真・響鬼 (三澤未命)
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三十之巻『闇への予感』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。そんな中、色んな事で落ち込んでいた僕でしたが、『人生は失うことばかりじゃない』というヒビキさんの言葉で、何か迷いが吹っ切れたような気がします」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 三十之巻『闇への予感』

 

○提供ナレーション 松田賢二

 

○明日夢の自宅

明日夢「行ってきま~す!」

 自宅の玄関から勢い良く飛び出していく明日夢。

 自転車に乗り、爽やかな顔つきで学校への道程を走り出す。

 

○学校へと続く道

 道の途中で、こちらも自転車に乗ったひとみに出会う。

ひとみ「おはよう!」

明日夢「あ、おはよ!」

 二人並んで自転車で走る。

 少しスピードを緩める二人。

ひとみ「元気そうだね」

明日夢「え? まあね」

 にこやかな表情の明日夢。

ひとみ「良かった……」

明日夢「え?」

ひとみ「ううん! ……で、今日は何個?」

明日夢「全部で十二個!」

ひとみ「(苦笑いしながら)お腹コワさないでよ~?」

明日夢「なんせ、絶好調なもんで!」

 笑いながら自転車を走らせていく二人。

 

○城南高校

 放課後、校内にこだまするチャイム。

 廊下を、帰宅する者、部活に向かう者が行き交う。

 

○同・ブラスバンド部部室

 コンクールを間近に控え、各部員がそれぞれ自分のパートを個人練習中。

 その中、明日夢も懸命にホイッスルの練習をしている。

 全員の練習を見渡していた部長が、明日夢に近付いていく。

部長「安達」

明日夢「は、はい」

部長「ちょっと、来てくれないか」

明日夢「はい……」

 明日夢、不安げな表情で部長の後に続く。

 部長、部室の端で立ち止まって明日夢の方に振り向く。

部長「実はさぁ、今回ドラムやることになってた桐矢が手首を折っちゃってさ。お前、代わりに頼めるか?」

明日夢「(一瞬戸惑いながらも、喜びの表情に変わり)は、はい!」

部長「コンクールも迫ってきて大変な時期だけど、みんなに追いつけるように頑張ってくれよな。まあ、お前ならやれるだろうと思ってさ。……ホラ」

 机の上にあったスティックを明日夢に手渡す部長。

 明日夢、それを受け取ってキラキラと目を輝かせる。

明日夢「頑張ります!」

 軽く頷いて、その場を去る部長。

 明日夢、スティックを見ながら嬉しそうな表情。

 と、ふと部室のドア付近で暗い表情で佇んでいる桐矢の姿を見つける。

 明日夢の視線に気付き、踵を返して部室から出て行く桐矢。

 明日夢、それを見て表情が少し曇る。

 

○森の中

 茜鷹の後を追って森の中を走るヒビキ。

 木の上に止まって、ひと鳴きする茜鷹。

ヒビキ「この辺か?」

 ヒビキ、辺りを見渡す。

 すると、五メートルほど先の廃屋の影から、童子と姫が現れた。

 童子と姫は、白っぽい衣裳を纏い、腰からは金色の尻尾が見える。

ヒビキ「まだまだ夏は続くってわけか」

 ヒビキ、音角を鳴らして静かに額に持っていく。

 炎に包まれ、鬼に変身!

 響鬼、童子と姫に向かって走るも、奇声を上げて逃げる童子と姫。

 と、目の前の地面からバケネコの子供が二体、三体と飛び出す!

響鬼「出たな」

 響鬼、烈火を胸の前で交差させ、気合いを込める。

響鬼「ハァァァァァァァ!」

 強化形態・紅に変化する響鬼。

響鬼「ハァ!」

 響鬼、バケネコたちに飛びかかると、烈火を猛然と打ち込んでいく。

 調子がいいのか、いつも以上に軽やかにバケネコを次々と粉砕する響鬼。

 あっという間にバケネコを全滅させる。

 しかし、逆に童子と姫の姿は見失ってしまった。

響鬼「(烈火で肩を叩きながら)フゥ……」

 

○河川敷

 静かな午後。

 澄み切った青空の下、太極拳で精神統一を図っているイブキとあきら。

 ひと通りのクールを終え、一つ溜め息をつくイブキ。

イブキ「あきら、そろそろいいと思うんだ」

あきら「(イブキの方へ顔を向け)え? 何がですか?」

イブキ「明日、秩父の道場に行こう。試験官には僕から連絡しておくから」

あきら「(ちょっとびっくりしたような表情で)それって、もしかしてイブキさん!」

 思わず姿勢を崩してイブキに近寄るあきら。

イブキ「そろそろサポートの形を変えていってほしい段階だからね」

 イブキ、そう言ってあきらの頭をポンとたたく。

あきら「イブキさん……、頑張ります!」

 目を輝かせるあきら。

 

○たちばな

 入口から明日夢が入ってくる。

 中では、日菜佳が机を拭いている。

明日夢「こんにちは~」

日菜佳「あら明日夢君! あれぇ? 今日はバイトの日じゃないデスヨ?」

明日夢「あ、いや……、ちょっと」

 戸惑いながら、店内を見廻す明日夢。

日菜佳「(ハタと気付いたように)あ~、ヒビキさん? 今ねぇ、ちょこっと姉上と出掛けてるのよ~」

明日夢「そ、そうですか……」

日菜佳「ああ、でも、すぐ帰ってくると思うから、お団子でも食べながら待っててちょーだい!」

 そう言って、日菜佳は明日夢を席へと促す。 

 と、奥から、イブキ、あきら、勢地郎が出てくる。

イブキ「じゃ、よろしくお願いします」

勢地郎「ああ、私からもよろしく言っておくよ。……でもねぇ、油断は禁物だよ? あきらクン」

あきら「はい、分かってます」

 ここで、勢地郎、イブキ、あきらの三人が明日夢に気付く。

あきら「あ、安達君」

明日夢「や、やあ。どうしたの?」

勢地郎「いや、実はね……」

あきら「あの……」

 勢地郎に口止めするような目線を送るあきら。

 それを察して黙る勢地郎。

 不思議そうな面持ちの明日夢。

あきら「(話をそらすように)安達君こそ、どうしたんですか?」

明日夢「あ、いや……。(言おうか言うまいか、一瞬考え)俺、今度のコンクールでドラム叩けるようになったんだ!」

日菜佳「ホント~!? スゴイじゃ~ん! 頑張ってね~」

イブキ「そうかあ。そいつは、頑張らなくっちゃな」

 そう言ってイブキは、あきらの方を見遣る。

 それに気付いて軽く頷くあきら。

 と、入口の扉がガラガラッと開く。

 ヒビキと香須実が帰ってきた。

ヒビキ「ただいま~。ああ、疲れた! (明日夢の姿に気付き)お、少年じゃないか。どうした?」

 明日夢、嬉しそうにヒビキの方を見る。

 後ろ手で入口の扉を閉めるヒビキ。

 たちばなの外へと、皆の和やかな話し声が漏れ聞こえる。

 

○湖のほとり

 ベースキャンプを張り、魔化魍探索をしているザンキとトドロキ。

 烈雷の手入れをするトドロキ。

トドロキ「聞きました? ザンキさん。あきらクンが変身検定受けるって」

ザンキ「ああ」

トドロキ「早いッスね~、あきらクン。もう俺なんかあっという間に追いつかれちゃうかもしれないッスよ、ホント」

ザンキ「何言ってんだ。トウキさんとこなんか、小学生の息子さんがもう弟子として修行始めてんだぞ? 特別早いってわけじゃないよ」

トドロキ「そうかあ、そうッスねぇ……」

ザンキ「油断してると、オマエ本当に追い抜かれるぞ?」

 いたずらな笑みを浮かべるザンキ。

トドロキ「(焦ったような顔つきで)は、はい!」

 そこへ、青磁蛙がピョコピョコと戻ってくる。

 ポーンと飛んで丸く変形し、トドロキがこれをキャッチ。

 音錠でディスクを回すトドロキ。

トドロキ「(ディスクを読み取り)あ……、当たりッス!」

ザンキ「よし、行くぞ!」

 立ち上がって武器を携え、駆け出していく二人。

 

○城南高校・ブラスバンド部部室

 課題曲を通し練習中。

 あざやかなスティックさばきでドラムを叩く明日夢。

 演奏しながら、それを他のメンバーも頼もしげに見つめる。

 しかし、明日夢の脳裏にふと先日の桐矢の暗い姿がよぎり、思わずスティックを落としてしまう。

部長「どうした安達! そんなに難しいところじゃないぞ」

明日夢「(スティックを拾いながら)す、すいません!」

 再び叩き出すも、今ひとつ不安な表情の明日夢。

 部室の窓越しには、それを心配そうに見つめるひとみの姿。

 

《CM》

 

○あきらのマンション

 鬼笛とディスクアニマルをはじめ、装備品をリュックに詰め込むあきら。

 立ち上がり、気合いの入った表情で部屋を出る。

 あきら、マンションから出ると、大きく一つ深呼吸。

 キリッとした表情となり、元気良く駅へ向かって歩き出す。

 

○秩父の検定道場内

 緊張した空気が漂う道場内。

 道場の奥には、重鎮と思しき人物が立ち並ぶ。

 ひと足先に道場入りしていたイブキが、その真ん中にいる一人の男に礼。

イブキ「今日は、よろしくお願い致します」

小暮「うむ。試験官を務める小暮だ。女性の鬼というのは久しぶりだが、甘い顔はせんぞ?」

イブキ「ご心配なく。鍛えてありますから」

 自信満々の表情のイブキ。

 

○湖のほとり

 青磁蛙の後を追って走るトドロキとザンキ。

 と、浅瀬の木の陰から、緑の衣服を身に纏った童子と姫が現れる。

トドロキ「カニだな~?」

 トドロキ、烈雷を振り回して童子と姫に立ち向かう。

 童子と姫が、それぞれ怪童子、妖姫に変化!

 トドロキも音錠を鳴らして額へと持っていく!

 雷鳴が轟き、トドロキが鬼に変化!

轟鬼「オリャーーーッ!」

 怪童子、妖姫に斬りかかっていく轟鬼。

 と、その斜め後ろの木の陰から、もう一組の童子&姫がそれを覗いていた。

 先日響鬼が取り逃した、白い衣裳に尻尾のある童子と姫だ。

 そちらに気付き、訝しげな表情になるザンキ。

ザンキ「あいつら……」

 

○たちばな・地下作戦室

 机の上の地図を睨む勢地郎。

勢地郎「妙だなあ」

 PCに向かっていた日菜佳が振り向きながら、

日菜佳「え、何がですか?」

勢地郎「いや、ね。今トドロキ君が攻めている場所は、気温、湿度の状況から考えたらとてもカニの出るようなところじゃないんだよねぇ」

日菜佳「また、突然変異ってワケですか~」

勢地郎「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。あと、あの辺はまだ残暑も厳しいんだよねぇ……」

 考え込む二人。

 

○駅へ向かう道

 あきら、小走りに駅に向かう。

 と、トンネルにさしかかったところで妙な邪気に襲われる。

あきら「えっ?」

 あきら、トンネルに入りつつ軽く頭を抱える。

 さらに強くなる邪気。

 あきら、耐えられなくなって思わず膝をついてしまう。

あきら「な、何なの!?」

 そこへ、黒クグツが近付いてきた。

 あきらの目の前に立ちはだかる。

あきら「うっ……」

 あきら、激しいプレッシャーでついにその場にうずくまって失神してしまう。

 

○湖のほとり

 怪童子、妖姫と戦う轟鬼。

 轟鬼、烈雷で怪童子、そして妖姫を切り裂く!

 四散する怪童子と妖姫。

 と、そこへ現れたのはバケガニ!

轟鬼「出やがったな~?」

 すると、木の陰からもう一組の白い童子&姫が現れて、バケガニの後ろへと走っていく。

轟鬼「え?」

ザンキ「轟鬼ィ! ソイツはただのバケガニじゃなさそうだ! 気を付けろ!」

轟鬼「(ザンキの言葉に戸惑いながら)は、はい!」

 バケガニに向かって走っていく轟鬼。

 轟鬼、烈雷でバケガニの足を切り裂いていく。

 その後ろでキョドっている童子と姫。

 姫の腰辺りから伸びる尻尾がユラユラと揺れる。

轟鬼「(その姫の姿を見て)お、お前らは、夏の……!!」

 その瞬間、バケガニのハサミが童子と姫を掴み上げ、頭上にポイッと投げ捨てたかと思うと、口からヒュルヒュルっと白い舌が伸び出て二人を巻き込み、そのまま吸い込んでいく。

童子「あわわわわ!」

姫「あれぇぇぇぇ!」

 戸惑う轟鬼。

轟鬼「な、何ィ~!?」

 ザンキも、その様子を冷や汗をかきながら見つめる。

 そして、バケガニは後ろ足で立つように腹を前へ向け、両手のハサミを何度か上下に振る。

 すると、バケガニのお腹の辺りが膨らんだりへこんだりと妙な動きを見せ、バッと弾けたかと思うと、中からなんとバケネコの子供がうじゃうじゃと出てきた!

轟鬼「ええええ!? 何なんだ~!?」

 たじろぐ轟鬼。

 

○たちばな・地下作戦室

 受話器を持ちながら、中央の机の上の資料を見ていた勢地郎に日菜佳が叫ぶ。

日菜佳「父上! ザンキさんから連絡で、バケガニからバケネコが生まれてって……。え!? 何ソレ!?」

勢地郎「やっぱりか……。バケガニとバケネコの出現範囲が重なってきていたからもしやとは思ってたんだが……。(机上の地図をトントンと叩き)一応、エイキ君に向かうようにさっき言っておいたのでもうすぐ着くと思うんだが(と、正面に座っていたヒビキの方を見遣り)、連投で悪いんだけど……」

 予想してましたよ、という顔つきのヒビキ。

ヒビキ「了解。行ってきます!」

 階段を駆け上がっていくヒビキ。

 腕組みする勢地郎。

勢地郎「しかし、あまりにもミスマッチな組合わせなんだが」

日菜佳「どういうことなんでしょうか……」

勢地郎「分からんねぇ。これはじっくり調べてみないとねぇ」

日菜佳「ふぅ……」

 ウンザリ顔の日菜佳。

 

○同・玄関前

 ヘルメットを被り、凱火にまたがるヒビキ。

 香須実、腕組みしながら、

香須実「一人で大丈夫?」

ヒビキ「大丈夫大丈夫! ホラ、ついに携帯も買っちゃったしね」

 そう言いながら、香須実に携帯電話を見せびらかすヒビキ。

香須実「それが一番不安要素だったりするんですけど……」

 ますます不安げな表情になる香須実。

 

○秩父の検定道場内

 時計を見つめるイブキ。

 時計の針は、三時十分を指している。

 イブキの表情に焦りが見える。

小暮「こんな日に遅刻するなんて、ちょっと意識が低すぎるんじゃないかね?」

イブキ「(小暮に詰め寄るように)もう少し、もう少しだけ待ってください! お願いします!(入口の方を振り向き、不安げな表情で)あきら、どうしたんだ……」

 

○トンネルの中

 暗いトンネルの中ほど。

 既に失神して座り込んでいるあきら。

 その前に立った女の黒クグツが、黄色い液体の入った試験管杖を、グサッと地面に突き刺す。

 地面がボコッと盛り上がり、その盛り上がりが徐々にあきらに近付いていく。

 そして、それがあきらの右足にぶつかるやいなや、全身がとてつもない邪気に包まれる!

 失神していたあきらの体が微妙に揺れ動く。

 あきらの下半身から上半身、そして顔面へと這い上がってくる不穏な邪気。

 そして、パッと見開かれる、眼……。

 

○三十之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 バケネコに苦戦する轟鬼。

ザンキ「轟鬼ーッ! これを使え!」

 屋上で話をする明日夢と桐矢。

桐矢「お前は俺の代わりなだけだからな」

 神妙な面持ちで話すイブキと医療スタッフに割って入る小暮。

小暮「イブキ。お前、弟子の力を信じられるか!?」

 三十一之巻『超える魂』

 

○提供ナレーション 松田賢二



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三十一之巻『超える魂』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。そして僕は、ドラムを叩けるようになって嬉しい反面、色々あってちょっと複雑な心境です」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 三十一之巻『超える魂』

 

○提供ナレーション 松田賢二

 

○秩父の検定道場内

 時計を見る小暮。

小暮「……もうこれ以上待つわけにはいかんな。天美あきら! 本日の変身検定、失格とする!」

イブキ「そんな……。きっと、何かあったんだ! ……あきら!」

 道場を飛び出していくイブキ。

 

○湖のほとり

 バケガニの腹から出てきた七、八体のバケネコの子供が、たじろぐ轟鬼に向かって一斉に襲いかかる!

轟鬼「くっそ~~~」

 烈雷を振り回して戦う轟鬼だが、いかんせん動きが追いつかない。

 ザンキ、そこに走り寄り、轟鬼に声をかける。

ザンキ「轟鬼ーっ! これを使え!」

 そう言ってザンキは、緑の音撃棒を轟鬼に向かって投げる。

 前方に転がり込んで、それをキャッチする轟鬼。

轟鬼「……オ~~ッシ!」

 轟鬼、音撃棒でバケネコたちに立ち向かうが、苦戦は変わらない。

 そこに割って入る一つの影!

 鋭鬼だ!

鋭鬼「大丈夫か! 轟鬼!」

轟鬼「え、鋭鬼さん!」

 鋭鬼、バケネコたちに向かって音撃棒・緑勝を振り回していく。

ザンキ「轟鬼!」

 ザンキ、轟鬼に音撃鼓を投げる。

 轟鬼、それをキャッチし、再度バケネコたちに立ち向かう!

 緑勝の攻撃によろめくバケネコに、音撃鼓・白緑を取り付ける鋭鬼。

 大きく拡大する白緑!

鋭鬼「必殺必中の型!」

 鋭鬼、華麗なバチさばきでバケネコを粉砕!

 そして、すぐさま次の獲物に攻撃を仕掛ける鋭鬼。

 轟鬼も、苦戦しながらも数体のバケネコを粉砕!

 そして、二人でバケネコの子供を殲滅。

鋭鬼「フゥ……」

 ひと息ついて二人が振り返ると、既にバケガニは姿を消していた……。

鋭鬼「逃げられたか」

轟鬼「……鋭鬼さん! ありがとうございました!」

鋭鬼「オゥ。……しかし、カニとネコの合体とは、何てひでぇセンスだ」

 そこへ聞こえてきた、バイクのエンジン音。

 ヒビキが凱火で駆けつけてきた。

 凱火を止めてヘルメットを脱ぐヒビキ。

ヒビキ「お待たせ! ……あれ?」

ザンキ「(呆れた顔つきで)おせーよ」

 

○トンネルの中

 暗いトンネルを、フラフラとした足取りで歩くひとつの影。

 あきらだ。

 全身汗だらけで、虚ろな目つき。

 意識があるかないか分からないような状態で、そのままトンネルを出ていく。

 

○道路を走る竜巻

 秩父の道場を後にしたイブキが、あきらのマンションへと続く道を竜巻でかっ飛ばす。

 

○トンネル近辺

 あきらがフラフラと徘徊する。

 と、竜巻で走行していたイブキが、夢遊病者のように歩くあきらを発見。

イブキ「……あきら!」

 竜巻を停車させてヘルメットを脱ぎ、あきらの方へと走っていくイブキ。

 イブキ、あきらを捕まえて激しく体を揺さぶる。

イブキ「あきら! どうしたんだ!!」

 何の反応も示さないあきら。

 その手足には、プツプツと黒い斑点があちらこちらに浮かび上がっていた……。

 

○たちばな・居間

 布団の上に横たわるあきら。

 全身汗びっしょりで、ぜいぜいと息を吐いている。

 傍らで、神妙な面持ちであきらを見る勢地郎とイブキ。

 入口からは、香須実と日菜佳も心配そうに見つめている。

勢地郎「……これは、よくは分からないが、あきらの体に異質な物質が入り込んでいるような……」

イブキ「どうすればいいんですか!?」

勢地郎「分からない……。とにかく、すぐに本部の医療機関に運んだ方が良さそうだな」

イブキ「はい! ……香須実さん! 車、借してください!」

香須実「わ、分かった……!!」

 香須実、不知火のキーをポケットから出してイブキに渡す。

 

○城南高校・昼休みの屋上

 一人、スティックさばきのイメージ・トレーニングをしている明日夢。

 そこへ、桐矢が近付いていくる。

桐矢「安達!」

 桐矢に気付いて顔を上げる明日夢。

明日夢「あ、桐矢君……」

桐矢「良かったなぁ。俺がドジッちまったおかげでドラム叩けるようになって」

明日夢「そんな……」

 後ろめたい気持ちになっていく明日夢。

 桐矢、ネット越しに外を見ながら、

桐矢「まあせいぜい頑張るがいいけどさ、俺の穴埋めようなんて、生意気な事考えてんじゃねーぞ」

明日夢「桐矢君……。(幾分強めの口調で)俺、なんとか、部のためにやってみるからさ!」

桐矢「(明日夢の方へ振り向き)調子に乗ってんじゃねーよ。お前は、俺の代わりなだけだからな。いいか? 代わりなだけだ。分かったな!」

明日夢「…………」

 不機嫌な様相で立ち去る桐矢。

 明日夢、またしても深く落ち込んでしまう……。

 

○同・ブラスバンド部部室

 課題曲の練習も佳境に入っている様子。

 そんな中、ドラムを叩く明日夢は桐矢の先程の言葉が頭を巡って、練習に集中できない。

 明日夢、案の定また失敗して、スティックを落としてしまう。

部長「安達何やってんだ! やる気がないなら、やめちまえよ!」

 スティックを拾いながら、部長の厳しい言葉に泣きそうな顔になる明日夢。

 周りの部員も、同情めいた目で明日夢を見つめる。

 

○下校途中の道

 明日夢、一人落ち込んで歩く。

 その後ろから、ひとみが声をかける。

ひとみ「安達君!」

明日夢「(振り返り)あ、ああ……」

ひとみ「元気出しなよ。……あたし、思うんだけど、桐矢君のこと気にするのは分かるんだけどさ、安達君にとってはチャンスなんだから、思いっきり自分を出せばそれでいいんじゃないかなあ」

明日夢「……分かってるよ! そんなこと」

ひとみ「あ、怒った?(と言いながら、顔を覗き込む)」

明日夢「(ハッとして)ゴメン……」

ひとみ「(前を向き直って)……桐矢君にしたら、これが最後だからねぇ。残念だとは思うんだけど」

明日夢「え? 最後って?」

ひとみ「あれ、知らなかったの? 桐矢君、お父さんの仕事の都合で、来週アメリカに引っ越しちゃうんだって。今度のコンクールが最後だから、お父さんに見に来てもらうんだって張り切ってたもんね」

明日夢「……そうだったのか」

 考え込む明日夢。

 

○たちばな・地下作戦室

 心配そうな表情で黙って座っている、勢地郎、香須実、日菜佳。

 そこへ、ヒビキとトドロキが階段を駆け下りて入ってくる。

ヒビキ「あきらがどうしたって!?」

香須実「(ハッと顔を上げて)分かんない、分かんないの……」

ヒビキ「香須実さん、落ち着いて(と言いながら勢地郎の方を見る)」

勢地郎「……多分、クグツの仕業だと思うんだが、何か異物質というか魔化魍エキスのようなものが体に入り込んでいるようなんだ。イブキ君が、さっき本部の医療機関に連れて行ったよ」

トドロキ「ど、どうしようヒビキさん!」

 むやみにジタバタとするトドロキ。

ヒビキ「トドロキも落ち着けって! イブキがついてりゃ大丈夫だ。俺たちは、今俺たちに出来ることをやるだけだ」

トドロキ「……え?」

勢地郎「(立ち上がって)そうだ。君たちには、あの奇妙なバケガニを一刻も早く始末してもらわなきゃいかん。増殖されたりしたら、事が厄介だぞ」

トドロキ「今、出来ること……」

日菜佳「トドロキ君!」

 トドロキ、顔を上げて拳を奮わせる。

トドロキ「よぉ~し! 行きますよヒビキさん! ……待ってろよカニネコめぇ!」

 トドロキ、勇んで階段を駆け上がっていく。

ヒビキ「おいちょっと! 全く……」

 トドロキの熱の入りように少し呆れた様子のヒビキ。

香須実「……ヒビキさん」

ヒビキ「ん?」

香須実「私も……行きます! 私は、ヒビキさんのサポーターですから」

 香須実の真剣な様子を受けて、微笑むヒビキ。

ヒビキ「よし。じゃ、行くか!」

 立ち上がるヒビキ。

勢地郎「頼んだよ」

ヒビキ「りょ~かい! シュッ!」

 ポーズを決めて、階段を駆け上がるヒビキと香須実。

 

《CM》

 

○吉野本部医療機関の一室

 イブキと医療スタッフの一人・結城が、レントゲン写真を見つめながら話す。

結城「体内の数箇所に、見たこともないエキスが固まって映っています」

 そう言ってレントゲン写真の影を指差す結城。

 手足や胸、腹の辺りに醜い影が映っている。

イブキ「……どうすればいいんですか!? 治るんですか!?」

結城「……正直なところ、私には何とも言えません。ただ……」

イブキ「ただ?」

結城「この物質の特徴として、どうも音に敏感に反応しているようなんです。だから、もしかすると音撃で浄化することができるかもしれません。非常に危険ですが……」

イブキ「やってください! 今すぐに!」

結城「いや、これはあくまで理論上の仮説ですよ! 実際、どうやって浄化すべきなのか……」

 困惑の表情の結城。

 うなだれるイブキ。

 イブキ、歯を食いしばってカッと目を見開き、

イブキ「……僕が、やります!」

結城「(驚いて)ダメです! あなたの音撃では力が強すぎて、天美さんの肉体が耐え切れない!」

イブキ「しかし、他に方法が……」

 と、ドアが開いて小暮が入ってきた。

 あきらの事を聞きつけて、ここ吉野までやってきたようだ。

小暮「議論しているヒマはないだろ! おい結城! 鬼石の原石から浄化媒体を作るんだ!」

結城「(慌てて)は、はい!」

 外へと駆け出していく結城。

 小暮、イブキの方へ振り向き、

小暮「……イブキ。お前、弟子の力を信じられるか!?」

イブキ「はい!」

小暮「自分の力を……、信じられるか!?」

イブキ「……はい!」

 頷く小暮。

 

○湖のほとり

 ベースキャンプを張っているヒビキ、トドロキ、ザンキ、そして香須実。

 そこへ、トドロキが撒いた青磁蛙が帰ってくる。

トドロキ「おっ!」

 トドロキの方へ跳ね飛んで、ディスク化する青磁蛙。

 トドロキ、ディスクを再生して、

トドロキ「……来ました! ヒビキさん!」

ヒビキ「よ~っし、行くか!」

 勢い良く走り出すヒビキとトドロキ。

香須実「頑張って!」

 火打ち石を打つ香須実。

 

○吉野本部医療施設の一室

 実験器具が数多く置かれた部屋。

 そこで、結城が他のスタッフとともに鬼石の原石を精密機械でカッティング作業中。

 小さくカットされた鬼石がいくつか台の上に乗せられて、そこに光線を当てていくスタッフ。

 真剣な表情でモニターを見つめる結城。

 厳しい表情で首を横に振り、他のスタッフに何やら指示を送る。

 

○湖のほとり

 湖から飛び出すバケガニ。

 身構えるヒビキとトドロキ。

ヒビキ「(バケガニを見据えながら)トドロキ!」

トドロキ「はい!」

 ヒビキとトドロキが、同時に変身!

 バケガニの腹が膨らみ、またしても生まれ出るバケネコの子供ら!

 バケネコに立ち向かう響鬼、そして一方、バケガニの方へ向かっていく轟鬼!

 

○吉野本部医療施設の一室

 引き続き、レーザーメスによって鬼石のカッティングをする結城。

 カットした鬼石を頭上に掲げて、ジッと透かし見る。

 結城、鬼石を台の上に乗せる。

 そこに当てられる光線。

 モニターを見つめる結城。

 ニコッと笑い、他のスタッフにOKのサインを出す。

 

○湖のほとり

 烈火を両手に持って手を広げ、気合いを溜める響鬼。

響鬼「ハァァァァァァァァ!」

 炎に包まれて、紅に変化する響鬼。

 烈火の先端に炎を宿し、バケネコに打ち込んでいく!

 一方、轟鬼は真っ直ぐにバケガニの下へ走る。

轟鬼「イヤァァァァァァァ!」

 轟鬼、烈雷でバケガニの足を次々と切り裂いていく!

 

○吉野本部医療施設の廊下

 数人の医療スタッフが、ストレッチャーに乗せられた麻酔で眠っているあきらを運ぶ。

 その後ろから、結城がツカツカと早足で歩く。

 

○同・防音響特別室内

 医療スタッフ数人が、あきらをストレッチャーから起こして、壁に貼り付けるように固定していく。

 そして、あきらの体の数箇所(レントゲンで異物質が認められた箇所)に、完成したばかりの小さな鬼石の粒を取り付けていく。

 少し離れたところには、既に変身している威吹鬼が佇む。

 結城、室内上部のモニター室に入り、あきらの体にレントゲン光線を当てる。

 モニターに映し出されるあきらの輪郭。

 体中の黒い斑点が痛々しい。

結城「威吹鬼さん、準備OKです!」

 ゆっくりと烈風を構える威吹鬼。

威吹鬼「……いきます!」

 静かに烈風を奏ではじめる威吹鬼。

 あきらの体がビクビクッと反応する。

 徐々に強くなる烈風の威力。

 あきらの手足から微量の血が吹き出す。

 モニターを見つめる結城。

結城「イブキさん、強すぎます! もう少し弱めて!」

 烈風の力を弱める威吹鬼。

 しかし、今度は逆に反応がなくなる。

結城「今度は弱過ぎです! あと、ちょっと高過ぎる感じです! ……ダブルフラットで!」

 必死で調律する威吹鬼。

 変身体であるにも関わらず、全身から汗が噴き出している。

 

○湖のほとり

 バケネコに、次々と烈火を打ちつけていく響鬼。

響鬼「ハァ! ハァ!」

 順々に四散していくバケネコたち。

轟鬼「エイ! エ~イ!」

 轟鬼の方も、必死でバケガニを烈雷で攻撃している。

 

○吉野本部・防音響特別室内

 威吹鬼、あきらに向けて音撃を続ける。

 映し出されるモニター。

 あきらの体から、徐々に消えていく異物質の影。

 音撃を続ける威吹鬼。

 そして、ついにレントゲン上から影が消えた。

結城「ストップ!」

 烈風を口から離す威吹鬼。

結城「(モニターであきらのレントゲン映像を確認して)成功です! 浄化できましたよ! 威吹鬼さん!」

 顔の変身を解いて膝から崩れ落ちるイブキ。

 精も根も尽き果てたようで、今は言葉もない。

 二次治療のために、大急ぎであきらを運び出す他の医療スタッフ数人。

 モニター室で、ホッと胸をなでおろす結城。

 その様子を、後ろで見つめていた小暮。

小暮「天美あきらか……。覚えておくぞ」

 

○湖のほとり

 バケネコを全て粉砕した響鬼。

 轟鬼、足を斬り落とされてバランスを崩したバケガニの腹に潜り込み、烈雷を突き刺す!

轟鬼「音撃斬・雷電激震!」

 鳴り響く烈雷の音色。

 バケガニの全身に音撃の波動が伝道。

 そして、爆発!

