中華を漂う雲 (鎌鼬)
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幕開け



(他の小説も終わってないのに新しく書きはじめるなんて) あたしってほんと馬鹿‥‥‥‥




 

地獄と、そう呼んで良いような光景がここにはあった。

 

 

黒い星空を木材で作られた粗末な民家を燃やす火が照らす。

 

 

地面には血溜まり、そして中にあった血を流し終えた骸が転がっている。

 

 

逃げようとしたのか誰もが背中に傷を負っており、その中の女性の骸は服が脱がされ、乱暴された上で殺されていた。

 

 

その原因は盗賊。

 

 

生きるため、貧困のため、娯楽のため、楽のため。

 

 

上げれば理由は数ほどあるが、自分の為に人を殺したという事実は同じだった。

 

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

死人しかいないはずのこの中で、何故か声が聞こえた。

 

 

とある民家の裏口、家主らしい男とその妻らしい女の骸が転がっているすぐそばから聞こえていた。

 

 

「ーーーーーーーーぁぁぁぁぁ!!苦しい!!」

 

 

年端もいかない、恐らく十にもなっていない歳の子供が、土の中から現れた。

 

 

土の中で空気がなかったのか顔は赤く、荒々しく息を吸って酸素を補充している。

 

 

「あ゛~空気がうめぇ‥‥‥‥で、やっぱり死んじまったか。俺の言ったとおり村捨てて逃げれば生きれたかもしれないのにな」

 

 

深呼吸を終えた少年が死んでいる男女に声をかけた。

 

 

口振りからして彼はやってくる盗賊の対処法として逃げることを申し出た様だ。

 

 

しかし、村がこうして燃えていて村人が死んでいることからその申し出は受け入れられなかった様だ。

 

 

「何が生まれ育った村を捨てられないだよ。死んじまったらそこまでじゃないか。どんなに生き恥晒そうとも生き残れば勝ち組なんだよ、死んだら負け組で汚名を雪ぐ機会すら与えられやしないのに」

 

 

言い方はキツいが少年の顔は死んでいる男女のことを悲しんでいる様だった。

 

 

「‥‥‥‥埋めてやりたいけど無理だな、ガキの腕で大人が入れるような穴掘るのは難しいし。行商人が来るのは早くても五日後、食料は根こそぎ持っていかれてるだろうしここにいるのは危ないな。盗賊が来ないとも限らないし」

 

 

子供らしからぬ考えを出した少年はまだ火が回りきっていない家を漁り、そこから小振りの短刀を見つけた。

 

 

そして死んでいる男女を仰向けにして手を組ませ、見開いている目を閉じさせた。

 

 

「‥‥‥‥ありがとうな親父、お袋。俺みたいな気持ち悪い奴をここまで育ててくれて。聞こえてるか分からないし、返事なんて返ってこないことは分かってるから一方的に言わせてもらうよ。生きる。生きて生きて、嫁さん貰って子供こさえて、爺になって未練悔い無しって笑いながら逝けるように生きる」

 

 

そう言って少年は男女に向かって黙祷を捧げ、それを終えると村の外に続く道を歩いていった。

 

 

「さしあたっては食い物と水だな。それにこの世を生きるには強くなくちゃならないようだし。まったく、人生ルナティックモード待った無しだな。嗚呼、世の中まったくもって理不尽不条理に溢れ帰ってやがる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは今は中国と呼ばれている国の遠い過去の世界、帝がこの国を納めていた時代。

 

 

後に三つに別れることになるこの国で、大人になった少年が理不尽と不条理と戦いながら生き残った英雄伝。

 

 

その始まりである。

 

 

 






主人公人生ルナティックモード突入待った無し。


次回からは時間をキンクリして15年後、原作で言うところの黄色い布巻いてヒャッハーしてらっしゃった黄巾の乱、それが起こる前の年辺りからスタートします。

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雲と盗賊

 

 

「ーーーーーーーーあぁ、まったくヤな夢見ちまったなぁおい」

 

 

目が覚めて眠気も完全に無くなっていたのでそのまま寝床から出る。首を回し、肩を回し、体の具合を確かめる。うん、悪くは無いな。

 

 

「あれから17年か‥‥‥‥ったく、別に固執してる訳じゃないのにあの時のことを未だに夢見るとか女々しいね。どっかの歪んだ正義の味方じゃないってぇの」

 

 

頭でも心でもあの時のことは仕方がないと割り切っている筈なのに一年置きで未だに夢見るのはどこかで納得していないからだろう。ズルズル引きずるつもりは無いのになぁ。

 

 

窓から外を見れば丁度日が昇り始めたところだった。この世界には時計なんて便利な物は無い。日が昇れば目を覚まして、日が沈めば眠るという分かりやすいサイクルが中心になっている。直に宿屋の人間も店を持っている人間も目を覚まして動き出すだろう。

