善かろうもーん。

 

ともあれそうして近所のカラオケ屋に直行し声を収録する事になったのだが――いやはや。なのは、フェイト、はやての超必持ち三人娘はそりゃもう上手かった。

流石は何時も戦場に出て技名を叫んでいるだけの事はあるのだろう。掛け声もやられ声もいやに臨場感があり、目を瞑れば不覚にも欲情しそうになっちまったい。アリサとすずかも中の人がルイズとロードなだけあって大変によろしい感じで、俺的に超満足である。ウフフ。

 

いやぁこっそりメガネを唆して殆ど女キャラにした甲斐があったな!

テンションの上がった俺達は真・完成祝いとしてそのままカラオケパーティに雪崩込み、声が枯れるまで騒いだのであったとさ。もう俺の美声がガラガラだわ、ハハハ。

 

 

で、そうして完成したゲームなのだが、これまで通りフリーでのDLとなった。評判としては前作までの棒人間の物とは違い相当に上々で、俺の鼻もクリエイティブに高々である。

 

オリ主は「ちょっとくらいは金とっても良いんじゃね」と言っていたが、完成度が違うとは言え今までフリーで通してきたしね。メガネっ娘もユーノも原作メンバーも納得済みだし、まぁこれで良いんじゃない?

まぁそれはそれとして後で皆にそれぞれ何か報酬でも用意せねばイカンとは思うけども。さて何をプレゼントするべがな――――そう呟きつつ、俺はフィギュアのカタログを迷いなく開いたのだった。

 

……当然の如く後に盛大なブーイングを浴びたのだが、良いじゃねぇか美少女フィギュア。くそぅ。

 

 

☆月 ☆日

 

 

ゲームショップを徘徊していたら、ABE99っぽい何かが定価で売られているのを見つけ、思わず衝動買いしてしまった。

 

内容としては、人とカエルが混じったような種族の主人公エイブが、とある工場で奴隷とされている仲間達を助けるために奔走する、という横スクロールアクションゲームだ。

SFとファンタジーが混じったダークな世界観と、妙にエグみの強いストーリーと設定。そして高難易度のパズル的要素と当時にしては頭一つ飛び出たCG技術と、一部の界隈では根強い人気を誇る洋ゲーである。あくまで一部だが。

 

特にこのABE99は前作であるエイブ・ア・ゴーゴーと比べ希少価値が高く、新品で4万円前後。中古でも1万円前後は下らないという価格高騰っぷり。

「グロすぎるコクとキレ」なんてアレな宣伝文句が付いてるゲームにも関わらず何故そんなに値段がつり上がっているのか、まぁその辺は推して知るべし。いや察せ。

 

ともあれ、そんなゲームソフトが定価で販売されていたら、如何に金銭に余裕があろうともそりゃ買うしかないでしょうよ。そうしてウキウキ気分でマンションに持ち帰りプレイし始めたのは良いのだが――いややっぱり難しいな。全然クリアできる気がしない。

 

まず主人公のエイブ君がとにかくよく死ぬ。耐久力としては他のアクションゲームの主人公と同じくらいなのだが、周囲のトラップや敵が強すぎて一発で吹き飛ぶのだ。

高所からの落下や爆発に巻き込まれるのは勿論、撃たれたり丸呑みにされたり刺殺されたり感電死したりミンチになったり、死亡の種類に暇がない。しかもそんな即死だらけの状況で、エイブ君と同じように死ぬ仲間達を300人殺さずに助け出さなきゃいけないのが更にキツイ。

 

全クリを目指さなければ何とかクリアできる難易度ではあるのだが……まぁそこはゲーマーの性ですよね。グロイ死に様に後ろでひゃあひゃあ悲鳴が上がるのを無視して、セーブとロードを繰り返してのゾンビプレイである。

 

エイブ君に俺みたいなチートがあれば楽勝なのになぁと思わずにはいられないが、それだと多分ゲームとして面白くならないよな。やっぱチートは転生した上で神に貰ってこそだよなと一人納得。

 

 

「…………」

 

 

……チートか。そういや身体能力に関する物はそれこそ日常レベルで多用しているけど、魔力関係の方は脳みそしか使ってないよな。

はやて達の話では、リンカーコア自体が結構ダメダメになっているという話だが、実際どんな感じになっているのだろう。唐突にそんな事を疑問に思い、ほんのちょこっとだけ魔力行使を行ってみる事にした。

 

 

試してみるのは、原作でも何人かが使っていたデバイス無しでのアクセルシューターである。最後に魔法を使用したのが……何年前だ? 思い出せん。

まぁとにかく相当感覚が相当鈍っているのは確かだろうが、動かす動かさないは別として俺のチートなら魔力球一個を浮かせる事くらいなら可能な筈だろう、きっと。

 

軽い気持ちでそう判断した俺は、ゲームの片手間に記憶の片隅に残る魔力の流れを掘り起こし、再現。そうしてパパッと魔法陣を構築し――――「あァづぁだだだだだァーーッハハハァー!?」突如胸の中心からこみ上げる激痛に堪らずPSコントローラーを放り投げた。

 

痛い痛い、いや熱い。リンカーコアのあると思しき場所から、身体の全神経が焼け付くような激しい痛みが迸る。こりゃちょっとアカンて、洒落になりまへんて兄さん。「ほぉぉ゛っぉぅぉ……!」畳に這いつくばりながら、意味もない呻き声を漏らす。

そんな俺の様子にメガネが慌てて心配そうに駆け寄ってきたが、やめてあんま揺らさないで。ちょっと吐きそうなんです僕。

 

そのまま縋り付いてじっとしていると徐々に痛みは収まってきたが……いやこれは酷いな、何か変な笑いが出てきた。何年か前のはやてが悲痛な表情を浮かべていたのも頷ける。

「……はぁ」痛みが完全に引いた後、大きく溜息を吐きながら固まってるメガネに礼を言いつつ離れ、大きく深呼吸。そうして特に身体に問題がない事を確認しつつテレビ画面に目を向ければ――まぁ、当然ながらエイブ君は仲間を巻き込みご臨終。ああもうグチャグチャ。

 

これ、セーブしてなかったから結構前まで戻されるよなぁ。俺は訪れた苦難にゾクゾクしながら、再びクッションに身を沈め。震える肺を無理やり動かし、細長く息を吐き出したのだった。

 

……後でこれをネタに八神一家にコーヒーでもタカりに行こうかね、胸に過ぎる色々な何かを無視しつつ、そんな事を考えた俺である。

 

 

☆月 ☆日

 

 

――俺はまだ、俺の格好良さを伝える事を諦めていない。

 

踊り続けているのだ、俺は。例え誰に笑われようとも、理解力の無いアホンダラに天狗と呼称されようとも。このチート頭脳で導き出された超格好いい俺ダンスを日々踊り、収録し、動画として発信し続けている。

コメントは見ない。評価も見ない。最初の頃はワクワクしながら反応を待った物だが、どれだけ待っても「人間の動きじゃねぇwww」と草を生やすタコしか現れなかったからだ。しかも最近では投稿する動画の全てに「天狗の人」というタグまで必ず付けられるようになり、俺は海よりも深い悲しみにブクブクと包まれた。

 

どうして、何故俺の美しさが理解されないのだろう。これが二次元だったら原作キャラ・モブ問わず魅了する超オリ主人が誕生しているというのに、本当に三次元は度し難い。幾ら俺の対象外とは言えもうちょっと美しがれよお前ら。

一向に良くならん状況に半ば辟易してきたが、まぁしょうがないかと無理やり流す。俺の美しさが常軌を逸しているのが悪いんだ、そう思わんとやってられんわ全く。

 

そうして今日も今日とて屋上の床が削れる程の勢いで踊り狂い、軽く編集して動画を投稿していたのだが――――ふと、ユーザー登録してあるアドレスにメールが届いているのが目に付いた。しかもその送り主はニカニカ動画の運営側だ、思わず驚天ババッと二度見。

何かまずい事やったかなと不安になりつつ目を通してみれば、どうも今度行われる運営主催の生放送イベントへのお誘いのようだった。踊り手枠の一人として出演してみないか、との事らしい。

 

……さて、どうするべきか。俺としては別にお呼ばれしてやっても構わんのであるが、今の状況を鑑みるにどうせ「天狗の人」としてなんだろ? 分かってんだよそんな事。今しがた投稿した動画に即効で草生やし怪人と妖怪タグ付け屋が現れているのを見ながら、渋い顔してヒヒヒと笑う。

まぁ今回はお断りだな、もうちょっと世間の認識が正されたら受けてやるよ。そう返答のメールを送ろうとした俺だったが――「待てよ?」今まさに送信ボタンを押しかけていた指が止まる。

 

目に映ったのは、俺の動画に付けられた「どうせ合成とかCGだろ」という失礼極まりないコメントの内の一つだ。

そうだ、そういえば俺はまだその可能性について考えていなかった。即ち――――俺のダンスが凄まじすぎてインチキだと思われている、という可能性だ。

 

確かに俺の動きはチートにより人類には到底到達できない物に昇華されているし、基本的に見る目のない愚民のコメントには返さない主義なので疑問への返答も解説も行っていない。これでは「ご想像におまかせします(笑)」なんて真っ黒な返答をしているようなもんだ。

成程成程、今見れば草生やし怪人のコメントもちょっとそういう雰囲気があるし、これは盲点だった。堕天使反省。

 

それを考えると、映像に小細工の入る余地が無いリアルタイム配信が行われる今回の申し出は願ってもない事なんじゃないのか? 自分で生放送しても良いんだが、規模的にこっちの方が良いだろうし。多分。

 

よっしじゃあそうすんべ! 思い立ったらすぐ行動。俺はたった今まで書いていたお断りメールを消し、出演OKの旨を運営側に伝えたのだったとさ。

 

 

 

そうして迎えたイベント当日。

保護者同伴が条件の一つだったので、八神一家に「あー胸が痛いなぁーリンちゃんとカー君がコアっちゃう所がマジ痛ってぇなぁー」と丁寧に頼み込みシャマルを借り出し、電車を乗り継ぎ会場へ。

 

この日のために特性ラメ入り黒ジャージと俺が一番格好いいと思っているナイトサバイブのライダーお面も用意したし、ああ、今日こそ俺の格好良さが正しく世に知らしめられるのか。そう思うと半笑いが止まらないね!

待っていろ三次元の愚民共! 今すぐに俺の美しさを刻みつけてやる!! 俺は会場を前に大声でそう叫び、意気揚々と自動ドアをくぐり抜けた――――!!

 

 

 

……え? 結果? 特に語らないよ。

まぁイベント直後に「鞍馬天狗の人」という項目が大百科に生まれた事から大体は察せるんでないの? ハハハ。

 

……帰りがけに寄ったメロン何たらっぽい書店。そこで顔を真っ赤にして嫌がるシャマルに金を握らせ頼み込みレジに持って行かせた18禁同人誌が唯一の戦利品だったな。今後呼ばれる事があっても二度と行かんぞ、ぐっすん。

 

 

☆月 ☆日

 

 

ユーノが無限書庫司書長になるらしい。

 

……年の瀬に行われたゲーム合宿。式神の城Ⅲっぽい何かをオリ主と2Pプレイしている最中に背後からそう伝えられたのだが、どう考えてもタイミングがおかしくねぇか。

画面を埋め尽くす程の弾幕を必死になってくぐり抜けていたというのに、何でそう唐突に集中を乱すような事を言うのか。ホレ見ろせっかくボス用に残しておいた最後のボムを使っちまったじゃねぇか。

 

自由なるおばさんに辿り着き会話デモに入った事を確認し、オリ主と二人で「おめでとさん」と祝福と抗議の意を乗せた視線を背後にくれてやれば――――何故かユーノはショボくれたおセンチな表情をしていた。何だよ嬉しそうじゃないな、どうした。

 

疑問に思い詳しい話を聞いてみると、何でも司書長になればこれまで通りゲーム合宿に参加できなくなるそうな。まぁ一般司書と司書長なら仕事量も違うだろうし、当然といえば当然だが。

流石に今日明日で任命されはしないようだが、それでも一年以内に辞令を出される事はほぼ確実であるらしい。15歳で司書長とかマジ有能だなぁ、さっすがユーノだけはあるよな。なんつってな、プププ。

 

……にしても、そうか。これからなかなか集まれんようになるのか。このゲーム合宿を始めるようになって早……4年くらいかね、まぁ結構長く続いたもんだ。

思い起こせばアホな事ばっかりしていたような気がするけど、そのアホ仲間の一人との縁が近い内に薄くなるのかと思うと――何だ、ちょっぴり寂しくなる気がせんでもない。心に去来する何かを誤魔化すように、うむうむと一人で首肯。

 

ふとオリ主の方を見れば、奴も同じ気持ちらしく何時もの面倒そうな表情の中にちょっとした寂寥感を湛えていた。……しかしよくよく見れば、まるで仲間を得たかの如き微かな安堵感も浮かんでいるようにも見えて。

……ああ、確かにお前にとっても他人事じゃない話だもんな。自分だけじゃない事にそりゃ安心もするだろう。何となくしんみりした雰囲気が部屋の中に広がった。

 

 

「……ハイハイハイハイやめやめやめやめやめだやめ! 飯行くぞ飯! 奢ってやっから!」

 

 

その慣れない沈黙に耐え切れなくなった俺達は、合宿を早めに切り上げ行きつけのラーメン屋に三人して向かう事にした。みみっちくはあるが、ユーノの昇進祝いのつもりである。

いや、その気になれば高級レストランだ何だで優雅な一時を過ごせなくもないんだが、俺一人ならまだしもこいつらにそんな上等な場所に馴染めるような雰囲気は無いだろう? だからこれで良いんだ、全く貧乏人は仕方ねぇよなぁ。そう言ったら両側からパンチサンドでボコられた。いくら図星を突いたからってひっでぇ事する奴らだよ、ぷんすか。

 

そうしてクソ寒い街中をグダグダ駄弁り歩きつつ、駅前のラーメン屋に入店。一応はチェーン展開してるっぽい店なのだが、ここ以外に店舗を見た事が無いのはどういう事なんだろうな。味は美味いからもっと流行っても良いと思うんだが、不思議だ。

まぁそれはさて置いて。何時もなら三人並んでカウンター席に腰掛けるんだが、今日はちょっと奮発してテーブル席だ。値段的には変わらんのだが、ちょっと優越感があるよな。フフフ。

 

濃厚白湯とんこつ、とろこくチャーシューメン、熟味噌うまラーメン、そしてサイドに砂肝揚げ二つとフライドポテトとそれぞれ食いたい物を頼み、一段落。店内を巡る暖房に体を解されホッと一息を付いた。あー、あったかい。

そしてラーメンを待ってる間の暇潰しとして、ポケモンBWっぽい何かをプレイ。やっぱギギギアルは格好良いよなぁ、このメカメカしいっつーか人工物っぽい感じは他のポケモンには無い、コイル的な独特の良さがある――そう自分の子供自慢をしていると、オリ主とユーノもそれぞれクチートとコジョンドを見せつけ自慢してきた。

オリ主の方はともかくとして、ユーノがコジョンドってお前。そのまんまじゃねぇか。もうちょっと捻れよ。だいたいお前ら俺のギギギに対してなんで♀ポケ出してくんだよ、それなら俺だってグレイシアたんという嫁がだな――――

 

そんな感じで飯が来るまでギャースカギャースカ騒いでいると、いつの間にやら部屋に居た時のしんみり気分は跡形もなく消えていた。

こんな雰囲気を引きずったまま何時までも暮らせたら良いんだけど、そうもいかないのがにんともかんとも。心中で溜息を吐き、届いたラーメンをズルズル啜る俺だったとさ。

 

 

……もうすぐ中学三年生、色んな事が終わる年。あーやだやだ、ポーズの効かない三次元はこれだからクソなんだ。とんこつ美味いなぁ、畜生。



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九年目

★月 ★日

 

 

中学三年生。多分、今年が最後の年だ。

いや何が最後なのかと聞かれると明確な事は言えないのだが、多分色んな事が終わる。そんな気がするのだ

 

ともあれ世間的に受験生と分類されるようになった俺であるが、以前言ったように高校に進学する気は無かったりする。だって義務教育じゃないからね、幾らチートや前世の記憶のおかげで試験も楽勝であるとは言え、わざわざ受験してまで行きたいとは思わんもの。