轟鬼「(烈雷を振りかざして)よし!」

 とその時、頭上の土手際に香須実が走り寄ってきた。

香須実「(携帯電話を片手に持って)ヒビキさん! トドロキさん! ……あ、あきらクン、助かったって!」

 そのまま膝をついて泣き崩れる香須実。

 顔の変身を解くトドロキとヒビキ。

トドロキ「うぅ! 良かった! (顔をクシャクシャにして)良かった~~~!!」

 涙声でうずくまるトドロキ。

ヒビキ「信じる力、それが生きる力ってことなんだよな。イブキ、あきら」

トドロキ「ヒビキさ~~~ん!」

 ヒビキに抱きついて泣きじゃくるトドロキ。

 にこやかなヒビキの表情。

 そして、土手際には跪いてむせぶ香須実と、安堵の笑みを浮かべるザンキ……。

 

○三十一之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 学校の廊下で言い合う明日夢と桐矢。

明日夢「やっぱり、君がドラムをやるべきだよ!」

 たちばな地下で話し合う猛士の面々。

勢地郎「なんでも、人をズタズタに切り刻んではいるが……」

 明日夢の部屋で話すヒビキと明日夢。

ヒビキ「まあ、他人の事を考えて引いちゃうところが、少年の優しいところなんだろうけどな」

 三十二之巻『弾ける鼓』

 

○提供ナレーション 松田賢二



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三十二之巻『弾ける鼓』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。鬼の人たちの活躍は日々続いているようで、天美さんもどうやら無事だったようです。そして僕は……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 三十二之巻『弾ける鼓』

 

○提供ナレーション 川口真五

 

○吉野本部・病室

 ベッドに寝ているあきら。

 ノックとともに静かにドアが開き、イブキが入ってくる。

イブキ「どう? 具合は」

 あきら、イブキの方を向いて、

あきら「大丈夫です」

 イブキ、あきらの傍に座る。

あきら「……本当にすいませんでした、イブキさん」

イブキ「まだ言ってる。あきらのせいじゃないって」

あきら「でも、私のためにイブキさんや本部の方たちに迷惑をかけてしまって……」

イブキ「もういいって」

 優しく語りかけるイブキ。

 安心したような表情になるあきら、笑顔のままで天井を見ながら、

あきら「……イブキさんが助けてくれたって聞いた時、私、ホントに嬉しかったです。……イブキさんの弟子で、ホントに良かったな、って」

 照れるイブキ。

あきら「でも、これでまた段位アップが先になっちゃいましたね。一歩後退かなあ」

イブキ「焦ることないんだよ。あきらは、ここまで本当に順調に来てるんだから。全然遅れてやしないんだから。今は、体を治すことだけを考えて、ね」

あきら「……はい。ありがとうございます」

 病室には、秋の日差しがまぶしく差し込む……。

 

○城南高校・廊下

 廊下を早足に歩く明日夢。

 前を歩く桐矢に近付き、後ろから声をかける。

明日夢「……桐矢君!」

 振り返る桐矢。

桐矢「(不機嫌な表情で)なんだ、安達か」

明日夢「桐矢君、俺思うんだけど……、やっぱり、君がドラムをやるべきだよ!」

桐矢「ああ? 何言ってんだ。俺は手首折ってるんだぜ? できるわけないじゃん!」

明日夢「……でも、お父さんに見てもらえる最後のチャンスなんだろ?」

 桐矢、明日夢から目をそらして、

桐矢「フン、あんな忙しい親父が来てくれるもんか! (明日夢を睨みながら)もういいんだよ、どーでも! 俺の事はほっといてくれ!」

 踵を返して走り去る桐矢。

 明日夢、その後ろ姿を悲しげに見つめ続ける。

 

○たちばな・地下作戦室

 壁の穴から日菜佳の手が出てきて、ブラブラと揺れる。

香須実「ハイハイハイ」

 そこへ近寄っていく香須実。

 その手を取って、香須実が日菜佳を引き上げる。

日菜佳「あ~もう埃っぽいったら!」

 壁から出てきた日菜佳、そう言いながら服をパタパタとはたく。

勢地郎「(机上の資料をパラパラとめくりながら)もうこんなところかい?」

日菜佳「ん~、あとはもう、技術書の類とか歴史のご本ばっかですね~」

ヒビキ「これだけ探しても、手掛かりなしですか……」

勢地郎「う~ん、あまりに特殊なケースばかりだしねぇ……。あと、もう一つ気になっているのは、今朝方石割君から連絡があった奥多摩の妙な現象なんだ」

ヒビキ「……と言いますと?」

勢地郎「なんでも人がズタズタに切り刻まれてはいるんだけど、傷跡がどれも妙に整っていて、血の跡が一切ないっていうんだよねぇ……」

ヒビキ「どっかで聞いたような話ですね」

勢地郎「ともかく、サバキ君が無理できる状態じゃないので、君たちもそっちの調査に行ってもらえるかなあ」

香須実「OKOK! ウチらのチームは何でも屋ってね。あ、不知火号は戻ってんの?」

勢地郎「ああ、さっき本部の滝君が運んできてくれたよ」

ヒビキ「おーし! じゃ、行きますか!」

 立ち上がるヒビキ。

 

○同・店舗前

 店の前をうろうろする明日夢。

 入るか入るまいか迷っている様子。

 その時、入り口からヒビキと香須実が出てくる。

 ヒビキが明日夢に気付く。

ヒビキ「お、少年! どうした?」

明日夢「あ、いえ……」

 明日夢の悩んでいるふうな表情を察知したヒビキだったが、

ヒビキ「……あ、悪いな、少年。ちょっと仕事なんだ。……そうだ! 夜までには帰れると思うからさ、今晩一緒にメシでも食うか?」

 みるみる笑顔になる明日夢。

明日夢「……は、はい!」

 不知火の横でイライラする香須実。

香須実「……ちょっと! 行きますよ!」

 ヒビキ、香須実の方を振り返りながら、

ヒビキ「じゃーな! 行ってきます」

 いつものポーズとともに、不知火に乗り込んでいくヒビキ。

 助手席に座ったヒビキ。

 香須実は運転席ですまし顔。

香須実「……ヒビキさ~ん、そんなに気になるんだったら、明日夢君のこと、弟子にしちゃったら~?」

ヒビキ「(ごまかすように)何言ってんの。さ、仕事仕事!」

香須実「(柔和な笑みを浮かべながら)ハイハイ。それじゃあ、レッツゴー!」

 急発進する不知火。

 助手席で大きく揺れ動いておっかなびっくりのヒビキ。

 

○謎の洋館

 奇妙な実験器具が並ぶ一室。

 和服姿の男が、机上の大きな箱を覗いている。

男「今度の実験は、うまくいきそうだ」

 そこへ、和服姿の女が近付く。

女「実験のための実験のせいで、結構生態系壊してるわよ?」

男「どうってことないさ。この実験がうまくいけば……」

 二人で大きな箱の中を見つめ、ニヤニヤと笑い合う。

 

○明日夢の自宅・玄関

 呼び鈴が鳴り、明日夢の母・郁子が玄関へ走っていく。

 郁子がドアを開けると、そこにはにこやかな表情のヒビキが立っていた。

ヒビキ「こんばんは~」

郁子「ヒビキさ~ん、お待ちしておりましたよ! もうね、ヒビキさんが来てくれるってんで、ご馳走作って待ってましたのよ~。ま、どうぞどうぞ! さあ、どうぞ!」

 ヒビキを手招きしながら家の中へ迎え入れる郁子。

 ヒビキ、会釈を繰り返しながら、玄関から上がる。

 と、台所から廊下に顔を出す明日夢。

 ヒビキ、明日夢の姿を確認し、

ヒビキ「よっ」

 明日夢、ペコリと頭を下げる。

 

○同・リビング

 ご馳走が並ぶテーブル。

ヒビキ「おっ、凄いですね~。さっすがお母さん!」

 そう言いながら席に座るヒビキ。

郁子「もう、いや~ねぇ! さあさ、たっくさん食べてくださいね~! ……明日夢もホラ、早く座りなさい!」

明日夢「あ、うん……」

 席につく明日夢。

ヒビキ「(両手を合わせて)いただきます」

郁子「どうぞどうぞ!」

 食べ始めるヒビキ。

ヒビキ「……ん~、いけますね、この鯖の煮付け!」

郁子「あら、いやだ! そうでしょう、ホホホホッ」

 照れ笑いする郁子。

 そんな郁子をしょうがないなといった表情で見つめながら、無言で箸を動かす明日夢。

 ヒビキ、そんな明日夢の暗い表情を気にしながらも、郁子の話に相槌を打って適度に笑う。

 

○同・明日夢の部屋

 ベッドの上で力なく座っている明日夢。

 部屋の端に座っているヒビキ。

ヒビキ「……そっかあ。つらい立場だな~、少年も」

明日夢「なんか、素直に喜べない感じって言うか……、正直、練習にも身が入んなくって。……情けないですね、僕」

ヒビキ「ま、そうやって他人の事を考えて引いちゃうところが、少年の優しいところなんだろうけどな」

 ヒビキ、立ち上がって本棚の前の置物を触りながら、

ヒビキ「……お前は俺の代わり、か。少年の友達もうまいこと言うね」

明日夢「え?」

ヒビキ「少年。少年はさ、彼の代わりなんだよ。彼の代わりに堂々とドラムを叩いてやればいいんじゃないかな。……引くばっかりが、人のためになることじゃないぜ?」

明日夢「はあ……」

 まだ吹っ切れない明日夢の様子を、ヒビキは楽しむように見つめる。

ヒビキ「で、明日が本番ってわけだ」

 考え込んだ様子の明日夢。

ヒビキ「(横を向いたまま)少年! 今晩、泊まっていいか?」

明日夢「え!? ……は、はい!」

 笑顔を見せる明日夢。

 そして、夜は更けていく……。

 

《CM》

 

○明日夢の自宅・台所

 明日夢に持たせるための弁当を作っている郁子。

 

○同・明日夢の部屋

 ベッドで寝ている明日夢。

 床の布団で寝ていたヒビキ、パチッと目を開けて、ゆっくりと起き上がる。

 寝ている明日夢の方を見て、笑顔で無言のポーズ。

 

○同・廊下

 明日夢の部屋からそっと出るヒビキ。

 廊下を、音を立てないように気を遣いながら歩く。

 と、台所から出てきた郁子とバッタリ。

郁子「あら、ヒビキさん! おはよ……」

ヒビキ「(口に人差し指を縦に当てながら小声で)少年、まだ寝てますから……。じゃ、仕事がありますんで、行きますね」

郁子「(小声で)まあまあ、なんにもお構いもしませんで」

ヒビキ「(小声で)いえいえ、ごちそうさまでした」

 玄関へと歩き、靴を履くヒビキ。

 立ち上がり、ドアを開ける。

ヒビキ「では」

郁子「(ニコニコした表情で)行ってらっしゃいませ!」

 満足そうにヒビキを見送る郁子。

 

○たちばな・店舗前

 不知火にもたれかかって、時計をチラチラ見る香須実。

 そこへ、ヒビキが走り寄ってくる。

ヒビキ「よっ、お待たせしました」

香須実「(からかうように)おやおや、朝帰りですか~?」

 ニヤニヤと笑いながらヒビキの顔を覗き込む香須実。

ヒビキ「そういう言い方はないでしょ? 少年とね、男と男の話ですよ」

 そう言いながら、不知火の助手席に乗り込んでいくヒビキ。

香須実「(笑いながら)あらあら、そーですか」

ヒビキ「(車内で)香須実さん! 何やってんの!」

香須実「あ、ハイハイ!」

 運転席に乗り込んでいく香須実。

 

○明日夢の部屋

 目覚まし時計が鳴る。

 飛び起きる明日夢。

 ふと床の方を見ると、布団が隅の方にキチンとたたまれて置いてある。

明日夢「ヒビキさん……」

 ベッドから降りて、部屋のドアを開けて叫ぶ明日夢。

明日夢「母さん! ヒビキさんは!?」

郁子「(台所から)お仕事があるって、朝早くに出かけたわよ!」

明日夢「そっか……」

 ドアにもたれて佇む明日夢。

 と、そこへ郁子が近寄って、

郁子「明日夢~! アンタも急がなきゃ、遅れるわよ! 今日は大事な日なんだから」

明日夢「あ、そうだね! ……よし!」

 全身に気合いを入れて、着替えを始める明日夢。

 

○奥多摩の森

 ベースキャンプを張っているヒビキと香須実。

 地図を見つめて考え込む。

ヒビキ「……やっぱり、もう少し奥の方かなあ」

香須実「そろそろ移動する?」

ヒビキ「ん、そうだな」

 そこへ帰ってきた浅葱鷲。

 クルッとディスク化して、それをヒビキがキャッチ。

 音角で再生するヒビキ。

ヒビキ「(ディスクを読み取り)お、来た来た!」

香須実「当たり?」

ヒビキ「(頷いて)よし、行ってくるか!」

 駆け出すヒビキ。

 その横で、火打ち石を打つ香須実。

    ×   ×   ×

 森の中を走るヒビキ。

 すると、前後左右に高速移動する童子と姫の姿が……。

童子・姫「鬼……、鬼……、鬼……、鬼……(エコー気味に)」

 ヒビキの周りを、複数の声が取り囲む。

ヒビキ「出たな」

 ヒビキ、音角を鳴らして額に当てる。

 全身が炎に包まれて、鬼に変化!

 響鬼、烈火を腰から抜いて、童子たちに立ち向かう。

 どうやら、童子と姫はそれぞれ三体ずついるようだ。

 響鬼、童子たちを追いかけるが、いつもより速い動きで動き回る童子たちに今一つついていけない。

響鬼「……しょうがねーな。響鬼・紅!」

 精神を集中させて響鬼が紅に変化!

 高速移動する童子たちに素早い動きで追いつく。

響鬼「ハァァァァァァァ」

 パワーアップした烈火の先端に炎を宿す響鬼。

響鬼「ハァ!」

 炎を童子たちに投げつける響鬼。

 

○コンクール会場・楽屋

 出番を待つ部員たちでザワつく楽屋。

 明日夢、緊張を隠せない様子でソワソワと貧乏揺すり。

 そこへ、ひとみが入ってくる。

ひとみ「安達君!」

明日夢「……や、やあ」

ひとみ「頑張ってね! ……あ、緊張してるんじゃない?」

明日夢「そ、そんなことないよ」

ひとみ「……桐矢君、来てるよ」

明日夢「え?」

 明日夢、立ち上がって楽屋を出て、まだまばらにしか人がいない客席を見渡し、最後列にふてくされたように座っている桐矢を見つける。

明日夢「桐矢君……」

 明日夢、ポケットからヒビキに貰ったコンパスを取り出してジッと見つめる。

 そして、スッと顔を上げて客席の方へと歩き出す。

 

○奥多摩の森

 烈火で次々と童子や姫たちを叩いていく響鬼。

 六体いた童子&姫の内、四体を倒したところで、残りの二体が一目散に逃げ始める。

響鬼「逃がすか!」

 なおも追う響鬼。

 と、突如眼前に現れた巨大な魔化魍。

 三ツ首の獣の姿をしている。

 一瞬たじろぐ響鬼。

 大きく吠える魔化魍。

 

○コンクール会場・客席

 明日夢、最後列に座っている桐矢の下へ歩み寄る。

明日夢「桐矢君」

 明日夢に気付き、チラッと顔を上げる桐矢。

明日夢「よく見ててよね。俺、がんばるからさ」

 桐矢、そんな明日夢の言葉を無視して前の椅子の背もたれに顔を埋める。

 明日夢、そんな桐矢を責めることなく、キリッとした表情で振り返り、楽屋へと戻っていく。

 

○吉野本部

 本部の出入口近辺で、握手しているイブキと結城。

イブキ「それでは、あとはよろしくお願いします」

結城「分かりました」

 結城と笑顔で別れたイブキ、外へ出ていくと、そこにはバイクに跨った小暮の姿が。

小暮「イブキ、送ってやるよ」

 そう言って、ヘルメットをイブキに渡す小暮。

イブキ「(ヘルメットを受け取りながら)小暮さん……」

小暮「体調整えて、追試にやって来い」

 そう言いながらヘルメットを被る小暮。

 微笑むイブキ。

 

○コンクール会場

 いっぱいに埋まった客席。

 そこには、ひとみと一緒に郁子の顔も見える。

 そして、ボーッとステージを見つめる桐矢の姿。

アナウンス「次は、城南高校の演奏です」

 演奏が始まり、明日夢も真剣な表情でドラムを叩く。

 ちょっと心配そうな表情で明日夢を見つめるひとみと郁子。

 桐矢、相変らず心ここにあらずといった様相で座っている。

 と、その時、桐矢の横に一人の大柄な男が立った。

大柄な男「……いい演奏だな。京介」

 桐矢、その声に驚いて振り返る。

桐矢「お、親父! 来てくれたのか!? でも、俺は……」

桐矢の父「いや、あれはお前だよ。あの子はな、自分自身はもとより、お前のために一心不乱にドラムを叩いているんだ。私はそう思うよ?」

 父の言葉に、改めて明日夢の姿を真剣に見つめる桐矢。

桐矢「……安達」

 汗を流しながら、必死でドラムを叩く明日夢。

 それを見つめて、キッと唇を噛み締める桐矢。

桐矢の父「いい友達を持ったじゃないか、京介」

桐矢「……ウン」

 桐矢の頬をつたう、一筋の涙。

 溌剌とドラムを叩き続ける明日夢。

 見せ場のパートで絶妙なドラムライン!

 そして、シンバルを溌剌と叩き上げる明日夢の表情は生き生きと……。

 

○三十二之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 たちばな地下で話し合う猛士の面々。

勢地郎「カマイタチだ。古来より日本の妖怪伝説としては有名だねぇ」

 ひとみとともに下校する明日夢。

ひとみ「次は秋季大会の応援だからさ~、チアと一緒にやれるよね~」

 キャンプ中のヒビキたち。

ヒビキ「俺たち三人揃えば、向かうところ敵なし!ってな」

 三十三之巻『煌く刃』

 

○提供ナレーション 川口真五



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三十三之巻『煌く刃』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。そんな中、僕はクラスメイトの代わりにドラムを叩くことになりましたが、僕なりに精一杯やり遂げた感じです。そして、その頃ヒビキさんはと言うと……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 三十三之巻『煌く刃』

 

○提供ナレーション 川口真五

 

○コンクール会場の外

 コンクールが終了し、会場から人々が様々な感想を漏らしながら出てくる。

 そんな中、満足気な表情で会場から出てくる明日夢。

明日夢「あぁぁぁぁっ……!!」

 大きく伸びをする明日夢。

 そこへひとみが駆け寄ってくる。

ひとみ「安達君!」

明日夢「あ、持田!」

ひとみ「カッコ良かったわよ~」

明日夢「(照れて頭をかきながら)あ、ありがとう。……あ、母さんは?」

ひとみ「仕事の時間だから先に帰るって。今晩、きっとご馳走よ~」

 笑い合う明日夢とひとみ。

 と、そこへ桐矢が歩いてくる。

桐矢「……安達」

 明日夢、桐矢に気付いて少し緊張した表情になる。

桐矢「ありがとう、安達。……その、うまく言えないけどさ、とにかくありがとう。あとは、お前に任せたからな」

明日夢「桐矢君……」

 笑顔になる明日夢。

 桐矢が左手で握手を求める(右手首が折れているため)。

 明日夢、思わず右手を出しそうになり、慌てて左手を出し直す。

 そしてガッチリと二人が握手。

 それを見て、満面の笑みを浮かべるひとみ。

桐矢「……じゃーな」

 父とともに去っていく桐矢。

 と、ブラスバンド部の他のメンバーも会場から出てきた。

 そして明日夢のところにやってきて、口々にからかうように明日夢の活躍を褒め称える。

「安達ぃー、やるじゃん!」などと言いながら明日夢をポンポンたたく部員たち。

 後ろには、部長が満足そうな表情で立っていた……。

 

○奥多摩の森

 響鬼の前に立ちはだかる三ツ首の巨大魔化魍。

 生き残った童子と姫が、その後ろに隠れるようにして響鬼の方を見ている。

響鬼「結構、手強そうね」

 響鬼、烈火に炎を宿らせて、それを魔化魍に投げつける。

 しかし、簡単にはね返されてしまう。

響鬼「……なるほどな」

 響鬼、音角を鳴らして茜鷹を一匹空へ飛ばす。

響鬼「頼んだぜ」

 

○奥多摩・ベースキャンプの地

 ディスクの手入れをしながらコーヒーを飲んでいる香須実。

 そこへ、ヒビキの茜鷹が飛んでくる。

香須実「えっ?」

 香須実の前に降り立ち、体をチカチカと光らせる茜鷹。

香須実「救援信号!?」

 香須実、持っていたコーヒーカップをガチャンとテーブルに置き、携帯電話を手に取る。

 

○たちばな・地下作戦室

 電話が鳴る。

日菜佳「(電話を取って)はい! ああ、姉上ですか。……え? ヒビキさんが!?」

 勢地郎、日菜佳の方を見遣り、

勢地郎「……何だって?」

日菜佳「ヒビキさんが、救援信号出してるってことです!」

勢地郎「……そうか。じゃ、とりあえずザンキ君に連絡してみてくれ」

日菜佳「はい!」

 

○郊外のドライブイン

 ベンチに座って休憩中のザンキとトドロキ。

 ザンキの携帯電話が鳴る。

ザンキ「はい、ザンキです。……分かった。すぐ行く」

 携帯電話を閉じて、トドロキの方を向くザンキ。

ザンキ「ヒビキが苦戦しているそうだ。救援に向かうぞ!」

 ザンキ、そう言って雷神の方へ向かう。

 トドロキ、食べていたパンを喉につまらせながら、

トドロキ「……は、はい!」

 慌しく雷神へと走っていくトドロキ。

 

○たちばな・地下研究室

 一人、黙々と音撃棒の内部を小さな器具でいじくり回すみどり。

 そして、傍らにあるPCのキーボードを素早く叩き、モニターを確認する。

みどり「う~ん……、もうちょっとかなあ」

 みどり、首を傾げながら音撃棒の先端を別の色のものに取り替える。

 かと思うと、別の手で机の上にあるお菓子を鷲掴みにして、口へと放り込む。

 引き続き、武器調整に没頭するみどり。

 

○奥多摩の森

 三ツ首魔化魍に烈火を叩き込んでいく響鬼。

 鋭い爪を持った前足をかき上げ、響鬼を襲う三ツ首魔化魍。

響鬼「おっと!」

 響鬼の胸元をかすめる三ツ首魔化魍の前足。

 浅くキズが入るが、出血はない。

 響鬼、大きく息を吸って、三ツ首魔化魍に向かって炎を吹き出す!

 たじろぐ三ツ首魔化魍。

 サッとその背中に飛び乗る響鬼。

 そして、火炎鼓を魔化魍の背中に取り付ける。

 大きく広がる火炎鼓。

 火炎鼓を叩き始める響鬼!

 しかし、音撃の波長がうまく合わないのか、妙な音波とともに鼓ごとはじき飛ばされてしまう。

響鬼「うわーーーーーっ!」

 ひっくり返る響鬼。

響鬼「(鼻元を軽くはじいて)ニャロゥ」

 そこへ、ザンキと既に変身している轟鬼が駆け付ける。

轟鬼「響鬼さん! お待たせしました!」

響鬼「オー轟鬼ィ! 気をつけろ、手強いぞ」

轟鬼「任せてください!」

 そう言って、烈雷で三ツ首魔化魍の足を切り裂くと、素早い動きで腹の辺りに潜り込む轟鬼。

 その間、ザンキは青磁蛙と黄金狼を三ツ首魔化魍の周りに放つ。

 轟鬼、烈雷を魔化魍の腹に突き刺す。

轟鬼「音撃斬・雷電激震!」

 音撃斬の音色が鳴り響くが、またしても妙な音波とともにバチーンとはじき飛ばされてしまう轟鬼。

轟鬼「ウワッ!」

響鬼「轟鬼!」

 背中、そして腹の辺りをしきりに気にしながら、三ツ首魔化魍はそのまま地中に埋まっていく。

 いつの間にか、童子と姫の姿もない。

轟鬼「くっそ~!」

 立ち上がって悔しがる轟鬼。

 青磁蛙、黄金狼の二体のディスクアニマルがザンキの元に戻ってくる。

 空中でディスク化し、ザンキがこれを両手でキャッチ。

 ザンキ、それをくるくるっと回して、そのままディスクを見つめる。

 

○たちばな・地下作戦室

 ザンキのディスクをドライブにセットする勢地郎。

 その映像が、モニターに映し出される。

 ヒビキ、イブキ、トドロキ、ザンキ、そして香須実と日菜佳もそれを覗き込む。

 ジッとモニターを見つめる勢地郎。

トドロキ「……事務局長!」

 神妙な面持ちの勢地郎に、トドロキが問いかける。

勢地郎「う~ん、ザンキ君の記録したディスクから察するに、もしかするとこれかもしれないなあ」

 そう言って、机の上の資料をパラパラとめくる勢地郎。

 探していたページを見つけ、トントンと指で本を叩く。

勢地郎「これこれ」

香須実「(本を覗き込んで)カマイタチ?」

勢地郎「そう、カマイタチだ。古来より日本の妖怪伝説としては有名だねぇ」

トドロキ「でも、こいつら三匹いますよ? 自分たちが出くわしたのは、こういう図体のデッカい……」

 大きく手を広げるトドロキ。

勢地郎「そこなんだけどね。カマイタチってのは、本来、高速の動きで一匹が人をすっ転ばして、もう一匹が鎌で斬りつけて、そして残りの一匹が血止め薬を塗るという、三匹で一組の魔化魍なんだ。で、今回出てきたコイツは……、突然変異なのか、或いは何者かの悪意によるものなのかは分からないが、それが一匹に合体しているようだねぇ」

日菜佳「……で、この青磁蛙と黄金狼が録った響鬼さんと轟鬼君の音撃の様子を分析すると、どうも別々の性質をもった三匹それぞれの力が合わさって、音撃を反響しているようなんスよねぇ……」

 横からキーボードを叩いて説明する日菜佳。

 ヒビキ、資料の絵を見て、

ヒビキ「そう言われてみれば、この三匹は全部別々のタイプに見えますね」

勢地郎「そうなんだ。すっ転ばすヤツは弦、鎌で斬りつけるヤツは管、そして血止め薬を塗るヤツは太鼓の攻撃が合うと言われている。だから、君たち三人の音撃それぞれの力で倒せるはずなんだが、それには、この三位一体による反響を何とかしなければねぇ……」

 そこへ、みどりが入ってくる。

みどり「そこで、私の出番ってわけ」

 皆が振り返る。

ヒビキ「みどりぃ~」

 みどり、ヒビキに新型の烈火を手渡す。

みどり「これが完成品よ、ヒビキ君」

 新しい烈火を受け取るヒビキ。

ヒビキ「(烈火を見つめながら)ほう……」

 

《CM》

 

○奥多摩の森へと向かう道路

 不知火、竜巻、そして雷神の三台のマシンが疾走する。

 三台のマシンが森の入口付近に停車。

 ヒビキ、イブキ、トドロキの三人がそれぞれマシンから降り立ち、ディスクアニマルを放つ。

ヒビキ「よろしくな!」

イブキ「頼むよ」

トドロキ「よろしくッス!」

 ディスクアニマルたちを見送る三人。

 

○コンクール会場からの帰路

 明日夢とひとみが並んで歩いている。

ひとみ「安達君、良かったよねぇ」

明日夢「え? 何が?」

ひとみ「あ、いや……、なんとなくね。そうそう! 桐矢君、お父さん来てくれて喜んでたよね~」

明日夢「うん、そうだね。……人助け、できたのかなあ」

ひとみ「え? 何?」

明日夢「……あ、いや何でも」

 明日夢とともに、嬉しそうなひとみの表情。

ひとみ「次は秋季大会の応援だから、チアと一緒にやれるよね!」

明日夢「そうだね」

ひとみ「頑張ろうね!」

 ひとみ、明日夢を見て心底嬉しそうな表情。

 

○奥多摩の森

 ベースキャンプを張っているヒビキ達。

 座って、新しい烈火の手入れをしているヒビキ。

 それを眺めるトドロキ。

 イブキは、一人腕立て伏せをしている。

トドロキ「……うまくいきますかねぇ」

ヒビキ「なーに大丈夫。俺たち三人揃えば、向かうところ敵な

し!ってな!」

 ヒビキ、イブキの方へ振り向き、

ヒビキ「おう、そういやイブキ、あきらの調子はどうだ?」

イブキ「(腕立て伏せを腹筋運動に切り替えながら)……はい、順調に……回復してるよう、です……!!」

ヒビキ「そっか……」

 笑顔のヒビキ。

トドロキ「しかし良かったッスよね~。一時はどうなることかと思いましたよ」

香須実「(ディスクを拭きながら)トドロキさん、凄い慌てようだったもんね~」

トドロキ「(慌てて)ええっ!? そんなことないッスよ~。やだなあ、香須実さんったら……」

ザンキ「お前は、もっと落ち着くことを覚えなきゃいかんな」

 地図をチェックしながら、呟くザンキ。

トドロキ「ええっ!? ザンキさんまで……」

 情けない表情をするトドロキ。

 と、そこへ鈍色蛇が帰ってくる。

 立ち上がったイブキの下へピョコンと飛んで、ディスク化する鈍色蛇。

 音笛を取り出し、それをセットして再生するイブキ。

イブキ「(ディスクを読み取って)当たりです!」

ヒビキ「よし、行くか!」

 武器を携えて走り出す三人。

香須実「みんな、頑張ってね!」

 火打ち石を打つ香須実。

   ×   ×   ×

 森の中を滑走するヒビキ、イブキ、トドロキの三人。

 と、そこに現れた童子と姫。

 怪童子、妖姫へと姿を変える!

ヒビキ「ほい来た」

 ヒビキ、音角を鳴らして額へと持っていく。

 イブキ、音笛を吹き鳴らし、額へと持っていく。

 トドロキ、音錠を鳴らして、額へと持っていく。

 三人が同時に変身!

 勢揃いする三人の鬼!

 

○同・ベースキャンプの地

 ディスクの手入れをしているザンキと香須実。

香須実「(手を止めて)ザンキさん……」

ザンキ「(作業しながら)ん~?」

香須実「あの……、最近ちょっと気になってるんですけど……」

ザンキ「何が?」

香須実「私、ヒビキさんのサポーターとしてホントに役に立ってるのかなあって」

 ザンキ、香須実の方を振り向いて、

ザンキ「香須実ちゃん……」

香須実「こないだ、あきらクンの事があってから考えちゃったんですけど……、その、あきらクンにしても、トドロキさんにしても、……あ、今はザンキさんが逆にサポーターになっちゃってますけど、皆さんちゃんと鬼の修行をしてるじゃないですか。でも、私はディスクを読み取ることも出来ないわけだし……」

 悩みを打ち明ける香須実を、ジッと見つめているザンキ。

香須実「ヒビキさんにしたら、ホントはちゃんと鬼の修行をしているサポーターがいいのかなあ、とか思っちゃったり……」

ザンキ「……香須実ちゃんは、どうしてヒビキのサポーターになったんだい?」

香須実「え? それはまあ、何と言うか成り行きと言うか……」

ザンキ「片手間にやってるのかい?」

香須実「(立ち上がって)そ、そんなことありません! 真剣にやってます!」

ザンキ「じゃ、いいんじゃないの?(と、再び作業に戻る)」

香須実「あ……」

 見透かされたようなザンキの言葉に、思わず絶句の香須実。

 座って、微笑を浮かべる(別に間違ってなかったのかな、という気持ち)。

香須実「……ヒビキさんも、いつかは弟子を取るんですかねぇ」

ザンキ「さあ、どうかな。あれで結構ひねくれたところもあるからな~」

 クスッと笑う香須実。

 

○同・戦闘中の響鬼たち

響鬼「……ハーークショイ!!」

威吹鬼「(響鬼の方を振り向いて)え?」

轟鬼「(ガクッと膝を崩して)響鬼さん!」

 油断した威吹鬼と轟鬼に対して、すかさず攻撃を仕掛ける怪童子と妖姫。

 怪童子に押さえ込まれそうになった威吹鬼、身を翻して怪童子を背負い投げ!

 そしてすかさず回し蹴り一閃!

 一方、轟鬼に飛びついた妖姫。

 轟鬼の首を絞めようと蠢くが、轟鬼の気合いを込めた雷撃拳が妖姫の腹に炸裂!

 そして、轟鬼はすかさず烈雷で妖姫を切り裂き、これを粉砕!

轟鬼「おし!」

響鬼「や、失敬失敬(と、烈火で自分の頭をポンと叩く)」

轟鬼「もう、響鬼さ……」

 と、その轟鬼の立っている地面がググッと盛り上がる。

轟鬼「う、うわわわ!」

 よろめく轟鬼。

 そして、地割れとともにカマイタチが出現!

 大きく吠えるカマイタチ。

響鬼「……よし」

 烈火を構えて神経を集中する響鬼。

響鬼「ハァァァァァァァァ!」

 響鬼、烈火にエネルギーを込めていく。

 先端から炎が発生し、それが次第に上部へと伸びていく。

 それは二メートルほどの長さに伸びて炎の剣となった。

 そして、響鬼が烈火を軽く振り回すと、その剣はムチのようにしなる。

 響鬼、カマイタチに向かって走り出す。

響鬼「(炎の剣をかざして)爆熱剣撃・烈火の舞!」

 雄叫びともにカマイタチの右半身に斬りかかる響鬼。

 長くしなりながら炎の剣が舞い、右側の首を中心に切り離されるカマイタチ!

 すると、分裂した右のカマイタチの前足が羽根のように変化し、バサッと空中へはばたいた!

 それを烈風で狙い撃ちする威吹鬼。

 鬼石を何発か撃ち込む。

 間髪入れず響鬼は、カマイタチの左半身を烈火剣で切断!

 分裂した左のカマイタチは、そのまま後ろに下がって地中へ潜ろうとする。

 そこへ轟鬼が飛びつき、背中に烈雷を突き刺す!

 そして響鬼は、残った中央のカマイタチの背中に飛び乗り、素早い動きで火炎鼓を打ちつける!

威吹鬼「疾風一閃!」

轟鬼「雷電激震!」

響鬼「豪火連舞!」

 威吹鬼が烈風を吹き鳴らす!

 轟鬼が烈雷をかき鳴らす!

 そして響鬼が烈火を打ち鳴らす!

 三体の魔化魍に対する、三種類の音撃のハーモニー!!(この間、それぞれの攻撃を順々に繰り返しカットイン)

 それぞれのカマイタチに伝道する三つの音撃波動。

 そして、三体のカマイタチが同時に、爆発!!

響鬼「(烈火で肩を叩きながら)フゥ……」

 顔の変身を解く三人。

イブキ「ご苦労様です」

トドロキ「お疲れッス!」

 ヒビキ、大きく伸びをして、

ヒビキ「……さーて! 帰ってひとっ風呂浴びるか~」

イブキ「(微笑みながら)あれ? ヒビキさん、さっきクシャミしてましたけど、風邪ひいちゃったとか」

ヒビキ「ムッ?」

 サッと鼻を抑えるヒビキ。

トドロキ「風邪の時は、お風呂は控えなさい……ッスよ?」

 笑い合いながら歩く三人。

 

○三十三之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 美しい女性に呼びかけるトドロキ。

トドロキ「この辺りは危険ですよ。早く離れた方がいい!」

 地下研究室で話すみどりと明日夢。

みどり「明日夢君はさあ、将来の夢ってあるの?」

 たちばなで語り合うヒビキとザンキ。

ザンキ「そういやあいつ、ここんとこ休みなしで動き回ってるなあ」

 三十四之巻『恋する姫』

 

○提供ナレーション 川口真五



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三十四之巻『恋する姫』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。鬼の人たちの戦いもかなり大変になってきたみたいで、日々色んな研究がされてるみたいです。そして今日も」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 三十四之巻『恋する姫』

 

○提供ナレーション 梅宮万紗子

 

○トドロキの自宅前

 ガレージの中で、雷神のバックラックに荷物を積み込んでいるトドロキ。

 積み終えて、ラックをバタンと閉める。

ザンキ「よし、行くぞ」

 ザンキ、そう言って助手席のドアを開いて雷神に乗り込む。

トドロキ「はい!」

 トドロキ、小走りに運転席に向かってドアを開ける。

 助手席に乗り込んだザンキがふと気付いたように、運転席でシートベルトを締めようとしているトドロキに話しかける。

ザンキ「……ちょっと待て。ん~、今日から俺が運転する」

トドロキ「え!? 何でですか!?」

ザンキ「俺は、もうお前のサポーターなんだぞ? よく考えたら、運転なんて俺の仕事だ。今まで気付かなくて悪かった」

 車を降りようとするザンキ。

トドロキ「ちょっ、待ってくださいザンキさん! いいッスよ、ザンキさんにそんな事させられないッスよ! 運転は自分がやりますから……」

ザンキ「バカ言うな。さっさと降りろ!」

 車を降りて運転席に向かうザンキ。

 戸惑いながらも運転席から助手席に移動するトドロキ。

 困った表情だが、内心は喜びいっぱいのトドロキ。

 ザンキ、運転席に乗り込み、雷神を発車させる。

 

○目的地へ向かう道

 疾走する雷神。

 トドロキ、ザンキの運転する姿を横目で見て、満足そうな笑みを浮かべる。

 と、信号で急ブレーキがかかり、思わず前のめりになるトドロキ。

トドロキ「うわーーお!」

 トドロキ、若干言いにくそうに、

トドロキ「……ザンキさん、運転荒いッスね」

ザンキ「そうか? そいつはスマンな」

 信号が青に変わり、急発進する雷神。

 今度は座席に張り付くようになるトドロキ。

トドロキ「エェェェ……?」

 ちょっと不安げなトドロキ。

 

○山道の途中

 山道を走る雷神。

 崖道から視界が開け、左側に林が見えてくる。

 道路の少し広くなった部分に、雷神を停車させるザンキ。

 ザンキとトドロキが雷神から降りる。

ザンキ「この辺りだな。おやっさんが言ってた謎の気配があるところってのは」

トドロキ「……なんか、気味悪いッスねぇ」

 そう言いながら、腰からディスクアニマルを数枚取り出すトドロキ。

 音錠を鳴らし、ディスクをアニマル形態に変化させる。

 順々に林の中に入ってい緑大猿たち。

トドロキ「頼むッスよ!」

 

○たちばな

 バイトに来ている明日夢。

 店頭で、日菜佳とともに忙しく動き回っている。

 明日夢、先日のコンクールで自信をつけたのか、その動きは溌剌とした感じだ。

 会計を済ませた客が店から出ていく。

明日夢「(机を拭きながら、その客の方を見て)ありがとうございました!」

 日菜佳、明日夢の方へ近付く。

日菜佳「……明日夢どの~、なんか元気いっぱいでござるね~」

明日夢「そ、そうですか?」

 笑顔で答える明日夢。

日菜佳「いやいや、やっぱり人間、元気が一番! 元気があれば、何でもできる!ってね!」

明日夢「何ですか、ソレ?」

日菜佳「え? あ~、いやいや! じゃ、これ奥に持っていっといてくれる?」

 日菜佳、そう言って明日夢に食器の乗ったお盆を渡す。

明日夢「分かりました!」

 お盆を持って、奥の台所へ行く明日夢。

 

○同・台所

 お盆を持った明日夢が入ってくる。

 と、そこには戸棚からお菓子をツマミ食いしているみどりの姿が。

明日夢「あ、みどりさん」

 みどり、その声に振り返る。

みどり「(片手にお菓子を持ったままで)見~た~な~?」

 そう言って、みどりは持っていたお菓子をパクッと口に入れて、戸棚を静かに閉める。

 ムシャムシャゴックンとお菓子を飲み込むと、口に人差し指を当てて、明日夢に口止めのサインを送るみどり。

 クスッと笑う明日夢、みどりの横を通ってお盆を流し台の置く。

みどり「……そうだ! ねぇねぇ明日夢君、ちょっと一緒に来て」

明日夢「え? 何ですか?」

みどり「いいから、いいから」

 みどり、そう言いながら、明日夢の手を取って台所を出ていく。

 

○同・地下研究室

 みどり、先日見事に完成した新型の音撃棒・烈火を明日夢に見せる。

みどり「これ見て~。私の会心の一作!」

 烈火を手に取る明日夢。

明日夢「これって……」

みどり「うん、見た目はね、普通の音撃棒と変わらないんだけどねぇ、この先から出る炎が長~く伸びて、ムチのようにしなる剣になるのよ~!」

明日夢「へぇ~」

 烈火を持ち上げて興味深そうに見つめる明日夢。

みどり「もっとも、ヒビキ君くらいの段位者でないと使いこなせないんだけどね」

 フムフムと感心する明日夢。

みどり「他にもね~、今色々と研究中のがあるのよ~」

 そう言ってガサゴソと机をまさぐるみどり。

 机の上の資料がバラバラと崩れ落ちる。

 その、風貌とは裏腹ながさつな動作を見て、思わず吹き出す明日夢。

 

○林の中

 ベースキャンプを張っているザンキとトドロキ。

 ザンキ、地図をチェックするトドロキに話しかける。

ザンキ「トドロキ……、お前も一人前になったな」

トドロキ「え? やだなあザンキさん! 俺なんかまだまだッスよ~! ……でも、確かに最近、もう俺がしっかりしなきゃいけないんだな~なんて思ったりもしますけどねぇ。……あ、ちょっと偉そうだったッスか?」

 微笑むザンキ。

 そこへ、緑大猿が戻ってくる。

 ピョンと飛んでディスク化し、それをトドロキがキャッチ。

 音錠でディスクを再生するトドロキ。

トドロキ「(ディスクを読み取って)あ、当たりッス!」

ザンキ「よし、行ってこい!」

トドロキ「はい!」

 トドロキ、烈雷を肩にかけ、緑大猿の後について颯爽と飛び出していく。

 

