新機動闘争記ガンダムW LIBERTY (さじたりうす)
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ファースト・オペレーション
エピソード1 「マリーダが見た流星」



初めまして、さじたりうすです。本作は、ガンダムの世界観の一つである、宇宙世紀の世界観に、00的にW系のガンダムを主に介入させるスタンスの話しになってます。

Wガンダム系のガンダムが宇宙世紀にアグレッシブに武力介入してやらかす感じです。

あと、ヒロインはマリーダです。原作のDVD見て彼女の結末が不満でした。彼女自身は悟りの境地に着いた………んですが、やはり観てるこちらからすれば腑に落ちない…

要は彼女に萌えてたんです。ですから「萌える」マリーダを「燃える」ヒイロに救済させてもらう………

私的文になってしまい申し訳ありませんが、 W、宇宙世紀共に、原作好きの方はその点を御了承ください。

小説も初心者故に、読み苦しいかと思います。その点もまた御了承ください。


それではどうぞ。


宇宙世紀0079。人々が宇宙に進出し、スペースコロニーに生活圏を広げてから約80年の月日が経とうとする時代。

 

だが、人々が予想していた宇宙生活の希望は次第に折れ曲がり、平和とは名ばかりの地球連邦軍による力による支配下に変わっていった。

 

この情勢に対し、ジオン・ズム・ダイクンとヒイロ・ユイという二人の指導者が立ち上がった。

 

彼らは宇宙移民者・スペースノイドの自治権確立と地球圏の完全平和主義を掲げ、武器を持たない闘いを地球連邦に対して臨んだ。

 

強力な指導者を得たコロニーのスペースノイド達は、苦しみながらも闘い、自由と平和への活路を見いだそうとしていた。

 

しかし、それも僅かな期間であった。

 

ジオン・ズム・ダイクンとヒイロ・ユイは大富豪・ザビ家の謀略により暗殺された。

 

ザビ家はジオンの名を騙り、ジオン軍を立ち上げ、表向きの自治権確立を語り、地球に宣戦布告した。

 

ここに人類史上初の人型兵器・モビルスーツ(以下MS)を運用した地球圏での戦争が開戦したのである。そしてこの戦争が皮切りとなったかのごとく、デラーズ紛争(0083)、グリプス戦役(0085)、ペズンの反乱(0086)、第1次・第2次ネオジオン抗争(0086~0088)と、地球圏規模の戦争が断続的に行われていった。

 

繰り返し行われる人類の所業は変わることなく続き、多くの犠牲者を出しながら歴史を残して時が流れる…。

 

ようやく戦争が終結を迎えても尚、地球連邦はスペースノイドの自治権確立を許さず、支配体制を頑なに継続。更には反抗勢力の討伐に踏み切る。

 

ジオン軍残党軍、ネオジオン残党軍、その他反抗勢力に関係するものは力による討伐。更には、ニュータイプと称される、宇宙環境で変革した人間、又はそれらを模して強化された人間に対して、非人道な所業が連邦の手によって行われていた。

 

戦争から支配と弾圧に切り替わり、更なる混沌が地球圏を覆った。

 

だが、決して反抗の芽が無くなることはなかった。

 

物語は宇宙世紀0095年より始まる……。

 

 

 

L(ラグランジュ)3コロニー群の一角のコロニー・X18388。このコロニーの港に一隻の貨物艦の姿があった。

 

ネオジオン残党の偽装貨物船・ガランシェール。文字通り、偽装貨物船であり、主に仲間の勢力に物資の提供をするのが、この船の任務である。

 

物資は武装関係の物はもちろん、生活における物資も提供している。偽装どころか半ば本物の貨物船だ。

 

物資の積み降ろしをする作業風景はなんだ違和感がない。

 

髭を生やした大柄の中年男性が、ガランシェールの搬入口で、ネオジオンの関係者とやりとりをしていた。

 

男の名は、スベロア・ジンネマン。ガランシェールの艦長を勤めている、部下からの人望も厚い男だ。

 

「いつもの物資はこれで全てだな」

 

「そうっすね。旦那にはいつも世話になりますぜ」

 

ジンネマンは伝票を懐にしまいつつ、穏やかに答える。

 

「なに…御互い様だ。持ちつ、持たれつってやつだ。」

 

「同感すね。何せ潜伏ってのはどうも釈然としませんよね。堂々としたいもんです」

 

「そいつがまかり通れば苦労はせんさ…」

 

短い世間話が流れたあと、ネオジオン関係者の男は、話しを重要な方向へ変えた。

 

「ははは……それで、話しが変わりますが…例の機体の事なんですけど、受け渡し場所が急遽変更になりやして…」

 

「何?連邦の監視が強まったのか?」

 

眉を細めるジンネマン。連邦の監視の風当たりが強まった事と確信した。だが、次に出てきた答えが、それを覆す。

 

「いや、実はまことしやかな噂ですが……受け渡し予定だった場所のコロニーに、我々ネオジオン以外の反乱分子がいるっていう情報がこちらに入りましてね。連邦のガサ入れに巻き込まれる危険性を考えると…」

 

反乱分子の存在は、ネオジオンやジオン軍だけではなく、宇宙、地球問わず各地に存在している。故に連邦のガサ入れも珍しくない。

 

ジンネマン達、ネオジオン残党はその厳重な状況の間に潜みながら反抗の機会を伺っているのだ。

 

「そうか……今はオペレーション・ファントムの前だ。確かにいざこざを起こす訳にはいかんな……承知した」

 

ジンネマンが口にした「オペレーション・ファントム」。それは各地にいるネオジオン、及びジオン軍残党軍による連邦軍への一斉蜂起の作戦だ。

 

連邦軍が拠点を置くセネガルの首都・ダカールに攻撃を加え、それを皮切りに同時多発的に連邦の基地を破壊して大打撃を加えようという作戦だ。

 

彼ら自信、無謀・無茶は承知の作戦だ。しかし、これ程の事をしなければならないほど連邦の愚行は荒んでいた。

 

とあるコロニー。ここには難を逃れたネオジオンの残党軍が駐留していた。コロニー内にテントを張り、各兵士達が久しぶりの安息に着いていた。

 

珈琲やタバコで一服する者。家族共々逃亡してきた者。次の行動を会議する者……様々な表情が野戦キャンプにはびこる。

 

周辺の自治体の者達が、物資や食料を支給する姿も見られた。同じスペースノイド故に、今を生きるジオン軍の苦しみを理解しての振る舞いだ。

 

ネオジオンの量産型MSであるギラドーガや、ガザC達がそびえ立っている下にその光景が広がる。

 

暗黙の了解でこのような振る舞いをするコロニーも珍しくなかった。

 

兵士と戯れる子供達。MSのコックピットを見せてもらっている少年達。そこには人としてあるべき光景があった。

 

しかし、それを否定するかのように、連邦軍の量産型MS・ジェガンが降り立つ。

 

青ざめるネオジオン兵や民間人達。ゴーグルのようなカメラアイを発光させてジェガン部隊はビームライフルを構える。

 

そして、警戒を促さずに発砲。容赦のないビームの斉射が人々を無差別に襲った。

 

無防備状態のMS達が何発ものビームに打ち砕かれて爆発。先程の少年達も、兵士達の巻き添えとなる。

 

ビームの流星弾雨が降り注ぎ、老若男女問わず虐殺されていく。非情なまでに連邦軍は反乱分子に対しての対処を徹底していた。

 

場所が変わり、とあるエリアの廃棄コロニー。ここでは、ネオジオンの艦隊が身を潜めて物資の調達を待っていた。

 

ムサカ級戦艦一隻とエンドラ級戦艦二隻が無重力の中のコロニー内に駐留している。

その周囲には、警戒にあたるギラドーガや、ミサイル支援型のMS・ズサの部隊が時折特徴的なモノアイを左右に動かしながら漂う。

 

その時、一機のギラドーガのモノアイが高速で点滅した。直後、ビームマシンガンをジャキンと構える。

 

敵機を捕捉したのだ。一斉に確機が戦闘体制に移行する。MS部隊が警戒する方角には、連邦軍の巡洋艦・クラップ級戦艦が二隻進攻してきていた。

 

クラップからは、ジェガンや強化されたスタークジェガン部隊が展開を開始。事態は戦闘体制に入った。

 

ビームマシンガンやミサイルの斉射がネオジオンサイドから放たれる中、連邦サイドからも、ビームやバズーカが斉射される。

 

静寂を破壊する戦闘。飛び交う攻撃がコロニーの外壁を刺激する中、ムサカとエンドラが戦闘体制に移行し動き出した。

 

可動する砲塔。だが、クラップ級のメガ粒子砲が先手を打ち、コロニー内に注がれる。

 

その攻撃の直撃を動力炉に受けて、エンドラが爆発。

 

ムサカともう一隻のエンドラがこの爆発に巻き込まれ大破。更なる爆発が連鎖してMS部隊が巻き込まれていく。

 

蹂躙とも言えるこれらの連邦軍の行動は、珍しいものではない。故にネオジオンを始めとする反乱分子が後を絶たないのだ。

 

戦争、弾圧、反乱、弾圧、反抗…悪循環の情勢下が混沌を繋げていく。

 

ジンネマンの言うオペレーション・ファントムもまた悪循環に加担しているのも否定できない事実なのである。

だが、どの勢力も己の信じる大儀、思想を掲げている姿勢があるのもまた事実なのだ。

 

一段落のやりとりを終えたジンネマンが、ガランシェールのブリッジに戻る。艦長座席に着くと共にジンネマンは航行士のフラストに指示を出した。

 

「例の機体の受け渡し場所が変更になった。変更場所はL1コロニー群の廃棄コロニー、D2866だ。フラスト、座標をナビに出しとけ」

 

「了解…」

 

「舵とり、気合いれてけ…ギルボア」

 

「そいつは、常に入ってまっせ!!任してください!!」

 

「ははは…違いない!よし!!ただちに出港する!!ガランシェール出せ!!」

 

出港するガランシェール。その艦内の一室で、頬杖をつきながら外の景色を見る、ネオジオンの軍服を着た女性がいた。ライトブラウンの髪を中間で束ねたヘアースタイルが印象的だ。

 

彼女の蒼い瞳にコロニーから宇宙に出る瞬間が映る。

 

その視線に何を想うかは彼女しかわからない。

 

彼女がふぅっと前髪をかきあげた時、ジンネマンからの室内通信が入る。

 

「マリーダ。今、いいか?」

 

「はい」

 

「お前が乗る、例のMSの受け渡し場所が変わった。今からL1コロニー群へ向かい、そこで受領することになった。もうしばらくくつろいでてかまわんぞ」

 

「了解、マスター」

 

ジンネマンをマスターと呼ぶマリーダ。だが、ジンネマンはこの呼ばれ方をよくは思っていなかった。

 

「マスターはよせ。娘が父親に言う呼び方じゃないぞ。何度も言わせるな」

 

マリーダはジンネマンの養女だった。故にマスターの呼び方で呼んでもらいたくはないのだ。

 

マリーダは目を閉じて謝る。

 

「すみません、マスター」

 

「あのな……まぁ、またあとでな。とにかく休め」

またしてもマリーダはマスターと呼ぶ。ジンネマンは座席にもたれ、マリーダを想う。

 

「ふぅ…いまだにマリーダのネオジオン抗争の呪縛は解けんのか…」

 

「また、マスターでよばれちゃいましたか?キャプテン?」

 

操舵操作をしながら、操舵士のギルボアがジンネマンに視線で振り返りながら言った。

 

「まあな…あの汚れた裏社会から連れ出して数年…せめてこの先は救われていってもらいたい」

 

「同感です。理不尽に創られた、かつてのクローン兵士の生き残りですからね…ですが、今のマリーダは幸せだと思いますよ。キャプテンが父親なんですから」

 

「ははは…フラスト、それこそよせ」

 

話に便乗するフラストに下手な照れ隠しをして笑うジンネマン。彼の記憶にマリーダと出会ってからの日々を想う。

 

マリーダはかつてのネオジオン抗争で闘ったニュータイプ部隊の生き残りであり、当時のネオジオンが作ったニュータイプ少女・エルピー・プルのクローンシリーズであった。

 

彼女達は闘う為に産み出された存在。女性らしい生き方は皆無とも言うべき運命に囚われていた。

 

かろうじて戦乱を生き残った彼女であったが、戦後は身体を裏社会に売られ、幼い少女の娼婦として苦痛の人生を送ることとなる。

 

そこへ、人道的な行動を起こしたジンネマンによって保護され、彼の養子となったのだ。

 

マリーダはじっと頬杖をつきながら、外の広大な宇宙の景色を見つめていた。所々には円筒形のスペースコロニーが浮かぶ。人類の宇宙生活の要かつ代名詞である。

 

進むにつれて過ぎ去っていくコロニーを見つめながらマリーダは、静に呟いた。

 

「オペレーション・ファントム……簡単に言えば、新型機で連邦に大打撃を与え、かつ地球圏の同胞を手助けする作戦……か……」

 

オペレーション・ファントムを前に、彼女なりに色々な物事を考える。少なくとも無茶な作戦は確かであった。マリーダ自身は忠実に貫く一心でいた。

 

各地で蹂躙される同胞達。彼らが連邦に長きに渡り反目するのは、宇宙移民者の公正な国家と自治権確立故なのだ。

 

マリーダもその志に賛同している。それ以前に慕う主がその志を持ってる故であるが。

 

「この情勢で無謀な作戦なのは解っている。どんな作戦だろうと、マスターの為に闘う。任務こそが私の存在意義だ………」

 

マリーダはそう呟きながら、姿勢を変えて頬杖をついて目を閉じた。

 

過去を回想するマリーダ。脳裏にはネオジオンの小惑星要塞・アクシズの宙域で起きていたネオジオン同士の内乱のビジョンが浮かんでいた。

 

ビームの斉射が唸り、爆発の光球が絶え間なく空間に現れ消えていく。

 

その最中、ニュータイプ用MS・量産型キュベレイの部隊が闘う。ハンドランチャーを連射し、同時にニュータイプの遠隔射撃兵器ファンネルを射出して、ターゲットのガルスJやズサ部隊を攻撃する。

 

適格な命中率で、次々と敵機の装甲を射貫くキュベレイ部隊。当時のマリーダも、空間の激戦が表示されるコックピットに身を投じていた。

 

この時のマリーダのコードネームは、プルトゥエルブ。すなわち12番目のプルであった。彼女の姉妹達の声がコックピットに響いた。

 

「敵部隊撃破!!次の新手が来るよ!!」

 

「私達は強い!!とことん見せつけてやろう!!」

 

「ああ!!ファンネルで仕留めるぞ!!」

 

「あまり突っ込みすぎるなよ!!」

 

姉妹が呼び掛けあって闘う。キュベレイ部隊はシンクロしてファンネルを展開。攻撃に移項する。だが、相手もまたファンネルで反撃に出る。強化人間が操るMS・ゲーマルクだった。

 

ゲーマルクは怒濤の勢いで彼女達の部隊に突っ込んできた。ゲーマルクのファンネルがキュベレイ部隊を狙い撃つ。

 

唸る重斉射。キュベレイ部隊は機動性を生かしてかわしていく。

 

「っ!!こいつ!!」

 

プルトゥエルブは、ビームをかわしながらゲーマルクを睨んだ。だか、更にゲーマルクは全身に装備されたメガ粒子砲を乱射し始める。

 

高出力のおびただしいビーム。重斉射音を響かせ発射されたビームが1機のキュベレイを仕留める。

 

「きゃああああっ――――!!?」

 

キュベレイの装甲が粉砕され、爆発音と共に姉妹の悲痛な悲鳴がプルトゥエルブの耳に響いた。

 

更にファンネルのビームがキュベレイを穿つ。

 

「っっ私達がっ……負けっっ……ああああああっ―――!!!!」

 

怒濤の攻撃は連続でキュベレイを襲う。手から胸から連射されるメガ粒子の束がプルイレブンのキュベレイを破壊した。

 

爆発の中に次々と消えていく姉妹達。やるせない気持ちがプルトゥエルブの唇を噛みしめさせる。

 

言い切れぬ怒りがファンネルにも呼応し、ゲーマルクを撃つ。ダメージを与えたが、ついにプルトゥエルブのキュベレイをファンネルが襲う。

 

左腕とファンネルコンテナに直撃。激しい衝撃がコックピットに走った。

 

「うああああああ!!!」

 

自分の死を覚悟した。ダメージによる誘爆の恐怖が覚悟を振れさせる。

 

死にたくない。その一心が芽生える。

 

だか、容赦なくゲーマルクが突っ込んできた。

 

その時だった。プルテンが乗るキュベレイが、両腕からビームサーベルを発生させてゲーマルクに突っ込んだ。

 

ゲーマルクに突き刺さるビームサーベル。同時にキュベレイにもゲーマルクが発生させたビームサーベルが突き刺さる。

 

その時、プルトゥエルブのコックピットにプルナインからの通信が入った。最早最後の会話であることは火を見るよりも明らかだった。

 

「プルトゥエルブ……なんだかんだでアタシが一番突っ込みすぎたね……もうあんたは逃げな!!アタシ達の代わりに生きて!!!!」

 

プルナインのキュベレイは刺し違えるようにしてゲーマルクと共に爆発した。

 

「っ………!!みんな………!!」

 

一瞬で先程まで闘っていた姉妹達が死んだ。戦乱の中、プルトゥエルブは哀しみで戦意が無くなり、その場をプルナインの遺言通りに逃げるように離脱した。

 

その後、プルトゥエルブはとあるコロニーに行きつき、コロニー内をさ迷った。

 

闘う為に産まれた彼女は存在意義を無くしさ迷う。

 

そして、流れ着いた先には10代で幼くして娼婦に成り下がる運命が待っていた。

 

毎日、不特定多数の男を相手にし、妊娠中絶を繰返しながら、女性としての生活は哀しいまでに無くなった。

 

そこへジンネマンの暖かい救いの手が彼女を救った。

 

そして、マリーダ・クルスという名をもらい、再びパイロットとして、そして女性としての人生が始まったのだ。

 

一連のこれまでの人生を振り返りながら寝てしまったマリーダは再び瞳を開ける。

 

場所は既にL1宙域に来ていた。

 

「寝てしまったか……もうL1なのか?」

 

浮かぶコロニーの景色をぼんやり眺めるマリーダ。

 

その時、長方形の箱のような形のMS輸送艦とガランシェールがすれ違う。

 

「っ!!?」

 

マリーダはこの瞬間に不思議な感覚を感じる。強いて言葉で現せば、感覚的に誰かに惹かれるとでもいうのか。ぼやけた意識が瞬間的に覚醒した。

 

「何だ?この感じは?!」

 

ニュータイプは、時折直感的な感応が鋭くなる時がある。不思議な空間に身を投じて直接会わずとも会話できたり(ニュータイプ同士に限る)、予知的、あるいは運命的なものを感応できるのだ。

 

マリーダが感じたのは、運命的な感応だった。通り過ぎていく 輸送艦を目で追う。

 

「それにしても……嫌な感覚じゃない。一体なんだ……鋭いけども優しさも感じる。不思議だ……」

 

瞳孔に映したL1宙域で感じたこの感覚は、マリーダの脳裏に深く刻まれた。

 

「誰が乗っていたのだ……あの船に?」

 

マリーダは過ぎ行く輸送艦に視線を送り、軽く疑問符を投げ掛けた。

 

すれ違っていくその輸送艦内には二人の少年だけが乗っていた。一人は、腕組みしながら前を見据えるナイフのように鋭い雰囲気を宿す美少年。もう一人は操縦レバーを握る、三つ編みのおさげがトレードマークの陽気な雰囲気の少年だった。

 

三つ編みの少年が、操縦しながらサイドシートで腕組みする少年に陽気に話かける。

 

「ヒイロ!!最終段階だぜ!!始まるな、オペレーション・メテオがよ!!」

 

「ああ」

 

かつての指導者ヒイロ・ユイと同じ名前の少年は、単調な返事だけをする。対し、三つ編みの少年は絶えず喋る。

 

「散々コロニーを好き勝手しくさりやがった連邦の連中を『俺達のガンダム』で叩く!!考えただけでも爽快だよなぁ!!」

 

「……各コロニー、資源衛星で造った俺達のガンダムで地球に一斉降下し、連邦の主要基地・施設を叩く。これがどういう意味かわかるか?デュオ」

 

三つ編みの少年の名はデュオ・マックスウェル。ヒイロに対して、非常に明るい少年だ。

 

「ああ!世界を敵にまわすに等しい!!軍規模のジオンの連中でも成しえなかった連邦を叩くんだからな!!」

 

「ただ叩くんじゃない。例の組織殲滅が最終目的だということも忘れるな」

 

「おっとそうだっけな!!けどま、順序は大事だ。まずは連邦に一、二泡吹かせてやろーぜ!!」

 

ヒイロ 「……」

 

輸送艦の格納庫には、翼を持ったガンダムと死神のようなガンダムが搭載されていた。だが、薄暗い為に全貌はよく見えていない。

 

ガンダムは元々連邦の強力な軍事兵器であり、伝説的な兵器であった。だが、彼らの保有するガンダムは一線を画す存在であり、連邦のガンダムとは別次元の兵器であることは強調しておこう。

 

ヒイロ達は先程までマリーダ達がいたL3を目指していた。

 

連邦の目を盗みながらL3の資源衛星MO-3には各コロニーよりガンダムが集結していた。

 

内部のドックにはヒイロ達の輸送艦と同型艦が到着していた。

 

更にその奥には、赤が主体色のガトリングを装備したガンダム、何処と無く鳥を模したような中東戦士のガンダム、かつてのガンダムMk-2を彷彿させる白と黒のガンダム。

 

オペレーション・メテオに投入される4機の各ガンダムが集結していた。

 

パイロットと思われる青少年が顔を合わせていた。

 

優しい雰囲気を纏う金髪の少年、カトル・ラバーバ・ウィナーが敬語で顔を会わせたメンバーに話し掛けていた。

 

「皆さんとは通信動画ではお会いしましたが、直接は始めてですね」

 

「そうだな」

 

鋭いかのような長い前髪が特徴の少年、トロワ・バートンが単調に返事を返す。

 

ヒイロとはまた違う物静かさを秘めた感じがある。

 

「 改めてよろしく頼むぜ!!」

 

軽く明るい雰囲に加えて、どこか熱さを感じさせる少年、アディン・バーネットが握手の手をカトルとトロワに差し出す。

 

続けて彼の兄、オデルが握手する。アディンとは対照的な冷静な雰囲気がある青年だ。

 

「俺達は巨大な組織に闘いを挑むんだ…これは並大抵な作戦じゃない。それぞれ覚悟を固めていこう!!」

 

「ええ!でもその点なら心配はありませんよ。覚悟がなければ此処にいませんから!」

 

「ああ(最も俺の場合、覚悟は物心ついた時にはできていたが)」

 

「ははは!それもそうだな」

 

「兄さん、今更だぜ。当たり前な事言うなよな」

 

今更な事を言ったオデルは頭に手をあてながら笑う。

 

アディンは兄弟故に、オブラート無しでダメ出しする。

 

「う、うるさいな!そう言うお前は任務で余り調子に乗りすぎるなよ、アディン!ただでさえ熱い奴なんだからな」

 

「なっ…兄さん、余計なお世話だぜ!」

 

「熱く気張りすぎてシュミレーションシクリまくったのはどこの誰だ?」

 

「う……最初の頃だろ!!」

 

軽く兄弟の言い合いを始めるバーネット兄弟。カトルが笑わずにはいられず、笑みを溢す。

 

「くすっ!仲がいいんですね。さすが兄弟です」

 

「そーかよ?!まー、いーや……とにかく!!俺は絶対にキメテやるぜ!!見てろ!!」

 

「だが、お互いに競う事が任務じゃないぞ!!その辺履き違えるな!!」

 

「ぐ……わかってら!!このオペレーションは必ず成功させてやるぜ!!!!」

 

主旨が変わりそうなアディンに、待ったをかけるオデル。トロワはやれやれと言わんばかりに目を閉じて腕組みしている。

 

(賑やかな奴だ)

 

トロワは、アディンのやり取りを、冷めた感情で見つめた後、目の前のドックに並ぶ4機のガンダムを見上げた。

 

(オペレーション・メテオ……か……)

 

一方、L5コロニーのとある格納施設には、中国の武術戦士のようなガンダムが眠っていた。ガンダムと向き合う少年が、そのガンダムに語りかける。

 

張 五飛(チャン ウーフェイ)。己の意志を貫かんとする、正義感の固まりのような少年だ。

「始まるぞ…ナタク。俺達で宇宙の悪を斃す時がきた!!打って出るぞ!!」

 

宇宙世紀に変革の火種が燻る。事は歴史の裏で静に、かつ確実に進み始めた。

 

 

 

1週間後

 

 

 

地球の成層圏エリア。地球と宇宙の境目とも言える大気圏に接近する艦艇がいた。

 

ガランシェールである。ジンネマン達の船だ。

 

この日、ネオジオン残党軍によるオペレーション・ファントムが敢行されていた。

 

ガランシェールは、既に大気圏突入段階に移項しており、基本的にMSの出し入れはできない状態である。

 

ガランシェールの格納庫には新型の大型MS・クシャトリヤが格納されていた。以前に「例の機体」といわれていたMSだ。

 

この日の為に建造されたMSであった。コックピットにはマリーダがエネルギードリンクを飲みながら待機していた。

 

つかの間の休息の中、ジンネマンからの通信が入る。

 

「マリーダ、そろそろ大気圏突入の準備をしておけ。もう地球が近い」

 

「了解」

 

ドリンクを飲むのをやめ、すっとスーツヘルメットを着用するマリーダ。計器類を再チェックし、機体のシステムを設定する。操作を終えるとコントロールレバーに手を添えて、モニターを見据えた。

 

マリーダの淡々とした機械的な行動に、ジンネマンはモニター越しに寂しさを覚えた。

 

未だに旧ネオジオンの催眠呪縛が、マリーダの任務の固執に繋がっているからだ。少しでも和らげようと、ジンネマンは少し本音をもらした。

 

「本当はお前を危険にはさらしたくないんだがな。できればここにいてもらいたいくらいだ」

 

「全ては任務の為です。それに、この機体は私でしか動かせない。同胞達の必用な力として闘えるのだから……私は構いません」

 

「マリーダ……」

 

クシャトリヤが投下されれば、その後のクシャトリヤのメンテナンスは、地球の同胞達の手に委ねられる。

 

今生の別れとまでは言わないが、娘同然のマリーダとのこの一時的な別れはジンネマンにとってそれに等しいものがあった。

 

「……来る!!」

 

「!?どうした!?」

 

突然マリーダの表情が険しくなる。連邦軍の襲撃を直感的に察知したのだ。

 

「マスター!!敵機が迫ってます!!すぐに応戦します!!」

 

ガランシェールが敵機を捕捉する以前の報告だが、決してジンネマンはマリーダを疑わない。

 

ジンネマンもマリーダのニュータイプ的な感を理解していた。だが、大気圏突入前にしてが故にジンネマンは出撃許可ができなかった。

 

「ならん!!作戦の大気圏突入前だぞ!!」

 

「成層圏で戦闘すれば最悪、皆のギラズールが重力に捕らわれて危険です!この状況で闘えるのは、私だけです!!」

 

マリーダのクルーを想っての意思に、ジンネマンは少しだけ確信した。マリーダ曰く、大気圏突入しても問題ないのは、その機能が備わったクシャトリヤだけだ。

 

任務への固執はあるものの、マリーダの一人の人間性が少しずつ確立してきているとジンネマンはかんじていた。

 

しばらく出撃指示を躊躇するが、彼女の意思を尊重して、ジンネマンは出撃を許可した。

 

「……早く行って帰って来い。魂だけで帰ってきたら承知せんぞ」

 

「くす………了解!!」

 

ジンネマンは「必ず生きて帰れ」の意味を込めた言葉でマリーダを送り出す。マリーダもジンネマンの想いを感じ、笑みを溢した。

 

ガランシェール内で、クシャトリヤが出撃のスタンバイする。

 

「システム良好、計器異常なし……マリーダ・クルス、クシャトリヤ、出る!!」

 

 

BGM 「モビルスーツ」

 

 

ハッチが開き、ガランシェールからクシャトリヤが出撃に移行する。マリーダは、コントロールレバーを押してクシャトリヤを加速させた。

 

クシャトリヤが、ガランシェールから飛び出す。モノアイカメラを発光させて進行方向を向き、四枚羽のブースターユニットを展開させて加速。敵を感じた方向へと飛び立った。

 

ガランシェールのブリッジではそれをクルー達が見送る。フラストがジンネマンに振り返り、一言言った。

 

「寂しくなりますね」

 

「言うな。わかっている」

 

ふと気持ちを我慢するジンネマン。ギルボアもなだめるように言った。

 

「可愛い子には旅をさせろ…とでも言いますか。遅かれ早かれ……いつかは来るもんです」

 

「……むぅ…」

 

その直後に、敵接近の警戒ブザーが艦内に響いた。

 

「さすが、マリーダですね。艦のセンサーより先に敵の接近を察知してくれましたよ」

 

「当然だ。自慢の娘だからな…」

 

マリーダは成層圏近くで展開しているクラップ級戦艦を捉えていた。展開中のモニターにそれが迫る。

 

「敵機確認……攻撃に入る!!」

 

ウィングユニットのバーニアの出力を上げてクシャトリヤがクラップ級に向かい加速する。

 

そのクラップ級からは、ジェガン部隊が出撃する。その中には武装強化されたスタークジェガンの姿もあった。

 

「敵機が多い。ファンネルでいく!!」

 

クシャトリヤのウィングユニットからファンネルが射出された。それぞれのユニットが、マリーダの意思で動く。

 

接近するジェガン部隊がビームライフルを放った。クシャトリヤはバーニアの出力音を響かせて、それを翻してかわす。真下には広大な地球の海や雲が見える。

 

クシャトリヤのモニターにもそれが映る。マリーダは広大さを感じつつ、ターゲットをロックオンする。

 

モニター画面に映るジェガン部隊。それらをロックオンマーカーが括る。多数同時にロックオンされた。

 

「マスター達の船はやらせない!!いけ!!ファンネル!!」

 

個々のファンネルが、同時にビーム火線を放つ。接近するジェガン部隊の個々にビームが直撃する。

 

射抜かれた部位が高熱を帯びオレンジに発光して溶解するジェガン達。爆発音を上げて砕け散った。

 

ファンネルは、マリーダの意思のままに個々が動く。 それぞれが独自に動き、次に接近するジェガンを撃つ。

 

次々とジェガンの装甲が射抜かれる。連続で爆発し、成層圏に炎の華が拡がった。この時点で、4機のジェガンを破壊していた。

 

その炎をかわして、スタークジェガン4機が一斉に肩のミサイルランチャーを放つ。軌道を描きながらミサイル群がクシャトリヤに直撃した。

 

だが、クシャトリヤの高純度のガンダリウム合金はこれを寄せ付けない。爆発の煙を破ってクシャトリヤがスタークジェガンに胸部のメガ粒子ブラスターを放つ。

 

放たれた高出力の太い火線ビームが、3機のスタークジェガンをかき消すように吹き飛ばす。

 

直撃を免れた1機が加速してクシャトリヤに接近。バズーカを射ち放った。

 

弾丸が胸部に直撃する。激しい衝撃がコックピットを振動させた。

 

「っ……!!!倍返しだ!!!」

 

クシャトリヤのモノアイの眼光が光った次の瞬間に、反撃のメガ粒子ブラスターがスタークジェガンを吹き飛ばす。

 

激し過ぎる高出力ビームが、スタークジェガンをぼろ切れの布地(ぬの)のようにして葬る。

 

爆発、粉砕するスタークジェガン。

 

「次!!」

 

標的をクラップ級に移してマリーダは、クシャトリヤを加速させた。それに呼応して各ファンネルも加速する。

 

連邦側も次の一手にでる。クラップ級のカタパルトから、新型の可変MS・リゼルが出撃。バーニアから青白い炎を噴射して各機が飛び立った。

 

クシャトリヤに対しある程度の警戒的な間合いをとって高速飛行するリゼル部隊。計8機が旋回する。

 

連邦のパイロット達は未登録の新型に警戒感を強める。

 

「相手は未登録の機体か!?」

 

「そのようだ。該当機種はない!!各機旋回して相手の注意を分散させろ!!」

 

機動性を活かした各機旋回。マリーダもニュータイプとはいえ、狙いが選定しづらくなる。

 

「……ちょこまかとっ!!」

 

個々にビームライフルをクシャトリヤに撃ち込むリゼル部隊。

 

だが、ウィングユニットに備わった対ビーム拡散装置・Iフィールドが作動。目に見えない球体の壁にビームが消滅していく。

 

「うざったいんだ!!」

 

マリーダのリゼルに対する状況感覚は、いわば周囲を飛び回るハエ。苛立ちを加味させたファンネルの攻撃が放たれる。

 

走る青白い複数のビーム火線。1機のリゼルが直撃を受けて爆発。3機にビームがかすめ、他の機体はビームを回避した。

 

「1機やられたか!!ビームライフルが効かん!!懐へ飛び込む!!援護しろ!!」

 

隊長機がMSへと変形し、ビームサーベルを取りだした。形成されるビームの刃をかざして一気に斬り込んだ。

 

降り下ろされたビームサーベルをクシャトリヤはウィングユニットで防御した。

 

ビームの干渉でスパークする音が鳴り響く。マリーダはクシャトリヤのパワーを活かして、これをはねのけて見せた。

 

「まとわりつくな!!」

 

はねのけたリゼルを更にクシャトリヤは鋼の拳で殴り、弾きとばす。そして止めのファンネルの火線が、穿つ。

 

砕け散り、爆発するリゼル。

 

更にクシャトリヤはウィングユニットからメガ粒子ブラスターを放ち牽制。2機を撃ち落とす。

 

「作戦のリミットも近い!!一気に蹴散らす!!」

 

メガ粒子ブラスターとファンネルを組み合わせてのフルブラスト・アタック。射線軸上にいた残り4機のリゼルが一気に蹴散らされ、爆散した。

 

だが次の瞬間、高出力のビームがクシャトリヤをかすめた。Iフィールドでビームが弾ける。

 

狙いであったクラップ級が放ったメガ粒子砲だ。更にミサイル群が放たれ、クシャトリヤ目掛けて迫る。

 

次から次へと来るミサイルをかわすのは容易だが、もはや作戦リミットだった。任務に忠実なマリーダは、戦闘を離脱するしかなかった。

 

「作戦発動時間か。やむを得ない……大気圏突入に移行する!!」

 

機体を翻しながら、クシャトリヤは地球へ向けて加速する。

 

ウィングユニットを降り立たんで大気圏突入の態勢に入るクシャトリヤ。だが、更にもう一隻のクラップ級戦艦が援軍で駆けつけていた。

 

搭載されたMS部隊が、展開してスタークジェガンとリゼルの部隊がクシャトリヤに迫る。

 

計器に表示される大気圏突入モード。一度このモードに入ると、安全上大気圏を突破完了まで解除できない。更にはIフィールド機能も、大気圏突入最優先の為にオフとなってしまう。

 

「オペレーション・ファントム……いよいよだな」

 

期待と不安が混じるような高揚感を感じるマリーダ。自分の存在意義を感じてが故に。

 

全天周囲モニターに拡がる広大な成層圏がマリーダの目に止まる。マリーダは、改めて地球の広大さを感じながら見惚れるかのように無心に見つめた。

 

その時だった。

 

「あ……あれは!?」

 

広大な成層圏に降り注ぐ流星群が、マリーダの視界に映る。

 

数は六つ。それぞれが地球に吸い込まれていくように落ちていく。

 

だが、ただの星屑の流星ではなかった。マリーダはこの流星たちが意志をもっていることを感じた。

 

「あの流星………強い意志を感じる………!!」

 

その流星の正体は、反抗の狼煙を携えたコロニーの戦士達であった。

 

デュオ、トロワ、カトル、アディン、オデル、五飛……各々のガンダムパイロット達がそれぞれの想いを賭して降下していく。

 

「さーて……イチ死神としての役目を果たしにいくとしますか!!これ以上奴等にコロニーを好き勝手させないぜ!!なぁ…相棒!!」

 

「オペレーション・メテオ……遂に始まるか……連邦に過去と現在の愚行を清算させてもらう。その先にいる組織にもな」

 

「始まった……今の僕が父上の平和主義に背いているのは解っている。でも誰かが力を手にして戦わなきゃならない時もあるんだ!!」

 

「住んでいたMO-5を潰してくれたツケを払って貰うぜ!!絶対に連邦を叩く!!俺がキメてやる!!!」

 

「見ていてくれ…MO-5のみんな……仇は必ずとる!!さあ、いくぞ……オデル!!!」

 

「地球よ………俺の正義、受け止めてみろ!!俺は正々堂々と、悪を斃す!!!!」

 

彼らの様々な意志を感じたマリーダは、その流星さながらの軌道を描く降下カプセルにくぎ付けとなり、見つめ続ける。

 

自分達以外の反連邦の意志。

 

マリーダは、瞳を閉じて更に意識を研ぎ澄ます。

 

「あれが………私達以外の連邦に反目する意志………!!……まだもう一つの意志が…」

 

マリーダが、もう一つの意志を感じようとしたその時、スタークジェガンやクラップ級が一斉に放ったミサイルやバズーカがクシャトリヤに集中する。

 

装甲に着弾し、コックピット内のマリーダに爆発のダメージの衝撃が襲いかった。

 

「あうっ…!!……っくぅ!!しくったか!?」

 

激しく振動しながら、クシャトリヤの軌道が変わっていく。ダメージは軽微だが、反動による衝撃がクシャトリヤを襲う。

 

「……ダメだっ、軌道が修正できない!!」

 

更にクラップ級のメガ粒子砲が偶然中る。

 

「うあっ……!!」

 

ダメージを受けながら、更に大きく軌道がずれたクシャトリヤ。この軌道では、目標ポイントから大きくずれているのは、言うまでもなかった。

 

この光景を見てジンネマンが叫ぶ。

 

「マリーダ!!」

 

見るしかない状況が実に歯がゆい。歯がゆすぎた感情をシートにぶつけるしかできなかった。

 

「すまん…!!ここからでは何も出来ん!!くそ!!!!」

 

マリーダは現状に身を委ねるしかなかった。振動に包まれた状況の中で目を閉じてやり過ごす。

 

その間にも近づく意志を感じるマリーダに、再びあの感覚が覚えた。ヒイロが乗っていた輸送艦とすれ違う時に感じた感覚だ。

 

「この感覚は!?あの時の……!!」

 

開眼して、あの感覚を感じた方向へと全周囲モニターを見るマリーダ。

 

その方角からは、白が主体色に青と黄、赤のトリコロールカラーを所々施した鳥のような戦闘機が迫っていた。

 

異彩感を放つ翼と、先端に装備された大型のビームライフルが印象的だ。

 

その戦闘機のコックピット内。全天周囲モニターとは異なる三面モニターが拡がる。モニター画面には、連邦とマリーダ達が捕捉され、それぞれのデータが表示されていた。

 

そしてそれのコントロールグリップを握るのは、マリーダが感じた通り、ヒイロだった。冷徹に淡々と状況分析する。

 

「大気圏突入コース軸上にて、戦闘を確認。識別照合……連邦とネオジオンか……連邦のMS12機、戦艦2隻を確認……」

 

ヒイロは、機体を加速させ、自ら連邦の部隊へと飛び込んでいく。

 

ヒイロの機体が接近するにもかかわらず、部隊はクシャトリヤに攻撃を撃ち込み続けた。

 

クラップ級艦長は、クシャトリヤへの砲撃を再度命じようとする。

 

「相手はネオジオンの未登録のMSだ。どんなものかわからん!!ここで徹底的にたた………なんだ!?!」

 

クラップ級のブリッジから高速でMS部隊に飛び込んでいくヒイロの機体が肉眼で確認された。

 

突然の未確認機に唖然を食らうクラップ級艦長 。慌てて索敵班に状況確認させる。

 

「な……!?なんだあれは!?索敵班、どうなっているんだ!?」

 

「レーダーには、ネオジオンの機体しか認識できていません!!あの機体は………索敵不能です!!レーダー反応が有りません!!」

 

「なんだと!?」

 

そう。ヒイロの機体はレーダーに認識されていなかったのだ。遥かに無謀な行動をするその戦闘機に誰もが唖然とした。

 

MS部隊はようやくターゲットを切り替えて攻撃をかけた。だが、ヒイロの機体は驚異的な機動力で攻撃をかわす。

 

ヒイロは機体を横軸上に自転させて、高速で離脱。連邦兵達が放つビームは、虚しく逸れていく。

 

「このまま突破してもいいが……この機体を見た連邦兵は……生かしては帰さない。破壊する……!!!」

 

戦闘機は機体を一気に反転させて減速した。

 

その動きに、連邦兵の誰もが唖然とする。突破して逃げると思いきや今度はこちら目掛けて飛んできたのだ。

 

「な?!!今度はこっちに…!?!なんなんだ!!?」

 

例え任務以外にも遭遇しようものなら、連邦兵器は必ず消す。それがヒイロのやり方だった。

 

更に言えば、任務の障壁となる要素に対しても、同様の意識を持っていた。

 

「戦闘レベル…ターゲット確認。排除………開始……!!!」

 

ヒイロはこのタイミングで、上部レバーに手をかけてスライドさせた。

 

戦闘機の機体各部が変形していく。そして、その姿は翼を持った伝説の戦士へと姿を変えた。

 

 

BGM 「思春期を殺した少年の翼」

 

≪XXXG-01W ウィングガンダム≫

 

 

 

ヒイロは、ウィングガンダムのライトアームに装備された大型のビームライフルを敵機へ向けた。

 

ジャキンと構えた巨大な銃。モニター画面に射線軸ラインとロックオンマーカーが展開する。

 

「バスターライフル、ロックオン」

 

「な!?が、ガンダムだと!?!」

 

「あんな機体、知らんぞ!!それ以前……我々に銃口を向けているだと!?」

 

その姿に驚愕する連邦兵達。常識的に考えれば連邦にとってのガンダムは、伝説的な味方である。だが、その味方であるはずのガンダムが、今まさに自分達に銃口を向けている。

 

「馬鹿な…ガンダムが敵機?!!まさか…コロニーの反乱分子なのか…!!?」

 

連邦兵がそう悟った刹那、ウィングガンダムのバスターライフルが火を吹いた。

 

 

 

ヴァズゥドォオオオォオオオオオ――――――!!!!

 

 

 

「な―――!?!!」

 

その銃口からは、全てを焼き尽くすプラズマ渦流の凄まじいビームが撃ち出された。メガ粒子砲の類いを凌駕するビームがリゼル、スタークジェガンを一直線に呑み込む。

 

容易く装甲が融解、蒸発して各機体が一斉に爆発した。かすめた機体さえもエネルギーの高熱で爆発していく。

 

爆発光と化したMS部隊の炎の華が、いくつも咲き乱れる。

 

MS単機で戦略兵器を撃ち出す前代未聞のこの光景に、誰しもが唖然とした。

 

マリーダやジンネマンも驚きを隠せない。

 

「MSが……単機で戦略兵器を?!!」

 

「なんなんだ、あれは?!!」

 

連邦の兵士も見たことも、置かれた事もない状況に恐怖するしかない。

 

「こんな……こんな機体あってたまるかああ!!!!」

 

残りの機体達が一斉にウィングガンダムに攻撃をかけた。誰もが恐怖をまぎらわしていた。

 

直接ありったけのビームや弾丸の攻撃を受けるウィングガンダム。

 

「撃て!!銃身焼き尽くすまで撃てぇぇっ!!!」

 

連続で撃ち込まれる攻撃。バズーカの弾丸と、ビームライフルのビームが重なって着弾。巻き起こる爆発がウィングガンダムを包んだ。

 

「やったか!?」

 

ガンダリウム合金とは言え、これ程の攻撃を一身に受ければ十分な破壊数値を満たしていた。

 

だが、再び爆発の中からウィングガンダムが現れる。

 

殆どが無傷であった。

 

ウィングガンダムの装甲……いや、それを含む7機のガンダムの装甲はガンダリウム合金ではなかった。

 

「ガンダニュウム……GND合金のこの機体には無意味だ。この装甲は、対弾、対ビーム、耐熱性に極めて優れている。破壊は不可能だ………!!!!」

 

そう言いながらヒイロはトリガーを操作した。

 

エネルギーをチャージしてエネルギーを一気に開放させる。

 

唸るバスターライフル。

 

リゼルとスタークジェガン部隊へと直進し、これらをかき消す。そしてその銃口をクラップ級へと向けた。

 

射線軸にいる残りのリゼルとスタークジェガンが2機ずつになり、攻撃を仕掛けてくる。

 

「MSごとクラップ級を破壊する」

 

再度撃ち出されるバスターライフルのプラズマ渦流が、MSをかき消しながらクラップ級へと直進。

 

凄まじいビームが、クラップ級戦艦を抉るかのように貫通した。

 

大爆発を起こして轟沈するクラップ級。ウィングガンダムは、発射を継続させてもう一隻を撃つ。

 

戦艦の側面からプラズマ渦流が船体を攻撃。もう一隻のクラップ級は「コ」の字に抉られ、激しく爆砕・轟沈した。

 

「任務の妨げとなる連邦勢力を排除。これよりオペレーション・メテオを発動させる」

 

連邦の部隊を壊滅させたウィングガンダムは、再び変形し、大気圏へと突入する。

 

その光景に唖然を続けざるを得ないマリーダ。あの時の感覚を放つ存在がヒイロであることを認識できた。

 

「あの感覚は……彼が……だが………!!!!」

 

突入していくウィングを目線で追いかけるマリーダ。

 

広大な成層圏に彼女の意識は吸い込まれていく中で、彼女のかつて潜在意識が暴走し始めた。

 

「……ガンダムは………敵……ガンダムは………敵…ガンダム………敵っ!!!!」

 

マリーダの中には洗脳の後遺症として、ガンダムを敵と認識するようにされていた。

 

マリーダの意識の中で、当時のZZガンダムのビジョンが過っては消え、過っては消える。

 

「……ネオジオン…か」

 

並走するように落ちていくウィングガンダムとクシャトリヤ。

 

2機は大気圏の摩擦熱を帯びながら紅くなっていく。

 

やがて2機は大気圏を突破する。

 

だが、マリーダは大気圏突破すると同時に、クシャトリヤはウィングを展開。そしてウィングガンダム目がけて一気に襲いかかった。

 

「ガンダムぅぅうっ!!!!」

 

「何っ……!!?」

 

手首のビームサーベルを振るい襲いかかるクシャトリヤ。ヒイロは即座にこれに対応し、ウィングガンダムを変形させた。

 

ウィングガンダムは、レフトアームのシールドで振るわれたクシャトリヤのライトアームを受け止める。

 

クシャトリヤのパワーとウィングガンダムのパワーが激突した。

 

両者は機体を回転させながら縺れ合い、落下していく。

 

「ガンダムは敵!!!!ガンダムは………敵!!!!」

 

「こいつ……!!!」

 

一方的に暴走するマリーダ。クシャトリヤがウィングガンダムのライトアームをレフトマニピュレータ(左手)で固くホールドする。

 

互いに本来の任務が狂いはじめる。

 

互いのスラスターのパワーを反発し合わせながら、いびつな軌道を描くウィングガンダムとクシャトリヤ。

 

ヒイロとマリーダ……二人の邂逅と共に、反抗のオペレーションが切って落とされた。

 

「任務妨害と断定……お前を…殺す!!」

 

 

 

 

 

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エピソード2 「舞い降りる意志達」

発動されたオペレーション・メテオ。

それは愚行を繰り返す連邦に反目する一部のコロニー居住者達が、独自に開発したガンダムで、地球連邦軍の施設や部隊に攻撃を仕掛ける反抗作戦であった。

ヒイロが駆るコロニーのガンダムの1機・ウィングガンダムは連邦の部隊を圧倒的な火力で掃討し、地球へと降下する。

その最中、敵を同じくするネオジオンのオペレーション・ファントムとも重なり、マリーダが駆るクシャトリヤと邂逅した。

だが、マリーダは戦時中のマインドコントロールの影響で、ウィングガンダムを敵と認識して襲いかかるのだった…




 

ウィングガンダムとクシャトリヤが、反発し合ってもつれ堕ちていく。

 

広大な空に堕ちゆく2機のMS。

 

厳密に言えば、クシャトリヤがウィングガンダムを下へ押し付けるように組み合って加速していた。

 

ウィングガンダムのバインダー出力が抵抗するが故に、2機の軌道がいびつになりながら空を駆け抜ける。

 

マリーダは、憎悪に満ちた感情でクシャトリヤを操る。全てはかつてのネオジオンが組み込んだ洗脳効果の後遺症であった。

 

「ガンダムは敵っっ!!!」

 

組み合ったまま、マリーダはクシャトリヤのメガ粒子ブラスターを至近距離で放つ操作を始める。

 

マリーダは完全に過去の柵(しがらみ)に取りつかれていた。

 

皮肉にも、敵を同じくしたウィングガンダムがそうさせてしまったのだ。

 

至近距離でメガ粒子ブラスターがチャージされ始めた。

 

GND合金といえど、このクラスの攻撃を零距離で喰らえばダメージは免れない。

 

「っ!!させるか!!」

 

ヒイロは即座に判断し、これに対してウィングガンダムの両肩に取り付けられたマシンキャノンで対抗する。

 

固定式のマシンキャノンの銃口から至近距離で高速連射される弾丸。

 

クシャトリヤの装甲面で連続爆発を発生させる。

 

「ぐっっ……!!」

 

牽制兵器とは言え、ウィングガンダムのマシンキャノンは、ジェガンを容易く粉砕させる威力を持つ。

 

その衝撃にクシャトリヤは怯んだように離脱する。

 

クシャトリヤの胸部からはその威力を物語る黒煙が出ていた。

 

離れた2機であるが、互いに機体を翻して体勢を整える。

 

ウィングガンダムはバスターライフルを左手に持ち替え、シールドに格納されたビームサーベルを取り出した。

 

振り払われたビームサーベルユニットからはライトグリーンのビームの刃が形成される。

 

対し、クシャトリヤも手首に格納されたビームサーベルを取り出した。

 

同じくライトグリーンの刃が形成される。

 

2機は互いにぶつかるかのように加速する。

 

振りかざした両者のビームサーベルが激突。

 

激しい稲妻のようなスパークを発生させた。

 

目映いエネルギーがぶつかり合い、金属を溶かすかのような音を上げて両者を照らす。

 

力強く拮抗するウィングガンダムとクシャトリヤ。パワーはほとんど互角であった。

 

一瞬の隙を突いて、ビームサーベルを捌くウィングガンダム。素早い動きで次の一撃を振るう。

 

再び激突するビームサーベル。

 

クシャトリヤも素早い動きで対応してみせる。

 

その状態から機体を翻して更に一撃を振るうウィングガンダム。

 

互いに何度もビームサーベルを激突させ合う。

 

ビームサーベルを交わせ、2機は数秒間拮抗する。

 

その隙に再びクシャトリヤはファンネルを射出し、ウィングガンダムの背後を捉える。

 

狙いはウィングバインダーであった

 

ファンネルが一斉にビームを放つ。

 

火線がはしり、爆発の衝撃がウィングガンダムを襲う。機体の剛性が桁外れな反面、衝撃は機体の内部に響く。

 

「っ…!!」

 

攻撃が直撃した直後にエラーアラートが鳴り響いた。

 

モニターにウィングバインダーの異常を警告していた。

 

「ウィングバインダー出力異常……流石はニュータイプだな……ウィングバインダーの出力口を狙ったか!!」

 

次第にクシャトリヤの質量に押され始めるウィングガンダム。

 

これに伴い、クシャトリヤは再びウィングガンダムをホールドした。

 

マリーダは、ウィングガンダムをそのまま自ら諸とも海に沈めるつもりであった。

 

「堕ちろ!!!ガンダム!!!」

 

クシャトリヤの加速と共に、ウィングガンダムに凄まじい加速Gがかかる。

 

加えて地球の重力が2機を一気に海面へと引きずり込む。

 

「くっ…!!!」

 

「くぅぅっっ……ガンダムは……斃すっっ!!!」

 

耳を痛ませる甲高い高速音を発生させながら、2機は海面へと叩きつけられた。

 

これ程の加速Gと海面に叩きつけられた衝撃は、生半可なものではない。

 

凄まじい海水の水柱を巻き起こしながら、ヒイロとマリーダを乗せた2機は海底へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

その頃、世界各地でコロニーの意志を携えた者達が舞い降りる。

 

カナダ・地球連邦バンクーバー補給基地。

 

バンクーバー沖に面した地球連邦軍の大規模な補給基地の一つ。

 

この基地では、連邦軍の主な補給物資(兵士達の食糧、兵器のパーツ等)を生産・提供・保管・運送を行っている。

 

今も尚、各地で展開されるジオン残党との紛争において、要の一つであった。

 

基地や基地の周辺では、月下の元で警備にあたるジェガンやジムⅢの姿が見られる。

 

「この辺りか?隕石が落下したというポイントは?」

 

「ああ。この辺りだ。だが油断するなよ。例の反乱分子かもしれん」

 

「無論だ」

 

基地周辺に隕石落下の報告を受けて調査に来ていたのだ。

 

無論、彼らは不足の事態にも備えて警戒する。

 

案の定、間もなくして彼らに異常な現象がふりかかる。

 

「しかしい……は…らん…し……」

 

「あ?何言ってるか解らん!!」

 

ノイズが突如混じり、通信が乱れる。

 

ついには通信が不能なまでになり、ノイズに支配される。

 

さらにモニターまでもが乱れ始めた。

 

「くそ!!なんなんだ!!通信ができん……!!」

 

その時だった。月下に照らされた謎のMSが姿を見せる。

 

そのMSは宙に舞い、鎌の刃のようなビームサーベルを振るいかざした。

 

「な!!?なんだあれは!??」

 

ビームの鎌をかざしたMSが、空中から一気に舞い降りる。そしてモニターから消えた。

 

「消えた!??一体な………ヴぁがはっ―――」

 

ビームの熱で金属を斬り裂く音と共に、パイロット諸ともコックピットが焼灼された。

 

そこには黒いガンダムが死の鎌を振っていた。

 

斜めに寸断されたジムⅢが爆発を起こす。

 

そしてその爆発の炎に照らされたガンダムが姿を見せた。

 

振り返りながら不気味に光る両眼(メインカメラ)が、 連邦兵を更なる恐怖を駆り立てる。

 

 

BGM 「黒い風が死へ誘う」

 

≪XXXG-01D ガンダムデスサイズ≫

 

 

 

通信が困難になっていたのは、ガンダムデスサイズが放ったハイパージャマーが影響を及ぼしていた。

 

ガンダムデスサイズの両肩に装備されており、通信障害を発生させる粒子の一種を左右へ放つ。

 

「が、ガンダムだと!??バカな!!連邦の英雄とも言えるはずの………否………こいつは悪魔か!?!」

 

連邦兵がそう言い放った直後にガンダムデスサイズは、大きくジェガンを斬り上げた。

 

死の鎌・ビームサイズ。

 

ガンダリウムを容易く切断する程の出力を持つ、ガンダムデスサイズのメインウェポンだ。

 

ジェガンの斬り上げられた機体が爆発する。

 

炎の中で、佇むガンダムデスサイズ。

 

まさに死神だ。

 

「悪魔じゃない……死神さ」

 

その時、遅れてジムⅢ小隊が現場へと駆けつけ、ガンダムデスサイズに向かい、ビームライフルやミサイルランチャーの攻撃を放った。

 

「おわっと!!?」

 

コックピットに響く衝撃。

 

ガンダムデスサイズにビームが着弾。

 

更にミサイルが直撃し、爆発が徐々にデスサイズを包む。

 

ミサイルが幾度も直撃して、ガンダムデスサイズを爆煙が包む。

 

3機のジムⅢは、撃破を確信して攻撃の手を緩めた。

 

立ち込める爆煙……次の瞬間、これを突き破るようにガンダムデスサイズがビームサイズを振りかざして飛び出す。

 

「そらよぉっっ!!!」

 

 

 

ザシュバァアアンッ―――!!!

 

 

 

一瞬の出来事であった。

 

横一線の一振りで3機のジムⅢがビームサイズの餌食となり、無惨に斬り飛ばされた。

 

3機まとめて爆発を起こし、巻き起こる爆発音も三重に響き渡った。

 

「さて、挨拶は終わりだ。いこうか相棒。初仕事はこっからだぜ」

 

デュオは、不敵に呟くとバンクーバー基地へとガンダムデスサイズを赴かせた。

 

ビームサイズを握り加速するデスサイズ。

 

そのスピードと加速力は他のMSの一線を画していた。

 

補給基地では、基地のMSの反応が消えたことで基地のMSが、一斉に警戒にあたっていた。

 

ジェガン、ジムⅢの小隊が一斉展開する。

 

その中へとガンダムデスサイズが威風堂々と突っ込む。

 

加速しながら、ライトアームを引き締めて片手でビームサイズを構える。

 

「でやぁあああっ!!!」

 

突っ込む勢いでビームサイズを斬り払い、ジムⅢ2機を斬り飛ばす。

 

そこから機体を次のターゲットへ反転して斬り払う。

 

ジェガンの胸部を寸断し、その奥にいるもう1機のジェガンへと更に踏み込む。

 

レフトアームに装備された棺桶を模したようなバスターシールドを展開させ、先端からビームの刃を形成させた。

 

そして殴り込むようにジェガンを刺突。

 

ジェガンは胸部を中心に爆発し、機体が粉々に粉砕された。

 

一瞬にして3機を仕留めたガンダムデスサイズは、加速して、次のターゲット群へと襲いかかる。

 

その加速の影響を受け、基地の建造物が破壊され、次々と倒壊する。

 

まずはジムⅢ2機を一振りで斬り払い、ビームサイズを両手に持ち替えて振りかざし、ジェガン2機を斬り飛ばす。

 

吹っ飛ばされたジェガンの上半身が、補給物資庫に落下。爆発を巻き起こしながら補給物資庫を破壊、炎上させた。

 

反撃に転じようと、ビームサーベルをかざして斬りかかる1機のジムⅢ。だが、振り払われたバスターシールドのビームの刃で容易く斬り裂かれ、爆発する。

 

ガンダムデスサイズは、更に向かってきた他のジムⅢをバスターシールドで刺突する。

 

破裂するかのようにジムⅢが爆発。吹き飛んだ爆風の中に不敵にガンダムデスサイズは立つ。

 

「さぁ、今度は誰だぁ?死神に誘われたいやつは!??」

 

再びガンダムデスサイズを加速させて基地を駆け抜けるデュオ。

 

止まるところを知らぬ死神の宴。

 

ジェガンやジムⅢ達に抵抗へ転じることも許さないガンダムデスサイズ。

 

迫る機体があれば、バスターシールドで刺突し破壊。振るわれるビームサイズがジェガンやジムⅢを連続で次々と斬り飛ばしていく。

 

「おらおらぁぁっ!!!斬って斬って斬りまくる!!!!」

 

デュオ曰く、高速移動しながら俊敏に斬って斬りまくるガンダムデスサイズ。

 

ハイパージャマーの影響でモニターに敵を確認できず、訳が解らぬまま連邦兵達は死へ誘われていく。

 

基地内は前代未聞の惨事となり、斬り飛ばされたMSの残骸が爆発し、次々と誘爆発が巻き起こっていく。

 

1機のジェガンをビームサイズで斬り飛ばしたガンダムデスサイズの両眼(メインカメラ)が威圧感を醸し出して光る。

 

「連邦さんよ……これが散々あんたらがやってきた蹂躙てやつだぜ。味わい加減はどうだぁ、おい!!?」

 

デュオはありったけの皮肉を叩きつけながら、更に敵を斬り飛ばしてみせる。

 

燃え盛る基地内の炎の中からガンダムデスサイズが飛び出し、施設内のありとあらゆる補給物資の破壊する。

 

「さぁ……ウォーミングアップしたところで、本題の補給物資倉庫を破壊しますか!!!」

 

基地を破壊しながらターゲットである補給物資庫にも攻撃をかけるデュオ。

 

そこへ業を煮やした1機のジェガンが、ビームサーベルでガンダムデスサイズに斬りかかる。

 

その刃には同胞への哀悼とガンダムデスサイズへの敵意の念がこもるかのように出力が増大されていた。だが……

 

 

 

ズシュドォォォッ―――!!!

 

 

 

斬りかかる加速力を逆手にとられ、バスターシールドでコックピット諸とも串刺しにされる。

 

スパーク音を空しく響かせて、ジェガンはバラバラに爆砕した。

 

「悪いな………俺の姿を見た奴は、みーんな死んじまうんだ……」

 

そして再びビームサイズを振りかざしてガンダムデスサイズは爆煙の中から加速した。

 

 

 

北欧・地球連邦軍ドーバー基地。

 

この日、ダカールでの議会を終えた連邦軍の一部の要人達が、この基地にあるスペースポートのシャトルに乗り込もうとしていた。

 

「思ったよりも議会が早く終わったな。このあとは各コロニーの軍備増強会議だ」

 

「はい。しかし、ネオジオンやその他の反乱分子が活動中です。今のタイミングだと危険なのでは?」

 

「だからこそ一つでも多くのコロニーをねじ伏せる!!今のコロニー……いや、いつの時代もコロニーはろくでもないからな!!特にニュータイプなどと!!新人類の人種は危険だ!!だからこそ秩序が必要なのだ」

 

「確かに…スペースノイドは所詮地球に入りきらなくなった人類です。変革しようがたかが知れた人種です」

 

「ははは!解っているじゃないか!!」

 

スペースノイドからしてみれば明らかな侵害的な発言をしながら、要人と側近はシャトル機内に着座する。

 

他の連邦要人達も着座しており、雑談を重ねて離陸を待っていた。

 

どの要人もスペースノイドに対する偏見の話題で持ちきりであった。

 

「皆同じだな。思っとることが……ん?!!なんだあれは!!?」

 

その時だった。

 

要人が上空にふと視線を向けた方向に墜落していく未確認飛行物体を目にする。

 

その未確認飛行物体は、基地の広大な敷地目掛けて墜落してくる。

 

「あれは一体?!!」

 

皆がざわつく中、未確認飛行物体は空中爆発する。激しい爆発音と共に残骸が降り注ぐ。

 

直後に別の地響きが鳴り響き、凄まじい粉塵が要人達のシャトルに襲いかかる。

 

「うあああ!!!」

 

我が身が第一と言わんばかりに身を伏せる要人。

 

粉塵が晴れるに連れ、怯えきった表情を上げた。

 

するとそこには、赤いカラーリングが主体色のガンダムが立っていた。

 

レフトアームには長身のガトリングが握られていた。

 

「は!??ガンダム!!?」

 

「な…?!!」

 

 

BGM 「返り血と火薬の匂いの中」

 

≪XXXG-01H ガンダムヘビーアームズ≫

 

 

 

愚か者達が敷き詰められたシャトルをモニターで見つめるトロワ。

 

冷静な眼差しで淡々と任務を実行に移す。

 

「エージェントの申告通り、連邦要人を乗せたシャトルを確認。基地のスペースポートと同時に破壊する」

 

モニター映像のシャトルをロック・オンマーカーが捉える。

 

ガンダムヘビーアームズの胸部ハッチがバキンと左右に開き、2門のブレストガトリングが姿を見せた。

 

そしてそれは、シャトル目掛けて火を吹く。同時に両肩のマシンキャノンも連動して発射された。

 

連射されるエネルギー弾丸が雨の如く降り注ぎ、シャトルを蜂の巣にして瞬く間に粉砕させる。

 

 

ヴァルルルルルルルルルルルゥゥゥッ―――!!!!

 

 

 

「ぎゃあああ―――!!!?」

 

轟音を鳴らして薄汚い要人達を乗せたシャトルが爆砕。一瞬にして偏見の塊達が粉砕された。

 

続けてガンダムヘビーアームズは、両肩と両脚のハッチを展開させる。姿を見せたホーミングミサイルとマイクロミサイルが、一斉にスペースポート目掛けて発射された。

 

 

 

ガガガシャン………ドドドドドドバシュシュシュシュゴォォォォ………ゴォゴォゴォゴォガアアアアン!!!

 

 

 

そしてミサイル群は、警備に当たっていたジムⅢの部隊を巻き込みながらスペースポートと基地を破壊する。

 

激しい爆発を巻き起こしてスペースポートが崩れ去る。基地も瓦礫と化し、ジムⅢ部隊の残骸が転がっていく。

 

この緊急事態に、基地のMS部隊が一斉に動き始める。

 

ジェガン部隊、ジムⅢ部隊、ガンタンクの後継機であるロトの部隊が展開。各機が一斉に武装をガンダムヘビーアームズへと向けた。

 

ジェガンやジムⅢのビームライフル、ロトのキャノン、メガマシンキャノンが一斉に放たれる。

 

流星弾雨の如く注がれる連邦軍のMS部隊の攻撃。

 

集中砲火を浴びたガンダムヘビーアームズは、爆発に包まれた。

 

だが、煙の中からは全く無傷のガンダムヘビーアームズが姿を表した。

 

「単機の敵に対し、数で極限の火力を集中させる…確かに最適な攻撃判断だ………だが……」

 

敵部隊に向けて、再びブレストガトリングを展開させ、同時にビームガトリングを構えるガンダムヘビーアームズ。そして主たる武装を開放させた。

 

 

 

ヴォヴァルルルルルルガガガガガガラァッ―――!!!

 

 

 

容赦無き破壊力をMS部隊へぶっ放すその攻撃は、あたかも玩具のようにMSを粉々に爆砕していく。

 

前方に展開するジムⅢ部隊がブレストガトリングに蜂の巣にされ粉砕。左側に展開するジェガン部隊もビームガトリングで砕かれる。

 

ガンダムヘビーアームズはその場からブースターで加速。あえて部隊の真っ只中へその身を投じようとする。

 

旋回移動しながら攻撃をかわし、ビームガトリングとブレストガトリングを連射し続けるガンダムヘビーアームズ。

 

攻撃を受けたジムⅢやロトが次々と蜂の巣にされ、爆発・粉砕されていく。

 

「こちらの戦力を把握する前に行動すべきではなかった」

 

ガンダムヘビーアームズは攻撃を連射し続けながら一気に部隊へ飛び込む。ロト3機を破壊しながらライトアームのアーミーナイフを展開。機体を翻しながら1機、2機とジェガンを斬り砕く。

 

そこから機体を反転させ、振り返りながらビームガトリングとブレストガトリングをぶっ放し、更なる攻撃をかけ続けた。

 

トロワは顔色一つ変えずに淡々とMSを駆逐しながら任務に集中し、モニターに写る破壊映像を見ながら呟く。

 

「……俺達のガンダムを見た者を、生かして返すわけにはいかない……全てを消滅させる……」

 

ガンダムヘビーアームズの縦横無尽の攻撃を前に、無惨に砕け散っていくMS部隊。最早蹂躙の域に達していた。

 

地球連邦が誇る連邦MS達はガラクタに成り果て、躯を残す定めとなっていた。

 

「これからの時代で、貴様達に過去の諸行の精算をしてもらう……これはその序章だ……」

 

トロワは、砕け散っていく連邦のMS部隊を見ながら、ビームガトリングとブレストガトリングの弾雨を浴びせ続ける。

 

増援で駆けつけたジェガン部隊やロト部隊もビームライフルやキャノン砲で砲撃をかける。

 

だが、ガンダムヘビーアームズはブースターで宙へ舞い上がり、注がれる攻撃をかわす。

 

そしてホバリングしながら、下方に向けてガトリング武装を撃ち放つ。

 

雨あられの如く注がれるビーム弾雨が、押し潰していくかのようにMS部隊を、はしからはしへと砕き散らしていく。

 

「単機で多数を相手する場合、あらゆる角度から徹底的に火力をぶつける……」

 

トロワはガンダムヘビーアームズを下降させる操作をしながら攻撃をかけ続ける。

 

ジムⅢやジェガンが撃ち斃され、ガシャンガシャンと斃れこみ爆発していく。

 

そしてガンダムヘビーアームズは、ロトの面前に着地。ビームガトリングをコックピットに押し当てて、零距離射撃した。

 

激しく装甲が粉砕し、機体がバラバラに爆発。その光景をトロワは顔色一つ変えずに直視していた。

 

 

 

中東・カタール郊外

 

 

 

中東諸国やアフリカ大陸の各地も、未だに続けられるジオン残党軍の主な活動域の一つでもあった。

 

だが、各地のどの勢力もジオン再興とスペースノイドの自治権確立を掲げて闘っていた。

 

それはジオン残党の誰もが共有するものである。

 

そして彼ら以外にも、中東各国が連邦に対し反感を持っていた。

 

連邦が中東諸国にもコロニーと同様の侵害をしていた為、それに合間って民間がジオン残党と共闘することも珍しくはなかった。

 

この日もジオン残党と、討伐にあたる連邦軍の戦闘が巻き起こっていた。

 

落下した未確認飛行物の捜索にきた連邦勢力とジオン残党が鉢合わせた為に戦闘が開始されていた。

 

デザートザクや、ザクキャノン、ドムトローペン、ゲルググがマシンガンやキャノン砲、バズーカを駆使して抵抗している。

 

だが、相手は最新鋭の熱砂仕様のジェガン、ジムⅢだ。圧倒的に不利な状況であった。

 

その連邦勢力の中に、他のMSとは異なるデザインの機体が混じっていた。

 

テレビの液晶モニターのようなモノアイが特徴的だ。

 

MSリーオー。メイン兵装はビームマシンガンや、バズーカを発展させたドーバーガンを主体とするMSだ。中にはショートバレルのビームキャノンを両肩に装備したタイプも確認できる。

 

このMSこそが、ヒイロが言っていた「例の組織」のMSである。地味な機体であるが、性能はジェガンクラスの性能を持っていた。

 

これらの連邦の機体群の攻撃がジオン残党に襲いかかる。

 

ロートルとなってしまった機体では、物量攻撃は一溜まりもなかった。

 

次々と直撃を受けて斃れていくジオン残党のMS達。

 

ジェガン、ジムⅢ、リーオーの部隊がじわりじわりと攻め混んで進行する。

 

ジオン残党の中に、ゲルググを駆る少女がいた。ロニ・ガーベイ。中東諸国を中心に展開する大企業・ガーベイエンタープライズの令嬢だ。

 

ガーベイエンタープライズもまた、裏でジオンを支援協力していた。彼らもまた、連邦の在り方に反感を持っていたのだ。

 

故にその疑いを連邦に迫られ、社長であるマハディ・ガーベイやその妻の命が連邦に狙われたこともあった。

 

実際にマハディは左脚を失い、その妻の命が奪われていた。

 

その関係もあり、民間人でありながらも彼女自身の意思で闘っていたのだ。

 

「くっ!!負けるものか!!中東の土地を汚し、独裁する者達になど!!」

 

強い意思でゲルググのトリガーを弾くロニであったが、迫る連邦勢力に対抗するには限界があった。

 

攻撃を続ける中で同胞が次々と撃破されていく。

 

「……絶対に許さない!!父の脚を奪い、母の命を奪ったお前達だけは!!!」

 

1機のリーオーのドーバーガンが奇しくもロニの機体をロックした。ゲルググのコックピットにもロック・オンされた事を警告するアラートが響く。

 

「ロックされた!??くっ!!!」

 

死が迫る覚悟を強いられ、きゅっと目をつむるロニ。

 

その時だった。

 

ドーバーガンを構えたリーオー が、瞬間的に何者かの斬撃を受け、両腕を斬られて崩れ落ちた。

 

そのリーオーを踏み越えて、1機のガンダムが姿を見せた。

 

 

BGM 「屍に埋もれた平和を探して」

 

≪XXXG-01SR ガンダムサンドロック≫

 

 

 

両眼を発光させるガンダムサンドロック。更に別方向から3機のMSが姿を表す。

 

マグアナック隊。サンドロックの僚機として予めアラブで開発された部隊だ。アラブもまた、コロニーと提携していた。

 

隊長である、ラシードが部下のアブドルとアウダに指示を下す。

 

「お前ら!!攻撃をかけるぞ!!ただし、まだ命をとるなよ!!!」

 

「へい!!」

 

「おおおっ!!」

 

隊長のラシード機とアブドル機がビームライフルで射撃を掛けてMS部隊に牽制し、武装やアームを破壊した。

 

その間に敵機に接近しながら、アウダ機が1機のジムⅢの頭部をレフトアームのクローで破壊し、機能を奪う。

 

そしてカトルはガンダムサンドロックのコックピットから連邦のMS部隊に訴えた。

 

「連邦のMS隊に告ぐ。今すぐ武器を捨てて投降しろ!!命まで奪わない!!繰り返す…今すぐ武器を捨てて投降しろ!!命まで奪わない……!!!」

 

「ふざけるな!!!連邦軍人が得体の知れないガンダムに従う訳がないだろう?!!」

 

連邦軍人として、投降など言語道断。言うまでもなく、抵抗の姿勢を貫く。

 

リーオーのパイロットも従うはずもなく、ドーバーガンをロックオンする。

 

「あの反乱分子の噂は本当だったか!!ふん、撃破するまでだ!!!!」

 

カトルの呼び掛けに応じず、MS隊は攻撃を再開する。攻撃の集中砲火を浴びるガンダムサンドロック。

 

マグアナック隊もまた、離脱して一時後退する。

 

ガンダムサンドロックに直撃する攻撃のほとんどが装甲表面で弾かれていく。

 

全く攻撃を受け付けていなかった。

 

「……言った筈だ。投降しろってね………マグアナック隊の皆さん、手出しは無用です。では……いきます!!!」

 

「了解しやした!!聞いての通りだ!!手を出すなよ!!」

 

「了解!!」

 

再びガンダムサンドロックは両眼を光らせ、双方のマニピュレーター(手)に握られたヒートショーテルの刀身を重ねあてる。

 

そして大きく振りかぶり、部隊目掛け特攻した。

 

加速しながら一気にヒートショーテルを振り下ろすガンダムサンドロック。

 

 

 

ディッキャイイイイイインッッッ!!!

 

 

 

左右にいた2機のジムⅢの胸部が斜めに寸断され、爆発。

 

爆煙の火柱をけたたましく上げた。

 

その場から加速し、ジェガンを左手のヒートショーテルで斬り飛ばして、機体を反転させ右手のヒートショーテルでリーオーを叩き斬る。

 

攻撃は止まらない。

 

回り込むように跳躍し、ジムⅢを逆刃で横一線に斬り、その勢いでジェガンに斬りかかって斬り飛ばして見せた。

 

リーオーもビームマシンガンやキャノンで近距離砲撃する。

 

だが、やはり効果はない。迫るガンダムサンドロックは、リーオー2機を一気に叩き斬って駆け抜ける。

 

ジムⅢやジェガンのミサイルやグレネードも受け付けず、次々と斬り落とすように斬撃をあびせていく。

 

一時着地したガンダムサンドロックに、先程のリーオーが、残るブースターで特攻を仕掛けてくる。

 

「うぉぉおお!!!!『OZ』に栄光をっ!!!!」

 

だが、特攻しながらもヒートショーテル片振りで無惨に斬り捨てられ、リーオーは地表を転がり爆発した。

 

そして残りの5機に加速し、ガンダムサンドロックは一気に斬りかかる。

 

ヒートショーテルでジムⅢ2機を斬り落とし、ジェガン2機を斬り払っては叩き斬る。

 

その動きは実にスピーディーでリズミカルだ。

 

駆け抜けたガンダムサンドロックの後方で撃破された機体が連続で爆発を起こす。

 

ヒートショーテルをもたげ、その爆発を背景に立つガンダムサンドロック。

 

まさに魔神さながらの威圧感だ。

 

突然の救世主の出現にロニは、息を呑んで釘付けになっていた。

 

「すごい……!!」

 

最後のリーオーが血迷ったかのように武装を捨てて、ビームサーベルを装備した。

 

だが、ロニのゲルググに目掛け斬りかかる。

 

「え!??」

 

「そっちへ!??やらせない!!!」

 

呆気に取られるロニ。このままでは串刺しにされて焼灼されてしまう。

 

だが、突然過ぎて体が反応できない。

 

カトルはレバーを押し込み、ガンダムサンドロックを加速させた。

 

ロニのゲルググへ迫るリーオーのビームサーベル。

 

ビームサーベルがロニのゲルググに突き刺さろうとした刹那、ガンダムサンドロックがリーオーに突っ込んだ。

 

装甲にヒートショーテルを押し当てられながら、ぶっ飛ぶリーオー。

 

ガンダムサンドロックはリーオーに押し当てたヒートショーテルを振り上げ、一気にクロスさせた斬撃を見舞う。

 

斬り裂かれ激しく爆発するリーオー。ロニの危機は去った。

 

「敵勢力を殲滅。手始めの任務完了。ジオンのパイロットの方、大丈夫ですか?」

 

任務を完了させたカトルは、生き残ったジオン残党の部隊に通信で呼び掛けた。

 

その声を聞いたロニはすぐに反応した。

 

「……その声は、カトル!?カトルなの!?」

 

「え!?もしかしてロニ!?君なのかい!!?」

 

 

 

中国・揚子江 連邦軍基地

 

 

 

広大な揚子江に造られた連邦軍の基地。

 

ここには主に攻撃輸送機ガルダ級が配備され、中国エリアの連邦軍は、ここを拠点にして各地に展開していた。

 

強大な経済大国となっている中国であるが、発展途上のエリアに関して連邦及び例の組織は、差別や偏見を掲げて人権無視の対応をしていた。

 

MSを持てずに、生身でゲリラ戦闘をせざるを得ない反抗勢力も少なくはなかった。

 

よしんばMSを得ても、ジムコマンドやザクで対応をするしかなかった。

 

無論、抵抗力は知れていることは言うまでもない。

 

連邦勢力は確実に中国の国に凄まじき格差社会を作り上げていた。

 

この日もまた、弾圧に向かうMSを乗せたガルダが発進しようとしていた。

 

その時、揚子江の河から1機のMSが飛び出す。

 

そのMSは、離陸しようと加速するガルダの前に着地した。

 

 

BGM 「龍が泳ぐ時 全ては終わる」

 

≪XXXG-01S シェンロンガンダム≫

 

 

 

「な!?なんだ!?滑走路に………MS?!!」

 

突然の事態にパニックするガルダ機長。

 

近づくにつれ、それがガンダムだと確認した。

 

「ガンダム!??何故ガンダムが??!!」

 

「はぁああああ!!!」

 

シェンロンガンダムのコックピットで凄まじき気迫を放つ五飛。

 

その気迫を体言するかのようにシェンロンガンダムが離陸したガルダの機首部を目掛け、龍を模したライトアームのドラゴンハングを伸ばす。

 

鋭利な龍の牙が、ガルダの機首に突き刺さり、機首周りが爆発する。

 

シェンロンガンダムは、潰れた機首からドラゴンハングを引き抜いて飛び立つ。

 

ガルダは、低空から墜落して体勢を崩す。

 

こうなれば破壊されるしかない。

 

翼がへし折れ、滑走路を滑りながら、機体を削りながら動きを止めた。

 

着地したシェンロンガンダムは、滑走路に並んだガルダ級に向かって飛び乗り、ドラゴンハングを機首にかざす。

 

ドラゴンハングに装備された火炎放射機が、文字通りに火を吹く。

 

火と言っても、対MS用の超高熱の火だ。

 

ジェット噴射の勢いの青白い炎がガルダ級の機首に襲いかかる。

 

瞬く間に機首が高熱で溶けて、内部に炎が入り込む。

 

更に内部で爆発が発生し、機首自体も形が変形して潰れていく。

 

このガルダは完全に機能を失った。

 

シェンロンガンダムは悠然と破壊したガルダの上を歩く。

 

次のガルダに跳び移ると、同じ要領でガルダに火炎放射を浴びせる。

 

無論、この事態にMS隊がスクランブル発進する。

 

ジムⅢやフライトユニットを取り付けたリーオーの部隊が発進していく。

 

更には試験段階のジェガン系重MS・グスタフカールが出撃する。

 

ガルダ級を効率良く破壊していくシェンロンガンダムを、先行したリーオー部隊とジムⅢ部隊が包囲する。

 

「所属不明のMSに告ぐ!!貴様は完全に包囲された!!大人しく投降しろ!!」

 

「ふん…なめられたものだな………」

 

五飛は警告を完全に無視して、次のガルダ級に跳び移り、火炎放射を浴びせる。

 

更にそこから飛び立ち、飛び降りながら隣接するガルダの機首を左のマニピュレーターに握られていた青竜刀のような剣・撩牙で 斬り落とした。

 

「な……どういうつもりだ!??なめているのか!?かまわん!!!!奴を殺せ!!!!」

 

馬鹿にしたような行動に業を煮やしたパイロットは攻撃命令を下す。各機がシェンロンガンダムに集中砲火を浴びせる。

 

ジェガン部隊も駆けつけ、ビームライフルで加勢する。

 

「やったか……な!?効いていない!??」

 

攻撃を浴びながら動き始めるシェンロンガンダム。

 

ここから五飛は本領を発揮させる。

 

「俺の名は張 五飛!!逃げも隠れもしない!!行くぞナタク!!!」

 

シェンロンガンダムをナタクと呼び掛けて突撃するシェンロンガンダム。

 

ジムⅢに飛びかかり、ドラゴンハングで高速に穿つ。

 

 

 

ギュイィィィッ……ディガギャアアアアン!!!

 

 

 

装甲がドラゴンハングに貫かれ、零距離から火炎放射を喰らい、ジムⅢは激しく爆発する。

 

1機のジムⅢを破壊したシェンロンガンダムは、跳躍しながら撩牙を振りかぶる。

 

着地と同時に間合いに踏み込み撩牙をジムⅢ部隊に振るう。

 

 

 

フヒュゴッ……ズディギギャアアアアン!!!

 

 

 

一振りで3機のジムⅢを斬り飛ばした。

 

そこへ空中からビームマシンガンの集中砲火が、シェンロンガンダムに撃ち注がれる。

 

フライトリーオー部隊の攻撃だ。

 

シェンロンガンダムは勢いよく飛び立ち、フライトリーオーの1機をドラゴンハングで鷲掴みならぬ、龍掴みにする。

 

そのまま急降下しながら滑走路に叩きつけてフライトリーオーを粉砕。

 

更に空中にいる機体に火炎放射を浴びせる。

 

 

 

ジュシュゴォォォォ………!!!

 

 

 

リーオーの機体が熔解し、動力炉が異常高熱に満たされ爆発する。

 

残りのフライトリーオー3機が、ビームマシンガンを乱射してシェンロンガンダムへ特攻する。

 

「我々をなめるのも大概にしろぉ!!!」

 

これに対し、シェンロンガンダムはドラゴンハングを縮めて、背中に納めていたビームグレイブを取り出す。

 

そのビームの刃は薙刀のような形状をしている。

 

撩牙と共に振り払いながら構えるその姿は、正に中国の武人だ。

 

「はぁああああああ!!!」

 

五飛の気迫と共にフライトリーオーに飛びかかるシェンロンガンダム。

 

レフトアームを締めて構えた撩牙が振り払われる。

 

フライトリーオー1機を斬り飛ばした後に、ビームグレイブで一気に斬り払う。

 

 

 

ヴィギギャアアアアアアアンッ!!!

 

 

 

フライトリーオー2機をビームグレイブが容易く斬り裂いた。

 

シェンロンガンダムの面前で爆砕した。

 

その爆発を突き破り、ジェガンとジムⅢの部隊へシェンロンガンダムは突っ込む。

 

ビームライフルを物ともせずに、ビームグレイブと撩牙を巧みに組み合わせて次々とジェガンやジムⅢ達を斬り払う。

 

「貴様達の存在は悪!!!!そして正しき者が貴様らを潰す!!!!」

 

シェンロンガンダムの烈火の如き無双乱舞は止まらない。

 

流れるような動きで、シェンロンガンダムはジェガンやジムⅢ達を激しいまでに斬り砕いていく。

 

「貴様達は弱すぎる!!!!弱い者が楯突くな!!!!」

 

シェンロンガンダムの踏み込んだビームグレイブの一振りが、ジムⅢ3機、ジェガン2機を斬り飛ばす。

 

一気に爆発と爆風が巻き起こる。

 

撃破された多数のMSが燃え上がる中に、シェンロンガンダムが佇む。

 

「雑魚ばかりだな!!!!強いやつはいないのか!??」

 

覇気を放つ五飛に答えるかのように、グスタフカールがビームサーベルで襲いかかる。

 

轟と振るわれたグスタフカールのビームサーベルの攻撃を敢えて受けるシェンロンガンダム。

 

グスタフカールは滅多斬りの勢いでシェンロンガンダムを斬りつける。

 

だが、斬られるというよりも鉄の棒を鉄に打ち付けているかのような感じだ。

 

じわりじわりと引き下がるシェンロンガンダムであったが、次の一撃で攻撃を受け止める。

 

ビームグレイブ本体と撩牙の刃でグスタフカールのライトアームを受け止めた。

 

「その程度かっ!!!!」

 

シェンロンガンダムは、グスタフカールのライトアームを弾き飛ばし、ビームグレイブで高速の突きを繰り出す。

 

連続で装甲が刺突され、無惨に斬り砕かれていくグスタフカール。

 

止めの一振りが炸裂し、上下半身が吹っ飛ばされて爆発した。

 

「ナタク……次は強い奴と戦いたいものだな」

 

五飛は、そうシェンロンガンダムに語りかけながら、再び基地に向けて火炎放射の攻撃をかけた。

 

 

 

北米・オーガスタ基地

 

 

 

かつての連邦軍の最大の過ちの組織・ティターンズが非人道なニュータイプ研究をしていた場所、オーガスタ基地。

 

厳密に言えば、人工的にニュータイプを作り上げてきた機関と言った方がよいだろう。

 

今尚、オーガスタのニュータイプ研究所は存在し、決して表沙汰にすることなくニュータイプの研究を続けていた。

 

だが、今は被験体の人数そのものが、皆無に等しい状態で数名がいるだけであった。

 

この日も研究を終えた被験体を生暖かく扱う研究員がいた。

 

「今日もよく頑張ってくれたね。ありがとう、プル」

 

「うん……」

 

被験体はプルと言う少女であった。

 

そう、マリーダの遺伝子のベースを持つプルシリーズの母体とも言える存在だ。

 

だが、記録上で彼女達の殆どは第一次ネオジオン抗争で戦死していたはずであった。

 

研究員 (かつてのアクシズから発見された冷凍冬眠カプセルに入っていた少女……ネオジオンの当時のデータにあったプルシリーズ…か)

 

彼女は、第一次ネオジオン抗争終結後に連邦軍の手に落ちたアクシズから発見されていた。

 

その後、極秘にオーガスタ基地のニュータイプ研究所に身柄を移した為に公式記録に残っていなかったのだ。

 

すなわち、彼女は真のオリジナルのプルである。

 

断続的なコールドスリープを施されていた為に、未だ12歳の少女のままであった。

 

「さぁ…次に起きた時にまた頑張ってくれ。その時はパフェでもご馳走しよう」

 

「うん…」

 

研究員は、冷凍冬眠カプセルを操作してハッチを開けると研究員はプルに触れながら周囲を確認した。

 

「それともうひとつ……いいことしよう」

 

「いいこと?何……えっ!?」

 

研究員は怪しい手つきでプルの太ももを撫でると、更にお腹に手を回した。

 

研究員は理性を捨てて、あらぬ行為を実行しようとしていたのだ。

 

プルは不快感を露に抵抗する。

 

「嫌っ……お願い……やめて……!!」

 

「なになに………昔は被験体によくやったものだ。何せこんなことしても罪にならない………君はモルモットちゃんなんだから♪私はもう我慢ができなくてね~」

 

「助けて……え!??」

 

イヤらしくプルの耳許で囁き、彼女の服に手をかける研究員。

 

だが、プルはその不愉快さを超越する感覚を覚えた。

 

「何?…………胸がきゅんきゅんする!!」

 

「え!?じゃあ胸をさらにきゅんきゅんさせてあげよ……」

 

研究員が行為に及ぼうとしたとき、研究所に警報音が鳴り響く。

 

更に直後、地響きが走った。

 

既に戦場とは無縁になりつつあったオーガスタの研究員にとっては、パニックになるには充分であった。

 

「な!??なんだ!!?」

 

研究員が動揺した隙にプルは、その場を脱出して部屋から飛び出した。

 

「あ!!!!待て!!!!くそ!!!!」

 

プルはサイレンが鳴り響く中、必死に廊下を走る。

 

彼女のニュータイプの勘がそうさせていた。

 

「この感じ!!近くにきてる!!!」

 

走るプルの後方から先程の研究員が叫びながら追いかけてきた。

 

「被験体が逃げた!!捕まえてくれー!!」

 

「あんないたずらされたら誰だって逃げるよ!!変態!!」

 

それに対し、プルは咄嗟に先程の一件を暴露して走った。

 

誰もが研究員に振り向き、逆に研究員を阻む。

 

「あ、ちが、違う!!私は……!!」

 

その時、研究所全体に轟音と地響きが鳴り響いた。

 

「あう!!」

 

振動で足下がおぼつかなくなり、倒れそうになるプル。

 

そこへ彼女を支える研究員の者が表れた。

 

「おっと…大丈夫かい?」

 

どこかヒイロに似た面影のある青年だった。彼の名はラルフ・カート。研究員の姿をしているが、ヒイロ達の組織のエージェントであった。

 

「ありがとう……」

 

ラルフは、スマホ型のポケットデータベースを取りだし、 彼がハッキングして得たオーガスタ研究所の情報と照らし合わせる。

 

「!?………………間違いない、救出対象だな……行こうか?」

 

「うん♪」

 

プルは勘で彼の感じが解っていた。

 

そしてその先に胸をきゅんきゅんさせるモノがあることも。

 

再度轟音が鳴り響く中、ラルフはプルの手首を握って走り出す。

 

「きゃ!!!」

 

「間違えてここを撃ってくれるなよ、アディン、オデル!!」

 

オーガスタ基地にサイレンが鳴り響く中、2機のガンダムが基地に夜襲をかけて駆け抜ける。

 

既に撃破されたジムⅢやジェガンの残骸が燃え上がっていた。

 

 

BGM 「G-UNIT」

 

≪OZX-GU01A ガンダムジェミナス01≫

 

 

≪OZX-GU02A ガンダムジェミナス02≫

 

 

 

「間違えて研究所に撃つなよ!!アディン!!」

 

「解ってるって!!さぁ、俺達がキメルぜ!!」

 

駆け抜けるガンダムジェミナス。

 

息を合わせてアクセラレートライフルを撃ちながら攻め込んでいく。

 

高出力の太いビームが何発も撃ち込まれ、警備のジムⅢやジェガンを次々と撃ち斃して行く。

 

進行軌道をクロスさせて2機は炎上するMS群を後にしていく。

 

オデルは、放たれるジェガン部隊の攻撃をかわしながら、モニターに映る部隊に次々と狙いを定める。

 

「悪く思うな……連邦に所属したことを恨めよ!!!」

 

シールドでアクセラレートライフルを支えながらガンダムジェミナス02はジェガン部隊に向けてトリガーを弾く。

 

 

 

ドゥヴィィッ、ドゥヴィィッ、ドゥヴィィ、ドゥヴィィ、ドゥヴィィィィ!!!

 

 

 

放たれる一発、一発が、狂いなくジェガンに直撃させていく。

 

オデルは、射撃に能力が長けていた。

 

その能力は、ヒイロやトロワに匹敵している。

 

攻撃の手を緩めず、流星の如く駆け抜けるガンダムジェミナス02。

 

狙い撃たれたビームが、出撃したジムⅢ部隊を撃ち落として爆発させる。

 

緊急事態にスクランブル発進する空戦MS・エアリーズ部隊。

 

この機体も例の組織の機体である。

 

低空飛行しながら6機のエアリーズがビームチェーンガンを撃ち放って迫る。

 

攻撃を受けながらガンダムジェミナス02はアクセラレートライフルを振りかぶって、改めて構える。

 

銃口にエネルギーがチャージされ、次の瞬間、バスターライフル級のビームが撃ち放たれた。

 

 

 

ヴィギュリリリリィィ………ヴヴァダァァァァァァ!!!

 

 

 

チャージショットされたアクセラレートライフルの強烈なビームは、エアリーズをかき消して直進し、MSの格納庫をも抉りながら破壊した。

 

対し、アディンは接近戦に長けていた。

 

アクセラレートライフルをシールドに収用し、ビームソードを取り出して、突撃する。

 

「いっくぜぇぇ!!!」

 

気合充分でジムⅢ部隊に斬りかかるガンダムジェミナス01。

 

斬り払われたビームソードの鋭利なエネルギーの刃が、3機のジムⅢの胸部を斬り捌く。

 

 

 

ヴィィギャイイイイイッッ!!!

 

 

 

「せやあぁっ!!」

 

その流れで、ビームライフルを撃とうとしたジムⅢを斬り上げて撃破し、機体を回転させてもう1機のジムⅢを一刀両断に真っ二つにした。

 

背後で爆発するジムⅢを尻目に、ビームソードを振り払うと、ビームマシンガンを発砲するリーオー部隊へ再び突撃する。

 

唸るビームソード。斬り払って回転をかけ、また斬り払う。

 

 

 

ヴィギュガァァ!! ビュフュンッ、ザディギャアアアア!!!

 

 

 

加速の勢いで袈裟斬りを見舞い、そこから更に加速して抜刀するかのような勢いで斬り払う。

 

自転しながら回転して飛びかかり、一気に叩き斬った。

 

立て続けに斬撃されたリーオーが爆発。ジェミナス01が駆け抜けた後には残骸の炎だけが残っていた。

 

悠然と聳え立つ2機のガンダムジェミナス。一瞬にして基地の戦力は無力化した。

 

だが、ガンダムジェミナス02は攻撃をかけ続け、オーガスタ基地の施設を撃つ。

 

「基地に攻撃しながら注意を引かせる!!ラルフと合流するぞ!!」

 

「OK!!」

 

2機のガンダムジェミナスは研究所の施設へと移動し、ラルフが指定したポイントへと着地する。

 

そこにはラルフとプルの姿があった。

 

アディンはモニタースクリーンにアップ表示して確認する。

 

「いたいた!!よし!!」

 

ガンダムジェミナス01がライトマニピュレーターを開き、ラルフ達の所へとかざした。

 

置かれたマニピュレーターを目の当たりにして、プルは先程の胸きゅん感覚の大元を感じとる。

 

「ねぇ、あたしこっちに乗りたい!さっきからあたしが感じてたきゅんきゅんする感覚、このMSから出てるんだよ!」

 

「ん?別に構わないが…(何を言ってるんだ?)アディン、この娘を頼む」

 

ラルフはプルの言ってる事がよくわからないままアディンにプルを委ねた。

 

「了解!!」

 

「どさくさに変なコトするなよ」

 

「な!?何言ってるんすか!!?しないっすよ、もう!!」

 

「フッフフフ…ジョークさ…オデル、俺の方も頼む!!」

 

「ああ!」

 

ガンダムジェミナス01と引き換えてガンダムジェミナス02のマニピュレーターがラルフのもとへ置かれた。

 

プルは可動するガンダムジェミナス01に振り落とされないように、しがみつく。

 

そしてコックピットに乗り込むやいなや、プルはアディンにいきなり抱きついた。

 

「プルプルプル~!!」

 

「おわ!?な、なんだ急に!?」

 

いきなりの行動に、アディンは赤面しながらあわてふためく。

 

「あなただ!!きゅんきゅんの正体!!やっと会えた!!」

 

「はぁ!?何なんだ~?!」

 

「あたしは、プル♪エルピー・プル♪よろしくね!!」

 

対面でアディンに座るプル。

 

アディンもこの際どい体勢に動揺しまくっていた。

 

とりあえず、どぎまぎしながら自己紹介で返すアディン。

 

「え!?あ、お、俺はアディン!!アディン・バーネットだ!!」

 

「アディン!!かっこいい名前!!ますます気に入っちゃった♪」

 

「弱ったな、もー…」

 

その時、右側面モニターにオデルが通信をかけてきた。

 

「アディン………って、いきなり何てかっこうしてる!?……あとで話がある!!とりあえず今はオーガスタを離脱するぞ!!」

 

「話って……違うぜ!!兄さん!!誤解だ~!!」

 

「?」

 

プルの調子に振り回され、先程の活躍振りが嘘のような空気になっていた。

 

かくして、2機のガンダムジェミナスはオーガスタを離脱する。

 

半永久機関である、GNDドライブを稼働させながら空中を移動していた。

 

ヒイロ達のガンダムにはこのGNDドライブが主機関となっており、ハイパワー、エネルギー供給、高機動、単機での空中飛行を実現させていた。

 

更にガンダニュウム合金を纏っているのだ。

 

故に、連邦性ガンダムとは異なるアビリティーを有していた。

「しかし…なんだこの状態…?」

 

プルは、先程の体勢のまま抱っこ状態でアディンに抱きついたまま眠ってしまっていた。

 

その時、犯行声明回線がオートで開いた。

 

モニターに、メガネをかけた三指の義手の怪しい老人が映った。

 

「ドクターJ!!」

 

「遂に……始まるな、ラルフ」

 

「ああ!」

 

ドクターJと呼ばれた老人が、犯行声明を宣言し始めた。

 

任務を終えた各ガンダムのパイロット達もこの犯行声明を見ていた。

 

デュオ、トロワ、五飛は、アディン同様移動しながら、カトルはサンドロックのコックピットでロニと共に犯行声明を見ていた。

 

「地球連邦軍…並びにジオンを始めとする反連邦の者達へ告ぐ…我々はメテオ・ブレイクス・ヘル。我々独自のガンダムを所有する、私設武装組織じゃ。我々は連邦の多大なる愚行を存じておる!!実際に連邦による大量弾圧によって多くの犠牲が出ておる!!未だにコロニーの自治権を否定し、宇宙に適応したニュータイプを迫害する………もうこれ以上の連邦の愚行は御免被る!!我々は、ガンダムを反抗の象徴として、連邦政府に攻撃をかける!!我々は、メテオ・ブレイクス・ヘル………打倒連邦に立ち上がった、私設武装組織である!!!」

 

「遂に……遂に始まっちまった……もうあとには引けないぜ……相棒」

 

デュオは自動操縦モードに切り替えてシートに寝そべり、ガンダムデスサイズに語りかける。

 

「始まるな………」

 

焼け野原となり、燃え盛るドーバー基地の中でトロワは腕組みしながら、平然と犯行声明に目を通していたしていた。

 

「ナタク………ここからが真の闘いだ。共に宇宙の悪を斃すぞ!!!」

 

揚子江基地の対岸で、燃え盛る揚子江基地を見ながらシェンロンガンダムと共に闘いの運命に挑む五飛。

 

「……これが僕の……いや、僕達の覚悟さ」

 

「本気なの!?ジオン軍やネオジオン軍でも成しえていないことをあなた達だけで闘う気!?余りにも無謀だわ!!」

 

「無謀でいいんだよ。誰かが無謀な闘いをしなければいけない。そうでなければ……」

 

「何故カトルが……あなただってウィナー家の御曹子なのに……あ、でも私も似たようなものか。ガーベイ家の令嬢なのにMSに乗ってる…」

 

「お互い様だね」

 

カトルとロニの家柄は、宇宙と地球とで企業提携を結んでいた関係で、幼馴染みの関係にあった。

 

カトルはそんな彼女を、あえて犯行声明に立ち会わせていたのだ。覚悟を知ってもらう為に。

 

この犯行声明は地球圏各地に一斉配信されていた。

 

街中のテレビ、マスコミ、一般家庭など、様々な場所から人々がこの放送を目にしていた。

 

連邦軍側やジオン側も、余りにも無謀な犯行声明に驚きを隠せない。

 

「あの時のガンダムが彼らだったのか!?しかし無謀だ……どれ程のことをやってのけるつもりだ?」

 

ジンネマンは、コトの難しさを理解しているが故に、我が身のように深刻な気持ちになっていた。

 

一方、オペレーション・ファントムで地球に降下したネオジオンのパイロット達もこの犯行声明に興味を惹いていた。

 

連邦のMS部隊を駆逐した、真紅のMSシナンジュと、紫のギラズールカスタムが佇む。

 

シナンジュのコックピット内には、シャアの再来と呼ばれる男・フル・フロンタルが搭乗する。

 

実質上、現ネオジオンを統率している立場の人間だ。

 

一方のギラズールカスタムには、彼を心酔するアンジェロ・ザウパーが乗っていた。

 

「ほう……なかなか興味深いな……連邦に反目するガンダムか!!」

 

「大佐、やつらは敵となりうるのでしょうか!?」

 

「それは今は何とも言えん。一応は敵を同じくする同志と捉えようか……オペレーション・ファントムもまた数奇なタイミングで発動されたな!!」

 

「はい!!大佐!!」

 

連邦軍・コルシカ基地において、連邦のエース、リディ・マーセナスが遺憾を示していた。

 

「こいつらは馬鹿か!?!連邦なくして秩序が保てるはずがない!!!それに、ジオン達の愚行なくして軍事行動は起こさん!!!!連邦をなめるな!!!」

 

壁に拳をぶつけるリディ。彼は連邦のエースパイロットであり、連邦軍の軍人であることに誇りを持っている。故に怒りがこみ上げる。

 

「激しく意気込みすぎだな、リディ少佐」

 

「これは、OZのシャア……いえ失敬、ゼクス・マーキス特佐!!」

 

シャアやフロンタルに酷似した彼は、連邦内部の秘密結社・OZに所属するエースパイロットだ。

 

そのOZこそ、「例の組織」とヒイロ達が言っていた組織なのだ。

 

シャアと言われてしまいがちなことは、承知の上でゼクス・マーキスは仮面を被り、紅い騎士のような服を纏っていた。

 

それほどまでに深い信念が在る表れでもあった。

 

「ふ……そう言われても仕方ないがな……それよりも、先程このガンダムとネオジオンの件で緊急措置がとられた。私の部隊とリディ少佐の部隊とで調査が命じられた」

 

「え!?!そうですか!!!喜んで拝命致しますよ!!!」

 

「頼む。だが、非常に危険な任務であることは肝に命じたほうがいい」

 

「それならば、覚悟は軍人故にできています!!」

 

「いや、私が言いたいのは、このガンダムは今までの常識では考えられない程、危険な機体だということだ。実際に遭遇した全てのMS部隊が基地ごと壊滅された事実がある!!」

 

「一人残らず……ですか?!!」

 

「ああ。どの報告も辛うじて生き残った基地内の兵士や、後から来た部隊からの報告だ。MS部隊は1機残らず全滅している。しかも、ガンダムは7機確認されている」

 

「7機のガンダムが?!しかし………連邦の英雄たるガンダムが………連邦の敵となるなんて………!!!」

 

「別物と意識したほうが良いだろう。我々の敵は計り知れない化け物のようだ。更に袖付きネオジオンが地球に攻撃を仕掛けてきている。忙しくなりそうだ」

 

「ネオジオンに……反乱分子のガンダム!!」

 

繰り返される犯行声明の映像に厳しい眼差しでリディは見つめた。

 

 

 

一方、ヒイロとマリーダが沈んだ海底には、ウィングガンダムとクシャトリヤが並ぶように倒れこんで眠っていた。

 

ヒイロ、マリーダは互いに強烈過ぎるGで気を失っていた。

 

だが、戦う為の運命を背負った二人の運命の歯車は、ゆっくりと……惹かれ合うかの如く、確実に回り始めていた。

 

 

 

 

 

 

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エピソード3 「Gの強襲」

ウィングガンダムとクシャトリヤが海に沈む一方で、ガンダムデスサイズ、ガンダムヘビーアームズ、ガンダムサンドロック、シェンロンガンダム、ガンダムジェミナス01・02の6機のガンダム達が、連邦軍の基地や活動領域に次々と攻撃をかけた。

そして、それらのガンダムを保有する一部のコロニー側の組織、メテオ・ブレイクス・ヘルが地球連邦政府に対し犯行声明を地球圏全域に発信する。

これに対して、連邦側も緊急措置を執る為の対処に動いていく。

スペースノイドを良しとしない連邦軍と秘密結社OZに攻撃目標を定めたオペレーション・メテオが、本格的に動き始めるのであった……。



北米・地球連邦軍 ユーリカ基地

 

 

地球圏にメテオ・ブレイクス・ヘルの犯行声明が配信され、世界各地でガンダムやネオジオンの襲撃が相次いだ翌日。

 

世界各地の地球連邦軍基地が厳戒警備体制になり、基地の随所にMS部隊が布陣して警戒を強めていた。

 

アメリカの西海岸に面した、ユーリカ基地においても同様の警戒体制が執られていた。

 

港には空母艦が待機し、最新鋭機であるリゼルがMA(モビルアーマー)形体の状態で、多数機が搭載されている。

 

基地の軍備増強に伴い、緊急で配備される状況に至っていた。

 

海中においても、アクアジムやガンダイバーが警戒待機していた。

 

「昨日の今日だ。メテオなんとかが、いつきても不思議じゃない」

 

「ああ。ま、来てくれん事を祈るだけだな。今は願掛けで、海のガンダム、ガンダイバーに乗っている…年代物だが、性能は確かだ」

 

「いいっすね…俺もガンダムに乗ってみたいっすよ」

 

部隊内のパイロット同士でMS越しに会話が交わされる。それはいつの時代の戦場でも見られる光景だ。

 

彼らの水中部隊はガンダイバー1機、アクアジム2機の小隊であり、他にも3小隊が展開していた。

 

「ははは、お前はもっと経験が……ん!!?先行していた小隊の機影が消えた!?」

 

「……え!?」

 

レーダーに映っていた小隊の機影が消えた…それは即ち、機体が破壊されたことを示していた。

 

隊長機のパイロットが状況を確認する。だか、敵機の反応がない。

 

「……どうなっている!?このレーダー範囲でロストする筈がない!!!」

 

仲間の機体がロストした方向のモニター画像を確認するパイロット。爆発で生じた大規模な泡が確認をする。

 

「な!!?爆発したのか!?」

 

その時、他の先行していた小隊の目の前に黒い死神が泡の向こうから降臨した。

 

死神の目が緑色に光る……ガンダムデスサイズだった。

 

ガンダムデスサイズは、大きくビームサイズを振りかぶって一気に振り回した。

 

その一振りは3機のアクアジムを仕留めた。連続爆発を起こして水中の藻屑と化す。

 

更にガンダイバーを一振りの一撃で斬撃。ボディーを寸断して爆発させた。

 

「敵襲!!敵襲ぅぅぅ!!」

 

パイロット達は、予測していたとはいえ実際にガンダムと遭遇し、混乱に陥る。

 

先行していた別のガンダイバーとアクアジム3機の小隊が、一斉にガンダムデスサイズ目掛けて魚雷射撃を敢行する。

 

次々とガンダムデスサイズの装甲に注がれる攻撃。全弾が命中し、爆発の泡が周囲に立ち込めた。

 

「撃て!!撃ちまくれ!!」

 

破れかぶれに撃ちまくられた魚雷攻撃であったが、ガンダムデスサイズは何事も無かったかのように、爆発の泡から突き抜けてきた。

 

「何ぃ!??」

 

「そらよぉっ!!!」

 

デュオの気迫の籠った操縦で、ザガギャンと3機のアクアジムを凪ぎ払うガンダムデスサイズ。

 

起こされた爆発の泡が連続する中からバスターシールドを展開させて、ガンダイバーを刺突した。

 

水中を知り尽くしたベテランパイロットさえも翻弄して、完全にペースを掌握するデュオ。

 

周囲に向けるように不敵な言葉を囁く。

 

「死ぬぜ………俺を見た奴は、みんな死ぬぜぇ…」

 

先程のガンダイバーの部隊へ眼光を光らせるガンダムデスサイズ。

 

「う……!??」

 

海中に浮かぶ死神のシルエットが、パイロット達に不気味な恐怖を掻き立てる。

 

その死神の中のデュオは、敵機をロック・オンしながら任務にあたってのデータを右側のモニターで再確認する。

 

「ユーリカ基地に緊急配備されるリゼルの破壊と基地の破壊……ヒイロの代わりに、バーネット兄弟と合流するわけだが………」

 

データ再確認中にガンダイバーと2機のアクアジムが魚雷を一斉にガンダムデスサイズへ撃ち込む。

 

「おっと……!」

 

隙を見せていたが故に攻撃を受けて当然であるが、デュオはその程度の攻撃では、全く問題ないことは承知済みであった。

 

「……っ………振動がうざいが………えーと…空母は2隻、リゼルは計20機か…基地はバーネット兄弟に任せるか!!にしても……ヒイロのやつ、発動早々音信不通ときた!なにやってんだ~?アイツ程のやつがよー」

 

直撃振動の中、余裕を見せながらデュオは、基地のデータを切り返しながら、ヒイロに文句を溢す。

 

対して、連邦の兵士達は必死の想いで攻撃を続けた。

 

「こいつ!!こんなに直撃させても、全く平気なのか!?」

 

歯が立たない死神は、パイロット達の人知を越えていた。恐怖に翻弄される彼らに死神が飛びかかるように加速した。

 

「わああああぁぁ――――!!」

 

悲鳴をあげるパイロットの最後の眼差しにガンダムデスサイズの表情が焼き付く。

 

次の瞬間には、ビームサイズがアクアジムを2機まとめて斬り払っていた。

 

爆発するアクアジムを尻目に、ガンダムデスサイズはガンダイバーへと急接近する。

 

そして、容赦なくガンダイバーのコックピット目掛けて、バスターシールドを突き上げるようにして突き刺した。

 

基地の港の海面を突き上げる爆水。

 

吹き上がる海水の中から間も無くして、ガンダムデスサイズが姿を現した。

 

基地の警備待機にあたっていたジェガン目掛け、レフトアームをかざす。

 

怯ます隙さえも与えずに、ガンダムデスサイズはバスターシールドをレフトアームから射出させた。

 

高速でジェガンの胸部を刺突しながらバスターシールドが貫通し、ジェガンを爆砕。更に貫通したバスターシールドが、もう1機のジェガンに突き刺さる。

 

バスターシールドが突き刺さったまま、ジェガンは倒れて爆発を巻き起こした。

 

「俺からの挨拶はお仕舞い!!あとは、今から来るお二人に遊んでもらいな!!」

 

デュオは、ガンダムデスサイズを飛び立たせる操作をしながら、空母へとターゲットを絞る。

 

その直後、断続的なビームが基地に撃ち注がれた。

 

次々と撃ち込まれるビームが基地の施設やジムⅢ部隊を撃破させる。

 

基地にサイレンが鳴り響く中で、空中からガンダムジェミナス01、02が攻撃をかけながら基地に降り立った。

 

「基地への強襲に成功!!このまま基地の機能を壊滅させるぜ!!リゼルは任せた、デュオ!!」

 

「こちとらそのつもりだ、アディン!!兄弟の朝飯は沢山残してやったぜぇ!」

 

敵部隊を朝飯と比喩した冗談を言うデュオ。デュオは、よく事を比喩した冗談を言う性分だった。

 

ガンダムパイロット達の中でも性格が似たアディンもそのノリにノル。

 

「それじゃ、ありがたく腹一杯にいただくぜ!!」

 

根が真面目なオデルもデュオの冗談にあえて便乗してアディンに指示を出した。

 

「コーヒーが欲しいものだな……単純な攻撃方だが、ここはOZの息がかかっている基地だ。徹底的にやらせてもらう!!!このまま格納庫を目指して戦力を叩くぞ!!遠慮なく食え、アディン!!」

 

「あいよっ、兄さん!!」

 

アクセラレートライフルから放たれる高出力ビームは、ビームライフルとバスターライフルの中間的な威力を持ち、チャージショット時にはバスターライフルと比毛をとらない威力を発揮する。

 

ジムⅢ部隊、ジェガン部隊が徹底交戦に出るべく、ビームライフルを構えながら襲撃に対向する。

 

だが、息のあった2機のガンダムジェミナスの射撃が反撃の余地を与えない。

 

高速で交互に撃ち出されるビームが、ジェガン、ジムⅢ各機を射ぬき、連続で次々と撃ち斃していく。

 

爆発が巻き起こる中、基地のMS格納庫からリーオー部隊が、ビームマシンガン、ドーバーガン、ビームバズーカ等を装備して転がり出るかのように出撃する。

 

「早速リーオーが出てきたぜ、兄さん!!」

 

「ああ。加速して飛び込む!!」

 

モニターに次々と攻撃を開始するリーオー部隊が映る中、機体を加速させるアディンとオデル。

 

アディンは、加速しながらビームソードへと武装を切り替え、得意気な表情を浮かべる。

 

「おっし!!このまま叩き斬る!!」

 

加速する2機のガンダムジェミナスを阻むように両サイドからスタークジェガン部隊が割り込み攻撃をかける。

 

ミサイルやバズーカが一方的に飛ぶ中、ガンダムジェミナス01はシールドでガードしながら懐に飛び込み、叩くようにビームソードの斬撃を浴びせは斬り払う。

 

斬られた3機のスタークジェガンのボディーが分割されて個々に爆発を起こす。

 

ガンダムジェミナス02は、軽快にかわしながらアクセラレートライフルを脇を締めるかのように、ジャキンと構え、チャージショットを撃ち出す。

 

撃ち出された図太いビーム渦流が、スタークジェガン3機を呑み込んで駆逐させた。

 

スタークジェガン部隊が無惨に壊滅した向こう側よりリーオー部隊が一斉に攻撃をかける。

 

夥しいビームの砲弾が2機のガンダムジェミナスへと襲い掛かる。正に弾幕だ。

 

シールドでそれぞれがガードする。アディンは伝わってくる衝撃から威力を感じていた。

 

「流石に衝撃に威力を感じるな……ビームの重兵器!!けど、GND合金には余り意味ないぜ!!」

 

「無論だな」

 

レバーを押し込み、機体を弾雨の中へと加速させるアディンとオデル。

 

加速しながら上昇し、アクセラレートライフルをジャキンと構えるガンダムジェミナス02。銃口には既にエネルギーがチャージされていた。

 

ガンダムジェミナス02は下方に向けてチャージショットを放った。ビーム渦流に叩き潰されるかのようにリーオー部隊がかき消された。

 

膨大なエネルギーは施設を巻き込んで地表を爆発させた。その爆発を突っ切り、次のリーオー部隊に狙いを定めるガンダムジェミナス02。

 

瞬間的な射撃を放ち、一寸の狂いなくリーオーを連続で撃ち抜いて爆発させた。

 

「でやぁあぁぁっっ!!」

 

アディンのガンダムジェミナス01も負けじとリーオー部隊に突っ込む。

 

駆け抜けた一瞬でザザシュッと2機のリーオーを斬り刻み、背後から回り込むように3機の懐をとらえた。

 

一瞬の一振りの凪ぎが、3機のリーオーをまとめて斬り飛ばす。

 

そこへ、ビームマシンガンが撃ち込まれ、ガンダムジェミナスの装甲に注がれる。

 

「うおっ…と!!」

 

ギャギャギャンと爆発が連続で発生した。だが、効果はない。

 

「せやぁあぁぁ!!!」

 

ガンダムジェミナス01は飛びかかって反撃し、ビームソードの刃で3機を連斬する。

 

ジュオォォォというビームソード独特の斬撃音をたたせて3機がまとめて爆発した。

 

一方のデュオは、空母に飛び移って破壊の限りを尽くす。足下に配置しているリゼルをビームサイズで次々と斬り払っては斬り払う。

 

既に空母の上は破壊されたリゼルで燃え盛り、炎の海と化していた。

 

炎の上に乗る死神の巨人から逃げる整備兵達。ライトグリーンの光る目が恐怖を掻き立てる。

 

「こいつは鎌に栄養のある馳走だなぁ…相棒!!」

 

モニターの配置しているリゼルを見ながら、調子よくガンダムデスサイズへ話しかけて攻撃操作するデュオ。

 

足下を斬り払うようにビームサイズを振り払い、リゼルを斬り飛ばして爆発させた。

 

この光景を只見るしかないブリッジクルー達。現実からかけ離れたような光景に、非難行動さえも麻痺させられていた。

 

「ばかな………!!」

 

ガンダムデスサイズが、ブリッジクルー達と目を合わせるかのように向き、ビームサイズを振りかぶる。

 

次の瞬間には空母の要たるブリッジが斬り飛ばされて爆発が発生した。

 

炎に照らされる死神から逃げるようにヘリが飛び立つ。残っていた整備兵達が脱出を測っていた。

 

ガンダムデスサイズは、容赦なくベッドバルカンをヘリに放ち、バラバラに砕くように撃ち墜とした。

 

「次いくぜ!!」

 

もう一隻の空母へとターゲットを絞るガンダムデスサイズ。軽快に翔び、空母を目指して飛行する。

 

既に二隻目の空母からは3機のリゼルが緊急発進し、MSへと変型しながらガンダムデスサイズへと接近する。

 

「おっと!お目覚めかぁ?おとなしく寝てりゃ楽に死ねたのによぉ…」

 

後方の2機がビームライフルで攻撃を仕掛けて先行機を援護する。

 

奔る二本のビームが、突っ込んで加速してくるガンダムデスサイズをかすめていく。

 

そして、先行しているリゼルがビームサーベルを取り出して、ガンダムデスサイズに斬りかかる。

 

唸る一振りのビームサーベル。ビームサイズの刃と激突した。

 

「こいつ、生意気にも斬りかかってきやがった!ひゅー♪」

 

軽く口笛を吹いてみせたデュオは、不敵にニヤケてガンダムデスサイズをコントロールする。

 

スパークするビームの刃と刃だったが、ガンダムデスサイズは一瞬で弾き返すようにガオンッと捌いて、リゼルを胸部からザバシュンッと凪ぎ払う。

 

一瞬で斬り刻まれ爆発するリゼル。この爆発を突き抜けてガンダムデスサイズは、2機のリゼルに斬りかかる。

 

斬と轟の唸るビームサイズの一振りの斬撃が2機のリゼルの装甲を刹那に斬り飛ばす。

 

爆発させたリゼルを尻目に空母目掛けて、空中を滑るように飛びかかる。

 

新たに起動した2機のリゼルがビームサーベルで斬りかかるが、その攻撃は空しく捌かれ、1機は斜めに斬撃されて爆発する。

 

ガンダムデスサイズは、その斬撃の勢いのまま逆刃を斬り上げてもう1機を斬り飛ばした。

 

この時点で既に15機のリゼルが損失していた。最新鋭機故に被害額は計り知れない損失であることは言うまでもない。

 

ガンダムデスサイズは、勢いをつけて着地と共に斬撃を振るう。

 

ビームライフルを構えたばかりのリゼルが斬り墜とされて爆発した。

 

そのまま真横にあった空母のブリッジ目掛けて、ビームサイズを一気に斬り上げた。

 

巻き起こる爆発。空母の機能の大半が奪われた。

 

ガンダムデスサイズは空母の滑走路にズシンと歩を進め、残っていたリゼルを順番に斬りながら回る。

 

まるで死の儀式さながらの光景だった。

 

パイロット無きリゼルは無抵抗に斬り払われて冥界へ誘われる。

 

当のパイロット達は巻き起こる爆発により、既に冥界に召されていた。

 

ビームサイズを構えながら立ち上る炎を見下げるように立つガンダムデスサイズ。

 

「朝飯ご馳走様でした……へっへへ!俺と相棒に会った奴は、片っ端から死んじまうんだぜ……!!」

 

一方のバーネット兄弟も基地を壊滅させていた。

 

ガンダムジェミナス達の止めの攻撃が加えられる。

 

ガンダムジェミナス02が放ったアクセラレートライフルのチャージショットの一撃が、格納庫諸とも複数のリーオー部隊を吹き飛ばす。

 

周囲を焼き付かし、リーオー部隊を消し飛ばす規模の大きな爆発を巻き起こした。

 

ガンダムジェミナス01と対峙するリーオーの残存部隊。

 

あがくようにビームサーベルで斬りかかる1機のリーオーを、ガンダムジェミナス01は一撃で斬り払って爆発させた。

 

4機のリーオーは狂ったようにビームマシンガンを撃ち放ってガンダムジェミナス01を攻撃をかける。

 

シールドでガードしながらガンダムジェミナス01が一気に斬りかかる。

 

鋭利なビームソードの刃で瞬間的に焼灼して、袈裟斬りの一撃が1機のリーオーを叩き斬る。

 

一瞬でそこからビームソードをそのまま斬り上げて、逆刃面でリーオーの胸部を斬り飛ばして爆発させた。

 

そこから爆発で勢いをつけたかのように翔び上がり、

空中から斬りかかる。

 

機体の重さをのせて破壊力が増した一撃が容易くリーオーを一刀両断した。

 

左右に分割したリーオーが二本の火柱を上げた。

 

最後の抵抗を続けるリーオーに横凪ぎの一撃を加えるように斬りかかる。

 

ザジュバンッと強烈なビームソードの一撃がリーオーを分断させた。

 

焼灼され、分断したリーオーの向こう側にガンダムジェミナス01が姿を覗かせた。

 

爆発を巻き起こし、リーオーは完全に砕け散った。

 

「基地の戦力、及び機能の破壊を確認」

 

燃え盛り、陥落した基地を見つめながらオデルのガンダムジェミナス02はアクセラレートライフルをかまえた。

 

ビームソードのビームエネルギーを解除して右肩にビームソードユニットをしまうアディンのガンダムジェミナス01。

 

「へっへへ!キメテやったぜ……任務完了!!」

 

鼻許を軽くこすりながらアディンは満足気に任務完了させた。

 

デュオもガンダムデスサイズにビームサイズを担がせて、余裕の表情で壊滅している基地に向かって不敵にニヤケてみせる。

 

「どーだぁ?連邦さん。これが……Gマイスターだ」

 

Gマイスター…それがメテオ・ブレイクス・ヘルにおけるガンダムパイロットの総称である。

 

従来の事例のガンダムパイロット達と異なり、予めガンダムのパイロットとしての強化訓練、もしくは天性のセンスで高い戦闘能力を持ち合わせていた。

 

更に怪物級のガンダムとの組合せにより、前代未聞の戦果を叩き出しているのだ。

 

 

 

北欧・コルシカ基地

 

 

 

急遽編成された、ガンダム調査隊の面々が集まり、夜間のコルシカ基地の滑走路にエアリーズとリゼルが並ぶ。

 

集結しているのは、連邦軍とOZの精鋭達だ。

 

選りすぐりのエースパイロット達が集まる中、ゼクスとリディが今回より与えられた新型機を前に、その機体を見上げている。

 

重厚な騎士と角を額に着けた戦士のようなMS。どちらもガンダムのシルエットに酷似していた。

 

「この機体が今回より私に与えられた新型機か……データでは確かトールギスと表記されていたな」

 

「自分の機体はユニコーンと………単機での飛行が可能と言うことですが、どちらも白いカラーリングですね」

 

「そうだな。連邦の精鋭機体はいつの時代も白き戦士ということだ」

 

「同感です。この機体で今回の反乱者を掃討を図る………ですか。考えただけで熱くなれます。同胞達の敵もとれますし……」

 

純白の高貴なる機体に乗れることを誇りに思うリディにゼクスは、意気込みすぎのように捉えた。

 

「リディ少佐……余りに意気込み過ぎても仇となる……我々の目的は敵討ちではない。あくまで現段階は機体のデータ収集だ」

 

「そうでした。ご忠告ありがとうございます」

 

その時、ゼクスを呼ぶ声が響いた。

 

「ご無沙汰です、ゼクス特佐!!」

 

そこには敬礼をした二人の青年兵士がいた。ゼクスとリディも敬礼を返す。

 

「ワーカー!それにオットー!久しぶりだな」

 

「はい!!この度、反乱ガンダム調査隊に配属致しました!!」

 

彼らはゼクスの部下であった。天然パーマがかかったオットーもゼクスと共に闘える喜びを伝えた。

 

「私もゼクス特佐と共に闘える事が嬉しいです!!」

 

「お前達がいてくれると心強い!私自身も、励みになる」

 

ゼクスは実に部下想いの兵士であった。故に部下からの信頼も厚い。

 

ゼクスの言葉一つが好印象と士気の向上に繋がる。

 

そして、ワーカーとオットーはリディにも敬礼を示した。リディも敬礼を返す。

 

「リディ少佐だ。私も、ゼクス特佐と共に配属した連邦軍の士官である。よろしく頼む」

 

「は!」

 

すると、リディの許にも彼の部下がやってきた。

 

だが、ゼクスとは少し状況は異なっていた。

 

「リディ少佐殿!」

 

「ホマレ中尉!!ガロム中尉!!お久し振りです!!」

 

部下に対し敬語を放つリディ。彼らは元々リディの上官であった。

 

「リディ少佐!!今は貴方が上官なんですよ!敬語はやめてください」

 

「そうっすよリディ少佐!!貴方はもう連邦のエースなんすから!!」

 

ガロムに続きホマレも同じようにリディを立たせる。

 

元々の部下であったリディとしては複雑であった。

 

「ははは……では改めて…二人共、今回の相手はジオンに加え、反乱者のガンダムときている。彼らに遭遇した際の致死率は、ほぼ100%だ。共に心していこう!!」

 

「了解!!」

 

かつての上官に指示をするのは何とも複雑ではあったが、その再会にリディの口元には笑みが浮かぶ。

 

ゼクスはその光景に目を配った後に、再びトールギスを目にした。

 

「トールギス………」

 

そう呟いたゼクスに、ワーカーが助言するかのようにトールギスについて語りだした。

 

「このトールギス………整備兵の間では真の初めのMSということで知られていました」

 

「そうか、ワーカーは整備兵の上がりだったな!真のとはどういう事だ?」

 

最初のMSは軍を含め世間一般ではザクⅠとされている。だが、ワーカーはこれを覆す発言をしたのだ。

 

自然とゼクスも興味が沸く。

 

「ザクⅠよりも以前に設計されたらしく、機体のコンセプトも、1機で数千の敵を相手に闘えるようにできているそうです………最初のMSにして強力なMSなのです!!」

 

「そのような機体が与えられるとは………トールギスから運命的なモノを感じてならないな」

 

「ゼクス特佐だからこそ、トールギスが選んだのかもしれません」

 

「フフ……ワーカー、余り私を買い被るな。所詮はライトニング・バロンの肩書きを背負わされているだけの男だ」

 

己を否定しながら再びトールギスを見上げるゼクス。

 

ワーカーは頑なに尊敬の意を表した。

 

「またご謙遜を……ゼクス特佐ならば、トールギスを駆け抜ける閃光にさせるでしょう。それに私とオットー特尉は付いて参ります!」

 

「……すまない。感謝する」

 

 

 

L1コロニー群 A1358コロニー

 

 

 

メテオ・ブレイクス・ヘルのアジトが設置されているコロニーの一つだ。

 

廃墟ビル群の地下にあり、此処で地球の各地で行動しているエージェントから送られてきた情報を基に、ガンダムパイロット達に任務を送信しているのだ。

 

「ユーリカ基地破壊、及びユーリカ基地に緊急配備されたリゼルの駆逐任務完了」

 

「エージェントから新たな情報………アラブ諸国周辺に展開中の連邦軍が、近日中に大規模なジオン掃討作戦を展開する模様……」

 

「地中海のコルシカにOZのエアリーズが多数配備されるにあたり……」

 

「ベルリンの連邦軍基地にてOZの機体が緊急配備される情報が……」

 

「香港の地球連邦軍施設にOZの空母が停泊しているとの…」

 

各地から寄せられる情報を複数のデータベースとオペレーターで受け持ち、その各々の情報を各コロニーの任務立案者へと譲渡される。

 

そして立案された個々の任務を各ガンダムへ発信するのだ。

 

一人のエージェントが、集約された情報をドクターJへと提出する。

 

「……以上が、現在の確定情報です」

 

「ふむ………」

 

情報書類に目を通すドクターJだったが、義手を動かしながら、ヒイロの話を切り出した。

 

「……仕方ない…また他のGマイスターにまかせるか…ヒイロからは何もないのか?」

 

ドクターJは書類を机の上に置き、癖のようにまた義手をかちかちと動かしてエージェントに問う。

 

「その件ですが、つい先ほどドクターハワードより、サルベージでウィングガンダムを回収したとの一報が入りました」

 

重要事項を先に言わないエージェントにドクターJは軽い怒りをしめす。

 

「何?!先に言わんか!!ヒイロは無事なのか!?!」

 

「は、はい!!無事です!!現在、ウィングガンダムの修理にあたっているようです!!」

 

今現在、ヒイロ以外のGマイスター達は予定通りに任務を遂行している。

 

だが、ヒイロに至ってはオペレーション・メテオ発動以降、全く連絡がない状態が続いていた。

 

ドクターJは直接ヒイロを戦闘のプロフェッショナルに育成した経歴もあり、故に神経を尖らせていたのだ。

 

「そうか!!なによりじゃ!!一日とは言え、やっと引っ掛かりがとれたわい。じゃが、サルベージという事は…何だかのトラブルで海に墜落でもしたのか!?」

 

「はい。そのようで……どうもネオジオンの新型と戦闘したらしく…その機体も同時にサルベージされたとのことです」

 

「そうか……ま、ガンダムはネオジオンにとって敵以外の何ものでもないからな。やむを得ない事故だったのかもしれん。ともかくヒイロとガンダムの行方が判ってなによりじゃ」

 

メテオ・ブレイクス・ヘルは基本的にネオジオンは攻撃対称とはしていない。だが、ガンダム故に向こう側から戦闘を仕掛けられる可能性もある。

 

ドクターJは致し方のない事故と捉え、一応の事態判明に安堵した。

 

「ハワードとそのスタッフは、間違いない整備センスやノウハウを持っとる………安心したわい」

 

「では、引き継ぎ連邦軍とOZの情報収集に…」

 

「うむ」

 

 

 

巨大サルベージポート船・オルタンシア

 

 

 

広大な港施設とも言える程の規模を誇るサルベージ船であり、一般のサルベージ作業をしながらメテオ・ブレイクス・ヘルのサポートをする役目を担う。

 

一般貨物兼偽造貨物を担うガランシェールと類似している立ち位置にあると言ってもいいだろう。

 

船内のMSドックでは、回収されたウィングガンダムとクシャトリヤが仰向けに寝るように格納されていた。

 

それらを見ながらアロハシャツを着たサングラスの老人が、メカニックに指示を出していた。

 

その老人がドクター・ハワードである。

 

「……一応、外傷は皆無に等しいが、機体の電気系にチェッカーかけといてくれ。機体が頑丈でも内部の電気系に影響している可能性もある。」

 

「了解!!やっときますよ!!」

 

「とにかくメインはウィングバインダーの修理が最優先だ。取り外しとオーバーホールの両方でかなり時間を使う。任務のこともあるし、急ピッチでやってくれい」

 

ハワードは機体のデータのコピーを挟んだボードを手に、ちらっとウィングバインダーの修理にあたるヒイロに視線を配った。

 

ツナギに着替えたヒイロが、天井クレーンにかけたワイヤーをウィングバインダーにセットしている。

 

墜落して気を失った後で、もう作業している姿には驚きを隠せない。

 

「とても、ついさっきまで気を失っていた奴の行動ではないな……いくら俺の機体だからと言って一人でやるのは酷じゃ。機体のでかさが一般重機の何倍もあるんじゃからな。他の皆にも手伝うように言ってやれ」

 

「ですね。このでかさだと五人でやっても足りないくらいっすよ!それにしても………とても墜落した後でやる行動じゃないっすね……」

 

その手の作業者故に解る作業の過酷さが伝わる。

 

巨大な機体を単独整備することは不可能に近い。更に無事とは言え、墜落の衝撃を受けていた身なのだ。

 

「同感だ……とんでもない奴じゃ。さて、もう一つのデカ物とそのお嬢ちゃんの方へ行ってくる。あとは任せた」

 

「はい!!」

 

ハワードはその場を部下に任せてクシャトリヤの方へと歩を進める。

 

その歩の先には、クシャトリヤをチェックするメカニック達がいた。

 

「どうかね?デカ物は」

 

「ドクターハワード!今…人通りチェックしました。多少の装甲破損、海水による内部の電気系の不具合がありました。こいつは旧ネオジオンのクインマンサに酷似してますね…多少のマイナーチェンジはありますが」

 

「そうか…確かうちのスタッフの中にもお前さん以外に元ネオジオンのメカニックがいたな。流石に我々の機体ではないから完全には直せんが、親切心でやれるところだけはやってやろう」

 

ハワードは、目的や考え方は違えどスペースノイドの為に闘う彼らに敬意の意を踏まえ、出来る範囲だけの修理を命じた。

 

「了解しました!!昔パクったクインマンサのマニュアルあるんで、やれそうであれば…やってみますよ」

 

ウィングガンダム班とクシャトリヤ班に別れての整備作業が開始され、各員が作業箇所に就いた。

 

ヒイロは天井クレーンを操作しながらウィングバインダーを床に置いた場木の上に設置させると、ウィングガンダムの修理マニュアルを開いた。

 

そこへ歩み寄る人影があった。

 

ヒイロは整備マニュアルを読みながらその気配に言い放つ。

 

「……なんだ?」

 

「ここの責任者から好きなように見学して構わないと言われてな………先日はすまなかった。私が攻撃を仕掛けていなければこんな事態には…」

 

マリーダであった。

 

自分が攻撃を仕掛けてしまったことを謝罪するマリーダ。彼女自身ヒイロに対して罪悪感を抱いていたのだ。

 

同時に一週間前に感じた感覚もひしひしと感じていた。

 

「……気にするな、俺も同じだ。俺は任務妨害と見なし、お前を殺そうとした」

 

「だからと言って……私の行動をよしとすることもない。この状況からしてお前の任務に大きな差し支えを私は与えたのだ…」

 

「だが、それはお互い様だ。今は共に任務を遂行できない状況だ」

 

「確かにそうだが…」

 

マリーダは頑なに罪悪の姿勢で接し、ヒイロはそれを許すかのような言動で返す。

 

初対面にもかかわらず、 互いを気遣うかのようなやりとりになり、マリーダも戸惑う。

 

ヒイロは視線をマニュアルからマリーダに移し、一言投げ掛けた。

 

「………手伝ってくれ」

 

「え?」

 

成り行きでヒイロと共にウィングバインダーのオーバーホールを手伝うようになったマリーダ。

 

バラしたパーツに手をつけ始め、マニュアルを見つつ修理にあたるヒイロ。マリーダは指示された部分を工具ではずしていく。

 

作業効率を上げる為に、船内の作業用ザクタンクを用いて、外装が外れたウィングバインダーを移動させて場所を広くする。

 

物が物だけに、ハワード曰く手間と時間をとる。

 

内部の機器はファンネルの攻撃で著しく破損していた。通常攻撃ではまずあり得ない破損状況だった。

 

この状況を見たマリーダは改めて自責の気持ちを抱く。

 

 

 

ガンダムは敵―――

 

 

 

マリーダは自分の脳内に刷り込まれたその催眠情報に苦悩した。

 

一方のヒイロは坦々と作業に集中し、次の作業工程にとりかかった。

 

その作業から12時間が経過する中で、その光景をハワード達が見ていた。

 

「あの二人………休憩無しでやってますね」

 

「ああ。朝から作業してたのがもう夜じゃ……流石にきついだろう………差し入れでも出してやるか」

 

見かねたハワードは差し入れの仕度に赴いて、作業ドックをとぼとぼと後にした。

 

その傍らで何気無しにヒイロとマリーダを見ていた二人のメカニックが勝手に想い馳せる。

 

「なぁ、なんか似合ってねーか?あの二人!!」

 

「だな!!このままもっとひっついちまえ!!わははは!!」

 

「ははは!!青春だなー!!」

 

マリーダは時折人の感情を感じることがある。故にこのやり取りに感づき、彼らにマリーダがきゅっと振り替える。

 

「あ……そうか!!ニュータイプか!!会話聞こえたのかもな…やべやべ!!」

 

無論ヒイロもマリーダもそのつもりではないが、マリーダに関しては、ヒイロから感じる感覚に惹かれずにはいなかった。

 

第三者から見られた変な感覚に、作業していたマリーダは、思わず軽い愚痴をこぼした。

 

「全く……勝手にそう思われても困るな…」

 

「何がだ?」

 

「え!?いや、こちらの事だ……私は人の心が聴こえる時がある。その類いだ」

 

「そうか……ニュータイプだからか」

 

ヒイロの口から出されたニュータイプという言葉に、マリーダは差別的な劣等感を感じてしまう。

 

マリーダ自身は強化人間故にニュータイプではないという概念を持っている為だ。

 

故にコンプレックスが気持ちを複雑化する。

 

「……ニュータイプ……」

 

「ああ。でなければ声など聴こえないはずだ」

 

「いや、私自身は強化人間だ。ニュータイプの能力があっても限界がある」

 

「だとしても可能性が無いわけでは無いだろう………強化人間でも変革が起こりうるはずた」

 

そう言って坦々と作業を続けるヒイロを見ながらマリーダは、初めてヒイロの感覚を知ったときの事を思い出す。

 

今その感覚を与えたヒイロと共にウィングガンダムの修理にあたっている。

 

その事がまた不思議さを感じさせていた。

 

強化人間にもニュータイプへの変革の可能性がある。

 

マリーダはあり得ないと思い込んでいた概念をヒイロから聞かされ、改めて感覚と向き合う。

 

「可能性……か」

 

 

 

その頃、アラブ諸国近郊に拠点を構えている地球連邦軍の駐屯基地には、多数のMS部隊が集結していた。

 

砂漠戦仕様のジェガンやリーオー、ロトが配備され、各機が近日中に行われる中東ジオン残党掃討作戦に備えていた。

 

基地とは言え、砂漠に直接作った野戦基地のようなものだ。

 

基地の周辺には夜襲の可能性に備えて、ジェガンやリーオーの部隊が警戒にあたっている。

 

その光景をカトルが、ガンダムサンドロックのコックピット内からズームモードで確認していた。

 

スコープマーカーが駐屯基地を鮮明に映し出す。

 

カトルは何度かボタンを押してズームモードを解除し、赤外線モニターへと切り替えた。

 

「送られてきた情報では、近日中にジオン残党掃討作戦が展開され、ジオンに関わっている人々もその対象とされる。それを許せばまた多くの人命が蹂躙されてしまう……!!」

 

カトルが真っ先にロニやマハディーを思い浮かべる。

 

その時のロニは、自宅でカトルの帰りを待ちながら、綺麗なアクセサリーを作っていた。

 

「カトル……こうしてネックレスを作っている間にも闘っているのね…私達の為に……」

 

ふとロニは窓ガラス越しの夜空に振り向いた。

 

その夜空の下ではカトルが攻撃するタイミングを決意する。

 

「……人命の尊重としては矛盾してるようだけど、今僕たちが連邦部隊を叩けば未然にそれが防げる!!ラシード!!」

 

カトルは通信回線を開いて、ラシードを呼んだ。

 

「はい!!なんでしょう!?」

 

威勢よく返事を返すラシードの声がガンダムサンドロックのコックピットに響いた。

 

「敵は警戒をしてはいますが、恐らくはパイロットの半数は交代で就寝しているはずです。姑息なようですが、今ここで夜襲を仕掛けます!!」

 

「了解です、カトル様!!よっしゃあ!!アウダ、アブドル!カトル様に続くぞ!!」

 

「了解!!」

 

両眼を光らせたガンダムサンドロックは、シャインとヒートショーテルの刀身を弾き合わせた。

 

「行きます!!」

 

カトルの気迫と共に、ガンダムサンドロックと3機のマグアナックが轟と加速する。

 

迷うことなく4機の中東勇者達が、駐屯基地へと突っ込んでいった。

 

 

 

グリニッジ標準時の同時刻・地球連邦軍ベルリン基地付近上空

 

 

 

夕暮れ時の連邦軍のベルリン基地へ向かうガンダムヘビーアームズ。

 

ライトアームには、新兵装のグレネードランチャーが装備されていた。

 

ガンダムヘビーアームズを高速で航行させるトロワは、無表情で速度と機体高度の表示を確認しながらモニターに映るベルリンの上空を見続ける。

 

次第に夕日に照らされたベルリン基地が迫って見えてきた。

 

「任務の対象基地に接近……これより強襲する」

 

武装をガキンと構え、ガンダムヘビーアームズは風圧と爆発を混ぜたかのような加速音を響かせて急降下する。

 

「ベルリン基地において、エアリーズとリーオーフライヤーが軍備増強配備される……空から反抗勢力を掃討することを考慮すればその配備は正しい。効率的にも確かだ。だが……」

 

ガンダムヘビーアームズは着地体勢に移行し、フルブーストをかけながら重力荷重を半減させて下降。

 

その間にモニターに捉えられたMSや基地の施設等の情報がスピーディーに表示される。

 

「その前に排除させてもらう」

 

フルブーストを解除させて下降したガンダムヘビーアームズが、ズシンと基地の施設内に降り立った。

 

そして間を置かずに、カメラアイを光らせながらビームガトリングを構えた。

 

砲身が高速回転し、銃口からビーム弾を撃ち放つ。

 

重く唸る銃声と共に、標的となった警備のジムⅢ部隊が、一瞬で立て続けに蜂の巣にされて砕け散る。

 

夕暮れ時の許に巻き起こる発砲と爆発の光が、モニター越しにトロワの顔に反射した。

 

 

 

「お前さん達……少しは休憩をとれ!ぶっとーしは体によくないぞ!ほれ、差し入れじゃ!」

 

ハワードは、作業に休憩を挟まないヒイロとマリーダに紅茶とトーストパンの差し入れを出しにきた。

 

「ハワードか……」

 

ヒイロは振り向いたものの、再び作業に没頭する。

 

マリーダは一旦手を止めてハワードへ軽く会釈しながらヒイロに振り返りながら休憩を促した。

 

「ありがとうございます。確かに休憩をしていなかったな……休憩を挟むか?」

 

「休憩したければ勝手にとれ。俺はいい」

 

ヒイロは自分はほっとけと言わんばかりの口調で、メカに対する手を止めない。

 

「…せっかく入れてくれた差し入れだ。人の気遣いは受けておくのが礼儀だ。お前も休憩した方がいい。それにまだお互いに名も聞いていない」

 

マリーダは遠巻きにヒイロと話しをしたい気持ちを伝えながらその場を離れる。

 

しばらく手を進めたが、ヒイロは立ち上がって無言のまま一旦切り上げた。

 

まるでマリーダの尻に敷かれるかのような光景を見てふっとハワードがニヤケる。

 

「端からみれば尻に敷かれてるかのような光景じゃい」

 

 

 

駐屯基地にラシード機とアブドル機のマグアナックが放つビームライフルのビームが撃ち注がれ、瞬く間にテントや修理施設を吹っ飛ばす。

 

巻き起こる爆発の中、突然のビーム夜襲に連邦兵士の誰もがパニックに陥り、あわてふためく。

 

「敵襲!!敵襲………があああ!!!!」

 

起動したロトやジェガンに、2機のマグアナックが放ったビームが次々に直撃し、連続爆発を巻き起こさせる。

 

その最中、アウダ機のマグアナックが大型のヒートホークを降りかざして突っ込む。

 

ヒートホークでジェガンを斬り潰すと、レフトアームクローをリーオーに突き刺し、大型マニピュレーターで原動機を握り潰して破壊する。

 

機体の上半身が爆発し、起動前のロトに下半身が崩れ落ちた。

 

早期の内に駐屯基地は機能不全の手前に立たされ、各員が慌ててMSへと乗り込む。

 

その時、滅茶苦茶になった施設にガンダムサンドロックが突っ込んだ。

 

「はぁああああ!!!」

 

カトルの気迫と共にガンダムサンドロックがヒートショーテルを降り下ろし、立ち上がったばかりのジェガンとリーオーを左右同時にガキャインと叩き斬る。

 

巻き起こる火柱の爆発が、駐屯基地の一部の施設を吹っ飛ばし、兵士達もろともテントも吹っ飛ばした。

 

近距離からジェガンがビームライフルを、リーオーがビームマシンガンをガンダムサンドロックへと浴びせる。

 

直撃を受けてもびくともしないガンダムサンドロックは、ヒートショーテルをヒュンと振り払って一気に襲いかかる。

 

俊敏な速さで1機のリーオーを斬り伏せて叩き斬り、回転をかけてもう片方のヒートショーテルでジェガンを斬り飛ばす。

 

再び双方のヒートショーテルを振り上げてジェガン2機を叩き斬った。

 

その時、ガンダムサンドロックの背後からリーオーキャノンがジェガンと共に攻撃を浴びせてきた。

 

振り返ったガンダムサンドロックは、右手のヒートショーテルを降り構え接近。

 

間合いを見計らい、一気にリーオーキャノン2機を斬り払い、左手のヒートショーテルでジェガンを思いきりよく斬り砕いた。

 

その間にマグアナック達は施設機能の麻痺を狙って射撃やクローで駐屯基地に攻撃をかけ続ける。

 

高出力のビームがテントや起動前のジェガンを穿ち爆発させ、アウダ機のマグアナックのクローが起動前のロトを貫いて破壊していた。

 

爆発の炎の中に聳え立つガンダムサンドロックを見上げる連邦兵士。

 

彼には最早、中東の魔神にしか見えないだろう。

 

「これが、反乱者のガンダムなのか………!?!!」

 

その時、ガンダムサンドロックの足許にいたロトがメガマシンキャノンで近距離から射撃した。

 

だが、表面の爆煙を裂くようにヒートショーテルが叩き込まれ、ロトを真っ二つに斬り砕いて爆発させた。

 

圧倒的な存在に無力に兵士は吹っ飛ばされるしかなかった。

 

カトルは、見下ろしながら本来の優しさを殺して囁いた。

 

「こうしなければ、必ず貴殿方はロニ達やジオンの人々へ蹂躙をする……悪く思わないでください。彼らにも人として生きる権利はあるはずです!!」

 

そこへドーバーガンやバズーカの砲弾がガンダムサンドロックへと撃ち込まれた。

 

施設外からの攻撃。

 

警備のリーオーとジェガンの部隊だった。

 

ガンダムサンドロックは獲物を狙い定めたイーグルのごとく轟と加速する。

 

迫り来るガンダムサンドロックにリーオーとジェガン部隊が射撃するも、砲弾がかわしかわされる。直撃しても無意味に終わる。

 

ガンダムサンドロックは部隊の中に突っ込み、駆け抜ける勢いで斬り砕き、斬り落とし、斬り払い、連続でリーオーとジェガン達を破壊する。

 

ジェガン、リーオー各4機がゴグヴァンと爆発を起こし、機体をバラバラにされながら夜の砂漠に散る。

 

業を煮やした残ったリーオーが、ビームサーベルでガンダムサンドロックへと斬りかかる。

 

だが、瞬く間に腕を斬り飛ばされ、機体を斜めに寸断されて崩れ落ち、爆砕した。

 

爆炎が立ち上る砂漠の闇の中に、ガンダムサンドロックがヴィンと目を光らせた。

 

その足許にはリーオーの骸が転がっていた。

 

 

 

ベルリン基地において、ガンダムヘビーアームズの唸る重火器の前にことごとくジムⅢ部隊が撃ち砕かれていく。

 

ヴァルルルと連射されるビーム弾が、ジムⅢ達の装甲をプラスチック同然に破壊する。

 

トロワは視点移動や、機体移動を繰返し次々と敵機をロック・オンして撃ち続けていた。

 

ビームガトリングとブレストガトリングを組み合わせた攻撃がガンダムヘビーアームズの基本射撃体勢だ。

 

唸り続ける連射撃は、ジムⅢ達の骸を作り出し続ける。

 

対抗するように、連邦側も格納庫からスタークジェガンやロトを出撃させていく。

 

ホバー走行やキャタピラ走行を駆使して、バズーカやキャノン砲で攻撃をかけながら各機がガンダムヘビーアームズへ接近する。

 

「予想戦力数値を若干上回っているな……」

 

モニター上の敵機の数値を確認しながらトロワは、攻撃をかわす為に、ガンダムヘビーアームズを旋回移動させる。

 

移動しながら、迫る複数の敵機をロック・オンすると、ガンダムヘビーアームズはライトアームのグレネードランチャーを着地しながら構えた。

 

コォォという音と共に銃口にエネルギーが充填されていく。これもエネルギー兵器なのだ。

 

トロワは冷徹な視線で目先の敵機群へとグレネードランチャーのトリガーを操作した。

 

「全てを消滅させる」

 

 

 

ディシュゴォォオ―――――!!!

 

 

 

ヴゴォヴァガアアアアア!!!!

 

 

 

そのグレネードランチャーは最早、荷電粒子光弾砲の類いの兵器であった。

 

放たれた一発の光弾がロトに撃ち込まれ、そこを中心に周囲を吹き飛ばすドーム状のエネルギー爆炎が発生し、文字通りMSを吹き飛ばして消滅させたのだ。

 

直撃を受けたロトの破壊状況は言うまでもない。

 

ガンダムヘビーアームズはスライドするように加速し、旋回しながらビームガトリングを放ってスタークジェガンを連続で撃ち斃していく。

 

エアリーズよりも先に起動したリーオーフライヤー部隊が、低空飛行しながらガンダムヘビーアームズへとビームマシンガンを撃ち放って迫る。

 

これに対し、ガンダムヘビーアームズは一度着地して、ビームガトリングとブレストガトリングを撃ち放って射撃をかけた。

 

迫るリーオーフライヤー達が、次々と超高速のビーム弾で蜂の巣にされ、ボロボロに砕けて地表を転がって駆逐されていく。

 

まるで糸を失った操り人形のように崩れ斃されていく。

 

ガンダムヘビーアームズはリーオーフライヤーの部隊を壊滅させるまで絶えず撃ち続けた。

 

「丁度いい……残らず駆逐させてもらう」

 

次々に迫り来るリーオーフライヤーを撃ち墜とし、ズタボロの鉄の亡骸を残していく。

 

撃ち続けた連射撃が、後続するリーオーフライヤーを更に撃ち砕いて壊滅させた。

 

ガンダムヘビーアームズは、そこからリーオーフライヤーとエアリーズを搭載した輸送機に狙いを向けて、グレネードランチャーを放つ。

 

一発、二発と光弾が撃ち放たれ、凄まじき爆炎で周囲を凪ぎ払いながら、MS格納庫を巻き込んで輸送機を吹き飛ばした。

 

その破壊力はバスターライフルに匹敵する凄まじさを持っていた。正に戦略兵器である。

 

「目標の破壊を確認。残存部隊と基地を破壊する」

 

ガンダムヘビーアームズは、残存部隊目掛けビームガトリングとブレストガトリング、グレネードランチャーを撃ち放ちながら、ホーミングミサイルとマイクロミサイルランチャーを同時に撃ち放つ。

 

ボロボロに撃ち砕かれたスタークジェガン部隊を、ロトを吹き飛ばしたグレネードランチャーの爆炎が更に吹き飛ばして破壊する。

 

ガンダムヘビーアームズの圧倒的な火力で、MS部隊はガラクタと化して、コンクリートの地表を転がっていった。

 

基地施設もミサイル群の直撃による爆発で、原型が崩壊して崩れ落ち、炎の海が基地一面に拡がる。

 

基地の機能が復旧不可能は、火を見るよりも明らかであった。

 

夕暮れの最中、火の粉を時折舞い上がらせて燃え盛る基地にガンダムヘビーアームズが悠然と佇む。

 

その情景はどこか哀愁を漂わせていた。

 

 

 

香港の地球連邦軍基地の港において、業火が巻き起こる。

 

骸と化して転がるリーオーやジムⅢの残骸が炎を纏って転がっていた。

 

無言の鉄の屍は、ただ受けた攻撃の凄まじさを物語る。

 

これを成したのは、シェンロンガンダムだった。

 

左手に握りしめた撩牙を振り払い、一振りでジムⅢ3機を斬り飛ばして破壊する。

 

すかさずビームマシンガンで交戦の構えに出るリーオーにシェンロンガンダムがドラゴンハングを伸ばして突っ込む。

 

ガゴォオと、轟音を立たせてリーオーを穿ち砕き、もう1機のリーオーにドラゴンハングを伸ばして、頭から掴みかかった。

 

リーオーをドラゴンハングに咥えさせて炎の中を歩くシェンロンガンダム。

 

五飛は悠然とシェンロンガンダムを前進させながら呟く。

 

「貴様達の警戒が甘過ぎる。当然の結果だ」

 

シェンロンガンダムはそのままリーオーを地面に叩き付けて砕き潰し、ドラゴンハングを持ち上げて周囲の施設へかざす。

 

撃ち放たれる龍のジェット噴射の如き火炎が、施設を吹き飛ばしながら炎上させて破壊していった。

 

 

 

ヒイロとマリーダは、ウィングガンダムのコックピットハッチ付近に腰掛けてトーストを食べながらコーヒーを飲む。

 

マリーダはコーヒーをすすると、クシャトリヤに視線を送って自己紹介も踏まえながらヒイロに名を問いただした。

 

「……私はマリーダ・クルス。あの通り…ネオジオンのパイロットだ。そして、戦う為に生まれた存在。今は同胞達の為に戦っている。お前の名は?」

 

「名などない。ヒイロ・ユイ………かつてのコロニー指導者のコードネームをもっているだけだ」

 

「コードネームでも名は名だ。ヒイロもこうして戦っているのだな……私と同じだ」

 

「……否定はしない……俺も戦いに己の存在意義を見いだしている…」

 

そう言うとヒイロはトーストをかじり、ウィングガンダムの装甲を見続ける。

 

出会って間もない二人であるが、互いに戦いに対して存在意義を見いだしている事を知り、自然に心を許し始める。

 

「私は今、オペレーションの最中だ。きっと関わっている同胞達が心配している頃だな」

 

マリーダは真っ先にジンネマンを想い浮かべる。

 

上官としても父親としても慕う故にだ。

 

実際にこの時のジンネマンは、ガランシェールから見える地球を見つめながら、戦況報告がないマリーダを心配していた。

 

ヒイロもウィングガンダムを見続けながら同感を示す。

 

「………俺もオペレーションの最中だ。そう言った意味では同じだな。コロニー市民の人権と自治権を踏みにじる奴らを排除するのが、俺の任務だ」

 

数奇なまでに状況が共通していることに、マリーダは口元の笑みを漏らさずにはいられなかった。

 

「任務の為に戦っている………か。ふふふっ、本当に色々と同じなのだな。私とヒイロは」

 

「ああ。そのようだ」

 

「お前からは不思議な感覚を感じてならない。一見ナイフのようだが、その内側から暖かいものを感じる」

 

ヒイロは己の内面的なモノを見透かされたこともあり、マリーダが既にニュータイプへ変革しつつあるかもしれないことを感じた。

 

マリーダは感じる感覚の事を打ち明け、素直な気持ちを溢した。

 

「何故か解らないが………私はお前から感じる感覚が共鳴して……いや、単に好きなのかもしれない。こうして心が自ずと開けてしまうのもその為かもな」

 

ヒイロ自身はっとなり、かつて抱いたことの無い感情を覚えた。

 

その時、コックピット内から回線通知のアラートが鳴った。

 

ヒイロは直ぐにコックピットに入り込み、回線を開いた。サイドモニターにはドクターJが映った。

 

「ヒイロ、ハワードから聞いておる。発動早々災難じゃったな」

 

「ドクターJ!何の用だ?」

 

「くくく……元気でなによりじゃな!それで本題じゃ。オペレーション・メテオに纏わる変更情報だ。知っての通りワシらのガンダムは単独で飛行・潜水航行が可能じゃ。よってオルタンシアをメインの活動拠点と位置付けた。暫くメンバーが集まるまで待機を命ずる」

 

「そうか……ならばちょうどいいな。了解した」

 

 

 

連邦側の空母より緊急発進した可変MSアッシマーの後継機、アンクシャが両腕のビームキャノンを放ってシェンロンガンダムへと迫った。

 

空中から放たれるビームがシェンロンガンダムとその足許に直撃していく。

 

「ふん!!無意味な攻撃をするな………!!!」

 

4機のアンクシャがシェンロンガンダムに攻撃を加える中、五飛は攻撃目標であるOZの空母をロック・オンする。

 

ロック・オンマーカーがカッチリと空母を括ると、五飛はシェンロンガンダムを飛び立たせる操作をして、コントロールレバーを押し込む。

 

ドアッと飛び立って加速するシェンロンガンダム。

 

だが、両腕のビームキャノンをかざした1機のアンクシャが立ちはだかる。

 

「邪魔だっ!!!どけぇっっ!!!!」

 

五飛はなんの迷いもなく、シェンロンガンダムの撩牙を振るわせた。

 

ヴンと両眼を光らせたシェンロンガンダムは、振りかぶった撩牙をギュゴワッと一気に振るう。

 

アンクシャの厚い装甲を、ザギャンと容易く斬って凪ぎ飛ばした。

 

分断されたアンクシャが落下しながら爆発する。

 

「はぁぁあああああっっ!!!」

 

シェンロンガンダムはそのままの勢いでブリッジへ突っ込み、ドラゴンハングの牙をガギャオンと激しく激突させた。

 

そして零距離からの火炎放射を慣行。凄まじき熱炎がブリッジの内部を焼き尽くす。

 

無論、クルーの兵士諸とも焼き尽くしていった。

 

ブリッジを炎上させたシェンロンガンダムは、飛び立ちながら空母の滑走路に着地した。

 

そして、ドラゴンハングを滑走路に突き刺し、艦内に向かって火炎放射を放った。

 

ズギャドドドォと内部爆発を誘発させながら空母が爆発、炎上していった。

 

ドラゴンハングを抜き取って縮めるシェンロンガンダム。炎の上に立つその姿が実に雄々しい。

 

飛び交っていた3機のアンクシャが、シェンロンガンダムを包囲する形でホバリング体勢に移行する。

 

シェンロンガンダムは余裕の雰囲気を漂わせてビームグレイブを装備して構えた。

 

その直後にアンクシャ部隊がビームキャノンを撃ち放ち、断続的に一斉射撃を慣行する。

 

直撃が重なり、シェンロンガンダムは爆発に包まれていく。

 

その間、空母に着艦していたエアリーズ達にパイロットが乗り込み、各機が起動する。

 

エアリーズ部隊が飛び立つ中、アンクシャ達の攻撃を物ともしないシェンロンガンダムがグォンとアンクシャに襲い掛かる。

 

「そんなものかぁっっ!!!」

 

五飛の気迫と共に、ザズドォッとビームグレイブの一撃がアンクシャの胸部を穿った。

 

ビームの刃に胸部を貫かれ、破裂するかのように爆砕するアンクシャ。

 

両脇にいた2機が武装をビームサーベルに切り換えて、シェンロンガンダムに斬りかかる。

 

だが次の瞬間、一方のアンクシャにビームグレイブの斬り払いの斬撃が、もう一方のアンクシャに撩牙の叩き斬りの斬撃が加えられた。

 

正に一瞬の攻撃。破断された2機は爆発と共に砕け散った。

 

シェンロンガンダムは、空中旋回するエアリーズを見上げると、ブースターで機体を上昇させた。

 

そして飛び交うエアリーズ部隊に突っ込み、高速で襲い掛かった。

 

一瞬で1機のエアリーズがビームグレイブの刺突を受けて砕け散る。

 

ドンドンとブースターでステップするかのようにシェンロンガンダムは各個撃破を図り、1機、2機、3機と飛びかかって、ビームグレイブと撩牙を組み合わせた斬撃技を食らわしていく。

 

「でやあああああっっ!!!」

 

斬撃技を食らったエアリーズは、ガラクタ同然に斬り砕かれて爆砕される。

 

エアリーズ部隊は、旋回しながらミサイルランチャーを放って攻撃をかける。

 

ミサイル群が、吸い込まれるかのようにシェンロンガンダムに直撃していく。

 

だが、その爆発の中からシェンロンガンダムは勢い良く飛び出し、1機のエアリーズに飛び蹴りを食らわせた。

 

シェンロンガンダムのつま先がエアリーズのコックピットを貫き爆砕させる。

 

体勢を変えながら2機のエアリーズに飛びかかり、ビームグレイブと撩牙で双方のエアリーズを斬り捌いて、爆発の華を咲かせる。

 

ビームチェーンガンを撃ちながら攻め混む残りの3機のエアリーズ。

 

両眼を光らせたシェンロンガンダムは撩牙を轟と振り降ろして1機のエアリーズを叩き斬り、2機をまとめてビームグレイブで凪ぎ払った。

 

激しく、豪快なまでのシェンロンガンダムの攻撃を前に、成す術もなくエアリーズ達は壊滅。

 

シェンロンガンダムと五飛の眼下には炎上しながら沈み行くOZの空母が映っていた。

 

 

 

ガンダムの攻撃による被害が拡大する中で、それらの情報が一人の男の許へと報告されていた。

 

「わかった……後で犠牲となった兵士達の名をきかせてくれ」

 

通信を切り、青く高貴な騎士服を纏った男は一息をつく。

 

彼の名はトレーズ・クシュリナーダ。現在のOZの総帥である。

 

トレーズは瞳を閉じて、今という歴史に浸る。

 

「これほどまでに彼らが攻撃をかける理由は言わずとも解る………ここに至るまでの歴史で、彼らのような行動をとるものは居なかった。すなわち歴史に変革が起ころうとしているのかもしれない」

 

トレーズは机のデータベースを開き、宇宙世紀の歴史を振り返る。

 

「連邦の怠慢の罪が問われる時が来たのかもしれない。だが、我がOZも狙われているところを見ると………彼らの目的は連邦ではなく、我々かもしれないな」

 

画面を切り替えながら語る様は、あたかも彼の手に歴史があるかのようであった。

 

「各地でネオジオンの戦士達がジオン残党と共に反乱を起こし始めてもいる………彼らもまた驚異だ」

 

ピッと別のフォルダーをクリックすると、トールギスとユニコーンのデータが写し出された。

 

「我がトールギスと連邦のユニコーンならば成せるであろう……仕留めて見せてくれ………ゼクス、リディ………」

 

トレーズがそう呟く頃………ゼクスとリディ達は緊急任務に赴こうとしていた。

 

「ふ……赤い彗星の再来か……トールギスよ………我が手足となってくれ!!初陣だ!!」

 

「ガンダムではなく、ネオジオンが最初の相手か………なんであろうと行くぞ、ユニコーン………!!」

 

各コックピットに表示されたミッション内容には、ガンダムではなく、ネオジオン残党討伐と表記されていた。

 

ネオジオンのオペレーション・ファントムもまた本格に動き始めていたのだ。

 

とある連邦軍基地において、戦闘が巻き起こっていた。

 

その最中、ジムⅢ3機を連続でビームライフルで仕留めたシナンジュが、空中から見下ろすように振り返る。

 

「我々のオペレーション・ファントム……受け止めるがいい、連邦軍……!!」

 

フロンタルは薄ら笑いを浮かべながらジェガンを見下ろすように威圧した。

 

 

 

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エピソード4 「閃光と彗星の激突」


オペレーション・メテオを発動させて以降、ウィングガンダム以外のガンダム達は各々に各地の連邦・OZの施設や勢力域に攻撃を次々と仕掛けていた。

ヒイロはマリーダやオルタンシアクルーの手を借りながらウィングガンダムの修理を続け、その中で、ヒイロとマリーダは少しずつ心をかよわせる。

メテオ・ブレイクス・ヘルが動く一方で、地球に降りたネオジオンもまた、破壊活動の動きを見せていた…


メテオ・ブレイクス・ヘル所属輸送機。

 

デュオやアディン達を乗せたこの輸送機は、ハワードのオルタンシアへの進路をとっていた。

 

操縦席ではラルフが向かってくる空を見ながら、ひたすら操縦に集中していた。

 

(オルタンシアへ召集か……確かにあの超大型サルベージ船ならガンダムを匿うには違和感はないな。一応は正式なサルベージ船だからな。それにあのプルっていうコを保護してもらうには合理的な場所だ)

 

そこへ、オデルが操縦席へと入室する。

 

「ラルフ、入るぞ」

 

「どうした?」

 

補佐席へ座りながらオデルは用件を話し始めた。

 

「今の進路はハワイを通過するか?どうせなら任務を片付けながらオルタンシアへ向かった方が効率的にいいと思ってな。軍事工場とスペースポート破壊の任務がある」

 

「そういうことか。なら問題ない。今そのコースで向かっている」

 

「じゃあ決まりだな。デュオには話してある」

 

「ん?アディンは?」

 

「只今ジェミナスのコックピットでデート中。後でデュオが伝えてくれると言っていたよ」

 

「ははは、デートかっ」

 

オーガスタから保護したプルはそれ以降、アディンになついて彼の許を離れなかった。

 

ガンダムジェミナス01のコックピット内では、ゲーム感覚で戦闘シュミレーションをするプルがいた。

 

戦闘データをインストールして、それに基づいた敵機で戦闘訓練するシステムだ。

 

プルが座るシートの後ろで、アディンが立会う。

 

「それそれ!!墜ちちゃえ~!!」

 

プルはニュータイプとされているだけあり、シュミレーションとはいえ、既に10機以上の敵機を撃破していた。

 

ちなみにモードはハードの常態だ。

 

アディンは、プルの能力に目を見張っていた。

 

「すげーな、プル!!ハードモードで、もうこんなに撃破してるぜ」

 

「もっと倒すからごほうびにプァフェちょーだい!パフェ!」

 

デザートのパフェが好きらしく、プルはパフェをアディンにねだるが、無論輸送機にあるわけがない。

 

「はぁー?あいにく輸送機内にはねーよ、そんなもん」

 

「アディンのいじわる!!」

 

「しょーがねーだろ!でも、これから俺達は一度でかい船に集まるんだ。そこでだったらあるかもな……」

 

「本当?!やった♪」

 

「ほら、次の敵機が来るぞ」

 

「ほーい!パフェパフェー!!」

 

スタークジェガンが目の前からビームサーベルで斬りかかって突っ込んでくる。

 

更に後方よりリゼルが空中より攻撃をかけ、ロトが援護射撃を開始する。

 

これに対し、プルは嬉しそうにガンダムジェミナスを操作して、攻めに転じた。

 

「見えるよ!!それっ!!」

 

スタークジェガンのビームサーベルをシールドで捌き、アクセラレートライフルで零距離射撃して撃破。

 

画面スクリーンが、機体を上昇させた常態を映しだし、空中よりアクセラレートライフルを放つビームの映像が映る。

 

瞬く間に3機、更に攻撃をかけてきた3機のエアリーズを攻撃をかわしながら撃ち墜とした。

 

「楽々ー!!」

 

「並大抵のコができる技じゃねーな!」

 

そこへデュオから軽いのりの通信が入る。

 

「デートはどーだい?邪魔したか!?」

 

無論、アディンは否定するが、何故か赤面していた。

 

「馬鹿か!?何がデートだ!!」

 

「そームキになんなよ!オルタンシアへ行くついでにハワイを満喫していかねーか?」

 

「ハワイ!?」

 

「でか船に乗る前の息抜きでな。効率的にもいい。オデルの兄貴の提案だ……満喫場所は二手に別れるがどーだ?」

 

デュオは任務関係の事を、よく何かに喩えながら冗談混じりに言ってみせることが多い。

 

アディンはすぐに事を察し、比喩と冗談混じりに返す。

 

「そーいうことか……いいぜ!トロピカルにキメようぜ!!」

 

すると更にデュオは冗談混じりにアディンをからかった。

 

「ああ!!けど、プルの水着は見れないからな!がっかりすんなよ!」

 

「ぶぅわかかっっ!!!何が水着だぁああ!!!!まぁー…てわけでプル、これが終わったらシステムを切る。今日は終了!!」

 

「え~……でも、わかった!気を付けてね、アディン!」

 

戦闘シュミレーションをしながらプルはアディンの任務中の無事を気遣う。

 

デュオとの付き合いがあるアディンならまだしも、会って間もないプルがデュオのジョークを理解したのだ。

 

アディンは一瞬、唖然となるが、彼女がニュータイプということを思い出すと不思議に納得し、サムズアップして答えてみせた。

 

「―――ああ、もちろんだ!!Gマイスターは伊達じゃないぜ!!」

 

 

 

 

メテオ・ブレイクス・ヘルが連邦の軍事施設や勢力に対して攻撃をかける一方で、ネオジオンもまた連邦政府に対して攻撃をかけていた。

 

 

 

北米・地球連邦軍オークリー基地

 

 

 

ジムⅢやネモの部隊がビームライフルを放って応戦していた。

 

ビームを放った先には、各部所をカスタマイズしたジオン残党のザクⅡ達がいた。

 

ザクマシンガン、マゼラ砲といった旧式な武装でオークリー基地に対して攻め混む。

 

幾つかがジムⅢやネモに中るが、シールドや腕を破壊させるに止まる。

 

飛び交う実弾とビームの攻防。

 

無論、連邦側に軍配が上がり、徐々にザク達が被弾を食らい、撃破されていく。

 

その後方からホバー走行しながらビームをかわしていくバフカラーのヤクトドーガと、ビームライフルを構えながら迫るザクⅢの姿があった。

 

彼らもマリーダやフロンタル同様、オペレーション・ファントムで地球へ降下したネオジオンの戦士達だった。

 

ヤクトドーガはビームマシンガンを放ちながらファンネルを展開させて攻撃をかける。

 

ビームマシンガンで、ドドギャンと装甲を破壊されたネモが倒れ込んで爆発し、ジムⅢ2機をファンネルの

火線が射ぬいて爆発させる。

 

先代の屍を越えて、ザクⅢがビームライフルを放ちながら口からメガ粒子火線を撃ち放つ。

 

断続的に撃ち込まれる高出力のビームに2機のネモが撃破され、突き進むメガ粒子火線がジムⅢ2機を連続で射ぬいた。

 

装甲を溶かされて爆発していくジムⅢ。

 

ネオジオンの2機の戦士は、ホバー走行で回り込むように旋回しながら主武装で攻撃をかけてネモやジムⅢ達を翻弄させる。

 

応戦しながらも撃破されていく様は、先程の形勢を完全に逆転させていた。

 

その最中、基地の上を乗り越えるかのように1機のMSが跳ぶ。

 

そのMSはジムⅢ達の背後を捉えると、着地しながら空かさず両腕に装備されたナックルシールドで殴りかかる。

 

ガガゴォッと瞬間的にナックルシールドを殴り散らす。その様はボクサーのようだ。

 

装甲を陥没されたジムⅢはそのまま倒れ込んで機能不全に陥る。

 

そのMSはシュツルムガルス。オペレーション・ファントムに参加した最新鋭のネオジオンのMSだ。

 

ギロリとモノアイをネモに向け、豪快に顔面を殴打し、胸部をボディーブローで陥没させた。

 

ビームサーベルに切り換えたジムⅢがシュツルムガルスに斬りかかる。

 

だが、シュツルムガルスはナックルシールドでジムⅢのライトアームを受け止め、胸部を激しく殴り込んだ。

 

バガギャアとジムⅢはふっ飛び、これもまた機能不全に陥って動かなくなった。

 

その最中、ヤクトドーガとザクⅢの無双劇が巻き起こり、ヒイロ達のガンダムさながらの善戦を展開させて攻撃をかける。

 

オークリー基地は瞬く間に陥落。

 

ヤクトドーガとザクⅢが基地を破壊する中、止めのシュツルムガルスの一撃が、ジムⅢを撃破した。

ズンと倒れ込んだジムⅢを踏み倒すシュツルムガルス。

 

モノアイを光らせて勝利を得たその姿は、ジオンの救世主たるにふさわしかった。

 

 

 

 

欧米・ベルファウスト基地

 

 

 

地球連邦軍の港施設があるベルファウスト基地においても戦闘が起こっていた。

 

基地の警備にあたっていたジムⅡが、鋭利なクローで貫かれ爆発する。

 

それを成したのはネオジオンの水陸両用MS・ゼーズールだった。

 

モノアイを光らせて次なる獲物へと襲いかかる。

 

ネモがビームライフルの銃口を向けようと構えるが、ゼーズールは素速い動きでネモの胸部を貫いた。

 

ゼーズールは3機行動をしており、ベルファウスト基地の各所で破壊工作を行う。

 

どの機体も機動力に長けており、俊敏な動きでジムⅢ部隊に攻撃をかける。

 

轟と襲いかかる爪がジムⅢの装甲を容易く斬り裂いて破壊してみせる。

 

クローはジオン系水陸両用MSの代名詞とも言える武装だ。

 

その攻撃方は実に独特かつ合理的な攻撃手段である。

 

1機のゼーズールがジムⅢの背後を捉えた。

 

ジムⅢは振り返る余地もなく、クローでボディーを貫かれ、撃破された。

 

このような形で各地において、ネオジオンを含むジオン系の勢力が反抗行動を起こし始めていた。

 

それには、メテオ・ブレイクス・ヘルの反抗行動が発端になっていることは言うまでもなかった。

 

それにともない、偶然にもネオジオンの地球降下作戦、オペレーション・ファントムと重なったことも起因しているのもまた、事実であった。

 

名目上、未だに闘い続けている同胞達を援護すると共に、連邦軍に打撃を与えるというものであるが、真の目的があった。

 

それが、地球連邦軍の総本部が置かれているダカール攻略である。

 

各地の連邦軍への攻撃は、その布石を兼ねた破壊工作であった。

 

 

 

欧米・地球連邦軍バレンシア基地

 

 

 

真紅の機体、シナンジュがビームライフルを構え、空中からジェガンやジムⅢの部隊に狙いを定める。

 

その銃口から、高出力のビームの火線が撃ち放たれる。

 

 

 

ヴィキュオォォオオオ!!!

 

ドシュアアアアアッ………ゴヴァガアアア!!!

 

 

 

その一発はジェガンの胸部を直撃し、装甲を瞬間的に融解させて円状の風穴を空けた。

 

穿った弾痕はビームの熱でオレンジ色に焼けている。

 

直後にジェガンは爆発して砕け散った。

 

シナンジュは、連続でビームライフルを放ち、寸分の狂いもなく、ドシュドシュと狙い撃ってジムⅢ3機、ジェガン2機を爆砕してみせる。

 

その後方からギラズールカスタムが、ランケブルーノランチャーを撃ち放った。

 

 

 

ヴヴァゴォオオオオオオ!!!

 

ドドドドヴヴァガアアアアア!!!

 

 

 

地表や基地を抉るようにビーム渦流が、ジムⅢやロトのMS部隊を一掃させて駆逐する。

 

「アンジェロ、このバレンシアを陥落させたら次の連邦軍施設を叩く。今暫くは同胞に希望を与え続けねばならない!!」

 

「はい!!大佐!!ネオジオンこそ、今のジオンの象徴です!!」

 

空中を気高く舞うシナンジュとギラズールカスタム。

 

2機は最新鋭のミノフスキークラフトを常備しており、空中を飛ぶことを可能にしていた。

 

基地を駆け抜けるように、ビームライフルとランケブルーノランチャーを放って基地を壊滅へと誘っていく。

 

地上から攻撃をかけるジムⅢやロトの部隊の攻撃をかわしながら、シナンジュが狙い撃ち、ギラズールカスタムが援護する型で残存機を施設ごと破砕させる。

 

その光景は正に電光石火。

 

シナンジュは低空を高速で駆け抜け、近付くジェガンやジムⅢを次々と撃ち斃す。

 

シナンジュのビームライフルのビームは最早、収束メガ粒子砲の類いの出力である。

 

その威力のビームが、寸分の狂いもなく高速で断続的に撃ち込まれるのだ。

 

シナンジュは、回り込むように旋回。捉えたターゲットを更に次々と撃ち斃した。

 

その最中、基地の主だった施設へ向けてアンジェロは狙いを定める。

 

モニタースクリーンに基地がアップで表示された。

 

「元より大佐の戦場を汚すまいとしていたが、大佐直々に攻撃許可をくださった。全ては同胞達の為だと………」

 

そう独り言をはしらせながら、アンジェロは冷徹な笑みでトリガーを弾いた。

 

ランケブルーノランチャーがビーム渦流を撃ち放って基地の主要部へと突き進み、施設を瞬時に破砕させる。

 

そのまま銃口を左回りに旋回させて、破壊域を拡げた。

 

シナンジュは1機のロトの上に着地し、そこから捉えているジェガン2機とロト3機を撃ち斃す。

 

そして、踏み台にしているロトへと、ビームライフルの銃口を頭上に突き付けた。

 

 

 

ドシュバァアアッッ!!!

 

ヴヴァゴォオオオオオオ!!!

 

 

 

零距離射撃がロトを粉砕させた。

 

フロンタルは、基地の破壊とMS隊の壊滅をモニターで確認する。

 

「うむ………あと少しの基地の破壊で暫くはこのエリアの同胞の負担は軽くなるだろう。アンジェロ、次のターゲットはコルシカだ」

 

「はい!!」

 

「情報では、同胞達がコルシカ島の連邦軍施設に夜襲をかけるそうだ。どうやら敵の新型がロールアウトされるとの情報だが、その基地への攻撃は無謀な行動であることに変わりはない。我々が力添えせねばならん」

 

「大佐、例のガンダムは来ますかね!?」

 

「判らん………もし彼らのガンダムが来れば、その時は見定めさせてもらうまでだ。敵か否かな……」

 

フロンタルはそのままシナンジュを飛び立たせ、コルシカ基地へと向けた。

 

 

 

その頃、コルシカ基地からトールギスとユニコーンを隊長・副隊長機とした反乱ガンダム調査隊が離陸しようとしていた。

 

だがこの時、既にコルシカ基地へジオンの残党が迫っていた。

 

基地のレーダーにもそれらを捕捉していた。

 

「これは!?本基地の近海に熱源を捉えました!!識別照合………これは………MS群です!!恐らくジオン残党のモノと思われ、かなりの数が確認されています!!ボナーバ司令!!」

 

「ええい!!直ちに警戒体制を執れ!!ちょうど精鋭部隊もいる!!奴らにあたらせろ!!」

 

コルシカ基地にサイレンが鳴り響く中、トールギスのコックピットにもコルシカ基地からの情報が通達される。

 

「反乱ガンダム調査隊に告ぐ!!たった今、本基地は敵に狙われている事が判明した!!直ちにこれを迎撃せよ!!敵は基地の正面と北西から接近中!!」

 

「何!?後手に回ったか……!?だが、問題はない。先手にせよ後手にせよ………我々の力量が試せるのだ。こちら反乱ガンダム調査隊、迎撃体制を執る!!」

 

「こちらの基地からもMSを順次に出撃させる!!」

 

赤い彗星の再来の追撃に臨もうとしていたゼクスであるが、突如の敵襲に断念せざるをえなくなった。

 

だが、トールギスの力量を試せる機会に変わりはない。直ぐに思考を切り替えてゼクスは部下達に指示をした。

 

「調査隊各機に告ぐ。これより我々は海から攻めてきている敵の迎撃行動に入る!!リディ部隊は基地に待機し、海上から来る敵を迎撃!!私の部隊は北西方面から来る敵を迎撃する!!」

 

「はっ!!」

 

ワーカーやオットー達の返事を受け、ゼクスは悦びにも似た感情でコントロールレバーを押し込み、トールギスを離陸させる。

 

「さぁ………相手は変わったが、トールギスよ………私に勝利を見せてくれ!!!」

 

2基の大型バーニアを起動させてトールギスが夜空へと舞い上がる。

 

舞い上がるトールギスに続くように、ワーカーやオットー達の7機のエアリーズが甲高いジェット音を響かせて離陸する。

 

リディ達もゼクスの命令を拝命し、迎撃体制を執った。

 

「リディ機了解!!聞いての通りだ!!各機、海上の敵の迎撃行動には入れ!!」

 

「了解!!」

 

リディの命令と共に、ガロム機、ホマレ機をはじめとする7機のリゼルが飛び立ち、ホバリングしながら変形して迎撃体制を執った。

 

各機がビームライフルを構え、銃口を海上へと送る

 

「この防備に突っ込む馬鹿がいるとはな…敵連中は何を考えているのか……」

 

ユニコーンのモニタースクリーンにコルシカ基地周辺の現在状況を映し出され、リディは現状把握をした。

 

「確かに数が多い……だが、返り討ちにするまでだ!!」

 

ユニコーンは海上に向け、ビームマグナムをガキャンと構えて迎撃体制を執った。

 

 

 

その頃、オルタンシアではハワード達が月を見ながら酒を飲んでいた。彼らの仕事の後の恒例行事である。

 

「かーっ……仕事後の酒はまたたまらんのー!!」

 

「ドクターハワード!!飲みすぎないでくださいよ!!」

 

甲板に飲みスペースを作り、ビールやらつまみやら

を用意し、意気揚々と酒の時間に浸る。

 

ハワード達が酒のたしなみをしてる時にも、ヒイロはひたすらウィングガンダムの修理に没頭していた。

 

人手が足りない状況下を効率よく利用し、機体のシステムチェックをしながらコックピット内で、データの書き込みをしていた。

 

「機体のシステムチェックか?」

 

そこへマリーダがすっとコックピットを覗き込んで問いかけた。

 

ヒイロはデータベースを打ちながら答える。

 

「……ああ。今の内に全てやっておく……」

 

「そうか……だが、少しは外へ出ないか?ここの人達も外で酒を飲んでいたぞ。籠りっきりよりも地球の夜風にあたるのもいいと思うのだが……」

 

またマリーダがヒイロの作業を中断させるシチュエーションが発生する。

 

しばらくデータベースを打っていたが、ヒイロはため息をつきながらデータベースをパタンと閉じた。

 

オルタンシアの甲板で夜風に吹かれながらマリーダとヒイロは紅茶を手に月明かりが灯る夜空を見上げていた。

 

「地球から見る月は綺麗だな。夜風も心地がいい………地球はなにもかも珍しいな」

 

「……ああ」

 

マリーダはダージリンをすすると、また月を見上げた。

 

夜風が月明かりを受ける彼女の髪をなびかせる。

 

「……本当に綺麗な月だ。今頃地上で戦う同胞達も見ている頃だろう………」

 

「同胞達か………」

 

しばらくマリーダとヒイロは満天の夜空を見上げてそれぞれの想いを馳せる。

 

ジンネマン、フラスト、ギルボア、関わるネオジオンの兵士達……今のマリーダにとって家族に等しい存在を思い浮かべた。

 

そしてヒイロは、各地で戦う仲間達を思い浮かべた。

 

「私には……同胞と言うより家族に近い感じの仲間が宇宙にいる。地球へ降りるときもその仲間に送り出された……いや、もっと言えば父親に相応しい人だ」

 

「父親…」

 

マリーダはヒイロにジンネマンの事を話し始めた。

 

もとより、プルの系統の女性は気になる異性に心を許して固執する傾向があった。

 

実際にネオジオン抗争時に生きていたプルは、当時のZZのパイロットに固執していたとされている。

 

マリーダは成人女性故に極端な行動は示さないものの、ヒイロに対し心を許して積極的になりつつあった。

 

「ジンネマンという人で、私はマスターと言っている。私を救ってくれた方だ。一見は大胆で気性の荒い人のようだが、全く違う。情熱的で温かい人だ……初めて会った時からそれは解っていたがな」

 

ヒイロはダージリンを飲むマリーダの仕草を横目に、ダージリンのコップを片手で回しながら、マリーダの話に耳を傾け続けた。

 

「……私は第一次ネオジオン抗争で戦っていたが、戦線を離脱した。恐怖と哀しみの余りでな………」

 

「第一次ネオジオン抗争………やはりその頃から戦っていたのか」

 

「ああ。当時の私はプルトゥエルブというコードネームで、姉妹達と共に戦場で戦っていた」

 

マリーダは、ダージリンをこくと飲むと話しを進める。

 

「だが、姉妹達も戦いで殆んどが死んでいった。その後の私は………ひたすら闇の社会をさ迷い、身体的にも精神的にも屈辱な日々を過ごし、女性としての自我も崩壊寸前までになった…」

 

だが、女性故に明確な事までは言えず、少しはにごす。女性として異性に知られたくない部分だからだ。

 

「そんな所へマスターが救いの手を差しのべてくださった………その手がなければ………今こうしていられなかっただろう。本当に感謝している…」

 

瞳を閉じてマリーダはダージリンを飲みながらジンネマンを想う。

 

ヒイロはマリーダの話から昔世話になった人物を思い浮かべていた。

 

ヒイロの回想に浮かんだ男……彼がヒイロを戦闘のプロフェッショナルとなる礎を作ったアディン・ロウという男だ。

 

名はバーネットのアディンと同じだが、偶然であり関係はない。

 

マリーダが目を閉じている間、ヒイロは自分の過去を振り返っていた。

 

また瞳を見開いたマリーダ。この時、彼女の視線に流れ星が映った。

 

「流れ星……あれも初めて見る。そういえば、地球へ降りるときも流れ星を見た。意志のある流れ星をな。今思えばヒイロの仲間達だったのだと判る……どの星からも強い意志を感じた……」

 

「そうか……」

 

「お前達も、連邦軍を敵としている。同じコロニー側の戦士としての意味では同胞だな。ネオジオンの兵士としても、私個人としても心強い……」

 

攻撃を仕掛けられた当初からしてみれば、矛盾している発言ではあるが、今となれば互いを認識しているためになんら問題はない事を示唆していた。

 

ヒイロはダージリンをゴクっと飲み干し、穏やかな表情のマリーダに向いて言葉を放つ。

 

「俺達のガンダムは反抗の力の象徴だ。連邦とOZに対して俺達は独自に戦いを挑んでいる……そう言ってくれれば、俺達の存在意義にも強みが出る」

 

マリーダは垣間見たウィングガンダムの戦闘を思い出す。

 

バスターライフルのプラズマ渦流を射ち放って、リゼル部隊を壊滅させているビジョンや、実際に交戦したビジョンが回想する。

 

「ふふっ……そうか。ヒイロのガンダムのお陰で、私の中のガンダムの概念が変革しそうだ。だからといって昔のマインドコントロールが無くなるとは限らないが……」

 

「それに対してのアドバイスになるかは解らないが、感情で行動することが人の正しい生き方だ。マリーダがそう思えば……そのマインドコントロールを断ち切りたいのなら、その通りに思って行動すればいい」

 

ヒイロは「ガンダムは敵」というマインドコントロールにコンプレックスを感じてならないマリーダにアドバイスを言ってみせる。

 

その言葉にマリーダは軽い衝撃を受けた。

 

感情で行動することが人の正しい生き方。

 

ジンネマンからも教えられていない考えだった。

 

「感情で行動する………!」

 

「俺が昔、アディン・ロウという父親のような男から教えられたことだ………」

 

アディン・ロウという男が、かつてヒイロに諭した教えが、時を得てマリーダに継承された瞬間だった。

 

マリーダは新たな概念を教えられ、何故かヒイロに一杯食わされた感じが可笑しくなった。

 

「ふふふっ!」

 

「?」

 

「ふふふ……いや、ただ何となく可笑しくなっただけだ。ヒイロに一杯食わされた感じがしてな……」

 

「調度いい。今日明日頃に一度ここに俺達のガンダムが招集する。試してみるといい…」

 

「そうなのか!?ふふふ…なら試させてもらう。感情で行動する感覚をな」

 

「ああ…」

 

 

 

コルシカ基地

 

 

 

警戒を強めていたコルシカ基地に、ジオンの水陸両用MS達が攻め込む。

 

ズゴックE、ハイゴック、ズゴック、ゴックの四機種が、それぞれが持つビーム兵器を駆使して攻め込む。

 

対し、リゼル部隊も迎撃を開始。ジオン勢の攻撃を機動力を持ってかわしていく。

 

飛び交うビームの攻防の中、流れ弾ならぬ流れビームが基地の施設を直撃する。

 

リゼルが放つビームライフルが、攻め入る敵機に直撃する。

 

「ははは!!笑わせるぜ!!」

 

ホマレ機のリゼルが放つビームライフルが、ゴックの胸部を穿ち、爆発させてみせる。

 

「きたきたぁ!!」

 

ガロム機のリゼルが意気揚々とビームライフルを連発し、ズゴックを射ち斃す。

 

性能差は歴然としており、コルシカ基地のサポート無しでも問題はないくらいだ。

 

この攻撃の中、リディは1機のハイゴックに標準を定めた。ロック・オンマーカーがハイゴックを絞る。

 

「馬鹿達が来たか!!歓迎してやる!!!」

 

そしてユニコーンがビームマグナムを射ち放つ為のチャージを始める。

 

銃口に球体状のエネルギーを発生させた数秒後、紫と赤が混じった高出力のビームが射ち放たれた。

 

 

 

キュイィィィ………ヴィシュヴゥゥゥゥン!!!!

 

 

ヴィギュゥゥゥゥアアアア………ヴヴァガアアアア!!!

 

 

 

まさに一撃。ハイゴックのボディーを容易く撃ち抜いた直後、ハイゴックはビームの形を象られたように熔解して爆砕した。

 

バスターライフルの小型版とも言うべき兵器だ。

 

「すごいな………ユニコーン!!!」

 

リディは、ユニコーンを前進させながら眼下から来るビームをかわしていく。

 

時折直撃コースのビームが来るが、シールドをかざしてIフィールドをさせ、ビームを相殺させる。

 

そしてビームマグナムを構え、一発、一発をズゴック3機、ゴック3機に直撃させていく。

 

その様子は天上の神の制裁とも言える光景だ。

 

次々と撃ち放たれるビームマグナムのエネルギー弾丸が、ハイゴック、ズゴックE、ゴックと順に撃ち抜いていく。

 

1機のズゴックEが、ブースターで上昇してユニコーン目掛けてクローを突き上げて突っ込む。

 

だが、近距離からのビームマグナムの一撃にズヴァグアンと撃ち抜かれ無惨にズゴックEは粉砕していった。

 

 

コルシカ基地の周辺・北西方面

 

 

 

コルシカ基地から北西方面へ進んだエリアの上空。

 

トールギスを筆頭にエアリーズ達が三角の字の配列で続く。

 

各機が放つジェット音がスピード感を伝えてくれる。

 

トールギスのコックピット内。ゼクスがモニタースクリーンに映る敵影のレーダーを注視する。

 

すると敵影を示す赤い点状の表示が現れ始めた。

 

「敵影が迫ってきた。各機、戦闘体制には入れ!」

 

「了解!!」

 

各機が戦闘体制に入り、ビームチェーンガンとミサイルランチャーをスタンバイさせた。

 

ギュゴアッと加速するトールギスとエアリーズ。

 

トールギスの加速は高速飛行をするエアリーズを一瞬で引き離した。

 

ワーカーやオットーもそのトールギスの姿を勇ましく捉える。

 

「流石はトールギス!!凄い加速だ!!」

 

「おぉ……!!まさしく、ライトニング・バロン!!!」

 

この時ゼクスの身に異状を感じていた。

 

「ぐっ………!!!!なんという加速だ!!!!体が………持つのか!??だが………どんな機体だろうと………乗りこなしてこその………!!!!」

 

加速による強烈なGによるものだった。

 

だが、ライトニング・バロンのプライドがゼクスを突き動かす。

 

「ライトニング・バロンだ!!!!」

 

気迫と共に、トールギスを加速させるゼクス。

 

更なるGがゼクスの身を襲う。

 

最早、気迫が体を凌駕するか否かが生死を別けると言っても過言ではなかった。

 

「おぉおぉぉっっっ!!!!」

 

ギュバゴッと二基のバーニアがゼクスの意思に答えるようにトールギスを加速させた。

 

眼下の地表が高速で流れるように映る中、敵機群が迫る。

 

否、速度上、ゼクス達が敵機群に向かっていた。

 

ズゴックEとハイゴックの部隊が、跳ねて加速しては着地を繰り返し進撃する。

 

更に海側にはジオンのユーコン級の潜水艦が3隻浮上していた。

 

この潜水艦がミサイルを垂直に射ち放つ。

 

そしてそれらは一斉にコルシカ基地を目指して突き進んだ。

 

「なっ!!?やられた!!海上からか!!!」

 

「ゼクス特佐!!ミサイル群が!!!」

 

オットーとワーカーが過ぎ去るミサイル群に、悔しさを堪えながらゼクスへと呼び掛けた。

 

ゼクスはGに耐えつつ、指示を伝えた。

 

「……ぐぅっ!!!!……っく、仕方がない!!!!ミサイルは諦めろ………それよりも前の敵を討て!!!!私が海上の敵へ攻撃をかける!!!!」

 

「はっ!!!」

 

ゴバァオッと加速するトールギスに続くようにドドォっとエアリーズ各機が加速した。

 

コルシカ基地の上空からミサイル群が降り注ぎ、グワン、グワンと施設のあらゆる箇所に直撃する。

 

一基のミサイルが管制塔へと直撃する。

 

「ミサイル群が接近………ぐああああ!!!」

 

ドドォガァと爆発を起こして管制塔が砕け散る中、指令のボナーバがいる指令室にもミサイル群が降り注いだ。

 

「海上からか!?……ぐおぁあああ!!!!」

 

ゴバァオと降り注ぐミサイルは、瞬く間にコルシカ基地の機能に障害をあたえた。

 

リディ達はミサイル群に囚われ、敵機の進撃を許してしまう。

 

だが、反転しながら各機が射撃をかけ、突破したズゴックやゴックを背後から撃ち抜いて破壊し、ビームマグナムのエネルギー弾がハイゴックを砕き散らす。

 

「遠距離ミサイルだ!!各機、上空に警戒しろ(くそ!!なかなかの攻撃をしてくれる!!狙いはトールギスとユニコーンかもしれない……)!!」

 

敵側に基地の情報がリークしている可能性を危惧しながら、眼下の敵機へと断続的にビームマグナムを放っていく。

 

一撃で機体の大半を熔解させて撃ち抜く光景は、改めてビームマグナムの威力を物語っていた。

 

ゼクス達は、進撃してくるズゴックEとハイゴックの部隊へと攻撃を仕掛ける。

 

トールギスは高速飛行から減速しながらドーバーガンを構え、試射を兼ねて撃ち放った。

 

 

 

ドゥヴァウウウウウウッッ!!!

 

ヴァヴォガアアアアアアッッ!!!

 

 

 

超高速で撃ち放たれたドーバーガンのプラズマ状のビーム弾丸がハイゴックに直撃。

 

凄まじい勢いと破壊力で機体を木っ端微塵に爆砕させる。

「このドーバーガン………リーオーのモノとは桁違いの破壊力だ!!」

 

トールギスはホバリングしながら射程距離のズゴックE3機とハイゴック3機に向けてドーバーガンを連続で撃ち放った。

 

ドゥバァウッというドーバーガンの射撃音が、響き渡る。

 

まるで玩具のごとき様で、バギャガンと砕け散っていくズゴックEとハイゴックの部隊。

 

その攻撃に続くように後続するエアリーズ部隊が、ビームチェーンガンを撃ち放ちながらミサイルランチャーを撃ち放つ。

 

シュゴォォっと突き進むミサイル群が、侵攻するハイゴック部隊に襲いかかる。

 

巻き起こる爆発の中、エアリーズ部隊は更に一撃離脱戦法でビームチェーンガンを撃ち浴びせ、敵機を各個撃破させていく。

 

「後は頼んだ!!」

 

ゼクスは左右に旋回するエアリーズ部隊を視認すると、トールギスを加速させた。

 

ヴンとバーニアがチャージされ、ドバオンと爆発的に加速するトールギス。

 

無論、その衝撃はゼクスの負担も加速させる。

 

「がはっ………!!!まだだあああああ!!!」

 

内臓に負担がかかり吐血するゼクス。

 

だが、ゼクスの不屈の精神が肉体を凌駕させていた。

 

加速するトールギスは、ハイゴック部隊の頭上を駆け抜け、一気にユーコン級の真上上空に到達する。

 

ガキンと構えられたドーバーガンの銃口が、ユーコン級を捉え、超高速の三発のビーム弾丸がヴォバァウと撃ち混まれる。

 

着弾した瞬間に艦の装甲が木っ端微塵に砕かれ、ユニコーン級は破裂するかのように爆発し、轟沈した。

 

2隻のユーコン級は、ミサイルをトールギスに向けて撃ち上げた。

 

眼下から攻め来るミサイル群がトールギスへと襲いかかる。

 

だが、トールギスは次々と来るミサイルをかわしながら、ドーバーガンを撃ち放つ。

 

その動きは実に俊敏で素早い。

 

それに伴って2隻のユーコン級は、瞬く間に破砕された。

 

ドーバーガンの強烈な破壊力が、ものの数秒で2隻のユーコン級を沈めたのだ。

 

だが、パイロットであるゼクスの体の負担はかなりのものであった。

 

しかしながら、ゼクスは未だに肉体を凌駕する精神を維持し続けていた。

 

「はぁ………はぁ………っく……トールギス……とんだじゃじゃ馬だな………だが、私は必ず貴様を手足にしてみせるぞ!!!ライトニング・バロンのプライドにかけて!!!!」

 

ゼクスが再び引き返そうとしたその時、センサーが接近する新たな機影を捉えた。

 

「新たな機影!?たった2機か!??」

 

スクリーンに映る機影を注視するゼクス。

 

その機影の一つが、僚機と思われる機影の三倍の速度で迫っていた。

 

「1機が異常に速い……もしかしたら向こうから来てくれたのかもな」

 

ゼクスは赤い彗星の再来だと確信する。

 

更に精神が昂り、肉体負担を更に凌駕した。

 

ライトニング・バロンと赤い彗星の激突が刻々と迫る中、僚機もただ者ではないと確信し、リディ達を呼び出す。

 

「リディ少佐、捉えているか!?」

 

リディのユニコーンのスクリーンにも迫る敵機を捉えていた。

 

「はい!!敵機の増援、確認しています!!真っ直ぐこちらへ接近中です!!」

 

「機数からして、ネオジオンかガンダムだ。だが、1機が僚機の三倍の速度で迫っている………十中八九………前者だ!!」

 

「赤い彗星の再来………!!!」

 

リディも闘志が上昇する。

 

エースパイロットとしてのプライドが彼を昂らせる。

 

「リディ少佐は僚機の方を頼む。連邦のエースパイロットとして、赤い彗星と戦いたいと思っているかもしれないが、すまない。私もライトニング・バロンとしてのプライドが譲れないのだ。わがままに付き合ってくれ!!」

 

正直、リディは図星であったが、ライトニング・バロンと赤い彗星の激突も拝見したいという気持ちもあった。

 

「はははっ……確かにゼクス特佐の言う通りです。ですがここは譲りますよ!ライトニング・バロンの戦いを……騎士道精神を目に焼き付きさせていただきます!!」

 

「すまない!!」

 

リディは、ミサイル群に壊滅されたコルシカ基地を後にしてゼクスの部隊との合流に赴く。

 

「俺はゼクス特佐の援軍に向かう。残りの部隊は基地の防衛に徹してくれ!!」

 

「は!!」

 

 

 

その頃、ハワイの地球連邦軍の軍事工場とスペースポートにおいて、ガンダムが強襲を仕掛けていた。

 

軍事工場に二つのビームが連続で撃ち込まれ、施設が激しく爆発していく。

 

ガンダムジェミナス01、02が放つアクセラレートライフルの攻撃だ。

 

2機のガンダムジェミナスは、ホバリングしながら並列を維持して、アクセラレートライフルを連続で撃ち込んでいく。

 

軍師工場のあらゆる設備が破壊され、爆発に呑まれていく中、兵士達も吹っ飛ばされて蹂躙されていった。

 

「兄さん、ここを壊滅させたらオルタンシアに合流するんだよな?」

 

「ああ、地球へ降りて以降、メンテナンスやブリーフィングをしていないからな。それを考慮しての招集だ」

 

「確かにいくら俺達のガンダムが頑丈でも、メンテナンス無しじゃ元も子もないからな!!メンテナンスあってこそ強さが維持出来るんだ!!」

 

「はははっ、解っているじゃないかアディン!!」

 

「な、馬鹿にするなよな、兄さん!!!」

 

モニターに映る映像を見ながら会話するアディンとオデルから余裕が見てとれる。

 

その間にも、工場警備のジムⅢやジェガンが格納庫から出撃していく。

 

更にはネモやジムⅡといった旧型機も応戦する。

 

各機がビームライフルを構え、迎撃体制に移行する。

 

射撃が始まり、ビームライフルのビームがガンダムジェミナスへと襲いかかる。

 

何発も撃ち込まれていくビームだが、GND合金の装甲でビームが弾かれ、全く歯が立たっていなかった。

 

「それに、いつまでも女の子を輸送機で連れ回す訳にもいかないしな!!」

 

「お前の彼女の事か?」

 

「あのな、兄さん!!標準がぶれる!!大体、彼女じゃねーし!!!」

 

アディンはオデルと会話を続けながらMSへと標準を絞り、ロック・オンするが、何故かアディンはプルの事を言われ動揺した。

 

当のプルは輸送機内の寝室で、すやすやと寝ていた。

 

「んー……ぷぁふぇたべたいー……アディンー……」

 

アディンとの夢を見ているようで、彼の名を寝言に漏らしていた。

 

そのアディンはグリップトリガーを弾き、アクセラレートライフルを撃つ。

 

ヴィギュアっと撃ち放たれたアクセラレートライフルがジェガンを仕留め、それを皮切りに撃破したジェガンの周囲のMSをタイミンング良く撃ち仕留めていく。

 

ジェガンやジムⅢが破壊され爆発を巻き起こし、更に設備への被害を拡大させた。

 

ガンダムジェミナス02もジワリと攻め続ける。

 

格納庫から出撃したジムⅢとネモの部隊が反撃の余地なく次々と撃ち砕かれ、連発されるアクセラレートビームがそれらと同時に工場施設の要の設備に直撃していき、設備を粉砕させていく。

 

それに加えてチャージショットも合わせて撃ち出す。

 

3機のジムⅢと3機のネモがビームの渦に呑まれ、バゴヴァアと撃破された。

 

ゴゴと立ち上る炎の上に着地する2機のガンダムジェミナス。

 

2機は同時にガキンとアクセラレートライフルを構え、銃口を施設へ向けた。

 

「これでキメルぜ!!!」

 

アクセラレートライフルの銃口にビームがチャージされ始める。

 

ギュリリリというチャージ音を鳴らしながら二つの高出力ビームが撃ち込まれた。

 

 

 

ヴァダアアアアァァァァッ!!!

 

ギュゴバァガアアアアアァァ………!!!

 

突き進む二つのビーム渦流は、残存していたMS部隊や建造中のMSを呑み込み、一気に破砕させていく。

 

そしてそれは、後方の山をも抉り飛ばし、アクセラレートライフルの高エネルギーの異状熱が全てを爆発させる。

 

工場施設は原形を跡形もなく抉られ、完全に破壊された。

 

残るのは崩壊した施設の一部だけだ。

 

2機のガンダムジェミナスはアクセラレートライフルをかざしたらまま、任務完了の意思表示とするかのように、ギンと両眼を光らせた。

 

一方で、ガンダムデスサイズが同じハワイにある地球連邦軍のスペースポートへと強襲をかける。

 

ジェガンやジムⅢがビームライフルを撃ちながら、要人シャトルを護衛していた。

 

だが、ガンダムデスサイズは長けた機動性でビームをかわしながら加速し、自ら接近して当たり付いたジェガンやジムⅢを邪魔だと言わんばかりに斬り飛ばす。

 

 

 

ザバシュバンッ、グゴバ!!! ドバオォォ…ズバシャアン!!! ギュゴア…ズバドォオオ!!! ゴァオオ……ザガギャアア!!!

 

 

 

 

加速しながら一気に敵機に踏み込んでは斬り飛ばし、また加速しては斬り飛ばす。

 

瞬く間に破砕されていくMS部隊に心許ないのは隠しきれなかった。

 

「おらおらぁ!!!死神様のお通りだぁ!!!」

 

対面したジェガンを一気にズバドォオオと斬りあげる。

 

斬り上げられたジェガンの分断面からガンダムデスサイズの姿が現れるが、直ぐに爆発で見えなくなる。

 

「大事な要人達が乗っておられる!!!なんとしても打ち上げろ!!!」

 

ビームライフルで応戦する2機のジェガンと3機のジムⅢ。その背後では、スペースポートを目指すシャトルが動いていた。

 

だが、瞬く間にガンダムデスサイズがシャトルへ接近する。

 

踏み込まれたジムⅢ3機は、ザシュバァアンと一気に斬り刻まれて爆発する。

 

そして、バスターシールドを展開させ、ジェガンの胸部へ殴り込むようにビームの刃を刺突させた。

 

破裂するかのように爆発するジェガン。

 

残りの1機のジェガンは、ビームライフルを連発させるしかない。

 

「うああああ!!!化け物ガンダムめぇ!!!!」

 

抵抗空しく、ジェガンは直ぐに懐へ踏み込まれ、バスターシールドで斬り払われた。

 

機体を分断されながら砕け散る様を見届けると、デュオはシャトルへと標準を絞り狙いを定めた。

 

「薄汚いお偉いさんよぉ………あんたらの罪はこの世じゃ償いきれないぜ…死神様がジャッジしてやるよ………!!!」

 

バスターシールドをシャトルへと向けたその時、1機のスタークジェガンが、ミサイルを撃ちながらバズーカを片手に突っ込んできた。

 

ゴバンという爆発の衝撃ガンダムデスサイズを襲う。

 

「おわ!?な……まだいたのか!!!」

 

スタークジェガンは一気にガンダムデスサイズの懐に突っ込んで、バズーカの銃口を胸部に押し当てた。

 

「くたばれぇ!!!!」

 

零距離からここぞとばかりにバズーカをガンダムデスサイズに撃ち込むスタークジェガン。

 

通常のMSであれば、間違いなく即死レベルの攻撃だった。

 

「…………ちぃっ………!!!!うざってぇんだよっっっ!!!!」

 

苛立ちを溜め込んだデュオの気迫と共に、ズガシュアッとスタークジェガンの胸部へバスターシールドのビームが貫く。

 

更に串刺しにしたままスタークジェガンを持ち上げた。

 

バズーカの零距離射撃も全く効かないガンダムデスサイズを前に、グバガンと爆砕するスタークジェガン。

 

シャトルはスタークジェガンの攻撃の際に加速レーンに入り、一気に加速してスペースポートから打ち上げられようとしていた。

 

だが、シャトルがスペースポートを加速中にスペースポートが爆発を起こし始め、レーンに沿って加速していたシャトルも爆発に巻き込まれて破砕した。

 

ガンダムデスサイズはスペースポートの爆発を見届けると、ビームサイズを担いだ。

 

「ったくよ~……狙った獲物は斬る主義なのによ!!爆弾仕掛けておいても気持ち良くねーよ……後味悪っ!!」

 

デュオは、標的の叩き方にこだわっていたようで、今回のケースに文句を漏らす。

 

斬るというスタンスがデュオのステータスなのだ。

 

ビームサイズを担いだガンダムデスサイズの向こう側から朝日が昇る。

 

「それにしても………地球は妙な環境だぜ。ついさっき朝日浴びたと思えばまた朝日か…」

 

 

 

コルシカ基地周辺上空

 

 

 

急接近する二つの機影が、ついにトールギスのコックピットモニターに映る。

 

「遂に来るか…!!!赤い彗星の再来!!!!」

 

映し出されているモニター映像には確かに赤い機体が迫っていた。

 

更にピンポイントズームされ、シナンジュとギラズールカスタムの姿が鮮明に映し出された。

 

それと同時タイミングでリディのユニコーンが合流を果たす。

 

「ゼクス特佐!!」

 

「リディ少尉、来たか!!先程言ったとおりだ。僚機を頼むぞ」

 

「任せてください!!」

 

リディは余裕を持っていたためか、不敵な笑みを口許に浮かべながらビームマグナムをスタンバイさせる操作をした。

 

一方でフロンタルは、サイドスクリーンのモニターで、同胞の安否を注視していた。

 

「先程まであった同胞達の反応が消えている………間に合わなんだか」

 

「大佐、前方に新型の部隊が!!」

 

アンジェロが新型の確認を報告する最中、フロンタルはタッチパネル操作で、トールギスとユニコーンを拡大して確認していた。

 

「アンジェロ、解っている。あの2機が恐らく情報にあった新型だ。必ず我々や同胞達の驚異となるだろう。ここで仕留める!!!アンジェロは一角の新型を叩け」

 

「はい!!大佐!!」

 

フロンタルとアンジェロは、グリップレバーを押し込み機体を加速させた。

 

シナンジュは、ウィングバインダーにブーストをかけながら、ドバオンッと加速していく。

 

加速していくシナンジュを追うようにギラズールカスタムも加速する。

 

フロンタルを心酔するアンジェロは、狂喜に近い感情が沸き上げる。

 

「はははは!!大佐の神聖な戦場………勝利の花添えをお手伝いさせていただけるなんて!!!光栄限りない!!!!」

 

そしてフロンタルは、不敵なにやけを口許に浮かべながらシナンジュを更に加速させ、ゼクス達の部隊へと突っ込んでいく。

 

「ふふ……見せてもらおうか…新型機の性能とやらを………!!」

 

トールギスのモニターに捉えていた標的のスピードが上がる。

 

ゼクスも対抗の意思表示に、トールギスを加速させた。

 

「っ………私に挑んでくる相手を、無下にはできんだろう……!!!」

 

バッゴアアッと加速する赤と白の彗星。

 

互いの銃を構え、ドーバーガンとビームライフルが、同時に撃ち放たれた。

 

銃口から放たれたプラズマ弾とビームが超高速で互いの機体を掠める。

 

そして互いの機体が迫り、バゴァアンッという衝撃波を発生させながらトールギスとシナンジュがすれ違った。

 

「――――!!!!」

 

ギュバオンと機体姿勢バランスをとりながら2機はスピーディーに反転し、ビームライフルとドーバーガンを撃ち合う。

 

奇しくも互いの放った二発が相殺し合い、空中で激しく爆発を弾けさせた。

 

その間にアンジェロは、フロンタルの命令に忠実に従い、エアリーズ部隊へとランケブルーノランチャーを構えた。

 

ユニコーンもギラズールカスタムへ標準を定め、ビームマグナムを撃ち放つ。

 

「墜とさせてもらう!!!!」

 

一発、二発、三発と放たれる高出力のビームが、ギラズールカスタムへ襲いかかる。

 

「ぬぅ………!!!!邪魔をするな!!!!」

 

アンジェロは、ビームマグナムをかわしながら 怒り任せにランケブルーノランチャーを撃ち放つ。

 

ヴァダアアと放たれたビーム渦流がユニコーンへと直撃コースで迫る。

 

だが、すぐさまにユニコーンはシールドをかざした。

 

バシュキィとビーム渦流が何かに相殺されたかのように消える。

 

「最新型のIフィールドだ……効くものか!!!」

 

リディは、きゅっと眉間を動かしてギラズールカスタムを睨み付け、再びビームマグナムをロック・オンさせた。

 

ビームマグナムをバッと構えたユニコーンは、ヴァヴシュウンとビームマグナムを連発させて撃つ。

 

向かってくる高出力ビームに、アンジェロは回避行動をとって機体を上昇させてかわした。

 

「おのれぇっっ!!!」

 

アンジェロの悔しみを込めて撃ち放たれたランケブルーノランチャーを再びユニコーンはシールドで受け止め、Iフィールドでビーム渦流をかき消す。

 

ユニコーンはビームマグナムをガキンと構え、上昇しながら射撃してギラズールカスタムへ接近する。

 

「無駄だ!!素直に墜ちろ!!!」

 

「貴様ぁぁぁ!!!」

 

ズバドォ、ヴィシュヴゥンと両者のビーム兵器が飛び交う。

 

ユニコーンとギラズールカスタムが銃撃戦を展開させる一方で、トールギスとシナンジュは、更なるハイスピードレンジの高速銃撃戦を展開させる。

 

2機は射程距離を保ちながら並列に高速で加速していく。

 

トールギスはドーバーガンをドゥヴァウとプラズマ弾を唸らせ、シナンジュの方向へ連続射撃する。

 

対するシナンジュも、高速でビームライフルをヴィギュイイッと撃ち放ち続ける。

 

だが、両者の放つビームは中る事はない。

 

トールギスは、激しい衝撃波を発生させながら機体を上昇させてドーバーガンをシナンジュへ向ける。

 

連発させて唸り続けるドーバーガンのプラズマ弾が、下方のシナンジュへ向かう。

 

シナンジュも、上空にいるトールギスへビームライフルを放つ。

 

両者が放った攻撃が互いのシールドを掠めた。

 

「赤い彗星の再来………流石と言ったところか!!!」

 

「この白い新型………予想以上にやるな!!!」

 

ギュゴアッと加速してドーバーガンの弾道をかわすシナンジュ。同時に真っ直ぐビームライフルを構え、射撃する。

 

トールギスは機体を二転三転と翻した後に、ギュバオンと加速させながら素早くドーバーガンで何発も射撃した。

 

かわしかわされ、掠め掠める。

 

切りがない高速の銃撃戦が幾度も続く。

 

ゼクスは既に体の負担さえも忘れていた。

 

戦士としての高揚感が凌駕していたのだ。

 

「この程度の銃撃戦では礼儀の範囲ではないだろう………やはりこうあるべきた!!!」

 

ゼクスはシナンジュの銃撃を回避しながらドーバーガンからビームサーベルへと武装を変換させた。

 

ガングリップをリリースし、シールドに収容されたビームサーベルを取り出してビームをビギュイッと発動させる。

 

これをモニターで確認したフロンタルも、シナンジュの武装を変換させる操作をした。

 

「……おもしろい!!!」

 

シナンジュは腰のマウント部にビームライフルを取り付け、アームに内蔵されたビームサーベルを発動させる。

 

そして互いの機体が、ドゥヴァウンと加速。機体同士が激突する勢いでトールギスとシナンジュが激突した。

 

 

 

ギィディギュイイイイッッ!!! ジュジジュアァァァァ………

 

 

 

ビームサーベル同士の刃が激突して激しくスパークを誘発させる。

 

拮抗する互いのパワーとパワー。

 

ギュイインッと互いのビームの刃を捌き合い、再び激突させる。

 

そしてギャイン、ギャインとビームの刃を二度三度弾き合わせ、2機は弾き合うかのごとくその場を離脱した。

 

「確かにシャアの…赤い彗星の再来と言われるだけの事はあるな!!実に骨のある相手だ!!!」

 

「連邦側は、ガンダム以外にも高性能な機体を有していたか!!!パイロットもなかなかの者だ……!!!」

 

再び2機は加速し、ビームサーベルを激突させる。

 

二つの彗星は、高速で弾き合うように移動しながら互いの刃を交えていく。

 

この戦闘を目の当たりにしたリディとアンジェロは戦闘を忘れ、唖然とモニターに釘付けになっていた。

 

 

 

ギュゴアッ…ヴィギャイン、ギャイン、ズバドォ………ギュゴアアアッ、ズビィギィッッ、ヒュドゴォオオオ…ズバギャアアア!!!

 

 

 

端から見れば光りと光りが幾度も激突し合うような光景だ。

 

トールギスとシナンジュは一歩も譲らず刃を交え続ける。

 

ゼクスはビームを捌き、トールギスを上昇させ、上空より一直線にビームサーベルでシナンジュに斬りかかる。

 

対してシナンジュは、轟とビームサーベルを斬り上げた。

「おおおお!!!」

 

「はぁぁっっ………!!!」

 

 

 

ザジュガアアアアァァ!!!

 

ビィシュイッ………ギャイイイイィィ!!!

 

捌き合い、互いに回転をかけてビームサーベルを激突し合う。

 

拮抗を繰り返す終わらない斬撃戦闘。

 

ライトニング・バロンの名と赤い彗星の名を課せた二人の男達のプライドの激突でもあった。

 

「こうも私と張り合えるとはな!!!ならば!!!」

 

フロンタルは一瞬の隙を突き、シナンジュのレフトレッグでトールギスを激しく蹴り飛ばした。

 

 

 

ドォガオォォンッッ!!!

 

 

 

「ぐぅっっ!!!!」

 

激しいまでの衝撃がトールギスのコックピット全体を襲う。並大抵のパイロットならば気を失うか否かの衝撃だ。

 

だが、トールギスがパイロットに与える衝撃よりは若干威力は低い。

 

更にゼクスは蹴りを食らった瞬間に機体を後退させ、衝撃を緩和させていた。

 

後退しながら吹っ飛ぶトールギスは要のバーニアを使い、ディギュオッと機体を上昇させた。

 

「やってくれる!!!づぁあああ!!!」

 

トールギスはバーニアを駆使させて、シナンジュに高速の飛び蹴りを繰り出した。

 

 

 

ギュドォアアッッ―――ディガオォォオオオンッッ!!!

 

 

 

「ちぃぃいいいっっっっ!!!」

 

フロンタルは、トールギスの反撃に憤りを覚えながら攻撃の衝撃を耐えしのぐ。

 

激しくトールギスの蹴りを食らったシナンジュは、トールギスの加速蹴りで吹っ飛ぶが、海面に叩きつけられる寸前で、ズバドォと瞬発加速をして事なきを得た。

 

2機は各部のスラスターで、バシュバシュと機体体勢を整え、ホバリング体勢をとって落ち着く。

 

トールギスとシナンジュは、睨み合うかのようにビギュイとビームサーベルを振りかざし、静止した。

 

「素晴らしく骨のある相手だ!!!改めて実感させてもらった」

 

「これ程までに私を圧倒させるとは……!!!」

 

そして2機はぶつかり合う勢いで加速する。

 

「おぉおおおおおお!!!!」

 

二人の気迫の一声が重なり合い、ビームの刃がすれ違い様に交えて激突し合った。

 

 

 

ヴィギャィイイイイイ!!!

 

 

 

駆け抜けてすれ違う2機。

 

次の瞬間、トールギスのドーバーガンのジョイントと、シナンジュの右側のプロペラントタンクが斬り落とされた。

 

フロンタルは、この瞬間を引き際と判断してアンジェロに命令する。

 

「アンジェロ、離脱する!!撤退だ!!!」

 

「撤退!?は、はッ!!」

 

フロンタルに忠実なアンジェロは、撤退に違和感があっても素直に従い、機体を離脱させた。

 

「逃がすか!!!!」

 

リディは、離脱するギラズールカスタムを追撃しようとする。

 

だが、ゼクスがそれを止めた。

 

「よせ、もういい。リディ少佐。あのような敵は引き際を心得ている。それを仕留めようとするのは兵士としての姿勢に反する。追うな」

 

「しかし…!!!」

 

「それも騎士道精神の一貫だ。戦士としての礼儀と捉えるんだ。いずれまたぶつかる日も来よう…」

 

「戦士としての礼儀…」

 

リディは改めてOZの戦士としての姿勢に気づかされ、連邦軍人のみでは知り得ない考えを知った。

 

「赤い彗星の再来………本当にシャアの亡霊なのかもな…だが、次は本題のガンダムと刃を交えたいモノだ…」

 

トールギスとユニコーンは、去り行く2機の光を見届けるかたちでホバリングを続けていた。

 

 

 

カタール ガーベイ邸

 

 

 

オルタンシアへの召集を受けたカトルが、ロニとの一時的な別れを迎える。

 

「あまり無茶な事はしないで。いざというときには、マグアナック隊に駆けつけてもらうように頼んでおいたよ」

 

「ありがとう、カトル。でも、少しは無茶もするわ。私ができることは精一杯するつもりよ。私達の地を連邦やOZに好き勝手させたくはないから…」

 

「ロニ…」

 

ロニの闘おうとする意志は変わらない。

 

ロニはそう言いながら、ポーチから手作りのアクセサリーを取り出した。

 

カトルの任務中に作っていたアクセサリーだ。

 

「はい…これをカトルにあげるわ。あなたの無事を籠めて作ったんだから、無くしたら承知しないんだからっ」

 

「ありがとう!綺麗なアクセサリーだよ、ロニ!」

 

「お揃いのアクセサリー、この通り…私も持っているから。お互いに繋がってるって感じで……」

 

ロニはネックレスを少し強調するようにカトルに見せる。確かにお揃いのアクセサリーだ。

 

「ははっ、本当だ……ならどこで戦っていても近くに感じられるね!大切にするよ!」

 

「また無事に帰ってきて………私の可愛いカトル」

 

「あ…ロニ…」

 

ロニは、カトルを引き込むように抱擁した。

 

カトルは、伝わるロニの温もりを噛み締めながら瞳を閉じる。

 

「ロニを想えば幾らでも闘い続けられる……頑張るよ」

 

カトルもロニをすっと抱擁した。

 

守るべきものを再確認して。

 

 

 

翌日、オルタンシアには続々とGマイスターが召集してきていた。

 

ガンダムヘビーアームズとガンダムサンドロックが着艦し、オルタンシアまで後3km付近をシェンロンガンダムが航行する。

 

そして、デュオ、アディン、オデル達の輸送機が着艦体勢を整える。

 

ウィングガンダムの作業へ向かうヒイロが、甲板でガンダムヘビーアームズとガンダムサンドロックを見上げ、空にも視線を送った。

 

「来たようだな…」

 

クシャトリヤのテスト始動をしていたマリーダは、直感めいた感覚を覚えて、空を見上げる。

 

「この感覚は………!!?」

 

同時に輸送機内の部屋で、プルもただならぬ感覚を覚えていた。

 

「え!?何、この感じ!!?あたし………!??」

 

Gマイスター達の集結とマリーダとプルの邂逅の瞬間が刻々と迫っていた。

 

 

 

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エピソード5 「再起動する翼」

メテオ・ブレイクス・ヘルが連邦に対し破壊活動する一方で、オペレーション・ファントムを実行したネオジオンのMS達も連邦への破壊活動を行う。

現ネオジオンのリーダーであるフロンタルも自ら最前で部下のアンジェロと共に連邦基地を強襲していく。

その最中で、フロンタルとアンジェロはコルシカ基地へ背後強襲を謀るが、居合わせたゼクスとリディと激突することとなる。

激しい両者の激突は互角の激突となったが、結果は騎士道精神に乗っ取った引き分けに終わった。

その一方で、オルタンシアでヒイロとマリーダは、互いの機体修理を通し絆を少しずつ深めていく。

そんな中、メテオ・ブレイクス・ヘルのGマイスターメンバーの召集命令が出され、メンバーがオルタンシアに集結する。

その時、同じ遺伝子を持つプルとマリーダが邂逅するのだった…






大空を航行するスマートな4機の輸送機の姿があった。

 

OZ所属の高速シャトル、ソニックトランスポーターである。

 

OZ所属の輸送機であるが、特例措置として、反乱ガンダム調査隊の移動手段で連邦軍も合同で使用する事となったのだ。

 

コルシカを後にしたゼクス達は日本にある連邦軍とOZの併用基地を目指していた。

 

目的はカスタマイズされたエアリーズの交替補充とリゼルの仕様変更、基地における演習である。

 

先頭を航行する機内ではオットー、ワーカーが操縦を勤めている。

 

その後ろでは、ゼクスがデータベースを打ちながら、

ワーカーが記録したシナンジュとギラズールのデータを登録していた。

 

「ワーカー、あの2機のデータ、登録させてもらったぞ」

 

「あ、了解です。お役に立てることができ、自分も嬉しいです」

 

「ふふ…あの高速戦闘の最中に戦闘のデータを記録してくれていたことは非常に評価ができる行動だ。ガンダムと遭遇した時もよろしく頼むぞ」

 

「そうおっしゃられると恐縮ですが、自分は特佐から教えられた『後の兵士の為に』をモットーとしております。これからもお役に立ちたいです」

 

ワーカーはゼクスの部下の中でオットーと並び、ゼクスに忠実な士官である。

 

ワーカーの働きにオットーも敬意を表して笑う。

 

「ははは!俺もワーカーに肖りたいものだ。後の兵士の為の行動をな」

 

「オットー特尉……」

 

「うむ…特に二人には期待している……ん!?」

 

その時、二番機のソニックトランスポーターから通信を受信したアラームが鳴った。

 

それに応じるゼクス。

 

リディ少佐からの通信であった。

 

「ゼクス特佐、急で申し訳有りません。ガンダムの事で………いや、我々の部隊の編成について腑に落ちないモノを感じまして…それで通信を…」

 

「腑に落ちない……それはなんだ?」

 

「連邦にはロンドベル隊があるのはご存じですよね?反乱ガンダムに対してなぜ我々がロンドベルに配属されなかったのかと思いまして………あのような事態には真っ先に動くべきなのはロンドベルではないのかと」

 

反乱ガンダムに対して真っ先に動くべき部隊。

 

シャアの反乱で最前線で戦った連邦軍屈指の精鋭部隊・ロンドベルこそがふさわしいのではとリディは感じていた。

 

だが、実際はガンダムの反乱に対し動く気配がなく、連邦とOZの合同部隊が結成されたのだ。

 

当初は感じていなかったが、シナンジュとの戦闘を目の当たりにしてからリディは疑問に感じていたのだ。

 

「ふ……それは確かに一理あるが……彼らの場合、各地の基地施設や部隊を攻撃目標にしている。動くにあたりMS部隊で動いた方が効率がいい。艦隊を使ってでの行動は逆に重くなる。それに、お偉いさん方は最後の手札としてロンドベルを取って置くつもりだろうからな」

 

「なるほど……」

 

「これまでの常識を覆す程の戦闘力を持ったガンダムだ。慎重にもなるさ。疑問符は晴れたか?」

 

「はい。ありがとうございました、ゼクス特佐!ではまた後程!」

 

リディの通信が終わり一息をつくと、ゼクスは目的地の基地について思いふけた。

 

(日本……JAPポイント・地球連邦軍静浜基地か………あいつとは一年ぶりか………)

 

旧世紀の時代に自衛隊があった施設を更に開拓して創られた静浜基地には、ゼクスと士官学校時代の同期である日本国籍の女性士官がいた。

 

漆黒とも言える黒髪のロングストレートに、凛とした美しさの女性士官。

 

海に隣接した基地故に潮風が彼女の髪をなびかせている。

 

彼女は、機動力が強化され、両翼にミサイルランチャー2基、ライトアームにビームライフル、更には両腰にビームサーベルを設置させたオーバーエアリーズを見上げていた。

 

「反乱ガンダムに対してのOZの次の策か……だが、情報からしてまだこれだけでは到底足りない気がするがな……」

 

「ミスズ・アキハ特佐!」

 

さっと振り向くミスズの視線先には、敬礼をしたOZの士官がいた。

 

「どうした?」

 

「はっ!!只今、反乱ガンダム調査隊からの通信がはいり、約一時間後に到着予定とのことです!!」

 

「そうか、了解した」

 

ミスズは、晴れ渡る空を見上げながらその方角の彼方にいるゼクスに向かって言った。

 

「ゼクス……私に甘えに来い………」

 

 

 

オルタンシアの甲板にヘビーアームズ、サンドロック、シェンロンの3機のガンダムのジェネレーターが鳴り響き、着艦した輸送機からはデスサイズと2機のジェミナスがスライドローダーで甲板工場へ送り出されていく。

 

迎えたハワードがオデルとラルフとで軽い打ち合わせをしていた。

 

「……話は一応は聞いておる。ここを拠点に地上での任務に対応するということだな?」

 

「はい。メテオ・ブレイクス・ヘルの本部から各々に通達がありました。当面はよろしくお願いします」

 

「こっちもそのつもりだ。それにこの設備は来たる時の為に造ったんだからな……」

 

ハワードが親指でオルタンシアの設備に指を指す。

 

「我々のガンダムをメンテナンスする為の設備か…なんとも仰々しい……」

 

オデルは広大なオルタンシアの設備を見渡しながら不満気なかのように呟く。

 

「なんだ?不服なのか、お前さん」

 

不満気な発言に当然ながら、ハワードは疑問を抱くが、真意は違っていた。

 

「いや、十分満足ですよ。ただ、自分達のガンダムをこんな立派な設備でメンテナンスさせてもらえるのが恐縮なんですよ」

 

「なら素直に喜べ!若い者が遠慮せんでいいぞ!!」

 

「はぁ…」

 

トロワ、カトル、五飛が各々にコックピットハッチを開き、それぞれのガンダムから姿を見せた。

 

ここにメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム7機が集結し、その光景をヒイロは表情を一切変えずに見上げる。

 

その傍らで、マリーダはかつての因縁の感覚と闘っていた。

 

(うっ………!!ガンダムがこんなに………!!!ガンダムは敵っ………だがっ………ガンダムは………闘う力だ!!)

 

かつて刷り込まれた感覚、感情と現在に得た概念が彼女の脳内で拮抗する。

 

それに伴い、もうひとつの感覚が彼女に起きていた。

 

(それに………さっきから私自身の感覚が近くに感じる………姉妹達は私以外戦死したはず………)

 

手を重ねるように頭抱えて苦しむマリーダ。

 

次第にその場へとしゃがみこんでいく。

 

「うぅ………!!」

 

「……!?どうした?」

 

マリーダの変調を察したヒイロは、マリーダを気遣うような行動をとった。

 

マリーダの肩にに手を差しのべようとした自分自身のその行動に、ヒイロは違和感を感じて一瞬立ち止まる。

 

「―――……!」

 

異性を気遣おうとする概念が欠如していた故に、ヒイロはそう感じてならなかった。

 

ヒイロの気遣いを感じたマリーダは、苦しみつつも変調の理由を話し始めた。

 

「……っ………感情でかつての柵を断ち切ろうとしている………お前が言った感情で行動する…っ……それを今、試しているっ」

 

「マリーダ………」

 

マリーダは、ガンダムの概念を変えようと試みるが、

かつてのマインドコントロールを断ち切ろうとする行為は、予想以上に彼女に苦痛を与える。

 

そして、マリーダのオリジナルである、プルが近づいたことで更に別の感覚が伴っていた。

 

「よぉーヒイロ!!」

 

そこへデュオの意気揚々とした声でやって来た。

 

「……デュオか」

 

デュオはすぐにヒイロが似合わぬ状況にあることに気づく。

 

「無事だったみたいだな………って、ああ!?おいおい………任務早々行方不明になったと思ったらこれまた随分なご身分で!お前も女性ツレ始めやがって~」

 

「お前も?どういう……」

 

デュオが来た後ろからはアディンとプルが来ていた。

 

それを見たヒイロは、「お前も」と言うデュオの言葉に納得する。

 

「そういうことか……」

 

アディンの左手首を握りながら、プルも頭を抱える仕草をしていたが、マリーダ程深刻ではなかった。

 

「さっきからどうしたんだ?口数が急に少なくなっちまってさ……具合でも悪いのか?」

 

「ううん……違うの。不思議な………あたしみたいな感覚がずっと……凄い近くに感じる……」

 

「あたしみたいな!?なんだそりゃ!?」

 

「…―――ああぁっ!!!」

 

「おぉ!?どうした?」

 

突然叫んでマリーダの方に指を指すプルに軽く驚くアディン。

 

デュオもプルの方を反射的に向いた。

 

「おぉ?なんだぁ?」

 

「……―――あたし………いた!!!!」

 

プルが放つ一言にヒイロ、デュオ、アディンの三人は呆気に取られる。

 

マリーダは、ゆっくりと顔を上げてプルの方を見た。

 

同じニュータイプの遺伝子を持ったもの同士が邂逅した瞬間であった。

 

「この感じ―――………姉さんなのか?」

 

マリーダの一言を後に、マリーダとプルはしばらく互いに見つめ合って固まった。

 

 

それより間もなくして、Gマイスター達のミーティングが開始され、ラルフがスクリーンモニターを使用しながら現在状況について説明をしていた。

 

ヒイロ達は腕を組ながらスクリーンに視線を投入させている。

 

彼らからは不敵なオーラが止まることなく溢れ出ていた。

 

「―――現在においての、連邦・OZの動きであるが、主に軍備増強及び反乱勢力掃討強化の路線に入っている。当然の動きであるがな………」

 

世界地図の図に各地の基地、勢力域が映し出される。

 

「流石に全ての基地を陥落することはできない。当初の予定通り主な要を押さえて叩いていく……――」

 

ラルフは、モニターリモコンを操作して追加表示を表示させた。

 

「連邦とOZの主な基地や駐屯地は、北米、ヨーロッパ、アフリカ北部、アジア、オーストラリアに点在している。これらのエリアへ随時赴いて破壊活動を展開させていく。GNDドライブで単独飛行が可能な我々のガンダムなら可能だ」

 

「どう分散させる?」

 

トロワが質問の一言を放つ。

 

「任務配分は基本的にヒイロとデュオ、トロワとカトル、バーネット兄弟、単独遊撃の五飛の配分だ。始めに現在いるアジアエリアの主だったポイントを叩いた後、今言ったように随時来る任務で各地へ行ってもらう形になる。任務の規模に合わせて、全7機、もしくはいずれかの組合わせでいってもらう。最終的にはダカールとルクセンブルクにある連邦とOZの本部を陥落させる」

 

「了解した。それならば一気に本部を攻める方がいい手かと思うが……」

 

もっともなトロワの意見であるが、それに対しても意図があった。

 

「確かにトロワの言う通りだが、これからの破壊工作はそれに至るためのアプローチ………例えるならボクサーのボディーブローを蓄積させる行為と思ってくれ。一気に攻める前にポイントを崩していく寸法だ」

 

「確かにそれも一理言える事だな。解った……」

 

「アジア………中東へはやはり僕らが行くようになりますか?」

 

トロワに続けてカトルが質問をした。内心、闘うロニが気がかり故に中東への任務を希望していた為だ。

 

「ああ。サンドロックは元々砂漠戦に特化した機体だからな。それにあのエリアは理不尽なテロリストがゴロゴロいる。任務の障害になれば駆逐対象になっている為、そこは臨機応変に頼むな」

 

「はい!任せてください!!」

 

再びロニの力に少しでもなれるチャンスに、カトルは内心的に胸を撫で下ろした。

 

五飛はこれ以上のミーティングの立会は無意味と感じ、すっとその場を後にしようとする。

 

「おいおい!まだミーティングの途中だぜ、五飛!どこ行くんだ?」

 

回りとは違う行動をする五飛にデュオは引き止めをかけた。

 

「調度アジアエリアの任務を残している所だ。ナタクのメンテナンスが終わり次第出撃する」

 

そう言い残して五飛はその場を後にし、ラルフもうなずきながら許可をする。

 

だが、デュオは微弱な遺憾に感じてならなかった。

 

「かああ~……アイツはホント協調性がないっていうか何て言うか…一匹狼っていうか…」

 

「くす、仕方がないですよ、デュオ。それが彼のスタンスなんでしょうから。好きなようにさせてあげましょう。元々彼はそのポジションを希望しているんですから」

 

五飛の身勝手さに呆れるデュオをカトルが宥める。

 

「ワンマンアーミーってことかい…しょうがねー、カトルがそう言うんじゃあな……」

 

「ふふ……まぁ、確かに協調性は必要なんですけどね!でも志は同じなのですから信じましょう!」

 

一通りのミーティングを終えると、ラルフはヒイロを引き止め、声をかけた。

 

ウィングガンダムの修理状況についてであった。

 

「ヒイロ、ウィングガンダムの修理状況はどうなんだ?」

 

「現在ウィングバインダーのオーバーホールの工程に入る。最低でも後、一週間はかかる」

 

作業工程上、時間を必要とする故に任務にも響く。

 

ラルフはデュオやトロワがメカに強いことを思いだし、一緒にいた彼らにも協力を指示した。

 

「そうか………ならば少しでも人手が多い方がいいな………デュオ、トロワ、手伝ってやってくれ。確かお前達はメカに強かったよな」

 

「ああ。ウィングガンダムが稼働すれば任務の効率性が上がる。少しでも完成を早める為にも合理的だ」

 

「まーウィングがいつまでもおねんねじゃしょーがねーからなぁ!この際手伝ってやんぜ!」

 

トロワはすんなりとラルフの指示に賛同し、デュオもまた頭をかきつつ、ウィングの修理に買って出る。

 

すると、カトルも協力の姿勢を示してきた。

 

「なんでしたら僕にお役に立てる事なら手伝います。一日でも早く皆さんでウィングを修理しましょう!」

 

「カトル、メカいじりできるのか!?」

 

デュオが意外なカトルの一面に驚く。

 

だが、カトルとしては手伝える範囲での話だ。

 

「皆さん程メカには詳しくはないですよ。作業的に手伝える所を手伝います」

 

「そう言うことか!まー、そうと決まったら作業おっぱじめようぜ!!」

 

デュオ、トロワ、カトルも加わり、ウィングガンダムの修理が再開される流れになった。

 

更にはアディンとオデルも加わり、時に細かい部分を黙々と組み立て、時に声を掛け合って大がかりなパーツを移動させ、作業が進められていく。

 

そこには男達の熱い友情ともいうべき雰囲気が流れていた。

 

いつの時代も、男同士の共同作業は熱いものがあるのだ。

 

 

一方、マリーダとプルは場所を海が一望できる開放的な部屋に移して過ごす。

 

彼女達は先程のような頭の違和感はなくなり、二人とも自然体でいられるようになっていた。

 

どうやら初期の邂逅の時のみに起こった感覚だったようだ。

 

海から来る風が心地よく二人の髪をなびかせている。

 

マリーダは、ヒイロに言われた言葉を瞳を閉じて思い返していた。

 

 

 

『頭痛が伴ったのは疲れもあるだろう……作業の方はいい。休めるときに休め。それにプルとか言う姉妹とも会えたんだからな』

 

 

(ふふ……ヒイロには色々と食わされるな)

 

ヒイロが年下故に、生意気かつ一杯食わされた感も感じつつマリーダは目の前にいるプルへ視線を送った。

 

プルは美味しそうにパフェをまくもくと食べている。

 

「パフェ美味し~!マリーダも食べる?あーんして!」

 

プルは笑顔で何の気なしにスプーンに掬ったパフェをマリーダに差し出した。

 

一瞬、きょとんとなるマリーダ。

 

「あ、ああ……」

 

今の今までにこのようなシチュエーションを味わった事がないマリーダは、恥ずかしくなり、ぎこちなくパフェを口に入れた。

 

「どう?美味しいでしょ!」

 

「……うん、美味しいな」

 

マリーダは口に広がる美味さをかみしめながら今の時もかみしめようとする。

 

初対面ではあるが、遺伝子的には姉妹の再会を果たせたのだ。

 

「へへ♪マリーダ、いい子いい子♪」

 

「む…」

 

とはいえ、明らかに年下のプルに撫でられたマリーダは、調子が狂いそうになる。

 

だが、同時にこそばゆくもあり、顔を赤くしていた。

 

「なんて言ったらいいんだ………確かにプルは姉さんなんだが……撫でられるとなんか調子が狂うな…」

 

「調子が狂うって、マリーダひどーい!もう撫でてあげないし、パフェもやんないよー!」

 

「私は特に食事に関してがめつくはない。残りのパフェは姉さんが好きなだけ食べればいい……」

 

大人の対応であしらうマリーダ。

 

言うまでもないが、最早完全にマリーダが姉である。

 

「もぅ…ノリ悪いんだからぁ…せっかく再会できたのにー」

 

プルは不機嫌そうに一人でぱくぱくとパフェを食べ始める。

 

そんなプルを見てもマリーダは幸せを感じてならなかった。

 

今の彼女にとって、唯一血の繋がった存在なのだ。

 

微笑ましく思ったマリーダは口許に軽い笑みを浮かべながらプルを撫で返してみせた。

 

「ふふっ、可愛いな……姉さんは」

 

可愛いと言われながら撫でられるプルは、恥ずかしそうに、かつ嬉しそうに笑う。

 

「え!?そ、そっかな~……えへへ……」

 

プルはパフェを一口飲み込むと、スッとマリーダに手をかざした。

 

突然のプルの仕草にマリーダは唖然とした。

 

「え……姉さん?」

 

「貴方のこれまでの事……感じさせて…」

 

瞳を閉じてマリーダのこれまでの事を感じようとするプル。

 

その表情はどこか大人びた表情になり、つい先程の子供っぽさが隠れていた。

 

プルは静かにマリーダを感じ始めた。

 

マリーダもならばと手をかざし、プルのこれまでの事を感じようと試みる。

 

「私も姉さんの事を……」

 

互いの経緯を確認し合う中で、潮風の音だけが聞こえていた。

 

 

 

ルクセンブルク・OZ本部では、OZ総帥であるトレーズが、データベースでこれまでのガンダムの被害を確認していた。

 

(彼らの与える被害は、これまでのMSの戦闘の常識を覆す。我々も次なる時代のMSが必要なのかもしれない………)

 

データベース上にトールギスとユニコーンのデータを見ながらトレーズは淡々と心で語る。

 

あたかも時代を掌握しているかのように。

 

(その為の布石がトールギスであり、ユニコーンなのだ。あれらの機体はこれまでのOZと連邦の常識を覆す性能を秘めたMS。選ばれし二人の戦士にそれを与えた選択は確かだ… )

 

続けて操作したデータベースに、トールギスⅡとトールギスⅢのデータが映し出された。

 

(私もゼクス達に続きたいものだ。次なる機体の手配をせねばな。私も彼らと剣を交えてみたいと欲してならない…)

 

トールギスⅡのデータを見ながらトレーズは静かなる闘志を昂らせた。

 

(だが、まだゼクス達はガンダムとは交戦してはいなかったな………彼らと交戦したとき………何が起こるのか……実に楽しみだ)

 

トレーズはデスクの通信ツールを起動させ、部下に通信をとる。無論、新たなトールギスの手配のためだ。

 

「私だ。単刀直入に通達する。2番目のトールギスの手配を頼む。敢えて期限を言うのならば来月にニューエドワーズ基地で開かれる連邦との大規模合同演習に間に合わせてもらいたい」

 

「はっ!!直ちに手配致します!!」

 

「頼む」

 

通信ツールを切ると、トレーズはその場を立ち、窓辺の景色を見る。

 

(今は機動性と火力を強化させたエアリーズを贈っておくぞ……ゼクス)

 

 

 

日本・地球連邦軍静浜基地

 

 

ミスズとゼクスが、部下達の演習を目で追いながら管制塔から見守る。

 

オットーやワーカー達が駆るエアリーズオーバーや、ホマレやガロムが駆るリゼルが高速で空を駆け抜けていく。

 

「本当に一年ぶりだな、ゼクスとは」

 

「ああ。その一年後とやらにこのような事態が発生するとは夢にも思わなんだよ」

 

「本当だ。まさか同胞の機体と瓜二つなMS達に敵視されてしまうなんて……まぁ…歴史を振り返ればガンダムMkⅡやΖガンダムの事例はあるが……」

 

過去のグリプス戦役の事例を引き出せばガンダムが連邦の敵になった事例はあった。

 

だが、今回の事例は極めて異質である。

 

「確かにそうだが、今回は極めて異例だ。ガンダムそのものが、アナハイム製ではなく、メテオ・ブレイクス・ヘルという未知のテロ組織が造り上げたガンダムだ。それに単機で基地や中隊規模の部隊を壊滅させるほどのガンダムだ」

 

「……ああ。もちろん解っている。だからこそ私達はこうして対抗策をやっている。エアリーズオーバーだけではまだ心もとないがな。今はゼクスと………」

 

「リディ・マーセナス少佐、射撃演習、行きます!!」

 

リディのユニコーンが滑走路から空中へと飛び立つ。

 

そして基地から射出されたバルーンダミーに向かい、ビームマグナムを撃ち放つ。

 

焼津市の空にビームマグナムが吸い込まれていく。

 

「彼が大きな頼りだ。ゼクスはトールギスで出ないのか?私はトールギスが見てみたい。もちろん、それを駆るゼクスもな」

 

「ふ……しばらく第三者視点で部下達の演習を見ていようと思っていたが、お前がそういうのであれば今からでも出るか」

 

ミスズの希望と少しでも早くトールギスをモノにする為にゼクスはその場を後にした。

 

前回、フロンタルと闘った時は凄まじい気力で人体の負担をカバーしていたが、その後の反動のダメージは拭いきれていなかった。

 

ゼクスは人体の限界をも克復させようとしていた。

 

仮面の下に苦痛を隠しながら。

 

(この程度の苦痛………直ぐにでも克復させて見せよう。こうしている間にもガンダムが強襲してくるかもしれんのだからな!!!)

 

ミスズはトールギスへ赴くゼクスに声をかけた。

 

「ゼクス!この演習の後、食事にしようか」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

「ここの地元の海鮮料理をおごってやる」

 

気高く強かな口調の中には、ミスズのゼクスへの想いが込められていた。

 

 

 

メテオ・ブレイクス・ヘルの事態を重く見た地球連邦政府は、更なる圧制体制をとろうとしていた。

 

連邦軍内の秘密結社OZと連携しての部隊や武装の強化、各基地のMS部隊の増設、反抗勢力弾圧強化。

 

更には過去のガンダムのデータを見直し、マイナーチェンジを兼ねての再生産の計画案が出されていた。

 

連邦本部が置かれたダカールでこの日も会議が行われていた。

 

「これは事実上のテロ以外の何者でもない!!!これらのテロが皮切りになり、各地の反抗勢力が活発化しはじめている!!更なる被害を防ぐためにも様々な分野の強化が必要だ!!」

 

「同感だ!!付け加え、宇宙側の圧制強化も行うべきだ!!更なる取り締まりの強化をスペースノイドに下す必要がある!!」

 

「ですが、それでは更に彼らのような存在を増やしてしまうのでは!?逆に暖和の方向へ…」

 

「ならん!!それでは連邦政府が奴等に屈したことになりかねん!!!強化は必然だ!!」

 

各意見が延々と飛び交う連邦政府の会議。

 

彼らのいい放つように、メテオ・ブレイクス・ヘルの行動が更なる圧制強化の引き金になるという皮肉な路線が生まれつつあった。

 

日時絶え間なく報道されるメディアもほとんどがこの話題や題材で持ちきりであった。

 

オペレーション・ファントムのMS所定のジオンの野戦キャンプ場へと降り立ったフロンタルとアンジェロ。

 

彼らもまたガンダム関連のメディアを閲覧していた。

 

「どうやら彼らのガンダムは、今の所我々の味方であると位置付けてもよいな。事実、彼らに助けられたジオンの同胞もいる」

 

「はい。そのようで…」

 

「彼らとは茶の席を儲けられそうだな、アンジェロ」

 

「茶の席を……ですか?」

 

「ああ。どうだ?共に飲んでくれるものかな?」

 

冗談を交えながらフロンタルは微笑を浮かべてアンジェロに話を振る。

 

アンジェロも微笑を浮かべてそれに答えた。

 

「大佐が出される茶ですから、きっと………」

 

「ふふふ………冗談はさておき、話を移すが、マリーダ中尉から連絡がない。彼女以外の同胞達はこうして合流できている。何かがあった可能性が最もなのだが……要の一つの戦力が最初からこうでは先が思いやられるな」

 

フロンタルは連絡がつかないマリーダを気に止めるが、どこか冷ややかな印象を持たせる。

 

アンジェロは輪をかけるように冷ややかな言葉を並べた。

 

「最もです。飛んだ強化人間だ、マリーダ・クルス。大佐に気を使わせるなどと!!合流できたのならば、失態に相応しい任務を与えましょう!!」

 

「アンジェロ、ムキになるな。何れにせよ彼女にはオペレーション・ファントムの仕上げをシャンブロと共に担ってもらう。シャンブロに次ぐ強力な戦力なのだからな」

 

「大佐、何をおっしゃるんですか。大佐のシナンジュこそが最も強力です。私はそう感じてます」

 

同胞とはいえ、少なくともフロンタルとアンジェロはマリーダを手駒として捉えていた。

 

部下想いのゼクスとは対照的な一面が垣間見えた瞬間であった。

 

一方でゼクスは演習でトールギスを駆っていた。

 

彼の体に激しいGが襲いかかる。

 

前回は闘争心が肉体を凌駕し、事なきを得ていた。

 

しかし今回ばかりはそうはいかない。

 

闘争心を掻き立てる対照がいない。

 

だが、闘争心とは別の感覚で肉体負担をねじ伏せていた。

 

「ミスズが見ている!!無様な演習はできんぞ、ゼクス!!」

 

ゼクスは自らに言い聞かせてトールギスを舞わせる。

 

トールギスは上昇し、宙返りした後にバーニアで姿勢を豪快に整えてみせた。

 

そこからドーバーガンを構えてバルーンダミーを一つ二つと次々に適格命中させて撃ち墜とす。

 

ミスズは腕組みしながらゼクスの演習を見守る中で、驚きを兼ねた笑みを見せる。

 

ミスズもMSに乗る故に、そのトールギスの動きがいかなるGを発生させるのかが解っていた。

 

(すごいな!!だか、あのような動きは相当なGがかかったはずだ……ゼクスは無事なのか!?)

 

演習が終わるとゼクスは、ミスズと海鮮料理の食事をとっていた。

 

正直和食は滅多に食さないので、ゼクスは違和感を感じてならなかった。

 

持っている箸の持ち方もぎこちない。

 

それを見て逃さないミスズが早速話しかけた。

 

「くすっ、和食はやはり慣れないか?」

 

「ん?ああ、滅多な食事ではないのでな。本当におごりでいいのか?ミスズ。私の部下達の分まで……」

 

「ああ、遠慮はしなくていい。言ったろ?私のおごりだ」

 

勝ち気かつ男勝りな性格故に、ミスズはゼクスのペースさえも掴んでいた。

 

地元名物である海鮮丼を食べながらミスズは演習の感想を述べた。

 

「トールギスの演習を見せてもらった。本当に乗り始めたばかりとは思えないような動きだった。しかし、あのような機体の動きでは、体への負担がかなりのもののはずだ。今、大丈夫なのか?」

 

トールギスの機動性の代償とも言える体への負担は、半端なものではない。

 

正直な所、食事をとるにもキツいものがあった。

 

しかし、せっかくのミスズの厚意にゼクスは痩せ我慢してみせる。

 

「ああ、問題はない…」

 

たが、ミスズはお見通しであった。

 

「嘘。ゼクスは痩せ我慢してる。昔から変わらないな」

 

「む……やはり判るか」

 

「くすっ、まぁ、疲れもたまっているのだろう……今日は基地でゆっくりするがいい。それに……お互いの夜も忙しくなるのだからな」

 

「おいおい………休ませてくれるのではないのか?」

 

ミスズは不敵なまでに自分のペースにゼクスを引き込む。

 

小悪魔を装うかのように、ミスズはゼクスに魅惑的に笑みを送った。

 

「ふふふ、その為に休ませてやるんだ。遠慮なく甘えに来たまえ」

 

「やれやれ…ミスズには敵わないな…むっ!」

 

ゼクスはミスズの誘惑めいた言動に観念せざるを得なかった。

 

ミスズのペースに引かれ、ぎこちない箸使いが更にぎこちなくなり、ご飯をこぼすゼクス。

 

ミスズのペースの中では流石のライトニング・バロンでも手の内に収まってしまうのであった。

 

 

一週間と五日後

 

 

 

遂にウィングガンダムの修理が完了し、ウィングガンダムはGNDドライブの起動音を響かせながら出撃を迎えていた。

 

ヒイロは素早いボタン操作で機体の最終的なセットアップを進ませる。

 

その隣では、ガンダムデスサイズをホールドしたハンガーが起き上がった。

 

「これでやっと任務に復帰できるぜ。急ピッチでやった甲斐があったな!!なぁ、ヒイロ!!」

 

デュオがモニター越しに威勢よくヒイロに話しかける。

 

「この借りは返す……」

 

ヒイロはその一言だけで済まし、操作を続ける。

 

「そうかい、期待してるぜ♪けど、俺だけじゃないぜ。トロワやカトル、アディンとオデルだってそうだろ?」

 

デュオは携わった他のメンバーへの貸しを仰ぐ。

 

無論、理の急かしなどではなく仲間意識からだ。

 

「ああ、無論だ」

 

ヒイロ達より一足先にガンダムサンドロックとガンダムヘビーアームズが、ハンガーから離れて空中へと飛び立つ。

 

カトルがコックピットから久々の任務故にヒイロ達に気遣う。

 

「それでは僕とトロワは先に行きます!約一週間ぶりの任務です。みなさん、感覚は鈍っていませんか?」

 

「……感覚が鈍ることはない」

 

「なーに言ってんだ、カトル!俺はいつも万全だぜ!けどまぁ、さすがにオルタンシアに缶詰めだったのは堪えたけどな」

 

ヒイロとデュオに続け、トロワとオデルも答えた。

 

「問題はない」

 

「ははは、同じく。休暇は終わりだ!みっちり任務に就かせてもらうさ……なぁ、アディン!」

 

2機のガンダムジェミナスのハンガーも立ち上がり、出撃のスタンバイに入った。

 

「あ!?あー…おえがいふもほーひにひめへはるぜ(俺がいつも通りにキメてやるぜ)!!」

 

アディンは口にサンドイッチを頬張ったまま答える。

 

プルが作った手作りのサンドイッチだ。

 

「馬鹿か!口にサンドイッチ入れたまま喋るな!!飲み込んでから言え!!」

 

オデルは弟のみっともない態度に突っ込まざるをえない。

 

だが、アディンは強引にサンドイッチを押し込んだ後にオデルに反発する。

 

「んがぐっ………話ふったのは兄さんじゃねーか!!」

 

「だから食った後でと言っている!!」

 

「どーせよ、そしたらそしたらでシカトするなとか言うんだろ!?」

 

「あのな!!」

 

兄弟喧嘩の通信やりとりにプルが割って入いり、全体通信の為、全員のサイドモニターにプルの顔が表示される。

 

「こらこら!兄弟仲良くしなきゃダメでしょ!あたしとマリーダは仲いいよ!それで、あたしが作ったサンドイッチ美味しかった!?」

 

「ああ!!うまかった!!けっこーイケてたぜ!!兄さんのせいで最後味わってくえなかったけどな」

 

「人のせいにするな!!お前自身が食ったんだろうが!!」

 

「うるせー!!話振んな!!」

 

「任務をピクニックに錯覚するな!!!バカ野郎!!!」

 

「だからー!!兄弟仲良くしなきゃダメー!!にんむにもひびいちゃうよ!!」

 

ああ言えばこう言う口喧嘩に再びプルが待ったをかけた。

 

メンバーの調子が平常運転である事を確認したカトルは、軽く笑いながら任務へと赴いた。

 

「くすくすっ……確かにいつも通りのようですね!では、皆さんの武運を祈って……行きます!」

 

カトルはロニから貰ったアクセサリーをきゅっと手に握ってからレバーを押し込んだ。

 

ガンダムサンドロックとガンダムヘビーアームズがそれぞれGNDドライブの出力を上げて加速をかけて大空へと突き進んでいった。

 

「アディン、任務から戻ったらまた何か美味しいの作ってあげる☆だから任務、頑張ってきて!!」

 

「ああ!!キメてくるぜ!!ジェミナス、ハンガーパージ!!アディン・バーネット行くぜ!!!」

 

プルのエールを受け、気合いをみなぎらせるアディン。レバーを握る手にも力が入る。

 

慕ってくれる存在の価値観を見出だせた表れでもあった。

 

「フィアンセのもとへ戻るためにも、ヘマするなよアディン!!オデル・バーネット、ジェミナス02出る!!」

 

「だ・か・ら!!!そんなんじゃねーって兄さん!!!」

 

バキャンと2機のハンガーがパージされて、ガンダムジェミナスが飛び立つ。

 

ヒイロの方もセットアップが完了し、出撃準備が整った。

 

ヒイロはバーネット兄弟の口喧嘩を遮るように全体通信を切り、サイドモニターに場所や座標など任務データの詳細を記したデータを映し出す。

 

「次の任務は太平洋沖・西日本近海の地球連邦軍・沖縄洋上基地の破壊と、そこへ向かっている輸送中の空戦部隊を叩く……軍備増強を図るためにエアリーズとアンクシャの部隊が増設されるようだ……更に新型MSが試験配備されている。これも破壊する」

 

デュオもヒイロと同じく任務のデータを見ていた。

 

敵機の新型データには百式に酷似したMSが表示されている。

 

「ここはアジアのOZ軍事拠点の要の一つでもあるんだな………増設部隊に新型か…で、どう攻める?ヒイロさんよ?」

 

「……俺が単独で洋上基地と移動中の増設部隊を叩く」

 

「あぁ!??マジか!??」

 

「お前の任務の手間はぶきだ。それが俺なりの貸し返しだ」

 

ヒイロはデュオの負担を負う事で借り返しをすることを決めていた。

 

「へいへい、そいつは有りがたい……じゃあ、俺はのんびりと害虫駆除に勤しむぜ。その近海でやる演習にお邪魔させてもらうぜ」

 

そう言いながらデュオは任務エリア近海で演習予定のOZ所属の空母の駆逐任務を選択した。

今回のターゲットの基地に所属の空母でもあった。

 

そして、GNDドライブの駆動音を響かせながら、ウィングガンダムとガンダムデスサイズの2機が加速しながら飛び立つ。

 

ウィングバインダーをギュウィっと展開させて飛び立つウィングガンダムの姿が、実に雄々しい。

 

そしてそれを追うようにクシャトリヤも飛び立った。

 

コックピット内のマリーダは、モニター越しにハワードへ改めて礼を述べる。

 

「本当に世話になった。改めて礼を言う」

 

「なぁに…ただサービスしてやっただけだ。また寄るときはいつでも気軽に寄ってくれい。メンテしてやるぞい」

 

「ふふっ、了解した」

 

そこへプルからの通信も入り、彼女の表情が映し出された。

 

「マリーダ、また帰ってきてね。あたしもできればマリーダ達の所いきたいけど、ここなら安全だし、アディンが帰ってくるし……だから……」

 

「ああ、解っている。姉さんを戦場へ連れていくわけにはいかない。私は姉さんの中を見た………姉さんには直接戦う意志はない。姉さんは戦いの道具なんかじゃない………」

 

マリーダは手をかざしあった時にプルが、ニュータイプ研究所で上部だけの優しさに囲まれ、戦争の道具としての価値観に晒されていた事を知った。

 

故に、今はプルをネオジオンと合流させるわけにはいかなかった。

 

ちなみに、ジェミナスのコックピットで戦闘シュミレーションしていたのはあくまで、ゲーム感覚からであり、プル自身は戦闘意思は無かったのだ。

 

「……宇宙に帰る時が来たら、その時に一緒に帰ろう。宇宙には姉さんの帰る場所がある」

 

「帰る場所か……うん!わかった!楽しみにしてるよ!!それじゃ頑張って、マリーダ!!」

 

「じゃあ、行ってきます。姉さん」

 

マリーダは一度瞳を閉じて再び瞳を見開くと、ヒイロに通信をとる。

 

ウィングガンダムのコックピットモニターにマリーダの表情が映し出された。

 

ウィングガンダムとクシャトリヤも並列しながら飛行している。

 

「マリーダ…」

 

「本当に色々世話になったな。礼を言う。それに、ガンダムの概念………少しづつだが変わろうとしている。ヒイロのあの言葉のおかげだ。それを含め、お前の任務で世話になった借りを返す。今からお前の同行しよう」

 

「いや、これは俺の任務だ。ウィングの修理を手伝ってくれただけで充分だ」

 

「しかし……」

 

ヒイロはあくまでも自分がやると決めた任務を貫く姿勢でいた。

 

「俺の任務は俺がやる。マリーダはマリーダの任務を果たせ」

 

「ヒイロ………ふふっ、お前には本当に色々と食わされてしまうな。解った。私は私の任務に就く。またどこかの戦場で会えたらよろしくな。それに、たまに姉さんに会いに来るかもしれないから、その時にも会えるかもしれない……」

 

「ああ」

 

互いに戦場へ行くが故に、マリーダのまたヒイロと再会したいという気持ちが自然に前に出る。

 

「まぁ、いい。この際あえて言おう。またどこかで再会したい。いや、再会する……それがお互いの任務だ。それでいいな?」

 

マリーダは再会したい気持ちを任務と位置づけてヒイロに伝えた。

 

ヒイロは約束の一言で返答し、満更でもない様子だった。

 

「ああ、任務了解…」

 

「くすっ…ならばよし。マリーダ・クルス、任務を再開する!!ヒイロ・ユイ……グッド・ラック!」

 

マリーダはそう言いながら、モニターのヒイロへ向かい、人差し指と中指をビッとさせたサインを贈って通信を切る。

 

「っ―――」

 

ヒイロはマリーダのその仕草に一瞬釘付けになるが、直ぐに我に帰り、鼻で笑ってみせた。

 

「フッ……」

 

同時にクシャトリヤもウィングガンダムから離れ、向かうべき空路に切り替えてその場を離脱した。

 

ヒイロもウィングガンダムをバードモードへと変形させ、任務へと向かった。

 

 

 

地球連邦軍・沖縄太平洋沖洋上基地へと向かうガルダ輸送機。

 

機内には20機に及ぶアンクシャが搭載されていた。

 

更に後続するもう1機のガルダにはエアリーズが20機搭載されていた。

 

計40機に及ぶまさに軍備増強であった。

 

ガルダの機内では基地との通信がとられていた。

 

「こちら、連邦軍及びOZの第3航空中隊!後約一時間で沖縄洋上基地へ到達する!」

 

「航路も視界良好……問題はな……なんだ!?あれは!??」

 

機内の兵士の肉眼に巨大な鳥のようなシルエットが飛び込む。

 

バードモードのウィングガンダムであった。

 

「未確認機と遭遇!!データにもレーダーにも把握できない!!」

 

「あ、アンクシャ部隊を緊急発進させる!!OZにもエアリーズを出せと伝えろ!!」

 

ウィングガンダムのコックピットモニターに2機のガルダが捕捉されていた。

 

「ターゲット確認………排除開始!!」

 

上部レバーをスライドさせてウィングガンダムを変形させるヒイロ。

 

各部を変形させたウィングガンダムが、バスターライフルの銃身を真っ直ぐに構える。

 

モニターのロック・オンマーカーがターゲットを絞り込んだ。

 

その時、ガルダから数機のアンクシャとエアリーズが発進していく映像が確認された。

 

ヒイロはあくまでもガルダへ狙いを集中させ、バスターライフルの銃口にエネルギーをチャージさせた。

 

次の瞬間、高エネルギープラズマ渦流の図太い巨光が撃ち放たれた。

 

 

 

ギュヴヴァアアアアアアアァァァァッッ!!!

 

ドォギュゴガガァァァッッ………ドドヴゴォバアァアアアアッッッッ―――!!!

 

 

一直線に突き進んでいったビームが、2機のガルダを抉るように撃ち貫く。

 

この一撃が搭載された多数のアンクシャやエアリーズをガルダ諸とも爆砕させた。

 

二つの眩い爆発光の華が空中に咲いた。

 

「ガルダ2機破壊。飛び出した残存部隊を叩く」

 

難を逃れた7機のアンクシャと6機のエアリーズが各々に展開し、アンクシャはMS形態へと変形した。

 

両腕に装備されたビームライフルを発射してウィングガンダムに攻め込む。

 

ヒイロは巧みにウィングガンダムをコントロールして、攻撃を回避する。

 

ウィングバインダーを展開させながらハイスピーディーに機体を回転させて弾道から離脱する。

 

ウィングガンダムの機動能力はクシャトリヤと交戦した初期よりも上がっていた。

 

「機動性、ウィングバインダーの機能に問題はない。それに、修理の際にウィングバインダーの中身をチューンしておいた。機動性は上昇している」

 

アンクシャの攻撃に加え、エアリーズのビームチェーンガンやミサイルランチャーの攻撃も空中を奔る。

 

だが、これらもウィングガンダムはかわしていく。

 

ビーム弾雨の中を駆け抜け、一気に加速してみせるウィングガンダム。

 

反転しながらガギャンとバスターライフルを構え、展開するMSにバスターライフルを発射した。

 

 

 

ギュヴヴァアアアアアアアッッ!!!

 

ギュバァドォオオァァ………ドォドォドォドォドォゴォバアァアアアアン!!!

 

 

アンクシャ3機、エアリーズ2機がバスターライフルのビーム渦流に呑み込まれ爆砕された。

 

ギュオンとウィングガンダムに加速しながら1機のアンクシャが、ビームサーベルで斬りかかる。

 

唸る斬撃をウィングガンダムは容易くかわし、バスターライフルを至近距離から撃ち放って、グガシャアとかき消し去るようにアンクシャを撃破する。

 

直後に斜め上より来るエアリーズの攻撃もかわし、ウィングガンダムはバスターライフルでこれに対し、反撃に出る。

 

ヴァズドォと放たれるビーム渦流が、4機のエアリーズを砕き散らして粉砕する。

 

残り3機のアンクシャが、フォーメーションをとってウィングガンダムに攻撃をかけた。

 

向かい来る左右の2機のアンクシャから撃ち放たれるビームライフルの直撃を受けるウィングガンダム。

 

だが、全て中央のアンクシャに攻撃を絞っての行動だった。

 

ヒイロはターゲットのアンクシャから目を離さない。

 

そのアンクシャは左右の僚機が離脱すると同時にビームサーベルを装備して振りかぶる。

 

その刹那にヒイロはウィングガンダムを加速させ、レフトアームのシールドをアンクシャに刺突させた。

 

加速の勢いで威力が増し、アンクシャは爆発しながらバラバラに砕かれた。

 

そしてウィングガンダムは、残りのアンクシャ2機にバスターライフルを放った。

 

だが、2機は直撃を免れるために、寸前で回避する。

 

しかし、バスターライフルのビームが発生させるプラズマ放流のエネルギーの影響を直に受け、2機は爆発を起こして粉砕された。

 

その爆発を突き抜けながら再びウィングガンダムはバードモードへと変形する。

 

「増強戦力の壊滅任務完了、セカンド・フェイズに移行。沖縄洋上基地を叩く!!」

 

真っ直ぐに加速しながらウィングガンダムは洋上基地を目指した。

 

それから間も無くし、海上で演習中のエアリーズ部隊にスクランブル要請が出た。

 

展開中のエアリーズ部隊は個々の小隊を組んでホバリングを開始させた。

 

その最中、水中から黒い影が急浮上した。

 

その黒い影はエアリーズの一小隊の背後を捉える。

 

ガンダムデスサイズであった。

 

「??!」

 

 

 

ズバジュガァァァァァァンッッッ!!!

 

ズズズガゴォオオオン!!!

 

 

 

ガンダムデスサイズが振るうビームサイズがエアリーズ3機を一振りで葬り去る。

 

エアリーズ部隊が一斉にガンダムデスサイズを狙い定めて攻撃を開始する。

 

「へへ、あらよ!!」

 

ガンダムデスサイズは機動性が長けている上に、パイロットであるデュオの回避アビリティーも高いものであった。

 

ガンダムデスサイズは攻撃をかわしながらビームサイズで斬りかかり、エアリーズを次々に斬り砕いていく。

 

機動性を活かし、縦横無尽に空中を駆けるガンダムデスサイズ。

 

動く度にエアリーズがビームサイズで斬り払われていく。

 

「そらそらぁ!!!死神が舞うぜぇ!!!」

 

エアリーズはなすすべなく死へ誘われていく。

 

勢いよく振るわれたビームサイズがエアリーズを熔断し、断面の空間からガンダムデスサイズが顔を覗かせた。

 

爆砕されたエアリーズの残骸が墜落し、出撃前のエアリーズを破壊させる。

 

更に次のターゲットを斬り上げた直後にヒイロから通信が入る。

 

「デュオ、離れてろ。空母を破壊する!!」

 

「あ!!?ちょっと待て!!おらぁあああ!!!」

 

ガンダムデスサイズはがむしゃらなまでにビームサイズを振るわさせて、上昇しながらエアリーズを斬り飛ばし、斬り払い、斬り捌く。

 

「よっしゃ、いいぜ!!空母の真上上空に離脱した!!!」

 

間も無くして、ウィングガンダムが演習エリアに到達し、MS形態へ変形する。

 

ホバリングしたまま、バスターライフルを構えた。

 

「ターゲット、ロック・オン……OZ所属空母艦を破砕させる!!」

 

通常よりも長めにチャージし、バスターライフルの銃口にエネルギーがフルチャージされる。

 

そして撃ち放たれるビーム渦流が、最大出力で発射された。

 

 

 

ギュヴァズゥゴォオァァァァァァァァ!!!

 

 

 

迫り来る巨光の渦が、展開中のエアリーズ部隊ごと空母を押し潰すかのように抉り砕きながら激進。

 

エアリーズ12機と空母艦体を瞬く間に破砕させ、強烈な爆発を巻き起こす。

 

ビームのプラズマ放流の衝撃波の高熱で、海水も爆発と共に激しく吹き上がった。

 

「空母は破壊した。後は残りの駆除だ。これで借りは返したぞ」

 

デュオはこの時、実際のバスターライフルの威力を初めて垣間見た。

 

それは実に洒落にならない兵器であることを実感させられた瞬間であった。

 

「おいおい……こいつは返し過ぎだぜ!!MSの演習部隊諸とも空母をかき消しちまいやがった!!!」

 

「なんか最初と言ってる事がビミョーに違う気がするんだけどナ……ま、確かに俺が楽になった―――」

 

その会話の最中、残存のエアリーズの内1機が下方向から迫ってくる。

 

ガンダムデスサイズに向かって特攻とも言える攻め方で、ビームチェーンガンを連射して突っ込む。

 

「な!!!」

 

だが、デュオは会話の流れに乗せたまま、突っ込むエアリーズにバスターシールドを刺突させ、砕き散らさせた。

 

ウィングガンダムは、次のターゲットポイントへと再び変形して飛び立つ。

 

「洋上基地を破壊する!!」

 

高速で加速するウィングガンダム。

 

コックピットモニターには海面を滑るかのように突き進む映像が映し出されている。

 

ヒイロは無言でモニターを注視している。

 

やがて洋上基地が水平線上に捉えられた。

 

洋上基地では輸送機の撃墜を受けて、配備中のMS各機が戦闘配置に就いて迎撃体制に移行していた。

 

リーオーフライヤー、スタークジェガン、ロトの部隊が武装をスタンバイさせて待機している。

 

そして、彼らの視線上にウィングガンダムが映る。

 

ウィングガンダムのコックピットモニターには複数のロック・オンマーカーが展開し、基地に展開するMS部隊がオートロック・オンされた状態で映し出されていた。

 

「ターゲットポイント到達。洋上基地を破壊する!!」

 

ギュウィィっと変形しながらバスターライフルを構えた。

 

メインロック・オンマーカーが基地を捉え、バスターライフルの銃口にエネルギーが充填され始める。

 

同時にMS部隊が砲撃を開始する。

 

リーオーフライヤーのドーバーガン、スタークジェガンのビームバズーカ、ロトのキャノン砲がウィングガンダムへ撃ち放たれていく。

 

いくつかの弾丸がウィングガンダムに直撃していくが、ウィングガンダムは微動だにしない。

 

そしてバスターライフルのビームが撃ち放たれた。

 

 

 

ギュヴァオオオオオオオオオオォォォォッッ!!!

 

 

ヴァズゴォオン………ズズズガゴォオオオァァァ!!!

 

 

 

突き進むプラズマ渦流が基地に最大出力で撃ち込まれ、リーオーフライヤー3機、スタークジェガン3機、ロト2機を巻き込みながら基地の半分を抉り飛ばした。

 

激しい破壊音と共に基地の構造体やMSが熱蒸発でかき消す。

 

その時のプラズマ衝撃波で直撃を免れたロト3機やスタークジェガン2機を誘爆させて吹き飛ばした。

 

バスターライフルのビーム渦流が奔った痕には、熔鉱炉の溶けた鉄のようにオレンジ色の断面が焼け爛れている。

 

ウィングガンダムのサイドモニターに、バスターライフルのエネルギーの警告アラートが表示される。

 

「エネルギーゼロ………エネルギー充填させる」

 

ヒイロは、バスターライフルをシールドの先端にマウントさせる操作をした。

 

バスターライフルは、最大出力射撃した場合、発射回数が約3発になるように設計されていた。

 

過ぎた力に制限を持たせる事を意図しての設計だ。

 

シールドに接続すると、シールドを介してGNDエネルギーが充填され、一定時間後に再び使用できる仕組みだ。

 

基地にはMS部隊が残っている状態である。

 

ヒイロはビームサーベルを選択し、シールドからビームサーベルグリップを取り出す操作をし、ウィングガンダムに装備させる。

 

そして、ターゲットを絞り込むと、ウィングガンダムを高速で加速させた。

 

ウィングバインダーが展開し、ギュゴウッとスタークジェガンへ斬りかかる。

 

 

 

ザシュゴォオオオオッッ!!!

 

 

 

ウィングガンダムは脇を絞めるように構えられたビームサーベルを一瞬で斬り払い、スタークジェガンを斬り飛ばして高速で離脱する。

 

その先で機体を折り返させ、再び高速で斬りかかる。

 

振りかぶられたビームサーベルが、リーオーフライヤーを寸断させ、離脱。

 

更にその先にいたもう1機のリーオーフライヤーを斬り払った。

 

二つの爆発と共にリーオーフライヤーが焔の華と化す。

 

ウィングガンダムは、間をおかずに更にその攻撃を繋げた。

 

低空加速しながらロトのキャノン砲撃をかわし、空中へ上昇。

 

マシンキャノンの弾丸を真上から連射して1機の

ロトを撃破。

 

更に急降下して、もう1機のロトにビームサーベルを頭上から串刺しにし、爆砕させた。

 

着地するウィングガンダムが、強烈な強さのオーラを纏って聳え立つ。

 

その時、撃ち込まれるビームマシンガンのビームが、ウィングガンダムの胸部に直撃する。

 

だが、効果は全く無く、ウィングガンダムは再びウィングバインダーを展開させてリーオー3機に襲いかかる。

 

一瞬で斬り払われたビームサーベルの斬撃が、リーオー3機をまとめて斬り飛ばした。

 

ウィングガンダムの面前で爆発が巻き起こる。

 

その時、新型機・デルタプラスが飛び立つ。

 

同胞の敵を討たんとばかりに、ウェイブライダー形態で離陸し、加速しながら飛び立つ。

 

そして旋回飛行しながらウィングガンダムへ攻撃を仕掛けてきた。

 

ビームライフルのビーム、ミサイルランチャーが放たれ、ウィングガンダムに直撃させていく。

 

シールドで攻撃を遮らせながら、ヒイロはターゲットデータを確認する。

 

「デルタプラス………あれが新型機か!!」

 

デルタプラスはウィングガンダムの周囲を駆けめぐり、一撃離脱戦法を繰り返す。

 

パイロットの視点では、ウィングガンダムへ迫る映像を全周囲モニターが映し出していた。

 

カチカチとトリガーを引き、ビームライフルをウィングガンダムへ連続で撃ち込んでいく。

 

ビームライフルのエネルギーが切れるまで撃ち込むと、次の旋回時に機体をMSに変形させた。

 

その姿は、Zガンダムのシルエットを持つ百式だ。

 

ビームライフルを捨て、ビームサーベルを取りだし一気にウィングガンダムへ斬りかかる。

 

ヒイロもビームサーベルで対抗する。

 

2機のビームサーベルが激突し、激しいスパークが発生する。

 

互いにビームサーベルを斬り捌き、何度も刃を弾き合わせ、再び拮抗させる。

 

「流石は新型だな。パワーもあるようだ」

 

ギャンと捌き合うと、デルタプラスは一旦引き下がり、加速しながら斬りかかる。

 

ウィングガンダムは、その一太刀をスッとかわす。

 

だが、次の瞬間に薙ぎの斬撃がウィングガンダムに激突した。

 

「!!!」

 

だが、デルタプラスのパイロットは、伝わる手応えの違和感に動揺を隠せずに唖然としてしまう。

 

あたかも鉄パイプで鉄の固まりを殴るかのような感覚。

 

斬るに斬れないのだ。

 

同胞の敵と斬れない焦りが斬撃に現れ始める。

 

その精神状態が生死を別つ。

 

三度続いた斬撃の次の瞬間、ウィングガンダムはデルタプラスのライトアームをザバシュンッと斬り上げ、そこからデルタプラスのヘッドユニットを斬り飛ばした。

 

そしてビームサーベルをコックピット目掛けズドォガンと突き刺す。

 

ジュオォと言う音を上げてスパークするデルタプラス。

 

パイロットはコックピットごと焼灼され、既に消滅していた。

 

ウィングガンダムを巻き込んで、デルタプラスは爆発して機体を砕き散らした。

 

だが、ウィングガンダムは全くと言って爆発の影響は受けていなかった。

 

ビームサーベルを突き出したまま悠然と立ち聳えていた。

 

バスターライフルのエネルギーが充填され、再びバスターライフルを基地に構える。

 

上空から構えられたバスターライフルからプラズマ渦流が発射され、基地に撃ち込まれた。

 

撃ち注がれる爆発的なエネルギーの直撃を受けた海洋基地は、凄まじき炎の柱を噴き上げて大爆発と共に陥落した。

 

「任務…完了」

 

ウィングガンダムの後方にガンダムデスサイズが駆けつけていた。

 

デュオは、連続で任務を達成させたヒイロに改めて感服した。

 

「あいつ………三つ連続立て続けに任務を達成させちまいやがった………大したもんだぜ」

 

任務を終えた2機のガンダムが、立ち上る黒煙を見つめていた。

 

 

一方で、マリーダも己の任務に当たっていた。

 

「掃討部隊に先を越される前に蹴りをつける!!!ファンネル!!!」

 

クシャトリヤから放たれた幾つものファンネルが、地上で展開するジムⅢ部隊を追うように向かう。

 

そしてマリーダの意思に呼応し、ファンネル達が連続でビーム火線を撃ち放つ。

 

瞬く間に5機のジムⅢの装甲が撃ち砕かれ、爆砕された。

 

マリーダは上空を見上げながら、クシャトリヤを上昇させる。

 

その鋭い視線上にはアンクシャとアンクシャに乗るジェガン部隊がいた。

 

個々のファンネルがターゲットをマリーダの意思と連動して狙いを定め上昇していく。

 

「ファンネル、奴等を一掃するぞ!!!」

 

そして敵部隊と同じ高度に到達すると、マリーダは瞳を一時的に閉じ、直ぐに瞳をかっと見開いた。

 

 

 

ビビビビビィン、ビビビビビビビィン、ビビビビビビギュイン!!!

 

ズズズドォドォガガガゴォオオオン!!!

 

 

ファンネル達が撃ち出す幾つものビーム火線が、単機のアンクシャ4機、6組のジェガンとアンクシャを一瞬で破壊する。

 

更に後方から迫るリゼル部隊に振り向くクシャトリヤ。

 

ファンネルを全面に展開させ、迎撃体制をとった。

 

「黙らせる!!!」

 

ファンネルと胸部のメガ粒子ブラスターを組み合わせたブラストアタックを敢行するクシャトリヤ。

 

夥しいビーム火線と、四連ビーム渦流がリゼル部隊へ襲いかかる。

 

 

 

ビィビィビィギュギュゴォヴァウウウウ!!!

 

ズズズガシャアアア………ギャズズズガゴォオオオンゴォオオオン!!!

 

 

 

瞬く間にリゼル8機が消滅した。

 

止めにクシャトリヤは敵機の母艦であったガルダに同じくブラストアタックを放つ。

 

「これで止めだ!!!」

 

文字通り、突風のごときビーム群が、ガルダの巨体を穿つ。

 

機体を貫かれたガルダは空中で大爆発を巻き起こし、バラバラにくだけ散った。

 

下方の地上では、ありがとうと言わんばかりにザクやドムトローペン達がガシャガシャと武装を上下に動かしてクシャトリヤにエールを贈っていた。

 

マリーダも救われた同胞の姿に笑みを溢す。

 

「ふふ………助かったみたいだな。一足遅ければ間違いなく同胞達がやられていた……ん?」

 

更に手を振るアッガイの姿を確認するマリーダは思わず一言溢した。

 

「か…可愛い………ふふっ♪」

 

マリーダは愛くるしさに満たされながら、ヘルメットを取った。

 

「任務完了………さぁ、本隊に合流するぞ!クシャトリヤ!」

 

任務を終えたマリーダは、クシャトリヤに呼び掛けると、フロンタルが待機しているポイントへとクシャトリヤを加速させた。

 

 

 

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エピソード6 「アジア圏強襲」


メテオ・ブレイクス・ヘルのGマイスター達が、巨大施設サルベージ船・オルタンシアに招集してミーティングを行う中、同じ遺伝子を持つマリーダとプルも同じ場所で再開する。

初めは違和感を抱いていた二人だったが、すぐに打ち解け、互いの人生経緯を確認しあう。

一方のゼクスは、同期のOZ士官・ミスズのもとへ赴き、彼女の基地にてリディ達と共に演習を行う。

そして、ヒイロ達はウィングガンダムの修理に力を入れ、仲間同士力を合わせ、時間をかけてウィングガンダムの修理を完了させた。

クシャトリヤも修理が完了し、マリーダはプルとヒイロに再開する事を約束し合い、ヒイロとマリーダはそれぞれの任務に赴く。

復活したウィングガンダムは、それまでの眠る力を解放させるかのごとく、猛威を巻き起こして羽ばたくのだった…


オルタンシアを後にしたマリーダは、とあるジオン残存軍の野戦キャンプポイントに合流していた。

 

フロンタルらのオペレーションファントムのメンバーと合流する為だ。

 

テント内で彼女は、今回の一件を謝罪していた。

 

「……今回の作戦において、長期音信不通というミスを犯し、長らくの期間ご心配をおかけしまして、誠に申し訳ありませんでした」

 

「全くだ!!!作戦発動早々大佐のご心配を煽るなど!!!どこで何をやっていた!??」

 

眉間にシワを寄せて叱責するアンジェロ。

 

叱責する感じにはとても彼女を想うようなモノは伝わってこない。

 

「はっ、大気圏突入後にガンダムとの戦闘に入った結果、海中へ墜落し、その衝撃で気を失い……」

 

「気を失っただと!??貴様は強化人間であろう!??海中に墜ちただけで気を失うとは、飛んだ強化人間だな!!!マリーダ中尉?!!」

 

アンジェロは、理由を述べるマリーダの言葉を遮り、偏見を交えたかのように私情を挟んだ発言を押し付けた。

 

マリーダも心苦しさと苛立ちを交える。

 

だが、上官故に耐えるしかない。

 

「くっ………申し訳ありませんでした…!!!」

 

「アンジェロ………少しは感情を押さえろ」

 

そこへフロンタルが姿を見せて、感情を高ぶらせたアンジェロを制止させた。

 

アンジェロも、心酔する上官には自然に感情が収縮してしまう。

 

「大佐!?」

 

「アンジェロは下がりたまえ。後は私が聞こう」

 

「…はっ!!」

 

フロンタルはアンジェロを下がらせると机に身を置き、両手を重ねて諭すような言動でマリーダをなだめた。

 

だが、あくまで表向きの顔であった。

 

「マリーダ中尉、過ちを気に病める必要はない。ただ認めて次の糧にすればいい………中尉が言うガンダムとはあの例の私設武装組織のガンダムなのか?」

 

「はい………ですが、彼らは敵ではありません。私が禁断症状で戦闘に及んだだけで……彼は私を連邦のように葬る事なく、あくまで退けるように行動してくれました」

 

「また敵となるか……と思いきや真逆な状況……予想は当たるな。中尉の証言や各地から寄せられる情報で彼らは味方と踏んでよいな。ダカール制圧の時には是非とも協力して欲しいものだ………」

 

「ダカール…」

 

フロンタルはマリーダに次の任務を要請する。

 

「早速であるが、マリーダ中尉にはジオン残存軍の援軍に行ってもらう。ダカール制圧まで連邦側に目的を濁す必要があるからな………場所は……」

 

マリーダは決してヒイロ達とのことは口に出さなかった。

 

ジンネマンからの言い付けでもあるが、マリーダ自身もフロンタルやアンジェロを信用していなかった。

 

万が一の可能性で、ヒイロ達に悪影響が及ぶことのないようにしていた。

 

(フロンタル大佐は確かに現ネオジオンの代表者…しかし………何故か信用とは遠いモノを感じてならない。マスターも心を許すなと言っていた…それを踏まえると、ヒイロ達の事は話せないな)

 

マリーダはフロンタルの説明を受けた後、クシャトリヤで任務エリアへと向かう。

 

そのコックピット内でジンネマンとの会話に浸る。

 

マリーダは先程の一件やこれまでの事を話す。

 

マリーダにとって、ジンネマンを始めとするガランシェールクルーは、同胞以上に信頼できる関係にあった。

 

「……そうか。くれぐれもそのガンダムのパイロット達の事は内密にしておいた方が良いな。お前自身もそう感じているのなら尚更だ」

 

「はい…後、エルピー・プル……私の姉さんに会えました。彼女は今、メテオ・ブレイクス・ヘルが保護してくれています」

 

「何!?そうか…姉妹が生きていてくれたんだな…よかったな、マリーダ」

 

画面越しにも、ジンネマンの喜びの感情がマリーダにも伝わる。

 

感謝せずにはいられなかった。

 

「ありがとうございます。いずれは……闘いに収拾がつけば、迎えにいきたいと思います。私は姉さんとパラオで暮らしたいです」

 

「ああ……無論だ。俺もガランシェール隊の家族として大いに受け入れたい」

 

「その為にもこのオペレーションを完遂させて、早くマスターの所へ帰りたいと思います」

 

ジンネマンにとってもプルの生存は思ってもみなかった朗報である。

 

娘が一人増えたかのような気持ちが、喜びを深く感じさせる。

 

「ああ…待っている。くれぐれも身体は大事にな」

 

「はい。では……」

 

マリーダは通信を切ると、改めてガランシェールのメンバーが、家族として信頼できる存在であることを実感した。

 

「最終的な目標は、スペースノイドの自治権確立………更に突き進めば、完全平和の実現か…だが、今は同胞を一人でも多く救う事だ。行こう」

 

マリーダは今やるべき事に目を向けて、クシャトリヤを加速させた。

 

 

 

中東・アラビア海

 

 

 

アラビア海の海上を進む地球連邦軍の空母艦が突如攻撃を受け、船体の一部を炎上させて航行していた。

 

その空母は、中東・アジアエリアのジオン系やその他の反乱分子の壊滅を図り、リゼルやアンクシャ、OZ所属のエアリーズ、リーオーフライヤーを多数機搭載している状態にあった。

 

全てを空中から制する目論みは明らかだ。

 

そのMS部隊へと、ガンダムヘビーアームズが多数のミサイル群を放って襲い掛かる。

 

一発、一発のミサイル弾頭が、意思を持つかの如くエアリーズやリゼルの機体に高速で突っ込み、機体を砕き散らす。

 

爆風を巻き起こすMS群の連続爆発。

 

その爆風がブリッジにもおよび、誘爆発を起こして燃え盛り始める。

 

拡がる炎の海と化した滑走路へと、重い地響きと共にガンダムヘビーアームズが着地した。

 

拡がる炎の情景と対象的に、トロワは冷ややかなまでに冷静を維持できていた。

 

「先手を打たれる前に先手を打つ。特に要になる敵対象はその概念で殲滅させてもらう」

 

モニターに映る映像の画面上では、機体を起動させながら各間接を可動させてアンクシャとリーオーフライヤーの部隊が行動に移ろうとしてる。

 

だか、行動に移らせる前にガンダムヘビーアームズは、ビームガトリングとブレストガトリングを連動させながら容赦なくぶっ放す。

 

重い連続射撃音と共に唸るビーム弾丸が、アンクシャとリーオーフライヤー達の装甲を容易く砕き散らして破砕させる。

 

唸り続くガンダムヘビーアームズの攻撃が撃ち注ぎ、

行動を起こそうとするMSや待機中のMSを次々に撃破させていく。

 

MSの爆発音も後を絶たない。

 

追い討ちをかけるかの如く、ガンダムヘビーアームズはガトリング系の攻撃を放ちながら、レフトアームのグレネードランチャーを撃ち放つ。

 

1機のアンクシャの胸部に撃ち込まれたプラズマ光弾が、着弾と共に一気に爆発。

 

ドーム状の爆炎で周囲のアンクシャやリーオーフライヤー、リゼル達を巻き込みながら豪快に吹き飛ばして破砕させた。

 

それは空母の船体をも半球状に抉り飛ばす程の威力だ。

 

「集中している敵を排除するにはこれが適切だな…」

 

トロワはそう言いながらアラートを聞き、向かい来る次の敵機をターゲットに絞る。

 

反撃に転じたエアリーズとリゼルの部隊が、数機掛かりでガンダムヘビーアームズへと攻撃をかける。

 

ガンダムヘビーアームズは付き出したビームガトリングと展開中のブレストガトリングを撃ち飛ばして、これらを次々に撃墜させ、次々に迫るMS達をごり押しで殲滅し続ける。

 

空しく機体を砕き散らしてバラバラに四散する機体群を視認しながらトロワはコントロールトリガーを握り続けた。

 

ビームガトリングとブレストガトリングを組み合わせた攻撃方法は、ガンダムヘビーアームズの基本的な攻めのスタイルだ。

 

そして状況により、グレネードランチャーを断続的に撃ち放つ。

 

攻め入るリーオーフライヤー達の後方にMS部隊が密集している箇所を見つけたトロワは、そこへグレネードランチャーを数発撃ち込む。

 

一気に爆炎がMS部隊を消し飛ばした。

 

これ以上好きにさせまいと、アンクシャ部隊がビームサーベルを取り出してガンダムヘビーアームズに向かおうとした。

 

だが、その後方でリゼルが斬撃音と共に撃破される。

 

振り向くアンクシャ。

 

ガンダムサンドロックがヒートショーテルで攻め混んできたのだ。

 

攻め入るガンダムサンドロックは、巧みにヒートショーテルを使いこなしながら、リゼルとリーオーフライヤーの機体群に斬撃を見舞う。

 

薙、叩き斬り、左右同時斬りと次々に斬撃を繰り出して、装甲を斬り砕く。

 

駆け抜けたガンダムサンドロックの後方で爆発が巻き起こされていく。

 

そしてガンダムサンドロックは、威風堂々とビームサーベルを装備したアンクシャの前に立ち聳えた。

 

「あなた方には投降の余地はありません!!ジオン残存軍やゲリラの方々を空から一方的に攻撃する事は、蹂躙以外の何者でもない!!!」

 

カトルは投降を呼び掛けずに攻める。

 

空から一方的に弱者を蹂躙しようとする連邦軍の行動に、怒りを示していたのだ。

 

アンクシャはガンダムサンドロックへ斬り掛かる。

 

ガンダムサンドロックは瞬時にヒートショーテルを振りかぶり、交差斬撃をアンクシャに食らわせた。

 

×の字の斬撃で斬り刻まれたアンクシャは爆発四散される。

 

ガンダムサンドロックは、その爆発を突き抜けながらアンクシャ達へ斬り掛かり、レフトアームの薙払われる一閃の斬撃から、ライトアームの叩き斬りに繋げる。

 

更にその爆発を駆け抜け、左右から斬撃で迫るアンクシャにヒートショーテルを振りかぶり、左右同時に叩き斬りを食らわせた。

 

滑走路をスライドしてブレーキをかけ、ガンダムサンドロックは空中から迫るアンクシャとリーオーフライヤーに、ジャンプして飛びかかる。

 

ビーム攻撃を物ともしないガンダムサンドロックは、勢いをかけながらレフトアームのヒートショーテルで2機のリーオーフライヤーを斬り飛ばした後、1機のアンクシャをライトアームのヒートショーテルで真っ二つに叩き斬る。

 

加速しながらレフトアームをグオッと振りかぶり、轟と一気に振り払ってリーオーフライヤーを2機同時に斬り飛ばした。

 

そこから瞬発的に飛び立ち、ブースターと機体角度を変えながら一気に急降下する。

 

その勢いを乗せたまま、アンクシャ2機が左右で叩き斬りを食らい、爆砕した。

 

ガンダムサンドロックのカメラアイが光る。

 

ヒートショーテルにボディーを斬り刻まれ爆発していったMS達に語りかけるように、カトルは呟いた。

 

「一方的に攻撃される恐怖。この恐怖が………彼らが味わっている恐怖さ………!!!」

 

強者による弱者の蹂躙。

 

連邦のやり方は、0080年代後半のぶり返しに他ならなかった。

 

やり方は過剰であれ、ジオン残存の想いは共通してコロニー市民の為であった。

 

それを延々と力で捩じ伏せる。

 

空母に配備されていたMSの数からも、それが感じられた。

 

中にはコロニーとは別に、庶民の為にジオン残存軍と結託して闘う者達もいる。

 

その一つがロニ達である。

 

カトルは彼女や彼らが空から蹂躙されることを思うと、優しさを退かす他なかった。

 

 

 

日本・地球連邦軍・佐世保工厰

 

 

 

旧世紀より軍艦に縁のある佐世保工厰に、ロンドベルの旗艦・ラー・カイラムがミノフスキー・クラフトの試験の為にドック入りしていた。

 

連邦屈指のロンドベルの旗艦故に、警備体制は万全を尽くして行われていた。

 

リゼルやジェガン、リーオーフライヤーが海上の警備を固めており、海中にもアクアジムの部隊が警備にあたっている。

 

尚、艦長であるブライト・ノアは休暇の為に不在の状態であった。

 

その最中であった。

 

突如として二つの高出力ビームがリゼルを撃ち墜とす。

 

射抜かれた2機のリゼルは空中で爆砕された。

 

海上の空に咲く爆発。

 

佐世保工厰に緊急サイレンが鳴り響いた。

 

佐世保の整備兵長が颯爽と駆けつけ、居合わせた部下に問い質す。

 

「なんだ!?何があった!??」

 

「海上のリゼルが爆破されました!!!突然ビームが!!!」

 

「って……お前、あの海上の空にいるMS―――!!!」

 

整備兵長が遠方に目にしたMS……それはアクセラレートライフルをかざしたガンダムジェミナス01、02であった。

 

「ガンダム……!!!まさか、反乱分子のガンダム?!!」

 

「くそ!!!艦長が不在の時に!!!」

 

これを確認したMS部隊が、順々に攻撃態勢に入って加速していく。

 

佐世保工場施設一帯に緊急命令が響き渡る。

 

「海上上空に未確認MSを視認!!!警備部隊は直ちに撃破に当たれ!!!繰り返す!!警備部隊は撃破に当たれ!!!」

 

ジェガン部隊が、サポートユニット・ベースジャバーに乗って出撃していく。

 

各機がビームライフルを放って2機のガンダムジェミナスへと迫る。

 

ガンダムジェミナス01のコックピットモニターに迫るジェガン部隊が映し出される。

 

各機をオートロック・オンすると共に、ターゲットであるラーカイラムがアップされ、画面上のサブモニターの枠内に映し出される。

 

「おあつらえ向きが来たな………なんか、ヒイロが借りを返すとか言ってたけど先にキメさせてもらうぜ!!」

 

アディンはニヤリとしながらレバーを押し込み、ガンダムジェミナス01の機体を加速させる。

 

「流石に連邦軍の要艦隊の旗艦だ。警備部隊が予想戦力値を上回っている。だが、それだけの事!!!撃ち砕くまでだ!!!」

 

オデルは機体の進行速度を維持させたまま、ターゲットを狙い射つ。

 

ガンダムジェミナス02は、アクセラレートライフルをシールドに添えながら断続的にチャージショットを撃ち放つ。

 

バスターライフルの縮小版のビーム渦流が撃ち放たれた。

 

その狙いは狂うことなく、立て続けに3機編成のジェガン部隊を二つ撃破する。

 

加速するガンダムジェミナス01は、 真っ直ぐにアクセラレートライフルを突き出したまま、銃口からGNDエネルギーの高出力ビームを撃ち出す。

 

「どんなに警備を敷こうと、俺達を前にしたら意味ないぜ!!!」

 

一発、二発、三発と放つ高出力ビームがジェガンを破壊し、ガンダムジェミナス01と破壊されたジェガンの爆発がすれ違う。

 

更に攻撃を仕掛け始める警備部隊が次々と迫り、2機のガンダムジェミナスへ回り込むように両サイドから迫る。

 

ジェガンのビームライフル、リゼルのビームライフルの一斉射撃が唸る。

 

「相手も必死か…」

 

オデルは瞬発的にガンダムジェミナス02を加速させ、海上を滑るように旋回飛行する。

 

モニター画面が流れるような光景の中、シールドに添え続けたままアクセラレートライフルを撃ち続ける。

 

自らが放つ弾道も計算に入れ、狂いなくアクセラレートライフルのビームが敵機に向かう。

 

ジェガン部隊が3機、リゼル部隊も3機と、連続で撃ち仕止めた。

 

更にリゼル部隊が3機編成で、一撃離脱戦法を考慮して迫る。

 

ガンダムジェミナス02は、一旦機体をホバリングさせてリゼル部隊へ銃口を向ける。

 

「さぁ、来い……!!!」

 

銃口にGNDエネルギーがチャージされ、ビーム渦流を発射。

 

一気にリゼル3機まとめて撃ち飛ばし、機体をかき飛ばして爆砕させた。

 

ガンダムジェミナス01は、そのまま真っ直ぐに進撃しながら側面方向へ射撃していく。

 

リゼル3機、ジェガン2機に一発、一発命中させてみせる。

 

撃ち墜とされた機体群は、空中爆発、又は海面で爆発を起こして破壊された。

 

「さぁ、これならラー・カイラム一直線だな!!」

 

だがその時、海面からアクアジム部隊が浮上し、ミサイルランチャーの役割も果たす魚雷を撃ち放つ。

 

不意を突かれ、直撃を受けるガンダムジェミナス01。

 

「おわ!??って……水中にもいたのかよ!??流石ロンドベルの旗艦だな!!警備にこだわってるぜ!!だが、このまま突っ込む!!!」

 

アディンは直撃の震動を受けるものの、敢えて攻撃をスルーし、ラー・カイラムを目指す。

 

その行く手を阻むリーオーフライヤーの部隊。

 

アディンは、アクセラレートライフルをロック・オンし、連続で撃ち込む。

 

アクセラレートライフルのビームが、4機のリーオーフライヤーを撃ち抜いて爆砕させる。

 

その勢いのままで、アクセラレートライフルをシールドに収め、ビームソードに武装を切り換えた。

 

「邪魔すんじゃねぇぇ!!!」

 

勢いよくビームソードを薙払い、リーオーフライヤーを斬り飛ばして破壊するガンダムジェミナス01。

 

近接戦を得意とするアディンの本領発揮だ。

 

リーオーフライヤーに射撃させる余地を与えず、袈裟斬り、薙、右斬り上げの斬撃を繰り出し、一気に3機を立て続けに破壊する。

 

爆発するリーオーフライヤーを背景に加速するガンダムジェミナス01。

 

更にアディンはリーオーフライヤーに斬り掛かる。

 

「遠慮しないぜ!!!」

 

一気に斜め上から斬りかかり、威力を増大させた斬撃をリーオーフライヤーに見舞い、破壊する。

 

そこからガンダムジェミナス01は、3機のリーオーフライヤーを睨み付けるかのように振り向いて斬り掛かる。

 

轟と薙払われる斬撃が、一気に3機を斬り飛ばしてみせた。

 

「さぁ、終いだぜ!!!ラー・カイラムを……」

 

ホバリングしながらラー・カイラムへ向かおうとした矢先、ラー・カイラムから1機のガンダムが甲板に姿を現した。

 

ライトニング・リ・ガズィ。

 

狙撃戦法を特化させた最新式の連邦のMSだ。

 

「そうこなくっちゃな………来てみろよ!!」

 

ライトニング・リ・ガズィは、銃身の長いスナイパービームライフルを構え、ガンダムジェミナス01を狙撃した。

 

高出力の紅いビームが一気に迫り、ガンダムジェミナス01の装甲に直撃する。

 

「ぐおっ………!!」

 

発射持続性の長いビームが、一気にガンダムジェミナス01を押し戻していく。

 

そしてライトニング・リ・ガズィは、巧みに銃口を操り、ガンダムジェミナス01を海中へ押し込むように墜落させた。

 

ガンダムジェミナス01は水しぶきを上げて、海中へ沈む。

 

更にタコ殴りのように、アクアジムが放つ魚雷の集中砲火を浴びてしまう。

 

「だああああ!!!ちくしょー!!!」

 

これに対し、オデルは呆れながら射撃した。

 

「あの馬鹿野郎!!!だから調子に乗るなと言っている!!!」

 

だが、ガンダムジェミナス01は装甲に焦げ跡が残っただけで全くダメージは受けていなかった。

 

ガンダムジェミナス01はメインカメラを光らせ、何十倍にして反撃に転じた。

 

水中でも威力を維持できるビームソードの斬撃の一振りが、瞬く間にアクアジム3機を破壊した。

 

しばらくの間、海中戦が巻き起こる流れとなる。

 

ライトニング・リ・ガズィが、ガンダムジェミナス02を狙撃しようとした矢先、突如として高熱源体を展開中のMS達が捉えた。

 

オデルは確信し、呟く。

 

「借りを返しにきたな……」

 

ガンダムジェミナス02は、熱源の軸上から離脱する。

 

直後、佐世保工厰へ迫る高熱源が一気に迫る。

 

直進するビーム渦流が、オデルが相手にしていたMS部隊を呑み込み、佐世保工厰へと激突。

 

警備MS部隊が諸ともかき消えた。

 

後方の断崖を抉り飛ばしながら施設の三分の一を呑み込み、瞬く間に破砕させた。

 

巻き上がる大爆発が更なる被害をもたらす。

 

海上上空には、バスターライフルをかざしたウィングガンダムの姿があった。

 

コックピットでは、ヒイロが任務エリアの分析をしていた。

 

「佐世保工厰の戦艦ドックを破壊した。施設機能は半分以下に降下と推定。残存MS、6機、メインターゲット、1隻………アディン、借りを返すぞ」

 

加速するウィングガンダム。

 

後方では、ビームサイズを担いだガンダムデスサイズがホバリングしていた。

 

「借り返し……か…あいつ、意外と律儀なとこあんのなー……ま、今回はゆっくりみてようぜ、相棒」

 

デュオは出番はないと踏み、栄養ゼリーを飲みながら見物を決め込む。

 

ウィングガンダムは、一気にラー・カイラムを目指して直進する。

 

対し、ライトニング・リ・ガズィもウィングガンダムへと照準を絞った。

 

やられる前にやる。

 

だが、パイロットの手は震えていた。

 

本能的にウィングガンダムが異常なガンダムであると察していたのだ。

 

それでもと狙撃するライトニング・リ・ガズィ。

 

だが、紅いビームは虚しく躱された。

 

ウィングガンダムがラー・カイラムに接近し、バスターライフルを構えチャージを開始する。

 

モニター画面上のロック・オンマーカーが、確実にラー・カイラムを捉えた。

 

その射軸線上にリーオーフライヤー3機とリゼル2機が割り込み、抵抗のビームを放つ。

 

ウィングガンダムへと着弾していくが、全く効果的ではなかった。

 

その抵抗に続くように、ライトニング・リ・ガズィが狙撃しようとした。

 

その矢先、バスターライフルの銃口から最大出力のビーム渦流が撃ち放たれた。

 

直進する大規模なビーム渦流がリーオーフライヤーとリゼル達を砕き飛ばし、ラー・カイラムに直撃する。

 

ビーム渦流は甲板に立つライトニング・リ・ガズィを吹き飛ばしながら、ラー・カイラムの船体を激しく破砕させていく。

 

後方の断崖に直撃しながら、バスターライフルのビーム渦流は、全てを焼き尽くす。

 

ウィングガンダムは、バスターライフルのビーム渦流を維持させたまま、銃口を左へ旋回し、確実にラー・カイラムを破砕させる。

 

その状態が続き、動力炉を抉られたラー・カイラムは大爆発を巻き起こして轟沈した。

 

巻き起こる炎が、佐世保工厰施設を一帯に拡がる。

 

生き残った兵士達は。ただただ恐怖する他なかった。

 

ウィングガンダムが脅威的に印象づけられた瞬間であった。

 

海中から上昇したガンダムジェミナス01。

 

アディンは変わり果てた光景に唖然とした。

 

「は!?なんだこりゃ!??まさか………!!!」

 

モニターにも直ぐにウィングガンダムが映る。

 

直後、ヒイロからの通信が入った。

 

「ヒイロ!!これって…」

 

「ああ、ラー・カイラムは破壊した。借りは返したぞ……俺は次の任務に就く」

 

そう言いながらヒイロは直ぐに通信を切り、ウィングガンダムを離脱させた。

 

アディンは感謝より、やられた感に晒された。

 

「あ、おい!!!ちくしょー………借りを返すとか言ってたけど………人のターゲット持ってくなよな~!!!これじゃあ、びんぼーくじだぜ!!」

 

「お前が調子に乗るからだ。ヒイロは確かに借りを返したと思うぞ。連邦屈指の軍艦を破壊したんだからな………お前が調子に乗らなければ、共に撃ち仕止めていたろうに………反省しろ!!」

 

通信を入れてきたオデルの言葉にアディンはぐうの音も出なかった。

 

「うっ………」

 

 

 

カンボジア・アンコールワット周辺

 

 

 

ここは世界的にも有名な遺跡があるが、ここの周辺には今も尚、一年戦争当時からのジオン残党が隠れ潜むエリアであった。

 

アンコールワットの巨大な仏面がある場所の周辺に、銃を構えたジオン兵士達がかけていく。

 

その向かう方角にはカスタマイズされたザクが、7機隠れ潜んでいた。

 

駆けるジオン兵士が並走する相方のジオン兵士に、息を切らして話す。

 

「連邦の連中が迫っている!!いよいよここにも連邦の連中がのりこんできやがる!!」

 

「今日で皆が死ぬってか!?ゴメン被るぜ!!!」

 

連邦が自分達のテリトリーに踏み入れることは、彼らの死を意味していた。

 

彼らはいよいよ迫る死と精神戦闘して平常心を維持しようとしていた。

 

二人のジオン兵士が仲間のザクと合流できたその時、ザクのコックピット内のレーダーに敵影を捕捉した。

 

コックピットに警戒アラートが鳴り響く。

 

「ちっ!!本当に奴等が迫っていやがる!!輸送機2機だ!!対MS戦闘に備えろよ!!」

 

スピーカーモードで、足下の二人に呼びかけるザクのパイロット。

 

二人のジオン兵士は茂みに隠していた対MS用のミサイルランチャーに装備を切り替える。

 

「ただでやられてたまるか!!」

 

散らばる他の歩兵達も、茂みに隠れながらランチャーを手にして構えた。

 

MS輸送機からは、連邦とOZのMSがそれぞれ5機編成で投下される。

 

エアリーズ3機、リーオー2機、ジムⅢ3機、ロト2機が投下された。

 

残党を掃討する事に10機のMSを投下するその行為は、えげつない事この上無かった。

 

「俺達を掃討する事に……そこまで戦力が必要なのか!??畜生!!!」

 

1機のザクが放つマゼラトップ砲の砲撃を皮切りにジオン兵士達は、一斉に先制攻撃を仕掛ける。

 

ザクが次々と茂みから飛び出して、連邦とOZのMS部隊へ攻撃を放つ。

 

ザクマシンガン、マゼラトップ砲、バズーカの各弾丸が重い銃射撃音と共に敵へと向かう。

 

だが、その攻撃は虚しさに吸い込まれる。

 

エアリーズの機動力にかわされ、ロトに向かう弾丸が、リーオーやジムⅢ部隊のシールドに阻まれていく。

 

無駄あがきも良いところである。

 

それでも、一矢報いる覚悟でザク達は抵抗し続けた。

 

だが、次の反撃で全てが覆される。

 

リーオーの放つビームマシンガンとジムⅢが放つ新型ビームライフル(ジェガンのビームライフル)のビームが、第一声に唸る。

 

進攻しながら断続的に撃ち注がれるビームが、ザクのボディーにヒットし、装甲が容易く撃ち砕かれていく。

 

ボロボロになったザクは、地表に倒れ込んで爆発を巻き起こした。

 

更に追い討ちをかけるように、ロトが放つミサイルランチャーとキャノン砲の弾丸が襲いかかる。

 

茂みに撃ち注がれる弾丸が、絶望的な爆発を巻き起こしながら、ザクや兵士達を虚しいまでに躯へと変貌させた。

 

生き残った最後のザクが、エアリーズに向けてザクマシンガンを撃ちまくる。

 

ジオンの誇りを掛けたザクマシンガンの弾丸が虚空に吸い込まれていく。

 

吸い込まれた弾丸は、エアリーズのビームチェーンガンのビーム弾丸と引き替えになり、ザクに帰ってくる。

 

茂みの木々や遺跡を巻き込みながらビーム弾がザクを砕き散らした。

 

更にエアリーズは歩兵達が隠れるポイントに発砲を繰り返す。

 

「がぁああ!!!」

 

兵士達が断末魔の叫びと共に一方的に蹂躙されていく。

 

その中で先程の兵士が額から血を流した状態で、ミサイルランチャーをリーオーに向けて放った。

 

「くたばれクソゲス野郎!!!」

 

憎悪の怒りを籠めて撃ち放ったミサイルが、リーオーに向かい、シールドと胸部に着弾した。

 

着弾の爆発がリーオーに立ち込める。

 

だが、その爆煙を払いながらビームマシンガンの銃口がジオン兵士に向けられる。

 

「ちっ!!畜生が………!!!」

 

鳴り響くビーム弾丸が大地を粉砕する。

 

ジオン兵士は玩具同然に吹っ飛ばされて転がっていった。

 

彼の今際の際、憎き連邦のMS・ジムⅢの姿が視界に入った。

 

「れ………連邦めがぁ………!!!」

 

連邦の憎さと自分達の不甲斐なさを加味させた悔しげな声を漏らすジオン兵士。

 

彼は満身創痍の状態で、胸にしまっていた一枚の写真を取り出した。

 

「っ………いよいよ…そっちに逝くときが………来たみたいだ…」

 

彼の持つ写真には、一年戦争当時に連邦軍に撃墜されたザンジバル級・ケルゲレンに乗っていた女性士官の姿があった。

 

彼は彼女の恋人だったのだ。

 

彼女の為に一矢報いる事もできず、悔し涙を流した次の瞬間だった。

 

ジムⅢがボディーを金属を熔解させる音と共に斬撃され、上半身と下半身に分割されて吹っ飛ぶ。

 

吹き飛ぶ上半身が爆発を巻き起こした。

 

 

BGM「龍が泳ぐとき、全ては終わる」

 

 

そして、ズンと地表に地響きを轟かせて、1機のガンダムが爆発の中から姿を見せた。

 

それはシェンロンガンダムであった。

 

ビームグレイブを振り切った状態で静止している。

 

「ガ…ガ…ガンダム……!!?」

 

その状態でギンッとメインカメラを発光させながら、左マニピュレーターに握り締めた僚牙を、隣接位置にいる2機のジムⅢ目掛け、大きく振り払って斬撃を食らわせる。

 

連続で破断される装甲。

 

2機のジムⅢは一振りで動力炉ごと斬り砕かれ、爆発と共に鉄屑と化した。

 

先程の蹂躙劇を一気に覆す光景を見ながら、ジオン兵士は自分達の口惜しさをシェンロンガンダムに託した。

 

「あ、あれが………メテオなんとかの……ガンダムなのかっ………!??ははは………口惜しさ、託したぞ……あとは………たのむ………いま…逝くからな……」

 

ジオン兵士は、力強き存在を最期に目にした事に安堵し、無念をシェンロンガンダムに託しながら息を引き取った。

 

コックピットモニターに映るザクの躯へ注視しながら五飛は彼らに対するように叫んだ。

 

「弱い者が戦うなっ!!!死ぬだけだ!!!」

 

その時、コックピット内にアラートが鳴り響く。

 

熱源急接近。

 

五飛は、直ぐにその方向へ視線を突き刺した。

 

直後に空間を揺さぶる振動がコックピット内に響き渡る。

 

五飛は眉間に軽くしわを寄せながら、コントロールレバーをギリッと握り締めた。

 

「弱き者を蹂躙する貴様らは………正に悪だっっ!!!」

 

砕かれるような重い着弾音と共にシェンロンガンダムの装甲表面で爆発が起きる。

 

2機のロトが放ったキャノン砲が直撃したのだ。

それに続くかの勢いで、リーオー達がシェンロンガンダム目掛け、ビームマシンガンを撃ち注いでいく。

 

空中からもエアリーズがビームチェーンガンとミサイルランチャーを放って攻撃を注いでいく。

 

更なる爆発や爆煙がシェンロンガンダムを包んでいく。

 

通常のMSならば完全に撃破される量の流星弾雨を撃ち込み、一時攻撃停止のサインを1機のリーオーが合図した。

 

制止する攻撃。

 

その直後、リーオーが熱源を探知し、メインカメラを連続点滅する。

 

「!??」

 

爆煙を突き破りながら、殆ど無傷のシェンロンガンダムが一気に飛び出す。

 

熱源はシェンロンガンダムの加速に伴った、GNDドライブの熱エネルギーであった。

 

「貴様達のような悪は、俺とナタクが叩き潰す!!!覇ぁああああっっ!!!」

 

五飛の気迫と共に、シェンロンガンダムはビームグレイブをリーオーのコックピット目掛け、一気に突き刺した。

 

ビームの刃がリーオーの胸部を刺突。

 

胸部を焼灼されたリーオーは即、爆発を巻き起こした。

 

加速を制動させたシェンロンガンダムは、振り向き際に再び加速。

 

もう1機のリーオーを加速の勢いのまま僚牙で豪快に斬り飛ばし、そのままロトへ直進。

 

撃ち放たれるミサイルランチャーの雨嵐を物ともせずにシェンロンガンダムはビームグレイブをロトに突き刺した。

 

加速と突き放つ勢いが重なり、突き砕かれたロトは地表を押し滑るようにされ、激しく機体を分解された。

 

そのロトの爆発を使ったかのように、シェンロンガンダムは飛び立ち、もう1機のロト目掛けて降下を敢行。

 

そのままロトの胸部目掛け、僚牙を地面に突き刺す勢いでロトを頭上から突き刺した。

 

シェンロンガンダムは突き刺した僚牙を抜き取り、空中から迫るエアリーズにそれをぶん投げた。

 

鋭利なGND合金製の刃が、豪速球の勢いで1機のエアリーズに直撃した。

 

エアリーズは突き刺さった僚牙と共に、白煙を上げながら墜落。

 

森林を吹き飛ばしながら爆発の炎を巻き起こした。

 

「貴様らはこんなものか………!!!」

 

五飛は降下してくるエアリーズを睨みつけて吐き捨てる。

 

エアリーズ2機は、低空位置まで降下すると、間合いをとりながらシェンロンガンダムの前でホバリングした。

 

この時、エアリーズのパイロットは拠点の駐屯基地へ応援要請を出していた。

 

攻撃の手を止めているエアリーズの行動に、五飛は洞察する。

 

「ふん………増援を呼んでいるようだが、無駄あがきだ。増援は来ない!!!」

 

五飛は自信を全開にして吐き捨てる。

 

何故なら、五飛が拠点の駐屯基地を既に壊滅させていたからだ。

 

駐屯基地の至るところで炎が燃え上がり、エアリーズやリーオー、ジムⅢ、ロトが瓦礫と化して破壊されている。

 

派遣用の輸送機も全てが炎上していた。

 

五飛はシェンロンガンダムをゆっくりと前進させてエアリーズに迫る。

 

駐屯基地との通信が取れないエアリーズ2機は、ヤケクソになったかのようにビームチェーンガンを近距離から撃ちまくる。

 

だか、一向に効果はなかった。

 

「そんな攻撃、ナタクに通用しない!!!」

 

シェンロンガンダムはビームグレイブを頭上で高速に振り回す。

 

だが次の瞬間、ビームグレイブではなく、ドラゴンハングが繰り出された。

 

ビームグレイブはフェイクであった。

 

機械的に伸びるライトアーム。

 

瞬発的に打ち放たれた龍の牙が、1機のエアリーズを激しく穿つ。

 

 

 

ディガッキィイイイイインッ!!!

 

 

 

ドラゴンハングに突き砕かれ、胸部が破砕されたエアリーズは後方へ一気にぶっ飛び地表を転がり、爆発。

 

そして最後の1機のエアリーズ目掛け、ドラゴンハングを突き刺す。

 

エアリーズの胸部に頭を埋めるようにドラゴンハングが突き刺さった。

 

その状態で零距離から火炎放射を放つ。

 

エアリーズを内部から焼き尽くし、ジェット噴射のごとく熔解させた部位を吹き飛ばして爆砕させた。

 

ドラゴンハングをかざして佇むシェンロンガンダム。

 

五飛は砕け散るエアリーズを見ながら、シェンロンガンダムに語りかけた。

 

「俺達を相手にするには余りにも弱すぎる!!!ナタク……次こそもっと骨のあるヤツと戦いたいものだな。そしてジオン兵の者達よ、安らかに眠れ……」

 

五飛はサイドモニターを操作し、映し出したジオン兵達に向かい、そう呟いた。

 

 

 

佐世保強襲より四時間後―――

 

 

シンガポール・地球連邦軍セントーサ最新基地。

 

セントーサ島近海を広大に埋め立てて創られた、最新の連邦軍基地である。

 

無論のことながら、OZも関わっている基地だ。

 

メテオ・ブレイクス・ヘルの一件と重なった事もあり、アジア方面の大きな軍備増強の拠点と位置づけられ、日々に渡ってMSが運び込まれている。

 

加えて、ラー・カイラムの一件もあり、更なる警戒が成されていた。

 

中東方面への軍事介入も、この基地を拠点としていた。

 

ジェガン、リゼル、ロト、リーオー、エアリーズといった現在の連邦・OZの主力MSが多数配備されていた。

 

ジオン残党が攻め入ろうものならば、袋叩きに合う事は必至である。

 

実験機として、近代回収をしたΖプラス、FAZZも配備されていた。

 

このセントーサ基地への戦力の生産に力を入れている地球連邦軍・OZフィリピン・ミンダナオMS生産工場。

 

MS工場の中でも規模が大きく、アジアエリアにおいても要たる生産工場である。

 

基本的にMSは空輸か海上の輸送の二つで担っている故に、海に隣接した地形に造られていた。

 

ジムⅢ部隊やジェガン部隊が警備の任務にあたりながら海上を眺めている。

 

その他リーオー、ロトの部隊が警備任務に配備されていた。

 

通常の警備機数に比べ、厳戒態勢の勢いの機数で警備にあたっていた。

 

海上の輸送船に、出荷されるMSが搬入され、空輸経路の輸送機にもMSが搬入されていく。

 

異常のない海上を見ながら上半身を旋回させるジムⅢ。

 

だがその時、海面を突き破りながら黒いMSが姿を見せた。

 

ガンダムデスサイズであった。

 

太陽を背に舞い上がったガンダムデスサイズは、そのまま降下し、ジムⅢをビームサイズで斬り伏せた。

 

やや斜めに破断されたジムⅢは爆炎を上げて爆発。

 

ガンダムデスサイズは近隣のジムⅢに飛びかかると、1機、2機、3機、とビームサイズを斬り上げ、斬り払い、斬り飛ばす。

 

豪快な斬り捌きで爆発を巻き起こしたデュオは、意気揚々と、輸送船にターゲットを絞る。

 

「っし!!!お荷物は没収させてもらうぜ!!!」

 

加速したガンダムデスサイズは、輸送船に目掛けて加速。

 

船舶の動力炉を目掛けてビームサイズで斬り捌いた。

 

爆発する輸送船から飛び立ち、次の船舶を斬り払いながら爆発させた。

 

無論、警備のMSが黙っているわけなく、ガンダムデスサイズに向かう。

 

ビームサイズを構えるガンダムデスサイズにビームが撃ち放たれる。

 

ガードしながらガンダムデスサイズは攻撃を受け続けた。

 

「へへへ………当然騒ぎだすか!!」

 

ジェガン、リーオーがビームライフルやビームマシンガンで、3機機編成づつ攻め入る。

 

ガンダムデスサイズは、機動性を発揮させて攻撃をかわし始めた。

 

攻撃をかわしながら、鮮やかにガンダムデスサイズは敵機の背後を捉えた。

 

「そらよぉっ!!!」

 

勢いを持たせた一振りの斬り上げで、3機のジェガンを斬り飛ばして爆砕させた後に、リーオーを1機斬り伏せた。

 

連続で破壊の爆発がガンダムデスサイズを包む。

 

ガンダムデスサイズは、ギンとメインカメラをリーオー2機に睨みつけ、バスターシールドを展開させた。

 

レフトアームを振り、シールドの先端のビームの刃がリーオーの機体を破斬させる。

 

そして、ガンダムデスサイズはビームマシンガンを撃ち続けるリーオーに、バスターシールドをズドンと刺突させ、機体を砕き散らさせた。

 

だが、警備のMSは絶え間なく砲撃を続け、弾幕がガンダムデスサイズを遮る。

 

ガンダムデスサイズは、ビームサイズを杖のように立てながら、バスターシールドで防御する態勢をとった。

 

「あーあー……弾幕うざっ!!それじゃあ、ここから清掃作業をよろしく!!!」

 

デュオは引き継ぐような言動を吐く。

 

その言動と共に、上空から閃光のごとく飛来する機影………バードモードのウィングガンダムであった。

 

ウィングガンダムのコックピットモニターでは、迫る工場に散らばるMS部隊や輸送機、ターゲットポイントがオートロックされている。

 

「フッ………任務了解。地球連邦・ミンダナオMS生産工場を叩く!!」

 

ヒイロはデュオの冗談めいた比喩に鼻笑いで答え、任務に突入する。

 

ヒイロは、上部レバーをスライドさせ、ウィングガンダムの機体をMSへと変形させる。

 

斜め上の上空からジャキンと真っ直ぐにバスターライフルを構え、工場の中枢部をロックオンする。

 

「破壊する………」

 

コントロールトリガーを操作し、ヒイロはバスターライフルをチャージさせた。

 

銃口に充填されていくGNDエネルギー。

 

カートリッジモニターの一個分までエネルギーをチャージさせた直後、バスターライフルの荒れ狂うビームを撃ち出した。

 

 

 

ギュゴヴァアアアアアアアアゥゥ!!!

 

 

 

凄まじいエネルギーを帯びながらビーム渦流が直進。

 

直撃させた工場施設を、ジェガンやロトの二、三小隊を巻き込み、地表諸とも抉り跳ばして破砕させる。

 

凄まじいエネルギー音や地響きを混ぜ合わせ、巨大な爆炎の柱を巻き上げさせた。

 

その破壊エネルギーが、更に周囲のジムⅢ部隊やリーオー部隊を吹き飛ばす。

 

既にこの時点で工場施設は殆どが機能が停止していた。

 

ウィングガンダムは、そのまま降下して低空位置にホバリングする。

 

バスターライフルの銃口を次なるターゲットに向ける。

 

次なるターゲットは連なる搬入完了した輸送機群。

 

その射撃軸上に、ガンダムデスサイズに攻撃をかけていたジェガンやリーオー、ロトの部隊が入り込み、オートロックの対象となる。

 

「輸送機及び生産ライン施設を破壊する……」

 

ジェガンやリーオー、ロトの部隊はウィングガンダム目掛け砲撃する以外攻める余地はない。

 

それでもその行為は無意味に等しい。

 

ウィングバインダーを展開させながらホバリングするウィングガンダムは、無意味に対する無慈悲な一矢を放つ。

 

バスターライフルが再び撃ち放たれ、ビーム渦流を直進させる。

 

突き進むビーム渦流は、ジェガンやリーオー、ロトを複数機呑み込み、地表を抉りながら爆発させる。

 

掠めた機体さえも誘爆させて破壊していく。

 

更に膨大なエネルギー波で地表がけたたましく爆発し、爆炎を巻き上げた。

 

ターゲットである輸送機群もその直後にビーム渦流に呑まれ、機体を砕き飛ばされていく。

 

ヒイロはバスターライフルを放ったまま銃口を右方向へと移動させる。

 

ウィングガンダムが放つバスターライフルの荒れ狂うビームがゆっくりとスライドし、生産ライン施設を破壊・壊滅させていく。

 

この瞬間にも、リーオーやジムⅢ部隊がビーム渦流に呑まれ、横へ押し潰されるようにかき飛ばされて破砕されていった。

 

生産ライン施設は、ビーム渦流に跡形もなく吹っ飛ばされ爆炎を巻き上げて消滅した。

 

ウィングガンダムの存在そのものが、機動性のある戦略兵器といっても過言ではなかった。

 

デュオはこの光景を目にし、ウィングガンダムの脅威的な存在感を改めて感じていた。

 

「ひゅー…本当に掃除しちまいやがったよ………こいつは本当、ぱねぇーガンダムだぜ!!これじゃ、俺達が形なしだなぁ、相棒!!!」

 

デュオは何気無くガンダムデスサイズを反転させ、ビームサイズを斬り上げる操作をした。

 

ガンダムデスサイズの背後にビームサーベルを振りかぶったジェガンがいたのだ。

 

余裕を見せながらガンダムデスサイズはビームサイズで斬り上げ、ジェガンを撃破させた。

 

ヒイロは常に冷静を通し、セカンドフェイズに移行しようとする。

 

その時、無謀にも攻撃をかけながら3機のジェガンがウィングガンダムにビームライフルとミサイルランチャーで攻め入る。

 

ヒイロは、敢えて攻撃を受けながらバスターライフルをロック・オンする。

 

余裕の表れだ。

 

「障害は破壊する」

 

中出力で撃ち放たれたバスターライフルのビームが、3機のジェガンを容易く機体をかき飛ばしながら爆砕させた。

 

ヒイロはモニター画面上に表示される情報に目を通し、工場施設の壊滅を確認する。

 

「ミンダナオMS工場施設を破壊。これよりセカンドフェイズへ移行する。デュオ、シンガポールへ向かう。カトル達と合流するぞ」

 

「あいよ!!これで借りは返却できるわけだな!!」

 

 

それより約三時間後。

 

ガンダムヘビーアームズとガンダムサンドロックが並行して飛行する。

 

カトルは、セントーサ基地の情報を表示し、任務遂行にあたってトロワと連絡を取り合う。

 

「今回の任務にあたり、僕らとヒイロ達の4機で攻める。まずは予定ポイントでヒイロ達と合流。次に基地の正面から電撃的に攻め込んで、彼らを圧倒させる。最終的に基地全ての武力壊滅、機能停止を図る形にするよ」

 

「了解した。時間的にも頃合いだな………」

 

「そうだね……この基地を落とせば、連邦軍のアジアの要が失われる事になる!!そうすれば少しはロニ達の脅威も減る………来た!ヒイロ達だ!」

 

ガンダムサンドロックのモニタースクリーンに、ウィングガンダムとガンダムデスサイズの姿を捉えた。

 

ヒイロとデュオも余裕の表情で機体を向かわせていた。

 

「カトル坊っちゃんのご登場だな♪」

 

「……」

 

 

 

セントーサ基地では、先刻に陥落したミンダナオ基地の一件で、著しくMSの搬入計画が狂い、同時に警戒体制も最大に稼働させて、MSを展開させていた。

 

「ミンダナオのMS生産工場がやられた事で、配備予定の機体を搬入できずにいるが、それ以上に警戒を怠るな!!!」

 

基地の敷地内では、ジェガン、リゼル、ロト、リーオー、エアリーズの部隊が続々と警戒配置に就きはじめる。

 

格納庫にも、FAZZ部隊が3機、Ζプラス部隊が4機が出撃を控えていた。

 

正に厳戒体制。

 

ネオジオンとて、これ程の厳戒網の中に身を投じはしない。

 

誰しもが敵の強襲はないと錯覚する程の戦力。

 

だが、警戒飛行していた一部のリゼル部隊が、海上の上空に未確認機を視認する。

 

「上空に未確認機を視認!!拡大します………こ、これは!??」

 

「こちら管制塔。何を視認している!?」

 

「と、鳥………いや、ガンダムです!!!うああああ!??」

 

バードモードのウィングガンダムが放ったバスターライフルの突風のごとき一撃が、リゼル部隊3機を吹き飛ばす。

 

爆発と風を翼で切り、ウィングガンダムは基地目掛け直進。

 

海上からもガンダムデスサイズが海面を突き破りながら一気に基地へ身を投じる。

 

着地地点に待機していたジェガン3機を、着地直後にビームサイズの一振りで斬り飛ばして破砕。

 

そこから1機のリーオーに突っ込んで、バスターシールドを突き刺して爆砕。

 

更にもう2機をビームサイズで斬り払い、機体を斬り崩させて爆破させた。

 

空中からは滑り込むかのようにガンダムサンドロックが加速して突っ込む。

 

その勢いを利用してヒートショーテルを振りかぶり、

ガンダムサンドロックの正面の左右にいたエアリーズ2機が同時に斬撃され爆砕。

 

地表に着地し、その反動を利用してジェガン部隊へ飛びかかり、薙斬り、斬り捌き、叩き斬る。

 

3機のジェガンが爆発を巻き起こす中、ガンダムサンドロックが目を光らせる。

 

ガンダムサンドロックと同じく、空中から攻め込むガンダムヘビーアームズ。

 

ビームガトリングとブレストガトリングを撃ち放ちながら攻め混み、ロト3機を蜂の巣にして爆破。

 

ブースターで落下制動をかけながら着地し、着地地点

にいた1機のロトをビームガトリングの零距離射撃で激しく粉砕させる。

 

そこから更にビームガトリングとブレストガトリングをぶっ放し、ジェガンやロトの部隊を問答無用に砕き散らす。

 

基地にサイレンが鳴り響く中、MS部隊が一斉に攻撃を開始した。

 

ジェガンのビームライフル、リーオーのビームマシンガン、エアリーズのビームチェーンガン、リゼルのビームライフル、ロトのキャノン砲が雨霰にガンダム目掛けて撃ち込まれていく。

 

圧倒される相手に対し唯一無二の抵抗だ。

 

「やはり分厚い弾幕抵抗に出ましたね!!デュオ!!このまま突貫して斬り崩していきましょう!!ヒイロとトロワは、一気に突破口を!!!」

 

「了解!!………いっくぜぇ!!!」

 

「バスターライフルで一気に破砕させる……!!!」

 

「了解した。消滅させていく」

 

迫り来るビームの弾雨を、ガンダムデスサイズとガンダムサンドロックは、躱しては受け、躱しては受けを繰り返し、ビームサイズ、ヒートショーテルを振りかぶって突っ込む。

 

加速の勢いを付けた死神の鎌が、一振りでリーオー3機を斬り払い、 そのまま加速を止める事なく上昇し、正面からリゼル部隊へと突っ込む。

 

片手に握ったビームサイズで、豪快に抜刀的な斬撃を食らわす。

 

 

ザヴァダァアアアアアンッッ!!!

 

 

1機のリゼルが撃破される中、両手持ちに戻して隣接する3機のリゼルを斬り飛ばした。

 

更に加速した勢いに乗せてビームサイズを振り回し、ジェガンを連斬。4機をまとめて斬り飛ばす。

 

「おらよぉ!!!」

 

 

 

ズシュバァアアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

その無双劇的な光景の手前をウィングガンダムが駆け抜ける。

 

そして機体を変形させ、ウィングバインダーをギュバンと展開させながら、バスターライフルをスピーディーに構えた。

 

「ターゲット、多重ロック………排除開始……!!」

 

ヒイロはモニター上の眼前の敵機勢に向かい、怪物級のビーム渦流を撃ち飛ばす。

 

 

 

ギュイッッ―――ヴァズガアァァァァァァッッ!!!

 

 

 

全てを砕き散らして突き進むプラズマ渦流が、ジェガン、リーオー、エアリーズ、リゼルの複数部隊を呑み込んで消し飛ばすかのように爆砕させる。

 

強力過ぎるビームエネルギーが地表を爆発させ、更なる被害を巻き起こす。

 

直撃を免れたロトの部隊や他のジェガン部隊も吹き飛ばして破壊した。

 

空中からは複数のエアリーズ部隊とリゼル部隊が攻撃を掛ける。

 

機体を回転させながら軽快にビームを躱していくウィングガンダム。

 

ウィングガンダムは中出力でバスターライフルを撃つ。

 

中出力でもその破壊力や破壊規模は凄まじい。

 

図太いビーム渦流が直進し、迫るエアリーズとリゼルを複数機破砕させる。

 

ビームを掠めたエアリーズ2機とリゼル2機が誘爆して爆発した。

 

ウィングガンダムは、各方向から迫る空戦部隊にバスターライフルの銃口を向けて断続的な射撃をする。

 

「……情報にあったガンダムはまだ確認されていない」

 

ヒイロは連邦製のガンダムにターゲットを置きながら

エアリーズ部隊とリゼル部隊を破壊し続けた。

「行きます!!!はぁああああっっ!!!」

 

地上ではガンダムサンドロックが、バックパックを上部へ持ち上げ加速していく。

 

振りかぶったヒートショーテルで2機のジェガンを斬り砕くと、軽快な動きでヒートショーテルの剣捌きを見せつけながら、連続で標的のMSを叩き斬っていく。

 

 

 

ディッキガァァァァァン!!! ディガギャッ、ディガキィン、ディッガインッッ…………ギュオ………ザガァギャ、ザガドォオオオオオッッ!!!

 

 

 

ジェガン、リーオー、リゼル各MS部隊を駆け抜けながら、巧みに両手のヒートショーテルで叩き斬り、斬り飛ばし、斬り払い、斬り砕いていく。

 

そして振りかぶった双方のヒートショーテルを思いっきり降り下ろして 、リゼル2機を裂断させた。

 

ガンダムサンドロックの駆け抜けた後方に連続で斬られたMS群が爆発し、目の前のリゼルも炎を上げる。

 

両手に構えたヒートショーテルの刀身を銀色に光らせながら、ガンダムサンドロックは悠然と立つ。

 

ガンダムヘビーアームズは、旋回しながら攻撃を躱し、ビームガトリングとブレストガトリングを唸らせながら射撃する。

 

攻撃を食らい続けるロトの部隊や、リーオーキャノンの部隊、ホバリングするリゼルの部隊が流れるように砕き散らされていく。

 

「旋回しながら眼前の敵機勢を駆逐する。そして…」

 

ある程度旋回した位置で着地し、ジェガン部隊をビームガトリングとブレストガトリングで次々に砕き散らし、空中から攻め込むエアリーズ部隊に標準を変え連続で撃ち砕いて破砕させる。

 

 

 

ヴヴォドゥルルルルルルルルルルゥゥゥゥ!!!

 

 

 

だが、狙いの標的はジェガン部隊やエアリーズ部隊ではない。

 

ガンダムヘビーアームズは、集中して固まるロト部隊や、リーオーキャノン部隊に向けてグレネードランチャーを撃ち放った。

 

加速するプラズマ光弾が1機のロトの胸部に直撃し、そこを中心にドーム状のプラズマ爆発が巻き起こす。

 

 

 

ディシュゴォオオォォアァァッッ!!!

 

 

 

凄まじい爆発と共にMS群が吹き飛ばされ、一気に破砕させる。

 

爆発の爆風で残骸が転がっていく。

 

正に一点集中型のバスターライフルだ。

 

「集中している部隊を一気に叩く。後は圧倒させる火力をぶつけていくだけだ…」

 

ガンダムヘビーアームズはガトリングをぶっ放したまま、断続にグレネードランチャーを撃ち放った。

 

瞬く間に多数のMSが、爆炎と化して火の瓦礫となっていった。

だが、多数配備されたMS部隊は次々にガンダムへ攻撃をかけていく。

 

ΖプラスとFAZZ部隊も発進し、ガンダムへ向かう。

 

Ζプラスは空を掛け、FAZZはホバー走行しながらヒイロ達のガンダムへ迫る。

 

ガンダムサンドロックとガンダムデスサイズは向かい来る敵機を斬り続けて突き進む。

 

「おらぁあっっ!!!」

 

斬り払われるビームサイズがリーオー3機を斬り飛ばす。

 

「はぁああああ!!!」

 

斬り払われた1機のジェガンが爆発し、降り下ろされたヒートショーテルの斬撃で2機のジェガンが同時に斬り砕かれる。

 

巻き起こす爆発の中でガンダムデスサイズとガンダムサンドロックが並びながら動きを止めた。

 

2機は一旦防御体勢に移り、攻撃の手を止めた。

 

「更に増援の反応がありました!!これは………連邦製のガンダムです!!!」

 

「本家本元って分けか…へへ♪同じこと!!斬りまくるだけだ!!」

 

「ですが、一応はガンダムですから油断はしないでください……それにしても弾幕が凄い!!」

 

「あぁ…流石に最新基地の挙げ句アジアの要基地だ。ダメージは対したことないが、ちょいとうざったいな!!」

 

その時、ガンダムヘビーアームズが2機と並ぶように着地した。

 

「トロワ!!」

 

「お!!射撃のスペシャリストのご登場だな♪」

 

「突破口は任せろ」

 

ガンダムヘビーアームズのガトリングとグレネードランチャーの重射撃の下、ビームを撃ち続けていたリーオーやジェガン部隊が一掃され、砕き散らされていく。

 

そこへ更にウィングガンダムが降り立ち、バスターライフルを最大値の出力で撃ち放った。

 

一気に直進する重ビームが、弾幕を張るMS部隊を一掃した。

 

リーオー、ジェガン、ロトの部隊が複数の爆発を巻き起こしながら破砕しされる。

 

基地のMS格納庫を破壊しながら、バスターライフルのビームを維持したまま右へと銃口を移動させる。

 

ガルダや輸送機、管制塔施設を容赦無く破砕させた。

 

「?!!」

 

そしてそのビーム渦流が、Ζプラス部隊とFAZZ部隊にも襲い掛かる。

 

躱し切れなかった1機のΖプラスと2機のFAZZが、ビーム渦流に呑み込まれて爆砕する。

 

もう1機は要のライトアームを吹き飛ばされ、結果的にプラズマ渦流の影響で誘爆を起こして爆発した。

 

この一撃が基地の機能を殆ど無力化させた。

 

ヒイロはモニターを見ながらトロワとカトルに借りを返した事を告げた。

 

「……トロワ、カトル、後の空の敵機は全て駆逐する。それで修理の借りは返す」

 

「いや、充分だ……」

 

「そんな……借りだなんて…僕は仲間として出来ることをしたまでですから…」

 

ヒイロはそのまままウィングガンダムを加速させ、Ζプラス部隊に向かって飛び立った。

 

「遠慮すんなって!意外に律儀なとこあるんだよ……あいつ…」

 

デュオは遠慮気味なトロワとカトルにヒイロの律儀な面を伝えてヒイロをフォローした。

 

「そうなんですね………解りました!では返しをありがたく受けましょう!」

 

「じゃあ、地上の残り連中の一掃と洒落混もうぜ!!!」

 

「ええ!!行きましょう!!」

 

デュオのノリを合図にするかのように、デスサイズ、ヘビーアームズ、サンドロックの3機のガンダムが残存敵機の駆逐に向かった。

 

上空では、ウィングガンダムが、エアリーズ部隊をビームサーベルで次々に斬り捌いて駆け抜ける。

 

連続で裂断されたエアリーズの機体群が爆発した。

 

更に加速してリゼル部隊に斬り掛かり、加速の勢いを利用して激しい斬撃を食らわせていく。

 

爆砕するリゼル達を尻目に、ヒイロはΖプラスをロック・オンした。

 

ビームスマートガンを撃ち放ってΖプラスが攻め入る。

 

ウィングガンダムはシールドでこの攻撃を防御する。

 

Ζプラス部隊は、一撃離脱戦法でウィングガンダムに攻め続けた。

 

ビームの威力はバスターライフルに到底及ばないが、それなりの衝撃を与える。

 

「流石に多少の火力と機動性はある」

 

次に迫るΖプラスに狙いを定めてウィングガンダムはビームサーベルを構えた。

 

ビームスマートガンを放つΖプラスが、ウィングガンダムとすれ違おうとする刹那、ビームサーベルをΖプラスへ突き出した。

 

 

 

ズガドォァガアアアアァァッッ!!!

 

 

 

相手の加速の勢いを利用し、Ζプラスを激しく突き砕くウィングガンダム。

 

Ζプラスは原型を激しいまでに砕かれて爆砕した。

 

ウィングガンダムはドォンッと衝撃波を発生させながら上昇し、Ζプラスの上を取る。

 

そして急下降しながら斬撃を繰り出し、縦に斬撃した。

 

ガンダリウムの装甲が力強く斬り刻まれ、Ζプラスを裂断させた。

 

 

 

ジュズゴォォォオオォォ………ザガァギャアアアア!!!

 

 

 

その斬撃の爆発で加速したかのようにウィングガンダムが飛び立ち、機動性を活かしながらΖプラスへ回り込む。

 

最早勝ち目はなかった。

 

後がないと判断したΖプラスのパイロットは、機体を変形させ、青白いビームサーベルでウィングガンダムへ斬り掛かる。

 

激突する刃だったが、その斬撃を容易くヒイロは捌いて見せる。

 

そして、一瞬の隙を突き、ウィングガンダムの放った抜刀軌道の斬撃が、Ζプラスを裂断させる。

 

機体の切断面が分断され、その向こう側にウィングガンダムが姿を見せながら、眼光を光らせる。

 

機体を斬り裂かれたΖプラスは、スパークを起こしながら爆砕していった。

 

それより間も無くして、セントーサ基地は壊滅された。

 

瓦礫と炎に敷かれた基地に、ビームサイズを担ぐガンダムデスサイズとヒートショーテルを構えたガンダムサンドロックが雄々しく聳え立ち、基地の港で炎上する空母や戦艦を見つめるガンダムヘビーアームズの姿があった。

 

ヒイロはこの光景を見下ろしながら、サイドモニター上に映し出した戦力状況を見た。

 

「―――セントーサ基地における敵勢力の壊滅を確認………基地施設壊滅及び機能停止を確認…任務完了……」

 

たった4機でセントーサ基地を陥落させたメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム。

 

その戦闘能力はこれまでの常識を覆し、世界規模で注視せざるを得ないレベルであった。

 

トレーズの下に各所で起こったガンダムの被害情報が送り届けられていた。

 

「空母艦の破壊、ラー・カイラムの破壊、そしてセントーサ基地の壊滅……他にも各所で被害が見られるな。ここまで彼らに反目されるとは………注視せざるを得ない……いや、最早これは警鐘のレベルか…」

 

トレーズは戦死したOZと連邦の兵士の名簿に目を通す。

 

「戦死した者の名は止めておきたい………それも私のOZ総帥たる務めと規定している」

 

しばらくの時間、トレーズは戦死した者の名簿に目を通し続けた。

 

そして大規模演習の計画書に視点を切り替える。

 

「恐らく………この大規模演習で彼らは集結するはずだ。この日、事が予定通りに動けば私は彼らの刃と交えることになる………楽しみだ」

 

トレーズのトールギスⅡを乗せたソニックトランスポーターが、ルクセンブルクを目指して空輸されていた。

 

そして別経路でも別のトールギスが空輸準備の段階に入っていた。

 

トールギスⅢである。

 

他に眠っていた機体をトレーズが大規模演習に備え、追加の要請を出していたのだ。

 

ガンダムに匹敵する力を持つ二つのMS達が、静かに眠りながら主の下へと赴こうとしていた。

 

「戦いは、エレガントでなければならない。そう……エレガントでなければ…トールギスはそれを可能にするMSなのだ……そうであろう…ゼクス……」

 

トレーズは瞳を閉じながら紅茶を啜った。

 

 

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エピソード7 「崩壊へのテロリズム」

メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達は、アジア諸国各地に展開する地球連邦軍及びOZの基地や工場、駐屯基地へ次々と攻撃を展開する。

その攻撃活動は、ロンドベル旗艦の破壊や派遣空母艦の破壊、最新基地の一つであるシンガポール・セントーサ基地を陥落させ、更には配備されていた連邦製のガンダムをも破壊するに至っていた。

その驚異を把握しつつも、トレーズは二つのトールギスを手配し、二つの戦士に想いを馳せるのであった。






メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達が行ったアジアエリアでの破壊活動は、連邦軍に衝撃を与えた。

 

その影響もあり、アジア諸国の反抗勢力討伐隊の動きも少なくなりつつあった。

 

それは中東諸国にも影響をもたらしていた。

 

ガンダムサンドロックのコックピット内で、ロニと通信を取り合うカトルは、彼女からの感謝を受ける。

 

ロニは、モニター越しに地元新聞の見出しをかざしている。

 

「地球連邦アジア・中東エリアの軍事活動撤退へ……新聞の見出しよ!あなた達のお陰よ。これで少しは私達も楽になる。ジオンの人達や他の反抗勢力の人達も救われる……ありがとう!」

 

ロニの口から感謝の言葉を受け、カトルは安堵を覚えた。

 

「そうか…それを聞いたら僕達の行動に、兆しが見えてきた気がするよ。きっとこれはその一歩だね」

 

「そうかもね。一方であなた達の行動を非難する声があるけど……私は全身全霊であなた達を支持するわ」

 

事実、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムによって多くの連邦軍・OZの兵士達が死んでいる。

 

それは、彼らの遺族や関係者にとって憎みの対象に他ならない。

 

それは、避けられないジレンマであった。

 

「ありがとう……そう言ってくれるだけでも嬉しいよ、ロニ」

 

「世論がどう言おうと……私とガーベイ・エンタープライズは味方よ。話を変えるけど、あのお守り…無くしてないでしょうね?」

 

急にお守りの話題に切り換えるロニ。

 

カトルはくすっと笑いながら、お守りのアクセサリーを見せた。

 

「ふふっ、大丈夫だよ。ほら、この通り!」

 

「ならぁ~…よし!」

 

「願掛けって程じゃないけど、任務の前にきゅって握り絞めてるよ」

 

ロニは頬杖をつく仕草をしながら笑って見せた。

 

「くすっ、それ聞いたら私、また嬉しくなったなぁ」

 

カトルは嬉しげなロニの笑顔を見ながら、彼女とのつかの間の時間をしっかりと噛み締めた。

 

危機は一時的に後退したに過ぎない。

 

何故なら中東諸国には、テロリストとの戦闘の側面もあるからだ。

 

況してやロニはガーベイ・エンタープライズの令嬢でもある。

 

テロリストに狙われる可能性は充分にあった。

 

(ラルフさんは臨機応変にと言っていたけど……もしもの時は任務を放棄してでもロニを守る!!)

 

任務放棄はGマイスターにとって禁忌とも呼べる暗黙のタブーである。

 

カトルはロニを守るコトに、それほどの覚悟を抱いていた。

 

 

 

一方でゼクス達は、佐世保工厰の強襲跡の調査に赴いていた。

 

バスターライフルで破壊された施設や隣接する断崖、そして、轟沈されたラー・カイラムの残骸の破壊状況から、状況の深刻さを物語る。

 

ミスズもガンダム調査隊に配属される事となり、ゼクスと共に被害状況を視察する。

 

「話に聞いていた以上の破壊力だな。この有り様は唖然を食らってならない………基地施設をここまで破壊できるMSは類を見ない」

 

ミスズの視線は破壊され尽くされた佐世保工厰から、破砕されたラー・カイラムの残骸へと移った。

 

連邦屈指のロンドベル隊の旗艦故にその衝撃は大きい。

 

「ラー・カイラム………現在の連邦の要の戦艦………こんな姿になろうとは誰が想像しただろうか…」

 

「想像は不可能さ。想像を超える力が相手なのだからな」

 

ゼクスが見上げながら呟いたミスズの疑問符に答える。

 

それに対し、ミスズはさりげなくゼクスを見て、再びラー・カイラムを見ながら言う。

 

「ゼクス……まさか、恐れてはいないだろうな?」

 

「いや、むしろ私は彼らの刃と交えたい………特に佐世保をこのようにしたガンダムとな…」

 

「ふふふ………ゼクスらしいな。ホントに…」

 

瞳を閉じて軽く笑うミスズ。

 

相変わらずの騎士道精神であることを確認し、安心感を懐く。

 

ミスズ自身は、口調には出さないものの、若干の恐怖を覚えていた。

 

「佐世保でも多くのOZの兵士達が犠牲になった。その無念は我々に託されている……この後はミンダナオ基地とセントーサ基地の視察調査に向かう予定だ。それは同胞達の無念を掬う行為であるとも捉えている」

 

「……余り意気込みすぎて、いざと言うときに無茶をするなよ。現段階はデータを取ることが重要だからな。万が一の事があれば、お前を慕う部下達が大いに悲しむ結果に繋がり兼ねない」

 

かなりの意気込みすぎを感じたミスズは、敢えてゼクスが万が一の時に悲しむのは「部下」だとゼクスに注意した。

 

「ふふ……わかっているさ」

 

その時、佐世保の兵士が失礼ながらも割って報告を告げた。

 

「失礼します!ゼクス特佐!!OZのトレーズ上級特佐から通信が入っております!!」

 

「閣下から直々にか!?」

 

「はい!!直々にです!!」

 

「わかった、すぐにいく!!」

 

ゼクスはその場を後にして、調査本部のテントに向かっていった。

 

ミスズは溜め息をつくと、髪をなびかせながら調査書類を手に歩き始めた。

 

「ゼクスが死ねば、私も悲しむんだからな…」

 

一方で、リディは破壊されたMS部隊の残骸を視察していた。

 

海上から回収されたMSの残骸が並ぶ中で、リディは怒りを覚えずにはいられなかった。

 

原型を留めていないリゼルの破壊具合から伝わるモノがそうさせる。

 

「っっ………!!!こんな間近で同胞の亡骸を見るのは初めてだ……くそっ!!!どこまで連邦を踏みにじるっっ!!!」

 

歯軋りが鳴る程に噛み締めて怒りの感情を露にする。

 

すると、ホマレが傍らで口を開いた。

 

「同感です。個人的ではありますが、自分もミンダナオの工場基地にいた同期生のヤツを失いました………世界中の連邦兵は皆、同じ思いをしている頃だと思います」

 

「ホマレ中尉…」

 

部下ではあるが、元々はリディの上官であったホマレは、口調を変えながら怒るリディを宥めさせた。

 

リディは拳をきゅっと握り、悔しさを溢す。

 

「わかっています………わかっている………!!!しかし、まだ奴等に何も一矢報いていないのが歯痒い!!!」

 

「時を待つことですよ………時を」

 

リディは、反乱ガンダム調査隊でありながら未だにガンダムに一矢報いていないのが歯痒くてならなかった。

 

実際問題、レーダーにも捉える事ができない神出鬼没のガンダムの行動は、後手に回らざるを得ないのも事実であった。

 

「時か………そうだな。耐え難いが、今は耐えるしかないよな………合同軍事演習まで!!俺は合同軍事演習が反撃のキーパーソンになると踏んでいる!!」

 

リディは、今を耐える事を自らに押し付けた。

 

一方、トレーズと通信中のゼクスが新な任務をトレーズから賜っていた。

 

「トールギスの護衛ですか?」

 

「そうだ。トールギスⅡの護衛任務を頼む。既にⅡはメルボルン基地を離陸している状態で、現在、ベンガル湾上空とのことだ。最寄りのスリランカ基地に着陸待機するよう命じてある。輸送経路上でガンダムが確認されているエリアにぶつかった。直ちに合流して欲しい」

 

トールギスⅡの護衛。

 

それがゼクス達に下された命令であった。

 

ゼクスはトールギスを駆る者としての運命を感じてならなかった。

 

 

「尚、もう一方のトールギスⅢはアイスランド工場を先刻離陸した。こちらは確認されているガンダムの行動エリアから逸れている為、問題はない。エアリーズとアンクシャの部隊で手を打った。急な押し付けですまない。事が間に合わなければ私のミスとしてもよい」

 

「いえ…とんでもありません。もしかしたらガンダムと遭遇する絶好のチャンスになるかもしれません故……」

 

「当初は敢えて護衛無しの方向で踏んでいた。重要性を無くしたかのようなカモフラージュの為だ。だが、輸送経路上にガンダムが表れては、やはり危惧せざるを得ない」

 

「そうでしたか……ではこの一件、拝命致します!!直ちに向かいましょう!!」

 

「頼むぞ…ゼクス」

 

ゼクスは通信を終えると、バッと振り向きながら颯爽と部下達へこの件の命令伝達に赴く。

 

ゼクスは予感していた。

 

この出撃でガンダムと相見える事になると。

 

「いよいよ来るかも知れないな!!時が……!!」

 

 

 

その時のヒイロとデュオのガンダムは、とある無人島に機体を潜ませていた。

 

ウィングガンダムとガンダムデスサイズが並列に木々の中で寝ている。

 

コックピットハッチの上で、ヒイロとデュオは休憩をとっていた。

 

デュオは軽食の栄養スナックをかじりながら、ヒイロとこれからの行動についてのやり取りする。

 

「さぁーて………お次はどこから攻める?そろそろヨーロッパ巡りしながらアメリカ目指すか!?来月には賑やかな祭りが開かれるみたいだしなぁ」

 

ヒイロは栄養ドリンクを一飲みして答えた。

 

「……あぁ。現時点の大きな任務は、来月に行われる、ニューエドワーズ基地の大規模演習に武力介入する任務だ。ここを目刺しながらヨーロッパの基地や周辺のエリアの勢力域に強襲をかけながら行くのも手の一つだ」

 

「中東はカトル達に任せて俺達は一気にヨーロッパ………ってか!?」

 

ヒイロは出されている任務のラインナップを選択しながら答える。

 

「待て。オルタンシアに戻ってそこからニューエドワーズを目指す手もある。いずれにせよ、その前にスリランカ基地を叩く。どうやらOZの新型機を輸送中の輸送機が停泊中のようだ。破壊命令が出ている」

 

「そんじゃー、そちらに寄り道しながらのんびりといきますか!なーに、時間はたっぷりある……そーいえばよ、ヒイロ!」

 

「何だ?」

 

「マリーダとは連絡とってんのかぁ?あんなイイ女のコ、滅多に巡り会えないぜ?どーなんだぁ~!?」

 

軽いノリでマリーダの話題を引っ張り出すデュオ。

 

ヒイロはしれっと答えた。

 

「いや」

 

「おいおい………マメにでも連絡とればいいのによ~。一応は御互いの回線コード知ってるんだろ?」

 

ヒイロは敢えて連絡をせずにいた。

 

彼女がヒイロ達との関わりを伏せておきたいと思っている事を知っていたからだ。

 

下手にこちら側から連絡を取って、彼女に不利な問題を発生させてしまう可能性もある事を、ヒイロは念頭に置いていた。

 

「あぁ。だが、マリーダにはマリーダの都合がある………それに再会すると約束している。今はそれでいい」

 

「ヒイロ…女性は油断してほったらかしにしてると直ぐに離れちまうもんらしーぜ………誰かが言ってたぞ」

 

「マリーダに限りそれはない」

 

「おお!!豪語しやがった!!って……………ヒイロをここまでぞっこんにさせる女性って………世界……いや、宇宙は広いぜ~……にしても、やっぱ暑いな…この無人島は~……」

 

 

 

ソマリア戦線のジオン残存軍の勢力域において、戦闘が巻き起こっていた。

 

中東と言えど、アフリカ大陸エリアともなれば状況は変わる。

 

地球連邦・OZソマリア基地から派遣される部隊が反抗勢力の討伐に動いていた。

 

余談ではあるが、ソマリア基地においてジオン残存軍以外にも現地のテロリストとも戦闘を継続している為、近隣であるアラビアエリアに手が回らないのも現状であった。

 

アンクシャに搭乗したジェガン部隊が、一方的に上空から攻撃を仕掛けている。

 

デザートザクや、トロピカルドムがジェガンとアンクシャが放つビームライフルの餌食になり、機体を四散されていく。

 

この光景を全周モニターで確認しながら接近するマリーダ。

 

細かいスイッチ操作をしながら、くしゃみの前兆の感覚を覚えていた。

 

「っ……―――っっ、ひょっとして、ヒイロ達が噂でもしてるのか?今は目前の任務に集中だ!!いくぞ、クシャトリヤ!!!」

 

レバーを押し込み、クシャトリヤを加速させるマリーダ。

 

凛とした目付きが戦闘の鋭い目付きに切り替わる。

 

重い重低音の加速音を響かせながら、目標ポイントへ向けてクシャトリヤが加速していく。

 

「どのエリアでも、空から蹂躙するかっ!!連邦め!!!」

 

旧式MSに対し、余りにも理不尽な連邦軍の攻撃にマリーダは怒りを示す。

 

マリーダは、目線のモニターに捉えたジェガン部隊3機をロック・オンする。

 

「メガ粒子ブラスター、ファイア!!!」

 

クシャトリヤの胸部に備えられた四門のメガ粒子ブラスターがビーム渦流を撃ち放つ。

 

 

 

ヴィギュルヴァアアアアアアア!!!

 

 

 

突如発生した高熱源に反応するジェガン3機。

 

だが、斜め上より撃ち注ぐビーム渦流は、瞬く間に3機のジェガンを叩き潰すかのように呑み込む。

 

 

 

――――ヴァズゥガァアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

むろん、搭乗しているアンクシャも同時に巻き込まれた為、実質的に6機のMSを墜とした。

 

クシャトリヤは四枚のウィングバインダーを展開させながら、ジェガンが爆発した所でホバリングする。

 

突如の介入者にジェガン部隊は、体制を整えるため、緊急離脱していく。

 

離脱したジェガン部隊7機は、様子を伺うかのようにクシャトリヤの周りを旋回する。

 

切り裂く空気の音に包まれながら、ジェガン部隊はクシャトリヤを注視していた。

 

クシャトリヤもこれらを追うように自転旋回しながらモノアイカメラを動かす。

 

「どうかかってこようと無駄だ!!!」

 

マリーダは全周モニターに映るジェガン部隊に向かい叫ぶ。

 

それに反応するかのように、ジェガン部隊は一斉に機体をクシャトリヤへ向けて降下した。

 

各機がビームライフルを放って迫る。

 

だが、そのビームはクシャトリヤが展開させるIフィールドに阻まれ、弾き消えていく。

 

「無駄だと言っている!!!ファンネル!!!」

 

マリーダの気迫に乗るように、クシャトリヤのウィングバインダーからファンネルが射出された。

 

個々のファンネルが意志を持つように、縦横無尽に空中を駆け巡る。

 

マリーダは、一時空間感応の為に目を閉じ、2秒後かっと目を見開く。

 

一斉に各ファンネルが展開するジェガン部隊目掛け、ビーム火線を次々と撃ち放っていく。

 

連続で装甲を貫かれていくジェガンとアンクシャ達。

 

ジェガンを乗せながら射貫かれた3機のアンクシャが爆発した。

 

落下していく3機のジェガン達にも、ファンネルは容赦なくマシンガンのごとく撃ち貫く。

 

ズタボロになった機体が次々と空中で爆発・四散した。

 

1機のジェガンがビームサーベルに武装を切り替える。

 

そのジェガンを乗せたアンクシャが、クシャトリヤ目掛け、斬り込もうと突っ込む。

 

ギンとモノアイを光らせたクシャトリヤは、手首のビームサーベルを取り出し、向かい来るジェガンのビームサーベルに、エネルギー刃を激突させた。

 

ビームエネルギー同士が干渉し合うスパーク音が鳴り響く。

 

更に旋回していた3機のジェガンもビームサーベルを取り出す。

 

それらを乗せたアンクシャが左右斜め上と左斜め背後から一気に加速する。

 

四方向同時の攻撃。

 

「なめるな!!!」

 

ファンネルは迫るジェガンとアンクシャに向かい、一斉にビームを放つ。

 

どのファンネルもマリーダのイメージに従い、ビームを連続撃ちする。

 

3組の機体群がボロボロに撃ち砕かれた。

 

更に撃ち砕いた2機3組をウィングバインダーのメガ粒子ブラスターが、かき消すかのように撃ち飛ばした。

 

瞬く間に爆砕するジェガンとアンクシャ。

 

クシャトリヤはパワーでジェガンのビームサーベルを押し退けてみせた。

 

圧倒されたジェガンは、アンクシャから墜落。

 

瞬く間にファンネルのビームの餌食になり、空中で爆砕していった。

 

残ったアンクシャはその場で変形し、クシャトリヤに向かい、ガンダムサンドロックのごとく二本のビームサーベルを振りかぶって斬りつけた。

 

だが、クシャトリヤは一気に後退してこの斬撃を躱し、再び一気に迫って斬り払いの斬撃をアンクシャに見舞った。

 

上下に破断されたアンクシャの半身が爆発した。

 

マリーダは、休むことなく鋭い目付きでクシャトリヤを加速させる。

 

これらを放ったガルダ級輸送機を捉えていたのだ。

 

クシャトリヤはファンネルを従わせながら、四枚のウィングバインダーを羽ばたかせて向かっていく。

 

切り裂く空気の音が、クシャトリヤのボディーに響き、コックピットにもガタガタと加速振動が伝わる。

 

マリーダは、旋回しながらガルダ級を睨みつけ、クシャトリヤをガルダ級に接近させる。

 

その時、マリーダのニュータイプの勘がはしる。

 

「……!!出てくる!!!」

 

すると更にガルダ級からリゼル部隊が7機発進。

 

左右に旋回しながらビームライフルを撃ち放ってきた。

 

マリーダは、ビームライフルを撃ちながら突っ込んでくる1機に意識を集中させる。

 

「はぁあああ!!!」

 

振りかぶったビームサーベルを轟と振るい、豪快な袈裟斬りでリゼルを叩き斬った。

 

クシャトリヤの眼前で爆砕するリゼル。

 

マリーダは目を更に見開き、意識をファンネルへ飛ばす。

 

「―――っ!!!」

 

周囲を旋回するリゼル部隊目掛け、ウィングバインダーのメガ粒子ブラスターと組み合わせて、一気にビームを撃ち飛ばさせる。

 

その狙いは狂いなくリゼル6機を撃ち仕留めた。

 

空中に広がる炎の華の下をクシャトリヤは駆け抜け、一気にガルダに接近。

 

ビームサーベルをガルダの外壁に突き刺し、一気にクシャトリヤは加速する。

 

「沈んでしまえ!!!連邦!!!」

 

 

 

ザギャジュゴオオオォォ…――

 

 

 

ビームサーベルが、加速と共に横一線にガルダの外壁を斬り裂いていく。

 

斬り切ったと同時にクシャトリヤはガルダから離脱し、機体を反転させた。

 

「これで止めだ!!!」

 

ファンネル達の銃口が、ガルダの斬り口を狙う。

 

ファンネルの銃口にエネルギーがチャージされていく。

 

「……墜ちろ!!!」

 

 

 

ヴィヴィァアアアアアアアアアッッッッ―――!!!

 

 

 

一気に溜め込んだビームを撃ち飛ばすファンネル達。

 

一斉に放たれたビームが、ガルダの外壁に出来た斬り口に注ぎ込まれた。

 

ガルダ級に刹那の静穏が流れた。

 

次の瞬間、ガルダ級は凄まじい爆発音を上げて一気に機体を爆砕させながら砕け散る。

 

その光景を見つめながらマリーダは、一呼吸ついた。

 

「――――ふぅ………任務完了…これより現地残存軍と合流する。クシャトリヤ、ここで一休みしよう…」

 

マリーダは、クシャトリヤに語りかけると、機体を野戦キャンプのポイントへ向かわせた。

 

 

 

ジオン残存軍と合流したマリーダは、野戦キャンプのテントで援軍報告をする。

 

互いに敬礼をし合う。

 

「ネオジオンのマリーダ・クルス中尉だ。オペレーション・ファントムの一環で貴君らの援軍に来た」

 

「お疲れ様です。我々共のためにありがとうございます、マリーダ中尉」

 

ジオン残存軍の兵士達は、皆ネオジオンの兵士達に敬意を評し、階級や年齢に関係無く敬語を使っていた。

 

「こちらこそ。日々の抵抗は大変であろう」

 

「全くです。ですが、比較的連邦の攻撃頻度が落ちています。きっとオペレーション・ファントムの効果が出てきているのでしょう…」

 

マリーダは自分達ではなく、大半はヒイロ達の行動によるものだということは解っていた。

 

だが、マリーダは名目上、敢えてジオン兵士に話を合わせた。

 

「……そうかもしれないな。少しずつではあるが…」

 

その時、一人の少年がテントに入ってきた。

 

見かけはヒイロと同じくらいの少年であった。

 

「食料持ってきたよ、ジオンのおっちゃん……って―――」

 

少年は、マリーダを見るなり固まる。

 

マリーダは突如の訪問者に唖然とした。

 

するとジオン兵士は、入って来た少年について軽く触れた。

 

「ああ、彼は協力してくれている現地人の一人で、食料面で世話になっています」

 

少年は赤面しながら、しどろもどろで答えた。

 

「は、はじめまして…―~その、あ、カレッタです!!」

 

「ネオジオンのマリーダ・クルス中尉だ。カレッタ、食料面の協力………感謝する」

 

「い、いえ……出来ること、やらせてもらってます!!じゃ、これで!!」

 

「あ…」

 

早々と立ち去るカレッタ少年。

 

マリーダは直ぐに彼の感情を読みとり、軽く笑みを浮かべた。

 

(ふふ……そういうことか)

 

テントから飛び出したカレッタ少年は、走りながら感情を抑えていた。

 

(うあ~……!!なんて綺麗な女性(ヒト)なんだぁ~!!やべー!!好きになっちまったぁあああ!!)

 

カレッタ少年はマリーダに一目惚れしてしまったのだ。

 

カレッタは芽生えたての恋心を抱えてひたすら走る。

 

ジオン兵士は飛び出したカレッタの行動に首を一瞬かしげ、マリーダに野戦キャンプ施設の案内に移行する。

 

「なんだ……?まぁいいか………ではマリーダ中尉、簡単に我々の野戦キャンプ施設をご案内します」

 

「ん?あ、あぁ、頼む」

 

マリーダは好意を寄せられた嬉しさと、ヒイロを想う気持ちとで複雑な心境を覚えた。

 

(好意を寄せられるとは参ったものだな………ヒイロと同年代のようだが、本当に少年だな。余りにも幼い)

 

ヒイロとカレッタを比べたマリーダは、違いすぎるギャップに違和感を感じてならなかった。

 

だが、ヒイロ達の場合は育った環境が特殊過ぎていたが為に、16歳ながら二十代半ばの精神年齢に至っていたのだ。

 

アディンはオデルと共に比較的一般に近い環境で育ったが、今は亡き資源衛生MO-5でテストパイロットをしてきている。

 

マリーダは初めて一般的な少年と出会ったのだ。

 

カレッタを通して感じた違和感は当然の違和感であった。

 

(環境が違えば人は変わるか……よく思えば、ヒイロ達は環境が余りにも特殊だったな……環境が……)

 

マリーダはヒイロ達と自分の境遇を重ねながら、暮れていくソマリアの空を振り返るように見上げた。

 

 

 

数時間後

 

 

 

連邦軍・OZスリランカ補給基地内で巻き起こる連続爆発。

 

唸る焼灼音。

 

ガンダムデスサイズのビームサイズで斬られたジムⅢ3機が、燃える鉄屑と化す。

 

ガンダムデスサイズは背後から迫るリーオー2機とスタークジェガン1機に振り向きながらビームサイズを振るった。

 

リーオーの胸部にビームサイズの刃が斬り込まれ、一気に機体が斬り飛ばされた。

 

ガンダムデスサイズは次から次へと撃ち注ぐバズーカやビームマシンガンの攻撃を物ともせずに、ビームサイズで各個撃破していく。

 

袈裟斬り、斬り上げ、斬り払いの斬撃を食らったスタークジェガン2機とリーオー3機は爆砕された。

 

ガンダムデスサイズはビームサイズを転がるジェガンの残骸に向けてかざす。

 

「っとまぁ…相手が悪かったな!!軽く遊ばせてもらうぜ!!」

 

ビームサイズを振るいまくり、デュオは補給物資をとことん破壊して回った。

 

上空では、リゼルとエアリーズの部隊が、バスターライフルを構えるウィングガンダムにビームライフルやビームキャノン、ビームチェーンガンの射撃で迫る。

 

ヒイロは敢えて躱さずに攻撃を受け続けながらモニターに集中する。

 

ウィングガンダムの装甲の表面で、ビームが弾くように着弾していく。

 

バスターライフルにエネルギーが充填され、コックピット内のモニターに複数のロック・オンマーカーが、攻撃をかけ続ける敵機達を捕捉する。

 

そしてマーカー表示が赤くなった。

 

「ターゲット、ロック。破壊する」

 

直後、バスターライフルの凄まじいビーム渦流が放たれ、荒れ狂うビームが複数機のリゼルとエアリーズをかき消すかのように呑み込む。

 

奔るバスターライフルのビーム渦流の周囲で、直撃を免れたリゼルとエアリーズも誘爆を起こし、幾つもの爆発光を拡げた。

 

MS隊を一掃したヒイロは、トールギスⅡを搭載したソニック・トランスポーターに狙いを定めた。

 

ロック・オンカーソルをターゲットに合わせて絞り、チャージさせたまま、バスターライフルの銃口を向ける。

 

その先で、低空にいたリゼルとエアリーズの部隊がウィングガンダムに向け発砲する。

 

「中にはトールギスⅡが搭載されている……二発の最大出力で叩く!!」

 

ヒイロは抵抗するMS部隊を無視するようにソニック・トランスポーターに集中し、トリガーを引いた。

 

バスターライフルの銃口から大容量のエネルギーが爆発する。

 

 

 

ヴィヴゥヴァアアァアアアアアアアッッッッ!!!

 

 

 

重く凄まじいビームエネルギーが、唸りながら一直線にソニック・トランスポーターへ直進。

 

上空から叩き潰すようにMS部隊を破砕させ、ソニック・トランスポーターを押し潰した。

 

 

 

ダグゥガシャアアアアアアアッッッッ――

 

 

 

アスファルトの地表に注ぐ図太いビームの渦。

 

銃口から唸り続けるビーム渦流が、一瞬爆発したかのように出力を上げた。

 

二発目分の出力を放ったのだ。

 

バスターライフルは膨大なエネルギーを注ぎ続け、ウィングガンダムはそれを維持させたままビームを右旋回させる。

 

バスターライフルの破壊範囲が拡大し、あらゆる設備を破壊し尽くしていく。

 

注ぎ続けるエネルギーがやがて収縮すると、注ぎ切った破壊エネルギーが大爆発を巻き起こした。

 

空中高く舞い上がる炎の柱は、圧巻の一言に尽きる。

 

モニターに映るこの光景を見ながら、ヒイロは不敵に笑って見せた。

 

「ふっ………任務完了」

 

トールギスⅡは事実上、最大出力のバスターライフルで破壊された。

 

この情報は東シナ海を通過中のゼクス達にも入った。

 

「っ………間に合いませんでしたか!!」

 

「あぁ………先刻、スリランカ補給基地から連絡があった。トールギスⅡはガンダムによって破壊された。報告内容から佐世保やミンダナオ、シンガポールの基地を壊滅させたガンダムに間違いないだろう…」

 

ゼクスに間に合わなかった事と、守りきれなかった屈辱感が交錯する。

 

その意思をなだめるかのようにトレーズはゼクスに言った。

 

「気に病めないでほしい。この損失は私のミスなのだ……ゼクス、君達のせいではない」

 

「閣下……しかし…」

 

トレーズはゼクスに奮い起たせるように言葉を選んだ。

 

「ゼクス……今の刻の先にガンダムがいる……今は耐えるのだ…反旗の時は合同軍事演習からだ」

 

「………承知しました。その時にはガンダムを仕止めてみせましょう!!ライトニング・バロンのプライドに掛けて!!」

 

「ああ、頼む……」

 

ゼクスは、すっと敬礼をしながらトレーズとの通信を終えた。

 

 

 

L1コロニー群 メテオ・ブレイクス・ヘル主要アジト

 

 

 

エージェントから寄せられる情報や、任務の進行状況が表示される大画面モニターを、ドクターJとプロフェッサーGが見上げながら目を通す。

 

その傍らでオペレーター達が状況を報告していく。

 

「ウィングガンダム、ガンダムデスサイズ、地球連邦軍・OZソマリア基地破壊任務を受領しました」

 

「ガンダムベビーアームズ、ガンダムサンドロック、地球連邦軍・セバストポリ宇宙港基地を目指し中東エリアを飛行中」

 

「ガンダムジェミナス01、02の両機が地球連邦軍・OZバイカル基地に接近。間もなく任務着手する模様……」

 

オペレーター達からの情報を基に現状把握するドクターJとプロフェッサーG。

 

反射するモニターの光が、二人を怪しげな印象にさせる。

 

「順調にやっているようだが、事は単純ではない。地球圏規模の敵を相手にしているんだ」

 

プロフェッサーGが呟き、それにドクターJが答えた。

 

「左様………このくらいでは奴らはビクともせんわ!まだまだ衝撃を与え続けねばなならん!!まだ始まったばかりじゃ!!」

 

「地球のエージェントから新たな情報!!」

 

オペレーターの一人がドクターJに振り向きながら通達する。

 

「む!?」

 

「オーストラリア・トリントン基地において新たな新型機が確認されました!!映像出します!!」

 

オペレーターの操作でモニターにホバリングする新型機の映像が映し出された。

 

「ふむ………こいつはグリプス戦役の時のバイアランだな。きっとこいつも合同演習に出るかもしれん…よし、新型機の破壊任務を追加しろ!!」

 

「了解!!任務情報送信します!!」

 

素早い操作でオペレーターは任務情報を送信した。

 

シェンロンガンダムのコックピット内。

 

腕を組ながら瞑想する五飛の許に情報受信ブザーが鳴り響いた。

 

瞳を開けて五飛は受信情報を開示する。

 

「任務か……」

 

サイドモニターに映る任務情報に目を通す五飛。

 

任務内容を確認すると、不敵に口許をニヤケさせてシェンロンガンダムに語りかけた。

 

「ナタク……この任務、少しはまともかもしれん。強い奴の感覚を覚える。距離は離れてはいるが、行く価値がありそうだ」

 

五飛は自動操作を解除し、自らの手でシェンロンガンダムをオーストラリアの地へと向かわせた。

 

 

 

オルタンシアでは、プルが手作りデザートを作って作業員達に振る舞っていた。

 

テーブルには彼女が作ったデザートが並ぶ。

 

デザートは彼女も大好きなパフェだ。

 

「あたしがみんな作ったんだよ!どーぞ召し上がれー!」

 

「おー!!仕事の合間の甘いもんは最高だぜ~」

 

「甘いもんは疲れにもいいしな!!頂くぜ!!」

 

喜作な作業員達がプルの手作りパフェをがつがつと食べていく。

 

だが、ハワードは口にしようとしなかった。

 

「ハワードお爺ちゃん……食べないの?」

 

「あ、いや………この歳になるとどーもこういう甘いもんは苦手でな………そうだ、アディンの分にとっておくといい。その方がいいだろ?」

 

「そっか………でもアディンの分は特別に作ってあるんだぁー♪」

 

嬉しそうにするプルを見たハワードは、もしかしたら居たかもしれない孫のように映っていた。

 

「なんじゃ、そうか。ならこのパフェはプルにやるわい」

 

「え!?やった!!あたしの分は後で作ろうかなって思っていたけど、いただきまーす!!」

 

幸せそうにパフェを食べる無邪気なプルはオルタンシアの作業員の癒しでもあった。

 

若い作業員には妹、中堅層の作業員には娘のような存在になりつつあった。

 

(このような娘がニュータイプの戦力として軍に利用される………あってはならんことだ…彼女はアディンを慕っておる。故にアディン、彼女を守ることもまた任務だぞ)

 

ハワードは無邪気なプルの姿を見て感じた事をロシアの地に赴くアディンに託す。

 

プルもまた、冷蔵庫に閉まったアディン用のパフェを楽しみにしながらパフェを食べる。

 

スプーンをくわえながら、プルはアディンを想った。

 

(早く帰って来てねアディン………パフェ痛んじゃう前に… )

 

「俺が決めるぜ!!!」

 

アディンは不敵に笑みを浮かべながらガンダムジェミナス01を進撃させる。

 

コントロールグリップを握りしめた手からは、力のみなぎりを感じさせた。

 

突き進むモニター画面上に、リーオーとジェガンの部隊がビームライフルで攻撃をかける。

 

向かい来るビームを軽快に躱しては、シールドで時折防御する。

 

加速の勢いを付けて構えたアクセラレートライフルの銃口から、中出力のビームを連発させながら撃ち放った。

 

一発、二発と撃ち放たれたビームが、リーオーとジェガンの胸部を融解させながら貫く。

 

2機が爆発を起こす間を駆け抜けるガンダムジェミナス01。

 

更なる加速をかけながらアクセラレートライフルを撃つ。

 

サイレンが鳴る中で射撃をかけるジェガン3機が、ビームに機体を抉られて爆発を巻き起こした。

 

「へへへ!!このまま一気にスペースポートへ行かさせて貰うぜ!!!お!?」

 

アディンは、加速させたスピードを維持しながらビームサーベルに切り替えて迫るスタークジェガンをロック・オンした。

 

ロック・オンマーカーが赤く点灯する。

 

「俺に接近戦は通用しないぜ!!!」

 

ガンダムジェミナス01は、アクセラレートライフルをシールドに収容し、ビームソードに切り替えた。

 

スタークジェガンのビームサーベルが、勢いを付けてガンダムジェミナス01へと襲い掛かる。

 

だが、その斬撃よりも先にビームソードの横凪ぎの斬撃が先手を取った。

 

 

 

ザギャガアアアアアアアッッッ!!!

 

ドゴォガァアアアアアアン!!!

 

 

 

その斬撃で分断されたスタークジェガンが、駆け抜けたガンダムジェミナス01の後方で爆発、四散した。

 

「おおおおおおっ!!!」

 

ガンダムジェミナス01はその勢いを繋げ、1機、また1機と取り付いて斬撃を食らわし、リーオーの機体群を斬り飛ばす。

 

撃破された5機のリーオーが立て続けに爆発し、ガンダムジェミナス01を爆煙が包み込んだ。

 

直後にガンダムジェミナス01が爆煙を突き破って飛び出す。

 

その一方でも、ガンダムジェミナス02が射撃を仕掛け、MS部隊を攻撃する。

 

シールドに添えたアクセラレートライフルが連続で唸り、4機のジェガンを立て続けに射抜く。

 

爆発していくジェガン達を尻目に駆け抜け、加速と共に迫るジェガンやロトの部隊を撃ち抜いて撃破させていく。

 

「攻撃目標は、スペースポートの破壊と搬入された新型機、ライトニングゼータの破壊だ。アディンじゃないが決めさせてもらう!!!」

 

オデルは、低空で再びガンダムジェミナス02の機体をホバリングさせてアクセラレートライフルを連発して撃ち放った。

 

正確に撃ち込まれたビームが、ロト3機、ジェガン2機を貫き、爆発四散させる。

 

その側面から、ビームライフルやビームマシンガン、バズーカの射撃が、ガンダムジェミナス02に連続で直撃した。

 

「っ!!まとめて仕止める!!!」

 

機体を自転旋回させ、モニターに映るジェガン2機、リーオー2機、スタークジェガン1機をロック・オンするオデル。

 

アクセラレートライフルの銃口にエネルギーが充填され始めた。

 

 

 

ヴィギュリリリィィィ………ヴヴァダァアアアアア!!!

 

 

ドゴォガァアアアアアアッッ――――!!!!

 

 

 

チャージショットされたアクセラレートライフルのビーム渦流が、斜め上から叩き潰すかのようにMS部隊を呑み込んで破砕させる。

 

同時に地表も爆発破砕させた。

 

ライトニングゼータを搭載した輸送機の前にリーオーとジェガンの部隊が弾幕を張る為の射撃を開始する。

 

しかし、唸り続けるビーム弾幕を物ともせずに、2機のガンダムジェミナスは進撃し続ける。

 

2機が唸り散らすアクセラレートライフルのビームが、リーオーとジェガン達を次々と穿ち砕いた。

 

連続爆発を潜り抜けたガンダムジェミナス01と02。

 

動きをシンクロさせながらアクセラレートライフルの銃身を構えた。

 

連続で撃ち放つビームが、スペースポートを砕き散らしていく。

 

スペースポートが破砕される中、上空へ向いた滑走路が折れ、地表へと落下した。

 

落下した先にはロトやジムⅢの部隊がおり、それらを諸とも捲き込んだ。

 

そして、2機のガンダムジェミナスが再びアクセラレートライフルを構える。

 

銃口の先には、ライトニングゼータを搬入した輸送機がしっかりと捕捉されていた。

 

「ターゲット、ロック・オン……!!!」

 

「あんたに恨みはないけど、消さして貰うぜ!!ゼータさんよっ!!!」

 

エネルギーチャージを開始し、銃口にエネルギーが充填されていく。

 

タイミングを合わせて2機のガンダムジェミナスは、アクセラレートライフルのエネルギーを解き放った。

 

重厚な二本のビームエネルギーが突き進み、輸送機を抉り飛ばしてライトニングゼータ諸とも破砕する。

 

ライトニングゼータはパイロットを見ることなく破壊され、吹き飛ばされた輸送機から転がり出た。

 

まさにガンダリウムの塊と化した姿だった。

 

アディンは、モニターで破壊されたターゲットを視認すると、どこか物足りなさを感じた。

 

「ターゲット破壊確認!!任務完了………あー……できれば直接戦ってみたかったな~……ライトニングゼータ!!」

 

「そんな事言っても、実は手強かったかもしれんぞ?特にお前には」

 

「なっ!?どー言う意味だよ!?」

 

「油断するなと言うことだ。さ、とりあえずオルタンシアへ戻るぞ」

 

「あいよ!!」

 

 

 

一方、カタールの主要都市で中東テロ組織、カッザム・ラデマによるテロ攻撃が勃発していた。

 

彼らの戦力は横流しされた元ティターンズのMSであり、マラサイやジムクゥエル、ゼクアインを運用していた。

 

近代的な市街地に容赦ない攻撃が加えられる。

 

ビームライフルとビームマシンガンのビームエネルギーが、ビルや一般車両、はたまた民間人へと注がれる。

 

無差別にビルが撃ち砕かれ、車両が吹き飛び、捲き込まれた人々は、ビームの熱エネルギーで蒸発させられ、爆発により、体を吹き飛ばされていく。

 

この事態をカトルとトロワはコックピットのサイドモニターで確認していた。

 

世界メディアのチャンネルでの映像だ。

 

これを見たカトルは、真っ先にロニの身が心配になる。

 

「そんな……!!カタールでテロだなんてっ!!ロニ………!!!」

 

トロワはモニターでMSに確認できる、ターバンを被るドクロのエンブレムに着目し、彼らのデータを簡潔に調べおこす。

 

「中東テロ組織・カッザム・ラデマ。主に神の信心を主張し、近代的文化に反発するテロ組織だ。場所的に恐らく、ガーベイエンタープライズの本社と工場も狙われるだろう……」

 

「……っ!!!!」

 

カトルは絶句の中で、任務の一時中止を瞬時に決めた その時だった。

 

ガンダムサンドロックのサイドモニターに、ロニからの通信が直接入った。

 

「カトル!!今何処!!?」

 

「ロニ!!!よかった!!無事だったんだね!?たった今、世界通信で確認したよ!!!僕達はアラブとカタールの国境上空だよ!!」

 

「話はわかってるようね。私達は今の所は無事………今、お父様と本社の最上階にいる。いつやられてもおかしくない常態………」

 

事態を深刻に受け止めたカトルは、血の気が引く思いを受けた。

 

少しの刻のイタズラが大切なモノを奪っていくかもしれない。

 

ロニはいつになく冷静にカトルに状況を伝え続けた。

 

緊迫感がかえってそうさせているのだろう。

 

「ビームでの破壊活動が続いてる……まだこっちには銃口を向けてはいないけど……ちょっと待って…」

 

ロニが映像場所を移動し、ビルからの外の映像を見せた。

 

マラサイやジムクゥエルがビームライフルで市街地に攻撃する映像が確認できる。

 

「……これでも普段はガーベイ・エンタープライズの副社長をしてる身……社員の避難が終わるまで去るわけにはいかない」

 

ロニの言葉は、御曹司の立場にいるカトルにもわかった。

 

モニター越しに伝わるプライベートとは違う彼女の雰囲気も。

 

カトルは任務中断を決意した。

 

「…………ごめん、トロワ!!任務は中断だ!!行かせてもらうよ!!」

 

「かまわない。俺も加勢する」

 

「ありがとう!!トロワ!!!ロニ!!今、行くよ!!!」

 

「了解……早く来て。本当は私は恐い……」

「わかってる……待ってて!!!」

 

カトルはロニの本音を聞きながらレバーを押し込み、ガンダムサンドロックを加速させる。

 

それにガンダムヘビーアームズが続いた。

 

通信を終えたロニが、父親であるマハディーに振り返る。

 

「お父様………カトルがこちらに来てくれます」

 

「カトル君がか………ふふん………アイツの息子が、大企業の御曹司が、ガンダムで戦うとはな」

 

「それを言うなら私とて同じですわ。令嬢がMSに乗っているんですもの」

 

「………ロニ、私を残して逃げろ!!お前は死ぬべきではない」

 

マハディはロニに避難を促す。

 

無論、ロニはこれに反発する。

 

誰もが父親と望んで死別はしない。

 

「な!?!急に何を仰るの!??そんなの嫌に決まっているじゃない!!!」

 

「ロニ………聞き分けてくれ」

 

「そんな事を聞き分けられる娘がいて!!?私はいくらお父様のお言葉でも無理です!!!」

 

マハディも無論、望んで言っているのではない。

 

避難させるべき社員達、社長としての立場故にであった。

 

「……まだ社員達の避難はかかる。ロニも逃げろ。跡取り娘を失いたくはない。もしもの時は頼む」

 

「嫌です!!!!」

 

「…………」

 

頑なにマハディの言葉を拒むロニに、ガーベイは歩み寄りながら、腕を回して抱き締めた。

 

「お父様………」

 

「わかってくれ………」

 

ロニは改めて、かつ幾年ぶりに父親の温もりを感じた。

 

その時、非情にもついに本社に攻撃が加えられた。

 

二発のビームが本社ビルに撃ち込まれる。

 

はしる衝撃に二人は足許をぐらつかせられた。

 

「!!!!」

 

市街地にマラサイが2機、ジムクゥエルが3機、ゼクアインが1機が進攻してきていた。

 

2機のマラサイは、モノアイを作動させながら人々へと銃口を向け、ジムクゥエル3機が建造物への発砲を開始する。

 

そして、ゼクアインがビームマシンガンをガーベイエンタープライズ本社に向けた。

 

唸るビームの連射銃声と共に、連続でビルを撃ち砕く。

 

砕け散った瓦礫が、避難する人々に注ぎ、犠牲が拡大していった。

 

ビルの眼下に拡がる悲劇をロニとマハディは人としての恐怖感を覚えた。

 

その時だった。

 

市街地の低空を滑空しながら高速で突き進みながら、ガンダムサンドロックが姿を見せた。

 

その勢いを乗せて、マラサイ2機をヒートショーテルで連斬。

 

一瞬で寸断されたマラサイ2機が爆発、破砕される。

 

更にガンダムサンドロックは、3機のジムクゥエルに斬りかかり、駆け抜けながら3機の胴体部を連続で叩き斬り、破壊する。

 

次の瞬間、ゼクアインにヒートショーテルのクロススラッシュの斬撃が斬り込まれた。

 

 

 

ディギャガァアアアアアアン!!!