 

 

「体動かしてスッキリして来るか」

 

 

壁に立て掛けてあった薙刀を手にとって宿屋から出る。こういうスッキリしない時には体を動かすに限る。

 

 

「今年で俺も27‥‥‥‥この世界に来て27年か‥‥‥‥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は極普通の学生だったと覚えている。多いわけではないが友人がいて馬鹿やったり、兄弟はおらず一人っ子、サラリーマンの父とパートで働いている母と一緒に日本で当たり前のように生活していた。

 

 

それがあるとき、気がついたら赤ん坊になっていた。ポルナレフみたいな台詞を吐きかけたが堪えて周りを見渡したら日本の我が家ではなく、平安時代辺りの農民なんか住んでそうな建物になっていた。

 

 

転生ーーーーーーーー俺がなんの脈絡もなく思い付いたのはその言葉だった。元は仏教の言葉だったような気がする。魂は生前の汚れを洗い流されて新しく生まれ変わるとかなんとか。

 

 

どこの二次小説だよと突っ込んだり、夢みたいだな~と思ったりしたが覚めることはなく、今の歳になるまでずっとそのままだった。

 

 

二次小説にあるように神様みたいな存在にあった覚えもないし、死んだ記憶も無い。悪魔召喚もしたことは無いし、怪しげな契約書にサインしたこともない。

 

 

何で俺がと生後一週間までは悩んでいたが、こうなってしまってはしょうがないと割り切ることにした。

 

 

そして10年間その村で過ごして居たが、盗賊に教われて村人全員死亡。この世界での両親が俺のことを穴に埋めてくれたお陰で俺だけが生き残った。

 

 

そこから17年が経って俺は大人になった。

 

 

「は~‥‥‥‥これくらいにしておくか」

 

 

宿屋の後ろにあったスペースで薙刀を振り回し続けること30分、大分スッキリしたのでそこで止めることにした。武に人生を捧げているッ!!!とか言う人ならこれくらいは準備運動にもならないだろうが俺にとってはこれで十分だ。

 

 

俺にとっての朝の運動というのは体に不調が無いかということを調べる行為に近いのだ。ここが動かしにくいとか、ここが痛いとかこの運動で把握しておけばこの後ですることに支障が出にくいから。

 

 

「ーーーーーーーーえぃっ!!」

 

 

後ろから幼い声と共になにかを投げつけられた気配が感じられた。振り替えって薙刀を振ればそこには大根があった。

 

 

「おーすげー!!」

「すごいよ雲雀さん!!」

「さっすがひばりん!!おれたちにできないことをへいぜんとやってのける!!」

「そこにしびれる!!」

「あこがれる!!」

 

 

大根を投げてくれたのはこの宿屋の近所に住んでいるだろう子供たち。何故か俺はこういう子供に懐かれる傾向がある。どうしてだ。

 

 

「ったく、食いもん粗末にするなよな。後ひばりん言うな」

 

 

薙刀で真っ二つになった大根に着いている土を適当に払い除けてかじる。溢れる水とシャキシャキとした歯ごたえからこの大根の良さが分かる。少し砂が口の中に入るがそんなことを気にしていたら生きていけなかったんで気にならない。

 

 

「雲雀さん雲雀さん!遊んで!!」

「あっ悪い、これから用事があるんで今日は無理だ」

「え~!!」

「明日なら遊んでやれるから我慢しなって」

 

 

残念がっている子供の頭を撫でて遊ぶことを約束してやると「ホント!?じゃあ明日ね~!!」と元気に走り去って行った。あの純粋さが大人になると眩しくってしょうがない。これも心が汚れているからだろうか?

 

 

「‥‥‥‥そういや何で大根持ってきたんだ?餌付けか?まぁいいや、朝飯代浮いたし」

 

 

子供から投げられた大根を葉の部分まで残さずに完食して、側にあった井戸で顔を洗う。

 

 

水面に映るのは色素が無くなってしまって白くなった髪と少しキツい目付きの男の顔。これが今の俺の顔だ。髪は元は茶色だったが思っていたよりもあの事が堪えていたらしくてしばらくしたら白くなっていた。強すぎるショックを受けると髪が白くなると前の世界では聞いたことがあるし、恐らくその類いなのだろう。

 

 

「ま、白は嫌いじゃないから良いんだけどね」

 

 

それよりも髭だ。髭が生えるのが遅いし薄い、てかまったく生えない。大人になったら無精髭とかダンディーな髭に密かに憧れていたというのにそれが叶いそうにも無いじゃないか。

 

 

この日も念入りに顔を触って確かめてみたが髭は生えてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿屋から必要最低限の物ーーーーーーーー薙刀と幾つかの隠し武器ーーーーーーーーを持って町の外に出る。そして思いっきり指笛を鳴らす。