○同・奥の沼地

 林の奥、中央に小さな沼がある場所。

 その周り、木々が立ち並ぶ辺りをトドロキが歩く。

 と、一本の大きな木の陰で、一人の美しい女性が頭をおさえてしゃがみ込んでいる。

 近付いて、声をかけるトドロキ。

トドロキ「だ、大丈夫ですか?」

美しい女「うう……」

 頭をおさえてる苦しむ女。

 トドロキが抱き起こし、

トドロキ「怪我は、ありませんか!?」

美しい女「……大丈夫です。なんか変な生き物がいきなり出てきたので、驚いてしまって……」

 顔を上げた女。

 その白い肌が、沼地の妖しい空気とそこに差し込む光でさらに艶かしく輝く。

 ドキッとするトドロキ。

トドロキ「この辺りは危険ですよ。早く離れた方がいいです!」

美しい女「ありがとう。……優しいお方」

 照れたような仕草をする女。

 それを見て、思わず赤くなるトドロキ。

トドロキ「え! あ、いやあ……。その、送りますよ。さ、行きましょう」

美しい女「いえ、大丈夫です。家はすぐそこですので……。ありがとうございました」

 そう言って、ゆっくりと立ち上がる女。

 トドロキに深々と礼をして、振り向き、静かに木と木の間に消えていく。

 トドロキ、その姿をポーッとした表情で見送る。

 しばらくして、ハッと気がついたようにブルブルッと顔を揺らし、小走りにその場を離れる。

 

○同・ベースキャンプの地

 小走りにキャンプ地に戻ってくるトドロキ。

トドロキ「……すいません、どうも逃げられちまったみたいで」

ザンキ「そうか。じゃ、もう少し移動してみよう」

トドロキ「はい!」

 素早く荷物を車に積み込む二人。

 緑大猿が一匹ピョンピョン飛び跳ねていたが、気にせずトドロキはこれを回収してバッグに詰め込む。

トドロキ「よっしゃ!」

 雷神に乗り込むトドロキ。

 ザンキの運転で発進する雷神。

 

《CM》

 

○たちばな・地下研究室

 実験用のディスクアニマルを興味深く見つめる明日夢。

明日夢「天美さんは、もうこのディスクを読み取ったりできるんですよね」

みどり「うん。あきらクンは今、序の六段っていう段位にいるの。そこまでいくと、もう鬼の一歩手前だから、基本的な能力はほとんどついてるのよね」

明日夢「……鍛えてるってわけですね」

みどり「(笑って)そうね。でもねぇ、私たちだって、こういったサポートを通じてしっかり鍛えてるのよ~」

 みどりの声を聞きながら、机の上の道具を恐る恐る触っていく明日夢。

 みどり、その様子を見ながら、

みどり「……明日夢君はさあ、将来の夢ってあるの?」

明日夢「え? あ、そうですねぇ。今はまだこれといって……」

みどり「やっぱり、音楽関係?」

明日夢「まあ、好きですけど……。でも、その道で将来やってくかどうかなんて、正直なとこ、今は考えられないですねぇ」

みどり「……ヒビキ君の弟子になろう、とは思わないのかな?」

明日夢「え!? 僕がですか!?」

みどり「明日夢君自身、こうやって猛士の事を色々知っちゃって……、ヒビキ君も、明日夢君のこと、いっつも気にかけてるみたいだもんね」

明日夢「僕には、無理ですよ~。それに、ヒビキさん、僕のこと弟子にする気はないみたいですし……」

みどり「そうかなあ……。私にはそうは思えないけどなあ……」

 その時、明日夢の携帯が鳴る。

明日夢「(電話に出て)はい! あ、日菜佳さん。……す、すいません! すぐ戻ります!」

 慌てて電話を閉じる明日夢。

明日夢「店番してたの、すっかり忘れてました! ……すいません、失礼します!」

 そう言って駆け足で戻っていく明日夢。

 何とも言えぬ笑顔で、明日夢の後姿を見送るみどり。

 

○謎の洋館

 実験器具が並ぶ机の前に座っている、和服姿の男女。

 女が、試験管の中に残った焦げクズのようなものを見ながら、それを振り回して呟く。

女「ダメだったようねぇ……」

 一方、机の上の大きな箱の中を覗き込む男。

男「いや、実験は失敗したわけじゃないよ。……今度は応用編だ」

女「うまくいくといいけど」

 そう言って、女は持っていた試験管をポイッとゴミ箱に捨てる。

 箱の中をジッと見つめて、ニヤリと笑う男。

 洋館の外では、大ガラスの鳴き声がこだまする……。

 

○たちばな

 客のいない店頭。

 テーブルで談笑するヒビキとザンキ。

 入口の扉がガラガラと開き、トドロキが入ってくる。

トドロキ「こんにちは~」

ヒビキ「お~トドロキィ、どうした?」

トドロキ「あ、ちょっと雷神のETCカードを交換に……」

ザンキ「お前、今日はオフじゃないのか?」

トドロキ「あ、いや……、どうも気になる地域がありますんで、調べておきたいな~と思いまして……」

 そう言いながら奥へ引っ込んでいくトドロキ。

 その姿を、キョトンとした表情で見つめるヒビキとザンキ。

ザンキ「あいつ、ここんとこ休みなしに動き回ってるんだよなあ」

ヒビキ「ま、今が一番動きたい時なんじゃないんですか?」

ザンキ「それならいいんだが……」

 ちょっと心配そうな眼差しのザンキ。

   ×   ×   ×

トドロキ「(奥から聞こえる声)ありがとうございました!」

 暖簾をくぐって、奥から出てくるトドロキ。

 続いて出てきた勢地郎。

トドロキ「じゃ、ちょっと行ってきます!」

 勢地郎に挨拶し、ヒビキとザンキに軽く会釈をして出ていくトドロキ。

勢地郎「トドロキ君、張り切ってるねぇ」

ザンキ「ええ。つぶれなきゃいいんですが」

勢地郎「ま、若い内はあれくらい元気がないとね。……それはそうと、ちょっと来てくれないかなあ、二人とも」

 勢地郎、そう言って、ヒビキとザンキを誘って地下へと向かう。

 ヒビキとザンキ、不思議そうに顔を見合わせ、立ち上がって勢地郎の後を追う。

 

○同・地下作戦室

 勢地郎、地下の部屋に入り、PCのキーボードを叩く。

 後ろから、続いてヒビキとザンキが部屋に入ってくる。

勢地郎「こないだ調べてもらったところなんだけど……」

 モニターを覗くヒビキとザンキ。

 勢地郎、机上の古い書物をパラパラとめくる。

勢地郎「この現象、どうもこれに似てるような気がするんだけどねぇ……」

 そう言って、机上の書物に目を遣る勢地郎。

 ヒビキとザンキもそこに目を移す。

ヒビキ「……タカオンナ?」

 顔を見合わせる三人。

 

○走る雷神

 沼地のある林に向かって、雷神をかっ飛ばすトドロキ。

 かなりのスピードで走る雷神。

 

○雷神の中

 トドロキが鼻歌を歌いながら運転。

 その表情はとてもにこやかだ。

 

○走る雷神

 トドロキの気持ちの高揚をそのまま表すかのような雷神の走り。

 目的地に一直線。

 

○たちばな

 閉店準備中の明日夢と日菜佳。

 日菜佳、レジで精算作業をしている。

 一方、明日夢は店頭の椅子を順々に机の上へ。

明日夢「(椅子をひと通り上げ終わって、額の汗を拭いながら)ふぅ……」

 レジから日菜佳が近寄る。

日菜佳「お疲れさま~!」

明日夢「お疲れ様です」

 ここで電話が鳴る。

日菜佳「ハイハイハイ」

 電話に走り寄る日菜佳。

日菜佳「はい、たちばなです。……あ、イブキさん? ……はい、そうですか、分かりました。あ、ところで、あきらクンの様子はどうですか? ……(ニコリと笑って)ああ、そうですかあ、そりゃあ良かった。はい、じゃあ父上に言っておきます。はい、どうも~」

 電話を切る日菜佳。

明日夢「(ちょっと不安げな表情で)天美さん、どうかしたんですか?」

日菜佳「(ハッとして)あ、ああ~、あの、ちょっとねぇ……」

 日菜佳、ちょっと考えた上で、

日菜佳「……まあ、明日夢君ならいいっか。実はね、あきらクン、こないだちょっと大変な目に遭って今入院中なのよ~」

明日夢「ええっ!? そうなんですか!」

日菜佳「うん、でももう大丈夫みたいで、そろそろ退院できそうだって」

明日夢「そうですか……」

 ホッとした表情になる明日夢。

 

○沼地のある林

 林の入口で雷神を停車させるトドロキ。

 車から降りて、いそいそと林の中へ降りていく。

 林の中を歩くトドロキ。

 そして、中央に沼地のある林の奥へと入り込み、大きな木の下に座っている美しい女を見つけると、そこへ駆け寄って声をかける。

トドロキ「こ、こんにちは!」

美しい女「(顔を上げて)うふ……、やっぱり来てくださった」

トドロキ「……いやあ! たまたま仕事場が近くなんもんで」

 そう言いながら、美しい女の横に座るトドロキ。

美しい女「嬉しいわ。お仕事の合い間にこうやって毎日会いに来てくれるなんて」

 トドロキに寄り添う女。

 女、トドロキの腕に抱きつき、頬をトドロキの肩にあてる。

 至福の表情のトドロキ。

 肩越しにトドロキを見る女。

 次の瞬間、その顔がなんと姫の顔に変化する!

 そしてわずかに上がる、その口元……。

 

○三十四之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 電話で話すトドロキと日菜佳。

日菜佳「ごめんなさい、……いや~、どうしてるかな~なんて、ちょっと思ったりしたもんですから」

 学校の前で話すイブキ、明日夢、そしてひとみ。

ひとみ「え? 天美さん、入院してたの?」

 沼地の木の下で女と会うトドロキ。

トドロキ「いやあ、今日も会えて嬉しいッスよ~」

 三十五之巻『救い出す天使』

 

○提供ナレーション 梅宮万紗子



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三十五之巻『救い出す天使』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。鬼の人たちの戦いもかなり大変になってきたみたいで、日々色んな研究がされてるみたいです。そして今日も」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 三十五之巻『救い出す天使』

 

○提供ナレーション 梅宮万紗子

 

○林の中・奥の沼地

 大きな木の下に座っている、トドロキと女。

 肩越しにトドロキを見つめる女の顔は、既に姫の顔になっている。

 ハッと気がついたように腕時計を見るトドロキ。

トドロキ「あ……、そろそろ帰んなきゃ!」

 女の顔が、元の顔に戻る。

美しい女「え、今来たばかりなのに……」

トドロキ「し、仕事がありますから……」

 首を傾げながら立ち上がるトドロキ。

美しい女「もっと、一緒にいたいのに……」

トドロキ「え、ああ、その……、また明日来るッスから!」

 そう言って、躓きながら小走りに帰っていくトドロキ。

美しい女「待ってるわよ!」

 背中に受ける女の声にニヤけながらも、咳払いをして自分を取り戻そうとするトドロキ。

 

○同・林の入口

 雷神のところまで戻ったトドロキ。

 顔をパンパンと叩く。

トドロキ「イカンイカン! なんかおかしいぞ俺は! こんな事してる場合じゃないんだ! ……でも」

 俯いて暗い表情になるトドロキ。

 と思うと、頭を振り回す。

トドロキ「ああ、もう! どうすりゃいいんだ俺はぁ~!!」

 叫ぶトドロキ。

 そして、暮れていく山の空……。

 

○たちばな・店舗前

 カラッと晴れた朝。

 太陽の光がまぶしい。

 

○同・地下作戦室

 勢地郎、机上の資料をまとめている。

 ザンキ、PCに向かって先日のカマイタチ戦の様子をサンプリング分析中。

 ディスクに内容を記録すると、それをPCのドライブから取り出してケースにしまい込む。

ザンキ「……OKです」

勢地郎「(ザンキの方へ歩み寄り)いやあ、悪いねぇザンキ君。また、オフの日に来てもらっちゃって」

ザンキ「いえいえ、お安い御用ですよ」

 そこへ、お盆を持った日菜佳が入ってくる。

日菜佳「お茶が入りましたよ~」

勢地郎「ああ、ありがとう」

 ザンキ、ちょっとびっくりしたような表情で日菜佳を見て、

ザンキ「あれ、日菜佳ちゃん、いたんだ?」

日菜佳「(机の上に湯飲みを置きながら)え? 何でですか?」

ザンキ「(しまった!という顔つきで)あ、いや、何でも……」

勢地郎「……ところで、トドロキ君は、今日は?」

ザンキ「いや……、それがですね……」

 ちょっと困り顔のザンキ。

 そこで、日菜佳が会話に割って入る。

日菜佳「トドロキ君、最近オフになっても単身で魔化魍調査に行ってるみたいなんですけど……、ザンキさん、体壊さないようによく見ておいてくださいね!」

ザンキ「(焦った表情で)わ、分かった」

 日菜佳、ちょっと怒ったような仕草で出ていく。

 勢地郎とザンキが顔を見合わせて、

勢地郎「(小声で)トドロキ君、どうかしたのかい?」

ザンキ「いえ……、今日は朝から用事があるからってはしゃいでたもんですから、てっきり日菜佳ちゃんとデートなのかと」

勢地郎「あ、そう。最近は、会ってないみたいだけどねぇ……」

ザンキ「そうですか……」

 ドアの向こうで二人の会話を聞いていた日菜佳。

 不安げな表情で階段を上っていく。

 

○同・居間

 日菜佳、居間に入り、座ったり立ったり落ち着かない様子。

 やがて意を決したように携帯電話を取り出し、バタッと座り込んでトドロキに電話をかける。

 

○林の中・奥の沼地&たちばな・居間

 結局、今日も美しい女と会っているトドロキ。

 二人はいつもの木の下で語らい合っている。

 会話もはずみ、お互いに笑い合うトドロキと美しい女。

 その時、ふいにトドロキの携帯電話が鳴る。

トドロキ「ああ……、す、すいません……」

 携帯電話を取り出すトドロキ、『日菜佳』の着信通知を見て、一瞬焦りを隠せない。

トドロキ「ちょ……、ちょっと待ってていただけますか!?」

 美しい女から離れて別の木の陰へ移動するトドロキ。

 恐る恐る電話に出る。

トドロキ「(裏返った声で)あ、も……、もしもし!?」

    ×   ×   ×

 画面、交互に日菜佳、トドロキ。

日菜佳「あ、トドロキ君? ご、ごめんなさい、仕事中……です

よね?」

    ×   ×   ×

トドロキ「あ、そ……そのぅ、ちょっと今日は、……む、昔の同僚に会ってまして、はい!」

    ×   ×   ×

日菜佳「ああ! そうなんですか、ごめんなさい! いや~、どうしてるのかな~なんて思っちゃったりしたもんですから」

    ×   ×   ×

トドロキ「あ……あ、すいません! あ、いや、ありがとうございます!」

 汗だくのトドロキ。

 どうにもいたたまれなくなって、

トドロキ「……じゃあ切りますんで、お気遣いどうもです!」

 ためらいながらも電話を切るトドロキ。

 そして溜め息一つ……。

    ×   ×   ×

 不自然に切られた電話を見て考え込む日菜佳。

日菜佳「ふ~ん……」

 そこへ、香須実がバタバタと音を立てて入ってくる。

香須実「ちょっと日菜佳、何やってんの! 店の方、混んできたわよ!」

日菜佳「ああ、はい! ゴメンナサイ!」

 慌てて出ていく日菜佳。

    ×   ×   ×

 一方、トドロキの方も、複雑な表情をしたまま美しい女のもとに戻っていく。

 トドロキの姿を確認するや、にこやかにウインクする女。

 その途端に、元のニヤけ顔に戻ってしまうトドロキ。

 再び木の下に座り直し、二人の甘い時間が流れていく……。

 

○城南高校・校門前の道

 校門近くの壁沿い、竜巻にもたれて立っているイブキ。

 明日夢とひとみが校門から出てくる。

 イブキ、そこに気付いて声をかける。

イブキ「……明日夢君!」

 イブキに気付く明日夢。

明日夢「あ、イブキさん!」

 イブキに近付く明日夢。

 軽く会釈するひとみ。

 それに応えるイブキ。

イブキ「明日夢君、今日、たちばなのバイトの日だよね?」

明日夢「はい、今から行くところですけど」

イブキ「ちょっと、代わりに手伝ってほしいことがあるんだ」

明日夢「え、何ですか?」

イブキ「こっちの病院に移ってたあきらが今日退院するんで、一緒に来てほしいんだけどな。……ああ、たちばなの許可は、もう取ってあるんだ」

明日夢「あ、分かりました! ……良かったですね、早く退院できて」

 ひとみ、びっくりしたような表情で、

ひとみ「え? 天美さん、入院してたの?」

 明日夢、ちょっと戸惑った様子で、

明日夢「あ、言ってなかったっけ? ……そうなんだ、ちょっと、……体調崩してたって感じで……」

ひとみ「そうなの……」

 表情が曇るひとみ。

イブキ「じゃ、後ろに乗って。ゴメンね、ひとみちゃん。明日夢君、借りちゃって」

ひとみ「あ……、いえいえそんな!」

 バタバタと手を振るひとみ。

 明日夢、イブキのバイクの後ろにまたがり、ヘルメットを被る。

 イブキ、ヘルメットを被って竜巻を発進させる。

 明日夢を後ろに乗せた竜巻が、その場を走り去る。

 それを見送るひとみ。

 その表情は一転、また曇っていく……。

 

《CM》

 

○たちばな

 机を拭く勢地郎と日菜佳。

 入口の扉が開き、ザンキが入ってくる。

 ザンキに気付く日菜佳。

日菜佳「あ、ザンキさん! おはようございますぅ!」

ザンキ「ああ、おはよう。……おやっさん、すいません」

 勢地郎の方へ行くザンキ。

ザンキ「トドロキのやつが急にどうしても休みが欲しいって言い出したもんで……、シフト調整、できますか?」

 ピクッと反応する日菜佳。

勢地郎「珍しいねぇ、いつもジッとしてられないタイプのトドロキ君が。ま、シフトの方は、ヒビキが今日フリーになっているので、そっちへ廻ってもらうと問題はないんだけど……」

 そう言いながら、チラッと日菜佳を見る勢地郎。

日菜佳「……ザンキさん、何かありますよコレは!」

ザンキ「え?」

勢地郎「確かに、今までのトドロキ君にはないパターンだねぇ」

ザンキ「何かって……」

日菜佳「分かりませんが……、これは女の勘です。さ、急ぎますよ!」

 日菜佳、そう言いながらエプロンをはずしてザンキの傍に駆け寄る。

 そしてザンキの腕を引っ張って、外へ出ようとする。

ザンキ「おいおい!」

 日菜佳、構わずザンキを外へ連れ出そうとする。

 そこへ、入口の扉が開いてヒビキが入ってきて、日菜佳とぶつかる。

ヒビキ「ただい……、おっと! ……日菜佳ちゃん?」

 ヒビキとぶつかった鼻を押さえて、しかめっ面の日菜佳。

日菜佳「ふにゅ~……、(サッと振り返り)ザンキさん! さ、急いで!」

 ザンキの手を引っ張って外へ出ていく日菜佳。

 ヒビキ、その様子を不思議そうに見送って、

ヒビキ「……何なんですか?」

勢地郎「えっと……」

 答えづらそうな勢地郎。

 

○トドロキの自宅前

 雷神ではなく、自家用車で出掛けようとしているトドロキ。

 物陰からそれを覗いているザンキと日菜佳。

 トドロキ、自家用車に乗り込んで発車。

 ザンキと日菜佳、それを見て素早くトドロキの自宅前へ走る。

 駐車してある雷神に合鍵を差し込んでドアを開けるザンキ。

 二人、無言で雷神に乗り込む。

 そして、静かに発車。

 

○トドロキの車を追う雷神

 トドロキの車を尾行する雷神。

 中では、鬼気迫る表情の日菜佳。

 その横で圧倒されるように運転するザンキ。

 見つからないように、何台か別の車を挟んで慎重に雷神を走らせるザンキ。

 

○林の入口

 トドロキの車が例の林の入口に停車。

 車から降りて、いそいそと林の中へと降りていくトドロキ。

 後方からやってきた雷神。

 トドロキの車の傍に停車。

ザンキ「ここは……」

 ザンキと日菜佳、雷神から降りる。

 そしてトドロキを追って林の中へと降りかける。

 と、そこでザンキの携帯電話が鳴る。

 電話に出るザンキ。

ザンキ「もしもし。……はい、……はあ、なるほど、分かりました」

 ザンキ、電話を切ると雷神に戻ってバックラックを開け、

 トドロキの烈雷を取り出す。

 烈雷を肩にかけ、雷神のバックラックを閉めるザンキ。

日菜佳「(振り向いて)ザンキさん?」

ザンキ「行くぞ!」

 勢いよく土手を降りていくザンキ。

日菜佳「あっ」

 慌ててそれを追う日菜佳。

 

○林の中・奥の沼地

 笑顔で林の中を走るトドロキ。

 そして、例の木の下へやってくると、やはり今日も美しい女が座っていた。

トドロキ「やあ!」

 軽く手を挙げて美しい女に近付くトドロキ。

 美しい女は、喜びいっぱいの表情でトドロキに近付く。

 ザンキと日菜佳が少し離れた木の陰へとやってくる。

 美しい女が、トドロキに抱きつく。

 ニタニタと笑うトドロキ。

 別の木の陰からそれを見た日菜佳、みるみる顔が紅潮して、

日菜佳「ト……、トドロキ君!!」

 飛び出していこうとする日菜佳を、ザンキが腕を引っ張って止める。

ザンキ「待て!」

日菜佳「だって……!!」

ザンキ「いいから待つんだ、日菜佳ちゃん」

 ザンキ、日菜佳を何とか諌める。

 一方、大きな木の下にゆっくりと座るトドロキと美しい女。

 そして和やかに話し始める。

トドロキ「いやあ、今日も会えて嬉しいッスよ~!」

 ニヤけた顔で、照れ隠しに足元の草をむしり取るトドロキ。

美しい女「私もよ、トドロキさん……」

 そう言いながら、トドロキの首筋に顔を近付ける美しい女。

 と、その時、女の顔がグニャグニャッと変形し、右半分が姫、左半分が童子の顔になった!

 そして、ギラつく目つきで口を大きく開ける童子姫!

 素早く黄金狼を放つザンキ。

 童子姫の顔面にとり付く黄金狼。

童子姫「うっ!」

 よろけて倒れる童子姫。

トドロキ「え?」

 振り向くトドロキ。

 変化した女の顔を見てのけぞる。

トドロキ「う、うわあああああああ!!」

 ザンキ、木の陰から飛び出して、

ザンキ「トドロキ! 変身しろ!!」

トドロキ「(声のする方を振り向き)ザ、ザンキさん……!?」

 黄金狼が再び童子姫を襲うも、叩き落とされる。

 そして童子姫は、さらに首から下もドロドロのナメクジのような体に変形し、二倍ほどの大きさに膨れ上がった!

 トドロキ、ようやく状況を把握して、たどたどしく音錠を鳴らす。

 雷鳴が轟き、トドロキが変身!

 ザンキ、轟鬼に烈雷を投げる。

 キャッチする轟鬼。

 しかしまだ戸惑っている。

轟鬼「何で!? 何で!? 何で!?」

ザンキ「轟鬼! いいから音撃だ!」

轟鬼「う、うわ~~~~!!」

 無我夢中で童子姫が変化したバケモノに向かっていく轟鬼。

 烈雷の剣撃で切り裂く。

 ひるんだところ、胴体に烈雷を思いっきり突き刺す!

轟鬼「お……、音撃斬・雷電激震!」

 多少乱調気味の音撃の音色。

 その威力が、徐々にバケモノの体内に浸透していく。

 そして、爆発!

 顔の変身を解いて、ガックリとヒザをつくトドロキ。

 ザンキ、近寄って、

ザンキ「危なかった」

トドロキ「(茫然自失の表情から)ど、どういうことなんスか!? ザンキさん!」

ザンキ「あれはな、男を誘惑してエサにするタカオンナという伝説の魔化魍だ。おまけに、童子であり、姫でもあり、同時に魔化魍でもあったとは末恐ろしいヤツ……」

 茫然としているトドロキ。

 そこへ日菜佳が近付いてくる。

トドロキ「ひ、日菜佳さん!」

ザンキ「トドロキ! 日菜佳ちゃんによく礼を言っておけよ。彼女がいなかったら、お前は助かってなかったかもしれない」

日菜佳「トドロキ君……」

トドロキ「日菜佳さん……」

 互いに近寄る二人。

 と、そこで日菜佳がトドロキの頬に一発平手打ち!

トドロキ「痛て!!」

 頬を押さえて尻餅をつくトドロキ。

日菜佳「トドロキ君! 今度こんな事になったら、もう知りませんからね!!」

 頬を押さえたままのトドロキ、自分の情けなさに大いに落ち込む。

ザンキ「トドロキ! 俺が教えた鬼の心得を言ってみろ!」

 トドロキ、スクッと立ち上がり、

トドロキ「……は、はい! ……一つ! 常に平常心で事にあたるべし! 一つ! 常に力まず、自然体を心掛けるべし! 一つ! 常に周囲に気を配り、視野を広く持つべし! 一つ! 常に笑顔を忘れず、女性には……、(日菜佳を見て)優しく接するべし!」

 ニコリと微笑む日菜佳。

ザンキ「フッ……」

 微笑み合う三人。

 沼地に差し込む日の光は、澱んでいたそれまでの空気を吹き飛ばすかのような晴れやかなものに……。

 

○三十五之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 山の中腹で戦う裁鬼。

裁鬼「ノツゴか……、十年ぶりだな」

 たちばなで話す猛士の面々。

香須実「……ひとみちゃん! ね、まあ座って、お茶でもどう?」

 たちばな地下で話す猛士の面々。

ヒビキ「シュキって、まさかあの……」

 三十六之巻『飢える鬼』

 

○提供ナレーション 梅宮万紗子



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三十六之巻『飢える鬼』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。色んなバケモノを退治する鬼の人たちですが、中には見たこともないのもいて大変そうです。天美さんも無事退院できて良かったのですが……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 三十六之巻『飢える鬼』

 

○提供ナレーション 森絵梨佳

 

○謎の洋館

 机上の大きな箱の中をを覗き込む、和服姿の男。

男「フム。一体化は、そう難しいことじゃない、か」

 後ろから近付く和服姿の女。

女「課題はまだ残っているわ。今は時期尚早なんじゃない?」

男「しかし、そろそろ試さないとなあ」

 箱の中の何かを掴み、少し離れた位置に置きかえる男。

男「さーて、お手並み拝見といくか」

 ニヤリと笑う男。

 

○山の中腹

 童子&姫と戦う裁鬼。

 裁鬼、閻魔を振りかざすが、それをジャンプして避ける童子&姫。

 童子&姫、サッと顔の前で手をクロスさせて、怪童子、妖姫に変化!

 口元から、クワガタの角のような牙を見せている怪童子と妖姫。

裁鬼「コイツらは……」

 身構える裁鬼。

 襲いかかる怪童子と妖姫。

 鋭い牙を剥いて裁鬼に飛びかかるが、これを手で払いのける裁鬼。

 閻魔を持ち替えて、気合いを溜める。

裁鬼「……イヤァーーー!!」

 裁鬼、華麗な閻魔の動きで童子を粉砕!

 と、辺りの地面が突然揺れる!

 そして目の前に現れたのは、魔化魍・ノツゴ!

 裁鬼、大きなハサミを広げるノツゴを見上げて、

裁鬼「ノツゴか……、十年ぶりだな」

 そこへ、上空から突如一つの影が現れ、姫に襲いかかる!

裁鬼「……何だ!? また乱れ童子か!?」

 姫の首筋にかぶりつく謎の生物。

 ちゅるちゅると姫の体液を吸い込んでいき、やがて皮と骨だけになる姫。

 干物と化した姫の体をポイッと投げ捨てた謎の生物が、裁鬼の方を振り向く。

 裁鬼、その顔を見て、

裁鬼「……その顔、ちょっと待て! お前は、……シュキ!!」

 その瞬間、謎の生物は背中の翼を広げて空中へ飛び立つ。

 そして、しばらく旋回したかと思うと、どこかへ飛び去っていった……。

裁鬼「これは一体……」

 裁鬼が振り返ると、ノツゴの姿は既に消えていた。

石割「裁鬼さん!」

 裁鬼、声の方へ振り向く。

 石割が浅葱鷲を持って走り寄ってくる。

石割「急だったんで、うまく録れてるかどうか分かんないんですが……」

裁鬼「何!? 今のやつ、記録できたのか!? そいつはデカした! ……いや~、お前はホントに優秀なサポーターだよ」

 引き揚げていく二人。

 

○たちばな

 日曜日ということで、朝からバイトに来ている明日夢が机を拭いている。

 入口の扉が開き、イブキとあきらが入ってくる。

イブキ「おはようございます」

明日夢「あ、イブキさん! おはようございます! ……あ、天美さんも」

あきら「おはようございます」

イブキ「明日夢君、こないだはどうもありがとう」

明日夢「いえいえ、とんでもない!」

 奥から出てくる勢地郎と香須実。

勢地郎「やあイブキ君、早いね」

イブキ「おはようございます。いや、あきらがもう復帰したいと言うもんで、一応報告にと……」

勢地郎「(にこやかに)ああ、そう」

香須実「(不安げな表情で)大丈夫なの? あきらクン。もう少しゆっくりしてた方がいいんじゃない?」

イブキ「僕もそう言ったんですが、あきらがどうしてもって」

あきら「大丈夫です。……鍛えてますから」

 ヒビキの真似をして、シュッ!のポーズを取るあきら。

 一同、軽く笑う。

 と、入口の扉が開き、ひとみが入ってくる。

ひとみ「……おはよう……ございまぁす」

 少し遠慮気味に入ってくるひとみ。

勢地郎「やあ、ひとみちゃん。おはよう」

 会釈するひとみ。

イブキ「じゃ、僕たちはこれで」

香須実「あ、行ってらっしゃい!」

 香須実に向かって銃撃のポーズを決めるイブキ。

 そのまま、あきらとともに外へ出ようとするが、そこへひとみが声をかける。

ひとみ「……あの、天美さん」

あきら「(振り向いて)え?」

ひとみ「あの……、退院おめでとう。……その、私、入院してたなんて知らなかったもんだから……、ゴメンね、お見舞いも行けなくて……」

あきら「そんな、いいのよ。ありがとう」

 ひとみの微妙な表情を見て少し怪訝な顔つきのイブキ。

 あきらを促して、外へと出ていこうとする。

明日夢「頑張ってね、天美さん!」

 明日夢に手を振って出ていくあきら。

 それを見て、更に不安げな表情になるひとみ。

 その様子を見て直感した香須実が、

香須実「……ひとみちゃん! ね、まあ座って、お茶でもどう?」

 ひとみを席へ促がすが、

ひとみ「あ、いや……、やっぱり私いいです。失礼します!」

 そう言って慌しく外へ出ていってしまうひとみ。

 茫然とそれを見送る四人。

勢地郎「……明日夢君、ひとみちゃんと何かあったのかい?」

明日夢「いえ、別に何も……」

 不思議そうな表情の明日夢。

 それを見て考え込む香須実。

 

○サバキ車両の中&たちばな・地下作戦室

 専用車両で下山するサバキと石割。

 助手席のサバキが、勢地郎と携帯電話で通話中。

サバキ「……はい、そうなんです。あれは、確かにシュキの顔でした」

    ×   ×   ×

 画面、交互に勢地郎、サバキ。

勢地郎「何だって~? まさかそんな……、見間違いじゃないのかい?」

    ×   ×   ×

サバキ「いや、俺も最初はそう思ったんですが……、やっぱり、アイツの顔は忘れませんからねぇ」

    ×   ×   ×

勢地郎「ん~……、ま、とにかく、一度吉野に問い合わせておくよ」

    ×   ×   ×

サバキ「頼みます。……はい。とりあえず、そっちへ行きますんで」

 電話を切るサバキ。

石割「サバキさん、シュキって誰ですか?」

サバキ「ああ、お前には話してなかったっけな。……結構、ヘビーなんだよなあ」

 サバキの真剣な表情を見て、敢えてそれ以上は聞こうとしない石割。

 黙々と運転に徹する。

 

《CM》

 

○たちばな・居間&山中

 午後、居間で休憩をとっている香須実。

 机の上に置いてあった携帯電話が鳴る。

 慌てて取る香須実。

香須実「はい! ……ああ、イブキ君?」

    ×   ×   ×

 画面、交互にイブキ、香須実。

イブキ「ちょっと、気になることがあるんですけど……」

    ×   ×   ×

香須実「……ひとみちゃんのこと?」

    ×   ×   ×

イブキ「あ、よく分かりますね」

    ×   ×   ×

香須実「私もね、今朝からずっと気になってたのよ……」

    ×   ×   ×

イブキ「ひとみちゃん、あきらの事で、何か明日夢君のことを誤解しちゃってるのかなあって……」

 イブキの電話を気にしながらディスクのメンテナンスをするあきら。

    ×   ×   ×

香須実「明日夢君が、私たちに気を使って内緒にしてたのが、かえってマズかったみたいね……」

    ×   ×   ×

イブキ「そうみたいですねぇ……」

    ×   ×   ×

香須実「……ま、ここは女同士、私からうまく話しておくわよ!」

    ×   ×   ×

イブキ「よろしくお願いします。……じゃ」

 電話を切るイブキ。

 それを見守る心配そうなあきら。

あきら「すみません、私のために……」

イブキ「あきらのせいじゃないって。それより、無理しちゃダメだよ?」

あきら「はい、大丈夫です!」

    ×   ×   ×

 電話を切って、考え込む香須実。

香須実「……とは言ったものの、う~ん」

 そこへ、みどりが入ってくる。

みどり「どしたの? 考え込んじゃって」

香須実「あ、みどりさん。ん、実はね……」

 

○たちばな・地下作戦室

 勢地郎を中心に、ヒビキ、ザンキ、トドロキ、そしてサバキと石割がいる部屋の中。

 ディスクアニマルをドライブにセットする勢地郎。

 モニターに映像が映し出される。

 モニターを見る勢地郎。

勢地郎「う~ん、こりゃ確かに……」

 トドロキ、モニターを覗き込んで、

トドロキ「え、何なんですか? ……コレって、テングですよね、この体つき。でも、顔はなんか人間の男みたいな……」

サバキ「シュキだ」

ヒビキ「シュキって、まさかあの……」

ザンキ「十五年前に殺人事件起こして懲戒になった、あのシュキか?」

トドロキ「さ、殺人って……!! 何ですかソレ!?」

 思わず大声を出すトドロキ。

 そして、冷静な中にも驚嘆の色を隠せない石割。

サバキ「シュキは、俺と同じ時期に修行していたヤツでな、元々優れた素質でトントン拍子に鬼になっていったんだ。しかしそれは、家族を殺した奴に復讐するためだったんだな」

トドロキ「何ですって!?」

サバキ「シュキは、中学生の時に交通事故で妹を亡くしたんだが、その時の加害者をどうしても許せなかったんだ。もちろん、そいつに法の裁きは下されたが、シュキとしては納得できなかった」

石割「何故です?」

サバキ「(少し考え込んで)現場で、警官に対しては従順な態度だった加害者が、警官が後ろを向いた瞬間に、冷たい表情で道路に転がった妹のカバンに唾を吐きかけたというんだな」

トドロキ「……ひでぇ」

サバキ「でも、その時はアイツは何も言わなかった。だから、後の事件が起こるまでは誰にも分からなかったんだ」

トドロキ「……で、鬼の力を使ってソイツに復讐したってわけですか?」

石割「でも、そういう気持ちを持ってしまうと、鬼の力は消滅してしまうと聞きましたが?」

サバキ「そうだ。だからシュキは、自らの復讐心を心の底に閉じ込めて修行を積み、鬼としての段位者となった途端、復讐を実行に移した。……もちろん、その瞬間に鬼としての能力は消滅してしまったので、実際に殺人を実行したのは、音撃弦の刃なんだが……」