今後生活に必要な金なら前世の命と人生を引換として腐る程手に入れてあるのだ。このままいけば中学卒業後は正真正銘完全なる悠々自適な生活が待っているのだし、それに……まぁ、学校に通うに当たって一番大きな理由も、もうすぐ無くなる。

 

当然進路希望調査表にも進学や就職なんてものは書かず、「天国」の二文字だけを書いて提出させて頂いた。アニメやゲームに囲まれた生活を表現する言葉がこれしか思い付かなかったからね、仕方がないね。フフフ。

 

……するとどうした事だろう。それを受け取った教師は俺を巫山戯ていると決めつけ、「もう少し真面目に考えてみろ」と調査表を突っ返してきやがった。

全く失礼な話である、この上なく俺は真剣であるというのに何て酷い事を言うのだろう。これだから理解力の無いアホは――――なんて、まぁ冗談である。自分でも突っ返されるよなぁと薄々分かっていたからね、いや嘘じゃなくてさ。

 

しかし本当にどうしようね、進路希望。何かしら建設的な意見を書かないと何時までも言われるだろうし、はてさて。

いくら考えても中々良さげな案が出なかったので潔く「無し」と答える事にすれば当然教師からは説教を頂いて。そうだ「隠居」とかどうですかねと提案すれば「頼むからもう少し真剣に考えてくれよ……」と半ば懇願されてしまう。どうしろっちゅーねん。

 

一応は真剣に考えてんだけどなぁ……。ブチブチ文句を呟きつつ、何かの参考にならないものかとゴリラを初めとしたモブにも色々と聞いてみたのだが、全員進学との事で参考にならん。

結局その日は勿論しばらく日にちが経っても答えは出ず、当面の応急措置として高等部への進学を前提とした「保留」の形をとって貰った。これは私立だからこそ出来る融通の効かせ方……なのだろうか。まぁエスカレーター式の学校である事が大きいのだろう。ありがた迷惑ここに極まれり。

 

すんなり「隠居」で受け取ってくれれば楽なのにねぇ。そんな事を思いながら、どうやって教師のお節介から逃れようかと考える俺だった。

 

 

……そういや、オリ主はどうなったんだろう。この高校進学を望んでいる奴らの中でただ一人就職の道を選んでいた筈だが。

中卒で就職なんて教師を説得し難いだろうに、どうやって納得させたんかね。担任が女性教師だからハーレムパワーで撃墜したのかしら。んな訳ねぇかハハハ。……無いよな? 

 

いっその事俺も色仕掛けの軛を解き放ってみようか。ガタイもしっかりしてきたし、その気になれば三十代独身女性なんてうウィンク一つでイチコ「おぼろろろろ」やっぱ止めとこう吐き気が止まらん。

 

まぁ最悪入試の日にサボれば良いか。とりあえず俺の方も対応保留にして考えるのをやめたのだったとさ。もう完全に不良学生だなこりゃ。

 

 

★月 □日

 

 

さてそんな憂鬱な事はおいといて、修学旅行である。

小学校の時は後期の後半に行われた行事だが、中等部では前期の初めに行われるらしい。多分受験を控えた三年生に対する配慮なんだろう。

 

今回は3泊4日の沖縄巡りだ。海開きの時期よりは少し早いので海で泳ぐのは無理っぽいが、それでも予定表を見る限りでは様々な観光名所を回るらしく中々楽しめそうな感じではある。

俺としてはゴーヤーチャンプルを作った時に沖縄までひとっ飛びしているので初めて行く訳ではないのだが、当時は腹減っててあんま周り見る余裕無かったんだよなぁ。ニガウリ買ったらすぐにトンボ帰ったし。

 

そんな訳で当日はワクワクしながら空港までのバスに乗り、俺よりも遅い飛行機に揺られ那覇へと降り立った。いや前も思ったけどあったかいね、海鳴は海に面しているせいかこの時期でも割と冷えるから余計にそう思う。

 

班分けは小学校の時とは違い、生徒達の自主性に任せているのか6人以内ならば好きに組めとのお達しだった。ので自動的に俺、オリ主、ゴリラの3人の班を編成。少ない? いやいや適正人数であるよ。

自由行動の予定が組まれていなかったため好きにうろつける機会は殆ど無かったのだが、俺含めた三人とものんびりまったり観光できたんじゃないかと思う。

 

平和記念堂に行ったり、ひめゆりの塔でしんみりしたり、おきなわワールドで広大な自然を眺めたり。あと首里城で記念写真も撮ったっけ。

沖縄そばを始めとした名物も美味かったし、ちんすこうやらサーターアンダギーやらのお土産も大量に手に入れた。俺的におおよそ大満足である。うむ。

 

ただ地理的な問題でアニメ放送局の電波が少なかった事がキツかったな。いやまぁしょうがないっちゃしょうがないんだけど、アニメ放送時刻にそれを知った時には超焦った。オリ主のデバイスが電波を引っ張ってきてくれなかったら頭抱えて転がってたかもしれん。

……その際同室のゴリラに魔法関係の物を色々見せちゃった気もするが、奴は無口だから特に問題はなかろう。実際全く動じなかったし、いやぁメガネとは別の意味で扱いが楽で助かるね!

 

ともあれそんな8割方充実した旅行だった訳だが――うん、何というか。やっぱりどうも残り2割が足りなかったのが惜しまれる。沖縄という場所にでは無く、俺達の側に。

こう、あるべき場所にすっぽり収まる何かが無いというか何というか。あれ、前にも同じような事言った気がするな。何時だったっけ。

 

まぁそれを抜きにしても楽しかったし、後悔は無いから別に良いんだけどもな。いやはや機会があったら今度は女子連中含めたいつもの面子で行きたいもんだ。ハハハ。

 

 

……ちなみにその女子連中であるが、男子部と日程をずらした上で同じく沖縄に行ったらしい。どうせなら一緒に行ってしまえば楽だろうに、面倒な事をする学校である。

同じ場所に行ったという事は当然お土産も同じ種類という訳で、メガネっ娘とのお土産交換会ではまさかのキーホルダーのダブリを演出してしまった。いやぁ、結構確率低い気がすんだけどなぁ。

 

何だかんだ向こうは喜んでくれたみたいだし結果オーライなのだろうが――個人的にちょっと負けた気がしたので、追加として買ってきたニガウリで今再びのゴーヤーチャンプルを振舞ってやる事にした。

無論、野菜レイパーのような外道な真似はしない。というか出来る筈がない。一人なら模倣していたかもしれんが、今回はメガネも食べるしね。美しくオープンな俺にその辺の特殊性癖は無いのである。

 

まぁとにもかくにもその日は互いの沖縄での思い出を語りつつ、二人和やかな夕餉を楽しんだのだった。話ではアリサも放送局の件で頭抱えて転がっていたらしく、順調に成長しているようで何よりだな。ウフフ。

 

 

★月 ★日

 

 

――ざらざらと降りしきる雨の中、俺は海鳴の上空を舞っていた。

 

 

風のように、流星のように。滴り落ちる程の水気を孕んだ黒いシャツをはためかせ、鬱屈した雲の覆う空を翔け抜けて。次々とビルとビルの間を飛び渡り、鉄塔を足場として大ジャンプ。鈍色の天井に手が届きそうなくらいに上昇し、滞空。

そうしてふわりと浮かんだ身体をそのままに、遥か眼下にぼやけて見える町並みをじっくりと鑑賞する。おそらくは地に落ちた雨が弾け、巻き上げられた小さな水煙が建物の線を覆っているのだろう。これはこれで何とも趣があり、風情のある景色だ。

 

そのしっとりとした雰囲気の光景にしばらく目を奪われていたものの――やがて俺の体は重力に従い下方へ落下。みるみる内に地面が目前へと迫って来る。

「――よっ!」しかし慌てず騒がず冷静に。俺は手近にあった高層ビルの壁面を引っつかみ勢いを止め、体勢を立て直す。その際窓越しにこのビルの社長さんと目が合ったので、軽く会釈して挨拶しておく。

 

「また君かね。雨なのに来る程このビルが好きなのかい?」「ハハハ、だってこの辺で一番高い建物なんで掴みやすくて」まぁそんな世間話もそこそこに、壁面に着けた足に力を込めて体を上方に射出させる。

いやはや、あの社長さんとも随分仲良くなったもんだなぁ。最初に警察呼ばれかけたのが嘘のようだ。

 

過去を思い出してしんみりしている内にビルの屋上に到着し、ビッショビショに濡れた髪を掻き上げ、一息。頭から雨が降り注ぐのを気にも留めないまま、屋上ヘリに足をかけて再び町並みを見回した。

 

 

「……結構いい感じだな。これ」

 

 

……降り止まぬ雨の街を飛び翔ける俺とか超格好良くね? と思って衝動的にやってみたのだが、いや予想外に気持ち良くてビックリした。

高速移動中に身体を打つ雨の感覚が心地よく、空から見下ろす景色も今の濡れた俺のようにアンニュイ且つ美しい。晴れた日にピョンピョンしている時よりも好みかも知れない。

 

強いて言うなら着ている服が雨粒の衝撃に耐え切れず、どこぞのゴランのようにズタボロになってしまうのが難点だが、まぁ大した事では無い。むしろこの俺の肉体がさらけ出される事でワイルド感が増し、加えて雨の中というシチュエーションもあり相当絵になっている筈だ。

 

 

――――ビルの屋上。戦闘の跡を感じさせる所々破れた服装をして、降り注ぐ雨を防ぐ事も無く濡れ続ける漆黒の堕天使。その憂鬱気な瞳に映るのは、自らと同じく雨に濡れた鈍色の街並みである――――

 

 

うおおおぉぉぉぉ……! 超格好いい! 今の俺超格好いいよ!

出来る事なら誰か人を呼んで写真を撮らせたい所だが、残念ながら着の身着のまま思いつきで部屋を飛び出してきたから携帯も何も持っていない。畜生め!

 

……ならばせめて、もうしばらくはこのままアンニュイな雰囲気を醸し出していたい。もしかしたら隣のビルから誰か俺を見てくれるかもしれんしね。

そんないやらしい偶然を狙いつつ、俺はその後数時間に渡り同じ姿勢で居続けたのだったとさ。

 

 

……風邪? いや引かなかったし寝込みもしなかったけど。おい何だその馬鹿を見るような目は、失礼だな止めたまえ。おいってば。

 

 

★月 ☆日

 

 

……最近、原作メンバーに会う機会が減った。

 

 

いや、なのは達魔法組に関しては理解できるんだよ。最近オリ主も最近学校を休みがちだし、まぁそういう事だと察せられるから。

けれどアリサとすずかに会わないのはどういう事だ。翠屋にコーヒーを買いに行っても、街中をブラブラと歩いても。以前は結構な頻度でかち合っていた筈なのに、今では二週間に2回会えば多い方だぞ。

 

何だ、遂に避けられるようになったか、俺。軽くヘコみつつメガネに聞けば、どうやら受験勉強に本腰を入れている為に遊びに外出する頻度が減っているだけらしい。んだよ紛らわしいな。

 

つーかあの二人なら頭も良いし、学校もエスカレーターなんだからほぼ合格は確実だろうに。そんな勉強に根詰めする必要なんて無いと思うのだが、どうもアイツ等にとってはそういう問題では無いらしい。

何でもアリサもすずかもお互いに首席入学を目指しているらしく、ただの受験では無く半ば勝負事の様相を呈してきているそうな。アレか、少年誌によくある親友と書いてライバルと読む的な感じか。仲良く頑張っている姿が容易に想像できるね、青春しているようで何よりである。

 

……あれ、そういやメガネっ娘も今年受験だった筈だけど大丈夫なのだろうか、何時も同じように俺の部屋に来てるけど。

そうメガネに問いかけると、彼女は照れたように笑って自分の手元を指差した。するとそこに広げられていたのはイラスト用具ではなく、受験の為の参考書。

見れば彼女の専用スペースには他にも幾つか勉強道具が置かれており、ここ最近はこの場所を勉強部屋として使用していたらしい。ユーノもオリ主もそうだけど、馴染みすぎだよなこいつら。いや別にいいんだけどさ。

 

メガネもメガネでアリサ達には追いつけなくとも指先が掠るくらいには頑張りたい、との事らしい。まぁいい心がけだとは思うのだが……だったらこんなしょっちゅうアニメが流れてる場所で勉強するのは良くないんじゃないすかね。

そう不安に思ったのだが、彼女曰くこの環境ほど落ち着く場所は無いとの事で。精神汚染が相当深い場所まで進んでいる事がお分かり頂けるだろうか。どうしよう、嘆くシーンなのかしらここ。

 

頭に手を当てて俺議員による緊急脳内会議を開いていると、メガネが俺の事について聞いてきた。どうも俺がどの高校を受験するのかが気になるらしい。

いや、俺は受験する気無いんだけどな。中学卒業したら悠々自適なタッキー暮らしですよ。何も隠す事無く、ありのままそう答えようと口を開いて――――「…………」声が出なかった。

 

……まぁ、そりゃな。受験勉強を一生懸命に頑張ってる奴の前で、受験フケるつもりでいる事を宣言すんのもどうかと思うよね。下手すりゃ喧嘩売ってるように取られかねんし。

仕方がないので曖昧に誤魔化しつつ、それとなーく現状維持に留まる事だけを伝えておく。何か突っ込まれるかとヒヤヒヤしたものの、それ以上の詮索は特に無く一安心である。妙に機嫌よく勉強に戻るメガネを見ながら溜息一つ。

 

 

……それにしても、受験か。魔法組に続き、そうでない奴らも頑張り始めたよな。俺だけのんびりしてるのが何か居心地悪い気がするねぇ。

俺も何かした方が良いんかね。寝っ転がりつつ考えたが、特にやるべき事も思いつかず。結局収まりの悪い尻をボリボリ掻き毟りアニメ鑑賞に戻ったのだが、ちっとも集中できやしない。

 

……はぁーあ、なんだろねぇ。本当。

 

 

★月 ★日

 

 

閃乱カグラっぽいおっぱい。

3Dで飛び出すおっぱいをテーマの一つに掲げた、ベルコン横スクロール爆乳忍者アクションである。

 

まぁこれだけでも大体分かるだろうが、とにかく揺れるしとにかく飛び出す。喋っている時も戦っている時もダメージを受けた時も立ちCGの時も何時だってプルンプルンでバインバインだ。

そのいっそ清々しいとも言える突き抜けたおっぱい加減、最初にゲーム概要を見た時から大笑いしていたのは俺だけではなかろう。

 

一見すればお色気特化のバカゲーにしか見えない今作だが、これでいて戦闘システムとストーリーもしっかりしている結構な良ゲーだったりするから侮れない。

陰と陽で方向性の分かれるキャラクターの育成要素に、空中コンボが爽快なエアリアル戦闘アクション。そして割かしハードなストーリー展開と、見た目のバカエロさとは裏腹に真面目にアクションゲームをやっているのだ。

 

特に主人公達と対になるライバル達との戦いが熱い、そしてエロい。いやゲームの仕様として一定のダメージが入る毎に衣装破損のカットインが入るのだが、それが飛び出すわプルンプルン揺れるわで大変素晴らしいのである。

そうして自キャラの衣装も破けるよう調節しつつ、敵の衣装も最後まで破損させようとすると割と苦労する事がままあったりして。ストーリーが盛り上がっていたりすると色んな意味で熱くなるんですよねゲフフフ。

 

……で、そんな縦横無尽に乱舞するおっぱい達であるが、俺としては作品中唯一のちっぱいである未来ちゃんが一番好きだったりする。

正直全くと言っていい程揺れないのだが、でもだからこそ良いっていうか、逆にそのスレンダーさがエロいっていうか、なだらかな曲線が愛おしいっていうか。まぁそんな感じ。

 

並み居るおっぱいを押しのけちっぱいが一位になるとは自分でも意外だったが、そういや俺の歴代ときメモシリーズの嫁も恵美姫を除いてそんなにおっぱいが大きくない娘だし、ひょっとしたら俺ってちっぱい好きだったのかもしれんな。

 

……いや、冷静に考えてみれば当たり前か。何せ俺は小学生のなのは達でハーレムを形成しようとしていたのだ。幾ら将来はおっぱいになるとは言え、この時点では明らかにちっぱい好きの所業である。