 

ズドォガゴゴゴォオオオオオン!!!

 

 

 

ガンダムサンドロックの背後でテロリスト達のMSが連続で爆発した。

 

ガンダムサンドロックは炎を背に、姿勢を立て直して両眼を発光させる。

「間に合った!!さぁ、ロニとマハディ社長を助けよう!!!」

 

ガンダムサンドロックに語りかけながら意気込むカトル。

 

ガンダムサンドロックもカトルの意気込みに合わせるようにガーベイエンタープライズ本社のビルを見上げた。

 

だが、その次の瞬間、別の場所にいたゼクアインの両肩のユニットからナパームミサイルが放たれた。

 

「熱源………しまった――――!!!」

 

四つのミサイルが容赦無く本社ビルを目指して突き進む。

 

ミサイルはビルの上階層に直撃するコースで突き進んだ。

 

カトルは少しの可能性をかけて、ガンダムサンドロックを飛び立たせた。

 

「サンドロック!!!力の限り飛んでくれ!!!」

 

 

 

一方で、ガーベイ・エンタープライズの工場地帯にもMSテロが巻き起こる。

 

マラサイ4機、ジムクゥエル8機、ゼクアイン2機が逃げ惑う社員達へ容赦無い攻撃をかけていた。

 

男女問わず破壊の爆発に巻き込まれていく。

 

非情・無情の攻撃を仕掛ける中で、ジムクゥエルの1機が突如上空からの連射撃に粉砕され砕け散った。

 

突如の攻撃に各機が振り向く。

 

すると上空から迫るガンダムヘビーアームズの姿が飛び込んだ。

 

ガンダムヘビーアームズはビームガトリングを連射し、また1機のジムクゥエルを砕き散らしながら着地した。

 

「民間人への無意味かつ非情な行動は旧世紀からなにも変わらないな………人として見過ごすわけにはいかない………」

 

トロワは、淡々とモニター上の敵機をロック・オンし、ビームガトリングで射撃しながらブレストガトリングハッチを開放し、同時に連射撃を開始する。

 

ガンダムヘビーアームズの射撃が、立て続けにジムクゥエルの装甲を粉砕させていく。

 

3機のジムクゥエルがビームライフルで反撃をかける。

 

狙いは急所とも言えるブレストガトリング部だ。

 

だが、トロワはその狙いも考慮し、ハッチを閉じながらビームを受けた。

 

マラサイやゼクアインも続くように射撃を慣行する。

 

ガンダムヘビーアームズは、ビームを食らいながら飛び立ち、テロリスト達の頭上を舞った。

 

そして着地と同時に敵機達の背後を取り、ビームガトリングの銃身を突き出しながらブレストガトリングを再びぶっ放す。

 

 

 

ガギャン、ヴガドゥルルルルルルルルルルゥゥゥ!!!

 

ヴァガァララララガガガガゴゴゴバァガガガァア!!!

 

 

 

耐えること無く撃ち出されるビーム弾が一気に面前のMS達をボロ切れの布のように破砕させていく。

 

ビームガトリングを撃ちながらブレストガトリングとマシンキャノンを連動連射させる戦法は、ガンダムヘビーアームズのスタンダードな攻撃法だ。

 

その威力の前に、カッザム・ラデマのMS群は瓦礫の如く瞬く間に崩れ去った。

 

「―――まだ残存機がいるな……」

 

トロワは、レーダー上にいる残存機の方角へと機体を向けた。

 

次の瞬間、そのターゲットが狙撃を連続で慣行。

 

三発の高出力ビームが、ガンダムヘビーアームズに直撃した。

 

だが、装甲には何も影響は出ていない。

 

トロワはターゲットをズームし、機種を確定しようと試みた。

 

「狙撃か………ターゲット、機種照合……ゼクツヴァイか」

 

再び来る狙撃。

 

ガンダムヘビーアームズは狙撃を物ともせず、ビームを食らいながら飛び立った。

 

ガンダムヘビーアームズに向かってバレルビームライフルを連発するゼクツヴァイ。

 

しかし、向かい来るガンダムヘビーアームズは、軽快にビームを躱していく。

 

機体を翻しながらビームガトリングで、バレルビームライフルを破壊。

 

レフトアームに握り締めたグレネードランチャーの銃口をホバリングしながらゼクツヴァイへ向けた。

 

「高出力のビームによる狙撃。腕は悪くないな。だが………」

 

 

ディシュゴォオオオオオォォ!!!

グレネードランチャーの銃口からプラズマエネルギー弾が撃ち出された。

 

一直線にゼクツヴァイの装甲を熔解させながら、エネルギー弾が食い込み、機体を破裂させる勢いのエネルギー爆発を巻き起こす。

 

 

ギュゴヴァァガァアアアアアアア!!!

 

 

ゼクツヴァイは半球状のエネルギー爆発を拡げて消滅した。

 

「圧倒的な火力の前では無意味だ」

 

トロワは、破壊跡を見下ろしながら呟くとその場を後にした。

 

 

 

ガーベイ・エンタープライズ本社ビルの最上階付近が爆発を巻き起こす。

 

ロニとマハディは虚しく犠牲になった。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

かに思えたが、まだ二人は現世にいた。

 

きゅっと目をつむったロニの瞳が開く。

 

「え………!?」

 

「大丈夫だ……ロニ」

 

マハディの言葉の後に、ロニは窓の方を向いた。

 

するとそこには、ガンダムサンドロックの雄姿があった。

 

GND合金の特質である装甲高強度を利用して盾になったのだ。

 

「カトル!!!!」

 

『ロニ!!マハディ社長!!下がっていてください!!今、脱出口を開けます!!!』

 

スピーカー越しに伝わるカトルの指示を受け、ロニとマハディはその場から下がる。

 

カトルは二人の安全を確認すると、ガンダムサンドロックのライトアームをビルに打ち込み、すぐに脱出口にコックピットを取り付けた。

 

ガンダムサンドロックのコックピットハッチが開く。

 

「さぁ!!乗って下さい!!」

 

「カトル!!」

 

「ロニ、先に乗りなさい」

 

「お父様は!?」

 

「大丈夫だ、すぐに乗る!!一人づつでなければ入れんだろう?」

 

マハディの言うことは合理的であった。

 

ロニはその言葉にうなずくと、ガンダムサンドロックのコックピットに入った。

 

「カトル!!!」

 

「ロニっ…!!」

 

ロニはすかさずカトルに包容し、カトルは顔を赤くして包容を返した。

 

「よかった…!!!さぁ、マハディ社長も乗って下さい!!」

 

「あぁ…」

 

マハディがガンダムサンドロックへ歩を進めたその時、突如新たな機体の反応を捉えた。

 

「!!?新たな機体!?!」

 

「え!?!」

 

次の瞬間であった。

 

マハディの背後の壁が一瞬で崩壊。

 

その刹那に謎のMA(モビルアーマー)が突っ込んできた。

 

ガンダムサンドロックを突き飛ばしながらMAはビルを貫通。

 

マハディは吹っ飛ばされ、即死常態で落下していった。

 

カトルとロニは何が起こったのか分からなくなった。

 

カトルは落下していくガンダムサンドロックの中で、我に帰り、落下するガンダムサンドロックにフルブーストをかけながら着地させた。

 

ロニは呆然としていた。

 

カトルは次第に怒りの感情を抱き始めた。

 

「ロニ………掴まってて」

 

「ウン…―――」

 

かっと目を見開いたカトルは、残っていたゼクアイン2機に急加速をかけて接近させた。

 

 

 

ドォバォオオオオオッ!!!

 

 

 

ガンダムサンドロックは、ヒートショーテルを振り上げて、駆け抜けながら一気に左右のゼクアインに斬り込んだ。

 

 

 

―――ヒュフィンッ、ザギャオオオォォ!!!

 

ヴァグガァアアアアアアア!!!

 

 

 

火柱を巻き上げて爆発するゼクアイン。

 

ガンダムサンドロックはそのまま空中へと一気に加速して舞い上がった。

 

カトルの眼光はいつに無く鋭かった。

 

モニター上にはしっかりとMAを捉えている。

 

ガンダムサンドロックを操縦するカトルの横ではロニが放心常態で無言のまま固まっていた。

 

カトルは彼女の無言の哀しみを怒りに変えて、その感情をガンダムサンドロックに賭した。

 

その最中でMAはMSへと変形した。

 

それは、ギャプランであった。

 

両腕のビームランチャーを下方から迫るガンダムサンドロックに撃ち放つ。

 

だが、ビームはガンダムサンドロックの肩を掠める。

 

ならばと交互にビームランチャーを連発するギャプラン。

 

無論の事ながらカトルとガンダムサンドロックには通用しない。

 

高速で突き進んできたガンダムサンドロックはギャプランの上を捕った。

 

「……はぁあああああああっっっ!!!」

 

カトルの怒りと共にガンダムサンドロックは轟とクロススラッシュを食らわした。

 

 

 

ヒュゴフォンッッ、ギャディガガァアアアアアアアアン!!!

 

ヴァズガァアアアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

その後―――

 

 

 

事態は芋づる式に更なる悪化を辿った。

 

このテロをきっかけにガーベイ・エンタープライズは連邦軍の調査を受けることとなる。

 

更にそれをきっかけに、ジオン残党との側面発覚。

 

各地で極秘に所持していたMSも押収された。

 

更に追い討ちをかけるかのように主要工場がテロで破壊され、会社の全データがハッキングによって消滅。

 

一気に企業が機能停止に追い込まれ、ガーベイ・エンタープライズは解体され、ロニや関わった者も国際指名手配の汚名を着せられる事となった。

 

たったの三日間の出来事である。

 

尚、後日のテロやハッキングはOZによる巧妙な工作であった。

 

全てを失い、深く傷心し、放心常態になってしまったロニを匿う為、カトルはオルタンシアへ戻ていた。

 

カトルとロニは二人の時間を作って、バルコニーのある部屋にいた。

 

「カトル………私……どうすれば……」

 

「今はここにいよう………ロニは何も考えなくていいから……」

 

かける言葉を探すカトルは、ロニの肩を引き寄せ、後は何も言わずただただ………互いの温もりで励まし合う。

 

ニュータイプであるプルは、ひしひしとロニの哀しみを感じ取り、せめて自分にできる何かをと、手作りパフェを差し入れに持っていく。

 

(カトルが連れてきたロニって人………凄く哀しみを感じる………あたしまで涙が出ちゃうよ…)

 

プルはすっと手作りパフェを手にバルコニーの部屋に入った。

 

「よかったら食べて………何かあたしにできることで少しでも哀しみを和らげたかったから…置いとくね?」

 

「あぁ…ありがとう、プル。君も優しいんだね」

 

「あ、えと………ありがとう…じゃ、また何かもってくるから」

 

照れ臭くなったプルはその場を後にした。

 

カトルは、一般企業でも反逆の要素があれば容赦しないやり方に、静な怒りを覚えた。

 

(……合同軍事演習で連邦とOZをまとめて叩くよ………必ず!!!!今は破壊するしかない!!!)

 

廊下通路を歩くプルの背後からは、ロニの哀しみがひしひしとまた感じとれる。

 

「あたしまでブルーになっちゃダメだよね?しゃんとして、プル!」

 

プルは哀しみに呑まれそうな自分に言い聞かせるとMSドックへ向かった。

 

中では、ガンダムサンドロックとガンダムヘビーアームズ、2機のガンダムジェミナスがメンテナンスを受けている。

 

「アディン!!」

 

プルはガンダムジェミナス01のCPUをセットしているアディンに駆け寄り、コックピットまで登っていった。

 

「おー!!プル!!ちゃんと渡せたかー!?」

 

「うん、一応ね。ロニって人から感じる哀しみが辛くてあたしまで哀しくなっちゃったよ…」

 

「らしくないぜ!!プルはムードメーカーなんだからな~。いつもみたいに明るく頼むぜ!!」

 

「ありがと、アディン!」

 

アディンに励まされ、嬉しげにプルは微笑んだ。

 

「そーそ!!笑顔、笑顔!!」

 

「エヘヘ……所でなにやってるの?」

 

「ジェミナスの新しいCPUのセットしているとこ!!初期の奴だと反応が悪くてさ…」

 

暫くアディンの作業を見守るプル。

 

プルはその瞬間の幸せを感じていた。

 

そして、一日も早くロニの哀しみが癒されること膝を抱えながら想った。

 

「あたし…今、幸せ!作業してるアディン見るの好きだよ!!」

 

「え、あ、そっか……サンキュ!!あ!!やべ!!」

 

照れ臭くなったアディンは動揺して、コネクターの挿す所を間違えた。

 

「アディン、がんばれー……あ!!パフェ食べてよね!!」

 

「オーライ!!」

 

そんな会話を聞き流しながら、トロワもガンダムヘビーアームズのセットアップをしていた。

 

「………」

 

トロワは物も言わず淡々とセットアップに勤しむ。

 

だが、カトルへの気づかいは忘れなかった。

 

(カトル………今は彼女の為に働け………その間のガンダムのメンテナンスは任せろ)

 

オデルはビアホールでビールを呑み交わしながらラルフと過ごしていた。

 

「カトルとトロワの任務放棄………目を瞑ってやってくれないか?ラルフ…」

 

「無論さ………トロワにも免じて瞑ってやるよ。それに、その話はヒイロとデュオが補う事になった。ソマリアを後回しにしてな」

 

「行ってまた南下か?効率悪いな…」

 

「この際、オルタンシアへ一度集結してもらう形にする………Gマイスターとガンダムの両方のメンテナンスができる…」

 

「違いない………にしても、やはり黒ビールはうまいな…」

 

 

 

その頃、五飛はオーストラリアに到達し、シェンロンガンダムと共にトリントン基地を望んでいた。

 

「やはり強い者の臭いがするな………ようやく骨のある敵と出会えそうだ………」

 

不敵に五飛は、にやりと笑って見せる。

 

ヒイロとデュオも余裕の表情でカトルから譲渡された任務エリアに向かっていた。

 

 

 

 

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エピソード8 「龍と麒麟の闘い」

世界情勢がメテオ・ブレイクス・ヘルを賛否する中で、少なくともガーベイ・エンタープライズは彼らの行動を支持していた。

ヒイロ達は威風堂々と任務を遂行し、同時に志を似通わせるマリーダも任務を遂行していく。

そんな中、ガーベイ・エンタープライズの本社があるカタールにてテロが発生。

令嬢のロニや社長のマハディがテロに捲き込まれた。

そこへ任務を放棄した(正確には譲渡)カトルとトロワが武力介入し、テロリストを壊滅させた。

だが、健闘虚しく、社長のマハディが死亡し、追い討ちをかけるかのようにガーベイ・エンタープライズのジオン支持が公になり、地球連邦とOZが介入。

結果、会社そのものが壊滅し、ロニや社員全員が指名手配されてしまう。

カトルは哀しみに沈むロニをオルタンシアへ匿うのであった……。




ルクセンブルク・OZ本部

 

 

トレーズの総帥室に、彼の側近が直にある報告に来ていた。

 

側近の名は、ディセット・オンズ。

 

薄紫のヘアーの髪型は、かつてのジオンの勇士・アナベル・ガトーに酷似しており、髪を束ねたヘアースタイルをしている。

 

顔はトレーズと肩を並べる程美形だ。

 

ある報告とは、連邦が、ガーベイエンタープライズを取り抑え、その後の処置をOZが行った件である。

 

「ガーベイエンタープライズの件では以下のように処置致しました」

 

「うむ……ディセット特佐、ご苦労だった」

 

報告書を手にして目を通すトレーズ。

 

その間にディセットは今回の事に関して自ら述べた。

 

「この段階から反乱の芽は徹底して排除すべきと判断し、少々手荒ではありますが、今回のように処置致しました」

 

「……ふむ………彼らのテロを利用したまでは良いが、確かにその後が少々手荒だな。君は一般社員も反乱の分子と捉えたのかな?」

 

「はい。徹底して反乱の可能性を排除する為です」

 

トレーズはディセットのやり方が少し思惑からずれているように感じていた。

 

民間を過剰に巻き込むやり方が遺憾に思えた為だ。

 

「一般社員も家族を抱えているものが多いに違いない。このやり方は未来を担う者達に暗い妨げになる。役職者に絞るべきだったな」

 

「も、申し訳ありません………!!」

 

過剰すぎるディセットの事後処理のやり方にトレーズは指摘せざるを得なかった。

 

だが、事は走り出してしまっていた。

 

「ディセット……今後はもっとエレガントに事を運んでくれ………我々はOZだ。母体である連邦とはまた違うのだ。民間の巻き込みは最小限にしなければならない」

 

「エレガント………ですか………」

 

「そうだ。だが、今回の件は歴史の河に流れてしまった。彼らの苦難は変わる時代の礎の一つなってもらおう…」

 

トレーズは、歴史の流れを日々意識していた。

 

あたかも歴史が見えるかのように。

 

トレーズは手元にあったダージリンを手に取り、一すすりすると、反乱分子に対する対応策を言及した。

 

「いつの時代も反乱は付き物だ。反乱分子の今後の対応策はいかにする?」

 

「それにつきましては、世界各地において近日中に強化体制に移ります。ジオン残党、その他の反乱分子の勢力域にOZのMS部隊を増強して向かわせます。反乱ガンダムにつきましても、ゼクス特佐の部隊をまわし……」

 

「ガンダムに対してはまだ待て。今は耐えるのだ」

 

「しかし……このままでは…」

 

他の反乱分子よりも遥かに増して問題であるメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを野放しにしようとするトレーズに意見をしようとするディセット。

 

だが、トレーズは裏付け的な意見を通した。

 

「彼らは確かに脅威だ。だが、今は大規模合同軍事演習………オペレーション・イカロスまで耐えるのだ。今戦力を欠くわけにはいかない」

 

「!!!!っ…は!!」

 

オペレーション・イカロス。

 

大規模軍事演習に連動させて行われる極秘作戦を指していた。

 

ディセットは「はっ」となり、納得して敬礼する。

 

「ところで、我々の技術力の息がかかった連邦の新型機の話はどうなっている?」

 

「はっ!現在、オーストラリアのトリントン基地おいて試験配備され、日々データ取りがされています。機体はバイアランがベースですが、あのトールギスのデータを反映させてあります。駆動系、主機関もOZで開発したものとなっています」

 

「うむ………期待している…」

 

そのトリントン基地において、空中を舞う戦士の姿があった。

 

バイアランカスタムである。

 

かつてティターンズのMSが連邦軍の正規MSとして、更にはOZのバックアップを受けて復活していた。

 

スラスターから噴出する青白い炎がその機体を華麗に舞わせる。

 

そのスピードはかなりのものとなり、パイロットに負荷をかけていく。

 

「ふふ…こいつはかなりのGだ!!!」

 

パイロットはニヤつきながら素早いコントロールで機体を一旦減速させた。

 

バイアランは減速後、機体を回転させながら姿勢を立て直して降下する。

 

そしてオーストラリアの大地の低空を滑空しながら更なる加速を測る。

 

「トータルデータだけでもバイアランの数段上を行ってやがる………こいつならイレギュラーのガンダムと渡り合えるな!!!」

 

パイロットの高揚感に呼応するかのように更なる加速をかけてバイアランは駆け抜けていった。

 

基地へと帰還したバイアランカスタムが、基地格納庫へとドックインする。

 

その際の決め細やかな姿勢制御の操作もなかなかのものだった。

 

バイアランカスタムのコックピットから先程のパイロットが出てくる。

 

彼の名はディエス・ロビン。

 

かつてティターンズに所属していた。エリートパイロットの一人であった。

 

そこへ専属の整備兵がかけより、バイアランカスタムの機体の整備加減を尋ねた。

 

「ディエス少佐、どうです!?バイアランカスタムの感じは!?」

 

「ああ、昔乗った先代のバイアランよりも優れたパワーがある!!武装はまだ試してはないが、トータルで見ても文句の付けようがない。可動もクイックになっているし、機動性も先代とは別物だ。それに整備も良くされている」

 

ディエスはバイアランカスタムの出来に大いに満足感を得ていた。

 

それに整備兵も喜ぶように機体について語り出す。

 

整備兵の性(さが)とでもいうべきか。

 

「そうですか!!ありがとうございます!!何せこの機体、あのOZの技術者と協同開発したものなんです。動力機関、駆動系がそれでして、従来のMSとはひと味違う性能になっているんです!!」

 

かつての自分の機体とパワーアップして再会ような高揚感にも満たされ、ディエスは益々バイアランカスタムが気に入るようになる。

 

「なるほどな………あのOZの息がかかったバイアランか!!益々気に入った!!こいつならばあの反乱分子と渡り合うこともできるだろうな!!」

 

「はい!!もしもの時はお願いしますね!!」

 

「ふん………任せろ。バイアランと俺ならやれるさ。余談だが……俺はこいつがアジア神話の麒麟にも思えてならない」

 

「麒麟………ですか」

 

「あぁ。聖なる感じがするんだ………にしてもだ…」

 

ディエスはバイアランカスタムが新兵器であり、OZの息がかかった機体であることから、腕組みしながら危惧の概念を過らせた。

 

「はい?」

 

「OZと新兵器の要素がある以上、例の奴等が本当にこの基地に攻め入る可能性も否めん。油断するな……覚悟しておけ」

 

「え!?あ、はい!!」

 

ディエスは休憩中、基地内のデータベースで現在までの被害を確認していた。

 

データベースの画像には、世界各地の被害ポイントが映し出されていた。

 

(……距離的に離れてはいるが、かなりの基地が破壊されているな。あのラー・カイラムまで破壊されたと聞いた日には、度肝を抜かされたな……)

 

データベースと睨んでいるディエスの元へ、黒髪でショートボブヘアースタイルの女性士官が声をかけた。

 

「ディエス少佐!なーにやってるんですか?データベースとにらめっこなんて珍しいじゃないですか!」

 

「あ!?あぁ………フィーアか。気になることがあってな…っておい!」

 

すると女性士官・フィーアは、ずいっとデータベースを覗きこんだ。

 

「なになに!?えーと……反乱分子、メテオ・ブレイクス・ヘル製ガンダムの被害状況……?」

 

「あぁ。俺のバイアランカスタムがこの基地の火種になりそうだったんでな………参考なまでに見てたのさ」

 

メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムについてフィーアは、つい今さっきの明るい表情に陰を見せた。

 

恐怖と哀しみからであった。

 

連邦の士官といえど、全てがティターンズの延長線上のような兵士ではない。

 

ディエスやフィーアもその内の人間であった。

 

「……恐い…ですよね………反乱分子のガンダム……襲われた基地の人達は一握りしか生き残れなかったって聞いてます…」

 

「連邦の体制の代償さ………素直に宇宙の連中の自治権を認めて、仲良くすればこうはならんはずだ。今に宇宙世紀も100年てのにな……」

 

「ディエス少佐、もしもの時は守ってくださいね?」

 

「勿論だ………」

 

そう言いながらディエスとフィーアはキスを交わす。

 

二人は恋仲であったのだ。

 

その頃、トリントン基地から3km地点の岩場で五飛がシェンロンガンダムのコックピットから、トリントン基地を監視していた。

 

シェンロンガンダムは光学迷彩システムによって周囲と一体となっており、視認が困難な状態にさせていた。

 

GND合金のステルス性に加え完璧なまでのカモフラージュである。

 

「ナタク……今夜打って出るぞ………恐らくは手練れだ!!」

 

シェンロンガンダムに語りかけた五飛は、ニヤリと不敵に笑った。

 

 

 

アルジェリア・地球連邦軍アルジェ基地

 

 

ザクⅢとヤクト・ドーガが、2機掛かりでホバー走行しながら基地に攻め入る。

 

アフリカ北部の地球連邦軍基地の中でも、比較的に規模が大きい基地だ。

 

だが、アフリカ大陸の一部の基地にはジムⅡやネモ、ガンキャノンD(ディテクター)といった旧型機が多数配備されていた。

 

コストダウンを図ったあこぎな上層部の思惑の表れであった。

 

ザクⅢは口とからメガ粒子砲を撃ち飛ばしながらビームライフルを放ち、ヤクト・ドーガはファンネルを展開攻撃させながらビームマシンガンを発砲し続けた。

 

断続かつ連続で撃ち放たれるビーム群が、ジムⅡやネモの機体群を次々と穿ち、装甲を焼灼して確実に破壊する。

 

ごり押し戦法で攻め入るザクⅢとヤクト・ドーガの攻めに、旧世代機達は虚しく破壊されていく。

 

専用マシンガンであるジムライフルを装備したネモ部隊が一斉に攻撃をかけるも効果はなく、ネオジオンサイドのMSの装甲に小爆発を発生させるに止まる。

 

そしてビームライフルとビームマシンガン、ファンネルの反撃のビームで返り討ちに見舞われた。

 

その場にいたネモとジムⅡ部隊は、爆発を撒き散らして瞬く間に壊滅した。

 

その付近の格納庫からは、ジェガンとジムⅢの部隊が出撃していく。

 

だが、出撃した瞬間を狙うかのように、シュツルムガルスが姿を表し、ナックルシールドで殴りかかる。

 

シールドのニードルがジムⅢの装甲を穿ち、陥没させた。

 

間髪入れずに連続で殴りかかり、ジムⅢ2機、ジェガン2機の装甲を陥没させた。

 

ジェガンとジムⅢが至近距離からビームライフルを放とうとするも、その次の瞬間にはビームライフルを殴り飛ばし、ナックルシールドの突きを食らわせる。

 

突きを食らったジムⅢとジェガンが接触し、転倒。

 

その瞬間を逃さなかったシュツルムガルスが、勢いをかけてナックルシールドをコックピット部に叩き込んだ。

 

ジェガンの装甲がひしゃげ、小規模の爆発を起こしながら胸部が爆発する。

 

ジェガンを撃破したシュツルムガルスは、体勢を直立させながらモノアイを光らせた。

 

ザクⅢとヤクト・ドーガの2機はMS格納庫に狙いを定めて破壊行動に移る。

 

放たれるメガ粒子砲やビームマシンガン、ファンネルのビーム火線に穿ちくだかれ、格納庫がメガ粒子とビーム弾丸により破砕。

 

内部に格納していたMSが確実に破壊された。

瓦礫が拡がり、燃え盛る炎の上にネオジオンのMS達が駆け抜け、基地の奥へと攻め入る。

 

対してジムⅢ部隊がビームライフルで一斉に射撃を開始し、 配置に着いていたガンキャノンD部隊がキャノン砲を放って対抗する。

 

ザクⅢ、ヤクト・ドーガ、シュツルムガルスの3機はこれを躱しながら突き進み、その背後ではキャノン砲の外し弾が地表を爆発させる。

 

突き進みながらザクⅢがビームライフルとメガ粒子砲を撃ち飛ばし、ヤクト・ドーガがビームマシンガンを連射しながらファンネルを断続的に撃ち放つ。

 

迫り来るビームの猛攻に圧されたMS達は呆気なく破壊されていった。

 

その激戦の上空を駆け抜ける2機のネオジオンの戦士達がいた。

 

シナンジュとギラズールカスタムだ。

 

シナンジュのコックピット内部では、フロンタルが不敵な薄ら笑いを浮かべて眼下の敵機達に照準を絞る。

 

「ここはダカール周辺の国々の連邦軍基地の一つ。ここで確実に打撃を与える。アンジェロ、存分に破壊しろ」

 

「はい!!大佐!!存分にやらさせていただきます!!」

 

アンジェロは歓喜が籠った返答をし、ランケブルーノランチャーをスタンバイさせる操作をした。

 

「では、降下する!!」

 

モニタースクリーン上でロック・オンされたターゲットに向かい、フロンタルはシナンジュを降下させる。

 

高速で降下するシナンジュが、ビームライフルを構え撃つ。

 

 

ビギュィィイイイイイッッッ!!!

 

ズッッ――――――ヴァグガァアアアアアン!!!

 

 

 

一直線に突き進む一矢のごときビームが1機のネモを仕止めた。

 

直撃部が瞬時に装甲を融解させて、爆発を発生させた。

 

シナンジュは滑空しながら連続でビームライフルを放つ。

 

高速の動きで狙いを定め、一瞬、一瞬の間に狂い無くターゲットのネモ、ジムⅢ部隊を破砕させていく。

 

更に加速したシナンジュは、低空を駆け抜けながらMS部隊の間をすり抜けた。

 

すり抜けきった直後にシナンジュは振り向きながら反転。

 

駆け抜けた敵機達に、ビームを間髪入れずに射撃して撃ち込む。

 

背後を撃たれたジムⅡやネモ達は瞬く間に射抜かれ、連続爆発を巻き起こしていった。

 

シナンジュは更にそこから上昇し、ビームライフルを斜め下へ向けて構えた。

 

狙いはガンキャノンD。

 

シナンジュの素早い射撃が、4機のガンキャノンDを撃ち抜いて爆砕させた。

 

「存分に………!!!」

 

それに続くようにアンジェロが不敵な笑いを浮かべて、ギラズールカスタムのランケブルーノランチャーを撃ち放つ。

 

 

 

ヴィギュリュイィィィ………ヴァズダァアアアアア!!!

 

 

 

凄まじいビームが、地表を抉り飛ばしながら複数のMS部隊を一気に吹き飛ばした。

 

ネモやジムⅡでは最早何の役目も果たせなかった。

 

更に基地の施設へとアンジェロは狙いを定めた。

 

「貴様らの脆弱さを思い知るがいい!!!」

 

発射された唸る粒子渦流ビームが、MS格納庫を吹き飛ばす。

 

無論、出撃前のMS部隊は巻き添えになり、激しく破壊されて爆砕する。

 

ギラズールカスタムは、発射を持続させながら横一線にビームを敷いた。

 

拡大する破壊領域。

 

無惨に巻き添えになったガンタンクⅡやガンキャノンD、ネモⅢの部隊が成す統べなく破砕された。

 

過剰すぎる援護射撃を受けたシナンジュは加速しながら基地を突き進み、その威圧的な存在感を奔らせる。

 

「どう抗うことも出来んよ………我々の前では」

 

シナンジュは再びビームライフルをかざし、ターゲットに止まったジムⅢを射抜いた。

 

そのジムⅢの爆発を尻目に、シナンジュは管制塔施設へと到達。

 

ビームライフルを向け、流星弾雨の嵐を施設全体へ慣行した。

 

 

 

ビギュィィッッ、ビギュィッッ、ビギュィ、ビギュィッッ、ビギュィ、ビギュィ、ビギュィ、ビギュィィイイイイイ!!!

 

ズッッドドドドゴゴゴガァアアアア……

 

 

 

基地施設の中枢が、瞬く間に爆発を巻き起こして崩壊。

 

至る所にて炎と黒煙が立ち上った。

 

フロンタルは眼下に拡がるその光景を、薄ら笑いを浮かべながら見下ろした。

 

「実によい光景だ。貴君らにはお似合いの状況だな……」

 

 

 

オルタンシア・バルコニー室。

 

 

 

心身共に疲弊したロニに、カトルが付き添う。

 

余りにもの多くのモノを失った彼女の哀しみを別ち合えるようにとそばに居続けていた。

 

カトルに寄り添ったまま俯くロニがポツリと呟く。

 

「何故………何故こうなるの?あのテロがなければこんな……それに………ジオンを支援する事を、お父様の信念が正しい行いと信じてここまで来ていたのに……ここまで強いたげられるなんて………!!」

 

社員を送り出して脱出すると毅然に振る舞っていたロニの姿はもうなかった。

 

「そうだね………ここまで強いたげられる事なんてないはずだ」

 

「お父様………うっ…うぅっ………」

 

哀しみが寄り添うロニの体温を通してカトルに伝わる。

 

「僕にも伝わるのがわかるよ。ロニの哀しみが。心までもがいたくなる…」

 

カトルは少しでもロニの事を別ち合えるように努めるように振る舞うが、いつまでも哀しみに浸り尽くすわけにはいかない。

 

カトルは、プルが置いていったパフェに視線を送るとロニに差し出す。

 

「ロニ……そう言えばさっき此処にいるニュータイプのコがパフェを差し入れに置いていったんだ。少しでも哀しみが癒せればってね。食べる?」

 

「え?う、うん」

 

カトルはスプーンでパフェをロニの口に運ぶ。

 

このシチュエーションは二人に恥ずかしげな感覚を与え、少しばかり顔を赤くさせた。

 

幼馴染みの年上にあーんさせる恥ずかしさと、幼馴染みの年下からあーんしてもらう恥ずかしさが交錯する。

 

パフェを口にしたロニは、口に広がるパフェの美味しさを感じた。

 

それは哀しみの囚われを拭った瞬間だった。

 

「美味しい………!!」

 

「本当?!よかった!!はい!」

 

カトルはパフェを掬ったスプーンを再びロニの口に運ぶ。

 

「はいって………じゃ、もう一回だけ。後は自分で食べるから」

 

「う、うん」

 

そう言うとロニは恥ずかしそうにあーんしてパフェを食べ、パフェのグラスを手に取った。

 

「……これ作ったコ……ニュータイプって言ってたわね。やっぱり不思議な力が働くのかしら?」

 

「かもね………」

 

「何か………本当に不思議な感じ。哀しみが癒される気持ちになれる…」

 

その時だった。バルコニーの部屋のドアが開いた。

 

「入るね~!!あたしのアラカルト持ってきたよー……あ!!」

 

「あ、プル!!大丈夫だよ!!」

 

プルは二人の間の邪魔をしたと思い、あわててドアを閉めた。

 

だが、カトルは差し入れに来たとわかり、プルを引き留めて部屋に招いた。

 

「彼女がパフェを作ってくれたエルピー・プル。仲間がオーガスタ研究所から救出してきたニュータイプのコさ」

 

「よろしくね!!え…と…」

 

まだプルはロニの名をしらなかった為に言葉が止まる。

 

するとロニは自ら名を口にした。

 

「ロニ。ロニ・ガーベイ。カトルの幼馴染みよ。あなたが作ったパフェ、とても美味しいわ。なんか……癒される感じがした……不思議な美味しさよ」

 

「本当!!?よかった~!!じゃ、アラカルトのハンバーグも食べて見て~」

 

プルは喜びながらアラカルトのハンバーグを進めた。

 

普通であればパフェが後なはずだが、カトルとロニは細かいことは気にしていなかった。

 

ロニはスッとパフェを置いてハンバーグに手をつけた。

 

「うん……じゃ、頂くわ………………」

 

カトルとロニはハンバーグを味わいながら食べる。

 

じっとプルは二人を見つめた。

 

一口を堪能しきったロニは、プルを見つめながら言う。

 

「これも美味い!本当に料理が上手ね!!きっと調理師に向いてるわ」

 

「えへへ………実は研究所にいるときに、優しくしてもらってた人から料理教わってたの!」

 

「そうなんだ…オーガスタ研究所って言っても中には良い人もいたのね」

 

「そーなの!その人は趣味で料理が好きでね!色々知ってて~」

 

「へぇ~」

 

カトルはプルと打ち解け始めたロニの会話を聞きながら微笑ましく感じた。

 

ロニからは哀しみの囚われが無くなっていた。

 

一時的には違いないが、少なくともプルと関わってから哀しみの囚われは晴れていた。

 

カトルはプルに感謝の気持ちを抱いた。

 

(プル………ありがとう。やっぱりニュータイプは不思議な感じを覚えさせてくれる。少なくともこの瞬間はロニに安らぎがあるよ…)

 

知らず知らずの内に女子同士の会話がなされ、プチ女子会のような雰囲気になってきていた。

 

安心して部屋を出たカトルは、トロワとアディンの所へと赴く。

 

そこには呑み終えたオデルもいた。

 

Gマイスターの男四人が、仰向けになってドックインしている自分達のガンダムを見ながら語る。

 

右からガンダムジェミナス01、ガンダムジェミナス02、ガンダムヘビーアームズ、ガンダムサンドロックの順に並んでいる。

 

「――――ジェミナスもこれで俺の反応にリンクしてくれたぜ!」

 

「一人でよくやったなアディン!少しは成長したな!」

 

「なんだよ、兄さん!?誉めるなんて珍しい!?」

 

「なんだよ?俺だってお前を頭ごなしに普段から言ってる訳じゃないんだぞ!?素直にとれ……とまぁ………普段から自分とメカの反応に違和感を感じていたんだな?」

 

「まーね。感覚じゃ薄々気づいてたけど、やれるタイミングがなかったからズルズルってね!ここらでやっとこうと思ったのさ!」

 

「初期のお前の反応シュミレーションのOS設定にズレがあったんだろうな……それだけ今、お前の反応速度が初期より速くなっている証拠だ」

 

「へぇー……よっしゃあ………!!」

 

メカの話は男心を高ぶらせる事が多い。

 

メカの精通があるトロワも静かに熱くなる。

 

「俺はヘビーアームズとサンドロックをセットアップし終えた。そのついでにグリスアップもな。クイックに動く可動部にはメンテは必須だからな……特に動く腕や腰のロータリージョイントにはメンテは重点的にやるべきだ」

 

「そうだな。特に格闘戦の設定に片寄るサンドロックやアディンのジェミナス01には必須だな。戦闘中にイカれたらガンダムと言えど、メカがアウトだ」

 

頷きながら答えるオデル。

 

しばらくメカの話が続いたために、比較的メカの話が弱いカトルを気遣い、トロワが話をカトル振った。

 

「―――ところで、彼女の方はどうなんだ?カトル?」

 

「うん。一時的なんだろうけど今はプルのお陰もあって落ち着いたよ。やっぱりこういうときは女の子同士の会話が一番なのかな?」

 

「プル、人懐っこいからな~……それにしても流石だぜ!!傷心の女子と短時間で打ち解けれるんだもんな~」

 

「……彼氏は流石に知っているな」

 

あろうことか、トロワまでもがアディンをプルの彼氏と位置付けた物言いをした。

 

アディンはムキになって否定する。

 

「トロワまで~っ……だから違うっつーの!!」

 

「まぁまぁ………でも、アディンには少なくとも守るべき大切な存在なんでしょ?」

 

カトルはいい線の突き方でアディンに問いかけた。

 

アディンもこれには否定できない。

 

「あ、ま、まぁ……そうだな!!そーなんだよ、それ!!守るべき存在!!だから彼女とかそんなんじゃなくてな~……」

 

「あくまで彼女は否定か………プルが泣くぞ」

 

「だーかーらー!!」

 

「いーぞ、トロワ。うちの弟にもっと言ってやれっ」

 

「黙れ!!くそにーさん!!」

 

「なんだと、アディン!?」

 

他愛ない会話を笑いながら聞いたカトルは、自分達の任務を託したヒイロとデュオに意識を向けた。

 

(そう……守るべき存在は闘う為に必要な存在だ。だから今はこうしてロニの近くにいる選択をした。ヒイロ、デュオ……ごめん!!任務は頼んだよ)

 

 

地球連邦軍・セバストポリ宇宙港基地では、メテオ・ブレイクス・ヘルの一件で自らの身に危険が及ぶ事を恐れた地球連邦政府の一部の要人が、宇宙へ逃げる行動に出ていた。

 

「我々が地球に居ればいつ奴等に狙われるか判らん。今の内に宇宙へと逃れさせてもらうよ」

 

「同感ですな。後は下の者達に任せよう。精々頑張ってくれたまえ………」

 

身勝手な要人達を乗せたシャトルは、打ち上げ段階に入った。

 

警備にあたるジェガンのパイロット達は彼らの身勝手極まりない行動に愚痴をモニター越しに交わす。

 

「ったく………自分達だけ宇宙へ逃げるってか!?」

 

「要人連中が考えそうなことだな。ま、良い死に方しねーさ………」

 

「お前らこそやられちまえってな!!」

 

「ははは!違いない!!」

 

兵士達が冗談混じりの愚痴を放ったその直後だった。

 

基地施設一帯にサイレンが響き渡った。

 

「な、なんだ!?!」

 

「本当に敵襲かよ?!!」

 

一人のジェガンパイロットがモニタースクリーンを注視する。

 

すると、その情景に高速で突っ込む2機の所属不明機を肉眼で確認した。

 

ジェガンパイロットは、更にモニタースクリーンの一部を拡大させてその機影を確認する。

 

「本当だ………来やがった………!!!」

 

迫るガンダムの姿に戦慄を覚えたジェガンパイロット達は直ぐに戦闘体制に移り、ビームライフルをスタンバイさせた。

 

ウィングガンダムのコックピットモニターでは、高速で眼下を滑っていく滑走路上にシャトルとジェガン部隊を捉えていた。

 

「ターゲットのシャトル、スペースポートを確認。これより破壊する」

 

ヒイロは機体をそのままの速度を維持したまま基地に機体を突入させていく。

 

その時、サイドモニターにデュオからの通信が入り、

ヒイロはすっと横目でサイドモニターを見た。

 

「よーやく到着したな!!さっさと掃除してずらかろうぜ!!ソマリアのメインディッシュが控えてるんだからな~!!」

 

「………お前に言われなくてもそのつもりだ」

 

「へっ!!そんじゃ、お先に行くぜ!!!」

 

「ふんっ………勝手にしろ…」

 

余裕の会話を少しばかり交わすと、デュオがスピーディーにガンダムデスサイズを降下させ、ジェガンの武装をしたジムⅢ部隊へ突入させた。

 

超低空を滑るようにしてビームサイズを振りかぶった。

 

「死神が通るぜぇぇぇっっ!!!」

 

迎撃のビーム射撃をモノともせずにかわして、減速をかけながら一瞬の斬撃をあびせる。

 

 

 

ギュウィッ―――――ザァギィギャアアアアアッッ!!!

 

グゴォバァガアアアッッッ!!!

 

 

 

装甲を瞬間的に焼灼しながら3機をまとめて斬り飛ばし、高速で旋回しながらもう一小隊分(3機)のジムⅢ部隊に回り込み、その背後を捉える。

 

両眼をギンと光らせた死神が内2機を斬り払うと、バスターシールドを展開させ、後の1機のジムⅢに殴りかかるようにビームの刃を刺突させた。

 

機体を激しく爆破させながら破裂するようにジムⅢが砕け散る。

 

そこへ、ジェガンがビームサーベルを振りかぶってガンダムデスサイズの背後を捉える。

 

だが、ビームサーベルが降り下ろされた瞬間にバスターシールドを後ろへ回し、ジェガンの脇腹へビーム刃を突き刺した。

 

 

 

ズジュドォオオオオオッッッ………!!!

 

ジジュゴォオオォ……ゴォバァオオオオオオンッッ!!!

 

 

 

胸部を灼かれながらスパークを起こしてジェガンは爆砕した。

 

そこへビームライフルの射撃が連続でガンダムデスサイズに撃ち注がれた。

 

「っ………はいはい、今すぐ狩ってやんぜぇっっ!!!」

 

ガンダムデスサイズは、攻撃を仕掛けるジェガン部隊を睨み、再びビームサイズを振り構えて加速する。

 

 

ゴッッ―――――ザァギギャアアアアアッッ!!!

 

ヴァズグゴゴゴォオオオオォォォ!!!

 

 

 

唸るビームサイズの斬撃が、ジェガン3機を破断させ葬った。

 

爆発を巻き起こしたジェガン達の炎越しに、死神の眼光が光った。

 

敵機の撃破を開始したガンダムデスサイズに対し、ウィングガンダムは更に機体を突き進ませる。

 

ジェガン、リゼル部隊が迎撃射撃をかけながら応戦するが、ウィングガンダムは直撃を受けても全く効果を見せなかった。

 

そしてヒイロは迫るターゲットと機影を見据えながら上部レバーをスライド操作し、機体をMSへと変形させた。

 

機体各部を変形させたウィングガンダムは長いバスターライフルの銃身を持ち上げ、直線上の敵機群にその銃口を向けた。

 

「……ターゲット捕捉、破壊する」

 

ヒイロは鋭い眼差しでモニタースクリーンを見ながらトリガーを操作した。

 

バスターライフルの銃口にエネルギーが充填され、スパークするエネルギー球を発生させる。

 

そして一気に爆発するエネルギーが開放された。

 

 

 

ヴィギュリュイィィィィ………ヴァドォヴァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

ヴヴォドォヴァアアアアアアアアアアアアア……

 

 

 

撃ち出されたビーム渦流が一気に直進し、ジェガン3機、リゼル3機、ジムⅢ3機が直撃を受け吹き飛ばされる。

 

更にビーム渦流付近にいた機体群が巻き起こる高エネルギーに耐えきれずに、次々と誘爆を引き起こして爆発していく。

 

 

 

ドォヴァドドドドゴゴゴガァアアアアン!!!

 

 

 

そのビーム渦流が、先程のジェガンパイロット達にも直進する。

 

最早成す術はない。

 

「高エネルギー熱源、急接近っ………ぅああああ!!!」

 

「冗談じゃねー………本当にMSかよ………!!?」

 

「ははは………ははは……おわた………」

 

ジェガン3機が一瞬でビーム渦流に呑まれた次の瞬間には、要人シャトルとスペースポートへと直進していた。

 

「―――ぅぉがはっ―――!!!!」

 

ビーム渦流がシャトル諸とも要人達を灼き尽くし、最後にはスペースポートを吹き飛ばして破砕させた。

 

凄まじい攻撃が過ぎ去った痕は灼き抉られた地表があるだけだった。

 

「ターゲット破砕………任務完了………後は残存勢力を破壊しながら撤収する」

 

ヒイロは上空のターゲットへと選択し、リゼル部隊にオートロックをかけた。

 

ウィングガンダムは、ホバリングしながらバスターライフルを捕捉した上空のリゼル部隊に向ける。

 

リゼル部隊は加速をかけながらビームライフルによる射撃を仕掛ける。

 

向かい来るビームが、ウィングガンダムのボディーを掠めては直撃し、掠めては直撃する。

 

連邦のパイロット達は既に背水の陣の覚悟で行動をしていた。

 

多重にロックしたリゼル達を見つめながらヒイロはバスターライフルを放つ操作をした。

 

ウィングガンダムがバスターライフルのビーム渦流を撃ち放つ。

 

凄まじいビームが空を突き進んだ。

 

 

 

ヴヴォヴバァアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

突き進んだビーム渦流がかき消すようにリゼルの機体群を崩壊させて破砕させていく。

 

 

 

ギュヴィゴォアアアアアアアアアアァァ………!!!

 

ドドドドゴシュァァアアアアアッッ―――ドドドドゴゴゴガァアアアアン!!!

 

 

 

幾つもの破砕されたリゼル達の爆発が拡がった。

 

その光景をなんの違和感無くヒイロは見つめていた。

 

戦士として当然の感覚なのであろう。

 

ヒイロは再び地上の敵機に銃口を向けると、ジムⅢとロトの部隊へと見据えながらバスターライフルを放つ。

 

ウィングガンダムの眼光が光り、バスターライフルの銃口が唸った。

 

 

 

ヴァグヴァアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

地表を抉り飛ばす破壊の渦が、次々とMS群を破壊し尽くして突き進む。

 

その滑るビーム渦流が、地表を高エネルギーで爆破させる。

 

高く巻き起こる爆発が被害を更に甚大にさせた。

 

その光景を見ながらヒイロは次の任務の事を思考に入れていた。

 

それが呟きとなって現れる。

 

「ソマリア………か…」

 

ソマリアの連邦・OZの合同基地施設では、日夜MSの出撃と帰還が絶えない。

 

世界に点在するエリアの中で最もテロリストが跋扈するエリア故に、戦闘は絶えない。

 

治安の悪さも国全体へ行き渡っており、旧世紀より何ら情勢は変わっていない。

 

無論ながら、現地周辺にもジオン残存勢力はいたが、

実は彼らの討伐よりも、テロリスト討伐が優先される状況にあった。

 

今日という日もエアリーズやリーオー、ジェガン、アンクシャの混合部隊を乗せた輸送機が離発着する。

 

マリーダが滞在中のエリアにもそこからの使者達が進行する。

 

マリーダはこれらを随時迎撃するようにしていた。

 

既に戦闘が展開され、飛び交うファンネルがエアリーズ部隊を狙い撃ち、個々に撃墜していく。

 

 

 

ビギュィィイイイイイ!!! ビビビギュウィッ、ビビビギュッ、ビビビギュウィビギュィィイイイイイッ!!!

 

ズドォアッッ、ゴバガァッッ、ドドドドゴォオオオオオオンッッ………

 

その狙いに寸分の狂いもない。

 

各個爆発を起こして四散するエアリーズの中にクシャトリヤが四枚のウィングバインダーを展開させてホバリングする。

 

「ここから先へは行かせはしない!!!お前達の侵攻は私とクシャトリヤが阻止する!!!」

 

目を見開いたマリーダは、続けて迫るアンクシャにファンネルを向かわせた。

 

アンクシャ部隊は先制にビームライフルを放つ。

 

だが、ビームはクシャトリヤのIフィールドに阻まれ無力化してしまう。

 

「!!?」

 

パイロットが動揺する間もなく、1機のアンクシャにファンネルが取り囲む。

 

四方八方からのビームがアンクシャを連続射撃して破壊する。

 

ファンネルはマリーダの意思で素早く動き、瞬く間にアンクシャを撃墜していく。

 

狙い撃ちされた1機のアンクシャは炎の玉と化し、隕石のごとく墜落した。

 

残りのアンクシャがMSへと変形し、クシャトリヤにビームサーベルで斬りかかる。

 

「小賢しい!!!」

 

素早い動きでクシャトリヤはビームサーベルを取りだし、ビームの刃を振るう。

 

ビームの刃同士が激突し、スパークを起こす。

 

マリーダは巧みにコントロールレバーを動かし、アンクシャのビームサーベルを捌く。

 

その一瞬の隙を逃さず、クシャトリヤはアンクシャのボディーを横一線に斬り刻んだ。

 

 

ギャヴィッッッ―――ザァガァギャアアアアア!!!

 

ヴァズオオオォォ!!!

 

その光景の下では、墜落したアンクシャが燃え上がる横を、ドムトローペン達が駆け抜ける。

 

走るドムトローペン達は、ラケーテンバズーカを撃ち放って地上展開するリーオーとスタークジェガンの部隊へと攻撃する。

 

だが、ラケーテンバズーカの弾丸は、各ガンダリウム性のシールドに阻まれた。

 

シールドが若干陥没したに過ぎなかった。

 

「っっ!!馬鹿な!!今の連邦はこうも………!!!」

 

ジオン残存兵はドムトローペンを減速させる操作をするが、前方から迫るビームとバズーカの弾雨により虚しく破壊された。

 

力による圧制を体現する連邦とOZのMS達。

 

だが、その背後にクシャトリヤが降り立つ。

 

光るクシャトリヤのモノアイ。

 

各機が一斉に振り向くが、間髪入れずにファンネルの一斉攻撃の洗礼の直撃を受ける。

 

ビームの弾雨が文字通り雨のごとく撃ち注がれた。

 

ビームは全てMSの急所たる部位を撃ち抜く。

 

 

 

ビビギュィッ、ビビビギュッ、ビビビビビビィギィィイイインッッッ!!!

 

ズドォアッッ、ガァガァガァガァゴゴゴォアアアン!!!

 

 

 

一瞬で連邦とOZのMS達は瓦礫となって、ソマリアの地に墜ちた。

 

マリーダは、敵機壊滅を確認し、システムを通常に移行する操作をした。

 

その時モニタースクリーンに拡がる光景を見ながらマリーダは呟いた。

 

「力に成す術なく蹂躙されるとはこう言うことだ。身をもって味わえ………」

 

ヘルメットを取り、一息つくマリーダ。

 

「ふぅ…ん!?」

 

突如入る通信。

 

それはフロンタルからのものだった。

 

「こちらはフロンタル。マリーダ中尉、そちらの状況はどうかな?」

 

「はい、只今敵機群を壊滅させたところです。大佐の方はいかがです?」

 

「我々もアルジェ基地を壊滅させた。今後は転々と残存軍の駐屯所に滞在する形でダカールを目指す事になる。だが、足取りを連邦に把握されないよう敢えて戦闘は押さえてもらう。戦闘はダカールに到達した時、存分に振る舞えばいい」

 

「了解しました。ですが、もし連邦からの攻撃に見舞われた場合は……」

 

「勿論、その時は1機残らず駆逐すればいい。通信は以上だ」

 

「はっ!」

 

マリーダは通信の終了と共に敬礼を解いた。

 

戦闘を控え、同胞の勢力域に潜伏する生活が始まる。

 

一見楽なようであるが、ダカール到達するまで連邦に行動を絶対に読まれてはならない。

 

それは気が許されない苛酷な状況が続く事を意味していた。

 

「気が抜けないな……連邦に把握される事は許されない………ダカール陥落の目的を果たすまでは。ふふっ、挑むところだ!私には待っている人、志を同じくする人達がいるのだから………」

 

瞳を閉じながら、マリーダはプルやヒイロ、ジンネマンを想う。

 

更にはふとカレッタ少年の存在も心中を過った。

 

彼らの存在が今のマリーダの心を支えている。

 

終らない連邦とジオンの因縁に、色々な角度から立ち向かう想いは共通していた。

 

陥落したセバストポリ宇宙港基地で佇むウィングガンダムとガンダムデスサイズ。

 

この時、コックピット内のヒイロは、マリーダの想いに以心伝心したかのごとくソマリア方面へと顔を向けた。

 

「……マリーダ…」

 

何故かマリーダの名を呟くヒイロ。

 

ヒイロもまた深層心理上でマリーダを想っていた。

 

出会って間もない二人であるが、互いに過ごした短い時間の中で交わした会話が、想いの芯を作ったと言ってもいいだろう。

 

兵士として闘う事に存在意義を見出だす二人は、お互いのいる距離が離れていても関係はなかった。

 

二人が背中合わせでいるかのように……。

 

 

 

オーストラリア・トリントン基地

 

 

 

夜が更けて間もなくした頃、基地施設に爆発が起こり、MS格納庫が爆発炎上する。

 

サイレンが鳴り響き、難を逃れた格納庫からジムⅢが出撃していく。

 

「敵襲!!敵襲ぅ!!!」

 

連邦の兵士達はあわてふためき、炎上する基地を駆け巡る。

 

そこへ追い討ちをかけるように、唸るジェット噴射のごとき炎。

 

あらゆる物を溶かし飛ばし、更なる爆発を巻き起こして被害を拡大させた。

 

それを成したのは龍が放つ炎。

 

龍が鎌首をもたげたそこには、雄々しく立つシェンロンガンダムがいた。

 

炎上するトリントン基地に龍が降臨したのだ。

 

シェンロンガンダムはドラゴンハングをかざし、火炎放射しながら上体を180度旋回させる。

 

爆発が更に連続で巻き起こった。

 

この惨状を断ち切らんと、シェンロンガンダムの背後より、ジムⅢがビームサーベルで斬りかかる。

 

だが……。

 

 

 

ガァギャガァアアアアアッッッッ!!!

 

 

 

それを見透かしたかのようにシェンロンガンダムは、ドラゴンハングで砕き飛ばした。

 

「ふん……!!雑魚に用はない!!!」

 

振り返ったシェンロンガンダムは、ドラゴンハングを伸ばし、もう1機のジムⅢを掴み砕く。

 

否、噛み砕くというべきか。

 

ドラゴンハングがジムⅢを咥えたまま地面と叩きつけた。

 

叩きつけられたジムⅢは激しく破砕し、爆発した。

 

上体を起こしたシェンロンガンダムは、ドラゴンハングを縮め、左のマニピュレーターに握っていた僚牙を振るってその場から加速する。

 

五飛の目的は無論、バイアランカスタムである。

 

ヒイロ達であれば真っ先に起動する前に破壊しているはずだが、五飛は違った。

 

敢えて直接破壊せずに基地を破壊して、敵機を炙り出そうとしていた。

 

何故なら五飛は直感でバイアランカスタムが望んでいた強者と見据えていたからだ。

 

強者の決闘こそ、彼本来の闘いのスタンスなのだ。

 

加速するシェンロンガンダムの前に、3機のジェガンが立ちはだかる。

 

ビームライフルのビーム弾がシェンロンガンダムに撃ち注がれる。

 

「邪魔だ、退け!!!」

 

 

 

ヒュッ………ザァガァギャアアアアア!!!

 

 

 

シェンロンガンダムはモノともせずに僚牙で3機まとめて斬り飛ばした。

 

更に左側面からのビームや実弾の弾雨が撃ち注がれる。

 

シェンロンガンダムは、ジェガンとジムⅢ、ガンキャノンDの部隊へ睨みつけながら、背面のビームグレイブを手に取り加速した。

 

シェンロンガンダムの装甲面でビームや実弾が虚しく弾かれていく。

 

GND合金の前に、一般兵器は意味を成さない。

 

ジムⅢ3機は僚牙の一振りで豪快に破断され、ジェガン1機がビームグレイブで串刺しにされた。

 

 

 

ザァガァギャアアッッ、ズジュドォオオオオ!!!

 

ドドドドゴォガアアアアン!!!

 

 

 

爆発を突き抜け、更にビームグレイブの一振りでジェガン2機を斬り飛ばし、ジムⅢ2機を僚牙破断させる。

 

 

 

ギャジュィイイイイ、ガズガガギャアアアッッ!!!

 

 

 

そして間髪入れずに、ジムⅢとガンキャノンD部隊へ踏み込み、豪快にビームグレイブと僚牙を暴れるように振るい、完膚なきまでに破壊した。

 

ザァガァッッ、ズジュドォオッッ、ギャガオンッッ、ザァガァッッ、ギャガイイイッッ、ディガギン、ズジュガァッッ――――

 

ザァガガギャン、ギャズズズガァ!!!!

 

ゴゴゴォバァアアアアアア!!!

 

無双斬撃を展開させ、ビームグレイブと僚牙を振り下ろしたシェンロンガンダムの背後に激しい爆発の炎が巻き起こった。

 

 

 

ゴォオオン!!!

 

 

 

「っ…!!」

 

シェンロンガンダムの側面からバズーカの砲弾が直撃した。

 

それはスタークジェガンであった。

 

バズーカを突き出し、シェンロンガンダムの胸部へ突っ込む。

 

質量的な衝撃を受けてシェンロンガンダムはスタークジェガンに吹っ飛ばされた。

 

轟音を響かせて基地施設へ突っ込む2機。

 

スタークジェガンはこれでもかとバズーカを零距離から撃ち放ち、何発も幾度なく弾丸が尽きるまで撃ち込んだ。

 

通常のMSであれば、当に破壊されている。

 

だが、銃口を密着させた部位は、白煙を上げながら少しばかり焦げているだけに止まっていた。

 

「――――何!??」

 

ほぼ無傷の装甲を見て、驚愕するスタークジェガンのパイロット。

 

そして、シェンロンガンダムは両眼を光らせ、至近距離から火炎放射を浴びせた。

 

 

 

ギュゴォアアアアアアアッッ ―――!!!

 

 

 

超高熱の青白い炎が、スタークジェガンの装甲を瞬く間に融解させていく。

 

「がぁああぁっっ―――!!!」

 

その高熱の炎はダクトや装甲の隙間、熔解面から機体内に入り、スタークジェガンは誘爆発を起こして爆砕した。

 

 

 

グヴァゴォオオオオオオオオオッッッッ!!!

 

 

 

駆動音を鳴らして、シェンロンガンダムが起き上がる。

 

五飛も機体共々無事であり、更に不敵な言葉を吐き飛ばした。

 

「なかなかの攻め方だったな………さぁ………貴様達の正義、見せてみろ!!!俺は逃げも隠れもしない!!!」

 

爆発音が鳴り響く中、ディエスはバイアランカスタムにフィーアを連れて乗り込み、機体を起動させていた。

 

「本当にガンダムが来ちゃうなんて………あたし、あたし………!!!」

 

「フィーア、泣くなよ………連邦士官だろ!?大丈夫だ!!!俺とバイアランカスタムのコンビなんだからな!!!」

 

「ディエス少佐………」

 

モニタースクリーンが起動し、各標示事項が標示されていく。

 

だが、起こった火災は激しさを増していく。

 

基地の至る特定箇所でバックドラフト現象が巻き起こり基地施設の破壊が促進していく。

 

「フィーア………トリントン基地はダメだろう………主要施設もMSも殆どが破壊されている。死ぬも生きるも一緒だ!!だからお前を乗せたんだ!!」

 

「ディエス少佐、ううん………ディエス、好き」

 

「……知ってるよ」

 

再び二人はキスを交わす。

 

守るべき者を見据えた戦士は、レバーをスライドさせ、バイアランカスタムを舞い上がらせた。

 

夜空へ高く舞い上がったバイアランカスタムは、シェンロンガンダムの遥か上の上空を獲った。

 

これを見た五飛は不敵に笑った。

 

「ふん―――やっと現れたか!!!目標捕捉、いくぞナタク!!!」

 

この瞬間、バイアランカスタムのコックピット内のフィーアはスクリーンに拡がる満天の星空に釘付けとなった。

 

とても綺麗なものだった。

 

これがデートだったらどれほどよかったのだろうか。

 

対し、ディエスは眼下にいるシェンロンガンダムを見下ろしていた。

 

(……バイアランカスタム………俺達は今空にいる。下の奴に一矢報いるか!??ん!??)

 

ディエスは驚愕した。

 

シェンロンガンダムが単機でバイアランカスタムへ向かい急上昇してきていたのだ。

 

GNDドライヴが成せる業である。

 

「フィーア………歯を食い縛って捕まっていろ!!!男としての闘いだ!!!!」

 

「え!?きゃあああ!??」

 

ディエスはバイアランカスタムを急降下させた。

 

バイアランカスタムは急降下しながらビームサーベルを発動させ、迫るシェンロンガンダムに斬りかかる。

 

今、龍と麒麟が激突する。

 

「一矢報いらせてもらう!!!反乱ガンダム!!!」

 

対し、シェンロンガンダムもビームグレイブを握りしめて迫った。

 

「貴様の正義を見せてみろ!!!」

 

そして2機の刃が空中で激しくスパークを起こして激突した。

 

 

 

ギュゴォアッッ――――ギャギガァアアアアアアア!!!

 

 

2機は垂直に交差した後に、軌道転換して再び斬りかかる。

 

ビームグレイブとビームサーベルが、すれ違いながら打ち合う。

 

 

 

ギャギガァアッッ!!!

 

 

 

そして三度目の方向転換で2機は平行に迫り合った。

 

空気をかき切る音を唸らせて加速するシェンロンガンダムとバイアランカスタム。

 

ビームグレイブとビームサーベルが唸り振られて、刃が衝突した。

 

 

 

ギィディガァアアアアアッッ……!!!

 

ビームグレイブとビームサーベルの打ち合い。

 

シェンロンガンダムとバイアランカスタムのパワーとパワーが拮抗する。

 

この瞬間、五飛はバイアランカスタムへ向けて通信回線を開いた。

 

「俺の名は張 五飛!!!貴様の正義、見せてもらうぞ!!!勝負だ!!!!」

 

「何!??自ら回線を………!!?ならば…」

 

自ら回線を開いた五飛の行為に、ディエスも武人としての性を見せる。

 

既にフィーアを乗せている事にお構い無しであった。

 

「こちらバイアランカスタムのパイロット、ディエス・ロビンだ!!!五飛と言ったな………その言葉に答えてやるっっ!!!俺の正義、受け取るがいい!!!」

 

「やはり見込み通りの漢(おとこ)が乗っていたな………ナタク………ならば、いざ尋常に………!!!」

 

「勝負!!!」

 

 

 

ギャギィィィッッ!!!

 

 

 

シェンロンガンダムとバイアランカスタムの互いの捌き合いを狼煙に、勝負が開始された。

 

弾き合ったビームグレイブとビームサーベルを再び激突させ、数秒拮抗する。

 

再び弾き合うと、バイアランカスタムのビームサーベルの唸る斬撃がシェンロンガンダムを獲る。

 

これを直ぐに躱し、ビームグレイブをバイアランカスタムの側面へ斬り込む。

 

それをレフトアームのビームサーベルで受け止めて弾き返した。

 

一瞬2機は引き下がり、直ぐに加速。

 

激突した2機は得物を打ち合わせては打ち合う。

 

互いに一歩も引かない激しい戦闘は、更に激しさを増す。

 

高速の斬り合いに移行していく。

 

唸る斬撃を受け止めて、斬撃を繰り出すバイアランカスタム。

 

その斬撃を躱し、シェンロンガンダムはビームグレイブの連続突きを繰り出した。

 

「はぁあああああっ!!!」

 

「ちぃいいいいい………!!!!」

 

ディエスは迫り来るビームグレイブの連続突きを巧みにビームサーベルで受け止めて防御する。

 

そしてバイアランカスタムを一気に舞い上がらせて高速攻撃を大胆に躱してみせた。

 

「バイアランカスタム!!!翔んでこそ俺達だ!!!おおおおおおおお!!!」

 

バイアランカスタムは逆に急降下し、ガンダムサンドロックのごとく斬りかかる。

 

対し、シェンロンガンダムはビームグレイブを斬り上げた。

 

「面白い!!!はぁあああああっ!!!」

 

 

ギャギュゴォオオオオオオッッ――――!!!

 

 

2機の重い刃が激突。

 

互いに強烈な衝撃を与えながら凄まじいスパークを巻き起こした。

 

「ガンダム!!!」

 

「ふん!!!」

 

終わりなき攻め合いが更なる拮抗を産み、上下に小刻みに動くシェンロンガンダムとバイアランカスタム。

 

その時だった。

 

「っっー……ディエス、もうやめてー!!!しがみ付いているだけであたし精一杯ー……」

 

「フィーア!!」

 

「何!??ちぃいいいいい!!!」

 

フィーアの声を聞いた五飛は、一気にバイアランカスタムの刃を打ち上げるように捌いた。

 

「くっっ!!!これで終りにする!!!はぁあああああっ!!!」

 

決め手と決めたビームサーベルの一振りが唸りながらシェンロンガンダムに迫る。

 

だが、シェンロンガンダムは躱そうとも、攻めようともしなかった。

 

唸る斬撃がシェンロンガンダムに激突するその瞬間、シェンロンガンダムはレフトアームのシールドで刃を受け止めた。

 

「何!??」

 

先程までの激しい攻めから一転し、防御へと移したシェンロンガンダムの行動に、ディエスは違和感を示した。

 

更にそれ以前に伝わる手応えにも違和感を感じていた。

 

ビームサーベルは確かにシールドを斬ろうとしている。

 

だが、斬っている感覚ではなかった。

 

ディエスはここで初めてシェンロンガンダムの装甲が異質な装甲であることに気が付いた。

 

鉄の棒を鉄に押し当てているかのような感覚に似ていた。

 

「なんて装甲だ?!!」

 

「ディエスったら~!!!」

 

シートにしがみ付きながらフィーアは怒ってディエスの頭を叩いた。

 

「いてっ………!!」

 

その時だった。

 

五飛からの通信がバイアランカスタムのコックピットに響いた。

 

「貴様………女を乗せていたのか!!?」

 

「あ!?あぁ、そうだ、脱出する為にな!!!」

 

五飛は軽い口惜しさを感じながらバイアランカスタムのビームサーベルを弾き飛ばして叫んだ。

 

「俺は弱い者と女は殺さない………ディエスと言ったな………この勝負預けたぞ!!!次に闘う時は一人でかかってこい!!!」

 

五飛はそう吐き捨てると、シェンロンガンダムを上昇させ、トリントン基地から離脱した。

 

「な!??なんだと!??おい…………ったく、なにがなんだか…」

 

突然の戦闘解除に戸惑うディエスであったが、直ぐに我に帰り、フィーアを抱き寄せた。

 

「すまなかった!!フィーア!!だが、もう大丈夫だ!!!助かったんだ!!!フィーアのお陰でな!!」

 

「ディエス…ぁああ!!もう、怖かったんだから~!!!あたし、あたしー……」

 

「あぁ、悪かった!!もう、こんなことはしない!!でもこれだけは忘れるな!!お前のお陰なんだ!!お前のお陰でな!!」

 

トリントン基地を飛び去っていく五飛とシェンロンガンダム。

 

白熱した闘いに水がさし、五飛はやや不満げであったが、それ以上に渡り合ってくれる強者と出会えたことに高揚感を感じてならなかった。

 

「とんだ水をさされたな……だが、強い者と出会えた。奴は間違いなく本物だ………次に闘える時が愉しみだな、ナタク」

 

 

 

ソマリア・ジオン残存軍駐屯地

 

 

戦闘の疲れを癒すようにマリーダ達がテント内で食事をしていた。

 

現地から調達した料理が並び、団らんのひとときが流れる。

 

マリーダは、ここの残存軍にもガランシェール隊に似た家族的なモノを感じていた。

 

会話の中でも笑いが溢れるときも見受けられた。

 

その中で民間の現地少年・カレッタも混ざり、憧れのマリーダとのひとときを楽しんでいた。

 

実はこの日はマリーダの滞在最終日の夜であった。

 

明日の朝にも次に潜伏するポイントへ移動する予定でいた。

 

このことを知ったカレッタ少年は、食事を終えた後、がっかりした感を出しながらマリーダに訪ねた。

 

「マリーダ姐ちゃん………明日からもう、会えないの!?」

 

想いを寄せているために、切なくて仕方がないカレッタ少年。

 

彼の気持ちは、マリーダの思考にもひしひしと伝わる。

 

「ああ。明日の明日にも次に闘う所へ行く。当分は会えん」

 

「そっか………やっぱり、行っちゃうんだね?」

 

「ああ。任務だからな。カレッタ…お前は男だろ?もっとしゃきっとしたほうがいいぞ…」

 

憧れの女性にそう言われたカレッタは、ぐっとある意味追い詰められた感に見舞われた。

 

するとカレッタはばっと立ち上がり、マリーダに向いた。

 

もう既にこの時点でマリーダはカレッタの思考が解ってはいたが、敢えて何も言わなかった。

 

「ま、マリーダ姐ちゃん!!わかった!!しゃきっとするね!!俺は…俺はっ………ま、マリーダ姐ちゃんの事、好きです!!一目惚れでした!!だから、また来てほしいんだ!!付き合ってくださいっっ!!」

 

面と向かってマリーダに告白の言葉を送ったカレッタ少年。

 

マリーダもカレッタ少年の気持ちを解っていながらも、本人からの言葉を直接貰うと、また違った感覚を覚える。

 

「……っあ、そ、そうか…そうなのか……」

 

実際、マリーダ自身は人生において初めて異性からの告白を受けた。

 

だが、意中の存在はヒイロだ。

 

マリーダ自身、返す言葉が解らなくなる。

 

かと言って嘘を言っても仕方がない。

 

マリーダも自身の気持ちをカレッタ少年にぶつけた。

 

「カレッタ………気持ちは嬉しい。だが、すまない。私には意中の人が……好きな人がいる。付き合うとかは………できない」

 

確かな気持ちだった。

 

だが、哀しみの表情を浮かべ、泣き始めたカレッタ少年にマリーダの母性がゆらぐ。

 

「っ………うっ………ううっ!!うう………」

 

「カレッタ………」

 

泣き沈んでいくカレッタ少年にマリーダはうずうずし始めた。

 

そこでマリーダは条件付きの提案をした。

 

「……泣くな。男だろ!?それにお前は私に告白してくれた男子の記念すべき一人目だ。今晩だけお前の彼女になってやってもいい。但し、いつまでも私と付き合えないと言って泣いていれば、今すぐ此処を立つ!!」

 

敢えて大胆な行動に踏み切ったマリーダ。

 

気持ちは複雑ではあるが、好意を持ってくれた事に感謝しての事であった。

 

カレッタ少年は涙をふき、きっと表情を改めた。

 

「……ぐすっ………わかったよ、ありがとう、マリーダ姐ちゃん!!」

 

「わかればよし!さ、夜は短い。早くデートに行くぞ!!クシャトリヤへ特別に乗せてやる」

 

「本当!!?やった!!」

 

クシャトリヤに乗り込み、クシャトリヤを起動させるマリーダ。

 

同乗するカレッタは、憧れの女性とのドキドキ感情と、男心を刺激するメカニカルのワクワク感情を混ぜ合わせていた。

 

クシャトリヤを舞い上がらせていくマリーダ。

 

今夜限りの二人の時間が始まる。

 

マリーダの言うデートとは、クシャトリヤによる空中散歩であった。

 

更には全周囲モニターによってリアルなプラネタリウムが映し出される。

 

宇宙で生まれ育ったマリーダには見慣れた光景ではあるが、意識して見上げればまた違った感覚を覚える。

 

カレッタ少年も夜空へ吸い込まれていく感覚を覚えた。

 

駆け抜ける夜空の空中デート。

 

マリーダは星々を見ながら口許に軽い笑みを浮かべ、カレッタは嬉しさ全開の笑みを見せていた。

 

マリーダはこの星空を見つめ、オルタンシアでヒイロと見た星空を思い出していた。

 

だが、今はカレッタ少年の願いを叶えてあげること。

 

マリーダは補助シートのカレッタ少年に向き、笑みを贈る。

 

カレッタ少年は顔を赤くして笑った。

 

そんなカレッタ少年に母性をくすぐられたマリーダは、ヒイロにすまないと思いながらもカレッタを抱き寄せ、頭を撫でた。

 

更にはカレッタ少年の頬に軽い口づけをしてみせる。

 

カレッタは赤くなったまま、歓喜のあまりに気絶してしまう。

 

刺激が強すぎたようだ。

 

カレッタ少年は、マリーダに膝枕してもらいながら気絶したまま過ごす。

 

こうしてマリーダとカレッタの時間は瞬く間に流れていった。

 

マリーダは空中デートから帰還し、カレッタ少年をキャンプ地へ寝かしつけた後、最終チェックしながら荷仕度をすませた。

 

「……これでよし。ふぅ………こことも今日で最後か………ガランシェールやオルタンシアに継いでアットホームな場所だったな」

 

そう言いながらマリーダは仮設シャワールームへと向かった。

 

シャワーの水とお湯が開き、マリーダの裸体全身を潤すように流れる。

 

マリーダは瞳を閉じながらシャワーを浴び続ける。

 

「ふぅ………シャワーは気持ちいいな……体が洗われる………それにしても色々あった………そう言えばマスター、私が地球へ降りる事が決まった時、初めは反対していたな……だが、地球へ降りたコトは正解だった。それまでに無いものを手に入れる事が出来た。姉さんとも再会できたしな………」

 

シャワーを浴びながらマリーダはこれまでの事を振り返る。

 

そして、自分の身体に残された忌まわしいキズにも目を通す。

 

シャワーの際、どうしてもそれは避けられない。

 

もしこの先ヒイロに見せるときが来た時、彼が受け入れてくれるのか………今のマリーダは、そんな不安も過らせてしまう。

 

「ふふふ………何を不安がっている?マリーダ。全ては感情のままにいけばいい………」

 

マリーダは自分に言い聞かせながらヒイロから貰った「感情のままに行動する」というワードを更に言い聞かせた。

 

マリーダがシャワーを浴びている頃、周囲に危険の波を背負った者達が遠方より監視していた。

 

それは連邦でもない所属不明の武装集団であった。

 

彼らが所有する連邦製MS・ジムスナイパーのカメラアイが不気味に闇夜に光った。

 

「くくくっ………こいつはいいな………滅多に無い、いや、願っても見な一級品だぁ………狙った獲物は逃さんぜぇ…」

 

 

危険の波はマリーダの感知領域外にあった。

 

 

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エピソード9 「ソマリアの地で…」


ガーベイ・エンタープライズの一件は、トレーズの側近・ディセットの画策によるものだった。

トレーズも行き過ぎた画策を指摘しながらも、次の一手の引き出しを開ける。

その中でフロンタルやマリーダ、そしてヒイロとデュオは各地で攻撃任務を遂行していく。

トリントン基地では、トレーズの次の一手の可能性・バイアランカスタムに五飛が狙いを定め、強襲をかける。

そして、そのテストパイロット・ディエスと交戦。

強き者と見定めた五飛とディエスは、激しい接近戦を展開する。

だが、バイアランカスタムに彼の恋人を乗せていた事に気づいた五飛は、再戦を考慮して勝負を預けた。

一方、マリーダはソマリアの地を去る前に、現地のジオン残存軍やカレッタとの親睦を深めていく。

だが、そこ不穏分子の影が忍び寄っていた……。






 

 

オルタンシア・MSドック

 

ガンダムヘビーアームズ、ガンダムサンドロック、ガンダムジェミナス02と並ぶ中、ガンダムジェミナス01のコックピット周りに少しばかりの人だかりができていた。

 

トロワやカトル、ロニ、オデル、そしてプルがデータ外部表示を見守っていた。

 

画面には、現在のシュミレーションデータの映像とスコアが表示されていた。

 

これを見ていたロニがカトルに軽く質問をした。

 

「これってゲームみたいなモノなの?」

 

「え?うん、簡単に言えばそうかな。実戦とのギャップはある程度あるけどね。トレーニングにはなるかな?」

 

「ふぅん………私も後でやってみようかな?」

 

「まぁ…ゲーム感覚だからね。やってみなよ!」

 

ロニの様子も大分回復してきた様子だった。

 

カトルも安心を感じはじめていた。

 

それはプルの力添えならぬ癒し添えも大いに影響していた表れでもあった。

 

「ぷるぷるぷるぷる~!」

 

「わ!プルちゃん!」

 

そこへプルがロニの腕にしがみついた。

 

女の子特有のスキンシップだ。

 

「ロニ~!あたしね、これ得意なんだよ~!!」

 

「そうなの?じゃ、競争しよっか?」

 

「しよしよ~!」

 

プルと他愛ない会話を交わすロニを見たカトルは思わず笑みをこぼした。

 

そこへトロワがカトルの肩に手を置く。

 

仲間の安心を励ます表れでもあった。

 

「……よかったな、カトル」

 

「トロワ……うん、ありがとう!」

 

コックピットの中ではシュミレーションスコアを競う為、アディンが奮闘していた。

 

「ビームソードでスラッシャアアアアアア!!!からの~……ハイパーショット!!!どーだ!?っ………だぁあああ、トロワの記録更新できねー!!!」

 

「接近戦や反応はいいが、射撃に関してはまだまだだな…」

 

「もっと理屈で考えろ、アディン!!接近戦バカなお前は、射撃をもっと鍛えることに専念しろ!!」

 

トロワのダメ出しが入り、更にオデルのダメ出しが入る。

 

「~……ちくしょー…この前は誉めてたじゃねーかよ……」

 

「この前と今回は別だ!!今は射撃に関して言っている!!」

 

「第一、トロワのスコア異常なんだよ!!兄さんでもキツイぞ!!!」

 

「言い訳だ!!上を目指してこそだろう!!!」

 

「う………」

 

そこへプルがコックピットハッチに首を突っ込み、交代をねだる。

 

「ねー、次あたしやりたい!ロニと競争するんだよ!」

 

「おわ!!プル!!あ、ああいいぜ………」

 

更にオデルの一言が飛び込む。

 

「アディン、彼女に代わる前にもう一度やっておけ!!トロワのスコアに及ばなければ、飯は食うな!!」

 

「なにー!?!マジかよ!!?」

 

「当たり前だ!お前はGマイスターなんだからな!!そしたら彼女に代われ!!」

 

「ったく~……って、だからプルは彼女じゃねー………って……」

 

真上から覗くプルと目が合い、アディンは否定しづらくなってしまう。

 

「違うの……?」

 

「うっ………えと…うん、早い!!そう!!彼女になるにはまだ早いっ!!だからえーと…なんだ…婚約の軽いやつだ!」

 

「ええ~……婚約の軽いやつって何~?早い遅いなんて関係ない!!今からでもいいじゃん!!」

 

「う…」

 

ガンダムジェミナス01のコックピットは他愛ないラブコメ劇場と化す。

 

カトルやロニはクスクス笑い、オデルは頭を押さえてやれやれと言わんばかりになり、トロワは静かに口許に笑みを浮かべていた。

 

それから後は、プルとロニが交替しながら遊び感覚でシュミレーションスコアに没頭した。

 

その光景を見ながら、アディン達はタブレットモニターで現在の任務状況を確認し合う。

 

カトルがタブレットモニターを手にして皆に見せる。

 

「ヒイロ達の任務が終われば後はニューエドワーズ基地の件とダカールへの強襲が主になります。後は随時入る任務をこなす感じですね」

 

「ふぅ~ん……じゃあ、今が休むチャンスか!!ラッキー!!休み最高!!任務ばっかじゃしょーがねーもんな~」

 

休み優先思考な発言をしたアディンの頭を、オデルが叩いた。

 

「バカも休み休み言え!!!お前は去年の事を忘れたんじゃないだろうな…?!!」

 

いい加減なアディンの発言にやや本気でオデルは怒っていた。

 

「去年って……忘れるかよ!!!?だから戦って………」

 

「だったらもっとGマイスターの自覚を持て!!!軽はずみに考えるな!!!!」

 

少し緊迫した空気になった所で、カトルがオデルをなだめる。

 

「まぁ、まぁ………オデルさん、落ち着いて!デュオくらいのノリも時には必要ですよ」

 

「アディンが言った事は一理ある。Gマイスターにも休息は必要だ。だが、Gマイスターとして、あからさまに任務より休息を喜ぶのはどうかと思うがな…」

 

トロワの意見は最もでもあった。

 

しかし、オデルはアディンのGマイスターの意識に関して憂いを感じて止まない。

 

「……確かにトロワの言う通りでもあるが………アディン!!初心が揺らいでいるのなら、原点に帰れ!!!よく考えてみることだ!!」

 

これにはアディンも否を認めざるを得なかったが故に、アディンは珍しくオデルに謝罪した。

 

「わかったよ………俺が悪かった。ゴメン、兄さん………」

 

「……今一度よく考えろ。お前自身が去年の事を風化させているからさっきのような発言をしたんじゃないか?!?そうならガンダムに乗るな!!!!」

 

オデルのこの言葉がアディンの反省の気持ちをひっくり返してしまう。

 

これに対しアディンは不満を爆発させてしまった。

 

「な!!?だから、忘れるもんかよっ!!!頭ごなしに決めつけるな!!!」

 

アディンはそう言い残して、その場を後にしてしまった。

 

カトルも少し言い過ぎなオデルに、過去に何があったのか問いただす。

 

「あ!!アディン…………オデルさんも少し言い過ぎですよ。一体、一年前にどんな事があったんですか?事によっては言いづらいかもしれませんが……」

 

「……」

 

「場合によっては今後に響く。そこまで強調するなら教えてくれ」

 

トロワが問いただしの後、オデルは少しの間口を閉ざした後でその理由を口にした。

 

「……俺達が住んでいた資源衛生が、連邦軍によって破壊されたのさ………家族も、俺の婚約者やアディンの当時の彼女も、皆犠牲になった………」

 

オデルは事をしばらくの間カトルとトロワに説明して聞かせた。

 

カトルとトロワもバーネット兄弟が背負うものを知った。

 

「そんなことが……」

 

「だから、つい熱くなってしまった………嫌な空気にしてしまって悪かったな」

 

「あ、いえ………」

 

 

その後、アディンは本調子を取り戻すべく、ガンダムジェミナス01でテスト飛行をしていた。

 

だが、アディンはオデルに言い放たれた事を気に病んでいた。

「っ………忘れるもんかよ………あの出来事を……」

 

アディンの脳裏にMO-5がハイパーメガ粒子砲で破砕されていくビジョンが浮かぶ。

 

バーネット兄弟が抱える過去の片鱗だ。

 

「みんなが殺されていったあの瞬間………俺は一時も忘れてねー!!!第一………なんで俺ばっか攻めやがる!!カトルの言うようにデュオだって軽いノリでいるじゃねーか………」

 

アディンは次第に愚痴を溢す。

 

そこへプルからの通信が入った。

 

「なーに落ち込んでるの!?アディン!!心配になって通信しちゃった☆」

 

「な?!!プル!!べ、べつに落ち込んでなんか………くっ……」

 

ニュータイプの鋭い感覚の前ではアディンの心境は丸裸同然であった。

 

「隠したってあたしには解るよ。落ち込んでるのアディンらしくないよ。まぁ、オデルさんの気持ちも確かなんだけどさ………」

 

プルはモニターへ覗き込むような勢いで頬杖をついて言ってみせる。

 

「プルまで………っく、いや、俺だって解ってるさ………けど、言い方があるだろ!?あんな言い方できめつけられてさ!!!腹立っちゃってさ……!!」

 

プルに対し、アディンは愚痴を溢す。

 

アディンがプライドの意地を取り払い、プルに心を許し始めた瞬間だった。

 

プルはアディンの愚痴に対し、まるで姉のように諭していく。

 

「オデルさんもアディンの事を本気で想ってるから熱くなっちゃったんだよ。心配なんだよ、アディンの事。あたしだって、こうしてる今、マリーダの事心配してるんだよ……兄弟や姉妹ってそんな感じじゃない?」

 

「プル……」

 

「それにあたしだってちゃんと解ってるから。アディンが頑張ってるコト!だ~からっ!いつものアディンに戻って!!俺がキメるぜって!!」

 

アディンはここへ来て初めてプルの優しさと癒しに触れた気がした。

 

「……へへっ、プルは本当、癒し上手だな!!なんか元気戻ったぜ」

 

「えへへ♪なんか、アディンに言われると恥ずかしいな……」

 

「そーかい?ま、とりあえず慣らしテストして戻るぜ!!やっぱ実戦だ!!!」

 

「うん、それじゃ気をつけて!アラカルト作って待ってるね♪じゃぁね♪」

 

プルとの通信を終えたアディンは、再びメンタルを回復させ、ガンダムジェミナス01の操縦に専念した。

 

彼女が人に与えるヒーリング効果は確かであった。

 

「っしゃ!!とりあえずオルタンシアから離れてテストするか!!」

 

いつものテンションを取り戻したアディンは、コントロールグリップを押し込んで、ガンダムジェミナス01を加速させて行った。

 

 

 

ソマリア・ジオン残存軍キャンプ地

 

 

 

シャワーを浴び続けるマリーダ。

 

静寂に満たされた夜の空間に、シャワーの音だけが聞こえる。

 

仮設シャワールームで体を洗うマリーダのその仕草や裸身は、エロティックにも感じさせる。

 

彼女の肌に残る傷の痕が痛々しさを物語っていた。

 

マリーダは自らの傷痕を見ながら、かつての忌まわしき時代を思い出す。

 

身体の傷痕を見ると致し方なく脳裏を過ってしまう。

 

そして、ふとプルの事を思い出す。

 

(……姉さんは幸いにも私のような道には行かなかった。そうだ………私だけでいい。このような運命を背負うのはな………)

 

プルは天真爛漫かつ純粋だ。

 

まさにピュアという言葉が彼女に相応しい。

 

そんな彼女が汚れた暗黒街に身を投じるコトは、想像するに耐えなかった。

 

マリーダは髪をかきあげながら仮設シャワールームの天井を見上げ、呟く。

 

「汚れは私だけでいい……そう……私だけで……」

 

マリーダはシャワーを浴び終え、バスタオルで体を拭く。

 

髪を拭き終え、バスタオルを首にかけた時だった。

 

突如と違和感がマリーダを襲った。

 

マリーダは、頭に手をあてながら鋭い視線を違和感を覚える方角へと向けた。

 

「っっ!??嫌な違和感―――!!?」

 

直ぐにマリーダは敵意的な違和感であることを察した。

 

その直後―――。

 

突然の爆発が、ジオンの野戦キャンプを襲った。

 

「っ…?!!」

 

地表を揺るがす衝撃で、体勢を崩されるマリーダ。

 

間髪入れずに幾度も爆発が続く。

 

外部からの攻撃が加えられている事は間違いなかった。

 

「嫌な感覚はこれか!!夜を狙うとは卑怯な!!直ぐにでも返り討ちに―――」

 

マリーダが着替えのシャツに手を伸ばしたその時、隣接地点が爆発する。

 

そしてその爆風が、仮設シャワールームのテントを吹き飛ばした。

 

「何っ!??これじゃ着替えがっ………やむを得ない!!!」

 

憤るマリーダは着替える間もなく、バスタオルで胸を隠しながら走った。

 

外は既に炎が昇り、施設がピンポイントで破壊されていた。

 

「………ちっ!!!」

 

マリーダを狙うかのようにビームの砲弾が撃ち込まれる。

 

異様に持続性のあるビームが撃ち込まれた地点は、溶解して爆発を巻き起こした。

 

マリーダはニュータイプ的な直感と強化人間の身体能力でこれを回避しながら走る。

 

だが、裸足で走る痛みが見舞い、更に片腕でバスタオルを添えながら走るのは利に叶わない。

 

マリーダの動きはどうやってもぎこちなくなる。

 

「はっ…はっ…はっ…はっ…はっ………くっ!!」

 

別方向からも砲弾が撃ち込まれ、立っていたザクやドムトローペンに直撃。

 

機体が激しい爆発音を響かせて砕け散った。

 

攻撃がMSの方へ移り、破壊が始まる。

 

マリーダはその隙に、倒れたザクの躯に隠れてバスタオルを身体に巻いていく。

 

「……これではクシャトリヤに取り付けない。何とかして反撃しなければ………」

 

再び持続性の高いビームが撃ち込まれ、グフの胸部を穿ちながら破砕させた。

 

その吹き飛んだグフの残骸が落下した。

 

そこはカレッタが泊まっていたテントの横であった。

 

「マリーダ姐ちゃん!!マリーダ姐ちゃーん!!」

 

その近くからはカレッタ少年のマリーダを呼ぶ声が聞こえた。

 

「カレッタ!!何をしている!!!早く逃げろ!!!巻き添えを食らうぞ!!!」

 

マリーダは叫んだ。

 

「マリーダ姐ちゃん!!!」

 

マリーダの叫び声に反応したカレッタが、マリーダの方へと走り始めた。

 

このまま飛び付く勢いでカレッタ少年が走る。

 

「マリーダ姐ちゃん………!!!」

 

周囲の炎がマリーダに見える程、カレッタ少年の表情を照らす。

 

「来い!!今は逃げるぞ!!」

 

「っ………!!あわわ、タオル一枚―――」

 

カレッタ少年がマリーダの格好に反応した直後、倒れたグフのスパークが、誘爆を巻き起こす。

 

そして破砕したグフの爆風が、カレッタ少年をマリーダの目線先で吹き飛ばした。

 

一瞬の出来事だった。

 

更にカレッタが吹き飛んだ方に、バズーカの弾丸が炸裂し、周囲を吹き飛ばすような爆発に見舞われた。

 

爆死は必至であった。

 

立ち尽くすマリーダに幾つもの地響きが迫る。

 

マリーダは風に吹かれながら無言で立ち続けた。

 

そして燃え盛る野戦キャンプ場の敷地内に、ジムコマンド、ハイザック、イフリート、ゲルググ、マラサイ、陸戦ジム、そしてジムスナイパーが姿を見せる。

 

所属を越えたMSの群れ。

 

彼らこそ、連邦・OZが手を焼く武装集団であった。

 

彼らの存在は、野蛮を意味する「バーブレス」。

 

主義主張が無く、殺戮行為に欲望を満たし、狩ったMSなどのジャンクパーツを利益としている集団である。

 

正に野蛮その物の集団だ。

 

そう言った意味では、まだテロリストの方がまともであろう。

 

彼らに突き付けられた幾つもの現実が、マリーダに飛び込む。

 

先程までの一時が嘘のような光景と化していた。

 

燃え盛る炎。

 

変わり果てた姿で斃れたジオン兵達。

 

そして、瞳孔を開けたまま燃えるカレッタ少年。

 

マリーダの心理が怒りに包まれた。

 

「貴様ら…………なんてことを……おのれぇぇっっ!!!!」

 

マリーダは悲しみよりも怒りを露にさせて叫んだ。

 

それを嘲笑うかのように、バーブレスのジムコマンドが、マリーダに銃口を向ける。

 

この時、マリーダはクシャトリヤだけ無傷なことに気づく。

 

狙いは、売り飛ばしを目的としたクシャトリヤの強奪。

 

そう直感したマリーダは即座にダッシュした。

 

その瞬間に撃ち放たれるマシンガンが、マリーダを狙う。

 

流石のマリーダの跳躍力も、逃げ切るに精一杯になってしまう。

 

走るマリーダの背後から襲い来る弾丸の嵐。

 

唸る銃声と砕ける地面の激しい音がこだまする。

 

そして遂には走るマリーダの足許に衝撃が走った。

 

「ぅあっ!!?」

 

前屈みに吹っ飛ぶマリーダ。

 

マリーダは、吹っ飛ばされながらも、受け身をとるように転がる。

 

その瞬間、バスタオルがはだけてしまう。

 

「……―――っく………」

 

更に傷つきながらも、マリーダは痛みに耐える。

 

両腕で胸を隠しながらマリーダは上体を起こしてバーブレスのMS達を睨んだ。

 

だが、傷の痛みと状態の恥ずかしさから立ち上がれず、成す術が無いマリーダ。

 

「―――……マスタ――……ヒイロ………!!!!」

 

ジンネマンやヒイロの事がマリーダの脳裏を過る。

 

だが、更にマリーダの精神に嫌悪感が包む。

 

「っく…!!!邪な奴等めっ……!!近寄るな!!!」

 

嫌悪感の流れに沿うように、ジムスナイパー、イフリート、マラサイに乗っていた男達がMSを降り、マリーダに近寄る。

 

薄ら笑いを浮かべているその手には銃が握られていた。

 

「へっへへ………ただで殺すわけ無いだろ?」

 

「そー、そー♪存分にあじあわなきゃなぁ………滅多にないぜ~……」

 

拳銃を持った男が、他のMSに向かって叫んだ。

 

「お前ら少しばかり散って見張ってろ!!なーに、味わったら直ぐに廻してやる!!!!」

 

他のMS達はその場を離れて持ち場に着いた。

 

マリーダはこの後に待ち受けるコトは、嫌と言うほど解っていた。

 

かつての忌まわしい娼婦時代の記憶が過る。

 

あの頃は当時のマスターの言うがままの人形に成り下がり、何も想うべき人もいなかった。

 

だが、今は違う。

 

父親代わりのジンネマンや、同じく戦うべくしての存在意義を見出だしている境遇のヒイロがいる。

 

女性としての有りたい潜在意識も混ざり、バーブレスの男がこれからしようとする事を、全身全霊で拒絶した。

 

「それ以上近寄るな!!来るな!!!殺す!!!!」

 

マリーダの気迫は確かだった。

 

だが、全裸のあげく傷ついた彼女の状態から、バーブレスの男達は、マリーダの叫びに構うことなく、嘲笑うようにマリーダの脚と腕に発砲した。

 

 

 

ダァン、ダァァンッ!!

 

 

 

「くあああああっっ――――!!!っく!!!うぅぁあっっ―――……!!!!」

 

マリーダの二の腕と左の太ももに銃弾が射貫いた。

 

引き裂くかのような激痛がマリーダの身体にはしる。

 

最早こうなっては流石のマリーダもどうすることも出来ない。

 

抵抗の余地はなかった。

 

「急所は外してやった……さぁ、ヤるとするか!!具合所をみせてくれよ………!!」

 

「やめろっっ………うぅぁあっっっ……うっ!!」

 

マリーダを押し倒すバーブレスの男。

 

仲間の男二人はニヤニヤしながらその光景を見下ろしている。

 

普段であれば、殴り飛ばすことは容易だが、受けた傷と激痛がそれを阻む。

 

悔しさとやるせなさに、マリーダは涙を瞳に溜めた。

 

その時だった。

 

マリーダは絶望と屈辱の中に近づく「陽」の感覚のモノを感じ取った。

 

思わずひきつった口許が笑みに変わった。

 

「……ふふっ……」

 

「あ!?何が可笑しい!??」

 

 

 

キィイイイイイン………ザァズゥガァアッ―――!!!

 

ゴバォオオオオォォッッッ!!!

 

 

 

迫る機動音と共にビームサーベル系の兵器にジムコマンドが斬撃され、斬り裂かれた部位が爆砕する。

 

「なんだ!?!」

 

マリーダの笑みに続いて響き渡ったビームの焼灼音と爆発音。

 

バーブレスの男達が一斉にその方角を向く。

 

そこには、ウィングバインダーの可動音を響かせて加速するウィングガンダムの姿があった。

 

轟と唸るビームサーベルの斬撃が、ゲルググを一瞬で寸断する。

 

巻き起こされる爆発の炎にウィングガンダムが照される。

 

「が、ガンダム!??連邦か!!?くそっっ!!!!」

 

男達は、一斉にマリーダの許を後にしてMSへ乗り込む。

 

その光景を見ながらマリーダは身体を起こして呟いた。

 

「せいぜい思い知るがいい。そのガンダムの力をな………ぅッ!!!」

 

だが、マリーダのマインドコントロールの後遺症が違和感と更なる感覚的な苦痛を引き起こす。

 

「ガンダムは敵っ…………だが、違う………マリーダっ!!!あの……あのガンダムはっ……敵じゃない!!!」

 

マリーダはかつての自分に言い聞かせる感覚で自らに言い聞かせた。

 

ハイザックと陸戦ジムが、マシンガンを浴びせながらウィングガンダムへと接近する。

 

情報不足の彼らは、ウィングガンダムを連邦のガンダムと思い込んでいるようだ。

 

無論、ガンダニュウム合金性であるGND合金には皆無のダメージである。

 

ウィングガンダムのコックピットモニター画面では、しっかりとこの2機がロック・オンされていた。

 

「この状況でバスターライフルを使うには目立ちすぎる。接近戦で叩くのが利に叶う…………無所属の武装MS集団、バーブレス。狙いはクシャトリヤか………マリーダ、無事でいろ!!」

 

ヒイロは、マリーダの安否の事を気にとめながら、コントロールグリップを押し込み、ウィングガンダムを加速させた。

 

ハイザックと陸戦ジムが放つマシンガンの弾丸が、空しくウィングガンダムの装甲面で砕け、無力化していく。

 

「―――?!?」

 

一瞬で懐に飛び込むウィングガンダムが、一気にビームサーベルでハイザックを斬り飛ばす。

 

 

 

ズジュガァアアアアアア!!!

 

 

 

そして機体を振り向かせながら、シールドの鋭利な先端部を陸戦ジムの胸部に刺突させた。

 

 

 

ズドォガアアアアアアッッ………ドドドゴォオオオオンッッ!!!

 

 

 

陸戦ジムの胸部面が連続爆発を起こして吹き飛ぶ。

 

瞬く間に4機のMSが破壊され、バーブレスの男達はパニックに陥った。

 

「な!?なんだ、あのガンダムはぁっ!??」

 

「あんな機体………あったか!?!」

 

「楽しみを邪魔してからに………畜生!!!」

 

ジムスナイパーのビームに続くように、マラサイとイフリートがウィングガンダムへと攻撃を開始した。

 

ジムスナイパーの放つビームが、マラサイの放つバズーカ、ミサイルランチャーが、ウィングガンダムへと直撃していく。

 

対しウィングガンダムは、シールドでビームや弾丸を遮る。

 

「うぅおらぁあっっ!!!」

 

バズーカの弾丸による爆煙にイフリートが突っ込み、ウィングガンダムへとヒートソードを振るい見舞う。

 

激しい激突音を響かせた斬撃だったが、攻撃は容易くガードされた。

 

「なっ!?チキショーが!!」

 

イフリートは何度も斬撃を繰り出すが、全ての斬撃がシールドによって弾かれる。

 

斬撃の感触も、鋼鉄に鉄板を当てるかのような感触が続き、一向に斬れ味が伝わらない。

 

「なんだ!??この装甲?!?ガンダリウムって言ったってよ、こんなに斬りまくれば少しは斬れ………」

 

次の斬撃の瞬間、ウィングガンダムはシールドの表面でヒートソードを弾き飛ばし、ビームサーベルで袈裟斬りの斬撃を食らわせた。

 

 

 

ザシュドォオオオォッッッ!!!

 

ドゥズガァアアアアアンッッ!!!

 

 

叩き斬られたイフリートの爆発を突き抜けたウィングガンダムが、マラサイへと斬り掛かる。

 

「ひぃいいい!!!」

 

ウィングガンダムに恐怖したマラサイの男は機体を後退させようとした。

 

だが、両腕に担がれたバズーカと両脚のミサイルランチャーの重みによって、ブースターで舞い上がろうとするも機動性が鈍くなってしまう。

 

「装備が重過ぎだ………!!!」

 

ヒイロは無情にウィングガンダムを飛び込ませながら、薙の斬撃を食らわせる。

 

 

 

ゴッッ――――ヴィズギャァアアアアアッッッ!!!

 

 

 

横一線に真っ二つに斬られたマラサイが火の華を咲かせるかのように爆砕した。

 

 

 

ゴォバァォオオオオオオォッッ!!!

 

 

 

ジムスナイパーの男は、標準をウィングガンダムのコックピットハッチ部に絞り混む。

 

「くそがっっ!!!いい気になるなよ!!!!」

 

トリガーを引き、ビームが一直線にコックピットハッチへと向かってはしる。

 

だが、ウィングガンダムは加速して、ジムスナイパー目掛け突き進んだ。

 

ビームも躱し、胸部を掠める。

 

ウィングガンダムは、ウィングバインダーの加速をかけた衝撃をのせて、一気に斜め上からシールドを突き出した。

 

ジムスナイパーは射撃の死角に追い込まれ、成す術無くコックピットをシールドで突き砕かれる。

 

 

 

ディガシャアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

ウィングガンダムは、シールドを突き刺したままジムスナイパーを地表へ押し倒し、更なる破壊ダメージを食らわせ破砕した。

 

その瞬間の光景がマリーダの面前で起こり、衝撃の風がマリーダへと吹き付ける。

 

地表へジムスナイパーを押し混んだシールドを抜き取ると、ウィングガンダムは体勢を起こして、マリーダの方へと向いた。

 

「くっ―――……ヒイロ………」

 

マリーダはマインドコントロールの後遺症とひしめき合いながらも、ウィングガンダムに向かいヒイロの名を呼びかけた。

 

 

 

一方、ゼクスとリディ達は、過剰に勃発し始めたジオン残存軍と現地のテロリスト達の紛争に、軍事介入の名目で派遣されていた。

 

場所はボルネオ諸島・サンダカン

 

未だ存亡とジオン再興を掲げて闘う残存軍と、宇宙より来た勢力を良しとしない現地テロリスト達の紛争は断続的に行われていた。

 

メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムやネオジオンによって感化されたジオン残存軍が、ここで手始めに反目勢力を打破せんと打って出たのだ。

 

既に市街地戦が開始され、各地の機能に問題が生じ、最早国家レベルの問題となっていた。

 

これに対し、連邦政府は連邦とOZの部隊を派遣させ、事態の沈黙を図っていた。

 

市街地の上空をトールギス、オーバーエアリーズ、ユニコーン、リゼルカスタムが編隊を成して飛行していた。

 

ゼクスが地上のMS展開状況を確認しながら、味方部隊各機に呼び掛ける。

 

「各機に次ぐ。これより武装勢力の駆逐任務に入る。最早敵機は混成部隊同然だ。ジオン、テロリスト関係無く殲滅戦で押しきる!!手当たり次第個々に撃破していけ!!後、我々の任務において、ガンダムに巡り会えずにいるが、それも自分の機体を慣らし、戦いに備える為の時間と思え…!!散開!!」

 

「了解!!ふふっ、ゼクス特佐。その考え、勉強させていただきます!!リゼルカスタム各機、少しでも各々の機体を慣らしておけ!!!」

 

「はっ!!」

ゼクスのその言葉に、リディは感化され士気を昂らせ、部下達にもその熱い士気を伝えた。

 

ゼクスの直属の部下である、オットー、ワーカーも昂らせながらオーバーエアリーズを突撃させる。

 

「ごもっともで!!では、しっかりと慣れさせていただきます!!」

 

「これも、後の兵士の為の一環と受け止めさせていだきます!!」

 

散開していくリゼルカスタムとオーバーエアリーズの部隊が、眼下で戦闘を繰り広げるMSの群れに攻撃を開始する。

 

すると、トールギスのコックピットにミスズからの通信がからかうように入った。

 

「言葉が上手いじゃないか?ゼクス。ゼクスの一言でこうも士気を上げられるなんてな」

 

「ミスズ……私は別にそのようなつもりで言っているわけではないんだが……」

 

「ふふっ、私もその言葉に乗らせてもらうぞ」

 

ミスズもトリガーグリップを押し込み、オーバーエアリーズを加速させ、敵機へと突撃する。

 

左翼に装備されたビームサーベルを取りだし、ビーム刃を発生させた。

 

「はぁああああ!!!」

 

ミスズのオーバーエアリーズは、駆け抜けるように、ビームサーベルで立て続けにザクやジムコマンドを斬り刻む。

 

ミスズのオーバーエアリーズの後方で、上半身と下半身に斬断されたMSの部位が爆発した。

 

周囲ではリゼルカスタムのビームランチャー、オーバーエアリーズのビームライフルが放たれ、各々の行動の許で敵機を破壊していく。

 

リゼルカスタムが装備しているビームランチャーは、バスターライフルに遠く及ばないが、量産機の中で最も出力の高い兵器であり、ガンダリウム合金を容易く破砕する威力を持つ。

 

上空より放たれていくビームが、カスタムザクやカスタムドムを破壊していく。

 

一方のオーバーエアリーズは、ビームライフルと両翼のメタルミサイルランチャーを駆使して攻撃をかけていく。

 

ビームライフルは、元々トールギス専用に設計されていたもので、高い出力を誇る。

 

ザク、グフ、ジム、ネモ、等のMSを寄せ集めて作った複合MS達に向かい放たれるビームが各機を射抜く。

 

そして一斉に放たれるメタルミサイルが、市街地を滑るように突き進んで、ハイザック、ネモ、アッグガイ達へと貫通する。

 

ガンダムの未知の装甲に対し、鉄甲弾として急遽装備された開発中の弾丸である。

 

戦闘が巻き起こる上空からユニコーンがビームマグナムを撃ち込む。

 

 

 

ヴゥシュヴゥゥウウウウウンッッ―――

 

 

 

撃ち込まれる一撃が、押し潰すようにゲルググを破砕させ、それに追従するように一発、二発、三発と撃ち放っつ。

 

ズゴック、ザクキャノンを同じように破砕し、更にはネモとガルスKが刃を交えていた所へと直撃し、2機を同時に破砕させた。

 

「この連中も反乱ガンダムに感化されたって言うのかよ………反乱ガンダムめ、迷惑この上ないな!!!」

 

ユニコーンは方向を転換させ、その方向へもビームマグナムを撃ち放つ。

 

一発、二発、三発、四発と撃ち込まれ、五発目の射撃の時に銃口にエネルギー球を発生させたチャージショットを撃ち放った。

 

バスターライフルの縮小版とも言える威力のビームが、ドムトローペン、量産型ガンキャノン、ジムカスタム、マラサイを撃ち砕き、更にMS達を破砕させていく。

 

そして五発目のビームが、ザクスナイパーを抉り飛ばすように爆砕させる。

 

爆砕されたMSの爆発が、サンダカンの市街地に咲き乱れた。

 

「…………いつの時代も考えが変わらない奴等だ!!!いつまで続けるつもりだ……ん!?!」

 

突如敵機接近のアラートがユニコーンのコックピットに鳴り響く。

 

モニターには迫る敵機が映し出された。

 

リックディアスが、上昇しながらクレイバズーカを構えている。

 

だが、リディは淡々とユニコーンを操作し、ビームマグナムをロック・オン。

 

瞬時にビームマグナムを撃ち放つリディ。

 

リックディアスの胸部に直撃したビームマグナムのビームは、リックディアスを豪快に撃ち抜いて破砕させた。

 

「どんなに楯突こうが無駄だ………貴様達は少しでもユニコーンの糧になってもらうさ」

 

リディは楯突く反乱分子に一切の容赦はしなかった。

 

眼下の敵影を排除したユニコーンは、次のポイントへと加速する。

 

トールギスを駆るゼクスもまた、市街地上空を駆け抜けながらドーバーガンを撃ち放つ。

 

 

 

ドゥバァォオオオオオオオオオッッッ―――!!!

 

 

 

強力極まりないビーム弾が、ゴッグをバラバラに破砕させる。

 

その高速かつ高威力のビーム弾が次の瞬間には、何発も撃ち放たれ、地上の敵機を次々とバラバラに粉砕させていく。

 

一気に六発を放なたれたドーバーガンのビーム弾に、ガルスJやズゴックE、ネモカスタム、ハイゴック2機、ハイザックが木っ端微塵に機体を砕き散らされていった。

 

トールギスも高速で飛ぶが、決して撃ち損じる事がない。

 

これもゼクスの高度な技術の現れでもあった。

 

レールガンのような高速を帯びたビーム弾は、大半の装甲材質の物体を破壊できる。

 

高出力、高速、高衝撃のビーム弾が中る瞬間に、強力な衝撃波を発生させる。

 

耐えられる物質はガンダニュウム合金のみであった。

 

トールギスを加速させながら巧みに射撃するゼクス。

 

既にこの次元内のトールギスをモノにしつつあった。

 

ザクⅠ3機がバズーカを撃ち放つが、容易くトールギスのスピードに躱される。

 

ゼクスは機体を反転させ、ロック・オンしたザクⅠに三発のビーム弾を撃ち飛ばす。

 

直撃を食らい、一瞬でザクⅠ3機が砕け散った。

 

再び反転しながら突き進むトールギスに向かって、3機のドムトローペンが、かつての黒い三連星に習い、ジェットストリームアタックを試みる。

 

ラケーテンバズーカを構えるドムトローペン3機が向かい来るトールギスに上昇しながら迫る。

 

「ふっ……流行らないな。その攻撃方は」

 

ゼクスは、ブレーキバーニアで激しいブレーキをかけてトールギスの慣性を殺す。

 

そしてホバリングしながら向かい来るドムトローペンへ、ドーバーガンのチャージショットを見舞った。

 

 

 

カシュコォォォッッ―――ディシュカァアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

バスターライフル級のビームが撃ち出され、一瞬でドムトローペンを呑み込む。

 

3機のドムトローペンは呆気なく爆砕した。

 

そこへ間髪入れずに弾丸がトールギスに撃ち込まれた。

 

「おっと……私としたことが……油断したな」

 

だが、シールドで防御されたために機体は無傷だ。

 

トールギスはドーバーガンの銃口を2機のガンタンクとガンキャノンに向け、瞬く間に高速ビーム弾を撃ち込んだ。

 

機体が破裂されるかのようにガンタンクとガンキャノンは粉砕した。

 

「一方的過ぎるな………これでは。だが、トールギスは確実に私の手足となりつつある!もっとそれを確めてみたいな!!」

 

ゼクスは一気にトールギスを加速させ、自らを試そうと試みる。

 

殺人的なGと闘う為だ。

 

それをモニターで確認したミスズは、攻撃をかけながらもゼクスの身を案じた。

 

「トールギスは危険なはずだ。余り無茶はするな、ゼクス……いや、ミリアルド…」

ミスズの心配をよそに、ゼクスはトールギスを加速させる。

 

だが、ミスズの心配が的中してしまう。

 

ゼクスの身体に身体的に問題になるGがかかり、一気にゼクスの身体を追い込んだ。

 

実を言えばフロンタルと戦闘した時はまだバーニアのシークレットリミッターは解除されていなかった。

 

更なるデッドゾーンの領域を後々に知り、ゼクスはそれをも越えてこそが有るべき姿勢と捉えていた。

 

「ぐぅぅっ―――っく!!!やはり………この領域になると………だが、まだまだぁ!!!!」

 

加速するトールギスがドーバーガンを何発も地上に撃ち放ち、テロリストのMS群を破砕させて駆け抜ける。

 

そしてある程度突き進んだポイントで機体を停止させホバリングした。

 

奇しくもその眼下には4機のガンタンクⅡが確認できた。

 

空かさずトールギスはドーバーガンをガンタンクⅡ達へと撃ち込む。

 

ガンタンクⅡ達は、凄まじい衝撃と共に破砕爆発を起こして砕け散る。

 

ゼクスは再びその場で一気にレバーを押し込んでトールギスを加速させてた。

 

この時のGも凄まじく、トールギスの加速時に衝撃波が起こる程だ。

 

「うぉおおおお!!!ここでトールギスの真の性能を乗りこなして見せるさ!!!」

 

撃ち損ねた機体群をドーバーガンで次々と破砕させていく。

 

トールギスは凄まじい衝撃波を起こしながら空中を駆け抜けた。

 

「ガンダムを斃すまでは………故郷を解放させるまでは………死ねん!!!!」

 

トールギスはゼクスの信念を宿し、サンダカンの空を駆け抜けた。

 

 

 

戦闘の収拾がついたジオン残存軍野戦キャンプ地。

 

破壊されたMSから炎が燃え盛る中で、ウィングガンダムとクシャトリヤが向かい合って立ち並んでいた。

 

ヒイロは傷ついたマリーダの為に、ウィングガンダムのコックピット内から医療ツールを取り出していた。

 

「これだな……」

 

星空の下、ヒイロは早速マリーダの怪我の応急治療を施し始めた。

 

だが、マリーダはタオル一枚の状態でいた為に、恥ずかしさを覚えてならない。

 

ある意味、身体の痛みよりも問題であった。

 

だが、それ以上にかつての傷痕をヒイロに見られてしまうことが嫌だった。

 

ヒイロから目を剃らしながら、マリーダは恥ずかしさや複雑さを隠せずに礼を言った。

「っ……す、すまない…私が負傷したばかりに……こんなことに付き合わせてしまって………礼を言う」

 

「いや、気にするな。俺は当然のことをしているだけだ……感情で行動したまでだ」

 

感情で行動する。

 

少し前にヒイロがマリーダに伝えた概念だ。

 

「この前に言っていた事か。感情での行動……」

 

「ああ。任務に向かう途中、不自然なMSの熱源を探知した。来てみればマリーダのMSが……クシャトリヤが確認できた。状況の判断からあとは言うまでもない………後は俺の感情で行動した」

 

それを聞いたマリーダは、感情での行動の発言をした。

 

ある種の劣等感を秘めた発言だった。

 

「……女である私に、こんなにも傷があるなんて……きっと大抵はヒクだろうな」

 

「俺はそうは思わない。この傷もマリーダの一つだ。この傷痕を俺は否定しない」

 

「!!」

 

ヒイロのその言葉にマリーダは「はっ」となり、感情がまた一つ惹かれる。

 

マリーダは身体に痛みを感じつつも、口許に軽い笑みを浮かべた。

 

ヒイロは小型ライトでマリーダの傷口を観察しながら、治療に集中する。

 

「……弾丸は二つとも貫通しきって、中には残っていない。応急治療でとりあえず済む」

 

「そうか………っうぅ!!」

 

「……!!すまない、痛むか!?」

 

処置の際の痛みがマリーダにはしる。

 

ヒイロは直ぐにマリーダを気遣った。

 

「っ……あぁ………だが、大丈夫だ。私はお前の腕を信じている」

 

「そうか……」

 

マリーダもまたヒイロを惹くような発言をしてみせた。

 

ヒイロは感情を表に余り出さないが、この時マリーダには少し笑っているかのように見えた。

 

その後もヒイロは淡々とマリーダの治療に専念し、処置を施しきってみせた。

 

ウィングガンダムの足に背もたれして安静しているマリーダに、ヒイロは着替えを持って来る。

 

見つけたマリーダのものと思った着替えを拾い、かごにまとめたのだ。

 

「服を着ろ。風邪をひくぞ」

 

「すまないな……それじゃ、着替えるから向こうを向いてくれ。私でも………なんか恥ずかしい…」

 

「任務了解」

 

そう言いながら反対方向を見るヒイロの行動に、マリーダは思わず笑った。

 

「くすっ……」

 

「着替えはマリーダの……女性用の物と思う物を集めた。合っていたか?」

 

「ああ。着替えは全部正解だ…」

 

ヒイロが向こうを向いている間に、マリーダはバスタオルを身体から外し、下着を痛みに耐えながら着る。

 

エロティックな空気と緊張がヒイロとマリーダに流れる。

 

「……」

「……」

 

マリーダにはヒイロの緊張した感覚が伝わっていた。

 

戦闘のプロフェッショナルとしての普段のヒイロとの心理的なギャップを感じずにはいられない。

 

(ふふふ…普段はナイフみたいな鋭さを纏っていてもやっぱり男子なんだな……ドキドキしている……はっ!!)

 

その時マリーダは、はっとなりヒイロに呼び掛けた。

 

「ヒイロ!!」

 

その後マリーダは、ヒイロに手伝ってもらいながら二人で亡くなった者達の墓を作った。

 

「はっ」っとなった理由はこれであったのだ。

 

これはマリーダが感情で行動した結果である。

 

カレッタの墓の前でマリーダはヒイロにカレッタの事を少しばかり語った。

 

「この少年は、現地の食料調達を担ってくれていた………私にも弟のようになついてくれてな…」

 

「そうか…」

 

「……ヒイロ、すまなかったな。任務があるというのに手伝わさせてしまって……」

 

マリーダが負傷していたが故に、殆どの作業はヒイロがやっていた。

 

申し訳なさそうに言うマリーダに対し、ヒイロは肯定的な言葉を投げかけた。

 

「マリーダが感情で行動した事に、俺自身が協力したまでだ。亡くなった者を手向ける行為に間違いはない………」

 

「ヒイロ…」

 

しばらくしてマリーダは、ウィングガンダムの足を背もたれにして安静にしていた。

 

その隣でヒイロも同じように星空を見上げている。

 

そんなヒイロに、マリーダが先に言葉を投げかけた。

 

「ヒイロの任務は今どうなんだ?」

 

「俺はこれからソマリア基地を叩く。その後の主だった任務はニューエドワーズ基地で展開される大規模演習に武装介入する。その後にダカールを攻める形になるだろう…」

 

「そうか。ヒイロ達もダカールへ行くか。私もこれから潜伏と移動を繰り返しながらダカールを目指す所だ。ダカール陥落が成功を成せば宇宙へ帰れる………か」

 

マリーダはそう言いながら、何気なくヒイロに寄り添う。

 

「………!!」

 

マリーダは無言で動揺するヒイロの感情を直に感じとりながら、話を進めた。

 

「その帰る場所はパラオと言う資源衛生なんだが、そこにはネオジオンの兵士やその家族達が暮らしている………幸いにも今のところ連邦の目にはつけられてはいない所だ。私は同じ部隊の人の家に居候させてもらっている」

 

「パラオか。宇宙にいれば聞いたことはある。成る程な……マイナーな場所故に潜伏しやすいか………」

 

「一理あるかもな。もし機会があればそこへ、ヒイロに来て欲しい。何か饗(おもてな)そう。別にオルタンシアの借り返しではないが……」

 

「了解した…」

 

「なら約束だ…」

 

確かにマリーダは借り返しも兼ねて考えていたが、純粋にヒイロを住んでる場所に来て欲しい気持ちが殆どだった。

 

更にマリーダは頭をヒイロの頭にあて、ヒイロにもたれかけるように寄り添った。

 

流石のヒイロも緊張が隠せなくなる。

 

「マリーダ…っ!!」

 

ヒイロの感情を理解しながら、囁くようにマリーダはヒイロに言った。

 

「ヒイロ………任務に出撃する前に、しばらくこのままでいさせてくれ………一時でもいい。今は安らぎが……癒しが欲しい………私は悲劇と屈辱を浴びすぎた」

 

「………任務、了解」

 

マリーダは立て続けに浴びた負の要素に軽い疲弊を起こしていた。

 

ヒイロもその事は十分に理解し、本来の任務の時間を割いてマリーダと過ごす時間にあてた。

 

共に任務が日常とも言える戦士だ。

 

だが、今のマリーダは任務を遂行する上で明らかに支障が出る状態だ。

 

ヒイロの思考は緊張からマリーダへの思いやりへと移行していた。

 

「マリーダ………今のお前は任務に支障が出る怪我をしている。ダカールまで大丈夫なのか?」

 

「私を心配してくれているのか?ふふふ……確かに痛むが、何とか大丈夫だ。戦闘を回避しながら行くのだからな。それに戦闘になった場合はファンネルがある……」

 

「だが接近戦や今回のような戦闘に巻き込まれる可能性は十分にある……!」

 

「ヒイロ…」

 

ヒイロが機具してしまう気持ちは、同じ任務に投じている境遇故に理解できる事だ。

 

ヒイロの想いを直に接しているマリーダは、ひしひしと優しさを強く感じていた。

 

「本当、優しいな……ヒイロは。ありがとう……」

 

ヒイロにもたれながら瞳を閉じるマリーダ。

 

ヒイロはマリーダの温もりを少し感じながら、今しばらくマリーダの癒しに専念した。

 

 

 

OZ・地球連邦軍・ソマリア基地

 

 

 

 

数時間後。

 

ソマリア基地では、デュオが先乗りして破壊活動に徹していた。

 

振るわれたガンダムデスサイズのビームサイズが、ホバリングする3機のエアリーズを一挙に斬り捌く。

 

その爆発光を突き抜けながら、ガンダムデスサイズは無双劇のごとくビームサイズを巧みに振り捌いて、エアリーズ部隊を連続で斬り刻む。

 

「おらおらおらぁああああ!!!」

 

豪快に斬り飛ばされたエアリーズの残骸が落下する中、ガンダムデスサイズは地上へ降下し、駆け抜けるようにリーオー部隊を斬り捨てて、地上を滑る。

 

次々とリーオーが薙ぎ斬られ、爆発していく。

 

駆け抜けるガンダムデスサイズに向かい、アンクシャ部隊や、ジェガン部隊も攻撃をかけていく。

 

ガンダムデスサイズは回転をかけながら一気に加速を兼ねた方向転換をした。

 

アンクシャ部隊とジェガン部隊のビーム攻撃を全て回避しながら、ガンダムデスサイズはバスターシールドを展開。

 

アンクシャの胸部目掛け刺突する。

 

 

ズゥドォシュゥウウウッッッ!!!

 

 

 

そのままガンダムデスサイズは格納庫へと突っ込み、アンクシャもろとも格納庫を吹き飛ばした。

 

凄まじい爆発を巻き上げる。

 

その炎から死神が飛び出し、ジェガンをバスターシールドで斬り払い、もう1機のジェガンへとバスターシールドを突き刺す。

 

間近で起こる爆発をい問わない攻めに、誰もが圧倒され、次の瞬間には、アンクシャ2機が斬り飛ばされた。

 

「ヘヘ………さぁ、どんどん来な!!あの世に招待してやるぜぇ!!!にしてもヒイロのやつ、いつまでマリーダとイチャついてんだぁ?獲物全部この死神様が貰って………いっちまうぜぇ!!!」

 

 

 

ズゥギィギャギャガァアアアアア…

 

ドドドヴァアアアアアアアッッッ!!!

 

 

喋りながら斬り掛かってきたジェガン2機とアンクシャを斬り飛ばして見せるデュオ。

 

余裕の現れだ。

 

ガンダムデスサイズの攻撃により爆発が連続し、燃え盛っていくソマリア基地。

 

サイレンが鳴り響く中、新型のビームバズーカとビームライフルを装備した蒼いリーオーフライヤーが出撃していく。

 

「ソラック特佐!!無茶です!!新型ビームバズーカとは言え、相手は反乱ガンダムです!!」

 

「今やらずにいつやる!!私が戦い方を見せてやる!!!」

 

ソマリア基地のMS部隊長であるソラックが、カスタムリーオーを駆ってガンダムデスサイズへと加速する。

 

だが、ガンダムデスサイズに迫るに連れてモニターが乱れ始め、激しいノイズと共にガンダムデスサイズの姿そのものがモニターから消えた。

 

「何?!!」

 

両肩から左右に向いたハイパージャマーが発動し、周囲の敵機のモニターを乱していた。

 

ソラックは成す術なく標的を見失う。

 

「どんなトリックか知らんが舐めるな!!!」

 

ビームバズーカを撃ち放つソラック機。

 

だが、ビームは空しくガンダムデスサイズを掠めた。

 

「ちょっとばかしカッコつけても無駄だぜ………」

 

デュオの不敵な囁きの直後、ソラックの右サイドモニター側からビームエネルギーが押し寄せた。

 

「なんだとぉ!?!?がぁぐぃはっっ―――!!!!」

 

ビームエネルギーに呑み込まれ蒸発するソラック。

 

客観視点ではガンダムデスサイズがビームサイズでソラックのカスタムリーオーの胸部を斬り飛ばしていた。

 

分断されたカスタムリーオーの二つの部位が爆発した。

 

ガンダムデスサイズは加速して基地施設へと突き進み、ビームサイズを振るって破壊の限りを尽くす。

 

「斬って斬って斬りまくるっっ!!!」

 

死神の鎌が容赦なく基地の施設を瓦礫へと変えていく中、基地に目掛けて巨大なビームが撃ち注がれた。

 

 

 

ヴィヴゥヴァアアアアアアアアアアアア!!!

 

ズゥダガァアゴヴァアアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

直撃地点を爆砕させ、そこにいたジムⅢやリーオー部隊を吹き飛ばす。

 

これを放った主は夜空にホバリングしていた。

 

バスターライフルの銃口を基地に向けたウィングガンダムだった。

 

デュオはモニターを上空へと向けた。

 

「やれやれ………やっとご到着かい。ま、獲物は残してやったぜ!!」

 

デュオはその言葉を直接ヒイロに送っていた。

 

ウィングガンダムのコックピットのサイドモニターにデュオの顔が表示されている。

 

ヒイロは不敵な一言の笑いで返す。

 

「ふん…!!」

 

ヒイロは機体をホバリングさせたまま、基地施設へとバスターライフルの銃口を向け、ロック・オン。

 

メインモニターのロック・オンマーカー赤く点灯した。

 

ヒイロのコントロールレバー操作に伴い、バスターライフルの銃口から再びビーム渦流が撃ち放たれた。

 

 

 

ズグゥヴァアアアアアアアアアァァァァ!!!

 

 

 

ビーム渦流は、基地施設へと突き進んで押し潰すように建造物を破壊。

 

同時にビームの衝撃波が近隣の建造物やリーオー、エアリーズの機体群を吹き飛ばす。

 

この一撃でも被害は凄まじい。

 

ヒイロは更にこのビームを持続させながら機体を自転旋回させていく。

 

それに伴うビーム渦流の斜線光。

 

あたかもコンパスで曲線を描くように被害を拡大させ、連続で施設やMS部隊を破砕させていく。

 

ビーム渦流が終息するまでその攻撃は続き、凄まじい爆炎の火柱を巻き上げた。

 

この攻撃で、MS格納庫や武器庫、整備施設の殆どを破壊していた。

 

「基地施設の約80%を破壊。MS部隊もほぼ同じ値を破壊……」

 

ヒイロは基地状況を把握しながら機体を降下させ、射線軸上に残りの施設が重なるポイントへと移動する。

 

ウィングガンダムはその間の攻撃を旋回スピードで躱してみせる。

 

機体を基地滑走路へ着地させ、バスターライフルの銃身をかざした。

 

メインモニターの射線軸上には輸送機の格納庫と管制塔施設がある。

 

その射線軸上に次々と残存するリーオーやエアリーズ、ジェガンの部隊が集まり、ウィングガンダムへと攻撃をかける。

 

ウィングガンダムは目標破砕に集中するために、敢えて躱さず攻撃を受け続けていた。

 

GND合金だからこそ成せる業である。

 

「輸送機格納庫、管制塔を捕捉。破砕させる。」

 

バスターライフルの銃口にエネルギーの球体が発生し始めた。

 

ヒイロは最大値までエネルギーを圧縮させる。

 

今更ではあるが、バスターライフルのチャージトリガーシステムは、チャージ用のストロークまで引いた後に発射用のストロークまで更に引いて発射する仕組みとなっている。

 

ヒイロはチャージが最大値に達したのを確認し、バスターライフルのエネルギーを撃ち放った。

 

 

 

ヴィヴゥゥゥ……ヴヴォヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――――!!!!

 

 

 

荒れ狂うビーム渦流が、MSを次々に呑み込み、融解消滅や高エネルギーによる誘爆発を巻き起させて破砕させていく。

 

そして輸送機格納庫を吹き飛ばし、管制塔施設へ直撃。

 

最終的には高エネルギーによるエネルギー爆発を巻き起こし、ビーム渦流が奔った痕に爆炎を巻き上げさせた。

 

この一撃でソマリア基地の殆どが機能停止となった。

 

ヒイロはモニターで状況を確認し、任務完了と判断した。

 

「ソマリア基地を破壊。基地機能停止を確認。任務完了……」

 

そこへ再びデュオからの通信が入る。

 

「いつもの事だが、また派手にやったなヒイロ!!流石だぜ!!遅れた分、随分と気合はいってたな!!マリーダとイイことでもあったのか!?どーなんだよ~?」

 

「……助けただけだ。それにいちいちお前に説明するのが面倒だ。お前の勝手な想像に任せる…」

 

「なんだよそりゃ!?じゃー、勝手にキスして更にその先に行っちまったってコトでいーのか~!?」

 

「ああ、適当に想像してお前だけ盛り上がっていろ」

 

しれっと言い切るヒイロに、やはりデュオは納得いかなかった。

 

「更になんだそりゃ!?てか隠すことないだろ~?」

 

「ふん…なら言ってやる。怪我を応急処置してしばらく一緒に居てやった。それ以上もそれ以下でもない」

 

「初めからそー言えよ!!成る程な~でー…キスは?」

 

デュオは、しきりとそのジャンルに話を持っていこうとする。

 

「していない………身体を寄せあっただけだ」

 

「なんか……俺が聞く度にボロ出てる気がするんだけどな………じゃー、セッく………」

 

その刹那、バスターライフルの銃口がガンダムデスサイズへと向けられた。

 

「だぁあああ!!わかったからムキなるなってよ!!」

 

「くだらん話はいい。とっとと戻るぞ!!」

 

他愛ないボーイズトークを陥落したソマリア基地にばらまいた後に、ウィングガンダムとガンダムデスサイズはその場を後にした。

 

そして、マリーダもまた、自らの意思で予定通りの方向で行動していた。

 

クシャトリヤを自動操縦に切り替えて、次のポイントを目指す。

 

マリーダはそっと傷の場所に手を添え、自らに囁くかのように呟いた。

 

「私にとって今は、任務が最優先だ。少しでも効率がいい方を選択をする。それに、ヒイロとはまた会えるんだからな……」

 

 

 

ボルネオ諸島・サンダカン

 

 

 

ゼクス達は、凄まじい攻撃を展開させたことで、事態を一気に終息させていた。

 

各地点にゼクスの部隊のMS達が着地した状態で聳え立っていた。

 

「ようやく事態を終息させることができたか……っ」

 

「ゼクス特佐とリディ少佐のご活躍がなければ、まだ事態が収まっていなかったかもしれないですね」

 

ワーカーはレポートに記録を書きながらゼクスとリディを立ててみせる。

 

「リディ少佐はともかく、私は買い被りすぎだっ………っく…一杯の状態だったのだからな」

 

「またご謙遜を。自分も一日も早くゼクス特佐の背中に追い付きたいですよ」

 

ワーカーやオットーをはじめ、多くの兵士達はゼクスを信頼し、尊敬していた。

 

故に彼自信が抱えている悩みを感じ取れない者が殆どだった。

 

尊敬するが故に、負の部分が見えなくなってしまうのだ。

 

彼女以外は。

 

「ワーカー特尉!ワーカー特尉はオットー特尉と共に事後処理に当たれ!!私がこちらのレポートをとる!!」

 

「ミスズ特佐!!はっ!!了解致しました!!」

 

ミスズはワーカーをゼクスから遠退かせた。

 

すると、キッとゼクスに鋭い視線を送りながら言った。

 

「ゼクス……少しいいか?」

 

「何だ?ミスズ……」

 

ミスズはズイとゼクスに近寄り、ゼクスの身を厳しいまでに案じた。

 

「お前………身体はどうなんだ!!?無茶してやせ我慢しているんじゃないだろうな!!?」

 

「っ!?!何故解る!??」

 

「大体、ゼクスがやろうとすることぐらい解る!!メーザー機付長から聞いたぞ!!トールギスのバーニアリミッター解除したことを!!大体、お前は赤い彗星の再来と渡り合えるほど十分なエースだ!!!これ以上は余計だ!!!」

 

「ミスズっ………くはっ!!」

 

ゼクスは肉体を精神の凌駕によって耐えていた。

 

だが、ミスズの叱責と共にその気合が崩れ、ゼクスはその場に座り落ちてしまう。

 

「ゼクス!!?っ聞いている傍からこれじゃないか!!!立て!!!医務室へ行くぞ!!」

 

「すまない………ミスズ!!」

 

その光景を見ていた連邦兵士やOZ兵士達がざわつきはじめた。

 

ミスズに担がれ、医務室へと向かうゼクス。

 

その一部始終の光景を見ていたリディの口が開いて塞がらない。

 

「まるで………スパルタ奥さんて感じだなミスズ特佐………ミヒロとは大違いだ」

 

ゼクスですら時にもて余すミスズの姿勢に唖然を食らうリディを他所に、ミスズはゼクスを強引に仮設医務室へと連れていく。

 

その最中、一人のOZの兵士がミスズに駆け寄ってきた。

 

その兵士は表情に慌ただしさを滲ませていた。

 

「失礼します!!実は………」

 

「……何!?ソマリア基地が陥落しただと!?!」

 

「はい……反乱ガンダムによって!!」

 

「そうか………了解したっ!!」

 

ミスズは一層表情を鋭くさせた。

 

ミスズの上官や後輩がいた基地だった為だ。

 

悔しさや憎しみを抱いくミスズであるが、先程の強気な姿勢が影を潜め、ゼクスに力を懇願した。

 

「ゼクス………撤回する。今はゼクスとトールギスの力が欲しい!!今回ばかりはOZとしてのプライドが許せない!!!」

 

「無論さ………トールギスならばガンダムと渡り合えるはずだ………リディ少佐にはここを撤収したら静浜基地へ先に帰投するよう伝えてくれ!!ここは我々がソマリアへ発つ!!あの基地は主にOZの基地だからな!!」

 

「了解!!」

 

そしてゼクス達は、直ちにソマリア基地へと飛び立って行った。

 

その向かう途中の機内へ更なる新情報が入る。

 

オットーが、ミスズへとその情報を伝えた。

 

「ミスズ特佐!!新たな情報です!!ソマリア基地で生き残っていたステルス機が、現在ガンダムを追跡中との事です!!」

 

「何だと!?!今何処にいるのだ!?!」

 

「現在、アラビア海沖を東へ向けて飛行中との事です!!」

 

「よし、わかった!!直ちにこちらも迎撃だ!!随時座標を送るよう伝えろ!!」

 

「は!!」

 

いよいよ迫るガンダムとの戦闘に誰もが緊張に包まれる。

 

またとない機会と錯覚し、誰もがトレーズの命令に関係無く部隊が動いてしまっていたのも事実であった。

 

これまでに遭遇し損ねていた事がそのような状況を産み出してしまっていたのだ。

 

そして、事態を終息させたリディ達は、ゼクスの指示通り、一度OZ静浜基地へと向かう。

 

その最中、輸送機の操縦席より肉眼で未確認MSを視認した。

 

「ん!!?前方に未確認機を肉眼で視認!!!」

 

「何だと!?!っっあれは!?!?」

 

機長が確認したもの……それはガンダムジェミナス01であった。

 

先程の軍事介入の一件の書類をまとめていたリディに声がかかった。

 

「リディ少佐!!前方にガンダムを肉眼で視認しました!!!」

 

ガタっと立ち上がったリディは、表情を変貌させつつ、機内からガンダムの姿を確認した。

 

「いよいよ………ゼクス特佐だけじゃなくこちらにもその運が回ってきたみたいだな………!!!」

 

「リディ少佐!!?」

 

リディは、遂に遭遇したガンダムに闘争心を隠せなかった。

 

直ぐにユニコーンのコックピットに乗り込み、素早い操作でディスプレイや、モニターを起動させていく。

 

「全天モニター、ディスプレイ、各部表示問題なし!!」

 

「リディ少佐、単独は危険です!!」

 

「一対一で渡り合えなければ意味がない!!!手出し無用だ………そう、ゼクス特佐のように騎士道の精神でな!!!とは言え俺はライフルも使うが………リディ・マーセナス、ユニコーン……出るっ!!!」

 

不敵に笑ったリディは、ユニコーンを輸送機から出撃させた。

 

しなやかな動きでユニコーンは体勢を整え加速。

 

ビームマグナムをスタンバイしながら突き進む。

 

モニターにはハッキリと迫るガンダムジェミナス01が映し出されていた。

 

「いよいよだな!!!反乱ガンダム!!!?」

 

リディはこれまでの同胞達の犠牲と無念をビームマグナムに託すように、コントロールグリップを力強く何度も握り締めた。

 

無論アディンも気づかないわけがない。

 

異常な速さで迫る敵影にアクセラレートライフルを突き出してユニコーンをロック・オンした。

 

「単独出撃?上等だ!!!俺がキメるぜっ!!!」

 

互いに銃口を向け合いながら対峙する2機。

 

次の瞬間、アクセラレートライフルとビームマグナムのビームが同時に撃ち放たれた。

 

 

 

ヴゥィィィ………ヴヴァダァアアアアアアア!!!

 

ヴィシュヴゥゥゥウウウウウウンッッ!!!

 

 

 

そして二つのビームは激突し合い、激しい爆発光を放ち打ち消しあった。

 

 

 

その一方、ガンダムの経路を捕捉したゼクス達も、ガンダムとの激突の瞬間が迫る。

 

「先程撃墜されてしまったステルス機には感謝しなければな………ミスズ、無茶はしないつもりだ。安心してくれ!!」

 

「でなければ困る。死なれるわけにはいかんからな。ようやく対峙したガンダム………やはり私は出撃する!!!もどかしくてたまらない!!!」

 

ミスズは感情に任せて出撃しようとするが、ゼクスはそれを言葉で制止させる。

 

「ならん!!!!今の感情のミスズでは危険過ぎる!!!!機内に居てくれ……解っているさ、必ず仕止めよう」

 

「ちっっ………頼む!!」

 

「では、2機ということだ。行けるか?トラント特尉」

 

ミスズの無念の気持ちを承ったゼクスは、部下のトラントに呼び掛けた。

 

トラントも相当な自信があるらしく、ガンダムを前にしても不敵に笑う。

 

「は!!ゼクス特佐、いつでもいいですよ」

 

「ふっ………では、参る!!!!」

 

ソニックトランスポーターより、トールギスとオーバーエアリーズが出撃していく。

 

加速するトールギスのコックピット内のモニターに、ウィングガンダムと、ガンダムデスサイズの機影を捉えていた。

 

「この高揚感………!!!ようやく対峙することができたな!!トラント特尉、死神のようなタイプのガンダムを頼む!!!」

 

「了解!!!」

 

トールギスとオーバーエアリーズの2機は恐れることなく突き進む。

 

「さぁ!!!!反乱のガンダムよ!!!!私にその力を見せたまえっっ!!!」

 

ヒイロとデュオもまた、迫るトールギスとオーバーエアリーズを迎え撃って出る。

 

ウィングガンダムとガンダムデスサイズのコックピットモニターには迫る2機が映る。

 

「データ照合………1機はカスタムエアリーズ、もう1機が……トールギスか!!」

 

「さぁ………てストーカーを斬り飛ばしたら、メインゲストの登場ってか!!初めてだな、先手打たれたのは!!」

 

「先手だろうと後手だろうと、破壊するだけだ。行くぞ!!!」

 

「オーライ!!!」

 

ウィングバインダーを展開させて加速するウィングガンダムと、ブースターからGNDエネルギーを噴射して突き進むガンダムデスサイズ。

遂にGマイスター達とOZ・連邦のエース達の運命の邂逅が果たされた。

 

戦士達は各々の信念を賭して激突しようとしていた。

 

 

 

 

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エピソード10 「宿命の序曲」


アディンやカトル達はオルタンシアでしばしの休息をとっていた。

その最中、アディンの不用意な一言がオデルとの小競り合いを作り、アディンはブルーなってしまうが、プルの励ましで立ち直り、ガンダムジェミナスの操縦トレーニングに打ち込む。

一方、ヒイロは任務の最中、ソマリアエリアで野党MSに生身で襲撃されるマリーダを確認し、彼女を助ける。

傷ついたマリーダの為、任務時間を割いた後、再び任務を遂行し、デュオと共に連邦軍・OZのソマリア基地を陥落させた。

もう一方では、ゼクスとリディ達が、ボルネオ島で起こったジオン残存軍とテロ組織の抗争に軍事介入をしていた。

その抗争を鎮圧させた後、ゼクス達はソマリア基地壊滅の報告を受け、リディ達を残しガンダムの迎撃へ向かう。

そして、事後処理を終えて帰還するリディ達もまたガンダムを捕捉する。

ヒイロとゼクス。

アディンとリディ。

彼らの激突の火蓋が落とされる……。




 

 

 

オーストラリア 地球連邦軍・メルボルン基地

 

 

 

ディッガキィンッ、ザカギャン、ギャガァァアアンッッ!!!

 

 

斬撃音が響き渡り、ジェガンが斬り飛ばされていく。

 

シェンロンガンダムが振り払う僚牙が、ジェガンを斬り飛ばしていた。

 

次なるジェガンに激しい斬撃を振り払う。

 

 

 

ザァガギィィィィィッッ!!!

 

 

 

分断されたジェガンが爆発を巻き起こす。

 

そこへスタークジェガンが、仇をとらんとばかりにビームサーベルを突き立てて攻め居る。

 

「はぁああああああっ!!!」

 

だが、相手の加速を利用し、シェンロンガンダムは五飛の気合と共に、ドラゴンハングを伸ばした。

 

破壊音を響かせながら、シェンロンガンダムのドラゴンハングがスタークジェガンの胸部を噛み砕く。

 

 

 

ディッガギンッッッッ!!!!

 

ヴォガゴォオオオオンッッッッ!!!!

 

 

 

噛み砕かれた部位を爆発させながらスタークジェガンが滑走路に倒れこんだ。

 

シェンロンガンダムは、眼下のロト部隊へと向きながら、両眼を発光させた。

 

その悠然たる姿勢に畏怖されながらも、ロト部隊がシェンロンガンダムへとミサイルランチャーを撃ち放つ。

 

連続で唸り続けるミサイル群がシェンロンガンダムへと注ぎ込まれていく。

 

巻き起こる爆発は凄まじい。

 

だが、その爆煙の向こう側からは殆ど無傷のシェンロンガンダムが姿を表した。

 

そしてシェンロンガンダムは、ドラゴンハングをロト部隊へとかざし、火炎放射を放った。

 

ジェット音にも似た唸り音と共に、青白い超高熱の炎がロト部隊へと襲いかかった。

 

瞬く間にロト部隊は超高熱による誘爆を巻き起こして3機が瞬く間に爆発していく。

 

その場からシェンロンガンダムは加速をかけ、突き進む先から射撃するジムⅢ部隊へと襲いかかった。

 

「無意味な攻撃をかけるな!!!退け!!!」

 

五飛の気迫に連動するかのごとく、僚牙を振り払う。

 

その大刀は一気に3機のジムⅢを凪ぎ飛ばして破砕させる。

 

巻き起こした爆発を突っ切り、ビームライフルを構えるグスタフカール部隊へと目指す。

 

シェンロンガンダムのコックピットモニターには3機のグスタフカールを捉えられていた。

 

「目標捕捉!!!行くぞナタク!!!」

 

五飛は加速をかけ、更に突き進んだ。

 

僚牙が、1機のグスタフカールを串刺しにした。

 

 

 

ガザギャアアアアアアアア!!!

 

 

 

そのままの勢いで基地に串刺しにされたまま突っ込んだ。

 

激しい破砕が巻き起こる中、シェンロンガンダムが瓦礫の粉塵を突き破って、ドラゴンハングでグスタフカールを砕き潰す。

 

その勢いでグスタフカールは地表に叩きつけられ破砕された。

 

3機目のグスタフカールはビームサーベルに武装を変えてシェンロンガンダムに斬りかかる。

 

だが、凄まじい速さで五飛はこれに反応し、振り返り様にドラゴンハングを突き穿つ。

 

グスタフカールは胸部を突き抜かれ爆砕された。

 

そして五飛は格納庫へと照準を会わせ、ドラゴンハングをかざさせる。

 

「連邦の次世代機など必要ない!!!」

 

グスタフカールが格納されている格納庫へと、シェンロンガンダムが火炎放射で襲いかかる。

 

破壊の炎が注がれ、瞬く間にグスタフカール達を誘爆させていった。

 

グスタフカール破壊の任務を終え、炎の野原と化したメルボルン基地を見つめながら五飛は呟いた。

 

「モノ足りんな、ナタク。やはり好敵手との戦いこそが、真の戦いだ………ナタク、俺達はこの先の任務に備えるぞ。雑魚潰しは他の奴らに任せる……!!!!」

 

炎を見つめた五飛はそう呟きながら瞑想した。

 

 

 

白と黒の閃光のごとく、ウィングガンダムとガンダムデスサイズが突き進む。

 

羽ばたくように展開するウィングバインダーが一層ウィングガンダムの攻撃的オーラを宿す。

 

ガンダムデスサイズもビームサイズを振りかぶり、轟と死を引っ提げる。

 

奇しくも対するトールギスとオーバーエアリーズも白と黒。

 

高速域で、トールギスがドーバーガンを構え、オーバーエアリーズが、ビームライフルを突き出す。

 

ゼクスは一瞬でウィングガンダムをロック・オンし、高速ビーム弾を二発撃ち飛ばす。

 

「狙いはこうつける!!!」

 

「……!!!」

 

 

 

ドゥヴァウ、ドゥヴァウウウウウウウッッ!!!

 

 

 

ヒイロも一瞬の素早い反応と動体視力で機体をコントロールし、これを躱す。

 

躱されたビーム弾は、虚空の夜の闇に消えていく。

 

そして、ヒイロは直ぐ様バスターライフルの反撃を見舞う。

 

 

 

ギュヴァアアアアアアアアアウッッ!!!

 

 

 

撃ち出される中出力のビーム渦流が、トールギスへと突き進む。

 

「躱す!!!」

 

トールギスは素早い機動力でバスターライフルのビーム渦流を躱し切った。

 

「躱された?!!」

 

ヒイロは初めて狙った敵機を撃ち逃す。

 

次の瞬間に、ウィングガンダムとトールギスは、互いに発生させている衝撃波を当て合いながらすれ違う。

 

空気の衝撃波が唸り響く。

 

トールギスは瞬時に反転し、ドーバーガンのビーム弾を撃ち飛ばす。

 

 

 

ドゥヴァウウウウウウウ!!!

 

ゴォガォオオオオオオ!!!

 

 

 

ビーム弾丸はウィングガンダムの背部に直撃し、機体バランスを一気に殺す。

 

突き飛ばされるようにウィングガンダムは吹っ飛んだ。

 

「がっ………?!!……直撃か!?!やるな………!!!」

 

一方のガンダムデスサイズには、オーバーエアリーズが放つビームの集中砲火が浴びせられる。

 

だが、デュオはお構いなしに突き進む。

 

「ビームがウザイぜ!!!とっとと……あの世逝きな!!!」

 

デュオのテンションの勢いに乗せたビームサイズがオーバーエアリーズに振るわれた。

 

「オーバーエアリーズを舐めるな!!!」

 

だが、トラントはビームサイズの斬撃を躱して離脱する。

 

デュオもまた初めて斬り損じた。

 

「躱しやがった!??」

 

「オーバーエアリーズは、言わばトールギスの力を半分与えられたエアリーズだ!!!見くびるなよ!!!」

 

トラントはオーバーエアリーズを加速させてガンダムデスサイズの周囲を旋回飛行する。

 

撃ち放たれるビームが、ガンダムデスサイズへ撃ち込まれていく。

 

「へっへへ………エアリーズのクセに馬鹿みてーに速いな!!!あー、ビームがウザっ!!!」

 

デュオは素早い機動力を持った相手に反撃のチャンスを伺う。

 

その間に、オーバーエアリーズは瞬発的にガンダムデスサイズへ加速する。

 

両翼のミサイルランチャーから四発のメタルミサイルを撃ち飛ばす。

 

高速で突き進むメタルミサイルが、ガンダムデスサイズに直撃した。

 

鉄甲弾独特の衝撃ダメージを受けたガンダムデスサイズは、衝撃でホバリングのバランスを崩される。

 

「な!!?なんだこのミサイル?!!」

 

「メタルミサイルは鉄甲弾!!!頑丈な装甲程、内部の衝撃が大きくなる………そこから私は……」

 

更に右翼下部に備えたビームサーベルを手にし、オーバーエアリーズはガンダムデスサイズに斬り掛かる。

 

駆け抜ける斬撃がガンダムデスサイズに見舞われた。

 

「斬り刻むっ!!!」

 

 

 

ガギャガァアアアアアア!!!

 

 

 

「ちぃぃ!!こんちくしょっっ!!!」

 

一方、ウィングガンダムとトールギスは、互いに振り向き合いながらバスターライフルとドーバーガンのチャージショットを撃ち放つ。

 

二つの唸るビーム渦流が突き進み、激突しながら相殺し合い、眩いまでの高エネルギーの爆発光が耀く。

 

その耀きの向こう側から2機が横に飛び出し合って姿をみせた。

 

高エネルギービームとビーム弾丸を撃ち合う。

 

並行に高速移動しながらの銃撃戦は、互いに直撃を許さない。

 

だが次の瞬間、ウィングガンダムのシールドにドーバーガンのビーム弾が直撃した。

 

ヒイロは弾き飛ばされる反動を利用して、射撃角度を合わせる。

 

「これがトールギス……俺達のガンダムに引けを取らない性能だ!!」

 

勢いよく撃ち放つバスターライフルのビーム渦流。

 

そのビーム渦流を、トールギスは瞬発的に離脱して躱す。

 

「これが反乱分子のガンダム……相手にとって不足はない!!!私はこの瞬間を求めていたのかもな!!しかし…!!」

 

バスターライフルとドーバーガンの銃撃戦の最中、トールギスはドーバーガンのグリップを離し、シールドに収容されているビームサーベルを取り出した。

 

発生したビームの刃がヒイロへの接近戦の合図になり、それを促す。

 

「ビームサーベル……いいだろう!!」

 

ヒイロはゼクスの促しを察知し、バスターライフルをシールド先端に取り付ける操作をした。

 

そしてビームサーベルをシールド内から抜き取り、ウィングガンダムもまたビームの刃を形勢させる。

 

「ここは騎士道の性分!!!互いの刃を交わさねばな!!!さぁ、受けて立て!!!反乱者のガンダム!!!」

 

ウィングガンダムの戦闘姿勢を確認したゼクスは、トールギスを再びウィングガンダムへと加速させた。

 

対するヒイロも、ウィングガンダムを加速させる。

 

ビームサーベルを互いに振りかぶり合った2機は、一気にビームサーベルを振るう。

 

次の瞬間、高出力のビームサーベル同士が激突した。

 

 

 

ヴィギュギャアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

一方、ガンダムジェミナス01とユニコーンは、断続的に旋回しながら銃撃戦を繰り広げていた。

 

チャージショットのエネルギーを溜め合い、ほぼ同時のタイミングで撃ち放つ。

 

 

 

ヴァヴヴシュヴゥウウウウウウンッッッ!!!

 

 

 

アクセラレートライフルとビームマグナムという似通った性格の高エネルギービームが、すれ違っては幾度か相殺し合う。

 

2機は時おり何度もブースターダッシュをして、射撃を躱し、旋回スピードを上げる。

 

アディンは銃撃戦の中で、これまでに対峙した機体群とは一線を画す存在であることを察していた。

 

「こいつ………できるヤツだ!!!性能の差はあるんだろうけど、機体の動かし方が他の奴等と全く違う!!!」

 

「反乱者め………!!!」

 

リディは全周モニターに捉えるガンダムジェミナス01を睨みながら、これまでの同胞の無念を思い返す。

 

「……っ!!!ガンダムは連邦の象徴であった筈だ………それを貴様らは……っ!!!!」

 

リディいわく、ガンダムは本来連邦の英雄たる存在であった。

 

だが、「ガンダム」の存在はメテオ・ブレイクス・ヘルの犯行声明により、短期間で「反乱の象徴」のイメージとなってしまったのだ。

 

世界、地球圏各地のメディアもそれを強調していた。

 

リディの怒りを溜め込めた一発が撃ち放たれる。

 

 

 

キュリュイィィィ………ヴィシュヴゥウウウウウウウウゥゥゥン!!!

 

 

 

「ちっ!!躱しきれない………!!!」

 

 

その弾道が躱しきれないと判断したアディンは、シールドでそれを受け止める判断をする。

 

ガンダムニュウム性のGND合金は、しっかりとビームを受け止めた。

 

「何!??ビームマグナムを受け止めた!!?」

 

「お返しだぜ!!!」

 

アディンはアクセラレートライフルのフルチャージショットを撃ち放つ。

 

 

 

ヴィギュリュリリリィィィ………

 

ヴァヴダァアアアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

躱しきれないビーム渦流が、ユニコーンへと突き進む。

 

「果たしてもつか!?!」

 

ユニコーンもまた、アクセラレートライフルのビームをシールドで受け止める。

 

ビーム渦流はシールドの僅か手前で相殺された。

 

「打ち消された!!?Iフィールドってやつか!!!」

 

「試してみたが……奴等のガンダムの攻撃にも十分対応できるな!!!」

 

リディは、そうとなればと言わんばかりに、ビームを受け止め始める。

 

何発アクセラレートライフルを放っても打ち消され、

何発ビームマグナムを放っても、躱されては受け止められる。

 

こうなれば躱し打消しの戦いのループだ。

 

アディンは、アクセラレートライフルをシールドに収容させ、ユニコーンへ向かって瞬発的に加速した。

 

「ならば………これしかないよな……いくぜ!!!!」

 

ブーストダッシュしたガンダムジェミナス01はビームソードを手にし、一気にユニコーン目掛けて斬りかかった。

 

「でやぁあああああっっ!!!」

 

「ちぃぃぃっ!!!」

 

咄嗟にリディはビームマグナムで防御しようとしてしまう。

 

一瞬で振るうビームソードが、ビームマグナムの銃身を叩き斬った。

 

ユニコーンは破壊されたビームマグナムを捨て、ビームサーベルで対抗する。

 

ビームを形成させたビームサーベルを振りかざして、ガンダムジェミナス01に斬り掛かった。

 

「はぁっ!!!」

 

ビームソードとビームサーベルが激突し合い、スパークの閃光を発生させる。

 

「うぉおおおお!!!」

 

 

 

ズバギャァアアアアアアアア!!!

 

 

 

拮抗するパワー。

 

だが、パワーは僅かにガンダムジェミナス01に分があるようにも見えた。

 

ユニコーンはビームソードを引き捌いて再び斬り掛り、ガンダムジェミナス01が再びビームソードを激突させた。

 

「ガンダムぅぅぅっ!!!」

 

焼灼音のようなスパークが響き渡る中、再度ビームの刃を弾くかのように捌き合いながら打ち合う。

 

薙ぎの斬撃、袈裟斬りの斬撃を互いに食らわせようとする。

 

次に放ったガンダムジェミナス01の回転をかけた一瞬の薙ぎ斬撃を、ユニコーンは薙ぎの斬撃で受け止める。

 

一方のウィングガンダムとトールギスも、激しくビームサーベルを打ち合っていた。

 

その軌道は流星同士のぶつかり合いのようにも映る。

 

ウィングガンダムの薙ぎ斬撃をビームサーベルで受け止めた後に、加速を利用して押し斬ろうとするトールギス。

 

ウィングガンダムは押されながらも、ビームサーベルで受け止める。

 

そこから一瞬の反射神経でビームサーベルを離し、再度激突させた。

 

ウィングガンダムの唐竹の斬撃をトールギスはビームサーベルで力強く受け止める。

「彼らのガンダムは……予想を越えるパワーだ!!!だが……!!!」

 

トールギスのパワーがウィングガンダムの斬撃を打ち飛ばし、更にウィングガンダムが斬り掛かる。

 

トールギスはその攻撃を一瞬の後退で躱し、力強く斬りつけてみせた。

 

ウィングガンダムは唐竹の斬撃で、その斬撃を受け止める。

 

「我がトールギスも、この化け物と渡り合えると言うわけだ…!!!」

 

「っ………やはりかなりの手練れだ……!!!」

 

幾度もなくビームサーベルを激突し合わせ、力を拮抗させる2機。

 

トールギスのパワーは、ウィングガンダムと殆ど互角のパワーであった。

 

2機はビームサーベルを捌き合い、高速で空域を移動し始めた。

 

二つの閃光が激突しては弾き、激突しては弾き合う。

 

あたかも流星が、意思をもって踊るかのような光景だ。

ウィングガンダムとトールギスは、スレ違いながら斬撃を交差させる。

 

一瞬激突したビームサーベル同士が、スパークを起こした。

 

2機はその先で瞬発的に折り返し、そこからの加速を乗せて斬撃を激突させる。

 

威力は更に増していた。

 

2機は更なる威力を乗せた斬撃をぶつけ合う。

 

交差するビームサーベルが強烈なスパークの閃光が巻き起こる。

 

「おおおおおおおおおおっっ!!!」

「づぁあああああああああ!!!」

 

正に決闘とも言える斬撃戦が夜空に展開した。

 

弾き飛ばし合うライトアームの反動を利用して間合いをとりながら離脱し、再び斬り掛かる2機。

 

ウィングガンダムとトールギスの激しき斬撃戦の向こう側には、防戦を強いられるガンダムデスサイズがいた。

 

トラントのオーバーエアリーズが、幾度もなく攻撃を加え続ける。

 

「はははは!!!手も足も出させはしない!!!!」

 

連続でビームライフルの直撃を浴びせられ、接近時にはビームサーベルの斬撃が食らわされる。

 

だが、斬撃と言っても打撃に近い斬撃であった。

 

GND合金であるが故に。

 

高速で離脱しながら旋回飛行をするオーバーエアリーズを睨むデュオ。

 

「ちっきしょー……いい加減にウザくなってきたぜ!!!このままじゃ機体が………!!!」

デュオが苛立つうちに、オーバーエアリーズが再び迫る。

 

モニターにターゲット・ロックさせたまま、レフトアームをかざした。

 

トラントはオーバーエアリーズを加速。

 

ビームサーベルで突き飛ばすつもりでいた。

 

「防戦一方にしてやる!!!手も足も出まい!!!」

 

デュオは間近にオーバーエアリーズが迫った時、ニヤリと笑う。

 

「なーんてな♪」

 

バスターシールドが展開し、ビームの刃が突き出した。

 

「何ぃぃぃ!?!」

 

トラントは躱そうとしたが、展開したバスターシールドのビーム刃と爪が、オーバーエアリーズのレフトアームと左翼を丸ごと破砕させた。

 

 

 

バギャラガァアアアアアアア!!!

 

 

 

「ぐおぉっっ……!!!」

 

機体が損傷されたオーバーエアリーズは、姿勢を崩しながら海面に落下していった。

 

デュオは海面を見下ろしながら、不敵に吐き捨てた。

 

「いつまでもハエごっこに付き合っていられるかってんだ!!さーて………あちらさんはまだ取り込み中ってか!!」

 

モニターの画面の向こう側では、ウィングガンダムとトールギスが刃を交え続ける。

 

スパークが眩い不規則な光りを照らしながら反発するエネルギー音を響かしていた。

 

デュオは決して加勢はしなかった。

 

その闘いが、戦士同士の闘いと見据えているが故に。

 

ウィングガンダムはトールギスのビームサーベルを捌き返し、斬撃を浴びせる。

 

「ちぃいいい!!!」

 

ゼクスは一瞬でこれを躱し、胴を打ち込むように薙ぎ斬撃を浴びせた。

 

「ぐおっっっっ………!!!」

 

ビームサーベルはコックピットハッチ部に直撃し、ヒイロに衝撃を与えた。

 

同時にゼクスにも衝撃を与える。

 

「何!?!この手応えがビームサーベルの手応えだと!?!」

 

斬れない感触が違和感を与えてならない。

 

ウィングガンダムは突き飛ばされるように後退したに過ぎなかった。

 

ヒイロはコックピットに衝撃を受けたも関わらず、ならばと機体をトールギスへぶつけるように加速させた。

 

並みの人間ならば、嘔吐や気絶する程の衝撃である。

 

「退くことを知らない………正に戦士の姿勢だ!!!」

 

接近するウィングガンダムの斬撃にトールギスの斬撃が答えるように激突。

 

再度両者のビームがスパークを帯ながら交えた。

 

ジェミナス01とユニコーンも斬撃戦を尽きることなく続ける。

 

幾度となく両者の斬撃の打ち合いが断続的にスパークを巻き起こす。

 

「任務じゃねーけど、やらせてもらうぜ!!!角ヤロウ!!!」

 

「図に乗るな、反乱者ぁ!!!!」

 

アディンもリディも互いに退くことを知らない斬撃戦。

 

クロスされたビームソードとビームサーベルが弾いてはまた弾き飛ばし合い激突させる。

 

ギリギリと駆動部を軋ませながら拮抗するパワーとパワー。

 

そこから弾き合い、ガンダムジェミナス01は回転をかけながらビームソードを薙ぎ斬撃で見舞う。

 

リディは咄嗟にシールドでこれをガードした。

 

ビームソードの斬撃が、Iフィールドの機能により磁石が反発するように阻害され、小刻みにアームが振るえていた。

 

「くっそ、このヤロウ!!!」

 

「一太刀でも浴びせてやる!!!」

 

ガードしながらユニコーンが斬撃を繰り出す。

 

その斬撃は、ガンダムジェミナス01の胸部装甲にヒットした。

 

そしてリディもまたゼクス同様、斬撃の手応えに違和感を感じ取る。

 

「何だ!?!ビームサーベルで斬りつけた筈が………!!?」

 

「っっ……やりやがったな!!!しゃあああああ!!!」

 

唸るビームソードの反撃がユニコーンに斬りつけられる。

 

「くっ!!!」

 

リディは再びシールドでガードし、ビームを遮断させ、再度ビームの刃を交える。

 

その頃のウィングガンダムとトールギスは、機体をすれ違わせながら斬撃を激突させていた。

 

ヒイロとゼクスの両者が己の機体を加速させ、再度ビームサーベルをぶつけ合う中、トールギスのコックピット内に緊急通信が入った。

 

緊急アラートがコックピットに鳴り響く。

 

「緊急通信!??」

 

サイドモニターに映し出された送信者。

 

それはトレーズであった。

 

「閣下!?」

 

「ゼクス………君達がガンダムの撃破に向かったと聞いた。言ったはずだ。オペレーション・イカロスまで待てと………今すぐ戦闘を止めたまえ」

 

「しかし閣下、我々は一度として彼らと戦ってはいませんでした!!データも兼ね、今が闘い時と思ったのです!!!」

 

「私とてゼクスの騎士道精神を理解した上で言っているのだ。確かに君の言うことも一理ある。だが、失うわけにはいかないのだ。君達も……機体も……聞き分けてくれゼクス」

 

ゼクスは、拮抗させていたビームサーベルを解除させ、ウィングガンダムのビームサーベルを弾いた。

 

「了解しました………ここはご命令に従い撤退致します」

 

ウィングガンダムとトールギスは、互いに向き合いながら静止する。

 

そしてゼクスはウィングガンダムへ向かい、通信回線を飛ばした。

 

騎士道精神の現れであった。

 

「ガンダムのパイロット!!私はOZのゼクス・マーキス特佐だ………急な事情によりこの勝負はまたの機会に持ち越す。君も戦士であるなら意図は読める筈だ……!!!」

 

突然のゼクスからの通信であったが、ヒイロはこれに言葉を返さず、無言のままトールギスを凝視した。

 

「……」

 

「……また会おう………ガンダム!!!」

 

そう言い残したゼクスは、トールギスを戦場から離脱させ、機体を海へと下降させた。

 

墜落したトラント機の救出の為だ。

 

やがて、オーバーエアリーズをかかえたトールギスが姿を見せた。

 

ヒイロは寡黙なまでに去り行くその背を見続けていた。

 

しばらく見続けた後に、ヒイロはゼクスの名を口にする。

 

「ゼクス……マーキス………!!」

 

そこへデュオがノリよく通信を入れてきた。

 

「よぉ!!かなり入れ込んでたなぁ!!あいつかなりのクセもんと見たけどよ、どーだった!?実際に刃交えて?」

 

「……奴はかなりの腕だ。自ら単機で俺達に挑むだけはある………」

 

「お前と張り合える時点で只者じゃねーな!!俺に挑んできたカスタムエアリーズもちょっとクセもんだったけどな……」

 

ヒイロはゼクスと渡り合った瞬間を思い返し、自らの手のひらを見る。

 

「やつのトールギスも性能的に俺達に退けをとらなかった………パイロットと機体の性能が合わさった結果だ……」

 

「連中も連中で手を打ってきたってことか!!ま、今はとりあえずオルタンシアへもどろーぜ!!」

 

間もなくして、ビームサーベルを交えていたアディンとリディもビームソードとビームサーベルを弾き合わせ、戦闘を解除させた。

 

ガンダムジェミナス01とユニコーンが向き合いながら静止する。

 

「――――っく、かなりできるぜ………角ヤロー……」

 

「ガンダム………!!!」

 

リディが再びビームサーベルをかざしたその時、ゼクスからの撤退命令が下された。

 

「リディ少佐!!リディ少佐もガンダムと交戦していると聞いた。直ちに撤退せよ!!これは命令だ………直ちに撤退せよ……我々は彼らと闘うステージがあるようだ………もう一度言う!!撤退だ!!!今は耐えろ………」

 

「くっ………了解………しました!!」

 

ユニコーンはギンとメインカメラを光らせ、ビームサーベルを振るった。

 

ガンダムジェミナス01もメインカメラを光らせ、ビームソードを振るう。

 

「さぁ………これでキメるぜ!!!」

 

2機は手にした武装を構え、その刹那にブースターを響かせて加速し合った。

 

「でやぁあああああ!!!」

 

「くぅっっ……!!!」

 

そしてガンダムジェミナス01とユニコーンは、振りかぶったビームソードとビームサーベルを唸らせ、すれ違いながら斬撃をぶつけ合わせた。

 

 

 

ギャヴィギィィィイイイイイィンッッ!!!

 

 

 

稲妻のようなスパークが瞬間的にはしり、激しい光が暴れるように周囲をまばゆく照らす。

 

だが、ユニコーンはその流れのまま離脱した。

 

「?!?」

 

先程までに刃を交えていた相手が急に離脱したことに、アディンは違和感を感じながら機体を反転させた。

 

「離脱!?!逃がすかよ!!」

 

アディンが、ガンダムジェミナス01を加速させる操作をしようとした矢先、リディの声がコックピットに響く。

 

「ガンダムのパイロット!!口惜しいが、撤退命令が出てはこうせ去るを得ない!!!いずれ必ず仕止める!!!連邦のプライドを掛けてな!!!!」

 

その言葉を掃き捨てたリディは、口惜しさを噛み締めながらも、ユニコーンの機体を加速させた。

 

加速を止め、飛び去るユニコーンを見つめるガンダムジェミナス01。

 

コックピットの中でアディンは、姿を見ぬリディにただならぬモノを感じてならなかった。

 

「角ヤローのパイロット、通信してきやがった……!!?へへ………連邦のプライドか!!こっちだってGマイスターのプライドを見せつけてやるさ!!!」

 

アディンはモニターに映るユニコーンの姿に向かい、強気な姿勢を掃き飛ばした。

 

「ふぅ……テスト・トレーニングのつもりが、飛んでもない方向へ行っちまったけど………これはこれでいいウォーミングアップになったぜ!!じゃ、念を押して海中から帰るか!!」

 

アディンには既にネガティブさは全く無かった。

 

オルタンシアへと帰還したアディンには、プルの言葉通り、アラカルトが待っていた。

 

腹を空かせたと言わんばかりにがっつくアディン。

 

その食欲の光景にプルも安心し、両手で頬杖をつきながら嬉しそうに見る。

 

二人のほっこりとした光景を見たオデルは、やれやれと言わんばかりに少しだけ笑いながらその場を後にした。

 

 

 

数日後

 

 

 

オルタンシアへ戻ったヒイロとデュオのガンダムは、機体メンテナンスの為にドック入りしていた。

 

機体のメンテナンスはどのMSにも共通する生命線である。

 

因みに彼らのメンテナンスパーツ(武装を含む)は、全て裏ルートから郵送されてくる仕組みだ。

 

どの世界にも死角があるもので、地球圏内の監視の目をすり抜けて海や空を使い送られてくる。

 

無論、ラルフをはじめとする各地のエージェントのバックアップがあってこそのものだ。

 

ハワードが他のメカニックと共に、ウィングガンダムの各ジョイントをチェックしていた。

 

「ふむ………ジョイントはいいな。後は武装の補充で十分行ける」

 

そこへ共に作業するメカニックがハワードに疑問を投げかけた。

 

「ところで、何でまたパイロット………Gマイスター達をここから外したんです?少しでも居てくれれば助かるんすけど……」

 

以前はパイロット達自らも作業していたが、ここ最近のハワードはパイロット達に、休憩を取らす方針に変えていた。

 

「やはりパイロットは休息も必要だ。一度任務へ赴けば戦場だからな。此処に居る居るときくらいは十分な休息もさせてやりたいと思ったのさ………さて、次はデスサイズのチェックだ!」

 

「了解!」

 

バルコニールームでは、ヒイロとデュオが先日のトールギスとの戦闘を、コーヒーを飲みながら振り返っていた。

 

ちなみにではあるが、アディンやカトル達は既に任務へと出撃していた。

 

「しっかし、あちらさんにも俺達に張り合える馬鹿がいたなんてなぁ………ま、予想はしてたんだけどな!とにかく戦い方が厄介だったなぁ」

 

「ゼクス・マーキス……データベースで調べた所、奴はOZのエースパイロットである事が判明した。歴代のエースに匹敵するか、あるいはそれ以上らしい…」

 

「俺に突っかかってきた奴は名乗ったりはしてなかったが、それなりの腕はあったぜ………っと、可愛いお嬢様達が差し入れ持ってきてくれたぜぇ~!!」

 

デュオが会話中に差し入れを持ってきてくれたプルとロニに話題を切り換えた。

 

ヒイロも彼女達の方向へ視線を向けコーヒーを啜る。

 

「二人とも差し入れよ。よかったら食べてみて。ここのシェフが分けてくれた具材で作ってみたの」

 

「あたしとロニお姉ちゃんで作ったビーフシチューとスープだよ~!シーフードいっぱいだよ~!」

 

ヒイロとデュオの所へ具だくさんのビーフシチューが置かれる。

 

海上の上だけであり、シーフードの具だ。

 

デュオは出来立てのビーフシチューに目を輝かせてスプーンをとった。

 

「おぉ!!こいつはうまそーだ!!んじゃ、早速頂きます…………あく、あふ!!」

 

「あ、出来立てだから気をつけて!水もあるから!」

 

デュオはロニの気遣いを受けてもらいながら、口に含んだ熱いビーフシチューではふはふしながら食す。

 

「あひあひ………わりぃっ!あっついけど、シーフードとよく合う旨味が効いてるぜ!!いやいや……これはうまい!!カトルもアディンも料理上手のいいパートナー持ったよな~!!」

 

「え!?」

 

「えへへ~…」

 

デュオの言葉に、どきっとした表情でロニは赤くなり、プルは嬉しそうな表情をしてみせた。

 

「お二人さん!!顔に出てるぜ!!顔に!!」

「もう……か、カトルは幼馴染みでその……頼りな所と可愛い所があるだけ!!」

 

赤くなりなりながら言うロニの言葉は、否定になっていない。

 

因みにヒイロはその会話に参加せず、淡々とビーフシチューを食べ続ける。

 

「ロニさん、恥ずかしがるのはわかるけど、ごまかし否定になってないぜ?まだ顔に出てるしハッキリ言っちゃいな~」

 

デュオはロニをわざとからかいながらニヤつく。

 

「やだもう、だからカトルは幼馴染みで~………」

 

「ロニお姉ちゃん、さっき作りながら好きだって言ってたのに~」

 

「プルちゃんまで…!もうっ!」

 

ロニは恥ずかしげにそっぽを向いた。

 

「照れてる、照れてる!」

 

ロニは、デュオとプルにからかわれながらも、くすっと照れ笑いする。

 

プルはプルで、ロニを姉のような存在に想うようになっていた。

 

ロニの表情を見たデュオは、オルタンシアへ来た当初のロニとは別人なまでの印象を受けた。

 

「でもよ、ロニさん……ついこの前の事思えばかなり立ち戻れたんじゃね?幸せに救われてる感じがするぜ?」

 

「え!?あ、うん。カトルやここの人達のお陰かな………不思議なまでに癒されて…なんとか立ち直れてきた………」

 

そう言いながらロニは後ろからプルの首もとを抱くように腕を回す。

 

プルもロニに抱き寄せられて、嬉しそうに笑う。

 

「それにプルちゃんが妹みたいで可愛いんだもの……癒される………」

 

「ふふふ♪」

 

「でも……私だけが助かっていいのかな?手配された社員達だって苦しいはずなのに…」

 

ロニは社員達を蔑ろにしてしまっているかのような状況に罪悪感を感じていた。

 

その気持ちがポロリとでてしまった。

 

明るみがあった空気がその一言で沈んでしまう。

 

「きっと………私は卑怯なのかも…」

 

そんなロニへプルはふりかえりながら癒すように言った。

 

「ロニお姉ちゃん……大丈夫だよ…誰もそんなこと思ってないから。あたしはわかる………」

 

「プルちゃん…」

 

根拠はない。

 

だが、彼女の言葉は不思議と信憑性を感じさせてならなかった。

 

「悪いのは連邦とOZだ。あいつら、時に極端な画策するみたいなんでな………特に反乱要素があるやつには………ロニさんの企業は裏でジオンの援助をしていた事で以前からマークされていた。そこへ偶然にも起きたテロを皮切りに、OZが擬装テロを演じて追い詰めた……」

 

それまでデータベースを閲覧していなかったロニは初めてその事を聞いた。

 

「そんな……!!?」

 

会話の流の中で、今まで淡々とビーフシチューを食べていたヒイロが話題に言葉を飛ばす。

 

「………歴史の裏で動いていた連邦内の秘密結社OZ。奴らの秘密裏の行動が、歴史の戦乱を招いてきた。コロニーの自治権の否定、コロニー市民やニュータイプ人種の迫害……俺達はその理不尽の連鎖を叩く為に闘っている………」

 

デュオがヒイロに続くように言う。

 

「本来なら大企業に身を置いて大人しくしているべきだったどっかの御曹子君も同じ想いで自ら闘いを選んだわけだ………」

 

ロニはプルを抱き寄せたまま、カトルを想う自分の中に何か燻るものを感じた。

 

「カトル………!!」

 

 

 

 

 

その頃のカトルはマグアナック隊と共に、軍事介入したOZのカタール駐屯施設を強襲していた。

 

リーオー部隊やエアリーズが迎撃射撃をかける中、マグアナックのラシード機とアブドル機がビームライフルによる援護射撃をかける。

 

高出力のビームライフルが、ガンダムサンドロックの前左右側から連続で撃ち放たれていく。

 

その射撃は、ビームマシンガンを撃ち放つリーオー部隊を押し倒すかのように連続撃破させた。

 

一歩一歩前進しながらガンダムサンドロックとマグアナック隊が進撃していく様はごり押しの戦法に近かった。

 

歩を進ませながらガンダムサンドロックを護るようにビームライフルを放ち続けるマグアナック隊。

 

駐屯施設が無惨に吹き飛ばされていく。

 

「ロニ……こうすることで事が戻る訳じゃないけど、せめてもの僕達ができる行動さ!!!カタール駐屯施設を叩く!!!」

 

カトルは、マグアナック隊の攻撃を受けて破壊されていくリーオー部隊を深く視線を向けて呟いた。

 

マグアナック隊の攻撃は的確なまでにリーオー部隊を排除していく。

 

「あの時行動し切れなかった分、ここで潰します!!!お前ら徹底してOZを潰せぇ!!!!」

 

「はい!!!!カトル様の突破口を開けますぜ!!!アウダ!!行って来い!!!」

 

「おうさ!!!」

 

アブドル機の背後にいたマグアナック・アウダ機が飛び出し、1機のリーオーへ突貫。

 

レフトアームクローを盾代わりにし、一気にリーオーの懐に飛び込み、レフトアームクローをコックピット目掛け突き貫いた。

 

爆発四散するリーオー。

 

更に隣接していた別のリーオーへと、ヒートホークを叩きつけるように降り下ろして斬り砕く。

 

そして更にもう1機のリーオーをレフトアームクローで突き砕いた。

 

この攻撃を頃合いに、ガンダムサンドロックの両眼がギンと光る。

 

「行きます!!!」

 

ヒートショーテルを重ね当てた後に、ブースターダッシュするガンダムサンドロック。

 

振り唸るヒートショーテルが、2機のリーオーを叩き斬る。

 

2機の爆発するタイミングと共に、ガンダムサンドロックは加速し、一気にリーオー部隊へと斬り込んだ。

 

 

 

ディッガキィン、ディッガキィン、ザカギャンッッ、ディディッガキャアアアンッッ!!!

 

ゴゴゴバガゴゴガァアアアアアア!!!

 

 

 

華麗なまでの連続斬りが、その場のリーオー部隊を壊滅させた。

 

更に空中へと、舞い上がりエアリーズ部隊へ攻撃をかける。

 

加速と共に押し当てられたヒートショーテルが、1機のエアリーズを破砕させ、爆発させた。

 

そしてホバリングしていたエアリーズ5機を連続斬り払いで叩き伏せて見せ、降下しながら飛び立つ寸前のエアリーズ2機を叩き斬った。

 

巻き上がる爆発の中、まだ兵士が残る駐屯施設の中枢ポイントをカトルはロック・オンする。

 

「ロニの屈辱はこんなものじゃないよ………もっと、もっと、深く哀しいものさ………!!!」

 

カトルの呟きと共に、ガンダムサンドロックの両肩からミサイルランチャーが放たれ、真っ直ぐに駐屯施設の中枢へ撃ち込まれた。

 

爆発を見つめるカトルは、ゴーグルを外して呟いた。

 

「任務完了………」

 

 

 

 

 

その後に及び、Gマイスター達の任務は随時遂行されていく。

 

その彼らの行動の影響は、僅かではあるが確実に連邦とOZに与えていた。

 

それは、リディいわく「連邦の英雄」というガンダムの意味合いを「反乱の象徴」に変貌させる。

 

地球圏メディアや大衆からは新な解釈として、連邦やOZの関係者からは忌まわしき対象として捉えられていた。

 

その状勢を見向きもせず、Gマイスター達は闘いを止めない。

 

任務のフィールドはヨーロッパエリアへ移っていく

 

 

 

コルス島 地球連邦軍・OZ アレリア基地

任務:基地戦力・機能の壊滅及び新型MS破壊

 

 

軍備増強対象の基地に指定された基地の一つであるアレリア基地にガンダムヘビーアームズが勢いをかけて降り立つ。

 

カメラアイをギンと光らせ、武装のハッチをフルオープンで展開し、眼前のMS部隊と基地施設へ自身の持つ火力を全開で解き放つ。

 

ビームガトリング、ブレストガトリング、グレネードランチャー、ホーミングミサイル、マイクロミサイルが狂ったかのように火を吹く。

 

中近距離にいたジェガンやリーオーの部隊群が、プラスチックの玩具同然に撃ち砕かれ、リゼルとエアリーズの部隊が基地施設諸ともミサイル群の餌食となり、ジェガンやロトの部隊がグレネードランチャーのプラズマ光弾に吹き飛ばされ破砕される。

 

初期の内に大打撃を与えたガンダムヘビーアームズはブースト加速で旋回しながらリーオー部隊へ回り込み、ビームガトリングとブレストガトリングの同時撃ちで撃破していく。

 

向かい来るリゼルとエアリーズの部隊にも同じくビームガトリングとブレストガトリングで撃破し、返り討ちにした。

 

レフトアームのグレネードランチャーを改めて構え直し、砲撃するロトやスタークジェガン部隊へ数発撃つ。

 

爆発するプラズマ光弾が容易くMS群を爆砕させて吹き飛ばしていった。

 

この時点で、基地施設の機能は致命的な状態になり、周囲は瓦礫と炎と化す。

 

その中をガンダムヘビーアームズが駆け抜け、次々と対峙するリゼルやリーオーを個々にビームガトリングで撃破していく。

 

そして、空中から迫るエアリーズを撃破しながら格納庫へと接近。

 

出撃した新型機であるグスタフカール部隊へ向け、グレネードランチャーを撃ち放った。

 

1機のグスタフカールを中心に爆発が発生し、周囲のグスタフカールや格納庫を一気に焼き砕いて吹き飛ばす。

 

ガンダムヘビーアームズのコックピットモニターでは、新型機の破壊を確認する。

 

基地施設全体を索敵しても直、敵機の存在はない。

 

事実上、任務が完了した。

 

トロワは平然とした表情で目をつむり、基地施設を後にした。

 

 

 

オーストリア 地球連邦軍・OZウィーン基地

 

任務:要人シャトル撃破

 

 

 

基地では既に銃撃戦が展開されていた。

 

リーオーとジェガンの部隊が、離陸準備中のシャトルを守るように並列してビームライフルを撃ち放つ。

 

そのシャトルには傲慢や歪みに満ちた連邦軍とOZの要人を乗せていた。

 

以前の実例を踏まえ、彼らに対する防衛部隊も増強されていた。

 

空中からも、リゼルとエアリーズ部隊がホバリングしながらビームライフルとビームチェーンガンで射撃する。

 

その中を反撃のビームがはしり、エアリーズとリゼルがそれに撃墜された。

 

ビームを放ったのはラシードとアブドルのマグアナックだった。

 

2機のマグアナックがビームライフルを放ち続け、空戦部隊から撃墜を開始し、次第に地上部隊へとビーム射撃が下りていく。

 

アウダ機のマグアナックも駆け抜けながら、リーオーやジェガンの機体をレフトアームクローで貫いていく。

 

ビームサーベルで1機のジェガンが斬りかかるが、ビームサーベルを握ったライトアームを容易く握りとられ、アームが握り潰される。

 

そしてコックピットごとレフトアームクローが突き刺され、ジェガンは爆発した。

 

マグアナック達の攻撃がかけられる中、後方よりガンダムサンドロックが突貫。

 

ヒートショーテルを唸らせ、クロス斬りで左右両端のジェガンを叩き斬る。

 

ガンダムサンドロックは背後の爆発と共に威圧するかのごとく両眼を光らせ、瞬発的な衝撃を起こして舞い上がった。

 

ビームチェーンガンで対抗するエアリーズ部隊。

 

ビームはガンダムサンドロックの装甲面で虚しくはじく。

 

ガンダムサンドロックは振り上げたヒートショーテルで2機のエアリーズを同時に斬り潰し、もう2機のエアリーズに襲いかかった。

 

ヒートショーテルを振り払い、1機を横一線に破断。

 

もう1機を立てに振り上げたレフトアーム側のヒートショーテルで一刀両断する。

 

その2機の爆発を掻い潜り、3機編成のリゼルへと迫った。

 

1機のリゼルがシールドの先端からビームガンを撃ち放つ。

 

撃ち飛ばされたビームは、ヒートショーテルの刀身に当たり、また虚しくはじく。

 

轟と接近したガンダムサンドロックはそのリゼルを豪快に叩き斬り、もう2機目掛けヒートショーテルを振り上げた。

 

ギンと両眼を光らせた刹那、ブースターのブーストをかけ、急降下を兼ねながらリゼル2機を同時に斬り捌いた。

 

そしてリーオー部隊の眼前に滑走路を砕いて着地し、

目の前のリーオーに一刀を斬り込んで、胸部面をスバンと容易く斬撃音と共に破断する。

 

リーオー部隊の向こうではシャトルが離陸加速をかけ始めた。

 

ジェガン部隊からの抵抗も激しくなる。

 

ガンダムサンドロックは、ビームマシンガンとビームライフルの攻撃を浴びながらヒートショーテルを振り払い、一気にリーオー部隊へと迫った。

 

その間に、マグアナックの援護射撃がかかり、数機のリーオーとジェガンが破壊される。

 

リーオー部隊の中でヒートショーテルの乱舞を巻き起こし、激しい破壊を繰り広げるガンダムサンドロック。

 

連続斬りが、リーオー達を虚しく葬っていく。

 

ジェガン部隊へと迫り、連続斬撃でこれらを斬り飛ばしながらシャトルへ向かうガンダムサンドロック。

 

シャトルは更に加速をかけ、遂に離陸。

 

ビームサーベルで斬りかかるジェガンを斬り飛ばした後に、ガンダムサンドロックはブーストをかけて持ち前のパワーを活かしてその場から離脱した。

 

ガンダムサンドロックの後方にいたジェガンが吹き飛ばされ、目の前にいたジェガンはヒートショーテルを×の字に食い込まされたまま押し飛ばされていく。

 

その部隊配列が崩れた中へマグアナック隊の射撃が撃ち注がれ、アウダ機のマグアナックがジェガン目掛けレフトアームクローを突き刺した。

 

ガンダムサンドロックはジェガンに食い込ませたヒートショーテルを一気に振り払い、ジェガンを斬り刻むと、更に加速を重ねて上昇するシャトルに向かう。

 

迫るシャトル目掛けヒートショーテルを振りかぶる。

 

そして強力な斬撃が、傲慢や歪みに満ちた者達を葬る。

 

シャトルは斬撃音を響かせながら破斬され、虚空の空に四散。

 

爆発を背にしたガンダムサンドロックの両眼が光った。

 

カトルは任務が完了した事を確認すると、ゴーグルを外してマグアナック隊へ撤退を呼び掛ける。

 

マグアナック隊の面々は誇らしげな笑みを浮かべ、ガンダムサンドロックと共に機体を離脱させていった。

 

 

チェコ プラハ近辺上空

 

任務:ガルダ及びガルダMS部隊破壊

 

 

 

プラハの夜空を悠々と飛ぶ連邦軍の巨鳥・ガルダ。

 

空の要塞とも言える超大型輸送機だ。

 

このガルダは、定期メンテナンスの為、最寄りのプラハ地球連邦軍空軍基地を目指し航行していた。

 

その巨鳥の腹には幾多のアンクシャ部隊を抱え、航空部隊の威厳を見せつけていた。

 

規程された幾つかの機体には有事に備え、パイロット達がコックピットに着座している。

 

パイロットの一人がふとモニターを見たその時、ガルダの格納庫の壁の向こう側より、何かが突き刺さってきた。

 

それはライトグリーンのビームサーベルのようなものであった。

 

格納庫内に警報器が鳴り響く中、そのビームの刃は四角形に壁を斬り刻む。

 

そして吹き飛ばされた壁の向こうより、死神が姿を現した。

 

両眼を光らせたガンダムデスサイズは、ガルダの格納庫内に殺戮の嵐を巻き起こす。

 

先程のパイロットがいたアンクシャのコックピット部目掛け、バスターシールドを突き刺す。

 

アンクシャは爆発を巻き起こし、ドック施設を破壊してしまった。

 

ガンダムデスサイズは、容赦なく反対側のアンクシャをビームサイズで斬り刻み破壊する。

 

兵士達はガルダ内部での非常事態にパニックを起こす。

 

閉鎖された空間とガンダムデスサイズが醸し出す死のオーラがそうさせていた。

 

ビームサイズを振るい、格納庫のアンクシャを斬って回るガンダムデスサイズ。

 

有事に備えていたアンクシャ達が起動し、カメラアイを光らせて、ビームライフルをかざした。

 

ビームライフルのビームが、ガンダムデスサイズへと撃ち注がれる。

 

閉鎖空間故に集中放火は免れない。

 

だが、突如としてアンクシャのコックピットモニターからガンダムデスサイズの姿が消えた。

 

更に異常を起こすモニター画面。

 

ガンダムデスサイズのハイパージャマーによるものだ。

 

次の瞬間、ビームエネルギーがコックピット全体に押し寄せ、パイロットが無惨に蒸発する。

 

客観的視点においてバスターシールドを突き刺すガンダムデスサイズの姿があった。

 

破裂するかのように爆発するアンクシャ。

 

ガンダムデスサイズへと撃ち注がれるビームは、時折ガルダの壁を攻撃してはガンダムデスサイズを掠める。

 

射撃をモノともしないガンダムデスサイズは、大きくビームサイズを振りかぶり、2機のアンクシャへ斬り付けた。

 

胸部から破断された2機のアンクシャが斬り飛ばされ爆発する。

 

更にその反対側からアンクシャ達が3機がかりで攻めいる。

 

巻き起こる炎の中、ガンダムデスサイズはビームの方向へと振り向き、ビームサイズをかざして斬りかかった。

 

1機のアンクシャが一振りで破斬され爆発。

 

もう1機のアンクシャが、刃を反転させたビームサイズの一振りに斬り飛ばされた。

 

対峙した者達を次々と葬る死神。

 

アンクシャのパイロット達は既に姿が見えない敵に混乱するばかりだった。

 

ガンダムデスサイズへとビームを撃つつもりが、全く関係ない方向へと射撃してしまう。

 

そのアンクシャは無惨に胸部を斜めに斬り上げられて破砕された。

 

その後方よりガンダムデスサイズ目掛け、ビームサーベルで襲いかかるアンクシャがいた。

 

そのアンクシャは有視界戦闘をしながらガンダムデスサイズへと迫っていた。

 

クロスさせた斬撃をバスターシールドで受けとめるガンダムデスサイズ。

 

ガンダムデスサイズはパワーでアンクシャを圧倒し、ビームサーベルを押し上げた。

 

そしてバスターシールドをアンクシャのコックピットへと刺突させた。

 

巻き起こるアンクシャの爆発がガルダの内部で響き渡った。

 

その後、ガンダムデスサイズは待機中のアンクシャを斬り刻んで回る。

 

無抵抗のアンクシャ達は、ただ斬り刻まれ破砕されていくのみであった。

 

ガンダムデスサイズは内部面からガルダの戦力という戦力を破壊して回り、破壊の限りを尽くす。

 

斬撃音が繰り返し響き渡り、爆発が幾度も巻き起こる。

 

業火に満ちた中、死神は巨鳥の心臓を抉ろうと動力炉の外壁を斬り刻む。

 

外壁の向こうには永続航行を可能にしている動力炉があった。

 

ガンダムデスサイズは容赦せずにビームサイズでこれを斬り刻んだ。

 

激しい内部爆発を巻き起こしながらガルダは激しく爆砕し、夜空に閃光と共に轟音を轟かせた。

 

激しい爆発の中から飛び出すガンダムデスサイズ。

 

コックピット内では、デュオが不敵な笑みを浮かべ二ヤついた。

 

一方のプラハ基地おいて、ウィングガンダムが強襲をかけていた。

 

 

 

チェコ プラハ地球連邦軍・OZ空軍基地

 

任務:ガルダ及びガルダ整備施設の破壊・航空部隊の壊滅

 

 

 

構えられたバスターライフルの銃口からビーム渦流が撃ち出され、斜め上上空より整備施設目掛け直進する。

 

その間に、空中で警備にあたっていたリゼルやエアリーズの部隊がビーム渦流に呑まれ、かき消されるように破砕されていく。

 

掠めた機体群も、エネルギー破で誘爆を巻き起こし、爆発光と化した。

 

突き進んだビーム渦流は整備施設を直撃し、凄まじい破壊力で広範囲を破砕させる。

 

爆発の巨大な火柱が巻き上がった。

 

ウィングガンダムは次の標的へと照準を合わせる。

 

基地の滑走路上にいる3機のガルダだ。

 

無論、内部にはアンクシャ部隊が敷き詰められていた。

 

起動可能なアンクシャ部隊が、ウィングガンダムへの攻撃の為に出撃していく。

 

エアリーズやリゼル部隊と共に舞い上がる。

 

だが、任務に忠実なヒイロはあくまでガルダへと照準を合わせ続けた。

 

下方からは幾つものビーム射撃がはしる。

 

MS部隊が迫る中、解き放たれたバスターライフルのビームが狂ったように突き進んだ。

 

そのビーム渦流は、アンクシャ部隊やリゼル部隊を叩き潰す渦のように破砕させ、1機のガルダ目掛け直進した。

 

ビームがガルダに直撃し、瞬時に激しい破壊を巻き起こす。

 

バスターライフルからのビーム渦流を持続させ、ウィングガンダムはなぞるように残りのガルダへと銃口を向け続けた。

 

ビーム渦流に巻き込まれるアンクシャやリゼルと共にガルダの機体は連続で破砕され、巨大な炎の柱と化していった。

 

そして迫るエアリーズ、アンクシャ部隊へと通常出力でバスターライフルを撃つ。

 

一発で3機が破壊させる勢いでウィングガンダムはバスターライフルの射撃を続けた。

 

一発、二発、三発と放たれるバスターライフルの射撃に、ランダムで撃ち飛ばされるエアリーズやアンクシャ。

 

虚しい爆発光となって夜空に散っていく。

 

その最中、1機のアンクシャがビームサーベルに切り替えてウィングガンダムに襲いかかる。

 

そのアンクシャに銃口を向けるウィングガンダムだったが、エネルギー切れを起こしてしまった。

 

銃口から粒子の粒が吹き出して消える。

 

アンクシャはこの期を逃さまいとビームサーベルを振りかぶりウィングガンダムに突っ込んだ。

 

だが、ビームサーベルを振った刹那、アンクシャの胸部へとシールドの先端が突き刺さる。

 

アンクシャは突き刺された部位を爆発させて墜落。

 

地上で破砕した。

 

ヒイロはバスターライフルをシールドに接続させ、ビームサーベルに武装を切り換えると、急降下しながら1機のリゼルを斬り飛ばした。

 

舞い降りたウィングガンダムは、加速の力を乗せた斬撃でエアリーズやリゼルを各個撃破していく。

 

破断されたリゼルの爆発を突き破り、エアリーズ目掛けビームサーベルを串刺しにし、破壊する。

 

ギンと両眼を発光させたウィングガンダムは、轟とリゼルを斬り付け、隣接地にいたエアリーズを斬り飛ばした。

 

破断面の隙間の向こう側からウィングガンダムの姿が現れ、爆発に包まれた。

 

 

 

ポルトガル リスボン地球連邦軍・OZ宇宙港基地

 

任務:新型MS・ジェスタ関連の破壊

 

 

 

地球連邦軍の次期主力機として、月のアナハイム社から届けられたジェスタは、リスボン宇宙港基地を主軸に入荷され、指定された各基地へと運ばれようとしていた。

 

アナハイム社は民間のMS開発会社で、これまでに幾多のMSを開発してきた大手の民間企業である。

 

民間故に、メテオ・ブレイクス・ヘルの標的にはなっていなかった。

 

アナハイム社は幾つかの連邦軍の宇宙港を窓口にしてMSの納入等を行い、まつわるデータもそれらの基地と提携して収めていた。

 

だが、連邦軍・OZの手に渡った時点でその柵は解放され、攻撃対象となる。

 

この日、リスボン宇宙港基地には12機のジェスタが納入されていた。

 

周囲にはジェガンやリーオーが武装を構えて警備にあたっていた。

 

1機のジェガンのカメラアイが点滅し、高エネルギー反応を捉えた。

 

次の瞬間、小規模のビーム渦流が撃ち込まれ、警備にあたっていたリーオーやジェガンが破壊された。

 

基地全域に警報が鳴り響き、MS隊が発進していく。

 

基地の滑走路の向こう側からはガンダムジェミナス01、02が軽快な軌道で迫っていた。

 

タイミングよく合わせながら、アクセラレートライフルを構えると、同時に中規模のビーム渦流を放った。

 

二本のビーム渦流は、射軸線上にいた2機のリーオーと3機のジェガンを砕き散らせて突き進み、警備にあたっていたリーオー2機を直撃し破壊した。

 

軽快なブーストステップワークで左右に旋回する2機のガンダムジェミナス。

 

アクセラレートライフルを何発も撃ち飛ばし、ジェガンやリーオー部隊を各個撃破する。

 

その最中、バードモードのウィングガンダムが基地に突き進み、激しい轟音を轟かせながら突っ込んだ。

 

白煙と爆発が巻き起こり、上空へ立ち上る。

 

コックピットから下りたヒイロは、混乱に乗じて基地内に潜入した。

 

ヒイロは銃を片手に基地内部を駆け抜け、出くわす兵士達を次々と銃殺していく。

 

銃にはサイレンサーが取り付けてある為、銃声が響く事はない。

 

ヒイロは、ダクトの排気口への潜入を成功させ、腕時計型の超小型データベースを使いターゲットポイントへと目指す。

 

モニターの情報は、全てスパイ・エージェントが提供したデータだ。

 

その間の外の戦闘は激しく展開されていく。

 

基地の滑走路上をスライドするように飛ぶガンダムジェミナス01、02の動きに翻弄されるリーオー部隊。

 

ビームマシンガンのビームが虚しく外れていく。

 

ガンダムジェミナス01がリーオー部隊に回り込み、1機を近距離からの射撃で破砕させると、ビームソードに切り替え、2機のリーオーをまとめて斬り飛ばした。

 

ガンダムジェミナス02も1機、2機とジェガンを撃ち飛ばし、ジェガン部隊を翻弄させる。

 

左右へと順に撃ち放ったアクセラレートライフルのビーム渦流がジェガン2機を破砕。

 

そして3機のジェガンへアクセラレートライフルのチャージショットを撃ち込んだ。

 

近距離で放たれたビーム渦流が、瞬く間に3機のジェガンを破壊し、リーオー2機を巻き込んで破壊する。

 

出撃したMS隊は抵抗虚しく葬られていく。

 

ガンダムジェミナス01のビームソードの一振りが、豪快に3機のリーオーを斬り飛ばし、爆発の華を咲かせる。

 

そこからのブーストダッシュで一気にジェスタ目掛け加速するガンダムジェミナス01。

 

ジェガンとリーオーがビームライフルとビームマシンガンで行く手を阻むも、高速連斬で斬り捨てられ破壊された。

 

ガンダムジェミナス02も、周囲の敵機を華麗な銃捌きで破壊する。

 

そして、ガンダムジェミナス01は、仰向けになっているジェスタをビームソードで串刺しにしては斬り払い、破壊して回った。

 

やや遅れて到着したガンダムジェミナス02も、ジェスタをアクセラレートライフルで立て続けに破壊した。

 

ジェスタを破壊し尽くした2機のガンダムジェミナスの背後には、スタークジェガンとリーオーフライヤーの部隊が迫っていた。

 

2機のガンダムジェミナスは、ビームソードとアクセラレートライフルを構え、両眼を発光させながら迎え撃って出た。

 

ガンダムジェミナス01が、スタークジェガンをビームソードで斬り払い、ガンダムジェミナス02がリーオーフライヤーを3機まとめてアクセラレートライフルで破砕させる。

 

そしてヒイロはデータベースルームに潜入し、ジェスタとグスタフカールに纏わるデータにコンピュータウイルスを飛ばした。

 

データは瞬く間に破壊され、それは月のアナハイム社のデータにも転送される。

 

コンピュータウイルスは予め、ジェスタとグスタフカール関連のみを攻撃するようにできていた。

 

ヒイロは表情を変えることなくその場を後にし、ウィングガンダムへと帰還した。

 

そして、ウィングガンダムをMSへと変形させ、スペースポート目掛けバスターライフルの銃口を向けた。

 

荒れ狂うビーム渦流を撃ち放ち、基地諸ともスペースポートを破砕させた。

 

破壊し尽くした基地を後にするバーネット兄弟には、任務達成の笑みが浮かぶ。

 

だが、ヒイロは表情を変えることはなかった。

 

 

 

地球連邦軍・秘密結社OZ合同軍事演習当日

 

ニューエドワーズ基地

 

 

 

日々行われたガンダムの攻撃の影響に屈すること無く 地球連邦軍と秘密結社OZの合同の日を迎えた。

 

編隊を組んで飛行するエアリーズとリゼル、アンクシャ。

 

銃を構えて整列するリーオー、ジェガン、ジムⅢ。

 

列を成して走行するロト。

 

膨大な数のMS達が演習に備えた姿勢で望む。

 

少なくとも500機が基地に展開していた。

 

その中には、ディエスのバイアランカスタムの姿も見受けられた。

 

「こいつはすげーぜ……!!!何て数の演習だよ……さて、あの龍は来るかな!??」

 

ゼクスとリディ達も編隊を組んで飛行する。

 

トールギス、オーバーエアリーズ、ユニコーン、リゼルカスタムがVの字を描いて周囲の機体と共に飛行していた。

 

リディは初めて見る光景に圧巻していた。

 

「凄い……!!!これ程までのMSの数は見たことが無いです!!正に圧巻の一言ですよ!!」

 

「ふ……私自身もだ。だが、彼等はこの程度では道程驚きはしないだろう……」

 

通常の感覚ならば、蜂の巣は免れない。

 

ジオン残存軍とネオジオンが一斉に同時に攻めたとしても危ういと言える数だ。

 

リディは流石に自機でこの数の敵を攻めたとしても、生き延びる自信は無かった。

 

「この中へ飛び込むなんて……余程のバカですね……」

 

「ああ……だが……バカは来る!!!」

 

ゼクスは確信にも似た気持ちで言い切ってみせた。

 

そして、OZ総帥であるトレーズも自らトールギスⅢの中へ搭乗し、演習を眺めていた。

 

「実に戦士達の行動は美しい。彼らもこの美しさの中へ身を投じて頂きたいものだ……さぁ……反抗の意思を持つガンダム達よ……かかって来たまえ……」

 

 

 

一方、ジオン残存軍の駐屯地に身を投じていたマリーダも、クシャトリヤのモニターを使い、仲間からの情報でこの数へガンダムが攻め混む情報を確認していた。

 

マリーダさえ、その数に驚愕を隠せないでいた。

 

「そんな……!??これ程の数をどうやって攻める気なんだ!??っく……ヒイロ……!!」

 

マリーダはヒイロの身を案じずには要られなかった。

 

ヒイロを想うが故に。

「ヒイロ……お前は死に場所を求めているのか!??いくらヒイロのガンダムでも……!!!」

マリーダの憂いを他所に、ヒイロ、デュオ、トロワ、カトル、五飛、アディン、オデルがそれぞれのガンダムを向かわせる。

 

彼等はなんの迷いの表情を浮かべていなかった。

 

その頃、L1コロニー群のどこかのコロニー内で、ドクターJは一人でデータベースと向き合って不敵に笑い続けていた。

 

「ひひひひ……くっくくくく!!!わしらのガンダムの性能、思い知るがいい!!!!この任務で……本格的にガンダムの常識と歴史が変わるぞい!!!!」

 

 

 

 

 

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エピソード11「激震のニューエドワーズ」

ガンダム―――連邦軍が開発した高性能MSであり、いわば連邦軍の象徴、あるいは英雄たる象徴であった。

だが、宇宙世紀0095……連邦とは全く別の存在の7機のガンダムが地球連邦軍、並びに同内部の秘密結社OZに対して武力介入のテロを開始した。

そしてガンダムの度重なるテロ攻撃により、ガンダムの存在はいつしか「反逆の象徴」という全く別の存在となっていく。

その反逆のガンダムを駆るGマイスター達は、大部隊が展開する北米・ニューエドワーズ基地の大規模演習への介入任務を決行する。

かつてなき反逆に、 宇宙世紀の歴史は更に震撼していくのだった……。


 

ニューエドワーズ基地を目指すガンダムジェミナス02のコックピット内。

 

モニター上で、ラルフが最終的なニューエドワーズ基地のデータをオデルに提示する。

 

「こいつがニューエドワーズ基地の演習データか……」

 

「あぁ。ざっと520……ちょっとしたカーニバルだな」

 

「カーニバルか……あちらさんもそのつもりでいればありがたいが…」

 

モニター越しのラルフは、タバコを取り出してイップクすると、すぐにそれを否定した。

 

「残念ながらないな……俺達が動いているにもかかわらず、大々的に大規模演習を公表してやがる」

 

「手の込んだ罠か……それとも牽制や畏怖させるためのプロパガンダか……いずれにしても、持久戦になるな。だが、これにあえて突っ込んで衝撃を与えるのがGマイスターの姿勢だ!!」

 

「あぁ。キツい任務になるかもしれんが、武運を祈るぜ。じゃ、俺は次の任務の情報調査に出る。任務にキリが着いたらまた酒でも飲むぞ!!」

 

「オーライ!!じゃあな」

 

「あぁ、グッドラック!!」

 

通信を終えたオデルは早速データを機体にバックアップする作業を開始した。

 

「データ、有り難く頂戴するぞ……ラルフ」

 

 

 

メテオ・ブレイクス・ヘルの本部があるコロニーに、ガンダムを開発した博士達が集結していた。

 

地下施設武装組織故に、エレベーターによってコロニーの下層部へ移動する。

 

ドクトルS、H教授、老師O、が寡黙に佇む中で、ドクターJとプロフェッサーG、ドクターペルゲがニヤニヤと笑いながら会話する。

 

「今回の任務は、世界にワシらの技術の驚異を知らしめる事になるじゃろ……連邦軍のMSが無双される風景が浮かぶわい!!!かかかか!!」

 

「連邦軍とOZに衝撃を与え続けなければならんからな!!ワシの芸術品も公に晒せる時が来た!!たまらんわ!!!」

 

「奴等はこれまでに幾度もなく戦争の火種の要因となってきた……今回もじゃがな。宇宙世紀の歴史に衝撃を与える日になるのは間違いない!!!」

 

マッドサイエンティスト達の独特の空気が立ち込める中、ドクターJが、メガネを義手でくいっと動かしながらペルゲに問いかける。

 

「そうなれば……お前さんの開発したあのシステムの解放は今回解放させるべきかな……?」

 

「いやいや……事にもよるがまだ早い段階じゃろうて……」

 

「いずれにせよ……この次からのでかい任務で解放させるかもしれんぞい。なにせ、ダカールとルクセンブルクが控えとる!!あそこは本部故に戦力はかなりのものと予想される……!!!」

 

エレベーターが開き、管制モニター室にドクター達が入室する。

 

エージェント達もそれを迎ながら報告する。

 

「!!ドクター!!お疲れ様です!!」

 

「うむ、御苦労じゃ……」

 

「現在、ガンダムは各々にニューエドワーズ基地へとへ向かっております!!間もなく任務が開始されます!!」

 

「くくかかかっ!!この任務で宇宙世紀の歴史に克つを入れるぞい……」

 

 

 

北米 地球連邦軍・OZニューエドワーズ基地

 

 

 

整列を成して行進する幾多のリーオー達。

 

銃を構えて整列したまま静止しているジムⅢや、射撃演習を開始するジェガンの大部隊。

 

強化型ビームバズーカや簡易型ドーバーガンの射撃を開始するリーオー大部隊。

 

走行中に虚空の空の方面へ砲撃するロト部隊。

 

並列飛行を成してからのアクロバットな飛行をするエアリーズ部隊。

 

リゼルやアンクシャの部隊がこれに続き、可変フォーメーションをとる。

 

これらの光景は大規模かつ盛大な催しには代わりはなかった。

 

基地の会場には、各メディア関係者も訪れており、地球圏全域で生放送されていた。

 

事実上、現連邦軍・OZの戦力を見せつけるプロパガンダに他ならなかった。

 

地上部隊の砲撃が一旦終了すると、ディエスが駆るバイアランカスタムが飛び立ち、空をホバリングした後に華麗に回転しながら空を自在に飛ぶ。

 

ガンダムに匹敵する力を持った異形のMSは、地下から立ち上がって接地されたターゲットへと向かう。

 

そのターゲットは鹵獲された無人のガルスKやドムトローペン、ドワッジ等のジオン残存軍のMSであった。

 

ターゲットを破壊する演習を聞かされていたディエスであったが、このような形をとる連邦軍のやり方に嫌らしさを感じてなら無かった。

 

「おいおい……破壊させてはもらうが、何て悪趣味なプロパガンダだ!??」

 

バイアランカスタムは拡散ビームマシンガンを撃ち放ってこれらの機体群を撃破し、止めにビームサーベルで斬り裂いて破壊。

 

華麗に着地して見せるバイアランカスタム。

 

ディエスは自らの遺憾を漏らしながら呟いた。

 

「……ジオンの連中さんにはヘドが出る光景だろうな……俺自身も気が進まん……人としてな」

 

その後に、先程のリーオー部隊達がビームバズーカの射撃を再び開始する。

 

次はドムトローペンやズサ、ザクマリナー、デザートザク等をターゲットとした演習だった。

 

次々に高出力ビームで虚しく破砕されていく、ジオンのMS達。

 

同時にビームバズーカの威力も十二分に披露されていった。

 

それに続くようにゼクスの部隊、反乱ガンダム調査隊が離陸していく。

 

尚、部隊名は今演習より「 MS-TOPGUN」へと改名された。

 

トールギスを筆頭にオーバーエアリーズが続くゼクスの部隊とユニコーンを筆頭にリゼルカスタムが続くリディ部隊に分かれながらV字飛行を展開し、そこから更に軌道を左右に分かつ。

 

各機がアクロバット飛行を始め、華麗な飛行を披露する間に、地上では幾多のジオン残存軍のMSが用意された。

 

ゼクス達はターゲットの準備が整った事を確認すると、部隊をターゲットへと向かわせた。

 

トールギスのドーバーガンが、イフリートを破砕。

 

オーバーエアリーズ達が放つメタルミサイル群が連続でザクやグフ、ゲルググを砕き散らしていく。

 

続けてユニコーンのビームマグナムがガルスJを破砕し、リゼルカスタム達が、メガビームランチャーでハイゴックやズゴックE、ザメルを破壊させた。

 

ゼクスもディエス同様、やり過ぎなプロパガンダに違和感を示していた。

 

「……これは少々やり過ぎだ。彼等が見ているのであれば屈辱は免れない……より不平不満、反抗の意思を与えるのではないだろうか……?悪趣味なものだ……」

 

対し、リディは何の違和感も示していなかった。

 

「これは連邦軍の力を見せつけるには持ってこいのプロパガンダだ!!俺は気に入った!!!この中継を見ているジオンの連中により力を見せつける事ができるな!!!」

 

基地の北側の中央で聳え立つトールギスⅢ内で、トレーズはこの演習に遺憾を感じていた。

 

トレーズはディセットへ通信回線を開く。

 

「ディセット……今回の演習は君に一任していたが、これはいかなる演習なのか?」

 

「トレーズ閣下……!!はい!!地球連邦軍と共に、我々の力を反抗勢力に示す事が主な狙いであります!!オペレーション・イカロスとは別件であることは無論ではありますが……」

 

「力を示すまではいい……だが、ジオンのMSを晒すに至っては、私としても遺憾である。彼らにも戦士の価値観や誇りは当然ある。これはやり過ぎな行為だ。

言ったはずだ……事はエレガントに運べと……」

 

トレーズは無論の事ながらジオンを淘汰する立ち位置にいる。

 

だが、彼はそれでも反抗の意思を持って闘い続ける彼らの姿勢に一目置いていた。

 

そのジオンを公開処刑するかのように演習項目を組んだディセットのやり方に遺憾を示さざるをえなかったのだ。

 

ディセットは、尊敬してやまないトレーズの思考に答えられない自分を悔やむ。

 

「はっ!!申し訳ありませんでした(っ……トレーズ閣下のお心に答えられないとはっ………くぅっっ……!!!)!!!」

 

「ディセット……今以上にOZを学びたまえ。ターゲットの事は一度出てしまった以上もうどうにもなるまい。オペレーション・イカロスに期待する……」

 

「はっ!!」

 

ディセットの硬い敬礼で通信を終えた後に、再び演習の風景に気持ちを移すトレーズ。

 

彼の中で今の思惑が流れる。

(ジオンの戦士達を侮辱してしまったことは彼らにお詫びしたいものだ。しかし、その侮辱による遺憾で、戦火が始まるかもしれん。だがそうなればその歴史に道を進めばよい……まだ人々は戦い、闘い続けねばならないのだ)

 

戦い続けることが今の人類が維持していくべき姿勢とトレーズは考えていた。

 

人類の闘う姿勢の先にあるものを見据えての考えでもあった。

 

更にその闘う姿勢の代表格たるメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達を重ねた。

 

(これまでに反抗勢力のガンダム達には先手を打たれ続けてきた。だが、オペレーション・イカロスで形勢を替える事ができるであろう……)

 

連邦軍やOZのMS群が演習を展開する最中、ミスズは管制塔より演習の光景を見ていた。

 

有事の際の作戦指揮をゼクスより任されていた為、オーバーエアリーズに搭乗していなかった。

 

更に言えば、ガンダムとの戦闘で彼女を失う可能性を少しでも下げたいと想うゼクスの配慮でもあった。

 

「……ふふっ、ゼクスも心配性だ。わざわざパイロットの私をこの位置に配備してくれるとはな……」

 

「はぁ……?」

 

部下はミスズの言葉に不明瞭な反応を示す。

 

それに対し、ミスズは恥ずかしげにすることなく、堂々と言って見せる。

 

「ん!?解らんか?想われているということだ!!」

 

ミスズはそういいながら望遠レンズを手に取り、半ば笑みを浮かべた。

 

望遠レンズにはユニコーンと並列飛行するトールギスの姿が映っていた。

 

 

 

世界に、地球圏各地に放送される合同軍事演習の模様が各家庭や、企業、軍事関係に至るまで放送される。

 

コロニー間を航行するガランシェール隊のジンネマン達もこの放送を目にしていた。

 

ジンネマンはMS乗りではなかった為か、然程の違和感を示してはいない様子だ。

 

だが、それでも決して気持ちの良いものではなかった。

 

「連中め……ジオンのMSを晒し者にしやがったな……見て良いもんじゃねぇ。特にMS乗りやうちのメカニックのシンコ達が見りゃ怒りが沸騰物だ」

 

フラストがポツリと言い始めた。

 

「あいつら……どこまでジオンを侮辱するんですかね……!!」

 

フラストの呟く言葉に答えるようにギルボアは言った。

 

「それは連邦のヤツらに聞いてみなきゃわからんさ……連邦軍は結局変わりゃしない……今も昔も……」

 

ジンネマン達の脳裏にかつて、連邦軍の大量虐殺の事件が過る。

 

連邦軍がとあるジオン関係者が住むコロニー内で無差別攻撃をし、女性や子供、老人関係無く殺戮をした事件である。

 

反乱分子のコロニーの鎮圧という名目上で行われ、真実は連邦軍により、完全に情報工作されてしまったのだ。

 

「昔も今もか……確かにな……だが、今は俺達を含むコロニーの為に立ち上がった馬鹿共がいる」

 

ジンネマンは、頬杖をしながらギルボアの言葉に答えた。

 

確実にかつてとは違う状況の一つを。

 

「馬鹿共って……あの例のガンダムですか?」

 

「あぁ……今や反抗の象徴になりつつある馬鹿共だ。ふふふ……仕掛けるMSがガンダムって所がしっかり皮肉を加味させてくれている」

 

メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを支持する発言をしたジンネマンにフラストが意見を挟んだ。

 

「自分も馬鹿共を支持したいのですが、最近はその影響でコロニーの方も危うくなってきてます。実際にコロニーの連邦軍の軍備増強やジオン残存勢力やその他反抗勢力への攻撃も強くなって来てるんです。昔と同じことが起こる可能性が高くなってきているのでは!?」

 

確かにフラストの言うことも最もであった。

 

だが、それでもジンネマンはメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達を支持する発言をした。

 

「確かにそうかも知れん。だが、今までああも打って出る奴等はいなかった。あいつらのやっている行為は歴史に残る誰もやらなかった凄まじい行為だ。それに……」

 

ジンネマンは頬杖をやめ、キャプテン座席に設置されたドリンクホルダーのコーヒーを手に取った。

 

コーヒーをすすると、ジンネマンは言葉の続きを語る。

 

「マリーダが実際に彼らに世話になっている……少なくとも我々の味方側の勢力であることは間違いない……ふぅ……コーヒー追加してくれ。誰でもいい」

 

「じゃあ、自分が」

 

「すまん、フラスト」

 

フラストはコーヒーを追加しながらジンネマンの意見を確認した。

 

「じゃあ、キャプテンは支持するお考えで?」

 

「それ以外に何がある?マリーダも彼らの事を信頼している。何よりも姉妹であるマリーダの姉、エルピー・プルを彼らが保護してくれているんだ」

 

「あ、そう言えばそうでしたね!そうなると我々の方が彼らに借りを作っている感じになってきますか……」

 

「借りか……ははは!まぁな……」

 

そう言いながらジンネマンはコーヒーを飲み続けた。

 

 

 

オルタンシアのバスルームでは、プルとロニが入浴していた。

 

泡が溢れる程の泡風呂だ。

 

プルは泡を手に取り、ふっと息を吹きかけてロニへ向かって泡を飛ばして見せた。

 

「きゃ!?」

 

「ふふっ♪あわあわ~」

 

「もう、プルちゃんたら!お返し!」

 

ロニは息を長くして、手に取った泡をプルへ吹きかけた。

 

「きゃはははっ!えいえい!」

 

「きゃー!も~…そういうコには……こうしちゃう!」

 

ロニの泡を受けたプルは、更にはしゃいで泡をロニへかけた。

 

大量の泡がロニへとかかり、お返しにとロニはプルを直接くすぐってみせる。

 

「きゃー!ロニお姉ちゃんくすぐったーい!!きゃはははは!!」

 

ロニとプルがはしゃぐ声が、バスルームの外まで漏れ、通りのオルタンシアクルーもついちら見してしまう。

 

「あたしもロニお姉ちゃんくすぐる!!それ!!」

 

「あ、プルちゃん……きゃはははは!!もー!!」

 

ロニはプルのペースに持っていかれ、つい無邪気に帰ってしまう。

 

はしゃぎ疲れたロニは溜め息をしながらもたれ掛かった。

 

「ふぅ~……何年ぶりかしら、こんなにお風呂ではしゃぐの……」

 

ロニはふと幼少の頃、父親のマハディにお風呂へ入れさせてもらっていた時の記憶を思い出した。

 

「……お父様……」

 

ロニがポツリと呟いたその時、ロニの肩へプルがもたれ掛かるように寄り添った。

「ロニお姉ちゃ~ん」

 

「きゃ!」

 

「えへへ~……ロニお姉ちゃん、すべすべ~」

 

「ふふっ、プルちゃんたら……甘えん坊さん!」

 

ロニが甘えてくるプルを撫でると、プルはロニの腕に手を回して更に甘える仕草をした。

 

「プルプルプルぅ~……あ、ねぇ、聞いて!!あたしアディンのガンダムのぬいぐるみ作ったんだよ!!ぬいぐるみって言っても手のひらサイズだけど~……」

 

「あ、作ったんだぁ!?」

 

それを聞いたロニはまた一つ嬉しい気分になった。

 

何故ならば、簡単なぬいぐるみの作り方をプルに教えていたからだ。

 

「うん!ロニお姉ちゃんに教わったように作ってみたよ!今はあたしの部屋にあるんだけどね。アディンが帰ってきたら渡すんだぁ……」

 

恥ずかしげに言うプルが、またロニのプルに対する愛しさを増させる。

 

ロニはプルを撫でながら肩と頭を寄せてみせる。

 

「ふふ♪好きなんだね、アディン君が!」

 

「うん……好き♡ロニお姉ちゃんもカトルが好きなんでしょ?何かあげなよ~」

 

「あ、私はこの前、手作りのアクセサリーあげたのよ。いつも肌身離さず持ってくれてるわ」

 

「そうなんだ!あたしもはやくあげたいな~…」

 

バスルームでガールズトークが咲く中、プルの部屋には可愛いガンダムジェミナスの小さなぬいぐるみがころんと机に置かれていた。

 

二人は5、6歳の差はあれど、恋する気持ちは同じである。

 

ロニはプルをまた撫でて抱き寄せた。

 

だが、プルとの一時を終えたロニの表情にはどこか暗い陰を落として、ベットの上で横になっていた。

 

彼女の中で、とある想いを幾度もなくひしめきあわせる。

 

「連邦軍……OZ……」

 

以前にヒイロやデュオから聞かされたあの日のテロの真実が、ロニの行動を借り立たせようとしていた。

 

「テロを利用したテロ……偽装工作……摘発……企業崩壊……」

 

過る不快なワードを口にし、次第に想いが怒りの感情へと振れていく。

 

「お父様が築き上げたものを、企業を、生活を奪った……更には社員のみんなまで巻き込んで……!!」

 

そしてロニはバッと起き上がり、一点を見つめ続けた。

 

「カトル……プルちゃん……そしてお父様……私は……闘う道を選ぶわ……ごめんなさい……やっぱり、連邦軍が……OZが許せない!!!」

 

そう呟いたロニは、何かを決意したかのようにデータベースへ向かった。

 

 

 

同じ頃、マリーダは全地球圏に放送されている演習中継をクシャトリヤのコックピット内で見ていた。

 

「……まるでジオンのMSを処刑するかのような演習……!!!不愉快だ……!!!」

 

行われる連邦軍の諸行に苛立ちを抱く一方で、ヒイロに対しこれまでにない憂いを感じてならなかった。

 

「……この途方もないMSの海の中へ飛び込むというのか、ヒイロ……!!!!」

 

 

 

前日の夜・とある駐屯滞在エリア

 

マリーダはこの日の夜にヒイロから直接連絡をもらっていた。

 

ヒイロはマリーダが以前に負傷したケガに対し、気遣う様子を見せる。

 

「マリーダ…あれから怪我の具合はどうだ?」

 

「大丈夫だ。もう大分回復してくれた。ヒイロがそうやって気にかけてくれると私も励みになるな……」

 

ヒイロに気遣われる事自体に、マリーダは心か満たされる感覚を覚え、少しばかり嬉しげな表情を見せた。

 

「そうか……」

 

「戦うために生まれた私にとって、お前の存在そのものが励みにもなる。なんか……私のような存在は一人だけじゃないと思えてな…」

 

「マリーダ……」

 

強化人間としてこの世に生まれたマリーダの生い立ちは悲劇と常に向き合った人生だった。

 

だが、ジンネマンやヒイロ、姉になるプルとの出会いにより、その柵から解放されつつあった。

 

特に境遇が似た異性であるヒイロとの出会は大きかった。

 

対するヒイロも知らない間にマリーダに惹かれつつあった。

 

「マリーダ……俺も話しておく事がある」

 

「ん?何だ?」

 

「俺達は、明日開かれる地球連邦軍とOZの合同軍事演習に強襲をかける!!エージェントからの情報による敵機は500以上だ。これを俺達が叩く……!!!!」

 

マリーダは衝撃的な言葉を受け、つい重複確認で喋ってしまう。

 

「500機余りの戦力を叩くだと!??」

 

「あぁ」

 

「正気か!?いくらヒイロ達とはいえ、そんな大部隊……!!!これまでの大戦でさえそんな戦闘はないんだぞ!!!」

 

マリーダは真剣にヒイロの身を案じて感情を出す。

 

宇宙世紀史のMSの戦闘常識においても、非常識の極みであった。

 

だが、ヒイロは心配の必要はないと言わんばかりに平然と話続けた。

 

「初期の予想数値を大幅に上回っているが、俺達のガンダムならば成し遂げる可能性は十分にある。奴等に巨大な打撃を与える最大のチャンスでもあるしな……」

 

「だからと言って…余りにも無謀な行動だ!!!」

 

「その無謀な行動が俺達の任務だ」

 

「任務……!!」

 

「俺達はジオンを含めた全てのスペースノイドの為に闘っている。俺達は俺達のガンダムでそれを体現する……!!!」

 

マリーダは同じく任務で動いている身として、ヒイロ達の任務に質の違う重みを感じでならなかった。

 

「……それでも私はヒイロが心配でならない……だから私からの任務だ」

 

「任務?」

 

「ああ。無事に帰れ……!!!」

 

「……任務了解……」

 

 

 

ヒイロとのやり取りを思い返したマリーダは、モニター中継で連邦軍とOZのとてつもないMSの数を改めて確認した。

 

総機数は520機。

 

ヒイロの言っていた機数を上回る機数。

 

そして、まだ到着しないヒイロに向かい、マリーダは静かに呟いた。

 

「……ヒイロ……どうか無事に!!!」

 

 

 

オルタンシアのプルの部屋では、プルが一人でベットに寝転び、アディンへ贈るガンダムジェミナス01のマスコットヌイグルミをころころさせながら憂いを感じていた。

 

「アディン……大丈夫かな?なんか……しばらく会えなくなっちゃいそうな感じがしてきた……もっとアディンと一緒にいたい……ふぅ……」

 

ころころさせていたガンダムジェミナスのマスコットを枕元におくと、今度は猫の抱き枕を抱えた。

 

天井を眺め、入り込む陽射しを見続けるプル。

 

意中のアディンや、動く気持ちを感じ取っていたロニへのイメージや気持ちが何度も過る。

 

「アディン……それに……ロニも……でも、ロニはロニの気持ちがあるから……止めれないよ!!」

 

不安と愛しさとが混ざった気持ちになり、プルは瞳を閉じて、猫の抱き枕をきゅっとさせた。

 

部屋で、荷仕度らしき事を始めていたロニは、荷仕度の行動をしながら何かに借られたかのように口走っていた。

 

「今までダメかと思っていたカークス達との連絡がつけた!!無事でよかった……!!私も再び闘うんだ……!!カトル、プルちゃん、暫くは会えなくなるけど、ごめんなさい……!!私は、闘うの!!!」

 

 

 

今におけるGマイスターとの関わりを持つ女性陣のそれぞれの気持ちの向こうでは、男達が無謀という名のの火中へ飛び込んでいく。

 

各ビーム射撃や砲弾が飛び交う中を真っ向から挑む姿勢は、決して揺るがぬ姿勢であった。

 

その射撃の規模はこれまでの基地の強襲の規模を遥かに上回っていた。

 

五飛以外のGマイスター達が、オデルとカトルを中心に連絡を取り合う。

 

「ラルフがくれたデータと、目の前の光景を見ての通りだ。敵機の予想される数値を遥かに上回っている!!闇雲に突っ込んでも無意味に集中放火を浴びるだけだ。そこでフォーメーションをとって敵陣に攻め込む」

 

「まず、ヒイロとバーネット兄弟のお二人で突破口を作ります。そして更にできた突破口の前線でトロワが射撃し、その両側から僕とデュオで斬り込んでいきます。そしたらヒイロとバーネット兄弟のお二人は空中から比較的奥側の部隊へ射撃し続けてください。僕達三人は中近距離の部隊を叩き続けます。そこからヒイロ達は空戦部隊を叩くようお願いします。陸は僕達と五飛で攻め込んでいきます」

 

「あの敵機勢にそのフォーメーションをとるのは利に叶うな」

 

「なー、カトル!!その五飛はどーするんだ!?あいつも勿論来るんだよな!??」

 

「はい!勿論です。ただ、彼を遊撃部隊として一任していますので、どう攻撃するかはお任せです」

 

「結局そーなるのか!!ま、その方があいつらしいな!!」

 

「早いとこ、みんなで蹴散らしてキメようぜ!!!」

 

「ですが、攻撃対象はあくまでMSにしてください!!基地施設には一般の報道関係の人達がきているようなので……」

 

報道関係者の存在を知ったデュオは口笛混じりに高揚する。

 

「ひゅー……ってことは、大々的に俺達の活躍が世界に流れるってわけだ!!こいつは大いに活用させてもらおうぜぇ……!!」

 

「どう世論が捉えるかは別だがな……ではカトルが言ったフォーメーションで攻める!!最初の一手だ!!ヒイロ、頼む!!!先制攻撃が相手の心理を乱す!!」

 

「了解した」

 

「ヒイロが突っ込んだら俺達も展開するぞ、アディン!!」

 

「解ってるぜ!!!俺達がキメる!!!」

 

会話直後、バードモードのままウィングガンダムが加速しながら滑空する。

 

 

 

♪ BGM 「JUST COMMUNICATION」

 

 

 

これに対し、ニューエドワーズ基地側がガンダムを捕捉した。

 

「空軍部隊よりガンダムを視認との報告!!」

 

「基地からの最大射程距離到達まであと僅かとの事です!!」

 

「まだディセット特佐はここに来てはいない……!!演習を展開中の全部隊に砲撃命令を出せ!!」

 

「は!!」

 

ミスズの緊急対応の命令で、展開中のMS部隊が一斉にガンダムへ向け一斉に砲撃を開始した。

 

突き進みながら射撃を浴び、多数の着弾爆発が機体装甲面で起き続ける。

 

僅かなタイミングで向こうの先制攻撃を許してしまう。

 

だが、射撃を浴び続けながらウィングガンダムを突き進ませるヒイロの表情は、揺るがぬ信念を宿しているようでもあった。

 

突き進む先に展開する幾多のMS群に睨み飛ばし、ウィングガンダムを変形させる。

 

各部を変形させたウィングガンダムは、両足でアスファルトを砕き散らしながらブレーキをかけて着地した。

 

そして、ヒイロは見据えるようにしてバスターライフルをロックオンさせた。

 

ウィングガンダムは突き出すようにバスターライフルの銃口をMS群に向ける。

 

銃口に高エネルギーが圧縮され、ウィングガンダムは最大出力の一発を撃ち放った。

 

「最大出力で撃つ……!!!」

 

 

 

ヴゥギュリリリリリリィィィィ……

 

ヴァドォヴォアアアアアアアアアアアアァァァァ―――!!!!

 

ヴァゴゴゴゴゴォバガガガガァドガゴガシャダァアアアアアァァァァッッッ―――!!!!

 

 

 

荒れ狂うように直進する巨大ビーム渦流。

 

幾多のMSを豪快にかき消すように爆砕させながら、基地を一直線に突き進む。

 

展開する機体数に比例し、破壊されるMSの破壊規模の凄まじさも増していた。

 

 

 

ギュゴァアアア……ヴァズグガゴォァアアアアアアア!!!!

 

 

 

持続される高エネルギーが、地表を爆発させ、更に周辺のMS群を破壊した。

 

直後、ウィングガンダムの右サイドからガンダムジェミナス01が、左サイドからガンダムジェミナス02が飛び出す。

 

ウィングガンダムとのフォーメーションだ。

 

「アディン!!1・2で合わせるぞ!!!」

 

「OK!!!プル……俺はキメるぜ!!!!」

 

(バカか!?何回「キメるぜ」を言う気だ!??それにプルって……)

 

オデルは色々とアディンに言いたくなるが、リズムを合わせるべく、あえて何も突っ込まなかった。

 

アクセラレートライフルを構えた2機のガンダムジェミナスは、前面に向かいながら最大出力のチャージショットを息を合わせて撃ち飛ばす。

 

「1、2……シュートッッ!!!」

 

 

 

ギュリュリリリィィ……ヴヴァダァダァァァアアアアアアアア!!!!

 

ズドォゴヴァヴァドォドォゴゴゴガァアアアア!!!!

 

 

 

二本の中規模ビーム渦流が突き進み、MS群を吹き飛ばして破砕させていく。

 

そこから3機は、空戦部隊の撃破も兼ねて上昇した。

 

この攻撃を皮切りに、ガンダムヘビーアームズが前線地に着地し、ビームガトリンク、ブレストガトリンク、全ミサイルを一斉展開させる。

 

「更なる突破口を開く……ガンダムを見たもの、全てを消滅させる」

 

ガンダムヘビーアームズはメインカメラを光らせながら、展開させた火器を一気に撃ち放った。

 

 

 

ヴォヴァドゥルルルルルルルゥゥゥゥッッ……ドドドドドドドドシュシュシュシュゴゴゴゴゴゴォォォォォッッ!!!

 

ディギャヴァラララララァァン、ドドガギャララララガガガ、ドゴォヴァ、ドドドドドドドドゴゴゴォガガガガァァ!!!!

 

 

 

一瞬でMS部隊を砕き散らしながら破壊し、更に追い討ちをかけるようにグレネードランチャーを撃ち放った。

 

 

 

ディシュゴォォオオオオッッ……ヴァギャゴォドアアアアアアアア!!!!

 

 

 

一転集中的に撃ち放ったプラズマ光弾が一気に爆発し、ドーム状のエネルギー爆発を巻き起こしてMS群を吹き飛ばして見せた。

 

バラバラになったリーオーやジェガン、ジムⅢの残骸が転がっていく。

 

そのタイミングでガンダムヘビーアームズの左右から迫るMS群にガンダムデスサイズとガンダムサンドロックが斬り込んで突っ込む。

 

「行きます!!!」

 

「でやぁああああっっ!!!」

 

左側へはガンダムデスサイズがビームサイズを振りかぶってジェガン部隊へ襲いかかり、右側へはガンダムサンドロックがヒートショーテルで斬り込む。

 

ビームサイズの強烈な振りかざしが、2機のジェガンを斜めに斬り刻み、ガンダムサンドロックのヒートショーテルの左右斬りがリーオー2機を斬り砕く。

 

 

 

ザギギャシャァアアアアッッ!!!

 

ディッッガァガギィィイイイン!!!

 

ドドドドゴバガァガァアアアアアン!!!

 

 

そこからガンダムデスサイズは振り回すようにビームサイズを振るい、3機のジェガンの上下半身を破断させて斬り飛ばした。

 

 

 

ザギャガガガァアアアアアアッッッ!!!

 

ゴゴヴァッ、ドドゴォガァオオオオ!!!

 

 

 

そして殴り込みを入れるかのようにバスターシールドをジェガンへ刺突させた。

 

 

 

ズシュドォオッッ―――!!!

 

―――ゴォヴァガァドォオオオオッッッ!!!

 

 

 

バスターシールドを刺し込まれたまま、ジェガンは破裂するように爆発した。

 

一方で、ガンダムサンドロックがヒートショーテルをリーオーに連続で叩き込む。

 

 

 

ディッッガギャン、ヒュズガァッッ、ディザァギャアアアア、ギャザァガァアアア!!!

 

 

 

胸部を狙ったヒートショーテルの斬撃で3機のリーオーが破砕し、ビームサーベルを振りかざしたリーオーを斬り払いで斬り飛ばす。

 

そしてクロススラッシュの斬撃をリーオー2機へと見舞った。

 

 

ディッッガァギィィィンッッ!!!

 

ドォドォゴバァァアアアアアッッ!!!

 

 

 

空へ舞い上がったヒイロ達は、空中からの射撃を慣行する。

 

ガンダムジェミナス01、02は下方より来る射撃を浴びながらも、断続的にアクセラレートライフルを撃ち放つ。

 

一発、一発が、ビーム渦流状態の出力で射撃している為、その破壊力はリーオーやジェガン、ジムⅢ達をなす術なく破壊していく。

 

ウィングガンダムは、前面から迫る空戦部隊を把握しながらも、モニターの奥面で地上展開している部隊群へと狙いを定めた。

 

そして再び最大出力のバスターライフルを撃ち飛ばす。

 

斜め上より襲い来る、破壊の鉄槌のごときビーム渦流が、ロト部隊群を一気に吹き飛ばす。

 

凄まじい破壊力で瞬く間にロトの大部隊が破壊され続ける。

 

ウィングガンダムは出力を維持させたまま、横方向へと銃身を動かし、更なる破壊被害を拡げていく。

 

バスターライフルが荒れ狂う下では、ガンダムヘビーアームズの終わらないガトリンクとグレネードランチャーの射撃が、ガンダムデスサイズの死の斬撃が、ガンダムサンドロックの華麗な斬撃が展開し続ける。

 

バスターライフルの出力が収縮した後、凄まじい爆発が起こり、爆炎の火柱を巻き上げた。

 

「敵襲!!!敵襲!!!総員第一種戦闘配置に移行せよ!!これは演習ではない!!繰り返す!!総員第一種戦闘配置に移行せよ!!これは演習ではない!!」

 

ニューエドワーズ基地のMS格納庫や、基地内部の廊下通路では、警報が鳴り響く中を兵士達が足音をダカダカと響かせて駆ける。

 

報道陣の関係者達も、一斉に緊急の報道の準備を始める。

 

「例のガンダムが攻めてきた!!!緊急速報準備急げ!!」

 

「カメラ回せ!!早く!!」

 

「おい!!音声と照明!!」

 

テレビ局においても慌ただしさが増す中、報道準備を急がされる状況になる。

 

「ガンダムが合同軍事演習に介入!!緊急速報だ!!しゃきしゃき動いてくれよ、しゃきしゃきー!!」

 

「ガンダムが…!?用意してたテロップよろしく!!急げ!!」

 

「は、はい!!」

 

そして、広大な基地の一面上では一斉に大規模な迎撃がガンダム達を迎え続ける。

 

しかし、それでもメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達は怯む事なく攻め続ける。

 

その光景を眼前に捉えたミスズは、双眼鏡を外して眉間にしわを寄せた。

 

「あれが……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム!!!何て力だ!!!MSの常識を当に外れている!!!!ソラック特佐の無念……託すぞ、ゼクス!!!」

 

上空でホバリングしながら待機するMS-TOPGUNの部隊。

 

ゼクスは来るべき戦いに高揚感すら覚えていた。

 

「あのビーム……まさにあの翼のガンダムだな……!!!この前の続きができるというわけだ。我々に挑む彼等を無下にはできん……各機に告ぐ。戦闘命令が出次第、攻撃をかける。全身全霊を賭してかかれ!!!」

 

「はっ!!」

 

リディもゼクス同様、攻め入るガンダム達に高揚感を覚えていた。

 

無論、狙いはガンダムジェミナス01である。

 

「さぁ……来てみろ……ガンダム!!!」

 

ガンダムジェミナス01を見据えながら闘志をみなぎらせるリディ。

 

アディンも、空戦部隊の向こうにいるユニコーンを意識しながら射撃する。

 

遠方の空をズームアップさせ、口許に半ば笑みを浮かべてユニコーンの機体を確認した。

 

「へへへ……いやがるぜ、角ヤロー……!!!」

 

アディンはニヤつきながら再び射撃に集中する。

 

「アディン!!後はカトル達に下を任せるぞ!!上昇する!!」

 

「あいよ、兄さん!!!」

 

2機のガンダムジェミナスは、タイミングを見計らい上空へと舞い上がった。

 

上空では先に上昇したウィングガンダムが、旋回しながらマシンキャノンを連射し、エアリーズ、リゼルの機体群を撃墜する。

 

少しでもバスターライフルのエネルギー回復を図るためだ。

 

ヒイロは瞬発加速を断続させながらモニターの向こうにいるトールギスを見据える。

 

「やつか……!!いいだろう……ゼクス。ここでお前を殺す……!!!」

 

一方で、格納庫から出撃する増援部隊が次々と出撃していく。

 

増援部隊の多数がドーバーガンを装備したリーオーの重装備型だ。

 

各機が、展開する部隊の外側を回り込むようにブーストダッシュしていく。

 

「ガンダムは現在、地上と空中に分散し、基地を強襲中!!!回り込んでこれらへ重火力を撃ち注ぐ!!!」

 

「オペレーションは発動してはいませんが!?」

 

「その為の攻撃だ!!ここで―――」

 

展開する隊長機のパイロットが指事を言いかけたその時、隊長機の1機のリーオーへと、シェンロンガンダムが飛び蹴りを食らわせながら突っ込んできた。

 

 

 

ディガドォオオオオッッ!!!

 

 

 

シェンロンガンダムの爪先が、リーオーの胸部を貫いて破壊する。

 

蹴りを食らわせたリーオーを、スライドしながらのブレーキで激しく破砕させた。

「またガンダムか!??くっ!!!」

 

リーオー部隊は一斉にドーバーガンの集中放火をシェンロンガンダムへ放った。

 

無論、これ程の集中放火を浴びれば並みのMSは完全に破壊される。

 

破壊数値上はガンダリウム合金を破壊するには充分過ぎる域に達する。

 

「やったか!??」

 

が、爆煙が晴れた向こうには、装甲面の表面が焦げたシェンロンガンダムがシールドで防御した姿勢で静止していた。

 

「なんだと!??」

 

「こんなものか……ナタクを斃すなど不可能だ……」

 

シェンロンガンダムは、その場から一気に跳躍し、撩牙を突き刺してリーオーを串刺し状態にした。

 

 

 

ザガギャアアアアアアアア!!!

 

 

 

そして豪快にリーオーが突き刺さったままの状態で撩牙を振りかぶって、リーオー部隊へ襲いかかる。

 

「はぁああああああ!!!」

 

 

 

ダガギャアアアアアアアアアアア!!!!

 

 

突き刺さったままのリーオーを斬り潰しながら、2機のリーオーを吹っ飛ばした。

 

更に2機のリーオーが別のリーオー部隊へ吹っ飛ばされ、著しく陣形を乱す。

 

五飛は空かさずその場所へドラゴンハングを伸ばさせ、火炎放射のジェットバーナーを浴びせた。

 

 

 

ギュゴァアアアァァアアアァァ!!!

 

ゴッゴゴヴァヴァガゴォオオオオ!!!

 

 

 

超高熱により、リーオー達は動力炉を連続で誘爆発を巻き起こされた。

 

その炎の上を歩きながら、ビームグレイブを取り出し、撩牙と合わせて構えると、ビームライフルとミサイルの放火を始めたジムⅢ部隊へ突っ込んだ。

 

「どけっっ!!!雑魚が邪魔するなっっ!!!!」

 

シェンロンガンダムはお構いなしに攻撃を浴びながらビームグレイブと撩牙を巧みに振るい、怒濤の斬撃を乱舞する。

 

まさに暴れ狂う龍のごとく。

 

 

 

ヴィジュギギャア、ザガドォオオオ、ザガシュガァアアアア、ギャガガィィッッ、ザヴィシュガァアアアア……!!!

 

 

 

ギンッと両眼を光らせたシェンロンガンダムは、ブーストダッシュで加速し、展開するジェガン部隊に襲いかかる。

 

ビームグレイブで3機を斬り飛ばし、眼前のジェガンに撩牙を豪快に突き刺して加速した。

 

撩牙を突き刺したまま、多数のジェガン部隊へ突っ込み更なる突貫を慣行し、多数機を破壊する。

 

「ディエス!!!決着をつけるぞ!!!!待っていろ!!!!」

 

その時、五飛の気迫に答えるかのように、ディエスのバイアランカスタムがニューエドワーズの空に舞い上がった。

 

「見つけたぞ……龍のガンダム!!!今日はフィーアを乗せちゃいない。存分に闘いをやらせてもらう!!!」

 

五飛も、ジェガン部隊を斬り飛ばしながらバイアランカスタムを視認した。

 

「現れたか……!!!」

 

再び麒麟と龍とが対峙する。

 

バイアランカスタムは、ビームサーベルを発生させたライトアームを振りかざして急降下を慣行した。

 

対するシェンロンガンダムは、撩牙をアスファルトに突き刺して、バイアランカスタムへ向かい飛翔する。

 

正々堂々と闘うがゆえの五飛の信念の現れだ。

 

両者のビームサーベルとビームグレイブが振りかざされ、空中で激突した。

 

 

 

ギャギィヴィィィィッッッ!!!

 

 

 

「確か……五飛と言ったな!!!トリントンの続きだ!!!」

 

「俺もそのつもりだ……決着を着けるぞ!!!ディエス!!!」

 

2機は一騎討ちとなり、刃をぶつけ合いながら地上を砕くように着地した。

 

友軍のバイアランカスタムを捲き込まないよう、シェンロンガンダムへの攻撃は止むことになる。

 

だが、他のガンダムにはこの大規模の軍勢に比例する攻撃は止むことはない。

 

大雨に打たれるかのような弾雨攻撃の状況下に晒され続けながら、個々が持てる力を奮って戦う。

 

ダカールに迫るアフリカエリアで滞在中のフロンタルとアンジェロもこの戦闘の中継を見ていた。

 

「大佐……あの群勢に例のガンダムが攻撃を開始しましたよ……」

 

「あぁ……実に興味深いな……果たしてあの無謀な闘いがどうなるのか……宇宙世紀を振り返ってもこのような例はなかったからな……」

 

「はい」

 

「我々もダカール制圧を控えている。決して他人事ではない。機体は違えど彼らの闘いをよく見ておく必要がある」

 

「はい、大佐!」

 

「我々は精鋭が揃うのを待つだけだ。揃い次第にダカールへ向かう」

 

「いよいよですね……ダカールの陥落が……」

 

「あぁ。だが、ようやく第一段階を終えるに過ぎん。陥落が成功すれば次の段階を迎える。より励んでもらいたい」

 

「はっ!!お任せください!!」

 

 

 

カトル達は直撃弾を幾つも浴びながら突貫する。

 

「躱そうとしても、躱せるものじゃない!!!ガンダムの装甲を信じて戦力を徹底して削るんだ!!」

 

接近して取り付くリーオーやジェガン、ジムⅢを、ガンダムサンドロックのスキルであるパワーを生かした力強い斬撃で幾度もなく連続斬りで叩き伏せていく。

 

両手に持ったヒートショーテルの一刀、一刀を食らったMS達は綺麗に破断され、躯と化して崩れ爆発していく。

 

ジェガンとリーオーをクロススラッシュで斬撃した直後、ガンダムサンドロックは前面から来るビーム弾雨を睨むように顔を上げた。

 

「へっへへ……鼻から撃たれまくりは承知だぜ、カトル!!ち~っとばかし攻撃はうざいけどな!!!ま、この敵勢だ……豪快に行こうぜ!!!」

 

デュオはガンダムデスサイズを断続加速させながら、ジムⅢ部隊とジェガンの部隊へと突っ込み、ビームサイズを豪快に振るって斬り飛ばしては、斬り伏せ、斬り飛ばしては、斬り伏せる。

 

ジムⅢ部隊やジェガン部隊が放つミサイルやビームの攻撃は確実に直撃しているが、ガンダムデスサイズはモノともせずにビームサイズを振るう。

 

ガンダムデスサイズのビームサイズの一振りは、3機、斬り伏せは2機を確実に仕留めていく。

 

そしてガンダムサンドロックはヒートショーテルを×の字に構えたまま、フルブースト加速をかけて弾丸のごとくMS群へ突っ込む。

 

リーオーやジェガンが無作為に斬り砕かれて破砕されていった。

 

ガンダムデスサイズも、ビームを撃ち続けるジムⅢやジェガンの部隊へバスターシールドをかざして撃ち飛ばす。

 

一直線に高速で突き進むバスターシールドが一瞬でMS軍勢を刺突しながら突き砕いた。

 

「確実に仕留めさせてもらう……残り約450機。一人50機の割り当てで破壊すれば自ずと戦意を奪える」

 

既に7機のガンダム達は短時間で、約70機余りのMSを破壊していた。

 

ウィングガンダムやガンダムジェミナス01、02そしてガンダムヘビーアームズの攻撃が大きな要因であった。

 

トロワは更にMS部隊を削るべく、突き出すように構えられたビームガトリングやブレストガトリング、マシンキャノンを連動させながら、ごり押し射撃を慣行し続ける。

 

ジムⅢやリーオー、ジェガンを次々に蜂の巣にして撃ち斃す。

 

射撃を食らったMS達は砕け散って虚しく破砕される。

 

そして時折グレネードランチャーをぶっ放し、一点にいるMS部隊を激しいまでに撃砕させた。

 

ガンダムヘビーアームズは、その場から上昇し、低空より持てる火器の射撃をぶっ放す。

 

スタークジェガンやロト部隊が蜂の巣になって連続爆発を巻き起こし、 重装備型リーオーの部隊がグレネードランチャーによって一斉に破砕されていった。

 

上空においても、ウィングガンダムと2機のガンダムジェミナスがビームチェーンガンやビームライフルの火線が飛び交う中で猛威を振るう。

 

「うぉ~っ!!!ヤバイくらいの流星弾雨だぜ!!!それに、エアリーズとリゼルがハエみたいにウザい!!!」

 

アディンは、文句を吐きながらもロックオンした敵機に向かい、チャージショットを連発してアクセラレートライフルのビーム渦流を撃ち込んでいく。

 

ビーム渦流がエアリーズやリゼルのボディーを吹き飛ばしながら爆破させていった。

 

ヴィギュダァアアアッッ、ヴィギュダァッッ、ヴィギュダァッッ、ヴィギュダァアアア!!!

 

 

撃ち込んでいくビーム渦流は一発につき、2、3機、時折4機のターゲットを撃ち堕とす。

 

確実にアディンの射撃能力は上がっていた。

 

機体を加速させながら、ロックした敵機を次々に撃破していくガンダムジェミナス01。

 

後方よりアンクシャとリゼルが迫るが、空かさずアクセラレートライフルの銃口を向けてシュートさせる。

 

 

 

ヴァズダァアアアァァッッ!!!

 

ズドォガシャアオオオオオオッッ!!!

 

 

 

「見え見えたぜ!!!!」

 

撃ち漏らすことなく、迫っていたリゼル2機とアンクシャ2機を撃ち飛ばした。

 

更には真っ二つにしようと斬り込んできたアンクシャに銃口を突きつけ、零距離で撃ち放つ。

 

「っと……!!」

 

 

 

ヴズヴァアアアアアアアア!!!

 

ズギャシャアアアアアァァッッ!!!

 

 

 

「デカイ分、当てやすいんだよ!!!さっ、どんどんキメるぜぇっっ!!!」

 

オデルのガンダムジェミナス02もアクセラレートライフルで射撃をかけ続ける。

 

だが、アディンのように連発して撃つのではなく、確実に多数の機体を仕留めていく撃ち方に専念していた。

 

「アディン、大部命中率が上がっているな!!だが、まだまだだ!!」

 

モニターの射撃線上に多数の敵機をロックしたオデルは、射撃のタイミングを逃さずチャージショットを撃ち込んだ。

 

 

 

ヴァズヴァアアアアアアァァッッ!!!!

 

 

撃ち込んだビーム渦流に、エアリーズ4機、リゼル3機を捲き込んで吹き飛ばす。

 

右側面方向からのビーム射撃を受けながらも、銃身をしっかり構え、エアリーズやリゼル部隊へと撃ち放つ。

 

 

 

ヴァドォダァアアアアアアア!!!

 

 

 

ズギャズズズドドドォオオオオオオォォォォ!!!!

 

 

 

一撃のアクセラレートライフルの一発は3機のエアリーズと4機のリゼルを総なめにして撃ち飛ばした。

 

その時、下から来たビーム射撃とミサイルの直撃を受ける。

 

「む!!下からか……!!!狙いは外さん!!!」

 

下方から迫るアンクシャ4機とエアリーズ4機。

 

オデルが撃つチャージショットが、これらの機体達に撃ち放たれる。

 

 

 

ヴヴァダァアアアアアアアアア!!!!

 

ダヴァガドォオオオオオオオオッッ!!!!

 

 

 

ガンダムジェミナス02が放ったビーム渦流が、上から叩き潰す勢いで、ロックした機体群を砕き飛ばした。

 

一方で、ヒイロのウィングガンダムは、ビームサーベルでエアリーズとアンクシャの部隊に斬りかかっていた。

 

「障害は排除する……!!!」

 

機動力を活かした動きで、瞬発加速させながらアンクシャを斬り刻み、瞬く間にエアリーズ2機を斬り払って破壊する。

 

 

 

ギュドアッッ―――ザズゥバァアアアアアン!!!

 

ギュゴォォオッッ―――ズバシュダァアアアアアン!!!

 

ドッッ―――ジュギャイイイイイイイ!!!!

 

 

 

一撃離脱戦術で各個撃破する技術は、ヒイロの得意分野でもあった。

 

可動音をならしながらウィングバインダーを展開させ、更にウィングガンダムを加速させる。

 

風を切り裂く甲高い飛行音を響かせながらリゼルへと斬撃を浴びせた。

 

 

 

―――キィィィイイィィィィンッッ―――ザガギャアアアアアアアア!!!

 

 

 

激しく叩き斬られたリゼルは、斬られた瞬間に爆発し、砕け散って四散した。

 

そのままウィングガンダムは、接近するエアリーズに襲いかかり、大きく斬り払った。

 

 

 

キィイイイイイイィィィィンッッ―――ズシュバァガァアアアッッッッ!!!

 

 

大空を羽ばたくハンターのごときウィングガンダムは更に加速をかけて、連続斬りで2機のエアリーズと2機のリゼルを墜とすと、再びバスターライフルを手にし、展開するアンクシャ、エアリーズ部隊へとビーム渦流を撃ち放った。

 

「エネルギー充填完了。再びバスターライフルで射撃する!!!」

 

振りかぶって構えられるバスターライフル。

 

高エネルギーが圧縮され、再び荒れ狂うビームが撃ち放たれた。

 

 

 

ディッガキィィンッッ―――ヴギュリリリィィィィ………ズドォヴゥヴァアアアアアアアアアアアアアッッッッ―――!!!!

 

 

 

バスターライフルのビーム渦流は、瞬く間にエアリーズやリゼル、アンクシャの部隊群を吹き飛ばして見せた。

 

空には幾つもの爆発光の華が咲き乱れる。

 

ウィングガンダムは更に自機を自転させるようにバスターライフルの銃身をスイングさせながら振り回す。

 

 

ギュグァンッッ―――ドゥヴァシュドォアアアアアアアアォオォォォッッ―――!!!

 

ズドォドォドォドォドォグガシャヴァアアアアア………!!!

 

 

 

一気に破壊の範囲が拡大し、周囲にいたMS部隊は一瞬で吹き飛ばされ、破砕された。

 

この状況下の中、作戦指令室ではディセットが入室し、いよいよ「オペレーション・イカロス」が発動しようとしていた。

 

ディセットの入室と共に、ミスズはそれまでの戦闘観察の姿勢を解き、ディセットへの敬礼をした。

 

(ディセット・オンズ中級特佐。トレーズ閣下の忠実なる側近……か)

 

ミスズは心中では上からの目線で歩くディセットに視線と敬礼を合わせた。

 

ディセットは目に止まったミスズに状況を問う。

 

「状況はどうか!?」

 

「はっ!!この間にも既に少なくとも100機以上の機体が撃墜されています!!!ガンダムの戦闘能力は遥かに予想を越えています!!!一刻も早くオペレーションを!!!」

 

「無論だ!!直ちにオペレーション・イカロスを発動させる!!!MS-TOPGUNと地上増援部隊へ攻撃命令を出せ!!!」

 

「は!!」

 

「脅威となる異常な火力を封じ、ローテーションによる砲撃を持続させ、彼らに消耗戦を仕掛ける!!!消耗し切ったところをエレキアンカーでガンダムを鹵獲する!!!尚、騎士道精神ある者は鹵獲前に決着を着けることを命ずる!!!作戦とトレーズ閣下へのエレガント精神の両立だ!!!」

 

オペレーション・イカロスはガンダム鹵獲作戦であった。

 

上空で攻撃命令を待ち続けていたMS-TOPGUNに攻撃命令が通達される。

 

内容を読んだトレーズは、ディセットを少し評価した。

 

「少しは理解してくれたようだな。ディセット……」

 

モニターに受信したオペレーション開始の命令を見ながら、ゼクスは不敵に笑った。

 

「ふっ……鹵獲前に決着を着けるか……各機に告ぐ!!オペレーション開始の命令が出た!!我々は上空のガンダムへ攻撃をかけるが、オーバーエアリーズ隊は地上の援軍を頼む!!リゼルカスタム隊は蒼いガンダムへ、白いガンダムにはリディ少佐、そして翼のガンダムには私が仕掛ける…!!!」

 

「了解!!」

 

「この時を待っていた!!!ユニコーン、次こそは叩くぞ!!!」

 

「トールギス……私に勝利を与えてくれ!!!」

 

リゼルカスタム隊が一斉にガンダムジェミナス02を目刺し、ユニコーンがその角を突き出すかのように一直線にガンダムジェミナス01へ突き進む。

 

そして、屈折するような軌道でトールギスが高速でウィングガンダムを目指して突き進んだ。

 

「奥面の部隊が動いた……!!堕とさせてもらう!!!」

 

オデルは、リゼルカスタムの部隊の動きを確認し、アクセラレートライフルをチャージショットで撃ち放つ操作をした。

 

ビーム渦流がリゼルカスタム隊に突き進む。

 

だが、リゼルカスタム達はこれを躱しきり、一斉にビームランチャーを撃ち放つ。

 

「何!??―――ぐっ!!!」

 

ビームランチャーのビームが、ガンダムジェミナス02の両肩や両脚に被弾して衝撃を受ける。

 

着弾部は装甲面を僅かに痛ませた。

 

「いつまでもいい気になるな!!ガンダム!!」

 

「ガンダムは連邦の名優のような存在だったはずだ!!」

 

ガロム機、ホマレ機を筆頭に一撃離脱戦法でガンダムジェミナス02の周囲をリゼルカスタムが翔る。

 

「くっ……!!速いな!!高機動機による一撃離脱戦法……あちらさんも手を打ってきたな!!!」

 

オデルは、飛び交うリゼルカスタムとビームランチャーのビームに少しばかり翻弄される。

 

躱しては掠め、躱しては中ってしまう。

 

明らかにエースパイロットであることをオデルは悟る。

 

「……っちぃ……だが、ようやく私もエースパイロットに出くわしたな!!」

ガンダムジェミナス01に迫るリディのユニコーン。

 

ビームマグナムを一発、二発と撃ち放ち、牽制射撃をする。

 

それに答えるようにアディンも、アクセラレートライフルで対抗し、射撃した。

 

数発撃たれたビームは、互いの機体を掠める。

 

「来やがったな!!角ヤロー!!!」

「反逆のガンダムっっ……!!!」

 

戦意全開でアディンとリディは迫り合い、ライフルを素早く同時に収容して、ビームの刃を抜き合う。

 

「おぉおおおおおおっっ!!!」

 

アディンとリディの気迫も重なり、ビームソードとビームサーベルが全開の力で互いの激突した。

 

 

 

ギャディギィイイイイイイィィッッ!!!

 

 

 

拮抗する激突の中、アディンはユニコーンのパワーが上がっている感覚を覚えた。

 

「……っなんだ!??パワーが……上がってやがるのか!??」

 

音声回線は開いていないが、アディンの疑問符に答えるように、リディはモニター上のガンダムジェミナス01へ向かい答える。

 

「貴様たちに対抗する為、俺のユニコーンやゼクス特佐のトールギスはチューンを施してある!!!装甲は劣るが、トータル機能では負けん!!!」

 

アディンも、聞こえずともユニコーンから伝わる感覚に向かって話し返すように喋った。

 

「……相手も…それなりに対抗してくれてんのか……上等だぜ!!!」

 

ヒイロとゼクスも互いの存在を強力なまでに意識し、迫る好敵意に対して反射的にビームサーベルを装備した。

 

「ゼクス・マーキス……!!!」

 

「さぁ……受けて立て!!!ガンダム!!!」

 

バーニアの出力を上げ、ウィングガンダムへ高速で迫るトールギス。

 

風を切り裂きながら大きくビームサーベルを振りかざす。

 

ウィングガンダムも脇を締めるようにビームサーベルを抜刀するように構えた。

 

2機がぶつかる瞬間、スローモーションのような時間が流れ、ウィングガンダムとトールギスは互いに睨み合う。

 

そして、唐竹の斬撃と斬り上げの斬撃とが凄まじく衝突し合い、激しきスパークを発生させた。

 

 

 

ギィヴィギャアアアアアアアァァッッッ!!!

 

目映いスパーク光に照らされながら、ヒイロとゼクスは互いのプライドをかけて激突する。

 

ヒイロも刃を交えた瞬間にトールギスの性能が引き上げられた事を感じとる。

 

エースの勘が成せる直感だ。

 

「……機体性能を上げたか……!??」

 

「トールギスを貴様のガンダムの性能へ近づける為、機体のあらゆる機構ヵ所にチューンを施した!!少しは応えに沿える筈!!!」

 

 

地上では、ガンダムが攻め去ったエリアの地下ハッチ口が次々と持ち上がり、増援部隊が次々に出撃していく。

更には基地の両側面側からも増援部隊が出撃していく。

 

そのほとんどが、重装備型リーオー、ロト、スタークジェガン、ジムⅢの部隊であった。

 

それらのMSを厳選したのは武装面によるものであった。

 

打撃の衝撃を与える徹甲弾型ミサイル・メタルミサイルの仕様の装備がそれぞれの機体に施されていた。

 

オーバーエアリーズに通常装備されているミサイルだ。

 

ガンダリウム合金製のミサイルであり、現存するミサイルで最も高い硬度を誇る。

 

基地の機体数値が膨れ上がるのと同時に、ガンダム包囲網が出来上がる。

 

止まぬ攻撃が展開される中、カトル達は周囲の状況の変貌に警戒した。

 

「敵機の数に次々と増援部隊が加わっています!!それに、陣形も囲むかのような陣形になりました!!!」

 

「こいつは……ヤバイかぁ……?!?へっ!!ま、いいさ……やられる前に、殺れってなぁっっ!!!」

 

「デュオ!!!くっ……!!!」

 

デュオは状況が不利な方へと傾きつつある事を承知で戦い続けた。

 

ガンダムデスサイズはビームサイズを振りかざして突っ込み、斬撃を食らわし続ける。

 

カトルもデュオに続き、ヒートショーテルの斬撃を俊敏に食らわして駆け抜ける。

 

「包囲網が敷かれたか……その戦略は正しいな……!!!」

 

ガトリングの斉射を唸らし続けるガンダムヘビーアームズ。

 

トロワ自身も敵側の利にかなう布陣を評価するが、次の瞬間、一斉に蔓延っていたMS群勢が離脱を開始した。

 

「やはり……そうなるか」

 

「敵機が一斉に離脱していく!??しまった……!!!」

 

「こんだけいて、逃げる方がおかしいよな、普通……!!」

 

トロワは冷静に状況下を把握し、カトルは大規模演習に潜んでいた意図を確信、デュオは離脱するMS群勢の向こうに見えた大部隊にあきれた笑いをした。

 

そして、全部隊がメタルミサイルを撃ち放つ。

 

まさに電光石火の言葉が合うミサイル攻撃の情景。

 

デュオ、トロワ、カトルのガンダムは、一点集中放火を浴び始めた。

 

直撃を浴び続けるのは必至であった。

 

ガンダムのガンダニュウムの装甲に連続して無数の衝撃が襲い、姿勢制御のバランスが崩されていく。

 

例えるなら多方から杭状のモノで殴られているに等しいものであった。

 

「がぁっっ……!!こいつは、あの時のエアリーズのミサイルか!??うざってーな!!!こん畜生!!!」

 

「これでは身動きがとれんな……」

 

「確かに!!かなりの癖のある攻撃です!!!」

 

メタルミサイルは着弾すると、ドラム缶を押し潰したよう変形し、弾き飛んでいく。

 

撃ち尽くした機体は順に後退し、弾丸の補充を図る。

 

そして次の砲撃係のMSに交替して攻撃するというローテーションを繰り返す。

空中からも、MS-TOPGUNのオーバーエアリーズが飛来し、ガンダム達へ迫りながらメタルミサイルを撃ち飛ばしていく。

 

「ここでガンダムのデータを録る!!さぁ、ガンダム……力を見せてみろ!!」

 

「ワーカー特士!!あまり無茶をするなよ!!」

 

「はい!!オットー特尉!!」

 

「死神め……以前の屈辱……はらさせてもらう!!!」

 

ワーカー、オットー、トラントを筆頭に、オーバーエアリーズの滑空しながらの射撃が、3機のガンダムへと撃ち注いでいった。

 

「黒いエアリーズ!??」

 

「当然上空からも来るか……」

 

「めんどくさいエアリーズが来やがったぜ!!!」

 

地上で唯一シェンロンガンダムだけがそれをまぬがれ、五飛は基地の敷地外でバイアランカスタムと一騎討ちの斬撃戦闘を繰り広げていた。

 

2機は一騎討ちの余りに、基地敷地外へと離脱していたのだ。

 

ビームグレイブとビームサーベルの斬撃が幾度もスパークを撒き散らし、カンフー映画さながらの剣撃がMSサイズで巻き起こる。

 

「はぁあああ!!!」

 

「づあああああ!!!」

 

ビームグレイブとビームサーベルを押し合って剣撃が拮抗し、荷重が掛かった両者の足が土に食い込む。

 

ガンダムジェミナス01とユニコーンも互いのビームサーベルを交わせたまま回転し、パワーを拮抗させ続ける。

 

ユニコーンのパワーのチューンは、確実に効果が表れていた。

 

アディンとリディは、コントロールグリップを握りしめ、晒される回転Gに耐えながら険しい表情で歯を食い縛る。

 

「ぐぅううっっ―――……!!!」

 

ガンダムジェミナス01とユニコーンは、カメラアイを光らせた瞬間に互いのビームサーベルを捌き合い、二度三度とビームサーベルを激突させ、再び力を拮抗させた。

 

そしてウィングガンダムとトールギスは甲高い加速音を響かせ、アーチのような軌道で連続で激突し合っていく。

 

激突の度に、ビームサーベルのスパークが空中に奔る。

 

激突し合った2機は、衝撃波を起こすほどの瞬発加速で離脱し、再び加速。

 

2機はすれ違いながらビームサーベルを激突させて駆け抜ける。

 

「ゼクス……!!!」

 

「反逆のガンダム……!!!」

 

管制塔の前ではトールギスⅢが立ち、トレーズはコックピットモニターに映る戦闘の場景を望む。

 

「戦場の輝きは美しい……人は戦う姿勢が一番輝くのだ。さぁ、反逆の意志を持つガンダム達よ、私にもっとその輝きを見せたまえ……」

 

トレーズは映像に手をかざし、戦場を掌にのせるかのような仕草をした。

 

まさにその状況下が彼の眼前に広がっていた。

 

 

 

 

 

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エピソード12「奮起と敗北の流動」



地球連邦とOZによる合同軍事演習がニューエドワーズ基地に於いて催される。

合同軍事演習は報道陣も招き入れ、地球圏各地に中継されていた。

その最中で、メテオ・ブレイクス・ヘルの7機のガンダム達が、ニューエドワーズ基地に強襲を開始した。

対し、迎え撃つMS部隊は500余りの数であった。

圧倒的に不利な状況にも動じないGマイスター達は、その身を戦場へ飛び込ませていく。

ガンダム達は圧倒的な力を見せつけ、幾多のMSとの激闘を繰り広げた。

だが、その最中、ディセット特佐により「オペレーション・イカロス」が発動。

徐々にガンダム達は戦略的に不利な道筋を歩み始めた。

オペレーション・イカロスが発動される中で、好敵手を持つ双方の戦士達は互いの刃を交え、プライドをかけて激突を開始する。

ニューエドワーズ基地に拡がるその戦士達の闘いを前にし、トレーズは手をかざしながら戦場に想いを馳せるのであった……。




オペレーション・イカロスが発動し、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムへ長時間に渡る攻撃が開始された。

 

終わらぬ攻撃の中、空中ではウィングガンダムとトールギスが断続的にエネルギーのスパークを散らし、力強く互いのビームサーベルで斬撃をぶつけ合う。

 

ヒイロとゼクスは斬撃を互いに捌き合い、叫びながら気迫と気迫をぶつけ合う。

 

「おおおおおおおお!!!」

 

「づあああああっっ!!!」

 

振りかぶった両者のビームサーベルが唸り、激しく激突した。

 

ヒイロの表情とゼクスの仮面越しの表情を目映くスパークが照らし、スパーク音がコックピット内に響き渡る。

 

「鹵獲前に決着を着ける……騎士道と不粋さが混じった命令だ……!!!願わくば純粋な決闘を望みたいものだな……」

 

ゼクスはオペレーション・イカロスの内容に不服を感じていた。

 

騎士道精神を重んじるが故に。

 

対してヒイロは、以前よりも増してゼクスがトールギスを使いこなしている事を実感していた。

 

「ゼクス・マーキス……以前よりも遥かにトールギスを使いこなしている……!!!」

 

そして両者は、再び幾度も斬撃の打ち合いをすると、瞬発的に離脱。

 

空中を流星のごとく、高速でアーチ状の軌道を描き、スパークを散らしながら激突していった。

 

その一方で、ガンダムジェミナス01とユニコーンがビームサーベルを交わせて、もつれ合いながら地上へ激突する。

 

アスファルトが激しく砕かれ、粉塵を巻き上げながらガンダムジェミナス01がめり込んだ。

 

その上から押し込むようにユニコーンがビームサーベルを押し当てて襲いかかる。

振るえながら拮抗する両者のビームの刃。

 

「ちっ……くしょうっっ!!!この角野郎!!!」

 

「俺が優勢を執った!!!これならいける!!!このチャンスは逃さない!!!!」

 

優勢に立った事により、リディの戦意が膨らむ。

 

だが、アディンはモニターのユニコーンを睨みながら、咄嗟にシールドをユニコーンの胸部に

激突させて衝撃を与えた。

 

「くっ~……ちょーしに…―――乗んなよっっ!!!」

 

「がぁぁっっ!??」

 

怯んだ隙にガンダムジェミナス01はユニコーンのビームサーベルを捌き離脱。

 

再び地上へ着地し、ガンダムジェミナス01とユニコーンはビームサーベルをかざし、加速する。

 

2機はその勢いのまま突っ込み、ビームソードとビームサーベルとを激突させ、スパークを散らした。

 

もう一方でオデルは機動性と火力が格段に上昇されたリゼルカスタムの攻撃に翻弄され続ける。

 

時折受ける攻撃が、ガンダムジェミナス02の姿勢を崩される。

 

同時にシールドや装甲へのダメージも重なり、僅かながら凹みが生じていく。

 

「やはり速い!!!この俺が翻弄されるとは……!!!」

 

リゼルカスタムの火力や機動性は、最早ガンダムクラスのものであった。

 

ホマレ機、ガロム機を筆頭に駆け巡るかのような一撃離脱戦闘が続く。

 

「ここで、同胞達の仇をとらせてもらう!!!」

 

「このリゼルカスタムならば……墜とせるはずだ!!!」

 

防戦へと追い込まれたガンダムジェミナス02は、知らず知らずの内に地上へと向かって行く。

 

攻撃の反動や、回避によるものだった。

 

「このままでは……地上へ追いやられ、あの集中砲火を浴びるな……くっっ……執拗にビームが来る。相当嫌われているようだ……ま、当然だかな!!!」

 

地上ではメタルミサイルの雨が、ガンダムデスサイズ、ガンダムヘビーアームズ、ガンダムサンドロックへと撃ち注がれ、ビームや弾薬とは違う連続的な物理的なダメージに、防戦を余儀無くされる。

 

更にオーバーエアリーズの部隊が一撃離脱でメタルミサイルを撃ち込み、旋回しながらビームライフルで狙い撃っていく。

 

元々がトールギス用のビームライフルであり、高出力の威力を誇る。

 

ビームが外れる事なく、ガンダムの装甲に集中して撃ち込まれていく。

 

「やれやれ……これじゃタコ殴りもイイトコだぜぇ!!!」

 

「タイミングを見計らってチャンスを待ちましょう!!弾丸である以上、必ず弾切れの時が来るはずです!!」

 

「おいおい……しばらくこのままってーのか!??勘弁してくれよぉ……即行で暴れたいぜ~…」

 

「今は耐え続ける事が先決だ。俺達のガンダムは元々このような状況下に置かれる事も想定されている。問題はない……もっとも、デュオのように辛抱弱ければ意味がないがな」

 

「なぁにぃ!??」

 

トロワのダメ出しを受けて反応するデュオ。

 

その直後、新兵器のビームバズーカによるリーオー部隊の砲撃と、スタークジェガンによるミサイルとバズーカの砲撃が開始される。

 

更なるダメージと衝撃が3機のガンダムを襲い始める。

 

「うぉおおっっ!??コイツら、バカじゃねーか!!?畜生!!!図太いビームまで出てきたぞ!??」

 

「更に攻撃が増したか……」

 

「っくぅ……!!!とにかく、今は耐えるんです!!!」

 

カトル達は防御を持続させて耐え凌ぎ続けた。

 

その一方で、基地の敷地外で戦闘を続ける五飛とディエスは、斬撃の打ち合いを繰り返し続けていた。

 

「流石だな……メテオ……ブレイクス……ヘル!!!」

 

ディエスは斬撃を放っては捌き、放っては捌く。

 

「ふん!!!なめるな!!!はぁあああっっ!!!」

 

五飛の気迫と共に、ビームグレイブによる高速の連続突きが繰り出された。

 

「くっ!!!」

 

間一髪で後退しながら躱すバイアランカスタム。

 

機体をふらつかせながら後退し、再び体勢を立て直すと、ビームサーベルを振りかざしてシェンロンガンダムへと襲いかかった。

 

「ならば……!!!」

 

バイアランカスタムは、両腕を振りかざして斬りかかった。

 

「でやぁっっ!!!」

 

五飛も迷う事なく、シェンロンガンダムをバイアランカスタムへと突っ込ませた。

 

管制塔では、オペレーターの兵士達が常時報告の声が響き渡る。

 

「第二次総攻撃へ移行!!重装型リーオー部隊、前面に展開!!攻撃を開始しました!!」

 

「哨戒中の第8~第14ガルダ航空部隊へ増援を要請します!!」

 

「メタルミサイル補充の攻撃部隊、後退!!引き継ぎの攻撃部隊が攻撃へ移行しました!!」

 

「エアリーズ部隊、メタルミサイルを換装した機体群から攻撃へ移行します!!」

 

「基地外部では、バイアランカスタムが、ガンダムと交戦中!!」

 

「ロト部隊の攻撃準備完了!!第三次総攻撃時に攻撃を開始します!!」

 

様々な報告がなされる中、ディセットは腕を組ながら作戦を成功させる自信を露にしていた。

 

(オペレーション・イカロスは完璧だ。長時間に及ぶ総攻撃は次第にパイロット達の体力、集中力、判断力等を低下させる……彼らのガンダムを神話のイカロスに見立て、その翼を破壊するのだ……)

 

一点に集中して加えられていく総攻撃は、前代未聞の戦闘光景であった。

 

管制塔から見える光景に、ミスズは息を呑んだ。

 

(壮絶な光景だ……たった7機のガンダムを相手にこれ程までの大部隊を出さなければならないとは……!!!だが、そうでもしなければメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを斃す事はできないということか……

!!!)

 

ミスズは視線上の遠方で闘うトールギスを見守る。

 

(ゼクス……死ぬなよ)

 

管制塔の前に雄々しく立つトールギスⅢ。

 

そのコックピット内のトレーズは、闘いを見つめ続け、自身の思想を重ねる。

 

(戦士達が集い闘う。人の闘う姿は美しい。その中のガンダムの姿勢もまた例外ではない。反逆の戦士達が我々に僅かな力で我々に挑んでいるのだ……宇宙世紀の歴史を彼らは動かしつつある……ならば我々もそれを動かそう……反逆のイカロス達の翼を溶かす太陽に……)

 

トレーズはモニターに映る戦闘の光景を、掌に乗せるかのような仕草をしてみせた。

 

戦闘を人の美学と捉えるトレーズの感性は独自の世界観を持つ。

 

故に彼の感性を理解できるものは少ない。

 

しかし、トレーズにはもう一つのカリスマ性という武器を持っていた。

 

ディセットを筆頭に彼を支持するOZの兵士達は決して少なくない。

 

OZの総帥としてのトレーズの器は、充分過ぎるものがあった。

 

「まだ彼らの中で、私に挑む者はいないようだ。だが、私は待っている。刃を交え、その翼を斬らなければならないのだ……」

 

トレーズの感性の中へガンダムが付加し、彼に影響を与える。

 

トレーズ自らがトールギスⅢで布陣し、決闘を望むこともそれに影響していた。

 

その中で、五飛がトレーズのトールギスⅢを強く意識する。

 

五飛は、ディエスと渡り合いながらも、その次に斃すべき敵を認識していた。

 

バイアランカスタムと拮抗しながらサイドモニターに視線を僅かにずらす。

 

(トレーズ…!!!この闘いでOZの総帥たる貴様を斃す!!!それがOZにとって不動の大打撃になるだろう……無論、その前にこいつとの決着を着けるがな!!!)

 

拮抗し合う中、五飛はシェンロンガンダムに加速をかけた。

 

GNDドライヴのパワーを活かした加速が、バイアランカスタムを徐々に押し始める。

 

「くっ……なんというパワーだ!!?まだこれ程のパワーを隠していたのか!??ふっ……本当に不足が無さすぎる相手だ!!!」

 

 

 

その頃、オルタンシアではロニが闘いの道を選ぶに伴い、ハワードにオルタンシアからの移動手段の話を持ちかけていた。

 

「そうか……カトルは何と言ったんだ?」

 

「いえ、彼にはまだ何も……それに、今は伝えれません。カトルは闘いの真っ只中だから……」

 

「確かにな……ま、焦らずともまず、皆で中継を見ようじゃないか……あいつらの闘いをな」

 

「ですが、もう私は……!!」

 

「闘いの行動をとる前にガンダムの闘いを目に焼き付けてからでも遅くはない。客観的に闘いを見てみるのもいい……さぁ、休憩所へいくぞ。おい!!お前さん達も、仕事一端切り上げてGマイスターの闘いを見るぞ!!」

 

ハワードには意図があった。

 

ロニに闘いを客観的に見させ、これからする自分の行動を考えさせる為である。

 

ハワードは、仕事中の作業員も呼び出して休憩所へ向かった。

 

休憩所では、プルが先乗りしてテレビ中継を見ていた。

 

彼女の行動はアディンに憂いを抱いていた為だ。

 

その手にはガンダムジェミナス01のマスコットが握られていた。

 

「この中でアディンが闘ってる……あっ!!アディン!!」

 

中継画面中央にユニコーンと刃を交えるガンダムジェミナス01の姿を確認する。

 

思わずテレビに近づいてしばらく見入ってしまうプル。

 

「そんな近くで見たら目が悪くなるぞ」

 

「あ!!ハワードお爺ちゃん……ロニお姉ちゃんも!!」

 

プルが振り替えると、ハワードやロニ、オルタンシアクルー達がいた。

 

その後、プルはロニに寄り添いながらハワード達と戦闘の中継を見た。

 

ロニにもオペレーション・イカロスによる戦闘の凄まじさに息を呑んだ。

 

「……これじゃ……戦闘というより、一方的なリンチよ!!!こんな攻撃の中でカトル達は……!!!」

 

「アディンもさっき映ってた……角があるMSと闘ってたよ」

 

客観的に見れば見るほどガンダムの置かれた壮絶さが伝わる。

 

メタルミサイルやビームバズーカ、更には空中からのビーム斉射がガンダム達を襲う。

 

「……いずれはこのような状況下に晒されるとは予想していたが、思ったよりも早いタイミングでやってきよった……恐らく疲弊させて鹵獲する作戦とみた!!」

 

「鹵獲……!!」

 

「ろかくって?」

 

「敵に捕まっちゃうことよ……」

「捕まっちゃうって……嫌っ!!捕まらないでアディン!!」

 

「あれほどの兵器じゃ。奴らもそりゃ欲しがる。じゃが!!そう易々と鹵獲はされんさ……眉唾なガンダムではないからな……あいつらは過酷な……―――ん!??」

 

ハワードがロニへ諭しの言葉を入れたその時、ハワードは戦闘中のウィングガンダムとトールギスを見る。

 

かつてハワードはトールギスの開発に携わっていた過去を持っていた。

 

故にそれは見逃せないものであった。

 

(トールギス…―――!!!パイロットの人体を無視したあのじゃじゃ馬を乗りこなす者がいるとは……流石にウィングガンダムと戦えるだけあるようだな!!!)

 

ハワード達もまた戦闘に見入り始める。

 

かつての技術者の目はかつて開発していた機体の動きを追い、鋭く注視した。

 

実際の戦場では唸る斬撃と機動音の轟音が響き渡って両者が激突し続ける。

 

「おおおおおおっ!!!」

 

 

 

ヴィジュアッッッ―――!!!

 

 

 

「はぁあああっっ!!!」

 

 

 

ヴィヴンッッッ―――!!!

 

ギャジュァアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

「くぅっ……!!!正に互角だ!!!お互いに一切の引けを感じさせない!!!となれば……あとは持久力か!??」

 

「持久戦は承知の上だ。俺は任務を遂行しきる……!!!」

 

ヒイロとゼクスの力量はゼクスいわく、正に互角だった。

 

ヒイロは決着と任務遂行の両方を見据え、ゼクスと激突し続ける。

 

五飛は巧みに斬撃を躱しながら、バイアランカスタムの斬撃をビームグレイブで弾き捌く。

 

「くぅっ!!!圧倒されるかっっ!??」

 

「はぁあああああっっ…―――!!!」

 

シェンロンガンダムは、ビームグレイブを振り回しながら、気迫と共にビームグレイブを一気に凪ぎ払った。

 

 

 

ブルルルルンッッッ……ギィギャガァアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

「ぐおおお!!!」

 

その一振りは、バイアランカスタムのレフトアームを斬り飛ばした。

 

だが、まだライトアームは生きている。

 

ディエスは、信念と腕でバイアランカスタムを立て直し、シェンロンガンダムへ再び突っ込んでいく。

 

「くぅっ……!!!まだだぁぁっっ!!!」

 

「その姿勢……気に入った!!!正真正銘の強者であり戦士の姿勢だっっ!!!」

 

衝突する両者の斬撃。

 

だが、その瞬間の負荷がバイアランカスタムのライトアームを軋ませた。

 

コックピット内にエラーアラートが鳴り響く。

 

「っっ!!!バイアランカスタム!!!まだだ!!!まだ俺達はやれる!!!!そうだろう!??」

 

「ナタク……いくぞ…―――」

 

更にパワーを上昇させたシェンロンガンダムは、見事にバイアランカスタムのライトアームを押し切る。

 

圧倒されたバイアランカスタムは、ライトアームのビームサーベルを捌かれた。

 

バイアランカスタムは、それでもとビームサーベルをシェンロンガンダムへ見舞う。

 

だが、次の瞬間、シェンロンガンダムの両眼が光り、至近距離からの強烈な連続突きを放った。

 

 

ギンッ!! ギュフォフォフォアッッ――――

 

ザガガガガギャギャギャガガガガァァッッ!!!

 

 

 

唸るビームグレイブの鋭利な連続突きは、瞬く間にバイアランカスタムの右腕をズタズタに破砕させて吹っ飛ばした。

 

「ぐおおおあああ!!!」

 

決着の瞬間であった。

 

バイアランカスタムは吹っ飛ばされた勢いで、土煙を巻き起こしながら大地を転がる。

 

シェンロンガンダムは、ビームグレイブの突きを出したまま静止していた。

 

その状態のまま、五飛は勝ち誇る様子もなく淡々と放った。

 

「……勝負は着いた……だが、貴様は殺さん。殺すには惜しい強者だ。貴様にその気があれば受けて立ってやる……」

 

そう言い残すと、シェンロンガンダムは上昇を開始し、トレーズのいるポイントへと基地の敷地外から向かって行った。

 

仰向けになったバイアランカスタムの中で、ディエスは頭を抱えて笑ってみせた。

 

「…………っっ…―――はははははは!!こいつはやられたな!!!だが、上等だ!!!また挑んでやるさ!!!無論、バイアランカスタムでな……俺はこの機体で答えるさ!!!」

 

ディエスのその捉え方は、互いに戦士と認め合う者同士故であった。

 

 

アディンもまたリディと激突し続けていた。

 

ガンダムジェミナス01とユニコーンは基地の滑走路を割りながら踏みしめ、振りかざしたビームソードとビームサーベルを激突させる。

 

 

 

ギャギィァアアアアアアッッッ―――!!!

 

 

「っちぃぃ……!!!しぶといぜ!!!」

 

「連邦のプライドはここで取り戻す!!!俺達、MS-TOPGUNがな!!!」

 

一方的な展開でビーム砲火に翻弄されるガンダムジェミナス02は、遂に地上へと降り、いよいよ防戦一方となっていた。

 

「参ったな……こうも翻弄され続けるとは……!!!っくぅ!!!」

 

駆け巡るリゼルカスタム達が容赦なく集中砲火を浴びせていく。

 

ガンダムデスサイズ、ガンダムヘビーアームズ、ガンダムサンドロックへ撃ち注がれ続ける砲火も終わることはない。

 

その最中、砲火の弾道が3機のガンダムの上半身に集中し始める。

 

どの機体群も狙いを正確に集中させてくる。

 

空中からは、オーバーエアリーズの精鋭、エアリーズ部隊、リゼル部隊、アンクシャ部隊が各々のビーム兵装を撃ち込み、地上では重装型リーオーとスタークジェガンの重火力射撃が襲う。

 

「ちぃぃ…―――!!!」

 

「……実に合理的だ。卑怯なまでにな」

 

「っくぅ……!!!今は……耐えるんだ!!!」

 

その最中、ロトの部隊が一斉にガンダムに向かって走行し、懐へ突っ込んでいく。

 

「あ!!?チビタンク野郎共が…―――」

 

ロト部隊は至近距離から砲撃を開始し、ガンダム達へキャノン砲と高速で撃たれるメタルミサイルを撃ち込む。

 

「うぉおっっ…―――!!!」

 

「くっ…―――!!!」

 

「うぅっっ!!!…―――!!!ロニっ!!!」

 

カトルはロニから貰ったアクセサリーを握って彼女の事を想った。

 

 

 

過酷さを増す戦場を見たロニは、プルと寄り添いながらこれからの行動を考え続けていた。

 

プルはロニの気持ちが沢山なまでに伝わっていた。

 

故に離れるのが寂しくなり、寄り添うロニの腕を一層抱き締める。

 

その時、ハワードが視線を向けロニに問う。

 

「これが今のカトル達の戦場じゃ。どうかね?どう感じた?」

 

「私は……一層連邦と闘う気持ちになりました!カトル達が連邦やOZと闘う為に過酷な状況下に立ってる。私も元々闘っていました……それが悲劇を生んだけれど、あれだけの大切なモノを奪われては何もせずにはいられない!!カトルだって闘い続けている…―――だから!!私は闘う道を選びます!!」

 

「そうか……ならばせめてカトルの帰りを待ってはくれんか?」

 

「ごめんなさい……仲間との合流までの時間が少ないんです。カトルの戦闘が終わったら、私が自分で伝えます……」

 

毅然としたロニの姿勢に迷いはなかった。

 

「ロニお姉ちゃん……」

 

プルは寂しそうにロニへ頭を摩り寄せてくる。

 

「プルちゃん、ごめんね。でもまた戻るから安心して!!それに、御礼も言わなきゃ!貴方のおかげでここまで立ち直れたのもあるのよ……私にとってプルは心を癒してくれる可愛い妹だわ!ありがとう……」

 

「ロニお姉ちゃん……」

 

ロニはプルの頭を撫で、口許に柔らかな笑みを浮かべて抱き寄せた。

 

そして、オルタンシアの甲板デッキには、かつてハワード達が設計し開発した戦闘機・ワイバーンが用意された。

 

ロニはパイロットスーツに着替え、ワイバーンへと乗り込む。

 

ジェット音が響く中で、ハワードが大声で軽いレクチャーをした。

 

「そいつならきっと間に合うだろう!!基本はMS乗れれば大丈夫じゃ!!ただし!!ブーストは使うなよ!!並みの人間なら死ぬ程の加速Gがかかる!!」

 

「了解!!では……今までお世話になりました!!行ってきます!!プルちゃん、恋路はお互い頑張ろ!!」

 

「恋路って……ふふふっ♪うん!!」

 

ロニは手を振ると、ワイバーンを加速させて離陸していった。

 

だが、プルの笑みの裏には人知れない憂いがあった。

 

(ロニお姉ちゃん……もう、会えないかもしれない感じがするのに……止められなかった……)

 

ニュータイプの勘が、プルに善からぬ暗示を与えていたのだ。

 

しかし、ロニの毅然とした気持ちに押され言い出せなかった。

 

プルは振り返りながら少しばかり涙を浮かべた。

 

 

 

クシャトリヤのコックピット内。

 

マリーダもまた、戦闘の熾烈化する状況を共通チャンネルモニターで見ていた。

 

マリーダも幾多の戦闘状況を経験して来てはいるが、このような戦闘状況下を見るのは始めてであった。

 

OZや連邦の作戦に憤りを感じて止まない。

 

だが、中継モニター越しには何もできない。

 

その歯痒さが苛立ちに拍車をかける。

 

「このような戦闘、戦闘と呼べるものか!!!一方的にも程があるっ!!!だが、それでもヒイロは、ヒイロ達は……闘い続けている……!!!」

 

集中砲火の中で抗い続けるガンダム達の姿勢に、マリーダは胸が熱くなる感覚も覚えた。

 

右手をそっとモニターに添えてみせる。

 

「ヒイロ……お前達は凄い……ネオジオンさえこのような潔い闘いはできないだろう。ダカールを攻めたとき、もしこのような状況下にみまわれたら……私も無事では済まないだろうな」

 

今、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達が置かれている凄まじい攻撃の海にネオジオンが介入したことを想像すれば、言うまでもなく結果が見える。

 

流石のマリーダも少しばかり恐れを覚え、気が失せそうにさえなる。

 

改めてヒイロ達の凄まじさを知り、同時に頼もしくも感じていた。

 

「……だが、この無謀さには勇気付けられるモノを感じる。きっとヒイロ達のガンダムだからでき……っ!!っくぅ……!!!」

 

またガンダムのキーワードに、彼女の中にあるマインドコントロールが抵抗を示した。

 

マリーダは頭を抑えて苦痛にみまわれる。

 

「ガンダムは……敵っ……っ!!違う……ヒイロは、ウィングガンダムは、彼らのガンダムは味方だっっ!!!」

 

過去の柵に抗うマリーダもまた、苦痛を伴う中で、過去と闘う。

 

「感情だ……感情で動く事がっ…―――この柵を断ち切れるかもしれない……そうだ……今は、マスター達がいて、姉さんがいて、ヒイロ達がいて……」

 

解り合える存在がいる。

 

解り合える人がいれば、闘う事ができる。

 

ふとその概念がマリーダに過る。

 

そしてコントロールグリップに手を添えてマリーダは、瞳を閉じて深呼吸をした。

 

「ふぅ…―――そうだ。私は一人ではない。だから自分の過去を恐れる必要もない……そして、これから私達が地球連邦軍のダカール総本部を陥落させる!!!そうすればこのオペレーションの第一段階が終わる……」

 

そう言い聞かせたマリーダは、しばらくコックピットの中で瞑想を続けた。

 

 

セネガル 首都ダカール

 

 

 

ダカールの街の雑踏の中で、サングラスをかけたラルフが携帯型データベースを手に歩く。

 

データベースには現在のニューエドワーズ基地の状況が映し出されていた。

 

ラルフはガンダム達の状況下に眉をひそめる。

 

(おいおい……騎士ごっこに防戦一方かよ……連邦とOZの連中、いよいよ反撃に出てきやがったか!!)

 

ラルフは、街中の人目のつかない路地裏に場所を移し、コロニーのメテオ・ブレイクス・ヘルの本部と連絡を繋げた。

 

「ドクターJ!!ラルフだ。ヒイロ達が騎士ごっことタコ殴りに付き合わされている……例のシステムの起動リミッター、解除を薦めたいがどうだ?」

 

「ラルフか……あのシステムを起動させるにはまだじゃ。まだ早い!!こちらからも状況は解っておる。急かさなくてもいいわい!!」

 

ドクターJは、義手を動かしながらラルフの意見を押し返すが、ラルフは私見を主張する。

 

「そうかい……だが、このままだと鹵獲されかねないぜ。いくらGマイスターって言っても生身の人間だからな。疲弊しちまうが落ちだ……」

 

「あのシステムは、下手に使えばGマイスターとガンダムに影響を及ぼす。起動させるのはあくまでわしらの判断じゃ。心配する気持ちもわからんでもないが、待つんじゃ。あいつらもタイミングを伺っているはずじゃ……反撃のな」

 

「……そうかい……ま、確かに一理あるからな。本当にガチでヤバくなったらお願いしますよ」

 

「無論じゃ」

 

「とまぁ……そんな私見があったから連絡させて貰った。引き続きダカールの視察任務を続行する」

 

ラルフは通信を切ると、溜め息をついた後にヒイロ達に気をかけながら別のエージェントとの通信を始めた。

 

「ふぅ…―――……捕まんじゃねーぞ……Gマイスターズ……さて………―――……俺だ。今回の任務は際どい……だが、次の任務は予定通りに続行する。ダカール入りしたばかりだが…………ああ…………何!?それはガセじゃないのか!??………ああ!!……ああ!!了解した!!また連絡をくれ!!」

 

ラルフはただならぬ情報を入手した様子で先程以上に眉をひそめた。

 

「次の任務は……大きく二手に別れる必要が出てくるかもな…―――!!!」

 

 

 

一騎討ちと集中砲火に大きく二分されたメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達。

 

終わることなき斬撃の打ち合い、連続する高火力射撃が、Gマイスターとガンダムを疲弊させていく。

 

ウィングガンダムとトールギスが斬撃の軌道をクロスさせてすれ違い、ガンダムジェミナス01がユニコーンの乱撃をビームソードで打ち合いながら捌く。

 

ガンダムジェミナス02、ガンダムデスサイズ、ガンダムヘビーアームズ、ガンダムサンドロックは防戦一方のままを維持し続ける。

 

その状況下の中、五飛のシェンロンガンダムが真っ直ぐに攻撃部隊へ直進する。

 

これに気づいた重装リーオー、スタークジェガン部隊が攻撃をかけるが、五飛は砲火を浴びて体勢を崩されても完全にお構い無しに突き進む。

 

「はぁああああっっ!!!」

 

 

 

ズジュドッッ―――ドドドドガガァオオンッッ!!!

 

 

 

突っ込んだシェンロンガンダムは、ビームグレイブでスタークジェガンを串刺しにし、惰性でMS部隊を吹っ飛ばした。

 

串刺しにされたスタークジェガンは、突き刺されたまま他の機体に押し付けられ、リーオーと共に爆砕した。

 

シェンロンガンダムはビームグレイブを頭上で振り回すと、その武器特性のリーチを活かした斬撃を放って周囲の機体群を一気に凪ぎ払って斬り飛ばした。

 

 

 

ブルルルルルルゥゥゥゥゥッッ―――ヴィギャイイイイイイイィッッ!!!

 

 

 

更に強烈な突きを眼前の重装リーオーに見舞い、再び突き刺したまま加速して、MS群を吹っ飛ばしていく。

 

連続で機体群を爆砕させ、MS群の中で荒ぶる龍が無双する。

 

突き刺したまま重装リーオーをアスファルトに磨り潰すように破壊して、その周囲の機体群を連続で乱撃して斬り潰してみせた。

 

爆砕させていく機体を見ながら、五飛は自らのその行動で仲間を鼓舞するように促した。

 

「情けないな、お前達!!!俺達はGマイスターだろう!??Gマイスターが防戦一方の闘いをするな!!!攻めこそが最大の防御だっ!!!」

 

それを聞いたデュオは、防戦しながら五飛の言葉をカンにあてられる。

 

「んだとぉ…―――!??言ってくれるじゃねーか!!!五飛っっ!!!」

 

「苛立つ余裕があるならば、闘争に替えろ!!!死神が死ぬぞ」

 

「このヤロウ、斬り刻むぞ!!!!」

 

「ふっ……その活きだ!!!」

 

苛立つデュオに対し、トロワとオデルは冷静に受け止めた。

 

「確かにな。五飛の言う通りだ。守る側に重点を置けば身動きがとれなくなる」

 

「あぁ……俺が正にその通りになっていた!!」

 

シェンロンガンダムの奇襲により、一部の攻撃陣形が崩壊した。

 

これにより、一部の方角からの攻撃が止む。

 

しかもそれはガンダムサンドロックの正面上であった。

 

この期が反撃の切り口のチャンスであることは、火を見るよりも明らかだ。

 

「ふふっ……五飛の言う通りかもしれません……彼は直撃を受けても、体勢を崩されても攻め続けて今の状況を作ってくれました!!では、再び攻めましょう!!!」

 

「っしゃあっ!!!五飛にああも言われて落ち着いていられっか!!!いっくぜこのヤロウ!!!」

 

「無論だ」

 

カトル達は近距離にいたロト部隊を蹴散らす行動に移す。

 

ガンダムデスサイズがビームサイズを振るい、鮮やかにロト部隊を斬り飛ばし、ガンダムヘビーアームズがビームガトリングの銃口を突き出して、ロト部隊を次々と破砕させていく。

 

そしてガンダムサンドロックはヒートショーテルを叩きつけるように両端のロトを破断した。

 

足許に拡がる爆発を越え、ガンダムデスサイズとガンダムサンドロックが加速して、攻撃の手を緩めた部隊群へ突っ込む。

 

 

 

ザァギャガガガァアアアアッッ!!!

 

ゴッッッ―――ディッガガキィィィンッッ!!!

 

ドゴゴババガァアアアアア!!!

 

 

 

ビームサイズの一振りがスタークジェガン3機を斬り裂き、ヒートショーテル斬撃が両端の重装型リーオーを斬り潰してみせる。

 

爆発を巻き起こしながら、ガンダムデスサイズは豪快な斬り飛ばしを振るい、更に斬撃を繰り出して破壊を振り撒く。

 

ガンダムサンドロックも、ヒートショーテルを叩き込み、連続の斬撃を乱舞させて1機、1機を確実に斬り砕だいていった。

 

ガンダムヘビーアームズも、ごり押しで銃撃しながら強攻突入する。

 

それに比例し、重装リーオーやスタークジェガンが次々と撃ち斃され破壊されていく。

 

ビームガトリングを振り回すように銃撃した後、正面上の部隊にブレストガトリングとビームガトリングを組み合わせてぶっ放した。

 

 

ヴィドゥルルルルルルルルルゥゥゥ…―――!!!

 

ディガガガガガァドドドドガガァンッッ!!!

 

ジャギンッッ!! ヴォヴァルゥルルルルルルルルルルゥゥゥッッ!!!

 

バギャララララガガドドドドガガァゴォオオン!!!

 

 

 

そして、ガンダムジェミナス02も防戦を解き、接近中のリゼルカスタムに向け、アクセラレートライフルの銃口を向ける。

 

銃口とリゼルカスタムがリンクする刹那、オデルは引き金を引いた。

 

「―――……ここだ!!!」

 

ビームと機体がぶつかるタイミングが見事に一致し、瞬発的に放たれたビームが、1機のリゼルカスタムを破壊した。

 

 

 

ヴァダウゥウウッッ―――!!!

 

バァギャラァアァッッ……!!!

 

 

 

「何ぃ!??」

 

「1機やられた!!!」

 

ガロムやホマレが動揺する中、ガンダムジェミナス02は上昇を開始。

 

次の接近するリゼルカスタムに狙いを選定し、向かい来るビームを躱しながらロック・オンした。

 

モニターのロック・オンマーカーは確実にリゼルカスタムを捉えていた。

 

数発撃ち込むオデルだったが、リゼルカスタムのその機動性に躱される。

 

「やはりか……ならば!!!」

 

オデルは高速で迫るリゼルカスタムとの零距離射撃が可能なタイミングを見計らう。

 

時間にして数秒以内。

 

ビームランチャーを放つリゼルカスタムとの距離感を研ぎ澄ませ、オデルはすれ違う瞬間に零距離射撃を撃ち込んだ。

 

 

 

ドゥヴァダウッッ―――!!!

 

ドゥバガァアアアアアッッッッ!!!

 

 

 

ガンダムジェミナス02の放ったアクセラレートライフルの一撃は、瞬発的に爆砕させた。

 

「攻めのタイミングは掴んだ!!後は叩くのみだ!!!」

 

撃墜の流れを掴んだオデルは、もう1機のリゼルカスタムを撃墜させてみせた。

 

そして更にもう1機のリゼルカスタムへとシールドをかざす。

 

躱しきれなかったリゼルカスタムは、ガンダムジェミナス02のシールドに自ら突っ込み、激しく破砕され空中分解した。

 

奮起したことを確認した五飛は口許に僅かな笑みを浮かべ、シェンロンガンダムをトレーズのトールギスⅢへ向かわせた。

 

 

 

管制塔内において、ざわめく兵士達の声が敷き詰める中、状況報告が放たれる。

 

「膠着していた4機のガンダム、再び攻撃を開始!!!攻撃部隊の真っ只中に突入したため、こちらからの射撃ができません!!!」

 

「ガンダムの1機、肉眼で視認!!!!真っ直ぐにこちらへ接近中!!!!」

 

「な!??狙いはトレーズ閣下か!??各機、トレーズ閣下を守れ!!!!」

 

「ガンダムがここへ!??ゼクス…―――私が先に死ぬかもな……!!!」

 

ミスズは、迫るシェンロンガンダムの姿に、死を覚悟した。

 

ガンダムと遭遇して生き残れる者はゼクス達以外はいなかったからだ。

 

コックピット内のトレーズは、接近する敵影アラートの後に、ゆっくりと瞳を開けて接近するシェンロンガンダムに視線を向ける。

 

トレーズは微かな笑みを浮かべた。

 

「……ようやく現れたか……ディセット、その命令は解除せよ。彼は私と闘いたいのだ。無論、この私も。これは決闘である……」

 

「は、はっ!!!命令撤回!!!他のガンダムへの攻撃を継続せよ!!!」

 

トレーズは、ディセットに護衛任務を解除させてシェンロンガンダムとの戦闘に挑んだ。

 

トレーズとトールギスⅢの眼前にシェンロンガンダムが降り立ち、ビームグレイブをかざす。

 

そして五飛は迷うことなく外部スピーカーをONにして叫び飛ばした。

 

「俺の名は張 五飛!!!逃げも隠れもしない!!!トレーズ・クシュリナーダ……正々堂々と貴様を斃す!!!!」

 

「承知した………では参るぞ……張 五飛!!!」

 

トールギスⅢが、ビームサーベルグリップを手にする。

 

だが、形成されたビームエネルギーは、ガンダムジェミナスのビームソードと同じビームであった。

 

トールギスⅢは、ビームソードをゆっくりとかざし、ビームグレイブのビーム刃へ近づけた。

 

そして、ビームのスパークを合図に決闘が始まる。

 

「はぁああああああっっ!!!」

 

一瞬でビームソードを弾き、即行でビームグレイブの突きを繰り出すシェンロンガンダム。

 

だが、難なく突きは躱される。

 

トールギスⅢは躱した動きからビームグレイブの捌きに繋げた。

 

ビームソードの一振りがビームグレイブを弾き飛ばす。

 

「っっ……でやぁあああああっっっ!!!」

 

五飛は、気迫をビームグレイブの乱撃に乗せて攻撃を繰り出す。

 

唸るビームグレイブの斬乱撃。

 

だが、トレーズは余裕を見せるかのごとくトールギスⅢを華麗にコントロールして、シェンロンガンダムの乱撃を躱し、時にビームソードで捌き返す。

 

歯を食いしばって攻撃する五飛に対し、トレーズは僅かに笑いながら来る攻撃へスムーズに対応していく。

 

両者のビームグレイブとビームソードの斬撃が衝突する度にスパークが奔り散らす。

 

先程のディエスの闘い方とは一線を画していた。

 

シェンロンガンダムが繰り出す激しい斬撃の流れに合わせるかのように、トールギスⅢはビームソードを巧みに使いこなして捌いてみせる。

 

「っくぅ……であっっ!!!」

 

再び繰り出された突き。

 

だが、トールギスⅢはビームソードを当てがってビームグレイブを導くかのように捌く。

 

「覇ぁああああっっ!!!」

 

突きからの凪ぎ払いに転ずるシェンロンガンダムであったが、これも瞬時のビームソード捌きに押し止められた。

 

「流石、反乱分子……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムと言っておこう……なかなかの攻め方だ。だが、まだ甘い……」

 

トレーズは、冷静な眼差しでモニターのシェンロンガンダムを見ながら囁く。

 

次の瞬間、トールギスⅢは素早い連続突きを繰りだし、シェンロンガンダムへと攻撃の一手を放った。

 

「ちぃっ!!!」

 

シェンロンガンダムは素早くシールドをかざし、迫る連続突きを防御した。

 

シールドから衝撃が伝わり、コックピットへ激しい振動を与える。

 

「流石だな……トレーズ・クシュリナーダっっっ!!!」

 

五飛は気迫の代わりにトレーズの名を言いながらビームグレイブで打ち払う。

 

そして繰り返し、連突きを見舞った。

 

だが、その突きは再度ビームソードで受け止められ続け、一撃もトールギスⅢに中る事はない。

 

「はぁああああああっ……!!!」

 

シェンロンガンダムは、再び乱撃の斬撃を繰り出してトールギスⅢへ斬りかかる。

 

トレーズは冷静にシェンロンガンダムの斬撃を見据え続け、襲い来る攻撃を捌き続けた。

 

その表情には明らかな余裕がみられる。

 

「流石……反逆のガンダムのパイロット。よい気迫が我がトールギスⅢにもよく伝わる……」

 

余裕を表すトレーズに対し、五飛には苛立ちと焦りの表情が重なっていく。

 

ディエスとの戦闘とは明らかに違っていた。

 

「トレーズ!!!貴様はこの俺が斃す!!!!此処で貴様を斃せば、OZの士気に打撃を与えられるからな!!!!だが、それ以前に俺は一人の戦士として挑んでいる!!!!」

 

「同感だ。私も総帥としてではなく、一人の兵士として君と闘っている。そして、私が死ねばOZに大きな影響があるだろう。だが、君には無理だ。私を斃すことは……できはしない…―――!!!!」

 

トールギスⅢは一気に突きを捌き躱すと、一瞬でシェンロンガンダムへと一太刀を入れた。

 

胸部の装甲に斬撃を浴びるシェンロンガンダム。

 

次の瞬間にはビームソードの連続突きがシェンロンガンダムに放たれ、五飛は初めて敵に圧倒された。

 

ビームソードの切っ先が幾度もなく突き当たり、衝撃とダメージを与える。

 

「くそぉおおおっっ!!!」

 

「はっ!!!」

 

トレーズの気迫と共に、回転斬りとそれに繋ぐ突きがシェンロンガンダムを突き飛ばした。

 

「がぁああああ!!!」

突き飛ばされたシェンロンガンダムは、体勢を狂わされ、アスファルトに打ち付けられた。

 

そして倒れたシェンロンガンダムの上にトールギスⅢが降り立ち、胸部を踏みつけながら、ビームソードの切っ先をシェンロンガンダムの首下にかざす。

 

その切っ先は、メインカメラの配線パイプを指していた。

 

ここをやられた場合、メインカメラをやられた状態になり、有視界以外の戦闘は基本的に出来なくなる。

 

「私の勝ちだ…―――ここを少しでも突けば、君の視覚を奪える」

 

「殺せ……!!!!」

 

「それはできない……君のように挑んできた戦士は初めてだ。また手合わせを願いたい…―――」

 

「………――――――っっ!!!!」

 

この瞬間、五飛のこれまでの戦歴で培った戦士としてのプライドと自信が崩壊した。

 

つい先程に五飛がディエスに表した姿勢が、五飛へ返ってきたかのようであった。

 

「良い戦いだった……だが、まだ甘い要素もある……精進したまえ……」

 

「くっっ…―――くぅっっ……!!!くそぉおおおおおぉっっ!!!」

五飛の敗北の叫びが、シェンロンガンダムのコックピットに響き渡った。

 

五飛は悔しみを叫びながらシェンロンガンダムを加速させ、機体をスライドさせるように任務エリアから離脱していった。

 

管制塔のディセットも、離脱するシェンロンガンダムを目視していた。

 

ディセットは直ぐに追撃命令を下す。

 

「!!撤退するガンダムを追撃せよ!!!」

 

「待て……」

 

だが、その命令をトレーズは自らの意思で止めた。

 

「トレーズ閣下!??」

 

「彼はいずれまた闘う……追う必要はない……」

 

「で、ですが!!」

 

「再度言おう。エレガントに事を運べ……ディセット」

 

「はっ!!申し訳ありません!!」

 

ディセットとの通信を切ると、トレーズは去り行くシェンロンガンダムを見つめ続けた。

 

その一方、ウィングガンダムとトールギスの斬り合いは終わりを見せることなく続いていた。

 

斬り払いの斬撃を衝突させながら振りかぶり、ビームサーベルをクロスさせて拮抗する。

 

スパークが照らす中、ヒイロは決闘の終わりを促した。

 

「ゼクス・マーキス……貴様との決闘が任務ではない。そろそろ任務を再開させてもらう!!!」

 

「何!??っっ……!!私は納得できん!!!」

 

ウィングガンダムはビームサーベルを弾き、その場から飛び立つ。

 

突然の決闘解除に納得てきないゼクスは、迷うことなくウィングガンダムを追撃した。

 

そして、ヒイロは空中で展開しているMS部隊をターゲットに選定し、バスターライフルをロック・オンする。

 

レフトアーム側に装備したバスターライフルの銃口からビーム渦流を撃ち飛ばし、再び射撃しながら銃身を振り回した。

 

エアリーズ、リゼル、アンクシャの部隊群が次々と撃墜していく。

 

ビームが終息すると地上へと銃口を向けた。

 

だが、トールギスの斬撃が射撃を阻む。

 

ウィングガンダムは、上から来る斬撃をシールドで受け止めた。

 

「っっ!!!邪魔をするな!!!」

 

「私とて任務だ!!!貴様との決着を着けるまで闘う!!!」

 

「スピリット・キャバルリ……――――騎士道精神とは面倒な概念だな!!!」

 

再び空中での激戦を展開させ始めたウィングガンダムとトールギス。

 

ビームサーベル同士が重なりスパークを放つ。

 

奇しくもその真下の地上で、ガンダムジェミナス01とユニコーンがビームソードとビームサーベルを拮抗させながら激突していた。

 

「さっきから激突しっぱなしだ……タフなヤツだぜっっ!!!」

 

「反逆のガンダムっっ!!!いい加減シブトイんだよぉ!!!」

 

アディンは呆れるような薄い笑みを浮かべながらレバーを押し込み続け、リディは歯を食い縛りながらモニターのガンダムジェミナス01を睨む。

 

終わらない斬撃の打ち合いが二人を疲弊させていくが、一歩も引かない。

 

その一方でゼクスとリディの部下達もガンダムとの戦闘に踏み込み続けていく。

 

リゼルカスタムのメガビームランチャーの射撃が、ガンダムジェミナス02へと撃ち込まれていく。

 

既にリゼルカスタムの機体はホマレとガロムだけになった。

 

仲間を墜とされた怨みを賭して、ガロムはメガビームランチャーを放ち続けた。

 

「貴様ぁああああああっっっ!!!絶対に墜とすっっ!!!」

 

ガンダムジェミナス02は防御しながら接近するリゼルカスタムを待つ。

 

「その手には乗らん……斬り刻むぞ!!!」

 

ガンダムジェミナス02がアクセラレートライフルを構えた刹那、2機のリゼルカスタムは、挟み撃ちするかのように接近して変形。

 

「変型したっ!!?ちぃっ……!!!」

 

2機のリゼルカスタムは、ビームサーベルを取り出し、ガンダムジェミナス02へと斬りつけた。

 

ガンダムジェミナス02は、ホマレ機の唸る斬撃をシールドで受け止める。

 

そしてもう一方のガロム機が斬りつけた刹那、ガンダムジェミナス02はガロム機側にアクセラレートライフルの銃口を突き出した。

 

その銃口に、ガロム機のリゼルカスタムが突っ込む。

 

慣性力が付加され、激しく胸部へと突き刺さった。

 

「ホマレっっ…―――リディ……!!!」

 

ガロムの下半身はアクセラレートライフルの銃口に押し潰されていた。

 

ガロムが、かつて部下であったリディの名を口にした直後、零距離からのアクセラレートライフルの一撃が放たれた。

 

その瞬間のオデルは、鋭い眼差しでモニター越しにリゼルカスタムを睨み付けていた。

 

零距離のビーム渦流が、リゼルカスタムを蒸発させる勢いで吹き飛ばす。

 

ガロム機のリゼルカスタムは、えげつないまでに破砕され爆砕した。

 

「が、ガロムっっ…―――!!!貴様ぁあああぁあっっ!!!!」

 

目の前で戦友を失ったホマレは我を忘れ、怒り任せにビームサーベルを押し付ける。

 

スパークが無造作に奔る中、ガンダムジェミナス02はホマレ機のリゼルカスタムへとアクセラレートライフルの銃口を突き刺した。

 

 

 

ディガオンッッ!!!

 

 

 

「――――――!??」

 

「チェックメイトだ……エースさん!!!」

 

銃口はコックピットの中心部を突き刺していた。

 

再びアクセラレートライフルが唸り、リゼルカスタムを吹き飛ばす。

 

 

 

ヴァズダァアアアアアアアッッッ!!!

 

バギャシャアアアアァァァァ…―――ッ!!!

 

 

 

「咄嗟に閃いたが、こういう射撃方もあったんだな……リゼルのカスタム機撃破!!!引き続き戦力MSを破壊する!!!」

 

オデルは、アクセラレートライフルを構え直し 、向かい来るエアリーズ、リゼル部隊へと機体を向かわせた。

 

管制塔でもリゼルカスタム部隊の壊滅が報告される。

 

「リゼルカスタム部隊、熱源消滅…―――壊滅しました……!!!」

 

「何!??馬鹿な!!!彼らは連邦軍のエキスパートから編制された部隊だぞ!??」

 

「ですが、間違いありません!!!それに…―――先程のガンダムの反撃から陣形が崩されつつあります!!!」

 

ディセットはその報告を聞き、口惜しさに歯を食い縛りながら拳を強く握り締めた。

 

一方で、オーバーエアリーズ部隊が旋回しながらカトル達のガンダムへと攻撃をかけ続けていた。

 

その中で、ビームサーベルを手にした2機のオーバーエアリーズが、ガンダムヘビーアームズへ翻弄させる勢いで斬りつける。

 

「っ……!!!」

 

シールドでビームサーベルをガードするが、もう一方のビームサーベルがグレネードランチャーの銃身を破壊してみせた。

 

「厄介な重装武器は破壊した!!!このまま叩く!!!」

 

ガンダムヘビーアームズは、更に零距離からのビームライフルの直撃を食らい続ける。

 

「戦法は正しい……だが、火力が不足だ」

 

が、トロワは動揺すらせずに、淡々とライトアームのアーミーナイフを展開させた。

 

両眼を光らせたガンダムヘビーアームズは、アーミーナイフを唸らせながらライトアームを振り上げる。

 

 

 

グフィアァァッッ―――ギィギャガァアアアアッッ!!!

 

アーミーナイフの斬撃が近接状態だったオーバーエアリーズを破断させた。

 

更に振り向き様に、もう1機のオーバーエアリーズを斬り込む側面から斬撃。

 

破断された2機は、アスファルトに打ち付けられ爆発した。

 

この光景を目の前にしたオットー機が旋回した後に、ガンダムヘビーアームズへと突っ込む。

 

「ふっ……恐らくこの戦いで我々は全滅される……!!!ならば、ゼクス特佐の為に少しでも貢献を……おおおおおおっっ!!!!」

 

事態を見据えた捨て身の選択肢だった。

 

オットーはオーバーエアリーズの加速をフルに引き出して機体を特攻させる。

 

その最中、自らが録ったガンダムとの戦闘データを基地の管制塔へと送信した。

 

「特攻か。だが、無意味だ……」

 

トロワは、オットー機の軌道を見定めながら、避けることなく身構え、オーバーエアリーズが突っ込むのと同時に、僅かに軌道をかわす。

 

そして、アーミーナイフを振るいかざした。

 

その瞬間、オットーは目を見開き、忠誠するゼクスの名を叫んだ。

 

「こいつらのデータは送信したっっ!!!ゼクス特佐、万歳っっ―――!!!!」

 

 

 

バッッギャラガァアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

アーミーナイフの切っ先へ突っ込んだオットー機は、瞬時に機体を砕き散らされ、木っ端微塵になってアスファルトに散らばった。

 

「オットー特尉!!!っっガンダムッッ―――っ!??」

 

オットーの最期を見てしまったワーカーは、上官の死に怒りを覚える。

 

だがその直後、彼の目の前にガンダムサンドロックが舞い上がった。

 

「ごめんっ!!!手加減の余裕はないんだっっ――――――!!!」

 

「ガンダム――――――っっ自分も続きます!!後の兵士の為に!!!」

 

ヒートショーテルの刃が振り下ろされる刹那、ワーカーもオットー同様にこれまでの戦闘データを送信した。

 

 

 

ディッッガガァカァアアアアアンッッ!!!

 

ヴァズガァアアアアアアッッ!!!

 

 

 

ヒートショーテルの素早い二連斬撃が、ワーカーのオーバーエアリーズを斬り刻んだ。

 

斬り刻まれたワーカー機は空港で爆砕し、ニューエドワーズの空に散った。

 

「らぁあああああっっ!!!」

 

デュオは、ビームサーベルで斬りかかるオーバーエアリーズに向かい、半ば怒り任せにバスターシールドを突き刺して破砕する。

 

そこへトラント機が串刺しにするかのような勢いで、ビームサーベルを突き出して突っ込んでいく。

 

トラントは狂喜とも執られる笑い声を上げて、モニター上のガンダムデスサイズへと身を乗り出す。

 

「ははははっっ!!!ガンダム!!!過ぎた悪しき力よっっ!!!!」

 

「うざったいんだよっっ!!!」

 

ガンダムデスサイズが振るうビームサイズと、オーバーエアリーズのビームサーベルとが衝突し合った。

 

だが、明らかに違うパワーがぶつかり、オーバーエアリーズのショルダーユニットごともぎ取るように斬り飛ばされる。

 

 

ザァギャギィイイイイィィッッ!!!

 

 

 

再度トラント機は中破した状態で墜落し、アスファルトに転がった。

 

ガンダムの反撃と、一部の布陣状況の崩壊で、事態は再びメテオ・ブレイクス・ヘルに軍配が上がった。

 

ガンダムがOZ、連邦軍のMS部隊が密集する中へ突入したが故に、集中砲火は不可能。

 

その最中で、ウィングガンダムとトールギス、ガンダムジェミナス01とユニコーンが終わることなき激突を続けている。

 

更にはそのエース二人を残し、MS-TOPGUNが事実上壊滅した。

 

計画上の部隊布陣状況の崩壊を重く見たディセットは、その状況を逆手にとった。

 

「ガンダムが展開部隊の真っ只中にいては集中砲火もできん……ならば、ガンダムへの近接戦闘を重視せよ!!!!ビームサーベルはもちろん、あらゆる近接戦闘でガンダムを臨機応変に攻撃!!!!射撃方も零距離で行う!!!!ゼクス特佐とリディ少佐が決闘している間に徹底して疲弊させる!!!鹵獲はその後だ!!!」

 

「はっ!!!」

 

その命令が下されるやいなや、各ガンダムと隣接する機体群が一斉に接近戦を開始した。

 

その最中で、ミスズは歯を食い芝って、部下の死を悔やんだ。

 

(オットー……ワーカー……トラント……ワンダー、ツバイト、サード……私の部下達までもが、ガンダムにっっ!!!だが、まだゼクスには報告できない……あいつは闘っている!!!気持ちを動揺させるわけにはいかない!!!)

 

その向こうでウィングガンダムと闘い続けるゼクスを想い、ミスズは敢えてゼクスに彼らの戦死を伝えなかった。

 

基地の滑走路上で、リーオーやジェガンの部隊、これ等の重装型である重装型リーオー、スタークジェガンの部隊、ジムⅢ部隊が一斉に4機のガンダムへ襲い掛かる。

 

ガンダムデスサイズの斬撃が密集するMS部隊を斬り飛ばす中、その背後からビームバズーカが零距離で撃ち込まれた。

 

重装兵器特有の衝撃が、ガンダムデスサイズを吹っ飛ばす。

 

「がぁああっっ!!!」

 

倒れたガンダムデスサイズに、次々と零距離射撃が襲う。

 

「ちっっきしょうがっっ!!!またタコ殴りかぁ!!?」

 

ガンダムヘビーアームズにも四方からビームバズーカやバズーカが撃ち込まれていく。

 

「また戦闘法が変わったな……っっ!!!」

 

その時、スタークジェガンのバズーカが、ガンダムヘビーアームズの胸部に押し当てられた。

 

ガンダムヘビーアームズの急所とも呼べる部位だ。

 

トロワは即ブレストガトリングをぶっ放してスタークジェガンを破砕させる。

 

だが、直後に重装射撃が至近距離から放たれ、衝撃を与えた。

 

「っっ……やるな!!!」

 

ガンダムサンドロックへは、大量の斬撃が打ち付けられた。

 

1機、1機切断させていくが、次々と来る攻撃に疲弊の色を見せ始めた。

 

「っっ……流石にキツいかな!!?ぐっ!??」

 

ガンダムサンドロックに襲う衝撃。

 

四つの斬撃が打ち付けられ、それを期に更なる乱撃がガンダムサンドロックを襲う。

 

この状況の中、ガンダムジェミナス02は先程の零距離射撃を応用し、善戦していた。

 

アクセラレートライフルを使いこなし、至近距離から敵機を破砕させてみせる。

 

「うるさいが、存分に零距離射撃のコツを試させてもらう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、戦闘開始から五時間余りが経過。

 

デュオ、トロワ、カトル、オデルの四人は、敵機の度重なる無理な攻撃の影響で確実に疲弊していた。

 

それぞれの表情に焦りや疲れが表れているのは確実であった。

 

アディンとリディも、息切れさせながら決着の着かない闘いを続ける。

 

そして、ヒイロは機体を着地させて、トールギスと睨み合いながら互いに牽制して佇んでいた。

 

ヒイロとゼクスの両者は最早疲労困憊であった。

 

それらの戦況を見つめながらディセットは更なる手に踏み切る。

 

イヤー通信機を使い、OZ宇宙軍の工作部隊への指示を仰いだ。

 

(私だ……「イカロスの羽根に炎を当てろ」……指定したコロニーでそれらを実行に移れ……)

 

「……?!」

 

ミスズは突如、聞こえない程の小声で命令を出すディセットの仕草に、女性ならではの直感を働かせた。

 

(ディセット……こそこそと何を指示した!??まさか、裏で別の作戦をしているのか!??)

 

ガンダム達の激戦がニューエドワーズで繰り広げられている頃、L1コロニー群の一つで大規模なテロが発生した。

 

そのコロニー内では激しい轟音と共に、外壁に穴が開く程の爆発が発生する。

 

その穴はコロニー内のあらゆるモノを無差別に放り出し、老若男女問わずコロニー市民を容赦なく呑み込む。

 

更に別のL3コロニー群のコロニーでは、また容赦ない攻撃が行われた。

 

そこは、変哲も無いビル街であった。

 

しかし……。

 

「我々はメテオ・ブレイクス・ヘル。このエリアは、連邦の新規の拠点地と断定。連邦に荷担する者をこれより排除する!!!」

 

半ば滅茶苦茶な理由でメテオ・ブレイクス・ヘルを名乗り、ジェガンやリーオー部隊による攻撃で、瞬く間にビル街を破壊してみせた。

 

それは多くの市民を巻き込みながら爆発を次々と巻き起こす。

 

それらの部隊は、更に市街地へ向かい破壊行為を続行し、この攻撃によるビームの直撃を食らって吹き飛ぶ市民達が相次いだ。

 

無論、OZの工作兵が乗るリーオーである。

 

更に別のコロニーでは、大量破壊兵器クラスの大規模な爆発が幾度も起こり、その悪影響によりコロニーそのものが自壊・崩壊する。

 

それらの場所は、何れもメテオ・ブレイクス・ヘルの拠点がある場所であった。

 

この状況が直ぐにドクターJ達の所へとエージェントから通達される。

 

「なんじゃと!??コロニーが攻撃されただと!??」

 

「ああ!!今スゲーニュースになってやがる!!全てが俺達の拠点のあるコロニーだった!!!しかも、二件目は俺達の名を騙って破壊活動した後に、市街地の真ん中で自爆しやがった!!!三件目なんかはコロニーそのものを破壊した!!!奴等はいよいよ反撃に出る勢いだぜ!??」

 

「むぅ……!!!OZめ……!!!」

 

「卑怯しか脳のない連中だ!!!今更驚かん!!!」

 

プロフェッサーGは、早速ニュースの映像を管制室内のモニターで確認した。

 

そこには、OZの情報操作の風貌が表され、流れていた。

 

これら全てがディセットの指示した「イカロスの羽根に炎を当てろ」の暗号ワードの全容であり、狙いであった。

 

鹵獲とメディアを利用した二段構えの作戦であった。

 

「番組の途中ですが、緊急速報をお伝えします。つい先程、L1、L3コロニー群の三ヵ所のコロニーで、同時多発テロが発生したとの情報が入りました。地球連邦軍からの情報によりますと、何れもメテオ・ブレイクス・ヘルによるテロだと断定されたとのことです。メテオ・ブレイクス・ヘルはガンダムによる軍施設テロが主っだっていますが、ここへ来てコロニーでテロを行ったのはコロニー内部の連邦軍施設が狙いと見られ、ガンダムとは別の別動隊の可能性が……」

 

プロフェッサーGは、半ば呆れた顔でモニターを消した。

 

「聞いて呆れる!!案の定だな、奴等の手口は!!!実に悪趣味な情報工作だ!!!」

 

この破壊工作を指示したディセットは、更なる指示を仰ぐ。

 

(……そうか……情報工作は成功か。次で止めだ。「三人の賢者を地球(ほし)へ墜とせ」……戦意を奪った所で我々の方で鹵獲する……以上だ)

 

微かにそれを聞き取ったミスズは、更なる悪しき予感を感じさせた。

 

(嫌な気配がする指事だ……何を企んでいる!!?)

 

ミスズの予感は的中していた。

 

ディセットの指示の直後、衛生軌道上にある3機の衛生ミサイル装置が作動。

 

同時に3基の衛生ミサイルが放たれた。

 

それから数分後、ドクター達の下にエージェントから更なる情報が舞い込む。

 

無論、衛生ミサイルの事であった。

 

「ドクターJ!!!奴等、更にやらかしやがった!!!衛生ミサイルを発射しやがった!!!」

 

「衛生ミサイル!!?そんなものが地球に堕ちれば……被害は途方もなくなる!!!更にその仕業がワシらのモノとすり替えられれば……!!!!OZにしてやられたわい!!!」

 

ドクターJは、義手側にも力を入れて悔やみ、今の状況からして、ペルゲは撤退を発案し始めた。

 

最早、これ以上の戦闘続行は無意味と判断した上での事だった。

 

「これで地球とコロニーの大衆から我々は更に敵視されるな……況してやニューエドワーズ基地での状況に合間ってコロニーや主要都市が攻撃された……こいつは撤退を余儀なくされるかもしれんぞい……手遅れになる前に撤退じゃ!!!」

 

その判断は確かなものであった。

 

戦えば戦う程、地球側からの反発が強まり、コロニー側の危機に晒されていく。

 

前者は元々承知の上であったが、後者は気が引けるものがあった。

 

「既に手遅れかもしれんが……例のシステムもこの状況では悪あがきにしかならん……やむを得まい……ヒイロ達を撤退させる……!!!」

 

間もなくして、衛生ミサイルは三ヵ所の主要都市、ワシントン、モスクワ、そして東京に直撃し、歴史上、最悪の事態に見舞われた。

 

着弾地点より半径30㎞が一瞬で蒸発され、更なる衝撃波で、最終的な被害は半径50㎞に及んだ。

 

轟音と核爆発さながらの半球形の爆発が拡がり、あらゆるものを蒸発させて吹き飛ばしていく。

 

巻き起こる被害や惨状は計り知れないものとなっていた。

 

そして更に報道陣が集まっていた関係もあり、ニューエドワーズ基地に於いて緊急記者会見が開かれた。

 

無論、ディセットの画策によるモノであり、彼が主になり緊急記者会見に臨んだ。

 

「今回発生した大規模なテロは、連邦と我々の組織とで調査中です。が、少なくともコロニー側のテロ……即ち現在もこの基地に襲撃をかけている『メテオ・ブレイクス・ヘル』によるモノと見て間違いありません!!それは断言します!!我々は今後とも本性を見せた非道な彼らのテロに対し、闘っていく所存です……新な情報が入り次第、追って報告します」

 

トールギスⅢのコックピットでこれを見たトレーズは、静かに瞳を閉じて瞑想する。

 

トレーズは既にディセットの未報告の部分の作戦を把握していた。

 

(ディセット……民間を捲き込む策略は決してエレガントではない……私を理解しようとする姿勢はよいが、どこか迷走しているな。だが、視点を変えれば大衆を捲き込み、大衆をこちら側へと引き込める策略でもある。そして、これ程なまでの悲劇があることにより、後世に大いなる反省材料として残せるのだ……我々のカードは確かに有利になったのは確かだ……)

 

この策略の情報がドクターJを通して、戦闘中のヒイロ達に伝達される。

 

「―――と、言うようにご覧の通りの有り様じゃ……我々はOZにしてやられた!!!これ以上の戦闘は不利以外の何者でもない。今回の任務は撤退を命ずる!!!」

 

デュオ、トロワ、カトル、オデルは攻撃を受け続けながらこの理不尽なすり替えに失望した。

 

「嘘だろ……OZの連中、正気かよっっ!??それじゃ、コロニーからも嫌われるってのか!??冗談じゃないぜぇ!!!」

 

「遂に俺達も奴等の手口に嵌(は)められたか……」

 

「そんな……こんなことって……!!!」

 

「連邦……否、OZ!!!相手は俺達だけだろ!!?何故地球を捲き込んだ!??くっっ!!!」

 

4機のガンダムは、各々に敵機を吹き飛ばすように振りほどき、GNDドライブの出力を最大値にさせ、フルブーストで離脱していく。

 

アディンはリディと対峙中に撤退を受け、一気に悔しさに駆られ、怒り巻かせにガンダムジェミナス01をユニコーンから離脱させた。

 

「……マジかよっっ!??冗談じゃないっっ……俺達はっっ……俺達はっっ!!!ちきしょうっっ……!!!」

 

直後、リディは疲労を押し殺し、ユニコーンの機体を上昇させ、フルブーストをかけてガンダムジェミナス01を追いかける操作をした。

 

「おのれ……に、逃がさん!!!」

 

「待て!!!リディ少佐!!!互いに疲弊した一騎討ちとこの状況ではスマートな勝利は得られん!!!」

 

リディを止めたのは、ゼクスであった。

 

組織は別だが、尊敬するゼクスの指示にリディは正気を取り戻した。

 

「っっ……!!!ゼクス特佐!!!」

 

そして、ゼクスの眼前にはホバリングし続けるウィングガンダムがいた。

 

コックピット内のヒイロは、静かに歯を食い芝っていた。

 

これまでの戦闘があったが故に、ヒイロもまた悔しさに駆られていた。

 

ゼクスは、そのヒイロに向かい言い放った。

 

「今回のこれ以上の戦闘は無意味なモノと感じる……貴様をここで捕らえるには惜しすぎる!!早くこの領域から去れ!!!」

 

「敵に言われる間でもない……!!!」

 

トールギスの目の前でバードモードへと変型し、瞬発的な加速をかけて離脱していった。

 

それを見届けるトールギスにユニコーンが接近した。

 

「ゼクス特佐……何故、ガンダムを……逃がしたんです?」

 

「……どうやら、長く騎士道精神を持ち続けると、こうなってしまうようだ……もっとフェアなカタチで闘いたいとな……」

 

「フェアな……闘い……」

 

OZと連邦の二人の騎士は、敗者となった好敵手の背中を見届け続けた。

 

コックピットの中のヒイロは、コントロールグリップを握りしめ、悔しさの余りによる武者震いを起こしていた。

 

「っっ……!!!惨めな敗走だ……!!!くっっ……これは事実上の任務失敗だ!!!本来ならば自爆したいがっっ……!!!」

 

自爆スイッチを手に取るヒイロであったが、マリーダの面影を脳裏に浮かべ、再び自爆スイッチを納めた。

 

「……このままでは死ねない!!!」

 

ヒイロは、そう自らに言い聞かせると、再び虚空の空を見据えた。

 

 

 

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エピソード13 「ダカール進攻」


ニューエドワーズ基地での戦闘は、かつてない激戦を巻き起こした。

7対約500+増援の戦い。

怒涛の勢いで攻めていたガンダム達は、特定の遊撃と集中砲火をあてられ、次第に身動きが取れなくなっていく。

ヒイロとアディンがそれぞれの因縁めいた敵、ゼクスとリディにその刃を交え激突し続ける最中、五飛はディエスのバイアランカスタムを見事に制した。

だが、後にトレーズと決闘を開始するも、敗北という結果に終わってしまう。

その後も闘い続けるメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達だったが、ディセットが仕組んだ情報工作を施した自作自演のテロによって更に追い詰められる事となった。

情勢的な攻撃を受けたメテオ・ブレイクス・ヘルは、
事実上、任務失敗の敗北を余儀無くされるのであった……。





緊急離脱して後、Gマイスター達は一旦散々になり、各地へ散開していた。

 

その中で、ヒイロは自動操縦に切り替えたウィングガンダムのコックピット内で、今回の任務失敗に対し途方に暮れていた。

 

(俺は……俺達は任務を失敗に終わらせた……本来であれば自爆だ……惨めな敗走だ……!!!くっっ!!!)

 

ヒイロは手のひらを反して見つめ続け、アディン・ロウからの教訓を思い出し、言い聞かせる。

 

『ヒトの正しい姿勢……もとい、生き方は感情のままに行動し、後悔を残さない事が正しい生き方なんだ。特に戦いの場合なんかな……お前も感情のままに行動し、その行動で示せ……』

 

亡きアディン・ロウの声を自分の中で、再生させると、ヒイロをある感情が突き動かした。

 

ヒイロは、咄嗟にマリーダのクシャトリヤへの通信回線を開いた。

 

 

 

BGM ♪ 「A LETTER」

 

 

 

彼女に会いたいという気持ちであった。

 

しばらく間を置いた後、マリーダが通信に出る。

 

「っ……!!マリーダ……!!」

 

映し出されたマリーダは、普段のノーマルスーツ姿ではなく、黒いタンクトップのシャツに短パンの姿で、コックピットに座っていた。

 

タンクトップから見えるブラのラインがセクシーさを出している。

 

ヒイロは普段とは違うマリーダの姿に釘付けになり、言葉が止まる。

 

対し、マリーダはいつになく感情を出して身を乗り出すかのようにモニターに近づいた。

 

「ヒイロ!!お前から連絡をくれるとはな!!無事なんだな!!」

 

「あ、あぁ……」

 

「シャワーを終えた後にニュースを見てな……今連絡入れようとしていた所だった!まさかヒイロ達が敗走だなんてな……だが、無事で何よりだ!!よかった……!!」

 

マリーダの表情にはヒイロの無事を心底から喜ぶ安堵の笑みが浮かんでいた。

 

だが、ヒイロは影を落としたままだ。

 

「俺は……任務を失敗に終わらせた……惨めなものだ……」

 

マリーダから見たヒイロは、いつになくマイナスなモノを感じていた。

 

初めて味わう任務の失敗と敗走に、ヒイロの鋼のようなプライドも損傷を受けていた。

 

更にその傷を癒す為にマリーダを求めていた事も。

 

マリーダはモニター越しにもそれを感じ、直ぐにヒイロの心境を理解して、モニターのヒイロに諭す。

 

「解る……ヒイロが今傷ついているコト。確かにヒイロはすごい。明らかにエースの部類の戦士だ。だが、それでも……ヒイロはマシンじゃない。人間だ。失敗や敗走だって味わってしまう事もある。だから任務の失敗を気に病むことはない……」

 

「マリーダ……!!俺は……俺は……!!」

 

「ヒイロ……思い悩む必要はない……連邦もOZも姑息な偽りの戦略を仕掛けてきた……世界はそれを真に受け、ヒイロ達を敵視し始めた。けど、ヒイロ達ならばいつか必ずそれを覆せるときが来る……だから、今はゆっくり休んでいいんだ……」

 

マリーダは決して歳上目線ではなく、真っ直ぐにヒイロの傷ついた心を癒したいという感情から接していた。

 

「マリーダっ!!俺はぁっっ……くっ!!!」

 

ヒイロも決してメテオ・ブレイクス・ヘルでは見せる事はない弱味をマリーダにさらけ出す。

 

短期間の内に二人は互いに心を開いていた。

 

戦士として戦う為、そしてその運命と闘う為の人生を歩む事になった二人だからこそなのだろう。

 

マリーダはそっとモニターのヒイロの頬に指先を当てた。

 

「今、傍に居れば触れながらヒイロを癒せるのにな……この気持ちは切ないようなこそばゆさを感じる……」

 

「マリーダ……俺は普段、仲間といる時でさえ、このような気持ちを見せる事はない……何故だ?」

 

それの答えは、互いに想いを寄せているに他ならなかった。

 

ヒイロもモニター越しに手の甲を軽く当てた。

 

「ふふっ……敢えてその答えは言わないし、聞かない……それは直接聞きたいものだからな」

 

「マリーダ、俺はマリーダに直接会いたい……」

 

最早、戦士としてのヒイロはマリーダの前に居なかった。

 

ナイフのような戦士のヒイロを強くイメージしている者からしてみれば、情けなさは全開と言ってもいいだろう。

 

見方を変えてしまう者もいるだろう。

 

だが、マリーダは決してそうは捉えなかった。

 

戦士故の苦悩も知っているが故に。

 

「私も同じだ……話してる内にもどかしくなってきた……直接今のヒイロを抱きしめて癒してあげたいと切に願っている私がいる……」

 

「あぁ……俺もだ……」

 

ウィングガンダムとクシャトリヤのコックピットで二人しか知らない時間が流れていく。

 

この時間はヒイロのみならず、潜伏続きだったマリーダの気持ちも癒した。

 

「お互い……オペレーションの任務が終わったら会うぞ……」

 

「あぁ……」

 

 

 

激戦後のニューエドワーズ基地において、事後処理任務が進められていた。

 

連邦、OZの兵士達が各場所で各々に任務をこなす。

 

その中でゼクスとリディは部下達の死を知り、ニューエドワーズ基地に向かいながらミスズと共に、MS-TOPGUNのメンバーとして敬礼と黙祷をささげていた。

 

ゼクスはゆっくりと敬礼を解きながらミスズに問い質す。

 

「……我々は、有能かつ掛け替えのない部下達を失ってしまった……ミスズ……何故早急にこの事を伝えなかったのだ?」

 

対してミスズは、風でなびく髪をかき分けながらゼクスに答えた。

 

「無論、お前の闘いに水をさすまいと思ったからだ。オットー達の想いも同じだったはず……私とて悔しい想いで張りつめている……!!!彼らはその死と引き換えにガンダムとの戦闘データを残してくれたが、代償としては、余りにも重い!!」

 

「あぁ……ミスズの言う通りだ。不幸中の幸い、トラントは一命をとりとめたものの、受けた代償は重く大きすぎた……」

 

その言葉にリディは、悔しさと怒りを堪えて答える。

 

「はいっっ!!自分の場合ではありますがっ、ホマレ中尉、ガロム中尉は、新米時代の上官でもありました……俺はっ……彼らに対し、まだ恩を貫き通せていません!!」

 

「いや、リディ少佐は恩義に尽くしているはずだ。私もそうだが、あのガンダムと対等に渡り合い、かつ生き延びている……新米時代の貴君を知らないが、少なくとも当時を思えば目まぐるしく成長しているはずだ」

 

「ゼクス特佐……!!」

 

「生き延びさせてもらったからには、我々が出来る闘いを貫くのだ。リディ少佐、連邦とOZの違いはあれど、今後とも私と共にガンダムを斃す道を歩んで欲しい……」

 

リディは、ビッと改めた気を付けをし、引き締めた表情で敬礼した。

 

「喜んで!!!」

 

「私もな……ゼクス」

 

ミスズも厳しい中の柔らかな表情でゼクスに敬礼を交わした。

 

一方で、ディエスは中破した愛機・バイアランカスタムの機体を見上げていた。

 

バイアランカスタムの両肩は見事に突き砕かれ、あちこちにビームグレイブによる焼灼痕が残る。

 

(……こんなにやられちまったか……やはりとんでもない機体だったな、龍のガンダム……こいつは完全に俺の負けだ……)

 

自軍は形状の勝利を得ていたが、ディエスとしては紛れもない負けであった。

 

ディエスは、バイアランカスタムに歩み寄り、その装甲に手を触れる。

 

「ま……お互い生きてるだけでもメッケモノだな……俺達は次なる再戦に備えるか……麒麟のプライドにかけてな……!!」

 

生き残ったエース達がニューエドワース基地の施設でそれぞれの想いを胸にする中、管制塔でトレーズとディセットが今回のオペレーションについて向き合っていた。

 

「大衆は……今回のオペレーションで確実にメテオ・ブレイクス・ヘルを敵と認識し始めました。鹵獲こそはできませんでしたが、心理戦も兼ねたコロニーと主要都市への大規模偽装テロによりメテオ・ブレイクス・ヘルは今や孤立化……実際にコロニー市民も非難側へ掌握できているようです。よってリザルトで我々の勝利と言えるでしょう!!」

 

ディセットは誇らしげにオペレーションの勝利の核心を報告する。

 

だが、トレーズはそれに置ける遺憾をいくつか並べてディセットへ返した。

 

「だが、その偽装テロの為に多くの市民を犠牲にした。そして、偽装テロの件を直接私に報告していなかった……これは如何なることか?」

 

「はっ!!前者は犠牲の規模、心理的衝撃が多い程、メテオ・ブレイクス・ヘルに対し大衆は怒りを示す。そしてこの先の時代の為にまだ多くの犠牲を必要としていると考慮した為です。そして後者はこの偽装テロがエレガントではないと核心しつつも、中止を恐れ、勝利の為に押し通す為に敢えて報告致しませんでした……誠に申し訳ありませんでした!!ですがっ!!私はトレーズ閣下の勝利の為に考慮していたと言うことだけは、主張させてください!!!」

 

ディセットの言い分を聞いたトレーズは、管制塔から見えるトールギスⅢに目を向けて歩き出す。

 

「ディセット……貴君の想いは解った。だが、勘違いをしてはいけない……私が望む多くの犠牲とは、我々を含めた戦いに身を投じている者達の事だ。大衆までを犠牲に巻き込んではならない……それではかつての悲しい歴史を真似るに過ぎなくなってしまう……」

 

「はっ……!!!申し訳ありませんでした!!!」

 

トレーズは、しばらく愛機と定めたトールギスⅢを見つめた後に、ディセットに振り向いて今後のことを指示した。

 

「今後は大衆を犠牲にする作戦を禁ずる……メテオ・ブレイクス・ヘルに関しては彼らだけを狙うようにせよ……では下がりたまえ……」

 

「はっ!!」

 

トレーズはトールギスⅢを見つめながら五飛との対決を振り返り、闘いに対する想いに浸る。

 

(しかし……私と刃を交えたあのガンダムのパイロットは、理想的な戦士の姿勢を貫いていた。また手合わせをしてみたいものだ…)

 

その頃の五飛は、ひたすら海中を突き進んでいた。

 

トレーズとの対決が敗北の形になったことに対し、酷く己れを追い込み続ける。

 

「俺はトレーズに負けた……Gマイスターたる俺が!!!ナタク……今の俺には戦う資格がないっっ!!!」

 

五飛は悔しみの限りに、力強くコントロールグリップを握り続け、歯ぎしりをしながらゆっくりと顔を伏せていった。

 

 

 

オペレーション・イカロスの作戦は、386機のMSと兵士が失われ、鹵獲は失敗に終わった。

 

だが、ディセットいわく、リザルトで見ればOZと連邦の勝利であった。

 

メテオ・ブレイクス・ヘルによるテロと見せかけたOZの工作は、一気に地球市民はおろか、守るはずのコロニー市民までもが非難する要因となった。

 

コロニー市民は、デモを行いながらメテオ・ブレイクス・ヘルの排除を訴える。

 

「メテオ・ブレイクス・ヘルはコロニーの危険因子だ!!!連邦よりも危険だ!!!早急に排除せよぉ!!!」

 

「やつらのガンダムも排除せよぉ!!!コロニーは奴等のテロに屈しない!!!」

 

「コロニーが生んでしまった悪魔は世界の邪魔だぁ!!!」

 

また、巷でも日を追うごとに非難する考えが相次ぐ。

 

「メテオ何とかって結局、ワケわからん過激なテロ集団だったのか……一気に失望した……主要都市狙うって怖すぎる……」

 

「あいつらの目的、最初は反連邦運動しておいて、実は世界世界征服なのかも……衛生ミサイルはやりすぎだ。恐ろしいよ……」

 

「またコロニーが攻撃に遭ったのか!?メテオ何とか!!コロニーの見方と期待していたが、所詮はテロリストに過ぎん奴等だ!!!」

 

「いつコロニーが攻撃されるかわからない日々……早く壊滅してほしいわ……」

 

また一方でメディアのコメンテーター達は、言葉を並べて批判を重ねていた。

 

「彼らは非常に危険な因子です。合同軍事演習が催された一件ありますよね?通常のMSならばあんな蹂躙行為はできません!!恐らく彼らのガンダムは、地球圏を制圧できる程の力を有しているものと思われます……他の言い方をすれば、我々の脅威としての顔が動き出したと言えます……」

 

「ガンダムのテロだけに飽きたらず、地球その物に対してもテロを開始した……それは確かですね。衛生ミサイルがメインであり、ガンダムの攻撃はカモフラージュ……今後はガンダムと衛生ミサイルでの同時テロが主流になると思われます……」

 

「主要都市を狙う……これはとんでもない事です!!!今や攻撃を受けた国の機能は麻痺状態です。これはかなりの悪影響を与えている!!特に東京への攻撃は衝撃でしたよ……彼らは一刻も早く壊滅してもらいたいものです……」

 

世界の殆どが、メテオ・ブレイクス・ヘルが地球とコロニーの脅威と認識し始めていく。

 

コロニーの各場所で、メテオ・ブレイクス・ヘルのアジトと疑われる箇所が相継いで爆破され、この日もコロニーの一角が爆破された。

 

爆発の跡から全身に傷を負ったメテオ・ブレイクス・ヘルのメンバーの一人が、瀕死状態で地面を匍匐前進するように出てくる。

 

大量の出血した傷の具合からしてもう長くはなかった。

 

「くっ……OZ……め……!!!これが貴様らのやり方か!!!がはっ……っくっ……俺は死ぬな……」

 

メンバーの男はペンダントを手に取り、悔しげに手を震わせながら言った。

 

「俺の恋人を奪った憎き……OZめ……!!!コロニーは……コロニーの未来は託すぞっ……Gマイスター……!!!」

 

息絶えるメテオ・ブレイクス・ヘルの男を尻目にするかのごとく、任務を実行したOZの工作員達をのせた装甲車がその爆破地点より走り去っていく。

 

車内では工作員達が、成果を誇るようなテンションで会話をかわす。

 

「ふふふっ!!これでまた一つ奴等のアジトと疑われる場所が消えたな!!」

 

「あぁ!!疑われる因子は徹底して排除する!!今回の爆破工作も全て奴等の仕業とするさ……」

 

「そうすることで、スペースノイドもこちら側へ掌握出来るわけだ。じわじわとな!!」

 

「向こうが地球で散々やらかしてくれた分、俺達が宇宙で奴等のアジトを破壊……その構図が今できつつある」

 

彼らの工作の中には、予測や見当が外れ、メテオ・ブレイクス・ヘルのアジトではない一般の施設も存在していたが、それらのテロも、メテオ・ブレイクス・ヘルのモノとされて報道されるのだ。

 

誤った解釈をした大衆の声がメディアを通して報道される。

 

「彼らのテロで恋人を失ってしまった……還してくれ……還せよメテオ何とか!!」

 

「我々が何をした!!?コロニーの見方じゃなかったのか!??ええ!!?」

 

「奴等はコロニー市民の敵だ!!結局、破壊目的の集団だったんだ!!!メテオ何とかめ!!早く滅びてくれ!!!」

 

これ等の情報は、直ぐにドクターJ達へ入ることとなる。

 

L1コロニー群のA1358コロニーのとある廃ビルの地下。

 

ここにあるメテオ・ブレイクス・ヘルのアジトにドクターペルゲやプロフェッサーG達の怒りの声が響き渡った。

 

「奴等めっっ!!!またやりよったわ!!!またしてもやられたっっ!!!」

 

「我々のみならず、必ず市民を巻き込むように仕組んでおる!!!そして更にその罪をすり替える……くっっ!!!卑怯者めがっっ!!!」

 

ドクターペルゲはデータベースのパネルを叩き割る勢いで手を叩きつけ、プロフェッサーGはコーヒーカップを叩き割ってみせる。

 

仲間を失わされていき、挙げ句には守るべきコロニー市民が自分達の為に巻き添えの犠牲になる。

 

OZの卑劣な手口に憤りを止められない。

 

口数が少なすぎる他のドクターに代わり、ドクターJが見かねてなだめに入った。

 

「お前さんら!!怒っても解決はせんぞ!!ワシらにはワシらのできることをするしかないじゃろ!!なに……やられたらやり返すまでじゃ……」

 

そう言いながら、ドクターJは次なる任務を送信した。

 

ドクターJの言葉の後にプロフェッサーGが反論する。

 

「無論だが、この状態で何が出来るのだ!??下手に動けば奴等の思う壷だぞ!!!」

 

「口実にされる可能性を潰す……それ以外は暇潰しに手を付ける……だが、しかし!!だが、しかしじゃ!!!ラルフから入った情報が、確かなら地球連邦本部がダカールからアデレードへ移りつつある!!!」

 

「いずれにせよ……それならば、ガンダムの編成を二分にする必要があるな」

 

「あぁ……まだまだこれからじゃ。ワシらのガンダムの闘いは終わらせん……!!!」

 

 

 

メテオ・ブレイクス・ヘルによる大規模なテロというOZのすり替えに、Gマイスター達は急激なまでに不利な状況に追い込まれた。

 

だが、追撃を振り切った五飛以外のGマイスター達は、世界情勢の非難する風当たりに屈する事なく行動していった。

 

 

 

大西洋 バージニアビーチ近海

 

 

 

地球連邦軍の潜水艦・ボーンフィッシュが海中を航行していた。

 

その悠々たる巨大な船舶に黒い人影が忍び寄る。

 

ほの暗い海中に眼光が輝く。

 

ガンダムデスサイズであった。

 

ボーンフィッシュに取り付くと、直ぐ様ビームサイズを発動させ、海中に光輝くビームの鎌を形成する。

 

デュオはモニターに映るボーンフィッシュに向かうように言葉を走らせる。

 

あたかも、八つ当たりをくらわすかのように。

 

「過ぎた自作自演であそこまでやってくれるなんてな……だが、俺達は引き下がる気なんざ、一切ないぜ!!!ダカール行くついでだ!!斬り刻んでって……やんよっっ!!!」

 

 

 

ジュズガァアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

振るわれたビームサイズが、ボーンフィッシュの装甲を横一線に斬り刻んだ。

 

焼灼され、切断された動力炉部分が爆発を起こし、規模の大きな気泡を巻き上げる。

 

潜水艦がこうなっては最早手の施しようがない。

 

母艦の危機に、搭載機のアクアジムが8機出撃し、魚雷銃をガンダムデスサイズに向かい、撃ち放つ。

 

ガンダムデスサイズは、ごり押しに魚雷を受け止めて斬りかかった。

 

水中で光るビームサイズのエネルギー鎌が振りかざされ、一振りの斬撃が振るわれる。

 

瞬発的な焼灼音と共に3機のアクアジムが胸部を裂断されて爆発を巻き起こした。

 

アクアジムの1機が、零距離から魚雷をガンダムデスサイズへと撃ち込む。

 

無論ながら悪あがきに過ぎなかった。

 

眼光を光らせたガンダムデスサイズは、バスターシールドをアクアジムのコックピット部に突き刺してみせる。

 

近接するアクアジムは、破裂するかのように破砕して砕け散った。

 

背後から来る幾多の魚雷弾がガンダムデスサイズのバックパックやショルダーに着弾する。

 

ガンダムデスサイズは後方へ振り向くと、飛び出すようにして加速。

 

ビームサイズを振りかぶって襲い掛かる。

 

強力なビームサイズの一振りが、アクアジムを寸断させ、近距離にいた1機にバスターシールドを突き刺した。

 

その爆発から更に飛び出し、残りのアクアジムを横一線に振るう死の鎌で葬り去る。

 

その後、ボーンフィッシュは幾度か爆発を起こし、船体を崩壊させて海中へその巨体を虚しく沈ませていった。

 

その光景を死神が不気味に見届けていた。

 

デュオはガンダムデスサイズの死神の形相とは対照的なテンションで自らのガンダムに話しかける。

 

「……さて、相棒!!ダカール目指して行きますか!!っっと……航路は注意しよーぜ。間違ってもバミューダ海域は通らないようにしねーとっ!!ワケわからんまま消えるのはゴメンだかんな!!」

 

魔のバミューダトライアングルを視野に入れながら、サイドモニターにダカールへの進路を表示させるデュオ。

 

その口許をニヤつかせる表情は、先の敗北を感じさせない。

 

デュオは通信を繋げる操作を始め、カトルへ連絡をとる。

 

「こちらデュオ!!只今っから連邦のごちそう求めてダカールへ向かうぜ!!」

 

「了解しました。僕は一足先に駐屯施設で待機していますので、また合流間際でもいいんで連絡をください……」

 

「了解♪って……カトル、なんか表情が深刻だな。仕方がね~って!!過ぎちまったことよか、今できる戦いを……」

 

モニター越しからも判る程、カトルの表情は重いモノを感じさせていた。

 

デュオは先の敗北を引きずっているように捉え、はげまそうとする。

 

だが、デュオの捉え方は少し違っていた。

 

「あぁ、違うんです!!確かに初めの悔しさは大きなものでしたが、僕達の敗北に関してはもうデュオのように前向きに考えています!!僕が今気にかけているのはロニの事です」

 

カトルはニューエドワースの一件の後に、彼女から直接戦う決意の事を聞いていた。

 

それに対し、いつにない憂いを感じさせられていたのだ。

 

デュオは少しでも和やかな空気にしようとしてみせる。

 

「あぁ、カトルのフィアンセさんか!!確か、戦いに行くって言ってオルタンシアから出たんだよな?」

 

「フィアンセって……ふふっ!否定はしないかも知れませんね……彼女はジオンの人達と合流する為に、戦う為にオルタンシアを出ました。その戦う場所が今回のダカールになりそうなんです……」

 

「そうなのか!?ならいいじゃねーか!!一緒に戦えるかもしれねーぜ!!」

 

デュオとのやりとりで普段の明るさを見せるカトルだったが、再び表情に影を見せた。

 

「そうなんだろうけど……なんだか、こう……胸騒ぎが……嫌な予感がするんだ……それに……ロニ自身が暴走しているようにも思えたんだ」

 

「嫌な予感に暴走??カトル~いくらなんでも考えすぎだろ~!?それに、彼女に危険が及んだ時こそ、カトルの見せ場ってもんだろ!?らしくいこーぜ!!」

 

デュオの励ましを受け、カトルは一呼吸つくとしばらく考え続け、会話が止まった。

 

(かぁ~!!カトルのやつ、相当ロニに気をかけてるんだな!!ま、しょうがねーか……半ばマジなフィアンセみたいだしな……っと!)

 

その時、デュオは五飛を思い出し、話を一時変えることにした。

 

「あぁ!!話変えて悪いけどよぉ、五飛はどうしたんだ!?任務以降連絡とれねーんだ……何か聞いてるか?」

 

「……彼からは何もありません。ですが、こちらからの通信に『俺はトレーズに負けた。戦う資格はない……』その少ない言葉だけを残して通信を切りました」

 

「トレーズに!!?あいつ、トレーズと殺り合ってたのか!??どこまで行動派なんだか……で、それ以降音沙汰無しと……あいつのことだかんなー……きっと上手く身を隠してる頃だとは思うが……」

 

デュオいわく五飛は、中国のどこかの山岳地帯に身を潜めていた。

 

シェンロンガンダムのコックピット内で只々落ち込むような格好で瞑想していた。

 

否、敢えて言うならば迷走ともとれる。

 

「くそっ……くっっそぉおおおっっ……!!!ナタク、俺を叱ってくれっっ!!!」

 

五飛は不甲斐ない己と向き合い、シェンロンガンダムに悔しみをコックピットに吐き散らした。

 

その時だった。

 

起動電源を落としたシェンロンガンダムに近づく陸戦型ジムの姿があった。

 

先頭の陸戦型ジムのパイロットはシェンロンガンダムに気付き、背後の2機を停止させた。

 

「止まれ……前方にMSを確認し……ん!?あれは……ガンダムか?!?」

 

その声は女性のものであった。

 

彼女は赤外線モニターに映るシェンロンガンダムをじっくりと注視した。

 

「間違いない……ガンダムだ……でも何故こんなところに!??」

 

 

 

大西洋・地球連邦軍空母

 

 

 

大西洋を航行中の地球連邦軍の空母艦が強襲を受けて爆発炎上していた。

 

その火付け役はガンダムヘビーアームズであった。

 

 

 

ドドドゥルルルルルルルルルルルルゥゥゥ―――!!!

 

ディギャギャギャドドドドガガガガガガァァン!!!

 

 

 

突き出したビームガトリングから連射されるビーム弾が、空母のブリッジを連射爆発音を響かせながら、瞬く間に砕き散らす。

 

ブリッジを破壊すると、直ぐ様空母に配備されていたリゼルに向かい銃身を構え、ビームガトリングを連射した。

 

連続する破壊音を響かせながらリゼル部隊が砕き散らされ、次々と爆発していく。

 

同配備されていたスタークジェガンもこの事態に次々と起動し、ミサイルランチャーとビームバズーカを構えてガンダムヘビーアームズへと撃ち込む。

 

だが、ガンダムヘビーアームズは軽快な上昇でこれを躱し、斜め上からビームガトリングを連射し、次々とビーム連射を浴びせて機体群を破壊し続ける。

 

「ダカール基地所属の空母の破壊……ダカール強襲に先駆けたウォーミングアップに過ぎないが……」

 

トロワは、ビームガトリングである程度の戦力を破壊すると、アーミーナイフを展開させた後に、軽快にガンダムヘビーアームズをコントロールし、回り込むようにしてスタークジェガンの胸部を3機連続で斬り刻み、4機目にアーミーナイフを突き刺した。

 

その後方で順に斬り刻まれたスタークジェガンが爆発を起こし、アーミーナイフを突き刺されたスタークジェガンもガンダムヘビーアームズの至近距離で爆発を起こした。

 

その爆煙の中から飛び出したガンダムヘビーアームズは、再び低空からのガトリング射撃を待機中のリゼルに浴びせた。

 

「この空母の戦力は確実に破壊させてもらう……ガンダムを見たものを生かしては帰さない……」

 

冷淡としたトロワは、自然な流れを運ぶようにトリガーを引き続けた。

 

 

 

一方、バーネット兄弟達はダカールからアデレードへと向かうラルフと合流を果たしていた。

 

合流場所はグアダルーペ島近海を航行するサルベージ船・イスタンダル。

 

オルタンシア同様、メテオ・ブレイクス・ヘルの偽装サルベージ船であった。

 

ガンダムジェミナス01のコックピットで、アディンはプルと通信しあっていた。

 

ニューエドワーズの一件を思えば、アディンとって心理的にも休める一時である。

 

「じゃー…しばらく帰ってこれないの?アディン?ロニお姉ちゃんも出て行っちゃったし、寂しいヨ~」

 

「そんなに寂しがるなって~!別に死んだ訳じゃねーしさ!サクッと決めて帰って来るぜ!!」

 

励ますようにサムズアップして笑うアディン。

 

だが、プルはそれでも心配そうな顔をした。

 

「……この前の任務はスゴく心配したんだよ?スゴく沢山のMSの中で戦ってて……」

 

「そうか……あの時は報道陣とか来てたもんな……確かにあの時は今までで最大の勢力だった。ま、後の殆どは角MSと一騎討ちだったけどな……心配かけちまって悪いな、プル。任務だから仕方ねーんだけど……ま、戻ったらどっか連れてってやるぜ!!いつまでもオルタンシアの中に居たらマンネリ化するだろうし!!」

 

アディンのふとした気遣いと思いきった発言に、プルはいつもの明るさをみせて喜んだ。

 

「ホントに!?やった!!初デートだね!!あたしとアディンの!!」

 

「いい!?で、デート!?デートって~……」

 

アディンは何の気なしに言ってみせたが、プルは明らかに両想いデートと捉えて喜んでいた。

 

故にプルは、しどろもどろなアディンに疑問符的な一言をなげかけた。

 

「違うの?」

 

「い、いや……もち、デートだ!!」

 

推定4歳差と思われる引っ掛かりを感じつつも、アディンはプルの訴える視線にデート承諾してしまう。

 

するとプルは嬉しげにあるものを取り出した。

 

「ふふふ♪約束ダヨ♪じゃー……これも受け取ってね!じゃーん!」

 

「お!?」

 

プルが見せたのは、可愛らしいガンダムジェミナスのマスコットだった。

 

「ひょっとして、ガンダムジェミナスか!?」

 

「可愛いでしょ?アディンの為に作ったんだから!ロニお姉ちゃんにも教えてもらいながら頑張って作ったんだよ?」

 

余りにもの想われように、アディンは照れ臭くすらなってしまう。

 

「そっか……サンキューな、プル!」

 

「えへへ♪そう言われるとスッゴく嬉しい♡」

 

アディンとプルが会話通信する一方で、収容したガンダムジェミナス01、02を眺めながらオデルとラルフが今回の一件を話し合っていた。

 

「地球連邦本部が移りつつあるか……確かな情報なのか?ラルフ?」

 

「あぁ。これを見てみろ。アデレード入りしたエージェントが送信してくれた画像のやつだ。アデレードの議事堂に入って行く現在の地球連邦の最高幹部の面々……因みにこれまで連邦関係の連中は殆ど出入りはしていなかった」

 

ラルフから手渡されたデータベースボードを受け取り、オデルはアデレード関連の画像を閲覧する。

 

「ん?!これは?見覚えのある幹部が映っている!」

 

オデルが気にかけた画像は、地球連邦幹部や政府議長達が出入りする画像であった。

 

ラルフは煙草を吸いながらその画像の説明をする。

 

「確かにそうだろうな。世界情勢のニュースで必ず出てくる幹部連中だからな。因みにそれはごく最近の画像だ。つい三日前のな。そのクラスのお偉いさんがここへ来て急な出入りにいそしんでいる決定的な証拠だ」

 

「なるほどな。だが、現時点ではダカールが正式な本部でもある……だから二分して任務を遂行する必要があるわけだ。たが、ニューエドワーズの一件以降下手に動けんからな……下手に動けば口実にされる」

 

「そう思ってるのは案外、オデルだけかもな!ヒイロ達はお構いなしに破壊任務をやらせてもらってるぜ」

 

ラルフは何の気なしに言ってみせ、それを聞いたオデルは、益々危惧してしまう。

 

「おいおい!!いいのかそれで!?余計に連邦・OZの思うツボになりはしないのか!??現にコロニー側では、俺達のアジトがテロを装った攻撃を受けているんだろう!??」

 

「確かにその情報もある。あげくにコロニー側が騙されて俺達を敵視し始めている……けど、だからこそ闘い続ける姿勢が大事なんじゃないか?そういう姿勢こそ、Gマイスターのあるべき姿勢じゃないか?俺はそう思うがな……」

 

「ラルフ……」

 

 

 

地球連邦軍・シャイアン基地

 

 

 

一方でヒイロは、シャイアン基地の中枢への破壊任務にあたる。

 

マリーダの癒しもあり、敗走当初のヒイロはもう存在していなかった。

 

 

 

ヴゥゥッ……ヴヴァドゥダァァアアアアアアアァ!!!

 

 

 

バスターライフルのビーム渦流が撃ち注ぎ、標高の大地が瞬く間に破砕され、凄まじき爆発を噴き上げる。

 

バスターライフルの銃口をかざしたまま、上空でホバリングし続けるウィングガンダム。

 

モニターに表示される情報を注視し続けるヒイロ。

 

直撃を受けた山岳の勾配部は物の見事に目くれ上がり、爆発の炎を立ち上らせていた。

 

「……この基地には、コロニーレーザー・グリプス2の管制室がある。俺達の名を口実に利用される前に破壊する……!!!」

 

ヒイロは敗北の直後に味わった辛酸を静かなる闘争心に変換し、任務を遂行する。

 

山岳部の偽装ハッチが開き、基地警備に配備されていたゼータプラスや新型テスト配備されたジェスタが迎撃に向かう。

 

各機は散会し、ビームライフルをスタンバイしながら銃口をウィングガンダムへと向け、一斉にビームを撃ち込んだ。

 

撃ち注がれるビームが、ウィングガンダムを直撃していく。

 

そして幾つもの着弾面で爆発を巻き起こした。

 

だが、その爆煙の奥からはバスターライフルをかざしたままのウィングガンダムが姿を見せた。

 

ゼータプラス、ジェスタの機体群はあわてふためくように一斉にビームを幾度も撃ち込み続ける。

 

ウィングガンダムのモニター画面に浮かぶ、ロック・オンマーカーがそれらをロックした。

 

それを見据えるヒイロは容赦なくトリガーを引く。

 

唸りながら撃ち飛ばされたビーム渦流が、ゼータプラス3機を吹き飛ばすように撃墜させた。

 

続けて、ジェスタへとバスターライフルを放ち、小隊編成で射撃していた3機を地表ごと砕き散らす。

 

更に側面から迫るウェイブライダー形態のゼータプラス3機へバスターライフルをかざして撃ち放った。

 

放たれるビーム渦流が、1機のゼータプラスを吹き飛ばし、2機がプラズマ渦流の高エネルギーにより誘爆を巻き起こして爆発した。

 

ベースジャバーに乗ったジェスタ6機が旋回しながら距離を取ってウィングガンダムを攻撃する。

 

ヒイロはモニターに捉えた機体を視線で追いながら、通常よりも低い出力にしてバスターライフルを放つ。

 

単発で放たれるビームの突風がジェスタを個々に吹き飛ばして撃墜させていく。

 

低出力とは言え、威力はビームマグナムと同等の威力を持ち、確実な破壊力を有していた。

 

同じ射撃軸線に入った残りの2機を捕捉すると、通常出力のビーム渦流で撃砕させた。

 

そして地上にいたジェスタ3機へとバスターライフルを放ち、地表をえぐり飛ばしながら破砕させる。

 

ヒイロは、見下ろしながら中枢地点をスキャンする操作をした。

 

モニター画面にスキャンさせた中枢ポイントが表示される。

 

「シャイアン基地の中枢部を確認……破壊する」

 

ヒイロはウィングガンダムを中枢地の真上に位置する地点に着地させ、バスターライフルの銃口を地表へと突き刺した。

 

チャージされていくバスターライフル。

 

数秒後、バスターライフルの銃口から凄まじきエネルギーが解放され、シャイアン基地の中枢内部は圧縮されたビーム渦流に潰されるようにして、管制施設諸共基地施設が消し飛ぶ。

 

シャイアン基地から破裂するような爆発が噴き上がり、ウィングガンダムを巻き込むようにして地表を破砕させた。

 

炎の海と化したシャイアン基地の上には、エネルギー爆発の巻き込みを受けながらも、悠然とウィングガンダムは存在し続けていた。

 

「シャイアン基地の中枢を破壊。任務完了……これより、オーストラリア・アデレートへと向かう……情報が確かなら、そこに連邦の本部がある」

 

サイドモニター画面で次の任務内容を確認しながらルートを設定するヒイロ。

 

いよいよ地球連邦本部攻撃の時間が迫りつつあった。

 

その時、ウィングガンダムのコックピットに通信アラームが鳴る。

 

サイドモニターにはクシャトリヤからの回線コードが表示されており、ヒイロは、はっとなりながら通信回線を開く。

 

彼女を意識しての行動であった。

 

「通信……!マリーダか!!」

 

通信回線を開くと同時にマリーダの姿が表示された。

 

いつも通り、クシャトリヤのコックピット内からだ。

 

「ヒイロ……あれから立ち直れたか?」

 

「あぁ……マリーダのおかげでな。今、北米の連邦軍基地を破壊していた」

 

それを聞いたマリーダは、安心した感じで笑みを溢した。

 

「そうか……ふふっ、なら心配は無用だな。で、今日は私からだ。単刀直入に言おう。明日、ダカールへ進攻する!!いよいよ私達の方の大きな任務が動く!!これだけは伝えておきたかった!!」

 

「そうか……そっちにはカトル達三人が行く!!俺はいないが無事に任務を遂行してくれ、マリーダ!!」

 

「無論だ。ヒイロは別の任務か?」

 

「あぁ。俺はオーストラリアのアデレードを目指す。新にそこへ連邦軍本部が移りつつある。俺達はそこを叩く!!」

 

「アデレード!?聞いていない情報だ!!」

 

「俺達のエージェントが捜査した結果判明したことだ。だが、まだダカールに本部があるのも確かだ。アデレードは俺達に任せてダカールに専念してくれ」

 

淡々と言って見せるヒイロはいつもの戦士のヒイロだった。

 

ヒイロの姿勢を見たマリーダは改めて安堵した。

 

「ヒイロ……解った。ならばそちらは任せる。互いに武運を祈ろう」

 

「了解した……」

 

 

 

 

ダカール周辺のとある島にて、ネオジオンの勢力が集結していた。

 

先程のマリーダは、この場所から通信をしていたのだ。

 

シュツルムガルス、ザクⅢ、ヤクトドーガ、ゼーズール、そしてギラズールカスタム、シナンジュ、クシャトリヤが立ち並ぶ。

 

島内の海中に満たされた施設には、巨大モビルアーマー(以下MA)とユーコン級潜水艇が待機していた。

 

MS群と同じく、ネオジオンの名優達も顔を揃えていた。

 

「こいつぁ、揃い踏みがすげーな!!にんまりがとまんねー!!」

 

気さくに振る舞う豪快かつ、どこか粋な雰囲気を持つ髭を生やした中年の男、ビランチャ中尉。

 

シュツルムガルスを愛機とするネオジオンのベテランパイロットだ。

 

「ネオジオンの勇姿揃い踏みってカンジっすね~。こういう光景、嫌いじゃないっすよ」

 

ビランチャに共感し、不敵な眼差しでネオジオンのMS達を見上げるのは親衛隊よりオペレーション・ファントムに抜擢されたバト少尉。

 

ザクⅢのパイロットを任されている軽い雰囲気の青年だ。

 

「いよいよダカールへの強襲が始まるんですね……あのガンダムは現れるでしょうか?」

 

メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムの介入を気にかけるのはヤクトドーガのパイロット、ゼクスト少尉。

 

彼はセルジ少尉の同期であり、同じく親衛隊より抜擢されたパイロット。

 

彼にはニュータイプとしての能力も有り、それ故にヤクトドーガのパイロットとして抜擢されていた。

 

ゼクストの言葉に同期のバトが答える。

 

「さぁな……あのガンダムが現れずとも、俺達ネオジオンだけで充分……いや、そうでなくちゃいけねー!!それが誇りってもんだろ?」

 

「ふふふっ、無論です。ただふと気になっただけですよ」

 

「がはははは!!ガンダムが来ようがなんだろうが関係ねーさ!!迫る連邦の奴らを殴り飛ばしてやるまでよ!!」

 

三人が話す向こう側で、ゼーズールから降りてきたパイロットの姿があった。

 

ゼーズールパイロット、アヴリル中尉。

 

真面目気質に、強気なトゲが生えたような感性の持ち主だ。

 

だが、その表情は静かに険しかった。

 

何故ならアヴリルはここへ至る間に、同胞のゼーズールのパイロット二人を失って来ていた為だ。

 

(くっ……自分がいながら同胞を戦死させてしまうとは……!!!何故こうも不甲斐ない!??)

 

アヴリルは自分を攻め続けていた。

 

ネオジオンの新鋭機とばかりに油断してはいなかったと言えば嘘になる己の意識に悔しさが募る一方だった。

 

「っ!この声は……」

 

そんなアヴリルの心の声が聞こえたマリーダは、アヴリルに歩み寄り、彼を諭すよう試みた。

 

「アヴリル中尉……部下を亡くしたのか?」

 

「っ!!マリーダ中尉!!そうか、マリーダ中尉はニュータイプだからな……自分の声が聞こえたか?」

 

「あぁ……だが、私のニュータイプは作り物だ。アヴリル中尉……余り自責の念に囚われるな。一度戦闘となれば、誰であれパイロットとという戦闘単位になる。気に病むことはない」

 

「何だと!?あいつらがどうでもいいとでも言うのか!??」

 

責任感を感じて止まないアヴリルは、マリーダのその言葉を上手く受け入れなかった。

 

マリーダは彼の心境を理解しているがゆえに直ぐに言葉を返す。

 

「誤解するな!私が言おうとしているのは、囚われをこのまま引きずってダカールへ挑めば確実に危険だということだ。ネガティブな囚われを持ったまま戦場に出れば、様々な不の思考を生み、死を招く!!無論その様なことは部下達も望んではいない!!」

 

「……っ!!!」

 

言い切るマリーダの言葉は説得力を離さない。

 

アヴリルはぐうの音もでなかった。

 

傍らで先程の三人がそのやり取りを見てコメントを漏らす。

 

「ほほ~……マリーダの姉ちゃん、言うこと言うな~!!あのとんがり坊やが黙っちまったぜ!!」

 

「流石、マリーダ中尉。憧れちまうぜ」

 

「……マリーダ中尉、好きなんですか?バト少尉?」

 

ゼクストの突っ込みにムキになって否定した。

 

「ああ!??ち、違うぞ!??そう言う意味じゃねー!!!」

 

ビランチャも立て続けにバトをからかう。

 

「がはははは!!青春だな!!!告白しちまえ!!!」

 

「話に尾びれ付けすぎっすよ!!!勘弁してください!!!」

 

「ムキになってしまうからダメなんですよ」

三人のやり取りをよそに、マリーダとアヴリルが固い空気に包まれる。

 

そこへ一人の女性の言葉が飛び込んだ。

 

「ふふふ……確かにそうよ。自責の囚われは良くない」

 

その言葉を放ったのは合流を果たしたロニだった。

 

ロニはガーベイエンタープライズの元専務・カークスと共にそのまま歩み寄った。

 

「初めまして。ジオン残存軍を支援していた今無きガーベイエンタープライズの令嬢、ロニ・ガーベイです。我々は以前よりジオン残存軍を支援してきましたが、ふとした不遇に見舞われ、連邦とOZに会社を潰されました。ですが、今回の期に皆さんと共に決起させていただく事になりました。よろしく……」

 

「私からもよろしく……同じく元ガーベイエンタープライズ専務のヨンム・カークスです。共々ダカール戦の成功に尽力しましょう!!」

 

ロニとカークスはマリーダとアヴリルに手をかざし、握手をする。

 

「私はネオジオンのマリーダ・クルス中尉。よろしく……!!?」

 

マリーダはロニと握手した瞬間、ロニがメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムと関わっていることをニュータイプ的な閃きでそれを知る。

 

(このコ……ヒイロ達のガンダムを知っている!!!)