ヒビキ「音撃弦を、凶器として人間に使っちまったってわけか」

 トドロキ、バンと机を叩いて、

トドロキ「許せないッスね!」

勢地郎「そう。だから弦の戦士ってのは、直接凶器になる武器を持つって意味で、人格者としての資質も問われる重要なポストなんだ」

トドロキ「重要なポスト……」

ザンキ「お前はまだまだ修行が必要だ」

 ザンキの言葉に小さくなるトドロキ。

ヒビキ「しかし、その後シュキは、本部に拘留されているはずでは?」

勢地郎「それなんだがねぇ。当時、事件の方は吉野の圧力で世間的には表沙汰になることはなく、シュキの身柄についても、本部の限られた人間にその更生を任されたと聞いているんだ。さっき、サバキ君からの電話の後、吉野に問い合わせてみたんだが……」

サバキ「すると?」

勢地郎「シュキは、確かに吉野に拘留されているというんだ」

トドロキ「どういうことですか?」

勢地郎「分からない。分からないが、吉野の予測ではもしかすると…………だろう、と」

 一層真剣な表情になるヒビキ、ザンキ、サバキ。

勢地郎「とにかく、みんなで協力して調査してくれ。通常業務に加えての調査で大変だろうが、ひとつよろしく頼むよ」

 

○同・店頭

 忙しく動き回る日菜佳と明日夢。

 それを奥から覗き込む香須実とみどり。

 

○同・居間

 香須実とみどり、再び居間に戻って、

香須実「……これ以上、ひとみちゃんに猛士のことを隠しておくのは、ちょっと不自然かもね」

みどり「何だかんだ言って、明日夢君を巻き込んじゃったのも私たちの責任だもんね。それに、トドロキ君の方もよく話しづらそうにしてるもんねぇ……」

香須実「うん。……何にしても、明日夢君に対する誤解は問題よ、女としては!」

 顔を見合わせ、互いに頷き合う二人。

 

○謎の洋館

 空から洋館の裏庭に着地するシュキ。

 そこに、黒クグツと白クグツが現れる。

 黒クグツと白クグツを威嚇するシュキ。

 構わず、シュキに向かって同時に手をかざす黒クグツと白クグツ。

シュキ「シャーーーーッ!」

 不気味な妖気が、シュキの周りを囲む。

 そして、苦しそうに頭を抱えるシュキ。

 やがて力を失い、その場に倒れ込んでいく。

 シュキの体を抱えて、ゆっくりと洋館の中へ入っていく黒クグツと白クグツ。

 落ち葉が舞い散る洋館の裏庭に、不気味な余韻が残る……。

 

○三十六之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 たちばな地下で話す勢地郎とヒビキ。

ヒビキ「シュキって人は、もう人間じゃないと考えていいもんなんでしょうかねぇ」

 河川敷の土手で話す香須実とひとみ。

香須実「ゴメンね、びっくりさせちゃって」

 山中でキャンプ中のイブキとあきら。

あきら「……ノツゴって、そんなに強いんですか?」

 三十七之巻『甦る修羅』

 

○提供ナレーション 森絵梨佳



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三十七之巻『甦る修羅』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。そんな中、持田の様子がおかしいようで、ちょっと心配な今日この頃です。そして、鬼の人たちの世界でも色んなことがあるようで……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 三十七之巻『甦る修羅』

 

○提供ナレーション 森絵梨佳

 

○たちばな・地下作戦室

 PCのモニターを見ながら電話をする勢地郎。

 傍にはヒビキが座っている。

勢地郎「……うん、そうなんだ。ノツゴを退治しなきゃならない大変な時なんだけど、こりゃ、どうもヤマアラシみたいだなあ。……うん、とりあえず、浅間山の方へ向かってくれないか。……じゃあ、よろしく」

 電話を切る勢地郎。

 傍にいたヒビキが話しかける。

ヒビキ「今頃ヤマアラシですか」

勢地郎「ああ、こう集中すると、みんなにも負担かけるねぇ。あ、ヒビキは引き続き例の調査の方を」

ヒビキ「了解」

 ヒビキ、立ち上がって階段を駆け上がろうとするが、ふと止まって、

ヒビキ「……おやっさん」

勢地郎「ん?」

ヒビキ「(階段の上の方を見つめた姿勢のまま)シュキって人は、もう人間ではないと考えてもいいもんなんでしょうかねぇ」

勢地郎「……ヒビキ」

ヒビキ「……行ってきます」

 階段を駆け上がるヒビキ。

 それを真剣な表情で見送る勢地郎。

 

○浅間山へ向かう道

 雷神を運転するザンキ。

 助手席にはトドロキ。

トドロキ「……この時期に、またヤマアラシですかあ」

ザンキ「とりあえず、シュキの方はヒビキに任せるしかないな。ノツゴも気になるが、あれは弦の攻撃ではどうにもならんからなあ」

トドロキ「てことは、イブキさんの出番ってわけですね?」

ザンキ「ああ。……だが、ノツゴ相手となるとイブキだけではキツいだろうから、トウキさんとショウキも応援に廻ることになったらしい」

トドロキ「へぇ~。管の戦士揃い踏み!って感じですね。自分も、サバキさんやバンキさんと一緒に、弦の三重奏とかやってみたいもんスね!」

ザンキ「バカ。何のために分散してシフト組んでると思ってんだ。そんな事したら後手後手に廻っちまうだろうが。……今回は特別だ!」

トドロキ「あ、そうッスよね~! ハハハ」

 呑気に笑うトドロキ。

 車は、浅間山の山道に差し掛かる。

ザンキ「ん?」

 ザンキ、道端に転がる物体を見て車を止める。

 トドロキとともに車から降りて、その物体に近寄る。

トドロキ「こ、これは……」

 それは、人間が全身の水分を抜き取られ、無残にも皮と骨だけになっている亡骸だった。

 亡骸に触れるザンキ。

 まだ暖かい。

ザンキ「……トドロキ! すぐヒビキに連絡しろ! ……近くにいるぞ!」

 トドロキ、素早く下がってヒビキに電話をかける。

 緊張するザンキ。

 その瞬間!

上空からザンキの背後に舞い降りてきたシュキ!

 後ろからザンキを襲う!

トドロキ「……ザ、ザンキさん!」

 大慌てで烈雷を取り出すトドロキだが、シュキの牙がザンキの首筋に迫る。

 と、その時、今度はシュキの背中に一つの影が降り立つ!

 裁鬼だ!

 裁鬼の閻魔が、シュキの背中を切り裂いた!

シュキ「グワッ!」

 ザンキから離れるシュキ。

 しかし、背中に受けた傷はみるみる治癒していく。

裁鬼「大丈夫か!? ザンキ!」

ザンキ「(首筋を手でなでながら)おう、サンキュー」

 挙動不審な動きを繰り返すシュキ。

 裁鬼が語りかける。

裁鬼「おいシュキ! 俺が分からんのか!? 裁鬼だ! おい!!」

 反応のないシュキ。

ザンキ「裁鬼よせ、ムダだよ。こいつは、もう魔化魍に支配されている……」

 三対一で不利と見たのか、或いは何か他の事情からなのか、シュキは二、三歩後ずさりした後、バッと上空へ飛び立った。

 そして、そのまま大空の彼方へと消えていった……。

 

○たちばな・地下作戦室

 机を囲む勢地郎、香須実、日菜佳、そしてみどり。

香須実「……どう思う? お父さん」

勢地郎「う~ん……、どうだろうねぇ」

みどり「もう隠していくには、難しい状況になってるってのは、事実なのよね」

勢地郎「まあ、ひとみちゃんだったら、秘密はちゃんと守ってくれるだろうと思う。ただ……」

香須実「ただ?」

勢地郎「うん。ひとみちゃん自身が、この重みに耐えられるかどうかってことが、問題なんだねぇ。……明日夢君の場合は、我々猛士や魔化魍のことを知っても、しっかり自分の生活ってものを崩すことなく生きてこれた。彼は、そういう強さを持った少年なんだよねぇ。まあ、そこにヒビキも惚れ込んだんだろうけどね……」

 目を見合わせて微笑む香須実とみどり。

みどり「……まあ、その明日夢君を見込んだのが、他ならぬひとみちゃんなんだから。……大丈夫じゃないかなあ」

勢地郎「そうだねぇ……」

日菜佳「そうそう! 大丈夫ッスよ!」

香須実「アンタが言うと、今イチ説得力ないのよね~」

 ムッとして香須実をニラむ日菜佳。

 笑う勢地郎とみどり。

 

○同・店頭

 ひとみの前に座る勢地郎、香須実、日菜佳、そしてみどり。

 四人の訴えかけるような眼差しに、ひとみは目をパチクリさせる。

ひとみ「あの……、どういうことなんでしょうか?」

勢地郎「(困ったような顔つきで)いや、だからね……」

ひとみ「何ですか!? テレビの番組かなんかですか? あ、じゃあ私もやってみたいな! 私、演劇部だったから、演技には自信あるんですよ~」

香須実「……あの、そうじゃなくてね、ひとみちゃん。……みんな、ホントの事なの、今言った事は」

ひとみ「え?」

香須実「日本には、魔化魍というバケモノが昔からたくさんいて、ヒビキさんや私達のような組織が全国で密かに戦ってるのよ。仕事としてね。……で、ある時明日夢君が、ヒビキさんが鬼になってバケモノと戦うところを偶然見ちゃったのね。それ以来、明日夢君もこの世界のことを色々知るようになっちゃって……。ウチでバイトし始めたのも、その手助けのためなの。……こないだのあきらクンの入院も、こういう事情なので誰にも言わなかったんだと思うのよね」

ひとみ「あ……」

 表情が一変するひとみ。

 しばらく沈黙……。

みどり「……ひとみちゃん?」

ひとみ「あの……、私、なんか頭がこんがらがっちゃって……。すみません、し、失礼します!」

 勢いよく立ち上がり、外へ出ていくひとみ。

香須実「ひとみちゃん!」

 後を追って外へ出ていく香須実。

 一同、しばし沈黙。

勢地郎「……やっぱり、ひとみちゃんには荷が重い話だったかなあ」

 深刻な表情の日菜佳とみどり。

 

《CM》

 

○河川敷の土手

 座り込んで虚ろな目のひとみ。

 香須実、後ろから静かに近付き、ひとみの隣に座る。

ひとみ「(振り向き)香須実さん」

香須実「……ゴメンね。びっくりさせちゃって」

ひとみ「いえ……」

 再びうつむくひとみ。

香須実「……普通じゃ考えられないもんね、バケモノ退治してるなんて。……明日夢君も、はじめは凄く驚いたと思うんだ。でも、ヒビキさんが、ありのままを見せるのが誠意なんだって、明日夢君に全部見せちゃったのよね。……あの時の私は、ヒビキさんの言ってる意味がよく分かんなかったんだけど、今はなんとなく分かるような気がするの」

 ひとみ、ゆっくりと香須実の方に首を向ける。

香須実「あの時、私、ヒビキさんに、明日夢君、高校落ちるよなんて言っちゃったんだよね。でも、そんなことなかった。……明日夢君、強かったんだ。……さすが、ひとみちゃんの見込んだ男の子だよね」

ひとみ「え……!?」

香須実「……あ~、いい天気だ~!」

 そう言って土手に寝っ転がる香須実。

 ひとみ、空を見上げる。

 青い空、白い雲。

 しばらく上を向いていたひとみ、香須実の方を向いて、

ひとみ「香須実さん! ……あの、ありがとうございました!」

香須実「え?」

ひとみ「あの、まだ、よく分かんないですけど……、これだけは……、これだけははっきり言えます。私……、皆さんのこと、大好きです!」

 香須実、安心したような笑顔で、

香須実「私も大好きよ、ひとみちゃん」

 二人で空を見上げる……。

 

○別の山の中腹

 ベースキャンプを張っているイブキとあきら。

あきら「……ノツゴって、そんなに強いんですか?」

イブキ「うん。十年に一度現れるかどうかっていう魔化魍なんだけど、記録によれば、外部からの音撃では倒せないってことらしいんだ。だから、飛び道具を持っている僕ら管の戦士が適任ってことになるんだね」

あきら「イブキさんにとっても、初めての経験なんですね?」

イブキ「そうだよ。だから不安もあるけど、今回は力強い味方もいるしね」

 そこへ、鈍色蛇が帰ってくる。

 ピョコンとイブキの方へ飛んで丸くなる鈍色蛇。

 それをキャッチして音笛で再生するイブキ。

イブキ「(ディスクを読み取って)……来たな! ……あきら! トウキさんとショウキさんに早く連絡を!」

あきら「はい! 分かりました!」

 携帯電話を取り出すあきら。

 イブキ、鈍色蛇とともに走り出す。

 走りながら音笛を吹くイブキ。

 音笛を額に持っていく。

 イブキの体を風が取り巻き、変身!

 風のように走る威吹鬼。

 そして、広く開けた平野部へと出る。

 すると、眼前に現れた、ノツゴ!

 

○高速のドライブイン

 車両の傍で休憩中のサバキと石割。

 サバキは車両にもたれて缶ジュースを飲んでいる。

 そして、石割は車両のバックラックを開けた状態で、ノートPCの画面を見つめている。

 しばし考え込み、慣れた手つきでPCのキーボードを叩く石割。

石割「……サバキさん」

サバキ「ん~?」

石割「シュキ……さんの行動パターンを分析すると、いかにも動物的なんですよね」

サバキ「どういうことだ?」

 サバキ、そう言って石割に近付く。

石割「概ね、本能で行動しているように窺えます。そして、この頭の上に伸びたもの、これは、触覚じゃないですかね?」

サバキ「むぅ……」

 モニターを覗き込むサバキ。

石割「もしそうだとすると、獲物の匂いを嗅ぎ分けて行動しているのかもしれません。……こないだ、ザンキさんが襲われましたよね?」

サバキ「……てことは、オイ!」

石割「(頷いて)浅間山、ですね」

 缶ジュースを飲み干して、缶をゴミ箱に放り投げるサバキ。

 そして、急いで助手席へと向かう。

 石割、静かにPCを閉じ、バックラックを閉めて、運転席へと向かう。

 

○凱火で走るヒビキ

 公道を走っていたヒビキ。

 ポケットの携帯電話が鳴ったのに気付いて、道の脇に凱火を停車させる。

ヒビキ「(電話に出て)もしもし。ああ、サバキさん。……はい。了解しました」

 電話を切るヒビキ。

 一つ溜め息をついて、空を見上げる。

 その表情は、何かに迷っているようだ。

 やがて、キリッとした表情に戻り、ヘルメットを被り直して、凱火を発車させるヒビキ。

 

○浅間山

 ヤマアラシの童子&姫と戦うトドロキとザンキ。

 ザンキの蹴りに吹っ飛んだ童子と姫を、トドロキが烈雷で突き刺していき、次々と粉砕!

 と、眼前に現れたヤマアラシ!

トドロキ「おし!」

 トドロキ、烈雷を地面に突き刺し、音錠を鳴らす。

 腕を額に持っていき、雷鳴が轟いてトドロキが鬼に変化!

 ヤマアラシに向かって走る轟鬼。

 素早い動きでヤマアラシに近付き、烈雷で斬りつける。

 そして、ヤマアラシの胴体に烈雷を突き刺す!

轟鬼「音撃斬・雷電激震!」

 ヤマアラシに伝道する轟鬼の音撃。

 そして、爆発!

 と、その爆煙の後ろに一つの影が……。シュキだ!

ザンキ「出やがったな」

 ザンキに襲いかかるシュキ。

 それを必死で振り払うザンキ。

轟鬼「あのヤロー、なんでザンキさんばっかつけ狙うんだよ!」

裁鬼「それは、ザンキの匂いを覚えてしまったからだろう」

 後方から裁鬼の声。

 そしてその後ろには響鬼の姿も。

轟鬼「裁鬼さん! 響鬼さん!」

裁鬼「トォーーッ!」

響鬼「ハッ!」

 ジャンプしてシュキに飛びつき、ザンキに加勢する裁鬼と響鬼。

 その攻撃で転がり倒れるシュキ。

 シュキを囲む裁鬼、響鬼、そして轟鬼。

裁鬼「今度は逃がさんぞ。……シュキ!」

 身構えるシュキ。

 ジリジリと近付く裁鬼と轟鬼。

 しかし何故か響鬼はその時、ジッと空を見つめていた……。

 

○三十七之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 浅間山で戦う裁鬼、響鬼、轟鬼。

裁鬼「……おい響鬼、どうした!?」

 ノツゴの前に勢揃いする管三人衆。

闘鬼「ノツゴとやんのは俺も初めてだが、なるほどこいつぁスゲェプレッシャーだな」

 たちばな地下で話し合う猛士の面々。

ヒビキ「俺たち鬼の使命は、人間を守る、ってことですよね」

 三十八之巻『迷える音撃』

 

○提供ナレーション 森絵梨佳



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三十八之巻『迷える音撃』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。今日も鬼の人たちの戦いは続いています。僕も、そろそろ自分の将来を真剣に考えなくっちゃいけないなあと感じてきましたが、なかなか難しいものです」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 三十八之巻『迷える音撃』

 

○提供ナレーション 森絵梨佳

 

○浅間山

 ジリジリとシュキを追い詰める裁鬼と轟鬼。

 しかし、何故か響鬼はジッと空を見上げている……。

 そして、後方で状勢を見つめるザンキ。

 閻魔を振りかざし、シュキに斬りかかる裁鬼。

 轟鬼もそれに続いて、烈雷を構えながら走る!

裁鬼「タァーーー!!」

轟鬼「ハッ! ハッ!」

 裁鬼、轟鬼が二人で斬りかかる。

 腕や背中を切られて後ずさりするシュキだが、その体の傷は瞬く間に治癒してしまう。

ザンキ「ダメだ! ヤツの体は既にテングそのものなんだ! 魔化魍には音撃しか通じんぞ!」

裁鬼「なるほど。しかもテングは夏の魔化魍とくる……、響鬼!」

 上空を見上げていた響鬼、気持ちを切り替えるように烈火を構える。

響鬼「……よし!」

 シュキに飛びかかる響鬼。

 烈火の先端を次々とシュキにぶつけていく!

 よろめくシュキ。

 そして、音撃鼓をベルトからはずして構える響鬼。

 しかし、一瞬躊躇して動きを止める。

 シュキ、そのスキに響鬼を突き飛ばして上空へと飛び立ち、そのまま逃亡……。

 立ち尽くす響鬼。

 そこに近付く裁鬼。

裁鬼「おい響鬼、どうした!?」

響鬼「……いえ、すいません」

 厳しい目で響鬼を見つめるザンキ。

 

○別の山岳地帯

 ノツゴを前に、身構える威吹鬼。

 威吹鬼、両手の甲から鋭い爪を伸ばし、ノツゴの足元に突進する。

 しかし、攻撃する間もなく、その大きなハサミで威吹鬼の体はいとも簡単に弾き飛ばされてしまう。

威吹鬼「うわっ!」

 地面に打ちつけられる威吹鬼。

威吹鬼「ふぅ……」

 そこへ駆け寄ってきた二人の鬼。

 闘鬼と勝鬼だ!

闘鬼「やっぱり、こっちだったか」

勝鬼「威吹鬼! 手を貸すぜ!」

威吹鬼「闘鬼さん! 勝鬼さん!」

 威吹鬼、勝鬼の差し出す手を取って立ち上がる。

闘鬼「ノツゴとやんのは俺も初めてだが、なるほどこいつぁスゲェプレッシャーだな」

勝鬼「どう攻めますかい?」

闘鬼「うむ。コイツにゃ肉弾戦は通用しねぇからな。勝鬼、威吹鬼、まずは二人でヤツの口を開けさせるんだ!」

威吹鬼「分かりました!」

勝鬼「ガッテンだ!」

 分散して走っていく威吹鬼と勝鬼。

 右から威吹鬼が烈風で、左から勝鬼が台風で、ノツゴの口元めがけて射撃を開始する。

 基本的には跳ね返されてしまう二人の射撃だが、何発か当たる度に口を開くノツゴ。

 一方、闘鬼は、チューバ型の音撃管・嵐を肩に掲げ、ゆっくりと狙いを定める。

 口を開いて、捕獲用の糸を吐くノツゴ!

 素早く避ける勝鬼、そして威吹鬼。

 慎重に狙いを定める闘鬼。

 再びノツゴから吐かれる糸!

 一瞬逃げ遅れた威吹鬼の足にその糸が絡みつく!

 捕獲した威吹鬼を口元に引き戻さんとするノツゴ!

威吹鬼「うわっ!」

 ノツゴの糸に捕まって、威吹鬼の体が宙に浮く!

闘鬼「ムッ! ……今か!?」

 照準を合わせる闘鬼。

 引っ張られる威吹鬼!

 そこへ勝鬼がジャンプ!

 鋭いカギ爪・風爪を手の甲から伸ばした勝鬼、その爪でノツゴの糸を切り裂く!

 空中に放り出される威吹鬼!

 その瞬間、闘鬼は嵐から大型の鬼石を発射!

 鬼石はまっすぐノツゴの口元に伸びていき、ノドの奥深くに撃ち込まれる!

闘鬼「よし!」

 音撃鳴・つむじを嵐にセットする闘鬼。

闘鬼「音撃射・風神怒髪!」

 嵐を力強く吹く闘鬼。

 雄雄しく鳴り響くその重い音色。

 その波動が、ノツゴの体全体に伝道していく!

 激しく振動するノツゴの全身!

 そして……、爆発!!

闘鬼「フゥ……」

 闘鬼、嵐から静かに口を離す。

 座り込む威吹鬼、ノツゴの糸を足からはらっている。

 威吹鬼の元へ駆け寄る闘鬼と勝鬼。

闘鬼「威吹鬼! 大丈夫か!?」

威吹鬼「はい、平気です」

勝鬼「なーに言ってんの、わざと捕まっといて」

威吹鬼「あ、バレてましたか?」

闘鬼「……ハーハッハッハッハッハッ!」

 豪快な闘鬼の笑い声。

 それを見てちょっと引き気味の威吹鬼と勝鬼。

 

○城南高校・屋上

 金網越しに、外を見ながら話している明日夢とひとみ。

明日夢「……そっかあ。持田も知っちゃったわけか~」

ひとみ「うん」

明日夢「……ゴメンな。今まで黙ってて」

ひとみ「ううん! だって、大事な秘密だったんだもん。こんな大きな荷物、安達君はずっとしょってたんだね」

明日夢「え? いやあ……」

 照れる明日夢。

ひとみ「天美さんにも謝んなきゃなあ、ヘンな誤解しちゃってさあ」

明日夢「え? 誤解って?」

ひとみ「え!? あ、いや、何でもないの! ……あ、ホラ、午後の授業、始まっちゃうよ!」

明日夢「ん、ああ……ちょっと!」

 明日夢の手を引っ張って、校舎内へつながる階段に向かっていくひとみ。

 

○浅間山・ベースキャンプの地

 手にハンドブックのようなものを持ちながら、立てかけた地図を見つめているあきら。

 そこへ、顔だけ変身解除したイブキ、トウキ、ショウキが戻ってくる。

イブキ「ただいま」

あきら「(振り向いて)お帰りなさい! どうでしたか?」

イブキ「ああ、なんとか……」

 言いかけたところでショウキが叫ぶ。

ショウキ「あきらちゃ~ん! 久しぶり!」

 手を振りながら、あきらに近寄るショウキ。

あきら「あ、どうも……」

 その後ろから、トウキもやってきて、

トウキ「やあ、あきらクン。こないだは大変だったね」

あきら「トウキさん、ご無沙汰してます」

 会釈するあきら。

 烈風をテーブルの上に置くイブキ。

 あきら、イブキの動向を見て、テントの方へ歩を進める。

あきら「イブキさん、ひと休みしてください。お茶、入れます」

イブキ「あ、ああ」

ショウキ「え、何々!? あきらちゃんの入れてくれたお茶飲めんの? いやいや、ラッキーだねぇ、今日は!」

 いつの間にか、椅子に座っていたショウキ。

 あきら、ちょっと苦笑いしながらコップを準備し始める。

 トウキ、イブキと目を合わせて微笑み、肩に掲げていた嵐を地面に降ろす。

 

《CM》

 

○たちばな・地下作戦室

 机を囲む猛士の面々。

 PCの前にはあきらと石割。

 その後ろでモニターを見る勢地郎。

 そして中央の机周りには、サバキ、ザンキ、ヒビキ、イブキ、トドロキが座っている。

勢地郎「今までの調査で分かったことは、まずシュキは、テングと合体した魔化魍となっていること。童子や姫だけでなく、人間もエサにしていること。で、出現場所は、何故か浅間山周辺五十キロの範囲に限られている、と」

サバキ「そして今は、ザンキの匂いを記憶しているというわけですね」

ザンキ「俺が囮ってわけだな」

 心配そうに、ザンキの方を見遣るトドロキ。

勢地郎「で、テングの形態ということは、太鼓の音撃が有効、ということになるな」

サバキ「イブキ、トドロキ、バチの練習を怠るなよ!」

イブキ・トドロキ「はい!」

サバキ「……ところでヒビキよ、何故あの時躊躇した? 攻撃できない間ではなかったぞ?」

 ヒビキの方を見遣るサバキ。

 傍らで、ザンキはジッとヒビキを見つめている。

 ヒビキ、真剣な表情で、

ヒビキ「……魔化魍に支配されているからといって、ホントに人間じゃないと思い切っちゃっていいんですかね」

 一同、ちょっと驚いた表情。

サバキ「だが、ヤツは俺の呼びかけにも全く反応しなかった。既に、人間の心は失われているんだよ。何者かに体だけを利用されて……」

イブキ「一体、誰が……?」

サバキ「それは分からんが……」

 ヒビキ、訴えるような眼差しで、

ヒビキ「俺たち鬼の使命は、人間を守る、ってことですよね。人助けする、ってことですよね」

サバキ「だから何だ」

ヒビキ「人間は……、守らなければならないんじゃ……って」

トドロキ「でもヒビキさん、仮に、ソイツをまだ人間とみなすとしても、鬼の力を悪用して人殺しをやっちまった人間ですよ? 同情の余地なんてないッスよ!」

ヒビキ「同情、とはちょと違うんだが……」

 ここまで黙って聞いていたザンキが口を開く。

ザンキ「……ヤツは、復讐心を抱きつつも、その心を自らの意思の力で封じ込めて鬼の修行に没頭した。そして鬼になって武器を与えられた途端、自らの心の奥底から復讐心を呼び起こして犯罪を犯したわけだ。とてつもなく強い精神力だが、それは悪の力だ。……悪の力を断つことも、我々の使命なんじゃないか?」

 沈黙する一同。

ヒビキ「……それは分かります。それでも、鬼としての使命を果たすってことがどういうことなのか? なんか、俺としては割り切れないもんがあるんですよね……」

 またしても沈黙してしまう一同。

 階段の途中では、お茶を持ってこようとしたが入ることができずに佇む日菜佳の姿が……。

 

○高速道路

 石割の運転で走るサバキの専用車両。

 助手席では、サバキが腕組みしている。

サバキ「石割、お前、分かるか? ヒビキの悩みを……」

石割「う~ん、そうですねぇ。なんとなく分かるような気がしますね、僕も。なんだかんだ言っても、人権を無視するってのは、裁判なんてやめろって言ってるようなもんですからね」

サバキ「ん~、俺は悪党はどこまでいっても悪党だと思うんだがなあ……」

石割「それも真理だと思いますよ」

 ズルッと滑るサバキ。

サバキ「どっちなんだよ!? お前!」

石割「だから、こういう問題は難しいんですよ」

 インターを降りて、浅間山の山道に入っていくサバキ車両。

 

○浅間山

 ベースキャンプを張っているザンキとトドロキ。

 ディスクアニマルを、一つ一つチェックするトドロキ。

 なかなか当たりが出ない様子。

 そこへ、ヒビキの不知火とイブキの竜巻が到着。

 バイクから降りて、ヒビキとイブキがヘルメットを脱ぎながら歩いてくる。

イブキ「こっちはどうですか?」

トドロキ「……まだ異常なしです」

 ヒビキとイブキ、自分のバイクから装備を取り出していく。

 ヒビキの表情は、まだ硬いまま……。

 一方で、ザンキが厳しい表情で崖っぷちまで歩いていく。

 山間の風を感じるザンキ。

ザンキ「……ん? この気配は……」

 後ずさりするザンキ。

ザンキ「……来るぞ!」

 ザンキの声に振り向き、その場に身構えるヒビキ、イブキ、トドロキ。

 と、上空から突如現れた黒い影が、やはりザンキの背後に舞い降りた!

 シュキだ!

 素早く転がり避けるザンキ。

 ヒビキが音角を鳴らして額へ、イブキが音笛を吹いて額へ、そしてトドロキが音錠を鳴らして額へと持っていく。

 三人同時に変身!

 鬼と化した響鬼、威吹鬼、轟鬼、全員が音撃棒を持って、ジリジリとシュキに近付く。

轟鬼「……よぉ~し!」

 シュキに飛びかからんとする轟鬼。

 と、それを響鬼が烈火で遮って止める。

轟鬼「……響鬼さん?」

裁鬼「ここはイチバン、響鬼に任せよう」

 いつの間にか背後にいた裁鬼が、威吹鬼と轟鬼に声をかける。

裁鬼「俺たちは、ヤツに逃げられんよう響鬼を援護するんだ」

 響鬼、無言で裁鬼にOKサインを送り、ゆっくりとシュキに近付く。

響鬼「ハァァァァァァァ!」

 烈火に炎を宿す響鬼。

 そして、一直線にシュキに向かって走っていく!

響鬼「ハッ! ハッ!」

 響鬼の烈火がシュキの体を打ちつける!

 何度も何度も打ちつける!

 その度に、次第に焼け焦げたように崩れていくシュキのテング体の皮膚。

 シュキ、反撃して響鬼に喰らいつこうとするが、それを烈火で払いのける響鬼。

響鬼「ハッ! ハッ!」

 なおも打ち続ける響鬼!

 シュキの体中のテング体皮膚がどんどん剥がれ落ちていき、その動きも次第に鈍くなっていく。

響鬼「ハァーーッ!」

 最後のひと振りをシュキの背中に打ちつけた響鬼。

 シュキの体が炎に包まれ、その場にのたうち回る!

 そして、やがてバッタリと力尽きたように倒れるシュキ。

 炎が消え、テング体だったシュキの体は、火傷だらけの人間の姿のようになっていた。

 その姿を固唾を呑んで見守る全員。

 生きているのか?

 死んでいるのか?

 全く動かないシュキの体。

 その時、上空に一台のヘリコプターが近付いてきた。

 そして、ヘリはヒビキたちの近くにゆっくりと着陸。

 中から、防護服に身を包んだ数人の男が出てきたかと思うと、手早い動きでシュキの体を回収し、ヘリに運んでいく。

 勢地郎の手配した、吉野の医療スタッフたちだ。

 最後に、一人の男がヒビキ達に敬礼をして、再びヘリに乗り込んでいった。

 出発するヘリ。

 去っていく本部のヘリを見上げながら、顔の変身を解くヒビキたち。

ヒビキ「人が、人を裁いていいもんなんだろうか。それが出来るのは、本当は……」

ザンキ「……『神』だけ、かもしれんな」

 そのまま、上空を見上げ続ける全員……。

 

○三十八之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 たちばなを訪れる明日夢とひとみ。

ひとみ「今日から、よろしくお願いしま~す!」

 謎の洋館で話す男女。

男「実験は……、終わった」

 たちばな地下で話す勢地郎たち。

勢地郎「吉野の予測が当たっているとすれば……、こりゃ結構、大変だなあ」

 三十九之巻『始まる謀略』

 

○提供ナレーション 森絵梨佳



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三十九之巻『始まる謀略』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。今日も鬼の人たちの戦いは続いています。僕も、そろそろ自分の将来を真剣に考えなくっちゃいけないなあと感じてきましたが、なかなか難しいものです」

 

○オープニング曲『輝』

○サブタイトル

 三十九之巻『始まる謀略』

 

○提供ナレーション 下條アトム

 

○たちばな

 開店準備中の香須実と日菜佳。

 入口の扉が開き、明日夢とひとみが入ってくる。

明日夢・ひとみ「おはようございま~す!」

香須実「あ、おはよう!」

日菜佳「おはようございますぅ! 明日夢君、ひとみちゃん!」

 二人に駆け寄る日菜佳。

ひとみ「今日から、どうぞよろしくお願いします!」

日菜佳「ハイハイ、頼りにしてますよ~。ささっ、着替えて着替えて!」

 日菜佳、明日夢とひとみを奥に連れていく。

 それをにこやかに見つめる香須実。

明日夢「俺、こっちで着替えるよ」

 そう言って、自分の作務衣を持って台所へと行く明日夢。

ひとみ「ありがと」

 笑って、居間の襖を閉めるひとみ。

 店頭から日菜佳の声。

日菜佳「でも、ひとみちゃん、部活の方は大丈夫なの~?」

ひとみ「(着替えながら)あ、大丈夫です。ただ、大会前とかは、土日でも来れない日が出てきちゃいますけど……」

日菜佳「ああ、いいのいいの! ちょっとでも来てくれたら、ウチは助かりますし~」

 先に着替え終わった明日夢が、着ていた服を持って居間の襖越しに声をかける。

明日夢「着替えた?」

ひとみ「……うん、……もういいよ」

 襖を開けて中へ入る明日夢。

 そこへ、勢地郎も入ってくる。

勢地郎「やあ、ひとみちゃん。よろしく頼むよ」

ひとみ「はい!」

 明日夢、自分の服をハンガーに掛けて、

明日夢「じゃ、俺、おもて掃いてくるから」

 先に出ていく明日夢。

 ひとみ、その後を出ていこうとしたところを日菜佳に止められて、

日菜佳「良かったですねぇひとみちゃん。明日夢君と一緒にいられる時間が増えて」

ひとみ「え!? 何言ってんですか、日菜佳さん、もう!」

 顔を真っ赤にしながら店に出ていくひとみ。

 日菜佳、後ろで微笑む勢地郎に近付き、

日菜佳「それにしても父上、大丈夫なんですかぁ? 二人もバイト雇ってしまわれて」

 勢地郎、ちょっと戸惑った様子で、

勢地郎「え、まあ、吉野への経費請求を増やせるはずだし……、ね」

 そうは言ったものの、部外者二人のために本部から経費が下りるはずもなく、内心冷や汗の勢地郎だった。

 

○謎の洋館

 不気味な実験器具が並ぶ一室。

 和服姿の男が、椅子に座って机上の大きな箱を眺める。

 その後方に立つ和服姿の女。

男「ふぅ……」

 箱を静かに閉じる男。

男「実験は……、終わった」

女「……まだ、不安要素は残ってるんじゃないの?」

男「しかし、我々にもあまり時間がない。そろそろ動かないと」

女「いよいよね?」

男「そう。…………鬼退治だ」

 立ち上がる男。

 そして寄り添う女。

 二人の目が、ギラッと光る。

 

○たちばな・地下作戦室

 机を囲む勢地郎、ヒビキ、ザンキ。

勢地郎「吉野からの連絡によると、シュキは一命を取り留めたそうだ。まだ意識は戻っていないみたいだが、どうやら快方には向かっているらしい」

ヒビキ「そうですか……」

ザンキ「意識が戻ったら、その後は……」

勢地郎「さあ、それは本部の判断だから、なんとも、ね……」

 下を向いて考え込むヒビキ。

勢地郎「……それよりも気になるのは、シュキの体が奪われてから、シュキの代わりに吉野に拘留されていたのが魔化魍・キジムナーだったということだ」

ザンキ「何ですって!?」

 上を向くヒビキ。

勢地郎「キジムナーは、人に化けて惑わすことで有名な魔化魍だ。幸い、本部常駐の鬼がすぐに倒したということなんだが、一体どうやって入り込んだのか……」

ザンキ「おまけに、シュキを逃がして、そのシュキに化けていたとなると……」

ヒビキ「何者かの悪意……ってわけですか」

勢地郎「(頷いて)吉野の予測が当たっているとすれば……、こりゃあ、結構大変だなあ」

 そこへ、バタバタと入ってくる日菜佳。

日菜佳「父上! 大変です! サバキさんがやられたって……」

勢地郎「何だって!?」

 表情を変える三人。

日菜佳「石割君が病院へ運んだってことですから、そっちの方は大丈夫だと思うんですけど、なんせ見たこともない魔化魍だって……」

ザンキ「……で、場所は!?」

 上着を着始めるザンキ。

日菜佳「松原湖です!」

ザンキ「ヒビキ!」

ヒビキ「了解!」

 ザンキとヒビキ、勢いよく階段を駆け上がる。

 

○駐車場

 不知火に乗り込むザンキとヒビキ。

ザンキ「トドロキのやつは、家にいるはずだな……」

 携帯電話を取り出し、トドロキに電話しようとするザンキ。

ヒビキ「ザンキさん、あいつずっと出ずっぱりだから、今日は休ませてやりましょうよ」

ザンキ「そうか、……そうだな」

 ザンキ、携帯電話を仕舞って、

ザンキ「よし! 行くぞヒビキ!」

ヒビキ「りょーかい!」

 ザンキの運転で発車する不知火。

 

○不知火の中&たちばな・地下作戦室

 松原湖へ向かう不知火のの中、ヒビキが助手席で勢地郎と携帯電話で通話中。

ヒビキ「ドドメキ……ですか?」

    ×   ×   ×

 画面、交互に勢地郎、ヒビキ。

勢地郎「(PCのモニターを見ながら)石割君から転送されてきたデータによると、魔化魍の特徴はウミヘビのような形態で、全身に無数の目があるということだ。……これは、古文書に載っているドドメキの可能性が高いなあ」

    ×   ×   ×

ヒビキ「で、そいつはどういうタイプの?」

    ×   ×   ×

勢地郎「(机の上の資料を見ながら)それがだねぇ、明治時代に一例出現例があるだけで、その時は倒す前に姿をくらましてしまったということらしいんだなあ。……まあ、今日のところは探りを入れる程度にしといてくれ。……あ、近くにゴウキ君がいたので、先に向かってもらったよ」

    ×   ×   ×

ヒビキ「分かりました」

 電話を切るヒビキ。

ザンキ「何だって?」

ヒビキ「昔出た時は、倒せなかったみたいですね。とりあえず、今日は無理するなってことです」

ザンキ「そうか」

 ヒビキ、厳しい表情で遠い目になる。

 ザンキ、その様子を横目で見て、

ザンキ「……ヒビキ」

ヒビキ「……は、はい?」

ザンキ「気持ちは分からんでもないが、いつまでも引きずっていてはイカンぞ」

ヒビキ「(微笑んで)分かってます。どうもすいません、気ィ遣わせちゃって。……俺一人がもがいたところで、どうしようもないことですからね。俺たちは、俺たちの出来ることをやるしかない、ですよね」

ザンキ「そうだな」

 松原湖へ向けて、一直線に走る不知火。

 

○たちばな

 まだ客のいない店内。

 明日夢とひとみが机を拭いている。

明日夢「……けど、なんで持田までバイト始めちゃったわけ?」

ひとみ「え? う~ん、そうねぇ……。安達君と、一緒だよ」

明日夢「え?」

ひとみ「安達君さあ、人助けになることがしたいって言ってたじゃない?」

明日夢「そ、そうだっけ?」

ひとみ「私もね、あの人たちのために何か手助けできないもんかな~って、思ったんだ」

明日夢「そっか」

 嬉しそうな表情の明日夢。

ひとみ「(言いにくそうに)ちょっと、気になるんだけどさ」

明日夢「え? 何?」

ひとみ「天美さん、イブキさんの弟子だったんだよね……」

明日夢「そうだよ」

ひとみ「……安達君、もしかしてヒビキさんの弟子になろうとか思ってる?」

明日夢「え!? ……いや、思ってないよ! ……俺にはとても無理だって」

 ひとみ、ホッとした表情で、

ひとみ「良かった! そうよね、いくら何でもそこまではねぇ」

明日夢「そ、そうだよ……」

 否定はしたものの、自分の中で迷いが生じ始めている明日夢であった。

 

《CM》

 

○松原湖

 魔化魍・ドドメキと対峙している剛鬼。

 ドドメキは、巨大なウミヘビのような形態で、全身に無数の目がついている。

 見るからに不気味だ。

剛鬼「ムゥ……」

 音撃棒・剛力を構えて、ドドメキに立ち向かう剛鬼。

 しかし、近付いた途端に、ドドメキの無数の目がビカッと光って、剛鬼の目を眩ませる!

