幻想警察録~Unit-6 Operation~ (SOCOMレオン)
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新人刑事着任

初めましての方は初めまして。いつも「東方軍事組織」を読んでくださっている方はいつもありがとうございます、作者のSOCOMレオンです

さて、前々から書いてみたかった警察物の小説をメイン小説の番外編として書くことができて嬉しい限りです

前書きはこの辺りで、相変わらずつまらない小説かと思いますが、それでも時間潰しになっていただければ幸いです

それでは、ごゆっくりどうぞ


ある日、幻想郷の都市部で覆面パトロールカーを走らせている二人の婦人警察官が居た

 

 

そのうち、一人の婦人警察官は助手席で虫が鳴っている腹を押さえて運転席に座っている相方に視線を送っていた

 

 

「ねぇパルっち~、ご飯食べに行こーよ~。お腹すいちゃったよぉ」

 

 

「パルっち言うな。それにパトロールなうよ」

 

 

相方の水橋パルスィは彼女の食事のお誘いを丁重にお断りし、再び運転に集中し始める

 

 

「休憩も必要だよぉ。パルっちはこんなに可愛くてか弱いお姉さんが弱っているのに助けてくれないの・・・?」

 

 

「柔道黒帯、空手2段の元FBI捜査官のどこがか弱いのかしら?それと、パルっち言うな」

 

 

「むぅ・・・・どうしてパルっちは冷たいの?私の相方なのに・・・」

 

 

しばらく、パルスィの相方のリサ・オルティースは黙り混むが、遂にハッとした顔つきになる

 

 

「そっか!パルっちもお腹減ってるんだね!?そうでしょ!そうなんでしょ!」

 

 

「減ってない!!ちゃんと朝御飯食べたわよ!!」

 

 

見事にリサの推理は外れてしまい、パルスィは怒鳴り声で返してしまう。あまりにしつこいので少し怒らせてしまったのかもしれない、とリサは感じていた

 

 

「・・・・そっか、パルっちはおっぱいがちっちゃいからおっぱいが大きい私に嫉妬してるんだね!?」

 

 

リサがそう言った途端、パルスィは覆面パトカーを道路の端に寄せ、路地裏に止める

 

 

「・・・リサ、貴女そこまで言うってことは・・溜まってるんでしょ?性欲」

 

 

パルスィはそう言うと、シートベルトを外して助手席のリサの膝に座り、助手席のリクライニングシートを倒すと同時にリサを押し倒す

 

 

「ぱ、パルっちダメだよ・・こんなところで・・・」

 

 

「心配しなくても大丈夫よ。ここはあまり人も来ないし、いつもしてあげてるみたいにやさしーくしてあげるから」

 

 

パルスィはニヤニヤしながら、恥じらいで顔を赤くしているリサの胸へと手を伸ばそうとするが、その瞬間にパトカーの無線機が事件を知らせる

 

 

【此方本部、第3地区西部の路地にて男性が喧嘩していると通報有り。付近の警察官は現場に急行せよ】

 

 

「ほ、ほら・・・事件、だよ?こ、この近くだよ?」

 

 

「・・・・ちっ、腹立たしいタイミングね」

 

 

不満そうな表情のパルスィに対して、リサはホッとした表情になっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は事件現場へと向かうと、一人の男が地面に倒れているチンピラと思われる男の顔面をひたすら殴り続けていた

 

 

パルスィとリサはパトカーから降りると、男に声をかける

 

 

「警察だ!直ちに暴力行為をやめてその人から離れなさい!」

 

 

パルスィの警告に、男は血まみれになった右手を止めて二人の方を見る

 

 

「・・・・・・ちっ」

 

男は渋々といった具合にチンピラ風の男から離れると、リサが地面に倒れている男へと向かう

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

男の前歯はほとんど折れ、鼻からも出血していた。おそらく、鼻の骨も折れたのだろう

 

 

「本部!救急車一台回してください!」

 

 

【了解した。すぐに向かわせる】

 

 

その頃、加害者の男はパルスィに事情聴取を受けていた

 

 

「名前と職業は?」

 

 

「箕輪和人。おたくらと同業」

 

 

「・・・私、貴方を職場で見たことないんだけど」

 

 

「元は警ら課の制服警官だったんでね。ほとんど外勤さ」

 

 

「・・・本部、加害者の男のデータがあるか調べて。名前は箕輪和人」

 

 

【了解】

 

 

「・・・・はぁ」

 

 

パルスィはため息を吐き、リサの方に視線を向ける。到着した救急車から降りてきた救急隊員に事情を説明しているようだ

 

 

パルスィがリサの方を見ていると、本部から無線が届く

 

 

【確認作業完了した。データに該当あり。警ら課を出て今日からユニット6刑事課に配属されるようだ】

 

 

「・・・・うちの部署じゃない」

 

 

【警察学校のデータによるとそれほどのレベルだ。むしろ何で今まで刑事じゃなかったのか気になるくらいにな。通信終わり】

 