 

 

「さて、どこから来る‥‥‥‥!!」

 

 

身構えて待っていると前から何かがこちらにやって来るのが見えた。

 

 

「前か!!距離も余裕があるしこれなぶぇ!?」

 

 

前から来るのばかりに注意が向いていたからか、横から来るのに気がつかずに押し倒されてしまった。ちらほらと見えていた商人の何人かが何事かとこちらを見ていたり、憲兵を呼ぼうとしていたがそれを抑える。

 

 

「あーごめんごめん。こいつら俺が飼ってる奴だから。な、雅?」

「ガウ♪」

 

 

横から飛びかかってきたのは全長3mはある巨体の虎だった。名前は雅。無事に生き延びることができてぶらぶらしていた頃に拾った虎だ。出会った頃は手乗りタイガーと言って良いほど小さくて可愛かったのだがスクスクと大きくなってくれました。ちなみにメスである。

 

 

「ん、待てよ。横から雅が来たってことは前のは‥‥‥‥」

「ガオ~♪」

「待て待て待って!!神楽さん!!今動けないから来られたぶぇ!?」

 

 

雅に捕まって逃げられないところに前から来た虎にのし掛かられた。めっちゃ重い。

 

 

前から来た虎は雅とほぼ同じくらいの体格の持ち主で名前は神楽。こいつも雅と一緒に拾ったので兄弟じゃないかと睨んでいるが真実は誰にも分からない。ちなみにオスである。

 

 

この二匹とは長い付き合いなので家族とも言えなくは無いが、流石に町に泊まるときには町の外で待ってもらっている。あと一人仲間がいるんだが‥‥‥‥まぁそいつの紹介はまたの機会にさせてもらおう。

 

 

「よしよし。雅、神楽、腹減ったか?今から鱈腹喰わせてやるから楽しみにしてろよ?」

「ガウ♪」

「ガオ~♪」

 

 

雅と神楽を引き連れて町から離れた場所にある森にへと向かう。一昨日に酒場でそこには盗賊が住み着いていて、商人が度々被害に合っているという話を聞いたからだ。人数が少人数な事から逃げ足が早く、この町は国境に近いことから異民族の襲撃に備えなければならないという理由で兵が出せず、懸賞金が出てるとのこと。

 

 

「さぁ、盗賊狩り(ワイルドハント)の始まりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーはぁ、はぁ、くそっ!!」

 

 

斧を手にした体格のいい私が首領です感満載の男が悪態をついた。そりゃあつきたくもなるだろうさ。始めは30はいたお仲間たちが今じゃ5人しか残ってないんだから。

 

 

「お、親分!!」

「黙ってろ!!お前たち離れるなよ!!一人になったら死ぬと思え!!」

 

 

首領です感満載の男の指示に従って盗賊たちが集まる。うん、間違っちゃないね。個々で討たれる危険を集めて回避するのは当たり前の事だ。

 

 

「グルルル」

「ガルルル」

「き、来た!!」

 

 

その盗賊たちの前から雅と神楽が現れる。口の周りにはベッタリと血が着いていて、それが恐怖心を煽らせる。

 

 

盗賊たちが雅と神楽に注意が向いた隙に横から飛び出して、首領です感満載の男を除く盗賊たちの首を薙刀で跳ねる。森の中で隠れるところは沢山、加えて盗賊たちの集まっていたところが開けていた場所だったので奇襲は成功、薙刀を振り抜くのも問題なかった。

 

 

「て、てんめぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

残った男が斧を振りかぶる、が遅すぎる。薙刀を男の頭の上に目掛けて一振り。目的は首ではなく斧を持った腕。遠心力によって威力の増した薙刀の刃は男の筋肉と骨を容易く切り裂く。

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?手!!手!!俺の手!!」

「はーい静かにしようね、盗賊さん?」

「ガフッ!?」

 

 

腕が無くなったことで騒ぎ立てている男の腹を蹴って強制的に黙らせる。体格が良いとは言ったけど筋肉じゃなくて脂肪の方が多い腹だな。

 

 

「君たちが今まで溜め込んだ物を集めてる場所があるだろ?吐け。嘘つくと次無くなるのは足だからな」

「こ、この先にある洞窟だ!!そこに盗って来た物全部集めてある!!だ、だから助けてくれ!!」

「え?ヤだ」

 

 

聞きたいことを聞き終えたので男の首を跳ねる。首を跳ねられたことを理解していないのか、唖然とした男の死に顔は笑いを誘う。

 

 

「自分がやりたいことやって死んだんだ、だったら潔く死ね。それが嫌だったそんな生き方するな。まぁ聞いちゃいないだろうけど。雅、神楽、食べて良いよ」

 