剛鬼「ウッ……」

 目を覆って後ずさりする剛鬼。

 と、ドドメキの尻尾が勢いよく剛鬼を襲う!

 大きくはじき飛ばされる剛鬼!

剛鬼「ウワッ!」

 吹っ飛んで倒れこむ剛鬼。

 と、そこへ、ヒビキとザンキの乗った不知火が到着。

 車から降りて剛鬼に駆け寄るヒビキ。

ヒビキ「剛鬼! 大丈夫か!?」

 ヒビキ、ドドメキをひと目見て、

ヒビキ「うわっ! 気持ちワリーやつだな。で、バチは有効か?」

剛鬼「それ以前の問題ですね」

ヒビキ「何だって?」

 ドドメキの目が、またしても光る!

ヒビキ「ウッ!」

 思わず顔を伏せるヒビキ。

ヒビキ「何だ、そういうことか。よし!」

 ヒビキ、音角を鳴らして額に近付ける。

 炎に包まれ、ヒビキが鬼に変化!

 響鬼、大きく息を吸い、ドドメキめがけて口から炎を噴射!

 炎に包まれて悶えるドドメキ。

響鬼「よ~し、今だ!」

 燃え盛るドドメキに飛びつく響鬼。

 ところが、その瞬間、ドドメキの体が中心から裂け始める。

 裂け目は、ドドメキの体全体に渡って広がっていく。

 ユラユラと揺れ始めるドドメキの体。

響鬼「お~とっとっと」

 バランスを崩してコケそうになる響鬼。

 ついにはドドメキの全身の皮が剥がれ、中から艶やかなドドメキ本体がポーンと飛び出した!

響鬼「うわああああああ!」

 反動で放り出される響鬼。

 ドドメキはそのまま湖の中へ姿を消し、後には焼け焦げた皮だけが残った。

 吹っ飛び転んだ響鬼、その光景を見て、

響鬼「……だ、脱皮しやがった」

 後方で立ち尽くす剛鬼。

 そして、ザンキが車から採集器具を取り出して、剥がれ落ちたドドメキの皮へと近付いていく。

 響鬼と剛鬼も、顔の変身を解除しながらそこへ歩を進める。

 しゃがみ込んで、ドドメキの皮をジッと観察するザンキ。

ヒビキ「(ザンキの後方から)ったく、なんてヤツだ」

ゴウキ「このパターンは、初めてですね」

ザンキ「……とりあえず採集しとくか」

 ザンキ、焼け焦げた皮を採集スプーンですくって、細胞サンプルをシリンダーに入れていく……。

 

○たちばな・店舗前

 バイトを終えて帰ろうとしている明日夢とひとみ。

 自転車に乗り込む二人。

ひとみ「じゃ、また明日ね」

明日夢「うん、お疲れさん!」

 ひとみ、明日夢に手を振りながら走り去る。

 明日夢、その後姿をにこやかに見送り、ゆっくりと自転車を押しながら歩き始める。

 

○帰り道

 自転車を押しながら考え込む明日夢。

明日夢「ヒビキさん……」

 楽器店の前でふと立ち止まり、ウィンドウに飾ってあるドラムセットをまじまじと見つめる。

 明日夢の脳裏に、先日のコンクールの光景が思い出される。

明日夢「せっかく掴んだチャンスだしなあ」

 再び、自転車を押して歩き始める。

明日夢「部活と両立は……、とても無理だよなあ。天美さんなんて、学校もろくに来れてないし……」

 と、目の前をサッカーボールが転がっていき、その後ろを小さな子供が追いかける。

 道路に転がっていくサッカーボール。

 そして、それを追って走る子供。

明日夢「あっ……」

 明日夢、一瞬迷った後、意を決したかのように自転車を放り出し、子供の方へと走っていく!

 左方向から走ってくるトラック!

 明日夢、必死で子供に追いつき、その身体を夢中で抱えてしゃがみ込む!

 間一髪、目の前を通り過ぎるトラック。

 反対側の歩道に転がるサッカーボール。

 明日夢、ほっとして子供を抱える手を緩める。

 子供、轢かれそうなったことを自覚したのか、少し体を震わせる。

 が、すぐに笑顔になって明日夢の方を向き、

子供「……あ、ありがとう! お兄ちゃん」

 子供、道路の左右をキョロキョロと見渡し、反対側の歩道へ走ってボールを取りに行く。

 明日夢、満足そうな表情を浮かべて立ち上がる。

 そして、まだ子供を助けた感触の残る自分の両手を見つめて、その場に立ち尽くしてジッと考え込む……。

 

○謎の洋館

 二階の窓から外を眺める和服姿の男。

 後ろから、和服姿の女が声をかける。

女「何体集まったの?」

男「全部で四体」

女「素敵だこと……」

男「……で、あっちの方は?」

女「もうすぐよ。異変が起きるまでは、まだ時間がかかるわね」

男「楽しみだ」

 男はそう言って振り返り、部屋の隅に掛かっていた黒と白の衣裳を指差す。

 黒と白の衣裳は、みるみる肉厚を増していき、黒クグツと白クグツにその姿を変えた。

男「……準備を、怠るなよ」

 そう言いながら、黒クグツと白クグツは滑るような足取りで部屋を出ていく。

 再び、外へと視線を移す男と女。

 洋館の外では、妖しい風がピュウピュウと吹きすさぶ……。

 

○三十九之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 たちばな地下で話す勢地郎とヒビキ。

ヒビキ「オンモラキ?」

 食事中の明日夢と郁子。

明日夢「……母さんは、夢ってあった?」

 対策を練るヒビキ、ダンキ、ショウキ。

ヒビキ「ドドメキの方も単体だって話だしなあ……」

 四十之巻『迫る邪道』

 

○提供ナレーション 下條アトム



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四十之巻『迫る邪道』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。持田も僕と一緒にたちばなでバイトすることになって、ますます鬼の人たちの手助けに張り切ってきましたが、最近変わったバケモノも出るようで……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 四十之巻『迫る邪道』

 

○提供ナレーション 下條アトム

 

○たちばな・地下研究室

 ドドメキの皮膚を分析するみどり。

 傍で見ているヒビキ。

ヒビキ「……どうなんだ?」

みどり「う~ん……、細胞のつくり自体は魔化魍特有のものだから、音撃で清められると思うのよねぇ」

ヒビキ「てことは、問題はあの目か……」

みどり「そうねぇ。その目眩ましを封じ込めた上で、脱皮される前に音撃につなげないと、結局、同じことの繰り返しになりそうねぇ」

ヒビキ「何かいい手はありませんかねぇ、みどりさん」

みどり「う~ん、色々考えてはいるんだけどねぇ……」

 そこへ、香須実が駆け込んでくる。

香須実「ヒビキさん! また出たって!」

ヒビキ「あの気持ちワリーやつか!?」

香須実「ううん! 別のやつ!」

ヒビキ「何だって~!?」

 

○同・地下作戦室

 電話中の勢地郎。

勢地郎「……うん、そうか。分かった。とにかく、よろしく頼むよ」

 電話を切る勢地郎。

 そこへ、ヒビキ、香須実、みどりが入ってくる。

ヒビキ「おやっさん!」

勢地郎「おお、ヒビキ」

ヒビキ「今度は何です?」

 そう言いながら椅子に座るヒビキ。

勢地郎「いや、日光の寺で鍛えに入っていたダンキ君からだったんだが、オンモラキが出たというんだ」

ヒビキ「オンモラキ?」

勢地郎「うん。これまた伝説の魔化魍で、九百年程前に寺社仏閣に頻出したって記録がある。その時は、修行中の鬼が幾度となく襲われたということなんだ」

ヒビキ「……で、ダンキは?」

勢地郎「ショウキ君も一緒だったので事なきを得たようだが、……民家に近いだけに心配だねぇ」

 ヒビキ、立ち上がり、

ヒビキ「とりあえず向かいます」

勢地郎「ああ。……ドドメキの方は、ゴウキ君がそのまま張ってくれているので」

ヒビキ「了解!」

 ヒビキ、香須実に目で合図をして一緒に階段を駆け上がっていく。

 

○城南高校・ブラスバンド部部室

 部員各自、自分のパートを個人練習中。

 明日夢もドラムの練習をしている。

 各部員を見回っていた部長、明日夢に近付き、

部長「調子いいな、安達」

明日夢「……あ、部長!」

部長「秋季大会が各地で続くから、この調子で頑張ってくれよ」

明日夢「分かりました!」

 にこやかな表情で、楽譜に目を遣る明日夢。

 しかし、そこでみどりとひとみの言葉が脳裏をよぎる。

みどり「ヒビキ君の弟子になろう、とは思わないのかな?」

ひとみ「安達君、もしかしてヒビキさんの弟子になろうとか、思ってる?」

 明日夢、一瞬考え込むも、気を取り直して再びドラムを叩き始める。

 

○松原湖

 ゴウキが、依然として単独でベースキャンプを張っている。

 テーブルの上で、何やら記録を取っているゴウキ。

 すると、前方の湖から大きなうねりとともにドドメキが現れる!

ゴウキ「(時計を見て)ふむ……」

 ゴウキ、テーブルから離れて音角を鳴らし、ゆっくりと額へと持っていく。

 炎に包まれて、ゴウキが鬼に変化!

 剛力を両手に持って、剛鬼がドドメキに向かって走る!

 

○明日夢の自宅・玄関口

 帰宅する明日夢。

明日夢「ただいま~」

 靴を脱いで、家に上がる明日夢。

 台所の方から郁子の声。

郁子「おっかえり~! ゴハン出来てるから、早く手ぇ洗ってきなさい!」

明日夢「は~い」

 

○同・リビング

 郁子、鼻歌を歌いながら味噌汁を器に入れる。

 明日夢、リビングに入ってくる。

郁子「今日は部活だったんだよね~。どうどう? 調子は」

 明日夢、席につきながら、

明日夢「ん? ……まあ、まずまずだね」

郁子「準レギュとはいえドラム叩けるようになったんだから、頑張らなくっちゃね!」

明日夢「うん……」

 席に座る郁子。

明日夢「……母さん」

郁子「ん? 何?」

明日夢「母さんは……、夢って、あった?」

郁子「え!? な~によ突然……。あ! その顔は、もしや将来にかけるものが何か見つかったって顔!?」

 郁子、嬉しそうな表情で明日夢の顔を覗き込む。

明日夢「あ、いや……、そういうわけじゃないけど」

 郁子、乗り出した身をゆっくり戻して、

郁子「……夢ねぇ。まあ、人並みに結婚もしたし、子供も産んだし……、あ、結果的に別れちゃったけどね。ん、今はこうしてタクシーの運転手なんかしてるけど、なんかこう……、人のためになる仕事がしたい!ってのはあったかなあ」

明日夢「人のため……」

郁子「ま、どんな仕事でもそういうとこはあるんだろうけどね」

明日夢「ふ~ん……」

郁子「……あ、明日夢がやりたいことだったらさあ、母さん何でも反対しないつもりよ? ……まあ、しっかり青春を謳歌しなさい!」

明日夢「……うん! (手を合わせて)いっただっきま~す!」

 食べ始める明日夢。

 その明日夢の顔を、頼もしげに見つめる郁子。

 

○長瀞山中

 ベースキャンプを張っているトドロキとザンキ。

 トドロキ、地図をチェックしながら、

トドロキ「ザンキさん……」

ザンキ「ん?」

トドロキ「俺、こないだヒビキさんが言ってたこと、ずっと考えてたんスけど……」

ザンキ「こないだって?」

トドロキ「人が人を裁いていいのかって」

ザンキ「ああ……」

トドロキ「俺、鬼になる前は警官だったじゃないですか。言わば、鬼になる前から、人間を守るって仕事をしてきたわけですよ」

ザンキ「そうだな」

トドロキ「でも、正直言って、ヒビキさんのように考えたことなかったんスよね。悪いヤツからみんなを守るのが、俺の役目だって……」

ザンキ「それは間違ってないぞ?」

 トドロキ、作業を止めてザンキの方を振り返る。

トドロキ「いや、何て言うか……、世の中には、いいヤツもいれば悪いヤツもいるって言うか……、悪いヤツも、人間には変わりないんだなって……」

 ザンキ、作業の手を止めて、

ザンキ「……トドロキ。悪い心ってのはな、人間誰しも心の奥底には持ってるもんなんだ。それを抑えるのが、強い心だ。強い心を持つことが、人間が人間であり続ける大事な要素なんだと、俺は思うぞ」

 トドロキ、明るい表情になって、

トドロキ「……あ、ああ。……なんか俺、ザンキさんにまた教えられたッス! ……人生、日々修行ですね~」

 感動しているトドロキを見て、微笑むザンキ。

 そこへ、緑大猿が帰ってくる。

 ピョコンと飛んで丸くなり、トドロキがキャッチして再生。

トドロキ「(ディスクを読み取り)……来ました! こりゃあアミキリですね」

ザンキ「よし! 行ってこい!」

トドロキ「はい!」

 再びアニマル化した緑大猿とともに、勢い良く走っていくトドロキ。

 

《CM》

 

○日光のとある寺

 寺の境内で、ノドを潤しているダンキとショウキ。

 そこへ、砂利の坂道を不知火が走ってくる。

 ダンキたちの目の前で停車し、ヒビキと香須実が車から降りる。

ダンキ「ヒビキさ~ん! ……あ、香須実さんも!」

 少しニヤけるダンキ。

香須実「お久しぶりです」

ヒビキ「……で、どんな具合なんだ?」

ダンキ「いきなりだったんスけど、木の上からボールみたいに飛んできたよ。……ガタイは大きくないんだが、予測のつかん動きをするなあ」

ショウキ「こっちにあった資料を見ると、平安時代の終わり頃に『赤い舌の狂鳥』が出たって記述で、オンモラキの伝説が載ってたんです」

香須実「童子と姫の姿は?」

 ダンキ、割って入るような勢いで、

ダンキ「いやそれがですね香須実さん! どうも魔化魍の単独出現のようですよぉ?」

 ヒビキ、ダンキの弾んだ様子にちょっと顔をしかめながら、

ヒビキ「ドドメキの方も単体だって話だしなあ……、なんか妙な具合だな。こりゃ」

 香須実、少し考え込んだ様子で、

香須実「……ねぇ、そのオンモラキ、お父さんの話では、寺や神社に現れて修行中の鬼を襲ったってことよね?」

ヒビキ「どういうことだ?」

香須実「あ、いや……。イブキ君が、確か今日秩父神社に音撃鳴の清めに行ってるはずだったなあ、と……」

ヒビキ「(真剣な表情で)念のため、連絡しておいた方がいいな」

 

○たちばな・地下研究室

 電話中のみどり。

みどり「へぇ~、そうなんだ。……ハハハ。で、次の予定は? ……え、事務きょ、おじさんが? ……ああ、そう。じゃ、もうすぐねぇ。……うん、楽しみにしてるね。じゃーね」

 電話を切るみどり。

みどり「……そっか~。久しぶりだな~」

 嬉しそうに机の下からスナック菓子を取り出すみどり。

 ふと、手を止めて、

みどり「え? ……てことは、あの武器が使えるんじゃ……」

 中空を見つめて思考するみどり。

みどり「そうよ!」

 再び電話を持って、慌ててどこかへかけ始める。

 

○長瀞山中・山間の川辺

 走るトドロキ。

 と、いつの間にかその両脇を追走しているアミキリの童子と姫!

童子「競争だ」

姫「競争だ」

 トドロキと併走しながら、怪童子、妖姫に変化!

トドロキ「この~、バケモンめぇ!」

 怪童子、妖姫に向けて烈雷を振り回すトドロキ。

 サッと避ける怪童子と妖姫。

 川辺の水際で身構える。

 トドロキ、立ち止まって音錠を鳴らし、額へと持っていく。

 トドロキの額に紋章が浮き出て、頭上から雷鳴が轟く!

 トドロキ、鬼に変化!

 怪童子、妖姫が轟鬼に襲いかかる!

 烈雷で怪童子を切り裂くも後ろから妖姫に捕まるトドロキ。

 一瞬たじろいだ怪童子、再び轟鬼に走り寄る。

 と、それをキックで蹴散らす轟鬼!

 返す刀で妖姫を背負い投げ!

 怪童子、妖姫が二体縦に重なったところで、その胴体めがけて烈雷を投げつける轟鬼。

 妖姫の胴体に命中した烈雷は、そのまま貫通して怪童子にも突き刺さって崖に激突して、粉砕!

轟鬼「フゥ……」

 と、頭上から現れたアミキリ!

轟鬼「おおっと!」

 轟鬼、烈雷を拾ってアミキリの方へ振り向く。

 アミキリの巨大なハサミが轟鬼に迫る!

 避ける轟鬼!

 崩れる崖!

轟鬼「オリャーーーー!!」

 轟鬼、着地したアミキリに向かって走り寄り、その足に烈雷で斬りかかる!

 バランスを崩すアミキリ。

 素早く下っ腹に潜り込んで烈雷を突き刺す轟鬼。

轟鬼「音撃斬・雷電激震!」

 轟鬼が烈雷をかき鳴らす!

 アミキリに伝道する音撃の波動!

 そして、爆発!

轟鬼「フゥ……」

 烈雷を地面に突き刺して、その場にうなだれる轟鬼。

 

○同・ベースキャンプの地

 ディスクアニマルの手入れをしているザンキ。

 ふと妙な気配に気付いて、周りを見廻す。

 立ち上がって二歩、三歩と歩くザンキ。

 と、そこに突如として現れた二体の人型魔化魍!

 右の方に現れた魔化魍は牛の顔、左の方に現れた魔化魍は馬の顔。

 そして、二体とも鋭い刃先の大きな槍を持っている。

 身構えるザンキ。

ザンキ「……なんか最近、襲われグセがついちまったか?」

 

○たちばな・地下作戦室

 中央の机で資料を読み漁る勢地郎。

 傍らで、日菜佳が電話を切る。

日菜佳「……イブキさん、無事終わったみたいです」

勢地郎「そうか」

日菜佳「しかし大変ッスよね~。ザンキさんとトドロキ君は長瀞、ゴウキさんは松原湖、イブキさんは秩父、んで~、ヒビキさんたちは日光……、今日はみんな散り散りですねぇ」

 ピクッとする勢地郎。

勢地郎「こりゃあ、もしかして……」

 

○四十之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 病院でソワソワするトドロキ。

トドロキ「ザンキさん、自分では大丈夫だ大丈夫だって言ってましたけど……、物凄い血で……」

 秩父神社を歩くイブキとあきら。

イブキ「とにかく、今日は早く引き揚げた方が良さそうだな」

 たちばな地下で話す猛士の面々。

勢地郎「あと、みんなに言っておきたいんだが……」

 四十一之巻『目醒める闇』

 

○提供ナレーション 下條アトム



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四十一之巻『目醒める闇』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。持田も僕と一緒にたちばなでバイトすることになって、ますます鬼の人たちの手助けに張り切ってきましたが、最近変わったバケモノが出るようで……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 四十一之巻『目醒める闇』

 

○提供ナレーション 下條アトム

 

○長瀞山中

 ベースキャンプの地。

 ザンキを中心として、右側には牛顔の魔化魍、左側には馬顔の魔化魍が立ちはだかる。

 二匹とも、鋭い刃先をした槍のようなものを構えている。

 ジリジリと、ザンキに近付く二匹の魔化魍。

 そして、馬顔魔化魍がザンキに斬りかかる!

 素早く避けるザンキ。

 しかし、間髪入れず背後から牛顔魔化魍も襲いかかる!

ザンキ「ちぃ!」

 牛顔魔化魍がザンキを羽交い絞め!

 ザンキ、苦しみながらも音錠を鳴らしてディスクアニマルを呼ぶ!

 黄金狼が牛顔魔化魍に体当たり!

 転がり逃げるザンキ。

 しかし、即座に斬りかかる馬顔魔化魍!

ザンキ「うっ!」

 ザンキの左肩の辺りを、馬顔魔化魍の槍が切り裂く!

 そこへ、トドロキ(顔の変身は解除している)がようやく帰ってくる。

トドロキ「いやあザンキさん、今回のヤツはしつこかったッスよ……、あ!!」

 ザンキが襲われている光景を見るや、走り出して再び変身するトドロキ!

 雷鳴が轟いて再び鬼となった轟鬼、同時に青磁蛙を放つ。

 馬顔魔化魍に飛びかかる青磁蛙!

轟鬼「何モンだお前らーーっ!!」

 烈雷を振り回して二匹の魔化魍を蹴散らす轟鬼。

 二匹の魔化魍は、互いに目で合図し合うように離れると、それぞれ現れた方向へと走り去る。

 轟鬼、顔の変身を解除してザンキの元へ駆け寄る。

トドロキ「ザンキさん! ザンキさん!!」

 倒れ込んで息も絶え絶えのザンキ。

ザンキ「……ああ、大したことない。かすり傷だ……、ウッ!」

 ザンキ、左肩の傷は深く流血も激しい。

トドロキ「あああ~、ザンキさん! ……い、急がなきゃ!!」

 ザンキを抱えて雷神へと走っていくトドロキ。

 

○病院

 手術室の前の廊下で、立ったり座ったりと落ち着かないトドロキ。

 そこへ、勢地郎が走ってくる。

勢地郎「トドロキ君!」

トドロキ「あ、事務局長!」

勢地郎「……で、どんな具合なんだ?」

トドロキ「わ、分かりません……!! ザンキさん、自分では大丈夫だ大丈夫だって言ってましたけど、物凄い血で……」

 半分涙声のトドロキ。

 その時、『手術中』のランプが消えて、中から執刀医が出てくる。

勢地郎「先生!」

医者「……ああ、大丈夫だ。傷は深いが、致命傷ではない。ま、しばらくの間は絶対安静だがな」

勢地郎「そうですか……」

トドロキ「良かった……」

 安堵の表情の勢地郎とトドロキ。

 改めて長椅子に座り直す。

勢地郎「……しかしトドロキ君、また、見たこともない魔化魍だって?」

トドロキ「そ、そうなんス! 牛顔と馬顔のヤツで、デッカい槍持ってて……」

 勢地郎、ギョッとした表情で、

勢地郎「牛に馬だって……!? そりゃ、ゴズキとメズキじゃないか!」

トドロキ「ゴズ、メズ?」

勢地郎「伝説も伝説、地上にいるかどうかも定かではないと噂されている魔化魍だよ。……こいつは大変なことになったぞ」

 珍しく顔色を変える勢地郎。

 

○秩父神社

 境内。

 携帯電話で電話中のイブキ。

 傍らには、荷物整理をしているあきら。

イブキ「……分かりました。気を付けます」

 電話を切るイブキ。

あきら「何ですか?」

イブキ「鬼を襲う魔化魍ってのが各地に出没しているらしい。さっき、香須実さんからも同じような連絡があったよ」

あきら「鬼を襲う……」

イブキ「とにかく、今日は早く引き揚げた方が良さそうだ」

あきら「はい」

 神社の出口へと向かい、歩き始めるイブキとあきら。

 と、その時、小さな鳥のような影が前を横切る!

 影は、イブキを威嚇すると不自然な動きで方向を変え、今度はあきらに向かって突進する!

イブキ「……あきら!」

あきら「きゃあああああ!」

 あきらに飛びかかる影!

 あきら、咄嗟にリュックで自分の体を庇う。

 バッサリ切り裂かれるリュック。

 尻餅をつくあきら。

イブキ「大丈夫か!?」

あきら「……は、はい!」

 そのまま鳥のような影は、木と木の間へと姿を消した。

 イブキ、影の消えた方向を見ながら、

イブキ「……あれが香須実さんの言ってたヤツか。あきら、急ごう!」

 イブキ、あきらの方を振り返る。

 と、あきらはその場にうずくまり、ブルブルと震えている。

イブキ「あきら、どうした! どこかやられたのか!?」

 あきら、そのままバッタリと倒れる。

 そして、その腕や足から、黒い斑点が浮き出てきた。

 これは、あの時の異質なエキスの斑点じゃないか!

 ハッとするイブキ。

イブキ「……治って……なかったのか……」

 ワナワナと震えながらあきらを抱き起こすイブキ……。

 

○病院・受付

 窓口で、ザンキの入院手続きをするトドロキ。

トドロキ「……それでは、よろしくお願いします」

 トドロキ、受付の看護士に一礼して、ロビーの椅子に座っている勢地郎のところへと歩く。

勢地郎「(立ち上がって)じゃ、戻ろう」

トドロキ「はい!」

 二人、病院を出ていく。

 

○同・駐車場

 雷神の停めてあるところへ歩いていく勢地郎とトドロキ。

トドロキ「……で、何なんですか? ゴズキとメズキって」

勢地郎「地獄の番人だよ」

トドロキ「じ、地獄~っ!?」

勢地郎「仏教界では、そういう位置付けだ。魔化魍世界でも  伝説の門卒としていくつかの記録がある」

 トドロキ、雷神のロックを解除して、運転席のドアを開けながら、

トドロキ「じゃあ、あれがそのゴズキとメズキ……ですか」

 勢地郎、助手席のドアを開けて雷神に乗り込みながら、

勢地郎「牛と馬の顔、そして大きな槍とくれば間違いないだろうね。ヤツらが現れたってことは、これはかなり大事だよ」

 トドロキ、運転席で唇を噛み締める。

 

○秩父神社

 あきらの様子を伺うイブキ。

 あきら、脂汗をかいて失神寸前の様子。

イブキ「……この様子では、バイクでの搬送は無理だな」

 イブキ、携帯電話を取り出して、吉野本部へと電話。

イブキ「あ、もしもし! 関東支部のイブキです! 実は……」

 本部に連絡をとっているイブキの足元で苦しむあきら。

 あきらの手足に出ている黒い斑点が、徐々に大きく広がっていく。

イブキ「……はい! では大至急お願いします!」

 電話を切るイブキ。

 足元に目を遣ると、そこにあきらの姿がない!

イブキ「……あ、あきら!?」

 次の瞬間、イブキが背後から首を絞められる!

 絞めていたのは、もはや肌全体がドス黒く変色したあきらであった!

イブキ「あ……あき……ら」

 苦しむイブキ。

 既に常軌を逸しているあきらは、白目を剥いてイブキの首を絞め続ける!

イブキ「う……、う……!!」

 イブキ、絞めつけるあきらの手を力ずくで振り払う。

 地面にバタッと落ちるあきら。

 ユラリと動き始め、地面を這うような仕草を見せるあきら。

 その挙動は獣のようだ。

イブキ「あ、あきら……」

 その時、頭上から鳥のような魔化魍が現れてあきらに飛びつく!

 オンモラキだ!

 オンモラキは、あきらの背中を前足で掴むと、そのまま上空へ飛び上がる!

イブキ「あきら! ……くっそう!」

 駐車している竜巻のところへ走り、素早くまたがるイブキ。

 しかし、オンモラキはあっという間に大空の彼方へと姿を消してしまった。

 悔しげに空を見上げるイブキ。

イブキ「あきらーーーーーーっ!!」

 

《CM》

 

○日光・寺の離れの小屋

 小屋の中で座っているヒビキ、ダンキ、ショウキ、そして香須実。

ヒビキ「鳥ってことは、太鼓じゃキビしいかねぇ」

ダンキ「そうッスね~。やっぱ遠隔攻撃じゃないとなあ」

ショウキ「(ニヤッと笑って)俺がいますんで、大丈夫です」

ヒビキ「(からかうように)おーおー、頼りにしてますよ」

 と、ヒビキの携帯電話が鳴る。

 電話に出るヒビキ。

ヒビキ「はいはい、こちらヒビキ。……え、何だって!? あきらがぁ!?」

 香須実、ダンキ、ショウキがヒビキの方を向く。

 電話を切るヒビキ。

香須実「……どうしたの!?」

ヒビキ「ダンキ! ショウキ! すまんが、ここは頼むぞ!」

ダンキ「よ、よっしゃ! 任しとけ!」

ヒビキ「香須実、一旦戻るぞ!」

 厳しい表情で小屋を出ていくヒビキ。

香須実「ちょ、ちょっと、どうしたのよ!」

 慌ててヒビキを追う香須実。

 

○松原湖

 三度、ドドメキと対峙している剛鬼。

 多少俯き加減で、ドドメキに向かって走る!

 ピカッと光るドドメキの体中の目!

 遮られるように動きが止まる剛鬼。

剛鬼「……目を瞑っていても、圧力が……、凄いな!」

 目に見えぬ空気の壁に、行く手を遮られる剛鬼。

 しかし、光が止むごとに少しずつドドメキに近付き、ついにその腹元に潜り込んだ!

 音撃鼓・金剛をドドメキの腹に取り付ける剛鬼。

 バッと広がる金剛。

剛鬼「剛腕無双の型!」

 仰向けのままバチを打ち鳴らす剛鬼!

 音撃の波紋がドドメキに広がる!

 しかし、ドドメキの体が背中でピリピリと裂けると、やはり一瞬にして脱皮してしまい、新たなドドメキ本体は湖に逃げ去った。

 素早く下がる剛鬼。

 そして、残された皮が音撃の威力で四散する!