 

ロニは、アヴリルと握手する際に、自身の経験も踏まえて、彼にアドバイスを諭す。

 

「アヴリル・ゼック中尉だ。よろしく」

 

「よろしく。話途中からで、詳しくは解らないけど、自責な囚われはいつまでも引きずらず、前に進んだ方がいい。私は連邦とOZに掛け替えが無かった多くを奪われた……でも、大切に想えるモノを持てば、あるいは思い出せばきっと囚われは晴れる……」

 

「大切に想えるモノを?それならある!!ネオジオンの誇りだ!!」

 

「そう……なら大丈夫……それを糧に進めばいいわ」

 

そう言い残し、ロニとカークスは他のネオジオンやジオン残存軍のメンバーに挨拶して回った。

 

その後の一息の合間で、マリーダはロニを呼び止めた。

 

無論、先程の感覚の真意を聞くためだった。

 

マリーダは念を持って、周囲に気を配りながら話を切り出した。

 

「ロニさん」

 

「はい?あ、マリーダ中尉……」

 

「マリーダでいい。ちょっと話がしたい」

 

「話?えぇ、いいわ。私もロニで良いわよ」

 

二人は島アジトの人気の無い海が一望できる岩場に来ていた。

 

潮風が二人の髪をなびかせる中、マリーダはメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムについて聞いた。

 

「私はある種の感覚が鋭くなってる関係で、ロニが、あのガンダムと関係があることを直感した。実は私も彼らに関わった身だ。一部の人にしか伝えてないが……」

 

ロニは直ぐに察しがつき、マリーダの話に飛び付いた。

 

「え!?あなたも知っていたの!?」

 

「あぁ。最初の任務の際に色々あって彼らに世話になった……特に羽根つきのガンダムのパイロットにな……ふふっ」

 

マリーダはヒイロを浮かべると自然に笑みを嬉しげに溢してしまう。

 

笑うマリーダに一瞬疑問に思ったロニであったが、直ぐに理解した。

 

「?……あ!!ひょっとして、好きになっちゃったの!?そのパイロットのコを!!」

 

「っ……!!!そ、そうなのかもな……境遇が似ててな。互いの機体の通信チャンネルも交換してて、時折連絡している……ついこの前もな。そしたら今まで見せなかった彼の一面を知った」

 

同性故な為か素直に本音を溢すマリーダは、いつになく顔を赤くしていた。

 

辺境の地の一角でガールズトークに火がつき始めた。

 

「それって……かなりいいカンジじゃない!!」

 

「そ、そうか?ま……これまでの人生の中で、こんな気持ちになるのは初めてでなんとも言えんが……」

 

「羽根つきか……あ、もしかしてヒイロ君でしょ!?」

 

「うっ!!流石……正解だ……で、ロニは誰が好きなんだ?」

 

「二つ下の幼馴染みのコ。言ってみれば砂漠の王子さま!!」

 

「砂漠の……王子さま!?」

 

「小柄で昔から可愛いいんだけど、今は男の子としても頼れる所もあってね……」

 

マリーダとロニのガールズトークは、恋話を核にいつまでも続いた。

 

その会話の中でプルの事を聞かされ、話が脱線しまた話が続く。

 

「―――そうか!ロニは姉さんとも関わり合いがあったのか!!」

 

「そうなの!でもなんか変ね!私がプルちゃんを妹みたいに思ってて、マリーダからしたらお姉さんだなんて!」

 

「ふふっ、まぁな……無論、実際は私が姉な感じだが、複雑な理由で見れば姉さんなんだ。数少ない大切な実の家族だな」

 

「家族かぁ……」

 

「あ、すまない……ロニは家族を無くして……」

 

「ううん、いいの!気にしないで!じゃ、プルちゃんは私達の心の家族ね!!」

 

「ロニ……あぁ!そうだな!」

 

二人はすっかり意気投合し、まるで昔からの友人であるかのように語り合う。

 

数少ない同性との関わり合いに安心感を感じたためか、二人の精神はすっかり癒されていた。

 

そこには、パイロットの肩書きを取り外した本来の女子としてのマリーダとロニの姿があった。

 

戦いがなければそれが常にある光景であっただろう。

 

だが、今は戦いが日常の日々が現実であった。

 

フロンタルの仮設部屋では、フロンタルがアンジェロと共にオペレーション・ファントムの全貌を語り合っていた。

 

この内容はネオジオンの上層部にしか知り得ていない話であった。

 

「アンジェロ……オペレーション・ファントムの真意は解っているな?」

 

「はい!!勿論です、大佐!!当初は残存軍の支援とダカール本部の陥落と同時に自治権確立の要求し、いずれは完全平和を促すものでした……が、真意は!!!かつての地球打撃作戦を再現し、第三次ネオジオン抗争を勃発させる。そして、コロニー共栄圏を実現化することです!!」

 

「左様だ、アンジェロ。これからのダカール本部攻撃が成功すれば自治権確率要求と共に宣戦布告をする。その後の手筈も……」

 

「はい!!既に郊外でコムサイを待機させてあります。宇宙の艦隊と合流できるようにしています」

 

フロンタルは、手を組んだまま不敵な笑いをして見せる。

 

「フ……明日は存分に連邦のMSを破壊し、連邦本部を陥落させるぞ……地球圏の全同士を決起させ、願わくば正規なネオジオンを立ち上げたいものだ……!!!」

 

静かに、不気味に、確実にネオジオンの動向に変化が起きようとしていた。

 

 

 

翌朝、ネオジオン、ジオン残存軍の兵士達が招集し、フロンタルが主になり、オペレーション・ファントムの第一段階の最終作戦がいよいよ発動する。

 

ダカールの街全域に、ネオジオンの電波ジャックによる放送が流れる。

 

その放送は、フロンタル自らが演説さながらに行い、民間を巻き込まないよう意図している印象を与える為のものであった。

 

奇しくもその声質の声は、宇宙世紀0085にもキャスバルの演説としてダカールに響いていた。

 

だが、その質が全く異なるのは明らかだ。

 

「ダカール市民の皆さん、急な放送の無礼を御了承頂きたい。我々はネオジオン。日々、宇宙移民者の自治権確立の為に闘っています。本日、我々はその一貫として、ダカールの地球連邦本部を制圧致します。その際の戦闘に市民の皆様を巻き込まぬよう、避難勧告をここに宣言致します。制限時間は一時間。車両での避難はご遠慮頂きたい。制限時間以降は戦火になるものと思ってください……繰り返します。我々は……」

 

だが、この放送を受け止める者と受け止めぬ者に別れ、案の定街は混乱を招いた。

 

一連の流れから本気とみた連邦側は、直ぐ様対応に出る。

 

だが、それは市民の安全を二の次にした対応であり、地球連邦側は街中で、MS部隊を展開させ始めた。

 

ジェガン、ジムⅢ、ネモ、ロトが大多数で湾岸基地を出撃し、ダカールの街へ次々と持ち場に配備されていく。

 

最早、街や市民よりも連邦本部を守るという思考が、火を見るより明らかな程に出ていた。

 

その数はおよそ400機。

 

しかし、オペレーション・イカロスに比べ、数は迫りつつも、戦力が明らかに手抜きのようなものであった。

 

それはアデレードに地球連邦本部が移りつつある現れでもあった。

 

そして、それより一時間後……島より発進したネオジオンとジオンの残存軍のMS部隊が、ダカールの連邦軍ダカール湾岸基地に迫る。

 

無論、先導するMSは赤い彗星の再来であるフロンタルのシナンジュとその右腕、アンジェロのギラズールカスタムだ。

 

フロンタルは薄笑いを浮かべてシナンジュを飛ばし、アンジェロも不敵に笑ってシナンジュに就き従うがごとくギラズールカスタムを加速させる。

 

「さぁ……見せてもらおうか……ダカールの戦力とやらを!!!」

 

その方向より、クシャトリヤと一際目立つ赤い巨大MA・シャンブロが継続して進撃する。

 

このシャンブロこそ、ロニが乗る準サイコミュマシンであった。

 

彼女は、微かにニュータイプの素質があり、それを増幅させるヘッドユニットを装着し、迫るダカールを見据える。

 

マリーダも、鋭い眼差しでクシャトリヤを進撃させてモニターを見据え続けていた。

 

各機体のコックピットの眼下には、海面の絨毯が高速で吸い込まれ過ぎ去っていく光景がはしっていた。

 

後の部隊は水中で全速航行するユーコン吸に搭載されて進撃していく。

 

更に別の方角からは上空にはジオンの輸送機・ファットアンクルが4機現れ、ドムトローペンやデザートゲルググ、イフリート、アッグガイ、ジュアッグ等のジオンの残存軍のMSが降下を開始。

 

郊外からダカールへと攻め入る。

 

これらの情報が、待機していたカトル達三人にもラルフから知らされた。

 

「ネオジオンがダカールへ!??」

 

「あぁ!!こっちも頃合いだ!!できればアデレードと同時多発にいきたかったが、指加えて見てるわけにはいかんだろ?」

 

「もちろんです!!!では僕達も向かいます!!!」

 

カトルの返事にデュオとトロワも返事に戦闘意識を乗せて返す。

 

「あったりめーだ、ラルフ!!!ニューエドワーズの倍返しで暴れてやるぜ!!!」

 

「やはり、ここは俺達のガンダムが介入すべき所だ。介入は至極当然な流れだ……!!!」

 

ダカールに起こった緊急事態に、各メディアも負けじと報道を開始した。

 

その報道は、地球、コロニー、はたまた月面都市にも拡がって行った。

 

 

 

ダカールの地球連邦軍湾岸基地において、第一防衛ラインが敷かれ、ネモやジムⅢの部隊が一斉に迎撃体制を整えていた。

 

更に海上にはホバークラフトに搭乗したジムⅢ部隊が迎え撃つ。

 

「こちらダカール湾岸基地、第一防衛ライン!!敵機を複数捕捉した!!」

 

「了解!!直ちに迎撃を開始せよ!!」

 

「了解!!第一防衛ラインの全部隊に次ぐ!!直ちに迎撃をか……」

 

その時、第一防衛ラインの指揮を執っていたジェガンがビームに撃たれ、直撃部を円形に融解され爆発した。

 

その直後に連続でそのビームがはしり、ネモ5機、ジムⅢ3機が一斉に破壊され爆発した。

 

迎撃タイミングを狂わされたMS部隊の上空を赤い残像が駆け抜ける。

 

シナンジュである。

 

モノアイを光らせ、上空から防衛ラインを拡げる部隊をビームライフルで狙いを定め、ネモやジムⅢの部隊に反撃の余裕すら与えず、胸部面を直撃させるように高速で順に各個撃破。

 

攻撃に移ろうとシナンジュへ向きを変えようとするネモ部隊だが、その間に撃破されてしまう。

 

シナンジュはそのまま水先案内人のように高速で基地上空を駆け抜け、市街地へと到達する。

 

そして上空よりロック・オンしたロトを射撃。

 

射撃を受けたロトは激しく破砕して爆発した。

 

シナンジュはダカールの街の各地でその驚異的なスピードを活かした空襲を開始。

 

開始される対空射撃を物ともせずに高速で躱して射撃していく。

 

その射撃の殆どは、ロトに集中していた。

 

砲撃による自軍の被害を軽減する為だ。

 

そして湾岸基地の第一、第二防衛ライン部隊に向かい、ギラズールカスタムのランケブルーノランチャーとシャンブロの鎌首をもたげて発射されたメガ粒子ブラスターが同時に襲いかかる。

 

ランケブルーノランチャーによる横一線射撃による掃除のごとき破砕射撃で一気にネモやジムⅢ部隊が吹き飛ばされ、メガ粒子ブラスターの一直線のライトグリーンのビーム渦流が基地の管制塔諸ともMS部隊を吹き飛ばした。

 

ビームは街にまで到達し、ロトやジェガン部隊の一部を破砕させた。

 

上陸したシャンブロは、ホバー走行を維持しながら第二波のメガ粒子ブラスターを放つ。

 

第二波のメガ粒子ブラスターは、やや右半分の方角に放たれた。

 

その射撃軸線上のMS部隊や基地が破壊されていく。

 

ギラズールカスタムも連動するようにランケブルーノランチャーを連発させながら撃ち放ち、ネモやジムⅢ部隊と基地施設の破壊を慣行していく。

 

これらの攻撃は第一、第二防衛ラインの部隊の半数以上を壊滅させるに至った。

 

これにより一気に突破口が開かれ攻撃部隊の進入が容易となる。

 

更に海上のジムⅢ部隊にゼーズールが襲い掛かり、アイアンネイルで容易く斬り裂いて撃破させてみせる。

 

水中と水上では部がいいようで悪く、ゼーズールはジョーズのごとく次々とジムⅢへ襲い掛かり、撃破させていく。

 

そして残った第一、第二防衛ライン部隊にクシャトリヤを筆頭に攻撃部隊が攻撃を仕掛ける。

 

胸部のメガ粒子ブラスターで、前面の敵機を吹き飛ばした後に縦横無尽にファンネルを展開させ、更に複数機をきめ細かく狙い撃って破砕させていく。

 

そこからクシャトリヤは機体を敵機部隊へ突っ込み、ネモやジムⅢを吹っ飛ばしながら着地。

 

倒れたネモやジムⅢをファンネルで破砕させた直後に、周囲からのビームやジムライフルの射撃に耐えながらウィングバインダーのメガ粒子ブラスターを展開させる。

 

そこから全メガ粒子ブラスターを発射し、周囲の敵機を一気に吹っ飛ばした。

 

シュツルムガルス、ザクⅢ、ヤクトドーガの3機組もフォーメーションを執りながら攻撃を開始。

 

連邦側もようやくここから射撃による反撃に出る。

 

ビームライフルやジムライフル、バズーカの射撃が唸る。

 

だが、ホバー走行を駆使したザクⅢとヤクトドーガ、機動性を高めたシュツルムガルスの卓越した動きに攻撃を躱され、更なる反撃を食らう。

 

ヤクトドーガは、ビームマシンガンで射撃するジムⅢやネモを各個撃破させていくと同時に、6基に増設されたファンネルを展開させ、駆け抜けながら周囲の敵機を射抜き飛ばしていく。

 

更に突き進みながら、ヤクトドーガはビームマシンガンとファンネルで一方的な火力の銃撃戦で銃撃し続けていたネモ部隊を黙らせた。

ザクⅢも負けじとホバー走行で駆け抜けながらビームライフルで銃撃し、ジムⅢ部隊の反撃をねじ伏せるように撃破させていく。

 

口部から放つ集束メガ粒子ブラスターで、側面の敵機群を破壊すると、ジムライフルで一斉射撃を仕掛けるネモ部隊へと迫る。

 

そして、フロントスカート部の二連メガ粒子ブラスターを放ち、二線軸上のネモ部隊を破砕させた。

 

一方でシュツルムガルスは卓越した機動性で銃撃を躱し、懐に飛び込んでナックルシールドの連打を打ち込む。

 

変わり果て、ひしゃげたボディーになったジムⅢが倒れ混む。

 

そのままダッシュし、一撃でネモを吹っ飛ばし、ジムⅢへフックを打ち込む。

 

ジャンプしながらビームを躱し、斜め上上空からナックルシールドを叩き込み、ネモを地面へ叩き伏せた。

 

更にダッシュし、ネモを吹っ飛ばすと、第二防衛ラインの指揮官機のジェガンへと1・2パンチを叩き込み、一気にボディーブローを打ち込んで胸部を破砕させた。

ネオジオン勢が戦闘を開始する最中、カークス達が郊外からダカールへと攻め入る。

 

ファットアンクルに搭乗したザクスナイパーのビームが、ロトを狙撃したのを皮切りに、ザクスナイパーの狙撃がネモやジムⅢ部隊を次々と射抜く。

 

それに続けと言わんばかりに4機のドムトローペンが、ホバーダッシュしながらバズーカとマシンガンを撃ち込み、ジムⅢやネモを破砕させていく。

 

不意を突かれ、射撃体制をずらされたネモ部隊にデザートゲルググのビームライフルと駆け抜けるイフリートのヒートサーベルによる斬撃が襲いかかる。

 

ネモ部隊は瞬く間に射抜かれ、斬り裂かれ撃破された。

 

ジムライフルを連射させながら反撃するネモ小隊に、ジュアッグのフィンガーランチャーと四連ビームキャノンが襲い掛かり、蜂の巣にされながら破砕される。

 

更にビームライフルをジュアッグに放とうとしたジムⅢに、アッグガイのヒートサーベルが突き刺さった。

 

 

遂に始まったダカールへの進攻。

 

それは夜明け前の痛みか、あるいは更なる混沌を時代に落とすきっかけなのか。

 

歴史の監視者たるトレーズは、OZ本部の総帥室にてダカールの映像に目を配っていた。

 

「これこそが戦う戦士達の姿。尊い犠牲なのだ。この戦いの向こうにどのような歴史が顔を出すのか、興味を惹かれる。だが、この戦いには我々は敢えて介入はしない。我々はアデレード側へ移りつつある連邦本部へと力添えさせてもらう……ゼクス達にまた依頼させてもらった……きっと喜んでくれる筈だ彼も……」

 

トレーズはメディアを介して、アデレードに地球連邦最高幹部護衛の名目でゼクス達を派遣することを表明していた。

 

それには、彼らのMSまでもが公開されていた。

 

その真意は半ば連邦の存在を無視した非常にある意味での私情を挟んだものであった。

 

「さぁ……君達の決戦の手はずは整えておいた……きっと彼等も我々の招待に気づくであろう……」

 

ゼクスとリディの決戦の場をトレーズが配慮して設けたものであった。

 

騎士道精神の極みたるものだ。

 

奇しくも意識してではなかったが、任務でヒイロとアディンはアデレードの地へと向かっていた。

 

ゼクスとリディもまた、ミスズと共にアデレードへと向かっていた。

 

正統たる戦士達が戦場へ向かう中、招かれざる戦士がダカールを目指していた。

 

その戦士はガルダの腹の中に収まって眠る。

 

その巨大な角張ったシルエットとヘッドの眼光は正にガンダムであった。

 

それを見上げるパイロットと思われる少年が不敵な発言と共に嗤った。

 

「ひゃはははははっ!!!最高の時間が始まる!!!たまんねーなぁ!!!全て俺の手で蹂躙してやんぜぇ……なぁ……俺のガンダム!!!」

 

 

 

 

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エピソード14 「狂気を宿したガンダム」

オペレーション・イカロスによる大規模な情報工作により、メテオ・ブレイクス・ヘルは地球圏を敵に回すことになり、コロニー側からも敵視されてしまう。

ヒイロ達は敗北を味わいながらも、闘う姿勢を止めずに任務を遂行し続ける。

一方、オペレーション・ファントムを遂行中のネオジオンはダカール近郊に集結し、いよいよダカールへの進攻を開始する。

マリーダ達ネオジオンサイドは、ダカールの地球連邦軍沿岸基地から強襲をかける。

対する連邦側は、およそ400機のMSを街中に配置し迎撃する。

遂にダカールが戦火に包まれる中、1機の新なガンダムの蔭が迫っていた……。



地上において連邦、OZ、ネオジオン、ジオン残存軍、そしてメテオ・ブレイクス・ヘルの様々な勢力が動き始める一方、宇宙では連邦軍とOZ宇宙軍が連携をとって反抗勢力掃討活動の動きを強めつつあった。

 

現時点では作戦としてではなく、各管轄エリアの部隊に掃討行動を一任していた。

 

連邦サイドが思いきった作戦を展開できないのは、メテオ・ブレイクス・ヘルのテロ活動が影響をおよぼしていた。

 

とある資源衛生にクラップ級1隻が迫り、MS部隊を発進させていく。

 

ジェガン、リゼル、リーオー宇宙仕様の小隊が既にビームライフルを構えながら臨戦態勢に移っていた。

 

連邦とOZの混合部隊のMSである。

 

隊長機のリゼルから指示が伝達される。

 

「ここはネオジオン残党の拠点の一つだ。活発化される前に叩く!!」

 

ジェガンのパイロットの一人が民間施設もあるということを器具し、軽く意見具申した。

 

「しかし、民間施設もあると聞きます!!よろしいのですか!?」

 

「かまわん!!やがて驚異となる!!徹底して破壊してやれ!!」

 

「は、は!!」

 

「了解した……我々のリーオー小隊も徹底してやらせてもらう!!」

 

ジェガン、リゼル、リーオーの各3機編成の小隊は、加速して資源衛生に攻め混む。

 

そしてカメラアイが高速で点滅し、各機が敵影を確認した。

 

出撃したギラドーガやガザCを捕捉した直後にビームライフルのビームがはしり、3機のガザCを撃墜させた。

 

先制攻撃を受けたネオジオン側も、ビームマシンガンやナックルバスターのビーム射撃を刊行し、反撃に出る。

 

宇宙空間の中で飛び交うビームの銃撃戦。

 

連射されるギラドーガのビームマシンガンが、1機のジェガンを撃墜させ、僚機のジェガンが放つビームライフルが、そのギラドーガを射貫いて撃破する。

 

フォーメーションをとるリゼル小隊は、ビームライフルとビームサーベルを駆使しながらギラドーガ1機に対し、3機係りで徹底して攻撃をかけ、ガザCにも個々にビームサーベルで斬撃して撃破してみせた。

 

リーオー小隊は、増援のドラッツェやガ・ゾウムの部隊に攻撃を絞り、回り込むようにビームライフルを撃ち込んで撃破する。

 

1機に対し、3機係りで伐つ卑怯な戦法は当たり前の事の日常茶飯であった。

 

OZの宇宙軍には騎士道概念はなく、排除すべき勢力には容赦なく攻撃をかけていた。

 

とあるコロニーの外ではOZ宇宙軍のリーオー部隊がギラズール1機に対し、3機係りでビームライフルを撃ち込んで完膚なきまでに破壊していた。

 

更には撤退を始めるギラドーガ数機を追撃し、ビームバズーカで破砕する。

 

無論、ネオジオンやジオン残存勢のみにそれは止まらなかった。

 

メテオ・ブレイクス・ヘルが各コロニーに潜伏する中で、地球連邦軍・宇宙軍所属特殊部隊・ECHOESが制圧に乗り出していた。

 

彼らは、地球連邦宇宙軍の対テロ・ゲリラ専門の特殊部隊であり、隠密行動や内面的な制圧を得意とする部隊であった。

 

メテオ・ブレイクス・ヘルのアジトの内部で激しい銃撃戦が展開する。

 

ECHOESの隊員達は独自のサインのみで合図して行動していた。

 

無情な銃撃がメテオ・ブレイクス・ヘルのメンバーを襲う。

 

「がぁあっ!!」

 

「あがぁっ……!!」

 

頭と胸部に銃弾を浴びて床に倒れる二人のメンバーは血を流しながら息絶える。

 

マシンガンの銃撃戦に対し、メテオ・ブレイクス・ヘル側もマシンガンやハンドガンで対抗する。

 

「ちっきしょうっっ……なんだってここが割れたんだ!??」

 

「知るか!!今はここから脱出……がはぅ!!?」

 

「おい―――うぎっ!??」

 

次々と銃弾で倒れていくメンバー。

 

ECHOESは抵抗者を瞬く間に殺傷すると、素早く部屋という部屋に銃を構えて突入した。

 

時おり鉢合わせるメテオ・ブレイクス・ヘルのメンバーやエージェントに容赦なく発砲し殺傷させる。

 

一人の女性メンバーは、近づく銃声と悲鳴に精神的にも追い詰められていく。

 

彼女は怯えながら部屋の片隅の机にうずくまっていた。

 

「お、お願いっ……こ、こないで、こないで、こないで……!!!」

 

怯える彼女に非情なECHOESのメンバーが迫り、次々とメテオ・ブレイクス・ヘルのメンバーが殺されていく。

 

響き渡るマシンガンの銃撃声とメンバーの断末魔が次第に近づいていく。

 

「いや………死ぬのはいやっ!!」

 

恐怖に怯える彼女の部屋にECHOESが突入する。

 

「!!!!」

 

彼女は息を殺して、目の前の恐怖に今にも叫びそうな自分を押さえる。

 

部屋を払拭するECHOESのメンバーは、データベースを発見し、素早い動作で専用ツールを取り出してデータベースの検証を始めた。

 

その時、検証を始めた隊員が、隠れ切れていない彼女の片足を確認し、即座に足と机を銃撃した。

 

「きゃあぁぁあああっ!!!」

 

机越しに銃弾を浴びて彼女は悲痛な叫びを上げる。

 

非情なECHOES隊員は、即座に机の下にいた彼女に至近距離でマシンガンを銃撃した。

 

「ぅぇあっ―――」

 

表情を一切変える事なく、その隊員はマシンガンをしまい、データベースの検証を継続した。

 

「L3・D1258コロニーにおいて、メテオ・ブレイクス・ヘルのアジトの制圧に成功……ここの反乱分子は完全に排除した……引き続きデータベースの検証を行う……検証後は次の座標の取得をする……」

 

アジトを制圧したECHOESの面々は、ある種の人道上を踏み外していた。

 

まさに連邦の歯車であり、感情は無情かつ非情であった。

 

部屋のコロニーにおいても、ECHOESがメテオ・ブレイクス・ヘルの制圧に乗り出し、コロニーの港内において、戦闘が起こっていた。

 

港の搬入口で銃撃戦が展開する中で、メテオ・ブレイクス・ヘルのメンバー達は何とか輸送艦に乗り込み、コロニーの脱出に成功した。

 

「何とか逃げ出せたな!!」

 

「あぁ……けど、ここの所、俺達に対しても本格的になってきてやがる……まさか、内通者でもいやがるのか!??」

 

「わかんねーけどよ……可能性はあるかもな……ん!??って、ちっきしょうっっ!!!!」

 

脱出するメテオ・ブレイクス・ヘルのメンバーを乗せた輸送艦の目の前に、ECHOES仕様のジェガン2機が現れた。

 

構えたバズーカの弾丸が輸送艦の操縦部に直撃し、連続で砕け散るように輸送艦は轟沈した。

 

コックピットのモニターで輸送艦の撃墜と任務の完了を確認する。

 

「反乱分子の制圧を完了させた。次の座標の送信を乞う……」

 

ECHOESパイロットがそう言い放った後に座標データが送られ、ディスプレイモニターに表示された。

 

「次のアジトが判明……我々はこれより取得座標のコロニーに向かう……ふぅ……わざわざ我々ECHOESに情報を与える者とは……一体どんな人物なのだ?少なくとも簡単に仲間を裏切る素行からしてまともではないな……」

 

すると、もう1機のECHOES仕様のジェガンのパイロットがモニター通信で皮肉を言ってみせた。

 

「まともではないな……か。歯車として無情に人を殺す我々もまともではあるまい」

 

「ふん……」

 

何処かのコロニーの一室で、その情報を送信していた者がデータベースを操作していた。

 

データベースの画面には、ECHOESに送信していた座標と送信履歴がはっきりと表示されている。

 

データベースを動かす男の手は更なるデータを送信し続けた。

 

 

 

ダカール市街地の上空に対空射撃がはしる。

 

そのビームや弾丸が飛び交う中をブースターを唸り響かせながら、シナンジュが駆け抜ける。

 

それを操るフロンタルは巧みに射撃を躱し、眼下に飛び込む機体群を次々とロックして、ビームライフルでそれらのターゲットへ高速射撃した。

 

「まずは出来る限りの掃除を行う。赤い彗星の再来というモノを彼らに思い知らせるのだ……」

 

高速の流星のようにシナンジュが放つビームが降り注がれる。

 

対空射撃をしていたネモやジムⅢが次々とビームを貫かれ、撃破された。

 

「そして……その再来する彗星からは逃れぬということも……」

 

更に滑空しながらレフトアームに装備していたビームトマホークを発動させ、豪快にジェガンを斬り捌いてみせた。

 

その高速の流れを維持したまま、シナンジュは斬撃と射撃を交互に組み合わせながら攻撃をかけていく。

 

振るい唸るビームトマホーク。

 

撃ち貫くビームライフル。

 

その高速の攻撃は伊達ではなく、ジェガン部隊を縦横無尽に叩き伏せる。

 

シナンジュに狙いを定められた1機のジェガンは、ビームライフルを連発してシナンジュへ攻撃をかけるが、当たるはずがなかった。

 

そのジェガンを見逃すことなく、シナンジュはビームトマホークをかざす。

 

メインカメラに写り混むシナンジュがレフトアームを振るった刹那に、激しく斬撃された。

 

叩き斬られたジェガンは爆破。

 

その先にいたジェガン部隊も次々とシナンジュの餌食となり、瞬く間にMSから残骸へと変貌させられていった。

 

「思い知らせていく……!!!無論、地下に身を伏せる高官達にもな……!!!」

 

地球連邦ダカール本部の地下シェルター内には、多くの高官達が避難していた。

 

脱出の有余があったにもかかわらず、尚も止まっていたのは避難の有余を深読みしていた為だ。

 

そこには地球連邦の高官達に対するフロンタルの密かな思惑が孕んでいた。

 

それは、必ず彼らを仕止める事にあり、心理的な意図を愉しむという彼の私情を挟んでいたのだ。

 

逃がす有余を与えたと見せかけ、避難した所をスマートに仕止めるパターンと、それを警戒して留まった所をじわじわと攻めて仕止めるパターンをフロンタルは考慮していた。

 

高官達は閉鎖された空間の中で、状況は後者に流れる。

 

「結局は本当に脱出できていたではないか!!!地下に身を伏せる指示をした者を呼べ!!!」

 

「そもそも、あんたが脱出有余と見せかけた炙り出しかもしれんと言ったじゃないか!!!判断ミスの根本をあおったのはあんただ!!!」

 

「何だと!??」

 

「我々をこんなところで死なせるのか!??ふざけるな!!!一刻も早くジオンの愚か者をだな……!!!」

 

シェルターに衝撃がはしり、高官達の誰もがあわてふためく。

 

シナンジュが放つビームライフルの意図的な流れ弾が、連邦軍本部のビルを破壊し始めていた。

 

その驚異的な機動力で、シナンジュは対空砲火を躱しながら多軍勢の頭上を一気に駆け抜ける。

 

フロンタルはシナンジュに減速をかけさせながら、連邦軍本部を守るジェガン部隊へビームライフルを放ち続ける。

 

迎撃するジェガン部隊は、シナンジュへ攻撃を当てることもなく、次々と撃ち斃された。

 

そして背後からくる射撃を躱すように上昇し、上空より警備部隊を狙撃した。

 

上空より来るビームが、ジェガン達の胸部ユニットを見事に焼き飛ばす。

 

無論、ジェガン達はなす統べなく爆発していった。

 

その流れのままフロンタルは、一撃離脱攻撃を本格的に地球連邦本部のビルへと慣行し始めた。

 

ビームはじわり、じわりと地球連邦本部のビルを削ぎ落とすかのように当てられていく。

 

「さぁ……どう出るかな?連邦の高官達は……たが、いずれにせよここで我々の意思を宣言させてもらう!!」

 

ダカールの街は銃撃戦の一色と化し、大規模な弾幕が形成されていた。

 

それはダカールの市内へ入り込む程厚いものになっていく。

 

ジオンの残存軍は意地を見せつけるかのように連邦勢に攻め混む。

 

攻撃の影響で、ビル群は瞬く間に粉塵を巻き上げながら崩壊していく。

 

最早戦争以外の何物でもなかった。

ドムトローペンがホバー走行を駆使しながら、マシンガンやバズーカーの銃撃を市街地に展開するジムⅢやネモの部隊へ浴びせていく。

 

胸部直撃を受けたジムⅢが轟音をたてながら破砕し、ネモがマシンガンの銃撃で撃ち斃される。

 

更にヒートサーベルで駆け抜けるように斬り捌いてみせた。

 

だが、3機が市街地の角をスピーディーに曲がった瞬間にジムⅢやネモ部隊のビームや弾丸が襲いかかる。

 

ネモ部隊が放っていたジムライフルの連射撃の弾丸が、1機のドムトローペンの胸部装甲を撃ち砕いた。

 

モノアイが消え、撃たれたドムトローペンは倒れながら胸部を爆破させた。

 

2機はビルの影に隠れ、射撃を躱す。

 

だが、その背後からビームサーベルを握りしめたジムⅢが襲いかかる。

 

ビームサーベルがドム・トローペンの装甲に斬り込まれ、激しく焼灼された。

 

だが、次はそのジムⅢが上空からのビームで破壊された。

 

ビームは幾度も撃ち注ぎ、ジムⅢやネモが破壊された。

 

それを放って射たのは、カークスが乗るザクスナイパーの狙撃であった。

 

ファットアンクルに身を潜めての高高度精密射撃である。

 

カークスは狙いを市街地の奥面に移動させ、待機するロトの部隊に集中させた。

 

「放っておけば、砲撃が脅威になるからな……ここで徹底して破壊させてもらう!!」

 

ロト部隊を狙って、ザクスナイパーは連続狙撃を仕掛けた。

 

その狙いは確実にロトの胸部を針で貫くかのように射抜いて破壊していった。

 

市街地の他の箇所に展開するジムⅢやネモの部隊も一斉に射撃を続けており、ジオン勢の進撃を阻んでいた。

 

ザクⅢ、ヤクトドーガが、ビーム射撃で攻め混み、シュツルムガルスが敵機を殴り飛ばして進む。

 

だが、次から次へとMS部隊が現れ、弾幕を張られてしまう。

 

各機の被弾は免れない。

 

バトがビームライフルと収束メガ粒子ブラスターを撃ちながら、ビランチャやゼクストに呼びかけた。

 

「斃しても、斃しても次々と出てきやがる!!!流石に不利だぜ!!」

 

「解っていますよ。ですが、向こうはそうはさせてくれません。じっくり撃破しながら行きしましょう!!」

 

ゼクストのヤクトドーガは、ビームマシンガンとファンネルを駆使し、有言通りに対応する。

 

ビームマシンガンに蜂の巣にされたネモ2機を爆破し、ファンネルでジムⅢを撃破するタイミングでビランチャからの通信が入る。

 

ビランチャがあっけらかんと言って笑った。

 

「やつらのペースにハマりかけてんだ!!おちおちしてっとーハマっちまう!!!ハマっちまっていいのは女だけだ!!」

 

シュツルムガルスは、愉しむかのような動きで躍動する。

 

ナックルシールドを打ち込んでネモやジムⅢを殴り飛ばしていく。

「何言ってんすか!!!ビランチャ中尉!!!」

 

バトはビランチャの言動に突っ込みながら飛びかかるネモにビームライフルを撃ち込んだ。

 

だが、次々と来る攻撃がザクⅢのシールドやレフトアームに被弾する。

 

「ちぃっ!!ナメるな!!!」

 

強気で敵機を睨みながらビームライフルをかざすザクⅢ。

 

その時だった。

 

突如として敵機を吹き飛ばすビームが注いだ。

 

「何!??って……アンジェロ大尉!??」

 

バトがビームが放たれた方角を見ると、ランケブルーノランチャーを構えたギラズールカスタムがいた。

 

「ふん!!大佐の足手まといだな……攻撃はこうするものだ!!!」

 

アンジェロは、上空から友軍機達を見下げた視点で 吐き捨てると、ランケブルーノランチャーを展開する敵部隊に撃ち放った。

 

撃ち出されたライトグリーンのビームは、市街地の道路に沿うように一気にジムⅢやネモ部隊を吹き飛ばす。

 

たが、約350機余りのMS軍勢は容易く全滅はしない。

 

向かい来るビームやミサイル群が、ギラズールカスタムの肩や脚部に被弾する。

 

「私に当てたな……!!!」

 

アンジェロは被弾したことに憤りを示し、更に見境なく攻撃をかけた。

 

ランケブルーノランチャーがビルごとMS部隊を吹き飛ばしていき、被害を拡大させていく。

 

その時、別の方角からメガ粒子ブラスターの砲撃がはしった。

 

持続性の高いメガ粒子ビームは、一直線に街を総なめにしながら叩き付けるようにしてMS部隊を破砕させていった。

 

シャンブロのメガ粒子ブラスターだった。

 

更にクシャトリヤもメガ粒子ブラスターを放って、進行方向で展開するジムⅢやネモ部隊を一掃した。

 

進撃するシャンブロとクシャトリヤは息を合わせて連携をとる。

 

マリーダとロニのコックピットモニターに、ダカールの広大な市街地が広がる。

 

その至る場所で立ち上る黒煙や粉塵が戦場である事の事実を突き付ける。

 

「マリーダ、私が突破口を作りながら周囲の敵機を叩くから、その間に進撃をして!!」

 

「あぁ、了解した!!任せるぞ、ロニ!!」

 

「でも、あのビルだけは狙い撃たせて……私の人生を、社員の人生を狂わせた鉄槌を……!!!!」

 

マリーダはそのロニの言葉を聞き入れると、伝わるロニの気持ちを察し、言葉で頷いた。

 

「あぁ……解った。その募る不の想いはここで吐き捨てていくと良い。最も私に許可権はないんだが……それは気にしないでくれ」

 

「マリーダ……」

 

ホバー走行するシャンブロの傍らからクシャトリヤが飛び出す。

 

メガ粒子の危険を警戒していたジムⅢ部隊が、側面から飛び出し、迫るクシャトリヤとシャンブロへミサイルとビームを放った。

 

だが、ビームはIフィールドで相殺され、ミサイルもウィングバインダーの装甲面で虚しく爆発していく。

 

マリーダはコックピットモニターに映る敵機をロック・オンし、コントロールグリップを入れ込ませてクシャトリヤを加速させる。

 

「攻める!!!」

 

ダッシュしながらファンネルを射出させ、射撃するジムⅢ部隊に襲いかかる。

 

クシャトリヤはビームサーベルを手にし、十字の斬撃をジムⅢに食らわせ、ビームサーベルで襲いかかるネモを斬り飛ばしてみせた。

 

光るクシャトリヤのモノアイ。

 

そして前面上で攻撃するジムⅢとネモの部隊へ、ファンネルとメガ粒子ブラスターを組み合わせたブラストアタックを撃ち放った。

 

四連メガ粒子と24基のファンネルの火線が、一気にジムⅢとネモを複数機吹き飛ばされていく。

 

その情景を瞳に焼き付けながら、マリーダは戦いの中でヒイロとプルを想った。

 

(ヒイロ……この戦いの後にもう一度会いに行く……私が宇宙へ戻る前に……そして、姉さんとパラオへ帰る!!その為にもこの戦いを制す!!!)

 

 

 

激戦が展開される映像が、ダカールプレスタワーから生中継され、地球圏各地に配信される。

 

ヒイロはアデレードへ向かう中、ウィングガンダムのコックピット内でその中継を見ていた。

 

しばらく中継映像を見続けた後に、メインモニターに視線を送る。

 

(始まったか……)

 

いよいよ開始されたダカールへの攻撃。

 

かつてのシャアが行ったチベット・旧ラサ地球連邦本部攻撃の際は、既に避難が完了していた為に、直接連邦高官が被害に遭うことはなかった。

 

だが、今回は取り残された上に直接被害を受ける状況下にあった。

 

更に言えば取り残された高官達の中には、現在の時代における連邦政府の重役もいた。

 

ネオジオンが先手を打ったが、いずれにせよメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムに強襲される運命にあり、どちらが先手を打とうと、歴史に衝撃が発生するのは誰の目にも明らかであった。

 

(この一手とこれからの俺達の一手が連邦への決定打撃になる……そしてその後日に……OZの総本部のルクセンブルクを叩く!!)

 

ヒイロは今一度モニターで任務の確認をする。

 

任務内容はアデレードの地球連邦新本部の破壊及び高官達の排除である。

 

表示される任務情報を見るヒイロの眼差しには、任務遂行の静かなる闘志がたぎり続けていた。

 

 

 

太平洋・日本近海の洋上。

 

プルは潮風に綺麗な髪をなびかせながら、オルタンシアから見える広大な青空と海を眺めていた。

 

「あたし、最近ここから見る景色好きなんだよね~!すっごく綺麗なんだもん……地球っていうの感じちゃう!!」

 

見渡す限りの青と青のグラデーションは、見る者の感覚を豊かにする。

 

プルはニュータイプ故に尚更だ。

 

「あぁ……何か地球(ほし)の鼓動が聴こえて来そう……地球ってこんなに綺麗なのに……」

 

地球の広大な空と海の自然を感じるプルに、その中で戦争をする人類がいることにふと空しさが過った。

 

地球という個の惑星の次元感覚に触れた時、人類の起こす問題が小さく感じる事もあり、疑問符もみえてくる。

 

普段余り考えさせられる事がないが、ふと地球を相手に向き合えばそれを考えさせられる。

 

プルは目の前の青のグラデーションと対話するかのように呟く。

 

「何で哀しみがあるんだろ……何で仲良くできないんだろ……この空が続く先でも、戦いを終われない人達や巻き込まれてる人達がいる。その中でマリーダ達は戦ってるんだよね……戦うのは誰にも色々な想いがあるから戦うんだよね……マリーダも、アディンも……」

プルが想い見つめる視線先の遥か彼方でアディンはひたすらシュミレーション・トレーニングをし続けていた。

 

かなりの時間を費やしていたためか、アディンは汗に浸されていた。

 

「……角ヤロウ……次こそは決着を着けてやる!!!その為に今できる闘いをする!!!」

 

アディンは何度もシュミレーションを繰り返しトレーニングを続けようとするが、オデルからの通信が待ったをかけた。

 

当然ながらアディンは嫌気を抱く。

 

「アディン!!」

 

「っ……なんだよ、兄さん!!邪魔すんなよ!!俺はトレーニング中だ!!!」

 

反発するアディンに、オデルは兄ならではの弟を想う意見を叩きつけた。

 

「バカ野郎!!事にメリハリをつけろ!!ハワードの爺さんも言っていたが、休めるときに休むのもパイロット……もとい、Gマイスターの仕事だ!!気合を入れるのもいいが、今のままなら確実に疲労を任務に持ち込むぞ!!!シュミレーションは終われ!!!」

 

オデルの最もな意見に、アディンはぐうの音も出なかった。

 

「……ちぇっ……解ったよ!!休むよ!!」

 

「追い込みすぎても身を滅ぼすぞ!!頭冷やせ!!」

 

「わかってる!!わかってるからさ!!」

 

アディンはガンダムジェミナス01を後にし、休憩室で水分を取りながら天井を見上げていた。

 

「連邦の新本部をぶっ潰す任務……ようやくって感じだな……んぐっ……ふぅ……次こそはキメてやるぜ。ニューエドワーズの二の舞はしねぇ……」

 

そう自分へ言い聞かせながら、アディンは汗を拭いながら水を飲み続ける。

 

「見ててくれ……ロガのおっちゃん、トリシアさん、そして父さん、母さん……ルシエ……俺達はやるぜ!!!」

 

世話になった人、オデルのフィアンセ、両親、そして幼馴染み……亡きMO-5の人々を想いながら、アディンはアデレードへの攻撃を改めて決意し、そして今を共に闘うヒイロ達、自分の存在を想い続けてくれているプルを想い返しながら、拳を握りしめた。

 

 

 

その頃のアデレード基地では、ジェガンや新型機・ジェスタが警戒警備の為にサブフライトシステムに搭乗して出撃する。

 

そして、警備には遂にロンドベル隊が配備される事になり、ラーカイラムに替わる同クラスの旗艦・エイジャックスとミノフスキークラフト仕様のクラップ級戦艦が3隻編成でアデレードの空を周回していた。

 

艦内のブリッジでは、連邦の名艦長であるブライト・ノアが着座し、アデレードの空と街を見据えていた。

 

ため息をついたブライトは、副艦長に自らの本音をふった。

 

「ダカールが攻撃を受けていると言うのに……いよいよ我々にお鉢が回ってきたか。まだ現れるかどうかは不確定要素に過ぎんが……正直、私は複雑だよ。敵がガンダムなのだからな。あの機体には特別な感情を抱いてしまう」

 

「無理もありません。これまでにも、数々のガンダムと関わって来たのですから……」

 

「……私だけに限らず、連邦の兵士達の大半が複雑なはずだ。あの機体に憧れる者も少なくない。特に部下の一人のエンデはその手のパイロットだからな。だからといって手は抜けん。何せ先代のラーカイラムを単機で破壊する戦闘力を持っているのだからな……」

ブライトはこれまでの被害データを取りだし閲覧する。

 

目を通せば通す程、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムの驚異的な戦闘力が解る。

 

歴代のガンダムに最も携わってきたブライト故に、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達は余りにも異質に感じれた。

 

「……最早、私の知っているガンダムではないな。彼らは……ガンダムの皮を被ったモンスターなのかもな」

 

「モンスター……確かにそうかもしれません。索敵も撃破も不可能とされています……遭遇して生き残れたパイロットは、オペレーション・イカロスで辛うじて生き延びたパイロットと、ごく一部のエースパイロットだけのようです……」

 

「エースパイロット……」

 

その時、そのごく一部のエースパイロットからの通信が入り、オペレーターがブライトに報告した。

 

「艦長!OZのゼクス・マーキス特佐から通信が入っています!!」

 

「OZの……?そうか、繋げ!!」

 

ブライトの指示でゼクスと通信を繋げる。

 

ブリッジのモニターに敬礼するゼクスが映し出された。

 

それを見たブライトは、一瞬シャアと誤認してしまう。

 

「ん!??シャア?!?い、いや、失敬……ゼクス特佐」

 

ゼクスは慣れていることなので、軽くあしらった。

 

「ふっふふふ……よく言われるものだ……構わない。OZと連邦の合同部隊の我々に着艦許可を頂きたい。我々の総帥からラーカイラム……いや、エイジャックスと合同で護衛任務に就くよう命令されたのでな……」

 

「無論、構わない。着艦を許可する」

 

その後、エイジャックスにトールギスとユニコーン、オーバーエアリーズが着艦した。

 

ブライトは自らMSデッキに赴き、ゼクス達を迎える。

 

その時、ブライトの目にはトールギスとユニコーンがガンダムと重なって見えた。

 

(っ……!??……気のせいか。何故かガンダムに見えた……)

 

コックピットから出てくるゼクスとリディ、ミスズがブライト達に敬礼を送った。

 

 

一方、ダカールでの戦闘は更に激しさを増す。

 

シャンブロが放つメガ粒子ブラスターが連邦陣営のMS部隊を破砕させながらビル群ごと一掃させ、更に上空に展開させたリフレクターユニット群に拡散メガ粒子ブラスターを解き放った。

 

収束メガ粒子と化したビーム火線が雨のように降り注ぎ、周囲のジムⅢ部隊やネモ部隊を一瞬で壊滅させる。

 

直撃を受けた部位は綺麗なまでに焼灼され、装甲が焼けただれていた。

 

クシャトリヤのファンネルとメガ粒子ブラスターが猛威を振るう。

 

ギラズールカスタムが放つランケブルーノランチャーもビーム渦流を突き進ませる。

 

ザクⅢとヤクトドーガのビームライフル、ビームマシンガン、ファンネルのビーム射撃がMS群の壁を削り、シュツルムガルスとゼーズールによる殴打と斬撃の格闘攻撃がジムⅢやネモのMSの装甲を破壊していった。

 

対し、連邦陣営はジムⅢの全部隊によるミサイルランチャーの一斉射撃を敢行し、大多数のミサイル群の雨をネオジオン勢に見舞った。

 

「!!!!」

 

フロンタル以外のネオジオン勢の誰もがこの光景に息を飲んだ。

降り注ぐミサイル群が、縦横無尽に着弾していき、ジュアッグやアッグガイは回避する術なく被弾し、即撃破されてしまう。

 

狂ったようなミサイルの雨は、ビルや道路を押し潰すかのように破壊しながら、ドムトローペンやデザートゲルグにも降り注ぎ、瞬く間に機体を爆発させた。

 

ザクⅢ、ヤクトドーガはホバーを駆使しながら後退させる。

 

急激な猛攻にバトが憤りを露にさせる。

 

「連邦の奴ら一気に攻めてきやがった!!!ちっきしょうが!!!がぁっ!!?」

 

ミサイルがザクⅢにダメージを与え、シールドや機体の一部を破壊させてしまう。

 

ゼクストは静かに歯を食い縛りながら、機体を後退させ、ファンネルを駆使してミサイルを迎撃する。

 

「これでは……躱し切れない!!!ぐぅ!!?」

 

降り注ぎ続けるミサイルにファンネルを格納するショルダーユニットが破壊された。

 

その中で、シュツルムガルスとゼーズールはビルの影に機体を移して、直撃の事なきを得る。

 

だが、いつビルが崩壊しても不思議ではない状況下であった。

 

アヴリルとビランチャの二人は際どい状況下を耐え凌ぐ他なかった。

 

「ここへ来て急激な物量攻撃だと!??くぅ……卑劣な!!!」

 

「ほほぅ……敵さんも必死だな~……んん~!?……雨風凌げると思ったが……」

 

ビランチャは陽気な口調ながら崩壊することを察知し、アヴリルに危険を促した。

 

「どーやらビルの奴、限界だな……直ぐに崩壊しちまう!!!行くぞ!!!」

 

「やむを得んか……!!!」

 

ゼーズールとシュツルムガルスは、その場を離脱する。

 

まさに、その直後にミサイル群によってビルは崩壊。

 

同時にミサイルが駆けめぐり、シュツルムガルスとゼーズールに被弾した。

 

一方、上空のギラズールカスタムは、ランケブルーノランチャーを撃ち放って大量のミサイルを破砕させてみせる。

 

だが、破壊しきれなかったミサイル群が両肩のエネルギータンクへ被弾し、地上への着地を余儀なくされた。

 

「がぁっ!!!っ……くっっ!!!おのれぇえええええ!!!」

 

被弾を多く受け、アンジェロの憤りが一気に爆発した。

 

だが、ランケブルーノランチャーのエネルギータンクが破壊された為に、反撃不能に陥ってしまう。

 

その状況を表示するアラートを見たアンジェロは怒りの捌け口を失い、怒りの拳をコントロールグリップへ思いっきり叩きつけた。

 

「くっ……そぉおおおおおおお!!!!」

 

怒りの叫びを上げながら、アンジェロは機体を戦域を離脱させた。

 

クシャトリヤは連続でファンネルのビームを連発させながら、ミサイル群に対抗する。

 

「くっ……撃ち墜としてみせる……!!!」

 

高速で撃ち出されていくファンネルのビームは、次々とミサイル群を撃ち墜としていく。

 

だが、撃墜しきれないミサイルが次々とクシャトリヤに降り注ぎ、装甲面で爆発していく。

 

「くっぅ……!!!躱し切れない……かっ……!!!!」

 

大量の爆発と衝撃がコックピットにビリビリと伝わる。

シャンブロも拡散メガ粒子ブラスターによる対空砲火でミサイル群を破壊してみせるが、撃ち漏らしたミサイルが襲いかかる。

 

「こんな物量攻撃なんて……!!!」

 

ロニはミサイルに構う事なくシャンブロを進撃させ、量側面にいるジムⅢ部隊とネモ部隊を集中してロックオンする。

 

「シャンブロには通じない!!!」

 

ロニの感情に呼応するようにシャンブロは拡散メガ粒子ブラスターを、空中で展開するリフレクターユニットへと放ち、それに反射したメガ粒子がプラズマ火線となり、暴れるように大量に降り注いだ。

 

この攻撃の直後に防戦体制であった連邦陣営が攻めいるように動き出した。

 

ビームライフルのビームや、ジムライフルの弾丸がネオジオン勢のMS達へ襲いかかり、進撃を困難にさせていく。

 

バトはビル影に退避しながら不満を吐き散らす。

 

「ちっきしょー!!!前に進めねー!!!」

 

シナンジュに対してもジェガン部隊やジムⅢ部隊が射撃を開始する。

 

「あくまで抵抗するか……当然の姿勢だ。アンジェロも離脱したようだな。では……本題に入るとしよう」

 

フロンタルは、ビームやミサイルの攻撃群を躱しながらビームライフルを放ってジェガン部隊を1機、2機と撃墜させる。

 

その流れに乗せるようにフロンタルは地球連邦本部のビルを射撃し始めた。

 

ビームはビルを削り取るように破壊してみせる。

 

フロンタルはある程度連邦本部ビルにダメージを与えた後にシナンジュを屋上に着地させ、ビームライフルの銃口をかざした。

 

こうなればいくら地下シェルターに避難してると言えど、MS部隊はそこへ銃撃はできなくなる。

 

自軍の政府高官がいる建造物を撃つことは重罪に相当する。

 

誰もがシナンジュへ攻撃できなくなった。

 

そして、フロンタルは地球圏共通回線を開き、全地球圏にその声を発信させた。

 

「地球連邦軍、地球連邦秘密結社OZ、地球圏のすべての人々に伝える。我々はネオジオン!!そして現ネオジオンを統率するフル・フロンタルである!!我々は今、ダカールの地球連邦本部ビルを押さえている。これ以上同胞に攻撃した場合、地下シェルターにいる高官達諸とも破壊する!!」

 

この宣言を聞いた連邦軍の攻撃指揮官は直ちに攻撃を停止させた。

 

「全機、撃ち方止め!!!撃ち方止めぇえええっ!!!ネオジオンに地球連邦本部諸とも高官の方々が人質にされた!!!撃ち方止め!!!」

 

攻撃が止むのを見届けたフロンタルは、不敵な薄ら笑いを浮かべながら宣言を続けた。

 

「懸命な対応に感謝する……では、我々の本題を宣言させてもらう。我々の要求はスペースノイド、すなわち、コロニー市民の自治権確立である!!地球連邦は現在に至るまで、スペースノイドへの圧制を強いており、かつてのティターンズとなんだ変わらない!!人類の革新と言われるニュータイプへの迫害も事実として把握している!!!これは不幸だ!!それを変革させるためにも、スペースノイドの自治権確立は必須なのである!!!私の真下にいる連邦の高官達に有余を三分与える……自治権の譲渡を要求する!!受け入れられない場合は、それ相応の答えを下す!!!!貴君らの懸命な対応を期待する……」

 

フロンタルのこの宣言により、ダカール一帯を越え、地球圏全域に緊迫がはしった。

 

トレーズは総帥室で瞳を閉じながら、瞑想するようにフロンタルの宣言を聞き、ゼクス達は第三次ネオジオン抗争の予感を感じながらアデレードへの道のりの最中に見ていた。

 

ヒイロは同じスペースノイドであるはずのフロンタルから異質なモノを感じてならなかった。

 

「フル・フロンタル……マリーダの同胞……だが、何か異質なモノを感じてならない……」

 

文字通りの停戦状態になった戦場で、マリーダは非常に嫌な感覚が迫るのを感じていた。

 

マリーダに頭痛や吐き気に似た感覚が強くはしる。

 

「ううっ……!!!何だ!??凄く嫌な感覚が近づいてくる!!!」

 

その感覚は、シャンブロの胸部周りに組み込まれているサイコフレームにより、ニュータイプ感覚が上がったロニも感じていた。

 

「くぅっ……!!?何だ!??この感じは!??不快過ぎる!!!」

 

コロニー間を航行するガランシェールの中で、ジンネマンがいよいよ始まる激震の前兆に眼差しを話す事なくモニター画面を注視していた。

 

「地球連邦政府が易々と自治権確立を認めるはずがない……認めれば宇宙と地球の主従が逆転するからな……これは最早開戦のカウントダウンだ……!!」

 

ジンネマンの危惧は当たっていた。

 

いずれにせよフロンタルは鼻から連邦本部ごと高官を殺す気でいた。

 

そして宣戦布告も意図していた。

 

事の流れはフロンタルの画く道へ行きつつあった。

 

ジンネマンがフロンタルに危惧していたモノはその性質であった。

 

「フル・フロンタル……元よりそれが目的なのか!??第三次ネオジオン抗争が……!!?」

 

その一方で、地下シェルターでは高官達が情けない議論を投げかけ合っていた。

 

「自治権確立など認めるわけにはいかん!!認めるということは連邦政府の終わりを意味する!!!」

 

「しかし、認めなければ我々はきっと殺される!!!認めるしか……」

 

「ならん!!スペースノイドなど、極端な話、地球の為の奴隷でいいのだ!!」

 

「要求に代わるモノの提供を……」

 

「ダメだダメだ!!!!断固として自治権は与えてはならん!!!」

 

ゴタゴタとした議論が地下シェルターに響く中、シナンジュのコックピット内のモニターに熱源センサーを捉えた。

 

「何!??熱源……!!!」

 

その直後、シナンジュに高出力のビームが掠めた。

 

ビームは、シナンジュを掠めただけで装甲の一部を溶かした。

 

「くっ……そう出るか……!!!」

 

モニターに表示する識別は連邦のモノであった。

 

そしてビームを放ったMSを捉える。

 

「これは……新たな……ガンダム!!?」

 

シナンジュのコックピットに映ったMS。

 

それは異様なガンダムらしきMSであった。

 

故に、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムと錯覚してしまう。

 

だが、識別は連邦の識別信号である。

 

そう……真の連邦性のガンダムが姿を見せたのだ。

 

フロンタルは、相応の答えを宣言した。

 

「貴君らの答えは解った……貴君らが行った攻撃により、我々は地球連邦政府に対し、宣戦布告をする!!!地球圏にいる全同胞達よ……我々新生ネオジオンに続け!!!」

 

遂に言い放たれた宣戦布告と共に、シナンジュはビームライフルで地球連邦本部ビルを破壊し続け、半分を崩壊させた。

 

その直後、ロニの主張が響いた。

 

「フロンタル大佐!!!!止めは私に!!!!早くそこから離脱を!!!!!」

 

「ロニ嬢!??ふっ……いいだろう、ロニ嬢……撃つがいい!!」

 

「了解した……!!!」

 

シナンジュが離脱すると共に、シャンブロのメガ粒子ブラスターの口が開口し、最大出力のメガ粒子がチャージされた。

 

その時、地球連邦本部ビルから離脱するシナンジュに再びビームが襲う。

 

「くっ!!!やはり敵となるか!!!ガンダム!!!」

 

フロンタルは、新たなガンダムに敵意を抱きながらもシナンジュを高速で離脱させた。

 

同時にシャンブロのメガ粒子ブラスターが最大出力で撃ち出された。

 

「私の恨み……憎しみ……受け取るがいい!!!」

 

直進しながら突き進むメガ粒子が一気に地球連邦本部ビルに直撃した。

 

撃ち注がれるビーム渦流は、ビルを一瞬で消し飛ばして地下シェルターに角度が変えられた。

 

地下シェルター内に、破裂するようなエネルキーが押し潰すかのように拡がり、規模の大きな爆発を巻き起こした。

 

それは容易く連邦政府の高官達を殺傷……もとい、殺消した。

 

その爆発を尻目に、フロンタルはアンジェロと通信を取り合い、次の段階へ移る手筈をとる。

 

「アンジェロ、オペレーション・ファントムは次の段階へ移る!!予定通り待機中のコムサイに合流する!!ダカールを離脱せよ!!!」

 

「はっ!!」

 

「イレギュラーなガンダムが現れたが、ここまで来て無駄な戦闘は避けたい……!!!」

 

「ならば、大佐の為にこのアンジェロ、恐縮ながら意見具申します!!マリーダ中尉達を囮にしましょう!!オペレーション・ファントムの第一段階が終えた今、実際問題は重荷にすぎないはずです!!」

 

「ふふ……アンジェロ……お前は私の思考を見透かしているかのようなことを言うな。元よりそのつもりだ。彼女らは今後のネオジオンの為の礎になってもらう……!!!」

 

フロンタルは非情な一面を見せると、シナンジュを更に加速させた。

 

アンジェロ以外の部下達へ離脱命令を出す事なく。

 

突如現れたガンダムのパイロットは、ダカール市街地の映像を拡大図させた。

 

そして再び巻き起こり始めた戦闘を見下すように上空から見続けた。

 

「キヒヒ!!多勢に無勢……多勢に無勢の殺し合い……いいもんだなぁ、Ξガンダム!!!」

 

 

 

≪RX-105 Ξガンダム≫

 

 

 

Ξガンダムパイロット、キルヴァ・ザレア。

 

狂気に満ちた固まりであり、オーガスタで造られた強化人間である。

 

だが、乗機のΞガンダムと共に異質な強化人間であった。

 

かつてないまでの戦闘狂。

 

与えられた異質かつ正規な連邦性の強化ガンダム。

 

そして、パイロットとしての優遇。

 

その優遇の背景には、造ってしまった狂気の反抗を恐れた研究所側の配慮にあった。

 

「キヒヒ……!!キヒヒヒヒヒ!!見つけたぁ……!!!」

 

キルヴァは真っ先に同じ感覚を放つマリーダに興味を示した。

 

狂った笑みを浮かべながらΞガンダムを加速させた。

再び巻き起こる地上戦にネオジオン勢は追い詰められていく。

 

ザクⅢのビームライフルやフロントスカート部が破壊され、ヤクトドーガのビームマシンガンがエネルギー切れを起こす。

 

「くっそ!!!ビームサーベルしかなくなっちまった!!」

 

「同じく!!これ以上の闘いは不利っ……くあっ!!」

 

ビームライフル、ジムライフルの銃撃が注がれ、ガンダリウムの装甲を削っていく。

 

撃たれ続けた結果、シュツルムガルスのナックルシールドも半壊状態にあり、ゼーズールのアイアンネイルも、ライトアームのみとなる。

 

「いや、こりゃまいっちまったな~!!戦いづらくなっちまったぜ!!!」

 

「呑気な事言っている場合か!!!ビランチャ中尉!!!このままでは……うぁあっ!!」

 

ジムⅢやネモの更なる銃撃が、ゼーズールとシュツルムガルスに更なるダメージを蓄積させていく。

 

クシャトリヤとシャンブロだけが辛うじて善戦するが、彼女達はΞガンダムからくる不の感覚で戦闘に集中できずに被弾していく。

 

「近づいてくる……この嫌な感覚がっ……っく!!っっっぅぁああっ……!!!」

 

「キヒヒ!!!しゃああああ!!!」

 

轟音を切り裂きながらΞガンダムが、クシャトリヤに突っ込んでビームサーベルを突き出した。

 

高出力のビームサーベルがクシャトリヤのビームサーベルと激突した。

 

目映く激しいスパークが光輝く。

 

ビームサーベルを捌き合い、両機はスレ違うように交差した。

 

その瞬間、キルヴァの狂気がマリーダの感覚に食い込んだ。

 

「あぅぅっ……くっっ!!!が、ガンダム!!!?それに……精神に突き刺ささるかのような感情は何だ??!」

 

マリーダはキルヴァから感じる狂気に、戦慄すら覚えた。

 

これまでにない危険な領域の感覚であった。

 

それは、マリーダが克服しつつあったあの感覚を呼び起こす事となる。

 

「ガンダム……!!!!ガンダムは……敵だぁああああ!!!」

 

クシャトリヤはフルブーストをかけて加速し、マリーダの敵意を体現したかのようにファンネルを飛ばして襲いかかる。

 

対し、キルヴァは嗤いながらΞガンダムを反転させ、シナンジュを狙撃したビームバスターを再び装備し、狂気と共に撃ち放つ。

 

「ファンネル~ファンネル~……ぶっ潰してやるぜ!!!!」

 

ビームマグナムと同等出力のレモンイエローのビームが撃ち放たれ、クシャトリヤのファンネルを一気に破壊し始めた。

 

襲いかかるファンネルビームにΞガンダムは敢えて突っ込んで直撃をくらう。

 

だが、Ξガンダムはほぼ無傷で爆発から飛び出す。

 

それはまるでメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムのようであった。

 

Ξガンダムの装甲は、ガンダリウムγ合金であり、ガンダニュウム(GND)合金に引けを取らない強度を持ち合わせていた。

 

「何っっ!!?ちぃいいい!!!」

 

Ξガンダムは憤るマリーダの意思をのせたファンネルさえもビームサーベルで更に破壊し、クシャトリヤに斬りかかる。

 

Ξガンダムとクシャトリヤはビームサーベルを激突させたままスパークを散らして拮抗する。

 

「キヒヒヒャハハハハハ~!!!!感じるぜぇ!!!!ニュータイプの感じがっ!!!!」

 

「貴様は消す!!!!」

 

マリーダの怒りの乱撃が叩きつけるように振るわれ、その斬撃を愉しむかのようにキルヴァもビームサーベルを叩きつける。

 

相対する斬撃は、気持ちの悪い意味合いで互いの感覚を共有させた。

 

「キヒヒ……キヒヒ……気に入った!!!!ぐはひゃ!!!!女かぁ~……いいなぁ~…可愛いなぁ~!!!!キヒヒヒャハハハハハ!!!!付き合えよ!!!?」

 

狂った笑みを爆発させ、更に発言も爆発させるキルヴァに対し、マリーダは全力で否定した。

 

ヒイロから感じるものとは全く正反対であるが故に。

 

「ふざけるな!!!!貴様のようなイカれた気持ちの悪い存在は全力で否定する!!!!消えてしまえ!!!!」

 

「キヒヒ~!!!!ふられた!!!!俺、ふられた!!!!ならばぁ~……ハライセだぁ……キヒヒ………!!!!ファンネルミサイル、エクスターミネートォ!!!!」

 

キルヴァの狂気と共に、Ξガンダムの背部からファンネルミサイルが撃ち放たれた。

 

ファンネルの文字通り、搭乗者の意思で操られているミサイルだ。

 

狙われたら最後。

 

逃れることは不可能だ。

 

狂気の意思で飛び交うファンネルミサイルが、一気にクシャトリヤに集中し、ウィングバインダー、胸部周りの装甲、脚部を狙う。

 

とてつもない轟音と爆発がクシャトリヤを包んだ。

 

「くあああぁぁああっっ!!!!」

 

ウィングバインダーやコックピット周りの装甲面、両脚部が半壊状態となり、メガ粒子ブラスターは完全に撃てなくなった。

 

Ξガンダムはダメージを受けたクシャトリヤを更にビームバスターで銃撃を食らわせ、地上へと墜落させた。

 

「フラれたハライセは……恐いぜ……??!!キヒヒャまー、オーガスタへ持ち帰るからよ……俺がたっぷり味わってやる!!!!たのしみだぁ……!!!!その前に……!!!!」

 

ロニはこの悲惨な光景に思わず声を上げる。

 

「マリーダっっ!!!マリーダぁっっ……!!!!」

 

するとキルヴァは、にひっと嗤いながらΞガンダムを着地させ、クシャトリヤのコックピット目掛け、幾度もΞガンダムの拳を叩き込んだ。

 

激しい衝撃とマリーダの悲鳴がクシャトリヤのコックピットに響く。

「はああぁっっ……!!!ぐぅぅっ……!!!あくぅあっ……!!!!あうぅっ……!!!」

 

「キヒヒ!!!!キヒヒ!!!!いい声きかしてくれるなぁ!!!!もっと聞かせ……ろ!!!」

 

激しい一撃の衝撃波がクシャトリヤのコックピットに直撃した。

 

「くぅあぁあああぁぁぁっっ、ぐぅっ―――!!!」

 

その衝撃で、マリーダのノーマルスーツのヘルメットのバイザーが割れ、マリーダ自身も気絶してしまった。

 

「マリーダっっっ!!!今、助ける!!!」

 

その時、マリーダの危機に駆けつけたロニのシャンブロが、クローでΞガンダムに襲いかかった。

 

だが、Ξガンダムは軽くクローの斬撃を躱し、ビームバスターでクローを破壊する。

 

「っとぉ…………キヒヒ、お前も女か……悲鳴をきかせてくれよ!!!!」

 

キルヴァの狂気がビームバスターにのせられ、何発も高出力のビームをシャンブロに撃ち込む。

 

射抜かれた装甲の部分が爆発を起こす。

 

「きゃあああああああ!!?」

 

激しい衝撃にロニは悲鳴を上げ、それを聞いたキルヴァは狂った笑みを浮かべて喜んだ。

 

「いいね♪敢えて殺さないから怖がってくれよ……!!!!」

 

カークスの通信に感じたことのない恐怖と戦慄をロニは感じた。

 

だがその時、一つの狙撃ビームがΞガンダムを撃った。

 

カークスのザクスナイパーが放ったビームであった。

 

だが、全くダメージになっていなかったのは火を見るよりも明らかだ。

 

「あんだぁ?!!死にてーみてーだな……」

 

Ξガンダムはゆっくりと上昇し始め、ある程度上昇した所で一気に加速をした。

 

ゆっくりと瞳をあけながらこれを見たロニは、悲痛な予感に駆られた。

 

「まさか……だめ!!!カークス、逃げて!!!!」

 

ロニの予感通り、Ξガンダムはファットアンクルに向かいながら加速した。

 

ビームバスターを放ち、ファットアンクルを撃墜させた後に、落下するザクスナイパーにファンネルミサイルをえげつなく放った。

 

「ロニお嬢様……貴方だけは生きて下さい!!!!」

 

カークスは渾身の想いでΞガンダムへ射撃し続けた。

 

その攻撃も虚しく、カークスのザクスナイパーは瞬く間にファンネルミサイルに粉砕された。

 

「カークス……ああっ……!!!許せない!!!!」

 

ロニの復讐の念を感じたキルヴァは、ギンと眼光とプレッシャーをシャンブロへ飛ばした。

 

キルヴァの強大なプレッシャーに負け、ロニは怒りから一気に恐怖の感情に後退し、怖じ気づいてしまう。

 

「うっ……な、何!!?これ……こ、恐い……!!!」

 

「キヒっ!!ファンネルミサイル…………エクスターミネートォォォォォッ!!!!」

 

キルヴァは容赦なくΞガンダムを急降下させ、シャンブロへと襲いかかる。

 

Ξガンダムから更なるファンネルミサイルが放たれ、狂気の意思を引っ提げて襲いかかる。

 

それは次々と突き刺さるかのようにシャンブロへと降り注いだ。

 

通常のミサイルではありえない軌道で、様々な箇所に直撃させられ、シャンブロは幾多の爆発に包まれた。

 

その衝撃はコックピット内に激しく響いた。

 

「いやぁああああああ!!?」

 

ロニの悲痛な叫びがシャンブロのコックピットに響くが、キルヴァはお構いなしにじわじわと攻撃を繰り返した。

 

「そーそー……楽しませろ!!!」

 

ビームバスターのビームが、シャンブロのメガ粒子ブラスターのビーム砲身に直撃し、シャンブロの頭部が破裂するかのように爆発した。

 

「くあぅっ!!!うっ……このままじゃ……みんながこのガンダムに……!!!」

 

ロニはビリビリと伝わる狂気に耐えながら禍々しいΞガンダムの形相に絶えず戦慄を感じていた。

 

更に加えられる攻撃はゆっくり確実にシャンブロとロニを蝕む。

 

じり貧のバト達に、ジムⅢ、ネモの部隊が銃口をかざして容赦なく迫り、更に追い詰めていく。

 

「ちっきしょうが……!!!ここで終わりかよ!??」

 

ビームライフルのビームとジムライフルの弾丸が、ザクⅢとヤクトドーガへ撃たれ始めたその時、突如と斬撃の連撃が響き渡った。

 

 

 

ディッギャインッ、ディッギャン、ディッギャイィィンッッ!!!

 

シャインッッ、ディッディギャァィィィインッッ!!!

 

 

 

斬撃されたジムⅢとネモがスパークを散らしながら崩れ落ち連続で爆発を巻き起こす。

 

ガンダムサンドロックのヒートショーテルの斬撃であった。

 

「ネオジオンのみなさん!!今の状況ではかなり不利です。ここは僕達に任せて撤退してください!!」

 

クロススラッシュで斬り伏せたジムⅢを爆発させた後、カトルはいつにない熱さを賭してガンダムサンドロックにブースト加速をかけた。

 

バトとゼクストは、突然の救世主の背中をしばらく見続けた。

 

ビームや弾丸を浴び続けながらも、平然とジムⅢやネモを斬り伏せていく様は英雄以外の何者でもなかった。

 

「すげぇ……あんなにビームや弾丸を浴び続けても平気でいやがる……!!!」

 

「あれが、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム………!!!バト、撤退しましょう!!ビランチャ中尉達にも呼び掛けを!!」

 

「ああ!!だけどよ……ゼクスト」

 

「なんです?」

 

バトは、認めざるを得ない現実をゼクストに確認した。

 

「フロンタル大佐……俺達に命令せずに撤退したのか?」

 

「……バト……そんなことはないはずだ……そんなことは……!!!」

 

ゼクストもその現実を意識しつつも認めたくなかった。

 

元より自分達は彼の親衛隊であるのだ。

 

だが、彼らの複雑な気持ちを他所に、フロンタルとアンジェロは郊外に降下していたコムサイを目指し機体を飛ばしていた。

 

「……彼らを礎にした選択は非情なようだが正しい。ここから忙しくなる……コロニー共栄圏の実現の道は険しい。アンジェロ、これからも頼むぞ」

 

「はい!!大佐!!」

 

カトルは前面から来る攻撃に構う事無くロック・オンしたターゲットに取り付き、斬撃を浴びせていく。

 

その優しく熱い眼差しには、ロニを想う気持ちがあった。

 

「任務目標は彼らに譲るけど、この状況は見過ごせない!!!それに、ロニもこの戦場にいるんだ!!!彼女をこれ以上危険に晒す訳にはいかない!!!」

 

ガンダムサンドロックは真っ向から来る攻撃をモノともせずに駆け抜け、ヒートショーテルの豪快かつ素早い斬り捌きで、ジムⅢとネモの二機種の機体群を連続斬りで墜としていく。

 

ダカールの市街地の道路から次々と湧き出るかのように進撃する連邦軍のMS部隊は、ヒートショーテルの両刃の特性を活かした躍動する斬撃で、次々と斬り砕かれていった。

 

斬撃と共にガンダムサンドロックを加速させるカトルの見据えるモニターの先に、Ξガンダムに一方的な攻撃を加えられるシャンブロが映った。

 

カトルのメンタルのボルテージが一気に上がる。

 

「ロニっ………?!!!データに無いガンダムにやられているのか!??絶対にやらせはしない!!!!」

 

カトルはネモ2機、ジムⅢ3機を連続で斬り伏せながらフルブーストをかける操作をする。

 

バックパックが持ち上がり、ガンダムサンドロックは遠方に映るΞガンダム目掛けて直進的な加速で飛び立った。

 

別の箇所にて、ネモが3機がまとめて胸部を斬り裂かれ、爆発を巻き起こす。

 

 

 

ザシュギャァァァァァァァァァァッッ!!!

 

ゴゴゴヴァガァァァアアアッッ!!!

 

 

 

ガンダムデスサイズのビームサイズが3機のネモを斬り飛ばした直後に機体を180°反転させ、更に3機のジムⅢを斬り飛ばした。

 

 

 

ジャザガァアアアアアアッッッッ!!!

 

 

 

「やれやれ、どいつもこいつも馬鹿ばっかだなぁ!!こんなに群れちまってよぉ!!!」

 

デュオは軽口を叩いてみせながら、迫り来る敵機の攻撃を許すことなく攻める。

 

ビームサーベルで斬りかかるネモをビームサイズで斬り払い、背後から迫るネモのメインカメラにビームサイズのロッド先端を突き刺さした。

 

メインカメラを破壊されたネモは、そのまま胸部を斬り飛ばされ爆発する。

 

更にビームサーベルを振り上げて襲いかかるジムⅢへバスターシールドを刺突させ、胸部を容易く貫いた。

 

ガンダムデスサイズは爆発するジムⅢを突き破り、ビームサイズを振りかざして加速する。

 

「づぁああああああああ!!!」

 

振りかぶったビームサイズを大きく斜め下に振り下ろし、ジムⅢ2機とネモ2機を一挙に斬り裂いて破壊。

 

更に側面上にいたネモ3機を横一線に斬り裂き、一気に吹っ飛ばす。

 

爆発が巻き起こる中、ガンダムデスサイズは群れながら攻め続けるジムⅢとネモ部隊へ加速し、突貫した。

 

ビームサイズの斬り上げ、斬り下ろし、斬り払いと次々に斬撃し、取り付いたネモとジムⅢを一瞬で斬り捌いて葬る。

 

爆発するMS部隊を尻目に、ビルの角を抜けたガンダムデスサイズは、ジムⅢ部隊の集中砲火を受けた。

 

「っと……!!!うぜーな、一気に掃除すっかぁ!??」

 

ガンダムデスサイズは、ビームとミサイルの集中砲火を浴びせてくるジムⅢ部隊にバスターシールドをかざし、バスターシールドを撃ち飛ばす。

 

高速で撃ち放たれたバスターシールドは、左右に展開したクローと先端のビーム刃で破砕しながら一気にジムⅢ部隊を吹っ飛ばしていった。

 

突如のガンダム襲撃に対応するため、ジェガン部隊が前線へ赴き、ダカールの街の道路を加速する。

 

その時、上空からのビーム弾丸が撃ち注ぎ、ジェガン3機が瞬く間に破壊された。

 

上空にはビームガトリングを突き出して射撃するガンダムヘビーアームズがいた。

 

高速で撃ち飛ばされていくビームガトリングが、次々とジェガンを破砕させて仕止める。

 

 

 

ドゥドドルルルルルルルルルルルルゥゥゥゥ……!!!

 

 

上空からビームガトリングを撃ち込みながらジェガン部隊を次々と撃ち砕いていくガンダムヘビーアームズ。

 

ジェガン部隊は無惨に頭部や胸部を砕き散らされ破壊されていった。

 

そこから更に滑空するガンダムヘビーアームズは、アーミーナイフを展開させ、ジェガン3機を個々に駆け抜けるように斬撃した。

 

斬り倒されたジェガンを尻目に、ビームガトリングを連射し続けたまま、ジムⅢとネモの部隊が展開するポイントに移動し、ネモ4機を撃ち砕きながら着地した。

 

機体を身構え、ブレストガトリングのハッチを展開させたガンダムヘビーアームズは、マシンキャノンと連動させながらビームガトリングと共に前面へ一気に連射させる。

 

 

 

ヴォヴァドゥルルルルルルルルルルゥゥゥゥ!!!

 

 

攻撃体勢でいたジムⅢやネモの部隊は、瞬く間に装甲を砕き散らされ、次々と破砕されていく。

 

トロワは反射する破壊の爆発に照らされながら冷淡と状況を分析する。

 

「残りのMS部隊は293機……この程度の戦力ならば、たかが知れているな……一気に殲滅させる」

 

ガンダムヘビーアームズが連射させるごり押しのガトリング射撃は、幾多のジムⅢやネモクラスのMSを一瞬で残骸へ変貌させていった。

前面の部隊を殲滅させたガンダムヘビーアームズは、再び加速し、出くわすMS部隊をビームガトリングとアーミーナイフを駆使させながら個々に破砕させて進撃する。

 

そして再びビームガトリングとブレストガトリングを撃ち飛ばし、ジムⅢとネモを部隊を蜂の巣に粉砕させた。

 

ガンダムの増援により、連邦サイドは一気に劣性と化した。

 

「こちらCエリア第23ジムⅢ小隊!!メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムが出現!!至急応援を乞う!!繰り返す!!至急応え……がぁぁあっ!!!」

 

キルヴァは、聞こえてきた友軍の通信に上から目線で見下しながら答えた。

 

「け!!情けねぇな……ま、直ぐに行くさ……あいつらが、メテオなんたらのガンダムなんだな……じゃ、止めだ……!!!」

 

キルヴァはシャンブロのコックピット部にビームサーベルのビーム発動口を押し当てた。

 

蹂躙されたシャンブロには最早反撃する術は残されていなかった。

 

ロニもまた、Ξガンダムに対して無力なことに絶望し、涙を流した。

 

今、自分が突きつけられたビームサーベルの発動口に焼かれてしまう事を受け止めたロニは、哀しく呟いた。

 

「カトル………悲しいね……」

 

「……キヒっ!!絶望が伝わる、伝わる!!!!死んじまえよっ!!!!キヒヒャハハハハハハ!!!!」

 

非情なキルヴァの嗤いと共に、ビームサーベルの発動口が光を灯らせた。

 

「ロニぃいいいいいっっ!!!!」

 

迫るガンダムサンドロック。

 

シャンブロを破壊する寸前のΞガンダム。

 

哀しみに染まるロニ。

 

哀しみを止めんとするカトルの叫びがダカールに響いた。

 

 

 

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エピソード15「閃光に散る戦士」

ガンダムサンドロックのブースト加速がMAXとなり、Ξガンダムへ上昇しながら突っ込んでいく。

 

ブースターからは最高出力のGNDドライブのエネルギーが爆発していた。

 

カトルは歯を食い縛りながら険しい表情でレバーを押し込む。

 

「くぅぅ―――っっっ!!!」

 

ガンダムサンドロックは、脇を締めながらヒートショーテルを構えた。

 

「キヒヒャ!!!!」

 

その瞬間、キルヴァは狂気の嗤いと共にシャンブロに押し当てたビームサーベルを発動させる。

 

「カトル……助けて……」

 

涙を流すロニの声が哀しくシャンブロのコックピットに染み込んだ。

 

Ξガンダムはシャンブロに押し当てたビームサーベルを非情に発動させ、焼灼音を響かせてシャンブロの胸部に突き刺さす。

 

その瞬間は斬撃を押し当てる矢先のカトルの目に飛び込む。

 

「ロニっっっ―――!???」

 

カトルは目の前で起こった光景に真っ白となった。

 

その優しくも強い心に、鋭利な現実が突き刺さる。

 

Ξガンダムは、振りかぶったまま突っ込むガンダムサンドロックの頭部へ、ビームバスターを撃ち込んだ。

 

「っしゃあぁあっっ!!!」

 

ガンダムサンドロックは至近距離から受けた高出力ビームに、機体をのけ剃らせながら吹っ飛ぶ。

 

ガンダムサンドロックの頭部はやや焦げ、右片方のメインカメラが破壊された。

 

カトル自身は、精神が一瞬でやられてしまい、放心状態のままで落下の衝撃に襲われた。

 

ビルに落下したガンダムサンドロックは何も動かず、糸が切れたマリオネットのように崩れ込む。

 

その様子を見て、キルヴァは更に狂った嗤いと共にビームサーベルを斬り払い、内面から焼灼させてシャンブロの胸部を外側へと斬り裂いた。

 

「キヒヒャ~………なーんつってな!!なーんつってな!!!!殺しちゃいねーよ!!これからお持ち帰りすんだからな!!!!」

 

キルヴァいわく、ロニはビームサーベルの直撃を免れ、気を失いつつも九死に一生を得ていた。

 

が、カトルはロニを失ったものと思い、絶望に絶望を重ね続ける。

 

キルヴァの感覚にもその絶望が伝わり、人の不幸は蜜の味と言わんばかりに喜ぶ。

 

「くくく~………!!!こりゃ傑作だ!!!!このガンダムのやつ、この女と知り合いなのか~!??伝わる絶望、ぱねーぜ!!!!ま、いーや……死ね!!!!」

 

キルヴァはガンダムサンドロックをロック・オンしながら機体を上昇させ、ビームバスターを幾度も撃ち込む。

 

直撃と共にガンダムサンドロックの装甲表面で幾つもの爆発が起き続ける。

 

「ああ……たまんね~……だが……なんなんだぁ~!??なんてタフなんだ!??どんな装甲してんだよ!??」

 

余裕とは裏腹に、キルヴァもメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムの耐久性には驚きを隠せなかった。

 

しかし、直撃を受けた部分は焦げた上に、わずかではあるが装甲が陥没していた。

 

更に内部機器に影響し、サイドモニターに異常エラー項目が幾つか表示された。

 

それほどの威力がビームバスターにあった。

 

それに目を送ることなくカトルはひたすらに絶望を続けた。

 

一方、ガンダムデスサイズとガンダムヘビーアームズは向かい来る連邦軍勢を次々と撃破させていく。

 

ガンダムデスサイズへビームサーベルの斬撃が襲うが、ビームサイズで受けとめて跳ね返す。

 

体勢を崩されたネモはバッサリと胸部を斬り裂かれ爆発。

 

更に後方から叩き斬ろうと試みるジムⅢの斬撃を見抜いたかのように斬り払った。

ジムⅢ部隊がガンダムデスサイズ目掛け、ミサイルランチャーを全弾発射し、撃破を試みる。

 

無論、ミサイル群はガンダムデスサイズの装甲面で爆発するだけに止まる。

 

その爆発を突き破った、ガンダムデスサイズはビームサイズを一気に振るい、ジムⅢ3機を斬り払った。

 

そして前面に出たジェガン部隊の攻撃を直に浴びながらも、突っ込んで1機を斬り伏せ、側面側の2機へ斬り上げ軌道の斬撃を見舞う。

 

デュオはトロワに通信をかけながら戦う余裕を見せる。

 

デュオ達の位置からはガンダムサンドロックは死角位置にあり、崩れ倒れたカトルに気づけていなかった。

 

「このペースなら、すぐに片付くな!!このレベルの雑魚掃除は容易いぜ!!」

 

「あぁ。戦力はニューエドワーズを思えば強力ではない。このまま推し進めて壊滅させる……」

 

トロワもいつものように淡々と少ない言葉をはしらせ、敵機を撃破させていく。

 

だが、雑魚よりも突然現れたΞガンダムが気掛かりであるのは言うまでもない。

 

「そらよっとぉ!!!とっとと片づけて、不気味に浮いてるあの化け物ガンダムを斬り刻みたいぜ!!!」

 

「あぁ、わかっている……恐らくは俺達のガンダムに匹敵するかもしれん……」

 

「へへっ、見かけそのままってか!?」

 

「敵機の戦力的特徴からの推定だ……」

 

ガンダムヘビーアームズは街中の道路に配置されたジェガン、ジムⅢ、ネモの部隊が押し寄せる中、ビームガトリングとブマシンキャノン、ブレストガトリングを撃ち放ち続ける。

 

攻め立てるジェガンやジムⅢの機体群は一瞬で蜂の巣に砕き散らされ、崩れ込むように道路に堕ち爆発を起こしていく。

 

路地の側面から迫るネモ部隊がいたが、そちら側にビームガトリングの銃口を突き出し、連続で破壊して容易く殲滅させた。

 

そして再び迫る部隊へガトリングの嵐を叩き込んで破壊の限りを尽くす。

 

その一方で、ガンダムサンドロックはビームに撃たれ続けていた。

 

ロニが無事であることに気づかず、カトルはひたすら不甲斐なさを憎み続ける。

 

「……僕は何て……無力なんだ……ロニを……ロニを……」

 

ロニが自分の不甲斐なさで救えなかったと思い込んだカトルは、終わらない絶望を繰り返していた。

 

ガンダムサンドロックの装甲は他の機体よりも更に硬いため、撃破は免れていたが、エラーは更に増加していた。

 

対し、気が収まったキルヴァはビームバスターの銃を収める。

 

「け!!ま、いーや……せーぜー勘違いして絶望しててくれ……じゃ、女を二人ほど持ち帰る!!!」

 

Ξガンダムのレフトアーム側のマニピュレーターが、むき出しになったシャンブロのコックピットにかざされ、気絶したロニを捕らえる。

 

ロニを捕らえたキルヴァは、更にクシャトリヤに降り立ち、ライトアームで装甲を引き剥がした。

 

そこからビームサーベルを取り出し、出力を抑えながらコックピット周りを焼灼させ、コックピットポットを摘出した。

 

コックピット内のマリーダは、まるで眠り姫のように気を失ったままだった。

 

この瞬間、遥か遠方にいるプルに良からぬざわめきがはしった。

 

入浴中だったプルは、自らの肩を抱くような仕草で体を丸める。

 

「何……!??今の!??なんだかスゴク不安な感じがした!!マリーダ……ロニお姉ちゃん……大丈夫なの……??」

 

プルのニュータイプ的な予感は適中し続ける。

 

「キヒヒャ!!ついでにもっと斬り刻んでこーか……」

 

キルヴァは、Ξガンダムをシャンブロへ振り向かせると、一旦クシャトリヤのコックピットポットを置き、シャンブロの機体面積を調度よい斬撃テスト対象に見立てた。

 

「キシャアアア!!!!」

 

奇声と共にビームサーベルを取り出し、シャンブロを豪快に幾度も滅多斬りに斬り刻んでみせる。

 

その大型かつ高出力のビームサーベルはシャンブロの装甲を容易く斬り刻んでいく。

 

シャンブロは原型を崩され、無惨に血のような赤い固まりと化した。

 

キルヴァは気が済むとビームサーベルを収め、ライトアーム側のマニピュレーターでクシャトリヤのコックピットポットを掴み取ると、キルヴァは振り返りながらΞガンダムを浮上させた。

 

「キヒヒャハハハハハハ!!両手に華ってか!??キヒヒャハハハハハハ~……さてさて……オーガスタへ帰還する!!!」

 

先程まで蹂躙を楽しもうとしていたかに見えたキルヴァのΞガンダムは、マリーダとロニを確保すると直ぐに戦場を離脱する。

 

ジェガンを斬り裂いた先に見えたその瞬間を、デュオは見逃さなかった。

 

「あぁ!?あのガンダム、逃げやがんのか!??させるかっっ!!!」

 

デュオは、斬りかかるジェガンを斬り伏せ、ガンダムデスサイズをΞガンダム目掛けて飛び立たせた。

 

キルヴァは直ぐに気づき、ビームサイズを振りかぶって迫るガンダムデスサイズへとΞガンダムを振り向かせる。

 

「やはりそう来るか!!!ヒャハハハ!!!」

 

ビームサイズを振り下ろすガンダムデスサイズの攻撃を、キルヴァは余裕を見せるかのようにかわす。

 

「キヒ!!!いいねぇ!!!!」

 

「こいつ、躱しやがった!!!へへ……ガンダムってからには、そうこなくっちゃなっ!!!!」

 

デュオは、Ξガンダム目掛けビームサイズを斬り上げる。

 

だが、この攻撃も躱された。

 

「やるな、このやろー……こんちくしょうっ!!!」

 

「キヒヒヒハハハハハハ!!!ちょっと待ちなー!!!」

 

キルヴァは次に来るガンダムデスサイズの斬撃で、脱出ポットのマリーダと生身のロニを盾にとった。

 

デュオは攻撃を止めざるをえなかった。

 

「何ぃ!??」

 

「キヒヒヒ……赤い化け物から引きずり出した女と、緑の四枚羽から取り出したコックピットだぁ!!!ケンゼンナやつならてぇ出せねーだろ!??これから攻撃を加えたり、追撃したらソッコーで握り潰します!!!!ヒャハハハハハハ!!!!俺はどっちに転んでも愉しいケドナ♪」

 

「ちっきしょう……パイロットは卑怯極まりない上にイカレ野郎ときやがったか!!!じゃあ、なんだ……そのまま見逃せば身の保証すんのか!??」

 

キルヴァの言動からあらゆる意味で危険と判断したデュオは、全くてが出せなくなる。

 

「そーいうこと……!!!じゃあな!!!オーガスタへ帰らせてもらうぜ!!!」

 

(…………ちっ!!ここから手首を斬り落とそうとしてもヤツの動きに間に合わない!!!!もしものことやっちまったら……あいつらに、ヒイロとカトルに会わせる顔が無くなる!!!何もできねーっっ……!!!)

 

手を出すこともできない歯痒さを押し殺しながら、デュオは去っていくΞガンダムの背部を見続けるしかなかった。

 

戦場を去るΞガンダムであったが、その途中で撤退するバト達の機影を確認した。

 

最早まともな戦闘力は、彼らに残されていなかった。

 

にも関わらず、キルヴァはニヒッと笑い、ゼーズールをロック・オンした。

 

「ついでに蹂躙してやんよ……ファンネルミサイル、エクスターミネートッッ!!!!」

 

ファンネルミサイルが再びΞガンダムから放たれ、幾多のファンネルミサイルが、ゼーズールに集中的に向かった。

 

「何!!??ロックオンされた!??」

 

側面と上空にファンネルミサイルが狂気の意思を宿して屈折した軌道で迫りターゲットの付近でホバリングする。

 

アヴリルが戦慄した瞬間、ファンネルミサイルがゼーズールに集中した。

 

アヴリルは叫ぶ間もなくゼーズールと共に破砕されて砕け散る。

 

「アヴリル中尉ぃぃぃ!!!!」

 

「くっ!??」

 

「やってくれんじゃねーか!??お前らはとっとと行け!!!!」

 

ビランチャは、バトとゼクストに先に行かせようとさせるが、勿論、二人はそれを拒む。

 

「何いってんすか!??」

 

「ビランチャ中尉……!!!」

 

「アヴリルの二の舞起こさせる気か!??これ以上、お前らのような若者に死んで貰いたくねーんだよ!!!!」

 

「しかし……!!!」

 

そうこうしている間に、ファンネルミサイルが撃ち放たれた。

 

奇怪な動きでファンネルミサイルの弾頭が迫る。

 

「早くしろ!!!!」

 

「くっ!!!!」

 

悟ったゼクストは、ヤクトドーガにバトのザクⅢのライトアームを掴ませ、フル加速で後にした。

 

「お、おい、ゼクスト!!?」

 

ビランチャは去り行く2機を見て、笑みを溢しながら上空のΞガンダムにシュツルムガルスを向かわせる。

 

正面から来たファンネルミサイルの弾頭をナックルシールドで殴り、ナックルシールド諸とも爆発させた。

 

シュツルムガルスは、機体ごとΞガンダムに突っ込んでいく。

 

だが、シュツルムガルスの背後よりファンネルミサイルが次々と集中し、一瞬で機体が砕き散らされた。

 

バトとゼクストは背後で散るビランチャに哀悼と悔しみを噛み締め全力で逃げた。

 

「キヒヒャ……んだ!?残弾ゼロだぁ!??めんどくせっ、帰る、帰る!!!!終了!!!!」

 

奇しくもビランチャの分でファンネルミサイルの残弾が尽き、キルヴァ自身も突然の嫌気に見舞われ、今度こそ機体を帰還させた。

 

デュオは、直ぐにヒイロへ通信をかけようとするが、その行為がこれからの重要な任務への妨げになるとふみ、葛藤の末に断念した。

 

「ちっきしょう……今すぐ言ってやりたいが……アデレートの重要な任務の中だ……言えねぇな。しょーがねー!!!あのイカれヤロウ、ぺらぺらと行き先吐いてくれたかんな!!!ダカールで一暴れさせてもらった後にお邪魔するぜ!!!」

 

吹っ切れたデュオは、再びダカールの戦場へと身を投じた。

 

一方で、部下を裏切ったフロンタルはコムサイと合流し地球からの離脱準備の段階に入っていた。

 

コムサイは、かつてデラーズフリートが用いていた物と同型の機体である。

 

シナンジュを積み込ませ、直ぐにでも離陸できる状態であった。

 

アンジェロのギラズールカスタムは、既に乗り捨てられており、砂漠に放置されていた。

 

「ふふ……ここから我々が歴史を動かすのだ……オペレーション・ファントムの真髄はここからなのだよ」

 

「はい!!大佐!!!部下達の礎は口惜しいものがありますが、それもその為の布石となってくれています!!!」

 

「その通りだ、アンジェロ。我々は示さねばならない。では発進してくれ。艦隊との合流ポイントは旧地球連邦首相官邸・ラプラスだ」

 

「は!!」

 

コムサイはブースターを点火させ、大出力で加速を開始した。

 

大地を舐めるように突き進み、徐々に浮上しながら上空の空へと舞上がって行った。

 

宇宙空間の衛生軌道上で浮遊する旧地球連邦官邸・ラプラスの残骸内にはネオジオン旗艦レウルーラを始め、ムサカ級、エンドラ級、元・デラーズフリートのムサイ級と同級艦のジークフリートなどの戦艦が身を潜ませていた。

 

レウルーラのブリッジには艦長のライル中佐が座していた。

 

かつてのシャアの反乱時においても艦長の任務を任されていた男だ。

 

今、彼の視線先にはラプラスの残骸の隙間から見える地球があった。

 

その時、通信兵からの通達が入る。

 

「ライル中佐!!フロンタル大佐のコムサイが地球を離脱したとの報告がありました。後、三時間後に合流予定との事です!!」

 

通信兵からの情報を受けたライルは、次なる指示を伝えた。

 

「うむ、では予定通り、このラプラスにて待機する。フロンタル大佐と合流後、我々はまず手始めに手配した核パルスエンジンを指定の廃棄コロニーへ設置する作業に移る。指定のコロニーはL1宙域に漂流するA1752コロニーだ。ここでデラーズフリートが成しえなかった事を実現させるのだ」

 

「はっ!!!」

 

「赤い彗星の再来……フロンタル大佐。実際には初めて面識することになるな。果たしてシャア総帥に値する人物なのか……」

 

ライルもジンネマン同様、フロンタルに信頼感を感じていなかった。

 

シャアの許で直に任務を勤めていた経験がある故になおさらであった。

 

ライルは視線先の地球から目をそらすことなく頬杖をしながら地球へと視線を送り続けた。

 

「どちらにせよ、また歴史が動くのは間違いはない」

 

ライルいわく、歴史は動こうとしていた。

 

宇宙の各地に潜伏していたネオジオン艦隊が、オペレーション・ファントムの為に活動を開始させていく。

 

各ラグランジュポイントの宙域でネオジオンの艦隊が艦を発進させ、連邦軍を欺ける陽動の為に動き出す。

 

どの艦隊も、テロリストレベルではない戦力を維持した状態で航行していた。

 

地上においても、地球連邦にこれまでの屈辱を晴らさんと、ジオンの残存軍も各地で立ち上がりを見せていく。

 

中には早くも連邦管轄の施設に攻撃を仕掛ける残存軍も現れ、事態は事実上の第三次ネオジオン抗争の勃発に発展していった。

 

それはフロンタルの宣言から僅か数時間足らずの出来事であった。

 

この事実とレウルーラからの情報を見たジンネマンは憤りを感じながらガランシェールのブリッジ入り口の壁を叩いた。

 

「フロンタル……!!!やはりねらいは第三次ネオジオン抗争だったか!!!だが、それ以上にだっ!!!マリーダを置き去りにしやがった………!!!くぅぅっ!!!」

 

ジンネマンが、どうすることもできない事態に歯痒さと怒りを覚え歯軋りをする隣で、部下のフラストがジンネマンに問う。

 

「キャプテン……確か元々は蹂躙されるジオンの同胞を助ける名目でしたよね?」

 

「フラスト……あぁ……初めはそうだった。初めはな!!だが、今蓋を開ければこれだ!!!ネオジオンの民衆とて、極力平和を望んでいるのもいる!!!」

 

「こんなことは思いたくはないですが……まさか、フロンタル大佐は鼻からマリーダや他の兵士を利用視して………」

 

ジンネマンは想像にフロンタルを思い浮かべ、更なる怒りを覚えた。

 

「くそっっ!!!!それを思うと怒りが収まらん!!!フラスト、今日の荷の積み降ろしが終了し次第、パラオへ帰還する……我々の体勢もそこで整えるぞ!!!」

 

「了解しやした!!」

 

 

 

ダカール市街地での戦闘は引き続き継続され、ガンダムデスサイズの斬撃がジェガン3機を斬り裂き、ガンダムヘビーアームズは、巧みにビームガトリングの銃身を動かして狙い定めたジムⅢの機体群を連射撃で破砕させていく。

 

「兎に角、暴れまくってとっととヅラかろうぜ!!」

 

「残りおよそ90機……個々の戦力がとるに足らなかったな……」

 

デュオとトロワは、完全に自分達側へペースを引き込んだ形で攻め続けた。

 

その中で戦意を失っていたカトルのガンダムサンドロックは、集中放火を浴びながらゆっくりと立ち上がる。

 

「ふふふふ……連邦は……ロニを奪ったのか……なら、破壊し尽くすまでだよ!!!!」

 

だが、ロニを失ったと思い込んだカトルは、普段の優しくも強い性格が一変する。

 

ゆらりと立ち上がったガンダムサンドロックは、攻撃を受けながらゆっくりと歩き出す。

 

そして近づいたジムⅢやネモを手当たり次第に叩き斬っていく。

 

6機程叩き斬った後、ガンダムサンドロックは突如加速。

 

荒れ狂った剣捌きでジムⅢの機体群を破断させていく。

 

振るいかざしては豪快な斬撃を食らわせ、破壊の限りを尽くすガンダムサンドロック。

 

ネモ部隊は射撃を慣行するも、弾丸はガンダムサンドロックの装甲で砕け散り全く意味をなさない。

 

振り回される嵐のようなヒートショーテルの斬撃が襲いかかり、ネモ部隊は瞬く間に斬り刻まれ尽くされていった。

 

「あは!!あははははは!!!」

 

狂喜の嗤いをあげながら敵機を破壊するカトルは、最早普段のカトルではなかった。

 

それ程までにカトルにとってロニは特別な存在であったのだ。

 

哀しみと怒りが混ざるクロススラッシュが、2機のジェガンを叩き斬って爆発させた。

 

両端の爆炎に照らされながら、ガンダムサンドロックの片目が光った。

 

「もう……連邦もOZも皆殺しだよ……ははは……!!!」

 

 

メテオ・ブレイクス・ヘルの武力介入。

 

各地で断続的に起こるジオン残存軍の反連邦政府活動やその他のテロ組織の紛争。

 

そしてネオジオンの宣戦布告。

 

宇宙世紀の歴史は再び激震の時代を迎えつつあった。

 

それらの情報に目を通すトレーズは、巡り巡る歴史を傍観する。

 

(ネオジオンが宣戦布告したか……これで再び地球圏は激震の時代を迎える。また数多くの尊い犠牲が生まれていくであろう……歴史はまだ平和を拒むか。多くの犠牲の糧を欲しているかのようだ)

 

トレーズは、机の上に飾ってあった薔薇を手に取り、その香りを堪能して再び歴史に想いをはせる。

 

(彼らが大きく出たが、我々が優先して相手すべきは無論、あのガンダム達だ。彼らはこの時代には余りにも異質。だか故に純真な戦士達だ……特に私と剣を交えた彼はな……)

 

五飛との戦闘を振り替えるトレーズ。

 

その当の五飛は頑なにシェンロンガンダムのコックピットに居続けた。

 

ひたすら悔しみを噛み締め落ち続けていた。

 

「……俺は……戦う資格はない」

 

眠るシェンロンガンダムの周囲にはガンダムを守ろうとする反連邦ゲリラの陸戦ジムやザクのMSが周囲を固めている状態にあった。

 

その中の女性パイロットは無言でシートに座していた。

 

(ガンダムのパイロットは一体どこへ……それともずっと乗っているのか!?)

 

そう察した女性パイロットははシェンロンガンダムへと呼び掛けた。

 

「ガンダムのパイロット!!乗っているのなら我々の声に耳を傾けてほしい!!単刀直入に言う!!我々にその力を貸してほしい!!」

 

しばらく沈黙が続いたが、それまで閉じていたシェンロンガンダムのコックピットハッチが開き、五飛が姿を見せた。

 

女性パイロットは初めて見るGマイスターの五飛に釘付けとなる。

 

「あれがガンダムのパイロット……!!」

 

「ふん……弱い者達がよくも集まったものだ。無論、俺もだがな……」

 

五飛は、見渡す限りの陸戦ジムやザク等のMS達を見ながら悲観的に吐き捨てた。

 

そして五飛はメテオ・ブレイクス・ヘル以外の反抗勢力と初の邂逅を果す。

 

だが、五飛はこの邂逅で言葉を失う出来事に直面した。

 

「……!??」

 

「私はこの辺り一帯の反地球連邦ゲリラ・斗争(ドウジェン)のリーダー、楝李鈴(レン・リーリン)だ。日々連邦の圧制たる姿勢と闘っている……」

 

李鈴と名のる女性は五飛にとって運命を感じざるを得ない人であった。

 

(な……妹蘭(メイラン)!??っば、ばかな!??)

 

奇しくも李鈴は、今は亡き五飛の妻である妹蘭の生き写しとも呼べる女性であった。

 

かすかな風が吹く中、五飛はひたすら言葉を失い続けた。

 

 

 

とあるコロニーの広大な一室。

 

プラネタリウムとも言えるような巨大なスクリーンモニターを見つめるベットに寝たきりの老人と白髪の中高年の男がいた。

 

寝たきりの老人は静かに男に語りかけた。

 

「カーディアス……世界の情勢を見せてはくれんか……改めて確認をしたい……」

 

「はい……」

 

カーディアスという男は、モニターをニュースに切り替えた。

 

「つい先日にネオジオン残党は、連邦政府に対し宣戦布告をしました。既に世界や地球圏各地でジオン残党やネオジオン残党と連邦軍との戦闘が確認され始めています。今後の動向について……」

 

ニュースではネオジオンと連邦のMSが戦闘を展開させる映像が流れていた。

 

「宇宙世紀も後五年で百年を迎える。にも拘らず戦いは繰り返し繰り返されていく……このままでは世界はいずれ衰退の一途を辿ることとなる」

 

「はい……一年戦争を皮切りに始まった地球とコロニーの戦いは終わりを告げる事なく続いています。おっしゃる通り、人類は衰退していくことになります……」

 

「ラプラスの箱を……解放させなければならんな……その為の手筈を……」

 

「はい……現在、我がビスト財団が総力を持って準備を進めています。準備が整い次第、ラプラスプログラムを発動させます」

 

「うむ……かつて、ジオン・ダイクンが唱えたニュータイプ理論とヒイロ・ユイ、ピースクラフト王が唱えた完全平和主義。ラプラスの箱をよき方向に使えばこれらの主義の後押しになるだろう……」

 

「ですが……その反面、更なる混乱を招くかもしれません……ニュータイプを根絶させる計画と背中合わせの計画なのですから……」

 

「構わんよ……混乱の果てに可能性の希望を示めさせる……激しいまでの矛盾は覚悟の上だ……」

 

カーディアスは振り返って部屋を出ようとする。

 

その矢先に老人は引き留めるかのように言った。

 

「カーディアス……このサイアムを赦すか?」

 

「私以外、誰が貴方を赦すのです?」

 

カーディアスはそう答えると再び部屋を後にしようと歩き出した。

 

サイアムは瞳を閉じて、願うように呟いた。

 

「ラプラスの箱を託す者は……純真たる者でなければならない……いや、純真たるものでなければラプラスへの箱へ導けん……願わくばラプラスの鍵をその純真たる者に託したい……」

 

オルタンシアのプルの部屋では、航行しながら過ぎ去る波をプルが窓から見つめていた。

 

「……さっきの感じ……嫌な感じしかしなかった。マリーダやロニお姉ちゃんの身に何かあったのかも……」

 

プルは窓を開け、せめてもの気分転換に外の潮風を浴びる。

 

空と下に広がる青がプルの心を癒す。

 

同時にプル自身が今あるもどかしさを吹っ切ろうと言う思いに駆られた。

 

「あたし……何かやりたい!!もっと力になれるようなこと……!!アディンやみんなを直接助けれるようなこと!!今のままじゃいられなくなってきてる……!!」

 

プルは皆を支えたり癒したりする以外に自分の価値観を欲した。

 

その頃、オルタンシアのサルベージ物保管庫では驚くべき回収物にハワードが頭を抱えていた。

 

「はぁ~……こいつがさっきの場所で回収されたのか!?どーしたもんか……状態は!?」

 

「へい!!長い間海中にあった為、可動に不安点はあるっすけど、起動に関してはOKっすね!!一応動きます!!」

 

「そうか……お前さんはなんか知らんか?ネオジオンの関係者だったろ!?」

 

「恐らくは……極秘に計画されていたニュータイプ降下作戦の片鱗と思われます!ハマーンさんが地球降下する際に、別の場所で行われていた作戦でして。ですが大気圏降下後の事故で降下母艦ごと海に墜落したと聞いています」

 

「ふむ……できればプルには内緒にしておいてくれ……あの子までもが戦うのはなんか気が引ける」

 

「そうですか……わかりやした!」

 

ハワードは例え本人の意思とて、純真なプルに戦って貰いたくはなかった。

 

少年少女を戦いの場にこれ以上巻き込むべきではないと捉えていた。

 

「戦うのは……ヒイロ達だけでいいんじゃ……本来、戦いは男の仕事なんじゃからな」

 

 

 

翌日

 

オーストラリア・アデレート 地球連邦政府新本部

 

 

エイジャックスやジェスタ部隊、ジェガン部隊、エアリーズ部隊が哨戒する最中、地球連邦政府の緊急特別会議が前日より引き続きで執り行われていた。

 

会議には地球連邦議会議長であり、リディの実の父であるローナン・マーセナスや若き連邦高官であるケネス・スレッグ、更にはエイジャックスからブライト・ノアが出席する形となっていた。

 

会議が進められる中、突如会議場を巨大な音が襲った。

 

相染となる会議場。

 

ブライトやケネス、ローナンは直ぐに何か察しづいていた。

 

「遂に来たのか!?反乱分子のガンダムが……!!!」

 

「この攻撃音……彼らか!!?」

 

「やはり……こうなるか!!!」

 

連邦新本部の上空には、既に爆発したジェガン部隊の爆煙が拡がっていた。

 

その爆煙の先にはバードモードのウィングガンダムの姿があった。

 

ヒイロは上空を哨戒するMS部隊に接近すると共に、上部のレバーをスライドさせ、ウィングガンダムを変形させる。

 

変形しながら減速したウィングガンダムは、雄々しく翼を展開させ、突き出したバスターライフルの銃口からビーム渦流を撃ち放った。

 

 

 

ヴゥヴゥゥゥッ……ヴァグゴォァアアアアアア!!!

 

ドドゴゴゴババババァガァアアアアアアアア!!!

 

 

 

荒れ狂ったビームが、迎撃に向かうフライトユニットに搭乗したジェガン部隊を次々と呑み込み、連続爆発を発生させた。

 

モニター上に展開する青空のスクリーンを見つめるヒイロは、機体を加速させながら次なるターゲットへとバスターライフルを向ける。

 

「地球連邦政府・新本部破壊任務を開始……警戒網は流石に堅く張り巡らしているな……!!!」

 

ビームライフルを放ちながら向かい来るジェスタ部隊。

 

ウィングガンダムは銃口をターゲットへと移動させながらバスターライフルを撃ち飛ばす。

 

ジェスタ部隊の8機の内、4機が躱しきれず機体をかき消されていった。

 

だが、躱したはずの4機のジェスタ部隊の内2機が、掠めた時に受けたプラズマ渦流エネルギーで誘爆した。

 

ジェスタ2機はビームライフルをウィングガンダムの胸部めがけ集中して撃ち込む。

 

直撃面で爆発を起こし、体勢を崩されるウィングガンダム。

 

マイナーチューンにより、ジェスタのビームライフルの威力は上昇していた。

 

だが、体勢を崩されながらもヒイロは2機をロック・オンし、バスターライフルを低出力で撃ち飛ばす。

 

低出力といえど、ビームマグナムと同威力。

 

ジェスタ2機は機体を容易く撃ち砕かれて空に吹き飛んだ。

 

哨戒飛行中のジェガン部隊が旋回飛行しながら、展開する全戦力に通達する。

 

「各機に継ぐ!!メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムが現れた!!総力を持ってこれを撃破せよ!!繰り返す!!メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムがあら……がっ!??」

 

通達を発信するジェガンに高出力のビームが撃ち込まれ、機体が破砕された。

 

「た、隊長!!?くっ!!新手かぁ!??」

 

「今日はいつも以上にキメさせてもらうぜ!!連邦新本部をぶっ潰す!!!」

 

いつも以上に気合を入れ、鋭い目差しをコックピットモニターに突きつけるアディン。

 

ロック・オンしたジェガン部隊目掛け、アクセラレートライフルをチャージショットで撃ち込み、その後連続でビーム撃ち込む。

 

ガンダムジェミナス01が放つビーム渦流がジェガン部隊に襲いかかる。

 

ドゥドヴァアアアアッッ!!! ドァアッッ、ドァアッッ、ドゥバァアアッ、ドダァガァアアアア!!!

 

ヴァズズズズグゥアアアアアア!!! ドゴォバッ、ドゴォバッ、ズダァシャ、ゴゴゴバガァアアアア!!!

 

チャージショットのビーム渦流が4機のジェガンを破砕させ、個々に3機のジェガンを墜とし、再び放ったチャージショットで4機のジェガンを破壊した。

 

その中を駆け抜けるガンダムジェミナス01はアクセラレートライフルを納めてジェスタ部隊に飛び込んでいく。

 

そして個々に集中するビームライフルの攻撃を防御しながらビームソードを取り出し、十字の斬撃を食らわせた。

 

斬撃を受けた1機のジェスタが爆砕四散。

 

そこから個々のジェスタに取り付くようにして、ビームソードの斬撃を食らわせていく。

 

斬り飛ばされたジェスタ部隊の残骸が、ガンダムジェミナス01の背後で連続で爆発を巻き起こす。

 

「流石に敵の数が多いな……けど、この程度どうってことないさ!!」

 

ガンダムの攻撃を受け、ロンドベル艦隊がいよいよMS隊を発進させる。

 

オペレーターが報告を叫ぶなか、不在のブライトに代わって副艦長が出撃命令を下す。

 

「メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムの攻撃を受け、哨戒中のMS部隊が多数撃墜されています!!」

 

「MS部隊はいつでも出せます!!」

 

「くっ……では我々も攻撃に移る!!全艦、MS部隊出撃せよ!!OZのMS隊にも同命令を出す!!」

 

エイジャックスやクラップ級艦隊から飛び立っていくジェスタ部隊とリゼル部隊。

 

OZのエアリーズ部隊も出撃していく。

 

その時クラップ級のカタパルトに一つのビーム渦流が撃ち込まれた。

 

 

 

ヴァズゥダァアアアアアアッッ!!!

 

ドッ……ヴァゴォガギャァアアアアアア……ドドッドドドドゴバガッドドォ……ズズゴゴゴゴバババァ!!!

 

 

ビーム渦流は出撃するリゼル部隊やエアリーズ部隊を砕き散らし、内部のMSドックを抉るように破砕させ艦を貫いた。

 

クラップ級は内外部からの誘爆を発生させながらアデレートの市街地へと墜落する。

 

そのビーム渦流を放ったのはガンダムジェミナス02であった。

 

エイジャックスのブリッジでオペレーターがその報告を促す。

 

「僚艦のクラップ轟沈!!3機目のガンダムです!!」

 

エイジャックス副艦長は眉をひそめながらエイジャックス側のMS部隊にガンダムジェミナス02への攻撃命令を出した。

 

「リゼル部隊!!攻撃を集中させよ!!」

 

ガンダムジェミナス02は今回の出撃から高機動レッグユニットを装備させていた。

 

「任務の弊害となるモノは破砕させていく……!!!」

 

オデルは機動力を向上させたガンダムジェミナス02を上昇させ、リゼル部隊の攻撃を躱す。

 

躍動する機体のレスポンスはこれまでのワンランク上を行っていた。

 

アクセラレートライフルを構えたガンダムジェミナス02は、ロックしたリゼル4機を個々に撃ち飛ばし、機体を瞬発的に旋回させる。

 

上方から回り込まれたリゼル部隊は、幾つも撃ち注がれるアクセラレートライフルのビームにより、瞬く間に7機が破砕された。

 

エアリーズ部隊が援軍に回るも、チャージショットの一撃で4機がまとめて破砕された。

 

そして撃ち漏らした3機をアクセラレートライフルの銃口が追い、個々にビームを撃ち注いで撃破した。

 

アクセラレートライフルを構え直し、ガンダムジェミナス02は次なるターゲットへと加速をかけた。

 

避難するために外へ出たブライトは、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達を目の当たりにし、驚異を覚えるしかなかった。

 

「あれが……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムなのか……!!!!聞きはしていたが、なんと言う性能だ……ガンダムに恐怖すら感じる!!!」

 

ブライトの口からその言葉を聞いたケネスが興味深げに言葉を交わした。

 

「ガンダムに恐怖ですか……歴代ガンダムの母艦の艦長を務めた貴方の口からそのような言葉が出るとは……失礼、私はケネス・スレッグ中佐です」

 

「名乗らずとも知っているようだな……自分の星回りは認めるが……あのようなガンダムを自分は見たことがない……明らかに異質だ」

 

「異質……確かに……味方であり、象徴たるガンダムに攻撃を受け恐怖するのですからね……」

 

「いや、意味は別にある。少なくとも私の知っているガンダムはもっと正当たる機体だった。彼らのガンダムの性は良くも悪くもデタラメだ……」

 

その時、バスターライフルのビーム渦流が再び空をはしり、リゼル部隊、エアリーズ部隊を呑み込む。

 

連続爆発を巻き起こしながら、更にビーム渦流の先端は地球連邦新本部ビルを霞め、プラズマエネルギーでビルを小破させた。

 

「確かに……ブライト大佐の仰る通り……デタラメですね……!!!」

 

避難中に居合わせた二人が会話する中、ローナンも上空で展開するウィングガンダムを見上げていた。

 

「あれが……例のガンダム……」

 

迫り来るエアリーズの攻撃を、シールドで防御しながら再びバスターライフルの銃身を突き出してビーム渦流を撃ち放つウィングガンダムの姿がローナンの目に焼き付いた。

 

その時、地上に向けたビームがビルを破壊する。

 

所属不明のMS部隊の攻撃によるもので、彼らもまた、ジェガンやジェスタ同様フライトユニットに登場したMSであった。

 

ギラドーガのカスタムメイドの機体達は連邦関連のビルや車両へと攻撃を加えていく。

 

エイジャックスのオペレーターが更に変わった事態を報告する。

 

「ガンダム以外の別勢力がアデレートへの攻撃を開始しました!!反連邦ゲリラと思われます!!」

 

「次々と楯突く者達が集まりだしたか……!!」

 

「トールギス、ユニコーン、オーバーエアリーズ、発艦します!!」

 

左右のカタパルトデッキからゼクス達が発進。

 

トールギス、ユニコーン、オーバーエアリーズが順にエイジャックスから飛び出し、編隊を作って平行加速していく。

 

この時、ミスズは自ら反連邦ゲリラを叩きに向かう。

 

「ゼクス、私は先に反連邦ゲリラを叩く!!それからあの蒼いガンダムに当たる!!ゼクスとリディ少佐は……言うまでもあるまい……」

 

「了解した……だが、ミスズ」

 

「なんだ?」

 

「無茶はするな。相手は彼らのガンダムだからな。死んでもらっては今後の私に支障をきたすかもしれん」

 

ゼクスは遠回しにミスズへの本心の気遣いをした。

 

「ふっ……素直なような……そうではないような言い回しだな……」

 

ミスズは鼻で笑いつつもどこか嬉しげに言って見せた。

 

「ふっ……どうとるかは任せる。現れたガンダムは、我々が元より相手にすべきガンダムだ……では、行かせてもらう!!!」

 

ゼクスはトールギスの機体を加速させ、ウィングガンダムを目指す。

 

リディは、二人の会話に自分の場合を重ねながらモニターの視界にガンダムジェミナス01を捉え、機体を加速させた。

 

「いい二人だな……俺もミヒロに会ってやれていないな……だが、今は目先にいるガンダムを叩く!!!」

 

ユニコーンは真っ先にガンダムジェミナス01を目指しカスタムギラドーガの機体群を突っ切る。

 

カスタムギラドーガ達は、直ぐにユニコーンへ銃口を向けた。

 

だが、次の瞬間にオーバーエアリーズのビームライフルが2機のカスタムギラドーガを撃墜する。

 

カスタムギラドーガ達は一斉にオーバーエアリーズへ射撃を開始する。

 

ミスズが操るオーバーエアリーズは、それらの攻撃を寄せ付けることなく高機動力で躱す。

 

「オーバーエアリーズの機動力を侮るなよ……反乱分子!!!」

 

ロックしたカスタムギラドーガを撃ち漏らすことなくビームライフルで射貫いていくオーバーエアリーズ。

 

ビームサーベルを手にして更に加速をかけ、個々の機体を斬撃して撃破させた。

 

「私の手に掛かれば……弱小なものだ……!!!」

 

オーバーエアリーズはミスズの戦意に連動するように、振り返りながらビームライフルで2機のカスタムギラドーガを破壊。

 

瞬発的な加速をかけてもう1機をビームサーベルの串刺しにして撃破させた。

 

一方、ヒイロは地球連邦新本部のビルをモニターでロック・オンしていた。

 

ロック・オンカーソルは確実に新本部を捉えている。

 

「ターゲット……ロック・オン」

 

そこへアディンも加わり、サイドモニター画面にアクセラレートライフルをかざすガンダムジェミナス01の姿が映る。

 

「俺にも撃たせてくれ……ヒイロ。ここが今の連邦なら、俺にも撃つ資格がある……散ったMO-5のみんなの為にも!!!兄さんも俺に託して敵機の撃破に回ってくれてるしな……」

 

いつになく真剣なアディンの意思を感じたヒイロは共に銃口を新本部へと向けた。

 

「アディン……いいだろう……新本部を破壊するついでに脱出シャトルも破壊する」

 

「オーライ……!!!」

 

ウィングガンダムのバスターライフルとガンダムジェミナス01のアクセラレートライフルの銃口にエネルギーが充填されていく。

 

だがその時、急接近する熱源アラームがコックピットに響いた。

 

「!!?」

 

2機に襲い来る二つの高出力のビーム。

 

瞬発的な動きでこれを躱すウィングガンダムとガンダムジェミナス01。

 

ヒイロとアディンはモニターにビームを放った主を捉える。

 

「トールギス!!!」

 

「角ヤロー……!!!」

 

トールギスとユニコーンは、並列しながらドーバーガンとビームマグナムを構え直し、チャージショットを2機のガンダムに見舞う。

 

更に迫り来るビームにウィングガンダムはバスターライフルを、ガンダムジェミナス01はアクセラレートライフルのチャージショットを放つ。

 

高出力ビーム同士が干渉し合い、アデレートに衝撃波を伴った爆発が巻き起こった。

 

結果的にその爆発の衝撃波で地球連邦新本部のビルは崩壊の一途を辿っていき、粉塵を撒き散らして地に沈んでいった。

 

それに構うことなく、ウィングガンダムとトールギス、ガンダムジェミナス01とユニコーンは刃に武装を切り替えて激突した。

 

「ゼクス・マーキス……!!!このアデレートで決着を着ける!!!」

 

「ガンダムのパイロット……!!!私も同意見だ!!!存分にプライドをぶつけてこい!!!」

 

激突したビームサーベル同士がギリギリと拮抗し合いながらスパークを撒き散らし、弾き合うと幾度もビームサーベルをぶつけ合わせる。

 

ビームサーベル同士のスパークが断続して響く中、ゼクスはヒイロに確認を促す。

 

その確認とは戦士たるに当然の事であった。

 

「改めて確認する!!私はOZのゼクス・マーキス!!貴様の名は!??」

 

「俺に名など無い。あるのはコードネーム『ヒイロ・ユイ』だ!!!」

 

「ヒイロ・ユイ!??かつてのコロニー指導者と同じ名か!??」

 

「ただ与えられたに過ぎないがな!!!」

 

再び重い斬撃ぶつけ合って拮抗させるパワーとパワーに、両者のライトアームが小刻みに震える。

 

「角ヤロー!!!」

 

「反逆のガンダムゥ!!!」

 

ガンダムジェミナス01とユニコーンは幾度もビームサーベルをぶつけ合った後に、重い斬撃をぶつけて拮抗し合った。

 

「確かに……俺達は屈指の反逆者さ……住んでたMO-5を破壊されちゃ反逆するに決まってんだろ、角ヤロー!!!」

 

更にパワーを押し込むアディン。

 

リディも己の言い分を持って反撃する。

 

「くっ……聞いていれば角ヤローとばかり……コイツにはユニコーンの名がある!!!それに……元より得体の知れない新兵器の開発に着手していればこちらも手を打つさ!!!」

 

「なんだと!??こんのぉおおおお!!!」

 

アディンの怒りの感情が爆発し、ビームサーベルを捌き飛ばして再びビームソードを打ち込む。

 

それに激突させるようにユニコーンのビームサーベルが斬り上げられた。

 

一層激しくなるガンダムジェミナス01とユニコーンの激突。

 

遠方から見れば、アデレートの上空で四つの閃光が激突し合うように見える。

 

ジェガン部隊に射撃をかけて連続で撃破を慣行するガンダムジェミナス02へ、ミスズのオーバーエアリーズが迫る。

 

「はぁああああっ!!!」

 

ミスズの戦意と共にビームサーベルの斬撃がガンダムジェミナス02に振るいかざされた。

 

ビームサーベルはシールドで受け止められる。

 

「くっ!!エアリーズが頭に乗るな!!!」

 

オデルはパワーで勝る特性を活かし、ビームサーベルをはね除けてアクセラレートライフルを見舞う。

 

「くあああああぁぁ!!!」

 

ヘッドユニットを撃ち飛ばされたオーバーエアリーズは吹き飛ばされたままビルに突っ込み、崩壊したビルと共に崩れ倒れていった。

 

ウィングガンダムと一騎討ちする最中に、ゼクスはミスズの安否に気を取られてしまう。

 

「オーバーエアリーズがロスト!??ミスズ!??」

 

ゼクスの感情に影響され、一瞬制止するトールギス。

 

その時、ウィングガンダムの唸るビームサーベルの斬撃がトールギスのレフトアームに目掛けて迫る。

 

間一髪の所でシールド防御するトールギス。

 

「くっ!!!私としたことがっ!!!ならばっ!!!」

 

ゼクスはシールドの丸みの部分でビームサーベルを滑らせるように捌き、横薙ぎの斬撃をウィングガンダムへ食らわせた。

 

「がっっ!!!」

 

「おおおおおお!!!」

 

ゼクスは直ぐ様気迫を取り戻し、ウィングガンダムへ十字斬撃を素早く食らわせる。

 

「ぐっぅぅっっ!!!」

 

斬撃を食らって吹っ飛ぶウィングガンダムを見るゼクス。

 

優勢にはなったが、感じる斬撃感は相変わらずの硬さを覚える。

 

「やはり、硬い!!!これ以上は斬れんか!??」

 

加速をかけて攻め混むトールギスは、ビームサーベルの唐竹斬撃を打ち下ろす。

 

対し、ウィングガンダムは体勢を整え、その斬撃を躱して見せた。

 

そして今度はウィングガンダムがトールギスの上をとり、斬撃を撃ち下ろす。

 

ウィングバインダーの加速もかかり、威力は更に上がる。

 

トールギスは斬り上げてその斬撃にビームサーベルを打ち込む。

 

重く拮抗し合う両者の斬撃。

 

互いに捌き合うと、二、三撃の袈裟斬りを打ち合い、間合いをとる為に2機はその場を離脱する。

 

ウィングバインダーとブースターバーニアの加速を掛け合い、ウィングガンダムとトールギスは、アーチを描くかのような軌道で激突し合った。

 

斬り払らいの斬撃同士が高速で衝突し合ってアデレートの空を駆ける。

 

一方のガンダムジェミナス01とユニコーンの激突は拮抗に拮抗を重ね続けていた。

 

何度も打ち合う斬撃が上空から地上へと移っていく。

 

時折危うい斬撃をユニコーンはIフィールドシールドで防御してみせる。

 

そして捌いては斬撃が重なり合う。

 

「せやぁああああっっ!!!」

 

「づあああっっ!!!」

 

拮抗するパワーに両者の足はアスファルトにめり込んだ。

 

「ユニコーンとはここで絶対に決着着けてやるぜっっ!!!俺はっっ……キメる!!!!」

 

ガンダムジェミナス01の強力なビームソードの薙ぎが打ち込まれ、ユニコーンはビームサーベルで受け止める。

 

「ほざけぇえええっっ!!!」

 

再びビームソードを捌いたユニコーンは、袈裟斬りをガンダムジェミナス01へ打ち込んだ。

 

「がぁああああっ!!!っっのぉやらぁあああ!!!」

 

「はぁあああっっ!!!」

 

4機のMSが激突し合う頃、遂にメテオ・ブレイクス・ヘルの本部の所在が明かになり、ECHOESとOZ宇宙軍が連携をして攻め混んでいた。

 

「遂にここも見つかっちまったのかよぉ!!?」

 

「冗談じゃねー!!!今頃Gマイスター達が闘っているってのによぉ……がぁああっ―――!!!」

 

「お、おいっ―――ぐがっ!!!」

 

メテオ・ブレイクス・ヘル側は、ネモやジムⅢで抵抗をし続けるが、ECHOES仕様のジェガン部隊のバズーカやリーオーのビームバズーカの攻撃を受け、悉く破壊されていく。

 

ECHOES仕様ジェガンやOZのリーオー各機は、容赦無き攻撃を加えて反抗するメテオ・ブレイクス・ヘルのMS達を破壊し尽くす。

 

同時刻、ECHOESが逆探知したメテオ・ブレイクス・ヘルの各潜伏場所にECHOESの特殊部隊が入り、マシンガンで次々とメテオ・ブレイクス・ヘルのメンバーを銃殺していく。

 

「がぁああっ!?」

 

「ぐぐぐげべっ……!!!」

 

「いやぁあああううううぐふっ!!」

 

男女問わず無情の排除を慣行。

 

またある連邦軍基地では、素性がバレて逃亡を測るエージェントの姿があった。

 

「はっはっはっはっ……くっ……」

 

逃亡をするエージェントに連邦軍兵士達が先回りし、一斉銃撃を行う。

 

「しまっ……ががががぐぐはぁ!!!」

 

エージェントの男は一瞬で銃殺され、哀しく床に斃れ込んだ。

 

そして、各地の至る場所において、メテオ・ブレイクス・ヘル自体がこのような状況に見舞われていた。

 

モニターに映る各地の悲惨な状況を見ながらドクターJは、悟りきったかのように吐き漏らした。

 

「やれやれ……そうだと思っとったわい……」

 

ドクターJの目の前には、ドクターペルゲがECHOESの隊員と共に銃口を構えていた。

 

「くくく……時代は変わる……この宇宙世紀に更なる変革が必要だ。だから私はECHOESと結託し一度綺麗に掃除をしたのだ。我々の技術も提供してな!!!!」

 

「なぜ裏切った!??ワシらは同じ志だったはず……!!」

 

「私は自分の才能が利用されれば、提供できればそれでいい……無論、あんた達も利用法はあるからな!!殺しはせんさ……」

 

「ならばっ、他の若いやつを見逃せ!!!何故巻き込む!??」

 

「なぁに……若い犠牲もあれば面白いからだ……変革には痛みが必要!!!メテオ・ブレイクス・ヘルだったものは私の手で有効に利用する!!!」

 

 

 

その頃、カーディアスはラプラスプログラムを発動させる準備の最終段階に入っていた。

 

立ち上げているディスプレイモニターを操作しながら

カーディアスの秘書兼ボディーガードの男、ガエルに問いかける。

 

「ガエル……この行為……どういう事態を招くと予想する……」

 

「カーディアス様……自分は想像を越える事態を予想します……予想はできません」

 

「そうか……私は今の世界情勢に対し、火に油となることを予想する。更なる犠牲が増えるとな……」

 

カーディアスはラプラスプログラムの発動に対し、複雑な気持ちを抱いていた。

 

「更なる……犠牲……」

 

「あぁ……一度暴れ馬を覚醒させれば……それは危険極まりない殺戮マシーンと化す。特にニュータイプ的な因子に対してな……無論、敵と認識すればそれまでだがな……」

 

カーディアスはプログラムの最終段階の作業を進め続ける。

 

「では……暴れ馬を沈める方法は無いと?」

 

「いや、そこが際どい所だ……沈める方法は純真なニュータイプが暴れ馬を沈める事……そうすることで初めてラプラスの箱への道が開いていく……だが、それまでは……暴れさせるしかない。プログラム発動後、ユニコーンガンダムはこれから激化する宇宙に配備するよう手筈を頼む」

 

「は!!」

 

カーディアスはガエルにそう指示すると、最後の操作をし、ラプラスプログラムを発動正規に発動させた。

 

同時刻、ガンダムジェミナス01かと激突していたユニコーンに異変が生じ始めた。

 

機体の至る箇所の溝の隙間が紅く発光を開始し始めたのだ。

 

アディンはただならぬ何かを感じとり、直ぐにヤバイモノと察した。

 

「な!??機体が光り始めた!??なんか……ヤバ気だな!!!」

 

アディンは直ぐに間合いを置くために離脱した。

 

そして、機体とパイロットの両者にそれは起こった。

 

「な!??機体のコントロー……がっ!??な、なんだ!??なんなんだ!??」

 

リディは訳が解らぬまま変形を開始するコックピットに身を委ねるしかなかった。

 

「がぁああっ!!?な、なん……がっ?!?」

 

突如リディを襲う苦痛。

 

薄れる意識の中でリディが見たのは、立ち上がったディスプレイに浮かんだ「NT-D」の文字であった。

 

同時にユニコーンは、腕、脚部、胸部を変形させ、内部に仕込まれたサイコフレームを露にさせていく。

 

そして、頭部が変形を開始。

 

瞬く間にガンダムフェイスに変形した。

 

アディンは戦慄した。

 

「が、ガンダム……!??こいつ、ガンダムだったのか!??」

 

ユニコーンもとい、ユニコーンガンダムはこれまでとは桁違いのスピードでガンダムジェミナス01に攻め入る。

 

「な!??がぁああっ!??」

 

瞬時にビームサーベルの食らわせるユニコーンガンダム。

 

シールドでガードするも、格段に上がったパワーにガンダムジェミナス01は吹っ飛ばされてしまう。

 

が、その吹っ飛ぶ背後には既にユニコーンガンダムがいた。

 

豪快な斬撃を背部に受け、更に吹っ飛ぶガンダムジェミナス01。

 

ユニコーンガンダムは更に追従し、斬り伏せながら蹴りを浴びせてガンダムジェミナス01を吹っ飛ばした。

 

「ぐがっ……なんなんだよ……ぐがぁああっ!!!」

 

ユニコーンガンダムは縦横無尽に斬撃を浴びせ、完膚なきまでにガンダムジェミナス01を玩ぶかのように傷め続ける。

 

そして蹴り上げたところで、ビームサーベルの強烈な斬撃を叩きのめし、ガンダムジェミナス01をアスファルトにめり込ませた。

 

アディンは既に気を失い、意識は完全に遠退いていた。

 

ユニコーンガンダムは尚も踏み砕こうと攻撃を加え続ける。

 

その中で、Gマイスターは勿論の事、地球圏にドクターJからの通信が配信された。

 

「Gマイスターと地球圏全域の者達に次ぐ……今我々、メテオ・ブレイクス・ヘルは……同胞の裏切りと連邦とOZにより各地の拠点が制圧され、事実上の壊滅を迎えた。よってここに敗北を宣言する!!!繰り返す!!!!敗北を宣言する!!!!」

 

世界に配信されたこの放送は 大衆の誰もが大いに喜んだ。

 

大衆はメテオ・ブレイクス・ヘルはコロニーや主要都市を破壊した集団と認識している為だ。

 

静に歯軋りするヒイロ。

 

悔しげに壁を叩くデュオ。

 

その隣で腕を組んだまま淡々と悟るトロワ。

 

落胆するカトル。

 

斗争の野戦キャンプで静に悟る五飛。

 

レバーを握ったまま屈辱に耐えるオデル。

 

Gマイスター達が様々な想いで敗北に投じる中で、ドクターJは最後の任務を言い渡した。

 

「コロニーや主要都市を破壊した事は濡れ衣じゃ……信じるか信じないかは大衆次第じゃ……さて、Gマイスター諸君のガンダムにPXシステムを解放させておいた……使い道は任せる……そして最後の任務……ガンダムは渡すな……」

 

配信は切れ、暫く沈黙が流れた。

 

ウィングガンダムも動かない。

 

ゼクスはヒイロ達の立場を悟るしかなかった。

 

「動けんか……こうなっては……む!??」

 

だが、ゼクスの予想を越え、ウィングガンダムは斬撃を繰り出した。

 

ゼクスは斬撃を受け止めながらヒイロに吐き叫ぶ。

 

「戦えんだろう?!?貴様達は!!!」

 

「決着は着いていない!!!」

 

「あくまで戦う……否、闘うか……!!!よかろう!!!それでこそ戦士の在り方だ!!!」

 

ウィングガンダムとトールギスは激突を再開させた。

 

プライドを賭した斬撃をぶつけ合い、拮抗させる。

 

ヒイロは闘う姿勢を一切捨てていなかった。

 

一方、アディンは朧気な意識の中でプルの幻を見る。

 

 

 

「アディン……待ってるからね……」

 

 

 

「う……プ……プル……っっ、プル!!!」

 

アディンはプルの名を叫びながら意識を取り戻す。

 

「俺……気を失ってたのかよ……へへっ、サンキュー!!プル!!」

 

そしてコックピットのディスプレイに「PX-SYSTEM STANDBY」の文字が表示されていた事に気づく。

 

「PX……ってことは事態はかなりヤバイって訳か……組織的な危機にさらされたら開くブラックボックスのシステムだからな……けど、やってやるぜ!!!PXオーバードライブ!!!」

 

アディンはPXを発動。

 

アディンにヘッドユニット・ディスプレイがスライドして装着される。

 

ガンダムジェミナス01は真上に超高速で上昇し、青白く発光しながらNT-Dに引けをとらない速度でユニコーンガンダムに斬り掛かった。

 

両者の超高速の斬撃が激突し合う。

 

そして、青と紅の光りの軌道を描きながら弾き合うかのように激突を開始した。

 

目まぐるしく戦闘の次元が変わる。

 

ガンダムジェミナス01とユニコーンガンダムは斬撃を超高速で重ね、拮抗しては弾き合い、薙ぎの斬撃を激突させ激しいまでのスパークを撒き散らす。

 

「今の俺ならやれる!!!ユニコーンガンダム!!!!一気に叩いてやるぜっっ!!!」

 

スパークが一瞬打ち消され、再び超高速の斬撃をぶつけ合い始めた。

 

そこから2機は互角のスピードで上昇し、上空で激しく激突を繰り返す。

 

ウィングガンダムとトールギスもまた激しく激突し合う。

 

「おおおおおお!!!」

 

「ヒイロ・ユイ!!今一度問う!!!貴様は我々との戦いに負けた!!何故に闘う!??」

 

「戦い続ける事が俺の存在意義だからだっ!!!」

 

「ふっ……正に戦士だ!!!はぁあああ!!!」

 

ビームサーベルを打ち下ろすトールギス。

 

ウィングガンダムがそれを斬り上げようとビームサーベルを激突させる。

 

そこから弾き合い、大きく間合いを取り合った。

 

アデレートの空で静止する2機は、ビームサーベルをかざしながら加速を開始する間を見計らう。

 

そして、ヒイロとゼクスは眼光と眼光を見えるはずのないコックピット越しにぶつけ合う。

 

二人の間が重なった瞬間、2機は加速する。

 

高速ですれ違う2機の斬撃は再び激突し合い、双方を斬ることはなかった。

 

ウィングガンダムとトールギスの2機はターンして再度激突しようと加速した。

 

だが、トールギスにウィングガンダムが迫ろうとした矢先、突如ウィングガンダムの左右から電磁プラズマエネルギーが襲いかかった。

 

「―――?!?」

 

ヒイロとゼクスは何が起きたのか把握出来なかった。

 

ウィングガンダムの機体のあらゆる箇所に電磁エネルギーが浸食。

 

ヒイロ自身にも電撃のダメージが及ぶ。

 

「がぁああっあああああ!!!!」

 

ヒイロの苦痛の叫びの中で、ウィングガンダムは機体の機能を停止させ落下。

 

ビルに背を持たれるような形で静止した。

 

「メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを捕獲!!OZのゼクス特佐ですね!?捕獲エリアへの誘導感謝します!!」

 

ゼクスの空気を読まないジェガン部隊がウィングガンダムを取り囲む。

 

ゼクスはこれまでに無い憤りを感じ、怒りを露にして吐き飛ばした。

 

「貴様達は……!!!!これはどういう事だっっっ!??!」

 

「ゼクス特佐!??」

 

「不粋な真似をしてくれる!!!!目障りだ!!!!去れ!!!!」

 

「し、しかし……」

 

「今の私ならば貴君らを撃ち兼ねんぞ!??OZであることを忘れるな!!!!」

 

「は、は!!!!」

 

ゼクスの騎士道のプライドたる威圧でジェガン部隊はその場を後にした。

 

「く……!!!!連邦め!!!!」

 

一方のガンダムジェミナスとユニコーンガンダムの激突も両者のシステム解除し、決着を着ける事なく終了した。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っく……手強いぜ、ユニコーンガンダム!!!」

 

激しく激突し合っていた2機は互いに立ち膝常態で静止したままで今回の対決の幕を閉じた。

 

そして機能を停止させたウィングガンダムのコックピットハッチが開き、中からヒイロが姿を見せた。

 

ゼクスはヒイロが少年であることに驚愕した。

 

「少年!??あの少年がヒイロ・ユイだと言うのか!??あの少年が……!!!」

 

驚愕するゼクスを他所にヒイロは最後の任務を覚悟しての行動に踏み切ろうとしていた。

 

「組織は壊滅し、このままではガンダムも鹵獲される……ガンダムは渡さない……任務を実効する!!!!」

 

ヒイロがかざした手に持つもの……それは自爆装置のスイッチであった。

 

ヒイロは瞳を閉じながら暫くマリーダを思い浮かべ続けた。

 

「さよなら……マリーダ……!!!!」

 

マリーダへの想いを賭して遂にヒイロは自爆を決行した。

 

スイッチを押すと共に、ウィングガンダムの各部が紅く発光を開始し始めた。

 

そしてGNDドライブを核にしてウィングガンダムの自爆装置が解放。

 

ウィングガンダムは全エネルギーを破裂させるかのように爆発した。

 

まさに自爆。

 

直に吹き飛ばされたヒイロは、アデレートの道路に叩きつけられて転がる。

 

ヒイロは瞳孔を開いたまま動く気配もなく、仰向けのままで居続けた。

 

この感覚を察したマリーダは、オーガスタ研究所の収監室で激痛にも似た苦痛に見舞われる。

 

「あっ……くはっっっ……ああうっっ……かはぁっあああ……あああああああっっ!!!!ああああああああああ―――!!!!」

 

マリーダの悲痛な叫び声がオーガスタ研究所に哀しく木霊する。

 

流転する二人の運命は、確実に狂う方向へと動き出した。

 

 

 

 

To Be Next Episode






次回予告


始まる第三次ネオジオン抗争。

Ξガンダムの出現。

発動されたラプラスプログラム。

拉致されたマリーダとロニ。

崩壊するメテオ・ブレイクス・ヘル。

そして自爆したヒイロ。

戦士達の運命の歯車は、流転する情勢の中で静に狂い始める。

だが、戦士達は立ち止まりながらも狂い始める歯車に逆らうように闘う姿勢を止めなかった……。

次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

エピソード16「流転する混迷」

任務……了解……!!!


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エピソード16「流転する混迷」

新機動闘争記ガンダムW LIBERTY の読者の皆様、

誠に勝手ながら諸事情によりストップさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。

今後は不定期(投稿間隔が早い時と遅い時があるという意味で)の連載ではありますが、改めてよろしくお願い致します。

それでは長らくお待たせ致しました!!




ヒイロの自爆。

 

それは間近にいた者達へあらゆる意味合いの衝撃を与えた。

 

間近にそれを目撃したゼクスは、好敵手との望まぬ結果に憤りを重ねに重ねる。

 

「くっ……!!!自爆しただと!??我々の決着を着けるのではなかったのか!??ヒイロ・ユイ!!!!」

 

ゼクスにも、自爆した経緯は解っていた。

 

組織的にヒイロ達は敗北した。

 

それ故の覚悟をヒイロは受け入れたのだと言うことを。

 

だが、連邦の不粋な真似に望まぬ結末が重なり、騎士道精神に長く浸かっていたゼクスにとって屈辱の極みであった。

 

「自爆した……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムはここまでやるのか!??」

 

初めて垣間見たガンダムの自爆に、長年ガンダムに携わったブライトは衝撃を受けていた。

 

敵とはいえ、機体の顔は紛れもなくガンダム。

 

衝撃を受けないのは無理があった。

 

その隣でケネスは自爆したヒイロの姿勢に不思議なまでに感心の感覚を覚えていた。

 

(敗北したが故の自爆なのか……!!?敵ながら見事な姿勢と覚悟だ……少なくとも連邦にもああもやれるやつはいない!!!)

 

「……時代と我々連邦組織に歯向かった者の末路とでもいうのか……?!?」

 

ローナン議長は哀れなと言わんばかりの視線で自爆したウィングガンダムを見つめていた。

 

一方、まだウィングガンダムの自爆を知らないアディンは、元に戻ったユニコーンガンダムとアデレートの広大な道路で対峙していた。

 

アディンとリディは、息を切らせながらモニター上で互いの姿を睨み合う。

 

その最中、リディのコックピットに入り込んだ通信が響く。

 

それは、メテオ・ブレイクス・ヘルの敗北と、ガンダム自爆の情報を伝えるものであった。

 

「ガガ……ガガッガ……メテオ・ブレイクス・ヘル、敗北を宣言!!奴らのガンダムの1機も自爆した模様!!」

 

「ガガ……ガガッ……自爆したガンダムのパイロットの生存は……極めて困難と見られる!!だが、砕けた残骸は貴重な応酬だ!!近辺の者はこれを回収されたし!!」

 

対峙するリディは、聞いた通信の内容からアディンに対し通信を入れざるをえなかった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っっうっ……ガンダムのパイロット……貴様達は事実上の敗北をしたわけだが……貴様も自爆する気か!??」

 

リディのその言葉にアディンは耳を疑った。

 

「な……なんだと!??敗北!!?自爆!!?どういう事だ!??」

 

「敗北はともかく……自爆はこっちが聞きたい……!!!」

 

「くっ!!!」

 

アディンは急いで現状の把握をしようとサイドモニターパネルを操作した。

 

表示される情報には、敗北たる事実の情報、現在の情勢、メテオ・ブレイクス・ヘルの拠点へのアクセスエラー等が表示される。

 

「くそ!!どーなってやがんだ!??組織にアクセスできねー!!!」

 

「解ったか?貴様達は事実上敗北したと言った……貴様達の組織は既に我々の特殊部隊とOZによって壊滅に追いやられた……くそもどうもない……」

 

リディは目を閉じながら諭すかのような口調でアディンに言った。

 

敗北を認めないアディンは、無言でディスプレイを素早く苛立ち任せに操作する。

 

「っっ……!!!」

 

「……お前の仲間は自爆して散った……せめて亡骸を迎えにいったらどうだ?」

 

リディは敵であるはずのアディンにヒイロを助けに行くように言う。

 

ゼクスに感化され、騎士道精神を備えつつある表れであった。

 

「お前に言われるまでもない!!!いや、勝手に殺すな!!!」

 

アディンはガンダムジェミナス01を自爆したウィングガンダムの場所へと向かわせた。

 

その姿をリディは追う事なく見続けた。

 

「……運命に抗えきれないだろうが……生き延びてみせろ……今の貴様と決着をつけても仕方がないさ……」

 

去るガンダムジェミナス01から目を離したリディは、一呼吸しながら自らの手を見る。

 

手は小刻みに震えていた。

 

体が発動したNT-Dを味わい、恐怖を覚えていた。

 

「しかし……一体なんだったんだ!?さっきのシステムは……!??気がつけば物凄いGの中で奴と戦っていた……」

 

リディは未知なるシステムであるNT-Dの感覚に戦慄すら感じていた。

 

一方、ガンダムジェミナス01は自爆したウィングガンダムの所へと降り立つ。

 

アディンの目には変わり果てたウィングガンダムの姿が飛び込む。

 

GNDドライブを中心に装甲やフレームも砕け散り、最早ウィングガンダムの原型を留めていなかった。

 

アディンは、置かれた状況に敗北を認めざるをえないコトが悔しくて堪らなくなり、怒り任せにコントロールグリップを叩く。

 

ヒイロを探そうとした直後に、ヒイロの変わり果てた状態を確認したアディンは絶句した。

 

どう見ても生存は絶望的である様に、アディンは更に絶望した。

 

「ヒイロ……っっうっ……畜生ぉおおおおおおっっ!!!!」

 

コックピットに響き渡る声で叫ぶアディン。

 

そこへオデルのガンダムジェミナス02が降り立つ。

 

そして右のマニピュレーターにヒイロを乗せてアディンに撤退を呼び掛けた。

 

「アディン!!ここは撤退だ!!!近海の洋上にいるイスタンダルに戻るぞ!!!」

 

「兄さん……っっ!!!ヒイロは、ヒイロのやつは……!!!!」

 

「諦めるなっっ!!!まだ希望はある!!!ヒイロは……ヒイロ・ユイは簡単には死なないさ!!!」

 

確かな根拠は無かったが、今はそう言い聞かせるしかなかった。

 

その時、オデルはトールギスに気づき、警戒をする。

 

「くっ……OZ!!」

 

「これ以上の手出しは出来ん!!!融通の効かない連邦に囚われる前に去ることだ!!早く行け!!!」

 

「何?!!一体どう言うコトだ!!?」

 

しかし、オデルに来た通信は想像を覆した。

 

敵であるはずのゼクスからの通信のその言葉に、オデルは逆に驚愕させられる。

 

「私は特別に騎士道に浸りすぎている身……好敵手の無事こそが今の私の望みだ!!」

 

オデルはしかとゼクスの騎士道精神を確認した。

 

その騎士道精神にオデルは感謝し、早急の撤退に移る。

 

「……恩に切る!!アディン!!行くぞ!!!」

 

「あ、あぁ……!!!」

 

2機のガンダムジェミナスがアデレートを去る。

 

それを見送り出したゼクスとリディはライバルとの再戦を願うばかりであった。

 

「ふ……敵であるはずのガンダムを送り出すとは……だが、これは好敵手と認めたが故だ……!!!!」

 

去る2機のガンダムジェミナスを見ながらゼクスはそう呟き、リディもまた自身の行動に僅かな驚きを覚えた。

 

「憎むべき敵であるガンダムを逃がす……だが、今はそれがいいと思えてしまう自分に驚く……つくづく思い知るな。騎士道精神に染まりつつある事を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

メテオ・ブレイクス・ヘルの敗北より半年余りの月日が経過した。

 

カトル達はこの半年間、輸送機一つに自分達のガンダムをまとめた状態で場所を転戦していた。

 

その転戦の日々の果てに、アラブ首長国連邦を目指す。

 

メテオ・ブレイクス・ヘルを支援するマグアナック隊の本拠地がある国だ。

 

半年間、断続的に連戦で疲弊したガンダムを、潜伏も兼ねながら出来うる限りのメンテを施す為だ。

 

輸送機の操縦は最も冷静なトロワが行う。

 

トロワはヒイロ同様、幼き時代から戦場に身を投じていたが故に、敗北を認めざるを得ない現状に置いても動じていなかった。

 

その隣では疲れきった表情のカトルが座席に背を持たれていた。

半年前のロニが死んだものと思って絶望していた時間や敗北をした状況、そしてこれまでの転戦生活により、彼の精神も疲弊していた。

 

「……はぁ……」

 

「疲れきった感じだな、カトル」

 

トロワの言葉にカトルは疲れた表情の中に穏やかさを現す。

 

「トロワ……そうだね……色々と重なりすぎて気力を使いすぎたみたいだ……でも、その中でもロニが死んでいなかった事が最大のはげみだよ……」

 

「あぁ……それだけは不幸中の幸いだった。だが、俺達の闘いはここからより深刻になっていくだろう……今は補給と体制の立て直しが必要だ。彼女を助けたい気持ちはわかるが、今の状況上耐え凌ぐしかない」

 

トロワの発言は最もであった。

 

今の状況のまま悪戯に攻めたとしても、愚の骨頂なのは明らかだ。

 

「うん……。辛い闘いなのは承知さ。僕達はGマイスターなんだから……(それまでどうか無事にいてくれ、ロニ……!!!)」

 

輸送機の格納庫では、デュオがガンダムデスサイズのコックピットにとどまっていた。

 

デュオはガンダムデスサイズに話しかけるように呟く。

 

「なぁ、相棒……俺達は負けちまって……転戦生活しながら半年も経っちまった……やっぱ連中に一泡、二泡でかくふかしてやらなきゃ気かますまねーよな?!!それに、せっかくPXが使えるようになった事だし……!!!!」

 

デュオは、コックピットのメインモニターの画面にPXシステムのインターフェースを仮表示させた。

 

「宇宙にいる奴らが連邦やOZの連中にやられたとありゃ、今度は俺達が宇宙に戻るべきじゃねーか?いつまでも地球の球っころでさ迷う訳には行かないぜ!!!!宇宙も再び荒れに荒れているしな……馬鹿が多すぎるんだ……ったくよ!!!」

 

 

 

L2コロニー群宙域

 

 

 

宇宙では、ネオジオンの動きが活発になり、第三次ネオジオン抗争の真っ只中の状況が拡大していた。

 

ムサカ級、エンドラ級の艦隊のメガ粒子砲による砲撃が、宇宙空間をはしる。

 

その先にいるクラップ級の艦隊からもメガ粒子の砲撃が放たれ、飛び交うビームが双方の艦に被弾。

 

連邦サイドからはジェガン、スタークジェガン、リゼル、ジムⅢ部隊が出撃する。

 

ネオジオンサイドからはギラズール、ギラドーガ、バウ、ガザDの部隊が出撃していく。

 

次第に始まる撃墜戦。

 

ビームが飛び交い、幾つもの爆発光が発生する。

 

その中では幾多の生にしがみつく感情達が入り乱れ錯綜する。

 

ジェガン3機の小隊が連発させるビームが、射撃するガザDを1機、2機と粉砕させ、3機目に三本のビームが貫き爆発させた。

 

駆け抜けるジェガン小隊に、ギラドーガのビームマシンガンが撃ち注がれ、1機が蜂の巣にされ爆発。

 

2機目はシールドを失いながら反撃するも、反撃斉射されたビームマシンガンに撃たれ爆発する。

 

ジェガンはビームサーベルに切り替え、ギラドーガにビームサーベルを突き刺した。

 

だが、そのギラドーガは道連れにするようにビームトマホークをジェガンのわき腹に斬り込ませる。

 

その2機が爆発を撒き散らす向こうで、ジムⅢ部隊とガザD部隊とが銃撃戦をし、それぞれが撃ち撃たれ生死を別つ。

 

駆け抜けるリゼル部隊とバウの部隊の銃撃戦が飛び交う中、それぞれがすれ違い際にMSへと変形する。

 

各機はビームライフルやビームキャノン、メガ粒子砲を撃ち合う。

 

1機のリゼルがビームライフルを幾つか撃ち込まれ爆発。

 

バウが撃つビームライフルやメガ粒子砲がリゼルを破砕させていく。

 

一方では、バウとビームサーベルを激突させ、捌きながらビームサーベルでバウを斬り払うリゼルもいた。

 

そのリゼルに別のバウが迫り、ビームライフルを連発。

 

撃ち穿つビームにリゼルは爆散した。

 

ギラズール部隊が攻撃を躱しながら一斉にビームマシンガンを撃ち、ジェガン部隊を撃墜させていく。

 

そのギラズール部隊に、スタークジェガン部隊のバズーカが撃ち込まれ、ギラズール部隊は壊滅的に破壊されていく。

 

更に放たれたミサイルが飛び交い、ギラドーガ部隊を撃墜させていった。

 

1機のスタークジェガンに、ギラズールが突っ込みコックピットにビームマシンガンを突き刺して零距離射撃してみせた。

 

そして飛び交う両者のMS部隊に、艦隊のメガ粒子砲撃が重なり、直撃を受ける者、掠める者とに別れ運命が入り乱れる。

 

だが、この戦闘は一部に過ぎず、至箇所で戦闘は勃発していた。

 

L1コロニーの周辺ではネオジオン勢のMS部隊が展開し、哨戒中の艦隊に強襲を仕掛けていた。

 

ズサやガルスJがミサイルやエネギーガンを撃ちながらジェガン部隊やリゼル部隊、クラップ級のブリッジ付近に攻撃を加えていく。

 

機体群が破砕されていく中、スタークジェガンやリゼルが反撃に転じ、ビームライフルやバズーカの砲撃を浴びせ、ズサやガルスJを破砕させていった。

そこへムサカ級の主砲が撃ち込まれ、数機のジェガンが破砕されながら爆発光と化す。

 

またL2付近のコロニーでは、民間機が航行する近くで戦闘が巻き起こっていた。

 

ギラズールとギラドーガの主力MS部隊とジェガンやリゼルの部隊がビームライフルやビームマシンガンを撃ち放ちながら激突する。

 

ビームが飛び交う中、ジェガンが放ったビームがギラドーガを破壊しながら民間機を流れ弾で破壊してしまう。

 

更にもう一方で、ギラズールのビームトマホークを斬撃されたジェガンが、爆発しながら上半身をコロニーの港に突っ込ませ爆発を巻き起こさせた。

 

リゼルが放つビームライフルのビーム群が3機のギラドーガを破壊し、ギラズール1機を駆け抜けながら1機のリゼル斬撃して破壊する。

 

機体を反転させたリゼルは、向かい来るギラズールにレフトアームのビームキャノンを撃ち込む。

 

直撃を食らうギラズールだったが、その勢いで突っ込み、もつれ合いながらまたもや宇宙港に突っ込み、更なる被害を拡大させた。

 

その最中、レウルーラ艦隊は既に確保している廃棄コロニーを目指していた。

 

ブリッジ内ではフロンタルとライルが今後を語り合う。

 

「ライル艦長。今度はオペレーション・ファントムの一環であるコロニー落としに尽力していただく事になる」

 

「……このオペレーションはかつてのシャア総帥を始めとするジオンの英雄達が成し獲なかった作戦を実現させ、かつ、コロニー共栄圏実現に繋げるもの……」

 

「左様……我々はこれよりパラオから来る艦隊と補給を兼ねて合流する。その後にL1コロニー群のA1786廃棄コロニーを目指す。そこで核パルスエンジンを取り付け、地球を目指してもらう。その時には他の艦隊と合流している頃だろう……」

 

「他にも掌握している資源衛生を移動させるとも聞いています。こちらはいかに?」

 

「そちらはいずれ同胞の別動隊に動いてもらう。時間差をかけ同時期に地球へ落とす……連邦を徹底的に陥れ、揺するのだよ……だがその前にルナ2とグリプス2に陽動攻撃をかける!!」

 

その時、ブリッジに緊急の警報が鳴り響いた。

 

直ぐ様オペレーターが状況を知らせる。

 

「連邦の艦隊を探知!!クラップ級3隻の艦隊です!!恐らく哨戒中の小規模艦隊です!!」

 

「そうか……ならば私が出よう。確かアンジェロの新型はメンテナンス中だったな……だが、一人で充分だ。直ぐに沈める。ではライル艦長、後は頼む」

 

「は!!では、総員第一種戦闘配置!!砲撃体勢に移行せよ!!フロンタル大佐を援護する!!」

 

レウルーラのカタパルトハッチが開き、シナンジュがカタパルトに足を乗せる。

 

シナンジュのバックパックを見送りながらアンジェロは不敵に笑っていた。

 

「大佐が出撃される……あいにく私のローゼンズールはメンテナンス中だ……大佐を追えぬのが口惜しい……さぁ、連邦の愚者達よ……赤い彗星を思い知るがいい!!!」

 

カタパルトから高速でシナンジュが打ち出され、シナンジュは更なる加速を重ねて突き進む。

 

その速さは正に赤い彗星。

 

ライルはブリッジからその瞬間に立ち合う。

 

そして心中において、未だ信頼性が薄いフロンタルに言ってみせる。

 

(……赤い彗星の再来に相応しいか今一度改めて見極めさせてもらうぞ……フロンタル大佐)

 

「砲撃体勢に移行しました!!いつでも行けます!!」

 

「よし!!砲撃開始せよ!!」

 

ブースターをフル加速させて飛び立っていくシナンジュに続くように、レウルーラのメガ粒子のビームが撃ち放たれ、クラップ級艦隊に吸い込まれるように突き進んだ。

 

メガ粒子砲撃は2隻のクラップ級の側面を破壊した。

 

出撃するスタークジェガンとジェガン部隊。

 

前面に出た各機が、母艦を防衛する形でシナンジュを迎撃する。

 

シナンジュは高速で駆け抜けながらビームライフルをかざす。

 

ビームが高速で三発撃ち放たれ、一瞬でジェガン2機とスタークジェガン1機を射抜いて爆破させた。

 

更に左側面上に通過するジェガン2機を撃ち抜いた。

 

そして出撃直前のジェガンにビームを撃ち込み、カタパルトハッチ上で破壊してみせる。

 

その爆発はドック内にも悪影響を与え、出撃前のジェガンを巻き込みながら爆風でメカニック達を死に追いやる。

 

クラップ級の対空砲火のレーザー機銃も撃ち放たれる中でシナンジュは軽快に躱しながらクラップ級の側面に何発もビームを撃ち込み、直撃部を破壊させる。

 

高速で屈折するように上に突き進む。

 

再び機体を反転させ、急降下するかのごとく突き進み、ビームライフルを両端のクラップ級のブリッジ目掛け放つ。

 

直撃を食らうブリッジは、瞬く間に破裂するように爆発した。

 

滑空するような軌道で駆け抜けたシナンジュは、クラップ級の動力炉を撃ち抜く。

 

クラップ級は動力炉を爆発させながら物凄い破壊を起こして轟沈した。

 

この時点でシナンジュは3隻のクラップ級を破壊した。

 

向かい来るジェガン4機を高速で撃ち抜き爆発の華に変える。

 

スタークジェガン部隊はミサイルを一斉に放つが、シナンジュは高速の加速で全てを躱す。

 

そして高速でスタークジェガン3機の胸部を撃ち抜き、ビームサーベルで挑んできた1機の斬撃を躱す。

 

旋回しながらレフトアームに握り絞めていたビームトマホークを発動させ、一気に襲い掛かり斬撃を食らわせた。

 

斬り裂かれたスタークジェガンは虚しく爆砕した。

 

更に駆け抜けながら2機のジェガンとスタークジェガンを斬撃し、MS部隊を壊滅させた。

 

この戦闘を目の当たりにしたライルは、確かなフロンタルの実力を認めざるを得なかった。

 

(確かに……シャア総帥に迫る戦闘能力だ。赤い彗星の再来と言われても不思議ではない……だが、相変わらず何かが感じられない……一体なんなのだ?)

ライルは、フロンタルの信頼性に欠ける何かに疑問符を抱きながら壊滅したクラップ級艦隊を見つめていた。

 

 

 

宇宙でネオジオン勢との戦闘が活発化する一方で、地上において残存群も活発化させていく。

 

だが、大概の戦闘は性能差から来る一方的な駆逐戦闘になっていた。

 

とある連邦軍基地において、8機のドムトローペンの一味がラケーテンバズーカで連邦軍基地に強襲をしかけていた。

 

それぞれが高速に走行しながら基地に砲撃を仕掛け、警備のジムⅢやネモを破壊していく。

 

その最中、基地から3機編成のスタークジェガン小隊が出撃する。

 

高められた機動力でバズーカやマシンガンの弾丸を躱しながらビームライフルを撃つ。

 

2機のドムトローペンが放たれたビームライフルに貫かれ横転。

 

地表を転がるように爆破した。

 

更にスタークジェガン3機はミサイルを撃ち放つ。

 

ミサイルは正確に撃ち込まれ、4機のドムトローペンを破壊した。

 

そしてバズーカを装備した隊長機のスタークジェガンは残りの2機に一気に仕掛け、バズーカの砲撃を食らわせ瞬く間に撃破した。

 

またある地帯では、ザクやグフの群れをフライトユニットへ搭乗したジェガンが上空より、ビームライフルを駆使して蹂躙する。

 

残存群は上空からの攻撃には圧倒的に不利であった。

 

反撃するマシンガンの弾丸が虚しく虚空に消え、それがビームとなって帰ってくる。

 

実質的に第三次ネオジオン抗争の火蓋はきって落とされている昨今、地上の地球連邦軍は思いきった展開を出せずにいたのもまた事実であった。

 

そこにはメテオ・ブレイクス・ヘルの度重なった攻撃が影響を与えていたのだ。

 

その為、地球連邦軍は戦後従来の散発的な展開を余儀なくされていた。

 

しかし、地球規模でそれが起こり始めたのは他でもない事実であり、世界のメディアは連日報道をし続ける。

 

中国エリアの反地球連邦ゲリラ・斗争の野戦キャンプ地でも、ラジオ放送で各地で起こる戦闘のニュースが流れていた。

 

トレーズとの戦いに破れた後、彼らと行動を共にしていた五飛は、未だ敗北を引きずり続けていた。

 

五飛がニュースに聞き入る中、李鈴が温かな中華スープを差し入れに出して来る。

 

いつになっても、五飛の視点ではどうしても妹蘭に見えてしまい、彼女に見入ってしまう。

 

「五飛、差し入れだ……」

 

「……謝謝」

 

軽く礼を言いながら五飛はスープを飲む。

 

李鈴は五飛と斜めに向き合う位置に腰掛けスープを飲み始めた。

 

「五飛は何故メテオ・ブレイクス・ヘルに?やはり何か特別な想いがあっての事なのか?そろそろ教えてくれ……私は知りたい」

 

李鈴は女性的な勘からか際どい質問をし、際どい所を突いてきた。

 

五飛は妹蘭を想い起こし、表面的に話した。

 

「特別な想い―――無論だ……誰もが相応の想いでガンダムに乗っている。俺は地球圏の悪を叩く為に戦っていた……」

 

「戦っていた……か」

 

「今の俺は弱い……俺は強いやつに負けた……!!!!」

 

「何度も聞いた……強いやつに負けたならもっと強くなればいいじゃない?いい加減ふっ切れなよ……もう半年も経つんだよ!?」

 

「……強い奴に勝ってこそ正義は貫ける!!!そいつに負けた俺にはもう戦う資格はない……では妹ら……いや、李鈴は何故戦い続ける!??」

 

李鈴は逆に放たれた五飛の問いかけにすんなり答えた。

 

「故郷の為……これまで、この地は連邦に圧制されてきた。その連邦に反抗する為にはこの方法が一番良いものと信じ行動をしてる……変?」

 

「弱いのに何故戦い続ける!??あの戦力では死にいくようなモノだ!!!」

 

「機体が弱いのは承知。でも、何もせずにいるよりはいい。心は強くいるつもりよ。五飛こそ凄い力をもっているのに何故いつまでも戦う事を止めてしまっているの……?私は不思議でならない」

 

李鈴は強大な力を持っているにも関わらず戦うことを止めてしまっている五飛の考えが不思議でならなかった。

 

「言ったとおりだ……完膚なきまでにやられた……ある強い男にな……」

 

「だからといって戦うことを止める理由にはならないよ?勿体なさすぎる……せっかくガンダムという力を持っているのに……」

 

李鈴の言葉は最もであった。

 

故に五飛の言葉はぐうの音も出なくなってしまう。

 

「っく……!!!」

 

「少なくとも五飛の持つ強さは……私達からすれば高嶺の位置に……いや、宇宙(そら)の位置にあるほどの強さだ。いくらでもその強い奴を超える可能性はあると思うぞ」

 

「超える可能性……!??」

 

「そう、可能性……いつまでもその可能性に触れないままだとダメだ。ガンダム……泣いてるよ、きっと」

 

五飛はスープをすする李鈴の傍らで、普段意識しない言葉に気づきにも似た違和感を感じ続けた。

 

 

 

半年前・北米・オーガスタ研究所

 

 

 

薄暗い収監室の中で、マリーダとロニは捕らわれの身とされる中で寄り添い合いながらいた。

 

マリーダは静かに目を閉じ、ロニは疲れきったようにうつ向いて寝ていた。

 

マリーダは以前に襲われた苦痛を思い返していた。

 

(あの苦痛は……ヒイロの感覚を感じた痛み……ヒイロの身に何かがあった……一体、今どうしているんだ!?ヒイロ……!!!)

 

ヒイロから感じた苦痛というのは解っていた。

 

それ相応の事があったのは間違いない。

 

マリーダは捕らわれの身としていたにもかかわらず、ヒイロが気がかりでならなかった。

 

「う……ん」

 

その時、マリーダの肩に寄り添っていたロニが目を覚ました。

 

「ロニ!目が覚めたか?」

 

「うん……ゴメン、マリーダ。寝ちゃった……」

 

「いや、ロニも疲れていたんだ……気にするな」

 

マリーダには不安と恐怖で疲弊したロニの心が直に伝わってくる。

 

マリーダはそんなロニへと頭を寄せて囁く。

 

「大丈夫……いつかは必ずチャンスは来る……今は耐えよう……」

 

「うん……」

 

その時だった。

 

突如と扉が開き、研究所の男達が入室してきた。

 

ロニは怯え、マリーダはロニをかばうように鋭い視線を向ける。

 

男達の誰もが冷徹な眼差しをしており、押し寄せるかのようにマリーダとロニに迫る。

 

「……出ろ……準備は整った……」

 

「何の準備だ?貴様達からは邪な感覚しかしない……何をたくらんでいる!??」

 

マリーダは毅然と研究所の男達に立ち向かう姿勢でいた。

 

「立場をわきまえろ……」

 

そう言いながら研究所の男達はロニから連れ出そうと動く。

 

「嫌……触らないで!!嫌ぁっ!!!」

 

ロニはただならぬ嫌悪感から必死に拒絶して身体を振るわせる。

 

「黙ってこい!!!」

 

「あぅっ!!」

 

「貴様っ……!!!ロニをどこへ連れていく?!!」

 

研究所の男は容赦なくロニの頬を殴打し、強引に引きずり出すようにロニを連れ出す。

 

研究所の男の行為にマリーダの怒りの表情が露になる。

 

「黙れ、貴様も来い!!」

 

「ちぃっ……!!!」

 

マリーダは立場上、どうにもならないことに耐えながら連れ出される。

 

すると廊下通路からマリーダとロニは、別々に別れさせられてしまう。

 

「マリーダっ、離れ離れは嫌っ!!!マリーダぁ!!!!嫌ぁああっ!!!」

 

「ロニっ!!!っく……!!!」

 

この状況で唯一の味方であるマリーダとの離別にロニは、思いの外拒んだ。

 

ロニの悲痛な叫びにどうしてやる事もできない状況に、マリーダはひたすら悔やみ悔やむしかなかった。

 

更に研究所の男はロニの髪をむしるように掴み、凄みを叩きつけた。

 

「黙れというのがわからんかぁああっっ!!?きーきーきゃーきゃー言いやがって!!!!黙って歩けぇっっ!!!!」

 

「………っ!!!?」

 

ロニは怯えすくみ、力を失なったように連れていかれた。

 

マリーダを連行する研究所の男は、囁くようにいい始めた。

 

「あの被験体にはな……精神操作と最新の強化剤投与と手術をじっくり施させてもらう……そうすれば……くくく」

 

「ふざけるな!!!人体実験などと……貴様達は本当に人か!??」

 

「強化人間風情に言われる筋合いはない!!!!」

 

マリーダの怒りは研究員のその一言で頂点に達した。

 

「ちっっ……貴様らぁああああ!!!」

 

抑えきれない怒りに駆られたマリーダは、頭突きで研究所の男の一人をぶっ飛ばす。

 

「ぐぁっ!??」

 

「立場をわきまえろぉぉぉっっ!!!」

 

突如のマリーダの抵抗に対し、研究所の男はスタンガンをマリーダの胸に押し当てながら電撃を浴びせた。

 

「ああああああああっっっ!!!?」

 

マリーダは全身を襲う激痛に耐えきれず、悲痛な叫びと共に床に倒れてしまう。

 

更にスタンガンを浴びせた研究所の男は、倒れたマリーダの髪を掴み上げながら強引に立たせると、再びマリーダを連行していった。

 

オーガスタ研究所は0084以降、長きに渡り強化人間の研究を行ってきた地球連邦軍が所有する研究機関である。

 

マッドサイエンティスト達の実験場と言っても過言ではなく、非人道な人体実験を行ってきた。

 

近年では難民や戦災孤児を拉致して人体実験をしており、そしてその大半は、過剰な人体実験の末に死に至り、「廃棄処分」という人道外れた概念で闇に葬られていった。

 

例外にジオン残存勢力から手に入れたニュータイプは大切に保護されていた。

 

そこには純真なニュータイプと思われる者は貴重視されていた傾向があった。

 

プルが正にそれであった。

 

だが、プルはメテオ・ブレイクス・ヘルの行動開始時のテロで、大半はエージェント達によって救助された。

 

それ以降に拉致した被験体の中で見事に成功した存在がキルヴァである。

 

キルヴァは元より闘争心が過剰な分、更なる戦闘狂となり、悲劇的な強化人間とは一線を画す存在となっていったのである。

 

キルヴァはロニの強化実験にガラス越しに立ち合いながら、かじりついたフライドチキンを片手に意気揚々と見学する。

 

「……んぐ……きひひ、ダカールで俺が感じた被験体の女……か!!よく見りゃ、ネオジオンの女と並んで俺の好みだぁ……ひゃはーっ!!」

 

「嫌ぁっ!!嫌ぁあああ!!!あぅぅっ、はなしてぇ……!!!」

 

ロニの悲痛な悲鳴が響くが、狂気の固まりのようなキルヴァにとっては余る程の至福の瞬間であった。

 

「きひひひ!!いい光景にイイ声だぜ~……!!!なぁ、ベントナのおっさんよぉ!??」

 

キルヴァが話しかけた禿頭、痩せぎす、猫背のベントナという男は、オーガスタの人体実験の元締めを勤める所長である。

 

ベントナは卑屈な笑みを浮かべ、キルヴァに答えながら研究員に指示を出す。

 

「くくく……ひひひ……相変わらず非情なやつだな……キルヴァ。よし、各筋肉にネオ・グリフェプタンを投与しろ」

 

研究員は頷きながら筋肉注射的機能がついた装置をロニに取り付ける。

 

そして装置を起動し、ロニの全身に味わった事のない激痛がはしった。

 

「―――っっ、きゃぁああああああああっっ!!!!」

 

甲高いまでのロニの悲鳴が実験室に響き渡る。

 

更なる悲痛な叫びが聞こえる中で、キルヴァとベントナはニヤニヤと笑い、研究員達は無表情で苦しみあがくロニを監視する。

 

「あぁあああああっっ、嫌ぁああああああああっ!!!」

 

「かぁーっ!!イイ声♪なぁ、ベントナのおっさんよ……これで見事に乗りきったら洗脳処置すんだろ!?そんときは俺の女と洗脳してくれ!!」

 

「お前も好きだなキルヴァ……イイだろ。希望に答えてやる」

 

「キヒヒ!!まぁ、Ξガンダム乗る手前、ヒロインは欲しいからな!!!ヒロインは必須だぜぇ……!!!」

 

 

現在―――

 

アフリカエリア・ジオン残存軍戦闘ポイント上空

 

 

 

アフリカエリア上空を飛ぶオーガスタ所属のガルダから禍々しいシルエットのガンダムが飛び出す。

 

狂気の鳥とも悪魔とも呼べるそのガンダムは、眼下で連邦サイドに攻撃をかけるジオン残存軍の部隊目掛け下降していく。

 

そのガンダムのモニターにはドム・トローペンや重装型グフ、ドワッジ、イフリートが展開し、ジムⅢやネモ、ジェガン部隊と決死の交戦を繰り広げる光景が広がる。

 

そして直ぐに多数のロックマーカーが表示され、同時に禍々しいシルエットのガンダムは機体から複数のミサイルを放った。

 

だが、ミサイルは撃ち出された直後、直ぐに敵機に向かわず空中をホバリングした。

 

そして次の瞬間、意思を持ったかのようにミサイル群は不可思議な軌道でジオンサイドのMSに向かい、縦横無尽に飛び交いながらこれらを駆逐していく。

 

それはΞガンダム同様のサイコミュ兵器・ファンネル・ミサイルだった。

 

突然の奇襲に対応できずに、ドワッジやドム・トローペンの機体群は次々に破砕され爆発。

 

重装型グフにはビームバスターの高出力エネルギーが襲いかかり、爆砕させた。

 

駆逐され、燃え上がる機体群を見下すかのような冷酷な眼差しで見る女性パイロットが呟き、眉間にシワを寄せる。

 

それは強化人間に変わり果てたロニだった。

 

「ジオンの下等機械め……煩わしいんだ……!!!!さぁ……次ぎは貴様だ!!!」

 

ロニのコントロールの下、禍々しいシルエットのガンダムはビームバスターを連発し、ジオンサイドのMS達を更に破砕させた。

 

 

中東アラブ国境付近

 

 

 

グリニッジ標準時の時同じくして、デザートザクやデザートゲルググ、ドワッジの部隊が展開する砂漠の上空で、フライトユニットに搭乗したジェガンの部隊が空中よりビームを撃ちながら迫る。

 

撃ち注がれるビームは旧式化したMS達に襲いかかり、直撃を食らわせられたデザートザク数機が爆発四散する。

 

「ちきしょう!!なめるなよ!!!」

 

ドワッジに乗った残存兵は、上空のジェガンに向かいバズーカを連発する。

 

砲弾は幾つも掠めるが三発目が直弾し、そのジェガンは撃墜された。

 

「しゃあっ!!見たか―――がぁっ!??」

 

だが、直ぐ様に撃ち注がれるビームに空しくドワッジは破砕された。

 

デザートゲルググがブースターでステップをかけ、タイミングを合わせて同胞を撃ったジェガンへとビームライフルを放つ。

 

空中に吸い込まれたビームは再びジェガンを仕止める。

 

不利な戦況の中で、ジオン残存勢力は意地を見せ付けるかのようにジェガン部隊に対し、拮抗し始める。

 

だが、直ぐに増援として来たロトの部隊による砲撃が開始され、ジオン残存勢力は次々と直弾を受けながら破壊されていく。

 

「くっそぉ……!!!退避せざるをえんかっっ……!!!」

 

だが、今度は地上より走り始めたビーム弾雨がロトやジェガンを撃ち墜とす。

 

それはマグアナック隊の攻撃によるものであった。

 

ラシード機、アブドル機、アウダ機を筆頭に量産機の部隊が自国の自衛の為に攻撃を仕掛ける。

 

「俺達の国は俺達で守るしかねぇっ!!!野郎共、怯むなよ!!!」

 

「もちろんでさぁ!!!」

 

「みっちりやらせてもらいますぜ!!!」

 

ラシード機とアブドル機は撃ち放つビームライフルでロトやジェガンの部隊に直撃をあびせ、アウダ機はクロー攻撃でロトの胸部を貫通させ爆破させ、ヒートトマホークの斬撃で一刀両断して見せる。

 

「中東の反抗勢力か!??く!!!体制を立て直す!!!展開中の部隊はガルダ及び駐屯基地へ帰還せよ!!!繰り返す……」

 

「隊長!!!!ガルダが!!!!」

 

「何!!?」

 

隊長機がガルダを向いた先で、ガルダと輸送機が空中で激突し合う光景を目にした。

 

「あれは……一体どういう……!??」

 

 

 

ディディッガイィイイイイン!!!

 

ダダァズゥガアアアアアアン!!!

 

 

 

その刹那に、ガンダムサンドロックのヒートショーテルの斬撃が2機のジェガンを破断させ、そこからステップするかのように周囲のジェガンへ個々に取り付き、更なる斬撃を浴びせ続けた。

 

瞬く間に斬撃された5機のジェガンが空中爆破した。

 

 

 

ザシュガガガォオオオオッッ!!!

 

ドドドゴォバァアアアアアアア!!!

 

「ここも連邦とジオンの戦闘が及んでいましたか!!!勿論、連邦を叩かせてもらうよ!!!」

 

目を光らせたガンダムサンドロックは、ビームサーベルで斬り掛かるジェガンをクロス・スラッシュで破断させてみせた。

 

「おおお!!!隊長、カトル様です!!カトル様ですよ!!!」

 

「あぁ!!!勇者達が帰って来てくれた!!!野郎共、援護射撃怠るなよ!!!空中と地上に別れ展開しろ!!!」

 

「おおお!!!」

 

ラシード機、アブドル機を筆頭に援護のビーム射撃を強め、ジェガン部隊を撃墜していくマグアナック隊。

 

地上ではロト部隊への攻撃が更に強まる。

 

半年ぶりにカトル達と再会したことによる、士気の高まりは確かなものであった。

 

アウダも士気を上げてロトに攻め混む。

 

「カトル様達が来たなら百人力だぜ!!!おらぁあ!!!」

 

アウダ機のクローがロトを突き貫く。

 

その時、近くにいたデザートゲルググの肩に砲弾が直撃する。

 

「ぐおあ!!?」

 

「!??させっかよ!!!」

 

早速アウダはデザートゲルググを守るようにアームクローを盾にして踏み込む。

 

アームクローはガンダニュウム合金性な為、かなりの耐久性がある。

 

「俺達はアラブのマグアナック隊だ!!!ジオンの残存兵、早く行け!!!」

 

「す、すまない!!」

 

アウダ機や他のマグアナック隊の攻撃でデザートゲルググは辛くもマグアナック隊側へと逃がれた。

 

一方でガンダムデスサイズのビームサイズの一振りが3機のジェガンをまとめて斬り裂き破砕させる。

 

そこへジェガン3機がビームライフルを撃ち込みながら迫る。

 

ガンダムデスサイズは高機動性を活かし、左右に機体を動かしながら加速。

 

ビームサイズでジェガンを斬り払い、斬り伏せ、斬り裂く。

 

致命的に装甲を焼灼されたジェガン3機は、駆け抜けたガンダムデスサイズの背後で四散して砕け散った。

 

「近くには民間都市があるってのにドンパチしやがって……死神が地球のバカ野郎共を制裁してやんぜ!!!」

 

大きく振りかぶったビームサイズを掲げながらビームサーベルで斬り掛かるジェガンを斬り伏せ、一瞬に分断させた。

 

 

 

ヴォドドドドゥルルルルルルルルゥゥゥ!!!!

 

ディギャギャギャガガガゴォオァァアアアアン!!!

 

 

 

地上で砲撃展開していたロトの部隊にガンダムヘビーアームズのビームガトリングとブレストガトリングが撃ち込まれ、砲撃展開中のロトの機体群が瞬く間に蜂の巣にされて爆発。

 

更にガンダムヘビーアームズは1機のロトの真上に降り立ってこれを踏み潰した。

 

ロトを踏み潰したままビームガトリングを突き出し、

前面上のロト部隊を個々に粉砕させてみせる。

 

「これまでと変わらないやり方で格下のジオンのMSを人権無視で破壊する。だが、俺達がそこへ出会(でくわ)した事によりそれは逆転する……あくまでこの戦闘だけだが……」

 

ガンダムヘビーアームズにロトの一斉砲撃とミサイル群が襲いかかるが、全く動じずにマシンキャノンを含むガトリング系武装を一斉に連射し、ロト部隊を横軸状に破壊し尽くしていった。

 

その頃、斗争の野戦キャンプ地の周辺で戦闘が巻き起こっていた。

 

李鈴の陸戦ジムや仲間のジムコマンド、ザク、グフが空中から迫るサポートユニットに搭乗したジェガン5機に反抗の攻撃を仕掛けていた。

 

無謀な弾丸が躱され、空中へと吸い込まれていく。

 

だが、李鈴は再度ロックオンし、バズーカを撃ち放った。

 

「墜とす!!!」

 

陸戦ジムが放ったバズーカが、僅かなズレでジェガンの肩を破壊し、サポートユニットから墜落させた。

 

「仕留めた!!!旧式だからといってナメるからだ!!!みんな、攻め続けろ!!!攻めこそが最大の防御だ!!!」

 

「了解だぜ!!!」

 

「おうさ!!!」

 

「しゃあっ!!!」

 

李鈴の仲間達は気合いを入れ直し、マシンガンやミサイルランチャーを撃ち放つ。

 

その攻める行動は知らず知らずの間に弾幕を作っていた。

 

正に攻めの防御。

 

それをサポートするように斗争のゲリラ達がミサイルを撃ち放ちジェガンへと当てていく。

 

だが、ジェガンの装甲を砕くことはできない。

 

ジェガンの幾度も放つビームライフルが、斗争のゲリラ達に降り注ぎ、抉るように地表を吹き飛ばす。

 

斗争のゲリラ達もその攻撃をまともに受け吹っ飛ばされてしまう。

 

「おのれぇ……!!!食らいやがれっっ!!!」

 

斗争のゲリラ達は仲間の犠牲に更なる怒りを燃やし、抵抗の限りを尽くそうと行動をするが、やはりミサイルはチタン合金の装甲に阻まれ、虚しく終わる。

 

ジェガンのパイロットは対人モードに切り替え狙いを定めた。

 

「反乱分子が……!!!」

 

先程の射撃とは異なり、ピンポイントの射撃がゲリラ達を襲う。

 

「……――――!!!!」

 

迫ったビームは瞬く間にゲリラ達を蒸発させ爆発を巻き起こす。

 

この蹂躙状況に李鈴は怒りを燃やし、ミサイルランチャーを撃ち放った。

 

「くっっっ!!!貴様らぁああああっ!!!」

 

怒りを賭したミサイルが、1機のジェガンのサポートユニットを破壊した。

 

そのジェガンは地表に落下するが、姿勢制御をして着地してみせた。

 

更に近くにいた斗争仕様のグフに片腕を無くしたジェガンが迫り、ビームサーベルの斬撃を浴びせる。

 

グフは性能差に負け、ヒートサーベルを断ち斬られながら胸部を斬撃された。

 

そのグフは野戦キャンプ地に倒れ混み、爆発を巻き起こしながら同胞達を巻き込んだ。

 

更にその最中、OZからの増援でエアリーズ5機が迫る。

 

ビームチェーンガンやミサイルが地上へ撃ち込まれ、更なる犠牲を出していく。

 

陸戦ジムのモニターには、変わり果てた同胞達の姿を捉えていた。

 

その最中、ジムコマンドやザクもエアリーズのビームチェーンガンの餌食になり爆発する。

 

李鈴はこの光景に耐えれなくなり、声を荒げながら陸戦ジムを加速させた。

 

「どれほど……どれ程仲間の命を踏みにじる気だぁああああああああっ!!!」

 

李鈴の怒りを賭したビームサーベルの斬撃がジェガンの装甲を斬り込む。

 

ジェガンに食い込んだビームサーベルはジェガンを爆発させた。

 

だが、同時にその爆発は李鈴の陸戦ジムの腕を吹き飛ばしながら倒れ混ませる。

 

「ぐぅっ……!!!まだだぁ!!!私達は決して連邦の蹂躙に屈しはしない!!!」

 

李鈴は倒れた衝撃に襲われながらも機体を起こそうとする。

 

だが、武装はシールドのみになり、敵の武装からして防戦すらもままならないのは必至だった。

 

李鈴は最期を覚悟してまだ戦おうとしない五飛に呼び掛けた。

 

無論、この状況下。

 

五飛がどこの場所にいるかは解らない。

 

李鈴は、五飛が戦闘に巻き込まれ犠牲になったという思考を決して持つことはなかった。

 

「五飛……!!!あんたは充分すぎる力を持っているんだ!!!こいつらを……理不尽なこいつらを斃せる力があるんだっ!!!そのあんたが戦えなくてどうする!!!」

 

陸戦ジムから放たれる音声が周囲に響く。

 

その声は虚しく響いているかのようにも見えた。

 

倒れた李鈴の陸戦ジムにエアリーズが見下すかのように降り立つ。

 

ビームチェーンガンの銃口を突き付けたエアリーズのカメラアイが発光する。

 

李鈴の勝ち気なメンタルが限界を迎え、その心は遂に恐怖に変わり、同時に女性のか弱さをさらけ出してしまう。

 

「……っっ!!!いやっっ……死にたくないっっ……助けてよっっ!!!五飛っっ!!!」

 

「叫ばなくとも聞こえている……!!!」

 

「五飛!??」

 

突如李鈴のいる陸戦ジムのコックピットに響く五飛の声。

 

その時だった。

 

 

BGM ♪ 龍が泳ぐ時、全ては終わる

 

 

 

ギャザァガァアアアアアアア!!!

 

 

 

叩き下ろすかのように振るわれたビームグレイブが、エアリーズを斬り潰す。

 

ひしゃげるように潰したビームグレイブの斬り込み口が爆発を起こし、エアリーズを爆砕させた。

 

 

 

ダァガギャアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

巻き起こる爆発の中で、シェンロンガンダムが光学迷彩を解きながら出現。

 

そしてもう2機のエアリーズにビームグレイブの斬り払いを浴びせ、機体を斬り飛ばした。

 

「俺は……過去に守りきれず助けることができなかった人がいた……」

 

静に呟く五飛。

 

無論、その助けることができなかった人とは妹蘭を指していた。

 

そこへ爆発と衝撃が巻き起こる。

 

地上へと墜落したジェガンが、空中からは3機のジェガンと2機のエアリーズがシェンロンガンダムへと攻撃を仕掛ける。

 

「め、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム出現!!!突然現れやがった!!!」

 

「何故こんなところに!??各機、ありったけの火力を加えろぉっっ!!!」

 

怒涛の攻撃を浴び続けるシェンロンガンダム。

 

五飛はその最中にも呟き続ける。

 

「……俺は……二度と目の前にいる者を見殺しにはしない……!!!」

 

ジェガンへと振り返ったシェンロンガンダムは、加速をかけながら飛びかかる。

 

その間に受けるジェガンの攻撃は無駄でしかない。

 

ジェガンの胸部にビームグレイブを突き刺し、そのままジェガンの機体を持上げて飛び立つ。

 

そしてそれを叩き付けるようにサポートユニットに搭乗するジェガンの1機にぶつけた。

 

2機のジェガンは空中爆砕し、炎の華を咲かせる。

 

その炎の華を突き抜けながらシェンロンガンダムはレフトハンドにビームグレイブを持ち換え、もう1機のジェガンを斬撃。

 

その攻撃から更にドラゴンハングを伸ばし、斬撃してきたジェガンを砕き貫いた。

 

瞬く間にシェンロンガンダムはMS部隊を壊滅に追い込む。

 

この戦闘状況に李鈴は直にメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムの凄まじさを垣間見た。

 

「凄い……あっという間に2機だけになった……!!!これが五飛のガンダムの力……!!!」

 

理不尽を叩き潰すその様は正に英雄の姿を見せていた。

 

OZのパイロットも撤退を余儀無くされ、機体を退かせようと試みる。

 

「これはまずい……一旦撤退!!!体制を立て直す!!!」

 

「は!!」

 

だが、五飛は決して逃さなかった。

 

モニターに確実に捉えたエアリーズ2機をめざして襲いかかる。

 

「逃がすと思うか……?貴様達のような悪は必ず斃す!!!」

 

「わぁああああああああっ!??」

 

迫るシェンロンガンダムに一瞬にして追い付かれたエアリーズ2機。

 

1機はビームグレイブで斬り飛ばされ、もう1機のエアリーズにはドラゴンハングが突き刺さった。

 

その突き刺さったドラゴンハングの火炎放射が零距離で放射され、エアリーズの機体を吹き飛ばすように爆砕させた。

 

 

 

 

戦闘が終わり、荒れ果てた斗争の野戦キャンプ地にシェンロンガンダムが立つ。

 

その中で機能不全になった陸戦ジムを李鈴は見つめていた。

 

「……やはりジムでは限界か……また闇ルートでMSを手に入れなきゃな……」

 

「まだ戦うのか?」

 

そんな李鈴に五飛は声をかけた。

 

李鈴は髪をなびかせながら五飛に振り向く。

 

「五飛……ああ、無論だ。ああも仲間を犠牲にされて引き下がれはしない。私達の闘いは終わらない!!!」

 

「確かに当然だ……」

 

「五飛もようやく戦えるようになったみたいだな……しかし、初めてガンダムの力を垣間見た。正直感服した。素晴らしい力だ……できれば五飛……これからも私達と行動して欲しい。是非その力が欲しい」

 

「……俺は俺の闘いを続ける……悪いが気持ちだけは止めておく……世話になった」

 

「そうか……残念だ。だが、仕方がないな。それぞれの選択肢がある。強要はしない……」

李鈴は少し寂しげな笑顔を見せる。

 

「また何処かの戦場で会うぞ……絶対に死ぬな!!!」

 

李鈴は五飛のその言葉に寂しげなものが晴れ、ならばと五飛に投げ掛けた。

 

「当たり前だ!!だったら五飛のガンダムの通信コードを教えろ!!知らないままじゃ会うもこうもできないだろ!!」

 

すると五飛は何かを悟ったように口許に笑みを浮かべて静に言い放った。

 

「いいだろう……」

 

 

 

その頃、オーガスタ研究所ではロニに同様、マリーダへの人体実験措置が施されていた。

 

マリーダは遺伝子操作による、完成され過ぎた先天性強化人間であり、ロニのように容易く洗脳仕切れずにいた。

 

その為、バンシィのテストパイロットとしては保留となり、この半年間ベントナ達は日々人体実験を重ね続けていたのだ。

 

拘束椅子に体の自由を奪われた状態で、ネオグリフェプタンとは別の薬物がマリーダの全身に投与され、凄まじい激痛がマリーダを襲う。

 

最早マリーダの体は限界をむかえていた。

 

「ああああああああっ!!!ああああああああっうっうっかはっ……ぁぁああっっ!!!!」

 

苦しむマリーダを平然と嘲笑いながらベントナは実験を続行させる。

 

「ひーひひひひ!!言い声だ!!!もっとだ!!!!もっとマインドグリフェプタンを投与だ!!!!」

 

「体温、脈拍数がレットゾーンですが……」

 

「構わん!!もっとやれ!!人形に仕立てるには、更なる処置が必要!!!精神操作の為に一度自我を破壊する!!!!完全な人形戦士に仕立てる!!!たまらんなぁ……!!!!」

 

「御意……」

 

マリーダに更なる別の薬物が投与される。

 

「っっ……!!!嫌!!!嫌ぁああああああああ!!!」

 

半ば趣味も加味されたベントナの非情な人体実験にマリーダは引っ掻き回され、半年絶えた心が遂に崩壊していく。

 

マリーダが悲痛な叫びを上げれば上げるほどベントナは薄ら笑いを浮かべ続ける。

 

「かはっ……かはぁぁっ……うっくぅぅ……ぁぁああああっっ!!!」

 

「壊れろ、壊れろ!!!壊れてしまえ!!!壊れれば新しい人形に生まれ変わる!!!以前調べさせてもらったが……ニュータイプ部隊の生き残りなのだな……プルシリーズ………ひひひひ!!」

 

ボードに挟んだ資料に目を通しながら卑屈にベントナは笑い続けた。

 

「マスタァ……ヒィロォ……ねぇ……さんっ!!ワタシ……コワレチャウ……ぅぅぁぁ……あ、くぁああああああああっっ!!!」

 

マリーダは自我崩壊寸前の中でジンネマンとヒイロ、プルを想うも、やむ無く超絶な苦痛に見舞われ、幾度も悲痛な叫びを上げ続けた。

 

 

大西洋上・オルタンシア

 

 

 

アディンとオデルはミーティングルームにて、ラルフと共に今後の行動を模索する。

 

ラルフは、たばこを吸いながらポケットデータベースを手にし、世界情勢のメディア情報を見ながら表示文を呟く。

 

「L1コロニー郡にて、メテオ・ブレイクス・ヘルのアジト一斉排除・壊滅から現在……第三次ネオジオン抗争激化。連邦宇宙軍軍備強化及び本格的な戦闘体制へ……地球ではメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムが行方をくらます……未だ鹵獲できず」

 

オデルは腕組みをしながらそれらへの意見をこぼす。

 

「流転するな世界が………どう行動しても時代は簡単には変えれんか……」

 

「あぁ。そして半年前、完全にオペレーションメテオは終った。物の見事に内側からやられた」

 

「ヒイロもその運命を受け入れた結果……失敗の最終手段たる自爆にはしった……生命はあるが未だ意識が戻らない……」

 

オデルとラルフの傍らで、アディンは悔しげに拳を握り震わせていた。

 

無論、叩きつけられた現実に対してだった。

 

「くっそぉ……!!!俺達のやってきた行動は無意味だったのか!!?どーすりゃいーんだっ!!!」

 

「アディン!!Gマイスターたるものが嘆くな!!!このような状況だからこそ現実と闘うんだ!!!!」

 

オデルは嘆き紛れに叫ぶアディンに厳しく言葉を吐く。

 

無論、兄としての厳しさだ。

 

「兄さん!!じゃあ、どうやって闘うんだよ!?!?」

 

「耐えることだ!!!チャンスは時代の流れに乗ってやって来る!!!その来るチャンスに今を耐え、備える闘いをするんだ。MSに乗るばかりが俺達の闘いじゃない」

 

「耐えるって……もう半年だぜ!??ヒイロは未だ意識は戻らねー、組織の仲間はみんなやられちまった、ネオジオン抗争は始まる、デュオ達とも連絡できねー……!!!限界だぜ!??」

 

若さ故にアディンの忍耐は限界にきていた。

 

現状を打破できない煩わしさが積み重なり過ぎていた。

 

「アディン……限界と感じ始めた所からが真の闘いだ!!!それにもう一つ。お前はプルを守ってやる闘いがある!!!彼女自身、お前を一番慕っているだろ!?」

 

「な、何言ってんだ、兄さん!!!真面目にしろよ!!!」

 

「俺は大真面目だ……ニュータイプは護るべき存在。これまでの宇宙世紀の歴史では幾多のニュータイプと思われる人々が戦死していった記録がある……その中でもプルはネオジオンのニュータイプの生き残り……もっと突っ込めば、公式記録にある戦死した彼女の片割れが今俺達が知ってるプルだ」

 

アディンはオデルから初めて聞かされる事実に驚愕する。

 

「な!?!そうなのかよ!!?一体どこで!??」

 

アディンの驚愕に答えるようにラルフも言葉を流す。

 

「メテオ・ブレイクス・ヘルの過去記録のデータベースからだ。連邦の名士官・ブライト・ノアが記した記録上の話だが、確かに第一次ネオジオン抗争の最中、ダブリンでエルピー・プルという彼女と同姓同名の少女が戦死している……」

 

それを知ったアディンは、プルの面影と死のイメージを想像してしまう。

 

煩わしく、かつ拒絶したくなる哀しみを抱いてしまう。

 

「俺達の知ってるプルは何度も言うように一番お前を慕っている。ま、要はプルが異性的にお前を好きなんだろうが、そんな彼女の為にも今を堪え忍ぶ闘いに勝てなくてはGマイスターが廃るぞ、アディン!!!」

 

「へっ……好きになってくれるのは……その……嬉しい……かな!?ま、そういう過去も絡んでると知ったら益々守らなきゃって思えてきた!!!ダブリンで死んだもう一人のプルの為にもな……!!!」

 

アディンは堪え切れない忍耐を思い改め、拳をバシッと叩いて見せた。

 

その一方で、当のプルはハワード達が回収したMSを前にして、ある意味でアディン達の想いに反する決意を固めようとしていた。

 

そのMSとはキュベレイMkⅡであった。

 

プルはそっと歩みよりながら、ぬいぐるみのように脚を広げて寝るキュベレイMkⅡに寄り添った。

 

「あたし……何故かこのコのコト解る……キュベレイ……なんだか懐かしいような不思議なキモチ……」

 

プルは自身の記憶には無いはずのキュベレイMkⅡを解り、不思議な気持ちに駆られる。

 

同時に彼女の中の決意を口にした。

 

「今……アディン達は下手に戦えない……なら、あたしがこのコでアディン達を守ってみせる……!!!決めたよ!!!」

 

プルのアディンを慕い想う気持ちが、皮肉にも彼女を戦いの世界の方向へ流す。

 

だが、その決意と想いは、プルの従順純心な心に変わりなかった。

 

 

 

 

二週間後―――

 

 

 

オーガスタ研究所

 

 

 

サイレンが響く中、警備にあたるジェガンやジムⅢが、一斉にビームライフルを射撃する。

 

その最中を3機のガンダムが駆け抜ける。

 

ガンダムサンドロックを筆頭にガンダムデスサイズ、ガンダムヘビーアームズが左右両端から続く。

 

「敵襲!!敵襲!!メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムの強襲を受けている!!全戦力をもって……がぁあああっっ―――!!!!」

 

 

 

ディギィギャガァアアアアン!!!

 

 

 

ズゥジュガァアアアアアッッ!!!!

 

 

 

ザガギャアアアアアアアッ!!!

 

 

 

敵機に接近次第、ヒートショーテルとビームサイズ、アーミーナイフの斬撃が連邦サイドのMSを各々に斬り裂いて爆破させていく。

 

デュオはロックしたジェガン3機、ジムⅢ3機を連続で斬り裂きながらカトルに言いかける。

 

「アディン達が以前に痛手を負わせたとはいえ、戦力がまだこうもあるなんてな!!!」

 

「きっと増強されたんだ!!でも、この程度の増強はどうって事ないけどね!!!」

 

ガンダムサンドロックは勢いをつけた斬撃でジムⅢ4機を連斬し、クロススラッシュをジェガン2機に食らわせ撃破する。

 

「気合入ってんな!!カトル!!!」

 

その光景を見たデュオがジェガン2機を破断させながら言うと、トロワがジムⅢを連続で斬り砕きながら静に言った。

 

「囚われた女が掛かっているんだ。気合も入るだろう……」

 

ガンダムヘビーアームズは、アスファルトをスライドしながら減速。

 

停止した位置からビームガトリング、ブレストガトリングをぶっぱなし、前面上のジェガン、ジムⅢ部隊を砕き散らす。

 

この攻撃を受け、オーガスタ研究所のベントナは卑屈に笑いながら迎え撃つ思考でいた。

 

「くーくっくっく!!!我々連邦の現在のガンダム……味わうがいい!!!」

 

オーガスタ研究所のMSドックにはΞガンダムと共にもう一つの巨大なガンダムが控えていた。

 

そのガンダムのコックピットシートに座るロニへ、モニターに映ったキルヴァが不敵に言いかける。

 

「ロニ……来たぜ……お披露目タイムがよぉ!?!キヒ!!」

 

「そうね……邪魔な感覚―――ガンダム……ガンダムは叩き潰す!!!」

 

ロニは低くい声で呟いた。

カトル、デュオ、トロワが現状に抗うその一方で、ヒイロは未だ意識を戻さず、オルタンシアの病室で眠り続ける。

 

戦士の覚悟の代償として意識を手放したかのごとく……。

 

 

 

To Be Next Episode




次回予告

カトル達は捕らわれ続けているロニとマリーダを救出するため、宇宙への帰還を兼ねながらオーガスタ基地のシャトル基地へ強襲を実行する。

しかし、そこには強化人間に変わり果てたロニとの再会が待っていた。

一方、宇宙では半年前から続く第三次ネオジオン抗争が継続され、各地で戦闘が及んでいた。

OZと連邦、ネオジオンが攻防を繰り広げるその最中、フロンタル率いるネオジオンの部隊が、かつてのコロニー落としを再び実行しようと動き始める。

だが、歴史の水面下では新な動きが生じようとしていた。

次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

第17話 「星屑の赤い彗星」

任務……了解!!



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エピソード17 「星屑の赤い彗星」

読者の皆様、長らくお待たせ致しました。今後も諸事事情により連載に波があるかも知れませんが、御了承ください。

それではエピソード17、スタートです!!


 

 

北米 オーガスタ研究所

 

 

 

爆発音が鳴り響く中、叩き伏せるかのようにガンダムサンドロックがヒートショーテルを振りかざし、ガンダムデスサイズがビームサイズを振り回してジェガンやジムⅢを斬り飛ばす。

 

そしてガンダムヘビーアームズが機体を踏み締めながらビームガトリングとブレストガトリングをぶっぱなし続け、迫ったジェガン、ジムⅢ部隊を砕き散らす。

 

その光景はオペレーションメテオ発動時の光景を再現させたかのように見える。

 

だが、今は支援施設が乏しく実際には組織が壊滅していた。

 

メテオ・ブレイクス・ヘルが長期間の劣勢に陥っているにも関わらずカトル達は敵基地へ強襲をかける。

 

目的は二つ。

 

一つはHLVを奪取して宇宙へ帰還する。

 

二つはマリーダとロニの救出。

 

だが、後者は叶わぬ運びに進みつつあった。

 

ロニは新たなガンダムに乗り込み、瞳を閉じながら攻めいるカトル達を感じていた。

 

「来ている……忌々しい存在……ガンダム!!!!」

 

過ぎた強化処置の末にロニは闘争に駆られ、眼光は鋭いものに変わり、コントロールグリップを握る手にも力が入る。

 

ロニを収めたガンダムを見つめ、キルヴァはΞガンダムのコックピットで独特の笑いを交えながらそのモニター越しのガンダムの名を溢す。

 

「キヒヒ!!ペーネロペー……お手並み拝見だなぁ……!!!!ロニ!!!いこーぜぇ……!!!!」

 

「あぁ!!!!ガンダムを……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを……駆逐する!!!!」

 

「その後は……キヒヒ!!!“また”ベットで俺の相手頼むぜ~……キヒヒ!!!!」

 

淫らな発言をするキルヴァに対し、ロニは気丈にあしらう。

 

「こんなときに馬鹿な発言はするな、キルヴァ!!!!」

 

「ヘイヘイ……キヒヒ!!」

 

「ふん……だがまぁ、お前の仕事ぶりで褒美として考えてやる……ふふっ!!」

 

「じゃあ……決まりだなぁ」

 

あろうことかロニの記憶はキルヴァをパートナーとして捉えてしまっていた。

 

全てはベントナとキルヴァによるものであった。

 

そうとは知らないカトルは、ガンダムサンドロックと共にロニの救出を信じてオーガスタ基地を突き進む。

 

「うおぉおおおっっ!!!」

 

連撃されるヒートショーテルがジェガン、ジムⅢを切断させていく。

 

ビームやミサイルの直撃を浴びながらもそれは止まらない。

 

「そらぁ!!!そらそらそらそらぁああああ!!!!」

 

ガンダムデスサイズのビームサイズが縦横無尽に振りかざされ、ジムⅢ達をバラバラに破壊し、振り切りながらジェガン3機を斬り飛ばす。

 

「戦力は削ぎ落とす!!!残存部隊が居ればHLVの発進妨げになる」

 

アーミーナイフでジェガンに襲いかかり、連続でジェガン部隊を斬って駆けるガンダムヘビーアームズ。

 

着地地点でビームガトリングを突き出し、ジェガンやジムⅢの部隊へぶちまけるかのごとく射撃し、破砕させる。

 

基地に鳴り響く轟音の中、デュオは敵機を斬り飛ばしながら突っ込みすぎるカトルを気遣う。

 

「おいおい!!!いくらなんでも無茶すんなよな、カトル!!!もしかしたらあん時のガンダムも出てくるかも知れねーんだからな!!!」

 

「わかってます!!!けど、この向こうにロニが居ると思うと……!!!」

カトルのそんな気持ちも考えたデュオは、攻めの角度に切り替えて気遣った。

 

「ヘイヘイ……ぞっこん……か……よっしゃっ!!やってみろ!!!!」

 

「もちろん!!!!」

 

カトルの気迫と共にガンダムサンドロックの力強いクロススラッシュがジェガン2機を斬り砕く。

 

その時だった。

 

3機のガンダムのコックピットに新たな機影を警戒するアラートが響いた。

 

「新手―――!?!」

 

「おいでなすったかい……!!!」

 

「やはり……そう来るか……!!!」

 

半分は見据えていた。

 

だが、もう半分は見据えていなかった。

 

オーガスタ基地の地下ゲートが開き、Ξガンダムとそれと同じクラスのガンダムであるペーネロペーが浮上する。

 

そのモンスター然としたシルエットに三人は唖然を食らわざるを得なかった。

 

3機のガンダムをモニター越しに見下ろすロニは鋭い眼光で睨み付けた。

 

「ガンダム……!!!!忌々しい敵!!!!」

 

素早い作動速度でカトル達のガンダムをロック・オンしたロニは一気に思念をファンネルミサイルにのせて撃ち放った。

 

ペーネロペーから放たれたファンネルミサイルは、無尽蔵に雨嵐のごとく注がれ、衝撃と爆発が絶え間無く連続で襲いかかる。

 

ガンダムサンドロック、ガンダムデスサイズ、ガンダムヘビーアームズの装甲では容易には破壊できないが、鋭利な先端の形状と高速激突が内部危機に影響を与えていく。

 

「くぅっ……!!!」

 

「適格な攻撃法だ……!!!」

 

「おいおい……デカぶつガンダムが2機もかい!??」

 

エラーアラームが鳴る中で、カトル達は衝撃を耐えしのぐ。

 

だが、ペーネロペーは休む間を与えることなく握りしめたビームバスターを放った。

 

「絶対に叩く!!!」

 

ガンダムサンドロックは、ヒートショーテルをクロスさせながら防戦を強いられる。

 

叩きつけられていく高出力ビームが、ガンダムサンドロックとカトルを疲弊させていく。

 

「くっ……!!!このガンダムは……!!!」

 

カトルは思考では説明し難い何かを感じ、ペーネロペーに対し攻撃を避けていた。

 

カトルはその感覚にまさかと感じ、通信を繋げようと通信操作をしようとした。

 

だが、ロニは阻むようにして更なるファンネルミサイルの雨を仕向ける。

 

ペーネロペーから放たれた幾多の鋭利な弾頭が、突き刺さるようにガンダムサンドロック、更にはΞガンダムと交戦に踏み切ろうとするガンダムデスサイズ、ガンダムヘビーアームズにも直撃していった。

 

「がぁああああっ!??」

 

「くっ……!!!」

 

2機はバランスを崩し、直撃を受けた反対方向に機体を飛ばされる。

 

素早いブースト操作で機体を立て直したガンダムデスサイズとガンダムヘビーアームズは、反撃に撃って出た。

 

「やってくれんじゃねーか、デカぶつガンダムさんよぉ……死神様はご立腹だぜぇ!!!!」

 

ビームサイズを降り構えてガンダムデスサイズを突っ込ませるデュオ。

 

トロワのガンダムヘビーアームズはビームガトリングを唸らせながら、Ξガンダム、ペーネロペー双方のファンネルミサイルを連続撃破させていく。

 

「キヒヒー!!!なかなかの射撃テクだぁ……なっ!!!!」

 

キルヴァはトロワの射撃テクニックに気を向けながらガンダムデスサイズのビームサイズを受け止めてみせる。

 

「こんちきしょーがっっ!!!!」

 

「キヒヒ!!!少しチューンしたΞガンダム……見せてやるぜぇ!!!!」

 

Ξガンダムのビームサーベルを押し込むパワーが遂にガンダムデスサイズを上回る。

 

デュオとキルヴァに眩いスパークが照される中、拮抗が崩れ始める。

 

「おいおい……マジかよ!??相棒がパワー負けかよ!??」

 

「キヒヒ~……マジだよっ!!!!」

 

キルヴァはニンマリ笑うと、一気にビームサーベルを押し込んで圧倒し、ガンダムデスサイズをアスファルトに激突させた。

 

「ぐあぁああああっっ!??」

 

「デュオ!??奴らのガンダム……やるな……だが、まだ引くわけにはいかない!!!」

 

トロワはビームガトリングをΞガンダムとペーネロペーに向かい交互に射撃して被弾させる。

 

ロニはそれに構うことなくビームバスターをガンダムサンドロックへ叩き込み続け、キルヴァもビームバスターの銃口をガンダムヘビーアームズに向けて撃ち放つ。

 

ビームバスターのビームが、ガンダムヘビーアームズの胸部に直撃し、ガンダムヘビーアームズは大きく吹っ飛ぶ。

 

「くっ……!!!」

 

ガンダムヘビーアームズのコックピット内で幾つものエラーアラートが鳴る。

 

機体の衝撃が、他機構に影響を及ぼす。

 

一方のカトルは、遂にペーネロペーへの通信回線を開く。

 

カトルの第六感が、この向こうにロニの感じを感じて止まなかった。

 

「こちらGマイスター……もしかして、その禍々しいガンダムを操縦しているのは……ロニなのかい!??」

 

「馴れ馴れしく話しかけるな!!!ガンダム!!!!」

 

「ロニ!??」

 

ギンと両眼を発光させたペーネロペーは、押し迫るようにガンダムサンドロックに襲いかかった。

 

「死ねぇ!!!!」

 

ペーネロペーは、メガビームサーベルを取り出し、力強くガンダムサンドロックへと叩き付ける。

 

重い衝撃を、ヒートショーテルで受け止めるガンダムサンドロック。

 

散らされるスーパークから伝わるように変わり果てたロニの声がカトルに襲いかかる

 

だが、カトルは屈せずにロニに呼び掛ける。

 

「くっ……ロニ!!そんな感情はロニらしくないよ!!ロニは……僕の知っているロニはそんなんじゃ……!!」

 

「貴様など知らん!!私にはイカれてはいるが、パートナーがいる!!少々欲情が過ぎて躰が困るのが難だが……ふふっ……酷く濃厚だぞ……おかげで夕べも疲れた」

 

「そんっ……な――――!!?!」

 

「それに、お前のようなか弱そうな口調、態度、知ったかのようなふるまい……実に好かない……うざいから殺してやる!!!」

 

「……ロ……二―――!!!!」

 

カトルの純粋な心が崩壊した瞬間だった。

 

これまでに純粋にロニを想い続けていたカトルにとって、精神的な拷問だった。

 

否、それは拷問を越えた蹂躙に等しい。

 

現実的な汚れと精神的苦痛が、カトルの心を容赦なくひねり潰しにかかったのだ。

 

ペーネロペーは更に闘志を失ったカトルのガンダムサンドロックを圧倒し、ヒートショーテルを捌き飛ばしてメガビームサーベルをぶち当てる。

 

 

ザァガギャアアアアアアアアッッ!!!

 

吹っ飛ばされたガンダムサンドロックは無気力なまでに落下し、アスファルトへ叩きつけられた。

 

更には追い討ちを掛けるがごとく、ファンネルミサイルの集中放火を浴びる。

 

 

キュキュキュキュコカァアッッ―――ドッドドドドドッドドドドガガガガァア!!!

 

 

激しいコックピット内の振動の中、カトルは放心状態のまま、ただただシートに身を委ねる。

 

経験したことの無い絶望が、カトルを包んでいた。

 

強力な衝撃にガンダムサンドロックの内部機器は悲鳴を上げるようにエラーアラートを鳴り響かせる。

 

ペーネロペーはビームバスターを容赦なく重ね重ね直撃させていく。

 

 

 

ドォズドォ!! ドォズドォ!! ドォズドォ!! ドォズドォ!!

 

ディガオン!! ディガギャッ!! ズドォアッ!! ドォドォゴォッッ!!

 

 

 

「カッ、カトル!!がぁあああ!??」

 

「キヒヒ!!よそ見してんなぁ!!!」

カトルに気をかけたデュオだが、ガンダムデスサイズの胸部にΞガンダムのメガビームサーベルが突き上げられ、不覚をとってしまう。

 

だが、ダメージの反動から体勢を立て直し、ガンダムデスサイズはビームサイズを振りかざしてΞガンダムに突っ込む。

 

「こんちきしょうがっ!!!」

 

怒りに任せたビームサイズとメガビームサーベルがぶつかり合い、再びスパークが両者の間にはしる。

 

悪魔に楯突く死神のような構図で両者は拮抗し合ったが直ぐにガンダムデスサイズが押され始める。

 

「キヒヒヒヒヒャ!!か細い死神だぁ~……なさけねーなぁ!!!!」

 

キルヴァは、目映く暴れ輝くスパークを浴びながら嬉しそうに嘲笑い、それに対し、デュオは憤りをキルヴァに向かってぶちまける。

 

「んだとぉ!??誰がか細くて情けないってんだぁ!??こんくそ野郎!!!!」

 

デュオは怒り任せにPXシステムを発動させた。

 

メインモニターディスプレイに、PXーSYSTEM STANDBYの表記が浮かぶ。

 

瞬時にガンダムデスサイズは青白く発光し始め、一気にメガビームサーベルをはね除けて圧倒し、離脱した。

 

 

 

デギャズゥッッッッ!!!!

 

 

 

「何ぃ!?!」

 

「俺達のガンダムはこいつがあんだよ!!!!PXシステムがなぁ!!!!らぁあああああ!!!!」

 

ガンダムデスサイズは縦横無尽に飛び交い、瞬く間に斬撃をΞガンダムへ浴びせていく。

 

 

 

ギュグゴォオオオオッッ……ガギン、ディギャガッッ、ザガギャッッ、ギャシャンッッ、ディッッギャガァアアアアン!!!!

 

 

 

「がっ……ぐぅっ……ちぃっ……うぜぇっ……!!!!」

 

Ξガンダムはガンダリウムγ合金の装甲で致命的な破壊は免れていたが、食らう斬撃の反動方向へ何度も機体を弾かれていく。

 

だが、ロニはやられるキルヴァにかまうことなくガンダムサンドロックを一方的に攻撃し続けていた。

 

浴びるように集中するビームバスターの高速かつ高出力のビーム。

 

そしてファンネルミサイル群。

 

無抵抗なガンダムサンドロックはマリオネットのように攻撃を受け続けていた。

 

「ロニ……ロニ……ロニ……」

 

放心状態でカトルはひたすらにロニの名を呟きながら涙を流す。

 

「カトル……一体どうしたんだ!??くっ……俺も使わせてもらう!!!」

 

この状況を脱する為に、トロワはガンダムヘビーアームズのPXシステムを起動させた。

 

青白く輝いたガンダムヘビーアームズは、倒れ込むガンダムサンドロック目掛けて高速で加速し、ペーネロペーにビームガトリングを牽制射撃する。

 

「うるさい!!!」

 

ガンダムヘビーアームズは、攻撃に反撃したペーネロペーのビームバスターを高速で躱し、倒れたガンダムサンドロックの腕を掴んで一気に離脱した。

 

「逃がすか!!!」

 

ロニは憎悪を燃やしながら飛び去るガンダムヘビーアームズを狙い撃つ。

 

だが、PXの亜光速的なスピードを前に直撃は不可能だった。

 

「くぅ!!おのれガンダム……!!!!」

 

この期を逃さまいと、トロワはΞガンダムに攻撃し続けるデュオに呼び掛けた。

 

「デュオ!!離脱するぞ!!」

 

「ああ!??何でだ!??」

 

「離脱するチャンスは今を逃す他無い!!今俺達は圧倒的に不利だ!!PXには稼動リミットがあり、それを過ぎればGNDドライヴの機能は著しく低下する!!!」

 

「ちぃっ……そーくるかっ……なら、最後に一発!!!!!」

 

デュオは渾身の怒りを任せて、Ξガンダムの頭部にビームサイズの斬撃を叩き下ろす。

 

 

 

ザァダガギャアアアアアア!!!

 

 

 

「がぁ!??」

 

急下降の直後に機体を舞い上がらせて離脱するガンダムデスサイズ。

 

ガンダムヘビーアームズもまたガンダムサンドロックを抱えて離脱していく。

 

キルヴァは眼を血走らせながらガンダムデスサイズを追撃しようとした。

 

「野郎……!!!」

 

「キルヴァ!!無駄だ……追い付けはしない。向こうのシステムが違い過ぎる。それにこれはこっちの勝利だ。攻撃を最後に貰ったが奴等は逃げざるを得なかった。そこまで追い詰めたのだ……」

 

だが、急遽ロニが追おうとするキルヴァを制止し、分はこちらにあることを諭した。

 

「けっ!!釈然としねぇが……ロニがそー言うならしゃーねーや……けどよ~さっきまで殺る気満々だったのにどーしちまった!?」

 

キルヴァはつい先程まで敵意むき出しだったロニの急な感情変化に疑問を抱いた。

 

だが、当のロニ自身も解らないでいた。

 

「解らん……何故か急に冷静になった……としか言えん」

 

ロニは、攻撃の手を緩めた自分自身の手を見つめ、感覚の裏にある違和感に問う。

 

だが、理解できないことに変わりはなかった。

 

「そう……何故か……な……だが、何故なんだ?」

 

攻撃体勢を解除したペーネロペーとΞガンダムは、遥か彼方へ飛び去っていく3機のガンダムを見続けていた。

 

脅威の力を持ったメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムに連邦のガンダムが勝った瞬間でもあった。

 

それは本家のガンダムが威厳を取り戻したかのようにも見えていた。

 

その一方、旧ジオンの鉱山基地・キンバライド基地跡周辺においてもガンダムの脅威がジオンに襲いかかる。

 

ガルスKや、マラサイ、ゾック、ドム・トローペン、デザートザク等のMSが連邦のジェガンやOZのリーオーの部隊との戦闘を展開する最中、突如として上空よりサイコフレームから金色の粒子を散らすガンダムが舞い降りた。

 

ユニコーンガンダム2号機「バンシィ」。

 

黒いボディーに、真っ赤な両眼、威圧する角、ライトアームにはアームド・バスターキャノン、レフトアームにはアームド・ファングという禍々しい容姿のガンダムだった。

 

ガンダムバンシィは、滑空しながらアームド・ファングでデザートザクを一撃で砕き散らすと、アームド・バスターキャノンを側面側にかざす。

 

チャージされたエネルギーが開放され、バスターライフルさながらのビーム渦流が撃ち放たれた。

 

一挙にドム・トローペンやガルスK、ゾックを一瞬で破砕させて吹き飛ばしてみせる。

 

残りのデザートザクやドム・トローペン、マラサイが持てる武器で攻め立てるが、アームド・バスターキャノンのビーム渦流に撃ち抉られ、無惨に残った部位を爆発させる。

 

残ったもう1機のマラサイが、ビームサーベルを降り上げて特攻するも、アームド・ファングに掴み潰される。

 

そして、腕部のビームサーベルが発動し、マラサイの胸部をビームサーベルが零距離で刺突して貫いた。

 

爆砕するマラサイの向こうより、眼を紅く、かつ不気味に光らせるバンシィが姿を見せる。

 

更にガンダムバンシィは、別箇所で戦闘しているジオン残存軍に向かって飛び立つと、アームド・バスターキャノンをかざして上空より連続して撃ち飛ばす。

 

 

 

ヴィギュゥヴァアアアアアッッ!!! ヴィギュドォアアアアアッッ!!! ヴィギュゥヴァダァアアアアアアアア!!!

 

ヴィギュリリリリリ……ヴヴァダァアアアアアア!!!

 

ドジュダァッッ、ゴヴァガアアアアアッッ、ズドシュアアアガッッ、ヴァズゥアアアアアアア!!!!

 

 

 

ジオン残存軍のドム・トローペンやガルスJ、ズサ、デザートザク、グフカスタム、ドワッジがビーム渦流の前に成す統べなく砕き散らされた。

 

ドダイに搭乗上昇しながら果敢にヒートソードで斬りかかるイフリートの斬撃すらも、腕ごとアームド・ファングで掴み砕き、ビームサーベルを突き刺して破砕させた。

 

コックピット内には、息を荒くする黒い専用ノーマルスーツを着用したマリーダがいた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……私はプルトゥエルブ……私の敵はジオンとガンダム!!!ジオンは敵っっ!!!」

 

マリーダの感情に比例するかのように、眼下の残っていたザク改にバンシィがアームド・ファングをかざして襲いかかる。

 

えげつないまでの衝撃と共にザク改を襲い、地面へと押し潰され砕き潰される。

 

「あぁああああああ!!!敵ぃいいいいい!!!」

 

マリーダの高ぶる感情と共にザク改を砕き潰して爆破。

 

ガンダムバンシィの脅威の姿が燃え上がる炎の向こうに佇む。

 

正に死を知らせる存在ともとれる、恐怖の威圧を醸し出していた。

 

「敵はジオン……そして、ガンダム……!!!」

 

 

 

数日後―――オーストラリア上空・衛生軌道エリア

 

 

 

大気圏よりも手前を以て、クラップ級の地球連邦軍艦隊が防衛ラインを張りながら砲撃に砲撃を重ねる。

 

その方角には、ムサカ級、エンドラ級、そして旗艦レウルーラのネオジオン艦隊が同じく砲撃に砲撃を重ねていた。

 

宇宙(そら)に生まれては消える無数の爆発光の中へ出撃していくジェガンやリゼル、ジムⅢの部隊。

 

ネオジオンサイドからはギラズール、ギラドーガ、バウ、ドライセン、ガザCの部隊が攻め混んでいく。

 

ビールライフルがはしり、ギラズール達を貫き、ビームマシンガンが唸り、ジェガン達を砕き散らす。

 

はたまた可変したリゼルがバウへ銃撃。

 

撃たれて爆発するバウが苦し紛れにビームライフルを放ちリゼルを破壊。

 

別のバウが一撃離脱でリゼルをビームサーベルで斬りモノアイを発光させる。

 

ギラドーガが放つビームマシンガンの嵐にジムⅢが蜂の巣にされ爆発。

 

そこへスタークジェガンのビームバズーカの砲撃が食い込みギラドーガは敢えなく爆破。

 

ドライセンが放つビームマシンガンに腕を破壊されたジェガンがシールドミサイルを撃つ。

 

この直撃を受けながらもドライセンは平然とビームトマホークでジェガンを連続で斬り裂く。

 

そこへリゼルのビームライフルが幾つも食い込み、ドライセンは爆破。

 

そのリゼルも、ギラズールのビームマシンガンに撃たれて爆発した。

 

複雑に飛び交う攻防の中の向こうに、巨大な円筒形の物体があった。

 

廃棄スペースコロニーA1752コロニーだ。

 

この戦闘におけるネオジオンのねらいたる象徴であった。

 

その前を進むレウルーラから紅い彗星と紫の薔薇が飛び出す。

 

フロンタルとアンジェロだ。

 

アンジェロは新な機体・ローゼンズールを駆り、シナンジュの守り手として就いていた。

 

早くも彼らに攻撃をかけるジェガンやリゼルの部隊が突っ込む。

 

シナンジュはかざしたビームライフルを放ち、連続で3機のジェガンを仕留める。

 

ジェガンは直撃部を円形に熔解され連続で爆破。

 

そして駆け抜けながらレフトアームに握るビームトマホークの長い刃でリゼル3機を破斬する。

 

そこから対空砲火の中へと飛び込み、各艦を防衛するリゼルやジェガン、ジムⅢをロックする。

 

「我々のオペレーション・ファントム……止めて見せるがいい!!!」

 

 

 

ビィギュイィイイイッ!!! ビィギュィイイッ、ビィギュィッッ、ビィギュィイイ、ビィギュィイイッッ!!!

 

ドォゴヴァンッッ、バガギャアアッ、ゴヴォガアア!!!

 

ゴォガォアアッ、ドッディガァアア!!!

 

 

ジムⅢ3機、リゼルとスタークジェガンが1機づつ撃ち仕留められ、リゼル3機、ジェガン3機へ取り付くようにシナンジュは襲いかかる。

 

 

 

ザァギャアッ、ザズバァアアンッッ、ザシュダンッッ、ザヴァガァッッ、ザザガガシュバァアアアアンッッ!!!!

 

シナンジュに取り付かれた各機が斬り捨てられ、ジェガン2機が連続斬りで斬り裂かれ爆砕された。

 

「愚物共に鉄槌を!!!」

 

 

 

ザァガドォシュッッ!!! ガザァドッッ!!!

 

ドォガゴゴォアアアアアン!!!

 

ヒュコシュッ―――ヴィギュリュドドォアアアアア!!!

 

ドォヴァジュガァアアア……ゴゴゴゴヴァガアアアアアアア!!!

 

 

 

共に駆けるローゼンズールは、ジェガン2機を両腕のアームクローで突き捨てると、アームメガ粒子砲を放ちながらリゼル2機ジムⅢ2機を瞬時に爆砕。

 

更にレフトアーム側のアームを伸ばし、スタークジェガンに突き刺して刺突部を握り潰し、ビームを零距離射撃して見せた。

 

 

 

ディッガキィイインッッ……ギギギギィ……ヴィギュゥヴァジュガアアアッッ!!!

 

ゴドヴァガアアアアアア!!!!

 

 

 

「大佐に楯突く者は、このローゼンズールで葬ってくれる!!」

 

「アンジェロ……真のオペレーション・ファントム第一の段階をここで成功させる。かつて同胞・デラーズフリートが成し得なかったコロニー落としによる連邦軍本部の破壊だ。現本部のアデレートに落とす」

 

「はい!!このアンジェロ、尽くさせていただきます!!!歴史的に価値ある瞬間に立ち合える悦び……感無量です!!!」

 

並大抵ではない2機の攻撃に連邦サイドは押され始めた。

 

ビームが飛び交う衛生軌道上の海原を駆け抜ける2機はビームと斬撃を巧みに繰り出して防衛ライン上のジェガンを排除していく。

 

有線式ワイヤーを携えたローゼンズールは、アームメガ粒子砲を敵の予測範囲外から射撃し、リゼル3機、ジェガン2機を仕留め、ビームサーベルで突きを繰り出して来たスタークジェガンの胸部をクローで突き貫く。

 

対空射撃のレーザー機銃の弾幕も躱し、シナンジュは1隻のクラップ級とすれ違いながらブリッジと機関部をビームライフルで直撃させ、轟沈させる。

 

更にその先のクラップ級艦の防衛を務めていたジェガン4機を狙い撃ち、それらの機体が爆発している隙にブリッジをビームトマホークで斬り裂いて見せた。

 

両者のモノアイがその力を畏怖させるかのように光った。

 

「たった2機……だが、されど2機……赤い彗星の再来だ!!!もう1機もただ者ではない!!!くっ……!!!上は一体何を考えているんだ!!?かつてのデラーズ紛争時の防衛戦力規模の半分の戦力でどうしろというのだ!??」

 

連邦サイドの司令官は、この戦闘状況に酷く憤りを示す。

 

否、自軍の上層部への不服、不満、怒りと言った所か。

 

「ルナ2へ通達しろ!!!!もっと戦力をよこせとな!!!!この戦力ではコロニー落としを防げん!!!!第一、何故OZすらも加勢せんのだ!?!?どうなっている!!!?まだデラーズ紛争の時の方がまともだったぞ!?!?」

 

連邦の司令士官は怒りを当てるようにオペレーターに問いただす。

 

「か、確認致します!!!」

 

オペレーターが慌てながら至急確認を取る手筈を取る一方で、レウルーラのブリッジではライル中佐がこの戦闘情景を目にして指揮を執っていた。

 

ライルはかつてのサザビーの出撃していく様や、戦闘を思い浮かべる。

 

(あの時の総帥も……自ら最前線に赴いて戦っておられた……思い出すな……)

 

「シナンジュ、ローゼンズール、既に2隻のクラップ級を轟沈!!更に進撃します!!」

 

「他の戦闘部隊は拮抗中!!廃棄コロニーへの進撃は食い止められています!!」

 

「廃棄コロニー経路に変化はありません!!」

 

「親衛隊ギラズール部隊、発艦します!!」

 

「連邦側のMS部隊に増援!!」

 

重なる状況報告の中、ライルは出撃していく親衛隊ギラズールを見ながら手をかざして次なる指示を下す。

 

「展開中の全艦は弾幕も張りつつ、一斉射撃を継続!!後方のMS隊はコロニーの守りを強化し、前面のMS部隊は攻めを強化せよ!!」

 

廃棄コロニー側にいた艦隊が更に一斉射撃のラグを縮めての一斉射撃に移行し、ズサやドーベンウルフ、重装ギラドーガのMS部隊が遠距離砲撃を強化、ギラズール、ギラドーガ、バウ、ドライセン、ガザDの部隊が攻めに突き進む。

 

連邦側も、コロニー落とし阻止の為に砲撃を強化し、MS部隊を進撃させていく。

 

衛生軌道上の海原は更なる戦火を炎上させていった。

 

だが、防衛する連邦軍の戦力はデラーズ紛争時の半分であった。

 

その背景には、ネオジオン側の狙いが浸透した結果があった。

 

ライルは別動部隊の状況の確認を取る。

 

「ルナ2とグリプス2の別動隊の状況はどうなのだ?」

 

「はっ!!現在、双方共に拮抗状況であります!!余談は許せません!!!」

 

「狙いはあくまでコロニー落としの成功であり、その為の戦力分散だ。今現在、それ以外にも各地で戦ってくれている同胞達もいるのだ。無理強いはするなと伝えろ!!」

 

「はっ!!」

 

地球連邦宇宙軍の要の一つである、小惑星要塞ルナ2への進攻攻撃と、コロニーレーザー・グリプス2の強奪を兼ねた進攻が重なっていた事にあった。

 

どちらも陥落しては連邦にとって痛手となるポイントであり、この戦闘の影響で戦力を削ぐ訳にはいかない状況となっていた。

 

特にグリプス2に至っては、地球圏に多大なる悪影響を孕んでいる。

 

今現在、ウィングガンダムのシャイアン基地テロ攻撃で遠隔制御が停止されたグリプス2は、施設での直接操作でしか制御できない状況下にあった。

 

この状況でネオジオンがグリプス2を掌握すれば、宇宙の地球連邦軍施設全ての命運がネオジオンの手の中に入るのだ。

 

同時に現時点におけるコロニー落とし阻止の最終兵器でもあった。

 

しかし、使用すれば間違いなく多くのコロニーを破壊する軌道に位置しており、実際問題使用は難しかった。

 

ルナ2宙域にビームの一斉射撃が飛び交い、幾多のMSが敵味方に爆発して散っていく光景が広がる。

 

ジェガン、リゼルの部隊が散開し、攻め入るギラズールやギラドーガ、バウの攻撃に対応して射撃する。

 

撃たれ爆破する機体もあれば、反撃で破壊する機体もいる。

 

ビームとビームマシンガンの飛び交いの中に戦士達の命のやり取りが煌めき、散っていく。

 

はたまたクラップ級の対空射撃に撃たれて爆発四散するギラドーガ。

 

刺し違えになり、クラップ級のブリッジに激突し、艦共々に爆砕していくリゼルとギラズール。

 

第三次ネオジオン抗争は誰の目からも否定できない事実として、歴史にくいこんでいく。

 

特に一番の重点を置かれたグリプス2に置いては、連邦とOZ宇宙軍が共同で攻防の中に投じ、より激化した戦闘が続く。

 

グリプス2では既に直接操作されており、いつでも発射準備は整っていた。

 

言わば戦闘状況の抑止力に近かりし存在である。

 

リーオー部隊が一斉にビームライフルを放ち、ネオジオン側のMS群を撃ち抜いて破壊する。

 

だが、ドライセンやドーベンウルフの攻めにリーオー部隊は撃破されていく。

 

スタークジェガンのビームバズーカやミサイルがはしり、ドライセンの装甲を半壊させながら止めのビームサーベルで串刺しにされた。

 

そこへ零距離射撃のビームマシンガンが放たれ、両者は爆砕。

 

ドーベンウルフには3機のリーオーがビームバズーカで攻め込み、爆砕四散させる。

 

ネオジオン側も負けじとドーベンウルフや重装ギラドーガの砲撃が唸り、ギラズールやギラドーガのビームマシンガンの一斉射撃がはしる。

 

ジェガンやリーオー、ジムⅢの部隊はこれ等に撃破されては反撃した機体が相手を仕留める。

 

攻防に攻防が重なる中、連邦やOZもルナ2やグリプス2において切り札たる戦力の象徴を投入する。

 

グリプス2の戦域で一際目立つ戦艦がいた。

 

ペガサス級戦艦ネェルアーガマ。

 

かつてガンダムの母艦としてきたペガサス級戦艦を系譜する連邦軍屈指の戦艦だ。

 

艦長を務めるのは、アデレートにも顔を見せていたケネス・スレッグだった。

 

「先行するMS隊は周囲の部隊を支援しつつ攻撃に転じろ!!本艦は砲撃を強化!!場合によればハイパーメガ粒子砲の発射もあり得る!!そちらもスタンバイしておけ!!」

 

「はっ!!」

 

「こちらも切り札たる象徴を……ユニコーンガンダムを出せ!!」

 

「ユニコーンガンダム、カタパルトデッキへ!!」

 

(ユニコーンガンダム……私も非常に興味がある……その力を是非とも見てみたい!!)

 

ケネスは個人的にもガンダムの力というモノに深い興味があった。

 

この艦もロンドベル所属の戦艦であり、今日においてもガンダムの母艦を継承している。

 

ケネス自身も配属の巡り合わせに悦びを感じてならないでいた。

 

そしてまた、ユニコーンガンダムと共にリディもこの艦に身を投じていた。

 

「俺も晴れてこの艦の所属か……しかし急な配備だったな。俺自身まだ整理がついていない……それにユニコーンガンダム……お前の力が、NT-Dが未知過ぎる!!ニュータイプを駆逐するガンダムがお前なのか!??」

 

カタパルトでスタンバイするユニコーンガンダムのコックピットでリディは機体に問いかけていた。

 

そこへオペレーターからの通信が入る。

 

「リディ、独り言?またMSと会話してんの?」

 

「ミヒロ!?あ、うん……このガンダムのシステムが気になって仕方なかっただけさ!!」

 

オペレーターのミヒロ・オイワッケンはリディの同僚であり、恋人でもあった。

 

「相変わらずMSと会話するの好きね。でもま……改めてお帰りなさい、リディ」

 

「あぁ。ただいま……そうだ!!今度一緒に映画でもどう!?久々にデートしたくてならない!!」

 

「リディ少佐……今は任務中よ?私も最低限の私語で話してるんだから!!その話は後でね!!」

 

「あ、すまない!!ははっ……よし、リディ・マーセナス、ユニコーンガンダム……発艦する!!」

 

ネェル・アーガマの中央のカタパルトより、ユニコーンガンダムが飛び出す。

 

リディは久々に交わしたミヒロとの会話を賭しながら、モニターに広がる戦域の海原へ身を投じる感覚で戦域へ突っ込んでいく。

 

ビームマグナムとビームガトリングを装備したユニコーンガンダムは、手始めに出会す敵機をロック・オンし、射撃する。

 

ビームマグナムの高出力ビームが抉るようにギラドーガを貫き、同時に後方にいたギラドーガとバウ、ガザDも高出力エネルギーの貫通を受けて爆砕する。

 

クリアーグリーンのビーム弾を放つビームガトリングのビーム弾がギラドーガ、ギラズールを撃ち抜いて破壊する。

 

「グリプス2がそんなに欲しいか!??それとも……」

 

ビームマシンガンの射撃をIフィールドシールドで相殺し、ギラズールをビームガトリングで撃ち砕き、ガザD3機をビームマグナムで一気に撃ち貫く。

 

「コロニーを落としたいのか……」

 

ビームガトリングを断続的に撃ち、ガザC4機を連続で撃ち墜とし……。

 

「ハッキリさせろよな!!?」

 

チャージさせたビームマグナムを放ち、ムサカ級の機関部を撃ち抜き、爆砕・轟沈させた。

 

ユニコーンガンダムは更に奥面まで切り込み、ビームガトリングで敵機を撃ち墜とし続ける。

 

その最中、サイコ・ドーガの機体群5機を捉える。

 

「サイコ・ドーガ……ニュータイプか……っく!?!」

 

その瞬間、ユニコーンガンダムのNT-Dが即座に反応し、コックピットシートを変形させる。

 

「き、きた……!!!NT-Dっ……ぐくっ!!!!」

 

パイロットに直接的な負担を強いるNT-Dは、非常に危険なシステムだ。

 

パイロットであるリディの体に一気にGが襲いかかる。

 

加速しながらユニコーンガンダムは各部を変形させ、ガンダムへと変形していく。

 

各部のサイコフレームが紅く鮮やかに発光し、両眼を発光させたユニコーンガンダムは、凄まじき速度で宇宙(そら)を舞いだす。

 

半残像が残る程の速さで、サイコ・ドーガの背後を捕り、ビームマグナムを速連発。

 

3機のサイコ・ドーガがビームマグナムのエネルギーに機体を抉られ爆砕する。

 

残る2機のサイコ・ドーガはビットユニットのビームマシンガンで攻撃をかけるが、瞬く間に攻撃を躱され、一瞬にして上面からビームマグナムを見舞われ爆砕された。

 

だが、ユニコーンガンダムは止まることなく飛躍し、ネオジオンのMS群へ襲いかかる。

 

ビームマグナムを何発も放ち、その脅威のビームエネルギーで幾多のMS達を破壊する。

 

ギラズール、ギラドーガ、ドライセン、ガザD、バウ、ズサ、ドーベンウルフといったネオジオン屈指のMS群が、縦横無尽に舞うユニコーンガンダムが放つビームマグナムで仕留められていく。

 

既にリディはNT-Dシステムの攻撃デバイスと化し、無情なまでにネオジオンのMSをロックしては破壊する。

 

更にビームガトリングを捨てながらビームサーベルを取り出し、駆け抜けながらギラズール、ギラドーガ、バウ、ガザC達を神がかりな速度で斬り刻み爆砕させる。

 

暴れるような破壊の乱舞は、伝承のユニコーンの狂暴さを表しているかのようだった。

ネオジオン側の攻撃を受けてもIフィールドでその全てを相殺。

 

最早ネオジオンサイドにユニコーンガンダムを止める事ができる者はいなかった。

 

ネェルアーガマのブリッジ内で、この凄まじい戦果をケネスは目の当たりにし、ユニコーンガンダムの狂暴たる性能に驚きを隠せずにいた。

 

「な……5分も経たない間に軽く10機以上のMSを……!!!!想像を越えさせるMSだ……!!!!」

 

ケネスはこの戦闘の勝利を確信し、更に暗黙のセオリーを無視した命令を下した。

 

「グリプス2オペレーターに通達!!今戦闘で発射はせずに通常戦闘配置!!繰り返す!!今戦闘で発射はするな!!!」

 

「ケネス中佐!?!」

 

「この状況……ユニコーンガンダム1機で全てが動く!!!無闇にコロニーレーザーもハイパーメガ粒子砲も使う必要はない!!!」

 

「でも、リディ一人にそんな負担……!!!!」

 

「戦闘状況に私情は挟むなミヒロ少尉……全てはこの戦闘を勝利することが先決だ……!!!!それに実際にコロニーレーザーを撃てば、この軌道では幾つかのコロニーを捲き込む……そうなれば言うまでもあるまい」

 

「確かに……そうです……」

 

ケネスはミヒロにそう言い聞かせ、再び戦闘状況に視線をやった。

 

ユニコーンガンダムはケネスの洞察通りに、たった1機で脅威の戦果を上げていく。

 

鉢合わせるMS全てを確実に斬り裂き、あるいは撃ち抉って破壊する。

 

この映像をビスト財団の二人も見ていた。

 

サイアムとカーディアスだ。

 

サイアムは暴れ狂うユニコーンガンダムの映像を見てカーディアスに問いかける。

 

「ユニコーンの力が……今、正に示されている……ネオジオンのMS達をあたかも玩ぶように破壊している……この狂暴たる様はユニコーンそのものだ。カーディアス……お前はどう感じる?」

 

「はい……私はUC計画の序章の情景と感じてなりません……ニュータイプを、ジオンを殺戮するマシン……あの機体を手懐ける事ができるのは真のニュータイプのみ……そしてラプラスの箱へ導くカギもそれにしかり……」

 

「ラプラスの箱へ導くカギたるは真のニュータイプ……その存在が現れるまで……半永久にユニコーンガンダムは暴れ続けるだろう……」

 

「少なくとも今のパイロットは真のニュータイプではありませんな……真のニュータイプと判断するはユニコーンガンダム自身か……!!!」

 

その一方で、ルナ2ではOZ側からも援軍としてMS部隊が展開する。

 

リーオー部隊がビームライフルやビームバズーカを放つその中を白い閃光が高速で飛び交い、一方的な射撃を連発させていく。

 

ゼクスのトールギスだ。

 

更にレフトアームには新兵装のバスターランスが新たに装備されていた。

 

「戦場の部隊は宇宙へ移り……私の復讐のタイミングがまた合わなくなっていく……」

 

ドーバーガンをロックした敵機へ七発連続で放ち、全弾を命中させ破砕。

 

更にチャージショットを三発を続けて撃ち放ち、出会すネオジオンのMS部隊を一気に壊滅させた。

 

だが、ゼクスのその迷いないような攻めにも、ある種の迷いを抱えていた。

 

「私は……悔やみ切れない悔しさを引きずっている……自爆したガンダムのパイロット……ヒイロ・ユイ……奴との今一度の決着を着けたくてならない」

 

ゼクスは迷いを抱えながらムサカ級に三発のドーバーガンの射撃を見舞い、直撃部を破壊。

 

遠ざかるトールギスの背にムサカは爆発を繰り返して轟沈する。

 

「何故だ!?ゼクス……何故こうまで決着を着けたい!??考えれば考える程宇宙に来た事を後悔してしまうではないか!!!」

 

ゼクスは悔やみ切れないヒイロとの決闘の後味を振り払うかのようにドーバーガンを放った。

 

後方からは一際目立つ機動力と火力を強化した黒いリゼルが、メガビームランチャーを放ってネオジオンのMS群に射撃を仕掛け、ギラズールやギラドーガのMS達を一網打尽に撃ち飛ばす。

 

メインカメラの色もクリアーイエローに変更され、通常機とは違う印象を受ける。

 

これを操っていたのはミスズだった。

 

「リゼルやエアリーズとは比べ物にならん火力と機動力だ……OZとアナハイムで共同開発したという……リゼル・トーラス……確かな機体だ!!!」

 

ドライセンのビームバズーカを躱し、メガビームランチャーを放って2機のドライセンを纏めて砕き飛ばす。

 

「半月後には地球圏のOZ宇宙軍に量産配備される……ふっ、この機体は私の好みだ!!気に入った!!」

 

ミスズはほくそ笑みながら次なるターゲットを狙い定め、トールギスの前方より迫るバウへ向かい、メガビームランチャーを撃ち飛ばした。

 

トールギスは援護射撃により破砕されたバウの爆発を突き抜けながら、機体を翻して新兵装のバスターランスを突き出しながら迫る敵機に突っ込む。

 

リゲルグ、ガザC2機、ドライセン、バウを、バスターランスの強烈な突きで連続破砕させてみせる。

 

「しかし……半年前のミスズの怪我が大した事なく済んでなによりだ。私にとっては充分な報酬といえる」

 

ゼクスはミスズのリゼル・トーラスの様子を窺いながらトールギスの武装をビームサーベルへ変更させた。

 

トールギスはバーニアの凄まじき加速力でエンドラ級へ突っ込み、バスターランスをブリッジ目掛け突き刺す。

 

エンドラのブリッジは無惨なまでに粉砕し、突き抜けるトールギスと共に砕け飛んでいった。

 

「ミスズ!!機体の加減はどうだ!?」

 

ゼクスはその戦闘の中で、ミスズを気遣う余裕を見せた。

 

ミスズもロックしたギラズールを撃ち墜としながら平然かつ嬉し気にゼクスに答える。

 

「いい機体だ!!!どうせなら私好みのカラーにして自機にしてしまいたい!!!」

 

「ミスズ自身もすこぶる快調のようだな。正直安心する。半年前、ガンダムに撃墜されたと聞いた時は焦った」

 

「私はか弱い女ではない!!!みくびってくれては心外だ……だが、ゼクスに想って貰えるのは……う、嬉しくある」

 

ミスズはほんの少し女性らしく恥じらいながら発言した。

 

「私とて、ミスズが居てくれるから心強い」

 

「トールギス……ではないのか?」

 

「トールギスは戦う剣(つるぎ)……ミスズはパートナーだ」

 

「ふふふっ……またまた嬉しい事を……」

 

ミスズは笑みを浮かべた後、再び戦闘意識に移り、敵機を鋭い視線で見据えた。

 

この各所の戦闘状況は、地球圏全土に生中継で放送されていた。

 

人々は改めて色濃い第三次ネオジオン抗争の世界情勢に突入したことを刻まざるを得なかった。

 

この情勢を一人の男が一室のテレビモニターで確認していた。

 

「歴史に必要だった悲劇は……今起こさなければならない……その為にコロニーの一つが墜ちる事もまた必要だ」

 

一つの薔薇を手に持ちながら、トレーズは監視するかのような口調で笑う。

 

コロニー落とし阻止にOZの部隊を派遣しなかった意図はそこにあった。

 

「第三次ネオジオン抗争もその一つ……宇宙世紀の世界を革新させる為の土台……礎には悲劇が必要なマテリアルなのだ。歴史はどう刻まれるか……見させてもらおう。そして……」

 

トレーズは席を立ち、総帥室の窓を開けながら広がる青空を見上げる。

 

「この状況の中で我々は動く……ディセットよ……その手筈の先陣……任せたぞ……時は近い……」

 

トレーズは側近のディセットの働きに期待をかけていた。

 

月面にあるOZの宇宙軍本部内を歩くディセットは、部下と共に次なる行動に移りながら今回の衛生軌道上部隊派遣取り下げに対して口にしていた。

 

「トレーズ様は何故今回の衛生軌道上面に部隊派遣をされなかったのです!?!あの状況下では確実にコロニーは墜ちてしまいます……!!!」

 

「堕ちれば……確実にアデレート及び周辺エリアが壊滅被害が出る……連邦本部に直撃すれば壊滅……否、連邦・OZ共にコロニー落としを防げなかった事も問われかねん……と言いたいところだが、ふふふ……それでいい……」

 

「はい!?」

 

「それでいいと言った。変わる歴史の地盤に大きな犠牲が不可欠だ。そしてOZは今……大きく動こうとしているのだ。トレーズ様の意志に添うようにな。昨今、連邦からOZへ移籍する者が増えているのは知っているか?」

 

「まさか……!??」

 

「半月後、OZが変わる。それを持ってOZは完全に歴史の表舞台に立つのだ。故に忙しくなる。既に連邦の一部とアナハイムを掌握しているしな……明日は例のガンダム開発者に造らせた新型3機を戦場に送る!!!」

 

「はっ!!」

 

ディセットの言葉は、第三次ネオジオン抗争の裏で歴史が大きく動こうとしているのを示唆していた。

 

月面基地にはリゼル・トーラス部隊と共に3機の新型機が格納されていた。

 

それを見上げる老人の男がいた。

 

メテオ・ブレイクス・ヘルを裏切ったペルゲであった。

 

ペルゲは新型を見上げながら卑屈に独り言を放ち続ける。

 

「くっくくく……地球連邦のΞやペーネロペー、バンシィもいいが、ガンダムを越えたこのMS達は傑作じゃ……メリクリウス、ヴァイエイト、そしてアスクレプオス!!!!そろそろあやつらが宇宙へ来てもいい頃じゃ……仕留めてやるぞい……!!」

 

佇む新型MSを前に三人の男達がいた。

 

「やっぱ俺は赤い機体が好きだな……が、シャアは意図しちゃいない。俺は俺さ!!!レッド・ミューラーのあだ名が疼くぜ!!!なぁ、ブルーエンジェルのアレックス!?」

 

「あぁ……とことん連邦やネオジオンの連中を粛清してやるさ……殺戮が楽しみだ!!!そう思いません!?トラント特尉!??」

 

「無論だ……そして必ずや反逆のガンダムを、特に死神のガンダムを仕止め、栄光を掴んでやるさ……!!!」

 

 

 

オーストラリア 上空 衛生軌道上

 

 

 

A1786コロニーが速度を上げて地球に接近していく最中、各所にビームや爆発光が生まれては消え、生まれては消えていく。

 

その最中、クラップ艦隊は、装填したミサイルを一斉に放ち、A1786コロニーへとミサイル群を飛び込ませる。

 

スタークジェガンやジムⅢ部隊もミサイルを一斉射撃し、同じくA1786コロニーを撃つ。

 

コロニーの外壁に幾つもの爆発が重なり続ける側面をシナンジュとローゼンズールが駆け抜け、ジムⅢ部隊を目掛け一気に射撃を連続で与える。

 

ビームライフルとアームメガ粒子砲の高出力ビームが瞬く間にジムⅢ部隊を蹴散らした。

 

更にシナンジュは側面から迫るスタークジェガンとジェガンの部隊を睨み、ビームライフルで連続して撃ち抜き、爆発のアートを作り出す。

 

ローゼンズールも両腕のアームメガ粒子砲を伸ばし、有線ワイヤーにより自由自在にあらゆる方向へ高出力エネルギーを撃ち飛ばす。

 

一定しないビームの射撃軸線に翻弄され、ローゼンズールの周囲にいたジェガンやリゼル、ジムⅢ、スタークジェガンの各部隊が立て続けに撃破され、爆発四散されていった。

 

「アンジェロ!!後は後方の部隊に任せればいい!!!所詮MSでは廃棄コロニーは墜とせん!!!我々は艦隊を壊滅に追い込む!!!」

 

「はい!!!大佐!!!!」

 

激化する戦闘の中で、2機は陽炎の中へ走るように、青い成層圏の上を駆け抜ける。

 

幾多の一斉射撃を躱し、機動性を活かした動きで機体を翻す。

 

ストライクさせるように放たれるシナンジュのビームライフル。

 

レフトアームのシールドを展開させたローゼンズールが、シールドメガ粒子砲をクラップ級の艦体を吹き飛ばすように抉り飛ばして爆砕させる。

 

シナンジュとローゼンずーる狙いは全てブリッジもしくは機関部を直撃させていた。

 

故に、シナンジュとローゼンズールに狙われた艦の轟沈は免れなかった。

 

連邦のクラップ級戦艦は、一斉射撃以外は成す統べなく対応が崩壊されていく。

 

飛び交うメガ粒子ビームを掻い潜り、文字通りの彗星のようにシナンジュはビームを適格に撃ち込み、ローゼンズールのシールドメガ粒子砲が護衛のジェガンやリゼルを瞬く間に破砕。

 

対応策が崩壊していく連邦サイドを嘲笑うように刻々とコロニーは落下軌道を進む。

 

最早結果は明白になりつつあった。

 

他の宙域においても、資源衛生の攻防戦が起こり、ギラズールやギラドーガ、バウ、ドライセン、ドラッツェ、リゲルグが飛び交い、ジェガンやリゼル、ジムⅢ部隊との攻防戦を展開させる。

 

ビームが走り、ビームトマホークやビームサーベルの斬撃、マシンガンの弾丸がそれぞれの箇所で戦う相手の装甲を抉り砕く。

 

連邦とネオジオン両者の艦隊の砲撃も展開させるが、奇襲をかけたネオジオン側が有利となり、形勢は次第に傾く戦況を見せていく。

 

レウルーラにも、各箇所からの情報が寄せられ、ライルに通達される。

 

「各方面で展開中の同胞部隊から資源衛生の確保の情報が入りました!!これより核パルスエンジンの取り付け作業に入るとのことです!!」

 

「了解した!!この戦い……我々の勝ちだな。だが、妙だ……鮮やかすぎる……ここまで鮮やかに作戦が成功するとは……」

 

「ライル中佐?」

 

「何か……裏があるのかもしれん……我々の知らない裏がな……」

 

「ですが、ルナ2においてのみ、我がネオジオンの部隊が壊滅したとの事です……!!OZの介入とガンダムの介入があったようで……!!!」

 

ルナ2の宙域では、トールギスやユニコーンガンダム、リゼル・トーラス、リーオーやジェガン、その他の部隊が戦闘を終えていた。

 

「こちらルナ2管制室!!戦闘は終了した!!OZ、連邦両軍共に攻防戦の奮闘に感謝する!!」

 

ルナ2からの感謝の意を表した通信がルナ2エリアにいるOZ・連邦の全部隊に行き届く中、ミズズがゼクスのトールギスに通信を入れる。

 

「両軍共にか……ゼクス……今の機会に例の件をリディ少佐に伝えるべきだ」

 

ミスズからの通信は、あることに纏わったリディを気遣っての通信だった。

 

「そうだな……時間は迫っているからな……」

 

ゼクスが通信コードを操作し始めたその一方で、リゼルが身を投じるユニコーンガンダムは、先程までの凶暴性を隠して静に漂う。

 

「はぁ……はぁ……ユニコーン……ガンダム……凄まじすぎる!!!!」

 

リディはNT-Dの過剰なまでの攻撃性能に自身の体を疲弊させていた。

 

そこへゼクスが2機間のみの通信コードで問いかける。

 

「リディ少佐……そのガンダム……実に苛烈な機体だな。戦いながら戦闘を見させてもらった」

 

「ゼクス……特佐」

 

「そのガンダムの力がOZにあれば実に心強い……リディ少佐……連邦の兵士としてのプライドがあることを承知で聞く。OZにこないか?是非ともその力量が欲しい……」

 

「な!?!ゼクス特佐!?!一体どういう……?!?」

 

「遺憾も承知だ!!」

 

ゼクスは迫るOZの台頭にリディの身を案じ、リディに対しての問いかけを実行した。

 

一方、レウルーラのブリッジでは、ライルは簡単過ぎる作戦成功状況に疑いの概念を浮かべる。

 

「フロンタル大佐も……無論気づいているはずだ。この簡易的な星の屑に……オペレーション・スターダストの違和感に……」

 

その視線の向こうでシナンジュとローゼンズールが最後のスパートをかけようとしていた。

 

ビームライフルのビーム火線が幾つも走り、アームメガ粒子砲が怒涛に撃ち進む。

 

たった2機の攻撃が艦隊を壊滅へと追いやっていく。

 

駆け抜ける機体の中で、フロンタルは不敵に笑いながら成功の確信を身に感じていた。

 

「ふふふ……オペレーション・スターダスト……成功だ!!!だが、アンジェロ……この成功の向こうには更なる何かがあることを忘れるな!!!成功するには簡易過ぎる……」

 

「はい!!!大佐!!!」

 

アンジェロは狂喜の笑みで返答し、クラップ級のブリッジをアームクローで破砕させた。

 

機体を翻しながら連邦の機体群を撃墜するシナンジュの向こうでコロニーA1786コロニーがゆっくりと降下していく。

 

それはやかて、大気圏の摩擦熱に表面を熱せられながら大気圏突入を開始する。

 

かつてのデラーズフリートが星の屑作戦で成し得なかった事がフロンタル達ネオジオンの手により成功を納める。

 

落下するA1786コロニーは、アデレートを目指して降下し、その巨物を連邦の新本部に叩き墜とす。

 

核による爆発と落下エネルギーにより、すべてが吹き飛び、眩いまでの爆発光を照らす。

 

起こってはならない禁断の悪夢が駆け巡った瞬間であった。

 

更にその翌日には各地の連邦主要都市に資源衛生が落下。

 

無論、予告は全く及んでいなかったが故に、多大なる市民の犠牲を被った。

 

フロンタル率いるネオジオンは凄まじき歴史的な罪を犯した。

 

それは瞬く間に地球圏の世論を駆け巡り、様々な論議を生んだ。

 

それらの情報がトレーズの下にも届き、彼に歴史のうねりを感じさせる。

 

日が差し込むOZ総帥室で、彼は想いを歴史のワルツに重ねていた。

 

「多大なる市民の尊い犠牲が出た……これに対し人々は一気に宇宙側への不審と憎悪を抱くだろう。連邦がこれまでにしてきたスペースノイド圧制に等しくな……彼らは連邦の終わりの前触れに相応しい一石を歴史に投じてくれた……」

 

トレーズは、ワイングラスに赤ワインを注ぎ、軽く振って優雅に飲み干す。

 

「OZの歴史の幕開けが始まる。だが、同時に私の意にそぐわない技術も内部に生まれつつある」

 

トレーズは、データベースを操作し、2機種のMSのデータを閲覧し始めた。

 

1機はリゼル・トーラス、もう1機はビスト財団の近衛MS、シルヴァ・バレトと瓜二つの黒いMSであった。

 

「無人MS、否モビルドール(以下MD)・シルヴァ・ビルゴ……兵士ではない無感情の戦士に私は感情を馳せることはできない。OZを広める手段とはいえど……これもロームフェラ財団もとい、イルミナントの傲慢か……ならばまだこちらの方がいい」

 

更に出したデータベース上に、ECHOES仕様のジェガンとロトが写し出された。

 

「OZに引き込む地球連邦宇宙軍特殊部隊・ECHOES……彼らのMSには簡易化したガンダムのジェネレーターがOZとしてのECHOES仕様になって運用される。これはよい変化を生むだろう」

 

トレーズはデータベースを閉じ、自らの目もつむった。

 

「ガンダムの戦士達は今、路頭にさ迷っているだろう。それもそれでいい。苦渋苦難を大いに浴びなければこの歴史への反逆はできないのだ……」

 

 

 

太平洋・フィリピン近海・オルタンシア甲板

 

 

 

ガンダムジェミナス01、02共に公の戦闘が出来ない中で、海賊のMS群の襲撃を余儀なくされていた。

 

ハワードは無線マイク越しに、オルタンシアに受ける攻撃の最中、退避指示を怒鳴るように叫ぶ。

 

「直ちに舵を切れぇ!!!全速全力で離脱しろぉ!!!奴等に知られたらたちまちガンダムの情報が漏洩しちまうぞぉ!!!」

 

「ハワード!!わかってるがよ~!!!これ以上は無理だぜ!!!」

 

「く!!!」

 

オルタンシアの航行スピードでは躱し切れず、攻撃を受け続ける。

 

アディンは響く警報音の中、出撃できない束縛感に苛立つ。

 

「くっそ!!!ジェミナスが堂々と出撃できりゃよ!!!」

 

「耐えろ!!!アディン!!!ここで俺達が出撃すれば、俺達の所在が掴まれ、今の状況よりも増してオルタンシアクルー全員に被害が及ぶ!!!」

 

オデルは、躍起になろうとするアディンを制止させて言い聞かす。

 

「くっ……!!!」

 

『あたしがみんなを守るよ!!!』

 

「!?!?」

 

突如響いたプルの声。

 

誰もが驚き、周囲を見舞わす。

 

すると甲板デッキ上にキュベレイMkーⅡが姿を見せていた。

 

「今、あたしが出来るコトをやるよ!!行くよ!!キュベレイ!!!アディン達を海賊から守るんだから!!!」

 

両肩のバインダーを展開させ、プルの意思を乗せたキュベレイMkーⅡがオルタンシアから飛び立った。

 

 

 

 

 

 

To Be Next Episode




遂にプルは自らの意思で戦いに身を投じる。

それは決して命を投げ出すものではなく、大切なアディン達の為の行動だった。

その流れの先にジンネマン達との出会い、そしてアディン達の再起に繋がる。

一方、第三次ネオジオン最中、地球では狂気の戦士キルヴァとベントナに洗脳されたロニ、そしてマリーダが蹂躙の限りを尽くして転戦。

宇宙ではフロンタル達が新たな行動に移り、ゼクス達もまた戦闘を続け、ECHOESが本腰で動き出す。

その混迷を重ねる世界の裏で少しずつOZは動いていく……

そして他の戦士達もまた、戦いに立ち上がる。



次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

エピソード 18 「ガランシェール、合流」

任務、了解……!!!


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エピソード18「ガランシェール、合流」

両肩のウィングバインダーを展開させたキュベレイMkーⅡは、妖艶たる両眼を青空へ目指すように飛翔した。

 

迫り来る海賊のMSを眼下にし、プルもキュベレイMk-Ⅱと共に標的を見定める。

 

「あたしがアディン達を守るんだから……!!!」

 

キュベレイMk-Ⅱの尾にあたるファンネルコンテナが持ち上がり、幾多の小型のビーム攻撃機が射出された。

 

キュベレイMk-Ⅱの周囲を プルの意識を乗せたファンネルが飛び交う。

 

プルは静かに目を閉じて、眼下にいる海賊のMS達をイメージし、意識を集中させる。

 

そして、彼らのハイゴックやズゴックE、ジュアッグ、ザクマリナーが水面上に姿を見せると同時に、かっと瞳を見開いて叫んだ。

 

「いけっ!!!ファンネルッッ!!!」

 

プルの意識を乗せた幾多のファンネルが、俊敏に動いてターゲットを目指す。

 

敵機に向かうファンネルは、無造作なまでにビームを撃ち鳴らし、突き進む。

 

そのビームは、瞬く間にターゲットの機体を叩き砕くかのように撃破していく。

 

ビームに叩き貫かれたターゲットは、瞬時に爆砕して海面に巨大な水しぶきを発生させる。

 

装甲の厚いズゴックEやハイゴッククラスの水中MSも、いとも簡単に装甲を爆砕させてみせ、ファンネルのビームの破壊力を伺わせた。

 

「……次も来る!!!いくよ、キュベレイ!!!」

 

ニュータイプのフィールド感覚で増援を感じたプルは、 キュベレイMk-Ⅱを海面に向かって急降下させる。

 

その降下する海面に、ドムトローペンやマラサイ、ハイザック、ジムコマンドを水中用にカスタマイズした機体達が姿を見せる。

 

更に楠んだ蒼のカラーのズゴックE、ハイゴック、が

6機体が浮上した。

 

各機は浮上したと共に射撃を慣行し、キュベレイMk-Ⅱへとビームやミサイルランチャー、ガトリングを撃ち込みはじめる。

 

モニター上に迫る海と弾幕を見据えながら、プルは初めて乗るキュベレイMk-Ⅱを自らの手足のように操縦してみせ、ハンドランチャー部のビームサーベルを発動させる。

 

「中らないよ!!!」

 

キュベレイMk-Ⅱは機体を回転させて攻撃という攻撃を躱し、その間にマラサイマリナーとハイザックマリナーをファンネルのビームの雨で撃ち砕き潰す。

 

次の瞬時には急降下にのせたビームサーベルの斬撃をドムトローペンマリナーに食らわせて斬り裂き、レフトアームのハンドランチャーをジムコマンドマリナーに近距離から食らわせて撃破してみせた。

 

プルはきゅっと強い眼差しを向けながら、ズゴックEやハイゴックに機体を向け、モニターに映り込むターゲットを睨む。

 

「今、アディン達は目立って戦えない!!だから、あたしとキュベレイでアディン達を守るんだ!!!」

 

更に機体前面にファンネルを並べ、ハンドランチャーとファンネルの連続射撃をズゴックEとハイゴックに浴びせ、敵機体を砕き散らした。

 

爆発による巨大な海水の水柱が立つ中、キュベレイMk-Ⅱは両肩のウィングバインダーを展開させた。

 

プルは更なる敵影の存在を感じていた。

 

それはオルタンシアから約2㎞先の水面上に姿を浮上させていた。

 

海賊達の母艦であった。

 

「この先……まだ敵がいる……今倒したMS達のボスだ……っ!!!」

 

プルはこれを感じとり、一旦ファンネルを格納させ、キュベレイMk-Ⅱを向かわせる。

 

否、人機一体故に共に向かうといった方がいいだろう。

 

モニター上の海面が線路のレールのごとく駆け抜ける光景を見据えながら少女の視線が突く。

 

浮上した潜水艦は旧ジオンのユーコン級の潜水艦だった。

 

ユーコン級側は既にオルタンシアに標的を絞っており、ミサイルランチャーハッチから連続射撃を強行させた。

 

垂直に打ち上げられたミサイル群が、一定高度から角度を変えてやや斜め下真っ直ぐに向かい始めた。

 

このままオルタンシア直撃コースの弾道である。

 

プルはコントロールレバーを動かし、キュベレイMk-Ⅱを上昇させてミサイル軌道とランデブーする位置へと上昇させていく。

 

機体位置とミサイルの弾道がやがてリンクする位置に到達すると、プルは上空にキュベレイMk-Ⅱと共にミサイルを迎撃する。

 

「ミサイルなんかに……アディン達をやらせないよ!!!」

 

モニター上には向かい来るミサイルとの距離が表示されるが、プルには関係ない表示だった。

 

プルは迫るミサイル群との距離を感じとり、ファンネルを展開させる。

 

そして、ミサイル到達するタイミングとプルの感覚とがリンクした。

 

プルは目を見開いて、ファンネルへと意識を注ぎ込んだ。

 

「……―――っ!!!ここっっ!!!」

 

ファンネルのビームが一斉に向かい、ミサイル群を狂い無く撃ち砕いてみせた。

 

「今しかない!!いくよ、キュベレイ!!!」

 

次の弾頭が装填されるまでに時間がない。

 

一気に加速したキュベレイMk-Ⅱは、機体が出せる最高の飛行速度を叩き出して飛ぶ。

 

風、空気を切り裂いて突き進むキュベレイMk-Ⅱ。

 

プルはアディンを、その仲間を守りたい一心でキュベレイMk-Ⅱと共に突き進む。

 

そして、装填される段階が終了する間際に、キュベレイMk-Ⅱはユーコン級に到達しようとしていた。

 

プルの意識を注ぎ込んだファンネルが、一斉にユーコン級の上空に集結する。

 

次の瞬間、ミサイル発射と同時タイミングでファンネルのビームの雨が注ぎ込まれた。

 

ユーコン級は凄まじく各部を爆砕させて一気に轟沈した。

 

巨大な水柱が立つ中、プルはホッとコックピットで胸を撫で下ろす。

 

プルはコントロールレバーを撫でながらキュベレイMk-Ⅱへとに語りかけた。

 

「ふぅ……ありがとう、キュベレイ!!やったね!!ふふっ♪」

 

プルはモニター表示方向をオルタンシアの方向へと向けると、その方向を見ながら安堵の言葉をこぼす。

 

「ホントによかった……みんなを守れて……」

 

戦闘の光景を見ていたアディンとオデルは、彼女の戦闘センスに唖然を食らっていた。

 

「プルは……初めて乗ったんだよな……!??」

 

「あ、ああ……」

 

すると、アディン達の隣で戦闘を見ていたハワードが、アディンとオデルに諭すように溢した。

 

「守りたい一心での行動……そんだけ想われてるのさ……特にアディン、お前さんはな……その行動するコトがこの結果に繋がった。もちろんそれだけじゃないだろうがな。きっとかつてのネオジオンや今のオーガスタで訓練受けていたんだろ……」

 

「確かにあれほどのMSの操縦は、すんなりできるものではない。きっと特殊な訓練が必要だ。やはり先の戦争は、ニュータイプを戦争の道具として幼い少女までも巻き込んでいたというのか……!!!」

 

オデルはかつての戦争の非人道さに憤りを覚えさえもしていた。

 

だが、アディンはそんな過去の囚われよりも、彼女の行動に対して感謝と、彼女に守る行動をさせてしまう現状の歯がゆさを打破せんとする気持ちがうずめく。

 

「……プル……サンキューな……っ!!!やっぱりいつまでもコソコソしてらんねーよ!!!兄さん!!」

 

「アディン……」

 

「この半年以上の間……それまでと正反対な状況で闘ってきたけどさ、今の状況は逃げ隠れ以外の何者でもねーよ!!今こそ行こうぜ!!!宇宙へ!!!」

 

その状況を、ラルフはタバコを加えて聞いていた。

 

タバコを消しながら溜め息を吐くとアディンとオデルへ提案を飛ばした。

 

「じゃ……そろそろ宇宙への切符でも手に入れるか?」

 

「ラルフ!!」

 

「切符の有効時間が少ない。それこそ行動するなら今からだ!!ジオン残存軍の情報屋とコンタクトがとれた。今がチャンスだ!!!」

 

 

 

アフリカエリア上空

 

 

 

成層圏近くを飛行する一隻の貨物挺。

 

ジンネマンがキャプテンを務めるガランシェールだ。

 

青空を突き進むブリッジ内では、頬杖をついたジンネマン、時折体をストレッチさせながら前方を見据えるフラスト、操舵に集中するギルボアの姿があった。

 

「地球に来て早半年……今だマリーダの手掛かりは掴めんか……」

 

「地球に潜伏している同胞達の情報網ではクシャトリヤは連邦の連中が回収していった……に止まってます。どこに収容されているかは未だわかりません……可能性は絞れてますが……この船の戦力で行くにはとても無謀です」

 

クシャトリヤとマリーダが捕らわれている可能性の収容場所は、アフリカエリアの連邦軍基地かニュータイプ研究所であるが、乗り込むには戦力が余りにも不足していた。

 

故に今は同胞からの戦力収集の為の情報を待つしかなかった。

 

フラストがデータベースを立ち上げながら、次の新な動きを伝えた。

 

「それでなんですが、実はついさっき連絡をとっていた残存軍の情報屋がとんでもない繋がりを得まして……マリーダ以外にメテオ・ブレイクス・ヘルとの繋がりができましたよ」

 

「本当か!??」

 

「はい。近日中に交渉をこちらに繋げてくれるとの事です……っ!!キャプテン!!話してる傍から通信が入りました!!回線開きます!!」

 

「ああ!!」

 

ブリッジのモニターに通信を入れたと思われる人物が表示された。

 

「どーも、ミスター・ジンネマン、ガランシェールのみなさん。初めまして。メテオ・ブレイクス・ヘルのラルフ・カートです。話は仲介の残存軍情報屋から聞いています。単刀直入ですが、お宅の貨物挺でうちの二人の『騎士』を宇宙へ上げてもらいたい。その替わりに可能な限り希望に答えます。そちらの欲しい利はありますか?」

 

正に利害が一致する瞬間であった。

 

ガンダムという力が加勢してくれる程ありがたい事はない。

 

他にもオペレーション・ファントム発動時の頃にマリーダが彼らの世話になっている。

 

ラルフもまた最小限のリスクでアディン達を宇宙へ上げる術を欲していた。

 

ジンネマンはマリーダが世話になった一件も考慮し、直ぐ様承諾に移行する……訳にはいかなかった。

 

ジンネマンは焦る想いを抑え、慎重に対応する。

 

「その前にまず、あなた方が本当にメテオ・ブレイクス・ヘルなのかという証拠をみせてもらいたい。こちらもあいにく慎重なんでな。例えば……今あるやり取りの情報を手にした第三者が偽りのコンタクトを取ってきている……とかな」

 

「さすがは慎重ですね。もっともこちらも身が身なので可能な限りはお見せします……」

 

ラルフは映像のアングルをずらし、眠るように格納されたガンダムジェミナス01、02を映す。

 

「確かにガンダムだ……だが、本当かどうかの……ん!?」

 

「どうされました?」

 

ジンネマンは一時止まり、確実に彼らを信用できる事柄の証明要素を思い出した。

 

「そうだ……以前、うちのMSが修理の世話になったときいた。その際、私の義理娘……マリーダの姉妹がそちらにいたともきいた。その子を一目見たい」

 

ラルフもその事にはっとなり、早速応じた。

 

「わかりました。しばらくお待ちをって……あ!!」

 

「む!?」

 

「ラルフー、誰と話してるの?」

 

突然、プルがジンネマンとのやり取りをしているカメラを覗き込む。

 

ジンネマンは直感で「この子だ」と判った。

 

「このおじさん、誰?」

 

「プル!!今、アディン達の為に大切なやり取りをしているんだっ……あぁ、ミスター・ジンネマン!!この子です!!この子がお会いしたいっていう……!!」

 

「そうか……この子がマリーダの……!!!」

 

ジンネマンは過酷な幼少人生を送っていたマリーダにいた姉妹を初めて目にし、「マリーダは決して天涯孤独ではない」ということを改めて確信し、彼女を見るや否や目頭が熱くなる。

 

「あ……!!おじさん……あたし、わかった!!マリーダの大切な人だ!!あたしも、マリーダ知ってるし、大切な存在だよ!!」

 

「そ、そうか……!!うんうん……!!っ……名を改めて聞きたいっ……!!」

 

「名前?あたし、エルピー・プル!!こう見えてもマリーダのお姉さんなんだよ!!おじさんは……マリーダのお父さんの感じがするけど……?」

 

「あ、あぁ……そのようなものだ……!!名をスベロア・ジンネマンと言う。よし……!!プル、俺の船にこないか!?否や……帰ろう!!」

 

ジンネマンは父性を先立たせ、用件うんぬんよりもプルを迎え入れる姿勢を示した。

 

だが、プルは戸惑う様子をみせる。

 

「どうしよ……だって、マリーダが戻るまでここで、オルタンシアで待ってるって約束したから……」

 

ジンネマンは思った。

 

なんて純真かつ健気なコなのだと。

 

ならばとジンネマンもやむ得ず引き下がる。

 

「そうか……!!なら無理には……」

 

「でも……今は待ってても、あたしから迎えに行かなきゃ会えない感じもしてる……それに、今のあたしは大切な人達も守りたい……助けになりたい……やっぱりあたし、行く!!」

 

「おぉ……!!そうかっ、ならば交渉は成立だな!!」

 

ガランシェールのブリッジ内はちょっとした安堵に包まれ、フラストはジンネマンに対していい意味であきれ果てる。

 

「っ~、キャプテン!!肝心の戦力交渉を忘れんでくださいよ!!気持ちはわかりますけど!!」

 

「や、やかましい!!わかっとるわ!!」

 

「やれやれ……キャプテンもホントに親バカな方だ」

 

そう言うフラストへ、ギルボアがなだめるように言う。

 

彼もまた子持ちの身であった。

 

「フラスト、子を持てば解るもんだ。親心っていうやつさ。只でさえ今はマリーダが行方不明なんだ。さっしてやれー」

 

「へいへい……またガランシェールに仲間が増えそうだ……キャプテンの悪い癖だ」

 

フラストはストレッチをしながらニヤっと笑う。

 

ジンネマンはもう一人の家族と再会できたに等しい気持ちとなっていた。

 

混迷の中に起こったささやかな幸福を、ジンネマンは強く噛み締めた。

 

「では、そうと決まれば座標値を教えて欲しい。こちらからそちらへアクセスする!!」

 

フラストは、データベース操作をしながら、ラルフに座標値を求める。

 

「了解、こちらの座標をまた送らさせていただく。ではっ、また後程!」

 

「あぁ!!よろしく頼む!!」

 

 

 

ラルフとジンネマンの交渉成立から翌日、オルタンシアにネオジオンの船が初めて停泊した。

 

オルタンシアに隣接するガランシェールにガンダムジェミナス01、02とキュベレイMk-Ⅱ、ジェミナスの強化Gユニットパーツが搬入されていく中、荷造りした専属メカニック達もガランシェールの中へと入船していく。

 

その最中、ハワードとラルフ、ジンネマンとフラストで双方の挨拶をしていた。

 

「この船の責任者のハワードだ。この度はよろしく頼む」

 

「改めまして。今回の話の交渉をしたラルフです」

 

「ガランシェールのキャプテン、ジンネマンだ。こちらこそ」

 

「航海士のフラスト。よろしくどうぞ」

 

双方共々に握手を交わし、今回の一件に関する話し合いを進める。

 

それは互いに光栄の思い入れの交わし合いでもあった。

 

「うちの騎士二人と姫君のお嬢さんを頼む。低いリスクで宇宙へ上げる事を可能にしてくれるまたとないチャンスをくれたんだ。感謝している」

 

「我々としても願っても見なかったあなた方のガンダムの力を借りる事ができ、非常に嬉しい限りだ。連邦の連中に拉致された娘の救出にはそれなりの力が欲しかった」

 

「娘?」

 

「ええ……大事な娘です。いつぞやはマリーダ……マリーダ・クルスが世話になったと聞いている……」

 

「あぁ、あのコか!!確かにうちでも面倒見させてもらったな。あんた達の話には聞いとるよ。だが、名前がジンネマンとクルスで違うが……あ、失礼だったか!?」

 

ジンネマンがちらっと横を向き、乗船しようとしていたプルに視線を向ける。

 

「ははっ、現状彼女は養子なんですがまだ戸籍は正規ではないんです……あの向こうにいる彼女はもしや……プルですか?」

 

「ああ、そうじゃ。俺達オルタンシアクルーの良きムードメーカーであり、皆のなごみ役さ。知っとるだろうが、ああ見えてマリーダの姉なんだ」

 

「この話も聞いているかもしれんが……できれば……彼女も引き取りたい。これからの一件でマリーダを見つけ助けた後、俺達の家・資源衛生パラオに連れて帰りたい……姉妹共々同じ屋根の下で生活させてあげたいんです」

 

それは切なるジンネマンの要望だった。

 

姉妹同じ屋根の下で暮らす……至極自然な事が彼女達はできていない。

 

それすらも許されない環境下が当然だったのだ。

 

「先の一年戦争の翌年に私は妻と娘を連邦に殺されました……生きていれば彼女達のように……成長した姿を見れていました……」

 

ハワードはジンネマンの彼女達に対する想いを受け取り、ムードメーカーがいなくなる寂しさの惜しみ心を押さえた。

 

「そうか……お前さんもこの時代に苦労かけられてきたのだなぁ……まぁ、さみしくはなるがそれが自然のあり方だ。プルを頼む。できうる限り戦いは避けてやってくれい」

 

「無論です。かつていたもう一人の彼女の二の舞には絶対にさせません……いえ、させたくはない!」

 

染々とハワードとジンネマンが想いを共感させる向こうで、プルは自分の部屋の私物を抱えながら、アディンと共に荷造り支度をしていた。

 

アディンと並びながらこれからの旅路に想いを馳せる。

 

「あたし達、これからマリーダを探しながら宇宙へ行くんでしょ?そしたらあたし、マリーダと宇宙で暮らせるんだ♪今から楽しみ♪」

 

「あぁ。それが一番自然でイイコトだよな。俺達はカトルんとこのウィナー財団ラボで今の体勢建て直して、宇宙での拠点を決める……で、俺達を追い詰めた連邦特殊部隊・ECHOESを叩く!!プル、無理して戦闘に出るなよ?」

 

アディンはかつていたもう一人のプルの一件を知ってからプルの身を以前よりも案じるようになっていた。

 

プル自身もアディンの感情の波長からそれをわかっていた。

 

「大丈夫だよ。わかってるから安心して☆あたしだってアディンと悲しく離ればなれにはなりたくないもん!あたしはあたしなりに闘うって決めたけど、それもアディン達の為になるからで……」

 

「プル……」

 

「キュベレイでみんなの役に、アディンの立ちたい……それにあたし、アディンが好きだから!!」

 

健気でどこか大人びたプルの雰囲気と唐突な告白に、アディンはドキッと固まる。

 

「っー…!??」

 

「ふふふ♪言っちゃった!!」

 

「ぷ、プル!!こんなときにいきなり何言い出すんだ!??お、俺はだなー……!!」

 

「ふふ~、気にしてくれてる……!!あたし、嬉しい!!アディンのキュンキュンが伝わってくるよ!!」

 

「かー!!調子が脱線すっぜ、おいっ!?」

 

更にプルは吹く風に髪をなびかせながらじっとアディンを見つめる。

 

「ねぇ、アディン。あたし、ガランシェールの部屋はアディンと一緒がいい。そしたら二人っきりにもなれる……」

 

「だぁあぁ!!まだ、俺はプルとそういう仲になるにはまだ段階って……って何言ってんだ!?俺は!?」

 

「照れちゃって~…って、あ!!」

 

ふとジンネマン達の方を見たプルは、ジンネマンに視線を合わせ、言葉では言い表せない感覚を覚える。

 

「………あの時のパパの感覚の人だ……!!」

 

「パパ!?」

 

アディンもまたプルの視線方向に目を向けた。

 

「あれはガランシェールの……!」

 

ジンネマンはこちらに気づいたことを察すると、自然と目や胸が熱くなるのを感じた。

 

「っ……!!」

 

離れた位置からではあったが、二人には離れていた親子が再会したかのような感情が過っていた。

 

プルはその時、ジンネマンが娘的な存在に対して感情移入する根幹を瞬時に知った。

 

「っく……うぅ……!!!悲し過ぎるよ……!!!」

 

「プル!??」

 

「っく……っく……あの人、心の内側に凄い悲しみを背負ってる……!!!酷すぎるよ!!!うぅっ……!!!」

 

「おいおい……って……ふぅ~、しょーがねーな」

 

ニュータイプの感覚にジンネマンが持っている過去の悲しみが伝わり、初めてそれに触れたプルは涙を押さえ切れずに泣き出してしまう。

 

アディンはそんなプルに対し、頭を撫でて宥める。

 

不器用ながら今のプルにアディンがしてやれることだった。

 

一方、連邦の手中に墜ちてしまったプルトゥエルブことマリーダは、ジオン残存軍殺戮の行動に身を投じていた。

 

オーガスタ三大ガンダムはそれぞれに散り、各地で激化する連邦とジオン残存軍の抗争に介入する。

 

 

 

アフガニスタン・北部

 

 

ハイザック4機、マラサイ3機、ドライセン2機、ガルスK2機、ゲルググ4機、ドワッジ3機が連邦のジェガン部隊やジムⅢ部隊と交戦し続ける。

 

どの機体も、死の商人からのカスタムパーツで、現連邦量産部隊とも張り合えるようになっていた。

 

それぞれにビームライフルやビームバズーカ、ビームキャノン、ビームサーベルで、応戦する。

 

各機は威信をのせて連邦サイドのMSへ撃ち込み、斬り込む。

 

その戦闘が行われる上空に、1機の黒い機影が巨鳥・ガルダから姿を見せる。

 

大気を切り裂きながら下降するそれは、ガンダムバンシィだった。

 

コックピット内では近付く大地を見据えるマリーダもといプルトゥエルブ。

 

冷徹なまでの視線で呟く。

 

「ジオンは敵……駆逐するに値する雑兵……!!!システムを戦闘モードへ移行する……!!!」

 

プルトゥエルブは戦闘モードを機動。

 

任意でNT-Dが発動し、ガンダムバンシィの各部が変形し、金色のサイコフレームを覗かせる。

 

「駆逐……開始する!!!」

 

プルトゥエルブの殺気に乗せるように、ガンダムバンシィは戦闘領域へ降下していった。

 

ビームバズーカを放ってジムⅢを仕止めるドワッジのモノアイが、連続で点滅する。

 

新な敵影を感知したのだ。

 

その方向へとビームバズーカを向ける。

 

だが、次の瞬間、凄まじいビーム渦流が上空より突き刺さった。

 

 

 

ギュダゴォオオオオオォォ…ヴォガバァアアアアア!!!

 

 

ドワッジは一瞬で潰されるようにかき消され、周囲の大地にハイザック2機ゲルググ2機とドワッジ1機を捲き込んで爆砕する。

 

アームド・バスターキャノンの威力は、ビームマグナムを上回り、バスターライフルの域の兵器に等しい。

 

一気に下降したガンダムバンシィは、レフトアームのアームド・ファングに強烈な勢いを付加させてガルスKに掴みかかった。

 

 

ガグシャアアアアアアアアア!!!

 

 

鋭利なクローに砕き潰されながら地面に叩きつけられるガルスK。

 

さらにアームド・ファングのセンターに当たるビームサーベルが発動し、至近距離からボディーを貫いて破砕させた。

 

更に振り返りながらアームド・バスターキャノンをかざし、ビーム渦流を撃ち飛ばす。

 

ゲルググ2機、マラサイ、ハイザック2機がビーム渦流に吹き飛ばされ、機体群を爆砕させる。

 

そこから急加速し、マラサイをアームド・ファングで砕き潰し、連続でゲルググをアームド・ファングで掴み砕き、穿った。

 

もう1機のガルスKがビームキャノンを撃ち放つが、ガンダムバンシィはこれを躱しながら急接。

 

アームド・ファングのビームサーベルで薙ぎ斬り、ドワッジに襲い掛かり、ビームサーベルを突き刺しながら握り潰した。

 

ドワッジの亡骸を握り潰したまま、アームド・バスターキャノンをかざす。

 

「一つ目共が……目障りなんだ!!!」

 

プルトゥエルブの憎悪を乗せてチャージされたアームド・バスターキャノンが解放される。

 

発射された唸るビーム渦流が、1機のドライセンを残して残存する敵MSを消しとばした。

 

追い詰められたドライセンは、ビームトマホークを振り回しながらガンダムバンシィに斬りかかる。

 

ガンダムバンシィはそれに自ら突っ込み、レフトアームに握り掴んだドワッジを豪快にドライセンへ叩きつけた。

 

体勢を砕きくずされ、ドライセンは転倒。

 

そこへ容赦なくドワッジのボディーが襲いかかる。

 

ガンダムバンシィは何度もドワッジをドライセンへ叩きつけ、厚い装甲にダメージを与え続ける。

 

次第にドワッジの機体はズタボロに砕かれ崩壊した。

 

ガンダムバンシィは、ドワッジを投げ捨て、ドライセンめがけアームド・ファングをぶち当てた。

 

アームド・ファングの鋭利な爪が、クローの四肢ごとドライセンに食い込む。

 

ガンダムバンシィの凄まじいパワーは、ドライセンの装甲をも容易く掴み砕いてみせた。

 

そして掴み潰しながらビームサーベルを発動させ、メインジェネレーターを貫き爆砕させた。

 

破壊の旋風の後に残るはジオンの躯(むくろ)だけであった。

 

金色のサイコフレームから出る粒子状の輝きを纏うガンダムバンシィであるが、その姿はまさしく破壊神に相応しかった。

 

「はぁ……はぁ……ジオンは、砕き葬る!!!ジオンは敵!!!ジオンは敵だぁあっ……!!!」

 

プルトゥエルブは、洗脳された偽りの記憶に支配され、同胞である筈のジオン残存軍に対し、駆逐の限りを実行していた。

 

その行為は悲劇以外の何者でもなかった。

 

 

マリアナ諸島・パガン

 

 

 

ドムトローペン4機やゲルググキャノン3機、ザク8機、重装型グフ3機、更には降下したギラズール3機、ギラドーガ3機の部隊が展開し、駆逐せんとする連邦サイドに対し戦闘を行っていた。

 

連邦サイドは、ネモ部隊やジムⅡ部隊のみを多数投下し、1機につき多勢無勢で攻め落としていた。

 

低コストでいかにジオンサイドを駆逐するかという現れであるが、いくら敵を撃破するためとはいえ、確実に卑怯に映る。

 

島内のジャングル地帯において、木々を倒しながら斬撃音や銃撃が響き渡る。

 

ホバーを駆使しながらドムトローペンがヒートサーベルでネモを撃破するが、四方向から襲いかかったネモ部隊のビームサーベルの串刺しを受けて爆砕される。

 

そこへギラズールとギラドーガの部隊が加勢しネモ部隊を撃破する。

 

更にジムⅡ部隊のゲリラ攻撃にも対しビームトマホークで応戦し、撃破して見せる。

 

更にはゲルググキャノンの援護射撃も加わり、状況は劣勢から拮抗に移しつつあった。

 

だが、絶望的たる存在がその上空に現れた。

 

「キヒヒ……何雑魚に苦戦してんだ~?イライラすんな~……キヒヒ、今から俺が大々的に駆逐してやんよ!!!ファンネルミサイルゥッ、エクスターミネートォ!!!!」

 

Ξガンダムから大量に放たれた狂気のファンネルミサイルが、キルヴァの闘争本能のままにジオンサイドへ襲いかかる。

 

彼らの周囲を飛び交い、1機、1機に回転する鋭利なミサイルがドリルのごとく襲いかかる。

 

殺戮の意思そのものと言っても過言ではない。

 

ファンネルミサイルはジオンサイドの機体の装甲を容易く貫通してみせる。

 

ファンネルミサイルを攻撃しようとするギラドーガに完膚なきまでに突き刺さり爆砕。

 

ゲルググキャノンや重装型グフ達も応戦しきれずに次々に蹂躙され破壊されていく。

 

群れるハチのごとく飛び交うファンネルミサイル群は、ジオンサイドはおろか友軍機である筈のネモやジムⅡの部隊までも標的に捲き込んで破壊してしまう。

 

「キヒヒー!!雑魚が雑魚に混じってたからついでに殺戮してやんよ!!!うぜーし!!!」

 

Ξガンダムは、飛び交うファンネルミサイルを野放しにしたまま降下し、眼下のジャングル地帯に潜むザクを目掛けビームバスターの銃口を向けた。

 

「シューティングゲームさせてくれ♪キヒヒャア!!!」

 

狂気の笑みを浮かべなから、キルヴァはビームバスターでザクを撃つ。

 

ビームバスターに抉られたザクは容易く爆砕。

 

キルヴァは機械制御的な精密射撃を慣行。

 

Ξガンダムが連続射撃で撃つビームバスターは1機、1機のザクを確実に撃破させていく。

 

旧型機に注がれるえげつない最新鋭の高出力ビームは、瞬く間にザクを玩具同然に破壊し尽くした。

 

そしてザクを破壊し尽くすと、ギラズールとギラドーガの部隊へ射撃を開始する。

 

既にファンネルミサイルにより、1機のギラズールと2機のギラドーガは破壊し尽されていた。

 

ビームマシンガンの対空射撃も空しく躱され、上空から放たれたビームバスターの連続にギラドーガ2機は射抜かれ爆砕。

 

ギラズール2機は、ビームトマホークを手に上空へ舞い上がる。

 

「ゴクロウサン……!!!」

 

非情なビームバスターの射撃と6基のファンネルミサイルの刺突攻撃が同時に2機のギラズールを襲う。

 

「あー……雑魚狩り……た~のしっ!!キヒヒャア!!!」

 

キルヴァの狂喜の直後、2機は爆炎を巻き起こして空に砕け散った。

 

嘲笑うかのごとく、Ξガンダムはその爆発を見下ろしながら両眼を光らせた。

 

 

 

北米・ ニューヨークシティー

 

最初の戦後(一年戦争)以降、旧ジオン残存軍がテリトリーのようにしてきたエリアにおいて戦闘が激化していた。

 

様々なカスタム仕様の多数のザクやグフ、ゲルググ、ドムトローペン、宇宙より降下増援したギラズール部隊やギラドーガ部隊が攻め入ろうとするジムⅢやジムⅡ、ネモ部隊と交戦していた。

 

双方の銃撃戦闘が繰り広げられ、実弾やビームの弾丸が飛び交う。

 

新鋭機のギラズールが戦闘を押し進める分、戦闘はネオジオンサイドが有利だ。

 

だが、形勢は禍々しい姿のモンスターにより一新された。

 

ペーネロペーだった。

 

コックピット内のロニは、ジオン残存軍とネオジオンのMS群を見下しながら見る。

 

「悪あがきする下劣な一つ目集団が……私は目障りなんだよ!!!」

 

バスタービームを上空から放ち、ドムトローペンやゲルググの機体群を撃ち仕留め、爆砕させていく。

 

彼らはペーネロペーに対し、対空射撃で対抗するが、その禍々しい装甲に阻まれ全く通用しなかった。

 

「効かないな……そんな脆弱たる攻撃など!!!」

 

更にビームバスターの射撃でドムトローペン部隊を仕留め続け、高出力ビームの餌食にしていく。

 

バスタービームの銃口を上に構え向けたペーネロペーはしばらく静止する。

 

ロニはモニターから視界に捉える全てのザク、グフ、ゲルググ、ドムトローペンをロック・オンした。

 

後は己の思考に乗せて駆逐するだけだ。

 

「まずうるさい雑魚を破砕させてやる……ファンネルミサイル!!!」

 

ペーネロペーから飛び出した大量のファンネルミサイルが、ザクやグフの機体群に襲いかかる。

 

縦横無尽に飛び交うそれは、瞬く間にザクやグフを破壊し尽くす。

 

機体群を連続で爆発爆砕させながらザクやグフ、ドムトローペン、ゲルググ達を駆逐させた。

 

このペーネロペーの攻撃により、ニューヨークシティーのジオン残存軍は壊滅に追い込まれた。

 

強化人間に変貌してしまったロニの非情な攻撃は続く。

 

「雑兵共が……貴様達は野蛮な獣同然だ!!!」

 

そして、ロニは視界に入っていなかったまだ残存するザクやグフ、ドムトローペンを凝視し、延長軸線上の機体群をロック・オン。

 

ペーネロペーは機体の一部を可変させ、特徴的なドラゴンのごとき鋭利なパーツが機体前面に出る。

 

ロニはブースト操作をし、ペーネロペーのブースターにエネルギーをチャージさせ、巨大な機体をフル加速させた。

 

荒れ狂うドラゴンのごとく爆発的な加速をしたペーネロペーは、その轟々たる体当たりでザクやグフ、ドムトローペンを一挙にかつ豪快に破砕させた。

 

更に折り返しながら仕留め損ねたゲルググやグフに襲いかかり、鉄屑のガラクタへと変貌させる。

 

「ペーネロペーの力……存分に味わえ!!!!」

 

ペーネロペーはビームバスターの射撃も追加してギラズール部隊へ襲いかかる。

 

1機、2機が射撃され、3機がペーネロペーのデストロイドブレイクにより、破砕させられた。

 

その後、至るところから上がる炎の向こうにゆっくりと降下しながら、舞い降りたペーネロペーは、両腕シールドに内蔵されたメガビームサーベルのレフトアーム側を発動。

 

形成させた長く巨大なビームサーベルを振るいながら

残存する2機のギラズールに襲いかかった。

 

ギラズールのビームマシンガンの抵抗も空しく、一瞬でその機体を薙ぎ斬り払われ、斬り上げられ爆発した。

 

「ニューヨークシティーの抵抗勢力を壊滅……任務完了……次の戦地へ行く」

 

ジオンサイドのMS群を総滅させたペーネロペーは、メガビームサーベルを解除しながら浮上し、戦闘領域を後にした。

 

各機はオーガスタ研究所から派遣されたガルダ3機を拠点に活動していた。

 

それらからの報告を、オーガスタ研究所のベントナへと集約される。

 

「Ξ、ペーネロペー、バンシィ各機は、所定のエリアのジオン勢力を壊滅させまた次の戦闘エリアへ向かいました。極めて短時間で戦闘を終結させ、順調にジオン勢力を駆逐させています」

 

ベントナは、卑屈に笑いながらその功績に満足していた。

 

「くっくくく!!我らの人体実験の成果は如実に現れ始めているな!!当面はこの方式で転戦させておけ!!短期的にジオンサイドは壊滅する……だが、我々がそれを成すよりも早くそれは起こるがな」

 

「ベントナ所長、例の件は本当に移行するんですか?我々の所属先は今後……!!!」

 

部下のやや焦り気味の表情でベントナに質問を問う。

 

するとベントナはより卑屈に笑いながら返す。

 

「くくひひひっ!!臆する必要などない!!我々はむしろ栄光の道を歩み出すのだよ!!彼等と共になぁ……!!!」

 

その表情はまさにマッドサイエンティストたる狂喜に満ちていた。

 

ベントナはその表情のままマリーダことプルトゥエルブへ通信を繋いだ。

 

「プルトゥエルブ!!聴こえるか!?応答しろ!!」

 

「はい、マスター。次の任務場所でしょうか?」

 

虚ろな目付きかつ無表情なプルトゥエルブは、ロボットのごとくベントナに次の命令を乞う。

 

「そうだ!!中東の反連邦勢力のゲリラ達とジオン残党の駆逐だぁ!!!どうやら野戦キャンプ施設まで設けているようだ!!場所は後程送る!!!バンシィで駆逐してこい!!!所で躰はどうだぁ!?躰はぁ……躰ぁ!??くきひひ!!!」

 

気色が悪いまでに舐め回すようにプルトゥエルブに質問するベントナだが、プルトゥエルブは全く嫌悪感を示すことはない。

 

「はい、異常はありません」

 

「そうかぁ!!!だがなぁ……お前には余りにもの薬物を投与したからなぁ!!!今指定した任務が終了したら定期メンテナンスしに帰投しろ!!!」

 

「はい、マスター」

 

プルトゥエルブの躰には実際に身体的に無理なまでの薬物が投与されていた。

 

いつ副作用に見回れてもおかしくない躰にされてしまっていたのだ。

 

だが、ベントナは決して身を案じてはいない。

 

研究的にも肉体的にも己の欲望を満たす道具としか捉えていなかった。

 

「イイ娘だぁ……ついでに私の躰への奉仕も忘れるなぁ!!!私への躰の奉仕だぞぉ!!!くきひひひゅう!!!」

 

ベントナはそそられるような唾液を拭う。

 

女性視点で見れば明らかにドン引く程の表情を重ねるベントナだが、一切プルトゥエルブは顔色を変えずに返答した。

 

「はい、マスター。ご奉仕させていただきますっ……!??がぁっ!??うぐぅっっ……!!!あああ!??ああああああ!!!」

 

通信中、突如としてマリーダが頭を抱えながら激しく苦しみ出す。

 

今しがたベントナが言っていた過剰強化の副作用だった。

 

更に「躰の奉仕」というワードのイメージからマリーダの潜在意識が拒絶していた。

 

「嫌ぁああああ!!!ぁああああ……ぁああああ!!!」

 

激しく声を上げながらもがき苦しむプルトゥエルブに対し、ベントナは平然とニヤケながら帰投命令をした。

 

「ようし……早速副作用がきたか!!戻ってこい、プルトゥエルブ。使い物にならん!!!ロニにやらせよう!!!ふふっ、戦闘が出来ればそれでいい……そして躰をいじらせてもらえればな……!!!」

 

 

 

ルクセンブルク・OZ総本部

 

 

 

OZ総本部の会議室では、幹部クラスの将校が集い、来る要の日に備えた会議を進めていた。

 

OZ地球圏台頭プロジェクトの為である。

 

その中には一部の地球連邦関係者も招かれていた。

 

「現在、地球圏各地において地球連邦軍とネオジオン残党軍の抗争が展開されているが、この期に決起すると言うことは更なる混乱を招く。今日は改めてオペレーションのタイミングを検討したい」

 

「最悪、三勢力による大戦になりかねない。いくら我々が用意している戦力が有利とはいえ、無駄な戦闘は避けるべきだ!!」

 

「いや、この時だからこそ我々の力を証明する機会ではないか!?新たな兵器、MDの力を見せしめるべきだ!!!」

 

「両者の疲弊を待ち、機会を窺いながらオペレーションを発動させるべきだ。ECHOESも傘下になっていることもある。特にコロニー群は徹底的に支配すべきだ!!」

 

様々な意見がその後も飛び交い、論議も相応のものとなる中、トレーズと同席していたディセットがその意見を放つ。

 

「今一度ここは様子を見るべきだと私は考えを改めます。現在の情勢はまさに第三次ネオ・ジオン抗争。ならば自ずと彼らは行く行く疲弊を重ねていく……意義あるゆえ、我々の決起はスマートに行える機会に行を動かすべきです。今の我々はいわば歴史の傍観者……今後を見据えた偉大なる歴史の舵をとる為に歴史を観察してみてはいかがでしょうか?」

 

ディセットの意見が流れた後、幹部達はざわめきを見せ続ける。

 

トレーズは微かに笑みを浮かべて瞳を閉じていた。

 

(その通りだ……ディセット。歴史の流れは常に変わる。決起を少し見送る流れに変わった。我々は変わる直前の地球圏の歴史の戦いを見つめねばならない。変わる歴史がいかにして変わるかを把握するがゆえに……しかし魂なきMDの歴史には遺憾を抱いてならないが……それもまたいか程の愚かな歴史か……見極めさせていただこう……)

 

トレーズは隣で発言を続けるディセットを窺いながらニヤリと口許を動かした。

 

 

 

とあるL3のコロニー群のエリアにおいて、コロニーが隣接する空間での戦闘が起きていた。

 

ビームの斉射撃群が飛び交い、爆発光が消えては生まれ、消えては生まれる。

 

その火中の中では、リゼルとジェガンの部隊とギラズールとギラドーガの部隊とが生死を駆けた射撃が入り乱れていた。

 

リゼルが放つ三発のビームキャノンのビームが、飛び込むようにして宇宙空間に放たれる。

 

そのビーム弾は、ギラドーガを仕止めて爆発光へと変貌させる。

 

だが、直後にはしった無数のビーム連射がそのリゼルを破砕させた。

 

ギラズールが放つビームマシンガンが、リゼル、ジェガンを撃ち仕止めて爆発を連続誘発させていく。

 

ジェガンやリゼル達も更なる反撃のビーム射撃で撃ち貫く。

 

撃ち貫かれ、爆発したギラドーガの一部の上半身が吹き飛び、ジェガンに衝突。

 

誘爆を巻き起こして両者が吹き飛んだ。

 

その最中、1機のジェガンはビームサーベルを振り払いながら唐竹の斬撃を打ち込み、ギラズールのビームトマホークと重ね合わせ、スパークを散らさせる。

 

力を拮抗させる両者の刃が弾け、一瞬の隙を突いてジェガンの斬撃の斬り払いがギラズールを斬り飛ばした。

 

だが、一矢報いるシュツルムファウストがギラズールのシールドから放たれ、ジェガンは直撃を受けて爆破する。

 

その後方では、ビーム射撃の撃ち合いが展開し、その最中をドライセンやリゲルグ、ドーベンウルフが駆け抜け、敵機たるジェガンやリゼル、ジムⅢを圧倒的な火力と武装で破砕させる。

 

対し、リゼルやスタークジェガンの機体達が機動力を活かしたビーム射撃やバズーカ、ミサイル砲撃を展開した。

 

この戦闘のすぐ近くを航行する羽目になってしまった民間船に、1機のリゼルの流れビームを受け破砕させられてしまう。

 

更には被弾したギラドーガとジェガンとが縺れ合いながらコロニーのスペースポートに突っ込み、両者の機体の爆発が誘爆を発生させ、犠牲の輪を拡大させる。

 

第三次ネオジオン抗争は、コロニー落としや資源衛生落としを筆頭に第一次同様の民間を巻き込む戦闘を拡大させており、コロニー周辺においても例外ではなかった。

 

その事により、次第にコロニー市民からの支持は薄れ、更にはパラオをはじめとするジオン系民間資源衛生からも懸念され、水面下において二分しようとしていた。

 

ネオジオンの拠点であるパラオ周辺において、ネオジオン同士の戦闘が展開する。

 

ドライセン、ギラドーガ、バウ、ガザD、ギラズールの機体達が入り乱れて戦闘を繰り広げる。

 

ビームマシンガン、ビームマシンキャノン、ビームライフルのビーム火線が幾つもはしり、爆発が発生。

 

ギラズールが連射させたビームマシンガンのビームが、ガザDを仕止め爆破させ、ドライセンの振るうビームトマホークがギラドーガを斬り裂き、バウの放つビームライフルがギラズールを射抜く。

 

まさに文字通りの同士討ちたる状況。

 

それはかつての第一次ネオジオン抗争末期の内戦のようであった。

 

「っ……!!裏切りの輩め!!我々の大儀に何の不満がある!??」

 

「スペースノイドに恥じるあるまじき行動など……誰も望みはしない!!!」

 

両者の互い違いの理念や正義が錯綜し、混迷を拡げていく。

 

時代は確実に流転し、日々たる変化を刻んでいく。

 

第三次ネオジオン抗争は確実に歴史をかき乱し、地球圏に波紋を拡げていた。

 

その最中、フロンタルとアンジェロはとある地球連邦宇宙軍の管制下のエリアに進攻していた。

 

数多くのジェガンやリゼル、ジムⅢ達が警戒にあたっていた中へ、素早く軌道を描きながらはしる二つの機影があった。

 

シナンジュとローゼンズールだ。

 

ビーム射撃群の中を駆け抜ける2機は、高速ビーム射撃と高火力のシールドメガ粒子砲を放ち、ジェガンやジムⅢ部隊を消し飛ばす。

 

矢じり突風のごとく放たれたそれは容易く装甲を射抜き、メガ粒子砲に関しては装甲を消し砕くに等しい。

 

駆け抜け続けるシナンジュとローゼンズールは、華麗に宇宙(そら)を舞いながらビームトマホークとアームクローの斬撃も見舞っていく。

 

ビームトマホークのビームの刀身が、鉢合わせるジェガン2機、ジムⅢ2機、リゼルを1機の装甲を容易く焼灼・破断させる。

 

アームクローの斬撃がジムⅢ3機をズタズタに波斬。

 

ジェガン2機をアームメガ粒子砲で破砕し、更なる刺突が2機のリゼルの胸部を穿つ。

 

零距離から放たれるアームメガ粒子ビームが、リゼルを豪快に破砕・爆破させた。

 

更にギロリと側面に眼光を移動させたローゼンズールは、その方向にいたジェガン3機とジムⅢ3機へと標的を絞る。

 

だが、先に連邦サイドのビームライフルとミサイルが複数発放たれ、ローゼンズールへと襲いかかった。

 

ローゼンズールはこれ等に対し、眼光を一瞬放ちながらシールドメガ粒子砲を放ち、圧倒的な火力でビームを相殺させてMS群をかき消す。

 

撃破を逃れたジェガン2機、ジムⅢ1機が接近して迫った。

 

だが次の瞬間、ジェガンとジムⅢの頭上からアームクローの爪が叩き貫くように穿つ。

 

破砕の爆破が2機を砕き散らし、その中をローゼンズールは突き抜ける。

 

そして、爆発の中からジェガンの胸部を貫いて、クラップ級戦艦の壁面に押し当てた。

 

そこで起きたジェガンの爆発が更なる誘爆を招き、機関部の爆破に導いた。

 

一方のシナンジュは、ビームライフルの高速射撃を継続し、高機動なリゼルを次々に撃ち貫き、すれ違い際にビームトマホークの瞬間的な斬撃を見舞って斬り裂く。

 

機体の体勢を変更しながらビームライフルを連発。

 

スタークジェガン3機が一気に爆破され、順にジェガン、ジムⅢの機体達が仕止められ、一瞬にして鉢合わせた三つの小隊を壊滅させる。

 

更に駆け抜けながらビームトマホークでジェガン、リゼル、ジムⅢを斬り捨て飛ばし、横一線にクラップ級を斬り裂き続け、轟沈させてみせた。

 

たった2機が織り成す破壊の芸術を見つめながら、フロンタルはアンジェロに今回の意図を話す。

 

「アンジェロ、この作戦はオペレーションの完遂の為の布石だ。連邦に管理された偉大なる岩はここで我々が奪還しなければならない!!」

 

「はい!!大佐!!!」

 

「この座標にまで我々が及ぶとは奴等も予想外だっただろう……ライル中佐!!頃合いだ。『偉大なる岩は我々を待っていた』全艦一斉射撃を仕掛ける!!!」

 

「了解しました……フロンタル大佐から通達!!『偉大なる岩は我々を待っていた』全艦一斉射撃……撃てぇ!!!」

 

通達されたフロンタルの命令で、ライル中佐はレウルーラ、ムサカ級8隻、エンドラ級7隻、ムサイ改級3隻による一斉射撃を仕掛ける。

 

連邦サイドのクラップ級艦隊の側面上から夥しいまでのメガ粒子群のビームが射撃された。

 

不意討ちに近い形でクラップ級艦隊は次々に直撃を受けて轟沈していく。

 

それを合図にギラズール、ギラドーガ、バウ、リゲルグ、ドライセンの部隊が次々に発艦。

 

幾多のビームマシンガン、ビームライフル、ビームトマホークの攻撃が繰り出され、ジェガンやリゼル、ジムⅢのMS部隊がその攻撃を浴びて破壊されていく。

 

戦況はネオジオン優勢の運びが持続し、シナンジュとローゼンズールを筆頭に連邦サイドの戦力を削っていく。

 

宇宙に咲き乱れる爆発光が拡がり、宙域を埋め尽くしていくその光景は歴史の激動を示唆するかのようだ。

 

各地で連邦とネオジオンの戦闘が巻き起こる一方、宇宙において更なる動きが起きていた。

 

 

 

L3コロニーエリア・資源衛生ルスタ

 

 

 

パラオ同様のネオジオン残存軍系列の民間資源衛生・ルスタの宙域にギラドーガやバウ、ガザDが三小隊編成で哨戒している。

 

その周囲には民間シャトルや輸送船が行き交い、日常の光景が宙域に広がる。

 

そこへ突如ダークブラウンカラーのジェスタやジェガン、ロトの小隊が姿を見せ、紅いカメラアイを発光させながら接近する。

 

「なんだ!?連邦の……MS!?」

 

「連邦…?!!ここはネオジオン残存軍系列の資源衛生だぞ!!」

 

「連邦がここへ!??遂にこの辺にも抗争の火蓋が!??」

 

「わー……ママ~!もびるすーつだ!!かっこいい!!」

 

「MS……!!あんなものがあるから……!!誰も争いをのぞんでるわけじゃ……!!!」

 

シャトルの乗客達は突如現れた連邦のMSに対し、それぞれの想いを懐く。

 

その時だった。

 

ダークブラウンのMS部隊がシャトルや哨戒中のネオジオンのMSに向かいビーム射撃を開始したのだ。

 

ECHOESのジェスタ部隊のビームライフルやジェガン部隊のビームバズーカ、ロト部隊のビームキャノンの放つオレンジのビームがシャトルやネオジオンMS部隊に集中。

 

無惨にかつ無慈悲に射撃対象を爆破させた。

 

カメラアイを発光させたそのMS部隊は、サインを出し合いながらルスタの周辺に展開。

 

ビームトマホークをかざしたギラドーガが1機のECHOESジェスタに襲いかかるが、ECHOESジェスタはオレンジに光るビームサーベルを振り払い、ギラドーガを斬り裂いた。

 

爆発するギラドーガを越え、2機のガザDを一瞬で斬り捨てて爆破させてみせる。

 

更にルスタ内部でもテロ同然の攻撃が展開し、彼らのMS同様の色のノーマルスーツに身を包んだ男達が、民間施設に無差別の発砲行為を仕掛け続ける。

 

老若男女問わず射殺され続け、ECHOESロト部隊の砲撃が市街地のショッピングモールや歩行者天国へと向けられた。

 

悲鳴と爆破音が入り交じった音がこだまする。

 

ECHOESジェガン部隊も、一般車両を踏み潰しながらビームライフルとビームバズーカを発砲。

 

更なる容赦のない破壊が民間人を殺戮していった。

 

その内部の一方で、本命であるネオジオンのアジトにもえげつない程の集中砲火が行われ、圧倒的な火力を誇示。

 

ギラドーガ、ガ・ゾウム、ガザD、バウの部隊は無惨に破壊し尽くされる。

 

そのビーム群の火力は連邦のMSとしても異色の威力を持っていた。

 

やがて破壊し尽くした後に彼らは、荒廃し切ったルスタ内部で通信を取り合う。

 

「ネオジオン系資源衛生・ルスタの一掃・壊滅任務完了。これより帰投する」

 

「了解。こちらルスタ周辺掃討部隊。我々も周辺の戦力と船舶を駆逐した。これより帰投する」

 

無慈悲かつ機械的なまでの感情の兵士達は、ルスタを後にして離脱していく。

 

そしてこのタイミングで、工作員達がルスタの各部に取り付けた起爆装置を作動させ、ルスタに連続爆発を発生させた。

 

瞬く間にルスタは爆炎に包まれ、まだ生き残っていた市民を巻き添えにして砕け散った。

 

 

 

混迷の流れが本格的に開始した宇宙で、OZと連邦のエース機が駆け抜ける。

 

トールギスとデストロイモードのユニコーンガンダムだ。

 

帰還中に遭遇したネオジオンの艦隊と交戦していた。

 

ドーバーガンから放たれた八発の高速ビーム弾が、バウ2機、ギラドーガ3機、ギラズール2機、ドライセンを一瞬にして砕き散らし、レフトアームに装備された新兵装・バスターランスがリゲルグを一撃で突き砕く。

 

更に突き抜ける先にいたギラズールとギラドーガ3機を突き砕き飛ばした。

 

ゼクスはモニター上に捉えている次なる敵機群を見据えながらトールギスをたくみに操り、機体を突っ込ませていく。

 

「貴君らに恨みはないが、出会してしまったからには立場上逃す理由もない……許せ!!!」

 

トールギスのバーニア出力が更に上昇し、機体を白き閃光のごとく加速させる。

 

それに連動し、バスターランスの威力も上昇。

 

大型の切っ先を、ドーベンウルフの胸部に直撃させ、激しく破砕。

 

砕け散るドーベンウルフの爆破を突き抜けながら、更にガザD3機、ギラズール2機、ドラッツェ4機、ギラドーガ3機を多角的な軌道を描いて連続で撃破させてみせた。

 

白き閃光が駆け抜けた軌跡には爆発の華が咲き乱れる。

 

「トールギスよ……やはりガンダムとの決闘が我々には望ましい戦いだな」

 

一方、デストロイモードのユニコーンガンダムが、サイコドーガ3機のビットユニットをビームマグナムで破砕させ、次の瞬間には本体3機を二発のビームマグナムで破砕させた。

 

瞬間的に反転すると、後方から接近していたギラズール3機とギラドーガ3機目掛けビームマグナムを機数分放って壊滅させた。

 

そこへギラズールの派生機・クラーケズールがシールドメガ粒子砲を放って迫るが、Iフィールドシールドでこれを相殺。

 

ビームが相殺しきると、ユニコーンガンダムはシールドを振り払うようにビームマグナムを引き替えて構え、カウンターショットでクラーケズールの胸部装甲を抉り飛ばして破砕させた。

 

その直後、ユニコーンガンダムはギンとカメラアイを光らせ、僅かな残像を残して狂ったように加速。

 

一発、一発を高速かつ的確にビームマグナムをギラズールやギラドーガ、ドライセンを撃ち抉り破壊する。

 

「ネオジオン風情め……!!!出会したからには確実に駆逐する!!!おおおおおおおおお!!!」

 

ギラズールを破砕させた後に、ビームガトリングでリゲルグや、ドラッツェ、ガルスJを瞬間的に破砕させた。

 

更に次の瞬間にはギラドーガに取り付き、ビームサーベルで強烈な連撃を浴びせ、瞬殺。

 

鬼神のごときユニコーンガンダムは、紅き残像を描きながらの高速移動で次々と敵機MSを斬り刻み、爆破させる。

 

カスタマイズされたギラズールやバウ、リゲルグ、はたまたザクⅢさえも刻み斃して爆砕させていった。

 

戦闘が繰り広げられる一方で、ネェルアーガマ艦内のミヒロは一人部屋に入り、膝を抱えながら葛藤の中にいた。

 

「OZが近々連邦を乗っ取る……か……笑えない冗談ね。もし、OZに乗っ取られるのだとしたら……ネェルアーガマもきっと……」

 

ミヒロは密かにOZの台頭の話をリディから知らされていた。

 

彼女自身もそれなりの想いで連邦に身を置いていた。

 

しかし、水面下でその連邦が乗っ取られる道を歩んでいる。

 

互いの身を案じたリディは恋人のミヒロにもOZに来るよう説得していた。

 

「OZか……また時代が変わるの?また……」

 

ミヒロの呟きに答えるようにしてトレーズが総帥室で言葉を放つ。

 

「……古い時代は変わる。この今の時代にこそ、古き歴史の繰り返しに終止符を打つべきなのだ。OZはその歯車となろう……」

 

トレーズが操作するデータベースには、オペレーション・プレアデスと表記された作戦の計画一覧表が映し出されていた。

 

「オペレーション・プレアデスの実行はディセットに一任してある。だが、実行に移るにはまだもう一段階の歴史の動きを監視する必要がある……」

 

その時、ディセットからの通信が入った。

 

「失礼致します。トレーズ閣下、先程連邦が所有していたアクシズの片割れがネオジオン勢の手に堕ちたとの報告がありました。激化が始まればそれ故に我々のオペレーションも動くべきかと」

 

「あぁ……新たな時代へ向けての実行だ……彼らはアクシズを必ず落とす行為に出るだろう。しかし、あれは落としてはならない。限りある地球という資源は守らねばならない。OZ宇宙軍への働きかけも頼むぞ、ディセット」

 

「はっ!!」

 

「だが、まだ大事の前だ。状況次第の判断に任せる」

 

「了解致しました!!では!!」

 

通信を終えたトレーズは、ふうと息をつきながらこの時代に身を投じている戦士達を想う。

 

彼の脳裏にはガンダムのパイロット、すなわちGマイスター達の存在が過っていた。

 

「メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムのパイロット達は混迷の中に晒されているだろう……龍のガンダムのパイロット……名を張 五飛と言ったか。特に彼は私と刃を交えた戦士……再戦を望んでならない。是非ともこれからの激動の歴史の時代を生き延びてもらいたいな……」

 

 

 

トレーズの再戦を望む想いの向こうでは、五飛が地球連邦軍が管理する香港のスペースポートへと殴り込むように攻め入っていた。

 

叩き下ろされるシェンロンガンダムのビームグレイブの刃が、ジェガンを叩き潰して爆破させる。

 

更にビームグレイブを振り回しながら斬り払い、ジェガンを3機をまとめて破壊・爆破させた。

 

「俺は宇宙の悪を叩き潰す!!!共に行くぞ那托!!!」

 

両眼を光らせたシェンロンガンダムはブーストダッシュしながらスタークジェガンを叩き斬り、ロトを頭上から串刺しにしてビームグレイブを突き刺した。

 

更に足許で爆破するロトから飛び上がり、空中にいるリゼル3機を薙ぎ払って斬り飛ばす。

 

そこには以前のシェンロンガンダムの気迫と力強さが舞い戻っていた。

 

その最中、シェンロンガンダムに向かって異形の巨体が上空より迫る。

 

降り注ぐメガ粒子ビームを機体のセンサーよりも早く察知した五飛はシェンロンガンダムの機体を巧みに躱させる。

 

下方でメガ粒子の直撃の爆発が巻き起こる中、シェンロンガンダムと五飛はそのメガ粒子ビームの主を見据えた。

 

「やつか……無論乗っているのも奴なんだろうな!!!」

 

その主とは改修されたバイアランカスタム。

 

即ちディエス・ロビンだった。

 

久々の好敵手との再会に両者は不敵に笑う。

 

「龍のガンダム……あの時の再戦をしようじゃないか……次こそは勝つ……!!!」

 

迫るバイアランカスタムのカメラアイが光る。

 

両者は自らのビームの刃を振るう。

 

そして闘志を籠めた刃を激突させた。

 

その一方で、同基地に到達したデュオ、トロワ、カトル達も攻撃を仕掛けていた。

 

ガンダムデスサイズのビームサイズの大振りがリゼル3機を一気に破断し、更なる振りで3機のスタークジェガンを斬りとばした。

 

ロト部隊が、ガンダムヘビーアームズのビームガトリングに蜂の巣にされ次々に破砕・爆発。

 

そしてガンダムサンドロックのヒートショーテルの斬り技にジェガン、ジムⅢ部隊が斬り倒され爆発の連続を巻き起こす。

 

「やっと五飛と合流できたみたいだな!!このスペースポートで、宇宙へ戻らさせてもらうぜぇ!!!景気よく斬って斬って斬りまくるぅ!!!」

 

デュオの気迫にのせてガンダムデスサイズの死の舞いが駆け抜ける。

 

「このチャンスは逃さない。必ず俺達は宇宙へ戻らさせてもらう。まずは徹底的に障害を駆逐する……!!!」

 

ビームガトリング、ブレストガトリングの砲火がジェガン、スタークジェガン、リゼル、ロトの機種を無作為なまでに砕き散らしていく。

 

そして、ガンダムサンドロックの怒濤の斬撃がジェガン、ジムⅢ、リゼル部隊にピンボールの軌跡のごとく攻め入る。

 

ガンダムサンドロックの機体は青白く輝き、PXシステムが発動していた。

 

「僕たちは宇宙に帰るよ……ロニを僕から奪った世界を、ガンダムを壊す為にね……!!!!」

 

だが、コックピット内のカトルの表情はいつになく静かなる狂喜を出していた。

 

その先を見据えたかのように薄ら笑い、ターゲットを斬り刻む。

 

一方、アディン、プル、オデル達は旅立った矢先に海賊ならぬ、空賊のMS部隊に遭遇し、ガランシェールからの発進を余儀なくされていた。

 

「アディン、恐らくはかつてのティターンズ系のMS達だ。問題はないだろうが油断するなよ!!特にお前はお転婆かつ天真爛漫なお姫さまのナイトだからな!!」

 

「えへへ♪ありがとう、オデルお兄ちゃん!!というわけでアディン、あたしとキュベレイ守ってね♪でもあたしもがんばるよ!!皆のために!!」

 

「兄さん……ったく、相変わらずからかいやがって~……あぁ、わかったよ!!!任せとけっ!!!ガンダムジェミナス・バーニアン01でキメルぜぇ!!!」

 

ガランシェールからガンダムジェミナス・バーニアン01、02、キュベレイMk-Ⅱが飛び立つ。

 

それをジンネマンはプルの身を案じつつも、ガンダムの手並み拝見にのぞんだ。

 

「例のガンダムの手並み拝見させてもらおう。いずれにせよ俺達の戦力では厄介な戦力だ……プル……無事に帰ってくれよ……!!!」

 

それぞれのGマイスター達が戦う中、マリーダと再会した時の事をアディンやプルに考慮されたヒイロは、ガランシェールの一室に身を移し、未だ眠る意識の中で眠り続ける。

 

再び戦場に身を向ける日まで……。

 

 

 

To Be Next Episode




宇宙へ再び戻ろうとするガンダム達に、連邦の大部隊が立ちはだかる。

五飛は再びディエスのバイアランと対決し、デュオ、トロワはそれぞれ抗い、カトルは変貌した狂気を抱えたまま宇宙を目指す。

マリーダ捜索中のアディン達もまた、ガランシェールに襲いかかる空賊のMS群を迎撃し、プルも自らの意思で守るべき者の為に戦う。

一方、宇宙ではネオジオンが分裂し、アクシズを掌握したフロンタル派と、フロンタルを危惧する反フロンタル派の内戦が勃発し、歴史に新たな歪みが起こる。

更にまた一方ではキルヴァとロニが蹂躙を重ね続け、ジオンに対し無慈悲な現実と殺戮を押し付ける。

その時、無謀なまでに果敢と立ち向かう戦士が現れた。

次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

エピソード 19 「抗いの戦士達」

任務……了解!!!



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エピソード19「抗いの戦士達」

地球連邦軍 香港スペースポート基地

 

 

 

「龍のガンダム!!!いつかの借りは返させてもらう!!!」

 

ディエスが駆るバイアランカスタムは両腕のメガ粒子ビームキャノンを撃ち放ち、シェンロンガンダムを狙い撃つ。

 

シェンロンガンダムは敢えて真っ向から直撃を受けながら爆発に包まれた。

 

「直撃……だが仕止めたと思わせ……」

 

ディエスは見透していた。

 

爆発を突き抜けるシェンロンガンダムの姿を。

 

くわっとディエスが目を見開いた直後、案の定シェンロンガンダムは撃破されずに爆発を突き抜ける。

 

「覇ぁああああああああっっっ!!!」

 

五飛の気迫と共にビームグレイブが唸り振られ、バイアランカスタムへと叩き下ろされる。

 

その斬撃は、バイアランカスタムのレフトアーム側のメガ粒子ビームキャノンを破壊し、更に斬り払いを見舞う。

 

ディエスはその斬撃を即座にビームサーベルで受け止めた。

「ビームの爆発をモノともせずに攻め入るっ……!!!流石、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムだ!!!」

 

「その機体……あの時のバイアランの男……ディエスか!??」

 

「そうだ!!!三度目の激突になるな張 五飛!!!今回こそは……勝たせてもらう!!!」

 

「抜かせ!!!俺の正義の前に貴様は勝てん!!!」

 

「こちらも正義を背負っての戦いを挑んでいる!!!」

 

強く前姿勢で出る五飛。

 

トレーズとの敗北で長らく生じた五飛の精神的な傷は完治していた。

 

シェンロンガンダムの蹴りがバイアランカスタムの胸部を突き飛ばす。

 

だが、直後にバイアランカスタムのライトアーム側のメガ粒子ビームキャノンが放たれ、シェンロンガンダムの胸部に直撃。

 

爆発と共にシェンロンガンダムの機体を吹っ飛ばした。

 

「ちぃ……!!!飛び道具を多用するのか!!!貴様!!!」

 

「牽制と試しに過ぎん!!あくまで俺も……こうだ!!!」

 

加速してシェンロンガンダムへと斬りかかるバイアランカスタム。

 

シェンロンガンダムもまた加速してビームグレイブを突き立てる。

 

 

 

ギャギャギィィィイイイイ!!!

 

 

 

激突と拮抗がスパークの閃光を持続させる。

 

互いに捌き合い、ビームの刃を連続でぶつけ合う。

 

ディエスのバイアランカスタムは、装甲やジェネレーター、駆動ジョイントを強化しており、ガンダムと渡り合えるカスタマイズが施されていた。

 

対ガンダム戦を想定した改修機となっていた。

 

一瞬の斬撃の隙を縫い、バイアランカスタムのビームサーベルがシェンロンガンダムの胸部を斬り払う。

 

装甲には焦げ跡と少しの熔解跡が残るが、やはり彼らのガンダムの装甲強度は破格の強度だ。

 

ギンとカメラアイの眼光を放ったシェンロンガンダムは、ビームグレイブを頭上で振り回しながら強烈な一撃を叩き込んだ。

 

ビームサーベルでそれを受け止めたバイアランカスタムは、再度拮抗させながらパワーをぶつける。

 

その一方で、スペースポート一帯で迎撃体制にあるジェガン、リゼル、スタークジェガン、ジムⅢ、ロトの大部隊の中へガンダムデスサイズが、ガンダムヘビーアームズが、ガンダムサンドロックが突っ込んでいく。

 

 

ザシュバァアアアアア!!! ザギャシャ、ズバシャァアアアアアアン!!!

 

 

 

ガンダムデスサイズのビームサイズは手当たり次第にジェガンやジムⅢ、ロトを斬り刻んでは斬り飛ばし、狙いを選定したリゼルに向かいバスターシールドを放つ。

 

 

 

バシュドォオオオオッッ……ザガギャッ―――ドォシュガァアアアアアアア!!!

 

 

 

バスターシールドの両端の刃がリゼル2機を切り裂きながら、狙いを選定したリゼルのコックピットにビームの刃が突き刺さる。

 

リゼルは空港施設に惰性と共に突っ込み、串刺しにされたまま爆発した。

 

「相棒ごと宇宙へ上がらさせてもらうシャトルはこの基地のシャトルが一番最適なんだ!!阻んでくるうるせー連中は斬りまくらせてもらうぜ!!!」

 

 

 

ドゥヴォヴァドゥルルルルルルルルゥ!!! ヴァダララララララララァ!!!

 

 

 

ビームガトリング、ブレストガトリングの連射砲火がロト、リゼル、ジムⅢ部隊を蜂の巣に砕き散らす。

 

「かなりの戦力だ。だが、一対多型戦を想定している上だ。問題はない。今日こそは宇宙へと上がらせてもらう……!!!」

 

 

ギャギシャアッ、ディッガギャン、ザッガギャ、ディシュガ、ザザザギャシャアアア!!!

 

 

 

その中でもPXシステムの青白い閃光を放ち、凄まじき速さで敵機を斬り砕くガンダムサンドロックは一線を画していた。

 

「ふふふ……全てを破壊させるよ……まっててね……ロニ……だからさ、邪魔なんだぁああああああああっっっ!!!!」

 

カトルはロニを奪われた一件のショックにより一変してしまっていた。

 

純粋が故に奪われた現実と彼女におよんだ汚れに耐えきれず、優しさと強さを合わせた少年の心は狂気に支配されていた。

 

カトルの狂気に呼応するようにガンダムサンドロックは青白い残像を描きながら破壊に破壊を重ねる。

 

超高速で縦横無尽に駆け抜けながら、手当たり次第に連邦のMS達を斬り砕き、斬り潰していく。

 

平均にして一秒につき3機を斬り潰していた。

 

ガンダムサンドロックは鬼神めいた機動力で破壊の限りを尽くし、更なる加速をかけて次なる破壊を続ける。

 

「宇宙には……今の僕に必要な力が……!!!」

 

そのカトルの心中の中には、ウィングガンダムに酷似したガンダムのイメージが抱かれていた。

 

「『ゼロ』の力が……あるんだぁあああ……!!!」

 

 

 

更にその一方で、アディン達は空賊のMS達との戦闘に突入していた。

 

ガンダムジェミナス・バーニアン01がギャプラン、アッシマー、キハールのビーム攻撃を軽快な機動力で躱す。

 

バーニアンユニット自体は本来宇宙用のユニットであるが、大気上でも十分に運用可能だ。

 

更に使用場所を選ばない万能ジェネレータであるGNDドライヴがあれば至極当然であった。

 

両肩のバーニアユニット、背面のウィングユニット、脚部の高機動ユニットの各部分からGNDエネルギーの炎を噴射しながら機体を回転、加速をかけて姿勢をコントロールする。

 

「海賊か空賊だかなんだか知らねーが、ジェミナス・バーニアンの性能試しに付き合ってもらうぜ!!!」

 

メインモニター上に捉えたキハール3機を見据えたアディンは、鋤かさずアクセラレートライフルのトリガーを引く。

 

 

 

ヴダァヴァアアッ、ズドォヴァアアアアッ、ヴィズヴァアアアアアアア!!!

 

 

 

撃ち放つビーム渦流が一瞬にして攻撃を仕掛けるキハール3機を撃ち抉った。

 

爆散する3機のキハール。

 

更にそれを掠めた1機のアッシマーが、高エネルギーの影響により誘爆を起こして爆散した。

 

姿勢を制御しながら更にアッシマー3機に向かってアクセラレートライフルを撃ち放つ。

 

アクセラレートライフルのビーム渦流はアッシマーの胸部を撃ち抉る。

 

他の2機も機体を撃ち抉られ、爆発四散。

 

射撃のテクニックは以前のアディンよりも更に上がっていた。

 

ギャプランのメガ粒子ビームキャノンがガンダムジェミナス・バーニアン01を狙い撃つ。

 

「残念!!!簡単には中たらねーぜ!!!もっとも、中っても破壊できないけどな!!!」

 

アディンは巧みに躱すと、銃口をギャプランに向けチャージショットを放つ。

 

ギャプランはこれを躱す軌道に回避する。

 

だが、アディンはその方向へ銃口を移動させ、持続するビーム渦流にギャプランを呑み込ませてみせた。

 

ギャプランは機体をビームにかき消され、たちまち爆散四散した。

 

「キメてやったぜ!!!っとぉ……!!!」

 

キハール4機が下方向よりビーム射撃を仕掛けてくる。

 

アディンは機体を機敏に動かしながら、ターゲットをロック・オン。

 

アクセラレートライフルを連続射撃で撃ち放つ。

 

上方からのビーム渦流が1機、1機に直撃し、削り飛ばすように破砕させた。

 

更に反転し、ドダイ改に搭乗した3機のハイザック改のビーム狙撃を躱す。

 

「ウザい奴らだな!!キメ飛ばすぞ!!!」

 

苛立ちと余裕の混じった感情にのせてチャージショットを撃ち放つアディン。

 

1機のハイザック改を直撃させながら2機のハイザック改の片腕を削り飛ばし、誘爆を伴わせ爆砕させた。

 

その一方で、オデルのガンダムジェミナス・バーニアン02も軽快な機動フットワークでドダイ改に搭乗するマラサイやガルバルディβ、ハイザック、ジムクェル、ジムキャノンⅡ達のビーム攻撃群を躱しながら戦闘体制に入る。

 

ジェミナス・バーニアン02の量肩のバーニアンユニットは大型のものになっており、瞬発的な上昇下降の機動に適したタイプだ。

 

「野盗相手だが、加減は一切なしだ!!ジェミナス・バーニアンの機動テストに付き合ってもらう……!!!」

 

敵機群の上へ上昇したガンダムジェミナス・バーニアン02は、レフトアームに握ったアクセラレートライフルをチャージショットで撃ち放つ。

 

 

ギュリュリュリュリリリィィィ……ヴズヴァアアアアアアア!!!

 

 

上方向から撃ち放たれたアクセラレートライフルのビーム渦流が、マラサイ2機を叩き砕くように破砕させた。

 

更にハイザック2機を狙い撃ち、ビーム渦流の直撃の下に爆砕させた。

 

ジムクェルやジムキャノンⅡの砲火が放たれるが、ガンダムジェミナス・バーニアン02は瞬発的な機動力で躱し続け、ジムクェルとジムキャノンⅡを狙い撃ち破砕。

 

オデルは機体を一気に加速上昇した上に加速下降。

 

更にビームソードを抜きながらの加速下降をし、ガルバルディβを激しく捌き斬った。

 

そこから飛びかかるように他のマラサイ、ハイザック、ガルバルディβに斬りかかり、機動力を乗せた斬撃たる斬撃を繰り出す。

 

更に2機のハイザックを斬り飛ばすと、再びアクセラレートライフルをチャージショットし、ジムクェル、ガルバルディβ、ハイザック、ジムキャノンⅡを連続破砕させた。

 

その最中、空賊の別動隊のバーザムや陸戦ジム、ジムカスタム、ハイザック改、ガルバルディα、ネモⅢ、イフリート、ズゴックの機体群が、ガランシェールへと迫っていた。

 

ブリッジ内でフラストが叫ぶ。

 

「所属不明機、本船に複数機接近!!!対空措置が間に合いません!!!」

 

「スキウレの準備はできていないのか!??なんで今日に限ってギラズールがスタンバイできていない!??」

 

なっていない対空措置に対しジンネマンも叫ぶ。

 

「今回、ガンダムが味方にいることで油断していたものと……」

 

「なにぃ!??戦闘に油断など命取りだ、馬鹿!!!」

 

「後でキツク言っておきます!!!」

 

「そう言う問題かぁ!??」

 

ジンネマンとフラストのやり取りを割るようにギルボアが叫ぶ。

 

「攻撃が来る!!!急速回避させます!!!」

 

ギルボアの操舵捌きの下、前方より来るビーム攻撃を回避する運動に入るガランシェール。

 

激しい遠心力と振動に船内が見舞われる。

 

「うおぉおお!??」

 

その時、回避するガランシェールの面前に迫っていた陸戦ジムや、ジムカスタム、ガルバルディαのMS達が、複数のファンネルの連続ビーム攻撃に撃たれた。

 

 

 

ドゥダダダダシュゥウウウウウ!!!

 

ドォガガゴゴバァバァアアアアア!!!

 

 

 

直後、ガランシェールの前をキュベレイMk-Ⅱが舞った。

 

「パパ達はやらせないよ!!!ガランシェールは、あたし達やマリーダの帰る場所なんだから!!!ファンネル達、みんなで一斉射撃!!!」

 

バッと手をかざしたキュベレイMk-Ⅱ前に複数のファンネルが並んだ。

 

並列に並んだファンネルからビームが一斉かつ完全同時にハモニカ砲方式に放たれた。

 

 

 

ディギシュダァァアアアアアアアア!!!

 

 

 

更にかざしたキュベレイMk-Ⅱの手首の付け根部のハンドランチャーからもビームが同時に放たれており、前面上の射撃死角は皆無に等しい。

 

撃ち放たれたビーム群は、狂い無く迫っていた別動隊のMS群を射抜いて完全爆砕させた。

 

「まだまだ来る!!いくよ、キュベレイ!!!」

 

プルはキュベレイMk-Ⅱを加速させ、迫るキハールやバーザムの機体群に向かう。

 

加速するキュベレイMk-Ⅱにファンネル達も周囲に付きながら追従する。

 

プルは普段は見せない引き締まった厳しい表情で次なるターゲットをイメージしながら攻め入る。

 

その間に空賊のMS乗りの思考も僅かにプルの意識に入り込んでくる。

 

「攻めてくるMS達……パパ達の船を狙うことしか考えてない……もちろん、命なんてないがしろに考えてる……あたしだってあんた達を全く躊躇無く撃ったりしてないんだからね……!!!でも、大切な人達の命狙っているからには……あたしもやらせてもらうんだから……!!!」

 

射程圏内に入り、目を閉じてターゲットイメージに集中するプル。

 

アッシマー3機、キハール3機、ガルバルディβ3機がビーム射撃を開始する。

 

ニュータイプ独自のひらめきがはしり、プルはかっと目を見開いた。

 

「そこ!!!みんなお願い!!!」

 

ファンネルに呼び掛けるプルの声と共に、一斉にファンネルは幾つかのグループに別れて飛び立つ。

 

アッシマー、キハール、ガルバルディβの機体群はファンネルの突然のビーム射撃に翻弄される。

 

ビームライフルを放って狙うが、俊敏なファンネルには全く中る気配がない。

 

その間に、ファンネルはマシンガン並の連続射撃を始め、瞬く間にアッシマー、キハール、ガルバルディβの機体群を撃ち砕き散らしていく。

 

更に周囲にを囲み、オールレンジ射撃の雨を与える。

 

まさにファンネルの真骨頂の攻撃方だ。

 

9機いた機体群は一瞬の間にして爆発の華と化した。

 

「―――!!!いけない!!!」

 

プルは突然嫌な予感を察知し、ガランシェールへと舞い戻る。

 

「パパ達がやられちゃう!!!」

 

その時、空賊のギャプラン改がガランシェールへと向け、母艦のガウ攻撃空母から加速を開始する。

 

発進したギャプラン改の加速力は半端がなく、並のMSでは追撃は非常に困難だった。

 

そのギャプラン改と母艦に狙いを定めたガンダムジェミナス・バーニアン02とがすれ違う。

 

「ん!?1機のみで!??まぁ、いい!!アディンとプルに任す!!!PX、オーバードライヴ!!!」

 

狙えない事はないが、元凶たる母艦を叩かねばならない。

 

しかも3機が存在しており、狙いを定めたからには逃す手はなかった。

 

PXを発動させたガンダムジェミナス・バーニアン02は、青白い閃光と化して縦横無尽にガウを斬り刻み始めた。

 

その1機は瞬く間に撃墜された。

 

プルは先駆けてギャプラン改の行動を察知し、ガランシェールの面前へと飛び込む。

 

「やらせない!!」

 

「プル!!?」

 

ガランシェールの前方に再びキュベレイMk-Ⅱが飛びこんだ。

 

ブリッジ内から見ているジンネマン達からは突然の行動に疑問よりもよからぬ勘が過る。

 

そのすぐ後に突っ込んで来るギャプラン改をガランシェールの計器類のセンサーが捉え、フラストが報告した。

 

「キャプテン!!前方より高速物体が迫ってます!!!きっとプルはそれを!!!」

 

「真っ向から受ける気か!??ならん!!!」

 

プルは意識を集中し、速度と射撃のイメージを始める。

 

イメージの意識の中にギャプラン改のイメージを集中させていく。

 

加速するギャプラン改は、プルのイメージの感覚を覆す程の速度で迫る。

 

「キタっ―――!!!」

 

集中を研ぎ澄ませたファンネルの射撃が、ギャプラン改を狙い撃つ。

 

直撃。

 

だが、慣性の影響を受けた機体の前部が、更に加速をかけて飛ぶ。

 

キュベレイMk-Ⅱやガランシェールに直撃すれば致命的なダメージは避けられない。

 

「そんな―――!!?」

 

その刹那。

 

「PXオーバードライヴ―――!!!!」

 

 

 

ズガギャアアアアアアア―――ッッッ!!!

 

 

 

PXを発動させたガンダムジェミナス・バーニアン01が、シールドを構えながらギャプラン改の残骸へと突っ込んだ。

 

「アディン―――!??」

 

ギャプラン改の残骸は大きく吹っ飛んで砕け散る。

 

PXを解除させたガンダムジェミナス・バーニアン01は、アクセラレートライフルをシールドに収容し、キュベレイMkⅡとガランシェールに向かってサムズアップしてみせた。

 

「へっへへ……未来担うニュータイプはやらせねーってね!!!プルは俺が守る!!!」

 

超高速を実現させるPXシステムだからこそ成せた技であった。

 

「くすっ、アディン……ありがとう!!えへへ……」

 

プルはアディンの姿勢に対し心底から胸がキュンとなり、嬉さと共に胸が熱くなるのを覚えた。

 

一方のオデルもまた、3機のガウをPXで撃墜しきっていた。

 

ガランシェールのブリッジ内でも安堵が流れ、ジンネマン達は胸を撫で下ろす。

 

それと同時にアディン達の実力を目の当たりにし、感服なまでの感情を実感していた。

 

「ふぅ……ハラハラはしたが……あれほどの数の敵機を全滅させちまった。予想を遥かに上回る程の実力だ……大したもんだの言葉じゃ到底収まらん……!!!それにプルもマリーダに勝るとも劣らないセンスを持っている……!!!だが、かといって……」

 

ジンネマンに先程の危機的状況が浮かぶ。

 

もしアディン達がいなければ只では済んでいなかっただろう。

 

プルが戦闘に赴く事に抵抗を懐くが、本人の意志を尊重し否定はできない。

 

 

ガシャアアアッ!!

 

 

 

「おわ!!?ぷ、プル!!MSで抱きつくな~!!」

 

「アディンー♪」

 

ジンネマンはキュベレイMk-Ⅱに抱きつかれるガンダムジェミナス・バーニアン01を見つめ、今はアディンに掛けようという考えで維持した。

 

「考えても仕方ない……プルの決意も否定できんしな。あのガンダムの小僧の働きぶりに掛けるしかねーか……」

 

「ですね……にしても、見る限りラブラブっすよ?MSで抱きついてますし……その変はどーなんすか!?お父さん!!」

 

「やかましいわっ!!フラスト!!」

 

 

 

各地の場所で再びGマイスター達が戦う。

 

それは半年以上の潜伏状況を打ち破っての反逆だった。

 

共通なる想いは宇宙へ、コロニーへ戻る事だ。

 

そして、壊滅へと追い込んだ元凶の一つ、特殊部隊ECHOESに一矢報いる。

 

だが、カトルだけは違っていた。

 

「ふっふふふ……あはははは!!!僕は宇宙にあるガンダムの力を貰いにいくんだ……そして……全てを破壊してやる……だから邪魔だぁああああ!!!!」

 

ヒートショーテルの高速かつ強烈な斬撃が連続で繰り出され、対面するMSを全て叩き斬っていく。

 

だが、PXの恩恵も残り一分を切った。

 

カトルは力の限りに破壊しつくしていく。

 

今のカトルの脳裏にあるのは先にイメージした別のガンダムの存在であった。

 

そのガンダムの力を手に入れる事を念頭に置いての強行を重ね続けていく。

 

その最中、デュオからの通信がカトルの所へと入る。

 

「おい、カトル!!いくらなんでも突っ込みすぎだ!!!無茶し過ぎるな!!!PXもリミットオーバーすりゃあ、しばらく性能低下しちまうんだ!!!加速できねー、機動力低下、各ジョイントの可動も鈍くなる!!!」

 

「……関係ないよ」

 

「あぁ!??なんでだ!??このままじゃ、お前……!!!」

 

「関係ないって言ってるだろぉおお!!!!」

 

「カトル!??」

 

ヒステリックに感情を一瞬爆発させたカトルにデュオは驚きを隠せなかった。

 

カトルは更に怒鳴りながら敵機を破壊していく。

 

「ロニを奪われ、守る事もできない僕はぁああああ!!!!どーでもいいんだよぉおおおおおお!!!!」

 

ガンダムサンドロックを駆るカトルは、気違いなまでに敵機群をPXに任せに滅多斬りにし、その勢いのままHLV発射施設まで特攻した。

 

「カトルゥウウウウウ!!!」

 

ガンダムサンドロックは狂った弾丸のように敵機を吹っ飛ばし、蹴散らしていく。

 

その最中PXが解除され、ガンダムサンドロックは慣性の惰性のみで発射施設に突っ込んだ。

 

その衝突の衝撃は、施設を一気に廃墟レベルに崩壊させた。

 

「ばっかやろぉおおおおおおおおおっっ!!!」

 

「カトル……!!!っ……背負い込み過ぎだ!!!なんでも自分のせいにし過ぎだ……カトルっっ!!!」

 

デュオはカトルの狂ってしまった事とその行動に叫び、トロワも仲間の変わり果てた行動に憂いを隠せない。

 

攻撃を止めたガンダムデスサイズとガンダムヘビーアームズに敵機の射撃攻撃が集中する。

 

「がぁ!??っちぃいいいい……!!!」

 

「くっ……物量効果か!?」

 

その直後、スタークジェガン達が急接近し、バズーカの銃口で包囲するように2機の装甲に押し当てた。

 

ゼロ距離からの連発射撃が襲う。

 

「ぐああっ……!!!っちくしょうが……!!!」

 

「くっ……内部の電子系統がやられる……!!!」

 

重砲弾の連発射撃の衝撃が、電子制御系統にダメージを与え、幾つかのエラーが表示されるようになる。

 

「っ……やってくれるぜ!!!ならよぉ、PX、オーバードライヴ!!!」

 

PXを発動させたガンダムデスサイズは、一気にスタークジェガン達を弾き飛ばし、ビームサイズによる無双斬撃を開始した。

 

最早後先など考えず敵機群を破壊しまくるデュオ。

 

高速で振り回されるビームサイズにスタークジェガンやジェガン、ジムⅢ、リゼルが滅茶苦茶に破斬されていく。

 

「今が使い時か……!!!」

 

トロワもガンダムビーアームズのPXを発動させ、機体を軸にしたアーミーナイフの回転斬りでスタークジェガンを斬り飛ばすと、弾くように加速してアーミーナイフによる連続斬撃を繰り出す。

 

更に近距離からブレストガトリングをぶっ放しながら回転し、周囲の敵機群を削り飛ばすように砕き散らした。

 

ビームガトリングをかざしながらの回転射撃も加え、更に敵機群を撃ち砕き散らす。

 

こうなれば連邦サイドは一気に不利となり、破壊の限りに破壊されていく以外無い。

 

五飛は一瞬奮起したデュオ達を見る。

 

「ふっ……その意気だ……だが、俺はあくまで俺の力でやるっ……覇ぁっ!!!」

 

五飛は直ぐ様にバイアランカスタムへと斬撃をかける。

 

あくまでPXを殺して闘う。

 

ビームとビームの刃が幾度もぶつかり合う。

 

「龍のガンダム……相変わらずの出鱈目たるパワーだ!!!強化されてなくば、直ぐにアーム系統がやられていた……だが、俺も意地で勝ちにいかせてもらおう!!!」

 

刹那の隙を見切ったディエスは、軸を回すかのようにビームグレイブを捌き、ビームサーベルの連突きをシェンロンガンダムの胸部に見舞う。

 

「っ……ふん!!貴様、少しはできるようになったか!!!」

 

「言うな、五飛!!向こうでは仲間が青く速くなる機能を使っているが……貴様は使わないのか?」

 

「ふん……俺は俺の力で押し通す!!!一対一の勝負なら尚更だ!!!那托をナメるな!!!俺は俺だっ!!!」

 

己自身の力で闘う姿勢を五飛は貫く。

 

己が信念を籠めたビームグレイブの連続突きを一心に繰り出す。

 

シェンロンガンダムの突きが中れば間違いなく致命的なダメージを受ける。

 

ディエスは意地でも受け止め捌き続けて攻めた。

 

「くぅうううっっ……!!!づああああああ!!!」

 

奇しくもバイアランカスタムの突きが、シェンロンガンダムの左目を突き当てた。

 

シェンロンガンダムのコックピットのモニター片面の画面が消える。

 

「カメラをやられたか……!!!」

 

「体勢を崩した今を逃さん!!!だぁぁああああ!!!」

 

 

 

ディギャズッ、ガザギャッ、ダダダダギャアアアアン!!!

 

 

 

バイアランカスタムの華麗なビームサーベル捌きがシェンロンガンダムのボディーを突き続け、連続の斬撃ダメージを与えた。

 

衝撃により、シェンロンガンダムはアスファルトへと吹っ飛ぶ。

 

「くっぅっうっっ……!!!だがっ……!!!」

 

五飛は衝撃をこらえ切り、シェンロンガンダムを立ち上がらせた。

 

そしてブーストダッシュをかけながら唸り振るうビームグレイブをバイアランカスタムへ叩き付けた。

 

ビームサーベルで受け止めるディエス。

 

更なる負荷がバイアランカスタムの機体各部に及ぶが、まだ持ちこたえる。

 

2機が激突している最中、デュオとトロワがMS隊を壊滅へと追い込んでいく。

 

ビームサイズとビームガトリングの高速斬撃と射撃がMS部隊を総崩しにしていく。

 

「PXが有効な内に片付けさせてもらうぜ!!!カトル……無事でいろよな!!!」

 

「カトルは今、背負い過ぎた想いにやられている……いつものカトルじゃない……!!!」

 

その間に突っ込んだまま動かなくなっていたガンダムサンドロックにジェガンやリゼル部隊が取り囲む。

 

このまま何もなければ、鹵獲は免れない。

 

衝撃でカトル自身が気絶している可能性が高い。

 

トロワは遮るかのようにいる部隊を蹴散らしながらガンダムサンドロックに向かう。

 

その時であった。

 

ガンダムサンドロックが突っ込んだ発射施設のシャトルが、突如とジェット噴射を開始した。

 

「ふっふふ……みんな……先に行くよ……!!!」

 

カトルが狂喜を浮かべた直後、シャトルが発射した。

 

カトルは既にガンダムサンドロックを収容させ、シャトルを操縦していたのだ。

 

「カトル!!!あいつ、どんどんいっちまいやがって!!!今のあいつは色々ヤバくなっちまってやがる!!!」

 

「ああ……それにさっきからカトルは繰り返し『ゼロ』と言っていた……!!!」

 

「ゼロって……ウィングガンダムゼロか!??ありゃ、確か適正あるヒイロと五飛以外乗れねーはずだろ!??」

 

「あぁ……現に俺達は適正テストの際にあのシステムに呑まれた……何度やってもな」

 

「それに下手すれば死ぬ……そんなのに今のカトルが実戦で乗ったらヤバイぜ!!!」

 

「あぁ……本来今のような状況になった時にヒイロ、若しくは五飛が行動に出る計画だった。だが、ゼロの機体そのものが危険過ぎ、かつ世界のパワーバランスそのものを崩壊させかねない。文字通り、破壊のガンダム……あくまで最終手段の機体だ……」

 

「だが、実際問題……五飛は絶対にシェンロンを乗り続けるだろうな……そーいえば五飛は!?」

 

「まだあのバイアランと交戦中だ!!」

 

「相変わらず真剣勝負がお好きで!!」

 

MS部隊を壊滅させたデュオとトロワは、真剣勝負の無礼を承知で五飛に通信を入れた。

 

「おい、五飛!!真剣勝負中失礼するがよ、俺達はシャトルにこれから取りつく!!!増援が来る前に行こうぜ!!!」

 

「!先に行きたくば先に行け!!!この男との勝負に決着が着き次第俺も上がる!!!」

 

五飛は案の定真剣勝負に身を投じ、デュオの言葉を断る。

 

無論、五飛の性格上、承知のことであった。

 

「やっぱか……あいよ、先に行かせてもらうぜー。必ず来いよな!!!」

 

「カトルがゼロに乗り込む可能性がある……あいつを止める為にも先に行かせてもらう」

 

「ふん!!どのみち俺に構うな!!!行け!!!」

 

デュオとトロワは、カトルを追うように発射施設内に機体をスタンバイさせると、HLVを発射させる。

 

刃を交えるシェンロンガンダムとバイアランカスタムの後方で2機のHLVが射ち上がっていく。

 

ディエスは、シェンロンガンダムの向こうに見えるHLVを見送ると五飛に問いかけた。

 

「貴様は……宇宙へ行くのか!??」

 

「あぁ!!俺達を壊滅へと追い込んだ悪が宇宙にいる……今一度俺達の正義を下す!!!」

 

「宇宙か……俺はずっと空に根差していた……このご時世に未だに行ったことがない」

 

「だからなんだ?」

 

「……行け……宇宙へ」

 

「何?!!」

 

「戦いの場は宇宙になりつつある……貴様との決着は宇宙で着けよう……」

 

「っ……!!!貴様は馬鹿にしているのか!??俺をナメるな!!!」

 

手の平に転がされたかのようにとらえた五飛は、怒り任せにビームグレイブを捌いて、叩き付けた。

 

ビームグレイブをビームサーベルで受け止めながらディエスは言葉を返した。

 

「違うな!!!これは男としての、兵士としての話だ!!!組織としても、己としても宿敵のガンダムを敵地で仕止める……貴様の正義と同じく、俺の正義のカタチだ!!!」

 

「随分と身勝手な正義だな……!!!」

 

「ふん……承知だ……さぁ、行け!!!」

 

五飛は口許をニヤつかせると、ディエスへ一言吐き飛ばす。

 

「借りは必ず返上しに叩き付けるぞ……覚悟しておけ!!!」

 

「無論、望む所だ」

 

戦場で出会った男同士の約束に二言はない。

 

それから間もなくしての後、ディエスは飛び去るHLVを見上げながら無言で見送る。

 

五飛もHLVの操舵レバーを握りながら無言のままモニターを見据える。

 

戦いの決着の場を宇宙にするという約束と借りを握りながら次なる戦場を目指す。

 

Gマイスター達は、それぞれの想いとカタチで宇宙へと飛翔していった。

 

 

 

現状況下、地球では連邦軍とジオン残存軍が、宇宙では地球連邦軍とネオジオンの図式で戦闘が行われており、その側面ではECHOESの暗躍、反フロンタル派のネオジオンの出現もあり、混迷に混迷を重ねていく傾向にあった。

 

そして、その混迷は更なる混迷を呼ぶに至る。

 

フロンタル派のネオジオンが遂にアクシズを掌握した最中、これを危惧する反フロンタル派のネオジオンがアクシズを保持していた宙域に進軍し、第一次ネオジオン抗争末期を彷彿とさせる事態を見せる。

 

反フロンタル派の大半は、アクシズを落とす行き過ぎた行為と、オペレーション・ファントムで仲間を見捨てた姿勢、そして、フロンタルの思惑に対し遺憾を示す者達であった。

 

ここへ来ての同士討ちはフロンタルも読んでおらず、予想を覆す程の反勢力の抵抗に憤りを感じてならないでいた。

 

フロンタルはシナンジュを駆りながら、元同胞を躊躇いなく撃ち射抜き続ける。

 

「再びアクシズを地球に落とす事をよしとしない……これではまるで……」

 

ビームライフルの連続射撃が、ギラドーガやズサ、ガザC、リゲルグを撃ち抜き、接近しながらギラドーガをビームトマホークの斬撃で破斬する。

 

振り向きながらバウを斬り裂き、ビームトマホークを振り回して接近したドライセンを斬り捌いた。

 

爆発を掻い潜り、狙撃主のごとくビームライフルでガゾウム、ガザD、ドラッツェ、ゲルググJを撃ち墜とす。

 

「グレミーに楯突かれたハマーンのようだな……!!!この行為がオペレーション・ファントムを無駄に帰す行為と……」

 

ギラズールがビームトマホークをシナンジュに振るうが、それをシナンジュは斬り飛ばした。

 

「何故わからん!!!」

 

反目する同胞に、容赦は全くなかった。

 

更に新兵器・ビームバズーカランチャーの銃身をビームライフルにセットし、ドーベンウルフとドライセンに向けて発射する。

 

 

 

ヴゥッ……ヴヴァガァアアアアアアアアッッ!!!

 

 

高出力のビームの渦が突き進み、2機の巨体を抉りながら後方のギラドーガとバウも捲き込んで破砕させた。

 

それは彼に深い忠誠を誓うアンジェロも同じであった。

 

つい先日までここまで来た同胞の反逆にも、フロンタルに反目する時点で全く同情はしていなかった。

 

ローゼンズールが容赦ないビーム射撃を同胞に見舞う。

 

アームクローがオールレンジで動き、放たれるアームメガ粒子砲が、ガザD、ギラドーガ、バウ、ギガン、ゲルググを連続で破砕させる。

 

向かい来るドライセンに対し、シールドメガ粒子砲を放ち、高出力ビームの下に破砕。

 

更にその後方にいたズサやガルスJも捲き込んで破砕させた。

 

その最中、親衛隊機のギラズールまでもが反逆に来るのを確認した。

 

「裏切り者がぁ……!!!何故大佐の素晴らしき考えが理解できんのだ!??貴様らはぁあああ!!!」

 

感情を高ぶらせたアンジェロは、1機のギラズールを滅多斬りに斬り砕いて爆散。

 

怒りの限りなまでに無惨に破壊した。

 

駆け抜ける2機の軌道の閃光。

 

その周囲には後を追うかのごとく爆発閃光が生まれ出る。

 

周囲では艦隊戦闘のビーム射撃が行き交う中で、ネオジオン同士のMS達もまたビーム射撃を展開させながら火華を散らし、また命を散らしていく。

 

残存軍同士の攻防。

その戦闘は、正にネオジオンの、ジオンの歴史が終局に向かうかのようにも思う光景であった。

 

だが、フロンタルやアンジェロ、親衛隊の存在が反逆側の攻略を難しくしているのも事実であった。

 

ネオジオン第二次内戦勃発の報道は地球圏各地に伝えられた。

 

それは既にトレーズの下へと伝えられており、予想されていた連邦対ネオジオンの図式が崩れかねない状況と判断されていた。

 

以前、連邦は高みの見物を決め込んだ傾向があった為だ。

 

即ちネオジオンが再び自滅する可能性と連邦の高みの見物的な現状維持体制が示唆されていたのだ。

 

当初の発動計画は両勢力の疲弊に介入するカタチからオペレーションを発動させるものであった。

 

総帥室にて、ディセットは直接トレーズにオペレーションの促進を投げ掛ける。

 

「トレーズ閣下、連邦の勢力が現状のまま維持されれば、当初の思惑にズレが生じます。決起体制は実質万全の常態になりました!!オペレーション発動許可を頂きたく……!!!」

 

するとトレーズは気づかせるようにディセットへと言葉を運ぶ。

 

「ディセット……言ったはずだ。この一件はお前に一任していると」

 

「しかし……!!」

 

「……かつての連邦はネオジオンを見て見ぬふりをした時期があったな。我々が予測していた展開は、アクシズ落下を阻止すべく連邦が主勢力をネオジオン全勢力にぶつける攻防……恐らくはネオジオンの自滅を辿る……連邦にかつての悪癖があればOZは疲弊していない連邦と交戦する事となる……歴史は語る……」

 

トレーズはしばらく考察した後に、目を見開き決断の意を促すように伝える。

 

「自身の決断に躊躇するなディセット。お前の意思は堅苦しくなく、自由なのだ!!」

 

「は!!では、臨時で極秘の最終議会を直ちに開き、上層部へ伝達致します!!」

 

「私自身が任せているが故にもっと意思は強くあれ、ディセット……任せたぞ」

 

「は!!ありがたきお言葉……心に染みます!!では、早速行動に移行します!!失礼致します!!」

 

ディセットは深々と感謝の意を伝え、行動に移っていった。

 

ディセットを見送ると、トレーズは席に着座し、世界情勢のデータベースを閲覧する。

 

「歴史が少しばかりの悪戯をしたようだ。我々が歴史の悪戯に翻弄されてはならない……悪戯には相応に対処する。そして、導入時の戦力は極力リーオーとエアリーズ、有人機のリゼル・トーラスで願いたいものだ……無論、上層部は私の戦いの理想像に構うことはないだろうがな」

 

OZが連邦の一部を取り込みながら確実に台頭への秒読み段階に入っていく。

 

それは正に宇宙世紀の革命のカウントダウンを意味していた。

 

それより数日後、ネェル・アーガマと行動を共にしているゼクスやミスズにも、暗号回線を通じてオペレーション発動日時が伝えられた。

 

ゼクスとミスズは、ネェル・アーガマ内の一室にて、自身のポケットデータベースを介しながら正規に受け取っていた。

 

「ふっふふ……遂に来るか……!!」

 

「あぁ……発動直前までに全MS及び戦艦に搭乗若しくは武装をせよ……か。世界・地球圏規模のクーデターだ。壮絶な状況になるだろう」

 

「歴史的な戦闘が展開されるだろうな。あの痴話喧嘩の類いな訳はあるまい……」

 

窓の外へと視線を移すミスズ。

 

二人がいる一室の窓の向こうでは、ネオジオンの内乱の情景が映つる。

 

やはり連邦は高見の見物姿勢を決め込んでいた。

 

無論、ゼクスやミスズの意はそれに反していた。

 

「あの中ではフル・フロンタルが闘っている……仮にあの中の戦闘が彼の最後だとしたら決着を着けたくてならない」

 

「ふっふふ……疼くか?ゼクス。私も正直、高見の見物は性に合わん……OZの特権でどの道我々は動ける。行くか?」

 

「時も近い。そうさせてもらおう……!!!」

 

行動を移したゼクスとミスズは、OZの特権である「いつ如何なる時でも独自の判断で行動をできる」事を実際に行動した。

 

ネェル・アーガマを後にするトールギスとリゼル・トーラス。

 

ゼクスは目の前に迫る戦闘に高揚感を覚えていた。

 

「トールギスは、1機で1000機のMSを相手にする戦闘が想定されたMSだそうだ。流石、あのガンダムの先祖だ……と言うところか!!!お前の無双両成敗、試させてもらおう!!!」

 

「ゼクス……独り言か?」

 

「ふっ……愛機への語りかけだ。後はリディがうまくやってくれるかだな……見込みがあるだけに気がかりだ。じゃじゃ馬の白馬の王子はネェル・アーガマの姫様を連れ出したい一心だったしな」

 

「お前もだゼクス。私を連れているぞ」

 

「ふっふふ……言うな、ミスズ!」

 

気にかけとのろけを踏まえながら2機は瞬発的な加速をかけてネオジオンの内乱へと向かった。

 

一方、リディは連邦とOZに思いが揺れるミヒロを説得していた。

 

日付が迫っている為にリディが焦る中、ミヒロはリディに訴える

 

「ちょっと、リディ!!私、まだ心に準備できてない!!帰るあてはあるの!?」

 

「ミヒロ!!時間が無いんだ!!俺はお前を失いたくない!!」

 

「だからと言って、今までの仲間を撃てるの!?OZのクーデターってそう言うことよ!?」

 

「それは……けど、俺はクーデターでミヒロを失いたくない!!お前を守れる最善の方法と踏んだから、俺は……!!!少なくともネェル・アーガマは討たない!!!だからここから離れる!!!」

 

「リディ……」

 

「ミヒロ……」

 

リディはミヒロを抱き寄せた。

 

「……ここから先は連邦の時代が終わる……そうなれば俺達は必ず淘汰されるだろう。無論、親父も……今後の俺達の為にも……行こう、ミヒロ!!」

 

ミヒロを抱き締める力がリディの想いをミヒロに伝える。

 

「……リディ……」

 

ミヒロはリディのその想いにようやく向き合い、抱き返した。

 

一方、ジオンへの蹂躙は日々過剰になっていく。

 

野戦キャンプ地にΞガンダムが襲来し、ビームバスターをデザートザクやデザートゲルググ、ドム・トローペンへと上空から射抜く。

 

「キヒヒ!!!てめーらみてーな虫けらは容赦しねー!!!キヒヒー!!!」

 

キルヴァの非情たる射撃はこれだけでは収まらない。

 

キャンプテントが並ぶエリアにもビームバスターを撃ち放つ。

 

起動前のザクキャノンやザクタンク、ギガンにもビームバスターを直撃させて爆破させる。

 

もはや民間同然の彼らとてキルヴァにとっては獲物に他ならない。

 

業を煮やしたドム・トローペンが、バズーカを撃ちながら、Ξガンダムに迫る。

 

Ξガンダムは攻撃をものともせずに、バズーカを射抜いて腕を破壊。

 

胸部にビームバスターを直撃させた。

 

「あーひゃひゃ!!あーひゃひゃ!!脆いな~脆い!!!」

 

爆破するドム・トローペンを嘲笑したキルヴァは、更にザクキャノン、ドムキャノン、ザクスナイパー、ゲルググを射抜き続け、彼らの補給物資が纏められた箇所にも射撃が注がれる。

 

「キヒヒ!!まんま食えなくなっちまいな……!!!しゃあ!!!」

 

追い討ちをかけるように野戦キャンプ全域にファンネルミサイルを放ち、無情非情の雨を降らせた。

 

廃墟と化した野戦キャンプには、無惨な末路を辿った兵士や支援していた民間人の姿があった。

 

「キヒヒ……!!!虫けらぁ……ひゃひゃひゃぁ!!!」

 

 

 

そこから程なく近いエリアでドム・トローペンやザクキャノン達がホバー走行をしながら対空射撃を慣行する。

 

その対空射撃の相手は、非情になってしまったロニが駆るペーネロペーだった。

 

「ジオン風情が!!!ペーネロペーに楯突くか!!!」

 

ペーネロペーはビームバスターを突き刺すように撃ち放ち、その一発一発を確実に直撃させて爆破を連鎖させる。

 

決して被弾レベルでは済ませていなかった。

 

ロニはモニター上に映るジオン勢のMSをロックすると、ペーネロペーをデストロイドブレイク・モードへと可変させる。

 

「ファンネルミサイルでは勿体無い……これで一気に蹴散らす!!!」

 

爆破的な加速をしたペーネロペーは、鋭利な先端部をドム・トローペンに激突させながら言葉通り一気に蹴散らす。

 

更にウィング部でも両端の機体を破砕。

 

大きく飛び立ちながら加速すると、旋回しながら再びドム・トローペンやデザートゲルググへと激突させる。

 

更に加速されたデストロイドブレイクは、ジオンの機体群をバラバラに破砕させた。

 

そして、最後の1機、デザートゲルググがペーネロペーに最後のビーム射撃を放って抵抗する。

 

「っ……悪あがきに過ぎん……っ!??っく、死ねぇ!!!」

 

狂気的に目を見開いたロニは、更なる加速をさせてデザートゲルググを粉砕した。

 

「はぁ……はぁ……っ!!!なんだ!??一瞬あのMSからした感覚は?!!」

 

ロニはデザートゲルググから一瞬妙な感覚を覚えていた。

 

それは彼女の本来の潜在意識が抵抗した現れであった。

 

彼女は元は反連邦活動の一環でゲルググにも乗っていた。

 

その経験が彼女を刺激したのだ。

 

だが、直ぐに切り換え、次なる任務に意識をやった。

 

 

 

Ξガンダムとペーネロペーが2機がかりでジオン残存軍が占拠する基地へと強襲をかける。

 

上空から2機のビームバスターの射撃が降り注ぎ、ザクⅠやザクⅡ、グフカスタム、ドム、ザクスナイパーの機体群に対し、蹂躙の限りを尽くす。

 

だが、この基地には多くの戦力が集中しているようで、次々とザクⅡのカスタム機が射撃してくる。

 

「雑魚がうぜーな!!!やばいぜ……ってなぁんてな!!んなわけねぇだろぉ……射撃訓練になるぜぇ、おい!!!」

 

Ξガンダムの怒濤たるビームバスターの射撃がザクⅡやグフカスタムを射抜き続ける。

 

キルヴァにとっては最早射撃遊びの絶好の的であった。

 

直撃を喰らい続けるザクⅡ達は破裂するように爆破されていく。

 

一方のロニは、ビームバスターの射撃をしながら、キルヴァ同様にザクⅡやドムを破砕し続ける。

 

だが、いかんせん数が多い為に合理性にかけると判断すると共に苛立ちも感じていた。

 

「ふん……こういう場面こそ、ファンネルミサイルだ!!行くがいい!!!ファンネルミサイル!!!」

 

ペーネロペーからファンネルミサイルが射出され、多数のファンネルミサイル群が、えげつないまでの攻撃をかける。

MS達の装甲や基地の地表、基地自体を無造作なまでに破壊する。

 

突き刺さるファンネルミサイル群は、次なる獲物を求めるようにして飛び交い、MSたるMSを襲っていく。

 

「しゃあーねー、ファンネルミサイル、エクスターミネート!!!!」

 

キルヴァもこれに便乗するようにファンネルミサイルを放ち、ビームバスターを撃ちながらの攻撃をかける。

 

ロニ以上に殺戮意識が高いキルヴァの意識は、ザクⅡやドム、グフを滅多突きにして縦横無尽に破砕たる破砕を尽くす。

 

ジオンの機体群が玩具同然に粉砕され、虚しく破砕されていく。

 

ロニもジオンへの憎悪を刷り込まされ、ジオンのMSたるMSを狙い定め、破砕させていく。

 

「ジオンは敵……私から全てを奪った敵……!!!」

 

破壊に破壊を重ね、ファンネルミサイルを飛び交わせながら、Ξガンダムとペーネロペーはビームバスターの射撃も合わせて行う。

 

場を変えたジオン残存勢力エリアにおいても同様の破壊を尽くす。

 

Ξガンダムとペーネロペーのタッグは正に悪魔な組み合わせであった。

 

上空へ射撃するジオン残存軍のMS達であるが、機体の歴然な差から為す術はない。

 

ビームバスターとファンネルミサイルにより、どの機体もある意味平等と言っていい程に破壊されていった。

 

Ξガンダムとペーネロペーの狂気たるビームバスターとファンネルミサイルの蹂躙は、完全に壊滅するまで行われた。

 

日夜残存軍に物資を提供していたジオン残存軍の輸送機・ファットアンクルの補給隊にΞガンダムとペーネロペーの刃が襲う。

 

「面倒くせー連中は排除するんだってよ!!!」

 

「補給など……させてなるものか……」

 

4機のファットアンクルにΞガンダムとペーネロペーから放たれたファンネルミサイルが襲う。

 

更に追い討ちを重ねに重ね、Ξガンダムとペーネロペーは二手に別れ、メガビームサーベルで斬り刻みまくる。

 

機体は全周をズタズタにされたあげく、機関部や翼、機種部をメガビームサーベルで熔断されていった。

 

ファンネルミサイルとメガビームサーベルの刃が瞬く間に4機のファットアンクルを撃墜させた。

 

「キヒヒ……楽勝な任務だぁ!!!」

 

「次なる任務もある……行くぞ!!!」

 

「キヒヒ~……了解ぃ!!!」

 

 

 

敗戦したジオン残存軍の拠り所たる基地に、任務の場所を移したΞガンダムとペーネロペーが蹂躙たる蹂躙をしかける。

 

どの機体も戦闘がやっとという常態であり、多くの傷病兵を抱えていた。

 

だが、全く躊躇なくΞガンダムとペーネロペーは攻撃を加える。

 

ビームバスターとファンネルミサイルの脅威が兵の弱者達に襲いかかり、ビームバスターの連続直撃は、弱った機体や傷病兵達を容赦なく破壊し、死へ誘う。

 

「こーいうの……好きだなぁ、おい!!!」

 

意識を向けた地帯へファンネルミサイルの蹂躙攻撃を加えるキルヴァ。

 

豪快なまでにザクやズゴック、ゴッグ、アッガイ、グフがズタズタに破砕させていく。

 

ロニも意識を向けながら巻き上げるようにしてファンネルミサイルを展開。

 

ザクⅠやデザートザク、ゴッグ、ハイゴック、ザクⅡが無惨に粉砕されていく。

 

更に見下すようにしてビームバスターを放ちまくる。

 

多くの悲鳴が響く中で1機の勇者が駆けつけた。

 

「あ!??身の程知らずか……!!!」

 

敵機を捉えた方に意識を向けたキルヴァに、1機のイフリート、イフリート・シュナイドの姿が飛び込んだ。

 

「けっ……たった1機で何ができんだぁ!!?あぁ!??」

 

真っ直ぐに突き刺すがごとくファンネルミサイルを飛ばすキルヴァ。

 

だが、ファンネルミサイルはあろうことかヒートサーベルの素早い剣捌きにより吹っ飛ばされた。

 

「はぁ!??んだそりゃ!??」

 

キルヴァがまさかの事態に唖然を食らう内にイフリート・シュナイドは一気に迫り、クナイ状の武装を投げつけながら一太刀をΞガンダムへ見舞った。

 

 

 

ギャザァアアアアアア!!!

 

 

 

「覇ぁああああああ!!!」

 

 

 

ズガガガガギャキャキキキガァアアアア!!!

 

 

 

イフリート・シュナイドのパイロットは気合十分にしてΞガンダムを滅多斬りに斬り捌いた。

 

だが、斬る事はできず、殆どは打撃常態であった。

 

しかし、それに構うことなく、更にイフリート・シュナイドは鉄槌を食らわせて離脱する。

 

突如とした不意討ちにロニも唖然を隠せなかった。

 

「なんだ!??あの機体は!??一体……?!!」

 

イフリート・シュナイドのパイロットはスピーカーを全域に響かせて言った。

 

「今のうちに避難しろ!!!俺が時間を稼ぐ!!!」

 

その声を聞くや否や、生き残っていた人々に希望が湧いた。

 

誰もが彼の声に後押しされ、行動に移っていく。

 

キルヴァは何が起こったのか把握できずにしばらく固まり続ける。

 

「は!?は!?は!?意味わかんね……ガンダムならいざ知らず……あんな雑魚に?!!」

 

「おい!!キルヴァ!!任務に集中しろ!!!」

 

「ああぁ!!?わかってんよ……絶対に殺す!!!」

 

ロニの叱咤に反応したキルヴァはイフリート・シュナイドに狙い定め飛び立つ。

 

追撃に出るキルヴァの射撃が、怒り任せ故に中らない。

 

更にロニの眼下に映る必死なジオン残存兵達の姿が、かつての自分が支援していたジオン残存兵の記憶を揺さぶる。

 

「っ……!!?また!??私は……なぜ拒絶する!!?なぜ?!!」

 

洗脳された脳と本来の彼女の記憶が去来し、頭を抱えながらロニは苦しみ始めた。

 

「この地は俺の心の故郷。連邦の悪魔の好きにはさせん!!!」

 

渾身の想いで、イフリート・シュナイドはターンしてΞガンダムに斬りかかる。

 

その時、ビームバスターの射撃がショルダーユニットを破砕させた。

 

「構うことはない!!!覇!!!!」

 

再び斬撃を浴びせるイフリート・シュナイド。

 

だが、次なる斬撃はキルヴァの怒りを頂点に立たせる。

 

「調子にのんじゃねーぞっっ!!!ジオン野郎!!!!」

 

後方至近距離からのビームバスターが、イフリート・シュナイドのライトアームを丸ごと吹っ飛ばす。

 

だが、撃つよりも斬って斬り返したい一心でメガビームサーベルを取り出し、イフリート・シュナイドへ突き立てた。

 

だが、闘牛士のごとくイフリート・シュナイドはこれを躱し、レフトアームのヒートサーベルの斬撃を浴びせ、カウンター斬りを見舞う。

 

「守りたいもんがあるとな……無茶したくなるのさ……わかるかぁ!??」

 

再び連続斬撃がΞガンダムを襲う。

 

格下に斬撃を食らい続ける屈辱。

 

格下に斬撃を食らい続ける怒り。

 

そして、焦りがキルヴァに支配される。

 

男の信念と気合が機体の性能差をカバーしていた。

 

「ちぃ……!!!」

 

「お前は……何の為に戦っている!??連邦への忠誠か!??」

 

「キヒヒ……忠誠か……違うなぁ……欲望の為に決まってんだろ!!!殺したいから殺す!!殺戮したいから殺戮すんのさ!!!!特に貴様みてーなうざい奴をな!!!!」

 

「……!!!!この、外道め!!!!」

 

理不尽過ぎる理由に男の怒りも頂点に達し、怒りの一太刀をΞガンダムの脳天に浴びせた。

 

だが、同時にヒートサーベルも砕けてしまう。

 

それでも残った刀身で連続突きを繰り出すイフリート・シュナイド。

 

男の姿勢は正に旧世紀日本の伝説の侍集団・新撰組の「志道背くあるまじきこと」のようであった。

 

男は引くことを考えていなかった。

 

「やべぇ……やられる……!!!」

 

「うぉおおおっ!!!」

キルヴァは男のメンタルに圧倒されていた。

 

「うっ……うぁああ……怖いよー……助けてよぉ……!!!!」

 

見るも聞くも無惨に弱気になったキルヴァに対し、男は折れたヒートサーベルを止めた。

 

「………わかったか!??蹂躙される者の気持ちが?!!一方的な恐怖とは……こういうものなのだ……!!!」

 

「は、はいぃ~……って、んなわけねぇだろ、バーカ!!!!」

 

「?!!」

 

 

 

ディガガガガガズズズゥゥ!!!

 

 

 

「ぐふあああっ……何ぃ?!!」

 

イフリート・シュナイドにファンネルミサイルが幾つも突き刺さり、コックピットにも到達する。

 

完全にキルヴァの心理的な不意討ちに男はやられたのだ。

 

「キヒヒ……死ねぇ……!!!!」

 

 

 

ザヴァウンッ、ザヴァガァ!!!

 

 

Ξガンダムのメガビームサーベルの袈裟斬りと薙ぎの斬撃がイフリート・シュナイドを容易く破断させた。

 

「みな……すまん……!!!」

 

「しゃああああああ!!!!」

 

 

 

ザシャガ、ザザザザガガシャウッ、ズバババザシャアアアア!!!!

 

 

 

バズドォバガァアアアアアアアアッ!!!!

 

 

 

キルヴァの非情下劣極まりない斬撃は、イフリート・シュナイドと男の信念を無惨に斬り潰し上げ、爆散させた。

 

最早、外道もいいレベルと言うまでにキルヴァは非道下劣に撤していた。

 

「キーヒヒヒヒ!!!散々俺に斬撃浴びせやがった報いだ!!!!ざまみやがれ!!!!キーヒヒヒヒヒャヒャ!!!」

 

キルヴァは再び基地に眼光を向けると狂喜を浮かべて飛び立つ。

 

キルヴァは狂喜に狂気を混ぜ混むような感情でΞガンダムを突き動かした。

 

「残った連中……皆殺しだぁああ!!!」

 

キルヴァが戻ると同時に、基地がある地点に爆発と閃光がはしった。

 

 

 

北米・オーガスタ研究所

 

 

 

人体メンテナンス施設に置いて、マリーダは人体実験に近いまでの調整を受けていた。

 

マリーダは拘束椅子に座らされ、体の至る箇所に注射器を射し込まれ、得たいの知れない薬品が投与される。

 

「いや、いや、いやぁああああああああ!!!!あたし……あたしぃぃ……壊れるぅ~……あああああああああ!!!!」

 

「ひーひひひひ!!!!この、声を聞きたくてこの、人体調整が楽しみなんだなぁ!!!!」

 

「ベントナ所長!!プルトゥエルブの体は限界を越えています!!!これ以上は死に至りかねません!!!頻繁にこれでは……!!!」

 

「後少しだけだ!!気にするなぁ!!!」

 

数値的にもマリーダの人体には危険域を越えていた数値が示されていた。

 

彼女に投与させる安定剤は既に十分に満たされていた。

 

今の彼女に投与されていたのは完全に新薬で全く効果が不明なモノであった。

 

只わかるのは、危険かつ激痛を伴わせるものだということだ。

 

「あああああ!!!!あぐぅあああぁあぅぅうっ!!!!」

 

「ぐぅひーひひひひ!!」

 

ベントナは彼女の悲鳴が聞きたいという半ば趣味を踏まえながら実験に及んでいた。

 

狂気と狂喜の笑いをいつまでも浮かべる。

 

そして更にこの後、ベントナは更なる蛮行に移し、薄暗い一室で情事におよんだ。

 

ベントナは己の欲望のままに、マリーダの躰という躰を弄び続ける。

 

「ひーひひひひ!!いくらでも受けてくれるなあぁ……ぐぅひ!!」

 

「はいっ……マス、ター……」

 

「ひーひひひひ~……ひひひ~いい子だぁ、プルトゥエルブ~……まだまだつきあってもらうぞ~……ひーひひひひ!!」

 

ベントナの欲望の人形に成り果てされてしまったマリーダの目は完全に光りを失っていた。

 

「……私……っは、マスターの為に……」

 

「そうだぁ~……ひひひ……」

 

ベントナはマリーダにのし掛かりながら深い接吻を尽くすと、欲望の限りを尽くし始めた。

 

マリーダは全てを虚ろな瞳で、薄暗い天井を見つめたままプルトゥエルブとしてベントナの欲望を受け続けた。

 

 

 

ヒイロは意識が眠る中、マリーダの夢を見ていた。

 

今だ覚めないヒイロの意識の中で様々なシチュエーションのマリーダが去来する。

 

出会った直後の彼女とのやりとり、ウィングガンダムの修理を共にした時、オルタンシアでの日々のヒトコマ、ヒトコマ、コックピット内の通信やりとり……これまでの様々なシーンをヒイロは見ていた。

 

(マリーダ……)

 

ノーマルスーツのメットを外し、髪をかきあげるマリーダ。

 

(マリーダ……)

 

髪を靡かせながら振り向くマリーダ。

 

(マリーダっ……!!)

 

ヒイロに口許を微笑ませた笑みを向けるマリーダが去来したその時―――。

 

「マリーダっっ!!!」

 

ヒイロはマリーダの名を叫びながら目覚めた。

 

そこには合間を縫って看病していたプルがいた。

 

「わ!!!びっくりした!!!あたしはプルだよ♪」

 

「プル……?」

 

「お目覚めで寝ぼけちゃってるのかな?マリーダのお姉ちゃんだよ☆さっきからずっとマリーダ、マリーダって呟いてたんだよ!!ヒイロはマリーダのコト、本当に好きでいてくれてる……ありがとう☆じゃあ、早速アディン達を呼んでくる!!」

 

颯爽とプルはアディン達を呼びに駆け出しながら寝室を飛び出していった。

 

静に上体を起こしたヒイロは、手をかざして確かに生きている事を確認した。

 

「……生きている……か……」

 

死を完全に覚悟しての自爆だった。

 

だが、生きていた。

 

Gマイスターとしての覚悟では、ある意味任務は失敗していた。

 

だが、ヒイロの中で任務よりも先出た想いがあることに気づいていた。

 

「マリーダ……!!」

 

目覚める直前にもあったマリーダへの想いだ。

 

ヒイロはマリーダのイメージを想い浮かべながら、かざした手にはしる痛みを押しこらえながら強く握り締めた。

 

「任務は失敗したが……死ぬに死ねない!!!」

 

死と生の狭間から目覚めたヒイロに芽生えたのは、闘う意志とマリーダと再会したい想いだ。

 

ヒイロは射し込む陽射しに眼光を送り、改めて打ち立てた決意を認識した。

 

その視線の遥かなる向こうでは、ライバルたるゼクスが戦闘に身を投じていた。

 

「おぉおおお!!!」

 

レフトアームに装備したバスターランスを突き出し、ネオジオン勢のMS達を突き抜けるように連続破砕。

 

振り向きながら各方向にドーバーガンを幾度も撃ち放ち、各個連続撃破させて見せた。

 

そして、その銃口をシナンジュへと向けた。

 

対し、シナンジュはビームバズーカ・ランチャーをトールギスへと向ける。

 

二人の仮面の男は互いの銃口をかざしながら不敵な笑みを浮かべて対峙し合った。

 

 

 

 

 

To Be Next Episode




二人の仮面の戦士はアクシズで再び刃を交える。

ゼクスとフロンタルはその刃に異なる仮面の信念を賭して激突する。

その間にもネオジオン同士の互いの身を削ぎ合う内乱は、終わることなく続く。

一方、自爆の重体から及んだ長きに渡る眠りからヒイロが目覚め、また一つの事が動き始める。

更にプルも乗船し始めたことにより、マリーダ捜索にも兆しが見え始めた。

そんな中、ガランシェールはガルダーヤを通過する。

だが、そこは連邦の理不尽な輩達に占拠去れていた街だった。

そして、各地で震え続ける宇宙の動きの中、戦い続けるゼクスとフロンタルの決着の瞬間が迫る……。

次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

エピソード 20 「仮面の対決、再び」


任務了解……!!!


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エピソード20 「仮面の対決、再び」

トールギスとシナンジュ。

 

OZとネオジオンの仮面の男同士が銃を向け合う。

 

互いに笑みを浮かべるゼクスとフロンタルは同時にその引鉄を引き、ドーバーガンとビームバズーカ・ランチャーの高出力ビーム渦流が放たれた。

 

双方は激しくぶつかり合い、高出力エネルギー同士の反動爆発を起こして相殺し合う。

 

目映い爆発の向こうより互いに飛び出す2機。

 

先にシナンジュが単発式にビームバズーカ・ランチャーを放つ。

 

対するトールギスは、バーニアの加速でこれを回避し、同じく単発式にドーバーガンを放った。

 

「ふっ……奇しくも互いに同じ攻撃か……!!!」

 

ゼクスはダブるフロンタルの攻撃方法に妙な感覚を捉え、攻撃を躱す。

 

「OZの白い閃光……ライトニング・バロン……私と同じ攻撃をするか……!!」

 

フロンタルもゼクスと同様の感覚を覚えながらドーバーガンのビームを躱すと、トールギスへと加速した。

 

同時にシナンジュがレフトアームのソード形状のビームトマホークを構える。

 

トールギスも加速し、ビームサーベルを取り出してシナンジュにぶつかる勢いで加速した。

 

「赤い彗星の再来!!!実にコルシカ以来だッッ……!!!」

 

「OZの白い閃光!!!」

 

 

ギャギガァアアアアアアアッッ!!!

 

 

激突するトールギスとシナンジュの刃が目映いスパークをはしらせ、二人の仮面を照らす。

 

 

 

ギャギガァアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

「骨のある剣撃……やはりこうでなくてはな……!!!づぁあああああっっ!!!」

 

「おぉおおっっ!!!」

 

 

 

ヴィギッ、ギャァアアアアッッ、ザガギィイイイイイ!!!

 

 

ギャインッッ、ヴィギギギギギギィイイイッ……ギャギィヴィイン、ザジュギィィッッ!!!

 

 

 

ゼクスとフロンタルは気迫の声を上げながら何度も互いに斬撃を打ち合い、機体同士を激突させるような軌道でネオジオン同士が火花を散らす宇宙(そら)を駆ける。

 

一旦刃を捌き合った両者は大きく弾くように離れ、再びその刃を重ねる。

 

フロンタルは通信をトールギスへと向けた。

 

そしてこの時、二人は初めて互いの仮面の姿を見る。

 

「OZが武力介入とはな!!しかもほぼ単機とくるか!!」

 

「我々は独断行動の特権があるのでな……私の心情的に黙ってはいられなかったのさ……!!!」

 

会話の合間にビームトマホークを捌き、腕と胸部に斬撃を打ち込むトールギス。

 

対し、シナンジュは再度ビームトマホークで受け止めてみせる。

 

「……貴君も伊達や酔狂で仮面を着けているわけではないのだな。なかなかの……手強さが伝わる!!!」

 

ビームライフル数発をトールギスとの至近距離で放つフロンタル。

 

だが、トールギスはバスターランスの刀身でこれを受け止めた。

 

バスターランスの材質はガンダニュウム合金、即ちGND合金で製造されている。

 

故にビームライフルではびくともしない。

 

ゼクスはバスターランスの反撃と共に、自らの仮面に触れる事を言ってみせる。

 

「私とて、シャアの真似をしているわけではないさ。語りはしないがこの仮面には着けている以上の、それ相応の理由があるのでな……!!!」

 

「ふっ……私はプロパガンダのつもりでこの仮面をしている。故に私自身をシャアの再来、あるいは亡霊として、宇宙の民の想いを受ける器と規定しているのだよ!!!」

 

宇宙の民の想いに答え受け止める器。

 

フロンタルは自らをそう戒めていた。

 

だが、今彼の周囲には、彼のやり方に謀反を起こしたネオジオンのMS達が展開している。

 

ゼクスには器と言う言葉が虚しく聞こえた。

 

「宇宙の民の器か……その割には随分と想いが溢れているな。所詮貴様はシャアの紛い物か!!?」

 

「何!!?」

 

その言葉にフロンタルは大きな憤りを覚える。

 

刃を交わすトールギスの背後では幾多の爆発が起こっては消え、起こっては消えている。

 

ネオジオン同士の総滅戦。

 

認めたくない現実とプライドがフロンタルに去来する。

 

「認めたくないものだな……!!!」

 

フロンタルの感情を表すかのような縦横無尽の軌道の激しい斬撃が、トールギスへと打ち返される。

 

そして、2機は再び弾き合いながら流星のごとき軌道を描いてぶつかり合う。

 

その激突し合うゼクスとフロンタルの行動を見ながら、アンジェロは親衛隊達にその戦いのなんたるかを覚らせる。

 

「親衛隊の諸君。大佐はあのOZのゼクス・マーキスと剣を交えておられる。だが、それは至高の対決。決して手は出すな!!我々は我々の敵……謀反を犯した者達の粛正に務める!!!」

 

「了解!!」

 

アンジェロの命令の下、親衛隊のギラズールが散会し、ローゼンズールと共に反目するネオジオンサイドのMSへと攻撃を仕掛け展開する。

 

親衛隊機達のビームマシンガンの高速ビーム連射が、謀反を犯したネオジオン兵に撃ち込まれる。

 

中でも屈指の生真面目さを持つセルジ少尉、キュアロン少尉の機体がビームマシンガン、シュツルムファウスト、ビームトマホークを駆使して積極的に攻撃する。

 

「フロンタル大佐は、深いお考えがあっての行動をされてきた!!!宇宙の民達を誰よりも考えていらっしゃるのだ……!!!」

 

セルジ機の旋回しながらのビームマシンガンの射撃が、ドラッツェ、ガザDを撃ち墜とし、加えて放ったシュツルムファウストを躱して迫るギラドーガにビームトマホークの刺突を斬り混む。

 

キュアロン機はシュツルムファウストを連続で射出し、ズサ2機、ギラドーガ1機を破砕させる。

 

ビームサーベルを取り出して迫るバウにも、シュツルムファウストを放ち下半身を破砕させた。

 

バウは上半身のみでも機能する為、そのまま斬撃を浴びせ迫る。

 

キュアロン機はそれにビームマシンガンを撃ち込み、粉々に破砕させてみせた。

 

ネオジオン同士が再びアクシズをめぐっての内乱に投じていく。

 

ムサカ級やエンドラ級の艦隊同士の砲撃戦が宇宙を駆け、MSや対する戦艦を撃って爆発を連鎖させる。

 

その間を縫うようにMSが駆け、射撃戦を展開。

 

更に爆発の範囲を拡大させていく。

 

互いに同じ組織を削り削ぐような嵐のようなその光景にはネオジオンの変革よりも、終焉を予感させてしまうものがあった。

 

レウルーラのブリッジ内で、ライル艦長がそれを危惧してならない中で指揮を下す。

 

「今だ謀反者達の規模がわからん!!攻撃をかけるMS機影には対空射撃応戦せよ!!メガ粒子砲撃も断続して続けろ!!」

 

展開される激戦に視線を送り、ライルは危惧の思惑をつのらせる。

 

(この宙域にはネオジオンの主勢力がいた……そこに謀反者達の勢力が入り込んだ……このまま戦闘が続けば、いずれにせよ組織存続に打撃が及ぶ……!!!)

 

ライルは目に写る撃破され、撃破するMSを見ながらフロンタルにかつてのハマーンを重ね、シャアを改めて想う。

 

(かつてのハマーンもグレミーの勢力に謀反を許し、自滅していった。この戦闘が続けばフロンタル大佐も同じ一途を踏みかねないな……対し、シャア総帥は……決して謀反をさせはしなかった……否、謀反を抱かせるような考えは決してなかった!!!)

 

ライルは起こる状況に悔しさを重ねながら、手を握りしめた。

 

(パラオを始めとする資源衛生民のネオジオンは過激な行動は望んでいなかった。フロンタル大佐は……それを全く汲まない……否……加担した私も同じか……!!!)