俺自身の認識としてはおっぱいもちっぱいも平等にイケるオールラウンダーだと思っていたのだが――――そうかそうか、そうだったのか。長い事ヲタ生活を続けてきたが、よもや今になって新たな発見をする事になろうとは思わなんだ。今まで可愛い二次元の女の子なら無条件に萌えてきたから、あんまり考えた事無かったしなぁ。

 

 

――――そうか。閃乱カグラとは、おっぱいに関しての性癖を見つめ直せるソフトなのかもしれないな。世の男性諸君には是非プレイして欲しいゲームだ、うむ。

 

 

……と、まぁそんな訳でオリ主とユーノにやらせてみれば、オリ主は村雨、ユーノは飛鳥が気に入ったようだった。

 

いやはや、オリ主は汚ねぇ奴だよな。ユーノは正直に正統派おっぱいが好きだと自らの性癖を晒しているのに、奴はテキストのみですぐ消える男の捨てキャラでお茶を濁しやがった。せめて立ち絵のある霧夜先生なら雄っぱい好きだとネタに出来たものを、つまんねー。

「だって町内鎖鎌大会六位だぜ……?」いや言いたい事も分かるし俺も兄さんは好きだけど。でもそういう流れじゃなかったじゃろがい。ここはどんなおっぱいが好きかという話でだな――――

 

……その後もそうやって数時間に渡り喧々諤々と論争を繰り広げた訳だが、結局奴は頑として性癖を明かす事は無かった。それどころか最終的にはおっぱいなら何でも好きと宣う始末。

いやそう思っても心の底では結構好みとかあるもんなんだって、俺がそうだったんだから。幾らそう説いても俺はおっぱいならそれでいいの一点張りで譲らない。何がお前をそうさせるんだ。

 

まぁある意味ではそれもこだわりの一つと見る事もできなく無いし、もしかしたらそのおっぱいに対しての寛容さ、或いは優柔不断さがハーレム主人公たる所以なのかもしれないな――――俺とユーノは二人でそう頷きつつ、感心と失望が複雑に入り交じった溜息を吐いたのだった。

 

そうしてオリ主に「お前こそ真のハーレム……いや、オールラウンダーだ」と呟きつつ肩を叩いたら崩れ落ちて死んだのだが、何か悪い事言ったかな。ぼくわかんなぁい。

 

 

★月 ★日

 

 

「…………」

 

 

まんじり、としていた。

 

稼働中のコーヒーメーカーがコポコポという音を奏で、部屋中にコーヒーの香りが漂い何とも良い雰囲気を作り出し、俺の心を落ち着かせる。

そんな空気の中で俺はアニメも漫画も見ず、ゲームもしていなかった。ただ身に纏う半纏とコタツの暖かさを感じながら、テーブルに頬を付けた姿勢でグダグダと思考するだけだ。

 

ちらりとカレンダーに目を向ければ、既に今年も後僅か。どいつもこいつも迫り来る受験を前に最後の追い込みをかけている時期である。

今までほぼ毎日部屋に来ていたメガネも最近はその頻度を落とし、試験に向けて色々頑張っているようだ。人の気配の無い背後が物悲しく最早違和感すら抱いてしまう。在るべき場所に在るべき云々以下省略。

 

……どうしよっかなぁ、本当。前に感じてた焦燥感が酷い事になっておられる。にんともかんともむーやむや。

 

まぁ、アレだ。アレなのかな。アレがアレしてアレがアレ。出来る事をやっときゃいいのかね、この感じだと。

と言っても俺が出来る事なんてダンスかプログラム組みくらいなんだけど、それでどうすりゃいいのやら。新しいダンス踊ったりゲーム作ったりすりゃ良いのかな。いやぁ、それも何か違う気がするぜ。

 

そうしてコタツムリになりつつウンウン考えるが、良さ気な案は出てこない。おかしいな、頭脳もチートされてる筈なんだけども。コタツ布団から頭をシュバババ高速で出し入れしつつ悩んでいると――――ふと、前に作った同人ゲームの事が頭を過ぎった。

 

 

…………ふむ、とりあえず一個見つけたな。俺がやるべき出来る事。「ひはっ」笑いにも似た溜息を一つ吐き、チートを使って生み出した衝撃波でPCを引き寄せヘコヘコとキーボードをタイプし始める。

 

あー、ちょっと買い物にも行かなきゃならんかな。このクソ寒い冬空の下に出るのは避けたい所だが、まぁしょうがないか。

俺は瞬時に半纏を脱ぎ捨て外出着に着替え財布を掴むと、ベランダを勢いよく開け放ち雪の舞い散る空へと飛び出した。雨と違って高速移動で突っ込んでも服が破れないのは良いんだが、雪の欠片が顔に張り付いて鬱陶しいな。これ。

 

やっぱ雨の方が好きだな――――そんな事を考えつつ、空に白い息をたなびかせていく俺だった。あーさっむ。

 

 

★月 ●日

 

 

月村家で開かれるクリスマスパーティに招待された。

 

何かポストに入っているなーと思ったのだが、見てみれば結構手の込んだ招待状でちょっとビックリした。だって紙じゃなくて立体プラスチックだぜ、立プラ。

なんだかんだで俺も毎年参加しているので、お呼ばれされた事への驚きは無いのだが……普段はメガネっ娘からの言伝だけで、こんな手の凝った方法で誘われた事は無かったからなぁ。

 

今までのパーティ自体もアイツ等の言う「お茶会」の延長線上にあるこじんまりした物だったし、今更取り繕う形もありゃせんだろうに。どういう風の吹き回しだろうか。

軽く疑問に思いつつ招待状を裏返し表返し開いて閉じて眺めていると――――手紙の隅に「家族や親しい人を呼んで、賑やかに楽しみましょう!」の一文を見つけ、何となーくすずか達の意図を察する。察してしまった。

 

 

――多分、お別れ会も兼ねているのだ。卒業後、すぐにミッドチルダに拠点を移すなのはやオリ主、ついでにユーノ達のため。これが最後だという心意気でもって記憶に残る楽しいパーティを盛り上げるつもりなのだろう。

 

 

……別に今生の別れという訳でもないのにちょっと大仰すぎる気もしなくはないが、StrikerSのテロ対策機動隊ぶりを思い出すにこれからどんどん忙しくなっていくのは確実だ。今までのように全員揃ってクリスマスに集まるのも難しくなるだろう。

今だって任務だなんだとちょくちょく学校を休んでその片鱗を覗かせているし、すずか達が気合を入れるのも理解できなくはない。何となくしんみりしつつ、ウムウムと頷く。

 

 

……よし、ならばまぁ俺も少しは気合を入れてパーティに臨んでやるとするか。フフフ、今こそ七年ぶりに全力オシャレの封印を解き放つ時が来たようだな。

あの頃よりタッパも筋肉もニョッキリガッチンと成長したし、もう凄いぞ。きっと漆黒の堕天使というレベルでは無く、一周して真黒の聖天使レベルにまで到達してしまうかもしれない。というか、なれ。

 

半笑いになった俺はすぐ様ネットショップを練り歩き、俺に相応しい美しい衣服を片っ端からカートに突っ込む。インナー、レザージャケット、ダメージジーンズ、特注スーツ、口紅、お粉、マスカラ、女子高生の香水……。

勿論、衣服が届くまでの間は全裸で過ごす事も忘れない。いやはや、この間だけはメガネが来なくて良かったな。もし俺の裸体を目撃してしまったら、その美しさに耐え切れずアイツのアイデンティティたるメガネが木っ端微塵に割れちまうところだったね。ハハ。

 

そうして衣服だけではなく、パーティの余興となるお手玉を加えた俺ダンスやプレゼント交換用の品も用意し準備調整は万全万端。いざパーティ当日の月村宅へ大ジャンプ。

雪の降り始める前のぐずついた空の上でクルクル空中前転しつつ、パーティの事について思いを馳せる。

 

どんなご馳走が出んのかなー、また保護者連中から居心地悪い目で見られんのかなー、そういや俺アリシア達とはまだ面識ねぇんだよなー。適当に考えつつビルとビルの間を飛び渡り、ぼんやりと地上の町並みを眺めて――――「……あん?」何だろう、視界の端に妙な物が映った。

 

それは以前にどこかで見たような黒塗りのベンツだった。明らかに法定速度以上のスピードで走るその黒い影はクリスマスで賑わっている街中を爆走し、多大な迷惑を周囲に振りまきまくっている様だ。

何だありゃ。流石に疑問を持った俺がチート眼球を用いて空中から観察してみれば、車にはこれまたどっかで見たようなチンピラのオッサンと更にどっかで見たようなチンピラ集団が乗車しているようだった。しかもその全員が何らかの得物を所持していて物騒な事極まりない。

 

そんな装備でどこ行くんだと車の予想進路を辿ってみれば――――「……ふぅん」まぁ、つまんない所だったよな。いやぁ本当につまらん。あんまりにもつまらん。思わず車を追い越し道に降りてお手玉しちゃうくらいつまらん。

 

あー、まずいなぁ。つまんな過ぎてちょっと集中力に欠けてる今、驚いてビクッとしたらもしかすっと手ェ滑らせちゃうかもなぁ。あー、エンジンの爆音とか後ろから鳴らされたら超ヤベェなぁ。まぁそんな事するアホンダラなんていねぇだろうけっどぉーん。

 

 

……そんな風に言い訳しつつ、お手玉をポンポンしながら月村宅への道を歩く俺だった。あー、ポンポン。あー、ポンポン。あー、ポンポ――――バォン!――――オワー。

 

 

 

 

 

「……何かサイレンの音が聞こえない?」

 

「近くでつまらん事故でもあったんじゃねぇの」

 

 

まぁそんな事はさて置いて、クリスマスパーティだ。

 

参加者は原作五人娘とオリ主、メガネっ娘、そのご家族にヴォルケンリッターにユーノと結構な大人数。今までチラッと眺めただけだったプレシアやリニス、アルフ、アリシアなんかも居て、まさにリリカルなのはオールスターである。いや壮観なり。

……まぁその殆どが俺にいやらしい物を見る視線を向ける訳だが、まぁ慣れたよね。どいつもこいつも十年近く変わんねぇもん。もう開き直って「好きなだけ俺の淫靡さを堪能するがよろしい!」と胸元をはだけつつポーズを決めれば皆視線を合わせなくなった。ハハハ、その反応も慣れたっつーの。

 

ともあれ、皆もそれぞれパーティを楽しんでいるようで何よりだ。アリサ達やオリ主がアリシアと一緒に笑い、高町の男衆とシグナムが何やら渋い空気を作り出し、リニスとリィンフォースが談笑する。

メインもサブも皆笑顔で、それを見ていると何だかこっちもほんわかするね。二次元三次元関係無く、こういった穏やかな雰囲気は好きよ俺。

 

俺もその空気に呑まれまったりしつつフライドチキンを骨ごとバリバリしていると、ユーノがこちらに近寄ってきた。その表情は楽しそうでありながら寂しさも湛えており、少しだけこのパーティには似合っていなかった。……何となく、その理由は予想できるけどな。

話を聞いてみればまぁ案の定。ユーノは年明けを待たずして本格的にミッドチルダに居を構える事になるそうだ。それに伴い仕事が忙しくなり地球へ渡航する機会も減るそうで、「ゲーム合宿への参加は数ヶ月に一回になるかもね」と語られた。

 

……ユーノがこの調子だとすれば、やっぱ他の魔法組も全員同じ様な感じなんだろうなぁ。きっと。分かっちゃいたが、にんともかんとも。

 

まだ15かそこらなのになぁ、多忙過ぎだろお前ら。俺は溜息を吐き、ポケットから一つのディスクを取り出した。

ディスク自体はそこらの電気屋に一山いくらで売っている安物であるが、中身は違う。何せオリ主に「金をとっても良い」とまで言わしめた格闘ゲームが焼き込んであるのだ、金額にすれば……まぁ、相場から言って2100円位はすんでない?

 

本当はディスクに絵を付けたりパッケージを作ったりして完璧な物にしたかったのだが、何か間に合いそうもないしこの際しょうがないよな。パッケ絵担当(唆し)予定のメガネっ娘に見せるために持ってきたプロトタイプですまんが、これをお前にくれてやる。

俺達全員の思い出と声が入った一品だ。これさえあればひとりぼっちのウサギのように爆死せんでも済むだろう――そう言って投げ渡せば、ユーノは嬉しそうに笑い、一言。「君の事だからエロアニメDVDかと思った」お前そりゃねぇだろこの雰囲気でよ。

 

真っ先にエロ関係の事を思い付くとは流石淫獣侮れねぇな。そう呟けばあっちもあっちで俺の事をいやらしいと連呼する。

「…………」「…………」そうして互いに性犯罪者を見る視線で睨み合った俺とユーノは、余興のお披露目会が始まるまで二人並んだままエロエロ罵り合っていたのだったとさ。

 

……らしいっちゃらしいのかもしれないが、最後までこれだよ。馬鹿じゃねーの。

 

 

 

で、俺のダンスに大ブーイングが投げかけられたり、はやてとリィンフォースの漫才が大冷気をミックスレイドしたり。そんな感じで何だかんだと余興も終わり、プレゼント交換会へ。

……俺としてはダンスの評価に納得がいかずもう一踊りしたい気分なのだが、最下位じゃないだけまぁいいさと許してやる事にした。それ程酷い出来だったのである、どこの子狸の何がとは言わんが。

 

ともあれ俺がプレゼント交換に用意したのは、当然ながら六千六百六十六堂院ベルゼルシファウストの特製ブロマイド……では無く。まぁ空気を読んでプラモデルと塗装用具のセットにしておいた。

チョイスしたのはガンプラの中でも特に愛嬌があるベアッガイ、女子連中が多いこの場においては最高の選択と言えるのではなかろうか。フフ、これだから俺は優しくて美しいんだ。

 

そうして単純な手回し方式での交換が行われ、誰に渡るかなとちょっとワクワクしていたのだが――――最終的にベアッガイはアリシアの手に渡る事となった。

これ大丈夫かな……? 少しばかりレバーをドキンコさせて包装が外されるのを見守っていれば、ベアッガイの箱が覗いた瞬間「可愛い!」と言ってくれて実にホッとした。いやはやもう一つの候補であったスーパーカスタムザクF2000の方にしなくて良かったな、本当に。

 

こっそり安堵の溜息を吐きつつ俺も自分に渡ったプレゼントを見てみると、中に入っていたのは保護者連中の内の誰かが用意したと思しき合格祈願のお守りだった。どうも勉学の神様を祀る神社から取り寄せたホンマもんのようだが、俺が持っててもどうすりゃいいんだよこれ。

せっかくなので隣にいたメガネっ娘に渡せば喜ばれたので、まぁ良いプレゼントではあったのだろうか。俺の手元には何も残らんかったけど。

 

……ちなみにオリ主は二つほどプレゼントを用意していたらしいのだが、それぞれアリサとすずかに渡っていた。地球に残される者への置き土産としては最高の演出である。

この人数の中で凄い確率だよなと感心していたが、どうも周りがグルになってプレゼントを回すスピードを調節してたっぽい。加えて実はそのプレゼントはオリ主やユーノ達魔法組全員で用意した物のようで、何やら友情イベントが発生。パーティ会場がしっとりした雰囲気に包まれていった。

 

アリサとすずかが涙ぐみながらなのは達に抱きつき、それを保護者組が温かい目で見守る中。俺は残り少なくなったご馳走をモグモグしながら虹野さんデジカメを構える。

後で現像して皆に送りつけてやるべがな――――その時の奴らの反応を想像し、半笑いになりつつシャッターをパシャパシャと切りまくる俺だった。アリサあたりから殴られるかな? まぁダメージなんて無いから良いけどな。フフフ。

 

 

 

そうして宴もたけなわ。テーブルに並んだ料理もやがて全て無くなって、パーティも自然に解散となった。

 

片付けを手伝い、みんなと別れる前の雑談を交わし。少しづつ、パーティ会場に宿っていた熱が冷めていく。

……何となくすぐ帰る気になれなかった俺は、フライドチキンの骨を楊枝替わりに咥え、あちらこちらで途絶えぬ談笑の声が響いているのを窓際でぼんやり聞いていた。

 