剛鬼「ムゥ……」

 ゆっくりと立ち上がり、その場で考え込む剛鬼……。

 

○たちばな・地下作戦室

 机を囲んで座っている勢地郎、ヒビキ、イブキ、トドロキ、そして香須実。

トドロキ「……あ、あきらクンが!?」

香須実「……音撃浄化が不十分だったってこと?」

イブキ「……僕が、未熟だったんです……」

 イブキの言葉にハッと口を押さえる香須実。

ヒビキ「自分を責めるんじゃねー、イブキ」

 絶句する一同。

勢地郎「……とにかく、我々で捜索するしかないんだが……」

トドロキ「でも、どこをどう探しゃいいんだか……」

 一瞬の沈黙。

 ヒビキ、顔を上げて、

ヒビキ「ヤツら、どこかに拠点を持っているんじゃないでしょうか?」

勢地郎「ああ。こないだのシュキの動きもそうだったんだが、長野と群馬の県境を中心に行動範囲が広がっているみたいなんだなあ。そして、ここ数日現れている新手の魔化魍もそういうフシがある……」

トドロキ「……ってことは、この辺りのどこかに……」

 そう言って、机上の地図を広げて睨むトドロキ。

勢地郎「……あと、みんなに言っておきたいんだが」

ヒビキ「何です?」

勢地郎「ここ数日に現れた魔化魍は、ドドメキ、オンモラキ、ゴズキ、メズキ……。これを漢字に直すと、こうなる」

 そう言って紙に魔化魍の名前を書く勢地郎。

 それを覗き込む他の者。

ヒビキ「百々目鬼……、陰摩羅鬼……、牛頭鬼……、それから馬頭鬼……」

勢地郎「共通しているのは?」

 香須実、ハッと机を叩いて、

香須実「……お、鬼!?」

勢地郎「そうだ。……古来より、日本では、表の世界を官吏が、そして警官が人々を支え、裏の世界では我々猛士が日々人間を守ってきた。鬼の力を使ってね」

 勢地郎の話に聞き入る他の者。

勢地郎「魔化魍を清めるために存在している鬼だが、実は鬼と魔化魍の間には、昔から深い関わりがあるとされているんだ」

ヒビキ「鬼と……、魔化魍が?」

勢地郎「(頷いて)鬼は大別して二つ、『光の鬼』と『闇の鬼』に分かれるんだ。君たち猛士の鬼が光の鬼、そしてこの四体の魔化魍こそ……」

ヒビキ「闇の鬼……ってわけですね?」

勢地郎「ああ。そして闇の鬼は、ある者の謀(はかりごと)によって出現するという言い伝えがある……」

香須実「ある者?」

勢地郎「それはもう少し調べてみないと分からんが……、闇は、光を消すために存在するとも言われている」

 息を呑む他の者。

勢地郎「特に、ゴズキとメズキが現れたってことは、過去に例を見ない事態が発生していると推測できる。ターゲットは間違いなく、君たち光の鬼、だ……」

 それぞれ神妙な面持ちになる、ヒビキ、イブキ、トドロキ。

勢地郎「……それはともかく、今はあきらのことが心配だ。急がなければ、シュキと同じ運命を辿ってしまう可能性が……」

トドロキ「……早く! 早く探さないと!」

香須実「でも、どうやって……」

 またしても沈黙してしまう一同……。

 

○謎の洋館

 あきらを抱えたオンモラキが、二階の窓から部屋に入る。

 あきらをバタッと床に落とすオンモラキ。

 部屋には、和服姿の男と女が立っている。

 床に倒れたあきらの下へ歩み寄る男。

男「待っていたよ……、アメヒメ」

 

○四十一之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 たちばな地下で話し合う猛士の面々。

トドロキ「とにかく、ジッとしていても何も始まりませんよ!」

 たちばな店頭で話す明日夢とひとみ。

ひとみ「天美さん、今日も学校来なかったけど……、お仕事、大変なんだね」

 洋館で話す男と女。

女「もう少し、時間がかかりそうね……」

 四十二之巻『猛る戦士』

 

○提供ナレーション 下條アトム



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四十二之巻『猛る戦士』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。見たこともないバケモノが次々と現れる中、鬼の人たちにも怪我人が増えてきました。やはりこれは、命を懸けた大変な仕事なのです……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 四十二之巻『猛る戦士』

 

○提供ナレーション 伊藤慎

 

○たちばな・地下作戦室

 机を囲んだまま沈黙している勢地郎、ヒビキ、イブキ、トドロキ、香須実。

トドロキ「……とにかく、ジッとしていても何も始まらないッスよ!」

ヒビキ「確かに、トドロキの言う通りだな。狙われているのが俺たち自身というのは不幸中の幸い。こっちから打って出れば、向こうも現れてくれるさ」

勢地郎「……よし! じゃ、イブキ君とトドロキ君で、この長野と群馬の県境付近を探索してくれ。奴らの拠点があるとすれば、君たちならきっと何か感じ取れるはずだ」

トドロキ「はい!」

イブキ「……分かりました」

勢地郎「オンモラキの方は、もう少しダンキ君とショウキ君に粘ってもらうとして、ドドメキ退治には……」

みどり「コレが有効よ」

 いつの間にか後方に立っていたみどり。

 小さな筒とともに、針のようなものを手に数本持っている。

ヒビキ「おっ、新しい武器か? しかし、その形は……」

みどり「使い手は、関東には一人しかいないわよね」

勢地郎「……しかし、彼女はまだウィーンにいるはずじゃあ?」

みどり「さっき帰国したって連絡があったんです。……ヒビキ君、止めを刺すのは、君よ」

 ヒビキ、立ち上がって、

ヒビキ「よーし! 待ってろよ~、気持ちワリー奴め!」

 ヒビキ、イブキ、トドロキが、それぞれ出発せんと階段へ向かう。

勢地郎「イブキ君」

 振り返るイブキ。

勢地郎「あきらを、頼んだよ」

イブキ「……はい!」

 一層真剣な目つきになり、階段を駆け上がるイブキ。

 ヒビキとトドロキも、頷き合ってその後に続く。

 

○同・店舗前

 下校して、バイトにやって来た明日夢とひとみ。

 たちばなの前で自転車を停めて、話ながら下りる。

ひとみ「昨日の応援も、バッチリ決まってたよね~」

明日夢「そう?」

ひとみ「うん、いい感じ!」

 自転車からカバンを取って、入口の扉を開けて中に入る明日夢とひとみ。

 

○同・店頭

明日夢「こんにちは~」

 二人が中に入るも誰もいない。

 明日夢、不思議そうな表情で奥へと入っていく。

明日夢「……こんにち……は……」

 地下から上がってくる日菜佳。

日菜佳「ああ、明日夢君、ご苦労様~!」

 何やら汗だくの様子。

明日夢「……なんか、忙しそうですね」

日菜佳「そ……、そうなのよ~。ちょっと色々あってねぇ。だから、しばらく二人に任せることが多くなると思うけど……」

明日夢「あ、任しといてくださいよ!」

 ニッコリする日菜佳。

日菜佳「じゃ、頼みマス!」

 慌しく地下へと下りていく日菜佳。

ひとみ「なんか、大変そうね……」

明日夢「うん……」

ひとみ「天美さん、今日も学校来なかったけど……、お仕事、忙しいんだね」

明日夢「そうみたいだね」

ひとみ「……じゃ、あたし先に着替えてくるね!」

明日夢「あ、ああ」

 居間へ入っていくひとみ。

 と、そこにお客さんが入ってくる。

 明日夢、振り返り、

明日夢「あ、いらっしゃいませ!」

 

○謎の洋館

 妖しい風が吹きすさぶ洋館。

 暗い廊下を歩く和服姿の男女。

 無言で、突き当りを曲がって、そのまま階段を下りていく。

 と、一階のある一室のドアの前に立ち、ゆっくりとそのノブを回す。

 男女が部屋に入る。

 中央のベッドには、あきらが横たわり、静かに眠っている。

 男女は、静かにあきらの傍に歩み寄り、その顔を覗き込む。

 男、ニヤリと笑い、サッと手をベッドの横に出して掌を広げる。

 と、床がモコモコッと盛り上がり、そこに黒クグツが出現。

 黒クグツ、あきらの体に近付き、ゆっくりと手をかざす。

 不気味な邪気があきらの体を包む。

 その様子を見つめる男女。

女「もう少し、時間がかかりそうね」

男「鬼の修行をしているということは、細胞変化への順応性も高いはずだ。すぐに馴染むだろう」

女「それまではずっと?」

男「いや、このコは奴らへのいい牽制にもなる。この時点でも使い道はあるさ」

 あきらの体から手を離す黒クグツ。

 パチッと目を開けるあきら。

 その瞳の色は、鮮やかな黄色に変わっている。

 あきら、ゆっくりと起き上がる。

 そしてベッドから降り、鬼笛を腰からはずして口元へ。

 静かに鬼笛を吹くあきら。

 すると、腰にぶら下げていたディスクアニマル達が飛び出してアニマル化し、あきらの周りで飛び跳ねる。

 その光景を見て、頷きながら不敵な笑みを浮かべる男女。

 

○県境へと向かう道

 あきら救出のため、敵の拠点探索に向かうイブキの竜巻とトドロキの雷神。

 と、その前方に一台のバイクが立ちはだかる。

 停車する竜巻と雷神。

 前のバイクから降りた男がヘルメットを脱ぐ。

バイクの男「水くさいねぇ、イブキったら」

イブキ「バンキさん!」

 トドロキ、雷神の窓から顔を出して、

トドロキ「バンキさぁん!」

 トドロキに軽く会釈するバンキ。

 そして、再びイブキの方を向き直り、

バンキ「あきらは、イブキの弟子かもしれないけど、俺にとってもかけがえのない友達なんだよねぇ」

イブキ「バンキさん……」

 バンキ、ニッコリ笑って、

バンキ「……さて、急ぎましょ!」

 ヘルメットを被ってバイクにまたがるバンキ。

イブキ「……よし!」

 三台のマシンが唸りを上げて、いざ出発する。

 

《CM》

 

○松原湖

 テントの前で、一人自らの手当てをするゴウキ。

 腕、足など数箇所に包帯を巻いている。

 そこへ不知火が走り寄り、テントの近くに停車。

 中から、ヒビキ、香須実、みどりが出てくる。

ヒビキ「ゴウキ! 大丈夫か?」

ゴウキ「ええ……、何とか」

 ヒビキ、香須実、みどりがゴウキの近くに歩み寄る。

香須実「……あ、お手伝いします!」

 香須実、しゃがんでゴウキの手から包帯を取り、腕に巻いてやる。

ゴウキ「あ、すいません」

ヒビキ「……で、あれから何度出た?」

ゴウキ「二回です」

ヒビキ「バチでは厳しいか?」

ゴウキ「いえ、効果はありそうですよ。……ただ、脱皮されないように表と裏から同時に攻める必要アリ、ですね」

ヒビキ「よ~し! ほんじゃあ、一丁タッグ組むか!」

ゴウキ「しかし、あの目が……」

みどり「大丈夫! もうすぐ着くはずよ」

 不思議そうな表情で、みどりを見るゴウキ。

 その時!

 湖から奇声とともにドドメキが出現!

ヒビキ「出やがったな」

ゴウキ「えらく周期が早いな」

ヒビキ「俺たちの匂いを嗅ぎ取ったってことだな。……行くぞ!」

 音角を鳴らして額へ持っていくヒビキ。

 ゴウキも立ち上がり、同じように音角を鳴らして額へと。

 二人の額に紋章が浮き上がり、炎に包まれて鬼に変化!

 みどり、前を行く二人を止めて、

みどり「待って! まだ……」

女の声「私なら、もういるわよ」

 前方の丘の上からの声。

 そこには、白ベースの風貌をした管の戦士が立っていた。

 関東支部の紅一点・吹雪鬼だ!

吹雪鬼「みどりさん、アレを」

みどり「OK!」

 持っていた小さな筒を、吹雪鬼に向かって投げるみどり。

 吹雪鬼、それをキャッチして、中から数本の針を取り出し、フルート型の音撃管にセットする。

吹雪鬼「いきます」

 吹雪鬼、丘から飛び立ってドドメキに立ち向かう。

 ピカッと光るドドメキの目!

 しかし、フッと吹いた吹雪鬼の息が、手元で氷のバリアとなり、その光をはね返す!

 吹雪鬼、音撃管を縦笛のように持ち替えて口元へ。

 そして、吹き矢の如く鬼針を発射!

 ドドメキに突き刺さる鬼針!

 さらに、ドドメキの周りをジャンプ移動しながら鬼針を吹き放つ吹雪鬼。

 次々とドドメキに突き刺さる鬼針!

 そして立ち止まった吹雪鬼、音撃管にベルトの音撃鳴を取り付け、麗麗とフルートを奏でる!

 反応する鬼針。

 ドドメキの全身にその波動が響き渡り、無数の目が静かに閉じ始める。

 鈍い奇声とともに、全ての目を閉じてしまったドドメキ。

 どうやら、麻酔効果のある鬼針だったようだ。

吹雪鬼「余計な目は瞑らせる、単純明快ね。……響鬼君、よろしくてよ」

 響鬼、あきれたような仕草で、

響鬼「……相変らずお高いこって。……剛鬼!」

剛鬼「了解!」

 動きが止まったドドメキの背中に飛び乗る響鬼。

 そして、剛鬼は腹元へと潜り込む。

 響鬼、剛鬼、ともに音撃鼓をドドメキに取り付ける。

 広がる二つの音撃鼓。

響鬼「爆裂強打!」

剛鬼「爆裂乱打!」

 勢いよく鼓を叩き始める響鬼と剛鬼。

 二人の音撃打の振動がドドメキの体に響き渡る!

 そして、全身に伝道するその力!

響鬼「ハァッ!!」

剛鬼「イョッ!!」

 最後の一打を決め、ドドメキはついに爆発!!

響鬼「フゥ……」

 烈火で肩を叩いて溜め息をつく響鬼。

 響鬼、剛鬼、顔の変身を解きながらテントに戻ってくる。

香須実「ご苦労様!」

ヒビキ「おう! ……あれ? フブキさんは?」

みどり「(辺りをキョロキョロと見渡して)あ、もういない」

ヒビキ「……まさに神出鬼没だな」

ゴウキ「ああいう女(ひと)は、……苦手ですね」

 そう言って、そそくさとテントに入っていくゴウキ。

 それを見て、思わず吹き出す香須実とみどり。

 

○とある病院・病室

 入院しているサバキ。

 ベッドに横たわり、ボーッと窓の外を眺めている。

 と、ドアをノックする音が。

サバキ「(体をドアの方に傾け)んん?」

 ドアが開き、石割が顔を覗かせる。

石割「お加減、いかがですか?」

 笑顔で病室に入ってくる石割。

サバキ「おお、……まあまあだな」

 石割、サバキのベッドの横に座り、

石割「いい機会だから、ゆっくり休んでくださいね」

サバキ「そういうわけにはイカン! 早く復帰して、闇の鬼とやらを退治せんとな、ウン」

 真剣な表情で頷くサバキ。

 それを見て微笑む石割。

石割「そう言えば、フブキさんが帰ってきたらしいですよ」

サバキ「何!? ……アイツめ、フラフラしやがって、一体どういうつもりだ」

石割「フフ……、僕は、フブキさんのような生き方も面白いと思いますけどね」

サバキ「お前は寛大だな。俺には分からん」

 天井に向き直るサバキ。

 しばらくの沈黙の後、

サバキ「……石割」

石割「はい?」

サバキ「お前、やっぱり変身検定受ける気にはならんか?」

石割「そうですねぇ……、はい」

サバキ「お前ほどの実力がありゃあ、きっといい鬼になると思うんだがなあ……。せっかく序の六段までいったってにのに、もったいないとは思わんのか?」

石割「そうですね……」

サバキ「去年、戸田山が検定受かった時、みんなお前だと思ってたらしいぞ?」

 うつむいて笑顔のままの石割。

サバキ「……ま、お前の人生なんだから、いいんだけどよ」

 そう言って、目を瞑るサバキ。

 石割、ちょっと考えた後、

石割「……僕は、やっぱり研究者の道を進みたいんですよね。ですので、ここから先は『銀』の段位に移るつもりです」

 サバキ、思わず体を起こして、

サバキ「じゃあ、最初から『銀』のコースでいっときゃ良かったじゃないか! ……そしたら、今頃どっかの研究室任されてんぞ!?」

石割「(軽く首を横に振りながら)そんなこと……。僕はね、サバキさん。現場を知ってる研究者になりたいんですよ。ディスクアニマルの開発一つにしても、現場の空気を体感しているのとしてないのとでは、やっぱり違うと思うんですよね。そのためには、ちょっと遠回りだったかもしれないですけど、鬼の道を一旦経験するのが一番かなあって……」

サバキ「石割……」

石割「サバキさんにとっちゃあ、鬼になる気のないサポーターなんて、迷惑な話かもしれませんね。……すいません」

 頭を下げる石割。

 石割の話を、真剣な顔で聞いていたサバキ、ゆっくりと窓の方へ体を傾けて、

サバキ「……謝るコタァねえ。お前は、俺の自慢の弟子なんだからよ」

 背中で語るサバキ。

 それを見て、ニッコリと微笑む石割。

 

○日光のとある寺

 小屋の中で武器の手入れをしているダンキとショウキ。

ショウキ「……俺たち、ホントにここにいていいんスかねぇ」

ダンキ「ええ?」

ショウキ「オンモラキのヤツ、秩父の方にも出たって言うし」

ダンキ「今はここが担当なんだから、いいんじゃねーの? それよりも、ヤツが出た時のために、合体技考えとかなきゃな!」

ショウキ「合体? ああ、コンビネーションプレイね、ハイハイ」

ダンキ「お前がこう撃ったらだな……、俺がこうして……」

 セカセカと音撃の仕草を見せるダンキ。

ショウキ「いや、そこは俺がこう撃ってからですねぇ……」

 ダンキとショウキ、イメージトレーニングに余念がない二人であった。

 

○四十二之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 拠点探索をするトドロキとバンキ。

バンキ「ザンキさんの具合、どうですか?」

 たちばなでバイト中の明日夢とひとみ。

努「やあ、久しぶりだね」

 あきらと対峙するイブキ。

イブキ「あ、あきら! ……僕が、僕が分からないのか!?」

 四十三之巻『変わりゆく身』

 

○提供ナレーション 伊藤慎



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四十三之巻『変わりゆく身』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。鬼の人たちの過酷な戦いは続いています。そんな中、海外から帰ってきた鬼の人もいるようで……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 四十三之巻『変わりゆく身』

 

○提供ナレーション 伊藤慎

 

○碓氷峠

 峠道を走るイブキ、トドロキ、バンキのマシン。

イブキ「(浅間山周辺が中心と考えるならば、確かにこの辺りも怪しい。……風が、何かを教えてくれる)」

 風を感じることに長けているイブキを先頭に、峠道を疾走する三台のマシン。

 

○同・頂上付近

 峠の頂上までやって来て、三人がそれぞれのマシンから降りる。

イブキ「とりあえず、この辺で様子を伺いましょう」

トドロキ「OKッス!」

 トドロキ、音錠を鳴らしてディスクアニマルを放つ。

イブキ「じゃ、僕は向こうの方を……」

 そう言って、イブキはトドロキがディスクアニマルを放った方と逆方向へと歩いていく。

 残ったトドロキとバンキ、雷神からテント道具を取り出して、組み立て始める。

 バンキ、地面に杭を打ちながら、

バンキ「……トドロキさん」

 トドロキ、テントを広げながらバンキの方を向いて、

トドロキ「え?」

バンキ「ザンキさんの具合、どうですか?」

トドロキ「……あ、いやあ、命に別状なくって、ホンットに良かったッス。しばらくは、ゆっくり休んでもらいますよ」

バンキ「そうですか……」

 手早くテントを組んで、道具を仕舞っていくトドロキ。

トドロキ「……でも、バンキさんは偉いッスよね~。鬼の仕事しながら、ちゃんと大学にも通ってるなんて」

バンキ「そんなことないです。……実際、大学通い続けるかどうかは、かなり迷ったんですよね。でも、やりたい研究もあるし、サバキさんにも、一旦入ったからにはキッチリ卒業しろって言われましたんで……」

トドロキ「いいんじゃないッスか? 師匠の言葉は、ありがたいもんですよ。俺も、ザンキさんは一生自分の人生の師匠だと思ってますから」

バンキ「フフ……、トドロキさんらしいですね」

 その時、トドロキとバンキの前に妙な風が吹く。

 ただならぬ気配を感じたトドロキとバンキ、互いに音撃弦を持って身構える。

 と、近くの林の中から現れた、ゴズキとメズキ!

 二匹は余裕の佇まいで立ちはだかっている。

トドロキ「ヤロゥ……」

 トドロキ、音錠を鳴らして額へと持っていく。

 バンキも同じように音錠を鳴らし、額へと持っていく。

 トドロキが腕を頭上に上げると雷鳴が轟き、バンキは腕をサッと横に振り下げると体中が暗闇に包まれた!

 そして、二人同時に鬼に変化!

 轟鬼と蛮鬼、二人の鬼が二匹の魔化魍に向かって走る!

 

○たちばな

 バイト中の明日夢とひとみ。

 店内を忙しく動き回る。

 その時、入口の扉が開いて、努が入ってくる。

努「こんにちは」

 明日夢、扉の方を見て、

明日夢「いらっしゃいませ! ……あ」

努「やあ、久しぶりだね」

明日夢「ご、ご無沙汰してます」

 隣で会釈するひとみ。

 努、これに応えながら、奥へと歩いていく。

 日菜佳、奥から出てくる。

日菜佳「……あ、努君! ゴメンね~、忙しいトコ!」

努「いえいえ、僕でお役に立てるなら」

 奥へと入っていく努。

日菜佳「じゃ、明日夢君、ひとみちゃん。悪いんだけどぉ、今日もお店の方、よろしくね!」

明日夢・ひとみ「はい!」

 ひとみ、机を拭きながら、

ひとみ「ホントに大変そうね……。でも、あたし達にできるのは店番くらいだし、だからこそしっかりやらなくっちゃね!」

明日夢「……う、うん、そうだね」

 食器を片付けながら、少し考え込んだ表情の明日夢。

 

○碓氷峠・頂上付近の林

 イブキ、歩きながら鬼笛を吹き、ディスクアニマルを放つ。

 と、突如異様な邪気を感じる。

 周りをキョロキョロと見回すイブキ、突如鋭い圧迫感を感じ、頭を押さえる。

イブキ「……こ、これは!?」

 イブキ、ふと木と木の間の陰を見ると、いつか見た和服姿の男女の姿が!

イブキ「あ、あいつらは!」

 イブキ、頭を押さえながら男女の方へと走る。

 しかし、近くまで行くと忽然と姿を消す男女。

 周囲を見渡すイブキ。

 男女の姿はどこにも見当たらない。

イブキ「……くそっ!」

 イブキ、ふと背後に気配を感じて振り向く。

 すると、そこにはあきらの姿が!

イブキ「あ、あきら……!!」

 あきら、服装はオンモラキに連れ去られた時のままだが、その肌はドス黒く変色し、瞳の色は真っ黄色になっている。

 イブキがあきらに近付く。

 と、あきらは鬼笛を腰からはずし、ゆっくりと口元へ。

あきら「ワレハ、アメヒメ……。ソナタニハ……、シヲ」

 鬼笛を吹くあきら。

 腰からディスクアニマルが飛び出し、イブキを襲う!

イブキ「うっ! ……やめるんだ、あきら!」

 ディスクアニマルの執拗な攻撃。

 しかし、イブキはそれを叩き落すわけにもいかず、なすがままに傷つけられる。

イブキ「……あ、あきら! ……僕が、僕が分からないのか!?」

 あきら、イブキの声を全く聞こうともせず、そのまま無表情でディスクアニマルを操り続ける。

イブキ「くっそ……」

 イブキ、ディスクアニマルに攻撃されながらも、腰から鬼笛を外してひと吹き!

 鬼笛を額に持っていく。

 イブキの体が疾風で包まれ、その風圧でディスクアニマル達が吹き飛ばされる。

 二、三歩後ずさりするあきら。

 吹き飛ばされたディスクアニマル達は、そのあきらの下へ戻っていく。

 と、その時、あきらの後ろに和服姿の男女が現れる!

 変身した威吹鬼、またしても襲う邪気に耐えられず、思わずその場にうずくまってしまう。

威吹鬼「ううっ……!!」

 和服姿の男が手を振る。

 すると、その場にバッと砂煙が立ちこめる。

 目眩ましに遭った威吹鬼、しゃがみ込みながらも鬼笛を口元へ。

 そして、砂煙が止んだ後には、もう三人の姿はなかった。

 威吹鬼、静かに立ち上がり、右手に持っていた鬼笛を腰に収める。

 

《CM》

 

○碓氷峠・頂上付近のベースキャンプ地

 ゴズキ&メズキと戦う轟鬼と蛮鬼。

 烈雷を振り回す轟鬼。

 一方蛮鬼は、細型のベース音撃弦・刀弦響で対抗するが、二匹の魔化魍の重い槍攻撃に押されっぱなし。

 人型魔化魍だけに、剣撃モードでの戦闘となる轟鬼と蛮鬼。

 やはり決定的なダメージは与えられず、逆にパワーで吹っ飛ばされる。

轟鬼・蛮鬼「うわああああああ!」

 倒れた二人に、ゴズキ&メズキの槍が襲う!

 と、その時、ゴズキ&メズキの背中に烈風の銃弾が撃ち込まれる!

 一瞬ひるむゴズキとメズキ。

 後方から、威吹鬼が烈風を構えて走ってくる。

威吹鬼「轟鬼さん! 蛮鬼さん!」

 さらにゴズキ&メズキに向かって射撃する威吹鬼。

 ゴズキ&メズキに打ち込まれる鬼石。

 威吹鬼、立ち止まってベルトから鳴風をはずして、烈風にセット。

 ゴズキ&メズキに向かって、力強く烈風を吹き鳴らす!

 ゴズキ&メズキに向かって延びる疾風一閃の波動。

 鬼石が撃ち込まれた箇所が部分的に破壊されて、ゴズキ&メズキの皮膚が弾けるが、体全体には音撃波が伝わらない。

 今度は、轟鬼と蛮鬼が二体に向かって音撃弦を突き刺しにかかる!

轟鬼「うおおおおおぉらぁぁぁぁ!」

 しかし、ダメージが浅いゴズキとメズキは、それを許さずなんなく撥ね退ける。

轟鬼・蛮鬼「うわっ!」

 ゴズキ&メズキに撥ね退けられて吹っ飛ぶ轟鬼と蛮鬼。

 ゴズキ&メズキは、ひと吠えすると大きくジャンプして、木と木の間をすり抜けて逃亡していった……。

 威吹鬼、その様子を見て、ジッとその場に佇む。

 

○森の奥・沼地

 森の中を歩くヒビキとゴウキ。

 沼地の前で立ち止まり、

ヒビキ「この辺だな?」

 周りを見渡すヒビキとゴウキ。

 と、ゴウキが気配に気付き、

ゴウキ「……ヒビキさん。あそこ!」

 ゴウキ、右手前方に見える小さな沼地を指差す。

 と、その沼の表面がブクブクと泡立ち、濁った水の中からドロタボウが現れた!

ヒビキ「……ったく、どうなってんだ」

 音角を鳴らして額へ持っていくヒビキ。

 ゴウキも同様の動きを。

 二人の額に鬼の紋章が浮かび上がったその時、後方の沼から現れた二匹のドロタボウがヒビキとゴウキの背後から襲いかかる!

 瞬間、炎に包まれるヒビキとゴウキ。

 思わず体を離すドロタボウたち。

 変化した響鬼、剛鬼がともに音撃棒を構える。

響鬼「なんでコイツらがまだ出るんだ?」

剛鬼「生態系が壊れてるってことですかね」

 沼から次々に現れるドロタボウ!

 あっという間に数十体のドロタボウに囲まれた響鬼と剛鬼。

響鬼「しょうがねーな。……剛鬼!」

剛鬼「はい」

 響鬼、剛鬼、ともに音撃棒を持った手を広げて全身に力を込める。

 次第に色づいていく二人の体。

 響鬼は真っ赤に、そして剛鬼は鮮やかな紺色に……。

響鬼「響鬼・紅(くれない)!」

剛鬼「剛鬼・瑠璃紺(るりこん)!」

 強化形態と化した二人は、それぞれの音撃棒の先に炎を宿して、ドロタボウに向かっていく!

響鬼「ハァ! ハァ!」

剛鬼「ヤッ! フン!」

 襲いかかるドロタボウたちに、次々と強化音撃打を繰り出していく響鬼と剛鬼。

 ドロタボウに打ちつける度に広がる音撃の波紋!

 増え続けるドロタボウを、打っては次々と粉砕させていく響鬼と剛鬼!

 と、沼地の奥に四つん這いになった一際大きなドロタボウを発見!

響鬼「アイツが親玉だな?」

 響鬼、その大きめのドロタボウに向かって飛びつく!

響鬼「(空中をジャンプした状態で)灼熱真紅の型~!!」

 着地と同時にドロタボウの親玉に音撃の連打を浴びせかける響鬼!

 その間、剛鬼は無数にいたドロタボウを次々に粉砕!

 そして、響鬼が最後の一打!

響鬼「ハァーーー、ハァ!!」

 四散するドロタボウの親玉。

響鬼「フゥ……」

 ひざまづく響鬼のもとへ、無数のドロタボウを倒し切った剛鬼が近寄る。

剛鬼「お疲れ様です」

響鬼「おう、お疲れ! ……たく、仕事が増えるったらありゃしねーな」

剛鬼「全くですね」

 響鬼、ゆっくりと立ち上がる。

剛鬼「あとは一人で大丈夫ですんで」

響鬼「そうか、じゃ、頼んだぜ」

 響鬼、剛鬼にシュッのポーズを送って背中を向ける。

 走り去る響鬼。

 剛鬼、強化形態を解いて溜め息一つ。

 そして、クルリと振り向いて歩き出す。

 

○たちばな

 閉店作業中の明日夢とひとみ。

 二人で店内の椅子をひっくり返して、机の上に上げている。

 奥から日菜佳が出てくる。

日菜佳「あ~、ゴメンね~、二人とも! ホンットに任せっぱなしで……」

明日夢「いえいえ、いいんですよそんなの」

日菜佳「あ、私たちもひと段落ついたから、みんなでお茶しましょうか! ね、そうしよう!」

 そう言って台所へ向かう日菜佳。

ひとみ「あ、あたし手伝います!」

 一緒に台所へ行くひとみ。

 奥から、勢地郎、香須実、そして努が出てくる。

明日夢「お疲れ様です!」

香須実「いえいえそっちこそ! ……ごめんなさいね~」

明日夢「僕らにできるのは、このくらいですから」

 微笑みながら、椅子に座る勢地郎、香須実、努。

 お盆を持って出てくる日菜佳とひとみ。

日菜佳「ハイハイ、お待たせしました~」

 テーブルにお茶を置いていく日菜佳とひとみ。

 そして着席して、溜め息をつく日菜佳。

明日夢「調べもの……ですか?」

勢地郎「ああ。過去に例のない事態になっているもんだから、色んな方向から分析していくしかなくてねぇ……」

明日夢「ヒビキさん達も、ず~っと出っ放しですもんね」

勢地郎「そうなんだよ。イレギュラーな事態な上に、どうも生態系が狂ってるようで、未だに夏の魔化魍も出てきちゃったりしてるもんだからねぇ」

努「シフトを見ると……、トウキさんとエイキさんが関東中走り回ってる感じですね」

香須実「フブキさんが帰国を早めてくれたのも、こういう状況だからってことね」

勢地郎「東北支部からも応援してもらってる状態だけど、みんな休みなしで頑張ってくれてるよ」

 お茶をすする勢地郎。

ひとみ「天美さんも、ずっとイブキさんと一緒なんですね?」

 お茶を飲む手が止まる勢地郎、香須実、日菜佳。

 複雑な表情でお互いの顔を見合わせる三人。

明日夢「え? どうかしたんですか?」

香須実「……う~ん、言わないでおこうかとも思ったんだけど、こういう状況だしね。……あきらクン、今行方不明なのよ」

明日夢・ひとみ「ええ!?」

香須実「前に話したわよね、魔化魍のエキスを体内に入れられて大変だったこと。イブキ君の音撃浄化で治ったと思ってたら、完治してなかったみたいで……」

日菜佳「(泣き顔で)……今は、心を失った状態で何者かにさらわれている状態なんです……」

ひとみ「そんな……」

 涙が溢れてくるひとみ。

 と、ふいに日菜佳の携帯電話が鳴る。

 慌てて電話に出る日菜佳。

日菜佳「はい、もしもし! ああ、ヒビキさん!? ……父上、ヒビキさん」

 勢地郎に電話を渡す日菜佳。

勢地郎「……ああ、私だ。……よし、分かった」

 電話を切って日菜佳に返す勢地郎。

勢地郎「もうすぐ戻ってこれるそうだ。早速今後の対策を練り直そう」

 勢地郎、珍しく厳しい表情のまま立ち上がり、再び地下へと足を進める。

 その後を追う香須実。

努「あ、ここは僕が片付けておきますから」

日菜佳「……あ、ゴメンね~努君。じゃ、頼みます!」

 そう言って、日菜佳も地下へと下りていく。

 あきらのことでショックを受けている明日夢とひとみを気遣い、食器を片付け始める努。

明日夢「……あ、ごめんなさい! 俺、やります!」

 努、明日夢とともに、食器を片付けながら、

努「君は、鬼を目指すことにしたのかい?」

明日夢「……え!?」

 ピクッと動くひとみ、悲しげな表情のまま、明日夢を見る。

 明日夢、所在無げな様子で食器をテーブルに置く。

 沈黙する三人……。

 

○四十三之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 たちばなで話す明日夢と努。

努「独りよがりな夢は、逆に色んなものを失うことにもなりかねない」

 たちばな地下で話す猛士の面々。

勢地郎「で、そのあきらの居場所だが……」

 不知火の中で話すヒビキとフブキ。

フブキ「私ほど世界的なフルート奏者になると、色んな国から引く手あまたなのです」

 四十四之巻『秘める決意』

 

○提供ナレーション 伊藤慎



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四十四之巻『秘める決意』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。大変な戦いの中、またしても天美さんの身に何かが起こっているようです。そして、いつか出会った努さんとまた顔を合わせ……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 四十四之巻『秘める決意』

 

○提供ナレーション 秋山奈々

 

○たちばな

 テーブルの上の食器を片付ける努と明日夢。

努「君は、鬼を目指すことにしたのかい?」

明日夢「……え!?」

 ピクッと動くひとみ、悲しげな表情のまま明日夢の方を見る。

 明日夢、ゆっくりと持っていた湯呑みをテーブルに置く。

明日夢「……まだ、そう決めたわけじゃありません。でも……、ちょっと迷っているのは確かです。自分がやりたいことは何なのかなあ、人生を賭けるべきものって、何なのかなあって」

ひとみ「(悲しげな表情で)安達君……」

 努、手を止めて、

努「……僕は、中途半端な状態で方向転換した身だから偉そうなことは言えないけど、夢って、一人で追うもんじゃないのかもしれないね」

明日夢「……え?」

努「独りよがりな夢は、逆に色んなものを失うことになりかねない。自分を見てくれている人のことを考えるのも、大事なことなんだよね」

 再び食器を片付け始める努。

努「世の中、一人で生きてるわけじゃないからね。みんな、どこかで誰かに支えられて何かを実現していくもんなんだと思うんだよね。……だから、僕は元猛士として、こういうボランティア的なサポートは、これからもやっていこうと思ってるんだ。心を鍛えてくれた恩返しの印としてね」

 お盆を持って台所へと向かう努。

 明日夢、下を向いて考え込む。

 そして、その明日夢を見て目を潤ませるひとみ……。

 

○碓氷峠・下り道

 たちばなへ戻らんと疾走するイブキ、トドロキ、バンキの三台のマシン。

    ×   ×   ×

《回想・碓氷峠頂上》

 キャンプを中止してテントを片付けているイブキ、トドロキ、バンキの三人。

トドロキ「一旦戻るって……、せっかくここまで来たのに、どうしてなんですか? イブキさん」

イブキ「ちょっと、考えがあるんです。それに……」

バンキ「小型の魔化魍に対して、このフォーメーションではキツいからなあ」

 イブキ、バンキの言葉に頷いて、黙々とキャンプ道具を片付ける。

《回想・ここまで》

    ×   ×   ×

 竜巻で疾走するイブキ。

イブキ「(待ってろよ、あきら。必ず助け出してやるからな!)」

 

○謎の洋館・玄関口

 玄関から入ってくるあきら。

 その後ろを、和服姿の男女が続く。

 廊下を歩く三人。

 そのまた後ろには、あきらのディスクアニマルたちが、ソロリソロリとついてくる。

あきら「ワレハ……、ワレハ……」

 脂汗をかいて、フラフラと歩くあきら。

 自我をアメヒメに支配されつつあるが、まだ細胞の融合が不完全なためか、イブキの言葉が脳裏をよぎる。

イブキ「あ、あきら! ……僕が、僕が分からないのか!?」

あきら「ウゥ……!!」

 頭を押さえてしゃがみ込むあきら。

 その両脇を、和服姿の男女が抱えてあきらを起こし、そのまま歩いていく。

 

○同・暗い一室

 ドアを開けて部屋に入る和服姿の男女。

 あきらを中央のベッドに寝かせる。

 その周りでは、ディスクアニマル達が動き回る。

男「お前らは、あっちへ行ってろ!」

 ディスクアニマルを一喝する男。

 ビクッと飛び跳ねて、部屋の隅に移動していく二匹の浅葱鷲、二匹の鈍色蛇、そして、一匹の黄赤獅子……。

 

○たちばな・地下作戦室

 PCの前に座る香須実と日菜佳。

 中央の机周りには、勢地郎、ヒビキ、イブキ、トドロキ、バンキの姿。

 そして部屋の隅には、フブキが足を組んで座っている。

勢地郎「闇の鬼一体の始末はできた……と。オンモラキはまだ姿を現さないので、このまま様子を見るとして、問題はゴズキとメズキだが……」

バンキ「小型の魔化魍なだけに、やはり弦や管の武器では限界がありますね」

ヒビキ「俺の出番ってわけだな?」

バンキ「……しかし、何しろ予測のつかない状況ですので、三タイプの攻撃陣で臨むべきではないかと……」

勢地郎「そうか。じゃ、ヒビキはトドロキ君に代わって……」

イブキ「いえ、トドロキさんには現場に行ってもらいましょう。……バンキさん、あなたには、ここに残ってやってもらいたいことがあるのです」

バンキ「(イブキの方を向いて)何だ?」

イブキ「あきらを助けるために、みどりさんが今頑張ってくれているんですが、一人ではちょっと厳しそうなので……」

バンキ「分かった。頭脳労働に廻れってことだな?」

 ニコッとするイブキ。

勢地郎「……で、そのあきらの居場所なんだが……」

 そう言って、机の引き出しから小型電波受像機を取り出す勢地郎。

 受像機を机の上に置く。

トドロキ「それは……」

勢地郎「イブキ君が、あきらのディスクアニマルの中に、一匹自分のディスクアニマルを紛れ込ませたんだ。通信機能を搭載した黄赤獅子をね」

トドロキ「そいつはすげぇ! さっすがイブキさん!」

イブキ「そろそろ、いい頃ですね」

勢地郎「うむ」

 小型電波受像機のスイッチを入れる勢地郎。

 画面は真っ暗だが、そのデータが転送されたPCモニターに映し出されたマップに、電波は捕らえられている。

 モニターに点滅する一つの光。

勢地郎「(モニターを見て)ここは……、渋川だなあ」

ヒビキ「そこに、奴らの本拠が……」

 その時、受像機の映像が突然ブチッと切れた。

トドロキ「あっ!」

イブキ「……恐らく、ディスク型に戻されたんでしょう。アニマル型でないと、カメラは働きませんからね」

 立ち上がるヒビキ。

ヒビキ「とにかく、相手の居場所が分かったんだ。その馬ヅラと牛ヅラの妨害には遭うだろうが、一刻も早くあきらを救い出すんだ!」

トドロキ「よっしゃあ!」

 拳を握り締めるトドロキ。

勢地郎「で、フブキ君だが……、今回はヒビキ達と同行してもらう」

ヒビキ「ええ!?」

 必要以上に驚くヒビキ。

フブキ「何よ、ヒビキ君」

 足を組んで座ったまま呟くフブキ。

ヒビキ「あ、いや別に……」

 横を向くヒビキ。

勢地郎「通常業務の助っ人として帰ってきてもらったわけだが、特殊な状況なんで、サポートにね」

フブキ「香須実さんの代わりに、私が運転してさしあげるわ。ねぇ、ヒビキ君」

 いたずらな笑みをヒビキに投げかけるフブキ。

 少々困り顔のヒビキ。

 