 

ネオジオンが再び分裂した理由は、最初のオペレーションに身を投じた兵を捨てゴマのように扱ったフロンタルの姿勢、当初の残存軍支援からコロニー落とし等に目的がすり替えられた事、その過激な行動が更なる連邦やECHOESによるジオン系スペースノイド排除体制を拡大させたことにあった。

 

特に風当たりが厳しくなった平和を懐く穏健派のネオジオン勢に大きな不信を買った事が大きな事実であり、それはECHOESの治安維持を名目にした殺戮にも繋がっていた。

 

彼らは既に、かつてのアクシズ落としをシャアの行動の功績と共に人としての過ちと認識しており、平和を望みながら自治権確立を夢見ていた。

 

だが、フロンタルはコロニー共栄圏という自治権確率を飛び越えた考えを持っており、それは地球を支配さえせずに切り捨てるという考えであった。

 

そこへ更にダイクン派、ザビ派、両統合派の側面も相まってこのような状況を招いてたのも事実である外なかった。

 

今、ネオジオンにかつてない存続の危機が襲いかかっていた。

 

ネオジオン勢力のガタつきは、戦闘域から距離を置いて地球圏に配信される。

 

レウルーラのモニターに、オペレーターからの報道の知らせと合わせて、客観視点の戦闘情景が映し出された。

 

「ライル中佐!!民間報道でこの宙域の模様が地球圏に……!!!」

 

そこに映し出された光景は、想像以上の範囲に渡る戦闘宙域の映像を映し出していた。

 

ライルは改めて今、ネオジオンが二分していることを悟り、自身の中でかつてのハマーン時代のネオジオンを彷彿させていた。

 

「ふ……本当に……ハマーンとグレミーの二の舞のようだな……!!!」

 

ビームがはしり、爆発が無数に絶えず発生する宙域の戦闘光景は最早、戦争以外の何物でもなかった。

 

エンドラ級の砲撃がムサカ級を轟沈させ、ムサカ級の対空射撃にギラドーガが撃たれ破砕。

 

バウがモノアイを光らせながらビームサーベルを取り出してギラズールに斬り込み、斬撃を浴びせ撃破する。

 

ギラズール、ギラドーガがビームマシンガンを連射しながら迫り、ガ・ゾウム、ガザD、ズサを撃破しながら駆け抜ける。

 

ビームトマホークを振り回すドライセンの大振りがドラッツェとガルスJを斬り飛ばし、そのドライセンにビームマシンガンを放ちながらギラドーガが突っ込む。

 

そして、撃たれながらドライセンは三連ビームキャノンを放ち、ギラドーガを粉砕。

 

だが、ギラドーガがドライセンに突っ込み、誘爆を巻き起しながら2機は爆炎を巻き上げながら破砕。

 

ドーベンウルフのビームランチャーの砲撃が、軸線上の幾多のMSを破砕せ、更に連続砲撃しながらエンドラを轟沈させて見せる。

 

ギラズールとギラドーガによる撃ち撃たれの射撃戦が展開し、撃破する者、される者とがひしめき合う。

 

その最中、アンジェロのローゼンズールが、有線式アームメガ粒子砲を巧みに撃ちながら、かつての友軍機のギラズールやギラドーガ、バウ、ガザC、リゲルグ、ドラッツェを容赦せずに破壊する。

 

更に対峙したザクⅢに対し、シールドメガ粒子砲を至近距離からぶちかまし、モノアイを発光させながらバウとギラドーガにアームクローを打ち込むように刺突させた。

 

そして、零距離のアームメガ粒子砲。

 

「元」友軍機達の爆発を背に、ローゼンズールはアンジェロの激しい感情を乗せながら華麗に飛び出す。

 

「大佐を裏切る者、反旗を翻し者達は……万死に値する!!!覇ぁあああ!!!」

 

ギラドーガ数機が、自在に動くローゼンズールのアームクローによりズタズタに引き裂かれ、次々に爆砕する。

 

爆発の火中にローゼンズールは爆発に照らされながら、その姿に威圧を放った。

 

「大佐のお考えこそが!!!コロニー共栄圏思想こそが!!!スペースノイドの未来を繋ぐ考えなのだ……!!!」

 

アンジェロは戦闘領域に目を送り、目頭を血走らせた。

 

 

 

アフリカエリア上空・ガランシェール

 

 

 

ガランシェールの船内の一室で、遂に眠っていた戦士、ヒイロが八ヶ月以上に渡る眠りから目覚めていた。

 

駆けつけたアディンと軽く拳を突き合い、アディンは感情を熱くさせながら讃える。

 

この状況下にあっての戦友の死の淵からの復活は、喜ばしいことこの上無かった。

 

「ヒイロっ!!!待ちくたびれたぜっ!!!心配かけさせやがってー!!」

 

「ふん……」

 

拳をかざし合ったヒイロも、不敵たる余裕の笑みを口許に浮かべていた。

 

「一時はもう植物人間のままもう目覚めねーかと思っちまったんだかんな!!!ったくよー!!!」

 

「……俺は簡単にはくたばったりはしない」

 

「へへっ……らしいぜ、ヒイロ!!」

 

アディンの隣にいるプルも、手作りスープを手にしながらヒイロの復活を喜んでいた。

 

「アディンも、あたしもみんな心配ずっとしてたんだよ。あたし、合間、合間でヒイロの看病もしてたんだから♪」

 

「そうか……感謝する」

 

「ありがとう☆でもマリーダじゃなくてゴメンね☆ふふ♪だって、目覚めていきなりマリーダって叫んだんだから、ビックリしちゃったよ」

 

「な……!!?」

 

プルのその発言にヒイロは珍しく動揺した。

 

それを見たアディンはからかわずにはいられなかった。

 

「さっすが、マリーダ命!!!じゃー、マリーダいなかったら気力なくなってて死んでたかもな~ヒイロ!!」

 

「アディン……後でお前をコロス」

 

冗談か否かヒイロはアディンに鋭い視線を突き刺して、殺人宣告をしてみせる。

 

「ジョークだ、ジョーク!!!ムキになんなよな!!!相変わらずナイフみたいなヤツだな!!」

 

「はいはい、いきなりケンカしない!!はい、ヒイロ!プルが作った特製スープだよ~。さっき作ったばかりなんだぁ♪」

 

プルはヒイロとアディンの間に入りながら、プル特製スープをヒイロにすすめる。

 

既に部屋にはスープの香ばしい香りが立ち込めており、二人の食欲を促していた。

 

「そうか、悪いな……」

 

「いいな~ヒイロっ!!俺も飲みてーよ!!」

 

「ふふっ、アディンのもあるから!妬かなくてもいーよ☆」

 

「い!?!妬いてない!!!俺は単に食欲が……!!!」

 

「えー?プルに感情の隠しゴトは効かないよ☆えへっ、なんか嬉しい♪」

 

「っ~……!!調子狂うっ!!」

 

プルはニュータイプ故に相手の感情が直ぐにわかる。

 

アディンは何気にプルに対する感情に変動が起こっていた。

 

アディンとプルは既に半年と数ヵ月をオルタンシアで過ごしてきた。

 

毎日に及んでのプルからの好き好き攻撃を受けていれば、ある意味それは自然な流れだ。

 

するとヒイロは、かつてのアディン・ロウからの言葉を今のアディンに告げる。

 

「アディン……感情に従え。それが正しい人の在り方だ。素直に認めろ」

 

「ひ、ヒイロまで何言い出すんだよ!!むおー!!!」

 

「……俺がかつて、別のアディンという男から習った言葉であり教訓だ。感情で行動し、道を選ぶ。俺自身、そう生きてきた」

 

以前マリーダにも伝えた言葉を、奇しくも同じ名のアディンに伝えた瞬間だった。

 

「感情で行動する……って、俺二人目!??」

 

「アディン、言うトコそこじゃない!!」

 

プルに突っ込まれ、アディンがわいわいしているその間に、ヒイロはプルに手渡された特製スープを頂く。

 

(……うまいな)

 

オデルもスープを飲むヒイロに向け、仲間として復活を讃える言葉を贈る。

 

「ここへ来ての復活……よく生死の堺を闘いきったな、ヒイロ!!!流石だ!!!」

 

「……称賛の言葉など俺にはいらない」

 

「ふ……それもそうだな。だが、連絡がつかないカトル達に知らせたらまたとない朗報だぞ、ヒイロ。それだけお前は必要とされて、慕われてる事を忘れるなよ」

 

「あぁ……了解した……それで、ここはどこだ?」

 

ヒイロの質問にアディンは手を頭の後ろで組みながらひょうひょうと答えた。

 

「ネオジオンの偽装貨物船、ガランシェールの中さ。マリーダの仲間の船だ」

 

「マリーダの仲間!??」

 

「あぁ。色々あって結託したんだ。マリーダを無事この船に帰すまでの用心棒みたいなヤツとしてな」

 

ヒイロの脳裏に以前マリーダから聞かされていた彼女の仲間についての話が蘇る。

 

ヒイロは頻りにマリーダを意識していた。

 

その感情を察知していたプルが、重態だったヒイロを船に乗せた理由を切り出した。

 

「ふふっ、それでマリーダが見つかった時の事を考えて、ヒイロを乗せてもらうようにも頼んだんだよ♪直ぐにお互いが会えるように!」

 

「あ、そうそう!!ヒイロのMSも乗せてあるんだぜ!!ハワードのおっちゃんとラルフのコネで手に入れたエアリーズだけどな!!」

 

「エアリーズ……」

 

「エアリーズといっても、ハワードチームのカスタマイズが施してあるらしいぜ!!」

 

普通であればヒイロを気遣い、戦闘するのを止める筈であるが、アディン達はそうはしなかった。

 

腕組みしながらオデルも答える。

 

「ヒイロの事だ。俺達が安静を薦めて言っても、決して聞かずに戦闘するだろうと思ってな。だから用意しておいた」

 

「……オデルの言う通りだ。俺は如何なる状況、状態でも闘う。制止すれば退ける。俺の機体を用意してくれた事にも感謝する。だがその前に……」

 

「あん?なんだ、ヒイロ?」

 

ヒイロは、アディン達に自らの状況と周りの状況把握をオデルに要求した。

 

「……俺は一体どれ程……俺が意識を失っている間に俺達の状況は、世界情勢はどう動いた?説明してくれ」

 

「あぁ、そうだな。説明しよう……」

 

ヒイロはスープを飲みながら、オデルからこれまでの情報を聞いた。

 

世界情勢、現在の自分達の状況、これからの目的……ヒイロが必要とする情報を洗いざらいに取り入れた。

 

「……第三次ネオジオン抗争の激化、ECHOESの超法規的な殺戮、ネオジオンの分列、デュオ達と思われるガンダムが香港のスペースポートを強襲……そして今俺達はマリーダの仲間と結託して行方不明になったマリーダの捜索を続行しながら宇宙も目指している……か……了解した。それでマリーダの手がかりは何か掴めているのか?」

 

ヒイロは状況を把握し、マリーダについてオデルに質問するが、ため息混じりで現実の回答をするにとどまってしまう。

 

「いや……残念だが、明確なものは掴めていない。この船のお仲間さん達も半年以上も見つけられていないときている」

 

「そうか」

 

未だ手がかりを掴めていない状況。

 

硬く動かない時間にもがいている感覚にみまわれていた。

 

「でも、実はあたし……段々とマリーダの感覚を感じるてきてるんだよ……マリーダは地球にいて、今のあたし達からずっと西の方にいる……!!」

 

だが、プルのその一言がその硬い時間に変動を生じさせる。

 

彼女がガランシェールに乗船したことが、マリーダ捜索に関する進展の兆しが見え始める瞬間を迎えたと言っても過言ではない。

 

プルは確かにマリーダの感覚を感じていた。

 

ヒイロとアディン、オデルはプルのその言葉に驚きと期待を覚える。

 

「何?!!」

 

「マジか、プル!??」

 

「確かなのか!??」

 

「うん……ついさっきから予感っていうか、マリーダの感じが増してきてる!!マリーダの感じがずーっと西の方から伝わってくるんだよ。でも……一緒に嫌な感じもする……何か黒いような重いような……暗い何か……」

 

彼女の独特な感性表現があるが、それらは洗脳され、負の感情に支配されたマリーダやベントナを指していた。

 

ニュータイプの感覚が示す目に見えない手がかり。

 

通常ならばあしらわれて終わることが多々のようであるが、アディン達はプルの力を信頼しているが故に、余計な言葉を挟む事はなかった。

 

プルのその言葉を信じ、アディンは早速プルと共にジンネマン達へ告げにいく。

 

「進路を西の方に!??」

 

「ああ!!プルがそう感じているんだ!!少しは進展の可能性があると思うぜ!!」

 

「さっきから西の方にマリーダの感覚を感じているんだよ、パパ!!まだ弱いけど、段々感覚が強くなってくる……!!」

 

パパと呼ばれ、ジンネマンは一瞬引き締まった表情が崩れかけるが、直ぐにまた引き締めてフラストに現在位置の情報を要求した。

 

「(パパ……!!!)むぅ……フラストっ、現在位置はどのあたりだ!??」

 

「現在位置はアフリカエリア・ガルダーヤ上空です!!」

 

「ガルダーヤか……周辺におけるMSの機影はあるか!?」

 

「索敵します!!」

 

その指示に、フラストは航路上及び周辺の情報を索敵し始めた。

 

フラストが索敵操作をするその隣で、操舵を握っていたギルボアが、思い出したかのように言う。

 

「そういえば、ガルダーヤはかつてのネオジオン抗争でネオジオンが現地のテロリストと共に強襲した街と聞きますよ」

 

それを聞いたフラストは、操作しながら補給提案を出す。

 

「そう考えると寄りづらそうだが、現在は復興し、貿易やら補給やらを受け持っている街。ここいらで一旦補給という手も」

 

「何言ってんだ、フラスト!!この船じゃ着水はできても着陸は極めて難しい!!機体の破壊に繋るぞ!!!」

 

「しかし……そろそろ食料やその他の物資も尽きて来る頃だと思いますよ。この前もクッキー作ろうと思ったんですが、ちょっとやめときましたよ」

 

ギルボア曰く、ガランシェール内の物資は無くなってはいないが、気を抜いていれば近々底を尽きかねない状態だった。

 

それを聞くや否や、料理熱心なプルが飛び付いた。

 

「えぇ!?ギルボアさんてクッキー作るの~!??今度教えて~!!!あたしも作りたい!!!」

 

「あぁ!!教えてやるよ~!!ね、キャプテン?プルもそう言ってますよ?」

 

ギルボアのその言葉と、クッキーを作りたがっているプルの視線を浴び、ジンネマンはいてもたってもいれず、許可せざるを得なかった。

 

「~……っっ、許す!!!心に従えい!!!ギルボア!!お前の操舵の腕にかける!!」

 

(おいおい……話が、目的があからさまに脱線してんすけどー!!!)

 

アディンの心の突っ込みが入る中、ジンネマンが破れかぶれに言い放った直後に、フラストから良からぬ報告が言い放たれた。

 

「あの……盛り上がってるところ悪いすけど、連邦がが、ガルダーヤを占拠しているようです。ここは大人しく通過すべきかと思いますよ」

 

あろうことか、今は連邦軍がガルダーヤを占領していた。

 

あるエリアを除き、連邦軍が地球のエリアを占拠するのは極めて異例の状況であった。

 

「むぅ……物資……マリーダ……はっ!!?えぇい!!話が脱線していた!!フラスト、ここから西方角に何らかの重要なポイントはあるか!??」

 

話の流れを修正したジンネマンの指示に、フラストが素早く操作する。

 

するとメインモニター上のマップに、二ヵ所のポイントが算出された。

 

ダカールとオーガスタ基地だ。

 

「あぁ、はい!!ざっと見ると……―――概算の延長線でダカールとオーガスタが算出されました!!プルが言ってる感覚ってのはきっとこのあたりだと思われます」

 

ダカールもオーガスタ基地も、マリーダに関する可能性が高い場所。

 

最もダカール基地は、いの一番に調べたが、戦力が至らず撤退したポイントであった。

 

ジンネマンがここからの行動を考える中、突如通信が入った。

 

「ガルダーヤ上空を通過中の船舶に告ぐ!!ここは連邦の占領下だ!!速やかに降下し停船せよ!!繰り返す!!速やかに停船せよ!!さもなくば撃墜する!!」

 

ジンネマンは頭をかかえながら、フラスト、ギルボアは苦笑いしながらやれやれと言わんばかりに首を振る素振りをする。

 

すると、ジンネマンはアディンとプルに出撃を頼んだ。

 

「アディン……軽く下の奴等を掃除してきてほしい。プルはサポートしてあげなさい。無茶はするな」

 

「へへ、お安いご用!!もう逃げ隠れはしないかんな!!!キメルぜ!!!」

 

「わかったよ、パパ!!プルも行ってきます!!プルプルプル~!!」

 

二人は張り切ってブリッジを後にする。

 

すると、フラストが寝そべりながらジンネマンに聞く。

 

「いいんですか?プルを戦いに突き動かしてしまって……」

 

「マリーダ同様、本人の意思を尊重したまでだ。誰も戦いに娘を送り出して心配できないわけないだろ?」

 

「娘のやりたいようにやらせる……か」

 

「キャプテン、娘とくれば本当甘いすからね!!ま、俺も娘いるから解ります。しかし、甘々も程々にされた方がよろしいかと……」

 

フラストとギルボアの二人からの口攻撃を受け、ジンネマンはあたけるように言い放った。

 

「や、やかかましい!!!そこはほっとけっっ!!!」

 

だが、走りながら移動していた矢先にプルは突如頭を抱えて歩き始める。

 

「うっ……!!!なんか……急に嫌な感じがしてきた!!!あの街は……ガルダーヤは……!!!」

 

「どうしたんだ!?プル!!?」

 

「う……ん……ただ今から向かう街、すごく嫌な人達が集まってて……更に一杯悲しみが溢れてる……」

 

プルは急に嫌な感覚をガルダーヤに覚えていた。

 

共に駆けていたアディンも止まり、負の感応を示してるプルが心配になる。

 

「おいおい、大丈夫かよ!??無理すんなよ!!!」

 

「どの道、ガランシェールが攻撃されちゃうし、嫌な感覚放ってる人達も許せない!!!大丈夫だよ!!アディン!!!あたし達で街を解放してあげなきゃ!!!」

 

「そうか……しゃあっ!!!キメてやろうぜっ!!!」

 

MSデッキに移り、ジェミナス担当メカニックであるディック・ヒガサキと、ガランシェールのチーフメカニックであるトムラが3機を送り出す。

 

「はりきりだな!!アディン!!ちゃんと彼女をサポートしてやれよ!!」

 

「ディックさんよ~……サポーターはプルだぜ!!それに彼女じゃねーし!!」

 

「ははー……この期に及んでまだ言うか!!まーいーや、PXはくれぐれもリミットオーバー解除させるなよ!!!それこそ自爆だぞ!!!」

 

「この期に及んでって……はぁ、無闇に使わないよ。それにGマイスターなら自爆覚悟はあるぜ!!!」

 

その時、アディンに突如としてヒイロからの通信が割って入った。

 

ヒイロは自らデッキに赴いてきたのだ。

 

「ならばお前に忠告する……」

 

「ヒイロ!??おいおい、目覚めて間もないけど大丈夫なのかよ!??」

 

「痛みなど、精神で体を凌駕すればいい。だがな……自爆は死ぬほど痛いぞ」

 

「……死ぬほど痛いって……へへ、ははははは!!なんか変に説得力あんぜ!!!」

 

「せいぜい気張ってみせろ、アディン」

 

「言われるまでもねーって!!アディン・バーネット、キメルぜ!!!」

 

一方、トムラがプルにキュベレイMk-Ⅱの機器についてレクチャーする。

 

「プロト・ミノフスキークラフト……まぁ、飛行装備って言うのかな?作動は正常だ。ファンネルとかのサイコミュはプルの感応データから改めてレベル調整しておいた!!」

 

「了解、ありがと!!エルピー・プル、行くよ!!!」

 

「じゃあ、ハッチ、開けるぞ!!いいかい、ディックさん!?」

 

「OK、トムラ!!オデル!!二人のお守りよろしくな!!ジェミナス、キュベレイ、テイクオフ!!」

 

「お守りか……ま、確かにな。弟と妹だ……オデル・バーネット、出る!!!」

 

ガランシェールのゲートハッチが開き、ガンダムジェミナス・バーニアン01、02、キュベレイMk-Ⅱが投下される。

 

各機はガランシェールを飛び出すように降下し、突き放つように機体に加速をかけて翔んでいった。

 

ヒイロは風に吹かれながら見下ろすと、代用機体のエアリーズを見つめる。

 

(……武装はロケットランチャーにビームガトリング、レーザーチェーンガン、そしてプロトバスターライフルか……)

 

機体の隅々に目を配りながらいたヒイロにディックが気づいたが、重症だった体に対して平然としているヒイロに驚きを隠せなかった。

 

「ヒイロ!!?おいおい、大丈夫なのか!??」

 

「ディック・ヒガサキ……」

 

駆け寄るディックをフルネームで呟くと、ヒイロは再びドラグナーに視線を向ける。

 

すると駆け寄ったディックは危惧した意見を溢した。

 

「ダメだろうが!!!安静にしとけって!!!」

 

「止めても無駄だ……これ以上俺に安静は必要ない。それにこの先にマリーダがいるかもしれない……エアリーズはロールアウトしているのか?」

 

ディックはやれやれと言わんばかりにため息とどうじに帽子のツバをいじり、機体のおおよその解説をした。

 

「はぁ……ま、解ってはいたが言っても聞かねーな!お前は!ロールアウトは済んでるよ!武装は初期のバスターライフルを装備させておいた。やはりヒイロが乗るからにはそっちの方がらしいってな!」

 

「感謝する。だが、今回は出す必要は無さそうだな」

 

「どこぞの基地を制圧するわけではないからな。目覚ましたばかりだ。機体共々次に備えておけよ!」

 

「あぁ、言われる間でもない」

 

ヒイロは、そう言うと黙々と新たな機体のセットアップ作業に手をつけ始めた。

 

自分の機体は自分で手を施す。

 

実際に強い痛みを伴う状態であったが、ヒイロ自らが言っていたように、気力で痛みを耐えていた。

 

 

 

一方、ガルダーヤを占拠していた連邦軍のジェガンやジムⅢ部隊がガランシェールから降下した機影を視認し、対空迎撃行動に移る。

 

「警告を促した船舶からMSの機影を視認!!」

 

「迎撃に移る!!ここは連邦の占領下……最も治安維持の名目を被った欲求ぶちまけ場だけどな!!!」

 

連邦軍の一部の者達は、貯まった欲求をガス抜きするために、民間施設をターゲットにする者達がいた。

 

自分達の欲求のみを満たす遊び場感覚であり、上層部も見て見ぬふりをしているのが現状である。

 

暴力・強盗・窃盗・強姦等が無法に許される人道外れたエリアと化していた。

 

ジェガンのパイロットが対空迎撃行動に移る最中、その降下する機影の正体を視認する。

 

「!??ニュータイプ機……!??更に……が、ガンダムだと!??」

 

驚きは隠せない。

 

想定を凌駕する存在が現れたのだ。

 

だが、彼等は対空迎撃を続行する。

 

「か、構わん!!対空迎撃、開始!!!」

 

ガルダーヤの街からMS部隊による数多くのビームやミサイルが一斉に放たれる。

 

ガンダムジェミナス・バーニアン01、02、キュベレイMk-Ⅱは容易く攻撃を掻い潜って攻撃を仕掛ける体勢をとった。

 

その最中にオデルが先行するアディンとプルに、街を考慮した指示を出す。

 

「アディン、プル!!街中で戦闘はマズイ!!滑空しながら街の外へ飛び出して敵機を陽動!!!戦闘は極力街中を避けろ!!!」

 

「あいよ!!!」

 

「了解!!プルプルプルプル~!!!」

 

各機は三方向へ滑空しながら、ガルダーヤの街を駆け抜ける。

 

機体を翻しては、軸自転しながらの操縦をして見せるプル。

 

オーガスタにおいても訓練をしてきた為か、体の一部のようにキュベレイMk-Ⅱをコントロールする。

 

「キュベレイには中らないよ!!!ファンネル、お願い!!!」

 

キュベレイMk-Ⅱの尾にあたるファンネルコンテナからファンネルが射出され、射出されたファンネルは追撃するジェガンやジムⅢを一斉に撃ち始める。

 

 

 

ドドドダダダシュゥウウウウ!!!

 

ズズズズドドドゴヴァアアアン!!!

 

 

 

ビームは一寸の狂いなく機体群を撃ち抜いて無力化へと導く。

 

ファンネルはその後、個々にビームで敵機の装甲を砕き、キュベレイMk-Ⅱに追従しながら飛行する。

 

「引き付けてから仕留めたげる!!!みんなついてきちゃってよ♪」

 

プルの思惑通りにジェガンやジムⅢがビーム射撃をしながらキュベレイMkⅡを追撃し始めた。

やがて郊外に出ると、キュベレイMk-Ⅱは右手首のハンドランチャーを取り出してビームサーベルの刃を発動。

 

接近してきていたジェガンを振り返りながら薙ぎ斬り払う。

 

「それっ!!!」

 

 

 

ザガシュゥウウウウッッ!!!

 

ドゴバァアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

「やぁあっ!!!」

 

 

ジュギャガァアアアアアアッ!!!

 

ズダァガギャァアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

更に降られたビームサーベルの斬撃に、もう1機のジェガンが斬り裂かれ爆発四散。

 

更にキュベレイMk-Ⅱはレフトアームのハンドランチャーとファンネルのビーム射撃を同時に一斉に放った。

 

「ファンネル達!!!みんなで一斉に!!!」

 

4機のジェガンと、同じく4機のジムⅢの機体達は、瞬く間にビームに撃ち砕かれ、機体を崩壊させるように砕け散り、爆発していった。

 

「なんか、ホントに嫌な感じしかしてこない……っ、見えるよ!!!」

 

キュベレイMk-Ⅱの背後から斬りかかろうとしたジェガンに、ファンネルのビームが撃ち抜き、更にビームサーベルの斬撃により斬り飛ばす。

 

「あたしには全て見えてるんだよ!!やぁっ!!!」

 

今発揮しているプルのニュータイプ能力は、先から先を次々に予知し、戦闘に対応させていた。

 

それと同時にこの地に蔓延る連邦兵士達の邪なものがプルの感覚を刺激させる。

 

「この連邦軍……ここの住民の人達にスゴくヒドイコトをしてる……ここの人達の悲しみも伝わってくる……」

 

プルは瞳を閉じながら、自らのニュータイプの感覚を集中させ、ガルダーヤに染み込んだ悲しみを感じ取る。

 

遊び半分に射撃の的にされ虐殺された者達、欲望のままに弄ばれた挙げ句、非人道な虐殺を受けた女性達、目の前で両親を射殺され、暴行を受けた子供達、守るべき者の為に抵抗し、逆に殺害された者達……語り尽くせない程の負の感覚がプルに押し寄せた。

 

ガス抜きと称された許されたものではない連邦兵士達の諸行。

 

「苦しさ……悲しさがスゴい……とても許せない!!!キュベレイ!!こんな悪いやつらはやっつけちゃおうっ!!!」

 

プルの感情を表現するように展開していった各々のファンネルが、ビームを撃ち放ちながら連邦軍の野戦キャンプ施設や起動前のMSを狙い、一斉に雨のよううに乱れ撃つ。

 

「この街の人達の分のお返しだよ!!!」

 

プルの感情を籠めたファンネルの射撃は、町に被害を与えるコトなく連邦軍を仕留め切った。

 

彼女の高いニュータイプの力が成せた技だった。

 

一方、アディンは誘き出したジェガンやジムⅢの射撃攻撃を躱しながら、反撃に転じようとしていた。

 

アディンがモニター上に捉えた敵機群にアクセラレートライフルをロックすると、ガンダムジェミナス・バーニアン01もそれに合わせアクセラレートライフルを構える。

 

「今は連邦の連中が占拠かよ!!ったく!!自分達のエリアの地球で占拠とか意味あんのか!??」

 

 

 

ヴィギリリリ……ヴヴヴァアアアアア!!!

 

ジュゴアアアアッ、ゴバババゴォオオオオオッッ!!!

 

 

 

唸り放たれた小規模のビーム渦流がジェガンと2機のジムⅢを破砕させる。

 

アディンはその一発を皮切りにしてアクセラレートライフルを連発。

 

中出力のビームが狙い撃ったジェガン、ジムⅢの各機の上半身部を吹き飛ばす。

 

ネモⅢ3機がビームキャノンを放ち、ガンダムジェミナス・バーニアン01へ直撃させる。

 

「やったか!??」

 

「油断するな!!!奴等のガンダムならばこれしきでは……!!!」

 

ネモⅢのパイロットが危険を促した瞬間に、爆発地点からガンダムジェミナス・バーニアン01が舞うように飛び立った。

 

「キメるぜ!!!」

 

ネモⅢのパイロットは対空攻撃へと移り砲撃を開始する。

 

「やはりか!!!撃て!!!撃てぇ!!!」

 

ビームキャノンのビームがガンダムジェミナス・バーニアン01を再び直撃するが、その爆発の中からガンダムジェミナス・バーニアン01が両眼を発光させた。

 

その直後にアディンは、ロックしたネモⅢに向けアクセラレートライフルのビーム渦流を撃ち放った。

 

 

ヴィギュヴァアアアアア!!!

 

 

 

「な!??がぁあああああ!!!」

 

 

 

ヴァズガァアアアアアア!!!

 

 

叩き潰すようにネモⅢ3機を破砕。

 

更に飛び立ちながらミサイル攻撃を敢行するスタークジェガン2機に対し、ガンダムジェミナス・バーニアン01は旋回軌道を描いて下方に回り込み、アクセラレートライフルを撃ち放つ。

 

斜め下から迫るビーム渦流がスタークジェガン2機を抉り飛ばし、激しく爆砕させた。

 

「隊機殲滅完了!!だが、長居はできねーな。兄さんは!??」

 

 

 

ジャキッ、ヴィギリリリリリリィ……ヴヴァダァアアアアアッッ!!!!

 

 

 

アディンがオデルに呼び掛けた時、ガンダムジェミナス・バーニアン02は、アクセラレートライフルの高出力射撃を放っていた。

 

 

ドッドドドゴゴバァッッ、ヴァズグディガァアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

迫り来るビーム渦流が、一撃でスタークジェガン2機、ジェガン4機、ジムⅢ3機を駐屯施設拠点諸とも爆砕・消滅させた。

 

ターゲット消滅をモニターで確認を取ったオデルは、そこでアディンに返答を返した。

 

「こちらオデル。たった今駐屯施設を破壊した!!そこ以外に連邦軍の兵士の判別は生態センサーに反応しない。制圧はできたな!!」

 

既にガンダムジェミナス・バーニアン02は敵機を殲滅完了していた。

 

一部の連邦軍に占拠されていたガルダーヤは、アディン達の行動により、電撃的に制圧が解除された。

 

その状況をガランシェールの船内通路からヒイロは見ていた。

 

「やはり短期でケリが着いたか……当然と言えば当然だな……くっ!!」

 

ヒイロは自爆の痛みを堪えながらその場を後にすると、通路の先にマリーダの姿を浮かべる。

 

彼女との出会いはGマイスターである生き方を選んだヒイロにとって特別なものになっていた。

 

兵士として生き、任務に生き、戦いに生きる。

 

同じ存在感に惹かれずにはいられなかった。

 

行方不明の彼女を探す手掛かりは、現在姉であるプルの感覚に掛かっている。

 

ニュータイプの力頼りではあるが、今はそれが最もな道筋だ。

 

かつその力が力だけに期待も高まる。

 

視線の先に今ある事を集約し、ヒイロは決意を新にした。

 

「マリーダを探し、この船に帰す。それが今の俺の任務になる……その次は俺達を追い詰めたECHOESを叩く!!だが、根本の任務はOZ打倒に他ならない……!!!」

 

 

 

北米・オーガスタ基地

 

 

 

オーガスタ研究室の所長室で、ベントナにアナハイムのある関係者からの特命の連絡が入いり、事の動きが新たな流れを見せようとしていた。

 

「な、何ですと!??プルトゥエルブを!?!」

 

驚愕と動揺を露にするベントナの連絡先には、民間MS工業メーカー・アナハイムのカーバイン社長婦人であり、ビスト財団のサイアムの妹、マーサ・ビスト・カーバインの姿があった。

 

「えぇ。事態は一刻を争います。事態が変わる前に手を打ちます。ユニコーンがOZの手にわたる前にユニコーンを破壊します。ラプラスの箱の存在は我々以外に知られる訳にはいきません。手掛かりは潰さねばなりませんのですよ」

 

「しかし急に申されても……!!」

 

「我々も既にOZの一部……これを期に箱を永遠に封印するの!!!まずはバンシィとプルトゥエルブをよこしなさい!!!ふふふ……プルトゥエルブ……その人形は私色に染め上げてあげます。近日中に伺いますわ」

 

マーサとの連絡を終えたベントナは、早速プルトゥエルブの施しの準備を始めるべく、彼女のいる研究室に向かった。

 

プルトゥエルブは一人調整室で裸のまま拘束されており、身体中にネオグリフェプタンの投与器が刺さったまま放置されていた。

 

半ばベントナの趣味の世界も入っていた。

 

「くっ……月の女帝め……!!!プルトゥエルブをも自分のモノにする気かっ!!!」

 

躍起になったベントナは、強引にネオグリフェプタンの投与器をプルトゥエルブから引き離し、器具を床にぶつけまくる。

 

「うくぅあああああっ……!!!」

 

プルトゥエルブは強引に引き抜かれた部分からの激痛に目覚め、痛みの余りに悶絶する。

 

「っ……!!!くぅぅあああ……!!!」

 

「悲しい知らせだ~……マスターを変更する運びになったぁー……だからおわかれなんだなぁ……ひひひひ……!!!」

 

「かはっ……!!!」

 

ベントナはプルトゥエルブに迫り、深い接吻を与えた。

 

「よって……今からはわたしの気が済むまで奉仕をしてやる!!!お前には女性の機能はなぁい……!!!好きにさせてもらうぞぉ……!!!わかったかぁ!??」

 

「はい……マスター……」

 

プルトゥエルブは身を委ねざるを得なかった。

 

ベントナとの通信を終わらせたマーサは、データベースに手をつけていた。

 

そのデータベース上には新たなガンダム、「ガンダムデルタカイ」のデータが記載されていた。

 

「現在リディ少佐がユニコーンを乗っている……彼は箱に関わるマーセナス家の嫡男。下手な事があると面倒ね……代わりの機体を予定させましょう。ビスト財団の党首である兄さん諸ともユニコーンを破壊する運びに……!!!ふふふ!!!」

 

マーサの狙いの絵には更なる思惑が描かれていた。

 

ユニコーンをデルタカイと交換するかのようにビスト財団に戻し、戻ったユニコーンをラプラスの箱の秘密を知るビスト財団の党首・サイアムと共にビスト邸ごと破壊するというものであった。

 

マーサは妖しいまでの笑みを浮かべながらデルタカイのデータを閲覧する。

データベース上のガンダムデルタカイは、既にOZの傘下になったアナハイムの月面工場にて既に形となっていた。

 

傍らにはドクターJ達やペルゲが関係者と共にいた。

 

ドクターJ達は捕虜扱いの為、手錠が嵌め込まれていた。

 

「新たな機体、ガンダムデルタカイ。この機体に我々の技術を移植させるとのことだ……くっくく、やっとお前さん達も魂を売るか!!狂ってるの~!!!」

 

「ふん!!お前に言われたくはない!!!お前の方がよほど狂っておるわ!!!」

 

本心から魂を売ったペルゲに対し、遺憾を露にして反発するドクターJ。

 

プロフェッサーGはそれに続くように持論を吐露し、半ばペルゲを肯定する。

 

「左様!!だが、人間大いに狂って結構!!!この機体にGNDドライヴや『ZERO』のシステムを組み込む事もな!!!やれることはやる!!!好きに利用するがいい!!!」

 

OZはメテオ・ブレイクス・ヘルの博士達の功績を評し、利用価値を見出だしていた。

 

プロフェッサーGは表向きな発言をペルゲにぶつける。

 

「くっくく……何と言おうと負け犬の老人集団だ。何とも思わんよ……」

 

彼らの技術をOZの内部に注ぎ、主に武装面においてのMS体制の絶対的なる変革を図り、その思惑は既に右肩上がりに進んでいた。

 

その現れとして、アスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウスの開発・配備やECHOESのMSの武装強化がある。

 

前者のスペックは既に7機のガンダムの性能を上回る数値を叩き出しており、パイロットであるトラント、ミューラ、アレックスの戦闘能力が模擬戦闘を重ねる毎に卓越したものになっていった事もその要因であった。

 

模擬戦闘中、彼らの所にネオジオンの内乱の情報が入り、アスクレプオスのコックピットのサイドモニターにその情報が表記される。

 

その情報を読み取ったトラントは、ミューラとアレックスにその情報を促した。

 

「ミューラ、アレックス!!何やら面白い状況になっているぞ」

 

「なんすか?突然。模擬戦闘中っすよ!」

 

「面白い状況って一体……!?」

 

「ふっふふふ……共通回線だ。お前らも見てみろ!!この近くの宙域だ。俺達は運がいい!!ネオジオンの連中が身内同士でもめ事をおこしている……!!!」

 

情報はOZ共通の通信回線から回っており、既にヴァイエイトとメリクリウスのモニターにも表示されていた。

 

「へぇ……なら、大事の前の余興……どうっすかね!??」

 

ミューラは楽し気に、にんまりとした表情を浮かべながらトラントに軽く考案の発言をする。

アレックスもまた便乗するように名乗り出る。

 

「こちらアレックス特士~……この機会に機体の実戦テストを奨めたい考えがありまーす!!!」

 

トラントは、ふっと口許に不敵な笑みを浮かべるや否や二人と模擬戦闘テスト監視をしていた部隊に通信を送った。

 

「……我々は本時刻を持ち、これより実戦テストに移行する……大事の前に備えた実戦も必要と判断した為だ。ミューラ、アレックス両特士!!ネオジオンの戦闘宙域に向かうぞ!!!」

 

「了解!!!」

 

二人は即答で機体を加速させ、飛び立つアスクレプオスに続く。

 

「お、おい!!!何を勝手に……!!トラント特尉、戻れ!!!」

 

制止を呼び掛けるテストデータ班の部隊長の声に、トラントはOZの特権を押し付けた。

 

「我々はいつ如何なる時も独断の判断で動ける……違うか!??」

 

「トラント特尉……!!!」

 

すぐに通信は切れ、瞬く間に3機は戦闘宙域に向かって行った。

 

トラントは得意気な表情で機体を更に加速させる。

 

彼らの思惑はデータ計測やテストではなく、単に蹂躙駆逐を図ろうとしていた。

 

それは騎士道から逸脱した狂気の行動だ。

 

最早キルヴァ寄りの概念に近い。

 

過ぎた力は時に人の人格的なモノを歪ませる。

 

それは一人の純粋故に歪んでしまった少年にも及んでいた。

 

地球から飛び立ったカトルは、L4コロニー群にあるウィナー財団のラボを目指していた。

 

シャトルの自動航続設定の作業を進めながら、高まる力への期待と同時に狂気を膨れ上がらせていた。

 

「くっくく……ふふふ……!!!必ず、必ず!!!破壊してみせるよ……連邦のガンダム、いや!!ボクが敵と認めた全てをね!!!そしてロニを取り戻すんだ……!!!」

 

その狂気に囚われたカトルを追うガンダムデスサイズとガンダムヘビーアームズの姿があった。

 

デュオは概算座標を基に、機体を向かわせる。

 

「PX使ったら一定エネルギーまで溜める必要がある。しばらくはまともに戦闘できないぜ……で、どうする?トロワ。もし本当に今のカトルがゼロを動かしちまったら間違いなく破壊に及ぶぜ」

 

「確かに今のカトルならばやりかねない。というよりもカトル自身がゼロシステムの指示に呑まれた生態ユニットになってしまう……!!!」

 

「そうなったら……まずL4のコロニーっつーコロニーが消えるな。きっと……!!!」

 

「今現在も途中での戦闘や拿捕も有り得る。PXの為のエネルギーが溜まり次第、通常加速で追う!!」

 

「あぁ!!なんとしても御曹子お坊ちゃんの暴走を止めなきゃな!!!それに、例のECHOESの連中も何処にいるかわかんねーかんな!!!あーと……五飛、聞こえっかー!?おい、五飛ー……」

 

デュオが遅れて飛び立った五飛に通信を送るが、五飛は普段から音信不通が当たり前のスタイルをとっている。

 

故に返答の期待は半分である。

 

「何だ?」

 

モニターに五飛の顔が表示され、直ぐに返答が来た為、デュオは逆に風の吹き回しのような感じにとってしまう。

 

「おぉ!!こんなこともあるんだな!!逆に変だぜ……」

 

「何だ!?つまらん話なら切るぞ!!」

 

「つれねーな~勘弁してくれー……あー、嘘、嘘!!今俺達はL4に向かって体制の建て直しとカトルの暴走を止めるような方向で動いているんだが五飛はどうする!??」

 

「俺は俺達の悪、ECHOESを叩く!!!お前達はお前達で動け!!俺は単独で転戦する!!!」

 

「あたっ……~っ、結局かよ!!!」

 

「俺は常にその姿勢だ!!!俺の戦いの信念はテコでも動かんぞ!!!」

 

デュオは結局いつもの単独転戦の肩スカしを五飛に食らった。

 

頭をかきながら、言っても聞かない五飛に善戦を祈り託す。

 

「へいへい……やっぱそーなるか……わーった、わーった!!!ほんじゃぁ、ま……そっちは任せるぜ!!けど、何かありゃ言えよな!!」

 

「ふん……何かあればか……早速例の奴らを見つけた……行くぞ!!!」

 

「マジか!??おい、五飛!!!」

 

あろうことか通信中に五飛は戦闘に突入した。

 

五飛の発言からして十中八九ECHOESだ。

 

デュオもここから先に至っては必要以上の警戒を余儀無くされる。

 

「ECHOES……遭遇しかねないってか!!!厄介だなっ、たくよー!!!」

 

「四面楚歌という言葉があるが……その状況に俺達は正に晒されている……しかし、どのような状況にあれ俺達は闘うだけだ」

 

トロワは改めてGマイスターの姿勢を語った。

 

一方、五飛は遭遇したECHOESジェガン部隊目掛け、シェンロンガンダムを突撃させていく。

 

彼らはネオジオン系の居住区のある資源衛生に破壊行為を仕掛ける寸前の状況にいた。

 

シェンロンガンダムはビームグレイブを片手で振り回しながら、敢えてビームの集中砲火を正面から浴びながら斬撃を振るう。

 

 

 

ザガギャアアアァッ、ッドバォガァアアアアア!!!

 

ドヴィン、ドヴィン、ドヴィン、ドドドドゥゥ……ドガゴアアアアアアッ!!!

 

 

 

「ちぃ……!!!」

 

擬似GNDドライヴのビーム攻撃はダメージと衝撃をシェンロンガンダムに与えた。

 

直撃部は僅かだが焦げて傷が発生していた。

 

五飛は爆発の衝撃を耐え忍ぶと、ビームグレイブをECHOESジェガンに向けて刺突させる。

 

 

 

ザァシュドォオオッッ!!!

 

 

「覇ぁああああ!!!」

 

ECHOESジェガンを突き刺したまま、別の機体へ叩きつけ、素早くビームグレイブを抜き取り、2機のECHOESジェガンをまとめて斬り払う。

 

 

ザァシュバァアアアアアアンッッ、ヴァズガォオァアアアアアッッ!!!

 

 

 

シェンロンガンダムの力強い攻めの攻撃。

 

そこにはメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムの闘う姿勢があった。

 

しかし、ECHOESジェガンとロトはシェンロンガンダムを囲むように集中砲火を浴びせる。

 

ビームバズーカ、ビームキャノンの嵐。

 

シェンロンガンダムはそれらの爆発と衝撃を掻い潜りながら現れ、ロトにビームグレイブを串刺しにし、突き刺したまま斬り払う。

 

その斬撃は側面側にいたロト2機を一気に斬り払った。

 

「これがECHOES……口ほどにもない!!!」

 

だが、その時、ロトが特殊なミサイルを連射。

 

シェンロンガンダムに着弾すると共に、モニターをはじめとする各計器類が異常を出し始めた。

 

「何だ!??」

 

そのミサイルはECHOESオリジナルの計器類等の電子機器を狂わせる特殊ミサイルだった。

 

モニターの映像が乱れ、ロック・オンも断続を繰り返す不調をきたした。

 

その間に、隊長機らしきジェスタが、ビームサーベルを振りかざし、シェンロンガンダムに斬撃を浴びせる。

 

それでも斬るに至らないが、強化されたビームの斬撃は僅かにダメージを蓄積させる。

 

更に援護射撃の集中砲火が重なっていく。

 

「ふふふ……ECHOESよ……強いな……!!!汚い戦法で相手を陥れる……」

 

五飛は一身に攻撃を受けながら瞑想を始めた。

 

シェンロンガンダムの装甲には幾多のGNDエネルギービームが注がれ、その鋼の戦士は度重なる爆発に包まれていった。

 

 

 

アクシズ・ネオジオン内乱宙域

 

 

 

ネオジオン同士での戦闘が激化する中、トールギスとシナンジュは尚も刃をぶつけ合っていた。

 

振るい振るわれる斬撃は、互いの装甲に触れさせることなく繰り返される。

 

二度弾き合いながらの斬撃がぶつかった時、力は拮抗した。

 

「……赤い彗星の再来。これ程までに決着が着かぬとはな……!!!」

 

「私はネオジオンの器だ!!こんな所ではまだ終らんよ!!!」

 

ビームサーベルを捌き外し、ビームバズーカランチャーを近距離より撃ち放つシナンジュ。

 

スレスレでビームを躱し、ビームサーベルでビームバズーカランチャーを斬り落とすトールギス。

 

ビームバズーカランチャーの銃身は爆発。

 

その反撃にと言わんばかりにシナンジュは蹴りを繰り出し、トールギスのレフトアームのバスターランスを弾き飛ばした。

そこから再度互いの刃をスパークさせながら、機体を激突し合うように激しいぶつかり合いの加速軌道を描く。

 

斬撃は斬り払い、袈裟斬り、唐竹の斬撃がきめ細かい組み合わせで打たれる。

 

2機は、アクシズの外壁に突撃し、外壁面をスレスレに駆け昇るように駆け抜け再びぶつかる。

 

「シャアが成せなかった衝撃を地球にぶつけ、そしてスペースノイドのみが有利に立てる世界、コロニー共栄圏の実現へ向かうはずだった!!!」

 

「だが、これでは最早振り出しに近いな、フロンタル!!!貴様の器量の結果ではないのか!??」

 

「またしても貴様っ……!!!」

 

フロンタルは歯軋りし、トールギスに向けてシナンジュの蹴りを繰り出すようにコントロール。

 

 

 

ディガァアアアアアアッ!!!

 

 

 

「うぉおおおおっ―――……がはぁああっ!??」

 

トールギスは大きく吹っ飛ばされ、アクシズの外壁に激突した。

 

だが、ゼクスはトールギスの殺人的なGに耐える男だ。

 

衝撃を耐え抜き、直ぐにトールギスの機体体勢を整えさせ、バーニアの出力を利用した蹴りを繰り出させた。

 

「……っ、倍返しとでも言おうか!??覇ぁああっ!!!」

 

 

 

ドッッォオオッッ―――ガズドォオオオオッッ!!!

 

 

 

「―――っ!??」

 

シナンジュの蹴りを上回る衝撃を、フロンタルはシナンジュと共に一身に受け、声を上げる間もなく外壁に接触しながら吹っ飛ばされ、挙げ句にはアクシズの核パルス部に突っ込んだ。

 

一方、この戦禍に向けてユニコーンガンダムが、ネェル・アーガマより出撃体勢に入る。

 

展開する全天式モニターに各情報が表示され、その映し出される光景には、手前から奥面に至るまで爆発の華が咲いては消え、咲いては消える空間が広がる。

 

リディはその嵐のような光景に視線を突き刺し、艦内に残るミヒロを気遣う。

 

「ミヒロ……今はこの戦禍に持てる力を尽力させよう。例の話はまた後で言う」

 

「うん……了解。ちゃんと帰ってきてくださいね……」

 

「了解!!ユニコーンガンダム、リディ・マーセナス!!出る!!!」

 

カタパルトからユニコーンガンダムが高速で飛び出し、僚機のリゼルやスタークジェガン部隊も飛び出していった。

 

その光景を見ていたケネスが心の中で呟く。

 

(もし……第一次ネオジオン抗争の時に彼らのような勇者がいれば戦況は違っていただろうな……今は彼らの姿勢に賭けるべきだな。勇ましい模範と言える……)

 

ネェルアーガマより発艦したリディは、モニター上に、次から次に出会すネオジオンのMSを流れるようにロックする。

 

機体を反転させ、後方に吸い込まれていくギラズールやギラドーガにビームマグナムとビームバズーカを撃ち込む。

 

チャージされた高出力ビーム弾と高出力ビームが2機の胸部を抉り貫いて破砕させる。

 

バウやドライセンの部隊も三連ビームキャノンやビームライフルを放ちながら迫り来る。

 

その間にリゼルやスタークジェガンの部隊が散開し、ガザDやギラドーガ、ガルスJの部隊に攻撃を仕掛ける。

 

ビームの火線が行き交い、両者側の何機かが撃墜された。

 

その時、ユニコーンガンダムに灰色のヤクトドーガが迫り、ファンネルで攻撃を仕掛ける。

 

「出たな、ニュータイプ!!!俺は認めはしない!!!所詮、宇宙都市伝説だ!!!」

 

昂るリディの感情に呼応するように、ユニコーンガンダムのNT-Dが発動。

 

リディのコックピットシートが変形し、NT-Dモードへと移行する。

 

そして、機体の各部を変形させ、瞬く間にデストロイモードへと変貌を遂げた。

 

ファンネルの攻撃をIフィールドで弾いた上で、ユニコーンガンダムはファンネルの主導権を掴み、ヤクトドーガのファンネルをジャック。

 

ビームをコックピットに一点集中させるように放ち、ヤクトドーガを自らのファンネルで破砕させる。

 

そしてビームバズーカを3機のドライセンに撃ち込む。

 

破砕爆発し、バラバラになったドライセンを突き抜け、バウ4機にビームマグナムを一発、一発撃ち込み、機体を抉り飛ばした。

 

更にその弾道を掠めたギラズールやガルスK、ゲルググ、重装ギラドーガ、ガ・ゾウム、ドラッツェを次々に爆砕させ続ける。

 

高速で躍動しながらビームマグナムを連発するユニコーンガンダムの姿は正に鬼神のような攻めを見せていた。

 

ザクⅢの放つメガ粒子砲も全く受け付けず、至近距離からのビームマグナムで豪快に破砕させ、リゲルグとドーベンウルフの攻撃も躱し、ビームバズーカをドーベンウルフに押し当てる。

 

これも至近距離からの射撃で破砕。

 

リゲルグにはビームマグナムを食らわせ、後方にいたギラズールとギラドーガと共に撃破した。

 

「……そうだ……俺は新たな時代を築く兵士となる……古い膿は今ここで排除する!!!」

 

リディは嵐の戦禍を駆け抜け、出会う敵機を次々に撃破していく。

 

その勢いを止める機体は現れない。

 

「この戦域のネオジオンは……今ここで全て駆逐する!!!ユニコーンガンダム!!!ニュータイプデストロイヤーの真髄を示せ!!!」

 

リディはロックしたサイコドーガ6機に襲いかかり、ビームマグナムとビームバズーカで次々に破砕させた。

 

一方のミスズは、リゼル・トーラスを駆りながらネオジオンの機体を撃破し、同時にゼクスに気を向ける。

 

「ゼクス……フロンタルとの決着はまだ着かないのか!??」

 

ゼクスは尚もフロンタルと刃を交え続け、アクシズの外壁面で激突を繰り返し、互いの仮面にスパークを照らす。

 

戦い続けるシナンジュはヘッドユニットを損傷し、トールギスはシールドのジョイントを切断されていた。

 

2機は刃を交わしながら間合いを広げて対峙し合い、フル加速駆け抜けながら、抜刀斬撃の刃をぶつけ合う。

 

「おおおおおっっ!!!!」

 

 

 

ザジュガァアアアアアン!!!

 

 

 

重なりあった斬撃の気迫の末、トールギスのライトバーニアとシナンジュのライトレッグが激しく斬り飛ぶ。

 

「フロンタル……!!!」

 

「ゼクス……!!!」

 

互いの機体を損壊し、ゼクスとフロンタルは流星のごとく対決の場を駆け抜け、二人の仮面の男達は戦闘から互いの機体への辛酸を食い縛りながら離脱した。

 

その頃、歴史の裏から静かなる激動の気配が動いていた。

 

オペレーションプランを手にしたディセットとトレーズが、ルクセンブルクOZ総本部の一室から街の景色を見ながら語る。

 

「一人一人の行動が歴史を作る……これから始まる激動のOZの働きもまた歴史を変える。古き体制は我々が正さねばならない」

 

「しかし、トレーズ閣下!!自らまた戦場に赴くのは危険すぎると私は……!!!」

 

「覚えておきたまえ……戦いにおいて律儀を忘れてはならない。上に立つ者こそが前線でその剣を振るうのだ……」

 

「トレーズ閣下……!!!はっ!!!」

 

オペレーション・プレアデス発動までのカウントダウンは彼らの目の前で流れ始めており、宇宙世紀に革命が起こる日は目前に迫っていた。

 

 

 

To Be Next Episode




ネオジオン同士の激戦の嵐が止まない中、リディ駆るユニコーンガンダムは伝承のユニコーンのごとく戦場で暴れる。

そのユニコーンに、一輪の紫の薔薇が鋭利なトゲをかざして迫る。

時を同じくし、OZのトラント、ミューラ、アレックス達はOZの新型機でアクシズの戦闘に介入し、猛威を振るう。

重なる激戦に遂にフロンタルは撤退を選択する。

ヒイロ達はガルダーヤを後にする中で、ジンネマンの過去やプル達に関する話を聞く。

ヒイロ達は改めて今を戦う意義を確認する一方で、囚われているマリーダに更なる屈辱と苦痛が襲う。

一方、ゼクスやリディにはOZの新たなオペレーションの流れが始まる。

過去の戦乱の残り火が立つ中、OZは新たな歴史の動きを起こす。


次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

エピソード 21「オペレーション・プレアデス、発動」


任務了解……!!!



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エピソード21「オペレーション・プレアデス、発動」

第二次ネオジオン内戦とも言うべき戦闘は、アクシズの周囲に爆発や射撃火線を無尽蔵に展開させる。

 

MS同士の射撃・白兵戦闘。

 

ムサカ級、エンドラ級の艦隊戦闘。

戦艦へのMSによる強襲に、それに対する対空砲火。

 

その中の一ヶ所にに一際鮮やかな火線が見られた。

 

高出力ビーム弾が、ギラドーガ、ガザC、ズサを3機まとめて破砕・爆破させ、更なるビームマグナムの一撃が重装型ギラドーガを撃ち砕いて破壊する。

 

鮮やかな火線を生むのはリディ駆るユニコーンガンダムだ。

 

伝承のユニコーンのごとく暴れ狂うようにユニコーンガンダムは、ネオジオンのMS達をことごとく殲滅していく。

 

ビームマグナムを二発撃ち、ギラズールとギラドーガ各3機をまとめて撃ち抜いて破砕させ、ビームサーベルを持ち構えてすれ違い様に、6機のギラズールを瞬斬した。

 

駆け抜けるユニコーンは動きを止め、ビームマグナムを構える。

 

チャージされたエネルギー球を銃口に発生させ、前方一直線上に発砲。

 

ギラズール、ギラドーガ、ドライセン、バウ、ズサを一直線に撃ち抉って高出力ビームが突き進む。

 

そして更に遠方にいたムサカ級の動力部にビームを直撃させ、破砕・轟沈させた。

 

高出力エネルギーに抉られたネオジオンの機体群もまた、原形を歪めて連続で爆発していく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……この戦いで!!!」

 

再び機体を加速させたリディは、鬼神的な攻めに再びシフトし、射撃するドーベンウルフ部隊を撃ち抉り、ガゾウム達の射撃を加速で躱しながら、ビームマグナムを連発させて破砕の限りを尽くす。

 

更にリゲルグをバラバラに斬り潰し、反転しながらギラドーガとバウの群衆に突っ込む。

 

駆け抜けながら出会す全ての機体を超高速で斬撃。

 

ユニコーンガンダムが駆け抜けた後には幾多の爆発が連なった。

「ネオジオンを駆逐……させるさ!!!」

 

更にユニコーンガンダムは、NT-Dが反応を示したヤクトドーガとサイコドーガの部隊へと振り向いて突貫する。

 

出合い頭に斬撃を見舞い、出会す1機、1機のサイコドーガをバラバラに斬り刻んでは斬り飛ばす。

 

ユニコーンガンダムは、紅い残像を発生させながらサイコドーガを次々に斬り刻み、一気に7機を破壊する。

 

反撃するヤクトドーガのファンネルのビーム射撃も、Iフィールドに阻まれ意味をなさない。

 

挙げ句にはファンネルをNT-Dによりジャックされ、逆にヤクトドーガは機体各部を撃ち砕かれる。

 

次の瞬間にはヤクトドーガ本体を縦横無尽に斬り裂いて駆け抜けていった。

 

アンチニュータイプマシンたるユニコーンガンダムは、正にその通りの狂暴さを見せつけ続ける。

 

ユニコーンガンダムが駆け抜けたその後には、爆発とネオジオンのMS達の躯が浮かぶ。

 

その勢いは本当に単機でネオジオン勢を壊滅させかねないものだった。

 

紅い残像を鮮やかにかつ禍々しく残しながらユニコーンガンダムは、ギラズール部隊の真上から襲い掛かる。

 

ビームサーベルによる高速斬撃がギラズール達を完膚無きまでに斬り刻み破壊した。

 

フロンタル派、反フロンタル派の両勢が駆逐される中、その暴れ狂う獣に立ち向かわんとする異形のMSが迫る。

 

アンジェロのローゼンズールだった。

 

「大佐に代わり、貴様を駆逐してくれる!!!ガンダム!!!」

 

アームクローを突き出して迫るローゼンズール。

 

ユニコーンガンダムは機体を翻しながらその攻撃を躱してみせる。

 

だが、その周囲から高速で伸ばされたアームクローがユニコーンガンダムに襲い掛かった。

 

躱された瞬間にアームクローの有線ワイヤーが放たれ、ユニコーンガンダムを攻撃する。

 

鋭利なアームクローに右腕と左脚を掴まれたユニコーンガンダムであるが、リディは動揺することなくローゼンズールを睨み刺していた。

 

「これがどうした……!??」

 

「いつの時代も我々を愚弄する存在、連邦のガンダム!!!このアンジェロが葬ってくれる!!!サイコジャマー射出!!!」

 

ローゼンズールの両肩から薔薇の華のような形状のユニットが幾つも放たれた。

 

そしてそれは、ユニコーンガンダムを囲み、ユニットとユニットを結ぶように稲妻状のエネルギーがはしる。

 

「な……!?!?」

 

そのエネルギーに隔離されるような状況になったユニコーンガンダムは、見えない何かに強引に組つけられるかのように、各部を変形させて元の形態へと戻っていく。

 

その際に、発光していた各部のサイコフレームの光が消え、ライトグレーのユニットを晒していった。

 

「くそ!!!どうなっている!??機体の機能が……!!!」

 

モニター各部にエラー表示が次々に表示され、警報アラートが鳴り響く中、NT-Dシステムが強制的に解除されてしまう。

 

ユニコーンガンダムを包む眩い稲妻状の紫の光に照らされながら、アンジェロは高らかにそのユニットの特性を言い放った。

 

「ははは、はははははは!!!サイコ兵器の力を強制的に封じ込むサイコジャマーだ!!!その暴れ狂う獣のような力は最早使えん!!!」

 

「っ……ユニコーン!!!」

 

「積年の恨みだ……一思いには殺さん……!!!」

瞳をくわっと見開いたアンジェロにシンクロするように、ローゼンズールは無抵抗となったユニコーンガンダムを滅多裂きにするように殴り浴びせ始めた。

 

「ははは!!!はははははは!!!死んでしまえぇぇ!!!」

 

「ぐっうぅぅ……!!!まだ、まだ死ねん!!!ミヒロがいる……ミヒロが待っているんだ……!!!」

 

激しい衝撃の中で、リディは歯を食い縛りながら状況に耐え続けた。

 

自分を待ち、かつ今後に葛藤するミヒロを想いながら。

 

時を同じくして、アクシズの片割れが浮かぶ空間に、無数の爆発とビームが飛び交う情景に三つの機影が突入していく。

 

それはアスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウスであった。

 

戦闘の光景を見ながらミューラが狂気に近い喜びを放つ。

 

「ひゃはははは!!!やってる、やってる!!!雑魚同士のつつき合い!!!」

 

「はしゃぐなよ、ミューラ!!まだ乱闘の外だぜ~!?」

 

一瞬、ミューラを制止させるような発言をしつつも、アレックスはメリクリウスを加速させる動きを見せる。

 

ノリに乗るかのように舞い上がる二人をふと笑いながらトラントは介入する手はずに踏み切り、機体のシステムをテストモードから戦闘モードへ移行させた。

「お前達……システムを戦闘モードに切り替えとけ。一気に突っ込むぞ」

 

「りょーかい!!!」

 

「駆逐祭り開始だぜぇ、おい!!!」

 

3機はスクエアタイプのカメラアイを発光させ、爆発的な加速で、今なお続くネオジオン内戦の空間へと飛び込んでいった。

 

ビーム射撃を飛び交わせるギラドーガ、ガ・ゾウム、ガルスJ、バウのMS群。

 

その攻防の光景はまさしくかつてのハマーン派とグレミー派に別れた内戦の再現であった。

 

だが、確実に違う点があった。

 

それは明らかな歪みと明らかな正統の対局だった。

 

一方は争いの火種を残したまま地球を切り捨て、宇宙移民者達のみ有利な世界を確立させる事を力によるやり方で押し進める。

 

もう一方はその方法の中に「コロニー落とし」を入れ込んだ行為に危惧を覚え、フロンタルに反対する考えであった。

 

更に言えば、そのやり方で連邦からの圧力が増す事により、安息を奪われていく事に繋がる危惧でもあった。

 

その戦場にドライセンやドーベン・ウルフの部隊も加わり、射撃戦闘や白兵戦が更に激化する。

 

だが、その時であった。

 

 

 

ヴァグヴァアアアアアアアアッッッッ!!!

 

ドドゴゴバァババババガガガァアアア……

 

 

 

突如としてはしったビーム渦流が、ドーベン・ウルフやドライセン、バウ、ギラドーガの機体群を爆砕し続け、多重爆発を描く。

 

「ひゃはははは!!!駆逐、駆逐ぅうう!!!」

 

ミューラ駆るヴァイエイトが放ったビームカノンの一撃であった。

 

更にミューラは面白半分まがいにビームカノンを連発させる。

 

「時代も変わる!!!前世代の勢力は消えてもらう!!!」

 

 

 

ヴァズヴァ、ヴァズヴァア、ヴァズヴァ、ヴァズヴァッッ、ドズヴヴァアアアアアアア!!!

 

 

 

ギラドーガ、ギラズール、ガ・ゾウム、ズサ、ガルスJ、バウのMS群が瞬く間に破砕され、爆発を撒き散らしていく。

 

更にチャージされた一撃を放ち、ビームを振り回すように砲身を廻す。

 

 

 

ギュヴヴァガァアアアアァァァァ……!!!

 

ドドドゴババババババガァオオオオ……

 

 

 

この射撃により、ムサカ級も2隻が熔断されるがごとく、ビーム渦流に抉り貫かれ爆発・轟沈。

 

戦闘中だった幾多のMSを巻き添えにして破砕・爆砕の爆発を繰り返し巻き起こさせる。

 

その時、1機のドーベン・ウルフがビームランチャーを撃ち放ってヴァイエイトへ攻撃を仕掛けた。

 

しかし、ビームは躱される。

 

「狙いが甘いぜ!!!そらぁあ!!!」

 

 

 

ヴズゥヴァアアアアアアアアアッッ!!!

 

ドォズゥオオオオオオオオ……ゴバァオアアアアン!!!

 

 

 

ヴァイエイトのビームカノンの返り討ちにより、ドーベン・ウルフは虚しく破砕され砕け散った。

 

そのビームは、直進上にいたMS群を更に破砕し続け、アクシズ宙域に光る爆発光が更に激化して生まれていく。

 

「な……なんだ!?!」

 

「が、ガンダムか!??」

 

ネオジオンサイドの誰もが、ガンダムの攻撃を想像した。

 

只のガンダムではない、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを。

 

しかし、迫る機体はガンダムではなかった。

 

「し、識別確認!!!OZです!!!それに、ガンダムではないです!!!」

 

「何、OZだと!?!ちぃ……各機、一斉射撃!!!」

 

アレックスはメリクリウスをギラズールやギラドーガ、ドライセン、バウの機体群が争っていた空間へと飛び込ませる。

 

「俺達の戦闘データに協力してもらうぜぇっ!!!ネオジオンさん!!!」

 

迫るメリクリウスに対し、争っていた各機体は再び共に戦い始めた。

 

ビームライフル、ジャイアントバズーカ、ビームマシンガン、メガ粒子砲のビーム射撃がメリクリウスに集中した。

 

だが、アレックスはニヤリと笑いながら直撃を真っ向から受けた。

 

 

ディガギュギュギュイイイイイイイ!!!

 

 

 

一斉射撃は、実弾、ビーム、出力を問わずにスパークと共に消滅した。

 

「くくく!!プラネイト・ディフェンサーだ!!!射撃は全て無駄だ!!!そらよぉ!!!」

 

「何だとぉ!??なんだこのフィールドはっ……ぐぅがえぁっっ!?!」

 

 

ズシュドォオオオオオッッ……!!!

 

 

 

メリクリウスのクラッシュシールドの中心から形成したビームサーベルがドライセンのコックピットを貫く。

 

 

ジュジィゴォオオオァアアア……ドバズガァアアアアアアア!!!

 

 

スパークを伴いながら、ドライセンは爆砕。

 

他の機体群は近距離からの射撃をするが、プラネイト・ディフェンサーにより、全くの無意味に終わる。

 

カメラアイを発光させたメリクリウスは、ビームサーベルを一振りでギラドーガ2機とバウを斬り払い、ビームガンの連続射撃を2機のギラズールと2機のバウ、ドライセンを撃ち砕いて破砕させた。

 

更にメリクリウスはその爆発に突撃し、クラッシュシールドのビームサーベルをリゲルグに突き刺した。

 

「レッド・メリクリウス、介入を続行する!!!」

 

リゲルグはスパークを伴いながら破裂するかのごとく爆砕し、メリクリウスは更なる攻撃を仕掛け続けた。。

 

そして、トラントの駆るアスクレプオスが、超高速でギラズール、クラーケズール、ドライセン、ドーベン・ウルフの機体群が展開していたポイントへと突っ込む。

 

機体設計・開発はペルゲが行っているためか、機体形状の一部がガンダムジェミナスに酷似している。

 

尚、一方のヴァイエイトとメリクリウスの設計開発はドクターJ達によるものだ。

 

「さぁ……アスクレプオスの力を試させてもらう!!!おおおおおおっっ!!!」

 

主兵装であるパイソンクローを突き立ててドーベン・ウルフへ迫るアスクレプオス。

 

三つの鋭利な爪にエネルギーが発生する。

 

オレンジに発光するその エネルギーは、GNDドライヴを介したGNDエネルギーであり、斬撃・刺突・焼灼の威力を倍増させる。

 

 

ザズゥガァアアアアアアアアアッッッッ!!!

 

 

 

物の見事にドーベン・ウルフの胸部に突き刺さったパイソンクローの一撃は、惰性を発生させながらドーベン・ウルフごと空間を駆け抜けた。

 

そしてギラドーガと戦闘していたドライセンに突っ込み、諸とも爆砕して宇宙の爆発光へと変えた。

 

その爆発を飛び出したアスクレプオスは、ギラドーガにパイソンビームランチャーを浴びせる。

 

パイソンクローのセンターにある二門のビーム砲から放たれる高出力ビームだ。

 

 

 

ダシュダァアアアアア!!!

 

ズドシュガァアアアアッッ!!!

 

 

更に周囲にいたガザDやズサ、ガ・ゾウム、ガルスKにも同様の射撃を浴びせて爆砕の限りを拡める。

 

再び加速したアスクレプオスは、パイソンクローをかざして、クラーケズールを刺突。

 

そのままクラーケズールは激しく破砕され、直撃を食らいながら爆発四散。

 

弾幕に追われながら振り向いたアスクレプオスは、両腕のパイソンビームランチャーを発射。

 

ギラズールとギラドーガを撃ち仕留めた。

 

そして、ドライセンに縦横無尽の斬撃を四方八方から浴びせ、最後に頭上感覚の所から一気に突き刺して、メインボデーを破砕させた。

 

「ふっ……上々たる性能だ!!!」

 

アスクレプオスはバーニア出力を上昇させ、更なる攻撃を仕掛けて駆け抜けていった。

 

その後尾には幾多のMSの爆発光が連なっていった。

 

激戦伴う中、レウルーラにシナンジュが帰艦する。

 

トールギスとの戦闘で各部を損傷した状態が、戦闘の激しさを物語っていた。

 

フロンタルは、マスクを取り外しながら深いため息をする。

 

「フロンタル大佐!!ご無事で!!機体がかなり損傷した状態ですが、お怪我は!?」

 

礼儀も踏まえ、フロンタルに一声をかけるメカニック。

 

だが、フロンタルは言葉を返すことなく、そのままライルに通信を繋げる。

 

「ライル中佐、聞こえるか?」

 

「は!!」

 

モニターにライルが映る。

 

「戦況はどうか!?」

 

「は!!現在共に拮抗した状況にあります!!ですが、どちらが押され始めても不思議ではありません。少なくとも双方で戦力が欠けていっているのは確実です!!」

 

「……そうか」

 

「更に連邦とOZの一部が介入しているとの情報も入っております!!それにより戦力の欠落は加速した状況にも……今後も更なる打撃が伴われると予想されます!!!」

 

「彼らの介入は知っている……だから私はここへ来て機体を損傷させられた。OZの閃光……流石に手強い」

 

「大佐がOZと戦闘を!??」

 

「あぁ……いずれにせよ今、アクシズ宙域にネオジオンの主戦力が入り乱れて内戦をしているのだ。この状況にあっては彼らも我々に援助資金を割いてはくれまい……」

 

ここに来て、フロンタルの口から妙な存在が溢れた。

 

ライルは眉を潜めてフロンタルに質問をした。

 

「彼らと言いますと?」

 

「ん?いや、こちらの話だ。とにかくこれ以上の戦闘は貴重な戦力の疲弊に繋がる。ライル中佐!!我が派閥に通達せよ!!我が軍は撤退するとな!!」

 

「撤退……!!!」

 

「こうなってしまった以上、体制の建て直しが必要だ!!だが、アクシズは落とす!!!アクシズの核パルスエンジンを作動せよ!!!」

 

「このタイミングでアクシズをですか!??」

 

「放置をすればいずれは他の手に堕ちる……ならば今ここでオペレーションの真髄を実行する!!!」

 

ライルは、進撃中にいつ阻止されても不思議ではない事を解りつつも、敢えて言わなかった。

 

(判断が安易過ぎる。アクシズがいかにも囮と言わんばかりだ……確かにアクシズを放棄するわけには、否……放棄同然か)

 

すると、フロンタルはその思惑に答えるかのように言った。

 

「アクシズの護衛は内部にいる別動隊に任せている。彼らであれば十分に護衛を果たせよう」

 

「な?!?初耳です!!!それではその彼らを囮にしてしまう形になりかねないのでは!?!」

 

フロンタルは半ば部下を囮とするかのような形の方向へと振っていた。

 

もし総帥のシャアであればそのような判断や命令はしていないだろう。

 

ライルは改めてフロンタルはシャア本人ではないと悟る。

 

「表向きに発言すれば、このような内戦になった以上彼らにはアクシズと運命を共にしてもらうしかない。だが、案ずることはない。それ相応の戦力だ」

 

(私が知っているシャア総帥は……死んだかっ!!!)

 

「その間に我々は撤退し、体制の立て直しを図る!!!総員撤退の命令を下す!!!」

 

フロンタルの指令の後、アクシズの核パルスエンジンが点火された。

 

アクシズは再び地球へ向けての進撃を開始した。

 

厳密に言えばアクシズの片割れであるが、その巨大なネオジオンの意志は、かつてと同様に確実に地球潰しの為に動き始めた。

 

戦闘をしていた誰もがその光景に目をやった。

 

高揚感を覚える者、青ざめる者、茫然と見つめる者、戦闘の一瞬、一瞬の間に間に目を配る者。

 

更に戦闘生中継ポイントを介し、全地球圏にその映像が配信され、様々な視点からその光景を目の当たりにした。

 

それと同時にフロンタルサイドの勢力は次々に撤退していく。

 

アンジェロもまたユニコーンガンダムを追い詰めてはいたが、敬愛するフロンタルの命令が故に撤退を余儀無くされた。

 

「ここまで追い詰めておきながら撤退とは……だが、大佐に従わない訳にはいかない!!!命拾いしたな!!!」

 

心理的に辛酸を呑みながらローゼンズールは、展開させていたサイコジャマーを格納してその場を後にした。

 

「くっ……難は逃れたのか!?否……難はこれからか!!!ミヒロ!!!」

 

サイコジャマーを解かれ、機体コンディションが通常に戻った事を確認すると、リディは第一にミヒロを思い出して機体をネェル・アーガマへと向かわせた。

 

ネェル・アーガマのブリッジではケネスが、ハイパーメガ粒子砲の使用を検討する。

 

状況的に見てもアクシズをすぐに止める術は、現時点でネェル・アーガマだけだ。

 

「(使うべきは今か!?!今アクシズ宙域には我々しかいない……!!!ハイパーメガ粒子砲であれば阻止が可能かもしれん!!!)アクシズとの距離は!?!」

 

「およそ3マイルです!!」

 

「ハイパーメガ粒子砲の用意!!!今阻止できるのは我々しかいない!!!急げ!!!」

 

「了解!!」

 

ネェル・アーガマのブリッジ内が更に緊迫した状況となった。

 

ケネスは、きっと遠方に動くアクシズを睨む。

 

「アクシズは動いている!!!ハイパーメガ粒子砲とアクシズのランデブーポイントを算出した後に砲撃体制に移れ(頼むぞ、諸君!!何故ならグリプス2を使わせるわけにはいかん……あれを使えばコロニーを巻き込みかねん。私とて人だ。コロニーの人間をどーでもよいとなど思ってはいない)!!!」

 

ケネスは連邦の士官ではあるが、人としてスペースノイドへの人権概念を持っていた。

 

ハイパーメガ粒子砲を使用するにあたり、ケネスの脳裏に聞かされていた前ネェル・アーガマ艦長の起こした一件を過らせた。

 

(前艦長のガレムソンと言う名の連邦士官は、反逆性の高い兵器の研究の疑いがあるという理由で民間資源衛生・MO-Vをこの艦で強襲を仕掛けた……ハイパーメガ粒子砲で破壊してまでな。私はそのような愚行判断はしない!!!)

 

ケネスが思い起こしていた事はアディンとオデルの悲しき過去の事件だった。

 

ケネスは良識的見解から見て、明らかなる遺憾を示していた。

 

故にハイパーメガ粒子砲のような兵器は正しく使用状況を判断する必要があった。

 

一方、時同じくしてアディンやオデルもまた、降り立ったガルダーヤの惨状に連邦の理不尽さを感じていた。

 

ガルダーヤには既に人々は生存しておらず、殆どが連邦兵達により虐殺されていた。

 

「ひでぇ……これじゃ物資云々じゃないぜ。プルには待機してもらって正解だ。こんなのニュータイプが直に感じたら……!!!」

 

「あぁ……精神的に痛めつけられるだろうな……やはり、連邦はいつの時代も変わらんな!!!」

 

「MO-Vを平気で破壊できる連中だからな。ある意味納得だぜ……赦せるもんじゃ無いけどな!!!」

 

至るところに虐殺されたガルダーヤの人々が斃れている。

 

プルは、キュベレイMk-Ⅱのコックピット内で体育座りでうずくまっていた。

 

今彼女には幾多の苦しみの思念を感じている状況にあった。

 

「みんなの声が、苦しんだみんなの……声が!!!何も罪がないのに……!!!酷過ぎだよぉ……!!!」

 

戦争は戦闘において戦士が互いの想いを掛けて戦い、その命を取り合う。

 

だが、ガルダーヤに存在する遺体達は罪もなく蹂躙された民間人だった。

 

戦場で感じる状況とはまるで質が違っていた。

 

プルはきゅっと更にうずくまり涙をすすった。

 

アディン達は申し訳無く感じつつも物資を調達してガルダーヤを後にした。

 

ガランシェールのブリッジ内にて、腕を組みながら前を見据えるヒイロ、アディン、オデルに対しジンネマンは過去を話す。

 

「……ガルダーヤの惨状……俺もフラストも他人事じゃあない……」

 

「え!?」

 

「するとキャプテン達も、連邦に……?失礼ではあるが、一体どのような事が?」

 

「……」

 

アディンは直ぐに反応し、オデルは話を聞き入ろうとし、ヒイロは視線だけをジンネマンに向ける。

 

「かつて俺やフラストの家があったコロニーへ、連邦が押し寄せる事件があった。子供も老若男女問わず虐殺された事件だ。その中に俺の妻と娘、フラストの両親もいた」

 

「な……!?!」

 

「っ……すまない、やはり失敬だったか!!!」

 

「いや、むしろあの惨状を見て来たのなら、それ以前にメテオ・ブレイクス・ヘルならば知っておいてもらいたい。その愚行は表向きには暴徒の鎮圧だったが、連邦の貯まったフラストレーションのガス抜きであることは紛れもない事実だった」

 

当時の惨状を思い浮かべるジンネマンとフラスト。

 

いつ思い出してもやりきれない想いをつのらせる。

 

「……妻のフィー、娘のマリー……フラストの両親……皆無差別に連邦の連中に殺された……訳も解らなかっただろうに……痛かったろうに……怖かったろうに……!!!」

 

次第にジンネマンもフラストも感情が押し寄せ、口許を噛み締めていた。

 

ジンネマンは懐にしまっている一枚の写真を取り出し、三人に見せた。

 

それは若がりしジンネマンと、娘・マリーの写真だった。

 

「……いつも忍ばせている、亡き娘・マリーとの今残る唯一の写真だ」

 

「マリー……!!」

 

それを聞いたヒイロは、その名を呟きながら連想する存在を過らせる。

 

「マリーダは、マリーダの名はその娘が……」

 

「あぁ……出会って引き取る時に……否、救け出した後に与えた名だ……歳も同世代だったからな……だからマリーダは部下としてではなく、娘として接している……つもりだ。未だに『お父さん』と呼ばれんがな……ニュータイプ部隊時の後遺症の為か『マスター』と呼ばれてしまっとる……」

 

すると、それを聞いたアディンは、思い出したかのようにプルの事をジンネマンに振った。

 

「キャプテン、でもプルにはちゃんと『パパ』って呼ばれてるじゃないっすか!!」

 

「む、むう……そ、それはそう……だな!!」

 

更にフラストが突っ込むように言う。

 

「キャプテン、声だけでもニヤケ始めたのわかりますよ!!ホントにキャプテンてば、内心嬉しくて、嬉しくてしょーがないのだだ漏れっすよ!!」

 

「やかましい!!お前は持ち場に集中してろぉ!!ったく~!!!」

 

そのやり取りにノルようにアディンが言う。

 

「キャプテン、顔赤いっすよ!!」

 

「お前もか!!ガンダム小僧!!」

 

「アディン!!所属は違えど目上に失礼だぞ!!」

 

「解ってるって、兄さん!!キャプテンもムキにならないでくださいってー……へへへへっ」

 

「アディン!!」

 

「いや、プルの話をしたら重い空気が晴れたからさ……話題一つに出ただけで明るいもん持って来てくれるコなんだなって思ってさ……」

 

そのアディンの言葉にはっとするジンネマン。

 

すると穏やかな笑みを浮かべながら言葉に溢す。

 

「確かにな……あの娘は明るいモノを感じさせてくれる……そのプルの片割れと思われるもう一人のプルと姉妹達はマリーダを残し、抗争に散った……だからこそ、今生きるマリーダとプルを守らねばならん!!彼女達の非道な運命は俺達でひん曲げなければな!!!」

 

ジンネマンのその言葉から、記録にあるプルシリーズについての事を思い出すGマイスターの三人。

 

彼女達は戦争の為に作られ、利用され理不尽かつ過酷な運命を歩んできた少女達だ。

 

すると、ヒイロはすっとその場を離れる。

 

「お!?どこ行くんだ?ヒイロ?」

 

アディンに呼び止められたヒイロは僅かに振り向きながら告げる。

 

その眼差しと雰囲気は確信に迫るモノを感じさせていた。

 

「機体の最終調整をする。プルの感覚が正しければ、マリーダはダカールかオーガスタにいるはずだ。それに俺の洞察でも確信に迫れる」

 

「え!?どういうことだ!?」

 

ヒイロが最後にマリーダと通信したのは、マリーダがダカールに攻め入る時であった。

 

情勢下を考慮すれば、ダカールに囚われているか、数少ないニュータイプ研究施設・オーガスタ研究所に高い可能性が置かれる。

 

「マリーダはダカールに攻め入る作戦を最後に消息を絶った。この情勢下だ。連邦軍に囚われている可能性が高い。無論、可能性の範囲を出ないがな。だが、行動することに意義がある……!!!いずれにせよ戦闘は必至だ。お前も時間があるなら自分の機体をチェックしておけ!!!」

 

「あ、ヒイロ!!!……いっちまいやがった……珍しくペラペラ喋ったな、あいつ。気合いも入ってたし……」

 

「誰も想う存在がかかればそうなるさ。キャプテン、改めて進路をダカール、オーガスタ方面にお願いします」

 

ジンネマンはにっと僅かに笑みをしながら答える。

 

「ふんっ……言われずとも既に向かっている。それにお願いしているのはむしろ我々だ。ガンダムの力が必要なんだよ……それにしても、復活したあのガンダムの小僧……いい目をしてやがる。まさに戦士の中の戦士の目だ」

 

「ヒイロですか?確かに……彼の凄さは俺達のメンバーの誰もが認める戦士です。俺自身も彼には負けてしまうくらいですよ」

 

「そうなのか……ふふっ、マリーダが信頼できる奴だ。その時点で認めざるをえんよ」

 

そのオデルとジンネマンの話を聞いていたフラストは、再びジンネマンをからかうかのように言う。

 

無論、長年の付き合いだから出る言葉だ。

 

「キャプテン、親ばか炸裂っすね!!!まさかヒイロをマリーダの婿に~なんて思っちゃいませんよね!?」

 

「ば、バカたれがぁ!!思っちゃいんわ!!!」

 

ジンネマンの表情は赤面しており、矛盾を隠せなかった。

 

その後、ヒイロは再度エアリーズ改のCPU調整をしながらマリーダの事を思い浮かべて呟く。

 

「マリーダ……」

 

ヒイロ自身、彼女との再開を切に望んでいた。

だが、彼らがこうしている今でもマリーダは、コードネーム・プルトゥエルブとしてオーガスタ研究所で利用され続けていた。

 

虚ろな瞳を浮かべながら、マリーダは隔離室に放置されていた。

 

ベントナの操り人形の実験体としてしか意味を許されない日々。

 

更にマーサ・ビスト・カーバインの名指しにより、急遽マスター変更措置の精神的操作を施され、精神崩壊寸前になっていた。

 

彼女の中からマスターの存在を消した今の状態にあっては、脱け殻に等しい状態であった。

 

監視カメラを通してベントナは卑屈に嗤いながら見ていた。

 

そしてアナハイムよりマーサがオーガスタに着任する一報が入り、ベントナ達は月の女帝の異名を持つ彼女を出迎える。

 

対面すると、ベントナはその相変わらずな卑屈嗤いを見せながらマーサを案内し始めた。

 

オーガスタ研究施設の通路を。歩きながらマーサがベントナに質問を投げかける。

 

「それで話していたプルトゥエルブはどんな具合なの?」

 

「は!!新なマスターをすりこむために感情をリセットさせております」

 

「いつでも私にすりこめるのね?」

 

「はい!!これからかできます!!!措置室にどうぞ!!!」

 

「私はわがままでせっかちなの……早く手に入れたくて来たわ……!!」

 

早歩きで歩き続けてきたマーサを措置室に招き入れるベントナ。

 

すると隔離室から拘束椅子に拘束されたマリーダの姿があった。

 

たらい回し形式に振り回されてきたマリーダに、マーサが歩み寄る。

 

「ふふふ……あなたがプルトゥエルブね……私があなたの新しいマスターになるのよ……」

 

衰弱したマリーダの喉を指先でさすり上げるマーサ。

 

くいっとマリーダの顎を上げさせると、にやっと嗤い、ベントナの方を見た。

 

「始めなさい」

 

そう言わんばかりの視線を受け、ベントナは頷いた。

 

「きゃあぁあああああっ!!!あああああっ!!!」

 

その僅か数分後、マリーダの悲鳴が再びオーガスタ研究所に響き渡る。

 

再度再調整をマーサの指示で実行し、マリーダの中にトラウマというトラウマを押し込めた催眠術を施したあげく、更なる新薬投与も実行された。

 

マリーダの脳内では、幾多の男に輪姦され続ける幻覚を見せられていた。

 

「あああああっ……あああああっ!!!」

 

「数値が既に危険域を越えてます!!!流石にこれ以上は本当に命が!!!!度重なる同じ類いの実験を受けているんです!!!」

 

「だめよ……これしきのコトを越えられない人形ならばいらないわ。私は彼女をものにしたいのだから。そしてなんとしてもラプラスの箱に関する情報が他に行くのを防がなければね……!!!失敗したらDNAでも採取して処分なさい!!!代わりはいくらでも作れるでしょう!!!」

 

「確かに……!!!」

 

マーサはどんな手段を持ち出し、意地でもラプラスの箱を封印する考えでいた。

 

その表情は妖艶かつ狂気に満ちていた。

 

ベントナは相変わらずの卑屈な笑みを浮かべ、もがき苦しむマリーダを傍観し続けた。

 

(そうだ……代わりは既に作ってある!!!新たなプルシリーズがな……!!!)

 

 

 

戦闘から離脱したゼクスとミスズはこの状況に迫る歴史の変動を予期しながら機体をネェル・アーガマへ向けていた。

 

「アクシズは恐らく地球へ向けて動き始めた。こうなればトレーズ閣下は黙ってはいられないはずだ。地球を愛する方だからな」

 

「オペレーション・プレアデスが早まるか!?」

 

「……ミスズ。我々は……」

 

ゼクスが何かを言いかけたその時、トールギスの回線通信のアラートが鳴り響いた。

 

「通信?っ……閣下!!?」

 

ゼクスが通信回線を開くと、通信モニターに表れたのはトレーズであった。

 

トレーズは、敢えてゼクスとミスズのみに通信できる回線上に通信を入れて来ていた。

 

「ゼクス……宇宙の日々はいかがかな?」

 

「すこぶる快適です。ですが、情勢はかんばしくありません」

 

「つい先ほど動き出したアクシズか。彼らの事だ。地球へ向けて動かしたのは火を見るよりも明らかだ」

 

「閣下もやはりご存じでしたか。するとやはりオペレーション・プレアデスは……」

 

「あぁ。それに伴い、オペレーション・プレアデスを早めることにする。何れにせよこの事態に対し、連邦の動きは後手に回る。彼らに任せていれば手遅れになる」

 

トレーズのその言葉はその通りに進んでおり、アクシズ宙域周辺に連邦の拠点の衛生やコロニーがあるにも関わらず、阻止せんと動いていたのはネェル・アーガマだけであった。

 

トレーズはこの期を狙い、オペレーション・プレアデスから速やかな対応に移るべく計画を一段階早める意向を示したのだ。

 

「現在、OZ地球・宇宙両全軍に通達して部隊の配置準備を極秘に展開させている。そして君には再び地球に戻るよう命ずる」

 

「地球へ!??」

 

「宇宙の時間を随分と短くしてしまってすまない。だが、是非とも配置に就いてもらいたいエリアがあるのだ。それは君の為でもある」

 

そのトレーズの言葉からゼクスは直ぐに察し、その察したキーワードを口にした。

 

「サンク……キングダム……!!!」

 

トレーズはふっと口許に笑みを浮かべながら、事を語り始めた。

 

「そうだ……かつて完全平和主義を危険視した連邦軍に滅ぼされた国、サンクキングダム。現在は連邦の勢力下にあり、唯一君の親族たる妹君も幽閉されている国でもあったな」

 

「ふふっ……閣下は全てお見通しというわけですか」

 

「ここからは私の独り言だ。ゼクス……否、ミリアルド。時が来た。君が求め続けてきた時がな……さぁ、我が友よ……道を切り開く時だ」

 

その言葉でトレーズは通信を切る。

 

ゼクスはトレーズのその言葉を聞き、自らの真意と照らし合わせ、しばらく静かにし続けた。

 

すると、通信を聞いていたミスズが一声被せる。

 

「ゼクス……トレーズ閣下の配慮を感じるな……」

 

「あぁ……来てくれるか?ミスズ」

 

「当たり前だ……当然なまでにサンクキングダムへ行くに決まっている。私もリゼル・トーラスで参戦させてもらう」

 

「すまない……恩に切る」

 

ゼクスは祖国たるサンクキングダムに赴く事を決意した。

 

そして、それを促したトレーズもまた、トールギスⅢを前に立つ。

 

「私も赴こう。友の価値ある戦場に……」

 

 

 

アクシズ攻防宙域

 

 

 

ネェル・アーガマがハイパーメガ粒子砲を発射する。

 

移動距離とハイパーメガ粒子のランデブーを計算されて発射された一撃は、射軸線上にいたネオジオンのMSや戦艦をことごとく消滅破砕させていく。

 

そして、アクシズの岩塊へとハイパーメガ粒子が直撃し、直撃部を抉りながら直進。

 

防衛に残っていたバウやドライセン、ヤクトドーガ、サイコドーガの部隊を破砕消滅させた。

 

更に継続するハイパーメガ粒子のビームの威力により、爆発。

 

アクシズは更に分断し、爆発光がアクシズを包む。

 

ケネス達の誰もが、アクシズ破砕を確信した。

 

だが、核パルスエンジンを装備した部分のアクシズは進む事を止めなかった。

 

「アクシズ、分断しました!!!しかし、依然後部の岩塊が前進していきます!!!」

 

「く……!!!ハイパーメガ粒子砲でも破壊し切れないのか!!!周辺の部隊は!?!?」

 

「一部のOZのMS部隊以外確認出来ません!!!」

 

「MSだけか……!!!通信を繋げろ!!!」

 

ケネスは残存するOZ、即ちトラント達への通信を図ろうとする。

 

だが、傍受したトラントは無視しながら残存するネオジオンのMSを駆逐してまわる。

 

「連邦からの通信……所詮遅かれ早かれ滅びる連中だ……」

 

通信に一人も出ないOZの対応に不満を抱きながら歯を食い縛るケネス。

 

その最中、ネェル・アーガマはある者からの通信を受諾する。

 

その配信者を知ったオペレーターは表情を変えてケネスに報告した。

 

「ケネス艦長!!で、電信通信を受けました!!!」

 

「電信!?こんな時に何処からだ!?!」

 

「び、ビスト財団より直々に……!!!」

 

「な!??ビスト財団だと!?!」

 

受けた電信通信を読んだケネスは、疑問と腑に落ちないモノを抱きながら、眉を潜めた。

 

「ビスト財団……!!!これは一体!?!く……ユニコーンガンダムが帰還次第、L1コロニー群に進路をとれ!!!くっ……アクシズを前にして……!!!」

 

連邦政府が盟約を結ぶビスト財団の絡む一件となれば、強制的に優先事項が傾く。

 

ケネスは口惜しさを呑み込み、ネェル・アーガマをビスト財団指定のコロニーへ向けて発進させた。

 

リディもまたその通信を受け、ユニコーンガンダムをネェル・アーガマへ向けていく。

 

大事の前の今は事を焦れば愚の骨頂だ。

 

焦り気味にもあったリディはミヒロや今後の事をトータルで考え、自らを落ち着かせる。

 

「焦るなリディ……今は流れに任せて刻を見極めろ……刻を……!!!」

 

自らに言い聞かせたリディは再びモニターに集中した。

 

 

 

その頃、ECHOES部隊からの攻撃を一身に受け止めていたシェンロンガンダムが反撃に動き出していた。

 

かっと目を見開いた五飛が気迫の咆哮をあげながら、シェンロンガンダムのビームグレイブを振り回す。

 

「覇ぁああああああああああっっ!!!」

 

 

 

フォフォフォフォフォフォッッッッ……

 

ザギガァギャアアアアアアアア!!!!

 

 

 

振り回しから解き放ったビームグレイブの強烈な反撃の凪ぎ払いが、ECHOESジェガン2機とECHOESロトを斬り飛ばした。

 

 

 

ジュシュガッッ、ザシュバッ、ギャガァアアアアア!!!

 

ドドドズガァアアアアア!!!

 

 

 

更に乱舞するシェンロンガンダムの唸るビームグレイブの斬撃が、ECHOESジェガンとECHOESロト2機を斬り砕いて破砕する。

 

「おおおおおおおおおっっ!!!」

 

 

ザズァガァアアアアアッ、ゴズゥバアアアアアア!!!

 

 

五飛は隊長機のコックピットを貫き、ことごとくECHOESの部隊を壊滅させた。

 

しかし、シェンロンガンダムもまた被弾のダメージを蓄積させていた。

 

外見は軽度であるが、GND合金の装甲の至る箇所が融解のへこみと焦げが確認できる。

 

疑似とはいえGNDドライヴのエネルギーはそれほどに強力であった。

 

周囲に散らばるECHOESジェガン、ECHOESロトの残骸を見ながら五飛は吐き捨てるように言った。

 

「ECHOESの力……確かにそれなりな力を感じたが、所詮はこんなものか!!!」

 

復活して以降、強気な姿勢は相変わらずではあるが、その気迫に機体がついていけない状況になりつつあるのは事実だ。

 

鳴り響くエラーがそれを物語る。

 

だが、五飛は些末なまでに捉えており、闘いの姿勢をやめることはない。

 

その時、コックピットを生かした状態で胸部を残して漂うECHOESジェガンを補足した。

 

マニピュレーターに装備されている光通信式ハッキングセンサーを起動させる。

 

シェンロンガンダムの指先より、ライトグリーンのレーザーをECHOESジェガンの胸部に当てた。

 

すると、シェンロンガンダムの機体内にECHOESの情報が次々と入り込んだ。

 

以前であれば、エージェントによって行われていた為その必要はなかったが、今の状況ではこれが一番の情報収集策だ。

 

データを入手した五飛は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながらシェンロンガンダムを加速させた。

 

五飛はその突き進むモニターの先にあるコロニーに、早速ECHOESの拠点を割り出し、目標を選定する。

 

「俺達の組織を潰した悪は、必ず叩き潰す!!!行くぞ那托!!!」

 

 

 

一方、L4を目指していたカトルにデュオとトロワが追い付く。

 

デュオがカトルのシャトルへ向け必死で呼び掛ける。

 

「カトル!!!聞こえてんのかぁ!?!お前一人で突っ走ってもどーにもなんねーんだよ!!!!」

 

「……うるさい」

 

「あぁ!?!聞こえねー!!!お前は何の為に闘ってきたんだ!?!コロニーの為に戦ってきてんだろ!?!」

 

「うるさい……ロニの為に……ロニの為に決まっているだろう!?!君にロニを奪われた気持ちが解るものか!?!?」

 

「……っ!!!カトルっ、てめーは色恋沙汰で行動してんのかぁ!?!!」

 

怒りの頂点にきたデュオは、シャトルのハッチをガンダムデスサイズの拳で破壊する。

 

「お前のそんな考えでゼロを動かされたらな、コロニーが滅んじまうってんだよ!!!どんな機体か知ってるんだろうが!??第一、サンドロックがあんだろ!!?」

 

「知ってるよ。サンドロックよりも強いゼロが必要なんだ……解るかい!?!?全てはロニの為さ!!!」

 

「てめー、ガンダムを何だと思って……!!!」

 

怒り任せに、シャトルのボデーを何度も鋼の拳で殴り付ける。

 

このデュオの行動にトロワは制止をかけ、ガンダムヘビーアームズでガンダムデスサイズを押さえ込む。

 

「デュオ!!お前は落ち着け!!!」

 

「止めるな、トロワ!!!!俺達はコロニーの為に戦っているはずだろうが!!!!カトルは、一人の女で狂ってんだぞ!??」

 

「カトルはカトルなりに傷ついている!!!俺達の中の誰よりも優しく純粋故に、悲しみを倍以上に背負いすぎたんだ!!!」

 

「カトルに肩持ってんじゃねーよ!!!」

 

「お前は感情的になり過ぎていると言いたいんだ!!!デュオ!!!」

 

いつになく声を荒げるトロワと激突するデュオ。

 

2機のガンダム同士がギリギリと取っ組み合いのように機体同士を拮抗させる。

 

やがて組み合いを弾き合い、殴り合いと蹴り合いを始める。

 

「おー、おー、おー!!!!やってくれんじゃねーか!!!」

 

ガンダムデスサイズの拳がガンダムヘビーアームズの胸部に入る。

 

「俺達が戦ってどうする!??デュオ!!!お前は頭を冷やせ!!!」

 

「うるせー!!!」

 

ガンダムデスサイズが、ガンダムヘビーアームズの頭部を殴った瞬間、トロワは、カウンターの一撃をガンダムデスサイズのコックピットハッチ部に浴びせた。

 

 

 

ドォガォオオオン!!!

 

 

 

「ごぉっ……!!!?」

 

そのカウンターの一撃は、デュオに直接的な衝撃を与えた。

 

デュオは気絶し、カトルは黙ったまま壊れたシャトルの中で宇宙を見つめ続けていた。

 

その中でトロワはカトルに語りかけた。

 

「俺達は戦ってはだめなんだと……以前のお前なら言っていただろうな。カトル……確かに力は必要だ。だが、無作為にがむしゃらに求めても駄目だ。今は体勢を整えることが大事だ……L4へ行くぞ。お前の故郷へ……」

 

「……」

 

トロワは、何も答えようとしないカトルのシャトルと、気絶したデュオのガンダムデスサイズをホールドターゲットに選定する。

 

ガンダムヘビーアームズは二つの機体を抱えると、L4コロニー群がある方面を目指し加速した。

 

主の変貌に悲しみを抱えるかのごとく、ガンダムサンドロックはシャトル内で眠り続けていた。

 

 

 

ビスト財団・ビスト邸

 

 

 

カーディアスとサイアムが現在における情勢を、リアルタイムで閲覧していた。

 

モニターには地球各地にて勃発する連邦とジオン残存軍の戦闘。

 

未だ続くネオジオン同士の内戦。

 

連邦軍やECHOESによるジオン関係者の弾圧。

 

地球圏が知る情報、知られざる情報が映し出されていた。

 

その中で一際目立つ存在があった。

 

デストロイモードのユニコーンガンダムの無双乱舞の映像だ。

 

カーディアスが手を後ろへ組みながらサイアムへと語る。

 

「やはり、目覚めたユニコーンは殺戮マシーンと化しました。この戦闘は正にニュータイプ・デストロイヤーの真髄を見せしめる程の力を振るいました」

 

「そして……互いの内戦か……ネオジオンはここから数年先に逼塞するであろう……」

 

「アクシズも再び地球へ向かい始め……更にはマーサがユニコーンの破壊を目論んでいるとの情報もありました」

 

カーディアスは、閲覧しながら歩き始め、打った策を語る。

 

「恐らくは箱の情報の漏洩を危惧しての事かと……その為、ユニコーンを再び我々の手元に戻す策を取りました。ラプラスの箱は、今後の時代に必須たるもの……現在、所属艦であるネェル・アーガマをこちらに向かわせるようにしました」

 

「ふぅ……真に相応しきニュータイプはいずこ……その日までユニコーンに真の目覚めはないな」

 

 

アクシズが尚も止まることなく地球を目指してより数日後。

 

遂にOZは、その素性を連邦軍の内側から爆発させる。

 

 

 

宇宙世紀0095・12月―――

 

 

 

「全地球圏のOZに告ぐ……これより『プレアデス星団は輝く』」

 

OZ総帥・トレーズ・クシュリナーダの側近であるディセット・オンズの『プレアデス星団は輝く』の発動暗号の下、グリニッジ標準時に合わせ、地球圏規模の一斉蜂起が開始された。

 

オペレーション・プレアデスの発動である。

 

それまで連邦に隣接する形で存在していたOZは、一気にその隣人を殺害するかのようにクーデターを連邦に叩きつける。

 

空陸より、エアリーズとリーオーの大部隊が攻め入る構図が地球全土たる全土の連邦軍基地に拡大していた。

 

数々のリーオー部隊が放つビームマシンガン、ビームライフル、ビームバズーカ、ドーバーガンの射撃が、ジムⅢ、ジェガン、スタークジェガン、リゼル、ロトの各主力機達が次々と攻撃され破壊させていく。

 

空中からもエアリーズ部隊によるレーザーチェーンガンやミサイルランチャーの流星弾雨が降り注ぎ、瞬く間にMS部隊を壊滅させていく。

 

突如の総攻撃に遭い、連邦兵の誰もがパニックに陥いっていた。

 

「OZの奇襲です!!!応戦しきれません!!!」

 

「これはどういうことだ!??OZは一体なんの意図があって……!!?本基地全機のMSを出撃させろぉ!!!!」

 

「り、了解……がぁあっっ!?!」

 

「何!!?ごぁあああっ!!!」

 

リーオー、エアリーズ部隊の総攻撃により、ジェガン、ジムⅢ部隊が次々と撃ち砕かれて爆発していく。

 

ビームマシンガン、バズーカ、ミサイルが激しく飛び交う中で応戦に遅れを生じさせられた連邦サイドは完膚無きまでに攻撃を受け続けていた。

 

側面や背後からリーオーのビームバズーカを食らい、ネモやジムⅡの機体がビームに抉られ爆発。

 

機体を仕留めた直後に、間髪入れずにレフトアームのビームマシンガンと共にビームバズーカを射撃し、ロト部隊を破砕させる。

 

「古き時代は今日を持って終わる!!全機に告ぐ!!!この基地の戦力全てを排除せよ!!!!」

 

別のポイントでは、リーオー部隊が軽快にビームマシンガンを射撃しながらジェガンやジムⅢ部隊に回り込み、次々に撃ち斃す。

 

「これより制圧行動を開始する!!!……!?!熱源……っがぁがぉっ!?!?」

 

その時、空中からリゼル部隊の射撃が注がれ、数機のリーオーが撃ち仕留められて爆発した。

 

この流れにのり、ジェガン、ジムⅢ部隊がロト部隊の砲撃を開始する。

 

しかし、その反撃も僅かな間であり、直ぐにリゼル部隊はエアリーズ部隊の多重射撃を食らい撃墜されていく。

 

撃墜された1機のリゼルが、MS格納庫に墜落。

 

激しく爆発を巻き起こし、数々の兵士達を巻き込む。

 

「反撃の隙すら与えるな!!!新たな時代の為に徹底して破壊する!!!」

 

レーザーチェーンガンの一斉射撃が、リゼル部隊を連続で撃墜する。

 

攻めに転じようとしていたジェガン、ジムⅢ、ロトの部隊も、地上面から大多数の砲撃を受け、連続破砕に朽ち果てていく。

 

リーオーキャノンの部隊が、射撃しながら攻め込むリーオー部隊を後方より支援し、ビームライフルを放ちつつビームキャノンとドーバーガンで砲撃していた。

 

更に空中よりエアリーズ部隊のレーザーチェーンガンの射撃とミサイルランチャーの射撃が注がれる。

 

更なる別の箇所では、アンクシャ部隊とエアリーズ部隊の空戦部隊同士が戦闘状況に展開していた。

 

ガルダ部隊に蜂のごとく群がるエアリーズの部隊。

 

戦況は機動力に長けるエアリーズ部隊が一枚も二枚も上手という現実を見せつけていた。

 

アンクシャ部隊が放つビーム射撃を躱しながら接近し、多方向かつ近距離からのレーザーチェーンガンの射撃で仕留めるエアリーズ部隊。

 

軽い機体に高い機動力を与えられているが為に成せる業だ。

 

無論、この混戦の中で撃ち仕留められ、撃墜されていくエアリーズもいたが、戦況そのものは終始OZのものであった。

 

やがて機首とエンジンに、エアリーズ部隊のミサイルランチャーを撃ち込まれたガルダは、墜落に身を委ね大空の中で爆発四散していった。

 

OZサイドは、反撃する連邦軍サイドのMS部隊に決して有利に換わるカードを渡さなかった。

 

このような光景は、地球全土にある連邦軍施設で巻き起こっていた。

 

ローナン議長をはじめとする連邦政府の要人達もまた、OZのターゲットになっていた。

 

宇宙空港、議事堂、そして連邦政府本部が置かれていたアデレートにもOZの部隊が展開し、リーオー、リーオーキャノンの地上部隊、エアリーズの空戦部隊が攻め込む。

 

友軍扱いであったOZの急襲に対処できず、ジェガンやジムⅢ、スタークジェガンの部隊は一方的な流星弾雨の下に駆逐の限りを尽くされる。

 

次々と撃ち斃されて爆発していく連邦軍のMS達。

 

襲撃するOZの部隊は、その中に巻き添えにするかたちで、要人のシャトルを破壊した。

 

そしてアデレートにおけるエアリーズ部隊の一斉攻撃が、アデレートの連邦政府の議事堂を直撃し、中にいたローナン議長達を巻き添えにする。

 

死の間際、ローナンはかつて幼いリディと遊んでいた記憶が過る。

 

「リディ……」

 

次の瞬間、崩壊するアデレートの議事堂の爆発が鮮やかに拡がった。

 

その瞬間、ローナンの死を感じ取ったかのような感覚をリディは覚えた。

 

「っ……!!!なんだ!?!今一瞬、嫌な感覚が!?!」

 

「どうしたのリディ!?!やっぱりOZへ亡命する事が、あなた自身抵抗が……!!!」

 

「いや、そうじゃない……俺はもう絶ち切れている。今のは違う感覚だった……嫌な予感がおこった時の……」

 

リディは憂いの視線を見つめるミヒロを見ると、目を閉じる。

 

(……今は彼女と生き残り、ゼクス特佐と合流する事が先決だ!!!そう……ミヒロと一緒に、俺を変えてくれた騎士のもとへ行く!!!!皆、許せっ!!!!)

 

再び目を見開いたリディは、ミヒロに囁いた。

 

「すまないミヒロ……今は何としても生き残ろうな……」

 

「リディ!!!」

 

リディはコックピットシステムを起動させる。

 

そして、立ち上がるディスプレイに「Δ」と「Χ」の記号が映し出された。

 

「ガンダムデルタカイ……リディ・マーセナス……出る!!!!」

 

グリップをスライドさせ、ミヒロを乗せたままウェイブライダー形体のガンダムデルタカイでネェル・アーガマを飛び出した。

 

既にネェル・アーガマは攻撃を受けており、ケネスはブリッジで歯を食い縛り続けていた。

 

(OZ……このような行為に出たか!!!恐らくは……同じ事が地球圏規模で起こっている!!!)

 

宇宙においては、宇宙仕様のリーオー部隊とリゼル・トーラスの部隊が各宙域で攻撃を仕掛けていく。

 

メガビームランチャーや、ビームライフルのえげつないまでの一斉ビーム射撃が、連邦サイドの部隊を壊滅へと追い込んでいく。

 

その戦闘で特筆すべきは、リゼル・トーラスに試験的に組み込まれたMDシステムだった。

 

人間の限界領域を超えるコントロールを可能にしたリゼル・トーラス部隊は、超高速でリゼルやジェガンを追撃する。

 

超高速で機体コントロールを演算処理し、メガビームランチャーによる寸分の狂いなき射撃で確実に破砕させる。

 

ジェガン部隊の反撃の射撃も空しく宇宙の中へ吸い込まれ、連続かつ正確な高出力ビームの射撃がジェガン達を瞬く間に破壊し尽くす。

 

クラップ級戦艦に襲いかかるリゼル・トーラスは、メガビームランチャーを駆使し、たった3機で対空射撃にあたっていたジェガン部隊を壊滅させ、クラップ級戦艦を轟沈へ導く。

 

そしてその戦果は、別の領域において更なる拡大を見せていた。

 

グリプス2をめぐる攻防戦である。

 

迫るアクシズを破壊する為に要となるポイントであった。

 

徹底展開するジェガン、スタークジェガン、リゼルのMS部隊。

 

ビームたるビームの射撃が宇宙空間を行き交い、爆発が幾多も発生する。

 

宇宙仕様のリーオー部隊は、ビームライフル、ビームバズーカ、ビームランチャーを駆使して、徹底的に攻撃を仕掛けていた。

 

リーオーは装備するオプションにより、性能の幅を効かせる事が可能なMSだ。

 

重火力ビーム兵器による射撃を駆使すれば瞬く間に戦況は有利となる。

 

だが、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムが相手では話が別のものとなるのは言うまでもない。

 

しかしながら、現状の彼らのガンダムは潜伏を余儀無くされている為に現時点の脅威ではなかった。

 

リーオー部隊が戦闘展開させる中へ、リゼル・トーラス部隊が飛び込んでいく。

 

プログラムに敵と認識させれた全ての連邦系のMSをターゲットとし、メガビームランチャーによる的確な一斉射撃を開始する。

 

突き進む幾多のメガビームのビーム線が、無数の爆発を発生させた。

 

リミッターカットされた高機動力は、ジェガン系や同じリゼル系の攻撃を全く受け付けない。

 

それまでの常識を超えたリゼル・トーラスの軌道と攻撃を前に、次々とジェガン部隊やリゼル部隊は駆逐され続けた。

 

その戦闘にグリプス2の防衛に撤するエイジャックスの姿があった。

 

ブライトは、妻のミライ、娘のチェーミン、そして行方不明の息子・ハサウェイの写真を手に取り覚悟を決めようとしていた。

 

「今回ばかりは……運が尽きたようだな……これだけの悪条件にOZのクーデター、着任したばかりのトライスター全滅、そしてガンダムがない状況……っ!!!!」

 

攻撃を受け、振動する艦内。

 

「右舷中破!!」

 

「対空射撃装置破損!!!」

 

「後方甲板中破!!!主砲も破壊されました!!!」

 

その時、ブリッジ正面に現れたリゼル・トーラスがメガビームランチャーを構える。

 

MD故、躊躇い無く間髪入れずに射撃した。

 

ブライトは目映い光りの中に、家族とアムロの面影を見た。

「ハサウェイ……アムロ……」

 

エイジャックスのブリッジはビームに抉られ爆発。

 

更に追い討ちをかけるかのごとく、メガビームランチャーの高出力ビームが艦体に多数撃ち込まれ、エイジャックスは凄まじい損傷を受け続けながら轟沈した。

 

 

 

再び地上。

 

元よりOZへ亡命しつつあったオーガスタ一味の所属であったキルヴァとロニは、他のOZ部隊同様に連邦軍に総攻撃を仕掛けていた。

 

キルヴァはΞガンダムのビームバスターとファンネルミサイルを駆使しながら、相変わらずな狂気をむき出しにする。

 

「キヒヒヒヒヒィィィッ!!!たまんねーなぁ!!!駆逐祭り!!!!」

 

つい先日まで友軍機に対し、何の抵抗もなく破壊の限りを尽くすキルヴァ。

 

リゼル部隊やジェガン部隊をビームバスターで撃墜させ、更にはメガビームサーベルを振るい、5機のジェガンを一気に斬り飛ばして見せた。

 

爆発するジェガン部隊の上に浮かび上がるΞガンダム。

 

炎に照らされるその姿は正に悪魔だった。

 

振り返りながらビームバスターを何発も撃ち、リゼルやアンクシャ部隊を連続で射ぬいて撃墜して見せる。

 

「ヒャハハハハハ~……!!!更にいくぜ!!!!」

 

モニター上に視認したネモやジムⅡ、ジムⅢの部隊に向かってΞガンダムを加速させるキルヴァ。

 

ビームバスターを撃ち込みながら何機かを撃破させると、飛び込んだ先にいたネモやジムⅡの部隊にメガビームサーベルを振るいまくり、斬撃の乱舞を巻き起こす。

 

「雑魚の滅多斬り祭りぃぃっ!!!!ヒャハハハハハー!!!!!」

 

キルヴァは感覚と感情に任せるままにMS部隊を蹂躙し、斬り飛ばしては叩き斬り、斬り飛ばしては叩き斬る。

 

Ξガンダムの悪魔的な破壊の前に、連邦の量産型MS達は成す術無く破砕されていった。

 

対し、ロニはビームバスターで射撃しつつも、同胞であった連邦軍に銃を向ける行為に疑問を抱いていた。

 

「同胞に銃を向ける……何とも……苦い行為に思える……同胞に……!!!?」

 

その時、「同胞に銃を~」という自らの言葉に違和感を覚えた。

 

その感覚こそが、これまでの自分の行為だということを彼女の潜在的なモノが訴えた瞬間だった。

 

「同胞……射撃……何かある感覚がする!?!くっ……!!!ぁぁあああああああっ!!!」

 

だがロニは、違和感を押さえ付けるようにして感覚をねじ伏せ、叫びながらビームバスターを撃ち放ち続けた。

 

そしてマーサの急激な予定変更と発案で、マーサとベントナ達は手配していたガルダに乗りながら、とある場所を目指していた。

 

散々な処置を施され続けていたマリーダもまた、機内に待機するカタチで、ガンダムバンシィのコックピット内に待機する。

 

そして、その後ろにはリベイクされた量産型キュベレイが13機配備されていた。

 

この光景を見たマーサは笑いながら自らを評価する。

 

「ふっふふふ……これ程効率よいNT-Dの実験は他に無いわ!!!発案した私自身を評価したいわ!!!うっふふふ!!!」

 

「私も貴女を称えますよ、ミズ・マーサ……しかしながら、更に私が達作ったプルクローンをプルトゥエルブとバンシィの生け贄にするとは!!!場所もまた……ダブリンときている……くっくく、悪趣味でございますなぁ……!!!」

 

「ベントナ……口は慎む事ね……」

 

「はっ……申し訳なくございます!!!」

 

 

 

混迷が地球圏を覆う中、ゼクスはサンクキングダムの上空にその身を存在させていた。

 

オペレーション・プレアデスの一環も踏まえての一世一代の奪還作戦である。

 

トールギスに自らの想いと覚悟を告げる。

 

「私はこの日の為にこの道を歩んで来た……トールギスよっ、今こそお前の力を借り、我が亡国を奪還してみせよう!!!」

 

一方、ヒイロ達はプルの感覚がマリーダを示す方角に進路を向けて向かっていた。

 

オデルはディックやトムラとガンダムジェミナス02の機体セッティングの再調整のやりとりをし、一方でのガランシェールのブリッジでは、その先を見据えながら虚空を見続けるヒイロ達の姿があった。

 

娘よろしくジンネマンに寄りかかるプルの頭をぽんぽんと撫でるジンネマン。

 

そのやり取りに一時だけ笑いながら再び真剣な眼差しで前を見るアディン。

そして腕組みしながらその鋭い眼差しの先に振り返りながら微笑むマリーダのイメージを見るヒイロがいた。

 

(マリーダ……囚われているのならば必ず助け出す……マリーダの為に行動する……それが今の俺がやるべき任務だ!!!)

 

ヒイロはその先に迫る覚悟に静かなる闘志を抱き続けた。

 

 

To Be Next Episode





発動したオペレーション・プレアデスは地球圏規模の激震を拡げていく。

だが、それは戦闘と言うよりも蹂躙に近いものであった。

リディはOZとして、新たなガンダム、デルタカイを駆って出撃し、アクシズの戦闘に介入する。

キルヴァ、ロニ、トラント、ミューラ、アレックスもまた各域で攻撃を押し進める。

そしてゼクスもまた、トレーズと共に連邦に占領された故国・サンクキングダムの奪還にこれまでの全てをかけて身を投じる。

地球圏に激動の時代の濁流が流れるその一方で、マーサとベントナの思うがままに翻弄されるマリーダは、ダブリンでNT-Dによる模擬戦という名の戦闘実験に加担してしまう。

次々と量産型キュベレイを破壊し、苦悩しながら理不尽な罪を重ねていくマリーダ。

遂にヒイロ達が迫る時が来たが、既にマリーダは絶望的な淵に立たされていた。

だが、極限の果てに奇跡の声が囁く。


次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

エピソード22 「サイレント・ヴォイス」


任務……了解っ!!



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エピソード22「サイレント・ヴォイス」

オペレーション・プレアデス発動。

 

それはかつての歴史に類を見ない、地球圏規模のクーデターだった。

 

連邦と背中合わせに存在していた秘密結社・OZ。

 

彼らが今、歴史の表舞台に立ち、地球連邦政府の支配下にあった情勢が変革させようとしていた。

 

地球圏各地における大規模な攻防。

 

否、電撃的奇襲であったがゆえに、ほぼ蹂躙制圧に等しかった。

 

世界各地の地球連邦軍基地においてそれらは巻き起こる。

 

「オペレーション発動!!プレアデスは輝いた!!!各機、全ての連邦戦力を掃討せよ!!!この戦闘は宇宙世紀を変革させる戦いである!!!」

 

リーオー部隊とエアリーズ部隊とが連携し、陸と空からの攻撃を慣行。

 

MS同士の直接戦闘や格納庫への攻撃で進撃し、その後方よりリーオーキャノンによる援護射撃が叩きこまれていく。

 

近距離からのビームマシンガン、上空からのレーザーチェーンガン、後方からのビームキャノンとドーバーガン。

 

それらの攻撃は、重圧的に連邦サイドを押し潰していく。

 

政権交代は火を見るよりも明らかであった。

 

だが、連邦特殊部隊・ECHOESやベントナ達のような連邦関係者、一部の連邦兵士は既にOZと盟約と結んでおり、彼等もまたクーデターを幇助し、かつての同胞に銃を向ける。

 

「キヒヒヒ!!!駆逐、駆逐、駆逐ぅ!!!」

 

キルヴァ駆るΞガンダムによる蹂躙が、中東の地球連邦軍基地に牙を向けていた。

 

ファンネルミサイルを飛び交わせながら縦横無尽にジムⅢやジムⅡ、ネモ部隊を破壊させながらビームバスターの射撃を押し進める。

 

キルヴァは快楽的なものを得るかのような狂気の笑みを浮かべ、連邦の機体群や施設を容赦なく破壊していく。

 

「たまらねー!!!たまらねー!!!キヒャヒャヒャヒャー!!!エクスターミネート!!!!」

 

狂気的に開眼しながら更なるファンネルミサイルを追加発射し、更に多くのMS達を破壊する。

 

その最中、四方からΞガンダムに攻め混むジェガン、スタークジェガン、リゼルの部隊。

 

いずれの機種も三小隊分の機体群だ。

 

持てる火力を放っての捨て身の特攻だった。

 

だが、キルヴァはこれ等をわざと受け止めた。

 

Ξガンダムを包む爆発。

 

常識的に破壊に至る攻撃量に、誰もが攻撃の手を緩めた。

 

だが、嘲笑うようにオールレンジからファンネルミサイルが次々と四方の機体群の一部に突き刺さり、弾頭諸とも爆砕する。

 

爆発を振り払いながらΞガンダムはほぼ無傷の姿を曝した。

 

キルヴァはニヤリと笑いながらビームバスターをかざし、次々と四方へ高出力ビームを叩き込み、爆砕の限りを与える。

 

「ひゃっはー!!!シネシネシネ死ねぇえええ!!!死ね死ね死ね死ねー死ねー!!!キヒャヒャヒャヒャー……シャアア!!!!」

 

そして、スタークジェガンの小隊に襲いかかり、メガビームサーベルのを斬撃を狂ったように与えた。

 

斬撃たる斬撃を与えられたスタークジェガン隊は、爆砕の果てに藻屑と化した。

 

キルヴァはその後、施設を限り無いまでに破壊し、文字通り一人残らず壊滅させた。

 

炎立ち込める基地の上空に浮遊するΞガンダムの中で、キルヴァは任務後の情事ばかりを考えていた。

 

「キヒヒ……たまんねー……またロニと交わるのが楽しみだ……!!!さーて、次々に殺し回りますかぁっ!!!」

 

一方のロニはペーネロペーで中東エリアで展開していた連邦軍部隊を蹂躙して回る。

 

ロニも空中でビームバスターを繰り返し与え続けながら、ファンネルミサイルを飛び交わせて破壊の限りを与える。

 

だが、キルヴァのような積極的な破壊ではないように見えていた。

 

「同胞に……同胞に……攻撃……くっ!!!」

 

確かにロニはジムⅢやジムⅡ、ネモといった機体群を破壊していく。

 

だが、破壊する毎に躊躇が重なる。

 

その中で、ジムⅢやジムⅡ、ネモの部隊か特攻の勢いで迫る。

 

「く、来るな!!!来るなぁ……!!!」

 

ロニは破れかぶれにファンネルミサイルを飛び交わせ、嵐のごとくジムⅢ部隊達を破砕させていく。

 

更にロニは苦悩を重ねる。

 

「ぁあぁっ……くっ!!!これ以上はぁ!!!!」

 

ロニの乱れた精神に呼応するようにファンネルミサイルは狂ったように飛び交い、周囲のMSをOZ部隊諸とも破壊してしまった。

 

「OZがっ……OZが狂わせる!!!」

 

ロニは突如としてOZ部隊に襲いかかり、メガビームサーベルでエアリーズ部隊を叩き斬って回り始めた。

 

轟々たる斬撃がエアリーズを容易く破壊し、爆砕させていく。

 

「な……!?!連邦からの亡命機が攻撃を?!?」

 

「くそっ、これだから強化人間は……がぁあああ!?!」

 

「お前達がっ!!!お前達がぁあああ!!!!」

 

メガビームサーベルの乱舞でかき乱されるロニの精神の中で更に歪みが生じていく。

 

本来のロニの記憶にあったジオン残存の記憶もフラッシュバックし始めた。

 

ロニの精神は更に揺さぶられ、エアリーズを一気に5機を薙ぎ払うと、ペーネロペーを加速させながら狂ったように離脱させた。

 

「あああぁあああっ!!!」

 

そして、ロニはペーネロペーを近隣のアラブ国に突入していく。

 

奇しくも彼女の故郷だった。

 

それは更にロニの精神を歪ませた。

 

「あっ―――がぁあああっ!!!ここは!?!ここはぁ!?!頭がっ―――くぅっ―――!!!」

 

不安定な軌道を描きながらペーネロペーは、アラブの街に墜落していった。

 

 

 

オペレーション・プレアデスが展開される状況下の中、特に連邦の拠点であるルナ2やコンペイ島、グリプス2、そして、ネオジオンと共に来たアクシズ攻防エリアでは激戦となっていた。

 

最早その光景は戦争そのものだ。

 

特にアクシズに関しては地球への落下を絶対阻止させるべくOZは徹底して部隊を派遣していた。

 

OZ部隊のリーオーとリゼル・トーラスの混合部隊が一斉に火力を連邦サイドへぶつけていく。

 

バスターランチャーとメガビームランチャーの火力応酬で攻め混み、量産機の火力とは言いがたいまでにジェガンやリゼルクラスのMS達が圧倒され、砕け散っていく。

 

またあるエリアでは、ECHOES部隊のジェスタやジェガン、ロトの部隊が奇襲をしかけ、ゲリラ戦法で連邦のMS達を圧倒する。

 

更にこの日の為に、ECHOES全ての機体に疑似GNDドライヴを採用し、ガンダム然とした機動力と火力で蹂躙を実現させていた。

 

その情勢の最中、リディは新たな機体ガンダムデルタカイで駆け抜け、アクシズ攻防に介入するOZ部隊に通信をとっていた。

 

「こちら、元・地球連邦軍リディ・マーセナス、並びにミヒロ・オイワッケン!!ゼクス特佐からの亡命入隊了承を得ている!!体制立て直しのために貴艦に着艦許可を得たい!!亡命入隊証明書情報、送る!!!」

 

証明書情報を送信し、直ぐに着艦許可を得るに至る。

 

ゼクスのお墨付きは心強かった。

 

「情報を確認した。なお貴公達の階級は特尉とする。リディ・マーセナス、ミヒロ・オイワッケン両特尉の着艦を許可する」

 

「了解!!ミヒロ……いきなり激戦だ。これから着艦するOZの高速戦闘艦にいてくれ」

 

「うん。でもそうするしかないでしょ。正直、備えていたって言っても右も左もわかんないし……」

「まぁ……な」

 

リディはミヒロを高速戦闘艦に着任させて直ぐに出撃していく。

 

「さぁ……ガンダムデルタカイ……OZとしての初陣だ……お前の力、試させてもらうぞ!!!」

 

リディは、ビームや砲弾が飛び交うアクシズ攻防宙域を目指し、ガンダムデルタカイを戦火に飛び込ませていった。

 

ミヒロは高速戦闘艦の待機室からそのガンダムデルタカイの姿を、窓に手をかざして見守った。

 

リディは機体を突っ込ませ、最近までは同胞だった連邦サイドのMS群に機首部のシールドバスターソードで砕き散らす。

 

その惰性に任せ、機体を高速で変形させると、主兵装のメガバスターを構え放つ。

 

安定された高出力ビーム渦流を連発させ、ギラズールやバウ、ドライセン、ガ・ゾウム、ジムⅢ、ジェガン

を破壊する。

 

更にシールドバスターソードに装備されたハイメガカノンを撃ち飛ばす。

 

ず太い高出力ビームが一直線に放たれ、ジェガンやリゼル、ギラドーガ、ガザD、リゼルを吹き飛ばして見せた。

 

リディは、自らがコントロールしているとはいえ、奮うその火力に次元の違いさえも感じさせられていた。

 

「これが……デルタカイ……!!!」

 

撃ち飛ばすメガバスターのビーム渦流は、出力は規定値に押さえられているが、ウィングガンダムのバスターライフル然としたビームと破壊力有する。

 

リディはメガバスターで射撃しながらネオジオンサイドに機体を突っ込ませた。

 

そしてドーベンウルフ目掛け、シールドバスターソードを突き刺す。

 

惰性に加えたガンダニュウム合金性のシールドバスターソードは容易くドーベンウルフを砕き散らす。

 

ドーベンウルフが刺さったままハイメガカノンを撃ち飛ばした。

 

爆砕するドーベンウルフから飛び出したガンダムデルタカイは、二つの主兵装を駆使して、更なる攻撃を加えた。

 

ガンダムデルタカイの攻撃は一気に爆発の華を咲き乱れさせていく。

 

「凄まじい……!!!これはまるで……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムだ!!!」

 

それもそのはずである。

 

ガンダムデルタカイはドクターJ達の息がかかった機体であり、中身は完全なまでにヒイロ達のガンダムと同等のガンダムとなっていた。

 

無論、装甲はガンダニュム合金・GND装甲であり、ジェネレータもGNDドライヴである。

 

ガンダムデルタカイの凄まじい火力が連邦サイドとネオジオンサイドのMS群を破砕させていった。

 

その光景を遠方の宙域からフロンタル達が監視していた。

 

その行為はフロンタルが言うコロニー共栄圏理念が地球を切り捨てるかのように、同胞のネオジオンを切り捨てているかのような行為だった。

 

「彼らには気の毒ではあるが、相手がOZでは致し方無い……しかも地球圏規模のクーデターだそうだ。事実上ネオジオンは壊滅したに等しい」

 

「そんな……では、我々は!?!」

 

「アンジェロ、案ずる事はない。我々は事実上ネオジオンの核たるものだ。我々が生きている限り復活は成る。今は偲びがたき時を耐える時だ。体制を立て直すと言ったはずだ」

 

「はっ!!」

 

事実、フロンタル曰く、地球圏で展開していたフロンタル派と反フロンタル派の両ネオジオン勢力は、ここへ来て展開されたOZのオペレーション・プレアデスにより、壊滅に貧していた。

 

MD部隊は、ネオジオンを含めたOZ所属以外の全てのMSを標的にしていた。

 

徹底してOZによる地球圏掌握を図るためだ。

 

宇宙の各地でネオジオンのMS部隊や艦隊がリゼル・トーラスの駆逐対照にされ、次々と破砕されていった。

 

「我々しばらく歴史の表舞台から退き、あるものを探す」

 

「あるもの……それは一体!??」

 

「ラプラスの箱……と呼ばれるモノだ。連邦が崩壊する今、無意味にも思えるがいずれOZも動くやも知れん」

 

ラプラスの箱と呼ばれる存在にフロンタルは意表を動かし、それをてにいる行動をはじめていた。

 

 

グリプス2宙域

 

 

 

ジェガン、スタークジェガン、リゼル、ジムⅢの部隊が総戦力で駆け抜け、防戦的な射撃を慣行する。

 

そこに高出力ビーム群が撃ち込まれ、一気にその機体群が爆砕された。

 

リゼル・トーラスのオートマチックな戦闘方式による射撃だ。

 

放たれるメガビームランチャーのビーム群は、寸分の狂いなく、連邦のMS達を破壊していく。

 

「なんだ、この黒いリゼルの機動力は!?!有り得ん!!!」

 

「攻撃、全く中りません!!!逆に黒いリゼルは凄まじい命中精度です!!!」

 

「攻めるに他ならん!!スタークジェガン隊と連携して撃破する!!!」

 

ジェガン部隊もまたスタークジェガン部隊と連携して反撃に出るが、ビームやミサイル群は空しくリゼル・トーラスに躱されていった。

 

彼等もリゼル・トーラスに更なる反撃を重ねようとするが、逆にリゼルトーラスの高出力ビームが一斉に放たれ、ジェガン部隊の機体群へと注がれる。

 

「ダメです!!やはり全く中りません……がぁあああっ!!!」

 

「一体……一体なんなんなのだ!?!このリゼル共……ぁがぁあっ!!!」

 

「くそっ、くそっ、くそっ、くっ……ごはぁっう!!!」

 

一撃で各々の装甲が抉り吹き飛ばされ、爆砕。

 

演算処理の判断で、リゼル・トーラス部隊は更なるビームを放ち、爆発の華を拡大していった。

 

鮮やかなまでの爆発が生まれ消えるその向こうより、3機の高速機影が接近する。

 

それはアスクレプオス、メリクリウス、ヴァイエイトであった。

 

「MDでおおよその突破口が出来上がった。コロニーレーザーが放たれる前に一気にいくぞ!!!コントロール艦を叩く!!!」

 

「了解デース!!レッドメリクリウス、アレックス行きやーす!!!」

 

「粛正!!!粛正!!!ブルーエンジェル、ミューラ!!!粛正開始!!!」

ヴァイエイトのビームカノンが撃ち放たれ、ビーム渦流がジェガンやリゼル、ジムⅢの部隊をかき消して突き進む。

 

ミューラは狂喜の笑みを浮かべ、ビームカノンを何度も射撃し続ける。

 

それを皮切り合図にアスクレプオスとメリクリウスが突撃し、パイソンビームランチャーとビームガンを射撃しながら次々とジムⅢやジェガンの機体群を簡単に破壊していく。

 

その間にヴァイエイトは次のビーム渦流を撃ち放ち、

GNDエネルギーのビームの脅威を連邦サイドにあたえながらクラップ級を3隻を轟沈。

 

3機のデタラメにも思えるようなビーム射撃が、展開するジムⅢを、ジェガンを、スタークジェガンを、リゼルを無造作に破壊して攻め込んでいく。

 

「俺達は運がいい!!後ろには次世代の抑止力が控えている!!!」

 

トラントはパイソンクローでジェガンを砕き散らしながら誇らしげにそう言った。

 

アレックスはクラッシュシールドでリゼルとスタークジェガン部隊を斬り裂き続けながらトラントに問う。

 

「なんすか!?!次世代って!?!」

 

ミューラもまたビームカノンを振り回しながら問う。

 

何気なしに攻撃しているミューラであるが、その破壊規模はこれまでの戦闘の常識を逸脱させるほどのものだ。

 

ジェガン、リゼル、ジムⅢ、クラップ級艦と言った連邦の主戦力部隊が次々にビーム渦流に吹き飛ばされ爆砕していく。

 

ミューラは任務うんぬんよりも破壊そのものを楽しんでいた。

 

「新兵器かなんかすか!?!それっ……てぇ!!!ひゃっほー!!!」

 

「なんだ、知らなかったのか?俺の兄貴が設計したOZ宇宙軍・宇宙要塞バルジさ。まぁ……グリプス2はっ……払い箱ってわけだ」

スタークジェガンの胸部を破砕しながらトラントは不敵に笑った。

 

 

 

北欧圏・サンクキングダム

 

 

 

オペレーション・プレアデスが発動し、ゼクスは運命的かつ必然的な戦いに身を投じていた。

 

「おぉおおお!!!」

 

亡国の奪還に燃えるゼクスは、いつになく熱く声を上げて攻め混みをかける。

 

乱射とも思えるようなドーバーガンの射撃が唸る。

 

だが、その射撃は狂いなくリゼルやアンクシャを次々と撃ち墜としていく。

 

サンクキングダムの空を翔るトールギスの様は、まさしくゼクスの異名・ライトニング・バロンであった。

 

ミスズもリゼル・トーラスを駆り、エアリーズ部隊を率いて攻め混む。

 

「亡国の奪還だ……いつになく熱いなゼクス……エアリーズ各機!!このまま進撃する!!」

 

リゼル・トーラスの放つメガビームランチャーがリゼル部隊を個々に吹き飛ばす。

 

それに続くように、エアリーズ部隊がレーザーチェーンガンと同時にミサイルランチャーを放つ。

 

それらの攻撃群は瞬く間にリゼル部隊とアンクシャ部隊を数で圧倒した。

 

「私に居間こそ……勝利を見せてくれ!!!トールギス!!!」

 

ゼクスの気迫に呼応するようにドーバーガンを駆使して、リゼル部隊やアンクシャ部隊を攻撃するトールギス。

 

ドーバーガンの凄まじい破壊力で、リゼルやアンクシャの機体群は激しく爆砕して砕け散る。

 

更に滑空しながらガンキャノンDとガンタンクⅡ、ネモⅢの砲撃部隊を砕き散らして駆け抜ける。

 

「サンクキングダム……我が亡国……今解放するぞ!!!」

 

砲撃部隊を更なるドーバーガンの射撃で破壊すると滑空しながら再び舞い上がり、リゼル部隊に突貫。

 

次々にドーバーガンで砕き散らし続け、ビームサーベルを取り出す。

 

高速で斬撃を食らわせ、次々に斬りかかった。

 

凄まじい速さの斬撃にリゼル部隊とアンクシャ部隊は瞬く間に爆砕し、爆発光と化していった。

 

そして、もう1機のトールギス、トールギスⅢの機体も駆け抜ける。

 

総帥たるトレーズが直々に最前線で戦っていた。

 

無論、奮う武装はビームソードである。

 

卓越した剣捌きの高速突きがリゼルをズタズタに破砕させる。

 

「この戦いは、これからの歴史の要となる」

 

爆発するリゼルから別のリゼルへ加速し、すれ違い際に斬り払い、また加速を乗せて次のリゼルを斬り断つ。

 

「宇宙世紀の歴史は……ここで流れを変えねばならない……」

 

更に加速を乗せて高速軌道でリゼル部隊へ斬り込むトールギスⅢ。

 

ビームソードの斬撃の乱舞に加え、ヒートロッドによる裂断がリゼルやアンクシャを断ち斬る。

 

ガンダニュウム性のムチが高速の斬撃を実現させる兵器。

 

トールギスⅢの斬撃主体の補助兵装として非常に利に叶っていた。

 

立て一直線に唐竹斬撃をアンクシャに食らわし、その爆発から飛び立つように加速上昇すると、ヒートロッドで2機のリゼルを斬り断つトールギスⅢ。

 

そして、更なる回転をかけた薙斬撃が、アンクシャを斬り飛ばした。

 

「ゼクス……君の価値ある戦いに貢献できる事が誇りに思う……」

 

トールギスⅢに斬り込んできた1機のアンクシャのビームサーベルの斬撃を捌き、華麗な連続突きを与え爆砕させた。

 

その爆発を越えて一気に滑空すると、トールギスⅢは地上から砲撃弾幕を展開させていたガンタンクⅡやロト、ネモⅢの機体群にヒートロッドで襲いかかる。

 

電光石火のごとき猛進で機体群を次々に切断させていく。

 

地上砲撃部隊は次々と爆砕していく。

 

そして、再び舞い上がる際にガンタンクⅡをビームソードで切断させた。

 

更に空中から攻撃をかけてきたリゼル部隊に突撃し、ビームソードの凄まじくも華麗な剣捌きで斬撃し続けた。

 

「宇宙世紀はここから変革する……故にこの戦いは地球圏の人々が刮目せねばならない………ディセット、現在状況はどうか?」

 

トレーズは撃破しきると、通信をディセットに繋ぎ現在状況を聞き出す。

 

「はっ現在、地球規模で既に八割の制圧が、宇宙では六割を掌握している状況です!!」

 

「そうか。更なる健闘を祈る。引き続き指揮を頼む」

 

「は!!サンクキングダムはいかなる状況で?」

 

「直に終わる……」

 

そう言いながらサンクキングダム城に突っ込むトールギスを視線で追った。

 

「おぉおおおお!!!」

 

モニター上に指令のダイゴ・オネゲルが映り、ゼクスは視線を決して離さなかった。

 

「トールギス……!!!ゼクスなのかぁああっっ!?!?時代!!!時代なのだぁああああっ、時代が私―――!!!」

 

「ダイゴ・オネゲルっっ―――覚悟!!!」

 

次の瞬間、ビームサーベルを突き立てたトールギスが、オネゲルのいた指令室諸ともサンクキングダム城に突っ込み、爆砕破壊を巻き起こした。

 

 

 

L1コロニー群のとあるコロニーの連邦軍基地。

 

基地内において、ECHOES部隊の無慈悲なクーデターが展開されていた。

 

ECHOES仕様のジェガン、ロト、そして、ジェスタが展開し、数分前まで同胞であった全ての連邦関係者を殺戮する。

 

ECHOES仕様のMSには全て疑似GNDドライヴが搭載されており、ガンダム的な脅威を示していた。

 

ECHOESジェガンのビームライフル、ECHOESロトのビームキャノン、ECHOESジェスタのビームライフルが一気に連邦仕様のMS達を駆逐していく。

 

管制塔、格納庫、宿舎、男女問わず兵士達への殺戮が続く。

 

出撃するジェガンやジムⅢであるが、直ぐ様ビームに撃ち抜かれ爆砕する。

 

1機のスタークジェガンがビームバズーカを放って突貫する。

 

不意を突かれ、ECHOESジェガンとECHOESロトが撃破された。

 

だが、次の瞬間にビームサーベルを抜いたECHOESジェスタが斬り込み、スタークジェガンを容易く切断させた。

 

外においてもECHOES部隊の蹂躙が展開。

 

連邦サイドのMSが次々にECHOESジェスタとECHOESジェガンにより撃破されていった。

 

「ダグザ中佐!!基地を掃討・制圧完了しました!!」

 

「了解した。後は指定されたエリアでOZと合流する!!」

 

 

 

地球圏規模で発動されたOZによるオペレーション・プレアデス。

 

ルナ2やコンペイ島においても大規模な艦隊戦が展開され、ビーム射撃やミサイル射撃を飛び交わせる激戦を極めさせる。

 

そして、どの戦場において共通することは、MDリゼル・トーラスとリーオー部隊の火力、そして電撃的な奇襲によりOZが優勢であることであった。

 

脅威的なる絶対的なMDの戦闘力。

 

火力強化されたリーオー。

 

疑似GNDドライヴを搭載したECHOESのMS部隊。

 

リゼル・トーラスと強化リーオー部隊、ECHOES部隊が、連邦軍を地球圏規模で壊滅へ追い込むのは最早時間の問題であった。

 

この状況は地球圏規模で報道され、全てのメディアが取り上げた。

 

L4コロニー群にあるウィナー家のコロニーに身を隠すデュオ達もテレビでこの状況を見ていた。

 

「やりやがったな……OZの連中!!!」

 

「あぁ。間違いなく歴史が変わるな」

 

「くそっ!!!皮肉なもんだぜ!!!俺達が初めにやろうとしていた連邦潰しを最終標的のOZにやられちまうなんてよ!!!今すぐぶっ潰しにかかりたいぜ!!!」

 

「あぁ。だが、今は堪え忍ぶべきだ。俺達は万全ではない」

 

「わかっちゃいるが……やりきれねぇぜ!!!カトルもあぁだしよ!!!」

 

「カトルは優しく純粋すぎる反面、えげつない現実にもろい……だが、だからこそあいつは今を越えるべきなんだ。無論、俺達もな。」

 

「……あんときは俺も頭に血が上ってエキサイトしちまった……今考えりゃ、えげつない現実の上に俺達の組織も崩壊しちまったんだ。カトルがヒスるのも無理もねー……っくそっ、突破口はどこだ!?!」

 

「少なくとも今動くのは明らかに不利になる……耐えるしかない……俺達のガンダムとな」

 

ガンダムデスサイズ、ガンダムヘビーアームズ、ガンダムサンドロックの3機がウィナー家のコロニーラボに格納されていた。

 

修復は済んではいるが、この状況下の為に安易に出撃できずにいた。

 

その奥側にはウィングガンダムの改良機と思われる機体も格納されている。

 

ウィングガンダムリベイク。

 

ウィングガンダム自爆の一報を受け、ウィナー家のラボにて建造されていたのだ。

 

更にその奥には厳重なハッチが確認できた。

 

そのハッチには「ZERO」と表記されている。

 

カトルが使用を試みていた禁断のガンダムが奥に眠っているのだ。

 

そしてカトルは、その疲弊した心身の療養をしており、姉に付き添われながらラボ内を散歩を踏まえて廻っていた。

 

ロニを奪われ、汚れた現実と自分達が追い込まれた今の状況に人格を一時的に崩壊したカトルだったが、今現在は安定を取り戻しているようでもあった。

 

カトルをそのまま女性にし、髪をのばした感じのメガネの姉・エナ・ラバーバ・ウィナーと共に歩く。

 

彼女は数多くいるカトルの姉の一人であった。

 

「あなたは背負い過ぎてきた……今はここでしっかり休みなさい。何度も言ってるけど」

 

「うん……ありがとう、姉さん」

 

「……来たときに比べ、大分落ち着けてきたわね。一時はどうなるかと本当に気が気じゃなかった。そういえばカトル、ZERO……使おうとしたんだって?」

 

「うん。それしかロニを何とかする方法が思いつかなかったんだ。絶対な力しか……」

 

するとエナは、立ち止まってカトルの両肩に手を添えた。

 

「カトル。あれは絶対に乗ってはだめ。ヒイロ君と五飛君以外は適性が認められていないシステムなの……とても危険なの……」

 

「でも……ロニを、ロニを奪ったガンダムが強すぎるんだ!!!同時に憎しみも考えただけで溢れてしまうよ……!!!」

 

「だからこそ尚更危険なの!!!他の方法を考えて!!!でなきゃ、カトルはっ……カトルはっ……!!!」

 

涙ぐんできたエナは、帰ってきた直後に発狂しながら狂ってしまっていた変わり果てたカトルを思い出していた。

 

無論、姉として弟のそんな姿は見たくはない。

 

更にエナはカトルを抱き寄せて説得した。

 

「もっと自分とサンドロックを信じて!!あなたは強いコなんだから!!」

 

「姉さん……!!!」

 

 

 

カトルがエナに抱き寄せられている頃、崩壊したサンクキングダム城の地下で奇しくもまた一つの兄妹が抱き合っていた。

 

仮面を外したゼクスと実の妹・リリーナ・ピースクラフトである。

 

彼女は長きに渡り、連邦軍に幽閉されていたのだ。

 

ゼクスは感極まる腕でリリーナを抱き締め、謝罪する。

 

「長年……待たせてしまって本当にすまなかった!!!リリーナ!!!よくぞ無事でいてくれた!!!」

 

「ミリアルドお兄様……!!!」

 

「もう連邦に幽閉されることはない……!!!これからはOZを通し、国を再建させていく。本当に一人にしてすまなかった……」

 

妹との再会を果たしたゼクスを陰から見守るミスズの姿もあった。

 

腕組みをしながら笑みを浮かべる。

 

一方のリリーナはゼクスの言葉に首を振り、後ろに手をかざした。

 

「いいえ……一人ではありません、お兄様。ボディーガードの彼と出会い、ずっと私(わたくし)を守って下さいました」

 

ゼクスはその先に視線を送ると、目を疑った。

 

「な―――!??」

 

そこにはヒイロと瓜二つの少年がいたのだ。

 

「バカな……!!?ヒイロ・ユイ……!!!!」

 

ゼクスは驚愕と疑心と悦びを混ぜ合わせた感覚にとらわれた。

 

 

 

ダブリン近辺上空

 

 

 

世界が混迷に混迷を重ねる中、ヒイロ達はダカール基地からクシャトリヤを奪還し、遂にプルが示したマリーダのいる場所に迫る。

奇しくもそこはかつて、もう一人のプルがプルツーと

殺しあってしまった場所であった。

 

今生きるプルもこの場所にただならない感覚を感じていた。

 

「っ―――!!!なんかこの場所……ものすごく意味深い感じがするっ―――でもっ、同時に悲しい……なんで!??」

 

同じプル同士が共鳴するどころか死闘をしてしまった悲劇の地。

 

出撃前から様子がおかしくなっていたプルを気遣い、アディンはキュベレイMk-Ⅱへと通信を入れた。

 

「プル!!出撃前だけど大丈夫か?いや、なんかプルがマリーダがいるって言ってた場所に近づくにつれて様子が変わってきたからよー……」

 

何気に照れくさそうにして言うアディンに、プルは綻んだ。

 

「ありがとう、アディン。あたし自身は大丈夫だよ……ただ、悲しいんだ」

 

「悲しい!?」

 

「うん……あと、嫌な感じがしてならないんだよ」

 

「嫌な感じ……か。ニュータイプじゃなきゃわかんねー感覚なんだろな。とにかく無理に出撃するなよ。できれば俺達で安全確保してから出撃してくれよ、プル!!」

 

「わかった。マリーダが帰ってきたら宇宙へ帰るんだよね?」

 

「あぁ!!世間はクリスマス……どころじゃねーけどぱぁっと何か帰って来た記念やってやりてーな!!」

 

「クリスマスか……あたし、クリスマス初めてかも」

 

「そっか……プル、ずっとオーガスタの施設にいたんだもんな。しゃっ!!決定!!宇宙戻ったらクリパしてやんよ!!だから絶対に成功させてやるぜ!!!」

 

アディンのその言葉達にプルは微笑んだ。

 

「うん♪」

 

一方でヒイロは自身が駈る機体の最終チェックを進める。

 

「全ての武装良好。機体システムチェック異常なし……」

 

ヒイロはモニターに映るダブリンのデータに目をやり、迫るマリーダとの距離を想う。

 

「マリーダ……」

 

 

 

その頃、マリーダはダブリンのコロニー落とし跡において同じプルの遺伝子を持った少女達と模擬戦闘をしていた。

 

だが、模擬戦とは名ばかりの実質の殺し合いだった。

 

アームドファングのビームサーベルを発動させながら、滅多斬りに斬撃しては取り付き、滅多斬りにしては取り付いていく。

 

斬撃された3機の量産型キュベレイが次々に爆発。

 

次の瞬間には、次に取り付いた量産型キュベレイのレフトアームを掴み砕きながらもぎ取る。

 

そして、胸部にアームドバスターを突き刺し、零距離でビーム渦流を撃ち放った。

 

その量産型キュベレイはかき消されるように機体を吹き飛ばされて爆砕する。

 

プルトゥエルブはその行為に違和感を示す事無く、憎悪を押し出してアームドバスターを放つ操作をした。

 

「あぁあああぁっ!!!ニュータイプはっ敵ぃ!!!」

 

プルトゥエルブはベントナ達からの洗脳のままに量産型キュベレイを撃破していく。

 

量産型キュベレイもまたファンネルとビームキャノンで攻撃を仕掛けるが、Iフィールドによってビームが相殺される。

 

「あああぁっ!!!!死ねっっ!!!!」

 

次の瞬間、攻め込んできた量産型キュベレイの胸部を、振るいかざしたアームドファングが砕き潰す。

 

更にアームドバスターをかざし、向かい来る量産型キュベレイ達に撃ち放つ。

 

直進するビーム渦流を躱す量産型キュベレイ達であるが、掠めたエネルギー奔流により撃破されていった。

 

「ニュータイプはっ敵!!!」

 

プルトゥエルブは、量産型キュベレイを睨み付けると、アームドバスターを連発して放ち続け、更に量産型キュベレイを破壊する。

 

ガンダムバンシィの戦闘力は、ユニコーンガンダムの兄弟機だけあり、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムに迫る。

 

アームドバスターを放ち続けたガンダムバンシィに対し、距離を置いた量産型キュベレイ達は一斉にファンネルを展開させた。

 

無数のファンネルが、ガンダムバンシィを囲むように飛び交い、一斉にビーム射撃を放つ。

 

だが、装備されたIフィールドが無限にビームを遮断。

 

更にプルトゥエルブは憎悪的な感情を増幅させ、NT-Dの真骨頂であるファンネルジャックを実行。

 

飛び交っていたファンネルが、量産型キュベレイ達に牙を向け、一斉にビーム射撃を連続で放ち始めた。

 

それは次々に量産型キュベレイを撃ち抜き、破裂させるかのように機体を爆破させていく。

 

「いやあぁ―――!!!」

 

「あぁあああっっ―――!!!」

 

「うぁあああぁ……いやっ―――!!!」

 

「きゃああああ!!!」

 

「くぁああうっ!!!」

 

「うぐぅあっ―――!!!」

 

その瞬間、今までに聞こえてこなかったプルクローン達の悲鳴、断末魔が幾つも重なってプルトゥエルブの脳裏に入り込んできた。

 

「な!!?こ、声……声がっ……うぐぅっ……!!!おのれっ!!!惑わすなぁ!!!!」

 

プルトゥエルブは、入り込むプルクローン達の声をねじ伏せるようにガンダムバンシィを残り3機の量産型キュベレイ達に突撃させる。

 

爪を立たせたアームドファングをグワッとかざし、一気に量産型キュベレイの胸部へ叩き込む。

 

胸部をひしゃげさせられて吹っ飛ぶ量産型キュベレイ。

 

「し……死にたく……ない」

 

「うぐぅっ!!!黙れ!!!!」

 

プルトゥエルブの感情に、ジャックしたファンネルが反応し、吹っ飛ばした量産型キュベレイをビームで蜂の巣にし破砕する。

 

「きゃああああっ!!!」

 

「あぐっ―――黙れと言ってるっっ!!!」

 

更に量産型キュベレイに襲いかかったガンダムバンシィは、アームドファングで胸部を握り掴むと、そのパワーで握り潰しバキバキに破壊。

 

止めにアームドファングセンター部のビームサーベルを発動させ、量産型キュベレイのコックピットを焼き貫く。

 

「いやぁああああ―――!!!」

 

プルクローンの叫びをプルトゥエルブに訴え聞かせるように量産型キュベレイが爆発四散した。

 

ガルダ内ではベントナがそのデータ計測し、更にマーサが監視する。

 

「素晴らしいバンシィの戦闘データです!!これはいいデータが……!!!ユニコーンよりいいデータが取れましたよ!!!」

 

「あ、そう……ふふふっ」

 

「ミズ・マーサ?」

 

「戦闘データうんぬんより……同じプルシリーズ同士の殺し合いがたまらないわ……特に同じプルに手をかけた罪を重ね続ける様がね!!!」

 

「そ、それは、それは!!!お気に召されたようでなにより!!!プルクローンはまだまだ作れます!!!」

 

「言い変えれば……いえ、別の観点から見ると……プルトゥエルブを支配し、使役している事が恍惚なのよ!!!あはははっ!!!!さぁ、あと少し、とっとと殺してしまいなさい!!!」

 

マーサは最早当初の目的であり、自らが掲げていた「オペレーション・プレアデス前にユニコーンガンダムを破壊する」という任務を忘れ、私欲の限りにとらわれていた。

 

今はマリーダという先の大戦の強化人間を我が物にし、彼女を使役する事が何よりの悦びとなっていた。

 

マーサは不敵に嗤う。

 

「はい……マスター……あうぐぅっ!?!ダメ……気持ちがっ、悪い!!!できない!!!声がっ……!!!」

 

「プルトゥエルブ?何今さら躊躇しているの?ワケわからない言葉はいらないマスター命令よ!!!」

 

「ぅううっ……くぁああうあっ……うぁあああぁあ!!!」

 

錯乱し始めたプルトゥエルブは、残りの量産型キュベレイを次々に斬り裂き、同じプルの遺伝子を持った姉妹をことごとく葬り去った。

 

プルトゥエルブとしてマーサとベントナに人格も運命も翻弄され弄ばれ続ける。

 

更に同じプルの遺伝子を持つ妹達の命を強制的奪わされ、その罪を背負わされる。

 

戦闘終了後、プルトゥエルブは疲弊しきった表情で途方に暮れていた。

 

罪が、悲しみが、忠誠心が、敵意が、後悔が、様々な感情・感覚が彼女に凄まじく去来する。

 

そして、全てを吐き出すように声にならない声で発狂し、悶え苦しむ。

 

ガンダムバンシィそのものが牢獄ともいえるように、巨大な負の感覚にマリーダを閉じ込めていた。

 

 

それから間も無くし、ヒイロ達はガルダを捕捉した。

 

ガランシェール全体に待ちわびていた瞬間の高揚感と緊迫する緊張感が同時に立ち込める。

 

その中でジンネマンは、マリーダ救出を目前にした言葉を出撃前に述べた。

 

「これまでの長きに渡り、我々はマリーダの消息が掴めなんだ。だが、今。マリーダの姉であるプルと、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムのパイロットをメンバーに加え、事が動き出そうとしている!!プルがこの先にいるガルダにマリーダを感じた!!!確かに理屈的な裏付けはない。しかし!!ここはニュータイプであるプルの感覚を尊重し、マリーダの居場所を突き止めたと捉えている!!!連邦の連中だ……考えたくはないが、強化が加えられてしまっている事も前提にする……そのネガティブを減し曲げる諸君らの全身全霊の健闘を祈る!!!」

 

出撃間際、ヒイロにジンネマンが直接通信を入れる。

 

「ヒイロ。改めて思うが本当にすまない……お前達を遠回りさせてしまって。本当は直ぐにでも宇宙へ帰って同胞の敵を討ちたいだろ?」

「ジンネマンが謝る必要はない。元々交渉契約の利害の一致とも聞いている。遠回りでも何でもない。それに、状況の流れもあるだろうがこれは俺達の意思だ。特に俺のな……」

 

「ヒイロ……マリーダをどう想っている?」

 

「……俺は物心ついた時から戦いの環境にいた。マリーダは同じ境遇を感じさせてくれる存在だ……今は敢えて多くは語らない……語る時になったら語ってやる」

 

「ふっ……そうか……マリーダを頼む」

 

「任務了解」

 

ガランシェールからエアリーズカスタムがブースターを唸らせて出撃し、ガンダムジェミナス・バーニアン02もバーニアンユニットを爆破然とした加速をかけて出撃する。

 

「ガルダには恐らくかなりの戦力があるはずだ。まずはそれらを叩く。そこからマリーダの救出に出る。ヒイロは敵機を叩きつつ、内部突入の行動に移行していってくれ。状況を安定させたらプルとヒイロでマリーダを状況に応じて説得してくれ。だが……このOZのクーデターが行われている中で堂々と飛んでいるのも何か引っ掛かる」

 

「オデル。それは重要ではない。やつらの都合に過ぎん。敵に変わりはない。叩くだけだ」

 

「それもそうだな……中は頼んだぞ!!ヒイロ!!」

 

「了解した」

 

アディンは出撃前にヒイロ同様にジンネマンから言葉を貰っていた。

 

「かつて、もう一人のプルはこの地で命を散らした。彼女の姉か妹かは今ではわからんが……アディン!!!今いるプルを絶対に死なせるな!!!頼んだぞ!!!」

 

「任してくれ!!!そして、俺がキメる!!!」

 

「あっちをキメたらお前を殺し上げるがな」

 

「は!?!?何言ってんの、キャプテン!!?」

 

「ははは!!緊張感ほぐす愛敬だ!!ガンダム小僧!!」

 

ジンネマンの気遣いも感じながらアディンはプルにも通信を入れる。

 

「ヘヘ……びびるぜ……よっしゃ!!そんじゃあ、邪魔な連中は俺達で掃除するからよ、プル!!マリーダが強化されちまってたら説得頼むぜ。もしそうならマリーダの心開けるのは直接行けるプルとヒイロなんだからさ」

 

「うん。マリーダは今すごく苦しんでる……戦いさえできないくらい……悲しみが、苦しみがマリーダを……!!!アディン、必ずキメてきてね!!!」

 

プルはサムズアップでアディンを送り出す。

 

アディンも強気な笑みでサムズアップし、愛機を出撃させた。

 

「おうよ!!!アディン・バーネット、ガンダムジェミナス・バーニアン01、キメるぜぇ!!!」

 

バーニアンユニット全開でガランシェールからかっ翔んでいくガンダムジェミナス・バーニアン01。

 

先に出撃したヒイロとオデルに一気に合流し、ブースター調整しながらアディンも平行飛行に転じた。

 

2機のガンダムジェミナスとエアリーズカスタムが翔ぶ。

 

ガランシェールからコロニーの戦士達が飛び出し、マリーダの救出へ向かうその後ろ姿に、ジンネマンはこれ以上ない心強さを感じ、重ねて頼んだ。

 

「頼んだぞ……コロニーの戦士諸君……!!!」

 

ガルダ内に警報が鳴り響く。

 

突然の事態に、ベントナやマーサをはじめとする機内クルー達があわてふためく。

 

「何事!?!」

 

「一体、何がどうした!??」

 

「ミズ・マーサ、ドクター・ベントナ!!所属不明機が接近中とのことです!!しかも……ガンダムだとの報告が!!!」

 

「所属不明機のガンダム!?!Ξやペーネロペーは中東だ……一体!?!」

 

すると、テンパるベントナを口許で笑い、マーサが言う。

 

「所属不明機……我々が知るガンダム以外のガンダム……彼らしかないじゃない!!!」

 

「まさか……メテオ……・ブレイクス・ヘル!!!」

 

直ぐ様マーサは目の色を変えて、プルトゥエルブの出撃を指示した。

 

「プルトゥエルブを出しなさい!!!」

 

「それが……先の模擬戦を境に容態を急変させまして、現在緊急療養を!!!戦闘は無理です!!!」

 

「ガンダムが来たというのに!!!くっ……使えない小娘ね!!!」

 

プルトゥエルブとして無理矢理戦闘を継続させられたマリーダは、精神異常をきたした上に、それが引き金となったのかこれまでの実験の負担の反動が彼女を苦しませていた。

 

「あがっ……うぁあああぁっ!!いやっ、いやっ、殺したくない……かはっ……苦しい……かなしぃっ、いやいやいやぁああ!!!」

 

言葉で言い表し切れない程にマリーダは滅茶苦茶にされてしまっていた。

 

そこへ凄まじい形相をしたマーサが現れた。

 

腹黒さを滲ませたように、マリーダを見て嗤う。

 

ガルダのハッチが開き、OZ識別所属となったアンクシャやリゼルの部隊が一斉に出撃。

 

その攻撃対象は、2機のガンダムジェミナス・バーニアンとエアリーズカスタム。

 

「物量でモノを言わせようとする魂胆が丸見えだな」

 

「力押しか……ま、俺達のガンダムに意味ないけどな!!!ガチにキメるぜ!!!」

 

「……いくぞ!!!」

 

僅かに先行されたビーム射撃群へ向かうように3機が突撃した。

 

ガンダムジェミナス・バーニアン02は高速でビーム群を躱しながら、アクセラレートライフルを撃ち放ち、アンクシャを個々に破砕させていく。

 

高出力ビームが、アンクシャの機体群の装甲を簡単に吹き飛ばし、爆砕させる。

 

オデルはその名の通りのバーニアユニットを駆使して、加速、回避、旋回と機体の機動力という機動力を見せつけてみせる。

 

「ガルダ級は流石だな。MSの数は伊達に積んでいない!!」

 

空飛ぶ円盤よろしく、次々と旋回しながらアンクシャ部隊が回り込む。

 

ガンダムジェミナス・バーニアン02は、2、3機を通常出力で叩き潰すように撃ち砕くと、銃口にチャージを開始し、そのまま撃ち放つ。

 

放たれたビーム渦流が、アンクシャ3機を吹き飛ばし破砕。

 

直撃を免れ、掠めた機体群はプラズマ奔流の余波が爆砕へ導かれた。

 

バーニア出力の強弱をかけながらガンダムジェミナス・バーニアン02は縦横無尽に駆け抜け、アクセラレートライフルの通常射撃や近距離射撃、チャージショット、連発射撃等を組合せ、アンクシャの機体達を、駆逐させる。

 

「いくぜぇえええっ!!!」

 

そして、気合いと気迫を全開にしたアディンのガンダムジェミナス・バーニアン01が、バーニアを駆使させたアクセラレートライフルの乱れ撃ちを叩き込む。

 

アディンの狙いの大半はアンクシャに直撃し、外しても掠めた際のエネルギー奔流でアンクシャを爆砕させてみせる。

 

リゼル部隊も飛び出し、ビーム射撃を慣行する。

 

「キメて、キメて、キメてぇええっ―――キメまくってやらぁああああ!!!」

 

乱れ撃ちからのチャージショット。

 

次々とリゼルがビームに撃たれ爆砕したあげく、4機がまとめてビーム渦流に砕き飛ばされ爆発する。

 

「このまま一気に突っ込む……!!!」

 

更にアンクシャとリゼル、更にはアンクシャに乗ったジェガン部隊までがガルダから出撃した。

 

ビーム射撃主体の戦闘が展開され始める中で、アンクシャが変形と合わせてビームサーベルでガンダムジェミナス・バーニアン01に斬りかかる。

 

「あぶねーな!!!っのやろっ!!!」

 

斬撃を躱すと、アディンは至近距離からアクセラレートライフルを撃ち放ってそのアンクシャを破壊し、ビームソードに装備を切り替えた。

 

「そっちがその気なら……いくぜぇっ!!!」

 

一気に加速したガンダムジェミナス・バーニアン01は、縦横無尽に飛び交い、斬撃という斬撃を浴びせる。

 

容易く切断されていくアンクシャとリゼルの機体達は瞬く間に連続爆発を空中に咲かせる。

 

そして、ビーム射撃に徹するアンクシャに搭乗するジェガンを手当たり次第の流れに任せ、斬り飛ばし、叩き斬り、斬り砕く。

 

「おおおおぉ!!!」

 

更に向かい来る連邦サイドのMS部隊に一瞬のPXを発動させ、超高速の加速をかけるアディン。

 

一瞬で走る一閃の斬撃が一気にはしり、リゼル4機、アンクシャ4機、ジェガン4機が爆発四散する。

 

更に牽制の流れに乗り、再びアクセラレートライフルをガルダに見舞う。

そして、バーニアンユニットのバーストブーストで一気に離脱する。

 

ヒイロのエアリーズカスタムもまた、ビーム射撃を自転回避やバーニアの加減測で躱し、機体を更に加速させる。

 

「狙いが甘すぎる……!!!」

 

エアリーズカスタムのコックピット内のヒイロは、余裕の表情でエアリーズカスタムを巧みに操る。

 

機体を加速させながら旋回の軌道を描いてガルダを周回し、アンクシャ部隊の背後を獲る。

 

ヒイロは無言で敵機群をロック・オン。

 

そのトリガーを操作し、ミサイルランチャーを一気に撃ち放つ。

 

ミサイル群は次々とアンクシャに追い付き、木っ端微塵に爆砕させる。

 

コックピット内に弾数ゼロのアラートが鳴り響くと、ヒイロはミサイルランチャーユニットをパージさせ、プロトバスターライフルを次の射撃手段に選定した。

 

「プロトバスターライフル、ロック・オン……低出力で十分だ。破壊する」

 

モニターに捉えている残りのアンクシャ部隊をロック・オンし、低出力で撃つ。

 

プロトバスターライフルの銃口から撃ち放たれた高出力ビームが、突風の如く1機のアンクシャを吹き飛ばし、更なるプラズマ奔流によるエネルギーでビーム周囲のアンクシャを次々に誘爆した。

 

低出力でもビームマグナムと同等の威力を誇るのだ。

 

そして、ヒイロはエアリーズカスタムをメインのビームガトリングのビーム射撃をガルダに見舞い続け、外壁と対空機銃を破壊した。

 

内部の格納庫内部にその爆発が巻き起こり、ベントナやマーサ達に爆煙の爆風圧が襲う。

 

「うぁあああぁああああああ!!!」

 

「突撃する……!!!」

 

ヒイロはエアリーズカスタムを撃ち破った外壁穴へ突入させた。

 

モニターの映像システムを総動員させて、ガルダ機内をサーチする。

 

「マリーダ!!どこだ!?!マリーダ!!!どこにいる!!!」

 

感情が前のめりになる感覚の中、ヒイロは奥行き側にセンサー視点を合わせる。

 

その時だった。

 

 

 

ガダァギャアアアア!!!

 

 

 

「がっっ―――ぐぁあああっ!??」

 

エアリーズカスタムのボディーを掴み捕らえたガンダムバンシィが、一気にガルダ格納庫の壁にエアリーズカスタムを叩きつける。

 

一瞬にして機体各部が損傷し、ヒイロ自身も自爆の傷のダメージが襲った。

 

「がっ……くっ!!!が、ガンダムだと!??ぐっ……!!!」

 

更にエアリーズカスタムの機体を持ち上げ、幾度も叩きつける。

 

ヒイロは凄まじい衝撃の後、機体のコックピットハッチを開け、ハイパーマグネットワイヤーガンを放った。

 

スイッチの電源を入れると超強力の磁力を発生させる工作用アイテムの一つだ。

 

マグネットワイヤーガンはガッチリとガンダムバンシィの装甲を捕らえた。

 

ヒイロはコックピットから飛び出し、飛び降りながらワイヤーガンを巻く。

 

迫る装甲を蹴り飛ばし、ワイヤーを巻きながらガンダムバンシィのコックピットハッチに取り付いた。

 

『虫けらめ……去れ!!!私の近くに来るなぁ!!!!』

 

響く外部スピーカで、直ぐにヒイロはマリーダと解った。

 

「この黒いガンダム……マリーダなのか!?!マリーダなら答えてくれ!!!」

 

『マリーダじゃない!!!!プルトゥエルブだぁああああ!!!私はっ、私はぁあああああ!!!』

 

錯乱したかのように、ガンダムバンシィは滅茶苦茶にアームドファングでエアリーズカスタムを殴り始めた。

 

エアリーズカスタムの機体は一瞬にしてひしゃげ、凄まじい損壊に至る。

 

更にガルダ内部にアームドファングを殴り付け、ビームサーベルを発動させて格納庫の壁を焼灼。

 

ヒイロは暴れ狂うガンダムバンシィにしがみつきながら、マリーダが洗脳と強化をされてしまっていることを悟る。

 

「マリーダ!!やはり強化と洗脳を……!!!くっ……!!!」

 

「どうしたというの!?!」

 

「だから言ったのです、ミズ・マーサ!!!今のプルトゥエルブはまともに機能できんのです!!!」

 

「本当に使えない小娘ね!!!!」

 

「今は身の安全が最優先です!!」

 

プルトゥエルブの暴走によるガルダ内部の混乱と破壊に、マーサとベントナ達は最早プルトゥエルブは手を付けられないとし、脱出を図る行動に移った。

 

暴れ馬さながらに暴れるガンダムバンシィに、ヒイロはテコでも動かない勢いでしがみつく。

 

最早自爆の痛みなど関係はなかった。

 

目の前にいるマリーダの説得と救出。

 

ヒイロはプルトゥエルブと名乗るマリーダの意思に添い、自らを意識させようと試みる。

 

「ならばプルトゥエルブ!!!俺の声を聞け!!!俺はヒイロ・ユイだ!!!俺とお前は既に出会っている!!!俺の声と名は記憶にあるはずだ……!!!」

 

「ヒイロ……ユイ……!!!」

 

「俺だけではない。フラスト、ギルボア、トムラ……そして、ジンネマンとプル!!!本当のお前の愛機クシャトリヤも俺達は奪還した!!!お前が帰るべき所は、ガランシェールだ!!!」

 

ヒイロはマリーダに彼女の最もな関わりがある名を言い聞かせた。

 

「っ……ジンネマン……プル!?!私はプルトゥエルブ!!!私は……私は……!!!」

 

「思い出してくれ……マリーダ!!!ガランシェールクルー達を!!!共に戦った俺達Gマイスターを!!!姉であるプルを!!!マリーダ・クルス!!!」

 

「くっうっ……マリーダ・クルス……!!!」

 

マリーダの中でプルトゥエルブとマリーダ・クルスの人格がせめぎ合う。

 

同時にこれまでのヒイロやプル、ジンネマンとの記憶も、プルトゥエルブの人格に抗うようにマリーダに断片的なイメージをおくる。

 

「マスターに姉さん……ヒイロ……うっくっ!!!」

 

「マリーダ……ハッチを開けてくれ」

 

僅かに先行した本来の記憶が、ガンダムバンシィのコックピットハッチを開けさせた。

 

ヒイロは直ぐ様マリーダの前に身を乗りだし、面と向かって叫んだ。

 

「マリーダ!!!もう一度向き合ってくれ!!!俺がわかるか!?!」

 

「誰だ?貴様は……っっはっ、ヒイロ……うくっ、近づくな……!!!ヒイロっ……!!!あっ……ぐっ、うっ……かはっ……ヒイロっ、誰だ!?!」

 

マリーダは去来する記憶に悶えあがく。

 

身を裂かれる激痛と苦痛を覚え、疲弊させていく。

 

目の前に苦しみもがくマリーダがいる。

 

ヒイロは耐えかね、去来する全ての感情をマリーダに放った。

 

「くっ……マリーダァァァっ!!!」

 

ヒイロはマリーダを思いっきり抱き締めた。

 

「マリーダ!!帰って来い!!!マリーダ……俺はっ!!!」

 

ヒイロはマリーダの被る専用メットを外し、一瞬視線を合わせると、感情のままに行動した。

 

ヒイロとマリーダの唇が重なった。

 

それはヒイロの恋愛感情と任務完遂の使命感とが拍車をかけた行動だった。

 

止まる二人の時間。

 

ヒイロと交わすキスが引き金となるかのようにマリーダの記憶が一気に開放されていく。

 

(ヒイロ……!!!)

 

(マリーダ……!!!)

 

手を重ね合わせ、ヒイロからの熱い想いを感じながら、マリーダは駆け抜ける風のような感覚で記憶を取り戻していく。

 

ベントナから受けた汚れの接吻などではない、純粋で力強い熱い想いが籠ったキス。

 

だが、マリーダには妹達を手にかけてしまった凄まじい負の重荷が背負わされている。

 

それを自覚したマリーダはキスをやめ、崩れるようにシートに背を伏せた。

 

「マリーダ!?!」

 

「私は……私は妹達を殺してしまった!!!殺してしまったんだ!!!ここ、ダブリンで!!!ヒイロ、私を殺してくれ!!!」

 

「何だと!?!」

 

突然、陰と陽が入れ替わると、マリーダはプルトゥエルブの人格でしてしまった罪を涙を流して叫んだ。

 

「模擬戦などと言われ……妹達の乗るキュベレイと戦わされた……多くいた妹達を!!!妹達を殺してしまった……!!!私は許されていいはずがない!!!」

 

「っ……できるかっ!!!任務でも絶対に俺はマリーダを殺さない!!!」

 

「ダメだ!!!殺してくれ!!!!私はニュータイプを敵としてっ……!!!」

 

『プルトゥエルブ!!!我々は脱出する!!!お前も来い!!!お前のマスターも、ミズ・マーサも言っている!!!プルトゥエルブ!!!』

 

突然飛び込むベントナの通信が、再びマリーダの人格を後退させてしまった。

 

「あぐぅっ、私はっ、私はプルトゥエルブ!!!ニュータイプっ殺す!!!ニュータイプ、ガンダムっ敵!!!」

 

「また記憶が!?!マリーダ、戻れ!!!」

 

『プルトゥエルブ!!プルトゥエルブ!!おい!!!実験人形がシカトするな!!!プルトゥエルブ!!!』

 

「ちっ!!!」

 

連呼するベントナのその言葉で、怒りにかられたヒイロは、ハンドガンで計器類やモニターに銃弾を叩きこんだ。

 

「私はニュータイプを駆逐するプルトゥエルブだ……違う……マリ……否……プルトゥエルブ……だっ」

 

「マリーダっ!!!」

 

「うるさい!!!うるさい、うるさい、うるさい!!!!私なんかっ、消してやる!!!!」

 

奇声めきながら叫び、マリーダは機体の側面にビームサーベルを押し当てた。

 

 

 

「自分をいじめちゃダメ!!!マリーダ!!!」

 

 

 

その瞬間に突然プルの声が飛び込む。

 

ヒイロが振り返ると、そこにはプルのキュベレイMk-Ⅱがいた。

 

「プル……!!!」

 

「自分を粗末にしないで、マリーダ!!それにここは、ダブリンは、あたし達にとって特別なトコ!!!今こうして巡りあえて、再会できてるのは偶然じゃないんだよ!!!マリーダ!!!」

 

キュベレイMk-Ⅱが、ガンダムバンシィに手をかざして胸部に押し当てた。

 

「帰ろう、マリーダ!!!」

 

 

 

 

『そう……帰るべきトコに帰って。あなた達はそれができる……』

 

 

 

プルとマリーダはその瞬間、もう一人のプルの声を聞いた。

 

そしてエメラルドのような幻想的な光りが拡がった。

 

 

 

 

拡がるエメラルドの光の空間で、マリーダとプルはこのダブリンでかつて起きたプルとプルツーの闘いをタイムリープするかのように体感する。

 

「これは……なんだ!?!」

 

「わかる……もう一人のあたしの記憶。ここで……当時プルとプルツーは……」

 

サイコガンダムMk-ⅡとキュベレイMk-Ⅱの死闘、更にはZZガンダムを交えての戦闘。

 

その記憶の中でZZガンダムを庇い、リフレクタービットの集中放火を受けて爆破するキュベレイMk-Ⅱの姿が過る。

 

『確かにこの時、あたし自身プルツーに殺意を持ってた。でも、あたしは死んで初めてプルツーのコト知った……』

 

『そして幾度かプルツーの心に触れたりした……プルツーの本当の居場所に戻すため』

 

クインマンサを駆り、第一次ネオジオン抗争最終局面へ身を投じていくプルツーの記憶。

 

プルとマリーダに、その時のプルツーの苦悩が伝わる。

 

「っ……!!!」

 

「ぅっ―――姉さんも、またマシンに苦しまされ……!!!」

 

度重なる戦闘とニュータイプ能力の負担が重なり、強化人間の身体を蝕む。

 

その感覚がマリーダとプルに伝わる。

 

更にはゲーマルクと戦闘した当時のプルの姉妹達の記憶と感覚も過る。

 

まだ11、2歳の少女達が過酷な戦場に駆り出され、理不尽に戦場に散っていく。

 

『こんな悲しいコトは……もう繰り返さないでいいんだよ……もう一度言わせてね。帰るべき場所へ帰ろう、マリーダ』

 

思念体のプルがマリーダに手をさしのべる。

 

せめぎあう記憶を抱えながら、マリーダはその手を掴んだ。

 

「っ―――!!!私は―――っ!!!?」

 

この時、マリーダの中でせめぎ混ざっていたマリーダの記憶がプルトゥエルブの洗脳を完全に一掃した。

 

プルトゥエルブのどす黒い洗脳を一掃させるかのように、本来のマリーダの清んだ記憶が洗い流していく。

 

だが、同時に新たな多くの妹達を手にかけてしまった罪悪感も押し寄せる。

 

つい先程の感覚だ。

 

「あ、あぁっ―――!!!私は!!!私はぁっ―――!!!」

 

頭を抱えながら悲鳴を交えたように叫び、絶句。

 

精神的な苦しさに何度も頭を振るう。

 

だが、そんなマリーダを思念体のプルが優しく抱いた。

 

『いいんだよ、マリーダ。貴方は悪くない。何も悪くない……あなたは洗脳され、意思を支配されてしまっていたんだから……大丈夫……もう、マリーダは本来のマリーダに戻れたから。それにみんなも解ってるから……』

 

「えっ……!?!みんな……」

 

マリーダはゆっくりと涙を伝わせる顔を上げて、光の周りを見る。

 

すると、口許に笑みを浮かべた姉妹達がいた。

 

各々がマリーダにうなずく。

 

感極まったマリーダは、更に涙を止めどなく流しながら顔を手で覆い声にならない声で泣いた。

 

そして今生きるプルも寄り添い、優しくマリーダに言う。

 

「マリーダ……帰ろ?みんなが、パパが、ヒイロが待ってるよ……」

 

『生きて……あたし達の分まで……まだ旅はこれからだよ……そしていつか、木星に旅立ったプルツーに再会してあげて……あの子、今でも頑張ってるから』

 

「……うん。必ず」

 

更なる光が目映く彼女達を包括した。

 

 

 

「マリーダ!!」

 

 

 

再び現実の世界観がマリーダの意識に訪れる。

 

ゆっくりとまぶたを明けるとそこにはガンダムバンシィのコックピット内でマリーダを呼ぶヒイロがいた。

 

今の不思議な瞬間はニュータイプだけが感応できたようで、ヒイロは全くその感応を味わった様子はなかった。

 

「マリーダ!!マリーダ!!!帰って来い!!!」

 

疲弊しきったマリーダを前に、ヒイロはいつになく感情的になっていた。

 

マリーダはそんなヒイロの頬に手をかざした。

 

「ヒイロ……心配を……かけてしまったな……」

 

「マリーダ!!!そうかっ……ようやく戻ったか!!!マリーダ!!!」

 

ヒイロは思わず脱力し、その勢いでマリーダの胸元に顔を埋めそうになってしまう。

 

マリーダは自らヒイロの両肩を受け止め、更に抱き締めた。

 

「ヒイロ……ありがとう……」

 

「マリーダ……」

 

再び顔を向け合うと、ヒイロとマリーダは再びキスを交わした。

 

その後、ヒイロとマリーダはキュベレイMk-Ⅱの手のひらに乗りながらガルダを脱出する。

 

プルはキュベレイMk-Ⅱの手のひらの二人を見ながら微笑む表情をみせた。

 

その後方でガルダは2機のガンダムジェミナス・バーニアンのアクセラレートライフルの多重射撃を食らい次々に機体各部を爆発させる。

 

そして、諸事情を把握したアディンとオデルは、怒りの感情を乗せたチャージショットを撃ち込み、そのビーム渦流は、忌まわしきガンダムバンシィを乗せたまま墜落していくガルダを爆砕していった。

 

その間にベントナとマーサはシャトルで大気圏を離脱し、L2コロニー群を目指す。

 

ベントナの傍らにはマリーダの遺伝子サンプルが置いてあり、今後も非人道たる行為を続ける意思を示していた。

 

長きに渡るマリーダ捜索任務を完遂させたヒイロ達は次々と加速し、ガランシェールへと帰還していった。

 

そして空にはマリーダの帰還を祝福擦るかのような雪が降り始めた。

 

アディンとオデルも不思議な感覚を味わう。

 

「おー!!おー!!雪だぜ!!雪!!!実際初めて見るな!!!メリクリ~!!!」

 

「はしゃぐな、みっともない!!だが、マリーダを救出すると同時に降るとは……不思議なものだな」

 

そのオデルの言葉を裏付けるような感覚をプルは感じていた。

 

「わぁ~!!雪だぁ!!雪、ゆき……あ、そっか……もう一人のあたしからなんだね……ありがとう……」

 

はしゃぐのを止め、過ったニュータイプの感覚に浸る。

 

プルの感じがどこか大人びた感じを見せていた。

 

「これが雪……初めて見る」

 

マリーダが雪に手をかざしてみせ、初めての雪を体感する。

 

「あぁ。俺も地球の雪は初めて見る。今日はクリスマスだそうだ。ホワイトクリスマスだな」

 

ヒイロがそう言うと、マリーダは瞳を閉じてジンネマンとのクリスマスの思い出を巡らせる。

 

完全にマリーダの記憶を取り戻した事も改めて確認すると、再び瞳を開け、目の前にいるヒイロを見て言った。

 

「ヒイロ……賭け代えの無いクリスマスプレゼント、受け取った。メリークリスマス、ヒイロ」

 

「あぁ……メリークリスマス……」

 

 

 

 

To Be Next Episode

 




オペレーション・プレアデスは電撃的な成功を見せるが、連邦軍はまだ抵抗を止めていなかった。

その抗いに絶大な力が迫る。

ヒイロとマリーダ達は双方の行くべき道を行き、ヒイロ達はL4へ、マリーダ達はパラオへと帰還した。

だが、マリーダは度重なる実験による後遺症が残っていた。

そして遂に歴史の流れは連邦をねじ伏せ、OZの地球圏制圧の図式を描かせる。

それはメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを、撲滅に向かわせる狼煙を上げた。

安息を許さない力がヒイロ達に向けて迫る。

次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

エピソード23「バルジの巨光」


任務、了解っ!!!


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エピソード23 「バルジの巨光」




ヒイロ達は、長きに渡る捜索と理不尽な運命をくぐり抜けた末に、マリーダを救出した。

 

ガランシェールにガンダムジェミナス01、02そしてヒイロとマリーダを手に乗せたキュベレイMk-Ⅱが帰投する。

 

各機体に可動音を唸らせる格納用ロッカーアームが固定される。

 

ドックではジンネマンが今か今かと待ちわびながら手摺を握り締めていた。

 

ヒイロとマリーダを乗せたキュベレイMk-Ⅱの手のひらがドック通路にかざされる。

 

ヒイロは疲弊し衰弱仕掛けているマリーダを抱き抱えながら降りると、礼の意でキュベレイMk-Ⅱに振り返り見つめる。

 

中のプルもそれを察し、キュベレイMk-Ⅱの猫目型カメラアイを発光させた。

 

「マリーダっ!!!」

 

ジンネマンの叫ぶような声にヒイロは振り向く。

 

「マスター……」

 

駆け寄るジンネマンを見たマリーダが呟くとヒイロは短く語りかけた。

 

「あぁ……ジンネマンだ。そして、帰るべきところだ」

「マリーダっ……!!!」

 

駆け寄ったジンネマンは、真っ先にマリーダの手を握った。

 

「マリーダっ……よく帰ってきてくれたっ……!!!よかったっ……よかったっ!!!」

 

ジンネマンは感極まり、涙を流す。

 

その涙は男の涙と言うより父の涙にふさわしかった。

 

「どれ程っっ……どれ程お前を探したかっ……!!!」

 

「ごめんなさい……マスター……」

 

弱々しく謝るマリーダに、ジンネマンに更なる切なさを込み上げる。

 

見るからにどれ程の非人道な目にあったかわかる故に吐く言葉は一つしかなかった。

 

「謝らなくていい!!!っ……謝らなくていい……こうして戻ってきてくれただけでも嬉しいんだ!!!くっこんなに……こんなに弱って……マリーダっ……うぅっ……!!!」

 

ジンネマンは暫く絶句しながら泣き続けた。

 

ジンネマンの感情に触れ涙を流すプルは、その流れる涙を払ってみせ、笑顔でモニターに映るマリーダとジンネマンに微笑む。

 

「よかった……やっとマリーダが戻れて……でも、マリーダは……!!」

 

だが直ぐにプルは何かを感じ取っているかのように深刻な表情を浮かべ、今流した涙とは別の意味の涙を流した。

 

ジンネマンは暫く泣き続けた後、再び顔を上げヒイロに向き合う。

 

「ヒイロ……よくぞマリーダを助けてくれた!!!心から感謝する……!!!」

 

「ジンネマン……まだ感情に浸るのは早い。マリーダは体に想像以上の負担をかけさせられているっ!!この船に主治医はいたか?!」

 

「何だと?!!くっ……今この船にはいない!!!だか、パラオならばいる!!かつてのプルとプルツーを受け持った博士と元エウーゴの軍医がな!!」

 

マリーダの呼吸は少しずつ乱れ始めてきていた。

 

更にマリーダは苦痛を覚えたような声を漏らした。

 

「うくっ!!あっ……うぁあああああっ!!!」

 

「マリーダ!!!」

 

「っ、応急に使える何かはあるか?!!」

 

「万が一の為に常備はしているが……まさか、お前がやるのか!!?」

 

「あぁ!!あらゆるサバイバル知識は持っている!!ジンネマンもある程度はできるな!!?」

 

はぁ、はぁと呼吸を乱し始めるマリーダ。

 

ヒイロの口調に一瞬遺憾を覚えたが、ジンネマンはマリーダを苦しめるこの現実の方に眉をひそめ、ヒイロを緊急の医務室に案内する意を示す。

 

「無論だ!!!ついてこい!!!」

 

マリーダを抱えながら駆け出すヒイロを見て、オデルも駆け出した。

 

「ヒイロ、俺も手伝おう!!」

 

「あぁ、頼む!!」

 

駆け出した二人にアディンもまた続こうと駆け出す。

 

だか、それに対してオデルは制止をかけた。

 

「アディンはプルの側にいてやれ!!彼女の妹が危うい状況の中で置いてきぼりにするな!!きっと心細くなる!!」

 

「いぃっ!!?」

 

オデルは、アディンの突っ込みを見越し、理由まで擲(なげう)って走り去った。

 

そこまで言われたら残らざるをえない。

 

アディンはコックピットから降りたプルの許に行き、彼女を呼び止めた。

 

「プル!!」

 

プルはアディンの声に笑顔を一時的に取り戻して振り向く。

 

その時、アディンはその一瞬に見えたプルの儚げな寂しい笑顔に、心が掴まれた。

 

「……!!」

 

「アディン……!」

 

プルの声にはっとなったアディンは、再び言いかけてた言葉を口にした。

 

「プル……心配すんな。ヒイロは俺達の中でも特に何でもできるスゲーヤツだかんさ……でもま、プル達がいい仕事したから今に至ってるんだ。ポジティブにいこーぜ」

 

アディンはハイタッチの手をかざす。

 

プルは亡きかつてのプルと妹達の思念に触れたことを想い返し、涙を拭いながら答える。

 

「……そうだねっ!せっかくマリーダが帰ってきてくれたのにメソメソしてたらもう一人のあたしや妹達ががっかりしちゃうね!!」

 

「へ!?」

 

「ううん、なんでもない!」

 

プルはハイタッチをアディンに返すと、寂しい笑顔を浮かべながらアディンに話しかける。

 

「ねぇ、アディン。クリパは来年でいい。あたし、我慢する……だってマリーダのコト想うとさ……できないよ」

 

「プル……」

 

プルは本来ならばこの船の中でも最もな遊び盛りだ。

 

だか、彼女は危険な常態のマリーダを気遣いながら少し大人びた想いを決めた。

 

アディンやヒイロ達さえも本来ならばハイスクールへ通い、遊びを満喫している年頃だ。

 

だが、元より過酷な運命を辿ってきた孤児(カトルは除く)であるが故に、捉え方は実年齢よりも大人びていた(アディンは比較的実年齢寄りであるが)。

そういった現実を焦点に捉えたアディンは、急なもの淋しさを感じた。

 

プルは少しばかりダブリンで亡きプル達から感じたコトを語る。

 

「アディン……ダブリンで、死んでいったもう一人のあたしや妹達に会えたんだ。その時にあたしの知らなかった過去とか、色々見えた……」

 

プルはふっとアディンに飛び込んで抱き付く。

 

「っ!!プ、プル……」

 

アディンはプルの大胆な行動に戸惑ったが、この深刻な空気に突っ込む余地はなかった。

 

アディンはプルの頭を撫でながらぎこちなくも語りかけた。

 

「哀しい……よな……戦争や紛争の現実は……ニュータイプじゃねーから完全にはわからないけど、プルはきっと哀しみを感じ過ぎちまったんだ……ましてや姉妹なんだから……でも、きっと今のプルと会えて幸せなはずさ、姉妹達は……」

 

アディンのその言葉を受け、プルは抱き付いたまま言葉なく泣きながらうなずいた。

 

 

 

 

一方、シャトルでガルダから脱出したマーサとベントナ一行は、移動しながら次なる手筈を画策する。

 

マリーダとプルサーティーンの遺伝子サンプルを手にしたベントナが、卑屈に笑いながらマーサに言う。

 

「ミズ・マーサ。短期高速化遺伝子操作をさせながら次なるプルサーティーンは作成できます!!しかし、ユニコーンを破壊する為のガンダムはまだ確保できておりません……これはいかがしますか?!!」

 

するとマーサは、じっとベントナを見ながら再び前を見据え、薄ら笑いを交えて答えた。

 

「次なるプルクローンをパイロットとして使えるのはいつからなの?」

 

「それは実際にやってみなければなんとも……!!!」

 

「言い出しておいてソレはアテにできませんね。別の手を打ちなさい。あなたのもう一人の自慢の強化人間はどうなの?」

 

「現在、オペレーション・プレアデスで地球で活動中でして……」

 

「至急宇宙へ持って来なさい。確かツガイも一緒のはずよね?二つセットで頼むわ」

 

マーサは強化人間をモルモット同様の扱いとしている。

 

性根から腐敗した感性に、同じく強化人間をモルモット扱いとしているベントナは容易く答える。

 

「ははっ!!仰せの通りに……!!!」

 

ベントナは直ぐに通信手段をとり、キルヴァに通信を取る。

 

キルヴァには新たにベントナ回線のマイクロ通信機が埋め込まれており、いついかなる時でも通信を得る事が可能であった。

 

「あぁ!!?なんだ?!!おっさん!!!取り込み中なんだよ!!!」

 

「キルヴァよ、命令だ!!!ロニと宇宙へ来い!!!ユニコーンガンダムの破壊とビスト財団当主の暗殺だ!!!」

 

「わりーな……興味ねー」

 

「何?!!どーいうことだ?!!」

 

ベントナの通信の向こうでは、ペーネロペーのコックピットハッチの上とコックピット内とで、キルヴァと憎しみの眼差しを突き刺すロニが銃を向け合う状況にあった。

 

既にロニは発砲を一度しており、キルヴァの頬に掠めた傷の血が流れていた。

 

キルヴァは睨み付けるロニに薄ら笑いを浮かべる。

 

「ロニに今は興味深々だ。暴走して反逆者になっちまってた……キヒっ!!!」

 

「っ――!!!」

 

増したキルヴァの薄ら笑いと無言のロニの深い睨みが重なった次の瞬間、銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

オペレーション・プレアデス。

 

OZ及びOZと結託した一部の地球連邦軍による地球圏規模のクーデター作戦。

 

歴史上に前例を見ない壮大かつ壮絶な戦闘が展開された。

 

奇しくも発動タイミングはクリスマスシーズンであったため、後に「流血のクリスマス」と呼ばれる。

 

発動させてより二時間余りが経過していたが、グリプス2やルナ2、そしてネオジオン勢力を交えたアクシズαの戦闘は依然として続いていた。

 

宇宙空間にはしる閃光たる閃光。

 

武装強化されたリーオーとMDリゼル・トーラス部隊がジェガン、リゼル、ジムⅢの機体群をその絶大な火力と機動性で次々に破壊していく。

 

グリプス2では激戦の流れを変えるため、遂にコロニーレーザー・グリプス2が動き始めた。

 

管制ブロックにてグリプス2のコントロールが開始された。

 

「グリプス2、コロニーレーザー発射行程に入りました!!」

 

「出力、56.8%。正常にエネルギー上昇中」

 

「各荷電粒子ユニット正常」

 

「ZFジェネレーター作動!!エネルギー充填開始!!」

 

コロニーレーザーの発射行程が進んでいく。

 

グリプス2宙域の担当司令官が戦況モニターを見ながら急かす。

 

「もっとだ!!充填速度を上げろ!!」

 

「これが最大です!!充填率、60%到達!!」

 

「くっうっOZめ!!何がクーデターだ!!!先に照準を奴等の陣営後方にある要塞へ向けろ!!!」

 

グリプス2が僅かに動き、その照準がOZ宇宙要塞・バルジに向けられた。

 

「もう少しで……もう少しで陣形が変わる!!!」

 

だが、その次の瞬間に展開していたMS部隊がビーム渦流で一掃される事態が発生した。

 

更に次々にMS部隊が破壊される箇所まで表示された。

 

「陣形が一気に崩されました!!」

 

「何ぃ!?!この事態は……!?!」

 

「先程から幾つもの箇所に見られた乱れです!!!3機のMSにより攻撃を受けています!!」

 

「さ、3機!?!ええい!!!早く、早くコロニーレーザーを!!!」

 

 

 

ザガシュッ、ザガギャアッ、ダシュダァ、ダシュダァ、ダシュダァ、ダシュダァアアアア!!!

 

ズガドドドドドドドゴバァアアアア!!!

 

 

 

アスクレプオスがパイソンクローで2機のスタークジェガンを突き砕き、かざしたパイソンビームランチャーでジムⅢ4機、リゼル2機、ジェガン2機を一気に破壊する。

 

その傍らで斬撃を浴びせ続けるメリクリウスがいた。

 

 

 

ジュゥガシャアアアッ!!! ズドォギャシャッ、ザバシュ、ザガギャアッ、ドウッ、ドウドウドウドウッッ!!!

 

 

ジェガンやリゼルが次々に斬られ続けた後に、ビームガンの連続射撃をジムⅢの機体群に浴びせ続けた。

 

 

ドッドドドゴバァガァアアアア!!!

 

 

 

メリクリウスの餌食となったMS達は、スパークを起こしながら一斉に爆砕する。

 

更に後方より、ヴァイエイトが放つビームカノンの大出力ビーム渦流が撃ち放たれた。

 

 

 

ヴァズドォアアアアアアアア!!!

 

ドゥズゴバァアアアアア……ゴゴゴドドドドゴォゴゴォォオオオッッ……!!!

 

 

 

MS部隊が一掃されるのを確認すると、トラントはアレックスとミューラに呼び掛けた。

 

「よし、お前ら!!コロニーレーザーの中で一暴れするぞ!!!そーすれば連中は嫌でもコロニーレーザーが撃てなくなる!!!」

 

「ひゃはははー!!!破壊、破壊!!!」

 

「やっちまいましょう!!!」

 

アスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウスがコロニーレーザーの発射口を目指し加速。

 

更に阻もうとするリゼルやジェガンの部隊が前面にでるが、アスクレプオスとメリクリウスは容易くかつ鮮やかに裂き砕いて爆砕させ、ヴァイエイトは豪快に撃ち飛ばす。

 

そして3機はコロニーレーザー内に突入し、一斉に持てる火力を奥側に束なってある荷電粒子ユニット目掛け射撃する。

 

一斉に射撃される高出力ビームは、一気に多くの荷電粒子を破壊する。

 

この時点でヴァイエイトがチャージショットをすれば効率的にコロニーレーザー内部を破壊する事も可能だ。

 

だが、破壊というスタンスにこだわる彼らは、個々にとことんまで破壊する。

 

荷電粒子ユニット群に到達した3機は、輪をかけたように破壊に徹し始める。

 

アスクレプオスはパイソンクローの破砕乱舞、メリクリウスはクラッシュシールドによる滅多斬り、ヴァイエイトは撒き散らすようにビームカノンを振るい回す。

 

「か、荷電粒子ユニットが次々に破壊されていきます!!!充填率も低下中!!!このままではコロニーレーザーそのものが撃てなくなります!!!」

 

「なんだとぉ!!?くっ……!!!MS隊に向かわせろ!!!」

 

MS部隊の一部のリゼル、スタークジェガンが三小隊づつ突入したが、機体反応に気づいたヴァイエイトがビームカノンを構える。

 

「くっくくっ!!いくら来たって……無駄なんだよ!!!」

 

撃ち放たれた連続的なビーム渦流が連続でリゼル5機、スタークジェガン5機を破砕させた。

そのタイミングでアスクレプオスとメリクリウスが離脱を開始。

 

同時にヴァイエイトが荷電粒子ユニット群に向けてビームカノンを撃ち放つ。

 

撃ち注がれ続けるビーム渦流は、荷電粒子ユニット群を押し砕くように破砕し続け、更に左右に銃身を振るい続けた。

 

コロニーレーザー内部より爆発が巻き起こり、コロニーレーザー中枢たる荷電粒子ユニット群が完全に破壊され、コロニーレーザーそのものの機能が麻痺した。

 

3機は一斉にPXを発動させ、グリプス2を飛び出す。

 

この状況はバルジに通達され、展開中の部隊にも離脱指示が出される。

 

「グリプス2よりアスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウス離脱確認!!まだ展開中の部隊は射線軸上から離脱せよ!!」

 

OZサイドのリーオーとリゼル・トーラス部隊が次々と離脱していく。

 

「MS部隊、離脱確認しました!!」

 

「よし!!バルジ、発射シークエンスに移行せよ!!!」

 

そして、指揮官の指令の下、バルジは発射シークエンスに移行し、バルジ砲の真価を問う時が動き出す。

 

「バルジ、各ブースター作動、発射角度修正中…………………バルジ機体角度修正完了!!」

 

「HKSバランサー圧力正常……TRDバイパスユニット接続完了!!エネルギー圧力、更に上昇!!最大エネルギー圧力による発射工程に移行!!」

 

バルジ砲の巨大な銃口にスパークが発生し始め、真紅に光る超高出力エネルギーも同時に充填されていく。

 

「DFVチェンバー内圧力正常……BBSシステムへの接続完了!!シリンダー内圧力、更に上昇中!!」

 

更に出力を上昇させた真紅の超高出力エネルギーが銃口内に拡大し、それにともないスパークも激しさを増していく。

 

「最終セーフティーロック解除!!エネルギー臨界レベル到達まであと10、9、8、7……」

 

遂に発射までのカウントが始まり、真紅の超高出力エネルギーは今にも解放されんとしていた。

 

トラントは射線軸上外からミューラーとアレックスにバルジ砲の真価を見届けるように促す。

 

「くくくっ、お前らもよく見ておけ!!!バルジがグリプス2を排除する瞬間だ!!!この一撃が歴史的一撃になる!!!」

 

「了解~!!!」

 

「破壊、破壊ぃっっ!!!」

 

そしてその間にもカウントダウンはあと僅かになった。

 

「……3、2、1、バルジ砲発射体制完了!!」

 

「よしっ、バルジ砲、撃ぇっっ!!!」

 

 

 

ギィゥゴォォォオオオ…………ヴグゥゴォアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

超高出力かつ超大型のビーム渦流が、禍々しいばかりの真紅の光を放って撃ち出された。

 

 

 

ゴォグオオオオオオォォォ……

 

 

 

突き進む悪夢のような紅いビーム渦流は、次々と連邦軍のMS部隊や艦隊を呑み込んでいく。

 

 

 

ゴォオオオオオォォォ……ズズズズァアァァァ……

 

 

 

その凄まじいビーム渦流は有り余る熱量の為に、呑み込む機体群、艦隊を爆破させることなく蒸発させて文字通りにかき消していく。

 

「ち、超高熱源体接近!!!か、回避ふの……ぐぁあああっ―――……!!!!」

 

「お、OZめぇぇっ……がぐぁああっっ―――!!!」

 

そしてそのままグリプス2に直撃し、管制ブロックも破砕、蒸発。

 

その宇宙世紀の戦争の産物たる巨大な砲身を瞬間的に破砕させる。

 

 

 

 

ドドグゴォオオオオ……グヴァガァアアアアァ……

 

 

 

 

一方、アクシズαにおいてガンダムデルタカイの無双乱舞が猛威を奮う。

 

かざしたメガバスターの銃口から高出力ビーム渦流が放たれ、ギラズールやジェガン、リゼルを吹き飛ばす。

 

 

 

ヴグゥヴァアアアアアアアアアアッッ!!!

 

ドゴバァッ、ドヴァガッ、ドガギャアアアアッッ!!!

 

 

 

カメラアイを光らせ、更に低出力でメガバスターの連発を開始すると、スタークジェガン、ギラドーガ、ガザD、バウ、ジムⅢと連邦、ネオジオン両勢力のMS達を次々に破砕させた。

 

 

 

ディシュダッ、ディシュダッ、ディシュダッ、ディシュダッ、ディシュダァアアアアッ!!!

 

 

 

無論、威力は低出力でもビームマグナムに匹敵する威力だ。

 

その最中にビームトマホークを振るいながら迫るドライセンに対しバスターソードを突き出し、返り討ちにしてみせた。

 

 

 

ドォディガァアアアアンッッ!!!

 

 

 

そしてバスターソードへ串刺しに刺さったドライセンに至近距離のハイメガカノンを放ち、更にはその直線軸上のジェガンやリゼル、ギラドーガを連続で吹き飛ばす。

 

 

 

ヴゥゥッッ―――ヴァズゥドォオオオオオ!!!

 

ドヴァズゥウウウウッッ―――ドドドドゴバァガァアアアア!!!

 

 

 

「やはり……!!!この機体っ……あのガンダム達に匹敵する火力を持っている!!!」

 

直に操作すると伝わる従来の連邦機との違和感。

 

機体の感覚はリディが今までに感じてきた連邦のどのMSにも似つかない。

 

ユニコーンガンダムに似た感覚が近いが、また違った感覚だった。

 

そして自ずとメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムにガンダムデルタカイが行き着く。

 

更に幾度かのガンダムジェミナスとの戦闘を経験している経験がそれを感じさせた。

 

「だがっ……この力は……」

 

宙域を駆け抜けながらハイメガカノンを放ち、リゲルグとギラドーガ3機、ガザD4を撃墜。

 

向かい来るジェガンやリゼルの機体群に対しメガバスターを放って次々に破砕させ続けた。

 

「!!?」

 

次の瞬間、一気に接近したドライセンがビームバズーカをゼロ距離でガンダムデルタカイを撃った。

 

銃口を焼き付かせてしまう程の爆発がガンダムデルタカイを包んだ。

 

更にドライセンはハンドビームキャノンを撃ち放ち追い討ちをかけた。

 

だが、次の瞬間。

 

 

 

ズガギャアアアアッ!!!

 

 

 

爆発の中からシールドバスターソードが飛び出し、ドライセンの胸部に突き刺さる。

 

そして零距離の射撃で、ハイメガカノンがドライセンを爆砕させた。

 

現れたのはほとんど無傷のガンダムデルタカイであった。

 

リディは計器類に異常がない事と機体が破損していないことを確認した。

 

「バカな……この途方もない強度は……!!!」

 

この時、自爆したウィングガンダムの残骸検証に立ち合った事もフィードバックした。

 

「今となっては開発者が手中にいるためにミステリアスではなくなったが……間違いない、ガンダニュム合金……そしてこの武装の異状な破壊力……うくっ!!!?」

 

その時だった。

 

リディがこれまでに味わったことのない感覚が襲い、同時にコックピットモニターがまばゆく光始めた。

 

「なっ…………っ、なんだ!?!」

 

遠心力に振り回されるような不快感や吹っ切れるような爽快感、嘔吐の気持ちの悪さが入り交じるような感覚だ。

 

その最中、ミヒロを乗せたOZ高速戦闘艦が破砕し、自身も破壊される。

 

「わぁああああああっ?!?うっぐっ!!?」

 

だが、まだ生きていてシートに座っている。

 

ミヒロを乗せたOZ高速戦闘艦も無事だ。

 

訳がわからない現実が狭いコックピット内にリディを包む。

 

リディは脳を直接的に攻撃される感覚に晒された。

 

そして言葉にならない言葉が脳内感覚に指示してきた。

 

 

 

「シュウイノチカラスベテヲハカイセヨ」

 

 

 

「ぐっ……わぁああああああっ!!!」

 

リディの叫びと共にガンダムデルタのサイコ・フレームが発動した。

 

機体各部のフレームに組み込まれたサイコ・フレームからは、ユニコーンガンダムとは異なる青色の光が輝く。

 

そして機体背部の左右にマウントされていたユニットが機体から離脱した。

 

それは大型のファンネルであり、フィンファンネルに形状を酷似させていた。

 

カメラアイを光らせたガンダムデルタカイは、そのファンネルで攻撃を開始する。

 

 

 

ヴグゥッッ……ヴィギュリリリリリィィィ…………

 

 

チャージ音を唸らせはじめたファンネルに、ビームエネルギーがチャージされていく。

 

そして次の瞬間、バスターライフル級のエネルギーが解放した。

 

 

 

ヴグゥヴヴヴァアアアアアアアアアアッッ!!!

 

北欧圏サンクキングダム

 

 

 

OZによる一斉制圧の事後処理が進む中、ゼクスは故郷の地を歩きながらリリーナとヒイロと瓜二つの少年と歩く。

 

「リリーナ……再三聞くが、本当に、本当に彼はヒイロではないのか!?!」

 

「何度も言わせないでください、お兄様。彼はライト・グリューンフルス。私のボディーガードです……それに……その……」

 

ゼクスはライトという少年を見つめながら、言いづらくしているリリーナの仕草を見て心理を察っした。

 

「そうか……仲良くやっているならば、それでよい。少年……ライトと言ったな?」

 

ライトは無言で頷く。

 

「では改めて……私はリリーナの実兄・ミリアルド・ピースクラフトだ。軍……OZでは連邦から身分を隠すためにゼクス・マーキスと名乗って来ている」

 

「ライト・グリューンフルス……」

 

ヒイロに負けず劣らずの無口なライトが、ゼクスの前で初めて言葉を発した。

 

声までも似ている事にゼクスは驚くが、ややキーは高めだ。

 

二人はリリーナを挟んで握手を交わした。

 

リリーナは二人を見ながら今の安堵の心情を吐露する。

 

「ライトとお兄様がこうして握手を交わされる日が来るなんて……夢の思いでした……」

 

「私もまさかリリーナの想い人と握手するとは思えなんだ」

 

「お兄様!私は乙女なんですよ。表向きに発言なさらないでください。というより、せっかくの再会なのに実の妹をからかわないでください」

 

「これはすまないな……ふふ、勝ち気に育ったな!リリーナ。ライト君、これからもリリーナをよろしく」

 

「はい、ミリアルドさん」

 

三人で語らうその光景を事後処理任務中のミスズがみつめる。

 

(ふふ……10年ぶりの再会だ。明らかに任務をサボっているが、妹のリリーナに免じて不問にしてやる)

 

「ミスズ特佐」

 

トレーズがミスズを名指しで呼ぶ声。

 

ミスズは凛とした長い髪を振りなびかせながら振り向き、敬礼をする。

 

「はっ!!なんでしょう?トレーズ閣下」

 

「事後処理任務ご苦労。突然私的質問で失礼するが、ゼクスが気になるのかな?」

 

「え?!そ、それは……任務中に失礼致しました!!」

 

「いいんだ。ミスズ特佐。君も兵士である以前に一人の女性だ……ゼクスへの想う行動に異論はない……いや、今はミリアルドと呼ぶべきか。彼は今、約十年ぶりに妹君と再会している。兄妹の時間を配慮するのがよい」

 

「はい……私も同感です。お気遣いありがとうございます、閣下」

 

「ミスズ特佐も少しは力を抜きたまえ。このオペレーションはほとんど成功を成し遂げ続けている。少なくともサンクキングダムを奪還した事は事実だ」

 

トレーズからの予期せぬ気遣いに唖然としてしまうミスズだったが、吹き始めた風に髪をかきあげ、ゼクスに再び視線をおくる。

 

「ここから世界は革新していくのですね……我々OZによって」

 

「左様だ。ミスズ特佐、これからもよろしく頼む」

 

「はっ!!」

 

トレーズは頷くと空を見上げ、宇宙で闘う同胞達に敬意を表しながら想う。

 

(この闘いは、今後の宇宙世紀の歴史の流れを変える為の闘いだ。今の今までではやがて人類の歴史は衰退してしまう。しかし……宇宙からは不穏な予兆を感じてしまう。何故か?恐らくは……『彼ら』の存在か?)

 

意味深なトレーズの心の語りと共に向けられた空への眼差し。

 

その遥か彼方のアクシズαの戦闘エリアにおける戦闘は、終結をみていた。

 

だが、異様な状況が立ち込めていた。

 

ガンダムデルタカイを中心に連邦やネオジオンのMSの無数の残骸が漂っており、ガンダムデルタカイ1機でほとんどの連邦とネオジオンの戦力を破壊していたのだ。

 

だが、そればかりではなかった。

 

微動だにせず宇宙の中で漂うガンダムデルタカイのコックピットで様子に異変を見せるリディの姿があった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……ぐっ……俺はっ……ぐはぁっ……!!」

 

『リディ、リディ特尉!!応答して!!リディ!!』

 

コックピットにはリディを呼び続けるミヒロの声が響いていた。

 

「っ……!!!俺は……一体……否、こいつのシステムはっ、なんなんだ!!?」

 

リディは酷い倦怠感と自身が体験した不気味なシステムに恐怖を覚えていた。

 

ミヒロの声に返答すら忘れてしまうほどの精神的な衝撃がリディを縛り付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

オペレーション・プレアデス発動より一日が経過した。

 

電撃展開が効を成し、地球の殆どはOZの支配下となった。

 

だが、広大な宇宙においては、依然として連邦勢力の抵抗が続くエリアも少なくはなかった。

 

あるコロニーには連邦軍が籠城して攻防戦を展開し、またあるコロニーでは各宙域から集まった連邦勢力が基地の反抗奪還戦を展開。

 

更にある資源衛星では連邦軍勢が占拠し、かつてのペズンの反乱を彷彿させる事態に発展していた。

 

ヒイロ達はその混迷深まる情勢下の中、ガランシェールを離れ、当初の目的地であるウィナー家のラボコロニーを目指す事に踏み切る。

 

ジンネマン達のつてで手配されたシャトルには、既にオデルやディック達が乗り込み、計機類や荷物、積み込んだ2機のガンダムジェミナスの格納常態等の様々なチェックを行っていた。

 

オデルはデータベースを片手にため息混じりにガランシェールに振り向いた。

 

そんなオデルに手伝っていたディックが尋ねる。

 

「どうした?オデル?」

 

「いや、ただな……あぁやって想ってくれる相手がいるっていうのは尊いコトだなってな……ふと想ったのさ」

 

「オデル……もしかしてトリシアのことか?」

 

「まぁな……MO-5でルシエやロガのおやっさん達と共に犠牲になった……」

 

オデルはマリーダやプルという想い人がいてくれるヒイロとアディンに亡きフィアンセのトリシアを思い出していた。

 

同時に幼なじみのルシエを失ったアディンの前向きな一面にも感心を抱いていた。

 

「俺達兄弟は……多くの尊い人達をMO-5に攻め混んだ連邦の手により失いった。以降、打倒連邦、OZ、MO-5を沈めたネェル・アーガマに囚われている。だが、アディンは今言った過去に囚われてはいるが同時に過去の囚われていない面もある」

 

「……俺も多くのメカ仲間を失った。確かにアディン、いつまでもルシエばかり引きずらず、今を噛み締めて前に進んでるよな。オデルは……」

 

「解ってるさ……トリシアもきっと前に進んでくれるコトを望んでるってな……今あるこの現実を進み、闘う。それが生きている俺がやるべき闘いだ」

 

 

ガランシェールを離れる前にアディンはプルに呼び止められつつも、しばしの別れにどこか心寂しさを感じていた。

 

だが、それ以上にプルは深刻なまでに寂し気な表情を浮かべていた。

 

「アディン……もう、コロニーに行っちゃうんだよね?」

 

「あぁ……体制立て直して、ECHOESやOZに反撃する為にな。それにこの情勢下、もしかしたらここから先は激戦に激戦が続くかもしれねー」

 

「……できれば、アディン達を今ここで止めたい。なんだか嫌な感じがするの。アディン達に会えなくなっちゃうような……!!!」

 

「おいおい……なんだかニュータイプからの言葉だと重いぜ、ソレ」

 

「ホントなんだよ!!ホントに……アディンに会えなくなっちゃうような感じがするんだ……」

 

いつにない程のプルの深刻な表情と口調、更にこの混迷が流転する情勢下やECHOESの暗躍とこれから真っ向からぶつかる手前故に、真実味を伺ってならなかった。

 

「こんな情勢下だけどよ……俺達は、プル達はもちろん、コロニーや資源衛星で暮らす人達全員を想って、その為に闘ってる。コロニーのみんなからどう思われてもそれでも正しい道と感じて……二度と大切なモノ失いたくないからさ……だから俺達は行く。それに……」

 

アディンは閉まっていたガンダムジェミナスのマスコットを取り出した。

 

以前にプルがアディンにプレゼントした手作りのマスコットだった。

 

「こいつもあるからな……絶対に会えなくなったりしねーよ」

 

「アディン……!!!」

 

「おわ?!!」

 

プルはアディンにしがみつくように抱き付く。

 

これまでのプルの唐突な抱きつきとは違うなにかを抱き付かれた感覚からアディンは察した。

 

プルが心底からアディンと離れるのを拒んでいた。

 

アディンはかつての幼なじみであり彼女であったルシエからも同じように抱き付かれたことを思い出す。

 

MO-5に攻めいるMSを迎え撃つために、Gユニットリーオーで出撃しようとしたとき、今のプルと同じような想いでアディンに抱き付いてきたのだ。

 

プルとルシエが重なる。

 

アディンは自然にプルを抱いた。

 

抱いたプル自身も驚きを混ぜた嬉しさにかられ、瞳を大きくさせる。

 

「サンキューな……プル。今のプルの想いの重さが伝わるぜ……」

 

「アディンっ……アディンっ……!!!」

 

更に抱きしめてくるプルにアディンは頭を撫でながら言って見せる。

 

「ニュータイプの勘ってやつが俺の身の危険を教えてくれてるんだったら、俺はそいつを覆してきてやる。だからプルはパラオに行けばい……いや、帰って待っててくれればいい」

 

「……やだっ―――なーんてっ!じゃあ、あたしは待ってるよ、アディンの帰り!」

 

「へへ……イー子にして待ってろよー、プルちゃん!よしよし!」

 

「もー、子供扱いしないでよー!!」

 

「いや、子供じゃんか」

 

「アディンも少年でしょっ!!」

 

「うっさいなー、プルは大体12、3歳だろ?子供、子供!!」

 

「じゃー、その子供相手にキュンキュン、ドキドキして抱きしめたのはナゼかな?少年!」

 

「あぁ?!ったく、なんか急に空気砕けてきたぜ!!」

 

「アディンがあたしを子供扱いするからだよ!!あたしだって、少なくともココは大人なんだから!!」

 

「へ!!?え、おいっ―――」

 

流れがいつものコミカルな空気になる中、プルはそう言うとアディンの手を掴みながら自らアディンの手を胸に押し当てた。

 

「&☆@$¥;:@#%~っっ!!!!」

 

「へへ!」

 

「……―――~『へへ!』じゃないっっつーの!!!」

 

一方、ヒイロは人体実験の重い反動にたおれたマリーダに、しばしの別れを告げに来ていた。

 

だが、マリーダは未だに余談を許さない状況下にあり、危険であることは変わりはない。

 

それでも今こうしていられるのは、ヒイロ達の懸命な応急処置があったからこそだ。

 

ベッドに横になりながらマリーダは薄い意識の中でヒイロの言葉を聞きとる。

 

「マリーダ。俺達はガランシェールから離れる。そして、カトルの家が保有するコロニーで体制を整え、俺達を崩壊させたECHOESを叩く為に討って出る。せっかく再会できたが、すまない……」

 

「……そうか……ヒイロっ……私こそすまない、っく……せっかく再会したっていうのに、こんなカタチに……!!」

 

「マリーダ、謝る必要はない。そして、無理に喋らなくていい。理不尽な強化でかなり体が酷使されていたはずだ。どんな形であれ、俺はマリーダとこうして話せているだけでも励みになる」

 

ヒイロは苦し気なマリーダの手をとって握る。

 

マリーダはヒイロの想いを感じながら、初めて純粋なキスを交わした瞬間をフィードバックさせた。

 

「ヒイロっ……お前は初めて異性を想える感覚をくれたやつだ……そんなヒイロにそう言われたら……私の励みもそれになる。うっくっ……!!」

 

「何度も言わせるな。無理に喋る必要はない。また再会した時に、全快した時に話せばいい」

 

「……わかった……だが、ヒイロ。もう一度あの時と同じようなキスを交わさないか?」

 

マリーダはヒイロに握られていた手を軽くほどき、ヒイロの頬に移してキスをねだった。

 

「……了解した」

 

ヒイロは触れたマリーダの手を握り、顔を彼女へと近づける。

 

二人はゆっくり瞳を閉じてキスを重ね合い、互いに重ねた唇から通じ合う想いを感じ、それを確かめ合った。

 

ヒイロ自身もこれ程異性を求めたことはなかった。

 

似た境遇の者が廻り合い、惹かれ合う事の不思議さと嬉しさを深く感じ合った。

 

キスを終え、顔を離すと、マリーダは再びヒイロの頬に手を当てて言ってみせた。

 

「ヒイロ……必ず生きろ……そして、ガンダムに乗り続け、世界がどんなに否定しようと信念を貫け……私からの任務だ……」

 

「あぁ、無論だ……俺は闘い続ける」

 

「それと……これは……わ、私のわがままだ。パラオに来たら、私にアイスクリームをおごれ……」

 

「ふっ……素直に言え、マリーダ」

 

「生意気だ……相変わらず……ふふっ、わかった……私はヒイロと一緒にアイスクリームを食べたい……いいか?」

 

「あぁ……それも了解した」

 

「うくっ……かはっ……っう、うぁあああっ……!!!」

 

「マリーダ!!くっ、待ってろ!!!」

 

穏やかな時が終り、マリーダは再び強化反動に苦しみ始めた。

 

ヒイロは即、再び応急処置に動いた。

 

 

 

そして、ヒイロ達はいよいよガランシェールを離れる。

 

シャトルから遠ざかるガランシェールにこれまでの日々の記憶を重ね合わせて振り替えるヒイロ達。

 

それはジンネマン達も同様であった。

 

志しを同じくする者達が互いに敬意を籠めて離れていく。

 

プルはガランシェールの一室から窓に手を当て、切ない表情を重ねながら笑う。

 

そして、再び意識を無くしたマリーダは眠りながらその時に身を委ねる。

 

ヒイロはガランシェールの船体に眼差しを集中させ、心中の中でマリーダに別れを告げた。

 

(マリーダ……俺は必ず再会する。それまでには身体を治せ。そして生き延びてくれ。ここからは俺の闘いだ。さようなら、マリーダ)

 

 

 

 

 

 

オペレーション・プレアデスより四日が経過し、ヒイロ達やマリーダ達も各々の場所に身を置いていた。

 

そして、新な年・宇宙世紀0096が迫るものの、依然として連邦軍勢力の一部が抵抗を続けていた。

 

それは宇宙世紀の歴史自体が歴史の流れに抵抗しているかのようであった。

トロワは、データベースで現状把握の為に地球圏エリアの情報を閲覧する。

 

(現在、資源衛星MO-3とコンペイ島、ルナ2が主な戦場か……いつまで持つのかは時間の問題だな……まるで時代に抗うかのようだな。ECHOESの動きはどうだ?)

 

トロワは更に情報を探り、ハッキングを開始。

 

数分で現在のOZの情報に到達し、ECHOESの情報も探り当てる。

 

(ECHOESはコロニーに点々と拠点が置かれている……完全にOZ宇宙軍の傘下に入っているようだ……ん?幾つかの拠点が破壊されている情報が……恐らくは、あいつか……)

 

トロワが心中でそう言いながら十中八九の推測をしていると、カトルに似た少女がコーヒーを差し出してきた。

 

「はい、トロワ」

 

「すまない、カトリーヌ。頂く……」

 

トロワはカトリーヌに差し出されたコーヒーに手をつけて一息を入れる。

 

カトリーヌはエナにも似た一つ下のカトルの唯一の妹だ。

 

兄に似てトロワとも人間関係の相性が合うようで、自然な振る舞いを見せる。

 

ラボコロニーの周辺にあるコロニーのハイスクールに通う学生だ。

 

宿舎施設もある為、普段はそのコロニーに住みながらハイスクールに通っている。

 

この日はカトル達の帰還を知り、休日を利用してラボコロニーに里帰り感覚で帰って来たのだ。

 

「皮肉なものね……倒そうとしていたOZに連邦を倒されるだなんて……」

 

「デュオも同じ事を言っていた。だか、そのような現実は些末なものだ」

 

「相変わらず落ち着いた冷静意見ね。大人っていうか何て言うか!」

 

「お前は子供だろ?とにかく今は刻一刻と変わる情報に意識を配る事が先決だ……すまない、おかわりを頼む」

 

「はやっ……もっと味わってよね……はぁ……子供って言うけど精神年齢はトロワと変わらないよ?むしろ上かな?」

 

呆れたようにも、嬉しそうにも思える表情で、こぽこぽとコーヒーを継ぎ足すカトリーヌ。

 

「そうか。それは失礼したな」

カトリーヌは、コーヒーを継ぎ足しながら次なる年が来る事に想いを馳せた。

 

「わかればよろしい……はぁ……もう0095が終るね」

 

「闘いはずっと続くがな……ん?何を飲んでいる?別に構わないが……」

 

トロワは、さりげなくトロワのコーヒーを横取りして飲むカトリーヌにも冷めたように受け流すが、それでもカトリーヌはどこか嬉し気である。

 

「ちょっと飲みたくなったの。ボク、ブラック派だから」

 

「微妙に理由になってないが……」

 

「はいはい、情報収集続けなさい」

 

「ふっ……敵わないな。カトリーヌには」

 

「それはどーも」

 

親しげに会話を交わすトロワとエナはラボコロニーの一室で一時の穏やかな時を過ごす。

 

L4コロニー群にあるウィナー財閥が保有するX-21832コロニー。

 

通称ラボコロニーでは極秘裏にメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムのバックアップを担っており、ガンダムのアッセンブリーパーツの生産や管理、開発、ガンダムのメンテナンス等を可能としていた。

 

更には新たなガンダムの設計開発も可能な施設であり、実際に開発されたウィングガンダムのリメイク機も保管されていた。

 

全体的な役目は組織崩壊時のバックアップである。

 

正に今がその状況下であった。

 

余談ではあるが、カトル達の父親であるウィナー家当主は頑なな平和主義者故に、このコロニー自体が身内上においても極秘である。

 

理解あるカトルの姉達が中心に運営しているのだ。

 

一方の着任したヒイロは新たなウィングガンダムのセットアップに勤しんでいた。

 

コックピットに座りながらひたすらデータベースを操作してセットアップに集中する。

 

そこへデュオがハッチの上から顔を覗かせた。

 

なんとも久しぶりのやり取りであることに、デュオはどこか楽し気だった。

 

「ヒイロー!!いつまでセットアップしてんだー!?メシ食おーぜ、メシ!!ここのラボの料理、全部カトルん家の提供品だからマジうめーんだぜ!!」

 

「まだキリが悪い。食いたいなら食いに行ってこい」

 

「つれねー!!ってのは今に始まったわけじゃねーけどなっ!しっかし、自爆から生還するなんてよ!!!スゲーぜ、お前は!!!体がガンダニュウム合金じゃねーのかぁ!!?ヒイロ!!」

 

ヒイロはそれについて何も突っ込まずにデータベースを操作し続けるが、デュオは構わず喋り続ける。

 

「でもま、今こーしていられるんだからな!!ありがたい運命だぜ!!今がよけりゃ全てよしってか!!このやりとりだってスゲー久しぶりだからなー!!ところでよ、ヒイロ!!」

 

「なんだ?」

 

「ウィングゼロ……動かすなら今じゃねーか?!!開発してくれたとは言え、なんでこっちの機体いじってんだよ?!この情勢下を一網打尽にすんなら今がチャンスだろ?」

 

するとヒイロは、データベースを操作する手を止めながらデュオに言った。

 

「あの機体の性能は世界を狂わす。適正能力があるとは言え、暴走の可能性が無い訳じゃない。あくまでも最終兵器だ」

 

「そーかぁ~!!?十分使い時だと思うぜ?!!ヒイロが早く使わねーとまたカトルが先に暴走しちまうぞ!!!」

 

「どういう事だ?」

 

「ロニの件で色々あってよ……話せば長い!!一言で表すなら、やっかいなガンダムにロニが拉致され、そいつに彼女を二つの意味で奪われて……ダメだ、一言で言えねー!!とにかくそのショックと強力無二な力を欲して暴走しちまったんだよ!!ま、今はカトルのお姉さま達と見つかったロニの約束のアクセサリーのおかげで収集はついたんだけどな!!」

 

「そうか。あいつがな……」

 

ヒイロはカトルの環境とつい最近の自分とを重ねる。

 

想いを寄せる人が巨大な組織に拉致され、その上で理不尽な人体実験の被験者に、挙げ句には強化人間の男に奪われ(様々な意味合いで)てしまったのだ。

 

心優しく極めて純粋なカトルには余りにも過酷であった。

 

しかし、イリアやエナを始めとした多くの姉達やまだ姿を見せてはいないが、妹であるカトリーヌの存在、そしてトロワ達の支えからカトルは本来の状態を取り戻していた。

 

更に決め手であったのは、いつかのロニとの約束を籠めたアクセサリーの存在であった。

 

様々な状況に囚われ、忘れてしまっていたモノでもあり、デュオいわく、なくしていたモノであった。

 

ガンダムサンドロックのコックピットの片隅から見つけ出したそれを手に、カトルはコックピットのシートに座り、想いを落ち着かせ続けていた。

 

「ロニ……ごめん……君が作った大切なアクセサリー……なくしてしまっていたよ。きっと、僕は怒られるんだろうね……」

 

握るアクセサリーを更に握るカトル。

 

これまでの想いを巡らせた。

 

哀しく、苦しく、切ない。

 

だが、今は穏やかな境地に至っていた。

 

同時に怒り狂っていた自らを客観視し、改めてゼロの力をあの時の自分が使っていたらどうなっていたかを想像する。

 

「システムに以前に触れた経験から考えてみると、僕は恐らくはゼロの生体端末に成り果てていただろう……そしたら、もっと多くの存在を失っていたのかも知れない!!!」

 

ぐっと自らを見つめていたカトルに声が飛び込んだ。

 

「おい、カトル!!瞑想は終わったかぁ?ヒイロもキリになったからメシいこーぜ!!メシ!!」

 

デュオの声だった。

 

カトルが顔を上げると、ハッチの外に腕組みしたヒイロと来いよと手招きするデュオが立っていた。

 

「デュオ!!うん!!」

 

コックピットから出たカトルにデュオが瞑想の結果を聞きただす。

 

「どーだ?瞑想してなんか得たか?」

 

「め、瞑想って訳じゃないけど……まぁ色々想えたよ。特に、ロニからもらったアクセサリーから!彼女には……本当に感謝しなきゃね」

 

手に下げたアクセサリーを見せるカトル。

 

デュオはカトルがようやく本来のカトルに立ち戻った事を確信した。

 

「そして、デュオやトロワ達のおかげでもあるよ。ありがとう」

 

「……ま、その顔できりゃ安心だっ!なぁ、ヒイロ?」

 

「俺はその時のカトルを見ていない」

 

「あ、そーだったか!!ワリィ、ワリィ」

 

「だが、話はデュオから聞いた。俺から言えるのは、感情で行動することは確かに正しい選択だ。だが時として判断を誤れば暴走になる。お前がやった瞑想は今後の暴走を防ぐ為にもなる。まずはゼロに頼るな。自分と機体を信じろ」

 

「ふふっ、エナ姉さんにも言われたよ。もう大丈夫だよ僕は!サンドロックを信じる!!」

 

ヒイロはそのカトルの言葉と表情に、僅かに口許に笑みを伺わせた。

 

「カトル兄さん!」

 

続いてカトリーヌの声がカトルに届き、彼を呼ぶ。

 

トロワと共にMSデッキを歩いていた所からカトルへ駆け寄る。

 

「カトリーヌ!!ハイスクールから戻ってたのかい?!」

 

「ええ!ついさっきね。でも先にトロワに会いに行っちゃった!ずっと何年も会えてなかったから!」

 

カトリーヌは舌を可愛らしく出してみせる。

 

「もう……しょうがないですね、カトリーヌは。トロワ、よろしく頼むよ」

 

「カトル……かなり話が苦しいが……いつの間にかカトリーヌがコーヒーを入れてくれていただけだ」

 

するとデュオはちゃちを入れるようにからかう。

 

「お兄さん公認かよ!!羨ましいねー……しかし、カトルに妹がいたなんてな!今まで知らなかったぜ。トロワは何で知ってるんだ?」

 

「俺とラルフがウィナー家に行き着いた時から知っているからな。だがそんな話よりも現状の話だ。データベースで調べたが、この混迷の情勢下で幾つかのECHOESの拠点が何者かに攻撃されている事が記録されていた。連絡は来ていないが、おそらくは五飛がやっている」

 

「連絡よこさねーとこがまた五飛らしいぜ。そーいやーアディン達は?」

 

デュオがアディン達の所在を気にかけると、トロワがそれを答えた。

 

「アディン達は兄弟で戦闘シュミレーターに徹していた。食事ならば俺達だけで済ましてきていいようだ」

 

「熱心だなー……ま、やっておいて損はねーけど」

 

デュオの声の後で、ヒイロは2機のガンダムジェミナスがリフトオンしているMSハンガーに視線をやる。

 

カトルもそれを見て、今いる皆にシュミレータートレーニングを推進することを伝えた。

 

「僕達も食事を済ましたらシュミレータートレーニングをしましょう!!この情勢ですからいつ敵に攻められても身構えれるように!!」

 

提案指示を促すカトルを見たトロワは、再び本来のカトルに立ち直った事を改めて確信した。

 

「そうだな。ここでの油断は命取りだ。カトルの意見は最もだ。俺達は戦闘のプロフェッショナル故に油断もできてしまいかねない(それでこそカトルだ。よく立ち直れたな)」

 

トロワが心中でカトルをささやかに賞賛すると、カトリーヌが少年達に割り込みをかけ、小悪魔チックに言って見せる。

 

「じゃーボクはエナ姉さん達と差し入れに来ようかな!もちろん、ボクはトロワに!」

 

「あぁ、頼む」

 

「いやいや……トロワが色気付いてたなんて、って冗談!!そーと決まったらメシ、メシ!!」

 

ごまかしながらトロワの視線を避けるデュオを見た後にヒイロはガンダムジェミナス01を見つめた。

 

(それがお前の感情の行動か……アディン)

 

コックピット内では、鋭い眼差しでシュミレーターに集中するアディンとオデルの姿があった。

 

ガランシェールから持ち帰った何かにアディンとオデルは後押しされていた。

 

資源衛星パラオ

 

 

ガランシェールがパラオ内の宇宙港に到着した。

 

宇宙港関係者達は現在、皆がネオジオン関係者であり、和気あいあいとジンネマン達の帰りを祝福する。

 

「ジンネマンの旦那が帰って来たぜ!!」

 

「長いこと出払ってたからな~!!このご時世の中をよくぞ無事に帰ってこれたな!!よかった!!」

 

「マリーダ探し出すって言って帰って来たなら、マリーダみつかったのか!!?こいつは祝杯だな!!」

宇宙港施設管理室内が盛り上がるが、モニターに映ったジンネマンの言葉と雰囲気で一変する。

 

「盛り上がってくれてる所悪いが、こっちはそれどころじゃない!!!マリーダが危ない!!!大至急ドクターマガニーとハサンに繋いでくれ!!!」

 

「マリーダが!!?重症なのか!!?」

 

「連邦の連中に余計な強化されちまったっ!!!早く繋いでくれ!!!!」

 

パラオへと帰還を果たしたジンネマン達だったが、ある意味無言の帰宅をしたマリーダの処置に追われていた。

 

マリーダはパラオへ向かうに従い、次第に体が強化の反動に耐えかね、マリーダは昏睡したまま更に衰弱してきていた。

 

そのマリーダにパラオ在住の二人のドクターが、容態回復の為に動く。

 

年老いてはいるが、未だに現役のドクターマガニーと元エウーゴの軍医であるハサンとその助手が、特殊なCTスキャンのような装置で意識を失ったマリーダのを調べていた。

 

「ドクターマガニー……これは!!?」

 

「うむっ……!!!かなりの過剰かつ強力な強化を施されてしまっているな!!!未知の薬品も検出されている!!!」

 

「体がその反動に耐えきれずに限界を迎えつつある状況であるのは間違いない!!!メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムパイロットが応急処置をしてくれていなかったら手遅れになっていたかもしれない……ドクター!!!」

 

「あぁ!!!わかっとる!!!」

緊迫感が溢れる中、二人のドクターの処置が始まった。

 

その最中、プルやジンネマンは待つしかなかった。

 

ジンネマンは固唾をのみながら懸命に待ち、プルは記憶上初めて来る資源衛星内の不思議な空間の感覚に触れ、時折見上げながら待ち続ける。

 

「マリーダ……」

 

「プル……無理をしなくてもいいんだぞ。パラオの中珍しいだろ?ギルボア達と一緒に出かけてきても……」

 

本来ならば、初めての宇宙や資源衛星にはしゃぐ姿が自然なはずのプルにジンネマンは現在の状況を把握した上で言った。

 

だが、プルは少し大人びた言葉をかえした。

 

「パパ……ありがとう。でもあたしはマリーダを待つよ。あたしの妹なんだもん……確かにあたしはマリーダより年下だけど、あたしはお姉ちゃんだから……マリーダが危ないのにはしゃぐなんてできない。マリーダがよくなったらみんなで行こうって思ってるよ」

 

「そうか……わかった」

 

ジンネマンはプルのその意思を汲み、再び手術にも似た緊急処置の時間を待ち続けた。

 

その間に幾度かマリーダの叫びが聞こえ、その度に同調したプルが苦しみだし、ジンネマンはなだめ続けた。

 

そして、二時間が経とうとした頃、ドクターマガニーとハサンが緊急処置を終えて処置室から姿を見せた。

 

ジンネマンとプルは直ぐにドクターマガニーとハサンに駆け寄り、マリーダの安否を問い質した。

 

「ドクター!!マリーダの容態は!!?どうなったんです!!?」

 

「マリーダの体は大丈夫なの!!?まだ苦しい感じがしてくる!!!」

 

「何とか一命はとり止めた。だが……余りにも酷い状態だった。マリーダの身体は全身が未知の強化薬品に蝕まれていた。筋肉も内臓も……そして脳までも……今後も後遺症が引き起こるかもしれん!!!」

 

「な……後遺症!!?」

 

ドクターマガニーの言葉の後に、ハサンが診断データをジンネマンに手渡した。

 

「昏睡さえも破ってしまう程に全身に激痛を伴う後遺症、シナプスシンドローム。かつて強化を超越した被験者に見られた後遺症だよ……マリーダの診断書だ、ミスタージンネマン!!」

 

「こ、これは?!!」

 

そこに記載されていた事はマリーダの余りにも酷い身体状況であった。

 

ジンネマンの心の中で、マリーダを蝕む理不尽に対する怒り哀しみ暴れる。

 

ハサンは診断書を見ながら様々な感情に震えるジンネマンに心を痛ませる。

 

「ミスタージンネマン……我々も治療は継続させていくが、未知の薬品相手の治療だ……かなりの忍耐との闘いになる」

 

「無論だ!!!今後もマリーダを頼む……っ!!!」

 

「あ……あたしからも……お願い。マリーダを助けて」

 

ジンネマンのその言葉に続くように、感応的な苦痛にみまわれていたプルも、マリーダの身を案じながら頼んだ。

 

マガニーとハサンは数度頷きながら、マリーダの治療尽力を固く決めた。

 

特にマガニーは第一次ネオジオン抗争の時に当時のプル達の担当医だったこともあり、より想いを固くする。

 

(皆死んでしまったと思われとった彼女達を、今こそ救わねばならん……!!フロンタル派と離別した今、もう彼女らを兵器に仕立て上げるわけにはいかんのじゃ!!)

 

その直後、プルは再び身体に感応異常を示して苦しみだす。

 

それはマリーダにも同じコトが起きているコトを意味している。

 

「うぁあああっ……苦しいっ……またマリーダがっ……きゃあああああああっ―――!!!」

 

「プル!!!」

 

そして、プルの悲鳴の直後に医務室から悲痛なるマリーダの悲鳴がこだました。

 

マガニーとハサンは再び処置に入り、遂にはプルまでもが、壮絶な感応苦痛に気を失う。

 

抱き抱えたプルをベッドに寝かせたジンネマンは、彼女達を苦しめた元凶たる存在に怒りを露にし、歯ぎしりをしながら握りしめた拳を壁に打ち突けた。

 

 

 

宇宙世紀0096。

 

新たな年が幕を開けた。

 

そして、オペレーション・プレアデスから始まったOZ宇宙軍と連邦艦隊の攻防は最終局面を迎える。

 

旧ソロモンであるコンペイ島を最終拠点にしていた連邦艦隊に対し、ディセット特佐率いるOZ宇宙要塞バルジ及びOZ宇宙軍と、ダグザ大佐率いるECHOESの混成攻撃部隊が投入され、それまでに固くなな籠城をしていた連邦サイドが一網打尽されていく。

 

この戦闘にはガンダムデルタカイ、アスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウス、リゼル・トーラス部隊、ECHOESジェスタ部隊、ECHOESジェガン部隊も投入されており、徹底的に連邦を叩き潰す意思表示が示されていた。

 

既存の連邦のジェガンやリゼル、ジムⅢはその圧倒たる攻撃と性能に次々に撃破され、クラップ級艦隊も同じように撃沈されていく。

 

そして、荒ぶる激戦の最中、バルジの砲門がコンペイ島へと向けられた。

 

「バルジ砲、発射!!!」

 

ディセットの声の指示の流れにバルジ砲に超高出力の大型ビーム渦流が発射され、その真紅の渦が幾多の艦隊やMS部隊を消滅させながらコンペイ島へと直撃した。

この戦闘により、抵抗していた連邦勢力が壊滅し、地球圏は遂にOZが掌握するカタチとなった。

 

用意周到に画策された世界情勢操作とも呼べるオペレーション・プレアデスの真髄が成され、OZを中心とした政権に変わったのである。

 

連邦の時代が断ち切られ、新たにOZの時代が到来し、トレーズから任を任されたディセットによる政権交代宣言が、地球圏に一斉配信された。

 

「宇宙世紀0096。これまで古き流れを固持し、宇宙世紀の時代たる時代を支配してきた地球連邦政府は、我が組織OZが歴史から退かせた。確かに我々は元より地球連邦の一部であった。だが、地球連邦の時代はこの先の宇宙世紀の未来をやがて墜落させかねないと感じた我々は、歴史の流れを変えるべく行動をした。宇宙の民の弾圧、非人道な人体実験という地球連邦が侵し続けた過ちは、宇宙世紀の歴史の大半をその闇に染めた。我々OZは、そのような歴史的な過ちを正すため、人類を正しい歴史の流れに乗せていく為に動いた!!!これからの歴史は、我々OZと共に!!地球圏を一つに邁進する事を願って止まない!!」

 

そのディセットの演説は、偽りの説得力を生む。

 

そして、それはOZによるメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム攻撃の流れへと変わっていく。

 

以前の情報操作でメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを敵視したコロニー居住者達が、OZを攻撃の対象としたガンダムを再び敵視する流れに変わったのだ。

 

それはディセットを始めとするOZによる情報戦略であり、ディセット自身もECHOESと連携し、彼らの殲滅に動きを見せていた。

 

バルジ内の作戦室に表示されたL4エリアのデータマップを見ながら、演説を終えたディセットとダグザが本格的なガンダム掃討作戦を実行段階に移そうとしていた。

 

「L4コロニー群X-21832。表向きには一般の大企業コロニーだが、輸送船を装った我がECHOES隊員からはやつらの整備施設兼開発施設のようだと連絡があった」

 

「間違いないか?」

 

「我がECHOES隊員の捜査だ。間違はない!!!このコロニーこそがやつらの拠点だ!!!」

 

「それは失敬だった。ではこのコロニーへ徹底制圧をかける。ガンダムは我がOZのMD部隊と特殊攻撃部隊をぶつけ、内部はECHOESで制圧を図る。ガンダムの鹵獲とメテオ・ブレイクス・ヘルのデータ収集と完全壊滅が目標であり、不可能であるならば破壊するまでだ。今の我々ならば可能な火力と戦力を有している。先に部隊は編成済みだ。我々は今からでも用意がある!!」

 

「我々も同じく……では決まりだな」

ディセットとダグザは別のモニターに視線を送り、その目に殲滅の意を表す。

 

そして、バルジからOZとECHOESの混成攻撃部隊が出撃していく。

 

「はぁ、はぁ……はぁ……ガンダムを、全てのたてつく存在を破壊する……!!!このデルタカイでっ!!!偽りのガンダムを殲滅する!!!」

 

特別攻撃部隊には、ガンダムデルタカイのシステムで人格が変貌しつつあるリディがいた。

 

並列するように航行するガンダムデルタカイに続き、いよいよ迫るガンダムとの戦闘に高揚するトラント、ミューラ、アレックスが、そして、バルジには再度宇宙に舞い上がったゼクスの姿があった。

「これが最後となるならば……私は一人の兵士として彼らの最後を見届けたい。そして、彼らの犠牲になった幾多の兵士達の鎮魂の為に決着を着ける……!!!」

 

次々と出撃していく攻撃部隊。

 

その先に拡がる宇宙空間には、メテオ・ブレイクス・ヘルの確かな滅びを表す何かが見え隠れしているようであった。

トレーズもルクセンブルクの夜空を見上げながらその予感を感じ、澄み渡る星々に囁きをなげかけた。

 

「あの宇宙の中に溶け込むガンダムの戦士達は……迫る運命にどう抗う?さぁ……闘い続けてくれたまえ……この時代に……」

 

 

 

 

To Be Next Episode




時代は連邦からOZの時代に切り替わった。

連邦からOZに寝帰ったECHOESはえげつないまでに反抗の可能性を叩き潰す。

五飛は反抗の火種を紡ぎ続けるそのECHOESの活動ポイントを転戦し続ける。

だが、シェンロンガンダムは長きに渡る機械的な疲弊を溜めていた。

一方、ラボコロニーでカトルの姉達や妹と共に体制の立て直しの日々を送っていたヒイロ達だが、ラボコロニーの素性を知った反戦思想のウィナー家当主、ザイードにラボコロニーの差し押さえを攻められる。

その最中、ラボコロニーの存在を突き止めたOZとECHOESは遂に本格的なメテオ・ブレイクス・ヘルの撃滅に乗り出す。

迫るOZはカトル達に追い討ちをかける現実を叩きつける。

かつてなき混迷にGマイスター達は抗いの出撃をしていく。

そして先に出撃したヒイロもまたバルジ破壊の為にウィングガンダムリベイクで進撃するのであった。

次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

エピソード24 「ラボコロニー強襲」

任務……了解!!


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エピソード24「ラボコロニー強襲」

不定期でご迷惑をおかけして申し訳ありません。

大変長らくお待たせしました。

エピソード24、始動します。






OZによる政権交代は、地球圏各地において多大な支持を得始めていた。

 

地球連邦政権の在り方の不平不満を募らせ続けてきた大衆の当然なる評価であり、同時に新たな期待のあらわれでもあった。

 

OZは連日のように、これまで歴史に隠蔽されてきた連邦の諸行を開示し、連邦への更なる失望とOZの支持を大衆に抱かせる。

 

無論、OZが暗躍した歴史は全て連邦にすり替えられたに過ぎない。

 

しかし、大衆は宇宙世紀始まって以来の政権交代にOZを疑う事をしなかった。

 

更にその流れはOZを攻撃したメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達をも敵視する流れを生んだ。

 

「コロニーのガンダムは、悪の連邦を倒してくれたOZを攻撃した。それは大衆の敵になる行為だ」

 

「以前ガンダム、ガンダムって言ってたけど、ガンダムはコロニーを危険に導く存在さ。おかげで連邦からより一層の敵視を貰った」

 

「私は……OZを支持するわ。彼らならきっと宇宙世紀を変えてくれる。ガンダムは……ただテロばかり無作為にして、かえってコロニー市民をより一層肩身を狭くさせたわ……OZの今後に期待ね」

 

「ガンダムはどこに潜伏してるんだか……あいつらが中途半端に連邦を攻撃するから弾圧下に晒されるんだ!!責任とれよ!!!」

 

メディアに響く大衆の声や思想はOZに傾く。

 

それを潰すかのように、メディアの音声が消された。

 

「どいつも真実を知らん奴らばかりだな……民間なら当然か」

 

そう呟きながら音声を消し潰したのは、シェンロンガンダムのコックピットで地球圏のラジオ放送を聴いて小休止していた五飛だった。

 

大衆向けに編集された操作情報を信じ切っている人々の声に愚かささえ感じた五飛は、小休止を止めてグリップトリガーを握りしめた。

 

「真実にこそ悪が潜む……弱き者を虐殺するECHOESがな……では次のポイントだ……いくぞ、那托!!!」

 

 

 

 

L2 X-2658コロニー・ECHOES拠点基地

 

 

 

 

ECHOESの拠点が存在するコロニーにおいてサイレンが鳴り響く。

 

その最中で幾多の連続爆発が巻き起こる。

 

ECHOES拠点基地を破壊する何かがそれを巻き起こしていた。

 

荒れ狂う火炎が兵士達の宿舎に注ぎ込まれ、ECHOES隊員ごと吹き飛ばす。

 

ECHOESジェガン、ECHOESロトが緊急出撃していく中、MS格納庫にも爆発が巻き起こった。

 

巨大なジェット噴射のごとき火炎放射が注ぎ込まれ、周囲のあらゆる物体を吹き飛ばしながら次々にECHOESジェガンとECHOESロト達を爆発炎上させる。

 

その破壊を奮うはシェンロンガンダム。

 

出撃したECHOESジェガンとECHOESロトはビームバズーカとロケットランチャーをそのシェンロンガンダムへ撃ち放つ。

 

シールドで防御に転じ一身に攻撃を受け止める。

 

ECHOESジェガンは、ECHOESロトの援護射撃を得ながらシェンロンガンダムへ接近。

 

レフトアームにビームサーベルを握り、斬りかかった。

 

次の瞬間、シェンロンガンダムの目が光り、一気に攻撃に転じ、ビームグレイブをレフトハンドで振り回しながらECHOESジェガンを薙ぎ払う。

 

 

 

フォッッフォフフォッッ―――ザガギャアアアアア!!!

バズグバァアアアアアン!!!

 

 

 

更に、迫る4機のECHOESジェガンと3機のECHOESロトに加速するシェンロンガンダム。

 

射撃を敢えて食らいながら、ごり押しで攻め込む。

 

擬似GNDビームの着弾部が爆発し、装甲が僅かに凹んでいく。

 

 

ジュズガッ、ザシュガァアアアッ!!!

 

ゴゴバァガァアアアアッ!!!

 

 

 

一、二振りの一瞬のビームグレイブの斬撃が2機のECHOESジェガンを斬り砕き、そこからの大きな一振りで

一気にECHOESジェガンを斬り飛ばした。

 

 

 

ギャギュイッ、ダッガギィィイイイイッ……ドドゴゴバァアアッッ!!!

 

 

 

五飛の正義を乗せた破壊が統べる。

 

「貴様らには相応の鉄槌だ……組織を攻撃するならば、直接攻撃をしていた俺達で十分だったはずだ……!!!」

 

五飛の中でECHOESに対する怒りと共に、ECHOESに虐殺されていった同志達を弔う気持ちも混ざっていた。

 

様々な背景理由から連邦・OZを敵視する者達だった。

 

彼らの大半は、大きな報いが相応しいまでに暗い現実を連邦・OZに叩き付けられていた。

 

ECHOESはそんな彼らの命をいとも簡単に潰した。

 

その無念を正義の怒りに賭して五飛はシェンロンガンダムをECHOESロト達へ突貫させる。

 

キャノン砲やロケットランチャーの直撃をものとせずに、シェンロンガンダムはドラゴンハングを1機のECHOESロトに突き刺した。

 

そして、そのECHOESロトを別の2機のECHOESロトへと舞い上がりながら叩きつけた。

 

目を光らせたシェンロンガンダムは、半壊したECHOESロト3機に火炎放射を浴びせ、破壊とジェネレータ機器の誘爆を誘発させて爆破した。

 

「ここも壊滅させたな……次に向かうぞ、那托」

 

基地設備の壊滅確認をモニターデータで処理した後に、シェンロンガンダムを次のECHOES絡みのポイントへと向かわせた。

 

 

 

コロニーの区間を航行するMS輸送船。

 

ECHOESのMSを乗せた船舶である。

 

船内では既に出撃の準備がされており、ECHOESジェガンとECHOESロトが出撃体制に移行する。

 

「資源衛星・キルケーに到達。潜伏が確認されているネオジオン勢力を掃討する」

 

ECHOESのMS達のカメラアイが一斉に光る。

 

目的は資源衛星に潜伏するネオジオンの残存勢力の抹殺。

 

無情なるマンハンター達が潜伏するネオジオンの民に牙を向ける。

 

ネオジオンと言っても、ネオジオン兵士の家族や繋がりのある業者等の一般の人々もおり、MSは身を守る為の自衛手段であり、フロンタルのネオジオンのように大規模な反乱を巻き起こす為のモノではなかった。

 

だが、ECHOESは反乱の可能性と見なし容赦はしない。

 

資源衛星内にECHOESの特殊部隊がECHOESロトに乗りながら潜入し、蜘蛛の子を散らすように散開。

 

冷酷な機械感情の兵士達は、資源衛星内の街を駆け抜け、サイレンサーガンで一般人、老若男女問わず次々と射殺する。

 

全く気づかれずにピンポイントで急所を撃ち抜いていく業(わざ)は、悲鳴さえ上げさせない。

 

目指すはネオジオンの兵器庫と兵士達の宿舎だ。

 

到達したECHOES隊員達は、まさにアサシンの如くネオジオン兵士達を次々に射刺殺していく。

 

無情たる無慈悲な行動には全く容赦は見受けられない。

 

更には別の部隊が民間家屋に潜入し、婦人子供問わず次々とサイレンサーガンを頭部にあて、即死へ導いていった。

 

そして、ゲートを突き破りながら内部にECHOESロト部隊が突っ込む。

 

民間施設内を走行するロト部隊は、人が密集するエリア目掛け、ロケットランチャーを発射。

 

戦争から逃れ、ひっそりと生活していたネオジオンの民に無慈悲な攻撃の雨が注がれた。

 

後に続き、ECHOESジェガンも同じポイントへ、ビームライフルを連発発砲。

 

人々の幾多の叫びが聞こえてくる。

 

その間にもマンハンター特殊部隊は、泣いてすがる母親も子供にも全く容赦せずに殺戮を継続していく。

 

これらの殺戮行動は、ECHOEにとっては至極当然の行為である。

 

反乱の芽の可能性は徹底的に排除するのだ。

 

ECHOES部隊は、数十分に渡り資源衛星内の住民を殺戮し、最終的に内部に設置した衛星破壊用爆弾・ブラストボマーを爆破させ、内部を完全に破壊し尽くす。

 

その間の凄まじい爆発・爆風は無慈悲なECHOES部隊の非情たる感情を表すかのようでもあった。

 

 

「キルケー内部を完全に破壊。反乱分子予備軍の掃討も完了。全部隊、離脱せよ!!」

 

キルケーにMS輸送船が接近し、ECHOESジェガンやECHOESロト達が帰投へと移行する。

 

だが、その次の瞬間、熱源のみをレーダーに示す存在が接近した。

 

「!!?っ……急速に接近する熱源を探知!!だが、MSの反応はない!!!」

 

「何だと!!?っ―――がぁっ?!!」

 

 

 

ドォガギャアァッッ―――ゴガァオオンッ!!!

 

 

 

急速に接近した何かに激突されたECHOESロトがぶっ飛び、MS輸送船の機首部に激突し半壊した。

 

突っ込んだ何かが止めと言わんばかりに接近し、何かを串刺しにした。

 

 

 

ズジュガァアアッッ―――ドッゴバガァオオオオ!!!

 

 

 

ECHOESロトを串刺しにしたのは、シェンロンガンダムのビームグレイブだった。

 

ECHOESロトはそのままMS輸送船と共に爆破する。

 

その爆破に照らされたシェンロンガンダムは、ビームグレイブを手にし、直ぐに別のECHOESロトに斬りかかる。

 

ビームキャノンやメガマシンキャノンの砲撃をシェンロンガンダムは真っ向から受けながら突っ込む。

 

「が、ガンダム!!ガンダム出現!!!応戦の限りを尽くせぇっ!!!」

 

「あのガンダムが昨今、我々ECHOESを攻撃しているガンダムなのか?!!」

 

ECHOESロト、ECHOESジェガンの部隊が反転し、次々にオレンジのビームを撃ち出して応戦していく。

 

このオレンジのビームは、擬似GNDドライヴの発動させるエネルギーの証拠だ。

 

通常よりも高いダメージの負荷がシェンロンガンダムに注がれ、装甲表面に幾つもの爆発が起こる。

 

だが、五飛は全く構うことなく攻めの姿勢で突っ込む。

 

「貴様らの悪の所業……俺が叩き潰す!!!」

 

 

 

ズバシャガァアアアアッッ!!!

 

ドッゴガァアアアンッッ!!!

 

 

 

ビームグレイブに叩き斬られたECHOESロトが爆発。

 

その爆炎を突貫し、ビームグレイブを振り回しながら3機のECHOESロトに斬り払いの一線を見舞う。

 

 

 

ブルルルルルルッ―――ジャズガァッ、ディギャイ、デッギャイィイイイイン!!!

 

ドドドゴバァアアアアアアアア!!!

 

 

 

「くそっ!!ECHOESをなめるなよ!!!」

 

一瞬にして4機のECHOESロトを破壊され、憤りの限りを覚えたECHOESジェガンのECHOES隊員達は、ビームライフルやビームバズーカの射撃をシェンロンガンダムに集中させた。

 

 

 

ドドドドドドトォォォォォ……ドォゴガァン、ディギャオン、ドドドガァアアアアアン……!!!

 

 

集中射撃を受け続けたシェンロンガンダムは幾つもの小爆発に包まれ、やがて爆発に呑まれた。

 

だが、ECHOESジェガンの1機はビームサーベルを抜き取り、そこへ攻め込んだ。

 

「やつらのガンダムならば、この程度では墜とせん!!!おおおっ!!!」

 

次の瞬間、案の定シェンロンガンダムが僅かに装甲を損傷させた状態で飛び出す。

 

ビームグレイブとECHOESジェガンのビームサーベルがぶつかる。

 

はしるスパークに五飛は口許に笑みを浮かべた。

 

「そうこなくてはな……卑劣な奴らが強ければ強いほど熱くなる……!!!」

 

ビームサーベルを捌いた瞬間、両者のビームの得物が幾度もぶつかり合う。

 

次の斬撃で両者の刃が振るえながら拮抗する。

 

拮抗している時点で、擬似GNDドライヴのパワーが窺える。

 

「ふっ……我々はECHOESだ。反乱分子の駆逐には手段を選ばない!!!」

次の捌きが始まった瞬間、ECHOESジェガンがシェンロンガンダムから突如として離脱する。

 

シェンロンガンダムは斬り損じた直後、宇宙空間上の四方向からビームバズーカの集中射撃を受けた。

 

 

 

 

ドドドドシュダァアアアアア―――ドッッゴバァガァオオオオオン!!!

 

 

 

シェンロンガンダムを爆発させるような爆炎が巻き起り、更にそこへ再びECHOESジェガンが斬り払いを見舞った。

 

 

 

ギャギィイイイイイッッ!!!

 

 

 

 

ビームサーベルの斬り払いでぶっ飛ぶシェンロンガンダム。

 

シェンロンガンダムの機体の装甲が少しではあるが、一部が破損していた。

 

度重なる擬似GNDエネルギーによるダメージに、確実に耐久度は下がりつつあった。

 

だが、それでも五飛はECHOESジェガンへ突っ込み、カウンターのビームサーベルの突きを受ける。

 

装甲の表面で爆発が起こる。

 

しかし、確実にドラゴンハングの牙がECHOESジェガンの胸部を貫いていた。

 

爆発に巻き込まれながら、シェンロンガンダムは次々にECHOESジェガンに取り付きながらドラゴンハングで装甲を破砕し続ける。

 

 

 

ダッガギャッッ―――ズドォガァッッッ―――ドッッガァギャォッッ―――、ガァギャガァアアアッッ!!!

 

 

 

この攻撃により、シェンロンガンダムはキルケーを蹂躙したECHOES部隊を壊滅させてみせた。

 

だが、五飛は宇宙へ上がって以降、ECHOESの拠点や任務エリアをハッキングした情報から攻撃をかけ続け、各地を転戦して来た。

 

故に機体は確実に今の戦闘で疲弊を加速させつつあった。

 

メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムと言えど機械である以上、逃れられない現実だ。

 

各部のエラーアラートがコックピットに鳴り響き続ける中、五飛は呟いた。

 

「那托……まだ俺達は終わらん……宇宙には馬鹿が多すぎる……理不尽な馬鹿達がな……」

 

五飛は瞳を閉じてしばらく瞑想に入るが、すぐに目を見開き、モニター操作でどこかの座標を調べ始めた。

 

「そろそろ貴様もメンテナンスが必要か……あいつらも戻っているはずだ。帰還するぞ、那托」

 

五飛はいよいよシェンロンガンダムもコンディションの限界と判断し、ヒイロ達が集結しているラボコロニーへの帰還を選択した。

 

 

 

L4コロニー群・ウィナー家ラボコロニー

 

 

 

ガンダムのメンテナンスブロックが見える施設内のカフェで、エナとカトリーヌがブラックコーヒーとカフェモカを口にしながら、カフェタイムに浸っている。

 

カフェタイムでも真剣な表情の二人から深刻な話をしている事が窺える。

 

エナはため息をつきながらブラックコーヒーを置いて再び話す。

 

「ふぅ……いつかはと思ってはいたけど、お父様にこのラボの件がついにわかってしまった……ラボの責任者であるイリア姉様とカトル、それにリーダーのオデルが、ウィナー家の資源衛星視察中のお父様に呼び出されて……きっと近い内にウィナー財団にラボは差し押さえられてしまう」

 

「お父様はこれでもかって程に平和主義だからね……ガンダムなんか直ぐに解体されちゃうかもね。でもそうしたら……どうなっちゃうの?」

 

「対抗手段が無くなってしまう……そう……OZに対する対抗手段がね。今は戦うしかない……だからイリア姉様を中心に私達はメテオ・ブレイクス・ヘルのバックアップに尽力してきたの……」

 

「ボクが説得すればお父様は考えて下さるかな?一応、ウィナー家の末っ子の娘だから!えへへ!」

 

そう言ってカトリーヌはカフェモカのカップを両手に持って飲み始めた。

 

「もう……カトリーヌったら……そんなに簡単じゃない……こういう事はね。難しいんだから……」

 

カトリーヌの半ば無邪気な意見にエナは、妹の可愛らしさを感じながらブラックコーヒーを再び口にする。

 

その時、カフェルームにデュオとトロワ、アディンが姿を見せた。

 

デュオは相変わらずのひょうひょうとした口調を飛ばす。

「おっと!ご姉妹仲良くカフェタイムかぁ?」

 

「デュオ。トロワとアディンも……」

 

「トロワ!」

 

カトリーヌはトロワを見るなりテンションを上げた声を上げるが、トロワは坦々とカウンターでブラックコーヒーを注文する。

 

「俺はブラック」

 

それに続くようにアディンの分と合わせてデュオが注文した。

 

「俺達はウインナーコーヒーな!!」

 

「あ、俺、追加でスコーンも」

 

急に男子勢が増え、カフェルームに少し賑わい感が増す。

 

店主でルームオーナーのセルビア・アン・ウィナーもこの状況にコメントをこぼす。

 

彼女もカトルの姉の一人で、低い位置から髪を丸めたギブソンタックのヘアスタイル(※)がトレードマークの気さくで綺麗な女性だ。

 

 

※例:「ガルパン」のダージリンのヘアスタイル

 

 

エナやカトリーヌの姉であり、イリアの妹でもある。

 

「あらあら!男子達がくるだなんて珍しい!!帰って来たGマイスター君達ね?」

 

「そーそ!!死神にも休日が欲しいんで!」

 

「俺達、ずっとシュミトレやりこんでたからさ。たまには息抜きにって……」

 

そう言いながらアディンは、他の料理メニューに目を向ける素振りを見せるとたちまちあれこれ眺め始める。

 

セルビアは出来上がったブラックコーヒーの皿をトロワに渡しながら悩むアディンを横目にする。

 

「ゆっくりしてって~……あたしはこのカフェルームオーナーのセルビア・アン・ウィナーよ……よかったら軽い料理くらいおごるわ。当店オリジナルパスタ、おすすめよ」

「マジっすか!?やりー!!じゃ、それで!!トロワもそれでいいか?」

 

「あぁ」

 

「セルビアさん、気前いーねー!きっといい奥さんになれるぜっ!!」

 

「あら、ありがと!もしかして、惚れたかしら?」

 

「おっと、俺は今が一杯なんでな!またかんがえさせてもらおかな!あと、こっちのアディンにゃ、フィアンセがいるからよ!!」

 

「あらあら、いーじゃない!かわいいの?」

 

デュオは、アディンにプルの事を押し付けてアディンをからかう。

 

無論、アディンは否定する。

 

「何がフィアンセだ、バカヤロウ!!!」

 

カウンターでわいわいしている二人に、カトリーヌは冷めたコメントを呟く。

 

「セルビア姉さんのとこの二人、はしゃぎすぎ……それに比べ、やっぱりトロワは大人よね☆」

 

「そうか?だが、これまでの死線をくぐって来たあいつらも十分大人だ。子供であればあの過酷な状況を越える事はできないさ。カトリーヌはできるのか?」

 

「う……やらなきゃわかんない。でも、トロワとなら越えれるよ☆ボク、がんばる!」

 

「ふっ……カトリーヌらしいな……」

 

先程までウィナー家にも纏わり、Gマイスター達にも深刻な話になっていた空気が和らぐ。

 

エナは空気の変わりように呆気にとられていたが、はっとなり、トロワにも現在の状況を告げた。

 

「っ……トロワ」

 

「ん?」

 

「先程まで話していたのだけど……カトルとオデルが……」

 

「あぁ、知っている。遅かれ早かれ知られていた。今が乗り越える時だ。二つの意味合いでの身内間のぶつかり合いは避けられない」

 

「カトル……(お願い、お父様。カトルの事をわかってあげて……!!)」

 

エナが心中で父親にうったえる想いを呟く頃、父・ザイード・ウィナーの拳をカトルはもらい受けていた。

 

「うぐっうっ……!!」

 

「このっ……親不孝者がぁあっ!!!」

 

「お父様!!」

 

殴り飛ばされたカトルをかばうイリア。

 

だが、ザイードはかばうイリアを引き離し、カトルの胸ぐらをつかみ上げた。

 

「武力による反抗だと!!?ガンダムの力による変革だと!!?ふざけるな!!!武力ではっ、武力による行動では何も解決せんのだ!!!だからっ、あいつは……マハディ・ガーベイのやつは……!!!」

 

ザイードは盟友であった、マハディの死を思い起こすと共に、武力の愚かさを投げかける。

 

「武力を影で供給してきた結果、テロリスト共に妬まれ攻撃された……!!!武力に携わらなければそんな事にはならなんだはずだっ!!!それに……お前達はガンダムでは飽きたらずにコロニーにまで手を出したな……!!!」

 

「お父様!!!それらは全てOZによる情報操作です!!!カトル達は……カトル達は争いを世界に導くOZや支配を続ける連邦を倒す為、この世界の為に立ち上がったんです!!!」

 

続けてオデルも実体験を踏まえながら意見を訴えた。

 

「俺達バーネット兄弟は、連邦の戦艦に住んでいた資源衛星ごと家族や大切な人達を奪われた!!あなたは今いる資源衛星が、ウィナー家のコロニーが、お嬢様達がいるコロニーが、突如軍に攻撃されて消えるんですよ!!?それでも行動せずにいられますか!!?」

 

「オデルと言ったな……憎しみからは何も生まん!!!連鎖する争いだけだ!!!かえりみろ!!!宇宙世紀の歴史を!!!憎しみと争いが繰り返す歴史だ!!!お前達はそれに拍車をかけたばかりか、結果的にOZが世界を支配する形に導いてしまったのだぞ!!!」

 

実際にザイードの言うとおりの流れが今の歴史を作っていた。

 

オデルはしばらく、ぐうの音が出ない状況になるが、振り払うように自身の主張を放つ。

 

「確かに結果はそうかもしれない!!馬鹿げた反抗だったかもしれない!!だが、それはあくまで現時点の流れ!!判定は未来が決めることです!!!俺自身は結果ではなく、行動することに、行動したことに意義があると考えます!!!」

 

「どんな理由であれ、武力を持ってはならんのだ!!!いずれにせよ、お前達の言うラボコロニーは差し押さえる!!ガンダムも解体だ!!!」

 

「父上!!!今は戦う力が必要なんだっ!!!それだけはやっちゃならない!!!」

 

「では聞くがな、カトル!!!ガンダムで闘って戦争は終わったのか?!!答えは紛れもない今ある現実だ!!!戦争が終るどころか無力極まりないではないか!!!」

 

「っ―――……!!!」

 

「お父様!!カトルは、コロニーの事を!!今後の宇宙世紀を想って行動してしたんです!!!並大抵の同じ年代の子にはとてもできない過酷な選択肢をしてここまで来たんです!!!少しくらいは評価を……!!!」

 

ぐうの音も出ないカトルを庇うように、イリアはカトルの主張をザイードにうったえた。

 

「正当化をするな!!!如何なる理由があろうと武力をかざす事は愚かな行為に他ならん!!!もうよい!!!お前達はラボコロニーとやらに帰れ!!!準備が整い次第私は赴くからな!!!」

 

断固として武力を否定するザイードの考えは、如何なる主張を持ってしても止められない。

 

カトル達は呼び出されたあげくにラボコロニーへ強制的に帰らされる事になった。

深刻な空気の中でイリアがカトルとオデルに話し出す。

 

「一度決めたこと、それも反戦争主義の事ならお父様は絶対に妥協はしないわ。直ぐにでもラボコロニーの差し押さえに行動するでしょうね。急いで戻ってお父様の差し押さえを止めるか、時間稼ぐかをしなければ……」

 

オデルはいつ来るかわからない敵と同時に、身内とある意味の形で闘わなければならない状況に眉を潜めながら言う。

 

「くっ……皮肉だな!!!OZと同時にザイード当主とも戦わなければならないとは……!!!」

 

「確かに父上はラボコロニーを差し押さえてきます。ですが、身内ですから命のやり取りはありません。ですが、ECHOESが来た場合は……想像したくありませんね……」

 

「はぁ……とにかく今はガンダムを誇示する事が先決だ。俺達はGマイスターなんだ!!ガンダムを持って現状を打開しよう!!!ECHOESに先を越される前にこちらの方から動くぞ!!!」

 

「はい!!!」

 

カトルの返事の後にイリアも頷きながら輸送船の舵を握り続ける。

 

だが、女性の勘か否か、ただならぬ嫌な予感を感じていた。

 

(急がなきゃいけない気がする……ラボコロニーへ一刻も早く戻らなければ!!!)

 

 

 

L4コロニー群宙域

 

 

 

イリアの抱いていた勘は確実性を増してきていた。

 

ディセットが指揮するOZ宇宙軍も同じ座標を目指す。

 

ディセットのメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを徹底的に叩き潰す意志は確たるものだ。

 

彼らのガンダムの存在を征する事自体が、地球圏を征するに等しいからである。

 

連邦より接収したクラップ級艦隊やOZ高速戦闘艦艦隊、OZ輸送船船隊が幾つもの編隊を成して航行する中でディセットやダグザ達は、改めて立体モニターを使って作戦を確認していた。

 

「我々OZ部隊は、まず始めに艦隊による牽制砲撃を仕掛け、コロニーを攻撃する。十中八九奴らのガンダムは出撃するはずだ。それを見計らい、リゼル・トーラス部隊で攻撃を開始・継続。その間にECHOESはコロニーへ対人と対施設に別れて攻撃をかける。捕縛か皆殺しかは任せるがな」

 

「コロニー施設内部は大半は素人の女が管理していた。規模が広いが、それ以外は容易い。捕縛にしろ、皆殺しにしろ直ぐに済むはずだ。我々もまたタイミングを見計らいながら精鋭をガンダムへ攻撃させる」

 

「了解だ。この作戦はいかにガンダム達を追い詰め、パイロットを手に入れるかにある。これまでの宇宙世紀の軍事常識を遥かに越えている存在を手にすることが我々を更に飛躍させる要素になるだろう」

「あぁ……OZとECHOESのこの作戦がこれからの歴史を左右する!!!そして、捕らえた開発者が造ったガンダムを直接手にいれる事にもまた意味がある!!!」

 

その大部隊の中で、それぞれの戦士達がガンダムに対する闘志を燃やす。

 

「メリクリウスがどこまで奴らのガンダムに通用するか……今から疼いて堪らないぜ!!!」

 

「くっくくく……俺も早く破砕させてぇ!!!」

 

「いつかの死神ガンダム……今こそ復讐の怨み籠めたアスクレプオスで撃墜してやる!!!」

 

ガンダムとの戦闘を心待ちにするアレックスとミューラ、ガンダムデスサイズに撃墜された復讐を果たさんとするトラント。

 

彼らのメリクリウス、ヴァイエイト、アスクレプオスはメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム開発者により開発された機体だけあり、ガンダム撃滅に期待が掛かるMS達だ。

 

そして、航行するガンダムデルタカイと、レフトアームに再びバスターランスを装備したバルジに待機中のゼクスのトールギス。

 

ガンダムと善戦的な戦いをしてきた二人であるが、心境の次元や現状状況は明らかに異なっていた。

 

これまで騎士道精神に目覚め邁進しようとしていたリディであったが、ガンダムデルタカイに組み込まれたあるシステムにより、人格が豹変してきていた。

 

脳裏にはガンダムジェミナスの破壊に囚われていた。

呼吸を既に荒くさせているリディは2機のガンダムジェミナスの破壊イメージばかりを巡らせる。

 

「はぁ……はぁ……っガンダムっ!!!破壊する……破壊する!!!」

 

眼光も血眼になり、その精神から騎士道等は当に逸脱していた。

 

一方のゼクスは、遅れて着任した事と編成部隊のリーオーの搬入遅れもあり、バルジにて待機していた。

 

「ガンダムとの戦いに決着を着ける……だが、ヒイロとの決着が着ける事ができなかったのが口惜しすぎる……ならば私に挑んできたガンダムを倒すしかあるまい……!!!」

 

ゼクスは悔やみ切れない現実に悔しさを去来させ続ける。

 

だが、ゼクスの望みなる決着は、自らやって来ようとしていた。

 

ラボコロニー内部のMSドックに、スラスター音が鳴り響く。

 

ドック管理しているカトルの姉達もざわめきながら管制室から制止を呼び掛ける。

 

「待ちなさい!!!いくらあなたのガンダムでも、現状的に無茶だわ!!!今すぐ引き返して!!!」

 

管制室の管制モニターに、ヒイロの姿が映るとヒイロはカトルの姉達に信念とも言うような意思を告げる。

 

「先手でバルジを攻撃する。この機体ならば十分にやれるからだ。バルジには主砲がある。やられる前にやる……ここがバルジに狙われる前にな!!!」

 

「ちょっと……!!!」

 

通信が切れると同時に、ウィングガンダムリベイクがラボコロニーから電光石火のごとく発進した。

 

ヒイロの行動は誰も止められない。

 

その時、帰還したカトル達の輸送船とヒイロのウィングガンダムリベイクがすれ違う。

 

「ヒイロ!!?一人で出撃したっていうの!!?」

 

「たった1機で行ったのか!!?いくらなんでも……って言いたいが……ヒイロだからな。言っても聞かないだろ」

 

「はい。それに、彼の行動にはいつも裏付けがありますから……」

 

動揺するイリアをよそに、オデルもカトルもヒイロの行動を同じGマイスターとして信頼し切っていた。

その直後にヒイロからの通信が入る。

 

「先行してバルジを叩く。ウィングリベイクなら可能だ。場所は現在バルジがあるL1方面だ。後は頼んだ」

 

「はい!!頼むよ、ヒイロ!!」

 

「了解だ。バルジは任せたぞ」

 

「あぁ。中枢にプロトバスターライフルを撃ち込めば十分破壊可能だ。俺もラボは任せた」

 

たったそれだけのやりとりで済む。

 

ヒイロ達の信頼関係の感覚にイリアは着いていけず、空いた口が塞がらなかった。

アディンもまた、デュオとトロワの協力を得ながらガンダムジェミナス01のショルダーとバックユニットの仕様を換装していた。

 

トロワが作業アームを操作し、デュオとアディンを始めにしたメカニック達とで新たなユニットの取り付け作業を行う。

 

その隣ではガンダムジェミナス02がアクセラレートライフルとシールドのツイン化実装を施していた。

 

「新たな火力強化ユニット、LOブラスターユニット!!左右のブラストビームキャノンとバックパックのライナーオフェンスブースター!!これで一気に火力と機動力がアップするぜ!!!」

 

「今を乗り切る打開策ってわけだ……相棒の調整も済んでるし、俺も準備万端だ……ま、油断はできねーけどな!!」

 

「あと、スペシャルパーツ……がんだむじぇみなす!!」

 

アディンがスペシャルパーツと言って取り出した物は、以前にプルが作ったガンダムジェミナス01のマスコットであった。

 

「は?!!」

 

流石のデュオもこればかりは唖然を食らった。

 

「前にプルが作ってくれたガンダムジェミナスのマスコットだ!!お守りっつーか、励みみたいなもんさ!!」

 

「やれやれ……アディンも色気づきやがってよ~……大事の前っての忘れんなよ……っておいおいっ!!プルっていくつだ!!?」

 

「大体俺の四つ下くらい12、3か?」

 

「アバウトだな……犯罪の域じゃねー?」

 

「あのな……!!」

 

デュオがふと視線をやると、作業待機中のトロワに肩を叩いて、人差し指を振り向いた頬に当てる

カトリーヌの愛らしい行動が目に入った。

 

デュオはヒイロ、カトル、アディン、ときてトロワにもそれなりのパートナー的存在がいることを認識する。

 

「やれやれ……ま、いーんじゃねーか?そー言った存在ってのもよ。やベーってときに踏ん張れる要素になると思うぜ……」

 

「なんだよ?急に……まさかうらやしいのか?」

 

「いや、俺はいいんだ……大切な存在は昔に置いてきたからな。死神は死神らしく孤高なまでにな……誰も巻き込まないさ……俺は」

 

「デュオ……」

 

ふと見せたデュオの影に、アディンはそれ以上は言わなかった。

更に見えない所では、なんとエナが合間を見計らってオデルを呼び出していた。

 

雰囲気的に見て、明らかに告白であった。

 

オデルは未だにトリシアを半ば引きずっていたが為に返事は保留にした様子であった。

 

エナも頷き受け入れていた。

 

カトルはロニからもらったアクセサリーを握りしめ、ガンダムサンドロックのコックピットの中で向かい来る闘いの覚悟を今一度改める。

 

だが、当のロニは胸に銃弾を撃ち込まれたまま、Ξガンダムとの戦闘に身を投じさせていた。

 

彼女に撃ち撃ち込まれた弾丸は、彼女自身が作ったアクセサリーが身代りのごとく受けていたのだ。

 

キルヴァはモニター越しにロニのペーネロペーを見ながら不敵なまでに笑いを見せながらビームバスターを浴びせ続け、対するペーネロペーはダメージを物ともせずにビームバスターを連発。

 

ロニはこれまでの記憶を本来の人格を基盤におこし、憎悪の限りに攻撃を繰り出し続ける。

 

飛び交うビームバスターのビームは、空中を突き進んでは着弾し、突き進んでは着弾する。

 

更に互いにファンネルミサイルを展開させ、ほぼ同時に双方の機体目掛け、甲高い音を唸らせながら突き進む。

 

ファンネルミサイル同士が相殺し合う中で幾つかが空中をすり抜け、Ξガンダムとペーネロペーを直擊し、爆発を巻き起こした。

 

だが、2機は一部分を小破させながら爆煙を突き抜け、メガビームサーベルを発動。

 

狂気と憎悪を剥き出しにした斬擊が交わった。

 

一方、五飛はラボコロニーに向かいながら李鈴と回線を繋いで珍しく会話を交わす。

 

画面越しではあるが、李鈴もどこか嬉しげな様子を見せていた。

 

更にまた一方、プルもギルボアの家族であるサント家と料理の買い出しに出掛けながらアディンを想い、パラオの天井を見上げ見る。

 

その時、マリーダは手をジンネマンに握られながら、人体実験の後遺症の発作に苦しみ悶えながらも自身を見舞う理不尽な痛みと闘っていた。

 

ヒイロはウィングガンダムリベイクのトリガーグリップを握りしめながら突き進む宇宙空間を見据える。

 

その最中で今を闘うマリーダを想う。

 

(マリーダ……今俺は俺にできる最大の方法で闘っている。マリーダもマリーダを蝕む理不尽な後遺症と最大限に闘い貫いてくれ!!!)

 

先の連邦軍掃討の際に観測されたバルジ砲は、コロニーを沈めるには十分過ぎる超エネルギーだ。

 

ヒイロはバルジ砲の可能性を危惧し、誰よりも早く行動したのだ。

 

 

 

そして―――宇宙世紀0096・1月未明……遂にその瞬間が訪れた。

 

ラボコロニーの管制室のモニターに、OZの攻撃部隊が姿を見せた。

 

イリアは腕を組みながら、睨むようにモニターを見据える。

 

「識別、OZとECHOESの艦隊、尚も接近中!!敵、予想砲撃ポイントまで約2マイル!!」

 

「艦隊数、およそ20隻、MS、確認できるだけでもおよそ200機以上!!!」

 

「思い切って出て来たわね!!!待機中のGマイスター達に出撃指示を通達して!!!」

 

「イリア姉様!!お父様の船もこちらに向かっているとの事です!!」

 

「なんですって!!?」

 

事もあろうか、ザイード当主が自家用シャトルで自らラボコロニーの差し押さえに向かってきていた。

 

無論、ウィナー財団の要人達も多く赴いていた。

 

万が一の事があれば、ウィナー財団の主力勢がいなくなり、財団の存続の危機に瀕する。

 

直ぐにイリアは待避勧告を伝えた。

 

「お父様!!!イリアです!!!すぐに引き返して下さい!!!」

 

「イリアか……言った筈だ……差し押さえるとな」

 

「そうではなくて!!!今すぐ待避して下さい!!!OZの艦隊が目前に迫っているんです!!!」

 

「知っている……」

 

「えぇ?!!では何故来るんです!!?」

 

「全く……馬鹿息子の為に馬鹿娘達が世話を焼くからこうなる……だから逃げなければならなくなったのだぞ……」

 

「はい?!!一体どういう事!!?」

 

ザイードの脳裏には、ウィナー財団が保有するL4コロニー内部の悲劇が過る。

 

ECHOESによるウィナー財団関係も一斉掃討だった。

 

事前にラボコロニーの存在を察知していたECHOESは、ウィナー財団の関与を突き止めており、メテオ・ブレイクス・ヘルを畳み掛けた時と同じく、組織という組織を潰す行動を起こす。

 

ECHOESの兵士達がサイレンサーマシンガンを駆使してウィナー財団関係者を容赦なく殺害していく。

 

更には、火炎放射機を導入し、女性や子供であろうと非情極まりなく焼く。

 

響く叫びは正常な精神を持つ者を、否応なしに締め付けるものであった。

 

ウィナー財団関係者各社員、家族、親族、友人が各地で無惨に虐殺されていく。

 

その規模はコロニー規模に及んでおり、それはガーベイ・エンタープライズの二の舞であった。

 

ECHOESは徹底的かつ超法規的に反乱の要素を潰しにかかっていた。

 

「ECHOESが……OZが……我々の抹殺に動き出したのだ。今や逃げ場はない……だが、それでも逃げるのだ」

 

イリアは嫌な予感を覚えていた。

 

避難させた筈のエナやセルビア、カトリーヌ達にも危険が迫っている。

 

そう感じてならなくなったイリアは、直ぐに妹達へ指示を下した。

 

「全避難ブロックエリアを完全に隔壁閉鎖!!攻撃や侵入者に備えて!!!」

 

「はいっ!!お姉さま!!」

 

だが、指示の直後にラボコロニーカタパルトで待機していたデュオとオデルから声が上がる。

 

2機はラボコロニー内部のカタパルトにそれぞれ配置についており、任意で射出できる状態であった。

 

「やれやれ……ったくよぉ!!!こういう時はやられる前にやるがセオリーだぜ!!!デュオ・マックスウェル!!ガンダムデスサイズ、いくぜぇっ!!!」

 

「エナ達が危ないのは火を見るよりも明らかだ!!!先手を取るぞ!!!オデル・バーネット!!ガンダムジェミナスバーニアン02、出る!!!」

 

火花を散らすカタパルトレールユニットが、ガンダム2機を射出させた。

 

ガンダムジェミナスバーニアン02はバーニアンスラスターで驚異的な加速をかけて飛び込む。

 

ガンダムデスサイズも瞬発的にPXをかけて加速した。

 

「ジェミナスバーニアン02、デスサイズ出撃!!イリア姉様、この際にガンダム全機発進を……

!!!」

 

「えぇ!!無論よ……ガンダム各機発進……」

 

「イリアよ!!!戦ってはならんのだ!!!」

 

「な!!?お父様!!!」

 

ザイードの主張がイリアの発進指示を妨げる。

 

ザイードの放つ声質は、全てを受け入れていたかのような声であった。

 

「私は逃げてきたのだ!!!戦う事なく逃げてきたのだ!!!如何なる理由があろうと戦ってはならん事を教えてやらねばならん……!!!」

 

ザイード達のシャトルがラボコロニーの前に立ちはだかるように近づいていく。

 

その時、カトルが回線をザイード達へ開き、決死の想いで待避を訴えた。

 

「父上!!!今すぐ逃げてください!!!目の前にはOZの大部隊が来ているんです!!!」

 

「そうだ!!戦わず逃げる姿勢こそが正しいのだ!!カトルよ……逃げる闘いだ!!!逃げる闘いを忘れるな……ウィナー家の……!!!」

 

「ダメだ!!!父上……!!!」

 

その時、ウィナー親子を引き裂き裂くかのようなタイミングでディセットの口許が動いた。

 

「ガンダムが出たか……目標、ウィナー財団・コロニー、及びガンダム……全艦隊、一斉射撃……放て!!!」

 

宇宙空間から一斉にメガ粒子の夥しいビーム群が突き進み迫る。

 

それは容易くザイード達のシャトルを撃ち抉りながらラボコロニーに直撃した。

 

そのビーム群を受ける瞬間に、ザイードはカトルと娘達に向けて最後の言葉を放つ。

 

 

 

「ウィナー家の誇りを託す―――!!!」

 

 

 

通信が切れると同時にラボコロニーに地震のごとき衝撃が響き続けた。

 

「父上!!!父上ぇぇぇっっ!!!」

 

「お父様―――!!!」

 

凄まじい衝撃が響き渡る中で、ウィナー家の残された文字どおりの後継ぎ達が悲しみの絶句し続ける。

 

泣き崩れるイリア、茫然とする姉妹達。

 

ラボコロニーの外壁が少しずつ破壊されていく。

 

重なり続けるダメージと轟音。

 

避難ブロックにいるカトリーヌ達も言い様の無い恐怖の中にさらさらされ、姉妹達は寄り添いながら耐えしのぐ他無い。

 

艦隊より途切れることなく迫るメガ粒子のビーム群。

 

ガンダムデスサイズとガンダムジェミナスバーニアン02はビーム群を回避し続けるが、皮肉にも先手を取ると出撃したことが敵の先手の繋がりを許してしまった。

 

「おいおいおいおいっ!!!いくらなんでも撃ち過ぎだぜ、おい!!!」

 

「逆に先手を打たせてしまったか!!!くそ!!!ラボコロニーが……!!!」

 

劣勢たる劣勢に、更なる追い討ちが襲う。

 

「全弾目標コロニーに直撃しました!!」

 

「MD、リゼル・トーラス部隊、並びにリーオー部隊攻撃開始!!」

 

「ECHOES部隊も出撃!!対人処理班とガンダム攻撃班に別れ展開!!まずは内部制圧とブラスト・ボマー設置に専念せよ!!!」

 

ディセットとダグザの命令の後にクラップ級艦隊やMD輸送船より、リゼル・トーラス部隊が次々に出撃。

 

あらかじめ展開していたリーオー部隊もビームバズーカや対ガンダム用に開発されたドーバーバスターによる高出力ビーム射撃を展開する。

そして慈悲を知らぬマリオネット達は、掲げたメガビームランチャーの銃口をラボコロニーへと向け、一斉に高出力ビーム群を放つ。

 

重々に押し寄せるビームの波がラボコロニーを更に揺るがす。

 

その最中、秘密裏にラボコロニーに侵入していたECHOESの対人部隊もこの攻撃を合図に動き出す。

 

タンク形態のECHOESロトの部隊が一斉にラボコロニー内部の通路を走行していく。

 

それらの部隊は、ラボコロニーの内部各地を寄生虫のごとく蝕むように展開を開始した。

 

内部と外部からの同時攻撃。

 

猛攻の流星弾雨の中をガンダムデスサイズとガンダムジェミナスバーニアン02が駆け抜け、敵機群に攻め込む。

 

「デュオ!!敵機に新型の識別が出ている!!気をつけろ!!!」

 

「あぁ!!!しかもうじゃうじゃいやがる!!!けどまぁ、ここまで来たら気をつけ切れねーぜっ!!!」

 

「確かにな……!!!がむしゃらなまでにやらせてもらうか!!!」

 

加速する2機は一気にリゼル・トーラスの部隊群に到達。

 

二挺装備になったアクセラレートライフルと振りかざされたビームサイズでアタックを開始した。

 

「ツインアクセラレート、ロック・オン!!!」

 

「相手は色黒なリゼルっ!!!ぶった斬るぜぇえええっ!!!」

 

放たれる二つのビーム渦流。

 

振るわれたビームの死神鎌。

 

だが、リゼル・トーラス部隊は容易いまでに攻撃をかわした。

 

「速い!!!」

 

「かわしやがった?!!」

 

空間の中心から参方向に拡散するかのような軌道と、斬軌道を紙一重でかわす動き。

 

更にリゼル・トーラス部隊は高速接近し、一撃離脱の高出力射撃を仕掛けてくる。

 

小規模とはいえ、狂い無く叩き込まれる高出力ビーム渦流は、ガンダムジェミナス02に爆発と反動をあたえる。

 

「くぅっ……!!!」

 

ガンダムデスサイズの攻撃をかわしたリゼル・トーラスはガンダムデスサイズから見た頭上より、レフトアームのビームキャノンを高速射撃して連続ダメージを爆発と共に与えた。

 

「ぐあぁあああっ!!!こいつら……!!!」

 

リゼル・トーラス部隊は、ガンダムとラボコロニーの二手に別れて攻撃を展開する。

 

メガビームランチャーによる連続ダメージがラボコロニーを襲い続け、ラボコロニー内の各カタパルトドックにも攻撃の振動が響き続ける。

 

更に後方からのリーオー部隊の援護射撃も加わる。

 

四方から攻撃を受け続けるガンダムデスサイズとガンダムジェミナスバーニアン02は、回避と被弾を繰り返しながら反撃に転じた。

 

「ちぃっ……!!!攻撃がっ……素晴らしくうぜーんだょぉおおっっ!!!」

 

ガンダムデスサイズはリーオー部隊に突っ込み、ビームサイズを振るい、破壊と同時に陣形を崩しに掛かる。

 

 

 

ゴッッ―――ズザバァアアアアアンッ、ザシュガッ、ザズバン、ズシュガァアアア!!!

 

 

「圧倒的だが、圧倒には圧倒で対抗する!!!」

 

 

ズヴァウッ、ズヴァウッ、ズヴァウ、ズヴァウ、ズヴァダァアアァアアアッッ!!!

 

ドドゴバババガァアアアアアア!!!

 

 

二挺のアクセラレートライフルの乱発からチャージショットを撃ち込み、リーオー部隊を破砕した。

 

その直後にメガビームランチャーの集中攻撃を四方から受けた2機は、再度リゼル・トーラスの破壊を仕掛けた。

 

ゴリ押しと旋回軌道射撃による攻めだ。

 

ガンダムデスサイズはビームキャノンを浴びながら爆発に包まれ、それを撃破と認識した為、リゼル・トーラスは攻撃を止めた。

 

「だりゃああああああ!!!」

 

 

 

ドズガァアアアッッ……バズグァガオオオオ!!!

 

 

爆煙を突き破ったガンダムデスサイズは、バスターシールドをリゼル・トーラスの胸部に刺突。

 

突き刺さったバスターシールドのその一撃が、リゼル・トーラスを破砕・爆破させた。

 

「らぁああああっ!!!」

 

デュオは更に斬擊を繋げ、2機のリゼル・トーラスをビームサイズで斬り払う。

 

 

ザシュガァッ、ザガギャアアアアアッ!!!

 

ドグバァガァガァアアアアアアッ!!!

 

 

 

更にビームサーベルを手にし、高速で斬り掛かる3機のリゼル・トーラスに対し、振りかぶったビームサイズの斬擊を高速で個々に食らわす。

 

「そらよぉおおっ!!!」

 

 

 

ザァズバッッッ、ザバシイッッッ、ザギャドォッッ!!!

 

ズドゴババガァアアア!!!

 

 

 

鎌の捌きで発生した爆発の華に身を照らすガンダムデスサイズ。

 

デュオは目の前に展開しながら迫るリゼル・トーラスの部隊に、呆れたような笑みをしながら吐きこぼす。

 

「やれやれ……随分とまた賑やかに来るじゃねーか!!!こっちも覚悟決めて対応させてもらいますかね……!!!」

 

メインカメラを光らせ、被弾しながらもリゼル・トーラスの機体群に鎌を振りかぶりながら突き進み、狙い定めたリゼル・トーラスを斬り潰してみせる。

一方のガンダムジェミナスバーニアン02は、バーニアンユニットを活かした旋回加速をしながら二挺のアクセラレートライフルのビーム射撃を撃ち込む。

 

高速で交互に撃ち出される高出力ビーム。

 

幾つもかわされるが、その最中でオデルは感覚を研ぎ澄ませていく。

 

「確かに速い……ただのリゼルとは違う……かと言ってPXは無闇に使うわけにはいかんっ……ならば俺自身の感覚を頼るっ―――!!!」

 

オデルは加減速を駆使しながらリゼル・トーラスの射撃をかわし、アクセラレートライフルの射撃を続行した。

 

連続する旋回射撃の高速加速射撃が、やがてMDの反応速度にオデルの感覚がリンクし始め、2機を撃ち貫く。

 

そして何かを見切ったかのような眼光を飛ばし、ガンダムジェミナスバーニアン02をリゼル・トーラスの機体群が展開する宙域に突っ込ませた。

ガンダムジェミナスバーニアン02は、リゼル・トーラスの機体群の中でアクセラレートライフル二挺を乱れ撃つ。

 

 

 

ヴィギュギュダッッ、ズヴァヴァウッッ、ディシュドドッッッ、ドドヴァウッッ、ヴィヴィギュイッ、ヴィギュダッウィギュァアアアアア!!!

 

ドドゴバババガァドドアアアアアア……!!!

 

 

 

その爆発群の中から加速して飛び出したガンダムジェミナスバーニアン02は、回避と防御を組み合わせながら駆け抜け、アクセラレートライフル二挺の銃口をリゼル・トーラス達へ向けた。

 

 

 

ヴゥゥゥッッ……ヴィギュルヴヴァアアアアア!!!

 

ギュズダァアアアァアアア……ヴァズガッ、ゴグバッ、ドドドグゴバァァアアアアアン!!!

 

 

 

二挺のアクセラレートライフルから放たれたチャージショットのビーム渦流が6機のリゼル・トーラスを総なめにするように吹き飛ばした。

 

それまで優位を我がモノとしていたリゼル・トーラス部隊であったが、この瞬間からGマイスターに攻めのカードが回り始める。

 

その間にもラボコロニーに直接メガビームビームランチャーを撃ち込まれ破壊が進む。

 

押し寄せるように迫るリゼル・トーラス部隊は、MDシステムによるAI制御の為、全く容赦がない。

 

破壊による振動轟音がコロニー内部のシェルターに響き渡り、絶え間無い恐怖をカトルの姉達や妹に与えていく。

 

体験したことの無い恐怖に、カトリーヌはエナにしがみつきながら怯え、エナもまた恐怖に切迫されながらカトリーヌを撫でる。

 

リゼル・トーラス部隊はラボコロニーに更なる攻撃を仕掛けようと接近した。

 

その最中突如ラボコロニーの外壁が連続射撃的な爆発を起こし、何かが飛び出す。

 

ガンダムヘビーアームズだった。

 

飛び出した直後にビームガトリングの銃身をかざし、銃口をリゼル・トーラス部隊に向けて射撃する。

 

 

 

ヴォドドゥルルルルルッ!!!ヴゥダドドドドルルルゥゥゥゥ!!!

 

ディギャガガガガァン!!! ダダドギャァン!!! ヴォゴゴゴバッ、ドドドギャガガァッッ!!!

 

 

 

AIの反応ラグの不意を突かれた4機のリゼル・トーラスが超高速のビーム弾丸に砕き散らされ爆砕。

 

ガンダムヘビーアームズはその勢いを継続させながらビームガトリングで周囲のリゼル・トーラスを連続で次々に撃破していく。

 

「これ以上は待てない。故に任意で出撃した。後は徹底的に破壊する」

 

高速射撃のビーム弾丸が宇宙空間を突き進む中、リゼル・トーラス達は散開し、3機編成の四小隊で展開しながらメガビームランチャーをガンダムヘビーアームズに食らわす。

 

回避判断をしたトロワだが、被弾は免れなかった。

 

胸部や脚部、スカートアーマーに被弾し、被弾部面で爆発を起こす。

 

「っ……その判断は正しいなっ……狙いもいい。ならば!!」

 

トロワはモニター上の敵機群を連続でロック・オンし、赤いカーソルでリゼル・トーラスを固め、トリガーを引いた。

 

 

 

ドドドドドドドドドシュゥウウウウウッッ!!!

 

 

ホーミングミサイルとマイクロミサイルが暴れるように解き放たれ、近距離付近にいたリゼル・トーラスを次々に撃破した。

 

だが、遠距離側の機体群はMDシステムを活かした精密射撃を開始し、ビームランチャーとビームキャノンでミサイル群の殆どを破壊していく。

 

「正しい判断だ―――くっ!!!」

 

ガンダムヘビーアームズは再び被弾し、更に集中するビーム群に追いやられる。

 

その最中の一方で、父親の死との直面を味わい、黙ったままうつむき続けていたカトルが顔を上げる。

 

カトルの瞳には泪に満たされていたいたが、狂気染みた悲しみの表情ではなかった。

 

「父上っ……姉様達っ……カトリーヌ……!!!これ以上の悲しみは増やさせないからっ…!!!」

 

カトルの眼差しにリンクするように、ガンダムサンドロックのカメラアイが発光。

 

そしてGNDエネルギーを発動させたヒートショーテルでゲートハッチを斬り開き飛ばし、宇宙へ飛び出した。

 

ラボコロニーから加速したガンダムサンドロックは、その直進軸上にいたリゼル・トーラスの部隊に飛び込む勢いで機体を攻め込ませる。

 

ビームキャノンの射撃をゴリ押しに受けながらも、被弾部を爆発させながらヒートショーテルの回転斬りを見舞う。

 

 

 

ディギガガギャアアアアン!!!

 

 

 

更に間髪を入れること無く、正面のリゼル・トーラスを叩き斬り潰し爆砕させた。

 

 

 

ガッギギャァアアアアアンッッ!!!

 

ドドガゴバァアアアアア!!!

 

 

 

その爆発を突き破り、ガンダムサンドロックは高速の立ち回りでヒートショーテルの逆刃でリゼル・トーラスを真っ二つに斬り上げた。

 

その直後、四方から受けるビーム射撃に耐えながら、次々に敵機に攻め込み、ヒートショーテルの斬擊を与え続ける。

 

軽快なまでの連続斬擊からヒートショーテルを大きく振りかぶり、交差斬擊で2機のリゼル・トーラスを同時に斬り潰してみせた。

 

 

 

ディッッギガァアアアアアアアンッッ!!!

 

グバァガゴバァアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

「みんなで……みんなでこの状況を斬り開く!!!父上っ!!!今は武力でなきゃ闘えない!!!でもこの闘いは未来の武力無き世界の為に繋がっているはずなんだ!!!」

 

過酷な状況の中、カトルは先の未来を信じての行動を抗いというカタチで示そうとする。

 

デュオ、トロワ、オデル達も斬擊と射撃で抗いながら行動を続行。

 

幾多の流星弾雨をかわしては被弾し、かわしては被弾しながらリゼル・トーラスとリーオー先賢部隊をビームサイズで斬り裂き、ビームガトリングで撃ち砕き散らし、二挺アクセラレートライフルで破砕させていく。

 

ガンダム達の反撃により最前線で展開していたOZの陣形に乱れが生じ始め、オペレーターがディセットとダグザに報告をする。

 

「ガンダムが反撃に転じ始めました!!前線の陣形に乱れが生じています!!リゼル・トーラスも既に10機以上が破壊されている模様!!」

 

「多少の陣形の乱れは承知している!!相手はメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムだ!!!問題の範囲ではない!!リゼル・トーラスのテストやドーバーバスターの試射を兼ね、現状の戦闘を継続!!後にリゼル・トーラス部隊とリーオー部隊、艦隊による高出力ビーム砲火を命ずる!!」

 

「はっ!!」

 

「ECHOES部隊から入伝!!『内部市街制圧。シカシヒトノソンザイハカクニンデキズ。ヒキツヅキサイブヲソウサクス』」

 

電信の報告を聞いたダグザは、独特な眼光を放ちながらオペレーターにラボコロニーへの配慮を命じた。

 

「おそらくシェルターか、なにかしらの施設にいるはずだ……我が部隊が引かない以上、コロニーの破壊は適度に留めさせろ。内部から我々で破壊する」

 

「は!!」

 

現状維持の戦闘展開が続く中、アディンのユニット換装されたガンダムジェミナス、「ガンダムLOブラスター」がテイクオフしようとしていた。

 

計器類機器最終チェックと操作、セッティングを終えると、アディンはプルから貰ったがんだむじぇみなすのマスコットを握りしめ、強かな眼差しをメインモニターへ向ける。

 

アディンにはMO-5の状況の記憶が去来していた。

 

幾つものジェガンがビーム射撃を開始し、ネェル・アーガマがハイパーメガ粒子砲を放ち、強烈なビーム渦流で居住区区画が抉り飛ばされる。

 

「MO-5の二の舞だけは絶対にさせやしない!!!この状況、俺がひっくり返してキメてやるぜ!!!」

 

「アディン、頼んだわよ!!今のこの状況を打破出来るのはあなたの機体しか無いんだから!!!ゼロが使えれば話は違うんだけどね」

 

「イリアさん、そいつができてたら闘いは当に終わってるって!!!じゃあ、行くぜ!!!ガンダムLOブラスター、アディン・バーネット、出る!!!」

背部のライナー・オフェンス・ブースターから高出力のGNDエネルギーが噴射され、更に溜め込んだ加速エネルギーを解き放つ。

 

カタパルトから超加速して飛び出すガンダムLOブラスター。

 

加速しながらアクセラレートレールガンを撃ち放ち、リゼル・トーラスやリーオーを粉砕させ、敵陣営に自ら飛び込むように突き進んでいく。

 

一方、シェンロンガンダムはOZの別動隊と接触し、苛烈なまでの闘いを強いられようとしていた。

 

だが、五飛は不敵な笑みを絶やすこと無く、むしろ楽しむかのように挑もうとする。

 

「……面白い……俺は逃げも隠れもしない!!!正々堂々と闘い貫くまでだ!!!」

 

そう吐き捨てた五飛びは無謀なまでの闘いへと身を突っ込ませた。

 

そして、バルジを目指してヒイロのウィングガンダムリベイクが宇宙を突き進み続ける。

 

その最中、敵機接近のアラートが鳴り響く。

 

ヒイロはモニターの前方から迫る敵影群を拡大視認すると静かに呟く。

 

「敵影……クラップ級1、MS輸送船7……進行座標からしてラボコロニー攻撃の増援か……いずれにせよ任務の障壁に他ならない!!排除する!!」

ヒイロはOZの増援部隊を睨むと、ウィングガンダムリベイクを飛び込ませていった。

 

 

 

その最中、ガンダム攻撃部隊として控えていたアスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウス、ECHOES部隊、ガンダムデルタカイ各機種がラボコロニーを望む。

 

更に別動隊らしき異形のガンダムまでもが単機で宇宙を突き進んでいた。

 

バルジにて迎撃かつ鹵獲体勢を展開させるゼクスのOZ部隊。

 

宙域から見える地球をトールギスからゼクスは望む。

 

「奴は……来るか?!!否、来る!!!進行軌道上故にな!!!だが、任務は鹵獲……か……私は正々堂々と闘いたかった………ミスズっ!!!私の理性が騎士道なる精神に刷り替わった場合……OZを裏切るかもしれん……その時はリリーナを頼む!!私は裏切りと引き換えに勝利を掴む……!!!」

 

ゼクスはこれから起きうる覚悟をこの場にいないミスズに告げた。

 

宇宙世紀0096。

 

反乱のガンダム達とそれに取り巻かれた者達は、真の流転の運命に向かって吸い寄せられていた。

 

 

 

 

To Be Next Episode

 




次回予告

ウィングガンダムリベイクを駆り、バルジを目指しながらOZの増援部隊を駆逐するヒイロ。

理不尽な狂気を放つキルヴァと中東の空で激突する自らを呼び戻したロニ。

ラボコロニーに迫る新鋭MD部隊と交戦し続けるカトル、デュオ、トロワ、オデル。

各々が過酷な戦場を駆け抜ける。

その最中、アディンは新たな力を換装したガンダムLOブラスターで出撃する。

過酷な運命に抗うかのごとく、怒濤の破壊を展開させ、新たな兆しさえ予感させる。

一方、孤軍奮闘する五飛に謎のガンダムが迫り、疲弊したシェンロンガンダムを圧倒する。

その謎のガンダムとはOZと契約した傭兵のガンダムだった。

そしてカトル達にもガンダムを越えるMS達が迫り、遂には機体のシステムで狂気に駈られたリディのガンダムデルタカイまでもが襲う。

運命は更なる過酷を叩きつける。


次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

エピソード25 「加速する運命」



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エピソード25「加速する運命」


長らくお待たせ致しました。

質問にて、よく細部のご質問(ドーベンウルフ生産機数やゼクアインMSの所属等)
を頂きますが、この場を借りてお答えします。

あくまでも本二次小説は原作のパラレルワールドな世界観なので、相違点は多々あります。気にせずその点のご理解を頂ければ幸いです。


それでは本編をどうぞ……!




北欧・サンクキングダム

 

 

 

OZの統制下に入り、連邦の支配が無くなった北欧の小国サンクキングダム。

 

だが、連邦の支配下における悪影響により国の機能は破綻しており、当面のOZのバックアップが必要であった。

 

国内にはリーオーやエアリーズが耐えず防衛体制敷きながら展開していた。

 

その光景をピースクラフト家の屋敷から見ていたリリーナは、ため息混じりに心中を吐露する。

 

「はぁ……周囲の脅威から守ってくださる抑止力とはいえ、この国に兵器が有り続ける事は好ましくない。正直遺憾でもあります。これまで散々連邦の支配下におかれ、ずっと完全平和主義がねじ伏せられてきた……」

 

するとライトが、空を翔るリゼル・トーラスとエアリーズを目で追った後に現時点の状況を踏まえた意見を投げ掛けた。

 

「けど、現時点この国はOZの協力がなければ建て直しは極めて難しい。すぐに兵器を無くすのは難しいさ、リリーナ」

 

「ライト……」

 

奇しくもその時ライトが見ていた空の光景に、ミスズのリゼル・トーラスも混じった。

 

彼女もまたサンクキングダムの領空警戒の任務にあたりながらミリアルドことゼクスを想っていた。

 

「ゼクス……ようやく奪還したこの国と、リリーナ嬢……お前が宇宙にいる間は私が守る……だから存分にガンダムと闘って来い!!」

 

ジェネレーター音を響かせて加速するリゼル・トーラスから視線をリリーナに移しながらライトは話し続けた。

 

「一歩国の外を出れば連邦やジオンの残党がゴロゴロいる。あぁやってやってくれているからには感謝する必要すらある。だからと言って兵器を肯定しない。完全平和主義にはキツイだろうけど今は堪え忍ぼう。リリーナ」

 

「堪え忍ぶ……確かに今は……勿論、解っています。ありがとう、ライト。兄が兵器に手を染めた事実も堪えます」

 

「ミリアルドさんは自ら敢えて兵器を手に取り、ここまで闘って来てくれたんだ。俺は尊敬する」

 

「お兄様を……?」

 

「あぁ。きっとリリーナ以上に苦しい時間を闘って来たんだと思う。主義を曲げてまでサンクキングダムの為に闘ってるんだよ?並大抵じゃない。今だって再び宇宙へ……」

 

リリーナはライトのその言葉に再び空を見上げ呟く。

 

「お兄様……」

 

完全平和主義を背負いながらも兵器に手を付けて闘う事の矛盾に複雑さを感じざるをえないが、その行動に感謝の気持ちに気付き、リリーナは瞳を閉じて兄・ミリアルドへの想いを宇宙に上げた。

 

たが、ゼクスは彼女達の想いと裏腹に、騎士道と任務の葛藤に囚われ続けていた。

 

「ガンダムの鹵獲……ガンダムとの決闘……私が望むのは……!!!」

 

ヒイロの機体と思わしきガンダムの進行情報を元に、ゼクス率いるバルジMS中隊は完全なる迎撃及び鹵獲態勢に入っていた。

 

その真っ只中での葛藤であった。

 

兵士としてか騎士としてか。

 

確信に迫るに至れないが、第六感は確信に感じずにはいられない。

 

屈辱的なまでに決闘に水をさされた勝負。

 

その続きが向こうから迫っているのだ。

 

「ゼクス特佐!!進行中のガンダムが、更にバルジに接近中との事ですが、L4を目指していた我が軍との接触情報も入っております!!こちらから援護に動く策もございますが、いかがされますか!!?」

 

部下からの通達に、ゼクスは昂る精神を抑えながら指示通達する。

 

「我々はあくまでガンダム迎撃に向け、このまま待機を継続する!!こちらから動かず、確実に仕留める!!それに既に奴らのガンダムと接触している時点でもう遅い……!!察せ!!!」

 

「は、はっ!!」

 

(私は今向かい来るガンダムがヒイロ・ユイであることを信じたくて止まない……!!!否……奴である!!!)

 

凄まじい加速と共にビーム攻撃を、ゴリ押しで装甲に受けながらウィングガンダムリベイクが突っ込んでいく。

 

そのコックピット内のヒイロは、鋭く真っ直ぐな視線をモニターに突きつけ、システムを戦闘モードに移行させた。

 

そして上部レバーをスライド操作して自機を可変させる。

リーオー部隊が放つビームライフルやドーバーバスター、ビームバズーカをかわし、時折被弾を受けながら、振り上げたプロトバスターライフルを真っ直ぐと構えるウィングガンダムリベイク。

 

銃口には既にエネルギー充填が開始されている。

 

ヒイロの瞳に映るロック・オンマーカーが赤に変わった瞬間、構えたプロトバスターライフルのビーム渦流が暴れ唸った。

 

 

 

ヴァズヴァアァアアアアァアアアアアッッ!!!

 

ドォズゥガァガァガァガァガァゴォバァァアアアアアアアアアアァァァ……!!!

 

 

 

一撃のビーム渦流が一挙に15機のリーオー部隊を爆発光に変えさせる。

 

ウィングガンダムリベイクは、間を置くことなく右側にプロトバスターライフルを放つ。

 

 

 

ヴァズゥダァアアアアアアアアアァァッ!!!

 

ドォゴバァッ、ドッゴォガゴォッ、ドドドドォァッグゴゴゴゴバァバァアアアアアァァ!!!

 

 

 

破裂する1機のリーオーを皮切りに、他のリーオーやリーオーキャノンが次々に破砕爆発する。

 

更にウィングガンダムリベイクは、1機のリーオーとすれ違う瞬間にシールドを刺突させ、これを撃破してみせた。

 

ウィングガンダムリベイクの攻撃に伴い、OZ側もまた攻勢に転じる。

 

「火力集中!!!ドーバーバスター放てぇ!!!」

 

リーオー部隊はドーバーバスターを集中的に放ち、ウィングガンダムリベイクに狙い定めた砲火を浴びせる。

 

ウィング部や肩、脚部に被弾するが、直ぐにウィングガンダムリベイクは体勢を立て直し、次に来た砲撃をシールドでガードする。

 

そしてプロトバスターライフルを三発の中出力で撃ち浴びせ、3機編成であるリーオー小隊を六小隊分壊滅させた。

 

機体を翻しながら加速離脱したウィングガンダムリベイクは、構えたプロトバスターライフルを接近するMS輸送船に向けて放つ。

 

唸り進むビーム渦流がMS輸送船の船体を吹き飛ばし、周囲で展開するリーオー4機を吹き飛ばした。

 

リーオー部隊は派手に暴れるウィングガンダムリベイクを追撃する。

 

各機が対ガンダム用のビーム出力を有したドーバーバスターを放つ。

 

ウィングガンダムリベイクは鮮やかな機動力でかわしていき、クラップ級の陰に飛び込んだ。

 

包囲型戦闘図式がウィングガンダムリベイクを囲むが、必然的に砲火が停止され、一時的に砲火が止む。

 

だが、次の瞬間に再びウィングガンダムリベイクはクラップ級の陰から飛び出し、その時点でプロトバスターライフルのチャージが開始されていた。

 

「この状況の周囲の敵機を破壊するは……この撃ち方が最良だ」

 

ヒイロはモニターに映し出された敵機群を流しながら視認し続け、それと共にウィングガンダムリベイクも銃身を構えながら自転旋回をする。

 

そして、その流れに乗ったままプロトバスターライフルの銃口から大出力のビーム渦流が吐き出された。

 

 

 

ヴァズゥダァアアアアアァアアアアアアアアッッ!!!

 

ドドドドドドドドガゴォッバァン、ゴゴゴゴバァバァガガガゴォオオオオンッッ!!!

 

 

 

砲撃を放っていたリーオー部隊は次々と木端微塵に爆砕し続ける。

 

更に自転旋回するウィングガンダムリベイクは、ジャイアントスイングの要領で唸るプロトバスターライフルの銃身を振り回し始めた。

 

 

ヴァガァアアアアァァァアアアアアァァアアアアアァァァァアアアアアアアアァァ!!!

 

 

ドドドドドドドドォァッ、ゴゴゴゴバァ、ゴゴゴゴバァッガゴォッガガガガァアアアアアッッドドドドォァッゴゴゴゴバァッ……!!!

 

 

 

幾多のMSが爆砕され、爆発光を幾多も発生させ、壊滅へ追いやっていく。

 

そしてウィングガンダムリベイクは、プロトバスターライフルのエネルギーが終息する前に真下のクラップ級に銃身を向けて破砕させた。

 

 

 

ドドドドォァッゴゴゴゴバァガァアアアアッッ!!!

 

 

 

アラブ・カタール国境付近上空

 

 

 

中東の空で巻きおこる戦闘。

 

L4コロニー群でメテオ・ブレイクス・ヘル掃討作戦が展開する一方で、Ξガンダムとペーネロペーが、巨大な鋼の機体を弾き合わせるように幾度も激突し、互いの命を削り合うかのようにメガビームサーベルをぶつけあっていた。

 

その激突と同時に周囲の空間を引き裂くかのようなスパークがはしる。

 

幾度も重なる斬擊の激突の直後、互いの力が拮抗し合った。

 

Ξガンダムの斬擊にはキルヴァの狂気が、ペーネロペーの斬擊にはロニの憎悪が賭され、双方の感情が爆発する。

 

 

「お前はっ!!!お前だけは許せない!!!私の全てを汚し、失わせ、弄び………狂わせた!!!」

 

「キヒヒャ!!!俺は何もしてねー!!!」

 

「どの口が言うっ!!!散々弄びながら!!!」

 

「お前もその気全快だったんだぜぇ……理不尽だなぁ、おい!!!」

 

メガビームサーベルを弾き捌き、唐竹の斬擊に繋ぐΞガンダム。

 

ペーネロペーは即メガビームサーベルで受け止め、ビームバスターを突き付ける。

 

だが、Ξガンダムは蹴りをペーネロペーに食らわせ、離脱。

 

ぶっ飛ぶペーネロペーに後退しながらビームバスターの連発を食らわす。

 

「くぁぁあああうっ!!」

 

連発を受け、少しずつ装甲表面が爆発と共に破損するペーネロペー。

 

「おのれっ……!!!」

 

ロニの憎悪が宿りに宿ったファンネルミサイルが高速で放たれ、一気にΞガンダムへと集中。

 

無数の杭のごとき連擊がΞガンダムを襲った。

 

 

 

バグズズゥゴォオアアアアッ!!!

 

 

 

「残念っ……!!!俺様のΞガンダムは更なる特注装甲にしてもらったんだよ!!!」

 

爆発から飛び出したΞガンダムは多大なダメージを受けたにもかかわらず、軽微損傷であった。

 

突っ込みながらΞガンダムはシールドをペーネロペーへと刺突。

 

 

 

ガギャガァオオオン!!!

 

 

 

ペーネロペーの右肩アーマーが損傷し、へこみが生じる。

 

「きひひぃ……!!!俺はベントナのおっさんに、ヒロインをクレって言っただけだぁ!!!」

 

「何がヒロインだ!!!」

 

瞬発的な怒りの感情でビームバスターを至近距離から連発させるロニ。

 

直撃を重ねながら爆発の反動でΞガンダムは後退していく。

 

「貴様がっ!!!貴様が仕向けなければ、同胞を裏切らずに済んだ!!!カトルも裏切らずに済んだ!!!」

 

怒りの感情を持続させながらペーネロペーのメガビームサーベルを二刀流にして斬り込む。

 

「あのコは純粋だ!!!貴様のせいでっ!!!相当の絶望をっ……!!!」

 

非情なまでにカトルを突き放した記憶と今の本来のロニの感情が混ざり、悔しさも加味した憎しみが増幅する。

 

メガビームサーベル同士の激しいスパークを走らせながら、ペーネロペーはパワーの限りΞガンダムを圧倒しようとする。

 

押されながら不利になったと思われた矢先にキルヴァはニタリと嗤う。

 

ペーネロペーに直に圧倒されていても尚余裕の姿勢を見せていた。

 

「あのガンダム共の一人かぁ?!!愉快だな!!!いずれにせよ……お前はまたヒロインになってもらうさ!!!」

 

ビームバスターを至近距離で放ちながら、ペーネロペーをビームの爆発で押し退け、更に今度は本格的な蹴りをコックピット周りめがけて見舞う。

 

 

 

ガズゥガァアアアアアッ!!!

 

 

「あぐぅあっ……!!!」

 

凄まじい鋼の激突の振動がコックピットを襲った。

 

ロニは全身を叩きつけられるかの衝撃に揺さぶられる。

 

それでもロニはモニターのΞガンダムを睨み付け、反撃の一手に踏み切る。

 

「おのれっ……貴様のような外道などっ……!!!」

 

ロニは特殊なコントロールレバーを引き出し、怒り任せに手前に引いた。

 

するとペーネロペーを纏っていた禍々しいシルエットのアーマーが単体でΞガンダムめがけ射出。

 

一気に加速し、Ξガンダムを目指す。

 

キルヴァは敢えてかわす事無く、この攻撃を受け止めた。

 

「キヒヒャ!!!こんなのが通用するかよ!!!笑わせてくれるぜっ!!!」

 

「ふんっ……これでもか?!!」

 

ロニは不敵に笑いながら特殊レバーのトリガーを握った。

 

 

 

キュウィイイイッ―――ヴァズグバガァアアアアア!!!

 

 

 

ペーネロペーユニットが自爆し、Ξガンダムを諸共爆発の渦に巻き込んだ。

 

オデュッセウスガンダムのコックピットの中で、ロニは憎しみの対象の最期に大きくため息をつき、かすかに震えながら安堵した。

 

「……ふぅぅ………カトル……っ!!!」

 

だが、それはつかの間だった。

 

ロニの感覚がそれを察し、ロニの表情をくわっとひきつらせた。

 

「ヒャッハー!!!」

 

 

 

ザガギャァアアアアア!!!

 

 

 

「あぁぁあああぐっっ……!!!」

 

猛烈な勢いで爆発の中からほぼ無傷のΞガンダムが、メガビームサーベルを突き出してオデュッセウスガンダムに突っ込んだ。

 

それは一瞬でオデュッセウスガンダムの頭部ユニットを貫いていた。

 

更にメガビームサーベルで貫いたままの頭部ユニットをちぎり飛ばし、あたり構わず再度至近距離からビームバスターを乱発させてみせた。

 

「効くわけねーだろ!!!お前は俺から逃れることができねー!!!」

 

 

 

ドゥバウッ、ドゥバウッ、ドゥバウッ、ドゥバウゥァアアアアア!!!

 

ヴァズグゥァアアアアアアアアア!!!

 

 

 

「きゃああああああああ!!!」

 

至近距離からの高出力エネルギーの乱発はオデュッセウスガンダムを大きく破壊し、その爆発の影響をコックピットに響かせた。

 

コックピット内に入り込んだ爆発に揺さぶられ、ロニは意識を失った。

 

Ξガンダムは落下する半壊状態のオデュッセウスガンダムを掴み上げ、空域を飛び去る。

 

「キヒヒャッ……もっと相応しいガンダムが密かにあるんだとよ……もっともっと俺様の女でいてもらうぜ!!!」

 

スパークが時折はしる破損したコックピットの中で、ロニは鳥籠に捕らわれた鳥のように写る。

 

再び汚れと狂気の手中に収まってしまったロニが僅かに取り戻した意識の中で呟いた。

 

「か……カトル……っ」

 

呟いた言葉はカトルの名だった。

 

そのカトルは過酷な戦場駆け抜けていた。

 

リゼル・トーラスに出くわす毎にヒートショーテルの斬擊を見舞う。

 

 

 

ディッキャイン、ディッキャインッ!!! ザギャガァアァアアアアア!!!

 

 

 

「この闘い……勝算は今まで以上に、極度に薄い!!!でもっ、アディンのガンダムの新たな装備なら打開できるかもしれない!!!せめて姉様達やカトリーヌだけでもここから……!!!」

 

この状況からイリアやカトリーヌ達の脱出いかに繋げるかを闘いながら模索するカトルにリゼル・トーラス部隊の精密射撃が襲う。

 

 

 

ギュズダッ、ギュズダッ、ギュズダァアアアアアッ!!!

 

ドォズドォゴァアアアアアア!!!

 

 

 

「うぁぁあああ?!!っく!!!」

 

メガビームランチャーの集中攻撃にぶっ飛ぶガンダムサンドロック。

 

ガンダニュウム合金故に破損状況は装甲表面の小中規模融解に止まっていた。

 

ガンダリウム製であれば限りなく破壊されるダメージだ。

 

カトルは機体を素早くブースター制御操作し、ガンダムサンドロックをリゼル・トーラスに突っ込ませた。

 

そして2機のリゼル・トーラスに目掛け、ヒートショーテルを振りかぶる。

 

十八番のクロススラッシュの斬擊の構えだ。

 

「はぁああああああああ!!!」

 

 

 

ディッギャィイイイイインッッ!!!

 

ヴァズゥグアァァアアアアア!!!

 

 

 

強力な斬擊に、2機のリゼル・トーラスは爆砕しながら砕け散る。

 

だが、撃破直後に新たなビーム射撃がガンダムサンドロックに集中する。

 

「うぁあああっ!!!」

 

その爆発を背景に奮戦するガンダムヘビーアームズもまた、リゼル・トーラス部隊が撃ち込むビームキャノンやメガビームランチャーの射撃を胸部や肩に被弾し、装甲面を焦げ付かせる。

 

「っ……!!!この命中精度……並大抵な精度ではない!!もしや人外……機械によるものか!?!」

 

トロワは回避率が極めて高い相手に通常の戦闘時以上に神経集中させてトリガーを握る。

 

ガンダムヘビーアームズは面前のリゼル・トーラス部隊にビームガトリングを撃ち放つ。

 

 

 

ドォヴォルルルゥゥッ!!! ヴォバダルルルルルル!!!

 

ドゥヴォルルルルルルルルルルゥゥッ!!!

ドドドドゴォバァッ、ガギャラララガァアアアアン!!!

 

ヴォドガラララゴゴガァアアアアア!!!

 

 

 

連続でリゼル・トーラスを撃破させていくガンダムヘビーアームズ。

 

だが、次に選定した敵機群にビームガトリングを放った瞬間、リゼル・トーラス部隊は「Δ」軌道を描いてかわし、反撃の射撃をガンダムヘビーアームズに集中させた。

 

「ちっ……!!!」

 

咄嗟にシールド防御の判断をしたトロワは、ガンダムヘビーアームズを集中砲火の中へ追い込んでしまう。

 

更には四方八方からの斬擊を食らわせてくる機体までもがいた。

 

トロワは次の斬擊軌道を先読みし、機体を構えた。

 

注視するリゼル・トーラスは、案の定の軌道で帰って来る。

 

リゼル・トーラスの斬擊がガンダムヘビーアームズに突っんだ刹那、ガンダムヘビーアームズはライトアームのアーミーナイフを展開した。

 

 

 

ディギャバガラァァアアアアッッ!!!

 

 

 

すれ違い時の惰性、加速が加わった強力な実体斬擊がリゼル・トーラスを破砕させた。

 

更に重なりながら迫るリゼル・トーラス3機の斬擊も連続カウンターの斬擊で破砕へ導いた。

 

しかし再びビームが集中し、ガンダムヘビーアームズは防戦を強いられる。

 

 

一方のデュオのガンダムデスサイズもまた翻弄させられていた。

 

「ちっきしょーがっ!!!」

 

四方八方からの高出力ビーム射撃が、ガンダムデスサイズの装甲を穿ち続ける。

 

回避しては中り、回避しては中る。

 

その最中を駆け抜け、ガンダムデスサイズは中りついた1機のリゼル・トーラスに十字の二連斬を見舞う。

 

「だぁりゃああああああ!!!」

 

 

 

ディズガッ、ザガギャァアアアアンッ!!!

 

ゴバガァアアアアアアアン!!!

 

 

 

デュオの怒りと気迫が入った斬擊は、リゼル・トーラスを一瞬で斬り刻み、更なる斬擊に繋がる。

 

 

 

ザギャガァアッ、ディッガギャアアッ、ザバガァアアアアアッ!!!

 

 

 

怒濤の勢いを加え始めた斬擊は、連続でリゼル・トーラス3機を順巡りに斬り払い、4機目でビームサイズの切っ先を叩き込んで頭部と胸部ユニットを中心に爆砕させてみせた。

 

ザズシュゥウウウッ………ヴァズグゥァアアアアア!!!

 

 

 

爆発の中から目を光らせた死神は、更にマリオネットたるリゼル・トーラス達を地獄へ誘わんと飛び出す。

 

 

「さぁ、さぁ!!!斬り刻んで斬り刻み込んでやんぜぇっ―――」

 

 

 

ゴバガァアアアアアアッ、ドズゥグゥアアァアアア!!!

 

 

「がぁぁあああ?!!くそっっ!!!」

 

ガンダムデスサイズを撃ち中てるメガビームランチャーの高出力ビーム。

 

次の瞬間には、両サイドからリゼル・トーラスのビームサーベルの斬擊が襲い掛かる。

 

「そーくるかよっっ……!!!」

 

デュオは即座の判断で、ビームサイズとバスターシールドで受け止めた。

 

凄まじい激突の反動と共にスパークが眩くはしる。

 

デュオは歯軋りしながらガンダムデスサイズと共に拮抗する力に耐える。

 

「ぐっくっ……!!!っておいおい……こいつらリゼルのパワーじゃねーよ……っっ!!!」

 

疑似GNDドライヴが掻き出す出力は、白兵戦においてもオリジナルにも引けをとらないパワーだった。

 

怒り任せながらも、デュオはガンダムデスサイズのヘッドバルカンで牽制射撃を撃ち込み、拮抗を崩す。

 

その一瞬で双方のリゼルのアームユニットを弾き上げ、ビームサイズの斬り払いとバスターシールドの刺突を食らわせ擊破してみせた。

 

そして再びビームサイズを振りかぶり、敵陣へ飛び込んでいく。

 

ガンダムジェミナス・バーニアン02がガンダムデスサイズとすれ違うように駆け抜け、執拗なリゼル・トーラス達の追撃に機体を反転させる。

 

「しつこい……女性に嫌われるタイプだな!!!」

 

敢えて冗談を加味しながら二挺持ちのアクセラレートライフルを乱れ撃つ。

 

 

 

ヴィギュダッ、ヴィギュダッ、ヴィギュダッ、ヴィギュダッッ、ヴィギュダァアアアアアッ!!!

 

ズゥディギャッ、ディギュズヴァッ、ディギガァアアンッ―――ヴァズゥグゴバガァアアアアアアァッ!!!

 

 

迫り来るリゼル・トーラスの部隊の内の3機が撃ち仕留められ爆砕。

 

他の機体群は散会・回避し、メガビームランチャーやビームキャノンを撃つ。

 

ガンダムジェミナス・バーニアン02は回避行動に動くが、高出力ビームはギリギリを掠めていく。

 

その最中を2機のリゼル・トーラスが串刺しにするように、左右からビームサーベルでガンダムジェミナス・バーニアン02へ襲い掛かる。

 

「近づき過ぎだっ……!!!」

 

串刺しにする勢いで突っ込む左右のリゼル・トーラスに、二挺のアクセラレートライフルの銃口を突き付け、近距離から高出力ビームを撃ち込ませた。

 

 

 

ズゥヴァダダァァアアアアアッ!!!

 

ヴァズゥゴバァァアアアアアッ!!!

 

 

 

瞬く間に撃破してみせるが、メガビームランチャー群がが間を与えずに襲う。

 

これを左右のシールドで防御したガンダムジェミナス・バーニアン02は、再度アクセラレートライフルを乱れ撃ち、2機を破砕。

 

更に二挺のアクセラレートライフルの銃口を突き出し、チャージショットを撃ち放った。

 

 

 

ヴィギュルゥヴァァアアアアア!!!

 

ズゥシャガァアアァ…………ズズズヴァガラガァアアアアア!!!

 

 

 

叩き放たれたビーム渦流に4機のリゼル・トーラスがかき消されるように破砕され、多重爆発を巻き起こす。

 

だが、メガビームランチャー群の高出力ビームの雨は耐えず襲い掛かる。

 

「くぅっ……!!!」

 

オデルはビーム群を睨みながら機体の回避コントロールをしてみせるが、それでもMDシステムの精密射撃は被弾を許してしまう。

 

リゼル・トーラスのMDシステムによる精密射撃の命中精度は確実にガンダム達を疲弊させていた。

 

現時点での耐久性はなんとか維持できていた。

 

だが、このペースで被弾が重なれば、やがてガンダニュウム合金もとい、GND合金と言えど破壊数値に達して破砕する事になりかねない。

 

ラボコロニーの戦闘領域にいるGマイスター達の誰もがその危惧と隣り合わせで闘っていた。

 

だが、1機だけは別であった。

 

その機体が駆け抜ける方向を見ながらオデルは期待の意識を飛ばした。

 

「この戦況……打開するには、アディン!!お前が頼りだ!!!」

 

絶望的な戦力差は必至であったが、今アディンが駆るガンダム、ガンダムLOブラスターはこれを打開しうる戦闘力を得ていた。

 

「新たなユニットシステム、ライナー・オフェンス・ユニット……!!!機動性といい、加速力といい次元が違う!!!」

 

ガンダムLOブラスターの新たなコントロールフィーリングを感じながら、アディンはリゼル・トーラスやリーオーの高出力ビームを回避しながら駆け抜けていく。

 

装備されたライナー・オフェンス(以降LO)・ユニットがハイスピードレンジの驚異的高出力加速を実現させていた。

 

飛び交う高出力ビーム群はこれに追い付けない。

 

容易く攻撃を回避しながら、メガビームランチャーやビームバズーカ、ドーバーバスターの射撃で向かい来るリゼル・トーラスやリーオーにアクセラレートレールガンを撃つ。

 

 

 

ヴィギュギィイイイィッッ、ヴィギュギィイイィッ、ヴィギュギィイイイィッッ!!!

 

ドォバラァッ、ズギャラガァッ、ゴォバラァガァアアアアアアアッ!!!

 

 

 

ビームマシンガンを遥かに上回る超高速のビーム弾がリゼル・トーラス3機を一瞬に砕き散らす。

 

レールガン特性のGNDエネルギー弾は、ビーム出力は勿論のこと、超高速のビーム射出により強力な破壊力を実現させていた。

 

例えるなら針のバスターライフル。

 

一度ロックされたターゲットは、次の瞬間に破壊されるのだ。

 

突き進んでいくアディンは、次から次へと表示される敵機にアクセラレートレールガンを連続で乱れ撃つ。

 

「邪魔だっっ!!!砕き散らしまくるぜ!!!」

 

 

 

ヴィヴィギュギィッ、ヴィギュギィッ、ヴィギュギィッ、ヴィヴィギュギィイッ、ヴィギュギィ、ヴィギュギィイイイッッ!!!

 

 

 

「撃ちキメ続けるっ!!!」

 

 

 

ヴィヴィギュギィイイイッ、ヴィヴィギュギィイイイッッ、ヴィヴィヴィギュギィイイイッッ!!!

 

ドドォガンッ、ドバガラァッ、ディギガァッ、ヴォゴガッ、ドドドドゴババオッッ、ズギャラァッギャズガガガガァァアアアアアン……!!!

 

 

 

アクセラレートレールガンの射撃に、幾多のリゼル・トーラスとリーオーの機体群が瞬く間に破砕四散。

 

ガンダムLOブラスターが駆け抜けた左右と後方に爆発光が連なる。

 

高速進撃を維持し続けながら、アディンはガンダムLOブラスターの両肩のシールド型のユニットを作動させる操作をした。

 

「うぜーリゼルを一掃する!!!」

 

サイドサブモニターの立体タッチパネルを立ち上げるアディン。

 

それはガンダムLOブラスターの両肩サイドのユニットシステムの操作に関するディスプレイだ。

 

アディンは予め頭に入れておいたコードを打ち込む。

 

「スラスト・ビームブラスター、スタンバイ!!!」

 

LOブースターの速度を維持したまま、ガンダムLOブラスター機体左右のスラスト・ビームブラスターがユニット先端を持ち上げながら展開を開始する。

 

同時にコックピット内のモニター正面に専用の立体ターゲットスコープが立ち上がる。

 

機体左右のスラスト・ビームブラスターの外部シールドユニットが拡がり、嘴とも爪とも言えるような砲身ユニットが姿を見せた。

 

モニター上の進撃方向に映し出される幾多のリゼル・トーラスの機影に、映る機影分のロック・オンマーカーが囲む。

 

射撃軸線上はレール状のモニター表示が映る。

 

銃口ユニットの空間内に決め細かな稲妻状のGNDエネルギーがチャージされ、銃口ユニットの先端には球体状のエネルギーも発生した。

 

「いくぜ!!!スラスト・ビームブラスター、ファイア!!!」

 

アディンが専用のトリガーを引くと充填されたエネルギーが解放した。

 

 

 

ジュギィォォ……ヴァズゥダァァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!

 

 

 

青白い光を帯たバスターライフル級のビーム渦流が、二軸線に解き放たれた。

 

唸り突き進むビーム渦流は、軸線上のリゼル・トーラスやリーオーを一気に吹き飛ばして破砕し続ける。

 

 

 

ヴァギュズギャラァァァガァアアアアアッッ―――!!!

 

ゴヴァガァッ、ゴババオッ……ズギャラァッ、ヴァズゥグゥッ……ドドドドゴゴバォァアアアアアッッ!!!

 

 

 

直撃を受ける機体、かわし切れなかった機体、掠めた機体……どの機体も平等に爆発光と化す。

 

アディンは進撃をし続け、スラスト・ビームブラスターの出力調整操作をした上で連発式に放ち始める。

 

それでも威力はバスターライフルの通常出力と変わらない。

 

「連続で仕留め続ける!!!連発可能レンジでいくぜ!!!」

 

 

 

ヴァズゥダァァアアッッ、ヴァズゥヴァアアアッッ、ヴィヴァガァアアアアッッ!!!

 

ヴァズガガァアッッ……ゴヴァガァッ、ヴァズゥガギャラアアア!!! ゴバォガァガァアアアアアンッッ!!!

 

 

 

短間隔で唸るビーム渦流が進撃方向のリゼル・トーラスとリーオーの機体群を連続で破砕し続ける。

 

 

 

ヴィギュギヴァアアアアア!!! ヴィギュギィイイイァアアアアア!!! ヴァズゥグゥァアアアアア!!!

 

 

 

放つスラスト・ビームブラスターの量軸線のビーム渦流は、小隊規模の機体数を破砕させながら爆発光を拡げていく。

 

 

 

ギュズヴァアアアッ……ヴァズゥヴァアアアァ……ヴァズゥゴォアアアアア!!!

 

 

ズギャラァッガァァアアア……ゴヴァッゴォゴォガァアアアッッ……ヴァズゥグゥァアアアアアッッ!!!

 

 

 

進撃中に遭遇したクラップ級艦3隻が、スラスト・ビームブラスターの直撃を受けて轟沈。

 

破砕を重ねながら破砕していく傍らをガンダムLOブラスターが駆け抜ける。

 

「このまま敵陣へ突っ込む!!!俺がっ……キメル!!!」

 

アディンはガンダムLOブラスターを更に敵陣に飛び込ませ、アクセラレートレールガンとスラスト・ビームブラスターを合わせた射撃を重ね合わせながら絶望的と思われた敵機を削り跳ばしていく。

時折受けるビーム攻撃も、対ビーム処理を施したディフェンスシールドに弾かれる。

 

進撃をしながらの猛攻に対し、2機のリゼル・トーラスがビームサーベルを握りしめて真っ向からガンダムLOブラスターへ突っ込む。

 

「斬りつける気か?ならばっ……!!!」

 

アディンはLOブースターユニットを更に加速させ、スラスト・ビームブラスターの銃口を左右から迫る2機のリゼル・トーラスにぶつけた。

 

 

 

ギャズゥガァアッ!!!

 

 

 

左右のリゼル・トーラスに銃口が突き刺さったままガンダムLOブラスターは更なる奥面へ飛び込んでいく。

 

そして、リーオー数機をアクセラレートレールガンで撃破するとアディンは機体を停止させ、シールドユニットを最大限に展開させた。

 

「スラスト・ビームブラスター、バーストシュートモード!!!」

 

スラスト・ビームブラスターはシールドユニットの展開幅の検出からビーム出力を任意に設定できる。

専用のモニターにロック・オンマーカーを展開させ、モニター上のMS、MD、艦隊全てをロック・オンするアディン。

 

エネルギーのボルテージが既に92%まで高められていた。

 

チャージを開始し、GNDエネルギーの圧縮が開始される。

 

2機のリゼル・トーラスが刺さったまま、砲身ユニットにエネルギースパークが発生し、エネルギー充填が高まっていく。

 

表示ボルテージも上昇し続け、125%まではね上がっていた。

 

アディンは闘志をトリガーに籠め、面前に広がる敵陣を睨み付け、見据える。

「この状況をっ……絶望的な今を突破してっ……俺達はっ、生き抗う!!!そして……コロニーに必ず安息の日々を……だから俺が……!!!」

 

アディンの中でコロニー市民やMO-5での出来事、亡きMO-5メンバー、カトルの姉達、そして共に今を戦うGマイスターとガランシェールクルー、プルの姿が過った。

 

より今を切り抜ける闘志が増したアディンは、かっと見開いてトリガーを更に握った。

 

「俺達がっ……キメるぜぇええええ!!!」

 

 

 

ヴィジュジギィイイイィィ……

 

ヴァズゥヴヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアァァ―――ッッ!!!

 

 

 

突き刺さったリゼル・トーラスが一瞬で融解破砕され、凄まじいまでのビーム渦流が暴れ唸る。

 

直進する戦略兵器レベルのビーム渦流の直撃を受けたMD、MS部隊は瞬く間に爆発光に変わり果て、幾多の光を拡大させた。

 

更には艦隊も呑み込まれ、破砕爆発巻き起こして轟沈する。

 

 

 

ヴァズゥグゥァアアアアアァァァァアアアアアアアアァァァァアアアアアァァ―――!!!

 

ゴババオッ、ダギガァッ、ゴゴゴゴバァッ、ドドドドガゴォッ、ガガゴォバッ、ゴゴゴゴバァ、ゴゴゴゴバァッガゴォッガガガガズズズァアァァ!!!

 

 

 

「まだまだぁぁあああ!!!」

 

アディンは機体を自転旋回させ、横方向へとスラスト・ビームブラスターのビーム渦流を移動させる。

 

更なる破砕に次ぐ破砕が織り成し、破壊範囲を拡大させ、展開していたMD部隊やMS部隊、艦隊は押し寄せるビーム渦流に潰し飛ばされていく。

 

一瞬にして形勢が逆転していくこの状況と光景に、イリア達は歓喜に満たされ笑みを浮かべる。

 

「イリア姉さん!!敵陣営、一気に壊滅していきます!!」

 

「敵陣損耗率30……40……50……すごい……!!!どんどん%が上昇していく!!」

 

「これならいける……!!!これが……ガンダムLOブラスターの力!!!確かにウィングガンダムゼロを引き出さずともいける……!!!」

 

勝利を確信したイリアは士気を上げる為、通信回線を開いて皆の精神を勇気付ける方向に持っていこうと行動する。

 

「みんな!!!今アディンが形勢逆転をしてくれているわ!!!勝利は……みんなで生き残れる確率は一気に上がった!!後はGマイスター達がそれぞれのガンダムを信じて戦い抜いて!!!」

 

このイリアの声はシェルターにも繋がり、避難していたカトリーヌやエナ、セルビア達にも安堵と少しの笑みが拡がる。

 

「聞いた?もう少しの辛抱だよ、カトリーヌ……」

 

「うん……!!そしたらまた兄さん達やトロワといられるんだよね?」

 

「そ!!だから今の内にデートいくコロニーとか考えておきなさい。好きなんでしょ?」

 

「も、もう!エナ姉さんたら!!」

 

「あら?その前に告白じゃない?カトリーヌ?まずは想い伝えなきゃ~」

 

「あ~もう!!セルビア姉さんまで~!!」

 

「恋は大事、大事!この件が終わったらあなた達の為にうちのカフェ再開しなきゃね!エナもオデルさんに伝えたんでしょ?」

 

「ちょっ……セルビア姉さん!!」

 

シェルター内に談笑すら浮かびさえする中、話題に上がったトロワとオデルも想いを理解しながら奮起させつつあった。

 

「……またカトリーヌの小生意気なわがままが待っているのか……別にその為に死線を潜り抜ける訳ではないが……今は死ねないな……」

 

「エナ……答えを伝えるまで待っていてくれ!!!」

 

ラボコロニー周辺に進撃してきている幾多のリゼル・トーラス相手により一層の反撃に出るガンダムヘビーアームズとガンダムジェミナスバーニアン02。

 

ビームガトリングと二挺のアクセラレートライフルが唸り散らされ、次々にリゼル・トーラスを撃破させて見せる。

 

デュオも猛然と斬りかかり、闘志をぶつける。

 

「らぁぁぁあああ!!!斬って、斬って斬り潰す!!!」

 

滅多斬りにリゼル・トーラスを斬り刻んだ後に後方から迫っていたリゼル・トーラスにビームサイズを振り払って突き刺す。

 

「カトル!!!これを切り抜けたらお前の恋沙汰に付き合ってやんぜ……だらぁぁぁあああ!!!だから……もう自暴自棄に……なんなよなっ!!!」

 

「デュオ……ありがとう!!!必ず切り抜けて地球へ……ロニを連れ戻す……!!!覇ぁぁあああ!!!」

 

デュオの励ましも加わり、カトルは一層の闘志をクロススラッシュに籠めてリゼル・トーラスを破砕した。

圧倒対圧倒が状況を覆し始める戦況。

 

ディセットが指揮するガンダム特別攻撃部隊の旗艦内では、あわただしくオペレーターの声が飛び交う。

 

「ガンダム、我が軍の大部隊を圧倒しながら突っ込んで来ます!!!たったの1機です!!!」

 

「既にデータにある高出力ビームの類いの攻撃と酷似しているようですが、データに無い二門式武装による攻撃です!!!」

 

「艦隊の艦艇、MD、MS部隊、次々に破壊されていきます!!!損耗率、78%!!!想定外の損耗です!!!」

 

事態の急変を垣間見たディセットは改めてメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムの脅威を思い知った。

 

「やはりなんらかの隠し球があったか……しかし、余りにも予想と常識が逸脱し過ぎている!!!」

 

ダグザはこの状況に直ぐに対応した判断を下す。

 

「ディセット特佐。コロニー内部にいる我々の部隊の半数をガンダム攻撃に投入させ、タイミングを把握した上で対人攻撃も命じる!!!既に我々の対人部隊によるサーモグラフィー索敵で内部にいる対象を把握済みとの情報とブラスト・ボマー設置完了の報告もある」

 

「そうか……ならば我々も次のフェーズに移行!!ガンダム特別攻撃部隊に攻撃を通達!!MD部隊を後退させ、援護に回せ!!!彼らは今回の為に編成したガンダムと対等に……否、それ以上に戦える部隊だ!!」

 

「ディセット特佐!!まだ1機が合流していません!!!」

 

「……例の傭兵か?構わん……自由行動の特権を与えている奴だ。どこかで相応の行動をしている筈だ」

 

新な聞いていなかった存在が浮上し、ダグザはディセットに問い質す。

 

「傭兵!!?初耳だが!!?」

 

「失敬……中佐に報告し忘れていた……安心してくれ……彼は凄く頼もしいガンダムに乗っている」

 

「……頼もしいガンダム……だと?!!」

 

「あぁ……」

 

そう答えながら戦況モニターを見据えたディセットの表情はどこか誇らしげなものを感じさせていた。

 

するとそれに加えての通達情報がディセットに通達された。

 

「それと……増援派遣で向かっていた部隊が全滅したとバルジからたった今通達が入りました!!!おそらく戦闘区域に確認されていないガンダムに……!!!」

 

「何?!!っ……だが、これからが反撃だ!!!電撃的にモノを言わせてやるさ……!!!」

 

 

 

シェンロンガンダムが孤軍奮闘しながらドーバーバスターやビームバズーカ装備のリーオー部隊、リゼル・トーラス部隊と交戦していた。

 

部隊規模は、ラボコロニー攻撃部隊よりも小さくはあるが、戦闘の連続による機械的な劣化を起こしていたシェンロンガンダムにはかなりの過酷を強いるものだ。

 

「覇ぁああああああっ!!!」

 

 

 

ギャズアッ、ギャガガァ、ザシュガァアアアアア!!!

 

ゴゴゴバゴァアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

五飛の気迫を乗せたビームグレイブの斬擊が3機のリーオーをまとめて斬り裂き飛ばす。

 

その場から二連続ブースター加速をかけ、ビームグレイブで滅多斬りなまでの連続斬擊を繰り出し、リーオーというリーオーを斬り刻み潰していく。

 

不意にドーバーバスターの射撃を近距離から受けてしまうが、シールドで攻撃を受け止め、ビームグレイブを突き刺して爆砕させた。

 

「こんなものか、貴様らは!!!怖れるに足りなさすぎる!!!」

 

ドラゴンハングで掴みかかり、掴んだリーオーを別のリーオーにぶち当て、更なる誘爆を巻き起こさせ3機を爆破させた。

 

だが、対ガンダム武装のドーバーバスターの射撃が遂にシェンロンガンダムの肩と胸部に中たり、機体をぶっ飛ばした。

 

「くぅっ……!!!」

 

吹っ飛ぶシェンロンガンダムは体勢を改めて立て直そうと試みるが、その最中にリゼル・トーラスのメガビームランチャーの集中砲火を受ける。

 

バランサーやセンサー類が次々にエラーを起こし、挙げ句には装甲に歪みが生じはじめた。

 

「くっ……ふふっ……ハハハハ!!!ハハハハハハハハ……!!!」

 

遂にはシェンロンガンダムのGマイスターである五飛自身も狂喜的な高笑いを上げはじめた。

 

攻撃を受けながら五飛は笑い続ける。

 

「ハハハハハハハハっ……ハハハハ!!!戦いの中でここまで敵が大きく、汚く見えたのは初めてだ!!!以前にもあったような気がするが……最早気のせいか……!!!」

 

五飛は不敵なまでの表情で、遂にシェンロンガンダムのPXシステムを発動させた。

 

青白く輝きはじめたシェンロンガンダムは、電光石火の如く空間を駆け抜ける。

 

 

 

 

ギャギギギガッッ―――ズゥヴァギィギィギィギィギィガゴォッアアア!!!

 

 

超高速で飛び交うシェンロンガンダムは一瞬にして6機のリーオーと5機のリゼル・トーラスをビームグレイブで破砕させた。

 

更にドラゴンハングで抉り砕き散らし出す。

 

 

 

ダガギャアッ、ガズゥガッ、ガガガゴォァアアッッ、ザギガァアアアッッ、ガァダガギャラガァッッ!!!

 

 

 

MSの常識を逸脱した超高速の斬打撃が飛び交う。

 

更に超高速のビームグレイブ連続回転斬りやドラゴンハングの連打撃が繰り出されていき、優勢だった筈のOZサイドは一気に劣勢に立たされていた。

 

青白く輝く龍の閃光は圧倒的な限りを尽くしていた。

 

「ガガ、ガンダム!!!突如として超性能を発動!!!応戦不可能……がぁぁあああぁぁあああっ!!!」

 

 

 

ザギガッッ―――ヴァガァギガォアアアア!!!

 

ズズズドドドドガゴォッバァァアアアアアン!!!

 

 

 

現状通信をしていたリーオーに、ドラゴンハングの牙が突き刺さり、そのまま超高速で旗艦であった高速輸送艦のブリッジに直撃。

 

ドミノ倒し式に爆発を巻き起こし、一瞬にして宇宙の塵と化した。

 

「那拓!!!俺達は更に強くならなければならない!!!そうだろう!!?」

 

五飛が問いかける最中、機体内のエラー警報がいくつも鳴り響く。

 

無茶な戦闘の連続とそれに重ねたPXシステムの起動により、早期にオーバーロードを起こす寸前にあった。

 

更にスパークと共に小爆発が起こり、

次第に機体自身が損壊し始める。

 

最早シェンロンガンダムは限界を越えて運用されていた。

 

それでも五飛は破壊・殲滅をし続けた。

 

間もなくしてシェンロンガンダムはOZ部隊を殲滅仕切った。

 

シェンロンガンダムは各部を自壊させた状態で宇宙を漂う。

 

最早戦闘力は風前の灯火に過ぎなかった。

 

「宇宙には倒す奴がいすぎるからな……!!!さぁ……壊れたついでに強くなろうじゃないか……」

 

後先を考えずにPXをした五飛はシェンロンガンダムに宛のない強化の促進を語りかける。

 

だがその時、突如として謎の通信が五飛の言葉に答えた。

 

 

 

「ならばその機体は我々が頂き、修復してみようか?」

 

 

 

「何?!!!」

 

五飛が謎の通信に反応した刹那、突如としてシェンロンガンダムの左肩アーマーユニットと胸部ユニットに多連装ビームが撃ち込まれた。

 

 

 

ドゥディッギャイン、ドズゥガァアアン!!!

 

 

 

破壊数値を越えた多連装ビームの威力により、遂に装甲が破砕。

 

更に高出力のビーム渦流がドラゴンハングを吹き飛ばした。

 

 

 

ヴィァズガァアァアアアアアッッ!!!

 

 

 

「がぁぁあああ!!!那拓っっ……!!!」

 

 

 

ズガァウゥウウウンッッ―――!!!

 

 

 

そして更なるビームソードの一撃がシェンロンガンダムの頭部を突きはねた。

 

シェンロンガンダムの頭部が突き刺さったそのビームソードを持つ手はシェンロンガンダムのドラゴンハングの如く、腕が伸びていた。

 

更に開放された胸部はある種の悪魔の表情のようだった。

 

「こちらシャギア・フロスト……目的のガンダムの1機を鹵獲する……ふふふふ……流石に我がスポンサーの息がかかった次世代のガンダムには及ばなんだか……まぁいい……これで本隊の新鋭機も期待できよう……」

 

異形のガンダムを駆るシャギアと名乗る男はラボコロニー方面を見て薄ら笑いを浮かべた。

 

 

 

ラボコロニーからはECHOESのMS部隊が飛び出し、ガンダムに向けて一気に奇襲をかける。

 

GNDエネルギーの砲火はデュオ、トロワ、カトル、オデルのガンダムに多方向から注がれる。

 

その猛擊は確実に彼らの疲弊を強いる。

 

「なんだこいつら!!?いつの間にラボコロニーに侵入しやがったんだよ!!?ちぃっ……くしょ!!!PXだっ!!!」

 

「デュオ!!無闇に使うな!!!奴らの思うツボだ!!!」

 

デュオはトロワの制止を怒り任せの勢いで振り切り、PXを発動させた。

 

鮮やかな青白さを纏った死神が、怒りの限りにECHOESジェガンやECHOESロトを斬り刻み駆け抜ける。

 

「デュオ……ん?!!」

 

その時、青白い光を纏いながらガンダムデスサイズに突っ込む新型のMSの姿をトロワは垣間見た。

 

それはガンダムデスサイズを吹っ飛ばす。

 

だが、次の瞬間にはトロワの所にビーム渦流が駆け抜ける。

 

「バスターライフル?!!くっ!!!」

 

ギリギリで直撃を回避し、トロワはビーム渦流が迫って来た方向に射撃するが、それをかわした青いMSが更なる射撃を叩き込む。

 

「トロワぁっ!!!うっ!!!」

 

カトルはトロワに気をかけた瞬間にセンサーよりも先に迫る敵に反応した。

 

弾速の速いビーム弾を、重ね合わせたヒートショーテルで防御するガンダムサンドロック。

 

赤い新型のMS、メリクリウスがシールドから突き出たビームサーベルをかざし、ガンダムサンドロックに突っ込んだ。

 

ビームとGND熱エネルギーがぶつかる。

 

「新型!!?OZもそのような機体を……?!熱源!!!」

 

戦闘の最中に響いた熱源アラートに反応したオデルは、回避に移る。

 

だが、通常ではあり得ない角度から連続したビーム渦流が放たれ、ガンダムジェミナスバーニアン02に襲いかかった。

 

「ちっ……ぃっ!!!」

 

PXでかわすオデル。

 

だが、次の瞬間に驚異的な速度で新型のガンダムが突っ込み、シールドバスターソードでガンダムジェミナスバーニアン02をぶっ飛ばした。

 

「がぁぁあああ!!!」

 

更に追い討ちをかけるように攻め入ったMSは、アスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウス、そしてガンダムデルタカイであった。

 

OZ選りすぐりの機体達は、各々に取りついたターゲットのガンダムと対峙し、攻撃を与えながら通信回線を開いていた。

 

トラントが積年の屈辱を籠めながらパイソンクローをガンダムデスサイズへ食らわし続ける。

 

「ハハハハ!!!ハハハハ!!!貴様に受けたこれまでの屈辱っ……今こそ万倍にして返す!!!そしてこのアスクレプオスで栄光を掴む!!!」

 

「くぅっ……そがっ!!!いや、こちとら死神なんでな……色んなヤローから恨み買って当然かっ!!!それにっ、PXまで使われちまっちゃ……世も末だぜ!!!」

 

PX同士のパイソンクロークローとビームサイズが激突し合い、超高速の捌き合いが加速する。

 

攻めと攻め、意地と意地の激突。

 

だが、刹那的な隙をトラントが制し、ガンダムデスサイズのレフトショルダーをもぎ飛ばす。

 

更に遠心力をかけたパイソンクローの一撃を胸部に食らわされ、吹っ飛ばされながらパイソンビームランチャーを食らい続ける。

 

破壊数値を超え、装甲を破壊されたガンダムデスサイズは、再び襲ったパイソンクローの一撃でラボコロニーの外壁に激しく押し付けられた。

 

「うぐぅっ……あ!!!」

 

「死ね!!!」

 

そして零距離のパイソンビームランチャーが胸部に撃ち込まれガンダムデスサイズは遂に爆発を上げた。

 

「がぁぁあああ!!!」

 

その一方、次元差が激しい撃ち合いが展開し、ガンダムヘビーアームズをヴァイエイトのビームカノンが追いやるようにビーム渦流を吐き散らす。

 

それも友軍であるECHOESの機体やリーオーを捲き込みながら射撃していた。

 

トロワも狂ったミューラの射撃に対し反撃に移るが、その攻撃は威嚇射撃にしか映らない。

 

「ヒャハハハハハハハハ!!!粛正、粛正!!!俺達がガンダムを粛正してやるぅ!!!おらおら、どうしたぁ?!!」

 

「くっ……バスターライフル級のビーム……!!!距離を置けば置くほど手強いか!!!ならば……!!!」

 

トロワは、距離を詰める為にPXを発動させ、展開したアーミーナイフの一撃をヴァイエイトに与えた。

 

だが再び折り返した瞬間に反撃の一撃でビームガトリングの銃身を失う。

 

それと引き換えるようにトロワはアーミーナイフの一撃を与えんと迫る。

 

「ヒャハハハハ!!!うぜー!!!」

 

ビームカノンの一撃が放たれ、アーミーナイフを展開したライトアームも吹き飛ぶ。

 

ガンダムヘビーアームズがヴァイエイトに突っ込むが、バッティングの要領でビームカノンの銃身の一撃に晒された。

 

そして狙いを改めて定めたビームカノンのビームが放たれる。

 

ガンダムヘビーアームズは装甲純度が高いシールドでビーム渦流を受け止めるが、ビームに押し負けてラボコロニーの宇宙港に突っ込む。

 

直後、宇宙港周りが激しい爆発を巻き起こした。

 

「トロワァァアアアアア!!!っくう!!!」

 

クラッシュシールドの滅多斬りの斬擊をヒートショーテルで受けながら撃破されるトロワを見てしまったカトル。

 

だがその動揺にアレックスは容赦なく攻め入る。

 

「レッドメリクリウス!!!目標を鹵獲、もしくは破壊する!!!おらおらどうした、どうしたぁ?!!ガンダムが廃れるぜ!!!」

 

防戦一方を強いられるカトルは一瞬の隙を見切り、クラッシュシールドを弾き上げた。

 

この期を逃さまいとクロススラッシュの一撃をメリクリウスに与えた。

 

トロワを、デュオを助けたいが為に一心に斬り込む。

 

「はぁああああああああ!!!」

その刹那にアレックスは薄ら笑いをした。

 

ヒートショーテルの一撃が入る瞬間にメリクリウスの特殊ディフェンスユニット、プラネイトディフェンサーが展開。

 

完全にガンダムサンドロックの攻撃を遮断した。

 

「な?!!これは?!!くっ!!!」

 

カトルは動揺を捩じ伏せるようにヒートショーテルの斬擊を連続で叩き込む。

 

だが、スパークをはしらせるばかりに止まり、斬擊は虚しく遮断されていく。

 

「くっ……くくくくくく!!!プラネイトディフェンサー……メリクリウス最大最強の防御装置だ。いくら打ち込んでもムダ……何せ俺達のMSはあんたらのガンダムを超えたMSなんだよっっ!!!」

 

クラッシュシールドの唐竹斬擊がガンダムサンドロックの胸部に打ち込まれ、この一撃を皮切りにして直接の滅多斬りが襲いかかり、その衝撃がカトルを襲った。

 

「うああああああ!!!」

 

メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを超えたMS3機の猛攻。

 

これまでの屈辱を晴らすように、彼らの存在を否定するかのように圧倒する。

 

オデルもまた飛び交う2基のバスターファンネルに翻弄されながら回避のみを強いられていた。

PXで回避をし続ける事がやっとであった。

 

無論、システムのリミットオーバーでPXが解除されてしえば被弾は免れない。

 

「くっ……このままでは……被弾する!!それにこのガンダムっ……何か違う!!!」

 

二挺のアクセラレートライフルの射撃を予め予知しているかのような動きを見せていた。

 

それはナイトロシステムと禁忌のシステム、ゼロシステムにより、リディの身体、精神が異常に高められている為であった。

 

「ガンダムっ……!!!ガンダムはっ……!!!破壊する!!!」

 

リディの精神はシステムの狂気に囚われており、執拗にガンダムジェミナスバーニアン02に攻撃を放ち続ける。

 

バスターファンネルのビーム渦流が連続で狙い撃ち続け、更にはメガバスターの射撃までもが襲う。

 

回避と攻めの駆け引きがひしめき合う最中、遂にPXがリミットオーバーし、ガンダムジェミナスバーニアン02のバーニアンユニットとベッドユニットにガンダムデルタカイの猛攻が直撃。

 

GND合金が破壊数値に達し、ガンダムジェミナス02の両肩諸ともバーニアンユニットが破砕し、ベッドユニットが爆破した。

 

更に加えてメガバスターの連発がボディーやレッグユニットに撃ち込まれ、ガンダムジェミナス02の機体そのものを破砕する。

 

「うっぐぅあぁああああぁっっ……!!!」

 

コックピット内に反動の爆発が起こり、この瞬間にオデルの血が飛び散って、破損したディスプレイにかかる。

 

オデルは右腕を失い、左半身全体に火傷を負った。

 

ガンダムデルタカイがシステムを介してリディに示すは破壊。

 

只、只の破壊だ。

 

「ガンダムっっ……!!!死ねぇ!!!」

 

バスターファンネルが半壊したガンダムジェミナスバーニアン02を完全に捉え、更にチャージされたメガバスターが捉えていた。

 

数々のアラートが鳴り響く中、超えた激痛中でオデルはMO-5時代、トリシアと過ごした日々と忌まわしい記憶、メテオ・ブレイクス・ヘルとして戦い始めたこれまでの仲間達との日々、エナに告白された時間、そして弟・アディンとの日々を去来させる。

 

薄れゆく意識の中でオデルは手を伸ばした。

 

「アディン……俺はっ……果たせないようだ……みんなの無念をっ!!!」

 

アディンは幾多のリゼル・トーラスをスラスト・ビームブラスターで蹴散らしながら、ラボコロニーへと駆け抜けるように舞い戻る。

 

「兄さんっ……みんな……!!!」

 

形成を変えんと駆け抜けるアディンを嘲笑うようにリゼル・トーラス部隊はメガビーム・ランチャーの砲撃を浴びせかかり、行く手を阻む。

 

「エナ……君に、答を答える……事もっ!!!」

 

手を震わせながらスパークがはしるモニターに手を伸ばすオデルにエナの振り向く仕草が浮かぶ。

 

その指先が垂れ下がった計器に触れた瞬間、目映い閃光が包んだ。

 

三つのビーム渦流が風前の灯火のごときガンダムジェミナス02に撃ち注ぐ。

 

光る爆発が、迫っていたアディンに非情かつ無慈悲な現実を叩きけ、悲痛なる叫びを上げさせた。

 

「に、兄さぁあああああああああんっっ!!!」

 

 

 

 

To Be Next Episode

 





次回予告


熾烈化する戦場の中でオデルの命がリディのガンダムデルタカイによって散った。

悲しみと怒りに駆られたアディンは、リディに至るまでに立ち塞がるMS達に、その感情を撒き散らして駆け抜ける。

だが苛烈な運命は加速を増し、ラボコロニーのウィナー姉妹達にECHOES部隊の牙が向いた。

更なる悲劇的な絶望を叩きつけられた状況下でもガンダム達は抗い、疲弊し、闘っていく。

その戦場はメテオ・ブレイクス・ヘルの終焉の場所なのか?

そして、ヒイロとアディンはそれぞれの運命の敵に到達した。


次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

エピソード 26「JUST WORLD BEAT」


任務、了解……!!!




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エピソード26「JUST WORLD BEAT」


大変長らくお待たせ致しました。今回、最も辛い展開になります。残酷かつ辛い描写も有ります。

苛烈な激戦の先にあるものは……前半期の最終話、開始です。


ガンダムジェミナス・バーニアン02を穿つバスターファンネルのビーム渦流。

 

それに呑まれる瞬間、オデルの意識はスローモーションの感覚に充たされた中で呟く。

 

(父さん……母さん……トリシア……みんな……そして……アディン。俺は……みんな(MO-5)の敵を討てないっ……エナにもっ、あの答えをっ……返せない……畜生……すまない……すまないっっ……!!!)

 

無念の中、オデルは瞬間の最中に生きていたデータ送信機器を操作した。

 

(アディンっっ……俺の意志とグリープのデータ、託すっ……それと、多少の年齢差はあるが、プルと仲良くな……!!!)

 

そして目映い閃光がオデルを呑んだ。

 

 

 

 

オデル・バーネット 戦死

 

 

 

 

「兄さぁあああああああああん!!!」

 

オデルの命を散らせながら爆発したガンダムジェミナス02。

 

絶望や悲しみ、怒り、信じたくない気持ち……悲痛かつ複雑を混ぜ合わせたアディンの叫びがガンダムLOブラスターのコックピットに響き渡る。

 

「ああっ……うぁああああっっ……くっっそぉおお!!!」

 

アディンの中でこれまでのオデルと過ごした日々が去来する。

 

MO-5での幼少時代からMO-5崩壊までのコト、Gマイスターとして再起し、新たな道を踏み出したコト、そしてオペレーション・メテオからここまでに至った日々のコト……アディンは哀しみと怒りを混ぜた感情で喚くように叫ぶ。

 

「まだっ……MO-5のみんなの敵っ討ってねーじゃんかよ!!!トリシアさんに合わす顔あんのかよ!!?俺達はまだまだこれからだろ!!?嘘っぱちであってくれよっっ!!!ちっくしょぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

アディンにとって唯一の肉親であったオデルの死の現実に、アディンは全霊で否定して抗う。

 

さらにアディンは吠え続け、ガンダムLOブラスターに暴れ狂う激しい感情を乗せた。

 

故にアディンは受託されたグリープなるデータに気づかずにいた。

 

「うおあぁああああああっっ!!!」

 

この時、重い苦痛を伴うマリーダと感受性の激しさから離れて過ごしていたプルにもこの瞬間のただならぬ感覚が伝わった。

 

「っ……!!!何?!この激しい感覚……アディン……!!?」

 

宇宙空間を航行するガランシェール船内の一室の窓ガラスに手を当てながらプルは憂いの表情を浮かべる。

 

「激しい……それに凄く悲しい感覚……アディン……!!!」

 

アディンによからぬ事態が降りかかったコトは確実に感じていた。

「あたしは……今は何もできない。歯痒いよ……!!お願い……また会いたいから無事でいてよ、アディン……!!!」

 

 

 

「そ、そんな……こ、こんな事がっ……オデル!!!オデル!!!」

 

イリア達がいるラボコロニー内の管制ルームのモニターにも、彼女達の目を疑う衝撃的な現実を見せた。

 

ガンダニュウム合金を破壊数値に満たしてしまう程のガンダムデルタカイの火力。

 

そして確実に解るオデルの死。

 

震えながらウィナー姉妹の一人が現状を報告の声を伝える。

 

「が、ガンダム……ジェミナス02、大破っ……機体損壊状態っ……Gマイスター生存、共にっ……絶望的っ……!!!」

 

その声を皮切りにして絶望的な報告が管制ルーム内に満ち始めた。

 

「ガンダムデスサイズも中破……!!!機体、敵新型MSに鹵獲されましたっ……!!!」

 

「各スペースポート、新型の攻撃を受け広範囲に渡り破壊が拡大!!!巻き混まれたガンダムヘビーアームズ、機体状況、トロワの生死、共に不明!!!」

 

「カトルのサンドロック、尚も戦闘中……ですが、新型の猛攻を受け、劣勢に追い込まれてます……!!!」

 

かつてない絶望的な状況下に晒される中、更に絶望的な報告が重ねられていく。

 

「ラボコロニー、ECHOES部隊に内外部から完全に包囲されてます!!!」

 

「隔壁閉鎖エリア、爆破されました!!!管制施設内部にも侵入者!!!恐らくECHOESの特殊部隊と思われます……!!!」

 

イリアの表情が更に凍りついた。

 

ECHOESの部隊の別名はマンハンター。

 

すなわち殺人部隊だ。

 

昨今行われるECHOESによる反乱分子弾圧においても、攻撃対象に対し女子供だろうと容赦なき殺戮を実行している。

 

「そんな……!!!」

 

シェルターに避難しているウィナーシスターズ達のエリアが突破されれば、彼女らの身は人溜まりもない。

 

その間にもECHOES部隊は、アサシンのごとく無言のまま素早くかつ不気味に展開していく。

 

時同じくして、内部制圧に回っていたECHOESの一部隊が、とあるMS格納ゲートに差し掛かっていた。

 

サインで意志の疎通のやりとりをし、迅速に用意されたゲートコードパネルにコード解除ツールが繋がれる。

 

数分に渡る作業が終わり、厳重なセキュリティコードの解除が実行。

その巨大なゲートがゆっくりと左右に開いていくその先に存在するモノがECHOES隊員達の視界に入り込んだ。

 

「こ、これは……戦闘機っ!!?いや、モビル・アーマーか!!?」

 

「奴らの新型か……!!!ならば、新たなガンダムの可能性が高いな……機体のシルエットが奴らの可変式ガンダムと酷似している……ある程度調べた上でダグザ中佐に報告だ!!!」

 

「はっ!!」

 

ECHOES隊員達はその機体を見るなりウィングガンダムと同系統の機体と確信していた。

 

だがこの時、新型の機体からただならぬ説明し難きモノを感じるECHOES隊員達も少なくはなかった。

 

俗にいう第六感的なものとでもいうべきか。

 

「しかし……何か得体の知れないモノを感じる機体だな……」

 

「あぁ……何とも言えないが、何か……ん?!」

 

更にそのECHOES隊員の一人が製番が刻印されたプレートを発見し、読み上げる衝動に押された。

 

「XXXG-00W0……型式か?」

 

この部隊の他に展開していた部隊は他の開発施設等を発見し更なる調査に踏み込もうとしていた。

 

同時刻。

 

バルジを目指して超音速で加速し続けるウィングガンダムリベイクの中で、ヒイロは奇しくもウィングゼロの置かれた状況を危惧していた。

 

「……ウィングゼロはラボコロニーの内部に厳重なセキュリティで格納されている。だが、ECHOESならばそのセキュリティを解除しえるスキルがある……もし奴らの手に落ちれば……」

 

ひたすら見え続ける宇宙と月を見つめながらヒイロは、ウィングゼロが危惧される可能性を過らせ考察し続ける。

 

「間違いなく鹵獲したウィングゼロで運用実験をする流れになるだろう。そうなればパイロットや周辺施設が犠牲になる……特にコロニーや資源衛星がな……」

 

ヒイロの考察の考察内で、両腕に握りしめたバスターライフルの銃身を広げ構えるウィングガンダムゼロ。

 

エネルギーチャージされた銃口から凄まじい規模の高エネルギーが撃ち飛ばされ、左右にいたMS群が蒸爆発を巻き起こす。

 

そして更に左右にバスターライフルを放ったまま機体を回転させ、周辺のコロニーを巻き込みながらの大規模な破壊を拡大させていく。

 

実際に起こればこれまでのMSの常識はおろか、ヒイロ達のガンダムの常識さえも逸脱するほどの破壊規模だ。

 

その光景を想像し終えたヒイロは、ラボコロニー方面へ振り替える。

 

「……いずれにせよ俺達は今を闘い抜く必然性がある。ラボコロニーの現状を闘い抜くにはアディンのLOブラスターの性能と火力が要になる……!!!」

 

ヒイロはアディンに重きを置くことを前提にしてバルジ破壊に行動していた。

 

ラボコロニーの状況があらゆる意味で過酷さを増していく中でそのガンダムLOブラスターが駆け抜ける。

無惨な形に変貌したガンダムジェミナス02をモニター越しに目の当たりにしたアディンは悲しみを凌駕した怒りに駆られ、叫び続けずにはいられなかった。

 

「兄さんっ!!!兄さぁあああんっ……っくぅっ……!!!ぁああああああああああっ!!!」

 

アディンは怒りの限りにLOブースターユニットを全開にさせ、アクセラレートレールガンを乱射する。

 

周囲にいたECHOESジェガンやECHOESロト、そしてECHOESジェスタがそれに対して反撃を開始するが、次々に粉砕され砕け散る。

 

「邪魔すんなぁあああああああああ!!!」

 

更にPXを怒り任せ発動させながらの射撃になり、超高速でラボコロニー周辺を駆け抜け始める。

 

鮮やかな青白い光を纏いながら、ガンダムLOブラスターはコンマ数秒の間隔でECHOESの部隊を確実に破砕し続ける。

 

その神がかった攻撃は非情なECHOESパイロットにも恐怖を与える。

 

「なっ……なんだ!!?なんなんだ、あのガンダムはっ……あれが……PXシステムだというのかぁあああがぁあっ!!?」

 

コックピットを粉砕され、恐怖を叫びながらECHOESジェスタと運命を共にするECHOES隊員。

 

更にスラスト・ビームブラスターを展開させ、PXを発動させた状態からビーム渦流を撃つ。

 

 

 

ギャギンッ……ヴィギギィゴォオオオッ……!!!

 

ヴィズゥルゥヴァアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

突き進む青白いビーム渦流の渦がECHOES部隊を呑み込み吹き飛ばしていく。

 

更にそのままラボコロニーを守るように扇型に反転し始め、更にECHOES部隊を爆砕させた。

 

この状況が後方指揮を執るディセットとダグザに通達された。

 

通達する通信士も青ざめた状態で報告を叫ぶ。

 

「展開していたECHOES部隊が次々に撃墜されていきます!!!ECHOESMS部隊、損耗率70%を超えます!!!」

 

「やはり侮れんなっ……メテオ・ブレイクス・ヘル!!!」

 

「くっ……我がECHOESの精鋭部隊がっ……奴らのガンダムにっ……!!!」

 

なす統べなく消えていく部下達に、組織の歯車と認識するダグザも怒りの感情を露にせざるを得ない。

 

「我が部隊を一時的に待避させろ!!!残りのリゼル・トーラス部隊による第二次一斉砲火を行う!!!」

 

ディセットの下したその命令が伝達し、トラントやミューラ、アレックス達が、ECHOES部隊が離脱していく。

 

「離脱だぁ?!!!ちっ……!!!」

 

アレックスは水をさされた事に半ば腹いせまがいな感情をいだき、離脱間際にクラッシュシールドの零距離発動をガンダムサンドロックにぶつける。

 

胸部面にエネルギー爆発が起こり、そのエネルギー発動により、ガンダムサンドロックはラボコロニーの外壁に打ち付けられた。

 

「うぁぁあああっくぅ……!!?くっ……み、みんなっ……!!!」

 

カトルは自分の機体を危険にさらされても尚、仲間を、姉達や妹を心配していた。

 

だが、その気持ちを踏みにじるように、仲間達は窮地に立たされていた。

 

内部半壊したコックピット内で気を失ったまま機体ごとトラントのアスクレプオスに連行されるデュオ。

 

レフトアームを失い、ガトリングユニットを損壊したガンダムヘビーアームズのディスプレイを操作する流血したトロワ。

 

更には恐怖の窮地に立たされている姉達とカトリーヌにECHOESの魔の手が迫る。

 

ECHOESの兵士達は迅速な動きで開放させたルームを制圧していくと共に、リモートコントロール式の爆破装置をセットしていく。

 

この時点で既に宇宙港は、部隊脱出経路以外は完全に潰されていた。

 

この状況を把握したイリアは、歯痒さと悔しさに苦悩し、手を震わせはじめる。

 

しばらくの無言の時間が流れた後に、ゆっくりと姿勢を正し、覚悟を吐露した。

 

「みんな……ラボコロニーからの脱出はできなくなった……全てECHOESに脱出ルートがやられた……もう私達はまず逃げられないわ……仮にアディンが打開してくれても……ラボコロニーの内部には既にECHOES達が占拠している状況っ……もう、解るわね?」

 

ウィナーシスターズの誰もが覚悟をせざるを得ない状況となった。

 

「っ……いやっ!!!死にたくない!!!」

 

「あたしだってっ……!!!」

 

「うっ、うぁああぁっ……!!!」

 

嘆き泣く彼女達の声が連鎖してオペレータールームに響き繋がる。

 

完全なる包囲網がウィナーシスターズを包み込む状況とECHOES部隊の組み合わせは明らかに虐殺へのカウントを始めていた。

 

妹達の嘆きにどう対するかも解らなくなったイリアは涙を流しながら唇を噛みしめ、静かな声でこの状況に妹達を投じさせてしまった謝罪の想いを溢した。

 

「ごめんなさい…………こんな状況に妹達を巻き込ませて!!!姉としても最低よ……本当に……ごめんっ……なさいっ……!!!」

 

状況把握ができない各シェルターにいるカトルの姉達に、恐怖と緊張の張り詰めがじわじわと励ましを掻い潜り始める。

 

「姉さん……今、どんな状況なんだろ?段々と不安になってくる……トロワ達、無事かな?!」

 

エナに抱き締められながら不安混じりに問うカトリーヌ。

 

無論答えようもなく、オデルの死すら知らないエナだが、今彼女にできる事はカトリーヌの頭を撫でて励ます事が精一杯だ。

 

「きっと……きっと大丈夫!!カトリーヌもわかってるでしょ?みんなの強さ!!今頃きっと……ね!!セルビア姉さん!!」

 

「ええ!こういう時にこそ希望は絶やさない!!特にまだ二人のデートを見届けて無いんだから!!お店再開しなきゃ!!」

 

セルビアは迫り来る緊迫の中でも、笑顔を絶やさずに二人を撫でて励ます。

 

「姉さん……!!!」

 

「あたし達も見て見たいな……カトリーヌやエナの彼氏!!」

 

「あたしも!!羨ましいな~」

 

「彼氏ってどんな!!?」

 

セルビアの言葉を聞いた他のウィナー姉妹達も恋ばなという微かな光に歩み寄る。

 

少し嬉しげな気持ちを覚えて、カトリーヌとエナは笑みを再び見せ、姉妹達に話し始めた。

 

「えっと……クールで……何か相手にしてくれないようでしてくれる……人っ」

 

「まだ付き合ってる訳じゃないけど……告白の返事待ち!!」

 

恋する乙女達の表情を見せるカトリーヌとエナ。

だが、その相手達は過酷かつ残酷な現実の渦中にあった。

 

トロワは自己修復可能なエラーを模索し、疲弊しつつある中でダメージに晒されたガンダムヘビーアームズに最善を尽くそうと行動していた。

 

「わずかでもいい。現状で体制を建て直すには今しかない。PXを再起動させる上でも今を生かす。最も、戦闘は最早できないがな」

 

そしてバラバラになりながら過酷な戦域を漂うガンダムジェミナスバーニアン02の残骸。

 

改めてオデルの死が確実にある事を物語っていた。

 

更にその遥か遠方にはメガ・ビームランチャーを構えたリゼル・トーラスの大部隊がずらりと配置に就き始めていた。

 

「リゼル・トーラス部隊、配置に就きました!!!」

 

「うむ!!もう一度ガンダムとコロニーに打撃を与える……MDシステムに最大レベルで敵ガンダムの狙撃を指示!!」

 

ディセットの指示により、一斉にリゼル・トーラス部隊はメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムに照準を絞る。

 

各機はコロニー内部奥面のガンダムヘビーアームズや外壁にめり込むガンダムサンドロック、アスクレプオスに捕らわれたガンダムデスサイズを完全に捕捉していた。

 

だが、PXが発動していたガンダムLOブラスターだけは捕捉できず、一部の機体達は発射にもたつく。

 

「一部の機体が捕捉しきれません!!恐らくは敵ガンダムのPXかと……!!!」

 

「標的を他のガンダムに変更させろ!!!確実に仕止めれる機体から減らせ!!!」

 

「はっ!!!」

 

オペレーター通信兵に指示を下すと、ディセットは唸りに似たため息をつく。

 

そしてダグザに向かい投げかけた。

 

「ここで必ず仕止め、完全に壊滅させる……ダグザ中佐、我々はMSを仕止める。中佐は『人』の壊滅に……」

 

「無論。だが、機体の差し押さえにも我々が動く。先程ECHOES専用暗号が、携帯データベースに送られてきた。どうやらまたとない何かを感じさせる新たな機体をコロニー内で鹵獲できたようだ」

 

「ほう……興味深い」

 

「……人も間もなく駆逐する……我々の部隊を先に離脱させて頂きたい。射撃指示はそれまで一時待機だ。いいかな?ディセット特佐」

 

「無論」

 

ディセットは頷き、ダグザの指令が早急に下る。

 

ラボ内のデータや機材、開発中だったパーツ、そしてネオ・バードモードのウィングガンダムゼロが迅速にECHOES部隊によって押収されていく。

 

そして遂にイリア達がいるルームにECHOES部隊が襲撃を仕掛け、ルームドアゲートを爆破した。

 

「きゃあああああああ!!?」

 

室内にいた姉妹達の悲鳴の直後、爆破の煙が充満する中、慈悲無きECHOES部隊のマシンガンの射撃がはしる。

 

 

 

ダダララララ!!! ダダラララララララン!!! ダダダダダダラララララァアアアアッ!!!

 

 

 

「きゃああああああああっっ!!?」

 

「嫌ぁああああああああ!!!」

 

「あぁああああああああああ!!!」

 

 

 

姉妹達の悲痛な叫びが幾つも重なり、彼女達は次々と銃弾に倒れる。

 

ECHOES隊員達は狂いなく瞬間的に銃口をターゲットに向け、冷酷無慈悲たるECHOES隊員の眼差しで銃撃を止めない。

 

そして、イリアにECHOES隊員の眼光が照準を絞った。

 

 

 

ダダダダダダラララララァアアアアッッ!!!

 

 

 

「うっくああああああああぁ……っっ!!!」

 

瞬く間にイリアへマシンガンの銃弾が襲いかかり、悲鳴と共にイリアはデータベースを伏せるように倒れ込む。

 

手を伸ばしてその目先の中にカトルの姿を過らせ、狭まれた声量でカトルの名を溢した。

 

「カトルっ……っ!!!」

 

一瞬の出来事であった。

 

覚悟をしていた先程まで生きていた彼女達は、一瞬にしてその生命を致命的に痛め付けられた。

 

彼女達は即死を免れはしたが、それがかえって残酷な痛みに身体を固められる。

 

「うくっぅっ……あぁっ……あぐっ!!!」

 

「あぁああっ!!!はぁああっ……あぁっ!!!」

 

悲痛に呻き苦しむ彼女達に確実な止めの銃撃を放ち、ECHOES隊員達は部屋を出ていく。

 

「うくっ……あっ……カトルっ……!!!」

 

イリアは銃弾による致命傷を受けながらも、力をふり絞りながら通信機器に手をのばした。

 

「カトル達だけはっ……ここからっ、離れさせなきゃ……!!!」

 

時を同じくして、カトリーヌ達が避難していたシェルターにもECHOES部隊の攻撃の魔の手が降りかかっていた。

ダダダダダダラララララァッッッ!!! ダダダダダダダダダラララララランッ、ダダダダダダラララララァッ!!!