 

雅と神楽が男と盗賊たちの死体を食べ始める。この盗賊狩りの目的は雅と神楽の食料確保である。小さい頃なら良かったがこの大きさになると沢山食べる。だからこの二匹を食わせる為に盗賊を狩っている訳だ。それに序に盗賊の溜め込んでる物をちょろまかさしてもらって俺の飯にもなってもらっている。

 

 

男の首を持ってきていた皮袋の中に入れる。これで町の憲兵に見せればお偉いさんから懸賞金が貰える。

 

 

「雅、神楽、食べ終わったら俺の後追ってこいよ」

 

 

それだけ言い残して男が言っていた盗って来た物を集めているらしい洞窟へと向かう。

 

 

少人数とはいえ、懸賞金がかけられる程の盗賊が集めた物だ。多くはないと思うが気にならないと言えば嘘になる。

 

少しテンションが上がってしまったせいで、スキップをしながら洞窟へと向かってしまった。

 

 

 






主人公の名前が出てきましたがそれは普通の名前で真名じゃないです。真名の方に『雲』が使ってあるのでタイトル詐欺じゃないです。


主人公は強キャラ。盗賊程度なら瞬殺。勝つことを考えなければ体力の続く限り呂布とも打ち合える位です。


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雲と幼女と肝っ玉

 

 

「お、ここがそうかね?」

 

 

10分程歩いて男が言っていた洞窟らしきものを見つけた。縦は3m、横は4mくらいの大きさの入り口で奥が暗いことからそれなりに深いことが伺える。

 

 

「さーて、それじゃお宝を頂きましょうかね♪」

 

 

気分はルンルン、思わずスキップをしてしまう程にアゲアゲである。そうして洞窟の入り口に差し掛かった時ーーーーーーーー

 

 

「ッ!?臭っ!?めっさ臭っ!!!」

 

 

鼻に刺すような痛みが走った。思わず口元を腕で押さえて距離を取ってしまうほどである。こんなの前の世界でダチとふざけて買った世界一臭い缶詰めを学校の教室で開けたときに匹敵するぞ!?

 

 

※それは室内では開けてはいけない物です。そして言うまでもなく学校で開けてはいけない。

 

 

「服に臭いが移るか?‥‥‥‥嫌、虎穴入らずんば虎児獲られずとかいうしな‥‥‥‥クソッ、掃除くらいしとけよなまったく‥‥‥‥」

 

 

仕方ないので持っていた布切れで鼻と口を被うように巻いて即席のマスクを作る。恐る恐る近づけば臭いのには変わり無いがそれでも少し和らいだ気がする。

 

 

「雅と神楽が入ってきたら発狂もんだぞ畜生め」

 

 

何時までもうだうだしていてもしょうがないので洞窟内に入る。中には脱ぎ捨てられた服や食べ残しらしき物に酒瓶からキノコやカビが生えていて放置されている。片付けろよおい、偶々この洞窟見つけて暫くしたら移動するつもりだったかもしれないけどよくこんなところで暮らせたな。

 

 

「‥‥‥‥グズン」

「ん?」

 

 

何か音が聞こえたので薙刀を構えつつ、枝分かれした横道の内の一つを覗き込む。するとそこには少女が縄で縛られて転がされていた。

 

 

「おい、大丈夫か?」

「グズン‥‥臭いよ‥‥‥」

「それには俺も同意だよ」

 

 

第一声からして平気そうだったので縄を短刀で切って少女を自由にする。

 

 

「嬢ちゃん、どうしてここに?」

「お父さんと一緒に木の実とかキノコを取りに来たの‥‥‥‥そしたらあいつらが‥‥‥‥」

「あーうん、もういいから」

 

 

たぶんこの娘の父親はあいつらに殺されたんだろう、でこの娘を拐ってきたと。ロリコンかよ、yesロリータnoタッチという格言を知らないのか。

 

 

「立てるか?お兄さんが近くの町まで連れていってやるからな」

「待って、お姉ちゃんが」

「お姉ちゃん?」

「うん、お父さんがあいつらに殺されてからお姉ちゃんが助けに来てくれたの。でも私があいつらに捕まって‥‥‥‥」

「それでその人も捕まったと。分かった、じゃあ探そうか。その前に自己紹介だ。俺は雲雀っていうんだ、好きに呼んでくれ」

「‥‥‥‥司馬懿仲達」

「しば‥‥‥‥ファ!?」

 

 

少女の、司馬懿という名前を聞いて奇声をあげてしまった俺をどうか許してほしい。だってこの娘の名前が予想外過ぎたんだもの。

 

 

司馬懿仲達、それは確か三国志に登場する魏という国に仕えていた軍師の名前だったはずだ。無双ゲーでしか三国志を知らないにわかではあるが流石に有名どころは知っている。確か諸葛亮とライバルみたいな立ち位置の天才軍師だったはず。扇ブン回してビーム出すんでしょ?