《CM》

 

○城南高校

 休み時間、校舎の陰で話す明日夢とひとみ。

ひとみ「安達君……、やっぱり、ヒビキさんの……弟子に?」

明日夢「まだ決めたわけじゃないけど……」

ひとみ「ねぇ、やめなよ安達君! ……危ないよ。何もそこまでしなくても……」

 目を潤ませるひとみ。

 明日夢、ひとみの顔を見て一瞬たじろぐが、口をキッと結び直して、

明日夢「……ドラム叩いてると、ホント楽しいんだ。楽しいんだけど、もっとこう、なんて言うか、人のために何かできる男になりたいなあって……」

 さらに泣きそうな顔になるひとみ。

明日夢「……でもね、正直なところ、怖いんだ。ザンキさんも今入院中だし、天美さんなんて……。俺に、そんな覚悟ができるのかどうか……」

ひとみ「う……、う……」

 ひとみ、口を押さえて走り去っていく。

明日夢「も、持田!」

 一人立ちすくむ明日夢。

 壁にあてていた手をギュッと握りしめ、その拳を見る……。

 

○渋川方面へと向かう道

 イブキの竜巻を先頭にして、ヒビキの不知火、そしてトドロキの雷神が道路を走る。

 

○不知火の中&竜巻を運転するイブキ

 運転席にはフブキ。

 そして助手席にヒビキ。

ヒビキ「しかしフブキさん、その、アレですねぇ……。相変らずお忙しそうで……」

フブキ「私ほど世界的なフルート奏者になると、色んな国から引く手あまたなのです」

ヒビキ「あら、そうですか」

 呆れ顔のヒビキ。

 気を使って話を振ったのに邪険にされ、ちょっとふくれっ面に。

 フブキ、そんなヒビキの様子を横目で見てわずかに微笑む。

 しばらく沈黙の後、

フブキ「でも……」

ヒビキ「ん?」

フブキ「その分、こっちに迷惑かけ過ぎてんのも事実よね……」

 クールな中にも、一抹の不安を感じさせるフブキの表情。

 ヒビキ、そんな珍しい顔を見せるフブキに思わず見入る。

フブキ「音楽か鬼か……。どっちも捨てられないし、両立できると思ってたからここまでやってきたけど……、そろそろ潮時かもしれないわね」

ヒビキ「フブキ……さん?」

 不思議そうな表情で、フブキを見るヒビキ。

 その時、フブキの目が前方上空にに何かを捕らえた。

フブキ「あ、あれは!」

 前方上空に、不自然な動きをする小さな塊が見え、次の瞬間、それは近くの林の中へと急降下していった。

フブキ「ヒビキ君!」

 頷くヒビキ。

 目の前の無線機を取り出して、

ヒビキ「イブキ!」

    ×   ×   ×

 画面、ここから交互にイブキ、ヒビキ。

イブキ「……はい!」

 ヘルメットに装着されている無線機で話すイブキ。

    ×   ×   ×

ヒビキ「例の鳥さんだ。左の林に寄り道するぞ」

    ×   ×   ×

イブキ「分かりました!」

 三台のマシンが、公道から離れて林の中へと入っていく。

 

○たちばな・地下研究室

 あきら救出のための武器開発に没頭中のみどりとバンキ。

 みどり、特殊なスコープを頭から被り、PCのキーボードを叩く。

 バンキ、部屋の端で音撃管を構えて、三メートルほど離れた場所に置いた五十センチくらいの塊に狙いを定める。

バンキ「……いきます」

 バンキ、標的の物体に向けて鬼石を打ち込む。

 鬼石を撃ち込まれた物体は、ジワジワと変色し始め、その途中でパカンと破裂してしまう。

みどり「ダメ、か……」

 スコープを頭からはずすみどり。

 バンキ、破裂した物質に近付いて、その破片を凝視する。

バンキ「もう少し、内容物の比率を変えてみましょう。組合せは合っているはずです」

みどり「そうね」

 再びPCのモニターに見入るみどり。

 バンキ、音撃管を机に置きながら、

バンキ「以前のように、部分的な浄化では絶対に不十分。ってことは」

みどり「(キーボードを叩きながら)取り憑いた魔化魍の核そのものを消滅させなければいけないわけね」

バンキ「心臓の横……。危険……ですがね」

みどり「……でも、それしかあきらクンを救う方法はないわ。イブキ君ならきっとやってくれる。だから、私たちが一刻も早く」

バンキ「そうですね」

 バンキ、砕けた破片を拾い集め、分析器に流し込む。

 静かに研究に没頭していく二人……。

 

○明日夢の自宅

 自分の部屋のベッドに寝転ぶ明日夢。

 ドラムのスティックを空中でリズミカルに揺らす。

 そして、次第にゆっくりした手の動きになって、バタンとベッドに手を下ろす。

明日夢「はぁ……」

 と、廊下から郁子の声。

郁子「明日夢~、行ってくるからね~!」

 明日夢、ベッドから跳ね起きる。

 ドアを開けて廊下に顔を出す明日夢。

明日夢「あ……、母さん!」

郁子「(玄関でバタバタと靴を履きながら)え? 何?」

明日夢「……あ、いや、何でもない。行ってらっしゃい!」

郁子「は~い、行ってきます!」

 玄関のドアを開けて出ていく郁子。

 明日夢、ゆっくりとドアを閉めて再び部屋に入り、ドアにもたれて溜め息一つ。

 そして、ポケットからヒビキに貰ったコンパスを取り出して、ジッと見つめる。

 明日夢の脳裏に浮かぶ、周囲の言葉。

ひとみ「……危ないよ。何もそこまでしなくても……」

努「自分を見てくれている人のことを考えるのも、大事なことなんだよね」

 口を真一文字に結んで俯く明日夢。

子供「ありがとう! お兄ちゃん」

 そこでふと浮かんだ、トラックに轢かれそうになったところを助けた子供の声。

 未だ、迷いの中にある明日夢……。

 

○日光のとある寺

 野外でトレーニング中のダンキとショウキ。

ダンキ「……よし! ここで俺が!」

 ジャンプして音撃棒・那智黒を振り回すダンキ。

 ダンキ、着地して音撃管・台風を構えているショウキの下へ歩く。

ダンキ「これでフォーメーションCも完成だな。……オンモラキめ~、いつで来いって!」

 と、ショウキが背後の気配にピクリを眉を動かす。

ショウキ「出たか!?」

 振り返って上空を見上げるショウキ。

 そこには一匹のカラスが……。

 依然、イメージトレーニングに余念のない二人であった。

 

○四十四之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 オンモラキと戦う響鬼達。

響鬼「いかんな……。轟鬼! 何とか足止めするんだ!」

 謎の洋館で佇むあきら。

あきら「コノカラダハ、モウワレノモノ」

 あきらと対峙する威吹鬼。

威吹鬼「あきら! 目を覚ますんだ!!」

 四十五之巻『散渦する妖魔』

 

○提供ナレーション 秋山奈々



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四十五之巻『散渦する妖魔』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。自分の目指す道に悩む今日この頃、努さんや持田の言葉に色々と考えてしまう僕ですが、鬼の人たちにも色々と悩みがあるようで……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 四十五之巻『散渦する妖魔』

 

○提供ナレーション 秋山奈々

 

○熊谷近辺の林

 林の手前で停車する、竜巻、不知火、そして雷神。

 竜巻から降りるイブキ。

 そして、不知火からヒビキとフブキ、雷神からトドロキが降りてくる。

ヒビキ「ん~、確か、この辺だと思ったんだが……」

 ヒビキが木の上を見上げると、その背後から小さな塊が飛び出す!

フブキ「危ない!」

 フブキ、手首のバンドから手裏剣のようなものを素早く取り出して投げる!

 ヒビキの背中を襲わんとしていた塊にバシッと当たる!

 奇声とともに方向を変えて飛んでいき、木の枝に止まる小さな影。

 オンモラキだ!

 イブキが鬼笛を吹いて、額へと持っていく。

 疾風がイブキの体を包み、変身!

 威吹鬼、烈風でオンモラキに向かって射撃を開始!

 しかし、予測のつかない不自然な動きで難なくこれをかわしていくオンモラキ。

フブキ「動きを止めなくては……」

 鬼笛を吹き、額へと持っていくフブキ。

 体中を吹雪が包み込み、フブキが鬼に変化!

 音撃管に麻酔針をセットして狙いを定める吹雪鬼。

 しかし、その変幻自在な動きに照準が定まらない。

ヒビキ「いかんな……。トドロキ! 何とか足止めするぞ!」

トドロキ「はい!」

 ヒビキが音角を響かせて額へと持っていく。

 そして、トドロキも音錠を鳴らせて額へと持っていく。

 二人が同時に変身!

 響鬼、轟鬼の二人がジャンプして木に飛びつき、オンモラキの行く手を塞ぐ。

 威吹鬼と吹雪鬼、なおも射撃・吹射するが、やはり捕らえることができない。

轟鬼「よおっし!」

 轟鬼、木から木へ飛び移りながら、その枝という枝を烈雷で次から次へと斬り落としていく!

 着地場所を失ってバタバタと飛び回るオンモラキ。

 響鬼、そのオンモラキめがけて、口から火炎を連続噴射!

 逃げ回るオンモラキ。

 しかし、何度目かの火炎噴射がオンモラキの片方の翼をかすめる。

 燃え上がる片翼!

威吹鬼「よし! バランスを崩したな」

 威吹鬼、オンモラキに向かって烈風で射撃!

 飛行能力が低下したオンモラキに、鬼石が見事に命中!

 そして威吹鬼は、烈風に鳴風を取り付けてひと吹き!

 疾風一閃の音色が響き渡る!

 オンモラキの体を伝う波動!

 そして……、爆発!!

 顔の変身を解く四人。

トドロキ「お疲れ様ッス!」

ヒビキ「いや~、とんだ道草だったなあ」

イブキ「じゃ、目的地へ急ぎましょう!」

 それぞれのマシンへと向かう四人。

 と、ヒビキの後ろからフブキが声をかける。

フブキ「ヒビキ君。あなた、私が着替えるまで外で待っていなさいよ」

ヒビキ「……ハイハイ」

 緊張した中で、少しだけ笑みを浮かべるイブキであった。

 

○たちばな・地下研究室

 音撃管を持って、標的に狙いを定めるバンキ。

 それを見守るみどり。

 バンキ、標的に向かって鬼石を発射。

 標的に命中する鬼石。

 そして、ジッとモニターを見つめるみどり。

みどり「……OK! 成功よ!」

バンキ「やりましたね」

みどり「でも、今は一つ作るのが精一杯ね。……慎重に使ってもらわないと」

 そう言って完成した銃弾を見つめ、ガトリングケースに収納するみどり。

バンキ「まあ、その辺は、イブキなら大丈夫でしょ」

みどり「イブキ君の腕もなんだけど、あきらクンの体が耐えられるかどうか……」

 バンキ、音撃管を仕舞いながら、

バンキ「成功すれば、魔化魍の核を追い出すことは出来るはず。でも……」

みどり「……賭ける、しかないのよね」

 真剣な表情のみどり。

 バンキ、少し微笑んで、

バンキ「人生、結局全てにおいて『賭け』ですよ、みどりさん」

 ケースを握り締めて祈るみどり。

みどり「……すぐに本部のヘリを呼ぶわ。バンキ君も支度を!」

バンキ「(真剣な表情に戻って)了解!」

 

○謎の洋館

 暗い部屋のベッドで眠っているあきら。

 多量の汗をかいている。

 あきらの頭の中で、イブキの声がこだまする。

イブキ「あきら! あきら! 目を覚ますんだ! ……あきら!!」

 ガバッと上半身を起こすあきら。

 真っ黒な自分の手を見てギョッと驚く。

 一時的に自我が甦っている様子。

 周りをキョロキョロと見回し、幽閉されていることを自覚するあきら。

 腰から鬼笛を抜き、静かに吹く。

 ディスクアニマルが起動し、ベッドの周りを飛び跳ねる。

 しかし、ここで激しい頭痛に襲われ、頭を抱えて下を向くあきら。

あきら「うっ……!!」

 部屋の扉が開き、入ってくる和服姿の男女。

 男、あきらに近付き、

男「……どうした?」

 あきら、ゆっくりと顔を上げ、黄色い瞳をギラつかせる。

あきら「ナンデモナイ。コノカラダハ、モウワレノモノ……」

 立ち上がるあきら。

 その周りをディスクアニマル達がうろうろと動く。

 そして光る、黄赤獅子のレンズ眼……。

 

○渋川へと向かう道

 疾走する竜巻、不知火、そして雷神。

 竜巻のメーター横に取り付けてある、小型電波受像機のスイッチが入る。

 その画面にうっすらと映し出される、あきらの姿。

イブキ「あ、あきら……!!」

 装置で位置を確認するイブキ。

イブキ「やはり渋川か。……こっちの方角だな!」

 大きく左にカーブする竜巻。

 そしてスピードを上げる。

 

○雷神の中

 トドロキ、イブキがスピードを上げたのを見て、

トドロキ「おっ!」

 

○不知火の中

 ヒビキ、前を行く竜巻を見つめながら、

ヒビキ「……いよいよ勝負だな」

    ×   ×   ×

 さらにスピードアップして疾走していく竜巻、不知火、そして雷神。

 

○たちばな・地下作戦室

 地図を見ながら電話中の勢地郎。

 傍らにはみどり、そして準備万端のバンキ。

勢地郎「……渋川の……、ふん、……この辺りだな。分かった、すぐバンキ君を向かわせるよ」

 勢地郎、電話を切って、PCのキーボードを叩く。

 プリンターから地図がプリントアウトされ、それを取ってバンキに渡す勢地郎。

勢地郎「頼んだよ」

バンキ「了解!」

 階段を駆け上がるバンキ。

みどり「気を付けてね!」

 後ろ向きに、手でみどりにポーズを送るバンキ。

 

《CM》

 

○たちばな・店舗前

『臨時休業』と書いた紙を入口の扉に貼る日菜佳。

 そこへ、明日夢とひとみがやってくる。

明日夢「……日菜佳さん!」

日菜佳「(振り向いて)あ、明日夢君、ひとみちゃん!」

ひとみ「どうしたんですか?」

日菜佳「あ……、うん。……ま、まあ、とにかく入って、二人とも!」

 顔を見合わせる明日夢とひとみ。

 日菜佳、扉を開けて中に入る。

 その後ろに続く明日夢とひとみ。

 

○同・店頭

 日菜佳、明日夢、ひとみが中に入ると、香須実とみどりが、座って両手を合わせて祈っている。

日菜佳「あ、姉上……」

 顔を上げる香須実、明日夢とひとみに気付いて、

香須実「あ、いらっしゃい。……ああ、バイト休みって言ってなかったわね、ごめんなさい」

明日夢「え? 休みですか……」

香須実「……あきらクンが助かるまでは、もうお店どころじゃなくってねぇ」

明日夢「そうですか。……で、今は?」

日菜佳「居場所が分かったので、イブキさん達四人で救出に向かったところなんです」

 そう言って、店頭の奥に歩いていき、神棚に向かってパンパンと手を叩いて拝む日菜佳。

日菜佳「神サマ……!!」

 必死に祈る日菜佳。

 明日夢、そんな日菜佳の姿を見て、思わず拳を握り締める。

 その明日夢の様子を見て、別の意味での不安を感じてしまうひとみ……。

 

○謎の洋館前の林

 木の陰から建物を見上げるイブキ。

 その傍らにはフブキ。

イブキ「ここか……」

 後ろから、ヒビキとトドロキが歩いてくる。

ヒビキ「イブキ」

 振り返るイブキ。

ヒビキ「ホラよ」

 小さなガトリングケースをイブキに放り渡すヒビキ。

ヒビキ「バンキからだ。一発しかないから、よく狙って撃てとさ。……向こうの山で待機している」

 イブキ、ガトリングケースをジッと見つめる。

 そして、それを固く握り締めてポケットに入れる。

トドロキ「……しっかし、気味悪いところですねぇ。町外れに、ポツンとこんな洋館があるなんて……」

ヒビキ「踏み込むか?」

イブキ「まずは様子を……」

 そう言って烈風を構えるイブキ。

 と、そこへ現れた二つの影!

 ゴズキとメズキだ!

 二匹は、槍を大きく振りかぶって突進してくる!

 回転してかわした四人が、同時に変身動作に入る!

 

○謎の洋館

 洋館の二階にいた和服姿の男、何かの気配を察知して窓の方を振り返る。

男「……何だ!?」

 窓から外を覗く男。

 そこには響鬼たちの戦う姿が!

男「な、なぜここが……!?」

 部屋の中央に振り向く男。

 そこには無表情に佇むあきらの姿が。

 周りにはディスクアニマル達。

 男は、そのディスクアニマルをマジマジと見つめる。

 男の目がキラッと光り、その瞬間、黄赤獅子のレンズ眼がバチッという音とともに破壊された。

 怒りの表情となって、黄赤獅子に向けてサッと手を出す男。

 瞬間、煙に包まれて消滅する黄赤獅子。

男「……鬼めェ! こしゃくなぁぁぁ!」

 体を震わせる男。

あきら「ワレガ……」

 フワッと浮き上がるあきらの体。

 そして、そのまま壁をすり抜けて響鬼たちが戦っているところへと飛んでいく!

 

○謎の洋館前の林

 ゴズキ&メズキに苦戦する響鬼たち。

 四人が代わる代わる飛びかかるも、大きな槍で吹っ飛ばされる。

 と、そこへ上空より現れたあきら!

 威吹鬼、その姿に気付いて空を見上げ、

威吹鬼「……あきら!」

 尻餅をついている響鬼と轟鬼も、立ち上がりながらあきらの方を見る。

響鬼「あきら……」

轟鬼「あきらクン!」

 宙に浮いたままのあきら、ゆっくりと手を広げ、

あきら「ワレハアメヒメ……、ジャマモノニハ……、シヲ」

 その瞬間、周囲の木の枝が何本もボキボキッと折れて、猛スピードで威吹鬼に向かって飛んでいく。

 鋼鉄と化した木の枝が、次々と威吹鬼に突き刺さる!

威吹鬼「うっ……!!」

 威吹鬼、傷を受けながらも、あきらに向かって叫ぶ。

威吹鬼「あきら! 目を覚ますんだ! ……思い出すんだ! 僕たちの絆を!!」

 ピクッと反応するあきら。

 しかし、すぐに元の夜叉のような顔つきに戻る。

 なおも襲いかかる鋼鉄の木の枝。

 響鬼、轟鬼、吹雪鬼の方へも次々と飛んでいく。

 それを手で払いのけていく三人。

 威吹鬼、鋼鉄の枝に襲われながら烈風に新しい鬼石を込めて、覚悟を決めた様相で、

威吹鬼「……あきら! 僕たちの……、僕たちの修行は、まだ終わっちゃいないんだあああああああああああ!!」

 引き金を引く威吹鬼。

 そして、勢い良く烈風から発射される魂の鬼石!

 まっすぐ延びたその銃弾があきらの胸元に命中!

 激しい衝動で後ろに吹っ飛ぶあきら!

 そして、倒れたあきらの胸元を中心に、ゆっくりと波紋が広がっていく!

あきらの中のアメヒメ「ナンダ、コノカンカクハ……!? コノ、オゾマシイカンカクハ……!!」

 波紋は、あきらの体全体に伝道する。

 反魔化魍エキスとも言うべき、超常能力を無力化させる力が、あきらの体に充満する!

あきらの中のアメヒメ「ウ……、ウワアアアアアアッ!!」

 あきらの胸元からポーンと飛び出すアメヒメの核!

 コロコロと転がって、ムックリと立ち上がる。

 それは、顔面だけの体から小さな手足が生えた、ドス黒く醜い姿の魔化魍であった。

 威吹鬼、烈風に鳴風をセットして構え、渾身の力で吹き鳴らす!!

 響き渡る疾風一閃の音色!

 アメヒメの体全体にその波動が充満していく!

アメヒメ「ウギャーーーーーッ!!」

 激しく雄叫びを上げるアメヒメ。

 そして……、爆発!!

    ×   ×   ×

 爆煙が止むと、そこにはグッタリと横たわる血だらけのあきらの姿が……。

威吹鬼「……あ、あきらーーーっ!!」

 威吹鬼、あきらの下へ走り寄る!

吹雪鬼「フム……」

 事態を察知した吹雪鬼が腕をサッとひと振りすると、辺り一面が凄まじい吹雪に覆われた!

 ひるむゴズキとメズキ。

 その中を、素早く走り抜けていく響鬼、轟鬼、吹雪鬼、そしてあきらを抱えた威吹鬼!

 吹雪が止んだその後には、戸惑うゴズキとメズキだけが取り残されていた……。

 

○山中の待機場所

 本部のヘリコプターの前で手を振るバンキ。

バンキ「こっちだ! ……早く!」

 顔の変身を解いたヒビキ、トドロキ、フブキ、そしてあきらを抱えたイブキが走ってくる。

 イブキ、あきらを抱えたままヘリに乗り込む。

 その後ろからバンキも乗り込み、閉じられるヘリの扉。

 

○本部ヘリの中

 ストレッチャーに寝かされるあきら。

バンキ「……物凄い出血だ。本部までもつだろうか……」

イブキ「あきら……」

 イブキ、あきらの頭を抱きしめる。

 あきらの目がゆっくりと開く。

あきら「イ……、イブキ……さん……」

イブキ「あ、あきら! ……しっかりするんだ! あきら!!」

あきら「ううっ……」

 再び意識を失うあきら。

医療スタッフ「イブキさん! とりあえず応急処置を……!!」

 イブキ、医療スタッフにあきらの身を委ねる。

 

○山中の待機場所

 地上では、飛び立っていくヘリをヒビキ達が見上げている。

トドロキ「……あきらクン、助かるんでしょうか……」

ヒビキ「助かるさ。……師弟の絆ってモンはな、そんなに弱いもんじゃあない」

 ヒビキ、トドロキ、フブキの三人が、あきらの無事を祈りながら上空を見上げ続ける……。

 

○四十五之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 吉野本部で待機するイブキとバンキ。

バンキ「信じるんだ、医療スタッフの力を、あきらの精神力を」

 謎の洋館で話す和服姿の男と女。

男「迂闊だったな……、まさか奴らに謀られるとは……」

 たちばな地下で話す猛の面々。

ヒビキ「ま、データがない以上、とりあえず当たってみないことには何とも言えないですね」

 四十六之巻『探る鬼道』

 

○提供ナレーション 秋山奈々



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四十六之巻『探る鬼道』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。今日も鬼の人たちの激しい戦いが続いています。自分の事で思い悩んでいた僕でしたが、今は天美さんの身がとても心配で……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 四十六之巻『探る鬼道』

 

○提供ナレーション 栩原楽人

 

○吉野本部・緊急医療室前

 廊下の椅子にジッと座っているイブキとバンキ。

 イブキは、あきらの容態が気にかかっていてもたってもいられない様子。

イブキ「あきら……」

 一心不乱に祈るイブキ。

バンキ「大丈夫、きっと助かる。……お前の狙いは正確だった。信じるんだ、医療スタッフの腕を、あきらの精神力を……」

 緊急医療室のドアをジッと見据えたままイブキを励ますバンキ。

 

○たちばな・店舗前

『臨時休業』の貼り紙が貼られたままの入口の扉。

 

○同・地下作戦室

 勢地郎、香須実、日菜佳が心配そうな表情で座っている。

 と、ヒビキが階段を駆け下りてくる。

 その方向へ、三人が一斉に振り向く。

ヒビキ「……連絡は?」

香須実「まだです……」

ヒビキ「そっか……」

 壁の時計を見るヒビキ。

ヒビキ「あれから、もう十時間か……」

 何も手につかない様子の四人。

 

○吉野本部・緊急治療室前

 椅子から動かないイブキとバンキ。

 その時、治療室のドアが開き、中からあきらの寝かされたストレッチャーが、数人の医療スタッフの手によって運び出されてきた。

 立ち上がるイブキ。

イブキ「あ……、あきら!」

 ストレッチャーに駆け寄るイブキ。

 そこに寝かされたあきら、酸素マスクと点滴チューブで覆われている。

 治療室から出てきた医療チーフに、バンキが話しかける。

バンキ「……どうなんですか!?」

医療チーフ「やるべきことはやったよ。傷は深いが、見事に急所を外した攻撃だったので致命傷ではない。多分、朝には意識も戻るだろう」

 イブキ、医療チーフの方を振り向き、

イブキ「じゃあ……、助かったんですね!?」

 医療チーフ、イブキの肩をポンと叩き、

医療チーフ「さすがに君の弟子だな。よく鍛えられてある」

 安心して肩から崩れ落ちるイブキ。

 そして、ホッした表情で微笑むバンキ。

 

○たちばな・地下作戦室

 勢地郎、香須実、日菜佳、そしてヒビキがおのおの黙ってソワソワとした様子。

 と、ふいに電話が鳴る。

 全員が電話の方に体を動かし、日菜佳がバタバタッと受話器を取る。

日菜佳「はい、たちばな……あ、バンキさん! はい! ……はい……そうですか……、分かりました」

 涙ぐみながら、ゆっくりと受話器を置く日菜佳。

香須実「(不安そうに)な、何だって!?」

日菜佳「(泣き顔で顔を上げて)助かったって……」

 ホッとする他の者。

香須実「良かった……、良かった……」

 ヘナヘナと机の上に崩れ落ちる香須実。

 電話口では、日菜佳が受話器を握ったままオンオンと泣きじゃくっている。

 勢地郎、ウンウンと頷きながら、親指で軽く目頭を拭う。

ヒビキ「……よし!」

 上方を見上げて微笑むヒビキ。

ヒビキ「少年にも……、連絡してやってくれよ」

 そう言って、階段を駆け上がっていくヒビキ。

香須実「……は、はい! ……そうだ、明日夢君!」

 日菜佳が泣きじゃくる電話口へと近付く香須実。

 勢地郎、ちょっと考え込んだ表情で、

勢地郎「それはそうと……、なんか忘れているような……」

 

○明日夢の部屋

 携帯電話で話している明日夢。

明日夢「そうですか! ……ああ、良かったです。……はい! あ、持田にも連絡しておきます」

 電話を切る明日夢。

 目を瞑って、大きく溜め息を一つ。

 そして、ひとみに電話をかけ始める。

 

○謎の洋館

 二階の部屋で、イラつきながらウロウロと歩き回っている和服姿の男。

 その傍らには、和服姿の女。

男「……迂闊だったな。まさか奴らに謀られるとは」

女「こちらの手駒もあと二体。打つ手はあって?」

 男、部屋の壁に手を当て、ジッと壁を見つめる。

 一瞬、壁がボーッとボヤけていったかと思うと、また元に戻る。

男「……我々の力も衰え始めている。奴らにこの場所を知られたのは……、マズいな」

女「ここから離れにくいだけに……ね」

男「まあ、必ず奴らは、またここにやってくる。その時、一気に始末するしかないな」

 そう言った男の顔が微妙に歪み、一瞬獣の顔を覗かせた。

 

○たちばな・地下作戦室

 中央の机の上に資料を広げる勢地郎。

 それを見つめるヒビキ、香須実、そして日菜佳。

勢地郎「吉野からの資料、古来から伝わる伝説を総合的に分析すると、やはり闇の鬼を操る邪悪な力が存在することは間違いないな。そして、イブキ君が突き止めた渋川の古い洋館、この位置は……」

日菜佳「日本でも、特別な場所ですね?」

ヒビキ「特別?」

勢地郎「そう。いわゆる『日本のへそ』だ」

香須実「日本の……、へそ……」

勢地郎「そうだ。いくつかの説はあるが、東経百三十九度、北緯三十六度二十九分の地点にあるということで、ここが日本の中心地とされている。洋館の位置からすると若干のズレはあるが、この日本の中心に邪悪な自然の力が長い年月をかけて集まって、極度に高い知能を持った何かが発生したと考えられるんだなあ」

ヒビキ「それは、魔化魍なのですか?」

勢地郎「魔化魍は魔化魍だろう。しかし、いかにも特殊な条件の下で発生した力だ。果たして、通常の音撃の力で清められるかどうか……」

 ヒビキ、立ち上がり、

ヒビキ「……ま、データがない以上、とりあえず当たってみないことには何とも言えないですね」

香須実「あ、ゴズキとメズキの方は?」

 ヒビキ、香須実の方へ振り向いて、

ヒビキ「おお、あいつらはな、俺たち太鼓の鬼の責任として絶対始末する。ま、ダンキたちにも協力してもらうって」

勢地郎「……あ!」

 机を叩いて立ち上がる勢地郎。

日菜佳「……なんスか?」

勢地郎「こないだから、なんか忘れていると思ってたら……、ダンキ君と……」

香須実「……ああっ!」

 同じく机を叩いて立ち上がる香須実。

 

○日光のとある寺

 境内で焚き火をしているダンキとショウキ。

ショウキ「……まだですかねぇ、俺たちの出番は……」

ダンキ「まあ慌てんなって。ヒーローの出番は、最後の最後って、相場が決まってんだよ!」

 既に八つのフォーメーションを完成させて、臨戦態勢万全のダンキとショウキであった。

 

《CM》

 

○吉野本部・病室

 ベッドで眠るあきら。

 その横で、あきらの右手を握り締めながらウトウトを眠るイブキ。

 と、そのあきらの右手の指が、ピクッと動く。

 浅い眠りのため、即座に反応して目を覚ますイブキ。

 ピクピクッと、あきらの右手が動く。

イブキ「……あ、あきら! あきら!!」

 イブキ、あきらの顔に見入る。

 そして、あきらの目が、少しずつ開いていく。

 目を開いたあきら、見守るイブキに気付き、

あきら「……イ……、イブ……」

 喋ろうとするあきらの口元をそっと押さえるイブキ。

イブキ「まだ話さなくていいよ。……僕が、ずっと傍にいるからね」

 あきら、安心したように微笑みながら、再び眠りに落ちていく……。

 

○たちばな・地下作戦室

 机を囲む勢地郎、ヒビキ、トドロキ、フブキ。

勢地郎「吉野からの連絡はまだないが、そうグズグズしてもいられない状況だ。通常業務の方は、トウキ君とショウキ君にもう少し踏ん張ってもらうとして……、やっぱり少し手が足りないので、トドロキ君には、そっちに廻ってもらおうかな」

トドロキ「はい!」

勢地郎「ヒビキには、あの二匹を退治するために太鼓隊を率いてもらおう。恐らく強化形態が必要となるだろうから、キツいだろうけど頑張ってくれ」

ヒビキ「りょ~かい。シュッ!」

 ポーズをとるヒビキ。

勢地郎「フブキ君は、ヒビキたちのサポートで」

 ガクッと肩を落とすヒビキ。

ヒビキ「ま、またですか……」

フブキ「何なの? ヒビキ君」

 ヒビキ、フブキの言葉を敢えて無視するように立ち上がる。

ヒビキ「……よ~し! 行くぞトドロキ!」

トドロキ「……あ、はい!」

 腕を振り回しながら階段を上がっていくヒビキ。

 その後を追うトドロキ。

フブキ「フッ……」

 微笑を浮かべて立ち上がり、ゆっくりと部屋を出ていくフブキ。

 

○同・店頭

 ヒビキ、トドロキ、フブキが地下から上がってくる。

 そこへ、入口の扉が開いて明日夢が入ってくる。

明日夢「……おはようございます」

 ヒビキ、明日夢に気付いて、

ヒビキ「おお、少年~! なんか久しぶりだなあ」

明日夢「あ、そうですね」

 嬉しそうに、目を合わせるヒビキと明日夢。

ヒビキ「で……、どした? しばらく店は休みだぞ?」

 楽しそうに問いかけるヒビキ。

明日夢「……あ、その、ちょっと今日は勢地郎おじさんに……」

 そう言って、奥を指差しながら歩を進める明日夢。

ヒビキ「そ、そっか……」

 自分に用じゃないのがちょっぴり残念そうなヒビキ。

 明日夢、奥への入口付近に立っていたフブキに遠慮気味に会釈をして、暖簾をくぐって中へ入っていく。

 ちょっとふくれっ面のヒビキ。

 フブキが話しかけながら、その前を横切る。

フブキ「……あのコ、いい目をしてるわね」

 ヒビキ、目を輝かせながらフブキの後を追う。

ヒビキ「あ! 分かりますぅ? さっすがフブキさん! いや、俺もね、前からこう……」

 ヒビキの言葉を聞いているのかいないのか、まっすぐ外へ出ていくフブキ。

 それにヒビキも続く。

トドロキ「……ア、アハ」

 トドロキ、その後を追って、にこやかに駆け足で外へ出ていく。

 

○同・地下作戦室

 勢地郎とみどりのいる部屋に、明日夢が入ってくる。

明日夢「……す、すいません」

 明日夢に気付いて顔を上げる勢地郎。

勢地郎「やあ」

みどり「明日夢君! どうしたの?」

明日夢「……あ、いやその……」

 モジモジと口ごもる明日夢、みどりに勧められて椅子に座る。

勢地郎「どうした? ……なんか、悩みでも……、あるのかい?」

 そう言いながら、ポットのお湯でお茶を入れて明日夢の方へ持ってくる勢地郎。

明日夢「……あ、どうも」

 明日夢、椅子に座ってお茶をすする。

 その様子を興味深く見つめるみどり。

明日夢「……おじさん! その、……鬼になるっていうことは、どういうことなんでしょうか?」

勢地郎「え?」

みどり「明日夢君! 君、ひょっとして!」

 身を乗り出すみどり。

明日夢「あ、いや! 別にそういうことじゃなくて……。その、鬼には一体何が大切なのかなって……。皆さんの生き方ってのをもっと知りたいって言うか……」

 勢地郎、ちょっと考えて、

勢地郎「……明日夢君、鬼っていうのはね、自然を愛し、人を愛するってことが大切なんだと思うよ」

明日夢「自然を愛し、人を愛する……」

勢地郎「そう。魔化魍ってのは、我々人間にとっては敵とみなされる存在なんだが、根本的に罪はないんだよ。まあ、ここ最近は悪意を持った何かが動いている様子はあるんだが、もともとは自然と人の濁った部分が傑出したものなんだよね」

みどり「だから、私たちが清めている、ってわけね」

 黙って聴いている明日夢。

勢地郎「鬼はね、その使命を果たすためには常に透き通った心を持っていなければダメなんだ。もちろん、鍛えた上でね」

 勢地郎の言葉を真剣な表情で噛み締める明日夢……。

 

○吉野本部・病室

 ベッドの上のあきら。

 以前、倒れてイブキに助けられた時のこと、今回再び魔化魍に取り憑かれて幽閉されたこと、そして、その危機をまたしてもイブキをはじめとする猛士の仲間たちが救ってくれたこと、そうした一つ一つの出来事を噛み締めて、瞼を閉じる。

 次第に感謝の気持ちが溢れてきて、それが涙となって頬をつたう。

 と、枕元にあった円形のディスクアニマルに手を触れ、彼らにも感謝の意を込めて顔に近付ける。

 祈るようにディスクアニマルを額に当てるあきら。

 と、一瞬不審な表情になる。

あきら「……え?」

 あきら、まだ自由がきかない上半身を必死で起こし、ベッドの上部に置いてあった鬼笛を取って唇に当てる。

 静かに鬼笛を吹くあきら。

 しかし、何故か音が出ない。

あきら「そ、そんな……」

 

○同・医療チーフの部屋

 机を挟み、向き合って話しているイブキと医療チーフ。

イブキ「先生、本当にありがとうございました」

 改めて頭を下げるイブキ。

医療チーフ「うむ。……しかし、大変なのはこれからだぞ」

イブキ「え?」

 立ち上がって、窓の方へ歩を進める医療チーフ。

 窓から外を眺めながら、

医療チーフ「天美さんの体から、魔化魍を完全浄化することは出来た。しかし、それと引き換えに、彼女は今まで培った能力を全て失ってしまったんだ……」

イブキ「な、何ですって……!?」

 驚いて椅子から立ち上がるイブキ。

医療チーフ「鬼と魔化魍の体質というのは、根本的には同種のものだ。あの鬼石は、そうした超常能力を無効化させる効果を持っていたので、魔化魍の核を追い出すとともに、天美さんの体を、普通の人間の体に戻してしまったんだ」

イブキ「そんなこと……」

 拳を握り締めたまま、沈黙してしまうイブキ……。

 

○四十六之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 病室で話すイブキとあきら。

あきら「ごめんなさい、イブキさん……。しばらく、一人にさせてください……」

 洋館近辺で戦う太鼓の戦士たち。

響鬼「おいでなすったか」

 たちばな地下で話す勢地郎たち。

勢地郎「もしやめる……ということになれば、それも仕方ないだろう……」

 四十七之巻『語る絆』

 

○提供ナレーション 栩原楽人



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四十七之巻『語る絆」

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。心配していた天美さんもなんとか助かって、ホッとしたのも束の間、鬼の人たちには最後の大仕事が残っているようです。そして僕も……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 四十七之巻『語る絆』

 

○提供ナレーション 栩原楽人

 

○たちばな・地下作戦室

 机を囲んで話す勢地郎、みどり、明日夢の三人。

勢地郎「……ヒビキとは、明日夢君自身の将来について、何か話はしたのかい?」

明日夢「いえ、ヒビキさんは何も……。ずっと前に、僕のことを弟子にするつもりはないって言ってましたし……」

 顔を見合わせながら、苦笑いする勢地郎とみどり。

勢地郎「ヒビキはね、ずっと明日夢君のことを見ているよ。鬼の弟子だとか、そういうことに関係なくね……」

 黙って頷く明日夢。

勢地郎「君が鬼を目指すかどうか……なんてのは、自分の意志で決断するもんだ。だから私達は何も言わないよ。……まあね、人のためになる仕事ってのは、世の中にはたくさんあるんだよね。鬼の仕事ってのは、その内の一つに過ぎないんだ。……ただ、他の仕事よりちょっとだけ危険が伴うけどね」

 真剣な表情で勢地郎の話を聞く明日夢。

みどり「明日夢君の人生だからね~。ま、私達は、歓迎するけどぉ……」

勢地郎「みどり!」

 厳しい目でみどりを見遣る勢地郎。

みどり「(舌を出して)あ、ゴメンナサイ」

明日夢「ア、アハハ……」

 和やかに笑い合う三人。

 

○吉野本部・病室

 ベッドの上のあきら。

 ボーッとした表情で、天井を見つめている。

 そこへ、病室のドアが開いてイブキが静かに入ってくる。

イブキ「……あきら。どうかな、具合は」

 あきら、イブキの方をチラッと向いて、

あきら「イブキさん……、はい、大丈夫ですよ……」

イブキ「そう……」

 言葉少なにベッドの横に座るイブキ。

 ふと、テーブルの上にある鬼笛に気付いて、取り繕うように片付けんとする。

 あきら、イブキの様子に気付き、天井を見つめたまま、

あきら「イブキさん。私に気を遣っていただかなくても、いいですよ……」

イブキ「……え!?」

あきら「私、分かってます。私はもう、力を失ってしまったんですね……」

イブキ「あきら……」

 悲しげな表情であきらを見るイブキ。

あきら「命を助けていただいたんですから、感謝しなくちゃいけないですよね……」

 次第に涙声になるあきら。

 何も言ってやることのできないイブキ。

 あきら、目をつぶり、

あきら「ごめんなさい、イブキさん……。しばらく、一人にさせてください……」

 あきらの頬を流れる大粒の涙。

 イブキ、歯を食いしばって立ち上がり、病室から静かに出ていく。

 

○洋館付近・山のふもと

 走ってきた不知火、砂塵を上げて停車。

 そこから降りてくるヒビキとフブキ。

 無言のまま、ヒビキは音角を響かせ、フブキは音笛を鳴らして変身動作に入る。

 炎と吹雪が同時に巻き起こり、二人が同時に鬼に変化!