 

「きゃあああああああああああっ!!!」

 

「やぁああああああっ、あががぐっ!!!」

 

「やだっっ、あああああああああぁあ!!!」

 

姉妹達の悲鳴と銃殺劇。

この襲撃にセルビアは咄嗟に傍にいたカトリーヌとエナを、身を投げ出すように庇う。

 

セルビアに非情の銃弾群が襲いかかり、声を上げる間もなく床に身を落とす。

 

ほんの一瞬にして胸と首に複数の銃弾を浴びており、心臓や肺、喉周りを致命的に射たれていた。

 

「セルビア姉さんっ!!!」

 

セルビアの瞳は虚ろな視線をさせたまま笑顔を維持していた。

 

如何なる時も笑顔を絶やさずに徹するセルビアは、虚ろな瞳に涙を流し、悲鳴という悲鳴の中で手を伸ばす。

 

(カぁ……フェ……みんなっ……で……またっ)

 

再び姉妹やカトル達に自分の店で振る舞う事を願って呟いたセルビア。

 

伸ばした手が儚く落ちた。

 

「セルビア姉さっ……うかふっ……あぐくぅ……ぁっ!!!」

 

エナはセルビアの犠牲も虚しく、カトリーヌを強く抱き締めながら背中に銃撃を浴び続けた。

 

エナは吐血しながらもカトリーヌを庇い続ける。

 

「~……!!!~……!!!」

 

エナの胸に押さえつけられた状態で、カトリーヌは叫び続ける。

 

カトリーヌの髪にはエナの吐血の血が落ちて、明るいブロンドヘアーに赤い色が散りばめられた。

 

エナは最早持つ事のできない意識の最中、オデルの事を想いながらカトリーヌを庇い、彼女を抱き絞めたまま倒れた。

 

「姉さん!!!!姉さん!!!!」

 

周囲がECHOESの銃声と姉達の断末魔で埋め尽くされるなか、カトリーヌは必死に呼び掛けた。

 

するとエナは、カトリーヌを最後の力で抱き締めながら、カトリーヌの耳許で囁いた。

 

「あなたは……生き残るのっ……だから今はっ……耐えてっ……死んだフリしてればっ……きっと大丈夫っ」

 

「エナ姉さんっ……死んじゃやだっ……!!!」

 

「……カトリーヌ……もし、オデルに会ったらっ、答えを聞い……て……ね」

 

エナは息絶えた。

 

オデル亡き今、彼女は向こう側のセカイでその答えを聞くことだろう。

 

それが幸か不幸なのかは二人の捉え方次第に尽きる。

 

「っ……姉さんっ……!!!ぅっ……~……!!!」

 

カトリーヌは声を押し殺しながら、今しがた息を引き取ったエナのうつ伏せの胸元に押し当て泣き続ける。

 

その間にも姉達の悲鳴もとい断末魔は重なり続け、悲痛に悲痛が巡りめぐる。

 

「いやっ……!!!トロワっ、助けてよっ……トロワ!!!」

 

カトリーヌは地獄たる惨劇の中で想うトロワの名を叫んだ。

 

その強く瞑った瞳を見開いた瞬間にトロワの姿を思い浮かべる。

 

そして、今置かれているような状況に陥った事に備えて携帯していた発信器を操作した。

 

一方、別のフロアにいたウィナーシスターズ達に、想像を絶するモノが襲いかかった。

 

それは突如として、かつリアルな熱を帯びながら、うねり狂うように襲いかかった。

 

 

 

「きゃあぁああああああああああっっ―――!!!」

 

 

非情かつ非人道な兵器・火炎放射機。

 

ECHOESの最も非情な殺戮方法だ。

 

彼女達の狂い咲く断末魔の悲鳴たる悲鳴にも、一切の情を向けることなく火炎放射機を連発するECHOES隊員達。

 

超法規的殺戮のプロが成す非道たる非道にウィナー家の姉妹達は叫び逃げる。

 

「いやっ!!!熱い熱い熱いっっ……嫌っ、嫌ぁあああああああ!!!!!」

 

「あぁああああっ!!!あぁああああああっっ!!!」

 

「ぃやあああああっっ、熱い熱い熱い熱いっ!!!助けてっ!!!やだっ、やだやだやだやだ、やだぁああああぁ……!!!!!」

 

連続で放射が開始され、更に追加された火炎放射が彼女達を襲う。

 

「助けて、助けて助けてぇっ!!!熱いのは嫌っ、熱い熱い熱い熱いっ!!!痛いっ、やだぁああああああああ!!!!!」

 

手を伸ばしながら叫ぶカトルの姉達の悲痛な姿と声が非道の炎に呑まれた。

 

同時タイミングで発信器信号を受信したアラームが、ガンダムヘビーアームズのコックピットに響き、トロワは応急自己修復装置の操作の手を止めて振り返った。

 

「ん?!これは……カトリーヌ……?まさか……!!?」

 

トロワは機体から下り、ハンドガンを片手に通信の発信場所を目指した。

 

混沌と悲劇渦巻く戦闘域の中、刻々とメテオ・ブレイクス・ヘルと彼らのガンダムもまた壊滅のカウントダウンが進む。

 

リゼル・トーラス部隊がずらりと並列陣を展開し、メ・ガビームランチャーをフルチャージで構え続けていた。

 

オペレーターの通信士が発射態勢を伝える。

 

「発射態勢はいつでも万全です!!MD部隊は完全にガンダムを捉えています!!!」

 

「後はECHOESの離脱と共に一斉に放つのみ……か」

 

だがその時、そのECHOES隊は急襲を仕掛けるトロワと交戦していた。

 

トロワは、鮮やかな身のこなしで射撃をかわしながらハンドガンを一人のECHOES隊員に命中させ、マシンガンを奪う。

 

その奪ったマシンガンで次々にECHOES隊員を銃殺して駆け抜け、神業の戦闘テクニックで戦闘のプロフェッショナルを圧倒。

 

更には火炎放射器を装備したECHOES隊員を零距離のマシンガン射撃で銃殺して奪い、その火炎放射器をECHOES隊員に浴びせた。

 

「ぐああああああああああっ!!!」

 

襲撃していたECHOES隊を逆に襲撃して壊滅させたトロワは、カトリーヌの発信器が示したフロアへと突入した。

 

皆殺しにされたカトルの姉達の惨状にトロワは眉を潜めながら周囲を見回し、その中にカトリーヌの姿を見つけた。

 

「カトリーヌ!!」

 

「トロワ?!!っ……守ってくれてありがとう、姉さん……トロワが来てくれた……さよなら……!!」

 

カトリーヌはもう答えないエナに感謝と別れを告げ、エナを仰向けに寝かせ、トロワに振り向いた。

 

「トロワぁああああ!!!」

 

まさかのトロワとの再会に涙ぐんで抱きつくカトリーヌ。

 

トロワは抱きつくカトリーヌの体の震えから彼女のこれまでの恐怖心を感じながら告げる。

 

「残念ながら俺達は負ける。今の時代には逆らえない……受け入れなければならないらしい。恐らくコロニーも時期に自爆するだろう……いくぞ。生かされているならばいくべきだ」

 

「トロワ……!!!」

 

そして、イリアはトロワの予測通りに、最期の力を振り絞り、最後の抵抗を計ろうとコロニーのシステム操作に手を伸ばし始めた。

 

イリアは振るえる指先でゆっくりと操作をしていく。

 

彼女は全身から伝わる自身の終末の痛みを耐え続けながらカトルに通信を入れた。

「カトル……これはっ最後のお願いっ……こふっっ……!!!」

 

「姉さん!!?イリア姉さんっ、最後ってどう言う意味なの?!!」

 

「かはっ……ふふふ……姉さん、射たれてもう……もたない……だから最後のお願いを……」

 

「そんなっ……!!!嫌だよ、イリア姉さん!!!今すぐ助けに行くから……!!!」

 

「ダメなの……もう……カハッ!だから本当に聞いて……カトル!!!」

 

カトルはガンダムサンドロックをラボコロニーの側面に沿わせるようにして突き進ませる中で、深い深呼吸をして、イリアに改めて問いかけた。

 

向き合いたくない現実である姉に忍び寄る死にカトルの声は震える。

 

「イリア姉さん……何?頼みって……!!!」

 

「あなた達は今すぐにラボコロニーから逃げるのっ……!!!私達に構わずに、逃げるの!!!そしてっ……再起を図りなさい!!!」

 

「再起って……どうやって?!!」

 

「アジアのオーブ首長国連邦……もしくはそのオーブの息がかかったコロニーに身を……寄せなさい……こんな時の為に以前から彼らとの繋がりを作っていたっ……彼らならば……理解してくれるはずよ……」

 

「オーブ……わかったよ……でもっ、イリア姉さん!!!こんな、こんな……別れ方がっ……あっていいの?!!いまからでもっ……!!!」

 

その時、データ受診のアラームがコックピットに響いた。

 

それはイリアから送られ来た機密データ一式であった。

 

「これは!!?機密のデータ……?!!」

 

「これからのカトル達に必要なデータ…………託したわ……私達はいつでも……味方でいるから。カトルにとって重すぎる哀しみになるけど、決して見失わないで……過剰な悲劇も越えるのよ……だから今は逃げなさいっ……さようなら……カト……ル」

 

「姉さん!!姉さんっ……!!!」

 

通信を切ったイリアは満足なえみを浮かべ、最後の抵抗を始めた。

 

レバー型の有線式スイッチを取り出したイリアは、最期の一声を放ちながら絞り出した。

 

「これでっ……彼らもろとも終わりよっ……!!!」

 

イリアがレバーを握った瞬間、ラボコロニーの外壁から並列に突き進む爆炎が生まれた。

 

その爆炎はドミノ倒しの如く瞬く間にラボコロニーを内外部から吹き飛ばしていく。

 

内部のラボ施設やMSドック、開発ブロック、 展開しているECHOES部隊を一瞬にして塵芥と化させた。

 

そして満足気なような哀しみを懐いた表情で、イリアは息絶えた。

 

直後、イリア達を爆炎が吹き飛ばして巻き込み、炎の熱さに悶え苦しんでいたウィナーシスターズ達もまた、悲痛な想いの中に消えていく。

 

この爆炎の衝撃にトロワとカトルのガンダムも巻き込まれ、外部へ吹き飛ばした。

 

「くっ……!!!ECHOESによる破壊工作か!!?だがっ……爆発の規模がっ……破壊工作の類いではないっ……まさか自爆か!!?」

 

トロワとカトリーヌは巻き起こる爆発に機体を晒されながら、イリア達が自爆の判断をした現実を理解した。

 

眼前に拡がるラボコロニーの爆発に、既に彼女達の運命はその炎の中に有るものと理解するしかなかった。

 

トロワは震えるカトリーヌを抱き寄せながら静かに右片手拳を握りしめ、歯を食い縛った。

 

カトルもまたコックピットの中で破壊と爆発が拡がるラボコロニーに叫び続ける。

 

「姉さん!!!姉さぁああああああああんっ!!!」

 

砕け散るラボコロニーの爆発の向こうで確実に散る姉達の命の現実がカトルに突き付けられた。

 

「……くっ……うっ……っ、うぁああああああああああああっっ!!!ああああああ!!!」

 

カトルは発狂しながら去来する姉達の死に感情が暴走する。

 

ただただに感情がかきむしられ続ける。

 

荒ぶる感情に計器類やモニターに拳を叩き続けた。

 

同時刻、自爆しECHOES部隊を巻き込んだメテオ・ブレイクス・ヘルの行動に通信が錯綜していた。

 

「メテオ・ブレイクス・ヘルのコロニー、自爆!!!」

 

「ECHOES部隊も巻き込まれた模様!!!被害、甚大!!!」

 

「ガンダムも爆発に巻き込まれたと思われる!!!発生した爆煙の影響でMDに標準をロストする機体も!!!」

 

「かまわん!!!標準を確定させている機体だけで砲撃!!!MD隊、放て!!!」

 

「了解!!!MD部隊、コメンス・ファイア!!!」

 

ディセットの命令により、MD部隊への攻撃プログラムが入力され、ガンダムに標準を絞ったMD部隊が一斉にメガビームランチャーを放つ。

 

その時のタイミングを見計らったかのように、トラントはパイソンクローに掴んだガンダムデスサイズをビーム群が突き進んでくる方角へと投げ飛ばす。

 

「はははっ!!死神は死神らしく地獄に帰るんだな……そらよぉっ!!!」

 

アスクレプオスに投げ飛ばされたガンダムデスサイズは、迫り来るビーム群に突っ込んでいき、夥しいビームを浴びた。

 

「があああああああああっ!!!」

 

遂にガンダムデスサイズはそのビーム群の中で外面を爆破させ、大破しながら完全に戦闘不能となっていった。

 

それに継いでビーム群は更にガンダムヘビーアームズとガンダムサンドロックに被弾を浴びせた。

 

「くっ……!!!高出力と物量か!!!」

 

「うぁああああああ!!!」

被弾し、爆発と共に宇宙の中を吹っ飛ぶガンダムヘビーアームズとガンダムサンドロック。

 

損傷は装甲表面をわずかに熱融解させるに止まったが、内部損傷のエラーがトロワとカトルの身体を振るわせるような勢いで鳴り響き渡る。

 

その一方でデュオは気を失いながら再びガンダムデスサイズをアスクレプオスに捕らわれていた。

 

トラントがモニター越しの瀕死の死神に見下すように吐き捨てる。

 

「死神には死神らしい監獄が待ってるそうだ……くっくくくく……」

 

「トラントさんよぉ!!!ガンダムが2機逃げやがるぜ!!!あれも監獄にぶちこみますか!!?」

 

アレックスからの通信に、トラントはメリクリウスがクラッシュシールドでさすその方角に飛び去る2機のガンダムを確認する。

 

PXを発動させたガンダムヘビーアームズが、ガンダムサンドロックを掴まえながら急速離脱する姿があった。

 

トロワは今できる最善の選択をし、PXの出せる全ての加速性能を引き出し離脱していた。

 

カトリーヌも必死に未知の加速Gを体感しながらシートにしがみつく。

 

「今は俺達だけでも再起に繋ぎ止める行動をする!!!今は耐えてくれ、カトリーヌ!!!」

 

「う、うん……!!!」

 

少しばかり2機のガンダムの姿をモニターで見ていたトラントは、溜め息混じりにアレックスの期待を跳ね返す命令を出した。

 

「いや、いい……こいつを含めればいい機体を手に入れている……特にアレなんかヤバい機体の予感だ……ガンダム10機分のヤバさを感じさせる。あの爆発でほとんど無傷だ。アレックスは解るか?」

 

トラントが示した方向には爆発に巻き込まれたウィングガンダムゼロを回収するミューラのヴァイエイトと、リーオー部隊の姿があった。

 

アレックスはなるほどとばかりに不敵な笑みをした。

 

「確かに……なんか感じますね。ビッとクルってヤツですか」

 

「だな。ニュータイプになりかけてたりしてな?」

 

「まさかまさか!!俺は変人種にはなりたくないっすよ!」

 

「はははっ、冗談はさておき……恐らくは羽付きガンダムの新型だ。射撃や格闘特化を幾つも捕らえるよりもいいだろう。後は元連邦サイドの兄ちゃんに任すまでだ」

 

 

 

ゼロシステムとナイトロシステムに支配され、一時的に激痛をはしらせていたリディは、虚ろな視線で、迫るガンダムLOブラスターへと機体を向けた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっく……はぁ……はぁ、はぁああっ……ガンダム……あのガンダムはっ……!!!」

 

その時、システムがリディの脳内にアディンの姿を過らせ、瞬間的な闘争本能がリディを襲う。

 

リディの表情が険しく攻撃的に変貌する。

 

「アディン……バーネット―――っっ!!!ぁあああああああああっ!!!」

 

リディの意思に呼応するかのようにカメラアイを光らせたガンダムデルタカイが、迫るガンダムLOブラスターに向けて加速する。

 

憎しみを昂らせた感情を宿した2機は、互いに銃ユニットを投げ、ビームソード、ビームサーベルを抜き取った。

 

エネルギーの刀身を発動させ、激突し合わせたビームスパークは、二人の渾身の感情を表すかのように宇宙に弾き、拡がる。

 

 

ヴィギギャァアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

「その声はっ………!!?リディ……マーセナス!!!貴様が兄さんを……!!!くっ―――こぉのやらぁああああああっ!!!」

 

「ガンダムめがぁっ!!!殺してくれるぅっ!!!」

 

眩い閃光に照らされながらアディンとリディの憎しみの感情がぶつかり合う。

 

渾身の感情を機体にのせながら、同時に二人は吠えた。

 

「あああああああああっ!!!」

 

アディンとPXシステムのリンクコンディションが過去最大値になり、ガンダムLOブラスターはカメラアイを発光させ、自身を纏う青白い炎のごとき閃光を更に強く放つ。

 

ガンダムデルタカイも同時にサイコフレームから青白い光を展開させてビームサーベルを捌きあげる。

 

だが、刹那的間隔の中でアディンは捌きあげられたビームソードを再びガンダムデルタカイのビームサーベルに激突させる。

 

憎しみをぶつける相手を斬らんとする両者の斬擊が超高速でぶつかり合う。

 

斬るに斬らせない両者の斬擊は、互いに回転をかけた斬擊をぶつけ合わせた。

 

再び拮抗しながらスパークをはしらせ、パワーとパワーが震える。

 

哀しみを基盤にしたアディンの行き過ぎた怒りの感情が、PX性能のブラックボックスを引き出させていた。

 

リディもまた、脳内に押し寄せるゼロシステムとナイトロシステムの闘争指令と感情に支配され、ガンダムデルタカイを更なる逸脱の次元へ持っていく。

 

「かはぁああああああっ!!!うヴァらああああああ!!!」

 

激しさを増させた両者の斬擊に伴い、ガンダムLOブラスターとガンダムデルタカイは弾き合うようにラボコロニーエリアから離脱していく。

 

アディンとリディの怒り、憎悪、闘争の三拍子の感情が、両者のガンダムから放たれているようである。

 

弾き叩きつけ合う激しき斬擊の軌道。

 

その乱舞する斬擊戦闘の最中に、アディンはスラスト・ビームブラスターを放った。

 

ガンダムLOブラスターの両肩から放たれる大出力のビーム渦流が暴れ狂うかのように宇宙空間を擊進する。

 

そしてそれを驚異的な反応でかわすガンダムデルタカイ。

 

だが、そのビーム渦流は後方で展開していたリゼル・トーラス部隊や艦隊を巻き添えにして吹き飛ばす。

 

リゼル・トーラス部隊や艦が融解爆破を巻き起こし、破壊を拡げ続けた。

 

超高エネルギー渦流を持続させながら旋回するガンダムLOブラスター。

 

それは付近に漂っていたかつての地球連邦軍のマゼラン級の残骸を消し飛ばし、立て続けに同じように漂っていた廃棄コロニーを限りなく破砕した。

 

かわしきったガンダムデルタカイは、シールド・バスターソードに装備されているハイメガキャノンをガンダムLOブラスターに向けて撃ち放つ。

 

そのビーム渦流を、高度な対ビームコーティングが施されているディフェンスシールドで受け止めながらガンダムLOブラスターは一気に斬り込む。

 

更に超高速度の斬擊を、高純度のガンダムニュウム合金性であるシールドバスターソードで受け止めるガンダムデルタカイ。

 

瞬発的に二度、三度、四度とビームソードとシールド・バスターソードとが激しさを増して弾き合って激突し、五度目の激突の直後に互いに弾き合い離脱した。

 

リディの身体と精神の半分はナイトロシステムとゼロシステムにより生態戦闘端末と化していた。

 

リディは歯ぎしりをしながら凄まじい憎しみの表情で、バスターファンネルに意識を飛ばす。

 

反応するバスターファンネルはオールレンジでバスターライフル級のビーム渦流を放ち、その猛威を奮う。

 

「あぁああああああああっ!!!死ね死ね死ね死ねぇええっっ!!!アディン・バーネットぉっ!!!貴様達のガンダムはっ……全て目障りで……俺を狂わせるっ!!!」

 

暴れ狂うバスターファンネル。

 

狙われ続けるガンダムLOブラスターもPXのオーバードライブの次元でかわし続ける。

 

そしてガンダムLOブラスターは一瞬のビームの隙間を掻い潜り、ビームソードを唸らせながら斬り込んだ。

 

「おらぁあああああっっ!!!」

 

だが、その斬擊の薙ぎ払いがガンダムデルタカイに入る寸前、PXが遂に限界を迎えた。

 

「何っ!!?」

 

突如としたシステムの終了にアディンは一瞬の隙を晒す。

 

ガンダムデルタカイはその瞬間にシールドバスターソードで突き飛ばし、ハイメガキャノンを撃ち込む。

 

ビーム渦流はガンダムLOブラスターのコックピット直撃の射軸線上を突き進んだ。

 

アディンは瞬間的な判断でディフェンスシールドで受け止め、さらにLOユニットのバーニアを全開にした。

 

だが、PX停止による悪影響により、機体全体のエネルギー供給率が低下していた。

 

故に少し持ちこたえた所で、一気に吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐおぉおぁああ!!?」

 

ビーム渦流に突き動かされたまま宇宙空間を突き進み続け、クラップ級に激突。

 

艦体の激しい爆発に見舞われながら更に吹き飛ばされたガンダムLOブラスターに、ガンダムデルタカイが猛擊を加える。

 

「ガンダム……!!!ガンダム……!!!ガンダムゥゥッッ!!!」

 

ナイトロとゼロの両システムの生態端末と化したリディは、ガンダムLOブラスターにシールドバスターソードを殴り付けるように攻め混んだ。

 

 

 

ガギャガァアアアア!!!

 

 

 

「ぐおぁああっ……!!!」

 

吹っ飛ぶガンダムLOブラスターに高速追従したガンダムデルタカイは、ビームサーベルで滅多斬りの斬擊を胸部やスラスト・ビームブラスターユニットに叩き込む。

 

そして、ハイメガキャノンを頭部目掛け至近距離で撃ち放った。

 

 

ザガギャッッ、ザガギャッッ、ディギャガガガガァッッ!!!

 

ズゥヴァダァアアアア!!!

 

ガンダムLOブラスターは頭部アンテナとカメラを破壊されながら仰向け状に吹っ飛ぶ。

 

「ぐぉああああぁああ!!!」

 

激しい衝撃と共に、コックピットのメインモニターの半分が機能を停止し、ダメージによって機器が小爆破しながら白煙を吹き出す。

 

一方的に追い詰められ、自分が負傷しながらも、アディンは生きているモニターに映るガンダムデルタカイを睨んだ。

 

「クソぉっ!!!貴様だけは……!!!」

 

アディンは最早ロックオンできないスラスト・ビームブラスターを幾度も連発して攻撃した。

 

だが、ビーム渦流は虚しく宇宙空間を撃ち続ける。

 

そして次の瞬間、スラスト・ビームブラスターユニットに真っ向からバスターファンネルが取り付いた。

 

 

 

ヴァズゥダァアアアアアアアアアアッッ!!!

 

ヴァズゥギャラァアアアアアア!!!

 

 

 

強烈極まりなきビーム渦流が、破壊数値を越えたダメージを与えた事に加え、更に銃口内にビーム渦流が侵入したことが致命的になり、ガンダムLOブラスターの虎の子たるスラスト・ビームブラスターユニットが破砕した。

 

ガンダムデルタカイの攻撃は更なるオールレンジ射撃の猛擊を与えようと攻め入る。

 

「シネェぇあああっ!!!ガンダム!!!」

 

狂気たる表情を剥き出しにしたリディは、完全にガンダムLOブラスターを捉えている。

 

だが射撃の瞬間、遂に身体に限界の負荷がかかり、リディは強烈な目眩や吐き気に襲われた。

 

「かはがっ……!!!ぐおぉっ……おおぅ、かはっ!!!」

 

遠心力に全身が振り回されるかのごとき強烈たる違和感も加わり、リディはある意味戦闘不能に陥った。

 

ガンダムデルタカイも同時に狂気たる行動を停止させた。

 

「……?!!と、止まりやがった?!!っ……!!!」

 

アディンは反撃のチャンスであるにも関わらず攻撃不能であることに悔やみ切れない悔しさと怒りを覚える。

 

「クソ……!!!チクショウ……!!!兄さんの敵が目の前にいるってのに……!!!チッッ……クショウがぁああああああああ!!!!」

 

アディンは全ての想いを要り混ぜてモニターに拳をぶち当てた。

 

怒りに怒り、痛みすら感じない。

 

ラボコロニーが自爆し、ウィナー家もカトルとカトリーヌを残して壊滅。

 

そして、敵に脅威を与えていた自分達のガンダムさえ壊滅的状況になり、オデルが死んだ。

 

最早敗北感の一言では表現できない苦しみがアディンを襲う。

 

先ほどのスラスト・ビームブラスターが敵にも打撃を与え追撃の余地は封じた為、戦況的には痛み分けであった。

 

双方の勢力がほぼ壊滅した宙域に立ち込める絶望。

 

アディンは淡々と自爆シークエンスに移る操作を始めた。

 

だがその時、いつしかプルにもらったガンダムじぇみなすのマスコットが目に留まる。

 

自爆シークエンスの手を止めたアディンは、自然に手に取った。

 

その瞬間にプルが籠めた想いを感じた。

 

プルが籠めた健気な想いが、この絶望的な空間に光を見出ださせる。

 

アディンはガンダムじぇみなすを握りしめて額に当て、プルを思い起こした。

 

過るプルの声。

 

 

 

「アディン……待ってるからね……」

 

 

 

「プルが……俺なんかのために……!!!へっへへへ……そうだった……そうだった!!!!」

 

一噌の事、自爆という思考が過っていたが、その思考はすぐに改まり、アディンに生きる意志を呼び覚まさせた。

「LOユニットは生きている……一気に逃げるぜ!!!」

 

まだ機能が生きていたLOブースターユニットを起動させ、アディンはレバーを押し込む。

 

「兄さんがくれたデータもあるんだ……今は逃げてやる……逃げて生きるぜ。生きて……生きて……生きて、俺は……俺達は、キメル!!!」

 

機体を反転させながら変形しガンダムLOブラスターは宇宙の中へと加速し、忌まわしき宙域を離脱した。

 

「見ていてくれ……兄さん、ルシエ……みんな……必ず仇は討つ……!!!」

 

苦痛なる気持ちと新たな想いを交えながらアディンは半壊したガンダムLOブラスターを進ませた。

 

 

 

L1宙域・宇宙要塞バルジ

 

 

 

「敵機、急速接近!!!」

 

「リーオー部隊各機、射撃開始!!!撃てぇええっっ!!!」

 

 

 

ドゥビィイイイッッ、ドゥビィッッキュウゥッッ、ドゥビィイイイ……

 

 

 

リーオー部隊が一斉にビームライフル、ドーバーガン、ドーバーバスターを一斉射撃する中を凄まじい機動力で掻い潜る戦闘機。

 

膨大なビーム一斉射撃を回転しながら突き進んだそれは一気に変形。

 

ウィングガンダムリベイクへと姿を変えた。

 

「バルジ防衛、あるいは俺が狙いか……いずれにせよ障壁は排除する……!!!」

 

ヒイロは一瞬でモニター越しの宙域を把握すると、すかさずプロトバスターライフルをロック・オンさせた。

 

ウィングガンダムリベイクが突き出すプロトバスターライフルの銃口に充填されたエネルギーがビーム渦流を撃ち飛ばす。

 

 

 

ヴァズゥダァアアアアアアアアアア!!!

 

ドドドドドドァッッ、ゴゴゴゴゴゴバァアアアア!!!

 

 

 

突き進んだビーム渦流は一瞬でリーオー部隊9機と輸送艦2隻を破砕。

 

更に銃身を旋回させ、ピンポイントでビーム渦流を撃ち飛ばし、10機のリーオー部隊を破砕させた。

 

「バルジは目前だ。このまま攻め混み、バルジ砲内部に侵入。破壊する……!!!」

 

機体を旋回、加速させたウィングガンダムリベイクは、中出力でプロトバスターライフルを撃ちながら進撃。

 

撃つ毎に4、5機のリーオーが破砕させられていく。

 

そしてその流れの中で、プロトバスターライフルの銃身を振り回すように自転。

 

ジャイアントスイング要領でプロトバスターライフルを撃ち放った。

 

回転しながらのビーム渦流射撃が、より大多数のリーオー部隊を破壊する。

 

まさしくウィングガンダムの無双進撃の再来である。

 

この絶望的な敵を前に、騎士道の意地を奮わせる仮面の男がいた。

 

「やはり……!!!間違いない、ヒイロ・ユイだ……!!!信じられん……アデレードでのあの瀕死状態から生還するとは……フフッ……どうやら闘いのツキが回ってきたようだな……!!!」

 

騎士道の高揚感から不敵笑みを浮かべたゼクスは、自らが率いる部隊からトールギスを単機で加速させた。

 

「ゼクス特佐!!?単機では危険です!!!」

 

トールギスはレフトアームに装備したバスターランスを突き出してウィングガンダムリベイクへと突き進んだ。

 

「トールギス!!!」

 

 

 

ガギャオンッッ!!!

 

 

 

シールドとバスターランスがぶつかり合ってすれ違う。

 

軌道転換させたトールギスは、再度バスターランスでウィングガンダムリベイクに突っ込み加速。

 

対し、ウィングガンダムリベイクは腰アーマーにも格納されていたビームサーベルをレフトマニピュレーターで取り出し、抜刀。

 

バスターランスを捌き弾いた。

 

「ふっ……それでこそだ!!!」

 

トールギスは空間上で再度反転し、バスターランスを突き出す。

 

対するウィングガンダムリベイクの斬撃がバスターランスを捌き、両者は互いの武装を繰り返し激突させ始めた。

 

ビームサーベルで受け止めては弾き、バスターランスで突いては弾かれる。

 

攻撃を突き出しながらゼクスは改めて通信回線を開いて問う。

 

「改めて聞く!!貴様は……ヒイロ・ユイか!!?」

 

「そうだっ……ゼクス!!!」

 

「やはりかっ……実に運命染みた闘いだ!!!如何にして生きていてくれたかは敢えて問わん……代わりにっ……この闘いに全力を注ぐ!!!」

 

バスターランスの連撃が繰り出され、遂にウィングガンダム・リベイクのボディーを突き穿ち、一度高速で離脱。

 

バーニアの加速をかけた一撃をウィングガンダムリベイクへと見舞う。

 

「ぐぅっっっ……俺もなぁっっ!!!」

 

突き飛ばされた機体をウィングスラスターのエネルギー噴射で立て直し、マシンキャノンの連射撃で牽制するヒイロ。

 

それをシールド防御で応じ、着弾爆煙がトールギスを包む。

次の瞬間、ウィングガンダムリベイクが再び抜刀の斬撃を食らわせ、バスターランスそのものをトールギスの手から弾き飛ばした。

「ちぃぃっっ……!!!」

 

トールギスはビームサーベルを抜刀しながら発動させ斬撃を叩き込むと、ウィングガンダムリベイクはビームサーベルを激突させスパークを巻き起こす。

 

「今私は……兵士としての任務と騎士道の意地を去来している!!!一つは貴様の鹵獲、もう一つは決着だ!!!」

 

「いいだろう……だが機体は渡さん……!!!バルジも破壊する!!!」

 

「バルジが狙いとはっ……相変わらずの無謀……ぶりだっっ!!!」

 

ビームサーベル同士の斬撃と斬撃をぶつけ合わせてはぶつけ合わす。

 

薙ぎ、袈裟斬り、突きと至近距離での凄まじい斬撃戦闘が高速で流れていく。

 

「初めはECHOESへの反撃が狙いだった……だが、守るべき拠点が狙われ、更なる危険な存在を叩くべく闘いの視点を変えた……!!!」

 

突きを捌き合い、薙ぎ斬撃の弾き合いに転じ幾度も拮抗した後に離れ合う。

 

「だが、その守るべき拠点は自爆して既に無いっ!!!貴様は虚しくないのかっっ!!?」

 

「何!!?」

 

ラボコロニー自爆は情報を得ていなかったヒイロの精神を揺るがした。

 

この瞬間、まさに斬りかかろうとしたウィングガンダム・リベイクの動きを止めた。

 

「ならば私は兵士として、まだある祖国を守る!!!」

 

この時の瞬間にゼクスの去来している覚悟が定まった。

 

ようやく連邦の支配から逃れたサンクキングダムを、己れの騎士道よりも優先させたのだ。

 

トールギスの薙ぎ斬撃が、ウィングガンダムリベイクのレフトアームの関節ジョイント部を直撃する。

 

一点集中のダメージに斬り飛ばされるレフトアーム。

更にドーバーガンの一撃がウィングガンダムリベイクの頭部を直撃する。

 

「ラボコロニーが……自爆だと……!!?カトル達はどうなった!!?ならば……俺はっ……俺がとる任務は……!!!」

 

ヒイロの脳裏にバルジへと突っ込み、自爆を慣行するイメージが過った。

 

その間にリーオー部隊各機が戦闘中のトールギスに追い付き、一斉に中小規模のビーム渦流射撃をウィングガンダムリベイクに撃ち注ぐ。

 

「ゼクス特佐!!鹵獲の止めは我々が!!!」

 

「お前達……!!!」

 

リーオー部隊の射撃はウィングガンダムリベイクの装甲を穿ち続け、衝撃を与え続けた。

 

そして、ドーバーバスターを装備した各機が、改めて一斉にビーム渦流をウィングガンダムリベイクへと集中させた。

 

爆炎に包みこまれた中へ更なるビーム渦流射撃を重ねる。

 

ウィングガンダムリベイクは爆発に包まれた。

 

だが、その爆炎の中にプロトバスターライフルを構えたウィングガンダムリベイクが姿を見せた。

 

「っ……!!!目標、尚も健在!!!」

 

プロトバスターライフルを敵機群にロック・オンしたヒイロに、自爆の選択肢はなかった。

 

 

 

『ヒイロ……必ず生き続けろ』

『世界がどんなに否定しようと信念を貫け』

『私はヒイロとアイスクリームが食べたい……』

 

 

 

脳裏に呼び醒まされたマリーダからの約束と言葉がヒイロに生きる選択肢を与えた。

 

マリーダもまた襲う激痛の中、必死でヒイロを想いながら闘っていた。

 

「ヒイロっ……!!!うあぁああっっくっ……ヒイロっ!!!私もっっ……闘ってる……!!!だから……生きろ……ヒイロぉっっ……!!!」

 

パラオの病室で闘うマリーダと共鳴するかのように、ヒイロは叫びながらプロトバスターライフルを解き放った。

 

「おおぉおおおおおおっっ!!!マリーダァアアアアアアアアァッッ!!!」

 

 

 

ダァズゥヴァアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

ドドドドドドゴヴァッッドドゴヴァゴヴァゴヴァドドドドドドゴヴァアアアアアアァッッ!!!

 

 

 

リーオー部隊は次々に機体をビーム渦流に吹き飛ばされ爆砕し、殆どが壊滅した。

 

更に不意を突かれたゼクスは、トールギスのライトアームを吹き飛ばされるに至った。

 

それを視認したヒイロは一矢報いた事を感じながら流れていく機体に身を委ねた。

 

「ふっ……任務失敗。だが、マリーダからの任務は……続行する……」

 

 

 

 

 

宇宙世紀0097 4月

 

メテオ・ブレイクス・ヘルの壊滅より一年余りが経過した。

 

OZは完全なる地球圏掌握に向け、OZの後ろ楯であるロームフェラ財団直属とする超法規的部隊・OZプライズが発足した。

 

同時期、地球上においてもOZと連邦残存勢力との戦闘が各地にて勃発。

 

ネオジオンやジオン残存勢力の小規模の抗争も交え、世界は更なる混迷を突き進んでいった。

 

凄まじく廻る情勢の直中の地球圏の一角・L2コロニー群・インダストリアル7のコロニーの街中を歩く少女がいた。

 

立ち止まりながらフードを外して振り向く。

 

「やっぱりこのコロニー……何かが……呼んでる……」

 

そう呟いた少女はプルだった。

 

プルは天井に拡がるコロニーの街を見回し、再び歩き出した。

 

 

 

 

 

Next……→

 

新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY セカンド・オペレーション




偽りの平和……反抗と弾圧……そして侵攻……歴史が変革した宇宙世紀の時代は更なる混沌をいく。

新たな次世代の力が更なる犠牲を拡大させていく。

その狂った流転は止まらない。

散り散りになったGマイスターの一人、アディンはニュータイプ少女・プルとガランシェールクルー達と共にラプラスの箱なるモノの存在に迫る。

そしてヒイロもまた再び動きを見せ始めていた。

エピソード27「ラプラスの箱」



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セカンド・オペレーション
エピソード 27「ラプラスの箱」


宇宙世紀0097 4月。

 

これまでの常識を覆す異質たるガンダムを保有し、連邦やOZに脅威を与えたメテオ・ブレイクス・ヘル。

 

彼らがOZとECHOESの殲滅作戦で壊滅してより一年と四ヶ月が経過した。

 

メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムはテロの象徴とされ、彼らのこれまでの行為も批判と意味嫌いの対象となり、事実上地球圏の悪とまで扱われていた。

 

OZ統治による偽りの秩序が地球圏を覆い、大半の大衆がその最中に暮らす中、OZは連邦政府の画策で滅ぼされ占領されていたサンクキングダムを復興支援し、より好印象を大衆に与えた。

 

サンクキングダムの国の中心ともいえる城の周囲には、完全平和主義国に似つかわしくないリーオーやリーオーキャノン、エアリーズの部隊が展開している。

 

無論、名目上は復興支援を兼ねた自衛・防衛の為であるが、本国王女・リリーナ・ピースクラフトはこれを良くは考えてはいなかった。

 

広大な景色が見渡せるベランダで、リリーナは旋回飛行をするエアリーズの編隊を見ながらその不満を吐露する。

 

「やはり……この状況……この国に似つかわしくない。完全平和主義の国に兵器だなんて……私はやはり不愉快です」

 

「それは何度も聞いているさ、リリーナ。確かにこの国は完全平和主義国家だ。本来なら兵器は存在してはならない。だが、冷静に状況を見てみてくれ……」

 

リリーナに意見するのはヒイロと瓜二つのボディーガードの少年、ライト・グリューンフルス。

 

リリーナの居るベランダの欄干に手を置きながらリリーナの瞳に視線を合わせて説得するように言う。

 

「外には連邦やジオン残存勢力が展開しているし、まだ復興したばかりでOZの支援無しにはまだとても国としては機能できていない……今は防衛力と国家基盤が必要な時なんだ。ミリアルドさんもそれ故に……」

 

ライトがそう言いかけた時、二人の上空に巨大な機影が飛び去る。

 

サンクキングダムに帰郷したゼクスことミリアルド駆るトールギスだった。

 

機体は完全に修理され、その勇姿をサンクキングダムの空に舞わせる。

 

今やゼクスは、サンクキングダム親善大使兼近衛兵団長としてミリアルドの身に戻っていた。

 

OZを離れたが故に、象徴とも言えた仮面を外しており、その素顔の眼差しでモニターに映ったリリーナ達を見る。

 

「……相変わらずか……ふっ……これからは復興したサンクキングダムとリリーナ達が必要となる時代が来る。だから私はミリアルドに戻ったのだ……今は同盟を結んでいる仲にあるトレーズに感謝だな。トレーズとの根回しが無ければ今はない」

ミリアルドはトレーズへの礼の想いをレバーに籠めるように押し込み、機体を加速させた。

 

それに続く近衛兵団のエアリーズの機影達の中にミスズのリゼル・トーラスの機影があった。

 

彼女もまた、上目線ながらミリアルドを想っている事もあり、OZからサンクキングダムへと身を置いていた。

 

「仮面を外し、ゼクスはミリアルドに戻った。これもまた在るべきかたちだな。この際私もお前に付き合ってやると決めた……復興に協力していくぞ……」

 

亡国の復興、ミスズと共に近衛兵団の働き、リリーナ達との再会と再生活……ミリアルドにとってもそれは非常に報われた状況だった。

 

だが、ミリアルドはその祖国を取り戻した今を噛み締める反面、ヒイロとの決着が相討ちの痛み分けのままであることが精神の足枷となっていた。

 

ゼクスの否、ミリアルドの中で相討ちの瞬間がフィードバックする。

 

「私の中でやはりあの勝負に対する未練が消えない。相討ちでは真の決着にはならない。ヒイロ・ユイ……今何処にいる?奴の事だ……必ず世界に対して抗っているだろう……」

 

ミリアルドいわく、ヒイロの消息はトールギスと相討ちの後に消息不明となっていた。

 

無論今もOZ宇宙軍はその消息を追っている最中である。

 

ミリアルドの複雑な心境を乗せながらバーニアを唸らせて過ぎ去るトールギスを見ながら、ライトはリリーナへの言葉を続けた。

 

「……それ故に戻って来てくれたんじゃないか?平和へのプロセスの一環が正に今だと俺は思う。リリーナ、今の現状を受け入れて耐えるときだ。受け入れていく心も大事なこともあるさ」

 

「ライト……解りました。時に強い主義主張は争いの原因にもなりかねます。私の主義も今の時点では無力です。耐える事に致します。ですが……心髄は変わりは致しません……」

 

「リリーナ……」

 

リリーナは髪が風に吹かれるなびく中で、完全平和主義はあくまで曲げないという意志の眼差しを景色に向けた。

 

 

その頃、ルクセンブルグのOZ総本部の総帥室にてトレーズは、現在の情勢を閲覧しながら独自の言葉を心中で述べていた。

 

(世界は我がOZに統治されていく。だが、いつの時代も新たな統治をよく思わぬモノ達が出てくる。そしてそれは新たな戦争・紛抗争を招く。争いの歴史は繰り返されるのだ。まだまだ犠牲は増えていく。そして、この流れが「彼ら」に創られている事を忘れてはならない。故に将来……サンクキングダムは今後の人類の歴史を先導していく国家となる必然がある。私は敢えて悪となり、その為に必要な相応の犠牲を生み出す役に回ろう……同時にサンクキングダムを支援させて頂こう。我が友、ミリアルドよ……)

 

トレーズの意向により、OZはサンクキングダムと同盟を結び、更なる支援の姿勢を示していた。

 

だが、その一方の裏では反抗勢力やその関係民間施設に対して人権無視の圧制をしており、水面下で世界情勢は更なる混迷の一途を突き進んでいた。

 

OZの後ろ楯である超大規模財団・ロームフェラ財団は直属の超法規的組織・OZプライズを発足。

 

OZプライズによる反抗勢力への圧制弾圧体制促進、それに伴う連邦残存勢力及びネオジオン、ジオン残存勢力の掃討、世論に対する情報操作、新たなMD開発……更に地球においてもOZと連邦残存勢力の戦闘と各地にて火種の爆発が勃発していた。

 

これに伴い、リーオーやエアリーズの近代化改修も実施され、ジェネレータ出力、装甲、武装もマイナーチューンが行き届く体制を拡げ、更にプライズ仕様のリーオーには、やや深めの紫のカラーリングの施しと伴い、リゼル・トーラスと同タイプの擬似GNDドライヴが搭載された。

 

 

 

とあるコロニーにおいて巻き起こる戦闘。

 

ジェガンやリゼルといった連邦残存MSが、コロニー内部を巻き込みながらビーム射撃を慣行する。

 

襲い来るはOZプライズ所属の3機のリゼル・トーラス。

 

リゼルの性能をリミッターカットしたに等しきマリオネットは、瞬時にジェガンやリゼルを捉え、慈悲無きメガビームランチャーの射撃を撃ち放つ。

 

瞬く間にジェガンやリゼル数機が抉り溶かされるように破砕。

 

更に貫通したビームが都市部に直撃し、コロニーの壁層を貫通。

 

爆発と共に民間人を巻き込みながら悲惨な被害を拡大させていく。

 

「くっそ!!!MDリゼルめぇ!!!人間を舐めるな!!!」

 

連邦兵士は自機であるジェガンをリゼル・トーラスに突っ込ませながらビームサーベルに装備を切り替える。

 

しかし、突き出して向かい来るジェガンに対し、直ぐにMDがレフトアームのビームキャノンでの攻撃へ切り替えて攻撃を加えた。

 

「速過ぎるっっ……!!!がはぁがぁっ!!!」

 

速過ぎる弾速と正確過ぎる狙いに、瞬時にジェガンは射抜かれて爆砕。

 

4機のジェガンと3機のリゼルが一分以内で壊滅する。

 

カメラアイを点滅発光させたリゼル・トーラスは、次なる標的を感知し、機体を変形させて追撃を開始。

 

その遠方距離のポイントではスタークジェガンとジェガンの部隊がコロニーの外を目指しながら加速する。

 

だが、瞬く間にリゼル・トーラス部隊は追い付き、メガビームランチャーを各機が放つ。

 

スタークジェガン1機とジェガン2機は一瞬で破砕。

 

もう1機のスタークジェガンとジェガン2機は、逃亡を断念して反撃に移る。

 

撃ち放たれるビームバズーカとビームライフル。

 

これに対してリゼル・トーラスは一瞬にして回避運動を展開し、直ぐ様MSに変形しながら更なる反撃のビームを放った。

 

メガビームランチャーは、かわす余地さえ与えずジェガン達を爆砕して葬った。

また別の宙域エリアにおいてもOZプライズがネオジオン勢力弾圧の動きを見せていた。

 

ネオジオン残存勢力が展開する最中、OZプライズのワインレッドカラーのリーオーが、ドーバーバスターを駆使してネオジオンサイドに弾圧のビーム渦流を撃ち込む。

 

ギラドーガやガザD、ズサ、ガ・ゾウム等の機体が次々と標的になり、えげつないまでの猛撃に爆砕していく。

 

バウやリゲルグ、シュツルム・ディアスの機体群が増援して、資源衛星より出撃していく。

 

機動性を活かして攻撃をかわし、ビームライフルを構えるバウ。

 

しかし横槍のごとくリゼル・トーラスの放つメガビームランチャーのビーム渦流がバウを撃ち潰す。

 

シュツルム・ディアスもまた、メガビームランチャーに狙い撃ちにされて爆砕していく。

 

戦闘力は長けているリゲルグには集中してドーバーバスターが撃ち込まれ、機体を破砕に追いやった。

 

更に攻め入るリーオー部隊に果敢にもガザC、ガザDが防衛の為に攻め込む。

 

ナックルバスターのビーム射撃がリーオー部隊に向かうが、OZプライズの精鋭が動かすリーオーは回避を駆使して反撃に移った。

 

接近してレフトアームでビームサーベルを引き抜き、薙ぎ斬撃を見舞う。

 

無惨にガザDはリーオーの背後で爆砕。

 

繋げてドーバーバスターを近距離で撃ち、2機のガザCを破砕させる。

 

そして、リーオー部隊は並列に並んだフォーメーションを組み、一斉にドーバーバスターを放った。

 

この攻撃にギラドーガやガザC、ガザD、ズサ、ドラッツェ各機が破砕され、更に資源衛星内部にリゼル・トーラス部隊がメガビームランチャーを放ち、難民が居る区画を巻き込みながらこれを崩壊させる。

 

爆発崩壊していく資源衛星を見ながら、OZプライズのパイロットはあたかも遊び半分のように言った。

 

「これが我々の秩序だ。ふふふっ……では次の古い時代の獲物をハンティングする……むっ?!」

 

リーオー部隊にリゼル・トーラスが続いて宙域を離脱していく最中、爆発を免れたネオジオンの船舶が姿を見せる。

 

ガランシェールと同じタイプの船舶だが、内部には女性や子供、老人等民間区画の人々が乗船しており、常に死の恐怖と隣合わせにあった。

 

「くくく……確定した獲物は何であろうと……ハンティングする……!!!」

 

不敵な薄ら笑いをすると、OZプライズのパイロットはガランシェール級に対しドーバーバスターをロック・オンした。

 

撃ち放つビーム渦流はガランシェール級の機関部を抉り飛ばし、船体を大爆砕に導いた。

 

非情なその所業にはOZ本来の騎士道を明らかに逸脱する狂気めいたものを感じさせた。

 

そして、OZ宇宙軍の宇宙要塞・バルジの存在までもがOZプライズの管轄となり、コロニー全ての脅威として君臨していた。

 

実際に連邦勢力やネオジオン勢力が潜む疑いのある一部のコロニーと資源衛星が一斉に消滅させられる事件も起きていた。

 

地上においても、リーオーやリーオーキャノン、エアリーズによる連邦残存勢力の掃討が行われ、日夜各地の戦場で戦闘が重なる。

 

ビームマシンガンやドーバーガン、ビームキャノン、レーザーチェーンガン、ミサイルランチャーのハープーン・マグナ等による爆撃……これらの攻撃が連邦に属していたジムⅢやジムⅡ、ネモの群を撃ち潰していく。

 

メテオ・ブレイクス・ヘル壊滅後、大半のリーオーとエアリーズには前述したマイナーチューンが一斉規模に施される運びとなり、機動性や火力は従来型よりも上のレベルにあった。

 

故に、ジェガンやリゼルと互角以上の性能を見せつけ、各地の戦闘でその力を示していた。

 

今やかつての連邦と同等なまでに拡大したOZに対し、連邦残存勢力はネオジオンの勢力規模に等しかった。

 

テロリスト規模の扱いになり、元連邦勢力のその行動もまた民間施設を無視したテロ行為に他ならなかった。

 

オペレーション・プレアデスによる一斉同時多発クーデターが強力な影響を与えた結果だ。

 

それでも尚、ジオン残存勢力同様に反抗を止めていなかった。

 

 

 

小惑星要塞・ペズン

 

 

 

かつて、ティターンズ残存勢力「ニューディサイズ」が占拠・決起した場所に連邦の残存勢力が身を寄せていた。

 

正に追いやられた者達がこの小惑星の因縁に吸い寄せられているかのようでもあった。

 

クラップ級やサラミス改の艦船の姿も見受けられ、その占拠規模はかつてのニューディサイズ同様の規模であり、展開するMSは、ジェガンやスタークジェガン、ジムⅢ、ネモ、ジムⅡと多機に渡る機種が集結している。

 

しかし、今の彼らは決起として集結したわけではなく、行き場を失ったが故に居場所たる拠点を求めて、ペズンに赴いていたのだ。

 

だが、この光景は決起をする前段階と捉えることもできた。

 

無論、OZ宇宙軍はこれを見逃す事なく、OZプライズを派遣する動きを見せた。

 

だが、寄り集めの集結機群とはいえ、当時のペズンの反乱の規模を上回る機数に対して、OZプライズは高速戦闘艦と補給メンテナンス役にMS輸送船2隻のみであった。

 

通常の軍事行動ではないのは明らかであった。

 

その高速戦闘艦のカタパルトからMSの出撃する光が順に打ち出される。

 

その光を放つMSが次々と高速で姿を見せ、アスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウスがペズンを目指して機を飛ばす。

 

ヴァイエイトとメリクリウスには若干の増設改修が施されており、共通したフェイスガードに加え、ヴァイエイトのレフトマニピュレーターにはブルバップマシンガンと同形状のレーザーガンが、メリクリウスには左右双方のマニピュレーターにクラッシュ・シールドが装備されていた。

 

前者は近距離戦闘の死角を補う為、後者は搭乗者であるアレックスの要望からである。

 

それに加え、トラント、ミューラ、アレックス達はここに至る迄にOZプライズへと所属を移しており、より一層の蹂躙劇を我が物顔としていた。

「お前達……これは久しぶりに暴れ放題だぞ。駆逐し甲斐がある連中ばかりだ……!!!」

 

「ひゃはははは!!!いーっすねぇ!!!粛正、粛正!!!」

 

「選り取り緑とはこの事!!トラント特尉、景気よくいきましょう!!!」

 

「無論だ……今回は同プライズのトールギスも同行しているからな」

 

高速戦闘艦のカタパルトから純白の鳥のような翼を持ったトールギスが加速して飛び立つ。

 

サイドスカートアーマーから上半身を赤いカラーリングにしたトールギスのその印象はゼクスその人を連想させる。

 

だが、それを操るはゼクスと酷似した軍服を着たOZプライズの青年士官であった。

 

「ハンティングの開始だ……このロッシェ・ナトゥーノ、新たな愛機、トールギス・フリューゲルと共に参る!!!」

 

巨大かつ雄々しくウィングバインダーを羽ばたかせながらトールギス・フリューゲルがペズンへと我先にの勢いで突入していく。

 

右手には本格的な騎士仕様のビームサーベル、左手にはバスターシューターを装備しており、多角軌道を描きながら連邦残存勢力のMSに襲いかかる。

 

手始めにネモ3機とリゼル、ジェガンを連続斬りで仕留め上げ、構えたバスターシューターでリゼル3機、ジェガン2機、ジムⅢ4機を次々に射撃。

 

小規模のビーム渦流がMS群を穿ち、爆炎の華を咲き乱れさせた。

 

「連邦残存勢力……笑わせる!!!」

 

次なるバスターシューターの射撃は、スタークジェガンを撃ち仕留め、続けてにジェガン3機、ジムⅡ3機を撃ち仕留めた。

 

 

高速のビームサーベルの突きが、ジムⅢ2機、ジェガンを連続で仕留め上げ、更に多角軌道を描きながらジェガン2機、ネモ3機、スタークジェガンを華麗な斬撃で破砕されていく。

 

「余計な勢力は排除に限る……!!!我が愛機の戦闘データの糧となれ……!!!」

 

レフトアームの出力を上げながら次の獲物たるプロトスタークジェガンにビームサーベルを突き上げると、その突き刺した状態からクラップ級の機関部付近目掛けて突き進んだ。

 

超高速に等しい加速でプロトスタークジェガンを突き刺したまま狙いを定めたクラップ級に激突。

 

直後に誘爆を巻き起こして爆砕に爆砕を重ねて轟沈する。

 

トールギス・フリューゲルは高速離脱しながらジェガンやジムⅢ、リゼルを斬り飛ばし、更にペズンを駆け抜ける。

 

ロッシェはバスターシューターを再びスタンバイさせ、狙いを高速ロックしたジェガン2機、リゼル3機、ジムⅢ4機を順に高速射撃を慣行した。

 

直撃する中出力のビーム渦流が、狙い定めた敵を破砕。

 

次々に撃ち放つバスターシューターが一気に9機のMSを撃墜させる。

 

鮮やかな軌道で羽ばたき、ビームサーベルの斬撃とバスターショットの射撃を巧みに組合せ、ロッシェはハンティングに身を投じた。

 

トールギス・フリューゲルの華麗なる攻めに感化されたトラント達もまた猛撃に打って出た。

 

「流石『レッドスターダスト・ナイト』ロッシェ・ナトゥーノ……退役したゼクスが、かつての赤い彗星なら、ロッシェは紅い稲妻か……よし、我々もいくぞ……!!!」

 

「了解!!!」

 

その空間の場所から瞬発加速しながら3機はペズンへ向かった。

 

アスクレプオスが加速の勢いのまま、パイソンクローをかざしてジムⅢ3機、ジェガン3機、リゼル2機をパイソンビームランチャーで撃ち仕留め続ける。

 

機群が爆発する中を駆け抜けながら更にパイソンビームランチャーを乱れ撃ち、周囲の連邦残存勢力機群を破砕しながら接近戦へと切り替える。

 

パイソンクローの爪にGNDエネルギーを発動させると、ジェガン2機、リゼル2機へと攻めかかり、斬り、穿ち、砕きながら高速で駆け抜ける。

 

その加速のまま狙い定めたスタークジェガンに突っ込み、その機体を穿ち砕いて爆砕させた後に更にペズンの奥面に機を投じた。

 

一方でメリクリウスとヴァイエイトが対を成しながら攻め込む。

 

メリクリウスが展開させているプラネイトディフェンサーと二基のクラッシュ・シールドで抵抗射撃を遮断し続けると同時に、ヴァイエイトのビームカノンと連発するレーザーガンによる射撃で圧倒、更にメリクリウスのクラッシュ・シールドからも時折ビームキャノンが放たれていた。

 

対峙していくジェガンやジムⅢ、リゼル、スタークジェガン、ネモ、希少機のネロの抵抗する機影達を次々に破砕、爆破する。

 

ビーム渦流が機体群を一斉に吹き飛ばし、青白いレーザー火線が敵機直撃部を円形熔解あるいは一線切断、クラッシュ・シールドからのビームも狂い無き直撃を浴びせていった。

 

 

 

2機の猛撃は射撃は意味を成さないと判断したのか、連邦残存勢力のMS達が接近戦闘を仕掛け始める。

 

だが、二基のクラッシュシールドのビームサーベルを発動させたメリクリウスの連続斬撃により、瞬時に斬り砕かれていく。

 

 

 

ザザギャイッッ、ディガガジュアッッ、ディディッガイィイイイ!!!

 

ズズザガギャバンッ、ジュガドォダァアアアアアンッッ!!!

 

 

 

「はっはー!!!こいつはいい!!!やっぱり斬り刻むのは俺の性に合ってるぜぇ!!!おらおら、どうだぁ?!!連邦のムシケラ共ぉっっ!!?」

 

 

 

ディディッガギャンッ、ザシュダァンッ、ザギャイッ、ズバダァアアアンッ………ギャギャガァッッ、ザシュザガギャンッッ!!!

 

 

 

「ヒャッハー!!!」

 

 

 

ザディガンッ、ディガギャンッ、ザギャイッ、ズバシュンッ、ディディッガイィイイインッッ!!!

 

 

 

狂喜の感情をのせながらのメリクリウスによる斬撃無双乱舞は、最早アレックスの趣味的感性の世界の領域に入っていた。

 

更に猛威を奮って駆け抜けるメリクリウスは、左右交互の斬撃を叩き込み続け、幾多のジェガンやリゼル、ジムⅢ達を連続破壊。

 

ビームサーベルを穿とうと攻め込んだスタークジェガンの突きを一瞬で捌き、斬撃乱舞を浴びせて激しく斬り刻んだ。

 

そのスタークジェガンの爆発から飛び出すようにして次なる敵機に斬撃を打ち込んだ。

 

ミューラもまた狂喜を浮かべ、ビームカノンと共に、実装されたけレーザーガンを駆使してジェガンやリゼル、ジムⅢを悉く駆逐する。

 

「おー、おー、おー……いやがる、いやがるぅ!!!ムシケラターゲット君達がよっっ!!!」

 

 

 

ディシュダァ、ディシュダァ、ディシュダァアアッ……ヴゥゥッ…ヴァズダァアアアアアアッ!!!

 

ドォズオオゥッ、ドズゥゴォォオオッ、ドォゴバァアアアアァッ……ゴォヴァドドドドガァガァアアァ!!!

 

 

 

「今回から実装だ……粛清に磨きをかけるぜぇ……!!!」

 

 

ヴィギュイッッ!!! ヴィギュイ、ヴィギュイッ、ヴィギュイィッ、ヴィギュイッ、ヴィギュイイイイッ!!!

 

ジュギィドッッ、ジュギィヴィッッ、ギィパギャッ、ギィドォオオゥッ、ギィズゥドッッ、ジュズカァアアッッ……ドドドォオッゴォッガァガァアアァアアアア!!!

 

 

「まさしくヒャッハーだぜっ!!!へっ、どんどん来いよ……!!!」

 

更に攻め駆け抜けるヴァイエイトは、左右上下より接近する連邦残存勢力機達にレーザーガンをより巧みな銃捌きで撃ち墜として破砕爆発を拡げた。

 

どの機体もが斬り溶かしたかのような弾痕を浴びせられ爆発している。

 

そして左側よりビームサーベルを振りかざし迫ったリゼルに、レーザーガンをほぼ零距離の射程で撃ち、直撃部を円形熔解させて破砕させた。

 

その後も抵抗は止むことはなく、リゼル、ジェガン、スタークジェガンが、果敢に攻め続ける。

 

メリクリウスの斬撃とヴァイエイトの至近距離のレーザーガン、更には放たれるビームカノンのビーム渦流に瞬間連続破砕されていき、無惨に塵塊と化す。

 

そして、ヴァイエイトが大型GNDジェネレータで出力を増大させたビームカノンのビーム渦流を放った。

 

ペズンに向けてはしるビーム渦流が幾多のMSやクラップ級、サラミス級改の艦船を凄まじき勢いで吹き飛ばし、ペズンに到達。

 

岩塊部を溶解・破砕、爆砕させながらビームカノンの砲身を旋回させペズンを抉り飛ばしていく。

 

その間にも多数のMSや艦船を破砕、爆破させていき、やがてペズンそのものをビーム渦流エネルギーで爆破・分断させた。

 

ペズンに集結していた連邦残存勢力は短時間で鎮圧された。

 

最早メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達の勢い、戦法そのものであった。

 

 

 

更にOZに寝返ったマッドサイエンティスト、ベントナと同じくOZに寝返ったドクターペルゲが結託して誕生した強化人間特殊部隊・バーナムも展開し、キルヴァのΞガンダムを筆頭に反抗戦闘エリアに導入されていく。

 

紫のカラーに変更された強化ジェガン部隊を引き連れ、新たなガンダムが連邦残存勢力やネオジオン、ジオン残存勢力を襲う。

 

高エネルギー火力を特化したカラミティーガンダム。

 

格闘や特殊装備を特化したフォビドゥンガンダム。

 

同じく格闘や特殊装備に加え、機動性を特化したレイダーガンダム。

 

更にサイコガンダムMk-Ⅲの投入により、一層の圧力を強いた勢力弾圧が進行する。

 

 

 

アフリカエリアのとある激戦地区

 

 

 

連邦のジェガン、ジムⅡ、ジムⅢ、ネモの部隊とOZのリーオー、エアリーズ部隊との戦闘が巻き起こり絶える事のないビームやミサイルの一斉射撃が飛び交う。

 

その最中、上空より重火器を引っ提げたガンダムが飛来した。

 

新たな脅威のガンダム、カラミティガンダム。

 

カメラアイを光らせ、トーデスブロック(プラズマバズーカ)、スキュラ(胸部メガ粒子バスター)、シュラーク(バスターキャノン)、ケーファー・ツヴァイ(シールド二連ビームキャノン)を全面に向け、カラミティガンダムは一斉に重火力を放つ。

 

 

ヴァズゥルゥダァアアアアアアアッ!!!

 

ズゥヴォゴゴゴゴズバァッババドバガァアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

幾つものビーム渦流群が、連邦残存サイドのMS達を

消し潰す。

 

カラミティガンダムはゴリ押しで持つ重火器を断続的に放ち続けた後に、別方向から接近するジェガン3機にトーデスブロックの銃口を向けた。

 

「うぜーなぁ……消えろよっっ!!!」

 

 

 

ヴィズゥダァアアアアアアッッ!!!

 

ドドドゴゴバァアアアアアア!!!

 

 

 

強化人間・オルガ・サブナックの苛立ちにも似た狂気と共にトーデスブロックのプラズマ渦流がジェガンを撃ち飛ばして圧倒した。

 

更にビームジャベリンで突貫してくるジムⅡの胸部にケーファー・ツヴァイのシールドの切っ先を突き穿つ。

 

「死ねや、らぁあっ!!!」

 

 

 

ビシュドォッッッ!!!

 

ズグゥアアアアアアッッ!!!

 

 

 

至近距離からのビームキャノンの連発を食らったジムⅡはえげつないまでに爆砕した。

 

「あぁっっ堪らねぇなっっ……殺して、殺して、殺してやらぁ!!!砕け散りなぁっっ!!!」

 

カラミティガンダムは再びオールウェポンの破砕攻撃を連邦残存サイドへぶつけた。

 

 

 

ドォヴァルダァアアアアアアアアアッッ!!!

 

ドドドドドゴゴゴゴゴゴバァガァアアアア!!!

 

 

 

爆砕に爆砕を重ねて砕け散る連邦残存勢力のMS達。

 

残るは残骸と黒煙のみ。

 

オルガはそれをにやりと見つめた。

 

またある紛争地域では、ネモⅢやガンキャノンD、ガンタンクⅡを後方支援にしたジェガンやジムⅢ達がビーム射撃で徹底抗戦に出る中、リーオー部隊が手を焼いていた。

 

その銃撃戦の最中、異形のMSが舞い降りる。

 

そのMSはガンダムデスサイズよろしく、鎌を掲げていた。

 

無論そのMSにもビーム射撃が加えられ一斉にビームが直進する。

 

同時にそのMSも両端のシールドを展開させた。

 

「ばーか」

 

強化人間・シャニ・アンドラスが小馬鹿にしたような口調で呟いた直後、数々のビームの軌道が曲がりに曲がった。

 

「ゲシュマイディッヒ・パンツァーにビームなんか効かねーよ……死んじゃえ、死んじゃえ……!!!」

ビームを曲げながら低空飛行してホバリングすると、前方に突き出した二連エネルギーレールガン・アクツァーンを撃ち放つ。

 

 

 

ヴィギディィィィンッ!!! ヴィギディィッ、ヴィギディッッ、ヴィギディ、ヴィギディ、ヴィギディィン!!!

 

 

 

ヴァガラッッ、ゴズバァッ、バガラァンッ、バガラァン、ゴズバァッ、バガラァン!!!

 

 

連邦残存サイドのMSがプラモデルのように粉砕されていく最中、口にもあたるような中央のバスターユニット・フレスベルグも撃ち放ち、ビーム渦流をはしらせる。

 

 

 

ヴィズゥヴァアアアアアアッ!!!

 

ドドドドドズゴゴバァアアアアアア!!!

 

 

 

一直線に突き進むビーム渦流によって、一斉にMS達は破砕された。

 

残された後方支援組にゆっくりと近づく異形のMSは、機体上半身を変形させた。

 

フォビドゥンガンダム。

 

ごついガンダムデスサイズのようなシルエットのそれは、巨釜・ニーズヘッグを振りかざして突き進む。

 

「ひゃはははは!!!楽しい、楽しい……!!!」

 

襲いかかるフォビドゥンガンダムはニーズヘッグを振りかざしに振りかざす。

 

ガンダニュウム性の実体剣の巨鎌が、後方支援組MS達の装甲を容易く斬り潰す。

 

 

 

ディッギャイィィィィン!!! ディッギャイ、ディッギャイ、ディッギャイ、ディッギャイィィン!!!

 

 

 

「ひゃはははは!!!」

 

 

ディッギャズゥバァアアアアアンッ!!!

 

 

最後の止めの一撃が、シャニの狂喜と共にネモⅢを重く斬り飛ばした。

 

斬り飛ぶネモⅢの分断面の隙間からフォビドゥンガンダムの悪魔然とした表情が覗いた。

 

 

 

旧・連邦軍ダカール基地

 

 

 

ジムⅢ、ジムⅡ、ネモ達が占拠し、一斉蜂起の行動を起こす最中に、空中より二本の鮮やかなビームがはしる。

 

直撃を受けたジムⅡ2機が爆砕に散る。

 

その攻撃を皮切りにビームが注がれ、撃破、大破する機体が続出する。

 

そのビームを放つモノが滑空しながら飛来し、機体を変形させた。

 

それはウィングガンダムの要素を取り入れたサイコガンダムのような印象を受けるガンダムであった。

 

ライトアームの二連ビームキャノン・フレイアを突き出し、連続射撃を慣行。

 

ヴィズゥダァアアアア!!! ヴィズゥダッ、ヴィズゥダッッ、ヴィズゥダッッ、ヴィズゥダァアアアア!!!

 

ズゴァアッ、ディッギャイ、ドシュオッ、バガラァン、ゴズバァアアアアッ!!!

 

高出力ビームの直撃で吹き飛ぶように爆砕していくジムⅡやネモ。

 

更なるフレイアの連射撃が、ダカール基地跡に立つネモやジムⅢを爆砕に導く中、レイダーガンダムは頭部マスクに装備されたメガ粒子バスター・ツォーンを撃ち放ち、ビーム渦流を放ったまま一瞬の頭部旋回をした。

 

 

 

ヴァズォオオオオオオオオオオッッ……!!!

 

ドッッッゴバァアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

ツォーンの一撃は連邦残存サイドのMS達を一瞬で焼き尽くされ、爆炎の華を咲き乱れさせた。

 

「脆い……脆過ぎだぜ!!!キャヒハハハ!!!」

 

強化人間・クロト・ブエルは二重三重にツォーンを浴びせると、より狂気に狂喜を重ねて1機のジェガン改に狙いを定めた。

 

ガンダニュウム合金の塊である破砕球・ニョルミルをかざしてレイダーガンダムは飛び掛かる。

 

「ひゃはははは、ひゃはははは!!!滅殺っっ!!!」

 

 

 

ディゴォガァアアアアッ!!!

 

 

 

強大なパワーとガンダニュウム合金の超高硬度が合わさり、ジェガン改は一瞬で胸部を潰され文字通りにコックピット諸とも破砕した。

 

眼前のレイダーガンダムの狂気に対して、スタークジェガンとジムⅢがビーム出力を最大にしたビームサーベルをもって突貫する。

 

だが、レイダーガンダムは容易くフレイアのシールドで捌き、ニョルミルのカウンターをスタークジェガンへ浴びせる。

 

 

 

ガァッゴォガァアアアァッ!!! ヴァズドォアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

そして急接近するジムⅢへ振り向き、ツォーンを浴びせ爆砕に散らせた。

 

 

 

ドッヴァガラアアアアアア!!!

 

 

 

連邦残存勢力のMS達は、各地における抵抗も虚しく破砕され、斬られ、潰され、また破砕され続けていった。

 

無論、OZサイドのガンダム達はジオン残存勢力も問答無用に殺戮していく。

 

 

 

中東・アフガニスタン ジオン残存勢力野戦キャンプ地

 

 

ザクキャノンやデザートゲルググ、ドム・トローペンといったジオン特有のMS達が集結し、決死の抵抗に火器を唸らせる。

 

だが、その唸る火器の先にいるのは正に巨人たるガンダム、サイコガンダムMk-Ⅲであった。

 

その巨大に着弾するキャノン砲やビーム、マシンガン、ミサイルも全く歯が立たない。

 

ただただゆっくりと歩を進め来る巨大だけですら絶望を行き轟かせる。

 

野戦キャンプ地を守らんと攻撃の手は更に手厚くなる。

 

その攻撃の中、進めていた歩を止めたサイコガンダムMk-Ⅲは不気味に止まり続けた。

 

サイコガンダムMk-Ⅲの中で何かを呟き続けるパイロットの少女。

 

「……さい……うるさい……うるさい……うるさい……うるさい、うるさい……!!!」

 

歯ぎしりをし、うつむいた顔を上げたその少女はロニであった。

 

次の瞬間、ロニは発叫しながら胸部の三連装メガ粒子バスターを撃ち放つ。

 

「うるさぁああああああああああああいっっ!!!」

 

 

 

ヴァヴゥダアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

唸り放たれた巨大なビーム渦流は一瞬にジオン残存勢力のMSと野戦キャンプ地を蒸発破砕させ、一気に押し寄せるように吹き飛ばす。

 

「ああああっっ!!!あぁああああああっっ!!!」

 

更に両肩左右の三連ショルダービームキャノンや五指先端のフィンガーメガ粒子バスターも同時に放ち、更なる破壊を拡がらせていった。

 

全ての面前のモノが吹き飛び、砕け散り、破砕されていく。

 

残るは業火の上に立ち聳えるサイコガンダムMk-Ⅲと、精神が錯乱し、更に放心状態に陥って呟き続けるロニだけに留まった。

 

「………ジーク、ジオン……ジーク……ジオン……ふふふふふっ……!!!」

 

ベントナのより過剰な人体実験により、狂ってしまったロニ。

 

彼女をそうさせた元凶であるベントナは、オーガスタ研究施設からOZ月面基地のペルゲと今回のガンダム投入についての話を通信していた。

「くくくっ……!!!早速今回のガンダムの戦果が知らされた!!いやはやワシが新たに開発したガンダムと博士のモルモット達の組合せがよかったのでしょうなぁ!!!」

 

「ひひひ……違いありませんな!!!何はともあれ、これで戦災孤児が最もガンダムの生態CPUパイロットに適していることが証明された!!下手に遺伝子から創っても生ゴミになるだけですよ!!」

 

ペルゲもベントナも、オルガ達をモルモット扱いしかしていなかった。

 

更にベントナはオルガ達三人の強化人間の前にマリーダの遺伝子サンプルからプルサーティーンを誕生させていた。

 

だが、生態成長促進の実験に失敗し、短期間で衰弱死させてしまっていた。

 

それが幾度もなく反復され、結果キルヴァ同様に孤児を組織ぐるみで拉致・人体実験させるに至ったのだ。

 

「くくく……生ゴミとはまた面白い比喩ですな。その生ゴミを免れたモルモット君三体のガンダムには無論、PXを搭載させてあるが、新たな試みとしてトランス・フェイズ装甲を実装させた」

 

「ほう……」

 

「トランスバッテリーを作動させ、特殊な電子装甲を発動させて機体に纏う。効力は実弾兵器の無効化とビーム兵器のダメージ半減ですな。あくまで実戦を兼ねた実験なんでな……作動の成功保証はない」

 

「代わりは一緒です。替えはまた拉致すればいい……そう拉致すれば……!!!」

 

相変わらずの非人道な感性を露にするベントナの発言。

 

ベントナは水面下で更なる野心をマーサと抱いていた。

 

マーサは要らない妖艶を滲ませながらデータベース上で強化人間の情報や計画等をまとめていた。

 

そこには資源衛生・パラオや出入りする艦船の情報も載せられていた。

 

「プルサーティーン、プルシリーズの早期量産は失敗……ならば取り戻すまで……私にとってラプラスの箱の開示を歴史裏で排除するには必要なの……ユニコーンの力を捩じ伏せる力が…」

 

マーサは再びマリーダを拉致することに行動を起こし、かつキルヴァをより更なる強化人間に仕上げようとしていた。

 

キルヴァは強化カプセルで眠り続け、再び狂気の役割に控える。

 

「私は全てを手に入れて見せるわ……全てをね……!!!」

 

 

 

 

過剰なまでに圧倒的な力がいたずらに振りかざされ、反抗する存在はまた成す術なく標的にされていく……これらのような各地の抗争が、更なる混迷を掘り下げていき、地球圏規模の混迷を深くするに至らせていった。

 

その世界情勢の最中、地球圏のある特定の範囲の人々にはある種の都市伝説めいた存在が認知され、それを探す者達も現れ始めていた。

 

その存在……その名は「ラプラスの箱」。

 

ビスト財団のカーディアスとサイアム、そしてカーディアスの妹であるマーサが口にしていた存在である。

 

かつての連邦政府を根底から覆す存在とも言われており、それが何かはビスト財団の関係者以外は認知できるモノではなかった。

 

その存在を知る者達、知った者達は進み行く歴史の中で探し続けていた。

 

無論ながらOZも認知しており、対策としてメテオ・ブレイクス・ヘル殲滅攻撃時の戦闘の影響で小規模となったECHOESをOZ宇宙軍の隠密偵察部隊に位置付け、その調査へと動いていた。

 

それ以外にも、フロンタル派ネオジオン、講和派ネオジオン、連邦残存勢力もまたラプラスの箱の捜索に乗り出していった……。

 

 

 

L1コロニー群コロニー・インダストリアル7

 

 

 

コロニーとして稼働しながらも区画建造最中の新型コロニー、インダストリアル7。

 

ビスト財団の拠点たるビスト邸はこのコロニーにあった。

 

そのビスト邸の最も深い部屋では半球ドーム型の中に映し出される幾つもの映像や情報をサイアムとカーディアスが閲覧していた。

 

どの映像情報も地球圏の世界情勢に関するものばかりだ。

 

必然的に二人はラプラスの箱を意識した会話を始めていた。

 

「カーディアス……世界は予想を超えて破滅の道を進んでいるようだ……一年戦争勃発からシャアの反乱までにも多くの過ちが重ねられてはきたが……」

 

共にカーディアスはサイアムに紅茶を入れて差し出すとその言葉に答える。

 

「えぇ……今日のOZによる統治……否、OZプライズの圧制にはこれまでのティターンズの所業さえも甘く感じてしまう程です……バルジによるコロニーへの圧力……こればかりは考えモノです」

 

「ふぅ……ユニコーンガンダムを……ラプラスの箱の鍵を彼らに託すのか?」

 

「はい……無論、実際に面会して見定めた上でですがね……」

カーディアス達は、ラプラスの箱に関してある者達が接触してきた事に対応の姿勢を示していた。

 

ビスト財団が直々に対応するという事は滅多にない事であった。

 

現時点のビスト財団党首・カーディアスがそこに踏み切るにも理由があった。

 

「そして……まだ疑いの範囲を出ませんが……彼らのメンバーにいるニュータイプなる者が我々との接触をすることを薦めたと言って来た。もしかしたらラプラスの箱を託すに相応しい存在の可能性もあります」

 

カーディアスはそう言うと、その場を後にしながら歩き出す。

 

それを呼び止めるかのようにサイアムは天井モニターを見ながら言葉を漏らした。

 

「カーディアス……裏付けは……確信はあるか?」

 

カーディアスは足を止めず、そのまま歩きながら答えた。

 

「いえ……ただそう感じる……とだけしか今は言えません……」

 

 

 

同コロニーの市街地を歩く一人の少女。

 

それは白いパーカーとショートパンツ、スパッツを着こなすプルだった。

 

少しばかりイメチェンした印象を与える彼女は、コロニーの天井を見ながら歩く。

 

「やっぱり何度みてもコロニーの空間ってなんか不思議!!これだけの空間が宇宙で造られてて……あれだってまだ造ってるんでしょ?」

 

コロニー内部の遥か向こう側で、コロニー建造ユニット・ロクロが稼働しているのを指差して尋ねるプル。

 

尋ねた相手は再びガランシェールと合流できたアディンだった。

 

「あぁ。まだまだこのコロニーの世界は拡がるぜ」

 

今やボディーガードを兼ねてガランシェールチームの一員として行動してる身だ。

 

無論、ジンネマンが信頼を押しての役目である。

 

そしてその環境下は今のアディンにとっても貴重な居場所であり、特にプルの存在はオデルを失った傷を癒してくれる存在であった。

 

プル自身が彼を慕い、惹かれていることも幸いしていた。

そんなプルがコロニー・ロクロを見て疑問符を溢す。

 

「みんな、こうして宇宙の中で頑張って生きようとしてるのに……どうして争いが続くんだろうね?」

 

「……だから俺達はラプラスってのを探し始めたんだろ?なんなのかはわかんねーのに探してるってのも何だかなってとこだけどさ……」

 

確かにラプラスの箱がなんなのかは現時点ビスト財団に身を置く重要人物以外は誰もがわからなかった。

 

だが、それがマイナスファクターではないという感覚をプルは感じていた。

 

ジンネマン達は、ニュータイプであるプルのその感覚からラプラスの箱で情勢の打開を見出だそうとしていたのだ。

 

「ラプラスの箱がなんなのかはわからないけど、あたしには陽な……あったかな存在感を感じるよ。けど……今は息抜きに出掛けてるんでしょ?どっか美味しいお店リサーチしてよぉ!」

 

「あーっ……はいはい!リサーチシマスヨ!」

 

プルの尻に敷かれるがごとくアディンはインダストリアル7のカフェを携帯データベースでリサーチし、そこでカフェタイムの息抜きと行き着いた。

 

プルは出されたパフェに目を輝かせて見入る。

 

「わぁ~……このパフェ超美味しそう~!いただきまーす!」

 

「このインダストリアル7で一番のパフェなんだってよ!クチコミが保証する!アクセス経路調べるのに苦労したぜ……ず……おー、深い苦みだぜ!いい仕事してんな~」

 

アディンはブラックコーヒーを啜りながら一人で味に納得する。

 

「なに一人で味に納得してんの?アディーン……クスクス、変なの!それから色々道とか調べながらきたもんね!マップとうまく照らし合わせれなくて、迷って、引き返してまた出発して……探して」

 

「ちょっと時間かかっちまったよなぁ……てか、ニュータイプの勘で何とかなったんじゃねーのか?」

 

「あ~……ニュータイプ利用しようとしてる~……わるものー」

 

「いや、違うしよ!」

 

「クスクス!確かに勘でできたよ!でもアディンと色々してここまで来たかったんだぁ~……だってそっちの方が楽しいんだもん☆」

 

そう言いながらアディンに上目遣いでパフェを掬いながら食べるプル。

 

どこか小悪魔的なその仕草にアディンはやや頬を赤くしてしまう。

 

「あ!アディン、今ドキドキしたぁ~」

「し、してねーっ!」

 

「ニュータイプにはまるわかりでーす」

 

「こーゆーときにニュータイプを主張すんなよな!」

 

「んふふ……まくっ……おいひー!」

 

プルはアディンをからかうように掬ったパフェを一口口に運んだ。

 

アディンは頭に手を当てながら調子を狂わされる事に表面的に落胆するが、表情は穏やかだった。

 

更にプルは、掬った一口のパフェをアディンへ差し出した。

 

「はい!アディンも食べてみる?あーんして!」

 

「いい?!更に何やりはじめんだよ!?いーから!プルが食えばいーから!」

 

プルに「あーん」を催促され、ドギマギし始めるアディン。

 

あからさまに動揺しているアディンにプルはお構い無く小悪魔的にパフェを押し付ける。

 

アディンはやむ得ず一口あーんを受け入れた。

 

確かに旨かったようで、内心もほっこりしている様子だ。

 

するとプルは止めとも言うような言葉をかけた。

 

「ふふふ♪あたし達、恋人同士に見えるかな?」

 

「……んぐ……いやいや……兄妹だろって!」

 

「髪の毛からして兄妹じゃないよー?認めてよ~」

 

「はぁ?!おかしーって!あ、ボディーガード!!ボディーガードだ!!」

 

「けち」

 

「いやいや、いやいや……けち違う!」

 

そんなこんななやり取りの後、インダストリアル7の街を歩きながら二人はジンネマン達との合流場所を目指していた。

 

その中でアディンはオデルと死に別れてからカフェタイムまでを振り返っていた。

 

心境が解るプルは、カフェの感想から始めたトークをしながらアディンの心を気遣い、普段のワガママや無茶ぶり要求はしなかった。

 

「……プル。サンキューな。突然だけどさ。俺……兄さんやイリアさん達を失って、ヒイロ達が消息不明になってから今の今まで……ガランシェールに世話になってる。特にプルには……」

 

「そ、そう?」

 

「プル達が……プルがいなかったら、今頃俺はなんの希望も持てず絶望に暮れて、それこそ自爆していた。プルがいてくれたから今こうしていられる。さっきのカフェで兄さんを失った絶望と今の希望を比較して感じた」

 

「あたし、アディンの希望なんだね?へへへ……なんか直接言われると恥ずかしいな……」

 

「話す俺はもっとだ……とにかく!プルがいなかったらここまで立ち直れなかった!!改めてありがとな!!」

 

プルは嬉しげに顔を赤くしたあと、アディンの腕を取りアディンの腕に抱きつく。

 

「……もっと癒してあげる!」

 

「おわ!?プルっ!!」

 

「あたしからもありがと!!嬉しい☆」

 

「……プルは、マリーダさんを大切にな。たった一人の妹なんだろ?まだまだ療養必要なんだろ?」

 

「まだ会ってないもう一人の妹、プルツーもいるけどね。マリーダのコトは……マリーダ自身も治るまで来ないでって言ってたから……寂しいけどマリーダが自分の苦しみをあたしに味わってもらいたくないから……でもいつか必ず完治できるって信じてる……」

 

マリーダはベントナによる非人道な人体実験の後遺症により、全身に狂ったような激痛の発作をおこす「シナプス・シンドローム」を患っていた。

 

ニュータイプ性質同士に起こる感覚の過敏感受性が陰側に働いてしまい、プル自身がマリーダの激痛を味わってしまうのだ。

 

故に一緒には暮らせない現実の隔たりが姉妹の間に存在していた。

 

パラオの居住区にあるギルボアの自宅で療養するマリーダは、窓を開けて変わらぬ景色を眺めていた。

 

「変わらない景色……療養中とはいえ同じ景色を見続けるのは退屈に尽きてしまうな……未だ身体に重さが残っている」

 

手をかざしながら自らの手を眺めるマリーダ。

 

「このままでは……戦闘を忘れてしまいそうだ。私が戦えれば……このパラオの防衛にもっと協力できるのだが……」

 

マリーダ自身、戦う事に存在意義を見出だしているが故に、修理が完了したクシャトリヤを戦闘ブランク上、乗りこなせるかという不安に駈られていた。

 

いっそMSのコックピットでの模擬戦トレーニングから踏み出そうかと躊躇する。

 

「マリーダ姉ちゃん!!アイスクリーム買ってきたー!!」

 

「!!」

 

マリーダが模擬戦に踏み切ろうとベッドから下りたその時、ギルボアの息子、娘達が兄妹揃ってマリーダの部屋に入って来る。

 

はっとなりながら年が離れた弟や妹の存在感の彼らに応じた。

 

「そうか。ありがとう」

 

「へへっ、マリーダ姉ちゃんアイスクリーム好きだから母ちゃんの買い物手伝いながら買ってきたんだ!一緒に食べよーよ!」

 

「あぁ……そうだな。頂く」

 

マリーダはギルボアの息子達とアイスクリームを共に食べながら、いつしかヒイロとパラオのアイスクリーム屋へ行く約束を交わした事を思い出していた。

 

マリーダの記憶に甦る約束。

 

何度もヒイロとの日々が去来していた。

 

「……ヒイロ……」

 

「へ?!ヒイロって誰?!」

 

ヒイロを想う余り、思わずヒイロの名を溢してしまったマリーダに直ぐに長男のティクバが食いついた。

 

「い、いや……」

 

「あー!彼氏、彼氏!?マリーダ姉ちゃんやるー!」

 

「こ、こら!ティクバ!!大人の女性をからかうな!私だって女性だ!好きな男性がいたって……って私は何をいってるんだ……ふふふっ、以前にアイスクリームを食べに行こうと約束した相手だ……今はどこで何をしているかもわからないがな」

 

「じゃ、ダメじゃん!」

 

「いや……いつか必ず私の所へ来る。『約束した任務』だからな……『任務』を必ず守ろうとする男だ。ふふふ、こういう話はティクバ達にはまだ早いな」

 

マリーダはティクバの頭を撫でながら微笑むと再びアイスクリームを口に運んだ。

 

ティクバ達が部屋を去り、外の雑踏だけが聞こえるようになると、マリーダはパラオ内の人口夜風にあたりながら一息をつく。

 

ベッドシーツを半分被りながら考えるコトは、ヒイロのコトばかりであった。

 

この込み上げる想いに、マリーダ自身も戸惑いを不思議ながら感じていた。

 

(ヒイロ……本当に今どこにいる?生きているなら……この宇宙をさ迷っているならパラオを頼っていい。人は一人では不安定な生き物だ。今の私では何もできないが、せめて……これまでに負ったと思う闘いのキズは癒せるはずだ。一緒に居るコトだけでも……ヒイロ……)

 

 

マリーダがヒイロを想う頃、ヒイロは闘いにその身を投じ続けていた。

 

とある資源衛星宙域で展開するOZプライズのリーオー部隊とリゼル・トーラス部隊。

 

ここでもまた、脱出をしようとする民間船に攻撃が加えられていた。

 

守らんとするギラドーガやズサ、ガザD達が防衛に回るが、展開するMDリゼル・トーラスのロングレンジのメガビームランチャーがこれらを抉り飛ばす。

 

精密かつ正確なビーム渦流が立て続けに撃ち込まれ、民間船もそれを被弾し、一部が炎上した。

 

更にMDは一気に距離を詰め、斬撃の攻撃を判断した。

完全なる絶対絶命の民間船のこの状況に、文字通りの光が射した。

 

横殴りのごとくはしるビーム渦流が、1機のリゼル・トーラスを消し潰す。

 

爆砕する爆炎に照らされたリゼル・トーラスのカメラアイが連続して点滅する。

 

熱源基を感知したリゼル・トーラス部隊は一斉に標的をそちらに選択して飛び立った。

 

「た、隊長!!リゼル・トーラスが!!!」

 

「今の攻撃は、まさか……!!!各機、私に続け!!」

 

戦闘指揮をしていたリーオー部隊もまたリゼル・トーラス部隊が目指した先に機体を飛ばした。

 

先行するリゼル・トーラス4機は接近する機影を捕捉し、メガビームランチャーを構える。

 

「……敵機、リゼル・トーラス4機、リーオー3機、MS輸送艦1隻か……脱出する民間船からは離れたか。破壊する」

 

ロック・オンアラートが鳴り響くコックピットで、ヒイロが呟いた。

 

ヒイロが座るそのコックピットこそが、ウィングガンダムリベイクのコックピットであった。

 

モニター画面上から向かい来るビーム渦流に対してずば抜けた反応でかわしてみせるヒイロ。

 

頭部の半分が半壊し、レフトアームを失ったままの状態ではあるが、ヒイロ達のガンダムとしての能力は失っていなかった。

 

プロトバスターライフルをかざし、ビーム渦流を撃ち放つ。

 

 

 

ヴゥゥッッ……ヴァズァアアアアアアアアッッ!!!

 

ドォグヴァアアアアアアアアッッ、ゴォバァッッドォヴァガァアアアアアアッッ!!!

 

 

 

4機のリゼル・トーラス目掛けて突き進んだビーム渦が、リゼル・トーラスの1機を完全に呑み込み、爆砕。

 

ギリギリをかわした機体もまた、巻き起こる超高エネルギーのプラズマ奔流を浴びて爆散した。

 

2機のリゼル・トーラスが連続でウィングガンダムリベイクを狙い撃つ。

 

始めは回避していたが、四発目から翼と胸部、脚部と被弾し始め、バランスを崩した。

 

ダメージアラートが鳴り響くウィングガンダムリベイクのコックピットで、ヒイロは動じることなく機体コントロールに集中する。

 

そして機体を翻しながら一気にリゼル・トーラスに接近し、プロトバスターライフルの銃口を突き出した。

 

 

 

ジャギャンッッ……ヴゥヴァダァアアアアアア!!!

 

ドォグヴァバァアアアアアアアッッ

 

 

 

至近距離から唸り放たれたビーム渦流が、リゼル・トーラスをダイレクトに破砕させた。

 

更に突き進むビーム渦流は、もう1機のリゼル・トーラスとOZMS輸送艦を直撃し、ビーム渦流域で発生するプラズマ奔流が3機のリーオーを誘爆させた。

 

ヒイロはネオジオンの民間船の辛うじての安全を見送ると、ディスプレイ操作を始めた。

 

そしてそのディスプレイモニター画面にはインダストリアル7の情報が表示されていた。

 

「インダストリアル7……もうすぐか……情報が確かならばECHOESはここで展開している。次こそECHOESを叩く。闘い続ける事が最善の抵抗だ……!!!そして、OZプライズ……やつらはOZ以上に危険な組織だ。必ず壊滅させてみせる…………!!!」

 

ヒイロは如何なる状況下になっても絶えない闘いの姿勢を貫いていた。

 

この間にも、OZプライズの戦艦と成り果てたラー・カイラム級戦艦・ヨークタウンに潜入しており、艦内の要の箇所に爆破装置を設置させていた。

 

爆破装置が航行するヨークタウンの中で静かにヒイロからのリモート指示を待つ。

 

その静かな闘志の眼差しが、インダストリアル7方面に展開しようとしていたECHOESに向けられた。

 

 

 

 

 

To Be Next Eepisode

 




OZは捕らえたデュオ達やウィングゼロを使った実験に目を付け日々新たな機体のテストや実験、開発計画を企てる。

一方、アディンとプル、ガランシェール一行は、L1コロニー・インダストリアル7に入り、ラプラスの箱を管理するビスト財団と接触に事を進めていた。

だが、OZの隠密部隊と成り下がったECHOESもまたラプラスの箱を狙い、インダストリアル7で展開していた。

ヒイロは一人そのECHOESと孤独な闘いを挑み続ける。

やがてECHOESの暴の力はビスト財団に及び、その最中、再会を果たしたヒイロとアディン達はプルの望みを貫くべく、保管されたユニコーンガンダムを目指すのだった。




次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY セカンド・オペレーション

エピソード 28 「覚醒のユニコーン」




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エピソード28「覚醒のユニコーン」


 本二次小説を読んでくださっている皆様、大変……大変長らくお待たせいたしました!!!一年以上も待たせてしまい非常に申し訳ありませんでした!!!
 本来の自分の計画ならば今頃原作でいう所のイブウォー編になっていたはずでした。物凄い遠回りをしてしまいました。

 スランプやモチベーションの低迷、といろいろございました。ですが、決してシスター・ネルさんの感想が影響しているわけではございませんのでご安心ください。

 原因は別にございます。先に感想の件ですがアンサーいたしますと、書いてみたいように書く、描くをモットーにしております(かつ素人者)ので、ご指摘の通りなことが多々にじみ出ると思いますが、そこはご了承いただければ幸いです。 

 ビルゴとトーラス……ネタバレになりかねませんが、名前の通りシルヴァ・バレトとリゼル指揮官機に役割を置き換えてます。更に昔から考えていたMD「サジタリウス」にもビルゴの役目をしてもらう感じです。

 そして滞りの理由の大半は仮面ライダーWを核に、東方シリーズとの二次創作にモチベーションの大半をもっていって、結果手一杯になりスランプするという本末転倒なことをやらかしてしまっていた為です。

 非常に愚かで申し訳ありませんでした。

 まずは「マリーダの真の幸せ」を描き切ることに自らを置き、未定ではありますがどこかで「仮面ライダーW 超常犯罪事件簿」(仮)もやっていければなと思います。


 今後も不定期にはなりますが、極力「金曜日」の更新を目指して頑張ります。

 (金曜=ガンダムで育ちましたので……)

 それでは大変お待たせいたしました!!!本編再開です!!!





宇宙要塞バルジ周辺宙域

 

 

 

2機の真新しいMSが宇宙空間を駆け抜ける。

 

旧連邦軍から接収したドーベンウルフに改造を加えたMS、シルヴァ・バレトだ。

 

2機はスムーズな機動でビームランチャーをターゲッのト機雷に向け攻撃をかける。

 

攻撃は一撃必中な狙いだ。

 

機雷が次々に爆発し、爆発光が拡がっていく。

 

2機は機体を旋回させながら急減速と補助ブースターを使い体勢を整えた。

 

それぞれが狙いを定めたターゲットへほぼ同時にビーム射撃を放ち、フィニッシュの着弾を披露した。

 

「試験終了。データ解析、回収に移る。機体を収用させろ!!口酸っぱく言ってるが、くれぐれも変な気は起こすなよ?ま、貴様らの命は我々の手中にあるのだからな。身をわきまえることだ」

 

一方的に理不尽な言葉を投げ掛けられながら機体のコックピット内でため息をつくのはデュオ、動じる事なく無反応にしているのは五飛だった。

 

二人は捕らえられた後に、ひたすらテストパイロットを強要され続けているのだ。

 

テストを終え、ハッチから出てきたデュオは、不平不満を軽々しく言ってみせる。

 

「へっ……身をわきまえな、身をわきまえなってよぉ、こっちだって耳にタコができるくらい聞かされてるっつーの。毎日毎日何だかのMSの実験に使われてやってんだからなー」

 

「利用されてるだけまだましと思え。俺達は今殺されても不思議ではない身分だ。連中はそれほど俺達に利用価値を見出だしているという事だろう」

 

「五飛、おまえはどっしりしてんだなー。デュオ君はもーうんざりだぜー。ブタ箱のメシだって不味いしな……ま、今は耐えるしかないか……そのうち何とかなるだろ?何とか……な?」

 

「ふんっ……」

 

不満と投げやりな言動にどこか含みを持たせたデュオは、MSデッキ上ですれ違う一人のOZ兵士へ視線を向け、五飛も同じくその兵士とすれ違い際に一瞬視線を向けて鼻で不敵に笑う。

 

そしてそのOZ兵士もまた口に軽い笑みを浮かべていた。

その一方において、二人を遠くから観察していたOZの整備兵が見下すように言う。

 

「まだまだ利用できるなあいつら。採取したデータは今後のMD開発に大いに利用できる。生のMD……薬物無しであのパフォーマンスは究極の生体ユニットだ」

 

「このデータはシルヴァ・バレトにOZの技術とMDシステムを組み込んだ別の新型MD・シルヴァ・ビルゴに反映される。つまりはガンダムパイロットが大量に生まれるに等しい……!!!」

 

「あいつらのデータが反映されても、オリジナルは機密書類の原本みたいなもんだからな。あいつらの補完と利用は必須だ。よし、データはまたツバロフ技師長に送信報告する」

 

「了解」

 

OZプライズの最高技師ツバロフのデータベースにそのデータが送信され、そのデータをツバロフが直接閲覧する。

 

「連日いいデータばかりが届く……ゆくゆくはこのデータとオリジナルを戦わせる。どの道これからは生体ユニットと見なしたプライズの選ばれた兵と私が造り出すMD達が戦争と宇宙世紀を変えるのだ……くくくっ!!!」

 

データベースに映し出されるシルヴァ・ビルゴのデータ。

 

ベントナは強化人間に対して狂心を抱くタイプだが、ツバロフは機械に対して狂心を抱くタイプの人間のようだ。

 

更にツバロフは、もう一つのMD案である「サジタリウス」のデータを開く。

 

技師長室にツバロフの野心を募らせた笑いが響いた後にサジタリウスを誰もいない空間で語る。

 

「サジタリウス……以前より案はあったが最終的にはヴァイエイトとメリクリウスのデチューン機として事が運んだ。その名の通りに射撃性能……特に精密射撃を特化させ、α型には高出力の疑似GNDエネルギーを持続的に撃ち飛ばすことも可能なパーシスター・ビームライフルを、β型には簡易化させたビームカノンを装備・実装。最強の量産型MDとなるぞ……!!!」

 

宇宙要塞バルジでは日々、新型MDの開発を促進させており、テストとデータ採集に追われていた。

 

配属着任したディセットは捕らえたデュオと五飛のMS操縦技術に目をつけ、処刑ではなくモルモットとしての利用価値を見いだしているのだ。

 

「ガンダムのパイロット……使えるな。あれ程のデータを叩き出すパイロットはプライズにもそういない……」

 

ディセットはバルジから警備に展開中のリーオーやリゼル・トーラスを見ながら部下に語る。

 

「ですね。やつらのガンダム要素はつくづく利用価値を感じてしまいます。ディセット特佐、ウィングゼロなるガンダムはいつまで補完を……?」

 

「あのガンダムか……こちらで抑えているガンダム開発者達の言葉を恐れ、これまで隔離していた。どうもガンダムデルタカイ同様、パイロットを暴走させ、破壊を招くらしい。それも地球圏規模の破壊だそうだ」

 

「そんな……バカな……」

 

「ガンダムデルタカイ自体が捕らえたウィングゼロというガンダムを参考に建造されている。事実、テスト時に廃棄コロニー3基を破壊した上に、周辺の味方機をも破壊して暴走に至った。」

 

ガンダムデルタカイのバスターファンネルによるコロニー破壊実験がメテオ・ブレイクス・ヘル壊滅より一ヶ月後に行われていた。

 

 

 

 

 

 

唸るビーム渦流を放つ2基のバスターファンネルが、廃棄コロニーを縦横無尽に切り裂き、分解へと導く。

 

更にビーム渦流を集中させて別の廃棄コロニーに撃ち込むと、ビーム渦流の高エネルギーがコロニーを貫通し、更に外壁を超高エネルギーで満たした後に大爆砕を巻き起こす。

 

その後、リディは暴走し、周囲のリーオーやリゼル・トーラスを次々にバスターファンネルやメガバスター、ハイメガキャノンで破壊を強行。

 

ビーム渦流たるビーム渦流をぶち撒き、破壊に破壊を重ねた。

 

遂には同行していたOZプライズ所属のクラップ級巡洋艦を3隻破砕させる事態に発展したのだ。

 

その後リディは特定の任務や指定された掃討任務時以外は幽閉され、彼女であるミヒロ特尉が精神安定を踏まえながら付き添う日々を送っていた。

 

だが、リディが叩き出したデータは目を見張るものがあった。

 

更に言えばその後の実験では被験者のほとんどがシステムに耐えかねて、絶命する結果となった為に、生還したリディを重補したのだ。

 

 

 

 

 

 

以上を踏まえればオリジナルたるウィングガンダム・ゼロは如何に危険かが予想できた。

 

「だが……近々遂にウィングゼロの実験が成されるそうだ。今は力ずくでも反抗の芽を潰さねばならんという事だ」

 

ディセットいわく、地球圏の至る所で反抗の芽を潰す動きと抗う動きが見られた。

 

カーディアスが危惧する宇宙世紀の疲弊は目まぐるしく加速の一途を突き進んでいるようであった。

 

囚われているガンダム開発者達もまたウィングガンダム・ゼロの実験を危惧する中、ドクターJとプロフェッサーGがほとんどの会話を成立させて話し合う。

 

「聞いたか?ウィングゼロの実験が成されるようだ」

 

「馬鹿な連中だ。デルタカイで結果は判っておろうに……リディとかいう奴は適応とも不適応とも言えん中途半端な状態だが、ゼロは適応力を持った一部の奴でしか扱えん。あいつらの中でもヒイロと五飛だけしかいなかったんだ」

 

「どうやらキルヴァとかいう狂った強化人間の奴を乗せる計画のようだ……間違った奴が乗れば、ウィングゼロ周辺のコロニーは沈むぞ」

 

「密かに開発中のガンダムデスサイズ・ヘルとアルトロンガンダムの開発……来るべき時に備えて急がねばな……」

 

博士達いわく、バルジの格納庫で改修中のガンダムデスサイズとシェンロンガンダムがあった。

 

OZプライズは孤立化したGマイスターや特定の兵士、強化人間を最大限に利用し、圧倒的な弾制圧と秩序をもたらそうと画策していた。

 

その一人のキルヴァは情事に身を重ねてシーツにくるまり、再調整されてしまったロニを抱いていた。

 

強化調整を終え、再び己の欲望のままに行動する。

 

「キヒヒ……今度は破壊任務の実験だとよ……ロニ。宇宙に行ってくるぜ。」

 

「うん、必ず戻って来て……キルヴァ。私にはキルヴァしか……」

 

「……あたりめーだ。お前は俺のモノだ……キヒヒ(ベントナのオッサン……いい具合にロニを調整してくれたな……益々理想的な構想になってらぁ……!!!)」

 

そしてそのベントナを顎で指示する月の女帝・マーサが腕を組みながらベントナと共に今後の方針を企てていた。

 

「ミズ・マーサ……またキルヴァを自由の身にしてはいますが今後は?」

 

「無論、プルトゥエルブの奪還と確保。そして二人を利用してラプラスの箱そのものを破壊させるのよ」

 

「しかし……プルトゥエルブの所在地が不明ですが……」

 

「大体は検討はついているわ。資源衛星パラオ……私と繋がりがある地球圏に散りばめられた『例の組織』のエージェントからの情報よ……」

 

「ミズ・マーサ?!!」

 

「先にOZプライズが向かうような話しを聞いているから今は彼らにパラオの戦力状況確認してもらいましょう……そしてプルトゥエルブとガンダムのパイロットの奪回及び連行も既に秘密裏に依頼してるわ……うふふふっ!!」

 

 

 

L1コロニー群 インダストリアル7市内 夜間

 

 

 

コロニー内の時刻が夜に切り替わり、浅い夜の時間帯を迎え、コロニー内には夜景が敷き詰められたように拡がっている。

 

円筒状に奥ばんでいく夜景はどこか幻想的にも写る。

 

その夜景の直中をアディンとプルが行く。

 

二人して歩きながらシェイクとホットドッグを飲み食べ歩いており、アディンの腕にはプルが欲しがったアクセサリーや服、雑貨の品々が下げられていた。

 

プルも楽しげに笑みを浮かべており、最早完全にデートを楽しんでるようだった。

 

一応はアディンの身からすればボディーガード兼ラプラスに関する任務中ではある。

 

アディンは自らの状況にツッコミをしたくなり、食っていたホットドッグを飲み込むとソレを吐露した。

 

「俺……任務中……だよな?いくらなんでも遊び過ぎじゃね?ヤバくね?」

 

「自分でもすっかり楽しんでるじゃん。説得力ないなー。今さら硬いコト言っても……」

 

「……はい……その通りです。すいません」

 

「じゃーもっと楽しも!あ!あのブティックショップ雰囲気良さそう!コレ食べ終わったら寄ろ!」

 

「任務了解……」

 

二人は路駐の壁に背もたれしながらホットドッグを頬張り、シェイクを飲む。

 

客観視すると、あからさまに少しの歳の差カップルのように見える。

 

別の言い方をすれば、二人は自然体に見えていた。

 

ホットドッグをひときれ飲み込むと、アディンは自ら言った言葉に懐かしさを感じる。

 

軍の力にたった七人で武力介入した頃の懐かしさ。

 

否、七人だけではない。

 

今亡き支えてくれたウィナー家やエージェント達を含め、皆で時代や現状を変えようとした頃だ。

 

「任務了解……か。何か久しぶりに言った気がするな……」

 

アディンは「任務了解」の言葉から直ぐに亡きオデルと兄弟で任務をしていた時を思い出し始めた。

 

懐かしさと哀しみ、つらさが混じる感情を味わう。

「兄さん……」

 

アディンの脳裏にオデルの最後の瞬間が甦り、ホットドッグを食べる勢いが止まる。

 

「アディン……」

 

アディンは今でも背中合わせのようにオデルを死なせる方向に導いてしまった自らの不甲斐なさを責める気持ちを持っていた。

 

その感情を感知したプルは、少しの間その感情に共感し、憂いの表情でアディンを見つめる。

 

だがすぐにクスッと笑みを口元に表し、アディンの頭を撫でた。

 

「お、おい!?や、やめろよ……恥ずかしいからよ」

 

「アディンは悪くない。そう……アディンは悪くないよ……」

 

プルのその励ましに、アディンの気持ちに恥ずかしさと嬉しさが混ざる。

 

それと同時にもう一つ思い出す事が過った。

 

口癖の域と言っても過言ではない、ヒイロがよく言う言葉でもあった。

 

「そう言えば……あいつもよく言ってたな……ヒイロのヤツが……任務了解って」

 

アディンはそう言いながらコロニーの上を見上げた。

 

星空のように夜景が拡がっている。

 

その星空夜景に吸い込まれるような感じを味わいながらプルは答えた。

 

「うん……今でも諦める事なく戦い続けてる。そんな強い意志の感じがこの向こうの宇宙から感じてくる……それに……聞いて驚いちゃうかもだけど、近いよ!!ヒイロの感じ!!」

 

「え?!!マジかよ?!!」

 

「うん……!!」

 

 

 

一方のその外では、ひっそりと確実にECHOESの部隊が展開していた。

 

メテオ・ブレイクス・ヘル壊滅作戦時に約9割の部隊をラボコロニー自爆に巻き込まれたECHOESは、現在OZ宇宙軍の隠密部隊として存在していた。

 

ECHOES部隊はインダストリアル7の外壁に沿わせるように輸送艦を隣接させ、ECHOESロト3機、ECHOESジェガン3機、ECHOESジェスタを出撃させる。

 

その中には当時にディセットと共に作戦指揮を務めていたダグザ中佐がいた。

 

「ラプラスの箱に関する重要なファクターがある。我々は連邦時代からその存在を把握していたが、未だに何なのかは判明していない。判っているのは当時の連邦政府を根底から転覆させる程のモノだ」

 

「無論、今のOZも……?」

 

「その通りだ。故に今この時に把握し、掌握する必要がある。これより鍵を握るビスト邸へ突入するルートを確保し、タイミングを見計らいビスト邸に突入する」

 

「はっ!!」

 

その時、ダグザの通信機が部下からの通信を受信した。

 

「ダグザ隊長!!報告致します!!つい先刻、本コロニーの周辺エリアで展開していたOZプライズの部隊が、壊滅したとの報告を受けました!!」

 

「何!!?」

 

部下との任務に関する疎通の最中、近隣エリアで展開中だったOZプライズの部隊が壊滅したとの報告を受けたダグザは、部隊を二分し、ラプラス捜索隊と未確認機警戒隊を急遽編成した。

 

ダグザは警戒隊の指揮を執り、副隊長のコンロイに捜索隊を任せ侵入ルートの確保に向かわせた。

 

「今回の任務はあくまでラプラスの箱に関するモノである!!本来の任務を忘れるな!!頼んだぞ、コンロイ!!」

 

「はっ!!ダグザ隊長もお気をつけて!!」

 

インダストリアル7内の裏口ルートをコンロイ隊がロトに収用されながら駆ける一方、警戒隊が突っ込んで来る未確認機を捕捉する。

 

ダグザは隊長として最前線の危険性が高い任務を選択したのだ。

 

ECHOESジェガンとECHOESジェスタが警戒しながらビームライフルとビームバズーカを構えた。

 

「未確認機捕捉!!真っ直ぐ突っ込んでくる!!」

 

「あれは……MS輸送艦!!?だが、かなりの速度だ!!!とてもこれからコロニーに入る速度ではないっ!!!各機迎撃!!!」

 

ECHOES部隊各機が輸送艦に向けて砲撃を慣行する。

 

攻撃力は輸送艦に対しては十分過ぎであり、瞬く間に輸送艦は爆発し、爆発光と化した。

 

「目標撃破!!引き続き警戒……っ!!!」

 

その時、モニター画面に映し出されたのは、爆発の中からから現れたのは翼を持つシルエットのMSだった。

 

「MS!!!?やはり……あのガンダムなのか?!!」

 

次の瞬間、その機体は一気にECHOESジェガンへ迫り、構えたライフルを胸部に銃口を突き刺した。

 

 

 

ディガギャアァアアアアッッ!!!

 

 

 

レフトアームを半壊させているが、紛れもなくそれはウィングガンダムリベイクであった。

 

「展開するECHOES部隊を確認……破壊する!!!」

 

ヒイロの静かなる殺意をのせたウィングガンダムリベイクは、プロトバスターライフルを突き刺したままECHOESジェガンを振り回す。

 

そして、銃口の向こうにコロニーが無い空間所で機体を止め、極限の零距離射撃を放った。

 

 

 

ヴァズダァアアアアアアアアアアッッ!!!

 

グワヴァァアアッッ……ヴゥゴバァアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

爆砕するECHOESジェガンを尻目に、別のECHOESジェガンへと飛び掛かる。

 

高速機動に対応し切れず、取り付かれたECHOESジェガンはプロトバスターライフルの銃身で縦横無尽の打撃を受け続けた。

 

ビームサーベルが無ければ、ガンダニュウム合金故の超高硬度を持つ銃身で格闘するまでだ。

 

ヒイロは再びECHOESジェガンの胸部にプロトバスターライフルを突き刺すと、その状態から加速して展開するECHOES部隊の拠点であるMS輸送艦に急接近する。

 

ヒイロはインダストリアル7の爆発被害距離を考え、外壁側に回ると、輸送艦にECHOESジェガンの機体をめり込ませるまでの力でぶつけた。

 

ヒイロはインダストリアル7の反対方角にプロトバスターライフルの引き金操作を慣行する。

 

「破砕する……!!!」

 

 

 

ヴゥッッ……ヴァズダァアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

「がぁあああああああ!!!」

 

「おぉおあああああっ……!!!」

 

 

 

ヴゴォガゴゴゴバァガァオアアアアアアアアッッ!!!

 

 

ECHOESジェガンのパイロットをかき消し、MS輸送艦を内部から破裂させるように爆砕させてECHOES隊員達を爆死させた。

 

「な……!!!貴様ぁああ!!!」

 

自らを任務の歯車と規定した男の「たが」が外れ、感情が解き放たれた。

 

残されたECHOES隊員達を失ったダグザは、その感情の突き動くままの行動を起こし、ECHOESジェスタをウィングガンダムリベイクへ突撃させる。

 

「何故今になって……!!!」

 

ビームライフルを連発し、必中でウィングガンダムリベイクに撃ち中て、その機体を爆発に巻き込ませていく。

 

「ちっ……!!!」

 

「……現れたぁ!!?」

 

ビームライフルを捨てながら、ビームサーベルを引き抜いて斬り掛かるダグザ機。

 

斬撃はプロトバスターライフルの銃身に受け止められ、スパークする。

 

「貴様らの行為によって……多くの隊員が散った!!!歯車故に覚悟はしていた……だが限界だ!!!」

 

幾度も斬撃をウィングガンダムリベイクに対して叩き込んだダグザ機は、一瞬の隙を突いてウィングガンダムリベイクの背後に回り込み、左翼側のウィングユニットをホールドした。

 

怒り任せのようにジェスタのジェネレータエネルギーゲージのリミットをカットする操作をし、ビームサーベルをウィングガンダムの左翼ジョイントに叩き込む。

 

基本、構造的にジョイントは弱いウィークパーツだ。

 

疑似GNDドライヴ搭載機のECHOESジェスタ故に、パワーがGNDドライヴ搭載型のガンダム並みに上昇していた。

 

「貴様らの時代は……反骨精神の輩の時代は……徹底的に潰す!!!」

 

ジョイントを溶かしながら、左翼ウィングユニットジョイントをへし折り、斬り捨ててみせるECHOESジェスタ。

 

そして、更に勢いを増しながらレフトショルダーを斬り潰す。

 

「くっ……!!!左翼ウィングバインダーユニット、レフトショルダーユニット損失……!!!」

 

ヒイロは機体損失を把握しながら反撃の一手を狙う。

 

ダグザはひたすら滅多打ちにビームサーベルを叩き込み続ける。

ウィングガンダムリベイクは斬り裂かれる事なく、装甲を少しずつ歪ませていく。

 

「貴様らの存在価値はっ……既に……終わっている!!!絶対に……認めんっ!!!反抗の芽はっ……」

 

ECHOESジェスタが最大出力の刺突体勢になった瞬間にヒイロはプロトバスターライフルの銃口をECHOESジェスタのコックピットハッチに突き刺した。

 

「おおおおおっっ……!!!」

 

 

ズガドォッッ!!!

 

 

 

「ごぉがぁっ……がぐはっ!!!」

 

 

 

ダグザは画面正面から一気に押し迫ったプロトバスターライフルの銃口に押し潰され吐血。

 

次の瞬間にプロトバスターライフルがビーム渦流を唸り放った。

 

 

 

ヴァズダァアァアアアアアッッ!!!

 

 

 

破裂するようにダグザのECHOESジェスタは激しく吹き飛ばされ爆散した。

 

ヒイロは直ぐ様コックピットハッチを開き、ECHOESジェガンのコックピットハッチに取りつく。

 

ハッチを外部から開けたヒイロは、刹那的速さでECHOESパイロットへ携帯していたハンドガンを撃ち込む。

 

そして機体を奪い、ウィングガンダムリベイクを放棄したままインダストリアル7内に突入した。

 

「必ずこの後にOZ、OZプライズ所属の戦艦が来る……あえてガンダムは回収させ、注意を向けさせる。同時に今一度俺達の存在意義を確かめる。今はECHOESを叩く……!!!」

 

ヒイロは戦い続ける意志を絶やす事は微塵もない。

 

今行動に移すべき戦いを絶え間なく模索し、実行し続けているのだ。

 

コロニー内の裏ルート内をブースター噴射で駆け抜けながら奥へ奥へと潜入していくヒイロ。

 

進行しながら通路を右折した時、モニター上にECHOESジェガンが3機、ロトが3機通路上に姿を見せた。

 

「やはり先行部隊がいたか……」

 

ヒイロは当然のごとく予想しており、相手が味方機体の識別信号で油断した隙を突き、ビームバズーカを撃ち放った。

 

1機のロトへと直撃し、破砕爆破させてみせる。

 

当然のごとくながら反逆者と躊躇なく見なし、ECHOESジェガンがビーム射撃を開始した。

相手が射撃をするタイミングと共に右側通路へ飛び込んで回避するヒイロ機のECHOESジェガン。

 

ビームライフルのビーム射撃が通路に唸る中で、ヒイロは通路角から最小限に機体を出し、シールドミサイルを撃ち放つ。

 

空間をかっ飛びながら奥面の壁にミサイルが着弾し、ECHOES部隊の近距離で爆発を巻き起こした。

 

爆風に当てられながら身構える3機のECHOESジェガン。

 

そして再び射撃体勢に移った次の瞬間、爆煙を突き破ってヒイロ機体のECHOESジェガンが1機のECHOESジェガンにビームバズーカの砲口を押しあてた。

 

刹那に唸ったビームバズーカは激しくECHOESジェガンを爆砕させ、自らのビームバズーカの砲口をも破壊。

 

瞬時にビームサーベルへ装備を切り替えたヒイロは、唐竹斬撃を面前のECHOESジェガンに食らわせ、その場から機体を離脱させた。

 

爆発が後方で唸り、その爆発の中へと機体を突っ込ませる。

 

その時、レフトアームに爆煙から飛び出したビームが被弾し、肩ごと爆発する。

 

ヒイロは構うことなく、ビームサーベルでECHOESジェガンの胸部を突き刺し、そのまま走行する1機のロトに突っ込ませた。

 

激しい激突衝撃がロトを叩き伏せ、同時にビームサーベルの突き刺しを受けたECHOESジェガンが爆発し、ロト諸とも破壊した。

 

これにより、ライトアームを失ったヒイロ機は構わずにロトを追撃する。

 

通路上を走行するロトを確認したヒイロは、最後の一手であるグレネードランチャーをロック・オンし放った。

 

グレネード弾は1機だけのロトを破砕させて終わった。

 

「1機撃ち漏らしたか……後は追撃に専念する」

 

ヒイロは捉えている3機目のロトを追撃し、更にその状況内で自機体であるECHOESの任務データを調べた。

 

「……ラプラスの箱……?」

 

 

 

デート(?)を終えたアディンとプルは、ジンネマンやフラスト、アレク、ベッソン達と合流し、ビスト財団とのアポが取れた為にビスト邸を訪れていた。

 

待つ間にアディンはジンネマンから説教めいた感じで指摘を受ける。

 

「全く……予定よりも大幅に遅れちまった。アディン、すっかり遊び呆けていたみたいだな」

 

「す、すんません……でしたっ」

 

「もー、パパ!!アディンばっか攻めないでよ!!あたしがわがまま言ってたんだから!!アディンはあたしのコトずっと考えてくれてたんだから!!」

 

「う……プル……ううむ……」

 

義理娘のプルに押され、ジンネマンのぐうの音も出ない様にフラストは頭を片手で抱えながら言う。

 

「なに娘に押されてんすか?キャプテン……親バカ丸出しですよ?プル……俺達はパラオを始めとした資源衛星やコロニー市民達の希望の可能性にこれから接触するんだ。遊びもホドホドにしとけってことだ」

 

「ぷぅ~!それに、ヒイロも近くに来てるんだよ!!マリーダの好きなヒイロが!!」

 

「何だと!!?コロニーにいるのか?!!」

 

マリーダの大切な存在であるヒイロの生存を知ったジンネマンは動揺を隠せなかった。

 

「うん!!コロニーの中!!感じるよ……!!」

 

その時、モニターに執事と思われる男が映った。

 

ジンネマンはどこかで見たような記憶を過らせた。

 

『ご用件を』

 

目的はラプラスの箱に関する交渉である。

 

ジンネマンはヒイロ生存の歓喜を抑えながら身分証と交渉に関する合言葉を告げた。

 

しばらくして玄関扉が開き、執事と思われる今亡きジオンの将・エギーユ・デラーズ似の男がジンネマン一行を迎えた。

 

ジンネマンもこの時に先ほど過らせた記憶に納得した。

 

「パラオのネオジオンの方々ですね?執事兼ボディーガードを務めさせていただいています、ガエル・チャンと申します。話はカーディアス様から伺っています。さ、どうぞ中へ……」

 

ジンネマン一行は互いに頷き合いながらビスト邸の中へと入った。

 

接待室へと歩く一行は途中、「ユニコーンと貴婦人」のタペストリーが飾ってある廊下を通過する。

 

「キレイな絵ーっ」

 

それを見かけたプルはやや棒読みのように言ってみせる。

 

「ホントだ。ユニコーンか……なんか角ガンダムを思い出した……っ!!!」

 

アディンは直ぐに兄・オデルの敵である、リディを連想させてしまい、厚い怒りに駈られ、拳と歯ぎしりを固くした。

 

元々リディが、ガンダムデルタカイに搭乗していた以前はユニコーンガンダムのパイロットだった為だ。

 

幾度か剣を交え、ヒイロとゼクスのような好敵手に成りうるはずの兵士だった。

 

だが、ガンダムデルタカイのリディはそれを見る影もなく無くした上に、オデルを殺した。

 

思わず隣にある甲冑を殴りそうになるが、それを感じていたプルはアディンの袖を引っ張り、憂いの表情で首を振った。

 

アディンは我に帰り、ふぅと溜め息をつくと再び歩き出した。

 

ガエル先導の元、接客室に招かれた一行は、ブロンドカラーでミディアムショートヘアーが似合う美人のメイドに、紅茶と洋菓子をもてなされた。

 

「イギリスより仕入れた高級茶葉を使った紅茶と高級スコーンになります。当主が来るまで今しばらくお待ちくださいませ……」

 

「これはこれはかたじけない……本当に我々などが頂いてもよろしいのですか?」

 

「ご謙遜なさらずにどうぞご遠慮なくお召し上がりください」

 

「わー……美味しそう!頂きまーす!」

 

プルは下手気味なジンネマンに対して遠慮なく高級なもてなしを頂く。

 

「こら、プル!こういう所では少しは遠慮しながら、行儀よく食べなさい!」

 

「だってパパ、遠慮せずにって……すっごく美味しそうなんだもん。そりゃ食べちゃうよー……」

 

「くすくす、本当にご遠慮せずにどうぞ。素直で可愛いお嬢様ですね」

 

「あ、いや……どうもすいません」

 

わがままなプルの態度に詫びるジンネマンではあるが、プルはとことん素直に発言する。

 

「ふふ♪そう言うお姉さんも可愛いよ☆」

 

「え!?あ、私こそそんな……!」

 

プルにストレートに可愛いと言われたメイドは困り気ではあるが、顔を赤くした。

 

「そーそー!すっげー可愛いよ、お姉さん!!名前なんて……っいってててて?!!」

 

可愛い発言に便乗したアディンの耳をプルはぎゅうと引っ張った。

 

無論妬きもちからだ。

 

「アーディーン~!!」

 

「いててててっ、なま、名前聞こうとしただけっ……!!」

 

「くすくす!お二人仲いいんですね……あ、私はアレナ・ディアヌと申します。それでは私はこれで失礼致します。改めて今しばらくお待ち下さいませ」

 

メイド・アレナはガエルと一回の頷きをし合い、二人で一行に会釈をして部屋を出た。

 

二人が部屋を去ると、アディンはアレナの名前を呟いた。

 

「アレナさん……あだっ?!!」

 

ついに嫉妬したプルの平手打ちが頬に入った。

 

「アディン!!」

 

「いってー……そこまで怒るなよ!男子なら誰だってなる感情だ!!例えるなら目の前に綺麗な芸能人やアーティストがいるようなもんだろ!」

 

「怒るよ!!女の子なら妬きもちするよ!!」

 

「妬きもちって……!!!お、俺はなぁ……!!!」

 

「いい加減にしろ、二人共!!我々は重要な交渉に来てるんだ!!遊びで来てる訳じゃない!!わきまえろ!!!」

 

「す、すいません!!」

 

「ごめんなさーい」

 

ジンネマンの一括が痴話喧嘩を止めさせた。

 

一行がもてなしを召し上がり切った頃、ビスト財団当主であるカーディアスが、ガエルやアレナと共に姿を見せた。

 

「お待たせ致しました。私がカーディアス・ビストです」

 

「私、スベロア・ジンネマンと娘のプル、他四名になります。この度は宜しくお願い致します」

 

共々に会釈した後に、プルは全てを悟るようにカーディアスに笑みを示した。

 

カーディアス自身もプルに対し、ニュータイプめいたただならぬ素質を感じずにはいられなかった。

 

早速交渉の話が始まる中、カーディアスは箱ではなく箱の「鍵」を譲渡する話を出した。

 

「箱そのものではなく……箱の『鍵』をですか?」

 

「ご不満かな?」

 

「不満以前に解りません。そもそもラプラスの箱がどんなものなのかがわからないのです。こちらとしては直接ラプラスの箱を頂きたい……」

 

「元々非常に重要な物だ。回りくどいまでに厳重にしなければならない事は理解して頂きたい。それ故の鍵なのです。何れにせよ鍵が無ければ箱は開かない。そもそも……ラプラスの箱を何故あなた方は欲するのでしょうか?こちらからもお聞かせ願いたい」

 

「抽象過ぎて恐縮ですが……ただ言えるのは、箱の存在が陰と陽で言うと非常に陽のものだと。スペースノイドや地球圏にとっても……今時代は混迷に混迷を行く時代になっている……特にスペースノイドにとって。誰かがそれを止めねばならない。変えねばならない。その希望をラプラスの箱に見いだしたのです」

 

「ほう……何故にそう判るのです?」

 

「そう感じれるからです……この子がね」

 

ジンネマンはプルの頭を撫でながら言う。

 

この時、カーディアスの先ほどプルから感じたものが確信に変わった。

 

「……ニュータイプのような事を言う……いや、失礼。箱は少なくともスペースノイドに、最も望ましくばニュータイプの素質を持った者に託すべきモノだ。それも聡明純心なニュータイプに……」

 

「おじさんからも悪い感じはしないし、この向こうから感じれるラプラスの感じ……凄く温かい感じを感じれる……本当に希望って言える感じ……それが平和のイメージに繋がってる……!!ラプラスの箱は今の時代に必要な……昔の人達の想いを感じられる何か……!!!」

 

「プル……!!」

 

「……!!!」

 

カーディアスはプルの発言からはニュータイプの素質そのものを感じずにはいられなかった。

 

理屈ではない言葉が纏う説得力だ。

 

その目に驚きの表情を見せたカーディアスは、立ち上がって手を腰で組みながら外を見た。

 

「連邦政府がOZに変わった今……箱が持つ『"連邦"を転覆させる脅威』の効力は失った。だが、政権が刷り変わったということはOZもまた転覆しかねない事を意味する。OZがラプラスの箱の存在を知る……事態は一刻を争うかもしれません……既に周辺では戦闘らしき行為があったようです」

 

「当主……!!!」

 

「箱の鍵はあなた方に託させていただきます。あなた方のような存在がラプラスの箱に関わるというのは正に千載一遇……これよりはこの場を移し、鍵の場所へご案内致します」

 

場所を移した一行はMS格納庫に案内された。

 

クリア強化ガラスのエレベーターを降下していく中、白いMSが一行の前に姿を見せた。

 

「ビスト邸の奥にこんな施設が……これは?!!」

 

驚くフラストの横でジンネマンとアディンが立て続けに驚愕した。

 

「似ている……マリーダが乗せられていた黒いガンダムに……!!!」

 

「角ガンダム!!!何でここに?!!」

 

二人の反応を見たカーディアスは、既にユニコーンガンダムを知っていた二人に敢えて質問せず、ユニコーンガンダムに関する話を継続した。

 

「……当初、連邦のパイロットからラプラスの箱に相応しい者を来るべき時を見据えて適性者を捜した。あれは獣であり、適性ならぬ者が乗れば逆に殺戮マシーンと化す。それはニュータイプを含めたスペースノイドを殺すマシーン……広い意味でスペースノイドの可能性を肯定する要を持ちながらニュータイプを根底から否定する要素を持つ矛盾。正に純粋な処女以外の者は乗りこなせないユニコーンの如く……」

 

ユニコーンガンダムの足下付近でエレベーターのドアセキュリティを操作しながら、カーディアスは託す対象を要望した。

 

「ニュータイプの可能性が根強いとお見受けするそのお嬢さんに託したい」

 

「な!!?結局この子にこのガンダムのパイロットをやれと仰る?!!」

 

「一言で言うガンダムのパイロットとは意味合いが違う。これまでのガンダムや時代に反抗の楔を打ち込んだガンダムとも違うのです。あくまでラプラスの箱の鍵であり、ニュータイプの可能性を拡げ示す機体……」

 

「確かに……確かにこの子はニュータイプの素質はある!!あるが……!!!」

 

カーディアスは咳払いを踏まえ、ここにユニコーンガンダムを補完する経緯も説明した。

 

「そして……ここに機体を補完したのはユニコーンにこれ以上スペースノイドを犠牲にさせない為に、そして箱の破壊を狙う輩から目と情報を欺く為……それ程に重要なMSだ。そしてバンシィなる黒いユニコーンガンダムは本来もう一つの箱の番人としての役目を担うガンダムだった。だが、箱の開示妨害もしくは破壊を目論む者達によって誤った運用をされてしまったのだ……」

 

ジンネマンはマリーダが箱を知り、かつその破壊を目論む輩の手に堕ちていた事を改めて理解した。

 

更に、マリーダを散々な目に遇わせた上に、シナップス・シンドロームを植え付けた輩達に対する怒りを甦らせた。

 

プルにユニコーンガンダムに託そうとすることにもやはり合点がいかない。

 

「……っ!!!」

 

だが昂るジンネマンの感情を静めるように、プルはジンネマンをなだめた。

 

「パパ……この人は悪い事言ってないし、本当にニュータイプの可能性を考えてくれている……それにね、ここまで来て解った。あたしを呼んでる感じの何かはこのガンダムなんだって……だからあたしはこのガンダムに乗る!!」

 

プルの切り出した自らガンダムに乗るという発言に、ジンネマンは驚愕を隠せなかった。

 

「プル?!!俺は……俺は、ガンダムと判った瞬間、Gマイスターたるガンダム小僧のアディンに乗せるつもりでいた……!!!」

 

「アディンでも乗ったらダメな感じがする……今の話しにもあった殺戮マシーンにきっと呑まれちゃう。アディンがどーのじゃなくてそう感じる……!!」

 

プルが感じるイメージは、赤いイメージの中で殺戮マシーンと化したユニコーンガンダムが破壊に破壊を重ねるイメージだった。

 

「そしたらあたしが一番狙われる事になるし、みんなだって危険に……このガンダムもあたしに乗ってもらいたいんだよ……これ以上間違った使われ方をされたくないから。だからあたし達、今ここでこうしてるんだよ!!」

 

ニュータイプ独自の感覚を言葉にして素直に発信するプルの発言は、ジンネマンの心を改めさせるには十分な説得力があった。

 

ジンネマンはプルの発言とその純粋な眼差しから思い改めた言葉をプルに渡した。

 

「プル……!!!解った……ユニコーンガンダムは、お前が扱え……そして心に従っていけ!!」

 

「ありがとう……パパ」

 

プルのその言葉と笑みに、ジンネマンは複雑な心境を含みながら再びユニコーンガンダムを見た。

 

その後、一行はユニコーンガンダムのラプラスプログラムについてのレクチャーを受け、コックピット内の操作説明をカーディアスから聞く。

 

「……ラプラスプログラムのコードを入力する事でラプラスプログラムが立ち上がり、座標を示す。尚、座標毎にこの機体の特殊システムNT-Dを発動させる。そしてまた座標ポイントでNT-Dを発動させ移動する。そして最終座標を示した時……箱は目前となる」

 

「ようは座標毎にシステムを発動させていくだけ……ですか?」

 

「えぇ……あなた方の言わんとする事は解ります。ですが簡単なモノほど難しい……因みに座標は解りません。全てその時、その時の何かが座標を決めるようになっている……そう説明せざるを得ない」

 

「……我々のこの行動で、スペースノイドに光明がさすのであれば……もう迷う事もない……フラスト!!」

 

「え!?は、はい!!」

 

「ギルボアに連絡!!ガランシェールをインダストリアル7の裏搬入港に移動!!場所の詳細もな!!」

 

「了解!!」

 

フラストが威勢よく返答して通信機に手をかけたその時、プルは嫌な感覚を覚え叫んだ。

 

「……!!!嫌な感覚……怖い人達が来てる!!!」

 

「え!!?」

 

その時、カーディアスの携帯データベースが鳴り、カーディアスは通信をとった。

 

「わたしだ」

 

『アレナです!!!大変です、旦那様!!!と、突然、特殊部隊が押し入って来ました!!!みんな……みんな撃たれて……!!!』

 

「何だと!!?君は無事なのか?!!」

 

『はい!!でも……いつどうなるか……!!!』

 

「もしや……OZプライズの一派かもしれん!!!だとすれば、狙いは間違いない……ユニコーンガンダムだ!!!とにかく君は逃げるんだ!!!」

 

「旦那様……ですが!!!今しかあのユニットを渡す時がないです!!!」

 

『何!!?この状況でできるのか?!!』

 

「はい!!」

 

アレナは金庫のダイヤルをまわしながら確信突いた返答をした。

 

その同時刻、ビスト邸の内部で一方的な銃撃が展開されていた。

 

ヒイロが追撃している先行部隊よりも更に先に先行していたECHOES部隊が、ビスト邸のSPや来客、メイド、その他関係者を次々に銃殺し、内部の奥へ奥へと潜入していく。

 

殺されていく人々はただそこに居合わせただけであり、日常の勤務をしていただけに過ぎなかった。

 

全く容赦も情もない非情な部隊は出逢う人という人を次々に殺傷する。

 

その最中、突如として迫る銃声と悲鳴に恐怖を覚えながらもアレナが必死に何かのユニットを持って走っていた。

 

「こ、これを旦那様に届けなくちゃ……!!!」

 

彼女が手にしていたのは、ユニコーンガンダム専用のバイオメトリクス・ユニットだった。

 

カーディアスも走りながらジンネマンにその説明をした。

 

「ユニコーンには、もう一つ必要な……ユニットがあった……選ばれしニュータイプだった場合……その者しか……使えないようにする……為の……!!!」

 

「何故、別の場所に!!?」

 

「ユニコーンを搬入している間に……あなた方に渡すつもりでいた!!!」

 

走るアディンは有事の戦闘に備え、ハンドガンの弾を装填しながらプルに問う。

 

「プル!!怖い人達ってのはOZなのか?!!」

 

「うん!!そして、危険な存在感……!!!」

 

攻めてくるECHOESのアサシン達は、素早い動きでビスト邸内の人々を射殺。

 

巧みにマシンガンを操り、ほとんどを即死させる。

 

中には倒れ呻いているメイドを踏みつけながら止めの射撃を加えるECHOES隊員もいた。

 

その諸行はまともな人間が成せる業ではない。

 

だがプルはそんな非人道たるECHOESを感じとる一方で、もう一つの感覚も感じていた。

 

「でもね……ヒイロもこっちに来てる!!!感じる!!!」

 

「え!!?ヒイロの奴は……ラプラスを知って!!?」

 

「それはわかんないけどね!!」

 

 

 

ヒイロは追撃していたロトの影に隠れながら、ECHOES隊員の銃撃をかわしつつハンドガンで反撃し、タイミングをつかまえて携帯型の爆弾を投げた。

 

爆弾は炸裂し、ECHOES隊員を巻き込む。

 

ヒイロはその隙を突き、一気に走りだして炸裂をかわしたECHOES隊員にスライディングして突っ込むと、見事にECHOES隊員の足許を崩させて、同時にマシンガンを奪いながらそのECHOES隊員の顔面に射撃して斃す。

 

ヒイロは素早く体勢を起こし、連続で銃撃してECHOES隊員達を銃殺した後に再び走りながらECHOES隊員の銃撃をかわした。

 

そして懐に飛び込み、至近距離でECHOES隊員を仕留め、接近したもう一人のECHOES隊員を蹴り飛ばした後に別のECHOES隊員の背後に回り込み、零距離で射撃。

 

この隊員を盾にして蹴り飛ばしたECHOES隊員の射撃を受け、その影から反撃して撃ち斃した。

 

ヒイロは盾にしたECHOES隊員を投げ捨て、即座に中へと突入した。

緊迫が増す中、ジンネマン達もまた銃撃戦闘に見舞われていた。

 

飛び交う銃弾の中の攻防。

 

隠れかわしては隠れかわすを繰り返し、ジンネマン達はプルの身を第一に、ガエルはそれに加えカーディアスを守り射撃し続ける。

 

アディンもしがみつくプルを守りながら反撃していた。

 

「アディン!!カーディアス当主に案内してもらいながら別ルートから行け!!!ガエル氏、我々の方の案内を頼みます!!!」

ジンネマンはこの状況下での最善を考えての指示を下す。

 

「ガエル、私はかまわん!!案内して差し上げろ!!この状況下、二手に別れた方がいい!!」

 

「ご党首……!!!解りました!!!」

 

「君達は私に!!別ルートからアレナ君との合流ポイントへ!!」

 

カーディアスもジンネマンの判断に賛同し、武装をしながらアディンとプルを先導した。

 

「パパ……!!!」

 

「プル、また後でな!!大丈夫だ!!!パパを信じなさい!!!アディン、頼むぞ!!!」

 

ジンネマンとの別れ際にプルとアディンは頷き、カーディアス先導の下に駆け出す。

 

三人の後方では銃撃戦闘が継続する銃声が響き続けていた。

 

その後も行き当たりに銃撃戦が三人を見舞い、アディンとカーディアスとで銃撃戦闘に対応せざるを得ない状況が続く。

 

隠れかわしては撃ち、隠れかわしては撃つ。

 

その度に経路変更をせざるを得ない状況下はアレナとの合流を難しくさせていく。

 

そんな状況下が続くに続く中だった。

 

「旦那様!!」

 

もどかしい緊迫感の中にカーディアスを呼ぶ女性の声が響いた。

 

「アレナ!!」

 

カーディアスはこちらにバイオメトリクス・ユニットを抱えて走ってくるアレナに振り向き、彼女の名を叫んだ。

 

「さっきのお姉ちゃんっ……!!来ちゃだめぇっ!!!」

 

だがその時、瞬間的に嫌な感覚を感じとったプルが叫んだ。

 

「え!!?」

 

 

 

ダダダダダララララァアアァアアッ!!!

 

 

 

「くぁうっ……!!!」

 

マシンガンの銃撃を浴びて倒れるアレナにカーディアスは雇い主としての責任感と自身の父性に駈られ、無言絶句しながら彼女に駆け寄った。

 

次の瞬間にはカーディアスにも銃撃が及んだ。

 

「がはっ……!!!」

 

倒れ込んだカーディアスとエレナにECHOES隊員が駆け寄り、止めの射撃を与えた。

 

「そんな……!!!このやろぉっっ!!!」

 

アディンは理不尽かつ残虐なECHOES隊員に怒りの発砲をする。

 

ECHOES隊員達は隠れながら銃弾をかわして陰に身を潜めた。

 

その時、アディンの銃がリロードをむかえてしまう。

 

止まる射撃はECHOES隊員のターンを意味した。

 

アディンとプルにECHOES隊員の銃撃が放たれようとした刹那、逆にECHOES隊員達がマシンガンと思われる銃撃に撃たれ斃れる。

 

その銃撃が来た方の陰から一人の少年が現れ、こちらにも反射的に銃を向けた。

 

だが、それは確実に見覚えがある戦士の少年であった。

 

「ヒイロ……!!!」

 

「アディン……!!?」

 

再会を果たしたヒイロはもうECHOES隊員がいない事を伝えた。

 

「ECHOES隊員はもういない!!?何で言い切れるんだ!!?」

 

「奴らの今回の極秘任務ファイルだ。奪った奴らのMSにあった。任務の詳細や投入隊員数、全てが記載されている。隊員の人数分は確実に排除した。ジンネマン達も今頃ビスト邸を脱出した頃だ」

 

アディンは投げられたファイルを手にして、中身を見ながらヒイロの相変わらずの凄まじさを改めて思い知った。

 

同時に新たに迫る危機を知る。

 

「本作戦が失敗した場合……鹵獲の為、ラー・カイラム級戦艦・ヨークタウンMS隊による制圧作戦をOZプライズ指揮の下、二次作戦として実行する……マジかよ……!!!」

 

「急いだ方がいい……脱出して次の手に繋げる!!」

 

「あぁ!!!けど、その前に……!!!」

 

プルは即死を免れながらも重症を負ったアレナに駆け寄っていた。

 

プルに掠れた声で涙を流しながらアレナは伝えるべき事を伝える。

 

「プルちゃん……だっけ?……これっ、旦那様に届けなくちゃと思っていた……ユニコーンガンダムの……!!」

 

「お姉ちゃん、無理して喋らないで!!無理したら……お姉ちゃんが……!!!」

 

「喋らせて……っ……私は旦那様から……ユニコーンガンダムに本当に適した……ラプラスの箱を託すに……相応しっ……うるニュータイプが来たら託すようにと言われてきました……」

 

ヒイロは銃弾の浴び方から彼女はあと僅かしかもたないと判断し、敢えて見届ける姿勢をとっていた。

 

下手に動かせば死を早めかねないからだ。

 

斃れたカーディアスが即死していた事を判断したアディンは、アレナの手当てに動こうとしたがヒイロに肩を掴まれ、制止させられた。

 

首を振るヒイロのサインに、歯を食い縛るアディンに悔しさが滲む。

 

アレナは瀕死の最中に、最も伝えるべきであるバイオメトリクス・ユニットの事を伝えた。

 

「ユニコーンガンダムのコックピットの……右側コントロールレバーの横に取り付けて……機体を起動させたら手をかざして……指紋認証させて……そうすれば、あなた以外は二度とユニコーンガンダムを起動できなくなる……っう……!!!」

 

「お姉ちゃん!!!」

もうアレナの命はあと僅かだ。

 

プルもニュータイプの感覚で解ってしまう。

 

それがよりプルに涙を誘う。

 

「私はっ……天涯孤独の身で……旦那様は……実の娘のようにっ……想って下さってました……だから私にこのような……機密を任せてっ……下さいました」

 

アレナはプルの頬に血の滲む手をかざし、ある言葉を託した。

 

「百年前に紡がれた希望を活かすために……内なる可能性をもって……人の人たる力と優しさを……世界に示すっ……人間だけが神を持つっ……今を越える力が可能性という……内なる神を……旦那様がよく言っていた箱に纏わる言葉です……プルちゃん、宇宙世紀に希望の可能性を示して!!ラプラスの箱を……!!!」

 

アレナは最後にカーディアスに代わりプルにラプラスの箱を託して息絶えた。

 

決意を決めたプルは涙を拭い、バイオメトリクス・ユニットを手にしてヒイロとアディンに叫んだ。

 

「あたし……ユニコーンガンダムの所へ行く!!!アディン達も来て!!!」

 

「あぁ……!!勿論行くぜっ……!!!」

 

「アディン。俺達は奴等のロトで脱出する。1機だけ破壊せずに抑えておいた。プルを送り届けた後は裏経路に行くぞ」

 

「了解っ……!!!」

 

 

 

そして、一行はユニコーンガンダムへと戻り、起動の手筈を実行する。

 

ユニコーンガンダムのシートに座ったプルは、バイオメトリクス・ユニットをアレナに言われた通りにコントロールレバーの右側へ装着した。

 

ヒイロとアディンも操作のサポートにコックピットのシステム操作を手伝う。

 

「機体を起動させる」

 

「うん!」

 

ヒイロの設定操作により、機体が起動音を唸らせて全天モニターを表示させた。

 

ヒイロは機体が起動した後に、全天モニターの一部に表示させた起動マニュアルを見ながら認証システムを操作する。

 

相変わらずヒイロのメカニックセンスには目を見張るものがあり、アディンは最早付け入る隙を見失う。

 

用無しにも思えたアディンはコックピットから半分悔し紛れに出ようとした。

 

だが出ようとしたアディンのその手をプルが掴まえた。

 

「アディンも居て。みんなで本当の起動をさせようよ!ユニコーンガンダムの!!」

 

「プル……へへっ、わかった」

 

照れ臭そうな仕草をしたアディンの隣で、ヒイロはバイオメトリクス認証モードを立ち上げる事に成功した。

 

「後はプルが手をかざせ。そうすればキュベレイとそう変わらない」

 

「ありがとう、ヒイロ。それじゃあ、アディン!起動させるよ!!あたしのユニコーンガンダム!!!」

 

「あぁ!!!」

 

プルは自分の右手を見て、ユニコーンガンダムを託したアレナ、カーディアスの想いを感じながら手をかざした。

 

その次の瞬間に機体はプルを受け入れ、直ぐに機体に変化が生じ、コックピットシートが変形を開始する。

 

ディスプレイが立ち上がり、そこには「NT-D」が表示されていた。

 

その文字の色は通常赤であるが、何故か緑となっていた。

 

ヒイロとアディンは頷き合いながら機体の外へと脱出し、ブースを駆け下りながら機体各部を変形させてガンダムとなっていくユニコーンガンダムを見た。

 

リディが搭乗した時とは異なるエメラルドグリーンの光を発光しかけていた。

 

コックピットの中ではプルを中心にエメラルドグリーンの光が生まれ、風のようにそれは巻き起こる。

 

プルを真のニュータイプとシステムが判断したが故に、機体そのものがプルと呼応していた。

 

髪をなびかせるプルは、瞳を閉じて力を感じながら呟く。

 

「もう一人のあたし……あたしの妹達……あたしはこのコと……ユニコーンガンダムと……行くよ!!!」

 

完全に変形したユニコーンガンダムは、プルの想いをのせ、鮮やかにエメラルドグリーンの光を拡げて動き出した。

 

純粋な少女を乗せたユニコーンのごとく。

 

 

 

To Be Next Episode

 

 

 

 

 次回予告

 

 プルは目覚めさせたユニコーンガンダムを駆り、包囲するOZの部隊へと守るための戦いに自らを投じる。

 

 ヒイロ達のOZの戦艦破壊工作と並行する中、プルの力を得たユニコーンガンダムはエメラルドグリーンの光を輝かせながらこれまでになかった力を発揮し、OZの部隊を次々に圧倒していく。

 

 しかしその力の負荷たる代償は、ジンネマン達に不安と懸念を許させなかった。

 

 一方、OZ、OZプライズの力による反抗勢力弾圧は止まることなく突き進む。

 

 そしてそれは今のカトル達に協力するオーブの本国に及び、理不尽を叩きつける。

 

 母国と仲間に襲い掛かかる現実に涙するジュリの姿に、カトルは一刻も早い反抗行動を決意するのだった。

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW Liberty 

 

 エピソード29「ユニコーンと少女」

 

 

 

 

 



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エピソード29 「ユニコーンと少女」


 長らくお待たせいたしました。エピソード29、スタートです。


L1コロニー群・インダストリアル7近辺

 

 

 

ラー・カイラム級戦艦・ヨークタウンがインダストリアル7へと迫る。

 

艦載MSにはプライズ仕様のリーオーやリゼル・トーラス、擬似GNDドライヴ仕様のジェガンが艦載され、それらが次々に展開して出撃していく。

 

隊長機と思われる機から僚機に通信がはしる。

 

「ECHOES隊との連絡が途絶え、ダグザ隊長との連絡も途絶えた」

 

「連邦から寝返りしたECHOES……ここに壊滅ですか?ですがそんな事が起こるとすれば……!!」

 

「メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム……!?!」

 

「あぁ……可能性は高い!!まだ消息不明機が4機もいるんだからな!!情報では、コロニー内から正体不明の特異点が計測されているようだ。状況がわからない以上、MDを向かわせる!!」

 

「我々は高みの見物ですね」

 

「ま、そう言うことだ。第二小隊は先行させるMD部隊の監視任務に就け!!」

 

「了解!!」

 

プライズ・リーオーからのコントロール指示を受けたリゼル・トーラスが先行し、インダストリアル7へ飛び込むように加速していく。

 

そのMD監視任務を任されたプライズリーオー小隊もヨークタウンから発艦する。

 

その向こうにはニュータイプの奇跡たる力が発生していた。

 

プルとユニコーンガンダム。

 

この二つの結び付きがニュータイプの更なる力の覚醒を促す。

 

ユニコーンガンダムはエメラルドグリーンの光を発しながらそれを纏い、格納庫の周囲を照らし続けた。

 

神秘的たるニュータイプの光ともいえる力はプルを中心に発生しており、プルも自身から発生する力を全身で感じとっている。

 

閉じていた瞳をゆっくりと開き、ユニコーンガンダムに語りかけた。

 

「あたしを呼んでいた何かは、このコだった……この光はあたしを、みんなを導いてくれる光。さぁ……行こ、ユニコーン!!!」

 

ギンと両眼を光らせたユニコーンガンダムは、ユニットフレームを引き剥がし、力強い加速をかけて飛び立つ。

 

格納庫区画のハッチを腕部のビームサーベルで斬り開け、ユニコーンガンダムは更なる加速を持ってコロニーの区画ゲート内を翔んだ。

 

ニュータイプの光を纏ったユニコーンガンダムは、そのエメラルドグリーンの光をほうき星のようになびかせながら駆ける。

 

それとほぼ同時に先行したリゼル・トーラス部隊もまたユニコーンガンダムに急接近した。

 

「来たっ!!!ユニコーン、いくよ!!!」

 

瞬く間にコロニー外へ飛び出したユニコーンガンダムは、接近してきたリゼル・トーラスのへ滑り込むように

して鮮やかにビームサーベルを斬り込んだ。

 

 

 

フュズバァァアアアアアアンッッ!!!

 

ゴバァオオオオオオオオオオオオッッ!!!

 

 

 

超高速の斬撃で取りついたリゼル・トーラスを破壊すると、空間を舞い踊るかのような躍動を描きながらその空間にいた全てのリゼル・トーラスに斬り込んだ。

 

 

 

ザァバァンッッ、ズォバッッ、ドォガァズゥンッ、シュバァッッ、ジュズドォッッ、ザォオオオンッ、ザガァシュッ、ドォガァズッッ!!!

 

 

 

薙ぎ斬り、袈裟斬り、突き、右斬り上げ、突き、薙ぎ、袈裟斬り、突きと続く斬撃が、ほんの数秒で駆け抜け、一瞬にしてリゼル・トーラスを残骸に変貌させた。

 

「心も何もない危険な機械……!!!」

 

リゼル・トーラスを流れるような軌道の中で見つめるプルは、無心非情なマリオネットの排除にユニコーンガンダムを飛び込ませ続ける。

 

メガビームランチャーが撃ち込まれ、小規模のビーム渦流群がユニコーンガンダムに向かうが、かわしにかわされていく。

 

その最中、一瞬動きを止めたユニコーンガンダムにメガビームランチャーのビーム渦流群が撃ち注ぐ。

 

だが、全てがユニコーンガンダムを纏う見えない球体のバリアーに遮断され消滅した。

 

その正体は対ビーム装置のIフィールドだが、その能力はニュータイプの力によるものなのか、超高性能型レベルに跳ね上がっていた。

 

次の瞬間にはユニコーンガンダムの回し込むような薙ぎ斬撃が1機のリゼル・トーラスに入り、その爆発を突き抜けて更なる連続斬撃がリゼル・トーラスをバラバラにさせる。

 

その最中、先行リゼル・トーラス部隊よりも遅れてきた監視任務のリーオー小隊が空間を漂うウィングガンダムを捕捉した。

 

「……小隊長!!!空間を漂うガンダムを視認しました!!!」

 

「何?!!」

 

ウィングガンダムリベイクを捕捉した機はウィングガンダムリベイクに接近し、コックピットのサブモニターに拡大映像を映し出す。

 

OZプライズのパイロットは自機のマニピュレーターを駆使させながらウィングガンダムを確保した。

 

「目標を確保!!この機体は……消息不明だった奴ら(メテオ・ブレイクス・ヘル)のガンダムです!!!左ウィングバインダーや左腕が破壊されてはいますが、機体そのものは原形を止めております!!ハッチは開いており、乗り捨てられていた模様です!!」

 

「やはり、ECHOES隊はこのガンダムと……ならば、あのガンダムと思われる機体を動かしているのは……!!!」

 

「そう読むのが自然だ……現時点の戦闘はリゼル・トーラスに任せ、我々は一時帰投する!!!ガンダムを鹵獲を最優先にする!!」

 

「はっ!!!」

 

ユニコーンガンダムにGマイスターが乗っていると読んだOZプライズの兵士の読みは見事に外れの判断に至る。

 

当の本人は、重力装置が持続している瓦礫が散乱する裏通路をロトで走行していた。

 

だがそのコントロールを握るヒイロは奇抜な行動に出ようとしていた。

 

同乗したアディンもヒイロのその行動に理解ができなかった。

 

「ヒイロ!!正気か!!?わざわざラー・カイラム級に行くなんてよ!!!」

 

「あぁ。ウィングガンダムリベイクを餌にしておいてある。奴らは十中八九回収する。その間にヨークタウンに接近し、俺が事前に潜入して仕掛けたリモート爆弾のマイクロリモコンの周波有効内で操作すれば、ある程度の痛手を負わせる事ができる」

 

とんでもないことを淡々と言って見せるヒイロにため息まじりに落胆するアディン。

 

「……でもよ、もし下手して捕まったらどう扱われるか保障も無いんだぜ?!!宇宙さ迷ってる内にイカれたのかよ?!」

 

「ふん……軍に喧嘩を売った時、いや、それ以前の過程でイカれている。今更なことだ」

 

ヒイロはアディンも巻き込む気でいたが、それはユニコーンガンダムが覚醒に至った今を見越しての余裕だった。

 

「俺達が仮に捕まれば、バルジに連行されるだろう。現にデュオと五飛が捕まり、連日MSテストのモルモットになっている」

 

ヒイロの言葉からデュオと五飛の生存を知ったアディンの心境に、驚きと安心感が混ざった。

 

「マジか?!!無事だったんだな、あの二人!!!てか会ったのか?!!」

 

「いや……ヨークタウンに潜入した際、ハッキングでOZプライズの機密を調べて知った。どうやら俺達は利用価値の宝庫らしい」

 

「潜入にハッキング……」

 

プルのボディーガードを務めてきたアディンと、一人でサバイバル的に闘い続けているヒイロとではくぐる過酷さの限度が違った。

 

故に行動もそれに比例する。

 

ガタガタ揺れながら通路を突き進むロトの中で、アディンは一つの提案を出した。

 

「……相変わらず、ヒイロのやること成す事はすげーな……はんぱねー。そんなヒイロに一つ朗報がある。今、マリーダは穏健派ネオジオンの資源衛星パラオにいるぜ。同じパラオにいるプルとはニュータイプ的な事情で離れて暮らしてるけどな。この際ヒイロもパラオに来てみたらどうだ?」

 

「……!!!」

 

アディンのその言葉にヒイロは珍しく動揺し、ロトを更に加速させ、大型の瓦礫とECHOESジェガンの残骸に突っ込んだ。

 

ECHOESジェガンの残骸に乗り上げたロトはスキージャンプ台から滑空するような軌道を描きながら着地するも、キャタピラを破損させた。

 

「うおあああっ!!?どこ突っ込んでんだよ、ヒイロ!!」

 

「お前が俺を動揺させるような事を言うからだ……キャタピラがイカれた。MS形態でいく」

 

ヒイロはロトを変形させると、ブースター推進させながらマリーダについて問い質した。

 

「マリーダはあれからどうなんだ?」

 

「あの日から……ダブリンを離脱した時から患っていた人体実験の後遺症はまだ残っていて、今でも療養中……。マガニーっていう爺さんやハサンっていうおっさんの元軍医二人が日々治療に専念してくれてるんだけどな」

 

「……容態は?」

 

「正直、まだ良くならない。勿論、当初よりはいい状態になってきてはいるらしいけど……完治にはまだまだ時間がかかりそうだってよ……」

 

「そうか」

 

その後の会話に間が空く中、アディンはふとした閃きを覚え、ヒイロに意見提案な発想を振った。

 

「あ!!もしかしたら……ヒイロが来たら精神療法で治ったりしてな!!マリーダもきっと嬉しく思えるんじゃねーか?!」

 

「精神療法……!!!」

 

「ヒイロだってそうなんだろ?」

 

ヒイロはゼクスとの決戦の時にマリーダを想いながらプロトバスターライフルを放った瞬間を思い返した。

 

確かにマリーダの存在はヒイロの中で根強い影響を与えていた。

 

感情のままに行動する事が人の正しい生き方。

 

かつてもう一人のアディンに教えられた行動理念がヒイロを突き動かした。

 

ヒイロはロトを手早く巧みにコントロールしてみせ、インダストリアル7の外へ向かわせる。

 

その動きは軽快かつクイックで、あたかもヒイロの感情が乗ったかのような加速で裏経路を駆け抜けていく。

 

無論、同乗しているアディンは振り回され続けた。

 

「ぐおあっ!!!おいおい……!!!いくらなんでも入れ込み過ぎだっ!!!」

 

「……ガンダムの回収を確認した後でこの機体をヨークタウンの側面に航行させる。通信障害を装えば何とかいけるはずた……!!!」

 

「大々的過ぎだろ!!?」

 

「黙っていろ……ガランシェールもいるんだろ?どの道ここで叩かなければ追撃されるが関の山だ。やれる手があるときに手を打つ……!!!」

 

 

 

「無感情な危ない人形は、壊さなきゃいけないのよ!!!」

 

プルの意思を乗せたユニコーンガンダムの鮮やかな×状軌道の斬撃が、リゼル・トーラスを破断・爆砕させる。

 

その爆発したリゼル・トーラスの向こうには、空間に佇むユニコーンガンダムの姿があった。

 

リゼル・トーラス部隊を壊滅させたユニコーンガンダムは機体を閃かせながら宇宙を舞い、尚も光を放ちながらいた。

 

「ユニコーン……今できることは……みんなを守る事だよ。大切なみんなを……っ……!!!もっと来る!!!今度は、人だ!!!生身の……!!!行くよ!!!」

 

プルは次に来る攻撃部隊がMS部隊と感じつつ、ユニコーンガンダムを向かわせる。

 

この時、ガランシェールはインダストリアル7からの脱出と出港に成功しており、ユニコーンガンダムの戦闘宙域から後方およそ2マイルを航行していた。

 

ジンネマンやフラスト、アレク達も配置に戻り、第一種戦闘配置の状況を展開させていた。

 

「本艦はユニコーンガンダムの戦闘状況を観測しつつ航行。くれぐれも戦闘域から一定の距離を保て!!MDが襲って来ようものなら愛娘とガンダム小僧の帰る場所が無くなっちまうからな!!!」

 

「アイサー!!!」

 

「俺も女房と子供が待っているからなー!!むざむざ死ねませんよっ!!」

 

気合い十分なギルボアのコントロールの下、極力危険が及ばない距離を加速するガランシェール。

 

そのガランシェールにプルからの通信が入った。

 

「ガランシェールのみんな、聞いて!!もっとあたしとユニコーンにガランシェールを近づけて!!」

 

「何!!?」

 

プルからの要求は、わざわざガランシェールを危険に晒すような要求だった。

 

無論、ジンネマンは反論を叫ぶ他なかった。

 

「プル!!!何を言っているんだ!!?ラー・カイラム級にこの船を近づけたらどうなるかわかって言ってるのか!!?」

 

「そうだよ!!!やらなきゃなんない!!!もっとMSが来るんだよ!!!」

 

短時間でリゼル・トーラスが壊滅したこの状況は、監視体制を執っていたOZプライズのヨークタウンMS隊に衝撃を与えた。

 

「い、一瞬にして……派遣したリゼル・トーラスが全滅!!!正体不明の目標、こちらに接近します!!!」

 

「リゼル・トーラスは奴らのガンダムに対しそこそこの戦果のデータがある……それが、しかも全滅だと!!?PXとかいうシステムなのか……!!?」

 

「戦闘エリアにて、正体不明の光も発生しています!!!観測される光は……アクシズショックのものと酷似している模様!!!」

 

ニュータイプの脅威。

 

通信を艦長に入れるMS部隊長がこの状況に対し、意見具申をする。

 

「艦長!!我がプライズ・リーオーは擬似GNDドライヴの改良型が搭載されています!!同仕様のジェガン共々出撃させることを具申します!!!何れにせよ攻め込まれます!!!」

 

それから文字通りに間も無くヨークタウンのMS隊とMD部隊の半数が出撃した。

 

残り半数は艦の防衛に回り、迎撃体制に移行して進んだ。

 

そして行き違うように先程のウィングガンダムリベイクを鹵獲したリーオー小隊がヨークタウンに通信を入れた。

 

「こちらヨークタウン第二MS小隊!!戦闘宙域近辺でメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを1機確保!!既に機体にパイロットは既に居ない!!現在帰投中!!!戦闘はMDに任せている状態です!!」

 

その報告に艦内はどよめきを見せ、クルー達は驚愕を隠せなかった。

 

クルーの一人のオペレーターが映像を拡大すると、プライズ・リーオーが確かにウィングガンダムリベイクを抱えて帰投してくるのが確認できた。

 

「確かに……奴らのガンダムです!!!連邦製ではありません!!殲滅作戦時に消息不明となっている4機の内の1機です!!」

 

「危険な任務の中ご苦労。鹵獲したガンダムは直ちに本艦へ収用せよ!!」

 

「はっ!!」

 

ヨークタウン艦長の指示の下、ウィングガンダムリベイクがヨークタウン艦内に収容された。

 

MSハンガーにウィングガンダムリベイクが連結され、艦内にて完全に鹵獲した状況が整う。

 

ロトのコックピット内にて、ヒイロは携帯データベースでウィングガンダムリベイクの状況をモニターしており、ヨークタウンへの更なる接近を図る。

 

そしてその接近を図った直後に案の定、ヨークタウンからの通信が入った。

 

「こちらヨークタウン!!ECHOES隊!!これより貴官らの救出にかかる!!応答されたし!!繰り返し呼びかける!!応答されたし!!」

 

ロトの狭いコックピット内に響くヨークタウンの通信士の声。

 

「……」

 

「通信っっ……くぉ!?」

 

ヒイロはアディンが喋ろうとした矢先にアディンの口を掴み塞ぐ。

 

無論、ヨークタウン側に現在タイミングで声紋照合等をされない為であるが、思いの外に握力が入り、アディンにダメージを与えた。

 

ヒイロは口パクで「黙っていろ」とだけ伝えると、再び通信に注意を効かせる。

 

「ECHOES隊、応答願う!!ECHOES隊!!」

 

平行するロトの位置が、携帯データベースに表示されるウィングガンダムリベイクとの自爆信号有効内にランデブーした。

 

いよいよヒイロが狙っていた瞬間が来た。

 

「……応答者はいないっ……!!」

 

「な?!」

 

敢えて声紋を認識エラーさせてリモートコントロールスイッチを押したヒイロは、ロトを巧みに方向転換させ、プルのユニコーンガンダムが舞う宙域へ機体をフルブーストで加速させる。

 

その次の瞬間、ベストなリモート周波数エリアに機体が入り、遂にヒイロはヨークタウン艦内に仕掛けた全てのリモートコントロール爆弾を爆発させた。

 

「なっ……?!!がぁああああっ━━━!!」

 

ヨークタウンは内部からのリモートコントロール爆弾による爆発から継ぐ誘爆で、機関部が致命的な破壊を受けて大爆発を巻き起す。

 

一気にヨークタウンの船体を折る程の破砕爆発から轟沈へと導く。

 

機関部付近に仕掛けたリモート爆弾の爆発からなる誘爆が最大の原因だった。

 

更に周囲に展開していたプライズ・リーオーやジェガンをもその噴き弾ける爆発に巻き込まれ、次々と爆発光と化させていく。

 

轟爆発を連鎖しながら起こし、沈むヨークタウンは、たった一人の破壊工作により大打撃を受けたのだ。

 

一方、ユニコーンガンダムに接近する機体のパイロット達は、進撃途中の最中にその緊急事態を目視する。

 

離れ行く母艦が爆発を起こしながら二分している光景がモニターにあった。

 

「た、隊長!!ヨークタウンがっ!!」

 

「何だと?!!轟沈……している!!?くぅ……っっ!!!我々はガンダム攻撃を優先とする!!!否、それしかない!!!各機、ガンダムに攻撃をかける!!!」

 

プライズ・リーオーや同じワインレッドのカラーリングに識別されたプライズ・ジェガンが、プルが乗るユニコーンガンダムに接近し、ドーバーバスターや同用途に加えた精密射撃兵器・スナイパーバスターを構えて攻撃体勢に突入する。

 

「ターゲットを明確に捕捉!!これは、一戦から引き、行方不明になっていたユニコーンガンダムです!!!」

 

「何?!!」

 

ユニコーンガンダムがクロスの斬撃を食らわせ、プライズ・リーオーを破断に斬り散らしながら舞い、そして停止する。

 

「やるしかない……キュベレイ……力貸してね」

 

プルは接近する敵部隊を見据えながら瞳を閉じ、自身集中させながらニュータイプの力を発動させる。

 

すると、波紋状のエネルギー波が腕を広げたユニコーンガンダムから発生し、周囲にその神秘的な光の輪が拡がった。

 

そしてそれは、ガランシェールにも到達した。

 

ジンネマン達がいるブリッジからも観測され、誰もがその光景を目の当たりにする。

 

だが、驚愕する様子は見せず、じっと戦ってくれているプルを見据えていた。

 

「プル……」

 

ジンネマンは無意識に愛娘の戦う姿に、父親としての性(さが)からか彼女の名を吐露する。

 

その時、MSドックから内線通信がジンネマンの所に入る。

 

「俺だ」

 

『キャプテン!!!キュベレイが、キュベレイが勝手に動き始めた!!!』

 

「何だと?!!」

 

トムラからの内線通信からは、俄には信じがたい情報が入ってきた。

 

実際にガランシェールの格納庫では、無人のキュベレイMk-Ⅱが固定ハンガーを外そうとするかのようにもがいていた。

 

「無理やり固定ハンガーがもがれようとしている!!このままじゃ、ヤバイ!!」

 

キュベレイMk-Ⅱは今にもハンガーをもぎ取らんばかりの力を出していた。

 

そこに、プルからの通信が入る。

 

「ガランシェール!!今、きっとキュベレイが出たがってるでしょ!!?出してあげて!!あたしが呼んでるの!!」

 

「呼んでる?!!これも……プルとあのガンダムとが合わさった力なのか!!?トムラ!!プルがキュベレイを呼んでいた!!ハンガーとハッチ、開放してやれ!!」

 

「そういうことですかっ!!了解!!ハンガー、ハッチ解放だ!!」

 

ガランシェールの1番ハッチが固定ハンガーと共に解放され、キュベレイMk-Ⅱは解き放たれた鳥のごとく飛び立つ。

 

既にキュベレイMk-Ⅱにも微かではあるが、エメラルドの光が纏われていた。

 

プルのゆかりのMSであるキュベレイMk-Ⅱが、新たな力を覚醒させたプルの許へと飛んでいく。

 

ジンネマンらガランシェールクルーの一同はその光景を見守った。

 

「キュベレイがプルの許へ……ユニコーンガンダムはニュータイプの力を、可能性を体現するガンダムなのか……?!!」

 

ジンネマンは改めてプルとユニコーンガンダムが放つ力を垣間見、神秘的な感覚を覚える。

 

その間にも、展開を開始したプライズ・リーオーやプライズ・ジェガンがビームライフルやドーバーバスター、スナイパーバスターの射撃でユニコーンガンダムへと攻撃を仕掛ける。

 

だが、手をかざしたユニコーンガンダムの前に、背部を離れたlフィールドシールドが展開し、あらゆるビーム渦流をシャットアウトして見せる。

 

「パパ達はやらせないんだから!!」

 

ニュータイプの力とユニコーンガンダムの秘めた力が重なり、本来のlフィールドの能力を上回る現象が発生していた。

 

空気のようなエメラルドの波状エネルギーの前にビームエネルギーが弾かれては消えていく。

 

「これは!!?」

 

「lフィールドにしては異常に広範囲過ぎる!!これもアクシズショックの光の力か?!!」

 

この時、後方支援でスナイパーバスターを放っていたプライズ・ジェガンのパイロットの内の一人が、ユニコーンガンダムの後方を航行するガランシェールを確認してしまう。

 

「ユニコーンガンダム後方にネオジオンの船舶を視認!!恐らくガンダムはあれを守っている可能性が!!」

 

「ネオジオンのニュータイプがユニコーンガンダムに乗っているのか?!っ……?!!増援!!?」

 

隊長機のプライズ・リーオーがキュベレイMk-Ⅱの機影を捕捉し、それに連なり各機が増援を捕捉していく。

 

「増援はキュベレイです!!光のようなものを纏って突っ込んでくる!!」

 

「キュベレイに各機攻撃を仕掛けろ!!」

 

「了!!」

 

プライズ・リーオー、プライズ・ジェガン各機が、持てる高出力ビーム火器を一斉に放つ。

 

だが、ユニコーンガンダムが展開させているlフィールドシールドが高速で動き、ビーム速度に合わせて遮断していく。

 

プルはキュベレイMk-Ⅱが舞い込むと、更にニュータイプの力を拡大させ、キュベレイMk-Ⅱにファンネルを展開させた。

 

そしてユニコーンガンダムと共にMS部隊に攻め込む。

 

「いくよ!!キュベレイ!!」

 

キュベレイMk-Ⅱはプルのニュータイプ波動の意志で動き、ファンネルを一斉に舞わせながらマシンガンのように敵部隊を撃つ。

 

 

 

ビギュイッッ、ビギュイッッ、ヴィビビビヒギュギュイィイィィッッ、ヴィビビビビビビビギュギュイィンッ!!!

 

ディガガッ、ドゥガガガッッ、ギャガァガァアッッ、ドドドガゴォゴォババァアアンッッ!!!

 

 

 

次々にビームに射ぬかれ、兵装やジョイントを致命的に破壊されていくOZプライズサイド。

 

ユニコーンガンダムも高速で突っ込み、ビームサーベルの高速斬撃がプライズ・リーオーやプライズ・ジェガンをバラバラに斬り刻む。

 

 

 

ヒュズバッッ!!! ザシュバッ、ザシュギイッッ、シュバァッッ、ディガィィイィッ!!!

 

 

 

キュベレイMk-Ⅱがファンネルとハンドランチャーの併用射撃で圧倒し、ユニコーンガンダムが斬撃の乱舞を見舞いながら駆け抜ける。

 

一見、完全に破壊しているかのようなその攻撃は、しっかりとパイロットを生かすように与えられており、あくまでも機体を戦闘不能にさせていた。

 

キュベレイMk-Ⅱも同じく、ファンネルによる攻撃を戦闘不能レベルの破壊に止めていた。

 

「確かにこの人達は敵だけど、無闇な殺戮は今のあたしにはできない。だって、このコは殺戮マシンじゃないから!!!宇宙や地球のみんなに希望を示すガンダムなんだから!!!」

 

プルはユニコーンガンダムから感じるモノを理解し、戦いながらも相応の示し方を体現しようとしていた。

 

それは宇宙の希望へと繋がる力を宿したガンダムだからだ。

 

ユニコーンガンダムはキュベレイMk-Ⅱと共に巧みな連携で斬撃と射撃を組み合わせ、制御をかけた破壊を拡大させていく。

 

ユニコーンガンダムの両腕に唸る斬撃は躍動するようにプライズ・リーオーやプライズ・ジェガンの両腕と上下半身を斬り飛ばし、頭部を突き飛ばす。

 

その後方よりキュベレイMk-Ⅱはファンネルの連射撃の嵐をあてながら、無力化へと導く。

 

2機が舞い示す圧倒的な力は凄まじくもあるが、同時に何か殺戮の対になるモノを感じさせていた。

 

プルが放つニュータイプの陽の力とでもいうべきか。

 

その光景をロトのコックピットからヒイロとアディンも見つめていた。

 

「……キュベレイ、誰が動かしてるんだよ?!!プル以外のニュータイプはガランシェールに居ないぜ!!?」

 

プルがユニコーンガンダムに搭乗していることは認知の上だが、キュベレイMk-Ⅱが動いている事実には軽く混乱しているアディン。

 

「おそらくはユニコーンガンダムの力。すなわちプルが思考でキュベレイをファンネルのように操っている。それ以外は考えられない」

 

アディンに対してヒイロは、流石なまでの洞察力で起こっている事実を鋭く見抜いていた。

 

「え!!?MS単位で操れるのか?!!」

 

「かつてのネオジオンにも大々的ではないが確かにそのような技術があった。更に技術進化したユニコーンガンダムでできても不思議じゃない……それにプルはどういう訳か敵を生かしながら戦っている」

 

「何?!!生かしたら後で追撃されるハメになりかねないぜ!!!てか、何でわかるんだよ、ヒイロ?!」

 

更にヒイロは破壊された敵機の状況からもパイロットの安否を洞察していた。

 

「機体が1機も爆発していない。攻撃力を奪い、完全に無力化に徹している」

 

「何の為に……?!!」

 

「さぁな。俺ならば必ず破壊する。後で彼女自身に聞け……」

 

そして戦闘は瞬く間に収束し、周囲にはプライズ・リーオーやプライズ・ジェガンの断骸機が無数に浮かぶ。

 

ユニコーンガンダムも同時に各部を変形させて通常化し、キュベレイMk-Ⅱもまた力が解除されて空間を漂った。

 

ヒイロとアディンのロトが残り僅かな推進剤でユニコーンガンダムに接近し、アディンは戦闘を終えたプルを迎えに行きながらユニコーンガンダムのハッチを開こうとする。

 

「プルっ……あ!?あ、ヤベ!!プル生身だった!!!あぶね、あぶね!!」

 

だが、ハッチの解放寸前で彼女がノーマルスーツやアストロスーツを着ていない事に気付き、アディンは思い止まる。

 

一息つきながら何故か慌てようとする心を止め、一旦心を落ち着かせた。

 

だが、暫く経ってもユニコーンガンダムは微動だにせず、そのまま静観し続けている。

 

「プル?」

 

人懐っこいプルがじっとしている筈もなく、違和感を覚えたアディンは直ぐにユニコーンガンダムのハッチを叩いた。

 

「プル!!おい、プル!!大丈夫か?!!おい!!」

 

離れた位置からも異変に気づいたジンネマンは、直ちにガランシェールを最大戦速で向かわせる。

 

「機関、最大!!!ユニコーンガンダムに向かえ!!さっきから機体が停止したままだ!!!様子がおかしい!!」

 

「了解っ!!!」

 

ギルボアは直ちにジンネマンの指示に答え、ガランシェールをユニコーンガンダムの方面へと向かわせた。

 

「プルに何かがあったのか……?!!待っていろ!!!」

 

急ぐジンネマンに呼び掛け続けるアディンの憂いの中、プルはコックピットシートに身を委ねながら静かに意識を失わせ続けていた。

 

 

ガランシェール隊は再びヒイロを加え、一刻も早く展開した領域からの離脱の為にパラオへの帰路を急ぐ。

 

その最中のMSドックでは、閉じ込められ続けているプルの救出の為、内部からロックされたユニコーンガンダムのハッチを解放する作業が進行する。

 

一方の隣のドックでは強大な爆発に対して驚異的な強度を誇るように殆ど現時点の原形を留めて回収されたウィングガンダムリベイクの姿があった。

 

それはガンダニュウム合金装甲故の誇りとも言えるものであるかのようだった。

 

ヒイロが意図していた確かめたい存在意義とは、改めて自分達ガンダムが、自分達の意志の如く硬くある存在であるかを確かめたい事であった。

 

ヒイロは一時的にウィングガンダムリベイクに視線を送り、存在意義を確認した後に再びユニコーンガンダムに視線対象を移した。

 

全身サイコミュの機械たるユニコーンガンダムに、初めてそれに携わった者以外がメカニカルのメスを入れていた。

ヒイロのしている作業は、いわばMS版のピッキングのようなモノであるが、ユニコーンガンダムはヒイロ達のガンダムとはまた異なる特殊構造であり、通常であればMSメーカーエンジニアの一部の人間でなければできないスキルが要求される技だ。

 

メカニッククルーのトムラもその技量に固唾を飲む。

 

そして作業開始より一時間が経過する頃、ロック解除アラームと共にハッチが解除された。

 

「成功した」

 

見事にハッチを外部から解放させたヒイロのスキルに、固唾を飲んでいた一同はその技量に驚きを、同時に閉じ込められていたプルが解放された安心感を覚えた。

 

直ぐ様ジンネマンは、娘たるプルに駆け寄る。

 

「プル!!しっかりしろっ、プル!!プル!!」

 

プルを揺すり起こそうとするジンネマンの表情は、憂いや不安、焦りを隠せないでいた。

 

まさかの事態を覆す裏付けを確かなものにすべく、プルの首もとに手を当て、確かに脈と体温が彼女にあることを確認した。

 

養父親として当然の事であり、アディンもまた憂いに駆られてコックピットを覗き込むように呼び掛けた。

 

「おいっっ!!プルは、プルは無事なのか?!キャプテン!!!」

 

「アディン!!プルは……気を失ってしまっているっ……!!どうやらこのユニコーンガンダムが見せた力がプルに負担をかけさせたらしいっ……くっ!!!結局ラプラスの箱の為にプルは負担を背負わされたのか!!?」

 

「このガンダムが……ラプラスの箱がプルに……!!でも、プルは陽の感じがするって……このガンダムが呼んでるって言ってた……俺はプルのその感覚を信じるぜ、キャプテン!!とにかく今は介抱しようぜ!!」

 

「無論だ!!」

 

プルを抱き抱えながらアディンと共に出てきたジンネマンは、デッキ上で相対するヒイロに改めて礼を述べる。

 

「ヒイロ……マリーダの時も、今回も……また助けてもらったな。何度も恩に切る!!」

 

「礼を述べられる程じゃない。できる事をやっただけだ……続けて今の内にカーディアスという男が言っていたラプラスプログラムの解析に入る。後アディン」

 

「なんだよ?ヒイロ」

 

「しばらくはプルの傍にいてやれ」

 

「ヒイロ……お前なあっ……!!!ちぇっ、お前もパラオ行ったらマリーダに会ってやれよな!!!」

 

「言われる間でもない。そのつもりだ」

 

そう言ってヒイロはユニコーンガンダムのコックピットに入って行った。

 

仲間ながら改めてヒイロの掴み処の無さにアディンは認める一言の後に、ジンネマンに進んで手を貸す。

 

「……やっぱりヒイロはスゲーよ……キャプテン、プルは俺が抱えて……」

 

「馬鹿ヤロッ!!!プルを抱えるなんざ認めん!!!」

 

「いいっ?!!」

 

 

 

OZ、OZプライズ共に反抗勢力との戦闘を重ねる情勢の中、特別戦闘部隊が宇宙と地球の各地で反抗抑止の戦闘を展開させていた。

 

主に両勢力のリーオーがOZのエアリーズと共に地上と上空とでの連携体制で掃討作戦を実行。

 

ジェガンやスタークジェガン、ジムⅢ、ジムⅡ、ネモ、ガンキャノンDといった連邦の機体群が抵抗を示す中、OZ所属機のリーオーとリーオーキャノンの部隊がビームマシンガンやビームバズーカ、ドーバーガン、ビームキャノンを駆使し、火力と物量を持ってジリジリと迫る。

 

ビームマシンガンで蜂の巣にされるジムⅢや高出力ビームに穿ち砕かれるジェガン、ドーバーガンやビームキャノンを食らい、破裂するように砕け散るスタークジェガン、ガンキャノンD……近代改修を実施したOZのリーオー達は確実なる差を知らしめさせる。

 

上空からもエアリーズ部隊とプライズ・リーオーがレーザーチェーンガンと擬似GNDエネルギー式ビームライフルで空爆を仕掛ける。

 

連邦のMS達は空中からのレーザーとビームの射撃に成す術なく次々に駆逐され、爆発に爆発を重ねて果て散る。

 

別のポイントでは、エアリーズとアンクシャ部隊が交戦体制になろうとしていたが、エアリーズ部隊の遠距離からのミサイルランチャーによるギガハープーンの一斉射撃がアンクシャ部隊を襲う。

 

アンクシャ部隊はビーム射撃で迎撃するが、ギガハープーン群を撃ち墜とすことなく、撃墜されていった。

 

尚、ギガハープーンの材質は低純度ではあるが、ガンダニュウム合金製であり、並みのビームや実弾では容易に撃ち墜とせない材質だった。

 

ギガハープーンを掻い潜り、エアリーズの死角である近接戦闘を狙うアンクシャ部隊もいたが、接近中に全機体がレーザーチェーンガンによって撃墜に撃墜され、駆逐されていった。

 

 

 

地球圏規模で中小規模の戦闘が展開する情勢の最中、裏でメテオ・ブレイクス・ヘルの支援のパイプラインを持つオーブ首長国連邦が、それとは別の理由でOZプライズに狙われる事態に見回れようとしていた。

 

尚、この攻撃には一切の警告をせず、突然の一方的な奇襲での侵攻であった。

 

そしてこの侵攻作戦にはOZプライズ所属の特殊部隊・バーナム所属のガンダム、カラミティガンダム、フォビドゥンガンダム、レイダーガンダムが投入され、OZプライズ切っての弾圧強行主義者、ユセルファー・ツーセンタ特佐は、中立を貫こうとするオーブ首長国連邦を反抗幇助国と見なし、侵攻を実行に移していた。

 

この行為はユセルファー特佐のOZプライズの特権を利用した私刑に他ならないのは明らかな事実であった。

ユセルファー特佐はSソニックトランスポーターの後部座席に座し、頭ごなしの理不尽を下す。

 

「気に入らないな……実に!!あくまでも中立を貫こうとし、ガンダムを模したMSを保持する国、オーブ……我々への反抗幇助以外の何物でもないな!!!例の3機を投入しろ!!!」

 

オーブ首長国連邦を前に、3機の三凶ガンダムが輸送機より投下され、3機が島国の小国を目指す。

 

「珍しく俺達が揃うとはなぁ……!!!」

 

「久しぶりー。みんなで殺しまくろーぜ」

 

「ひゃっはー!!!抹殺、滅殺ぅう!!!」

 

3機は後から投下された僚機のバーナム・ジェガン部隊を従えてオーブの領海を侵犯しながら突き進む。

 

この3機のガンダムやバーナム・ジェガンにも擬似GNDドライヴが搭載されているため、空中加速や運用も可能なのだ。

 

ユセルファー特佐は直に3機のガンダムに私見極まりない命令を下した。

 

「私はOZプライズに反抗する、若しくはそれを幇助する存在が気に入らない……徹底的に潰してくれたまえ!!!これはOZプライズの在り方を示す戦闘だ!!無論、罪は全てメテオなんとやらに譲渡する。諸君らも気に入らない存在、目障りな存在は存分に潰せ!!!」

 

「了解!!!」

 

狂喜の笑みを見せながら三人は各々のガンダムを加速させる。

 

対しオーブ首長国連邦からは、ウェイブライダーを模したかのような航空機が多数でスクランブル発進していく。

 

オーブの航空戦力・ムラサメ(※旧連邦ニュータイプ研究所とは無関係)である。

 

それらを捕捉したオルガ、シャニ、クロトは一斉に猛撃の攻めを開始した。

 

滑空しながらカラミティガンダムは、引っ提げた全砲門からのビーム渦流をぶつける。

 

ムラサメの機体群は真っ向からのビーム渦流群に一気に砕き潰されていく。

 

フォビドゥンガンダムもまた、フレスベルグとエクツァーンの併用砲撃を、レイダーガンダムはバードモードでクロープラズマキャノンのアフラマズダとツインビームキャノンのフレイア、両肩のアームジョイントのツインビームキャノン、機種部のトップバスターを放ち、次々にムラサメ部隊を撃墜する。

 

高出力ビーム火器の雨嵐。

 

直撃を食らうムラサメ部隊は脆く破砕され、爆砕していく。

 

撃墜を免れた数機が、3機のガンダムの後方にいたバーナム・ジェガン部隊と交戦に突入する。

 

「おこぼれはあいつらにやらせとけ!!!このまま突っ込むっっ!!!」

 

「はいよー」

 

「滅殺ヒャッハー!!!あ?!!」

 

その時、次に迫るムラサメ部隊が一斉にMSへと可変し、どの機体もガンダムの頭部を模したフェイスを見せる。

 

しかし、どの機体の射撃も見かけ倒しの域を出ない。

 

特にフォビドゥンガンダムに関してはゲシュマイディッヒパンツァーによってビームを湾曲させられてしまう。

 

「意味ない、意味ない……意味ないって、ばーか」

 

シャニは例の小馬鹿にしたセリフを吐き、容赦なく砲撃を浴びせながら近づくムラサメ部隊を連続破砕させていく。

 

「なんだコイツら!?ガンダムなのは頭だけか?!笑わせるぜっっ……消え散れやっっ!!!」

 

「ギャハハハっ!!!コイツらガンダムの皮被った雑魚ばかりだぜっ!!!」

 

オルガのカラミティガンダムとクロトのレイダーガンダムもまた得意な砲撃分野でムラサメ部隊を木っ端微塵に仕上げる。

 

展開する高出力ビーム渦流の波状攻撃が、拡がるようにムラサメ部隊を破砕、駆逐していった。

 

瞬く間に3機はオーブの軍事施設の領域に侵攻し、3機揃っての高出力ビーム渦流砲撃を更に撃ち飛ばす。

 

一気に突っ走る多重ビーム渦流群は、アスファルトや格納庫諸とももう一種のガンダムタイプ量産型MS、M1アストレイ達を一切の迎撃を許さずに砕き散らす。

 

爆炎が一斉に噴き上がり、オーブ首長国に轟音を轟かした。

 

スライド着地したカラミティガンダムは、より一層の全砲門砲撃を加え、M1アストレイ部隊を民間施設ごと破砕の限りに激しく破砕させていく。

 

吹き飛ぶM1アストレイの機体群と共に、民間人達や建造物を破砕消滅されていた。

 

更にビームサーベルで斬り掛かって来たM1アストレイにシールドを突き刺し、ケーファーツヴァイの至近ビーム射撃を叩き込んで爆砕させて見せる。

 

そこから更にケーファーツヴァイの連続射撃をM1アストレイ達に浴びせ、駆逐の限りを尽くして見せた。

 

一方のフォビドゥンガンダムは、スライド着地しながら変形し、その惰性の勢いのままニーズヘッグを振りかざして、執拗なまでにM1アストレイを連続で斬り刻みまくる。

 

ガンダニュウム性……すなわちGND合金の鎌の刃でM1アストレイに取り付いては斬り飛ばし、取り付いては斬り飛ばす。

 

狂気の沙汰たるその連続斬撃は、M1アストレイ達を旋風のごとく斬り潰し続けた。

 

レイダーガンダムはフレイアを撃ち込みながらM1アストレイを連続撃破して突っ込むと、破砕球・ニョルミル

を当たり着いたM1アストレイに殴り叩き込み、それを皮切りにして次々に砕き潰していく。

 

そして吐き散らすようにツォーンを左右に連続砲撃斉射し、ことごとくM1アストレイ部隊を破砕させていく。

 

レイダーガンダムの攻撃は止まることなく突き進み、フレイアの銃口を突き刺しての零距離射撃、ニョルミルによるコックピット破砕、至近距離からのツォーンによる爆砕射撃と過激さが増していく。

 

警予告無しの襲撃故に、民間人もより一層の犠牲を伴っていった。

 

3機のガンダムの存在感は外見上のインパクトからしてメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムと言われても何ら不思議ではなく、民間に対して更に悪性のイメージを植え付けてしまう。

 

無論、情報操作により報道上はメテオ・ブレイクス・ヘルという事にされている為、民間の誤解の影響は計り知れない。

 

メテオ・ブレイクス・ヘルに更なるマイナスイメージを与えるにはえげつない程の手段であった。

 

この情報は直ぐに緊急放送で地球圏の報道に流れた。

 

オーブ首長国連邦が所有するL3コロニー・ヘリオポリスにもその情報が流れると、各地でどよめきが聞こえ始めた。

 

「オーブ首長国が……ガンダムに?!!」

 

ヘリオポリスに身を寄せていたカトルが驚愕する。

 

カトルは改修を加えたガンダムサンドロック改のセッティングをしていた感じであったが、直ぐに手を止めてその情報を伝えに来たトロワと共に中継を見た。

 

トロワもまた、メテオ・ブレイクス・ヘル壊滅以降、カトルやカトリーヌと共にヘリオポリスに身を寄せていたのだ。

 

中継を見ながら新たなガンダムを確かに確認し、えげつなく姑息な見出しに遺憾を覚えた。

 

「OZプライズの奴ら……かなりの姑息な人種の集まりらしい。既にあの謎のガンダムを俺達のガンダムと偽られている……どうやらそろそろ反旗の翻し時なのかもな」

 

「メテオ・ブレイクス・ヘルによる新たな攻撃との見方ありっ……くっ!!!情報操作だね!!!でも、まだヒイロやデュオ達がいない……反抗を開始するにはまだ戦力が不十分だ……これからようやくバルジへの強襲プランを立ててもいくんだからね。悔しさが尽きないけど、まだ僕達の体制は整ってない……!!!」

 

「いずれにせよ動く。最低でもバルジを機能停止に追い込まなければな……屈辱と罪ははらさねばなるまい。一年前に散っていった仲間達の為にもな」

 

トロワはいつになく言葉数を多く並べる。

 

トロワの感情はそれほどまでに静かなる怒りを宿していた。

 

カトルもまたあの日の悲劇と今のオーブの状況を重ねる。

 

「うん!!!それにしてもオーブの状況……僕の姉さん達やオデルさんが犠牲になったあの日の二の舞だ……!!!」

 

既にカトル達は多大なる恩情を抱くまでにオーブに救われていた。

 

故に行動しようにもできない現状に歯がゆさを感じざるを得なかった。

 

「焦りはマイナスだ。前に進み打開する意志を忘れなければいい。恐らくオーブは十中八九OZプライズの手に堕ちる。時が満ちた時、恩の意で奪還させたいな」

 

「そうだね。僕もトロワのその考えに賛同だ。メンバーが揃ったら直ぐに行動しよう!!」

 

「ロニの救出が先じゃなくていいのか?」

 

「ありがとうトロワ。もちろん、今すぐにでも行動したい……でもまずは彼らに恩を返したい。オーブのバックアップがあったから今こうしていられるんだ!」

 

「そうか。カトルが構わないならばいいんだが……余り無理はするなよ」

 

「うん!大丈夫だよ、トロワ。ありがとう」

 

一方、カトリーヌはオーブから長期に渡りメテオ・ブレイクス・ヘル製ガンダムのメカニック研修(極秘)に来ている少女・ジュリ・ウーニェンと共に、ランチの最中でテレビ中継でこの事態を認識していた。

 

「え?!そ、そんな……嘘でしょ!!?オーブが……?!!」

 

「ジュリちゃん?!」

 

「じっとなんて……無理だよねっ!!」

 

唐突な故郷の危機を知ったジュリは、気を動転させながらパスタを絡めていたフォークを落とし、蒼白した表情でテレビに駆け出した。

 

カトリーヌは直ぐにフォークとスプーンを置き、彼女の背に駆け出した。

 

当然のごとく周囲には、オーブの危機にどよめきが重なりに重なる。

 

故郷の国、もしくはビジネス等で密接な関係国の危機は、誰であれ衝撃を受けるものだ。

現にカトリーヌも故郷を失う痛烈かつ苛烈な衝撃を心身に経験している。

 

あの忌まわしい日をフィードバックさせるカトリーヌは、ジュリをはじめ、ヘリオポリスの人々が懐かせる不安や絶望が理解できた。

 

「なんで……!!?なんで急にこんな事にっ……?!!」

 

「あそこには、マユラやアサギ達がいるんだよ?!!」

 

彼女の仲間、マユラ・ラバッツやアサギ・コードウェル、その仲間の女性チーム達が今まさにモニターの向こうで危機に晒されていた。

 

彼女達はメカニックの他に独自にカスタムしたM1アストレイのテストパイロットという側面もあった。

 

ジュリにはブルーフレーム(以降BF)、マユラにはレッドフレーム(以降RF)、アサギはイエローフレーム(以降YF)と呼ばれるカラーリング機体のテストパイロットをしていた。

 

他にも彼女達のチームにはスカイブルーフレームやグリーンフレーム、メタリックレッドフレームの機体達もあった。

 

故に彼女達が戦闘の最中に身を投じているのがテレビ中継に映ったM1アストレイから見て取れた。

 

「マユラにアサギ……?!!やっぱりアストレイチームのみんなが戦ってる……!!!みんなで研修に来ていればよかった……そしたら!!!そしたら……っ!!!」

 

彼女の今回の長期研修は相談し合った結果、ジュリが一人代表的に選抜され、アサギ達は有事に備えてオーブに残る事を選んでいた。

 

だが、その有事が3機の未知のガンダムの襲撃という最悪の形となって訪れたのだ。

 

アサギのM1アストレイYFは、ニーズヘッグを振りかざしながら禍々しく攻め入るフォビドゥンガンダムにビームライフルを撃ち続ける。

 

他の戦闘中のM1アストレイのチームもまた、カラミティガンダムの全砲門射撃やレイダーガンダムのツォーンやニョルミルを用いた狂気の攻めに次々に破砕され続けていた。

 

「確かにこのご時世、有事は免れない……けど、一方的過ぎだよ!!!こんなの……ただの殺戮じゃない!!!」

 

アナウンサーの緊迫した現場レポートが流れる最中、ジュリはカトリーヌに寄り添いながら、届かない痛烈な気持ちを溢した。

 

「アサギ……マユラ……みんな……無理しないで……逃げたっていいんだよ?お願いだから死ぬのだけは……!!!」

 

実際に逃げて仲間との命脈を維持できているカトル達もいる。

 

決して逃げるが罪とは限らない。

 

無事を祈ることしかできないジュリだが、皮肉にもM1アストレイYFはジュリの想いに反して、ビームライフルを捨ててビームサーベルを取り出す。

 

更にはマユラ機のM1アストレイRFも加勢した。

 

「アサギ、マユラ……やめて!!!逃げてってばぁ!!!」

 

そして次の瞬間には中継をしていたレポーター達にビーム渦流が迫り、一瞬にしてジュリからマユラやアサギ達を引き離すようにして画面が消えた。

 

まるでその先に起こることを二人に隠すように。

 

リアルな記者達の死に、一同は茫然と立ち尽くすしかく、やがてジュリは泣き崩れた。

 

彼女達の泣く声が周囲の空気に流れ始め、カトリーヌのかける声もさ迷う。

(気持ちは解るのに……かける言葉がわからない……!!ボクも同じ想い……解るはずなのに……!!!)

 

彼女達の姿を見たカトルは、その場を後にしようと振り向いて歩きだした。

 

「カトル?」

 

「トロワ……ラルフさんに連絡を。もう僕達は動き始める時だった……!!!やっぱり考え改めるよ!!!」

 

「感情的に動きすぎるのは薦めれないが……いや、違うな。俺も理屈を外せば同意見だ……反抗プロジェクトの早期をやつに具申しておく」

 

「ゴメン、トロワ。頼んだよ」

 

「あぁ。奴とは長い付き合いだ。心配は無用だ」

 

カトルは再び近代改修を施したガンダムサンドロック改に戻り、機体の前で立ちながら先程のジュリの涙に悲しむ妹・カトリーヌを思い出す。

 

そして新たな力を纏いし愛機に語りかけた。

 

「……サンドロック。もう一度始めようか……オペレーション・メテオ!!リ・オペレーション・メテオを!!!」

 

 

 

 

L1・廃棄コロニー郡宙域

 

 

 

廃棄コロニー郡の中に生まれては消え、また生まれては消える閃光群。

 

その閃光を造りし存在が同じく閃光のごとく自身の翼をはためかせて駆ける。

 

OZプライズのロッシェが駆るトールギス・フリューゲルであった。

 

高速でギラドーガやギラズールのビーム射撃を掻い潜り、ビームサーベルの斬撃と突きを打ち出して立て続けに6機を撃破。

 

更にそこから多角軌道を描くようにして1機、1機を薙ぎ斬り、幾つもの爆発光から飛び出したトールギス・フリューゲルは、ビームマシンガンの一斉射撃に飛び込んでレフトアームのバスターシューターを並列軌道射撃で撃ち込んだ。

 

小中規模のビーム渦流が8機のギラドーガと3機のギラズールを連続破砕させたトールギス・フリューゲルは、突然に飛び込むビーム渦流砲撃をかわし、それを放った4機の重装型ギラドーガに向かい駆ける。

 

一瞬にしてトールギス・フリューゲルのビームサーベルの突きが1機の重装型ギラドーガの胸部を穿つ。

 

次の瞬間には、ビームシューターが3機に撃ち込まれ、ガザD数機を巻き込んで撃破した。

 

残存勢力のギラドーガ、ギラズール、ズサ、ガザDが一斉射撃するも、全てがかわされた後にビームシューターの洗礼を受け、破砕に破砕を重ねて朽ち果てた。

次の瞬間に、トールギス・フリューゲルは上よりビームトマホークを振りかざして襲い来るギラズールに、ビームサーベルを突き刺す。

 

「そのような斬撃……通用せん!!!」

 

ロッシェのその言葉に止めを受けたかのごとくにギラズールは爆砕した。

 

「前哨戦としてはこんなものか……そこそこのハンティングの慣らしにはなったな……」

 

ロッシェはサイドコントロールパネルを操作し、サブモニターである座標データとOZプライズの作戦プランを表示に引き出した。

そこにはジンネマン達の生活の場であるパラオが写し出されていた。

 

「資源衛星パラオ。ここにはネオジオンの残存勢力、そしてガンダムを隠しているとの情報がある。噂の域を出ない為定かではないが……それ故に今、パラオへ向けプライズの部隊が動いている。ガンダムが実際にいるならば……このロッシェ・ナトゥーノも手合わせ願いたいな……念には念だ。参らせて頂こう……!!!」

 

ロッシェがコントロールグリップを握り締め、パラオへ出向く意を引き締めているとき、ロッシェが言ったOZプライズの部隊もまたパラオを目指してバルジから発進する。

 

高速輸送艦2隻の中に、リゼル・トーラス、プライズ・リーオー、そして2機のカスタムリーオーで編成された部隊が息を潜ませるように格納されていた。

 

そのカスタムリーオーのMSデッキで二人の男が機体を見上げていた首をパラオ方面に向けた。

 

「まだ距離はあるが、新たな狩りに出撃だなクラーツ」

 

「えぇ……ラー・カイラム級が沈んだだの騒がしいですが、我々は我々で存分にいきましょう、ブルム……景気よきネオジオン狩りに……!!!」

 

 

 

 

To Be Next Episode

 

 

 

 次回予告

 

 

 地球圏は絶えず反抗勢力とOZ、OZプライズとの対立によって一層の戦火を拡大させていく。

 

 その情勢の中、オーブ首長国連邦はOZプライズの特殊部隊に侵攻され、メテオ・ブレイクス・ヘルを騙る新たな3機のガンダムの襲撃に晒される。

 

 一方、ヒイロとアディンはジンネマン達と共に一時的な休息の為、資源衛星パラオを訪れていた。

 

 そこでヒイロを待っていたのは戦場とはかけ離れた日常とマリーダとの安らぎの時間だった。

 

 

 

 次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY 

 

エピソード30 「マリーダとの再会」

 

 

 



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エピソード30 「マリーダとの再会」

宇宙世紀0097に突入してより、地球圏各地にて反OZ勢力の弾圧の活発化が拡がりを見せていた。

 

L3のとある宙域において、旧地球連邦軍の艦隊がたった3機のMSと交戦する。

 

その3機のMSとは、OZプライズに所属を変えたアスクレプオスとヴァイエイト、メリクリウスである。

クラップ級3隻が後進しながらメガ粒子の主砲を断続的に撃ち続ける中、艦載MSのジェガンやジムⅢも護衛に応戦している状況であった。

 

各機体群が幾つものビームライフルのビーム火線を宇宙空間へ飛ばし、襲い来る3機へと抗う。

 

だが、そのビームは躱され続けた挙げ句、メリクリウスのプラネイト・ディフェンサーが発生させるフィールドによって攻撃はシャットダウンされ、ビームがフィールドに着弾する度に虚しく潰えていく。

 

すかさず、アスクレプオスとヴァイエイトが反撃のパイソンビームランチャーとビームカノンを連続で撃ち、複数機のジェガンを連続で射抜き、ビーム渦流で破砕爆発を拡大させた。

 

更に8機のジムⅢにもその直撃を浴びせながら、一層の爆発を拡大させる。

 

スタークジェガン3機やリゼル3機の編成で応戦する部隊にはビームカノンの高出力ビーム渦流が叩き砕くように迫り、3機づつを消し飛ばす。

 

更にヴァイエイトはレフトマニピュレーターに握り閉めたレーザーガンを撃ち放ち、連発してリゼル4機、ジェガン4機とレーザーを貫通させて破砕爆破へ導く。

 

そして連続持続射撃を放つと、1機のジェガンの貫通破砕を皮切りに、横一線状にレーザー火線を動かしながら一気に4機のジムⅢと3機のジェガン、2機のリゼルを切断させて破砕・爆破した。

 

どの機体も一瞬で装甲を切り飛ばされながら爆発に爆発を重ねていく。

 

展開する爆発光を掻き分けて、ジェガンとジムⅢを中心にした部隊が抵抗を推し進めるも、走り唸る二重の高出力ビーム火線とビーム渦流がジェガンやジムⅢにその力量差を叩きつけていく。

 

メリクリウスのクラッシュ・シールド二基からのビームキャノン射撃も加わっており、乱発するビームは更に破壊の過剰さに加担する。

 

単機でミサイルランチャーを撃ち飛ばす3機のスタークジェガンの攻撃もまた、プラネイト・ディフェンサーが発生させるディフェンス・フィールドにミサイルを阻まれてしまう。

 

そのスタークジェガンの1機がビームバズーカを放つ矢先、クラッシュ・シールドのビームサーベルを発動させたメリクリウスが、返り討ちの斬撃を浴びせる。

 

左右のクラッシュ・シールドが発動させるビームサーベルの連続斬撃は、高い破壊力を見せつけながらスタークジェガンの至る箇所を叩き斬る。

 

「捕捉した反乱分子は徹底的に駆逐する!!!」

 

「カモもいいところだぜっ!!!粛正っ、粛正っ!!!」

 

「身の程を知れよ……古い時代がでしゃばるなよなぁあっ!!!」

 

パイソンビームランチャーの連続射撃からのパイソンクローによる突牙破砕。

 

ビームカノンによる連続ビーム渦流群とチャージショットによる大出力のビーム渦流に加え、連発させたレーザーガンの火線貫通。

 

クラッシュ・シールドの連続斬撃。

 

殴り乱れるかのように唸り荒ぶる3機の猛撃が、ジェガンやリゼル、ジムⅢの機体群の破壊を怒涛の勢いで拡大させた。

 

高性能MSと言えど、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムさえも超える性能を持つこの3機が相手では不利も良い所であった。

 

悔し紛れに歯軋りをするしかない旧地球連邦軍サイドのパイロットは、歯痒さの中に命を削り飛ばす想いでモニターに映る3機を睨んだ。

 

「くぅっ……!!OZプライズめぇっ!!!絶対に我々を逃さないつもりかぁっ!!?」

 

その時、後方より飛び込みをかける別のスタークジェガンが映る。

 

「うぉぉおおっ!!!」

 

「これ以上はぁあぁああ!!!」

 

歯軋りをしていたパイロットが見るコックピットモニター上に、僚機のスタークジェガン3機が特攻を仕掛ける映像が映る。

 

無意味たる無謀な行為に、パイロットは制止を呼び掛けた。

 

「?!!馬鹿ヤロッ、待てぇっ!!!無理だぁあああ!!!」

 

特攻を仕掛けるスタークジェガン3機は一斉に火器を全門一斉に発射。

 

前方一面に叩きつける勢いのミサイル群を3機に見舞う。

 

そして2機のスタークジェガンがビームバズーカを放つ中、1機のスタークジェガンが武装をパージしてビームサーベルを取り出した。

 

ミサイル群は瞬く間にアスクレプオスとヴァイエイト、メリクリウス直撃し、爆発の光を拡げた。

 

その爆発にスタークジェガンがビームサーベルを突きだして突入する。

だが、ビームサーベルを突き出すスタークジェガンに爆発から飛び出すアスクレプオスのパイソンクローが穿った。

 

突き砕かれたスタークジェガンは虚しく爆砕四散する。

 

「はっはははっ、現実を見るんだな!!!」

 

更に爆発の向こう側からメリクリウスが飛び出し、クラッシュシールドの斬撃乱舞がもう1機のスタークジェガンを斬り潰しに潰した。

 

「所詮は獲物に過ぎねーんだよっっ!!!そらそらそらぁああああっっ!!!」

 

爆発光が引いた中にヴァイエイトがビームカノンを構えながらエネルギーチャージをして姿を見せる。

 

開放した背部のGNDジェネレーターが時折スパークを帯ながら超高出力エネルギーを充填させていた。

 

「じゃーな……古い連中さん!!!ヒャッハー!!!」

 

ミューラの小馬鹿にした一言の直後に、ヴァイエイトの構えるビームカノンの銃口から大出力のビーム渦流が唸り放たれ、一気に突き進むそれは残存したスタークジェガンやリゼル3機、ジェガン2機を呑み込みながらクラップ級を抉り飛ばすように破砕。

 

更に持続する破砕流が残り2隻のクラップ級に移動し、ゆっくりと巨大な船体を吹き飛ばしながら轟沈へと導いていった。

 

 

 

その一方、L3方面のとある宙域においても、旧連邦勢力が集う廃棄コロニーに力の蹂躙が見られた。

 

ジェガン、ジムⅢ、ジムⅡと旧地球連邦軍の主力機の面々が襲い来る何かにビームを射撃し続ける。

 

だが、連続で撃ち注ぐビーム火線に、次々と連邦主力機体群は装甲を穿たれて爆砕する。

 

その襲い来る存在とは五飛を襲ったあのガンダムであった。

 

禍々しい六枚のカギ爪のような翼を展開させながら迫り、展開させているストライククローを奮い、格下のMSを蹂躙する。

 

ライトアーム側にはビームソードが握られ、レフトアーム側にはストライクシューターが握られており、それらを駆使させての破壊が襲った。

 

左右のストライククローのセンターから放たれるビームと、ストライクシューターの多連装ビームとが合わさり、ジェガンやジムⅢ、ジムⅡの装甲を豪快に砕き散らす。

 

「くくくく……私がこのような雑兵のや掃除を任されるとは……腕慣らしにはなるが……少々不満だな、愛馬・ヴァサーゴよ……」

 

シャギアは若干の不満を吐露しながら、平然と旧地球連邦残存勢力に牙を向ける。

 

ストライククローのビームとストライクシューターの射撃を次々に撃ち出し、駆け抜けるようにジェガン、ジムⅢ、ジムⅡ各機体を撃破していく。

 

その過程でストライククローと同時にビームソードの刺突を幾度も個々に取りついては飛びかかるヴァサーゴと言う名のガンダム。

 

その猟奇的な風貌は、胸部のデザインも相まって悪魔以外の何物にも例えられない。

 

連続でジムⅢ3機を斬り潰しながらジェガンにレフトアームのストライククローを見舞う。

 

ストライクシューターにも装備された牙が更に破壊力を乗せて砕き散らす。

 

そしてストライクシューターをかざしながら連続でビーム射撃を展開させ、爆発の嵐を眼前に拡大させた。

 

襲い来る絶対的な存在に果敢に立ち向かうジェガンが背後をビームサーベルで捉える。

 

だが容易くかわされ、ビームソードに貫かれ爆発に帰す。

 

四方から迫るジェガンとジムⅢに対し、ガンダムヴァサーゴは引き付けるように敢えてその場を飛び去る。

 

そして振り向きながら悪魔然とした胸部を開放し、さらなる醜悪な悪魔のような顔が展開させた。

 

悪魔の顔の内に潜んだ更なる悪魔の表情が露になる。

 

「消え失せるがいい……!!!」

 

ガンダムヴァサーゴに迫っていた機体群にシャギアが照準を絞った瞬間、胸腹部からメガソニック・ブラスターの超高出力ビーム渦流が撃ち放たれた。

 

 

ヴィギュルゥダァアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

ヴァズゥゴゴゴゴォババババババガァアアアアッ!!!!

 

 

 

一直線に伸びるビーム渦流を放ちながらガンダムヴァサーゴは機体を自転旋回させながら更なる破壊力で、廃棄コロニーの外壁諸とも連邦残存勢力のMSや艦を破砕し続けた。

 

凄まじき破壊力で吐き出し続けるビーム渦流が旋回を始め、廃棄コロニーそのものを崩壊させながら旧地球連邦残存勢力のMSや艦を広範囲に渡り壊滅へ至らさせた。

 

シャギアは佇むガンダムヴァサーゴの中で満足感を得たように薄ら笑いを浮かべていた。

 

「悪く思うな。仕事なのでね。それに私の愛馬は……狂暴なのだよ……っ!!!」

 

最後の抵抗に1機のジェガンが、ガンダムヴァサーゴ背後からビームサーベルを斬り込もうと迫った。

 

だが、その攻撃を見透かしたかのように、ジェガンに向けて振り向き様にリーチの長いビームソードの斬撃を見舞った。

 

「狂暴だと……言った筈だ……狂暴だと……!!!」

 

爆発四散するジェガンの爆発光を浴びるガンダムヴァサーゴのその様は、より一層の悪魔の形相を強調させていた。

 

そして主のシャギアもまた、その殺戮に対して薄ら笑いを止めることはなかった。

 

 

 

OZプライズとOZの支配体制は、弾圧と懐柔の両極端のバランスを連ねて地球圏世界情勢を統べる。

 

OZプライズによる過激な弾圧は、OZの懐柔支配体制をより柔軟に浸透させる為の意図的な狙いがあった。

 

標的に選ばれている対象の殆どは社会情勢的に見て非難の対象にならない存在……すなわち地球側にとって影響がない、あるいは無関心である一部のコロニー市民の排除や戦闘対象として違和感がないネオジオンやジオン残存勢力、旧連邦軍残党勢力であった。

 

だが、地球で起こったOZプライズによるオーブ侵攻は例外であり、表向きにはメテオ・ブレイクス・ヘルによる大規模テロという形でメテオ・ブレイクス・ヘルに罪を着させた茶番劇を展開させた。

 

このオーブ侵攻は、実質的に国家の機能が滅ぶ程の破壊をもたらした。

 

狂気の強化人間部隊・バーナムがメテオ・ブレイク・ヘルを装って占拠するオーブの都市部は、廃墟のような有り様となりながら幾つもの破壊されたM1アストレイとムラサメの残骸が散らばっている状況にあった。

 

警察や消防機関、国の首脳部たる議事堂の場も完全に破壊されており、オーブ首長国内一帯を機能停止の絶望が包んでいた。

 

その中に墜ちたM1アストレイYFやRFの姿も確認できた。

 

アサギやマユラ達の生存は限り無くゼロに等しい。

 

そのニュース映像を見てしまったジュリは、膝を崩して床に座り込みながら絶望に放心した後に泣き振るえはじめる。

 

カトリーヌは以前に悲しみに沈む彼女へのかける言葉を見失った少しの後悔から、彼女の悲しみに歩み寄る行動に移して共に泣き合った。

 

その後に追加されるように、オーブの一件以降にテロに遇った国や都市が挙げられていき、より一層の残忍たる彼らのやり方がメディアを走る。

 

メテオ・ブレイクス・ヘル残党の集団テロと偽装された挙げ句に、多くの罪なき人命が無造作かつ理不尽に奪われていく。

 

悲しみと哀しみを拡げていく。

 

メディアを通じて知らされるその現実と非道が、カトルとトロワにも映る。

 

「我々OZは新たなメテオ・ブレイクス・ヘルの一刻も早い殲滅を目指しております。が、彼らが今要求して来ている事は、我々の出方次第で更に甚大な被害を招く恐れがあり、慎重に彼らと交渉しております……今後は長期に渡り……」

 

偽りの姿勢で記者会見に言葉を述べるOZプライズ士官。

 

OZとOZプライズによる完全なる茶番劇が、彼らの地球圏懐柔支配を拡大浸透させていく。

 

トロワは眉間を静かな怒りを持って絞り、カトルは内から込み上げる怒りを拳を握り締めて震えさせた。

 

「トロワ……こうしている間にも次々に罪の無い人々の命が奪われ、OZの力と懐柔的支配が拡大していく……!!!」

 

「俺も奴らの手口には我慢の限界に達しつつある。確かにカトルの言う通りだが、行動するなら俺の具申に対するラルフの返信が来てからだ」

 

「うん……そうだけど……だけどっ!!!」

 

「今に至るまでラルフは、お前を最も慕う男達と密かにやり取りをしてきている。デュオと五飛もバルジに囚われているが、もう少しの辛抱だ」

 

「それって、マグアナック隊……?!!」

 

「あぁ。マグアナック隊も動いている」

 

ラルフは再起の為の根回しを時間をかけて行動して来た。

 

デュオ達をテストに駆り出す最中、デュオのみぞおちに殴る行為をしながらも、反抗プランの入った映像再生式データを手渡す。

 

体を張りながらの演技をするデュオだが、ダメージを堪えながら口許に笑みを含め、ラルフもまた少しの笑みを見せた。

 

その後ろでは五飛が表情を変えずに立つ。

 

カトルは今一度、それぞれがそれぞれの想いで動いている再起の為の行動を想うと、再び冷静な位置に立った。

 

「……ありがとう、トロワ。そうだよね。みんながここまで行動してきてくれているんだ……!!!今はラルフさんの返信を待つよ」

 

「俺たちは既に準備はできている。今が耐え時だ」

 

カトルは気の持ちようを改め、妹のカトリーヌやオーブのジュリを見ながら決意も改めた。

 

 カトリーヌもジュリの悲しみに寄り添い、必死でかける言葉を一つ一つ見つけながらいた。

 

「カトリーヌ達にもこれ以上の重い哀しみを与える訳にはいかない!!!もちろん……ロニも……!!!」

カトルが想うロニは焼き尽くした街を見ながらサイコガンダムMk-Ⅲのコックピットにいた。

 

その瞳には光がなく、ただ冷徹な眼差しを向けるだけの操り人形にさせられてしまっていた。

 

「私が生きる意味……家族を奪った世界を破壊するコト。そう……家族を奪ったセカイを……!!!」

 

その時、飛び立ちながら領域を離脱する5機のアンクシャに反応したロニは、血走った眼差しをむける。

 

そしてサイコガンダムMk-Ⅲは、かざしたレフトアームのハンド・メガパーティカルキャノンを放ち、五指から放つ高出力ビームの束で容易く破砕させてみせた。

 

「ふふっ……ウフフ、あはははは!!!」

最早カトルの知るロニではなく、狂気の嗤いを響かせる強化人間的な少女になっていた。

 

ロニの嗤い声が高鳴る中、サイコガンダムMk-Ⅲは無情に佇み続けていた。

 

 

 

 

資源衛星パラオ

 

 

 

ガランシェールの船体が、パラオの第三宇宙港のゲートに入港していく。

 

「僅かに前進の最微速!!ゲートアーム接続に入る!!」

 

「了解!!」

 

ギルボアの操舵操作で徐行するガランシェールの巨大な船体がドッキングアームへと寄せられて行く。

 

ブリッジで腕組みをしながらヒイロは静かに入港の様子を眼光に見据える。

 

(L1コロニー群資源衛星・パラオ……この資源衛星にマリーダが……)

 

ヒイロはこれからの行動の先にいるマリーダに静かに高揚する感覚を覚える。

 

正直な所、ヒイロは闘いに闘いを重ね続けた日々に、自覚の範疇外で疲弊していた。

 

自覚外である故か、意識が自然に癒しを欲し始めていたのだ。

 

(何かが……いや、マリーダのコトで感情が高ぶる……らしくないな……)

 

「ヒイロ!」

 

アディンが外を見続けるヒイロにアディンが声を当てる。

 

横目にして僅かに首を向かせたヒイロは、またパラオの景色に目をやりながら答えた。

 

「なんだ?」

 

「さっきからずっと同じトコ見てるぜ?まさか、マリーダのコトばっか考えてるんじゃねーの?」

 

「……!!!」

 

からかい半分を絡ませて珍しく図星を突いてきたアディンに対して、ヒイロは驚きを外に出すコトなく、静かに動揺させられる。

 

しかし、ヒイロは妥当然とした意見を返して見せた。

 

「それがどうした?マリーダが強化人間の人体実験の悪影響を受け続けているんだろ?それを心配しない方が人的に問題がある……」

 

「いぃ?!」

 

「プルも意識を回復させていない。むしろお前の方が不謹慎だ。見舞いに行ってやれ」

 

「な……!!?」

 

からかったつもりが硬い正論返しを受け、逆に一杯食わされるアディン。

 

更にヒイロ自身、マリーダを想っていたことを否定していない。

 

そのやり取りを聞いていたジンネマンは、諭すように言って見せた。

 

「……食わされたなアディン」

 

「いや、違うぜ!!俺だって気を紛らわしたくってよ……」

 

「プルを憂いる気持ちは俺も同じだ。紛らわしに走るアディンがまだまだな小僧ってコトだ……現状と向き合って己を据わらせろ。所でヒイロ……」

 

ん?とジンネマンを向いたヒイロにジンネマンは改めて今のマリーダのコトを語った。

 

「マリーダはあれから……俺達が救出して以降からずっと時折くる激痛、シナップス・シンドロームと闘っている……衰弱傾向からは回復してきてくれてはいるが、医師からは戦闘は止められているくらいにまだとても万全に至っていない。正直俺は安静していて貰いたいが、本人は有事に戦いたいと思っているみたいだ……」

 

「そうか……」

 

「ちょくちょくお前の事も聞かされたりする。直接会ってやれば更にいいかも知れん。是非とも俺からも願いする……会ってやってくれ」

 

「あぁ……アディンにも言ったが、そのつもりだ」

 

「ヒイロ!!キャプテン公認かよ!?いーな、もー!!ってうわっ、違う!!そうじゃない!!!俺はっ……!!!」

 

「アディン……認められたくば先ずは自ずとすべき事に気づけるようになるんだな……」

 

ジンネマンのその言葉に暫く思考を巡らせてアディンは固まったが、はっとなりながらジンネマンに頷きながら直ぐにその場を後にした。

 

その様子を見た後、ヒイロはジンネマンのアイコンタクトに頷き、再び外に視線を向けて心で呟いた。

 

(そうだ……感情で行動する事だ……感情で……!!)

 

その時のアディンの行動は、直ぐにプルが気を失わせている寝室に駆けつけ、彼女の横側に引き出した椅子を置き、自身を座らせた。

 

彼女の側に居続けて見守る……それがアディンの感情が成したコトだった。

 

 

 

サント夫人やティクバ達が食卓を囲むサント家宅の団欒の時間。

 

居候と療養生活を兼用するマリーダも家族同然に食事し、サント家特製スープを飲んでいると、突如として直感的な感覚がはしる。

 

(っ……!!この感覚は……姉さん……?!マスター達がパラオに戻ったたのか!?それに……もう一つの感覚は……ヒイロ……?!!)

 

マリーダが感覚と向き合っていると、ティクバがターメリックライスを呑み込みながらマリーダに話しかけてきた。

 

「んぐっ……マリーダ姉ちゃん、体はもー大丈夫なの?」

 

「ん?あぁ……以前よりはな」

 

「じゃー、明日できるモールセンター街にパーっと行こうよっ!!パーっとさ!!楽しいよー!!」

 

「そうか。ありがとう。だが、気持ちだけ受け止めて置く。まだ完全ではないんだ。ご免な、ティクバ」

 

「えぇ~……俺、早くマリーダ姉ちゃんと遊びたいよ~……遊びたい~遊ぼ、遊ぼ、遊ぼ、遊ぼ~」

 

「ティクバ……」

 

食事中にわがままを言うティクバに、サント婦人が叱責を入れた。

 

「ティクバ!!あんた、もっとマリーダちゃんの体の事を考えてやりな!!!無理、わがまま言うんじゃない!!!マリーダちゃんも困ってるじゃないかっ!!!」

 

「いっ?!ご、ご免なさい……!!でもどーしてもさ……」

 

「まったく……ご免ね~家の馬鹿息子が無理言って……」

 

「いや、私は全然気にはしていない。それに家の中や近所くらいの範囲なら遊べるくらいに回復しつつある……それなりの家事も……」

 

「そうかい……今日の料理の持て成し、よかったらマリーダちゃんも作ってみたらどう?」

 

「愉しそうだが、私自身余り料理ばかりはしたことはないな……」

 

「マリーダちゃんもいつかは旦那さん持つんでしょ?料理の一つ二つ作れるといいよ?現にお姉さんのプルちゃん、料理できるし。でも、あっははは、結婚なんて言ったらジンネマンさん大騒ぎだね!!」

 

「くすっ……確かにマスターなら私が結婚なんて言えばきっと大騒ぎするな……そうか……私も料理やってみようか……な」

 

ふとヒイロの姿を過らせながら少しばかりのチャレンジ精神をマリーダは懐き、サント婦人もマリーダの事情を踏まえながらそれに笑顔で答えた。

 

「やってみるといいさ。けど、例の病もあるから無理はしないでね」

 

「はい……そのつもりです……」

 

その時、サント家の家電話が鳴り、サント婦人がその受話器を手に取りに居間を出て行く。

 

すると、しばらく夫のギルボアと思われる相手と通話した後に通話を終えたサント婦人は、慌てふためいた様子で戻ってきた。

 

「今旦那からパラオに戻ったって連絡あってね!!プルちゃん、何だか大変みたいだよ!!」

 

サント婦人のその言葉を受けるも、マリーダは感覚でヒイロやプル達がパラオ入りしたことを既に察知していたが故に、驚きの様子を見せることなかった。

 

それ以上にシンドロームを患った自身と共鳴することを憂いだ。

 

「でも……今の私が姉さんに会いに行ったとしても、あの激痛が来たら……姉さんが!!!」

 

「あぁ……そうだったわね。例の病、プルちゃんにも感覚だけ伝わっちゃうんだっけ……」

 

「はい……姉さんに私のあの苦痛を味わってもらいたくはない……!!!もどかしいけど……行けない……」

 

一方のガランシェールクルー達はパラオに入港して休む間も無く慌ただしい動きを展開させていた。

 

意識を失ったプルを背にして急ぐジンネマンとその付き添いに走るアディン。

 

ジンネマン不在の船内で代わりを務めるフラストや、各役割作業に動くギルボア、アレク、ベッソン達。

 

そしてユニコーンガンダムやキュベレイMk-Ⅱのメンテナンスに徹するヒイロとトムラ達。

 

穏やかな雰囲気ではない状況の帰還になった中、マガニーとハサンによるプルの診断が行われ、その診断結果が言い渡された。

 

「過度の力による強い疲労……ですか?!」

 

「無理にニュータイプの……力と言うべきモノが比較的長い時間彼女に加わり続けた結果、彼女の体が防衛措置として意識を失わせたと思われます」

 

「長い時間て言ったって、10分も経っていなかったんだぜ?!!相当ヤバい力になるのか?!!」

 

「今計測できるものではないが……言い変えれば初めて味わう力の量に体が追いつけなかった……今の所生命に別状はないが、確実な安静が必要だ。彼女が意識を取り戻しても、直ぐにユニコーンガンダムというガンダムには乗らない方がいいかもしれない」

 

「やはり危険なシステムに……なるのか?!ユニコーンガンダムは!?」

 

「でも、プルは……プル自身は自分の意志でユニコーンガンダムに……ラプラスの箱探しに……複雑だぜ!!!」

 

ジンネマン達一行が診察に複雑な空気を落とす中にプルの一言が響く。

 

「アディン……」

 

「え!!?俺?!!」

 

「プル?!!」

 

意識を取り戻したプルに駆けつけると、プルは再びプルは言葉を発した。

 

「アディン……アディン……パパ……んんぅ……」

 

「プル?!!俺は二番手なのか?!!」

 

「いや、キャプテン、ソコ触れる所違うって!!!」

 

「あれ……ふぁ~……あたし、寝ちゃってたの?ここは?どこ?さっきまでユニコーンガンダムの中にいたのに……」

 

意識を取り戻したプルは、何事もなかったかのように体を伸ばしてあくびをして見せていた。

 

『プル!!!』

 

驚きと嬉しさの余り、アディンとジンネマンは同時に声を上げた。

 

「きゃっ?!!パパ?!!どーしたの、急に?!!」

ジンネマンはプルを抱きしめ、半泣きで意識を取り戻した事を喜んだ。

 

「よかった……!!よかったぁ~……!!!」

 

「パパ……ちょっと、くるしーよー……心配してくれてて嬉しいけど~……」

 

その光景を目の当たりにしたアディンは、プルを抱き締めれて羨ましいという下心を心の片隅に置き、改めて微笑ましい情景と認識して胸を撫で下ろした。

 

その後、改めて意識を取り戻したプルを診断し、命に別状はないとの診断をもらうも、しばらくはユニコーンガンダムでのラプラスの箱探しは見送りとなった。

 

そのユニコーンガンダムに組み込まれたラプラスプログラムをヒイロが解析作業に集中する中、トムラがヒイロのそのスキルに息を呑む。

 

ヒイロは展開させているノートタイプデータベースをプログラムユニットにケーブル接続させて作業を進めていく。

 

「カーディアスとか言ったビスト財団のあの男……簡単には言ったが、実際にやれば次の座標表示の前に何層ものデータディフェンスが仕組まれている……」

 

「そこまでして座標を隠したがるなんて、きっと余程のモノらしいな……ラプラスの箱ってのは!!」

 

「あぁ。一説では地球連邦政府を根底から覆す程のモノのようだ……俺の見解だが、大量破壊兵器の可能性も否めない。っ!!座標が出た……!!」

 

「何!!?何処なんだ?!!」

 

「……旧ラプラス官邸……歴史上初のスペースコロニーだ。最もかつてのテロによって成り果てた最古の廃棄コロニーになっているがな」

 

「旧ラプラス官邸……!!場所が場所だけに重要な何かがあるかもな……」

 

「あぁ……後は任せる」

 

座標の確定を済ませたヒイロは、ツールを素早く片付けてすくっと立ち上がる。その場を後にしようとした。

 

「ヒイロ?」

 

「行く場所がある……」

「……マリーダか?」

 

「あぁ……」

 

ヒイロは単身で赴こうとするが、トムラはヒイロの肩を捕まえ、穏やかに制止した。

 

「だったらみんなで行こうじゃないか、ヒイロ。俺達も久しぶりに戻った事もあるしな。キャプテンが戻ってからでも遅くはないんじゃないか?」

 

「……そうか。ならば他にやるべき事をしている」

 

「他にやるべき事?」

 

「あぁ。パラオが有事になった時に使う機体が欲しい。ウィングガンダムは長期に渡って戦い続けてきた。オーバーホールが必要だ。今の俺には乗る機体がない状況に等しい」

 

するとトムラも合点がいったようで、持っていた工具を置きながらヒイロにMS格納庫にサムズアップの形で親指を向けた。

 

「そうか……キャプテンが戻るまでだが、俺も探してやるよ。幾つかがパラオの格納庫にあるぜ!!」

 

「頼む……」

 

トムラにパラオ内のMS格納庫に案内され、ヒイロはトムラと共にデッキ橋を歩いて回る。

 

格納庫内にはガ・ゾウム、ガザC、ギラ・ドーガ、ゲルググ、マラサイ、そしてバウが格納されていた。

 

「パラオでは今や自らMSを降り、パラオ内の企業に身を移す軍縮主調者や平和主義者がいてね……ここは一時的に主を失ったMSの寝床となっているのさ……何かあったか?気に入る機体は?」

 

ヒイロはトムラの質問に答えるように足を止めた。

 

トムラがその機体を見上げると、その機体はネオジオンの可変MS・バウであった。

 

「……バウか!」

 

「あぁ。この機体は元より機動力と火力が長けている。コックピットも見せてくれ。テストシミュレートもしてみる」

 

ヒイロは機体のシステムを起動させ、テストシミュレートを交えながら仮の機体フィーリングの掴みを模索する。

 

卓越した操作技術とセンスは短時間でバウをモノにさせた。

 

シミュレーション上のジェガンやリゼルの敵機種を、射撃と斬撃を巧みに繰り出しながら墜とし、時おりシールドメガ粒子砲も駆使して破砕させていく。

 

トムラが見るコックピット視点からのMSの挙動は次元が既に違っていた。

 

予想を超えたヒイロのパイロットセンスにひたすら驚愕するばかりだった。

 

 (すごいな……流石、あの反乱ガンダムのパイロットだ!!)

 

しかしながらその間にもヒイロは半ば集中できておらず、ある程度のシミュレーションを切りにして直ぐにシートから降りてしまう。

 

「え?!もう終わりか!?流石、ガンダムのパイロットだな!!」

 

「いや……やはり集中できん……マリーダの所へいく……」

 

「え?!!そ、そうか……ふー……やれやれ……しょうがないな。場所は判るのか?」

 

「あぁ。ギルボアの自宅で療養中なんだろ?所在も事前にジンネマンとギルボア本人から把握させてもらった。問題はない……行って来る」

 

去り行くヒイロをトムラは工具で肩を軽くポンポンとする仕草をしながら見送る。

 

「ガンダムのパイロットも青春するんだな……ま、普通ならそれが当たり前の年頃なんだからな……」

 

 

ヒイロはサント家宅を目指してパラオの内の街並みを歩く最中にマリーダとの約束を思い出していた。

 

その約束に基づき、歩く足を側道に寄り道させる。

 

向かう先にはパラオ問わず、他のコロニーでも有名なアイスクリーム店があった。

 

ヒイロと共にアイスクリームを食べたいという、彼女のお願いのような約束を果たそうとする行動だった。

 

列に並びながら予めピックアップしていた32スペシャルアイスクリームに視線を絞って確認すると、目をつむりながらマリーダの顔を思い浮かべた。

 

(マリーダ……)

 

バニラ、ストロベリー、チョコミントの種類をミックスさせてコーンに乗せ、チョコチップやチョコソースがかかったデザインのアイスクリームだ。

 

物静かに喜ぶ表情に変化したマリーダを浮かべていると、店の稼働率がよいのかスムーズに列が進みだした。

 

32スペシャルアイスクリームを買い終えたそのネオジオン兵とすれ違ってから間もなくして更に列が進み、列が並列化すると、幾つかあるカウンターに行き着いた。

 

「32スペシャルアイスクリーム、一つ」

 

「大変申し訳ありません~……先程お買い上げされたお客様で本日分は品切れに……」

 

「?!なら他のメニューでいい……これは?」

 

ヒイロはしてやられた気分になったが、別メニューにあったツイン32アイスクリームに切り替えた。

 

メインだったアイスクリームよりもカップル向けの感じであり、むしろこちらの方が二人で楽しめそうなアイスクリームであった。

 

店員は一旦モニターで在庫状況を確認する。

 

「えー……こちらのメニューでしたら大丈夫ですよ!」

 

「なら頼む」

 

購入を済ませたヒイロは、ジンネマンからサント家宅間近まで足を運び、サント家宅を目指す。

 

マリーダと交わした人生初のキスの記憶がヒイロにフラッシュバックする。

 

互いに戦闘のスペシャリストとして歩まされ、歩んできた人生を持ち、互いにMSを駆る。

 

オペレーション・メテオ発動時の大気圏での偶然の出会いから今に至り、彼女が身を置いて住んでいる場所に足を運んでいる。

 

その瞬間がまた不思議な感覚を覚えさせる。

 

ましてや普段買うはずのないアイスクリームを引っ提げている自らにも違和感を感じて止まない。

 

それも一人の女性の為にアイスクリームを買ったのだ。

 

やがて、ヒイロは角ばったマンションが建ち並ぶ区画に入り、「E12」と記されたマンションに入った。

 

「E12-182……ここか」

 

チャイムを鳴らすと、防犯スピーカーからサント婦人の声が聞こえてきた。

 

「はぁい……あら?!あなたは?」

 

「俺は……ジンネマン達に世話になっている、ヒイロ・ユイと言う者だ。家主であるギルボア少尉から教わり、マリーダ……マリーダ・クルスに会いに来た」

 

「あ!?貴方がヒイロ君ね!旦那からマリーダちゃんのボーイフレンドが行くかもしれないって話は聞いてるわ!今開けるわね」

 

「……!?」

 

既にギルボアを介して余計な要素がサント婦人に伝わっていた事に、ヒイロはこそばゆいような何とも言えない感情が疼いた。

 

中に入るとサント婦人がヒイロを迎え入れ、マリーダのいる寝室へと案内する。

 

「わっ?!兄ちゃん誰!?」

 

「だれなのー?」

 

「だえー?」

 

その最中、サント夫妻の子供であるティクバ達にヒイロが出会うやいなや、ティクバの粗相な態度にサント婦人が半ば叱る。

 

「あんた達、挨拶は『誰』じゃないでしょうが!!お客さんだよ!!」

 

「は、は~い……兄ちゃん、こんにちは!!ほら、お前達も!!」

 

「こんにちはー」

 

「こんいちは」

 

ティクバが弟や妹にも挨拶させるとヒイロが以外な一面を見せた。

 

「あぁ、こんにちは。もし遊ぶなら後で遊んでやる。今はマリーダに会わせてくれ。アイスクリームを渡さなきゃいけない」

 

「えぇえ?!!兄ちゃんがマリーダ姉ちゃんの彼氏なの?!!」

 

「かれし??」

 

「かえし、かえし!」

 

「ふっ……彼氏か」

 

「違うの?!」

 

「なにマセタこと言ってんの?!あんた達、直ぐに退く!!」

 

マリーダが療養する寝室で、マリーダは上体を起こしながら窓の外を眺めていた。

 

開けた窓から雑踏に耳を傾けるのは今のマリーダの日課であった。

 

無論、近所への散歩や買い物程度ならば外出するが、いつシナップス・シンドロームの発作が来るかわからない為、パラオから外へは出る機会はなくなっていた。

 

(パラオに帰って来てどのくらい経つか……こんな一年以上戦闘をしてないなんて、かつての私以来だ。マスターに助けられる以前と助けられてからの数年間……無論、環境は……天と地、いや、コロニーと地下の差があるがな)

 

マリーダは袖をめくり、かつて風俗街に墜ちていた頃、客の趣味でいたぶられた火傷の痕を見る。

 

(本当に……オーガスタ研究所と、この忌々しい火傷や傷を負わせられたあの場所は……ある意味戦場よりも劣悪な環境だった……)

 

ふとした思いの流れから過去の傷に向き合った後に、マリーダは再び今のいる空間に目を向けてみる。

 

視界に映るは日常的な風景だ。

 

差は歴然としていた。

 

(本当に今がありがたいな……本当に……あの日とは違う。そして……今はヒイロがいる……そう、ヒイロが……!!!)

 

マリーダはヒイロの感覚を既に感じており、ドアの向こうに視線を向ける。

 

そこへ、サント婦人の声とノックの音が入り込んだ。

 

「マリーダちゃん?今いいかしら?」

 

「えぇ、大丈夫です」

 

「はい、どーぞ……」

 

ドアを開けたサント婦人がドアの外に声を投げ掛けると、その向こうからヒイロが入って来た。

 

マリーダは待ち続けていたヒイロの姿を目の当たりにした瞬間、瞳孔を大きくしながらその名を口にした。

 

「ヒイロ……!!」

 

「マリーダ……」

 

サント婦人は二人を暖かい目で見守るようにドアを閉めた。

 

ヒイロは手に引っ提げているアイスクリームの袋を差し出し、素直じゃない一言を言った。

 

「任務を完了させに来た……」

 

「……ヒイロ……私は待っていた……そう。私は待っていた……お前に会いたかった!!」

 

マリーダはベッドから降り、あまり見せない笑みをこぼしながら、これまでの溢れんばかりの想いをぶつけるかのようにヒイロに抱きついた。

 

「!!!」

 

ぎゅっとヒイロを抱き締めるマリーダと、思いもよらなかったマリーダからの包容に驚愕するヒイロ。

 

マリーダは包容しながら想いをこぼし続け、よりヒイロを抱き締めた。

 

「ヒイロ……!!お前は生きてくれていた!!会いたかった!!会いたかった……ずっと……!!!だからパラオにヒイロを感じた時、信じられない気持ちと嬉しい気持ちが溢れた……!!」

 

ヒイロは初めて味わう想いの包容に、軽い混乱を起こすが、本能的な動作が彼女を抱き返させた。

 

そして素直じゃないヒイロらしい言葉を囁いた。

 

「俺は果たしたい任務があった……だから来た」

 

「その任務、軽く一年以上は過ぎてるぞ……でも……今こうしている。こうして……ヒイロを抱き締めることができている……!!」

 

二人が抱き合っているこの時、奇しくもパラオのMSドック内で応急修理が完了しているクシャトリヤの隣のMSデッキに、半壊したウィングガンダムリベイクがドック入りしていた。

 

その光景を見たトムラも、ニッと笑う。

(……クシャトリヤの隣にウィングガンダムか……調度MSも隣同士になったな!もしかして本人達も同じだったりしてな!)

 

トムラの想像のごとく、ヒイロとマリーダは二人でソファーに腰掛け、早速二人でアイスクリームを食ようとしていた。

 

ヒイロが買ったツイン32アイスクリームは、元よりカップル向けのアイスクリームの為一つのトレーの左右に、カップ式アイスクリームが三つあるものだ。

 

二人の片方の膝にトレーを置くと、その時点で既にマリーダは頬を赤くしながらいつにない柔らかな表情を浮かべていた。

 

スプーンを手にしながらマリーダは今一度確認した。

 

「本当にいいのか?しかも……隣り合わせに食べれるアイスクリームのセットだなんて……」

 

「あぁ……妙に遠慮気味だが、マリーダ自身が俺に与えた任務だ。アイスクリームを俺と食べるっていう任務のな……」

 

「ヒイロ……ふふっ、ありがとう」

 

「……っ!!!」

 

これまでに見たことのないマリーダの嬉しげな表情を目の当たりにしたヒイロは静かに動揺する。

 

同時にマリーダへの好意がより増幅した。

 

「それに……ヒイロこそ私とアイスクリーム食べたかったんじゃないか?」

 

「……俺はこれまでに幾つもの、幾多の戦場を駆け抜けてきた……その最中、常に脳裏のどこかにマリーダがいた……そしてようやくここに辿り着いた」

 

「私も人体実験の後遺症と闘いながらヒイロを……本当に同じだな……なにもかも……」

「あぁ……同じだ。俺達は……」

 

「……じゃあ、溶けない内に頂きます……」

 

マリーダはスプーンに掬ったアイスクリームを口にすると一段と瞳を輝かせた。

 

「……っ!……美味しい……!こんなにアイスクリームが美味しいと感じられるなんて……!」

 

「あぁ、美味い」

 

これまでの距離と時間を埋めるかのような一時が、アイスクリームを一口、一口噛み締める二人に流れる。

 

幾度か食べて、マリーダはまた嬉しげな表情をしながらヒイロに掬ったアイスクリームを向けた。

 

「ヒイロ……こういうのも、一度してみたかったんだ……ほら、あーん」

 

「……?!!」

 

先ほどから続くマリーダからの想像を超えたその行動に、ヒイロは再度驚愕に値する動揺を覚えた。

 

好意を核とするヒイロの驚愕ぶりに、ある程度の心理状態を感じられるマリーダはより嬉しげに表情を柔らかくする。

 

「くすっ……もったいぶることもない。それに……ここには私達だけだ」

 

「っ……」

 

「はい……あーん…………は、早く食べろ!わ、私だって恥ずかしいんだからな!」

 

「っ……了解した」

 

「うん!はい……」

 

「あーん」をヒイロは行動で示し、マリーダからの一口を食べた。

 

こそばゆいにも程があるモノを感じながらも、今度はヒイロが無言でマリーダに掬ったアイスクリームを差し出す。

 

「くすっ、今度は私か……いいぞ、別に……あーん……」

 

照れくささ全開になりながら顔を火照らせ、今度はマリーダがヒイロからの「あーん」をぱくっと受け入れた。

 

「……マリーダ……感じが今までにない感じがするな……」

 

「あぁ。私自身にも解る……ヒイロと再会できてこうしていられることに、心がはしゃいでいる……だが、やはり私が『あーん』した方が可愛いヒイロが見れていいな……ほら!」

 

ヒイロはもう一度マリーダの「あーん」を受け入れ、アイスクリームを一口含んでから呑み込む。

 

「……マリーダ……そろそろ普通に食うぞ。俺達がこんなやりとりしていたら直ぐにアイスクリームが負けて溶ける……」

 

「ヒイロ……もしかしてそれはジョークか?」

 

「……俗に言う『激アツ』とか言う空気だ」

 

「ぷっ……あっはははは!ジョークそのものじゃなく、ジョークを言うヒイロが可笑しいぞ!それに、ヒイロから『激アツ』なんて言葉が出るなんて想像もしなかった!!」

 

普段声を上げた笑いをしないマリーダがヒイロのらしくないジョークを前に笑った。

 

ヒイロもそんなマリーダの意外な一面を見て、表情を綻ばせながら改めてアイスクリームを食べ始めた。

 

マリーダもまた口元の笑みを絶やすことなくアイスクリームを食べる……振り返るこれまでの過酷たる日々を思えば、次元さえも違えるような暖かな時間だった。

 

「食べるアイスクリームは冷たいが、今私達がいる空間は暖かいな!」

 

「あぁ……」

 

その後、ヒイロはソファーでマリーダの膝枕の上でこれまでの疲労を癒すように熟睡し、マリーダにしか見せない一面をさらけ出していた。

 

マリーダはそっと熟睡するヒイロの頭に手を置きながら、感じ取れる範囲でヒイロのこれまでの闘いの感覚を感じ取り、穏やかに囁いた。

 

「ヒイロ……随分と闘って来たんだな。ある程度は私にも感じられる。今はゆっくり休むといい……私もヒイロとこうしていられるだけで忌々しい後遺症のコトを忘れる……ヒイロと居れるだけで私は嬉しい……ありがとう……」

 

その言葉に反応するかのように僅かに体を動かすヒイロにマリーダはくすっと笑い、またヒイロの頭を撫でた。

 

 

 

帰宅したギルボアを迎えてのディナーの時間帯になり、マリーダはギルボアとサント婦人から料理のレクチャーを受けながら料理に励む。

 

時折失敗する場面もあるが、戦闘という世界観から逸脱したその日常的な微笑ましい構図の様子がヒイロの目に映る。

 

ヒイロはなつかれたティクバ達とトランプの遊び相手をしながら料理が出来上がるのを待っていた。

 

「兄ちゃん、メテオなんとかのガンダムのパイロットなの?!!マジで!!?すっげー!!!じゃあ、メテオなんとかのガンダムに乗ってるんだ!!?でも、メテオなんとかってOZにやられちゃったんだよね?それでも兄ちゃんはスペースノイドの為に闘ってくれてるの?!」

 

「あぁ……半分壊れてはいるが、パラオのドックにある。俺は今でも闘って……いるのさ。ブラック・ジャックだ……」

 

案の定、身を乗り出してヒイロに質問を出してくるティクバにヒイロは淡々と答えながらさりげなくブラック・ジャックに勝つ。

 

「あぁー!!また兄ちゃん、勝った!!うー……もーいっかい!!」

 

「いいだろう……」

 

「だろう、だろう!」

 

「兄ちゃん、弱い……」

 

「うるさいなー……相手はが、ガンダムの兄ちゃんだぞ!!そりゃ強いよ!!」

 

「ティクバ。ガンダムとトランプは関係ないと思うがな……」

 

「ううっ……!!」

 

そして食卓を皆で囲んでのディナーの時間になり、団欒の時が流れる。

 

マリーダが自ら作ってみたパエリアを口にしながら幾度かヒイロに視線をちらつかせて感想を聞く。

 

「どうだヒイロ?私が作った料理は?」

 

「あぁ、どれも美味い……本当に初めてとは思えん」

 

「そ、そうか……なら、よかった」

 

ほっとした様子と嬉しげな表情を浮かべたマリーダにサント婦人が一言を入れた。

 

「マリーダちゃん、頑張ってたからね。プルちゃんと一緒で料理のセンスあるかもね」

 

「そんな……姉さん程じゃ……そういえば姉さんは今?パラオに居るのは解るが、ガンダムに乗って意識を失ったって聞いた……」

 

マリーダがプルの身を案じた事にギルボアがフォカッチャをつまみながら答えた。

 

「プルはガランシェールで安静にしてもらってるよ。本当ならここに連れてきてあげたいんだけどな。今頃キャプテン達と食事してるんじゃないか?」

 

「今日のところは後遺症は起きてはいないが……姉さんにもあの苦しみを共有してしまうと思うと……一緒にはいられない」

 

「プルは……ユニコーンガンダムの力を解放させた影響から気を失っている。何らかのニュータイプ的な負の負担がかかれば危険だ……マリーダの気遣いは正しい。だが、今はディナーだ。マイナスな話題は余り似つかわしくない」

 

「そうだな……すまない、私が言ったばかりに」

 

「気にするな。マリーダ自身は悪くない。悪いのはマリーダをそうさせたヤツだ」

 

「ありがとう」

 

「ねー、ねー!マリーダ姉ちゃんとヒイロ兄ちゃんて付き合ってるの?!」

 

「え?!」

 

「……っ!!!」

 

ティクバの増せた質問に対してヒイロとマリーダが赤面して絶句する中、ギルボアが父としての一括を与えた。

 

「ティクバ!!年上に対してマセタ事を聞くんじゃない!!」

 

「う……ごめんなさい……じゃ、じゃあ出会ったきっかけくらいは聞いてもいいでしょ?」

 

「俺達が初めて旧地球連邦とOZを攻撃した際、大気圏での戦闘で出会った。俺のガンダムとクシャトリヤのな。それから俺達の仲間の所で世話になり、その時に初めて会話した……」

 

ヒイロはティクバにそういうと、ハンバーグステーキに手を付け食べ始めた。

 

「へぇ~!!でも、連邦に攻撃してたのになんでマリーダ姉ちゃんと戦ったの?」

 

「それは当時根強くあった……いや、そうだな……ガンダムだったからだ。ガンダムは基本、連邦のMSだからな」

 

「そっか!最近はガンダムはスペースノイドのヒーローって思えちゃってるけど、元々連邦の機体だもんね!」

 

「……俺達のガンダムは反抗の象徴だ。反抗のな」

 

スープを飲み始めたヒイロにマリーダが一言かける。

 

「時にヒイロ……食事の後に時間はあるか?」

 

「あぁ。トムラには一言言って来ている。問題はない」

 

「え?!告白?!」

 

「こら!!ティクバ!!父ちゃんがさっき言ったろ?!」

 

 

 

食事を終えたヒイロとマリーダは、近所にある教会跡への道のりを歩く。

 

「ヒイロ……ヒイロは自分にとって光と言えるような存在は意識したことはあるか?」

 

「光?」

 

「あぁ。光のような存在……」

 

「光のような存在か……俺にとっての光はGマイスターとしての存在意義……闘い続ける信念が光だ」

 

「自らが持つ想いが放ち続ける光……か。流石だ。ヒイロにはいつも感服させられる」

 

「いや、マリーダが思っているほど大したヤツじゃない……ただ誰も覆せない世界の負を破壊したいと思っているに過ぎない」

 

「謙遜するな。本当にヒイロは凄いヤツだ……本当に……」

 

二人が向かった教会は、かつてパラオが地球圏外のアステロイド・ベルトにあった頃、時の宇宙開拓者達によって建てられたものだ。

 

太陽の光すら届きにくいアステロイド・ベルトにあった頃のパラオには僅かな光を求め、神にすがった。

 

誰もが光を欲していた。

 

その記憶達が満ちる空間にヒイロとマリーダがたどり着くと、マリーダは十字架を見上げながら再び光について語り始めた。

 

「人は光がなければ生きてはいけない……ヒイロは存在意義とか言っていたが、私が聞きたいのは光のような人の存在があるのかどうかだ。私にはいる……私を夜の街から救ってくれたマスターがな」

 

「マスター……ジンネマンか」

 

「あぁ。マスターが今の私をくれたんだ。マスターと出会っていなければ、当然ヒイロと出会うコトもなかった……」

 

マリーダはそう言いながら内陣に上がり、ヒイロに振り替えってみせる。

 

「っ……!!」

 

改めて見惚れてしまうような綻んだマリーダの表情にヒイロは思わず言葉を詰まらせた。

 

いつになく、これまで以上に魅力的にヒイロの瞳に映り込んだマリーダはヒイロを釘付けにしながら告げる。

 

「ヒイロ……お前も私にとって必要な光だ。それも今までに感じた事がない光だ」

 

「俺が……光……」

 

「そう……光。境遇を同じくし、心に安らぎや希望をくれる異性だ……こうしていられるだけでも心強い」

 

マリーダの微かに浮かぶ口元の笑みと共に、彼女の手が差しのべるかのようにヒイロにかざされ、ヒイロもまたその手に自らの手を向かわせた。

 

手を取り合い、二人の視線もまた重なった。

 

「……俺自身がこのような感情を抱いて行動できるのは……マリーダだけだ」

 

そして今度はヒイロがマリーダの元に向かい歩み寄り、彼女と面と向き合う。

 

「ヒイロ……行く宛てがなければ、パラオで暮らすといい。私はお前と居たい……私はお前が愛しい……」

 

「……俺もだ。マリーダ……だが、まだ闘いは続いている。俺は闘い続ける。今に至る争いの歴史に終止符が打たれれば、その時はパラオに身を置く……」

 

「わかった……」

 

マリーダは上目線上からのキスをヒイロにねだり、ヒイロもまた静かにそれに答えてキスを重ねた。

そしてヒイロとマリーダは、時間をかけて互いの想いを確め合っていった。

 

 

 

ヒイロとマリーダは再びサント家宅に戻り、ギルボアの手作りクッキーの振る舞いを受けた。

 

ヒイロは憧れの眼差しを向けるティクバからクッキーを貰い少しの笑みで答え、マリーダは可愛らしく歩み寄るティクバの妹からクッキーを貰い、頭をなでると手作りクッキーをかじった。

 

戦場とはかけ離れたような日常がパラオにあることを実感したヒイロは、手作りクッキーを口にしながらティクバ達に微笑むマリーダを見て、彼女の居場所もここであることを確認した。

 

一方のアディンやプルもまた、アディンが買ってきたパフェを二人で食べながらガランシェールの寝室で穏やかな一時を過ごす。

 

仮初めの平和の一時ではあるが、今だけでもという想いを二人のGマイスターは過らせていた。

 

だが、それを赦さぬがごとき現実が二方向よりパラオに接近していた。

 

「目標ポイントに到達まで約10マイル!!リゼル・トーラス部隊を先行させながらプライズリーオー部隊を発進させます!!」

 

高速宇宙戦闘艦の艦隊よりMDやMSが発進する中、カスタムリーオーのレオールとレオンが発進する。

 

彼らには前線での単独行動の免許があった。

 

「後から来るロッシェには悪いですが、先にパラオの狩りを始めさせていただきますよ……参りましょう、ブルム!!!」

 

「パラオごと沈めてやろう、クラーツ……!!!くははははは!!!」

 

ビームランチャーを装備したレオンに搭乗するブルムがパラオ破壊を宣言すると、クラーツが補則する。

 

「ブルム。それはミズ・マーサの私兵達の仕事になりますよ……ククク、彼女もまたえげつない……!!!」

 

もう一方の方角よりパラオに接近する艦影の姿があった。

 

それはネェル・アーガマ型二番艦・グラーフ・ドレンデという名の黒いネェル・アーガマだった。

 

指揮を執るのはヴァルダー・ファーキルというOZプライズの軍人気質の男であり、その鋭い眼光や佇まいからはあからさまな狂気を放っていた。

 

「進路はこのままだ……先に我がOZプライズの先行隊にジャブを仕掛けて貰う。目的のガンダムを確認したら、もしくはある程度の戦闘時間が流れたらフェイズ2に以降する。ククク、MO-5を沈めた時を思い出すな……!!!」

ヴァルダーいわく、彼こそが、かつてアディン達が居た資源衛星、MO-5の破壊を実行した張本人の男だった。

 

オペレーション・プレアデス以降、マーサの私兵側と結託して再びその狂気をパラオに場所を移して迫る。

 

時を同じくし、パラオに長期潜入していたマーサの関係者の一人がギルボア宅のマンションを見ながら内通行動をしていた。

 

「はい……間違いなく、ガンダムのパイロットです……やはり被験体マリーダ・クルス……いえっ、プルトゥエルブと密接な関係繋がりがあったようです。マークしていた偽装貨物船も入港し、半壊した飛行タイプのガンダムを…………はい、時はようやく満ちましたよ……では」

 

パラオに戦火の足音が静かに、かつ確実に忍び寄っていた。

 

 

 

To Be Next Episode

 

 

 

 次回予告

 

 ウィングゼロとデルタカイ。

 

 現存する宇宙世紀最強の機体同士の模擬戦闘試験の計画が進む。

 

 テストパイロットのキルヴァとリディがいがみ合う一方でデュオと五飛は危惧を感じてやまない。

 

 その頃、ヒイロ達はパラオでの安らぎのひと時を過ごし、マリーダもまたパラオの女性パイロット・テルスと共にサント家で料理に励んでいた。

 

 しかし、マリーダの後遺症の発作を期にその平穏が徐々に崩され、遂には忍び寄っていたOZプライズによる本格的なパラオ襲撃が開始される。

 

 パラオは瞬く間に戦場となり、ヒイロは療養するマリーダに再び戦場へと赴くことを告げて出撃する。

 

 その戦場では2機のOZプライズ新型機が猛威を奮い始め、次々にネオジオンの兵士達を蹂躙していく。

 

 出撃したテルスにも2機は容赦なく襲い掛かかり、弄ぶように蹂躙する。

 

 だが、その絶体絶命の中、新たなガンダムの力が介入した。

 

 

 次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY エピソード31「ジェミナス・グリープ、出撃」

 

 

 

 

 



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エピソード31 「ジェミナス・グリープ、出撃」

2年以上にわたり大変長くお待たせ致しまして誠に申し訳ありませんでした。

 第二派のスランプや仮面ライダーダブルの二次小説開始、二次小説キャパオーバー(Xやオルフェンズ等他にやりたいガンダムが重なる)、酷道とキャンプの目覚めなど色々引き起こってしまった所存です。

 ここへ来てようやくモチベーションが元通りになりました。

 
 ギリギリ金曜日ですが、投稿いたします!!!

 本当に長くお待たせ致しました!!!




OZプライズ管轄 宇宙要塞・バルジ

 

 

 

数隻編成の高速宇宙戦闘艦がバルジより発進していく。

 

その内の一隻に禁忌のガンダムであるウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイが搭載され、被験パイロットに選定されたキルヴァとリディが乗艦していた。

 

艦載格納庫に横たわるように格納されたウィングガンダム・ゼロを見ながら、相変わらずの狂喜の笑みを浮かべて語らう。

 

「キッヒヒヒヒ!!コイツがウィングゼロか!!間近で見ると高揚感がぱないぜっ!!!話によるとコロニーを壊滅させる性能があるんだってなぁ……!!!たまんねーなっ、デルタカイの兄ちゃんよぉ!!」

 

キルヴァはテンションを高くしながら、対象的に手摺にうつ向くリディの肩に手を回した。

 

「……気安く触れるな……馴れ馴れしい……」

 

「あぁ!!?んだ、てめぇえっ?!!」

 

キルヴァの腕を振り払うリディの素振りに、キルヴァは即座に苛立ちを露にし胸ぐらを掴んだ。

 

するとリディは虚ろな眼光をリディに当てながら話始めた。

 

「俺はな……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムさえ破壊できればいいんだ……ガンダムデルタカイがそう俺に示すんだ……ヤツらのガンダムの破壊を、力の破壊をな……!!!」

 

「示すぅ……?!!意味不明なコト抜かすなぁっ!!!」

 

「解るさ……ウィングゼロはどうかは知らんが、少なくともシステムは同系統だ。ガンダムデルタカイは戦いという行動の意義を示す……力という力の破壊が戦いの根底に尽きる心理だっ……!!!」

 

リディはキルヴァの手を潰しかかるように握りしめ、しばらく眼光同士を膠着させる。

 

すると、意表を突き、攻撃的だったキルヴァの方が先に手を離した。

 

「へっ……そうかい!!!そうかい、そうかい……!!!ならその心理とやら、ウィングゼロでも見させてもらうぜ……!!!同じゼロシステムになぁ……!!!模擬戦……覚悟しとけよ……!!!」

振り返りながら威圧と慢心をばらまいてその場を後にしていくキルヴァ。

 

このやり取りを見ていたミヒロがリディを気遣いに寄り添い、リディもまたそれに気を許すように答えた。

 

「リディ……あんな強化人間なんかの図に乗ったらダメよ。あなたのペースがかき乱される」

 

「大丈夫だよミヒロ。むしろ心理をヤツに教えてやった。かき乱されてはいないよ……あぁっ、でもヤツと対峙した時、頭に、頭の中に『コロセ』って声がずっとしていた……俺……アイツ、殺しそうだ。あはは、ハハハハハハ!!!ハハハっ……ハハハ……ミヒロ……狂気に呑まれるよ……狂気にぃ……!!!ミヒロぉっ!!!」

 

「リディ……!!!」

 

ミヒロは話す中で次第に情緒不安定になっていくリディを母性的な衝動のままに抱き寄せた。

 

そのリディの精神状態はゼロとナイトロの両システムに呑まれ、ガンダムの生体端末と墜落している証拠であった。

 

(リディは……OZの、いえ!!OZプライズのせいでガンダムデルタカイの為の道具扱いになってしまった……私が居なきゃ、支えなきゃパイロットの時以外のリディはダメなんだ……!!)

 

今のリディに対し、恋愛感情の他に母性にも関わる感情も抱くミヒロは、怯え始めたリディの頭を撫でながら、より抱き締めた。

 

キルヴァは少しチラ見しながら去り歩きながら鼻で笑う。

 

「ベタベタしちまって……ま、俺はロニをメチャクチャに頂いたケドナ!!キヒヒヒヒヒ!!さぁっ……て……」

 

キルヴァはウィングゼロの側面を歩きながら持ち前の狂気をかり立たせ、欲望の野心を吐いた。

 

「破壊のガンダムってんだから、この俺様が破壊の限りを尽くしてデータに貢献しないとなぁ……!!!一度やってみたかったんだ……あらゆるモノの破壊をなっ!!!キシッヒヒヒヒヒヒハハハ!!!」

 

狂気を乗せた艦隊が月の方面を目指す一方、バルジの牢獄室に捕虜とされているデュオと五飛がこれから始まる狂気の模擬戦実験を危惧しあう。

 

デュオは寝そべりながら薄暗い天井を眺め、呆れた口調で五飛に投げ掛けた。

 

「はぁ~あっ……プライズの連中、遂に馬鹿ハッピャクなコトおっぱじめるぜ、五飛……ウィングゼロとデルタカイで模擬戦だとよ……こりゃ、他の部隊は勿論、周囲のコロニーや資源衛星が吹っ飛ぶぜ!!!OZの連中がどーなろーが知ったこっちゃねーけど、コロニーが巻き込まれんのはゴメンだ!!!」

 

対する五飛はあぐらの姿勢で壁に背もたれをしながらOZプライズ側の行動を見下すように否定した。

 

「……つくづく馬鹿な奴らだ。あのガンダムのシステムは必ず適性がある。簡単に言えば並外れた強固な精神力の有無だ。これが無ければ簡単にシステムに呑まれる」

 

「はいはい、どーせ俺は適性は有りませんよー」

 

「フン……別に貴様らを卑下はしていない。むしろ評価に価する。本当に精神が弱ければ精神崩壊、良くてシステムの生体端末になり果て、最悪死に至る」

 

「ったく、じーさん達も大層な代物ん造りやがったぜ。ケド、まっ……皮肉にも俺達のキリ札でもあんだよな……」

 

デュオは喋りながら寝そべった状態から反動を使って上体を起こすと、ため息混じりに再び天井を見つめた。

 

「あーあっ!!俺達もいつまでモルモット君してりゃいいんだかなー!!ったくよー!!」

 

「反逆者をこれ程長い間生き延びさせているというのは、軍を見ても俺達のような存在が希少という事だろう……俺達にもいずれ転機は来る。今は堪え忍ぶのが最善の抵抗だ。ラルフのヤツもその為にじっくりと今に至るまでに根回しをしている」

 

そう言いながら五飛はあぐらのまま姿勢を正し、精神統一の瞑想に入った。

 

「根回し……かっ……まだまだ気長に行くっきゃねーかっ!!頼むぜラルフ!!」

 

 

 

パラオ周辺宙域

 

 

 

OZプライズとマーサの私兵団がパラオを目指し、刻々と距離を近づけていく。

 

目的は長期潜入していたマーサの私兵の内通により確定した、マリーダとヒイロの確保かつユニコーンガンダムの鹵獲だ。

 

MD機であるリゼル・トーラスが高速先行していく中、後方からプライズ・リーオーが追従する。

 

尚、リゼル・トーラスのそのスピードは人間が絶対に耐えきれない域の加速をかけている為、決して追い付く事はない。

 

あのシナンジュよりも速いのだ。

 

無論、先行偵察を兼ねての先制攻撃の為、追い付く事に焦る必要もない。

 

更に言えば、機械であるが故にニュータイプが感覚を関知する事もない。

 

ニュータイプとして敵意ある嫌悪感を感知することが出来るプルも例外ではなく、ガランシェールの寝室でアディンと一緒に居れる喜びに浸り、彼の腕に抱きついて夢中になっていた。

 

「アディーン……ふふっ♪」

 

「な、なんだよ、プル?は、離れろよな」

 

「誤魔化したってダメだよ☆アディンが嬉しがってる気持ち、あたしにはわかっちゃってるんだから~」

 

「くっ……あ、相変わらずいっつもそれで調子が狂うぜ~……ったく~!!すっかり元気になっちまいやがって!!」

 

「あたしはいつも元気だよ~!!」

 

更にピッタリとくっついてくるプルに対して、アディンもまたまんざらでもない様子だった。

 

その一方で、マリーダがその日の二回目になるサント家のクッキー作りに参加し、皆に振る舞っていた。

 

サント家と親交があるネオジオン兵士のパイロットとメカニックの夫妻であるテルスとジェトロも加えての一層賑やかな振る舞いの一時になっていた。

 

「サンドイッチとクッキーじゃ、ジャンルが違うけど、テルスもマリーダ中尉の味を見習って欲しい美味しさだよ。テルスも美味しさの威力で僕に衝撃与えて欲しいかなー……」

 

「えぇ?ジェトロー、ちょっとヒドイヨー。いつも頑張って想い籠めてるのに……」

 

「テルス……流石にこの前のサンドイッチの具は砂糖入れすぎだったって……でも、籠めてるのはいつも伝わっているし、今日は大丈夫だよ!」

 

すると上官にもあたるマリーダが付け足すようにフォローを入れた。

 

「テルス少尉のクッキー、今日初めて食してるが、ジェトロ機付き長が言うような違和感はない。普通に美味しく頂ける……」

 

それを聞いたテルスは表情を明るくさせてジェトロにその喜びを主張した。

 

「本当ですか~!?ありがとうございます!!……だって!ジェトロ!マリーダ中尉のお墨付きだよ」

 

「ははは!」

 

「マリーダ中尉も今度は一緒にサンドイッチ作りましょうよー。楽しいですよ~」

 

「そうだな。今日初めて料理やお菓子を作ってみたが、充実感があった。またサンドイッチは改めて作ろうか、テルス少尉」

 

「はい!また作るとき連絡しますね」

 

「うん、了解した!また頼む……さ、ヒイロの感想は?」

 

テルスとの会話の流れに繋げるようにマリーダはヒイロを見つめながら感想をねだる。

 

ヒイロもまたそのクッキーをかじり、静かに感想を言った。

 

「……うまい。さっきの料理もそうだが、初めてとは思えない……また食いたい」

 

「そうか……!!」

 

マリーダはヒイロのその一言だけで、いつにない笑みの表情が彼女に広がった。

 

その笑みを見たヒイロは、戦いの一線から引いている今のこの環境こそが、彼女の本来の在るべき環境なのだろうと思い、もう一言を言った。

 

「作ったクッキーもうまいが、今のマリーダの笑みもまたいい……」

 

「ヒイロ……!!」

 

赤くなるマリーダもまた、本来の乙女の在るべきカタチを示しているかのようだった。

 

テルスもそのやり取りに笑顔で言う。

 

「ふふふっ、マリーダ中尉とヒイロ君お似合いですね!きっと私達夫婦みたいになれますよ!」

 

「テルス少尉……!!」

 

「ひゅー!!マリーダ姉ちゃん、赤くなってるー!!」

 

「なってるー」

 

「るー」

 

ティクバのからかいの一言に弟と妹も兄の一言に続くと、当然の如くマリーダは赤くしつつもティクバを叱咤した。

 

「ティ、ティクバ!!大人の女性をからかうな!!」

 

「ご、ゴメンなさい!!」

 

皆の笑いに包まれる団らんの空間の中、ギルボアもまたマリーダの料理とクッキーを誉めた。

 

「はははは!マリーダ、息子にもっと言ってあげてくれ!!しかし、さっきの料理も初めてとは思えなかったからな!いいセンスあるんじゃないか?」

 

「そうか……私自身もこんな……うっ!!くぅっ……はっ……すまない、席を外す……!!」

 

「マリーダ姉ちゃん??」

 

「!!!」

 

突然蒼白めいた表情で席を立ち、ティクバに返答する余裕もなく去りはじめたマリーダを見たヒイロとサント夫妻は、直ぐにシナプス・シンドロームの発作と感じた。

 

「……マリーダっ!!」

 

場の空気が一変した中で、ジェトロがギルボアに今のマリーダの豹変に質問をせずにはいられなかった。

 

「サントさん、マリーダ中尉は……?!」

 

「以前、連邦サイドに拉致された時に酷い人体実験を受けてな……その後遺症だよ……」

 

「人体実験……!!!」

 

席を外したヒイロは苦しみを押さえ込みながら必死に廊下を歩くマリーダに向かい、彼女に添いながらサポートした。

 

「ひ、ヒイロ……こ、来なくてっ……いい……!!私は……!!」

 

「ムリをするな。シナップス・シンドロームがきたんだろ?それに、子供達の前で苦しむ姿を晒さないように徹している……必死にしているマリーダを俺は放ってはいられない!!」

 

「ダメ……だ、ヒイロに……せっかく、せっかく和んでいた私の……印象を崩壊させたく……ないっ……はっきり言って……苦しむ私を見られたくない……!!!」

 

「マリーダ、俺はそんなマリーダも受け入れている!!これまでにも一人で発作に耐えてきたんだろ?!今は……俺がいるっ!!!」

 

「ヒイロ……!!!」

 

マリーダはヒイロのその一言に、押し寄せる激痛の中で一層惹かれた感情を覚えた。

 

彼女の部屋に入り、ヒイロが一気にドアを閉めると、マリーダは張り詰めたモノが弾けたかのようにヒイロを振り払ってベッドに飛び込み、断末魔とも呼べるような悲鳴と叫びを入り乱しながらもがき苦しむ。

 

時間経過的に見て発作の激しさに落ち着きを見せはじめていたかに思えたが、今のマリーダに押し寄せる発作は初期の発作のような激しさだった。

 

否、それを超える苦しみが彼女を圧迫させていた。

 

今引き起こるシナップス・シンドロームはヒイロにマリーダへの医療対処の余地を与えることなく、彼女を暴れ苦しめさせる。

 

「マリーダっ……!!!」

 

想う女性が悲鳴を上げながら、狂ってもがき苦しむ様子に向き合うのは容易な事ではない。

 

無論、マリーダからしても本来であれば想いを惹き合う相手に今のような自分を晒したくはなかった。

 

ヒイロの強靭たる精神力とマリーダを想う気持ち、受け入れる気持ちが、彼女を苦しめるシナップス・シンドロームの現実に立ち向かわせる。

 

ヒイロは苦しむ彼女の右手を握りしめ、共にシナップス・シンドロームと闘う意志をマリーダへ示そうとし、サント夫妻もまた子供達に極力マリーダの苦しむ声が聞こえないように配慮し続けてくれていた。

 

和やかな一時が壊れた事に追い討ちをかけるかのように、接近していたリゼル・トーラス部隊がパラオに向けて一斉にメガ・ビームランチャーを放つ。

 

注ぎ込まれるように向かった小規模のビーム渦流群がパラオの岩盤壁に直撃すると、パラオ全体に震度3クラスの地震のような振動が響き渡り始めた。

 

ヒイロやギルボア、ジェトロとテルスの両夫妻は在宅の最中の攻撃を直感した。

 

「?!!パラオに振動……!!?」

 

「この衝撃は……!!?まさか攻撃……?!!」

 

「あなた……!!」

 

「パラオが狙われた?!」

 

衝撃の直後、サイレンがパラオ全体に発令され、この状況と相まってサイレンから異様な戦慄を覚えさせる。

 

「こわい……」

 

「おっかい~……」

「大丈夫だ!!父ちゃんに、ヒイロ兄ちゃんがいる!!悪い連邦やOZなんかやっつけてくれるよ!!」

 

怖がる弟と妹に勇気づけるティクバを見たギルボアは、しばらく会えなかった間の長男の成長ぶりに、熱い感情を感じた。

 

ギルボアはティクバの両肩をしっかりと持ち、状況を託した。

 

「ティクバ!!これは攻撃を受けたアラートのサイレンだ!!父ちゃん、行かなきゃならん!!長男のお前が、しっ……かりと家族を守るんだぞ!!」

 

ティクバがこくんと頷くと、ギルボアはパンとティクバの肩を叩いた後に、サント夫人に抱擁して出発を告げる。

 

「……じゃ、行ってくる!!」

 

「必ず帰るんだよ、あなた!!」

 

ジェトロとテルスもまた、表情を変えて先にサント家宅を後にする。

 

「では、ギルボア少尉!!先に行ってます!!」

 

「あぁ!!二人共気をつけてな!!」

 

「はい!!行こう、テルス!!」

 

「うん!!」

 

そして出発前にギルボアがマリーダの部屋に入り、彼女に付き添うヒイロへとマガニーとハサンの診療所の場所と連絡先のメモを渡す。

 

「ヒイロ!!有事の際の医師達の連絡先だ!!携帯データベースも渡しておく!!」

 

ヒイロは頷きながらギルボアからのメモと携帯データベースを手にした。

 

 

 

リゼル・トーラス部隊が撃ち続けるビーム渦流群は絶えずパラオの岩盤壁を攻撃し続ける。

 

この衝撃は、攻撃を受けている岩盤壁付近の宇宙港に停泊中のガランシェールにはよりダイレクトに伝わる。

 

ジンネマンは身を乗り出す勢いでブリッジ入りし、ライトフードを食べながら持ち場に待機していたフラストやアレクに叫ぶ。

 

「敵襲か?!!今いるメンバーだけでもいいっ!!総員第一種戦闘配置だっ!!!」

 

「えぇっ?!!我々だけですよ?!!」

 

「そんくらいはわかっている!!直ぐに備えろということだ!!本当の出撃は揃ってからでいい!!」

 

「了解!!!」

 

船内で過ごしていたアディンとプルもまたこの事態に動こうとするが、意識が回復して間もないプルをアディンが止める。

 

「プル!!待てって!!」

 

「だって、パラオが攻撃受けてるんだよ?!あたしもユニコーンガンダムで力になりたい!!」

 

「ダメだって!!一度意識が飛ぶ程の力をプルはユニコーンガンダムで出してるんだぜ?!ハサンのおっさん達からも止められてるんだ!!みんなで心配してるんだからさ!!」

 

「あたしだって解るよ!!でも、せっかくアレナさん達があたしに託してくれたガンダムなんだよ……それにガンダムの力じゃなきゃダメなヤツも近づいてるんだよ!!嫌な感じが四つ!!!」

 

「何だって!!?」

 

この時、OZプライズのクラーツとブルムのカスタムリーオー、レオールとレオンが接近していた。

 

二人揃っての不敵な薄ら笑いは、遊戯感覚で戦闘を捉えているかのようだ。

 

更にプルが言う存在の三人目は、アディンの人生を狂わせた敵の一人であるヴァルダーの強襲揚陸艦グラーフ・ドレンデも接近する。

 

「まずは確定したニュータイプを炙り出すか拉致。そして絶対的な力でパラオに致命傷を与える……!!!」

そして、上半身に真紅の服を纏い、かつ巨大な翼を羽ばたかせるトールギス・フリューゲルが接近する。

 

機体を駆るはOZプライズのエース・ロッシェだ。

 

「パラオにいるという新型のガンダム、是非とも剣を交えたいものだな……!!!」

 

これらの存在達は、プルが感覚を感知できる範囲にまで接近していたのだ。

 

確かにプルはガンダム無しでは厳しい戦況が迫っている事を感覚的に確信していた。

 

するとアディンはプルの両肩に手を置いて確かめる。

 

「ガンダムの力……ガンダムの力ならいいんだな?!!」

 

「え?!!でも、あたし以外は二度とユニコーンガンダムは起動出来ないって……!!ヒイロのガンダムも修理中なんでしょ?!」

 

「いや……確かめないといけないけど、もう一つあるぜっ……!!!ディックさんとこに行ってくる!!!だから、プルは今一度大人しくしていてくれ!!!」

 

そうプルに言い聞かせると、アディンは直ぐに寝室を飛び出した。

 

「アディン!!」

 

プルは走り去るアディンへと手を伸ばしたが、直ぐにその手を胸元に置いて、迫る圧迫感を危惧した。

 

「アディン……危険だよっ……やっぱり近づいてるヤツラ、危険だよ……!!!」

 

 

 

アラートが鳴り響く中、自衛の為にパラオ内の各戦闘要員達が展開し、次々とギラ・ズールやギラ・ドーガ、ドライセン、ガザC、バウ、ズサ、ガルスK、ザクⅢ、リゲルグ等の機体群へと搭乗していく。

 

「パラオが直接攻撃を受けている!!!出撃できる者から出撃、攻撃してくる目標を撃破しろ!!」

 

「まだ敵が判らないのか!!?」

 

「おおかた、OZか連邦残党と相場は決まってる!!!」

 

「整備中に来やがって……なら、三番機のギラ・ドーガを出すぞ!!!」

 

「ザクⅢ、出す!!!」

 

「ナンバー3、5、8、14、24各ゲート、開けぇっ!!」

 

戦闘態勢に移行していくネオジオンの兵士達の声が錯綜する中、各機がモノアイに眼光を灯しながらブースターを点火させて出撃していく。

 

宇宙空間に各機体が投じ、サブブースターで態勢を整え、手にしたビームマシンガンやビームライフル、ビームバズーカ等のウェポンを構える。

 

だが、その直後に小規模のビーム渦流群が襲いかかり、瞬く間にギラ・ドーガ4機とガザC4機、ガルスKが破砕された。

 

「いきなりかよ?!!っく……敵機群、高速接近!!!各機、一斉射撃っ!!!」

 

ビームマシンガン、ビームライフル、ビームバズーカ、ミサイルランチャー等の火器が一斉に唸り、急接近するリゼル・トーラス部隊を追従する。

 

だが、セオリー無視の高速度で駆け抜けるリゼル・トーラス部隊は全く直撃をさせなかった。

 

直ぐに射撃攻撃は反撃の形で再度返ってくる。

 

一小隊3機編成のリゼル・トーラス達は、シュバッと超高速の△型軌道に散りながら一気にネオジオンサイドのMS部隊へ舞い戻り、メガ・ビームランチャーを放つ。

 

唸る中小規模のビーム渦流がギラ・ズールとギラ・ドーガ、リゲルグを直撃破砕させる。

 

更に可変したリゼル・トーラスは寸分の狂いなく、ギラ・ドーガやズサ、ガザCにメガ・ビームランチャーを直撃させ、更に斬り掛かろうとするバウにレフトアームのビームキャノンの高速射撃を浴びせた。

 

別のリゼル・トーラスにはガザDとギラ・ドーガがビームライフルとビームマシンガンの連発、連射撃を撃ち込み、それに続いてズサがミサイルランチャーを放った。

 

だが、その射撃はかわされ、メインカメラを点滅発光させたリゼル・トーラスがレフトアームを突き出す。

 

そのリゼル・トーラスのMDシステムが選定した機体に向けてビームキャノンの連続高速射撃が放たれ、標的にされたガザDとギラ・ドーガが砕き散らされ爆発する。

 

同時に僚機のリゼル・トーラスが、迫るミサイル群に対して放ったメガ・ビームランチャーを左右に刻み振りながらミサイル群を一掃した。

 

ミサイル群を放ったズサもまた、そのメガ・ビームランチャーのビームに抉られるように吹き飛ばされ爆砕する。

 

その最中、メガ・ビームランチャーを放ち終えたリゼル・トーラスに向け、ギラ・ズールが放つビームマシンガンのビーム射撃が降りかかった。

 

撃ち注ぐビームはリゼル・トーラスの装甲を中破させ、更にはメガ・ビームランチャーの武器破壊の方向に導いた。

そしてシュツルムファウストを突き当てるように突っ込んでリゼル・トーラスを至近距離射撃で破砕させてみせた。

 

別の箇所ではカスタマイズされたギラ・ズールがビームトマホークを振りかざし、一気にリゼル・トーラスの胸部へと斬撃を打ちこみ、また別の箇所ではザクⅢがビームライフルの連発射撃を浴びせかけ、リゼル・トーラスを破砕させていた。

 

カスタマイズされた蒼いリゲルグもまた、狙い定めたリゼル・トーラスにビームライフルを撃ち浴びせ、更にビームナギナタの斬撃を止めに見舞って斬り飛ばす。

 

だが、次の瞬間にビームキャノンの連続射撃を受けて中破し、パラオの岩壁に激突した。

 

リゼル・トーラス部隊は僚機認識した機体同士でフォーメーションを組み合わせ、再度メガ・ビームランチャーの一斉射撃を繰り返し、MS群の爆発光を生む。

 

MDシステムAI機能が有利な戦次第にネオジオンサイドの出撃するMSが増え始め、戦闘状況は五分に近づいていった。

 

戦闘が展開する一方、ヒイロは発作が収まりを見せたマリーダに応急処置を施し、彼女の身をハサンとマガニーの所へ預けていた。

 

彼女の診察と医療処置をし終えたマガニーが、診察書類を部屋の奥で書きまとめる中、ハサンがヒイロに礼を述べた。

 

「ヒイロ君、改めて礼をいう。マリーダは正直危険な状態だった……君は以前にも彼女に応急処置をしてくれたそうだな?キャプテンから聞いているよ」

 

「……俺はマリーダが少しでも回復する方向にしようとしただけだ……俺にもそれなりの強化人間の医療処置知識があった。幼少の頃から俺は戦士として生きてきたからな……」

 

ヒイロはかつて、アディン・ロウから強化人間の医療処置を伝授してもらっていたことを思い出しながら少しばかり語った。

 

「成る程……君もまたある意味彼女と同じ境遇なのか。君の処置の行動はマリーダを想っての行動かな?はははっ、素直に言ってくれても良いという事だよ。彼女自身からもヒイロ君の事は聞いてるからな!」

 

「何?!っ……そうかっ……どこまで話を聞いた?」

 

「彼女の知る限りの一部始終を聞いたよ」

 

マリーダにある種の意表を突かれて静かに動揺するヒイロに、ハサンはかつての思い当たる強化人間の恋愛事情を思いかえしながら語りはじめた。

 

「強化人間との恋愛か……なんのジレンマか、私がこれまでに見たり聞かされてきた強化人間の恋愛事情には必ず悲劇があった……」

 

彼が思い当たる、広い意味も含めた強化人間の恋愛事情には、必ず悲劇が待っていた。

 

フォウ・ムラサメやロザミア・バダム、そしてもう一人のエルピー・プル等だ。

 

「悲劇……だと?」

 

「あぁ。どの娘達も悲劇の運命に呑まれた。今は君たち……アディン君ともう一人いたエルピー・プル、そしてヒイロ君とマリーダが恋愛事情にあるとみる……」

 

「……俺達にも悲劇があると言いたいのか?」

 

「否……君たちからはそんなジンクスを吹き飛ばしてくれるかのような何かを感じる……理屈は説明できんが、そう感じるのさ……」

 

「ジンクスなど興味はない。俺は感情のまま信じた行動に出るまでだ」

 

そう言いながらヒイロは部屋を後にしようとし、ハサンはそれを出撃と察した。

 

「いくのか?」

 

「あぁ。今俺が行くべき場所はここ、パラオの戦場だ……!!」

 

ヒイロが去り際に医療器具が取り付けられた安静中のマリーダの側に歩み寄ると、その時にゆっくりとまぶたを開けたマリーダと視線が重なる。

 

「……ヒイロ……」

 

「マリーダ……俺は出撃する。ここのバウを借りることにした」

 

「ヒイロ……戦場は感情の渦だ。その渦に呑まれたりはするな……お前は……」

 

マリーダは今おかれた自身の体よりもヒイロを気遣い、経験と感覚上のアドバイスをしようとした。

 

ヒイロは言いかけていた彼女の手をとり、静かに言う。

 

「安心しろ……そのようなモノは死ぬ程感じてきている。呑まれる間でもない」

 

「くすっ……生意気だ……」

 

「……行ってくる」

 

「あぁ……」

 

たったそれだけの会話の中に確かな信頼や心強さを交わし合い、マリーダはヒイロの背中を見送り、ヒイロは守るべきパラオ防衛に出撃する。

 

パラオのMSデッキ予めおさえていたバウのコックピットに座り、計器類の操作を済ませて機体を起動させた。

 

映し出された全周モニターには、カタパルトへ向かうベースレーンにより移動する光景がしばらく映し出され、やがてカタパルトデッキに至る。

 

カタパルト操作が譲渡された表示を目視確認すると、ヒイロは先に見える宇宙空間に眼光を刺す。

 

その中では時折宇宙空間にビームや爆発が視認できる。

 

「……ヒイロ・ユイ、MSバウ、出撃する」

 

コントロールレバーを押し込むと、バウはバウナッターを引っ張りながら火花を散らして宇宙空間に飛び込んだ。

 

ヒイロが去った医療空間で、マリーダもまた、天井を見つめながら新たな敵の接近を感じていた。

 

「ヒイロ……気をつけろ……迫る敵を感じ始めた……だが、ヒイロならば……大丈夫か……」

 

ヒイロの実力を知るが故に、マリーダは自然に憂いを感じなかった。

 

猛るようなスピードでかっ飛ぶヒイロ機のバウは、高速で旋回軌道を描きながら1機のリゼル・トーラスに飛び込んでいく。

 

そのまま両翼のミサイルを撃ち飛ばし、ミサイルが四基リゼル・トーラスを目掛け飛んだ。

 

だが、直ぐにレフトアーム装備のビームキャノンで、ミサイルは容易く撃ち砕かれてしまう。

 

ヒイロは瞬時にビームライフルに切り替え、ロック音の刹那に三発をすれ違いながら浴びせ、メガ・ビームランチャーと胸部に直撃させてみせた。

 

爆発するリゼル・トーラスから上昇するかのような軌道を描くヒイロ機のバウ。

 

そして本体機とバウナッターがフォーメーションをとりながら合体連結した。

 

そしてMS形態の可変を完了させたヒイロ機のバウは、モノアイを発光させながらビームサーベルを抜き取り、正面のリゼル・トーラスへと斬りかかった。

 

ヒイロ機のバウは、その一撃でリゼル・トーラスを寸断させた後にビームライフルを構え、五発のビームを放ち、2機のリゼル・トーラスを仕留めて破壊する。

 

「機体の基本可動動作、姿勢制御、各状態に問題はない。排除を続行する……!!!」

 

ヒイロは機体の可動時の各部チェックを平行させながらビームライフルを数発見舞い、1機のリゼル・トーラスを撃墜させた。

 

その直後、別方向よりメガ・ビームランチャーのビーム渦流が襲う。

 

ヒイロ機のバウは全てかわしながらリゼル・トーラスへ接近し、1機をビームサーベルの薙ぎで斬撃し、もう1機にシールド三連メガ粒子砲を構える。

 

そして、近距離から小規模のビーム渦流の一撃を与えた。

 

リゼル・トーラスは一気に装甲を破砕され、爆発四散した。

 

その最中、ガザC ガザD、ズサ、ドラッツェの機体達が獅子奮迅するが、やはりリゼル・トーラスのMDシステムに敵わず、メガ・ビームランチャーやビームキャノンにより、立て続けに撃破されていく。

 

そして、テルスともう一人のドライセンエース・ザミュが駈るドライセンにもリゼル・トーラスが迫る。

 

「ザミュ!!この機体達は……!!?」

 

「前に出すぎるなよ!!!相手は流行りのMDだ!!!」

 

テルス機のドライセンを狙う1機のリゼル・トーラスに機体を体当たりさせるザミュ機のドライセン。

 

三連装ビームキャノンで応戦し、撃破させるもザミュ機のドライセンは数発のビームキャノンの反撃をくらってしまう。

 

肩アーマーが吹っ飛ばされ、ショルダージョイントが丸出しになってしまった。

 

「ザミュ!!?」

 

「気にするな!!次、来るぞ!!!」

 

迫るビーム渦流をかわし、テルス機のドライセンはビームバズーカを反撃の一撃にする。

 

だが、リゼル・トーラスをかわしながらビームサーベルを抜き取り、一直線にテルス機のドライセンに迫った。

 

が、テルスはかわさずにビームバズーカを放った。

 

数発かわされた直後に一撃がカウンター張りに直撃して破砕へと導いた。

 

「私にはジェトロが待ってる……絶対に死ねない!!!」

 

 

 

OZプライズ パラオ攻撃部隊拠点ポイント

 

 

 

高速戦闘艦艇数隻が待機する最中、カスタムリーオー・レオールとレオンがプライズリーオーを従えて閃光とビームが展開するパラオを眺めていた。

 

「リゼル・トーラス……流石のMD部隊。よい戦果です。ですが……彼らは機械故に融通が効きません……我々の獲物を全て奪い兼ねない……ブルム。リゼル・トーラスを撤退させましょう」

 

レオールのコックピットより高峰の見物でパラオの戦闘状況を見ていたクラーツは、リゼル・トーラスを撤退させる判断をした。

 

レオンのパイロットであるブルムもそれに賛同する。

 

「そうだな……あくまでリゼル・トーラスは挨拶だからな。そろそろ我々が出向く頃合いか!!」

 

展開していたリゼル・トーラス部隊が一斉にメインカメラアイを高速点滅させながら一気に戦場を離脱する。

 

ネオジオンサイドからしてみれば、全く理解できない展開だ。

 

ヒイロもビームサーベルで1機のリゼル・トーラスを斬撃して破壊したが、敵側の優位な展開からの急な離脱に違和感を感じざるを得なかった。

 

「撤退……?!!」

 

リゼル・トーラス部隊が帰還体勢に転じたことを確認すると、クラーツとブルムは一斉にプライズリーオー部隊を引き連れて機体を加速させた。

 

だが、機械から生身の脅威が入れ替えで迫る展開に切り替わった瞬間、プルとマリーダは直ぐにこれを察した。

 

「……!!!悪い、嫌な奴が来る!!!ハッキリ感じる、二つのヤツ……!!!」

 

「うっ……パラオが……危ない……それに、さっきからただならない嫌な何かを薄らに感じる……!!!」

 

マリーダも二人の嫌悪感に眉をひそめながらシーツを強く握った。

 

レオールとレオンは改良型の疑似GNDドライヴを搭載したカスタムリーオーであり、アスクレプオスやメリクリウス、ヴァイエイトに迫る性能を有していた。

 

更に従うプライズリーオー部隊も疑似GNDドライヴを搭載している為、従来の量産型機では蹂躙駆逐を思うがままにしてしまう。

 

更にOZプライズ精鋭のエリートパイロット達がトリガーを握っている為、より一層の脅威であった。

 

その脅威達がパラオへと機体を投じさせていくと、ものの数分でレオールとレオンの攻撃部隊がパラオの防衛エリアに到達する。

 

「来ましたね……!!!さぁ、狩りの始まりですっ!!!」

 

「破壊のセレナーデ……参る!!!」

赤いカメラモニターを発光させた2機は前衛のMS部隊を襲撃する。

 

レオールはビームランサーを十字に振り唸らせた後に、ギラ・ドーガに突撃して高出力ビームの槍を激突する勢いで刺突破砕させてみせる。

 

更にそのギラ・ドーガのみならず、ミサイルのごとき軌道で突き進み、ガ・ゾウム、ガザC3機、ギラ・ドーガ2機を連続で突き砕き爆砕させ続ける。

 

その連続爆発を巻き起こした先に行き着いたリゲルグとビームサーベルを交えたが、強力な突き押しを維持させた後に交えていたビームサーベルを捌き、ビームランサーの薙ぎの斬撃を見舞って破断爆砕させてみせた。

 

「そうそう!!狩りはこうでなくてはいけません……!!!」

 

レオールは更に進撃加速し、ビームランサーを振りかぶる。

 

次の狙いを定めたザクⅢに突撃し、ビームマシンガンをかわしながら胸部に斬撃を叩き込み、一瞬で斬撃破壊した。

 

そこから連続で取りつくようにリゲルグやズサ、ギラ・ドーガ、ギラ・ズール、に斬りかかっていき、次々に破壊した。

 

そして、ファンネルの射撃をも掻い潜り、ヤクト・ドーガの胸部にビームランサーを突き上げるように突き刺した。

 

その惰性で突き上げられながら装甲を抉られたヤクト・ドーガは、刺突部を剥ぎ取られながら吹っ飛び、偶然激突したドラッツェと共に爆発していった。

 

「これこそ……至福の時です!!!」

 

レオールは赤いカメラアイを発光させると、クラーツの狂気と共に更に突き進み、一瞬の薙ぎ斬撃の下にRジャジャを斬り飛ばす。

 

破断された隙間からレオールが姿を覗かせ、中のクラーツは狂気的な笑みを浮かべていた。

 

一方で、ギラ・ズールやギラ・ドーガ、ガザC、ドライセン部隊がビームマシンガンやナックルバスターの射撃を一斉に射撃を再開させる中をレオンが駆け抜ける。

 

ビームは時折レオンに直撃するが、そのずっしりとしたフォルム通りであるガンダニュム(中純度)の装甲が破壊を許さない。

 

「ふはははは!!!無駄だぁああっ!!!」

 

ブルムの満身たる戦意の下、レオンはビームソードを取り出し、手当たり次第にその豪剣の斬撃を食らわせ続ける。

 

「せあっ、せあっ、せあっ、せあっ、せあぁあああっ!!!我が剣の下、その身を散らせてゆけぇっ!!!」

 

袈裟斬りで叩き斬り、薙ぎ斬り、突き、また袈裟斬りで叩き斬った後に斬り飛ばす。

 

更に至近距離に接近したドライセンにレフトアームの拳を打ちこんでコックピットを破壊すると、縦横無尽の斬撃を乱舞し、突き進みながら自身両端のMS達を斬り捌いていった。

 

斬撃に次ぐ斬撃、刺突に次ぐ刺突。

 

ネオジオンサイドのMS達を悉く駆逐するその脅威の豪剣は止まることなく、砲撃戦への体勢に移行しようとしていた重装型ギラ・ドーガ部隊やドーベン・ウルフ部隊へ向かう。

 

スタンバイした機体から順に砲撃を開始し、砲弾やビーム渦流の砲撃を開始していくネオジオンサイド。

 

だが、レオンは型に合わない機動力を見せつけながら砲撃部隊へと接近する。

 

「はぁあああああっ!!!」

 

轟と迫るレオンのビームソードの一撃が、重装型ギラ・ドーガを突き砕く。

 

そこから連続の斬撃を叩き込み、重装型ギラ・ドーガ達に薙ぎと袈裟斬り、刺突、左薙ぎを連続で見舞った。

 

爆発する重装型ギラ・ドーガ部隊を尻目にドーベン・ウルフに斬り掛かるレオン。

 

ドーベン・ウルフの胸部に突き出された強力な一撃の刺突が、ドーベン・ウルフを吹き飛ばすように爆発四散させる。

 

次の瞬間にはビームランチャーの銃身を斬り飛ばしながらの二連続斬り払い斬撃を、側面上のドーベン・ウルフにくらわしていた。

 

僚機を失わされた怒りを飛ばすようにビームランチャーのビーム渦流を撃ち飛ばす3機目のドーベン・ウルフ。

 

だが、すでに射撃した方向にレオンはいなかった。

 

そして、そのドーベン・ウルフのモノアイが上を向いた瞬間、直上よりレオンが襲い掛かり、ビームソードを一気に頭部へ突き刺して貫いた。

 

レオンは突き刺したビームソードで執拗に抉り、焼灼破壊を拡大させた後に、大爆発を巻き起こさせる。

 

至近距離の大爆発にもかかわらず、レオンは無傷で爆発から飛び出し、次に目を付けたザクⅢ改に襲い掛かった。

ザクⅢ改は一瞬ビームサーベルで攻撃を受け止めるが、直後にコックピットへ入ったレオンのレフトアームの拳の一撃により動きを止める。

 

ハッチに深く拳が食い込んでおり、パイロットは即死していた。

 

レオンはカメラアイを発光させると三連斬撃をザクⅢ改に浴びせ、破断爆砕させた。

 

2機の脅威が次々とネオジオンの戦士達を葬る一方で、プライズリーオー部隊もまた脅威を与える。

 

構えたビームライフルやドーバーバスターから薄オレンジのビームやビーム渦流を撃ち飛ばして攻め入り、ギラ・ズールやギラ・ドーガ、ガザCを次々に撃ち仕留めて撃墜していく。

 

特にドーバーバスターは対ガンダム用の兵器故に量産型MSからしてみれば、激しくオーバーキルな武装である。

 

唸るビームライフルとドーバーバスターはネオジオンサイドに対し、徹底的に畏怖を加味させた蹂躙を叩き付け、破砕、爆砕、爆破、爆発、かき消すような焼灼破砕と、多数に及ぶMSの爆発光をパラオに拡大させていった。

その最中、果敢にビームトマホークで斬り掛かるギラ・ドーガがいたが、ビームサーベルを斬り払ったプライズリーオーの一撃により破断され、一瞬で爆発四散する。

 

そのプライズリーオーは更にドラッツェを二連続斬撃で斬り飛ばした。

この戦局の変動をディスプレイで確認していたヒイロは、MDとの戦闘時よりも増して急激にレーダー上から消え始めた味方機の数に違和感を覚える。

 

「新手が展開している……!!MD部隊と差し替えたのか?!特に二つの反応が特異な動きをしている……だが、何であれ破壊する!!!」

 

ヒイロは展開するポイントへと機体を加速させて向かわせた。

 

吸い込まれるように戦闘宙域の光景が全天モニターに映し出され、ヒイロに向かい来る。

 

見据えるターゲットポイントは無論、レオールとレオンが展開するポイントだ。

 

その間にヒイロは遭遇するプライズリーオーと交戦し、ビームライフルの射撃をかわしながらレフトアームを唸らせたビームサーベルの一撃を斬り込む。

 

切断・爆発するプライズリーオーを尻目に、ヒイロは次に遭遇したプライズリーオーに向け射撃する。

 

二、三発がかわされた直後にバックパックに直撃し、誘爆を引き起こしてそのプライズリーオーは爆砕した。

 

そしてロック・オンしたレオール目掛けビームサーベルを振りかぶらせ、レオールのビームランサーと斬撃を交えスパークをはしらせた。

 

「この機体っ、カスタムリーオーか!!?」

 

「くはははは!!実に積極的な攻めですね?!!ですがっ……!!!」

 

だが、従来の核エンジンと最新鋭かつチューニングされた疑似GNDドライヴとでは力に差が生じ、直ぐにパワーで押され始める。

 

更にビームランサーとビームサーベルを交えた状態でレオールは加速を始め、ヒイロ機のバウを更に押し始めた。

 

「ちっ……!!」

 

「このまま……パラオの岩壁に貼り付けてさしあげますよっ……!!!」

 

加速エネルギーの殆んどを支配されて突き動かされるヒイロ機のバウ。

 

だが、ヒイロは瞬時に機転を効かし、このパワーを逆手にして、自機のビームサーベルのグリップ動力を回避と同時に解除した。

 

「何?!!」

 

抵抗となったビームサーベルの反力が解放され、レオールはミサイルの如くパラオ目掛け突っ込んでいく。

 

「やりますねぇっ……!!!しかしっ……!!!」

 

レオールはUターン軌道を描きながら機体を衝突から回避する軌道に修正した。

 

機体はパラオへの衝突コースを行くが、ビームランサーの破壊力を利用し、岩壁を削り取るように破砕させて再びヒイロ機のバウを目掛ける。

 

そして機体を減速させながらビームランサーを振りかぶらせ、斬撃の直撃軌道を見極めた薙ぎと袈裟斬りの中間の斬撃を打ち放った。

 

「仕留めますよっっ!!!はぁああああああっ!!!」

 

「っ!!」

 

斬撃がヒイロ機のバウを仕留める刹那、ヒイロは機体を分離させ、シールド下半分と下半身ユニットを犠牲に機体を離脱させた。

 

斬撃で破壊された下半身ユニットの爆発を眺めながらヒイロはレオール目掛け、ビームライフルとメガ粒子砲の射撃を連発した。

 

「この戦場においておそらく奴ともう1機の奴が強力な機体……このバウでどこまでやれる……?!!」

 

「雑魚から完全に逸脱してますね!!!ネオジオンにもこれ程の手練れがいたとは……!!!」

 

ヒイロが奮戦する一方、レオンの猛威がネオジオンサイドのMSを圧倒し続けていた。

 

振るうビームソードの豪剣は高性能機であるはずのリゲルグをも圧倒し、乱舞の斬撃で破壊・爆発させる。

 

「ネオジオンの雑魚は狩るが一番だっ!!!はーっははははははははは!!!」

 

声を笑い上げるブルムは、ビーム射撃群をかわし、時に機体に受け止めながらギラ・ドーガ、ギラ・ズール、ガザC、ズサ、更にはゲート内から砲撃するキケロガを斬撃に次ぐ斬撃を持って破壊し続ける。

 

周囲でもまたプライズリーオー部隊がネオジオンの機体達をビームライフルやドーバーバスターを持って駆逐させていく。

 

この時点でパラオの防衛力の半分が削ぎ落とされていた。

 

「好き勝手やってくれてぇ!!!」

 

そこに居合わせたザミュ機のドライセンが、ビームトマホークを振り回しながら怒りの斬撃をレオンに叩き込んで突っ込んだ。

 

「ふん!!!」

 

レオンは瞬時に斬撃を受け止め、それを更に押し捌いて圧倒すると、タックルを加えてザミュ機のドライセンを弾き飛ばした。

 

「ぐあぁあっ!!?」

 

「ザミュ!!」

 

弾き飛んだザミュ機のドライセンをテルス機のドライセンが受け止める。

 

「ザミュ!!大丈夫!!?」

 

「テルス?!!馬鹿っ!!!前に出るなって言ったろがっ!!!しかもよりによってこんなヤバイ奴に?!!」

 

「でも……!!!」

 

「お前には帰りを待つジェトロがいるだろがっ……うっ……!!!」

 

ザミュは豪剣を打ち下ろそうとしているレオンに戦慄した。

 

だが、刹那の判断で彼が得意とするトライブレードのジャイロ戦法を放った。

 

だが、トライブレードは空しくレオンの装甲に弾かれ宇宙空間に弾き飛んでいった。

 

「逃げろテルス!!!」

 

「ザミュ!!!」

 

ザミュは自機のドライセンの渾身のパワーで、テルス機のドライセンを突き放した。

 

「あぅっ……!!!」

 

この瞬間の反動で、不意にテルスの手が操作パネルに当たり、テルス機の外部通信がONとなる。

 

「幸せにしろよ……テルスっ―――」

 

叩き込まれたレオンの斬撃がザミュ機のドライセンを斬り潰して激しく爆砕させた。

 

「ザミュゥぅうううう!!!うわぁぁああああ!!!」

 

テルスはコンビを組んできたある意味のパートナーのザミュを失い、哀しみと怒りに駈られた。

 

その感情を込めてビームバズーカをレオンに何発も撃ち放った。

 

「よくも!!よくもザミュを!!!墜ちろ!!!墜ちろ!!!墜ちろぉおお!!!」

 

だがその行為はビームコーティングまで施されたガンダニュウム合金のショルダーユニットに空しく阻まれる。

 

更に先程の外部通信が開かれた事で、テルスの声がブルムにも筒抜けていた。

 

この事が余計にブルムの狂気に拍車をかけた。

 

「女か……くはははは!!!ならばじわじわと殺してやる……!!!」

 

ブルムはレオンのビームソードの出力を上げ、まずビームバズーカとレフトアームを斬り捌く。

 

「きゃあ!!?」

 

「その悲鳴を聞かせろ!!!ははは!!ははははぁ!!!」

 

レオンは高速の連続突きを繰り出し、敢えてコックピットを狙わずにテルスのドライセンを滅多突きにしていく。

 

頭部が突き飛ばされ、両肩も突き飛ばされ、挙げ句に胴体部の際どい部分を突き始める。

 

機体の損壊が激しさを増しながら絶妙にコックピットを生かす。

 

だが、その絶え間ない衝撃はいつ死んでも不思議ではない恐怖をテルスに与え続け、彼女を泣き叫ばせた。

「いやぁぁああああ!!!いやっ、いやっ、いやぁぁあああ!!!助けてよっザミュ、ジェトロ、ジェトロぉおおおおお!!!」

 

「素晴らしい!!!素晴らしい悲鳴!!!もっと聞かせろ!!!聞かせろぉ!!!」

 

「いやぁぁあああああ!!!」

 

 

 

その頃、プルは戦場に渦巻く数多くの感情をガランシェールの寝室で感じていた。

 

何気に彼女自身が広範囲の規模の戦闘領域の戦場に自身の身を投じるのは初めてであり、雑踏が波を帯びてひしめくかのような感覚に見回れていた。

 

「色々な叫びが感じる……パラオの人達が、戦ってくれてるパラオの人達が死んでいく……消えていく……これが戦争なの……?!!」

 

マリーダのように戦場に身を投じ続けている戦闘のプロの強化人間にはこの感覚にある程度の慣れがある。

 

だが、プルはニュータイプの感覚とMSの操作センス、ある程度の戦闘経験があるものの、広域戦闘の感覚は未経験だった。

 

「しかも、みんな一方的に殺されてる……うっ……!!?」

 

『逃しませんよっ、生意気なネオジオンめ!!!』

 

『ちっ……まだだ。まだ俺は死ねない……パラオにはマリーダがいる……!!!』

 

「ヒイロ?!!」

 

クラーツのレオールの攻撃から機体を可変させて逃げるヒイロの感情がピックアップされたようにプルの感覚に作用した。

 

『きゃぁぁああああ!!!いやぁぁあああ!!!』

 

『泣け!!!叫べ!!!そしてもうすぐに死ぬっ!!!そらそらそらぁぁあ!!!』

 

更にテルスとブルムの一方的な蹂躙戦闘の感情もプルに過った。

 

この時、ブルムの攻撃が遂にコックピットに及ぼうとしていた。

 

「これ以上の悲しみ……苦しみ……止めたいっ……お願いっ、アディンっ―――!!!」

 

 

 

 

「俺がキメるぜぇえええええっ!!!!」

 

 

 

 

「な?!!」

 

プルの願いに召喚されるかのようにアディンのあのセリフの音声が唐突に回線に殴り込まれ、突然の謎の叫びにブルムも攻撃を中断した。

 

その次の瞬間、超高速で新型機と思われる黒い翼を持ったMAがレオン目掛け突っ込んだ。

 

 

 

ディガォオオオオオン!!!

 

 

 

「え?!!」

 

「がぁぁあぁぁあぁぁあぁぁぁぁっ!!?」

 

一気に弾き飛ばされたレオンは機体を豪快に回転させながらぶっ飛ぶ。

 

完全に状況が変革した瞬間だった。

 

テルスも何が起こったのか把握できなかった。

 

超高速でかっ飛ぶそのMAは、その勢いのまま1機のプライズリーオーの胸部に激突し、機首の先端を突き刺したままパラオの宙域を飛ぶ。

 

そして機首に取り付けられている砲門にエネルギーがチャージされ始めた。

 

「食らいなっ、プライズさんよぉ!!!メガ・パーティカルバスター、ファイアッ!!!」

 

 

 

ギュリュリリリィィィ……ヴァズダァァアアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

ヴァズシャゴォバァガァアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

零距離からのバスターライフル級のビーム兵器、メガ・パーティカルバスターの一撃に、プライズリーオーはえげつないまでに機体を破砕させながら爆砕する。

 

アディンの駆るMAは高速Uターン軌道を描きながら、機体右舷側の下部に装着された碇状のビームランスを発動し、ミサイルの如くプライズリーオーに機体を突入させた。

 

アディンのMAはそのプライズリーオーを一瞬で破砕させると、高速で各部を可変させていく。

 

そして、MAがMSへと変形を遂げた瞬間、新たに生まれ変わったガンダムジェミナスがその姿を見せた。

 

 

 

《ガンダムジェミナス・グリープ》

 

 

黒い翼・リフレクト・ウィングを背に、右手にビームランス、左手に攻防一体のメガ・パーティカルバスターを装備し、胸部に追加装甲を、両腰に新たなブースターを、両脚に強化改良されたバーニアンユニットを施していた。

 

カメラアイをギンと発光させた直後、1機のプライズリーオー目掛け超高速で飛び込むガンダムジェミナス・グリープ。

 

アディンの気迫と共に振るう斬撃の一線がビーム射撃で抵抗するプライズリーオーにはしった。

 

「だぁあああああああっ!!!」

 

 

 

ギャシュバァアアアアアアンッッッ!!!

 

ゴバァガァアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

その爆砕するプライズリーオーを尻目に、ガンダムジェミナス・グリープは先程まで我が物顔でネオジオンを駆逐していたプライズリーオー部隊に向かう。

 

突入と共に、1機、2機、3機と薙ぎ斬り、斬り潰し、突き砕く。

 

4機目を斬り上げ下げの二連撃で斬り捨て、その勢いのままに4機のプライズリーオーを同時に斬り飛ばして見せた。

 

斬り飛ばされたプライズリーオーの断面からガンダムジェミナス・グリープが顔を覗かせ、爆発が拡がる。

 

その時、残りのプライズリーオー部隊はネオジオンサイドへの攻撃を中断し、一斉にガンダムジェミナス・グリープに火力を集中させた。

 

対ガンダム用兵器であるドーバーバスターを筆頭にビーム射撃が、ガンダムジェミナス・グリープに叩き込まれた。

 

だが、ガンダムジェミナス・グリープはリフレクト・ウィングで機体を防御しながら攻めに向かう。

 

ビーム射撃群の攻撃はリフレクト・ウィングの表面で完全に弾かれていた。

 

「対バスターライフルを想定したリフレクト・ウィングだ!!!全く効かないぜっ!!!」

 

そう言ってアディンはメガ・パーティカルバスターの砲門をプライズリーオー部隊に向かい突き出し、7機まとめてロック・オンした。

 

 

 

ギュゥヴゥリィィ……ヴァズダァアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

ジュズゥガァアアアアアアァァッ―――ドドドドドドドゴゴババガァアアアアアアァァッ!!!

 

 

 

撃ち放ったビーム渦流が一気にプライズリーオー部隊を破砕させ、先程まで猛威を奮っていたOZプライズサイド勢力が一気に覆された。

 

クラーツは驚愕と憤りを覚えながらレオールの機体出力を上げてガンダムジェミナス・グリープを目指した。

 

「なっ……なんですか?!!あの機体は!!?我がプライズの機体を一瞬にしてっ……?!!おのれぇっっ!!!!」

 

更にビームランサーの出力を最大にし、高速で突っ込んでいくレオール。

 

その反応アラートが、ガンダムジェミナス・グリープのコックピットに響く。

 

「へっ……スピード勝負なら得意分野だぜっ……PX、オーバードライブッッ!!!」

 

アディンは虎の子たるPXシステムを発動させると、青白く発光させた機体をレオール目掛けて飛ばし、亡き兄・オデルに語りかけ始める。

 

「兄さん……見ていてくれ……ガンダムグリープの設計データを移植させたこの機体で……新たなガンダムジェミナスで俺は……!!!」

 

ガンダムジェミナス・グリープとレオールが青白く輝きながら正面から突き進む。

 

そしてレオールのスピードを遥かに上回るガンダムジェミナス・グリープがビームランスを振りかぶらせ、そのままカウンターアタックを打ち込んだ。

 

「何っ―――??!」

 

「闘ってぇえええっっ!!!」

 

 

 

バッッッギャラガァアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

レオールは一瞬にして自身の加速力を加えながら激しく破砕した。

 

そのままアディンは視線をガンダムジェミナス・グリープのカメラアイと共に残ったレオンへ向ける。

 

「守ってぇえっ……!!!」

 

レオンを目掛けてかっ飛ぶガンダムジェミナス・グリープは、残像が残る程の超高速を見せていた。

 

迫り来るガンダムジェミナス・グリープに対し、ブルムは屈辱を噛み締めながら迎撃態勢に挑む。

 

「くぅっ!!よくもコケにしてくれたな!!!キテレツな機体めっ……来いっっ!!!その槍、受け止めて返り討ちにしてくれるっ!!!!」

 

レオンがビームソードを振りかぶらせて身構えた次の瞬間、凄まじい青白い閃光がはしる。

 

「キメるぜぇえええっっ!!!」

 

叫ぶアディンの声と共に、ガンダムジェミナス・グリープの強烈なビームランスの刺突が、ビームソードのビーム刀身を破断させながらレオンの胸部に超高速で突き刺さる。

 

 

 

 ディギャギィイイイイイイイイイイッッッ―――ギャドガァアアアアアアッッ!!!!

 

 

ガンダムジェミナス・グリープは一瞬にして突き穿いたレオンを突き穿ったまま、遠方にいた高速宇宙戦闘艦を目指す。

 

そして超高速の弾丸と化したガンダムジェミナス・グリープは、激突と重ねながら一気に高速宇宙戦闘艦にレオンを潰し当て、艦艇もろとも激しく爆砕させた。

 

 

ドォズゴォオッッ―――ゴォッバドォドォドォゴバァァアアアアアアン!!!!

 

 

 

その爆発を駆け抜けた先で、ガンダムジェミナス・グリープはPXを解除しながらゆっくりとパラオに振り返り、勝利の眼光を放った。

 

 

「一体なんだ貴様らは!!?くっ……!!!」

 

だがその頃、マリーダが安静にしていたハサンの診療所に、黒ずくめの不振な男達が押し掛け、ハサンとマガニーにハンドガンを突き付けていた。

 

「何の目的だね?今さらご老体をつついてもなんも出ぬよ」

 

黒ずくめの男の一人がハンドガンを突き付けて言う。

 

「プルトゥエルブの専門医だから敢えて丁重に扱っているんだ。だが、下手な真似はよすんだな」

 

「マリーダ……あんたらが言うプルトゥエルブをどうするつもりだ?!」

 

「我々はただ忠実に任務をこなしているだけだ……今は淡々と指示にしたがって頂きたいな……是非とも!!!」

 

そしてマリーダに他の黒ずくめの男が囲み、身柄を押さえ込んでいた。

 

「貴様らだったのか!!!嫌な……感じはっ!!!狙いは私なんだな!!?ならば医師達は……!!!」

 

気を強く持った姿勢で叫ぶマリーダに対し、黒ずくめの男の一人が銃のような白い器具をマリーダの首筋に当てた。

 

瞬時に鳴ったブシッという音の直後に、マリーダは意識を失わされた。

 

「丁重に運べ………こちら実行隊A班。B班はどうしている?」

 

実行隊の一人である黒ずくめの男が、指示をしながら別動隊に連絡を入れた。

 

その別動隊はガランシェールを目指し、パラオ内の裏通路を駆け抜けていた。

 

「現在、目標の偽装貨物船を目指してます!!もう時期に到達する!!」

 

更にそれに加え、ネェル・アーガマの同型艦・グラーフ・ドレンデがパラオに接近していた。

 

そのキャプテンと思われる男は影に目元の表情を隠したまま、にたりと笑う。

 

戦闘が終息したことにより、プルは接近する負の感覚が一気に明白化するのを感じていた。

 

「……まだ……終わらないよ……一番嫌な感覚が来るっ……!!!」

 

 

 

To Be Next Eepisode

 

 

次回予告

 

 

 ガンダムジェミナス・グリープの出撃によってパラオの戦況は変わった。

 

 しかしその機体はまだ不完全な状態だった。

 

 アディンは新たな好敵手・ロッシェと刃を交えるも、次第に機体は不調になっていく。

 

その最中、かつてMO-5を沈めたOZプライズの幹部・ヴァルダーがネェル・アーガマ型二番艦・グラーフ・ドレンデを持って介入する。

 

えげつないまでのヴァルダーの脅迫にヒイロ達はなす統べなく捕縛されてしまう。

 

マリーダとプルもまたマーサ一味の狂気に晒されていく。

 

一方、キルヴァとリディをテストパイロットにしたウィングゼロとデルタカイの模擬戦試験が実施段階に入っていた。

 

だが、試験ポイントに向かう最中、2機のガンダムはそれぞれに暴走を開始するのだった。

 

次回、新機動闘争記 ガンダムW LBERTY

 

エピソード 32「逆行する負の運命」

 

 



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エピソード32「逆行する不の運命」

ガンダムジェミナス・グリープ出撃前

 

 

 

MD部隊の襲撃がネオジオン部隊に見舞われている頃、アディンはパラオ内のとある格納庫内に出向いていた。

 

裏通路を全力で駆け抜け来たアディンは、MA形態のガンダムジェミナス・グリープをメンテナンスしていたディックの名を叫び、彼の下に息を切らせて訪れる。

 

「ディックさん!!!」

 

「アディン?!」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っく、ディックさん!!新しいジェミナス、出せる?!!」

 

「おいおい!!急に言われたってまだロールアウト前で機体の調整中だ!!それにグリープの要のシステムだって搭載前だし、何よりも更に要の……」

 

「ディックさん!!四の五の言ってる場合じゃないから来たんだ!!!プルのニュータイプ的な感覚の話になるけど、俺達のガンダムでなきゃ対処できないヤバイ奴等が迫ってんだ!!!」

 

アディン達はプルの力を認めており、ディックもその一人だった。

 

ディックは工具を額に押し当てて、しばらく考える。

 

「……うーん……今の状態でも戦闘できない訳じゃない。だが、グリープの要であるGNDソニック・ドライヴァーの本セッティングができていない。制御が難しくなるし、リミッターが働いていない状態で下手にPXで出力を上げれば最悪自爆……なんてこともあり得る!!!とにかく、使うなら機体の完成度は七割って事を踏まえてくれよ!!!」

 

「OK!!」

 

アディンはサムズアップすると、MA形態のガンダムジェミナス・グリープのコックピットに身を投じ、メインシステムを起動させた。

 

前左右と上部の四面モニターが起動と共に映し出され、各部チェック項目や機体状態等の様々なデータが表示されていく。

 

アディンは機体のセットアップ操作を進めていく中で武装のデータをチェックする。

 

「ビームランスにメガ・パーティカルバスター……武装はたった二種類だけど……!!!」

 

アディンが続けて機体エネルギーゲインを移行表示させると、驚異的な表示数値がアディンの目に飛び込んだ。

 

「すっげ……なんつーエネルギーゲインだよ……!!!」

 

アディンのその反応にディックは半ば笑いながら解説する。

 

「はっははは!!ビビるだろ?!!今はそれがシステムで思うように制御できない状態なんだ……アディン自身で加減させながらコントロールしなきゃいけねーぞ。不完全さが解るだろ?」

 

軽くプレッシャーを与えてみるディックだが、アディンは腹をくくった反応を返した。

 

「へっへへへ……俺だってGマイスターだぜ!!!ガンダムのシビアなコントロールくらいしてやんよ!!!それに、今やらなきゃパラオ自体がヤられるかもしれねーんだぜ!!?やって……イヤッ、キメてやんぜっ!!!」

 

「相変わらずの勢いで安心したぜ……しっかり守るもんが見えてるな!!キメて来い!!!」

 

「言われなくたってキメて来るぜっ!!!ディックさん、ゲート頼む!!!」

 

「おうよ!!!」

 

パラオの秘密格納庫のゲートが開き、アディンからのコックピットビジョンには開口した先で交戦中のドライセンとレオンが映る。

 

アディンは拡大してモニター視認するが、交戦というよりもレオンの一方的な蹂躙なのは明らかであり、アディンにより煮えたぎるモノを感じさせた。

 

「あの向こうにいる機体、OZだな?!!一方的にやってやがるっ……!!!それ以上やらせっかよ!!!」

 

ゲートが開き切ると同時に、ディックがハンガーロックのレバーを解除側に作動させる。

 

これにより、ガンダムジェミナス・グリープの射出タイミングはアディンに譲渡された。

 

「ロックパージOK!!行ってこい!!!アディン!!!」

 

「ガンダムジェミナス・グリープ!!アディン・バーネット、出すぜっっ!!!」

 

コントロールグリップを押し込んだアディンは、ガンダムジェミナス・グリープを一気にパラオから打ち出す。

 

機体が火花を散らしてかっ飛ぶ中、凄まじい加速Gがアディンに襲いかかる。

 

「ぐぅっ!!!こっ……のぉっ……!!!」

 

更にその加速Gと激しい振動がせめぎ合う中、アディンはドライセンを蹂躙するレオンをロック・オンし、更に出力を上げ、極限の加速Gの中にアディン叫んだ。

 

「俺がキメるぜぇええええっ!!!!」

 

そして次の瞬間、メガ・パーティカルバスターのシールド先端部がレオンに吸い込まれるかのようなアングルで激突した……。

 

 

 

 

そして今現在。

 

ネオジオンサイドに蹂躙の猛威を奮っていたレオールとレオンをはじめとするOZプライズの部隊を一瞬の間に駆逐したガンダムジェミナス・グリープがパラオの宙域に佇む。

 

突如として現れた救世主の勇姿にパラオのネオジオンの戦士達の誰もが釘付けとなっていた。

 

その最中、事なきを得たヒイロもまたバウを旋回させながらガンダムジェミナス・グリープを視認していた。

 

「……アディンのガンダム……ガンダムグリープのデータをジェミナスに移植したのか?」

 

ヒイロは以前よりガンダムグリープのデータを知っており、直ぐにガンダムジェミナスにグリープの要素を移植したものとわかった。

 

「ウィングゼロと対になるガンダム……ウィングゼロが敵の手にある今、切り札になりうる機体だな。最も、機体が万全ならばだが……」

 

ヒイロは時折、機体胸部周りから発するスパークを視認しながらガンダムジェミナス・グリープの機体の状況を洞察する。

 

ガンダムジェミナス・グリープのコックピット内では、ヒイロの洞察する通りの状況に晒されており、各部にエラーが発生したアラートが鳴り響いていた。

 

アディンは機体の勇姿とは対象的にあわてふためいていた。

 

「やっべー!!!調子に乗ってPX使っちまったよ!!!ちっくしょ、エラーがやかましい……!!!」

 

その時、サブモニターにディックが映り、アディンに叱責を飛ばす。

 

パラオの方からもディックが機体をモニターしていたのだ。

 

「アディン、ばっかやろーっ!!!あれだけPX使うなって言ってたろうがっ!!!こっちでモニターしてたがっ……!!!」

 

その最中、直ぐに新たな敵機影接近のアラートがエラーアラートを掻い潜る。

 

アディンはやむを得ず、新たな戦闘に備えるしかなかった。

 

「!!!っ、悪ぃ、ディックさん!!説教は後で!!新たな敵機影だ!!!最小限の戦闘でやりきる!!!」

 

「おい、アディン!!!」

 

アディンが機体をMS形態のまま敵機影接近ポイントに向かわせる一方で、ガランシェール内にいたプルも感覚で新たな敵の接近をより強く感じていた。

 

プルは我慢ができずに、待機していた部屋を飛び出し、ガランシェール内の通路を駆け走る。

 

「やっぱり……あたしがガンダムでやらなきゃならないような感じがする……でも、でも……あぁっ、なんなんだろ?!!どう動いても嫌な感じしかしないっ!!!」

 

プルの中では感覚的にこの先に待つ負の何かを止まずに感じ続けており、その感覚を振り切るようにプルはMSデッキを目指して走った。

 

その時、急接近する感覚と重く突き進む感覚の二つの圧力感がプルに過る。

 

「うっ?!!凄い嫌な力が来るっっ……!!!」

 

プルが感じた強い感覚と共に、パラオの宙域に走る紅い閃光……トールギス・フリューゲルが機影を現す。

 

目指すはガンダムジェミナス・グリープであり、パイロットのロッシェは牽制でレフトアームのバスターシューターを放つ。

 

「視認した!!あれが……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム!!!まずは挨拶だっ!!!」

 

三発の中小規模のビーム渦流を撃ち飛ばすトールギス・フリューゲル。

 

だが、高出力ビーム急接近を察知したアディンはリフレクト・ウィングを防御操作し、直撃するビーム渦流を相殺させて見せた。

 

「っ……とぉおお……いきなりだなっ……て、トールギス?!!」

 

見事に防御仕切った性能に浸る間もなく、敵機影がトールギスと認識したアディンはゼクスと思い驚愕する。

 

「おいおい……!!!遂にゼクスが参戦かっ?!!けど、残念ながらヒイロじゃないぜ、俺!!」

 

だが、通信回線が開き、アディンの思い込みを裏切る全く違う人物が言葉を放った。

 

「初めましてだな、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム!!!私はOZプライズのロッシェ・ナトゥーノ!!!長らく貴君らのガンダムとの決闘を所望していた!!!さぁ、刃を用意しろ!!!」

 

アディンはこの瞬間、何か懐かしさを感じて高揚感を覚えた。

 

「ゼクスじゃない?!!けど、騎士道こてこてってか(なんか、ユニコーンガンダムと決闘した時を思い出したぜ……今じゃリディは騎士道踏み外した憎いだけの敵に成り下がったけどな!!!)!!いいぜ!!!受けて立ってやんぜっ!!!」

 

ガンダムジェミナス・グリープはビームランスを振り払うと、向かい来るトールギス・フリューゲルに向かう。

 

「俺はアディン・バーネット!!!キメるぜぇっ!!!」

 

「では、アディンとやら……この刃を特と受けるがいい!!!ロッシェ・ナトゥーノ、参る!!!」

 

トールギス・フリューゲルもまたビームサーベルを振り払い、ガンダムジェミナス・グリープへとその機体を突き進ませた。

 

両者の振るうビームの刃がすれ違い、一瞬のスパークとビームエネルギーの衝突が起こる。

 

そして、遠ざかる間もなく両者は機体を高機動力を持って反転させ、再びビームランスとビームサーベルを振りかざし、真っ向から激突した。

 

 

 

ギャディギィイイイイイッッッ!!!

 

 

 

スパークをはしらせながら両者の刃が拮抗する。

 

奇しくもトールギス・フリューゲルにも新型のGNDドライヴが搭載されていた。

 

「これぞ決闘……至福の刻!!!」

 

「新型トールギス……ジェミナス・グリープのパワーといい勝負してやがるっ!!?」

 

「トールギス・フリューゲルだっ!!!それに……私の力も加えられている……それをしかと……認識していただく!!!」

 

ロッシェの感情を乗せたトールギス・フリューゲルは拮抗していたビームランスを弾き捌き、連続した斬撃を繰り出す。

 

ガンダムジェミナス・グリープもこの連続斬撃にビームランスを対応させ、ビームの刃で防御し続ける。

 

「うおっ……とぉっ……!!!やりやがるじゃっ……ねーか!!!」

 

一瞬の防御から振り弾き、アディンもまた攻めに転じる。

 

刃を激突させ、弾き、叩き下ろし、時折拮抗する。

 

更に続く連続斬撃の叩き込みの直後、一瞬の斬撃の衝突の後に2機は弾き離れ、旋回を開始する。

 

そして再び加速し合い、振るうビームの刃を強烈なまでに激突させた。

 

2機は拮抗し合いながら遠心力で振り回すように回転し合う。

 

「流石、特殊なガンダムに選ばれた戦士だけあるなっ!!!絵描いたが如く不足はないっ!!!」

 

「へっ……俺も久しぶりに騎士道かぶれの強敵に高揚するぜっ!!!さっきの2機とは格違いだ!!!」

 

「さっきの2機?もしや先行していたレオールとレオンの事か?」

 

「いや、機体名言われてもわからねーよっ!!!女装したカスタムリーオーとデブなカスタムリーオーだったぜっ!!!世話になってる人達を理不尽に殺してくれてたからな……倍返ししてやったぜ!!!」

 

そのアディンの言葉からロッシェはクラーツとブルムと悟る。

 

だが憎悪なものは抱かず、淡々と受け入れた。

 

「そうか……哀れな奴等だったな……正直あいつらの騎士道を踏み外した非道には呆れていた。当然の報いだ」

 

「はぁ?!仲間じゃねーのか?!!」

 

「同胞ではあったさ……だが、私とて騎士であり人だ!!奴等は因果応報と捉える。こちらとて、人間関係は複雑なのだよ……さぁ、ご託は終わりだっ!!!」

 

再び拮抗を弾き、トールギス・フリューゲルはビームサーベルを突き攻め立てる。

「うおっっ……おらぁああああっっ!!!」

 

アディンは一瞬連続斬撃に押されるも、直後に負けじとビームランスで反撃する。

 

唸るビームランスの薙ぎにビームサーベルの刃が当てられ再び拮抗した。

 

プルはこの戦闘をガランシェール内の通路窓から見ていた。

 

しかしプルはロッシェからは重苦しい感覚を感じてはおらず、先程からの重圧感は別の方角からやって来ているのを確信する。

 

「違う……嫌な感覚はあの紅い羽つきからじゃない。確かに敵なんだけど違う……嫌なのは別の方角から来てるっ!!!やっぱり、あたしが出なきゃダメ!!!アディンだけじゃいけないよ!!!」

 

プルは再び通路を駆け出し、格納庫に収用されたユニコーンガンダムを目指した。

 

 

 

一方、マリーダを拘束・拉致した一味は、パラオ内の裏ルートに予め用意していたワンボックス型コロニー内対応自動車で場所を移し、予め用意していた輸送艦艇にマリーダの身柄を押し込もうとしていた。

 

「下手な真似をしなければ事は済むんだ!!!」

 

「っ……ハサン先生!!ドクターマガニー!!あうっく……!!!」

 

男達に失わされた意識をマリーダは短時間で取り戻していた。

 

だが、その一方でマリーダと共に拉致すると思われたハサンとマガニーは執拗な暴行を与えられ、気を失わされていた。

 

特にご老体のマガニーは重症を負っており、生命すら危うい状況だった。

 

これらは全てマーサの気まぐれな指示により成されていた。

 

抵抗しようにも拘束させられた挙げ句に、銃を突き付けられては無駄あがきに終わるのは明らかで、致し方なく従うしかない状況だった。

 

その最中にマリーダはある疑問符を過らせていた。

 

(これ程の嫌な感じの奴等が近くにいて何故気づけなかった?!私の力が低下しているのか?!だが、依然として外からは嫌な感じが迫っている……!!!)

マリーダやプル達をはじめ、ニュータイプ気質の感覚が備わった者は感覚の良し悪しを強く持った人間を感じる事ができる。

 

ニュータイプ気質が高ければかなりの広範囲に置いて感じる事ができるのだ。

 

マリーダやプル、特に純粋なニュータイプのプルはその感覚が長けていた。

 

だが、マリーダを拘束した男達は決して弱くはない悪しき感覚を放つ存在だ。

 

更に近くに潜伏していたにもかかわらず悪しき感覚を感じれていなかったのだ。

 

マリーダは気丈な振る舞いをやめる事なく男に問う。

 

「お前達は何が目的だっ?!」

 

「今更隠す事もない。目的……それは君達姉妹と反乱分子ガンダムのパイロットの確保……そして、ユニコーンガンダム。長きに渡り潜伏した甲斐があった……」

 

男はそう言いながら胸ポケットからカードデバイス状の何かを取り出した。

 

「オーガスタ研究所で開発中のサイコ・フィーリング・ジャマー。君達が感じるモノをシャットアウトするアイテムさ……これが機能していれば君達は我々を感じる事ができない」

 

その機能装置よりも、オーガスタと聞いた瞬間に、マリーダの脳裏にマーサとベントナの姿が過る。

 

「オーガスタ?!!貴様らまさか……あのマーサとか言う女とベントナの手の者か!!?」

 

「くくくっ!!如何にも!!ミズ・マーサの私兵工作員だ。無論、我々だけではない!!別動隊も同時に展開している。今頃ガランシェールとやらをジャックしている頃だな……!!!」

 

「何?!!くっ……!!!貴様らっ!!!うっ……!!!」

 

感情的に動こうとするマリーダを押さえ込む男達。

 

更にそれに便乗した一人が、マリーダの胸を鷲掴みにする行為に及ぶ。

 

「?!!離せっ!!!やめろっ……うんっ、くっ!!!」

 

もがいて抵抗するマリーダを更に強く押さえつけ、銃をぐりぐりと押し当てる。

 

「身をわきまえろ……!!!くっくく……後でじっくり味わいさせてもらおうか……なぁ……さぁ、フェイズ2に移行を」

 

「了解」

 

それから間もなくし、連絡を受けた別動隊はガランシェール制圧を実行に移し、瞬く間に船内制圧を成す。

 

ジンネマン達をはじめとするガランシェールのクルー達は全員が銃を突き付けられ、完全に拘束下に晒されていた。

 

ジンネマンもこの状況には辛酸をなめざるを得ない。

 

「くっ……不覚過ぎたっ……こうも瞬く間にジャックされるとは……!!!」

 

「キャプテンっ……!!!」

 

ジンネマンはフラストやギルボア、アレクに視線を合わせながらキャプテンとしての言葉を放った。

 

「……皆、決して下手な真似をするなっ!!!いいなっ!!!皆の屈辱は重く理解している!!!この状況は……俺の責任だ!!!」

 

皆が複雑な心境を表情に表す中、ジンネマンが危惧するはプルの安否であった。

 

「プルっ、せめてお前だけは無事に済んでくれ……!!!」

 

ジンネマンの憂いの念がはしる頃、プルはユニコーンガンダムのコックピットに座りながらハンド・バイオメトリクスセンサーに右手をかざしていた。

 

プルと認識したコックピットシステムがユニコーンガンダムを起動へ立ち上げる。

 

「今あたしにできる事やらなきゃ!!ユニコーンガンダム、出すよ!!」

 

起動したユニコーンガンダムは、起動と共にプルのニュータイプの力によってNTDシステムを発動させ、瞬く間に機体をガンダムへと可変させた。

 

全身のサイコフレームからエメラルドの光を放つユニコーンガンダムは直ぐに出撃体勢に入った。

 

だが、一向にハッチが自動解放しない事に違和感を感じたプルは、モニターの傍らに視線を流す。

 

「……あれ?!ハッチ開かない?!トムラさん……??」

 

するとそこにはハッチ操作をしようとしていたトムラが黒ずくめの何者か達に拘束されていた。

 

トムラを拘束していたのはマーサの私兵達であった。

 

「そんな……?!!アイツらは一体?!!一目からして嫌な奴らなのに何も感じれない?!!」

 

サイコ・フィーリングジャマーを付けた彼らは、モニター上からもトムラを人質と言わんばかりに銃を突き付けていた。

 

「トムラさんが人質に……でも嫌な大きい力を外に感じる……あたし、どうしたらいいの?!!」

 

「プル、俺に構うな!!!行けぇええ!!!ここで行かなきゃ、もっと犠牲が増えるかもしれないんだ!!!プルが乗る直前に言っていた、『すごく嫌な悪い力』が来ているんだろ?!!パラオのみんなの為にも、行けぇっ!!!」

 

「黙れ!!」

 

「がっ?!!」

 

トムラのみぞおちにマーサ私兵の一人が拳を叩き込む。

 

己の身をかえりみずに放ったトムラの言葉に、プルはきゅっとコントロールグリップを握って真剣な表情で一言を放つ。

 

「っ、わかった……!!!」

 

プルの意思に呼応するかのようにギンとアイカメラを発光させたユニコーンガンダムは、出力最大でハンガーアームを強引に引き外し、ハッチを二度の蹴りで吹き飛ばしながらガランシェールから飛び出していった。

 

 

 

パラオに迫るもう一つの脅威、ネェル・アーガマ型二番艦、グラーフ・ドレンデ。

 

艦は違えど、かつてアディン達が暮らしていたMO-5をネェル・アーガマで沈めた張本人、ヴァルダー・ファーキルがキャプテンの座に座る艦であった。

 

彼はOZプライズの上級特佐であり、マーサと結託する側面を持っていた。

 

「ミスター・ヴァルダー!!パラオ内の実行隊から入電!!獅子の女神、方舟を手中に収めん。しかしユニコーンと妖精は取り逃がした。戦士の収めを求む……少し状況が変動しましたが、次のフェイズに移行です!!!」

 

ヴァルダーはニヤと薄ら嗤いをしながら命令を下した。

 

「パラオに打電しろ……同時にハイパーメガ粒子砲スタンバイ!!!まずは民間と軍事区画を破断させてやる……揺さぶりを兼ねな……!!!ユニコーンも恐らくは狙いはここのはず……情報にあるニュータイプの小娘にも恐怖を提供させようか……!!!」

 

「ハイパーメガ粒子砲発射シークエンス移行!!」

 

ハイパーメガ粒子砲のセーフティ・ロックが解除され、発射シークエンスに移行するとハイパーメガ粒子砲の砲身が展開とエネルギーチャージを開始する。

 

「ハイパーメガ粒子砲エネルギー充填開始!!」

 

「ミスター・ヴァルダー!!!ハイパーメガ粒子砲はコロニーレーザーに迫る威力ですが……!!!」

 

「何……挨拶するようなものだ……それに言ったであろう?ガンダムのパイロットを揺さぶるとな!!!もし威力が予想を超えてしまったらそれはそれだ。何せ、一番艦よりも威力が高い。くくく……!!!」

 

半ばパラオを沈めても構わない言動を放つヴァルダーは、狂気を滲み出すかのような卑劣な笑みを浮かべていた。

 

その最中、ガランシェールがパラオを離れ、ギルボアの操舵の下、マーサの私兵工作員達の指示で航行する。

 

マリーダは拘束されたままの状況下で、迫り来る強烈な悪しき感覚を覚え、かつてないプレッシャーに晒されていた。

 

「……っ、感じたことのない力が来るっ!!!」

 

 迫るヴァルダーへの迎撃にユニコーンガンダムの機体を飛ばすプルもまたその感覚をひしひしと捉える。

 

「これがさっきから感じていた嫌な感覚っ……こんな力……恐すぎるよ……!!!」

 

その一方ではガンダムジェミナス・グリープとトールギス・フリューゲルが連続で刃を当て合っては拮抗し、激戦を継続させていた。

 

だが、既に不完全なコンディションのガンダムジェミナス・グリープにはかなりの負荷がかかり始めていた。

 

「くぅーっ……!!!かなりヤバくなってきやがった……エラーがどんどん増加していくっ……!!!」

 

「どうした?!!先程から槍捌きが鈍くなっているぞ!!?まさか手を抜いているのか、貴様!!?」

 

「へっへへへへ……嫌でも手を抜かざるを得なくなってきてんだよ……うっ、いよいよ出力まで下がってきやがった……!!!」

 

実際に音声通信にある程度の支障が出る程の多くのエラーアラートが鳴り響いていた。

 

実際にまだダメージを受けていないにもかかわらず、ガンダムジェミナス・グリープの機体にはスパークが断続的に発生していた。

 

ロッシェもこれにはハッタリではないと判断できた。

 

「貴様……機体が万全でないにも関わらず私に挑んだのか?!!」

 

「身勝手なコト言ってんじゃねーよ!!!仕掛けたのはそっちだろが!!!」

 

アディンの正当な意見を突かれ、ロッシェは失笑する。

 

「……最もだ……ならば、まだ貴様には斬る価値はないのだな……」

 

「何だってぇ?!!」

 

「勝負は預けるというコトだ!!!どんなカタチであれ、万全かつ正々堂々とした闘いでなければ意味はない!!!」

 

トールギス・フリューゲルは、ギャインとビームランスの刃を弾くと、ビームサーベルの切っ先をガンダムジェミナス・グリープのコックピットに向けた。

 

「いいか?!!アディンとやら!!!私との決着が着くまで決して殺られるなよ?!!」

 

「どーかな~……へっへへへへ……」

 

「何だと?!!」

 

「俺にはどうしても人生賭けて決着着けなきゃならないヤツが二ついやがるのさ……一つは兄さんの敵、ガンダムデルタカイのリディ・マーセナスってヤツ。もう一つはかつて住んでた資源衛星を破壊したネェル・アーガ……」

 

その時、超高熱源の接近を知らせるアラートが、双方のコックピットに鳴り響いた。

 

「な、熱源?!!」

 

「?!!」

 

そしてプルはこの瞬間、見開いた瞳の瞳孔を変化させながら嫌な重圧感が具現化したことを悟った。

 

「っっ!!!!嫌な力っ、嫌な感覚、来るっっ……!!!!」

 

 

 

……ギュォァァァァァァァアアアアアアアアズゥオガァアアアアアアァァァッッッ!!!

 

 

 

凄まじい超高エネルギーを帯びたビーム渦流が、唸り狂うようにパラオを貫いた。

 

「な……!!?」

 

「嘘……だろ……?!!」

 

その光景を目にしたアディンの脳裏に、MO-5の悪夢がフラッシュバックで過る。

 

だが、パラオを貫いたかに見えた超高出力のビーム渦流は、パラオの民間区画と軍事区画とを繋ぐ連結区画を直撃していた。

 

その射撃軸線上のMSやネオジオンの艦艇は一瞬に焼灼・蒸発破砕させられ、その爆発が加えられた更なる破壊がより被害範囲を拡大させる。

 

「うぉおおっ?!!なっ、なんだ?!!まさか……やつら、戦略兵器まで持ち出しやがったのか?!!まさか、アレの二の舞ってんじゃぁ……??!」

 

一度MO-5での事件を体験していたディックは、全方位から襲い来る衝撃の様子から直ぐに戦略兵器レベルのビームがパラオ襲っているとわかった。

 

「わぁあああああ!!?」

 

衝撃はパラオ内の避難シェルターや中枢都市部、MS格納庫といったあらゆる区画におよび、パラオの市民達を恐怖に陥れる。

 

「わぁあああう!!!こわいよ、こわいよ~!!!」

 

「わぁああん、わぁあああん!!おかーちゃん、おにーちゃーん!!!」

 

「うっ……俺だってこわいよぉ~……!!!」

 

「うっ、くぅうっ!!ティクバ!!男ならぐっと勇気を出して耐えなさい!!父ちゃんからも言われてるだろ!!?」

 

地震のような未知の激しい衝撃の中、泣きわめく次男と長女を抱き締めながらも怯えるティクバをサント婦人は叱る。

 

ティクバもまた、父・ギルボアとの「家族を頼むぞ」という約束を思いだし、深く頷き弟と妹をしっかりと抱き締めた。

 

 

 

射撃軸線中心エリアでは膨大なエネルギー量が更なる破壊範囲を押し拡げ、灼かれた岩壁部を爆砕させていく。

 

「嫌っ……!!!これはっ、あっちゃいけない力っ……!!!」

 

感じる敵を目指していたプルも戦慄を覚える程の破壊を見せつけられる。

 

防ごうとしていた力の解放を目の当たりにしてしまったのだ。

 

その最中、パラオエリアの全ての回線を使ったヴァルダーからの警告通達が入る。

 

「パラオ総督、並びに、ガランシェールをはじめとするパラオのネオジオン、そしてメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムパイロットに告ぐ。我々はOZプライズ所属艦・グラーフ・ドレンデ!!!並びにキャプテンのヴァルダー・ファーキルである!!!今行った射撃は警告に過ぎん。我々の要求は潜伏していた二名のガンダムパイロット及びニュータイプの引き渡し。ガランシェールとそのクルーの身柄の引き渡し。そしてパラオ内に潜伏していたガンダムの引き渡しにある!!!受け入れられない、もしくは今から三分以内に決断されなかった場合、ハイパーメガ粒子砲により民間区画を完全に破砕させる用意がある!!!些細な抵抗や妙な行動も認めん……!!!」

 

その内容からして、以前よりスパイがパラオに潜伏していた事をヒイロとアディンはそれぞれの機体のコックピット内で知る。

 

「っ……俺達の情報は奴らに筒抜けていたのか!!?だが敵機が見えない上に……明らかに不利な状況だ……」

 

ヒイロは全天モニターに視線を幾つも配らせ、状況を見据える。

 

「……今は満足に戦闘ができない。ここは状況に委ねるしかないようだな……!!!」

一方のアディンは再び不利に立たされた状況に苛立つ中、先程のビーム渦流に忘れもしない違和感を覚えた。

 

「おいおい……勘弁してくれよな!!!やっと一矢報えたと思ったのによ……!!!それに、やっぱりさっきの……ハイパーメガ粒子砲かよ?!!まさか?!!」

 

アディンはこの先に忌まわしき敵たる存在がいることを直感した。

 

今すぐにでも確かめたかったが、ガンダムジェミナス・グリープの機体状況と彼らの完璧過ぎる潜伏と情報、根回しに、この場は従う以外に無いと判断せざるを得なかった。

 

「くっそ……こんな悔しい想いはねぇっ……!!!ヴァルダー・ファーキル……あいつが、あの時のMO-5を……間違いないっ!!!」

 

「同じくだ……我々側でありながらかなりの無粋な真似をしてくる……非常に不愉快だ!!!」

 

騎士道を重んじるロッシェもまた自軍側でありながら憤りを覚えていた。

 

パラオ総督もまた卑劣な脅迫に机を叩き、憤りの感情を見せるも、受け入れざるを得なかった。

 

「くっ……卑劣な輩めっ!!!彼らは我々の希望であった!!フロンタル派と離別し、自衛手段が薄くなった昨今、スペースノイドの希望と定め、彼らを我々は匿い協力してきた!!!ガランシェールの皆も、このパラオの功労者だ!!!だがっ……だがっ、民衆の為、従わざるをえんか……!!!」

 

そしてパラオ総督からの通信を受諾したヴァルダーは薄ら笑いを浮かべ、グラーフ・ドレンデを前進させた。

 

「ふっ……パラオの総督は理解が早い……手間が省ける。まだ我々がやるべき仕事は山積みだからな……」

 

「!!?高速接近していた機影、足を止めました!!!」

 

「恐らく取り逃がしたユニコーンガンダムだろう。絶大な力に戦意喪失したのだ。ふははっ、本艦をパラオへ!!!」

 

ヒイロやアディン、パラオのネオジオンサイドは成す術がない状況下にグラーフ・ドレンデの進撃を無抵抗で許していく……否、許さざるを得なかった。

 

誰もが悔しさや憂いの表情を浮かべて行く中、ヴァルダーは、グラーフ・ドレンデの艦橋から望むパラオ宙域を見ながら嘲笑をし続けた。

 

その最中、ユニコーンガンダムもこの状況に制止を余儀無くされた。

 

プルはこれ以上の抵抗の先に感じる最悪な展開を直感していたのだ。

 

「……ダメ……これ以上の抵抗は……できないよ……」

 

その後間も無くしてより、ヒイロやガランシェールクルー達はヴァルダー達の手により捕縛されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒイロやマリーダ達が捕縛されてより数日後、ヒイロとアディン、ジンネマンをはじめとするガランシェールクルー達は、半壊したウィングガンダムとガンダムジェミナス・グリープ、ガランシェールと共にOZ宇宙要塞バルジに連行され、一方のマリーダとプルはグラーフ・ドレンデにユニコーンガンダムと共に収用され、されるがままにされていた。

 

バルジに到着したヒイロやアディン、ジンネマン達は厳重な状況下の中に連行されていく。

 

その最中にアディンは震えていた。

 

恐怖ではない、極限の怒りと歓喜の入り雑じる感情に駆られていた。

 

MO-5を葬り、アディンの両親、幼なじみをはじめとする親睦が深い人々の命を奪い、更にパラオを半壊させた挙げ句、プル達をも拉致した禍々しい敵。

 

不甲斐なさや憎しみ、そしてここに来て長年に渡る怨恨籠る敵(かたき)を目前にできた想いがアディンを震わせ、奮わせていた。

 

アディンの脳裏で、遭遇するグラーフ・ドレンデと開かれた通信回線から、MO-5を沈めた事を鼻で嗤うかのように軽く語り暴露するヴァルダーの声が反復して過り続ける。

 

「……っそ!!!くっそぉぉおお……!!!」

 

「アディン……!!!今の状況をわきまえろ。無駄だ!!!」

 

ヒイロは今にも取り乱しあがこうと身構えたアディンに警告する。

 

怒りに駆られていたアディンはヒイロに振り向き、怒りを露にする。

 

「んだとっ?!!ヒイロに今の俺の気持ちが解るかよっっ?!!」

 

「状況を見据えろと言っている!!!怒り乱すのはあからさまに状況を悪化させる!!!」

 

「うるせぇええっっ!!!」

 

怒りに駆られたアディンはヒイロに手錠にかけられていた両拳でヒイロを振り殴る。

 

ヒイロの頬を直撃するも、ヒイロは顔色一つ変えずに膝蹴りをアディンに浴びせた。

 

「ぐふぅっ……?!!」

 

アディンのみぞおちにドスッと膝蹴りが入り、アディンは間もなく気絶して倒れ込んだ。

 

「き、貴様ら!!!何を取り乱してやがる!!!!大人しく従え!!!ったく、面倒ゴトを増やしやがって……おい、倒れたガンダム小僧を運べ!!!」

 

「はっ!!」

 

気を失わされたアディンは、指示で動いたOZプライズの兵士達二人にそのまま手と足を持ち上げられながら運ばれていった。

 

その指示を下したOZプライズの兵士が見送るヒイロに罵倒する。

 

「貴様も早く歩けっ!!!」

 

無言で歩を早め始めたヒイロに、すぐ後ろにいたジンネマンが一言礼を述べる。

 

ヒイロは既にジンネマンから一目置かれており、その礼はアディン一人の暴走からなる連帯の悪影響を阻止した事への礼であった。

 

「すまんな……礼を言う。よくぞ小僧の暴走を止めてくれた」

 

「気にするな。今あがけば状況が余計に悪化するだけだ……それを制止したに過ぎない」

 

その会話のみを済ませ、歩を歩ませながらヒイロは運ばれていくアディンを見ながら届く事がない言葉を呟いた。

 

「……悪く思うな……一回は一回だ……」

 

一見非常に冷静に状況を見据えているかのようなヒイロ達だが、常に捕らわれたマリーダやプルを想う憂いが激しく精神を締め付けている状況だった。

 

これまでに膨大な修羅場を経験してきたが故に、現状に耐えれていた。

 

一般の者であれば大切な恋人や娘が得たいの知れない組織に拉致された挙げ句に人体実験をされ、半ば生き別れの状況に晒されていれば、発狂している状況であっても不思議ではない。

 

況してや死の危険もはらむのだ。

 

ヒイロは初めて異性として惹かれた女性の死が、ジンネマンには二度に渡る娘の死の経験の恐れが見え隠れする。

 

更にその上に、ジンネマンにとってもう一人の娘の身も様々な意味合いで危機に晒されているのだ。

 

正に精神が生殺しに晒されている程の屈辱といっても過言ではなかった。

 

その感情と想いが締め上げられる彼方先では、改めて拘束されたマリーダがマーサやベントナと再び相対させていた。

 

マーサは拘束されたマリーダの顎をなぞるように触り、見下した嘲笑を浮かべていた。

 

「うっふふふふ……再び貴方が私達の手に戻るなんて……奇跡ね。いえ、運命かしら?ふっふふふふふふっ!!」

 

「……マーサ・ビスト……っ!!!貴様には二度と従わない……それに無理強いした薬物洗脳は私そのものを絶命させ兼ねない!!!私はマーサ・ビストからすれば貴重なサンプルなのだろう?ならば……」

 

次の瞬間、顔色を変貌させたマーサの平手打ちがマリーダの頬に入り、高い打ち音を響かせた。

 

「うっ!!!」

 

「生意気な口を聞かないことね……生意気な小娘風情が……!!!貴方の大切な妹……いえ、お姉さんの身をいじり回す事になるわよ!!!もとい元にいた場所に戻るに過ぎないけど……!!!更に下手な真似をすればハイパーメガ粒子砲を本当にパラオに直撃させる事にもなる!!!さぁ、従うか、仲間を犠牲にするか選びなさい!!!」

 

そう言いながらマーサは何度も平手打ちを繰り返した上にマリーダの束ね下ろしていた髪を掴み上げて引っ張りあげた。

 

「うぅっ……!!!」

 

「それに貴方は……オーガスタに着任したら遺伝子レベルまで解体される運命よ!!!」

 

「な?!!」

 

「オーガスタで開発中のニュータイプのシステム、『DOME』。これに組み込まさせてもらうわ……アハハ!!!薬よりも画期的じゃない?!!それに喜びなさい。廃棄処分を有効にする為あなたの妹達が既に組み込まれている……!!!姉妹そろって仲良く永遠にいられるわ!!!」

 

「な……狂っている!!!お前達はっ!!!お前達はぁああああああっ!!!ああぁああああああぁああああああ!!!!」

 

 怒りや悔しさ、不安、恐怖を交え発狂するマリーダをマーサはニタニタと見下した視線で笑みを見せ続けた。

 

更に追い討ちをかけるかのようにシナップス・シンドロームの発作がマリーダの身を駆け巡る。

 

「っ……あっ……ががはっ、あぁああああああ!!!」

 

「っ?!!」

 

苦しむマリーダは自らの縛られた身を暴れさせるように苦しみ、更には床に身を投げて狂い悶え続け、それを傍らで目撃しているマーサは余りにもの凄まじい絶叫に唖然を食らわざるを得なかった。

 

「な……これが例のシナップス・シンドローム……うるさいことこの上ないわっっ!!!」

 

マーサは今一度感情を高ぶらせてマリーダの頬を叩き、彼女を放置しながら部屋を後にする。

 

そしてルームのスライドドアを外部からロックし、半ばマリーダを隔離するかのような措置をとった。

 

マーサはその部屋に振り返りながら鼻で笑い、ヒールをカツカツ響かせながらオーガスタ研究所との通信を始めた。

 

「私よ……例のシステムを準備してなさい……着任次第、プルトゥエルブを解体するわ!!!」

 

一方のプルも、強制的な状況下でMS戦闘のシミュレーションをさせられている最中に感覚がマリーダとリンクし、彼女の絶望的な苦痛が襲いかかっていた。

 

「きゃあああああああああああっ、いやぁあああああああああ!!!苦しいっ、マリーダっっ、マリーダぁあああっ!!!」

 

「?!!く、シミュレーションにならん!!!中止だっ!!!くっ、暴れるなっ小娘!!!」

 

実験担当者達がプルの身体を押さえつける。

 

それでも駆け巡る激痛に耐えれずに、プルは激しく身体を捩らせ続けた。

 

その最中、一人の実験担当者がプルを押さえながらあらぬ思考を過らせ、他の実験担当者達に意思を疏通させはじめた。

 

「なぁ?ここはっ……法なんて通ってないよな?」

 

「何?何を言い始める?!実験に集中しろ!!」

 

「できる状況か?できねーから言ってる。てか、俺達は常にミズ・マーサの私兵として缶詰めだ……溜まるストレスはとことん溜まるだろ?!!」

 

「……まさか?!!はははっ、なるほど……!!!」

 

「確かに法はない……それ以前にいくらでも隠蔽できる!!!」

 

「コックピット・ハッチ……ロックしろ!!くくくっ!!!」

いやらしい笑みを浮かべながら、男達がハッチを内部からロックさせるとともにモニターに赤く「LOCK」の文字が点滅した。

 

 

時を同じくする頃、ヒイロとアディンは重要反逆者としてジンネマン達とは別の牢獄部屋に移され、そこでデュオと五飛に再会する状況になっていた。

 

寝転がるデュオは敢えて投げやり気味に言ってみせる。

 

「あーあっ!!揃いに揃ってGマイスターが豚箱入りなんてよー……それにせっかく揃ってもガンダム無いんじゃ意味ねーっての!!ったく、世も末だぜぇ……」

 

「確かに俺達はガンダムが取り上げられてしまった状況下にある。不利以外の何物でもない……今は足掻くだけ無駄だ」

 

「切り札になるウィングゼロも敵の手にある。もうすぐガンダムデルタカイとかいうゼロと同格の奴らのガンダムと模擬戦闘実験が開始されるらしい。場所はL3だそうだ」

 

五飛がヒイロの言葉の後にウィングガンダム・ゼロの模擬戦闘実験の場所を吐露した。

「L3……この宙域の正反対の位置か……阻止は実質無理かっ……そのガンダムデルタカイとかいう同格機体の武装も同格なのか?」

 

「らしいな……」

 

ヒイロもウィングガンダム・ゼロの性能を把握しているが故に新たな同格機体の存在を危惧せずにはいられなかった。

 

現状におけるウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイの激突が意味するのは、激突した周辺宙域のコロニーやその他資源衛星、艦船等の様々な大規模破壊だ。

 

ヒイロの脳裏にL3コロニー群のコロニーが2機の暴走により破壊されていく様子が容易に想像できてしまう。

 

更にマリーダ達の拉致に彼女の命の危機が見え隠れするという、板挟みの悪状況だ。

 

そんな中、デュオがラルフから受け取ったアイテムのストラップを人差し指でぐるぐる回しながら口を挟んだ。

 

「L3のコロニーもダメ……このまま虫殺しに……俺達はくたばるしかないかも……なーんてなっ!!ほらよ、ヒイロ!!」

 

「?!!」

 

デュオは手にしていたアイテムをヒイロに投げ渡し、ヒイロは意表を突かれながらもそれを片手でキャッチしてみせる。

 

「これはなんだ?」

 

「テキトーに壁に向かってスイッチ押せば自ずと道が開けるぜ。まだ仮の道だけどな!!」

 

「……そうか」

 

ヒイロは直ぐに投影型動画メモリーと理解し、目の前の壁に投影させた。

 

『囚われのGマイスター諸君。俺が長期に渡る根回しの成果と今後の計画を記す。敢えて多くは語らん。再起実行にあたるデータプランを作った。暇潰しに使ってくれ。追伸……トロワに背枷れた。故に日は近いぜ』

 

ラルフの音声のデータの後に、今後の再起プランの詳細が表示され、ボタンスイッチを押す毎に次へ次へと表示が進む。

 

ざっくり言えば、現状からの脱出と今後の反抗かつ反撃にあたるプランであった。

 

「バルジからの脱出……カトル、トロワのガンダムとマグアナック隊の連携強襲……ウィングゼロの奪回……結託したオーストラリアのゲリラ組織・マフティーと連携し、メンバーの救出を兼ねたリ・オペレーション・メテオの決行……オーブ強襲・解放……以後転戦による主な拠点の破壊をしつつ、サンクキングダムへ向かい、同国への亡命と防衛……これは……!!!」

 

「ボリュームたっぷりだろ?ラルフの奴、囚われた博士や外部のカトル達との根回しを駆使して色々と動いてくれてんのさ!トロワの奴も珍しいおせっかいを出したみたいだし、今にチャンス来るかもな!!」

 

「そうか……」

 

ヒイロは一言だけ返事をし、ひたすらラルフのプランを閲覧し続けた。

 

 

 

OZプライズ宇宙要塞・バルジを出発したウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイの模擬戦テスト部隊が模擬戦エリアに選定したポイントに到達する。

 

「目標宙域に到達。これより模擬戦闘実験の準備に移行する」

「了解。試験機体の2機は輸送艦艇から発艦した後に指定座標の配置に付け」

 

リディはハッチ解放後、指示されたポイントを虚ろな視線でメインモニターで把握しながら機体を出撃させる。一方のキルヴァは暗い半球ドーム型のインターフェースの中に座していた。

 

客観的に見れば、赤とグリーンのマーカーが漆黒のインターフェース画面に表示されているに過ぎない。

 

だが、機体が起動すると共にキルヴァは前を見据え、ニヤリと笑いながらコントロールレバーを押し込んだ。

 

出撃したウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイは遠巻きに並行しながら宙域を飛ぶ。

 

だが、その最中、早くもキルヴァに異変が起き始めていた。

 

キルヴァは宇宙空間の景色が拡がる視界感覚に満たされており、視覚だけではなく自身が空間そのものと一つになっているかのような感覚に襲われる。

 

「うはぁっ?!!モニターかと思ったら違う!!!宇宙に俺が溶け込んでやがる?!!スゲーコックピットシステムだぜ!!!こりゃ全方位型とはまた違う!!今いる空間そのものが手にとれ……なんだこの感覚……っっ……何かが……?!!」

 

キルヴァは突如として脳内に声なき何かが侵入する感覚を覚えた。

 

口では説明し難い感覚に見舞われながらも、並行するガンダムデルタカイに視線を向けるキルヴァ。

 

その次の瞬間、ガンダムデルタカイがメガバスターの銃口を向けた。

 

ビーム渦流のビーム光がキルヴァの視界に拡がり、キルヴァはビームの直撃を受ける感覚を覚える。

 

「な?!!ヤロウ!!!フライングしやがったなぁ?!!」

 

だが、実際はウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイは並行進撃を維持しており、キルヴァのウィングガンダム・ゼロのコックピット内で展開しているに過ぎなかった。

 

キルヴァの視界、思考には明らかに攻撃を仕掛けるガンダムデルタカイがいた。

 

メガバスターを何発も放ち、キルヴァに中小規模のビーム渦流が襲うビジョンが突き付けられる。

「っっ……がぁあああああっ!!!ざけんじゃねぇえぞ、おらぁあああっっ!!!!」

 

怒りに駆られたキルヴァが叫び散らすと共に、半球ドーム型のスクリーンが一気に発光し、その光はキルヴァの身をコックピットディスプレイごと包み込む。

 

それと同時にウィングガンダム・ゼロのカメラアイとその胸部のゼロ・サーチアイがライトグリーンの光を強く放ち始めた。

 

ウィングガンダム・ゼロはギュインと射撃態勢への状態に可動し、ガンダムデルタカイを目掛けツインバスターライフルの銃口を向けた。

 

ガンダムデルタカイもまた、カメラアイを発光させながら同時にメガバスターの銃口をウィングガンダム・ゼロに向け、バスターファンネルも展開させる。

 

同じ事がガンダムデルタカイにも起こっていたのだ。

 

ガンダムデルタカイのコックピットシステムであるナイトロとゼロの両システムも既に発動しており、敵意を剥き出しにした険しい表情のリディが叫ぶ。

 

「忌まわしい敵っっ、ガンダムッッ!!!!」

 

2機の高出力重火器同士が近距離で向かい合い、監視していたOZプライズ兵士達に戦慄がはしった。

 

「な?!!両ガンダム試験パイロット!!!まだテストポイントではないぞ!!!直ちに攻撃態勢を解除せよ!!!」

 

「くっ……これだから強化人間風情は手を焼く!!!連邦上がりの奴も何をやってやがる!!?攻撃態勢を直ちに解除しろ!!!」

 

当然のことながらキルヴァとリディにその指示が通用する筈がなく、両者は近距離で超高出力のビームを解き放とうとしていた。

 

「っ、構わん!!!MDリゼル・トーラスをキルモードのプログラムで攻撃させろ!!!寸分も迷いの時間はない!!!」

 

「は、は!!!!」

 

この不測の事態に居合わせる事となったOZプライズ兵士達は、2機のガンダムと同時に搬送していたリゼル・トーラスをキルモードに設定にし直し、一斉に攻撃目標を2機のガンダムにしたプログラムを送信した。

 

リゼル・トーラス部隊はカメラアイの発光を高速点滅させた後に、次々に宇宙空間へと飛び出してレフトアームのビームキャノンを構えていく。

 

撃ち放たれるビーム射撃は、今にもツインバスターライフル発射寸前のウィングガンダム・ゼロとメガバスターを構えたガンダムデルタカイに次々に着弾していく。

 

装甲の表面で、幾多の小爆発が巻き起こり2機を包んでいく。

 

更にメガビームランチャーを構えた幾つかの機体がビーム渦流を叩き込むと、ビームキャノンを放っていた機体達もそれに続くようにして射撃をメガビームランチャーへ切り替えた。

 

注ぎ込まれるかのような射撃がより一層の火力を増しながらウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイを直撃していった。

 

オーバーキルとも言えるような過剰攻撃を受けた2機は一気に弾けるかのような大爆発を巻き起こす。

 

宇宙空間に拡がるその光景はどう見ても破壊による爆発であった。

 

肉眼でこの状況を目視したOZプライズ兵士達もまた2機の破壊を確信していた。

 

リゼル・トーラスのメガビームランチャーは、実際にメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを破壊に追い詰めた実績がある兵器なのだ。

 

従来のガンダリウムならば完全に破壊させている程の火力の砲火であった。

 

「爆発、視認!!」

 

「あれ程の火力を浴びさせたのだ!!いくらガンダムと言えど……っっぅ!!?」

 

だが破壊を確信した次の瞬間、爆炎光を突き破りながらウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイが飛び出す。

 

両ガンダムは両眼を見開くかのように光らせ、ウィングガンダム・ゼロは胸部のサーチアイを発光させていた。

 

「が、ガンダム2機健在!!!双方共にほとんど外傷ありません!!!」

 

「ば、馬鹿な?!!有り得ん!!!どれ程の火力を浴びせたと……!!?」

 

「ガンダム、攻撃態勢に移行!!!銃口をこちらに!!!」

 

「えぇいっ、MD、オーバーキルプログラム指示!!!再度全火力叩き込ませろっ!!!!」

OZプライズの兵士達の面々が戦慄する中、ツインバスターライフルとメガバスター、バスターファンネルの銃身が実験部隊とリゼル・トーラス部隊に向けられた。

 

リゼル・トーラス部隊もまた、2機のガンダムを撃破できなかった事を認識した上にオーバーキルプログラム信号を受け、カメラアイ発光を高速点滅させる。

 

再びリゼル・トーラス部隊によるメガビームランチャーとビームキャノンの一斉砲火がウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイへと放たれた。

 

リゼル・トーラス部隊は再度2機のガンダムへ直撃を浴びせ、更に連続の高出力砲火を持続させる。

一斉砲火は確実に2機の装甲に連続着弾しており、一発も外してはいなかった。

 

更に爆発を重ねる中、必要以上に砲火が続く。

 

「いける!!!次こそは……!!!」

 

「MDシステムのオーバーキルプログラム、間違いなく最良の攻撃プログラムです!!!」

 

「ふふふっ、この攻撃が敵であったらと思うと恐ろしいことこの上ないな……!!!」

 

どの兵士達も確実な破壊を確信していく最中、そのおびただしい爆発と砲火の中から2機のガンダムが飛び出す。

 

誰もがその事実に理解が出来なかった。

 

スローモーションに映るウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイがギンと両眼を発光させる。

 

そして両ガンダムはツインバスターライフルとメガバスター、バスターファンネルの銃身をリゼル・トーラス部隊に向けた。

 

戦慄の瞬間を掻い潜り、凄まじい現実がOZプライズの兵士達に襲いかかった。

 

 

 

ヴヴィリリリリリィィィ……ヴヴヴァダァアアアアアアアアアアアアアッッ―――!!!!

 

ズゥゴォヴァアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアァァァアアアアァァァ……

 

 

 

超高出力かつ大規模のビーム渦流群が撃ち出され、瞬時にしてリゼル・トーラス部隊と輸送艦隊を呑み込み破砕し尽くしていく。

 

ツインバスターライフルが放つそのビーム渦流は、ウィングガンダムのバスターライフルをも上回る規模であった。

 

ウィングガンダム・ゼロはゆっくりと銃身を旋回させ、更なる攻勢で潰し尽くし爆発群を拡大させていった。

 

 

 

ドッゴバッドォドォドォドォドォドォドォドォドォドォドォドォゴバババババガァアアアアアアアア!!!!

 

 

 

遂に禁忌のガンダムの力が解き放たれ、狂気の破壊技術たるMDを更なる狂気の破壊技術が呑み込む。

 

宇宙世紀のこれまでの戦闘常識が完全に崩壊した瞬間が駆け抜けた後、やがてビーム渦流は終息し、大規模な爆発群を産んだ。

 

その爆発の中、2機のガンダムは対峙するように向かい合いながらビームサーベルの武装を手にし、グワッと一気に加速した。

 

 

 

To Be NextEpisode

 

 

次回予告

 

 

 キルヴァとリディがウィングゼロとデルタカイで激突し合う。

 

 二人はその熾烈な激突の中でゼロシステムに呑まれながら消息を絶った。

 

 2機の消息不明から一週間が経つ中、艦隊規模の部隊や武装コロニー、資源衛星が相次いで消息を絶つという異常事態が起こる。

 

 その状況下を利用し、ヴァルダー達は手当たり次第に資源衛星を破壊しながら、ラプラスの座標ポイントを目指す。

 

 マリーダとプルは卑劣な利用手段にされ続け、マーサとヴァルダー達に翻弄されていく。

 

 バルジに収監されたヒイロ達もまた、彼女達への憂いが張り詰め、アディンは耐えれずに取り乱してしまう。

 

 そんな中、消息を絶っていたキルヴァ駆るウィングゼロが姿を表し、コロニーや資源衛星を破壊し始める。

 

 そのウィングゼロこそが艦隊やコロニーの消失の元凶であり、それは過去に例を見ないMS単機でのテロ行為だった。

 

 これに対し、トレーズの意向でヒイロとデュオが暴走した2機の討伐隊に抜擢され、メリクリウスとヴァイエイトのカスタム機を与えられるのであった。

 

 

 次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード 33「ゼロという破壊神」

 

 

 

 

 

 



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エピソード33「ゼロという破壊神」





 

振りかざし合ったビームサーベルの刃がスパークの閃光を放つ。

 

ゼロシステムを搭載したガンダムと、ゼロ、ナイトロの両システムを搭載したガンダム同士がぶつかり合い、両者共に強大な力を宇宙空間の只中で激突し合う。

 

連続の斬撃と拮抗の断続が、籠められた狂気を宇宙に拡散させているかのようにも見えた。

 

弾きあった両者は高速で旋回加速し合いながら、より一層の斬撃を繰り出していく。

 

睨み合うウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイの無機質な眼光は互いを外す事なくいた。

 

「キヒヒャアアアア!!!雑魚の次はキサマだぁああああっ!!!ゼロが言ってんだよ……コロセっ………てよぉっ!!!しゃあああああああ!!!」

 

キルヴァは眼を極限まで見開き、狂気をリディのガンダムデルタカイへと向ける。

 

対しリディはキルヴァとは対象に、虚ろな状態で狂気を放ちガンダムデルタカイにそれを伝える。

 

数度に渡る斬撃に加え、シールドバスターソードの刺突を繰り出す。

 

しかしウィングガンダム・ゼロは一層の高強度を誇るネオ・ガンダニュウム製のシールドでガードし、一瞬で捌き弾いた。

 

そのシールドに装着したかのようにレフトハンドに握らせたツインバスターライフルが低出力の三発を放つ。

 

低出力と言えど、その威力はビームマグナムの最大出力に相当する威力だ。

 

ガンダムデルタカイはシールドバスターソードに装備されたハイメガキャノンを放ち対抗。

 

高出力の両ビームが狂いなく相殺し合い、その激しいエネルギーの爆発が三度弾ける。

 

両者はその爆発に飛び込むかのごとく加速すると、すれ違いながらの斬撃を繰り出し、瞬間的なスパークをはしらせた。

 

2機は高速の旋回軌道を描いた直後に拮抗たる拮抗をぶつけ合い、終わりなきスパークを幾度も生み続ける。

 

ズンと互いのパワーをぶつけ、再度斬撃を拮抗させる中、両機体のゼロシステムがキルヴァとリディに戦闘の幻覚を見させる。

 

キルヴァの視界にはΞガンダムが、リディの視界にはデストロイモードのユニコーンガンダムが迫る。

 

「なっ……?!!」

 

「ユニコーン?!!」

 

双方がパイロットをしていたガンダムが牙を向け、ウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイにビームバスター、ビームマグナムを撃ち放つ。

 

「がぁああああ?!!」

 

破裂するように爆発するウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイの幻覚に、あたかも自身が爆発したかのような感覚を与えられた。

 

身を揺さぶられ、引き裂かれるような感覚に耐えかねて発狂する二人であるが、あくまでゼロシステムが見せているイメージの映像に過ぎない。

 

故に実際にウィングガンダム・ゼロクラスのガンダムが容易く破壊されることはあり得ないのだ。

 

「はぁっ、はぁ、はぁっ………なんだぁ?!!一体なんなんだぁ?!!Ξガンダムがぁ?!!っ……がぐっ?!!」

 

「ぐぅっ……っ俺が俺に?!!ユニコーンガンダム……くぐぅっ?!!」

 

キルヴァとリディは自らが操ってきた機体に自らが撃たれる幻覚を見せられる中、次第に遠心力に脳が振り回されるかのような倦怠感が襲う。

 

実際の状況上の2機はビームサーベルを激突させた状況にあった。

 

更にゼロシステムは圧迫的に死に値するような負担と幻覚を見せ続け、システム同士が共鳴するような高速演算が開始された。

 

「がぁああああああああっっ?!!」

 

最早通常では耐えきれない不快感がキルヴァとリディに濁流のように流れ込む。

 

その次の瞬間、ウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイは狂ったような高速軌道を描きながら、斬撃を打ち合って宇宙を駆け巡る。

 

既にキルヴァとリディは生態端末と化し、機体に操られるに等しい状況に張り付けられていた。

 

「ガンダム……コロスっ……キヒヒャギィィッ!!!」

 

「あああああっっ!!!あああああああっっ!!!!」

 

最大加速をしながら激突する最中、既に通常ならば絶対に耐えれない程のGがコックピットを満たす。

 

同時に再度二人の脳内をゼロシステムが駆け巡り、平衡感覚を振り回す、苦痛と違和感が襲った。

 

「がぁっっ?!!またかぁっ?!!がぁらぁぐぁああああっっ!!!!」

 

「ぐぅううううっっ……がはぁうっ、ぐおっ……アアアアうくっ?!!」

 

過酷極まりない状況に耐え兼ね、三度程の剣撃の後に2機は弾き合うようにして離脱し、狂った軌道を宇宙に描きながらそのまま消息を絶っていった。

 

 

 

 

一週間後

 

 

 

 

ウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイの暴走より一週間が経つ頃、宇宙の各エリアにおいてOZ宇宙軍及びOZプライズの艦隊が全滅する事態や武装コロニーや資源衛生が消失する等、不振な事態が相次ぐ。

 

かつての戦争でも類を見ない極めて異常な事態が宇宙に起こっていた。

 

そんな状況下の中、ロッシェが率いる部隊もまた警戒にあたる部隊の一つとして展開しており、その最中宇宙の宙賊一味と遭遇し、戦闘を繰り広げていた。

 

宙賊達はリゲルグやジェガン、バーザム、リックディアス、マラサイといった横流しに出回るMSの混合集団であるが、無論ながらロッシェ達が遥かに優勢だ。

 

「笑止千万!!!格差が有りすぎる!!!しかし、出会した以上は見逃せんな!!!」

 

高機動力を見せつけながら宇宙を舞うトールギス・フリューゲルは、ビームサーベルをジェガンに突き出し、これを一気に貫いて破砕すると共に、2機のバーザムにもその流れからの斬撃を見舞う。

 

それらの爆発を尻目に、一気に加速をかけた三連斬をマラサイ2機とリックディアスに食らわし、瞬く間に爆発光へと変えた。

 

リゲルグとドーベンウルフの射撃、砲撃もトールギス・フリューゲルは難なく振り切り、一気に加速をかけた突きをドーベンウルフに食らわすと、そのまま強力な薙ぎ払いと袈裟斬り、再度の薙ぎ払いで破砕爆破してみせる。

 

リゲルグがビームサーベルで斬りかかる時には既にトールギス・フリューゲルはリゲルグの懐へと機体を飛び込ませており、ビームサーベルの連続突き出しと連続斬撃を浴びせた。

 

「ふん……」

 

瞬く間に宙賊の機体達を爆砕させたロッシェはビームサーベルを撤退しようとする宇宙輸送機に切っ先を向けた。

 

「不届きな賊め……逃さん!!!」

 

トールギス・フリューゲルが再び爆発的な加速を始め、一気にビームサーベルを船体に斬り込む。

 

トールギス・フリューゲルの超高速に比例して斬り抉られる船体の斬撃跡から駆け抜けるような爆発が連続し、輸送機は破砕に破砕して爆発、轟沈した。

 

その戦果に立ち会ったプライズリーオーに乗る部下達が讃える。

 

「お見事です!!ロッシェ特佐!!我々が援護する間すらございませんでした!!」

 

「この程度の戦闘はウォーミングアップに等しいさ……今我々が置かれている任務に比べればな。本命の敵は私が対決したガンダムの本来の戦闘力に匹敵するそうだ。最も、その敵は暴走した同胞なのだそうだ」

 

「同胞の暴走……!!!」

 

「そうだ。だが、噂ではその暴走に便乗した別の暴走が組織内の者達に決行されていると聞く。我々は確かに力を有しているが、暴走の力ではエレガントとはかけ離れる。お前達はくれぐれも履き違えるなよ」

 

「は!!無論にございます!!」

 

(見当はついているが……当然、表沙汰にはならまい……いつの時代も汚い膿は組織には必ずという程存在するからな)

 

 

 

一方、マリーダとプルを拘束したグラーフ・ドレンデは地球のとある衛生軌道付近を目指し、宇宙の空間を航行する。

 

その目的はユニコーンガンダムの示す次のラプラスの座標にあった旧宇宙官邸コロニー・ラプラス跡に到達し、更なるラプラスの座標の開示を実行する事だ。

 

マーサは以前よりラプラスの箱の破壊を目論んでいる。

 

しかしながらその正体や所在は曽祖父のサイアムや実の兄のカーディアス等、身内の主な男性達しか把握していなかった。

 

更に真にラプラスの箱が開示されれば、世界の崩壊を招くともされている。

 

となれば仮にラプラスの箱が解放され、世界が崩壊するようなことが起これば、それを秘匿し続ける自身の家系に何らかの圧力や巨大な責任を問うメディアの圧力がなどが働き、現在の地位を失脚しかねない。

 

本来的には現状の保守かつ維持が必要だった。

 

しかしマーサはラプラスの箱を核に、様々な囚われを重ねていき、日を追う毎に執拗な悪女の姿勢を見せはじめていた。

 

その最中に偶然目をつけたとある資源衛星において、ヴァルダーは理不尽な虐殺を命じさせながら高みの見物を鋭い眼光に決め込む。

 

プライズ・ジェガンやリゼル・トーラス、プライズ・ジェスタを出撃させ、海賊の如く資源衛生を襲撃。

 

おびただしいビームの閃光をもって、抵抗するネオ・ジオンやジオンサイドのMS達を破壊させていく。

 

その犠牲の中には、かつての同胞である連邦やどちらにも属さない民間勢力のMS達もいた。

 

ヴァルダーはブリッジから薄ら笑いを浮かべながら高みの見物を決め込む。

 

更には行方不明のガンダム2機の反抗に見立て、ここに至る間にもハイパーメガ粒子砲の試射を幾度も行い、その強大なるビーム渦流で幾つもの資源衛生を反抗者や住民を諸ともに葬り去られていた。

 

ヴァルダーの理不尽極まりない感情を漂わせたグラーフ・ドレンデは、この日も畳みかけるかのように資源衛生を襲撃していく。

 

ジェガン、ジムⅢ、ネモ、はたまたハイザックやマラサイ、ジムクェルといったかつてのグリプス戦役時代のMSも戦闘に参加し、理不尽な虐殺に抵抗する。

 

だが、擬似GNDドライヴを搭載したプライズ・ジェガンやプライズ・ジェスタ、それに加えMDであるリゼル・トーラスの敵ではない。

 

一方的な高火力のビームが抉り潰すように抵抗勢力のMS達を破砕させていく。

 

本当の蹂躙たる蹂躙の光景がグラーフ・ドレンデのブリッジの眼前に広がり、それを見ながらヴァルダーは嘲笑していた。

 

「……いい光景だ」

 

その最中、ユニコーンガンダムが発進シークエンスに移行し、グラーフ・ドレンデのセンターカタパルトの配置に着く。

 

だが、プルがユニコーンガンダムを起動させているにも関わらず、ユニコーンガンダムは依然として通常モードで起動していた。

 

更には淡々と時間が流れていく。

 

コックピットに座った彼女自身は虚ろな視線をしており、その放心的な表情はメンタルに支障をきたしているようにも見える。

 

「……あたしは……あたしは……人形……なの??」

 

決して普段の彼女ではなかった。

 

誰からも気遣う言葉をもらえない中、ひたすらこの一週間ラプラスプログラムの媒体として、今後の戦闘要員として、男達の諸行対象として身を晒されていたのだ。

 

「こんなの……いや……でも、やらなきゃ……しなきゃマリーダが……コロサレちゃう……あたしのカラダもめちゃくちゃ……あたしは、ラプラスの箱の為の……人形……なんだ……」

 

既に心身が疲弊しているプルを管制する側のヴァルダー達は無情に彼女を扱う。

 

「……発進タイミングは基本は委ねてますが、あのユニコーンガンダム、発進の意思がありません!!ユニコーンガンダム、強制発進させます!!」

 

「よし……強制射出しろ。しかしあの小娘、何故NTーDを発動させない?まぁ……いい、ミズ・マーサの狙い通りに事が運べば面白い……」

 

「エネルギー充填値確認!!ハイパーメガ粒子砲もいきますか?!ヴァルダー艦長!!!」

 

ヴァルダーの意に叶うタイミングで砲術士が、ヴァルダーにふると、彼は薄ら嗤いをしながらバッと手をかざした。

 

「力の欲望に沿えばな……!!!ハイパーメガ粒子砲、発射シークエンスに移行しろ!!!」

 

「ヴァルダー特佐。お言葉ではございますが、宜しいのですか?できる限りハイパーメガ粒子砲の発射は制限された方が宜しいかと……メディアが騒ぎかねません!!それ以前に、艦そのものへの悪影響も……!!!」

 

「案ずるな。メディアなど幾らでも情報工作ができる。それに、ハイパーメガ粒子の悪影響もこいつは暴走している消息不明のガンダムの仕業にさせても違和感はない……!!!」

 

「は、はっ!!では、発射シークエンスへ移行致します!!!」

 

グラーフ・ドレンデにハイパーメガ粒子砲の発射シークエンスの警報が鳴り響く中、ユニコーンガンダムは吐き出されるようにカタパルトから強制的に打ち出されていった。

 

プルに理不尽な加速Gが襲う。

 

「うぁうっ?!!」

 

その光景を監視していたマーサに、部下の私兵の一人が問いかける。

 

「マーサ様。小娘一人をラプラスへ向かわせて宜しいのですか?どこで離反するか……」

 

「その心配は皆無よ。あのプル・ファーストの妹、プルトゥエルブは我々の手中にある……それに、あなた方もひとつ……いえ、ひとつだけじゃない。いくつもとある楔を彼女に打ち込んだのよね?誉められた行動ではないのでしょうけど……」

 

「そ……それは?!!い、いえ、我々はっ……!!!」

 

既に部下達の不祥を見抜いていたマーサは、比喩に包みながら部下達の不祥を指摘した。

 

流石に不祥に関与した部下の男は焦りを見せるが、次の瞬間にもたらされた言葉は意表を突くものだった。

 

「うっふふふ……安心なさい。別に処罰などはしないわ。色んな利用価値があっていいじゃない。彼女達の存在はそれでいいのよ。所詮は人形よ……うふふ……」

 

マーサの冷徹かつ魔性の視線が出撃して行くユニコーンガンダムを追い続ける。

 

それと同時にマーサは対ハイパーメガ粒子砲光線用バイザーを付けた。

 

一方のマリーダは日々終始最新型の精神波型洗脳機の実験に晒し続けられていた。

 

グラーフ・ドレンデの一室で絶えずそれは行われ続けていたのだ。

 

「……次のデータを取るぞ」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……うっ……くっ!!!」

 

連続の実験を受け続けるマリーダは、肉体的な外傷がなくともプルと同様に精神を疲弊させていた。

 

「さぁ、実験が終われば心身疲れた我々に尽くしてもらうからな……」

 

「だまれ……!!!貴様達は人としてなんとも思わないのか?!!実験と欲望だけで動いているのか?!!恥をしれ……!!!」

 

しかしマリーダはプルとは違い、疲弊していても頑なかつ気高い姿勢を維持していた。

 

これもまた数多くの過酷な経験に身を置かされていたが故に成せる姿勢だった。

 

「どうせ着任したら解体だ。それまで実験体を楽しませてくれよな。身をわきまえろよ」

 

「くっ……私は屈しない……!!!」

 

そう言いながら実験を行う男はマリーダに次の精神洗脳機をマリーダの頭部と両耳に装着させながら彼女の体をの至るところを触る。

 

「くくくくっ、強情さがかわいいなぁ……いつまでもつかなぁ……いつまでもつかなぁ!??」

 

「あっくっ!!……外道めっ……!!!!」

 

そしてスイッチを押し、精神洗脳機の試作機を起動させた。

 

甲高いサイコ波が超音波のようにマリーダを駆け巡り、言い様のない痛みのような激しい感覚がマリーダを襲った。

 

「っ―――!!!!あああああっっ!!!いやっ!!!いやぁああああああああああああっっ、イヤアアアアアアアアっっ……!!!」

 

阿鼻叫喚するマリーダにはしる悲鳴と苦痛に感づいたプルもまた、同じような苦痛に襲われた。

 

「ああっっ!!?い、いたいっ!!!心、コワレそう……っ、きゃあああああっっ!!!」

 

ユニコーンガンダムのコックピット内で苦しみ始めるプルの背後でハイパーメガ粒子砲が発射され、瞬く間に資源衛生を破砕させていく。

 

そして資源衛生を目掛けた目映い破砕の閃光が宙域を包むように拡がっていった。

 

 

 

OZプライズ・宇宙要塞バルジ

 

 

ヒイロ達が囚われている牢獄の部屋の外で、OZプライズの兵士達がざわめきを見せながらあわただしく動く。

 

ウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイの暴走より既に一週間が過ぎ、OZ及びOZプライズはメディアのみならず上層部であるロームフェラ財団からも責任を問われる最中にあった。

 

既にヒイロ達にもラルフを通してその情報を得ており、デュオはその様子にいい君と言わんばかりに言ってみせる。

 

「連中、連日慌てふためいてやがるぜ……ま、自業自得ってかぁ?へへっ!!なーんもできねーなら高みの見物決め込むかぁ??」

 

「そうも言ってはいられない。現にOZプライズの手に渡ったゼロが暴走しているんだ。事は深刻な状況下にある……!!!囚われたマリーダ達の事もあるしな……」

 

「わかってんよ!!どーにもならなさそうだから適度に愛嬌加味したんだよ!!けど、マジで一向に俺達を使う気もなさそうだぜ?!コトが起きてから一週間……いっそラルフに次の接触タイミングで反抗のタイミングを今すぐに早めてもらうか?!!」

 

「……焦っても無駄だ。下地無き行動は事を悪化させるだけだ。反抗計画は動き出しているのだろう?期を待つに限る……」

 

真っ向から意見したヒイロの逆意見を五飛が仰向けのまま腕を組んで言う。

 

「五飛!!その間にもコロニーが俺達のガンダムの攻撃のとばっちり受けるかもしれないんだぜ?!!それも特大級のとばっちりをな!!!」

 

対してデュオは、ウィングガンダム・ゼロのツインバスターライフルの甚大なる悪影響を危惧したイメージを抱かせながら主張を五飛へと投げ掛ける。

 

それとほぼ同時にアディンが壁を叩きながら声を荒げた。

 

「くっそーっ……!!!こうしている間にも拐われたプル達はっっ……!!!ちっきしょーっっ!!!俺もデュオやヒイロと同意見だぜっ!!!プル達が気がかりでならないっ!!!」

 

「ふんっ……この状況であの年下の女子供にうつつを抜かす方がどうかと思うがな」

 

「なんだとぉっっ?!!」

 

五飛のその言葉により頭に血が登ってしまったアディンは、眉間にシワを寄せながら手錠をされたままの両手で殴りかかった。

 

「ふんっ……!!」

 

しかし、五飛は余裕の身のこなしで流水のごとくこれを受け流し、手錠された両手を逆手にした関節技で軽々と打ち伏せてみせた。

 

「がぁっ!!っ……のヤロつ……!!!」

 

「馬鹿め……頭を冷やせ……」

 

「っ……ちきしょーっ……!!!ちきしょーっ!!!」

 

冷静にアディンを押さえつけて啓発する五飛に対してもがきながら抵抗するアディン。

 

その険しくも落涙しそうな表情に悔しさが色濃く滲み出ているようだった。

 

「そこまでだっ!!!見苦しいぞ!!!」

 

そんな二人に一括の声を上げたのはジンネマンだった。

 

ジンネマンはゆっくりと二人に歩み寄ると、諭すように言葉を与えた。

 

「アディン……その悔しい想いや憂いの想い……それは俺も同じだ。仲間割れするんならその勢いと行動、根性を来たチャンスに活かせ。あの子達を助ける時にな……それと……五飛……だったか。お前はお前でモノの言い方は選べ。アディンの憤りは一理や二理あるぞ」

 

「……ふん。俺は小娘にうつつを抜かすなと啓発したに過ぎん……こんな状況下で女に腑抜けるのは愚かだからな。ジンネマンとか言ったな。あんたは甘いな」

 

そう言いながら五飛はアディンから関節技を解いて、再び床に腰を落とした。

 

無論、この態度に今度は諭したはずのジンネマンが怒りを覚え、眉間にシワを寄せた。

 

「お前……随分な言葉を……!!!解らんだろうな……貴様のようなガキに娘を憂う父親の気持ちがっ!!!」

 

ジンネマンが五飛に両腕を振りかざそうとすると、その悪くなった空気を一掃するようなデュオの声が響いた。

 

「はいはいはいはいーっ!!!空気が重くなっちまってるって!!今無駄にエネルギー使ったってしょーがねーぜぇ?それも身内同士でよぉ!!第一、それで止めに入ったんだろ?!!ジンネマンのおやっさん!!」

 

「キャプテン!!落ち着きやしょう!!!デュオが言うように直前までキャプテン自身が言ってたじゃないですか!!チャンスに行動する為に活かせって!!!」

 

「フラスト……ぬぅっくっ……!!!」

 

フラストがジンネマンに頷き、改めた説得をしようとし、アディンもまた起き上がろうとした。

 

その時だった。

 

突如としてスライド式のドアゲートが開き、数人のOZプライズ兵士が牢獄部屋へと入って来たのだ。

 

その中にはスパイとして活動をし続けるラルフの姿もあった。

 

「01と02!!出ろ!!」

 

「!!」

 

01と02とはヒイロとデュオの呼称ナンバーであり、五飛が03、アディンが04、ジンネマンが05という具合にそれぞれに与えられていた。

 

待ちに待っていた事の動きにデュオは相変わらずの減らず口を漏らしながら腰を持ち上げる。

 

「やれやれ……ようやく出番が回って来たかぁ?おい……やっぱりガンダムの厄介事にはガンダムのプロ駆り出すのが一番なんだぜぇ?」

 

「貴様らの御託はどうでもいい……出ろ!!今ある緊急事態に対して貴様らを使う!!!」

 

「だからその使うのが遅いっての!!下手すりゃここだって狙われるかもだ。あんたらの判断がバカ過ぎだっての……ぐがっ?!」

 

気に触れた一人の兵士がデュオに銃のグリップでなぐるが、その程度の事など些細であり、ヒイロは気に止めることなく淡々と動く。

 

「っ……へいへいお利口に従いますよ……」

 

「……」

ラルフも触れる事もアクションを起こす事もなく、直ぐに去っていく。

 

しかし、ラルフは去り際の僅かな隙を狙うように、スライドハッチが閉まる瞬間で何かを投げ入れた。

 

それにいち早く気づいた五飛は、ハッチが完全に締め切るのを見計らってそれを手にし、ニヤリとした。

 

「……どうやら事が動き出すかもしれん……」

 

連行されるヒイロとデュオであったが、その最中に今の事態を聞かされていた。

 

「本格的な暴走だぁ?!まさかコロニーが沈んだってのか?!!それとも資源衛星かっ?!!」

 

「両方だ!!資源衛星とコロニー!!更に被害は拡大しているとの事だ!!」

 

デュオの反応に以外にもOZプライズ兵は羽切よく答える。

 

事態は深刻さを加速している事を感じさせられた。

 

「もう一つのデルタカイとかはどうなんだ?!!」

 

「そちらも目下捜索しているが、未だに見つからん!!」

 

「なんか不気味だな……それもそれで!!」

 

向こうもここに至り、ネコもといGマイスターの手を借りたいと言わんばかりである。

 

「最早我々はプライズのプライドだの、敵に借りを作るだの、悠長な事は言ってはいられん!!!否、最終的にはトレーズ上級特佐からの直々の命令でこの運びとなったのだ!!!トレーズ特佐の意向を光栄に思うことだな!!!」

 

「なんだって?!!トレーズが?!!」

 

「トレーズ……!!!!」

 

 

 

一時間前

 

 

 

L3コロニー群全域に発令された非常事態宣言がL3コロニー群全域に、厳戒体制でOZ及びOZプライズの艦隊が宙域を航行する。

 

クラップ級や高速宇宙戦闘艦で構成された部隊が警戒航行する最中、前代未聞の事態に未知の緊迫感がクルー達に張り詰めていた。

 

その渦中にある旧連邦施設であり、現OZの基地となったルナツーにも同様の状況を示している。

 

「前代未聞の事態だ!!警備のMS隊は警戒を厳に、MD部隊はガンダムと思わしき機体に対し常時キルモードの指示を維持せよ!!」

 

ルナツーの周囲ではドーバーバスターを標準装備したリーオーが展開し、更に最前線には無人機、MDであるリゼル・トーラス部隊が常に配置されていた。

 

その最中、ルナツーを警戒していたクラップ級の一艦隊が目視で高速で進行する機影を視認する。

 

「なんだ?!!シャトルか……?!!高速で近く機影を視認しました!!おそらくシャトルと思われますが、こちらへ真っ直ぐに来ています!!」

 

「何ぃ?こんな非常事態の時に面倒なハエが飛び込みやがって……!!警告促せ!!」

 

「はっ!!こちらOZ宇宙軍ルナツー第二艦隊!!シャトルに警告する!!貴機はエリア侵犯を犯そうとしている!!これ以上の領域進入は認めん!!直ちに離脱せよ!!繰り返す!!直ちに離脱せよ!!!」

 

警告が発信されるも、シャトルは一向に止まる気配を見せなかった。

 

まるで聞こえていないかのように突き進んで来るや否や、更なる加速を開始した。

 

「止まる気配がないどころか加速した……?!!くっ……!!!艦長!!アンノウン、更に加速し始めました!!!」

 

「特攻テロか?!他の艦隊にも警戒を促せ!!メガ粒子砲、スペース・スパロー、ファイアッ!!!」

 

クラップ級艦のメガ粒子砲の砲塔と、対空間ミサイルであるスペース・スパローの発射管が作動し、照準がシャトルへと絞られる。

 

そして圧縮された粒子ビームとミサイル群が放たれ、容赦なくシャトルへ直撃し、爆発光がシャトルを包んだ。

 

「全砲撃、弾着確認!!!」

 

「悪く思うな……こちらも啓発はしたのだからな!!」

 

誰しも撃破を確信する光景であったが、爆発光が次第に薄くなると、あり得ない現実がOZ宇宙軍の兵士達に叩き付けられた。

 

爆発が晴れた中から現れたのは全くと言ってもいい程無傷のシャトルであった。

 

更に次の瞬間、シャトルの機首が折り畳まれ、各部を変形させはじめたのだ。

 

誰しもが破壊不能の機体に唖然とする最中、その機体は瞬く間にガンダムとなった。

 

ウィングガンダム・ゼロ……宇宙世紀のMSの常識を破壊するMSが、地球連邦軍時代から稼働か続くルナツーに姿を見せたのだ。

 

常識的に破壊できていて当然の攻撃を浴びながらも、ほぼ無傷に等しい様であった。

 

「が……ガンダム!!?」

 

ルナツーの指令室に恐怖を抱かせる報告が響く。

 

「ガンダムです!!!形状からして行方不明になっていたメテオ・ブレイクス・ヘルから鹵獲したガンダムです!!!!」

 

ルナツーのOZプライズ指令官も恐怖に駈られながらも最善の指示を出す。

 

「あ、有り得ない……!!!攻撃は……攻撃は全て命中していたのだぞ?!!えぇい!!!全火力をヤツに集中させろぉっ!!!全機、ビーム出力最大!!!!何としても破壊に導け!!!奴は暴走しているのだぁ!!!!」

 

宙域に展開するプライズリーオーやジェスタ、リゼル・トーラスの部隊、クラップ級巡洋艦の艦隊が一斉にウィングガンダム・ゼロに向け火力を集中させていく。

 

疑似GNDドライヴエネルギーのビームライフルやドーバーバスター、メガ・ビームランチャー、メガ粒子砲のビームが再度ウィングガンダム・ゼロへと撃ち込まれていった。

 

どのビームも規定外の出力にエネルギーが高められ、ビーム射撃の最中に銃身や砲身が爆発を引き起こす事態も発生する。

 

だが、どの機体もそれを誘発するまで射撃を止めなかった。

 

一点の強敵に砲撃が注がれていくその様子は、あたかも宇宙怪獣が現れたかのような光景であった。

やがて、ウィングガンダム・ゼロを押し返す程の大爆発が起こり、反動でウィングガンダム・ゼロが宇宙空間に吹っ飛ばされるに至る。

 

しかしながら、未だに原形はしっかりとしており、武器やシールドすらも破壊されていなかった。

 

ウィングガンダム・ゼロはしばらく漂った後にアイカメラを不気味に光らせ、機体をルナツーの方向へと向けた。

 

「キヘヒヒャヒャヒャヒャハァっ……!!!!ザコがぁ……ギヒヒャハァっ……!!!」

 

完全にゼロシステムの生体端末と化したキルヴァは面前の機体を全てロック・オンすると、一気に機体を飛び込ませた。

 

ビーム射撃がはしる中、全てのビームを躱すウィングガンダム・ゼロ。

 

「キヒ!!!今の俺はぁ……無敵だっっ!!!!」

 

ウィングガンダム・ゼロは攻撃を躱し続けながらツインバスターライフルを左右に分離させ、高速かつ単発の低出力射撃を開始する。

 

 

 ダシュダァアアアアッッ!!! ダシュダァアッ、ダシュダァアッ、ダシュダァアアアアッ!!! ダダドォシュダァアアアアアアッ!!!