しばらくそのまま骨をカリカリ齧り、「さよなら、いやらしいお兄ちゃん!」と失ッ礼な事を言うアリシアに手を振っていると、何時の間にか帰り支度を整えたメガネっ娘が隣に居る事に気がついた。相変わらず気配ねぇなお前。

 

ふと視線を下に向ければ、別れの挨拶を告げる彼女の鞄にはこれまでにくれてやったキーホルダーの他に、今さっき渡した合格祈願のお守りが揺れているのが見て取れた。

早速付けてるって、何、お前そんなに合格したいの? そう問いかければ、当たり前だと返される。高校生になるのがそんなに楽しみなんか。そう問いかければ、楽しそうな笑みを浮かべて肯定される。……その屈託の無い笑顔に、何となく沸々とした物が湧き上がった。

 

だってなぁ。今まで一緒だった友達がいなくなるんだぜ? お前それでも楽しみか? 少しばかり不貞腐れた声音でそう問いかければ、彼女は少し考えた後――それでも楽しみだと笑う。

確かになのは達が居なくなるのは寂しいが、自分にはアリサ達がいるし、それに新しい友達もできるかもしれないから。だそうだ。うむ、健康的な理由で大変よろしい。眩しくって何だか直視できんでござる。

 

……新しい友達。その単語を聞いた時、俺の脳裏には無口ゴリラの姿が浮かんだのだが、むっさい幻覚である。汗くせぇなぁと渋い顔で手を振ってゴリラの幻影を追い払っているうちに、親御さんがメガネっ娘を呼ぶ声が飛んできた。

それを受けたメガネっ娘は挨拶もそこそこに、手を振ってキーホルダーとお守りを揺らしながら歩き去っていく。俺もパタパタ振る手にさよならの意味を込め、どこか投げやりにそれを見送ったのだった。良いお年をー。

 

 

……そうして彼女の姿が見えなくなった後、「高校。高校ねぇ」頭をガシガシ掻きむしりつつ憂鬱な気分で色々思考を巡らせていると、今度はオリ主がやってきた。

どうもまた新しいイベントをこなして来たらしく、奴はいつも通り死ぬほど面倒臭そうな表情で俺の隣の壁にもたれ掛かり、溜息。その様子にチラリとアリサ達の方角に目を向ければ、五人娘+シグナムヴィータリィンフォースリニスが何やら満場一致で可決したらしい雰囲気を撒き散らしていた。何だ、何が決まったんだ。怖ぇよ。

 

何はともあれ、うんまぁ、アレだ。良く分からんが円満に解決たらしくてよかったじゃないか。そう言って肩を叩けば、オリ主はがっくりと力が抜けたように項垂れた。めんどくせぇなぁ本当に。

スクイズ的展開にならんかっただけ良しとしとけよ――――あんまりグッタリされるのもウザいので適当に励ましていると、先程の新しい友達が云々という会話が蘇ってきた。

 

「…………」何となく、気になって。オリ主を励ますのを中断し、ゴリラは俺達にとって友達なのかどうかを聞いてみれば――――返ってきたのは馬鹿を見るような視線と「当たり前だろ」という簡潔な返事。

……そうかぁ、友達だったのかぁ。そりゃ修学旅行も一緒に班組んだしな、考えてみりゃまぁ当たり前か。モブの一人と見なして特に何も考えずにつるんでたから意識した事無かったな。すっとん、と。心に落ちるものを感じ、一人首肯。俺って薄情なのかしらん。

 

となると……アレだよなぁ。行けるのに行かないってのも何だかなー、って感じになっちゃうよなぁ。高校で一人っきりって訳じゃ無くなるしさ。

 

 

……俺の進路希望における「保留」の二字を外すか否か。アリサとすずかに引きずられるオリ主の助けを無視して割と真剣に考えながら、俺達のクリスマスパーティは幕を下ろしたのだったとさ。

 

いやはや、色んな意味で締まんねぇな。どうせならしんみりしたまま終わらせろって話である。まったくもう。

 

 

 

 

 

 

――最後の別れは、一期最後の名場面の舞台となった公園で行われる事となった。

 

 

中学校も卒業し、未だ僅かに寒さの残る春の入口。完全には桜の花びらが開ききっていない広場に、原作メンバーを始めとしたいつもの面子が集まっていた。

何時もの、と言うには一匹オコジョが足りんのだが、まぁそれは仕方あるまい。奴は既に次元の壁を挟んだ向こう側に旅立ってしまったからな。早漏め。

 

とにもかくにも最後の挨拶が始まった。

 

まぁ挨拶といってもそれぞれ好き勝手にくっちゃべる程度の事なのだが、それでも当人達にとっては大切な時間であるようだ。

なのはも、フェイトも、はやても。ついでにオリ主やアリシアやヴォルケンズなんかもアリサ達地球残留組としんみりした空気の中で談笑している。その話題には思い出話やこれからの意気込みなど枚挙に暇が無く、どこか無理矢理にでも話を引き伸ばそうとしている事が伺えた。

 

「……アンタからは何か無いの?」そうして話し込む内に、何故か話題の矛先が俺の方に向いて来た。え? いや良いよお前らだけで話してろよ。俺ここでデジカメパシャってるから。

特に割り込む気もなかったのでそう断ったのだが、奴らはちっとも聞きやしない。皆一様に「何か話せ」と言った視線を注いでくる。

 

……まぁいいかね。本当はもう少し引っ張りたかったのだが、いい機会だから渡してしまおう――――俺は溜息と共にそう決めて、持ってきたバックから六枚のディスクパッケージを取り出した。

ユーノに渡した物とは違い、ちゃんとメガネっ娘と共に完成させた棒人間格闘ゲームの完成品だ。俺達の努力の成果もあり、普通にゲームショップに並んでも違和感の無いものに仕上がっている。いやぁ頑張った頑張った。

 

俺はそれを日々のダンスで培った機敏な動きと共に6枚同時に投げ渡し、これまた超格好いいポーズと共に演説する。まぁ内容としてはユーノの時と同じく、爆死しそうになったらそれを使って身を慰めろという物であるが、一つだけ違う事があった。

そう、何と限定版たるそれには、俺の超美しいブロマイドとクリスマス会の写真が収められているのである! これで何時でも俺の美しさを確認できる事だろう、さぁ思う存分喜びなまんし!!

 

……そう告げた瞬間6人全員が同時にパッケージを開け一斉に俺のブロマイドだけを破り捨てた訳だが、いい加減俺泣いても良いかな。お前らは何時だってそうだ、全く持ってひっでぇ奴らである。しくしく。

まぁ格闘ゲーム本体は喜んでくれたので良しとしてやるが、やっぱり最後までこんな感じかよ。何となく、全員揃って苦笑したのだった。

 

 

 

 

「……じゃあ、もうそろそろ時間かな」

 

 

そうしてギャースカギャースカ騒ぎ続け、いい加減語る言葉も尽きた頃。おそらくは転移用の魔法陣の用意を始めたリニスの様子を見たフェイトが、そう言った。

 

別に、永遠の別れという訳では無い。いつでも連絡を取る事は出来るだろうし、細かく予定を調整すればツラを付き合わせて遊ぶ事も出来るだろう。

……しかし、それでも今までの様に気軽には会えなくなるのは確かだ。学校に行っても、街を歩いても。こいつらの姿を見かける事はまず無くなる。

 

思えばもう10年近く一緒に騒いできた……まぁ、言ってしまえば幼なじみとも呼べるような奴らだ。それを見失って何とも思わない訳が無し。

複雑な感情を込めた溜息を高い鼻から流している内に、オリ主達は魔法陣の上へと移動していく。その足取りには未練はあれど迷いは無く、決心は固い事が見て取れた。……まぁ、今更だけどさ。

 

奴らはアリサやすずか、メガネっ娘達に向けて一言残し――――そして最後に俺に振り向いて、その形の良い唇を開いた。

 

なのはは言った。「また口喧嘩しようね」と。

 

フェイトは言った。「ずっといやらしかったけど、嫌らしくは無かったよ」と。

 

はやては言った。「そのやーらしい雰囲気がなかったらなぁ、うちの子を一人あてがっても」いりません、全部オリ主にやってください。

 

四角形は言った。「しね」お前が死ね。

 

シャマルは言っ――――何でお前が出てくるんだどうでもいいわ。

 

――で、まぁラスト。

 

「――んじゃ、近い内にまたお前ん家行くわ」……大トリたるオリ主の放つ何時もの面倒臭そうな一言に俺は軽く吹き出し、「おぅ」と無造作に手を挙げ――――それを最後に、彼らは全員魔法陣ごとその姿を消した。

音も無く、余韻も無く。ただ魔力の発する光の残滓だけを漂わせ、ミッドチルダへと旅立っていったのだ。それを理解すると同時、大きな脱力感と爽快感が身を包む。それは他の奴らも同じだったようで、それぞれ様々な感情を孕んだ表情でオリ主達が消えた場所を見つめていた。

 

俺達は何時までも虚空を見上げ、何をするでも無く立ち尽くし。そうして後方より流れる寂寥感を含んだ春風がそれぞれの頬を撫で去り、幾枚かの桜の花弁を空に舞い上げる。

 

「まぁ、向こうで精々頑張れば良いさ」青空を踊る花弁を眺めつつ小さく放ったその呟きも、誰に届く事も無く風に流され消え去って――――

 

――――そうして、俺達にとっての大切な何かが一つ。終わりを迎えたのだった。

 

……あ、そうだ。言い忘れてたけど、結局俺4月から高校生になります。え? 聞いてない? ああそう。

 

 

 

そんなこんなでオリ主達とのお別れが済み、アリサとすずかと分かれて帰る道がすら。俺はメガネと並び歩きつつ、今までの事を振り返っていた。

 

ここまで色々な事があったなぁ。その大半はアホで起伏のない日常だった訳だが、まぁ結構充実はしていたんじゃなかろうか。

ゲームして、アニメ見て、漫画読んで、ゲームして、アニメ見て、漫画読んで、ゲームして、アニメ見て、漫画……いや他にもっと何かあるだろう。ゲーム合宿とかゲーム作りとか……ヤベェどっちもゲームじゃねぇか!

 

いやはや、最初はチート能力で俺tueeeeeeeeして二次元美少女ハーレムを築くつもりだったのになぁ。何でこんな事になっているのやら。

思えば転生して踏み出した最初の一歩で既に瓦解していた気がするよ、だって三次元だもん。神とやらも適当な仕事をしてくれたものである。次あったらそこんとこ頼むよ、本当。

 

 

……そうして改めて考えるとオリ主の主人公っぷりって際立ってるよなぁ、三次元とは言え当初の俺が欲しかったモン全部持ってるんだぞ。いや妬み嫉みは全く無いから良いんだけども。

 

戦闘能力はチート持ちの俺以上で、魔法関係の才能もある。しかも典型的な面倒臭がりヤレヤレ系の主人公で、数多の女の子の好意に気付きつつもなぁなぁにして流しているフラグ体質だ。

そんで最終的には原作キャラを侍らせて魔法世界入りを果たしちゃったりなんかして、モブ一人とこれから地球でまったりヲタライフを送るだろう俺とは大違い……というより、もはや正反対と言えなくもない。

容姿も行動もその結果も鏡合わせのように対象的、言うなれば陰のオリ主に陽の俺。二人重なれば良い感じに太極図ができそうだ。何、陰陽の配役が逆? さて聞こえんな!

 

うーむ。こりゃ世(三次元)が世(二次元)なら殺しあう仲になっていたかもしれんな。少なくとも俺は嫉妬のあまり四角形を振りかぶって奴のちんちんを刈り取ろうとしてただろう、ハハハ。

まぁそれはそれで面白そうだなー、なんて。不謹慎な事を考えながら、自宅への道をてくてく歩く俺である。

 

 

「…………」

 

 

……そして、チラリと。隣を歩くメガネっ娘を見る。

先程俺とオリ主は正反対だという話をしたが、その時ナチュラルにコイツも俺の要素の範囲内に入れてたよな。ハーレムの反対は一人っきりだと言うのにねぇ。

 

そういや思い返してみれば、今までつるんできた奴らの中でもコイツとは一番長い時間一緒に居るよな。小学校一年からずっと同じクラスだったし、三年生になってからは殆ど毎日家に来るし。むしろ一緒でなかった事の方が少ないのではなかろうか。

最初は単なるモブとしか思っていなかったのに、随分と身近な存在になったもんだ。何となくしんみりしつつ、丁度いい位置にあるメガネの頭を力強く撫で回す。

 

「……んー」そうして頭をぐわんぐわんさせてふらついている彼女を眺めつつ、俺にとってこのモブはどういった存在なのだろうと疑問に思った。うむ、隣に居るのが自然すぎて全く考えた事がなかった。種類は違えどゴリラの時と同じパターンじゃねぇかよ、これからもうちょい気を付けていこう。

 

まぁ、ともあれ。メガネっ娘の事については改めて考えるまでの事もない気がするんだけどもな。

 

 

――――三年目、俺が窓枠に足をかけた理由。

 

――――四年目、俺がコイツの評価を出さなかった理由。

 

――――五年目、俺をホッカイロにするコイツを振りほどかなかった理由。夜の海を見て思った事。

 

――――六年目、体温だけで隣に居たのが誰なのか分かった理由。

 

――――七年目、無口ゴリラを見て思った事。

 

――――八年目、苦しかったとは言え、この俺が縋り付いてしまった事。

 

――――今、これを考えてる理由。

 

 

思い返してみれば、大小様々なフラグはこれまで幾らでも乱立していたのだ。だったら、ねぇ? 今更大真面目に答えを出す必要なんてあるまいて。このまま日々を送っていれば、自ずと行き着く先には辿り着くのだから。

……そしてそれは、俺にとって中々に悪くない未来だと思うのだ。良く分からんが、何故かそんな確信と確証を感じている。

 

「……ほれほれさっさと行くぞ、すっぽりメガネ」俺は軽く溜息を一つ吐き、未だフラフラと足元の定まらない彼女の背中を押し出しつつ強引に前へ運ぶ。

 

はてさて、今日はどんなアニメを見ようかね。ちょっぴりおセンチな気分だから絶対少年でも見直そうかな。オリ主がわっくんでなのはがどっしる、フェイトとはやてがしっしんとブンちゃんって事で人数的にぴったりだ。そうなるとオリ主以外全部ぶっ壊れるけど。

そうと決まればさっさと行こう。ひゃあひゃあ煩く悲鳴を上げるメガネを横抱きに持ち上げ、ぴょんぴょんと住宅街の屋根の上を飛び回ってショートカット。自宅への最短ルートを駆け抜けた。いやぁ、ダイナミックを自重してやるなんてホント優しいよな、俺。

 

 

――まぁ、そんな感じで。幾つか変わり、終わる物はあったけれど。俺の生活はこれまでと変わらないのだろう。

 

ゲームとアニメと漫画に塗れ自堕落に過ぎるおよそ健康的とは言えない日々だが、まぁいいんじゃねーの? 俺自身は身体チートで常に健康だし、誰に迷惑をかける訳でもないしね。

そうして戦闘やラヴコメは次元の向こうに放り投げ、今日も今日とてメガネを背後にサブカルライフを満喫する俺であったとさ。

 

 

さーて、お目当てのDVDは何処に入れたのだったかな――――




完ッ! 
……で終わるのもアレなので、最後に簡単なオリキャラ紹介でも。


【六千六百六十六堂院ベルゼルシファウスト】

二次元に生まれていたり、世界が二次元に見えるチートを貰っていたら確実に典型的咬ませ犬になってた人。もしそうなったらなのは達に纏わり付きウザがられた挙句に闇の書に吸収され、オリ主の一撃で蒸発していた事でしょう。こわいね。

強すぎるハーレム願望のため転生の際に不具合が起き、常にいやらしい雰囲気を放つようになってしまった。その気配は原作キャラのみに対し非常に強い効力を発揮し、特になのは達からの印象は常に最悪。
少しでも原作キャラを異性として見たら、その瞬間完膚無きまでに嫌われていた……のだが。彼に一切その様子が見られなかった為に、何だかんだ印象最悪のまま仲良くなっていった。