 響鬼、腰から烈火をはずし、両腕に構える。

響鬼「……よし!」

 そこへ、左右から三人の男たちが近付いてきた。

 他の太鼓の鬼たちだ。

鋭鬼「来たぜ」

剛鬼「お待たせしました」

弾鬼「今度は俺の出番、あるんだろーな?」

 太鼓四人衆、並び立つ!

吹雪鬼「しっかりやんなさいよ」

 その声に振り向く弾鬼。

弾鬼「ゲッ! アンタも一緒か……」

響鬼「……行くぞ」

 いざ、洋館へと向かって歩き出す響鬼たち。

 

○謎の洋館

二階の部屋に座っている和服姿の男女。

男、何かにピクッと反応して、

男「……来たな? …………行け!」

男の目が、ピカッと光る。

 

○洋館前の林の中

 洋館に向かって小走りに進む響鬼たち。

 と、その眼前に立ち塞がったゴズキ&メズキ!

響鬼「おいでなすったか」

 襲ってくるゴズキ&メズキ!

 そして、響鬼たちと格闘戦になる!

 ゴズキには響鬼と弾鬼が、メズキには剛鬼と鋭鬼が立ち向かう!

 そして、両者のスキを伺い身構える吹雪鬼。

 やはりパワーで押される響鬼たち。

 四人の鬼は、ゴズキ&メズキの槍攻撃に傷つきながら吹っ飛ばされる。

響鬼「……クッ! やっぱりダメか。仕方ないな」

 響鬼、他の三人の鬼に目で合図する。

 四人の太鼓の戦士は、それぞれ音撃棒を体の前で交差させて気合いを溜める。

響鬼「ハァァァァァァァァ……!!」

 次第に変化していく四人の鬼の体。

響鬼「響鬼・紅(くれない)!」

弾鬼「弾鬼・新橋(しんばし)!」

剛鬼「剛鬼・瑠璃紺(るりこん)!」

鋭鬼「鋭鬼・天鵞絨(びろうど)!」

 響鬼は燃え盛る赤に、弾鬼は鮮やかな青に、剛鬼は透き通るような紺色に、そして鋭鬼は深みのある緑に全身を変化させた!

 強化形態だ!!

 そして、それぞれの音撃棒の先端に炎を宿し、ゴズキ&メズキに再び向かっていく!

響鬼「ハッ! ハッ!」

 四人の太鼓戦士の強力な威力を持つ音撃打が、ゴズキ&メズキに打ち込まれていく!

 その度にバチバチッ、バチバチッと皮膚が焼け焦げていくゴズキ&メズキ。

 徐々に動きが鈍くなってくる。

 そこを吹雪鬼が見逃さず、フルート型音撃管を縦に構え、ゴズキ&メズキに向かい鬼針を発射!

 ゴズキ&メズキ、それぞれの胸元に命中する鬼針!

 吹雪鬼、音撃管を横に持ち替える。

吹雪鬼「音撃射・流麗縛身」

 超音波のような音色を奏でる吹雪鬼。

 その音波を受け、ゴズキ&メズキの体がブルブルと震え出し、一瞬の金縛り状態となった!

響鬼「よし、今だ!」

 ゴズキ、そしてメズキに飛び込んでいく太鼓の戦士たち!

響鬼「灼熱真紅の型!」

弾鬼「破砕千岩の型!」

剛鬼「青炎剛打の型!」

鋭鬼「必中木賊の型!」

 ゴズキの前方から響鬼が、後方から弾鬼が、そしてメズキの前方から剛鬼が、後方から鋭鬼が必殺の音撃打!

 驚異の音撃五重奏だ!!

 強化音撃の波動がゴズキとメズキの全身に巡り、バッと炎に包まれたかと思うと、そのまま爆発!!

 ついに、ゴズキ&メズキを粉砕した!

弾鬼「やったぜ!」

 音撃棒を振り回す弾鬼。

 と、その時!

 五人は頭上に微妙な邪気を感じる。

 軽く頭を押さえる響鬼。

響鬼「……何だ?」

 見上げると、前方の木の枝に、和服姿の男女の姿が!

女「よくも……、よくも……」

男「……タダで済むとは思うなよ」

 

○たちばな・地下作戦室

 勢地郎とみどりのいる部屋に、香須実が駆け込んでくる。

香須実「……今、イブキ君から連絡があったんだけど! あきらクンが……、あきらクンが……!!」

 慌てる香須実に驚く勢地郎。

勢地郎「あきらがどうかしたのかい!?」

香須実「力を、失ってしまったって……」

みどり「そう……」

 香須実、冷静に受け止めるみどりの方を向き直り、

香須実「みどりさん! あなたみんな分かってて……、何だってそんな……!!」

みどり「あきらクンを救うためには、仕方なかったのよ……」

 香須実、ハッと口を押さえて、

香須実「……ごめん。……そう、そうよね。でなきゃ、助かってなかった……」

 涙を流す香須実。

 みどりは、必死に涙をこらえている。

勢地郎「……これで、あきらの張り詰めた糸が切れてしまうかどうかは、本人次第だ。……もしやめる、ということにっても、それも仕方ないことだろう……」

 沈黙する三人……。

 

《CM》

 

○吉野本部・治療施設の通路

 壁にもたれて話すイブキとバンキ。

バンキ「イブキ、命が助かっただけでも、良かったじゃないか」

イブキ「……はい」

 涙声のイブキ。

バンキ「あきらは……、鬼を目指すことをやめるって言うと思うか?」

イブキ「分かりません……。でも、僕は、あきらをどうやって励ましてやったらいいのか……」

 頭を抱えて下を向いてしまうイブキ。

バンキ「イブキ……」

 バンキもまた、イブキをなぐさめる術がなかった……。

 

○洋館前の林の中

 響鬼たちの前に現れた和服姿の男女。

 木の枝の上で身構えると、その体が邪悪な空気に包まれていき、二人の姿を変えていく!

 妖しく蠢く靄の中から姿を現した男は、尻尾が九本に分かれた狐のような姿に、そして女は、般若のような顔をした、人と獣のハーフのような姿に変化!

響鬼「とうとう正体を現したな」

弾鬼「あれが、おやっさんの言ってた……」

響鬼「キュウビと……、タマモだ」

 素早い動きで飛び降り、響鬼たちに襲いかかるタマモ!

 そしてキュウビは、地上の響鬼らを狙って口から炎の玉を吐く!

 音撃棒をタマモに打ち込んでいく響鬼たち。

 そして、音撃管で鬼針をキュウビに吹射する吹雪鬼。

 しかし、いずれも手応えなく、その体をすり抜けてしまう!

響鬼「何ィ~!?」

鋭鬼「どういうこった!?」

 なおも攻撃の手を緩めないキュウビとタマモ。

 不利と見た響鬼は、已む無く退陣命令を出す。

響鬼「いかん! 一旦退くぞ!!」

 断腸の思いで、敵に背中を見せる響鬼たち。

 恥も外聞もなく、全速力でその場から逃亡する!

 しかし、何故か追いかけてこないキュウビとタマモ。

弾鬼「……何だ!? やっこさんら、追っかけてこねーぞ!?」

響鬼「よく分からんが、こっちにとっちゃ好都合。……もっぺん出直しだ!」

 マシンの駐車場所へと、五人の鬼たちが駆けていく。

 

○たちばな・店舗前

 店の前で立ち尽くすひとみ。

 あきらを心配する気持ちと、明日夢が鬼を目指さんと葛藤している不安感が入り混じり、店に入るのを躊躇している。

 と、そこへトドロキが現れる。

 トドロキ、ひとみの姿を見つけて、

トドロキ「……ひとみ!」

ひとみ「(振り返り)あ、お兄ちゃん……」

トドロキ「(ひとみに近付き)どうしたんだよ、入んないのか?」

ひとみ「……うん、ちょっと……」

 悩んでいる様子のひとみ。

 トドロキ、頭を掻きながら、

トドロキ「ひ、ひとみ! ちょっと……、歩こうか」

ひとみ「え……?」

 ひとみを散歩に誘ったトドロキ、一人でサッサと歩き出す。

ひとみ「あ……」

 ひとみ、小走りにその後を追う。

 

○土手沿いの道

 並んで歩くトドロキとひとみ。

 ひとみは相変らず暗い表情。

 一方、トドロキは何と切り出せば良いのか考えあぐねて困惑の表情。

 トドロキ、意を決したように口を開く。

トドロキ「……ザ、ザンキさん、だいぶ良くなってきたんだ! もうすぐ退院だって」

ひとみ「そう……」

トドロキ「あ、いや……、その、……あきらクンのことなら大丈夫だって! イブキさんがついてりゃ、絶対大丈夫!」

ひとみ「うん……」

 しばらくの沈黙。

ひとみ「……ねえ、お兄ちゃん」

トドロキ「んん?」

ひとみ「お兄ちゃんは、どうして鬼になろうと思ったの?」

トドロキ「あ、ああ……。そうだなあ。なんて言うか、もっとこう、ストレートに人助けがしたくなったって言うか……。もちろん警官だって人助けする仕事なんだけど、猛士っていう組織の存在を知っちゃったら、もう後戻りできなくなってたって感じで、気が付いたらザンキさんに無理矢理弟子入りしてた気がするなあ……」

ひとみ「怖くないの?」

トドロキ「そりゃあ、怖いさ。(ここでようやく、ひとみが明日夢のことを考えていることに気付き)あ! その……、怖いことから逃げちゃダメなんだよ! ザンキさんに言わせれば、俺なんかまだまだなんだけど、人間を守るって大義名分があるんだから、怖くても逃げちゃダメなんだ。……まあ、自分に後悔したくないってのが、結局一番なのかもしれないけど」

ひとみ「後悔、か……」

 顔を上げるひとみ。

トドロキ「自分の道をしっかり歩いていけってね! あ、これはザンキさんの受け売りだけどね」

 笑うトドロキ。

 そして、つられて微笑むひとみ。

ひとみ「……ありがと。お兄ちゃん」

トドロキ「え!? いや~、俺は何も……。ハハハハ」

 照れて頭を掻くトドロキ。

 

○吉野本部・病室

 ベッドの上で、目を潤ませながら今までのイブキとの修行の生活を思い出すあきら。

 辛いことも、楽しいことも、いつもイブキと一緒に過ごしてきた……。

 あきらの目から、ボロボロと涙がこぼれ落ちる。

 そこへ、ノックとともに、イブキがゆっくりと入ってきた。

 あきら、目をこすってドアの方へ顔を向ける。

あきら「……イブキさん」

 イブキ、あきらにニッコリと笑いかけるが、その表情はぎこちない。

 そして、力なくあきらのベッドの横に座る。

あきら「イブキさん、私は……、私は……」

イブキ「……あきら、今は何も考えずにゆっくりとお休み。まずは体を治さなくっちゃね……」

 あきら、悲しげな表情とともに首を壁の方に向けて、沈黙する。

 イブキも、その仕草を見て沈黙してしまう。

 重苦しい空気が流れる室内……。

 あきら、目を閉じて溜まっていた涙を流し切る。

 そして、カッと目を見開いて、口を真一文字に結ぶ。

あきら「……イブキさん、もし良かったら」

イブキ「……え?」

あきら「もし良かったら……、(イブキの方にクルッと向き直り)私をもう一度、弟子にしてください!」

イブキ「あ……、あきら……」

あきら「私、一からやり直します。私の修行は……、私の修行はまだ終わっていないのです!!」

イブキ「…………」

 喜びと感動で涙を抑え切れないイブキ。

 照れ隠しに下を向き、

イブキ「……何を言ってるんだ」

あきら「え?」

イブキ「……僕は、君を破門にした覚えはないぞ?」

 明るい表情になるあきら。

イブキ「もう一度、一緒に頑張ろう」

 そう言って、あきらの右手をギュッと握るイブキ。

あきら「イブキさん……」

 見つめ合う師弟。

 その絆は、海よりも深く……。

 

○明日夢の部屋

 ベッドに寝転んで、ヒビキから貰ったコンパスを見つめる明日夢。

 明日夢の頭の中に、出会ってから今までのヒビキの言葉が浮かんでくる……。

「自分を信じること、それが、少年が少年であるための第一歩なんじゃないかな」

「鍛え足りなきゃ、鍛えるだけだ」

「男と男の話って言うかさ」

「少年は、俺と似たところがあるのかもしれないな」

「だから俺たちは、鍛えてるってことなんだけどさ」

「生きてりゃ何度も転んで、その度に色々なキズやアザを作ることになる。その都度這い上がらなければいけないわけだから、心を強く持っていないと」

そして、今一度オーバーラップする、ヒビキの言葉。

「自分を信じること、それが第一歩なんじゃないかな」

 ガバッと上半身を起こす明日夢。

明日夢「……よし!」

 明日夢、何かを固く決心したように、コンパスをジッと見つめる……。

 

○四十七之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 たちばな地下で話す猛士の面々

ダンキ「ヤツらの体に触れられなかったってのは、一体……」

 公園で話す明日夢とひとみ。

ひとみ「安達君は、大人になったんだね」

 たちばな地下で話す猛士の面々。

ヒビキ「お~し! んじゃあ、一丁やりますか!!」

 最終之巻『君の響き』

 

○提供ナレーション 栩原楽人

 



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最終之巻『君の響き』

○たちばな・地下作戦室

 勢地郎を中心に机を囲んで座っている、ヒビキ、ダンキ、ゴウキ、エイキ、フブキ。

そして少し離れて香須実と日菜佳。

勢地郎「やっぱり、キュウビとタマモだったか……」

ダンキ「ヤツらの体に触れられなかったってのは、一体……」

勢地郎「キュウビとタマモというのは、大いなる謀(はかりごと)によって発生する最強の魔化魍ということになっている。しかし、今まで千年以上の間、実際に出現したことはなかったんだな」

ゴウキ「それが何故、今になって……」

勢地郎「理由は分からないが、千年の年月の間に自然の邪気が日本の中心地であるこの場所に蓄積されて、その怨念が実体化したものなんだと思われるねぇ。だから、目には見えても、実際は実体のない魂の魔化魍なんだよ」

フブキ「では、物理的な攻撃は効かないってことですか?」

勢地郎「そうだ。倒す方法はただ一つ、怨念には、こちらも念の力しかない!」

 力を込めて言い放つ勢地郎。

ゴウキ「しかし、そんな観念的な攻撃なんて……」

勢地郎「君たち鬼には、強靭に鍛え抜かれた精神力がある。だから、怨念を打ち消す念波を生み出すことができるはずなんだ。ただ、その念波を魔化魍を清める音撃に転換させるためには、人間が持つ、最も強く、清らかな音の力が必要なんだ」

エイキ「最も強く、清らかな……音?」

 固唾を呑んで勢地郎を見つめる全員。

勢地郎「それは…………、『声』だ」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 最終之巻『君の響き』

 

○提供ナレーション 細川茂樹

 

○柴又近辺の公園

 ベンチに座って話す明日夢とひとみ。

ひとみ「安達君は、大人になったんだねぇ」

明日夢「え?」

ひとみ「私には無理だもん……、私には、できない……」

 ひとみ、ニコッと笑って、

ひとみ「ゴメンね、こないだはワガママな事言っちゃって。あ、安達君の人生だもんね。私がワガママ言っちゃ、いけないよねぇ……」

明日夢「持田……」

ひとみ「……私も応援しなくっちゃね! うん! ……私、安達君のこと……好きだからさ、ちゃんと応援してあげるよ! じゃあね!」

 そう言って、恥ずかしそうに走り去っていくひとみ。

明日夢「持田……」

 振り返り、歩き始めようとする明日夢。

 ふと立ち止まり、

明日夢「……え!? 今、何て言った!? お、俺のこと……」

 今になって顔を真っ赤にする明日夢。

 

○明日夢の自宅・和室

 こたつに入って話す明日夢と郁子。

郁子「……明日夢、アンタ、漫画家にでもなるつもり?」

明日夢「え? ……じゃなくって」

郁子「あのねぇ、そんな事あるわけないじゃないの! ……もう、何言ってんだか」

明日夢「ホントなんだってば! ……屋久島でも話しただろ? ……母さん、酔っ払ってたかもしれないけど……」

 表情を歪める郁子。

郁子「言われてみれば……、聞いたような……、そうでないような……」

 考え込む郁子。

明日夢「あの時、バケモノを退治した鬼が、ヒビキさんだったんだ……」

郁子「明日夢……」

 真顔になる郁子。

 しかし、すぐに立ち上がり、

郁子「……バカなこと言ってないで、早く宿題済ませちゃいなさい!」

 そう言って部屋から出て、襖をピシャリと閉める郁子。

明日夢「か、母さん!」

 ガックリと肩を落とす明日夢。

 と、襖の向こうから郁子の声が……。

郁子「……明日夢」

明日夢「……え?」

郁子「男が一度決めた道なんだったら、絶対挫けちゃダメよ。もし途中で投げ出したりなんかしたら、……母さん許さないんだから」

 そして、遠くなっていく郁子の足音。

明日夢「母さん……」

 

○たちばな・地下作戦室

 机を囲んで話を続ける勢地郎たち。

ダンキ「……声を音撃にだなんて、聞いたことないですよ?」

勢地郎「吉野で研究は進められていたんだ。で、今回の事件を受けて急ピッチに開発が進んで……」

ザンキ「こいつが出来上がったってわけだ」

 いつの間にか階段の下にいたザンキ。

ヒビキ「ザンキさん! ……いつ退院したんですか?」

ザンキ「ついこの間だ。で、退院した途端、こいつの運び屋をやらされたよ」

 そう言いながらザンキは、上部に念波発信器のついたヘッドセットマイク型の音撃転換装置を机の上に置いた。

ヒビキ「な、何ですかコレは?」

勢地郎「これを使えば、君たちの念波を声によって音撃に転換することができるんだ」

エイキ「へぇ~……」

 興味深そうに、装置を手に取るエイキ。

勢地郎「奴らがあの洋館から離れようとしないのは、奴らがあの土地が発生させた地縛的な邪魂だからだと思うんだ。恐らく、闇の鬼も奴らが作り出したものだろうから、もしかしたら、今はかなり力が弱くなっているのかもしれない」

ヒビキ「今がチャンスってわけですね?」

勢地郎「(頷いて)放っておくと、また邪悪な力を溜め込んでいく可能性もある。追い風の吹いている今、一気に叩かなくてはならない。……幸い、トドロキ君らの働きで通常の魔化魍発生が落ちついてきた。もうすぐイブキ君も帰ってくるので、ここは一つ、合同業務ということで……」

サバキ「俺を忘れるなよ」

 階段から現れたサバキ。

ヒビキ「サバキさ~ん! もう大丈夫なんですか?」

サバキ「ザンキが退院したってぇのに、俺がゆっくりしていられるか!」

 両手を広げて苦笑いするザンキ。

ヒビキ「お~し! んじゃあ、一丁やりますか!」

 

○渋川付近の山中ふもと

 凱火で山道を疾走するヒビキ。

 そして、平野部になったところへ凱火を止め、ヘルメットを脱ぐ。

 そこへ、トドロキの雷神がやってきて停車。

 降りてくるトドロキ。

トドロキ「ヒビキさん!」

ヒビキ「おう!」

 ヒビキ、凱火から降りて歩き出す。

 その左後方を、トドロキが歩く。

 と、前方にイブキの姿が。

イブキ「お待たせしました」

 ポーズを決めるイブキ。

 ニコリと笑ってポーズを返すヒビキ。

 そしてイブキは、ヒビキの右側に並んで歩き出す。

 すると、その左右から次々と戦士たちが現れる!

 サバキ、トウキ、エイキ、ダンキ、ショウキ、ゴウキ、バンキ、そしてフブキ。

 ついに勢揃いした十一人の鬼戦士!

 ヒビキを中心に、横一列に並んで歩を進める!

 真ん中にいるヒビキが、ゆっくりと音角を鳴らして額へと持っていく。

 同じように、他の十人の鬼もそれぞれの変身動作に入る。

 そして、十一人の鬼が同時に変身!!

 変身体となった、響鬼、威吹鬼、轟鬼、裁鬼、闘鬼、鋭鬼、弾鬼、勝鬼、剛鬼、蛮鬼、そして吹雪鬼が、気合いを一つにして洋館へ向かう!!

 

○謎の洋館

 洋館を取り囲む十一人の鬼。

 そこに漂う邪気は、ここにきてまた強力になっている。

響鬼「さて……、と」

 響鬼が上を見上げたその瞬間、辺り一帯が真っ暗闇に包まれた!

 そして轟く雷鳴!

 グラグラと揺れ始める洋館。

 そして、天井をブチ破って飛び出すキュウビとタマモ!!

轟鬼「うわっ!!」

 見ると、キュウビとタマモはその体を一体化させて、一回り大きくなっているではないか!

 大きくひと吠えするとともに、口から火炎玉を吐きまくるタマモキュウビ!

 上空から降ってくる無数の火炎玉を避ける十一人の鬼。

 なおも火炎玉を吹き続けるタマモキュウビ。

 そして、十一人の鬼はそれを巧みに避けながら、頭に音撃転換装置をセットしていく。

タマモキュウビ「フギャーーーーーオッ!!」

 大空に向かって、大きくひと吠えするタマモキュウビ。

 十一人の鬼たちは、その姿に神経を集中させて念じ始める。

 すると、十一人の鬼たちの頭上に、次第に念波のオーラが湧き出てきた。

 そしてそのオーラが、それぞれ大きな球体のようになって浮かび上がる!

 両手を胸の前で合わせながら、マイクロフォンを通してタマモキュウビに向かって叫ぶ十一人の鬼!!

十一人の鬼「音撃念・猛鬼声魂!! ハアアアアアアアアアアアアアア…………、ハアッ!!」

 十一人の鬼の清めの声とともに、十一個の光の球がタマモキュウビに向かって飛ぶ!!

 激しい閃光とともに、その光の球がタマモキュウビの体にブチ当たり、それは巨大な光の塊となって洋館もろとも包み込む!!

 余りの光の強さに目を伏せる十一人の鬼たち。

 そして、タマモキュウビは、洋館とともに激しく粉砕!!

 ついに、千余年に渡る長き邪念によって生まれた、強大な魔化魍の清めが完了した!

    ×   ×   ×

 辺りに青空が戻り、空き地と化したその場に集結する十一人の鬼。

鋭鬼「なんと、建物までが奴らの妖力のなせる業だったってことか……」

轟鬼「……恐ろしい奴らでしたね」

 顔の変身を解く十一人の鬼。

サバキ「……しかし、これで魔化魍が全滅したってわけじゃない。魔化魍ってのは、自然の力から生まれた悪しき存在。それを、自然の力を借りて我々鬼が清めていく」

ゴウキ「この世に人と自然がある限り、永遠に続く戦いってことですね」

トウキ「だからこそ、俺たちは常に鍛えて鍛えて、鍛え抜いておかねばならんのだ!」

腕を大きく広げて見得を切るトウキ。

ヒビキ「……んじゃあ、明日っから、また働きますか~!!」

 笑い合う十一人の鬼たち。

 空は、晴れやかに澄み渡っていた……。

 

《CM》

 

○たちばな

 忙しい店内。

 セカセカと動き回る香須実、日菜佳、そしてひとみ。

客「すいませーん」

香須実「……あ、はーーーい!」

別の客「あ、お茶もらえる?」

日菜佳「あああ、ハイハイ!」

また別の客「すんません、お勘定!」

ひとみ「た、ただいま参ります!」

 バタバタと働く三人。

 奥からその様子をチラッと覗き込む勢地郎。

 勢地郎、顔の前に右手を立てて謝るような仕草をし、そそくさと地下へと下りていく。

 

○同・地下作戦室

 階段を駆け下りてくる勢地郎。

 部屋の中央に座っていたのは、フブキ。

勢地郎「いやあ、お待たせお待たせ!」

フブキ「すいません、忙しいところを……」

勢地郎「いやいや」

 そう言いながら、フブキの正面に座る勢地郎。

勢地郎「……で、何だい? 話って」

 フブキ、一度下を向いてから、キッと顔を持ち上げて、

フブキ「私、…………引退します」

勢地郎「ええ!? ホントかい!?」

フブキ「はい。……音楽の方をね」

 勢地郎、ちょっとホッとした表情で、

勢地郎「……ああ、……そう」

フブキ「才能に溢れてるって罪ですよね。まあでも、猛士にはまだまだ私が必要でしょうから」

勢地郎「そ……、ああ、そうね……」

 何とも答えづらい勢地郎。

 それを見て、思わず吹き出すフブキ。

 そして、和やかに笑い合う二人。

 

○同・地下研究室

 バンキ、みどりと一緒に新しい武器の実験中。

みどり「バンキ君、ちょっと、そこのドライバー取って」

バンキ「あ……、はい」

 バンキ、みどりに道具を渡しながら、

バンキ「……みどりさん、なんか俺のこと助手みたいに思ってませんか?」

みどり「え? ……なーによ、やあねぇ。そんなことないって! ……あ、バンキ君、そろそろモニターつけといてね」

バンキ「……ハイハイ」

 疑問を抱きつつも、みどりに従うバンキであった。

 

○藤岡山中

鋭鬼「必殺必中の型!」

 オオアリに音撃打を決めていく鋭鬼。

鋭鬼「イヨッ!」

 華麗なバチさばきで鼓を打ち、オオアリを撃破!

 鋭鬼、音撃棒・緑勝をクルクルッと回しながら、

鋭鬼「オオアリ倒して、今日はもうオーワァリっと! ……今イチかな」

 首を捻りながら、一人テントに戻っていく鋭鬼。

 

○毛呂山の沼

弾鬼「今だ! 勝鬼ィ~~!!」

勝鬼「はい!」

 音撃管・台風を吹き鳴らす勝鬼。

 激しい振動とともに、ウブメの体にその波動が響き渡り、爆発!

 弾鬼、勝鬼の方へ近寄っていき、

弾鬼「決まったな、フォーメーションG!」

勝鬼「え? 今のはフォーメーションEですよ?」

弾鬼「何ィ~!? 違うだろ! Eは俺がこう打ってから……」

勝鬼「だから、それがGなんですってば!」

 相変らず、息ピッタリの二人であった。

 

○山道

 専用車両で移動中のゴウキ。

 運転席には、サポーターであるゴウキの新婚妻が。

ゴウキ「今日は、こことここを廻って……」

 助手席で地図を確認するゴウキ。

ゴウキの妻「ねぇ……」

ゴウキ「ん?」

ゴウキの妻「私、ちょっと休みを取らなきゃいけないわ」

ゴウキ「……え!? 何で?」

 驚いて妻の方を見るゴウキ。

ゴウキの妻「……だって、……デキちゃったんだもん」

ゴウキ「え……、ええええええっ!?」

 いつも冷静なゴウキだったが、興奮して持っていた地図を破り割いてしまう。

ゴウキの妻「ちょ、ちょっとあなた!」

ゴウキ「あ! ゴメンゴメン……」

 慌てて地図を元にくっつけようとするゴウキ。

 新たな幸せとともに、目的地へと向かっていくゴウキ車両。

 

○河川敷の土手

 トウキが、弟子である息子に式神操作の指導をしている。

トウキ「いいか、このタイミングで集中力を高めるんだ……」

 トウキの動作を手本に、ゆっくりと鬼笛を吹く息子。

 そして、手に持っていたディスクアニマルがポーンと飛び出して、アニマル型に変型!

トウキの息子「やった! やったよ、父ちゃん!!」

 喜び勇んでディスクアニマルに駆け寄るトウキの息子。

トウキ「よし! その調子だ。しかし、まだ波長が弱いぞ~?」

 息子の成長に顔をほころばせるトウキであった。

 

○大洗の海辺

 ディスクアニマルをチェックしているサバキ。

サバキ「お、当たりか! ……いっちょ行ってくるぜ!」

石割「あ、サバキさん! 無理しないでくださいね」

サバキ「何言ってる! 大丈夫大丈夫!」

石割「でもサバキさん、巷じゃあ、サバキさんもいよいよ引退かな~なんて噂がチラホラ出てますよぉ?」

 ニヤニヤ笑いながらサバキを見る石割。

サバキ「ムッ!」

 サバキ、怒りの表情で走りながら音錠を鳴らせて変身!

 そして、閻魔を手に持ち、

裁鬼「この俺の辞書に、『引退』という言葉はなーーーーーい!!」

 大きくジャンプし、必要以上に力を鼓舞する裁鬼であった。

 

○三浦半島海岸

轟鬼「音撃斬・雷電激震!」

 バケガニに刺した音撃弦を力強い指さばきで奏でる轟鬼。

 そして、バケガニが四散!

轟鬼「フゥ……」

 顔の変身を解いたトドロキの下へ、ザンキが歩いてくる。

トドロキ「あ、ザンキさん! ……お疲れッス!」

ザンキ「おお、お疲れ。……ところでトドロキ、最近、もうアレやんないのか?」

トドロキ「ア……、アレ?」

ザンキ「ほら、アレだよ。清めの……」

 そう言って、ギターを弾く仕草をするザンキ。

トドロキ「ああ、アレですか! いやあ、もうそんな事してらんないかなあって……」

ザンキ「何だ、残念だな。せっかく用意してきたのに」

 ザンキ、そう言って背中から練習用の音撃弦を取り出す。

トドロキ「……ザ、ザンキさ~~~ん!!」

 喜色満面のトドロキ。

 ちょっと照れ笑いするザンキ。

 そして二人は、目でタイミングを計り、清めのギターをかき鳴らし始める。

 二人の清めのギターセッションが、海岸に鳴り響く……。

 

○吉野本部・病室

 ベッドで資料に目を通しているあきら。

 そこにイブキが入ってくる。

イブキ「どう? 調子は」

あきら「あ、イブキさん!」

 あきらの傍らに座るイブキ。

イブキ「何読んでたの?」

あきら「まずは知識のおさらいと思って、魔化魍の出現条件を復習してました」

イブキ「そっか……。無理しちゃダメだよ、まずはしっかり体力をつけて」

あきら「はい」

 イブキ、立ち上がり、窓の方へ歩いて外を眺める。

イブキ「いい天気だなあ……」

 あきら、照れくさそうな表情で、

あきら「……イブキさん」

イブキ「ん?」

あきら「……本当に、……いつもありがとうございます」

イブキ「……どういたしまして!」

 イブキ、ニッコリ笑ってあきらに向かって銃撃のポーズ。

 目を丸くして微笑むあきら。

 そして病室に差し込む、希望の光。

 

○柴又近辺の公園

 ベンチに座っているヒビキと明日夢。

ヒビキ「少年と会って、そろそろ一年になるなあ……」

明日夢「……そうですね」

ヒビキ「学校の方はどうなんだ? ドラムの練習、しっかりやってるか~?」

明日夢「え、ええ……、まあ……」

 返事がぎこちない明日夢。

 明日夢の気持ちに気付いているのか、敢えてつっこまず、前の方を見て笑っているヒビキ。

 しばらくの沈黙。

明日夢「……ヒビキさん!」

ヒビキ「ん?」

 明日夢、ヒビキの方に向き直り、ジッと目を見て……、

明日夢「僕を……、僕を…………、弟子にしてください!!」

 ヒビキ、明日夢の真剣な眼差しを感じ取り、ニコッと笑ってまた前を向く。

ヒビキ「……しょ~ね~ん~来~た~よ♪ 弟~子~入~り~来~た~よ♪ よ、よ、よ、よ、よよよよよよよよ……、よろしくな……っと!」

 かえるの歌で明日夢に返答したヒビキ、明日夢の目をしっかりと見つめて、

ヒビキ「修行の道は、厳しいぞ? ……しっかりついてこい! ……明日夢」

 明日夢、目を輝かせて、

明日夢「……はい!!」

 ヒビキ、立ち上がって大きく伸びをしながら、

ヒビキ「よ~~~し! じゃ、まずラジオ体操だ! いくぞ明日夢~~!!」

明日夢「ええっ!? ……は、はい!!」

 

○『少年よ』フルコーラス

 この間、一之巻から最終之巻の名場面が順々に映し出される。

    ×   ×   ×

 まるで透明になったみたい

 ぜんぶ 自分をすり抜けていく

 そんなふうに 感じてたのかい?

 少年よ 旅立つのなら

 晴れた日に胸を張って……

 

 Hit the beat!  Keep your beat!

 心が震える場所 探して

 Hit the beat!  Keep your beat!

 誰にも出来ないこと 見つけ出せ

 

 それが君の響き

 

 なぜか空っぽになったみたい

 ぜんぶ 無意味に思えてしまう

 そんなふうに 世界が見えたかい?

 少年よ 旅に出たなら

 雨も降る、顔を上げて……

 

 Hit the beat!  Keep your beat!

 心が響いた鼓動 信じて

 Hit the beat!  Keep your beat!

 誰でもない自分の生き方で

 

 それが君の響き

 

 歩き疲れた道の途中で

 思い出すもの 夢にみるもの……

 

 Hit the beat!  Keep your beat!

 心が震える場所 探して

 Hit the beat!  Keep your beat!

 誰にも出来ないこと 見つけ出せ

 Hit the beat!  Keep your beat!

 心が響いた鼓動 信じて

 Hit the beat!  Keep your beat!

 誰でもない自分の生き方で

 

 それが君の響き

 

○フェリーの甲板

 風が吹く中、フェリーの甲板に立つヒビキ。

 隣には明日夢。

ヒビキ「ヨッ!」

 船上の外通路へと飛び降りるヒビキ。

 ヒビキ、振り向いて、

ヒビキ「結構、鍛えてます。……ハーーーックショイ!!」

 

○仮面ライダー響鬼 完



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