 

 

自機を自転させるように周囲のプライズリーオーやジェスタ、リゼル・トーラスを次々と破砕させ、更なる加速をかけながらルナツーを目指す。

 

最早撃つというよりも吹き飛ばすに等しい威力だ。

 

駆け抜けた軌道上にはMS部隊の爆発が連続していく。

 

MDであるリゼル・トーラス部隊は、恐れを知らず次々にウィングガンダム・ゼロを追撃する。

 

再度自転回避しながらウィングガンダム・ゼロはその部隊へとツインバスターライフルを向けた。

 

そしてチャージされた二挺のツインバスターライフルの銃口から本領出力のビーム渦流が放たれた。

 

 

 

ヴィリリリリリリィ……ヴィドォヴヴァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!!

 

 

 

黄色ともオレンジとも言える種の光を放つ二軸線の分厚いビーム渦流がリゼル・トーラス部隊を筆頭に、MS部隊とクラップ級艦隊を呑み込んだ。

 

 

 

ドドドドドドドドゴバババガァアアアアアアッ!!!!

 

ゴゴバァン、ドドドドゴバババガァアア、ドドドドグゴバババゴォオオオオオオンッッ!!!!

 

 

えげつない威力のビーム渦流のエネルギーに呑まれたプライズリーオー、リゼル・トーラス、ジェスタが次々に破砕爆発を巻き起こし、クラップ級巡洋艦も削り飛ばされるように、連鎖的に轟沈していく。

 

無論ゼロの脅威は止まることなく、加速を再開して持続性のツインバスターライフルを放ち、かつ機体を自転させながらの射撃を見舞う。

 

そして更にMS部隊の只中に飛び込み、左右両端のMS部隊へとツインバスターライフルの銃口を突き出した。

 

「キッヒャハァ!!!!消えろぉぁあああ!!!!」

 

 

 

ヴァズゥダダァアアアアアアアアアアアアァッッ!!!!

 

 

ズゥバァドァアアアアアアアアアッ、ズゥバァドバァアアアアアアアアッッ……

 

ドドドドグゴバババゴォオオオンッッ……ドドドドドドドドゴバババガァアア!!!!

 

 

 

至近距離にいたリゼル・トーラスやジェスタ数機は消滅するようにビーム渦流にかき消され、破砕する。

 

そのビーム渦流の軸線上にいたプライズリーオーやジェスタ、リゼル・トーラス部隊が次々に破砕爆発していった。

 

更なるウィングガンダム・ゼロの猛威は止まらず、機体を自転させながら周囲のMSやMDにビーム渦流の破砕流を拡げ始める。

 

機体を回転させながらのビーム渦流射撃、ローリング・ツインバスターライフルを前にMSやMD達は次々と呑み込まれ爆破し、クラップ級艦隊も側面から押し潰されるように破砕していった。

 

ビームの終息と共に周囲には爆発たる爆発が連鎖していた。

 

MS単機による攻撃がここまでの脅威となる……ルナツーにいた誰もがMSの常識の崩壊に戦慄していた。

 

「ひ、被害甚大!!!!ルナツーの周囲の約80%の戦力が消滅しましたぁっっ!!!!」

 

「ば……ば、馬鹿な!!?MS単機でこんな事が?!!ありえんっっ……ありえんっっ!!!!奴らの造ったガンダムとは何なのだあああああぁっっ?!!!」

 

その間にも状況を嘲笑うようにウィングガンダム・ゼロは次々とツインバスターライフルを駆使して、残存部隊を駆逐していく。

 

そして再び連結させたツインバスターライフルでクラップ級艦を吹き飛ばすように一撃で破砕爆破させると、ルナツーの上方空間点に向かい、そこに止まった。

 

ツインバスターライフルをルナツーへと向けながらキルヴァはひたすら笑い続けていた。

 

「キッヒャヒャヒャハァ!!!ハァッハハハハハハ!!!!これでトドメだぜぇっ!!!!」

 

ツインバスターライフルの銃口には更なるエネルギーがチャージされていく。

 

「ガンダム、本拠点の上方に止まったまま動きません!!!!」

 

「何だと……まさかっ?!!」

 

ルナツーのOZプライズ指令官は直ぐ様無駄と知りながらもウィングガンダム・ゼロへと呼びかけた。

 

「や、止めろ!!!!貴様の目的はなんだ?!!ルナツーの奪取か?!!この有り様だ!!!!降伏しよう!!!!ルナツーなど所詮、旧連邦の遺物だ!!!!」

 

次の瞬間、キルヴァの声がルナツー指令室に響いた。

 

「あぁ?!!決まってんだろ?!!キッヒャ……破壊だよ、破壊ぃぃ!!!!」

「な?!!止めろおおおおお!!!!」

 

 

 

 

ヴィリリリリリリィ……ヴズゥダァァアアァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

 

強力無比なビーム渦流がルナツーに撃ち込まれ、注がれていく膨大なビームエネルギーが、ルナツーの内外部を覆っていく。

 

 その内部から解き放つかようにエネルギーが膨張を開始する。

 

ネオGNDドライヴからのエネルギーによる強力過ぎるエネルギー膨張の破壊は、一気にルナツーを駆けめぐる。

 

その最中、指令室もまたビームエネルギーの破砕波が押し寄せ、兵士達は総員待避命令を許されることなく破壊のエネルギーに呑まれた。

 

「ぐぁあぁあああ…………!!!!」

 

そしてエネルギー膨張の臨界を迎えた瞬間、ルナツーは大爆発を巻き起こし、宇宙に君臨し続けたその巨岩を消滅させていった。

 

爆発するルナツーを目の当たりにしたキルヴァは更なる力に魅せられ、一層の狂気を奮い起たせる。

 

「……キッヒャヒャ……キヒヒャヒャヒャ!!!!力だっ!!!!これこそが力だぁ!!!!やっぱり破壊は止められねぇぇっ!!!!全ての兵器を破壊する!!!!」

その後、ルナツー周辺を後にしたキルヴァ駆るウィングガンダム・ゼロは、最新鋭のOZプライズの武装コロニー・ケフェウスにその姿を現した。

 

ケフェウスの前衛には、ドーバーバスターを標準装備したプライズリーオーやリゼル・トーラス部隊が配備され、ウィングガンダム・ゼロを迎撃する。

 

通常であれば、数機のプライズリーオーやリゼル・トーラスが展開するだけで事は済むが、相手が未知のガンダムともあればケフェウス内の全部隊を出す必要があった。

 

ドーバーバスターやメガビームランチャーの一斉射撃が走り、小中規模のビーム渦流がウィングガンダム・ゼロ目掛けて撃ち注がれていく。

 

その最中、時折ビームが掠めたり直撃する様子を見せるが、ウィングガンダム・ゼロは何ら問題なく突き進んでいる様子だ。

 

ウィングガンダム・ゼロはそのままツインバスターライフルを突き出し、直線上の敵機にビーム渦流を放った。

 

 

 

 ヴゥゥィッッッ、ヴヴォルゥヴァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 ドドドドゴゴゴグゴバッ、ドゴゴゴバババグワッ、ゴバゴバゴバババグググワァアアアアアアアアアアァァァ!!!!

 

 

 

突き進むビーム渦流は一斉にMSを爆砕させ、幾多の爆発光を生んだ。

 

面前の敵機群を一掃すると、それを皮切りにツインバスターライフルを乱発し始める。

 

中出力を維持したビーム渦流を至る敵機に向けて放ち、次々とプライズリーオーやリゼル・トーラスを破砕させていく。

ウィングガンダム・ゼロは手当たり次第とでもいうように、かつ遊ぶかのように危険たるツインバスターライフルを乱発させていた。

 

ケフェウスもコロニービーム砲をスタンバイさせ、コロニーに装備された多数の砲身をウィングガンダム・ゼロへと向けた。

 

「コロニーの全ビーム砲を展開する!!!目標は未知のガンダム!!!恐らくあれが暴走したガンダムだ!!!MS部隊は待避!!!コロニー連装砲、ファイアッッ!!!」

 

展開するMS部隊が待避した直後にケフェウスのコロニー連装砲から一斉にビームが放たれた。

 

このビームはコロニークラスの施設に装備されたビームであり、一発が戦艦や巡洋艦クラスのメガ粒子砲に相当する威力を持っている。

 

だが、全くお構い無しにウィングガンダム・ゼロはおびただしいビームの火中へと機体を飛び込ませていく。

 

ウィングガンダム・ゼロは向かい来る全てのビームをかわし続け、その最中にビームの砲軸線上の死角のポイントへと移動し、振り下ろすようにツインバスターライフルをガキンと構えた。

 

「キッヒャヒャヒャ!!!沈みなぁ……!!!!」

 

 

 

ヴゥゥッッ―――ズォヴゥヴァアアアアアアァァァアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

キルヴァの狂気の拍車に連動するかのようにツインバスターライフルが最大出力で撃ち放たれる。

 

そのビーム渦流はコロニーに重く直撃すると共に、コロニーの外内壁を一気に貫通する。

 

 

 

 ドォオオオァアアアッッッッ!!!!

 

 

 

ツインバスターライフルのエネルギーは貫通だけに止まらず高火力エネルギーがコロニーを駆けめぐり、内面からエネルギー爆発が滑るように拡がった。

 

「がぁああああああ!!?!」

 

指揮管制室に爆発的なエネルギーが押し寄せ、兵士達を一気に消滅させた。

 

駆けめぐり続けるツインバスターライフルのエネルギーが爆発の臨界に達っし、先程のルナツー同様に破砕爆発を巻き起こした。

 

 

 ボォンッ※―――キュウィィィィ……ヴァズグヴァガァアアアアアアアアアアァァァァァァ……ゴッッゴゴバガァアアアアアアアアアアン!!!!

 

 

 ※エルメスのメガ粒子砲

 

 

更には面白半分のように同様の出力のツインバスターライフルの一撃、一撃をなんら罪の無いコロニーへと撃ち放たれてしまう。

 

本来ならばメテオ・ブレイクス・ヘルが守るべきコロニーに狂気が向けられてしまったのだ。

 

 

ツインバスターライフルの直撃を受けた円筒型コロニーは、ビーム渦流が貫通すると共に壁面にエネルギーが走り、コロニーのガラス面は一気に赤色融解する。

 

無論、コロニー市民は突如起こった未曾有の人的災害に、成す術なく悲惨な最後を遂げていく。

 

瞬時に全てが灼け、吹き飛ばされて蒸発する。

そして注がれていくビーム渦流はコロニーを破裂させるかのように爆砕させていった。

 

 

 

 

事態を知らされたディセットは事の深刻さを直ぐ様トレーズに報告していた。

 

「……以上のような事態が宇宙で引き起こっております……早急な対策をとらねばなりません!!!!故に我々としては、同等の性能を有しているとされるガンダムデルタカイや、アスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウス、そしてガンダムヴァサーゴを投入し、最終的手段とし、バルジ砲の手段も……!!!」

 

「エレガントではないな。ディセット」

 

「は?!エレガントではない……ですか……?!!」

「バルジ砲は財団やプライズが促進させてしまった兵器。宇宙を汚す手段を用いてはならない。それに、こちらには捕らえたあのガンダムのパイロットや開発者達の手札があるのであろう?ならば今こそ彼らをカードに使うべきだ。わざわざ我々の重き要の手札を使うのは非常にリスクが高い。そして本来のOZの意にそぐわない手段を選択することも私は認めない」

 

「トレーズ閣下……!!!」

 

「早まらないでくれディセット。彼らであればきっと上手くやってくれるはずだ。彼らはコロニーを守る戦士なのだからな。これまでの時代に現れそうで現れなかった軍……否、時代への反逆者達だ。私は個人的に彼らの姿勢を尊重している。その純粋さ故に……」

 

歴史上に類を見ない反逆者達……敵にも関わらず、トレーズは彼らの存在を尊重し肯定していた。

 

ディセットは俄には理解しえない感覚を覚えるも、トレーズ故の考えであると受け入れていた。

 

「過ちを重ねるガンダムに本来の姿勢を持つガンダムのパイロットで制止をかけるのだ。今流れる時代の流れがそれを望んでいる……」

 

「解りました、閣下。暴走するガンダムも、捕らえているパイロットもメテオ・ブレイクス・ヘル。コロニーを守る戦士達の姿勢……私もまた興味が湧きました!!」

 

「うむ……ではそちらは頼んだぞ……ディセット」

 

「はっ!!」

 

トレーズはディセットとの通信を終えると、総帥室を後にする。

 

トレーズが向かった先はルクセンブルク・OZ総本部の地下基地施設であった。

 

そこには広大なMS建造設備が備わっており、日々自動稼働でとあるMSの建造を進め続けていた。

 

「遂に……歴史の表に出たか……ウィングガンダム・ゼロ……本来は一年戦争を変革させる一石として設計されていたという説がある機体だが、当時の技術では机上の空論。歴史の裏舞台にすら現れる事はなかった。だが、今……時代が変革し続ける激動の中に現れている。故にこの力が必要とされる時が時期に来るだろう。主はまだいないが……」

 

トレーズはその機体の前でディスプレイパネルを操作し、今面前にあるMSの設計データを表示させた。

 

それはまた新たなガンダムであった。

 

「今こそ名付けよう……エピオンと……」

 

 

 

そして現在……ディセットはトレードマークである束ねた髪を揺らし、バルジの通路を部下達と共に指令室をめざしながら歩を進めていた。

 

「……それで、肝心の戦力の用意の状況はどうなのだ?」

 

「はっ!!現在、バルジのドックにて高速戦闘艦に搬入中です。メリクリウス・シュイヴァンとヴァイエイト・シュイヴァン……先のヴァイエイト、メリクリウスの設計データをベースにガンダム技術者達が新たに開発したMSとの事です」

 

「そうか」

 

「暴走するガンダムを食い止める為のMSだとか……ガンダム技術者達が言っていたそうです」

 

「……数多くの同胞の敵たる彼らを捕らえた結果・戦果のウィングガンダム・ゼロ。そのウィングガンダム・ゼロの暴走で彼らに頼らざるを得なくなる……なんとも皮肉なものだが、トレーズ閣下はそんな彼らを気にいっているご様子なのだ」

 

「トレーズ閣下が?!!何故です?!!」

 

「あの方のお考えは計り知れないモノがある。だが、トレーズ閣下のお考えだ。我々は受け入れるのだ……トレーズ閣下の大器な思想の中にあるのだ。それに実際問題、こうなった以上メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムパイロットに頼らざるを得ん。目には目を……というものだ」

 

「はっ!!」

間も無くしてバルジからウィングガンダム・ゼロの確保及び破壊を目的にした討伐部隊が発進する。

 

プライズ・リーオー12機、リゼル・トーラス20機、そしてヒイロが乗るメリクリウス・シュイヴァン、デュオが乗るヴァイエイト・シュイヴァンで編成された緊急臨時部隊であった。

 

高速戦闘艦3隻と本来はヴァイエイト・メリクリウス用であったMSキャリアーが航行していく。

 

メリクリウス・シュイヴァンとヴァイエイト・シュイヴァンに搭乗したヒイロとデュオは、アストロスーツへと着替えた上でひたすら腕組みをしながら戦闘に備えていた。

 

ウィングガンダム・ゼロの次なる出現予測エリアを目指す最中、無言の空間に痺れを切らしたデュオは外部通信をオフにした上でヒイロに投げ掛けた。

 

「かー!!なんか話そうぜ!!ヒイロ!!ずっと無言じゃ耐えられねー!!久しぶりに宇宙に出たんだからよ!!!これまでにま色んな話があんなら聞かせろよ☆特にマリーダとかのな!!」

 

とてもこれからウィングガンダム・ゼロと戦闘するとは思えないテンションなデュオに、ヒイロもまた外部通信をオフにして返す。

 

「デュオ……街に繰り出すような気分でいるな。相手はゼロだ。生半可な気分なら死ぬぞ。それに囚われの身であることも忘れるな」

 

「バーカ!!だからガチガチに入れ込まないようにユーモアを敢えて意識してやってんだぜ?!!ただでさえ踏んだり蹴ったりな日々だったんだからなぁ~」

 

「……ゼロの破壊だけは避けたい。ゼロはこれからの俺達の行動に必要不可欠となった」

 

「いや、ヒイロ。そもそもゼロの破壊自体が難しいと思うゼ。こっちは一応あのヴァイエイトとメリクリウスのカスタムバージョンの機体でいるが……どーも博士達がOZに提供するために造ったっていうと品質に信用が……」

 

「とにかく今はまだ偲ぶ時だ。事を片付け、俺達の新たなオペレーションに備える……マリーダの救出にもゼロは必要だ」

 

「そ、そうか……マリーダ、今は奴らの手中なんだもんな……星の王子様も白馬と剣がなけりゃ、お姫様助けにいけれないってか!!確かに、今はこれができる最善策ダナ……あ?!!」

 

ヒイロとデュオの会話の最中、遠方にあったコロニーからビームらしき光がはしり、更にその先にあったコロニーにもビームらしき光が貫く光景が飛び込んだ。

 

そして超新星爆発のような光を二つ確認する。

 

「おいおい……目が確かなら今のは?!!」

 

「あぁ!!!コロニーが二つ沈んだ……ゼロだ!!!外部回線をオンにしろ、デュオ!!!」

 

「あいよっ!!やれやれ、やってくれるぜ!!!コロニーを守るべきガンダムでコロニー破壊してくれちゃあな!!!」

 

これを観測した討伐部隊の誰もが戦慄し、直ぐ様討伐部隊間の通信があわただしい様子に流れが変わっていった。

 

「こ、コロニーの爆発、及び高熱源ビームを確認!!距離、およそ20マイル!!!」

 

「全部隊に通達!!前方対空間への警戒を厳となせ!!繰り返す!!前方空間への警戒を厳となせ!!!」

 

「よし……リゼル・トーラス数機を偵察に当てろ!!!偵察プログラムを送信だ!!!」

 

「はっ!!!」

 

カメラアイを光らせたリゼル・トーラスの小隊が、一斉に前方空間へと飛び込んでいく。

 

兵士の命を犠牲にすることなく、危険なエリアへの偵察任務を可能とするMDならではの運用方だ。

 

「かつてであれば、偵察など断念せざるを得なかったな。便利なモノだ、MDは」

 

「愚かな発明だMDは!!」

 

ガンダム技術者達であるドクターJ達が牢獄にて討伐部隊の隊長とは対象的な言葉を吐き捨てていた。

 

ドクターJの発言にプロフェッサーGも賛同する。

 

「その通り!!!オートの戦争などゲームに過ぎん!!!命のやり取りの重さが本格的に麻痺する技術に他ならん!!!」

 

続くようにドクトルSも意見を述べ、H教授は今回のゼロの暴走も踏まえ、自分達もまた愚かであると発言する。

 

「既にMDによる虐殺もOZプライズの増長と連動して連日拡大していっているそうだな」

 

「だが、ワシらもまた狂気の発明を世に出している!!MDを云々言えんよ。現に……ゼロの暴走が現実化した!!!」

 

「ゼロか……OZの連中はいつかやらかすとは思っていたが……ワシらが開発提供したメリクリウス、ヴァイエイトのカスタムバージョンならかろうじて抑えれるかもしれん。オリジナル同様、ガンダムを超えるMSをコンセプトにしている」

 

老師Oは黙ったまま再びドクターJとプロフェッサーGが発言をし続けた。

 

「だが、元よりゼロはワシらが造ったガンダムを超える性能を有している。むしろ先の7機はゼロのデチューン機だ」

 

「ゼロ・システムはパイロットを強力な戦闘端末に変えるだけではない。機体そのモノの性能も上がる。いわゆるチート兵器だ。宇宙世紀のMSの常識は、いよいよ完全に崩壊する……!!!今はヒイロ達次第か……」

 

「ガンダムグリープを完成させていれば問題はなかったが……」

 

「あぁ。ゼロの暴走を押さえ込む役目も担う機体だ。本来ならばガンダムグリープとジェミナスは別の機体だったが、よくぞあそこまでジェミナスをグリープ化できたものだ……」

 

「デスサイズ・ヘルとアルトロン。これらと並行しながら完成を目指すぞ。何気に利用価値の塊のワシらは特例的に自由じゃからな」

 

ガンダムデスサイズ・ヘルとアルトロンガンダムがバルジの内部で完成を目前と控える作業途中の中、ガンダムジェミナス・グリープもまた完成へ向けての作業中にあった。

 

 

 

 

一方、旧ラプラス官邸後に接近していたユニコーンガンダムはラプラス官邸に接近すると共に、サイコフレームに光りが発生し始めていた。

 

コックピットのシートにうつ向きながら膝を抱えていたプルが静かに顔を上げた。

 

「ユニコーン……??」

 

監視に尾行航行していたグラーフ・ドレンデでもそれはヴァルダーやクルー達にも観測されていた。

 

「ユニコーンガンダム、光りを発生させ始めました!!恐らくサイコフレームが何だかの影響を受けたかと思われます!!」

「ほぉ……あれがサイコフレームの光りというものか。なかなかキレイなモノだな……くくく!!!」

 

「ユニコーン、変形します!!」

 

ユニコーンガンダムはエメラルドの光りを放ちながらガンダムへと変形もとい変身する。

 

そのコックピット内では、プルが機体の内外から発生する何だかの力を感じていた。

 

「なんだろ??ユニコーンが何かを訴えているような……うっ?!!何?!別の感じが?!!」

 

穏やかな感覚から一転し、プルは危険な感覚を感じた。

 

無論、プル自身は今現在放射能のような嫌な感覚の只中にあるが、それらはジャマー装置に遮断されており感じることはない上に、それとは別な感覚であった。

 

「この感覚……?!!」

 

ブリッジで確認していたマーサもこれを肉眼で確認していた。

 

「やはり、旧ラプラス官邸には何だかの影響があるようね。楽しみじゃない。あの小娘がいかに利用できるか見ものね」

 

「……?!!敵影確認!!!旧ラプラス官邸からです!!!!」

 

「何ぃ……?!!」

 

その時、旧ラプラス官邸から思いもよらない勢力が飛び出す。

 

それはギラズール、クラーケズール、そしてローゼンズールといったフロンタル派ネオ・ジオンであり、当然の如くあの機体も姿を現した。

 

シナンジュである。

 

「灯台もと暗し……東洋のこの言葉に基づき、旧ラプラス官邸で期を待った甲斐があったな!!!」

 

「……フル・フロンタル……くっくくく!!!おもしろい……!!!」

 

 ヴァルダーは頬杖をしたまま映像越しのシナンジュを見て、不適な薄ら笑いを浮かべた

 

 

 

そして、ウィングガンダム・ゼロもまた、ヒイロ達へと狂気を纏いながら迫っていた。

 

ウィングガンダム・ゼロの後方には近辺にある旧ジオン軍要塞・ソロモン(現コンペイ島)より出撃した部隊群が既に壊滅されており、虚しく宇宙空間を漂う。

 

だがまだコンペイ島は健在している様子から、襲撃を仕掛ける直前にヒイロ達を察知したようだった。

 

先行したリゼル・トーラスが最後に送信してきたウィングガンダム・ゼロの画像をモニター上で縮小させ、リアルタイムで迫るウィングガンダム・ゼロと合わせて視認するヒイロ。

 

「……来るぞ、デュオ!!」

 

「あいよぉ……!!!」

 

MSキャリアーから離脱するメリクリウス・シュイヴァンとヴァイエイト・シュイヴァンは、各々の武装を構えて加速する。

 

今、二ヶ所のポイントで地獄からの招待の扉が開こうとしていた。

 

 

 

To be Next Episode

 

 

 次回予告

 

 

 ラプラスプログラムの示した座標、旧ラプラス官邸跡に向かわされたプルのユニコーンガンダムと、そこに潜伏していたフロンタル派ネオジオンが激突する。

 

 ユニコーンガンダムとシナンジュのその激突は、プルとフロンタルの初めての邂逅でもあった。

 

 一方、ヒイロとデュオもまた、キルヴァ駆るウィングガンダム・ゼロと激突する。

 

 ゼロシステムにより、更に凶暴化したキルヴァが一層の牙をヒイロ達に向けて襲いかかる。

 

 圧倒的不利に立たされながらも、ヒイロはデュオにサポートを任せ、メリクリウス・シュイヴァンの機体性能を最大限に活かしながらキルヴァのウィングガンダム・ゼロと闘う。

 

 ヒイロのその闘争の眼差しには、今の状況からマリーダの救出に繋げようとする信念が宿っていたのであった。

 

 次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード34「ヒイロVSキルヴァ」

 

 

 

 

 





 どうもです。既に現在進行形ですが、今回も含め、しばらくの数話はマリーダとプルには苦しい描写があります。

 書いていた自分自身も、胸糞でイライラしてしまいました。

 ですが、彼女達の鬱展開はしばらくお耐えください。

 ヒイロとアディン達は抗い続けていきます!!!



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エピソード34「ヒイロVSキルヴァ」

旧ラプラス官邸跡

 

 

 

この一年余りの長期間に渡り、戦力の増強と維持をしていたフロンタル派ネオジオンが姿を見せた。

 

それも意表を突く程の旧ラプラス官邸跡という最古の廃棄コロニーからであり、長期間潜伏するには常識的にあり得ない。

 

グラーフ・ドレンデのクルー達が次々と飛び出すネオジオンの機体群を視認する中、クルーの誰しもが思う事だった。

 

「何故あんな廃棄コロニーからネオジオンが?!!それも、地球に一番近い上、最古の廃棄コロニーから……!!!潜伏するにも位置からしてあり得ない!!!」

 

「あぁ!!既に地球圏はOZとOZプライズの勢力下にある中だ!!一体、どうやって?!!」

 

「うろたえるな!!!」

 

「!!!」

 

ざわめきを見せるクルー達にヴァルダーが一括を入れた。

 

「うろたえるな……こちらからしてみれば、奴らの戦力など恐るるに足らん……!!!プライズ・リーオー、プライズ・ジェスタ、プライズ・ジェガン、リゼル・トーラス、各部隊を出せっ!!!」

 

ヴァルダーの一声が、うろたえ気味だったグラーフ・ドレンデ内のクルー達を動かす。

 

迫るギラズール、ギラドーガ、クラーケズールと以前の多種多様だった機体群が一新・統一され、量産機の部隊機体数も増強されていた。

 

既に軍ではなくテロリストの規定にされている彼らがこのような戦力を得るのは不可思議である。

 

だが、その不可思議を承知したかのようにヴァルダーは奇妙な独り言を口にした。

 

「……なるほど。彼らに手塩を振り撒いたということか……ふ……あれこれと動いてくれているようだな」

 

グラーフ・ドレンデサイドは全機体が疑似GNDドライヴを動力機関としているがゆえに、性能は優勢だった。

 

交戦開始から直ぐにその傾向が現れ、特にMDであるリゼル・トーラスは圧倒的にギラズールやギラドーガを破砕させていた。

 

プライズリーオーやプライズ・ジェスタ、プライズ・ジェガンも圧倒せんと切り込み、疑似GNDドライヴのエネルギーのビームを撃つ。

 

従来の量産機に比べ、破格の威力を発揮するビーム弾がギラズールやギラドーガの装甲を容易く破砕させていく。

 

だが、これらと交戦して撃破するネオジオンサイドの機体達も少なからず見受けられた。

 

その中でも、クラーケズールは一際目立ち、持ち前の機動力と火力でグラーフ・ドレンデサイドのMSと互角に戦闘していた。

 

戦闘の銃撃火線や爆発が飛び交う一方で、シナンジュとローゼンズールがプルのユニコーンガンダムに狙いを定めて仕掛ける。

 

「既にユニコーンガンダムはNTDを発動させている状態だ!!それもアクシズショックのあの色を帯びている!!!得体が知れないが故、まずは私が牽制をかける!!!」

 

「は、はっ!!大佐!!!(凄まじい違和感!!!あの時とはパイロットが違うのか?!!)」

 

アンジェロが以前交戦したユニコーンガンダムとは程遠い凄まじさに動揺する中、フロンタルはビームライフルで牽制をかけながらビームトマホークの斬撃をレフトアームで振りかざした。

 

「ネオジオンの赤いMS!!!フル・フロンタルって人か……!!!」

 

ユニコーンガンダムは両腕のビームサーベルを発動させ、フロンタルの一撃を受け止める。

 

「あなたがフロンタルって人ね?!あなたからは良くないモノを感じさせる!!」

 

「なんと?!まさかこんな少女が?!!しかも牽制早々、ニュータイプ気質と思わせる言葉……!!!」

 

スパークした一撃を解除して横薙ぎの一撃を入れるシナンジュであるが、これもまた受け止められる。

 

「ネオジオンの人達は良い人達なのに、何故あなた達からは悪い感じがするの?!!」

 

フロンタルはプルから出たネオジオンの単語に驚愕よりも興味深さを覚えた。

 

「ほう……!!この娘、ネオジオンと精通があるのか……!!!」

 

フロンタルはプルの質問に答えずに、ビームトマホークでの斬撃を主流にした攻勢に移る。

 

しかし、全ての一撃、一撃にスパークが生じ、ビームサーベルで受け止められ、時には捌かれ、かわされた。

 

赤い彗星の再来相手に一介の少女ができる業ではない。

 

(ネオジオンに精通し、かつMSを乗りこなす少女……だとすればマリーダ中尉と同じ存在か?!!だが、彼女から感じる感覚的なモノは十中八九ニュータイプと見てよいな!!それにこの動き……!!!)

 

「(やはり、私が止めを刺そうとしたパイロットとは全く別であったか!!!それも小娘だとっ?!!)大佐!!私も牽制の援護をさせて頂きます!!!」

 

基本はフロンタルへの支援攻撃を自粛する姿勢をするのがアンジェロであるが、自らの意思で支援攻撃に出た。

 

アクシズショックに近い光りをサイコフレームから滲ませるユニコーンガンダムとその立ち振舞い、そして少女がそれを操る事に納得がいかなかったからだ。

シナンジュを援護するローゼンズールの有線式アームメガ粒子砲が、オールレンジでユニコーンガンダムに攻撃を与える。

 

しかし、ユニコーンガンダムの背部に装備されたシールドからのIフィールドにより、メガ粒子ビームは遮断されて弾かれてしまう。

 

「なっ?!!あ、Iフィールドだと?!!ならばぁ!!!」

 

アンジェロは直ぐにアームクローによるオールレンジ攻撃に切り替えるが、攻撃は悉くかわされてしまう。

 

「クソ!!!ガンダムめぇっっ!!!」

 

ムキになりはじめたアンジェロは直ぐに援護の意思を忘れ、執拗にユニコーンガンダムへクロー攻撃を仕掛け続ける。

 

「アンジェロ、援護の意思を忘れるな。そして怒りにも囚われるな!!」

 

フロンタルの言葉がアンジェロをはっとさせた。

 

「っ?!!は、はい!!!申し訳ございません!!!」

 

するとフロンタルは改めて狙いを定め、ビームトマホークの一撃を入れに飛び込んだ。

 

やはりその一撃は受け止められだが、この瞬間にシナンジュの蹴りがユニコーンガンダムへ不意の一撃を与える。

 

「きゃあぁっ?!!」

 

「今だっっ!!!ラプラスの箱のカギ、頂くっ!!!」

 

アンジェロはその瞬間をここぞとばかりにユニコーンガンダムの両腕を封じにクローを操作した。

 

ローゼンズールのアームクローは吹き飛ぶユニコーンガンダムに食らいつき、見事に両腕をホールドする。

 

「捕らえたぁっ!!!さぁ、ラプラスプログラムの示したモノを教えろ!!!」

 

「待てアンジェロ。まずはユニコーンガンダムとこの少女を我々の手中に納める必要がある!!奴らもユニコーンガンダムを盾に出せば従わざるを得なくなるだろう……それに座標は一度内部で操作確認しなければわからない」

 

「り、了解致しましたっ……はっ?!!大佐!!このアンジェロ、実に恥ずかしい限りですっ!!!それに加え、サイコジャマーが有ることを忘れておりました!!!」

 

アンジェロが実装されていたサイコジャマーの存在を思い出したその時、二人のやり取りを聞いていたプルが抵抗拒絶の意思を示した。

 

「っ……そう簡単に、捕まらないよ!!!」

 

プルのニュータイプの力が彼女自身から放たれ、プルの髪が風に吹かれたかのように靡(なび)いた。

 

それは覚醒中のユニコーンガンダムにも作用し、サイコフレームから放たれているエメラルドの光を解き放つように拡大かつ増大させた。

 

「何っ?!!ぐあぁああっ?!!」

 

「っ……えぇえいっ!!!」

 

一種のエネルギー波のように拡がったサイコ波動は、ローゼンズールを吹き飛ばし、シナンジュを一時的に離脱させる。

 

彼女が示したニュータイプの力はフロンタルが予測していたモノを超えていた。

 

「さっきまで……色々ありすぎてワケわかんないくらい落ち込んでた……でも、思い出した!!!あたしとユニコーンは、今の宇宙の人々の未来に必要なモノを探しているんだって……!!!」

 

ユニコーンガンダムは本来のモノを思い出したプルの意思に呼応するように両腕をクロス状に振り払い、シナンジュに向かって一気に攻め入りに出た。

 

振るい唸るライトアームとレフトアームのビームサーベルの斬撃は、ガードしたシナンジュのシールドを分断させ爆破、更にはかわされかけた斬撃の切っ先がレフトレッグのジョイントを破砕させた。

 

「大佐!!!おのれっっ、小娘の分際でぇっっ!!!」

 

アンジェロは敬愛するフロンタルに攻撃たる攻撃を仕掛けるユニコーンガンダムとプルに憤りを覚え、怒り任せに有線式アームメガ粒子砲を多方向から見舞う。

 

だが、その攻撃はやはりIフィールドに遮断された。

 

「こいつが邪魔するかっっ!!!」

 

アンジェロはIフィールドを発生させる背部のシールドをもぎ取ろうと試みた。

 

だが次の瞬間、神がかりな動きをしたユニコーンガンダムの斬撃攻勢に、有線をビームサーベルで切断された挙げ句、ライトアーム側のアームクローそのものを破壊された。

 

「……―――!!!小娘ぇっ!!!」

 

「やらせないよっ!!!この先に感じるラプラスの箱の感じは、あなた達みたいな悪い感じじゃないっ!!!」

 

プルが叫んだその言葉はフロンタルに一層強く興味深さを覚えさせ、フロンタルは質問も交えながらビームトマホークの斬撃をユニコーンガンダムに与えに行った。

 

「ほう……!!その言葉、実に興味深いなっ!!!して、君が感じっ……見えているっ……モノは何かな?!!」

 

ユニコーンガンダムに一瞬怯まされたフロンタルであったが、再び攻めに駆り立てられる。

 

斬撃のスパークが再度稲妻の如く光りはしり、ユニコーンガンダムとシナンジュを照らす。

 

「希望……穏やかな、そして、明るい感覚……コロニーと地球の希望なんだと思うっ!!!」

 

その最中、一度弾き捌き合う一瞬があった。

 

それを皮切りに、ユニコーンガンダムの乱舞たる斬撃が、より一層の凄まじさでシナンジュに襲いかかる。

 

プルの声質に合わない程、ユニコーンガンダムの斬撃の乱舞が凄まじいギャップを与える。

 

更にプルが放つサイコエネルギー波は一層の強さを重ねた。

 

フロンタルのシナンジュからも、負けじとフロンタルのニュータイプ気質のサイコオーラを放つ。

 

「(改めて大した娘だっっ……!!!私をこうも苦戦させるとはっ……!!!)くぅっ……希望……それがラプラスなのか?!!ならば、その希望とは、正体はなんなのだっ?!!」

 

「正体なんてわからない。けど、宇宙と地球に暮らす人類に今後の可能性を示す何か……そう感じてるんだよ!!!でも、あなた達は……それを使って地球圏を支配しようとしている!!!地球も切り捨てちゃダメなんだよ!!!」

 

「な?!!(地球を切り捨てる……!!私はまだコロニー共栄圏の理想を語ってはいない!!!私から感覚的に察したのか?!!やはり……彼女はニュータイプ……!!!)」

 

「地球を切り捨てたって、今度は地球がコロニーを憎む時代になっちゃう!!!それにね、私が知ってるパラオのネオジオンのみんなは、戦争なんて望んでないんだから!!!」

 

最もな言葉と共に、プルは更なるサイコ波動を重ねた光りを放った。

 

「ぬぅ……これは?!!」

 

「小娘風情がぁぁああぁぁぁ!!!」

 

プルとユニコーンガンダムが放つサイコ波動は、シナンジュやローゼンズールをはじめとするフロンタル派ネオジオンのMS達を、一気に吹き飛ばし始める。

 

そのサイコ波動の色は、かつてニューガンダムが放ったアクシズショックの光と同じものであった。

 

未知なる計測不能な力を味わうフロンタル派ネオジオンサイドは完全に部隊の戦闘展開体制を崩されていく。

 

更にその拡大するエメラルドの光の余波は、グラーフ・ドレンデの部隊も吹き飛ばした挙げ句、朽ちたラプラスの外壁までもを分解させはじめていた。

 

 その中からは深いワインレッドの色に変更されたレウルーラやムサカの艦隊が姿を見せ、フロンタル派ネオジオンのこれ以上の潜伏は困難なものとなる。

 

 ここまでされてしまっては最早撤退以外はなく、その辛酸を舐めさせられたフロンタルは屈辱の中で展開する自軍の全部隊に通達する。

 

「最早これはアクシズ・ショック以外の何物でもない……!!!これ程とは……!!!えぇい!!全機に告ぐ!!我々はこの領域から撤退する!!!繰り返す!!!この領域から撤退する!!!これ以上の屈辱は口にはしない……!!!」

 

 フロンタルは仮面の下に口惜しく苦い感情をかみしめながら展開していた自軍部隊を撤退させ、自身もまたラプラス官邸跡を離脱していった。

 

ネオジオンサイドが次々に部隊を撤退させていく中、グラーフ・ドレンデからもその神秘的かつ驚異的な光景を観測していた。

 

マーサやヴァルダーをはじめとする乗員の殆どがアクシズ・ショックの光を目の当たりにしていた。

 

「ユニコーンガンダム、NT-Dを発動させながらアクシズ・ショックの光を放っています!!その影響か、MSやラプラスそのモノの構造壁を吹き飛ばしています!!」

 

「なんと奇天烈(きてれつ)な光景だ……あれがアクシズ・ショックの光か!!!あの小娘、間違いなく本物のニュータイプだ!!!くくく、益々利用価値が跳ね上が跳ね上がったようだ。ミズ・マーサ……!!!」

 

「えぇ。改めて再認識したわ。あの状況を他に言い変えれば次のラプラスの道標がまた開示された。機体は必ず回収させるのよ」

 

「無論だよ……くくく」

 

「最も……下手な反逆をすればどうなるか彼女自身が一番理解しているのでしょうけど……うふふふ、この要領を踏んでいけばいずれラプラスに……!!」

 

マーサは視線上に映るユニコーンガンダムの超常的な有り様に驚異を覚えるどころか、更なるラプラスの箱の破壊に向けた野心を満たす。

 

「そして、私の計画も成就に……!!!」

 

だが、マーサのその腹黒い視線などはね除けるかのごとくユニコーンガンダムは輝き続けていた。

 

 

 

L1コロニー群周辺エリア

 

 

 

メリクリウス・シュイヴァンとヴァイエイト・シュイヴァンにウィングガンダム・ゼロが迫る。

 

ウィングガンダム・ゼロは2機に接近するや否や、ツインバスターライフルを突き出した。

 

「キヒヒッ、コロニーの次はッ……貴様らだぁあああああ!!!」

 

 

 

ヴァズゥアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

「!!!」

 

 

 

ズゥドォゴバァアアアアアアアアアアァァァ……ドォゴバババガゴゴゴゴァアアアアン……!!!

 

 

急激なツインバスターライフルの一撃をヒイロとデュオは反射的にかわすが、後方で監視に徹していたOZのMS部隊に直撃し、爆発光を幾つも発生させながらリーオーの小隊を五つ壊滅させた。

 

「いきなりスゲー挨拶してくれたなぁ!!」

 

「デュオ、援護しろ!!!俺が接近戦を仕掛ける!!!」

 

「あぁ!!コンセプト逆だが、今銃撃戦でやったら更に周りが墓場になるからなぁ!!!死神も強制休暇中なんで死神の仕事はできないぜ!!!」

 

デュオの得意な冗談比喩を交えながら、決死の反撃が始まる。

 

ヴァイエイト・シュイヴァンのツインビームカノンの咆哮を狼煙に、クラッシュシールドのビームソードを発動させてメリクリウス・シュイヴァンが突っ込む。

 

ヒイロは手始めにツインビームカノンをかわしたウィングガンダム・ゼロに向かいビームソードの刺突を試みたが、ゼロシステムに予測済みであるが故に容易くかわされてしまう。

 

瞬時にヒイロは突きから薙ぎに変換した一撃を見舞うが、この一撃もまた躱された。

 

「キヒヒッ、見える、見える、ミエル!!!!」

 

目を見開いた狂気の表情を放ったキルヴァは、近距離でツインバスターライフルを放つ。

 

「ちっ……!!!」

 

ヒイロは増強されたプラネイト・ディフェンサーを前面に展開させた。

 

強烈なビーム渦流を真っ向から受け止め、ディフェンス効果のスパークが激しく唸りはしる。

 

その最中、メリクリウス・シュイヴァンが攻撃を受け止めている後方より、ヴァイエイト・シュイヴァンの砲撃がウィングガンダム・ゼロを狙って唸る。

 

これもかわしたウィングガンダム・ゼロは射撃を解除し、ツインバスターライフルを二分させた射撃に転じる。

 

ツインバスターライフルから二つのビーム渦流が唸り放たれ、狙いは僅かな誤差とデュオの反射神経、悪運で直撃はしなかった。

 

「ひゅー!!!トンでもスリルだぜっ!!!敵だとこうも恐ろしいもんかぁ?!!ウィングゼロさんよぉ!!!」

ヴァイエイト・シュイヴァンは旋回しながらツインビームカノンを左右交互、時に同時に砲撃をする。

 

その間に、メリクリウス・シュイヴァンはビームガンで牽制射撃を仕掛け、遂に着弾に成功した。

 

無論、それはウィングガンダム・ゼロには些末なダメージに過ぎないが、一撃には一撃だった。

 

「ちっ……うぜぇな!!」

 

その牽制から打ち上げるようにメリクリウス・シュイヴァンはクラッシュシールドをウィングガンダム・ゼロへ押し当てに迫る。

 

ガオンッとウィングガンダム・ゼロの胸部アーマーにクラッシュシールドが激突し、至近距離からビームガンの連続射撃を浴びせた。

 

「うぜぇつってんだろがぁあっっ!!!!」

 

突発的な怒りにあてられたキルヴァは、ライトアーム側とレフト側のツインバスターライフルを同時にメリクリウス・シュイヴァンへ放った。

 

だが、プラネイト・ディフェンサーによりシャットアウトし、連続的に相殺されたエネルギーのスパークが唸る。

 

「んのぉやらぁあアアアアぁああっっ!!!!」

 

奇声混じりに叫ぶキルヴァは、ツインバスターライフルを放り投げるように宇宙空間へと投げ捨て、レフトショルダーアーマーに格納されたビームサーベルを取り出した。

 

そして、凄まじい速度に乗せた斬撃を一気にメリクリウス・シュイヴァンへと打ち込む。

 

「……ツインバスターライフルを自ら解除した……?!!」

 

ヒイロはツインバスターライフルの脅威を排除する事を狙っていた。

 

それがキルヴァ自らツインバスターライフルを手放した事はチャンス以外の何者でもなかった。

 

ヒイロは迫る斬撃の衝撃をクラッシュシールドのビームサーベルで受け止めるが、凄まじい衝撃とスパークが押し寄せる。

 

 

 

ヴァアギィジィァアアアアアッッ……!!!

 

 

 

「くぅっっ……!!!流石だな……このメリクリウス・シュイヴァンとかいう機体も俺達のガンダムとの戦闘を想定している故に、従来のハイレベルMSよりもパワーは有る。だが、ゼロはそのパワーをも凌いでいる……!!!」

 

「キヒヒッ!!!受け止めた、受け止めたぁっ!!!無駄、無駄、ムダ、ムダァぁっ!!!」

 

メリクリウス・シュイヴァンのビームサーベルを弾き捌き、ウィングガンダム・ゼロは滅多斬りの狂った斬撃を浴びせ始めた。

 

ヒイロは襲いかかる斬撃の一つ、一つをビームサーベルの刀身で受け止め、受け弾き、受け流し、受け捌く。

 

既にゼロシステムに呑まれ切ったキルヴァの攻撃を、ヒイロはニュータイプの反射神経に匹敵する身体能力で対抗していた。

 

無論、ヒイロはニュータイプではない。

 

「……このメリクリウス・シュイヴァンで……どこまでやれる?!!」

 

次の瞬間、ヒイロは斬撃に対してビームガンの至近射撃を放つ。

 

だが、その瞬間にウィングガンダム・ゼロはゴリ押しで斬撃を叩き込みに掛かった。

 

ビームガンは直撃され続けたが、ウィングガンダム・ゼロのネオ・ガンダニュウム合金の装甲面では爆発が弾けるばかりに止まっており、その連発の最中に斬撃が銃身に入る。

 

「ちっ……!!!」

 

ビームガンを切断・爆破させられた直後にヒイロは再びクラッシュシールドでの受け身に加え、プラネイト・ディフェンサーを展開させた。

 

「このターゲット、やはりゼロシステムにあてられているなっ……!!!」

 

「がはぁらぁああああああっっ!!!」

 

更にキルヴァはプラネイト・ディフェンサーを全く気に止めずに己の破壊衝動のままシールドによる突きを繰り出し、メリクリウス・シュイヴァンへと見舞う。

 

シールドの鋭利な先端がメリクリウス・シュイヴァンのプラネイト・ディフェンサーを殴り飛ばすように弾き飛ばした。

 

一度押されたが、ヒイロは再度プラネイト・ディフェンサーを前面に展開させて攻め入るコントロールを再開させる。

 

クラッシュシールドを振りかざし加速を加えた斬撃がウィングガンダム・ゼロへと迫った。

 

「これ以上、俺達の故郷を破壊させる訳にはいかない!!!ここで俺達が、止める!!!」

 

「キヒャーッ!!!乗ってんのはあのガンダムのパイロットさんかよっ!!!あいつらより骨あんかなぁ?!!」

 

キルヴァは戦闘の最中にゼロシステムが見せたイメージから、ヒイロ達の事が伝達されていた。

 

再度ビームサーベルとクラッシュシールドのビームサーベルがぶつかる。

 

メリクリウス・シュイヴァンとウィングガンダム・ゼロが斬撃の打ち合いを重ねながらコロニー群の宇宙空間を駆け抜け、ヒイロとキルヴァが直々たる衝突を始めた。

 

「こんのぉ機体ぃっ、破壊には持って来いなんだよーっ!!!キヒヒ!!!キヒヒッ、キヒヒッ!!!」

 

「確かに……ゼロは凄まじき力を有している。貴様のような奴に渡れば、今引き起こってしまっている事態にもなる。だがっ……!!!」

 

メリクリウス・シュイヴァンのクラッシュシールドの斬撃は薙ぎや袈裟斬りの斬撃から連続の突きへと切り替わった。

 

ウィングガンダム・ゼロは向かい来る突きに合わせるかのようにビームサーベルで繰り返し受け流していく。

 

「けっ……攻撃は見えるんだ……無駄ぁ、無駄ぁ!!!」

 

ウィングガンダム・ゼロは高機動力でメリクリウス・シュイヴァンの背部に周り込み、ビームサーベルの斬撃を浴びせた。

 

だが、ヒイロはプラネイト・ディフェンサーを自機へ引き寄せるようにコントロールし、斬撃を防御する。

 

「ちっ……なんだぁ?!!生意気なんだぁ!!!!」

 

「だがっ……本来は宇宙世紀の歴史に常にある理不尽な力、体制に抗う為の、コロニーの為の力だっ!!!」

 

ヒイロはプラネイト・ディフェンサーを再び前面に展開させ、ウィングガンダム・ゼロへと斬り迫る。

 

「コロニーの為の力だぁ?!!寝言かっ、バーカっ!!!」

 

メリクリウス・シュイヴァンに斬撃を浴びせるが、その斬撃はぶつかるように押し止められた。

 

「寝言もバカもない……貴様にこれ以上俺達の機体で好き勝手させはしないっ……!!!!」

 

メリクリウス・シュイヴァンは拮抗したウィングガンダム・ゼロのアームを崩し外すと、クラッシュシールドのビームを納めた上でシールド面をウィングガンダム・ゼロに殴り当てた。

 

その時、キルヴァは今までに見なかった感覚に襲われた。

 

キルヴァがメリクリウス・シュイヴァンに突き砕かれるイメージと感覚が彼を襲った。

 

以前にもあったゼロシステムが見せる事のある死ぬ感覚だ。

 

「がぁあああっ?!!ぐはっ……!!!なんだ、いまのぉ?!!ああっ、あっ、あっがぁああああ!!!」

 

ウィングガンダム・ゼロはキルヴァの発狂と共に狂ったような斬撃を始め、その斬撃はプラネイト・ディフェンサーのユニットにランダムに当たり、スパークを起こす。

 

「おー、おー、発狂してくれちゃってよぉ!!いよいよゼロによからぬ幻覚でも見せられたかぁ?!!いつかのデカぶつガンダムさん!!!ヒイロ、退いてろ!!!」

 

「!!」

 

ヒイロがデュオの促しに対して機体を離脱させて答えると、タイミングを見計らったデュオのヴァイエイト・シュイヴァンのツインビームカノンが狙い撃つ。

 

デュオは聞こえるキルヴァの声からいつしかのΞガンダム戦の時を思い出していた。

 

二つの高出力のビーム渦流が突き進む中、ウィングガンダム・ゼロは容易くかわすが、キルヴァにはビーム渦流に巻き込まれ消滅する幻覚を見せられていた。

 

ウィングガンダム・ゼロはいびつな軌道を描くように加速を始めた。

 

「あああああっっ、んなもの、見せんなぁあああ!!!!」

 

多角形軌道を描いた直後、ウィングガンダム・ゼロは狂ったようにコロニーへと向かい始めた。

 

「ちっくしょがぁああっっ!!!」

 

「あぁ?!!あの野郎、コロニーへ向かいやがった!!!」

 

「被害が拡大する!!!追うぞ!!!」

 

「あったりまえだっ!!!これ以上、コロニー市民に死神が働くのは勘弁だぜっっ!!!」

 

無論、内部で今のウィングガンダム・ゼロが暴れれば、内部の都市は致命的な被害を免れないだろう。

 

ヒイロは直ぐ様その後を追尾し、その最中でデュオに問う。

「デュオ、奴を知ってるような口調だったが……?!」

 

「ま、知ってるっつーか、前に地球で逃げ回ってた時、ダカールとオーガスタで遭遇した奴さ!!あの特徴的な下品な嗤いは直ぐにピンときたぜ……あと、カトルお坊っちゃんのフィアンセを奪いやがった奴でもあるがな!!カトルの事を考えると……はぁ、胸くそ悪くなるな……」

 

「そうか……やつは俺達の取り巻く環境に因縁性があったか……」

 

「因縁ね……かもな!!ま、とにかく今はコロニーを守らねーと!!!」

 

「……その上で奴がツインバスターライフルを置き去りにしたのは不幸中の幸いだな」

 

「あぁ!!だが、コロニーが危険なのは変わりないぜ!!!」

 

2機はキルヴァが暴走するウィングガンダム・ゼロを追い、キルヴァが破壊対象にしたコロニーを目指すが、やはりウィングガンダム・ゼロの機動力と加速には到底追い付けるものではなかった。

 

しかしこの時のキルヴァは、背後から迫り来るヒイロとデュオの機体をゼロシステムの予知ビジョンに投影された映像で認知していた。

 

一瞬薄ら笑いをしたキルヴァは、狂い嗤いながら再び機体を反転させる。

 

「キィギャッハハハハーッ!!!!見えてんだよぉぉっっ!!!!」

 

ウィングガンダム・ゼロもまた、反転仕切ったと同時にあたかもその機体自体がメリクリウス・シュイヴァンとヴァイエイト・シュイヴァンを狙い定めたかのように両眼と胸部のゼロ・ドライヴを発光させた。

 

コロニーを襲撃するかと思えたウィングガンダム・ゼロが、突如とヒイロ達に襲い来る。

 

殺意と狂気を乗せたビームサーベルの斬撃が、加速をを伴いながらメリクリウス・シュイヴァンに叩き込まれた。

 

「キィギャッギャハハハハハーッ!!!わかってんだよぉおァっ!!!!」

 

「くっ……!!!」

 

ヒイロの咄嗟の判断で、クラッシュシールドをかざすメリクリウス・シュイヴァンだが、瞬間的なスパークと共に凄まじい衝撃を受け、叩き伏せられるように圧倒されてしまう。

 

次の瞬間には背後を捕られ、斬り払いの一撃がプラネイトディフェンサー越しに襲った。

 

ビームサーベルのエネルギーと発動したプラネイトディフェンサーが衝突し合ったスパークが目映く照らす。

 

「がっ?!!」

 

吹っ飛ばされながらも振り返り際にビームガンを撃つヒイロだが、既にウィングガンダム・ゼロはいない。

 

次にヒイロが気づいた時、側方からビームサーベルが叩き込まれ、メリクリウス・シュイヴァンのレフトアームの関節ジョイントを破断させた。

 

その攻撃を皮切りに、ビームサーベルをウィングガンダム・ゼロが激しく打ち込み始める。

 

ヒイロはその豪々たる斬撃を数度クラッシュシールドでしのぎ、次の斬撃の瞬間でビームサーベルを発動させた。

 

ビームサーベルが激しくスパークし合う中、ヒイロはキルヴァに向け、警告を放った。

 

「行き過ぎた力は貴様自身を滅ぼすだろう……既にゼロシステムが貴様を侵食しているはずだ……機体を放棄しろ!!!」

 

「はぁ?!!貴様、俺様に指図すんじゃねぇっっ!!!俺はなぁ!!!破壊が楽しいんだっ!!!!コイツは俺様の破壊欲を加速させてくれるマシンだっ!!!!ヒャハー!!!」

 

無論、キルヴァは反発しながらより一層の斬撃を打ち込み、ヒイロを圧倒する。

 

「くっ……!!!」

 

ヒイロはガードで一杯になる中、サイドモニターに映し出されたタッチパネルを操作し、ビームサーベルの出力を上げて対抗する。だが、それでもウィングガンダム・ゼロのパワーに及ぶことはなく、攻防の状況は横這いの一途を辿った。

 

ヒイロは猛威を奮うウィングガンダム・ゼロの斬撃に対し、更なる防御に徹した。

 

装備されたプラネイトディフェンサーをフルに活かした防御体制を展開させ、多数のプラネイトディフェンス・ユニットがウィングガンダム・ゼロのビームサーベルを迎え撃つ。

 

激突するビームサーベルの斬撃のスパークがヒイロとキルヴァを照らす中、デュオがツインビームカノンの砲門をウィングガンダム・ゼロへ向けた。

 

左右のジェネレーターハッチが解放し、強力な疑似GNDエネルギーのスパークを放ちながら、そのエネルギーを巨大な銃口へと充填させていく。

 

「いっくぜぇ!!!けど、直撃すんなよ!!?最終的な切り札なんだからよぉ……!!!!」

 

デュオは攻撃対象が自分達の切り札でありながら攻撃しなければならない複雑さも交え、ツインビームカノンのグリップを操作する。

 

更に言えばその複雑さにはゼロシステムに攻撃をかわされる可能性大な事もはらんでいた。

 

二つのビーム渦流が撃ち飛ばされ、スパークを帯びながら宇宙空間を切り裂くかのように突き進む。

 

ビームが2機へ一気に突き進む中、キルヴァは狂気の笑みと共に開口しながらウィングガンダム・ゼロを一気に離脱させて見せた。

 

シュバッと離脱したウィングガンダム・ゼロは、電光石火の如くヴァイエイト・シュイヴァンに襲いかかり、抜刀軌道の斬撃を見舞い、レフト側のビームカノンの銃身を破断する。

 

破断されたビームカノンが切断部から爆発を起こすが、デュオはやむ得ずライト側のビームカノンをウィングガンダム・ゼロの顔面に突き付けた。

 

「こんチクショウっ!!!」

 

零距離でビームカノンの砲口からビームが吐き出され、ウィングガンダム・ゼロを仰け反らせながら吹き飛ばす。

 

だが、ダメージは微々たるもので、ウィングガンダム・ゼロは眼光と胸部のゼロ・ドライヴを光らせ、一層の攻勢に出た。

 

ウィングガンダム・ゼロは加速しながらビームサーベルを振りかぶり、一気にヴァイエイト・シュイヴァンのライトアームを斬り砕いて、シールドの切っ先を激しく刺突させる。

 

「がぁああああ?!!」

 

「きひゃはー!!!!」

 

ヴァイエイト・シュイヴァンはジェネレーターを破壊されながら吹き飛ばされた。

 

更にウィングガンダム・ゼロは追い討ちをかけるように止めの斬撃を仕掛けに加速する。

 

デュオに絶体絶命の強烈な死の旋風が圧し迫る。

 

「ちっ……俺の悪運も……ここまでかっ……!!!」

 

「キシャーッ!!!あ?!!」

 

だがその時、2機の間にヒイロのメリクリウス・シュイヴァンが飛び込む。

 

「ヒイロ?!!」

 

「邪魔だぁあああああ!!!」

 

気に触れたキルヴァは、怒り任せにビームサーベルを叩き込んだ。

 

だが、ヒイロはプラネイト・ディフェンサーをフルパワーで展開させてこれを防御した。

 

「な?!!」

 

「デュオ!!もうお前の機体は戦闘不能だ!!!離脱してバルジへ戻れ!!!」

 

「な?!!何言ってやがる?!!ヒイロはどうすんだ?!!まさかお得意の自爆ってんじゃねーだろな?!!」

 

「自爆か……今の俺はしない!!!」

 

「お?!!」

 

「……今の俺には、マリーダを救う任務がある……故に俺は死ねない!!そして今置かれた状況を突破するにはゼロが必要だ!!!」

 

「マリーダね……すっかり色気付いたなおい……って、まさかこんな状況でゼロを奪回すんのかよ?!!」

「今は少しでもバルジへ近づきながらゼロを引き付ける!!」

 

ヒイロが発した事は無茶かつ絶望的な選択だったが、デュオはそれ以上にヒイロの思考が変わった事に、驚きとニンマリ的な嬉しさを覚えた。

 

(まさか……ヒイロが自分で「死ねない」なんて言うとは思えなかったぜぇ……前は常に命がアブネー状況に自ら突っ込んで任務したがってたのによ!!へへっ、マリーダとの出会い、アイツにソートーな影響与えたみたいだな……!!)

 

デュオは任されたと言わんばかりにグリップを握りしめ、満身創痍のヴァイエイト・シュイヴァンを加速させた。

 

「わかった。そんじゃ、引き受けて逃げまくるぜぇ!!」

 

「あぁ」

 

ヒイロとデュオは互いの行動を託し合い、今出来る最善と思う行動に全てを賭けた。

 

加速しながら遠ざかって行くデュオを確認したヒイロは、再びクラッシュシールドを構えながらプラネイトディフェンサーを自機の全面に展開させた。

 

スパークの壁の向こうからは狂気を吐き散らすようにウィングガンダム・ゼロがビームサーベルを振りかざして迫る。

 

「キシャァァアアアアぁああああッ!!!!」

 

「……っ!!!」

 

その一撃がプラネイトディフェンサーに激突し、凄まじいスパークを唸りはしらせた。

 

「うぜーんだよっっっ!!!!バチバチバチバチよぉお?!!」

 

ウィングガンダム・ゼロの斬撃のラッシュに比例してまばゆくプラネイトディフェンサーのスパークが2機を照らす。

 

ヒイロは一瞬の隙を突きながらクラッシュシールドをウィングガンダム・ゼロに突き出した。

 

力が一瞬拮抗したが、直ぐにウィングガンダム・ゼロが勝って捌き弾く。

 

メリクリウス・シュイヴァンとウィングガンダム・ゼロは、互いにビームサーベルを乱撃し合いながら次第にバルジの方面へと軌道を向き始めていった。

 

だが、その最中だった。

 

あれほど斬撃に執着していたキルヴァは、自ら宇宙空間を漂っていたツインバスターライフルに向かい、ウィングガンダム・ゼロにツインバスターライフルを装備させる。

 

「くっ、ツインバスターライフルを許したか!!!」

 

ヒイロは展開させたプラネイトディフェンサーの全ての基機を最大限の出力に上げた。

 

ツインバスターライフルを握りしめたウィングガンダム・ゼロは反転しながらエネルギーチャージを開始し、その銃口はメリクリウス・シュイヴァンへと向けられ、その瞬間に荒れ狂うビーム渦流が解き放った。

 

 

 

ヴォヴゥバァアアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

ヒイロはツインバスターライフルのビーム渦流波をプラネイトディフェンサーで真っ向から受け止める。

 

メリクリウス・シュイヴァンは凄まじい閃光とスパークに包まれながら宇宙空間を押し飛ばされ、そのままコロニーの外壁部に激突する。

 

ほんの僅かに踏ん張るが一瞬に過ぎず、外壁にめり込み内部を突き抜け、市街地に打ち付けられながら更にコロニーの内部から再び宇宙空間へと吹き飛ばされた。

 

「ぐぅっ……!!!もつかっ……?!!」

 

「キヒャッハァッッ!!!死ねぇぁっっ!!!」

 

ゼロシステムにより狂気を増幅させるキルヴァは、ウィングガンダム・ゼロのツインバスターライフルを撃ち続けながら射撃エネルギーを増幅させた。

 

外壁部に破壊エネルギーを伝達されていき、一気に外壁を焼灼させる。

 

無論、居住者達も無差別かつ無慈悲に破砕被害に巻き込まれ、悲惨な状況下に曝されていった。

 

そのツインバスターライフルの超高エネルギーにより、コロニーは外壁をオレンジに発光させながら破砕を拡大させ、短時間で崩壊に導びかれた。

 

溢れだした閃光と共に、コロニーは大爆発を巻き起こして宇宙のチリに消え、その大爆発の影響を加えた衝撃とビーム渦流に押し飛ばされたメリクリウス・シュイヴァンは小惑星に激突した。

 

「ぐぅっ!!?くっ……おぉおお!!!」

 

ヒイロはメリクリウス・シュイヴァンのレッグスラスターを最大出力に噴射させ、持続するツインバスターライフルのビーム渦流に対抗する。

 

だが、最早悪あがき以外のなにものでもなく、推進力はツインバスターライフルのエネルギーに拮抗するに止まった。

 

プラネイトディフェンサーの各ユニットも、ツインバスターライフルの押し寄せる超高エネルギーにより、耐久限界に達しようとしていた。

 

モニターにはレッドゾーンの耐久値が表示され、アラート警報が甲高くなり響く。

 

「プラネイトディフェンサーが限界かっ……?!!」

 

実際にプラネイトディフェンサーのユニット群自体がスパークを引き起こしていた。

 

そして遂に一基、二基と次々に爆発していき、危機的な状況を悟ったヒイロは、メリクリウス・シュイヴァンをツインバスターライフルの射撃軸線上から離脱させようとした。

 

「ダメか……っ!!!」

まさにその判断の刹那、耐えていた残存基のプラネイトディフェンサーが臨海を迎え、一気に爆発する。

 

同時にディフェンサーフィールドから一気に解き放たれたビーム渦流が、メリクリウス・シュイヴァンのレフト側のアームとレッグを完全に吹き飛ばした。

 

 

 

 ズドォヴァアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 ドォズシャァアアアアアアアアアアアアアッッ………ッドォグォガァアアアアアアアアア!!!

 

 

 

「ぐおぉおおっ!!?」

 

更にビーム渦流により焼灼された部位が爆発し、メリクリウス・シュイヴァンをより右側面方向に吹き飛ばす。

 

キルヴァを生体端末にしたウィングガンダム・ゼロは、両眼を発光させながら容赦なく攻勢の勢いをぶつけ、レフトアーム側にツインバスターライフルを装備しながらビームサーベルを再び装備して斬りかかる。

 

「キシャァぁぁああぁぁぁあっ!!!」

 

「メリクリウス・シュイヴァンの機体自体が限界か……クラッシュシールド一基しか武装はない……!!!後は……」

 

轟々たるウィングガンダム・ゼロの斬撃が繰り出される中、メリクリウス・シュイヴァンはクラッシュシールドのディフェンサーフィールドで辛うじてビームサーベルの攻撃を受け止め続ける。

 

「シャアぁぁあァァはぁがぁぁぁあっ!!!!」

 

 狂ったキルヴァの感情を乗せる斬撃の乱舞は、激突毎に重く強烈なビームサーベルの衝撃をメリクリウス・シュイヴァンに与えていく。

 

 次第にライトアームそのものの負荷が上昇させていた。

 

 モニター表示にも警告アラートが鳴り響いており、ヒイロは一瞬その表示を見て本機体の最後であろう攻勢の行動に出た。

 

「っ!!!」

 

 クラッシュシールド先端から発するビームサーベルの刀身がウィングガンダム・ゼロのビームサーベルと交わり稲妻のごときスパークを散らす。

 

 更に上昇する負荷に鳴り響くアラートだが、最早背水の陣たる状況にヒイロはビームサーベルを捌き、ウィングガンダム・ゼロに攻め入らせた。

 

「攻めは最大の防御だ。捨て身に等しいがな……!!!」

 

 幾度も互いの斬撃が打ち合わせられ、絶えずスパークがはしり光る。

 

 その最中、ウィングガンダム・ゼロのコックピット内ではゼロシステムの発動による光がキルヴァ包み、彼を更に狂人へと拍車をかけ続ける。

 

「キヒャアアアアアアアアア!!!無駄無駄無駄無駄ァああアアアア!!!俺はなァ!!!無敵なんだよぉおおおっ!!!このシステムは俺をより上に導いてくれるうううう!!!だからァ俺はァ……!!!」

 

 いくら攻勢に出ても機体との差が生じ、乱舞するウィングガンダム・ゼロの強烈な斬撃を前にするメリクリウス・シュイヴァンは斬撃を交わえる度にアームジョイントを痛ませていく。

 

 幾度も斬撃を打ち合った両者の斬撃が拮抗した。

 

 そしてその僅か数秒後、メリクリウス・シュイヴァンのライトアームは遂にスパークをはしらせ爆発した。

 

 同時に斬撃の切っ先がメリクリウス・シュイヴァンの胸部コックピットハッチを焼灼、切断した。

 

「ぐっ!!!限界かっ……!!!」

 

 反動で吹き飛ぶ中、ヒイロは焼けただれたコックピットハッチの隙間から見えるウィングガンダム・ゼロを直視しながら、履いて捨てるほど覚悟して受け入れてきた死を再度覚悟する。

 

「キヒャあああ!!!死んじまいなァアアアアアアアアア!!!」

 

 レフトアームに握られたツインバスターライフルがメリクリウス・シュイヴァンへと向けられた。

 

 ヒイロは静かに瞳を閉じて次の瞬間に襲い来るであろう、ツインバスターライフルのビーム過流を覚悟すると同時に、マリーダを思い浮かべ、彼女に伝えきれない別れを呟いた。

 

「……さよなら……マリーダ……」

 

 だがその瞬間、ウィングガンダム・ゼロのコックピット内で事態が変貌する。

 

 突如としてシステムがキルヴァに死の情報やイメージを脳内に与え始めたのだ。

 

「な??!なんだっっ……ぐおああああああ……?!!」

 

 次々にキルヴァの脳裏に襲い来る死の映像や感覚には、ウィングガンダム・ゼロが直接自分にツインバスターライフルを撃ち飛ばす映像やそれに呑まれてキルヴァの体が消滅する映像と感覚、更にはカトルが乗るガンダムサンドロックに切り刻まれバラバラにされる映像と感覚などが押し寄せていた。

 

 それ以外にも生々しく伝わる死の情報が大量にキルヴァに流れ込み、彼の精神と肉体を異常なほどまでに圧迫する。

 

 まるでそれはゼロシステムが本来の適格者であるヒイロの死を制止させているかのようでもあった。

 

「がァあああああ?!!やめろっつてんだろ!!!ちくしょおがァああああああああああ!!!ああがあァあ、キヒヒャァアアアアアアアアア!!!うぶるあァあああがあああああああああ!!!」

 

 遂にキルヴァは狂いの笑いを発狂をしはじめ、体をのたうち回らせては自らの体をかきむしりまくる。

 

 ゼロシステムが送り続ける死のイメージの情報と感覚は一瞬でキルヴァ自身を容量オーバーに導き、精神を崩壊に至らせた。

 

「……?!攻撃が止んだ……だと……?!!ゼロのシステムによる影響が生じたか?!!」

 

 静止したまま微動だにしないウィングガンダム・ゼロにヒイロは直ぐに内部で異常が生じたと判断する。

 

 ハッチ破壊の影響で大半の機器に異常を生じさせている為、ウィングガンダム・ゼロからの音声は通信や傍受が不可能ではあるが、ヒイロはシステムの負荷によるオーバーロードと予測しながら自機をウィングガンダム・ゼロに接近させた。

 

そして半壊したメリクリウス・シュイヴァンのコックピットハッチを、生きていた脱出プログラムを利用してパージさせる。

 

ヒイロは携帯していたハンドガンを構え、ウィングガンダム・ゼロのコックピットハッチを外部から解放させた。

 

同時に中のキルヴァに鋭利な眼光と銃口を向ける。

 

「……動くな」

 

「シャアぁぁあァぁぁあがっ!!!」

 

だが、ヒイロの言葉に逆らうように、狂ったキルヴァは驚異的な速さでヒイロに飛びかかる。

 

「―――??!」

 

流石のヒイロも強化され過ぎたキルヴァの素速さには対応しきれず、ハンドガンを弾かれた挙げ句、キルヴァに首締めを許してしまう。

 

「がはっ……?!!ぐっっ!!!」

 

「きしゃああァァァアアアアッっ!!!」

 

ヒイロとキルヴァは取っ組み合いながら宇宙空間を回転する。

 

「殺してやらぁあアアアアッッ!!!がぁああアアアアっっ!!!」

 

発狂を交えながらギリギリとヒイロの首を握り締めるキルヴァに、ヒイロは蹴りを入れ込む。

 

ヒイロも肉体強化を施した過去がある故に、常人を超える筋力や身体能力を持っていた。

 

「ぎっ?!!」

 

ヒイロが叩き込んだ蹴りにより、キルヴァは一度首締めを解除する。

 

そのヒイロはその瞬間を逃さずキルヴァの頭部をメット越しに抱え込み、連続打撃を胸部の人体急所・水月に打ち込む。

 

「ぐっ!!がっ!!げがっ……?!!」

 

ヒイロは更にメットごとキルヴァの頭を掴んで、膝蹴りを顎に数度叩き込んだ。

 

「ぐぎぅっ!!?」

 

そしてヒイロはキルヴァをアストロスーツのメットを掴みながら、バイザー越しに眼光を浴びせる。

 

ヒイロに過るは、自身への首締めや怒りなどではなく、デュオから聞かされたカトルへの屈辱、数多くの罪亡きコロニー市民やコロニーを葬った諸行、そしてその罪をコロニーを護るべき自分達のガンダム、ウィングガンダム・ゼロに重ねさせた事に対する怒りだ。

 

「キルヴァとか言ったな……お前を殺す!!!」

 

 

 

 ドォッッ!!!

 

 

「ぎっ―――!!!」

 

ヒイロはキルヴァの顎を目掛け顎にアッパーを食らわせ、キルヴァの身体を豪快に宇宙空間へと見舞った。

 

一度宇宙空間へと惰性で放り込まれれば何処に行き着くかなど保証はなく、ひたすら宇宙を漂うに尽きる。

 

ヒイロは漂うメリクリウス・シュイヴァンに脚を預けながら蹴り、その反動でようやく狂人の手から解放されたウィングガンダム・ゼロに向かって自身を向かわせた。

 

「……ゼロ!!!」

 

そして遂にヒイロはウィングガンダム・ゼロのコックピットに身を投じ、ウィングガンダム・ゼロもそれを待っていたかのようにゼロシステムを再び発動させ、コックピットに展開されるゼロシステムの光がヒイロを包む。

 

ヒイロ脳裏に投影されはじめたのはキルヴァのこれまでの凶行の情報であった。

「……元連邦、現OZ所属の強化人間、キルヴァ・ザレア。幼少より孤児だった自らを保護してくれたはずの富豪の養父母を10歳の時に殺傷。金銭物を売りさばき、以降強盗殺戮を繰り返す……被検体として誘拐された後、オーガスタにて更に危険な強化人間として調整された。悲痛な過去を持つ他の強化人間たちとは異なり、元より危険な猟奇的性格をした俗にいうサイコパス……Ξガンダムを与えられたその後はさらなる殺戮を我が物顔で凶行に及ぶ。その最中に出会った誘拐されたカトルのフィアンセ、ロニ・ガーベイを自分好みに洗脳するように要望。一度は命を奪おうとしたが再度欲望のままに弄んだ……そしてゼロの実験に……システムによる凶行も受け入れて自らが望んで暴走していた……か」

 

 ヒイロはゼロが与えたキルヴァの情報を脳内で閲覧し終えた。

 

 彼の凶行には全くの同情の余地はなく、胸糞悪さや怒りがただただ残るばかりであった。

 

 特にコロニー市民の被害とカトルを絶望に突き落とす要因となったロニの事がヒイロの中で静かなる怒りを巡らせていた。

 

 更にゼロシステムはキルヴァを野放しにしていた場合の予測映像をヒイロに見せ続ける。

 

 再びΞガンダムに乗り換えた後、各地の都市部やコロニーに情報操作前提のテロ行為をし続け、よりヒイロ達に世論の情報攻撃が拡大し、犠牲と不利の連鎖が巻き起こるのが把握できるものだった。

 

 最後にはキルヴァ駆るΞガンダムが、ロニが乗る何らかの機体にビームを撃ち込む映像を見せて終わった。

 

 静かに瞳を開いたヒイロはキルヴァに関することを把握しきり、今こそ葬るべき存在と確信する。

 

「今一度言う。強化人間キルヴァ……お前を殺す」

 

 カメラアイと胸部のゼロ・ドライヴを発光させたウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルの銃口をキルヴァのいる方面に向けた。

 

 生体ターゲットと見なしたシステムが、生体センサーに置き換えてキルヴァをロックし、ヒイロもそれに伴いエネルギー充填操作に移行する。

 

「貴様のこれまでの罪の精算だ……!!!」

 

 キルヴァに巻き込まれた全てに代わり、ヒイロは狙撃するがごとく鉄槌を下す意をキルヴァに飛ばした。

 

 キルヴァも惰性で飛ばされながらウィングガンダム・ゼロに視線を向け、今まさにツインバスターライフルを放とうとしている動きを把握した。

 

 瞳孔を限界まで広げながら血を混ぜた嗤いを見せたキルヴァをヒイロはゼロシステムを介して見据え、その最中にこの後に来る未来を把握する。

 

 その未来から見出したもう一つの意を賭してツインバスターライフルを解き放った。

 

 

 

 ヴゥヴィリリリリリィィィ……ヴヴァルァァアアアアアアアアアァアアアアアアアアア!!!!

 

 

 

 押し迫るビーム過流を目前としたキルヴァは癖の深い嗤いを浮かべるものの、直後に想像を絶する熱エネルギーを浴び、狂った余裕は一瞬で声なき断末魔に変わる。

 

 全ての罪の清算を叩きつけたような凄まじき因果応報は、キルヴァを白目に阿鼻叫喚させ、超高エネルギーの熱エネルギーは彼の人体を赤く焼灼した。

 

その直後には、ビーム過流が容易くキルヴァを呑みこんで焼き飛ばす。

 

 そして宇宙空間を突き進むそのツインバスターライフルのビーム過流はその延長軸線上の旧ソロモンをめざしてゆっくりと旋回を始める。

 

 ヒイロはキルヴァを討つ上で更なる意図を上乗せさせていたのだ。

 

 旧ソロモン・コンペイ島の管制室でもその動向を把握しており、場の空気は一気に緊迫の方向に一転する。

 

 本来ならばコンペイ島はL5コロニー群近辺にあったが、一年前にL5を統括するようになった中華系OZプライズを統括する醜特佐の「邪魔に感じる」の意向で、正反対のL3コロニー群のルナツー近辺に大規模移送が成されていたのだ。

 

「たった今発生した超高エネルギー熱源が、動き出しました!!!ゆっくりと旋回しています!!!このまま熱源が旋回をし続けた場合っ……!!!コンペイ島に到達します!!!」

 

「何だと??!打つ手はないのか?!!否、それ以前に何故コンペイ島を……?!!これも……奴らのガンダムの力なのか……?!!」

 

 間もなくしてコンペイ島全区画に緊急アラートが鳴り始め、一層の事態の緊迫を叩きつけた。

 

 ウィングガンダム・ゼロが持続し続けるツインバスターライフルのビーム過流は、旋回しながらコンペイ島へと接近し、残存のOZ艦隊やMS部隊をことごとく破砕し始める。

 

「警備の艦隊が次々に破壊されてい行きます!!!損耗率、80……90%以上!!!熱源過流、更に迫ります!!!」

 

「くっ、くそぉおお!!!総員退避!!!総員退避ぃいいいい!!!」

 

 コンペイ島へと到達したツインバスターライフルのビーム過流は、長きに渡ってL1に君臨し続けたその要塞を側面から削り飛ばすように破砕させた。

 

 そのまま持続し続けるビーム過流はコンペイ島の中心ポイントで動きが止まる。

 

 その時、ウィングガンダム・ゼロのコックピットではヒイロが改めてツインバスターライフルの照準を絞り、コンペイ島を完全にロック・オンする。

 

 連続する照準音に乗せたその狙いはわずかな誤差しかなく、狙いは完全にコンペイ島を捉えている。

 

 ヒイロはその照準に見えないものさえも狙い定めた。

 

 そこに見えるものは遂に動き出すカトルやラルフ達、戦い続けるゼクス達であった。

 

 今この瞬間からが再起の反抗。

 

 それを悟ったヒイロは、一発目のビーム過流に上乗せさせるかのようにツインバスターライフルのトリガーをコントロールした。

 

 

 

 

 ヴギィダァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 ウィングガンダム・ゼロが放つ、増幅したツインバスターライフルのビーム過流がコンペイ島を一瞬にして直撃し、注がれるその莫大な高エネルギーはコンペイ島を駆け巡り、あらゆる箇所を暴れるように破砕させながら浸透していく。

 

 内部区画では容赦なくコンペイ島の兵士たちをエネルギー爆破が呑みこみ、破砕流が駆け巡る。

 

 そして遂には駆け巡っていたそのビーム過流の高エネルギーが増幅臨海に達し、コンペイ島を破裂させるかのように大爆発へと至らせた。

 

 その爆発の巨光を投影される脳内モニターで視認し続けるヒイロは、その光景に向かって言い放つ。

 

「これが……俺達のリ・スタートだ……!!!」 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 

 

 次回予告

 

 ウィングガンダム・ゼロの奪取と再び現れたガンダムデルタカイ。

 

 変革した世界に野放しにされた存在がディセットを悩ませる一方で、ロームフェラ財団は本格的に力による政策という凶行を推し進めていく。

 

 OZ、OZプライズ両陣営にとっても重要な会議の場で、リアルタイムで進められる大衆を平気で巻き込むデルマイユのやり方に対してトレーズが反論する。

 

 一方、主を失ったΞガンダムを輸送するOZの部隊に対し、マフティーと名乗る反政府組織が襲撃をかけていた。

 

 それは新たに生まれ変わったメテオ・ブレイクス・ヘルの反抗の始まりを示すものであった。

 

 ラルフのこれまでの根回しの工作が実を結び、事態は動き出していく。

 

 マリーダとプルが絶望の箱舟にある中、バルジを舞台にヒイロ達の新たな反抗の力が爆発しようとしていた。

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 

 エピソード 35 「再起する流星達」

 

 

 

 

 

 

 

 



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エピソード35 「再起する流星達」

宇宙要塞・コンペイ島消滅。

 

この事態はOZ及びOZプライズに衝撃と恐怖を与えた。

 

同時に暴走機であるウィングガンダム・ゼロの討伐失敗を悟らせもした。

 

討伐を指揮していたバルジにおいては尚更であった。

 

指令室ではオペレーターがこの一連の状況をディセットに伝える。

 

その声は驚愕に囚われ震える。

 

「こ、コンペイ島っ、消滅!!!討伐隊、コンペイ島所属部隊、共に通信が取れません!!!」

 

「……ウィングゼロというガンダムは……健在か?!!」

 

「機体自身がレーダー反応に捉えれませんが、放たれた熱源ポイントにおそらく……!!!」

 

「ロスト……という事か……ガンダムのパイロットを持ってしてもダメか……!!!」

 

ディセットは同格相当のMS2機に加え、それに搭乗させた高度なACE級のGマイスター二人を持ってしても対応しきれなかった事態に行き詰まる。

 

それは即ち当初発案したトラント達三人を投入したところでも結果に差違はない事を物語っていた。

 

「もう1機のデルタカイはまだ見つからないのだな?」

 

「はっ!!依然として消息不明です……!!!」

 

唯一自軍において同格のガンダムデルタカイも共に行方を眩ませてしまっていた。

 

相手が軍やテロリスト組織ならばまだまともな事の運びができていたであろう。

 

2機は単機である上、暴走している機体故に対処が困難を極めるのだ。

 

更に言えば地球圏に現存する全てのMSを総合して最強クラスの機体なのである。

 

 

 

その頃、L1のとあるポイントにてジオンやネオジオンの残存から派生した宙賊のMSがシャトルに襲撃を仕掛ける事案が発生していた。

 

彼らは強盗をした後に口封じに乗客諸ともシャトルを破壊するのだ。

 

シュツルム・ディアス、ハイザック、マラサイ、ガルスJ、リゲルグ、ゲルググM、ドライセン、ドラッツェの8機が犯行に及んでおり、今正に金を巻き上げ、シャトルを破壊する瞬間だった。

 

無慈悲に老若男女がのるシャトルがハイザックのビームライフルの一撃で破壊された。

 

「しゃあ!!かなりの収穫だ!!!」

 

「あぁ!!当分は豪遊できる!!!早速女遊びだな!!!」

 

「ははっ、相変わらず好きだな、お前!!!」

 

「ともあれ宴だ、宴……?!!なんだあの機体?!!」

 

リゲルグの男がモニターに接近する機影を目視確認した。

 

 それは見た目上空間戦闘機のようなタイプであった。

 

 すなわち次なる獲物……宙賊達は一斉に高揚した。

 

「ひゃはっ!!今日は大量!!」

 

「しかもアレ、ガンダムタイプじゃねーかぁ?!!全機でかかりゃ目じゃねーぜ!!!どだい、ゼータプラスかなんかだろ?!!」

 

「売れば更なる儲けだ!!!獲るぜ、おめーら!!!」

 

 欲におぼれた宙賊達は相手がガンダムタイプと判断しながらも、機体数でモノを言わせようと挑む。

 

 だが次の瞬間、動きを止めた戦闘機が機体を突如として各部変形させ始めた。

 

 シールドと思われるものが外れ、腕、脚と瞬く間に各部を変形させていく……その各部を変形させて見せたその容姿は紛れもない行方不明になっていたガンダムデルタカイであった。

 

 地球圏最強クラスの機体とは認知できていなかった彼らは一斉にビーム兵器による射撃をガンダムデルタカイに向けた。

 

「やはりガンダム!!!コックピットに集中砲火!!!何、ガンダムなら腕や脚でも破格の値が付くぜ!!!」

 

 ビームの放火が開始され、どの射撃も外れることなくガンダムデルタカイに集中した。

 

 だが、装甲表面でビームが弾くような状況から何ら一遍する様子は見受けられない。

 

 幾度となくMSや民間機を襲ってきた彼らにとって明らかに異常な違和感であった。

 

「……な、何ぃ?!!ビームが……効いてない?!!」

 

「……こ、これは?!!」

 

 ガンダムデルタカイは平然として空間に身を置き続けているが、一向に破壊が起こる様子は起こらない。

 

 豪を煮やした一人の宙賊がゲルググMを突っ込ませた。

 

「ならっ……コックピットに殴り込むまでだぁああああ!!!」

 

 ナックルシールドを振りかぶりながらゲルググMがガンダムデルタカイへ迫る最中、ガンダムデルタカイがそのゲルググMにレフトアームのシールド兼用のバスターソードをかざす。

 

「なにぃいっ――――?!!」

 

 ゲルググMは対処しきれずその巨大な切っ先に突っ込み、思いっきり胴体部を串刺しにさせてしまった。

 

 ガンダムデルタカイはそれだけに止まらせず、バスターソードに装備されたハイメガキャノンを発射し、突き刺さっているゲルググMを容易く爆砕させた。

 

「な……?!!こ、この野郎ぉおおお!!!」

 

 メンバーの撃破に怒りを覚えた宙賊達は更なるビーム射撃を加える。

 

 ギンと両眼を光らせたガンダムデルタカイは、バスターソードをシールド兼用し、悉くビームを防御して見せた。

 

 そして遂にガンダムデルタカイは反撃の行動に移り、宙賊の機体群に機体を飛び込ませながら再度レフトアームのバスターソードを突き出す。

 

 その一撃がシュツルムディアスのボディーを突き砕いて機体を破砕させた。

 

 次の瞬間からはライトアームのメガバスターで射撃を開始し、三発のビーム過流を見舞わせた。

 

 その攻撃に悉くドラッツェとマラサイ、ハイザックが吹き飛ばされて爆砕し、宇宙の爆発光と化す。

 

「一瞬で5機が……!!!畜生ぉおおがぁああああ!!!」

 

 ビームガンを放ちながらナックルアームを振りかぶるガルスJだが、これもメガバスターのビーム過流に敢え無く吹き飛ばされ爆砕に果てていった。

 

 次々とメンバーが撃墜される中、リゲルグとドライセンが持てる白兵戦装備を振りかざしてガンダムデルタカイの後方から迫る。

 

 だがガンダムデルタカイは容易くこれを躱し、背部左右のバスターファンネルを即時展開させた。

 

 展開したバスターファンネルは一瞬のエネルギーをチャージすると、2基同時にビーム過流を解き放つ。

 

「があああああああ?!!」

 

 撃ち出されたバスターファンネルのビーム過流の直撃を食らったドライセンとリゲルグは、吹き飛ぶように機体を爆砕され宇宙のデブリと化した。

 

 遭遇した宙賊の機体残骸が漂う中、コックピットのリディはただただ呼吸を荒く出し続けるしかなかった。

 

「はぁハア、はぁはぁハアはぁハアっ……はぁはぁはぁ……!!!」

 

 その最中にゼロシステムがリディに次なる行動を提示する。

 

 彼の脳裏に投影されたのは地球であった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ……くぅっ、次のっ敵ッ……!!!」

 

 

 

「ガンダムデルタカイ……ウィングゼロ……なんて機体がこの時代に現れたのだ……くっっ!!!」

 

破格級の同格機体が2機存在する時点で、既に宇宙世紀のMSの常識は崩壊していた。

 

それ以前にも増して、MS単機でコロニーや資源衛星、宇宙要塞型小惑星を破壊するなど、従来のMSの常識どころか地球圏のパワーバランスを崩壊する事態に至っている。

 

(……トレーズ閣下……私は如何なる指揮を執ればよろしいのですか?!!トレーズ閣下っ?!!)

 

ディセットは心中において苦渋の想いをトレーズにといかけ、歯軋りをした。

 

そのトレーズは今、正にOZプライズの新体制を公表する場に居合わせていた。

 

その場はOZ及OZプライズの組織ではルステンブルク会議と呼ばれ、連邦の時代からも行われており、長きに渡り重要な組織の伝統となっていた。

 

彼の視線先にはOZ、OZプライズの後ろ楯であるロームフェラ財団の長・デルマイユ公が新体制について語る。

 

「……であるからして、これからのOZ、OZプライズはより一層の確たる秩序を持って地球圏を統治するのである!!!それを可能とする一つが、無人機動兵器・モビルドール(以降改めMD)であるっ!!!そのMDは試験的にリゼル・トーラスに搭載配備され、捕らえた反抗テロリストのガンダムパイロットの戦闘データを反復させたデータ収集により、正規として!!シルヴァ・ビルゴ及びサジタリウスの配備が決定した!!!今後はプライズ選りすぐりの精鋭と死なない兵士達の時代に移行していく事だろう!!!」

 

デルマイユのその言葉にトレーズは眉を潜めた。

 

デルマイユの言葉は更に続く。

 

「よってこの場で、我々が新たな時代の為に行う事を公表する!!!OZをOZプライズに取り込み、今あるロームフェラの力を世界の統治の為に一つとするのだ!!!」

 

聞こえは良いが、デルマイユが放った言葉は言い換えればOZの存在を消すに等しい事でもあり、いわばOZの兵士達のリストラに等しくもあった。

 

トレーズは人・兵士を愛する考えであり、それがどれ程残された兵士たちに悪影響を及ぼすか懸念せざるを得なかった。

 

 だが、トレーズの懸念をよそに、周囲はどよめくどころか拍手喝采を巻き起こしている。

 

(デルマイユ公……そして今ここにいるロームフェラ財団の面々……彼らはOZの兵士達の意思を無視して切り捨てようとしている。実際はOZの兵士の大規模なリストラ政策なのだ。彼らはロームフェラであると同時に地球圏の歴史を裏で操作する組織・『ブルーメンツ』の一員だ。無論、この私も。しかし、兵士達を切り捨て、財団に選ばれた兵士のみと無人兵器の方針ばかりは……私自身の意志が賛同できない……!!!)

 

トレーズはロームフェラ財団のメンバーでただ一人、静かに反抗の意思を灯していた。

 

そしてトレーズの心中で語られた組織・ブルーメンツ。

 

彼らこそが、遥か古より人類の歴史の動きを操作してきた秘密結社であり、今に至る歴史の流れや動きを全て「ビルドワールド会議」という会議により取り決め、全て彼らの為の世界秩序と利益のバランスの為に操作しているのだ。

 

フロンタル派ネオジオンへの戦力・資金提供や私利私欲の暴走をするマーサ一味のバックアップ、連邦からOZの時代への強制切り替え、バルジ配備、そしてMD体制など多岐に渡る動きは彼らによる歴史操作の決定によるものであった。

 

 戦争こそが最大の利益を生産する。

 

その中でまことしやかに建造させていたバルジⅡ、バルジⅢを稼働体制にする動きや、月の地下において超巨大MA(以降モビルアーマー)の建造を進める流れも彼らが根回しをしてきていたのだ。

 

バルジⅡとバルジⅢは今後のOZプライズによる支配体制をより一層強力なのものとさせるコトを目的に建造され、全ては無論ながらブルーメンツによるものだった。

 

 デルマイユは更にこのことについても時折拳を握りながら述べる。 

 

「今、我々は宇宙要塞・バルジを保有しているが、これに続きバルジⅡ、バルジⅢの建造も行ってきた。無論新体制の新たるもう一つの秩序の為に他ならん!!宇宙世紀におけるこれまでの歴史が生んできたイレギュラー要素は我々の力をもって清算するべきなのだ!!よって本日、秩序たる力をここにいる皆様方お見せしようと存じる!!」

 

 デルマイユが立つ背後に巨大なモニタースクリーンが現れた。

 

 そこには既に発射行程に移行してるバルジⅡとバルジⅢの姿がに分割の画面で表示され、いつバルジ砲を発射してもよい状況にあった。

 

「この試射は正に我々の秩序を具現化したものとなるのは間違いありません……バルジの射軸線上にはテロリスト組織が内在するとの情報が確定しているコロニーがある。それら不穏分子に対し、我々は動くのだということを……では……ご覧いただきたい!!!」

 

 会場に座すロームフェラ財団の面々達が注目する中、映像に映し出された二機のバルジの主砲にエネルギーが真紅に近い光を収束させていく。

 

だが、この二機の射軸線上遠方にはコロニーがあった。

 

そのコロニーでは日常的な生活が展開しており、仕事中の会社員や車が行き交う情景、路地を行き交う人々、ショッピングを楽しむ人々、下校途中の学生達等の姿が見られる。

 

しかし、そのコロニー群の奥には密かに出入りするネオジオンの残存軍の姿が見受けられていた。

 

確かにネオジオンは既にテロリストの定義内に見なされる存在だ。

 

だが、バルジ砲を使うには余りにも仰々しいものだった。

 

それどころか管制モニターに表示される射軸線上には確実に他のコロニーも射程内に巻き込んでいる。

 

バルジ砲の砲門にはエネルギーチャージが進行し、スパークが発生し始めていた。

 

「ねー、ねー!!ここのカフェ、いいでしょー?」

 

「うん♪ホント、お店の装飾もかわいいし、このパフェも美味しい♪」

 

そのコロニー群の中のコロニーの一角でカフェタイムを楽しむ女子高生の二人。

 

支配や殺伐とした現実が拡大するコロニー情勢だが、中には日常的かつ平凡な状況のコロニーもあった。

 

スプーンでパフェを掬い、ココアを飲み、携帯データベースのアプリで遊ぶ……日常的たる日常的な光景だった。

 

だが、この時、デルマイユのニヤリとした笑みと共に、バルジⅡ、バルジⅢのバルジ砲が発射された。

 

会議場のロームフェラ財団の面々が「おぉ!!」と声を上げる中、射軸線上のアングルへと画面が切り変わった。

 

発射された真紅の大規模なビーム渦流の光は、宇宙空間を突き進みながら各コロニーを悉く呑み込んでいく。

 

ビーム渦流を浴びたコロニーは次々にかつ、一瞬にして破砕・爆破・消滅していき、先程の女子高生達がカフェを楽しんでいたコロニーには、バルジⅢのビーム渦流が迫っていた。

 

ココアを飲み切り、一息ついた女子高生はもう一人に退店を促す。

 

「ふー……ね!!次はさ、タピオカのお店にいこーよ!!タピオカ!!」

 

「あはは!!太るよー?!ここ二件目だよー?」

 

「いーじゃーん!!旧世紀の女子高生にも人気だったんだってータピオカ!!だからさ……」

 

他愛ない会話の最中、急に足元に暖かさを感じ「え?」となる二人。

 

だが、直後、地震のような振動と共に超高熱が彼女達を襲った。

 

「きゃあああっ―――?!!」

 

下から押し寄せるエネルギーが爆破のように押し上げて彼女達の体を吹き飛ばして蒸発させた。

 

次々にコロニーはバルジ砲の巨光に呑まれ、宇宙の爆破光と化していく。

 

この狂気の映像を見せながら、デルマイユは喝采に近いどよめきの中で続けた。

 

「……これが、我々がもたらす秩序だ!!既にあるバルジと共に頑ななこの力を持って、MD体制と共に……!!!」

 

「異義ありっ!!!」

 

その時、会議場に一つの声が響き渡った。

 

声の声質はトレーズ以外の誰でもなかった。

 

急激に静まる中、誰もがトレーズに視線を集中させ、デルマイユもまたトレーズに対し眉間にしわを寄せた。

 

「……トレーズ……!!!」

 

「異義あり……デルマイユ公。大衆を巻き込む……これはこれまでの連邦や旧世紀にあった戦争の悲劇であり、過ちに他なりません。新たな体制のロームフェラはその過ちを進んで提唱するのですか?更に述べさせていただくならば、これまで戦ってきているOZ兵士達を切り捨てようなど、私は賛同できません……!!!」

 

会議場の誰もが負のどよめきをし始める。

 

OZ、ロームフェラの重要人物であるトレーズが自らロームフェラの長であるデルマイユに反抗の意思を示したのだ。

 

少しばかりそのどよめきに目を配りながらトレーズは続けた。

 

「……人類は確かに戦いを止めない。その戦いに身を投じる事を私は肯定し、その姿勢を愛します。戦ってこそ人は美しい。しかしそれは戦う資格を持つ兵士や反抗の意思を持つテロリスト達に限られる。戦う資格がない大衆を巻き込む体制は言語道断と言って良い。大衆は本来ならば、力ある我々が守り、導いていくべき存在なのだ」

 

「貴様っっ……!!!」

 

「今のように圧倒的な力を持って大衆諸ともねじ伏せる姿勢や、OZの兵士を切り捨てプライズの兵士達と無人兵器による体制もまた後の世にも恥ずべき行為である……そう感じてならない。何故ならプライズの兵士の姿勢は大衆を巻き込むと聞く。かつての地球連邦やティターンズを思えてなりません。デルマイユ公……これも、ブルーメンツの歴史シナリオなのですか?」

 

「な?!!トレーズっっ!!!貴様の発言の重さはわかっているのだろうなっ……?!!」

 

トレーズが口にしたことはタブーの中のタブーであり、どよめきを広めていた会議場が氷ついた。

 

トレーズの発言にはそれほどの覚悟が籠められていた。

 

「無論です……ブルーメンツが造りだすシナリオは更にロームフェラに歪みを生む。それは必ず彼らや他の反抗の意思を再び歴史に召還する。そう……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達を……!!!」

 

ブルーメンツが創造する歴史のシナリオに破壊を投じる存在が確かにこの世界にあった。

 

それがメテオ・ブレイクス・ヘルが産み出した「ガンダム」である。

 

トレーズの洞察にシンクロするように事は動き始めていた。

 

四枚のウィングバインダーを展開させたウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルを構えたまま静止し続け、ガンダムデスサイズ・ヘルとアルトロンガンダム、ガンダムジェミナス・グリープは静かに反抗の時を待つ。

 

この時、特別メンテナンスの為に解放されていたディックにより、ガンダムジェミナス・グリープは本来の性能を引き出す仕様とセッティングが成されていた。

 

無論、OZプライズのMDシステムによる運用の建前だが、実際はアディンが乗った時の為のセッティングだ。

バルジを目指して宇宙を航行するネェル・アーガマの中においても、反抗再開を目前とするガンダムヘビーアームズ改とガンダムサンドロック改が、サーペントと4機のマグアナックと共にして控える。

 

そして、そのパイロット、即ちGマイスター達やマグアナック隊達の面々もまた、各々に反抗の再開の時が多重のベールをめくるがごとく構えていた。

 

ブリッジとCICを兼ねたネェル・アーガマの機首部で、カトルとトロワがラシード、アブドル、アウダ、アフマドと共に向かう先を見据える。

 

キャプテンであるケネスも彼らと共に反抗に幇助する想いを改めるように見据えていた。

 

バルジの牢獄では五飛がアルトロンガンダムのデータを投影させながら新たな機体を閲覧し、アディンはジンネマン達と共に反抗プログラムを反復して確認をする。

 

一方のデュオは半壊のヴァイエイト・シュイヴァンをひたすらバルジへ向けて飛ばす。

 

そして破壊したコンペイ島を見据え続けていたヒイロがゼロシステムのレドームモニターの光に照らされ、次なる行動のポイントを選定する。

 

その鋭い眼光は反抗の意思を強く放つモノだった。

 

確かに反抗の狼煙は放たれようとしていた。

 

トレーズは閉じていた瞳を見開き、再び述べ続ける。

 

「……彼らは連邦の時代より続く時代に、かつてない反抗の意志を掲げて我々に攻撃を仕掛けてきた。それは驚異かつ脅威である事は言うまでもなかった。だが、同時にその強烈な純粋さに衝撃を受けた。確かに今、彼らは歴史上敗者の位置付けにあり、今は我々の手中にあると言っていい。だが彼らは今尚抗い続けている。捕らえた者達は死のうとせず辛酸を舐めながらも生き続けている。私には反抗を諦めていない意志の強さを感じてならない……そんな彼らには敬意すら感じてしまう……正に戦う美しき戦士達なのだ……!!!」

 

「トレーズ……相変わらず意図が滅裂だな……して、貴様は何が言いたい?!!」

 

会議場がトレーズに注目し続ける中、一旦瞳を閉じ、静寂を漂わせたトレーズが間もなくして瞳を見開いた。

 

「私は……敗者になりたい……!!!」

 

「ほう……では貴様からOZを取り上げて良いと言うのだな?!!」

 

「はい……」

 

 緊迫する空気の中で、デルマイユは貴族気のある銃を手にしてそれをトレーズへと向けた。

 

「……」

 

「……」

 

 トレーズとデルマイユの無言の間が続く中、銃を出したデルマイユは自らが出した銃を下ろし、今後のトレーズとOZの処遇を述べた。

 

「……トレーズ。貴様のこれまでの功績もある。血生ぐさいことはできん!!今この時より、トレーズを無期限の幽閉とし、OZはOZプライズへ吸収する運びとする!!!」

 

この瞬間にまた歴史が動いた。

 

トレーズはそれを把握したかのように無言で振り返えり歩き出す。

 

今充たされた空気はデルマイユいわくOZがOZプライズに吸収された空気であり、それはOZが事実上切り捨てられたに等しかった。

 

それでもトレーズは満足な笑みを浮かべて威風堂々と退場していく。

 

その様は歴史の表舞台から去るかのようにも見える。

 

(デルマイユ公があの着飾った銃で私の胸板を射抜いたとて、私に感動を与えない。また歴史が動く……時代に抗いし者達は自由なのだ。心が……)

 

トレーズは会議場を後にする瞬間、ふと振り返ったトレーズはデルマイユの後方より差し込む光に視線を送り、地球と宇宙、地球圏各地で現情勢に抗う各地の者たちに贈る想いで意思を述べた。

 

 (宇宙世紀0097……この時代に抗う者達よ……心こそ豊かに……)

 

 

 

 ブーゲンビル島上空

 

 

 

 1機の超大型輸送機ガルダがブーゲンビル島近海海上の上空を飛ぶ。

 

 その機内にはつい先日までに狂気を宿した主を持っていたΞガンダムが格納されていた。

 

 知らずして主を失ったΞガンダムは、ただ黙りながらその身を収め続けるのみである。

 

 格納庫ではそのΞガンダムを見上げる数名のOZの兵士達がいた。

 

「Ξガンダム……相変わらずの図体のでかさダナ。けどこの図体にもかかわらず単機で飛行可能かつ高機動ときている」

 

「加えて旧連邦の強化人間か俗にいうニュータイプでなければ動かせないときた……現状運んでるだけの超絶な代物だよ」

 

「その肝心の強化人間の主が、今じゃ宇宙でメテオ何たらから接収したガンダムのテスト中にコトをやらかして行方不明だそうだ」

 

「ははっ、迷子ってか。主の交代時か?今の目的地はあのオーガスタ研究所なのだろ?なら俺が強化人間に志願するかぁ?!」

 

「バカか。やめとけ……」

 

 他愛ない会話の中で突如として衝撃と爆発音が走った。

 

「がぁあああ?!!なんだ?!!」

 

 警報音が鳴り響く中、機種操縦席ではサポートユニットに搭乗した数機の赤いギラドーガのようなMSが旋回するのが確認されていた。

 

 そのMSはモノアイをガルダに合わせビームライフルの銃口を突き向け、旋回する他の同機種もそれにあわせるようにビームライフルを一斉に向けた。

 

「な?!!なんだこいつらは?!!」

 

「ギラドーガのカスタム機のようですが……識別コードを送信しても該当機種がありません!!!機体自体も大型です!!」

 

「えぇいっっ!!!搭載しているエアリーズとジェスタで応戦させろ!!!」

 

 一気に緊迫の中に叩き込まれた格納庫では機長の命令の下、エアリーズとジェスタでの出撃準備が成されていくが、その最中にビームライフルを突き付ける機体群とは別に3機の同カスタムMSがビームライフルを発砲しながらガルダのハッチを破壊した。

 

 爆発と爆煙が突風のように格納庫に押し寄せ、カスタムMS達が突貫侵入する。

 

 モノアイを光らせながらカスタムMS達は起動準備中のエアリーズとジェスタに完膚なきまでに攻撃を開始し、次々にビームライフルの照準に当てた機体を撃破していく。

 

「なんだ?!!あのMS共は……がぁああああああ?!!」

 

 先ほどΞガンダムを見上げていた兵士達もあっけなく近くで破砕爆破したジェスタの爆発に巻き込まれ爆死に至った。

 

 格納庫に爆発が炎上し続ける中、カスタムMSの1機がマニピュレーターを自機のコックピットにかざし、その中より姿を見せた青年をその機械の手に乗せる。

 

 するとその青年を乗せたマニピュレーターはΞガンダムのコックピットへと向かい、熱風と高高度の風が混じる中で青年を導いた。

 

 青年はカスタムMSにサムズアップサインを送ると、しばらく操作パネルを操作し続けた後にハッチを開放させた。

 

 暫しコックピットに視線を見据えた青年は、キュッと顔を険しくさせてその中へと飛び込んだ。

 

「これがΞガンダム……今後は我がマフティーの力の象徴とさせてもらう!!!」

 

「マフティー」という単語を口にした青年はΞガンダムの機体を起動させ、同時に味方機に通信を繋いで呼びかける。

 

「Ξガンダムの起動に成功した!!!ここまでのみんなの協力に感謝する!!ガルダ周辺のメッサ―隊は俺達が脱出したことを確認したら一斉射撃でガルダを沈めにかかれ!!!無論、俺も加勢する……マフティー・ナビーユ・エリン、Ξガンダム、出すぞっ!!!」

 

 メインカメラを光らせ、新たな主を得たΞガンダムが動き出す。

 

「これが俺達の反抗の意志だ……」

 

 マフティーはそう呟きながら格納庫に残されたエアリーズやジェスタにビームバスターの照準をロックオンし、立て続けに高出力ビームを叩き込んだ。

 

 ビームの直撃と共に各機体が破裂するように爆砕し、それが連続でガルダの格納庫を覆いつくしていった。

 

 立ち昇る炎と火の粉の中にギンと両眼を光らせたΞガンダムは、仲間のMS・メッサ―と共に燃え行くガルダの格納庫を脱出し、振り返りながら更に追い打ちのビームバスターを何度も見舞う。

 

 Ξガンダムとメッサ―の脱出を確認した他のメッサ―達はビームライフルを構え、一斉に各方向からのビーム射撃を開始した。

 

 各部を爆発させていくも、ガルダの巨躯は即撃墜を許さない。

 

 だが少しづつながら確実に巨鳥の体は削がれていく。

 

 そしてΞガンダムは一気に機首部へと旋回し、機首の面前にビームバスターを突き付けた。

 

「な?!!く、Ξガンダム?!!」

 

「一体どういう……まさかっ、強奪されたか?!!」

 

 突如突き付けられた状況に戦慄するガルダの乗組員のOZ兵士達は、ヴィンと光るΞガンダムの両眼に更なる戦慄を上乗せされる。

 

「終わりだ……これからこの機体はマフティーと共にこの狂った時代を粛正する……!!!」

 

そう言い放ったマフティーは、広大な全天周囲型モニター越しに移るガルダに睨みを効かせると、ビームバスターのトリガーを解き放った。

 

至近距離で放った高出力ビームはガルダの機首を真っ直ぐに直撃粉砕させ、その皮切りによる連鎖爆発を巻き起こさせた。

 

ガルダが内外部で爆発を繰り返しながらその巨大を徐々に海面に向けて墜落させていく中、マフティーはコックピットシート右側面に配置された操作パネルを操作する。

 

「Ξガンダムの強奪には成功した……ここからは宇宙の同志へ一旦バトンをパスする……収容所に捕らわれた仲間達を救出するには彼らの協力が必要不可欠……頼むぜ……メテオ・ブレイクス・ヘル……!!!」

 

 マフティーが打ち込むメッセージの送信先……それはバルジを目指すネェル・アーガマであり、その受信を明るいブロンドヘアーのスタイルの良い女性オペレーター、エイーダ・シーマリオンがケネスへと報告する。

 

「っ!!これは……!!ケネス艦長!!地球のマフティーからのメッセージを受信しました!!『抗いの力は鳥を食い破った』です!!」

 

 それを聞いたケネスはにっと含み笑いを一瞬する。

 

「……そうか。下の同志は一つの段落をクリアできたか。ここからが我々か。いよいよだな……バルジのラルフにメッセージを送信。『流星はここから成る』と」

 

「了解!!」

 

 エイーダが打ち込むメッセージはバルジに長きに渡り潜伏するラルフもケネス同様、含み笑いを浮かべたがそれはすぐに曇りを見せる。

 

 (さぁ……やっとコトが動くぜ……だが一つ不安かつ不確定の問題要素がある……ヒイロとデュオが戻らないってことだ。現状消息不明。マジでゼロに葬られちまったのか?!!もしそうならどうするか……よくよく考えりゃ参った事態だな……)

 

 ラルフが事の運びの引っ掛かりを覚えている一方で、その憂いは杞憂になっていた。

 

 ネオバードモードへと可変したウィングガンダム・ゼロが、そのマニピュレーターにガッシリと掴み取りついたヴァイエイト・シュイヴァンを引っ提げながらバルジを目指していたのだ。

 

 その間にデュオの軽いノリを含めた通信が一方的にウィングガンダム・ゼロのコックピットに響きく。

 

「……しっかし、お前もお前でよくできたもんだぜ!!あんな絶望的な状況でゼロを奪い返すなんてよ!!!お前がかっ飛んでくるまで、デュオ君は絶望の中進むしかなかったんだからな~……もし立場逆だったら俺は本物の死神とご対面してたかもな!!あの強化人間ヤローはマジで半端ない奴だった……奪える確信はあったのか?!仮にもゼロだぜ、ゼロ!!!」

 

「……正直に言ってギリギリだった。再び死を覚悟したからな……」

 

「っ?!……意外な返答だな。俺はてっきり『当たり前だ』とか『余裕だ』、『お前にはできなくて俺にできる』なーんて言葉が来るかと思ったぜ!!」

 

「完璧な人間などいない……それだけだ」

 

「ま、そりゃそーだ……完璧な人間なんていないわな!!」

 

「……計画もまた同義。完璧にいくとは限らない……」

 

 ヒイロはそう言いながら獄中で脳内に暗記していたラルフの携帯データベースのアクセスコードを操作パネルで入力し、コードを打ち込んでエンターキーを押すと、確信めいた言葉を交えながら最小限の伝達メッセージを打ち込みはじめる。

 

「……だが、完璧は近づける、あるいは補正することができる。そして今とこれからの状況もな……」

 

ラルフがバルジ内部の裏通路にて、イレギュラー要素からなってしまったヒイロとデュオの不在状況からの状況調整に頭を掲げる中、その答えが彼の携帯データベースに受信される。

 

 掌のデータベースに受信したまさかのヒイロからのメッセージに、ラルフはニヤリとせずにはいられなかった。

 

「っ……そうか……!!ははははっ、ヒイロ……やってくれたぜ……了解っ!!!」

 

 ヒイロのパネル操作の行動と言動に、意味深さをモニター越しに感じ取っていたデュオもニンマリとして見せる。

 

「へー……で、どんな感じに補正できるんだぁ??」

 

「時機にラルフからバルジの見取り図のデータがお前の所へ来る。それに基づき、ガンダムデスサイズ・ヘルが格納されている格納庫へ突っ込め」

 

「はぁ?!!この機体で特攻しろってかぁ?!!」

 

「現在の俺達やラルフの置かれた状況から最も有効だ。タイミングが合えば先にカトル達が突破口を作りやすくしてくれているはずだ」

 

「あ??俺達が先にバルジに到達ってことにもなる?!!」

 

「場合によればな。どの道最終的にはジンネマン達をガランシェールごと脱出できる状況に持っていくことだ。そこから先はネェル・アーガマと合流して地球を目指すチームとラプラスの箱を追うチームに別れることになっていくだろう。最も俺は最初から次のポイントは決まっている……」

 

 ヒイロは常にマリーダの救出を見据えており、この間にゼロが見せた未来にはマリーダの死が二つのパターンで予測を示していたのだ。 

 

 一つはマーサの手に落ちて虐殺に等しい死を迎えるモノ。

 

 事実、現状のままではマーサはベントナが開発した「DOMEシステム」の核として組み込むため、マリーダの体を解体する事を目論んでいた。

 

 そして二つ目は何者かが放ったビーム過流にマリーダが蒸発させられる未来だ。

 

 時としてゼロシステムは未来予測から幾つかの可能性を示し、警鐘をゼロシステムの適合者に促す。

 

 ヒイロはゼロシステムから与えられた可能性の危惧も見据えながら静かなる闘争心を燃やし続けていた。

 

「……マリーダか??相変わらずゾッコンだーね……捕らわれのお嬢さんに星のナイトのおでましってかぁ……?!」

 

 デュオも察しが付き、からかい半分でヒイロに言って見せるが、予想外の反応がデュオに跳ね返る。

 

「守りたいものがあれば……自ずとそうなる。確かに俺達が護るべき存在はコロニーだ。だが、己にも守りたい存在があればまた違う視点が見えてくる。そのような存在がいないデュオにはわからんだろうがな」

 

「いいいっ?!!う、うるせーなっ、余計な世話だぜっ!!!たくよー……」

 

「マニピュレーター出力を再確認しろデュオ。加速する」

 

 デュオの反応を遮るようになるが、ヒイロはヴァイエイト・シュイヴァン側のマニピュレーター出力の再確認をデュオへ促す。

 

 無論、振り落とさないためだ。

 

「へいへい……っと……出力はMAXだ。飛ばしてくれていいぜ」

 

「了解した」 

 

 ヒイロは機体や周囲の状況を再確認すると、更に踏み込んだ位置にレバーを押し、ウィングガンダム・ゼロの機体をバルジの座標を目指して更なる加速をさせていった。

 

 時を同じくする頃、マリーダとプルを拘束し続けるネェル・アーガマ二番艦・グラーフ・ドレンデは衛星軌道上付近を離れ、L2方面を目指して宇宙を航行していた。 

 

 ヴァルダーやマーサが見つめる進路座標にはユニコーンガンダムが示した次なる座標が表示されていた。

 

L2コロニー群・コア3だった。

 

 そこはかつてのハマーン率いるネオジオンの拠点だったコロニーであり、第一次ネオジオン抗争の最終局面において、ハマーン派とグレミー派によるネオジオンの内乱の舞台となった場所だ。

 

 現在は宇宙を漂う廃棄コロニーの一つとなっており、宇宙世紀の爪痕の一つとされ、OZの管理下にあった。

 

その他にも、L5-30コロニー(旧30バンチ)やフロンタル派ネオジオンから再び取り戻したアクシズα・β等もまた現在はOZの管理下にあり、全ては戦争の爪痕を後の時代に包み隠さず残すというトレーズの意向であった。

 

 ヴァルダーはOZプライズのトレーズと言ってよい程の最高幹部クラスの人物でもある為、OZ管理下のコア3に立ち寄る事は実に些末なことだった。

 

 この間にもマリーダとプルに容赦のない屈辱が強いられていた。

 

 マーサ私兵やOZプライズの兵士達の鬱憤晴らしの格好の対象にされ続ける。

 

 欲望や人体実験紛いの仕打ちが姉妹を疲弊させていく。

 

 無論、ヴァルダーやマーサの暗黙の了解内であり、部下である彼らのモチベーション維持や発散にはもってこいとばかりに彼女たちを利用していた。

 

 その上、マリーダに関しては非情極まりないマーサとベントナの魔の計画が待ち構えているのだ。

 

 その計画上、マリーダは遺伝子レベルにまで解体される……残酷という言葉では収まりきらない運命だった。

 

 無論、プルも例外ではなく、この先ラプラスの箱に纏わる利用価値が無くなった時点でその禁忌のニュータイプシステム計画・DOMEシステムに組み込まれる未来予想図は火を見るよりも明らかだ。

 

 この日も男達の仕打ちを受け終えた姉妹達は、絶望と屈辱に雁字搦めに圧迫され続ける。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、うううっく……マスター……姉さん、ヒイロっ……私っ、死にたくない……会いたいっ……!!!」

 

「もう……やだっ!!!やっぱり耐えられないっ……!!!いやだっ、いやだ、いやだ、イヤダぁああああああ!!!」

 

 心身が疲弊されて横たわるマリーダは心許せる者達を想いながら普段流すことのない悲痛な涙を流し、プルは純心がズタズタにされてしまった心境と屈辱に耐え切れずに泣き叫ぶ。

 

 これが現実だった。

 

 彼女達に救いの手は最早通常では考えられない……だが、状況は陽のバタフライ効果によって変わる可能性を広めるのだ。

 

 

 

OZ宇宙要塞・バルジ

 

 

 

 バルジ内部のあらゆる各ポイントで爆発が巻き起こる。

 

 ラルフが長い時間をかけて準備した爆破工作が成す爆発だった。

 

一人の男の人差し指が事を動かした。

 

無論、この連続爆発はアディンや五飛達が収用されている牢獄の区画からの脱出経路を計算しての爆発だ。

 

「……っしゃ!!!長らく世話になったバルジとようやくおさらばだ……さて……お迎えのポイントまでいきますか」

 

牢獄のスライドドアーからオフセットした位置で爆発が発生し、事前に把握してきたアディンや五飛達は見事に脱出を開始して走り始める。

 

「遂に来やがったゼ、この時が!!!」

 

「ようやく出れたな。待っていろ、那托!!!」

 

ジンネマン達もまた彼らに続き、ガランシェールを目指して走り出す。

 

「小僧達に続けっっ!!!あいつらの計画通り、ガランシェールを取り戻す!!!」

 

 至る個所からの爆発に巻き込まれたOZやOZプライズの兵士達が斃れており、一行は彼らの携帯武装を奪いながらバルジの格納庫を目指した。

 

 その一方、バルジに収容されていたはずのドクターJらは別の艦へ護送されていた。

 

 輸送艦の窓より時折外部爆発を見せるバルジが映るのを見てドクターJが喋りだす。

 

「バルジから火が時折出ておる……どうやら奴らは行動を開始できたようじゃ。当のわしらは更なる利用価値を見出され、どこぞのOZプライズの艦に行かされるそうだが……」

 

「まぁ後は好きにさせればいい……最高傑作品は完成させてきた。うまくいけばこれまでの鬱憤を爆発できような……今日であのバルジは陥落するな。また時代が変わる……」

 

 プロフェッサーGが傍観するバルジでは、かつてない非常事態の状況に陥っており、兵士達のへのダメージは確かなものになっていた。

 

「非常事態発生!!!非常事態発生!!!総員、第一種戦闘配備!!!総員第一種戦闘配備!!!」

 

 非常事態を促す音声警報が響く中次々と状況を被せるように爆発が連発し続ける。

 

「一体何が起こっている?!!破壊工作テロか!!?隔壁閉鎖急げ!!!」

 

 ディセットはこの状況をテロと判断し、直ちに防災を兼ね隔壁閉鎖を指示した。

 

「ダメです!!!バルジ内の中枢統括CPUが爆破され、コントロールできません!!!」

 

「何ぃ?!!」

 

「防衛の砲撃をはじめ、虎の子のバルジ砲も発射不能です!!!」

 

「何という屈辱だっ……!!!ええい!!!とにかく内部警戒を怠るなっっ!!!」

 

「しかし、爆破はまだ尚起こり続けています!!!っ……これは?!!バルジ警戒エリア内に機影……っ識別、ネェル・アーガマです!!!」

 

「ネェル・アーガマ……だと?!!たった一隻で何をしに……?!!」

 

 隔壁閉鎖は勿論、バルジのあらゆる管理・制御が困難な状況に陥っている事を痛感させられたディセットにネェル・アーガマという更なるイレギュラーが介入した。

 

「既にMSらしき機影の反応も確認されてます!!!」

 

 内部のテロに加えネェル・アーガマとMSによる強襲……ディセットからしてみれば正に八方塞がりな状況下だ。

 

「くっ……!!!バルジ内のMS、MD、出せる機体は全て出せ!!!この期に及んで我々にこんな真似ができる……奴らなら、メテオ・ブレイクス・ヘルならやり兼ねない……!!!」

 

 ディセットは悔し紛れに拳をダンと叩きつけた。 

 

そしてそのネェル・アーガマの周囲には、ラシードやアブドゥル、アフマド、アウダ各機のマグアナックが護衛に付いており、遂にカトル達のガンダムやマグアナックが出撃しようとしていた。

 

オペレーターのエイーダがナビゲートする中、背中合わせでフレーム連結されたガンダムヘビーアームズ改とラルフ専用MSサーペントの専用クルーザーがカタパルトデッキにセットされる。

 

「専用クルーザー、第三カタパルトにスタンバイ。リニアボルテージ上昇……射出タイミングはヘビーアームズ改へ譲渡します……あの……私情はあまり挟むのはいけませんが、サーペント……何としても届けて下さい。ラルフさんが帰ってこれる限られた手段ですから……」

 

 私情を小声にして通信に加味させた物言いをするエイーダから、トロワは事を察して最小限の返答をして出撃へと赴く。

 

 尚、ラルフとエイーダは暗号通信を取り合う一方で、私的な通信をするいわば旧世紀のメル友的な間柄にもなっていたのだ。

 

「了解した。あいつとは古い付き合いだ。トロワ・バートン、ガンダムヘビーアームズ改、サーペント出る」

 

 2機を連結させたMSクルーザーが火花を散らして左舷側カタパルトから射出されていった。

 

 トロワは飛び出したMSクルーザーの軌道をコックピット側からコントロールしてバルジを目指す。

 

 これに続くようにセンターカタパルトに、ガンダムサンドロック改が配置された。

 

 ここまでに至る様々な出来事がカトルの脳裏に去来する中、新たなる武装改修を経た愛機のコントロールレバーを握る。

 

「ヘビーアームズ改に引き続き、ガンダムサンドロック改、発進シークエンスに移行。リニアボルテージ上昇……射出タイミングを譲渡します」

 

「了解……さぁ、サンドロック……ここからが僕達の反撃だ!!!」

 

「兄さん!!」

 

 ぐっとカトルがコントロールグリップを握ったその時、妹のカトリーヌがサブモニターから呼びかけてきた。

 

「カトリーヌ!!」

 

「……遂に戦うんだね……死なないでよね。兄さん。ボク達はウィナー家最後の二人なんだからね!!」

 

「ありがとう、カトリーヌ。でも、それを言うなら僕の方から言わせてもらうよ。カトリーヌが無茶をしようとしてることを知らないとでも?」

 

 少しばかり意地悪く兄の威厳を交えて言うカトルだが、それもそのはずだった。

 

 カトリーヌはジュリと共にネェル・アーガマの護衛に踏み切る行動に出ていたからだ。

 

 カトリーヌの通信発信先も彼女仕様にカスタマイズされたマグアナックからであり、同時にM1アストレイと共に空いたカタパルトに付こうとしている最中だった。

 

「うっっ……ボクも、トロワの力に、みんなの力に少しでもなりたいって思ったから……それにジュリちゃん一人女の子が戦いに行くのも心細いと思って……」

 

 想う人と親しくなれた友人の為の行動と知ると、カトルはくすっと笑いマグアナック隊に通信を切り替えた。

 

「マグアナック隊の皆さん、戦闘に関してですが、僕の護衛はラシードだけで十分です。後の三人はカトリーヌを頼みます」

 

「カトル様……!!了解いたしました。アウダ、アブドゥル、アフマド!!聞いたな?!カトリーヌ様の護衛、しっかりやれよ!!!」

 

「了解!!!」

 

 この運びに満足した表情を見せ、カトルはモニター越しにカトリーヌへ微笑みを見せた。

 

「じゃ、無茶だけはしないように。行ってくるよ、カトリーヌ」

 

「うん……いってらっしゃい、兄さん!!」

 

「カトル・ラバーバ・ウィナー、ガンダムサンドロック改、行きますっ!!!」

 

 カトリーヌの声援で送り出されたカトルは、カタパルトデッキから加速したガンダムサンドロック改を電光石火のごとく宇宙へと飛び込ませた

 

 その後にラシードのマグアナックが続く。

 

 ガンダムサンドロック改は新たな装備であるクロスクラッシャーとビームマシンガンをライトアームに装備させており、更に背部のバックパックに引っ提げたバスターショーテルを手に取ってレフトアームに装備させた。

 

 ギンと両眼を光らせたガンダムサンドロック改はラシード機のマグアナックと共に、より一層の加速をかけてバルジに飛び込んでいった。

 

 先行するトロワのMSクルーザーは既にMS、MDの防衛網を突き進んでおり、至る方向からリーオーやプライズリーオー、リゼル・トーラスのビーム弾幕にさらされていた。

 

 だが、トロワは向かい来る全てのビームをギリギリで躱してバルジを目指すという神業を見せていた。

 

 モニター上では反抗プランにある突入ポイントをロックマーカーに捉えており、トロワはこれを目掛けて機体を突き進ませ続ける。

 

「……っ……クルーザーの瞬発的な加速が収まる前に突っ込めばいいっ……くっ!!!」

 

 次の瞬間、遂にクルーザーにビームが掠め、その一瞬の軌道の乱れがクルーザーユニットへの連続の被弾を許してしまう。

 

 トロワは電撃的な判断でガンダムヘビーアームズ改をクルーザーユニットから離脱させ、サーペントをミサイルのごとくポイントへ突き進ませるだけにさせた。

 

ガンダムヘビーアームズ改は、攻撃を自転回避しながら右側背部のバックパックに実装されたバスターガトリングキャノンの砲身を前方倒し、ライトアームのアームバスターランチャーとレフトアームのダブルビームガトリングを構える。

 

「これでバルジの方はラルフ達に委ねた。後は少々派手な演出で気を引かせる……」

 

ギンと両眼のメインカメラを光らせ、瞬時に両脚のマイクロスタンダードミサイルと新たにバックパックの左側に増設されたホーミングミサイルランチャーを連続展開させて撃ち飛ばした。

 

撃ち放ったミサイル群は、暴れまわるように次々に周囲のリーオーやプライズリーオーを撃墜、破砕させていく。

 

リゼル・トーラスも持ち前のMDシステムのにより回避していくが、その躱したホーミングミサイルは軌道修正しながら再度狙いを定めてリゼル・トーラスを砕き散らしていく。

 

しかしその中にはミサイルをビームキャノンで撃墜する機体もいた。

 

バルジで戦闘が開始される一方、ラルフの指定したポイントのゲートを目掛けてサーペントのクルーザーユニットが突っ込み、兵士達を巻き込みながらゲート施設に派手な破壊と衝撃をもたらした。

 

「ヒュー……外はかなりのMSが展開してるはずだが、よく正確にやれたな……流石、トロワだ……」

 

 二っと笑ったラルフはOZの帽子を投げ捨て、斃れたOZやOZプライズの兵士達を尻目にしてゲートの億面に突っ込んだままのサーペントへと駆け出した。

 

 五飛もまたアルトロンガンダムの起動に成功していた。

 

 ギンと両眼を輝かしたアルトロンガンダムは固定ハンガーを自力で捥ぎ取りながら行動を開始し、手始めに両椀となったドラゴンハングを展開させながら施設機器を破壊する。

 

「那托は蘇った……今までの屈辱と鬱憤は存分に晴らさせてもらう!!!」

 

 アルトロンガンダムは両椀を振り上げながら構え、勢いよく左右のドラゴンハングからの火炎放射をバルジ内のドック施設へ見舞った。 

 

「……貴様の主もここに来るだろう……もう暫し待つといい……」

 

 その炎で誘爆発が巻き起こる中、五飛はサイドモニターに映る残されたガンダムデスサイズ・ヘルに語り掛けるように呟くと、モニターでバルジ内の見取り図のデータを立ち上げ、自機のアルトロンガンダムを見定めた区画へと向かわせた。

 

 そしてアディンもまたガンダムジェミナス・グリープに乗り込み、ガランシェールに合流した専属メカニックのディックと機体のレクチャーを兼ねての通信を取り合う。

 

「……ジェミナス・グリープの真骨頂、『MSCS』をセッティングできた!!まずは手元にあるヘッドフォンタイプの装置を頭にセットしてくれ」

 

 ディックにそう言われるがままヘッドフォンタイプのユニットをアディンはセットするが、アディンはコトが呑みこめない。

 

「……??で?なに、これ??」

 

「精神同調形システムさ。アディンの思考とGNDソニック・ドライヴァーを掛け合わせて文字通り、思い通りに制御できるシステムだ。もちろん問題だったGNDソニック・ドライヴァーのセッティングもできている!!後、本来の性能を実現させるためにメガ・パーティカルバスターはGNDソニック・ドライヴァーのブースター……メガ・パーティカルブースターにも兼用できるようにした」

 

「おいおい!!じゃあ、射撃はどうするんだ?!!」

 

「話を聞けよ、アディン……兼用だ、兼用!!攻防一体のシールドとしても、MA変形時のメガ・パーティカルバスターとしても機能する。存分にいけるぜ」

 

「そ、そういうことか……そんじゃ、キメに行かせてもらうぜ!!!」

 

 唸るGNDソニック・ドライヴァーの動力音の中、アディンが機体を起動させると、MSCSがコネクトされ機体システムの同調が開始される。

 

 アディンは意識を集中させ、意思と意志を目線に籠めた。

 

 (さぁ……ここからが俺達の反撃だ……成しえれてない狂った世界の破壊……その先に生むべき平和……死んでいった兄さん達……そして捕らわれたプルの為……俺は……キメるぜっっ!!!)

 

アディンは面前のゲートの向こうに、今は亡きMO-5の面々やオデルの姿、そして寂し気な笑顔で振り向くプルの姿を見た。

 

 芯から滾る想いを籠めてレバーを押し込ませると、背部のメガ・パーティカルブースターユニットが持ち上がり、ブースターから解放されたGNDエネルギーが、レールガンのごとき加速をガンダムジェミナス・グリープに与えた。

 

 ドンッとガンダムジェミナス・グリープがゲート内を駆け抜け、一瞬にしてバルジの外へと飛び出していった。

 

ジンネマン達もかっ飛ぶアディンの機体に気付く。

 

「小僧も脱出できたようだな……」

 

「えぇ!!しっかし、こうもうまくいくとは逆になんかありそうっすね!!」

 

「フラスト、うまくいったのはラルフって奴の事前の働きがあったからだ。血の滲む入念な根回しがな。機会があれば礼をしたい……がぁああ?!!」

 

突如襲った衝撃にギルボアが叫ぶ。

 

「後尾に被弾!!!まだまだ油断はできません!!!進路上にもMSやMDがうじゃうじゃいやがりまさぁ!!!」

 

「くぅっ……やっと脱出できたってのにっ……!!!」

 

「キャプテンっ、後方からMDが多数来ます!!!」

 

フラストの叫びが更に事はまた負の方向に傾いていた事を知らせる。

 

遂に新型MD・シルヴァ・ビルゴがバルジの格納庫で起動を開始してたのだ。

 

格納庫内部ではジェガンタイプのメインカメラが次々に不気味に光っていく。

 

そしてその機体群は順繰りにバルジからの出撃を開始した。

 

「くそっっ!!!東洋の前門のなんたら、後門のなんたらってのか!!!すまないっ……マリーダ!!!プル!!!下手をすれば、助けれん……!!!」

 

「っくそ!!!完全に狙われました!!!」

 

MDに囲まれたジンネマン達は最早覚悟する他なかった。

 

しかし次の瞬間、前方では不規則に動く光速然とした連続斬撃が、後方には唸り走る二軸線のビーム渦流が多数のシルヴァ・ビルゴを破砕させた。

 

「やらせないぜっ……!!!」

 

「間に合ったな……」

 

ガンダムジェミナス・グリープのMSCSを活かした高機動かつ高速斬撃、そしてバルジに到達したウィングガンダム・ゼロが放ったツインバスターライフルの一撃だった。

 

「あぁ!!!そんじゃ、俺は相棒の所へ……いっくぜぇっ!!!」

 

ヴァイエイト・シュイヴァンはウィングガンダム・ゼロのマニピュレーターから自機を切り離し、惰性とブースターコントロールでゲートへと突貫した。

 

ウィングガンダム・ゼロはバルジ砲から上方面にかけての壁面を滑るように高速で駆け、宙返りの軌道で再び戦闘エリアを目指す。

 

その最中で、減速も兼ねながら機体各部を可変させ、四枚のウィングバインダーを展開させた雄々しい姿をバルジエリアに見せた。

 

ウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルをジャキンと構えて多数のシルヴァ・ビルゴへ狙い定める。

 

ゼロシステムが発動する中、ヒイロは時代へ反撃の時を噛みしめ、その意志をバルジに向けた。

 

「賽はここから投げられる……ゼロ、始めるぞ。俺達の再度のオペレーション・メテオを……!!!」

 

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 次回予告

 

 ヒイロ達は遂に反撃の火蓋を切った。

 

 それはあの屈辱のラボコロニーの敗北以降、初の総力的反撃であった。

 

 トロワ、ラルフ、カトル、デュオ、五飛がそれぞれにバルジに乱戦の嵐を巻き起こす中、ディセットはGマイスター達を肯定するトレーズの精神に苦悩する。

 

 降臨したウィングガンダム・ゼロのツインバスターライフルの一撃がヒイロの合流を知らせ、更に一騎当千の戦士たちの猛撃がバルジの戦場を駆け抜ける。

 

 アディンもまた本領発揮したジェミナス・グリープを駆り、バルジを脱出したガランシェールの水先案内人のごとく獅子奮迅に駆け抜け、戦場に猛威を巻き起こす。

 

 その渦中で更にディセットはトレーズ幽閉の報を聞かされ、バルジにおける自身の行動の選択肢を迫られる。

 

 そして遂にヒイロがツインバスターライフルをバルジに向ける時、マリーダの情報と謎の声がゼロシステムによってもたらされるのであった。

 

 

 次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード36「バルジ破壊」

 

 

 

 

 



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エピソード36「バルジ破壊」

 突如として起きたテロにネェル・アーガマからのガンダムの強襲、そしてウィングガンダム・ゼロの降臨……OZサイドからしてみれば、バルジは予期せぬ混迷の渦に呑まれていた。

 

 それはメテオ・ブレイクス・ヘル壊滅以降後に訪れた彼らの初の総力的反撃だった。

 

 リーオーやプライズリーオー、リゼル・トーラスがビームライフルやドーバーバスター、メガビームランチャーの射撃で迫りくる中へ近代改修された装備を振るい、ガンダムヘビーアームズ改とガンダムサンドロック改が攻め入る。

 

 「あいつらの脱出に邪魔な機体群はミサイルで破壊した。だが、当然のごとくそれだけでは足りない。新装備の試射を兼ね、奴らを消滅させる」

 

 ヴィギンッとメインカメラを光らせたガンダムヘビーアームズ改は、胸部のブレストガトリングを展開させながらアームバスターカノンとダブルビームガトリング、バスターガトリングキャノンの砲身をターゲット群へ突き出すように構えた。

 

 

 

 ジャカキンッ!! ヴィギュリィィィッ……バズダァアアアアアアアアアアアッッ!!! ディシュダァッッ、ディシュダァッッッ、ディシュダァッッ、ディシュダァッッ……バズダァアアアアアアアアアアアァッッ!!!

 

 ヴォヴァドゥルルルルルルルルルルルルルルゥウウウウウゥゥゥッッッ!!!

 

 

 

 一発の発射を皮切りに連発されるバスターライフルと同等の中小規模ビーム過流と、それに連動するかのように高速連射されるビームと実態の弾丸が一斉に面前のターゲット達を破砕乱舞する。

 

 その攻勢を維持させたままガンダムヘビーアームズ改は、少しづづ自転旋回をしながら次々に連発連射弾幕の直撃を浴びせ、リーオー、プライズリーオーの二機種部隊へ圧倒に圧倒を重ねていく。

 

 装甲を吹き飛ばされ爆砕する機体や装甲を砕き散らされボロキレの布のようになる機体……正に事の反撃を体現しているかのような爆光を拡大させていく。

 

 その最中、ガンダムヘビーアームズ改に向かい左側面方向より六小隊編成のリゼル・トーラスの部隊がメガビームランチャーとビームキャノンで射撃をかけながら先頭の6機がビームサーベルを取り出して迫る。

 

 MD故に狙いは間違いないものの、それを上回るトロワの回避技術がわずかな差でビーム弾雨を回避してみせる。

 

「火力支援に数機同時の白兵戦……実に有効な攻めだな……人形の割には優れているな。だが……」

 

 ガンダムヘビーアームズ改は、ダブルビームガトリングの連射撃で立て続けにビームサーベルで迫る3機のリゼル・トーラスを撃墜すると、接近を許したもう3機にブレストガトリングを放ち、内2機をハチの巣に破砕。

 

 これを躱したもう1機のリゼル・トーラスはウィークポイントと認知した胸部へ殴るようにビームサーベルを突き出した。

 

 直撃の瞬間にハッチを閉じながら刺突ダメージを食らい、ガンダムヘビーアームズ改は反動で後退するが、強化型GND合金には意味をなさない。

 

 ガンダムヘビーアームズ改は直ぐに体勢を立て直して次の斬撃を躱し、回り込むように背後からそのリゼル・トーラスをダブルビームガトリングで砕き散らす。

 

 その流れから反転し、ダブルビームガトリングで飛び交う5機を連続で撃ち墜としながら他の10機のリゼル・トーラスへ再びアームバスターカノン、ダブルビームガトリング、バスターガトリングキャノン、ブレストガトリングの全砲門発射態勢を取る。

 

「……圧倒的に高い火力の前では結果的に無意味となる……」

  

 放つ高速連射撃と高出力ビームの砲撃が、一挙に6機のリゼル・トーラス悉く爆砕させた。

 

 ガンダムヘビーアームズ改はそれらの爆発を突き抜け、散会した4機をダブルビームガトリングとアームバスターカノン、バスタービームガトリングキャノンで各々に仕留めながら再度全砲門砲撃を開始。

 

 次に迫るプライズリーオー、リーオー部隊はその火力の猛威に次々に砕き吹き飛ばされ、宇宙に爆光の連なりを拡げていった。

 

 だが、業を煮やすようにビームサーベルを手にしたプライズリーオーの1機がガンダムヘビーアームズ改の背後から襲い掛かる。

 

 その時、突如として連射撃で撃ち砕かれるようにそのプライズリーオーは破砕された。

 

 トロワが振り返ると、モニターにこちらへ向かうサーペントの機体を捉える。

 

「……ラルフか」

 

「背後は要注意だ、トロワ」

 

 そう言いながらラルフはサーペントをガンダムヘビーアームズ改の背部に就かせ、両手持ちにした実弾式の重火器・ダブルガトリングをスタンバイする。

 

「背面は任せろ。はっ……なんか昔の傭兵時代を思い出すな」

 

「あぁ。そうだな」

 

「……変わってるようで変わらんな。ま、今はここからの離脱だ!!!」

 

「無論だ」

 

 

 

 ガドゥルルルルルルルルルルルルルルルヴゥゥゥゥ!!!

 

 

 

 2機背中合わせでの攻勢が始まり、サーペントが放つ二基のダブルガトリングが、ガンダムヘビーアームズ改の後方から攻め立てるリーオーやプライズリーオー部隊を次々に撃墜していく。

 

そしてその反対側はガンダムヘビーアームズ改の隙が一切無い、ビーム渦流とビーム・実弾の連射破砕劇が展開する。

 

 かつての傭兵時代のバディーだった二人が今の岐路たる反撃に出た瞬間でもあった。

 

 サーペントのダブルガトリングの照準を次々に当てられた機体群が、バラバラに装甲をハチの巣に粉砕され爆発していく。

 

 中には爆発せずに、バキバキとスパークを起こしながらボロキレのように漂う機体もあった。

 

 四角型メインカメラを光らせたサーペントは、重力下でいう上方から迫る機体や下方から迫る機体にも弾幕射撃を浴びせ、砕き散らせ続けていく。

 

 今更ながらではあるが、ラルフはGマイスターの補欠要員でもあるが故に、トロワとも負けず劣らずのMS技術を持ち合わせているのだ。

ガンダムヘビーアームズ改とサーペントの2機の射撃は、バルジの戦力削減を秒単位で更なる促進をさせていった。

 

 その一方でガンダムサンドロック改もまた、僚機であるマグアナック・ラシード機と共にバルジに展開するMS、MDの攻め入る。

 

「ラシード、援護頼みます!!」

 

「お任せください!!」

 

「さぁ……いくよ、サンドロック!!!」

 

 

 

 ディシュウウウウウウッ!! ディシュッ、ディシュッ、ディシュッ、ディシュッ、ディシュウウウッッ!!

 

 

 

 マグアナック・ラシード機のビームライフルの支援射撃が、幾つかのリーオーやプライズリーオーを墜としていく中、カトルはこれまでの日々を思い返しながら想いを籠め、一新されたGNDブースターで加速をかけた。

 

 両眼のメインカメラを光らせたガンダムサンドロック改は、ライトアームに実装された破砕機・クロスクラッシャーをかざしながらマニピュレーターに握るビームマシンガンを撃ち放つ。

 

 

 

 ドドドゥヴィディディディディイイイイイッッ!!! ドゥディディッ、ドゥディディッ、ドゥディディディディディディディイイイイイイッッッ!!!

 

 

 

 マグアナック・ラシード機のビーム射撃と共に、リーオー、プライズリーオー部隊をけん制と兼ねながら次々に撃墜させていく。

 

 ガンダムサンドロック改は振りかざしたクロスクラッシャーのヒートショーテル部にGNDエネルギーを発動させ、両刃の刀身を赤熱化させる。

 

「はぁあああああああああっっ!!!」

 

 

 

 ディッッギィガァアアアアアアアンッッッ……ガズドォオオオオオオオオオッッッ!!!!

 

 

 

 すれ違いながらの薙ぎ斬撃から直進したガンダムサンドロック改は、ヒートショーテルの両刃の切っ先に付加させた惰性とパワーの刺突で2機のプライズリーオーを砕させる。

 

 その流れのままビームマシンガンで再び射撃を仕掛け、リーオーやプライズリーオーを連続撃破しながら一層の加速をかけた。

 

 そこから殴るようにクロスクラッシャーをプライズリーオーへ食らわし、並列上のもう1機を力強い薙ぎ斬撃で斬り飛ばして見せ、機体の出力パワーが秀でたガンダムサンドロック改の真骨頂たる攻勢を見せつける。

 

 その時、ガンダムサンドロック改の左肩装甲部にリゼル・トーラスのメガビームランチャーが直撃した。

 

 だが、その爆発からはほとんど無傷のガンダムサンドロック改が飛び出し、急加速をかけてリゼル・トーラスの部隊へ突っ込む。

 

「MD……無人機が戦争を始めたら……より一方的で愚かな殺戮ゲームになり果ててしまう!!!」

 

 きっと眉間にしわを寄せたカトルは危惧と怒りを覚えながらモニター画面先のリゼル・トーラス部隊にビームマシンガンを射撃する。

 

 3機程が撃墜するも鮮やかにビームマシンガンの射撃を躱した他の幾多のリゼル・トーラス達がガンダムサンドロック改へと迫った。

 

 どの機体もビームキャノンを放ちながらビームサーベルの攻撃に切り替える。

 

 1機が迫りながらガンダムサンドロック改へ斬りつけにかかる刹那、メインカメラを光らせたガンダムサンドロック改はレフトアームに手にした大型ヒートショーテル、バスターショーテルを振りかざした。

 

 

 

 ギュゴッッ――――ディッガギャアアアアアアアアアアンッッッ!!!

 

 

 

 GNDエネルギーを帯びた刀身を振るったカウンターの強烈な斬撃が叩き込まれ、そのリゼル・トーラスは無残に斬り砕かれ爆発していった。

 

 再度メインカメラを光らせたガンダムサンドロック改は、四方八方から襲い来るリゼル・トーラス達の攻撃を逆手に取りながらクロスクラッシャーとバスターショーテルを駆使して、真の防御に転じる。

 

 すなわち攻めだ。

 

 クロスクラッシャーの刺突で豪快に突き砕き、轟々たる斬り払いと斬り上げを駆使して砕き斬りながら更にバスターショーテルの斬撃で叩き斬っていく。

 

 リゼル・トーラス達は攻めれば攻めるほど機体が破砕され続け、時折放たれるビームマシンガンにも撃墜されていく。

 

 負の攻めの流れをカトルは自ずとリゼル・トーラス達に造り出していた。

 

 

 

 ディッガギャアアアアアアアアッッ!!! ダッギギャアアアアアアアアアンッッ、ガギィダァアアアアアアアアアアアンッッッ!!!

 

 

 

 クロスクラッシャーのヒートショーテルでの殴り突き砕きと薙ぎ斬り払い、バスターショーテルの叩き斬りの連続斬撃とカウンターの乱舞でリゼル・トーラスを撃破する最中、攻め込んできた1機をガンダムサンドロック改はクロスクラッシャーのヒートショーテルで挟み掴んだ。

 

 斜め縦に斬り込まれていくリゼル・トーラスの胸部の零距離にはビームマシンガンの銃口があった。

 

 ガンダムサンドロック改は、ヒートショーテルの両刃斬り込みでギリギリと破断を進行させながらビームマシンガンの零距離射撃を叩き込み、リゼル・トーラスを激しく破砕させてみせた。

 

 

 

 ギッギギギギィ……ヴィディドルルルルルルヴゥゥウウウウウゥゥッッッ……ドォドドドドドドドディディディディガガガアアアアアアアンッッ!!!!

 

 

 

 一方、ガンダムデスサイズ・ヘルが格納されているゲートへ突っ込んだデュオもまた、ガンダムデスサイズ・ヘルの起動に成功させていた。

 

 バルジ内部のゲート通路上に蘇った死神の姿がそこにあった。

 

 メガバイパージャマ―と同一となったGNDブースターに、死神のマントを彷彿させる防護シールド・アクティブクロークに身を包んだガンダムデスサイズ・ヘルが炎に照られながらバルジのゲート通路を歩く。

 

 その様は正に死神と呼ぶにふさわしい姿だ。

 

 コックピット内のデュオも意気揚々と愛機に語り掛ける。

 

「さぁて……ようやく自由の身で娑婆に出られるなぁ、相棒!!ここからは盛大に死神の復活祭といこーじゃねーかっっ!!!」

 

 その時、ゲート右側面からの敵機反応のアラームがコックピット内に鳴り響いた。

 

「お?!へへ……さっそくおでましか……!!!」

 

 デュオは迫る敵機反応に危機感を覚えるどころか、それを見越した上の愉しさを覚えながら、ニヤリと右サイドモニターを見る。

 

 バルジ内の格納ドックから新たに起動したシルヴァ・ビルゴ達が次々と動き出していた。

 

 その機体群達は不気味にジェガンタイプのカメラを光らせ、ビームランチャーやビームライフルを構える。

 

「これはこれは……新型がゾロゾロと……しかも散々乗せられた機体の奴だぜ……」

 

 ギンと両眼を光らせたガンダムデスサイズ・ヘルは、ライトアームに装備された鋭利な小型シールドの先端と一体になったアームド・ツインビームサイズをかざす。

 

 ビームサイズに比べてリーチが短くなったが、より一層の接近戦に特化した二連刃ビームとビームコーティングを施したシールドの攻防一体の機能を実現させていた。

 

 デュオは余裕の表情を見せながら愛機を敵機へと歩ませる。

 

 そして案の定、シルヴァ・ビルゴ達はガンダムデスサイズ・ヘルへ向け、ビームの集中砲火を浴びせ始めた。

 

 すべての高出力ビーム弾雨が注がれ、一点に集中し過ぎたエネルギーが大爆発を巻き起こす。

 

 あまりにもあっけない結果を認識したシルヴァ・ビルゴ達の各MDCPUは直ぐに構えていたビームランチャーの砲身を下ろさせていった。

 

 だが、その爆発の炎の向こう側よりマントを羽織った死神のシルエットが迫る。

 

 あれほどの高出力ビームの集中砲火にもかかわらず、ガンダムデスサイズ・ヘルは全くの無傷だったのだ。

 

 次の瞬間には、羽織ったマントが悪魔……否、死神の翼ともいうべきシルエットに変わり、アクティブクロークが展開された。

 

 同時にレフトアームのバスターシールドがかざされ、展開された先端より数発のビームの刃が放たれる。

 

 

 

 ディシュゥウウウッッ!!! ディシュッ、ディシュッ、ディシュゥゥウウウゥゥゥッッ!!!

 

 ドォズシャァアアアッッ……ディッキシュッ、ディッキシュッ、ディキシュウウウウゥゥ……ドォゴゴゴバァアアアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

 シルヴァ・ビルゴ達の胸部にビームの刃が連続で突き刺ささり、刺突面より機体を激しく爆砕させる。

 

 バスターシールドのブースター機能を廃止し、発動するビームの刃そのものを撃ち出す趣向に一新された武装、バスターシールド・アローだ。

 

「ほんの挨拶さ……残念だったなぁ。勝ち目はないぜ……そんじゃ、盛大にいくかぁッッ!!!」

 

 小型のシールドとツイン化されたビームサイズユニットをライトアームに直接装備させた、アームド・ツインビームサイズが二連刃のビームを発動させたその瞬間、遂に新たな死神の旋風が吹き荒れた。

 

 シルヴァ・ビルゴの群れへと深く突っ込ませたガンダムデスサイズ・ヘルの死神の洗礼の一線の斬撃が奔る。 

 

 

 

ヒュゴッッッ―――ザァギャシャッ、ギャシュバァッッ、ディギャジャッッ、ザァガキャアアアアンッッ―――ドォズシュゥゥウウウウッッッ!!!!

 

 

 

 ドゥッッゴォバガァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

 アームド・ツインビームサイズによる一振り一線の斬撃が一気に4機のシルヴァ・ビルゴを斬り裂いた流れから、バスターシールド・アローの刺突を至近距離のシルヴァ・ビルゴに与えた。

 

 一斉に爆砕したシルヴァ・ビルゴ達を尻目に、次のターゲットへと斬り掛かりながら袈裟斬り軌道の斬撃を食らわせ、その右側面側にいたシルヴァ・ビルゴ数機に大きく斬り払いを見舞う。

 

 更に左側面側にバスターシールド・アローをかざし、順次に一発照射の一撃を撃ち放ってみせた。

 

 二連ビームの刃と鋭利なビームの刃がシルヴァ・ビルゴの重厚な装甲を容易く斬り裂き、貫き、破砕へと導く。

 

「撃ちながらってのも便利かつ新鮮なんだが……やっぱ、俺達は……!!!」

 

 デュオはリニューアルしたバスターシールド・アローの射撃機能に新鮮味を感じつつも、物足りなさ気な感覚を覚えていた。

 

 やはりデュオやガンダムデスサイズ・ヘルにとっての攻撃スタイルは「斬る」に尽きるのだ。

 

「斬って、斬って、斬りまくらなきゃなぁあッッッ!!!!」

 

 ギンッと光った両眼はまさに死神の無双乱舞の意志表示だった。

 

 パワーアップしたGNDブースターで突撃をかけながら大容量のハイパージャマーを散布し、アームド・ツインビームサイズをかざす。

 

 この瞬間、シルヴァ・ビルゴの敵機認識にハイパージャマーの影響によるエラーが生じた。

 

 MSで例えるなら、コックピットモニター上の敵の映像が消えるという状況だ。

 

 ハイパージャマーに晒され、攻撃を止めてしまったシルヴァ・ビルゴ達はもはやただの立ち尽くすマリオネットに過ぎなかった。

 

 そして呻り振るわれたアームド・ツインビームサイズの斬り払いが、力強くかつ高速でシルヴァ・ビルゴを斬り飛ばす。

 

 そこからアームド・ツインビームサイズ振り上げながら逆刃に相当する部位で隣接位置にいた機体を斬り捌いてみせた。

 

増した斬撃力を見せつけるようにガンダムデスサイズ・ヘルは高速の斬撃乱舞で駆け抜ける。

 

猛威を奮わせるアームド・ツインビームサイズの豪快な連続の斬撃に悉く撃破されていく多数のシルヴァ・ビルゴ。

 

デュオはその狙いやすい胸部に斬撃を集中させていた。

 

低純度といえど、ガンダニュウム合金を一瞬で焼灼切断させてしまうアームド・ツインビームサイズは、復活した死神に相応しい威力を証明していた。

 

更にバスターシールド・アローの射撃や刺突も改めて交え、その攻勢に拍車をかけていく。

 

 

ザジュガァアアッ、ディシュガァッ、ズバッシャアアアッ、ドゥシュッ、ジャギャアアアッ、ズドシュッ、ディシュッ、ディギャガァアアアアッッ……

 

 

 

「1機でも多くっ……こんなっ……物騒なっ……マリオネットはっ……潰さなきゃっ……なんねーっ!!!」

 

 

 

ゴッッ―――ディッキャインッ、ディシュガァッ、ズバシュガッッ、ザシャギャアアアッ!!!!

 

 

 

連続する斬り払い、叩き斬りの斬撃から繋げられたアームド・ツインビームサイズの広範囲に渡る大きな斬り払いが、4機のシルヴァ・ビルゴを連続で破断、爆破させる。

 

そしてその二連刃の死神鎌は、5機目のシルヴァ・ビルゴの胸部中心へと到達し、焼灼音と共にビーム刃を深く刺し込ませた。

 

周囲の炎上を背景に目を光らせるガンダムデスサイズ・ヘルのその様は蘇った死神そのものだ。

 

更にその姿勢からバスターシールド・アローでその射撃軌道上のシルヴァ・ビルゴの頭部を撃ち仕留めてみせ、その仕留めたシルヴァ・ビルゴは仰向けに倒れ頭部を爆発された。

 

「だろ??……相棒……!!!」

 

デュオのその問いかけの直後、串刺しにされたシルヴァ・ビルゴが破裂するように激しい爆発を巻き起こした。

 

無論、通常のMSで直面すれば軽く破壊されてしまう程の爆発だ。

 

だが、その荒れ狂う爆発をかき分け、ガンダムデスサイズ・ヘルが再びその姿を見せる。

 

屈辱と地獄の淵より復活した死神はマリオネットを屠り、威風堂々と無傷の姿で炎に照らされていた。

 

一方、別の区画では、翼を持つ双頭龍と生まれ変わったシェンロン……もとい、アルトロンガンダムが悪しきマリオネットを屠っていた。

 

両腕仕様となったツイン・ドラゴンハングを左右に伸ばし、双方のシルヴァ・ビルゴの胸部へその龍の牙を叩き込ませる。

 

 

 

ギュゴァァッ―――ディッガォオオッ、ディッギャガァアアアアッッッ!!!!

 

 

 

「悪の人形め……俺達から吸い取ったデータなど、ここで潰してくれるっっ!!!」

 

 

 

ヴィヴィキュアアアアアアアアッッ!!!!

 

ゴッッバァバァガゴォオオオオオオオオオッッ!!!!

 

 

 

双方のシルヴァ・ビルゴに突き刺さったままのツイン・ドラゴンハングの火炎放射機より青白い超高熱の炎が放出され、ダイレクトに内部機関・機器を焼却させながらシルヴァ・ビルゴを破砕爆破した。

 

「覇ぁあああああっっ!!!!」

 

五飛の気迫に呼応するようにギンと目を光らせたアルトロンガンダムは、近距離にいるシルヴァ・ビルゴへと殴り掛かるように襲いかかり、ドラゴンハングの牙の乱舞を見舞う。

 

 

 

ダッギャガァアアアアンッ!!!! ドガァオオオオオンッッ!!!! ガゴォァアアアンッ、ドッッギャガァ、ズガドォオオオオッッ!!!!

 

 

 

高強度かつ高純度のガンダニュウム合金……ネオGND合金の牙がシルヴァ・ビルゴの胸部を立て続けに穿ち、時折、ツイン・ドラゴンハングが潰した内部機器を引きずり出してえげつないダメージを与えていく。

 

更にボディとビームランチャーを装備したレフトアームを掴み咥えながら引きちぎり、引きちぎられたその側面にドラゴンハングの牙を叩き込ませる。

 

再び両端のシルヴァ・ビルゴを同時に破砕させると、背部に新たに実装された龍の尾を模した二連ビームキャノン、ドラゴンテールキャノンを展開させ、面前のシルヴァ・ビルゴに向けてビームを直撃させた。

 

 

 

ドゥヴィアアアアアアアアッ!!!

 

ズドガァオオオオオォッッ!!!

 

 

アルトロンガンダムの正面で破砕爆破するシルヴァ・ビルゴが砕け散る。

 

 

ドゥヴィアアッ、ドゥヴィアアッ、ドゥヴィアアッ、ドゥヴィアッ、ドゥヴィァッ、ドゥヴィアアアアァァァ……!!!!

 

 

 

ドラゴンテールキャノンはクイックかつフレキシブルな動きで次々とシルヴァ・ビルゴをオートロックし、放つ二軸射線の高出力ビームが直撃していく。

 

攻撃システムをONにすれば、射撃は全てCPUの内部AIにより処理されている為、五飛は格闘に集中できるのだ。

 

 更にはチャージショットも可能であり、その圧縮したGNDエネルギーのビーム過流を撃ち放って、ドミノ倒し方式にシルヴァ・ビルゴ達を一掃する。

 

 

 

 ギュリリリリリリ……ヴァアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

 ドォッゴォコォォアアアオオオオォォ……ドォッゴゴゴゴゴバガオオオオオオオオン!!!

 

 

 

そして、アルトロンガンダムは、ライトアーム側のツイン・ドラゴンハングを折り畳ませ、新たな接近装備、ツイン・ビームトライデントを手にしてロッドユニットを展開させた。

 

展開したロッドの両端に形成される高出力の三又ビーム刃が形成されると、アルトロンガンダムは巧みなマニピュレーター捌きでこれを振り回して構えてみせる。

 

「さぁ……真骨頂の力だ!!!!いくぞ、那托!!!!」

 

メインモニター画面に広がるマリオネット達に対し、これまでの屈辱を糧にした五飛が叫ぶ。

 

ゴッッと飛びかかるアルトロンガンダムが、一気にツイン・ビームトライデントを凪ぎ払う。

 

その高速の斬撃が、いくつもの焼灼破断の斬撃音が重なって5機のシルヴァ・ビルゴを一斉に凪ぎ斬った。

 

 

 

ザヒュガァァッッ―――!!!!

 

ザシッッディディャギャガガガガアアアアアアアッ―――ドッッゴゴゴゴバァアアアアアアアアッ!!!!

 

 

一斉に爆破炎上するシルヴァ・ビルゴの爆煙を突き抜け、アルトロンガンダムはツイン・ビームトライデントの突きで矛先のシルヴァ・ビルゴの胸部を突き潰す。

 

 

ズゥドガォオオオオオオオッッ!!!!

 

ゴッッバォオオオオオオッッ!!!!

 

 

その一撃を皮切りに、荒ぶる双頭龍の連続無双が始まる。

 

 

 

ディッギャ、ディシュガッ、ザギィシャッ、ザァガギャッ、ザシギャアアアアアアア……!!!!

 

 

袈裟斬り、凪ぎ、突きを組み合わせた乱舞を見舞うアルトロンガンダムのその様は、正に古の武将さながらだった。

 

1機のシルヴァ・ビルゴへと突き穿ち、ボディを抉りながら反したビーム刃で二段構えの凪ぎを4機に見舞う。

 

そこから袈裟斬りを決めて1機を破壊した直後に、片手で振り回しながらの連斬ダメージをもう1機に与え、ツイン・ビームトライデントのもう一方の刃を叩きつけるような轟速の斬撃で斬り砕く。

 

激しい斬撃で潰されたシルヴァ・ビルゴは斬り口から爆発を起こして破砕した。

 

「俺達は宇宙の悪を叩き潰す……そうだろ?!!那托っ!!!」

 

 バルジのCICにおいても削れるはずのない戦力が削れていく状況が把握され、緊迫と重みのある空気を流れさせていく。

 

「外部からの強襲に、鹵獲していないメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを2機と他の敵機6機を確認!!!MS隊、MD隊が次々に撃墜されていきます!!!」

 

「ゲート02ゲートにも何かが突入し、バルジ内部に更なる爆発及び火災被害が拡大!!!シルヴァ・ビルゴの格納庫にまで損害が!!!」

 

「別のシルヴァ・ビルゴ格納庫区画においても破壊が拡大中!!!これは……おそらく新型のガンダムの可能性が……!!!」

 

「ウ、ウィング・ゼロもバルジに……!!!バルジの上面に停滞中……距離はほぼ零に等しい距離です!!!鹵獲・撃破は……やはり失敗のようです!!!」

 

「何だと?!!」

 

「ですがっ、ウィング・ゼロの行動は、明らかに他のガンダムと同じ行動をしています!!!あの被験体であれば無差別に襲い掛かっていても不思議ではないはずです!!!」

 

「つまりは……討伐に行かせたガンダムのパイロットがウィング・ゼロを奪取したということか……!!!」

 

 ウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイの暴走から端を発した一連の事はバルジに危機的状況を晒すに至った。

 

 ディセットは辛酸を絶えず飲まされる想いで歯ぎしりをしながら拳を叩き、ここにはいないトレーズに疑問を投げかけた。

 

「結局……否、所詮、ガンダムのパイロット達は我々の敵っ……!!!トレーズ閣下……エレガントとは……エレガントとはっっ……一体何なのですかっっ……?!!」

 

トレーズは財団関係者達に連行されながら、ロームフェラ財団本部の広大なる廊下を歩く。

 

その最中にディセットに応えるかのように心中で呟いていた。

 

(時代の流れ……激動が織り成す情勢……そこに必要な役者を立たせ、あるいは下ろして流れ止まない歴史に立ち会う。戦友(とも)であれ敵であれ、役者は常に必要なのだ……そして今、私は敗者を選択し、こうして幽閉された。それ故にOZも二つに分断されるだろう……財団と私を支持してくれる者達とに……ディセット。その時は君が指導者として導いてくれ……)

 

トレーズは瞑想していた瞼を開くと、流れる景色に目を向け、その情景を流転・激動する昨今の情勢、時間、歴史、等に当てはめた。

 

(宇宙世紀を揺るがすこの激動の時代をガンダムのパイロット達は……何を感じ、如何に闘っているだろうか……)

 

皮肉にもトレーズが想う従者と戦士は相対する運命……否、刻の流れにあった。

 

 ディセットは今一度状況をモニターで確認し、現時点の最善策を模索する。

 

「この状況……まずは援軍の要請を出す!!!バルジ周囲の基地及び部隊に大至急の援軍を要請!!!」

 

「ディセット特佐……その援軍の要請なのですが、付近のOZ勢力域の基地部隊に要請しても連絡が付きません!!旧連邦軍から接収したコンペイ島も破壊されたとの情報も入っております。おそらくは既にウィング・ゼロによって……!!!他のエリアからは援軍は最低でも到達に数時間は時間がかかります!!!」

 

「な……!!?援軍はこの距離では直ぐには望めんか……むしろいたずらに戦力を削るに等しい……なんてガンダムを野放しにしてしまったんだ!!!そして今、そのガンダムがここに……どの道同じならば……!!!先行するMDの部隊を奴らのネェル・アーガマに向けろ!!!あれで一斉離脱することなど目に見えている!!!我々も苦痛を叩きつけるのだ!!!展開中のMS隊と出撃可能な新型MDでガンダムへの火力を集中せよ!!!MDへ直ちにプログラム指示を!!!」

 

「は!!!」

 

 ディセットも手を打つ中、ウィングガンダム・ゼロが既にバルジに降臨していた。

 

 それも本来のゼロシステムの適格者であるヒイロの手によって。

 

 ジャキンと構えたツインバスターライフルの銃口先には、新たに起動を開始した別動部隊のシルヴァ・ビルゴ達が展開していた。

 

 ウィングガンダム・ゼロの反応を捉えたと思われる機体達が一斉にバルジの上方を目掛けて向かい始める。

 

 精密なロック・オンマーカーが幾多のシルヴァ・ビルゴを次々にロック・オンして捕捉していく。

 

「ターゲットロック・オン……敵機、新型MD……破壊する……!!!」

 

 

 

 ヴィギュリリリリリリィィィ……ヴァォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

 ウィングガンダム・ゼロがギンと両眼を光らせた直後にヒイロはトリガーコントロールをした。

 

 チャージされたツインバスターライフルの銃口より、イエローやオレンジの光が入り混じった凄まじいビーム過流が撃ち出され、一直線にバルジ下方を目掛けて走る。

 

 そのビーム過流が一気に降り注ぐようにしてシルヴァ・ビルゴの群れを砕き潰す。

 

 

 

 ヴァズゥシャアアアアアアアアアアアッッッ……ドォズゥドォドォドォゴゴゴゴゴバァガガグワガァァアアアアアアアアンッ!!!!

 

 

 

 直撃で破砕爆発される機体もいればビーム過流を躱す機体もいたが、躱せた機体もビーム過流に帯びたプラズマ弄流により次々と爆砕されていった。

 

 シルヴァ・ビルゴは確かに脅威であることに変わりはないが、ウィングガンダム・ゼロクラスのガンダムや、ヒイロレベルのGマイスターからしてみれば些末な機体に過ぎなかった。

 

 進撃するカトルやトロワ達もバルジに奔ったそのビーム過流に気づいていた。

 

「あのウィングゼロ、もしかしてヒイロなの?!!」 

 

「……間違いない……あれは奴だ」

 

「……スペシャルエースの少年!!!」

 

 カトルの問いかけた疑問符にいつになく理屈抜きの感覚でトロワが答え、ラルフがニヤリと言ったその直後に通信を拾っていたヒイロが二人に割って答えた。

 

「こちらヒイロ・ユイ。時機にデュオも出てくるだろう。俺達はこのままバルジの戦力を殲滅させる」

 

「え?!!で、でも殲滅よりも退路を確保すべきじゃぁ……??!」

 

「近代改修した俺のヘビーアームズ改とサンドロック改、サーペント、これから戦闘に加わっていくデスサイズ・ヘル、アルトロン、そしてスーパーハイスペック機であるジェミナス・グリープとウィングゼロ……これらの戦力がそろえば事実上バルジの戦力殲滅が可能になる……!!!」

 

「トロワの言うとおりだカトル。ゼロも殲滅がベストの選択肢を示している……それにまだガランシェールの安全が確保できていない……戦闘を継続する……!!!」

 

 ヒイロが直ぐに通信を切り上げると、ウィングガンダム・ゼロが高速でガランシェールを狙うシルヴァ・ビルゴの機体群目掛けて急加速していく。

 

 重力下でいえばターゲットに対する直上急降下に等しいアングルだ。

 

 攻め入るヒイロの姿勢に同調し、トロワとカトルは互いにモニター越しに頷き合って更なる攻めに転じた。

 

「ガランシェールをやらせはしない……!!!」

 

 ロック・オンしたシルヴァ・ビルゴの機体群へ再びウィングガンダム・ゼロがツインバスターライフルのビーム過流を撃ち放つ。

 

 

 

 ヴズドォァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 ドォダァガァアアアアアァァァッッ……ドォゴババババババァゴオオオオオオッッ!!!!

 

 

 

 ガランシェールの後部を捉えていたシルヴァ・ビルゴ達が爆散していく中、ウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルを二分割にして二挺持ちに切り替えながら、撃ち漏らしたシルヴァ・ビルゴへ襲撃を仕掛ける。

 

 

 

 ディッシュダァアアアアアアッッッ!!! ディシュダァアアアッ、ディシュダァァアアアッ、ディシュダアッッ、ディシュダァァッッ、ディシュダァアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 ウィングガンダム・ゼロが低出力のツインバスターライフルを交互に放ちながらの射撃をシルヴァ・ビルゴへ見舞っていく。

 

 個々に撃破されていくシルヴァ・ビルゴは、装甲を瞬発的なビーム過流に吹き飛ばされる形で破砕されていく。

 

 無論、低出力でもその威力は並大抵の威力ではなく、ビームマグナムの威力に相当する程の威力を持っていた。

 

 

 

 ヴォドゥルルルルルルルルルルルゥゥゥゥッッッ!!!

 

 ドドディギガガガガガガガガガガギャララララアアアッッ!!!

 

 

 その最中にビームサーベルで襲い掛かるシルヴァ・ビルゴの1機をマシンキャノンで胸部面から砕き散らせ、面前に捉えたシルヴァ・ビルゴ達にレフトアーム側のツインバスターライフルの銃口を向ける。

 

 

 

 ヴァシュダァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!! 

 

 ドォゴババォオオオオオオオオオオオッッ……!!!!

 

 

 

 シルヴァ・ビルゴ達は見事にツインバスターライフルから放たれた中規模のビーム過流によって多重爆砕していった。

 

 その爆発の向こうでツインバスターライフルを構えたウィングガンダム・ゼロの両眼が光る。

 

 ウィングガンダム・ゼロが体現した無双たるその怒涛の様は、ヒイロの帰還と同時にメテオ・ブレイクス・ヘルの揺るぎない復活と反撃の意志を感じさせるものだった。

 

 一難去ったガランシェールのブリッジではフラストが安堵に近い溜息を混じらせ心中を吐露する。

 

「はぁああ~……た、助かったぁ……」

 

「馬鹿者!!これしきで油断するな!!!全然安全圏内ではないんだ!!!」

 

「へ、へい!!!すいやせん、キャプテン!!!」

 

「キャプテンの言うとおりだ、フラスト!!進路上にはまだ敵が飛び交ってるんだっっ!!!」

 

「う……ッ!!!新たな熱源探知!!!側面側からのMS部隊だ!!!」

 

「それみろ!!!」

 

 ウィングガンダム・ゼロがガランシェールに近づくシルヴァ・ビルゴ達を一掃した直後、ビームライフルやドーバーバスターのビーム射撃が走り始めた。

 

 その射撃を仕掛けるプライズリーオーやリーオー部隊に流れるようにターゲットを選定したヒイロは、ツインバスターライフルの二挺持ちを継続し、ターゲット群をロック・オンした。

 

「OZプライズとOZの混合部隊か……」

 

 

 

 ジャカキンッ……ヴィギュリリリリリリリィィィ……ヴァズァダァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

 ギュズォオバァアアアアアアアアアアアアアアッ……ドォゴバァッ、ドォドォドォドォズズズガクワッゴゴゴゴゴバァァアアアアアアアア……!!!!

 

 

 

 二軸線に放たれたビーム過流が走り、幾多のリーオー達が立て続けに爆散の華と化していく最中、ウィングガンダム・ゼロはウィングバインダーを展開させて更にその火中に飛び込んでいく。

 

 残存するプライズリーオーやリーオーにツインバスターライフルの低出力の瞬発的なビーム過流や中出力のビーム過流を浴びせながら吹き飛ばしていく最中、ヒイロが見据えていたのはもう一機種のMD、リゼル・トーラスの部隊だった。 

 

 先ほどのディセットの指示によりネェル・アーガマを標的に捉えていたその機体群は、既に先行部隊がネェル・アーガマに到達しようとしていた。

 

 ネェル・アーガマのCICにおいてオペレーターのエイーダがその警戒状況を叫ぶ。

 

「敵MS、いえ、MDが本艦に向けて一斉に急接近を開始しました!!!なんてスピード……!!!もう距離がありません!!!」

 

 急遽迫る一刻の猶予もない状況に、ケネスは眉間にしわを寄せて手をかざしながら指示を放った。

 

「対空、対MS、MD戦闘用意!!各砲座弾幕展開!!護衛のMSチームも弾幕を張って本艦を徹底的に守れ!!ただし、死に至る程身を呈してまでとは言わん。彼らを出迎えるにあたり、皆で生き残っていなければ意味がないからな。無論、矛盾めいた指示ではある。だが、ここに集う者達は様々な苦境を経て今この艦にいるのだ。私の意図と思ってもらいたい!!!」

 

 ネェル・アーガマには、ケネスやエイーダといったOZクーデターから逃れ、かつ今に至るまでの政府の在り方に疑問を持った元連邦軍人やヒイロ達のような反連邦・OZのテロリスト、それらを幇助する者達、現役や元の旧ジオン、ネオジオンの兵士達といった様々な勢力からの事情を抱えた者たちが集っていた。

 

 故にケネスは一人も欠けさせたくはない信念を持っているのだ。

 

 かつてのMSパイロットから転属した砲術長のアルバ・メルクルディと彼がスカウトした元戦争孤児の砲術士ドリット・ドライが弾幕展開に移行させる。

 

「メガ粒子砲、主砲、副砲、各砲座CIC指示目標撃ち方はじめ!!対空レーザーシステム、AAWオート!!ドリット、シュミレーション通りにやればいい。落ち着いていこうか」

 

「あぁ。けど気遣われる間でもないさ。やってやるよ!!対空レーザーAAWオート……メガ粒子、撃ち方はじめっ!!!」

 

 ネェル・アーガマに装備されたメガ粒子砲砲塔が展開し、上下の主砲、左右カタパルト先端側面部の副砲より、メガ粒子ビームが放たれ始め、対空弾幕のレーザー砲がオートで接近するリゼル・トーラスを狙う。

 

 だが、どのリゼル・トーラスもそれらをいとも簡単に躱し、高速で機体をMS形体へ変形させビームキャノンの高速射撃やメガビームランチャーの砲撃を開始する。

 

 ネェル・アーガマが被弾していく中で、時折撃墜される機体もいた。

 

 それに一役買っていたのがマグアナック隊だった。

 

 母国の防衛やカトルの護衛などの戦闘経験豊富な彼らが先頭に立ち、アブドゥル機やアウダ機はビームライフルやアフマド機はビームマシンガンとアームビームキャノンの射撃で応戦し、ネェル・アーガマの戦闘火器よりも高い命中精度を見せていた。

 

 マグアナック共通のビームライフル自体が高出力で、ガンダリウムの装甲にも十分なダメージを与え込むことが可能だ。

 

 無論、アフマド機のビームマシンガンはそれを連射式にしたものである故、より一層の弾幕防衛に効果を発揮しており、付け加えてアフマド機のレフトアームそのものが武装となったアームビームキャノンはメガビームランチャーと同等の威力を誇り、中る敵機を一撃で破砕させて見せていた。

 

 その彼らの後方では、カトリーヌのマグアナック、ジュリのM1アストレイもビームライフルで応戦する。

 

 特に彼女達は戦闘経験はシュミレーションのみであり、初の実戦だった。

 

 恐怖やドキドキ感、エキサイト感が複雑に入り混じった感覚に満たされるコックピットの中で互いを励ましあう。

 

「こんなにいっぱい……!!!ジュリちゃん、絶対死なないでね!!シュミレーション思い出しながらいこうよ!!!」

 

「カトリーヌちゃんもね!!あたしだって、オーブにいってアサギやマユラ達の安否確かめるまで死ねないから!!!」

 

 カトリーヌは今自分にできる弾幕を張ることに集中する中、最前線で獅子奮迅する兄・カトルのガンダムサンドロック改の姿を見る。

 

 カトリーヌはその勇猛さを伝わらせる姿に次元の凄まじさを感じてしまう。

 

「兄さんて……やっぱりすごい!!!恐さのねじが飛んでるのかな??でも、ボクだってその兄さんの妹なんだからこんな次元で怖気づいちゃいられない……みんなのために戦うんだって!!!」

 

 カトリーヌは自分にも流れているカトルと同じDNAを信じ、自らの選んだ選択肢を言い聞かせた。

 

 だが、彼女たち以上に緊迫するのはマグアナック隊のアウダとアブドゥル、アフマド達だった。

 

「いいか?!!絶対にお二人を死なせるなよ!!!カトル様の妹様、カトリーヌ様とそのご友人なんだ!!!」

 

「あたりまえだ!!!ていうか、それ以前にこんな状況に出させるなよな!!!なぜ止めなかった?!!」

 

「カトリーヌ様ご自身の意志だからだ!!!カトル様も妹様のお気持ちを汲んでの判断なん……だっ!!!」

 

 アウダは通信で返答しながら急接近した1機のリゼル・トーラスにアームクローの一撃を食らわせた。

 

 貫抜いた胸部からアームクローを引き抜いて掴み、その動かなくなったリゼル・トーラスを弾幕の中へ投げ込んだ。

 

障害物認識されたそれは瞬く間に同機種の攻撃とネェル・アーガマサイドの攻撃とに破砕されていった。

 

その最中、更にリゼル・トーラスの機体群がネェル・アーガマに接近し、これを把握したオペレーターのソフィが青ざめる。

 

「……!!!敵MD機体群、更に接近!!!弾幕が追い付ける状況じゃありません……あぅっ!!!」

 

彼女が状況をナビゲートする最中、更なる被弾の衝撃が襲う。

 

「くっ……これが慈悲無きMD!!容赦はしないか……!!!対空弾幕レベルを最大値に設定!!!」

 

「はいっ……―――!!!MD、本艦ブリッジ、CICに急接近!!!」

 

 エイーダが新たに叫んだ直後、リゼル・トーラスの1機がメガビームランチャーをネェル・アーガマのブリッジに突き付けた。

 

慈悲無きMD故にその瞬間、ブリッジ兼CICのクルー達は凍りついた。

 

 

 

ダガギャアアアアアッッ!!!

 

 

 

死へのスローモーションの直後、クルー達が気づいた時には既にリゼル・トーラスはいなかった。

 

リゼル・トーラスは駆けつけたウィングガンダム・ゼロのシールドに刺突されて吹っ飛んでいたのだ。

 

「ネェル・アーガマを防衛する。ターゲット敵機群、リゼル・トーラス……!!!」

 

ウィングガンダム・ゼロは中小出力のツインバスターライフルを交互に放ちながらある程度のリゼル・トーラスを破砕させていくと、ネェル・アーガマの真上に停滞し、展開する味方機に注意を促す。

 

「これより広範囲の攻撃を仕掛ける。展開中のMSは、極力ネェル・アーガマに機体を召集しろ!!!」

 

ウィングガンダム・ゼロは左右にツインバスターライフルをハの字に広げて構え、銃口にエネルギー充填させていく。

 

周囲にいるリゼル・トーラスを次々にロックしていき、多数のロックマーカーがレッドマーカーになっていった。

 

「ツインバスターライフル、広域ロック・オン。GNDエネルギー充填圧縮率125%の最大出力で発射する……ターゲット群、排除……開始!!!」

 

 

 

ヴィギィリリリリリリリリィ……ヴァオオァァアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアァァァッ!!!!

 

ゴォババババドォドドドドゴォアォオオオンッ、ドォドォゴババドォゴゴゴォドォドドドドォッッ!!!!

 

 

 

左右斜めに発射されたツインバスターライフルのビーム渦流はネェル・アーガマからリゼル・トーラスをシャットアウトするかのように放たれ、その機体群を砕き潰すように破砕爆破させ圧倒する。

 

そしてウィングガンダム・ゼロはネェル・アーガマの真上を軸に自転旋回を開始し、ネェル・アーガマ近辺のリゼル・トーラスを旋回と伴うビーム渦流で見る見る内に排除させていく。

 

カトリーヌとジュリは恐怖と危険視を覚えたMDが、いとも簡単に排除されていく光景と回転するビーム渦流の光に息を飲み続け、途方もない次元を感じていた。

 

ローリング・ツインバスターライフルのビーム渦流が回転を維持しながら徐々に発射角度が上げられていく。

 

そしてウィングガンダム・ゼロの広げた両腕と平行になった瞬間、持続発射されるビーム渦流に更なるビーム渦流エネルギーの発射が重なる。

 

「ツインバスターライフル、追加出力エネルギー装填」

 

 

 

ヴァアアアアアアアァァァァ……ドォヴァダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッッ!!!!

 

ドォドドドドゴバォッ、ドォドドドドゴォアッ、ゴバババババドォドドドドォッ、ズズズドォドドドドシャアアアアァァ……ゴゴゴゴゴゴゴゴババババゴドォドォドォドドォゴゴゴゴオオオオォォォ!!!!

 

 

 

機体の旋回速度を速めながらの広範囲に渡る二本のビーム渦流が次々にリゼル・トーラスを破砕させていく。

 

そしてようやくビーム渦流が終息を迎え、ウィングガンダム・ゼロが旋回を停止させると、周囲には爆発光と化したリゼル・トーラスの多重爆発の連鎖が拡大していった。

 

「リゼル・トーラス、排除完了。バルジ戦力の75%を削減させた……敵は壊滅させたに等しい。残るはバルジか……!!!」

 

ウィングガンダム・ゼロはウィングバインダーを展開させた加速をかけると、再びバルジの方向へと向かった。

 

 それと同時タイミングの頃合いでガンダムデスサイズ・ヘルとアルトロンガンダムもバルジから飛び出し、出くわすリーオーやプライズリーオーを次々にアームドツインビームサイズやツインビームトライデントで斬り潰しながらネェル・アーガマを目指す。

 

「そらそらっ……死神様のっ……お通りっ……だっ!!!おっ……五飛も出てきたみたいだな!!」

 

「邪魔だっっ!!!那托の進む道を阻む者は叩き潰す!!!荒ぶる双頭龍は解き放たれた!!!もう誰にも俺達を止められんっっ!!!」

 

 怒涛の勢いで駆け抜ける2機のその後に残るのはデブリと化した機体の残骸だ。

 

 時折ビームサーベルで斬りかかるプライズリーオーやリゼル・トーラスのビーム刀身もろとも斬り砕く瞬間もあり、以前よりも増して格が跳ね上がった事を証明させていた。

 

その一方、ガランシェールの前方ではガンダムジェミナス・グリープが高速かつ縦横無尽の軌道でビームランスの斬撃を乱舞させ、獅子奮迅に死守する。

 

 GNDソニックドライヴァーからのダイレクトエネルギーを供給するメガ・パーティカルブースターが驚異的機動力を実現させていた。

 

 無論、敵の射撃も中ることがない。

 

 

 

 ズバシュッ、ディガギィィィッッ、ギャシュンッッ、ザガギャアッ、ザシャアンッッ……ギュイッ、ズゥディギギギギギャアアアアアアアアッッ!!!! ザシュドォオオッ、ディギシュイィィィィッ!!!!

 

 

 

 リーオーやプライズリーオーを突きや叩き斬り、斬り払いで1機、1機を斬り仕留めたり、振りかぶった広範囲の斬り払いの一撃で4、5機を斬り飛ばしたりしながら、無双がかった斬撃の様を見せつけてガンダムジェミナス・グリープは一層の攻勢に駆け抜ける。

 

「ガランシェールはっ……プル達の帰る場所だッッ!!!こんな陳腐なエリアで墜とさせはしないぜっっ!!!」

 

 プルとマリーダ……彼女達の戻る場所を守るという信念と反撃の意志がアディンを奮わせていた。

 

 

 

 ズシュドォオオッ!!!! ギュゴッッッ―――ズギャギィィッ、ザシュバッ、ディガギャアアンッ……ズドォシュッッ……ディギャガアァアアアアッ!!!! 

 

 

 

 GNDソニック・ドライヴァーの特性機動力を活かし、高速でシルヴァ・ビルゴの背後に回り込んで刺突。

 

そこから一層の加速をかけての三連斬、突き上げ、斬り払い……ビームランスのビームの刃が、低純度のガンダニュウムの装甲を一瞬に焼灼させながら斬り裂かせていく。

 

 その攻撃と軌道はアディンが思い描くイメージ通りにガンダムジェミナス・グリープへ反映されていた。

 

 破格的に俊敏な機動性を前に、シルヴァ・ビルゴ達は射撃反応の遅れを強いられていき、その間にもビームランサーに突き貫かれては斬り裂かれ、叩き斬られては斬り払われていく。

 

 その最中、1機のシルヴァ・ビルゴに振るわれた強烈な薙ぎが炸裂し、一瞬にして機体胸部を破断させた。

 

 断面の隙間の向こうからガンダムジェミナス・グリープが顔をのぞかせ、その両眼が光った直後に断面部からの爆発が広がる。

 

そして背面のメガ・パーティカルブースターをライトアームに装備したメガ・パーティカルバスターを向け、高火力のビーム渦流を叩き込んだ。

 

 

 

ジャキッ、ヴゥヴァオアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

ゴォアアアアアォォッ……ドォドドドドゴォババァアガァアアアアアアアア!!!!

 

 

 

シルヴァ・ビルゴの機体群が突き進むビーム渦流によっさて、一斉に削り取られるように機体を吹き飛ばされていく。

 

ガンダムジェミナス・グリープはシルヴァ・ビルゴ達を壊滅させると、多方向にいるリゼル・トーラスやプライズリーオー、リーオーに向け、連発でメガ・パーティカルバスターを放ち、一発で2機、3機づつ破砕させていく。

 

 再起したメテオ・ブレイクス。ヘルのガンダム達は、MSの歴史と常識を完全に破壊したポテンシャルを証明させていた。

 

そして再び加速したガンダムジェミナス・グリープは、多角形軌道を描きながらビームランスの斬撃を繰り出し、凪ぎ払いや叩き袈裟斬り、機体を瞬間的に自転旋回させながらの回し斬りと言った斬撃を敵機群に見回せ、更なる爆発光を拡大していった。

 

その怒濤の攻勢の様は、今のアディンの想いと闘争心そのものを体現しているかのようであった。

 

ジンネマン達は自分達が長年を経て経験したMS戦闘の常識を逸脱する光景に息を飲み続ける他なく、同時にかつてない心強ささえも覚えていた。

 

「あいつがいてくれれば……必ずマリーダとプルを助けられる。あの釘づけにされてしまう戦いっぷりを見ると、妙な安心感がわく……そう感じさせられる。俺の娘たちを任せられるな」

 

「キャプテン、あのガンダム小僧を認めるんですね?」

 

「実力は当の昔に認めてる。あいつらだからな」

 

「え?彼と娘さん達のお付き合いじゃないんすか?」

 

「な?!!バカか、フラスト!!!それは別だ!!!」

 

秒単位で戦力が削減されていく一方、バルジCICに、追い討ちをかけるかの情報が飛び込む。

 

「なっ?!!トレーズ閣下が、拘束・幽閉された?!!何かの情報ミスではないのか?!!」

 

「わかりません!!まだ情報が錯綜しており、事実確認を急いでいます!!ですがっ、そのような情報が今、プライズを含めたOZ全体の情報網に流れています!!!」

 

「トレーズ閣下っ……っ!!!」

 

予期できない、認めることなどできない状況がディセットをはじめとする、トレーズを支持するOZ兵士達に衝撃を駆け巡らせていた。

 

しかし、その事実は紛れもなく真実であり、トレーズを乗せた財団関係の車両が財団本部敷地内の路上を走り出す。

 

非常事態に更なる非常事態……それもOZという組織規模のものだ。

 

過度の逼迫した状況に痺れを切らしたディセットはバルジに留まる責任位置に在ることを解りつつも、部下に投げ掛けた。

 

「すまない!!!この場を預かってはくれぬか?!!無論、解っている!!!私にはバルジに留まる、指揮する責任がある……しかしながらっ、事実確認を自らを持って確認せずにはならん……!!!」

 

「行って下さい!!ディセット特佐!!あなたはトレーズ閣下の側近であります……御身を持って、トレーズ閣下のご無事をご確認される使命がございます!!!」

 

「ディセット特佐、行って下さい!!!」

 

「後は我々に……!!!」

 

「お前達っ……本当にすまないっ!!!」

 

部下達の理解を得たディセットは、バルジの後部ゲートレーンに停泊していたシャトルに乗り込み、複雑な心中を抱きながらバルジを後にする。

 

ディセットがシャトル内で振り向いたバルジ前方には、絶える間がなく大中小の爆発の爆発やビームが飛び交っている。

 

戦域にウィングガンダム・ゼロがいる時点でバルジの運命も見えていた。

 

「バルジ……!!!」

 

 その最中、遂にウィングガンダム・ゼロが姿勢制御しながら構えるツインバスターライフルの銃口をバルジへと向けた。

 

 ターゲットとしてモニターセンタースクリーンにバルジをロックオンし、精密射撃モードのロック・オンマーカーへと切り替わる。

 

「デュオやカトル達もこっちへ離脱しつつあるな。ツインバスターライフル、スタンバイ。攻撃目標、OZ・OZプライズ宇宙要塞バルジ」

 

 通常のロック・オンマーカーではなく、両サイドからレールのように奔るロックオンマーカーに精密な数値表記や詳細な文字表記も随所に表示されている。

 

 そして完全にバルジを捉え、ロック・オンマーカー表示が赤色に変わる。

 

「ターゲット、ロック・オン……この一撃から俺達の反撃は始まる……マリーダも必ず取り戻す……っ?!!」

 

 強い意志を固め、コントロールグリップを握る力を強めたその時、ヒイロの感情に呼応するようにゼロシステムがマリーダに関するイメージ情報を脳裏に投影させた。

 

「……マリーダ……っっ……!!!」

 

 彼女がこれまでに置かれた状況、所在、関連する人物などの情報が目まぐるしくヒイロの思考に過っていく。

 

 死には至ってはいないものの、彼女へもたらされた非情な現実の情報が投影され、驚愕を覚えたヒイロの感情が直ぐに怒りに変わった。

 

 眉を顰めながら冷静な感情に怒りを灯させ、より一層の強い握力に感情を反映させた。

 

 

 

『まだ間に合う……怒りと憎しみに囚われないで』

 

 

 

「っ?!!声?!!」

 

 その最中、謎の女性の声が助言するように過り、その性質はマリーダのようだったがどこかが違う違和感を感じさせた。

 

 直後、ゼロシステムが見せる情報が終わり、再び捉えたバルジのモニター投影に戻る。

 

「マリーダ……いや、違う感じがしたが今の声は……?!!まだ間に合う……そう言っていたな。ゼロシステムの声なのか何の声かは知らんが了解した。待っていろ、マリーダ。必ず迎えに行くっ……攻撃目標バルジ、破壊する!!!」

 

 

 

 ヴヴィリリリリリ……ヴォドォルゥヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

 最大出力で放たれたツインバスターライフルのビーム過流が敵残存機を破砕させながら一気にバルジへと突き進む。

 

 ツインバスターライフルの荒れ狂うような図太いビーム過流は、見事にバルジ砲に直撃して、一気に内面を突き進みながらあらゆる区画を連続で破砕爆破させていく。

 

「がぁあああああああああ?!!」

 

 バルジCICにも高エネルギー破砕流が押し寄せ、下からマグマのごとく噴き上げるように兵士達を巻き込んだ。

 

 その破壊エネルギーはバルジの外壁面を満たしながら貫き、その外壁面も次々と爆発を噴出させていく。

 

 ヒイロは発射を持続させながら先ほどのローリングシュートの時のように、次発射エネルギーを装填させながら更なる高出力を重ねて撃った。

 

 オーバーキルというべき大ダメージを与えられたバルジは、爆発を巻き起こしながら強い光を放ち、遂に臨界エネルギー爆破を巻き起こして、強力な爆発エネルギーを拡散させながら宇宙の塵と化していった。  

 

 反撃の強力な一手を下したヒイロ、デュオ、トロワ、カトル、五飛、ラルフ……そして彼らをサポートした面々がそれぞれにバルジの爆発の光を見届ける。

 

 宇宙世紀に類を見ない不可能を可能にした軍への反抗が成された瞬間だった。

 

「バルジの破壊を確認。反抗プロジェクト・フェーズ1、任務完了……ゼロ。俺達の次の任務はマリーダ達の救出だ……!!!」

 

ヒイロの硬い意思に呼応するように、ゼロシステムが発動し、目映いモニター光でヒイロを包んだ。

 

 一方、マリーダとプルを捕らえたグラーフ・ドレンデは地球を目前にしていたが、再度地球を離れ宇宙を航行する。

 

 ラプラスプログラムが次に示したポイントが地球からまた遠ざかる位置を示していた為であり、マーサの思惑がまた変動を起こしていた。

 

「彼女をオーガスタ、もしくはムラサメ研究所で解体する計画がまた伸びたのだけど……どの道次はコア3跡とか言ってたわね。もうこの際、DOMEプロジェクトをすっ飛ばして直接彼女に生体ユニットになってもらいましょう……ベントナに計画変更とマニュアル情報のデータ要求を」

 

「御意、ミズ・マーサ!!」

 

 マーサは私兵に指示を命じた後、マリーダを幽閉している部屋のドアに手を当て、不気味な笑みを浮かべた。

 

 その部屋では、憔悴しきった虚ろなまなざしのマリーダが壁に手を当てながらその壁を見つめていた。

 

「……マスター……姉さん……ヒイロ……会いたい……会いたいっ……!!!」

 

 マリーダは連想される者たちを想い、悲痛に呟きながら壁に顔を伏せた。

 

プルとも艦を同じくしても直接会っていなかった。

 

そのプルはユニコーンガンダムのコックピットでひたすら膝を抱え続け、その表情には以前の明るさはなく、彼女の目には涙が流れ出ている。

 

 マリーダが監禁された半重力状態の部屋とユニコーンガンダムのコックピットには、彼女達が流したその涙たちが浮かんでいた。 

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 

 次回予告

 

 

 メテオ・ブレイクス・ヘルは遂にバルジを破壊した。

 

 それは組織が二分する状況を示唆し始めていたOZにも痛手を与える。

 

 ヒイロ達は合流したネェル・アーガマ、ガランシェールと行動を共にすることとなる中、ネェル・アーガマがかつて資源衛星MO-5を破壊した戦艦と同一艦であることにアディンは私怨の恨みに囚われてしまう。

 

 その一方、パラオからジンネマン達の捜索に赴いていたネオジオンの部隊とグラーフ・ドレンデが戦闘状況にあった。

 

 艦内ではマーサによる拷問がマリーダを苦しめ、パラオのネオジオン兵達は一方的な戦力差に目前にいるマリーダを助けれない状況に辛酸をのまされていた。

 

 その絶望的な状況の闇の中、ユニコーンガンダムの中で膝を抱えながらいたプルが感じたものは、その状況を覆す光だった。

 

 

 次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

 

 

 エピソード 37 「救出への総攻撃」

 

 

 

 

 

 



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エピソード37「救出への総攻撃」


 マリーダとプルに降りかかってきた苦痛・屈辱……書いてる自分自身「きー!!!」となったり、結構辛かったです。

 もしかしたら、読者の方で悲痛な目にあうマリーダやプルに耐えかねて「読むのやーめた!!!耐えられん!!!」と感じてしまった方もいたかもしれません……

 ですが……今回、ひんしゅく、ブーイング、マイナス評価、「自分で言ってんじゃねーよ、バカ作者!!!!」を恐れずに言うと……


 

 神回デスッ


OZ・OZプライズ宇宙要塞バルジ。

 

彼らの力の象徴の一つだったバルジはヒイロが乗るウィングガンダム・ゼロが放ったツインバスターライフルによって破砕・轟沈された。

 

 この非常事態は間もなくしてバルジを発ったディセットに報告が伝達されていた。

 

「……そうか……バルジは堕ちたか……!!!あのガンダムがいた以上、覚悟はしていたが……!!!」

 

 覚悟はしていたディセットであるが、やはり現実として叩きつけられた辛酸は極めて苦いものであった。

 

 ディセットが苦悶の表情を見せ頭を抱える中、報告を伝達した部下のOZ兵士が質問を投げかける。 

 

「何とか離脱できた残存部隊からの報告です。あの、ディセット特佐。我々はとてつもないパンドラの箱を回収してしまっていたのでしょうか?!!」

 

「パンドラの箱か……かもしれん。だが、ウィング・ゼロクラスのガンダムが敵の手中に実在した以上、どの道同じ事になっていた。だが、それと同時にトレーズ閣下が財団に幽閉された事が事実なら非常にそれも脅威なのだ」

 

「っ?!それはまたどういう意味で?!」

 

「OZがOZプライズに吸収されるということだ。既にこうしている間にも瞬く間に進行しているだろう。無論、私や君も含め、OZの兵士達は誰一人として納得はしていないのは言うまでもないだろう。皆、共通してトレーズ閣下を慕い、敬う精神を持っているからだ」

 

「はい!!その通りです、特佐!!我々はトレーズ閣下を敬愛しております!!!」

 

 事実、ディセットが言うように、誰一人として「OZ」にトレーズに疑心や不満を持つ者はいなかった。

 

 これは組織における人間関係の情勢上、驚異的な事であった。

 

 故に自ずとそれはOZをかつての旧連邦とティターンズのように組織を分裂させることも意味しているのだ。

 

「だが、『プライズ』は元より財団側から選ばれたエリートであり超法規的組織。手段を選んだりはしない。無論それはトレーズ閣下のエレガントに背く。それどころか、下に見ている者もいるだろう。いずれにせよOZとOZプライズはこの先二分し、内乱に発展する……それが脅威なのだ。ふっ、まるで旧連邦のブーメランのようだな。我々OZがオペレーション・プレアデスを被るとは……」

 

「ディセット特佐……!!!」

 

 ディセットはまだ半信半疑でいたが、OZの二分は事実上秒読み段階に入りつつあった。

 

 ディセットが地球を目指す最中にも軍事情報上のメディアは地球圏に広がりを見せ、トレーズが幽閉された事実とOZプライズの台頭は瞬く間にOZに衝撃を与えていた。

 

 既に早くもヨーロッパエリアの各基地において納得がいかないOZ兵士達によるクーデターが始まっていた。

 

 基地内でリーオーやエアリーズ、ジェスタがOZプライズ区画に攻撃を仕掛け、プライズリーオーやプライズジェスタの機種部隊がこれに対応し応戦する。

 

 またある基地では一斉にトレーズが幽閉されたルクセンブルクを目指し始める部隊もあり、その進行を阻止しようとするOZプライズ勢力との空中戦が展開され、その悪影響は近隣にある都市部にも及んでいた。

 

罪のない一般市民達が不条理に残骸や流れたビーム弾やミサイルの被害に遭っていく……。

 

この光景がやがて世界各地や宇宙に拡がっていくのも時間の問題なのは火を見るよりも明らかだった。

 

 宇宙世紀0100を目前に、時代は更なる混迷に突き進もうとしていた。

 

 

 

 L1コロニー群エリア

 

 

 破壊したバルジを後にしたヒイロ達は、合流したネェル・アーガマとガランシェールと共に地球を目指す航路で進行していた。

 

 ネェル・アーガマのMSデッキでは久々にカトルやトロワがデュオと会い、それぞれが再開を喜び合う。

 

「いやぁ~やっと娑婆に出られたぜぇ……カトルやトロワも久しぶりだなぁ!!」

 

「えぇ!!デュオも相変わらず元気そうで何よりです!!」

 

「バルジは快適だったか?」

 

「あー、あー!!とーっても快適でゴザンシタヨ!!おかげでこれからのここでの生活に違和感すら感じるぜー。もうあいつらの所は金輪際ゴメン被るよー。ま、その反面、相棒が蘇るにはちょーどイイ時間をもらったんだけどな……」

 

デュオはそう言って満足気な表情でガンダムデスサイズ・ヘルに振り返えると、はっと何かを思い出してすぐにカトルとトロワに顔を戻す。

 

「あー、そーそー!!五飛も相変わらずなもんで、故郷に帰るとか言ってバルジから離脱する時点でとっとと行っちまったぜ」

 

 デュオいわく、五飛はアルトロンガンダムと共にL5コロニー群を目指しており、既にここにはいなかった。

 

 アルトロンガンダムのコックピットには、航路を自動設定した状態で腕組みをして目を瞑っている五飛の姿があった。

 

「元々脱出が成功した後に俺は故郷に戻るつもりでいた。那托。お互いバルジの薄汚い所でなど、ろくな骨休めにもならんかったな……故郷で本当の骨休めをするぞ。宇宙の悪を叩くのはそれからだ……」

 

 あくまでアルトロンガンダムとのワンマンアーミー的な姿勢を貫くスタイルは以前同様であった。

 

 無論、カトル達も五飛のその感性を理解しているが故に理解を示す。

 

「そうですか……くすっ、確かに五飛らしいですね!かまいませんよ。彼は彼の姿勢で戦ってくれているんですから」

 

「確かに一人でも機動力よく動けるワンマンアーミーの別動隊がいればそれはそれで理に叶うこともある。特に俺達のような一騎当千を得意とするガンダムならばな」

 

「確かにそれもあるよね、トロワ……あれ?!そういえばラルフさんはどうしたの??」

 

共に入って来たはずのラルフがいない事に気づいたカトルは、互いに僚機担当であるトロワに尋ねた。

 

「あいつはあいつで、会いたい人がこの艦にいるらしい……スパイ活動の通信の要で世話になったらしいが……それ以外の事情もあるようだ」

 

トロワが目を瞑りながら言う一方で、ラルフは仕切りに世話になっていたネェル・アーガマの現オペレーターのエイーダと会っていた。

 

二人は実際に会うのは今回が初めてであった。

 

「君がエイーダ?バルジのスパイ活動で世話になっていたラルフ・カートだ。はじめまして」

 

「はい。私の方こそ実際に会うのは、はじめましてだわ。エイーダ・シーマリオンです」

 

「お互いデータメールや音声だけのやりとりだったけど、いざ会うと緊張してしまうなぁ……ははは!!」

 

「そ、そうですね。でもよくバレずにこの日まで……正直、送受信していた私は気が気じゃありませんでした」

 

「ま、それは……運が良かったって事。終わりよければ全て良し……かな?それに、途中からヒイロ達が同じバルジ内に来たとはいえ、実際は通信相手だったあなただけが心の励みだった。成功できたのはエイーダさんのおかげですよ」

 

「そんな……私は自分にできる事をしてきただけでそれ以上は……」

 

「謙遜する事はないさ……そのできる事が、バルジ破壊の一手に繋げられたのも事実なんだ。改めてありがとう、エイーダさん」

 

「あ、その……こちらこそ……あ、エイーダで大丈夫ですから、呼び方」

 

「なら、俺もラルフで……今の一件が済んだら何か奢りますよ」

 

「え?!なんか色々すいません……ではせっかくなんで、その時はお言葉に甘えさせて頂こう……かな?」

 

 エイーダが何気に髪をすく仕草をした瞬間、ラルフはエイーダに今亡き女性の面影がダブって見えた。

 

髪型やタイプは違えど、当時の彼女に相応させる何かを感じた瞬間だった。

 

(クリス……!!?っ……なんでダブった?!当時のクリス相応の存在っ……てことか?!!)

 

 

「……そうですか。お二人、もしかして良い仲に発展するかもしれませんね……あっ!!ヒイロとアディンの方は??」

 

 はっとヒイロやアディンがいウィングガンダムないことに質問するカトルに対し、デュオはドックインした・ゼロにサムズアップの形で親指を指して答える

 

「あー……ヒイロは今、ウィングゼロの中!!ダダこねてる約一名を説得中だ」

 

「約一名??説得中……って??」

 

「……アディンか」

 

 遠回りジョーク的なデュオの表現に顔を見合わせてくるカトルに、トロワが名指しで「約一名」を言い当てた。

 

「あぁ。気持ちはわからなくはねーが……その時と現在とでは状況が違うっていうか、なんつーか……」

 

「そうか!!ネェル・アーガマですね?!確かにネェル・アーガマは彼の故郷、MO-5を沈めた艦……複雑な気持ちになってしまうよね。僕も同じ境遇を味わいましたから痛い程わかります……」

 

 カトルはかつて以前のメテオ・ブレイクス・ヘル最終決戦となったウィナー家のラボコロニーの一件である、ウィナー家姉妹達の惨劇や父・ザイードの死の瞬間を思い出す。

 

 その気持ちと置き換えるとカトルも共感できてしまうことを覚える。

 

「……家族や仲間を目の前で失われる苦しみ……確かに思い返しても苦しい……お二人には家族を失う感覚は想像しにくいと思うけど……」

 

確かにカトルいわく、物心付いた頃に家族を失っていたデュオやトロワには想像しがたい感覚ではあった。

 

だが、それに代わる仲間が在るがゆえに、実際は感覚的に理解できていた。

 

「いや、俺達にだって家族に代わる仲間がいたからな……わかるぜ」

 

「あぁ。実際、一度仲間達を失った経緯を経て今に至るからな。いずれにせよアディンにとってこの艦はいわば敵(かたき)だ」

 

「ま……違いねーぜ。しかし、その敵とやらは移動拠点としては有難いが、またどう言う経緯でこうなったんだ?」

 

「僕達はラボコロニーの一件の後、姉さん達の遺言で組織崩壊後のバックアップを予め想定してくれていたオーブ首長国連邦管轄のコロニーに身を寄せていた。その間にOZの追撃から逃れたこの艦が来て、オーブのコロニーが匿ったんだ。それが切っ掛けで艦長のケネスさん達と色々話し合う機会ができて……互いの立場を理解できたんだ」

 

「いわば寄せ集めの旧連邦やネオジオン関係者達が逃げる手段としての艦。方舟のようなものだ。クルーの誰もが追撃から逃れる事に必死だったはずだ」

 

「なるほどな……あちらさんも事情抱えてるって訳だ……にしても、長いな説得」

 

ネェル・アーガマの事情を知ったデュオは頭をかきながら納得したが、一方のアディンの聞き分けが気になって再びウィングガンダム・ゼロを見る。

 

コックピットではまだヒイロがネェル・アーガマを受け入れられないアディンに通信を介して説得させようとしていた。

 

「……今は今だ。アディン。確かにMO-5を破壊した艦はネェル・アーガマだった。だが、今乗っているクルーはその時の者達じゃない」

 

「何度言われてもな……受け入れられないぜっ……!!!艦体を見た瞬間に憎悪が蘇った!!!間違いなくコイツが引っ提げてるハイパーメガ粒子砲が……父さんや母さん、ロガのおっちゃん、そしてトリシアさんに……ルシエを……他にもいた大勢の命を奪いやがったっ……!!!今すぐ沈めてやりたいぜ!!!」

 

「だから今いる罪のないクルー達を殺すのか?!」

 

「だから一人で行動してんだろ?!!その衝動をかまさない為によ!!!」

 

「闇雲に突き進んでも意味がない。最悪宇宙で遭難するだけだ」

 

「うるせー!!!年下のクセに説教すんな!!!」

 

「年齢など当に関係ない。俺達はGマイスターの同志だ。仮に年齢を言うならばこちらからも年齢相応の受け入れを要求するっ……!!!」

 

「ヒイロ、てめー!!!今舞い戻れば、ネェル・アーガマごと潰してやる事になるぜ!!!」

 

「ならばそれを俺がゼロで止める……!!!」

 

「いいのかよ?!!今の俺ならジェミナス・グリープで……!!!」

 

絶え間ない二人の押し問答が続いたが、ヒイロはこれ以上は無駄と判断し、ため息交じりに通信を一時的に切った。

 

アディンがあそこまで取り乱していては、間を置かなければ話しにならない。

 

だが、この時ヒイロは意図的にガンダムジェミナス・グリープとの通信回線を再び入れた状態にしており、ネェル・アーガマとガランシェール間の通信回線を入れながら、ミーティングを視聴し始めた。

 

ネェル・アーガマとガランシェールの両艦船間の通信では、双方のキャプテン同士が代表してここから先の行動プランのミーティングを続けていた。

 

「……では、ここから先はガランシェールは我々とは別行動をすると?」

 

「ええ。今の我々にとって娘達の救出が何よりも優先です。長引けば最悪黒いネェル・アーガマの連中に殺されかねません。それに、先ほど申したラプラスの箱なるものを探し続ける事も踏まえている為、どういう航路になるかもわからない……娘はそれを示すガンダムに選ばれ、その時今後の宇宙に必要なものと感じていると言ってたのです」

 

「ラプラスの箱。連邦時代に聞いたことがあります。連邦を転覆させる力を持つ何かと……私自身は都市伝説めいたものと捉えていましたが、話を聞いた以上地球圏の何処かにあるようですね。ビスト財団の党首自らが行動を仰いだとなると……ですが、肝心の所在は掴んでいるのであれば、進路によっては力添えできるはず……」

 

ジンネマンがケネスに回答する直前にコーヒーを一口すすった時、視聴を始めたヒイロからの意見が出た。

 

「確かに俺達の今の戦力で畳みかければ楽に攻略できる。進路と所在位置は問題ない。ゼロの演算予測では幾つかの細かい軌道修正をしながら航行すれば、例の黒いネェル・アーガマの航路とぶつかる。どの道地球を行く形にはなる」

 

 ヒイロはそう言うと、ゼロシステムが算出したデータを双方の艦に送信され、モニター画面半分に進路予測データが表示された。

 

 参考資料が追加され、改めてジンネマンは思考する。

 

「むぅ……だが本当にこの予測は確かなのか??たかが機械の予測で事を進めるなど……」

 

「ゼロシステムは通常のスーパーコンピューターとは根本的に違う。それに現状況、通常では奴らの位置などとても把握できない。今ある最もな正攻法だ」

 

 ジンネマンは慎重なこと運びを基本とするがあまり、ゼロシステムの演算を疑った。

 

 無論、誰もが得体のしれない機械の演算処理データに疑いを持つであろう。

 

 だが直後にヒイロの言葉に受けた不思議なまでの説得性と一刻を争う状況、本来の目的先である地球を目指す上での支障を考慮した上で、ジンネマンはケネスに改めて確認を伺った。

 

「ケネス艦長、地球を目指す上での支障は?合流するゲリラ達もいると聞きます。彼らも一刻も早い合流を望んでいるのでは?」

 

「確かにキャプテンの仰る通りです。ですが、こうして再起した我々と巡り合わせたのも縁です。ネェル・アーガマとガランシェールで共闘戦線の方向を取りますよ。状況の引っ掛かりを残して地球に行くのも私としてあまり好ましくないと考えますから……」

 

「……そうかっ、感謝する!!!お前ら、マリーダとプルの救出はネェル・アーガマとの共闘で決まりだ!!!これ以上の味方はない!!引き締めていけぇ!!!」

 

「おぉおおおっ!!!」

 

 方向性が決まる中、心強い状況になったことをジンネマンはクルー達に伝え、その決定事項がケネスによってネェル・アーガマ全区画へ伝達される。

 

「地球を目指すにあたり、本艦は途中までガランシェールと共闘戦線を組んだ。目的は黒いネェル・アーガマから二人のニュータイプの力を持った女性と少女の救出だ。目標とされる敵艦の算出航路と地球への航路が一致したこともあり決定した。これより救出作戦考案を進めていく。特にGマイスター達の活躍がキーだ。協力を乞う」

 

 この放送をMSデッキで聞いたカトルやデュオ達も快く賛同する意を表した。

 

「聞いたかい?早速僕達もミーティングにいこう!!」

 

「あぁ!!とりあえずアディンはヒイロに任せ……いや、でもマリーダとプルの救出なんだろ?!この場合ヒイロが主役だよな?!やっぱ連れてかねーと!!」

 

「お前がいうその主役がもう一人の主役を説得中だからな。俺達だけでもミーティングに参加し、後で内容を伝える形でも問題はない。いくぞ、デュオ」

 

 負と苦痛・屈辱のスパイラルに堕ちていた彼女達の運命の歯車が動き出した。

 

 それも彼女達の戻る場所、ガランシェールクルーやネェル・アーガマクルー達が一丸となって動き始めたのだ。

 

 ヒイロはこの事実を伝える事を踏まえ、ガンダムジェミナス・グリープとの通信を繋げた状態にしていた。

 

 必ずこの状況がアディンにも通達されている状況と確信し、ヒイロは再び説得を開始した。

 

「アディン。聞こえていたはずだ。今お前が沈めたい怨恨を飛ばしているネェル・アーガマと、さっきまでお前が守っていたガランシェールが結託してマリーダとプルの救出に動き出した」

 

「……」

 

「お前の怨恨はネェル・アーガマそのものなのか?ネェル・アーガマを使ってMO-5を沈めた者なのか?後者を言うならば彼女達を監禁しているターゲットの黒いネェル・アーガマとその艦長がそれだ」

 

「ヴァルダー……!!!グラーフ・ドレンデ……!!!」

 

「俺達がOZに捕縛された時、アディンの恨みの念は既に奴にいっていた。本当の斃す者、沈める艦は見えていたはずだ。そしてこうしている間にも刻一刻とマリーダとプルの身が危険にさらされ続けている。無論、救出には俺達がキーになる。的外れの怨恨に囚われている場合ではないんだ、アディン!!!」

 

「プル……!!!」

 

「お前が的外れの怨恨に囚われるほどそのプルが危険に晒され続けてしまう……もう一度本心の感情に問いただせ……戻らなければ俺達でリカバリーするだけだ。これ以上は言わん……」

 

 その通信を最後にヒイロの通信は終わった。

 

 アディンの中で目まぐるしく感情が入り乱れるが、その奥には既に答えが見え隠れしつつあった。

 

 

 

 ・・・

 

 

 

地球とL1コロニーエリア間を航行するグラーフ・ドレンデはゼロシステムが予測した航路とほとんど狂いがない位置におり、それに加え遭遇したと思われるネオジオンの部隊と戦闘状況にあった。

 

 ガランシェールと同型船が後方で3隻が控える形で、ランケブルーノ砲を装備した重装型ギラズールや重装型ギラドーガが展開し、弾幕対弾幕の砲撃戦を繰り広げいた。

 

だが、グラーフ・ドレンデのCICブリッジでは戦闘状況にも関わらず、ヴァルダーが拳で頬杖をしながら鋭利な眼光視線をブリッジのモニターと外の戦闘状況へひたすら突き刺している。

 

 最早傍観者そのものであり、展開しているリゼル・トーラスへのプログラムも敢えてキルモードではなく、防衛プログラムを指示していた。

 

 リゼル・トーラスは回避と手を抜いたような甘い狙いの射撃を繰り返し、残りはプライズリーオーとジェスタ、カスタムジェガンで弾幕を張り、接近を困難にする状況を維持させていた。

 

 無論この戦闘状況に疑問を持つ兵士達は少なくはなかった。

 

「あの……ミスター・ヴァルダー。意見の具申になるようで失礼致しますが、相手はネオジオンの小部隊です。一気にキルモードで畳みかければ直ぐに戦闘は……」

 

 するとヴァルダーはニヤリとしながら不敵な含み笑いをして答えた。

 

「ふふふふ……確かに貴公の言うとおりだ。間違いはない。ただ私は……拮抗している状況から相手が一気に絶望的な戦況に変わる瞬間を見たいのだ。それまで如何に長く必死にあがく様を傍観するか……それが楽しみなのだよ。コア3跡までの航路の余興と思えばいい」

 

「御意!!」

 

 一方のネオジオン勢力側はヴァルダーの思惑通り、皆が切磋琢磨して戦闘に臨んでいた。

 

 それもそのはずであり、このネオ・ジオンの部隊はジンネマン達を連れ去ったグラーフ・ドレンデを追撃していたパラオ所属のネオジオンだった。

 

 追撃とはいえ、当初は行動すればパラオが危うくなる状況だった為、グラーフ・ドレンデをロストしてからの時間差でパラオを発っていた。

 

 その為広い砂漠でダイヤモンドを探すかのような状況で嗅ぎまわっていたのだ。

 

「きっとジンネマンの旦那達が収容されているはずだ!!!やっとの思いで見つけたんだからな!!!何としても助けるぞ!!!」

 

「おうさ!!!MDがなんだってんだっ!!!このまま押し切ってやる!!!」

 

「逃したら最後だ!!!関与している範囲の仲間に限られるが、位置情報をネオ・ジオンの情報に拡散させておけ!!!」

 

 ギラズールやギラドーガ達は各々砲撃を放ちながら徐々にグラーフ・ドレンデに進撃していった。

 

 一方のマーサは監禁しているマリーダに再度サイコ洗脳機を持って歩み迫るが、この時のマーサはいつになく腹黒いまでに甘い口調であった。

 

「少々外が騒がしいけど気にしないで。いいのよ……手荒な真似はしないわ。今までごめんなさい……」

 

「あ……やめろ、く、来るなぁっ!!!来るなぁああっ!!!」

 

 当然のごとくマリーダは警戒するものの、積み重なる過酷な状況に加え、マーサに対し精神的な恐怖心を植え付けられてしまっていた。

 

 手で払いのける仕草をしながら、背後の壁に背を付けて追い込まれてしまう。

 

「い、いやっ、いやぁあああああっ……!!!」

 

 奇声めいた悲鳴を上げながらマリーダは頭を抱え込んでしまうが、いやらしく腹黒さを漂わせたマーサの手がマリーダの頬に触れられた。

 

 最早植え付けられた洗脳的恐怖に支配されたマリーダの口からは、意味をなさない息詰まった声しか出てこなかった。

 

「あっ……かふっ……くぅっ……!!!」

 

「うふふふふ、これから先、あなたには特別なMAに乗ってもらうのよ。その為に必要なのがコレよ……」

 

 マーサがマリーダの頭に装着したサイコ洗脳機は、今まで散々実験台にされ続けたものと同じようなタイプであり、いわばマリーダにとって拷問危惧に等しいものだった。

 

「ああ……あ、ああ……!!!」

 

 次に来るモノが何なのかは躰と精神が知り尽くしており、恐怖にすくむその様子に最早以前のマリーダはいなかった。

 

 そしてマーサはニタリと笑いながら操作スイッチを押した。

 

「っっ―――!!!いやぁあああああああああああっっ!!!」

 

 耳をつんさぐどころか脳さえも破らんばかりのサイコ波がマリーダを襲う。

 

 阿鼻叫喚しながらマリーダは発狂しながら床でもがき苦しむ。

 

「これは下準備。ラプラスの箱の所在が解った時、直ぐに行動に出れるようにする為の……うふふ。それに引き換え、あなたのお姉さんは籠城なんていうくだらない抵抗をしてるのよ……わるあがきも程があるわ。所詮ニュータイプなんて宇宙世紀のモルモットに過ぎないのよ……!!!」

 

 この時、プルはマリーダの苦痛を感じながら一人、ユニコーンガンダムのコックピットで苦しんでいた。

 

 悲痛な苦しみの中、呼吸を乱し頭を抱えるプルであるが、内側からロックをかけ外部操作では絶対に開かない状況を作っていたのだ。

 

 コックピットの外部ではマーサの私兵やOZプライズ兵があの手この手でロックを開けようとしていた。

 

 ユニコーンガンダムに籠城することが、今のプルにできる唯一の抵抗手段だった。

 

「苦しいっ……またっ……っ、マリーダがいじめられてるっ……!!!お願いっ……やめてあげてよぉっ……!!!」

 

 プルは涙を流しながら呼吸を荒くさせ、コックピットにしがみつき続ける。

 

 その閉鎖空間に充満するのはプルを襲うマリーダが味わう苦痛とそれに対する悲痛な悲しみ、そして絶望だ。

 

 マリーダも苦しみながらマーサの洗脳を吹き込まれ続ける。

 

「あなたは女の戦士。ガンダムは敵……そしてあなたを闇に墜とした男達を屈服させなさい……いつも屈辱を味わってるでしょ……もっと男を恨みなさいっ……さぁっ!!!」

 

「あぐぐぐっ……ぅううっ……あああああっっ……はぁ、はぁ、はぁ……もう……コワレル……」

 

「うふふふ……この際壊れてしまいなさい。マリーダなどと言う名は一度壊して、本当のプルトゥエルブとして……パトゥーリアの心臓になりなさい……!!!」

 

「あああっ、アアぁアアぁぁアアっ……!!!!」

 

マーサは更に強いレベルの洗脳波に切り替え、更にマリーダは恐怖と苦しみを混ぜた声をあげ続ける。

 

マリーダの精神の限界は最早臨界に達していた。

 

それに感応するプルも比例するように嘆き叫ぶ

 

「いやぁあああああっっ!!!!あくぅっ―――?!!」

 

だが、その最中に苦しみと絶望の先から煌めきのような感覚が迫るのを感じた。

 

「……!!!え?!!こ、この感じっ……来てるっ……の……?!!」

 

プルがその感覚を感じた時、同艦内のCICブリッジにて新たな指示がヴァルダーから放たれていた。

 

「……MDにキルプログラムを。奴らにとっての絶望的排除の始まりだ」

 

「は!!戦闘プログラムをキルモードへ変換します!!」

 

リゼル・トーラスの戦闘プログラムが切り替わった瞬間、レモンイエローの光を灯っていたカメラアイがレッドに変換した。

 

「ネオジオンの輸送船団……運がない連中だ。我々と会った時点で排除は免れんのだよ」

 

 ヴァルダーが薄ら嗤う視線の先で、キルモードになったリゼルトーラスが一気にギラズールやギラドーガに襲い掛かる光景が展開する。

 

 レフトアームのビームキャノン高速連続射撃に各部を破砕され爆発していくギラズールや、縦横無尽にビームサーベルで斬り刻まれていくギラドーガ、一斉のメガビームランチャーの直撃で爆砕するギラズールとギラドーガ……見えない何かが破裂したように荒れ狂うマリオネット達の姿だ。

 

 突如爆発的な劣勢に追い込まれ、文字通りの絶望が彼らの部隊を襲う。

 

「ぐああああああ!!!」

 

「くそったれっ!!!こいつら急に動きと攻撃が凄まじくなりやがった!!!どうなってやがる?!!」

 

「あ、くそっっ!!!突破された……がぁあああああ!!!」

 

 仲間の機体が執拗な斬撃で爆発していく中、後方のガランシェールと同型の船達にもリゼル・トーラス攻撃が及ぶ。

 

 早くもこの時点で1隻が複数のメガビームランチャーの砲撃を浴び、船体を激しく爆砕されながら轟沈する。

 

 必死で抵抗するがネオジオンの最早弾幕は意味をなさない。

 

「畜生っ……ここまできてっ……無理なのか?!!ジンネマンの旦那やマリーダに……申し訳が立たないっっ!!!」

 

 ジンネマン達の救出を目指してここまできた彼らが無残にも壊滅の一途しか用意されていない……そんな現実に遂に母艦からの撤退指示が出てしまう。

 

「悔しいがこのままでは全滅だ!!!撤退するぞ!!!」

 

「撤退だと……?!!くっっ!!!」

 

 そのネオジオン兵はレバーに拳を叩きつけ、モニター億面に映るグラーフ・ドレンデを見て更なる悔しさを混みあがらせた。

 

「そこに……そこにあるのにっっ……!!!助けることができないっっ!!!くそおおおおおおお!!!」

 

 その悔しさの最中、次々に仲間の機体達がリゼル・トーラスの攻撃を受け、次々に破砕されていく。

 

 百歩譲ってよしんばリゼル・トーラスを突破してもプライズリーオーとジェスタに阻まれ、更にそこから先の人為的な救出は更に困難になる。

 

 現実的に無理なのだ。

 

 その間、グラーフ・ドレンデ内部ではマリーダがようやくマーサからの生き地獄から一時的に解放されていた。

 

 壁にもたれて憔悴しきったマリーダを尻目に、場を後にしたマーサは満足げに堂々と私兵を従えながら通路を歩く。

 

 (うっふふふ……見てなさい……計画は必ず成就させるわ……!!!あの小娘を完全に手中に収めることとパトゥーリアの起動は同義……そしてラプラスの箱の破壊に繋げ、恨みたる男の怨恨世界を破壊する……!!!)

 

 苦しみの間隔の継続が終わり、プルも呼吸を乱しながらマリーダの苦痛が終わった事を感じ取る。

 

「うっっ……はぁっ、はぁはっ……はぁっ、マリーダ……あたし達よく頑張れたよ……でも……きっとそれも今日で終わりだよ……」

 

 プルはうずめていた体を動かし、コックピットのシートに座り直して背もたれに身を預けなおし、うつむきながら一言を漏らした。

 

「だってね……」

 

 プルがその場にいないマリーダに語り掛ける一方で、マリーダは滅茶苦茶になった思考の中、僅かに繋がった自我を手繰り寄せることに身を焦がしていた。

 

 いつ記憶が消滅してもおかしくない程の危ういアンバランスさが彼女の中で入り乱れる。

 

「あぐぅっっ……私はっプルトゥエルブっ……じゃないっ……プルはっ、姉さんっ……」

 

 床に倒れ込み這いつくばりながらマリーダは手を伸ばす。

 

 彼女が伸ばす先にある絶望の薄暗い闇の先からはジンネマンやガラシェール隊の面々、そしてプルとヒイロのイメージが彼女に飛び込んできた。

 

 それはクモの糸程であった自我を手繰り寄せる手綱を強くさせた。

 

「マスターっ……みんなっ……姉さんっ……ヒイロっ……!!!わ、私はっ、そうっ……私はっ、マリーダ!!!」

 

 そしてユニコーンガンダムの中のプルは顔をあげ、それまでの表情を一新させた微笑みでマリーダに言葉を贈った。

 

「……みんなが来てくれるんだから!!!」

 

 その刹那、宇宙に突如として閃光がはしり、その閃光はグラーフ・ドレンデの真正面を目掛けて突き進んでいた。

 

 

 

BGM ♪思春期を殺した少年の翼

 

 

 

「PXオーバードライヴッッ!!!!キメるぜぇえええええええええ!!!!」

 

 

 

 それは閃光を放ちながらビームランスを突き立てて迫るガンダムジェミナス・グリープだった。

 

操縦するアディンの表情には先刻の苛烈な蟠りは無くなっていた。

 

怨恨の囚われを超え、守るべきモノを見据える覚悟が据わった事を意味していた。

 

 そして、ガンダムジェミナス・グリープのGNDソニックドライヴァーのジェネレーター出力を最大限に活かした上のPXシステムは、MSの常識を逸脱した高速を実現させる。

 

 グラーフ・ドレンデサイドもこれを感知するが、その驚異的な速度に報告状況とのかみ合いの崩壊が発生していた。

 

「な―――?!!急速接近する機影!!!とてつもない速度で本艦に真っ直ぐ突っ込んできます!!!ダメです、状況報告間に合いませんっっ!!!か、回避不能ぉおおおおおお!!!」

 

「何ッ―――?!!」

 

 前触れが全くない突然の未確認機の攻撃に、流石のヴァルダーも動揺を隠せずに狼狽える。

 

その刹那、一瞬の閃光と共に凄まじい衝撃がグラーフ・ドレンデを襲った。

 

 

 

 ズディガオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!

 

 

 

 電光石火のごとくガンダムジェミナス・グリープはグラーフ・ドレンデのハイパーメガ粒子砲の砲身を目掛けて突っ込み、凄まじい衝撃をグラーフ・ドレンデに与えた。

 

「あああぁっくっ―――?!!」

 

CICブリッジに向けて歩いていたマーサと付き人の私兵達は前触れなき凄まじい衝撃に転倒し、ヴァルダーもまた普段見せる事のないうろたえを見せる。

 

「ぐおおおおおっッ……!!?くっ……何が起こったというのだ……?!!状況は?!!」

 

「……はっ!!状況は……な?!!ハイパーメガ粒子砲、大破!!!完全に破壊されています!!!しかも、ビームでも防弾でもなく、突っ込んだのはMSです!!!艦内への損害も甚大!!!MS格納庫にまで及んでます!!!」

 

「MSだと?!!」

 

「はっ!!間違いありません!!!」

 

「こんなミサイルのような真似が出来るMS……まさか?!!」

 

 ハイパーメガ粒子砲を一瞬にして貫通破壊したガンダムジェミナス・グリープは、グラーフ・ドレンデの機内格納庫の外壁に埋めるようにしてアグレッシブに突っ込んでいた。

 

「な……?!!何だ?!!敵襲か?!!」

 

「お、おい!!!あれっ……ガンダムじゃ……!!?」

 

「メテオ……ブレイクス……ヘル!!!た、待避だぁあああっっ!!!」

 

 外壁から出てきたガンダムジェミナス・グリープに、驚愕を食らい続けるメカニックや兵士達は一斉にその場判断で待避を開始。

 

居合わせたOZプライズ兵士やマーサの私兵もまたそれに便乗するかのように待避をしていく。

 

ガンダムジェミナス・グリープは眼光を放ちながら、スパークが随時はしるグシャグシャになったMS格納庫外壁やデッキハンガーを、より一層かつ執拗にビームランスで幾度も刺しては斬り口を抉ってみせた。

 

「へっへへへ、一矢報いてやったぜ……!!!理性、持ってくれよな、俺っ!!!今コイツ完全に潰したら元も子もないからよっっ……!!!」

 

ガンダムジェミナス・グリープの強力な滅多斬りに続く斬り払いが艦内に爆発を発生させたその直後―――。

 

 

 

『アディン!!!』

 

 

 

怒りを通り越した感情をなんとか繋ぎ止めるアディンに突如としてプルの声が響いた。

 

「えっ?!!プル?!!」

 

アディンが周囲を確認すると、MS格納庫の奥面にハンガーに固定されたユニコーンガンダムの存在が視覚に入り込んだ。

 

一方、体勢を崩したマーサは動揺を隠せないでおり、ややヒステリック気味に声を荒げながら彼女を起こそうとする私兵に問いただす。

 

「マーサ様!!お怪我は?!!」

 

「い、一体何なの?!!何が起きたの!!?」

 

「わ、解りません!!!」

 

『敵襲!!!総員戦闘配置!!!!繰り返す!!!総員戦闘配置!!!格納庫にMSが突っ込んだ……っ突っ込んだMSは、ガンダムと断定!!!』

 

マーサの問いに答えるように艦内放送が響く中、マーサは息を呑みながら直感する。

 

「ガンダム?!!まさか……?!!」

 

「こんな奇天烈かつ荒唐無稽な真似ができるのは……奴らしかいない……メテオ・ブレイクス・ヘルしかな!!!」

 

ヴァルダーのその言葉の直後、ネェル・アーガマCICブリッジにてケネスが叫んだ。

 

「光学迷彩解除!!!ガンダム、サーペント、マグアナック、各機発進シークエンスに移行!!!」

 

光学迷彩を解いたネェル・アーガマがグラーフドレンデ左舷方向に現れた。

 

そして、MS格納庫からはガンダムデスサイズ・ヘル、ガンダムヘビーアームズ改、ウィングガンダム・ゼロ、サーペント、ガンダムサンドロック改、マグアナック4機の流れで発進シークエンスが進行していく。

 

「さぁて、地球行きの前哨戦、おっぱじめるとしますかぁ!!!」

 

「相手の搭載機数からして、俺達の割り当ては4機づつ破壊すればちょうどいい。バルジの事を思えば些末な戦力だ」

 

「確かにな。それに、電撃的に奴らを無力化させちまえば問題ない。袋叩きだな、この作戦は」

 

「問題はありますよ、ラルフさん。如何にして電撃的かつ低リスクに彼女達を助けるかが重要です。最終的にはヒイロのウィングゼロのゼロシステムがカギになりますが、僕達が目立つことも重要な役目です。ラシード達もご協力お願いします!!!」

 

「お任せください、カトル様!!手筈通り暴れてやりましょう!!!」

 

各々に高揚する雰囲気が高鳴る一方、ヒイロは何も語らず精神を集中させながら、二通りの選択肢に葛藤していた。

 

(……ここからの作戦上、救出ルート選択肢は主に二つ。カタパルトから侵入し、内部を破壊しながら混乱に乗じてマリーダ達の救出を図る。もう一つは中と外から仕掛け、中での攻撃で気を引き付ける。その隙に外部から穴を開けて救出する……見極めるにはその状況に直面した時のゼロシステムとマリーダ達の収監場所がカギになる……!!!)

 

それぞれの発進シークエンスが進行する中、ケネスはネオジオンに向けて旧連邦と誤解されない為に通信回線を開いてた。

 

「……ネオジオンの諸君に通達する!!我々は連邦軍ではない。いわば……新生メテオ・ブレイクス・ヘルといってもいいだろう。ここから先の戦いは我々に任させて頂きたい!!」

 

「なんだと?!!メテオ・ブレイクス・ヘル……?!!」

 

「確かにっ、識別信号を確認!!!連邦ではないぞ!!!」

 

 無論、突如の想像を超える展開に対し、ネオジオンの兵士達は困惑や妙な高揚感を隠せずにいた。

 

 その直後、その困惑をフォローする通信回線が入った。

 

「お前達、識別信号は確認させてもらったぞ!!これ以上は犠牲は出させん!!!後退しろ!!!」

 

 それはジンネマンからの直接の通達であり、彼らの後方からはガランシェールが接近していた。

 

「その声は……ジンネマンの旦那!!?え?!!ということは皆無事なのですか?!!」

 

「よかったッ……俺達はあの日以降、ずっと探し回っていたんすよ!!!」

 

「いや……それがまだ大事な娘達がその黒い木馬もどきに囚われたままだ。お前達、俺達の為に色々と済まなかった……だがもういい!!!無理はするな!!!後は任せろ!!!今俺達はそのメテオ・ブレイクス・ヘルの本隊と救出作戦を展開する!!!」

 

 この通信の流れを耳にしたケネスも、納得のいく含み笑いを見せながらうなずいていた。 

 

 一方のグラーフ・ドレンデからしてみれば、この電撃的流れは、異次元から突然現れたも同然の様だ。

 

「な?!!さ、左舷方向に突如新たな機影!!!ネェル・アーガマです!!!」

 

「馬鹿な?!!何故捕捉できなかった?!!」

 

「いえっ、全くもって解りません!!!感知直後まで何も感知はできず……!!!」

 

「……本当に奴らのようだなっ……しばらく離れる。戦闘指揮は諸君らに一任する……」

 

ヴァルダーは席を立ち、何処かに向かうようにCICブリッジを後にした。

 

 そしてネェル・アーガマMSデッキでは、順次にガンダムデスサイズ・ヘル、ガンダムヘビーアームズ改、ガンダムサンドロック改が三連のカタパルトに就き、各々が発進体制に移行していた。

 

 オペレーターのエイーダが各Gマイスター達にナビゲートを通達する。

 

「各カタパルト、リニアボルテージ上昇。射出タイミングを各Gマイスターに譲渡します。作戦上、サポート僚機のMSはガンダムが全機発進完了した後に出撃をよろしくお願いします」

 

「そんじゃ……デュオ・マックスウェル!!ガンダムデスサイズ・ヘル、行くぜ!!!」

 

「トロワ・バートン、ガンダムヘビーアームズ改、出る」

 

「カトル・ラバーバ・ウィナー、ガンダムサンドロック改、行きます!!!」

 

 ネェル・アーガマの三連カタパルトより、レールガンのごとくスパークを帯びながらガンダム達が飛び出していく。

 

 そして、センターカタパルトにウィングガンダム・ゼロがスタンバイされた。

 

 

 

BGM ♪ RYTHEM EMOTION

 

 

 

コックピットのセンタースクリーンが起動し、ウィングガンダム・ゼロのメインシステムが立ち上がる。

 

連続する稼働音の中、ヒイロはシステムに視覚投影表示されたモニターに視線を見据えていた。

 

今その先に見据えるはマリーダの救出の他はない。

 

ヒイロにとって彼女の存在は必要不可欠な存在であり、彼女の身柄奪還はこの先の闘いに突き進むには避けては通れない、否、避けて通るつもりなどなかった。

 

「マリーダ……これ以上の苦しみは必要ない……!!!」

 

ウィングガンダム・ゼロの両眼に光りが灯り、駆動音と共にその顔を上げた。

 

「カタパルト射出ユニット、強制解除。マリーダ達を帰るべき場所へ連れ戻す。いくぞっ、ゼロ!!!」

 

ヒイロはカタパルト射出ユニットを強制解除させると、スロットルレバーを押し込んだ。

 

持ち上がった四枚のウィングバインダーから一気にGNDエネルギーを爆発させるように、ウィングガンダム・ゼロがカタパルトから飛び出す。

 

ネェル・アーガマから飛び立ったウィングガンダム・ゼロは、加速を伴いながらメインカメラを光らせ、更なる加速をかけて突き進んでいった。

 

それは流星さながらであり、正にリ・オペレーション・メテオの前哨戦と言える瞬間だった。

 

ウィングガンダム・ゼロは先に出撃したデュオ達を追い抜き、真っ先にターゲット選定したリゼル・トーラスに向けてツインバスターライフルを放った。

 

 

ヴィゥッ―――ダァズヴァアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

ドォズゥシャアアアアアアッッ、ゴッバババゴォゴゴォオオオオオンッッ!!!!

 

 

 

一発の高出力ビーム渦流が一度に3機のリゼル・トーラスを爆砕させる。

 

その直後、ウィングガンダム・ゼロの後方からビームサーベルを突き出した1機のリゼル・トーラスが迫るが、これを振り向く事なく躱し、攻勢の肩透かしを食らいながら突き進むそのリゼル・トーラスに向けてツインバスターライフルを放つ。

 

 

 

ヴァズダァァアアアアアアアアッ!!!!

 

ドォズゥァアアアアアァァァ……ドドドガァゴバァガァオオオオン!!!!

 

 

 

突き進むツインバスターライフルのビーム渦流は、その奥面にいたプライズジェスタ2機もリゼル・トーラスと同時に仕留めて破砕する。

 

更にウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルをレフトアームに持ち替え、レフトショルダーからビームサーベルを抜刀すると、鬼神のごとき速度と太刀捌きで攻め入った。

 

 

 

ヒュゥギュウァアアアアッ―――ジュシュガァッッ、ザギィシャアッ、ズシュドォオオオオオオオオオオオオッッ!!!!

 

 

 

連続でリゼル・トーラス3機に強烈な斬撃を叩込んで駆け抜けたウィングガンダム・ゼロはそのままグラーフドレンデを目掛けていく。

 

わずかな瞬間に9機の機体が撃墜された現実を垣間見たネオ・ジオンの兵士達は言葉無く圧巻させられるしかなかった。

 

「ヒュー……さすが気合い入ってんなー、ヒイロのヤツ!!」

 

デュオも口笛混じりに関心を示し、カトルはロニの事と状況をダブらせて感じていた。

 

そんなヒイロの攻勢を見て、カトルは通じるモノを感じていた。

 

「えぇ!!何せマリーダさんがかかってますからね……僕も今、同じ状況ですからヒイロの気持ち解ります!!」

 

「そ、そうか。カトルも囚われのお姫様がいるんだよな……」

 

「うん……けど、今はマリーダさんとプルの救出です!!!このまま戦力を削って、敵艦内に突入しましょう!!!」

 

「既にヒイロが大半を掃除してくれた。残り10機、一気に片付けるぞ」

 

ガンダムデスサイズ・ヘル、ガンダムヘビーアームズ改、ガンダムサンドロック改は散開し、一気に攻勢に出る。

 

その最中、ガンダムデスサイズ・ヘルに2機のプライズリーオーのドーバーバスターとリゼル・トーラスのメガビームランチャーの攻撃が集中する。

 

だが、アクティブクロークによりほとんどダメージの効果はない。

 

「効いちゃいねーよ!!!いっくぜぇええぇっ!!!!」

両眼を光らせながらアクティブクロークを展開するガンダムデスサイズ・ヘル。

 

発動したアームド・ツインビームサイズのビーム二連刃とバスターシールド・アローのビーム刃をかざし、立て続けにリゼル・トーラス2機へ裂断と刺突を食らわせる。

 

 

ザシュガァアッッ、ズガドォオオオオッッ!!!!

ゴゴバァアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

そして一気に接近したプライズリーオーに、アームドツインビームサイズの薙ぎ軌道の斬撃を浴びせた。

 

 

 

ザシュガァアアアアンッッ!!!!

 

ドッゴバァアアアアアアアアンッ!!!

 

 

一方のガンダムヘビーアームズ改はプライズリーオーとプライズジェスタ、2機のカスタムジェガンに攻め入り、ビームを躱しながらダブルビームガトリングとブレストガトリング、バスターガトリングキャノンの射撃を浴びせ続ける。

 

 

 

ヴォガドゥルルルルルルルルルルゥゥゥゥッ!!!

 

ディギャララララドドドドガァアアアアンッ!!!

 

 

ビームライフルの射撃を捩じ伏せるようにカスタムジェガンを立て続けに撃墜した直後、プライズリーオーとプライズジェスタにも立て続けにガトリング斉射撃を浴びせた。

 

 

 

ヴァガドドドドルルルルルルルルゥゥゥ!!!!

 

ドドドヴォバガァララララアアアアアン!!!

 

 

 

咄嗟にガードするも、シールド諸ともプライズリーオーはズタボロに破砕爆破し、プライズジェスタも同様に爆砕する。

 

この攻撃を目の当たりにしたもう1機のプライズジェスタが、ビームサーベルに切り替え、ガンダムヘビーアームズ改に突撃を慣行する。

 

「その攻め方は間違いではない。だが、うかつ過ぎたな」

 

 

 

ジャキッ、ヴゥィッ―――ヴァズドォオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

ドズシャアアアアアァァッ……ゴバァドガァアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

トロワはアームバスターカノンを浴びせ、えげつなくプライズジェスタを吹き飛ばしながら爆砕させた。

 

「悪いけど、墜とさせてもらうよ!!!」

 

そしてカトルのガンダムサンドロック改はビームマシンガンで射撃を浴びせながらカスタムジェガンを撃墜し、その勢いを乗せながらプライズリーオーを目掛け加速する。

 

 

 

ヴィドゥルルルルルルゥッ!!! ヴィドゥルルルルルルゥゥッッ!!!

 

ディディディディガガガガァンッ、ドドドドドガァアアアアアン!!!

 

 

 

「はぁあああああっ!!!」

 

 

 

ディッッガイィイイイイイイイインッ!!!!

 

ゴッバガァアアアアンッ!!!!

 

 

 

振りかぶったレフトアームのバスターショーテルで豪快にプライズリーオーを叩き斬ると、クロスクラッシャーの刺突を兼ねた斬撃でプライズジェスタに突撃し、機体を豪快に切断・破砕させた。

 

 

 

ゴッ―――ズゥガァオオオオオオオオンッ!!!!

 

 

 

メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達の介入により、瞬く間にグラーフ・ドレンデの戦闘部隊は壊滅した。

 

突き進んだウィングガンダム・ゼロは、グラーフ・ドレンデの対空砲火を引かせる軌道で旋回飛行を開始し、デュオ達は三つのカタパルトハッチに突撃する。

 

容易くグラーフ・ドレンデのハッチは斬撃と砲射撃、突撃の三拍子で破壊され、ガンダムデスサイズ・ヘル、ガンダムヘビーアームズ改、ガンダムサンドロック改の3機がグラーフ・ドレンデに侵入し、手当たり次第に内部区画を破壊していく。

 

 後続したラルフのサーペントとラシード達のマグアナックチームもそれに続くようにグラーフ・ドレンデへの射撃を開始する。

「手筈通りに囮射撃開始!!マグアナックチームもよろしく!!」

 

「任せな!!ラルフの兄ちゃん!!マグアナックチーム、散開!!!主に邪魔くさい対空機銃やメガ粒子砲に中ててけ!!!」

 

「おおぉ!!!」

 

サーペントと4機のマグアナックチームは散開し、各々にダブルガトリングやビームライフル、ビームマシンガン、アームビームキャノンで射撃を開始した。

 

サーペントとラシード機、アブドゥル機、アフマド機は左舷と右舷に別れての射撃を、カタパルトから対空機銃、VLSミサイル装置、ブースターエンジン部へと順次に与え、アウダ機はアームクローで主砲の砲身に突き刺しながらの零距離射撃で破壊していく。

 

CICブリッジでは誰もが驚異と脅威に、そして戦慄に支配された空気に縛られていた。

 

「MD、MS部隊……全滅っっ!!!馬鹿なっ?!!」

 

「こ、これが、メテオなんたらのガンダムの力!!!」

 

その間にヒイロはグラーフ・ドレンデを周回旋回しながら発動したゼロシステムで、マリーダの収監場所を導き出そうとする。

 

「ゼロ、マリーダへ俺を導けっっ!!!!」

 

コックピットの全周がゼロシステムの発動発光に包まれ、システムを介したヒイロの視覚モニターにグラーフ・ドレンデをバックに振り返るプルのイメージが投影された。

 

 更にそこから先の未来を演算した情報がヒイロに投影されていく。

 

「……やはりプルがカギを握るか……」

 

 ゼロシステムの見せる情報の先に、膝を抱えたマリーダの姿が投影されたその時―――。

 

「みんな、聞こえるか?!!プルの安全は確保したっ!!!ユニコーンガンダムの中に居てくれてた……!!!ッつ……とっとと終わらせようぜ!!!これ以上プルとマリーダをいさせていい艦じゃねー……!!!!」

 

アディンのその声は良い意味で予期せぬ展開を知らせ、救出にあたる誰もに驚愕と半分の安堵を与える。

 

 しかし同時にどこか怒りに思い詰めた感じを感じさせた声のようでもあった。

 

そしてウィングガンダム・ゼロにプルからの通信が入り込み、彼女の顔がサブモニターとして表示される。

 

「ヒイロ!!」

 

「プルか!!単刀直入……いや、はっきり言う!!プルの力でマリーダの収監位置を教えてくれ!!」

 

「わかってる!!任せて……!!!ユニコーンもお願いね。手伝って……」

 

 プルはそうユニコーンガンダムへ語り掛けると、バイオメトリクス・センサーに手をかざして機体を起動させた。

 

 ユニコーンガンダムのサイコフレームとプルのニュータイプの力の共鳴で更なる感度上昇を図る為だ。

 

 機体の起動と共に、エメラルドの光を放出してデストロイモードへと変身していくユニコーンガンダム。

 

 その時、内部破壊に侵入したデュオ達もこの区画の格納庫で合流し、奇しくも5機のガンダムがいる状況を作っていた。

 

 プルはこの間にも瞳を閉じながら意識と感度を集中させてマリーダの収監位置を感じ取り、それに伴うようにユニコーンガンダムが放つアクシズショックの光は増大していく。

 

「ヒイロ……マリーダは……」

 

 プルの感応が次第にマリーダの収監位置の特定に近づけていくと同時に、ゼロシステムがヒイロに見せる映像もまた詳細な場所を示していく。

 

 それはグラーフ・ドレンデの左舷居住ブロック区画であり、ゼロシステムが見せていた膝を抱えた姿のマリーダが顔を上げる。

 

 その表情は助けを求めるように寂しげな表情をしていた。

 

「マリーダっ……!!!」 

 

 同時にプルもまたマリーダの感応位置を特定し、目を見開いてヒイロに告げる。

 

「マリーダは左舷居住ブロック!!!真横から見た翼の付け根の左側のブロックにいる!!!」

 

 プルの声と共にゼロシステムもまたより詳細な導きを示した映像をヒイロに見せた。

 

「了解した……!!!」

 

 ヒイロは旋回中のウィングガンダム・ゼロに加速をかけ、その特定したグラーフ・ドレンデ左舷側の居住ブロック目掛けてウィングガンダム・ゼロを激突させる勢いで迫った。

 

 そして更なる所在の演算情報を見たヒイロは、その一瞬の判断で一気に減速をかけながらシールドを突き出したウィングガンダム・ゼロを居住ブロックにぶつける。

 

 凄まじい衝撃と共に突き破られた居住ブロックへ再度シールドを突き刺して機体を固定し、コックピットハッチを押し当てた状態にしてヒイロが突入する。

 

 すると艦の内部にアクシズショックの光が廻っているのがいるのが確認できた。

 

 プルとユニコーンガンダムの成す共鳴は想像の上を行っていることを物語る。

 

 だが、この時後部カタパルトより謎の未確認MSが飛び立つのをラルフ達が確認していた。

 

「なんだ……?!!MSなのか?!!だが速いにも程がある!!サーペントの足じゃ無理だ!!!」

 

 口惜しい思いを抑えて拡大するとかつてのジオングに似たシルエットのMSであることだけが確認できた。

 

「ジオング?!!いや、違う……」

 

 内部通路を隔てマリーダのいるルームを目指す中、ヒイロは偶然居合わせたマーサの私兵達に反撃の間も与えずにサイレンサーハンドガンで射殺し、隣接するルームの扉を携帯小型爆弾で爆破させた。

 

 ヒイロが中に突入すると、その薄暗いルームの中に横たわるマリーダを確認する。

 

 直ぐに駆け寄ったヒイロは、彼女を抱き起こしながら安否の確認を投げかけた。

 

「マリーダ!!!大丈夫なのか!??マリーダ!!!」

 

「う……ん……うっ、ひ……ヒイロ?」

 

 意識もあり、ヒイロを認識できるようであったが、マリーダはかなり憔悴憔悴しきっている様子だった。

 

「マリーダ……!!!マリーダ……少し無理するかもしれないが、いくぞ。俺に掴まれ!!!これ以上忌まわしい思いはさせない!!!」

 

 マリーダがうなずきながらヒイロの肩に両手をまわすと、ヒイロは彼女を抱きかかえながらすぐさまこの場を後にする。

 

 マリーダをコックピットのサイドスペースに座らせると、ヒイロは作戦のコンプリートを通達する。

 

「マリーダの救出完了。任務は成功した……!!!」

 

 この通達を合図に、戦闘に参加していた皆が一斉に安堵を示した。

 

「よくやった!!!領域からの離脱フェーズに入る!!MSチームは戻ってくれ」

 

 ケネスの指示によりパイロット達はグラーフ・ドレンデから離脱を開始し、グラーフ・ドレンデのカタパルトからもデュオ、トロワ、カトル、そしてアディン達のガンダムが一斉に飛び出していった。

 

 ユニコーンガンダムも共に脱出し、プルは振り返りながらマリーダを乗せたウィングガンダム・ゼロが離れていく事を確認する。

 

「マリーダ……よかった……ほんとによかった……!!!みんな……ありがとう……!!!」

 

 プルは自分とマリーダが劣悪な環境から解放された安堵と嬉しさ、動いてくれたヒイロ達への感謝に涙を流す。

 

 だが、ヒイロとアディンはただ離脱するだけには止まらなかった。

 

 駆け抜けてきた戦場の中で出会った大切に想える存在を貶し汚され、傷つけられてきた艦だ。

 

「アディンが沈めるべき艦だが、マリーダをここまでされた以上一矢報いらせてもらう……!!!!ツインバスターライフル、ロック・オン!!!」

 

 射程ポジション調整の為にわずかに離脱したウィングガンダム・ゼロは、ツインバスターライフルを居住ブロックに狙いを定めてジャキンと銃身をかざす。

 

 それと同時のタイミングでガンダムジェミナス・グリープも背部のメガ・パーティカルバスターを前方に展開させ、ブースターモードからキャノンモードに変換させていた。

 

「プルを傷つけやがって……!!!どこまで忌まわしくなるつもりだよこの艦の連中はよぉっっ!!!!ぶっ潰してやんぜ!!!!メガ・パーティカルバスターキャノン、スタンバイ!!!!」

 

 展開するメガ・パーティカルバスターキャノンの砲塔銃身角度は、CICブリッジの方向を指していた。

 

 そして両者のコックピットに詳細かつ精密なロック・オン照準が表示される中、GNDエネルギー圧縮率が臨界パーセンテージに達した。

 

 ヒイロとアディンは同時にエネルギーを開放する。

 

「忌まわしき場所を破壊する……!!!」

 

「メガ・パーティカルバスターキャノン、いっちまぇえええええええええっっ!!!!」

 

 

 

 ヴウゥッ―――ヴォズドォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 ヴォオルゥヴァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッッッ!!!!

 

 

 

 唸り荒れ狂うビーム渦流のエネルギーが、マーサ私兵を含むグラーフ・ドレンデクルー達を次々に蒸発させていく。

 

「がぁあアアアア?!!」

 

「ごぁはぁがっ―――?!!」

 

「超高エネルギー反のぅがぁがへるぱっ?!!」

 

「ごぅばぁがあっ―――?!!」

 

「ひぐぁばぁあ―――?!!」

 

 ツインバスターライフルが放ったビーム過流は、左舷ウィングユニットを破壊しながら、居住ブロックからカタパルトブロック、カタパルトレールにかけて吹き飛ばすように貫通し、破壊エネルギーに満たされた射撃対象の艦体部を一気に爆砕させる。

 

 もう一方のメガ・パーティカルバスターキャノンの放ったビーム過流は、グラーフ・ドレンデの艦体から噴き出るように放たれ、CICブリッジを吹き飛ばし、VLS甲板ブロック、後部メガ粒子砲ブロック、後部カタパルトブロック、にかけて射撃角度を下げながら爆砕させていった。

 

押し寄せるビーム渦流の熱エネルギーが、OZプライズ兵やマーサ私兵達を灼き尽くしながらかき消していく。

 

マリーダやプルに苦痛屈辱の限りを尽くした一部のマーサ私兵達もまた因果応報よろしく、業火のごとき熱エネルギーに吹き飛ばされていった。

 

 破壊開口部からガンダムジェミナス・グリープが飛び出し、ウィングガンダム・ゼロと共に爆炎を上げるグラーフ・ドレンデの前方に就き、ヒイロとアディンは止めの一撃を撃ち放ちに出る。

 

 この時、コックピットフレームを握っていたマリーダの手がヒイロの右手に添えられ、共に忌まわしき場所を断とうとする想いがツインバスターライフルに籠められた。

 

一方のアディンもプルに聞かされたグラーフ・ドレンデの出来事に抱く怒りを籠める。

 

そしてウィングガンダム・ゼロとガンダムジェミナス・グリープはそれぞれの想いを籠めた一撃を撃ち放った。

 

 

 

 ヴァドゥルゥヴォァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッッッッ!!!!

 

 

 

 ツインバスターライフルとメガ・パーティカルバスターキャノンの二つのビーム過流が、グラーフ・ドレンデの両舷を一気に吹き飛ばしながら艦体中央へとビーム過流の射撃範囲角度を集束していく。

 

 その両者のビーム過流がぶつかり合い、より一層の破壊力を爆発させながらグラーフ・ドレンデを文字通りに消滅に相当する形で轟沈させていった。

 

 

 

 不可能と思われたマリーダとプルの救出は見事に成功を成し遂げた。

 

 事を成し遂げた事に安心感を示したジンネマンはため息と共に背もたれに身を預ける。

 

 だが、肝心のヴァルダーはラルフ達が目撃した謎のMSに乗り込んでおり、マーサのシャトル共々脱出してしまっていた。

 

 しかし今の状況にしてみればそれは些末であり、任務の成功自体が彼らに大打撃を与えたに等しい。

 

 マリーダとプルという戦争の悪意に翻弄され続けてしまった彼女達の帰還こそがかけがえのない報酬だ。

 

 ヒイロは右手に触れ続けるマリーダの手にそっと自分の左手を置いて握った。

 

「ヒイロ……」

 

「マリーダが確かにここにいる……温もりを感じる。もう、マリーダを二度と奴らの好きにはさせない。ここから先は……俺がマリーダを守る……」

 

「そうか……ありがとう……こうしてヒイロと触れていられることも……また嬉しい……」

 

「俺もだ。マリーダ」

 

 ヒイロがそう言うと、マリーダはそのままヒイロの肩に自分の頭を寄せた。

 

 マリーダの髪の感触と体温がヒイロに伝わり、一層の任務の成功を感じてならなかった。

 

「任務……完了」

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 

 

 マリーダとプルはヒイロ達に救出され、いるべき場所に還る。

 

 二人の娘と再会したジンネマンは、涙を流して迎え入れ、掛け替え無き価値ある報酬をかみしめる。

 

 親子の再会を見届けたヒイロ達もまた次なる段階の流れに入り、オセアニアエリアで反抗活動をするマフティーとの共闘作戦に入っていく。

 

 その最中で、マリーダはジンネマンを遂に父と呼び、その後の彼女の行動の意思も赦した。

 

 メテオ・ブレイクス・ヘルとマフティーが結託し通信談義するその一方、旧シドニーのOZ収監施設の洋上では、捉えたマフティーメンバーをはじめとする、反抗勢力の囚人達の処刑が執り行われようとしている。

 

 しかしその処刑は、トレーズ幽閉に異を唱えるOZの反抗を発端にしたOZプライズの力による粛清を恐れたOZの一部の者達による画策であった。

 

 マフティーメンバーのミヘッシャが処刑執行目前に晒される中、二つの組織のガンダム達が介入する。

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード38 「マフティー合流」

 

 

 

 

 

 

 



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エピソード38「マフティー合流」

 マリーダとプルの救出はヒイロ達に確たる成功と勝利を収めた。

 

 無論、そこに利益的な報酬はない。

 

 しかし、利益には替えることのできない掛け替えのない報酬がそこにあった。

 

 ウィングガンダム・ゼロのコックピットからヒイロがマリーダを抱えて出てくると、デッキ通路にジンネマンがいた。

 

 ヒイロはジンネマンの傍に歩み寄り、抱えていたマリーダをジンネマンの腕にゆだねる。

 

 するとジンネマンは彼女を抱えながらその場に座り、その目に涙を浮かべた。

 

「おぉっ……マリーダっ……!!!すまない、ヒイロ。どれだけ恩にきればいいのかっ……!!!」

 

「いや。マリーダ達を助けたい……その感情で突き動いた結果だ。気が済んだら早く医務室にいけ。マリーダはかなり衰弱している」

 

「そうかっ……わかった!!!」

 

「マ、マスター……」

 

「っ、マリーダ!!ま、マスターはよせと……言っとるだろ……う……うぅっ、マリーダっ!!!よかったっ……よかったぁ……!!!」

 

 雄々しきガンダム達が並ぶネェル・アーガマのMSドックに、ジンネマンの男泣きを交えた声が響く。

 

 ジンネマンは涙ぐんで娘の帰還と無事を喜び、憔悴したマリーダを抱き起すように抱きしめていた。

 

 ヒイロもいつにない優し気な表情を浮かべながらその場に立ち会う。

 

「パパ!!」

 

 更にそこにもう一人の娘であるプルの声がジンネマンを呼び、ユニコーンガンダムのハッチからジンネマンのもとへと駆け出す。

 

「おぉ!!プルも……!!!おぉっ、ととぉ!?はははっ、プルもよく戻った!!」

 

 ジンネマンが振り向きながらマリーダを抱きかかえる中、プルが首元に抱きついた為にジンネマンの体勢が崩れかかる。

 

 だがそこは強固な父心で踏ん張って見せ、ジンネマンは左腕でプルも抱きしめた。

 

「パパっ……ずっとあたし辛かった!!嫌な思いしてきたっ!!!でも、こうしてまたパパに会えた!!!マリーダにも会えた!!!マリーダもあんな苦しみ受けて……でも、もう大丈夫だよ!!!」

 

「姉さん……」

 

 養父と姉妹の再会……その光景を見守っていたアディンはプルのその言葉を聞き、救出の間際に彼女から聞かされた理不尽への怒りが一瞬再燃する。

 

 オーガスタでのファーストミッションから出会って以降、ここに至るまで慕い続けてきてくれる彼女に降りかかった汚らわしき理不尽。

 

 妹を想う兄のような心境と異性を想う心境の挟間のような想いをアディンはプルに抱いていた。

 

 それ故の怒り……だが、アディンは歯と拳を握り閉めながら自らの引き金でその忌まわしい時間を与えたグラーフ・ドレンデを撃沈させた事を再認識し、深いため息に変えた。 

 

「……そうだ。俺はジェミナス・グリープで憎い艦を撃ち墜としてやったんだ……今は目の前でキャプテンと再会できてるじゃねーか……後の怒りは奴……リディとデルタカイだけさ」

 

 アディンは独り言任せに自らに言い聞かせて納得させると、もう一度再会した親子達に目を向けた。

 

「プルっ!!!マリーダ!!!すまないっ!!!お前達に辛い思いをさせてしまったのは俺の責任だ……!!!」

 

「ううん、パパは少しも悪くない!!悪くないよ!!!」

 

「マスター、私も姉さんと同感です……マスターは悪くない……」

 

「ううぅっ……おっッううっ、おおおおおおおぉっ!!!」

 

 二人の娘達の想いに、ジンネマンは嗚咽混じり感極まる歓喜の慟哭を上げた。

 

 今は親子水入らずの空気と感じたヒイロは瞳を閉じながら振り返り、アディンやデュオ達のもとへ歩き出す。

 

 そのヒイロに向かってデュオが第一声の言葉を投げかけた。

 

「大活躍だったじゃねーか!!星のナイト……いや、星のナイト達!!それぞれのお姫様を救出されてまー、カッコイイのなんの!!流石だなー!!」

 

 言い改めながらアディンの肩にぽんと手を置いたデュオは、ニヤつきながら盛大に褒めて見せる。

 

「な、何言ってんだデュオ!!俺は未来あるニュータイプの為にだなー……!!」

 

「誤魔化し否定すんなー。顔に出てんだよ、アディンは!!それに比べヒイロは顔に出やしねーんだから……な!!ヒイロ!!」

 

「そういうお前はデリカシーを持て。少なからず気を使え。声も大きい。あっちに当の本人達がいるんだ」

 

 サムズアップ式に指を指すヒイロの先にいるマリーダ達を見たデュオは納得しながら頭に手を当てて非を認める。

 

「……おーっと、そいつは失敬だった!!以後気を付けるぜ……」

 

 するとトロワが立ち去ろうとするヒイロへ一声かける。

 

「いいのか?」

 

「あぁ。ジンネマンは二人の父親のような存在だ。バルジでも相当憂いに気をかけていたはずだ。今は許される時間の限り、親子水入らずの時間が望ましい……」

 

「そうか」

 

トロワは最小限なやり取り口調だが、ヒイロはそれだけで納得し理解できている。

 

カトルもまた、ヒイロの判断に同感しながら改めたミーティングの知らせを促す。

 

「確かに彼女達にとっても今はそれが必要な時でしょう。この後改めてミーティングしますが、ガランシェールの方々もジンネマンさんへの計らいで、キャプテン代理の人が来るそうです」

 

「了解した。それとカトル……」

 

「なんだい?ヒイロ」

 

ヒイロは返答と同時にある言伝てをした。

 

「ロニ・ガーベイは今、新型のサイコガンダムに乗せられ、主にユーラシアエリアの地上を転戦させられている。地球へ行けばいずれ会うだろう」

 

本来ならばフィアンセに等しいカトルの想うロニの情報だった。

 

これまでカトルと行動共にしていたトロワもヒイロと同様、高度なハッキングスキルがあるが、万が一潜伏下のへリオポリスやネェル・アーガマの位置が割れてしまうリスクを避け、ハッキングの手段はできないでいた。

 

だが、ヒイロはネェル・アーガマに戻るわずかな間にウィングガンダム・ゼロのゼロシステムを使い、彼女の救出の為の導きを算出していたのだ。

 

「ヒイロ……!!!わかった!!!ありがとう……ありがとう!!!」

 

「カトル。マリーダの救出に加担してくれた借りは返す。次はお前だ……」

 

ヒイロはそうカトルに言い残し、CICブリッジへと向かう。

 

「次はお前だ……か!!相変わらずしっかりしてんなぁ~、ヒイロ!!素直だか素直じゃねーんだかも相変わらずだが……」

 

ヒイロの行動にデュオは頭をかきながら言うと、カトルは含み笑いをしながら答える。

 

「くすっ、でもそれがヒイロらしいんだよ。凄くて、無愛想なようで優しい……」

 

「ははっ、違いねっ!!ま、俺達も全力でサポートさせてもらうぜ!!」

 

「あぁ。だが、その前にマフティーの一味達のミッションやオーブ攻略がある。ロニの所在がユーラシアならばその先に答えが待つ。カトル。今一度の辛抱だ」

 

「うん。わかってるよ、トロワ。ロニとコロニー……そして仲間達。今の僕には守りたい存在がハッキリ見えている。大丈夫さ!!」

カトルのその表情にはかつてのような不安定さは存在しなかった。

 

トロワが頷き、デュオがニカっと笑うと三人もヒイロの後に続いてCICブリッジを目指していった。

 

彼らが去った後もジンネマンはマリーダとプルを抱きながら泣きに泣いていた。

 

そんなジンネマンの肩に腕を回すプルがウィングガンダム・ゼロを見上げる。

 

「ねぇ、このガンダム……不思議な感じがする……」

 

「不思議な感じ……??」

 

プルの文字通りの不思議な発言に吊られてジンネマンも見上げ、抱えられていたマリーダはジンネマンからウィングガンダム・ゼロへと視線を移す。

 

「うん。懐かしいような、安心するような??初めて見るガンダムなのに……」

 

「……そう言えば……姉さんの言う通り、このガンダムの中で何か不思議な感覚が芽生えていた……何か暖かく安心できるような……姉さんが感じてるモノと同じ感覚のはず……」

 

マリーダもまたプルと同じ発言をする。

 

彼女達の発言にジンネマンもウィングガンダム・ゼロを見上げた。

 

「お前達……このガンダムには一体何が……?」

「……ママ??」

 

「―――?!!」

 

思いもよらないプルの発言に、ジンネマンは絶句した。

 

だが、直後にプルは笑って誤魔化すように言った。

 

「……なーんて!!流石にガンダムのママなんて有りっこないよ!!ただ、ママがいたら感じる感じなのかな~ってね!!」

 

「ママか……」

 

ジンネマンはプルの言葉から亡き妻・フィーを思い起こさせた。

 

「ふぅ……あいつが……フィーがいてくれたら……マリィと一緒にお前達を可愛がってくれたんだろうな……」

 

ジンネマンの中で、あったであろう本来の家族とマリーダとプルを加えた家族の図が過る。

 

すると、プルがジンネマンに頬を寄せ、マリーダがジンネマンの胴に腕を回した。

 

「今はあたし達がいる!!寂しがらないで、パパ!!」

 

「そうです。あなたは一人じゃない……マスター」

 

ジンネマンの思考を感じた姉妹がジンネマンに励みと癒しを改めて与える。

 

更に目頭を熱くさせたジンネマンはくしゃっと表情を滲ませ涙しながら言った。

 

「だからっ……マスターはよせとっ……言っているだろうにっ……!!!」

 

その言葉を告げても、マリーダはジンネマンをマスターと良い続ける。

 

ジンネマンも内心はかつてのグレミーに刷り込み操作された後遺症と割り切っていたが、やはり合点にはいかないままでいた。

 

だがその時、マリーダは今までにない事を言い始めた。

 

「じゃあ……お父さん……って呼ばせてもらって……いいですか?」

 

「マリーダ……!!!やっと……やっとお前っ……!!!」

 

「以前はかつてのマインドコントロールの後遺症もあって、あくまでマスターはマスターとして割り切っていた。けど今、何故かそれがない。そして同時に私はこうしていられる事の掛け替えのなさを感じてる……だから……!!!」

 

「あぁっ!!!あぁっ、いいとも!!!何度でも呼びなさい……!!!」

 

「はいっ……お父さん」

 

ようやく父と呼ばれ、もうこの上無くジンネマンは落涙し続けた。

 

プルも微笑む中、ウィングガンダム・ゼロから伝わる不思議な感覚が増したのを感じ、彼女はウィングガンダム・ゼロを見る。

 

その時、三人に同調するかのようにゼロシステムが自然に発動していた。

 

 

 

 

 一方の重複するような辛酸を舐めさせられたヴァルダーとマーサは宇宙空間をひたすら航行し続ける。

 

 ヴァルダーはジオングのシルエットを彷彿させる新型のMSに、マーサはそのジオング似のMSのマニピュレーターに握られた小型シャトルに乗っていた。

 

 わずかに逃げ延びた私兵達がいる中で、マーサは怒りに震えながらオーガスタのベントナとの通信を取っていた。

 

「状況は変わったわ!!!今すぐパトゥーリアをよこしなさい!!!」

 

「し、しかしっ、ミズ・マーサ、あれを完全に起動させるには一人の肉体が必要で……!!!」

 

「だったら、あなたの管轄のもう一人の小娘をよこしなさい!!!」

 

 もう一人の小娘……それはロニを指していたが、ベントナは見せる表情からもこれを頑なに拒否する意向を示した。

 

「な?!!それだけはできません!!!今彼女はサイコガンダムMk-Ⅲの最適合者!!!とても解体などできません!!!今後も重要な戦力の被検体です!!!」

 

 ベントナいわく、ロニはサイコガンダムMk-Ⅲの適正パイロットとして各地の紛争地域を転戦させられていた。

 

 この時も、とある紛争地域において悪鬼のごとき猛威を奮い、ボディの各所に設けられたメガ粒子バスターの砲門からビーム過流を撃ち放っていた。

 

 ジムやザク、グフ、ドムといった旧連邦や旧ジオン軍系のMS達が入り乱れる混合勢力の対立の地にそれは撃ちそそがれ、次々に爆砕と破砕を与えていく。

 

 その後も何度もメガ粒子バスターのビーム過流を注ぎ、紛争地域もろとも業火の廃墟に変貌させていった。

 

 焼き尽くした業火を虚ろな目で見つめるロニは完全にMDのような人形と化してしまっているようだった。

 

「ちっ……!!なら、つべこべ言わずにDOMEシステムをよこしなさい!!!完全でなくても起動はできるのでしょう?!!だったらそれごと組み込んだ方が手っ取り早いじゃない!!!」

 

「ミズ・マーサ!!!あのシステムは容易く持ち運びできるようなシステムではありません!!!つきましてはオーガスタ研究所で今現在唯一コールドスリープ保管ができている、DOMEシステムで利用しようとしていたリタ・ベルナルを月に……!!!」

 

「くっ……もっと早く言いなさいよ!!!なら、その小娘を月に回す手配しなさい!!!」

 

 目くじらを立ててヒステリックに声を荒げるマーサの様子に、私兵達も汗を流して緊迫を隠せない。

 

 その状況をコックピットで聞いていたヴァルダーは鼻で笑い、自分の艦を破壊されたにもかかわらず、不気味なまでに至って冷静でいた。

 

「ふん……醜いな実に。我々ブルーメンツが予算を割く月の女帝……飛んだヒステリーだな。まぁ、我々の利益に繋がる破壊を生んでくれればそれでいい。ラプラスの箱なるものは依然として不明だが……我々としては如何なるモノなのかを把握することだ。利用価値があれば利用し、危険であれば破壊するまで。些末なことだ」 

 

 そうヴァルダーは呟くと再びメインモニターに目をやり、モニターの一点を拡大させる操作をした。

 

 そこには巨大な宇宙戦艦の姿があった。

 

「あちらから迎えてくれたか……本当の私の艦、グランシャリオ……!!!」

 

 

 

オーストラリア・旧シドニーOZ収監施設

 

 

 

かつてのブリティッシュ作戦のコロニー落としで消滅したシドニー跡。

 

その巨大なクレーターの海の洋上と岸に造られたOZの収監施設にはマフティーの一味やその他反OZ、旧連邦、ジオン残存兵士といった反乱分子の者達が収監されていた。

 

周囲の岸部エリアには警備のリーオーやジェスタ、上空にはエアリーズが常に交代で警備にあたっている。

 

収監施設自体にも対空・対地防衛システムの装備が備わっており、収監施設よりも基地や要塞であった。

 

長期的に収監されている者達や処刑待ちの状況の者達など幅広い反抗の意志を持った者達が捕らえられている中、マフティーのメンバー達もここに収監されていた。

 換気用の窓が一つだけある収監室に粗末なベットのみでそれぞれがナンバリングされた指定収監服を着せられ、早かれ遅かれ来る処罰の時を待つ。

 

 そんな施設の一室でベットの上に膝を抱える優等生風なメガネの女性がいた。

 

「はぁ……あたしはいつまでこんな場所に……処刑されるのだけは……絶対に、嫌」

 

 彼女がため息まじりに窓を見上げると、日がそこだけから差し込んでいる。

 

 繰り返される日々に変わりがない部屋がまた更に彼女のため息を多くさせる。

 

「はぁ……メンバーのみんなもずっとこんな状態なのかな……ん?」

 

 その時、外のOZ兵士達が慌ただしくしている声や音が聞こえてきた。

 

「外がなんか騒がしい……何かあった……?!」

 

彼女が収監室のドアに耳を当てると、OZの兵士達の声が聞こえてきた。

 

「OZプライズがここに?!一体どういう事だ?!!」

 

「財団のやつらがトレーズ様を幽閉しやがったのは知ってるな?!」

 

「あぁ!!」

 

「欧米圏では同志達が反抗の意を表しているが、財団は早くも他のエリアに向けた対抗策に出たようだ!!」

 

「まさか、収監施設諸ともやる気か……?!!」

 

「やりかねんな、プライズなら!!!表向き上は視察らしいがっ、信用できん!!!」

 

会話から得られた事はじわりと危機的な状況が迫っていた事だった。

 

「そんな……!!!今の兵士の会話が本当なら、じゃあ、あたし達は殺されるって事なの?!!マフティー……ううん、ハサウェイ、早く来て下さい……!!!」

 

マフティーとは先の争乱で亡くなったブライト・ノアの息子・ハサウェイであった。

 

そのマフティーとネェル・アーガマクルー達はミッションのミーティングをモニターを用いて続けていた。

 

「……以上のように地球ではOZとOZプライズの間にそのような動きが起こっている。そちらと合流する前に手遅れになる可能性も……極力合流日を早めてもらいたい」

 

「無論だよ。我々としても一刻でも早く合流したい。しかし、この距離では最低約二日以上はかかってしまう。物理的にもそれが現状なのは理解して欲しい」

 

 マフティーとケネスのやり取りの会話の後、デュオが提案を持ちかける。

 

「ヒイロのウィングゼロに先行してもらうってのはどーだ??それなら速いしマフティーも助かるんじゃねーか?それに、ウィングゼロならば向かうところ敵無しで一網打尽にできるはずだからな」

 

「確かにゼロならば容易く単機でやれる。だが、それは完全に拠点を破壊制圧する場合だ。今回はあくまで救出のサポートであり、重要な事は如何に多くの敵を分散させながら気を引かせて時間を稼ぐかにある……」

 

「あぁ。ヒイロと同意見だ。多数機で分散して動いていた方が効率よく敵の目を分散させて引き付けられるからな」

 

「……あちゃ~、そうなるかっ。いい案だと思ったんだがなっ……」

 

ヒイロとトロワはデュオの意見を人蹴りし、デュオは自分の意見に落ち度を感じ表情を崩す。

 

「確かにヒイロの言う通りです。この作戦が制圧ならデュオが言ってくれたゼロ単機の方法でもいい。普通に考えれば危険なんだけど、ゼロとヒイロの組み合わせですからより安心です」

 

「ヒイロを買ってんだな~。ま、俺もだが……じゃあ、どうやって時間の問題を解決するんだ??」

 

「このネェル・アーガマには、本来存在しない機構が増設されています。僕達のガンダムをネェル・アーガマと直結させてPXシステムを艦そのものにフィードバックさせる機構です」

 

「はぁ~?!!マジかよ?!!初耳だぜ!!!」

 

「断続的に各ガンダムのPXをローテーションでやっていき、それに連動してネェル・アーガマにもPXが発動して通常時を遥かに上回る速度で航行が可能になるんだ。ケネスさん、いかがですか?」

 

「ふむ。時間の問題は解決できるな。よし、その航法でいこう。時間も限られている。それが今できる最もな合理的手段だ」

 

「初めての試みだけどやってみましょう!!」

 

 

 

時を同じくする頃、ジンネマンはネェル・アーガマの医務室のベットに横になるマリーダとプルに付き添いながら、ネェル・アーガマ専属の元軍医の女性から彼女達の容態を聞かされていた。

 

苛烈な環境下から解放されたマリーダとプルは疲弊し切った体をベットに預け、姉妹揃って就寝している様子だ。

 

「……ふぅ……正直、危ない状況だったわ。彼女、極度な栄養不足な上、色々な手法の実験を試されてきたようね。心身共に強化人間関連の実験による悪影響を併発してる。薬物が使われなかったのが不幸中の幸いね」

 

「なんてことをっ……マリーダぁ……!!!」

 

「ジンネマンさん、とりあえず出来る限りの処置は済ませたわ……今は絶対に安静にさせてあげて。悲しい気持ち、やるせない気持ち、解るわ。私個人としても、軍医としても許せないもの……彼女をここまで痛めつけた人間を……」

 

カルテを見直しながら元軍医の女性は続けた。

 

「念の為、もう一人の彼女……プルちゃんも観させてもらったわ。精神的なカウンセリングも含めてね。彼女もまたひどい目に……」

 

「プルも実験をさせられていたんですか?!!」

 

「はぁ……幸い、直接の強化人間処置の痕跡はなかった。けど……」

 

含みある言動の後、元軍医の女性は重い空気を出しながら黙ってしまい、沈黙の時が流れる。

 

 しかしジンネマンはその沈黙を掻い潜りながらプルに及んだ事実を要求した。

 

「……?!なぜ黙るんだ?!頼む、正直に言ってくれ!!!」

 

「……思春期の幼気な少女の体をなんと思えばこんな諸行が……!!!はぁっ、彼女があの黒いネェル・アーガマでされてきた事を想像するだけでもやりきれないっ……!!!」

 

元軍医の女性は憤りを見せながら歯を食い縛った後にジンネマンへ答えた。

 

「正直と言ったけど、オブラートに包ませてもらうわ。彼女はこの年齢で女性としての……おそらく初めての痛い思いを強いられたのよ……私も同じ女性としてこれもまたとても許せないコトよ……最悪に至っていなかったのが不幸中の幸いだったわ」

 

ジンネマンはプルがグラーフ・ドレンデで何をされたかを悟り、余る怒りと悲しみを覚え奮えた。

 

「……おのれっ、おのれぇええええっ!!!」

 

「…………怒りは当然の感情よ。でも怒り、恨みだけに囚われないで。今は彼女達をしっかり支えてあげて」

 

「っ……くっ!!!すまないっ……!!!」

 

「それに、恨みは彼らが代わりに晴らしてくれたはずよ。ガンダムのパイロットの子達が。彼らが沈めてくれたそうじゃない」

 

 元軍医の女性の言葉に、ジンネマンはガランシェールから見たウィングガンダム・ゼロとガンダムジェミナス・グリープの勇姿を脳裏に過らせた。

 

 ツインバスターライフルとメガ・パーティカルバスターキャノンの同時撃ちに爆砕轟沈するグラーフ・ドレンデ……マリーダとプルを卑劣な目に合わせた者達がどれ程の因果応報を被ったかは想像に難くない。

 

 一呼吸を置いたジンネマンは元軍医の女性の名を聞いていなかったことに気づき、彼女の名を尋ねた。

 

「……そういえば名を聞くのを忘れていた。あんた、名は?」

 

「ごめんなさい。こっちも一方的にジンネマンさん達を知っていて、名乗り忘れていたわ。私はサリィ・ポォ。元連邦軍の軍医よ」

 

「サリィさん。娘達をよろしく頼む」

 

「こちらこそ。この後はパラオに戻るのでしょう?通信で私の方からも彼女達をサポートさせてもらうわ、ジンネマンさん」

 

 互い改めた挨拶を交わしたその時、マリーダが目を覚ましてジンネマンを呼んだ。

 

「お、お父さん……」

 

「マリーダ……!!!目が覚めたのか!!お前は大変な目に遭ってきたんだ。もう戦わなくてもいい、ゆっくり休んでくれてていいんだぞ。お前達さえ、お前達さえ無事にいてくれればそれでいいっ!!それでいいんだ!!この後はみんなでパラオへ帰ろう!!!」

 

 ジンネマンは優しく強くマリーダの手を握る。

 

 その間にサリィは二人の親子の会話と空気を読んで一時的に退出していった。

 

 口元に微笑みを浮かべつつも、自身の意志を吐露し始めた。

 

「ありがとう。でも……それでも私……」

 

 その口調はジンネマンを上官やマスターとしてきた口調ではなく、それはジンネマンを素直に父と捉えている上、かつての上下関係やマスター必然の刷り込みが彼女から無くなったことを示唆していた。

 

「それでも……私はここに残る。パラオには帰らない」

 

「何を言ってるんだ!?父ちゃんと帰ろう!!!もう、俺はこれ以上戦いの中にお前達を入れたくは……!!!」

 

「あたしも帰らないよ、パパ」

 

 マリーダの隣で寝ていたプルもまた目覚め、マリーダと同じ意見をジンネマンに吐露した。

 

「プル!!?お前まで……!!!なんでなんだ!!?何故わざわざ危険な目に……!!!?」

 

「あたし、ラプラスの箱を見つけたい。だって……これに関わって亡くなっていったカーディアスさんやアレナさん、ビスト邸の人達の命や、遠巻きに巻き込まれて危険に晒されたパラオのみんなの命……こんな中途半端なところで諦められない!!!」

 

「プル?!!」

 

ジンネマンはプルから放たれた言葉達にブレのない芯がある想いを感じさせられた。

 

彼女いわく、ラプラスの箱に関わった為に失われた命が確かにあった。

 

プルの想いは更に続く言葉となる。

 

「それに、パパだってこの見えない宝探しに賛成して動いてくれてたじゃん!!!こんな間違った世界をよくする可能性に……あたしを心配してくれるのは勿論嬉しいよ。実の娘じゃないのにここまで想ってくれるんだもん。でもね、あたしは自分の意志でみんなの為の力になりたいの!!!」

 

「ぷ、プルっ……うくっう……!!!」

 

 流石のジンネマンも、かつてないまでに意志を伝えてくるプルに出す言葉も息詰まってしまう。

 

 ニュータイプの気質か否か、ジンネマンは十代前半の少女の言う言葉とは思えなかった。

 

 否、それ以前に生きてきた環境が特殊だった為か……いずれにせよ彼女はラプラスの箱の探索を全うする事を主張していた。

 

 それは今の状況上、正論な事であり、同時にプルがユニコーンガンダムに乗り続け、時に戦うことを指す。

 

 うつむきながら自分が言うべき言葉を模索し始めるジンネマンに、続けてマリーダが再び意志を投げかけた。

 

「私も……お父さんの気持ちもわかってる。感じることができるから。それでも、私はヒイロ達の闘いを見届けたい。狂った今の時代に反抗できる力をヒイロ達は持っている。あの日……大気圏でヒイロと出会い、そこから関わり始めた私もまた、彼らの状況の一部になっている……狂った時代を終わらせる可能性の行き着く先を確かめたい。ヒイロ達と一緒に……それに私、ヒイロの事が……好きだから……」

 

 二人の娘達が自らの意志を主張する。

 

 それに答える時、どちらかの娘と離れ離れになることを意味する。

 

 加えてマリーダに関してはヒイロへの好意を告白した。

 

ジンネマンは葛藤する。

 

 衰弱している中、ようやくマスターではなく父と呼ぶようになったマリーダの傍か、ラプラスの箱を探すにあたり、ユニコーンガンダムで戦闘に晒されかねない年端もいかないプルの傍か。

 

 しかしマリーダを選択した場合、彼女の恋路に邪魔になりかねない。

 

 だが、ヒイロに関しては様々な意味でジンネマンは固く認めていた。

 

 ジレンマと淋しさがジンネマンの中で去来する。

 

 もうこの時点で二人ともパラオへ連れて帰るというジンネマン自らの想いを主張する気持ちはなかった。

 

 その時、マリーダは隣のプルに顔を向けながら、言葉を交わすことなく意思を通わせて頷き合った。

 

 そして再びジンネマンに向きなおし、彼の手を握り返す。

 

「?!」

 

 それにはっとなったジンネマンはゆっくりとマリーダに顔を上げた。

 

 するとマリーダは口元に変わらない笑みを見せながら言った。

 

「……確かに私と姉さんが行きたい道にはどちらも戦闘の危険はある。けど、まだ姉さんの方がお父さんが必要だと思うから……お父さんは姉さんの方に行って。それに私はもう大人だから……大丈夫」

 

「マリーダ……!!!」

 

 娘を送り出す淋しさと自立の嬉しさが入り乱れ、ジンネマンはまた目頭を熱くさせた。

 

「お父さん……私達のわがまま……許してくれる?」 

 

 マリーダのこの言葉を前に、ジンネマンは常に肌身離さずに持っている亡き実の娘との写真を取り出す。

 

 ジンネマンは、まるで三人の娘から問いかけられているような感じを覚える。

 

 もう何と表現していいかわからない感情が溢れたジンネマンは、再び顔を伏せながら震え、床に大粒の涙を流し続けた。

 

「おおおっ……うっ、おおおっ……!!!うっっ……もうマリーダが俺を父と言う以上、俺はもうマスターではないぞっ……うぅっ、だからこれは、俺がマスターとして言う最終命令だっ……お前達のわがままを、赦すっっ!!!感情に従えっ……!!!」

 

 ジンネマンの上官としての最後の命令を下す。

 

感情に従え……それは奇しくも、かつてヒイロの父とも言える男・アディン・ロウがヒイロに教えた「感情のままに行動することが正しい人間の生き方」に通じる言葉だった。

 

「了解……お父さん」

 

「あたしも……了解っ」

 

 マリーダとプル……二人の娘が素直な笑顔で答えると、ジンネマンは再び目頭を押さえて顔を伏せた。

 

 すると、くすっとプルは笑いながらごく自然なふるまいでわがままを重ねた。

 

「じゃあ、パパはまたあたしと一緒にラプラスの箱探してね」

 

「ああ!!探すとも!!」

 

「じゃあさ、じゃあさ!!アディンも認めてあげて!!あたしだってアディン好きなんだよ!!」

 

「……あぁっ……認めてやる!!!あいつ、何だかんだでお前たちの救出に結果を出したんだからなっっ!!!」

 

「やった☆認めてくれたっ!!ありがと、パパ!!!」

 

「……ただしっ、あいつが変に手を出したら生身のまま宇宙に投げ出してやる!!!」

 

「えぇ?!パパのケチ!!!ちゅーもダメなの?!!」

 

「はぁ?!!ちゅーもだとォ?!!しかも、『も』?!!いや、そもそもケチとかの問題じゃない!!!もうそのわがままは赦せる範囲外だっ!!!ここからは父親としての指導する立場でだなっっ……!!!」

 

「好きなんだからいいじゃーん!!!」

 

「ぬおおおお!!!父ちゃんはっ、悲しく怒るぞおおおお!!!」

 

「意味わかんないし!!」

 

 プルのわがままは少しマセタわがままを切り出しながら、たちまち親子の言い合いの雰囲気に変えてしまった。

 

 そのやり取りに挟まれる形になってしまったマリーダはきょとんとしながらも、紛れもない平和的な父娘の場面として捉え、その表情にまた笑顔を含ませた。

 

 

 

 ネェル・アーガマ CICブリッジ

 

 

 

ミーティングは一応のまとまりを見せ、ケネスが進行する今回のマフティーメンバー救出サポートの作戦ミーティングに、マフティーが感謝の言葉を述べた。

 

「我々へのこれほどまでの厚い協力、感謝する。こちらも、計画通りΞガンダムの強奪に成功した。だが、それでも正直、我々だけでは仲間の救出など不可能に近い。できたとしても引き換えにより仲間を失う結果になっていただろう。それ程この収監施設は厄介なんだ。今後も我々マフティーはメテオ・ブレイクス・ヘルに対し、支援協力させてもらう。今は作戦の成功にお互い尽力し合おう……では地上で会える事を楽しみにしている」

 

マフティーことハサウェイは、組織上のマフティーとしての言葉を残して通信を終えた。

 

(今の体制に不満を抱くのは当然だ。我々がいた連邦がOZに刷り代わり、より一層狂った方向に時代が向かっている……若い世代が、反抗を抱いて命をかけていく。これもメテオ・ブレイクス・ヘルが示した影響なのだろうな……)

 

ケネスはこのミーティングの中、マフティーを含むヒイロ達若い世代が時代に抗う姿勢に改めて考えさせられるモノを感じていた。

 

一呼吸置いたケネスは続けてこれからの行動の議題に入り、ジンネマンの代理としてミーティングに参加していたフラストに話を振る。

 

「では次にこれからの行動であるが、ガランシェールは我々と別行動ということを伺っている。しかしながら救出したマリーダ中尉の容体は決していいものではないと聞く。彼女の治療には本艦の設備が現状最も最適な環境を提供できるのだが、いかがしますか?そちらがL2方面を目指すにあたり……」

 

「いかがもなにも……そこはマリーダがどうしたいかになりますよ。こっちの意見を言うならマリーダの身が最優先すからね。それはキャプテンの意見と同義に繋がることになると思いうんで。ま、キャプテンが残るっていうなら、こっちもまた考えて向かいますよ。問題は誰がこっちの護衛に……」

 

 フラストの意見の後、ヒイロは隣にいたアディンに目を向けながら意見を放つ。

 

「俺は地球を目指す。どの道ゼロで地球に向かう行動に必然性がある。ゼロの予測でも戦闘率が濃くなるのはネェル・アーガマの航路側だ。ガランシェールの護衛はアディン、お前だ。ガンダムジェミナス・グリープはウィングゼロに匹敵するガンダムでもある」 

 

「あぁ!!俺もそのつもりだ。任せな!!それにジェミナス・グリープはもう本領発揮できるしな!!」

 

 張り切るアディンであるが、彼の様子を見ていたラルフが警告めいた意見を述べた。

 

「だが、油断はするなよ、アディン。もしかしたらあの黒いネェル・アーガマの親玉はまだ生きているかもしれない。黒いネェル・アーガマを撃破する直前に妙なMSが飛び出していった。すなわち今後も付け狙われる危険性があるってことだ」

 

「マジかよ?!!完全に葬ったかと思ったのに……!!!」

 

「あぁ。俺とマグアナックチームが見た。無論、仕留められるんだったら仕留めてる。スピードからしてあれはガンダムクラスだろうな……なんだ?まさかビビってんのか?油断するなとは言ったがビビって自信無くせとは言ってねーぞ」

 

「はぁっ……んなわけねーっての。仕留め損ねていたのが後味悪いってやつだよ。何が来ようとキメる!!!俺達は……Gマイスターなんだからな!!」

 

「なら、よし。いつもどーりのアディンだな。気張れよ」

 

「へっ!」

 

 アディンとラルフのやり取りの切りを見たケネスは行動プランのまとめに入ろうとした。

 

「……では、ガンダムジェミナス・グリープとユニコーンガンダムは、速やかに搬入準備に入ってもらおう。そのガランシェールへの搬入準備からガランシェール離脱まで本艦は補給事項とする……実はある人物達に既に機密的に動いてもらっていて、この間まで並行進行してもらっていた……エイーダ君、回線を……」

 

 ケネスがある人物達に回線を開く指示をしたその時、ミーティングの最中に医務室より内線通信が入り、エイーダが通信を促した。

 

「あの、ケネス艦長。先に医務室からの内線が」

 

「内線?ジンネマンキャプテンか。繋いでくれ」

 

「了解」

 

 CICブリッジのモニター画面にジンネマンが映り、ケネスに先程決めた方針を伝えた。

 

「世話になる。ガランシェールのキャプテン、スベロア・ジンネマンだ。ガランシェールのこれからの行動の事について伝えたい」

 

「それでしたらちょうどよかったです。こちらもその件についての一旦のまとめに入ろうとしていました。それで伝えたいこととは?」

 

「医療設備やこちらの事情も踏まえた上でマリーダだけこの艦に残ることになった。そこであの子のMSであるクシャトリヤをそちらに預けたい。お願いできますか?」

 

「えぇ。あなた方がよければ一向に構いませんが……」

 

「キャプテン!!マリーダを戦わせる気なんすか?!!」

 

 ジンネマンの決めた方針に早合点したフラストが声を大きめにして言った。

 

「馬鹿、誰が早々戦わせるというんだ。今は絶対の安静だ。あくまでマリーダが回復して自分の意志で戦う時が来た時の為の準備だ。ここに残るのもマリーダ自身で決め、プルもラプラスの箱の探索の完遂に自分の意志を示したんだ。ガランシェール隊は搬入作業後、次のラプラス座標、旧コア3を目指す。後、護衛はアディン、お前だ。頼んだぞ」

 

「そう言うことですかい……了解しやした!!!」

 

「キャプテン……OK!!!キメてやるぜ!!!」

 

「では……決まりかな。エイーダ君、先ほどの例の回線を」

 

「了解。こちらネェル・アーガマ。ピースミリオン、応答お願いします」

 

「ガランシェールの皆さんにも搬入と並行して我々の方から気持ちですが、物資を提供させていただこうと思ってね。ジンネマンキャプテン、いかがですか?」

 

「いいんですか?!恐縮な限りで……」

 

 ピースミリオン……一部のGマイスターやガランシェールクルーに聞きなれない単語が放たれ、少し表情を変化させる中、カトルとトロワは平常的な表情をしていた。

 

 話を聞いてないと言わんばかりの表情のデュオやアディンは、カトルとトロワ、ラルフが承知しているような表情に気づき、二人に尋ねる。

 

「聞き慣れない単語だな。こちとら初耳だぜ!カトルは何か知ってんのか?」

 

「俺も初耳だぜ。ピースミリオンってなんだ?」

 

「ゴメン、皆さんに言いそびれてしまってました!もう一つサポートしてくれる陣営があるんです。それがピースミリオン!」

 

「確かに俺も言いそびれていた。だが問題はない。お前達もよく知っている。何せ地上で活動している時に世話になっているからな」

 

「俺も情報のやり取りで世話になったかな?」

 

「世話?え?!まさか?!」

 

「地上??世話??」

 

 トロワの言葉からデュオは勘づき、アディンはまだわからない様子を示している時、ヒイロがその人物の名を口にした。

 

「ハワードか」

 

 その直後、モニターに相変わらずのアロハシャツを着たハワードの姿が表示された。

 

 地上で活動していた頃、超大型サルベージ船・オルタンシアを引っ提げてヒイロ達Gマイスターをサポートしていた人物だ。

 

「こちらピースミリオン……おうおう、懐かしい顔が揃っとるね!!久しぶりだな、お前達!!」

 

 

 

 翌日 旧シドニーOZ収監施設

 

 

 

 地球各地ではトレーズ幽閉に異を唱えるOZに対し、OZプライズが動く傾向が強まっていた。

 

 欧米諸国周辺エリアで徹底的な対立が起こっている中、オセアニアエリアも例外では無く、フライトユニットを取り付けたプライズリーオーとプライズジェスタの部隊が収監施設を目指していた。

 

 その最中、旧シドニー収監施設のOZは「やられる前にやる」という概念を捻じ曲げた方向に振る行動を起こす。

 

「収監施設の囚人全員を処刑?!!」

 

「そうだ。目には目を、歯には歯を……やられる前にやるっ!!!トレーズ閣下の教えを背くのは承知!!!しかし生き残るならばOZプライズのやり方をなして示し、ここだけでも懐柔を図るのだ。既に奴らとの連絡も取っている。姿勢……つまり我々はプライズ側のやり方に賛同し、反抗はせんという意思を示すのだ」

 

「しかしっ、それではっ……!!!」

 

 口答えをしようとした部下に対し、施設最高責任者のOZ兵士は銃を突きつけた。

 

「生き残るにはな……それしかないんだ……!!!俺だってトレーズ閣下を裏切りたくはない!!!だがっ、こうするしかないんだっ……!!!」

 

 状況は最悪な方向に事が運び、囚人達が一斉に連れ出され次々に指定された場所へと連行されていく。

 

 最早どの反抗勢力の者達なのかは関係なく無差別に連れ出され、専用の船舶に押し込められたその先には巨大なOZ双頭カタパルト空母が待機していた。

 

 この思い切ったOZ収監施設の行動の波は当然ながらマフティーメンバーを容赦なく呑みこんでいき、マフティーのメガネの彼女にもその荒波が押し寄せた。

 

 どよめきや怒号、悲鳴が周囲に響く異様な状況の中、彼女は理解ができぬままにOZ兵士に連れ出されていく。

 

「出ろ!!!」

 

「え?!!いやっ、痛い!!!離して!!!」

 

「時が来たんだよ!!!来い!!!」

 

「……いや……いやぁっ!!!まだ死にたくないっ!!!離してっ!!!いやぁああっ、ハサウェイ!!!ハサウェイ、助けてぇぇえっっ!!!」

 

 彼女がハサウェイの叫ぶ声は次第に囚人とOZ兵士達の群衆に消えていった。

 

 その頃そのハサウェイであるマフティーはΞガンダムとメッサ―4機でOZ収監施設を目指していた。

 

 彼女の叫びに呼応するように嫌な予感を過らせる。

 

「っ……ミヘッシャ!!!なんだ?!今の感じはっ?!!みんなっ……待っていろ。必ず助ける……!!!」

 

 その時、全周モニターのサブモニター枠が表示され、先行する救出隊のメンバーからの通信が入る。

 

「こちら先行救出隊!!リーダー!!!状況がおかしい!!!やつら、囚人達を一斉に海上の巨大空母の甲板に集め始めやがった!!!」

 

「何?!!」

 

「しかも周囲にはMSが多数……周回警備している機体もいれば、甲板でライフル構えてる機体もいやがる。なんとも物々しい状況だぜ」

 

「おそらく……想像したくはないが一斉に処刑する気だ!!!だが、妙に大胆過ぎる。何か意図があるはず……いや、どんな意図があろうとも俺達にとっては最悪な結果に違いはない……!!!」

 

 とにかく今は迫りつつある収監施設へ一刻も早く到達し、気を引かせることだ。

 

「各機、速度を上げるぞ!!!少しでも早くポイントへ到達し、時間を稼ぐんだ!!!」

 

「了解!!!」

 

 Ξガンダムとメッサ―を飛ばすマフティーと仲間であるが、その最中に更なる悪い情報がマフティーに飛び込む。

 

「リーダー……最悪な状況になりましたっ!!!対岸の方面よりOZプライズのMS部隊がッ……!!!」

 

「何だと?!!プライズが?!!」

 

 マフティーの中で善からぬ一つのつながりが生まれる。

 

「大規模な公開処刑とでもいうのか……?!!」

 

 プライズリーオーとプライズジェスタ。

 

 ワインレッドのカラーリングが目立つ二機種の部隊が迫る中、その部隊の隊長機のプライズリーオーにOZ収監施設の最高責任者よりプライズ部隊に向けた通信が入る。

 

「こちらOZ旧シドニー収監施設最高責任者のシスセット・ヌフ特佐であります。お待ちしておりましたプライズの皆さん。なにやら欧米では意志を違えた同志達が物騒な反乱をしているとのことですが、我々はそのようなことはないという意思を表明したい」

 

「OZプライズのユイット・ディス特佐だ。話は聞いている。して、貴公はどのような意思表明を?」

 

「我々の施設で収監している反逆者全員を我々で保有する双頭空母上に集めました。本来のOZはここまでは致しませんが、本日は公開処刑をご覧いただければと。反逆者はOZプライズにとっても絶対に罰する存在ですから」

 

「なるほど。いいだろう。我々は監視させてもらうが、私と一部の部下を交えさせてもらってもよいかな?反逆者をなぶり殺しにするのが好きでな」

 

 シスセットはユイット達OZプライズをギャラリーという立場で迎え、ユイット達を交えながら自分達の手による処刑をもって反逆の意志はない事を示そうとしていた。

 

 明らかに人道を外れた行為であり、トレーズが認めるはずもない所業なのは明らかだった。

 

「うっううっ!!!」

 

「さぁ、処刑までひたすら待ってな!!!」

 

 メガネの上からの目隠しと猿ぐつわ、手錠をかけられたミヘッシャが大勢の囚人達と共に甲板に立たされた。

 

 何も見えない中、多くのざわめきとMSの動力音が鳴り響き、その間にも確実に彼女の死が迫っていた。

 

 (嫌っっ、死にたくないっ……!!!)

 

 ミヘッシャは目隠し越しに涙をにじませる。

 

 その間にも容赦なくリーオーとエアリーズが銃を構え、ユイット達のプライズリーオーとプライズジェスタもまた銃を構える。

 

 ミヘッシャは聞こえてくるMSのジョイントの駆動音に戦慄を覚えた。

 

 (ああっ……もう一度、ハサウェイに……会わせてっ……!!!)

 

 時機にくる死を前に、ミヘッシャの高鳴る心拍の鼓動が加速していく。

 

 シスセットとユイットは互いに通信回線を開いた状態で合図を取り合う。 

 

「ではユイット特佐。盛大なる処刑を……反逆に罰を……!!!」

 

「くくくっ、では執行しようではないか!!!」

 

(―――っ?!!何か来る?!!)

 

 MS達の銃口が一斉に空母甲板へと向けられたその時、ミヘッシャは近づく聞き慣れない音を感じとり、それと同時タイミングで岸側の基地より緊急通信が入った。

 

「両特佐、お待ちください!!!衛星軌道上の監視衛星から緊急通信が入りました!!!本エリア上空の大気圏を突破する、四つの未確認機影と戦艦クラスの機影を確認したとのことです!!!更に対岸方面からもMSと思われる機影が急速接近中です!!!」

 

「何ィ?!!」

 

「上空だと……!!?」

 

 ユイットが見上げるその上空の彼方の衛星軌道上に、地上へ向けて四つの閃光が軌道を描いてはしる。

 

その閃光はヒイロ達4機のガンダムだった。

 

「リ・オペレーション・メテオってか!!」

 

「やはり、こうあるべきだな。俺達の任務は」

 

「状況が予測していたよりも僅かに違っているようですが、こちらはゼロシステムで予測を共有できています!!!」

 

「あぁ。中規模のOZプライズの部隊が集結している。一部の汚いOZ兵士達が、保身の為にプライズに対しアピールしようとした腐りきった所業だ。どの道殲滅する!!!」

 

ヒイロはそう言い残し、ウィングガンダム・ゼロを降下加速させ、デュオ、トロワ、カトルもそれに続いて降下加速を開始する。

 

「殲滅って……ま、プライズの連中そのものが地球の災厄みたいなもんだ。誰かが鉄槌かまさなきゃな!!」

 

「本来は陽動だが、攻めるに越したことはない」

 

「僕達もヒイロに続くよ!!少しでも、マフティーのメンバーをはじめとする囚人の方達の救出を有利にさせよう!!!」

 

再び舞い降りる四つの流星……それとほぼ同時にマフティー達もまたOZ双頭カタパルト空母に接近していた。

 

「ミヘッシャ、みんなっ、間に合えぇええええっ!!!」

 

マフティーはΞガンダムを感情任せに急加速させ、海面スレスレをかっ飛ばす。

 

「だぁあああぁっ!!!」

 

凄まじい水しぶきを巻き上げながらΞガンダムはビームバスターを構え、高速で連発射撃を開始した。

 

 

 

バズダァッ、バズダァ、バズダァ、バズダァアアアア!!!

 

ドォズゥガッ、ドォディギャッ、ドォズゥン、ドォズゥガアアアアン!!!

 

 

 

花火が連発するような速さで、ホバリングしていたリーオーとエアリーズが2機づつ爆砕した。

 

そしてΞガンダムはOZ双頭カタパルト空母の上空を駆け抜けながら右肩のビームサーベルを抜き取ってビームを発動させる。

 

「ビームと爆発音??!誰かが来てくれた?!!もしかして……ハサウェイ達??!」

 

ミヘッシャの頭上を駆け抜けるΞガンダムはレフトアームを唸らせながらプライズリーオーに向けてビームサーベルを振るった。

 

「はぁああああああっ!!!」

 

「何ぃ?!!」

 

 

 

ズバシャアァアアアアンッッ!!!

 

ドッゴバォオオオオオオッ!!!

 

 

 

マフティーの怒りを乗せたΞガンダムは、迫るプライズリーオーに斬撃を高速で叩き付け、一気に機体を寸断爆砕させてみせた。

 

爆砕するプライズリーオーを尻目にΞガンダムはもう1機のプライズリーオーを斬り飛ばすと、ビームバスターを高速連発してプライズジェスタ数機に射撃を叩き込んだ。

 

連続する爆発に機体を突っ込ませたΞガンダムは、振り返りながら両肩のアーマーを展開させた。

 

そしてその三角型アーマーの先端口径部にエネルギーがチャージされ、二本の中規模ビーム渦流を二回に分けて放った。

 

キルヴァが使ってこなかった武装・ショルダー・ビームバスターだ。

 

 

 

ギュリリリィィ……ドォズバァアアアァァッ、ドォズバァアアアアアッ!!!

 

 

 

4機のプライズジェスタをショルダー・ビームバスターで爆砕させると、再びOZサイド目掛けて襲い掛かる。

 

その最中、更に後続していたメッサー4機がビームライフルの射撃をかけ、エアリーズやリーオーを撃墜させていった。

 

「あれは、強奪されたΞガンダム!!!マフティーなのか?!!くっ!!!ならば、仲間の死を見よっ!!!」

 

シスセットが搭乗するリーオーがドーバーガンを甲板に向ける。

 

だが、それがマフティーの怒りをより強いものにさせた。

 

「っ……!!!させるかぁああああ!!!」

 

ドーバーガンを放つよりも先にΞガンダムが迫り、レフトアームのシールドをリーオーのコックピット目掛けて刺突させた。

 

「がぐごぁっ……!!!!」

 

シスセットはシールドで体をコックピットごと突き潰されるが、中途半端に命が繋がったが為に生き地獄を味わう。

 

そしてΞガンダムはぶっ飛ぶシスセット機のリーオーに三発のビームバスターを叩き込ませ爆砕させると、反転しながらショルダー・ビームバスターとビームバスターを併用した射撃をOZサイドのMS群へと放った。

 

悉くリーオーやエアリーズが破壊されていく光景が収監施設上空に拡がる。

 

「くっ……元はといえば施設ごとOZを掃討するつもりだったが、とんでもないことになったな……!!!」

 

「ユイット特佐!!上空より未確認機、来ます!!!」

 

「各機散開!!!マフティーと未確認機に別れて迎撃しろ!!!」

 

「はっ―――あぁあっ!!?」

 

OZプライズ兵士が返答と同時に見たのは上空からツインバスターライフルを構えるウィングガンダム・ゼロの姿だった。

 

「が、ガンダム?!!」

 

「目標ポイントに到達。OZプライズの部隊も確認した。破壊する……!!!」

 

ヒイロは間髪入れずに攻撃を開始し、ツインバスターライフルの銃口から凄まじいビーム渦流が撃ち放たれた。

 

 

ヴヴァドォオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

ドォバァシュァアアアアァァ……ドォドォドォゴゴバババガァアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

突如上空から襲い来るビーム渦流の直撃を受けた4機のプライズジェスタと2機のプライズリーオーが一瞬で爆砕する。

 

更にその高熱かつ高出力のビーム渦流が海面に着水し、爆発的な水蒸気爆発の水しぶきを巻き上げた。

 

「ひゅー!!こっちもド派手にいきますかぁ?!!なぁ、相棒!!!」

 

愛機に語りかけながらデュオは飄々と敵機群に自機を飛び込ませた。

 

ガンダムデスサイズ・ヘルはアームド・ツインビームサイズとバスターシールド・アローのビームを形成発動させ、前者を構えながら後者をかざすように突っ込んでいく。

 

 

 

ディシュゥゥッ、ディシュゥゥッ、ディシュゥゥッ!!!

 

ドォズゥガッ、ズシュドォッ、ディギィシュッ……ドォゴゴゴバアアアアアアン!!!

 

 

 

挨拶代わりに放つ三発のバスターシールド・アローの射撃がプライズジェスタ2機とプライズリーオーの胸部に命中し、連鎖的に爆発させていく。

 

連発でビームライフルとドーバーバスターを放つプライズリーオーの射撃もアクティブクロークに阻まれ、全くダメージの意味を成さない。

 

そして接近すると同時にガンダムデスサイズ・ヘルはアクティブクロークを展開した。

 

「な?!!悪魔っ!!?」

 

「定番な反応っ、死神だっての!!!」

 

デュオは聞こえてきた敵機音声に答え、ガンダムデスサイズ・ヘルをぶつけにかかった。

 

ガンダムデスサイズ・ヘルはメインカメラを光らせ、構えていたアームド・ツインビームサイズでプライズリーオーを斬り飛ばし、連続した斬撃乱舞で僚機のプライズリーオー3機を破断破砕させてみせる。

 

 

 

ザァシュガァァアアアッッ!!!! ザバシュンッ、ズゥガザァッ、ザギィシャアアアアン!!!!

 

ドォズゥガァッ、ドドドゴバァアアアアンッ!!!

 

 

 

「そらぁああっ!!!!」

 

更に機体を飛び込ませたガンダムデスサイズ・ヘルはライトアームを引き締めながらプライズジェスタの小隊目掛け、大振りのアームド・ツインビームサイズの斬撃を繰り出した。

 

 

グンッ―――ザァシュガッッ、ディッギャインッッ、ズゥガシャアァァッッ……!!!!

 

ドォドォドォゴゴバアアアアアアン!!!!

 

 

ガンダムデスサイズ・ヘルに続くようにガンダムヘビーアームズ改とガンダムサンドロック改が、ダブルビームガトリングとバスターガトリングキャノン、ビームマシンガンで連射撃を攻め入る。

 

「俺達が攻め入れば、嫌でも無視はできなくなる」

 

「うん!!僕達に引き付けさせよう!!!」

 

 

 

ヴァドドドドォルルルルルルルゥゥ!!! ヴォドゥルルルルルルルルルルルルゥゥゥゥ!!!

 

ドドドドォヴィイッ、ドォヴィッ、ドォヴィッ、ドォドォドォドドォヴィイイイイッッ!!!!

 

 

 

OZプライズ、OZ両陣営にビーム連射弾雨が降り注ぎ、プライズリーオーやプライズジェスタ、リーオー、エアリーズの四機種達が次々に装甲を破砕され、爆発していく。

 

その爆発する機体群の最中を駆け抜け、ガンダムヘビーアームズ改はダブルビームガトリングをメインに切り替えた射撃を乱舞する。

 

ダブルビームガトリングの連射撃は、エアリーズやリーオーを次々に砕き散らせながらプライズリーオーとプライズジェスタも連続で破砕し撃墜に撃墜を重ねた。

 

ガンダムサンドロック改もまた、ビームマシンガンの連射撃を見舞いながら攻め入り、構え直したクロスクラッシャーを突っ込ませて、プライズジェスタを豪快に破断する。

 

 

 

ヴィディリリルルルルルゥゥ!!!

 

ザッッダガァアアアアアッッッッ!!!!

 

 

 

そこから連続でレフトアームに握りしめたバスターショーテルの斬撃を2機のプライズリーオーと3機のプライズジェスタに食らわせて叩き斬り、クロスクラッシャーの斬撃も追加した攻撃を叩き込んだ。

 

 

 

ザッディガァ、ザッディガァア、ザッディガァアアアアア!!!

 

ズゥディガシャラアアアアア!!!!

 

 

 

「メテオ・ブレイクス・ヘル!!!来てくれたかっ!!!救出部隊は、OZの空母へ!!俺は少しでも引き付ける!!!」

 

マフティーはヒイロ達の介入を確認し、幾つかのリーオーとプライズジェスタをビームバスターとショルダー・ビームバスターの同時撃ちで撃破しながら、救出部隊に通達する。

 

「おぉおおおっ……?!!くぅっ!!!散開急げぇっ!!!」

 

ユイット機のプライズリーオーを筆頭に、OZプライズの部隊は散り散りに散開を開始して反撃の射撃を敢行する。

 

「スクランブル発進!!!スクランブル発進!!!本施設が襲撃を受けている!!!敵はあのガンダムと地元のマフティーだっ!!!」

 

収監施設の警備基地からは先行していたリーオー部隊と同じく、フライトユニットを装備したリーオーが

次々に飛び立ち、エアリーズ部隊もそれに続いて飛び立っていく。

 

かつてのブリティッシュの惨劇の地の空が瞬く間に戦場と化す。

 

ビームライフルとドーバーバスターが放たれる中、ウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルを分離させ、低中出力での射撃に切り替えた。

 

おびただしいビーム群を躱しながら射撃し、左右交互に放つその強烈な一発、一発が機体装甲を容易く吹き飛ばしながら破砕させる。

 

時折持続性のあるビーム渦流を放ち、射軸線上の敵機群を一掃して見せ、圧倒の限りを尽くしていく。

 

一方、収監施設のビーム砲も稼働を開始し、高出力ビームの一斉射撃が空に走る。

 

だが、それらの砲門はガンダムヘビーアームズ改が放つダブルビームガトリングとバスターガトリングキャノン、アームバスターカノンの一斉射撃により、次々に破砕されていく。

 

「今は囚人達の安全が確保し切れていない。施設を無力化させる」

 

トロワはそう言いながら次々に収監施設のビーム砲を無力化させ、そこから反転しながらOZのリーオーとエアリーズに向けてダブルビームガトリングとアームバスターカノン、バスターガトリングを浴びせ、連続撃破していく。

 

ガンダムデスサイズ・ヘルとガンダムサンドロック改はアームド・ツインビームサイズとバスターショーテルの斬撃で収監施設上空を駆け抜けていく。

 

ガンダムに引き付けられるようにOZ、OZプライズの両陣営のMS達に斬撃の無双が駆け抜ける。

「やっぱり、死神復活は大々的にっ……やるに、限る!!!」

 

「これだけっ……派手に暴れれば……嫌でも引き付けられる!!!」

 

2機は得意分野たる連続の斬撃と大振りの斬り飛ばしで敵機群を次々かつ大々的に撃破を重ねていく。

 

アームド・ツインビームサイズとクロスクラッシャー、バスターショーテルはまさに脅威を与える近接武装だ。

 

その最中、ユイット特佐駆るプライズリーオーがビームサーベルを振りかざしてガンダムサンドロック改に突っ込んだ。

 

「貴様らぁあああああ!!!」

 

「?!!」

 

バスターショーテルで斬撃を受け止めるガンダムサンドロック改。

 

通常のMSであれば圧倒するパワーがプライズリーオーにはある。

 

だが、オリジナルGNDドライヴかつパワー特化の改良型のガンダムサンドロック改には部が悪過ぎた。

 

瞬時にビームサーベルは捌き外され、ユイット機はクロスクラッシャーのヒートショーテルの両刃に挟み込まれた。

 

「がぁあっ?!!」

 

「ごめん……なんて言いたくないね!!!」

 

ユイット機のプライズリーオーは、GNDエネルギーで赤熱化したバスターショーテルの刀身で挟まれ、一瞬で斜め縦に破断され爆発していった。

 

その爆発から飛び出したガンダムサンドロック改は、クロスクラッシャーの刺突もとい破突をその先にいたプライズジェスタに食らわせる。

 

ガンダムデスサイズ・ヘルもまた、攻め来るプライズサイドに時折バスターシールド・アローの射撃を挟みながら強力な連斬撃を食らわせていく。

 

強化GNDドライヴから供給されるビーム二連刃による破壊力は、ガンダリウムβ装甲を容易く破壊する威力を有する。

 

「あんたら……処刑が好きみたいだが……今日は、あんたらが死神に処刑される羽目になったなぁ!!!」

 

深くアームド・ツインビームサイズに斬り込まれた1機のプライズジェスタの胸部が破断され、その切断面の向こうに目を光らせたガンダムデスサイズ・ヘルが顔を覗かせた。

 

その斬撃は更に降り拡がり、周囲のリーオーやエアリーズ、プライズリーオーを斬り飛ばし続ける。

 

一方、ウィングガンダム・ゼロは両陣営の敵機達を引き付けながらツインバスターライフルの低中出力射撃で次々にOZ、OZプライズ両陣営のMSを吹き飛ばし、撃破を重ねる。

 

反転際に左右交互に発射し、更に二挺のツインバスターライフルをかざしながら高出力のビーム渦流を撃ち放った。

 

二本の唸るビーム渦流が走り、瞬く間に複数機のMSが吹き飛ばされ、夥しい数の爆発光と化していく。

 

その最中にヒイロは警備基地施設を確認しながら左右両端にツインバスターライフルを突き出し、再度高出力のビーム渦流を撃ち放ち、周囲の敵機群を一掃させた。

 

そして再び連結させたツインバスターライフルをかざす。

 

「情報にあった収監施設の基地か……確かにそうかもしれん。あながち、デュオが言っていたことは一理あったな。破壊する」

 

ヒイロはゼロシステムが見せた戦略を脳裏で味わい、それがミーティング時にデュオが言った「単機攻め」にも通ずると認識しながらゼロシステムに言葉で答えた。

 

「引き付ける以前にその引き付ける対象そのものを排除する……」

 

ツインバスターライフルにエネルギーがチャージされ、最大出力の圧縮率にまでGNDエネルギーが充填されていく。

 

ヒイロの視界に投影される詳細なロック・オン標準モニターが確実に基地施設を捉えた。

 

その最中、基地を守らんとするリーオーとエアリーズ達がウィングガンダム・ゼロへ射撃を仕掛ける。

 

放たれる全てのビームとレーザー射撃を敢えて身に受けるウィングガンダム・ゼロ。

 

無論、最強の装甲材であるネオ・ガンダニュウム合金からしてみれば些末なダメージに他ならない。

 

「ターゲット、OZ収監施設警備基地。破壊する」

 

 

 

ヴィヴィリリリリリィィ……ヴォヴヴァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

 

 

放たれたツインバスターライフルの最大出力の大規模なビーム渦流は、阻むリーオーとエアリーズ部隊を一瞬にして熔解破砕しながら突き進む。

 

注がれるビーム渦流は、基地施設に激突しながら一気に管制塔や格納庫、起動前のMS達を破砕エネルギーで吹き飛ばした。

 

注がれるビーム渦流の中心軸から強烈なエネルギーの爆発が発生し、巨体な爆発光と爆炎を上空へ巻き上げさせた。

 

この光景を見たOZの兵士達は誰もがその戦意を失った。

 

ウィングガンダム・ゼロのその力を垣間見たマフティーは、双頭空母の甲板へΞガンダムを着地させながら呟いた。

 

「あれが……反抗の象徴、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム……!!!」

 

 

 

 

To Be Next Episode

 

 

 

 次回予告

 

 

 メテオ・ブレイクス・ヘルとマフティーの合同強襲を兼ねた囚人救出作戦の爪痕は、OZプライズに大いなる衝撃を与える。

 

 再び動き始めたガンダム達の力も視野に、ロームフェラ財団は地球各地の反抗活動及び紛争地域制圧するMD降下作戦・オペレーション・ノヴァの実行段階に入っていく。

 

 北欧の平和象徴小国・サンクキングダムの周辺においても、OZプライズの追撃から逃れようとするOZ部隊の入国を受け入れ、ミリアルド達が自国防衛を兼ねての自衛戦闘を強いられていた。

 

 一方、エアーズロックの地下基地において、デュオとカトルを護衛にケネス達が新生メテオ・ブレイクス・ヘルの代表としてマフティーと直接会談を行う。

 

 だがその最中、オペレーション・ノヴァの脅威がエアーズロックに舞い降りる。

 

 突然のMDの猛攻に対し、デュオとカトル、そしてマフティーが迎え撃つ。

 

 

 次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード 39「ハサウェイの慟哭」

 

 

 

 

 



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エピソード39「ハサウェイの慟哭」

 オセアニアエリア 某所

 

 

 広大な砂漠の中に木々や草原が入り組むオーストラリアの砂漠地帯の景色に、僅かにゆがむ空間がある。

 

 それは装甲面に光学迷彩を展開させたネェル・アーガマだった。

 

 周囲に溶け込み、レーダーにも感知されないそれは、ヘリオポリスにて近代改修された本来はない兵装だ。

 

 ネェル・アーガマの中では格納庫やカタパルト周りがやや慌ただしい様子を見せており、1機のベースジャバーに一部のメカニック達が集中する。

 

「ケネスキャプテン自らがマフティーと会談するんだとよ!!すばやく点検しろー!!」

 

「うぃっす!!」

 

「ガタやクラック、緩み等、見逃すなよ!!」

 

 メカニック達は急遽マフティーとの会談の為に引っ張り出すことになったベースジャバーの始動前点検に追われていた。

 

 その光景をMSデッキから見守りながら立っていたカトルに、それを共に見ていたデュオが尋ねる。

 

「なぁ、カトル。ピースミリオンからも応援のメカニック達が入ったんだってな?」

 

「はい。ベテランのメカニックの方々とその部下の見習いメカニックが来たとか……あの人達かな?」

 

カトルが指差す方向にはピースミリオン用のツナギを着たメカニック達が働いていた。

 

その中でもガタイがいい大柄なメカニックが目立つ。

 

ちょうど部下を叱責しているような場面が二人の目に入っていた。

 

「(あーあぁ……あのひょろっと背の低いやつ、怒られてんなぁ)要はハワードのおっさんのお墨付きメカニックってか」

 

「そうみたいだね」

 

「へぇー……あ、マフティーの会談の護衛の件の話になるが、そっちは本当に俺達だけでいいのかぁ?」

 

「うん。ネェル・アーガマの守りを薄くする訳にはいかないからね。だから行くのもケネスさんやラルフさん、そして僕らだけだよ」

 

「ま、確かに大所帯でいってもしゃーねーからなー。てか、ウィング・ゼロがある時点でネェル・アーガマの防衛なんざとっくに間に合ってるしな!」

 

「あはははっ!確かにね!けど、一方的にヒイロに頼りっ切りでいるのもどうかなって。それぞれが役目を担って動いてなきゃ……Gマイスターはチームなんだからさ」

 

「ごもっともな意見で!!俺の意識不足でしたっ。所でそのヒイロは?シドニー湾の一件から帰還してから早々に医務室にスッ飛んで行っちまったけどよ……」

 

するとカトルは、くすっと笑いながらどこか羨まし気な表情を見せた。

 

「まだマリーダさんの所にいるんじゃないかな。普段まず急ぐ素振りを見せないヒイロが珍しく彼女の許へ急いでたからね」

 

ヒイロはサリィの下で療養するマリーダに付き添い、出来る限り彼女に尽くしていた。

 

その傍らでサリィは書類業務に従事する合間に二人を見ながら和やかに口許に笑みを浮かべる。

 

(こうしていると、何処でもいそうな彼氏彼女のやり取りね。戦争がなければ、あのコ達も普通の青春を送れていたのでしょうけど……)

 

 水を欲したマリーダにヒイロがペットボトルを渡し、それを受け取りながらマリーダが水を飲む。

 

 サリィは視界に映ったそれだけのやり取りにも、平和の貴重さや戦いの哀しさを同時に考えさせられるものを覚えた。

 

 一方のデュオはあれこれやり取りを想像し、やれやれと言わんばかりに口溢す。

 

「熱いねー……あのヒイロがあそこまでなっちまうなんてな。羨ましい限りで!!ま、あいにく俺にはそんな華はないけどナ……華がありゃ、モチベーションもまた違うカタチになるんだろーなぁ……って、あ!!悪ぃ……」

 

デュオはその手の話しの口を滑らせた事をカトルに詫びる。

 

カトルにとっての華であるロニが、未だに敵の手中にある事を思い出して気遣ったのだ。

 

「ううん、気にしないでデュオ。今、ロニのおおよその居場所はユーラシアとわかってる。ヒイロがゼロシステムでそれを導き出してくれたから……それだけでも心境は違うよ。それに、サンクキングダムへの航路の途中でもあるし、必ず何か手掛かりがあるはずさ。今は会談とオーブ首長国連邦の解放に集中するよ」

 

「そ、そっか……お!!ケネスとラルフが来たな!そんじゃ、そろそろ行きますか!」

 

「うん、行こう!!」

 

デュオは持ち場に就く為、ガンダムサンドロック改に向かうカトルと共に、ガンダムデスサイズ・ヘルのMSハンガーデッキを目指した。

 

 すると一人の少女がガンダムデスサイズ・ヘルを見上げているのが目に留まった。

 

「あぁん?!誰だぁ??ん……あれは確か??」

 

 デュオが近づくなり、はっとそれに気づいた少女はオーブ首長国連邦のジュリだった。

 

「あ!!ご、ごめんなさい!!」

 

「俺の相棒……デスサイズ・ヘルが気になるのかい?」

 

「えっ?!!と……その、は、はい!!カッコイイなって……」

 

「ヒュー♪そいつはどーも!!喜ぶぜ、こいつ!!ま、俺もだけどな♪えっと、確かお嬢さん、オーブの……」

 

「あ、はい、あたし、ジュリ・ウーニェンって言います!!M1アストレイのパイロットです(ど、どーしよう……えっと、Gまいすたー……だっけ??実際に間近で話すと緊張しちゃう!!慣れたカトル君とは大違いだよぉ~!!!)!!」

 

 これまでにもカトル以外のGマイスターであるトロワとも殆ど言葉を交わしたことがなかった。

 

 その点、年下ながら友人であるカトリーヌの兄のカトルとはある程度接していた為、そちらは平気に近かった。

 

 基本的にジュリにとってGマイスターは、芸能人と庶民に例えるような感覚にとらえている為、次元の違う存在のようにまで思っているのだ。

 

 増してや凄まじいまでに獅子奮迅の無双を展開するガンダム達を幾度か見てきたとなれば、なおさらだった。

 

 彼女のドギマギさがあからさまな為か、見かねたデュオが包み隠すことなくストレートに答える。

 

「ジュリさんよ、そこまで緊張するこたないぜぇ?俺なんかビンボークジをよく引く、しがないガンダムのパイロットに過ぎないんだからさぁ」

 

「え?!!でもっ……あたしからしてみたら、みんな凄すぎて……だから、憧れちゃうなぁっていうか、それでアストレイの顔もガンダムにって発案したら採用されて……Gマイスターさんてすごいな……って、ごめんなさい。何話してるかわからなくなっちゃった!!」

 

 デュオはふっと笑うとアストロスーツのヘルメットを担ぎながらジュリに洞察した答えを投げかけた。

 

「大方、オーブが心配で、それをなんとかできる力が欲しい……違うかい?」

 

 ジュリは図星を食らった想いに駆られたと同時に、急激にオーブの仲間達を想い涙目になり始めた。

 

「っ?!!そ、その通りです……あなた達みたいな力があればあいつらなんて……嫌なガンダムのやつらなんて、やっつけられるのにっ……うっ、うぅっ、友達のアサギやマユラ達を助け出せるのにって……うぅっっ……!!!」

 

「い?!!」

 

 突如とした彼女の涙に困惑するデュオにカトルが二人のその状況を見たのか歩み寄ってくる。

 

 無論、傍から見ればデュオが泣かした構図のようになっている。

 

「どうしたんだい?デュオ?珍しくジュリさんと……って……!!!」

 

 カトルはものの見事に「何をしたの?!」と言わんばかりの表情でデュオを見た。

 

「おいおい、そんな目で見るなよ!!誤解だぜぇ、カトル!!」

 

「あ……カトル君。彼の言う通りだよ。あたしが一方的に感極まっちゃって……うっ……早くオーブを何とかしたくて、それにアサギやマユラ達を想うと……色々込み上げちゃったの」

 

「そっか。てっきりデュオが泣かしたのかと思ったよ」

 

「おい、ヒデーなカトル!!」

 

「くすっ、冗談だよ!オーブの件はこれからの会談で、もしかしたらオーブに向けてのマフティーの支援を受けれるかもしれないしね」

 

「本当!?少しでも進展できたらうれしい……!!」

 

「ま、とにかく辛抱しててくれよお嬢さん!!今の俺達が立ち上がりゃー直ぐにでも獲り返せるさ」

 

「あ、はい!!!ありがとうございます!!!」

 

 ジュリはデュオに話し相手が変わると再び緊張した口調と態度になってしまう。

 

 そんな彼女にカトルが気遣い、柔らかになだめる。

 

「ジュリさん、何もそこまで緊張しなくてもいいよ。デュオだって僕と同じ立場なんだから」

 

「そーだぜ。逆にそこまで緊張されると俺も色々困っちゃうもんでよ……っ、お?!」

 

会話の最中、ベースジャバーが起動し、暖気運転の為のジェネレータ音が唸り始めた。

 

デュオはその唸り始めたベースジャバーのジェネレータ音に切り上げタイミングを促す。

 

「そろそろか!!そんじゃ、行きますか!!!」

 

「そうだね!それじゃ、また後で!!発進するからジュリさんは放れてて!!」

 

「あっ、うん!ごめんね!」

 

カトルは安全をジュリに促すとガンダムサンドロック改に向かう。

 

そしてデュオもまたぶら下げていたアストロスーツのメットを肩に担ぎながらジュリに改めての軽い自己紹介を投げ掛けた。

 

「そんじゃ改めて……俺は逃げも隠れもするが嘘は言わないデュオ・マックスウェルだ。またよろしくっ、ジュリさん!!」

 

「あ、はいっ……あ、ううん!あたしの方こそよろしくね!後、オーブの事も!!」

 

 ジュリは緊張気味な返事を振りほどくようにタメ口調に改めた返事をした。

 

「そーそ!!そんな感じで頼むぜ!!さっきよかずっと自然だよ!!」

 

デュオはそんなジュリにさっと手を上げながらガンダムデスサイズ・ヘルのコックピットに向かい、颯爽とその身をシートに飛び込ませて機体を起動させる。

 

 ジュリは安全なエリアに身をよけながら、両眼を光らせて起動し始めるガンダムデスサイズ・ヘルを見上げて呟いた。

 

「ガンダムデスサイズ・ヘルにデュオ……カッコいいな……」

 

 

 

旧シドニーOZ収監施設・ガンダム襲撃現場

 

 

 

メテオ・ブレイクス・ヘルとマフティーの急襲を受けたOZの収監施設基地は、立ち入り禁止区域にされ、OZプライズの部隊や一部の上層部が出入りする物々しい状況の場となっていた。

 

収監施設は武装と外壁面が部分的に破壊され、双頭空母も既に撃沈されており、対岸にあった警備基地は跡形もなくクレーターのみを残して消滅している。

 

その他にもMSの残骸のほとんどは海中に沈んでいた。

 

彼らにとっての問題は基地施設の損害よりも部隊の損害である。

 

本来はOZプライズがOZの制圧を目的にしての中隊規模の部隊展開だったのだ。

 

その部隊がまるごと壊滅した損害は大きく、現場の検証視察に訪れたOZプライズの佐官が戦慄を覚えていた。

 

「これが……今回のガンダムの攻撃の跡……!!!何という状況だ!!!OZプライズの精鋭のMSは近代改修強化をされているのだぞ!!!その上、中隊規模の部隊だったのだ!!!見るにそのままだが、状況を報告!!」

 

「はっ!!主に旧シドニー湾上空での戦闘だったようで、海中を捜査中の部隊からも数多くの残骸が報告されてきています!!撃沈されたと思われるOZ双頭空母も見つかっています!!」

 

「足取りは掴めていないのか?!!」

 

「はっ!!現在も足取りは掴めていません!!!」

 

「……OZ宇宙軍やバルジの連中は飛んだ失態をしてくれたものだな。だが、そのバルジもガンダムの攻撃で破壊され、一部の情報ではあのネェル・アーガマの同型艦がガンダムの襲撃を受け消息を絶っている……そして今回のこの状況と地表のクレーター。最早、MSの成す業ではない……!!!」

 

OZプライズの佐官は以前のガンダム以上の脅威を爪痕から未知なる破壊力を痛感していた。

 

「まさかこれが……模擬戦闘中に行方不明になった鹵獲機のガンダムなのか?!!」

 

 

 

この出来事はデルマイユにも通達されており、デルマイユはロームフェラ財団本部周辺の街並みを一望しながらこの脅威を構想していた。

 

(ロームフェラ財団本部近辺における醜い反乱も気になるが、オセアニアエリアに向けた我がOZプライズの中隊が壊滅したことも気がかりだ……それ以外にもラプラスの箱なるモノを調査させるために用意したグラーフ・ドレンデも消息を絶ち、宇宙要塞バルジも破壊された……間違いなく反乱分子のガンダムの仕業!!!奴らのガンダム駆逐するには新型MDが現在最も有効だ!!!急いでくれたまえっ、ツバロフ!!!)

 

 

資源衛星MO-3

 

 

 

衛星軌道上に最も近い資源衛星、MO-3……現在、OZプライズの管轄下にあり、ある計画の要と言える拠点になっていた。

 

そのある計画とはロームフェラ財団の代表デルマイユ公爵が促進するオペレーション・ノヴァという計画である。

オペレーション・ノヴァの全容は資源衛星MO-3とOZプライズ月面MDプラントにてMD機種であるシルヴァ・ビルゴやサジタリウスα・βを大量生産し、これらを地球とコロニー各地のネオジオンやジオン残存勢力をはじめとする反抗勢力の勢力圏やテロ組織、紛争地域に投入して徹底的な制圧を図る計画である。

 

その計画主導はツバロフ技師長とメテオ・ブレイクス・ヘルを裏切ったドクター・ペルゲに一任されていた。

 

MO-3に設けられたMD生産施設を二人が視察する。

 

「ここで我々の技術の要たるMDが産み出され……地球やコロニーに蔓延る様々な反乱分子や武装勢力を一掃する……この上なく最高とは思いませんか?ドクター・ペルゲ?」

 

各ライン毎に流れ作業形式に生産されていくシルヴァ・ビルゴとサジタリウスα・βを見ながら卑屈に嗤うツバロフが同様の笑みを見せるペルゲに問う。

 

ペルゲはかけた眼鏡を中指で調整しながらツバロフに答えた。

 

「くくくっ、無論ですな技師長。いい加減、古い時代の燻りは完全に排除せねばならない時代が到来したのだ。感情同士がぶつかる故に争いは生まれるが、感情無き無人機による制圧ならばひれ伏せざるを得なくなる……」

 

無人機による大規模な制圧は宇宙世紀史上初のものであり、実に大胆不敵な計画である。

 

ペルゲはタッチパネル操作で、これからの投入エリア候補地を確認していく。

 

「……ルクセンブルクでは既にトレーズ上級特佐の幽閉とOZをプライズに取り込む事に反発する反逆者達が騒いでいる」

 

「うむ。紛れもない敵対的行動と見なすべきです。他にも中東や東南アジアエリア、アフリカエリア、更にはオセアニアエリアのマフティーとかいう連中……色々と候補のエリアがありますな」

 

絶え間ないジオン残存勢力の抗争から始まった、終わり無き宇宙世紀の地球圏の争いの歴史は新たな局面を目前にしていた。

 

指一つの操作でそれらに対する行動が可能な時代の戸口といえる状況だ。

 

「じゃが、それ以上に関心が向く情報が入ってきている……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムがシドニー湾付近で活動再開させたと……おそらくは消息不明のウィングゼロ!!!」

 

「えぇ。私も既に耳にしています。既にバルジの件も有りますからね……そうなれば自ずとオセアニアが候補……」

 

「うむ。技師長、まずは実証を得るため、オセアニアエリアに実験的に投入する。奴らとマフティーとかいう地元反乱分子もセットで我々の輝かしき一石に協力してもらおうかな……!!!」

 

「同感ですな、技師長。くくく……!!!」

 

 

 

北欧圏 サンクキングダム周辺

 

 

 

サンクキングダム周辺の上空を1機のOZ輸送機とエアリーズの部隊が飛行している。

 

どの機体も随所に破壊箇所があった。

 

「くっ……プライズめっ!!!反発したとはいえ、同じOZに対して全く容赦がなかった!!!」

 

悔し紛れにエアリーズのパイロットのOZ兵士が吐き飛ばす。

 

彼らは宛の無い敗走の道を突き進んでいた。

 

そんな中、輸送機内の隊長と思われる兵士がエアリーズ部隊に通達する。

 

「諸君、ここはサンクキングダム周辺に位置する。突然であり恐縮だが、匿わせてもらおう。このままでは危険だ」

 

「隊長?!!」

 

「無論、コンタクトは取った上……」

 

「隊長!!ダメです!!!後方より、プライズの追撃部隊が接近中!!!追い付かれますっ!!!」

 

「くっ!!!ダメ元だ!!!コンタクトをっ!!!」

 

トレーズ幽閉とOZプライズ主導のOZ吸収を異に唱えるOZの分裂は日に日に世界に拡大していた。

 

特にロームフェラの本部やOZ本部があるルクセンブルクを中心に各地で戦火が強まる傾向は避けられない状況にあり、サンクキングダム周辺も例外ではない。

 

そしてこの分裂の発端は、厳密に言えばデルマイユの政策を良しとしない一部のロームフェラの人間が、正規発表に先がけて情報をOZにリークした事にあった。

 

過剰に発達した情報社会故に一気にその地球圏を駆け巡ったのだ。

 

サンクキングダムでは平和とは程遠い周辺の状況に対し、以前のトレーズの意向もあり、防衛施設を地下に構えていた。

 

その防衛施設にはトールギスやミスズ機のリゼル・トーラスをはじめとする、サンクキングダム近衛師団の空戦仕様のMSが配備されており、管制設備も充実していた。

 

その管制設備で先程のOZの部隊の救援要請を受け、管制オペレーターがミスズに報告を通達する。

 

「ミスズ副師団長!!サンクキングダム国境付近よりOZの部隊からのSOS信号を受信しました!!」

 

「国境付近からのSOS信号?!繋げ!!」

 

「はっ!!」

 

「サンクキングダム!!我々はOZプラハ基地所属第12、第20小隊!!無理は承知だ!!我々を匿って頂きたい!!!現在、プライズに追われている!!」

 

「(やはり、OZプライズはOZを……無闇に匿うと国にも悪影響が……だが、人道を外れた真似はできない!!)こちらサンクキングダム国家近衛師団副師団長、ミスズ・アキハ。諸君らの匿いを許可する!!こちらからも応援を出す!!」

 

「ミスズ副師団長……大丈夫でしょうか?!!」

「人道たる他が為の行動だ。リリーナ王女もそれを望む!!」

 

サンクキングダムの地下にある近衛師団のMSの格納庫にざわめきが立ち込める中、ゼクスことミリアルドは一人トールギスのコックピットで小説を読みふける。

 

無言で小説に集中していたミリアルドへ、ミスズからの通信が入った。

 

「ゼクス……いや、ミリアルド!!緊急発進だ!!!OZの一部隊がプライズに終われながらが助けを求めて来た……小説に読みふけっている場合ではない!!!」

 

「ふっ……ハッキリ言うな、ミスズ。相変わらず……いよいよこの国にも来たか」

 

「あぁ。つい先程な。今後も頻繁になるはず。最悪OZプライズが攻めて来ても不思議じゃない」

 

「トレーズの影響力はある意味、目に余るな。彼が命令してはいない、いや、できない状況でもOZという組織そのものが自動的に動いている……無論、それ程OZの兵士達自体がトレーズを敬っていたからに他ならないだろうがな……では、行くか!!!」

 

ミリアルドは小説をパタンと閉じてコックピットの片隅に置き、トールギスを起動させた。

 

その最中、コックピットのサイドモニターに新たにライトに与えられた緑のリゼルが映る。

 

「ライト……ヒイロ・ユイと瓜二つの少年もまた、MSに乗るか……数奇なものだな!!」

 

サンクキングダムの上空をトールギスとミスズ機のリゼル・トーラスを筆頭に白いエアリーズとライトのリゼルが続いていく。

 

その光景を吹き付けた風に髪をかき上げたリリーナが見つめていた。

 

「お兄様、また戦いに……ライトまでもMSに乗り始めた……そして今、ルクセンブルクを中心に戦火が拡大している。何故平和である事の方が良い筈なのに人々の道は戦いに向かってしまうの?でも現実がそれ……だからと言って折れてはいけない。この時代だからこそ、サンクキングダムは必要な国。大衆の希望になるべき国なのだから……!!!」

 

リリーナは目を瞑り、強く自らに言い聞かせた。

 

完全平和を掲げながらも自国の自衛の為に兵器を有さねばならない……矛盾を抱えてしまってはいるが、根底にある本来のものは揺らいではいない。

 

一年戦争から始まった宇宙世紀の終わり無き争乱の歴史は更に加速し、過去最悪とも言える泥沼に入ろうとしている。

 

そのただ中に立つ完全平和主義国家を失われていく自由・平等・平和への希望として、サンクキングダムは毅然と立っていねばならない必要がある。

 

「トレーズ・クシュリナーダ……あなたがOZを動かし、連邦に蝕まれたこの国を支援して下さった……今幽閉されていると聞きました。どうかご無事で……」

 

リリーナは今サンクキングダムがあるのはトレーズの支援があっての事だと知らされていた。

 

今はトレーズの無事を祈る事が彼女のできる事であった。

 

そのトレーズは幽閉の身でありながら、ロームフェラ財団管轄下の城の中に限られてはいるが、基本的に自由の身であった。

 

これもまたこれまでのOZに対する功績が成せる配慮だろう。

 

城の一室から見える湖を見ながらトレーズは戦う者達を想う。

 

(私が幽閉されたことにより、私を支持してくれている者達が異をとなえ立ち上がり始めた。そして今それは事実上OZを二分させていく事態となった。私が敗者を望んだ結果だ。財団側であるOZプライズはより一層私が望まない行動をするだろう……OZの兵士達の意志を反逆と見なし、力を持って在り方を示そうとするMS部隊。そして近日中には地球に降下されるであろう、MDという恥じるべき兵器の導入を……それに身を投げうっていく私を支持してくれる兵士達……確かに悲しい事だ)

 

トレーズは戦火を拡げていく世界に抗う兵士達を想いながら湖から空へと視線をずらす。

 

(そしてそれは敗者を選んだ私自身の罪でもある。だが、時代は更なる痛みと犠牲を望んでくる……ブルーメンツが成すシナリオ通りに……最も深い痛みが歴史に刻み込まれていく……そのただ中にあるサンクキングダムは敢えて攻撃対象から外されている。しかし、それもブルーメンツの意図だ。ミリアルド。今後君の国は更なる向かい風に晒されていくだろう。必要ならばその時は……)

 

トレーズは振り返りながらその場の部屋を後にし、城の地下に向かった。

 

そして、その地下にはトレーズが設計し、製造を指示したガンダムエピオンが眠る。

 

トレーズは毅然かつ静かに佇むガンダムエピオンを見上げながら今ここにいないミリアルドに語りかけた。

 

「君にこのガンダムを託したい……ミリアルド」

 

 

 

トレーズが遠方の彼方にいるミリアルドに語りかけた頃、既にミリアルドは戦闘に直面していた。

 

ドーバーガンでの射撃牽制をかけながらOZ部隊を後方へと避難させる。

 

「私が敵を引き付ける!!エアリーズ部隊の内の4機はOZ部隊をサンクキングダムへ護衛しながら誘導、ミスズとライト、残りのエアリーズ部隊は射撃態勢を維持しながら後方支援に備え!!!サンクキングダムから攻撃をしては元も子もない。先ずは私が奴らとコンタクトを取る!!!」

 

「了解!!」

 

各機がミリアルドの指示に従い、速やかな行動に移った。

 

誘導を任されたエアリーズ部隊は疲弊したOZの部隊に付き、本国へと先導し、ミスズやライト達は一斉に発射態勢を維持した。

 

「各機いいか?!指示の通り、支援射撃態勢のまま維持だ!!専守防衛に務めろ!!本来、サンクキングダムは完全平和主義国家と言うことを忘れるな!!」

 

「はっ!!」

 

「了解……(MS戦か……銃器は幅広く扱い慣れてるが、MSは初だ。だが、シミュレーションはこなせた。感覚の誤差を埋めながらいける筈だ)」

 

ライトはミスズの念を押した指示の中、リゼルの操縦に集中させた。

 

彼は姿こそヒイロと瓜二つだが、何気にMSは初であった。

 

その間に、ミリアルドはOZプライズの部隊へと接触を試み、トールギスを接近させた。

 

「こちら、サンクキングダム近衛師団長、ミリアルド・ピースクラフト。ここから先はサンクキングダムの領空だ。貴君らの進行は遠慮願いたい!!」

 

「トールギス?!!くくくっ……!!サンクキングダム!!OZを匿うとはな!!我々もれっきとしたOZだ!!!OZは良くてプライズがダメとは差別ではないかな?!!サンクキングダムの近衛師団長さん?!!」

 

ミリアルドの呼び掛けに対し、OZプライズ部隊の部隊長はある意味最もな点を突いて返答をした。

 

しかし、それはいかようにも反発できるものだ。

 

「我が国はOZから支援という形で援助受けてきており、Oに関しては特殊な入国許可ができている。だが、OZプライズは例外であり、全く許可する道理はない!!況してや、貴君らがOZの部隊を執拗に攻撃をした結果、我々にこのような行動をさせたのだ!!!」

 

ミリアルドの返答に対し、顔をひきつらせたOZプライズの部隊長はしびれを切らしたかのように強行的な発言を飛ばした。

 

「ふっ……そのOZは今や反逆者!!!それを匿わんとする貴様らも同罪だっ!!!そうだろう?!!ゼクス・マーキス!!!各機、攻撃開始っ!!!」

 

機体から既にミリアルドの事を見抜いていたOZプライズ部隊の隊長指示の直後、プライズリーオー、プライズジェスタが一斉にビームライフルを撃ち放つ。

 

「くっ……!!!やはりそうなるかっ!!!」

 

トールギスに集中していくオレンジのビーム火線群。

 

無論、難なく躱してみせるミリアルドだが、一度戦端を展開させてしまえば後々厄介な相手故に、苦々しい気持ちにかられた。

 

1機のプライズジェスタがビームサーベルで斬りかかると、トールギスはドーバーガンを近距離から連続で撃ち中て、そのプライズリーオーの両腕を破壊して見せた。

 

その次に来た射撃も躱し、ドーバーガンでの連続射撃を2機機のプライズジェスタとプライズリーオーに見舞い、同じように武装諸ともアームパーツを破壊した。

 

完全平和主義国家の防衛の姿勢とし、ミリアルドは殺さない戦闘の姿勢を貫く。

 

「旧型の分際でぇ!!!」

 

ミリアルドは背後からビームサーベルを振りかぶるプライズジェスタに向け、ライトアーム側に装備したバスターランスを相手のライトショルダーに突き当てた。

 

バスターランスの刺突はプライズジェスタのライトショルダーを根刮ぎ破砕させ、更に蹴りの一撃を叩き込む。

 

「がぁ?!!」

 

その最中、ミスズも攻撃を確認し、一斉射撃の命令を下す。

 

「やはりOZプライズが相手ではダメかっ!!各機撃ち方はじめっ!!!ミリアルドを援護だ!!!」

 

ミスズ機のリゼル・トーラスを筆頭に援護射撃を開始するサンクキングダムサイド。

 

ビームやレーザーが束になり空を走るが、それは一斉に散り散りに躱されていった。

 

同時にそれはミスズ達が危険に曝される事を意味していた。

 

メインカメラを光らせながら幾つかのプライズリーオーとプライズジェスタの機体がミスズ達に接近する。

 

「来るぞ!!!1機に対し集中させて攻撃を叩き込め!!!ただし、あくまでも無力化だ!!!コックピットは狙うな!!!」

 

「了解!!」

 

ミスズは模範的な狙いでメガビームランチャーを撃ち込み、それに続いてライトのリゼルや他のリゼルやエアリーズが狙いを集中させた。

 

そのプライズジェスタは攻撃を躱し続けたが、三発目で武装を破壊され、それをきっかけに射撃が四肢パーツに集中する。

 

ミスズ達の連携洗練度は相手の想像を越える様相を見せていた。

 

「よし!!今のような感じだ!!!続けていくぞ!!!」

 

ミスズも周囲の僚機達に目を配りながら次の機体にメガビームランチャーを撃ち込む。

 

しかし、そのプライズジェスタは攻撃を躱し、一気にエアリーズに向かった。

 

「いかん!!回避行動をとれ!!!」

 

ミスズは危険回避を促す声を上げるが、それも空しく1機のエアリーズが斬り裂かれ爆発してしまう。

 

その直後も2機のエアリーズが連続して墜とされた。

 

「なんてことっ……!!!おのれっ!!!」

 

幾度も同胞や部下が戦死する経験を経ても決して慣れることはない。

 

部下を三人殺された怒りに駆られ、ミスズはつい先程自らが出した命令を背き、メガビームランチャーをプライズジェスタの胸部に突き当てる。

「ミスズ……!!!えぇい!!!」

 

ミリアルドはその瞬間を見逃さず、一気に機体を飛ばして、バスターランスをプライズジェスタの頭部に突き当てた。

 

更にその吹っ飛ぶプライズジェスタのビームライフルに向けドーバーガンを放ち、武器破壊に止める。

 

「ミリアルド?!!」

 

「ミスズ!!!気持ちはわかる!!!だが、我々が殺傷しては国の姿勢はおろか、OZプライズの更なる圧制のいい口実に利用されてしまう!!!今は耐えてくれ!!!私とてっ……辛いのだっ!!!」

 

「ミリアルド……!!!くっ!!!」

 

ミスズはミリアルドの言葉を受け、辛さを振り払うように顔を振り伏せた。

 

しかしその直後、敵機急接近のアラートが二人のコックピットに響き渡る。

 

隊長機のプライズリーオーとプライズジェスタがビームサーベルを振りかぶりながら二人の機体に迫っていた。

 

「まとめて斬り裂くっ!!!」

 

「ちぃっ!!!」

 

ミリアルドは自らをミスズの盾にするようにトールギスを敵機面前へ飛び込ませ、ビームサーベルとバスターランスでこれを受け止める。

 

だが、接触部が激しいスパークをはしらせる中、ほぼ互角と言えるパワーがそこに拮抗していた。

 

「リーオーとジェスタにこれ程のパワーが……!!?やはりプライズ仕様は癖が強いなっ!!!」

 

ググっと双方との拮抗するパワーが互いのライトアームを軋ませる。

 

しかし、トールギスにはプロトGNDドライヴとも呼べるメインジェネレーターに加え、2基のハイパーバーニアがある。

 

ミリアルドはこちらのパワーを付加させ、徐々にプライズリーオーとプライズジェスタを押し切る動きに持っていく。

 

「な?!!」

 

理論的にはウィングガンダムをはじめとする7機のGNDドライヴの出力と同等の出力である擬似GNDドライヴだが、トールギスには強力な二基のバーニアがあった。

 

これを唸り吹かせながら、プライズリーオーとプライズジェスタの2機を押し戻していくトールギス。

 

次の瞬間には両者のビームサーベルを弾き捌いて、トールギスは単機で弾丸のごとくかっ飛んだ。

 

ミリアルドは暴れ狂うような軌道を描かせるも、トールギスをしっかりコントロール下に置き、巧みにバーニアを操る。

 

トールギスは二転三転と軌道を変えながら再びプライズリーオーとプライズジェスタに舞い戻り、高速でビームサーベルとバスターランスの切っ先を2機へ穿った。

 

「おぉおおおおおおぉぉっっ!!!」

 

 

 

ガガズゥシャアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

トールギスは鷹が獲物をかっ拐うが如く2機の頭部を破砕する。

 

攻撃を食らった2機はそのまま機体を仰け反らせて吹っ飛び、森林地帯へと墜落していった。

 

トールギスは再びバーニアコントロールで機体を制御しながら制動かけ、敵輸送機に機体を接近させてドーバーガンを突き付けた。

 

「時間の有余を与える!!我々が無力化させた機体を収用せよ!!!完了するまで我々は貴君らを監視する。だが、援軍を呼んだ場合は、相応の措置を覚悟してもらう!!!我々も通信を傍受できる体制はある!!!承知したのなら早急に収用、撤退せよ!!!」

 

「ミリアルド……!!!いくらなんでも、それでは……!!!」

 

「ミスズ……危惧することも無理はない。直接殺めた方が本来は得策だ。だがそれは更に侵攻の圧力を強いられる。先程も言ったはずだ……私が牽制する間、彼らの回収を手伝ってくれ」

 

通常の戦時ならば、この時点で排除するのが得策だ。

 

だが、ミリアルドはあくまでも国の姿勢を貫き、OZプライズを生かす方向でいた。

 

感情の爆発が新たな火種となる……ミスズは自らの感情をたたみ込んで指示を通達した。

 

「……了解した。各機、敵機回収に協力せよ」

 

OZプライズの援軍の危険性が嫌な程高まる中、OZプライズサイドの輸送機はホバリングモードに移行し、森林地帯に降下する。

 

その影響で木々の間に突風のような風がすり抜けていく。

 

そしてトールギスが威嚇的に輸送機にドーバーガンを突きつける傍ら、ミスズ達は不本意ながら無力化された機体回収に赴いた。

 

「本当なら今すぐにでもコックピットを破壊したいくらいだ……!!!この国の在り方とリリーナ嬢、そしてミリアルドに感謝するんだな……!!!」

 

ミスズは今にも破壊してしまいそうな衝動を圧し殺しながら、自機のマニピュレーターを操作した。

 

操作する手に憤りの感情が籠り力が入り、その表情にもそれが表れる。

 

そんなミスズにせめてものフォローの為か、ミリアルドが通信をミスズ機のリゼル・トーラスに入れた。

 

「ミスズ。奴らが去り切った状況になり次第、直ぐに亡くなった彼らの機体を回収する。そしてサンクキングダムの地に哀悼の意を表し弔おう。言い重ねるが、私もミスズと気持ちは同じなのだ……」

 

「ミリアルド……くっ!!!」

 

顔を振り伏せるミスズにミリアルドもまた、この状況のやるせなさに僅かに歯軋りをし、ミスズに謝罪をした。

「すまない……ミスズ」

 

 

 

エアーズロック マフティー地下アジト

 

 

 

オセアニア大陸が誇るエアーズロックの地下にマフティーのアジトの一つが存在していた。

 

オーストラリアを活動拠点にしている彼らは幾つかの隠しアジトを有しており、このアジトもその一つだ。

 

内部には帰還したΞガンダムや主力MS・メッサーが立ち並び、メカニックが作業する格納庫区画やメンバーが寝泊まりする居住区画、ミーティングルーム等が備えられているのが伺わられる。

 

格納庫区画では会談の為に搬入したガンダムデスサイズ・ヘルとガンダムサンドロック、ベースジャバーがあり、メカニックやパイロット達が普段あり得ない状況に喜びを隠せないでいた。

 

「おぉ~!!これがメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムか!!!」

 

「反乱、反抗の象徴!!!カッコいいぜぇ~!!」

 

「なんたって、全ての旧地球連邦とOZにケンカを売ったガンダムだからな!!」

 

 デュオとカトルのガンダムに群がり、MS格納庫は一際にぎわう様相を見せる。

その一方、ミーティングルームではマフティーがメテオ・ブレイクス・ヘルの代表一行を招き入れた会談の流れが始まろうとしていた。

 

現在の状況上、ネェル・アーガマで指揮しているケネスが代表的な立場としてマフティーと硬く握手を交わす。

 

「改めまして。反政府組織マフティー代表、マフティー・ナビーユ・エリンです。こうして会談の機会が得られて光栄に感じています」

 

「こちらこそ改めて。新生メテオ・ブレイクス・ヘル旗艦・ネェル・アーガマ艦長、ケネス・スレッグです。我々も嬉しい限りです」

 

握手を解きながらマフティーは一つの質問を投げかける。

 

「初めて通信でお会いした時はあなたを、ケネスキャプテンを連邦の者と見受けてしまった。何故今も連邦の軍服を着ているのです?」

 

 最もな質問であったが、ケネスは誤解をされないようすぐに返答をした。

 

「これは集まったメンバーの過去の印のようなもので、今の我々は様々な勢力から今の世界の現状に疑問と反感を抱く者達が集まった事を象徴してる為です。元連邦軍人もいれば、ネオジオン残存軍にいながら参加している者、民間から参加している者もいる。少し違う例えすが、いわば旧世紀の多国籍軍のようなものです」

 

「そうでしたか。例え連邦やジオン、ネオジオンとて同じ人間。民間からも志を同じくする者達もいると……マフティーにもそういった者達がいますからね」

 

 マフティーはそう言いながらミヘッシャに視線をずらす。

 

 彼女もまた民間上がりなのだ。

 

 ミヘッシャがその視線を一瞬意識すると、マフティーは彼女の自己紹介に繋げる。

 

「彼女もその一人でしてね。今回の件で救出して頂けたメンバーの一人でもあります」

 

マフティーがコクッと頷く合図を見たミヘッシャは改めて自己紹介をケネス達にする。

 

「ミヘッシャ・ヘンスです。マフティー諜報員兼オペレーターをしています。この度は私も含め、捕らわれたマフティーメンバーを救出して頂き、誠にありがとうございました」

 

「いや、我々と志を同じくするものとしても、人道的にも当然の事をしたまでです。こちらとしても無事に救出できてなによりです」

 

マフティーはミヘッシャの一礼と共に受けたケネスのその言葉に対し、今回の一件に関しての礼を重ね述べた。

 

「あなた方のおかげで、彼女をはじめとする囚われたマフティーメンバー達やそれ以外の反OZゲリラ達の救出に成功できた。そしてこうして会談に応じてくれたこと、重ね改めて感謝する」

 

「これまでのお互いの情報の根回しがあったからこそです。我々は我々でできることをやったまでですから。それでもお役に立てれたのなら幸いの限りです」

 

 互いに硬い握手を交わし、その流れでラルフやカトル、デュオも続いて握手を交わした。

 

「……我々マフティーはオセアニアを拠点とし、元より反地球連邦政府活動していて、現在はそれと刷り変わったOZ政権の打倒の為に活動している。故にあなた方と敵は同じだ。今回の救出作戦を成功に導けれたのもあなた方と共闘できたからこそ……今後とも互いに協力し合っていきたいと考えている。そちらにも何かあれば協力させてほしい」

 

 するとカトルは今発言するべきと判断し、すぐにマフティーの協力の話へ切り出した。

 

「それなら、一つお願いをしたいことがあります。今、僕達は今後の地球圏の為に守っていくべき北欧の小国、サンクキングダムを目指しながらOZプライズの手に堕ちたオーブという島国の解放する為に動いています。それについて協力を得たいのですがよろしいでしょうか……?!」

 

 

 

その頃、ネェル・アーガマの医務室ではまだヒイロがマリーダに付き添っていた。

 

サリィもくすっと笑いながら気を使い、用事を装い書類を手に退室する。

 

「それじゃ、ヒイロ君。私は別件でしばらく席をはずすわ。何かあったら艦内の内線回してちょうだい。マリーダさんも指定した医療食摂ってね」

 

「了解した」

 

ヒイロの返答とマリーダの頷きを確認すると、サリィは含み笑いをしながら自動スライドドアのコントロールパネルを操作し、然り気無いかたちで医務室を後にした。

 

(ふぅっ……少しは気を使ってあげなくちゃね)

 

退室したサリィを見届けたヒイロは再びマリーダに振り向く。

 

すると彼女をまた口許に笑みを浮かべている事に気づいた。

 

「どうした、マリーダ?」

 

「ん?いや、なんでもない。ただ、こうしていられるだけで嬉しく思えてしまう……」

 

マリーダはニュータイプ的な感覚でサリィが気遣いをしている事に気づいていたものの、敢えてはぐらかす。

 

「そうか。いや、当然だ。これまでの事を思えばな」

 

「これまでのコト……あぁ……本当にそうだ」

 

マリーダの中で去来するこれまでの耐えがたき屈辱的な日々。

 

未だに身体を蝕むような淀みを感じていた。

 

ヒイロもまたゼロシステムで見た彼女の屈辱を思い返していた。

 

「っ……!!」

 

するとヒイロは一瞬舌打ちしながら椅子から立ち上がり、ベッドに背もたれるマリーダの隣に座る。

 

「っ、ヒイロ?!あっ……!!」

 

ヒイロはマリーダの肩に手を回しながら自身の肩に抱き寄せた。

 

「ヒイロ……!!」

 

「俺は……ゼロのシステムにマリーダのこれまでを見せられた!!!もうマリーダには二度と……あんな目に合わさせない。マリーダは俺が守る。だから安心しろ……!!!」

 

マリーダからしてみれば年下で身長も低いヒイロだが、鍛えられた屈強な体格や筋肉が、そして裏付けある心強い言葉が彼女に安心感を与える。

マリーダも自然にヒイロの肩に自らその身を寄せ付けていた。

 

「相変わらず、生意気だな……ヒイロ。でも、しばらくこのまま……」

 

「あぁ……」

 

ヒイロもまたマリーダの頭に自身の頭を寄せ当てた。

 

マリーダはヒイロが与えてくれる安心感に、ヒイロはマリーダが与える守るべき存在の認識をその身でひしひしと感じ合っていた。

 

 

 

オーブ首長国連邦

 

 

 

現在もOZプライズの占領が続き、今においてもメテオ・ブレイクス・ヘルによる国家占領という隠蔽情報がそのまま流れ続ける。

 

だが、実態は更に悪化しており、ユセルファーの独占場の私物と化していた。

 

更にはバーナムジェガンを増強し、周辺の島々にプライズジェスタやプライズリーオーが配備され、一層物々しい状況を際立たせる。

 

ユセルファーは乗っ取ったオーブの内閣府官邸に一部の官僚達を幽閉していたが、もう一つ幽閉する存在があった。

 

薄暗いその一室で情事を済ませた格好でユセルファーは息をきらせてベッドに座る。

 

「はぁ……は、はぁはぁ……くっくく!!いい具合であったぞ。古の戦争ではなぁ……女は戦利品の扱いだったのさ……私も肖りたくてなぁ……!!!」

 

「……ん~!!!」

 

ツーセンタが頬を掴んだ女性は捕虜として捕らえられたジュリの友人であるマユラだった。

 

薄汚い手に抵抗するも、猿轡や手首と足首を拘束した手錠により、意味をなさない。

 

「あぁ……私好みで良かった……さて、ついでにもう一人なぁ!!」

 

狂気的な眼光を向けた先にはもう一人のジュリの友人であるアサギがベッドの上で同じ状況に晒されていた。

 

「……~っ!!!」

 

「そんなに睨んでも無駄だ……ここは独裁の地……OZプライズ、否!!!私の地だ……!!!そうだ。私だけではないぞ?おい!!お前らも入れ!!!」

 

「待ちくたびれたなっ!!!これが例の報酬ってやつか、おっちゃん!!!クヒヒャァっ、いいなあっ!!!」

 

「早くはじめようーか。ヒヒヒヒヒ……たのしみぃっ!!!」

 

「俺のテンションが滅殺しちまうぜっ!!!ぎひゃああああ!!!」

 

 ユセルファーがスライドドアに向かい叫ぶと、ボクサーパンツ一丁のオルガとシャニ、クロトが入室し、彼らはあらかじめその手の気が満ちていたようでテンションもより異常性を放っていた。

 

「―――!!!」

 

 目に涙をにじませて絶望するしかなかないマユラとアサギに対し、ユセルファーはにたりとしながら言い聞かせた。

 

「そう……こういうことなんだよ、戦利品……なぁに、こーいうのはね、私も加盟しているある組織の『一部の』裏では伝統のシキタリなのだよ??!まだ殺されない分、マシと思え!!!くくくくっ、無論、気に入らない真似をすれば、わかるな?!!」

 

オーブを支配する闇の実態は外部には晒されないものの、情報隠蔽工作と実質的な占領・侵略は火を見るよりも明らかであった。

 

現時点でカトル達が知りうる限りのオーブの情報……即ちメテオ・ブレイクス・ヘルによる占拠が事実無根と聞かされたマフティーの一行は、改めてOZプライズへの遺憾を示す。

 

「……我々としても、いずれは着手しなければと思っていました。無論、占拠している輩があなた方ではないことも読めていたが、確信を突ける要素がなかった。ですが、今回こうして直接会談ができたおかげで確信が突けた。このままブリーフィングでよろしいですか?」

 

思いの外積極的なマフティー姿勢にカトルやデュオに歓喜の表情が拡がり、ケネスとラルフもまた顔を見合わせて頷くとラルフが返答を返す。

 

「あなた方がよければ!!本当にいいんですか?!!」

 

「勿論だ。総力を上げてバックアップさせてもらうよ」

 

その時、ミヘッシャが失礼しながら会話の間に差し入れを提供した。

 

「お話中失礼します。お差し入れのコーヒーになります」

 

 

「……あぁ、ありがとう」

 

 ミヘッシャがケネスやマフティーに差し入れのコーヒーを配ったその時、突如として地震のような振動が響きわたった。

 

「?!!」

 

 コーヒーが床に落ちてカップが割れ、ミヘッシャもまた体勢を崩して倒れ込む。

 

「きゃあ?!!」

 

「ミヘッシャ!!」

 

 間一髪でマフティーは彼女の体を受け止めた。

 

「なんだ?!!これが地震か?!!」

 

「いや、オーストラリアではまず地震は起こらないはずだが……?!!」

 

 コロニーには決して存在しない地震が起こったと思ったラルフにケネスが半ば否定する。

 

 ケネスいわく、オーストラリアにおいて地震はごくまれにしか起きない。

 

 だが同様の響き渡りは連続で打つように響いてきた。

 

 その振動はの仕方は明らかに人工的な振動であった。

 

「この振動の仕方……まさか?!!」

 

 カトルが察したのはただ一つ……敵の、すなわちOZプライズの攻撃と踏んだ。

 

 外の状況は見事に的中し、既に新型MD・サジタリウスαとサジタリウスβが降り立ち、2機一組の編成部隊で10機が降り立っていた。

 

 この時点で既にメッサ―では壊滅を余儀なくされる可能性は明白だ。

 

しかし、反撃せんとする者達が次々とメッサーに乗り込んで出撃していく。

 

 赤いサジタリウスαが放つパーシスター・ビームライフルは、かつてのジムスナイパーのロングレンジビームライフルを発展させたような高出力かつ持続性ビームを放つ。

 

 銃器こそは通常サイズのビームライフルであるが、ビームの出力と持続性は特筆すべき脅威を誇る。

 

 対する青いサジタリウスβは、ヴァイエイトのビームカノンのジェネレーター機構をオミットした兵装ではあるものの、放たれるビーム自体は量産機では破格の威力を有しているのだ。

 

出撃したメッサー達の装甲にパーシスター・ビームライフルの射撃がおよび、一瞬にして装甲を円状に融解破砕して貫く。

 

そしてその円状に融解された部位と貫かれた部位が赤熱化し、一気にメッサーを爆発させた。

 

その後も幾度なくメッサー達にビームが穿かれ、破砕爆破を立て続けに巻きおこす。

 

エアーズロックに集中砲火が奔る最中、更に追い打ちをかけるがごとく、シルヴァ・ビルゴが10機投下される。

 

その上空ではOZプライズの降下輸送機が展開しており、それはオペレーション・ノヴァに先駆けた先行降下部隊だった。

 

「MD部隊降下完了。後はモニター監視しつつ、ミッション終了後に機体を回収する」

輸送機部隊は航行態勢に入り、そのポジションは文字さながらの高嶺の見物同然であった。

 

その最中、ビーム火線がマフティーアジトのゲートハッチにも直撃し、その直撃部が一瞬で赤熱化して円状に融解破砕した。

 

ビームはアジト奥面に炸裂・爆発し、突き抜けるその爆炎は残っていたメッサーを次々に転倒させ、様々な機器を倒壊させて、その被害を拡大させる。

 

「なんてことをっ……!!!僕達はガンダムで出ます!!!」

 

「あぁ!!!行こうぜ、カトル!!!」

 

ガンダムデスサイズ・ヘルとガンダムサンドロック改がアジトから飛び出し、2機はそれぞれ加速をかけながらアームド・ツインビームサイズとクロスクラッシャー、バスターショーテルを構えて突っ込む。

 

「だぁらぁああああ!!!」

 

「はぁああああああっ!!!」

 

グンと振り放たれたガンダムデスサイズ・ヘルのアームド・ツインビームサイズの斬撃が、サジタリウスαとβの胸部を横一線に破断させる。

 

ガンダムデスサイズ・ヘルはその2機の爆発を背に駆け抜けながらシルヴァ・ビルゴに斬りかかり、重厚な装甲を容易く斬り飛ばし、更に2機目にバスターシールド・アローを胸部に刺突させた。

 

ガンダムサンドロック改もまた、サジタリウスβにビームマシンガンを浴びせながら突っ込み、その射撃で機体の装甲を破砕させる。

 

更に僚機のサジタリウスαをクロスクラッシャーで殴るように挟み込む。

 

ガンダムサンドロック改はサジタリウスαを掴んだままギリギリとクロスクラッシャーを斬り込ませ、同時にビームマシンガンの零距離射撃を与え激しく爆砕させる。

 

そして、その勢いを止めることなく振りかぶったバスターショーテルをシルヴァ・ビルゴに叩き込み、豪快に斬撃を浴びせた。

 

だが、突如とした襲撃を認識したサジタリウスαが高精度の狙いを定め、一斉にパーシスタービームライフルを浴びせにかかった。

 

 狂いないビームは2機に直撃する。

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルに対しては直撃間際に閉じたアクティブクロークの特性上、弾いて終熄するに至る。

 

 だが、一方のガンダムサンドロック改の方では、そのビームがガンダニュウム合金製の装甲強度と反発して着弾と共に表面に激しい爆発を引き起こした。

 

「っっとぉ……!!!」

 

「うわぁあああっ!!!」

 

 それがいくつも連なる中、サジタリウスβのビームカノンとシルヴァ・ビルゴのビームランチャーが追い打ちをかけて高出力ビーム押し穿つ。

 

「こんチキショー!!!」

 

 異常なまでに正確な狙いにカトルは依然聞かせれたGマイスターのデータを反映させたMDの可能性を過らせた。

 

「これは?!!狙いが正確過ぎる!!!もしかしてデュオ達のデータを反映させたMD?!!」

 

「だとしたら狙いがいいのもうなずけるな!!!やってくれるぜ!!!」

 

 デュオはそう言いながらアクティブクロークを閉じ続けて、襲い来るビーム攻撃に対応を継続させる。

 

 カトルもまた防御態勢に操作し、機体を身構えさせた。

 

 しかし、防戦一方の状況になってしまうのは明白だった。

 

 それを期にMD部隊はここぞとばかりに集中砲火を浴びせにかかる。

 

「ちっきしょー!!!俺達が防戦一方だってのかよ?!!」

 

「間違いなくこれまでの戦闘で経験したMDよりも狙いは確実ですっ……!!!」

 

「俺達でこれじゃ……メッサ―じゃ一溜りもねーよ……さーて、どのタイミングで攻め転じる?!!」

 

 その時、急接近する機体のアラートが響き、後方よりもう1機のガンダムが敵陣営に突っ込んだ。

 

「これ以上俺達の居場所ををやらせるものかっ!!!」

 

 それはマフティー駆るΞガンダムだった。

 

 瞬時にビームバスターを三発サジタリウスαとβの胸部に叩き込み、シルヴァ・ビルゴ2機にショルダービームバスターの高出力ビーム過流を撃ち放った。

 

 その攻撃で撃破されたMD達が爆発していく最中で更にマフティーはビームバスターとショルダービームバスターを放ち攻める。

 

「攻めこそが最大の防御!!!それを一番君たちが心得ているはずだ!!!そしてそんな防戦で終わるはずはない!!!そうだろう?!!」

 

「マフティーさん!!!そうですね!!!僕達らしくない、攻めます!!!」

 

「どうやら俺の分身、不意には弱いようだなっ!!!いっくぜぇっっ!!!」

 

 マフティーに奮起を促されたデュオとカトルは再び攻めに転じ、虎の子のPXシステムを発動させ、残りのMDへと突っ込んだ。

 

 ビーム砲火の爆破を押し弾くように青白く輝くガンダムサンドロック改は、パワー特性とPXの超高機動力を活かしたクロスクラッシャーの激しい一撃をサジタリウスαに食らわし、サジタリウスβをビームカノンごとバスターショーテルで叩き斬って見せる。

 

 その攻勢を維持しながらシルヴァ・ビルゴに一瞬で回り込み、クロスクラッシャーで一線に破断させてもう1機にバスターショーテルを叩き込んだ。

 

 一方、ガンダムデスサイズ・ヘルはアクティブクロークで防御しつつ攻め入り、バスターシールドアローを超高速度撃ち放ち、サジタリウスα、βの頭部にビームの刃を穿つ。

 

 その止めに再度アクティブクロークを展開させ、残存するシルヴァ・ビルゴ達にアームド・ツインビームサイズの超高速の斬り払いを連続で斬り食らわし、連鎖爆破の下に撃破した。

 

 そしてΞガンダムは上空の輸送機に目掛けビームバスターを被弾させる。

 

 まさかの反撃にOZプライズ兵も焦りを隠せないでいた。

 

「何故ガンダムが?!!しかもあれは強奪されたΞガンダム!!?」

 

「振り切れ!!!振り切れぇぇ!!!」

 

「貴様たちがMDを投下したのか?!!この状況と言いそうなのだろうな!!!その報い、受け取れ!!!」

 

 マフティーの怒りも賭したファンネルミサイルが放たれ、機首や動力部といった輸送機のウィークポイント目掛けて多数のミサイルが飛び込む。

 

 それと同時に、Ξガンダムはビームバスターを連続で叩き込んだ。

 

「がああああああ?!!!」

 

 ファンネルミサイルは各所をズタズタに抉り貫いて貫通し、ビームバスターの連続直撃と重ねながら輸送機を爆砕四散に導いた。

 

 

 

 戦闘は終結したものの、各マフティーアジトの凄惨な傷跡は事実上マフティーの組織の壊滅に等しい状況になっていた。

 

 この状況を大々的にOZプライズは報道を促し、同時にオペレーション・ノヴァも公表し、マフティーはエアーズロック以外の全てのマフティーアジトと通信が取れない状況に絶望する。

 

「駄目です……他の全てのマフティー基地との交信が出来ません。おそらく……今のような攻撃にっ……!!!」

 

「そうか……ありがとう、ミヘッシャ」

 

感情を堪えながらのミヘッシャの報告に礼を述べたマフティーは通信を終えるとハッチを解放し、改めてエアーズロックの現状況が肉眼に刻まれる。

 

するとマフティーに言い様がない感情が込み上げた。

 

「ううっっ……くっぅ、うおぉぉっっ……うおぉおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 3機のガンダムが佇むエアーズロックの麓に黄昏が広がる中、マフティーの慟哭が響く。

 

「ちくしょう……完全に今回はやられちまったな……よりによって会談中を狙いやがって……」

 

「マフティーのアジトは全て音信不通だそうです……おそらくあのような感じでMDが……!!!」

 

「OZよりも輪をかけてやべーぞ、OZプライズはよぉ……マフティーの事を想うと、思い出しちまうな。ラボコロニーを」

 

「うん……僕達もオデルさんやバックアップしてくれていた僕の姉さん達、エージェントの人達……多くの仲間を失った。今の彼の気持ち、痛い程わかります……」

 

 デュオとカトルは、マフティーことハサウェイの今置かれた状況にやるせなさを表情に隠せないでいる中、彼方より向かってきていたネェル・アーガマへと視線を向けた。

 

 ネェル・アーガマのブリッジにも差し込む黄昏の日差しがクルー達一同を照らし、トロワやマグアナックチームが腕組みの姿勢でエアーズロックを見つめている。

 

 ヒイロもまたマリーダの側を離れ、MSドック内のウィングガンダム・ゼロの前に立っていた。

 

「ゼロ……何故今回の一件の予測を見せなかった?敢えて見せなかったのか?必然性があったのか?」

 

 何も答えないウィングガンダム・ゼロに敢えて懐いた疑問符を問いかける。

 

 見上げるウィングガンダム・ゼロへの視線を一瞬細めると、ヒイロはコックピットに身を投じていった。

 

 

 

 

 

 

To Be Next Episode

 

 

 

 次回予告

 

 ロームフェラ財団に押し進められるMD降下作戦、オペレーション・ノヴァの標的となってしまった組織としてのマフティーは壊滅してしまう。

 

 MDの猛威は地球圏の至る所に拡大していく中、せめてもの報復としてトリントン基地を壊滅させるヒイロ達であったが、それでマフティーのわだかまりは拭い去れるものではなかった。

 

 一方、表向きにメテオ・ブレイクス・ヘルに占拠されたとされているオーブでは、OZプライズ中級特佐・ユセルファーによる醜悪かつ非人道極まりないオーブジェノサイドが行われ、多くのオーブ国民が無差別に三狂ガンダムのターゲットにされ、ジュリの友人であるマユラとアサギをはじめとした女性達もユセルファーにその尊厳を汚されながら絶望の屈辱の中にあった。

 

 そんな事実上地獄の独裁場と化したオーブの地に、夜空より五つの流星が舞い降りる。

 

 それは、劣悪な状況を張り巡らすOZプライズのMS群に新たな武力介入をするのであった。

 

 

 次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

 

 

 エピソード40 「月下の燃え尽きない流星」

 

 

 

 




 
捕捉

今頃ですが、本二次小説のケネス・スレッグは「Gジェネ版」のケネスです。マダオ、ガイアメモリ、碇ゲンドウボイスの方です。

 マフティーも同じくGジェネ版です。

追記捕捉

 ベースジャバーは原作では宇宙用ですが、今回登場したベースジャバーは、重力下でも運用可能な仕様になってます。(メテオ・ブレイクス・ヘル仕様)



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エピソード40「月下の燃え尽きない流星」

オペレーション・ノヴァ。

 

それはロームフェラ財団がOZプライズに指示した大規模なMD降下作戦であり、各地の旧連邦及びジオン残存軍、その他武装勢力の徹底排除・制圧を目標とするものだ。

 

その標的はトレーズ幽閉を異に唱え、ロームフェラ財団やOZプライズに反発したOZもまた例外ではなかった。

 

とある激化する戦地にて、リーオーやエアリーズがOZプライズのプライズリーオーやプライズジェスタに対し徹底的な攻勢をぶつける。

 

ビームマシンガンやドーバーガン、ビームバズーカが唸り、レーザーチェーンガンの高速連射撃がはしる中で、ギガハープーンが飛び交う。

 

対しOZプライズサイドもまたビームライフル、ドーバーバスターで徹底的に排除しにかかる。

 

無論、この戦乱が民間施設に及ぶ事も少なくなく、市街地に容赦の無いビーム弾雨が注ぎ、罪なき民間人達を呑み込んでいた。

 

またあるエリアではジオン残存軍とOZの攻防が展開し、マシンガンやバズーカで応戦するドムトローペンやディザートザク、ガルスK、重層型グフに対し、リーオーが放つビームマシンガンやビームバズーカ、ドーバーガンによる一方的な射撃で蹂躙たる戦況を押し寄せさせる。

 

 こういった状況が広がる地球の戦況は、地球連邦軍が統治していた第二次ネオジオン抗争後の状況よりも明らかに最悪な一途をたどっているのは火を見るよりも明らかだった。

 

 そしてこの状況の中にオペレーション・ノヴァが実行され、漆黒のMDシルヴァ・ビルゴや紅のサジタリウスα、青のサジタリウスβの三機種のMDが次々に武力介入を開始し始める。

 

 ビームランチャーやパーシスタービームライフル、ビームカノンといった圧倒的な最新鋭の火力は、最早量産機の域を超えていた。

 

 それに加え、無人機故に躊躇いやミスも皆無であり、味方認識しているOZプライズ関連の目標以外には容赦ない攻撃を加え、OZや地球連邦軍残存勢力、ジオン残存勢力、第三、第四の各地に存在する武装組織を圧倒的に蹂躙・駆逐をしていった。

 

 更に武力対武力の戦況のみならず、その一方的かつ圧倒的な武力をもってOZプライズの部隊が各国の主要都市や地方区画を制圧し、部族部落や先住民族に対しては無差別に虐殺の攻撃を推し進めるエリアも存在する。

 

 オーブ首長国連邦にメテオ・ブレイクス・ヘルの名を騙りながら侵攻したユセルファーのようなOZプライズの上級兵達が主となり、特定エリアにそのような状況を敷く状況が拡大の一途を辿ってていた。

 

 その一方 、オペレーション発動より以前に先駆け的にオーストラリアを拠点にする反政府組織マフティーの壊滅が実行され、エアーズロック以外のポイントでは大々的な成果を上げたツバロフとペルゲに対し、ロームフェラ財団の長・デルマイユが賞賛の言葉を送っていた。

 

「この度の成果は聞いている。オセアニアの反抗勢力壊滅は大いに成功したそうだな。その功績がオペレーション・ノヴァを一早く実行に運べた。よくぞやってくれた」

 

「は!!ありがたきお言葉……しかし、デルマイユ公。一部の部隊は壊滅されました。恐らくは新たに活動を開始したガンダムによるもの……100%の成功は成しえなかったのです。そのようなお言葉はまだ頂くわけには……」

 

「まずはOZプライズを使ったロームフェラ財団とブルーメンツによる地球圏絶対の統治だ!!その広大な計画を敷いて奴らを包囲する……それからでも遅くはあるまい」

 

「はぁ……しかし……」

 

「案ずるな。MO‐3と接収したアナハイム月面基地で今後ともより一層MDの生産に励んでもらう!!頼んだぞ、ツバロフ!!並びにドクター・ペルゲ!!」

 

「はっ!!」

 

「お任せを……くくくく!!!」

 

 

 

 オセアニアエリア上空

 

 

 

 夕暮れの太陽が光り照らす中をネェル・アーガマが飛ぶ。

 

 その艦内の一室にはマフティーとミヘッシャの姿があった。

 

 多くの仲間をOZプライズによるMD部隊により壊滅され、組織としてのマフティーは壊滅したが、マフティーことハサウェイは僅かに生き延びた仲間と共にヒイロ達のネェル・アーガマに身を寄せていたのだ。

 

 ネェル・アーガマ格納庫では、生き残ったマフティーの仲間達が切磋琢磨してΞガンダムのメンテナンス作業にとりかかっていた。

 

 マフティーは夕暮れの太陽を見ながらヒイロ達と共闘した報復戦を回想する。

 

 

 

 …

 

 

 

 オセアニアエリアのとある基地に襲撃をかけるヒイロ達のガンダムとΞガンダム。

 

 空中より、ウィングガンダム・ゼロとΞガンダムが基地の主要MS格納庫やその他の軍事施設をツインバスターライフルとビームバスター、ショルダービームバスターで一掃攻撃を与え、エアリーズ部隊を巻き込みながら強烈なダメージを基地に与える。

 

 その直後、マグアナックチームが一斉射撃をかける中、ガンダムデスサイズ・ヘルがアクティブクロークを展開させながらリーオーとジェスタに迫り、アームド・ツインビームサイズの二連刃で薙ぎ払うように次々に斬り飛ばす。

 

 ガンダムヘビーアームズ改とサーペントが全武装の火力を前面に放ちながら一気にMS部隊を駆逐粉砕させ、ガンダムサンドロック改がビームマシンガンで数機のリーオーを撃ち倒し、駆け抜けるようにクロスクラッシャーのヒートショーテル部でジェスタ部隊を一線軌道に斬り抜ける。

 

その一瞬の斬撃が切断部を繊細に焼灼しながら連続でジェスタの機体群を破壊する。

 

 この混乱に乗じ、ヒイロが管制塔にマシンキャノンで牽制攻撃をかけながらツインバスターライフルを管制塔施設基地に突き刺した。

 

 そしてヒイロは基地施設に突き刺したツインバスターライフルを解き放ち、施設中心部をビーム過流で豪快に一掃する。

 

 更に上空に飛翔した後、基地施設一帯に二挺持ちにしたツインバスターライフルによる自転式ローリングバスターライフルの射撃を与え、巨大な爆炎の柱を噴き上げさせながら壊滅に至らせていった。

 

 

 

 …

 

 

 

 進む黄昏の空に視線を向け続けるマフティーの隣には、然り気無く彼に寄り掛かるミヘッシャがいた。

 

立場上では諜報員とオペレーターの彼女だが、マフティーとは恋仲でもあったのだ。

 

ミヘッシャはそのまま彼の本名を呼びながら投げ掛ける。

 

「ハサウェイ……わざわざ危険を侵して報復したの、余計かえって狙われやすくなったんじゃない?」

 

「ああもしなければ気が済まなかった。もう状況が変わったんだ。組織上のマフティーが壊滅させられた今……」

 

マフティーはふぅっとため息を吐いて一度間を置くと、片手をミヘッシャの肩にかけて身を寄せさせる。

 

「ハサウェイ……?!!」

 

「耐えよう。今は生き残ってく事が死んでいった仲間達にできる手向けだ」

 

急なマフティーの行動にミヘッシャは顔を火照らせて呟く。

 

「うん……そうだね……」

 

「これからは、彼らと共に……メテオ・ブレイクス・ヘルと共に真の反撃をしていくさ……過酷な道のりになるが、俺はミヘッシャを死なさせはしない……今後は諜報活動はない。しなくていい。オペレーターとして、俺を支えてくれ」

 

「ハサウェイ……」

 

マフティーはミヘッシャの髪を撫でながら彼女と暫く向き合うと、その唇を重ねた。

 

 

 ネェル・アーガマ艦内―――ヒイロはウィングガンダム・ゼロのセットアップに徹する中、ウィングガンダム・ゼロの解放したままのコックピットハッチにデュオが腰かけ、ヒイロに話しかけている。

 

「……経緯は非常に苦いが、マフティーが加わってくれたな。俺達からすればコイツはかなりの戦力増強になってくれたはずだぜ……」

 

「だが、厳密に言えば俺達は奴の敵(かたき)になる。アデレードでの武力介入の時、奴の父親であるブライト・ノアが乗っていた艦を撃墜している」

 

ヒイロはデュオを見ず、インターフェースに配線接続したデータベースを操作しながら答え、デュオはハッチに寝転ぶ体勢に変えて喋り続ける。

 

「そーなのかよ……またなんつー因果なんだかなぁ……けど、マフティーは連邦が好き勝手してやがる時から活動してんだろ??てことはその時点で父親と敵対してたんじゃねーか??」

 

「俺達がそんな事に首を突っ込む必要はないがな……話を変えるが、ここから先は占領されたオーブの奪還だ。デスサイズ・ヘルのメンテぐらいしておけ。特に機体ハードウェアのアップデートはな」

 

「アップデート?!」

 

「ハワードから俺達のガンダム共通の強化アップデートツールを受け取っている。基本性能は勿論、PXも強化される。無論、ゼロのシステムもな。それを今やっている……オーブ攻略は徹底的にやる必要がある。俺達の名を騙り、オーブの民を人質に独裁弾圧する奴らを全力で叩いて世界に示す必要がな」

 

ヒイロがやっているのは、ヒイロ達がピースミリオンを離れる際、ハワードが託してきたガンダム専用アップデートツールのアップデートであった。

 

この時トロワもまたガンダムヘビーアームズ改のアップデートに黙々と打ち込んでおり、ガンダムサンドロック改にはマグアナックチームの面々がメンテ作業にあたっていた。

 

「そんなの渡されてたのかぁ?!!聞いてないぜ?!!」

 

デュオが、ガバッと飛び起きるリアクションをしながらヒイロに問いかけると、ヒイロはしれっとだけ言葉を返す。

 

「話くらい聞いておけ……」

 

「へいへい!!聞いていなかった俺がわるーございましたっと!!そんじゃ、早速とっかかるか!!オーブ戦に間に合わせねーとな!!」

 

ヒイロは出ようとするデュオにアップデートツールメモリーを無言で投げ与えた。

 

デュオはそれを片手でパシッと受けとると、頭をかきながら言った。

 

「お?!へっ……素直じゃねーんだか、素直なんだか!!サンキュッ……!!」

 

デュオはウィングガンダム・ゼロのコックピットから勢いよく飛び出すが、そこには偶然デッキ通路を歩いていたジュリがいた。

 

「おわ?!」

 

「きゃっ?!」

 

スローモーションに流れる二人の瞬間の一時。

 

デュオの姿がジュリの眼鏡に反射し、デュオの瞳にジュリの姿が映る。

 

次の瞬間、デュオはぶつかりそうになる間際、瞬発的にジュリをかわした上、体勢を崩して倒れる彼女を受け止めた。

 

「お~……悪い、悪い!!ジュリ、大丈夫だったかい?!」

 

「え?!!あ、う、うん!!」

 

ジュリはデュオの腕に受け止められながら顔を赤くさせながら短く答える。

 

対しデュオは、然り気無くジュリを受け止めていた腕を離しながら申し訳なさそうに片手で「悪い」のサインをしながら謝罪した。

 

「いや~、マジで悪かった!!危うく乙女をケガさせちまうトコだった!!」

 

ジュリは面と向かって言って来るデュオから恥ずかし気に少し視線をずらして飛び出した理由を尋ねた。

 

「あ、あたしは大丈夫だから……デュオ。気にしないで……えっと……どうしてそんなに慌ててたんですか?」

 

「あ?あ、あぁ、相棒のアップデート、オーブ攻略までに済ませなくちゃならないっていうやぼな急用ができたもんでね!!急いでやんなきゃならね!!」

 

そう言うデュオに、ジュリはもじつきながらも一呼吸おいて話した。

 

「あ……そう言う事なら手伝ってもいい……かな?あ、あたし、M1アストレイのエンジニアでもあるし……それに、これからオーブの為に動いてくれるんだからあたしにもできることしたいなって……」

 

デュオは基本的に愛機は自分でいじるスタンスでいるのだが、この時は違っていた。

 

「そうか!!急ぎだから助かるぜ!!それに、ジュリにいじってもらえば相棒も喜ぶだろうよ!!」

 

「え?!!あ、あぁ……そんな……あたしなんか……」

 

「謙遜しない、しない!!相棒は今まで開発者のジジィや男にしかいじられたことないからよ!俺も相棒も男の子なんでな……っとまぁ、とりあえず俺がメンテする間、アップデートの処理を頼むぜ!!」

「う、うん!わかった!」

 

 

 

オーブ首長国連邦

 

 

 

表向きにはメテオ・ブレイクス・ヘルが占拠したと報道されているが、その一件以降は完全に情報統制が敷かれ、全くと言っていい程情報が隔離された状況にあった。

 

 実際はOZプライズ中級特佐・ユセルファーが乗っ取った独裁放置国家の状況となり、既にウズミ国家首長は殺されており、人質のようにされた国民は強制労働を強いられ、ユセルファーが気に入らないと判断した国民たちは老若男女、大人子供問わずに虐殺実験(MSによる直接攻撃)の対象にされていた。

 

 またある主観から選別した女性達を「戦利品」と称し、自らの欲望の肥やしにして、満足した対象は部下に回していた。

 

 首長国本島の各地においても強化人間特殊部隊・バーナム所属のバーナムジェガンやOZプライズ所属のプライズリーオー、プライズジェスタが配備された状況下にあった。

 

 このような状況はOZプライズの特権乱用に味を占めた幾つかの幹部クラスの者達が行っており、他の幾つかの国や幾つかのコロニーにおいても似たような独裁隔離状態が引き起っていた。

 

 L5コロニー群に属するエリアの一部のコロニーにおいても中華覇権派OZプライズ上級特佐・醜季煉(シュウキレン)による独裁虐殺が横行しはじめていた。

 

 こういった個々の幹部クラスの特佐達の横暴を見て見ぬふりをする財団に対してもまた、OZプライズとOZを対立させる要因の一つとなりつつあった。

 

そこにはブルーメンツの幹部特権や同秘密結社による資金提供が共通で存在していた。

 

 

 オーブ首長国連邦のMS製造施設

 

 

 ここでは依然、国防の為のM1アストレイやムラサメが製造されていた施設であったが、現在はOZプライズの為の施設となっており、新たなガンダムの開発が行われていた。

 

 ユセルファーが直接乗る為の専用の黒いガンダムである。

 

 視察に訪れたユセルファーが狂気の笑いを含みながら完成間近に迫っていたその機体を見上げる。

 

「ふふふっ、まさに私の為に造られたガンダム……ノワール・フリーダムガンダム。黒き自由……私の感性を体現している……ブルーメンツからの資金提供により可能になった……実に素晴らしい」

 

一人で心酔するユセルファーにデータボードを手にした部下が歩み寄り、報告をする。

 

「ユセルファー特佐、失礼致します。本日の国民浄化のデータと、満たしの時間の戦利品リストです」

 

「ほう……どれ」

 

ユセルファーはデータボードを操作しながらそのデータを閲覧する。

 

ちなみにそのデータはオーブ国民の虐殺データとユセルファーの欲望を満たす対象の女性達のラインナップだ。

 

「気に入らない存在は削除する。それが私の持論であり最も素晴らしいやり方だ……それに今は実験的段階ではあるが、OZプライズ全体にリベラル的管理体制と徹底的な弾圧理論が普及していっている……良い流れだ」

 

そして一通りの虐殺リストを早々に閲覧し、女性達のラインナップに目を通す。

 

「ふふッ、やはり引き続きこの二人を一人占めにしたいな……態度が気に入らなくも容姿、体は素晴らしい……」

 

いやらしい不屈な笑みをしながらユセルファーは以前にも指名したマユラとアサギを指名した。

 

「了解です。では今宵も手配しておきます」

 

「うむ。また使い飽きたら私の趣味と口封じも踏まえて処分する。その処分の時……下半身に銃口を仕込んで脅している時の命乞いと絶望感の表情、そして悲鳴や泣きじゃくる声が最高だ!!!特にいきなりメインディッシュに手を付けた時……そう、ここの公女か?確かカガリとか言ったな。美しいゆえに硬骨だったなァッ……!!!ンッ、ゴホッ!!!とまァ、その後処理は頼むぞ。今後ともここをプライズの領地とし、運営していく。あくまでも表向きには反逆ガンダムの連中でな……!!」

 

「はっ!!無論であります!!」

 

一方、収容施設から引き出されたオーブ国民が島の一ヶ所に留められ拘束されていた。

 

その上空にはカラミティーガンダム、フォビドゥンガンダム、レイダーガンダムが控えていた。

 

「早く合図しろってんだよ!!!焦らさせんな!!!」

 

「ワクワクするな~……ククク」

 

「やってやんぜっ!!!早くしろ!!!」

 

オルガ、シャニ、クロトが各ガンダムのコックピットで今か今かと何かを待ちそびれる様子を見せる。

 

次の瞬間、合図と思わしき信号弾が上がった。

 

三人はかっと目を見開き、一斉に機体を島の地上目掛けて飛ばす。

 

「やっとキタかぁああああっ!!!」

 

「楽しみぃ~!!!」

 

「しゃあああ!!!」

 

3機が向かう先には捕らわれているオーブ国民の収容ユニットがあった。

 

これこそが虐殺の実態であり、彼らのストレスのはけ口であった。

 

無論、如何に非人道の業かは言うまでもない。

 

カラミティーガンダムが敢えて近距離まで詰めた状態で全ての火器を放つ。

 

「はははっ!!!消えろよ、虫けら弱者ぁ!!!」

 

収容ユニットには老若男女、大人、子供問わず押し込められており、誰もが悲鳴を上げる中で一瞬にして高エネルギーに蒸発させられながら爆砕されてしまった。

 

「あはは!!!あははははは!!!たのしぃ~!!!」

 

シャニは恐ろしくも無邪気にフォビドゥンガンダムの巨大鎌、ニーズヘッグを収容ユニットに何度も振り下ろし続け、快楽の為に無実のオーブ国民達を潰し砕く。

 

「虫けらは抹殺っ!!!滅殺ぅううう!!!」

 

更にレイダーガンダムが巨大ニードル鉄球・ニョルミルを執拗に乱舞して収容ユニットを潰し砕いた。

 

これが一日に幾度かの割合で行われているのだ。

 

最早正気の沙汰ではない。

 

そして夜には欲望の屈辱が女性達を蝕む。

 

今夜もユセルファーの対象にされてしまったマユラとアサギが涙を浮かべてバスローブ姿でベッドに横たわる。

 

その間にもユセルファー以外の部下達が順繰りに廻る。

 

今のオーブには狂気と絶望以外のモノは存在しなかった。

 

完全にまで隔離された独裁と大量虐殺の地。

 

 この間に他の場所でも彼の上階級の部下達が欲望を各地で嗜んでいる。

 

 実はこれらの行為はロームフェラ財団、並びにブルーメンツに属するの男性陣の闇の伝統行為であり、決して歴史の表に出る事無く行われているのだ。

 

オーブ国民の若い女性達は時代の犠牲に潰れるのを待つしかなかった。

 

来る日も、また来る日も虐殺と凌辱が繰り返される。

 

月明かりが射し込む女性専用収容施設内にて、虚ろな眼差しでマユラが月を見て呟く。

 

「……もう楽になりたい……」

 

「マユラ……」

 

「もう耐えられない……」

 

虚ろな瞳から涙をながすマユラにアサギが寄り添いながら諭そうとする。

 

「あたしも……限界だよ。でも、アストレイチームで生きてるの、あたし達だけだよ?今終わったら死んじゃったみんなの分はどうするの?宇宙に行ってるジュリだって悲しむんだよ?」

 

「……みんなの分……ジュリ……」

 

「そうだよ。みんなの分がんばろ?それに悪は栄えない。必ず滅びる時が来る。歴史が証明してるよ?旧世紀にあったとある独裁国家も最終的に世界の国々の制裁で滅んだ……必ず助かる時が来るよ」

 

アストレイチームでリーダーをしていたこともあり、チームメイトでもあり友人でもあるマユラをなだめるアサギ。

 

寄り添う頭を寄せて温もりを与えてくるアサギにマユラは涙を止めれなかった。

 

「うっ……アサギっ……アサギぃっ……!!!」

 

感情が溢れ、泣きながらマユラはアサギの胸元に頭を寄せ付け、アサギもまた自然に涙を流していた。

 

その後、泣き疲れたマユラに寄りかかられたアサギは月を見る。

 

すると月の中に浮かぶ一つのシルエットを目にした。

 

「え……何?UFO??」

 

月の中にある黒いシルエット。

 

だが、次のアサギの瞬きの瞬間にそれは消えてしまった。

 

「ネェル・アーガマ、光学迷彩展開!!目標ポイント到達まで後僅かです!!」

 

エイーダの声が響くCICブリッジ。

 

収容ユニットからは黒い点でしかなかった上に消え去った未確認飛行物体の正体はネェル・アーガマであった。

 

ケネスはエイーダの報告を受けると、次の段階の指示を通達する。

 

「うむ。では目標ポイントに到達後、直ちにガンダムを投下する!!その後、ネェル・アーガマは高度を海上付近まで下げ、サーペントとマグアナックチーム、M1アストレイを艦上に展開!!加わってくれたマフティーのΞガンダムも共に、オーブ国民の解放にあたる!!そして……世界にこの行動を発信する!!!」

 

ネェル・アーガマのブリッジクルー達は、ケネスのその言葉に誰もが頷いた。

 

ケネスは続ける。

 

「この国に及んだOZプライズの暴挙を暴露し、メテオ・ブレイクス・ヘルの無実を証明し、オーブ国民を救う!!我々には集めたオーブに関するデータがある!!!実態を地球圏の情報網にリークさせる!!!これが更なる反撃の狼煙になる……!!!」

 

 張り詰めると同時に高揚感にも似た空気も同時に宿り始めるCICブリッジ……ヒイロ達や志を同じくする者達、そしてジュリが長らく待ち望んだオーブへの武力介入の瞬間が目前に迫る。

 

 ネェル・アーガマの航行高度はおよそ地上から10㎞上空を航行していた。

 

 ネェル・アーガマのカタパルトデッキの各四つのゲートがオープンし、スタンバイしたウィングガンダム・ゼロ、ガンダムデスサイズ・ヘル、ガンダムヘビーアームズ改、ガンダムサンドロック改の機体が姿を見せる。

 

更に五つ目のハッチが開き、Ξガンダムもスタンバイ態勢に入った。

 

マフティーは見つめるモニター上のカタパルトデッキを見据え、この戦いに組織だったマフティーとしてのリスタートを見出だしていた。

 

「腐ったオーブの実状は……彼らと共に、マフティーが粛正する!!!これが反撃の狼煙だ!!!」

 

「ひゅーッ……高い高度だぜ!!!けどまっ、当初の俺達も大気圏から降下したからなぁ。ちょいと懐かしいな!!」

 

 デュオがサブモニター表示された高度計を見てテンションを上げるとそれを聞いていたトロワが一言放つ。

 

「やはりオペレーション・メテオ、いや、リ・オペレーション・メテオはこうあるべきだ」

 

「へっへへ、だな!!再度反撃の狼煙を上げさせてもらうぜ!!!」

 

 デュオはそう言いながらコントロールトリガーをなでる。

 

 (ジュリが手伝ってくれたおかげでメンテと同時にアップデートも済んだ。サンキューな、ジュリ。きっと相棒も女の子にいじってもらえて嬉しいだろうぜ!!)