のんびりアニメ見ながら糠漬けかき回す家庭的なオタク。将来的にはゲーム作りに携わるかもしれないし、ダンサーになるかもしれない。そのへんはお好きにどうぞ。

* ちなみに前世に関しては特に決めてない。チラチラ家族関係で何か出してた気もするけど、多分気のせいでしょう。


【オリ主】

主人公と同じく転生組。「面倒臭いものを何とか出来る力」を望んだのだが、大抵の面倒事をどうにか出来るようになったせいで更に大きな面倒な事に遭遇するようになっちゃった人。

今出来る楽のために目の前にある面倒事を片付けていたら、何時の間にかハーレムが出来ていた。反省して面倒事(フラグ)を放置していたら、何時の間にか女性陣共有の旦那様に決められていたそうな。かわいそう。
多分今後もティアナとかナンバーズとかも落としまくり、最終的にハーレム人数は凄い事になる。スバルはユーノのとこに行く。

* ちなみに転生前に「ハーレムを狙う転生者がいる」と神から聞かされていたが、何時まで経ってもそれっぽい奴が現れない為首を傾げている。


【メガネっ娘】

「やめてー、やめてー」「皆の許可がないと……」しかセリフの無い、噛ませとオリ主の立場を対比させるために出したモブの人。名前も容姿も特に決めてないので自由に妄想するのだ。

本当は主人公にこの子の色んなとこをペロペロさせて「(三次元女子の色香に)負け続けておかしくなる、(二次専として)惨たらしく死ぬ」のチェックを入れて終了しようとしてたんだけど、何か真っ当に終わっちゃった。おかしいな。
まぁそこまでやったらモブっぽくなくなるだろうし、これはこれで良かったのかも? ……とりあえず、この先描写されない時間軸で「起こる」という事にしておこう。うん。

平凡な自分にイラストという特技をくれて、加えてそれを我が事のように嬉しそうに褒めてくれた主人公を慕っている。実は唆されている最中はゾクゾクして気持ちよくなってちょっと訳が分からなくなっているらしい。

* ちなみに四年目あたりから地味ーに主人公へアプローチしてたりする。


【四角形】

原作におけるMVPの人。大鎌形態のリーチが無ければ虚数空間に落ちるプレシアを一本釣り出来ず、また人間形態変化の解析データがなければリィン略とアリシアを助けられなかった。

主人公の要求するチートの中に含まれ、尚且つ彼の描くハーレムの一員に成り得た存在だったために「いやらしい雰囲気」が直撃。数々の暴言を吐いていたが、原作キャラと同じように最終的にはちょびっとデレた。
今回の罵倒も「死ね」じゃなくて「しね」。これは大きいデレですよ。


【丸い方】

オリ主のデバイス。それだけ。
主人公のいやらしさを感じ取れなかったため、彼とは結構仲良しだったらしい。


【モブ夫】

地味に主人公と中学校が一緒。それだけ。


【無口ゴリラ坊主】

中学に上がり女性キャラクターがごっそり減ったため、人数合わせに出したキャラの人。

メガネっ娘がちょっと目立ってきちゃったから、その反省で目立たないキャラを目指した……のだけどちょっと空気過ぎたかもしれない。更に反省。
多分高校編があったらオリ主の居たポジションについて主人公とアホやってた。


こんなもんで良い? あ、良いですか。どうも。
ともあれこれにておしまい。読んでくれてありがとうございました。


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めが年目

――発端。そう呼べる程度の意味を持ったやり取りは、実に些細な物だった。

 

とある休日、とあるデパート。友人達と共に訪れたスターバックスで何気なく問われた一言が、少女の心に僅かな焦りを齎したのだ。

すなわち――――「あのいやらしマンとはどんな感じなの?」という下世話な疑問。

 

おそらく、言葉を発した友人には悪意や嫌味などこれっぽっちも無かったのだろう。しかし、それはこれまでの日々に満足していた少女に楔を打ち込むには十分な物だった。

そうして言われるままに「彼」との関係性を振り返った少女は、その変化の無さに何となく不安になり、ちょっとだけ勇気を出した方が良いのかな、なんてぼんやり思ってしまった訳で。

 

特に山も谷も無い日常の一幕ではあるのだが――――「彼ら」の間では、この程度の起伏でもちょっとした刺激になり得てしまったと。まぁ、導入としてはそんな感じである。

 

 

********************************

 

 

駅に近く、街の中心部にも便の良い海鳴市で一番の高級マンション。その高層フロアの一室に「彼」は居を構えていた。

 

一見すれば他の部屋と同じく清潔感のある部屋の外観なのだが、ドアを開けて一歩進めばそこは魔境。

壁一面に一般・成人向け問わず美少女ゲームのポスターが張り巡らされ、棚やタンスの上には所狭しとフィギュアが並んでいるという超ヲタク特化居住区である。

おそらく相当なこだわりがあるのだろう、その全ては「彼」の手により常に埃が被らないよう清掃され、新品と同じ輝きを放っていた。それに加え部屋自体が綺麗に掃除されているためもあり、至る所を埋め尽くしている物の種類の割には「特有の空気」は少なく感じられる事だろう。

 

――そんな美少女に囲まれた場所の中に、重ねて美少女ゲームをヘッドフォンを装着してプレイする「彼」が居た。

 

軽くワックスで整えられた銀髪に、左右色違いの切れ長の瞳。高い鼻と薄い唇もバランスよく配置され、均整のとれた体つきと合わせてまるで美術品のような美しさを漂わせている。

「何故だ! 何故ちびミシェルの乳吸い小窓が無いッ……!」やっている事で全てを台無しにしていたが、それでもまぁ、美し……うん、格好い……うん、うん。

 

ともあれ。

 

そうして楽しそうに自らの趣味に興じる「彼」の声を聞きつつ、その背後に設置されている机に座る少女はいつものように絵を描いていた。

小学生の頃にこの関係が始まって以来、彼の声やアニメの音声を聞きつつイラストを描く事が彼女の日課となっているのである。

 

春も、夏も、秋も、冬も。一年間通してほぼ入り浸り。コーヒーメーカー(愛称めーこちゃん、単純だね)から漂う珈琲の香りや畳の感触も心地よく、受験勉強を始めとした切迫した時期にも良く訪れていた程だ。

今や彼女にとって、彼の部屋は常に穏やかな気持ちで過ごせるベストプレイスと化していた――のだ、が。

 

 

「…………」

 

 

そわそわと、じりじりと。今この時に関しては、何時もの穏やかな空気は鳴りを潜めていた。

 

タブレットの上を走るペンは精彩を欠き、履いているニーハイソックスの端をクイクイと弄り。落ち着き無く何かを気にするような仕草を浮かべている。

そうして見つめているのは、視線の先で頬杖を付いている「彼」の背中だ。こちらに意識を向けず、彼は自分が見つめられている事には気づいていないようだった。

 

 

「……スクイーズもなぁ、唯子先生以外にももーちょい増えねぇかなぁ……」

 

 

良く分からないが、多分エッチな事なのだろう。彼は物欲しげにそう呟きつつ、片手でキーボードを打ち鳴らす。

机に深くもたれ掛かり、限界まで背筋を歪ませ姿勢を崩し。そのだらけた姿たるや整った容姿が霞む程にだらしがなく、常ながら格好良さを無駄遣いしているなぁと思わざるを得ない。

もっとちゃんとした――容姿に合った紳士的な振る舞いを心がければ、彼が何時も提言しているハーレムなど簡単に出来てしまうだろうに。まぁ彼の性癖的に望む形にはならないのだろうけれど。

 

よく分からないもったいなさを感じた彼女は、もしそうなった場合を妄想し――「…………」結構凹んだ。自爆した。ただでさえ低かった集中力が更に散らされ、気力が大きく低下する。思いの外ダメージが大きかった事に自分でもびっくりだ。

 

……ああ、何か、もう。今日はもうイラストはいいかなぁ。手に持っていたペンをスタンドに置き戻し、彼と同じように机に伸び、くってり。ひんやりとした天板の感触が少女のやわらかな頬を押し返し、少しづつ体温を奪っていく。

 

その心地よい感覚に心のささくれが癒やされていく中で――ふと、目の前に迫った天板の一部にインクの欠片がこびりついている事に気がついた。

おそらく、イラストを書く際に用いた油性ペンが紙を透過してしまったのだろう。よくよく見れば、赤、青、黄色と様々な色が薄く何十にも重ねられ、単色では言い表せない複雑な色合いとなっている。これまでに少女が積み重ねてきた時間、その痕跡だ。

 

……後でこっそり掃除しておこう。人の家具を汚してしまっていた事に申し訳ない気持ちを抱きつつ、インクをいじいじ。指先に付いたそれを擦り合わせる。

 

 

「…………」

 

 

肌の上に引き伸ばされ、指紋の溝に入り込んでいくインクを見ている内に、過去の記憶が脳裏へと流れ始めた。

それは小さな事から大きな事まで、無作為に。次々と少女の心を過ぎ去って行く。

 

……思えば、自分がイラストを描くようになったきっかけは「彼」だった気がする。彼に貸して貰った漫画に触発され、自分もラクガキを描いてみた事が発端だったのだ。

あれからおおよそ十年以上。よくもまぁこんなに長く続いているものだ――――何となくおかしくなり、ほんの少しだけ吹き出した。そうして喉元に詰まっていた息が飛び出して、部屋を漂う珈琲の香りに紛れて消えていく。

 

――少女は自分でも気付かぬままに穏やかな笑みを浮かべ。流れる大量の過去の記憶に棹ささず、ゆったりと浸かる事にした。

 

 

○ × △

 

 

――最初に「彼」と会った時、その第一印象は「よく分からない変な子」であった気がする。

 

 

小学校に入学した初日。何もかもが初めてだらけの中で、話をする教師の隙を突き漫画を読み込む隣席の美少年。一見すれば少女漫画にありがちな「不良系幼なじみ属性持ちヒーロー」との出会いのシーンなのだが――相手がとても悪かった。

彼の動きは幼児に似つかわしくない程洗練されており、教師が後ろを向いている間に漫画本を取り出すのはまだ可愛い方。彼は教師が前を向いている最中にも常にその死角に漫画本を置き続け、決して読書を途切れさせないという頭に邪が付く種類の神業を行っていたのである。

 

……当然ながら、当時はまだ比較的健常な感覚を持っていた彼女にとってもその動きはとても奇妙に映っていた。正直に言えば、あまり関わりたくないと思う程に。

 

しかし元来の真面目な性格が災いしたのか、ホームルームでの自己紹介の順番が回って来た場面においても読書を止めようとしない彼に(やめときゃよかったのに)おせっかい心が湧いてしまったのだ。

ぐねぐねと身を捩り常軌を逸した動きを見せる彼の姿に気後れしつつも、少女はその腕をつんつんと突付き――後から思えば、その瞬間から彼との長い付き合いを決定づけられたのだろう。直後に行われた長ったらしい名前に受けたインパクトの事も合わせ、妙にはっきりと記憶の底に刻まれていた。

 

……そういえば、彼の性格と行動はあの頃から全く変わっていない気がする。

それは彼が子供の頃から成長していないという事なのか、それとも当時から成長しきっていたと言う事なのか。少女は今でも時々考えるが、答えは未だ出ていない。

 

ともあれそんなこんなで彼と言葉を交わすようになった彼女だったが、その突飛な行動には驚かされてばかりだった。

毎日窓から登下校を行ったり、屋上から校庭まで飛び降りたり。卓越した身体能力から来る常識外の行動には慣れる事は無く、最初に見た時には死んでしまったと思い悲鳴を上げてしまった程だ。

 

当然、それらの行為には他のクラスメイトや教師から注意が届けられたのだが――何を言われても「ハハハ、チート持ってねぇからって僻むなよ(笑)」とよく意味のわからない事を嘯き、マトモに取り合う事は無く。

結果として、その容姿と名前、そしてディープ且つオープンすぎるオタク趣味により、元々引かれ気味だった彼の周囲から人が消えて行くのにあまり時間はかからなかった。

 

少女だけは隣席という事もあり何だかんだと交流を続けていたものの、メガネ、もしくはモブ娘とこちらを決して名前で呼んでくれない彼の態度もあり、そのやり取りは当たり障りの無い浅いものに終始していた。

挨拶をすれば返すし、問いかけられたら答える。しかしそれ以上には踏み込まない。そんな薄い関係が続いていくかとも思われた二者間であったが――――ある日、唐突に投げ込まれた小石により変化を見せる事となる。

 

 

「え、エッチな事はやめなさい!」

 

 

――照れと勇気を綯い交ぜにしつつ現れたそれは、後の少女にとってかけがえの無い親友となる存在。アリサ・バニングスを始めとした、「彼」が原作メンバーと呼ぶクラスメイトの女子三人組と、当時まだ名前もよく覚えていなかった男の子の姿だ。

彼女達は何となーく世間話をしていた彼と少女の間に突然割って入り、彼に対して文句を付け始めたのである。どうやら三人は彼に少女がセクハラされていると思っていたらしく、正義の味方のような使命感が放たれていた。

 

……が、しかし。彼と少女はただ世間話をしていただけである訳で。確かに脇腹を突かれたりはしたが、それはただの軽いツッコミ的なアレである訳で。何というか、少女的にとても困る訳で。

 

何やらアリサ達には彼がとてもいやらしい人間に見えているらしく、キャンキャンと噛み付く彼女達とそれを無視する彼との間を右往左往。最終的には男の子の一声で誤解は解けたのだが、これまで喧嘩らしい喧嘩をした事が無かった少女は大きく疲弊した。

………そうして机に突っ伏しぐったりしていた所に、当事者たる彼が漫画本を少女の頭にそっと置き。その失礼且つ空気を読まない行動に彼女は思わずぷんすか怒り――それを契機として、ほんの少しだけ彼と親しくなったのだ。

 

加えてその時に貸して貰った漫画本の存在も重要な鍵となった。それまで絵本と教科書くらいしか読んだ事の無かった少女にとって、少女漫画は新鮮に過ぎたのである。

何が新しいって、コマ割りという手法が新しかった。複雑なお話があるのが新しかった。可愛い女の子や格好いい男の子が沢山描かれているのが新しかった。そりゃもう夢中になって読み耽るという物で。

 

それらに感化された少女が、自分も絵を描いてみたいと思い立ち、鉛筆を握るようになるまで時間はかからなかった。両親に買ってもらった自由帳に漫画を参考にしたイラストを描くようになったのだ。

幸か不幸か絵の才能はあったようでスラスラと筆は進み。絵を描くきっかけをくれた彼に自分のイラストを見て貰いたいと思い、タイミングを見計らい話を切り出して――――この時初めて友人と呼べるだけの関係に至った。ついでに初めて硬貨以外の貨幣を手にして狼狽える事となったのだが、まぁそれはおいておく。

 

――本当に、様々な意味でのきっかけだったのだろう。

 

イラストを褒めてくれた事もあるが、何より自分に誇れる物を与えてくれた事が嬉しく、彼の喜ぶ顔が見たくて絵を見せ続けている内に気づけばカルガモのように後を付いて回るようになっていた。

彼に突っかかっていたアリサ達とも一年同じクラスで居る内にやがて友達となり、男の子ともそれなりに話すようにもなった。男の子以外は未だ彼の事を誤解したままだったが、その内にいつもの事と割り切れるようになり。

 

口論が絶えず、騒がしく。学校から遠足先まで彼を大元として色々な人達から怒られてしまうようにもなったけれど、少女はそれも楽しく感じて離れる事は終ぞ無く――――後々まで続く「何時もの面子」の土台は、この時から作られていたのである。

 

 

□ ◇

 

 

そんなこんなで時は過ぎ。彼とアリサ達の間に腐れかけた縁がうっすらと見え始めて暫く経ったある日、唐突に騒動が勃発した。

あれほど仲の良かったアリサ達のグループが、大きな仲違いを起こしていたのである。

 

これには少女もびっくりだ。極小さな言い合いはあれど何時もなら一日もあればどちらからともなく笑い合っていたのに、アリサはなのはと男の子に対して「彼」に対するかのような苛烈さを見せているではないか。

少しイラストを描くために集中していたスキに一体何があったというのだろう。気にはなるが、簡単に声をかけられる雰囲気でもない。

 

そうしてハラハラしながらも手を出し倦ねていること数日。教室のピリピリとした空気の中でアリサ達の姿を気まずく眺めていると、いつの間にやら近寄っていた彼が少女の耳元で何某かを呟いてきた。