 

 

その司馬懿がロリコンが垂涎しそうな幼女だったとは‥‥‥‥まさしく小説は奇なり?真実は奇なり?だな。

 

 

「‥‥?どうしたの?」

「いいや、よくわからない電波を受信してな‥‥‥‥そんなことはおいといて、そのお姉ちゃん探しにいこうか」

「‥‥‥‥うん」

 

 

司馬懿に着いている泥を払ってやってから、手を引いて洞窟の奥に進む。司馬懿はこの洞窟の刺激臭に慣れたのか、臭いについての文句は一言も言わなかった。

 

 

そうして洞窟の一番奥まで進んでいくと、そこには木でできた粗末な檻があって、その中には一人の女性が縛られていた。盗賊たちの趣味なのか胸を強調するように縛られた女性は自分が犯されるかもしれない状態だというのになんと寝ていた。

 

 

「緊縛状態で寝てるとは‥‥‥‥難易度高ぇなぁおい」

「‥‥‥この人」

「ホントか?」

「‥‥‥間違いない」

「それなら助けてやらないとな」

 

 

そう言いながら木の檻を蹴る。本格的に作られた物なら兎も角、適当に作られた物なら蹴るだけで壊れる。その考え通りに檻はバキィといい音を立てながら壊れてくれた。

 

 

そしてその音を聞いて眠っていた女性も目を覚ます。辺りを見渡して俺に視線を向けた女性は自虐的な笑みを浮かべた。

 

 

「そうか、私のことを犯すのだな‥‥‥‥覚悟はしていたがよもや始めてがこの様な悪臭漂う場所でとはな」

「何勘違いしてるのかな?俺、お前犯さない。俺、お前助ける」

「‥‥‥‥それは本当か?」

「俺、嘘つかない」

「そんなふざけた話し方をされても信じられないのだがな」

 

 

ふざけ過ぎたな、反省反省。そう思いながら女性に近づき、縄を短刀で切ってやる。拘束が無くなった女性は確かめるように体を動かして伸びをして、俺の方を向いて頭を下げてきた。

 

 

「感謝しますぞ。あのまま盗賊たちに私の純潔が奪われる物だと覚悟しましたからな」

「間に合って良かったよ。いや、間に合って無いのかな?」

 

 

女性から視線を外して俺が向いたのは父親を殺された司馬懿の方。目の前で父親が殺されたというのは結構来るものがあるのだか‥‥‥‥司馬懿は思っていたよりも平然としていた。

 

 

「‥‥‥‥どうしたの?」

「お父さん殺されて悲しくないのか?」

「‥‥‥‥あいつは最低の親。いつも私のことを殴ってた。血の繋がりのあるだけの他人。死んでくれて清々した」

「あらあら思ったよりも重たい家庭事情だこと」

 

 

それならショックは受けないよな。考えてみれば司馬懿が泣いてた原因はここが臭いからって理由だったし。

 

 

「貴方はなぜこの様な場所に?」

「盗賊の首狩り。懸賞金と盗賊の溜め込んだ物を狙ってたの。ところでお名前は?俺は雲雀だ」

「これはこれは申し遅れました。私は趙子龍と申します」

「趙、子龍?」

「?いかがなされた?」

 

 

趙子龍ったらあれだよね!!蜀に仕えてた趙雲のことだよね!?確か劉備に「趙雲まじすげーわ、お前肝っ玉で出来てんじゃねぇの?」とか言われてた趙雲だよね!?めっちゃ有名人じゃん!!なんでこんなとこにいるの!?そういえばまだ蜀が出来てませんでしたね!!

 

 

「‥‥‥‥何でもないっす。で、子龍はどうしてここに?」

「お待ちを、私のことはどうか星とお呼びください」

「それって真名だろ?初対面の男に気軽に渡していいのかよ」

 

 

この世界には真名とかいう別の呼び名がある。それはその人が認めた人間や親しい者が呼ぶことが出来て、許可なく呼んでしまえば首を跳ねられても文句を言えないほどに神聖な物なのだ。ってか首跳ねられたら文句も言えないよね。

 

 

それをこの趙雲は俺に呼んでもいいと言ってきたのだ。疑問に思わない方がおかしい。

 

 

「雲雀殿が居なければ私は盗賊共に純潔を奪われておりました。であるなら、我が真名を預けるのが礼儀という物です」

「‥‥‥‥俺の真名は預けないけどいいか?」

「無論ですとも」

「あーはいはい、分かりましたよ。んじゃ、趙雲の真名預からせてもらうぜ、星」

「はい、雲雀殿」

 

 