 

(待ってて……マユラ、アサギ、オーブのみんな。もうすぐ……もうすぐだからっ!!)

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルのアップデートを手伝ったジュリもまた、M1アストレイのコックピットで待機しながら迫るオペレーション開始時間に息をのんでいた。

 

「くすっ、デュオらしいね!!みんなで盛大にいきましょう!!ミーティングにもあった通り、現在オーブは本島に幾つかの戦力を配備しています。指定したポイントには最も多くの戦力を有しています。そこを一気に電撃的に叩きます。そして出てくるはずの厄介そうな敵ガンダムを叩き、その間にラシード達にオーブ国民の開放をしてもらいます」

 

「如何に迅速に厄介な奴等を叩くかが肝だな!!!」

 

「えぇっ!!解放にあたるラシード達やオーブ国民に及ぶ危険を回避するかも関わりますから……」

 

「デュオ、カトル!!間も無く目標ポイントだ。そろそろ会話は控えろ」

 

デュオとカトルが通信をし合う間にも目標ポイントへの距離が迫り、ヒイロがそれを促した。

 

「お!!いよいよってか!!!」

 

「了解、ヒイロ!!それでは皆さん、スタンバイしてください!!」

 

ヒイロ、デュオ、トロワ、カトル、マフティー、カトリーヌ達マグアナックチーム、ジュリ、メッサー、そしてネェル・アーガマクルー達に緊張の一時が流れる。

 

「……配備中のガンダムの各カタパルト・リニアボルテージ上昇開始と同時にハッチオープンします……射出タイミングを各Gマイスターに譲渡します……目標ポイント到達まで後僅か!!カウントダウン開始します!!10……9……」

 

CICブリッジのオペレーター席ではエイーダが到達までのカウントダウンを開始すると共に、各ガンダムがスタンバイする四つのカタパルトゲートが開いていく。

カウントダウンが毎秒進む中、えのガンダム達のメインカメラが決意と闘争を示すように光る。

 

艦内全放送にエイーダのカウントダウンの声が響く中、医務室のベットにいるマリーダも本格的な戦闘の間際の空気を感じていた。

 

「……始まるか。ヒイロ達の降下が……!!」

 

「……3……2……1……降下ポイント、到達!!!」

 

そして医務室にエイーダのポイント到達の声が響いた直後、ケネスはバッと手をかざして叫んだ。

 

「リ・オペレーション・メテオ、発動!!!」

 

 

 

BGM ♪「思春期を殺した少年の翼」

 

 

 

ヒイロ、デュオ、トロワ、カトルの眼差しが引き締まり、眼光が出撃直線上を見据える。

 

そしてほぼ同時にカタパルトから5機のガンダムが一気に飛び出した。

 

飛び出したガンダム達は、以前のオペレーション・メテオの時の如く、閃光のような軌道を描きながらオーブを目掛け舞い降り、それぞれが空気を切り裂くように標的のポイントへと突き進む。

 

 

 

オーブ北西部軍港

 

 

 

OZプライズ所属のイージス艦や空母艦が停泊する本島の北側に位置する軍港。

 

この地点にはバーナムジェガン以外にも、後に増強されたフライト機動ユニットを装備したプライズリーオーやプライズジェスタが配備されていた。

 

夜間警備を行う彼らの機体達の発光するカメラアイが突如高速点滅し、各機が一斉に夜空を見上げた。

 

 

 

ゴッ―――ドォオオオオッ……ギュウィイイイッ!!!

 

 

ネオバードモードのウィングガンダム・ゼロが電光石火のごときスピードで軍港に突き進み、ソニックブームを巻き起こしながらバーナムジェガンやプライズリーオーの頭上を滑空する。

 

そして舞い上がりながら高速で機体を変形させ、突き出すようにツインバスターライフルの銃口をバーナムジェガンやプライズリーオー、プライズジェスタに向けた。

 

一瞬で展開する機体群がロック・オンされる。

 

「ターゲットロック。排除開始……!!!」

 

 

 

ヴゥウッッ、ヴァズドォオオオオォオオオオオオオオッッ!!!!

 

 

 

ツインバスターライフルの銃口にGNDエネルギーが瞬く間に充填され、ウィングガンダム・ゼロは一気にビーム渦流を撃ち飛ばす。

 

躱す余地もなく、ビーム渦流が容赦なく射撃直線上の敵機群を呑み込んだ。

 

 

 

ズゥグワォオオオオオオオオオオオオ……!!!!

 

ドォゴバッッ!!!ドォドドドドドドゴォバオオオオオオオオオッッッ!!!

 

 

 

駆け抜けるツインバスターライフルのビーム渦流は、夜の軍港を幾つもの鮮やかな爆炎の爆破光に照らさす。

 

その間にもプライズリーオーやジェスタが一斉にビームライフルを放ち、それを援護射撃の形にするように、バーナムジェガンがビームランサーのビームエネルギーを発動させてウィングガンダム・ゼロへと突っ込んでいく。

 

ウィングガンダム・ゼロに夥しいビームが着弾するが、ビームは弾くように消滅するのみだ。

 

「……無駄だ」

 

ヒイロのその一言の後、ウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルを二分割にし、ビームランサーで突っ込んでくるバーナムジェガンを筆頭にしたターゲット群へ突き出し向ける。

 

そしてウィングガンダム・ゼロが両眼をギンッと光らせた直後、双方のツインバスターライフルにチャージされたエネルギーが解放され、凄まじい二連ビーム渦流が一気に突き進む。

 

 

 

ヴズゥヴァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

ドゥバガァアアアアアアアアアア……ドッドドドゴゴゴバァッッ、ドドドゴゴゴゴバガァ!!!!

 

 

 

左右二軸の射線の敵機群を一掃するツインバスターライフルのビーム渦流。

 

強力無比なその攻撃は瞬く間に幾多の敵機群を駆逐させた。

 

 更に左右両端にツインバスターライフルの銃身を突き出し、ビームサーベルを振りかざして迫っていたプライズジェスタやビームランサーで突貫するバーナムジェガンの機体群を一気に吹き飛ばす。

 

 

 

 ジャカキンッ、ジャキンッ―――ヴヴズドォアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 ヴァズダアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 ヴァズアァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 ドォドドドドドゴゴゴゴバババアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

空母よりバーナムジェガンやプライズリーオーが飛び立ち、下方からウィングガンダム・ゼロに射撃を慣行するが、ヒイロはそれをゼロシステムで見通していた。

 

二挺のツインバスターライフルを交互に放ち、低中出力のビームやビーム渦流が二機種の部隊を次々に吹き飛ばして撃破していく。

 

その最中に再びツインバスターライフルを連結させ、その銃口から中出力のビーム渦流を放って3

、4機づつ向かい来る敵機群を破砕させていった。

 

そして停泊するMS空母やイージス艦をロック・オンし、GNDエネルギーチャージを充填させる。

 

「艦隊群を破砕する」

 

容赦のないツインバスターライフルのビーム渦流が撃ち放たれ、空母を直撃。

 

凄まじいビーム渦流が甲板を貫通し、大規模な爆破と水柱を上げた。

 

 MSや停泊中のイージス艦や空母も破壊し、武力介入程なくして最初の強襲ポイントの敵勢力を一網打尽にして見せるヒイロとウィングガンダム・ゼロ。

 

 ヒイロはコントロールパネルをタップしながらオーブのマップデータを確認する。

 

「……オーブ軍港ポイント敵勢力の壊滅を確認。次のポイント、第一北部都市へ向かう!!」

 

 4基のウィングバインダーを展開させたウィングガンダム・ゼロは、GNDエネルギーをバーニアから吐き飛ばして爆発的な加速で飛び立った。

 

 

 

 オーブ第二北部都市

 

 

 

都市部に配備されたバーナムジェガンやプライズジェスタが佇中、熱源感知を捉えた機が上空にアングルを移動させる。

 

すると月に照らされながら一気に降下、滑空してくる機体を目にする。

 

「―――?!!」

 

滑空した後に突き進んでくるそれはガンダムデスサイズ・ヘルだった。

 

各機が一斉にビームライフルやビームランサーを発射を開始するが、アクティブクロークを纏うガンダムデスサイズ・ヘルに弾かれて尽きていく。

 

突き進みながらガンダムデスサイズ・ヘルは手始めのようにレフトアーム側のバスターシールドアローをかざし、ビームの矢を三発放った。

 

 

 

ディシュッ、ディシュ、ディシュィィィ!!!

 

 

 

プライズジェスタと2機のバーナムジェガンの胸部に突き刺さり、三連爆破を巻き起こさせる。

 

 

 

ディッギャイッ、ディギャイッ、ディギャイィィッ―――ドッゴゴバガァ!!!

 

 

 

「さぁて、死神様のお通りだぜぇ?!!」

 

ギンと目を光らせたガンダムデスサイズ・ヘルはアクティブクロークを展開させながらバーナムジェガンとプライズジェスタの小隊に突っ込み、ビーム刃を発動させたアームドツインビームサイズを大いに振るう。

 

 

 

 ギュウィィィッ!! ヒュゴッ―――ザッディガッ、ディシュガッ、ディシュギィッ、ザギャガァアアア!!!

 

 ゴッガァドォドォドォドォゴオオオオオオオンッッ!!!

 

 

 

ガンダムデスサイズ・ヘルは一振りでバーナムジェガン2機プライズジェスタとプライズジェスタ2機を斬り払い、裂断された機体達が巻き起こす爆発に照らされながら、一気に隊長機らしきプライズジェスタとバーナムジェガンに接近して袈裟斬りに叩き斬り、続けながら更に斬り払った。

 

 

 ザシュガァアアアッッ、ザバギャアアアアンッッ―――ドォドォアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 その最中、バーナムジェガンの1機がビームランサーを突き刺そうと突き進んできたが、見据えていたかのように、かつクイックな可動速度でバスターシールド・アローで受け止めてみせる。

 

「おおっと……突き出た刃は引っ込まさなきゃ……なっ!!!」

 

 一時的に拮抗したビームの刃同士の激突は一瞬にして捌き解かれ、バスターシールドアローのビームの刃がバーナムジェガンのコックピット目掛け刺突を食らわした。

 

 

 

 ドォガァズゥウッッ―――ゴバァガァアアアアッッ!!!

 

 

 眼前で破裂するように爆発が巻き起こるものの、ガンダムデスサイズ・ヘルは、なんの影響もなく次々に接近する敵機軍に目を光らせた。

 

 炎に照らされるその黒い様相は地獄の死神そのものだ。

 

 バーナムジェガンとプライズリーオー、プライズジェスタの混同部隊がビームランサーに組み込まれたビームマシンガンやドーバーバスター、ビームライフルを乱れるように撃つ中、ガンダムデスサイズ・ヘルはこれらを全てアクティブクロークを閉じて受け止める。

 

「おいでなすったなぁ……これまたゾロゾロとよ……恒例行事と行くか!!!」

 

 アクティブクロークを再び解放したガンダムデスサイズ・ヘルは、アームドツインビームサイズをかざしながら一気にこれらの部隊に突貫する。

 

 その最中にハイパージャマーを発動させ、敵機側のモニターから自機の存在を消させた。

 

 バーナムやOZプライズの兵士達からはモニターからノイズ交じりにガンダムデスサイズ・ヘルが消える映像が映るのだ。

 

「斬って斬って斬りまくるっっっ……てねぇっ!!!」

 

 

 

 ザギャアアアッ!!! ザシュバァアアアンッ、ザッギャガアッ、ザァゴォガァアアアッ!!! ザシュオッ、ザズガァアアア!!! ドォズウウウウウッ!!! ズバシャアアアアッ、ディズガアッ、ズシュアアアアアアアアアアッッ……!!!

 

 

 

 動揺し、射撃狙いが乱れる中にガンダムデスサイズ・ヘルの乱れるような斬撃乱舞が、占拠されたオーブの夜の街を駆け抜ける。

 

 斬り払い、叩き袈裟斬り、大振りの斬り払い、袈裟斬り、更にはバスターシールドアローの刺突や射撃も交え、死神の無双乱舞の風を巻き起こしていった。

 

「そして……見た奴らはっ……死ぬぜぇ!!!」

 

 

 

 オーブ西部都市

 

 

 

プライズリーオーやプライズジェスタ、バーナムジェガンの機体群が交代制で警備する最中、全ての機体達が慌ただしく武装を構えはじめる。

 

既に襲撃の情報が飛び交っており、どの機体達も対空・対地警戒を厳とさせていた。

 

その最中に、1機のプライズジェスタが熱源を感知してその方向へとビームライフルを向ける。

 

だが、その方角から来たモノは多数のミサイル群であった。

 

「?!!」

 

マイクロミサイル、ホーミングミサイルの混合弾頭群が選りすぐるように各機体群に狙いを定めて直撃していく。

 

 

 

 シュシュシュシュシュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴアアアアアアァァァ……

 

 ドォドォドォドォドォドォグオガダガガガガガゴゴゴゴゴゴゴガアアアアアアアァァ……ゴゴッゴガガガガアアアアァ……ゴッゴカカカカアアアアァ……!!!

 

 

 

一瞬にして爆発劇が各所に巻き起こり、夜の都市部を炎で照らした。

 

「急激な多数のミサイル群による奇襲と撹乱。敵の精神を乱させるには十分だ」

 

トロワの声がコックピットに響く中、夜の街へ飛び込むガンダムヘビーアームズ改が、ダブルビームガトリングを突き出し構える。

 

そして両眼を光らせた直後に、向かう敵機群へそれを連続射撃で放ち、次々にビーム弾をプライズリーオーやプライズジェスタに中て、その装甲を砕き散らす。

 

 

 

 ヴィドゥドゥルルルルルルルルルルゥゥッ!!! ヴィドゥドゥルルルルルルルルッッ、ヴィドゥドゥルルルルルッ、ヴィドゥルルルルルゥヴゥウウウウウウウッッ……!!!

 

 ディギャラララララガガガァンッ、バガラララギャギャギャガッッ、ドォドォドォバキララララァッッ、ドォドォドォバキキャッッ、ドゥバガガガララッ、ドォドォドォドォガッガガガガアァン!!!

 

 

 

時折近距離、至近距離でダブルビームガトリングを浴びせ、撃たれた機体群は痙攣するように破砕爆破を次々に巻き起こした。

 

 その最中、ガンダムベビーアームズ改の足許で破壊されながらも一矢報いろうと大破手前のプライズジェスタがビームライフルを向ける。

 

 だがその銃口とガンダムヘビーアームズ改との視点が合った。

 

 

 

 ガキンッ……ヴィドゥバルゥララララララララァアアアアッッ!!!

 

 ヴァダララララドォドォバキャラララァアアアアアンッッ!!!

 

 

 

ガンダムヘビーアームズ改はダブルビームガトリングを突き付け、至近距離で射撃し豪快に砕き散らせ爆破させた。

 

その後もガンダムヘビーアームズ改は、低空飛行を維持しながら順次かつ次々とダブルビームガトリングを放ち中て、道路上へとスライド着地する。

 

 眼前の市街内の道路上には次々にバーナムジェガンやプライズリーオー、プライズジェスタが押し寄せ、個々にガンダムヘビーアームズ改を狙い撃つ。

 

 各部に被弾しながらも全く動じることなく、ガンダムヘビーアームズ改はダブルビームガトリングとアームバスタカノン、バスターガトリングキャノンを臨機応変に放ち、連続で各個撃破の嵐を巻き起こす。

 

その最中に空中からガンダムベビーアームズ改を目掛けてドーバーバスターを放つプライズリーオー部隊がいた。

 

ガンダムベビーアームズ改は、重火力には重火力をと言わんばかりにライトアームのアームバスターカノンを構え、その銃口から放つ中小規模のビーム渦流を撃ち飛ばす一発、一発のビーム渦流が、確実に機体を抉り抜いて破砕爆破を巻き起こさせる。

 

その後もガンダムベビーアームズ改ダブルビームガドリングとアームバスターカノンの銃口を突き出し、時折バスターガトリングキャノンの射撃を交えながら、交互の射撃で撃破を重ねて進撃していく。

 

その先の機体群が密集するポイントに到達すると、全武装の銃身を突き出し、ダブルビームガトリング、アームバスターカノン、バスターガトリングキャノン、ブレストガトリングを一斉射撃の体勢に持ち込んだ。

 

「集まってくれれば好都合だ。まとめて一掃させてもらう」

 

モニターに映し出される敵機群に多数のロック・オンマーカーが表示されていくとガンダムヘビーアームズ改は武装の砲火を解放させた。

 

唸り散らすバスターガトリングキャノンに断続的に放たれるバスターランチャーのビーム渦流、そしてビームガトリングガンの砲火と共にブレストガトリングの砲火も開始する。

 

夥しいビームと実弾の流星弾雨の前に敵機群は豪快な破砕を重ねに重ね、その重砲火を継続しながら右側面方向に砲撃範囲を拡大させていった。

 

 

 

 オーブ南部都市

 

 

 

ガンダムサンドロック改もまた滑空軌道を描きながら降下し、集中するビーム射撃を物ともせずに突き進む。

 

「はぁあああああ!!!」

 

カトルの気迫と共に、加速の慣性力も加えられたクロスクラッシャーとバスターショーテルの轟々たる斬撃が、2機のバーナムジェガンを破断させ、爆発の柱を上げさせる。

 

 

 

 ディディッカィイイイイイイイインッッ、ドォズグオアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

そこから機体を減速させながら、流れるようにプライズリーオーやプライズジェスタに回り込み、クロスクラッシャーとバスターショーテルの混合的な斬撃を叩き込んでいく。

 

 

 

 ギュウィンッッ、ディッカイインッッ、ディッカイイイインッッ!!! ギュゴアッッ……ザッガギャアァアアアッッ、ザァズガァアアアアンッッ、ディッガギャアアンッッ、ザズダァアアアアアァアアアアンッッ!!!

 

 

 

「これ以上のオーブでの好き勝手は今夜までだよ!!!」

 

ガンダムサンドロック改のギンッと発光する両眼のカメラアイは、バーナムジェガン部隊を捉え、彼らが発射するビームショットランサーをもロック・オンする。

 

ミサイルのように高速で向かい来るビームショットランサーをバスターショーテルで個々に叩き落とし、ビームショットランサーそのものを爆破させる。

 

ガンダムサンドロック改はそのままの勢いで強力な斬撃を交互に打ち込み袈裟斬り軌道と薙ぎ軌道の斬撃を組み合わせ、6機のバーナムジェガンと3機のプライズジェスタを斬り砕いては飛ばしていった。

 

それらの破壊した敵機の骸が爆発していくのを尻目にしながら、更にガンダムサンドロック改はプライズリーオー部隊に突撃していく。

 

ガンダムサンドロック改は、加速しながらゆっくりと軌道を上昇させ、空中に舞い上がりながら空中より攻撃を仕掛けるバーナムジェガンとプライズリーオーを斬り墜としにかかる。

 

 

 

 ゴォォオオオオオオァァァ……ザッガギャアァアアアッッ、ガッガギャアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 バズゥゴッゴバァアアアアアアアアアアアアアァァァァッッ!!!

 

 

 

その2機にクロスクラッシャーの一部分であるヒートショーテルの刀身を力強く斬り込んでの破断、爆破。

 

その後再び市街地に舞い降り、縦横無尽の機動力を活かしながらの剣捌きで放たれるバスターショーテルの斬撃が交互に、はたまた同時に敵機群を撃墜させていく。

 

「悪いけど、貴方達には加減できないよ!!!これ以上の愚行を僕達が止める!!!」

 

振り向き様にガンダムサンドロック改は、バーナムジェガンを斬り飛ばして上下に破断させ、次にプライズジェスタの胸部を斬り込んで切断させる。

 

ガンダムサンドロック改はその2機の爆発を振り払いながら大きくバスターショーテルを振りかぶった。

 

「そして……この旅路の向こうにいるロニを……!!!」

 

カトルはこの先にあるロニとの再会を見据えながらモニター越しのバーナムジェガン2機目掛け、轟々とクロスクラッシャーを見舞った。

 

「助けるさッ!!!」

 

 

 

 ディッッガィイイイイイイイイイイィィィィンッッッ!!!

 

ドォドォグォバァアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

オーブ 第一北部都市

 

 

 

バーナムジェガンがメインに占拠する第一北部都市。

 

 月夜が照らすゴーストタウンと化した都市にバーナムジェガンがメインカメラを光らせ、警戒にあたっていた。

 

その最中、各機のカメラアイの発光が高速点滅する。

 

一斉に同じ方角を向きながらビームランサーの刃を発動させて飛び立っていく。

 

その先には月下の中に突き進むΞガンダムの姿があった。

 

高速ながらも静かに甲高い音を唸らせながらビームバスターを構え、ショルダー・ビームバスターのアーマーを展開させる。

 

コックピット内ではマフティーにサブモニター越しの映像でナビゲートするミヘッシャの声が包んでいた。

 

「……目標地点の都市部には先程言った10機余りの敵機以外にも迫る敵機反応があります。こちらもおよそ10機。機種は不明ですが、恐らく増援です気をつけて下さい!!」

 

「了解だミヘッシャ。これより介入、攻撃する!!!」

 

マフティーは更にレバーを前に動かし機体を加速させ迫る敵機を複数機同時にロック・オンする。

 

対する1機のバーナムジェガンはあくまで近接戦にこだわっているのか、ビームランサーを振るい構えながら加速した。

 

Ξガンダムは迫るバーナムジェガンにビームバスターを放った。

 

 

バズダァアアアッ、バズダァアアアッ、バズダァアアアッ!!!

 

 

 

放たれたビームの閃光はビームランサーを構えるバーナムジェガンに躱されてしまう。

 

だが、その三発のビームが向かった先は後方にいた僚機のバーナムジェガン達であった。

 

高速かつ高出力の小規模のビーム渦流が突き抜ける。

 

 

ドズグゥアッッ、ドズダァガァアアッッ、ゴバガァアアアアア!!!

 

 

 

「?!!!」

 

後方の僚機が瞬時に撃墜され、注意が後方に向いたバーナムジェガンに隙の瞬間が生じる。

 

間髪入れずにΞガンダムは二門のショルダー・ビームバスターを放った。

 

 

 

ヴズダァァアアアアアアッッ!!!

 

ドォズグゥゥガァアアアアアア!!!!

 

 

 

爆破の中を駆け抜けるΞガンダムの眼光が光る。

 

一瞬にして破砕し空中爆破させて見せた4機のバーナムジェガンの閃光の爆発が上空と街に響き渡った。

 

Ξガンダムは滑空しながら街の低空を駆け抜け、ビームバスターとショルダー・ビームバスターを使い分けながら何発も放ち、はびこるバーナムジェガン達を次々に撃ち仕留めて破砕させていく。

 

連発発射するビームバスターのビームが低空よりバーナムジェガンを穿ち爆破。

 

そのビームバスターを連発する最中にショルダー・ビームバスターも時に同時に放つ。

 

マフティーの狙いは完璧であり、かつて敵サイドにいたΞガンダムは彼の手によりすっかりヒイロ達側の反逆のガンダムになっていた。

 

Ξガンダムは低空にホバリングしながら街な通りに待ち構えていたバーナムジェガン達に向け、ビームバスターとショルダー・ビームバスターの同時撃ちを放つ。

 

一瞬の内に斜め下方直線上一斉にいたバーナムジェガン達は滑るようなビーム渦流の閃光に破砕されていった。

 

だかその時、攻撃を逃れた1機のバーナムジェガンがビームランサーでΞガンダムに突撃する。

 

「―――!!!」

 

それに対し、Ξガンダムは躱す事なくレフトアームのトラストシールドを穿ち当て、カウンターアタックを見舞う。

 

バーナムジェガンの装甲を簡単に突き砕き、機体を爆発させた。

 

トラストシールドをかざすΞガンダムに爆発の炎が照らす。

 

12機のバーナムジェガンを撃破し切り、マフティーはふと呟いた。

 

「バーナム……情報では聞いていたが、この程度か……」

 

その直後増援を知らせるアラートが響く。

 

「例の増援か」

 

「増援の中に特異な速度の機体を確認!!量産機ではない可能性が!!!気をつけて下さい!!!」

 

ミヘッシャが増援に関する警告をナビゲートする。

 

モニターセンサー上に2機の異様に速い機体を捉えていた。

 

「あぁ。ありがとう、ミヘッシャ」

 

マフティーは引き締まる眼光をモニターの先に向けながらミヘッシャに答えた。

 

 

 

 5機のガンダム達が各主戦力エリアのMS群を壊滅に追いやりながら目を惹き付けさせていく中、ラルフのサーペント、ラシードのマグアナックチーム、を筆頭に、サポート部隊が予めリサーチしていた民間人の収容施設に赴く。

 

 その間にチーム全機の通信回線を共通回線に合わせた状態で、ラルフとラシードが作戦行動の確認をする。

 

「……予めリサーチしておいたポイントを一つづつ抑え、チームは下手に別れずにこのまま一丸にまとまった状態で動く。いくらガンダムの攻撃で殲滅を兼ねての陽動攻撃があるとはいえ、十分にMSとの戦闘はありうるからな。戦力は分散させないに越したことはない」

 

「そうだな。その上で民間人の解放に専念しよう。散り散りになるのは好ましくない。こちらも絶対に守らねばならないお方もおられるからな……聞いての通りだ。お前ら!!敵MSの大半はカトル様達の攻撃に陽動されて行っているが、油断は決してするな!!!そしてカトリーヌ様とご友人のジュリ嬢を絶対死守だ!!!」

 

「おおおッ!!!」

 

 ラシードがアウダ、アブドゥル、アフマドの部下の三人に士気の拍車を兼ねながら呼び掛け、同時にカトリーヌとジュリにも気遣いの声をかける。

 

「カトリーヌ様にジュリ嬢。自らのご遺志で闘われることは大変ご立派な事です。ですが、くれぐれもご無理をなさらないでください。万が一の事がございましたらカトル様をはじめ、必ず悲しむ方々がおられます。無論、我々がその万が一の事さえも無いようお守りさせていただきます!!!」

 

「ありがとう、ラシード。ボクはその点の意識は十分に気を付けてるから大丈夫だよ。死んじゃったらトロワや兄さんに会えなくなっちゃうからね。ジュリだってオーブの仲間やデュオに……」

 

「ちょっと、デュオって……カトリーヌ!!」

 

「だって今日二人でデスサイズヘル整備してたじゃない☆」

 

「もー!!違うんだってば!!そーいうのじゃ……!!」

 

 カトリーヌとジュリの些細なやり取りを前に、ラシードは少しばかりほっこりした感覚を感じた。

 

 だが、早速目指すポイントに近付くと敵MSの反応を示すアラートが鳴り響いた。

 

「む?!!MSの反応!!!」

 

「おいでなすったか……俺が仕掛ける。マグアナックチームはお二人のお嬢さんを守りながら任務遂行よろしく!!!」

 

 ラルフはそう言いながら接近する警備のプライズリーオーやバーナムジェガンに向かい、二挺のダブルガトリングガンを射撃し、相手が反応したと同時に撃破する。

 

 それを合図にするように数機のプライズリーオーとプライズジェスタが飛び出す。

 

「来るぞ!!!野郎どもッッ、絶対死守だ!!!」

 

「おおおッ!!!」

 

 マグアナックチームも応戦し、ラシード機とアウダ機、アブドゥル機とアフマド機がそれぞれに組んでビームライフルやビームマシンガン、アームビームキャノンで射撃し、そのベテランたる腕前は一瞬でプライズリーオーとプライズジェスタを仕留めた。

 

 ビームサーベルを抜刀し接近するプライズリーオーにアウダ機のアームクローが炸裂する。

 

 その間にカトリーヌ機とM1アストレイがビームライフルで援護射撃をして少しでも敵機を撹乱させようと試み、その射撃は見事にプライズジェスタのシールドとライトレッグにヒットした。

 

「やった!!」

 

「中たった!!」

 

 その直後、ラシード機が放った止めの三発のビームが炸裂し、プライズジェスタは爆発した。

 

「お二人とも、お見事です!!さあ、民間の収容施設を押さえますよ!!」

 

 民間施設に降り立った各機が、生身の兵士達をえげつないまでにMSの理を活かして一掃する。

 

 目には目を、非人道には非人道の制裁だ。

 

 そしてマグアナックチームが警戒する中、ラルフが得意分野の工作手法で収監された民間人達を開放した。

 

「我々はメテオ・ブレイクス・ヘル。あなた達の解放・救出に来た。ゲートも解除した。だが、いましばらくは戦闘状態になる。安全な状況になった時、島の各地で信号弾を撃つ。それまでは扉を閉めた状態で今まで通りここにいてくれ。もう少しの辛抱だ」

 

 ラルフがそう民衆に伝えると、言葉よりも頷きを返して伝えた。

 

 

 

 当然ながらこのリ・オペレーション・メテオによる状況はユセルファーを混乱させていた。

 

「なんだ?!!一体何が起きているというんだ?!!」

 

「ガンダムッッッ……ガンダムです!!!メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムがオーブに……!!!」

 

「な、何ぃ?!!」

 

「現在、各主要都市に配備した部隊が次々に壊滅させられていっています!!!」

 

「馬鹿な?!!現在のOZプライズの戦力は奴らのガンダムなど……!!!」

 

「バルジの件をご存じないんですか?!!再起したメテオ・ブレイクス・ヘルの奴らがバルジを破壊し、その後交戦したネェル・アーガマ級グラーフ・ドレンデの消息が不明だと……!!!再起したあいつらの戦闘能力は、我々の予想を超えております!!!」

 

「な……ぐきィッ……!!!」

 

 ユセルファーが歯ぎしりをするその向こうではヒイロ達はオーブ首都に到達し、合流した4機が無双劇を巻き起こしていた。

 

 ウィングガンダム・ゼロがローリング・ツインバスターライフルで空中上のプライズリーオー、プライズジェスタ、バーナムジェガンの機体群を旋回するビーム過流でかき消すように粉砕し続け、ガンダムデスサイズ・ヘルが大降りに振るったアームド・ツインビームサイズの斬撃で一気に4機のバーナムジェガンが斬り飛ばされ、順次に鋼の肉体を爆砕させていく。

 

 全弾砲撃の砲火を浴びせ続けていたガンダムヘビーアームズ改がバスターランチャーの砲撃に切り替え、銃口にチャージしたエネルギーを開放して一気に敵機群をビーム過流で吹き飛ばして一掃し、多数の爆発光を連続させる。

 

 ガンダムサンドロック改は、数機のプライズジェスタとプライズリーオーを叩き斬り、斬り飛ばし続ける。

 

 その最中に両サイドから迫るバーナムジェガンのビームランスをバスターショーテルで受け止め、これを押し捌き返して一気に両端のバーナムジェガンを同時両断した。

 

Ξガンダムは増援のバーナムジェガン部隊と2機の青(α)と紫(β)のバイアラン、バイアラン・イゾルデと交戦していた。

 

2機のバイアランがあくまで高みの見物を決め込む中、バーナムジェガンが執拗に近接戦を仕掛ける。

 

対しΞガンダムは、トラストシールドのカウンターとビームバスターとショルダー・ビームバスターの至近距離射撃で3機を一掃するとその場から一気に上空へと離脱する。

 

複数機のバーナムジェガンが追従するが、Ξガンダムはそれに対し虎の子のファンネルミサイルを放った。

 

一気に目標に向かう多数のファンネルミサイルがバーナムジェガンの装甲を貫通する。

 

無論ファンネルミサイルの攻撃は止まらず、縦横無尽に飛び交うそのガンダリウムγの矢は多方面からマシンガンの如く、次々にバーナムジェガンを駆逐していく。

 

同時にビームバスターのショットも交えながらΞガンダムはバーナムジェガンを撃墜させる。

 

成す統べなくバーナムジェガンはファンネルミサイルの餌食にされ、ズタズタに機体を破砕され墜落、爆砕していった。

 

 予想だにしていなかった急襲にいら立ちを隠せないユセルファーは怒鳴り散らすように命令した。

 

「ぐう……ッッ、なんて気に入らない連中だッッ!!!!例の三人のガンダムを出せッッ!!!返り討ちにしてくれるッッ!!!!私もノワールフリーダムで出るッッ!!!!奴らを始末したら朝まで女どもをむさぼりつくしてやるッッ!!!!私の黒き自由は誰にも邪魔させん!!!これはロームフェラ財団、もとい、ブルーメンツの隠れた伝統なのだからなァッ!!!!」

 

 とち狂ったような動作でOZプライズの軍服を着たユセルファーはノワール・フリーダムガンダムの格納庫を目指し、オルガ、シャニ、クロトの三人も出撃していく。

 

「せっかくイイ気分になってられたってのによッッ!!!絶対に片っ端からぶっ殺してやる!!!」

 

「もう疲れて賢者な気分になってたから俺はイーけどね。今は斬りまくりたいかなー」

 

「楽しみ邪魔されて俺は怒り心頭だぜッッ!!!絶対に滅殺してやるッッ!!!」

 

 利己極まりないセリフを吐き捨てながら狂気のガンダムのパイロット達がオーブの夜空を駆ける。

 

 ユセルファーもノワール・フリーダムガンダムに乗り込み、狂気の薄ら笑いを見せながら呟く。

 

「ここは私の島……誰にも邪魔させん……ふふふふ」

 

 地下の格納庫ゲートから直接飛び立ったノワール・フリーダムガンダムは、月下の夜空に黒い翼を広げる。

 

 その狂った眼差しに見渡す眼下には、首都で巻き起こる4機のガンダム達の成す戦闘の光が拡がっていた。

 

そしてヒイロは迫るバーナムジェガンのビームランスの攻撃にシールドを突き出してのカウンターを与えながら、ゼロ・システムが伝える情報、予測からノワール・フリーダムガンダムが浮かぶ方向を見る。

 

「この状況の元凶が来たか……」

 

ヒイロは更に迫る三凶ガンダムも閉じた瞳の先に見据え、一呼吸置きながら目蓋を開く。

 

「デュオ、トロワ、カトル。3機の相手は頼んだ」

 

ヒイロのその通信に各々がそれぞれの反応で答えた。

 

「ああ?!!って……へいへい……そう言うことね」

 

「了解した」

 

「僕達の名を騙っていたガンダム達ですね」

 

一方のマフティーもまたバイアラン・イゾルデαとβの両機と月下に相対していた。

 

彼らのバイアランのフェイスは完全にガンダムであった。

 

「2機のガンダムフェイスのカスタムバイアラン……望むところだと言わせてもらおう」

 

Ξガンダムはレフトアームにビームサーベルを装備してビームを発動させる。

 

そしてヒイロ達五人は各々にオーブを巣食う禍々しいガンダム達へ向け、己のガンダムの眼光と共に鋭い眼差しをぶつけた。

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 

 次回予告

 

 

 

 ヒイロ達が一騎当千の戦いにMS群を圧倒し続ける中、オーブを統べる狂気のガンダム達や2機のカスタムバイアランが現れ、マグアナックチーム勢もまた囚われた民間人の解放任務にあたる。 

 

 デュオはフォビドゥンガンダム、トロワはカラミティガンダム、カトルはレイダーガンダム、マフティーは2機のバイアランイゾルテ、そしてヒイロはノワールフリーダムと対峙し、それぞれが猛者達との激しい激戦を繰り広げる。

 

 オーブ解放の意志を携えたガンダムと狂気たる狂気を宿したガンダムの激突の嵐は、月下のオーブを駆け巡った。

 

 その最中、カトリーヌとジュリは女性達の収容施設にたどり着き、母国の女性達にジュリは誠心誠意で救出に臨む。

 

 だが、その場所にはガンダムデスサイズ・ヘルと戦闘していたフォビドゥンガンダムが身勝手な理由で迫っていた。

 

 ジュリのM1アストレイにその狂気の鎌が迫る。

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 

 エピソード41「禍々しきガンダム達」

 

 

 

 



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エピソード41「禍々しきガンダム達」

月下のオーブに立ち込める張り詰める空気。

 

五つの反抗の意志と六つの凶気(狂気)の意志とが今正にぶつかろうとしていた。

 

 その間にも残存するバーナムジェガンやプライズリーオー、プライズジェスタの機体群が四つの意志に攻撃をかける。

 

 だが、彼らには些末な攻撃に過ぎない。

 

 群がるように射撃を仕掛ける三機種の群れに対し、ウィングガンダム・ゼロは二挺持ちに分離させたツインバスターライフルで幾度も小中出力の威力のビーム過流を左右交互に放つ。

 

その一発 一発が押し迫る敵機群を吹き飛ばし、その状況に追い打ちをかけるように左右に銃身を突き出しての高出力ビーム過流を見舞って一掃させてみせ、ヒイロは静かに呟く。

 

「奴らの前にコイツらを排除する。ゼロのシステム判断と同じだ」

 

ヒイロは左右に突き出していた二挺のツインバスターライフルを全面に向け、迫る敵機郡に強大な一撃のビーム渦流が撃ち放たれる。

 

図太い面積の二本のビーム渦流が幾多の敵機群を立て続けに破砕・爆破し呑み込む。

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルはバーナムジェガンの機体群をアームド・ツインビームサイズのビーム連刃で次々に斬り飛ばしては叩き斬り、大ぶりの一撃で一挙に5機のバーナムジェガンを破断・爆砕させる。

 

 その爆発から上昇し、プライズリーオーのビームサーベルの攻撃を受け止めながら文字通りに押し斬り、そこからかざしたバスターシールド・アローのビームの刃を四発撃ってプライズリーオー4機の胸部に直撃、爆砕させた。

 

「ワラワラ来やがる、来やがるっ!!!そんなに死神様の無双祭りの来客になりたいってかぁ?!!」

 

そしてそこから爆煙を突き抜けるように加速し、強烈なアームド・ツインビームサイズの斬り払いの斬撃を放ち、バーナムジェガン4機を一斉に斬り飛ばした。

 

ガンダムヘビーアームズ改はダブルビームガトリングとバスターガトリングキャノンの連射撃を撃ち撒きながらアームバスターカノンを断続的に撃ち続ける。

 

超高速で無数のビームの弾丸がターゲットのMS達をバラバラに粉砕させ、断続に放たれる中出力ビーム渦流がMS群をまとめて吹き飛ばし破砕させていく。

 

トロワは、メインに使用するダブルビームガトリングの銃身を素早くかつ的確に操作しながらロックした敵機群を砕き散らせる。

 

「これ程の戦力をオーブだけに集中させているとはな。ロームフェラ財団は余程予算があるらしい……」

 

トロワの操作の下、次に向けたターゲットのプライズリーオー3機の頭部と胸部をダブルビームガトリングで立て続けに砕き散らし、同時にバスターガトリングキャノンでプライズジェスタ1機とバーナムジェガン2機、プライズリーオー2機を完膚無きまでに連続破砕させてみせた。

 

 ガンダムサンドロック改もまた、縦横無尽的な軌道で敵機群を斬り砕き続け、月下に爆発の華を咲かせ続ける。

 

 その華麗に振るうバスターショーテルの連続的斬撃の流れの中、ギンと眼光を放ったガンダムサンドロック改が1機のプライズジェスタをクロスクラッシャーで破断・爆砕。

 

 その向こう側にいたもう2機のプライズジェスタもクロスクラッシャーとバスターショーテルの左右交互の斬撃で斬り払ってみせた。

 

 爆発する2機を尻目に、ガンダムサンドロック改は更に爆発的かつ瞬発的な加速でドーバーバスターを放つプライズリーオー3機に飛び込む。

 

 高出力ビームを躱しながらクロスクラッシャーとバスターショーテルの斬り払いと袈裟斬りの斬撃で破断させた後、バーナムジェガンの部隊へと立て続けに切り込む。

 

「これ程の戦力を島国に投じる意図が分からない。でも、これじゃあ僕らの仕業に仕立てるのも無理があるね……!!!」

 

 ガンダムサンドロック改を目掛けて撃ち飛ばされたビームランサーだったが、当のターゲットの本人はこれを叩き落としては打ち飛ばす。

 

 次の瞬間にはバーナムジェガン達をクロスクラッシャーとバスターショーテルの連続斬撃が駆け抜けていき、これに反撃するように突貫する1機のバーナムジェガンに対し、クロスクラッシャーの刺突を見舞った。

 

一方、第一北部都市においてΞガンダムと2機のバイアラン・イゾルデが激突していた。

 

Ξガンダムが振りかざしたビームサーベルを唸らせ、青いバイアラン・イゾルデαの振るうビームサーベルとすれ違い様に刃を交える。

 

瞬間的にスパークする双方のビームサーベル。

 

「それなりに骨があるな……!!!」

 

マフティーは瞬間的感じた敵の感じをつかみながら姿勢制御と方向転換の操作を

 

2機は高速で駆け抜け、多角的な軌道を描き再びその刃を機体ごとぶつけるかのように激突させた。

 

互いの力が拮抗し、持続的に激しいスパークがはしる。

 

「禍々しい感じとこのパワー……ガンダムフェイスに恥じないだけはあるか……っ!!!」

 

しかし次の瞬間に、もう一方のバイアラン・イゾルデβがアームビームキャノンを放ってΞガンダムへと狙い中(あ)てにかかる。

 

三発の高出力の小規模ビーム渦流がはしる。

 

Ξガンダムはレフトアーム側でビームサーベルを握っているが故に、トラストシールドで防御することはできない。

 

三発の内の一発がΞガンダムの右肩部の装甲を掠める。

 

「っ……!!!」

 

マフティーは舌打ち混じりに離脱移行する操作をした。

 

Ξガンダムはビームサーベルを弾き捌いて更に撃ちはしるビームキャノンを躱し、瞬発的に離脱しながらビームバスターを放って牽制する。

 

放ったビームバスターの小規模ビーム渦流が

 

バイアラン・イゾルデβは執拗に追うように射撃を繰り返し迫り、バイアラン・イゾルデαもまたアームビームキャノンに切り換えて攻撃を慣行し続ける。

 

幾つかのビーム渦流を躱したΞガンダムは高速旋回軌道を描きながら2機のビーム射撃を振り切ると、切り裂かれる空気が唸る中で旋回しながらビームバスターを撃つ。

 

バイアラン・イゾルデα、βもまた共にビームバスターの射撃軸線から離脱すると弾幕射撃戦へと移行していった。

 

 ヒイロ達が攻撃、戦闘を繰り広げる中、禍々しい色を放つビーム過流が飛び込む。

 

 ウィングガンダム・ゼロには二本のビーム過流が、ガンダムデスサイズ・ヘルとガンダムサンドロック改には一本のビーム過流、ガンダムヘビーアームズには三本のビーム過流が突き進んだ。

 

「来たか……」

 

「おいおい……派手がましいご挨拶なこった!!!」

 

「禍々しい色のビーム……この攻撃が……!!!」

 

「奴らのガンダムか……!!!」

 

この状況にある空の上にいるネェル・アーガマからもこの状況が把握され、クルー達は息を呑んでいた。

 

その最中にも現在状況をエイーダが伝える。

 

「ガンダム4機、敵ガンダム4機と臨戦体制に入った模様……いよいよオーブを支配下に置いているOZプライズのガンダムと激突します!!!」

 

続けてミヘッシャもまたΞガンダムの状況を知らせた。

 

「Ξガンダムは2機の新型バイアランと交戦中!!!」

 

「例の2機か?!」

 

「はい!!!」

 

ケネスはΞガンダム側が不利な状況にある事を懸念し、口元に手を当てながら割り当て指示を考える。

 

(Ξガンダムが若干不利か。ヒイロ達もそれぞれのガンダムと交戦している……ではどうする??)

 

その時、思考に悩める様子に感じたミヘッシャが憂いを抱えながらもケネスに言った。

 

「彼ならば……彼ならば大丈夫です。メッサーでも色々な修羅場潜ってきましたから……私は彼と彼の今在るガンダムを信じます。部下としてもパートナーとしても信じなきゃいけませんから……」

 

「ミヘッシャさん……わかりました。マフティーメンバーがマフティーを信じるのは至極当然。判断は一任しますよ……エイーダ君、民間人解放部隊の動きは?」

 

「はい!!小規模の戦闘を展開させつつも、一ヵ所、一ヵ所を押さえています!!」

 

「そうか……(くれぐれも無茶な戦闘はさけてくれよ……)」

 

ケネスが憂いの懸念を懐く向こうで、民間人収容施設の警備に就いているプライズリーオーとプライズジェスタの小隊にサーペントとマグアナックチームが先陣を切って攻めていた。

 

二挺のダブルガトリングとビームライフル、アームビームキャノンの砲火が各敵機の上半身を穿ち砕き、爆砕させてみせる。

 

彼らの射撃に援護としてカトリーヌとジュリが射撃を撃っていた。

 

ラルフとラシード、アブドゥル、アフマドが射撃し、アウダが接近しながらアームクローでプライズジェスタの胸部を見事に貫く。

 

貫かれたこのプライズジェスタは、爆発することなくカメラアイの光を失いながら動力を力尽かせた。

 

その数分後、このポイントの収容施設の制圧は瞬く間に完了し、ラルフはアブドゥル達にこれまでの要領でオーブ市民の解放を頼む。

 

「……よし!!ここのエリアも押さえた!!マグアナックチーム!!引き続き、解放頼む!!」

 

「おうよ!!」

 

「任せとけ!!」

 

 ラシードはコックピットモニターで部下達のその働きを見守りながら、カトリーヌ達にも気をかけた。

 

「カトリーヌ様、お見事な射撃です。流石はカトル様の妹様ですな。ジュリ嬢もなかなかの狙いです。お二人とも十分に援護射撃としてお役立ちしていますよ」

 

「そんな……流石に兄さんみたいにはいかないよ、ラシード」

 

「私も一杯、一杯です。少しでも足を引っ張らないように必死です。ただでさえ命の駆け引き真っ只中ですし。でも……今こうしてオーブのみんなの為に役に立てているんだよね?私達?」

 

「ええ。お二人とも謙遜なさることはございません。もっと自信をもって下さってよいのですよ」

 

 ラシードの寛大な言葉をもらうカトリーヌとジュリは緊迫した中にも安堵を覚える。

 

 だがその直後、アラートと共にラシードの一変した声が奔った。

 

「む?!!新たな敵機の反応!!!カトリーヌ様、ジュリ嬢!!!お下がりください!!!」

 

「え―――?!!」

 

 一瞬にして一変した状況の空気にカトリーヌとジュリはついていけなかった。

 

次の瞬間、バーナムジェガンが森林地帯から飛び出し、その状況は今にもビームランサーを突き刺すような勢いだった。

 

その刃はカトリーヌのマグアナックに向けられていた。

 

「っ―――……!!!」

 

カトリーヌは急激な危機状況に見回れ、何もできないでいた。

 

しかし、次の瞬間にはビームランサーを持つマニピュレーターがビームに撃ち砕かれた。

 

その一撃を皮切りに数発のビームがバーナムジェガンを穿ち、その直後には全力でヒートホークを振り下ろすラシードのマグアナックが突っ込んでいた。

 

ラシード機のマグアナックのその攻撃は、バーナムジェガンの胸部を斬り潰しながら、機体を豪快に吹っ飛ばす。

 

更にラシードはビームライフルを撃ち、隠れ潜むバーナムジェガンを撃ち砕き続け、見事にカトリーヌの身を守り切った。

 

「カトリーヌ様に刃を向けるなどと……!!!カトリーヌ様をやらさせはしない!!!」

 

「ありがとう、ラシード……」

 

「いいえ……ウィナー家のご子族をお守りさせていただく……その当然の務めに過ぎませんよ。カトリーヌ様もどうか油断をなさらずに……」

 

カトリーヌはラシードの判断と行動の素早さに凄さを覚え、同時に自身の不甲斐なさを痛感させられた。

 

「うん(ラシードも兄さんに続く凄さを持ってる……ボクは兄さんの妹なのに……みんなの足を引っ張ってしまってるように思えちゃうよ……)」

 

カトリーヌは少しばかりブルーになっていたが、間も無くして、今度はジュリのM1アストレイにバーナムジェガンが襲いかかる。

 

「っ?!!きゃあああ??!!」

 

「今度はジュリ嬢か!!?やらさせは……!!!」

 

「ジュリちゃん!!!うぁああああああっ!!!」

 

カトリーヌは咄嗟の操作で自身の機体をバーナムジェガンに向けてぶつけにかかる。

 

その時点でレフトアームのヒートショーテルを振りかぶっており、次の瞬間には見事にバーナムジェガンの胸部を寸断させていた。

 

叩き斬られて寸断したバーナムジェガンの部位が落下と同時に爆発する。

 

「おぉ……!!!カトリーヌ様……(咄嗟とはいえ、ご友人をお守りされた上に敵機を撃破された!!!やはり、カトル様の妹君だけはある)!!!」

 

カトリーヌは機体を着地させると、ゴーグルを外しながらジュリの無事を確認し、安堵の表情を見せていた。

 

「ふぅっ!!よかった……ジュリちゃんを守れて……」

 

 

 

L3 ポイント・旧コア3に向かう航路。

 

かつての第一次ネオジオン抗争の最終戦の舞台の一つだった旧コア3。

 

このエリアにラプラスの座標が符合した為、ラプラスの箱を追うガランシェール一行は目標ポイントを目指す。

 

「かつてのネオジオン抗争の最終決戦宙域……その近辺のキケロにラプラス座標か……」

 

 ジンネマンがそう呟きながら座席に頬杖の拳を当てる。

 

「一体、何を基準にしてるんすかね?座標は。共通項がイマイチ解らないっすよねー」

 

フラストがジンネマンにぼやき気味に答えて言う。

 

「俺が知るかよ。プルだってイイ感じがするとか止まりなんだ。少なくとも悪いモノではないのは確かなようだがな。コア3までの距離は?」

 

「座標確認します……後、うんマイルっ……ちょっと待って下さい………………算出しましたが、大体約一週間かかります」

 

そのフラストの返答を基本聞いたジンネマンは、アディン達への通信回線を開いた。

 

「そうか……プル、アディン。今しばらく休んでおけ。まだまだ到達までに一週間と時間がかかる。ただし、骨の休み過ぎはするな。このご時世いつ宙賊と戦闘になるかわからん。以上だ」

 

「了~っ!!」

 

「はーい!!でも、あたしが嫌な感じ感じたらチューゾク判るから大丈夫だよー」

二人の返事はまるで息子と娘が父親に返事するような返答だ。

 

ジンネマンは頭をかきながらボソリと言った。

 

「……あいつら、遠足気分か?!緊張感の無い返事しやがって!!まったく……」

 

「とか言いつつも、そういう些細な不満がまた嫌いじゃないんじゃあないスか??」

 

「な?!!や、やかましいわ!!!フラスト!!!」

 

フラストのチャチイレに怒るジンネマン。

 

そのやり取りをギルボアが操舵レバーを握りながら聞き耳をたて、染々と呟いた。

 

「ガランシェール、今日も平常運転か……」

 

待機していたアディンとプルは一端コックピットから降りてデッキで小休止をとっていた。

 

アディンがデッキにもたれながらため息まじりに同じく小休止していたディックとトムラにぼやく。

 

 因みにディックはバルジからの脱出時にガランシェールに乗っていた。

 

「はぁ~、ずっとコックピットにカン詰めはしんどいぜー……ったくー」

 

「はっははは!ま、そうぼやくななよアディン!だが、ジェミナス・グリープのコントロール、だいぶ感じは掴めてきているみたいだな?軽くデータ見せてもらったよ」

 

「まぁね!!ケド、あくまで高速移動の感じで、戦闘に関しては今の所目立ったドンパチもないし、これじゃ、操縦の感じ鈍るかもなー」

 

「おいおい、Gマイスターの言う台詞かぁ?困るぞ、それじゃあ?」

 

「ディックさん!!Gマイスターだって人間だからさー!!」

 

 そんなアディンとディックの会話にトムラが言い挟む形で捕捉する。

 

「戦闘に関してはそろそろあるかもな。今向かっているキケロ辺りのエリア区間は宙賊多発エリアで危険なんだ。魔のエリアとも呼ばれている」

 

「へぇ~……そんなに出やがるのか、宙賊?」

 

「ああ。よく襲われる話を聞くよ。ガランシェールは偽装工作船とはいえ、半分は実際に貨物の仕事を請け負ってやってたりするからな。その関係業者では有名さ」

 

危険な領域であれば避ければいいだけの事に何故宙賊事件が多発するのか。

 

誰もが抱く事であり、アディンは言うより先に表情にそれを表した。

 

その表情を読んだトムラは、ため息混じりに理由を吐露する。

 

「……だが、同時に中小規模の資源衛生が多くある。それを利益とする業者も少なくない。ようは争奪戦に近いモノがあるかもな。だからどこの業者もMSを引っ提げて動いているのさ……ま、うちは超~強力なMSばかりで安心安泰だけどな!はははは!!」

 

「はっははは!!違いねーや!!」

 

「ジェミナス・グリープに関しては専門メカニックの俺もいるからな!!」

 

 ガンダムを引っ提げている業者は当然であるが、まずいない。

 

 現在のガランシェールには最強クラスのガンダムジェミナス・グリープやユニコーンガンダム、更にはキュベレイMK‐Ⅱを搭載している上、ニュータイプの感覚で敵の察知をしてくれるプルも居てくれているのだ。

 

「アディーン!!」

 

「お!プル……って、おわああ?!」

 

 少しばかりの優越感のような感覚で眺めながら談笑するアディンとディック、トムラの間に、プルがドリンクを持って飛び込む。

 

 プルは受け止めてもらうこと前提で突っ込んだようで、構えが甘かったアディンはプルのクッションになるように半無重力の空間を飛んだ。

 

「きゃはははは!!」

 

「ぷ、プルゥ~……ぐえ?!!」

 

 アディンは手すりに当たり、軽いダメージを受けたものの、胸元に飛び込んだプルがいることもあり、悪いような心地がいいような複雑な状況を覚える。

 

「おーい!!半無重力でそんな勢いで行動するなよー!危ないぞー!」

 

「アディンのやつ……すっかりプルちゃんとバカップルになっちまってまぁ……」

 

「あはははッ、ごめんなさーい!!はい!アディン!!喉乾いてるでしょ?!」

 

 プルは後方から和らな叱責を放ったトムラに振り向きながら無邪気に謝ると、アディンに向きなおってアディンの口にストローをあてながらドリンクを差し出した。

 

「むぐっ……チュー……」

 

 反射的にそれを口にして軽くストローで呑むアディン。

 

 傍から見ればディックいわく完全バカップルの域だ。

 

「プフー……さんきゅ……てか、いきなり飛び込んでくるなよ~」

 

「ゴメン、ゴメン!!だってずっとユニコーンの中だったんだもーん……」

 

 そういいながら自分もドリンクを飲むプル。

 

 そんな可愛らしいちょっとした仕草の画(え)はどことなくアディンをドキッとさせ、その感覚をごまかすようにドリンクをまた飲む。

 

「そ、そうかっ……」

 

 しかしプルは上目使いでアディンに抱きよりながら追い打ちをかける。

 

 プルはノーマルスーツの上半身を腰巻しているが故に、彼女の可愛らしい胸部のふくよかさがアストロスーツ越しにアディン伝わる。

 

 無論、心境さえも解ってしまうプルにアディンの心境が筒抜けに言われる。

 

「ふふ♪すっかり嬉しがちゃって~……あたしもアディンの人肌恋しかったんだよぉ~??」

 

「ば、ぶぅわぁかなことゆーな!!!」

 

 もはや無邪気な小悪魔のようなプルに、アディンは強引に殺伐な話題を引っ張った。

 

「と、所でプルっ、宙賊の気配とかはどーなんだよ?!な、何か感じるか?!!」

 

 プルは少しばかりの愚痴をこぼしながらも切り替えて自身の感覚で感じた状況を話し始めた。

 

「そーやってまたごまかすぅ~……素直じゃなーい……とりあえずは大丈夫かな??少なくともガランシェールの近くにはまだいないよ……」

 

「そっか……」

 

「ただ……」

 

「ん?ただ……なんだよ?」

 

「この先にね……あたしにとっても、パパにとっても……重大な何かが待ってそうな感覚がするの」

 

 バカップルムードから一転し、意味深な事を言うプルに、アディンが飲むストローの吸い込みが止まった。

 

「……っ……どういうことなんだ?!!」

 

「どういう事かは感覚の範囲から出ないからまだわかんない。でも、悪い感覚じゃないよ。それは安心して……ふふ♪」

 

 そう言いながらまたドリンクを飲みながら抱きよってくるプルに、アディンはポンポンと柔らかく彼女の頭を叩きながら髪をなでた。

 

 だが、次の瞬間、プルの脳裏に沈む木星間航行船、ジュピトリスの映像が過った。

 

「っ……!?!(何?!今の……?!?)」

 

「どうした?何か感じたのか?」

 

 突然表情を変えたプルに、アディンが訊ねる。

 

「え?!えっと……やっぱり、戦闘あるかも?」

 

「じゃあ、その時は俺に任せときな!!うん!!!」

 

 アディンはいつになく自信に満ち溢れながら答えた。

 

 

 

 

 オーブ首長国連邦 首都上空

 

 

 

 弾圧を受けるオーブ国民解放の正義を掲げたガンダムと悪しきガンダムとが月下に激突する。

 

 上半身にバックアーマーを被せたフォビドゥンガンダムの放つフレスベルグのビーム過流とエクツァーンのレールガンがガンダムデスサイズ・ヘルに迫る。

 

「死ーね」

 

 テキトウ調な口調でシャニはその引き金を引く。

 

 フォビドゥンガンダムから放たれた超火力はガンダムデスサイズ・ヘルに突き進む。

 

「あーらよっとぉ!!!」

 

 しかしながらその機動力はあっさりとフォビドゥンガンダムの攻撃を躱す。

 

「攻撃火器は強力だが、中らなきゃ意味ないぜぇ??それに俺は逃げ……いんや、よけるのも得意なんでな!!!」

 

「生意気ーっ……!!!」

 

 シャニは苛立った感情を芽生えさせながら武装を乱発し始める。

 

 その攻撃は悉く躱されていくが、同時にオーブの市街地に被害をもたらしていく。

 

「数撃てば中るなんて甘くないぜ……だが、躱せば躱すほど街がやられていっちまってやがる……お?!!」

 

 だが次の瞬間、フレスベルグのビーム過流がデュオの想像を超える軌道を描きながらガンダムデスサイズ・ヘルに向かった。

 

 

 Jの字を描きながらガンダムデスサイズ・ヘルの背後を捉え、徐々にその高出力ビームが迫る。

 

「おいおい……なんだよその軌道はよ?!!反則だぜぇ……!!!」

 

 直撃の瞬間、ディオはガンダムデスサイズ・ヘル背面のアクティブクロークを閉じる操作をした。

 

 

 

 ディギイイイイイイイ!!!

 

 

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルはビーム過流の直撃を受け軌道を一時的に崩すが、滑空しながら再び軌道をフォビドゥンガンダムに向けて舞い上がる。

 

「お♪直撃ー……ってアレ??ムカつくー……!!!」

 

 撃破したと思ったシャニは思い通りにいかない現状に苛立ちを増させ、更にフレスベルグとエクツァーンを乱発。

 

 だが攻撃は次々に躱され、時折中るエクツァーンのレールガンも前面に防御するアクティブクロークに弾かれる。

 

「そんなにッ……挨拶が好きならッ……挨拶返してやんぜ!!!」

 

 レフトアームのバスターシールド・アローからビームアローを連発する。

 

 だがビーム偏向特性のシールド、ゲシュマイディッヒパンツァーに阻まれ、明後日の方向にビームアローが飛ばされていった。

 

「ありゃりゃ、マジかよ……こりゃ通常MSじゃとても歯が立たないぜ……それ以前、ガンダムだから余計にか……オーブのアストレイの兵士さん達の事を想うと気の毒だよな……!!!」

 

「近づけさせないよ……ウザイし死んでよ??」

 

 シャニの冷徹な呟きと共に再度フレスベルグが、ガンダムデスサイズ・ヘルを目掛けて火を噴いた。

 

 その一方、映画のアクションのような撃ち合いがMSサイズの次元で展開する。

 

 ガンダムヘビーアームズ改とカラミティガンダムの双方の火器が飛び交い、一方は虚空に吸い込まれもう一方は街を抉り破砕させていく。

 

 上空からのシュラークのビーム過流、トーデスブロックのプラズマ砲、スキュラのビーム過流、ケーファー・ツヴァイの二連高出力ビームがガンダムヘビーアームズ改を狙う。

 

「ぎゃははは!!!市街地なら隠れれるとでも思ったか!!!市街地ごとぶっ飛ばしてやんよ!!!」

 

「全てが高出力の武装のガンダムか……確かに敵を殲滅するには合理的な武装だ……」

 

 襲い来る高出力火器を冷静に躱し、ダブルビームガトリングとアームバスターカノン、バスターガトリングキャノンを駆使して反撃する。

 

 だがカラミティガンダムは瞬発的に躱しては、再びフルショットで見舞う。

 

 ガンダムヘビーアームズ改はこれを駆け抜けながら躱し、時折ビルの陰からダブルビームガトリングを撃つ。

 

 しかし次の瞬間に放たれたカラミティガンダムの攻撃は持続性を帯びており、再び飛び立ったガンダムヘビーアームズ改を追うようにビーム過流が流れていく。

 

 それは凄まじい破砕と爆発を巻き起こしながら都市部を破壊していった。

 

 ここにおいても躱せば民間施設が破壊されてしまうジレンマが巻き起こる。

 

「逃げても無駄だァ!!!大人しく潰されちまえ!!!」

 

「……そろそろ仕掛けるか……!!!」

 

薙ぎ払われるかのようなビーム渦流が迫り、市街地の施設を吹き飛ばす。

 

直前でフルブーストで飛び立ったガンダムヘビーアームズ改は、旋回軌道を描きながら上昇していき、ダブルビームガトリングと連発性に重視した低出力単発のバスターカノンを放つ。

 

 間合いを詰めながらのガンダムヘビーアームズ改の接近射撃は、肩や脚部、シールドといったカラミティガンダムのトランスフェイズ装甲に被弾していく。

 

だが、実弾の無効とビーム兵器の威力半減により、カラミティガンダムに未だイニシアチブはあった。

 

「無駄だぁ!!!効きゃしねーよ!!!」

 

間合いが接近し、トーデスブロックとケーファー・ツヴァイをメインに切り替えて射撃をし続けるカラミティガンダム。

 

ガンダムヘビーアームズ改にも断続的に被弾が及ぶ。

 

「射撃系ガンダム同士の撃ち合いだ。それなりの被弾は想定内だ」

 

ダブルビームガトリングの唸るビーム射撃にアームバスターカノンのビーム渦流が交互にカラミティガンダムを直撃する。

 

だが、カラミティガンダムはその直撃爆発を掻い潜り、ケーファー・ツヴァイの鋭利なシールドをガンダムヘビーアームズ改の胸部目掛け刺突した。

 

コックピットにはしる衝撃。

 

「くっ……!!!」

 

「クタバリやがれぇあああ!!!」

 

 

 

ディシュバァアッッ、ディグゥゴォオオオオオオッッ!!!

 

 

 

直後、カラミティガンダムは至近距離からの高出力ビームをガンダムヘビーアームズ改の胸部装甲に直撃させ、更に間髪いれずにトーデスブロックを狙い同じくさせてガンダムヘビーアームズ改を吹っ飛ばした。

 

一方、ガンダムサンドロック改は飛び交うバードモードに可変したレイダーガンダムの多方向の射撃を受けていた。

 

クロービームキャノンのビームが、ガンダムサンドロック改の肩や背面、シールド、バスターショーテルの刀身に被弾していく。

 

「ヒャッハー!!!滅殺!!!滅殺ぅ!!!」

 

「くっ……少し……うざったい攻撃だね……!!!」

幾度も縦横無尽にクロービームキャノンを見舞いながら飛び交うレイダーガンダムに対し、カトルはいつになく苛立ちを募らせる。

 

反撃に転じるタイミングを狙っていた矢先に、レイダーガンダムはクロー直接の攻撃に転じたアタックに切り替わった。

 

バスターショーテルとクロスクラッシャーで防戦していた状態に、クローによる鋭利な打撃と慣性が加わった衝撃がガンダムサンドロック改を襲う。

 

「くぅああああっ!!?」

 

レイダーガンダムそのものが突っ込んだに等しい衝撃で、ガンダムサンドロック改は体勢を崩されて吹っ飛ぶ。

 

そこへ更にレイダーガンダムは高速可変して一気にガンダムサンドロック改に飛びかかった。

 

「しゃあああああああ!!!」

 

殴りかかるように右マニピュレーターに装備した破砕鉄球・ニョルミルをガンダムサンドロック改へとぶち当てた。

 

 

 

ディッガギャアアアアアアアアン!!!

 

 

 

「うぁああああ!!?」

 

ニョルミルは無論ガンダニュウム合金製であり、ガンダムサンドロック改はガードを弾かれて市街地に吹っ飛ばされながら激突する。

 

激しい破壊音と白煙が巻き起こった中へ、二連ビームキャノン、フレイアを執拗にレイダーガンダムは撃ち繰り返す。

 

「滅殺、滅殺、滅殺、滅殺、滅殺、滅殺ぅううううううううう!!!」

 

乱発するフレイアの高出力二連ビームは爆発と爆煙を重ねていく。

 

「うぉぇらああああああああ!!!」

 

最後に止めとばかりにレイダーガンダムの真骨頂である、口部にあたるバスターメガ粒子砲、ツォーンを見舞った。

 

 

 

ヴィグヴァアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

Ξガンダムには、2機のバイアランイゾルデが襲いかかる。

 

バイアランの派生機と言えど、そのフェイスはガンダムであった。

 

マフティーも相対したバイアラン・イゾルデに対してふっと笑みを浮かべてこぼす。

 

「……さしずめ、バイアランガンダムか」

 

マフティーから見ての左方からのクローによる刺突攻撃、右方からのクロービームキャノン射撃。

 

マフティーはシールドでクローを受け止めながら掠めさせるようにビーム射撃を躱し、ビームバスターで牽制した。

 

クローでシールドを引っかくように捌いた紫のバイアラン・イゾルデβはビームサーベルを取り出して斬りかかる。

 

Ξガンダムはビームサーベルで受け止め、一瞬スパークを散らさせると、捌き弾かせながら機体を一気に離脱させる。

 

2機のバイアランイゾルデは蒼いα、紫のβ共に、離脱したΞガンダムをクロービームキャノンを乱発しながら執拗に追撃する。

 

Ξガンダムはビームを躱しながらビームバスターで反撃するが、現時点では牽制の次元に留まった。

 

バイアラン・イゾルデβはビームサーベルを振りかざして更に加速し、その後方からバイアラン・イゾルデαが連続したクロービームキャノンの乱射をする。

 

ビームを躱し、シールドで受け止める中にバイアラン・イゾルデβの斬撃がΞガンダムに迫る。

 

再び斬撃受け止めると、パワー巻かせに跳ね捌いて今度はΞガンダムが斬撃を見舞った。

 

両者のビームサーベルが断続的スパークし合う中、バイアラン・イゾルデαがΞガンダムの後方に周り込んでの直接クローによる打撃を加えた。

 

「ちっ……!!!」

 

それを皮切りにΞガンダムに幾度も殴りかかり、更には近距離からのクロービームキャノンを浴びせる。

 

表面で爆発し、更には斬撃がΞガンダムを襲う。

 

バイアラン・イゾルデα、βは息を合わせるようにクロービームキャノンとビームサーベルによる斬撃を左右交互に与えてΞガンダムを翻弄し始めた。

 

攻撃に耐えれていたのはガンダニュウム合金の強度に迫るガンダリウムγ合金のお陰であった。

 

振り払い切るようにΞガンダムはビームバスターを連発する。

 

小規模の高出力ビーム渦流を躱したバイアラン・イゾルデα、βは次のタイミングで左右からクローの刺突打撃を食らわし、斬撃を重ねてΞガンダムを退ぞかせるように弾き飛ばした。

 

 

 

ダッディガァアアアッッ、ザザダギャアアアアアアアン!!!

 

 

 

オーブの首都を舞台にガンダム達が戦闘を巻き起こす月下に、張り積めた間合いの銃撃戦闘の空間が生じていた。

 

ノワール・フリーダムガンダムはルプス・ビームライフルとクスィフィス・レールキャノンの銃口を向け、ウィングガンダム・ゼロへと攻勢をぶつける。

 

 

 

 ヴィギュディギインッ、ヴィギュディギインッ、ヴィギュインッ、ヴィギュインッ!!! ディギン、ディギン、ディギン、ディギイイイイイイイン!!!

 

 

 

「気にいらん、気にいらん、気にいらん、気にいらんっっ!!!我々の統治を邪魔する者は特になぁ!!!」

 

 ウィングバインダーを展開させながら、素早いスパンで超高速の弾丸を乱発操作するユセルファーだが、この攻撃はゼロシステムによって見通しされている。

 

ウィングガンダム・ゼロはビームの弾道の全ての攻撃を躱していく。

 

「ユセルファー・ツーセンタ。貴様は自身が気に入らないものは全て淘汰し、抱いた欲望は利権をかざしてまで満たす……その最悪な身勝手がこの状況を創った……!!!」

 

ヒイロはその言葉を言い放つと、二挺に構えるツインバスターライフルを左右交互に射撃する。

 

 

 

 ヴヴァッ、ヴァアアアアアアッ!!! ヴヴァッ、ヴヴァッ、ヴヴァアアアッ、ヴヴァアアアアアアア!!!

 

 

 

 瞬発的な小出力のビーム渦流がノワール・フリーダムガンダムに迫り、ユセルファーは辛くもこれを躱す。

 

 だが機体ギリギリを掠めるように駆け抜けるビームの威力は、ビームマグナムと同等の威力を有している。

 

 左右交互に発生したプラズマ奔流の衝撃によりノワール・フリーダムガンダムは体勢を崩しかける。

 

「ぐぅうぅっっ……!!!黙れっ、反逆者風情がぁあああ!!!」

 

 ユセルファーは荒ぶる感情に乗せるようにバラエーナ・プラズマキャノンを展開させ、鮮やかなビーム渦流をウィングガンダム・ゼロに放った。

 

 

 ヴィギイィァアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

 バラエーナ・プラズマキャノンから放たれたビーム渦流は、飛び立つように上昇したウィングガンダム・ゼロに躱され、市街地に直撃する。

 

 

 

 ァアアアアアア……ドォグバアアアアアアアアンッッッ!!!!

 

 

 

 吹き飛び爆発する市街地に爆炎の火柱が吹き上がる。

 

 ユセルファーは瞬時に照準をウィングガンダム・ゼロに向け直して再度発射するが、狙いは瞬発的な加速で容易く回避された。

 

「愚民は搾取対象でしかない!!!統治する者の道具であるべきなのだぁ!!!それをどうするかは統治する者の自由だぁ!!!」

 

 無茶苦茶な持論を叫びながらユセルファーはエネルギーチャージさせたバラエーナ・プラズマキャノンを放った。

 

 機体をフル加速させながら、ヒイロはビーム渦流の回避を開始。

 

 ウィングガンダム・ゼロのウィングバインダーが瞬発的な加速を断続させながらオーブの月下を駆け抜ける。

 

 追従するバラエーナ・プラズマキャノンのビーム渦流は、市街地で展開していたバーナムジェガンやプライズリーオー、プライズジェスタを巻き込みながら旋回軌道で周囲のあらゆるものを破砕させていた。

 

 それはオーブの首都を吹き飛ばし、更なる業火に染めていく。

 

 オーブを解放できたとしても、オーブの市民の非日常は長きに渡ることは免れない。

 

 ノワール・フリーダムガンダムの狂気の攻撃はそれだけに止まらず、攻撃対象を地上に移し変えて高速移動をしながら無作為に各ビーム兵器を地上に放ちまくる。

 

 その攻撃は民間人収容施設にまで及ぶ。

 

 更に一つのポイントに止まり、ローリング・ツインバスターライフルのようにバラエーナ・プラズマキャノンを全周に向けて回転射撃を放った。

 

 

 

 ヴァギアアアアアアアアアアァァァ……ァアアアァァ……ァアアアアァァアアアアア!!!!

 

 ヴァグガアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

 舐めるように撃ち注がれる鮮やかなビーム過流は、吹き上がるような爆炎を巻き上げた。

 

 業火に照らされ浮かぶノワール・フリーダムガンダムのその様はあたかもヒイロに見せつけるかのようでもあった。

 

「はははははははは!!!見るがいい!!!何度も言わせてもらうが、弱者は所詮強者の欲望に食いつぶされる糧に過ぎんのだ!!!」

 

「ユセルファー……貴様のオーブジェノサイドは今日をもって終わらせる……!!!」

 

 ゼロ・システムを介して、収容されたオーブ市民達の悲痛な叫び声がヒイロに伝わる。

 

 ギンと光るウィングガンダム・ゼロの両眼はヒイロの静かなる怒りの闘志に呼応するかのようにも見えた。

 

 そしてウィングガンダム・ゼロはウィングバインダーのクイックなジョイント展開と共に、爆発的加速を開始し、離れていったノワール・フリーダムガンダムへ一気に接近する。

 

「何!??」

 

 ウィングガンダム・ゼロは瞬発的な可動でツインバスターライフルの銃身を合体させながらレフトアーム側に装備し、ビームサーベルを抜刀する。

 

 その一線の斬撃はルプスビームライフルを切断、爆破させた。

 

 ノワール・フリーダムガンダムもやむを得ず抜刀し、次に来たウィングガンダム・ゼロの斬撃を受け止め、2機はスパークの閃光に照らされる。

 

「ぐうううう!!!」

 

「ユセルファー……貴様を殺す!!!」

 

 次に刃同士が捌き合った瞬間に、ウィングガンダム・ゼロは三連続の斬撃を打ち込んで圧倒。

 

 その斬撃はビームサーベルで受け止められたが、その直後のマシンキャノンの近距離射撃が連続した着弾煙を生じさせる。

 

「ぐううっ?!!」

 

 煙幕を張られ、虚を突かれるユセルファーに容赦ないヒイロの攻勢が重なる。

 

 レフトアームにツインバスターライフルの銃口を押し当て、零距離で単発の低出力の一撃が放たれた。

 

 低出力とはいえ、ビームマグナムに匹敵するビームが、ノワール・フリーダムガンダムのレフトショルダーアーマーを吹き飛ばす。

 

「ぐおおおお?!!ちいいいいい!!!」

 

 強力な反動で吹き飛んだノワール・フリーダムガンダムはクスィフィス・レールキャノンとバラエーナ・プラズマキャノンで反撃する。

 

 放たれる超高速弾とビーム渦流だが、ウィングガンダム・ゼロはある程度シールドでレールガンを防御し、高速側方移動の軌道でビーム渦流を躱す。

 

 ゼロ・システムとヒイロの持ち合わせる超絶な戦闘センスの組み合わせが成していた。

 

 ウィングガンダム・ゼロはノワール・フリーダムガンダムの懐へと飛び込み、クスィフィス・レールキャノンの左右両門の銃身をビームサーベルで薙ぎ払い、袈裟斬りの一撃を打ち込んだ。

 

 刹那にかざしたノワール・フリーダムガンダムのビームサーベルとスパークを散らす。

 

「繰り返すが、貴様はここで殺す。ゼロが貴様の愚行の情報を俺に流した……俺は様々な戦場を渡ってきたが、貴様の胸糞の悪さは類を見ないっ……!!!!」

 

「ふざけるな!!!私を殺せるかあああああ!!!」

 

 放たれる近距離のバラエーナ・プラズマビームキャノンだが、捌き弾くと同時に瞬発的な急上昇してウィングガンダム・ゼロは躱す。

 

 そして舞い上がりながらチャージしたツインバスターライフルの一撃が放った。

 

 

 

 ヴウゥゥッッ……ヴァズダァアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 ドォヴァズゥアアアアアアアアアッッッ……ドォオオオオオオオオッッ……!!!!

 

 

 

 躱そうと高速後退したノワール・フリーダムガンダムだったが、放たれるツインバスターライフルのビーム過流はレフトレッグを吹き飛ばす。

 

「ぐおああああああ……!!!くっうう……バカな?!!シフト装甲はビーム直撃を半減させるはずなのにぃ……くそぉっ!!!」

 

 ユセルファーは圧倒的なヒイロのウィングガンダム・ゼロの攻勢を前に敵前逃亡よろしくフルスラスターでそのエリアから離脱する。

 

「敵前逃亡……無論逃がしはしない。相応の最期を奴に叩き付ける!!!」

 

 ウィングガンダム・ゼロはギンと両眼を光らせノワール・フリーダムガンダムの追尾に飛び立った。

 

 

 一方で、メテオ・ブレイクス・ヘルサイドの各ガンダム達もまた反撃の攻勢に転じ始めていた。

 

 2機のバイアラン・イゾルデに追い込まれかけていたかのように見えていたΞガンダムであったが、マフティーの一瞬の機転により攻勢が逆転した。

 

「……真骨頂はこれからだ」

 

 Ξガンダムから一斉にファンネルミサイルが放たれ、縦横無尽に放たれたそれは2機のバイアランイ・ゾルデに襲い掛かる。

 

 

 

 シュシュシュシュシュゴファアアアッッ―――ディディディディディガガガガガゴゴガアアッッ!!!

 

 

「?!!」

 

 

 ネェル・アーガマが補給を受けた際に、ピースミリオンにΞガンダムの開発に携わった者がいた関係から、ガンダニュム合金製のファンネルミサイルが支給されていた。

 

 実装されたそのガンダニュウム合金のファンネルミサイル弾頭がマフティーの意のままに飛び交い、両バイアラン・イゾルデの装甲をズタズタに破壊し始めた。

 

 鋭利な硬質弾が超高速で穿つ。

 

 無論弾頭は爆破することなく、繰り返し襲い掛かるのだ。

 

 ファンネルミサイルはΞガンダムの代名詞的武装であり、キルヴァの時代から猛威を奮っていた。

 

「これを狙ったのさ。劣勢に見せかけてな。調子乗られちまった分、もう少しファンネルミサイルに付き合ってもらおう」

 

 振り払おうとクロービームキャノンを闇雲に放って抵抗する2機のバイアラン・イゾルデだが、当然ながらファンネルミサイルを撃ち落とすに至らない。

 

 ファンネルミサイル群は嘲笑するように飛び交いながらじわじわとバイアラン・イゾルデ達を嬲り叩きにダメージを蓄積させていく。

 

 苦し紛れにバイアラン・イゾルデβがビームサーベルを奮い、操り手であるΞガンダム本体に襲い掛かる。

 

 だが、次の瞬間に各部の四肢や首元のジョイントに目掛けファンネルミサイルが突き刺さった。

 

 

 

 ガガガガガガガガガガズズズズウゥゥゥウウウウ!!!

 

 

 

「―――!!!」

 

 

 

 ギュイイイイイイィィィィィッッッ…………ディガガガガドォドォドォギャギャガアアアッッ!!!

 

 

 

 次の瞬間、各ファンネルミサイルがドリルのように回転かつ加速を開始。

 

 それらは機体のウィークポイント抉り砕きながら次々に貫通した。

 

 もはやボロボロのマリオネットと化したバイアラン・イゾルデβに対し、マフティーはビームバスターの銃口を向けた。

 

「アディオス……」

 

 

 

 ヴウッ―――ヴァズダアアアッ、ヴァズダアアアッ、ヴァズダアアアッ、ヴァズダアアアアアアッッ!!!

 

 ドォヴァグアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

 連発で放たれた四本の高出力ビームがバイアラン・イゾルデβに止めを刺し、爆散させた。

 

 バディを撃墜され、怒りに触れたかのようにビームサーベルを両手持ちに装備してΞガンダムへと斬り掛かる。

 

 レフトアームに装備したビームサーベルで斬連撃を受け止めたΞガンダムは、後退する軌道で受け止め続けた。

 

「相棒が墜とされて怒る……感情が伝わってくるな。一応人間らしさは残っていたか……!!!」

 

 斬撃の軌道は規則性はなく、滅茶苦茶に尽きていた。

 

 故に隙も見えやすくなっている。

 

 バイアラン・イゾルデαがガンダムサンドロックのように両手のビームサーベルを振り上げた瞬間、図体のリーチを活かしたΞガンダムの蹴りがボディーを穿ち飛ばした。

 

「……だが、悪魔に変わりはない。くたばれ!!!」

 

 

 ズバシュガァアアアアアアアッ!!!

 

 

 Ξガンダムは加速して踏み込み、大振りに振りかぶったビームサーベルの袈裟斬りの斬撃でバイアラン・イゾルデαのライトアームをまるごと斬り飛ばす。

 

 

 バズゥダァァアアッ!!! バズゥダァッ、バズダァッ!!!

 

 

 すかさず放ったビームバスターがバイアラン・イゾルデαの装甲を穿ち砕き貫通する。

 

 そしてショルダービームバスターを展開させ、前面に向けてビームバスターと共に放った。

 

 

 

 ヴィギュリリリリィィ……ヴィヴダアァアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 ドォズゥガァアアアアアアアァァァッッ……ゴゴッバォオォォオオオオオオオオオオッッ!!!

 

 

 

 Ξガンダムのもう一つの隠し代名詞武装・ショルダービームバスターの高出力ビーム過流に貫かれたバイアラン・イゾルテαは豪快に爆砕する。

 

 その爆発の向こう側でΞガンダムの眼光が光った。

 

 

 ガンダムサンドロック改に迫るツォーンのビーム過流。

 

 直撃かと思われた刹那にかざしたバスターショーテルの刀身がこれを弾き飛ばし拡散させる。

 

 バスターショーテルの刀身に発生させたGNDエネルギーがそれを成していた。

 

「なんだよそれぇええ?!!卑怯だぞ!!!ちきしょうがああ!!!」

 

「……僕はまだこんなところで堕ちるわけにはいかないっ……!!!この先にロニがいるんだっ!!!」

 

 カトルが示す意志を現すように発光するガンダムサンドロック改の両眼。

 

 対するレイダーガンダムはニョルミルを振りかざして直上からの急降下打撃を仕掛ける。

 

「滅殺っっ!!!」

 

 

 

 ガオオオオオオオンッッ!!!

 

 

 

「な?!!」

 

 ガンダムサンドロック改はライトアームに装備したクロスクラッシャーのシールド部でこれを受け止めた。

 

 通常のMSであれば文字通りの滅殺に至る一撃だ。

 

 しかし高純度のガンダニュウム合金がそれを許さない上に、元々ガンダムサンドロック改はパワーが並外れており、これを押しのけて見せる。

 

「はああああああ!!!」

 

 

 

 ギギギギ……ガアアアンッ、ダッギャギィイイイイインッ!!!

 

 

 

「ぐぎいい?!!」

 

 押しのけると同時に叩き付けるようなバスターショーテルの斬撃がレイダーガンダムに直撃した。

 

 地上に向けて吹っ飛ぶレイダーガンダムを追尾するようにガンダムサンドロッ改はサブビームマシンガンを連射し、高速かつ連続の着弾爆破を与える。

 

 

 更に追い付いたガンダムサンドロック改は、クロスクラッシャーの前薙斬撃と突きに加え、バスターショーテルの袈裟、薙斬撃を交互に与えレイダーガンダムを一網打尽にする。

 

「くっそがっ!!!なめんじゃねーぞ!!!」

 

 形勢逆転されたレイダーガンダムは、怒り苦し紛れにツォーンを撃ち放つ。

 

「うあ?!!」

 

 ガンダムサンドロック改は咄嗟にガードしながら吹き飛ばされた。

 

 体勢を立て直したレイダーガンダムは、バードモードに変形し、ガンダムサンドロック改から一旦高速で離脱した。

 

 そして瞬時に舞い戻り、フレイアとクロービームキャノンのアフラマズダを乱発しながらガンダムサンドロック改へと突っ込んでいく。

 

「くっ……!!!」

 

 着弾する高出力ビームに加え、クローが激突する。

 

 回避よりも防御を選択したガンダムサンドロック改は、防戦一方に晒された。

 

 レイダーガンダムは、飛び交いながら射撃とクローの攻勢を維持しはじめる。

 

 怪鳥が巨鳥に向ける鋭利な爪とエネルギービームは一方的な攻防の域になったかに見えた。

 

 だが、レイダーガンダムが高速変形しながらガンダムサンドロック改にニョルミルを撃打させようとした刹那、ガンダムサンドロック改の姿が青白い残像に変わった。

 

「なにぃ?!!!」

 

 次の瞬間にはレイダーガンダムにガンダムサンドロック改が縦横無尽に飛び交う。

 

 

 

 ディッガキィッ、ディッガキッ、ディッガキッ、ディッガキッ、ディッガキッ、ディッガキッ、ディッガキィイイイイインッ!!!

 

 

 

 PXシステムを発動させたガンダムサンドロック改の超高速のクロスクラッシャーとバスターショーテルの連続高速斬撃が、レイダーガンダムの装甲にダメージを瞬時に蓄積させる。

 

 

 

「がぁあああああ?!!なんだ、クソッタレェェェ!!!」

 

 

 

 薙と唐竹、斬り上げ下げ、刺突……多彩な軌道の斬撃が、レイダーガンダムをマリオネットのように空中で弾き踊らせる。

 

 

「君達はっ……危険だっ……いい加減っ、この島国の人達を……解放するっ……悪いけどっ……墜とさせてもらうよっ……はぁあああ!!!」

 

 

 ディッガキャアアアアアッッ!!!!

 

 

「がぎいあっ?!!!」

 

 

 クロスクラッシャーがレイダーガンダムのレフトアームを瞬間的にガッチリとホールドした上に、PXシステムの超高速の負荷がそれをもぎ取った。

 

 更にそこから背後に廻ったガンダムサンドロック改の高速滅多斬りの斬撃が加わる。

 

 次の瞬間レイダーガンダムの頭部が半回転し、ガンダムサンドロック改に向けてツォーンを放った。

 

 だが、そのビーム過流が撃ち抜いたのは青白い残像であり、更なる次の瞬間にはクロスクラッシャーによる唐竹斬撃がレイダーガンダムを打ちのめす。

 

 これらの衝撃ダメージは大量にトランスフェイズ装甲のバッテリー出力消費を引き起こし、既に効力切れとなっていた。

 

「があああああ?!!ちっきしょうがああああ!!!」

 

 クロトは怒り任せにPXを発動させた。

 

「な?!!こいつ達もPXを?!!でもっ……!!!」

 

 カトルは一瞬の動揺を見せるも、攻勢の意志を緩めない。

 

 青白い残像を描いての超高速射撃戦闘に事態が急転する。

 

 飛び交う両者の高速射撃の乱れ撃ち。

 

 しかし直ぐにレイダーガンダムはバードモードに変形し、PXの真骨頂を見せつける。

 

 弾き飛び交う合うようにクロスクラッシャーとバスターショーテル、クローが激突し合う。

 

 

 

 ディッギャイッ、ディッガギャ、ディギガッ、ガギイイイッッ、ディギャガッ、ガギアアンッッ……!!!

 

 

 

 巨鳥と怪鳥の激突する一方で、カラミティガンダムもまたPXを発動させていた。

 

「ハッハー!!!なぶり殺しにしてやんぜー!!!」

 

 シールドでの防御体勢のガンダムヘビーアームズ改に向け全方位からの超高速砲撃を浴びせる。

 

「奴らもPXを装備していたか……このまま防御をし続ければ流石のこの装甲も削られていくか……」

 

 トーデスブロックにスキュラ、シュラークの砲撃を浴び、バスターガトリングキャノンやマイクロミサイルのユニットを破壊されながらも、まだガンダムヘビーアームズ改は原形を維持していた。

 

 ガンダニュウム合金の高い耐久値を見せつけているかのようでもある。

 

 同時に周囲の市街地は完全に破砕され、炎と爆発、瓦礫の海と化している。

 

「しぶてーなぁ!!!うぉおおお!!!」

 

「!!!」

 

 オルガはガンダムヘビーアームズ改の胸部目掛け、ケーファーツヴァイを突き出して突っ込み、ビームを連射して放つ。

 

 刺突と同時のビームを浴びたガンダムヘビーアームズ改は胸部面で爆発を起こして吹っ飛んだ。

 

「しゃあああ!!!至近距離から止めだぁ!!!」

 

 カラミティガンダムは超高速の青白い残像を描きながら、吹っ飛ぶガンダムヘビーアームズ改の面前に飛び込む。

 

 オルガが、狂喜の笑みを浮かべながらトリガーを引くその刹那、ガンダムヘビーアームズ改が青白く光りながら消えた。

 

「死ねぇっ………何ぃ?!!!消えっ……がぁえあ?!!!」

 

 はしる衝撃。

 

 

 

 ガドゥルルルルルルゥヴゥゥゥゥゥゥゥッッ……!!!

 

 ディギャララララララララガガガガガガガンッッ!!!

 

 

 PXを発動させたガンダムヘビーアームズ改は、互角の超高速でカラミティガンダムにダブルビームガトリングを浴びせる。

 

 更にそれに上乗せして、ライトアームのアームバスターランチャーの超高速単発射撃も加えていく。

 

 

 

 ヴァズダァッッ、ヴァズダァッッ、ヴァズダァッッ、ヴァズダァッッ、ヴァズダァッッ、ヴァズダァッッ、ヴァズダァアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

 本家のGNDドライヴの恩恵を得ているPXシステムによる高出力エネルギーと、トロワの卓越したテクニックにより、その攻撃は全て直撃していた。

 

 それ故にカラミティガンダムのトランスフェイズ装甲のバッテリーは、秒単位での大消費を余儀なくされる。

 

 オルガは全く構う事なく、闘争心をむき出しに攻勢を続けていた。

 

「クソがぁ!!!!ゴリ押しだゴラァあああああ!!!!」

 

 

 ズヴァギュアッッ、ドゥバオッッ、ズヴァギュアッッ、ドゥバオッッ、ズヴァギュアッッドゥバオッッ、ドゥバオッッ、ズヴァギュアアアアアッッ!!!

 

 

 真正面からガンダムヘビーアームズ改の攻撃を受けながら、カラミティガンダムは鬼神のごとき砲撃を浴びせようと迫る。

 

 だが、トロワは超次元的領域の中、これらを回避し続けた。

 

「馬鹿の一つ覚えの攻勢か……!!!」

 

 一方、ガンダムデスサイズ・ヘルとフォビドゥンは互いにPXシステムを発動させながら激突を繰り返していた。

 

「死神までパクった挙げ句、PXまでパクりやがるとはなぁ!!!」

 

「ハハハ!!!アヒャハハ!!!たのしー……!!!」

 

 アームドツインビームサイズとニーズヘグとが激しく弾き捌き合い、青白いスパークが連続する。

 

 死神と似非の死神の鎌の激突は、月下に激しくかつ鮮やかな青白い残像を描いていた。

 

「だがなぁ……いくらっ……パクったってよっ……本家にはっ……及べねーっ……ぜっ!!!」

 

 

 ギャギィイイイイイッ!!!

 

 

 正面から激突するガンダムデスサイズ・ヘルとフォビドゥンガンダムの両者の鎌が小刻みにギリギリと震える。

 

「ちぇっ……生意気いいやがってー……俺、お前嫌い」

 

「そこは奇遇だなぁ……こんな外道・下衆行為に加担してる時点で、死神パクってる時点で俺も大嫌い……だぜ!!!」

 

 ギンと両眼を光らせたガンダムデスサイズ・ヘルのパワーが、フォビドゥンガンダムを押し弾く。

 

「くっそ……!!!余計ムカつくー……ん?」

 

 弾かれた一時の瞬間、シャニはモニターに映った一つのポイントに目が止まった。

 

 なんとなくレベルで気が向き、映像を拡大する。

 

 するとそれは、女性達の収監施設に取り付こうとしているM1アストレイとカトリーヌのマグアナックだった。

 

 ジュリは収監施設に呼びかけながらM1アストレイのマニピュレーターを精密操作モードにして、コックピットモニター越しに生態反応が無い収監施設箇所を破壊する。

 

「私達は今のオーブの現状を解放する為に来ました!!これから施設の一部を壊してあなた達を開放します!!少し危険ですからできるだけ窓側から離れててください!!尚、私はこの国の出身です(……まっててね……今助け出すからっ……)」

 

 慎重な操作で施設の壁を崩し、牢屋区画の解体作業に移る。

 

 その間に、カトリーヌが周囲警戒をする。

 

 女性監禁施設故に、ラシード達は近辺で別に行動しており、それにまつわる場所は彼女達だけで担当して解放していたのだ。

 

 可能性として、囚われているオーブの女性達が男性恐怖症の状態にある事も考えられる為だ。

 

 カトリーヌは近く敵機を捉えていたが、精密作業を崩すプレッシャーを与えないように囁くように通信を入れた。

 

「ジュリちゃん……警戒域に機影が……でも、同時に味方……兄さん達の機影もある……多分大丈夫だよ」

 

 通常ヒイロ達のガンダムは機影に捉えられないが、味方間で反応を確認できるように特殊な波長通信波を応用しているのだ。

 

 更にガンダムの強さは凄まじい折り紙付き故に機影を確認できるだけでも、二人はどこか安心感を覚えさえもする。

 

「……わかった……ふぅ……よし、それじゃあ……外部音声で呼び掛け……」

 

 ジュリが収容されている女性達に呼び掛けをしようとした。

 

『民間救出部隊のアストレイとマグアナック聞こえますか?!!敵のガンダムが付近に接近しています!!一旦撤退してください!!!危険です!!!』

 

 オペレーターのエイーダからの緊急通信が突如入った。

 

 エイーダの口調には焦りが見え隠れする声であり、ジュリとカトリーヌはまさかの事態に戦慄を覚え、マグアナック隊、ラルフもまた只事ではないと察した。

 

「え……敵ガンダムって?!!」

 

「ここに迫ってるの……?!!」

 

 エイーダが指摘する敵ガンダムとはフォビドゥンガンダムであったが、進路上では同時にユセルファー駆るノワールフリーダムガンダムも接近していた。

 

 ユセルファーは、ヒイロに勝てないと悟り、ユセルファーにとっての築き上げた不のユートピアを破壊しようとしていた。

 

「くぅっ……ここで終わるっ、クソ!!!気に入らないなぁ!!!私の城が終わるならっ、全てを壊してしまえ!!!女達が使えなくなるなんて気に入らない!!!道連れだぁ!!!」

 

 ノワールフリーダムガンダムの機動力はウィングガンダム・ゼロと同等の機動力があり、追撃は拮抗してしまっていた。

 

 更にシャニが接近したポイントにいたジュリ達に目標を定めようとする。

 

「へっへへへ。なんか上手くいかねーし、八つ当たりしちゃえ!!!へはー!!!」

 

 PXが発動したままフォビドゥンガンダムがジュリ達に向かう。

 

 突如来る敵機アラートに、ジュリとカトリーヌは更なるリアルな戦慄を重ねた。

 

「え……?!!まさか本当に……!!!」

 

『ジュリ機、カトリーヌ機!!直ちに逃げて下さい!!!』

 

 エイーダの警告ナビの声が響く中でジュリが反応が示す方向にカメラを回すと、そこには月下に青白い閃光を見た。

 

 だが、次の瞬間には急接近するニーズヘグを振りかざしたフォビドゥンガンダムを確認する。

 

 一気に迫る死の恐怖が押し寄せ、ジュリは恐怖に固まった。

 

「あっうっ……?!!」

 

 金縛りのような地獄への招待状の空気が彼女達に張り詰めた。 

 

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 

 次回予告

 

 

 

 エイーダの警告通信の中、ジュリに迫るフォビドゥンガンダムの死へ誘うその鎌に対し、カトリーヌやラシード達も応戦に転じる。

 

 だが、容易くそれは突破されてしまう。

 

 ジュリの命を奪おうとする死神のその鎌が振り下ろされる。

 

 一方で、ヒイロは徐々にユセルファーを追い詰めていき、囚われているマユラとアサギもまたこれまでになかった周囲の戦闘音から救助の予感を走らせていた。

 

 正義と狂気を掲げたガンダム達のそれぞれの闘いは佳境の境地へと向かって行く。

 

 その先に見え隠れするオーブの未来の兆し。

 

 頃合いを見計らったケネスは、オーブに引き起る隠蔽されてきた現実を地球圏全ての回線に繋げて発信するのだった。

 

 

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 

 エピソード42 「解放への閃光」

 

 

 

 

 

 

 



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エピソード42「解放への閃光」

 

 ジュリに迫る似非なる死神の鎌。

 

「あ……え……?!!」

 

「もらいー!!!」

 

『敵機のガンダムが急速接近!!!逃げて下さいっっ!!!ジュリさん、カトリーヌさん!!!』

 

 危機的状況を呼び掛けるエイーダの通信が響く中、マグアナック隊も急接近するフォビドゥンガンダムの反応を捉え、それがジュリとカトリーヌ目掛けてきているのを確認する。

 

「いかん……!!!あの位置にはカトリーヌ様達が女性達の解放を……!!!野郎共いくぞ!!!」

 

 ラシード達4機のマグアナックが飛び立ち、向かい来るフォビドゥンガンダムの機影に向かいビーム射撃を慣行する。

 

「うおおおおおおおお!!!カトリーヌ様達を死守だあああ!!!」

 

 だが、超高速の機体スピードにビームは悉く躱されてしまう。

 

「中らねえ!!!なんてスピードだ!!!」

 

「敵のガンダムかああ!!?」

 

「このままでは、カトリーヌ様達がああ!!!」

 

 アブドゥル、アウダ、アフマド達も難敵の急接近に焦りを見せる。

 

「くッ……敵の接近を許してしまう!!!野郎ども、奴のスピードを見越して撃つぞ!!!」

 

 ラシードの瞬時の判断で、超高速を見越した軌道読み射撃の射撃方式で一同は攻撃を続けた。

 

 だが、低い命中率の中でようやく命中する一撃も、ゲシュマディッヒパンツァーの特性でビームが曲げられてしまう。

 

「何い!??くうっッ、カトリーヌ様ぁあああああ……お離れ下さい!!!」

 

「ジュリちゃん!!!うあああああ!!!」

 

 カトリーヌもまたビームライフルで応戦するも、PXの超高速により、全てが躱されてしまった。

 

「うっ……速過ぎて中らない……!!!誰かっ、ジュリちゃんがやられちゃう!!!」

 

「しーねっ」

 

 マグアナック・カトリーヌ機を通り越したフォビドゥンガンダムが、ジュリの面前にシャニの狂気と共に迫り来る。

 

 そして悪魔のようなフォビドゥンガンダムはM1アストレイに対し、容赦なくニーズヘグを超高速で振り下ろした。

 

「え……嫌ッッ!!!きゃあああああああああッッ!!!」

 

 ジュリが恐怖に支配された表情で悲痛な悲鳴を上げながら顔を手で隠しかざす。

 

 その直後、巨大な鈍い金属音が響いた。

 

 

 

 ダギャキイイイイイイッ……!!!

 

 

 

 一方でヒイロはユセルファーを高速度で追撃する。

 

 追われ追う攻防戦が展開し、ツインバスターライフルとバラエーナ・プラズマキャノンの射撃が高速域で撃ち合う。 

 

「くそぉ……!!築き上げた私の独裁場を終わらさせられるだとぉ……?!!権力、欲望、虐殺……私のアイデンティティを満たす場が……!!!」

 

「戦争による非人道な闇はいつの時代にも生じる……集団的にも、貴様のような利己的にも……だが、少なくとも俺達の行動範囲にそれが飛び込めば……全力をもって止める!!!」

 

 ヒイロがユセルファーに言葉を叩き付けると同時にツインバスターライフルの中出力のビーム過流が放たれる。

 

「やかましいっっ……ぐうううう?!!」

 

 辛うじて躱せると踏んだユセルファーだが、掠めたツインバスターライフルのビーム過流はシールドを歪ませた。

 

「あああああああ!!!気に入らんっっ!!!気に入らん、気に入らん、気に入らああああああん!!!」

 

 ノワール・フリーダムガンダムは、バラエーナ・プラズマキャノンをユセルファーの怒り任せの感情に乗せて乱発する。

 

 無論、それはウィングガンダム・ゼロに中る事はない。

 

 次のタイミングでユセルファーはチャージしたバラエーナ・プラズマキャノンを放ってみせたが、それに生じる減速を利用してヒイロが懐に斬り込みに突入し、ウィングガンダム・ゼロはビームサーベルを力強い抜刀軌道で斬り払う。

 

 ノワール・フリーダムガンダムはそれをビームサーベルで受け止め、両者が生じさせるスパークが月下にはしった。

 

「ぐうううううっっ……!!!憎たらしいなっ!!!貴様ああああ!!!」

 

 拮抗するビームサーベル同士のつばぜり合いの激突を捌き弾いて、何度も叩き斬ろうとするノワール・フリーダムガンダム。

 

 だが、全ての斬撃はウィングガンダム・ゼロのビームサーベルで受け止められ続ける。

 

「生憎だが、俺もだ。ユセルファー・ツーセンタ……!!!だが、貴様は決して俺には勝てない。もう俺には貴様の結末は見えている……!!!」

 

「っっ……どこまでっ……どこまで気に入らない奴なんだっ貴様はぁあああああ??!」

 

 繰り返されるビームサーベルの激突の中、両者は剣撃を弾き合わせるような軌道で高速移動をしていく。

 

「貴様が口に繰り返す気に入らない存在……部下だろうが、何であろうが、自分の気に触れた存在をことごとく潰して来たんだな……!!!」

 

「だから何だという??!気に入らなければ潰すっ!!!潰すんだよ!!!無論、この状況自体も気に入らんがね!!!それに貴様たちは何様だ!!?正義のミカタ気取りのテロリストがあああああ!!!」

 

「俺達は元々、力でコロニーを虐げる連邦とOZに反抗してきた。時代が動き、今や連邦を乗っ取ったはずのOZがOZプライズに乗っ取られようとしている……OZプライズが成す世界をOZプライズの貴様が先行して……オーブを通して示してくれた……絶対に存在を許してはならないとなっ!!!俺達は貴様達のような理不尽な強大な力を叩くっ……!!!」

 

 ビームサーベルの捌き合いから一転し、ウィングガンダム・ゼロはレフトアーム装備のツインバスターライフルを撃ち飛ばす。

 

 

 

 ヴウゥッッ―――ドォズヴァアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

「ぐぅッ?!!うおおおおおおッッ……!!!」

 

 

 

 ドォオオオオオオオッッッ……ドォズアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 咄嗟にユセルファーは防御を取ってしまい、ツインバスターライフルのビーム過流がレフトアームごとシールドを吹き飛ばした。

 

 小爆発を起こしながら態勢を崩されたノワール・フリーダムガンダムは、力の限りに飛び立つ。

 

 この時点で戦闘のイニシアチブは確実にヒイロとウィングガンダム・ゼロに在り、自身に敗北と理想郷の終わりが迫っている事をユセルファーは嫌でも思い知らされていた。

 

「くうぅそおおおおおおッッ……今夜で終わってしまうならばッ……もういっそ……この手で私の好むモノを……!!!」

 

 ユセルファーは、女性達が収容されている区画は幾つも点在して存在している場所を思い出しながら、自らの欲望を満たす場所の破壊に思考を転換する。

 

 その思考はゼロシステムを通じてヒイロにも伝達され、怒りを通り越した呆れにも似た感情を懐いた。

 

「ユセルファー……この期に及んでその発想か……つくづく救えん下種だ……!!!」

 

 はしるツインバスターライフルの一撃だったが、不の意地でも見せつけるかのようにユセルファーはこれを躱し切りながら加速した。

 

「……まだ墜ちてなるものかぁあああ!!!最高のお気に入りの場所っ……道連れだぁあああ……!!!」

 

 ノワールフリーダムガンダムが向かうは、ユセルファーが好むマユラやアサギ達が収容されている場所だった。

 

 そこでは絶望の中、都市部の方面からは通常では在り得ない戦闘音が聞こえて来ていた。

 

「ねぇ……さっきから聞こえてくる音……これって戦闘の音……だよね?」

 

 マユラが寄り添い合うアサギに問いかける。

 

「うん。何かが起こっているのは確か……さっきまでは悲鳴と嘆きばかりだったけどさ……」

 

「……あいつらも途中で辞めざる得ない状況になったみたいだった……これってまさか……誰かが助けに来てくれたってこと?!!」

 

 状況からしてマユラは助けが来たのかと感じた。

 

 アサギもまたそう感じていた。

 

「うん、きっとそうだと思う……でも、一体誰が今のオーブを助けてくれるっていうの??」

 

「もしかしたら……ジュリだったり……なんてね……」

 

 マユラは万が一の希望を抱きながら冗談交じりにアサギにそう言った。

 

 だが、その当事者には闇夜を斬り裂く死の鎌がコックピット越しに振るわれていた……。

 

 

 

「―――……え……??!」

 

 

 

 だが、ジュリのM1アストレイにはその切っ先は微塵も触れていなかった。

 

「……似非死神のヤロウ……どうやら、俺を本気で怒らせたみてーだなぁ……」

 

 

 

 ♪WILD WING ※

 

 

 ※デュオのキャラソンです

 

 

 

 ジュリが瞑っていた瞼(まぶた)を開くと、そこにはライトジョイント側のアクティブクロークでニーズヘグを受け止めているガンダムデスサイズ・ヘルの姿があった。

 

 同時に聞こえたデュオの声。

 

「デュオの……ガンダム?!!」

 

「生意気ィいいいっっ……!!!」

 

 シャニの歯ぎしりの後に更なる力が加わるが、この瞬間に互いのPXシステムがタイムオーバーで強制解除された。

 

「おやおや……更にお互いPXが解けたみたいだな……さて、この胡散臭い鎌……そろそろ退けてくれ!!!偽死神さんよぉ!!!」

 

 

 

 ギュウィィイイッッ―――ザシュガアアアアアッッ!!!

 

 

 

 防御維持のまま薙いだアームド・ツインビームサイズの一撃が、フォビドゥンガンダムを吹っ飛ばす。

 

「がぁあああ!??」

 

「インチキ死神ガンダムヤロー、エゲツない力でか弱いコ狙いやがって……!!!本物の死神様は怒り浸透だぁっっ!!!第一、俺がてめーの相手だったんだろーが!!!」

 

「デュオ……!!!ありがとう……!!!」

 

「おっと、礼はまだ早いぜジュリ……俺はヤロウに鉄槌を下してやらなきゃならない!!!とにかく奴は遠のかせる……捕らわれている人達の救出を引き続きたのむぜ!!」

 

 そう言いながらデュオはフォビドゥンガンダムに向かって加速した。

 

 その姿を見つめるジュリには熱い何かが込み上げるような感覚を覚えていた。

 

「デュオ……」

 

「デュオが助けてくれたんだ……!!ジュリちゃんが助かってくれて本当によかった!!もう……本当にダメかと思った!!」

 

 サイドモニター画面からジュリの無事に安堵するカトリーヌが呼び掛けた。

 

「うん……!!本当に……!!!もう、カッコいいとしか言えないよ……デュオは……!!!」

 

「ジュリちゃん……!!」

 

「よし、救出作業再開しようっ!!今の私にできる事だから……!!!」

 

「ボクも手伝うよ!!ラシード達は周囲警戒をお願い!!エイーダさんもナビゲートありがとう!!デュオが助けてくれたから、大丈夫だよ!!引き続きナビお願いします!!」

 

「了解です!!!」

 

『よかったァ……!!!本当に……ッッ!!私は一時どうなるかと……!!!わかりました!!こちらこそ引き続きよろしくお願いいたします!!』

 

 カトリーヌの指示に、ラシード達の熱い返事とエイーダの安堵の言葉が漏れた。

 

 その一方で、アームド・ツインビームサイズを唸らせながらニーズヘグと刀身を激突させたガンダムデスサイズ・ヘルは、加速を止めることなく、フォビドゥンガンダムを押し下がらせる。

 

「こいつ、ムカつくぅううう!!!」

 

「それはこっちのセリフだってのっ!!!」

 

 純粋なパワーは、やはりガンダムデスサイズ・ヘルに軍配があり、スパーク閃光を放ったままフォビドゥンガンダムを押し下がらせていく。

 

「くっそぉっ!!!」

 

 フォビドゥンガンダムはバックユニットを展開装備し、フレスベルグを至近距離から撃ち放った。

 

 それと同時にブースターと反動を利用した離脱に至る。

 

 

 

 ガキシャンッ……ヴギィヴァアアアアアアアアッ!!!

 

 ディギィイイイイイイッ!!!

 

 

 

「へっ……浴びせてやったよ……あれ?!何でだよ!?!」

 

 撃破してやったと思い込んだシャニは、すぐに過度な苛立ちにのまれる。

 

 モニターには平然と原型を留めているガンダムデスサイズ・ヘルの姿があった。

 

「……その気になりゃ、ウイングゼロのバスターライフルだって防げるんだぜ……ま、理論上らしいがっ。てかさっきからも防いでるだろーが。学習力ねーなぁ……ま、とにかく俺の相棒にビームは効かねーよ!!!」

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルは、アームド・ツインビームサイズを振りかざし、フォビドゥンガンダムへ再び加速する。

 

「わあああああ!!!更にムカつくぅううう!!!」

 

 迫る死神にフォビドゥンガンダムは、懲りずにフレスベルグとレールガンのエクツァーンを乱反射して対抗した。

 

 ガンダニュウム合金に加え、高精度のビームコーティングが施された同合金製のアクティブクロークには、ダメージが表層で相殺されるも同然だ。

 

「無論、実弾も効かないけどな……だぁりゃあああああ!!!」

 

 

 

 ザギシャアアアアアアッ、ザギャガァアアアアアンッ!!!

 

 

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルは一気にフォビドゥンガンダムの懐に飛び込み、左右のエクツァーンの砲身をアームド・ツインビームサイズで斬り飛ばす。

 

「ちぃいいいいっ!!!」

 

「おらおらぁ!!!斬って、斬って、斬って、斬ってぇっっ……斬りっ……まくるっっ!!!」

 

 ザギシャアッッ、ガギガァアッ、ザギャインッ、ディッガギャアッ、ザァドォガッ、ザシャガァアッ、ズバガァアアアアアアッッ!!!

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルのアームド・ツインビームサイズの斬撃の乱舞がフォビドゥンガンダムのアーマーユニットに集中する。

 

 辛うじてトランス・フェイズ装甲の恩惠でダメージが半減していた。

 

 だが、本来受けるダメージが高ければ高い程、バッテリーの消費が著しくなる上、やがては効力が無くなる。

 

「おらぁあああああ!!!」

 

 短間隔での連続ダメージに装甲材質変換にバグが一時的に生じ、その部位のアーマーユニットにバスターシールド・アローのビーム刃が突き刺さった。

 

 

 

 ザシュゴォオオオオオッッ!!!

 

 

 

「はぁ?!!うっぜぇえええなっっ!!!」

 

 対し、フォビドゥンガンダムは破損したアーマーを展開して、ニーズヘグを振りかざす。

 

 両者の鎌が激突し合い、幾度も振り払い合う。

 

 ガキィギャンッ、ザシャガァアアッ、ガギガァアアアッ……ガギャンッッ……ザギガァアアッッ!!!

 

 その光景は正に死神同士の決闘であった。

 

 アームド・ツインビームサイズとニーズヘグ、ビームと実体鎌の激突は止まる様子を見せない。

 

 

 

 ギャイイイイイッッ!!! ザバガァアアアアンッッッ!!!

 

 ザシャガァアアンッ、ジギャガァンッッ、ガギィイイイイイイ!!!

 

 

 

「ふぅぅっ……!!!絶対コロス!!!」

 

「やってみなっ……!!!」

 

 殺意を押し付けるシャニに対してのデュオの不敵な一言を合図に、両者は再び刃をガインッと捌き合いながら機体を舞い上がらせる。

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルとフォビドゥンガンダムは空中で斬撃の打ち合いを始める。

 

 アームド・ツインビームサイズの薙ぎ払い。

 

 ニーズヘグの振り下ろし。

 

 すれ違い際のスパーク。

 

 再び舞い戻りながらの斬撃。

 

 繰り返されるスパーク。

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルは幾度も来るフォビドゥンガンダムの斬撃を捌き弾いては、アームド・ツインビームサイズのカウンターの薙ぎ、叩き斬り、バスターシールド・アローの刺突を見舞う。

 

 この光景を救出作業の合間に、ジュリとカトリーヌ、ラシード達の一行が息をのんで見届けていた。

 

「すごい……!!!」

 

 ジュリはその一言しかでなかった。

 

 運命が半ば間違えば、シャニの刃に殺されていた。

 

 それを救ったのは紛れもない死神だった。

 

 その死神は死すべきではない人の死を斬り払い、万死に値する存在に向けて死の制裁を下そうとしていた。

 

「がはぁあああ!!!くっそ!!!クッソおおお!!!お前なんか!!!お前なんかぁああああ!!!」

 

 

 

 ガギャジュイイイイインッッ!!! ジュジィイゴォアアアアアァァァアアアアァァ……

 

 

 

「ぐぅッ……!!!」

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルは、アームド・ツインビームサイズの両刃の間にニーズヘグの刃を受け止めた。

 

「どうした?殺すんじゃないのかぁ?まぁ、所詮は似非の死神は似非ってコトで……本物には及ばないってコトだ……」

 

「ぎぎぎぎぎぎッ……!!!」

 

「今から本物の死神って奴を……そのイカレタ頭に刻み付けて……やんぜッッ!!!」

 

 

 

 ギュギギギィイイイイッッ……ギィグググゥッッ!!

 

 

「なっ……!!?」

 

 眼光を光らせたガンダムデスサイズ・ヘルは、そのパワーでニーズヘグの刃に力を加え、鋼の柄の首根っこからへし曲げてみせた。

 

「へっへへへ……!!!」

 

「くそぉっ!!!」

 

 フォビドゥンガンダムは一度離脱し、再びアーマーユニットを展開装備してフレスベルグを撃ち飛ばす。

 

 無論ながらそのビーム渦流は、アクティブクロークに阻まれて相殺していく。

 

「くそクソくそクソ、くそぉォァアアああああ!!!」

 

 更に気が狂ったかのようにフレスベルグが乱発される。

 

 デュオは敢えてその攻撃を受け止めながらガンダムデスサイズ・ヘルを空中に佇ませた。

 

「……だから効かねーよ……後もう一つ言っておくぜ……こいつは偶然なんだろうが、お前は俺の貧乏~くじな人生で出会えた極めてレアケースな存在に手をかけようとした……一足間違ってたらあの状況で彼女がやられちまってたかもしれねー……意中の相手に牙向けるなんざ、誰だって怒り浸透するよなぁ??」

 

「ごちゃごちゃうるせー!!!俺は八つ当たりにやっただけだぁ!!!お前じゃ気分悪くなるだけだからさぁ!!!」

 

「ゲス外道な回答どうも……さぁ、本物の死神の鉄槌、受けて貰うぜ似非死神さんよぉっっ!!!!!」

 

 

 ギュウィィイッッ、ドォアアアアアア!!!

 

 

 ライトジョイント側のアクティブクロークを展開したガンダムデスサイズ・ヘルが、フォビドゥンガンダムに鉄槌の猛進をする。

 

 

 撃ち放たれ続けるフレスベルグのビーム渦流は、レフトジョイント側のアクティブクロークに相殺され続けた。

 

「おらおらぁ!!!死神様の鉄槌っ……だっ!!!」

 

「わああああああああ!!!ムカつくんだよぉおおお!!!」

 

 へし曲げられたニーズヘグを振り上げ、フォビドゥンガンダムはガンダムデスサイズ・ヘルに突っ込んだ。

 

 両者の斬撃がぶつかる。

 

「そらぁよぉおおおっっ!!!」

 

 

 ザァギィガァアアアアアッッ!!!

 

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルとフォビドゥンガンダムの斬撃が重なった刹那、ニーズヘグの刃の首とライトジョイント側のゲルマディッヒパンツァーがアームド・ツインビームサイズによって斬り飛ばされた。

 

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルは駆け抜けながら瞬発的な機動力で再び舞い戻り、アームド・ツインビームサイズをかざしてフォビドゥンガンダムへと高速で斬り掛かった。

 

 

 

「斬ってぇっ!!!」

 

 

 ザシュガァアアアアアッッ!!!

 

 

「あぐがっ!!!」

 

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルは袈裟斬り軌道の斬撃でバックアーマーユニットの装甲に裂傷を見舞わせ、間髪入れずにフォビドゥンガンダムの胸部目掛けての回し斬りを浴びせる。

 

「斬って、斬ってぇっ!!!」

 

 

 

 ザァバガァアアアアッッッ、ズゥドガァアアアアッ!!!

 

 

 

「がぁっ……!!!」

 

 回し斬りと同時に、バスターシールド・アローの刺突の一撃も加えられた。

 

 アームド・ツインビームサイズの斬撃は、ここからラッシュを開始した。

 

 二連刃のビーム鎌が、フォビドゥンガンダムを本格的に屠りに暴れた。

 

 

「斬りまくりだっ!!!そらそらそらそらぁああああ!!!」

 

 ザッガギャッ、ザバガァッ、ザシュガアッ、ズバンッ、ギャガァッ、ディッガインッ、ジュズガァッ、ジュゴガァッ、ザジュバァッ!!!

 

 乱舞するアームド・ツインビームサイズの斬撃は、遂にトランス・フェイズ装甲の許容バッテリー消費を超え、ガンダニュウム合金に近い強度特性の化けの皮が剥がれ始めた。

 

「ぢっきしょおおおお!!!くそぉォァアアアアアア!!!」

 

 シャニが怒り叫ぶ中、装甲はガンダリウム並みの強度に落ち込み、斬撃部位が焼灼されていく。

 

 更にガンダムデスサイズ・ヘルの無双斬撃は重なり続けた。

 

「更に斬ってぇっ!!!斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬ってぇっ!!!斬りっっ……まくるぜぇえええ!!!!」

 

 

 ザジュガアッ、ギャザガッ、ジュガギャッ、ズザガァッ、ジャギャギィッ、ザジュバッ、ジュギャシャッ、ザバガァアアッ、ズバシャッ、ザゴシャアッ、ズバドォッ……!!!

 

 ザシュガァアアアアアッ!!!

 

 回し斬りの斬撃が炸裂し、アームド・ツインビームサイズがフォビドゥンガンダムの胸部にめり込む。

 

「ぐぎぃはぁああああああっっ……!!!」

 

 シャニが焼灼滅却される中、更にガンダムデスサイズ・ヘルの力尽くの斬り込みが加わり、ズタズタになったフォビドゥンガンダムを上下に破断させた。

 

 

 ジュギィゴォォ……ググギギッ、ズバギャアアアアンッ!!!

 

 

「これが……真の死神様の鉄槌だっ!!!せいぜい地獄で懺悔でもするんだな……!!!」

 

 

 デュオは鋭い眼光でシャニに鉄槌のセリフを吐きかける。

 

 同時にガンダムデスサイズ・ヘルの眼光が光り、直後にフォビドゥンガンダムはスパークを帯ながら爆発・破砕した。

 

 

 

 ドォゴバガァアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 一方、ガンダムサンドロック改とレイダーガンダムはPX同士の攻防を繰り広げる。

 

「滅却、滅殺っっ!!!がぁあああああ!!!」

 

 両者は超高速で飛び交い、ガンダムサンドロック改のクロスクラッシャーとバスターショーテル、レイダーガンダムのクローが幾度もぶつかり合い、弾き合う。

 

 

 

 ガッキャイインッ!!! ディギャインッッ、ガッキャガアッ!!! ギャキャイッッ、ディガオンッ、ガズガアアアアアアン……ッ!!!

 

 

「確かに相手もPXならではの速さだっ……長引けば互いにシステムが解除される……できれば発動中に決着をつけたい。いきなり射撃戦に持ち掛けて……!!!」

 

 

 虚を突く意図で、カトルは迫るレイダーガンダムにビームマシンガンを放った。

 

 

 

 ヴィヴドォドドドドドォアアアアァ!!!

 

 ディギャドォドォドォドォドォオオオッ!!!

 

 

 

「ちい?!!なんだよ、コノヤロー!!!」

 

 急なビームマシンガンの直撃を受けたレイダーガンダムは一撃離脱しながら旋回し、再びガンダムサンドロック改へと攻勢に出る。

 

 ツォーンとクロープラズマキャノンのアフラマズダ、ショルダービームマシンガンの乱発の応酬がガンダムサンドロック改に向けて発射されていく。

 

 

 

 ヴギュゴォァアアアアッ!!! ヴィギュアアアッッ、ヴィギュアアアアアッ!!!

 

 ヴィズゥダァアア!!! ヴィズダア、ヴィズダアアアア!!!

 

 ヴィディリリリリリリィイイッ!!!

 

 

 

「中らないよ!!!」

 

 カトルはレイダーガンダムの波状攻撃を巧みに躱しはじめていた。

 

 

 ガンダムサンドロック改は青白い残像を描きながら超高速でレイダーガンダムの攻撃を躱しながら、クロスクラッシャーと連動装備したビームマシンガンを撃ち放つ。

 

 

 

 ドゥドゥドゥドゥドゥヴィイイイイ!!!

 

 ドゥドゥドゥヴィッ、ドドドゥルルルルルヴィイイイィッ!!!

 

 

 ディギャラララララン!!! ディディディディディディディディディディディギャラララララランッ!!!

 

 

 

「くっそがぁ!!!絶対にぶっ殺すぞっ!!!」

 

 レイダーガンダムもまた、残像を描きながら猛攻を加え続ける。

 

 カトルは一撃離脱しては攻め来るレイダーガンダムに対し、再度旋回してからの攻勢にチャンスを伺う。

 

「一撃離脱戦法をしてくるね……それを利用させてもらうよ。怪鳥はロック鳥の名を持つ、僕のサンドロックが狩るさっ!!!」

 

「うおらあああああああ!!!」

 

 クロトは怒り任せの射撃攻撃をガンダムサンドロック改に幾度もぶつけにかかる。

 

 その攻撃の最中、ツォーンとアフラマズダの射撃がガンダムサンドロック改に中った。

 

 

 

 ドォコガアアアッ、ズドォオッッ、ドォズゴオアアアアッッ!!!

 

 

 

「ひゃぁはああああっっ!!!滅殺……何ぃ?!!!」

 

 クロトが狂気じみた笑みを浮かべたその時、着弾爆発の中からガンダムサンドロック改が飛び出す。

 

 飛び出したガンダムサンドロック改は、両眼を光らせながら、クロスクラッシャーを構えていた。

 

 殴るようにクロスクラッシャーをかざした刹那、レイダーガンダムの機体にガンダムサンドロック改の一撃が加わる。

 

 

「はぁあああああッッ!!!」

 

 

 

 ギュウィィイッ……バッギャラガァアアアアアアアン!!!!

 

 

 

「がぁああああああっ?!!!クソッタレェエエエエぇぇっ!!!」

 

 僅かに回避しようとしたのが祟り、レイダーガンダムはライトウィングバインダーを破壊され、激しく姿勢制御を乱した。

 

「よし!!本当は捕まえるつもりだったけど、これで取り乱せた!!さぁ、いくよサンドロック!!!」

 

 

 墜落するかのようなイビツな軌道で飛ぶレイダーガンダムに、両眼を光らせたガンダムサンドロック改が狙いを定める。

 

 それはさながらロック鳥が怪鳥を狩る瞬間とでもいうべき瞬間だった。

 

 残像を残しながら超高速でレイダーガンダムに迫ったガンダムサンドロック改は、レフトアーム側装備のバスターショーテルの斬撃を浴びせにかかった。

 

 

 

 ディカイィイイイイイイイインッッ!!! 

 

 

 その斬撃を皮切りに、PXのポテンシャルを最大限に活かしての縦横無尽なる超高速軌道斬撃を開始した。

 

 

 

 ディッガイインッ、ディッキャイッ、ガッギャガアアッ、ザダギャアアッッ……ドォドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥルルルゥゥッ……ザギャガアアアッ、ズガギイイイィィッ、ダギャオンッ、ディッガイイイッ、ズバギャアアッ、ギャジュシャンッ……ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥルルルゥゥゥッッ、ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥルルルヴヴヴヴゥゥゥ!!!

 

 

 

 クロスクラッシャーとバスターショーテルを連携させた超絶的波状斬撃が飛び交う。

 

 ガンダムサンドロック改のその超高速攻勢に加え、ビームマシンガンの実質オールレンジの超絶的波状射撃がレイダーガンダムの装甲にダメージを過大体積させていく。

 

 間もなくしてトランス・フェイズ装甲の発動バッテリーの効力もオーバーし、直なダメージがレイダーガンダムを削り削ぎ始めた。

 

 

 

 ズガオンッッ、ギャガガアアッッ、ザドォギャァアッッ、ズドォガオンッ、ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥルルルッッ、ギャギイイッ、ズガギイイイィッ、ガズドォオオッッ、ギャギィザァッッ、ドォドゥドゥドゥドゥドゥルルッルルルルルルルルゥゥッッ、ギャインッッ、ザシュバンッ、ズダギャッッ、ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥルルルルルッルルルルルッッ、ザズガアアアッ、ズギャガアッ、ディッガギャイイイイイイインッッ!!!

 

 

 

 天空から一直線にはしったクロスクラッシャーの唐竹の斬撃が、ズタボロの鉄塊人形になったレイダーガンダムを裂断させた。

 

「ちっきしょうがああああああああッッ!!!ぐぅッ?!!」

 

 

 

 ガオンッッ!!!

 

 

 

 更にガンダムサンドロック改はクロスクラッシャーで、その裂断されたレイダーガンダムの上半身部を挟み掴む。

 

 その零距離にはビームマシンガンの銃口が控えていた。

 

「さあ……これで終わりだ。君達は散々無益な破壊をし尽して、その罪を僕達にすり替えてきたんだ。その一人として報いを受けてもらうよ……」

 

 普段は優しいカトルもこの瞬間ばかりは冷徹にも感じれる恐怖とプレッシャーを感じさせていた。

 

「ざけんなッッ!!!ここ仕切ってる変態ヤローが仕向けてるに決まってんだろーが!!!滅殺してやる!!!」

 

 この期に及んでクロトはカトルに反を成す言動をし続けた挙句、ツォーンによる至近距離射撃を撃とうとさえしてきた。

 

 当然のごとくその一撃を許す前に、零距離の銃口からビームマシンガンを放った。

 

 

 

 ヴィドドドゥドゥドゥドゥドゥドゥヴㇽルルルルルルルルルルルルゥウウウウウウウウッッ!!!

 

 

 

 「ぎゃあああああああああああッッ!!!」

 

 

 

 ディギャラララゴゴゴゴバババゴバダギララララゴゴゴバガギャランッッッ……ゴォバオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!

 

 

 

 ガッチリとホールドを維持するクロスクラッシャーと零距離の高速ビーム連射撃がレイダーガンダムの装甲を、クロト諸共直に砕き飛ばして木っ端微塵爆散させるに至らしめた。

 

「今回ばかりは投降させるに値しない……僕だって心を獅子にすることもあるさ」

 

 

 

 

 そしてガンダムヘビーアームズ改は、アーム・バスターカノンとダブルビームガトリングの波状連射、連発射撃をカラミティガンダムに浴びせ続けていた。

 

「PXの性能を最大限に活かし、超高速下で敵機へ火力を集中させる。放つ攻撃の全てを受け続ければ、やがて破壊数値に到達する」

 

 

 

 ヴディドゥルルルルゥッッッ!!! ヴァダルルルルルルゥッッ!!! ドォヴァルルルルヴゥゥゥッッ……!!!

 

 ドォヴァアアアアッ、ドォヴァアアッ、ドォヴァアッ、ドォヴァアアアッ、ドォヴァアアアアアアッ!!!

 

 

 

 集中豪雨のごとくカラミティガンダムに超高速ビーム弾と高速ビーム過流が降り注ぐ。

 

 それは徹底的にダメージを蓄積させ、結果的にトランス・フェイズ装甲のバッテリー消費を増幅させていく。

 

 思うようにいかなくなった状況にオルガは怒りを爆発させるように機体操作をする。

 

 

「ぐおああああ!!!調子に乗ってんじゃねえええ!!!」

 

 

 

 ヴヴィダドォアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

 オルガは怒り交じりの感情を乗せ、カラミティガンダムのオールウェポン射撃をガンダムヘビーアームズ改へと見舞う。

 

 シュラークにスキュラ、トーデスブロック、ケーファーツヴァイの各高出力ビームが、ガンダムヘビーアームズ改に向かって迫り来る。

 

 だが直撃を受けたのは縦横無尽に駆け抜けるガンダムヘビーアームズ改の残像であり、その全てが躱されていた。

 

 トロワはこのカラミティガンダムの攻撃を皮切りに、敵機の周囲を旋回する軌道での攻撃に転じる。

 

「前面に全砲火を放つ。確かに眼前の敵を殲滅するには有効だ。だが、PXのトリッキーな戦闘状況でその攻撃は隙が生じるきっかけになりうる」

 

 

 

 

 ドゥヴァドォルゥウウウウウウウウゥヴヴヴヴヴヴヴゥゥゥ!!!

 

 

 ディギャララララララララララララダダダダダダダギャギャラララララァァ……!!!

 

 

 

「ぐるぐるグルグル鬱陶しいんだよ!!!ちきしょうがああ!!!」

 

 

 

 ドォズヴズギュヴァアアアッッッ、ドォヴヴァダギュヴァアアッッ、ドォドォギュヴヴァアアアッ!!!

 

 

 

 トロワのダブルビームガトリングの狙いがカラミティガンダムに超高速で直撃をし続け、追従するようにオルガが自転全弾砲撃を繰り返し始める。

 

 しかしながらガンダムヘビーアームズ改の軌道は更にその攻撃を躱して見せ、遂にはカラミティガンダム背後を取りながらアームバスターカノンを直撃させて吹っ飛ばした。

 

 

 

 ヴァドォヴァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

 ドォズゥヴァゴガバアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

「があああああああああああ?!!」

 

 この一撃の瞬間、トランス・フェイズ装甲のバッテリー発動がPXと同時に突然ダウンを起こすが、どの道効力が持つのは時間の問題であった。

 

 更にガンダムヘビーアームズ改は吹っ飛んだカラミティガンダムに回り込み、アームバスターカノンを撃ち飛ばす。

 

 カラミティガンダムのレフトショルダーアーマーとレフト側のシュラークの砲身が吹き飛んだ。

 

 

 

 ドォギャズゥゥヴァアアアアアウウッッ!!!

 

 

 

「なァああああ??!」

 

「妙に防御力が落ちたな……GND合金といえど、蓄積ダメージが破壊数値に到達したのか?あるいはそういう特性の装甲だったのか……どちらでも構わんが、無力化させてもらう……!!!」

 

「なめんじゃねええええええ!!!」

 

 機体の態勢を立て直し、残ったシュラークとトーデスブロック、ケーファーツヴァイを射撃し始める。

 

 

 

 ドォヴィガズバァアアアアアアアアッ!!!

 

 シュギュアンッッッ―――ヴァズヴァアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 その反撃は当然中ることなく、ガンダムヘビーアームズ改は再度アームバスターカノンを放ち、ケーファーツヴァイをレフトアームごと吹っ飛ばした直後に背後に回り込んだ。

 

 ブレストアーマーを展開させ、ビームレンジのブレストガトリングが至近距離で火を噴く。

 

 

 

 ヴァヴドォドォドォルルルルルルルルルルルヴゥゥゥゥゥッッッ!!!

 

 ディギャララララララダダダダダゴゴバアアアアンッッ!!!

 

 

 

 この攻撃でバックパックに背面爆発を引き起こされ、カラミティガンダムは再び機体態勢を崩す。

 

 オルガが怒りに任せての振り向き際にトーデスブロックを連発する。

 

「ッッ……ぜってー殺すっッ!!!」

 

 

 

 ドォガオッッ、ドォガオオッッ、ドォガアアオオオンッッ!!!

 

 

 

 しかし撃ったのは残像であり、次の瞬間上空よりガンダムヘビーアームズ改が放ったアームバスターカノンのビーム過流が降り注ぎ、トーデスブロックとシュラークの先端側の砲身を砕き飛ばした。

 

 

 

 ドォヴァアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

「くっそォがあああああッッ!!!」

 

 カラミティガンダムはダメージの反動でそのまま地面に叩き付けられていった。

 

 ガンダムヘビーアームズ改のPXがタイムオーバー解除されると、トロワは仰向けに墜落したカラミティガンダムの付近に降下する。

 

「……実に無様な有様となったが、これが現実であり結果だ」

 

 そう言いながらトロワはガンダムヘビーアームズ改をカラミティガンダムに向けて歩みさせる。

 

「貴様達は俺達の名を、メテオ・ブレイクス・ヘルの名を騙り、オーブを襲撃・占領したかのようにした……だがそれも終わりだ」

 

 ディギン、ディギンと歩の駆動音を鳴らしながら接近したガンダムヘビーアームズ改は、仰向けのカラミティガンダムを見下ろすように立ちはだかると、その胸部にダブルビームガトリングの銃口を突き付けた。

 

「へっへへへへへへ……はっはああああ!!!ぎゃはははははああああ!!!」

 

 狂ったように笑い始めたオルガはこれを待っていたかと言わんばかりにトリガーを引き、胸部のスキュラにエネルギーが充填された。

 

「虚を突く反撃など、当に見抜いている……!!!」

 

 そのトロワのその一言の直後にオルガの瞳孔が大きくなった次の瞬間、ガンダムヘビーアームズ改の両眼が光ると共に、カラミティガンダムの胸部に押し当てられた零距離のダブルビームガトリングの銃口が唸った。

 

 

 

 キュウィィィィィッッ、ヴィドゥドゥルルルルルルルルルルㇽヴヴヴヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!!

 

 ディギャルガゴバガガガガガギャギャララララララドォドォドォドォバギャラアアアアッッッ……!!!

 

 

 

 零距離のGNDエネルギービームの弾丸が、連続かつ高速の小爆発を巻き起こしながら一瞬でカラミティガンダムの胸部を破砕し、オルガとコックピット諸共激しいまでに粉砕した。

 

 そして砕け散った鋼の塊と化したカラミティガンダムに向けてトロワは一言突き付け、その場を後にした。

 

「『俺達のガンダム』を見た敵は生かしては帰さない……」

 

 飛び去るガンダムヘビーアームズ改の下方でスパークをはしらせながら、カラミティガンダムの躯は爆発していった。

 

 

 

 ゴッバァゴォガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

 ネェル・アーガマCIC・ブリッジでは次々と善戦にむかう戦況が報告されていた。

 

 エイーダとミヘッシャがそれぞれに状況をケネスに通達する。

 

「デスサイズ・ヘル、サンドロック改、ヘビーアームズ改は各々に敵ガンダムの撃破に成功した模様!!デスサイズ・ヘルは救出部隊の護衛に、サンドロック改とヘビーアームズ改は残存敵機の撃破に向かいました。現在、ウィングゼロが残りの敵将機のガンダムを追撃中!!」

 

「Ξガンダムも2機のカスタムバイアランの撃破に成功してます!!Ξガンダムも同様に残存敵機の撃破に行動中。オーブ収容者施設の救出部隊も展開中です」

 

「うむ!!引き続き戦闘部隊は各々の判断に委ねるが、敵機の殲滅が収拾できしだいに救出部隊のサポートに回る方向で頼む!!あと各ガンダムは、戦闘でのリアルタイムのオーブの映像をネェル・アーガマに回してくれ。止めの映像として地球圏に呼びかけたい……!!!」

 

 ケネスの指示にそれぞれが表情で反応を示した。

 

「この島の占拠の罪被せの真実を、地球圏に知らせる!!!オーブの解放と共にな……エイーダ君、この艦の位置が逆探知されない処置を!!」

 

「はい!!!対傍受機密プログラム、起動!!」

 

 エイーダの操作で、通信傍受遮断されたネェル・アーガマからの通信回線が地球圏に繋がった。

 

 そしてケネスは一呼吸入れ、演説とも犯行声明とも言えるような言葉を発信した。

 

 

「我々は、新生メテオ・ブレイクス・ヘル……かつてガンダムで、旧連邦とOZに武力介入した組織です。我々は、壊滅された後に新たに生まれ変わり、現在OZから生まれた悪玉であるOZプライズの一部の勢力によって侵攻・侵略・ジェノサイドされたオーブ首長国連邦の実態と闘っています!!」

 

 ケネスの声と共に、各ガンダムが送ったオーブの現状が映し出された。

 

 占領部隊との戦闘にメテオ・ブレイクス・ヘルの名を騙っていた三狂ガンダムとの戦闘、収容施設からオーブ国民が救出されていく映像などが流れ始めた。

 

 その映像は地球圏全てに流れており、大衆は各地にて驚きと関心にどよめきはじめる。

 

「なんだこの映像?!!あれ、OZのMSなのか?!!」

 

「え?!!メテオ何とかが占領してたんじゃねーの?!!」

 

「戦争の映像?!!怖い!!!」

 

「ジェノサイド?!!」

 

 見えぬ場所で大衆が様々な反応をする中、ケネスは続けた。

 

「OZ、OZプライズは以前、この島国を我々のガンダムがあたかも強襲占領したかのようなプロパガンダを流す形で占領しました。無実の罪を我々は着せられてきたのです。以降、情報は絶たれ、オーブ首長国連邦は権力を握るOZプライズの幹部の一人、ユセルファー・ツーセンタ特佐の独裁場となり果ててしまいました。結果、多くの罪なきオーブ首長国国民が収容施設に押し込まれ、MSによる大量虐殺や一部の女性達に対する監禁・強姦を強いていました。我々はそのような極悪非人道なOZプライズのやり方を許しはしません!!!」

 

 この通信は無論全ての地球圏に流れており、OZプライズ宇宙軍やOZ、OZプライズを統括するロームフェラ財団、潜伏中のフロンタル派ネオジオン、歴史の裏舞台で高みの見物をするグランシャリオサイド、コトを一旦整理し、月へ向かうマーサ一同、そして幽閉されているトレーズにも届いていた。

 

「流れている映像はすべて真実の状況です!!!Gマイスター……すなわち、ガンダムのパイロット達が命を懸けてオーブ解放を目指している映像なのです!!これ程のMSがオーブジェノサイドに投入されていたのです!!!彼らは、オーブ国民をカプセルに押し込み、それを攻撃訓練の対象としていました!!!決して人道的に許されるべきではありません!!!」

 

 ピースミリオンやガランシェールにも映像が流れ、ハワードやジンネマン達も食い入るように映像に見入る。

 

「OZプライズは、これらの残虐非道行為を隠蔽し情報操作の偏向報道を、それを統括するロームフェラ財団は黙認・黙殺をしてきたのです!!!大衆の方々にはプロパガンダで我々の仕業と刷り込まれてきたはずです。それは全くの間違いであり、OZプライズの隠ぺい工作に他なりません!!!」

 

 流れる映像には、リアルタイムで女性達を解放作業するジュリとカトリーヌの現場状況も流れていた。

 

 この時、ネェル・アーガマの寝室ではマリーダもケネスの艦内音声を聞いていた。

 

「オーブの真実が地球圏に知らされたか……この下では、数多くの罪もない犠牲が……息苦しい感覚を感じれてしまう。その中にはかつての私のような思いをした女性達もいる……だが、今まさにその負の状況が解き放たれようとしている……ヒイロ達の手によって……」

 

 マリーダが手を壁に当てて下方のオーブの状況を体で感じとる中、ネェル・アーガマの下方に二つの閃光が過ぎ去る。

 

 それはウィングガンダム・ゼロとノワール・フリーダムガンダムであった。

 

 飛行の轟音を響かせながらの追撃の中、ヒイロが叫ぶ。

 

「ユセルファー!!!貴様たちの愚行は地球圏に流している!!!もう終わりだっ!!!」

 

「貴様ら一体なんなんだ?!!何の利益があって私の邪魔をォおおおおお!!!」

 

「利益も何もないっ!!!俺達に濡れ衣を着せられた真実を知らせ、一人でも多くのオーブ国民の犠牲を防ぎ助ける!!!それだけだっ!!!」

 

 放たれるツインバスターライフルのビーム過流。

 

 躱すノワール・フリーダムガンダム。

 

 不快なまでのユセルファー意地が、ある意味の奇跡を起こしていた。

 

「許せないっ……全てが気に入らなくなってきたっっ!!!もうすぐあのポイントだあああ!!!」

 

 追撃の一方でケネスは最後の締めくくりを述べようとしていた。

 

「今後、非人道的殺戮や戦略兵器レベルの非人道的虐殺が引き起ってしまい、それが我々の行為、メテオ・ブレイクス・ヘルの行為と放送された場合、120パーセントOZプライズの愚行と判断して頂きたい!!!かつてのアクシズ以上に非人道な彼らは、今後も最悪な戦略を打ち立ててくるだろう。現に今、彼らは無人MSであるMDを使い、事実上分裂したOZの討伐や彼らに反抗する勢力を虐殺しに行動している!!!私の話は以上となるが、大衆の方々にはOZプライズの実態と言うものに意識を持ってほしい!!!しばらく映像を流し続けるので、色々と考えていただきたい次第です!!!」

 

 ケネスの白熱とした言葉が述べられた頃、N1アストレイとマグアナック・カトリーヌ機が次の収容施設の解放に着手していた。

 

 護衛のプライズジェスタとプライズリーオーに彼女達が夜襲をしかける。

 

 闇夜からはしるビームライフルの閃光が2機に着弾した。

 

 だが、通常機よりも装甲が強化されているが故に、一撃では仕留められなかった。

 

「くっ……これでもこの国でアストレイのテストパイロットに選ばれたんだから!!!」

 

「ボクだってGマイスターの兄さんの妹なんだからっ……!!!」

 

 M1アストレイとマグアナック・カトリーヌ機のビームライフルの連携射撃が、プライズリーオーに集中する。

 

 何度も直撃を受け続けたプライズリーオーは間も無くして爆発四散する。

 

 だが、プライズジェスタがビームサーベルを抜き取ってM1アストレイに斬り掛かろうとした。

 

「こんのおおお!!!」

 

 そこへマグアナック・カトリーヌ機が側面から飛び込み、兄のカトルのようにヒートショーテルでプライズジェスタの胸部を切断し、見事に撃破してみせた。

 

 周囲の敵機体の有無を確認すると彼女達は早速解放活動に作業を開始した。

 

「ただいまから私達が解放します!!危ないですからできるだけ壁側に寄って下さい!!私も……この国出身なんです。もう少しですから頑張ってください!!」

 

 響くジュリの外部音声がマユラとアサギの耳に届く。

 

 それはこれまでの日々を思えば悲願たるものだった。

 

「ねぇ……今の声、ジュリの声だったよね……?!」

 

「うんっ!!間違いない、ジュリの声だった!!本当に来てくれたんだっ……!!!」

 

「やっと……やっと助かるんだぁっ……!!!」

 

 涙目になって喜ぶマユラとアサギ達は警告通りに壁際に寄った。

 

 慎重な収容施設の解放作業を終え、ジュリはM1アストレイのマニピュレーターにマユラとアサギを乗せた。

 

 そしてコックピットに近づけ、ハッチから涙目になったジュリが飛び出した。

 

「マユラっ、アサギぃっ!!!」

 

『ジュリぃいい!!!』

 

 マユラとアサギは同時にジュリの名を叫び、三人で再会を喜びたたえ合った。

 

「ホントに、ほんとにジュリが助けてくれたあああ!!よかったぁっ!!!よかったよぉおおお!!!」

 

「ずっとずっと辛かったんだよぉ!!うあああああん!!!」

 

「マユラ……アサギ……頑張ったね!!頑張ったね……!!!もう大丈夫だから!!!」

 

 

 彼女達の涙の再会と喜びをサーチライトを照らして見ていたカトリーヌもまた少しばかりもらい泣きしていた。

 

「ぐすっ……よかったね、ジュリちゃん」

 

だが、感動を分かち合っていたその矢先にジュリとカトリーヌのコックピット内に敵機接近のアラートが響いた。

 

「え?!!またなの?!!」

 

「警告アラート……!!?うっ?!!」

 

 次の瞬間、ドォオオンという風圧の衝撃波が上空から吹き荒れた。

 

 そこにはサーチライトを照らすノワール・フリーダムガンダムがいた。

 

 カトリーヌは敵のその威圧にきゅっと睨みを向ける。

 

「また……敵のガンダム……!!!」

 

『貴様らああああっ、オーブの生き残りかあああ!!?その女どもは私の生きがいっ……それを奪い去ろうとは気にくわないなぁあああ!!!』

 

「あ……嫌っ……この声!!!」

 

「ジュリぃっ……!!!」

 

 マユラとアサギは響き渡るユセルファーの音声に精神的な恐怖がフラッシュバックしてしまい、強くジュリにしがみついた。

 

「大丈夫……大丈夫だよ……だって……!!!」

 

 ジュリが励ます声を書き潰すようにユセルファーの声が響いた。

 

『そのメガネの女もいただいてやるっ……だが、どの道もう終わり……気にくわないったらありゃしないっっ……私が滅ぶならもういらん!!!モノにできないならもう消えてしまえええええええ!!!』

 

 

 

 ヴィギュイアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 ユセルファーは、滅茶苦茶な理不尽を吐き飛ばしながらバラエーナ・プラズマキャノンを彼女達に向けて発射した。

 

 だが、それでもジュリはそのビームを睨みながら叫んだ。

 

「彼らのガンダムがいるんだからッッッ!!!」

 

 

 

 ディギャウイイイイイイイイイイ!!!

 

 

 

 響くエネルギー相殺音……そこにはアクティブクロークで彼女達を守るガンダムデスサイズ・ヘルがいた。

 

「本日二度目の災厄保険だなっ……死神のサービスデーだぁ。しっかし聞いてるだけでハラワタ煮えくり返るぜ!!!この真っ黒ガンダム!!!オーブには相棒のコンセプトをパクる輩ばかりだなぁ、おい!!!」

 

『なぁ?!!ビームが消えたぁ?!!何故だぁ?!!』

 

 ハイパージャマーを最大限に発動させていたが為、その効力でユセルファーはコックピットモニターではガンダムデスサイズ・ヘルを視認できていなかった。

 

「ホント、こういうバカヤローは斬り刻みたいが、こいつを撃つには最適な奴がいるんだ……なぁ?ヒイロ!!」

 

 デュオがそう言った直後、側面上からシールドを突き出したウィングガンダム・ゼロがノワール・フリーダムガンダムに突っ込んだ。

 

「ユセルファー、貴様の相手は俺のはずだッ……!!!」

 

 

 

 

 ゴッッ―――ディガゴオオオオオオオオオオンッッッ!!!!

 

 

 

「がぐあああああああああ?!!」

 

 轟々とした勢いで、ウィングガンダム・ゼロがノワール・フリーダムガンダムを突き穿つ。

 

 シールドの先端はライトウィングバインダージョイントを突き砕いていた。

 

 黒い自由の片翼を失ったノワール・フリーダムガンダムは、グルグルと回転しながら吹き飛ばされていく。

 

 ウィングガンダム・ゼロはそのノワール・フリーダムガンダムを更に追撃した。

 

 その光景を見ながらジュリは改めてマユラとアサギを励ます。

 

「ね……?言ったでしょ?大丈夫って……」

 

 マユラとアサギはまたより一層ジュリにしがみついてみせ、ジュリは二人の頭をやさしく撫でた。

 

 翼の片方を失ったノワール・フリーダムガンダムはいびつな軌道を描いて墜落していき、オーブの大地にその機体を叩き付けるに至る。

 

「がぐあああッ……おのれッ、おのれええええッッ!!!」

 

 モニター画面が断続的に砂嵐になる中、ユセルファーは夜明けが近づき始めた空に浮かぶ追撃してきたウィングガンダム・ゼロを視認する。

 

 震える手でユセルファーはレフトウィングバインダーのバラエーナ・プラズマキャノンをロックする。

 

「貴様さえッ……貴様さえいなければぁあああッッ!!!」

 

 同じタイミングの時、ゼロシステムが発動する中でヒイロはツインバスターライフルのターゲットを精密照準に捉えていた。

 

 ロックオンマーカー・カーソルが四角からレール状に変換され、ノワール・フリーダムガンダムを完全にロックする。

 

「ターゲット、ノワール・フリーダムガンダム……ユセルファー・ツーセンタ。この一撃こそがお前を殺す……!!!」

 

 ツインバスターライフルの銃口にGNDエネルギーが充填チャージを開始したタイミングで、ノワール・フリーダムガンダムのバラエーナ・プラズマキャノンが放たれた。

 

 

 

 ヴィギュリアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

 ヴィギュリリリリリリィ……ヴゥゥッッッ―――ヴォギュリュヴヴォヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

 バラエーナ・プラズマキャノンの発射よりも僅かに遅れたタイミングで大出力のビーム過流が撃ち放たれた。

 

 両者のビーム過流が向かい合うが、既にツインバスターライフルのビーム過流の次元が違っていた。

 

 

 

 ドォヴリュギュヴヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 ドォズヴァシュアアアアアアアッッ―――!!!

 

 

 

 ツインバスターライフルのビーム過流はバラエーナ・プラズマキャノンのビーム過流を粉砕するように吞み込み、一気にノワール・フリーダムガンダムへと向かって行く。

 

「なぜだあああああ?!!なぜ私ががああああああああ……ヴオウェッ―――!!!!」

 

 最後の断末魔すら許される事無く、ビーム過流の直撃がユセルファー諸共ノワール・フリーダムガンダムを胸部から一瞬でかき消す。

 

 

 

 ダッディギャンッッッ!!!! ヴヴォドォドォギュグゴオオオオオオオオオオオオオオオッッッ―――!!!!

 

 

 

 撃ち注がれていく大出力のGNDエネルギのビーム過流は、ノワール・フリーダムガンダムを完全粉砕していき、機体を消滅させていくようにかき消す。

 

 やがて大出力のビーム過流のエネルギーが大爆発を巻き起こした。

 

 

 

 ドォッッッッゴバゴォガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

 ユセルファーはノワール・フリーダムガンダムと共に巨大な火柱を上げて大爆炎と遂げる。

 

 正に非人道を我が物に行ってきた男に相応しい最期であった。

 

 夜明けの空の中、ヒイロはターゲットの撃破を確認する。

 

「敵機、完全に消滅。ノワール・フリーダムガンダム、およびユセルファーの排除を確認した……」

 

 この一撃の火柱は、収容所のMSを排除していたラルフも確認していた。

 

「ヒイロがアレを撃ったてことは……親玉は排除されたってことかな??さぁ、本当にムダあがきだぜおまえら!!!」

 

 

 

 ドォバドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルウウウウゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 

 サーペントカスタムが放った二挺のダブルガトリングの射撃が、最後の残存MSであるプライズジェスタとバーナムジェガンを砕き散らした。

 

 ヒイロは改めてオーブに展開する敵機群をゼロシステムで確認する。

 

 システムもまた敵機の完全殲滅を示す。

 

「敵は完全に殲滅できたか……」

 

 ヒイロがイメージモニターの夜明けに目を向けているとエイーダからの共通回線通信が入った。

 

「オーブエリアの敵勢力の全滅を確認しました。本当にお疲れ様でした!!戦闘部隊のガンダム達は念の為の警戒をしつつ、引き続き解放部隊の支援、または敵兵士の拘束に回って下さい。休憩は各々でかまいません」

 

 カトルやトロワ、デュオ、マフティーもまたこの通信に一時の安堵を懐いた。

 

 ジュリとカトリーヌはラシードと共に一度帰還し、マユラとアサギの身柄の保護にあたる。

 

 三人が改めて再会を喜び合う中、ジュリがカトリーヌを二人に紹介し、カトリーヌは照れ臭そうに軽い自己紹介をしていた。

 

 ヒイロは昇りくる太陽を水平線に見ながらオーブ解放の成功の余韻に浸りをみせる。

 

「……」

 

 その最中、ネェル・アーガマの回線から通信が入った。

 

「……!!」

 

 それはマリーダであった。

 

「ヒイロ……ひとまず戦闘が終わったようだな……お疲れ」

 

「ああ。だがまだ完全に任務は完了していない。引き続き任務を続行する」

 

「だが、疲れてはいるだろう?一晩戦っていたんだからな。各自休憩は一任されているんだ。一度私の部屋に休みに来い。コーヒーでも用意しておく」

 

「マリーダ……ふっ……任務了解」

 

 マリーダに一杯食わされたヒイロは、少しばかりの笑みを浮かべてそのエリアを後にした。

 

 ツインバスターライフルのビーム過流の一撃が及ぼした大規模な黒煙が立ち上る中、やがてオーブに解放を知らせるかのごとく、太陽の光が照らされさるのだった。

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 次回予告

 

 

 地球圏を駆け巡ったオーブの真実は、OZプライズと内部分裂を始めたOZや各地の旧地球連邦、ネオジオン、ジオン残存勢力をはじめとする者達に対し影響を与えた。

 

 打撃を与えられたロームフェラ財団は更なる力のねじ伏せの手段を画策する。

 

 オーブでの激戦を終えたネェル・アーガマはゼロシステムが示した次の目的ポイントである南JAPエリアを目指す。

 

 その航行中、カトリーヌとジュリは心身傷つけられてきたマユラとアサギ達を癒すためにネェル・アーガマのMSデッキを見学していた。

 

 熾烈な日々から一転した和みの時間が彼女達の心を癒す。

 

 一方、ラプラスの次の座標であるコア3を目指していたガランシェールは、コア3近辺で突如救難通信を受ける。

 

 それは宙賊から攻撃を受けていた、地球圏へ帰還して間もない木星探査船ジュピトリスⅡからであった。

 

 アディンとプルはジェミナス・グリープとユニコーンで救助を兼ねた戦闘に向かう。

 

 その先にはプルにとって極めて重要な出会いが待っていた。

 

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード43 「ジュピトリスⅡ、襲撃」 

 

 

 

 

 

 

 



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エピソード43「ジュピトリスⅡ、襲撃」


大変、大変、大変長らくお待たせしました!!!ようやく錆びた指が再再起動しました!!!

 大変、大変、大変っ申し訳ありませんでした!!!


 

 

 

 オーブの一件より一週間余り。

 

 ヒイロ達の行動は地球圏に一つのうねりを与えていた。

 

 ケネスが放った事質上の「演説」は、各地でOZプライズと戦うOZ・トレーズ派や旧連邦・ネオジオン、ジオン残存軍の士気向上や、プロパガンダを刷り込まされてきた大衆の反発、論議などの流れをかけめぐらせる結果となる。

 

 決定打となったのは、ケネス達が演説中に流した「実際の映像」の威力が大きかった。

 

 オーブ軍ではない大量のOZプライズの息がかかった連邦系のMSとの戦闘や、解放されていくオーブ国民の映像等が視聴していた者達に強く刻まれたのだ。

 

 地球の各地でOZプライズと戦うOZの兵士達は、ルクセンブルクを主な集結ポイントとして、各地の戦闘活動エリア別に特定のエリアを集結ポイントとして共有していた。

 

 そのポイントにはOZの兵士達が召集し、その集結した物量と主張でOZプライズに対抗する。

 

 その中においては、かつてミスズが所属していた日本のOZ基地・OZ清浜基地もその一つであり、続々とリーオーやエアリーズが召集していた。

 

「同胞達が各地で集まっている。数を成せばMDに対抗できる!!!今に見ていろ、プライズ!!!」

 

「無人機を使用しての弾圧などあってはならん!!!OZとは名ばかりのプライズの愚行を民衆に知らしめる!!!」

 

 だがそれは、当事者のOZプライズと母体組織であるロームフェラ財団、そして世界の暗躍統括支配する秘密結社ブルーメンツにとっては極めて面白味のない流れであった。

 

 覇権支配の妨げにもなり、かつ、闇の伝統の一部がユセルファーの愚行が公となって晒されてしまったのだ。

 

 更には一応の正規軍として存在しているOZがオーブの支援に赴いていたのである。

 

「今こそ我々OZが動かなくてどうする?!きっとトレーズ閣下であればオーブを支援されるはずだ!!」

 

「さすがのプライズの連中も派手には動けまい!!」

 

 事実上暫定軍事政権としてOZが運ぶこととなったオーブ首長国連邦の現状に対し、ロームフェラ財団では一部のブルーメンツメンバーを招き入れた緊急会議を行っていた。

 

「この動きは大変良からぬものです。言論統制も今の世の中では到底抑え込むのは難しい」

 

「オペレーション・ノヴァをもっと大々的に展開し、示さねばならん」

 

「そのオペレーション・ノヴァそのものの足かせとなっているのが今回の事態だ。力の圧政を強めることの反発を恐れるのか、それ以上の力で屈服させるべきか……」

 

「どの道、まずは新生メテオ・ブレイクス・ヘルへの報復をせねばならん。犯行声明を発した以上、奴らの居場所は突き止めれるはずだが……」

 

「現在、特定不能という調査状況と聞いている」

 

 その時、デルマイユがバンと座していたテーブルを叩いて立ち上がる。

 

「たかが民衆や反骨テロリストを恐れてどうする!??我々はロームフェラ財団であり、今後の地球圏の統治していく存在だ!!!奴らは力により事を行った!!!ならばより強い力で証明すればいい!!!

 

「だが、デルマイユ公。それでは先のティターンズの二の舞にはならんかね?!行き過ぎた力の結果は歴史が語っている……!!!」

 

「ウエリッジ侯爵!!何を悠長な!!!」

 

「左様。今は歴史を動かし、利益と進化を促す時期に来ている。宇宙世紀も後数年で百年が経過するのだ。我々とティターンズとではそもそもの根本が違う。我々の今のやり方でこの一件を揉みつぶせばいい。絶大な力と技術でな……」

 

 穏健派のウエリッジの意見をデルマイユとブルーメンツのメンバーの上層階級の政治家が意見した。

 

「むうう……」

 

「そういう事ですぞ、ウエリッジ侯爵。では、オペレーション・ノヴァの強化とバルジⅡ、アジアエリアにおいてはサイコガンダムMk-Ⅲを使う運びで……後メテオ・ブレイクス・ヘルの奴らの追撃部隊を編制・投下を早期検討いたしましょう。そして、オペレーション・ノヴァのさらなる促進を!!!」

 

 会議が続く一方でトレーズは幽閉先で優雅にこの事態を閲覧して過ごしていた。

 

「彼らがまた大きく動いたな。闘い続ける姿勢は益々強みを帯びてきている……」

 

 ワインを注ぎながらそれを一口飲み、差し込む日差しに目を向ける。

 

「その闘う姿勢を見届け続ける事が……如何に歴史的価値ある事か……私は嬉しく感じてしまう。彼らガンダムの戦士達は時代に選ばれし者達なのだ」

 

 トレーズが向けた眼差しの遥か向こうでは、OZプライズの力による弾圧が展開していた。

 

 次々と降下するMDシルヴァ・ビルゴにMDサジタリウスα、βの部隊による一方的な高出力ビームの一斉射撃。

 

 ビームランチャーにビームカノン、パーシスタービームライフルのビーム渦流群や閃光たるビーム群が、リーオーやエアリーズ達の装甲を破砕し、焼灼破壊していく。

 

 更にはプライズリーオー、プライズジェスタによる一方的な蹂躙。

 

 疑似GNDエネルギーを得ているビームライフルやドーバーバスターのビーム群やビーム渦流が次々と反撃するリーオー、エアリーズを捩じ込めて破砕させる。

 

 止まることなく拡大していく激動する時代の縮図が、今の宇宙世紀を震わせていた。

 

 

 

 数日滞在したオーブを後にしたネェル・アーガマは、所々の無人島で休息兼ねた停泊をしながら南太平洋JAP近海エリアを目指して北上を続けていた。

 

 その状況に至ったのは、かつてゼクスやミスズがいたこともあったOZ静浜基地に、OZのMS達がOZプライズに対抗する為に決起招集する事態が起こった事に端を発していた。

 

 オーブを離れて間もない頃、ゼロシステムが示した予測(最早未来予知の次元であるが)に関してヒイロがケネスに意見具申する事があった。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

「南JAPエリアに向かうべきだというのか?」

 

「あぁ。ウィングゼロが見せた予測では、ここにJAPエリア周辺のOZのMS達が招集する。そこに事態を鎮圧すべくOZプライズがMSとMD部隊、そしてサイコガンダムMK-Ⅲを投入してくるようだ。それにはカトルの深い関係者が乗せられている」

 

「そうか……あくまで組織的観点からすれば私的理由で動くのは何とも言えんが……彼の事情は以前から私も聞かされているし、我々は軍事組織ではない。重石を引きずったままサンクキングダムに行くわけにもいかないだろうしな」

 

「無論それだけではない。攻め入るOZプライズの戦力を削る事もできる。激戦が示されたがな……」

 

「かつて平和と謳われた国が激戦地と化すか……」

 

「それともう一つ……場所は確定できないが、今後地球のどこかにおそらくバルジ砲が地上に向けて放たれる……そんなビジョンもゼロは俺に見せた」

 

「バルジは確かあと2基存在したはずだ……そうか、宇宙にも警戒すべきか……」

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 見渡す限りの海原を一望できる環境下で、ネェル・アーガマのCICブリッジクルー達が任に就く中、ケネスがエイーダに尋ねを入れた。

 

「エイーダ君、南JAP静浜基地にはあとどれ程で到達する?」

 

「あ、はい。大凡(おおよそ)半日もあれば到達できるかと……」

 

「そうか……各員、しばらく交代で休憩はとって構わない。まだ長旅になるだろうからな……」

 

 休憩を命じると、オペレーターのエイーダとミヘッシャ、砲術士のアルバとドリットが、操舵士のエンデがそれぞれに体を伸ばし、緊張にこわばった体をほぐす。

 

「私もしばし休憩をとる……交代要員への引継ぎも頼む」

 

 そう言いながらケネスはCICブリッジを後にしていった。

 

 オーブの激戦を越え、ヒイロ達がそれぞれの一時を過ごす。

 

 マフティーは落ち合ったミヘッシャとカフェタイムをし、トロワとラルフはチェス対決をしながら過ごし、デュオとカトルは気分転換に艦内を見て回り、ラシード一向は交代で対空警戒をし、そしてヒイロはマリーダの許を後にした後、ゼロシステムの機器類をばらしていた。

 

 そんな中、カトリーヌとジュリはサリィの医務室に赴いて保護したマユラとアサギの見舞に来ていた。

 

「先日の手術の経過だけども、二人とも下腹部の痛みや出血は改善してきてるわ。あんなことがあってまだ間もない……今は療養に集中してしっかり体と心のケア、安静を大事にして。特にジュリさんは友人なんだから、彼女達の心のケアの要よ?その友人のカトリーヌさんも一緒にこれからもサポートしてあげてね」

 

「はい!!任せて下さい!!」

 

「もちろんです……!!ありがとうございます、サリィさん!!でも、本当によかった……こうしてマユラとアサギにまた会えて……!!!」

 

「ジュリったら、また泣いちゃって……でも本当ありがとう。あいつらに侵略されてからは本当に地獄だったから……!!!」

 

「ジュリもマユラも湿っぽくなっちゃって……あたしまでまたもらい泣きしちゃうじゃん……ッ!!」

 

 女性の尊厳を踏みにじるようなユセルファー達の蛮行と、救われた今の環境のギャップが彼女達の涙腺を緩めさせた。

 

 カトリーヌも貰い泣きしながら涙を拭い、そんな彼女達を優しい眼差しでサリィが見守る。

 

 その時、カトリーヌは涙を幾度か拭いながら一つの提案を出した。

 

「そういえば、マユラちゃんとアサギちゃんもオーブではエンジニアしていたんだよね?心のケアも兼ねて、MSデッキ見学してみるのはどう?」

 

「ちょっと、まだ歩き回るような運動や立っぱなしは望ましくないわ。体に負担かけさせてはダメよ」

 

「ぐすっ……でも、少しは気分転換に行ってみたいかな?それに、この艦(ふね)のガンダムってあの時助けてくれたガンダムなんだよね??」

 

「あたしも興味あるかも……サリィさん、ちょっとくらいはいいですか?」

 

 早速サリィの医師としてのダメ出しが出るが、マユラとアサギも行きた気な発言をした為、サリィは「しょうがないわねぇ」という感じでふぅっとため息を出しながら彼女達に提案を出した。

 

「……そうねぇ……車椅子で移動するなら立っているよりは負担が軽くなるから、どうしてもというならそれを薦めるわ」

 

 ジュリがマユラの車椅子を、カトリーヌがアサギの車椅子を押し歩く形で四人は、早速MSドックへと向かった。

 

 現場では整備の活気があふれており、オーブ所属のスペースコロニー・ヘリオポリスにいた元連邦や元ネオジオン、ピースミリオンからのメカニック達で構成された各班が呼びかけ合ったり、黙々と作業していた。

 

 その光景を見学しながらジュリ達は一般通路区画を進む。

 

「うあぁ~、すごい~!!ガンダムが並んでるぅ~!!あ、あれジュリのアストレイだぁ!!」

 

 マユラが指さす方向にジュリのM1アストレイがある。

 

「私のはもうメンテナンス終わっているから、あっちまでいったらゆっくり見てこっ」

 

「うん!やっぱり母国のガンダム見ると安心感あるなぁ♪」

 

 マユラの車椅子を押すジュリもマユラの喜び方から出向いてよかったなと感じ、提案したカトリーヌにも思う感情を伝えた。

 

「カトリーヌちゃん、言ってくれてありがとね。病室から出てきてよかった」

 

「そんな、ボクは大したこと言ってないよ~」

 

 ジュリの言葉に謙遜するカトリーヌにアサギが振り返って尋ねる。

 

「そーいえばカトリーヌちゃんはお兄さんがガンダムのパイロットなんだよね?!どのガンダムなの~?」

 

「えっと……アサギさん!あの肩が鳥の翼みたいな形してるガンダムが兄さんのガンダムです。名前はガンダムサンドロック改!!中東の伝説の巨鳥・ロック鳥をモチーフにしたガンダムなんです」

 

 カトリーヌが指さす方向にガンダムサンドロック改の姿が見える。

 

「へぇ~、武器がごつくて強そうっ!!あれならどんな敵でも怖くなさそう!!あ、堅苦しいからアサギちゃんでいいよ、カトリーヌちゃん!!」

 

「え?!あ、うん!わかったよアサギちゃん!因みにそのゴツイ武器、クロスクラッシャーって言って実際に強力だよっ。てかみんな強過ぎなガンダムだからね☆」

 

 そんな会話をしながらガンダムデスサイズ・ヘルの所に訪れると、ジュリが妙にテンションを上げながら解説し始めた。

 

「あの時私達を助けてくれた、ガンダムデスサイズ・ヘル!!実はマユラとアサギを助ける以前に私自身がヤバい瞬間があったのね?その時本当に敵のガンダムに殺されそうだったんだけど、絶体絶命寸前の時に助けてくれたガンダムなの!!彼がいなかったら今こうしてマユラとアサギに会えてはいなかったんだよ……見た目は死神だけど、命の恩人のガンダム!!」

 

「そっか、このガンダムがそうだったんだぁ……ジュリもヤバかった時があったんだね。それにしても、なんだか急にハイテンションになってない?」

 

「え?!それはっ……勿論、助けてくれたガンダムだからっ……テンションくらい上がるわよ!!」

 

「クスクスっ」

 

「カトリーヌちゃん!」

 

 アサギはマユラの問いに対するジュリの反応と、少し笑ったカトリーヌの仕草に勘が働いた。

 

「ははぁ~ん……ジュリ、そういうことか……!!」

 

「え?!!何よ?!!あぁっ!!?」

 

 更に同様したジュリの視線先には散歩がてらネェル・アーガマを歩いていたデュオとカトルがいた。

 

「あ、あれはカトリーヌ達だ!ジュリさん達もいるね」

 

「あちらさんも散歩か!!にしたってどうして車椅子なんだぁ?怪我してたわけじゃないんだろ??」

 

「デュオ、彼女達は女性の尊厳を虐げられていたんだ。これはカトリーヌから聞かされたけど、彼女達は色々悩んだ末に手術したんだそうだよ。それ以上は言えない」

 

「……そういう事かっ。前にヒイロにデリカシーねーとか言われたからな。ここは配慮しますか……」

 

「くすっ、ジュリさんがいる時点で、デュオはもう配慮しているんじゃない??」

 

「いい?!!何言ってんだカトル?!!」

 

 双方のメンバーが対面し合うと、改めて挨拶を交わす流れになった。

 

 互いに存在こそは知っていたものの、マユラとアサギがデュオとカトルに会うのは実質初めてであった。

 

「……よっ!!そっちもMS見学してたんだなぁ!!」

 

「デュ、デュオ……う、うん!!気分転換にいいかなぁって……あ、改めて紹介するわね!!ガンダムデスサイズ・ヘルのパイロッ……あ、Gマイスターのデュオ!!」

 

「どーもーっ。改めまして、逃げも隠れもするけど嘘は言わない、デュオ・マックスウェルだぁ。よろしく、お嬢さん方!!」

 

「マユラ・ラバッツです!」

 

「アサギ・コードウェルです!」

 

「同じくGマイスターのカトル・ラバーバ・ウィナーです。お二人とも一週間前よりもお元気になられたようでよかったです!!あと、いつも妹がお世話になっているようで……今後もよろしく頼みますね!」

 

「もう、兄さんたら!!」

 

 彼、彼女達の談笑が響く中、それを見ていたメカニックの一人がいた。

 

 眼鏡をかけ、頼りなさ気な雰囲気の彼が整備担当していたのは、ガンダムデスサイズ・ヘルの向かい側で改修中のクシャトリヤだった。

 

 今、ネェル・アーガマではこの機体の作業に最も作業の人出を割いていたのである。

 

 現在、失われたライトレッグとレフトアームの回収、バックパックの増設、頭部改修等の作業をしていた。

 

 バックパックは予めピースミリオンで受け取ったものを取り付けるというものであったが、規格違いからあれこれと工夫と思考を凝らしてジョイントを取り付けていた。

 

 それ以外にも損傷した各部のパーツのオーバーホールをしており、彼はその作業に取り掛かっている最中だった。

 

「ボケ、コラ!!!なーによそ見してんだ!!」

 

「あれって……Gマイスター達ですよね??」

 

「あぁ?!!あぁ。基本、パイロットは休むのも仕事だからな。息抜きしてんだろ。てか、お前は手動かせ!!!」

 

「ひっ!!!すんませんっ!!!」

 

 再び作業に集中するしがないメカニックの少年だが、気にしているのはデュオ達だけではなかった。

 

「……オーブから来たってコ……タイプだなぁ……あのショートカットのコ……てか、一目惚れしたかもっ……!!」

 

「リオズ、聞こえてるぞ、独り言!!!結局女見てたのかぁ?!!うつつ抜かしてんじゃねー!!!バカたれ!!!」

 

 ガタイのよい先輩メカニックに罵声を浴びせられながらも、リオズと呼ばれた彼は黙々とクシャトリヤの新たな頭部カメラのオーバーホール作業に取り掛かった。

 

 一方でデュオとカトルの二人と会話をし終えたジュリ達が盛り上がっていた。

 

「~……あっはははは!!ジュリ、態度でわかりやすい!!デュオ君に惚れてるの丸わかりじゃん!!」

 

「アサギ!!」

 

「まぁわかるかなぁ、私は。デュオ君かっこいいもんね!!」

 

「マユラ!!絶対ダメだからね!!!」

 

「もぉ、冗談だってばぁ~、ムキにならない、ならない♪」

 

 (一時はどうなるかと思ってたけど、予想以上に早い回復で安心したな)

 

 女子トーク然とした三人のやり取りを見て、カトリーヌは危惧されていた彼女達の精神状態が、早い段階で回復に向かっていることを感じていた。

 

「でもあたしは、カトル君、可愛いなぁって思った!!」

 

「え?!アサギさ……アサギちゃん、兄さんが気になっちゃった……??」

 

「あははは、だってなんか安心感あるからぁ……」

 

「えっと、兄さんにはフィアンセのロニさんがいて……今は複雑な事情で会えない状態で……ザックリいうと彼女を助けるために今、向かっているんだよ」

 

「アサギ。フィアンセだってさ、残念!!」

 

「マユラ、うっさい!!」

 

「あ、でも元々ボク達の文化圏は一夫多妻制も認められているコロニーや地域だから、仮にフィアンセの人がアサギさんを認めてくれれば大丈夫かな……っていっても一夫多妻はボクの家みたいに元々資産家だったり、王族の末裔の人達だったりと大きな家系に限った話だけどね。一般的にはやっぱり古い考えって認識されてるヨ」

 

「え?!!一夫多妻ィ?!!」

 

 そんな会話ができている時点で、救出当初懸念する強い要因の一つだった男性恐怖症の心配はないことが伺えた。

 

 ジュリもカトリーヌも二人に対する心配事が拭い去れているのを感じていた。

 

 その時、ゴロゴロと少し大きめな球体状のものが前触れなくマユラの車椅子の足許に転がってくる。

 

「何これ??MSの……カメラ……かな??」

 

「あぁ~!!す、すいません!!」

 

 カメラらしき部品を拾い上げたマユラの許に、申し訳なさそうに駆け寄るメカニックの姿が近づく。

 

 それはリオズであった。

 

 彼にとっては一目惚れの類の女性の所に転がった部品がいくという、ある意味凄いシチュエーションであった。

 

「はぁっ、はぁ、はあっ……ごめんなさい、ケガとかしてないですか??」

 

「あ、大丈夫ですよ~」

 

「そっか、それはよかったぁ……間違えて置いてあった部品を蹴ってしまって……」

 

「あ~……あたしもエンジニアやっていた身なんで、最初の頃よくありますよ。はい」

 

 半ば緊張したような感じでマユラから部品をもらうと、リオズは照れ臭そうに会釈して再び現場へ駆け足で戻っていった。

 

 遠方から先輩にドヤされていた彼を見たアサギが一言もらす。

 

「あーあ、怒られてるよ……なんかおっちょこちょいな感じね。冴えなさそうでもあったし……」

 

「そう?あたしは彼の今のミス見たら初期の頃、上司のエリカさんに注意されてたの思い出したかなぁ……部品や工具を足下に置いてはダメってさ」

 

「えぇ?!何擁護してんの、マユラ?!あんなのがいいの?!」

 

「なんでそっちの話になるのよー?!」

 

 マユラとアサギの二人のやり取りから改めて彼女達の精神状態の不安が無くなり、ジュリとカトリーヌは顔を見合わせながらクスクスと笑い合った。

 

 

 

 

 旧コア3エリア……ここはかつて第一次ネオジオン抗争の最終決戦の部隊となった宙域だ。

 

 派閥を分裂させたネオジオン同士による戦闘に一部の勢力・エウーゴが武力介入する形式となり、結果は歴史が残している通りのものとなった。

 

 多くのネオジオン兵士達が散っていったこの宙域には、プルやマリーダの姉妹達が散っていった場所でもある。

 

 ラプラス座標開示の為にこの宙域に近づきつつあるガランシェールの一室で、休憩をとっていたプルはいつも以上にニュータイプの感覚を研ぎ澄ましていた。

 

「近づいてる……今向かってる場所も、あの時地球で感じた場所と同じ感覚だ……」

 

 プルは以前、ガンダムバンシイからマリーダを解放する時に邂逅したもう一人のプルやベントナ達の手で造られ散っていったプルクローン達の思念を思い出していた。

 

「あたしの妹達が眠ってる場所なんだ……あの時みたいに逢えたらいいな……そっか、だから悪くない感覚してたんだ……あたし……でも、ジュピトリスが……はやく……つかない……かな……」

 

 プルはこれまでの旅路の疲れからか、ふぅっと寝落ちしてしまった。

 

 一方でジンネマンもブリッジで頬杖をつきながら、今向かう場所を思い返していた。

 

 (マリーダとプルの姉妹達が眠るエリアにラプラス座標……感慨深いもんだ)

 

「まさかこの宙域来ることになるなんてな……キャプテンも感慨深く感じていますでしょう?」

 

「ふん……よくわかるな、フラスト」

 

「わかりますよ。なにせあの場所は……今の我々にとって決して無関係ではいられない場所ですからね」

 

「一言で言えば、家族が眠る場所。毎年あの日にはここまで出向いて来ますからねぇ」

 

「あぁ……久しぶりのの墓参りだ。墓標こそはないがな……」

 

 ジンネマン達は毎年終戦の日に赴き、献花をしてきていたのだ。

 

 だが、このエリアは宙賊多発エリアという側面も持っているが為に、何時までも想い浸っているわけにはいかない。

 

「所で……今のところ周囲に変わりはないか?」

 

「はい。至って順調です。宙賊連中、やっぱりガンダムにビビってるんですかね?」

 

 ガランシェールの傍では、ガンダムジェミナス・グリープが共に航行しており、コックピットではアディンが簡易栄養ドリンクを口にくわえたままトリガーを握っていた。

 

「ふーっ……なんほなひは(なにもないな)」

 

 Gマイスター故の心の余裕からか、アディンは簡易栄養ドリンクをくわえたままひとり呟く。 

 

 レーダー上においても敵機反応を示す様子はなかった。

 

 ジンネマン達もまた、ガンダム2機とキュベレイMk-Ⅱを保有している時点で心理的余裕が生まれていた。

 

 ウィングガンダム・ゼロと同クラスのガンダムジェミナス・グリープに、実質的に現存するニュータイプ用ガンダムでは最強クラスのユニコーンガンダムがあり、更にユニコーンガンダムと共に行動できるキュベレイMk

‐Ⅱがあるのだ。

 

 しかし、皆が安心しきっている一方で、眠りについたはずのプルがはっと覚醒した。

 

 ジンネマンが手元に置いていたコーヒーを飲むタイミングで、プルが慌てた様子でブリッジに駆け込んで来る。

 

「みんな!!!凄い感じの感覚拾ったよ!!!」

 

「ぶはああっ!!?ゲホっ、ゲホっ、げほっ……急にびっくりさせるな!!」

 

「ゴメン、パパ!!でもっ、ホントにすごい感覚なの!!なんか初めてマリーダと会えた時の感覚に似てるの!!!」

 

 それを聞いたジンネマンは、ハッとして哀愁の表情に変わった。

 

「……プル!!!そうかっ……!!!そうかっ……!!!そうだ……今目指している場所には、お前の妹達が眠っている場所だ……!!!」

 

 コア3はプルの妹達が散っていった宙域であるが故にそう感じたんだとジンネマンは痛感する。

 

 だが、次の瞬間にプルの言葉から出た言葉は驚くべき言葉だった。

 

「うん!!もちろんそれも感じてた!!!でも、そういうんじゃない感覚!!!生きてるコだよ!!!でもね、同時に嫌な感じの奴らもいる!!!」

 

「何ぃ?!!」

 

「キャプテン!!!たった今、救難信号回線を受信しました!!!同時にMSの反応も!!!」

 

 更にフラストからの通達が重なる。

 

「救難信号にMS?!!回線開け!!!」

 

 フラストが信号受諾操作をすると、音声が入ってきた。

 

『ガガガッ……える……かっ!!こちら、ジュピトリスⅡ!!誰か聞こえるか!!!繰り返す!!!こちらジュピトリスⅡ!!!誰か応答してくれ!!!』

 

『怪我人もいるの!!!誰でもいいから助けてちょうだい!!!さっきから宙賊が……きゃああっ!!!』

 

「な?!!ジュピトリス?!!それに、この声は……!!?」

 

 ジンネマンは聞こえてきた声質が少女と女性であり、かつ前者は慣れ親しんだ声に似ていると気づいた。

 

 その瞬間にも、プルは飛び出すようにブリッジを出ていく。

 

「あたし、ユニコーンガンダムで出るよ(ジュピトリス……やっぱりあの時感じたのは、このことね!!それに、通信から聞こえた声、きっとあのコの声……!!!)!!!」

 

「あ、おい……!!!むぅっ……いきなり空気が忙しくなったな!!宙域の反応を改めて確認!!!」

 

「はい!!望遠映像出します!!!」

 

 フラストが望遠映像でそれを映し出した。

 

「これは……確かにジュピトリスクラスです!!周囲にも動き回るMSらしき機影も見受けられます!!!」

 

「宙賊が遂にお出ましか……機関、最大でいきますよ!!!」

 

 ギルボアがそう言いながら機関速度を上げると、ジンネマンは声を放つ者に返答を呼び掛けた。

 

「こちら、ネオジオン偽装貨物船、ガランシェール!!!そちらの救難回線を受諾した!!」

 

「キャプテン!!!偽装貨物船言っちゃダメでしょう?!!」

 

「のぉ?!!しまったぁ!!!」

 

 ジンネマンとフラストのコントめいた事が起こるのを尻目に、プルはガランシェールのMS格納庫に繋がる通路を駆ける。

 

「あのコだ……ダブリンでもう一人いたあたしと出会った時に言っていた……!!!もう一つのは……危険な感じがする宙賊達!!!」

 

 急な状況変化の中、アディンにもジンネマンに代わりフラストから通信がいく。

 

「アディン!!ジュピトリスⅡからの救難回線を受信したってよ!!プルと救出に向かえ!!ガランシェールの護衛は後回しでいいから、宙賊とドンパチしてこい!!!」

 

「救難回線にジュピトリス?!了解!!!ってわけで、ディックさん!!!……キメて来るぜ!!!」

 

「OK!!!行ってこい!!!」

 

 アディンの気合いと共に、ガンダムジェミナス・グリープが頭を持ち上げてギンと光らせると、ジュピトリスに向かって加速した。

 

 一方でプルもまた、颯爽とユニコーンガンダムのコックピットに滑り込み、手をバイオメトリクスセンサーに置いて認証起動させる。

 

「今のところ、あのコ達と宙賊の奴ら以外の感じは感じられない……多分、今の内なら大丈夫!!!トムラさん、ユニコーン出すよ!!」

 

「OK!!ゲートハッチ開けるぞ!!!」

 

 ガランシェール後部のゲートハッチが展開し、デストロイモードへと変形していくユニコーンガンダムがスタンバイする。

 

「ユニコーンガンダム、エルピー・プル!!行くよ!!!」

 

 ロックアームをパージしたユニコーンガンダムが出撃し、ガンダムジェミナス・グリープを追いかけるように加速した。

 

 ジュピトリスⅡは既にかなりの割合の区画が破壊されていた。

 

 基本的に木星公団社が運営するジュピトリスに関しての攻撃は戦争時においてすら禁じられている。

 

 この時代において木星圏でしか採取できない物資達は、民間・軍事船舶の主燃料をはじめ、地球圏の生活における極めて重要なファクターなのだ。

 

 それを襲撃している時点でテロ以外のなにものでもない。

 

 亡き父親が元々MO-5のエンジニアだったアディンも、十二分にそれを知っているが故に、その面前で起こっている行為に呆れるしかなかった。

 

「なんたってジュピトリスを攻撃しやがったんだぁ、そいつら?!!それだけ、この辺の宙賊はバカばかりかっ!!!そんなバカ連中には鉄槌が必要だな!!!」

 

 ギンと両眼を光らせたガンダムジェミナス・グリープは高速で一方的な戦端に飛び込む。

 

「おらぁ!!!ガンダムが介入するぜぇっ!!!」

 

 

 ザギュジャァアアアアッ、ディギィアアアアッッッ、ザシュバァアアアアアアンッッ!!!

 

 ドォドドゴバァアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 挨拶代わりにガンダムジェミナス・グリープは、三連続のビームランスの斬撃で宙賊カスタムされたギラドーガとリゼル、ジェガンを斬り刻んでみせた。

 

 更にズサ、リーオー、ジェガンカスタムがビームライフルで応戦するも、同じようにビームランスの連続斬撃により、宇宙のデブリと化す。

 

「やけに比較的新しい機体が混じってるな……切り捨てられた元連邦も混じってるのかぁ?」

 

 ガンダムジェミナス・グリープを視認した宙賊のMS達は、ガンダムに標的を変更して無謀にも攻め立てようとしてきた。

 

 リゲルグとスタークジェガン、ザクⅢがそれぞれの火器を放つ。

 

 ビームやミサイル、バズーカ、メガ粒子砲を浴びに浴びせる。

 

 だが、その攻撃は中るはずもなく躱しに躱されていき、彼らが気づけば懐にガンダムジェミナス・グリープがいる状況だった。

 

 

 

 ザズバァアアアアアアアンッ!!!

 

 ドゴバァアアアアアアアアッ!!!

 

 

 ジャキィッ、ヴゥッッ……ヴァズダァアアアアアアアアアアアアァァァァッッ!!!!

 

 

 

 一瞬でリゲルグが爆発四散し、直後にメガ・パーティカルバスターのビーム渦流が放たれる。

 

 瞬く間にスタークジェガンとザクⅢはビーム渦流に火器消され、更にその奥で展開していたバウとリーオー、シュツルムディアスを同時にビーム渦流に巻き込んで破壊した。

 

「へっ……秒で全滅するぜぇ?!さぁ、どうするんだぁ?!」

 

 更にガンダムジェミナス・グリープの攻めは続き、回し斬りや袈裟斬り、機体を回転させながらの回転斬り、そして再びメガ・パーティカルバスターを放つ。

 

 ガンダムジェミナス・グリープの攻勢に、宙賊サイドのMS達は成す統べなく次々に破壊されていく。

 

 その最中、ジュピトリスⅡの破損した一部船体に集中する多数のビームがはしる。

 

 直撃部が赤熱化して爆発に繋がった結果、爆発を重ねながらヘリウム格納庫が切り離された。

 

 その爆発を突き抜けて、MAクラスのサイコ・ドーガが姿を表した。

 

 ネオジオンのMA、αアジールをMSサイズにしたかのような機体だ。

 

 更にサイコ・ドーガと共にサイコ・ギラ・ドーガ6機が、証拠隠滅のように各所でファンネルによる連続攻撃をジュピトリスⅡに向けて慣行していき、この攻撃が更なる被害を拡大させていく。

 

「ニュータイプ機?!!宙賊にニュータイプがいやがるのかぁ?!!」

 

 ギンとモノアイを光らせると、サイコ・ドーガはガンダムジェミナス・グリープに向け、ファンネルビットを一斉に射撃した。

 

 初発の直撃を受けるも、リフレクトシールドにより威力はほぼ無効化だった。

 

 更に展開していた3機のサイコ・ギラ・ドーガが僚機に加わり、四方八方からのファンネルビットのビーム攻撃が展開し始め、攻撃の雨嵐にアディンは、うざさと苛立ちを覚えはじめる。

 

「っ……あっ~!!!うぜーっ!!!」

 

 アディンは苛立ちを吐き飛ばすかのように、メガ・パーティカルバスターを撃ち放った。

 

 その間にもジュピトリスⅡの各所で誘爆発が相次ぎ引きおこり、外観上においても犠牲者が多く出始めてきているのが見て取れる。

 

「もっと速くっ、ユニコーン!!!せめてっ、あたしの感じを感じれるあのコは絶対に助けたい!!!あッ……!!!」

 

 ユニコーンガンダムを飛ばすプルにニュータイプの直観がはしると、次の瞬間ファンネルの攻撃が襲い掛かってきた。

 

 だが、プルの力の影響で起動後のユニコーンガンダムは常にNT-Dが覚醒状態で発動している。

 

 華麗なる鮮やかな軌道でファンネルビットが放ち続けるビームを躱し、左右のアームをかざしながら発動させた両腕のビームサーベルでサイコ・ギラ・ドーガに斬り掛かった。

 

「あなたは、邪魔ぁッッ!!!」

 

 

 

 ザシュバッ、ズシュバアアアアアアアンッ!!! ズドォガアアアアアッッ!!!

 

 

 

 瞬時にレフトアームと下半身、頭部を斬撃破壊されるサイコ・ギラ・ドーガだが、爆発することなく宇宙空間に漂い流れていく。

 

 一方でアディンが放った一撃は4機に中ることなく躱されていた。

 

 ビーム過流を躱した宙賊ニュータイプ達は、ファンネルと同時にビームマシンガンや胸部メガ粒子砲を撃ち放つ。

 

 この集中砲火を受けながらも、アディンは余裕の笑みを見せた。

 

「へっ……じゃあ、そろそろ本気で避けてみるか??」

 

 アディンは、ガンダムジェミナス・グリープのメガ・パーティカルバスターのトリガーユニットを外しながら機体背部に装着させ、機能をメガ・パーティカルブースターに切り替えさせた。

 

 こうすることでダイレクトにGNDソニックドライヴァーからの出力を得られ、驚異的かつ破格な機動力を得るのだ。

 

 次のファンネル総攻撃の瞬間、ビーム攻撃の軌道内からガンダムジェミナス・グリープが出発的に移動した。

 

 ニュータイプの読みすらも見越したハイスピードレンジの回避が可能となったガンダムジェミナス・グリープは、サイコ・ドーガやサイコ・ギラ・ドーガの攻撃を次々と回避して見せる。

 

 ニュータイプの能力で直観的に「ここだ」と読んだポイントにファンネルビットの攻撃が向かう。

 

 だが、直撃の前にガンダムジェミナス・グリープの機体速度がビームの速度を超越しているのだ。

 

「アディン!!」

 

「プル!!こいつらニュータイプだ!!ユニコーンガンダムの力で一まとめ頼むぜ!!!」

 

 更にそこにプルのユニコーンガンダムが介入し、NT‐Dのサイコフィールドを展開する。

 

「任せて!!!嫌な奴ら、これ以上邪魔しないで!!!」

 

 マニピュレーターをかざしたユニコーンガンダムが放つサイコフィールドは、一気にサイコ・ドーガやサイコ・ギラ・ドーガのファンネルをジャックし、各々の機体に攻撃のブーメランを返す。

 

 

 

 ビイギュインッ!!! ビギィンッ、ビイギュインッ、ビギュイッ、ヴィビビビビビビビビギュイィィィ!!!

 

 ドヲドォドォドォドォドォドォドォゴゴッゴゴゴバアアアアアンッッ!!!

 

 

 

 プルの意志に反応したファンネルのその総攻撃は、各関節ジョイント部のみに直撃しており、コックピットや誘爆の引き金になる部位への攻撃は避けられていた。

 

 それが彼女の戦い方だった。

 

 だが、まだサイコ・ドーガには胸部メガ・粒子砲があり、苦し紛れに放った一撃がジュピトリスⅡに更なる痛恨の一撃を加えてしまった。

 

「やろう……!!!やりやがったッ!!!」

 

「いけないッ、このままじゃッ……!!!あなたにはこうするしかないのねッ……ええええいッッ!!!」

 

 両腕のビームサーベルを発動させたユニコーンガンダムはサイコ・ドーガに飛び込み、胸部面を回転しながら輪斬りにし、止めに殴るように頭部ユニットにビームサーベルを突き刺した。

 

 

 

 ズバシュウウウウウウッッ……ザシュガアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 

 頭部を破壊されたサイコ・ドーガは頭部周りで小爆発を起こしながら機能を停止させた。

 

「……間に合って!!!」

 

「プル?!」

 

 プルは間髪入れずに意識が示す方にユニコーンガンダムを向かわせ、意識を集中させながらさらに被害を拡大させていくジュピトリスⅡの側面を駆け抜ける。

 

 全周モニター上に映る船体は、先ほどのサイコ・ドーガの放ったメガ粒子砲の一撃で赤熱化かつ爆発を繰り返しさせながら瓦解していく。

 

 一刻の猶予も無くなっていた。

 

 プルはテレパシーに近い能力で、感覚を示すブロックに接近しながら語り掛けた。

 

 

 

(あなたなら、あたしのこの声が聞こえるはず……聞こえていますか?!!)

 

 

(あたしの意識に声ッ……あ、ああ!!!聴こえる!!!あたしが解るのかッ……!!!)

 

 

(うん、感覚的に解るヨ!!頑張って!!!今、あたしはあなたを感じるところまで向かっているから!!!)

 

 

(あたし達は脱出艇に何とか乗り込めたんだが、こんな時にさっきの爆発の衝撃で推進機が壊れた。自力でジュピトリスⅡから離れられない)

 

 

(そんな?!!でも、絶対に助ける!!!)

 

 

 帰ってきたその声は確かにプルの性質に非常に似た声であった。

 

 プル自身は、ダブリンでのニュータイプの奇跡的邂逅の中で知ったマリーダ以外の姉妹なのだと確信する。

 

 だが、同時に一刻の猶予もない状況を突き付けられた。

 

 彼女達が乗り込んでいる脱出艇が爆発に巻き込まれるのは時間の問題だ。

 

 その一方でも、切り離されたヘリウムコンテナ区画を強奪していく宙賊の姿も見受けられ、RジャジャやガルスJ、ドライセン、ズサカスタムといったネオジオン系の機体達がそれらを回収し、離脱しようとしていた。

 

 その中には2機のサイコ・ギラ・ドーガも確認でき、この光景をガランシェールのクルー達も視認しており、フラストがジンネマンに言う。

 

「キャプテン。奴ら、やはりヘリウムの強奪が目的だったようですね。切り離されたヘリウムコンテナを次々に強奪していってますよ。更にニュータイプ、もしくは強化人間もいるみたいです」

 

「あぁ。付近に潜伏先があると見る……だが、今は絶望的ながらも少しでも可能性のあるジュピトリスⅡの救助を優先とする!!!ギルボア、船体にもっと接近させるんだ!!!」

 

「了解!!でも接近し過ぎは避けます。恐らくはあの様子からして爆発するかと……!!!」

 

「それは無論だ……しかし、また地球圏に凄まじい損害を及ぼしたな……!!!それに、俺達がここに来ていなければ、間違いなく残骸だけを残して闇に葬られていただろうな……」

 

 船体の爆発が進む中、ユニコーンガンダムにMAに可変したガンダムジェミナス・グリープが近づく。

 

「アディン!!」

 

「プル!!俺のガンダムならスピードが段違いだ!!!掴まって案内してくれ!!」

 

「うん!!!ありがとう!!!」

 

 ユニコーンガンダムはガンダムジェミナス・グリープのリフレクト・ウィングバインダーに掴まり、その機体を委ねた。

 

 同じ頃、脱出艇が取り残された区画にも誘爆が迫っていた。

 

 最早一秒の猶予すら危ぶまれる状況に晒されていた。

 

 そんな所に思いもよらないMSが姿を現し、その脱出艇に近づく。

 

 そのMSとはアッガイであった。

 

 旧世代かつ水陸両用のMSが宇宙空間に現れるという摩訶不思議な状況である。

 

 そのアッガイは適度な力加減で脱出艇をクローで掴み、その場から離脱をする。

 

 アディンとプルが到達する時、二人のモニター上にもそのアッガイが確認できた。

 

「あれだよ!!!アディン!!!」

 

「いいい?!!アッガイ?!!なんで宇宙に水中用MSがいるんだ?!!」

 

「そんなコトどーでもいいよ!!!あのアッガイが掴んでる脱出艇……あれに、あたしが感じているコが乗ってる……!!!ガランシェールまで案内してあげよう!!!」

 

「他の人達は?!!」

 

「あのアッガイの人と脱出艇の人達以外はダメ……感じ取れても……もう……生きてはいない叫びが聞こえるだけなの……!!!」

 

 アディンはハッとなり、プルのメンタルオーバーを配慮してニュータイプの感覚を無理強いさせるのを止める。

 

「プルッ、わかった!!!これ以上無理して感じ取ろうとするな……!!!僅かでも救えれることができたんだ……」

 

 2機がアッガイを先導して離脱を始めた矢先、プルに危機感的な直感が過る。

 

「っ……?!?!いけないっ!!!」

 

 プルは咄嗟にアッガイの背後に回り、その背部を押し出すように急速離脱を始めた。

 

「アディンも早く離脱して!!!」

 

「あ?!?ああ……!!!」

 

 そのわずか数秒後、高熱源アラートが鳴り響いた。

 

 その直後ジュピトリスⅡに更なる巨大なビーム渦流が襲いかかり、連続爆発を起こし続ける船体を一気に破砕轟沈させていった。

 

「な……?!?まだ別にいやがる!!!?」

 

「ヒドイ……!!!コア3の方からだっ……!!!やな感じがするっ……すごくね!!!」

 

 プルはモニターの向こうにあるコア3方面を見ながら感じる悪しき存在を睨んだ。

 

 

 

 かくして、ジュピトリスⅡの生き残った僅かな人員を保護するような形でアディンとプルはガランシェールに合流した。

 

 アッガイからは体格が大きいモヒカン風の中年男性が、救出された脱出艇からは乗組員の青年と女性、メカニックの少年、そしてニュータイプ用ノーマルスーツを着た少女がそれぞれガランシェール内に招かれていた。

 

 だが、青年の方は至る所を負傷しており、一刻も早い処置が必要だった。

 

「ジュドー!!しっかり!!あたし達、助かったんだから!!」

 

「あ……あぁ。みたいだな、ルー……」

 

 その男女とはかつて第一次ネオジオン抗争を戦い抜いたジュドー・アーシターとルー・ルカであった。

 

 ルーともう一人メカニックの少年に担がれながらジュドーは格納庫の通路に出た。

 

「ジュドーさん、もう一息頑張りましょう!!」

 

「そうだな、シェルド……けどまさかまた彼女に助けられるなんてな……不思議だぜ……」

 

「え?!」

 

「なあに……昔を思い出したのさ……今回もありがとな」

 

 ジュドーはふと後ろにいるニュータイプ用ノーマルスーツの少女に振り返りながら言った。

 

 彼女はメットを被ったままであったが、どこか恥ずかし気に視線を逸らすような仕草をした。

 

「あ、あたしは別に……ジュドーは今は自分の状況を心配しろよな……それに、本当に助けたのは……」

 

 彼らの許へ早速、彼らをガランシェールの責任者として、ジンネマンが手を貸した。

 

「こいつはいかんな……軍医はあいにく不在だが、処置はできる……アディンも手を貸してくれ!!まずは担架だ!!担架!!医務室へ運ぶ!!」

 

「OK!!」

 

「……どうもすんません……くぅっ!!」

 

「ジュドー!!」

 

「後は俺達で運ぶ!!しかし、とんでもない災難だったな。しがない輸送船だがまずは休んでくれ。プル!!案内してやってくれ!!」

 

「え―――??」

 

 ジュドーとルーは信じられない表情を見せてジンネマンが指示を向けた方向を見た。

 

「嘘、でしょ……あのコが生きて……そんなはずは……?!!」

 

「ぷ、プルなのか……あの?!!」

 

「え?!に、似てるっっ?!!」

 

 メカニックの少年、シェルドもまた動揺する素振りで、ニュータイプ用ノーマルスーツの少女の方を見る。

 

 彼女はぷいっとするように明後日の方向に首を向けた。

 

 三人に駆け寄って来たプルは何気ないように彼らを案内する。

 

「それじゃぁ、あたしが休憩室まで案内するから!!ついてきて!!」

 

 担架の準備を待つジュドーとプルに案内されたルー達は呆気にとられたままそれぞれに別れた。

 

 先導するプルは、少し振り返りながらクスっと笑ってみせる。

 

 一方、ジュピトリスⅡから出てきたアッガイも収容され、ディックとトムラが興味津々に出迎えていた。

 

「こいつはまたトンでもないMSが出てきたな!!」

 

「何てレアだ……!!!宇宙用に改造したアッガイかぁ……!!!」

 

「珍しいでしょ?自分、アッガイ好きなんですわぁ。この機体は勿論一年戦争の時のもんなんやけどね、ジュピトリスⅡの中で近代改修施して、宇宙で使えるようにいじり倒したんよ。あ、私コニーマン・コニシっていうもんですぅ」

 

 アッガイの操縦士コニーマンは、話せば西JAPエリア方面の親しみある口調で話し出した。

 

「いやぁ、ほんま助かりましたわぁ!!!私もね、実際結構危なかったんよ、ほんまに……今回の一件で大勢の乗組員仲間が逝ってはりましたわ……いやぁ、ほんまに赦せませんわ、宙賊の奴らは……!!!」

 

「この度は……心中お察し致ししますよ。俺はトムラ。この船、ガランシェールのメカニックをやっている。よろしく、コニーマン!!」

 

「今はこの船で世話なってるメカニック、ディックだ!!」

 

「よろしゅう、お二人さん!」

 

 トムラとディックがコニーマンと握手を交わす一方、担架でジュドーを運ぶアディンとジンネマンにジュドーが、痛みに苛まれる中、当然ながらの問いかけをする。

 

 何故ならば彼はかつての戦争でプルと共に過ごした事があるからだ。

 

「……な、なぁ……さっきのコ、プルって言ってたけどさ……うっ……本当にプルなのか??」

 

「え?!!お兄さん、プルを知ってんの?!!え??どこのコロニーで会ったんだ??一緒に行動してた俺は記憶にないぞ??」

 

 そう反応するアディンに、ジンネマンが補足的に説明した。

 

「アディン。恐らくこの兄ちゃんが言っているのは、先の大戦の時のプルの事だろう。ケガ人にあれこれ問いだすのも余りいいものではないが、兄ちゃんは第一次ネオジオン抗争経験者か?」

 

「あ、ああ。そうだよ。俺達はアーガマに乗ってあっちこっち転戦していた。その中で出会って、うくっ……別れた……あのコは俺をかばって……戦死してしまった。複雑な運命に彼女は……」

 

「そうか……やはり対面があったか。これも深い縁かもな。ちなみにさっきいたプルは、紛れもなくエルピー・プルだ」

 

「どういう……ことなんです??」

 

「強いて言えば、『もう一人いたプル』かな?俺が初めて彼女に会った時はオーガスタ研究所から彼女を救出する時だった。今は15歳くらいだけど、当時は13歳くらいで……コールドスリープを断続的にされてしまっていたらしい……」

 

 アディンのその答えに続くようにジンネマンもジュドーに続きを答えた。

 

「今となっては詳細はわからないが、あのコがいた場所が場所なだけに、生粋のプルのクローンなのだろうと俺は思っている。もしくは生粋の双子の片割れか……だが……いずれにせよクローンであれ、ないであれ、今は俺の大切な娘さ。そういえば、助けたメンバーにニュータイプ用ノーマルスーツの少女がいたが……」

 

「はい……彼女は……」

 

 一方で休憩室に案内する最中、ルーもまたプルに質問を投げかけていた。

 

「あなたって、本当にプルなの?!!」

 

「そだよ?あたしはエルピー・プル。以前はオーガスタ研究所にずっといたんだけど、すごい色々あって今はこの船で住んでる」

 

「じゃあ、このコが意思を通じ合わせていたのはあなただったということ?あ、何かごめんなさい、お礼の前に驚きの方が大きくなってしまって……改めてお礼を言うわ。ありがとう」

 

「絶対に助けたかったから助けたの。感じ取れた妹が死ぬなんて嫌だったし、できることやれることをしたかったから……まぁ、それはそれで……」

 

 プルは三人に振り向きながら立ち止まると、ニュータイプ用ノーマルスーツの少女に問いかけた。

 

「恥ずかしがってないでさ、そろそろメット脱いでよ?プルツー」

 

「ふ……何でもお見通しか……ふふっ、お互いに意思を通じ合えていたから当然か」

 

 プルに名を呼ばれたプルツーはメットを取り、その瞬間に髪が凛と僅かになびく。

 

「あ……!!」

 

 その仕草をみていたシェルドは何気に赤くなっていた。

 

「今回の一件は助かった……導いてくれてありがとう。でも本当に驚きだ。もう一人プルがいたなんて……」

 

「あたしもこんなに早く会えるなんて思わなかった。とある理由からあたし、プルツーのコト知ってさ……木星で頑張ってるって……ずっと会いたかった」

 

「プル……目の前のプルがあの日のプルじゃないのはわかってる……でも、ずっと謝りたかった……取返しなんて到底不可能だけど……でも……!!!」

 

 かつての過ちを悔いるプルツーにプルは首を振る。

 

「いいの。もう、過ちに囚われる事なんてないよ。あたしも、もう一人のあたしから聞かされたんだ。彼女もあなたのこと応援していることを……」

 

「プルが?!!それはどこで?!!」

 

「ダブリンに行くことになった時……不思議な体験をしたんだ」

 

「ダブリン……!!?そうかっ……!!!」

 

「後ね、もう一人いるんだ!あたし達の妹が!!いつか必ず会わせてあげたい!!」

 

 今のプルがプルツーとの再会に、もう一つ叶えたい事……それはマリーダとプルツーを会わせる事だった。

 

 プルのその言葉と希望にプルツーは良い衝撃を受けた。

 

「妹っ……!!?いるのか、妹が?!?」

 

「うん!!名前はマリーダって言って、今は色々あって地球に行っているんだけどね。最終的にはまた合流するつもりでお互い行動してるんだ!」

 

「そうか……マリーダか……会ってみたいな」

 

 それらの事を知ったルーはプルツーの肩に手を据え置きながらプルツーにとっての吉報に喜びをみせた。

 

「よかったじゃない、プルツー!どうあれ、これもあたし達を追いかけてきたから得られた奇跡なんだから!あなただけでも今は喜んでいいんじゃない?」

 

「ルー……ありがと。けど、今回の一件で世話になった多くの人達が……あたしだけってのも……」

 

 プルツーは今回の状況下で自分だけ幸せを得るのは罪悪だと自らの幸せを拒む。

 

 すると今度はシェルドが鼻頭をかじりながらちらちらとプルツーに視線を送って口を開いた。

 

「確かにそうだけどさ……僕はルーさんの言ってることも合ってると思うよ。一度に二人の姉妹に会えたんだからさ……それに、できれば僕も力になりたい……かな?」

 

 これに対しプルツーは満更でもないような反応を一瞬だけ見せ、ダメ出しに口を走らせる。

 

「き、気持ちは嬉しいが……機付長代理のお前がどうやって力になれるんだ?あたしの問題よりもお前は今の状況の事の方に気を向かせるべきじゃないのか??」

 

「うっ……プルツー……うぅー……」

 

「『うー』じゃない!!あんたも男なんだからさ、シャキッとしろよ!!まったく!!いい加減ジュドー見習いな!!」

 

 縮こまるシェルドを突き放すように言うプルツーであるが、そんな彼女の言動を見ていたプルはニコニコと、一方のルーはニヤニヤしはじめていた。

 

「な、なんだよ?!二人とも?!」

 

「プルツー、ツンデレ屋さんなんだね!!」

 

「そーなのよー、このコいつも素直じゃないのよー!!」

 

 二人の言動にプルツーは真向から赤面気味に反発した。

 

「う、うるさいな!!何がツンデレだ!!こんな弱キャラにどうやってデレるっていうんだ?!」

 

「女の子には母性本能っていうのがるんだよー。あたしはプルツーの心読めちゃってるから丸わかりだよー。ただでさえ姉妹なんだしー」

 

「なっ……!!!くっ……てか、ここで立無駄話をいつまで続ける気だ?!!さっさと客室に案内しろよ!!それがプルの今のやることだろ!!?」

 

「あははー、そうだったねー☆じゃあ、いこっかー」

 

「なんか腹立つ言い方だなっ……せっかくできた対面と今さっきの感動を返せ!!」

 

 どこかプルが一枚上手かつプルツーの一方的なような姉妹喧嘩の流れになってしまい、たじろぎ気味にシェルドはルーに言う。

 

「ルーさん、早速姉妹喧嘩が……僕のせいだったのかな?」

 

「いい事じゃなぁい。感動の対面からあっという間に喧嘩できるほど仲がイイって証拠よ。シェルドのせいって言えば否定しきれないけど……」

 

 そう言いかけるとやや小声気味に言いなおしながらルーはシェルドに言い続けた。

 

「言い換えれば、あんなにプルツーがムキになるくらいあなたは意識されてんのよ!!喜びなさい!!」

 

「そ、そうなんですか?!!でもやっぱり実際に自分がそう言われると、プルツーの言っている事も確かだなって……個人の喜びが許されるのかな??」

 

「シェルド……今は少しでもポジティブにいきましょ?あたし達が助かった意味って何かしらあるんだから、成せれなかったみんなの為に進まなきゃならないんだからさ!!」

 

「ルーさん……はい(なんてポジティブ……)」

 

 その時も、先頭のプルとプルツーは言い合う中で先ほどの嫌な感覚を感じ取っていた。

 

「感じてた?!プルツー……!!!」

 

「あ、ああ。この先に嫌な奴らが……いる!!」

 

「……でも、任せて。今ここにあるガンダムならやれるから!!」

 

 プルツーはガランシェールに入る際に見た2機のガンダムを過らせた。

 

「あのガンダムの事か……!!!」

 

 プルは頷くサインを見せると、客室を目指した。

 

 その先にあるコア3跡には先ほどの襲撃を行った部隊や更に待機していたMS達が展開しており、コア3は最早宙賊達のアジト的要塞と化していた。

 

 そこへ巨大なコンテナを引っ提げ、護衛のMSと共に灰色のMSが入って来た。

 

「リーダー!!計画どおり、今年帰港予定のジュピトリスⅡからヘリウム強奪できやした!!!」

 

「そうか、そうかっ!!でかしたなぁ!!!こっちも闇のスポンサー様からブツをもらってきた……」

 

 キルヴァに負けず劣らずの狂気的な表情をした青年が乗ってきたのは、オーソドックスなガンダムをコアとする巨大なアームドベースだった。

 

 「このガンダムアレックスを近代改修したよーなトリスタンもそりゃまぁいい機体だが……こいつはもっといい!!!俺達を強化人間の実験体として宇宙に捨てやがったこの世界に対して暴れる時が来たんだぁ……!!!記念に試し撃ちしてやったぜ!!!」

 

 その青年は狂気の笑みを浮かべながら、集う手下達に言い放つ。

 

「たった今、俺達は強大な力を手に入れた!!!早速だがヘリウム爆弾の製造と、デカブツの最終調整にかかれ!!!俺達を捨てた宇宙世紀の世界に対する復讐の時は今日だっっ!!!」

 

「おおおっっ!!!」

 

「……ブルーメンツのスポンサー様の息がかかっているからなぁ……少なくとも連中は認めたわけだ、俺達をな……!!!見ていろぉ……俺達ヴィジランテが、俺様クァンタン・フェルモ様が世界に決起する!!!」

 

 OZの図式が二分する激動の中、密かに別勢力が狂気を持って動こうとしていた。

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 

 次回予告

 

 

 轟沈していったジュピトリスⅡから救えたのは僅かな人数だった。

 

 その中にはかつての第一次ネオジオン抗争経験者である、ジュドーとルー、そしてプルツーがいた。

 

 負傷したジュドーの手当を終えたジンネマン達は、木星公社社員である彼らを保護しながらの今後の行動を議論するが、ラプラス座標が示すコア3ではクァンタン率いる宙賊集団・ヴィジランテが狂気の行動を画策していた。 

 

 一方、南JAPを目指すネェル・アーガマでは、戦士達やクルー達にひと時の休息の時間が流れる。

 

 だがその最中、ネェル・アーガマは日本へ向かう敵機を捕捉する。

 

 それはMD部隊を引き連れた、ラボコロニーでガンダム達を追い詰めたあの3機と新たなガンダムだった。

 

 OZ静浜基地に集結したOZへの攻撃と読んだケネスは先制攻撃の判断をし、デュオ、トロワ、カトル、マフティー達が出撃する。

 

 アディンとプルもまた、ヴィジランテの凶行阻止の為、コア3へと戦いに身を投じていった。

 

 そして、クァンタンが駆るアームドベース、クレヴェナールが二人に立ちはだかる。

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 

 エピソード44 「同時戦端」

 

 

 

 

 

 



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エピソード44 「同時戦端」

 

 ガランシェールは現状待機のまま、船内でジンネマン達はルー達を保護していた。

 

 客室にてキャプテンとしてジンネマンが、コニーマンとルー、プルツー、シェルドを招き入れて挨拶を踏まえて、今回の状況を聞こうとしていた。

 

「改めて、俺は穏健派ネオジオン所属のスベロア・ジンネマンだ……我々の方でジュドー君の手当の方は無事済まさせてもらった。安静は絶対だ」

 

「そうですかっ……よかったぁ!!!本当にありがとうございます!!!」

 

 ほっと胸を撫で下ろすルーの礼に、手をかざしてジンネマンは謙遜の言葉を言った。

 

「いやいや……当然のことをさせてもらった次第だよ。礼には及ばんさ……」

 

「いやぁ、そないな謙遜せんでもええですやん!!また更に助けられましたなぁ!!ジュドー君にも色々教え教わられで、ええコなんよぉ!!ほんまにありがとうございますぅ!!!」

 

「いやいや……それにコニーマンさん、最後はあなたの機転があったから彼らが助かったんだ……こちらからも礼を言わせてもらうよ」

 

「いやいやぁ、ジンネマンさん!!私の方こそ大したことしてせんよぉ……それに、自分なんかにジンネマンさんがお礼というんは……??」

 

 そして、ジンネマンは視線をプルツーに視線を移して口元にかすかな笑みを浮かべる。

 

「それはですね……」

 

「な、なんだ?」

 

「その子を助けていただいた事にもなるからだ。お帰り、プルツー。今回は実に災難な帰還になってしまったが、プルと会うことが果たせたのは不幸中の幸いと言えよう。俺は言った通りネオジオンの人間だ。かつてプルの姉妹の生き残りの捜索をしている時があってな。その頃マリーダと名付けたプルトゥエルブを引き取った。今や俺はプルとマリーダの父親だ。俺としてもこうして会えたことが嬉しいよ」

 

 ジンネマンの話を聞いたコニーマンは頷きながら納得していた。

 

「ああ、なるほど、そういうことなんやね……いやぁ、ええ話ですわぁ~……」

 

 当のプルツーもジンネマンの話を聞かされ、感慨深く納得した様子の雰囲気を纏う。

 

「そうか……あたしは……」

 

 そうプルツーが言いかけた時、ジンネマンは肝心な事に気づく。

 

 (ん……待てよ……つい感動が先行して疑問すら懐くのを忘れたが、プルツーは当時11、12歳くらいであった……当時と容姿に変化が無さすぎる……もうマリーダのように成長していてるのが普通だ……ジュピトリスで冷凍冬眠?!いやバカな……)

 

 そんな疑問符を一人で張り巡らせるジンネマンに、心境を見通していたプルツーがふうとため息交じりに笑みを見せていった。

 

「……もしかして、当時とあまり変わらないあたしの容姿のことか?」

 

「あ、むぅ……うちのプルも断続的なコールドスリープをオーガスタ研究所でやられてしまっていた……もしや用途上は違えどジュピトリスにもそのような装置でもあるのかな??」

 

「そんなのないよ。もしかしたら初めてのプルのクローンで秘密兵器とされていたからかわからないが、一定の年齢から成長してないんだ。多分、そう遺伝子をいじられていたんだろ……グレミーのやつに……」

 

 少しダークに踏み入れてしまう話題になってしまったところへ、シェルドが良かれかつ、空気を変えようと発言する

 

「ま、まぁ、とにかくこれでお姉さんに続いて、お父さんもできたってことだよね?ホントよかったね、プルツー!」

 

「な、何を急に……!!!お、お前は余計なコト言わなくていい!!」

 

「はうぅっ」

 

「そうやってまた弱キャラ出す!!」

 

 そんなやりとりがあった中、ジンネマンはジュピトリスⅡがL2コロニー群に到達して間もなく襲撃を受けた事、自分たちが何のために行動しているかの説明などのやり取りをした上で、彼らの最大責任者である木星公社に連絡を取る運びとなった。

 

 その後ジンネマンはミーティングを開き、クルー達に今後の行動を説明した。

 

「これから俺達は木星公社に指定されたポイントにジュドー君達を送ることになった」

 

「ラプラスの座標にいくのは??」

 

「俺達の行動の性質上、本来ならば巻き込む必要のない人を戦闘に巻き込みかねない。よって延期する形をとろうと思う。長旅でようやく目前までくることができたが……」

 

 するとプルが反発するように発言した。

 

「あたしはガランシェールにはここで待機していてほしい!!じゃないと、コア3の方から感じる嫌な奴らが取り返しがつかないことをしてくるコトに巻き込まれると思う!!!あいつらは今すぐあたし達がやらなきゃいけない気がする!!!」

 

「プル!!仮にそうだとして、関係がなかった木星公社の社員をこれ以上戦闘に巻き込むわけにもいかん!!!」

 

「あたしだってわかってる!!けど今やらなきゃ……今やらなきゃ……!!!コロニーの大勢の人達が危険に晒されるかもしれない……!!!見たでしょ?!!メガ粒子砲!!!」

 

 プルがそう言うのには、先程のメガ粒子砲とあるビジョンが過った事が主張の根本であった。

 

 それはコロニーがヘリウム3爆弾と思われる兵器で甚大な被害がもたらされるものだった。

 

「おまえのニュータイプの力は理解している!!だがな……!!!」

 

 するとミーティングに客室にいたはずのプルツーが意見をしてきた。

 

「あたしはプルの言ってる事も大事だと思うよ。実際に嫌な感じがコア3の方から伝わってくる。さっきの襲撃やメガ粒子砲といい、敵はきっと何かしら行動する奴のはずだ」

 

「プルツー!!フォローありがとう!!!」

 

「いや別に……あたしも感じたから……さ」

 

 まさかのプルツーの意見に、ジンネマンは眉に指を当てながら言葉なく考え込み始める。

 

 いつもの親バカぶりがまたにじみはじめてきていると悟ったフラストもまた、ジンネマンに提案した。

 

「うぅん……キャプテン、こうするのはどうすか?アディンとプルにコア3に行ってもらっている間でもここで待機して、次の座標を出したら離脱ってのは?」

 

「フラスト、その間この船の護衛はどうするんだ?!キュベレイMK-Ⅱがあるだけだぞ!!!」

 

 ジンネマンのその発言から、プルツーはキュベレイMK-Ⅱがあったことを過らせ、自ら名乗り出た。

 

「っ!!!そうか……なら、あたしが護衛するよ。そのキュベレイを貸してくれ。助けてくれた礼だ。これは木星公社のあたしじゃなく、一個人の意思だ。やらせてくれ」

 

 プルツーの押し切る発言に、ジンネマンはやはりいつしかのマリーダとプルの我儘を赦した時の事を思い出す。

 

「っ……プルツー……!!!わかった……では船の護衛を頼む」

 

 その流れに乗るように拳をバシッと叩きながらアディンが発言した。

 

「じゃあ、戦闘時間も短期が望ましい電撃作戦ってことで俺とプルで出向いて、俺が嫌な奴らを一網打尽にしてやんよ!!!」

 

「アディン、プルの護衛いや、援護を頼むぞ。行っていつものように結果をキメて来い!!!」

 

「あぁ!!!もちろん!!!」

 

「では、ここでまとめる!!!アディン、プルはコア3へ赴き、敵性存在と思わしき勢力を打尽しながらラプラスプログラムの座標を開示。事が済み次第早急に帰還!!!その間にプルツーにこの船の護衛を行ってもらう……変更の件は木星公社にも俺が連絡しておく。以上だ」

 

「っしゃあ!!!」

 

 かくして、ガランシェールクルー達はコア3へ向けての行動に移る。

 

 出撃の間際、MSデッキにてコニーマンもまたガランシェールの護衛に名乗り出ていた。

 

「ええ?!マジで護衛してくれるっていうんですか?!!気持ちは助かりますが……」

 

「俺も護衛させていただきますよ。こっちとしての気持ちやし、プルツーちゃん一人に負担かかせるのもなんやからね。それにあの年頃のコ見てますと、コロニーに残してきている娘とダブってしまうんでほっとけないんよ」

 

 ディックやトムラはありがたい気持ちと不安感が隠せない表情でい続けた。

 

 何せ今の時代、旧式かつ宇宙に極限に不向きなはずのアッガイが彼の搭乗機だったからだ。

 

「しかし……おたくのアッガイは趣味志向の作業用じゃあないんですか??」

 

 するとコニーマンはニンマリしながら二人に答えた。

 

「ふっふふふ……俺のアッガイをナメテもらったらあかんよぉ……宇宙戦闘もできるんよ??開発段階のジュピタニウム合金で胸部一面と両腕を近代改修しとる上に、アームハンド双方に出力を強化したビームキャノン、頭部の四連ビームキャノン、で!!スペシャリティーな必殺技もできるように改造してあるんよ??もしもの時は任してもろてええですよ~」

 

 コニーマンのサムズアップサインに、メカニック歴の中で前代未聞状況にたじろぎながらもディックとトムラはサムズアップを返した。

 

 一方、ユニコーンガンダムにプルが乗り込む直前、プルとプルツーがそのコックピットハッチ前で佇む。

 

「これが……ガンダム??確かにさっきはガンダムだったはずだが……」

 

「今はあたしが乗るとガンダムに変形するんだ。このユニコーンガンダムはもうあたし専用のガンダムになってるの」

 

「そうなのか。ガンダムがプルの専用だなんて……なんだかすごいな……」

 

 プルはくすっと笑いながら自分の手を見ながらプルツーにユニコーンガンダムに乗ることになった経緯を説明した。

 

「あたしね……これを管理していた人達に文字通りの命がけで託されたの。ラプラスの箱っていうのを探し出すために……あたしが一番ふさわしい真のニュータイプなんだって……ラプラスの箱は多分この時代に必要なモノなんだなって思ってる……」

 

「プル……」

 

「それじゃあ、行ってくるから。プルツーはガランシェールのお留守番お願いね!!」

 

 プルはそう言いながらユニコーンガンダムのコックピットに身を投じ、バイオメトリクス・センサーに手をかざして機体を起動させる。

 

 するとたちまちコックピットシートや機体各部を可変させながら、ユニコーンガンダムはエメラルドグリーンの光を放ってガンダムの様相へ変身していった。

 

 プルツーはそのユニコーンガンダムの勇姿を間近に垣間見る。

 

「これが、ユニコーンガンダム……すごい!!!」

 

 プルツーはユニコーンガンダムに幻想的にすらも思える印象をいだきながら、ガンダムジェミナス・グリープにも視線を移す。

 

 彼女の反応を見るなり、プルツーも現在のマリーダ同様「ガンダムは敵」というマインドコントロールがいつからか解放されていたようであった。

 

「ガンダムジェミなんとか……どっちもあたしが知らないガンダム……か」

 

 そう呟きながらプルツーは、キュベレイMk-Ⅱのデッキへと向かう。

 

 すると、そこには機体色こそはプルのカラーリングであるが、かつての第一次ネオジオン抗争やジュピトリスⅡで使っていた愛機の姿があった。

 

「これで、また乗り換えか……あたりつく機体が皆キュベレイとはまた感慨深い……だが、今回は借りるかたちだ。少しの間だが、よろしくな……キュベレイ」

 

 ふっと笑みを見せながらプルツーはキュベレイMk-Ⅱに乗り込んだ。

 

 プルとアディン達がそれぞれに発進準備を整える中、共通通信でジンネマンからの通信が入る。

 

「目的はラプラス座標の開示。二人共無理強いはするな!!今は木星からのゲストを預からせてもらっている状況なんだからな!!」

 

「わかってるって、パパ!!!」

 

「俺も了解!!!」

 

「そして、プルツーと……ミスターコニーマンもガンダム2機が不在中の護衛、よろしくお願いする……」

 

「あぁ、任せろ」

 

「俺のアッガイは伊達じゃありませんよ~!!任しといてくんさい!!」

 

 先にガンダム2機が発進シークエンスに入る流れになろうとした時、プルが思いついたように外部通信を開いた。

 

「あっ!!あと、トムラさん、ファンネルシールドとビームマグナム持ってくから!!!今回のやつらは……多分、殺らなきゃダメな敵に感じる!!!」

 

「了解!!!調整はしてあるからいつでも大丈夫だ!!」

 

 プルの意思に呼応するように二つのファンネルシールドが動き始める中、ユニコーンガンダムの右マニピュレーターにビームマグナムが装備される。

 

 その一方で、気迫十分のアディンの声が響いた。

 

「俺がキメルぜ!!!アディン・バーネット!!!ガンダムジェミナス・グリープ、出……」

 

『あー、アディン!!忘れ物だ!!』

 

 アディンの出撃間際、突如ディックが通信を入れてくる。

 

「って……なんつータイミングで……あ~、忘れ物って?!?」

 

『ウィングのバスターライフルを一回り小さくしたタイプのライト・バスターライフルを射撃用に持っていけ!!そうすれば、メガ・パーティカルバスターキャノンとブースターをそのままで扱える!!!』

 

 アディンが左側モニターを確認すると、そこにはやや小振りにしたバスターライフルがあった。

 

「あれだけ兼用強調して結局か……でもま、確かに理にはかなってるな!!」

 

 格納庫ハッチと固定アームが動き、ガンダム2機がそれぞれが発進していく。

 

 ガランシェールの後部ハッチから発進した2機は、力強い加速をかけて2機はコア3を目指して宇宙空間に飛び込んでいった。

 

 その時、ちょうどジュドーが安静にしている医務室の窓から2機のガンダムが駆け抜ける姿が見えた。

 

「ルー、今の光を放ってたMS、ガンダムだったよな?!」

 

「そ、この船に所属しているガンダムなんですって」

 

「え?!この船はネオジオンの船なのに?!?」

 

「今はあたし達の時とは色々事情が違うみたいよ」

 

「ま……木星帰りって色々ギャップあるからなぁ……いつつつ!!」

 

「こらっ!!無理に体動かさない!!ジュドーは怪我人なんだからさ!!」

 

 窓越しに見えたユニコーンガンダムと、ガンダムジェミナス・グリープは両眼を光らせると、各々に更なる加速で機体を飛ばしていく。

 

 その時、遠ざかっていくガランシェールにプルは振り向いて視線を送る。

 

 そのタイミングでキュベレイMk-Ⅱとカスタムアッガイが発進し、ガランシェールの船外に展開するのを確認してプルは呟いた。

 

「護衛よろしくね、プルツー……パパは無理するなって言ってたケド……ちょっとは無理してくるよっ……あたし達がここで止めなきゃならないと思うから!!!さぁ、もっと飛ばすからね、ユニコーン!!!」

 

 プルはブースターペダルを更に踏み込ませた。

 

 

 

 一方、コア3ではギラ・ドーガやサイコ・ギラ・ドーガ、ヤクト・ドーガ、ザクⅢ、リゲルグ、Rジャジャ、バーナムジェガン、マラサイ、ハイザックといったヴィジランテの宙賊MS達が、リーダーであるクァンタン駆るアームドベース・クレヴェナールに追従する形で次々と出撃していた。

 

 その後方にはヘリウム爆弾を引っ提げている機体達も確認できる。

 

 クレヴェナールはガンダムトリスタンをコアとした現代版デンドロビウムと言っていい機体だ。

 

「さぁ……!!!祭りの始まりだぁっ……!!!期は満ちたぜぇ……!!!後、同胞を殺りやがった連中に報復する!!!一部隊、別動隊でイケ!!!」

 

 クァンタンの指示に、1機のヤクト・ドーガと1機のRジャジャ、多数機のバーナムジェガンとハイザックが動いた。

 

 彼らの存在は、連邦やジオン問わず用済みとされていった強化人間達の集団であり、誰もが自分達を捨てた世界……すなわち地球圏に対する復讐を懐いていた。

 

 そこへ資金を回していたのがブルーメンツなのだ。

 

 惨劇に荷担しようが、最終的に統治支配と軍事資金利益強化に繋がれば手段を選ばない。

 

 ヴィジランテの宙賊の群れを光学迷彩で見つめる勢力がいた。

 

 それはグランシャリオであり、艦内CICブリッジでは、ヴァルダーが頬杖をしながらその光景を見つめていた。

 

「時代の廃棄物達が群れをなす。滑稽な光景だ。あれが……与えた物か?ミズ・マーサ?」

 

「えぇ……争いや惨劇は兵器で回して整える……今やOZプライズ、もといロームフェラ財団の一部となったアナハイムがオーガスタと提携して造った。ヘリウム船団を襲撃されたのは想定外だったけれども……」

 

「あれはやられては損害が凄まじい……時に、ミズ・マーサは何故我々とまた行動を?」

 

「それはもちろん、利害の一致上ラプラスの箱の在りかを探す為。一時期色々と取り乱してしまっていたけれど……」

 

 (ふっ……醜くくかつ、見苦しい程にな……)

 

「それに……我々の手中にあったユニコーンガンダムには居場所を発信する特別プログラムを組み込んだ。落ち着いて傍観して追跡していればいいようにね……」

 

「……超巨大MAの件と強化人間を解体する話は?」

 

「パトゥーリアは現在、被験体と共に月に向けて運んでいるわ。後者もムラサメ研究所にて被験体を選別中……そのあとDOMEシステムが造られたオーガスタへ運ぶ。いずれにせよ時間はかかるわ……ラプラスの箱の破壊を、私が携わった力で排除したいの……!!!」

 

 マーサは赤い口紅を強調した口元をニヤリとさせながら言った。

 

 

 

 南JAPエリア近海  夜間

 

 

 

 ネェル・アーガマは光学迷彩を展開した状態で、OZ静浜基地を目指す。

 

 距離からしてかなり近い位置に到達しつつあり、OZ静浜基地及び周辺一帯は、リーオーやエアリーズに加えてジェガンやリゼルまでもが続々と集まりつつあった。

 

 OZプライズの在り方(OZの吸収)をよしとしない、トレーズを慕うOZの兵士達やかつての連邦の兵士までもが志しを同じくし、OZが受け入れていたのだ。

 

 この状況はルクセンブルクを中心に世界中のOZの主要基地で展開する状況に至っていた。

 

 無論、ロームフェラ財団が黙っているはずもなく、オペレーション・ノヴァを促進させ、OZプライズの力による制圧に打って出ていた。

 

 静浜基地及び周辺にOZプライズが介入するのも時間の問題であった。

 

 ヒイロ達の目的はそこに介入し、OZプライズの戦力削減とゼロシステムが示したサイコガンダムMk-Ⅲの介入からロニを救出する事にあった。

 

 艦内の共用休憩室にて、カトルとトロワ、デュオ、ラルフ、マフティーがナイトカフェタイムをしながら男同士の語り合いをしていた。

 

「……こーして男同士語り合ってるのも悪かねーな!!」

 

 デュオがアメリカンコーヒーを口にしながらスコーンを手に取って言う。

 

「確かにな……俺もかつては野戦キャンプでラルフと語り合ったものだ……」

 

 そう言いながらトロワがピザをつまむとラルフもまたノンアルコールビールをあおりながら語る。

 

 有事に備えての飲酒操縦防止の為だ

 

「そうだなぁ……そんな頃もあったなぁ……ま、戦場を渡り巡る日々は今もむかしも変わらないがな……こうしている今だって次の戦場に向かっているわけだしな……」

 

「俺も今こうして共に戦わせてもらえている事に感謝している……本来あの襲撃がなければ、今規模の大きなバックアップができていた……」

 

 マフティーもまたノンアルコールのハイボールテイスト飲料を呑みながら言葉を溢す。

 

「けど、実際色々と手助けしてくれてると思うぜ、俺は!!オーブでも結果現れてるしよ!!もー、威風堂々とメテオ・ブレイクス・ヘルのGマイスター名乗ってもいいと思うぜ!!」

 

「デュオ……そうか……俺がGマイスターか……!!!ありがとう……そう言えばもう次の戦場は近いんだよな?」

 

 マフティーの質問に、カトルが答える。

 

「はい。いよいよ目前に迫る日本・OZ静浜基地……ヒイロが言っていたゼロシステムが示したっていうのが、ロニが乗せられているサイコガンダム……ようやく、彼女と会えるんです……!!!」

 

 意識と想いを熱くさせながらカフェモカをすするカトルの言葉に、マフティーは聞き慣れない名前に軽い疑問符を抱く。

 

「ロニ??」

 

 デュオがそのフォローも踏まえて危惧した意見を走らせた。

 

「カトルのフィアンセだ。訳あって敵さんの手中にいる状況になってるんだ……ケドよ、カトル!!会えるって言ったってよー、示されていたのがサイコガンダムなんだろ?!カトルの為にも言うが、それなりの覚悟も持っていた方がいいと思うぜ?!十中八九は戦闘は免れないだろうし、彼女さんだって奴らにひどい目に合わされているだろうしな……」

 

「デュオ!!!そんな事はわかっているさ!!!現に彼らのサイドに墜とされてしまったマリーダさんも相当ひどく扱われていたのだって聞いたよ……だから、ロニもきっと……!!!きっと……!!!あぁっ……!!!」

 

 辛気臭い空気が見え隠れする中、ラルフがカトルに諭すように言う。

 

「憂いを懐くのはわかる。そりゃあ、想い女性(びと)だからな……サイコガンダムに乗せられちまっている以上、強化処置はされていて間違いない。だが、そんな苦痛屈辱をひっくり返してやるのが、カトルの役目だろ?悲観的になってる場合じゃあない……」

 

「そうだ。カトル。戦う事になろうとも、ロニを助ける事に全力で集中するんだ。その時は俺達に他の敵を任せればいい」

 

「ラルフさん、トロワ……」

 

「そーゆーこと!!フィアンセを助けた暁には、極上のシャンパンで祝ってろーぜ!!カトル!!」

 

「デュオ……うん!!ノンアルコールでね!!」

 

「俺にもミヘッシャがいる。不安や心配な心境は理解できる。俺も救出に協力させてもらおう」

 

「ありがとうございます、マフティーさ……いえ、ハサウェイさん……!!」

 

 そんな彼らを見る女子グループがいた。

 

 カトリーヌやジュリ、アサギ、マユラ達である。

 

「デュオ……いるけれどなんだか男同士の雰囲気で入りづらいかなぁ……」

 

「男同士って……きゃー!!カトルくーん!!!」

 

「腐女子か!!!アサギ!!!」

 

 男同士というワードで変な想像をしたアサギにジュリとカトリーヌが突っ込みを入れ合う。

 

「兄さんで変な想像しないで下さい!!!というか……マユラさん以外みんな意中の男子がそこにいるパターンだよね??ボクもトロワが……」

 

「そーねぇ……てか……意外と恋愛模様賑かなんだね……ネェル・アーガマって!!」

 

「そーいうマユラはどーなのさー?!例えばあの冴えないメカニックのコ!!!今からMSドックいくー?!」

 

「は?!あのクシャなんとかの整備してる奴?!なんっでそーなんのよ?!?アサギ!!!」

 

「あぁ……デュオ……もっとおしゃべりしたい~」

 

 (女子会のつもりが変な展開に~……てかなんでボク達はコソついてるのー??)

 

 カトリーヌが頭を抱えている中、一人の女性が声をかけてきた。

 

「あなた達、どうしたの??こんな角でこそこそ……??」

 

「え?!あ!!!」

 

 彼女達が振り替えるとその声はエイーダだった。

 

 だが、普段の段階では戦闘の通信以外では面識が無いため、マユラとアサギは誰なのかさっぱりであった。

 

「あ、いつも共有通信でナビしてくれてる~……」

 

 カトリーヌもジュリも顔は知ってても名前が出てこないパターンになっていた。

 

「オペレーターのエイーダです。覚えてね!それで何でこそこそ……??」

 

 カトリーヌとジュリが事情を話すと、エイーダは納得すると同時に笑う。

 

「なるほど……あっははははは!!あぁ、ごめんなさい……みんなうぶさんだなぁって……せっかく親睦深めれるんだし、更にここはカフェなんだから!!もっと堂々としていいと思うわ。それに女子に声かけられて嫌な男性なんてまずいないと思うしさ……私も、実はあのメンバーの一人に用あるから、みんな行きましょ!!」

 

「あ、エイーダさん!!」

 

 エイーダはカトリーヌの手を掴むや否や、ラルフやトロワ達の所へ歩みだした。

 

 一方のヒイロはウィングガンダム・ゼロのシステム整備を黙々と続けていた。

 

 そんなヒイロの許へノーマルスーツを着たマリーダが突然訪れる。

 

「ヒイロ。もしかして、今まで飲まず食わずで作業しているのか?」

 

「っ?!マリーダ……!!!」

 

 突然のマリーダの声に、あのヒイロが動揺して手にしていたプログラムディスクを落としてしまった。

 

「……俺は今、ゼロシステムのコピープログラムを作っている……いずれ戦闘指揮にも応用できるようにな……マリーダこそどうした?ノーマルスーツを着て……」

 

「あぁ。戦いの感覚を鈍らせない為にも、シュミレーショントレーニングに打ち込んできた。私もクシャトリヤもメンテナンス中だが、シュミレーションはできたからな……」

 

 ヒイロがそう言いながら作業を続けていると、マリーダはヒイロの肩に手を回して、いつにない積極的なスキンシップを求めてきた。

 

「ヒイロ……」

 

「っ……?!?」

 

「平時に体を休めるのもパイロットの務めだ。今日はもう休め……そして、今から私のいる部屋に来い。任務だ……くすっ」

 

 耳元でマリーダにそう言われてしまっては流石のヒイロも従わざるをえなかった。

 

 部屋に誘われたヒイロはマリーダと並びながらベッドに腰かけると、あるものを手渡された。

 

「まずは……これを飲み干すのを手伝え」

 

「なんだ?これは……」

 

 ヒイロに手渡されたのは、一見栄養補給食のようなモノであった。

 

「サリィさんから与えられている病院食だ。まだ私も万全ではないからな。コイツはハッキリ言ってマズイ。サリィさんには悪いが、とても全部は飲めたものじゃない。一緒に飲んで欲しい……」

 

「ふっ……任務とはこれか」

 

「ふふ、これは任務のうちの一つに過ぎない」

 

 思わせ振りな言葉の後に、二人で息を合わせるかのようにそれを飲み合う。

 

「……っぐっ……!!!」

 

「うっ……!!!」

 

「……っ、なんだ、これは?!」

 

「な?マズイだろ?!」

 

 共感を求めるようなマリーダの質問に対し、ヒイロは口を拭いながら答えた。

 

「あぁ、死ぬ程マズイぞ……」

 

「ぷっ……ふふ、あはははっ……あはははははっ!!」

 

 またもやいつにないリアクションで笑い始めたマリーダにヒイロは一瞬きょとんとするが、すぐに彼女の笑う姿に僅かな笑みを浮かべる。

 

「あははははは……すまない、なんだか可笑しくなってしまった……ん?あはははっ、そんなに見つめるな」

 

「いや、マリーダの表情がいつになく豊かだったからな……」

 

「もしかして、今度はギャップ萌えとか言うんじゃないだろうな?ヒイロ?」

 

「あぁ……そのつもりだ」

 

「あはははっ!!これ以上笑わせるな!」

 

「……マリーダ、他の任務はなんだ?」

 

「知りたいか?」

 

 マリーダはその瞬間にふうっと雰囲気を変えてみせ、ヒイロの肩に寄り添う。

 

「あぁ……っ、?!?なっ、なんだ?!」

 

 更にそこからすっと立ったマリーダは、ヒイロの目の前でノーマルスーツを脱ぎ、下着姿になってヒイロの肩に再び寄り添う。

 

 最早妖しい空気は否定できない。

 

「私からの任務……それは……」

 

「わかった……」

 

 耳元で囁くマリーダの声、雰囲気からヒイロは全てを把握し、言いかけのマリーダに先回り的な行動をしてみせた。

 

「っ……?!ぅっ……ん……」

 

 ヒイロはマリーダからのキスを逆に迎え撃つかのようにキスをマリーダに重ねた。

 

 二人の時間が止まったかのように流れる。

 

 マリーダもまたキスをしようとしたヒイロからの逆キスを受け入れ、瞳を閉じた。

 

 そして、一旦互いにキスを離し再び求め合うようにキスを重ね、抱き合うようにベッドに身を沈めた。

 

「ん……ヒイロ……もう……結局、ヒイロが攻めて私が受け身なのか……それじゃ、ヒイロの任務は一つ失敗だ」

 

「どういう事だ??」

 

「攻めずに私に甘えろ……」

 

「甘えろ……だと?!どうすればいいん……だっ?!?!」

 

 マリーダはヒイロを引き寄せるように、自分の胸元へ顔を伏せさせるように抱きしめた。

 

「っ……!!!」

 

「ヒイロはいつも、すごい事をやってのけてみせ、今の今までずっと闘い続けてきている。さっきもそうだ。今後の皆の戦いの為にウィングゼロの整備にずっと没頭して……決して自分にも甘えようとはしない。お前自身は平気かもしれない。だが、自身の気づかない心のどこかで何かが悲鳴を上げていたりする……だからたまにはいいんじゃないか?甘えたって……」

 

「マリーダ……」

 

 ヒイロはマリーダのふくよかな肌のぬくもりと、香りを感じながら彼女の言葉を受け入れるようにして瞳を閉じた。

 

「ふふ……ヒイロ……しばらくこのままでいよっか……」

 

「あぁ……」

 

 マリーダもまたヒイロを抱きしめ、時折ヒイロの髪を撫でながら互いの安らぎの時間を共有し合う。

 

 ヒイロも温もりの向こうからマリーダの鼓動を感じながら、パラオでの生活以来の、否、それ以上のやすらぎを感じていた。

 

「流石にヒイロ……この後の任務はわかるな……?言わなくても……」

 

「あぁ……無論だ……」

 

 それぞれが癒しの時間を送っていたその時、CICブリッジでは新たな敵機影を捉えていた。

 

 ミヘッシャがケネスに通達する。

 

「ケネス艦長、OZプライズの敵影を捉えました!!!向かう方向からしておそらくはOZ静浜基地に向かうものかと思われます!!!映像夜間モードに切り替えて拡大します!!!」

 

「これは……!!!」

 

 ケネスが映像から確認する限り、かつてのラボコロニー最終決戦時にデュオや、トロワ、カトルのガンダムを追い詰めた3機……すなわち、アスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウスであった。

 

 更にそれに加え謎のガンダムらしき機影に多数のサジタリウスα、βを従えていた。

 

「おそらくは先遣攻撃部隊……いや、あれらの戦力だけでやる気なのか?!?奴らのやり方なら被害は恐らく……当初の敵であったはずのOZを守るか……皮肉なものだ……こちらには気づいていないか??!」

 

「はい……その様子です。光学迷彩とステルス機能で気付かれていないかと……」

 

「……よし、Gマイスター達だけを出撃させる!!各機種の状況は?!」

 

「整備中のウィングゼロ以外は出せる状況です!!!」

 

「虎の子のガンダムが出せんか……だが、それでも事足りるはずだ……構わん!!!Gマイスターに出撃命令!!!」

 

 

♪BGM O-RIZAER(ガンダム00より)

 

 

 ネェル・アーガマ艦内に戦闘態勢移行を知らせる武鐘が鳴り響き、カフェタイムをしていたGマイスター達は直ぐにその場からMSデッキへと駆け出し、エイーダもCICブリッジに向かう。

 

 ヒイロ以外のGマイスター達がそれぞれにコックピットへと乗り込む。

 

「ったく、せっかくジュリともカフェタイムできていたってのに……!!!がっかり貧乏くじだなー!!!」

 

『デュオさん、私情の文句は遠慮願います!!ガンダム各機のカタパルトタイミングを譲渡します!!!』

 

「同じメガネっ子さんでも手厳しいなぁ……デュオ・マックスウェル!!!ガンダムデスサイズ・ヘル、行くぜ!!!」

 

「カトリーヌには悪いことをする形になったが、いくらでも時間の埋め合わせは可能だ。問題ない……ここからはいつもの戦場だ。トロワ・バートン、ガンダムベビーアームズ改、出る!!!」

 

「前哨戦か……さぁ、行こうかサンドロック!!!カトル・ラバーバ・ウィナー、ガンダムサンドロック改、行きます!!!」

 

『ハサウェイ、どうか気を付けて……まだ、満足にデートいけていないし……』

 

「ははっ、ミヘッシャも私情を挟んでいるぞ!」

 

『あ、ごめんなさい……』

 

「いいって……いつかはそういう時間は欲しいと思ってる……マフティー・ナビーユ・エリン、Ξガンダム、出る!!!」

 

 ガンダムデスサイズ・ヘル、ガンダムベビーアームズ改、ガンダムサンドロック改、Ξガンダムの各ガンダムがネェル・アーガマから各々に飛び立ち、アスクレプオスを筆頭に飛ぶOZプライズ部隊を追撃していった。

 

 同じ頃、アディンとプルもまたヴィジランテの本体と激突していた。

 

 ガンダムジェミナス・グリープが高速で駆け抜けながらビームランスの斬り回しで連続斬撃を見回していく。

 

「おらぁあああああああっ!!!初っ鼻から全力でキメテやるぜぇええぇっ!!!」

 

 

 ズバシュッ、ディギャガァッ、ザシュガッ、ザシュバッ、ザギギャアッッ……シュゴッ―――バザァギャギギギギィガオオオオオオンッッ!!!!

 

 ドドゴバババババババァアアアアアア!!!!

 

 

 連続斬の後に、大振りの薙ぎ斬りで斬り飛ばされた多数機の宙賊MS達の爆発をバックに、ガンダムジェミナス・グリープは続けてライトバスターライフルを連発で撃つ。

 

 

 ヴヴァアアアアアアッッ!!! ヴァズアアアッ、ヴヴァダァアアアッッ、ズヴァアアアアアッッ!!! 

 

 

 一度の中出力のビーム渦流に標的機3機が同時に破壊され、ヴィジランテサイドのMS達は次々に爆砕されていく中、ガンダムジェミナス・グリープは更にチャージショットを見舞う。

 

 ヴヴィリリリリリ……ヴゥヴァオオオオァアアアアアアッッ!!!!

 

 ドドドドゴバババババゴァアアアアアアッッ!!!!

 

 一直線にはしる極太のビーム過流が宙賊のMS達を次々と呑み込んだ。

 

 プルもまたヴィジランテのMS達にいつになく容赦ない攻勢を見せていた。

 

「あなた達は、ここで止めなきゃならない!!!だからっ!!!」

 

 

 ヴィジヴゥウウウウウンッッ!!! ヴィジヴゥウウンッッ、ヴィジヴゥウウウンッッ、ヴィジヴゥウウウン、ヴィジヴゥウウウウウンッッ!!!!

 

 

 放たれるユニコーンガンダムのビームマグナムの一発、一発がターゲットを確実に破壊していく。

 

 

「シールドファンネル!!!」

 

 

 ヴィディリリリッッ、ヴィディリリリリリリィィ!!!

 

 ヴィディリリリリリリリリ、ヴヴィディリリリリリリリリリリリリリィィィィ!!!

 

 

 ディギャギャギガガラララララッッ、ドドドドゴバババババゴァアアアアアア!!!

 

 

 更にプルの意思通りに動く、2基のシールドファンネルのビームガトリングガンの連射撃が、攻めいるヴィジランテサイドのMS達を一網打尽にしていった。

 

 更に襲い来るビーム攻撃を超常的と言っても過言ではない程の軌道を描いて2機のガンダム達は攻撃を躱していく。

 

 そして、斬り掛かったリゲルグとザクⅢの斬撃を躱し、瞬く間に背後に回り込んだユニコーンガンダムはレフトアーム側で発動したビームサーベルの斬撃でリゲルグを、ガンダムジェミナス・グリープは強烈なビームランスの刺突でザクⅢを撃破した。

 

 

 一方、デュオ達も交戦状態に持ち込む流れを作る。

 

 まさかの遭遇にトラントは好戦的な笑みを見せて言う。

 

「まさかまさか……こんな所で奴らのガンダムと鉢合わせるとはな……!!!」

 

「トラント特尉ぃ……あいつら、なんかパワーアップしているように見えますぜ?まぁ、骨がなればいいに変わりはないっすけど……なぁ、ミュラー?」

 

「それもそーだけど見ろよ、アレックス!!!Ξガンダムまでいやがる!!!ちょーど新人の相手にいいんじゃねー?!」

 

 ミュラーがそう言いながら新型のガンダムに視線を送った。

 

 そのガンダムのサイズはΞガンダムと同等クラスのガンダムであった。

 

 

 

《プロビデンスガンダム》

 

 

 

「そうだね……Ξガンダムの相手はOZ初の強化人間……いや、ニュータイプの僕に相応しい。ネオジオン残党に『シャアの再来』と呼ばれる男がいるそうだが、さしずめ僕は『アムロの再来』かな。何せ僕は彼のクローン……アメンズ・レイ・アルマークなのだから……!!!」

 

 衝撃的な言葉を並べたアメンズに、トラントは敢えて攻勢の抑止をかける。

 

「ははははは!!!そういうことだ!!!だが、まずはMDをかませ犬に当てる。それが、相手の力量を測れるし、こういった場合のセオリー。俺達の攻撃はその後だアメンズ特尉」

 

「了解。トラント特尉」

 

 サジタリウスα、βの戦闘プログラムがキルモードで指示入力され、各機が迫るガンダムに攻撃をかけ始めた。

 

 一点集中で持続的な高出力ビームを放つパーシスタービームライフルを撃つサジタリウスα群、量産機では最高出力のビーム渦流を放つビームカノンで射撃するサジタリウスβ群。

 

 一斉に放たれるビーム群に対し、ガンダムデスサイズ・ヘルが先陣を切って突っ込む。

 

「出やがったなぁ!!!コピーヤロウ!!!」

 

 囚われていた時期のデュオと五飛の操縦データを持つ両サジタリウスだが、進化した本人とアップデートした愛機の敵ではなかった。

 

 向かい来る高出力ビーム群をモノともせずに、アームド・ツインビームサイズをかざして一気に斬り払う。

 

 

「似非人形は吹っ飛んでなぁあああッ!!!」

 

 

 

 ザシュバァアアアアアアアアアアァァッッ!!!

 

 ディッギガンッ、ディッギガンッ、ディッギガアンッッッ……ドォドォドォゴバアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 その一振りでサジタリウスαと2機のサジタリウスβを撃破してみせ、追加攻撃にバスターシールド・アローを2機のサジタリウスαに向けて発射する。

 

 

 

 ディシュイッッ、ディシュインッッ!!!

 

 

 ズドォシュガンッッ、ザスダァアアアンッッッ……ゴババゴガアアァアアアアンッッッ!!!

 

 

 

 胸部と頭部にそれぞれビームアローが突き刺さり、あえなく爆破した。

 

 その編隊の最期の1機にアームド・ツインビームサイズを振るうガンダムデスサイズ・ヘルだが、プラネイトディフェンサーでその攻撃が遮断されスパークがはしった。

 

「何ッ?!!やろぉおおっっ!!!」

 

「デュオっ!!!フォーメーションだ!!!離脱するんだ!!!」

 

「お?!!あいよぉっ!!!」

 

 カトルの合図にデュオがフォーメーションでガンダムデスサイズ・ヘルを離脱させると、アームバスターカノンを構えたガンダムヘビーアームズ改の姿が現れた。

 

「この手のディフェンサーは強力だが、量産機故にメリクリウス程ではない……!!!」

 

 

 

 ヴウゥゥッッ……ヴヴァオアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

 ダギュヴァアアッッ……ゴゴゴゴアッ……ズギュシャアアアアアアアアアッッ……ドォゴバオアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 放たれたチャージショットのアームバスターカノンのビーム渦流を一時的に受け止めるも、直ぐにプラネイトディフェンサーが限界を迎え、再びはしったビーム渦流が機体を吹き飛ばした。

 

 トロワはそのまま攻勢を終わらすことなくダブルビームガトリングガンの射撃に切り替え、2機のサジタリウスαに素早く射撃する。

 

 

 

 ヴィドゥルルルルルルルルッッッ!!! ヴィディドゥルルルッルルルルゥゥゥッッ!!!

 

 デディギャラララララダダガガギャアアンッッ、ドォドォドォバララガアアアアアアアンッッ!!!

 

 

「トロワっ、更に上方にも射撃を!!!」

 

「あぁ、破壊する」

 

 

 

 そこから上方向に射撃体勢でいたサジタリウスαとβに向け、ガンダムヘビーアームズ改はバスターガトリングキャノンを撃ち放つ。

 

 

 

 ヴォヴァルルルルルルルルッルルルッルルルルヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴゥゥゥゥ!!!!

 

 ディヴァルゥヴダダギャラララランッッッ、ドゥバラララララゴバババヴァララランッッ!!!!

 

 

 

「これで更に突破口を開きます!!!マフティーさん、ファンネルミサイルを!!!」

 

「俺にもフォーメーションを?!!よしッ、ファンネルミサイルッ!!!いけ!!!」

 

 

 

 シュヒュシュシュシュシュゴゴアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 ドゥズバアアアアアアアアッッッ!!! ドゥズバアアアアッッ、ドゥズバアアアッッ、ドゥズバアアアアア、ドゥズバアアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

 ファンネルミサイルと同時にビームバスターの射撃もサジタリウスα、βに向けて放つΞガンダム。

 

 縦横無尽に飛び交う超硬質のファンネルミサイルが2機種のサジタリウスを撹乱エラーを引き起させながらダメージを与え、その間にビームバスターの高出力ビームが次々と撃破に追い込む。

 

 

 

 ディギャガガガガガガガディググギャギャギャガガァァァァァ……ズドォゴバァンッッ、ディズグアアアッッ、ダディガアアアアンッ、ゴバオオオオオンッッ!!!

 

 

 

「散り散りになった!!!デュオ!!!残りを各個撃破してくよ!!!」

 

「あいよ!!!」

 

 散り散りになったサジタリウス達に向け、ガンダムサンドロック改とガンダムデスサイズ・ヘルが向かう。

 

 

 

 ヴィディドゥルルルルルルルルウウウッッ!!!

 

 ディギャギャギャギャラランッッ、ゴバアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

 ガンダムサンドロック改は接近しながらクロスクラッシャーと同時装備したビームマシンガンで1機のサジタリウスαを撃墜すると、一気に間合いを接近させてクロスクラッシャーとバスターショーテルの斬撃でサジタリウスαとβを破断して見せる。

 

「はぁああああああっっ!!!」

 

 

 

 ザギャガァアアアアアアアアッッッ、ディッガイイイイイイインッッッ!!!

 

 

 

 そして残りのサジタリウスαに飛びかかったガンダムサンドロック改は、1機をバスターショーテルで叩き斬り、もう1機をクロスクラッシャーでホールドかつ破断しながら零距離ビームマシンガンの射撃で撃破する。

 

 

 

 ダッッギャギイイインッッ!!! ダァガオオオオオオンッッッ……ギギギギギィィ……ヴィディリリリッリリリッリリィイイイイイイッッッ!!!!

 

 ゴバババディギャララララガアアアアアアアンッッ!!!!

 

 

 

「マリオネットはさっさとぶっとべぇえええ!!!」

 

 

 

 ザズシュガアアアアアアアアアンッッ……ディカイィッ、ディッガイイイイイイイン……ゴゴバガギャオオオオオオオオオンッッッ!!!

 

 

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルによる大振りかつ一線のアームド・ツインビームサイズの薙ぎが払われ、サジタリウスβ2機が破壊された。

 

 そして4機のガンダム達はこの攻勢を畏怖させるがごとく両眼を光らせた。

 

 

 

 

 一方、アディンとプルもまた圧倒的な攻勢で攻め迎え撃ち続ける。

 

 メガ・パーティカル・ブースターのチート的な機動性にファンネルすらも太刀打ちできずに躱されていき、ガンダムジェミナス・グリープが一気にかけた瞬発的加速で間合いを詰める。

 

「らあああああっっ!!!」

 

 

 

 ズドォギャアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 ヴァズグウウウウウウウウウウウンッッッ!!!! ザディガアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

 ビームランスで貫通するかのようにヤクト・ドーガを刺突爆破し、その向こう側にいたリゲルグに袈裟斬りの高速斬撃を浴びせた。

 

「PXいくぜッッ!!!!」

 

 爆発の中でPXシステムを発動させたガンダムジェミナス・グリープが、読んで字のごとく電光石火の閃光と化して宙域にいる宙賊MS群に飛び込み、駆け巡る超高速のその斬撃とビーム渦流は瞬く間に宙賊達を一網打尽に駆逐する。

 

 ユニコーンガンダムもまた、カートリッジリロードをしながらビームマグナムを浴びせ続けると共に、シールドファンネルのビームガトリング一斉射撃を慣行し続けて圧倒する。

 

 

 ヴィシュヴゥウウウウウンッッ!!! ヴィシュヴンッ、ヴィシュヴンッ、ヴィシュヴウウウウウウウンッッ!!!

 

 ビュヴィディディディディディディリリリリリリリィィィィィィッッ……!!!

 

 

 

 その射撃に対抗しようと口部メガ粒子砲を放ったザクⅢや、ビームトマホークを奮いながら襲い掛かったドライセンもビームマグナムの射撃とシールドファンネルのビームガトリングにより穿かれハチの巣にされて爆砕する。

 

 その次の瞬間にプルは次の攻撃を感じ取った。

 

「……ッ!!!来たッ!!!」

 

 ファンネルの一斉射撃がユニコーンガンダムに注がれたが、Iフィールドによってビームが相殺される中、対峙するサイコ・ギラ・ドーガは執拗にユニコーンガンダムへと攻撃を仕掛ける。

 

 だが、戦う相手が不向き過ぎたが故にそれは一気に不利の状況に繋がる。

 

「しつこいな、もう……ファンネルもらうよ!!!」

 

 ユニコーンガンダムが手を振りかざし、サイコフィールドを展開させた。

 

 その波動はサイコ・ギラ・ドーガのファンネルをジャックし、シールドファンネルと共に元の主へと一斉射撃させる。

 

 ユニコーンガンダムが尻目にして駆け抜ける背後で、サイコ・ギラ・ドーガはあえなく爆砕していった。

 

 悉く手下達が屠られていく中、後方でこの光景を目の当たりにしていたクァンタンの怒りは頂点に達する。

 

「くそったれがァ……!!!あれだけ準備してきた復讐劇がこうも簡単にぶっ潰されるなんてよぉ……!!!消し飛べやああああああ!!!!」

 

 怒りに駆られたクァンタンの一撃が放たれる。

 

 

 

 ヴィディリリリリ……ヴヴヴァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

 放たれるメガビームキャノンとHSDキャノンのビーム渦流。

 

 それはまさしくジュピトリスⅡに止めを与えたビーム渦流であった。

 

「このビーム……!!!さっきの……!!!あいつが放っていたんだ……!!!」

 

 更に後方よりギラ・ドーガやバーナムジェガン達が2基のヘリウム爆弾をミサイルの原理で発射する。

 

「ひゅーッ、図体がでかいやつが来やがったな……あ?!!

 

 軽くビーム渦流を躱すアディンとプルだったが、アディンはヘリウム爆弾、もといミサイルが向かってくることを視認した。

 

「あれ、まさかヘリウムなのか?!!ヤバイやつが放たれやがった!!!」

 

 アディンはサーチ機能を使用して向かってくるヘリウムミサイルの詳細データを割り出す。

 

「……おいおい、爆発したらガンダニュウム合金の破壊数値に到達するレベルの威力だぜ……爆発規模も半端ない!!!」

 

「できれば返したかったけど……あの2基だけは破壊するよ!!!ファンネル!!!」

 

 プルの意思で放ったファンネルの攻撃が2機のヘリウムミサイルに直撃する。

 

 すると莫大な爆発光が発生し、周囲にいたギラ・ドーガやバーナムジェガン、ズサカスタム達を軽く呑みこんで消滅させていった。

 

 無論このような規模の威力を誇る兵器がコロニーや地上に命中すればどのような被害になるかは想像に難くない。

 

「貴重な兵器がッ……貴様らあああああ!!!」

 

 クァンタンの感情は爆発し、マイクロミサイルランチャーを撃ち放つ。

 

 しかしアディンとプルからしてみれば、ガンダムの機動力もあってこれらのミサイル群を躱すのは造作もない事であった。

 

 ユニコーンガンダムがエメラルドグリーンの光の軌道を描きながら躱し続け、ガンダムジェミナス・グリープはミサイル群に対し、ライトバスターライフルのチャージショットを見舞って一掃する。

 

「ちいいいい!!!あのガンダム共ぉぉおおおゥうううっっ!!!」

 

 更に荒れ狂うクァンタンは、クレヴェナールのアームドベースボデーから2基のユニットが射出させた。

 

「へっ……またミサイルかぁ??」

 

 だが、アディンの予想を裏切り、大出力の紅いレーザーが乱発かつ拡散形式に放たれる。

 

「いいっ??!拡散レーザー!!?!またトリッキーだな!!!」

 

「……やばっ!!!くっ……!!!」

 

 レーザーはビームとは性質が異なる。

 

 即ち、Iフィールドやリフレクトシールドが通用しない。

 

 プルはニュータイプの直感的感覚で見抜いて躱し、一方のアディンはレーザーがランダムに放たれる故に、リフレクトシールドで咄嗟に防御する。

 

 レーザーが中る度に爆発に見舞われるが、やはりガンダニュウムの強度が耐えしのぐ要素となっていた。

 

「確かに……プルの言う通りだっ……こんなヤロウがコロニーとか襲ったら……はんっパネェ……!!!」

 

「っ……絶対にガランシェールには行かせない!!!」

 

 飛び交う高出力拡散レーザーに交え、クァンタンは再び上部HSDキャノンとメガビームキャノンを同時に放ちはじめる。

 

「俺達はなぁ……セカイに捨てられた身なんだよ……!!!ゴミのようになぁっ……!!!」

 

 

 ヴァズグヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

 高出力レーザーポッドの拡散射撃の中を二つで一つになったビーム渦流がはしった。

 

 その攻撃を躱すアディンとプルだが、この時、プルはじわじわと悪しき精神波の影響を感じていた。

 

「なんて強い憎しみッ……負の感情……!!!」

 

「くひひゃああああっ!!!狩るぞおおおおおおお!!!!」

 

 クレヴェナールは下部左右のアームユニットからメガビームサーベルを発動し、見た目に似合わない機動力でユニコーンガンダムに襲い掛かった。

 

「さらに攻めてきたッ……!!!」

 

 プルは襲い来る二連斬を躱し、間合いの距離を離そうとするそのタイミングの最中でシールドファンネルとファンネルとで射撃する。

 

 だが、それはクレヴェナールのIフィールドによって攻撃が遮断される。

 

「そっか……Iフィールドをやれば……え?!!」

 

「死ねよっ!!!」

 

 プルがビームサーベルの攻勢に転じた瞬間、クレヴェナールはアームユニットを射出し、ファンネルのごとく斬り掛かる。

 

「くっ……!!!」

 

 ユニコーンガンダムに襲い掛かる素早い斬撃一つ一つを左右双方のビームサーベルで受け止め続ける。

 

 更に次の瞬間、クレヴェナールは左右からアームクローユニットを射出し、それをユニコーンガンダムに向かわせた。

 

「邪魔はさせねえぇ!!!邪魔されたからにはとことんいたぶり尽くすっッ!!!」

 

 躱し受け身の防戦を強いられていく中、斬撃を躱すタイミングでアームクローユニットが遂にユニコーンガンダムを捉えた。

 

 

 

 ガギャアアアアンッッ!!!

 

 

 

「あうっっ!!!きゃあああああああああッッ!!!」

 

 常時覚醒状態のユニコーンガンダムは、サイコフレームを介してパイロットの意思で機体を動かせると同時に、機体ダメージの感覚もまたフィードバックするようになる。

 

 故にプル自身にそのダメージが伝わるのだ。

 

「ああああああああッッ!!!」

 

 更にギリギリと締め付けながら、ユニコーンガンダムを串刺しにさせる軌道でアームユニットを向かわせた。

 

「いい悲鳴だあああ!!!!ゥオオオオオオオ!!!ぞくぞくするねええええッッ!!!!」

 

 迫り来る二つのメガビームサーベル。

 

 スローモーションで事態が流れた瞬間、ユニコーンガンダムを中心に両者に精神干渉の波が広がった。

 

 コア3へ広がる精神波の世界。

 

 狼狽えるクァンタンにプルが語り掛ける。

 

「何ぃィい?!!なんだっってんだ?!!」

 

「強すぎる憎しみ……何があなたをそこまでさせるの??」

 

「ああ?!!うるせえッッ、ガキ娘が!!!妙な力放ちやがってぇぇッ!!!俺達を捨てた世界に対する復讐に決まってるだろがぁあああああ!!!」

 

「なんて憎悪なんだろ……本心も極めて……!!!うっ!!!」

 

 精神干渉の世界の中においても相容れないクァンタンの姿勢と憎悪に、プルシスターズの思念体が語りかけた。

 

『彼は強化人間の成れ果ての人生の一つ……復讐に満ちた感情が、狂気に囚われている』

 

『その狂気は悲劇を重ねるしかない』

 

『同じ境遇なのに……悲しすぎないか??』

 

『憎しみとエゴによる狂気……』

 

 複数の別の声が語り掛ける。

 

 それはかつてこの宙域で戦死していったプルクローン達の声であった。

 

「な、なんなんだぁ??!」

 

「ここはあたしの妹達が……ニュータイプ部隊として産み出されて、戦って散っていった空間……強化人間達は誰だって苦しい想い背負ってるの!!!憎しみ抱いたって不思議じゃない!!!けど、それを今を懸命に生きている人達に、何もしていない人達に八つ当たりするように狂気をぶつけるなんて、絶対に間違ってるっ!!!」

 

「くくくくっ、ははははははは!!!これが噂に聞いたニュータイプ同士の精神干渉って超常現象か!!!くだらねぇっっ!!!てかガキに説教されるなんざふざけてんなア!!!」

 

「何故なの……この人??何も共感性を示さないし、感じれない……!!!」

 

『本当に狂気に吞まれ、狂気と一つになってしまった人……』

 

『この空間に身を投じても分かり合うことができない存在だ』

 

『決して彼を人々の所に行かせてはダメ』

 

「ごちゃごちゃうるせえなっっクソガキどもがっ!!!俺はなアっっ、憎しみ恨みを連ならせちまってんなら、せっかく強化人間として授かった力でブチ晴らしたいのさっっ!!!そして、同志を集めて大量殺戮破壊ってのもやりたかったのさア!!!!これ以上邪魔させんなあ!!!!」

 

「そうか……やるしかないんだね……ニュータイプの力を持った者同士って解りあえるんじゃなかったの⁇」

 

『一定数悲しくもいる……』

 

『けど絶望まではすることなんてない……』

 

『それはそれで斃すに値する存在であり、そうすることで被害を止まらせることもできる』

 

『彼を止めて、この先のコロニーを守れるのはあなた達しかいない……これ以上の悲劇を……止めて……』

 

 

「わかった……ここでの悲劇以上の悲劇なんて繰り返させない……だから今一度力を示してっ、ユニコーン!!!!」

 

 ユニコーンガンダムの放つサイコフレームの光が一気に増幅して放出され、それがクァンタンの狂気をも吹き飛ばす。

 

「何イっ?!!ぐうう!!!!」

 

 再び現実の領域に戻った時、ユニコーンガンダムのサイコフレームの光がクローアームとアーム両ユニットを吹き飛ばしていた。

 

 同時に2基のハイパーレーザーユニット目掛け、PXシステム全開でガンダムジェミナス・グリープが突っ込み、これを爆砕させて見せていた。

 

「鼻からこうすりゃよかったな……一気にぶっ潰すぜ!!!デンドロビウムモドキヤロー!!!」

 

 ビームランスを振り払いながら、ガンダムジェミナス・グリープがクレヴェナールめがけ高速直進する。

 

 ユニコーンガンダムもまた、ビームマグナムを放ちながらクレヴェナールの攻撃ユニットであるクローアームとアーム両ユニットを破壊する。

 

「ちいいっっっ!!!くそがあああああ!!!」

 

 クレヴェナールは一旦離脱し、メガビームキャノンとを放とうとする。

 

 乱発する高出力ビームであったが、その砲身にガンダムジェミナス・グリープが突っ込んで激しく破砕させた。

 

「撃たせるかっっ!!!ついでにこいつも斬り飛ばすっ!!!」

 

 HSDキャノンの砲身をも、折り返しに舞い戻るガンダムジェミナス・グリープのビームランスによって斬り飛ばされた。

 

「うぇがああああああああっっ!!!」

 

 クァンタンが怒りの唸り声を放ったこの瞬間、斜め気味の軌道で斬り込んだため、Iフィールド装置の破壊にも成功していた。

 

「アディンッ、ビーム撃つの合わせて!!!あいつをやっつける!!!」

 

「よっしゃッ!!!」

 

 ユニコーンガンダムとガンダムジェミナス・グリープは、タイミングをシンクロさせるような軌道で左右に舞う。

 

 そしてビームマグナムとライトバスターライフルの銃身を同時にクレヴェナールへと向け、その悪しき機体をロック・オンした。

 

「狂気はあたし達がここで止めるっっ!!!」

 

「ああっ、キメルぜっ、プル!!!」

 

 

 

 ヴィリリリリリリリッリイイイイィィィィ……

 

 ヴィシュヴヴァダァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 ギュグドォバッグウウアアアァァッ……ドォズウヴヴァガアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

 同時に突き進んだ二つの高出力ビームはクレヴェナールの核であるガンダムトリスタンに直撃し、そのアームドベース諸共その狂気を爆砕させた。

 

 

 

 

 その後プルとアディンは崩壊しているコア3内へ向けて飛び込み、ラプラスの箱の次なるルートの開示を試みる。

 

 エメラルドのサイコ・フレームの輝きが溢れる中、しばらく瞳を閉じていたプルがゆっくりと瞼を開き、開示モードのモニターを見た。

 

「……次の座標は……L5コロニー群の……ムーンムーン……?!!」

 

 

 

 そしてその頃、日本近海上空にてデスサイズ・ヘル、ヘビーアームズ改、サンドロック改、Ξの4機のガンダムが、アスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウス、プロビデンスガンダムとの強豪MS同士の激突の戦端が開かれようとしていた。

 

 時を止めたかのような睨み合いが、拡がる夜空の空間に流れ続けた。

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 

 次回予告

 

 夜の上空でデュオ、トロワ、カトル、マフティー達四人が因縁ある敵機と戦闘を繰り広げる。

 

 その敵とはトラント、アレックス、ミュラーの三人に加え、アムロ・レイのクローンを名乗るアメンズ・レイ・アルマークだった。

 

 アムロを誇りかつ見下すように語るアメンズがマフティーとの戦闘を選定する。

 

 その頃、旧コア3宙域でアディンとプルが戦闘していた同時刻、ガランシェールにもテロリスト・ヴィジランテの脅威が迫っていた。

 

 対し、プルツーのキュベレイMk-Ⅱとコニーマンのアッガイが出撃する。

 

 プルから借りたキュベレイMk-Ⅱでプルツーが善戦する中、コニーマンのアッガイはガンダムに匹敵する驚異的なスペックをテロリスト達にみせつけるのだった。

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード45「コニーマン・アッガイ、無双」

 

 

 

 

 

 



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エピソード45 「コニーマン・アッガイ、無双」

 

 

 夜間の日本近海上空に戦端の閃光が飛び交う。

 

 アスクレプオスがパイソンビームランチャーを撃ち放ちながらガンダムデスサイズ・ヘルを追従し、ヴァイエイトがビームカノンとレーザーガンを交互に放ってガンダムヘビーアームズ改を狙い撃つ。

 

「久しぶりだなぁっ、死神ガンダム!!!パワーアップしたような見てくれだなァ!!!」

 

 好戦的に眼差しを見開くトラントと不敵にニヤついたデュオが激突は、死神と毒蛇の激突でもあった。

 

「いつしかのズゴックもどきヤローか……!!!あんときはよくも相棒を痛めつけてくれたなぁ……」

 

 躱され続けていたパイソンビームランチャーの連続射撃がガンダムデスサイズ・ヘルを捉えた。

 

 だが、アクティブクロークにより全く効果は意味を成さない。

 

「な??!効いていない?!?」

 

「へっ……効かねーよ……確か前は零距離でやってくれたっけなァ……じゃあ、こっちから仕掛けさせてもらうぜ!!!」

 

 シュバッとライトアームをかざし、アームド・ツインビームサイズを発動させたガンダムデスサイズ・ヘルがアスクレプオスへと斬り掛かる。

 

 二連刃となった死神の鎌と毒蛇の牙とが激突し、激しいスパークをはしらせた。

 

 トラントは手応えからしてパワーが強化されている事を悟る。

 

「見かけ倒しっ……と罵倒したかったがっ、そうはいかないようだなっ……!!!」

 

 トラントはそう言いながらレフトアームのパイソンクローを激突させるが、デュオはこれもバスターシールド・アローのビーム刃で受け止めた。

 

「へっへへへ……!!!真ん中がお留守番してるぜ」

 

 がら空き状態となったアスクレプオスに至近距離のヘッドバルカンを見舞う。

 

 表面で連続する小爆発がアスクレプオスを離脱させた。

 

「ちぃっ!!!」

 

 離脱しながらのパイソンビームランチャーとバスターシールド・アローの撃ち合いになるその一方で、ヴァイエイトの方はレーザーガンをガンダムヘビーアームズ改の胸部に直撃させる。

 

「命中!!!こいつの胸部をぶっ壊したくなるのは何故かなァ!!?妙な癖だぜ!!!」

 

 そう吐きながらビームカノンの出力を上げて撃ち放つミュラーだが、この一撃はガンダムヘビーアームズ改のアームバスターカノンの洗礼を垣間見る。

 

「奇遇だ。そのような武装は持っている。皮肉にも貴様の武装をヒントにさせてもらったがな……」

 

 放たれたアームバスターカノンのビーム渦流が突き進み、ビーム渦流同士のエネルギー相殺の爆発に闇夜の夜空が照らされた。

 

「なん……だとぉ?!?やつの新装備か……!!!」

 

 まばゆいエネルギー相殺光の最中を突き抜けるかのようにガンダムヘビーアームズ改はバスターガトリングキャノンとダブルビームガトリングをヴァイエイトに射撃する。

 

 夜の闇を砕くように放たれたそれは、おもむろにヴァイエイトに直撃して装甲表面での連続爆発の衝撃を与えた。

 

「ぐぅうううっ……!!!チキショーが!!!生意気なんだよっ!!!火薬ガンダムの分際でぇっっ!!!」

 

 以前の戦いからガンダムヘビーアームズ改を格下と決め付けてきたミュラーは、苛立ちながらビームカノンを乱発する。

 

 トロワもまたこれに答えるかのようにアームバスターカノンを低出力で連発射撃した。

 

 その向こう側ではガンダムサンドロック改とメリクリウスがクロスクラッシャーとライトアーム側のクラッシュシールドを激突させる。

 

「あの時の赤いMSだねっ……!!!今度こそ目にモノを見させるよ!!!」

 

「大層な武装だなっ……ま、防ぎ切るがな!!!」

 

 そう言いながらアレックスはレフトアーム側のクラッシュシールドのビームサーベルを捌き引き弾き、プラネイトディフェンサーを展開させた。

 

 瞬時にカトルはバスターショーテルをレフトアームで抜刀し、クロスクラッシャーとの交互にパワーを付加させた斬撃でそれを弾き飛ばす。

 

「くっ……!!!パワーが以前より上がってやがる……!!!」

 

「屈辱は二度もしないよっ……はぁ!!!」

 

「ちぃいっ!!!っのやろがぁ!!!」

 

 カトルはメリクリウスが咄嗟に振りかざした左右のクラッシュシールドをクロスクラッシャーとバスターショーテルで受け止めて見せる。

 

 更にそれを捌き弾き、クラッシュシールドの大胆な刺突とバスターショーテルの袈裟斬りの連続斬撃を食らわせた。

 

「くそっ……っ?!がぁあああああっ?!?!」

 

 吹っ飛ぶメリクリウスの上では、Ξガンダムとプロビデンスガンダムが邂逅を果たす。

 

 双方のガンダムはビームバスターとユーディギムビームバスターを撃ち合いながら探りを入れ合っているようだった。

 

「このガンダムからは以前感じたような感じを覚える……何者だ!!?」

 

 両者の並行移動しながらの撃ち合いの中、アメンズはマフティーことハサウェイを感じとる。

 

「へぇ……このΞガンダムの今のパイロット……強化人間ではなく、ニュータイプか……それに……あの有名な亡くなられた艦長様の息子か……」

 

 やがて両者は、サイコミュウェポンを展開させた。

 

 ファンネルミサイルとドラグーン・ファンネルが解き放たれる。

 

 向かい来るファンネルミサイルに対し、3基の長細い形状のドラグーン・ファンネルで射撃を、6基の平坦なドラグーン・ファンネルでファンネルミサイルに対抗する。

 

 ファンネルミサイルとドラグーン・ファンネルが空中で激突し合うが、両者共に破壊される様子を見せない。

 

「このファンネルも、打撃系なのか?!?」

 

 ハサウェイは飛び交うドラグーン・ファンネルに対し、ビームバスターの射撃も加える。

 

「君のは撃てないファンネル。僕のは撃てるのさ」

 

 飛び交うドラグーン・ファンネルはビームの攻撃もしてみせる。

 

「ちっ……!!!だが、こいつから感じる感覚は……っ!!!まさか?!?いや、あの人は……シャアの反乱の時に……!!!」

 

 アメンズは驚愕したマフティーの感覚を感じて覚り、回線を開く。

 

「……君、面白いね」

 

「な?!!やはりその声……アムロさん……なのか?!?」

 

「おやおや……実に運命的だね。アムロ・レイの知り合いだったなんて……」

 

「アムロさんなのか!!?だが、何かが違う!!!」

 

「僕はアメンズ・レイ・アルマーク。アムロ・レイのクローンであり、OZプライズ初の強化人間。いや、ニュータイプさ」

 

「アムロさんの……クローンだと?!?」

 

「旧連邦の伝説のエースパイロット……アムロ・レイ。彼の遺伝子そのものが僕。敢えて言おうか??くくっ、僕が一番ガンダムを上手く動かせるのさ!!!」

 

 更に攻勢に出るプロビデンスガンダムはドラグーンとユーディギム・ビームバスターを同時に発射し始めた。

 

「ほざけ!!!貴様はアムロさんであってそうではない……!!!」

 

 Ξガンダムもまた同じくビームバスターとショルダービームバスター、ファンネルミサイルの連携攻撃で対抗する。

 

 4機種対4機種の戦端はネェル・アーガマのCICブリッジからも確認されており、そこにいるそれぞれが見守る中、後から駆けつけてきていたエイーダが伝える。

 

「ガンダム各機は、敵高性能MSと交戦中。内3機は以前のラボコロニー襲撃時の記録にあったMSです!!ですが、それ以外の1機はデータに無い新型の……巨大なガンダムです!!」

 

「巨大なガンダム……!!!映像の拡大を!!!」

 

「はい!!」

 

 ケネスの指示にエイーダがモニターを拡大させた映像には、Ξガンダムに対峙しているプロビデンスガンダムの姿が映し出されていた。

 

 それを見たミヘッシャは反応と共に、すぐにサイコミュ兵器に気付く。

 

「戦ってるのはハサウェイ……!!!それに、あの謎のガンダムが使っている武器はファンネル?!?」

 

「ということは……ニュータイプか、強化人間……!!!難しいのは承知だけど、戦闘データ記録を……!!!Ξガンダム、可能であれば今後の為の敵の戦闘データ記録をお願いします!!!」

 

 エイーダは咄嗟の判断で、マフティーにエイーダは通信を入れた。

 

「問題ない!!!既にやっている!!!何せ……相手がっ……ちぃ!!!」

 

 マフティーとの通信がONのまま途絶え、スパーク音が聞こえてくる。

 

 大きさの対比からしても劣性的に見えてしまう状況に、当然ながらミヘッシャは憂いを隠せず、思わず本名で呼びかけてしまう。

 

「ハサウェイ……!!」

 

 戦闘状況は、ビームサーベル対メガビームサーベル。

 

 レフトアームに装備したユニットの先端から発動する大型ビームサーベルだ。

 

 スパークで照らされながらアメンズは不敵に笑みを浮かべ、マフティーに言った。

 

「僕はね、君達が近づいていることはわかっていた。けど、あの三人には伝えなかったよ」

 

「何だと?!?」

 

「言ったらそれなりの動きになってしまうじゃないか。僕は一気に殲滅かけるより、今回みたいな感じで挨拶しながらちょくちょく戦いたいのさ……それに、僕だけがわかっている優越感にも浸れるしね……!!!」

 

 捌き弾き合い、ビームサーベル同士の打ち合いとなる。

 

 その最中に、マフティーはシールドをプロビデンスガンダムの胸部に刺突させて見せた。

 

「おっと……やるね、やっぱり!!!」

 

「こちらこそ、手応えが固い。やはりガンダニュウムか……!!!」

 

「あぁ。だが、君のはガンダリウム。少しばかり僕が優利!!!」

 

「だが……結局は中らなければいいさ!!!」

 

 両者は幾度も刃を交わせた後、吹っ切れたようにビームバスターを撃ち込み、ファンネルミサイルをプロビデンスガンダム本体に向かわせた。

 

 プロビデンスガンダムの胸部やレフトショルダーにビームバスターが直撃し、上空からファンネルミサイルが穿ちかかる。

 

「っっ……!!!いきなり攻勢にでたか……なんか、生意気に感じたよ……!!!」

 

 ビームランチャーライフルをお返しとばかりに放ち、Ξガンダムに被弾させた。

 

「くぅっ……!!!」

 

「言ったそばから被弾しちゃったね!!!」

 

 アメンズがドラグーンファンネルで狙いを定めたその時だった。

 

「各機、ここは一度撤退する!!!本来のOZ側MSの先行殲滅任務に支障が出たが、その分、本来入手するはずがなかったガンダム改修機の戦闘データレコーダーが録れた!!!持ち帰る!!!」

 

 (おいおい……四人でも十分殲滅可能だよ……まぁ、いいか。いい挨拶になった)

 

 トラントの指示に、心中で文句を言いながらアメンズは攻勢を解いて撤退態勢に入る。

 

 アスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウス、プロビデンスガンダムの各機が夜空の虚空へと飛び立って行った。

 

 そんなかれらに対し、デュオが追撃をかけようとする。

 

「逃がすかっ!!!」

 

 そんなデュオに制止をかけたのはトロワであった。

 

「待て、デュオ。深追いはいい。今回は偶発的な戦闘だった。それに奴らは因縁的な存在だ。またいずれ激突する」

 

「そーかい。俺達のガンダムを見た奴らは生かさないのがモットーかと思ったよ」

 

「全てそうとは限らないさ……だろ?カトル」

 

「まぁね。それに、今は前みたいに僕達だけが行動していない。常にネェル・アーガマの皆さんもいるんだからね。下手に戦闘に巻き込ませないように」

 

 そんな中、マフティーは去る彼らに眼光を向け続けていた。

 

「……アムロさんのクローン……アメンズ・レイ・アルマーク……!!!」

 

 

 

 アディンとプルがクレヴェナールとの戦闘中、待機していたガランシェールでも戦闘が引き起ころうとしていた。

 

「キャプテン!!!やはり連中の別動隊みたいなのが来ましたよ!!!数は12機です!!!」

 

「問題ない。二人とも……護衛頼むぞ!!!」

 

 プルツーとコニーマンはそれぞれにガランシェールのおよそ500メートル先の前に出て迎撃態勢に入っていた。

 

「さて……来たみたいだな。ジュピトリス・クルー達の敵、とらせてもらうぞ!!!」

 

「ほんまですね。来なはったなァ……今度はしっかり反撃させてもらいますわぁ……いくで~、アッガイ!!!皆の敵とるんよ!!!」

 

 キュベレイMk-Ⅱとアッガイ・コニーマンカスタムの両眼とモノアイが光り、各々臨戦態勢に身構える。

 

 先に仕掛けたのはヤクト・ドーガやRジャジャに従えていたバーナムジェガンとハイザックの集団だった。

 

 モノアイやカメラアイを光らせながら、2機に向かってビームライフル、マシンガンの射撃やビームランサーでの突撃などの攻撃を慣行してくる。

 

「身の程知らずめ……!!!」

 

 プルツーは鋭い眼差しで機体を前に飛び込ませる。

 

 キュベレイMK-Ⅱがライトアーム側に装備していたビームサーベルを発動させ、ビームやマシンガンを躱しながら突撃してきたバーナムジェガンを斬り捌く。

 

 

 

 ザシュバァアアアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 横一線に破断され吹っ飛んだバーナムジェガンは、宇宙空間にしばらく漂いながらやや遠方付近で爆発する。

 

 それを尻目にビームライフルを放っていたバーナムジェガンとハイザックに向け、レフトアームのハンドランチャーの連発射撃を見舞う。

 

 

 

 ダシュウウウウウウッ!!! ダシュ、ダシュ、ダシュウッッ、ダシュウウウウッッ!!!

 

 ズガウウウウッ!!! ズギャディッッ、ドォズウッ、ズガドォオオオッ、ダッディギャアアアンッ!!!

 

 ゴバガアアアッッ、ゴバァアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

 連発する高出力ビームが2機を連続で穿ち、爆発光を宇宙空間に造り出す。

 

 そして向かい来るバーナムジェガンの特攻刺突やハイザックのマシンガンを躱しに躱し、加速しながら一気に距離を取る。

 

「一網打尽にしてやるよ!!!」

 

 追手の方向に振り向いたキュベレイMK-Ⅱは、虎の子のファンネルを展開して機体前方に横一列にファンネルを並べ構えた。

 

「ファンネルッ!!!ハモニカフォーメーション!!!」

 

 バッとかざしたレフトアームからのハンドランチャーと同時に、ファンネルが一斉にビーム射撃を放った。

 

 

 

 ダダダシュウウウウッッ、ヴィヴィヴィヴィダダダダダダダダダシュウウウウウウウウウッッ!!!

 

 ダディギャッドォドォドォドォドディギャガガガドドアアアアンッッ、ズゴゴゴバアアアアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

 広範囲の扇状に連発するビームの射線軸がハイザックとバーナムジェガン2機を穿ちに穿ち貫いていき、えげつないまでに機体を破砕させた。

 

 一方、別のハイザック達はアッガイ・コニーマンカスタムにここぞとばかりに攻撃を仕掛ける。

 

「さア、撃ってきよた!!!ほな、やらせてもらいますわ!!!」

 

 穏やかな表情から鋭い眼光に一転したコニーマンは、通常のアッガイでは在り得ない機動力を見せつける。

 

 無論、水中用MSのアッガイが宇宙空間を自由にしていること自体が通常ではない。

 

 ガンダムクラスに迫る動きでビームやマシンガンを躱し続けていく。

 

「もろたでッ!!!」

 

 アッガイ・コニーマンカスタムがレフトアームをかざし、高出力化されたアームビームキャノンを発射する。

 

 

 

 ダシュウウウウウウウウンッッ!!!

 

 ディガアアンッ、ズゴバアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

 ハイザック1機が高出力ビームに貫かれ爆破する中をアッガイ・コニーマンカスタムが突き抜け、その向こう側にいたハイザックめがけ、材質がジュピタニウム製にカスタムされたハイパーアームクローで穿つ。

 

 

 

 

 ガギャガアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

 胸部を破砕されながら吹き飛ぶハイザックに更にハイパーアームクロー内の高出力ビームの一撃を見舞った。

 

 

 

 ドォシュウウウウウウウッッ!!!

 

 ズギャガドォオオオオッッ、ゴバガギャアアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

 更にバーナムジェガンがビームランサーで襲い掛かるが、この瞬間にコニーマンは直観的な閃きの電気がはしる。

 

 そう、彼はニュータイプの要素を持ち合わせていたのだ。

 

「見えるでぇ……!!!」

 

 攻撃を仕掛けたバーナムジェガンは、素早い機動性に攻撃を躱される。

 

 そしてその背後からハイパークロービームキャノンの高出力ビームが機体を貫いた。

 

 

 

 ズドォシュウウウウウウウッッ!!!

 

 ゴバアアアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

 この状況に業を煮やした残ったバーナムジェガンは、怒り任せのようにビームランサーを銃器上から分離させるように撃ち放った。

 

 だが、この一撃はハイパーアームクローで弾き飛ばされてしまう。

 

「そないな、攻撃は通じませんわ!!!これでも昔は連邦軍におった身なんよ??まァ、個人的にアッガイが好きでこうして今乗っ取りますが……いくで!!!」

 

 ゴッと加速するアッガイ・コニーマンカスタムは、レフトアーム側でバーナムジェガンの胸部を殴り突けて吹っ飛ばす。

 

 

 

 ダッディガアアアアアアンッッ、ガズギャアアアアアアッッ!!! ズドォシュウウウウウウウウッッ!!!

 

 

 

 そしてハイパーアームクローのアッパーを見舞いながら吹っ飛ぶバーナムジェガン目掛けて、額の4連ビームキャノンをへこんだ胸部に直撃させて爆砕した。

 

 この状況をジンネマン達はガランシェールのブリッジで度肝を抜かされていた。

 

「なっ……!!?アッガイにあんな芸当ができるものなのか?!!」

 

「まず宇宙空間にアッガイがいること自体稀有な事態っすからね……!!!」

 

「キャプテン、パラオの自警団に彼をスカウトしときますか??」

 

「ギルボア……そうしたいが、彼も木星公社の人間だからな。そうはいかんよ。それにしても……すごいな……ガンダム並みの動きができるアッガイか……」

 

 キュベレイMK-Ⅱは灰色のヤクト・ドーガと、アッガイ・コニーマンカスタムはRジャジャとの戦闘に突入する。

 

 互いのファンネルを展開させての撃ち合いの状況になり、ビームの撃ち合いとなっていた。

 

「流石、ニュータイプか強化人間かわからないが、骨がそれなにりにあるな……!!!それに、嫌な感じを異様に放っている奴だ……!!!」

 

 プルツーは対峙するヤクト・ドーガに対し、先ほどの雑兵とは一線を画すものを感じ取っていた。

 

「このヤクト・ドーガ、ファンネルをキュベレイ並みに増設してやがる。こっちだって下手に借り物ファンネルを墜とされるわけにはいかないんだ。シンプルにいこうか!!!」

 

 プルツーはファンネルを収容し、接近戦を仕掛けた。

 

 無論ヤクト・ドーガはファンネルで執拗に撃ち続ける。

 

 だが、プルツーはこの流星弾雨の中のビームを躱しながら掻い潜り、ファンネルをビームサーベルとハンドランチャーで一蹴し続けながら一気に接近戦を取ってビームサーベルでライトアーム諸共切断する。

 

 しかし、その瞬間にシールドメガ粒子砲を当てられ瞬間的な危機的状況に晒された。

 

「ちッ、それがあったか……!!!だがな!!!」

 

 プルツーは当てられたシールドメガ粒子砲に向かい即座にかざしたライトアームのハンドランチャーの零距離連射撃してみせた。

 

 直の高出力の連続ビームの直撃を浴びたシールドは破壊された。

 

 更に一気に離脱しながら再びファンネルを展開すると、プルツーはヤクト・ドーガの機体の各所という各所にビームを叩き込んだ。

 

 だが、危機感を悟ったのか、ヤクト・ドーガは一気に機体を離脱させる。

 

「逃がすか……!!!」

 

 離脱するヤクト・ドーガ目掛け追撃したファンネル群の攻撃が一点集中に放たれ、そのボディを爆砕させた。

 

 

 ドォドォドォドォドォドォディディディディディシュウウウウッッ……ドォズバゴバアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!

 

 その一方で、アッガイ・コニーマンカスタムのハイパーアームクローとRジャジャの銃剣の激突が展開し、爪と刃が撃ち合いを続けていた。

 

「少しは骨があるわ……おうっ?!!」

 

 銃剣でライトアームが弾きのかれた瞬間、アッガイ・コニーマンカスタムの胸部目掛け、連発でビームライフルの攻撃が撃ち込まれた。

 

 だがしかし、それはガンダニュウム合金に中るかの如く弾いて終わるばかりであった。

 

「ふふふふ……効きはせぇへんよ??なにせ胸部面はジュピタニウム合金を三層にしてるんよ??ガンダニュウム合金と同等の強度ですわ。勿論、こっちの爪もねぇッッ!!!」

 

 ハイパーアームクローの爪を刺突させ、Rジャジャのレフトアームの肩目掛け穿ち飛ばす。

 

 装甲の破壊とジョイントの捥ぎ取れの反動でRジャジャが吹っ飛ぶ。

 

 その間にも執拗にビームライフルを放つが、それは弾かれ、躱されていくにとどまった。

 

 コニーマンは右側コントロールグリップの側面にある特殊な操作ボックスを開いて操作し始める。

 

「特別に必殺技食らわしてやりますわッ……!!!」

 

 するとハイパーアームクローの爪がスパークを帯び始め、瞬時に赤熱化する。

 

「これは前の仕事の提携先で会った子の発案を元にしたんよ……右側のクロ―の出力を最大限に引き出して……一気にぶちかましたるわ!!!これが、怒りの一撃やで!!!赤熱ッ……アッガフィンガアアアアアアアア!!!」

 

 ドンッと加速したアッガイ・コニーマンカスタムは、その赤熱化したハイパーアームクローの攻撃、赤熱・アッガフィンガーを叩き込んだ。

 

 

 

 ズドォギャガァアアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

 その一撃は完全にRジャジャの胸部を穿ち貫く。

 

 しばらくその爪に突き刺されたままスパークを激しく巻き起こし、Rジャジャは爆発四散していった。

 

 

 

 双方の戦闘が終わり、やがて木星公社との合流の時が来た。

 

 ガランシェールと木星公社の輸送艦が並ぶ中、双方に行き来する為の共通規格のバイパスユニットが接続される。

 

 ジンネマン達ガランシェールのクルーはその中で木星公社の責任者と面会し、双方の握手を交わした。

 

「輸送艦ガランシェールの船長スベロア・ジンネマンというものです」

 

「木星公社の代表取締役代理セーズ・ソワサンです。代表が木星に直接赴いている関係で私が対応させていただきます。多くの船員の犠牲者を出してしまった今回の事は大変大きな悲しみと苦痛、衝撃を受けました。ですが、大きな不幸の中の幸いに、あなた方は僅かに生き残った船員を救ってくださりました。誠に、誠にありがとうございます!!!これは我々からの気持ちです」

 

 社交辞令的な挨拶の後、セーズという人物はジンネマンに金塊が入ったアタッシュケースを差し出した。

 

「いや……我々は当然の事をしたまでです。人として当たり前のことを成したに過ぎません。こんなに頂くようなことは……」

 

「是非とも、是非ともお受け取り下さい!!!」

 

 深々と頭を下げ続けるセーズの姿勢に根負けしたジンネマンは渋々とその気持ちを受け取った。

 

「むゥ……わかりました。では謹んで受け取っておきます……」

 

 振り返ったジンネマンはどこか名残惜しむかのような眼差しで後ろに控えていた船員達に顔を向けた。

 

「ではそろそろお別れだな……」

 

 その眼差しはやはりプルツーを見ていた。

 

 ジンネマンとプルツーは今回の一件が初めての対面であったが、ジンネマンからすれば彼女もプルやマリーダの姉妹故に、娘に感じる他なかったのだ。

 

 そしてガランシェールのクルーと木星公社のメンバーがそれぞれが対面するように向かい合う中、年長のコニーマンから握手して回る。

 

「ほんまにありがとうございました!!!ねぇ!!みなさん素晴らしい方々でまァ……ほんまに、ほんまにお世話になりました!!」

 

 再びコニーマンと対面したジンネマンは再度握手を交わした。

 

「いやァ、キャプテン、くどい様ですがほんまにお世話になりました!!しばらくは木星に行けれないので、もし木星に行く前に機会あったら呑みたいですねぇ!!L1コロニー群のX‐439コロニーにおりますのでまた来てください!!日本の香川県を模したコロニーになっとりましてねぇ、また来てくださった時はうどんや親鳥肉・雛鳥肉おごらさせていただきますわ!!」

 

「いい話じゃないですか!!是非ともそうさせていただきますよ!!その時は呑みましょう!!」

 

 ジンネマンとコニーマンの間で熱い別れ際の盛り上がり話の傍ら、ルーや車椅子のジュドーから別れ際に礼を述べた。

 

「本当に、ジュドーを手当てして下さりありがとうございました!!この船のみんなはこれからも私達の恩人です!!」

 

「キャプテン、クルーの皆さん、本当にありがとうございました!!あと、プルとアディンもな!!」

 

 そう言いながらジュドーはプルに手をかざした。

 

「へへへ……でもあたし、そんな大したことしてないよ??」

 

「何言ってるんだ……船員達の仇バッチリ取ってくれたって聞いてるぜ!!十二分に大したことしてくれたよ!!やっぱり……あのコの姉妹だけあって凄いな……俺も何度も助けられたことあったな」

 

「そう……だったんだ……うん、わかる……」

 

 プルは瞳を閉じながら、感じて来るジュドーの記憶の気持ちから生前のもう一人のプルの事を想っているのだと触れるようにわかる。

 

「色々世話掛けられたことも合ったケドね……砂漠で貴重な水をお風呂に使ったり……」

 

 ルーもまた思い出話を吐露した。

 

「あったな、そんなこと……確かに、俺達の知ってるプルは天真爛漫でいい意味で落ち着きがなかったなァ……そんなプルはあの日ダブリンで……」

 

「ちょっと、ジュドー!!」

 

 ルーはプルツーを気遣いそれ以上の言葉を制止するが、プルツーは更にその気を使う。

 

「いや、いいんだ。ルー。確かにあの日あたしはプルを……」

 

「あー……違うんだ。俺が言いたいのは、運命的にプルツーにそう仕組んだグレミーがやったって思っているし、今目の前にいるプルは形を変えてあの時のプルと再会できたんじゃないかって言いたかったのさ」

 

 そう言いながらジュドーはプルの頭を撫でた。

 

「なんか……はずかしい……な」

 

「プルは本当に俺によく懐いてくれてたっけな……当時はつらくあしらったりしたりしてたけど、今思えばもっと可愛がってやればよかった……」

 

 そう言いながらジュドーはプルを抱き寄せた。

 

 傍らではなに気にムッとしているアディンの姿があったが、プルはくすっと笑いを溢しながらアディンにふった。

 

「くすっ……ア~ディ~ンッ、嫉妬しないの!!」

 

「いい?!!」

 

 ジュドーはそれを聞いて笑いながらアディンを呼び止めた。

 

「え??あはははは!!そうなのか?!ガンダムのパイロットがそんなに小さくてどうすんのさ!!安心しな!俺はプルの事は妹のように感じている。それに今はルーがいるしな!!そっか、そっか!!」

 

「もう、やめてよジュドー!!私が恥ずかしいじゃん!!」

 

「あははは……ま、いいや。こっちへ来なアディン!!」

 

 するとむすっとしていたことに対し、照れ臭そうに感じながら来たアディンにジュドーは右の拳をかざした。

 

「え?!」

 

「今の地球圏、また色々と大変な事になっちまったみたいだな。俺がZZガンダムに乗っていた頃もひどかったが、それ以上と感じてる……出撃していく時の君のガンダム見たよ。一発でスゲーガンダムってわかった。今の地球圏を頼むぜ、アディン!!」

 

「へへへ……任せとけって、先輩!!!俺とガンダムジェミナス・グリープが決めてやるぜ!!!あぁ、それに……プルだってガンダムのパイロットなんだぜ!!」

 

 アディンは自然にプルの肩に手をかけて彼女もまたガンダムのパイロットであることを改めてジュドーに紹介した。

 

 そんなアディンの行動にプルは頬を赤くしながら朗らかに言った。

 

「そうなんだ。あたしもあのユニコーンガンダムに乗ってるの!!今、地球圏の未来に関わるかもしれない『ラプラスの箱』っていうのを探していてね……その為に必要なガンダムなんだ」

 

「俺も実はあれにプルが乗っている感じはわかっていたよ……二人とも!!改めて地球圏をよろしく!!」

 

 互いにグータッチし合う三人に、かつてのガンダムのパイロットだったジュドーから今のGマイスターであるアディンに、ユニコーンガンダムを託された今のプルにガンダムのパイロットの志が引き継がれたかのような光景に見えた。

 

 そんな中、プルツーは突如として懐き続けていた自らの意思をセーズに早歩きで伝えに行った。

 

「セーズ副社長、少し話が……」

 

 彼女の意思を感じてもいたプルは、はっとなってその後ろ姿を視線で追った。

 

 (プルツー……)

 

 木星公社側の船内に場所を移したプルツーは意思をそこで話した。

 

「セーズ副社長。単刀直入に申します。あたしは今回の一件で木星公社から退社させて頂きたいと思います」

 

「な?!!急に何を言い始めるんだ?!!君!!!急に退社だなんて……君は船団の防衛に自ら志願したじゃないか!!!」

 

「今回の一件で……ガランシェールのクルー達との出会いで、もういないと思っていた血の繋がった姉や、妹の存在があった事を知りました。当初は自分の居場所は地球圏ではなく、ジュドーがいる木星公社が居場所だとしてきた。でも今は違う……姉妹達と暮らしたい。一緒にいたい……そう思えてなりません。それに、ガランシェールのクルー達が追っているもの、『ラプラスの箱』なるものに対する協力もしていきたい……だから今回で退社を希望したいんです!!!」

 

「……確かに一般の家庭で育った人材ならば、独り立ちしろと言いたい理由であるが、君は違い過ぎる。先の大戦をその身で味わってきたと聞いているよ……そうか……我々としては残念だが……君がそうしたいのであるならば……致し方がないな……」

 

「ありがとうございます!!」

 

 それからしばらくして姿を見せたプルツーは、ガランシェールのクルー達の許を後にしたジュドー達にセーズの言葉に続いて宣言した。

 

「急な話になるが……先ほど話があり、プルツー君が退社する意向を示した。理由も理由だった……故に話を呑むことにした」

 

「ええ?!!」

 

「あたしは木星公社を辞めるよ。理由はある意味で再会できた姉と生きていた妹と暮らしたい。新たな居場所……いや、本来在るべき居場所が見つかったからだ」

 

 誰もが急な状況に驚く中、一番憂いの表情をしたのは彼女に好意を懐いていたサイコミュMSメカニックのシェルドであった。

 

「そんな……プルツー……!!!」

 

 一人陰で狼狽えるシェルドをよそに周りはプルツーの意思を歓迎した。

 

「ええ話じゃないですか!!その方が自然ちゃいますか?!行きよん、行きよん!!」

 

「そうね……コニーマンさんの言う通り、その方が自然じゃない。寂しくはなっちゃうけど、在るべきかたちに還るのがいいと思うわ。今までありがと、プルツー!!元気でね!!」

 

「俺も同意見だ!!ガランシェールクルーのプルの傍にいてやれよ!!たまには喧嘩するかもしんないけど姉妹仲良くな!!今までお疲れさん!!ありがとな!!」

 

「ルー……ジュドー……あたしからもありがとう。皆には本当に世話になった……約一名歓迎してくれてないやつがいるのが気になるが……」

 

 プルツーが視線を向けた先にはシェルドが半ば涙目で見ていた。

 

「……シェルド君、そこで『何みよん??』って言わんとぉ~!!」

 

 コニーマンが愛嬌を振舞うが、シェルドはそれどころではなかった。

 

「だって……プルツー、辞めちゃうって……もう会えないも同然……だし……ぐすッ」

 

 そんなシェルドの姿を見たプルツーは早歩きでツカツカと歩み寄ると、彼の頬にビンタをした。

 

 バシンと響く船内に誰もが啞然としてしまった。

 

「男子だろ?!いつまでもめそついてウジウジしてんじゃないよ!!!女一人と離れ離れになるくらいで何泣いてんだ!!!それに……別にあたしはあんたの彼女でもないだろーに!!!」

 

「うぐぅっ!!!……ん……ごめん……でもぉ……!!!」

 

 ほほをポリポリとかきながらはァっと深いため息をしたプルツーはシェルドのその手をバシッと取り、思いもよらぬ行動をした。

 

「ふぇ?!!」

 

「行くよ!!!セーズ副社長、こいつも退社……いや、情けなさすぎるから解雇してやってください!!!連れてきます!!!後、この件の挨拶はあたしがガランシェールのクルー達に伝えておきますから大丈夫です!!!」

 

「なななな?!!プルツー君、君はともかく何故にシェルド君を?!!」

 

「いちおーこいつにはサイコミュ機のメカニックっていう肩書がある……いてくれればガランシェールのキュベレイのメンテナンスに助かるだろう……」

 

「ええ?!!ええ?!!ぷぷぷ、プルツー?!!」

 

「狼狽えるな、シェルド!!!ありがたいと思え、バカ!!!」

 

 そう言いながら、プルツーはシェルドを引っ張ってガランシェールの方に向かって歩み始めた。

 

 するとルーが笑いながらプルツーの行動に関心した。

 

「あっははははは!!あのコったら、なんだかんだ言ってシェルドが好(よ)かったのね!!それに大ッ胆!!!」

 

「ははははははははっ、あのツンデレっぷりがプルツーらしいや!!仲良くな!!!」

 

 一方で、ガランシェールのクルー達がバイパスユニットから去っていく中、プルがまだその場に残っていた。

 

 そんなプルに気づいたアディンは彼女の許に歩み寄った。

 

「なんだ?寂しいのか??プルツーと別れて?」

 

「……ううん。待ってるの……」

 

「え?!待ってるって……??」

 

 するとツカツカとシェルドを引っ張りながらプルツーが照れ臭そうにしながら姿を見せた。

 

「くすっ……やっぱりこっちに来たんだね!!男子まで連れちゃって~」

 

「プルツー……それにシェルド……だっけ??てか、できてたのかよ?!!二人!!!」

 

「はい……みたいですって、痛ァあああっ!!!」

 

「ちょーしに乗って決めつけるな!!!あんたが情けないから連れてきてやっただけだ!!!」

 

 二へラとした表情でアディンに返事したシェルドであるが、ものの見事に彼女に耳を思いっきり引っ張られ否定される。

 

 だが、このやり取り自体がツンデレの典型的行動パターンであることは言うまでもない。

 

 アディンとプルは笑いを隠せない。

 

「ぷっくくくくくっ、こんなにハッキリしたツンデレってなかなか見れないぜ……ぷくくくっ」

 

「くすくすっ……ぷぷぷぷっ、素直じゃないな、プルツー!!」

 

「なっ、何笑っているんだよ!!二人とも!!と、とにかくだ!!あたしは……その、だな……あれだ、ラプラスの箱とやらに関して協力したいと思ったんだ。だから、これからはこの船に世話になろうと思った。それだけだ」

 

 そう伝えるプルツーに対し、アディンは平然とツッコミを入れた。

 

「ラプラスの箱とシェルドが何の関係あるんだよ??」

 

「こ、こいつはサイコミュ機のメカニックが数少ない売りの奴だ。ガランシェールのメカニックにもキュベレイのメンテナンスで役立つ……それだけだ!!」

 

「プルツー、顔赤いよ~……くすくすっ、可愛い~」

 

「ちょっっ……ぐぬぬぬぬっっ……プル姉っっ!!!」

 

 プルが一枚上手の追いかけっこみたいな姉妹喧嘩が始まる中、アディンは改めてシェルドに握手を交わした。

 

「ま……色々あり過ぎたけど、改めてよろしくな!!シェルド!!」

 

「あ、はい……僕こそ改めまして、シェルド・フォーリーです……あ!!」

 

 シェルドが何かに気づいたリアクションをし、アディンが振り返るとそこにはジンネマンがいた。

 

「キャプテン!!」

 

「……いいんじゃないか?歓迎する……改めて、ガランシェールのキャプテン、スベロア・ジンネマンだ」

 

「あ……ど、どうも……あ、あの、急に本当すいません!!」

 

 ジンネマンはシェルドと握手を交わすと、微笑ましくプルとプルツーの姉妹喧嘩を見守りながら答えた。

 

「いいんだ。プルツーが自分の意思で君を連れてきたんだ。もう一度言うが、歓迎している……何か得意分野は?」

 

「あ、この船のキュベレイの整備だったらできます!!」

 

「そうか……よろしく頼むぞ。トムラ達に協力してやってくれ……しかし、こういう日が来てくれるとはな……ラプラスの箱と関わらなければ、今俺達はここには訪れていなかった……そしてあの子達がある意味での再会を果たすこともなかった……何かこう、感慨深く感じるよ……」

 

「キャプテン……」

 

「ジンネマンさん……」

 

 するとジンネマンは振り返りながら皆に指示した。

 

「さぁ、そろそろバイパスユニットも切り離さなきゃならん。いつまでも油売ってるわけにはいかん……プルとプルツーも姉妹喧嘩はそこまでにして帰るぞ!!」

 

『はーい……あ……』

 

「っ……っっっ」

 

 姉妹だけあって返事も全てタイミングがダブるプルとプルツーに、シェルドは笑いをこらえるリアクションをした。

 

 そんなシェルドに気づいたプルツーがまたもやつっかかる。

 

「何がおかしいっ!!?」

 

「だ、だって声のタイミングが一緒過ぎて……いたっ!!」

 

 シェルドをはたくプルツーだが、内の感情が見え見えのプルからしてみればギャップが可笑しくてたまらない故に、一枚上手のからかいが入った。

 

「やたらいちいちかまっちゃって~……プルツー、あたしでもそんなツンデレ再現できないよ~」

 

「プル姉っっ!!!」

 

 そんなシェルドを取り巻いての姉妹喧嘩のループのムードのまま、ジンネマン達は船内に向かって歩き出す。

 

 ジンネマンは歩きながら非常に満足そうな穏やかな表情でアディンに問い質す。

 

「アディン、次のラプラスの座標はどこなんだ?早くラプラスの箱を見つけ出して、サンクキングダムとやらでマリーダ達と合流を果たさねばな」

 

「そうっすね!!そうすれば三姉妹が一緒にいられるからなっ!!今以上に微笑ましいシチュエーションになるんじゃないっすか?!」

 

「あぁ。違いない……で、座標は??」

 

「次の座標はムーンムーン??だぜ、キャプテン!!」

 

「ムーンムーン……ということはL5か……比較的遠いな……しばらく休んでおけ。それと可能であれば今一度ピースミリオンと合流する!!!」

 

「しゃっ!!!次もキメてやるぜ!!!」

 

 アディンはバシッと拳を掌に打ち付けながら次へのステージの意気込みを示した。

 

 

 

 一方、戦闘を終えたカトル達のガンダムがドックインしていく中、カトリーヌやジュリ達がメカニック達に差し入れを分けており、その中にはオペレーター交代時間となったミヘッシャもいた。

 

 彼女達は各々に戦闘を終えたGマイスター達にも駆け寄って軽食とペットボトルを渡す。

 

「デュオ!!お疲れ様!!」

 

「おお!!サンキューな、ジュリ!!助かるぜ……ぷう……みんなで配ってんのか??」

 

「そう!この前、今は貴重なのにも関わらず、私達にオーブのみんなが物資を分けてくれたからね……ケネスさんの意向でその分の差し入れだよ」

 

「なるほどね……オーブもこれからは暫定的にOZの管轄になるらしいが、複雑な気分だ……OZなんてつい今までメインの攻撃対象だったんだからなー……気づけばもっとヤバいOZプライズの台頭……それでもOZの単語には違和感ありあり……」

 

「前は前、今は今だよ、デュオ!!あと、私とカトリーヌちゃんとマユラとアサギで一緒に作ったクッキーも食べてみて!!」

 

「へぇ!!んじゃありがたく………おぉっ!!こりゃ、うまいぜ!!」

 

「よかったぁ!!おかわりたくさんあるから!!」

 

 ジュリはいつの間にか以前よりも少しデュオとの距離が縮んだ振る舞いを見せていた。

 

 カトリーヌもその隣のデッキでトロワに差し入れを渡す。

 

「はい、トロワ!!今、ジュリちゃん達やオペレーターのミヘッシャさんと一緒にみんなで配っているんだ」

 

「助かる……これはこの前のオーブからの差し入れか?」

 

「そーだよ!!さっきラシード達にも配って来た!!あとね……私とジュリちゃん達とでここの調理室借りて作ったんだ……はい!!」

 

「クッキーか……有難く頂く……うん、いい出来だ。うまい。今度また作ってくれ、カトリーヌ」

 

「ほんと!?じゃあ、今度はボクだけでトロワに作ってあげるよ!!」

 

「ふっ……敵わないな、カトリーヌには」

 

 更にその隣ではアサギがカトルに差し入れを入れて来ていた。

 

 本来ならば術後経過の安静のはずだが、彼女は車いすを使うこともなく歩きながら配っていた。

 

「差し入れです!!お疲れ様、カトル君!!みんなで作ったクッキーもありますよー!!」

 

「ありがとう!!助かるよ……うん!!おいしい!!君は確かアサギさんだったね?いいのかい?まだ術後の安静期間じゃ……」

 

「……ちょっと内緒で動いちゃってます☆」

 

「ダメだよ、サリィさんの言うとおりにしてなきゃ!無理はしないほうがいいよ。もしあれならこれ食べ終わったら僕が代わりに配るからさ!!」

 

「え?!!でも、カトル君は戦い控えてるからそれこそ休んでいた方が……(カトル君、なんて優しくて行動力あるコなんだろ……益々気になっちゃうじゃん!!でも……フィアンセの人をこれから助けるんだよね?でもでも……一夫多妻文化圏の人……うーん……)」

 

 アサギが一人の世界に入っていく一方で、マフティーはミヘッシャからの差し入れを受け取りながら頭半分ではアメンズとの戦闘を振り返っていた。

 

「……ありがとう、ミヘッシャ。助かるよ……このクッキーは??君が作ったのかい??」

 

「ううん、カトリーヌちゃん達が作ったんだって。後はオーブから支給された物資でね……それにしてもハサウェイ、顔が恐いよ??」

 

「あ……ごめん、ミヘッシャ。さっきの戦闘の事を考えててつい……」

 

「私もモニターで見ていたよ……大きなガンダムだった……やっぱり強いの??」

 

「ああ。それも事もあろうか、あの旧連邦軍伝説のパイロットであり、俺に影響を与えてくれたアムロ・レイのクローンだった……」

 

「えぇっ?!!」

 

 マフティーから語られた言葉にミヘッシャも驚愕していた。

 

「正直、俺は圧倒されていた……あいつを斃すことは、アムロさんを超えることと同義だ……できるだろうか??俺に……」

 

 何時にない弱気な発言を言いながらマフティーは抱擁の合図のようにミヘッシャに手を伸ばす。

 

 ミヘッシャはそれに応じるようにゆっくりとマフティーへ飛び込んで抱擁した。

 

「できるよ……ハサウェイなら……それに、相手はアムロ・レイ本人じゃぁない……私は信じてるよ……後、戦った後は必ず帰ってきてください……」

 

「ありがとう……約束する」

 

 そんな中、マリーダの機体であるクシャトリヤもまた急ピッチで改修整備作業が進まれていた。

 

 その中で、以前にマユラ達が見学しているところに顔を見せたリオズというメカニック少年もまた、手がけていたヘッド周りの改修のラストスパートに入っていた。

 

 「日本のOZ基地へ迫りつつある!!!作業が遅れ気味の班はもっとペース上げるように努力しろー!!!何としても機体稼働可能状況に持っていけー!!!」

 

 拡声器を使いながらクシャトリヤ整備班のリーダーが呼びかける中、リオズは配線周りを整えていた。

 

「あぁ……こういうっ、配線バンド作業、簡単なようで俺がやるとやけに時間かかっているんだよなぁ……こいつが終わったら、マスクユニットつける前の機能テストと……」

 

 リオズは整備しながらあれこれ独り言を言う癖があるようで、終始その独り言が尽きることがない。

 

「まーたあの野郎、独り言いってやがる……おい、うるせーぞ!!!」

 

「ひっ!!!すんません!!!でも、独り言行ってた方が集中できるんだよなぁ~……俺……で、この束やりづらっ……」

 

 するとそこへマユラが差し入れを入れにやって来た。

 

「お疲れ様です。差し入れですよー。オーブからの物資食とあたし達が作ったクッキーでーす☆」

 

「え?!!っ……っと……あっ、き、君は?!!確か、この前クシャトリヤの部品拾い上げてくれた……!!!あ、ありがとう!!!」

 

「え??あ!!あの時の冴えないメカニック君か!!って、ごめんなさい……冴えないとか言っちゃって……」

 

 そんなリアクションするマユラにリオズは自虐的に答えた。

 

「気にしないで、実際冴えないし……それに今、手が汚れているから……後で食べるからそこに置いといていいよ……ああっ!」

 

 そう言いながらやや緊張気味のリオズは配線バンドを幾つもぽろぽろとこぼす。

 

 「しょうがないわね」と言わんばかりの表情にふぅとため息を重ねたマユラは、自分の足許に落ちた分の配線バンドを拾ってあげていた。

 

 マユラは配線拾い集めながらショートヘアーのもみあげをかきあげる仕草をした。

 

 リオズはその一瞬に釘づけになって止まってしまう。

 

 そんな彼に配線バンドを手渡しながらマユラは自然と自らの事も吐露し始める。

 

「はい……この配線バンドもよくオーブのM1アストレイの電装品メンテで使ってたなぁ。あたし、万全になったらここのメカニックのお手伝いさせてもらうつもりでいるの」

 

「あ、ありがとう……そ、そうなんだ!!この前もそんなコト言ってたもんね、エンジニアだったって……」

 

「覚えてくれてたの?そうなの……オーブでエンジニアしててね……あの頃さ……」

 

 自然に二人の間に会話が芽生えていく。

 

 だが、そんな中、様子を見に来た整備班リーダーの目に留まってしまう。

 

「リオ公!!!ちょーしこいて女とうつつ抜かしてんじゃねー!!!ボケナスが!!!戦場が近いんだぁ!!!とっとと作業進めろクソヤローのボケコンコンキチが!!!あんたもちょっかい出すな!!!忙しいんだよ、ここのブースは!!!」

 

 そう罵声を浴びせながら去っていく整備班リーダーに対し、マユラは何故か許せない気持ちになった。

 

「何あの人っっ!!?それに言い方!!!完全にパワハラじゃない!!!」

 

「よくある事だよ……俺、鍛えられてるから、大丈夫。俺の方こそ話し込んじゃってゴメン……怖い思いさせちゃった??」

 

「いや、今までのこと思えばこんなの……怖くもないわ!!!それよかあなたこそ無理してない??あんな上司とっと訴えちゃえばイイよ!!!MSでネェル・アーガマから投げ出しちゃえ!!!」

 

「落ち着いて!!!大丈夫だってば……俺、メンタルはガンダニュウム合金だから!!!」

 

 リオズのその一言が寒すぎてマユラは丸い白目で唖然としてしまう。

 

「あ……滑った……(汗)」

 

「こほん……と、とにかく無理しないでね。今のでここの整備班の見方変わった……オーブの頃じゃ考えられない!!!でも、少なくともこれだけは言える。あたしは君の味方だよ。頑張ってね!!じゃ、クッキーここに置いとくから!」

 

 そう言い残してマユラは次の差し入れ場所に赴いていった。

 

「え……一気に進展??!」

 

 後にするマユラもまた自身の感情に戸惑いを懐いていた。

 

 (あたし……なんであんなムキになったんだろ??まさか……これが母性本能ってやつ??あー、何思ってんだか……)

 

 それぞれの色々な恋事情がネェル・アーガマのドックで展開する一方、ヒイロとマリーダはその究極とも言えるシチュエーションを、マリーダの寝室で身を重ね合っていた。

 

「……ヒイロっ……私は今、これまでにない幸せの中にいる気がす……る」

 

「俺もだマリーダ……だが、俺個人としては引っ掛かりを覚えてしまう。あいつに、カトルに申し訳なくなる」

 

「……仲間の事か……気持ちが伝わるからわかる……」

 

「ああ。あいつは、まだ意中の想い人が敵の最中にいる……場合によってはマリーダよりもひどい状態にあるかもしれない……これから始まる戦いはカトルにとって大きな分岐点となるだろう……できれば仲間達がそれぞれが安心できるラインに立った上でこの感情を懐きたい……」

 

「仲間想いなヒイロ……優しいな。すまない、これは私の我儘の任務だ……赦せ……っ」

 

「マリーダっ……」

 

 キスと抱擁を深く重ね合いながら、マリーダもまた自身に覚える引っ掛かりを吐露した。

 

「私が感じている感覚が確かなら……カトルの想い人はどこかで会ったかもしれない……名前は?」

 

「ロニ。ロニ・ガーベイだ……」

 

「ロニ……!!ロニだと?!!あの時の……ダカールで会った彼女か!!!」

 

 マリーダは、ダカール攻略前に初対面の内からガールズトークで意気投合したことや、囚われた牢獄で彼女と励まし合って過ごした記憶を思い起こした。

 

「知っていたのか?!」

 

「あぁ。ダカール攻略戦の時、初めて会ったが短時間で意気投合してな。お互いの大切な人の話で盛り上がったり、その後捕らえられた牢獄で互いを励まし合った……私の数少ない友人だ。そうか。彼女があの時言っていた砂漠の王子さまはカトルだったか……」

 

 するとマリーダはヒイロを抱きしめていた身を彼の隣に移して、添い寝するように身をシーツに沈ませた。

 

「それを聞いたら、ヒイロと同意見になった。私だけ先行して幸せに浸るわけにはいかない……」

 

「マリーダ……」

 

「……私は決めた。クシャトリヤの整備が間に合えば、今回から戦いに身を投じる……!!!もちろんそれはロニを助けるためにな!!!」

 

「そうか……マリーダの感情がそう行動したいのなら間違いはない。カトルに協力してやってくれ」

 

「無論だ……だが、せめてこの時間だけは一緒にいさせてくれ……」

 

 マリーダはヒイロと手を重ねながら瞳を閉じた。

 

「わかった……」

 

 ヒイロもまたマリーダの手を握り返して瞳を閉じた。

 

 そしてその当事者たるロニは、サイコガンダムMk-Ⅲのコックピットに身を投じ、OZ静浜基地を目指していた。

 

「反乱分子の破壊……私の、両親を奪った者達に……復讐を……!!!OZを破壊する!!!」

 

 半ば作られた記憶を刷り込まれ、憎悪に満ちた表情でモニターを睨むロニの姿がそこにあった。

 

 これまでにも幾多のアジア圏の紛争地域に介入し、単機で紛争を撲滅してきた狂気のガンダムであるサイコガンダムMk-Ⅲが遂に日本の領空内に侵入していた。

 

 フットユニットに組み込まれたミノフスキークラフトが巨大なる機体を浮遊させ、空中の進撃を可能にしているのだ。

 

 彼女をここまで仕立て上げたのは、マリーダにも屈辱を与えたあのベントナという男である。

 

 彼はDOMEシステムの開発にあたり、オーガスタ研究所へ送り出す被験体を自身で選別する為、日本の静岡市北部にあるムラサメ研究所に行っていた。

 

 ニュータイプの可能性や強化を施された冷凍冬眠の被検体達が並ぶ中、ベントナと助手達が彼らのデータを調べ続けていた。

 

「ドクターベントナ。やはりどれも優れたものばかりです……月のパトゥーリアのコアユニットの候補は……」

 

「くくくくっ、それに関してはもう月に運んだ。月面研究所に一任している……む」

 

 その時、タブレットデータベースを操作していたベントナの目にある名が止まった。

 

「クロエ……クローチェ。かつてペイルライダーと呼称される機体の実験体だった旧ジオンの捕虜だったものか……君、候補にピックアップだ……くひっひっひひ」

 

「はい」

 

「それとな……私はこういう、うら若き乙女の強化人間の体の堪能と強化人間の人生を潰し上げる私的快楽感をもっているんだよ……ひーひひひひ!!!またマリーダ・クルスをいじりたいなぁ……ひひひひひーひひ!!!」

 

「はぁ……(噂以上にヤバイドクターだ……)」

 

 一方の月面極秘研究施設においても、パトゥーリアへのコアユニット候補の被検体が到着し、居合わせている研究員達に抜擢されようとしていた。

 

 ここにおいても彼らは冷凍冬眠状態で保管される形に晒されていた。

 

「リタ・ベルナル……地球で色々と選別した結果、この少女か……不足はない!!!」

 

「これも月の女帝ミズ・マーサの指示か?」

 

「あぁ。いつでも起動できるように早急に急げとのことだ……またヒステリー起こして、二転三転しそうだがな……」

 

「記録されていたら消される発言だぞ、お前。命が惜しかったら余分な発言は控えろ……」

 

 地球と月とでマーサの関わる黒い動きがうごめく中、成層圏においてOZプライズの勢力が大きく動く様相を見せていた。

 

 継続され続けるオペレーション・ノヴァの一環で、シルヴァ・ビルゴやサジタリウスαとβの三機種のMDを乗せた輸送降下船が世界各地のOZ結集地に向けて発進準備の段階に差し掛かっていた。

 

 無論、OZ静浜基地もその標的の一つとなっており、これらが降下すれば焼津市・藤枝市は間違いなく戦場と化す状況かであった。

 

 そして日が変わり、朝日が安定の輝きを照らす。

 

 ヒイロは寝ているマリーダの傍を後にし、やり残していたウィングガンダム・ゼロの整備を急ピッチで進めていた。

 

 夜を徹して作業が進められたクシャトリヤ・リペアードの改修作業もまた、最終点検が成されていた。

 

 リオズが担当していたメインカメラも無事に作動し、全周モニターも正常に作動していた。

 

 そして夜間の戦闘から休息していたヒイロ達以外の各Gマイスター達も戦闘前の朝食をとりながら戦闘に備える姿が見受けられた。 

 

 日本時間の午前9時、OZ静浜基地及び周辺一帯を占拠しているOZMS部隊のリーダーが宣言を上げた。

 

「日本のみなさん、おはようございます!!!私はOZ所属のイヅミ・ターノフ上級特尉です!!連日この場を占拠してしまい申し訳なく思っている!!!だが、これはあなた方民衆を目覚めさせるためにしてきたのです!!!」

 

 その宣言はOZ静浜基地のみならず、各地で同じように決起したOZの士官達が民衆に対して呼びかけていた。

 

 それは直接聞く者、ネットワークで視聴する者、テレビ媒体やラジオで視聴する者、立ち会った全ての民衆に発信されていた。

 

「我々OZは、内部から派生し新たに台頭したOZプライズのやり方に極めて強く危険視しています!!!島国のオーブ首長国がOZプライズに占領され、彼らによる多大なるジェノサイドが行われていたということを、あなたはご存じか?!!我々と同じ志を持つ、OZ兵士達を切り捨て、無人兵器MDによるジェノサイドが行われていることをご存じか?!!非人道な人体実験を施された人間を戦争の道具のように使かい、世界の闇で死んでいっている者達がいることをご存じか?!!OZプライズが保有する戦略兵器・バルジⅡによって大量のコロニーが破壊され、多大なるコロニー市民に犠牲者が出た事をご存じか?!!全てこれらは、情報工作・偏向報道によって捻じ曲げられ、あなた方民衆に知られないように仕組まれてきたのです!!!」

 

 彼らのその行動はある意味でオペレーション・プレアデスの再現でもあり、状況は正にオペレーション・プレアデス対オペレーション・ノヴァであった。

 

 OZプライズのやり方の警鐘を促すために各地で決起したOZと、それを力で潰さんとするOZプライズとの同時多発の衝突の火蓋が切られようとしていた。

 

 

 

To Be Next Episode

 

 

 

 次回予告

 

 

 焼津市と藤枝市を跨ぎ、イヅミ・ターノフを中心にしたOZの大部隊がOZ静浜基地を占拠した。

 

 それは悪質な侵攻や支配やジェノサイドを行うOZプライズへの武装蜂起と民衆達への現状からの覚醒の為だった。

 

 ネットワークを通じ、世界各地でOZとOZプライズの戦闘が起き、イヅミ・ターノフ達にもオペレーション・ノヴァの一環で降下するMD大部隊が押し寄せ、凄まじき攻防戦が日本の地に巻き起こる。

 

 その戦場にロニが乗り込んだサイコガンダムMk-Ⅲが向かい、近辺エリアのムラサメ研究所ではベントナの愚行が迫害を加速させる。

 

 ヒイロ達がその負の空間がうずめく三ケ所に武力介入を開始する中で、カトルは編成を組んだマリーダと共に、長きに渡り会えなかったロニと遂に再会する。

 

 しかしそれは決して喜ばしい形の再会ではなかった。

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード 46「悲痛なる再会」

 

 



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エピソード46「悲痛なる再会」

 

 

 OZ静浜基地に結集していたイヅミ・ターノフ上級特尉を中心とするOZの決起部隊は、共通回線放送を通じて民衆にOZプライズの危険性を呼びかける。

 

 それは避難シェルターにいる者達や、実際に居合わせて聞く者達、ネットワーク上で視聴する者達などにも行き届き、リアルタイム配信故に情報工作が付け入る隙もない。

 

 更にネットワーク上では保守派支持者……旧世紀の言い方でネトウヨに該当する者達もOZプライズを非難する声を上げていた。

 

 だが、OZプライズは力を持ってして全てを潰そうとオペレーション・ノヴァを決行し続け、世界各地で同じく決起したOZの部隊へMD部隊を送り込んでいく。

 

 OZルクセンブルク基地を中心に、OZメルボルン基地やOZローマ基地、OZブリュッセル基地、OZシアトル基地といった各所にMD部隊が宇宙から飛来し、オートでの殺戮を開始する。

 

 旧連邦が鹵獲したドーベンウルフをベースに造ったシルヴァ・バレトをOZが接収し、更に新規にそれを再設計した上で建造されたMD、シルヴァ・ビルゴ。

 

 黒色かつ重厚な無情のマリオネット達がビームランチャーを発射し続け、リーオーやエアリーズ達を圧倒していく。

 

 更に同MD・サジタリウスα、βの部隊も降下し、ビームカノンやパーシスター・ビームライフルでゴリ押しの圧倒的な一斉射撃を展開していった。

 

 OZサイドのリーオーも負けじと、ドーバーバスターやビームバズーカ、ドーバーガンといった重火力武装を駆使して抵抗し、エアリーズも上位互換機であったオーバーエアリーズ仕様に強化されて運用していた。

 

 ビームライフルがはしり、メタルミサイルが一斉にMD部隊へと向かう。

 

 だが、メタルミサイルはビームランチャーやビームカノンのビーム渦流に呑まれ、パーシスター・ビームライフルに次々と精密狙撃されてしまう。

 

「くっそっっ!!!MDめ!!!だが、こちらも火力はそれなりにあ……があああああ!!!」

 

 エアリーズ部隊が次々とビーム渦流や高出力ビーム焼灼によって撃ち墜とされる中、リーオー部隊がドーバーバスターやビームバスーカで僅かに善戦の傾向を示す。

 

「戦いは……戦い続けてこそ意義があるものなのだ!!!トレーズ閣下が仰っていたっっ!!!」

 

 しかし、OZ側の攻勢の優位もまたつかの間であり、サジタリウスβの展開するプラネイトディフェンサーに阻まれてしまう。

 

 その上で絶え間なく上空と地上から高出力のビーム渦流群や高出力ビームが押し寄せる。

 

 戦場は理不尽の戦場以外になく、実質攻略不可能に近かった。

 

 このような状況がOZ静浜基地にも迫ろうとしていた。

 

 イヅミ・ターノフはその状況下においても民衆への訴えをやめていなかった。

 

「……このままでは、OZプライズの圧制的な支配を許してしまう!!!民衆の一人一人が危機感を認識し合い、立ち上がるべきなのだ!!!あなた方は戦士ではない!!!武器を持たない方法で闘うのだ!!!正直に言えば、我々もかつては支配を促進する側であった……だが、OZプライズのやり方ではなかった……!!!」

 

 焼津市と藤枝市、はたまた隣接する静岡市や島田市も戦場になる可能性は濃厚である。

 

 まだ避難をしていなかった民衆たちが避難を始めていく。

 

 だが中にはまだ尚平和ボケのまま自宅に居続けるものもいた。

 

 緊迫する状況の中で、このエリアに関しては更なる脅威が迫っていた。

 

 サイコガンダムMk-Ⅲ……ロニが搭乗させられた機体が北西方面より接近していたのだ。

 

 それを操縦するロニは、息遣いを荒くし、興奮状態に入っている様子を見せる。

 

「はぁぁっっ、はぁああっ、はああっ……潰すっ……OZを潰す……邪魔する奴はみんな……私の戦いだ、これは!!!」

 

 ロニはこれまでに渡り廻った戦場を脳裏でフィードバックさせる。

 

 ジオンや連邦軍を問わず、様々な機種が入り乱れるゲリラ勢力のMS達を悉くサイコガンダムMk-Ⅲの圧倒的な火力が吹き飛ばしていく。

 

 胸部三連メガ粒子バスターや連動発射される腹部メガ粒子バスター、左右のショルダー集束拡散メガ粒子バスター、荷粒子フィンガーキャノン、脚部三連メガ粒子バスター、肩甲上部と側胸部の三連荷粒子砲……これらを駆使しての一方的な蹂躙殺戮。

 

 それらの記憶が今の彼女に流れ続けていた。

 

 ベントナからの執拗な施しに、ロニは完全な戦闘マシーンになり果ててしまっていた。

 

 その脅威は歴代のサイコガンダムの中でも最強クラスに入るであろう。

 

 ロニは震えながらため息を吐くと、荒かった呼吸が安定するのを感じた。

 

「はぁぁ……ぁぁ……ぁっ……ふぅ……私は、お父様とお母様の仇をとらなきゃならない……だから……」

 

 確かにロニの父・マハディは実際にはテロリストに殺され、母親はロニが幼い頃に病死している。

 

 彼女に両親がいない身の上であることは事実であった。

 

 ベントナはそれをいいことに記憶操作を執拗に施していたのだ。

 

 両親は旧ジオンの人間であり、OZによって虐殺されたという偽りの記憶情報だ。

 

 その偽りの憎悪が彼女の動力源であった。

 

 そのような中、遂に青空が一面に広がる焼津市上空の彼方よりOZプライズのMD輸送艦艇が姿を見せた。

 

 下部ハッチが開き、次々とシルヴァ・ビルゴ各機が投下されていく。

 

 その状況がイヅミ・ターノフ特尉へと伝えられた。

 

「イヅミ・ターノフ特尉!!!上空よりOZプライズのMDが!!!」

 

「……ついに来たか……全機、対空一斉射撃準備……!!!」

 

 OZ静浜基地やその周辺一帯に配置されたリーオーやエアリーズが、一斉に対空角度へと持てる武装を構えた。

 

「降下中の先制攻撃だっ!!!全機、撃ち方はじめっっ!!!」

 

 

 

 ♪BGM POSSIBILITY(ガンダム00より)

 

 

 

 降下中のMD部隊や輸送艦艇に向かい、先制の対空砲火の一斉射撃が刊行される。

 

 何十、何百発のドーバーバスターやドーバーガン、メタルミサイル群が空に吸い込まれていく壮絶な光景となった。

 

 言い換えれば旧世紀の大戦以降では、その地で初めて開かれる戦端であった。

 

 輸送艦艇は着弾距離よりも程遠い位置を航行していたが、降下中の戦闘態勢移行直前のシルヴァ・ビルゴやサジタリウスα、βの装甲に直撃を果たしていく。

 

 だが、低純度とはいえガンダニュウム合金を採用しているが為、装甲の半壊で止まっていた。

 

 その間にもMD部隊のシステムが戦闘モードに移行し、攻撃を躱しながら、またはプラネイトディフェンサーを展開しながら次々と攻め入る。

 

 だがこれにメタルミサイル群が中り、体勢を崩させるファクターとしての働きを見せた。

 

「撃ち続けろ!!!火力の限り撃ち続けるんだ!!!降下される前に撃ち落とせ!!!」

 

 イヅミ・ターノフ率いるOZの部隊はエアリーズ部隊が先行した他のエリアとは異なり、全ての機体が重火力で対空砲火を行っていた。

 

 それが戦局に影響を与え、遂には撃墜されるMDも現れ始めて来ていた。

 

「MDが地上に降り立てば……間違いなく一帯は焦土と化す……無論その危険性を被ったのは我々だ……だが、ここまでしなければ奴らのしたたかな情報操作は打破できなかった!!!ここまでしなければ、民衆にも強く訴えることができなかった!!!何としても……着地させるな!!!」

 

 イヅミ・ターノフの判断は、攻めは最強の防御という言葉を証明させていた。

 

 だがこの程度で引き下がるOZプライズではない。

 

 現時点では一次降下部隊の一部を撃破していく状況にあり、既に成層圏からは二次、三次降下部隊が大気圏突入を開始していた。

 

「第一次降下部隊からの連絡で、他のエリアとは一線を画す想定以上の抵抗に阻まれているとのことです!!!」

 

「たかが地方都市の基地に集まった奴らだぞ?!!なめられたものだ……我々の力を思い知らす……!!!第四次までの予定の降下部隊を第八次までに拡大すると伝えろ!!!」

 

「はっ!!」

 

 連続するドーバーバスターの直撃で先行するシルヴァ・ビルゴが立て続けに爆散する中、OZサイドにも上空からの高出力ビーム群が降り注ぐようになり、破壊されるMS達も出始めた。

 

 その攻撃は、公共施設や住宅街を巻き込んで破壊していく。

 

 破壊されていく割合と増援のバランスがじわりじわりと狂い始めようとしていた。

 

「イヅミ特尉!!!遂に被弾被害が!!!」

 

「怯むな!!!闘う姿勢を世界に示し、伝えなければならない!!!攻め続けろ!!!」

 

「はっ!!!」

 

 イヅミ機のリーオーが放ったドーバーバスターのビーム渦流はサジタリウスαの胸部を直撃する。

 

 更にプラネイトディフェンサーが展開される前にサジタリウスβのビームカノンと胸部を破壊してみせた。

 

 絶え間無い対空砲火は、深部に降下すればする程破壊率を上げていた。

 

 この状況下の一方でヒイロ達は出撃準備の為にMSデッキへと向かっていた。

 

 更にヒイロの隣にはノーマルスーツのマリーダの姿があった。

 

 その最中の会話でヒイロは重要事項を先にカトルに伝える。

 

「カトル……お前は向かってきているサイコガンダムMk-Ⅲに向かえ」

 

「え?!!」

 

「ミーティングでお前の機体に戦闘指揮効率を上げるためにゼロシステムのコピーデータを組み込んだと伝えたが、それも使わなくていい。ロニ・ガーベイを助けてこい。表向きにはオペレーション・ノヴァの妨害だが、今回の戦いはお前とロニの為でもある」

 

「ヒイロ……ありがとう!!!」

 

「それに、マリーダも協力してくれる……」

 

「マリーダさんも?!!」

 

 するとマリーダもまたその会話に便乗するように加わる。

 

「あぁ。昨夜ヒイロからロニの名を聞かされてな……私とロニは、地球でのダカール攻略戦の時に知り合って意気投合した間柄……私の数少ない友人だ。そのこともあり今回から私も戦闘に復帰することにした。彼女の救出に協力する」

 

「マリーダさん……!!!そうだったんですね!!!ありがとうございます!!!でも、体調の方は大丈夫なんですか?」

 

「気遣いありがとう。だが、多少の無理なら大丈夫だ。そんなに私はキャシャじゃない」

 

「ははは……すみません。それじゃあ、僕に付いてきてください。色々な意味で援護よろしくお願いします!!!」

 

「ああ。こちらこそよろしく頼む。共にロニを助けるぞ」

 

「はい!!」

 

 そこへトロワがカトルの肩に手をかけた。

 

「以前にも言ったように、こっちは任せておけ。変に責任感を持たなくていい。存分にロニを助けに行ってこい」

 

「うん!!ありがとう、トロワ!!」

 

 普段見慣れない会話にデュオが唐突に会話を突っ込み、トロワもまた珍しく意見を賛同する。

 

「しっかし、意外とこのメンバーって揃いそうで揃わなかったよなぁ~。なんか今更こう……新鮮だぜ!!!」

 

「ふっ……確かにな」

 

 デュオいわく、ヒイロ達Gマイスターとマリーダとが共に出撃していくというシチュエーションは今までになかった。

 

 共通するのは互いに戦う為に戦士になっているということ。

 

 マリーダも改めて共通仲間意識を共有できていると思えていた。

 

「確かに、ヒイロの仲間たちとこうして共に出撃するのは今までなかったな。みんな、改めてよろしく頼む」

 

「あぁ!!こっちこそ改めてよろしくなぁ、マリーダ!!逃げも隠れもするが嘘は言わない、デュオ・マックスウェルだ!!」

 

「トロワ・バートンだ」

 

「俺は正規にGマイスターではないが、マフティー・ナビーユ・エリンだ……お互いにニュータイプかな?」

 

「いや……私は造られた強化人間だ。いわば人工ニュータイプ……」

 

「俺はそうは思わない。ニュータイプであっても、強化人間であっても人は革新するものと思っている……可能性を決めつけるのはよくない」

 

 マフティーにそう言われたマリーダは以前に似たことをヒイロに言われたのを思い出した。

 

「なるほど……確かに一理あるか……そういうマフティーも自分はGマイスターではないと決めつけていないか?」

 

「え?!」

 

「そーだぜ!!今やマフティーだって立派なGマイスターだ!!!乗ってるガンダムは昔は色々と苦しめられたガンダムだけどな!!!」

 

「Ξガンダムが??君達を??」

 

「Ξガンダムが連邦やOZ側に就いていていた頃、幾度か戦闘になり苦戦させられた。良くも悪くも因縁があるガンダムだ……だが、今はマフティーのガンダムだ。問題はない。今の俺達の敵はOZプライズだ……」

 

 トロワのその言葉にマフティーは改めて自分の居場所を認識した。

 

「そうか……ありがとう」

 

 少しの間だけ瞳を閉じながらマフティーは笑みを見せた。

 

「他にもマフティーは知らない二人が宇宙にいる。いずれ会うことになるだろう……」

 

「それもまた楽しみだな」

 

 そして出撃間際の中、ヒイロが機体を起動させると共にゼロシステムが急遽起動した。

 

「?!!っゼロ……??!」

 

 ヒイロにフィードバックされた情報にはそれまでになかった予測情報が飛び込む。

 

 走馬燈の感覚で流れていくビジョンに、ムラサメ研究所の情報が流れている。

 

 その中で一人の少女が解体されていくビジョンが過った。

 

「助けて……誰かっっ……死にたくないっ!!!」

 

「ひーひひひひひ!!!」

 

「クロエ・クローチェ……かつてペイルライダーの被検体に選ばれ、冷凍冬眠保存されていた少女……非人道なサイコミュシステム、DOMEシステム……そして人体実験の元締めの男……ベントナ……っっ?!!」

 

 この時初めてベントナの所業の情報をヒイロは得ることになった。

 

「そうか……この男がマリーダを……万死に値する……!!!っっ!!?」

 

 間髪入れずに次なる情報が流れ込む中、襲い来るガンダムデルタカイの姿が現れ、そしてリディ・マーセナスの存在が過る。

 

「この機体……この男……!!!」

 

 ゼロシステムは更なる予測情報を流し込ませる。

 

「これはっ……!!!」

 

 それはガンダムデルタカイがオデル・バーネットのガンダムジェミナス・バーニアン02を破壊している場面であった。

 

 ここに至るまでの間にアディンやカトル達から聞かされた情報が実体験をするかのように伝わる。

 

「……このようにして……オデルを……リディ・マーセナス……っ、何っ?!!」

 

 次に見せてきたイメージに両腕を広げるように構えたクシャトリヤが映った。

 

 その中心部にビーム渦流が注がれ、悟るような笑みで消えていくマリーダの姿がヒイロのビジョンに飛び込む。

 

 以前にもゼロシステムに見せられている未来の可能性の一つの映像だったが、この時の瞬間は妙な生々しさを感じてしまうものであった。

 

 以前のイメージからは感じなかった現実とゼロシステムの映像の判別がつかないほどまでのリアルな感覚がヒイロに及んだ。 

 

 以前よりも増してマリーダとの互いの想いを深め合った今のヒイロにとって、最もあってはならない状況だった。

 

「おおおおおおおおお!!!」

 

 その描写までは映し出されなかったが、そのビーム過流を放った者が誰かは直観的に解っていた。

 

 ゼロシステムの適任者であるにもかかわらず、ヒイロはフィードバック情報に呑まれ、現実と混同しながらMSデッキのハンガーを捥ぎ取ってまでツインバスターライフルを構えさせてしまった。

 

 突然の予期せぬ出来事にMSデッキがざわつく。

 

「おいおいおいおい!!!いきなり何やってんだよヒイロ!!?らしくねーぞ!!!」

 

 隣のMSハンガーブースからコックピットを飛び出してきたデュオが駆けつける。

 

 デュオの目に飛び込んだのはいつになく狼狽え気味になっていたヒイロだった。

 

 その状況からデュオは直ぐにゼロシステムによるものと見抜いた。

 

「っっ……!!!違うっっ!!!俺はっっ……そのような運命は破壊する!!!」

 

「おい、ヒイロ!!!適任者のお前がゼロシステムにやられたってのか?!!マジでらしくねえぞ!!!」

 

 ヒイロは荒くなった呼吸を整えながらデュオの肩に手をバンと乗せた。

 

「いってーな、おい!!」

 

「デュオ……ケネスに具申してくれ……俺達が出撃した後、ネェル・アーガマはムラサメ研究所に急行し、マグアナック隊やカトリーヌ達に制圧させろとな……そこで最悪な人体実験が成されようとしている。時間がない……俺は、お前達と共に戦いながら……介入してくる元凶を迎え撃つ……奴は……俺が叩く……奴が……マリーダに手をかける前に……!!!」

 

 そこでデュオは納得した。

 

「そうかい……愛しのマリーダがそんな目になっちまう情報をウィングゼロに見せられたのか……どーりでお前がらしくなくなるわけだ。今の俺にもその気持ちわかるからよ……オーブで実際に体験した。マリーダのナイトはお前しかいない!!その敵さんを迎え撃ってやんな!!」

 

「ああ、無論だ……それに、その敵はオデルを葬った奴だ。俺達の仲間だった……オデルをな!!!」

 

「何だって?!!そーかい……タコ殴りで地獄に送ってやるべきかねぇ??そのヤローは!!!!」

 

「いずれにせよ、俺達に牙を向けてくる奴だ……奴を貶めるには色々あるだろう。その時次第だ」

 

 すると遅れてヒイロの感情の異変を感じていたマリーダもそこへ駆けつけてきた。

 

「ヒイロ?!!一体、何があった?!!いつにない激しい感情を感じた!!!」

 

「マリーダっっ!!!」

 

「のあああああ?!!」

 

 ヒイロはデュオを押しのけながらマリーダに抱き着いた。

 

「ヒイロ?!!い、いくらなんでもここでは恥ずかしいぞ!!!」

 

「いつつつつ……どこまであいつゼロシステムにあてられちまったんだよ??!あ……あららら……はぁ~……今回大丈夫かよ……」

 

 デュオの目に飛び込んだのはウィングガンダム・ゼロの前でマリーダを抱きしめているヒイロの姿だった。

 

 異常とまでの光景にデュオは今回の出撃にものすごい憂いを感じざるを得なくなる。

 

 ヒイロはいつになくマリーダを強く抱きしめ、繰り返し呟いていた。

 

「俺は絶対にマリーダを死なせない……死なせはしない……死なせは……しないっっ!!!」

 

「ヒイロ……わかってる。お前が私を守ってくれることくらい……わかってる……らしくないぞ??いつもみたいに生意気なまでに不敵にいけばいい。いつもみたいにな」

 

 そう言いながらマリーダはヒイロに抱擁しその頭を撫で答えた。

 

 改めてコックピットに戻ったデュオは、髪をかき上げながら羨みの本音を吐露する。

 

「かー!!!ヒイロも出撃前から見せつけてくれるぜ、全くー!!!俺もいつかゲリラ抱擁方法でジュリとの距離でも詰めて抱き締めてやるかぁ?!!」

 

 因みに通信回線が各MS共通で繋がっていた為にデュオのその発言もまた、ヒイロとマリーダ以上に通通であった。

 

 M1アストレイで待機していたジュリは悶絶しながら顔を真っ赤にして激しい動きでじたばたとはしゃいでいた。

 

 一言入れようとモニター通信を入れたカトリーヌがその姿を見てしまう。

 

「よかったね、ジュリちゃん!!思った以上に進展できてて………って、ジュリちゃん……??」

 

「はっ……うひゃあああっ!!?カトリーヌちゃん?!!」

 

「……喜びの気持ちはすごーくわかったよ……またボク達の出番があるみたいだね。またがんばろ!!」

 

「う、うん!!がんばろ!!あははははは……」

 

 

 

 短時間で様々な展開がみられた後、改めてヒイロの意見具申がケネスに通り、オペレーション・ノヴァのMD降下部隊へ武力介入するチームやサイコガンダムMk-Ⅲを迎撃するチーム、ムラサメ研究所を制圧するチームに別れ、前者の二つのチームがネェル・アーガマから降下発進していった。

 

「ガンダム各機、及びクシャトリヤ・リペアード発進完了。それぞれのポイントへ移動を開始しました」

 

 エイーダがそう伝えると、ケネスは頷きながら指示を出した。

 

「うむ……では、本艦は静岡市北部のムラサメ研究所を目指す!!機関を最大!!マグアナックチーム、M1アストレイは降下準備に備え!!」

 

 OZ静浜基地及びその周辺一帯のエリアで繰り広げられる対空対地攻防戦に第二次降下部隊が増援として降下を開始していた。

 

 一方的に降下した第一次MD部隊も半数余りの機体が残存しており、徐々に侵攻を進めていく。

 

 その間に第二次降下部隊は上空を旋回しながらMD部隊を降下させていった。

 

 プラネイトディフェンサーを展開できるサジタリウスβを先行して降下させ、対空射撃に対抗する。

 

 第一次降下部隊も大半がサジタリウスβとそれと対に編成されているサジタリウスαが残っていた。

 

 サジタリウスβで防御と攻撃の両方を慣行しながら攻め入り、その後にシルヴァ・ビルゴを降下させて制圧していく方向に切り替えていく。

 

 更に大気圏突入を終えた第三次、第四次降下部隊も加わり、更なるMD部隊が投入された。

 

 リーオーやエアリーズの攻撃はサジタリウスβのプラネイトディフェンサーに阻まれ、次第に劣勢の色が迫りを見せてくる。

 

「攻撃が……遮断されている?!!くそおお!!!」

 

「イヅミ特尉!!!包囲するような形で奴らが降下をはじめています!!!」

 

「MDも地上に着地し始めている機体も……ぐああああ!!!」

 

 サジタリウスβのビームカノンと同αのパーシスター・ビームライフルの攻勢がいよいよ上空と地上双方から攻め入るようになり、それらを突破口にしてシルヴァ・ビルゴがビームランチャーの射撃一辺倒で攻め入る。

 

「更に増援が……!!!上空より飛来……MDの数は……ぐおああああ!!!」

 

「くっっ……初手は持ちこたえれると思ったが……やはり数で勝るか……!!!おのれ……OZプライズ!!!貴様らはOZであってOZではないっ!!!」

 

 イヅミ特尉は、降下を開始する多数のMDの攻撃を恨めしき眼差しで見上げた。

 

 上空より放たれるビームカノンやパーシスター・ビームライフル、地上より攻め入るビームランチャーの攻撃。

 

 案の定それは民間施設に容赦なく及ぶ。

 

 災害ではなく人の手により、民衆の営みの地が破壊されていく。

 

 降下部隊は第三次部隊までが降下を終了させ、次々と上空よりMDの力の波が押し寄せていた。

 

「……っっやはりっ、無意味なのか?!!いやっ……戦い続けてこそ、戦い続けてこそ意義があるのだ!!!」

 

 イヅミ特尉がそう叫んだその上空にはびこるMDの群れの側方より、一線の極太なビーム渦流がはしる。

 

 それは多数機のMDをビーム渦流に呑見込み、一瞬で爆砕の嵐をまきおこした。

 

「な?!!あのビームは……まさかっ……?!!」

 

 その放たれたビーム渦流の方角からは、4機のガンダムとサーペントカスタムの姿があった。

 

「今のは挨拶代わりだ。次の一撃で本当の武力介入をする!!!」

 

 ギンと両眼を発光させたウィングガンダム・ゼロが、突き出し構えたツインバスターライフルをチャージさせて再度高出力ビーム渦流を叩き込む。

 

 凄まじきエネルギーのプラズマ奔流を撒き散らしながら直進するビーム渦流は、降下中のサジタリウスα、βとシルヴァ・ビルゴの三機種をランダムに呑み込み、悉く吹き飛ばしていく。

 

 プラズマ奔流の影響も受けた機体達もまた、次々に爆散させていった。

 

 この攻撃を皮切りに、MD部隊は一斉に自動でターゲットを切り替え、ガンダムに攻撃対象を移した。

 

 サジタリウスβの機体群がプラネイトディフェンサーを展開しながらビームカノンを放ち、サジタリウスαがその後方からパーシスター・ビームライフルを撃ち注ぐ。

 

 シルヴァ・ビルゴの機群も一斉にガンダムへの攻勢に切り替えた。

 

 ヒイロは放たれた攻撃を全てゼロシステムで読み切り、ビーム群を躱しながらツインバスターライフルをロック・オンすると、ウィングガンダム・ゼロはα、β両機種のサジタリウス目掛けてチャージショットを撃ち飛ばす。

 

 また放たれる高出力ビーム渦流はプラネイトディフェンサーをも破壊し、サジタリウス達に加えてシルヴァ・ビルゴの機種も呑み込んだ。

 

 空を突き抜けるビーム渦流は再度爆砕の限りを尽くした。

 

「な、なんだ??!下で何が起きた!!?」

 

「大規模なビームにMD部隊が呑まれた!!!更に次々と撃墜されている!!!」

 

「ばかな……!!!まさか、奴らか?!!!奴らなのか!!?」

 

 MD輸送機が飛ぶ高高度から更に下方の空を見るMD輸送機搭乗員は確信した。

 

 ウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルを分離させ、二軸線上にチャージショットを解き放つ。

 

 二分したビーム渦流は更なる破壊を促進させ、瞬く間にMD達の戦闘態勢を崩壊させた。

 

 バラバラに行動し始めたMD達は状況処理に追いつけない様子を見せていた。

 

 その渦中へとガンダムヘビーアームズ改とサーペントが重火器射撃を放ち、Ξガンダムがビームバスターとショルダービームバスターを組み合わせた射撃をしながら突き進む。

 

「大々的な突破口の後に分散する敵戦力に重火力射撃を叩き込む……!!!」

 

「久々の派手な戦場だ!!!」

 

「これもまた、生き残ったマフティーとしての粛清の一つだ!!!」

 

 ガンダムヘビーアームズ改は、ダブルビームガトリングにアームバスターカノン、バスターガトリングキャノンを主とした射撃で猛進する。

 

 シルヴァ・ビルゴやサジタリウスα、プラネイトディフェンサー展開前のサジタリウスβを爆砕・粉砕させ次々と立て続けに撃破していく。

 

 サーペントカスタムも両手に構えたダブルガトリングのゴリ押し射撃で次々とMDを撃墜させていた。

 

 Ξガンダムもまたビームバスターと、組み合わせるショルダービームバスターの高出力ビームを放ち続け、MD達を次々と卓越した銃捌きで撃ち仕留めてみせる。

 

 ウィングガンダム・ゼロも攻撃方を低中出力に切り替えたツインバスターライフルの射撃で敵機を撃破しはじめる。

 

 そしてガンダムヘビーアームズ改もまた、アームバスターカノンの低出力の連発射撃に射撃方を切り替え、それを合図にするように各部のミサイルハッチをオープンさせた。

 

「ファンネルミサイルも同時に合わせてくれ、マフティー」

 

「了解した。ファンネルミサイルっっ!!!」

 

 ファンネルミサイルが解き放たれるいっぽうで、加速したガンダムヘビーアームズ改が敵機群の最中でフルオープンを放った。

 

 近距離に迫っていたシルヴァ・ビルゴやサジタリウスαがブレストガトリングに粉砕され、両肩のホーミングミサイルと両脚部のマイクロミサイル、左舷バックパックに追加装備されたのマイクロミサイルが、一気に撃ち飛ばされる。

 

 同時にファンネルミサイルが超高速で突き進み、次々とオールレンジ方向からMDに襲い掛かって個々に穿ち貫いていく。

 

 荒れ狂うミサイル群の爆発の中、ガンダムヘビーアームズ改とサーペントカスタム、Ξガンダムの射撃が更なる撃墜を重ねていく。

 

 だが、いよいよプラネイトディフェンサーを展開し始めたサジタリウスβにはこれが通用しなくなっていく。

 

 その中へとガンダムデスサイズ・ヘルが飛び込みにかかる。

 

「さぁ、さぁ、さぁ!!!盛大な突破口が開いたところで斬り刻んでいこうぜぇええぇぇ!!!」

 

 敵の放つビーム群を躱し、時折アクティブクロークで防御しながらガンダムデスサイズ・ヘルが斬り刻みにかかる。

 

 アームド・ツインビームサイズで袈裟斬りと薙ぎを連続で叩き込んでサジタリウスβとαを斬り刻み、更に回り込むように次のサジタリウスα、βを一撃で同時に斬り飛ばす。

 

 その爆発を尻目に次のサジタリウスαに飛びかかり、胸部に目掛けてバスターシールド・アローを殴るように突き刺した。

 

 更に隣接するようにいたサジタリウスβに突き刺したサジタリウスαをぶち当て、アームド・ツインビームサイズの回し斬りで2機を同時に撃破。

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルは、その勢いをのせたままシルヴァ・ビルゴに接近し、3機同時にアームド・ツインビームサイズの薙ぎ斬撃で斬り飛ばし、多重爆破を巻き起こした。

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルの斬撃乱舞が次々とMDを圧倒して破壊を連続的に連ならさせていく。

 

 Ξガンダムとガンダムヘビーアームズ改、サーペントカスタムは、プラネイトディフェンサーには死角から回り込んでの斬撃と射撃で対処し、ウィングガンダム・ゼロに関しては問答無用のツインバスターライフルの高出力射撃でかき消すように破砕させてみせる。

 

 この武力介入は第四次降下部隊と第三次降下部隊の一部に多大なる損害を与えていた。

 

 戦闘状況をゼロシステムで先読みしたヒイロは、第五次以降の存在も知り、デュオ達へと伝える。

 

「まだまだ奴らはここへ押し寄せる気だ……俺は空中で迎撃する。デュオ、トロワ、ラルフ、マフティーはまだ展開している降下済みのMDを叩いてくれ!!!」

 

「あいよぉ!!!」

 

「了解した」

 

「オーライ!!」

 

「わかった」

 

 地上へと降下していく仲間達の機体を見送ったヒイロは全周の敵機群をロック・オンし、その操作に伴ってウィングガンダム・ゼロは二挺のツインバスターライフルを左右に広げさせた。

 

「これで第四次降下部隊は全滅する!!!」

 

 チャージされながら放たれたツインバスターライフルのビーム渦流が両端のMD部隊三機種を一気に呑みこんで吹き飛ばす。

 

 そして機体を自転回転させながらの、ローリング・ツインバスターライフルの攻撃方法で次々と破砕・爆砕・撃破の限りを尽くしていく。

 

 回転するビーム渦流が巻き起こす破壊旋風は、周囲一帯一面を爆発の華で溢れかえらせた。

 

 一方のサイコガンダムMk-Ⅲ迎撃に向かうカトルとマリーダにも、その存在に反応した一部のMD部隊が攻撃を掛けに襲撃していた。

 

「はあああああっっ!!!」

 

 カトルのいつに無い気迫を乗せるように、ガンダムサンドロック改はクロスクラッシャーの薙ぎの一線でシルヴァ・ビルゴの胸部を裂断させ、もう1機をバスターショーテルで叩き斬り伏せる。

 

 そして力強く殴るようにクロスクラッシャーの一撃を次のシルヴァビルゴに食らわす。

 

 それと同時にヒートショーテルの両刃で挟み込み、斬り潰しながら零距離のビームマシンガンを叩き込んだ。

 

 その爆発を突き抜け、サジタリウスαの射撃を躱しながらビームマシンガンで反撃かつ撃墜し、サジタリウスβをバスターショーテルで叩き斬ってみせた。

 

「流石、ヒイロ達のガンダムだけある。見事な一騎当千だ。さぁ、生まれ変わったクシャトリヤもいくぞ!!!」

 

 クシャトリヤ・リペアードのメインカメラがマリーダの意志のごとく光り、両肩の後部ジョイントに新たに装備されたGNDコンデンサーブースターで機体を加速させた。

 

 ビームトマホークを発動させ、それを押し当てるようにしてシルヴァ・ビルゴへと斬り込む。

 

 食い込んだ部位が焼灼され、その流れに乗るように振り払うように斬撃した。

 

 斬り潰されたシルヴァ・ビルゴが地上へと落下し爆発する。

 

 上方からくるパーシスター・ビームライフルやビームカノンを躱し、ライトレッグがフレキシブルに可動し、レッグフレームに内蔵されたビームガトリングがサジタリウス部隊を自動ロックオン追尾し、ビームの高速射撃を撃ち放つ。

 

 何機かを撃破した後も、自動追尾しながらビームの弾幕を撃ち続ける。

 

 その間に対角二門のメガ粒子ブラスターがチャージされ、一気に高出力ビーム渦流が撃ち飛ばされる。

 

 一挙にその二軸のビーム渦流は、4機のサジタリウスα、βを破砕させた。

 

 次に来るビームを感じ取ったマリーダは機体を上昇させて躱してみせる。

 

「すごい瞬発的な加速……!!!前よりも機動性が上がっているな……!!!」

 

 マリーダは襲い来るビームを躱しながらその機動性を短時間で感覚を掴んでいく。

 

「……本当に人形だな、MDというのは。何も感じれない……斬り込むまでだ!!!」

 

 クシャトリヤ・リペアードはビームトマホークを薙ぎ払い、残存するシルヴァ・ビルゴを破砕させた。

 

「ふぅっ……お見事です!!流石ですね、マリーダさん!!」

 

 カトルの方も残存機のシルヴァ・ビルゴをクロスクラッシャーで破壊し終えると、マリーダの戦いぶりを称賛する。

 

「カトルの方こそ流石だ。やはり、お前達の技術はすごい。テクニックも、MSも……この重力下でクシャトリヤにこれ程に機動性を与えてくれる機体に仕上げるなんてな」

 

「そうですか!!クシャトリヤの仕上がり、喜んでいただけたようでよかったです!!とは言っても、僕が直接仕上げたわけではないのですが……」

 

「ふふっ……いずれにせよ感謝している……」

 

 マリーダは、瞳を閉じながら笑みを浮かばせて礼を述べると、カトルにサイコガンダムMk-Ⅲとの接触に関する意見を強めた。

 

「ところでカトル。ロニのコトに関してだが、ウィングゼロからの情報を基準にするより、リアルタイムで私が彼女を感じながら向かった方が効率がいいはずだ。ヒイロは敢えて私の力抜きで事を運ぼうとしていたが、やはり私の力でここは行くべきと考える」

 

「なるほど……それもそうですね!!確かに、マリーダさんは力をお持ちです!!でも、なんでヒイロはそうしたんだろう?」

 

「くすっ……それは勿論決まっている。私の負担を考えてくれたからだ。ほんの少し考えればわかることだ……では行こうか」

 

「はいっ!!お願いします!!!(相変わらず、ヒイロは優しいな。二人の間柄を見ていると羨ましくさえ感じてしまう。でも!!僕もロニが戻ったら……きっと!!!)」

 

 マリーダは素直にロニと思われる感覚を感じる方角へとクシャトリヤ・リペアードを向かわせた。

 

 機体の操縦と共に、マリーダは自身のニュータイプ能力を可能な限り研ぎ澄ませる。

 

「……ロニ……確かにこの方角で間違いない。彼女を感じる……けど、この感じは……決していい感覚じゃない……!!!」

 

 マリーダが遠方のロニから感じた感覚……それはついこの前までに味わされた苦痛の感覚、否、それ以上の苦痛だ。

 

「え?!!それって一体……どういう事なんですかっ?!!!」

 

「感覚を研ぎ澄ませると、かなりの負の苦痛を感じる。きっとサイコガンダムの悪影響や色々な人体実験をされている可能性が極めて高い!!!」

 

「そんな……!!!」

 

「だが、カトル。どんなに非情な現実が彼女を取り巻いていようが、それも可能性として受け入れろ。君がコロニーのガンダムパイロットなら……できるはずだ」

 

「マリーダさん……ありがとうございます!!」

 

 機体をサイコガンダムMk-Ⅲに向けて加速させる中、マリーダはもう一つの方角からも負の感覚を感じ取っていた。

 

 (もう一方の方向からも嫌な負の感覚を感じる……ヒイロが具申したのはムラサメ研究所と言っていた……私のような目に遭ってしまっている同胞たちがいる……しかもこの感覚は……やつか……思い出したくもないッッ!!!!)