 

どうやらアリサ達を仲直りさせる方法を聞かせてくれていたようだったが…………その時に何を言われたのか、少女は全く覚えていなかった。

何やら耳の中に彼の声が響いたかと思えば、ゾクゾクと背筋と頭の芯が震え訳が分からなくなり、気づけばアリサ達に向かって自らの描いたイラストを見せながら説得をしていたのだ。

 

……最初こそ唆されての行動だったが、発した言葉が本心だった事には変わりなし。結果としてはこれ以上ない程綺麗に仲直り出来たので、彼に感謝するべきなのだろう。

それ以降イヤホンを付けると背筋がゾワゾワするようになってしまったので、少女的には素直に感謝できるかというと微妙な所だが。

 

おそらくはここから歩み寄っていったのだ、と思う。今回の件で多少なりとも彼を認めてくれたのか、それからアリサ達が自分から彼に突っかかっていく事が少なくなったのだ。

流石に頭をかいぐり回されたりした時には駆け寄って来たものの、二者間の間を少女が取りなす回数が減ったのは事実であり。少女もそれを嬉しく思っていた。

 

……まぁ、「いやらしい視線に晒されたくない」との理由で温泉や海への旅行へ誘わなかった所を見る限り、好感度の上がり幅は微々たるものだったのだろうが。

余りに申し訳なく思い、海へ行った際には泣けなしのお小遣いでイルカのキーホルダーをこっそり買って帰る事にした。喜んでくれるか不安だったが、筆箱に付ける程には気に入ってくれたようで何よりである。

 

 

その後は暫く平穏な日々が続いていた。

バトル漫画の面白さに目覚めたり、彼や男の子とアニメの話で盛り上がるようになったりと楽しく毎日を過ごしていたのだが――――ある日、彼が体調を崩して学校を休む事になった。

 

……お馬鹿は風邪をひかない筈なのに……!? と思ったのは少女ではなくアリサだった訳だが、驚いたのは彼女も同じだった。

何時も自由気ままに飛び回り、こと病気などと言うものとは無縁そうに思えていた彼が体調を崩した姿など考えられなかったのだ。いや、遠回しに馬鹿と言っている訳では無く。真に真に。

 

ともかくとして、(無駄に)明るく(本当に意味もなく)元気な彼が居ない教室は味気ないものだった。あるべきものが隣に無い違和感というべきか。彼と仲の良い男の子は勿論、アリサやなのは、すずかも心なしか退屈そうである。

少し寂しく思いながらも、その時は珍しい事があるものだなぁと軽く済ませていた少女も二日目となると不安が鎌首をもたげ、三日目には心配になり。そうして四日目の朝に欠席の報を聞いた瞬間、お見舞いに行こうと決意した。

 

よく家に遊びに行っているという男の子から住所を聞き、溜まっていたプリントを持参し放課後に彼の住んでいるマンションへと向かったのだが――それはもう、豪華なものだった。

見上げる程に高い階層に、防犯設備のしっかりした広いエントランス。何というか、一般市民が足を踏み入れていい場所ではないような、そんな気配がひしひしと。

 

お嬢様であるアリサやすずかの家によくお邪魔していた為軽く萎縮しただけで済んだものの、やはり場違い感は否めず。

丁度出かける所だったらしき住人のおばさんから不躾な視線を受け、手早く様子を見て退散しようと強く思ったのだが――彼に招かれ部屋に入った瞬間、そんな思いは吹き飛ぶ事になる。

 

――玄関を開けてすぐ。少女の目に飛び込んできたのは美少女の群れ。フィギュアにポスター、タペストリーと所狭しに並んだ二次元の女の子達だった。

 

……もし、これが普通の女の子であったのなら、部屋の光景に気持ちの悪いものを感じすぐに逃げ出そうとしていただろう。事実、後の時間軸にアリサ達が招かれた際は一目散に逃亡しようとしていたのだから。

しかし、この眼鏡の少女は反対に目を輝かせてしまった。常に彼の傍に居り、彼の戯言を聞き、彼の勧める漫画を読んでいた彼女は時既に遅く、少しばかりよろしくないものに汚染されきっていたのだ。かわいそうに。

 

ともあれ、存外に元気そうだった彼の様子を見て一安心。姿の見えない両親の事を聞いて少々気まずくもなったが、その空気もすぐに流され。学校の事を話したり色々とグッズの事を聞いたりアニメを見たり、楽しいひと時を過ごす事となった。

そうしてお互いのんびりしていると、突然立ち上がった彼が少女の前にダンボールを置く。中を覗いてみれば様々な画材道具が詰まっており、見舞いに来てくれた礼として少女に贈呈してくれるとの事らしい。

 

最初こそ悪いと思い遠慮していた少女であったが、好奇心は隠せなかったようだ。再び耳元で唆され訳が分からなくなり、気づいた時には幾つかの画材道具が鞄の中に入っていた。相変わらず恐ろしい唆しである、ビリ付く背筋に体を震わせ少女は戦慄。

他にも密かに憧れていたペイントソフトやら何やらをこの場所においてのみ貸し出してくれるとの事で――――そう、この時から彼の部屋に通うようになったのだ。

 

……え、アイツの家に? それ危なくない? 大丈夫?

 

その話をした時最初アリサ達からはそのような心配の言葉を頂いたが、すぐに彼の性癖を思い出したのかそれ以上の言葉は出なかった。果たしてこれは信頼と呼べるのか疑問ではあるものの、それなりに理解は得ていたようだ。ダメな方向に。

当時の少女はその心配の意味を正しく捉えられず、度々受けるダイナミックタクシーの誘いの事だと思っていたのだが…………これはアリサがマセていたのか、それとも少女が遅れていたのか。さて。

 

 

何はともあれ、アリサ達と遊ぶ他にも彼の部屋に行くという選択肢が増え。自作ゲームの絵を描いてみたり、一緒にゲームやアニメを見たりと過ごす毎日が続き。季節は冬へと巡る。

そうして新たにフェイトという友人も増え、すぐ傍まで迫ったクリスマスに備えアリサとすずかと共にパーティの相談をしていたその日――――彼女達は、「魔法」という常識外の世界に遭遇する事となった。

 

……と、言っても少女自身が何を成した訳でもない。ただ訳の分からぬままに巻き込まれ、その中心に居た友人から命を守られただけの話。言って見れば質の悪い事故のようなものだ。

 

しかし、それまで穏やかな日常を送っていた彼女にとってその出来事が「それだけの話」程度で済むはずも無い。魔法というものの存在を知った事は間違いなく彼女の裡での一大事であり――――同時に、価値観の転換期でもあったのだ。

その後に一時的に保護された次元戦艦アースラから見た景色や、リンディ達から受けた説明も合わせ、当時の記憶はそれから何年も経った現在でさえも色褪せてはいない。一言一句、一場面。全てはっきりと覚えている。

 

 

――――当然、命の危機に晒された時に誰を想い、誰に助けを求めて叫んだのかも、だ。

 

 

……この時の事を思い出す度、少女は頭を抱えてしゃがみ込む。

 

当時の恐怖が蘇って、では無く。その後自らの意識の外で進行していた事件が一段落し、八神はやてを始めとした新しい友人達を加えた後。長きに渡りその件をネタに色々言われ続ける事となったからだ。

流石色々と隠さない人達は違うというか、既に色々と狙いを付けている人達は凄いというか。まぁ、言ってみればやっぱりマセていたと。早めの思春期だったと。それに尽きた。

 

……ただ、その言われ続けた「色々」の多くはからかいでは無く、ド真面目に「やめとけ」と諌められていたというのが何ともはや。本当にダメな方に理解されている以下略。

 

 

● 

 

 

例え非日常に関わったとしても、少女が魔法を使えない以上は過ごす日々に変化は無い。

否、少女の内面には幾つか変化はあったものの、それは劇的に日常を変える程のものではなかったのだ。

 

保険の授業を受け真っ赤になったり、林間学校で皆と共に楽しく過ごしたり、いつの間にか作られていた新作自作ゲームの絵を描いてみたり。魔法のまの字も感じられない、普通(かぁ?)の小学生としての毎日。

別段それが不満だった訳では無いのだが、やはり少女も女の子。なのはや男の子がファンタジックな話をしているのを聞く度に、まるで漫画のような非日常に浸かれる事を羨ましいと思った時期もあった。

 

そうして焦がれるままに自分を主人公とした魔法少女モノの漫画を描いてみたりもしたのだが――まぁ、そんなものは黒歴史にしかならん訳で。

やはり自分は彼の部屋でまったりしているのが性に合っていると思い直し、原稿はシュレッダーにかけて焼き芋の燃料にして彼と並んでもぐもぐ食す。結構美味しかったので、まぁ無駄ではなかったんじゃないかな。

 

……そういえば、常軌を逸した身体能力を持つ彼であれば、なのは達の世界に加わる事が出来たのではなかろうか。

ひょっとしたら少女が知らないだけで、何らかの活躍を裏でしていたのではないか……? 密かにそんな疑問を持っているのだが、未だ尋ねた事は無い。何というか、聞かぬが花のような気がするとは少女談。

 

 

ともかくとして、この時期だったろうか。同じクラスになったはやてが、何やら悩んだ様子で彼にチラチラと視線を送る仕草をしているのが目立ち始めた。

 

…………よもや、まさか、ひょっとして?

ソワソワしつつどうしたのかと聞いてみれば、何やら謝りたい事があるのだが、その代償として何かいやらしい事を強要されるのではないかと不安なのだとか。何だそんな事かと誰かが溜息を付いた。

 

本人としてはかなり大きな心配事だったらしく、見ていて可哀想になるくらいの慌てようだったのだが――耳を傾けていたその全員からは苦笑いしか出てこない。はやては彼と接していた時間が学校内で一番短かったため、その性癖を未だ理解しきれていなかったのだ。

 

結果としては当然取り越し苦労に終わり、はやては周囲から生暖かい視線を向けられる事となった。まぁ仕方ないといえば仕方ないのだが、その勘違いは余りにも……という事で、彼女はしばらくその事で弄られるようになったそうな。

何時もは弄られる立場であった少女やなのはもそれに便乗し、普段からかわれている鬱憤を晴らし。仲間内では悪乗りが過ぎたはやてを諌めるためのカードの一枚として、今もなお語り継がれているという話である。

 

 

 

 

五年生。周囲に思春期へと突入した少年少女が増え始め、男子と女子が疎遠になっていく時期。

クラス内にも男女間を断絶する空気が漂い始めていたが、少女達の中ではそのような様子は全く伺う事が出来なかった。

 

……正確には少女だけは少しその空気に当てられかけていたものの、まっっったくそれを気にしようとしなかった他の面子に流され何時もの雰囲気に戻されていたのである。

そもそも既に近場でハーレム関係が形成されているというのに、今更普通振ろうとも手遅れに過ぎるというもの。少女達の関係は近づきはすれど離れる事は無かったという訳だ。

 

それどころか、新たにユーノという友人がその輪の中に加わる事となった。

今までは魔法関係の秘匿や「彼」がユーノと知りあいでないという前提があった為に、皆が皆妙な気を遣いすれ違っていたのだが――当の彼の家で少女とユーノが居合わせた事により全員共通の知人であった事が発覚。

特に「彼」とユーノの仲は思いの外良好であったらしく、これまでも少なくない頻度でゲーム合宿を開いていた事を聞いた時は相当に驚いた。それ以上にユーノとの仲を邪推された事に慌てたのだが。

 

ともあれ「面倒臭かった」という身も蓋もない理由から情報伝達を怠っていたとある下手人がアリサに蹴り飛ばされ、それ以降ちょくちょくと集まって遊ぶようになった。

流石に学校行事は別としても、時々のお茶会やクリスマス会などには皆で集まっていたものだ。

 

――そう、この時期に至りようやくアリサ達と「彼」の関係は完全に沈静化する事となる。彼の立ち位置が、アリサ達の中で「居て当たり前の奴」にまで昇華を見せたのだ。

 

彼らの互いに対する心情は大きな変化を見せず、片や90%の無関心、片や90%の嫌悪と到底仲良しとはいえない惨状であった。

しかし、何のフラグも立たないまま、嫌悪の感情を引きずっている内に、気づけばお互い残りの10%程度は共通して親愛の情を抱けるようになっていたのである。

 

特に何の和解も無く、いつの間にかなぁなぁになっていた彼らの関係は正しく腐れ縁と表現するに相応しかったのだが――それでも、少女にとってはとても嬉しい事だった。

学校でも本気の喧嘩をする事はなくなり、彼が自分達の側に居る事に違和感を抱かなくなって。なのはや男の子達六人が前を歩き、時たまアリサから文句が飛ぶ。

 

そうして、それに豊富な語彙でけなし返す彼が、少女と一緒に後ろを歩く。それはとても穏やかな構図で、少女はその何気ない時間が大好きだった。

 

 

――――そして、そんな空気の中で迎えた臨海学校は彼女にとって、とても大切な思い出となっている。

 

 

思い切って彼をホッカイロにしてみたり、友人達と一緒にお鍋を作ったり。女子グループで訪れた水族館も前に行った時より楽しく感じていた。

そして何より心に残ったのは――みんなと一緒に夜の海を眺めた事だ。

 

月が照らす寒空の下に広がる、色取り取りの光が揺蕩う穏やかな波。

今まで見たどんな景色よりも綺麗だと思えたそれを、8人で――そして、何時もの定位置で見つめ続けた。

 

……その際、ほんの少し。それこそ袖が触れ合う程度に彼女は重心を傾けた。それは小さく些細な行動だったが、少女にとっては大きな勇気であったのだ。

 

何も喋らず、互いを見つめず、ただ静かな時が過ぎ行くのみ。しかしその時間はかつて魔法に巻き込まれた時の事と同じかそれ以上に色褪せ無く、そして全く別の意味を持って少女の心へと収められていた。

おそらくは、これからどれだけの時間が過ぎようとも忘れる事は無い。何となく、少女にはその確信があった。

 

――その理由は、言葉にするだけ野暮というものである。

 

 

***************************************

 

 

「――んー。今日はこれにすっか、ガンプラビルダーズ。来週ビギニングさん出るっぽいし、もっかい観直しとこうぜ」

 

「!」

 

 

――突然そう声をかけられ、ふと我に返る。

 

机につけていた頭を上げれば、いつの間にかゲームを止めていた彼が嬉々としてテレビを操作している所だった。

大量のDVDラックからお目当てのパッケージを取り出し、ディスクをプレイヤーにセットして。最後に画面の向きを指パッチンで整え準備を済ませた後、抱き枕を抱えてテレビを見やすい位置に陣取った。

今でも幼心を忘れない彼は「アニメを見る時は部屋を明るくしてテレビから離れてみてね!」を律儀に守り続けているらしく、最低でも三メートルは離れるようにしているそうだ。

 

少女も今や彼女専用となった抱き枕を机の下から取り出し、彼の横へと移動する。絵を描いていない時は、こうして二人並んでアニメを見る事が習慣となっていたから。

 

 

「…………、」

 

 

……その際、今まで思い出していた記憶を参考にし、少々勇気を持って抱き枕に寄りかかる振りをして少しだけ重心を傾ける。

あの頃より少しだけ伸びた髪がさらりと揺れ、少女の纏う柑橘系のような薄い香りが彼の方角へとふわりと漂う…………のだが、何時も彼の愛用する女子高生の香り香水が存在感を主張し、香りを紛れさせてしまった。これだから全くもう。

 

しかし少女も少女で、何だか良いにおいがするなぁと呑気に小ぶりな鼻をすんすん。同時に彼の体温を感じ、ほっこり穏やかな気分。

当初感じていた不安など今や見る影も無い、彼も彼で問題は大有りだが少女も結構アレであった。本当にこれだから全くもう。

 

……そうして、彼と二人。体温を感じられる距離でアニメを見る少女は、前にも同じ様な状況があった事に思い至り。

画面の中を華麗に舞うビギニングガンダムの勇姿を眺めつつ、彼女は再び過去の記憶に没入していった――――。

 

 

 

 

 

修学旅行。卒業を眼前に控えた、小学校最後の学校行事である。

友人達と一緒に作る思い出の時間。多くの生徒が楽しみにしていたように、少女もまたそれを楽しみにしていた。旅行の前日には中々寝付けず、寝過ごしそうになった程に。

 