大切な物だっていうのにポンポン気軽に預けて来るから対応に困るんだよな‥‥‥‥面倒さ。

 

 

「俺は盗賊の集めた物漁りに行くけど星はどうする?」

「御一緒させてもらいます。私の荷物もそこにあるやも知れませぬので」

「ヘイヘイ、んじゃ行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思っていたよりも溜め込んでいたので俺の懐具合がホクホクな件について」

「‥‥‥大漁」

「いやいや、私の荷物も無事で良かったです」

 

 

盗賊の集めた物を三人で漁って、持ち出せそうな物だけを持って洞窟から出る。刺激臭漂う洞窟にいたせいで嗅覚はボロボロだがそれでも外の空気が美味いこと美味いこと。

 

 

「俺は司馬懿を町に連れていくけど、星はここで別れるか?」

「迷惑でなければ御一緒させてもらいたいが」

「ん、いいよ」

 

 

右手でわっかを作って了解の意を示すと目の前の草むらから口の周りを真っ赤に染めた雅と神楽が現れた。どうやら食事を終えたみたいだな。

 

 

「虎!?雲雀殿お下がりください!!」

「警戒しなくていいぞ。こいつらは俺の連れだから」

「‥‥‥」キラキラ

 

 

星は現れた雅と神楽を警戒して槍を構え、司馬懿は雅と神楽を見て何故か目をキラキラ輝かせている。何て言うか‥‥‥‥反応が両極端だな。

 

 

「お帰り。腹一杯になったか?」

「ガ‥‥ウッ!?」

「ガ‥‥オッ!?」

 

 

俺に近づこうとした雅と神楽だが、一歩歩いた瞬間に動きを止めて前足で鼻を押さえた。

 

 

‥‥‥‥‥‥‥‥どうやら危惧していた刺激臭が俺に移ったようだ。

 

 

「‥‥‥‥水場を探そう。どうやら俺たちは臭いらしいからな」

「確かに、乙女のたしなみとして臭いのは少々辛い物がありますからな」

「‥‥‥意義なし」

 

 

この後池を見つけて、服を着たままダイブした俺を誰が責められようか。

 

 

 






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雲とこれから

 

 

「あ~やっと着いた」

 

 

洞窟から持ってきた物を置いて肩を回す。と、その時ググゥと腹の虫が鳴く音が聞こえてきた。見てみれば司馬懿がお腹を押さえている。

 

 

「まずは飯にするか。星、そこの通りを真っ直ぐ行ったところに【泰山】って料理屋があるからそこで待っててくれ。俺はこれを金に換えてくるから」

「分かりました。それでは司馬懿、行こうか」

「‥‥‥またね」

 

 

盗賊の頭の首の入った皮袋を掲げて見せると星は司馬懿を引き連れて通りの奥にへと進んでいった。別れるときに司馬懿が手を振ってくれたのでそれに手を振り返してこの町の太守が住む城に向かう。

 

 

衛兵に盗賊のことを伝え、その証拠の首を見せると何故か太守に会わされた。太守は小肥りの人の良さそうな男で、太守自ら感謝の言葉と懸賞金を手渡しし、俺に自分のところで仕えてみないかと誘ってきた。

 

 

しかし俺にはそれを受ける理由も無く、仕えたいと思えるような人物ではなかったので適当に断っておいた。太守はそれを聞いて悲しそうな顔をしていたがしょうがないと言って、気が変わったら何時でも言ってくれと言ってこの会談は終わった。

 

 

ってか、気がついたら凄いことしたよな俺って。太守って言ったら元の世界で言うところの県知事クラスの人間、それに頭を下げさせるとか優越感半端無いです。

 

 

まぁ変わったところと言えばそれだけ。貰った懸賞金を片手に星と司馬懿の待つ【泰山】に向かう。

 

 

見えてきたのは少し派手な装飾の施されている料理屋、看板にはデカデカとした文字で【泰山】と書かれている。横浜にある中華街の店がこんな感じだろう、まるで中国っぽい雰囲気で良いんじゃないかと軽く考えたデザイナーが作った店だな。

 

 

扉を潜ると聞こえてくるのは罵声歓声。掻き入れ時だろう昼を過ぎてこの盛況っぷりは凄いと思うのだが何でこんなに騒いでいるのか、

 

 

店の一角に出来ている人だかりを興味本位で覗いてみる。するとそこには盃に並々と注がれた酒を飲んでいる衛兵らしき男の姿と星の姿が見えた。

 

 

「嬢ちゃん頑張れよ!!」

「ゴラァてめぇ!!負けてんじゃねえぞ!!」

「てめぇに幾ら賭けたと思ってんだ!!」

「ふぅ‥‥なかなかやるな。そんなに飛ばして大丈夫か?俺はまだまだ余裕だが?」

「貴方こそ良い飲みっぷりですな。私もまだ行けますが?」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「「店主!!樽ごと持ってこい!!!」」