 

 マリーダが感じた感覚……それはベントナの感覚であった。

 

 マリーダに対し強化人間の人体実験はおろか、私的欲望を満たす対象としても汚させられてきた。

 

 忌まわしいまでの汚らわしい記憶がマリーダの脳裏に過る。

 

 (ヒイロは敢えて私ではなく、マグアナックチームを向かわせた。ふッ……どこまで私に配慮してくれるんだろうか……きっと私が行っていたら憎悪のあまり同胞たちをも巻き込んでしまっていただろうな……)

 

 マリーダがヒイロの綿密なまでの彼女に対する配慮を痛感している一方、ムラサメ研究所ではDOMEシステムの被検体に選ばれてしまったクロエ・クローチェの冷凍冬眠解除の作業がなされていた。

 

 ベントナが卑屈な笑みを浮かばせながらその操作をし終えると、カプセルユニットが開き、全裸のクロエが姿を見せた。

 

「ほお……美しい……ククククク!!!」

 

 ベントナはいやらしい手つきで彼女の体に触れながら、ぼやけながら意識を取り戻した彼女に語り掛ける。

 

「う……う……」

 

「ヒヒヒヒヒッ……お目覚めだなア……喜べェ……お前は素晴らしい実験に抜擢されたんだァ……」

 

 生理的に不快なベントナの表情と行動に、クロエの意識は直ぐにハッキリしてそれを拒絶する。

 

「ひっ?!!いやあああッ!!!」

 

 直ぐにカプセルから逃げ出すクロエであったが、冷凍冬眠より間もない体が彼女の行動を縺れさせてしまう。

 

「あうッ!!!あっ……?!!やあああああ!!!」

 

 倒れた彼女に多勢に無勢で研究員たちが抑え込むと、ベントナはそこに歩み寄り、更なる最低な言動と行動に出た。

 

「これからお前はオーガスタに運ばれ、遺伝子レベルに解体される!!!その前にこの素晴らしい身体を私の好き勝手にさせてもらう……!!!」

 

「いやっっ、来るなっっ!!!離せ!!!離せぇえええええっっ!!!」

 

 汚らわしいその手がクロエに伸ばされたその同時タイミングで、ネェル・アーガマからラシード筆頭にムラサメ研究所に向かってマグアナックチームが降下・着地する。

 

 響き渡る地響きが、研究所をぐらつかせた。

 

「な、なんだ?!!」

 

 突如としての異常に狼狽えるベントナに、血相を変えた研究員が飛び込む。

 

「ドクターベントナ!!!外に、所属不明のMSが!!!」

 

「MSだと?!!」

 

 ムラサメ研究所上空にはネェル・アーガマが飛行しており、そこからマグアナックチームとネェル・アーガマ内にあったセッターに搭乗したネェル・アーガマクルー達が降り立っていたのだ。

 

 着地と共にラシードが指揮を執り、被験者達の救出行動を担当する者達に指示した。

 

「ゼロシステムの情報によれば、被検体にされている人々がいるとの事だ!!彼らの救出と研究員の捕縛を目的とする!!アブドゥル、アウダ、アフマド!!ネェル・アーガマクルー達と突入を頼む!!場合によっては抵抗の戦闘もあり得る!!そうなった場合、捕縛対象には足を狙って銃撃しろ!!!やむを得ないならば銃殺しても構わん!!!」

 

「了解!!!」

 

 アブドゥル達マグアナックチームがMSを降りて銃撃戦に備えた装備で走り出すと同時に、セッターに乗り込んでいた元特殊部隊や対人戦闘経験のあるネェル・アーガマクルー達も一斉に戦闘態勢で駆け出し、マグアナックチームと共に突入を開始する。

 

「突入!!!」

 

 その状況をモニターで見届けると、ラシードは左右にいるマグアナック・カトリーヌ機とM1アストレイに目を配りながら説明する。

 

「今回、カトリーヌ様とジュリ嬢は私と共にここで待機されていてください。MSによる抑止的圧力をこの施設にかける為です」

 

「うん、わかった!!」

 

「了解です……ラシードさん、被験者って……俗に言う強化人間っていう人達なんですよね?」

 

「はい……かつて引き起った幾つもの戦争の最中に生みだされた戦争の悪行の被害者及び犠牲者達です。非人道な者達の所業……我々の手が届けることができた今の機会が彼らを助け出すチャンスなのだと感じております……」

 

 その一方でムラサメ研究所内は騒然とした状況の中、ネェル・アーガマサイドの奇襲的な攻勢が展開されていく。

 

 マシンガンやアサルトライフルが放たれ、次々に研究員達の脚を狙い撃って行動不能に至らしめていく。

 

 マグアナックチームが先行して突入するその中でも、一際気合いを感じる男がいた。

 

「望みは薄い。だが、可能性はある……!!!」

 

 出くわす研究員達の足をアサルトライフルで狙い撃ち続け、行動の自由を次々に奪う。

 

 更に反撃を始めた研究員達には眉間や胸部に撃ち込んで仕留めて見せる。

 

「気合い入れてるな!!!あんた、名は?!」

 

 突入班の中でも異様なまでの気合いと銃捌きの彼に目を見張ったアウダが名を問いかけた。

 

「ヴィンセント。ヴィンセント・グライスナー!!元・ジオン、ネオジオンの兵士さ。俺には連邦側に捕虜にされてしまった想い人がいた……巡り回って来た当時の情報では強化人間施設に移送されたという情報を得た……」

 

 そう言いながらヴィンセントという男は次の戦闘態勢に入り、壁に隠れては銃撃してみせる。

 

 アブドゥルやアウダ、アフマドもそれに続いて銃撃をしていく。

 

「……どこまでが正しい情報かはわからなかったが……俺は抗った。だが、どうすることもできなかった……」

 

 そしてまたマグアナックチームと共に走り出し、銃撃をこなす。

 

「色々巡り巡ってネェル・アーガマにいるが、今回は場所が場所なだけに、もしかしたらと思えてね……!!!」

 

「なるほど……なっ!!!」

 

 アブドゥルは抵抗が激しくなる前に手榴弾を投げ、爆発を巻き起こさせる。

 

 彼らは再び駆け出して銃撃戦闘を押し進めた。

 

 その報はベントナにも伝えられた。

 

「当研究所内にも多数の侵入者が!!!歩兵戦を受けております!!!」

 

「くぅっ……!!!肝心な時に何故……!!!ぐあ?!!!」

 

 更に響く振動と破壊音。

 

 それはマグアナック2機とM1アストレイが放った牽制ビーム攻撃であった。

 

 幾度かの攻撃を与えながらラシードは外部音声に切り替えて、投降を呼び掛けた。

 

「ムラサメ研究所の者達に告ぐ!!!我々は、メテオ・ブレイクス・ヘル!!!貴様らが行っている非人道的ニュータイプ研究の阻止、及び被験者たちの救助、貴様たちの身柄拘束の為に来た!!!我々は既に貴様たちに対し包囲と歩兵戦を仕掛けている!!!抵抗は無意味だ!!!直ちに投降しろ!!!繰り返す!!直ちに投降しろ!!!」

 

 その最中にも、マグアナックチームやヴィンセント達歩兵班が鮮やかに施設内を制圧していく。

 

 その報がベントナがいる冷凍冬眠保存室へ更に通達される。

 

「だめです!!!奴らは次々となだれ込んできています!!!MSが無い今のこの施設には絶望的です!!!」

 

 思い通りにならない状況に苛立ち追い詰められたベントナは、狂った嗤いを上げながらクロエに対して愚行を凶行させた。

 

「ヒヒヒヒヒヒヒヒぃぃ!!!ヒヒヒヒ!!!ヒッヒヒヒッヒッヒイヒヒヒ!!!ただで終わるか!!!この小娘をむさぼり堪能し尽す!!!お前らも廻しまくれ!!!」

 

「やあああああああああああっっっ!!!いやいやいやっっっ、いやあああああああああ!!!」

 

 その身に振りかかるベントナ達の欲望に、悲痛なクロエの悲鳴が冷凍冬眠室に響き渡った。

 

 一方で、着陸したMD部隊がひしめくOZ静浜基地周辺及びその上空では、大気圏からの部隊を迎撃するヒイロと降り立ったデュオ達に別れての攻勢の嵐を圧し進める。

 

 空中で降下するMD部隊に対し、ウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルの二軸線のビーム渦流を浴びせ、大気圏内の降下部隊を壊滅に追いやっていく。

 

「大気圏内に侵入したMD部隊を壊滅させる……!!!」

 

 チャージを維持したまま、MD部隊が攻めてくる両極端方向にツインバスターライフルの銃口向けると、そのチャージから解放されたビーム渦流が一挙にMDの機体群を破砕・爆破・消滅させた。

 

 滑空するように市街地を飛行しながら、ガンダムデスサイズ・ヘルがバスターシールド・アローのショットをMD部隊に食らわせていき、次々にビームの刃が突き刺さり機能停止や爆破へと導く。

 

 そこから機体を減速させながらアクティブクロークを展開させ、アームド・ツインビームサイズをMD部隊に対して斬り込みまくる。

 

「ここからが本番だぁ!!!斬って、斬って、斬って、斬りっっまくるっっ!!!」

 

 死神の強力な二連刃が成す斬撃が、次々とMD部隊を裂断させて爆破させていった。

 

 その一方でガンダムヘビーアームズ改とサーペントカスタムは着地と同時にホバー走行に切り替えて、市街地を走る。

 

 走行を維持しながらガンダムヘビーアームズ改はダブルビームガトリングとアームバスターカノン、バスターガトリングキャノン、ブレストガトリングの射撃を、サーペントカスタムはGNDコンデンサーに切り替えたビーム弾でのダブルガトリングの二挺射撃を慣行させていく。

 

 振り向く前に、背後から立て続けに撃ち砕かれていくMD部隊。

 

 展開しているMS達に反撃の間を与えずに弾幕が一掃させていく。

 

 更にトロワとラルフは、OZ側のMSを巻き込まないように射撃していた。

 

「このまま地上に展開したMDを一掃する。ここまでくれば大した掃除じゃない」

 

「ああ。その分OZの連中に中てないように気遣う面倒があるがな。はっ、まさかあのOZを助ける時が来るなんてな……時代ってやつはどう転ぶかわからんな!!」

 

「ふっ……確かにな。今はOZではなくOZプライスとロームフェラ財団、そしてそれらを含めた全ての戦役の元凶の秘密結社・ブルーメンツが確実な敵だ」

 

 Ξガンダムもまた、滑空しながらのビームバスターの連続射撃の下にMD機達を次々に射抜いて爆砕させていく。

 

 その勢いを乗せた中、蹴りを1機のシルヴァ・ビルゴに食らわしながら機体を減速させ、周囲にファンネルミサイルを射出させながら意のままに周囲のMD部隊を削り砕けさせた。

 

 そして、正面上のMD部隊目掛けてショルダービームバスターをビームバスターと同時に射撃展開し、高速の高出力ビームの乱発が突破口をこじ開けてみせる。

 

「無人機での殺戮……どこまでも卑劣な手段をやりやがる……!!!」

 

 想像だにしなかったメテオ・ブレイクス・ヘルの介入に、OZ静浜基地召集していたOZ兵士達の誰もが驚愕していた。

 

「イヅミ特尉!!!メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムが介入!!!しかも、MDのみを攻撃しております!!!」

 

「何だと!!?確かか?!!」

 

「はい!!!我々への攻撃は一切見受けられません!!!」

 

 イヅミ特尉が改めてモニターを確認すると、ガンダムデスサイズ・ヘルの斬撃と刺突の乱舞や、ガンダムヘビーアームズ改とサーペントの重火力射撃、Ξガンダムのトリッキーな射撃が次々にシルヴァ・ビルゴやα、β両サジタリウスの機種群を駆逐していく映像が確認できた。

 

 更に彼らの機体は、OZサイドの領域内に突入すると、反転しながらの斬撃や射撃に転じたのだ。

 

 イヅミ特尉は確信せざるを得なかった。

 

「ここに集うOZ同志達よ、聞け!!!敵であるはずのメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムまでもが味方になってくれた!!!故に我々の行動は正しかったのだ!!!MDを駆逐せよ!!!」

 

「おおおおっ!!!」

 

 イヅミ特尉のその呼び掛けに集うOZ兵士の誰もが士気を上げ、攻勢に拍車がかかる。

 

 それまでに押され始めていた状況に変化が起こり、プラネイトディフェンサーを展開しているサジタリウスβ以外の撃破率が高まり始めた。

 

 それらのサジタリウスβの機体群には、3機のガンダムやサーペントが背後に回り込み、数機まとめての広範囲の薙ぎの斬撃や至近距離からの重火力・高速高出力射撃が中てられ、破砕へと導く。

 

「そらよぉっ!!!がら空きだぜっっ!!!」

 

「回り込めばその防御方法は無意味だ」

 

「チェックメイトのラッシュだ!!!」

 

「無人機ごときが生意気な防御をする!!!」

 

 更にその遥か上空では、ウィングガンダム・ゼロのローリング・ツインバスターライフルの大出力射撃が空中展開した第六次降下部隊のMDの過半数を一掃し、大量の破砕爆破の華を巻き起こしていた。

 

「第五MD降下部隊全滅。第六MD次降下部隊の七割を破壊。このまま壊滅させる」

 

 前方に再びチャージを開始させた二挺のツインバスターライフルの銃口をかざし、大出力の二軸のビーム渦流を撃ち飛ばした。

 

 

 

 一方、カトルとマリーダは、オクシズ方面より南下していたサイコガンダムMk-Ⅲと遂に相見えようとしていた。

 

「見えた!!!サイコガンダム……なんて巨大なガンダムなんだ……あれにロニが……!!!」

 

「負のオーラや感情にアテられている……!!!」

 

 ロニもまたガンダムサンドロック改とクシャトリヤ・リペアードの姿をモニターに捉えていたが、視認してもそれがカトルとマリーダと認識できないほどにまで記憶を操作させられていた。

 

「なんだ?!!あの機体は?!!邪魔をするなァアアア!!!」

 

 対面するや否やロニは殺意をむき出しにしながら2機に攻撃を仕掛け、胸部の三連メガ粒子バスターを撃ち放った。

 

「うわ?!!ロニぃぃっっ……!!!」

 

「やはり、記憶が操作されているか?!!本来の記憶があるのなら、私達の機体に見覚えがあるはず。それに躊躇なく攻撃を仕掛けた……!!!」

 

 ガンダムサンドロック改とクシャトリヤ・リペアードはその攻撃を躱すが、そのビーム渦流は山間部を抉り砕いて直進し、山間部をまたいでいた高速道路を通行していた自動車諸共吹き飛ばす。

 

 更に間髪入れずにフィンガーメガ粒子バスターを撃ち放ち、ガンダムサンドロック改とクシャトリヤ・リペアードをそれぞれ二手に狙い撃つ。

 

「ロニ!!!僕だ!!!カトルだよ!!!このガンダムを見てわからないのかい!!?」

 

 その攻撃を躱しながらカトルはサイコガンダムMk-Ⅲの通信回線に呼びかけを始めた。

 

 マリーダもまた強化の特性的に厳しさを感じながらも呼びかけをしながら躱す。

 

「私もだ!!!ダカールで出会い、その後に捕虜にされた牢獄で共に励まし合ったマリーダだ!!!思い出してくれ、ロニ!!!」

 

「貴様たちは何なんだぁあああああ!!??気安く呼ぶなっっ!!!何故か見ているだけで頭が痛くなるんだぁああああああああ!!!!」

 

 サイコガンダムMk-Ⅲは、三連ショルダービーキャノンも加えてメガ粒子を放ち始め、全火力を山間部目掛けて放ちまくる。

 

 その攻撃は更なる被害を拡大させ、先ほどの被害を免れていたはずの高速道路や古民家が立ち並んだ集落諸共、次々に周囲の山々を爆破・焼灼させてしまう。

 

「このままでは、無意味に被害を拡大させてしまうっっ!!!ロニ!!!やめてくれ!!!やっぱり、ダメなのか?!!そんなコトは……!!!!」

 

「闇雲に説得してしまっていてはかえって被害を拡大させてしまう……何か他に打つ手は……?!!」

 

 カトルとマリーダはある意味成す術がない状況に考えを巡らせる中で、ロニは攻撃と共に叫び出す。

 

「この先にいるんだ!!!!幼い頃に父と母を奪ったOZがあああああ!!!」

 

 それを聞いたカトルは、強い記憶操作を確信せざるを得なかった。

 

 ロニの実の母は幼少期になくなっており、父のマハディ・ガーベイはあの日、ロニの目の前でテロリストのギャプランに殺されたのだ。

 

 確かに裏での工作も当時のOZにより行われており、間接的にOZがマハディの命を奪った形にはなるのだが、今のロニの記憶には目の前でOZが両親を殺したという偽りの記憶を植え付けられていた。

 

「目の前で、奴らはMSで父と母を殺したんだぁあああああ!!!!」

 

 あからさまに聞かされる操作された記憶に対し、カトルは真実を伝えたい気持ちに耐え切れずに叫んで呼びかける。

 

「違うっっ!!!!違うんだ!!!!その記憶は偽りの記憶だ!!!君の母は僕達が幼い頃に病で亡くなられた!!!そして父であるマハディさんは、僕達がいる目の前でテロリストのギャプランに殺されてしまったじゃないかあっっ!!!」

 

 ガンダムサンドロック改を追うようにライトアームのフィンガーメガ粒子バスターが放たれ、周囲の山や道路、家屋が爆破焼灼されていく中、ガンダムサンドロック改は旋回軌道から瞬発的に加速してサイコガンダムMk-Ⅲの胸部に取りついた。

 

「カトル!!!うかつ過ぎる!!!胸部にはメガ粒子砲があるんだぞ!!!ロニ!!!私達の声を聴き続けてくれ!!!」

 

 マリーダが注意を引くことも兼ねてロニに呼びかけた直後、迫って来たサイコガンダムMk-Ⅲのレフトアームのパンチがクシャトリヤ・リペアードに直撃してしまう。

 

「聞き続けたら余計に頭が痛いんだァアアア!!!!」

 

 

 

 ガオオオオオオンッッッ!!!

 

 

 

「くううううっっ……!!?あうっっ!!!」

 

 クシャトリヤ・リペアードはフロントのウィングバインダーで防御しながらもふっ飛ばされ、激しい振動と共に山間部に激突してしまう。

 

「マリーダさん!!!くっっ……ロニ!!!君はそんな人じゃない!!!もっと穏やかで、でも人のために戦える強く優しい女性だったじゃないかぁああああ!!!」

 

「離れろおおおおおおお!!!!目障りなガンダムぅうううううっっっっ!!!!」

 

 そして遂に胸部の三連メガ粒子バスターがチャージされてしまう。

 

「ロニっっ!!!お願いだぁああっっ!!!記憶を、元の記憶を取り戻してぇえええええ!!!!」

 

「うるさああああああい!!!!それ以上喋るなあぁああっ、頭が割れるぅうううっっっ!!!!ぁがぁっっ、ああああああああああああっっっ!!!!」

 

 当の本人とは思えない口調と叫び、狂気を感じ続けるカトルの心は、悲痛という表現ではとても収まらない程に締め付けられていた。

 

 そしてロニのその発狂の叫びと共に胸部の三連メガ粒子バスターが解き放たれる。

 

 

 

 ヴィギュリリリリリ……ヴヴォヴヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

 一方、成層圏上では対OZ静浜基地におけるオペレーション・ノヴァの第七降下部隊が降下態勢に入る中、それに追従するように第八MD降下部隊が成層圏エリアを航行していた。

 

 先頭を航行する旗艦相当の輸送艦の中では戦力不足が危惧される意見が流れていた。

 

「下ではガンダムが介入したとのことだ。既にあれで第七降下部隊までもが降下する羽目になった……」

 

「相手が奴らのガンダムならば、もっと増援を要請した方がよろしいのでは?!!」

 

「無論わかっている!!!だが、オペレーション・ノヴァはここだけではない!!!こちらに回してくれるのも限界がある!!!」

 

 その時、宇宙空間より急速に迫る熱源体を感知したアラートが鳴った。

 

「何だ?!!」

 

「急速に迫る熱源体ありッ……MSのようですが?!!」

 

 次の瞬間、最後尾を航行していたMD輸送船が謎のビーム渦流によって撃ち砕かれ破砕する。

 

 MSクラスの機体から放たれたその芸当はまさしくガンダムによるものであった。

 

 そして旋回しながら艦隊の面前に回り込み、その機体は姿を現した。

 

「最後尾の輸送機が爆破!!!反応消えました!!!」

 

「何だと?!!ええい、MDを出せ!!!成層圏上で敵を迎撃……あ、あの機体は?!!」

 

 第八MD降下部隊の指揮官が指揮する最中、攻撃を仕掛けたMSが姿を現す。

 

「もしや……消息不明になっていた、ガンダムデルタカイ?!!まさか、そんな……くっッ、同胞を討つ気か?!!」

 

 ガンダムデルタカイはギンと両眼を光らせながら、射出させたバスターファンネルをメガバスターの銃口と共に第八MD降下部隊に向け、攻撃への態勢に入った。

 

「群れれば強大な力……ここのMDも破壊する……!!!!」

 

 狂気染みた表情のリディは、本来ならば友軍であるはずの第八MD降下部隊を敵認定し、ビーム渦流を解き放った。

 

 

 

 

 

 

 To Be NextEpisode

 

 

 

 次回予告

 

 

 これ程の酷い再会はあっていいのか?

 

 ベントナの悪しき施しに完全に呑まれてしまったロニは、決死の説得に応じるカトルとマリーダに対し、容赦ない猛撃を強いる。

 

 ヒイロもまた、突如介入したガンダムデルタカイの存在を追撃する。

 

 拮抗していたOZ静浜基地の攻防戦にも、トラント達が介入し、イヅミ・ターノフ特尉達に襲いかかる。

 

 それは同時に介入していたデュオ達との激突を意味した。

 

 そしてOZ静浜基地に到達したロニはサイコガンダムMk-

Ⅲで更なる破壊を巻き起こす。

 

 一方、ウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイの追撃戦はあってはならない運命に舵をとりはじめる。

 

 やがてそれはマリーダとロニ達も例外なく呑み込もうとしていた。

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード47「ロニの泪(なみだ)」

 

 

 

 

 

 

 



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エピソード47 「ロニの泪(なみだ)」

 

 第八降下部隊の目の前に現れたのは、行方不明になっていたガンダムデルタカイであった。

 

 ガンダムデルタカイは先頭と左右両舷側にいたOZプライズMD輸送艦目掛け、メガバスターとバスターファンネルを撃ち飛ばした。

 

「う、うぉおおおおお!?!」

 

 メガバスターと2基のバスターファンネルが放った三軸のビーム渦流が、MD輸送艦を3隻まとめて一撃で轟沈へと導く。

 

 旗艦の轟沈に遅れながら起動したシルヴァ・ビルゴとサジタリウスα、βのカメラアイが光り、ガンダムデルタカイに向けて一斉に射撃を開始した。

 

 ガンダムデルタカイはシールドバスターソードをかざし、この大量のビーム群を受け止めた。

 

 直撃コースは確かにガンダムデルタカイに直撃していたはずであった。

 

 どのMDも撃破認識し、攻撃を停止させてしまう。

 

 だが、爆発からはガンダムデルタカイが飛び出し、バスターファンネルを展開射撃しながらメガバスターとシールドバスターソードにマウントされたハイメガキャノンを撃ち飛ばす。

 

 乱発される高出力ビーム渦流が次々とMD部隊を消し飛ばすように破砕させる。

 

 特にバスターファンネルは脅威であり、いわばオールレンジで縦横無尽かつ自由自在に動くバスターライフルのようなものだ。

 

 嵐の如く放たれるビーム渦流群は瞬く間にMD第八降下部隊の四割を壊滅させる。

 

「MDのシステムをキルモード最大値に設定しろ!!!」

 

「は!!」

 

 カメラアイを光らせたMD達はより破壊率を上げる攻勢に移り、高速で移動をしながらの射撃に打って出た。

 

 ガンダムデルタカイに夥しい数の高出力のビームや小規模のビーム渦流が襲う。

 

 それでもガンダムデルタカイは攻撃を躱し、中ってもかする程度にとどまっていた。

 

「……MD、人形めが……!!!機械ごときが目障りなんだよっっ!!!!」

 

 ギンと両眼を光らせたガンダムデルタカイはメガバスターを連発して撃ち放ち、個々にMD機を破壊し続ける。

 

 同時にバスターファンネルも射撃を繰り返しており、バスターライフル級のビームを撃ち放っては多方向の機体群を破砕させていく。

 

 そこからガンダムデルタカイが高速で機体を加速させ、シールドバスターソードでシルヴァ・ビルゴを突き砕く。

 

 MD達が次々に寄ってくる中、シールドバスターソードでそれらを薙ぎ砕いては突き砕いて見せる。

 

 更にハイメガキャノンを解き放ち、一直線上のMD達を一瞬で爆発破砕せていくがこれだけに止まらず、機体を自転させながらのローリング・ハイメガキャノンが撃ち飛ばされた。

 

 回転するビーム渦流軸が周囲の幾多のMDを吹き飛ばす。

 

 成層圏上に爆発の華が広がるなか、畏怖のオーラを放ちながら両眼を光らせるガンダムデルタカイがいた。

 

 そのコックピット内では、ゼロとナイトロの両システムが同時発動しており、ニュータイプの力を得ながらガンダムデルタカイのゼロシステムに操られていた。

 

 二重のシステム負荷により狂人のような表情のリディが呼吸を荒げていた。

 

「はぁっッ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……っくぅッ!!!!力は、潰す……!!!そしてニュータイプを駆逐する!!!ニュータイプを、人形を壊す!!!それの障壁になる、俺を邪魔する貴様らを排除するッッッ、ヴあああああああああああああ!!!!」

 

 リディ自身はナイトロによりニュータイプとなっているにもかかわらず、ガンダムデルタカイのゼロシステムの命令により、ニュータイプを排除するという矛盾めいた叫びをあげていた。

 

 リディの狂気の叫びと共に、バスターファンネルが呼応するように荒々しいビーム渦流を放ち、今度はローリング・バスターファンネルの荒れ狂う力を見せつけた。

 

 その威力はまさにツインバスターライフルの威力に迫る脅威だった。

 

 無論ながらこの状況はゼロシステムを通して、MDと戦闘中のヒイロに伝えられていた。

 

「……奴はシステムの生態端末と化している……システムには過ぎた力やニュータイプの排除を指示されている……そして上から来る。だが、どこの軌道から来るかは幾つものパターンで提示されるに止まっている……これも奴のゼロシステムとの影響か。奴は過ぎた力に反応しているようだが……」

 

 ヒイロそこからリディを炙り出す。

 

 過剰な力やニュータイプの排除を攻撃行動理念としているならば、自ずとそれはマリーダやロニ、はたまたムラサメ研究所の囚われた被験者達がリディの攻撃対象となり得る。

 

 ならば同じゼロシステムを持つウィングガンダム・ゼロに注意を向けさせるのだ。

 

 ヒイロはツインバスターライフルで第六MD降下部隊を壊滅させると、第七降下部隊の位置をゼロシステムとの連携で導き出し、遥か上空、成層圏上の第七MD降下部隊をロック・オンした。

 

「……最大出力で成層圏上の降下部隊を破壊する……!!!」

 

 その一方の地上……OZ静浜基地及び周辺域では依然として攻防戦が展開していた。

 

 だが、ガンダムが加勢したことにより事態は急転を迎え、かつては想像だにしなかったメテオ・ブレイクス・ヘルとOZの共闘戦線がそこにあった。

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルのアームド・ビームサイズの薙ぎ斬撃が一振りで4機のシルヴァ・ビルゴを斬り飛ばし、ガンダムヘビーアームズ改とサーペントのガトリング系の連携射撃が、壁を粉砕するがごとく三機種のMDをランダムに砕き散らせる。

 

 その最中で、状況に応じてガンダムヘビーアームズ改がアームバスターカノンを放つ。

 

 Ξガンダムもまたビームバスターとショルダービームバスターの高速連続射撃と縦横無尽に飛び交わせるファンネルミサイルとの連携をもって、面前のMD部隊を次々に駆逐させていた。

 

 OZサイドのリーオー、エアリーズ部隊も士気を上げながら抵抗を押し進め続ける。

 

「イヅミ特尉、形勢逆転ですよ!!!あのガンダムが味方についてくれたんです!!!」

 

「ああ!!!だが、まだ意図がわからない以上、油断はできん。しかしながら……このような日が来ようとはな……つくづく時代というものはわからん……こちらも負けてはいられんな!!!」

 

 イヅミ特佐はドーバーバスターをロックオンしたシルヴァ・ビルゴに向けて撃ち放ち、その高出力ビームは重厚な胸部を爆発させた。

 

 この共闘戦線にデュオもまた意外過ぎるシチュエーションに言葉を漏らす。

 

「ったく、一昔前はぶっ潰す攻撃対象だった奴らと共闘するなんてなっ……人生、何があるかわからねぇ……なっっ!!!」

 

 言葉を漏らしながらもデュオはサジタリウスβ4機を一挙に薙ぎ斬ってみせる。

 

「同感だ。俺達マフティーにとってもOZは連邦からすり替わった敵だった。それが今こうして守っている……変な気分になるな」

 

 Ξガンダムのビームバスター高速連続射撃に、シルヴァ・ビルゴが次々に爆破・駆逐されていく。

 

「それほどまでに、プライズの連中の方がヤバいって訳だ……いずれにしろ地球圏規模で内乱だろうな」

 

 ホバー走行しながらサーペントのダブルガトリング射撃がサジタリウスα、βを撃ち砕きながら回避と攻撃を両立させる。

 

「時代はまた大きく動こうとしている……それが悪しき時代ならば俺達が衝撃をまた与えてやればいい。少なくともこのエリアに関してのオペレーション・ノヴァは大失敗に至っているだろう」

 

 ガンダムヘビーアームズ改はダブルガトリングとアームバスターカノン、バスターガトリングキャノン、ブレストガトリングのゴリ押し射撃を継続する。

 

 シルヴァ・ビルゴやサジタリウスαは砕き散らされ、プラネイトディフェンサーを展開するサジタリウスβにはシールド許容を凌駕する出力のアームバスターカノンを見舞わせ、軸線上に破砕爆破させていった。

 

 その戦闘の最中にもトロワは、ロニの救出の為に向かったカトルへの気回しを忘れなかった。

 

 (カトル……こちらは何とかなる。お前はロニの為に自身の闘いに集中してくれ)

 

 その時、カトルとガンダムサンドロック改には、サイコガンダムMk-Ⅲの零距離からの三連メガ粒子バスターのビーム渦流が襲い掛かっていた。

 

「くううううううっっうっっ!!!!」

 

 一瞬、後退した直後に解き放たれたビーム渦流に押し戻されるように飛ばされ、山間に激突。

 

 更に持続するビーム渦流がガンダムサンドロック改を押し込み、山岳ごと爆発の柱を巻き起こさせた。

 

「カトルッ―――!!!?そんな……っくっ、ロニ!!!今何をしたかわかるか?!!!今射った彼は、ロニにとっての大切な人だったんだぞっっ!!!いい加減に目を、覚ませぇえええ!!!」

 

 マリーダはまさかの事態に、言い聞かせても聞き入れずに目覚めないロニへの悲しみと憤りを混ぜ合わせたかのような感情を懐き、思わずファンネルミサイルを放つ行動に駆り立てた。

 

 それと同時にコックピット周りのサイコフレームも光りを生じさせていた。

 

 ファンネルミサイルはΞガンダムのモノと違い、文字通りのサイコミュミサイルだ。

 

 マリーダの意思による軌道を描きながら、急所を敢えて外す箇所にオールレンジ攻撃が撃ち込まれる。

 

「くっ、私を攻撃したっっ!!!やっぱり敵か!!!」

 

「違うっ!!!私はロニの友人だ!!!時に友の過ちに手を出さざるを得なくなる事もある!!!思い出すんだ!!!私を……カトルを……本当のロニを!!!」

 

「本当の……私を……だと?!!」

 

「そうだ……本当のロニを……思い出してくれ!!!カトルの事を……カトルの事を殺めてしまった哀しみにも……気づいてくれ……!!!」

 

「カトルを殺めた……哀しみ……?!!!」

 

 その言葉にロニが一瞬、自分のしてしまった事に思考を停止させたその時、カトルからの通信がクシャトリヤ・リペアードのコックピット内に聞こえてきた。

 

「くすっ……マリーダさん、勝手に僕を殺さないでくださいよ」

 

「カトル?!!!」

 

「……僕達のガンダムは、打たれ強いんです。結構なダメージだったけどね……」

 

 マリーダが全周モニター後方に目を向けると、爆発地点から上昇するガンダムサンドロック改の姿がった。

 

 表面上は、装甲に多少の焦げと僅かな焼灼ダメージ痕があるに過ぎなかった。

 

 リメイクされたヒイロ達の機体は共通してネオ・ガンダニュウム合金が胸部面に用いられており、ウィングガンダム・ゼロは元より装甲がネオ・ガンダニュウム合金であるのだ。

 

 更に言えば直撃の瞬間にシールドで防御もしていた。

 

 マリーダは一度冷静に自らを落ち着かせると、深いため息を吐きながら納得した。

 

「……ふうぅ……そうだったな。お前達のガンダムは常軌を逸していた……」

 

「それよりもっ……ロニを……ん?!!」

 

 その時、サイコガンダムMk-Ⅲの全体から青黒いオーラがにじみ始める。

 

 コックピットの中ではロニが独り言のように言葉を呟いていた。

 

「カトルを殺そうとした……カトルは誰??大切って何??私は、両親の仇を討たなきゃいけない……!!!OZを叩く邪魔はさせない……っっでもっっ、私は、私はっっ……違うッッ!!!私はなんだ?!!あああっっ……あああああああああああ!!!!」

 

 ロニの中で本来の記憶が少し偽りの干渉しはじめ、一気に何かが膨れ上がったかのように彼女を狂わせた。

 

「な?!!これはッッ?!!」

 

「おそらくサイコフレームの影響による……波動!!!くッッ!!!」

 

 ロニとサイコガンダムMk-Ⅲが放つサイコフィールドの波動は凄まじく、MSの機体をも押し退けようとするほどのものだ。

 

 更に両眼を光らせたサイコガンダムMk-Ⅲは加速し始め、クシャトリヤ・リペアードに掴み掛かった。

 

 レフトウィングバインダーを鷲掴みにすると、引き寄せて胸部目掛けパンチを打ち込む。

 

「うぐうッッッ!!!ロニッ……!!!」

 

 凄まじい衝撃がコックピットを襲うが、もとより装備されていたエアバックシステムがショックを緩和させる。

 

 だが、その鋼の豪拳は幾度もクシャトリヤ・リペアードに襲い掛かる。

 

 ライトウィングバインダーで防御するも、弾かれた反動で胸部へのパンチを許してしまう。

 

「くあッッ……!!!あくぅッ……!!!ロニッ……やめ……ッ!!!」

 

「邪魔だ、邪魔だ、邪魔だ、邪魔だ、邪魔だァあああああああ!!!お前たちは私の記憶をかき乱す!!!!OZを壊滅させる障壁は排除する!!!!」

 

「ロニッ、やめるんだァああああ!!!!」

 

 ガンダムサンドロック改が急加速でサイコガンダムMk-Ⅲにタックルした。

 

「くうッ!!!!特に、お前はッッ、お前はあああああああ!!!!」

 

 タックルの反動で態勢を崩したかに見えたサイコガンダムMk-Ⅲは、態勢を持ち直してガンダムサンドロック目掛け殴り掛かった。

 

 その拳をシールドで防御するが、その質量と威力に大きく後退させられてしまう。

 

 するとサイコガンダムMk-Ⅲは追いかけるようにガンダムサンドロック改にも掴み掛かり、クシャトリヤ・リペアードと互いにぶつけ合うような動作をし始める。

 

 サイコガンダムMk-Ⅲはガシャン、ガシャンと幾度も火打石のごとくガンダムサンドロック改とクシャトリヤ・リペアードをぶつけ合う。

 

 その反復する衝撃の蓄積により、パンチよりも激しい衝撃をコックピットに与えていた。

 

「うッ、うああああッッ……!!!や、やめてくれッ……ロニ!!!」

 

「うううっくッ……!!!このままではッ……!!!」

 

 一度強く2機をぶつけ合わせると、サイコガンダムMk-Ⅲは山岳地帯に投げ捨てるようにして叩きつけた。

 

 ガンダムサンドロック改とクシャトリヤ・リペアードは激しく山岳帯の地表に激突させられてしまい、激しいコックピット周りの衝撃により、遂にカトルとマリーダは気を失わされた。

 

 ロニはコントロールグリップを握りしめ、険しい表情で面前一面の景観を睨み続ける。

 

「この2機のパイロットの声、聞くだけで頭が痛くなるっっ!!!だが、何故か殺そうとすると何かが私の中で拒む……気持ち悪いっっ!!!私は……私はOZを破壊する……!!!ああああああっっ!!!」

 

 自らの中でのたうち回るように何かと何かがひしめき合う。

 

 ロニの本来の記憶とOZプライズの都合に合わせ操作された記憶とが闘っていた。

 

 自然にその手は額に手を当ててしまう。

 

「私はっ……それ、だけだっ!!!私はぁっ……!!!私っ……?!!違う……違う……!!!私は、ロニ・ガーベイ……!!!あああっ!!!もういい!!!私は復讐を果たすだけだっっ!!!」

 

 ロニは出かけた本来の記憶を埋めるような思いで、振り切ろうとサイコガンダムMk-Ⅲのコントロールグリップを再び握る。

 

 だが、何故か彼女は叩きつけたガンダムサンドロック改とクシャトリヤ・リペアードの胸部を鷲掴みにさせる操作をしながら、OZ静浜基地方面に機体を加速させた。

 

 

 

 焼津市の遥か上空で限界値までツインバスターライフルのエネルギーを充填させていたウィングガンダム・ゼロは、遂にそのエネルギーを更に遥か上空の成層圏に向けて解き放つ。

 

「目標、OZプライズMD第七降下部隊群……!!!」

 

 

 ヴィディリリリリリリィィィ……ヴォヴヴァルァァアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!

 

 

 最大出力のツインバスターライフルのビーム渦流が二軸となって空を突き抜け、一気に成層圏、宇宙空間に達した。

 

 その射撃軸上に捉えた降下部隊の輸送船団の一部隊が呑まれ破砕爆破する。

 

 だが、ビーム渦流はビームを持続させながらその射撃軸を動かし始め、更に輸送船団を呑み込み連続撃破させていく。

 

「な?!!なんだこれは?!!!」

 

「これも、やつらのガンダムの力なのかぁあ?!!!があああはあっ……!!!」

 

 その二つのビーム渦流は、超巨大なビームサーベルといわんばかりの様相で尚も輸送船団を撃破させていた。

 

 じわりと移動する二つの巨大なビーム渦流は、第七MD降下部隊を輸送船諸とも撃破し続け、やがて部隊そのものを壊滅させた。

 

 発動しているゼロシステムのサポートもあるとはいえ、ヒイロの驚異的な射撃センスが成せた芸当だと言えよう。

 

 だが、ヒイロは更に射撃軸を修正させ、ガンダムデルタカイが迫る方面に向けた。

 

 ガンダムデルタカイは焼津市上空の成層圏を目掛け、大気圏突入態勢のウェイブライダーモードに変形して飛んでいた。

 

 その最中、ツインバスターライフルのビーム渦流が撃ち墜とさんとばかりに迫り、ガンダムデルタカイにプラズマ奔流のエネルギー域ギリギリのビーム渦流が掠める。

 

「うくぅ……!!!!」

 

 ツインバスターライフルの強力な力の威嚇は、ガンダムデルタカイのゼロシステムにも影響を与え、敵を明確にリディに示す。

 

 リディの脳裏にもウィングガンダム・ゼロの映像がフィードバックする。

 

 だが、直ぐにムラサメ研究所やサイコガンダムMk-Ⅲ、クシャトリヤの映像や、巡り巡りながら単発的にOZ静浜基地に召集するイヅミ特尉達のOZ部隊の情報もフィードバックしてきた。

 

 ガンダムデルタカイのゼロシステムがニュータイプデストロイヤーに近い判断を持っているようで、ニュータイプ要素への攻撃を推進・優先させているかのような情報判断を思考に押し付ける。

 

 大量に雪崩れ込む無茶苦茶な情報判断にリディは更に正気を失わされ、ゼロシステムの端末と化した。

 

「あああああ!!!ガンダムぅっっ!!!ニュータイプぅぅぅ!!!はぁああああぐぁあああはああっっ……!!!!」

 

 リディは叫びながら機体を加速させ、本格的に大気圏突入させた。

 

 この時、互いのゼロシステムの未来予知のぶつかり合いが起こり、幾つもの情報予知パターンを瞬間的に与えはじめていた。

 

「ゼロ……お前の判断はどれだ!!?やはり奴のゼロシステムとの干渉による影響か……こちらに誘き寄せたはずだが、進行進路予測が俺やカトル達、ムラサメ研究所、OZ静浜基地を去来している……!!!ならば、奴の行動軌道で判断する!!!」

 

 ヒイロはゼロシステムの予測行動一択からゼロシステムをアシストに回し、シンプルにガンダムデルタカイの軌道を追跡する判断をした。

 

 ギンと光らせたウィングガンダム・ゼロの両眼は、デルタカイを追撃する軌道でその場から加速していった。

 

 一方、善戦に変化したと思われていたOZ静浜基地に、新たな敵機影が迫る。

 

 それは、前夜に激突したトラント達、アスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウス、プロビデンスガンダムの姿であった。

 

「さぁ、昨晩のお礼祭りといこうじゃないか!!!」

 

「ひゃははは、それも良いけど不届き者達の粛清祭りもいいっすよ!!!」

 

「レッドメリクリウス、介入しまぁ~す!!!」

 

「さて……プロビデンスガンダムで蹂躙させてもらおうか」

 

 無論、これを捉えたデュオ達にも警告反応を示すアラートが鳴る。

 

「昨晩のめんどくせー奴らがお出ましみたいだぜ!!!」

 

「やはり来たか……だが、MDはこちらの都合に合わせてはくれない……予想よりも状況が厄介だ」

 

「トロワ、俺はサポートに回る。MDを撃破しながら徐々に近づいて行きながら攻撃に回ってくれ」

 

「またアムロ・レイのクローンのガンダム……!!!」

 

 イヅミ特尉達も新たな4機の増援に警戒を余儀なくされ、拡大映像から迫るその機影を視認した。

 

「イヅミ特尉、新たな増援です!!!」

 

「プライズの厄介所が揃い踏みということか……!!!弾幕を強化!!!ガンダムを援護しろ!!!」

 

 弾幕の攻防戦が飛び交う中、アスクレプオスがパイソンビームランチャーを連発させながら滑空し、リーオーやエアリーズを次々に撃墜する。

 

 次の瞬間きらは、その滑空の勢いをのせたパイソンクローの突牙乱舞が襲いかかる。

 

「ははははは!!!愉快な連中だっ!!!無駄極まりない!!!」

 

 1機のリーオーにライトアーム側のパイソンクローを突き刺し、零距離射撃のパイソンビームランチャーでえげつなき破壊を見せつけると、両腕をかざしたパイソンビームランチャーの乱発を見舞った。

 

 一方、降り立ったヴァイエイトはビームカノンとレーザーガンを放ちながら、他のMDと共にゴリ押し射撃でリーオーやエアリーズを破砕していく。

 

 そしてチャージされたビーム渦流が放たれ、その射撃軸上のリーオー部隊を一気に壊滅に追いやる。

 

「ヒャッハー!!!粛清、粛清、粛清!!!粛清フィーバー!!!」

 

 そして再びビームカノンとレーザーガンの連発式射撃で一掃させながら攻勢を強めた。

 

 同時に降り立ったメリクリウスも、プラネイトディフェンサーを起動させながらのクラッシュシールドの斬撃の乱舞を見舞いながらリーオー部隊に突っ込む。

 

「ははははは!!!はははははは!!!爽快だぁあああ!!!」

 

 メリクリウスの攻防一体の攻撃に次々に斬り裂かれ爆発していくリーオーやエアリーズ。

 

 その姿を晒させ、圧倒と絶望を戦場にばら撒く。

 

 そしてプロビデンスガンダムは戦場を眼下に見下ろすようなポジションからドラグーンファンネルを放ち、縦横無尽かつ意のままにリーオーやエアリーズを攻撃する。

 

 多数の高出力ビームの閃光が、ドラグーンファンネルの鋭利な部位が装甲を抉り貫いては斬り裂く。

 

「ははははは!!!僕の攻撃に成す術あるまい!!!」

 

 蹂躙に相応しい攻撃を繰り返した後、上空にドラグーンファンネルを集結させ、文字通りのビームの流星弾雨を降らせた。

 

 降り注ぐビームは周囲の街諸ともMS群を破砕して見せた。

 

 ガンダム達は各自MDを当たり障り撃破しながら彼らに接近していく。

 

「さぁ……!!!まとめて相手してやるぜ!!!」

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルはタイミングを見出だし、アスクレプオスを目指しながらメリクリウスにも挑発的に機体を突っ込ませ、バスターシールド・アローを刺突する。

 

「なぁっ?!!こいつ、いきなり突っ込んできやがった!!!」

 

「あいにくあんたのいつもの相手は大事な用事にお出かけしてんだ!!!代わりに相手してやるっ……ぜっ!!!」

 

 デュオはそう言いながらバスターシールド・アローとすり替えるようにアームド・ツインビームサイズの斬撃を叩き込み、バスターシールド・アローをアスクレプオスに放った。

 

「ぐぁっ……!!!死神ヤロウ、2機同時に相手しようってか!!?はっ……ナメられたものだなっ!!!」

 

 くわっと見開いたトラントはパイソンクローを突き出しながら一気にガンダムデスサイズ・ヘルに襲いかかった。

 

「大した自信だなぁ!!!」

 

 アレックスはレフトアーム側のクラッシュシールドでアームド・ツインビームサイズを受けながら、ライトアーム側のクラッシュシールドの突きをガンダムデスサイズ・ヘルへ繰り出す。

 

 これを躱しながら離脱すると共に、ガンダムデスサイズ・ヘルは突っ込んできたアスクレプオスのパイソンクローをバスターシールド・アローで受け止めた。

 

「大した反応だな!!!」

 

「そりゃ、どー……も!!!」

 

 パイソンクローを押し退けて叩き込まれたアームド・ツインビームサイズとパイソンクローが交わり、その最中にクラッシュシールドの突きとバスターシールド・アローがぶつかり合う。

 

「2機同時はキツいか??やってみたら意外にめんどくせーぜ……!!!」

 

 一方、蹂躙を楽しむように射撃を続けるヴァイエイトにダブルビームガトリングの射撃が撃ち込まれた。

 

「ちぃっ!!!俺の楽しみを邪魔しやがってぇっっ!!!」

 

 ミュラーは怒り任せにレーザーガンを乱発するが、トロワはそれを躱しながらミュラーを挑発する。

 

「格下を相手に大量殺戮を楽しむか……極めて関心できんな」

 

「どの口が言ってんだぁ?!!テメーらも武力介入で散々やらかしてるだろうが!!!」

 

 ビームカノンを撃ち放ちながら、ある意味最もな意見のような口調を放つミュラーだが、トロワは真っ向から静かに否定した。

 

「違うな。俺達はコロニーはもとより一般大衆の為に闘ってここまで来ている。決してキサマのように楽しみなどという感情を抱いてやってはいない……!!!」

 

 トロワの静かなる怒りを賭したアームバスターカノンの一撃がヴァイエイトに放たれた。

 

 Ξガンダムもまたビームバスターをプロビデンスガンダムのドラグーンファンネルに撃ち中てながら接近し、レフトアームにビームサーベルを抜刀する。

 

「来たね、ハサウェイ……!!!」

 

「何度でもな!!!」

 

 Ξガンダムがドラグーンファンネルを払い退けながらビームサーベルを振りかぶると、メガビームサーベルを発動させたレジェンドガンダムの斬撃と激突する。

 

「やはり、こうでなくては。雑魚の掃除など退屈だ」

 

「キサマはそうやって人間を見下すか!!!」

 

「ニュータイプならば当然さ!!!」

 

 マフティーとアメンズはビームの刃を互いにぶつけ合いながら、双方のサイコミュ武装を展開させてΞガンダムとプロビデンスガンダムのその武力を激突させた。

 

 一方、ムラサメ研究では制圧状況が更に進み、次々に進展を見せていた。

 

 周囲を旋回飛行するネェル・アーガマにもラシードからの状況報告がケネスに通達される。

 

「ムラサメ研究所の制圧状況は七割の状況となっております!!研究員の捕縛、連行状況も予想以上にスムーズです……制圧完了は目前かと」

 

「そうか……即興編成だったとはいえ、さすが実戦経験者達を選りすぐった甲斐があったな……」

 

「はい。私の部下達もその助力にあてさせて頂いております。後、被験者達の救助も始まりました。あともう一息という所です!!!」

 

 その最中、ヴィンセントとアブドゥル達が遂にベントナのいる施設のドアを爆破し、内部へ突入した。

 

「一気に制圧する!!!」

 

「いくぞぉ!!!」

 

「おぉおっっ!!!」

 

 アサルトライフルで研究員の行動力を次々に奪う中、ヴィンセントの目に放心状態のクロエを弄ぶ研究員達が目に入った。

 

「こいつら、被験者をなんだと思ってやがるっ……ん?!!!」

 

 弄ぶ対象に視線を移したヴィンセントの視界に驚愕に値する少女の姿が映った。

 

「な……!!!クロエ……!!!?そんなっ……!!!?キサマらぁああああああああ!!!!」

 

 ヴィンセントは、怒り任せに彼女を取り囲んでいた研究員達を射殺し、尚も彼女を先人切って弄んでいたベントナにアサルトライフルを殴りつけた。

 

「らっあああああああ!!!!」

 

「ごはぇっ!!?!」

 

 間髪入れずにベントナを蹴り飛ばし、ヴィンセントはアサルトライフルを怒り任せかつ、破れかぶれにベントナに放った。

 

「がぃがぎゃああああああ!!!?!」

 

 快楽から一転し、凄まじい激痛にのたうち回るベントナを他所に、ヴィンセントはクロエを抱き起こし、思わず抱き締めた。

 

「クロエっ……!!!クロエ、クロエ、クロエ!!!俺だ!!!ヴィンセントだ!!!ヴィンセントだよ!!!」

 

「ヴィンセント……??ヴィンセント……ヴィンセン……ト……?!」

 

「ああ。あれから18年以上の歳月が流れた。マルコシアス隊で一緒だった、ヴィンセントだよ!!!クロエ!!!やっと……やっと見つけることができたっ!!!やはり予感はあたっていた!!!ああああああっ……!!!」

 

 歓喜の慟哭を上げるヴィンセントを見ていたアブドゥル達は同時に施設制圧の報告を受けた。

 

「そうか!!!了解!!!俺達はMSに戻って周囲警戒をさせてもらうよ!!!……よし、制圧完了だ!!!」

 

「おぉ!!!」

 

「やればやれるもんだ!!!」

 

「後は俺達であのうるさい奴を連行する」

 

 アブドゥルは通信を終えると、制圧完了報告とヴィンセント達の配慮をし、のたうち回るベントナを拘束した。

 

「ぎゃああああああああ!!!ぎがががばああ!!!」

 

「やかましいっ!!!っ、とっとと来い!!!」

 

「アサルトライフルで撃たれたってのに、しぶてーゆで卵ヤローだ!!!キタネーもんも出したままでよ!!!」

 

 銃弾や蹴り等の激痛によって喚き散らすベントナを強引にアウダとアフマドは連行していった。

 

 アブドゥルはヴィンセントの肩に手を置くと、一言添えた。

 

「良かったな……本当に探していた女性が見つかって……施設も制圧を完了させた。今から被験者達の救助に移行するそうだ。あんたは、もうしばらく彼女と落ち着けるまでいな」

 

「あ、ああ……ありがとう……」

 

 アブドゥルがその場を後にして間も無く、クロエはヴィンセントの名を呼んだ。

 

「ヴィンセント……ヴィンセント!!!」

 

「クロエ!!!思い出したんだね!!!」

 

「うん……ヴィンセント!!!会いたかった……会いたかった……!!!」

 

 クロエも、現状に気付き、ヴィンセントを抱き締め返す。

 

「ごめんなさい……」

 

 互いに涙を流して再会を喜び合うと、クロエはヴィンセントの頬に手を当てて何故か謝りの言葉を漏らした。

 

「何で謝る?!俺の方こそ今まで助けれなくてごめん!!!力が足りなさ過ぎた……!!!」

 

「違うの……私、汚されちゃったから……!!!」

 

「何言ってる!!!汚れなんか、俺が綺麗にしてやる!!!」

 

 ヴィンセントは彼女の手を握り、情熱を賭した口づけを重ねた。

 

「っ……!!!」

 

 他の箇所からも戦争孤児の少年や少女達、クロエ同様捕虜だった者達等に救助の手が差しのべられていく。

 

 アブドゥル達はセッターにベントナを連行すると、再びそれぞれのマグアナックに乗り込んでラシードからの指示の下に警戒任務を継続した。

 

「お前達、ご苦労だった!!!引き続き警戒を続けてくれ!!」

 

「了解!!!」

 

「ここが済めば、後はカトル様達か。どうかロニ嬢の救助成功を……!!!」

 

 ラシードがそう吐露すると同じタイミングで、カトルの妹であるカトリーヌもまた兄の成功を祈った。

 

「兄さん……こっちは成功したよ……私は今回警戒しかしてないケド……兄さんもロニさんを連れ戻して帰って来てよね!!!」

 

 当の本人は気絶したままガンダムサンドロック改の中にあり、同行したマリーダもまた意識を取り戻せずにいた。

 

 ロニはサイコガンダムMk-Ⅲにガンダムサンドロック改とクシャトリヤ・リペアードを握り締めさせたまま、遂に自機体を藤枝市の上空に到達させる。

 

 日本史上最大の戦火人災の予感を引き連れながら、その巨体を焼津市のOZ静浜基地に向かわせる。

 

「もう目前だ……OZが集う場所に……!!!ぐぁうっ?!!!」

 

 ロニが広大に広がる市街地の向こうに視線を集中させたその時、不意にサイコガンダムMk-Ⅲのサイコミュシステムが暴走を開始し、ロニの感情を揺さぶり始める事態が引き起こった。

 

「ああああ!!!ああああ!!!私は、私は、私はぁああああああ!!!」

 

 サイコガンダムMk-Ⅲは飛行しながら見下ろす街に目掛け、三連ショルダービームキャノンと胸部の三連装メガ粒子バスターを、更には両脚部のメガ粒子バスターを撃ち放った。

 

 放たれたビーム渦流や火線は一気に街の家屋や道、車両、公共施設等を吹き飛ばし、爆炎を吹き上がらせた。

 

 それは一撃で終わらず、進行をしながら何度も周囲に向けて撃ち放つ。

 

 その破壊のうねりは日常的な存在全てを根こそぎに奪っていく、無差別破壊に他ならなかった。

 

 避難した市民達が集う場所にもメガ粒子バスターは行き届き、一瞬に蒸発させた。

 

「うあああああああああ!!!」

 

 ロニは叫びながら各部位のビーム兵器を乱発しながら一気にOZ静浜基地に向けて機体を飛ばす。

 

 サイコガンダムMk-Ⅲの機体認証はOZプライズのままであるが、実質的には敵味方関係なく攻撃する殺戮マシンに成り果ててしまっていた。

 

 その状況も知らず、トラント達は挟み撃ちの状況にできたつもりでいた。

 

「時期に強力な遊軍が来る!!!サイコガンダムがな!!!」

 

「こちとら知ってるよ!!!ま、仲間がサイコガンダムのお嬢様を説得できていれば逆転だがな!!!」

 

 デュオがパイソンクローを弾き捌くと、次はクラッシュシールドを受け止める。

 

「わけわかんねーもーそーをほざくな!!!」

 

「どーかな?!!何事も何がどーなるかわらんぜ!!!」

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルはクラッシュシールドをはね除け、再度両者と刃を交えた。

 

 しかしながら、デュオの言葉は角度を変えて当たっていた。

 

 サイコガンダムMk-Ⅲは破壊の限りを尽くしながらガンダムサンドロック改とクシャトリヤ・リペアードを遂に地表へ叩き落とす。

 

 そして塞がっていたフィンガーメガ粒子バスターを撃ち始め、一層の被害を拡大させた。

 

 トロワは、ヴァイエイトと戦闘しながらも接近しつつあるサイコガンダムMk-Ⅲの存在に気を向ける。

 

「新たな敵影に多数の熱源反応……カトル達はサイコガンダムを止められなかったのか……?!!いや、そもそも何故絶え間なく熱源が……?!!サイコガンダム特有のメガ粒子砲の一種なのか……?!!」

 

「余所見してるんじゃねー!!!」

 

 ヴァイエイトのビームカノンのビーム渦流、がガンダムヘビーアームズ改へと迫る。

 

「キサマ、場合によれば共に巻き込まれるかもな」

 

「ああ?!!何がだっ……ぐあ?!!」

 

 トロワは攻撃を躱しながら反撃しつつ、ダブルビームガトリングをヴァイエイトに直撃させてみせる。

 

「何らかの原因でサイコガンダムが暴走している可能性が高い。最早迎撃以外に撤退しかないだろう」

 

「ごちゃごちゃうるせー!!!」

 

 ミュラーは敢えて警鐘を促すトロワの言葉に耳を貸す事なく、攻撃を続ける。

 

 しかし、マフティーとアメンズはニュータイプの気質により、既に禍々しい感覚を感じ取りながら刃を交えていた。

 

「ふふっ、感じるかい?禍々しい感じを」

 

「ああ!!!(サイコガンダムの感じが近づきつつある!!!説得は失敗したのか?!!!)」

 

「あれをご覧……」

 

 アメンズは一旦刃を捌くと、遠方からサイコガンダムMk-Ⅲが各所のメガ粒子バスターを放ちながら接近する姿に目を向ける。

 

 間違いなく、それは無差別破壊をしながら攻めて来ていた。

 

「僕達の任務はMDの援護とOZの部隊の壊滅だった。だが、あれなら放置していても事を達成できよう」

 

「キサマ、サイコガンダムを利用する気か!!!」

 

 再びぶつかる刃と刃だが、その最中でアメンズは否定する。

 

「違うね。OZの不届き者たちの排除という本来の任務に事が戻るだけさ。僕は今回はこれまでにさせてもらうよ」

 

 プロビデンスガンダムは刃を再び弾き捌くと、ファンネルミサイルと事を交えていたドラグーンファンネルを自機に収容させた。

 

「アメンズ!!!逃げる気か!!?」

 

「武運を祈ろう、ハサウェイ」

 

「キサマっ……!!!どこまで見下すっ!!!」

 

 どこまでも見下すようなアメンズの言動に憤るマフティーを他所に、アメンズはプロビデンスガンダムを早々に撤退させ、駿河湾方面へ飛び立って行った。

 

 その直後、戦闘中のトラント達にアメンズからの通信が入る。

 

「トラント上級特尉。そろそろ撤退しましょう。恐らくはサイコミュの影響か、厄介になってしまった友軍機……サイコガンダムMk-Ⅲが迫っています。面倒ごとに巻き込まれる前に……一度上昇してみてください」

 

「なんだと?!!っくうっ……!!!」

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルと牙と刃をスパークさせている最中の通信回線だった故に、トラントの集中力に欠落が生じ、アスクレプオスが若干押され気味なる。

 

「おらおらどうしたあ?!!」

 

 デュオが強気で挑発する中、アスクレプオスはグググッと力を拮抗させながら、一瞬の隙をもって裁き流し上昇した。

 

 同時にメリクリウス、ヴァイエイトまでも同じ行動をとった。

 

「な?!!逃げんのか?!!」

 

「いや、いい。行かせてやれ。もう迎え撃つ相手は別にいる状況にある」

 

 追撃しようとしたデュオに、トロワがまったをかけた。

 

「ああ?!どーいうことだ……あ?!!熱源アラート?!!」

 

 熱源接近のアラートがガンダムデスサイズ・ヘルのコックピットに響いた。

 

「デュオ。そういうことだ。おそらく説得は失敗になっちまったんだ!!!」

 

 ラルフもまた状況を把握しており、ため息の後にイヅミ機のリーオーに通信を入れた。

 

「こちらメテオ・ブレイクス・ヘル。あんたらに撤退を進める。もうアラートが鳴っているとは思うが……少々……いや、大分厄介な敵影が近づいている」

 

 イヅミ特尉は依然として攻め入るMDと戦闘をしながら通信を受ける。

 

「我々に撤退はない。気持ちだけは請け負う。OZプライズの所業と我々の闘い続ける姿勢、生き様を世に知ってもらいたかったからだ……覚悟は全員できている!!!」

 

「そうかい……」

 

 同じ仲間ならまだしも、利害の一致のような間柄に過ぎない以上、ラルフも強くは引き止めなかった。

 

 トラント達もホバリングしながら、確実に迫りくるサイコガンダムMk-Ⅲとそれが放つ幾つものビーム過流を視認した。

 

「こちらOZプライズ、トラント・クラーク。サイコガンダムのパイロット、聞こえるか?」

 

「私は……私は、そうだ!!!あはははははは、あははははは!!!全てを破壊する!!!」

 

 聞こえてきた支離滅裂なロニの応答に、トラントは首を振る素振りをしながら撤退を開始した。

 

「だめだ。これだからいつの時代もサイコ兵器は不安定で信用ならん!!!ミュラー、アレックス!!撤退する。それに、放置していてもアレが掃除してくれる」

 

「ちぇっ、それじゃ挨拶して帰るか」

 

 不満気なミュラーは眼下のリーオー部隊にエネルギーを重点させたビームカノンの一撃を放ってみせる。

 

 一直線に伸びたビーム過流がリーオー達を吹き飛ばしていった。

 

「あーあ、しょーがねーな、ミュラー!!おめーはよ」

 

「帰る挨拶♪」

 

 虐殺に近い所業をかましておきながらも、ミュラーはアレックスと他愛もないと言わんばかりの言葉を交わしながら機体を撤退させていった。

 

 それからまもなくして、遂にサイコガンダムMk-Ⅲの三連装メガ粒子バスターとフィンガーメガ粒子バスター、ショルダービームキャノンの夥しいビーム過流、火線の一部の砲撃が到達し、多数のリーオーを吹き飛ばし始める事態になった。

 

「どうか……トレーズ閣下に栄光を……!!!!」

 

 そしてその流れ弾的なビーム過流は、一瞬の間にイヅミ機のリーオーとその周囲のリーオーの機体群をふき飛ばしながら破壊していった。

 

「おいおい、いくらなんでも豪快すぎだろ、カトルのフィアンセはよお!!!」

 

「迎え撃つしかない……のか??!」

 

「これまた派手派手しいなっ……!!!」

 

「禍々しい……あれが、サイコガンダム!!!」

 

 デュオ、トロワ、ラルフ、マフティーが各々に反応を示しながらサイコガンダムMk-Ⅲが迫る方面にモニターを向けた。

 

 ロニもまた、眼下に広がるリーオー達を次々にオートロック・オンさせ、挙句にはMD達をもターゲット選定してしまう。

 

 サイコガンダムMk-Ⅲは鬼神のごとく、胸部、五指、脚部のメガ粒子バスターを、両肩のパルスビームを撃ち放って大多数の機体群を破砕させていく。

 

 リーオーやエアリーズ、シルヴァ・ビルゴ、サジタリウスα、プラネイトディフェンサー無発動のサジタリウスβ諸共に破砕に破砕を重ね続ける。

 

「お前たちがああああああ!!!お前たちがああああああああ!!!」

 

 奇声に近い叫びをあげながらロニは、住宅や公共施設、車両群、幹線道路等を諸共に巻き込み、更なる破壊の限りを尽くす。

 

 そのビーム過流は地下シェルターすらも貫通させてえぐり飛ばし、避難民を無差別に蒸発させていき、プラネイトディフェンサーを展開しているサジタリウスβの防御許容をオーバーさせ、破壊に導く。

 

 この瞬間、友軍機と認識した機体からの想定外の執拗な攻撃を受けた各MD達は、認識エラーを起こしてその機能を停止させていった。

 

 市街地が抉り飛ばされる程の凄まじい破壊は、旧世紀の核爆弾に次ぐ惨状であった。

 

 サイコガンダムMk-Ⅲは一度大地に降り立って更にビーム過流の嵐を巻き起こした。

 

「あはははは、あははははははは!!!燃えてる、燃えてる!!!みんな燃えてる!!!」

 

 ロニが狂気の笑い声を上げてしまっていたそのとき、機体全体に突如として衝撃がはしった。

 

「くうう?!!なんだ?!!っ……この感じ、またお前たちか!!!」

 

 バックパックにはガンダムサンドロック改が取りつき、正面の焼け野原と化した幹線道路帯には回り込むように旋回軌道を描きながらクシャトリヤ・リペアードが着地した。

 

 二人は意識を取り戻していたのだ。

 

「ロニ!!!もうやめてくれ!!!これ以上罪を重ねないで!!!今度こそ僕は君を止める!!!そして、本当の君に……戻ってくれぇえええっ!!!」

 

「その激しい感情は、忌まわしい人物達によって作られた偽りの記憶だ!!!これ以上の悲劇を巻き起こすな!!!」

 

 クシャトリヤ・リペアードは両腕を広げながらその先を守るような姿勢でサイコガンダムMk-Ⅲの前で止まり、胸部のサイコフレームを発光させた。

 

「ロニ……何度も言う!!私はお前の友人であり、私にとっても数少ない友人なんだ。はっきり言う。私はロニを救いたい……!!!」

 

 そう言い切りながら瞳を閉じたマリーダは、自身の力を解放させるようにエメラルドの光を帯びながら陽のサイコ波動を解き放った。

 

「くううっ……!!!あああああああ!!!」

 

 対し、ロニは紫のサイコ波動を解き放つ。

 

 エメラルドとパープルのドーム状サイコ波動同士がぶつかり合い、周囲一帯に衝撃波が巻き起こる。

 

 その最中にもカトルは自機をサイコガンダムMk-Ⅲのバックパックにしがみ付かせていた。

 

「僕は、絶対に離さない!!!離れない!!!君が元に戻るまで!!!一緒に帰るまで!!!」

 

「うっとおしい、離れろ!!!第一私に帰る場所など……帰る場所など無いんだっ……!!!それに、お前は何様だ!!?」

 

「一緒にいる未来を約束した、カトルだよ!!!カトル・ラバーバ・ウィナー!!!君は、君はフィアンセなんだ!!!」

 

「フィアンセ?!!」

 

「そう。将来お互いに結婚を約束したんだ。もう今はOZのせいで僕たちの会社はお互いに潰されてしまった。確かにOZが僕たちをひどい目に合わした。でも今の記憶を植え付けられている君のOZの記憶とは違う……君のお父さんはテロリストに殺され、お母さんは君が幼いころ病で亡くなられたんだ。それに、僕は君の目の前でお父さんの敵を討ったよ」

 

 その時、モニターの正面にサイコフレームの共振の影響に伴い裸体のマリーダのイメージが現れ、そっとロニのほほに手をかざした。

 

「本当のロニは優しい。戦う事も誰かの為に戦える、強く優しい心の持ち主だ。ダカールで共闘した頃を思い出してほしい……私はそこでロニと出会った……」

 

 マリーダには既に強化人間とは違うニュータイプの力が発現し始めており、その力が影響してかそれまで頑なに拒まれてきた本来のロニの記憶を少しずつ脳裏で紐解きはじめた。

 

「わたし……は……私は……うううっっ!!!ああああっ……!!!」

 

 

 

 一方、制圧したムラサメ研究所では、再会できた二人の時間を終えたヴィンセントとクロエが忌まわしき部屋を後にしようとしていた。

 

「……いこうか?クロエ」

 

「うん……」

 

「今俺が所属しているところにも、君と似た境遇の人がいるし、女性の元軍医の人もいる。まずは心と体をケアいていこう」

 

 そう言いながらヴィンセントは上着を裸のクロエに羽織らせ、彼女の手を取りながらその場を後にした。

 

 だがその頃、ネェ・アーガマのCICブリッジにヒイロからの緊急通信が入っていた。

 

「今すぐ早急に離脱させろっっ……!!!ガンダムデルタカイが……ムラサメ研究所に軌道を変更した!!!奴の狙いは、被験者達だ!!!」

 

「なんだと?!!何故ここまで連絡が遅れたんだ?!!ゼロシステムの予測は?!!」

 

「奴にもゼロシステムが搭載されている!!!互いのシステム同士のぶつかり合いが影響を生じさせてしまったようだ!!!無論、俺は最善を尽くす!!!対空警戒を促せ!!!」

 

 ヒイロからの通信はそこからONのまま途切れた。

 

 ケネスはこの時、ヒイロの言葉の向こうから聞こえる音から緊迫した戦闘状況であることを悟る。

 

「ヒイロ……!!!ムラサメ研究所の警戒任務中のMS隊に告ぐ!!!上空より敵影接近の報あり!!!対空警戒を厳となせ!!!繰り返す!!!対空警戒を厳となせ!!!」

 

 マグアナックやM1アストレイが各々にビームライフルの銃口を向ける中、上空ではビームサーベルとシールドバスターソードの激しい激突が繰り返されていた。

 

「くううううう!!!ガンダムぅううう!!!」

 

「ガンダムデルタカイ……!!!今ここで破壊する!!!」

 

 ウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイのもつれあう激突の中、2機はムラサメ研究所上空へと降下していき、幾度もビームサーベルとシールドバスターソードをぶつけ合う。

 

 その最中、ガンダムデルタカイのゼロシステムがリディにニュータイプ壊滅を最優先にさせる指示を出し、リディを一度ウィングガンダム・ゼロから突き放させる。

 

「ぐううう!!!」

 

 ゼロシステムに駆り立てられたリディは、大きく捌き退けると一気に急降下を開始した。

 

「奴は……くっっ、させるか!!!」

 

 ウィングガンダム・ゼロもそれを追撃する。

 

 マグアナック隊にも敵影急接近のアラートが鳴り響く。

 

「各機、撃ち方用意!!!」

 

 カトリーヌとジュリも緊迫状況に息をのみながらビームライフルを構えた。

 

「……っっ、撃ち方始め!!!」

 

 ラシードの指示が下され、各機が一斉に対空射撃をする。

 

 だが、いとも簡単にガンダムデルタカイは射撃を縫うように潜り抜けていき、マウントされているバスターファンネルを放った。

 

「くっっ……ゼロっっ!!!」

 

 ヒイロが更に加速させ、ビームサーベルをバスターファンネルへ斬り付けに掛かる。

 

 だが、ガンダムデルタカイはこれを守るようにして再びシールドバスターソードで斬撃を受け止めた。

 

 ウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイの力と力が拮抗する。

 

「貴様っっ!!!人体実験を強いられた罪もない被験者達を殺す気か?!!」

 

 まれに見るヒイロの激昂に対し、リディはニタリと嗤った。

 

 次の瞬間、ゼロシステムに囚われたリディの狂気の思考によって、二つのバスターファンネルが上空よりビーム過流を撃ち放つ。

 

 そのビーム過流は、救出されていくはずであった被験者たちの頭上上空を見事に的中させるようにはしり、一瞬にして救出に当たっていたネェル・アーガマクルー達諸共施設ごと抉り潰す。

 

 もう一つのビーム渦流はヴィンセントとクロエが歩む区画を容赦なく目指す。

 

「え……?!!」

 

 二人が空を見上げた刹那にビーム渦流が二人を呑みこみ、やっと再会することが果たせた二人を嘲笑うように一瞬の熱エネルギーで蒸発させてしまった。

 

「ニュータイプはぁっ!!!強化の人形はぁっ!!!滅びちまぇええええっっ!!!!」

 

 更に執拗なまでに幾度もバスターファンネルを撃ち放つリディの凶行は、ムラサメ研究所そのものを灰塵に導いていく。

 

 ビーム渦流の流星弾雨は壮絶なまでに破壊を拡大させた。

 

 その最中、かろうじてマグアナック隊の位置への直撃は免れていた。

 

 ラシード、アブドゥル、アウダ、アフマドの機体がシールドをかざし、カトリーヌ機とN1アストレイを死守する。

 

「野郎共!!!なんとしてもカトリーヌ様とジュリ嬢を守れ!!!」

 

「おおおおお!!!」

 

「……なんてことっっ……これもガンダムの力なの?!!」

 

「デュオっっ……怖いよ……!!!」

 

 凄まじい光景と状況が面前に起こり、カトリーヌとジュリも戦慄を覚えざるを得ない状況だった。

 

「リディ・マーセナス……!!!貴様ぁあああああ!!!!」

 

 ヒイロの怒りの感情を付加させたウィングガンダム・ゼロが、ガンダムデルタカイのシールドバスターソード目掛けてツインバスターライフルを至近距離で撃ち放った。

 

 その一撃にガンダムデルタカイは一気に突き押し退けられていく。

 

 ガンダムデルタカイのパワーとガンダニュウム合金の強度、ビーム渦流が拮抗する最中、ハイメガキャノンユニットが爆発した。

 

「ぐううううううっっっ!!!ああああああ!!!!」

 

 ガンダムデルタカイは力づくでビーム渦流を捌き、滅茶苦茶になった姿勢から再び姿勢を立て直して見せ、メガバスターを何発も放った。

 

 その攻撃を躱しながらウィングガンダム・ゼロもツインバスターライフルを何度も見舞う。

 

 互いに射撃戦の応酬になるかと思いきや、一瞬の隙をついてウィングガンダム・ゼロが一気に間合いを詰めにかかる。

 

 メガバスターの射撃軸をヒイロ自身で読みながら接近し、一気にビームサーベルで右斬り上げの強烈な斬撃を打ち込んだ。

 

 シールドバスターソードと激しく激突、拮抗し合う。

 

 一瞬の力の誤差でウィングガンダム・ゼロの斬撃が振り切り、ガンダムデルタカイの態勢姿勢が崩れる。

 

 更にその瞬間にレフトアームのツインバスターライフルを撃ち放ち、ガンダムデルタカイを仰け反らせるようにふっ飛ばして見せた。

 

 その激しい激突の最中にガンダムデルタカイは吹っ飛びながらもバスターファンネルを引き寄せ、再びそれらをマウント装備させるとウェイブライダーに変形して舞い上がる。

 

 そして事もあろうかOZ静浜基地方面へと飛び立った。

 

 すかさずウィングガンダム・ゼロもネオ・バードモードへ変形し、加速しながら飛び去るガンダムデルタカイを追撃していった。

 

 ウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイの両者の激しい激突の一方、クシャトリヤ・リペアードとサイコガンダムMk-Ⅲもまたニュータイプの力同士が拮抗し続けていた。

 

 だが、その拮抗は波動と波動であり、核となるものが説得という「対話」であることが決定的な違いであった。

 

「ロニ……ゆっくりでいいよ。少しずつ思い出していくんだ。本当の記憶を……思い出を……」

 

 サイコガンダムMk-Ⅲのバックパックに取りついたガンダムサンドロック改からもカトルが説得を促し続ける。

 

「私の……本当の記憶……思い出……っううううっ……!!!」

 

「幼い頃の僕は、よく『ロニお姉ちゃん』ってよく懐いていた……本当の弟みたいに僕を可愛いがってくれていた……」

 

「カトルと比べれば、間柄が半年とは短かかったが……私とロニは敵の牢獄に監禁され続けていた中で互いに励ましあった……だから、私も自我を保て、心もロニに救われていた……あの時から私は友人としてロニを好きになれた……ありがとう」

 

 カトルに続きながらマリーダがそうロニに告げた。

 

 そしてマリーダの精神体がロニを抱き締め、クシャトリヤ・リペアードもまた一層の光を拡げ放った。

 

「あ、ああああっ、ああっ……!!!私っ、私っ!!!」

 

 精神体のマリーダが放った光が、洗い流すようにロニの偽りの記憶を溶かしていき、それは本来の彼女の人格を呼び覚まさせた。

 

「マリー……ダ……カトル……っっ……私はなんてことを……ごめんなさいっ……ごめんなさいっっ!!!」

 

「ロニ!!!謝らなくていいよ!!!悪いのは君をそうさせたやつが悪いんだ!!!だからっっ……!!!」

 

「だからって……だからって……こんな、こんなことが許されていいはずないじゃない!!!」

 

 眼下に広がる廃墟の海を見ながらロニが叫んだ。

 

 彼女に本来の記憶が戻ったということは、これまでの経緯、経験も本来の記憶、人格に反映することも意味し、その罪の所業や莫大な罪悪感が彼女の精神を一気に押しつぶそうとする。

 

 皮肉にもロニはマイナス干渉波を放ち始め、マリーダのオーラを押し返し始めた。

 

「ロニ!!!私も、そうだった!!!けど、やむえないことだってある!!!行動をしたのは確かにロニだ。だがそうさせ続けたのは、ロニをそうさせた者に他ならない!!無理に!罪を背負うことはないんだ!!!」

 

 必死の説得をするマリーダの側にロニの精神体が現れ、ひしめく罪悪感と贖罪の叫びを伝える。

 

「私は、この街やOZや連邦の兵士、そしてジオン残存軍の人たちを大量虐殺、ジェノサイドをしてしまったのよ!!!この手で!!!それだけじゃない……私は、本来カトルにゆだねるはずだった女性の尊厳を……ないがしろにしてしまった……!!!!カトルを裏切ったのよ!!?!」

 

「ロニ……!!!」

 

 そのロニの心の叫びを聞いたカトルは自分の素直な気持ちをぶつけた。

 

「僕はもう、その事実は受け入れてるよロニ!!!それらを含めた上で君を大切な人だと思ってる……!!!君は僕に必要な女性なんだ!!!それにロニの罪は、罪じゃない!!!何度も言うように君をそこまで追い詰めた人たちが悪いんだ!!!」

 

「そんな綺麗ごとなんていい!!!考えてもみてよ!!!そんな綺麗事の道理が被害者遺族に通じると思って?!!私自身、目の前でお父様を殺されたからわかる!!!!私がジェノサイドに加担したに変わらない!!!もう、私の居場所なんてない!!!!あるとしたら……このコックピットの中だけだ!!!!」

 

 そう叫んだロニの精神体がマリーダの前から消え、直後にロニはサイコガンダムMk-Ⅲを浮上させ、あてもない進撃を始めた。

 

「ロニ!!?どこへ行く?!!」

 

「私は、もう後戻りできない……後戻りなんかっ、できない……!!!」

 

 ロニは涙を流しながら無意味に機体をホバー方式で加速させる。

 

 ベントナ達に狂わされた彼女をここまで追い込む必然性などどこにもない。

 

 強制的に人体実験を強いられた挙句に大罪を犯させられた……これ程の理不尽があろうか。

 

 依然としてしがみついていたカトルは、その理不尽に対して怒りと悲しみが入り混じった感情を覚え、無言で震えていた。

 

 そんなカトルを突き放すようにロニが言う。

 

「カトル……もういいよ。私なんかほっといて……いまの私がカトルのフィアンセになる資格なんてない。いい加減に離れて……!!!こんな大量殺戮者の女なんかっっ……絶対嫌でしょう!!?ねぇ……せめて、あなたの手で私を殺して……カトル……」

 

 ロニのその言葉に、カトルの中で今の今までに溜めてきたロニを想う心が爆発した。

 

「……絶対にいやだっ!!!そんな馬鹿なことができるもんか!!!絶対に離れるもんか!!!僕はっ、僕はずっと君に会いたかった!!!捜していた!!!ゼロシステムが君を示したのを手掛かりにここまで来たんだ!!!君がどんなになろうと、ロニを想う気持ちは変わらない!!!変わったのだとしたら、前以上に想いが、好きという気持ちが大きくなった!!!!だから、必ず君を連れて帰る!!!!ロニの居場所はあるっっ!!!!ネェル・アーガマと、友人であるマリーダさん……そしてロニの事が好きな僕だっっ!!!!」

 

 そのカトルのロニに対する想いが、彼女のニュータイプの力を通して心身を駆け巡り、ロニの止めどない負の涙を正の涙に変えた。

 

「カトル……!!!」

 

 その変化をマリーダも感じ取り、安堵の感覚を覚えた。

 

「ふぅ……やはり最後は愛の力が勝るか……カトルの強いロニを想う心が事態を変え……っっ!??嫌な感覚が来るっ!!!」

 

 安堵は文字通りの束の間であった。

 

 突如と接近する嫌な感覚がマリーダにはしる。

 

 同時に二つのビーム渦流がサイコガンダムMk-Ⅲの巨体に撃ち注がれ、両脚関節を破砕させた。

 

 サイコガンダムMk-Ⅲを撃ったのは2基のバスターファンネルであった。

 

「うあああああ?!!」

 

「きゃああああああ?!!」

 

 旋回しながら現れたウェイブライダーは、旋回飛行と共にガンダムデルタカイへと変形を遂げ、地表に倒れたサイコガンダムMk-Ⅲの頭上に降臨した。

 

「あいつは?!!ガンダム?!!っっ、このままではロニがっ!!!」

 

 ガンダムデルタカイが直ぐにヤバい存在と感じつつも、マリーダはロニ達を守るべくビームトマホークを振りかざして応戦した。

 

「はぁああああっっ!!!」

 

 振るわれたビームトマホークは、シールドバスターソードに阻まれた。

 

 若干拮抗するものの、直ぐにパワー負けして圧倒されてしまう。

 

「くっ!!!このままじゃっっ……!!!」

 

「ニュータイプと巨大な力が一度に居やがった……ニュータイプの人形風情が……不快なんだよ!!!」

 

 リディの理不尽かつ狂気の発想の意のままに動いたバスターファンネルが二手に狙いを定めた。

 

「何が革新だ!!?何が可能性だ?!!そんな可能性、棄てちまえっっっっ!!!!この人形どもめぇがぁああああああああ!!!!」

 

 突如乱入したガンダムデルタカイはリディの狂気のまま、クシャトリヤ・リペアードと立つことができないサイコガンダムMk-Ⅲに向けてバスターファンネルのビーム渦流を撃ち放った。

 

 両者共にコックピット直撃コースで迫り来るビーム渦流。

 

 それを目の前にしたマリーダは、逃れられない死の運命を感じながら瞳を閉じ、プル、ジンネマン、ロニ、そしてヒイロへの想いを走馬灯のように過らせ、ロニもまた涙を流しながらカトルに一言を告げる。

 

 (姉さん……お父さん……ロニ……ヒイロ……私は……!!!)

 

「カトル……哀しいね……」

 

「ロニぃいいいいいいっっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディギュアァイイイイイイイイイイイイイッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時に同じ系統の激しい音が二重に響き渡った。

 

 だが、それはMSを撃破した音ではなく、ガンダニュウム合金が高出力ビームを受け止めた際に響くことのある特有音であった。

 

 逃れられない死を目前にしたはずのマリーダとロニは、死を受け入れながらも少しずつ瞳を開きながら意識がある事を認識した。

 

「……ん……??生きている……??あぁ……?!!」

 

「……私、生きてる……??あぁっ、カトル?!!」

 

 彼女達が瞳を開いた先のモニターには、それぞれの想い人の化身たる姿があった。

 

 マリーダにはヒイロのウィングガンダム・ゼロが、ロニにはPXシステムを発動させたカトルのガンダムサンドロック改がそれぞれの想い人を守っていたのだ。

 

「ロニに……これ以上の理不尽は、絶対に許さない!!!!」

 

「俺の敵は……コロニーを脅かすモノ、仲間の命を狙う者、居場所を奪おうとする者、そして……マリーダの命を狙う者だ……!!!!リディ・マーセナス、お前を殺す……!!!!」

 

 ヒイロとカトル、双方の想い人に殺意を示したガンダムデルタカイとリディに対し、ガンダムウィング・ゼロとガンダムサンドロック改が搭乗者の怒りを代弁するかのような眼光を灯した。

 

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 次回予告

 

 

 マリーダとロニ向けたリディの愚かな狂気は、ヒイロとカトルの怒りを買うに至る。

 

 ヒイロとカトルはそれぞれに狂気を受け止めた。

 

 ウィングガンダム・ゼロとPXを発動させたガンダムサンドロック改はリディのガンダムデルタカイを怒涛の勢いの猛撃で追い詰める。

 

 そして遂にカトルは掛替え無い勝利の報酬を手に入れ、その後、ヒイロ達の介入もあり、OZ静浜基地のOZの軍勢もまた決起に勝利した。

 

 だが、間もなくして中華覇権を叫ぶ特定のOZプライズの新たな動きがロームフェラ財団と地球圏に衝撃をはしらせる。

 

 一方、ジンネマン達は合流したピースミリオンで一時の休息をしていた。

 

 その最中にもアディンとプル達は次なるラプラスの箱の行く末を辿るべく、座標が示したムーンムーンへと赴く。

 

 だが、そこには既にL5コロニー群を掌握した中華覇権派OZプライズの常軌を逸した狂気が張りめぐっていたのだった。

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード48「ムーンムーン・ジェノサイド」

 

 

 

 





 どうもです。ラストのこの展開構想したのはガンダムユニコーンの最終エピソードがリリースされた年でした。

 あれから紆余曲折あって、ようやく!!!ようやく今回の展開に至りました!!!

 次回はゼロとサンドロックがリディに炸裂します!!!くぅ~!!!

 では……


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エピソード48 「ムーン・ムーン・ジェノサイド」

 

 

 

 ♪BGM 「RYTHEM EMOTION」

 

 

「リディ・マーセナス、お前を殺す……!!!!」

 

 

 ヒイロの鋭利な眼光がバスターファンネルを睨みながらロック・オンし、ウィングガンダム・ゼロの構えたツインバスターライフルの銃口からビーム渦流が撃ち放たれる。

 

 

 

 ヴィリリリリィィ……ヴァドォヴァアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 ズドォヴァガアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

 その一撃でマリーダを狙ったバスターファンネルを破壊し、そのままガンダムデルタカイへと持続するビーム渦流のエネルギー射撃を向けた。

 

「ぐうううう?!!ちいいいいいっっ……!!!!」

 

 グワッと迫り来るビーム渦流を防御するガンダムデルタカイだが、そのシールドバスターソードの防御を圧倒するように、ツインバスターライフルのビーム渦流がガンダムデルタカイを押し出して強制離脱させる。

 

 ガンダムデルタカイはその荒れ狂うビーム渦流を強引に弾きのがれつつも、吹っ飛んだ体勢を立て直しながらメガバスターを撃ち放つ。

 

 そのビーム渦流の射撃軌道はこの期に及んでマリーダに向けられていた。

 

 対するウィングガンダム・ゼロはこれをガードして防ぐのではなく、再度ツインバスターライフルを直接ビーム渦流に撃ち放つという真の防御で応戦した。

 

「リディ・マーセナスっ……性懲りもなくマリーダを狙うか!!!」

 

 

 

 ヴウウッッ、ヴァズダアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 ドォバオアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 

 

 双方のビーム渦流がぶつかり合い、閃光たる激しいエネルギー爆発を巻き起こす。

 

「ぐあああああっっ!!!」

 

「っ……!!!」

 

 その反発し合ったエネルギーの爆発が両者に拡がり、ガンダムデルタカイは吹き飛び、ヒイロはその衝撃波からマリーダを再度守った。

 

「ヒイロ……!!!」

 

「マリーダは絶対に守る……!!!」

 

 吹き荒れる衝撃波の中、リディが怒り混じりに吠える。

 

「おのれ、ガンダムゥウウウッッ!!!!邪魔なんだぁああああ!!!」

 

「その言葉そっくり返すっっ!!!貴様が邪魔だ!!!貴様は、以前に俺達の仲間の命を奪っただけでなく、救われるべき被験者達や、彼らの救助にあたっていたネェル・アーガマクルー達を殺した挙げ句、性懲りもなくマリーダを狙う……リディ・マーセナス、つくづく救えない奴だ……!!!!」

 

「……ぐぅっっ!!!うるさい!!!!そんなマヤカシや幻想を体現したようなそんな邪魔臭い人形は、壊しちまえばいいんだよぉおおおっっ!!!!!」

 

「何だと…!!?貴様っっ……!!!!」

 

 リディにマリーダを人形呼ばわりされたヒイロは静かに、かつ激しく激昂する。

 

 瞬発的にゴッと加速したウィングガンダム・ゼロは、再び突っ込んで来るガンダムデルタカイの懐めがけ一気に飛び込み、付き出したシールドの先端を思いっきり激突させた。

 

 

 

 ドガォオオオオンッッッッ!!!!

 

 

「がぁああああああぁっっ!!!?」

 

 更にもう一方側では、ガンダムサンドロック改が一瞬の間にもう1基のバスターファンネルをバスターショーテルで一刀両断し、閃光たる動きで吹き飛んだガンダムデルタカイに迫っていた。

 

 

 

 

 ディガギャアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

「があああああああ?!!」

 

 PXシステムに乗せたクロスクラッシャーの超高速の一撃がガンダムデルタカイをふっ飛ばしてみせた。

 

「一矢報いらなきゃ僕の気が済まないッッ!!!!はああああああああああ!!!!」

 

 青白い残像を描くガンダムサンドロック改の縦横無尽たる超高速軌道の斬撃が、ガンダムデルタカイを連続でふっ飛ばしていく。

 

「ぐうううう?!!なぜだああああ?!!なぜ敗北のビジョンが連続する?!!」

 

 ガンダムデルタカイのゼロシステムもまた敗北のビジョンをリディの脳裏に流して翻弄する。

 

 次の一撃の際にクロスクラッシャーとシールドバスターソードが激突し合う。

 

「ぐううううッッ、ガンダムッッ、ガンダムぅううううう!!!!」

 

「彼女はッ、ロニはッ……僕達は嫌という程酷い状況を駆け抜けてきた!!!これ以上彼女に不幸になってほしくない!!!!だから、ロニに殺意を持ったお前が許せないッッッ!!!!」

 

 リディが唸り叫びながらそれを捌き弾き、カトルがクロスクラッシャーを激突と共に斬り上げから袈裟斬り軌道の斬撃を打ち込む。

 

 その両者の激しい白兵戦の激突が空中にこだまする。

 

「がらぁあああヴぁあああ!!!」

 

 吠えるような叫びを上げながら、リディはシールドバスターソードをクロスクラッシャーにぶつける。

 

 だが、ガンダムサンドロック改は、それをも捌き弾いてクロスクラッシャーの唐竹の斬撃打をガンダムデルタカイに打ち込んだ。

 

 

 

 ガオオオォォオオンッッ!!!

 

 

 

「がくあああっ?!!!」

 

 ガンダムデルタカイを叩き伏せた一撃を皮切りに、縦横無尽な軌道の斬撃をガンダムサンドロック改が食らわし続ける。

 

 お仰向けに倒れたサイコガンダムMk-Ⅲのコックピットからロニがそのカトルの雄姿を見つめ続けていた。

 

「カトル……こんな、こんなになってしまった私なんかの為にッッ……!!!」

 

 極限にまで自己否定せざるを得ない程に追い込まれたロニを救おうとするカトルの姿勢を目の当たりにし、彼女の涙は止めどなく溢れる。

 

 その最中にヒイロはクシャトリヤ・リペアードをガンダムデルタカイの戦闘領域から守るようにウィングガンダム・ゼロを前に出し、マリーダにロニの救出を促す。

 

「マリーダ、今のうちにロニをサイコガンダムMk-Ⅲから助け出せ。奴の相手は俺達で引き受ける!!!無茶はしなくていい!!!」

 

「ああ……わかった!!ありがとう……ヒイロ!!!」

 

 マリーダは早速行動に移り、全周モニター画面に映る倒れたサイコガンダムMk-Ⅲ目掛け、クシャトリヤ・リペアードを向かわせる。

 

 倒れたサイコガンダムMk-Ⅲの側に自機を降り立たせると、マリーダはレフトアーム側のみとなったマニピュレーターをサイコガンダムMk-Ⅲの頭部コックピット付近にかざす操作をした。

 

「ロニ、聞こえているか!!?」

 

「マリーダ……!!!あなたにも、私は狂気を向けてしまった……ごめんなさい!!!ごめんなさいっっ……ごめんなさい……!!!」

 

「いいんだ、ロニ。私は解っている。私もあれから外道研究者達に洗脳されるまま妹達を殺めさせられた事があった……理不尽に罪を行わさせられたのはロニだけじゃない。みんなは解っている……今、私達はロニを助ける為にこの極東の地に乗り込んだんだ。それ以上もう自分を攻めなくていい。だから帰ろう」

 

「うぅっ……うっ……マリーダ……!!!うん!!!私っ……還りたい!!!」

 

 サイコガンダムMk-Ⅱのコックピットが解放され、ロニが出てきた。

 

 彼女がマニピュレーターに掴まるのを確認しながら、マリーダはコックピットに近づける操作をし、ハッチを解放した。

 

 ハッチを開いた先には涙と感情が溢れる寸前のロニがそこにいた。

 

 マニピュレーターから手を離しコックピットの中に入ると、その身をマリーダに委ねるように飛び込ませる。

 

「マリーダ!!!うぅっ……うっうっ……」

 

「お帰り、ロニ……」

 

「うっ……うああああああああああっっ……!!!うぁああああっああん!!!」

 

 感情を解き放つように泣き叫び始めたロニを、マリーダは優しく抱き締めながら彼女の頭を撫でた。

 

「辛かった……うん……辛かったな……だが、それも終わりだ……」

 

 クシャトリヤ・リペアードのコックピット内に満ちた空気は、これまでのロニの悲痛、苦痛、屈辱、そして哀しみを全て洗い流すかのような空気感に包まれた。

 

 その間にもガンダムサンドロック改の猛撃は続き、優しいカトルが普段見せる事がない激しい感情をガンダムデルタカイに、リディにぶつける。

 

「はぁあああっ!!!」

 

「がぐがっああっ……ぎぃっ!!!」

 

 連続する滅多斬りの斬撃打を、ガンダムデルタカイはゴリ押しで受けながらシールドバスターソードをガンダムサンドロック改に突く。

 

 一瞬吹っ飛ぶが、その一瞬でガンダムデルタカイに迫り、シールドバスターソードをクロスクラッシャーで掴み止めた。

 

 ギリギリと互いのパワーが拮抗する最中、リディの脳裏に敗北と死のビジョンがゼロシステムによってうつしだされ、現実と混同させる状況が引き起こる。

 

 頭痛と吐き気が去来し、更に遠心力系の目眩も襲いかかる。

 

 リディは頭を押さえながら悶絶を始めた。

 

「ぎぎぎっ……ががががはっ……ぎっ!!!?」

 

 

 ガンダムサンドロック改は機体のパワーがダウンするガンダムデルタカイのその隙を逃すはずもなく、クロスクラッシャーで一気に胸部を挟み込んだ。

 

 

 

 ガギャガァアアアアアアッッ!!!!

 

 ギギギギギギギギギィッッ!!!

 

 

 

 そしてガンダムサンドロック改はPXの超高速機動力を持ってガンダムデルタカイを掴み取ったまま、残像を描きながら一気に地上へと激突させた。

 

 

 

 キュキゴッッッ―――ダディギャガァラアアアアアア!!!!

 

 

 

「ぐかっ……!!!!!!」

 

 常軌を逸した凄まじい衝撃がリディの意識を失わせた。

 

 ガンダムサンドロック改もまた、ガンダムデルタカイを地表に食い込ませた状態でPXシステムが自動解除され、怒涛の攻勢を終える。

 

 ヒイロはその側にウィングガンダム・ゼロを着地させ、クロスクラッシャーに掴まれながら地に埋められたガンダムデルタカイを睨んだ。

 

「リディ・マーセナス……貴様は敢えて殺すのは預ける……代わりに相応の報いを受けてもらう。殺すだけじゃ、報いが薄い……覚悟しておくんだな……!!!」

 

 全身全霊の攻勢を持ってカトルはリディを沈めさせた。

 

 ガンダムサンドロック改のコックピットには息を切らしたカトルの呼吸が響いていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ……!!!僕はっ、やったのか?!!この、ガンダムを?!!」

 

 カトルは半ば状況がのめれないまでに、戦闘に魂を注いでいた。

 

 その時、サイドモニター画面にヒイロが通信を入れた。

 

「カトル、サンドロックはPXを使いきった。後は俺に任せ、マリーダとネェル・アーガマに帰還しろ」

 

「はぁっ……はぁ……はぁっ、でも、このガンダムは……!!!」

 

「そいつはMDを始末してから俺が連行する。今のお前とサンドロックが奴の鹵獲移動中に再起動されたら負ける……それに、一番成すべきだったお前の任務はもう遂げている」

 

 ヒイロはゼロシステムが示さずとも、万が一の危険を考えカトル達を離脱させる判断を考えていた。

 

「……わかったよ……ありがとう、ヒイロ!!!」

 

 改めて帰還の流れが訪れ、マリーダは笑みを含みながら泣きながら寄り添っているロニに言葉をかける。

 

「さぁ、帰ろう。ロニ……ネェル・アーガマへ」

 

「ううっ、うっ……うっ……ネェル……アーガマ??」

 

「あぁ。それが今の私達の帰る場所だ」

 

 状況を読み馴染んだカトルは自機を立たせ、クシャトリヤ・リペアードと共にネェル・アーガマがいる方面へと機体を向かわせていった。

 

 それを確認したヒイロは、ウィングガンダム・ゼロをMDの部隊が密集するポイントへと向かわせた。

 

 

 

 

 友軍機のガンダムデルタカイからの想定外の攻撃により、敵味方判断の部分にエラーを一時的に起こしていたMD部隊が、動きを止めていた状態から戦闘を再開させる。

 

 再びカメラアイに光が灯り、瞬時のターゲット選定と共に攻撃を開始し、藤枝市と焼津市に再びビームが飛び交う戦場が拡がる。

 

「やれやれ、一時期はどうなるかと思ったが、あっちはめでたしめでたしだな!!さぁて……こっちはもう一働きするか!!!」

 

「あとはMDを叩くだけだ。なんとかなるな」

 

「ああ、もう一息だ!!殲滅戦の再開だ。この戦闘はOZプライズに打撃の一部となったはずだ」

 

「俺達のこの行動は、確かな粛清の一つになる」

 

 デュオ、トロワ、ラルフ、マフティーもこの状況に対し、再び攻勢に打って出た。

 

 唸り薙ぐアームド・ツインビームサイズ。

 

 銃口を唸り散らすダブルビームガトリング、アームバスターカノン、バスターガトリングキャノン。

 

 ハチの巣弾幕を飛ばす二挺のダブルガトリング。

 

 高速連発射撃するビームバスターと縦横無尽にそれと連携攻撃するファンネルミサイル。

 

 そして追って介入したウィングガンダム・ゼロが下方に向かい解き放つ、ツインバスターライフル。

 

 メテオ・オブレイクス・ヘルのガンダム達やサーペントカスタムの驚異的な戦闘力がMD達を圧倒し、その力を証明する。

 

 これに加え、半数以上が壊滅したOZ招集部隊もまた、士気を改めてガンダム達の攻勢に続いた。

 

 世界各地のオペレーション・ノヴァ実行ポイントでは抵抗者達は最終的に応戦不能となり、必ず抵抗勢力の全滅という状況を固持していた。

 

 だが、今回の一件でそのオペレーション・ノヴァが覆されたのだ。

 

 当然ながらこの事態は上層部であるロームフェラ財団本部に状況報告され、それを会議中に受けたデルマイユは憤りを露わにして机に拳を叩き付ける。

 

「何たることだ!!!輸送船部隊も含め、MD部隊が全滅したと言うのか?!!その一か所だけだったとはいえ、オペレーション・ノヴァが失敗になるだと?!!奴らはそれほどまでの力を有していると言うのか?!!」

 

「デルマイユ公、あのバルジをも破壊した連中です!!!通常のMD部隊数ではとても……!!!」

 

「その通常の部隊に増援をさせた指示をしていたのだ!!!それでもこのありさまだっ……!!!」

 

 そこへ更なる厄介な報が入室してきたOZプライズの兵士によってもたらされる。

 

「失礼致します!!たった今入った情報をお伝えしに来ました!!!中国を統制させていた我がOZプライズの者達がL5エリアと連動して謀反を起こした模様です!!!」

 

「何ィ?!!」

 

「中国エリアを管轄担当していた殆どのOZプライズの中国人種兵達が決起したとのことで、これもOZの反抗に連動したものと思われます!!!『我々こそが地球圏の覇権を拡げる』と主張しているようです!!!」

 

「旧世紀でいうところのレッドチームと称された国の連中か!!!元より信頼に置けんとは思っていたが……やはりこうなったか!!!」

 

 この時既に中国エリア及びL5コロニー群各地のOZプライズの中国人種兵士による決起が行われ、またもやオペレーション・プレアデスのブーメランというべき事態が発生していた。

 

 それ以前からも実質上、醜季煉特佐による独裁体制が裏で広がっており、今回のOZの反乱に乗じて正式に中華覇権派OZプライズ決起した形となったのだ。

 

 だがそれはカモフラージュも踏まえており、醜季煉特佐が支配するL5コロニー群では既に支配体制が裏で完了していた。

 

 中華種族の兵士達以外の兵士達は巨額の賄賂(わいろ)で懐柔させられており、L5全域のOZプライズ宇宙軍が中華覇権派・OZプライズとなっていた。

 

 更に彼らはL5管轄のコロニーを徹底的に支配し、手始めの時点から大量の大衆達をMSやMDによる虐殺を行いその力を示していた。

 

 L5コロニー群に至っては支配したコロニーの一部を強制収容施設としても扱い、住んでいた市民の多くが大量虐殺……ジェノサイドの犠牲となっていた。

 

 デルマイユが屈辱と憤りに震えながら歯を食いしばる中、財団兼ブルーメンツ幹部の一人が狂気の提案を提示すする。

 

「ならばバルジⅡを地上に放ち、更なる畏怖を知らしめることができるのでは?メテオ・ブレイクス・ヘルの過剰な武力介入や分裂したOZ・OZプライズ達の決起が我々をそうさせた……それだけのこと……いかがなものかな?」

 

「バルジ砲を地上に撃つ……か!!!なるほどな!!!」

 

 すると他の居合わせていた財団幹部もその意見を促進させた。

 

「元より我々の力の誇示を証明する象徴のバルジです。オペレーション・ノヴァに加え、使うべきです。これ以上の奴らの過剰武力介入や反乱決起を阻止する為にも!!!」

 

 それからしばらくの間急遽バルジ砲の使用、配置等についての緊急会議が行われ、その結果はコロニー落としに匹敵する愚行の決断が下されることとなった。

 

「今後、バルジⅡを地球の衛星軌道上付近に配置し、宇宙には引き続きバルジⅢを配置し続けるという結論となった。早速バルジⅡのポイント移設指令を発令する!!!中華覇権派OZプライズに対しては、地上にはオペレーション・ノヴァの強化を行う!!!」

 

 皮肉にもヒイロ達の行動がロームフェラ財団をより狂気的な行動へと移させてしまう。

 

 ヒイロがゼロシステムで見た光景がまた一つ現実味を帯び始めてきていた。

 

 帰還する最中のコックピットの中で、ゼロシステムはその事を警告するかのように映像をヒイロに見させていた。

 

 ヒイロはその映像と向き合いながらゼロシステムに語り掛ける。

 

「またバルジ砲の映像か……ゼロ、それがどこなのか示せないのか?今の俺達に影響がないのか?」

 

 その問いに対し、何時しか聞いた「あの声」が返答する。

 

 

 

『それはいずれ地球に撃たれる狂気の光……あなた達に直接は注がれない……けれど行き過ぎた武力介入がこれを招いた』

 

 

 

「な?!!あの声……!!?行き過ぎた武力介入だと?!!」

 

 

 

『これ以上の過剰な戦いは、悲劇を拡大させる……』

 

 

 

 更にゼロシステムは今後の行く末を示すかのように更なる映像を巡らせた。

 

 新な形状のグリーンが主体カラーのウィングガンダムとヒイロ……もとい、ライトの姿、サンクキングダムの映像が脳裏に送り込まれる。

 

 そしてそれを言葉に形容しがたい感覚で、ヒイロは理解する。

 

「新なウィングガンダム……?!!与えるに相応しい奴がサンクキングダムにいる……だと?!!そして、そいつは……俺?!!いや、恐ろしい程似ている奴なのか……?!!」

 

 

 

『この国は守らなければならない……』

 

 

 

 その言葉の直後、サンクキングダムに押し寄せるMDの大部隊の映像が示された。

 

 業火に晒されるサンクキングダムと闘い続けるヒイロ達の姿、そしてその国のプリンセス・リリーナ・ピースクラフトと兄であるゼクス、もといミリアルド・ピースクラストの姿が過る。

 

「サンクキングダムのプリンセスにゼクス?!!なるほど……奴はプリンセスの兄だったのか……!!!そして奴と共闘か……あの時は想像もできなかったな……」

 

 ヒイロは最後にゼクスと戦闘をしたあの瞬間を思い起こす。

 

 最後にマリーダの名を叫んでバスターライフルを放った時である。

 

「……あれから奴はOZを抜けていたのか……つくづく時代というものは早くも遅くも変わるな」

 

 当事者達は日々激化する周辺諸国のOZ・旧連邦残存軍・旧ジオン残存軍対OZプライズの図式の中、平和の象徴の国として再建したその国を守り続けようと奮闘していた。

 

 ゼクスは愛機トールギスを駆りながらミスズ達と共に警戒任務にあたり、ヒイロの酷似者のライトもカスタムリゼルに搭乗してそれに続く。

 

 そしてリリーナは国事や周辺諸国からの亡命者達及び戦闘逃亡入国者達の人道的対応に身を呈していた。

 

 一連のゼロシステムの流れを見せられたヒイロは肝心な質問をゼロシステムの声に問いただす。

 

「単刀直入に言う。ゼロで聞こえるこの声はなんだ?そして何故か心なしかマリーダの声質にも似ている。何者だ?」

 

 だが、それ以上の答えは返ってくる事無く、その状況を流されながらヒイロは再び投影された現状況に目をやる。

 

 ネオ・バードモードに変形した状態でライト・レフト双方のアームを利用して抱えているガンダムデルタカイを見る。

 

「……俺達の仲間の、オデルの仇であるガンダム……角度を変えてみれば利用価値があるかもな……だが、貴様は決して許しはしない……リディ・マーセナス!!!」

 

 ヒイロは機体よりもそれを操るパイロットに怒りの矛先を集中させ、ゼロシステムを介して知ったその名を重く吐いた。

 

 その後、救出にあたったネェル・アーガマ乗組員達や救出しようとした被験者の多大な犠牲の痛感をかみしめさせられた状況で、ネェル・アーガマは領域の離脱態勢に入った。

 

 CICブリッジでは、ムラサメ研究所の廃墟となり果てた場所を通過する間際、ケネスを筆頭に全員が哀悼の意を表した敬礼を送る。

 

 マグアナックチームのアブドゥルは、短い間ながらも背負った事情を聞かされ彼に感情移入したヴィンセントの死と、彼がようやく再会できたクロエの死に対し、悔しさの余りに敬礼を辞めて壁を殴る。

 

 リディとベントナは別々の独房室に監禁され、尋問を待たされる身となった。

 

 拘束されたリディはうなだれたまま微動だにせず、唯一研究所関係者で生き残ったベントナは手当ても放置されたまま銃弾の傷に呻き続けていた。

 

 だが、同時に悲願であり待ち望んでいた喜ばしい状況もまたあった。

 

 カトルとロニは遂に再会を果たす。

 

 どれ程の辛酸の時間が積み重なっただろうか。

 

 どれ程苦痛と悲しみを味わっただろうか。

 

 カトルとロニはMSデッキ上で互いに強く抱きしめ合いながら、これまで会えなかった分の時間のように、いつまでも抱擁を続けていた。

 

 マリーダも距離を置きながらその状況を温かな眼差しで見守る。

 

 止まったかのような空間の中、カトルはロニの耳元で溢れさせてきた想いをこぼした。

 

「ロニ……やっと……やっと……やっと会えた!!!こんなにも嬉しい事なんて、なかった!!!何度も折れそうになった時もあった。でも必ず会えると信じて来た。そして……いまこうしている。君を抱きしめている……!!!」

 

 ロニもまたカトルの耳元に想いを吐露する。

 

「カトルっ、カトルっっ……!!!私っ、私っっ……!!!あなたを酷く傷つけさせてしまった!!!あなたのフィアンセとしても取り返しのつかない行為もしてきてしまった……ぐすっ、本当にごめんなさい!!!」

 

「謝らないでって……自分を思い詰めないで。ロニは何も悪くないんだ。何も……!!!僕はロニが傍にいてくれる事が一番嬉しいんだ!!!僕は、君が好きなんだから……!!!」

 

「カトルっっ……!!!」

 

 二人はより強く抱きしめ合った。

 

 そんな二人を見守っていたマリーダは髪をなびかせながら振り向いてその場を後にする。

 

 (あとは二人の時間だ。最早私は部外者だ。ロニ……本当に良かった……落ち着いたら女子会とやらをしてみたいものだ……)

 

 マリーダはある程度歩みを進めた後にふと宇宙(そら)にいるプル達ガランシェール一行を思い出し、立ち止まって天井を見上げた。

 

 (姉さん達は、今頃どうだろうか?ラプラスの箱の行方は……)

 

 

 

 L2コロニー群・L5コロニー群中間エリア

 

 

 

 ガランシェール一行は次の座標のムーンムーンを目指すにあたり、ピースミリオンと連絡を取り合って一時的な補給と改修を行っていた。

 

 それは勿論物資面のこともあるが、いずれ地上に降りた時の為の改修も踏まえていた。

 

 合流当初は予定はしていなかったが、ハワードの案で急遽改修工事が行われることとなったのだ。

 

 接待室ではハワードとジンネマンがコーヒーを飲み交わしていた。

 

「改修から補給まで……何から何まですいませんね、ミスター・ハワード」

 

「なぁに、ヒイロ達のよしみでもあるし、このくらいは当然だよ。ガランシェールには地上に着地する為の装備が無かったからな。遅かれ早かれ、いずれは地球に行くんだろ?」

 

「はい。予定ではサンクキングダムでヒイロ達のネェル・アーガマと合流することに。この分ではいつになるかはまだわからないとしか言えませんが……」

 

 ジンネマンはコーヒーを何度か飲んだ後に、ため息交じりに窓から確認できる月の方面を見た。

 

 それに察したハワードはジンネマンに問う。

 

「どうしたね?ため息なんぞして」

 

「え?!あ、まぁ……いくらガンダムとキュベレイを持っているとはいえ……今しがた申し上げたように、この旅はいつまで続くのかと憂いましてね。散々飛び回った挙句、実は大したものでもなかった、最悪何もなかったなんて言う可能性も捨てきれないなと感じましてしまう時がふとあるんですよ」

 

「ほぉ……旅ね。確かラプラスの箱と言ったかね?」

 

「はい。解き放てば連邦を転覆……すなわち今の情勢で言えばOZ及びOZプライズを転覆させるものとされているそうですが……」

 

 ハワードも何度かコーヒーを口にすると、それについて語りだす。

 

「俺は元々連邦のMS開発に携わっていた身でな……厳密にいう最初のMS・トールギスというMSの開発に携わっていた頃があった。その頃にも噂は耳にしたことはあった。ま、都市伝説みたいにしか思っとらんかったが……」

 

「そうだったんですか?!ん?最初のMSはザクⅠではなかったんでは?」

 

「世間一般、もとい公式にはそう言われとるが、それ以前に極秘に開発建造されたMSがトールギスだった。ただし、パイロットの安全性を完全に無視した設計と性能でな。最初にして最強のMS……ま、ヒイロ達のガンダムのプロトタイプと言った方がピンと来るかな??」

 

 ジンネマンは知り得る限りのメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達の記憶を過らせる。

 

 その怪物的強さのガンダムの原点と言われれば、いかような性能か想像に難くない。

 

「……そんなMSがあったとは……」

 

 その当事者はサンクキングダム近隣のエリアの哨戒に日々活躍する。

 

 唯一のその機体を使いこなせる領域にいけた男・ゼクス・マーキス……本名ミリアルド・ピースクラフトがそのグリップを握り続けていた。

 

 (……OZプライズの降下作戦が、各地で激化している。だがまだ自衛部隊は力不足だ。ここにあのガンダムが加わってくれればどれ程心強いものか……ヒイロ……生きているのならば今は共闘を望む。この国の為にな……)

 

 ミリアルドはそう心の中で呟きながらリゼル部隊を先導しながら哨戒飛行を続けた。

 

 ハワードは部屋の棚に腰を上げると、話を本題に戻しながら幾つかのウイスキーに手にとりながらジンネマンにラプラスの箱を求める理由を問う。

 

「まぁ、携わっていた身としては自慢の機体だよ。話を戻すが、そんなにも疑念を抱えても尚、ラプラスの箱を探し続けるのは何故かな?」

 

「それは、養女ではありますが、私の娘であるプルのニュータイプ的観点が前向きなモノと感じ捉えていたからです。今の時代に必要なものと……そしてそれはサンクキングダムに届ける必要があるモノ……だからです」

 

 それを聞かされたハワードはグラスを手に取りながらジンネマンに言う。

 

「なるほどな。ニュータイプから見て……いや、感じての感想があってか……間違いはないと思うぞ。ヒトの革新と言われる人種がそう感じれていれるならば、そうなのだ。俺はニュータイプを否定なんかせんぞ。いずれは地球圏の社会が認めるべきと思っとる」

 

「ミスター・ハワード……」

 

 ハワードはコーヒーを飲み終わると、ウイスキーとグラスを持ちながら再び腰かけながら持論をジンネマンに諭すように伝えていく。

 

「ラプラスの箱の旅か……可愛い子には旅をさせろとよくいうもんだが、子ってもんは親の知らんところで成長してくれるもんだ……長かれ短かれ、意味のある旅になってくれるはずだ。そう考えれば憂うこともあるまいて……」

 

「なるほど……息子さんや娘さん、いらっしゃるんですか?」

 

「いや、直接はいない。だが、このピースミリオンで働いてくれているやつら皆、息子・娘みたいなもんさ……ま、お前さんと同じようなもんさ……ところで、ハイボールは好きかい?」

 

「ハイボールですか!いいですなぁ!!」

 

「まぁ、羽伸ばしということでお前さんがコーヒーのみ終えたら呑み交わそうや。少々でかいが月見酒ができるぞ?」

 

 するとその時、部屋にあるコールが鳴り響いた。

 

「ん?なんじゃい……これから晩酌ってのに……」

 

 ハワードは文句をこぼしながらコールに出ると、しばらく内容を呑みこんだ後でジンネマンに話を振った。

 

「……そうか。ちょっと待ってろ。ミスター・ジンネマン、おたくの子らがうちの高速戦闘艦を借りてL5のコロニー、X-8641……ムーン・ムーンに行きたがっているそうだ。どうするね?」

 

「何ですって?!!ううむっっ……あいつら勝手なことを……」

 

「一応、許可を求めての話なんだがな……まぁ、憂う気持ちもわかる。俺は別に構わんし、何なら信頼できる優秀なうちの娘二人に同行してもらうって方法もある。最終決定権は勿論お前さんだがな」

 

「ううううん……」

 

 結果的にピースミリオンから高速宇宙戦闘艦が飛び出し、ムーンムーンことX-8641コロニーに向けて発進していった。

 

 先ほどのハワードとの話や、以前にもプルとマリーダに告げた「感情のままに……」の話を思い返したジンネマンは「旅」をさせるに至ったのだ。

 

 窓から見える宇宙空間を突っ切る高速宇宙戦闘艦の光を見届けながらハワードはハイボールを呑みながらジンネマンになだめるように言う。

 

「なぁに……心配いらんさ。ウィングガンダム・ゼロと同等のガンダムとユニコーンガンダム、キュベレイ、そしてうちのスペシャルカスタムリゼルと優秀な娘二人がいるんだ……」

 

「何から何まで……本当にお世話になります……」

 

「ままっ、今は呑もうや……乾杯!」

 

「はい……!乾杯!」

 

 

 

 高速宇宙戦闘艦は艦名は持たなくともその名のごとく宇宙間を通常の艦艇をはるかに上回る速度での航行が可能であり、ムーンムーンを目指すにあたり、色々な意味で短縮できる要素であることに間違いはなかった。

 

 その高速宇宙戦闘艦を操縦するのはハワードのお墨付きともいえるピースミリオンからの二名の女性スタッフだ。

 

 どちらも美人であり、カッコよさげなショートヘアーとシュっと毛先がシャギーのロングヘアーが印象的な二人だった。

 

 他にもシェルドやディック、トムラ、ピースミリオンのメカニック数名が同行し、各機体のチェックを行っていた。

 

 航行操縦中の中、女性スタッフに簡易ドリンクを手にしたアディンが尋ねる。

 

「この船ってかなりの速度で航行できるんだろ?むーんむーん??までどのくらいでつけるの?」

 

「この位置からならば約半日で着ける。時間的には問題はない。だが、君達は何故あんな辺境のコロニーに?」

 

 そう答えた彼女にアディンは理由を説明する。

 

「あれ?ラプラスの座標の話してなかったっけ?」

 

「ラプラス?私達はムーン・ムーンに連れて行ってやってくれと言われたに留まっている。レディは何か聞かされていたか?」

 

 もう一方のレディという名の女性スタッフに話を振ると、彼女はラプラスという単語を察したように話す。

 

「いや、ドタバタして目的ポイントしか聞かされてはなかったが、ラプラスという単語は記憶にある。OZ時代に連邦を転覆させる力……それがラプラスの箱だという噂を聞いたことがあった。無論、都市伝説レベルの話だと思っていたが……まさか実際にあるとは……」

 

 アディンは元OZの人間という事にドリンクをむせながら反応した。

 

「ええ?!が?!!ゲホゲホッ……ゲーホゲホッ、ゲホゲホ!!お、お姉さん達って元OZなの?!!」

 

「そこまで驚くことはないだろう?ピースミリオンやネェル・アーガマには様々な勢力からの同志達が集まっているんだ。不思議な事ではない。そういえば申し遅れていたな。私はレディ・アン」

 

 レディの自己紹介に続き、もう一方の女性スタッフが振り返りながら握手の手をかざす。

 

「ルクレツィア・ノインだ。よろしく」

 

「お、俺は、アディン・バーネット!!よ、よろしく(いや~、二人とも改めてこう間近で接すると美人さんなのが半端なく実感できるぜ~、えへへ……あ?!!!)」

 

 心境的に鼻の下を伸ばしそうになったアディンはハッとして思考を止めるが、次の瞬間には耳に激痛がはしっていた。

 

「いづづづづづ!!!」

 

「ア・ディ・ン……わざわざ操縦席まで来てデレデレしないッ……アディンがご迷惑かけました!!あたしはエルピー・プル!!ユニコーンガンダムのパイロットです。で、こっちが妹のプルツーです!!よろしくお願いしまーす」

 

「この度はよろしく……あたしはキュベレイに乗っている」

 

「いつの間に君たちは……くすッ、まぁいいか。こちらこそよろしく」

 

 プルツーがレディとノインに挨拶を交わす真隣ではアディンがギューギュー耳をプルにつねられている。

 

「いででッ、俺はただッ、いつ着くか知りたかっただけだって!!!」

 

「あたしがニュータイプなの知ってるでしょ!!!心の中はまるわかりなんだからッ!!!」

 

「んなこと言ったてよ、一男子として当然の反応だよ!!!二人とも美人なんだからさ!!!」

 

「開き直らないで!!!あたし、アディンが嫌いになっちゃうよ?!!」

 

「そ、それは困る……ってッ……ちがうッ、おれはそのだなッ……!!!」

 

「そっかー、あたしが嫌いになると困るんだー、へー(棒)」

 

 目の前で始まった夫婦漫才的な状況にどう反応すればよいのか困り果てたレディとノインだったが、この一言を言うほかなかった。

 

「……二人は仲がいいんだな」

 

 レディがそう言うと、プルツーは騒ぎ始める二人に変わって軽く謝罪する。

 

「まぁ、見ての通りだ……本来はあたし達が感じた事を警鐘する為に来たんだが、こんなに騒ぐつもりではなかった。申し訳ない……」

 

「いや、気にしないでいい。逆に場が和むよ(妹さんはしっかりしてるな)」

 

「そうだ。気にするな、私達は軍隊じゃない。それで警鐘とは一体なんなのだ?」

 

 ノインがそう質問すると、プルツーは警鐘の事を告げる。

 

「さっき言ったように、あたしとプルはニュータイプ気質だ。感覚で色々な事を感じれる体質……とでも言おうか。それでムーン・ムーン……いや、L5宙域そのものが嫌な感じを放っている。禍々しい程にね」

 

「L5全域が危険宙域だというのか?勿論、私達も多少の戦闘は覚悟はしているが……」

 

「戦闘もあり得るけど……今感じている人の死は……コロニー規模のそれが拡大している感じなんだ……言葉では表現できない……戦闘とは違う」

 

 プルツーの深刻な表情から先ほどとは一転した空気に変わる。

 

「戦闘とは違う??この先に一体何があると感じているのだ?プルツー?」

 

「……大勢の人々の苦しみのようなモノの感覚が強い……おそらくは……ジェノサイド……!!!」

 

「ジェノサイド……!!!」

 

 

 

 プルツーが放ったジェノサイドという言葉は的中していた。

 

 今や中華覇権派OZプライズの制圧下となったL5コロニー群にはそれを統括する元凶・醜季煉(シュウ・キレン)特佐の存在があり、彼は古いコロニーを筆頭に「古き存在は新しき時代の糧にする」と人道外れたジェノサイドを開始していた。

 

 その他のコロニーにも無情無慈悲な攻撃をし、反発したコロニー市民に対しても全く容赦なくMSやMDによる攻撃を加え、恐怖を徹底的に植え付け支配していた。

 

 更に裏では中華人種のOZプライズ兵士以外にも賄賂を回して懐柔させており、俗に言う親中派と呼ばれる幹部や兵士達はL5コロニー群全域規模で中華覇権派に取り込まれていた。

 

 そしてムーンムーンも対象の例外ではなく、強制収容隔離コロニーとされ日々虐殺が繰り返される。

 

 ある意味その方法はかつての毒ガスよりも醜悪な虐殺であった。

 

 ムーンムーンの住民である光族と呼ばれる民達は、強制収容施設において生きたまま内臓を抉り出されるというジェノサイドを強いられていた。

 

 絶望の苦悶の悲鳴が強制収容施設から絶えることのない非日常の日常が彼らを蝕む。

 

 それは臓器ビジネスというある種の死の商売を活性化させ、巨額の利益をもたらしていた。

 

 だがそれだけに止まらず、光族そのものの民族を消去させる目的もあり、女性や子供にも容赦のない虐殺が集中していたのだ。

 

 収容施設では押し込められた中で、光族の教祖としてあがめられているサラサ・ムーンに僅かな希望をすがる。

 

 彼女はニュータイプと思われる力を有しており、彼女の存在そのものが絶望的状況の中の希望となっていた。

 

「サラサ様ッ……我々が一体何をしたというのでしょう?!!何ゆえにこんな……!!!」

 

「サラサ様ッ、昨日は私の唯一の娘が連れていかれました……泣き叫ぶ我が子を、奴らは……!!!うううッううう!!!」

 

「俺は妻が連れていかれた……サラサ様あッ!!!」

 

 多くの光族からの悲痛な声を幾つも聞き入れながら頷くサラサは、希望を説く他なかった。

 

「連れていかれた先にあるのは非常な結末であることは……私も存じています。ですが、それでも光を、我が光族が光を見失ってはいけません。明日は、明後日は自分の番かもしれない……それでも光の心を忘れてはいけません。同族達の死は決して無駄な死ではない。例え明日はあなたが、あなたが、あなたが、あなたが……あなた達の誰かが連れていかれようとも、それは生かされていく光族の希望の礎となる。いずれこの状況は変わります。悪しきが栄えた歴史はあっても必ず終わりが来ています。悪しき存在は必ず滅ぶ時が来る……今は未来の光族の為に耐えるのです……」

 

 サラサの言葉は例え殺されてしまう時が来ようとも、その悲劇は未来の光族に伝わる尊い犠牲となり、やがてその愚行をする者達は必ず滅ぶ時が来るというものだった。

 

 誰もがサラサに希望を寄せ、涙ながらに希望を見出す。

 

 その最中、扉が開かれ中華覇権派OZプライズ兵士達に複数人の光族の民が連れ出されてしまう。

 

「あああああ!!!サラサさまぁ!!!」

 

「いやだッ、いやだあああ!!!」

 

「おかーさあああん!!!」

 

「イメラぁああああ!!!え、いやッ、いやあああ!!!」

 

 母子共に連れていかれる光族の親子。

 

 それ以降も次々と無差別、無情、非人道に連行されていく光族の悲鳴に、サラサは声を上げて最後まで希望を説く。

 

「必ず、必ず、光は来ます!!!死しても光は来ます!!!最後まで光の心を!!!最後まで持ち続けて……!!!」

 

 サラサは鉄格子にしがみ付きながら声を上げていたが、実際の彼女の心中は限界に達している状態だった。

 

 (いつまでッ……いつまでこのような状況にいるというのッ……!!!もう、正直これ以上は耐えられない……!!!でも、みんなの為に希望にならなくては……!!!)

 

 残された光族の希望の為に彼女は震える手に鉄格子を握り閉めながら自らの心を踏ん張り止まらせる。

 

「それでも、それでも……絶望してはなりませんッッ……光族に真の光の加護が訪れる日まで……!!!」

 

 光族の民達はサラサの言葉が道しるべ故、その声にすがるように彼女をあがめ続ける。

 

 生ける神とでも言わんばかりに……。

 

 一方、彼らが連れていかれた強制収容施設では、先ほどの幼児が目の前で虐殺されているようで、何度も母を呼ぶ悲痛すぎる声が響く。

 

 子の名を何度も叫んで聞こえていた声は苦悶の絶叫から断末魔へと変わっていく。

 

 その中に紛れて泣き叫ぶこの声はやがて更なる甲高い鳴き声になり、やがて聞こえなくなる。

 

 また健康的な男達は肉体的強制労働を強いられ、歯向かうものには即銃殺を与えるといった狂気の所業はあのオーブジェノサイドをも持て余す程の残酷さを醸し出していた。

 

 この醜悪な現実を振りまくのが醜季煉であった。

 

「強制収容施設のデータはどうかね?」

 

 季煉は名の通りの醜悪な面構えをしており、無表情に僅かな笑みを浮かべたような表情で部下に尋ねる。

 

「はっ!!すこぶる快調にございます。臓器ビジネスの利益も短期間でこのように……他のラグランジュに提供を促せば更に利益は伸びるものと……」

 

「ふむ。よきよき……それで彼と例のガンダムはどうか?」

 

「はっ!!そちらも計画通りに……」

 

 季煉が指摘したガンダム……それは差し出されたタップボードモニターの映像には真紅のユニコーンガンダムであった。

 

「我が中華覇権派の象徴ともいえるガンダム、ガンダムC-フェネクス。鳳凰のガンダム!!!実に素晴らしい!!!」

 

「パイロットの醒紅烏(セイ・ホンウー)は完璧に調整されております!!!我が力の象徴として間違いないかと!!!ガンダムも以前に地球で墜落して消息不明になっていたガンダムバンシィを回収してカスタマイズを加えたものとなっております。それ故に!!!最強と言ってよいでしょう……!!!」

 

 季煉の側近が言った中華覇権派OZプライズの兵士・紅烏は季煉とは真逆に整った顔立ちの好青年の男であった。

 

 だが、俗に言う強化人間故に狂気染みた性質の持ち主であり、キルヴァ同様の同情の余地のない冷酷な性格の持ち主である。

 

 ガンダムC-フェネクスは機体を強制的に半永久的にデストロイモードにしたまま起動が可能だった。

 

 紅烏自身には長期のNT-Dに耐えうる強力な肉体強化が施されており、終始自在にガンダムC-フェネクスを操縦して見せていた。

 

 彼が携わるのはL5コロニー群から逃れようとする市民達の駆逐や反抗するMSの排除が主な任務であった。

 

 この日においてもライトアームのアームド・バスター、レフトアームのアームド・ファングを駆使して弱者たちの駆逐にはしる。

 

 必死に逃げる逃亡者達の輸送機を追い回しながらアームド・バスターを執拗に撃ち放ち、次々と輸送機を撃墜していく。

 

 ビーム渦流を撃ち放つと思えば、時に不規則かつ、いびつな射撃軌道を描いていとも簡単に斬り裂くかのように輸送艦の装甲破壊する。

 

「ふふふ。愚かな……逃しはしないっっ!!!」

 

 次々に放たれるアームド・バスターが撃墜を重ねる中、1機のシャトルに目を付けた紅烏は驚異的な機動性で回り込み、アームド・ファングで機首部から砕き潰して見せる。

 

 ようやく脱出できたと思っていた人々は無残に葬り去られ、宇宙の藻屑に消えていった。

 

「力だ……この力……力が成す圧倒が、好きなんだぁ、虫けら愚民め……!!!次はぁ……どこだぁ?!!」

 

 弱者に対する狂気の強者の力が容赦なく振るわれるこの現実がL5コロニー群に浸透していき、ここ以外にも紅と金色のツートンカラーリングを施されたプライズリーオーやジェスタが脱走者を追撃し、容赦なく撃墜する光景が拡がる。

 

 既にL5コロニー群の全域を掌握していた中華覇権派OZプライズは、逃亡者に対し即撃墜対応、更には侵入者にも即撃墜対応をしていたが故にL5コロニー群そのものが宇宙の孤島と化していた。

 

 

 

 アディン達一行は、休憩を挟みながらほぼ予定通り、半日と数時間でムーン・ムーン付近に到達した。

 

 苛烈な状況と化した領域に踏み入れていくアディン一行ではあるが、進めば進むほどプルとプルツーは感覚を重くしていく様子を見せ始めた。

 

「……何?!!この感覚っ……何だか進めば進むほど重苦しくなる……大勢の苦しみを感じて来た……!!!感じたことないよ、こんなの……」

 

「おいおい、無理すんな!!とりあえず休憩室行こうぜ」

 

「うん……ありがと、アディン……」

 

 プルは体調を崩すかのように疲労をみせはじめ、アディンは彼女を連れて操縦席室を離れた。

 

 妹のプルツーも同様な様子を見せるかと思いきや、毅然としたままいた為にノインが尋ねる。

 

「あれがニュータイプ故に感じれる感覚なのか……妹の君は大丈夫なのか?」

 

「あたしは色々と場数踏んでるからね。第一次ネオジオン抗争や時々遭遇する宙賊との戦闘、戦闘とは違うが木星圏のなんとも言えない重圧とか……似た感覚なんて山ほど味わってるからな。でもまぁ、こんな感覚……反吐が出るよ。十中八九ジェノサイドが行われている。きっと元凶が必ずいるはずだ」

 

 プルツーのその言動からレディとノインは「え?!」というリアクションを見せ、レディもまた彼女に尋ねた。

 

「第一次ネオジオン抗争?!十年以上も前の事だが君は一体……?!!」

 

「ああ、こう見えても22歳……一定の年齢あたりから体はそのままなんだ。多分、そう遺伝子を操作されていたんだろうなって思ってる……」

 

「そうか……ニュータイプ部隊と呼ばれた兵士がいると聞いたことがあるが、その一人が君か」

 

「そういうことだ。プル姉もそれなりに戦場を経験しているみたいだが、あの感じじゃ本格的な戦場の経験はまだな感じだ……」

 

「あの子はプルツーとは違う境遇なのか……?」

 

「ああ、プル姉はまた全然別の境遇だよ。オーガスタ研究所で断続的なコールドスリープをさせられていたそうだ。あたしもプル姉と初めて会えたのはつい最近だからさ。色々とあって……」

 

「そうか……戦争を背景にすれば……こんな情勢下を背景にすれば色々な境遇があるものだからな……」

 

「ん?!!前方から来る!!!警戒しな!!!」

 

「何?!!了解した!!!オートコントロール、解除する!!!」

 

 突然のプルツーの警戒に、ノインも操縦グリップを握り閉める。

 

 その数秒後、案の定MSの反応アラートとビーム攻撃が前方より迫って来た。

 

「警告も無しにいきなり攻撃か?!!」

 

 レディが憤りを覚える突然の攻撃の主は、鮮やかな朱色ともいえるレッドカラーのプライズリーオーやリゼル・トーラスの攻撃によるものだった。

 

「精鋭にMDとはな!!!実にえげつないものだ……!!!」

 

 飛びはしるビーム弾雨の中を、ノインの卓越した操縦技術で高速宇宙戦闘艦は掠めては回避し、掠めては回避する。

 

 撃ち漏らしたとなれば早速リゼル・トーラスが無情にも追撃にかかる。

 

「この高速艦のスピードでも流石にリゼル・トーラスは振り切れん!!!」

 

「あたし出るよ!!!」

 

 加速操作をするノインがそう言葉を漏らすと、プルツーは颯爽と操縦室を出て行った。

 

 MS格納庫へ向かう最中、プルツーはアディンに付き添われて通路を歩くプルを追い抜く形となる所で、一度立ち止まってアディンに伝える。

 

「あたし、先に出るよ!!」

 

「ああ!!俺もすぐに出るぜ!!!」

 

 そしてプルツーは、多方からのジェノサイドの叫びに感応してしまっているプルの肩に手を添えて、気遣いの言葉をかける。

 

「プル姉はあまり無理しないで!!!まだこの宙域のコロニーから感じるえげつない感覚に不慣れなんだから!!!じたばたしたってどうにもならないんだ。感じたり、聞こえてくる叫びは聞き流すようにすればいい。全部受け止めるなんて無理なんだからさ」

 

「あ、ありがとう、プルツー……」

 

 プルにそう伝えたプルツーはさっと手を挙げながら合図してMS格納庫へ目指していった。

 

「……本当、しっかりした妹だよなぁ、プルツー!!」

 

「あはは、そだね……アディン、あたしは大丈夫だからさ、急いで行って皆を守って……アディンのガンダムで……」

 

「プル……ああ!!わかった!!!キメてくる!!!」

 

 キュベレイMk-Ⅱのコックピットに乗り込んだプルツーは、機体を起動させてシステムを立ち上げながらシェルドに問いかける。

 

「機体のチェック済んでいるな?」

 

「うん!!ファンネルもガランシェールで点検済ませてある!!」

 

「そうか……ありがとう、シェルド。あんた連れ出してきたのは間違いなかったよ」

 

「え?!!」

 

「せ、戦場へ出る直前ぐらいは素直になるさ……万が一の時後悔なんかしたくないからさ……二度も言わないけどな!!!プルツー、出るよ!!!」

 

 思いがけなかったプルツーの一言に顔を赤くしながらシェルドは表情を明るくさせた。

 

 出撃するや否や、キュベレイMk-Ⅱはファンネルを展開させ、追撃してくる中華リゼル・トーラスに飛び込ませる。

 

「人形なんて揶揄されたこともあったが……あれこそ本当の人形だな!!!ファンネル、砕き散らせろ!!!」

 

 プルツーの感応波で自在に飛び交うファンネルが高速でビームを乱発しながら胸部めがけての集中直撃を浴びせ、1機、また1機と撃破する。

 

 更に中華リゼル・トーラスの軌道を瞬時で読み、そこへファンネルのビームをはしらせて中華リゼル・トーラスの機体を次々とバラバラに破壊して見せた。

 

 飛び交うファンネルに照準をあてるが、中華リゼル・トーラスの攻撃はことごとく躱される。

 

 そして反撃のビーム乱発を浴びてまた1機、2機、3機が破壊された。

 

 中華プライズジェスタがその最中にビームサーベルを抜刀しながらキュベレイMk-Ⅱに接近する。

 

 だが、その機体は斬りかかる前にファンネルとハンドランチャーでハチの巣にされ爆砕した。

 

「ジェミナス・グリープがキメるぜえええええっっ!!!!」

 

 そして閃光のごとく飛び出したガンダムジェミナス・グリープは、ジグザグ軌道を描きながら一気にビームランスの斬撃で圧倒し、瞬く間に追撃してきた中華リゼル・トーラスの攻撃部隊を壊滅させながら幾多の爆発の華を咲かせる。

 

 残るは有人機である中華プライズジェスタと中華プライズリーオーだ。

 

 ライトバスターライフルを撃ち放って単発のビーム過流で3機の中華プライズリーオーと同じく3機の中華プライズジェスタを連続で爆砕させた。

 

 ビームライフルの射撃はGNDソニック・ドライヴァーの超高出力の機動性を前に中る術がない。

 

 攻撃を躱し続け、ギンと両眼を光らせたガンダムジェミナス・グリープの超高速斬撃が二機種の機体群めがけ襲い掛かり、斬り裂き、突き砕き、破断させ宇宙の爆発の華を咲かせる。

 

「な、なんなんだ?!!この機体はあっっ?!!まさか、『また』現れたというのか?!!メテオ・ブレ……えうが?!!」

 

 コックピット目掛けて突き刺さるビームランスの直撃に、中華OZプライズ兵士は蒸発し爆発に消える。

 

 爆発を突き抜けたガンダムジェミナス・グリープは一気に薙ぎ斬り、すれ違い際に中華プライズジェスタ3機と中華プライズリーオー2機を撃破して見せた。

 

 通常であれば絶望的状況を瞬く間に覆したガンダムジェミナス・グリープの力に、レディとノインも驚愕を隠せない。

 

「こ、これが彼らのガンダムの力……!!!なんて破壊力だ!!!」

 

「……愚かな元同胞たちはこの力に圧倒されていったのか……敵に回ればさぞ恐ろしいだろうな」

 

「だが、逆を言えば頼もしいことこの上ない……!!!」

 

 得体の知れない状況下だからこそ、ガンダムジェミナス・グリープの存在感は一際心強さを与えてくれていた。

 

 中華覇権派OZプライズにその威厳を見せつけると、ガンダムジェミナス・グリープは彼らの母艦と思わしきMS輸送艦に電光石火のごとく加速し、針を貫通させるがごとく突入。

 

 MS輸送艦を突き抜け切ったガンダムジェミナス・グリープの両眼が灯り、その背後ではMS輸送艦が豪快に爆沈して宇宙の藻屑と化していった。

 

「大した事ねーな……それじゃ、ここからは護衛しながら行きますか!!!」

 

 垣間見たガンダムジェミナス・グリープとアディンの実力は、プルツーにもその凄まじさが伝わっていた。

 

「凄すぎる……ていうか次元が違う!!!ふふふふっ、こんなガンダム、頼もしい以外の何物でもないね!!!」

 

 ガンダムジェミナス・グリープとキュベレイMk-Ⅱの2機は再び通常航行を開始した高速宇宙戦闘艦の護衛に就いてムーン・ムーンを目指し始めた。

 

 だが同時にそれは近づくに比例して、光族ジェノサイドの命の叫びがより色濃くなることを意味していた。

 

 プルツーはじわりじわりと感応が強くなる感覚を覚える。

 

「それにしても……ムーン・ムーンに近づくにつれ、より痛みや叫びが強くなる……プル姉、大丈夫か?!」

 

 状況を憂いだプルツーはプルにテレパシー的な力で呼びかける。

 

「プルツー?なんとか……でもどんどん強くなってる……」

 

 プルも感応してプルツーのメッセージを感じ取り答える。

 

 コロニー規模で強いられるジェノサイド故に、L5宙域の通過するコロニーの殆どでジェノサイドや良くて弾圧支配が行われているのだ。

 

 プルの心をきつく締めあげるような痛み・苦しみ・叫び……彼女の心身を疲弊させていく。

 

「今までに感じたことのない痛みや苦しみ……マリーダの痛みも苦しかったのに……でも、同じ人間なのにどうしてこんな酷いことができるの?!!」

 

 かつてない中華覇権派OZプライズの残虐性に、苦しみの疑問符をプルツーに訴える。

 

 戦争経験値があるプルツーも頭を押さえながら説明する。

 

「奴らは人面獣心……倫理のかけらもない……人の命を何とも思っていない連中だからさ……さっき……このL5エリアから人々の苦しみに混じって人面獣心の嫌な感覚も感じているだろう?」

 

「うん……!!!嫌な感じもこれまでにない奴……でもL5コロニーのみんなの苦しみの方が多いんだよね……」

 

「あぁ。嫌な奴らの感じをかき消す程苦しめられているんだ……」

 

 彼女達が目指すムーンムーンとは別の地点のエリアにおいても、ジェノサイドの包囲網は絶え間ないものだった。

 

 その一つである、古来よりの戦闘部族の血統を持つ中華民族が住まうA-0206コロニーでは、周囲をリゼル・トーラスに包囲させ、コロニー内を完全に支配しての臓器ビジネスジェノサイドを行っていた。

 

 このコロニーでも悲痛苦痛は耐えることなく行われ、「古き中華民族浄化」と掲げられて日々その人数を減少させていた。

 

 老若男女問わず連行され、生きたまま臓器を摘出される拷問が待ち受ける。

 

 悪趣味な事に、それは親子・兄弟・恋人同士の者がいれば双方の目の前で片方の臓器ジェノサイドを執り行い、表現しようのない悲劇を実行しているのだ。

 

 そしてそれを見ながら中華覇権派OZプライズの兵士達は、笑みを漏らす程の狂人ぶりを見せていた。

 

 宇宙空間では無情のリゼル・トーラスが脱出成功者の宇宙艇を撃墜する。

 

 コロニーの外でも中でも居続ければ死を迎えることになる。

 

 そんな最悪な状況下に一矢を投じる者達が現れる。

 

 「龍飛」と書かれたバウとバイアランカスタムを筆頭にリーオー、ジェガン、ジムⅢ等のMS達が

このコロニーをはびこっていたリゼル・トーラスの部隊に襲撃をかける。

 

 突如としてコロニー周辺は戦場と化した。

 

 リゼル・トーラスの射撃精度は高く、獅子奮迅のバウやバイアランカスタム以外のMS達は次々に撃墜されていく。

 

「ディエスと言ったな……麒麟の力、見せつけてくれ!!!」

 

 そうバウを駆る少女が言う。

 

 彼女は以前、トレーズに敗北した五飛を後押しした反抗ゲリラ「斗争」のリーダーだった李鈴(リーリン)であり、バイアランカスタムのパイロットは五飛と二度に渡り刃を交えたディエスであった。

 

「無論さ……祖国とは無縁のエリアだが、弱い者いじめが嫌いなんでな……!!!存分にやらせてもらうぞ!!!」

 

 バイアランカスタムのビームマシンガンとビームサーベルの捌きがリゼル・トーラスを個々に討ち仕留めていく。

 

 かつてシェンロンガンダムと決闘をした腕前は今も健在のようだ。

 

 李鈴もまたビームライフルとシールドメガ粒子砲を使い分けて何とか対応して見せる。

 

 彼女もまた個々に至るまで腕を上げた様子だった。

 

「龍に籠めた想いは伊達ではない!!!人形もどきめ!!!これ以上の悪はさせない!!!」

 

 その戦端の様相を遠方からMSのコックピットで確認する者がいた。

 

「ふん……L5エリアに帰るや否や、やたらと馬鹿な連中に出くわしたが……帰ってみればこんな有様か……よからぬ状況が手に取るように感じる……久しぶりに武力介入行動をさせてもらう……!!!」

 

 それは故郷に帰還しようとしていた五飛であり、かつてない質の悪が跋扈する故郷のコロニーの光景に燃え滾る眼光を突き刺すと、それに連動するようにアルトロンガンダムの眼光が光った。

 

「馬鹿な連中に俺達の正義を激突させる……!!!いくぞっっ!!!ナタク!!!」

 

 

 

 

 

To Be Next Episode

 

 

 次回予告

 

 

 中華覇権覇権派OZプライズに侵略された故郷のコロニーに、五飛は自身の正義を乱舞させる。

 

 悪しき覇権主義の力に、正義を賭したアルトロンガンダムが更なる力を振りかざす。

 

 そして、その戦場ではかつて共闘した李鈴や刃を交えたディエスとの再会が待ち受けていた。

 

 一時の休息の中、五飛はかつて亡くなった自身の妻・妹蘭の墓に李鈴を案内する。

 

 一方、アディン達もまたムーンムーンのコロニーを支配する中華覇権派OZプライズと戦闘を開始していた。

 

 その最中、サイコガンダムMk-Ⅳと交戦するプルツーが窮地に立たされる。

 

 彼女の危機的状況を前に、突如介入したOZプライズのエース・ロッシェが形的にアディンを阻み、両者は激しくハイレベルな剣を交える。

 

 負の空間の感覚を克服したプルもまた、ユニコーンガンダムで出撃し、姉として、ラプラスの箱を託されたユニコーンガンダムのパイロットとしてプルツーの前に姿を表すのだった。

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード49「解放への闘い」

 

 

 

 

 



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エピソード49 「解放への闘い」


 注意 :少しグロ寄りな描写注意なシーンあります。


 

 A-0206コロニーに開かれる戦端を見つめていたアルトロンガンダムに、正義の眼光が灯る。

 

「行くぞナタク!!!」

 

 

 

 ヒュドアッ……ドォアアアアアアッ!!!

 

 

 

 加速していく先にはディエスのバイアランカスタムや李鈴のバウを筆頭に、中華覇権派OZプライズの高性能MS相手に獅子奮迅をするリーオーやジェガン、ジムⅢ、ネモ等のMS達がいる。

 

 バイアランカスタムは駆け抜ける戦端の中、ビームサーベルとメガ粒子砲を使い分けての攻勢をぶつける。

 

 ビームマシンガンモードの高速射撃で赤と黄色のツートンカラーリングの中華プライズジェスタと中華プライズリーオーを蜂の巣にし、止めに両腕のメガ粒子砲銃口から発動させたビームサーベルで斬り刻み爆破させて見せた。

 

「まずはこのコロニーから解放だ!!!イカレた体制は終いだ!!!」

 

 宇宙を舞うディエスと麒麟・バイアランカスタムは、両腕をかざして高出力モードの小規模ビーム渦流を撃ち飛ばし、2機の中華リゼル・トーラスを撃墜させて見せる。

 

 だがその一方で、ジェガンやリーオー、特に性能が劣るジムⅢやネモが悉く中華プライズリーオーと中華プライズジェスタのビームライフルに撃ち抜かれ、同カラーリングのリゼル・トーラスのビームランチャーに破砕されていく。

 

「次々に仲間達がっ……!!!おのれ!!!」

 

 李鈴は次々に失われていく仲間達にかつての中華ゲリラ・斗争の壊滅を思い起こして、一方的な攻撃に怒りの表情を表す。

 

 バウの放つシールドメガ粒子砲が、1機のリゼル・トーラスを仕留め爆砕へと導いた。

 

「流石、ネオジオンの高性能機!!!ジムなんかとは比較にならない火力……!!!そうだ!!!相手が高性能な人形でもやれるんだ!!!」

 

 次の標的を選定する中、中華プライズジェスタが李鈴のバウにビームライフルを放ちながら迫る。

 

 狙いは正確で、バウの装甲ギリギリを掠め、更に迫りビームサーベルを抜刀して斬りにかかる。

 

「流石にプライズだ!!!強い……だが、私のバウ龍飛(ロンフェイ)、伊達に龍の名を冠してないぞ!!!」

 

 ビームサーベルが振るわれる中華プライズジェスタのレフトアームにバウ龍飛はハイキックで蹴り上げて物理的に攻撃を相殺した。

 

 そのまま離脱しながら何発もビームライフルを胸部に撃ち込んで破砕、爆破。

 

 背後から迫っていた中華プライズリーオーにも振り向き際にシールドメガ粒子砲を放って大破させた。

 

「みたか!!!悪しき者達め!!!んっ?!!」

 

 だが、立て続けに撃破した事による一瞬の油断と有頂天が、リゼル・トーラス数機が一斉に放ったビームランチャーのを直撃を許してしまう。

 

 その攻撃のビーム渦流がシールドに集中し、バウ龍飛のレフトアームは爆発してしまう。

 

「くあああぅっ?!!しまったぁ……!!!は?!!」

 

 更に状況は更に悪い状況に移行しており、リゼル・トーラス達に囲まれていた。

 

 高速点滅するリゼル・トーラスのカメラアイがロック・オンを物語る。

 

 ビームサーベルとメガ粒子砲で戦っていたバイアランカスタムの援軍も届く位置ではなかった。

 

「くっ……!!!間に合わんっ……!!!」

 

 クローで中華プライズジェスタに殴り掛るディエスだが、カウンターを食らってしまいライトアームの先端部をビームサーベルで切断されてしまう。

 

「くそっ……!!!」

 

 直ぐ様レフトアーム側のメガ粒子砲を浴びせて中華プライズジェスタを破壊するが、その向こうには一斉に射撃を浴びて爆発するバウ龍飛の姿が映る。

 

「なんてこと……!!!目の前で女性が戦死など、フィーアだけで沢山だ!!!」

 

 ディエスは以前いた恋人であった連邦軍の女性士官・フィーアをこれまでの間に亡くしていた。

 

 繰り返されてしまう悲劇にひたすら怒りと悔やみがディエスを支配する。

 

 だが、その爆発から飛び出す機体があった。

 

 それは上半身のバウだった。

 

「な?!!そうか、あれには分離機構があったな!!」

 

 元々上半身と下半身が分離変形合体する機構設計であるがゆえに成せた芸当であり、破壊されたのは下半身であった。

 

「代わりの下半身のストックはある!!!こんな所でやられるかああ!!!」

 

 李鈴はビームライフルを乱発し、1機の中華リゼル・トーラスの右脚部を破壊した。

 

 それでも苦し紛れな反撃に他なく、直ぐ様背後からのロック・オンを許してしまう。

 

「だめかっ……今度こそやられるっ……!!!あいつが、あいつがっ……五飛がいてくれたらこんなやつら……!!!」

 

 李鈴は悔やみ紛れに五飛の事を過らせた。

 

 今は何処にいるかもわからない彼を。

 

「私は、腕を磨いてきたっ……あいつに戦士として認めさせる為にな!!!ちくしょう!!!ちくしょーっっ!!!」

 

 その時、未確認機接近のアラートがコックピットに響き渡る。

 

「新手!!?」

 

 ディエスもまた熱源反応に表示が示す方向を見た。

 

「あれは?!!あいつは……まさか?!!」

 

 中華リゼル・トーラスがその方向にターゲット変更をした直後、レフトアーム側のツイン・ドラゴンハングを突き当てながらアルトロンガンダムが乱入する。

 

 

 

 ガッギャガァアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

「な?!!」

 

 その龍の牙は中華リゼル・トーラスの胸部に食らいつき、致命的に装甲や機器を破壊していた。

 

「ふんっ……こんな連中、恐るるに足らん!!!」

 

 アルトロンガンダムは破壊した中華リゼル・トーラスを他の中華リゼル・トーラスに投げつけ、その機体ごと背部のドラゴン・テールキャノンで撃ち抜いて2機まとめて爆砕させてみせる。

 

 そしてドラゴン・テールキャノンは意思を持ったかのように多方面に高出力ビームを撃ち放ち始め、超精密射撃で次々と中華リゼル・トーラス部隊や、中華プライズリーオー、中華プライズジェスタを破壊してみせた。

 

 高性能コンピューターで制御されている特殊ビーム武装であり、五飛がロック・オンした時点で敵機を認識登録し、その上で任意の自動射撃モードを使用する事でこのような射撃が可能となるのだ。

 

 高速で放たれていく高出力ビームの射撃無双が、コロニー外のMS達を壊滅にじわじわと追い込んでいく。

 

 苦痛なる状況に放たれた一矢の姿は双頭龍の無双であった。

 

「うそ……あのガンダムってまさかっ……!!!」

 

 驚愕する李鈴を他所に、アルトロンガンダムはツインビームトライデントを装備して中華プライズリーオーに襲いかかる。

 

 その間にもドラゴン・テールキャノンが別の中華プライズリーオーを撃墜させていく。

 

「覇ぁあああああああっ!!!」

 

 

 

 ディズギャアアッッッッ!!!

 

 ドグバァアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 ツインビームトライデントの高出力ビーム刃が力強く中華プライズリーオーの胸部を突き砕いて爆砕させる。

 

 その爆発を突き抜けたアルトロンガンダムは中華プライズジェスタにもう一方のツインビームトライデントをすれ違い際に斬りつけて破断し、更に面前に飛び込んだ中華プライズジェスタを薙ぎ斬る。

 

 

 

 ザバギャアッッ!!! ディギャイイイイイイッッ!!!

 

 ドグバァッッ、ゴバォオオオオオオオッッ!!!

 

 

 

 アルトロンガンダムは通常の機体では手強いはずの機体達を容易く破壊し続ける。

 

 その背後から斬り掛ろうとした中華プライズジェスタには、ドラゴン・テールキャノンのチャージショットによるビーム渦流が狙い撃たれた。

 

 

 

 ディッカインッッ……ヴディリリリリ……ヴズダァアアアアアアアアアッッ!!!

 

 ドォズゥバァアアアアアアア……ゴバゴォオオオオオオオッッ!!!

 

 

 

 ビーム渦流に撃たれたその中華プライズジェスタは上半身を吹き飛ばされ爆砕した。

 

 更にその正面から迫る中華プライズリーオーの斬撃に対し、レフトアーム側のツインドラゴンハングをカウンターでぶち当ててみせる。

 

 

 

 ディガォオオオオオオオオオンッッッ!!!

 

 

 

 中華プライズリーオーは頭部と胸部を穿ち砕かれ破砕した。

 

 

 

 

 瞬く間に敵部隊を一掃させたアルトロンガンダムは彼らにとって思いがけない強力無比な助っ人であった。

 

 ディエスは早速アルトロンガンダムに通信回線を開く。

 

「ふふふっ、はははははは!!!まさかここで再会するとはな!!!張五飛!!!」

 

「確かディエスと言ったな。貴様もよく生きていたものだ」

 

「それは互い様だ……決着を着けるぞ………と言いたいが、お預けだ。まずは奴らを排除させなければならん!!!」

 

「L5に入って間も無く、俺も奴らと闘ってきた。お陰で里帰りが思った以上に遅れてしまったがな」

 

「このコロニー、お前の故郷だったのか?!」

 

「あぁ。久しぶりに戻れば悪が蔓延る場所になってやがった……OZプライズのようだが何かが違う。何者なんだ?」

 

「流石だな。奴らはプライズであってプライズではない……中華覇権を掲げる中華覇権派OZプライズだ。俺は成り行きでそれに抵抗しようとするゲリラ達に協力していた」

 

「中華覇権……旧世紀の恥さらしな主義か……また掲げる馬鹿がいるとはな……お陰で本来の俺達の民族がかなり蔑まされた扱いを受けた歴史を記憶している」

 

「……欧州貴族が核のロームフェラ財団と中華覇権主義の中華思想の幹部や兵士達……OZプライズとは異質な連中故にその分裂は必須だったかもしれん……まだ、主な連中はコロニーの中だ」

 

 五飛とディエスが話す中、李鈴が割って通信回線に入り込む。

 

「やはり五飛なのか!!?というか私を無視するな!!!」

 

「……お前は……!?!」

 

「まさか忘れた……とは言わせんぞ?」

 

「ふっ……忘れるものか……忘れる方が無理あるぞ。李鈴」

 

 ここに来てディエスは初めて二人が面識があった事を知った。

 

「二人とも知り合いだったのか?」

 

「ああ。半年間世話になった事もある」

 

「そうか……五飛。決して亡くすなよ。俺の……フィーアの二の舞は沢山だからな……」

 

「貴様……何か勘違いしていないか?だが、俺もかつてあのコロニーで大切な存在を失った……その手の心境が理解できないわけではない……」

 

 五飛は亡き妹蘭を思い浮かべ、彼女の姿を脳裏に過らせる。

 

 するとディエスの次なる言葉が五飛に衝撃を与えた。

 

「奴らの覇権とは、不都合・不要と身勝手に決めつけた対象をジェノサイドすることも目的としている……老若男女、大人子供問わずな!!!こうしている今も、現在進行形でジェノサイドが進んでいる!!!」

 

「……ジェノサイドか。故郷のコロニーはあの日以上の苛烈さに見舞れているのか……!!!」

 

 五飛が睨みを向ける故郷のコロニー内ではムーンムーンのコロニー同様のジェノサイドが行われていた。

 

 龍(ロン)一族の男達は強制労働を強いられ、また別の龍一族の男達は生きたまま臓器を取り出され、女性達は強制避妊手術、妊婦に至っては赤子の強制摘出等、非人道の極みたる愚行に晒されていた。

 

「くそがっ……何時間働かしやがる……!!!こんな、クソな太陽光パネルなんざっ……ぐはっ……!!!」

 

「や、やめろっ!!!やめろぉぁいぐがはぶぐがががっ……!!!」

 

「嫌ぁああああ!!!私の赤ちゃん、赤ちゃん返してぇえええええ!!!いやああああっ……がぐはっ!!!」

 

 長期間強制収容労働により吐血し倒れる者。

 

 拒絶を叫びながら強制的に腹を捌かれる者。

 

 目の前に強制摘出された赤ん坊の亡骸を目の前に差し出された挙げ句に銃殺される妊婦。

 

 中華覇権派OZプライズの愚行は歯止めがなかった。

 

 またある一方ではコロニーに穴が空こうがお構い無しに中華リゼル・トーラスによるビーム射撃の虐殺か行われていた。

 

 そんなおぞましい狂気の沙汰に晒されたコロニーに、正義と真の中華民族の誇りをかけて五飛はアルトロンガンダムと共に向かう。

 

「ナタク……腐りに腐った悪を砕き潰すぞ!!!お前が守ろうとしたコロニーをこれ以上の惨状にさせる訳にはいかん!!!」

 

 気迫を込めて五飛は既に穴が空いた外壁部に機体を突入させた。

 

 薄暗いコロニーの通路を突き進み、ゲートをドラゴン・テールキャノンで吹き飛ばしながら強制的にコロニー空間に出る。

 

 広がるコロニーの情景には、一定区画に攻撃を強いる中華リゼル・トーラスの機体群がいることが確認できた。

 

 居住区画を拡大すれば、逃げている民に対して一方的な虐殺が行われているのが更に確認できる。

 

「き、貴様らあああああああっ!!!!」

 

 怒髪天を突かれた五飛は、轟々たる勢いで一気にアルトロンガンダムをそのポイントへと飛び込ませた。

 

 背後からの熱源反応に気づく中華リゼル・トーラス達であったが、射撃開始前に1機がツインビームトライデントの強烈な刺突を胸部に受けた。

 

 破砕と同時に爆砕し、次の瞬間にはツインビームトライデントの薙ぎ払いが振るわれ、一挙に3機同時に斬り捌いてみせる。

 

 メガビームランチャーを連発して攻勢にでる中華リゼル・トーラスの機体群であるが、その射撃の全てが躱される。

 

 だが、その高火力ビームの直撃は先程と同様、コロニーの外壁に穴を空け、更なる被害を拡大させる。

 

「流石人形だな!!!何も考えちゃいない!!!覇ぁあああああああああああ!!!!」

 

 レフトアーム側のツインドラゴンハングが伸び、1機を破砕すると、レフト・ドラゴンハングはそれを咥えたままもう1機の中華リゼル・トーラスにぶつけた。

 

 同機種を押し付けられた直後、レフト・ドラゴンハングの頬にあたる部分に装備された火炎放射機が火を吹く。

 

 ジェット噴射のごとき青白い超高熱の炎が放たれ、装甲や内部機器を溶解させながら原動機の爆破へと導く。

 

 更に他の中華リゼル・トーラスにも浴びせかけ、次々に連鎖爆破を巻き起こさせた。

 

 無論、この派手がましい状況が伝わらない筈もなく、コロニーに警報が鳴り響く。

 

「コロニーにガンダムが侵入した!!!現在、警備のリゼル・トーラスを破壊しながら龍一族収容区画を襲撃している!!!総員第一種戦闘配備!!!繰り返す!!!総員第一種戦闘配備!!!」

 

 中華プライズリーオーや中華プライズジェスタが出撃を開始し、植民地支配で築いた基地から各機がアルトロンガンダムの攻撃に向かう。

 

 急行した先では、アルトロンガンダムのレフト・ドラゴンハングとツインビームトライデントの乱舞により次々に中華リゼル・トーラスが破壊されていた。

 

「め、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを確認!!!リゼル・トーラスを破壊しながら進撃中!!!」

 

「相手はあのメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムだ!!!高火力を叩き込め!!!」

 

 ドーバーバスターやビームライフルの集中砲火を浴びせに掛る中華覇権派OZプライズ勢であるが、その攻撃は一瞬の間に躱された。

 

「な?!!!消えた?!!!はがぎぃぃ?!!!」

 

「がはあああ!!!」

 

「ぐごあああっ?!!」

 

 閃光の機動力で青白く光るアルトロンガンダムが駆け抜ける。

 

 PXシステムを発動させたアルトロンガンダムのツインビームトライデントの斬撃は、電光石火の如く一瞬にして幾多のMS達を駆逐させる。

 

 駆け抜ける残像の軌道上に連なる幾多の爆発が戦術の常識を土返しさせていく。

 

「何が中華覇権だ!!!その思想そのものが悪だ!!!俺が見定めた悪は、必ず滅ぼす!!!!そうだろう!!!?ナタク!!!!」

 

 ツインビームトライデントとツインドラゴンハングの轟々たる紅蓮のごとき攻勢が、コロニーを占領する中華覇権派OZプライズを壊滅へと追い込んでいく。

 

「だぁああああああっ!!!!!」

 

 突き上げたレフト・ドラゴンハングが中華プライズジェスタの胸部を貫通し、アルトロンガンダム自体が中華プライズジェスタを砕き散らせる。

 

 中華プライズジェスタを突き抜けたアルトロンガンダムは、間を置くこと無くドラゴン・テールキャノンの正確無比な乱れ撃ちを放った。

 

 PXシステムによる増大したGNDエネルギーの超高速ビーム射撃が周囲の敵機に次々と命中し、爆発に爆発を折り重ねていく。

 

 このアルトロンガンダムの攻勢によりMS部隊は更に加速的に次々に破壊され続けるに至った。

 

 増援として駆けつけた部隊もまた、ドラゴン・テールキャノンの超高速射撃でガラクタのように無惨に砕き散らされるだけだ。

 

「俺は逃げも隠れもしない!!!ジェノサイドをされた者の恐怖、その薄汚い精神に刻め!!!」

 

 五飛の怒りを体現するが如くアルトロンガンダムの猛撃は続いた。

 

 MSを壊滅させたその後も、五飛はコロニーを占領していた部隊の仮設基地を強襲し、敵兵士を一人残らず火炎放射器の超高熱で焼き払う。

 

「があああああ!!!がぐあああああ!!!」

 

「いぎぎがはぁっ、がはっ、があああああ!!!」

 

 五飛は生身の兵士達に対し、全く容赦せずに凄まじい苦悶を与える。

 

「貴様らが俺達の民族に犯したジェノサイドを思えば、これでも安いくらいだ!!!地獄の業火の前に今はナタクの炎に焼かれるがいい!!!」

 

 吹き放たれる青白い超高熱の炎は基地を焼き付くし、業火の海に変貌させた。

 

 連続する爆発が巻き起こる戦場を背に、アルトロンガンダムは雄々しくかつ威風堂々と立ち、両眼を光らせた。

 

 戦闘が沈静化し、五飛は収容施設を李鈴やディエス達と共に囚われた龍一族をはじめとする民衆を解放させるに至る。

 

 アルトロンガンダムに畏怖された中華OZプライズ兵士達は次々と投降するも全員銃殺、もしくはアルトロンガンダムの火炎放射器によって焼き払われ、壮絶な扱いの下報いに果てていった。

 

 解放された龍一族や一族に付き従う者、一般の民衆達が五飛や李鈴、ディエス達の許に集う。

 

 一族の長である老婆の龍老師が五飛と対面する。

 

「誠にかたじけない。五飛よ、お前の行動がこのコロニーの皆を救ったのだ。深く礼を言うぞ!!!」

 

「龍老師こそよくぞご無事で!!聞けば奴等は俺達のコロニーをはじめ、L5コロニー全域で占領や民族大虐殺をしていると聞きました!!!故に、しかるべき正義を執行したまでです!!!」

 

「うむ。それでよいのじゃ五飛。今後も迷うこと無くその正義を振りかざし、己で正義を決めるのじゃ!!!」

 

「はい!!!精進します!!!」

 

 あの五飛が身を低くして敬語で接している光景に李鈴は違和感を覚えてしまう。

 

 (なんか……拍子抜けするな……あの五飛が……)

 

 そして龍老師や龍一族の者達は斗争のメンバーに顔を向け重ねて礼を述べる。

 

「そなた達も協力してくれたのだな。重ねて深く礼を申すぞ……」

 

 会釈する龍老師達に対し、斗争のメンバーも会釈で返す。

 

「……私達は元々が反抗ゲリラだった。故にこの理不尽な状況に立ち上がったまでです……当然の……」

 

「っな?!!おおお!!!そ、そなたは……?!!なんという奇跡じゃ!!!」

 

 突然李鈴の言葉を遮るように龍老師は声を大きくして驚愕する様相をみせた。

 

「は、はぁ……?」

 

「妹蘭っ……妹蘭ではないか!!!」

 

「え?!!どういうコト……?!!!」

 

 老体を無理してでも李鈴に駆け寄り、彼女の両肩を握りしめた。

 

「あの日、亡くなった妹蘭が、ここにぃ!!!」

 

 全く状況が呑めない李鈴に五飛は割って入り、状況を説明する。

 

「龍老師!!どうか落ち着いて下さい!!勿論のことですが、彼女は妹蘭ではありません!!彼女の名は李鈴。反抗ゲリラ・斗争のリーダーです。確かに、妹蘭の生き写しといっていい程似てますが……!!!」

 

「そ、そうか……すまぬ。つい取り乱してしまったな……それにしても、驚いた。妹蘭と瓜二つの少女がおろうとはな!!!」

 

「は、はぁ……」

 

 李鈴は唐突な流れに唖然とした様相を見せる。

 

 同時に彼女と瓜二つと言われるが故、亡き妹蘭に不謹慎ながらも懐いた興味を無視できなかった。

 

「そんなに似ているのか……その妹蘭という女性……確認出来るなら見てみたいものだな……」

 

 その言葉を受けた五飛や龍老師達は、顔を見合せながら頷き合うと、返答と対応を李鈴に返した。

 

「うむ……そなたには是非とも妹蘭に会ってあげてもらいたいと思う。五飛よ、彼女を案内して差し上げなさい」

 

「はい!!」

 

 先ずは五飛の案内で、妹蘭が眠る彼女の墓に李鈴は案内された。

 

「……これが……妹蘭さんの墓か」

 

「ああ。ナタク……いや、妹蘭がここに眠っている」

 

 その五飛の返答から頭の片隅で抱いていた疑問符を五飛に投げかけた。

 

「五飛。確かよくお前のガンダムにもそう呼び掛けているよな?ナタクとはなんだ?」

 

「妹蘭自身が自らをそう名乗っていた。道教に出てくる少年神のコトだがな。その妹蘭はゲリラ攻撃をコロニーに仕掛けてきた連邦とOZに対し、未完成のナタク……シェンロンガンダムを守ろうと、MS・トールギスに乗り込み……戦って散った……だから、シェンロンガンダム……もとい、アルトロンガンダムには妹蘭の意志が宿っている……そう、俺は信じている」

 

「そう……なのか……」

 

 五飛の重い過去の片鱗や妹蘭への想いに触れた李鈴は、複雑な心境を表情に表して五飛から視線を逸らそうとした。

 

 すると五飛は墓に歩みより、設置されているタッチパネルを操作し、3Dモニター式の妹蘭の遺影を表示させる。

 

「李鈴、妹蘭だ」

 

「……っ!!!この人が?!!本当に私に似ている!!!本当に……私って、妹蘭さんの生き写しだったのか!!!」

 

 五飛のその言葉にモニターの遺影を見た李鈴は、無論の事ながら余りにも似ている事に対し驚愕を隠せなかった。

 

「俺も最初は本当に驚いた。似た者が三人いるというが、まさか戦場で妹蘭に似ている存在と会えるとは思わなんだ……だが、あの時は色々世話になった。だから今俺は闘えている。改めて礼をいう」

 

「……いや、私の方こそ礼をいう。あの時も今回も助けてくれたんだ……五飛が……本当にお前のガンダムは私達にとって誇りだよ。ありがとう」

 

「李鈴……」

 

 五飛の視点に映る李鈴に妹蘭の面影が、今までで最も強くだぶる。

 

 別人とはいえ、やはり意識上そう映らざるをえないのだ。

 

 五飛は拳を固く握りしめ、李鈴に放つ。

 

「……俺は、二度とあの悲劇は繰り返させない!!!このコロニーを、龍老師達を、そしてお前達を……死なせはしない!!!」

 

「五飛……!!!」

 

 

 

 L5コロニー群の別エリア、ムーン・ムーン。

 

 サラサ達光族は日々確実に滅亡の足音を聞かされ続けていた。

 

 来る日も、来る日も非人道なジェノサイドの餌食となり、命を散らしていく。

 

 当初は一気に大量にジェノサイドされたのが、嫌らしく削るように進行する方針に変わった。

 

 それまでは光族に圧倒的力を示すため、みせしめたのだ。

 

 そして現在は、人数を少数に削る。

 

 コロニー内は中華覇権派OZプライズの兵士達が、外部には中華覇権派の赤いカラーのリゼル・トーラス、プライズリーオー、プライズジェスタが常駐し続け、下手な脱出はできない。

 

 だがこの日異例な状況が起こっていた。

 

 収容施設から光族の家族グループがおよそ二十組が連行されている様子が伺えたのだ。

 

「ねぇ?私達は出られるの?もー、暗くて汚いあそこにいなくてもいいの?」

 

 幼い光族の少女が同じく光族の父親に尋ね、父親は小声で励ますように言う。

 

「あぁ。そのようだよ。やっと出られるんだ」

 

「何処にいくの?」

 

「お父さんにもそれはわからない……けどがんばろう!!」

 

「……うん!!」

 

 銃を突きつけられた光族の家族グループ達は何機かの宇宙輸送船に連行されていく。

 

 そして、順繰りに宇宙輸送船は出発していく。

 

 その船団が展開する中、進行方向に一際目立つ機体の姿が混じった部隊がいた。

 

 プライズリーオーやプライズジェスタに混じるその機体は、巨大なシール状のユニットを背負う紅いMS。

 

 一見すると赤い彗星の機体のようなそれはガンダムであった。

 

 サイコガンダムMkーⅣ……経緯が不明の域を出ないが、紛れもなくガンダム・Cフェネクスと並ぶ中華覇権派OZプライズのガンダムである。

 

 その名の通り、四番目のサイコガンダムであり、中では被験体の強化人間パイロットが肩を上下させながら呼吸を荒くしていた。

 

「敵……はぁっ、俺に……はぁっ、敵を……はぁっ、さっさとぶっ殺してやりたいんだぁ……!!!敵をくれ!!!敵をぉ!!!」

 

 サイコガンダムMkーⅣの強化人間パイロットは、ガンダムCフェネクスのパイロットの紅烏に引けを取らない狂人に仕上がっているようであった。

 

 監視する中華プライズリーオーやプライズジェスタのパイロットが宥めにかかる。

 

「落ち着いてくれ。なぁに、お前の求める敵はもうじき現れるさ」

 

「ぎぃ……本当にかぁ??」

 

「あぁ……(そろそろ頃合いか)」

 

 すると、その兵士は搭乗するプライズリーオーから信号弾を打ち放つ。

 

 それを確認した光族を乗せた宇宙輸送船を操縦していた兵士達が一斉に自動操縦に切り替え、自分達だけが離船を開始した。

 

 そして、並行していたプライズリーオーやプライズジェスタがかざし始めたマニピュレーター(手)に、兵士達は各々に掴まっていく。

 

「さぁ……ショーの始まりだっ!!!」

 

 信号弾が目映く光る中、サイコガンダムMk-Ⅳのパイロットに向けて通信が入る。

 

「あの光に照らされた船団が、キサマの敵だ!!!さぁ、今こそ恨みを晴らせ!!!」

 

 その通信はあからさまに罪なき光族を虐殺するように仕向ける行為に他ならず、目的はジェノサイドを兼ねた攻撃試験だった。

 

「げぎぎぎっ、敵ぃ!!!」

 

 ギンと敵意の眼差しを人機共々に光族の人々がいる船団に向ける。

 

 轟々たる勢いでサイコガンダムMk-Ⅳは船団に飛び込み、背部のサイコ・ディフェンスプレートを展開させた。

 

 細かく分離したサイコ・ディフェンスプレートは縦横無尽に宇宙空間を飛び交い、瞬く間に輸送船をズタズタに削り斬りはじめる。

 

「な!!?ど、どういうことだ?!!!我々は釈放されたのではなかったのかぁあっ?!!!」

 

「お父さぁあああん!!!怖いよぉおおお!!!」

 

 先ほどの光族の少年が泣き叫びながら父親にしがみつく。

 

 だが、父親にできることは息子を抱きしめる他なかった。

 

「っ……っ、くぅ!!!」

 

 何故、光族というだけで急激な非人道な理不尽を叩きつけられなければならないのか?

 

 その疑問符を巡らせた直後、サイコ・ディフェンスプレートが船内に突き刺さり、瞬く間にその親子を含めた光族の人々は悲惨な最期を遂げさせられていった。

 

 サイコ・ディフェンスプレートを飛び交わせながら連続で船団の輸送船を斬り潰していくサイコガンダムMk-Ⅳは、不気味に両眼を光らせながら両腕を広げるようなアクションをする。

 

「敵ぃ!!!敵ぃ!!!敵は滅べぇえええ!!!」

 

 更に攻撃を増膨させると、あろうことかサラサ達がいるムーンムーンのコロニーに意識を向けた。

 

「あそこにも敵ぃがいるぅのかぁあああ!?!!」

 

 ギンと狂気の沙汰の両眼がコロニーを捉える。

 

 その刹那、サラサもまたその狂気のプレッシャーを感じ取っていた。

 

 (っ―――!!!この感じは……!!!凄く邪な圧っ)

 

「サラサ様!?いかがされました?!」

 

「サラサ様?!」

 

 強化人間のパイロットが与えるプレッシャーを受けたサラサは周囲の光族の者達に心配を与える程の変調を表していた。

 

「……邪悪な気配が迫っています……ですが、同時に……光ある者達も……近づいています!!!」

 

 サイコガンダムMk-Ⅳがムーンムーンのコロニーへと轟々と迫る。

 

「敵ぃ、敵ぃ、敵ぃっ!!!ギャハハハ!!!」

 

 サイコ・ディフェンスプレートをファンネルのように展開し、再び攻撃体勢に入る。

 

 だが、次の瞬間にビームの束がサイコガンダムMk-Ⅳに襲い掛かった。

 

「?!!っでぃぎぃ?!!!」

 

 瞬時にそれをサイコ・ディフェンスプレートで遮断してみせる。

 

 

 

 ディシュアアアアアアアッ!!!

 

 

「敵っ?!!!ひはっ!!!キタあ?!!!」

 

 本当に自機を狙う敵の出現に、驚きと笑みの表情を口元に見せる強化人間のパイロット。

 

 その眼前にムーンムーンのコロニーを守るように、キュベレイMk-Ⅱが現れた。

 

「あんたが、この辺の狂気の元凶だな!!!無論、他の雑魚連中も酷いがな……相手はあたしだ!!!来な!!!」

 

「ぎしゃああああ!!!」

 

 プルツーは威風堂々と狂気に立ち向かう。

 

 キュベレイMk-Ⅱの矛のごとしファンネルのビームとハンドランチャーのビームと、それを受け止める盾のサイコ・ディフェンスプレートがぶつかった。

 

「はぁあああああああ!!!」

 

 機敏に動く多数のファンネルとサイコ・ディフェンスプレートが宇宙空間に舞う。

 

 細胞のように細かい盾は、幾つかがカッターのごとし凶器に変貌する。

 

「あぎいいい!!!」

 

 そしてそれはプルツーの意思を宿すファンネルを撃墜してみせる。

 

 対してサイコ・ディフェンスプレートはビームを弾く。

 

「なっ……!!!この禍々しいガンダム、クセがある……!!!」

 

 ビームを弾く無数の細かいサイコミュシールドとファンネルの相性は一方的に前者に優位性を与える。

 

「ビームがうざいシールド弾かれ、更にそれがファンネルを狙う……ざかしいね!!!なら、本体に飛び込むまでだ!!!」

 

 プルツーはビームサーベルに武装を切り替えて、サイコガンダムMk-Ⅳに斬りかかった。

 

 だが、サーベルが届こうとした刹那にサイコ・ディフェンスプレートが防御し、更に広範囲から矢のように仕向ける。

 

「な?!!こいつ!!!」

 

 プルツーは何とか瞬間的なひらめきと判断で、サイコ・ディフェンスプレートを辛くも掠りながら離脱して躱す。

 

 だが、その方向に一斉にサイコ・ディフェンスプレートが集結して一つの壁を作り、キュベレイMk-Ⅱの行く手を阻んだ。

 

「くそっ……!!!」

 

 そして一気にサイコガンダムMk-Ⅳが迫り、サイコナックルとも言うべき負のニュータイプ的力を宿した鋼の拳をキュベレイMk-Ⅱの胸部に叩き込んだ。

 

 

 ドガォオオオオオオンッ!!!

 

 

「きゃあぁああああああああ!!!」

 

 プルツーの悲鳴と共にキュベレイMk-Ⅱは激しい衝撃とダメージに吹っ飛ばされてしまう。

 

 その一方で、アディンのガンダムジェミナス・グリープが斬り込みにかかり、ビームランスの一薙ぎで4機の中華プライズリーオーを一掃する。

 

 

 

 ザシュバァギギギギガァアアアアアアアアアッ!!!

 

 ゴババババガァアアアアアアアア!!!

 

 

 

「プルツーが……!!!ちっ!!!うざいMSども!!!とっとと消えやがれぇ!!!」

 

 その多重爆発を突き抜けたガンダムジェミナス・グリープはプルツーを助けるべく、行く手を阻むかのように周囲に蔓延る中華プライズジェスタの機体群に飛びかかり、滅多斬りの斬撃を浴びせた。

 

 ザシュガッ、ジュバガッ、ズザドォッ、ザギンッ!!!ディギャガガガザバァァアアアアアア!!!

 

「あっという間に二個小隊が……!!!この出鱈目なメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムなのか?!!!何故ここにぃ?!!!」

 

「A-0206コロニーに現れた機体とは別の機体か?!!場所が離れている!!!っ?!!がぁああああ……!!!」

 

 

 

 ザズドォオオオオオオッ!!! バゴァアアアアアアアア!!!

 

 

 

 中華プライズジェスタの胸部にビームランスの刺突が直撃し爆発破砕。

 

 更にその背後にいたもう1機の中華プライズジェスタも巻き込み爆砕させる。

 

 アグレッシブかつハイスピーディーな軌道を描いて、体勢を宇宙空間の一点に止めると、レフトアームのライトバスターライフルを構え、迫る中華プライズリーオーの二個小隊に銃口を向けた。

 

 

 ジャキンッ!!! ヴゥゥイィッッッ―――ヴヴァダァアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 ドォヴォバァアアアアアアアアアァァァ……ドォドォドォゴバァッッ!!! ドドォドドドゴバァガァアアアアアア!!!

 

 

 ビーム渦流の直撃を受けた3機の中華プライズリーオーが破砕爆破し、ビーム渦流を躱した他の5機がビーム渦流に帯びた高エネルギープラズマ奔流の影響を受け誘爆を巻き起こす。

 

 その後方では、レディが高速宇宙戦闘艦操縦を一任し、護衛の為にノインが専用の白いリゼル・トーラスを駆り、メガビームランチャーを迫り来る中華プライズジェスタに直撃させていた。

 

 彼女もまたエースパイロットレベルのスキルを持ち合わせていたのだ。

 

 

 ヴィギュアアアアアア!!! ヴィギュアアァアアアアア!!!

 

 

 ドズゥゴアッッ、ドォドォゴォオオオオ!!!

 

 

「こいつらが中華覇権派か……機体だけだ!!恐るるに足らん!!!」

 

 

 

 ヴィギュアアァアアアアアア!!!

 

 

 

 ノインはメガビームランチャーを撃ち続け、連続で中華プライズジェスタやリーオー撃破していく。

 

 その最中で改めて鬼神のごとき無双をするガンダムジェミナス・グリープにノインはモニター越しに確認する。

 

「あれが……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム……実際にこの目で初めて見たが本当に……凄まじい強さだ……!!!フフフ、心強いという言葉では収めきれん……な!!!」

 

 そう言いながら、ノインは照準を合わせ中華プライズリーオーを撃破してみせた。

 

 その爆発を視認しながら、レディはノインに一時的な離脱を提案する。

 

 無論ながら負のプレッシャーから体調を崩しているプルやメカニックのシェルド、そしてユニコーンガンダムをのせているからだ。

 

「レディ!!私達はできるだけ彼らの戦闘エリアから離れよう!!!こちらにはプルと彼女のガンダム、メカニックも乗っている!!」

 

「了解した!!!」

 

 ノイン専用リゼル・トーラスはメガビームランチャーのチャージローリングショットを撃ち放ち、周囲の敵機を一掃してみせた。

 

 だが、艦内ではプルが負のプレッシャーによる体調の不良を押しきり、ユニコーンガンダムに乗り込もうとしていた。

 

 そんな彼女をシェルドが止めようとする。

 

「プル!!!大丈夫なの?!!無理強いして出撃したらダメだよ!!!」

 

「シェルド……ダメ。このままじゃ、プルツーがやられちゃう!!!絶対にそんなことあっちゃいけない!!!だから!!!」

 

「アディンさんがいるじゃないか!!」

 

「ダメ……結果的に邪魔する存在が迫ってる……!!!」

 

「え?!!」

 

 プルのその言葉通り、サイコガンダムMk-Ⅳに迫るガンダムジェミナス・グリープを阻むかのようなビーム渦流が注がれた。

 

 だが、そのビーム渦流は中華プライズリーオーや中華プライズジェスタにも直撃し撃破していた。

 

「何?!!友軍も撃ったのかよ?!!」

 

 直後、あの男からの通信が入る。

 

「久しぶりだな!!!ガンダム!!!いや、アディン・バーネット!!!こんな所で会うとはな!!!」

 

「な?!!ロッシェ・ナトゥーノ!!!味方機まで撃ってまで俺とやり合おうってか?!!!」

 

「味方?勘違いするな!!!奴らはプライズを組織的に裏切った粛清対象に過ぎん!!!我々は偵察も兼ねて可能とあらば騎士道と人道を度を超えて踏み外した愚か者達の粛清の為に来たのだ!!!」

 

 その言葉と共にロッシェが駆るトールギス・フリューゲルがビームサーベルを斬り下ろすような軌道でガンダムジェミナス・グリープに武力介入を切り込んだ。

 

「野郎……!!!だったら、邪魔すんな!!!」

 

「問答無用!!!決闘の続きだ!!!」

 

「ちくしょう……!!!だったら無理でも全力でこじ開けるっっ!!!」

 

 強者と強者の強力なつばぜり合いがはじまり、同時に僚機のプライズリーオー達が中華プライズサイドのMSと戦闘を開始する。

 

 三つ巴の勢力図が発生する中、キュベレイMk-Ⅱは劣勢に立たされていた。

 

「ダメだ!!!このままじゃ、やられる!!!間合いを……あぁうっっ!!!」

 

 再びサイコナックルが襲う。

 

 更にサイコガンダムMk-Ⅳはサイコ・ディフェンスプレートにキュベレイMk-Ⅱを押し当て貼り付けにさせた。

 

 そして負のプレッシャーを押し付けながら機体フレームを狙うサイコ・ディフェンスプレート攻撃が迫る。

 

「ぐぅう……イヤだっ……!!!死にたくないっ……!!!シェルドッッ……もっと素直になってあげたかった……!!!」

 

 プルツーは本音を吐露しながら、悔しげに溢す。

 

 モニターの目の前には、醜悪なサイコガンダムMk-Ⅳの顔面があった。

 

「フフフ、感覚からわかる。こいつもサイコガンダムか……因縁なんだな……これも。プル、あたしもそっちにいくよ……きっと因果応報ってやつなのかな……??」

 

 悔し涙を弾かせるプルツーに迫るサイコ・ディフェンスプレート。

 

 その向こうでガンダムジェミナス・グリープとトールギス・フリューゲルの、スパークが弾き光るハイレベルな高速軌道の一騎討ちが展開する。

 

「こぉんのやらぁあああああああっっ!!!」

 

「ガンダムゥゥウウウウウウウッッ!!!」

 

 プルツーに後一歩で阻まれた決闘にアディンは苛立ちを掛した怒りでビームサーベルにビームランスをぶち当てまくる。

 

 つばぜり合いに持ち込み、アディンはロッシェに怒りをぶつける。

 

「今回ばかりはテメーは最低な騎士だぜ!!!クソ野郎!!!」

 

「何ぃ?!!!」

 

「お前がこうして邪魔してくれているせいで、女の子一人が奴ら中華プライズによって死ぬかもしれないんだよ!!!」

 

「何だと!?!不覚……決闘に固執し過ぎたようだ!!!私の行動で、レディを危機に晒してしまうとは……!!!」

 

「遅ぇんだよ!!!ちくしょう!!!」

 

 アディンは薙ぎでトールギス・フリューゲルのビームサーベルを振り切り、プルツーの危機にPXシステムを発動させた。

 

 GNDソニック・ドライヴァーとの組み合わせにより、ガンダムジェミナス・グリープは一気にサイコ・ディフェンスプレートの攻撃の間に飛び込もうとする。

 

「プルっっ、シェルドっっ―――!!!」

 

 プルツーはかつて殺めてしまった方のプルと、今不器用ながら想いを寄せているシェルドを想いながら死を受ける覚悟をする。

 

 

 飛び込むガンダムジェミナス・グリープだったが、突如として、ユニコーンガンダムが飛び込む。

 

「な?!!!プル?!!!」

 

 激突回避の急軌道で、ガンダムジェミナス・グリープはユニコーンガンダムを躱す。

 

 そしてファンネルシールドがサイコ・ディフェンスプレートを弾き、更にユニコーンガンダムがかざしたライトアームからサイコ波動が放たれ、一気にサイコガンダムMk-Ⅳを弾き飛ばす。

 

「プル?!!」

 

「はぁっ……!!!良かった!!!間に合った!!!はぁっ、はぁっ、はぁ……!!!」

 

 プルは負のプレッシャーに無理くり押しきる形でユニコーンガンダムと共に飛び込んでいた。

 

「プル!!!プレッシャーは大丈夫なのか?!!!」

 

「うん……!!!お姉ちゃんがしっかりしなきゃね☆それに、ユニコーンガンダムに選ばれたんだから……このガンダムを信じて戦う!!!」

 

 サイコフレームから放たれるエメラルドグリーンの光りが目映く光り、その光りが更に強くなる。

 

「ギギギギ!!!敵ぃいっっ!!!ぎぃしゃあああっっ!!!」

 

 サイコガンダムMk-Ⅱは吹っ飛ばされながらも体勢を立て直し、ユニコーンガンダムに狂気のプレッシャーを放つ。

 

 嫌悪感や倦怠感を誘発させる負のプレッシャーがプルに襲いかかる。

 

「くぅっっ!!!あぅっうっ……うぅぅっ!!!」

 

 プルは一身に浴びる、まだまだ不慣れで無理あるプレッシャーに苦痛の声や表情を見せるも、なんとか耐えてみせるているようだった。

 

「プル!!!」

 

 プルツーは憂いに叫ぶ。

 

「……負けない!!!負けちゃったら、妹を、プルツーを守れない!!!それに……このパイロットも!!!」

 

「え!?!奴は敵だぞ?!!」

 

 プルツーを守りたい想いと、強化人間パイロットも救いたい一身で、プル自身にエメラルドグリーンの光が宿り、ニュータイプの超常的な力が発現する。

 

「わからない?プルツー……もっと感じ取ってみればわかるよ。このヒトの奥にある哀しみと助けを求める心が!!!」

 

「なんだって?!!」

 

 プルにそう指摘されたプルツーは、改めて敵の精神の感応を感じ取りはじめる。

 

 すると、プルの言う通りの奥底に助けを求める哀しみという言葉の感覚を感じ取ることができた。

 

「これは……!!!」

 

「わかったでしょ?だから殺しちゃいけない……!!!」

 

 プルはそう言いながら瞳を閉じてニュータイプの力を更に強め、まるで機内から風が吹くように髪をなびかせる。

 

 コォオオオと立ち込める神秘的なその力は、浄化するようにプルの身体から嫌悪感、倦怠感をかき消した。

 

「……ふぅ……プルツー、アディン……あたしはもう大丈夫。それに今は共に同じ敵だから、OZプライズの紅いMSの人達と協力しあってコロニーの中の人達を救ってあげて!!!こいつの相手はあたしがするから!!!」

 

 プルからのその言葉を聞いたアディンは、PXを解除させながら良い意味で一枚取られた感覚になった。

 

「へっへへへ……だとよ、ロッシェ・ナトゥーノ。今は共闘が良いんだとさ」

 

「バカな!!!誰が小娘の言いなりに!!!」

 

「ロッシェ、今の小娘撤回しろ……!!!腹立つんだよ!!!」

 

「何?まさか貴様……!!?あんな女子供にうつつをぬかすとは……私は貴様をみくびっていたようだな……!!!」

 

「何ぃ!?!てめぇっ!!!何が言いたい?!!」

 

「何とでも言ってやる!!!このロ……」

 

「二人とも無駄ないがみ合いは止めろ!!!今はこのコロニーの人達を助けるのに協力し合いな!!!」

 

 ロッシェの発言にアディンが熱くなりかけたが、プルツーからの一喝が二人の間に入り、何故かアディンとロッシェはまるめこまれるかのように返事をしてしまう。

 

「は、はい……」

 

「じゃあ、お願いね!!プルツー!!」

 

「あぁ!!こっちこそ助かった!!サンキュー、プル姉!!コロニーの方は任せな!!!」

 

 プルはプルツーと信頼の頷き合いをしながらムーン・ムーンコロニーの方をプルツーやアディン、ロッシェ達に任せる。

 

 ロッシェは引き連れた部下の僚機部隊にも通信を入れる。

 

「諸君!!!急遽ではあるが、合理性を最優先して奴らのガンダムと一時的に共闘する運びとなった!!!ならず者達である中華プライズに対し、偵察から粛清に切り替える!!!せめて目に止まる場所の奴らに正規のプライズの鉄槌を下す!!!」

 

「了解!!!」

 

 先導するトールギス・フリューゲルと共に8機のプライズリーオーが続く。

 

 それに続く中、アディンは意表を突く展開の感想をプルツーに吐露した。

 

「しっかし、成り行き上とはいえ、まさか敵のプライズと……それもロッシェ・ナトゥーノと共闘する時が来るなんてなぁ~……」

 

「OZプライズって奴らが敵でも今の状況的に見て、あからさまにコロニーを占拠してる奴らの方が突出して禍々しいからな」

 

「あっちにとっても敵。敵の敵は味方か……レディさん、ノインさんにも連絡だ!!」

 

 その流れになった旨をアディンは待機していたレディ達にも通達する。

 

「そうか!!そんな流れになるとはな……了解した。我々は引き続き待機・警戒する……聞いたか?ノイン」

 

「あぁ……聞いた。本当にわからないものだ。だが、あちらはとても我々が介入できる領域ではないな……」

 

 ノインがモニター画面越しにサイコガンダムMk-Ⅳと対峙するユニコーンガンダムを確認していた。

 

 ユニコーンガンダムは鮮やかなまでの光りを放ちながら、サイコガンダムMk-Ⅳと向き合う。

 

「あなたは……ここから出ていけぇ!!!」

 

 そしてプルのユニコーンガンダムから先制を仕掛け、放たれるその陽のサイコプレッシャーを当ててみせる。

 

「ギギギギ?!!」

 

 押し下げられたサイコガンダムMk-Ⅳに、更に三基のファンネルシールドのビームガトリングが撃ち込まれた。

 

 

 

 ヴィヴィヴィヴィビィディリリリリ!!! ヴヴィヴィヴィヴィィディディディリリリィィィィ……!!!

 

 

 

 そのビームはプルのニュータイプ能力も付加された状態になっており、サイコ・ディフェンスプレートを弾き飛ばし始める。

 

 キュベレイMk-Ⅱのファンネルのビームは防御していたが、ユニコーンガンダムと負のプレッシャーに打ち勝ったプルのニュータイプ能力が掛け合わさり、サイコガンダムMk-Ⅳのサイコミュパワーを凌駕していたのだ。

 

 「ギギギギぐぅう、あああああっっ!!!敵めがああああああ!!!」

 

 対し、強化人間のパイロットは敵意を持続かつ増幅させながら細かいカッターに変異したサイコ・ディフェンスプレートがユニコーンガンダムに襲いかかる。

 

 縦横無尽に飛び交うカッター状のサイコ・ディフェンスプレートだが、ユニコーンガンダムは瞬時に攻撃を躱す動きをみせる。

 

 ただ躱すだけではなく、次々に来るサイコ・ディフェンスプレートの攻撃を軽快な軌道で全て躱していくのだ。

 

「あだらないっ?!!!ぐぎぃしゃあああっっ!!!」

 

 苛立ちを増幅させながら滅茶苦茶に攻撃を仕掛けるが、流水の流れのようにあしらわれて次々に躱され続ける。

 

「見えるんだってば!!!あなたが殺意を向ければ向ける程っ!!!」

 

「があああああ!!!」

 

 サイコガンダムMk-Ⅳは両腕をかざし、悪意に満ちたサイコフィールドを放つ。

 

 ユニコーンガンダムのエメラルドグリーンのサイコエネルギーの波動に対し、紫のサイコエネルギーの波動が襲う。

 

 

 一瞬押されたが、ユニコーンガンダムは背部のビームマグナムに手を回して銃口を構えた。

 

「させない……!!!」

 

 

 

 ヴィシュヴゥゥウウウウウウウウウウウウウウンッッ!!!

 

 

 

 撃ち放たれたビームマグナムがサイコガンダムMk-Ⅳへと突き進む。

 

 サイコガンダムMk-Ⅳもまた、最大限にサイコ・ディフェンスプレートを活かして防御に出る。

 

 

 

 ディギュイィィィ!!!

 

 

 

 ビームマグナムの初弾は防いでみせる。

 

 立て続けにユニコーンガンダムは一発、二発と連続で射撃してみせ、四発目の着弾でサイコ・ディフェンスプレートを破壊に導いた。

 

「があああ?!!!くそがあああああ!!!」

 

 サイコガンダムMk-Ⅳは残りのサイコ・ディフェンスプレートをカッターの刃の如く突き向かせる。

 

 対し、ユニコーンガンダムはバッとレフトアームをかざし、サイコフィールドを放ちマニピュレーターを握りしめる。

 

 攻撃の意を宿した多数無数のサイコ・ディフェンスプレート達は刃を反転させ、サイコガンダムMk-Ⅳへと逆に襲いかかる。

 

 ファンネルジャックだ。

 

「なにぃ!!!あああああああ!!!」

 

 怒りを吐き飛ばしながら、飛び交う自らのサイコ・ディフェンスプレートに斬り刻まれていく。

 

 サイコエネルギーを賭した上にプルとユニコーンガンダムのサイコエネルギーが付加され、より上乗せされたサイコパワーの刃が機体にダメージを蓄積させていく。

 

「ギギギギ……!!!」

 

「もう、抵抗させない!!!」

 

 更にファンネルシールドのオールレンジ射撃にビームマグナムの射撃を加え、その連携射撃でプルはサイコガンダムMk-Ⅳの無力化を図る。

 

 

 ヴィヴィヴィディディディルルルルルルリリリリリリィィィィィ!!!

 

 ヴィシュヴゥゥウウウウウウウン!!! ヴィシュヴゥ、ヴィシュヴゥウウウウウウウウウンッッ!!!

 

 

 

 ディディディギャギャギャギャガガガララララァアアァァァァッッ……!!!

 

 

「ギギギギアアアアあああぐぅっっ……!!!」

 

 

 ビームガトリングのサイコエネルギーを宿した無数の連射ビームがガンダリウムの装甲を蜂の巣にさせると共に、攻撃に利用するサイコ・ディフェンスプレートも破壊していく。

 

 

 

 ディゴバァンッッ、ズドォバァンッッ、ダディバァンッッ、ドォズヴァガァァアアアアアアン!!!

 

 

 

「がああああああ!!!ぐぅぎぃっ……!!!ぐぅっ……」

 

 更に連続で撃ち放たれたビームマグナムの高出力ビーム渦流弾は、肩と脚にあたる各ジョイント部を吹き飛ばした。

 

 サイコガンダムMk-Ⅳは無力化され、搭乗者の強化人間も闘志を失い、行動もまた静止する。

 

 プルはその闘志を失ったサイコガンダムMk-Ⅳにユニコーンガンダムを近づけていく。

 

「……これで、もうあなたは戦わなくていいんだよ?あたし達が助けてあげるから」

 

 プルは直前まで明らかな敵意を示してきていたはずの相手を救おうとしていた。

 

「乗ってるヒト、確かに強い狂気を持ってた。でもその狂気の向こうには、哀しみと助けを求めてる感じがした……!!!」

 

 プルはそう言いながら頭部と胴体のみとなったサイコガンダムMk-Ⅳに語りかけた。

 

「聞こえる??これからはあたし達があなたを救ってあげるから……!!!」

 

「あ……ぐぅうあっ?!!!」

 

 プルはエメラルドグリーンの光を放つサイコエネルギーをユニコーンガンダムのレフトマニピュレーターを通じて、直にサイコガンダムMk-Ⅳに解き放つ。

 

 目映いその鮮やかたる光が彼の状況を変えていく。

 

「ああっ……ぐぅっ……あぐぅ……」

 

 狂気に囚われていた表情が徐々に穏やかな様相が強化人間のパイロットにみられはじめた。

 

「あぐぁっ……っう、ここ……あれ……一体……俺は??」

 

 更には本来の彼の人格をもプルとユニコーンガンダムの力で呼び起こしていた。

 

「あっ、気がついた!!?あなた、自分がわかる?!!」

 

「お、俺は……俺は……ユッタ……ユッタ・カーシム……」

 

「ユッタっていうんだね!?あたしはエルピー・プル!!!今あなた達を助ける為に動いてるの!!!とりあえずあなただけでも今から助けだすから、来てくれる?!!」

 

 プルは早速ユニコーンガンダムにサイコガンダムMk-Ⅳを抱えさせ、レディ達の所に向かった。

 

 その一方で、アディンやロッシェの部隊、プルツーがムーン・ムーンを占拠する中華覇権派OZプライズを相手に暴れに暴れの限りの猛撃を繰り広げていた。

 

 電光石火たるガンダムジェミナス・グリープのビームランスの高速多角軌道の斬撃。

 

 同じく高速軌道を絵描いてのトールギス・フリューゲルのビームサーベルによる連続斬撃と刺突。

 

 プライズリーオー部隊によるビームライフルの射撃とビームサーベルの斬撃による粛清攻撃。

 

 中華プライズリーオーやジェスタを撃破しながらのジェノサイド実行部隊に対するキュベレイMk-Ⅱの雨のようなファンネルの攻撃。

 

 この事態にコロニー中から占領戦力である全MS部隊が戦端が巻き起こるエリアに向かっていく。

 

 だが、その部隊もまた、ガンダムジェミナス・グリープとトールギス・フリューゲルによる無双たる攻勢により、次々と撃破させられていく様子をみせていた。

 

 それはやがて、ムーン・ムーンを占領していた中華覇権派OZプライズの部隊を事実上の壊滅に追い込んだ。

 

 いつ増援が来るかは油断できない状況下ながらも、光族の人々を解放させる事に成功したのだ。

 

 その状況を光族を代表して、サラサが光族解放に荷担したアディン達やロッシェ達に礼を述べる。

 

「この度は我々光族を彼らの悪しきジェノサイドから救って頂き、誠に感謝御礼申し上げる。あなた達はまさに光族の救世主です……!!!」

 

「いやいやぁ……目に止まる危機だけでもっ助けるって……俺達にできる当然のコトしただけだよ」

 

「同じOZプライズから出てしまった毒の被害の影響をこのコロニーに与えてしまった事を謝罪する。無論、我々とコイツらのガンダムは敵であるが、中華覇権派OZプライズに対しては共通の敵とし、一時的に共闘した次第だ。たが、アディン・バーネット。勘違いをするなよ?」

 

「あたりめーだ!!!お前は敵だからな!!!」

 

「フン……わかればいい」

 

 二人のやりとりを見てもサラサはにこやかに話す。

 

「確かにOZプライズそのものは地球圏の脅威です。ですが、少なくともここにいらっしゃるOZプライズの方々からは悪意は感じられません。ですからいずれ解り合える時もくるでしょう」

 

「ミス・サラサ……」

 

 そしてサラサはプル達にも歩み寄り感謝を述べた。

 

「そして、彼らに人体実験されてしまったユッタも救って下さり、本当にありがとうございました。彼以外にもこれまでに多数の光族の少年や少女が拉致され、強制的に強化人間の手術を施され、多くが犠牲に……」

 

「そうだったんだ……あたしも、アディンと一緒。できることをやっただけだよ。でも、助ける事ができてホントあたしもよかったと思える」

 

 すると、光族の中から一人の少女がサラサより前に飛び出し、プルの元に駆け寄った。

 

「?!サキ?!!」

 

「あなたが、プルって人?!!」

 

「え!?そだよ?きゃう?!!」

 

 するとサキという少女は涙ぐんでプルに抱きついた。

 

「ありがとう!!!ユッタ救ってくれてありがとう!!!本当にありがとう!!!うっ……うぅっ」

 

 プルは一瞬驚きながらも、直ぐに彼女の気持ちを直ぐに理解して彼女を抱き寄せた。

 

「くすっ、ユッタって人の大切な人なんだね……よかった……」

 

 その光景を見ながらプルツーも含み笑いの笑みを見せた。

 

「彼女はサキ・メントー。ユッタの幼馴染みです。もしよろしかったら彼女もユッタの治療に連れて行って頂きたいのです。きっと彼の心にも……」

 

 サラサはサキを治療の為に高速宇宙戦闘艦に搬送され、現在レディとノインにより応急処置を施されているユッタのそばにいさせてあげるよう申し出る。

 

 無論、戦闘のリスクはあるが、彼らの身を考えればそれも自然……更にはかつての自分を重ねそれをアディンは快く受けた。

 

「……いいっすよ!!!やっぱりそういう存在が男子には必要ですからね!!!」

 

 だが、その時プルとプルツーが、更にはサラサもまたほぼ同時に嫌な感覚を覚え顔色を一変させた。

 

「―――っ?!!」

 

「どうした?!なんかまた感じたのか?!!」

 

「アディン……うん。嫌なのが近づいてる!!!サキ!!今すぐあたし達の船に急いで!!案内するから!!!」

 

 

 

 

 それから間も無くして中華覇権派OZプライズの増援の報がロッシェに伝えられた。

 

「何?!!……小娘……いや、プルという少女が言ったことは本当に……!!!」

 

「現在、大部隊が二つの方面から向かっているとのことです!!!我々の部隊は先程要請を出したばかり……恐らく救援要請を受けた奴らの部隊かと……!!!」

 

「直ちに使える輸送艦を確保!!!光族を避難させる算段を!!!お前達はそれに加え護衛に専念しろ!!!」

 

「了解です!!!ロッシェ特佐は?!!」

 

「私は殿(しんがり)をするさ。トールギス・フリューゲルは伊達ではない!!!」

 

 それを聞いていたアディンも拳で左手を叩きながら乗り気で口角を上げながら言う。

 

「っしゃあ……俺も返り討ちにしてやるぜ!!!待ってな、真っ赤な外道プライズ共!!!」

 

 サキを連れてきたプルもまた次の行動を決心していた。

 

「あたしはこの船と輸送艦の護衛に回らなきゃ!!!プルツーにも伝えよう!!!」

 

 プルツーもキュベレイMk-Ⅱに予備のファンネルをシェルドに取り付けてもらっている状況の中で、プルからのテレパシーでそれを聞いた。

 

「そうかい……わかった。あたしも護衛にまわるからさ……あぁ……また後で」

 

「プルツー?何かあった?」

 

「今回戦った外道部隊の増援が接近中だってさ!!!シェルドは早くファンネル追加作業すすめな!!!」

 

「わ、わかったよ!!頑張る!!!」

 

 

 

 そして、ムーン・ムーンを一時的に脱出する編隊が急遽編成され、ユニコーンガンダムとキュベレイMk-Ⅱをはじめ、ノインのリゼル・トーラスやプライズリーオー部隊で護衛を固めながら出撃した。

 

 そして殿を務めるべく、ガンダムジェミナス・グリープとトールギス・フリューゲルが迫り来る中華覇権派OZプライズの部隊に向かっていく。

 

 2機が吸い込まれていった宇宙空間の先では戦端の爆発光が拡がる。

 

 プルは光族の輸送船団の護衛に就きながら、ユニコーンガンダムのコックピットから遠方に見えたその戦端に振り返った。

 

 彼女のその眼差しは、大丈夫とわかっていても拭いきれないアディンへの憂いの想いを秘めているようにも見えていた。

 

 

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 

次回予告

 

 

 アディンとロッシェは押し寄せる中華覇権派OZプライズの増援に対する殿(しんがり)を務め、敵機群に獅子奮迅する。

 

 ジェミナス・グリープとトールギス・フリューゲルのその性能は絶大的に敵機群を圧倒する。

 

 一方、ネェル・アーガマではサンクキングダムとの打電のやり取りがされる。

 

 だが、その裏では捉えたロッシェとベントナにそれぞれが抱える憎悪がぶつけられていた。

 

 その頃、故郷に戻っていた五飛のコロニーに狂気宿した鳳凰のガンダムが襲撃する。

 

 文字通りの狂った中華覇権派OZの強化人間・紅烏が駆るC-フェネクスは、次々に李鈴達の仲間を駆逐していく。

 

 狂った鳳凰のガンダムに対し、五飛は怒りを爆発させアルトロンガンダムを出撃させるのだった。

 

 

 

 次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード50 「双頭龍 VS 鳳凰」

 

 

 

 

 

 





 今年こそ、クリスマスには……と獅子奮迅しましたが、結局間に合いませんでした。ですが、「意地でも今年はクリスマスエピソード書く!!!」という謎のコダワリの意地で書きあげれたので、追々上げていきます(本日2023最後の『金曜日』を予定!!!)


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エピソード50「双頭龍 VS 鳳凰」


 注意:暴力的描写があるシーンがあります。


 

 

 

 ムーン・ムーンの難民達を避難させながら、プル達は彼らの護衛をしてムーン・ムーンコロニーを離脱する。

 

 その後方では、事の知らせを受けた中華覇権派OZプライズが送り込んだ大部隊が迫っており、アディンとロッシェが殿に打って出ていた。

 

 振り返る方向に見える絶え間ない戦端の爆発を見ながら、プルは獅子奮迅するアディンの身を心配する。

 

「アディン……必ず戻ってきてよね……!!!」

 

 プルが憂いの想いを送ったその戦端の中では、ガンダムジェミナス・グリープとトールギス・フリューゲルが猛撃無双をしながら駆け抜けていた。

 

「うぉらあああああ!!!」

 

 

 ジュズゥガガガガシュウゥウウウウウウンッッ!!!

 

 

 ガンダムジェミナス・グリープのビームランスの薙ぎが中華プライズジェスタ4機をまとめて胸部から斬り飛ばすと、間髪入れずにビームライフルやドーバーバスターを放つ中華プライズリーオーに向かって、左手のライトバスターライフルの銃口を向ける。

 

 

 

 ヴヴァアアアアアッッ、ヴヴァアアアアアッッ、ヴヴァアアアアアッッ、ヴヴァアアアアアッッ!!!

 

 

 

 連発で放たれるビーム渦流が中華プライズのMS勢を一発につき、2、3機をまとめて吹き飛ばしていき、更にそこからチャージングショットに移る。

 

 

 

 ジャキッ……ヴィリリリリ……ヴヴォヴァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

 その一方ではトールギス・フリューゲルが無双する。

 

「はぁあああああああああ!!!」

 

 

 

 ガズゥドォオオッッ!!! ザバァンッッ、ギャガシュッッ、ザギィガァアッッ、ギィズバァアアアッッ、ザギィギャガガガガガガガァアッッ!!!

 

 

 

 トールギス・フリューゲルの刺突、薙ぎ、斬り上げ、唐竹連続突きの連斬撃を中華プライズリーオーの群れに浴びせ続ける。

 

 猛将たる戦いぶりで駆け抜けるトールギス・フリューゲルはライトバスターライフルと同等の威力を持つ、バスターシューターを左手で構える。

 

 

 

 ヴァシュダアアアアアッ、ヴァシュダアアアアッッ、ヴァシュダアアアア!!!!

 

 

 

 ヴァシュドォオオオッ……ヴウウッッ……ヴヴァォアアアアアアアアアアァァァァアアアアアァァァァァアアアアアァアアアアアッッ!!!

 

 

 

 連続射撃のさ中にトリガーチャージしたトールギス・フリューゲルは、一度解き放ったビーム渦流を持続させながらそのまま機体を自転させ、周囲の敵機体群を一気に吹き飛ばし爆散させた。

 

「ロッシェの野郎……なかなか気合入ってやがるぜ!!!」

 

「貴様もな……アディン・バーネット!!!」

 

 互いの力量を認め合う両者はさらなる獅子奮迅を見せつける。

 

 メインカメラを光らせたガンダムジェミナス・グリープは、中華プライズジェスタと同リーオーの混合攻撃舞台に突撃し、受けるビーム射撃の攻撃をリフレクトシールドで遮断していく。

 

「こ、攻撃が全く通じない?!!馬鹿な!!!これが……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム!!!」

 

「てめぇらがいりゃあ、必ず追ってくる!!!なら、追われる前に全部ぶっ潰してやんぜ!!!」

 

 間合いに突入したガンダムジェミナス・グリープはビームランスの薙ぎを食らわし、2機の中華プライズリーオーと同ジェスタ1機を裂断。

 

 その機体達の爆発を突き抜けながら、GNDソニックドライヴァーの瞬発的なブースター加速を利用して次々にビームランスで斬りにかかる。

 

 胸部を斜めに切断される機体や直接突き貫かれる機体、唐竹に真っ二つにされる機体、隣接していた僚機共々一斉に斬り飛ばされる機体群……赤い機体群が次々と爆発光に変わっていく。

 

 トールギス・フリューゲルもまた、華麗なサーベル捌きで中華プライズリーオー達を圧倒し、突きや袈裟斬り軌道の斬撃をメインに、騎士道たる斬撃術を見せつけ次々に無双していく。

 

 その間にバスターシューターの射撃も加え、獲物を狙撃する。

 

「このジェノサイドによって血生臭くなってしまったL5宙域で決着をつけるのはナンセンスだ。アディン・バーネット。貴様との決着はこの馬鹿な輩達の一件が終わってからにさせてもらう!!!」

 

「決着の都合なんて別に知らねーが……今はこいつらを駆逐するのが最優先事項ってのは理解できるぜ!!!」

 

 互いに背中合わせのような配置に止まると、再びトールギス・フリューゲルはバスターシューターをチャージングし、同時にガンダムジェミナス・グリープは背部のGNDソニック・ドライヴァーユニットを前面に展開し、メガ・パーティカル・バスターキャノンの発射態勢に入った。

 

 そして、両者の最大出力の砲門が圧縮した高エネルギーと超高エネルギーを解き放つ。

 

 

 

 ヴィリュリュリュイイイイィィ……ヴヴヴァリュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!

 

 

 

 その解き放たれた超高出力のビーム過流は迫りくる大部隊の過半数を一気にかき消していく。

 

 MS部隊のみならず、それらを運んでいたクラップ級巡洋艦、MS輸送艦を巻き込んで破砕の限りを尽くしていく。

 

 その光景をプルとプルツー、レディとノインが確認していた。

 

「アディン達の戦いの光……!!!」

 

「幾つもの醜悪な奴らが消えていく……本当に圧倒的だ。頼もしいほどにな」

 

「見えるか?ノイン?改めて凄いものだな、アディンのガンダム……!!!」

 

「あぁ。通常であれば絶望的な物量差だったのがあっという間に覆されていく!!!敵であったら絶望的な強さだ。つくづく心強いと思える!!!」

 

 無論ながら、光族の輸送船団からもこの光景は見えており、サラサが祈るようにして見届けていた。

 

「あの光を放つ者達が、我々を救いに導いて下さった……!!!いくら感謝してもしきれない……!!!光族の皆の者達よ、あの光りに感謝の気持ちと祈りをお運びするのです!!!」

 

 サラサに集っていた光族の者達が一斉に感謝の姿勢を示し、輸送船団間の共通回線通信でサラサの声を聞いていた光族の者達もまた、同じく感謝の姿勢を示していった。

 

 強化人間の強制手術を強いられたユッタに寄り添うサキも、涙を流しながら他のだれよりも強い感謝をしめしていた。

 

「ありがとう!!!本当に……ありがとう……!!!ユッタ、見て……!!!」

 

「……何、サキ?」

 

「あそこで戦ってくれてる人達、私達光族を逃がしてくれる為に戦ってくれてるの!!!私達、助かる!!!もうあんな悪夢の日々は終わるんだよ!!!」

 

 ユッタはサキに言われた方向にその眼差しを向け、その戦端と護衛してくれているユニコーンガンダムを確認した。

 

「……ガンダム……はははは!!!」

 

「ユッタ?!!」

 

「いや……一方で戦ってくれて、こっちじゃ俺を助けてくれた上に皆を守ってくれてる……カッコいいとしか言い様ないよ……」

 

「ユッタ……!!!」

 

 船団の一行は、悪しきエリアと化したL5を一刻でも早く脱出すべく、それぞれが前に前にと加速していった。

 

 

 

 ユーラシア北方エリア・北極圏近辺上空

 

 

 

 今回のOZの一斉決起以降、ネェル・アーガマは、光学迷彩を展開させながらいよいよ北欧の完全平和主義を唱える小国・サンクキングダムを目指して航行を進めていた。

 

 CICブリッジではケネスが自身の心中を吐露しつつ、オペレーターのエイーダに状況を訪ねる。

 

「ふぅ……様々な状況があった中、ようやくサンクキングダムに進路を向けられるか……現在の艦の周囲の状況とサンクキングダムへの到達時間は?」

 

「はい、特に異常は見られません。特異な機影等の反応もありません。光学迷彩の効果もあるかと……極力の戦闘を避けるべく、人の手が及んでいないユーラシア大陸の山岳エリアに進路変更しました」

 

「……というと?」

 

「現在、中華圏エリアではOZプライズの通常の財団派と最近一斉武装蜂起した中華覇権派の内戦が勃発しています。その為、現在の進路は当初予定していた東、南シナ海、ベンガル湾を通るルートを変更し、北方エリアの山岳地帯を通ってスカンジナビア半島を目指すルートとなってます」

 

「なるほど……そう言えば直近ではそのような事態が起こっていたな。ずいぶんと内乱が好きなものだなOZは……」

 

「クスっ、全くですね!!いっそ両方滅べばいいのに……あ、失礼っ、私語がっ……こほんっ、以上の計画航路の現在の状況では約一日と数時間あればサンクキングダムに到達できるかと思われます」

 

「了解した……先の戦闘の後だ。できる限り戦闘は避けたいな。他のクルー達やパイロット、メカニック達にも余裕を持った休息をさせてやりたい。特に今、救出できた被験者達の為に懸命に動いてもらっている医療スタッフ達やカトル君、ロニ嬢には特にな。贅沢を言えばサンクキングダムで更なる休息が欲しい所だ」

 

 ケネスはヒイロ達の、特にカトルとロニへの休息を配慮する気持ちを汲み取り、更なる安息の場を与える意気込みを示した。

 

 エイーダもまた、サンクキングダムへネェル・アーガマからの要望を送る旨を伝える。

 

「了解です!!今のうちにサンクキングダムへこちらからの要項を通達しておきます!!」

 

「後、立続けに悪いが、医療スタッフやヒイロ達、クルー、メカニック達にも適度な休息をとるよう、艦内放送で呼び掛けてくれ」

 

「はい!!ですが……ヒイロ達は今……」

 

 一方で、今回のヒイロ達の戦闘の事後処理が暗と明の二つに別れ、前者は休み無く行われていた。

 

 本来であれば公正的に捕虜を扱う部屋において、恨み連なる拷問がなされていた。

 

 ヒイロ、デュオ、トロワ、ラルフ、アブドゥル達が互いに気が済むまで身動きがとれないように拘束したリディの四肢に向け、ハンドガンで一斉に発砲し続けていた。

 

「がぐヴぁあああああああああ!!!ぎゃあああああああ!!!ぐぇるがががヴぁあああああああ!!!」

 

 阿鼻叫喚のリディの絶叫の中、やがて弾薬が尽きる。

 

「ギギギギィいうがががああああ……!!!!!!」

 

 拘束されたままのたうちうごめくリディに、まずラルフが連続で殴りにかかった。

 

 怒りの余りに発する言葉も初めは無言であった。

 

「…………っっ!!!!!!てめぇがオデルを殺りやがったんだってなっっ!!!!よくもオデルをおおおお!!!!」

 

 世代的にもオデルと同期であるラルフにとってリディは親友を奪った敵だ。

 

 ラルフは溜まった怒りを徐々に加速させ殴り続ける。

 

「っっ………!!!らああああああ!!!!」

 

「ぐぅぐぅうっっ!!!」

 

 渾身のフルスイングでリディを思いっきりブン殴るとラルフはヤケクソ混じりにふらつきながら後ろへ向かって地べたに腰を落とした。

 

 続いてアブドゥルが怒りの拳をぶつけにかかる。

 

「ぐぶぅふぁ……!!!!」

 

「てめぇがっ……!!!てめぇがあの時ムラサメ研究所を撃ったガンダムのパイロットかぁ!!!?あいつはなぁっ……あいつはな!!!ようやく探してた女性とあの場で再会できたんだ!!!しかもその時、彼女の方はベントナとかいう下道野郎に非人道に好き勝手されていた……やっとその彼女に光りがさした矢先っっ……!!!!てめぇが撃ちやがった!!!!!あああああああ!!!!!」

 

 アブドゥルは偶然突撃の際に居合わせ、感情移入させられたネェル・アーガマクルーのメンバー、ヴィンセントとその恋仲だったと思われるクロエを想い激昂する。

 

 彼の溢した少しの話からも、二人は苛烈な運命の果てにムラサメ研究所で再会できた。

 

 だが、リディはアブドゥル達の目の前で彼らを葬ったのだ。

 

「それだけじゃねぇっっ!!!他に救出を控えていた被験者達や救出にあたっていたここのクルー達もやりやがった!!!」

 

 アブドゥルは気が済むまで殴りに殴り続けた。

 

 やがて殴り疲れたアブドゥルは振り返りながら壁に向かい寄りかかった。

 

「さ……お次は俺か……!!!!」

 

 デュオはバキバキと拳を握りながらリディに歩み寄る。

 

 リディの眼前に立ったデュオは、歯と拳を握り固めながら渾身の力を込める。

 

「殴り過ぎて死なれたら元も子も無ぇ……実の弟のアディンの怒りが残ってるんだからな!!!オデルを奪われた俺達や、てめぇのせいで犠牲になった被験者達、ここのクルー達の怒りは、この一発にかけさせてもらう……ぜっっっ!!!!」

 

 全力の怒りを籠めた重いデュオの一発がリディの頬骨を砕いた。

 

「ぶごぉほぉっ!!?」

 

「……死神さえ死を与えちゃくれねぇ生き地獄を味わい続けな……!!!!!」

 

「ぐごごががっっ……!!!!」

 

 デュオがリディにそう吐き飛ばすと、次にトロワが予めしていた皮手の手袋で引っ提げていた袋から数枚の葉っぱを取り出した。

 

 デュオもそれが気になり、思わず着目する。

 

「なんだ、それ?!!」

 

「ギンピーギンピーという毒の葉だ。葉には細かい毒の針があり、これが皮膚に刺さると強烈という言葉では片付けられない程の超激痛を与える。奴に俺達の怒りを表現したモノを魂の根まで刻みつける……!!!先に言いたい事がある者は奴に今の内に言っておけ……」

 

 するとヒイロが黙ってリディに迫り、彼の胸ぐらを掴み上げる。

 

「ぐぅ……!!!」

 

「……リディ・マーセナス!!!貴様が俺達にしたことは死では生ぬるい……更なる覚悟をするんだな。それと……マリーダを人形呼ばわりした事を撤回・謝罪しろ……!!!!俺は貴様がオデルを殺したコトと並ぶ程の怒りを覚えた……!!!!!」

 

 ヒイロの怒りの問いに、リディはデュオの一撃でダメージを受けた顎で身の程を知らない発言を流す。

 

「何……がと(だと)?!!あご(あの)……ニューダイブ用MSい(に)乗っげいかやかが(っていたやつが)……あんが(なんだ)……といぐん……がっっ(というん……だっっ)、ぐぅぐぅうっっ?!!!」

 

 ヒイロは更に強くパイロットスーツのエリ元を締め上げる。

 

「……撤回するか、しないのか?!!謝罪するか、しないかっ?!!どうなんだっっ……?!!!」

 

「がぐぅっ……!!!!人形がんてっ(なんてっ)、本当の……ごどがろうがっっ(ことだろうがっっ)……!!!!」

 

「貴様っっっ―――!!!!」

 

 くわっと怒りの眼光を見開いたヒイロは、思いっきりリディの顔面をブン殴った。

 

 

 

 ゴグガァッッッ!!!!

 

 

 

「ごぉぇがっ……!!!?!げがっっっ……!!!おここかっっっ……!!!!」

 

 顔面に及んだ強烈なダメージに、リディはのたうち悶える。

 

 それを見ていたデュオも、視覚かつ錯覚的な痛みを感じ鼻をおさえる。

 

「うっわぁ……ヒイロやりやがった……かぁ~!!!痛ってぇ~!!!見てるこっちが痛み感じらぁ!!!」

 

「……トロワ、好きにやれ。コイツは超激痛を与えるにふさわしい。俺にも皮手とギンピーギンピーをくれ。そいつ以上に苦悶を与えるべき下衆がいる……!!!!!」

 

「了解した。片方をくれてやる。慎重に扱えよ」

 

 ヒイロはトロワからギンピーギンピーを預かると部屋を後にする。

 

 するとヒイロの後方より、ギンピーギンピーの毒針による形容しがたいリディの叫び声が聞こえてきた。

 

 ヒイロが向かったもう一つの捕虜を収容している部屋には、ベントナが拘束されていた。

 

 その部屋に何の挨拶なくヒイロが入り込む。

 

「ヒイロ!!?」

 

 取り調べをしていたクルーが突然のヒイロの入室に意外をくらう。

 

「……コイツから何か情報は吐き出せたか?」

 

「え?!あぁ。意外にもあっさりな。だが、信用の決め手がな……ん?!!なんだそれ?!!」

 

「拷問用の毒の葉だ。使うといい。信用問題ならば俺も立会う……いや、立会わせろ。奴の証言とゼロシステムが見せた要点と裏付けができる。それに、俺個人としても恨みの用がある……!!!」

 

「そ、そうか!!心強いな!!」

 

 ヒイロは腕組みしながらベントナを睨み付けた。

 

 一方、救出することができたムラサメ研究所の一部の被験者達に、適切な処置を施すべく、サリィが奮闘していた。

 

「……これでよし。あなたは当面は安静でね。では次の方の処置に移るから!!カトリーヌ!!臨時病棟指定した部屋にこの方運んでちょうだい!!」

 

「わかりました!!」

 

 サリィは被験者が頷くのを見届け、彼女も頷き返してカトリーヌに指示しながら次の被験者の処置に移る。

 

「ジュリ!!次の被験者の処置に移るから、またメモに指定した薬を持ってきて!!」

 

「はい!!」

 

「マユラは、点滴器具の新しいもの持ってきてね!!」

 

「はーい!!」

 

「サリィさん!!言われてた安定剤持ってきました!!」

 

「アサギ、ありがと!!そこに置いといて!!」

 

 サリィの手伝いにと、カトリーヌやジュリ、マユラ、アサギ、更にはマリーダも参加していた。

 

 サリィの下に舞い戻ったマリーダが指示をあおぐ。

 

「さっき指示された患者は指定された部屋に送り届けた。次はどうすればいい?」

 

「ありがと!!そうね……ここから先は、処置を終えた一人、一人にメンタルを治癒させるよう、声をかけていってもらいたい。カウンセリングと言うと素人には重く感じそうだけど……そう、励ましていってあげて!!」

 

「励ます……?」

 

「えぇ!!あなたは実際に強化処置の苦しい経験をして、今こうして克服して乗り越えてきている……リアルに経験した者じゃなきゃできないコトよ」

 

 サリィのその言葉を聞かされたマリーダは、ある種の気付き、衝撃を受けた。

 

「私でなければできない……?!!」

 

「そうよ!!自信持って、ボロボロになった彼らの心を救ってあげて!!頼んだわよ!!」

 

「あ、あぁ……わかった!!やってみせよう!!」

 

 新な何かを見出だせたマリーダは、再び臨時病棟の部屋に戻っていった。

 

 (確かに……私ならば彼らが味わってきた苦しみがリアルにわかる……!!!身を売り出されたあの日から昨今の強化措置まで、あれらのコトはとてつもなく酷い経験だった……だが、その経験は決して無駄じゃなかった……!!!)

 

 一方、既に医療処置を終えていたロニはカトルと二人の世界にいた。

 

 二人は長期に渡る疲労もあり、お互いに寄せ合いながら眠りについている様子だ。

 

 背もたれ式のベッドに寝るロニのお腹には、カトルが机に伏せるような体勢で寝ており、ロニのその右手はカトルの頭を撫でるように置かれている。

 

 カトルとロニの二人が願っていた状況がそこにあり、それはカトルの闘いが一旦の区切りを見せているようでもあった。

 

 サンクキングダム自衛基地において先程エイーダが打診した要望が届き、ミスズにオペレーターがそれを伝える。

 

「ミスズさん!!メテオ・ブレイクス・ヘルのネェル・アーガマより、電文!!!読みます!!!ワレ、キクンノコッカコクボウニ、ジョリョクス。アス、ミメイニモトウタツヨテイ。キョクトウニテキュウジョシタ、ジンタイジッケンヒガイシャボウメイモフクメ、ワレワレノキュウソクモキボウス……だそうです!!!」

 

「なんと……向こうからコンタクトを?!!しかし、本当に本物なのかわからない以上、最小限で返答しろ。場合によればOZプライズの奴らの姑息な罠も否定できない!!!」

 

 当然ながら、ミスズは唐突なメテオ・ブレイクス・ヘルからのコンタクトに対し、警戒する姿勢を見せる。

 

 耳元の髪をかき上げる仕草をしながら、警戒した上での返答を指示した。

 

「次のように打電しろ……いいか?」

 

「はい!!どうぞ、ミスズさん!!」

 

「リョウカイシタ。タダシ、マダヨウキュウハウケツケナイ。トウジツハコチラカラコッキョウフキンマデデムカエル。コッキョウテマエ、10マイルデカナラズテイシ、アイズセヨ……とな」

 

「はっ!!!」

 

 (もし本物であるならば、サンクキングダムの国防力は凄まじいものとなる!!!ふふふふっ、不思議なものだ。ついこの前まで敵であったはずの彼らを頼もしく思え、共闘できるとはな……リリーナ様やミリアルドにも早速報告しなければ!!!)

 

 半ば半信半疑ながら、ミスズはミリアルドとリリーナにこの事を報告した。

 

 当然ながら兄弟揃って驚きを隠せなかった。

 

「何?!!メテオ・ブレイクス・ヘルがコンタクトを?!!」

 

「ミスズさん、本当なのですか?!!彼らはなんと??」

 

「はい。我が国の国防に助力してくれるとのことで、明日未明にもサンクキングダムに到達予定。救出した人体実験被害者達の亡命や彼ら自身の休息を要望してきました!!」

 

「……お兄様!!!」

 

「本当に彼らだとするなら、まさに宿願が叶う!!!」

 

「ですが、現時点では完全に彼らだという確証はないので、我が国境の手前で必ず停止するよう打電しました。明日は偵察兼ねて私が部下と赴きます」

 

「ならば私も行こう。万が一敵勢力の罠なら、私がいた方がいい」

 

「ミリアルド、あまり見くびらないでほしいな?国防の要の為にサンクキングダムに居てくれなくては困る」

 

「はは!!敵わないな、ミスズには……なら、ライトを連れていくといい。凄く面白いことになるだろう」

 

「面白いこと??」

 

「……ふふっ、ヒイロ・ユイ……私のライバルたるガンダムのパイロット……本物ならば奴はいるはずだ」

 

「ライトと瓜二つっていう方ですか??お兄様??」

 

「あぁ……できれば刃を交え、決着をつけたいが……今はそうは言ってられん。奴は本当に心強い……!!!」

 

「お兄様がそうまでおっしゃる方だなんて……ライトと瓜二つっていうのも気になります」

 

「会ったとしても、ライトと間違えるなよ?リリーナ?」

 

「もう、お兄様ったら!!」

 

 

 

 

 妹蘭の墓標から戻って来きた五飛と李鈴が再びコロニー内の拠点に戻る。

 

 戻ったと同時に李鈴は部下に状況報告を要求した。

 

「只今戻った。状況はどうだ?」

 

「今は機体のメンテを進めております!!李鈴隊長の機体も現在、予備の下半身を取り付ける作業をしています!!!」

 

「外の護衛隊からも異常を知らせる緊急通信はありません!!」

 

「形では我々がここを制圧した状況だ。このまま平穏なはずがない。奴らのテリトリー中のテリトリーの一部なんだ。油断するな!!!」

 

「了解!!!」

 

 そう言いながら、李鈴は五飛と共にその場を後にした。

 

 彼女のその姿を見た部下の二人がひそひそ話をはじめる。

 

「おい……隊長と一緒にいるあいつは、確かガンダムの……」

 

「あいつとか言うな。俺達の恩人中の恩人なんだぞ!!」

 

「わ、悪ぃ……それにしてもあのガンダムパイロット……小耳に挟んだが、昔の恋人が隊長と瓜二つらしい……」

 

「マジか?!!じゃあ、できてるのか?!!二人は?!!!」

 

「しぃっ!!!隊長に殺されるゾ!!!」

 

 するとキッと李鈴は二人を睨んだ。

 

「やべっ!!!」

 

 だが、李鈴は部下達からしれっと五飛に顔を向き直し再び歩く。

 

「ん?どうした?」

 

「……別に……ところで五飛、改めて妹蘭さんとはどんな人だったんだ?」

 

 五飛に向き直った李鈴はかつての妹蘭について尋ねずにはいられなかった。

 

「妹蘭は……強い女だった。先程言ったように、自らを哪吒と称し、正義を重んじていた。当時の俺は俗にいうインテリのような学問や理論を重視奴でな……正義という感情論には冷めていた。妹蘭とはまるで意見が合わなかったな……」

 

「え?!でも、結婚していたんじゃ……??!」

 

「結婚といっても龍一族のシキタリであって、恋愛感情関係なく14歳で結婚させられたのだ。だが、最終手的には分かり合えていたかもな。あいつが身を挺してシェンロンガンダムを守った時は……」

 

 深緑のリーオーヘッドのトールギスで出撃し、妹蘭はかつてティターンズが引き起こした30バンチ事件以来の毒ガス攻撃から故郷のコロニーを守るべく奮闘した。

 

 だが、トールギスの殺人レベルの加速Gの後遺症で死に至ってしまったのだ。

 

 だからこそ現在シェンロンガンダム、そしてそれが新たな力を得て生まれ変わったアルトロンガンダムには彼女の意思が宿っていると五飛は確信しているのだと……それらのエピソードを歩きながら五飛は李鈴に語って行った。

 

 改めて色々なエピソードを聞かされた李鈴は言いづらかったことを告げる。

 

「……なぁ、五飛……じゃあ、今……妹蘭さんは……私のことをどう思っていると思う?やはり……嫉妬されてしまっているだろうか?」

 

「ふッ……何を言い出すかと思えば……」

 

「な、何を笑う?!!」

 

「怒るな。妹蘭はそんな器が小さい女じゃない……それに実際にお前は戦士としている強い女だ。仮に妹蘭がお前を認める認めないで言えば……きっと認めるだろう」

 

「じゃあ……もう一度妹蘭さんのお墓に戻ろう……彼女に伝えたいコトがある……口に出してな……」

 

「そうか……ならば……」

 

 だが、五飛がそう言いかけたその時、コロニー内全体に警報が鳴り響き始めた。

 

「っ?!!何だ!?!」

 

「………敵襲かっ!!!」

 

 五飛いわく、コロニー外部では絶望的な大部隊の紅いリゼル・トーラスが押し寄せ、一斉射撃を行っていた。

 

「何で気づくのが遅れたんだ!??」

 

「わからねぇぇ!!!急にビームの大射撃がはじま……がぁああああああっっ!?!!」

 

 コロニーの警備にあたっていた斗争のリーオーやジェガン、ハイザック、マラサイ等のMS達が次々とビームに撃ち貫かれ爆発する。

 

 その機体数はゆうに150機以上はいた。

 

 応戦しようにも、遠方射撃故に応戦しきれない斗争のMS達であったが、再びこの流星弾雨のごとしビームが撃ち止む。

 

「何だ?!?ビームが止んだだと?!!」

 

「とにかく報告しろ!!!」

 

 コロニーに警報が鳴り響く中、バイアランカスタムの機内で待機していたディエスに報告が入った。

 

「何?!!紅いリゼル・トーラスの大部隊だと?!!奴らめ……無人機で報復掃討するつもりか……!!!直ぐに出る!!!死ぬなよ!!!」

 

「はい!!!現在、何故か攻撃を止めて進撃中です!!!反撃します!!!」

 

「?!!下手に行動するな!!!待ってろ!!!……攻撃停止?!!何か変だ……!!!」

 

 状況の違和感を感じながらも、ディエスとバイアランカスタムはコロニー外部へと出撃した。

 

 一方、五飛と李鈴はMSドックへと向かっていた。

 

「奴らめっ!!!これは絶対報復攻撃だ!!!許すものか!!!」

 

「……李鈴!!!」

 

 駆けていた五飛は李鈴の背中に、かつての妹蘭の姿を重ねていた。

 

 シェンロンガンダムを守ろうとした彼女の姿を。

 

 その直後、五飛は言いようのない悪い予感を過らせた。

 

 同時に彼女の肩に手をかけ、互いに静止させる。

 

「まて!!!李鈴!!!」

 

「なんだ?!!どうしたんだ、突然?!!」

 

「……李鈴!!!MSに乗っても待機していろ!!!」

 

「な?!!何を言い出す!!!私は戦う!!!私は斗争のリーダーなんだぞ?!!仲間がやられるのを後ろで見てろと?!!!」

 

「違う!!!とてつもなく、嫌な予感がした……!!!その予感、正しければかなりの強者が襲撃するだろう……お前の役目は俺が引き受ける!!!」

 

「……五飛……まさか、妹蘭さんを私に重ねているとでも……??」

 

「っ……当たらずとも遠からずだな……俺は二度とあのような後悔はしたくない!!!とにかく!!!ここは俺とナタクに任せろ!!!いいな!!!」

 

「五飛……!!!」

 

「……ナタクっ、俺達は今あるこの時を守るぞ!!!歴史は繰り返させん!!!」

 

 五飛はかつての悲劇を繰り返さまいという決意を胸にアルトロンガンダムのコックピットに身を投じる。

 

 起動するアルトロンガンダム。

 

 中華覇権派OZプライズが押し寄せる現状況は、かつてOZが毒ガス攻撃を仕掛けてきた時に酷似していた。

 

 しかし、今は違う。

 

 シェンロンガンダムが双頭龍となったアルトロンガンダムがここにいる。

 

 今振るわずしていつ振るうのかという闘志を五飛は全身全霊にたぎらせていた。

 

「俺が……俺が正義だ!!!お同じ民族として恥ずべき悪しき連中は、この俺が叩き潰す!!!」

 

 ギンと両眼を光らせたアルトロンガンダムは、悪しき者たちが押し寄せる宇宙に向かい出撃していった。

 

 ディエス達は不気味に攻撃をしてこない敵機群に息をのみながら警戒する。

 

「必ずなにかある……!!!下手に動くなよ!!!」

 

「了解!!!ん?!!」

 

 突如なる敵機接近アラート……不気味に攻撃をやめたマリオネット達の反対側より、別働隊が接近しつつあった。

 

 五飛の故郷のコロニーは挟み撃ちの図式にはめられてしまったのである。

 

「ディエスの兄貴!!!この反対側のポイントに別の部隊が接近してやがるぜ!!!」

 

「何?!!確かにあちら側にも増えつつある……!!!出撃準備中の奴らに告ぐ!!メイン出撃ハッチの反対側にも大部隊が接近中だ!!!そちらにも回ってくれ!!!」

 

 その方を聞いた斗争のメンバーは反対方向から来た中華覇権派OZプライズにターゲット選定して向かっていった。

 

 次々と出撃していく斗争のMS達ではあるが、その物量差は明らかであり致命的であった。

 

 更にこちらの部隊は斗争のMS隊が接近すると、容赦のない攻撃を仕掛けてきた。

 

 中華リゼル・トーラスの大部隊によるビームランチャーの流星弾雨が降り注ぐ。

 

「こっちのやつらは攻撃してきやがるぞ?!!があああああ!!!」

 

「ちっくしょおおおおおお!!!」

 

 ジェガンやリーオー、ジムⅢ、ネモ、ハイザック、マラサイといった数々の斗争MS達が成すすべなく爆散していく。

 

 そもそもの攻撃有効射程距離が違い過ぎていた。

 

 一方のディエス達の側では不気味な静寂の中から1機のMSが接近しつつあった。

 

「くはははははは!!!こっちは壁でしかないリゼル・トーラスだが、あちらじゃあ攻撃加えてるからなア!!!挟み撃ちでじわじわ狩らせてもらうぜぇ!!!」

 

 紅烏が駆る真紅のユニコーンガンダム、ガンダムC-フェネクスであった。

 

「あれは……!!!ガンダム……?!!」

 

 その存在にディエスは驚愕した。

 

 敵として相対した時のガンダムの威圧感や畏怖、絶望感は壮絶なモノをディエス達に与えてくる。

 

「うあ……?!!!」

 

 既に敵にガンダムがいると分かった瞬間に戦意を喪失する者もいた。

 

「くひひっひひひ!!!感じるぜぇ……絶望感をなァあああああ!!!まずは貴様らだあああああ!!!!」

 

 凄まじき機動性で、ガンダムC-フェネクスはディエスのバイアラン・カスタムではなく、後方にいた斗争のMS達に狙いを定めた。

 

「まず一匹いいい!!!」

 

「ああああ……!!!」

 

 

 

 ギャズガアアアアアアアアア!!!

 

 

 ガンダムC-フェネクスに萎縮してしまったメンバーが乗るネモが、挨拶代わりと言わんばかりにレフトアームのアームドファングで破砕された。

 

 その一撃を皮切りに、アームドファングによる破砕攻撃をリーオーやジェガン、マラサイ、ズサ、ゲルググMに次々に浴びせ続け無双の限りを尽くしていく。

 

 更に次のハイザックに襲い掛かった瞬間、アームドファングのセンターからビームサーベルを発動させ、ズタズタに引き裂いて見せる。

 

 

 

 ザザギャアアアアアア!!! ガズシュッッッ、ズギガアアアアッ、ザシュガアアアアッッ!!!

 

 

 成すすべなく反撃の間さえ与えてくれないガンダムC-フェネクスの猛撃。

 

 ジムライフルをやっとに想いで撃ち放ったネモにアームドファングが容赦なく穿ち掴んだ。

 

 

 

 ガズグウウウウンッッ!!!

 

 

 

「くくくくひっひひひひははははあああ!!!!」

 

 紅烏は狂気の嗤いをすると、ネモを掴んだまま斗争のMS達に向け、ライトアームのアームドバスターを撃ち放つ。

 

 

 

 ヴウウウウッッ……ヴヴァルアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 解き放たれたビーム過流は一直線に突き進んで、多数の機体群を爆砕させていく。

 

 中には中ってなくとも、高エネルギーのプラズマ奔流の影響で爆発していく機体もいた。

 

「たのしいいなあああああああ!!!!」

 

 

 

 ヴヴァアアアアアアアアア!!! ヴヴアアアアアアアアッ、ヴヴァアアッッ、ヴヴァアアアッッ、ヴヴァアアッ、ヴヴァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

 紅烏はとち狂ったようにアームドバスターを乱発しまくる。

 

 百発百中にその狂い放たれたビーム過流が直撃していき、斗争のMS達は爆炎光と化して壊滅的なまでに破壊されていく。

 

 しかも、紅烏はわざとディエスに攻撃せずにいたのだ。

 

 更にチャージしたアームドバスターを撃ち放ち、それを撃ち放ったまま振り回し、出撃していた斗争のMS達を壊滅させながら、コロニーにも被弾させてみせた。

 

 斗争のメンバー達は周囲に拡大する幾つもの爆発光と散っていった。

 

「ひひひっひひ……!!!なァ、怖いかぁ?!!」

 

「ひ?!!ああああ……やめッ、やめてくれ!!!」

 

 急に紅烏は掴み続けるネモのパイロットに畏怖を飛ばす。

 

 当然ながらネモのパイロットの戦意は当の前に崩壊していた。

 

「いいなあ?!!恐怖の命乞い!!!いいなあああ!!!!」

 

「ひいいいいい!!!いやだああああああ!!!」

 

 この時、ディエスは紅烏がビームサーベルを直に突き刺すと確信した。

 

「これ以上はやめろおおお!!!力量の差は歴然だ!!!そいつを開放して俺と戦えぇええええ!!!」

 

 ディエスはそう叫びながらバイアラン・カスタムをガンダムC-フェネクスへと飛び込ませる。

 

 だが、非情にもバイアラン・カスタムがビームサーベルを発動させた瞬間に、紅烏は口角を最大に上げながらビームサーベルを発動させてネモの胸部を貫いた。

 

「ひゃあふああああああああ!!!」

 

 そして奇声を上げながら串刺しにしたネモ諸共バイアラン・カスタムにぶつけてきたのだ。

 

「な……??!」

 

 

 

 ガズグウウウウンッッ!!!

 

 

 

「ぐおおおおお?!!」

 

 バイアラン・カスタムに物質的ダメージを与えながら、串刺しにしたネモを焼灼破壊させつつ執拗に繰り返しぶつけ続ける。

 

「ぎひ!!!ぎひ!!!味方で攻撃される気分どうだ?!!ききききき!!!」

 

「ぐうッッ……卑劣なああああ!!!」

 

 ディエスが下手にビームサーベルを中てれば確実にネモを破壊する。

 

 否、既に手遅れに等しかったが、それでも自らの手で同法を犠牲にはできないでいた。

 

 故に、ディエスは防戦一方となる。

 

「きいいいひひひひひ!!!もう飽きた!!!」

 

 そう言い放ったディエスは、ガンダムC-フェネクスを某新選組キャラの必殺技の体勢のごとく、斜に構えた体勢にさせると、かざしたアームドバスターを串刺しにしたネモに当てる。

 

 そしてネモをアームドバスターの至近距離射撃でえげつなく破壊させながらバイアラン・カスタムに向けて撃ち放った。

 

 辛くもそのビーム渦流を躱し、いよいよ怒りが頂点に達したディエスはビームサーベルでガンダムC-フェネクスに斬りかかる。

 

「貴様ァあああああああ!!!」

 

 しかし、驚異的な機動性にその一撃は難なく躱され、次の味方機の撃破を許してしまう。

 

 アームドファングによる繰り返しの執拗な破砕攻撃をマラサイに加え、その機体を次に襲い掛かったリーオーにブチ中てて、アームドバスターで2機まとめて吹き飛ばす。

 

 更に右サイド上にいたジェガン、ガルスJ、ガザD、ギラ・ドーガ達をアームドバスターのビーム過流で更に消し飛ばして見せた。

 

 紅烏は確実に面白半分で格下のMS達を一掃していた。

 

 その圧倒的恐怖に耐えかねた斗争のMSの面々は次々に敵前逃亡を開始する。

 

「だめだ!!!桁違いにも程がある!!!」

 

「に、逃げるしかない!!!」

 

 しかし、逃げようと離脱していく機体達に攻撃の手を収めていた中華リゼル・トーラス部隊が一斉に反応を示し、攻撃を加え始める。

 

 そのメガビームランチャーの一斉射撃により、本当にディエスを残して斗争のMS隊は壊滅してしまった。

 

 その爆発の光景を見ながら紅烏は嗤った。

 

「はひゃひゃああ!!!ひひひっひひ!!!逃げる機体には一斉攻撃っていうプログラムがしてあるんだ!!!ざまァみそらせぇ!!!」

 

「貴様は!!!貴様はァあああああああ!!!」

 

 ディエスの怒りのビームサーベルがガンダムC-フェネクスに迫る。

 

 それをアームドファング側のビームサーベルが受け止めた。

 

 互いに繰り返しビームサーベルをぶつけ合わせ、五度目の打ち込みでスパークを生じさせながらつば競り合いに持ち込む。

 

「貴様らはどこまで卑劣だ?!!何のためにここまでの非人道な事をする?!!」

 

「逆らったから報復したんじゃん?!!当然だろう?!!」

 

「それ以前のジェノサイドの事だ!!!」

 

「愚民だから我々に利益になってもらう。愚民の『中身』っていいマネーなんだぜ?!!全ては力だァ」

 

「な?!!このクソ外道共がああああああああああ!!!」

 

 押し当てたビームサーベルを弾き捌いたディエスは、最上級の怒りの攻勢に出る。

 

 繰り出される斬撃が幾度もガンダムC-フェネクスに撃ち込まれる。

 

 だがその度にスパークが生じ、紅烏は攻撃を受け止めながらわらっていた。

 

 一方、反対側では中華リゼル・トーラスの激しい攻撃は、斗争のMS達を撃破しながらコロニーの外壁にも攻撃を及ばさせていた。

 

 その最中、陣形が著しく崩され破壊されるリゼル・トーラスの機体群があった。

 

 アルトロンガンダムの無双猛撃が、中華リゼル・トーラスを撃破し続ける。

 

「覇ァああああああああ!!!」

 

 

 

 ヒュゴアッッ……ディギィギャガガガガガアアアアアアアアアアアアアッッッ……ドォドォドォドォドォゴバアアアアアン!!!

 

 

 

 ツインビームトライデントの薙ぎ一振りが周囲にいた5機のリゼル・トーラスをまとめて斬り飛ばし、連続爆発を巻き起こさせる。

 

 アルトロンガンダムの攻撃に絶える間はなく、テールビームキャノンによる攻撃も連動するように周囲のリゼル・トーラスを次々に撃ち墜とし続ける。

 

 

 

 ドォビァアアアアアアアアアッッッ!!! ドォビアアアアッ、ドォビアアアアッ、ドォビアアアアッ、ドォビアアアアッ、ドォビアアアアッ、ドォビアアアアッ!!!

 

 ヴィディリリリリリリ……ヴァズドォオオオオオオオオオオオオッッッ!!!

 

 

 

 その一撃一撃が確実に中華リゼル・トーラスを撃ち貫いて爆散させていき、更にはチャージショットでビーム過流の射撃を撃ち放つ。

 

 固まって陣形を執っていた中華リゼル・トーラス達は瞬く間に爆発光と化して拡がっていった。

 

「自分達の手は汚さす、MDに攻撃を仕向けさせるとは……どこまでも卑劣な馬鹿だな!!!ならば、俺という正義が、貴様たちの卑劣な極悪を徹底破壊してやる!!!」

 

 アルトロンガンダムのツインビームトライデントの強烈な刺突が1機の中華リゼル・トーラスの胸部を穿つ。

 

 

 

 ディギャズウウウウンッッ、ゴバオオオオオオンッッ!!!

 

 

 その中華リゼル・トーラスの爆発を突き抜けたアルトロンガンダムはレフトアーム側のツインドラゴンハングをブチ中て、その牙で豪快に中華リゼル・トーラス胸部を砕き潰すと、更に周囲の機体群に連続で襲い掛かる。

 

 ツインビームトライデントの突き、袈裟斬り斬撃からの横薙ぎで斬り飛ばす。

 

 

 

 ドォガオオオオオオオンッッッ!!! ザギャガアアアアッッ、ズギャダアアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

 更に振るう袈裟斬り斬撃が2機の中華リゼル・トーラスをまとめて斬り砕き、レフト側のツインドラゴンハングを側面側にいた中華リゼル・トーラスを砕き穿つと、大きくツインビームトライデントを振るい薙いで4機まとめて斬撃を浴びせた。

 

 

 

 ズバギギギャアアアアアアンッ、ゴバギャアアアアアアンッッ、ディギャギイイイイイイイインッッッ!!!

 

 ズザドォオオオッッ!!!

 

 

 

 更に背後からビームサーベルで斬りかかろうとした中華リゼル・トーラスに後部側のツインビームトライデントを刺突させ、その攻勢を許さない。

 

 その上、テールビームキャノンによるオート精密射撃により、その名の通りにアルトロンガンダムは格闘戦の攻勢をぶつけながらも、周囲の離れた中華リゼル・トーラスを射撃で自動掃討されていくのだ。

 

「俺の正義は誰にも止められん!!!でやあああああああ!!!」

 

 斬り上げと袈裟斬りの二連斬撃、右薙ぎ、左斬り上げ、唐竹、突き、左薙ぎ……五飛は絶えることなく中華リゼル・トーラス達に本格的な斬撃を浴びせ始めた。

 

 怒りかつ怒涛のツインビームトライデントの斬撃の乱舞が、繰り出される龍の牙が、龍の尾から放たれる高出力かつ精密射撃ビームがそれぞれの攻撃に組み合わさり、確実に悪しきマリオネットをより激しく一掃させていく。

 

 後方では援護する間も与えられない斗争の面々が固唾を飲み続けていた。

 

「す、すげぇ……!!!」

 

「あんなにいた敵機がもう半分近くまで撃破されていっている……!!!」

 

「すごいだろう?」

 

「え?!!リーダー?!!」

 

 すると彼らの後方には出撃を控えさせられていた李鈴がバウ龍飛で駆けつけてきていた。

 

 李鈴が追いつくと、一行はアルトロンガンダムの無双雄姿を見守り続ける。

 

「あれが以前、私達を助けてくれたガンダムだ。メテオ・ブレイクス・ヘルの龍のガンダム……よく見ておけ……あれがガンダムの正しき戦い方だ。正義をかかげ、理不尽な悪を討つ存在……!!!」

 

「ガンダムの……正しき戦い!!!」

 

 それから約五分程の時間で、彼らがいた側の中華リゼル・トーラスは壊滅した。

 

「はぁ……はぁ……まだだ。まだ向こう側に……ん?!」

 

 その時、李鈴の機体が出てきてしまっていたことを確認した五飛は、真っ先にその場所へ機体を向かわせた。

 

「あれ程出てくるなと言った!!!」

 

 李鈴達に向かう最中だった。

 

 突如としてビーム過流が側面上から走り、李鈴達の機体を呑みこんだ。

 

 

 

 ドォヴギュアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

「きゃあああああああ?!!」

 

 

 

 その一撃で李鈴達の機体は爆発四散し、斗争は確実に全滅した。

 

「な?!!……ぇえええ!!!おのれぇえええええええええええ!!!!」

 

 五飛がモニターを向けた先には、ズタボロになったバイアランカスタムを串刺しにして迫るガンダムC-フェネクスの姿が映った。

 

 怒りに駆られた五飛に更なる怒りが付加される。

 

「李鈴達にディエスまでが……!!!!ふふふッッ、汚く巨大な卑劣外道な悪か……どうやら……俺を本気にさせたいようだな……!!!!」

 

 激しい怒りを通り越した五飛は静かな激しい闘気を纏い始めた。

 

 その時、ディエスの声が五飛に伝わってきた。

 

「五飛……逃げろ……いくらお前のガンダムでも……このガンダムは……!!!」

 

「ディエス……!!!」

 

「貴様との決着が……つけれなかったが……これで俺もフィーアの所にいけ……」

 

 その次の瞬間、ガンダムC-フェネクスは、至近距離からアームドバスターを串刺しにしたバイアラン・カスタムに撃ち放って粉砕させて見せた。

 

「……」

 

 最早五飛の怒りは形容しがたい域に及び、迫るガンダムC-フェネクスに不気味なまでの静かな闘志の眼差しで睨み刺していた。

 

 

「五飛……!!!みなやられちゃった……!!!みんなッ……う、うああああああ!!!ああああああっっ……!!!」

 

「李鈴?!!」

 

 幻聴か否か李鈴の声が、悲しみを交えて聞こえてくる。

 

 彼女が撃破された先の映像を見た五飛は、コロニーの外壁に背を向けたバウ龍飛の姿を確認した。

 

 実はビーム渦流の直撃の間際に、斗争のメンバーが咄嗟の行動で機体を彼女のバウ龍飛にぶつけ、撃破を免れさせていたのだ。

 

 張りつめていたものが弾けてしまった李鈴は、悲しみに声を上げて泣き始めた。

 

 この瞬間に五飛は彼女が無事であった安堵感と引き換えに、違う質の怒りが彼の怒髪天を通り越す。

 

「……李鈴……もう闘うな……俺の後ろにいろ……常にな……!!!見ていろ……これが俺と哪吒の本気だ!!!!」

 

「きええええええええええ!!!!」

 

 アルトロンガンダムに斬りかかるガンダムC-フェネクスのアームドファングの攻撃をレフト側のツインドラゴンハングで受け止めギリギリと軋ませる。

 

「貴様……真正の悪だな……!!!!」

 

「何ィ!!?きっひひひひ、おもしろおおおおい!!!!」

 

 ガンダムC-フェネクスは至近距離からツインドラゴンハングを吹き飛ばそうとアームドバスターを構えた。

 

 だが、次の瞬間……。

 

 

 

 ドォズダアアアアアアアッッッ……バガオオオオオンッッ!!!

 

 

 

「ぎ?!!」

 

 アームドバスターが放たれるより前に、アルトロンガンダムはアームドバスターそのものに対してテールビームキャノンを近距離から放ち、武器破壊に繋げた。

 

 その爆発を皮切りに、2機は大気圏内上でいう上昇する軌道で高速移動し、ツインビームトライデントとビームサーベルを激しく激突し合わせる。

 

 

 

 ディジュガアアッ、ズジュガッッ、ズギガアアッッ、ギャギイイイッッ、ダギャギイイインッッ!!!

 

 

 

 元よりNT-D状態のガンダムC-フェネクスに対し、アルトロンガンダムをPXを発動させて対抗していた。

 

 強化調整されたGNDドライヴや増設されたウィングバインダーの性能もあってか、その機動性は互角以上であった。

 

 弾きあっては激突し、また弾きあっては激突を幾度か繰り返した後、偶然にも李鈴のモニター画面上の視線先で鍔迫り合いの拮抗状態となる。

 

 高性能機であるバイアラン・カスタムですら歯が立たなかった相手にアルトロンガンダムが持てるその力を体現させていた。

 

「五飛……!!!」

 

 ギリギリと拮抗する中、べらべらと紅烏は喋り始める。

 

「これが噂のメテオなんとかのガンダムなのか?!!双頭龍とはしゃらくせえええ!!!」

 

 互いに弾き捌き、ガンダムC-フェネクスが斬撃や刺突を執拗に繰り出し始める。

 

 対し、アルトロンガンダムはツインビームトライデントでその攻撃全てを受け止め流す。

 

「……貴様らは何故このような無意味な覇権拡大を行う?」

 

「ああ?!!決まってんだろ?!!我が民族こそが地球圏の覇権を握るにふさわしい!!!OZプライズとOZが分断した今がチャンスなのさ!!!」

 

「旧世紀の悪しき思考を今に蘇らせるとは……貴様らの言う覇権拡大とは弱者を食い物にし、徹底的に虐殺することか……?!!」

 

「虐殺だァ?!!はひひひ、俺は楽しいからに決まってんだろおおお!!!上の奴らは愚民は労働力と利益って考えてるみたいだぜぇええ!!!あと、逆らう奴や不都合な存在は邪魔だってさあああ!!!」

 

「……それがジェノサイドの根幹か?」

 

「根幹もキンカンも知ったこっちゃねええ!!!お前らは逆らったから倍返しなんだよおおお!!!!この鳳凰、ガンダムC-フェネクスで俺は狩りつくすぜええええええ!!!!」

 

 紅烏のその言葉の直後の一撃を受け止め、再びパワーが拮抗する。

 

「……何が鳳凰だ……鳳凰とは中国に伝わる神聖な幻獣の一つ……それが人々を虐殺するわけがないだろう!!!貴様の駆るそれはただの悪しき害獣に過ぎん!!!そして覇権拡大という名のジェノサイドを強いる貴様らは真正の悪だ……!!!!」

 

 そして力強くアルトロンガンダムはアームドファングのビームサーベルの切っ先をツインビームトライデントで弾き捌き、刺突を繰り出す。

 

 それをガンダムC-フェネクスが受け止め、また両者が拮抗し合う。

 

「ぎいい?!!」

 

「それに我が民族だと……?!?ふざけるな!!!貴様らの言う我が民族は、貴様ら一部の醜悪な愚民族に過ぎん!!!ならば、本来の民族の誇りをかけて、俺は貴様たちを駆逐する!!!!」

 

 

 

 ジャギアッッ、ディッガイイイイインッッ!!!

 

 

 

 捌くと同時に薙ぎの一撃を繰り出して距離をとると、ツインビームトライデントを振り回しそれをガンダ

ムC-フェネクスに向かって投擲する。

 

 その一撃をアームドファングで弾き飛ばしたガンダムC-フェネクスが、それを振りかぶるように襲い掛かる。

 

 そしてアルトロンガンダムはライトアーム側のツインドラゴンハングを伸ばして迫るガンダムC-フェネクスに向かう。

 

 

 

 ディッガイイッッ、ディッガイイイイイインッッ!!!

 

 

 

 龍の牙と鳳凰の牙、もしくは爪が激突し合い、拮抗し合う……まさに双頭龍と鳳凰の激突となった。

 

 だが、既に戦闘のイニシアチブはリーチに有利なアルトロンガンダムにあり、レフトアーム側のツインドラゴンハングが更なる一撃打を与えんと繰り出す。

 

 それをライトアーム側のマニピュレーターで受け止めるも、その驚異的な咬合力でライトアームごと砕き潰した。

 

「覇ァあああああああああ!!!」

 

 五飛の気迫が一気に解き放たれ、アルトロンガンダムのレフトアーム側のツインドラゴンハングの一撃がガンダムC-フェネクスに撃ち込まれる。

 

 

 

 

 ディゴガアアアアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

「ぐぎいいいいい?!!!」

 

 

 

 右側胸部にその一撃が炸裂した部位の装甲を噛み砕きながら、アームドファングと拮抗させていた方のツインドラゴンハングに更なるパワーが加えられる。

 

 

 

 ギガギギギギギッッ………バキギャアアッ!!!

 

 

 

 ガンダムC-フェネクスのレフトアームがもぎ取られた瞬間を皮切りに、左右連続で双頭龍の牙が悪獣と化した鳳凰を狩り始めた。

 

 

 

 ディッガッッ、ガディガッッ、ドォガギャッ、ガギャガアッッ、ガズドォッッ、ギャギイッ、ダガギャア、ズガアアッッ、ドォドォドォドォドォガガガガガガッッッ……!!!

 

 

 やがてその攻勢はラッシュになり、ガンダムC-フェネクスの堅牢な装甲をも剥ぎ砕いていく。

 

 

 

 ディッガギャガガガガガガガドォドォドォドォドドォドォドガッガガガガギャギャッッッ!!!!

 

 

 

「ぐあああああああッッ!!!ぎゃああああああああッッ!!!勝てねえええ、勝てねえええよおおおおお!!!」

 

「悪は……蔓延る歪んだ貴様らは……この俺が斃す!!!!正義は……俺が……」

 

 胸部に穿つレフトアーム側のツインドラゴンハングのこの一撃で、一瞬呼吸を溜めた直後に渾身の一撃をライトアーム側のツインドラゴンハングで見舞った。

 

「決めるッッッ!!!!」

 

 

 

 ディッガギャアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

 その一撃はガンダムC-フェネクスの頭部を砕き飛ばした。

 

「ひ、ひいいいいいい!!!!」

 

 勝てないと踏んだ紅烏は、先程とは正反対の精神状態となり、一気に機体を離脱させる。

 

 その時、李鈴が五飛に呼びかけた。

 

「五飛、仇を……みんなの仇をとって!!!」

 

 バウ龍飛がツインビームトライデントをアルトロンガンダムに投げ与える。

 

「李鈴……!!!」

 

 先程投擲されたツインビームトライデントだったが、それを李鈴が回収に成功させていたのだ。

 

 ツインビームトライデントを受け取ったアルトロンガンダムは、一気に追撃する。

 

「まだっ……じにたくねぇ!!!おれはぁ……!!!」

 

「散々命をゴミのようにあしらった貴様が言う台詞かあああああああっっ!!!!?」

 

「な、にぃい?!!」

 

 紅烏が五飛の声に気づくも、既に側面上には追撃してきたアルトロンガンダムがいた。

 

 平行追撃していたアルトロンガンダムは更に加速し、ガンダムC-フェネクスを追い抜くと、ツインビームトライデントを振り回しながらの強烈な刺突を超高速で打ち込む。

 

「己よりも格下の命を散々弄んだ、至極当然の報いだっっっ!!!!」

 

 

 

 ドォズギャァアアアアアアアアアアッッッッ!!!!

 

 

 

「がぁはあああ……!!!?」

 

 その一撃は胸部に打ち込まれ、胸部周りのサイコフレームも完全に破壊していた。

 

 そして止めにアルトロンガンダムはPXによる残像を描きながら舞い上がり、強烈なツインビームトライデントの唐竹斬撃を浴びせた。

 

 

 

 ザァディギギャアアアアアアアアアアァンッッッッ!!!!

 

 

 

「ヴぃぎゃああああああああああああっっ!!!!!!」

 

 刺突から繋いだその一撃は、完全なまでに装甲やサイコフレームを破砕させながら、ガンダムC-フェネクスを真っ二つにし、紅烏の左半身を焼灼・蒸発させ、苦悶を与えた。

 

 

「あがががががげがぎがぎぃういいいっっいっっ……!!!!!!」

 

「もう一度いう……正義は俺が決める!!!!」

 

 

 

 ズバァアアアアアアアンッッ……ゴゴバガガァァッ、ドゴォバォアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!

 

 

 

 更に真っ二つになったガンダムCフェネクスに薙ぎ斬撃を入れながら、アルトロンガンダムはコロニー側に振り返る。 

 

 それよりオーバーキルダメージを受けたガンダムCフェネクスは、激しく爆砕して宇宙に弾き散っていった。

 

 PXを解除させた五飛は、まだ駐留している中華リゼル・トーラス部隊やそれを指揮している母艦を叩く為に戦闘を継続させた。

 

「まだだ。まだ叩くべき奴らがいる……!!!」

 

 中華リゼル・トーラスが蔓延る宙域に飛び込んでいくアルトロンガンダム。

 

 メガビームランチャーが飛び交い、戦端が巻き起こる中、怒涛の獅子奮迅で闘う。

 

 振りかぶったツインビームトライデントを後部と前部の二連撃の刃で薙ぎ払い、レフトアーム側のツインドラゴンハングで掴んだ中華リゼル・トーラスにテールビームキャノンを至近距離で放って粉砕させ、飛び掛かった中華リゼル・トーラスに対しては後部のツインビームトライデントの刃で突き刺して爆破させる。

 

「力による報復を強いるならば、更なる力でひれ伏せさせる……俺が正義を証明してやる!!!」

 

 攻勢を絶えさせることなく、ツインビームトライデントの乱舞を繰り出しながらテールビームキャノンのチャージショットで一掃させ、その間にレフトアーム側のツインドラゴンハングを叩き込んで一撃破砕を幾度も繰り返し、そして数多の中華リゼル・トーラスを壊滅させてみせた。

 

「醜悪な人形共は……壊滅させた……これが、俺が掲げる正義の力だッッ……既に本丸は捉えている……逃がしはしない!!!」

 

 更にその場所から約3マイル先に逃亡する艦隊を補足した五飛びは、短時間の追撃の末に中華リゼル・トーラスをコントロールしていたMS輸送艦隊に次々と襲い掛かる。

 

 ツインビームトライデントの斬撃で縦に斬り下ろされ機首が真っ二つに爆発する艦や、船体を横一線に加速両断される艦、機首にビームの刃を突き刺した上に何発もテールビームキャノンを浴びせられて轟沈する艦……五飛の正義と怒りを体現した無双が容赦ない報いを与えていった。 

 

 残存の旗艦と数隻の輸送艦を残して航行の状況に既に指揮は崩壊しており、最早保身しか能がなかった。

 

「が、ガンダムにより、次々と我が艦隊は壊滅に追い込まれています!!!」

 

「くそッッ、高みの見物がこのような事態になるとは……!!!我々だけでも逃げきれるか?!!!」

 

「無理です!!!既に後方の2隻が轟沈……!!!追付かれま……あああああああ?!!!」

 

 回り込むようにして現れたアルトロンガンダムの眼光が光り、旗艦のMS輸送船の中華覇権派OZプライズ兵士達に絶望を刻みつけた。

 

「これで終いだ……覇あああああああああああ!!!!」

 

 機首部に突っ込みながらアルトロンガンダムの全武装の斬撃、打撃、射撃の乱舞が見舞われ、ツインビームトライデントにツインドラゴンハング、テールビームキャノンの混合攻撃によって船体は文字通りのズタボロとなり、止めの打ち下ろし斬撃により激しく船体を切断され、MD輸送艦隊旗艦は轟沈した。

 

 残骸が漂う中、五飛は再び故郷のコロニーに視線を向ける。

 

「今回の一件は奴らに相当のダメージを与えた。故に報復が危ない。当面はコロニーを守らなければならないな……だが、同時に俺と哪吒の存在が抑止力になってくれれば越したことはないがな……」

 

 そう言いながら五飛が振り返った次の瞬間、敵機アラートと共に突如として謎の通信が入る。

 

「ここにいたのか……あの龍のガンダムは……OZプライズの助っ人依頼で先乗りしてみればとんだ偶然だ」

 

「?!!」

 

 周囲を見回した五飛がモニターに捉えたのは、いつしかのシェンロンガンダムを容易く鹵獲したガンダム、ガンダムヴァサーゴの姿※だった。

 

 

 

 ※容姿は原作のガンダムヴァサーゴ・チェストブレイク

 

 

「その声とその醜悪なガンダム……覚えがあるな……あの屈辱は忘れん!!!」

 

 残骸が浮かぶ宇宙空間に佇むガンダムヴァサーゴに対し、アルトロンガンダムはツインビームトライデントの切っ先を突き向けた。

 

 一方でロームフェラ財団もまた、分裂した中華覇権派OZプライズを危険視し、各地で掃討作戦の準備を進行させる。

 

 従来の拠点ポイントより、衛星軌道上に極力接近させたポイントにバルジⅡを、ユーラシア中華圏エリアにオペレーション・ノヴァによる通常の三倍のMD部隊の降下作戦を、そしてL5にはOZプライズ正規部隊の大艦隊を派遣する手筈をとっていた。

 

 それどころか宇宙にもいるOZ(トレーズ派)が中華覇権派根絶の為に結集し、L5を目指し始めていた。

 

 今、三勢力が激突する構図が歴史に刻まれようとしている。

 

 また一つの大きな歴史のうねりが起ころうとしている。

 

 幽閉の空間の中にその動向を見届ける男・トレーズ・クシュリナーダがモニターを閲覧しながらリアルタイムの歴史を観察する。

 

「かつてアジアの脅威となった思想や愚行が……また悲しき歴史がこの宇宙世紀に蘇ってしまった……OZは分裂に次ぐ分裂を重ねていく……さぁ、流れる歴史よ……私にドラマを見せてくれたまえ……」

 

 そして席を立ち、その部屋にあった大画面モニターを表示させる。

 

 そこには彼が計画して建造に成功した次世代のガンダム……ガンダムエピオンの姿が表示されていた。

 

「いつでも迎える準備はできているぞ……ミリアルド……」

 

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 

 

 次回予告

 

 地球圏は再び激動の時代に突入していくのか。

 

 中国大陸各地では中華覇権派OZプライズを掃討すべく、OZプライズの掃討作戦部隊が激突する。

 

 宇宙ではOZ正規軍も加わる状況で、中華覇権派OZプライズとの激突のカウントダウンが始まる。

 

 その戦闘は双方の格差をみせはじめた戦闘となっていく。

 

 一方、無事に難民達を安全圏のコロニーに送り届けたプル達だったが、殿として闘っているアディンの帰りを待つ最中に夢を見る。

 

 リタという少女とヨナという男の存在を知った上に、リタからは助けを求められる。

 

 プルは夢にリアルな引っ掛かりを覚えた。

 

 明日、L5コロニー群にある中華覇権派OZプライズの拠点コロニーにおいて、OZプライズに加えトレーズの側近であったディセット率いるOZ正規軍が加わりついに激突がはじまり、事態は更に激震していく。

 

 一方でも、OZプライズ新増の宇宙巨体戦艦・リーブラも動きだす。

 

 そしてL5コロニー群の戦場にはロッシェとシャギアが合流し、OZの内乱は更に加速していく。

 

 

 次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード51「内乱の攻防戦」

 

 

 

 





 今さらですが、ミリアルドのヒロインの立ち位置にいるオリキャラのミスズは「殺生丸×桔梗」でひらめいて生まれたオリキャラです。

 そっくりとまではいかずとも、ミリアルド(ゼクス)と殺生丸にはロン毛×イケメン×冷静×強いの四大要素が共通してたので、「桔梗にOZの軍服(今はサンクキングダム近衛師団長服)着せたキャラでいいんじゃね?!」となり生まれました。

 元々桔梗推しなのも影響してますがwww

 せっかく二次小説でクロスオーバーできるのなら、色々してみたかったのです。

 尚、本二次小説のノインは「ヒイロやアディン達をサポートする、ピースミリオンに所属するカッコいいおねーさん」ポジションでございます。

 


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エピソード51「内乱の攻防戦」

 

 

 

 アルトロンガンダムとガンダムヴァサーゴの相対は、五飛にとってまた一つの因縁の敵であった。

 

 決闘として敗北したトレーズの存在も去ることながら、ガンダムヴァサーゴのシャギアに関しては、一方的に痛め付けられ鹵獲までされたに至った。

 

 ある意味、トレーズ以上の敵である。

 

「覇ぁあああああ!!!」

 

 五飛の気迫と共に、アルトロンガンダムはツインビームトライデントを片手で振り回しながら、ガンダムヴァサーゴへと加速する。

 

 対するガンダムヴァサーゴは、背部の悪魔的ウィングバインダーを展開させながら同じくビームソードを発動させて加速した。

 

 

 

 フォッフォッフォフォフォッッッ……ギャジュギィイイイイ!!!

 

 

 

 回転をかけたツインビームトライデントの薙ぎと、繰り出されたビームソードの刺突が刹那にスパークしながら光を唸らせた。

 

 すれ違う両者は反転し合い、舞い戻るように互いの獲物を激突しながら拮抗し合わせる。

 

 

 

 ギャギイイイイイイイッッ!!!

 

 ギガジュゴォォォ……!!!

 

 

 

「忘れもしない!!!俺と哪吒に晒したあの屈辱ッ、今ここで存分に返してやる!!!」

 

「ふッ……!!!あの日一方的にこちらから痛めつけた龍がこうも私に牙をむくとは……面白いものだ!!!」

 

「ほざけ!!!」

 

 

 

 ギャディガアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 アルトロンガンダムのツインビームトライデントと、ガンダムヴァサーゴのビームソードとが捌き弾き合うと、両者の断続的なつばぜり合いの乱撃の流れに入った。

 

 

 

 ギャガアアンッッ、ディガンッッッ、ディギャギイッ、ジディイイイイイイイィィ……ギャギイイイイッッ、ディギャズッッ、ディギャガアッ、ディギャギイィイイイイィィ……ジュガィィイイイィィィッッ……ギャジィイイッッ、ザジュガアアアッ、ギャオオオンッ、ジュガオオオオォォォォオオオオオォォォ……!!!

 

 

 

 スパークにスパークが継ぎ、時折ギリギリと拮抗させてはまた互いに斬撃をぶつけ合う。

 

 両者の斬り払いがぶつかったその刹那に、加速しながらその宙域より離脱する。

 

 流星のぶつかり合いのようにスパークを断続的に放ちながら宇宙を駆け抜け、僅かな差でガンダムヴァサーゴがアルトロンガンダムを追尾する。

 

 再び三度つばぜり合いをした直後、ガンダムヴァサーゴは一瞬の隙の中でストライクシューターを装備したレフトアーム側のストライククローを見舞う。

 

 

 

 ディガギイイイイイインッッ!!!

 

 

 

 アルトロンガンダムの胸部にそれが直撃するも、堪え止まって同じくレフトアーム側のツインドラゴンハングを繰り出してガンダムヴァサーゴの胸部にその牙を直撃させた。

 

 

 

 ディギャゴオオオオオオッッ!!!

 

 

「くッ……!!!想像以上にパワーがある……流石は君達、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムと言ったところか……だが、私の愛馬とて、伊達に彼らの手塩が加えられているわけではない……!!!

 

 

 

 ダシュダアアアアア!!! ダシュダッッ、ダシュダッ、ダシュダ、ダシュダアアアアア!!!

 

 

 

 ガンダムヴァサーゴは、クロービームキャノンと合わせて、ストライクシューターの二対三門のビームキャノン……即ち六連ビームキャノンを連発させながらアルトロンガンダムへと浴びせる。

 

「ちいッッ……!!!」

 

 対し、アルトロンガンダムはレフトショルダーのシールドで全砲撃を防御し、テールビームキャノンで反撃をかける。

 

 

 

 ドゥバアアアアアッッ!!! ドゥバアアッッ、ドゥバアアッッ、ドゥバアアッ、ドゥバアアアアア!!!

 

 

 

 乱発する高出力ビームが直撃するが、ガンダムヴァサーゴもまたガンダニュウム合金製装甲のようで、破壊されることなく距離を置きにいく。

 

「少々侮っていたか……!!!」

 

 

 

 ガンダムヴァサーゴの禍々しいデザインの胸部ハッチが開き、腹部が上にスライドした。

 

 更に醜悪な悪魔の顔面の様相になった胸腹部が、スパークを時折帯びさせながらエネルギーをチャージさせると、トリプル・メガソニックキャノンを撃ち放つ 

 

 

 

 ジジジジュコォアァァ……ヴィグヴルゥヴァアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!

 

 

 

「ちぃっ!!!」

 

 超火力の三軸線のビーム渦流が解き放たれ、アルトロンガンダムを仕止めようと直進する。

 

 あろうことか、それは五飛の故郷のコロニーの外壁を掠めとり、コロニーの一部を吹き飛ばして破壊を拡大させた。

 

 内部では一般区画が爆砕され、甚大な被害が巻き起こる。

 

 これに五飛は激昂を制御できずに斬り掛かりにいく。

 

「き、貴様ぁああああああ!!!!」

 

 かっと見開いた眼光で五飛はガンダムヴァサーゴを睨み貫き、胸部を刺突せんと連続突きを浴びせようとした。

 

 連続する突きをガンダムヴァサーゴはビームソードで受け止め続ける。

 

「貴様のような悪魔は、今ここで突き砕く!!!覇ぁあああああアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

「くうぅぅぅぅぅッ……!!!」

 

 この状況の中、シャギアは咄嗟の機転でストライクシューターのビームキャノンを前方斜め側方から直接アルトロンガンダムへと浴びせた。

 

 

 

 ダシュダアアアアアッッ!!!

 

 ディダゴオオオオオオンッッ!!!

 

 

 

「ぐおあッッ……!!!」

 

 その直撃を受けたアルトロンガンダムの攻勢が止まり、ガンダムヴァサーゴはその隙に牽制射撃をしながら後退して態勢を立て直す。

 

「これ以上ここで戦闘を持続させたら厄介だな……ここまでやるとはな……む?!!」

 

 その時、被弾しても尚、アルトロンガンダムはその牙をガンダムヴァサーゴへと突き立て攻め入る。

 

「貴様のような奴に哪吒がやられっぱなしな訳ないだろう!!!」

 

 唸るツインビームトライデントの高速斬撃がガンダムヴァサーゴに再度迫る。

 

 断続的なつば競り合いを繰り返す中、両者の牙の激突に変わった。

 

 

 

 ガッッッディオオオオオオンッッ!!!

 

 

 

 レフトアーム側のツインドラゴンハングとストライクシューターを装備したストライククローがまた激突し合った。

 

 その瞬間に五飛は火炎放射器を牽制で使用する。

 

「何?!!」

 

 一瞬のシャギアの狼狽えの隙を突き、舞い上がるような軌道でガンダムヴァサーゴの頭上に加速した。

 

「でりゃあああああああああ!!!」

 

 一気にもう一方のツインビームトライデントの刃で突き刺そうとアルトロンガンダムは襲い掛かる。

 

 しかし、またしても間一髪でガンダムヴァサーゴのビームソードがそれを食い止めてしまった。

 

 だが、精神的な競り合いは確実に五飛が優勢にいた。

 

 突き立てられたツインビームトライデントとそれを防ぐビームソードが拮抗する。

 

「ぬううッ!!!」

 

「そう読んでいたッッ!!!」

 

 再びストライクシューターを向けるガンダムヴァサーゴに対し、アルトロンガンダムはテールビームキャノンを頭上より先手を取りながら射撃した。

 

 その攻撃で崩れた守りの型に、ツインビームトライデントの薙ぎとツインドラゴンハングの打撃を浴びせた。

 

 

 

 

 ザギダアアアアンッッ、ディッガギャアアアアアアン!!!

 

 

 

「ちいいッ……!!!」

 

 

 

 ダメージを与えられたガンダムヴァサーゴは、苦し紛れのようにトリプル・メガソニックキャノンを再び撃ち放つ。

 

 

 

 ヴァギュリュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

 当然のことながら、アルトロンガンダムはそれを躱してみせる。

 

 だが、次の瞬間にはガンダムヴァサーゴは高速で宙域離脱を図っていた。

 

「貴様、逃げる気か!!!」

 

「こうもやられてはな……私の認識が甘かった……次はこうはいかん!!!本来の任務に行かせてもらおう!!!」

 

 撤退するガンダムヴァサーゴを体勢姿勢制御しながらアルトロンガンダムはその空間に止まった。

 

「トレーズにあのガンダム……俺とナタクには厄介な宿敵二つか……!!!面白い……俺は正々堂々と戦うまでだ」

 

 宇宙の海原に飛び込んでいくガンダムヴァサーゴをしばらく見つめた五飛は、瞳を閉じて瞑想に入っていった。

 

 

 

 地球圏において、OZ、OZプライズ、中華覇権派OZによる本格的な内戦の開戦がカウントダウンに入っていた。

 

 現時点で考えられる主な戦場は、地球でユーラシア大陸中華エリア全域、宇宙では中華覇権派OZプライズの拠点があるL5コロニー群エリアである。

 

 地球では、ロームフェラ財団及びOZプライズが現在進行させているMD降下作戦・オペレーション・ノヴァの強化が中華圏に行われ、最悪バルジⅡによる宇宙からの戦略的攻撃を行う計画でいた。 

 

 一方の宇宙ではOZ、OZプライズの両陣営がクラップ級巡洋艦や高速宇宙戦闘艦、MS輸送艦を編成した大艦隊を投入し、中華覇権派OZプライズの拠点があるL5コロニー群を目指している状況にあった。

 

 中国の各地のエリアで中華プライズリーオーや中華プライズジェスタ、中華プライズリゼル・トーラスが武装蜂起をし、正規のOZプライズ部隊と戦闘を繰り広げる。

 

 一斉蜂起したが故に、以前のオペレーション・プレアデスのように正規軍陣営は虚を突かれる形となって、そのほとんどが劣勢に立たされていた。

 

 だがその後、CPUをハイ・キルモードに設定運用されたMDシルヴァ・ビルゴやMDサジタリウスα、βの混合降下部隊がオペレーション・ノヴァの一環で次々と中華エリア各地に降下を開始。

 

 高出力のビームや中小規模のビーム渦流がが飛び交い、それらが戦場を統べり、プラネイト・ディフェンサーが展開させるフィールドに、中華覇権派のMS達のビーム射撃群が弾かれ消滅していく。

 

 更に、揚子江基地ではこの事態に緊急覇権されたアスクレプオスやヴァイエイト、メリクリウス、プロヴィデンスガンダムまでもが介入を開始する。

 

 中華プライズリーオーや中華プライズジェスタが攻撃をかける中を猛撃を仕掛けて攻め入る。

 

「日本の一件が終わったと思ったらこの事態だ!!!中華かぶれの裏切り者がぁああ!!!駆逐してくれる!!!」

 

 トラント駆るアスクレプオスは両腕のパイソンクローを駆使し、手当たり次第に中華覇権派のプライズジェスタや、リゼル・トーラスを次々と文字通りに駆逐していき、左右にいた中華プライズリーオーに突き刺して零距離でパイソンビームランチャーを撃ち放つ。

 

 その爆発を突き抜け、再びパイソンクローで数多の中華覇権派のMS勢を駆逐していった。

 

「せっかくまーたガンダム追い回せると思ったのによー!!!まー、真っ赤っかーな雑魚駆逐しまくれるからいいか!!!粛清、粛清!!!」

 

 ミュラーはヴァイエイトのレフトアームに装備されたレーザーガンを乱れ撃ちながら、十八番のビームカノンを撃ち放っていく。

 

 そして多重ロック・オンしたターゲット群に向け、背部のジェネレーター出力を最大にさせたチャージショットを撃ち放って正面軸線上のMS達を一掃させた。

 

「同じ色してんじゃねーよ!!!裏切り民族共め!!!おらおらおらおらああああ!!!」

 

 アレックスはメリクリウスの前後にプラネイトディフェンサーを発動させ、被弾を無効にさせながら中華覇権派のMS群に突っ込んでいく。

 

 両腕に装備されたクラッシュシールドのセンターからシールド・ビームキャノンを撃ち放ちながらある程度の機体群を撃ち砕いていくと、その部位の出力をビームサーベルモードに切り替える。

 

 そして斬撃の乱舞を見舞いながら、連続で斬り飛ばしては叩き切り、斬り飛ばしては叩き斬っていく。

 

「ふふふふ……こういう身の程を知らない雑魚を駆逐するのも一興だ」

 

 上空から見下すようにプロヴィデンスガンダムの中からアメンズが眼下の紅いMSの群れを見下ろす。

 

 下方から対空射撃をするそれらに対し、ユーディギム・ビームバスターを何発も撃ち込んで、文字通り天帝のごとく駆逐していき、それに合わせドラグーン・ファンネルを展開する。

 

「ふふッ、僕の名にちなんで雨を降らしてあげよう……なんちゃってね……」

 

 次の瞬間、展開した各ドラグーンから夥しいビームが高速かつ連続で乱れ撃たれ、正規軍や中華覇権派のMS諸共駆逐していった。

 

 その勢力のイニシアチブは早くも傾きつつあった。

 

 降下と共に、シルヴァ・ビルゴがビームランチャーを絶え間なく放ち続け、破砕の限りを押しきり、サジタリウスαがパーシスター・ビームライフルで正確無比にターゲットを狙撃・焼灼・爆破、サジタリウスβがビームカノンの圧倒的火力の砲撃で赤い反乱分子達を粉砕・駆逐させていく。

 

「我々民族が世界を統治するんだ!!!貴族かぶれに屈しはしないっ……がぇああああ!!!」

 

「ひいいい!!!」

 

「ふぉあああああああっ!!!!」

 

 中華覇権派の抵抗する者、怖気づいて逃亡を図る者、に二分していずれも撃破される者達が続出した。

 

 ロームフェラ財団本部の会議室では攻撃に向けての最終会議が開かれ、事の状況がモニターに映し出されていた。

 

 「現在、我が陣営は中華圏エリアにオペレーション・ノヴァを強化し、続々と各地にMD降下部隊が展開しています!!既に状況はこちら側にイニシアチブが傾きつつあるようです!!」

 

「この分ではバルジⅡの出番はなさそうだな?」

 

「MDだけで十分か」

 

「バルジⅡを衛星軌道上に持っていくだけでも莫大な手間と浪費をしているんだ……」

 

 財団の中からバルジⅡ介入不要論が出る中、デルマイユはそれを止める論を放つ。

 

「いいや!!!今回のような身の程知らずの反乱分子をこれ以上出さないためにも、今!!!今、抑止力としてバルジⅡを介入させるべきだ!!!」

 

「デルマイユ公……!!!」

 

「OZは過去、連邦と分裂したのを期に、分裂を繰り返している!!!財団としてはこれ以上のそのような事態は避けるべきだ!!!故に!!!強力な抑止力が必要なのだぁ!!!違うかね?!!更には新たに建造中のリーブラも完成が間近との報告が来ている!!!これらの力を持って今こそ我々の力を誇示し続けねばならない!!!」

 

 確かに財団の立場の視点ではデルマイユの言うことも一理あった。

 

 只でさえ、OZとOZプライズの二分内乱の渦中の中、更にOZプライズが二分しているのだ。

 

 由々しき事態に他ならない。

 

 財団直々の命により、衛星軌道上を目指していたバルジⅡは移動の途中の段階から砲撃体勢に移行していく。

 

 文字通り、宇宙空間から中国エリアを撃つ流れとなったのだ。

 

「ここでバルジ砲を撃つというのか?!!まだ衛星軌道上に達していないぞ!!!」

 

「財団直々の命令だそうだ!!!完全なる抑止力として知らしめたいらしい!!!」

 

「しかし……こんなのが地上に降り注いだらとんでもない被害が出るんだろうな……ま、俺達の知ったことじゃないがな」

 

 バルジⅡの内部があわただしく発射態勢に移行する一方で、OZプライズとOZの攻撃艦隊が中華覇権派のOZプライズの拠点を挟み込むような図式で向かう。

 

 それは即ち、三勢力入り乱れてのかつてない大規模なOZの内乱を意味していた。

 

 両勢力は、クラップ級巡洋艦と高速宇宙戦闘艦、輸送船の編成を成して刻々と接近する。

 

 そして更にOZの勢力の艦隊指揮を執るのはトレーズの側近であるディセットだった。

 

 (トレーズ閣下が幽閉されている昨今……トレーズ閣下が望まれるであろう行動をとる……OZの正規軍として、必要ない存在を叩く!!!)

 

 彼が率いる戦力の部隊の全てが、リーオー、ジェスタ、リゼル・トーラスといった有人機甲MSであり、それは当に本来のOZの本質の姿勢であった。

 

 迎え撃つ側である、宇宙のL5コロニー群エリア・X-37564コロニーに拠点を置く中華覇権派のOZプライズは、季煉を筆頭に向かい来るOZとOZプライズ艦隊に対して徹底抗戦の構えでいた。

 

 全て赤にカラーリングされたリゼル・トーラスやプライズリーオー、ジェスタといった混合部隊が展開していた。

 

 季煉が乗り込んでいるラー・カイラム級戦艦は・刃海を旗艦とし、クラップ級やサラミス級改の巡洋艦達が張り巡っている。

 

「やはりそう来るか……欧米かぶれのOZめ……我々には切り札が存在する。きっと駆逐してくれよう」

 

 OZとOZプライズが向かい来る情報を得る

中、展開する艦隊の光景を見ながら季煉は悠々とそう口こぼす。

 

 しかし既に彼の言う切り札は存在していなかった。

 

 五飛の故郷に出向いた部隊は、ガンダムC-フェネクスが撃破された情報を送る間も無く全滅していたのだ。

 

 そしてそれが示唆される情報が季煉に通達される。 

 

「醜特佐!!反抗勢力駆逐の為にA-0206コロニーに派遣されていた部隊との連絡が通じません!!」

 

「何?!!どういうことなのかね?!!」

 

「あのコロニーにはメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムが確認されており、その為にC-フェネクスを投入したはずですが……指揮にあたっていた部隊とも連絡が付かないのです!!!」

 

 ガンダムC-フェネクスありきを想定していた醜に戦慄が走る。

 

「何だと??!ま、まさか……??!」

 

「おそらくッ……ガンダムと交戦した為に……!!!」

 

「ばかなあああ!!?あれには我が勢力の象徴の役割があったのだぞ?!!それをここで失うなど……!!!こうなったらもう一つの切り札を用意しろ!!!」

 

「はッ!!」

 

 季煉は脂汗を流しながら、もう一つの切り札の投入に踏み切った。

 

 ガンダムとは別に、MAの切り札が彼らには存在していたのだ。

 

 季煉は手元の操作パネルを操作し、その切り札を表示させる。

 

 そこにはかつてシャアの反乱の少し前に引き起った「ペズンの反乱」※で投入されたゾディアックというMAと同型のMAが表示されていた。

 

「型は古いが、近代改修されている!!!これで一網打尽にしてくれよう……!!!」

 

 

 

 ※本二次小説では実際の作品放送・公開・掲載時期に基づいた時間設定。ただし、デラーズの反乱はそのまま0083年。

 

 

 更にその頃、デルマイユが口にした新たなOZプライズの宇宙巨大戦艦・リーブラが完成間近に迫っていた。

 

 建造を指揮するセディッチ特佐に現状の状況を確認する通信がデルマイユ直に入電する。

 

「セディッチ特佐!!リーブラは完成間近と聞いている!!現状はどうか?!!」

 

「これは……!!!デルマイユ公!!!は、はっ!!リーブラは完成の段階に入っており、後は起動テストと主砲テストを残すのみです!!」

 

「そうか!!ならば直ちにテストも兼ねてL5コロニー群エリアの中華覇権派共の一掃を命ずる!!!地上への砲撃はバルジⅡで行う!!!」

 

「はッ!!では、リーブラはテストも兼ねて、即実戦投入致します!!!」

 

 急な指令であるにもかかわらず、セディッチは淡々とその流れに事を移行させた。

 

「リーブラ……いよいよか!!!まずは起動と移動のテストを兼ねる……か!!!」

 

 セディッチはそうつぶやくと、腕に白い手拭いを巻く動作をすると、各員に命令を下す。

 

「これより、リーブラを起動する!!!運用テストと主砲実射テストも兼ねてL5を目指す!!!これは財団からの指示だ!!!」

 

 セディッチは指揮を下すと、不敵な笑みを浮かべながらその超巨大戦艦リーブラを建造宙域よりL5宙域へと向かわせる。

 

「もっとも……『今は』財団の指示だがな……!!!」

 

 リーブラは巨大な菱形の四つの内の二つが起動し、出力を上げてその船体を加速させていった。

 

 リーブラ発進を命じたロームフェラ財団……もといデルマイユは更に強行姿勢を示す。

 

「……昨今、北欧圏においても今後の我が財団に悪影響を及ぼしかねない存在がある……それはサンクキングダムだ!!!」

 

 そのワードを聞いた他の財団幹部達もざわめく。

 

「現在、近衛自衛団的なものを発足させているそうだが、その平和の象徴たると謳われる国家が厄介な希望と団結力を生み出しかねん。実際に亡命してきたトレーズ派を取り込んでいるとも噂されている。もっとも……ここには私の孫娘がいる故手荒な真似は避けたいが、警告は必要だ……オペレーション・ノヴァの一環として、威圧的侵略を決行を進言したいが……いかがかね?!!無論、我が孫娘には事を伝える上でだ」

 

 多少のざわつきが起こるものの、最終的には誰もが賛同の声を上げ、唯一かつてからサンクキングダムと親交のあったウエリッジ侯爵も同調圧力の前に屈してしまった。

 

「では……決まりですな。サンクキングダム侵略作戦、オペレーション・ノヴァの一環によるオペレーション・オリオンを実行に移す。発動時刻はグリニッジ標準時、21時とする!!!」

 

 かくして、大きい括りとしてのOZの大きな動きが地球圏に巻き起ころうとしていた。

 

 

 

 L5コロニー群エリアとL1コロニー群エリアの堺を越え、プル達は無事にムーンムーンの難民達をL5コロニー群エリアから脱出させることに成功していた。

 

 この先の航行が問題なしと判断したロッシェの部下達はプル一行に離脱を通達する。

 

「確かに我々はロッシェ特佐の命令に従い、貴方方を送り届けた。これよりロッシェ特佐との合流と共に本来の任務に移行する」

 

 この時、レディとノインは手の平を返すのではと一瞬過るが、それは杞憂に終わる。

 

「現在、我がOZプライズの艦隊が中華覇権派の拠点へと向かっているとのことだ。そこへ合流する。では失礼する」

 

 OZプライズも基本は騎士道に根差しており、紳士的に別れを告げてプル達のもとを後にしていった。

 

「いくらプライズとて人間……彼らのような人もいるということか……」

 

 レディがそうつぶやく一方で、ノインが難民受け入れ先のコロニーとの打電結果に安堵する。

 

「そうだな……コロニーからも難民受け入れ返答も来た。これでムーンムーンの民達の安全が確保された!!」

 

「あぁ!!我々はムーンムーンを受け入れてくれるコロニーに先導する!!もうすぐそこだ!!」

 

「あたしとプルツーはここで待ってるよ。後から来るアディン迎えなきゃ……」

 

「そうか……了解した。それではまた迎えに来る!!」

 

 難民船を先導しながらレディ達の高速宇宙戦闘艦がコロニーを目指していくのを見つめ、プルは一つの大事が終息したことに胸を撫で下ろした。

 

「はぁ~……一時はどうなるかと思ったぁ~」

 

 張り積めていた緊張がほぐれたプルに、妹であるプルツーが気遣いの言葉をかけたマニピュレーター接触通信をする。

 

「お疲れ!!プル姉!!無事に難民達を送りとどけれたし、一先ずは安心だな!!それで、少しは悪しき戦場の空気の感覚に慣れたか~?」

 

「う~ん……最初よりはね……受け流すというか、気を張り詰めるというか……」

 

「そっか!でも大したもんだよ、プル姉。短時間で適応しちゃうなんてさ」

 

「……多分、慣れたのはこのコの……ユニコーンガンダムのサイコフレームのおかげなんじゃないかなって……あたしは……そう感じた」

 

「そのガンダムのか……あながち間違いでもないかもな……サイコフレームが遮断してくれてたりしてな」

 

「確かに乗ってから楽になった感じしたよー……はぁ~……急に眠くなってきた……少し仮眠するね、プルツー。アディンやみんなが来たら起こしてね……」

 

「あぁ。プル姉は少し寝てな」

 

 プルはユニコーンガンダムのコックピットシートに背を預け、僅かな間に寝落ちしてしまった。

 

 プルツーはプルとの会話が静まったコックピットで、女王様座りの姿勢にして静寂の宇宙を見つめる。

 

「ふぅ……あの地球連邦軍がOZという組織に刷り変わり、そのOZが内部分裂か……いつの時代も変わらないな……本当に人類ってのは……」

 

 かつての第一次ネオジオン抗争の最終局面においても、ハマーン派とグレミー派に分裂した歴史がある。

 

 身を持って駆け抜けたその歴史を今のOZに重ねて振り返るプルツーは、その上で当時初めて相対したもう一人のプルを殺めてしまった記憶をどうしても過らせてしまう。

 

「……あの日のプル姉……今いるもう一人のプル姉……あたしは……本当に不思議な経験をしている。罪滅ぼしってわけじゃないけど、このラプラスの一件の最後まであたしは協力していくつもりだ……あ!!」

 

 自ら呟いた言葉からプルツーは、次のラプラス座標開示を思い出した。

 

「そーいえば、次はどこなんだっ……て……プル姉、もう寝た?!ふふっ、ま、起きてから聞けばいいかっ」

 

 そう言いながらプルツーは宇宙空間を見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 プルは夢の中で、一人の少女と出会う。

 

「あなた、誰??あたしはエルピー・プル!!」

 

「プル……私は、リタ!!リタ・ベルナル!!お願い、私を助けに来て!!!」

 

「リタ?!!助けるって?!!」

 

「私は今ッ、とてつもない過ちに取り込まれてるのッ……ううッっ、苦しい!!!悲しい……怖い!!!お願いっ……プル……あなたなら、あなたら……できるからっ……きゃああああ!!!」

 

「リタ!!!」

 

 リタの背後にMA・パトゥーリアの影が映り、触手のようなモノによって彼女を羽交い締めにすると、それはそのまま中に取り込んでしまう。

 

「いやああああ!!!助けて、プル!!!ヨナ!!!ヨナァアアアア!!!」

 

「リタァアアアアアア!!!」

 

 その瞬間に彼女のうったえる悲痛な声の向こうから、ヨナと思われる青年が浮かび、プルに振り返る。

 

「この人がヨナ……??!」

 

 そして眼下に月面が拡がったかのように見えた直後、プルツーの声が聞こえてきた。

 

「……姉っ……ル姉……プル姉!!!」

 

 

 

 

「ふえ??……あれ??リタってコは……??ヨナっていうお兄さんは??ん~……プルツー??」

 

 聞こえてきたプルツーの声に目覚めたプルは、周囲を見回した。

 

 幻でも夢でもないモニター上のプルツーの姿がそこにあった。

 

「プル姉!!やっと起きたかぁ~……みんなが帰ってきたぞ!!ていうか誰だよ?その二人??寝ぼけてるな~」

 

「みんな??」

 

「キメテきてやったぜ、プル!!!中華プライズのクソ外道野郎達は全滅させてきた!!!」

 

「こっちも無事に送り届けた!!とりあえず状況は安心の域に来れたようだな」

 

「ムーンムーンのサラサ代表や、助けたユッタという少年も改めて感謝の気持ちを伝えて欲しいと言っていた」

 

 アディンやレディ、ノインの声がユニコーンガンダムのコックピットに聞こえてくる中、ようやくプルは先程のリタという少女との邂逅は夢だったことと認識した。

 

「そっか……そうだった……あたし、あの後すぐに寝ちゃってたんだ……みんなおかえり!!」

 

 プルはリタという少女とヨナという青年の存在に引っ掛かりを覚えつつも、満面の笑みでアディン達の帰投を迎えた。

 

 その後アディン達一向は再びピースミリオンに向かいながらの、暫しの小休止に入る。

 

 キュベレイMk-Ⅱのハンガーデッキでは、シェルドがプルツーにドリンクを差し入れしながら語らう光景が見られ、同様にユニコーンガンダムのハンガーデッキにおいてもアディンがプルにドリンクを差し出す光景があった。

 

「お疲れ、プル!!ドリンク持ってきたぜ!!」

 

「あ!!ありがと、アディン!!でも、アディンの方こそ疲れてるんじゃない?だって、たくさんの追っ手を相手にしてたんでしょ!?!」

 

「俺は大丈夫だっ!!スタミナは自信あるからな!!!プルだって精神的にも今回の件でかなり疲れたんだろ?暫くはラプラスに関する行動は休むか?」

 

 アディンもムーンムーンの一件でプルに過度な精神的負担が強いられていた事を知っていた。

 

 彼女を想ってが故に、いつまで続くかわからないラプラスの宝探しを一旦休む提案をする。

 

「アディン……確かにラプラスの件で期限なんてなさそうだけど……だけど……」

 

 カーディアス託された責任を感じているのか、プルはラプラスの箱を探す行動を休むアディンの提案に対して、拒み気味な感じを示した。

 

「プルの体だって一つしかないんだから、無理は禁物だぜ!!」

 

「体は一つか……」

 

 プルはそのワードからクローンである妹二人を過らせると、通じるかのようにプルツーがドリンクを飲みながらコックピットに覗き込んできた。

 

「そーだ。アディンの言う通り、無理は禁物だぞプル姉」

 

「プルツー!!」

 

「二人息合わせて人の名前呼ぶな!!ふふっ……別にいつまでにラプラスの箱をみつけなきゃどーかなるわけじゃないんだろ?もう暫く休んだらどーだ?」

 

 そう言うプルツーの隣には、何気にシェルドの姿もあり、彼もまたプルを気遣う一言を添えた。

 

「そうだよ。無理しちゃダメだよ。人もメカも休んだりケアしてあげなきゃ……」

 

 皆に揃って気遣ってもらったプルは、口元に笑みを示したため息をつく。

 

「はぁ……みんな、気遣ってくれてありがとう……わかった……あたし、しばらく休もっかな……じゃ、甘えさせてねアディン☆」

 

「え!?!ぷ、プル!!!」

 

 プルはそう言いながらアディンの腕にしがみついて甘えはじめだした。

 

「実の妹の目の前でイチャつくな!!!」

 

「僕達もイチャイチャしてみ……べらば!?!?」

 

 アディンとプルのやりとりを見ていたシェルドが、「自分達も……」とプルツーにもイチャつくのを提案するが、途端にツンデレビンタが飛ぶ。

 

「ふざけるな!!!ば、場所考えろ!!!馬鹿!!!」

 

「あはははっ……あ!!!せめて肝心のラプラスの座標だけでも確認しなきゃ!!」

 

 プルはアディンと腕組みしたまま、サイドタッチパネル操作で次のラプラスの座標を確認しようと操作する。

 

 モニターにいつもの次のラプラスの座標が表示される。

 

「次の場所って、月!?!ッ……(あれ?!!確かさっきの夢の最後あたりで月を見たような……??)」

 

「月って確か……OZプライズの連中が毎日のようにMDを造って地球に送り込みまくってる場所だぜ!!!めんどくせーコトに巻き込まれそうだが、そーなりゃジェミナス・グリープで返り討ちしてやんよ!!!」

 

「ん!?待て、表示がまだ続くぞ!!!」

 

 プルツーが更に座標が表示されていくのを確認する。

 

 これまでは一箇所のみの座標表示だったものが、月の座標を示したと同時に立て続けに線で線を結ぶように連続表示されていった。

 

「なんで座標が月になった途端に連続表示されてくんだ!??」

 

「そんなのわかんないけど……まるで、月に拡がる宝地図だね……」

 

「コレの順番に行けばラプラスに行き着くのか……!?!」

 

「あ、止まった!!」

 

 アディンやプル、プルツー、シェルドが座標停止を見たポイントは月の裏に到達していた。

 

 この表示の様子からして、只事ではない。

 

 その位置にこそラプラスの箱があると言わんばかりに示した点の座標図の航跡点は12箇所もあり、その最終到達点にはこれまでのラプラスの箱の旅の集大成を予感させていた。

 

 プルも先程の夢と重なり、このどこかに夢で出会ったリタという少女がいるかもしtれないという確信を抱きつつあった。

 

 

 

 翌日未明 L5コロニー群 X-37564コロニー

 

 

 

 先のオペレーション・プレアデス依頼の大規模な艦隊戦が勃発した。

 

 OZ、OZプライズ、中華覇権派OZプライズ、各三勢力のクラップ級巡洋艦、高速宇宙戦闘艦が同時に砲撃戦を開始。

 

 宇宙空間をメガ粒子のビームが飛び交い、戦端の火蓋が切って落とされた。

 

 ディセット率いるOZ正規軍勢力陣営からは、ドーバーバスターやビームバズーカをメインウェポン、ビームライフルをサブウェポンとした有人機のリーオーやジェスタ、リゼル・トーラスを主戦力とした部隊が展開する。

 

 対してOZプライズ陣営はシルヴァ・ビルゴとサジタリウスα、β部隊を、中華覇権派OZプライズ陣営はMDのリゼル・トーラス、シルヴァ・ビルゴ、プライズリーオー、プライズジェスタを主力としたMSとMDの混合部隊で戦闘を展開し、中華覇権派陣営のMDやMS達は宇宙をそのカラーリングで赤く染めていた。

 

 主砲のビームやスペース・スパローミサイルの弾頭が飛び交う宇宙の中、双方のMD部隊による機械的な一斉射撃が飛び交い、双方の陣営のMD達が確実な精度で撃破させる。

 

 対して有人機同士もぶつかり合い、プライズリーオーのドーバーバスターの射撃が中華プライズリーオーを破砕させ、そのプライズリーオーに中華プライズジェスタが連発で放ったメガビームランチャーが直撃、爆砕する。

 

 そこへハイスピードなビーム射撃でプライズリーオーが介入し、中華リゼル・トーラスを撃破して駆け抜け、更に中華プライズジェスタに突っ込みビームライフルとビームサーベルの斬撃を仕掛ける。

 

 両者はビームサーベルを刺し合い、相討ちになって爆発した。

 

 更に正規軍勢力が一丸の部隊となっての一斉射撃を行って介入する。

 

 リーオー部隊はドーバーバスター、ビームバズーカ、ドーバーガンをジェスタ部隊はビームライフル、メガビームランチャーを撃ち放つ。

 

 その射撃軸線は中華プライズ勢力に向けられ、OZという組織の内乱に次ぐ内乱が宇宙に爆発光の華を無数に咲かせた。

 

 この宇宙に拡がる戦場の光景を見ながら正規軍陣営でディセットが指揮する。

 

「全部隊は現時点ではプライズ勢力を無視してもかまわん。攻撃を仕掛けられ次第攻撃に移る形でいい!!あくまで今は民間にジェノサイドという外道所業を行う中華覇権派OZプライズを駆逐するのが先決である!!!あれはプライズ以上にOZであってOZではない!!!」

 

 ディセットいわく、OZプライズ陣営もまた正規軍との交戦は二の次と考えており、MDの戦闘プログラムも中華覇権派OZプライズに選定した攻撃を行っていた。

 

 (対立するプライズ陣営と共闘するような形になるとは……また皮肉なものだな。今はトレーズ閣下に代わり、地球圏を汚す膿を掃除させていただこう!!!)

 

 ディセットが視認するその戦場の海原を2機の高性能MSが駆け抜ける。

 

 トールギス・フリューゲルとガンダムヴァサーゴであった。

 

 躍動する特徴的なウィングバインダーを羽ばたかせながら宇宙を駆け抜け、ビームサーベルとバスターシューターを駆使させながら攻撃を仕掛ける。

 

「正規軍の陣営もあるが……今は汚らわしい赤い連中の粛清だ!!!」

 

 連続突きに薙ぎ、袈裟、逆袈裟の斬撃を繰り出し、遭遇する中華プライズのMSを次々に撃破する。

 

 その機動性にほとんどの射撃を寄せ付けず、ロッシェの腕による剣捌きや銃裁きが愚かな紅い機影達を次々にハンティングさせていく。

 

 更にそのもう一方ではガンダムヴァサーゴが介入し、ストライククローを伸ばしたビームソードの斬撃やレフトアーム側のストライククローと兼用させたストライクシューターを駆使して中華プライズのMSやMDを次々に駆逐させていく。

 

「この前のガンダムと比べれば、話にならない雑魚ばかりか……何が中華覇権だ……旧世紀の思想を今のOZプライズに持ち込むとは……笑わせる」

 

 非人道な紅い悪魔達に対し、本物の悪魔の名を冠したガンダムヴァサーゴによる猛攻撃が襲う。

 

 ストライククロー・ビームキャノンやストライクシューターの射撃や、それらの打撃攻撃を織り交ぜながら駆け抜け、一定数の敵機を駆逐すると密集的に交戦しているポイントに向けトリプル・メガソニックキャノンをスタンバイさせる。

 

「目には目を……悪魔には悪魔を……!!!」

 

 解き放たれた強力なトリプル・メガソニックキャノンのビーム渦流がはしり、次々に味方機諸共中華OZプライズ勢力の機体群を駆逐した。

 

 戦況はOZプライズとOZ正規軍による同時攻撃が中華OZプライズにぶつかり、早くも五分と五分の戦況が瓦解し始めていた。

 

 戦場は中華覇権派OZプライズの拠点のみならず、L5コロニー群の侵略したコロニー内外で起こっていた。

 

 OZ正規軍やプライズの別動隊のリーオー、ジェスタ、リゼル・トーラスが交戦し、幾多のビームと爆発光が断続する中、どの陣営にも属さない部隊が動いていた。

 

 彼らは共通してセディッチが腕に巻いた白い布をアストロスーツに巻いていた。

 

「鬼畜外道の中華反乱軍から市民を解放だ!!!」

 

「好き勝手はさせん!!!」

 

 火事場泥棒の如く、OZの内乱に乗じて速やかな展開をしていく。

 

 リーオーや有人機のリゼル・トーラスで次々にゲリラ戦を仕掛ける者達もいれば、破壊工作をおこないながら市民を解放する者達もいた。

 

「ルートは確保した!!!市民を逃がせ!!!」

 

「あっちゃならねーんだよ!!!貴様らの存在はぁああああ!!!」

 

 相対する中華覇権派OZプライズ兵に対して、彼らは憎悪の攻撃を下す。

 

 だが、皮肉なことに彼らのおこす銃撃戦により、逃がすべき市民が死傷が出てしまっている事もまた事実であった。

 

 季煉にもそれらの情報が伝えられる。

 

「醜特佐!!!我々に対する攻撃は本拠点のみならず、L5コロニー群の掌握エリア各地で戦端が起こっています!!!更には第三勢力の存在も確認されています!!!」

 

 季煉は、わなわなと思いどおりに運ばなさ過ぎる事態に、憤りの身震いをみせる。

 

「……こうも事が崩されるなどとっっ……!!!」

 

 憤りを巡らせる間にも、交戦状況は収まる事なく続く。

 

 中華プライズサイドのリーオーやジェスタ、リゼル・トーラスが射撃戦を仕掛けていくも、OZプライズ兵駆るプライズリーオーやジェスタの多彩な攻撃や斬撃に撃破されていく。

 

 刃海より望む宇宙の海原の戦場。

 

 幾多のビームが飛び交い爆発が無数に断続する空間。

 

 MS戦も艦隊戦も押され始めている現実を認めざるをえない。

 

「ゾディアックを起動させろ!!!何もかもを破壊させる!!!」

 

 季煉の指令でゾディアックが起動し、メガ粒子砲を撃ち放つ。

 

 バスターライフルの如く戦場を切り裂くビーム渦流が、敵味方関係なくMSやMDを撃破させていく。

 

 この戦局が変貌した事態に対し、OZ正規軍側のディセットも高火力兵器の一斉集中砲火を命ずる。

 

「過去の遺物を持ち出したか。襲るるに足らん!!!全MS部隊、高出力兵装を敵MAに一斉射撃!!!」

 

 正規軍部隊のリーオー、ジェスタ、リゼル・トーラスによるドーバーバスターとドーバーガン、ビームバスーカ、メガビームランチャーの一斉射撃がゾディアックに集中する。

 

 だが、その高出力ビーム群は着弾する手前で弾かれたかのように消滅した。

 

 その返しと言わんばかりにゾディアックは再びメガ粒子砲を撃ち放った。

 

「くッ……Iフィールドか!!!」

 

「ははははっ……ははははあはあはあはっ!!!見たかぁ!!!これが我が覇権の力よ!!!そうとも!!!最強の力だあああ!!!」

 

 季煉は聞き耐え難い笑いをしながらゾディアックの力を過信し始めた。

 

 ゾディアックは連発するようにメガ粒子砲を繰り返し撃ち始める。

 

 しかし、そのビームを躱して迫る二つの閃光があった。

 

 トールギス・フリューゲルとガンダムヴァサーゴであった。

 

 2機は完全なる死角に接近し、トールギス・フリューゲルは装甲表面にビームサーベルを突き刺しながら加速し、ガンダムヴァサーゴはメガ粒子砲射撃機工に直接身を投じてトリプル・メガソニックキャノンの発射形態に移行する。

 

「所詮、古のデカ物に過ぎん。最もこのトールギスも古のMSではあるがな……だが、格と気品の差にあくびが出る!!!」

 

 トールギス・フリューゲルの加速と共に、突き刺されたビームサーベルはゾディアックの装甲表面を一気に斬り裂いていく。

 

 その斬り口を追うかのように爆炎が噴出し続け、表面で一気に爆発を噴き上げさせる。

 

「このような代物を最終兵器とするか……ふッ……笑わせてくれる……!!!」

 

 同時にガンダムヴァサーゴはトリプル・メガソニックキャノンを撃ち放ち、その強烈なビーム渦流はゾディアックの砲門と機体を一気に抉り飛ばした。

 

 クリティカル・オーバーキルダメージを加えられたゾディアックは一気にその巨体を爆散させていった。

 

 その存在を失っても尚も艦隊戦は続く。

 

 だが、気が抜けたかのように中華覇権サイドのクラップ級が轟沈し始める。

 

 それもそのはずであり、撤退……もとい敵前逃亡を無断慣行する者達が続出したのだ。

 

「我が、艦隊、損耗率45%!!!無断で敵前逃亡を図る者達も続出しているとのことです!!!」

 

「おのれ……おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれええええ!!!腰抜け共め!!!この私の身を守らんでどうする!!!我が覇権は、覇権はどうしたああああああ!!!」

 

「貴様たちはそうして自分の格下の大衆に理不尽極まりないジェノサイドをし、自分達と同格、格上相手には尻尾を巻いて逃げる……旧世紀も宇宙世紀においても下種の極みに限る……!!!」

 

「??!!」

 

 刃海の面前にロッシェのトールギス・フリューゲルがビームサーベルの切っ先を向けて舞い降りるかのように降臨する。

 

「なあぁ……??!!」

 

「OZプライズよりこのような汚い連中が芽吹いてしまったことは歴史に恥じる。ならば今ここに立たせてもらった身として、OZプライズを代表としてこの汚らしい紅い膿を排除する!!!私の機体の色をしていること自体、貴様らに反吐が出る!!!」

 

 季煉がいるブリッジ目がけ、そのビームサーベルの切っ先が構えられた。

 

「ま…て……まて……待てって言ってるだろおおおおお!!!撃てぇえええええええ!!!」

 

 季煉が苦し紛れに叫んだ直後、刃海のミサイル発射管より6基のミサイルが放たれた。

 

 だがそのミサイル群はロッシェの背後方面で六つの巨大な爆発と閃光を放った。

 

「何?!!」

 

 それは核ミサイルであった。

 

 彼らは更なる奥の手として核ミサイルを保有していたのだ。

 

 その爆発は三つの陣営の艦あMS、MDを無差別に攻撃し、更には隣接していた周囲のコロニーを一基を半壊させていた。

 

「『核』命じゃ、『核』命じゃああああ!!!中華覇権にひれ伏すがいいいいいい!!!!」

 

 この暴挙はロッシェの怒髪天を突いた。

 

「貴様ァあああああ!!!!つくづく救えん愚物だ!!!!消えろ!!!!」

 

「ぐぎゅるヴぁああああッッッ……―――!!!!」

 

 トールギス・フリューゲルの強烈な刺突が刃海のブリッジに突き刺さり、季煉は肉体を蒸発され無残に一瞬の苦悶を与えられながら消え去る。

 

 ビームサーベルが突き刺さったブリッジの部位が爆発すると、トールギス・フリューゲルは飛び立ち、バスターシューターのビーム渦流射撃を何発も見舞い、刃海を轟沈させていった。

 

 これを機に敗走を試みる部隊が続出するが、見逃すはずがなく、OZ正規軍とOZプライズによる駆逐処理戦に移行していく。

 

「やれやれ……とんだ愚物達だったな。見ているこっちが情けなくなる……!!!」

 

 そう言いながらロッシェのは睨みを利かせながら、中華覇権派のクラップ級を狙い撃った。

 

 

 

 北欧圏・スカンジナビア半島エリア

 

 

 

 澄んだ空気に満天の星空が上空を彩る中、ネェル・アーガマが森林地帯に着陸態勢に移行する。

 

 下部設置ジョイントが展開し、その巨大な艦を大地に着地させた。

 

 辺りは木々に雪が積もっている。

 

「ネェル・アーガマ、着陸完了。引き続き、光学迷彩を展開させつつ、交代で対空見張りを厳とします!!」

 

 エイーダがそう告げると、ケネスは長旅で疲れたオペレーター達に気遣いを見せる

 

「長旅ご苦労だった。夜間に入国するのもいかがなものか……ネェル・アーガマは明朝まで待機する。君達も羽を伸ばしてきても構わんぞ」

 

「やった♪んー……やっと羽を伸ばせるー。私こんな雪国はじめて!!星空も綺麗だし……ミヘッシャも見に行かない?!」

 

「え?!あ、ありがとうございます!私でよければ……私も北欧圏なんて初めてですし!」

 

「決まりね!!それじゃ、行こっか!!」

 

「はい!!」

 

 素に帰ったエイーダは、その流れからミヘッシャを誘う。

 

 唐突な彼女の誘いに一瞬戸惑いながらも、ミヘッシャも星空を見に行った。

 

 戦闘が無ければ普通に何処にでもいそうな女子達の光景にケネスもどこかホッコリを覚える。

 

「宇宙世紀の歴史は旧世紀と同じく抗争や戦争を繰り返している。戦争がなければ彼女達も遊びを満喫する何処にでもいそうな女子か……感慨深いものだ」

 

「キャプテン、俺達も休み入りますよ」

 

「ずっと座りっぱなしもさすがにシンドイぜ」

 

 砲術長と砲術士のアルバとドリットもまた休みに移行する。

 

「……だが、君達はダメだ」

 

「はぁ?!!!」

 

「…………なんてな。無論許可する。対空警戒には交代要員引き継ぎを忘れるなよ」

 

「了解!!エンデもどうだ?!星空つまみにウイスキー呑めるぞ!!」

 

 メルバは元MSのパイロットである操舵士のエンデを呑みに誘う。

 

「あ、あぁ。だが、ノンアルコールにした方がいい。またどこで戦闘になるか……」

 

「だから引き継ぐんだろーが!!!固いこと言うな!!」

 

 三人のやり取りを見ていたケネスも念を押す。

 

「羽を伸ばせとは言ったが、ハメを外せとは言っていないからな、ドリット。呑んでも自制が効く範囲内だ。それ以上は決して吞むな。わかったな?」

 

「はいよ、艦長さん」

 

 三人は艦内通信で交代要員引き継ぎをすると、CICブリッジを後にしていった。

 

 ケネスはサイド立体タッチパネルボードを操作し、日付を確認する。

 

 季節は12月のクリスマスシーズンの只中であった。

 

「ほう……奇しくもこの時期に訪れることができたとはな……まさにホーリーナイトか」

 

 ケネスはCICブリッジの眼前に拡がる冬の夜空に目を送る。

 

「この宇宙(そら)の向こうでは戦闘が巻き起こっているか……にわかには信じがたい美しい夜空だ」

 

 地球で生まれた者でも貴重な北欧圏の冬の夜空に、宇宙育ちの者達はより一層の感銘を受けた。

 

 月夜に照らされて白銀の森林が広がっているのだ。

 

 防寒着を着ながら皆が物珍し気にカタパルトデッキに赴いて眺めに来ていた。

 

「わああぁ……綺麗……!!」

 

 クルー達が続々と生のプラネタリウムを見に来る中、カトリーヌやオーブ三人娘のジュリ、マユラ、アサギ、先程のエイーダとミヘッシャといった女友達的な者同士も多かった。

 

 それぞれが見上げる星空には戦闘があったことを忘れさせるような幻想的にも近い空間があった。

 

 そんな中、ロニはカトルに連れてきてもらう形で手をつなぎながらカタパルトデッキに訪れる。

 

「みんな見てるね!!僕たちはあっちに行こう!!」

 

「うん」

 

 カトルとロニは比較的クルー達がいない場所に移動し、そこで星空を眺めた。

 

 見上げるリアルなプラネタリウムは、ロニの傷つき傷つけられた心に癒しを与える。

 

「なんて綺麗なの……!!」

 

「そうだね。見に誘ってよかった……!!」

 

 ロニは両手で口元を抑えながら感動した様子を見せ、そんな彼女を見てカトルは安堵する。

 

 更に彼女は感極まって涙を流し始めた。

 

「……っっ!!」

 

「ロニ……?!」

 

「ううん……ごめん、カトル。今までの事を思うと今がすごい幸せに感じれて……あんな過ちを犯してしまったのに、私が幸せになってもいいのかな??」

 

「もちろんさ……ロニが幸せになっちゃいけないわけなんて……ないよ……僕も今こうしてロニと星を眺められてることに凄く幸せを感じてるよ」

 

「カトル……!!」

 

 そう言いながらカトルはロニを抱き寄せてみせた。

 

 そんな二人の様子をデュオやトロワ達が見守っていた。

 

「やれやれ……カトルの奴、ロニさんをエスコートしてすっかり王子様だな!!」

 

「ふっ……これまでのカトルやロニの苦難を思えば……今の時間は必然的な価値ある報酬だ。俺達がやるべきことはそれを見守る事だ」

 

「へへ……違いねぇ。今の幸せ空間を嚙み締めろよな、カトル!!」

 

「そういうお前はジュリと見たかったんじゃないのか?」

 

「はぁ?!余計な世話だ!!ジュリだって仲良しな友達いるんだからよ!!そういう時だって……あるだろうがっ」

 

「確かにそうだな……失敬した。今はカトリーヌ達とも一緒に見ているだろう。寂しがるなよ」

 

「誰が寂しがってるってんだよ……俺は寂しい感情はないんだ!!」

 

「まぁ、たまにはこうして男同士の語り合いってのも悪くないんじゃないか?バーボン煽りたくなるな……ま、飲むのは俺とマフティーだけだがな!!ほいよ!!」

 

 ラルフはハイボールを持ち抱いており、あらかじめ持っていたグラスをマフティーにと渡す。

 

「いいのか?俺達は有事の際に備えてなきゃならない。飲酒MS運転になるぞ?」

 

「マフティーさんよ、固いこと言うなって。酔わない程度に飲めばいいさ」

 

「ははっ、じゃあ少しだけならいただこうか」

 

 ラルフとマフティーは互いにハイボールを呑みかわした。

 

「あーあー、飲んじゃいましたよ……お?!」

 

 するとトロワもまたノンアルコールのシャンパンを用意しており、グラスをデュオに渡した。

 

「俺やラルフがいたゲリラチームではよく星空の下で吞んでいた。無論、俺はノンアルコールだったがな」

 

「そうか、それでこの流れってか!!じゃあ、頂きますか!!」

 

 デュオ、トロワ、ラルフ、マフティーが男四人で星空の下吞みかわす一方、ヒイロは一人でいたところをマリーダに連れ出されていた。

 

「みんなも見に行っている。私達もいくぞ」

 

「マリーダ……」

 

 リードするマリーダがヒイロの手を引っ張っており、二人の構図はカトルとロニの真逆であった。

 

 いざ二人はカタパルトデッキの甲板に出ると、満天のリアル・プラネタリウムがそこにあった。

 

「宇宙で見る星の感覚と違う気がする。何故か宝石のように綺麗に感じる。不思議なものだ」

 

「あぁ」

 

「サンクキングダムはもうすぐそこらしい。これからは毎日天気のいい日はこの星空が見れるのか」

 

「季節によっては一日中明るい白夜という現象があるそうだ。今の逆だ」

 

「そうなのか……魅力的な地域なんだな、サンクキングダムは」

 

「サンクキングダムは今の時代に必要な国だ。俺達の存在が国防に加担できれば抑止力になる。それは日本で証明してみせたからな」

 

「ああ。わかってる……ヒイロ達がいなければ、あの時ロニと私はこうしていることができなかった」

 

 マリーダはヒイロに腕を回して寄り添い、ヒイロもまたそれに応じる。

 

 二人が見つめるプラネタリウムにオリオン座があった。

 

 だがその時、その夜空の部分……ちょうどサンクキングダムの上空の位置に急に星が増えるように見える光が現れ始めたのだ。

 

「なんだ……?星にしてはおかしい……な」

 

「……まさか!!?」

 

 一方ネェル・アーガマのCICのレーダーにて、サンクキングダム上空に多数の機影が現れたことを察知していた。

 

「サンクキングダム上空に感!!!おそらくMD降下部隊です!!!」

 

「なんだと?!!先手を取られたか……!!!」

 

 サンクキングダムでは既に攻防戦の戦端が開かれ、ミリアルドのトールギスやミスズ、ライト達のリゼル・トーラス、近衛兵達のリーオーやエアリーズが獅子奮迅していた。

 

「夜に侵略を仕掛けてこようなどと……!!!卑劣な!!!」

 

 次々に飛来するシルヴァ・ビルゴに向かい、トールギスはドーバーガンを撃ち放ち、接近した機体にはバスターランスで破砕させて見せる。

 

 その後もシルヴァ・ビルゴから放たれるビームランチャーの高出力射撃をその高機動力で躱しながら、各個にドーバガンとバスターランスを駆使しながら撃墜させていき、更にビームサーベルに切り替えての一撃離脱斬撃戦法へとシフトさせた。

 

「如何なる力にも、我が国が亡びるわけにはいかんのだ!!!」

 

「何としても死守だ!!!この国がここで堕ちるわけにはいかない!!!」

 

「了解!!!」

 

 ミスズ駆るリゼル・トーラスに続くようにリーオー、エアリーズの部隊が一斉射撃で応戦する。

 

 その中にはヒイロの瓜二つのライトが駆るリゼル・トーラスもいた。

 

「この国は……リリーナは俺が守る!!!」

 

 その戦力差は絶望的にあり、唯一トールギスがいてくれているのが幸いだった。

 

 夜間の不測の事態に、リリーナも憂いを隠せない。

 

「遂にこのような侵略行為が起こり始めた……お兄様、ミスズさん、そしてライト……どうか無事に……!!!」

 

 そのような中、夜の公園で優雅にこの戦闘の状況を眺めている特徴的な眉毛のブロンド長髪の少女がいた。

 

「うっふふふ。お爺様から話は聞いていたけど……やっぱり戦闘って命の輝きよね……もうこれってお爺様からの私に対するクリスマスプレゼントね……もう起っちゃってるかもだけどっ、早く戦争になぁーれ!!!」

 

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 

 次回予告 

 

 

 聖夜を彩る夜空の下、サンクキングダムはロームフェラ財団が送り込みはじめたシルヴァ・ビルゴの降下部隊により侵攻の危機に遭っていた。

 

 ミリアルドやミスズ、ライトも防衛の為に獅子奮迅する。

 

 そんな彼らの戦いを高みの見物をする、デルマイユの孫娘・ドロシーの姿があった。

 

 戦い好きな彼女は、身を案じて電話を入れたデルマイユとの会話中の一言で事態に影響を与える。

 

 デルマイユの指示が変わり、キルモードレベルを上げたシルヴァ・ビルゴの攻撃が始まる。

 

 攻防戦に疲弊し、窮地に立たされるミリアルド達。

 

 そんな絶体絶命の運命が迫る中、5機のガンダム達が姿を現す。

 

 更に幽閉されているトレーズから通信が入り、その内容は新たなガンダム、『エピオン』を取りに来いというものであった。

 

 戦闘が続く中、ミリアルドは決断する。

 

 一方、依然OZの内乱が続く地球の中華圏エリアにはバルジ砲が、もう一方のL5中華覇権派OZプライズ拠点コロニーにはリーブラ砲が放たれる。

 

 だが、そのリーブラ砲は新たなる勢力の狼煙に過ぎなかった。

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード52「サンクキングダム・ホーリーナイト」

 

 

 

 

 





 さて、また今さらですが、なぜガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクが「ガンダムヴァサーゴ」として出ているのかというと。

「正義×悪魔」でアルトロンガンダムと対になってくれるからです。

 当時から思ってましたが、XよりもW調のデザインかつ、ツインドラゴンハングと同じコンセプトの腕という所にグッときました。(ロボット魂持ってます。というか主人公サイドやライバルはほとんどロボット魂で統一しちゃったコレクションにしてます)

 で、もう一つのライバルポジションに。名前もいきなり「チェストブレイク」が付いていると違和感あったので、「ヴァサーゴ」にしました。

 モチーフポジションは「アルケーガンダム」的に近いポジションをめざしているつもりです。


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エピソード52「サンクキングダム・ホーリーナイト」

 

 

 クリスマスシーズンのサンクキングダムにMDシルヴァ・ビルゴの降下部隊が次々に押し寄せる。

 

 それは一足早い余計なクリスマスプレゼントに他ならなかった。

 

 降下部隊のMDはシルヴァ・ビルゴ一択で構成されており、降下の時点でビームランチャーを撃ち放ちながら攻め入る。

 

 だが、その狙いはサンクキングダムの市街地を点で攻撃しており、どこか手加減をしているようでもあった。

 

 迎撃している最中のミリアルドにも違和感が宿る。

 

 降下射撃中のシルヴァ・ビルゴの懐に攻め入り、ビームサーベルの薙ぎや袈裟斬り、唐竹の斬撃をくりだしてトールギスは母国をまもらんと猛撃をかける。

 

 

 

 ギュジュギュイイッッッ、ゴッッッドォアアアア―――ズバギャアアアアアアッッ、ザシュドオオオッッ、ディギギイイイイイッッ!!! ザディガアアアアアッッ!!!

 

 

 

 そしてトールギスは再びエネルギーがリロードされたドーバーガンで射撃を開始し、単発的なビーム渦流でシルヴァ・ビルゴを撃墜していく。

 

 

 

 ディシュウウウウウッ!!! ダシュウウウイイィッ、ダシュイイッッ、ダシュイイイイイッ!!!

 

 ゴバアアアアアアアアッッッ!!! グバガァアアッッ、ドォズグウウウウッッ、ダディゴオオオオオオッ!!!

 

 

 

「しかし、このMDの部隊……狙いが一定過ぎる……心なしか手加減されているかのようにも見て取れる……!!!」

 

「ミリアルドもそう感じるか?!!さっきから我々の射撃を躱そうともせずに直撃を受けて行っている!!!」

 

 ミスズ機のリゼル・トーラスもまた百発百中で撃墜していっており、その手の抜いたかのような侵攻の仕方に違和感を感じていた。

 

 

 

 ヴィギュイイイイッッ、ディシュイッ、ヴィギュアアアッ、ディシュイイイッ、ヴィギュアアアアッ!!!

 

 ディズゴオオオオオッッ、ダッディガアアンッ、ギュズドォオオオオッ、ダズグンッッ、ドォズグウウウウアアアアッッ!!!

 

 

 

 射撃の間合いを取りながらミスズ機のリゼル・トーラスはメガ・ビームランチャーとビームライフルの二挺で射撃しながら降下攻撃するシルヴァ・ビルゴへと直撃させ、連続的に撃墜していく。

 

 ライト機のリゼル・トーラスはメガ・ビームランチャーによる狙撃を駆使して撃墜していく。

 

 

 

 ヴィギュリリリリ……ヴィギュアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 ドォズアアアアアアアッッ……ゴバダアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

「1機でも多く撃墜する……!!!」

 

 

 

 ヴィギュイイイイイイイイッッ!!! ヴィギュイイイイイイイッッ!!!

 

 ディギュッゴオオオオオンッッ!!! グバガアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 ライトが狙い撃つ赤い高出力ビームがシルヴァ・ビルゴのボディーを抉り、機体を爆散させていった。

 

 この戦闘をデジタル双眼鏡で安全地帯からウォッチングを決め込む少女の姿があった。

 

「今こうしてクリスマスプレゼントを届けてくださるなんて、お爺様ったら孫娘の私になんて粋な計らいをしてくれるんでしょう!!!」

 

 侵攻部隊の攻撃が加減しているのもそのはずであり、サンクキングダムにはデルマイユ公の実の孫娘・ドロシー・カタロニアが正規に入国していた。

 

「でも……私がここにいるからって、お爺様は手加減するおつもりね……これじゃ本当の命の輝きが見られないじゃない……新しい小型タッチパネルフォンで連絡しましょ♪」

 

 状況的に見て、あからさまに彼女にスパイ疑惑があっても至極当然だが、厳密にはそうではないようだ。

 

「ん?!!一旦失礼する」

 

 デルマイユ公は優雅に財団の食事会に出席しており、語らいの最中にその場を外す。

 

「……ドロシー!!!何かあったのか!!?」

 

「何かあったのか……じゃないわよ!!?仮にも孫娘が居住している国に攻め入っておいて!!!」

 

「いや……それはだな……」

 

「……なぁ~んて☆嘘よ、お爺様!!今安全な場所から戦場をウォッチングしてるんだけど、MDがなんか締まりがない攻撃してるのよ」

 

「それはお前の身を案じて敢えてそうしているのだ!!お前の戦い好きは今に始まったわけじゃないが、今は流れ弾の危険もある!!どうか安全なシェルターにいてくれ!!これも相手の疲弊を狙った作戦なんだ!!!一定の動作をし続けるとやがて集中力がおぼつかなくなる時があるだろう?」

 

「じゃあ、いつまでもだるい攻撃が続くわけ??退屈……」

 

「ドロシー!!!遊びじゃないんだぞ!!!」

 

「ええ♪れっきとした戦争ですもの☆」

 

 ドロシーの我儘に振り回され、孫馬鹿な一面を見せたデルマイユ公は、当初の予定よりも大幅に早めてMD部隊のキルモードレベルを上げるよう指示した。

 

 ジェガンタイプのメインカメラを高速点滅させながら、シルヴァ・ビルゴのプログラムが一斉に切り替わる。

 

 唐突にビームランチャーの狙いが鋭くなり、近衛師団のリーオーやエアリーズ部隊は虚を突かれ、次々に撃墜され始めた。

 

「ぐあああああああ?!!」

 

「ふぁあああああああああッッ??!」

 

「ああああああああああッッ??!」

 

 部下の部隊が次々に撃破され始める状況に、ミスズは事態が変貌した事と憤りを重ねる。

 

「?!!急に攻撃パターンが変わった?!!おのれッッ!!!」

 

 シルヴァ・ビルゴ部隊は急激に狙いの制度が上がり、ビームランチャーの高出力ビームが回避行動をとるミスズ機のリゼル・トーラスを掠めていく。

 

 ライトの狙撃も躱されるようになりはじめ、狙い来る高出力ビームが機体を掠め取り、レフトショルダーアーマーを破壊する。

 

「くッ?!!いきなり性能が上がった?!!」

 

 市街地には次々にシルヴァ・ビルゴの部隊が着地し始め、迫りながらビームランチャーを連発する。

 

 それでも尚、トールギスは攻撃を躱しながら辛うじて善戦をみせる。

 

 バスターランスでシルヴァ・ビルゴの胸部を突き砕き、連続でドーバーガンのショットを見舞いながら空中で各個撃破すると、地上のシルヴァ・ビルゴ部隊にドーバーガンを上空から叩き込む。

 

 しかし、狙いすれすれのシルヴァ・ビルゴの対空射撃が連続でトールギスを掠める。

 

 一つミスすれば、虎の子の高出力バーニアを破壊されかねない程の精度だ。

 

「ちいッ……!!!ならばいっそ……!!!」

 

 トールギスは一気に低空位置に滑空し、高速かつ連続のビームサーベルの斬撃を叩き込む。

 

 

 

 ギュゴアアアアアアアアッッ……ォォオオオオオオアアアアッッ、ザシュガアアアアアアッッ、ディッキガアアアアンッッ、ズドォシャアアアアアアッッ、ドォズギャアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 バスターランスの強烈な一撃を浴びせ、低空飛行しながらビルの角に飛び出すと、途端にビームランチャーの射撃が襲い来る。

 

「ちいいッッ!!!」

 

 ミリアルドは巧みなコントロールでその射撃をギリギリで回避してみせ、敵機群の懐に飛び込み斬撃を繰り出し続けて駆け抜ける。

 

 

 

 ドォアアアアアアアッッッ……ディッガギャアアアアンッッ、ジュズウバアアアアアアッッ、ズバキャアアアアアンッッ……ディゴオオオンッッッ、ドォドォドォドォドォガガガガガガアアアアアアアア!!!

 

 

 

 出合い来る敵機を斬り捨てた後に、トールギスは1機のシルヴァ・ビルゴの胸部のど真ん中にバスターランスを刺突させ、そのまま着陸したシルヴァ・ビルゴの敵機群に突っ込んでいった。

 

 無茶ぶりな戦闘をし始めたミリアルドにミスズは激戦に身を置きながらも憂う。

 

「ミリアルド……攻め過ぎるな!!!くッ!!!」

 

 ビームランチャーの連続射撃の中、ミスズ機のリゼル・トーラスはメガ・ビームランチャーを破壊されてしまう。

 

「っ……有効な武装が……!!!叩き込む!!!」

 

 

 

 ドォズアアアアアアア!!! ドォシュダアアアッッ、ドォシュダアッ、ドォシュダッ、ドォシュダアアアアンッッ!!! ヴィヴィヴィヴィギュギュイイイイ!!!

 

 

 

 ミスズ機のリゼル・トーラスは即座にビームライフルを持ち替え、速射射撃を叩き込んでそれに追従するようにレフトアームのビームキャノンを高速で撃ち放った。

 

 

 

 ディガアアアアアンッッ!!! ディディガアアンッ、ドォドォアアアアアンッ!!! ドォドォドォドォバアアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

 一方のライト機のリゼル・トーラスは後退しながらメガ・ビームランチャーを撃ち放ち続ける。

 

「二度もこの国を失わせることはさせない!!!だから、俺はこうして戦っている!!!」

 

 

 

 ヴィギュアアアアアアアアアッッ!!! ヴィギュアアアアアアアアアアア、ヴィギュアアアアアアアアアアア!!!

 

 ズドォシャアアアアアアァァァ……グバゴオオオオオオオオオッッ!!!

 

 

 

 二発が躱され、残りの一撃が1機のシルヴァ・ビルゴに炸裂し爆発させる。

 

 撃ち漏らした2機はビームランチャーを撃ち放ち迫る。

 

「俺はリリーナの所に戻る……!!!俺は死なないッッ!!!」

 

 

 ライトは生還し、リリーナにまた会う一心で集中力のゾーンに入り、メガ・ビームランチャーをロック・オンする。

 

 次の瞬間にライト機のリゼル・トーラスは二発のメガ・ビームランチャーを撃ち込んだ。

 

 

 

 ヴィギュウイイイイイイイイイイッッ、ヴィギュイイイイイイイイイッッ!!!

 

 

 ドォズオオオオオオオオオッッ、ヴァドォアアアアアアアアアッッ……ゴゴバガアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

「はぁッ……はぁ……はぁ……ッく……やれた!!!」

 

 狩りは勝った瞬間が危険といわれている。

 

 まさにそれがライト機のリゼル・トーラスを襲う。

 

 上空から注がれるビームランチャーの高出力ビームが迫り、メガ・ビームランチャーごとライトアームを吹き飛ばす。

 

「しまったッッ……おおおおおおおおおお!!!」

 

 ライトは被弾の瞬間に気迫と共にすぐに事を切り替え、レフトアームのビームキャノンを叩き込んだ。

 

 

 

 ヴィヴィヴィヴィギュギュイイイイッッ!!! ヴィヴィヴィヴィギュギュイイイイッッ!!!

 

 ディディデガアアンッ、ドォドォドォディガアアアンッ、ディディディグボアアアアアアアアン!!!

 

 

 

「俺としたことが……だが、まだいける!!!」

 

 ライトは眼前に迫っていたシルヴァ・ビルゴを撃破すると、レフトアームにビームサーベルを装備して迫りくるシルヴァ・ビルゴに立ち向かっていく。

 

 ゾーンに入ったライトは寸前で向かい来るビームランチャーを躱し、斬撃を見舞いながら駆け抜けていった。

 

 

 

 このサンクキングダムに対するロームフェラ財団の侵略行為の目的は、大きい括りでいえば恫喝であった。

 

 清く正しい平和論を唱えるサンクキングダムの存在は、かつての連邦も今のロームフェラ財団、更にいうなればブルーメンツにとって目の上のたん瘤のような存在であった。

 

 月面におけるMDの生産ラインは順調に流れ、日々生産機数を一定に保っていた。

 

 デルマイユ公はその流れに目をつけ、湯水のようにMDがサンクキングダムに降り注ぐ作戦を考えていた。

 

 そこには彼曰く、防衛を疲弊させる狙いもあり、実際にミリアルド達の疲労はMDのキルモードレベルが上がった時点で加速しつつあった。

 

 攻撃するのも躱すのにもエネルギーや集中力を損耗する。

 

 善戦を見せていたトールギスも掠め被弾を浴びるようになる。

 

「……ッ!!!集中力が切れかけている!!!」

 

 いびつな軌道で辛うじて攻撃を回避しながら、ビルの陰に隠れたミスズ機のリゼル・トーラスと合流する。

 

「ミリアルド……!!!このままでは我々は犬死になるな」

 

「ミスズ……君だけでもライトと一緒に離脱しろ!!!」

 

「バカッ……!!!私はお前とサヨナラなんてしない!!!」

 

「そうか……わかった……く!!!」

 

 隠れていたビルの建造物がビームランチャーで砕き散らされ、トールギスとミスズ機のリゼル・トーラスは同時に飛び立って離脱回避する。

 

「おおおおおおおおおお!!!」

 

 ライト機のリゼル・トーラスはビームサーベルとビームキャノンを駆使し、獅子奮迅の立ち回りを見せていた。

 

 

 ザギャダアアアアアンッ、ズバドォオオオオッッ、ザシュガアアアッッ、ヴィヴィヴィヴィギュギュイイイイッッ、ヴィギュイイイイイイイイインッッ!!!

 

 だが、ほんの僅かなタイミングを搔い潜り、背部のブースターにビームランチャーが被弾してしまう。

 

 

 

 ディガアアアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

「ぐううううう??!」

 

 機体を立て直しつつもビルに突っ込みライト機のリゼル・トーラスは瓦礫に埋もれてしまった。

 

 近衛部隊のリーオーやエアリーズ達も回避に一杯になり、被弾・撃破されるものが続出した。

 

 その光景をドロシーは正に高見の見物と言わんばかりのポジションで見ていた。

 

「そうそう!!!これよ!!!戦闘の質が一気に上がった!!!一瞬も油断できない命のやり取り!!!撃破され戦死していった彼らは後世で尊い犠牲として語り継がれることだわ!!!そうよ……戦争は悲惨でなんぼなんですもの……!!!」

 

 そう独り言を高めのテンションで言いながら更にドロシーは戦闘を見続けた。

 

 ドロシーがデジタル双眼鏡を覗き込んだその瞬間だった。

 

 聞き慣れない幾つもの起動音が上空から聞こえてきたのだ。

 

「?!!何?!!この音……ッッ!!!ウソ……あれって……!!!?」

 

 想定していなかった予想外の存在をドロシーはその目に確認した。

 

 戦場の方ではとうとうトールギスは防戦一方となり、ミスズを守ることで手一杯となる。

 

「何度も言わせてもらう……サヨナラは言わないぞ、ミリアルド!!!」

 

「当然だッッ!!!」

 

 絶体絶命という四文字が差し迫るようにシルヴァ・ビルゴが迫りくる……その時―――。

 

 

 

 ディッカアアアアンッッ、ディッカアアアアッッ、ディッカアアッ、ディッカアアアッッ、ディギャイイイイイイイイイン……ドォドォドォドォドォゴバアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

 降下中のMD部隊を5機連続で叩き斬って迫る機体が現れた。

 

 

 

 ヒュフォアッッ―――ディッカイイイイイイン、ディッカイイイイイイイイインッッ!!!

 

 

 

 ミリアルドが前方モニターを見た次の瞬間にはガンダムサンドロック改が二刀流のバスターショーテルでトールギスとミスズ機のリゼル・トーラスに迫っていたシルヴァ・ビルゴを破断させていた。

 

 更にそこからガンダムサンドロック改は攻め込み、もう2機をその巨大な刀剣で叩き斬る。

 

 

 

 グオアッッ―――ディッギガアアアアアアアアアアアアンッッ、ディッギガアアアアアアアアアアン!!!

 

 

 

「が、ガンダム?!!」

 

「まさかメテオ・ブレイクス・ヘルの……??!」

 

「騒がしい入国の仕方になっちゃいましたが、この理不尽な状況は手助けせずにはいられないですからね!!!僕たちが来たからには後はお任せください!!!」

 

 カトルはミリアルド達にそう告げると、仲間達に指揮を執る。

 

「デュオ、トロワ!!二人は降下しながら既に地上に展開している部隊を僕と一緒に叩いて!!!マフティーさんとヒイロは降下中の機体群の破壊をお願いします!!!そしてヒイロはMD部隊を壊滅させたら、日本の時と同じように衛星軌道上の輸送機を叩いて!!」

 

「あいよぉ!!!」

 

「了解した」

 

「こちらも了解!!」

 

「任務了解」

 

 各Gマイスターの返答を聞いた後にカトルは本腰を入れた撃破にかかる。

 

「さぁ、いくよサンドロック!!!」

 

 

 ガンダムサンドロック改は機体を加速させ、左右軸線上にいるシルヴァ・ビルゴを次々に叩き斬り墜としていってみせる。

 

 

 

 ゴアアアアアアアアアアアッ……ギュオッ、ディズガアアアアアアッッ、ダッキギャアアンッ、ズガドォオオオオッ、ディズダアアアアアンッッ……ギュグオッッ、ディディッギガアアアアアアアアアアアアン!!!

 

 

 

「はあああああああああああああ!!!」

 

 カトルはそこに密集していた残り2機に狙いを定め、強烈なバスターショーテルの斬撃を見舞った。

 

 

 

 ギュゴフォアアッッ―――ディッッギィガアアアアアアアアッッッ、ディッッギィガアアアアアアアアアンッッッ!!!

 

 

 

 それに続いて済んだ夜空の月をバックにガンダムデスサイズ・ヘルが姿を見せる。

 

 まだハイパージャマ―を展開させていないために、その機影はシルヴァ・ビルゴの格好の的となった。

 

 連発で集中砲火を浴びるガンダムデスサイズ・ヘルであったが、次の瞬間には全く無傷で爆炎を突き抜けていた。

 

 アクティブクロークを展開させ、アームド・ツインビームサイズの二連刃を発動。

 

 次の瞬間には1機を斬り飛ばし払うと同時に、その向こう側にいた3機にバスターシールド・アローのビームの刃を撃ち込む。

 

 

 

 ギュウィイイイイッッ―――ザギャガアアアアアアアアアアアアッッッ!!!! ディシュウウッッ、ディシュウウッ、ディシュウウウウウウンッッ!!!

 

 ゴドォバアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! ディッギャンッッ、ドォズウウウンッッ、ズガギャアアアアッッ、ゴババババアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

「そーら、死神様がクリスマスプレゼント届けに来てやったぜええええ!!!」

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルは降下しながら迫りくるシルヴァ・ビルゴを次々と狙い斬る。

 

 斬り払いから機体を回転させて次の敵機の懐に入り、袈裟斬り、逆袈裟斬り、右斬り上げの斬撃を浴びせまわった。

 

 

 

 ザズドォオオオオオオオオッッ、ギュアッッ、ザディギャアアアアアッッ、ズバシャアアアアアアンッッ、ザギャシャアアアアアアアアアンッッ!!!

 

 ドォゴバアアアアッッ、ズグアアッッ、ドォドォゴバアアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

 降下するガンダムデスサイズ・ヘルの上で爆発の華が咲いていく。

 

 そして降下滑空しながらのアームド・ツインビームサイズの右斬り上げとバスターシールド・アローの刺突を連続で叩き込む。

 

 

 

 ザギャアアアアアアアッッ……ドォズガアアアアアアッッ、ディッヤギャギャギャギャゴゴゴゴゴゴオオオオオオン!!!

 

 

 

 バスターシールド・アローを突き刺したままシルヴァ・ビルゴの機体群にガンダムデスサイズ・ヘルは突っ込む。

 

 派手がましくシルヴァ・ビルゴの群れをなぎ倒しながら刺突した機体を別機体に押し当て、そのシルヴァ・ビルゴ諸共爆砕させた。

 

 そしてガンダムデスサイズ・ヘルは爆発の炎の中に死神然として立ちながら両眼を発光させ、面前にいるシルヴァ・ビルゴ4機にアームド・ツインビームサイズの大ぶりの薙ぎ斬撃を食らわせる。 

 

 

 

 ギュグアッッ……ディザギャアアアアアアアアアアアアアアッッッ(ディッカインッ、ディッガイイッ、ディッキガン、ダギャガアアアアン)……ドォズゴバオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!

 

 

 

「地獄っていうプレゼントをな!!!楽しいねぇ、バカっばっかりでよォ!!!」

 

 

 

 ディズギャアアアアアアッッ……ゴバオオオオオオオオオオンッ!!!

 

 

 

 更なる斬り払いで破断されたシルヴァ・ビルゴの向こう側にガンダムデスサイズ・ヘルの姿が現れ、破断部が爆砕した。

 

 

 

 ギュウィイッッ、ジャカジャカカカン……ドォドォドォドォドォドォドォドォシュシュシュシュシュドォオオオオオオオオッッ!!!

 

 ドォドォドォゴゴバアアア、ドォゴゴゴババアアアン、グワッッゴオドォドォドォドォゴオオオッッ、ドォドォドォググワッッ、ゴゴゴオオオオオンッッ、ドォドォドォドォドォババオオオオッッ、グバガッグババガガゴゴォッッ……ズズズズズズゴゴゴゴアアアアアアンッ……

 

 

 

 その上空ではガンダムヘビーアームズ改が放った多数のミサイルが、夜空より降下するシルヴァ・ビルゴの機体群を次々と着弾・撃破させていく。

 

 その弾頭は1機、1機に着弾して確実に個々を爆砕させるに至っていた。

 

「まずはミサイル射撃でこれらの降下部隊を殲滅させる……!!!」

 

 トロワは降下しながらあらかじめ着地ポイント付近のシルヴァ・ビルゴの機体群に狙いを定め、着地ポイントより進撃する機体群に狙いを定めた。

 

 既に多数の機体を同時ロック・オンして、シルヴァ・ビルゴ達を妨げるような形で着地する。

 

「全てを殲滅させる……!!!」

 

 ダブルビームガトリング、アームバスターカノン、バスターガトリングキャノン、ブレストガトリングをスタンバイさせ、持ち上げた重火器を一気に開放する。

 

 

 

 ヴァヴルゥララララララララダダダダダダダダダダダダダッダダダダダヴドゥドゥヴルゥルルルルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥ!!! 

 

 ドォズヴァアアアアアアアアアッッ、ドォズヴァアアア、ドォズヴァアアアアアッッ、ドォズヴァアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 ディディディディギャラララララッララララララアアアアアァァ……ドォズギャアアアアアアッッ、ドォズオオオオオオオッッッ、グバガアアアアアアアアアアッッ、ゴドォバアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 ディディギャバララルルルルルディディディガガガガガアアアアンッッッ……!!!!

 

 

 

 シルヴァ・ビルゴ達は砕き散らされ、高出力ビーム渦流に吹き飛ばされ、文字通りに殲滅させられていく。

 

 その前面軸線上の敵機群は、射撃地点から微動だにせず重火力射撃をぶっ放すガンダムヘビーアームズ改の猛攻に次々に撃破され朽ちていく。

 

 倒れた1機のシルヴァ・ビルゴは小刻みに痙攣するような動きでスパークを連続させる。

 

 ガンダムヘビーアームズ改はガトリング系の武装の射撃を持続させながら、アームバスターカノンのエネルギーをチャージし始めた。

 

 

 

 ヴォヴルゥヴヴヴヴァダダダダダダッダダダダッダダッダダダダダダララララアアアアアアアアアアアアアアアァァ……

 

 ヴィリュリリリリリリリリリリリリリリィィ…………ヴォヴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

 左側と中央軸線のターゲットを砕き散らせながら、ガンダムヘビーアームズ改はアームバスターカノンのチャージエネルギーを開放させた。

 

 一直線に突き進むビーム渦流がシルヴァ・ビルゴというシルヴァ・ビルゴを吞み込んで破砕流となる。

 

 攻撃ポイントを移動したガンダムヘビーアームズ改は、次のターゲット群に向け、低空ホバリングしながら持てる全火力を撃ち放つ。

 

 

 ヴァダダダララララルルルルルルルルダダダダヴァララララララアアアアアァァ……

 

 ヴィギュダアアアアアアア!!! ヴィギュダアアアッ、ヴィギュダアアアア、ヴィギュダアアアア、ヴィギュダアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

「日本の一件よりは機体数は少ない。MDを殲滅するだけなら何とかなる」

 

 淡々とトロワは攻撃をこなし続け、サンクキングダムに蔓延るMDを駆逐していく。

 

 その上空ではウィングガンダム・ゼロとΞガンダムが空戦を展開する。

 

 

 

 シュシュシュシュシュゴオオオオオオオオオォォォ……ディディディディディディディディディガガガガガガガッガガアガガガガガガアアアアアンッッ!!!

 

 グバアアアアッッ!!! ディッガアアンッ、ディガアアアアンッ!!! ズズズズドォオオオオオオ!!!

 

 

 

 Ξガンダムが放ったファンネルミサイルが、貫通弾のごとき攻撃でシルヴァ・ビルゴの装甲を抉り砕く。

 

 ファンネルミサイルは、マフティーの意思通りに飛び、次の獲物を求めるようにシルヴァ・ビルゴを撃墜させていく。

 

 

 

「MD……殺戮マシンめ!!!」

 

 

 

 シュシュシュシュシュゴオオオオオオオオオ……ディディディディディディディディディガガガガガガガッガガアガガガガガガアアアアアン、ズギャギャギャガガガゴオオオオオッッ!!!

 

 

 

 一度射出されたファンネルミサイルは終わることなく敵機を高速追従し、必ず抉り貫いてシルヴァ・ビルゴを仕留め続ける。

 

 だが、物体兵器故にその残骸は墜落していく。

 

「ちッ……場所が場所だ!!!」

 

 マフティーは仕留めた機体にビームバスターを撃ち込んで空中爆発させる。

 

 

 

 バズダアアアアアアアアッッ!!! バズダアアアアッッ、バズダアアアアッ、バズダアアアア、バズダアッッ、バズダアッッ、バズダアッ、バズダアアアアアアアアア!!!

 

 ディガアアアアアアンッッ!!! ドォズグウウウウッッ、ドォバオオオオオッ、ドォディギャアアアッ、ゴバガアアアッッ、ディゴバアアアアアアアアッッ、ドォドォゴオオオオオオオオンッッ!!!

 

 

 

「ならば、併用しながら撃破するまでだ!!!」

 

 マフティーは次からのターゲット選定から、ファンネルミサイルとビームバスターを連携併用しながら撃破に移った。

 

 ファンネルミサイルが抉り砕いた直後にビームバスターを撃ち込んで爆散させて見せる。

 

 

 

 ディディディッディディガガガガガガガッガアアアアンッッ!!!

 

 バズダアアアアアアアアッッ!!!

 

 デュギャオオオンッッ、ゴバガアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

「よし!!!この戦法なら残骸墜落は最小限に留めれる!!!」

 

 

 シュシュシュシュゴゴゴゴォッッ、ディガガガガガガガァオオンッッ!!! ディディディディディディギガガガォオオオオオンッッ!!!

 

 バスダァアアアアアッッ、バスダァッッ、バスダァ、バスダァ、バスダァアアアアア!!! バスダァアアアアア!!!

 

 

 シルヴァ・ビルゴが放つビームランチャーのビーム群を躱しながらΞガンダムはファンネルミサイルとビームバスターの連携射撃を浴びせ続けていった。

 

 そして、ウィングガンダム・ゼロが降下するシルヴァ・ビルゴ部隊を突き出し構えたツインバスターライフルで一掃する。

 

「敵……OZプライズMD部隊……排除開始っ……!!!」

 

 

 

 ヴゥゥッッ……ヴヴァオオオオオォアアアアアアアアアアアアオアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 ドォヴオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォオオオオォォォォォオオオオォォ……ドォドォドォドォドォゴゴバアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 一撃の強烈なビーム渦流がはしり、幾多のシルヴァ・ビルゴ部隊を呑み込み込んで文字通りに一掃・消滅爆破させる。

 

 ヒイロは同じ上空で戦闘しているΞガンダムや街への被害を考慮し、同高度かそれ以上の高度に存在する降下中のシルヴァ・ビルゴ部隊に狙いを選定する。

 

 

 

 ヴドォヴァアアアアアアアアアアアアッッ!!! ヴドォアアアアアアアアアアアアッッ!!! ヴヴァアアアアアアアアアッッ!!! ヴヴァオアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 ヴァヴォダアアアアアアアアアアアアアァァァッッ……ドォドォドォドォゴババアアアアアアア!!!

 

 ヴオオオオオオオオオオォォォォ……ゴゴドォドォゴバアアアアンッッ!!!

 

 ヴァズオオオオオオオオオオォォォォ……ドォドォドォゴゴバアアア!!!

 

 ヴギュオオアアアアアアアアァァァ……ゴバアアン、ゴバアアン、ドォゴゴゴゴバアアアンッッ!!!

 

 

 

 チャージをしない単発のツインバスターライフルのビーム渦流も一発につき、3~5機のシルヴァ・ビルゴを撃破していく。

 

 この間にもヒイロはゼロシステムの予測と向き合いながら敵機撃破に務めていく。

 

「最終的な狙いはサンクキングダム宮殿か……現段階で1機も降り立っていないのは意図的なものか……」

 

 更にゼロシステムはヒイロに情報を流し込み、その真意を示す。

 

「……ロームフェラ財団のデルマイユ・カタロニアの孫……ドロシーがこの国にいる……だと?!!それを考慮しての手加減も踏まえた、サンクキングダムに対する恫喝が目的か……」

 

 その間にも次々にシルヴァ・ビルゴが降下を仕掛けていく。

 

 ヒイロは現段階よりも上の高度に上昇しながらツインバスターライフルを二分させ、前面軸線上にいるシルヴァ・ビルゴに向かいチャージショットを見舞う。

 

 

 

 ヴィギュリリリリリリィィィ……ヴヴヴォヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ……ズガガゴバババアアンッッ、ディズゴゴゴン、ババババゴゴゴゴオオオオオオンッッ!!!!

 

 ヴァルダアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ……ズズドォドォドォゴババンッッ、ガガガズズズズウウウウンッ、ドォオッドォッドォゴゴゴババアアアンッッ!!!!

 

 

 

 二軸線のビーム渦流がその各射撃軸線上にいたシルヴァ・ビルゴを一気に呑み込んで破砕・駆逐させる。

 

 そして二挺のツインバスターライフルを更なる上空……衛星軌道上に向ける。

 

「ターゲット、MD輸送機……一定のポイントから降下させているようだな……」

 

 ヒイロは当初のカトルの指示通りに、衛星軌道上の輸送機を狙う行動に出る。

 

 ここを抑えれば後は地上に降り立った部隊を殲滅することに専念すればよい状況となる。

 

 チャージを開始し、衛星軌道上の輸送機をロック・オンする。

 

「……破壊する」

 

 

 

 ヴィギュリリリリリリィ……ヴァズウヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 撃ち放たれたツインバスターライフルの二軸線ビーム渦流が寸分の狂いなく衛星軌道上の輸送機に向かって突き進む。

 

 この時、降下部隊の輸送機内では緊急熱源アラートが鳴り響いていた。

 

「な、なんだ?!!」

 

「熱源アラート?!!一体何が……?!!」

 

 そして下方から一挙に二本のビーム渦流が迫り、一瞬にしてMD輸送機6隻を吹き飛ばしにかかった。

 

 

 

 ……ォォォォオオオオオオオヴルヴヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

「わあああああああああああああ??!」

 

 

 

 ゴオオオオオオオオォォォォ……ドォドォグワアアアアッッ、ゴバガッ、ドォドォゴバアアアアアン!!!!

 

 

 

 ガンダム達の武力介入を目の当たりにしたドロシーは感銘に近い感覚をえるように自分の世界に入る。

 

「ああぁ……これがあのメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムの戦い!!!なんてすばらしいの??!サンクキングダムの近衛部隊を窮地に追いやったお爺様のMD部隊を悉く撃破していくなんて……強いって素敵☆愛しちゃう☆」

 

 サンクキングダムの市街地各地でガンダムの戦闘音が響く中、ミリアルドはミスズと共に安全なポイントに移動していた。

 

「事前に警告文が送られてきたのが不幸中の幸いだった。市民の避難ができたのもそのおかげだ」

 

「ああ。だが奴らの『外部に情報を流したら相応の処置を慣行する』という脅迫がなければ、当に彼らに援護要請をしていた……」

 

「結果的には来てくれた。ヒイロ・ユイ達がな……ッ、そういえばライトは無事なのか??!」

 

 ミリアルドは自ら口にした「ヒイロ・ユイ」というワードから、ライトを思い出し、通信を取ろうとする。

 

「ライト!!聞こえるか?!ライト!!」

 

 だが、ミリアルドの声にライトの反応はない。

 

「っく……返答が来ない……!!!」

 

「なんだと?!」

 

 その時のライトは搭乗機をビルの瓦礫に埋もれさせた状態で気絶していた。

 

 コックピット内にミスズの声が響く。

 

『ライト!!!応答しろ!!!ライト!!!ライト!!!』

 

 気絶したままの状態では当然のごとく返答が返るはずもなく、ミスズの通信音声だけが響いた。

 

 ライトの安否がわからない中、遂にミスズは張りつめていたものが弾け、心を折らせてしまう。

 

「私はっ……私は今回の戦いでっ、多くの部下を死なせてしまった……!!!ミリアルド……私はどうしたらいい??!」

 

「ミスズ……思い詰めなくていい。思い……詰めなくていい」

 

 ミリアルドは今こそ彼女に抱擁してあげたい気持ちになるが、MS越し故に言葉のみでしか慰めの方法はない。

 

 そんな中、別回線からトールギスに通信が入った。

 

「?!暗号回線?!!こんな時にどこからの通信だ?!!」

 

 誰かわからない回線に出た瞬間、ミリアルドは唖然となった。

 

「……お前は?!!」

 

「実に久しぶりだ。我が友人、ミリアルド」

 

「トレーズ……!!!」

 

 その通信者の正体は、現在ロームフェラ財団ルクセンブルク本部に幽閉されているトレーズ・クシュリナーダその人であった。

 

「幽閉されている場所が場所でね……財団側のサンクキングダム侵攻の報を聞いて私も憂いでいた。無事であることを有難く思う」

 

 トレーズのその言葉にミリアルドは今の状況上堪に触れる寸前に捉える。

 

「無事なものか……多くの部下が……戦死したのだっ……!!!」

 

「ミリアルド……あとでその彼らの名を教えてくれ……」

 

「何?!」

 

「私は、0095年にOZが表舞台に立った以降の争乱で戦死した犠牲者達の名を記録している……後世の世にその哀悼と尊さを伝えるためにな」

 

「トレーズ……」

 

「では本題に入ろう。単刀直入に言う。今からルクセンブルクに来たまえ。指定位置のデータを送る」

 

 それは余りにもの唐突過ぎる要求だった。

 

 スカンジナビア半島エリアからルクセンブルクまでもかなりの距離がある。

 

「トレーズ!!!急にそういわれてもこちらは簡単に動けん!!!そう……動けん……動くわけには、離れるわけにはいかんのだ!!!」

 

 ミリアルドは今は傷心のミスズの傍にいてやることが自身の懸命な行動と思っていた。

 

 故にトレーズの唐突な要求を呑むわけにはいかなかった。

 

「……言い方を変える。新しい力が欲しくないか?君のトールギスはいくら高性能機とはいえ、昨今のMDを大量に相手にした場合限界がある……恐らくは今回の一件でそれを感じたのではないかね?」

 

「っ……!!!」

 

 まさに図星であった。

 

 あのトールギスでも限界にきていることを痛感していた。

 

 現につい先ほどまで防戦一方に追い詰められていたことがミリアルドの脳裏を過り、痛感させる。

 

「君のトールギスは本当のプロトタイプ。近代改修が施されている私のⅢとは違う……」

 

「ああ……君の言うとおりだ……だがそれを認めたくない私もいる!!!」

 

「長きにわたり機体に愛着があるが故にだ。悪いことではない。だが、現状は……現実はそうはいかない。だからこそこれを期に託したいのだ。エピオンを」

 

「エピオン?!!」

 

 聞き慣れないワードを耳にしたミリアルドは思わずに食いつく。

 

「そうだ。私がこの時代に必要なMSとして秘密裏に開発させていた……最終的には君に託すべきMSとしていた。サンクキングダムからルクセンブルクの往復に半日もかからない性能を有している」

 

「了解した……そちらに向かおう」

 

「待っているぞ。そして今回の一件の私が把握している情報も提供する。財団はまだ攻撃を持続させる。今回のサンクキングダムに限定して、定期的に降下させる流れを作っているらしい」

 

「何?!!終わりはないというのか?!!」

 

 その遥か上空ではウィングガンダム・ゼロが高高度狙撃を繰り返す。

 

「……定期的に降下させるように仕組んでいるか……だが、潰すだけだ!!!」

 

 ヒイロは半ば単純作業になりつつある攻撃に動じることなく攻撃を続ける。

 

 連続で続くツインバスターライフル精密長距離攻撃に悉くMD輸送機部隊は撃沈させられていく。

 

 しかし仮に長時間に渡りこれが続けば、さすがのヒイロも疲弊していくのは火を見るも明らかであった。

 

 地上でも着陸を許した大量のMDと他のガンダム達が戦い続ける。

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルはビームランチャーの総攻撃を受けながらもアクティブクロークで防御しつつも、デュオ的なユーモアを含みつつバスターシールド・アローを撃ち込んでの各個撃破に務める。

 

 放たれる死神のビームの矢が、頭部や胸部を中心に突き刺さっていく。

 

 

 

 ディシュウイイイッッ、ディシュイイイッ、ディシュイイッッ、ディシュイッッ、ディシュイイイイ!!!

 

 ズディガアアアアンッ、ディガギャンッ、ドォズオオオッッ、ジュガオオオオッッ、ドォズガアアアア!!!

 

 

 

「ゴキブリみたいだな、色からしてこいつら!!!はいはい!!!地獄行きのチケットもってきな!!!けどいい加減チケット配るの飽きたからそろそろ派手に動かさせてもらうぜ!!!」

 

 バスターシールド・アローの攻撃を取りやめ、次のビームの矢が生成されたタイミングでデュオはフルブーストをかける。

 

 背部のブースターとそれに増設されたブースター4基を最大出力にさせて、アクティブクロークを前面に閉じたまま突貫した。

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルはビームランチャーを弾きながら、正面衝突ギリギリのタイミングでアクティブクロークを開いてシルヴァ・ビルゴを吹っ飛ばす。

 

 そしてその刹那にアームド・ツインビームサイズの二連刃を振るい、斬撃の無双を展開した。

 

 

 

 ザシュガアアアアアアアアアッッ!!! ジュギャギイイイイイッッ!!! ズヴァギャアアアアアアアアァァ!!! ギャジュゴオオオオオオオッッ!!! ザガギャアアアアアアアンッッ!!! ザズダアアアアアアアアアンッッッ!!! ジュガアアアアアアッッ……

 

 

 

 「やっぱり俺と相棒はこうでなくちゃなああああ!!!」

 

 そのデュオの勢いとノリの薙ぎ払いが、3機のシルヴァ・ビルゴの上半身を斬り飛ばした。

 

 

 ヴァヴァドォッヴォルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥ……!!!

 

 ドゥバアアアアアアアアアッ!!! ドォヴァアアアアアアッ!!! ドォヴァアアアアアアアアア!!!

 

 

 

 ダブルビームガトリングとブレストガトリング、バスターガトリングキャノンのガトリング攻撃とアームバスターカノンの高出力ビーム渦流の前面ゴリ押し攻勢のスタイルを崩すことなくガンダムヘビーアームズ改は攻撃をし続ける。

 

「攻撃させる隙を与えず、強力な火力を叩き込み続ける……!!!」

 

 

 

 ヴァヴァドォヴォルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥゥゥ……

 

 ヴィリリリリリ……ヴォウヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

 

 

 左側の射撃軸線上のシルヴァ・ビルゴの群れを砕き散らせながら、右側射撃軸線上のシルヴァ・ビルゴの群れをチャージされたアームバスターカノンのビーム渦流が一気に吹き飛ばした。

 

 

 

 ギュオオオオオオッッ……ディッッッガイイイイイイインッッ!!! ダッキィガアアアアアアアアアン、ダッキガアアアアアンッ!!! ディギャガアアアアアンッッ、ディギゴオオオオオンッッ、ザシュガアアアアアアアンッッ!!!

 

 

 

 前進加速と共に、華麗な剣捌きでバスターショーテルの斬撃を見舞いながらガンダムサンドロック改は駆け抜ける。

 

「直ぐに戦いを終わらせられるとは思っていない!!!はあああああああ!!!」

 

 

 

 ディディッガイイイイインッッ!!! ザザギギャアアアアアアアアアアアッッ、ゴッッ……ダダッギガアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!

 

 

 

 ガンダムサンドロック改は駆け抜けながら出くわすシルヴァ・ビルゴにお得意技のクロススラッシュからの十字斬りを、叩き落すような唐竹斬撃を浴びせる。

 

 そしてバスターショーテルをクロスさせ、その刃でフルブーストアタックを仕掛けに行った。

 

 

 

 バズダアアアアアアッ!!! バズダアッ、バズダアッ、バズダアアアアアアッッ!!! バズダアアアアアアッッ、バズダアアアッッ、バズダアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 空中の降下部隊を壊滅させたΞガンダムは低空飛行しながら上空からのビームバスターの射撃を撃ち込み続ける。

 

 有利なポイントから幾多のシルヴァ・ビルゴを狙い撃ち、機体を上半身を爆砕させていく。

 

「後は地上のこいつらか!!!ファンネルミサイルは市街地では運用しづらい!!武器はこいつ一択か、チャンスがあればショルダービームバスターだ!!!」

 

 

 

 バスダアアアアアッッ、バスダアッ、バズダアッ、バズダアッ、バズダアッ、バスダアアアアアアア!!!

 

 

 

 低上空からの射撃で敵機を撃ち貫き続ける中、マフティーはまだガンダムヘビーアームズ改の攻撃が及んでいない部隊を視認した。

 

「あいつらならば……!!!」

 

 Ξガンダムは旋回飛行をしながら進軍するシルヴァ・ビルゴの部隊をある程度ビームバスターで攻撃しながらの面前に降り立つ。

 

 そしてビームバスターと共に両フロント肩アーマー部を持ち上げ、ショルダービームバスター発射体勢に入る。

 

「駆逐させてもらう!!!」

 

 

 ヴィリリリリリ……ヴィズダダヴァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 放たれたショルダービームバスターは二軸線上に中規模のビーム渦流をはしらせて、シルヴァ・ビルゴを一掃すると同時に装甲を抉り貫いて破砕させていった。

 

 ミリアルドは闘い続けるガンダム達に敬意を表しながらモニター上の上空を見つめて、決断をミスズに言った。

 

「すまない。私は今からルクセンブルクにいく……」

 

「話は聞いていた。まさかあのトレーズだったとはな……気にするな、行ってこい……戻らなかったら、コロス」

 

「ふッ、穏やかな文言じゃないな……すまない、後はヒイロ達と協力してくれ!!!」

 

「……了解した」

 

 ミリアルドはトールギスを上昇させ、最大出力でルクセンブルクへと飛んだ。

 

「ぐううッッ……この加速Gは、久しぶりだッッ……!!!トールギスよ、最後の任務だ!!!お前の力の限り飛べ!!!」

 

 

 

 

 グリニッジ標準時刻を同じとする頃、地球圏に大きな歴史のうねりが起き始めていた。

 

 デルマイユ公の進言で発射を許可されたバルジⅡが遂にそのバルジ砲を地球に向けて撃ち放ったのだ。

 

 

 

 

 ギュグヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ

ォォォォォ…………ダガゴオオオオオオオオオオオッッッッ……ズズズズズグバゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 

 

 そのコロニーレーザー級の超巨大ビーム渦流が地上に着弾し、コロニー落としに引けを取らない、もしくはそれ以上のレベルの甚大かつ超大規模な被害を与える。

 

 当初は正確に撃ち込める保証がないとされていたが、その狙いは中華覇権派OZプライズの抗争エリアに見事に直撃させており、敵味方関係なく中華エリア各地で戦闘していたOZプライズと中華覇権派OZプライズ両陣営を巻き込んで消滅させていた。

 

 それと奇しくも同じようなことがL5でも巻き起こる。

 

 セディッチがリーブラをL5コロニー群エリアに向かわせる最中、急遽停止命令を下して移動を停止させていた。

 

「リーブラ砲、チャージ完了まで後、10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……エネルギー充填率、100%に到達しました!!!」

 

「チャージまで140分とは……なんて代物だ……まぁいい!!!」

 

「セディッチ特佐……いえ、ミスター・セディッチ。『月は輝き続けた』来ました!!!」

 

 意味深な言葉を聞いたセディッチは頷きながらリーブラ砲発射を命じた。

 

「リーブラ砲、発射せよ!!!」

 

「目標、L5コロニー群エリア・X-37564コロニー!!!リーブラ砲、発射!!!」

 

 

 

 

 ギュヴウィウィウィ………ヴィギゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!

 

 

 

 撃ち放たれたその巨光は、一直線にL5コロニー群・X-37564コロニーを目指して突き進み、OZ、OZプライズ、中華覇権派OZプライズの三陣営が入り乱れての戦場を突き抜ける。

 

 

 

 ……ォォォォォオオオオオオオオォォォォォォギュヴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 ドォドォドォドォドォババオオオオ、ゴゴゴオオオオオン、グバババババグワッ、ドォドォドォドォズズズズズズズズズズゴゴゴゴゴゴオオオオオオッッ!!!!

 

 

 

 戦闘中の三陣営のMS・MD部隊や艦隊を巻き込みながらリーブラ砲の巨光はコロニーへと直撃し、その巨大な筒を抉り吹き飛ばすかのように砕き散らせる。

 

 

 

 ズガドォヴァガガゴオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッッッッ!!!!

 

 

 

 本格的な戦略兵器としてバルジをも超えるスペックのリーブラ砲の威力は、ウィングガンダム・ゼロ暴走時のツインバスターライフルの被害を遥かに上回っていた。

 

 この戦場でそれを目撃することとなったディセットも脅威を覚えてならなかった。

 

「何だ?!!この巨光は?!!バルジのモノではない!!!ならばリーブラ砲……!!!だが……だが……だがッ!!!味方を巻き添えにしているではないか!!!誰だこんな指示をしたのはああああ?!!」

 

 ロッシェもまたその光景を目の当たりにし、脅威を覚える。

 

「なんだ?!!なにが……起こっている??!」

 

 だがこの光景を前にしてもガンダムヴァサーゴのシャギアは薄ら笑っていた。

 

「『彼ら』が動いた……か。これもまたブルーメンツの利益のためのシナリオか……」

 

 そして事態はそれだけに留まらず、MD月面基地全域においてクーデターが発生していたのだ。

 

 この工場にいたツバロフやドクターペルゲもその引き起こされたクーデターに乗じて既に殺害されており、瞳孔が開いたままの二人の躯が虚しく床に転がっていた。

 

 月面基地関係者のほとんどがクーデター実行員であり、OZが買収したアナハイムの工場でも同じクーデターが引き起っていた。

 

 それを指揮していたのはセディッチではなく、眼鏡をかけた白髪の初老の男だった。

 

「ミスター・カーンズ!!ミスター・セディッチより入電!!『てんびん座の光が成った』です!!!」

 

 カーンズという男は眼鏡をくいっと調整すると、彼らのクーデター軍すべてに通信を繋げた。

 

「同志諸君!!!この日までよく耐え抜いた!!!我々、宇宙革命闘士・ホワイトファングはこれよりアルテミス・レボリューションを発動する!!!」

 

 カーンズの指揮でホワイトファングによる一斉蜂起作戦・アルテミス・レボリューションが発動する。

 

 彼らの一斉蜂起以外にも現在宇宙で稼働中のMDのプログラムを乗っ取ることにも目的があった。

 

 リーブラには稼働中のMD全ての統制を取ることができる機関が在り、一瞬にしてハッキングした指定MDのあらゆるデータが統合されていく。

 

 厳密にその指定MDはシルヴァ・ビルゴ、サジタリウスβ、開発段階のシルヴァ・ビルゴⅡに絞って選定されており、各宙域で展開していたその種類のMD達は一斉にOZやOZプライズに対して攻撃を開始した。

 

 つい数秒前まで友軍機だったシルヴァ・ビルゴとサジタリウスβの二機種がビームランチャーとビームカノンを乱発し、プライズリーオーやプライズジェスタ、リゼル・トーラス、サジタリウスαに対して攻撃を仕掛け始めたのだ。

 

 有人機は何が起こったのか理解する猶予など与えられる余地などなく、殆どのパイロット達はパニックに陥ったまま一方的に駆逐される。

 

 MDに関しては味方認識故に何の抵抗もなくただ無機質に破壊され続けていった。

 

 無論、それはサンクキングダム攻撃任務で輸送中のシルヴァ・ビルゴも例外ではなく次々に輸送機を内部から破壊し始める。

 

「MDが勝手に起動しているだと?!!どうなってやがるんだ……ぐあああああああ?!!」

 

 輸送機内部からビームランチャーを放ちまくって内部破砕させるとシルヴァ・ビルゴ達が一斉に展開し始めた。

 

 しかしながらその部隊は大気圏に突入することなく宇宙へと飛び立っていく。

 

「……ホワイトファング……また新たな勢力か……」

 

 ヒイロは既にこの状況をゼロシステムにより認識しており、サンクキングダムに残った残りのシルヴァ・ビルゴの殲滅に専念した。

 

 降下したウィングガンダム・ゼロは二挺持ちのまま急降下し、市街地を滑空する。

 

 そして上空より低出力単発のツインバスターライフルの高出力ビームを交互に撃ち放ってシルヴァ・ビルゴ達を仕留め始める。

 

 低出力とはいえ、ビームマグナムクラスの攻撃力を誇り、敵機の装甲を簡単に吹き飛ばす。

 

 

 

 ダシュアアアアアアアアンッ、ダシュアアアアアアアアンッッ!!! ダシュアアアアアアアアンッ、ダシュアアアアアアアアンッ、ダシュアアアアンッ、ダシュアアアアアアアアンッ、ダシュアアアアアアアアンッ、ダシュアアアアアアアアンッ、ダシュアアアアアアアアンッ、ダシュドォオオオオオオオオオオッッ!!!

 

 

 

 ヒイロは連続で長距離精密射撃を行っていたが、疲労の色を見せることなくMD撃破に集中する。

 

 飛び交うビームランチャーもゼロシステムで完全に読み通し、容易く回避してツインバスターライフルを叩き込む。

 

 そんな中、気絶していたライトが意識を取り戻していた。

 

 ライトははっとなり、コントロールグリップを握る。

 

「俺としてことが……気絶していたとは……!!!く!!!」

 

 ライト機のリゼル・トーラスはなんとか瓦礫を押しのけ、自機を直立させる。

 

 だが、運悪くそこは大通りのT字路ポイントであり、前方にはシルヴァ・ビルゴの部隊が固まっていた。

 

「な?!!くそ!!!」

 

 ビームキャノンを浴びせようとするが、エネルギー切れで攻撃に叶わない。

 

 既にこちらに気づいた機体もいた。

 

 ライトは今度こそ絶体絶命かと思ったその時、そのシルヴァ・ビルゴにビームが降り注いだ。

 

 

 

 ディシュウウウウウウウウウッッッ……ヴァゴバアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 シルヴァ・ビルゴが一瞬で砕け散る。上空を見たライトの視線にはウィングガンダム・ゼロの姿があった。

 

 ウィングガンダム・ゼロは同じように低出力のツインバスターライフルをレフトアーム側の一挺のみで撃ち砕いていく。

 

 

 

 ディシュウウウウウウウウウッ!!! ディシュウウウウウウウウウッ!!! ディシュウウウウウウウウウッ!!!

 

 ゴバオオオオオッッ、グバガアアアアアアアッッ、ゴバズガアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 そしてウィングガンダム・ゼロはライトアーム側のツインバスターライフルをチャージし、絶妙な出力の所でエネルギーを開放する。

 

 

 

 ヴィリリリッヴィギュダアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアァァァァ―――ドォドォドォドォズズズズズズズズズズゴゴゴゴゴゴバババババッバババババオオオオオオッッ!!!!

 

 

 

 その放たれた高出力小規模のビーム渦流は扇状に手前から向こうへ射撃線軸を拡げ、大通り上のシルヴァ・ビルゴを一斉に駆逐破砕させた。

 

 絶大なるガンダムの力を目の当たりにしたライトはウィングガンダム・ゼロのその雄々しい姿を見上げ続けた。

 

「これが……ガンダムの力……ッ!!!」

 

 対するヒイロもまたゼロシステムにより、彼の情報が流れ込んできていた。

 

「このリゼル・トーラスに……俺の瓜二つが……だと……」

 

 見上げる者と見下ろす者……二人と2機はホバリングと立ち尽くしを解くことなく固まり続けた。

 

 そして、サンクキングダムを揺るがした侵攻はそれから間もなくして終息を迎えた。

 

 

 

 その後、ネェル・アーガマも到着し、戦闘を終えたガンダム達もまた市街地とサンクキングダム宮殿の間に降下・着陸、招集する。

 

 一応の戦闘終結が成り、ライトの無事も確認したミスズは戦闘終結の報をリリーナに伝えた。

 

「リリーナ様、戦闘は終息いたしました……しかし、今回の戦闘で多くの近衛兵達が犠牲になりました……!!!」

 

「そう……なの……ですね……ッ、ライトやお兄様は無事なんですか?!!」

 

「はい!!無事です!!!お兄様は今回の一件でトレーズ・クシュリナーダとの密会に向かわれました!!」

 

「トレーズ……?!」

 

「はい……今後の国防の為の密会です。そして一足早いメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムの介入行動があった為、戦闘は早期に終息させることができたんです。ですが念のため今しばらくサンクキングダム宮殿地下シェルターにてお待ちください」

 

 その報を受け取ったリリーナは国を代表して礼を述べた。

 

「彼らが……!!?わかりました。今から私からも通信を致します……」

 

「リリーナ様自ら?!了解しました!!」

 

 リリーナは国を代表しての立場からメテオ・ブレイクス・ヘルに対しての礼を述べ始める。

 

『メテオ・ブレイクス・ヘルのみなさん。今晩は。私は現サンクキングダム女王、リリーナ・ピースクラフトでございます。この度はロームフェラ財団の侵攻から国防協力して下さり、深く感謝申し上げます。以前からも私はあなた方のことは聞いておりました。もしよろしければ今後とも、我が国の国防にご協力をお願いを申し上げたいと思っております……』

 

 その通信はネェル・アーガマはもちろん、ヒイロ達やネェル・アーガマのMSドックにて待機していたマリーダ達にも流れていた。

 

 その通信に応えるべくケネスもその通信に応じる。

 

「こちら、ネェル・アーガマ艦長を務めている、メテオ・ブレイクス・ヘルのケネス・スレッグというものです。我々はサンクキングダムが今の時代に必要不可欠な国と感じ、我々が有する力がサンクキングダムの国防と抑止力に力添えさせていただくことができればと思いこの地まで赴いてまいりました。リリーナ女王陛下がそう望まれていらっしゃるならば我々喜んでご協力いたします!!」

 

 ケネスがそう述べると、リリーナは改めて安堵した表情で礼を改めた。

 

『よかった……改めてお礼申し上げます。完全平和主義を抱える国がこんなことを求めてしまうのが矛盾しているのも承知です。今は完全平和主義に向かうには遠回りするしかない時代ですから……』

 

 リリーナがメテオ・ブレイクス・ヘルを正式に迎え入れる形で事態は一応の終幕を迎えた。

 

 その一方では侵攻による戦闘の終結……当初はあり得なかったことが目の前で起こったドロシーは更に感激して自分の世界に入いり続けていた。

 

「戦闘を終結させた……信じられない!!!益々気似っちゃった☆きっとパイロットはイケメンに違いないんだわ!!!」

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 サンクキングダムを発ってから数時間……ゼクス駆るトールギスは、ロームフェラ財団・ルクセンブルク本部に到達した。

 

 だがそれに至るまでのルクセンブルク基地防衛ラインのシルヴァ・ビルゴ部隊の迎撃により、トールギスは墜落していた。

 

 辛うじて地底ポイント付近に墜落した様子だが、左側のハイパーブースターが破壊された様子が窺える。

 

 そして遂にミリアルドとトレーズは相対し、トレーズはエピオンをミリアルドに見せる。

 

 ガンダムエピオンを見上げるミリアルドに、トレーズは専用のメットインターフェイスを託す。

 

「このガンダムに乗って勝利者になってはならない」

 

 ミリアルドはガンダムエピオンのコックピットに身を投じ、機体を起動させる。

 

「ふっ……相変わらず意味が分からんな」

 

 メットインターフェイス内に映像やデータテロップが並ぶ。

 

「私がこの空間とエピオンのコックピットで導き出した故の言葉だ……その意味はいずれエピオンが示すだろう。そのガンダムは行く末を示してくれるガンダムでもあるのだ……」

 

「……行く末……まあいい……使わせてもらうぞ!!!」

 

 ガンダムエピオンの両眼が光り、ルクセンブルク基地の地下ゲートより舞い上がり、遂にその姿を世に見せた。

 

 ミリアルドが見るインターフェイスモニターに次々とターゲットがロック・オン状態となっていく。

 

 GNDエネルギーで熱を帯びたレフトアームのヒートロッドが、黒から金と銅の中間のような色にシフトした。

 

「さあ、エピオン……!!!私にその力を見せてくれ……!!!」

 

 ヒートロッドを振りかざしたガンダムエピオンは、ミリアルドの言葉に重い発行音を伴いながら眼を光らせる。

 

 

ウィングバインダーを展開させながらガンダムエピオンは基地で展開しているシルヴァ・ビルゴへと滑空して襲い掛かる。

 

 

 

 ギュウィイイイイイイイイイイイアァァ―――ッッッッッ!!!!

 

 ……ヴァズガアアアアアアアアッッッ!!! ズズガアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 ガンダムエピオンが超高速で駆け抜けた2機のシルヴァ・ビルゴの間では、刹那のタイミングでヒートロッドが振るわれており、シルヴァ・ビルゴを瞬時に切断・爆破させる。

 

 低空を超高速で飛びながら、ガンダムエピオンは立て続けにヒートロッドを振るい破壊していく。

 

 そのヒートロッドが振るわれる軌道は閃光に等しかった。

 

 

 

 ギュゥウィィィィィイイイイイイイイイイイアッッッ―――!!!!

 

 ズズグゴガアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 シュギュイイイイイイイイイィィィィィ―――ッッッッ!!!!

 

 ドォグガアアアアアアアアッッ!!! ゴバオオオオオオオオオオオッッ!!!

 

 ヒュギュウィイイイイイイイイッッッ―――!!!!

 

 ダギャガアアアアアアアッッ!!! ゴバギャラアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

 ガンダムエピオンが駆け抜けた後には躯しかない。

 

「……これがエピオン……!!!凄まじい性能だ!!!トールギスを遥かに凌駕している……!!!」

 

 ミリアルドは機体を上昇させながら旋回飛行し、基地施設内のシルヴァ・ビルゴを把握していく。

 

 脳内に直接流れ入る膨大な情報の波も同時にやってくる。

 

 それは時として形容し難いイメージの画像を過らせてくるのだ。

 

「……?!!この感覚は??!………ふッ、トレーズめ……」

 

 この機体にはゼロシステムと酷似したシステムエピオンが搭載されていたのである。

 

 ミリアルドは若干翻弄されながらも、驚異的に感覚に対応していく。

 

 彼もまた、ヒイロと五飛同様のシステムの適正者だった。

 

 ガンダムエピオンはメインウェポンであるハイパービームソードの刀身を発動させ、再び滑空する。

 

 

 

 ギュウィイイイイイイイイイイイアッッッ―――ザジュガガガガガガギャアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 ズズズズズズグワガァアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

 抜刀型斬り上げ軌道の斬撃で立て続けに6機のシルヴァ・ビルゴを屠ると、ガンダムエピオンは縦に上昇して再び上空から下降して1機のシルヴァ・ビルゴを真っ二つに破砕させる。

 

 

 

 ヒュゴアアアアァ……ギュイイイッッ、ザジュガアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 グワッゴバアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

 

 

 その爆発から飛び出したガンダムエピオンは、片っ端からシルヴァ・ビルゴを斬り刻みはじめ、連続斬りの無双乱舞を開始した。

 

 

 

 ザジュガアアアアアアアッッッ、ディギャガアアアアアアッッ、ザヴァギャアアアアアッッ、ジュゴオオオオオオッッ、ディッギャガアアアアアッッ、ザヴァシュウウウウッッ、ジュザギャアアアアアッッ、ジュギイイイイイイイッッ、ザガジュウウウウッッ、ガギギャアアアアアアアッッ、ジュズオオオォォッッッ、ザズヴァアアアアアンッッ、ジュギャオオオォォォォオッッ、デュギイイイイイイイッッ……!!!!

 

 

 

 左右上下の薙ぎ、斬り上げ、唐竹、時に突きを繰り出してのハイパービームソードの斬撃の乱舞は攻撃の間すら与えず、シルヴァ・ビルゴを壊滅に追い込んでいく。

 

 駆け抜けたガンダムエピオンの機体を止めたミリアルドは、ハイパービームソードの出力を最大に設定させ、その刀身を巨大化すると共に強烈な威力を誇る唐竹斬撃の一撃を見舞った。

 

「これで終わりだ……!!!!」

 

 

 

 ヒュウウウウウウウィイイイインッ……ヴィギュアアアアアアアアアアアァァァ……!!!!

 

 

 

「覇ぁああああああああああ!!!!」

 

 

 

 ギュヒュアアァッッ―――ディギジュゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!

 

 ディギャアアアアアアアアンッッ……グッガアアアアアア……ゴバガアアアアアアアンッッ、ヴァズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

 基地の地表諸共シルヴァ・ビルゴの部隊をバースト・ハイパービームソードの一撃で叩き斬る。

 

 いや、最早斬るというではなく消滅させているに等しかった。

 

 その強大なる出力の影響で斬り砕かれた地表にもエネルギーが暴れまわり、幾度かの爆発を起こし手最終的に地表面ごとシルヴァ・ビルゴを全滅させた。

 

 ルクセンブルク基地はガンダムエピオンによってわずかな間で壊滅した。

 

 燃え盛る炎に照らされ、ガンダムエピオンの目が輝く。

 

 ミリアルドもその炎を見続けていた。

 

「……」

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 戦闘が終わり、サンクキングダム側が受け入れてくれる状況となり、リリーナは歓迎とクリスマスの季節も兼ねて料理を振舞わせていた。

 

 無論、戦死者も出ているが為にどこか厳かな雰囲気でもあった。

 

 デュオやトロワ、カトル、マフティー達が皆で室内で一時を過ごす中、私服に着替えたヒイロとマリーダは聖夜の星々をベンチで座りながら見つめ続ける。

 

 その場所こそ先程までドロシーがいた公園であり、サンクキングダム宮殿の向かいであった。

 

 自ずと二人は無言のまま寄り添い合う。

 

 ライトとリリーナもこの時、暖炉があるリリーナの部屋で二人で時間を過ごしていた。

 

 どちらの二人も相思相愛ならば無言の空気ですら居心地がよかった。

 

 むしろサイレント・ナイトにもなっており、まさに聖夜にふさわしい雰囲気だった。

 

 すると、月明かりに照らされた街の夜景に視点をずらしながらマリーダは呟いた。

 

「ついさっきまであそこで戦闘が繰り広げられていたんだな……」

 

「あぁ。既に明日から復旧支援で俺達が動く。MSは元々作業用のマシンだ。かなり復旧の手助けができる」

 

「なら、私も参加させてもらう」

 

「マリーダも好きにすればいい……」

 

 そう言いながらヒイロは体勢を変え、一言も告げずにマリーダに膝枕をしてもらう体勢になった。

 

「ちょッ……ヒイロ……!!もう……甘えん坊か!!」

 

「……長時間長距離狙撃して疲れた」

 

 その一言に唖然を食らいながらもすぐに小さな笑いがこみ上げたマリーダは、ヒイロの頭を撫でると聖夜かつ静夜の星空を見上げた。

 

「……くすっ、お疲れ様っ」

 

「マリーダ……」

 

 ヒイロの頭を抱え込むような仕草で、マリーダはヒイロに覗き込むように答える。

 

「んー?」

 

「メリークリスマス……」

 

「あぁ、メリークリスマス……!!」

 

 サンクキングダムの心地いい冬の寒さの中、ヒイロとマリーダは二人の時間を過ごし続け、未だに地球圏の戦いは加速する一方であるが、今の時間だけは……と二人は時間を噛み締めていた……。

 

 

 

 コロニー側にホワイトファングという新たな勢力が現れた。

 

 それにより地球圏の対立の図式はOZプライズ対OZ対ホワイトファングという図式になり、時の歴史に更なる激震をもたらす。

 

 宇宙要塞バルジⅡ・バルジⅢ、そして超巨大宇宙戦艦リーブラという戦略兵器が同時に三つ同時に存在するという状況になっていた。

 

 サンクキングダムを取り巻く影響は正か負かがどちらに触れるか見当がつかない状況にあった。

 

 宇宙世紀0097末……地球圏はまた新たな局面を迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 To Be Next Third Operation

 

 

 





 クリスマスまでに間に合いませんでしたが、本日掲載致しました!!!

 今回の戦いはエンドレスワルツのブリュッセル戦(を勝つバージョンにして)をオマージュしました。

 コロナにかかり、その休みを逆手にとり、クリスマスギリギリまで書いてましたが、日が過ぎて燃え尽きとの闘いに突入……

 そして本日、やっとセカンド・オペレーションの話が終わりました!!!

 長年散々お待たせさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。


 今後も、サード・オペレーション(原作サンクキングダム攻防篇~イブウォー篇相当)執筆していきますのでよろしくお願いいたします!


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