グループ分けは勿論何時もの八人編成。その中に自分が含まれている事に誰も拒否を示さず、今更ながらに不思議そうな顔をした彼が居た。

どうやら、まだアリサ達の内面に起きていた変化に気付いていなかったらしい。グチグチ文句だけは忘れないアリサ達と疑問符を飛ばしている彼の姿を見ながら、少女はニコニコと笑っていたのだった。

 

大人の手を借りずに切符を買うという事に多少緊張し、電車を乗り継ぎ辿り着いた旅行先。

長い事電車に乗っていた事による疲労、そして観光名所が予想以上に広かった為に楽しさと同時にちょっぴり疲れを見せていた少女だったのだが――ふと気づけば、彼に肩車をされていた。

 

……何故? いや、彼の突飛な行動に慣れていた筈の彼女であったのだが、流石に何の予備動作も無しによく分からない力で射出されれば驚きもする。加えて太ももの間に彼の頭があるとなれば尚更だ。

 

確かに以前の遠足で同じように肩車された事もあったが、当時と同じように扱われても困るしかない。何せこちとらそれなりに成長し、色々気になる部分が出てくるお年頃なのだ。

結局は恥ずかしいやら嬉しいやらで混乱し、「成長したなぁ」とトドメを刺されて撃沈。一段階下がっておんぶに落ち着く事となった。「重くなった」と言われなかっただけ良かったのだろうが、羞恥心的には多分同レベルだっただろう。

 

……その日の夜、はやてを始めとしたクラスメイトの女子達にからかわれたのは少女的に顔を覆ってしまう類の記憶である。

 

 

その記憶を振り払うように、次の日の自由行動はとても楽しい物となった。

テンションの上がったアリサを先頭にして街中や観光名所を練り歩き、様々な場所に訪れて。風情のある景色は見ているだけで楽しく、時折見惚れ過ぎて置いて行かれそうになりつつも皆揃って見て回ったのだ。

 

途中幾つかトラブル(彼の路上ストリップ未遂&男の子による光速腹パン)はあったものの――それはもう、満たされた時間だった。

 

笑い合い、騒ぎ合い。その全てが良き思い出となり。楽しい時間はすぐ過ぎるとはよく言うけれど、正にその通り。我に返れば長い時間あった自由時間も残り僅かになっていて、集合場所に向かわなければならない時刻になっていた。

皆も相当に楽しかったらしくはしゃぎ過ぎたようで、彼や男の子の二人を除いた全員に疲労が蓄積し、少女に至っては彼に縋り付いて半ば眠っていた有り様。この時彼の背に涎が染みこんでしまったのだが、幸か不幸か誰も気づかなかったそうな。

 

 

そうして夕食と入浴を終え、夜が更けるのに反して少女の目が冴え始めた頃。突然はやてが、男子部屋に遊びに行く事を提案してきたではないか。何でも「これをやらんと何が修学旅行や!」との事らしい。

……実ははやてよりも先に「やらないのかなー」とか何とか思ってた汚れた少女が居た気がしたが、気のせいだろう。

 

それはさておき、如何にベタではあろうとも当然旅のしおりでは禁じられている行為である。教師に見つかれば説教を受けるのは確実だ。

しかし、旅行でタガの外れたクラスメイトは皆乗り気。本来はブレーキ役であるアリサやすずか達も、想い人である男の子が絡んでいる為悪魔(仔狸)に魂を売り渡し。あれよあれよという間に教師の目を盗む無駄に緻密な作戦が立てられ、行動が開始されてしまった。

 

唯一「男子の部屋に行く」という行動に慣れていた少女となのはだけは流されなかったのだが、自分だけ残るのも寂しかったので何となく付いていく事に。

ドキドキと、そわそわと。そんな擬音を飛ばす集団を後ろで見ながら、彼女はとてちてと追従し――――そのままホテルのロビーに差し掛かった時、彼の姿を見つけこっそりと抜けだしたのだ。

 

その後の展開を考えるとはやて達を見捨てたに等しい行為だった訳だが、その時の彼女には全くそんな考えは無かった。何故ならば、ロビーにあるテレビにはアニメが映っていたからだ。

彼、そしてアニメとくれば、その隣で自分が鑑賞しない訳にはいけない――ごく自然にそんな事を思い、少女は流れる動作で彼の隣に腰掛ける。

 

彼は少女を見る事は無かったが、気配で誰か分かったようだった。彼女もその後は彼を見る事は無く、雑談もそこそこに二人してテレビを見続けた。

昼とは別の、穏やかな時間。海鳴から離れた土地であるにも関わらず、まるでいつもの部屋に居るかのような錯覚を受けたのは決して気のせいではないのだろう。

 

「スキバラはガレッジのが一番面白かったよなぁ」

 

少女的にはココリコが一押しである。後に一時間番組に昇華されることを考えると、見る目はあったのではなかろうか。

ともあれそんなこんなでひと通りの番組を見終わり、いい時間になった後。何やら疲れと照れの混じった様子でロビーまで戻ってきた女子達にくっついて、少女は事も無げに部屋に帰っていった。完全犯罪の完成である。

 

……すると遠くの方から教師の怒鳴り声とはやての悲鳴が轟いてきた、どうやら一人だけ逃げ遅れたらしい。素知らぬふりして布団の上に座った少女は、ひっそりと冥福を祈るのであった。

 

そして迎えた次の朝、彼らは帰宅の途についた。道中何故か彼が騒いでいたが、それもそれで「らしい」のだろう。彼と男の子が繰り広げる喧嘩をオチとして、少女達の修学旅行は終わりを告げたのだった。

 

――旅行途中に彼らが撮った写真は、卒業式の写真と合わせて今でもフォトスタンドに入れられて飾られている。無論、少女だけではなく全員の部屋に。

 

 

 

 

卒業式も終え、少女達が中学生になっても皆との交流は続いていた。

アリサ達同じ女子中学校に進学した者達は勿論として、男子中学校に別れた彼や男の子とも友好は途切れなかったのだ。

 

まぁそれも当たり前である。例え学校が違えたとしても、放課後に彼の部屋に行く習慣まで変える必要は無いのだから。

加えて小学校の卒業式の際には少女の両親にも特に悪感情は抱かれなかったようで、交流を阻む存在は殆ど無い訳で。結局はほんの少し会う頻度が減るだけに収まった。

 

……学校で隣を見ても見慣れた存在が居ないというのは中々に味気ない物があったが、おそらく彼はいつもの通り過ごしているだろう。それを考えると少し寂しい気持ちになる少女である。

 

 

春が過ぎ、夏が来て。新しい学校での生活にも慣れ、新しい友人も出来それなりに中学生を満喫し始めた頃。少女はアリサ達から海へのお誘いを頂いた。

以前までとは違い今回は彼も参加を表明したので、旅行当日を楽しみにしていた事をよく覚えている。

 

海といえば水着。しかも中学生に上がり大人へと近づいた事でアリサ達は妙に張り切り、例の男の子を悩殺するのだ何だと気合を入れて水着を新調していたのだが――少女としては特に盛り上がる事も無く、前年に着用していたものを使う事にした。

確かに新しい水着に興味が無い訳でも無いし、可愛いと思うものも幾つかあった。しかしどうせ何を着ても変わらないのだから、今のままでも十分だろうと判断したのだ。

 

そうして水着売り場で一人呑気に構えていた少女であったが、そんなノリの悪い行為を許してくれない狸が一人。八神はやてである。

彼女は思春期が死にかけている少女を無理やり更衣室へと引きずり込み――割愛。

結果として彼女は大事なもののようだった気がする何かを失い、そして露出多めの水着を着る事となった。

 

加えて比較的大人しめのなのはやすずかも流されるまま大胆なものを買う羽目になり、イマイチ羞恥心の感じられないフェイトや引っ込みのつかなくなったアリサ、そしてノリノリのはやてもそれに合わせて夏季における少年誌的イベントを起こす準備は完成。

 

それぞれ期待感や羞恥心やその他色々乙女を抱きつつ海へと望んだ――――のだ、が。それらは「彼」の着用した常軌を逸する変態水着により全て纏めて吹き飛ぶ事となった。

 

――何せ布、である。二枚、である。クロス、である。尻、である。

 

例えどのような大胆な水着を着ようとも、それの前では印象は薄いものとならざるを得ず。がっくりと砂浜に膝をつくはやての姿が目撃されたそうな。

唯一フェイトだけは何やら興味深そうに観察していたのだが、一体何を考えていたのだろう。男の子に吹き飛ばされ砂浜に犬神家している彼をチラチラ伺いながら、ひっそり友人の事を心配する少女であった。

 

 

そうして彼の家に畳が敷かれ増々居心地が良くなったり、妙に張り切って始めたゲーム制作に巻き込まれたり時は経ち。

そんなこんないつも通り過ごしている内に冬が訪れ、ラーメン屋に一緒に行った事もある。

 

……まぁ話としてはそれだけなのだが、色々と初めての経験だったので何となく少女の記憶に残っている。いや、だって、ほら。夜だったし、暗かったし。

後日アリサ達と遊びに出かけ、初めて皆でデパートのフードコーナーに訪れた際。この時の経験を活かし淀みなくラーメンを頼めたのが密かな自慢である。

 

 

 

 

彼がちまちまと作っていた自作格闘ゲームが完成したのは、中学二年生になって少し経った頃だった。

それこそ年単位で少しずつ制作していたのだが、男の子、少女、ユーノも加えた四人で作ったその作品はとても良い出来で苦労した分完成の感動も一入という物。

 

せっかくなので完成祝いに皆で遊んでいたのであるが…………気づけば、何故か彼ら男子勢の顔が曇っていた。少女の脳裏に嫌な予感が過ぎる。

彼ら曰く、何でも格闘ゲームなのに声が無いのが寂しいらしく、そのせいで一味足りない感じになっているらしい。

 

――そうして話の流れで自分達で声を入れる事になってしまったのだが、少女にとってこの時の事はとても恥ずかしい記憶として残っている。

 

何せ少女は今まで「演じる」というものに縁が無かったのだ。学芸会でも美術の裏方に徹していたのに、突然そんな事を言われてもハードル高すぎである。

しかも自分の描いたキャラクターに声を当てる等、大昔に描いた自分を主人公にした魔法少女漫画を彷彿とさせ、恥ずかしさのあまり死にそうになった程だ。

 

まぁ結局は演じるキャラを引っ込み思案な性格設定のキャラにしてもらい、やられ声の部分は予告なしに脇腹を突いて貰ったり小手先を弄して臨場感を出し何とかなったのだが、終わった頃には畳に突っ伏してすんすんと泣いていた。

後に来たなのは達が結構ノリノリで声を当てているのを見て、よくあんな声が出るなぁと感心した次第。

 

ともかくこうして今度こそ完成したゲームなのだが、翌年においてとても大切な存在となるとは予想していなかった。

少女にしてみれば見る度に赤面を禁じ得ない黒歴史一歩手前のゲームなのだが、それも引っ括めていい思い出と言えるのだろう。きっと。

 

 

それ以降は特に何事も無く、穏やかな日々をのびのびと堪能していたのだが――1回だけ、突然彼に抱き着かれた事がある。

 

その日は別段変わった様子のない、何時もの一日だった。唯一違う事といえば、何やら貴重なゲームソフトを手に入れた彼がはしゃいでいた事だろうか。

 

ぬおー、うおー、ひゃあー、わきゃー。自らの操る主人公が息絶える度に彼は悲鳴を上げ、少女もその残酷な死に様に意味合いの違う悲鳴をあげていた。

そうしてそんな騒がしい時間の中で、彼が何の前触れもなく「あァづぁだだだだだァーーッハハハァー!?」と苦しいんだかそうでないんだかよく分からん叫びを上げたのだ。

 

いつもの巫山戯たものではない、本気の絶叫。少女は慌てて蹲る彼に近づき体を揺すり――――がっし、と。いきなり背中を引き寄せられ、力強く抱きしめられたのである。

 

否、抱きしめられているというよりも、縋り付いていると言った方が正しい様相を呈していた。しかし当時の少女には、その違いを認識できる冷静な思考能力が残されている訳も無し。

体を微細に震わせながら自らの膨らみに顔を埋め、荒い息を繰り返す彼。その様子を目の当たりにした少女は、心配やら恥ずかしいやら混乱の局地にあったのだ。

 

また、凄い力で抑えられていたために動く事もできず、ただ彼の名を呼びながら体を支え背中を撫でる事しか出来ず。

幸いにしてそれ程時間が経たずして彼の不調は治ったようだが、少女はしばらくそのまま固まったままだった。ちょっとばかり刺激が強すぎたのである。

 

……しかしそれに対して彼の方は特に何も感じた様子がなく、何事もなかったようにゲームを再開した。その姿に安心した少女であったものの、ちょっぴり寂しさを禁じ得なかったそうな。

 

 

 

 

女子中学校での修学旅行は、小学校の時と比べてほんの少し味気ないと少女は思った。

旅行先の沖縄はいいところであり楽しい事は楽しかったのだが、やはりふとした時に足りない人物を思い出してしまうのだ。

 

同じ班になったなのは達も同じ気持ちだったようで、女子だけの旅行という事で新鮮ではあったものの、皆僅かに物足りなさを感じていたようだ。「今度は皆で来たいわね」とアリサは言っていたが、全く持って同意である。

……それとアニメ放映局の電波が入ってこない事も物凄く物足りなかった。こっそりフェイトに頼んでバルディッシュに電波を引っ張ってもらったが、それが出来なかったらアリサと同じように頭を抱えていたかもしれない。

 

ともあれ旅行もそれなりに楽しみ、おみやげを買って海鳴に帰還。同じく男子中学校でも沖縄に修学旅行へ行っていた彼とおみやげの交換会をしたが、何とびっくり中身は全く同じキーホルダー。

沢山ある沖縄土産の中から、全く同じものを選んだというのは結構凄い事なのではないか。少女は何となく喜んだのだが、彼は何やら渋い顔。おみやげが気に入らなかったのかと不安になったがそうでなく、どうも彼曰く「カブリは負けっぽい」のであるらしい。

 

そうして何故か作ってくれたゴーヤーチャンプルはとても美味しく、旅行先での思い出を語り合っている内にようやく帰ってきたような心持ちになった少女であった。

 

 

春の早い時期にあった修学旅行が終われば、後に迫り来るのは受験である。

 

少女達の通う学校はエスカレーター式であり、よほど酷い点数を取らなければ自動的に進学する事はできる。

しかし、例えそうだとしても努力を怠って良いという事は無い。流石にアリサやすずかと言った本当の優等生には届かないとしても、その友達である以上は指先が掠るくらいには追いつきたいと思うのは至極当然の事だった。

 

彼の部屋に行くという習慣を変える事は終ぞ無かったものの、その手に持つペンで描くものを人物の顔から数式に、横に置く資料を風景の写真集から参考書へと変え。

四六時中流れるアニメやゲームは目の毒になりかねないと不安だったが、むしろ逆に集中できる要因となってほっと一息。日々真面目に勉強へと取り組んでいた。

 

……が、そんな少女とは裏腹に、彼は何もする気配は無かった。いつもの余裕を持ち続け、生活ペースに変化を見せなかったのだ。

彼の成績が良い事は知っているが、ここまで余裕を持てるものだろうか。可能性は少ないだろうが、もしかすると既にどこか進学先が決まっているのでは……?