 

 

何だ、ただの飲み比べか。別段珍しい物でも無いのでそのまま放置しておくことにする。

 

 

「‥‥‥お帰り」

「ん、ただいま」

 

 

飲み比べ会場から少し離れた場所で司馬懿がモシャモシャと炒飯を頬張っていたのでその席に座り、やって来た給仕さんに白飯と青椒肉絲と酒を頼む。

 

 

「ここの飯は美味いだろ?」

「‥‥‥味がする食べ物は久しぶり」

「思いの外過酷な環境だったみたいだな。お兄さん目から汗が出てきちゃう。我慢しなくて良いし、誰も横取りしないからゆっくり沢山食べなさい」

「‥‥‥ん」

 

 

樽にダイレクトに口を着けて飲むという離れ業を披露している二人をボケェっと眺めながら待っていると頼んでいた物が来た。青椒肉絲を口に入れて白飯をかっ込んで飲み込む。考えてみれば朝に食ったものが大根一本だったから今日食べるマトモな物だな。青椒肉絲が半分くらい余ったところで白飯が無くなるが、後は残った青椒肉絲を肴に酒を楽しむつもりなのでこれでいい。

 

 

「あ~酒うめ~‥‥‥‥んで司馬懿ちゃんよう。お前はこれからどうするつもりだい?行く宛が無いならこの町にある孤児院紹介してやるが?」

「‥‥‥この国を見てみたい。どんな風になってるか、この眼で確かめたい」

「ふーん、まぁ良いんじゃないの?人の人生は人それぞれだし、一度しか無い物だから楽しんだ者勝ちだよって人生の先輩である俺は言ってやろう」

「‥‥‥貴方に着いていっても良い?」

「そうしたいなら拒まないよ。着いてこれるならだけど」

「‥‥‥いざとなったら雅と神楽に乗せてもらう」

「あらやだこの娘ったら強か」

 

 

二つ目の樽に突入した二人を眺めながら司馬懿の今後を決めていると酒が無くなったので給仕さん呼んで酒とついでに司馬懿用に幾つか甘味を頼んでおく。

 

 

「む、何やら楽しそうなことになっているな」

「よぉ遊利か、久しぶり」

「久しいな、八雲」

 

 

酒を楽しんでいると垂れ目で髭を生やした男がやって来た‥‥‥‥いいな、髭。

 

 

「ところで八雲、この娘は誰だ?遂に幼女趣味に走ったか?」

「キレちまったぜ‥‥!!表出ろや‥‥‥‥!!」

「ふっ、相変わらず手の早い奴だな。考えてみろ、この俺が殴り合いでお前に勝てるわけ無いだろうが!!」

「胸張って言えることかよ‥‥‥‥こいつは司馬懿。盗賊に虐待してきた親殺されて天涯孤独になった幼女だ」

「‥‥‥よろ」

「軽い口調で重たいこと語るよなお前‥‥‥‥!!俺の名前は李儒、字は無いからそう呼んでくれ」

 

 

片手で杏仁豆腐をつつき、片手でピースを決めている幼女と髭生やした男の絵面‥‥‥‥衛兵さん、こっちです。

 

 

「言っとくが八雲と司馬懿の絵面も相当危ないからな」

「こいつ、俺の考えを‥‥‥‥!?」

「お前が考えてることなど何となく分かる。どれくらいの付き合いになると思ってるんだ?」

「10年かそこらだろ?気がついたらそこそこに長い付き合いになってるよな」

 

 

俺に向かい合う席に李儒、真名遊利が座る。そうなると司馬懿と遊利が隣り合うような形になるのだが‥‥‥‥司馬懿は杏仁豆腐を持って俺の隣に移動してきた。

 

 

「‥‥‥‥嫌われたか?」

「警戒してるだけだろ」

「?」

「ちょい待て、口の周りが汚れてるぞ。動くな」

 

 

懐から布を出して司馬懿の口の周りを拭ってやる。司馬懿は嫌そうに逃げようとしていたが無理矢理拭わせてもらおう。

 

 

「‥‥‥‥そうしていると親子か兄妹みたいに見えるな」

「‥‥‥お父さん?お兄ちゃん?」

「待とうか、まだ子供作ってないのに父親呼びされるのは正直辛い。兄でいいだろ‥‥‥‥で遊利さんや、なんか面白い話は聞けたか?」

「あぁ、商人から聞いたんだが特別に面白そうな話を持ってきたぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「張三姉妹って聞いたことがあるか?」

 

 

給仕さんに運ばれてきた酒で喉を潤しながら遊利はそう切り出した。その名前なら聞いたことはある。

 

 