 

もしそれが県外の学校であったらどうしよう。端から見れば無用の心配をしつつ彼に聞いてみれば、少なくともこの場所から離れる事は無いと聞いて安堵の溜息を吐いた。

 

……少女は知らなかった。彼女は彼と共に高校生になる事を前提としていたが、この時点においてそれが叶う確率は驚く程に低いものであった事を。

そしてこの時の会話がなければ、彼は裡に燻るものを持て余したまま深く思考すること無く、魔法世界に行く面々の多くと同じく学生を止めていた事を。

 

それ以降彼は自らの進路に対し少しばかり腰を入れて悩むようになり、それなりに長い期間悩みを引きずる羽目に陥るのであった。

 

 

受験関係の書類の整備や追い込みの為、少女が彼の部屋に訪れられなくなって暫く。月村家にて、おそらく皆揃って集まる最後の機会であるクリスマスパーティが開かれる事となった。

 

今回は例年のものとは違い、それぞれの家族も招待されている。会場となる部屋や料理もそれに準じた物が用意され、それなりに大きな規模のものとなっていた。

隠し芸大会やプレゼント交換会などのイベントも催され、皆が皆楽しいひと時を過ごす事が出来た事だろう。少女の披露した隠し芸は勿論イラスト、即興で訪れた人々の似顔絵を動物風に描き上げ場を沸かせたものである。

 

プレゼント交換もイベントで回ってきたものとは別に、彼より合格祈願のお守りを貰い嬉しさ爆発。その場で鞄に付けさせて頂いた。

一歩ごとに揺れるそれにニコニコしながらパーティを楽しみ――または惜しみ。そうしてなのはやフェイト、アリシア達と喋って居る内に時間は過ぎ行き閉会の時刻。

 

寂寥感を抱きつつもメイドのファリン達と一緒に部屋の片付けを手伝った後、周囲の皆と同様に自分も帰り支度を整えていると――「彼」がアリシアに手を振っていたのが目に映る。

おや、彼が初対面の女の子と仲良くなっているなんて珍しい。何となくそれを嬉しく感じた少女は何時もの通りその隣に立ち、二、三言軽く会話し別れを告げたのだった。

 

――後日、その時にした会話について彼から礼を言われる事となるのだが、少女には何の事かさっぱり分からなかった。まぁ、彼女の認識ではそんなもんである。

 

 

 

 

――そうして訪れた別れの日。少女自身は多分泣くだろうなと思っていたのだが、予想に反し泣き顔にはならなかった。

 

寂寥はあった、未練もあった。しかし、涙は流れない。

それは別れる前に十分に話し合えた結果か、それとも予めまた会える事が分かっていた為か。判断は今でも付かないものの、いつも通りの自分で送り出せて満足である事には変わりない。

全力を尽くして彼と作った格闘ゲームのパッケージもなのは達に渡す事が出来たし、何より「また一緒に遊ぼう」と笑顔で伝える事も出来た。

 

――――自分がした「さようなら」は、これ以上ない程良い形だった。自信を持ってそう言える。

 

 

そうしてアリサ達とも別れ、彼と並んで歩いた帰り道。

無言のままの雰囲気にちらりと横を見てみれば、彼は顎に手を当て何事かを考えこんでいる様子だった。

 

……やはり仲良しだったユーノや男の子と別れたのが寂しいのだろうか。確かにアリサ達の居る少女とは違い、彼は一人きりだ。男子の中では唯一残される形になるため、その寂しさも人一倍大きいのだろう。

 

何か慰めた方がいいのかな。真剣にそんな事を悩んでいると――「……んー」いきなり、彼の大きな手が少女の頭を撫で回してきた。

ぐわんぐわんと脳が揺れ、バランス感覚がかき回されて目が回る。多分この時脳細胞が死んで更にダメになった、いや勉学方面ではなくもっと別の方向に。

 

抗議をしようにも混乱が勝り、そもそも自分が何をされたのかも理解できていなかった為どうしようもなく。そのまま目をぐるぐる回し続けて――――そうして、最後に彼の声を聞いたのだ。

 

 

「……ほれほれさっさと行くぞ、すっぽりメガネ」

 

 

……メガネはいつも通りとしても、すっぽりとは何ぞや?

 

溜息と共にそう投げかけられたその定冠詞は、一体どういう意味を持っていたのだろう。聞き返そうにも直後に抱え上げられ宙を舞う羽目になってしまい、結局その意味は聞けないまま現在にまで至っている。

穏やかな声色から察するに、そんなに悪くない意味だったのかもしれないが…………まぁ、彼の事だ。どんな暗喩が組み込まれていても不思議ではない。

 

……まさか少女の苦手なエッチな意味が含まれていたりするのだろうか。いや、彼の性癖を考えるにその可能性は皆無だろう。となると、さて。

 

 

――――ねぇ、あのいやらしマンとはどんな感じなの?

 

 

…………そうして再び少女の脳裏にその声が響き。記憶の再生が、止まった。

 

 

 

**************************************

 

 

 

「…………」

 

 

ぼんやりと沈んでいた意識が浮き上がり、焦点が像を結ぶ。

目の先にあるテレビ画面では未だアニメが続いており、白いサザビーが小さいビグザムをどついている所だった。

 

彼女の記憶が正しければこれは終盤のシーンだった筈、どうやら思い出に没入している内に結構な時間が経っていたらしい。……後でDVDを借りて見直そう、そんな事をひっそりと思う。

 

 

「やっぱいつ見てもビルダーズ……っぽいのの作画ってハンパねぇよなぁ。今やってるビルドファイターズもスゲェし、ストーリーも熱いし、正史ガンダムよかこれ系統のが好きかもしれん」

 

 

彼は顔を画面に向けたまま、少女に向かってそんな事を話しかけた。その表情にはロボットアニメを見る子供特有のキラキラとした光が宿り、目を見開いて画面を見つめている。

おそらく、その無駄に高い動体視力で中割りの一枚ですら見分けているのだろう。よくよく見れば瞳孔が細かく収縮を繰り返していて、アニメ鑑賞に全力を賭している事が見て取れた。

 

――その瞳を見ている内に、何だかどうでも良くなってくる。

 

……全く困ったものだ。少女はそんな自分に軽く笑みを漏らし、画面へと視線を移す。一秒毎に胸の内に溜まっていく満足感が、先ほどまで感じていた不安その他を追い出していくのだ。

自分でもいい加減だとは思うが、実際満足してしまうのだから仕方がない。彼との関係、言葉の意味。思う所は色々あるが、そのどれもが今の時間を遮るに値しない程度のものだったと言う事だろう。

 

 

――――どんな感じと問われれば、こんな感じ。今はそれで良いのではなかろうか。

 

 

まぁ、あれだ。良し悪しは別としても、このまま日々を送っていれば自ずと行き着く先には辿り着く筈である。だからその日を楽しみにしておこう。

そう結論づけた少女は、穏やかな気持ちで抱き枕を抱える力を強め。少しだけ、彼の側へと近寄ろうとして――――

 

 

「……………俺さぁ、この頃言い訳ばっかり浮かぶんだよ」

 

「……、?」

 

 

――――突然、当の彼からそう声をかけられた。

 

気づけば既にアニメはエンディングを迎えており、スタッフの名前と主題歌が流れている。

しかしその最中に話しかけてくるなど「提供スポンサー一覧までがアニメ、スタッフに敬意を評しエンディングは黙って見るべし」と常々語っている彼にしては珍しい暴挙だ。

 

思わず目を向ければ彼の視線は少女に注がれており、アニメを鑑賞してる時とは別種の光が瞳に宿っていた。雰囲気も先程までとは別物のように乾き、全身からつまらなさそうな空気を醸し出している。

……一体どうしたというのだろう。心なし背筋を正し、彼の言葉を待つ事にする。

 

 

「お前も分かっていると思うが、俺が大好きな超格好いい俺は2・5次元なんだよ。何故ならば、俺が美少女フィギュアのように美しい存在であるから。

 あのアリサ達でさえ3・2次元止まり、三次元の壁――俺はフィギュアの壁と呼んでいるが――を突破できてはいない。そう、世の三次元共には到底到達不可能な場所に俺は居るんだ。今更言うまでもねーけど」

 

「……………」

 

 

何時ものナルシスト発言だろうか。いや、しかしそれにしてはテンションが低めである。言っている意味がさっぱり分からない点に関しては、いつもの事である為気にしなくとも良いだろう。

とりあえずは様子見に徹し、溜息を吐きながら目を瞑り渋い顔をする彼を眺めつつ、静かに耳を傾ける。

 

 

「……この壁はそう乗り越える者が出てきていい物じゃねぇのよ、もし乗り越える事が出来る物が居るとすれば――――それは、この俺のように神の手によって作られた美術品のみ。

 つまりオリ主があんなド平凡である以上、壁を乗り越え俺と同位置に立てる可能性があるのはStrikerS以降に参戦してくるかもしれない転生者だけなんだよ。それなのに、なぁ…………」

 

 

と、ここで一呼吸挟み。彼は瞑っていた目を開き、再び少女へと視線を合わせた。その表情は先程までと同じ雰囲気を湛えており、自分がつまらなく思われているように感じて思わず身じろぎしてしまう。

……しかしそうではなかったらしく、そんな少女の様子に彼は優しげな笑みを浮かべ……直後に白目を剥き眉をハの字に歪め鼻の穴を膨らませ歯茎をむき出し顎を突き出し舌をうねらせた。相変わらずイケメンが台無し。

 

 

「内申点込みで良いじゃねぇか、俺の一部としてみれば良いじゃねぇか、ギリ2・999次元として処理すりゃいいじゃねぇか。最近、俺議員がそんな意見を出しやがるようになった。……この意味、分かるか」

 

「…………?」

 

「分からんか、まぁそうだろうな。いや俺もさ、もう別に良いんじゃねぇかとは思うんだ、その方が自然だし。でもさぁ、それを認めると……おかしくなるだろ?」

 

 

がっくりと頭を垂れつつ最早独り言に近い彼の言葉を聞きながら少女は首を傾げ、そして疑問を舌に乗せる。……つまり結局、何を言いたいのだろう?

 

 

「んー、つまりだな…………俺という存在は、近い内に惨たらしい死を迎えるだろう。と言う話だ」

 

「――――」

 

 

……冗談でもそんな事は言って欲しくない。少々怒った様子でその旨を伝えると、彼は一層嬉しそうに笑みを深め――同時に困った様に眉を寄せる。

それは少女が今までに見た事の無い表情であり、思わず抱いていた怒りが何処かへと消えてしまった。

 

 

「まぁ、さぁ。そも言い訳なんて浮かぶ時点で俺としては末期に等しくてだな、このまま行けば多分年内には死ぬ感じなんだよなぁ」

 

 

行き着く先がそこってか、あー下んねぇ下んねぇ。顔を手で覆いそう繰り返す彼の言葉には悲壮感は無く、どうやら「死ぬ」とは比喩表現である事が分かる。

……しかしそうなると、一体何が「死ぬ」のだろう。考えを巡らすものの答えは出ない。

 

 

「……はン」

 

 

そうして表情を覆った手の隙間から少女を見つめ、その頭上にクエスチョンマークが飛んでいる様を見た彼は溜息一つ。もう片方の手で少女の頭をかいぐり回す。

 

それはまるで、先程まで思い出していた場面の再現だ。前後左右、まるで3Dスティックを回すかのようにぐわんぐわんと。力強い腕の動きに抗う事が出来ず、振り回される。

今までに散々慣れた感覚であるが、やはり目が回るのはどうしようもない。少女は眼鏡の奥の瞳を渦巻き模様に変化させ、ゆらゆらと上半身をフラつかせた。

 

 

「――すっぽりってぇのは、収まるんだよ。こう、在るべき場所にすっぽり、みたいな」

 

 

――――どうやら彼も同じ事を思っていたようだ。そう呟いて、不貞腐れたように唇を尖らせる。

 

成程、すっぽりメガネとは、それ即ち自分には眼鏡が似合うという事か。未だハッキリ定まらぬ意識の中で少女はそう結論づけ、何となく愉快な気分になる。もうダメだ。

その言葉に彼は立ち上がりつつ苦笑を漏らし、エンディングの終えたアニメを止めてDVDを取り出した。パッケージに戻し、DVDラックへと収めに戻る。

 

 

「ま、ともあれ俺が死んだ後は宜しく頼むぜ。死体の処理とか、墓とかな」

 

 

そう言って彼は渋い顔してヒヒヒと笑い、すれ違い様に足先で少女の脇腹を突っついた。

 

 

――――どんな感じと問われれば、こんな感じ。

 

 

もう少し経った頃には「あんな感じ」になる日も来るかもしれないが、その情景は未だ明確に浮かぶ事が無い。おそらくまだ暫くは先の話であるのだろう。

……しかし、その未来は少女にとって中々に悪くない光景になる筈だ。根拠は無いが、きっとそう。

 

そうして少女は頭を振って意識を正し。背後から投げかけられた「なんか見たいのあるかー」との問いに対し、突かれた脇腹を押さえつつ文句の言葉を飛ばしたのだった――――

 

 

 




ユーノとスバルはあれ、ティアナとギンガをオリ主に取られ不貞腐れてる最中、仕事で無限書庫で会う内になのはさんの話題で仲良くなったんじゃないすかね。


【天狗】

            ,,、
          // ヽ,
         ,..└'"´ ̄  ̄ `.ヽ 、
       ,. '´      、 、  ヽ ヽ
      ノ   ,  lヽ N/ヘ、ヽト、_,,',
    r'´ r'"イ、ノ\| レ' r=ァVl  (  )
    {  !、 l rr=-       /  `'''l.>‐ 、  おお、きめぇきめぇ
    レヽ.,トl     ー=‐'   /    li、,_,,ノ
   (  ,}'  ',          レヘ,  /レ' ,/ .>‐、
    .7'´ レ1 ヽ           人ル'レ'  .i、 _ノ
  , ‐'、  レ~i`ヽ 、 _  __ - ´
  !、_ノ




天狗とは、

日本の伝説、伝記上の妖怪のひとつ。鼻が長いことが特徴。
うぬぼれて高慢になることの俗称、またはそのような状態になっている人のこと。「天狗になる」

・曖昧さ回避

天狗の人 ― ニカニカ動画の踊り手兼ゲーム実況者 ⇒ 鞍馬天狗の人

――――――――――――――――

【鞍馬天狗の人】

鞍馬天狗の人とは、現代に生きる妖怪変化こと六千六百六十六堂院ベルゼルシファウストの別称である。

■ 概要じゃ! 概要の仕業じゃ!

初出に関しては諸説あるが、一番古いとされる記録は2005年5月、Theytubeに投稿された動画が有力と言われている。

内容は未だ年端も行かぬ小学生程度の少年が、終始何の言葉も無いままに常軌を逸した動きを繰り広げるというもので、余りの異質さから当時一部の間で「天狗」と呼ばれ話題になっていた。
その頃はまだオカルト映像の領域を出なかった彼であるが、翌年の2006年にニカニカ動画のサービスが開始された際、その動画と合わせ新作動画を投稿しその存在が露見する事となった。

個人で動画投稿する際のジャンルは「踊ってみた」であり、その多くは所謂創作ダンスと呼ばれるものである。
(仮)時代の頃から投稿を続ける言わば踊り手の祖であるが、前述の通りダンスの殆どが常軌を逸した動き(10m以上のジャンプ、残像を残す程のステップ等)であり、長きに渡りトリック扱いされ実際の動きだとは信じられていなかった。

しかし2010年の公式生放送にて出演した際、その人間離れした身体能力を披露。トリックの入り込む余地のない動きをリアルタイムで観客と視聴者に見せつけ疑惑を払拭、見事鞍馬天狗の称号を勝ち取ったのだった。
本人的にはその称号は不本意なものであるらしいので、空気を読んで讃えてあげよう。

また2007年より複数人での実況プレイも行っている。

■ 関連項目の仕業だから仕方ない

・踊り手一覧
・実況者プレイヤー一覧
・六千六百六十六堂院ベルゼルシファウスト
・ハーレム野郎
・フェレット
・画面外ちゃん
・真・棒人間格闘ゲーム改Ragnarok(仮)

■ 清く正しい関連リンクです!

・ゲーム部屋(グループが制作したゲームの関連ページ)

■鞍馬天狗の人について語るスレ


1282:削除しました:ID:hsgdDf3e

     削除しました

1283:削除しました:ID:azmXn3mM

     削除しました

1284:【ななしのえがお】:ID:4SDTHHJJD

     この人なんでこんなに嫌われてんの?

1285:【ななしのえがお】:ID:LxDFGyui3

     >>1282
     だからタイムシフト見ろっつってんだろ。それすら出来ないんかお前は

1286:【ななしのえがお】:ID:aqberRTYU

     >>1284
     嫌われてるというか、前々から居た頭の硬い奴らが現実見れなくて発狂してる。
     天狗本人の口がとんでもなく悪いのもあるだろうが。

1287:【将軍】:ID:PaRAllEwOrLd

     しかしここで騒いでも、コメントもメールも見ないうp主には無意味なのであった。

1288:削除しました:ID:azmXn3mM

     削除しました……

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