「確か旅芸者だろ?いろんなところを渡り歩いて歌って踊ってる奴らだよな?」

「そうそう。で、旅商人から聞いた話ってのはこの間近くの町でその三姉妹が歌ってたんだと」

「それだけか?」

「話はここからだ。張三姉妹が歌い終わった後で悪ふざけなのか本気なのかは知らないが『この国が欲しい』って言ったらしいぞ」

「‥‥‥‥あ、成る程。そう言うことか。確かにそれは面白そうな話だ」

「だろう?」

「‥‥‥?どういうこと?」

 

 

司馬懿は遊利が言いたいことを理解できていないようだ。張三姉妹のことを知っているのなら分かりそうなのだが司馬懿は知らないらしい。まぁ父親から虐待されていたなら知らなくても当然かもしれないけど。

 

 

「張三姉妹ってのは人気の旅芸者でな、容姿は良いし歌も上手いらしい。それらに惹かれて追っかけをする奴らが沢山いるんだよ。それこそ、自分の仕事を放り投げて三姉妹に着いていく程にな。そこで質問だ、そんな追っかけ達が三姉妹の冗談かもしれないこの国が欲しいと言う言葉を聞いた。どうなると思う?」

「‥‥‥本気にして、国を取ろうとする?」

「正解だ。おい八雲、この子供見かけによらず賢いな」

「凄いだろ?」

 

 

司馬懿だから頭の回転が早いと分かっている俺でも僅かなヒントからその答えを持ってきた司馬懿は凄いと思う。現代風で言うなら張三姉妹はアイドル、追っかけは過激なファンだな。ファンはアイドルに気に入られようと色々と貢ぐ。金やら花やら物やら。そのアイドルが国が欲しいと言ったなら過激なファンたちは本気で国を取ろうとするだろう。

 

 

「三姉妹は旅芸者をしていた、それはつまり各地に追っかけかもしくはそれに近い奴らがいると言うことだ。そいつらがその発言を聞いたらどうなると思う?分かりきったことだ、各地で暴徒となる」

「んで、それに山賊盗賊たちが便乗して大事に早変わりだ。多分万は越える人数が集まるだろうな」

「‥‥‥でも、漢王朝が動く」

「動いたとしても今の王朝にそれを治めるだけの力は無いさ。上は悪巧みに大忙し、下は異民族の侵略の対処に眼が回る。きっと最初は小さな盗賊の仕業だと断言するだろう。そして連中が大きくなりだした頃に気づいて手遅れになる」

「半年か、遅くて1年ってところだな。そして王朝は各地の有力者たちに命令を下すだろうよ。それで、力のあるやつは気がつく、『今の王朝にこの国を治めるだけの力は残っていない』とな。そうなれば帝を立てるなりなんなりして群雄割拠の戦乱の始まりだ」

「分かるか司馬懿、これは始まりに過ぎない。今の国が無くなり、新しい時代の幕開けの始まりにな」

「ーーーーーーー」

 

 

司馬懿は言葉を無くしていた。それはそうだろう、ただの旅芸者の話から国が無くなる話になるなんて誰が想像できるか。それに張三姉妹と聞いて俺に思い当たる人物が一人だけいる。

 

 

張角、宗教集団を指揮して王朝を滅ぼそうとした人物だっけ?確か『蒼天既に死す、黄巾立つべし』とか言ってたような気がする。それで王朝は黄巾を賊と見なして軍隊を作って、三国志で有名な劉備、曹操、孫堅が出てくる訳だ。

 

 

それにしても、俺には前の世界の前知識があるからだが遊利の推察力には脱帽物だ。まさか俺と同じ考えにまで辿り着くとは。

 

 

「でだ、俺としてはどこかの権力者に身を寄せた方がいいと思うが八雲はどう思う?」

「同感だ。いきなり仕官じゃなくて客将という手もあるし、こっちが気に入ってあっちも気に入ればそのまま仕えるってのありだ。俺は武官として入ればいいし、遊利は文官だな」

「当たり前だ、俺は自慢じゃないが切った張ったの荒事は苦手だし武の才も欠片も無いからな!!」

「‥‥‥それは胸を張って言うことじゃない」

「ま、取りあえずはあれだな。一生物になるかもしれないし、時間はまだあるんだ。ゆっくりこれからの身の振り方を考えていこうじゃないか」

 

 

酒を盃に注いでそれを一気に飲み干す。変な世界に連れられてきたがこの事実は変えられないし、元の世界に戻ることも出来ない。なら今を楽しむ。詰まらないことだろうが悲しいことだろうが、その一切をすべて楽しむ。

 

 

「まずは、そうだな」

 

 

樽4つを飲み干してダブルノックダウンしている星と衛兵の姿を見て楽しむとしようか。

 

 

 



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