 

「はぁ~・・・・」

 

パルスィは大きなため息を吐き、今度は和人と名乗った男の方を見る

 

 

「貴方ね、警察官ならなんであんなことしたの?」

 

 

「あの男がそこにいるお嬢さんに絡んでたんで、やめるように言ったら肩を押された」

 

 

「・・・・はぁ~。あのねぇ、腹が立つのは分かるけど顔面殴っちゃダメよ」

 

 

「警ら課の頃は鬱陶しい上司に抑圧されてたんですよ。日頃の鬱憤がつい、ね」

 

 

「・・・全く」

 

 

パルスィが呆れたような顔をしていると、リサが自分の方に駆け寄ってくる

 

 

「パルっち~、その人逮捕?」

 

 

「・・・一応過剰防衛で取り調べを受けさせるわ。同業らしいし。あとパルっち言うな」

 

「え?その人警官?」

 

 

「ええ。今日から刑事課に来るらしいけどね。ホラ、帰るわよ」

 

 

パルスィは運転席に、リサは和人を後部座席に乗せてから自らも後部座席に乗り込み、それを確認したパルスィはパトカーを走らせる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本社についてから、和人は直ぐ様取調室に連れていかれるが、待機室では空腹の乙女が美味しそうにドーナツを食べていたのだが、そのとなりではパルスィが報告書を纏めていた

 

 

「・・・これでよしっ、と」

 

 

パルスィは尋問で席を外しているさとりの机の上に置く。すると、パルスィを気遣ってかコーヒーを飲むヤマメが声をかける

 

 

「大変だったみたいだな。色々と」

 

 

「ええそうよ。今日から来る新人が事件起こすわ、隣でドーナツ頬張ってる胸でか女が誘ってくるわで・・・」

 

 

「あー!ひどぉい!これでも標準的なおっぱいなんだよ!?パルっちがちっちゃすぎるだけ・・・」

 

 

すると、リサの頭にパルスィの拳骨が降り下ろされ、リサは頭を抱えて悶絶する

 

 

「今度言ったら鼻からホットコーヒー飲ませるからね」

 

 

胸に関してお悩みのパルスィはかなりお怒りの様だった。実際、それのせいで37回も失恋しているのだ。それに比べてリサは軍事的実行部隊の軍人の恋人が現在進行形で存在している。要はパルスィはリサに嫉妬しているのだった

 

 

「大人げないよパルスィ・・・」

 

 

ヤマメはそんなパルスィを見てため息を吐く。すると、その数秒後に待機室からさとりと和人が入ってくる

 

 

「お姉ちゃん、その人が例の?」

 

 

「まぁ、そんなところよ」

 

 

「あーあ、これで俺の有名人かぁ」

 

 

彼は特に悪びれる様子もなく、空いている椅子に座り込む

 

 

「・・・全く反省の色が見えないんだけど?」

 

 

「なんで反省しなきゃいけないんだよ。此方はそれなりの対処しただけだ。注意されて逆上したアイツが先に手を出した。だからぶん殴った。それだけだ」

 

 

和人は全くと言って良いほど反省の色を見せずに、腕時計で時間を確認する

 

 

「おっと、こんな時間だ。お気に入りの女と約束があるんでな」

 

 

「・・今は勤務中よ」

 

 

「・・・なら、お姉様が相手してくれるのかな?」

 

 

和人はパルスィの顎を引き寄せるが、自分の左頬から乾いた音と痛みが伝わってくる

 

 

「貴方・・・最っ低ね」

 

 

「最高の誉め言葉をありがとう。」

 

 

彼はニヤリと口許を吊り上げ、パルスィ達に背中を向けて待機部屋から出ていく

 

 

和人の態度は明らかにリサ達を舐めている態度であり、パルスィはイライラして不機嫌になる

 

 

「よくあんな奴が警察官になれたね・・ここの採用試験は厳しくした方がいい」

 

 

「こいしちゃんの案に同意」

 

 

リサの後は誰も答えなかったが、『私も同意』だと全員目で訴えていた

 

 

「・・・じゃあ皆同意件ってことで纏まったし、ご飯食べよっ!!」

 

 

「お昼まで2時間あるわ。それまで待ちなさい」

 

 

「チーフぅ、そんなこと言わないで。パルっちからもなんか言ってよぉ」

 

 

「あら、私もさとりチーフに同意件よ?」

 

 

「えーーーー!!パルっちは私を見捨てるの!?」

 

 

「だってお腹すいてないし」

 

 

「むぅ・・?」

 

 

「・・・これあげるから、我慢しなさい」

 

 

さとりは鞄からコンビニの梅おにぎりを出してリサに渡す。それを電光石火の早業で受け取って食べ出す

 

 

「んぅ~、すっぱぁい」

 

 

リサは梅干しの酸っぱさに口をすぼめるが、食べ終えた頃にはある程度腹の満たしにはなった

 

 

 

 

 

 

 

ーーーその三十分後、彼女達は事件現場へと向かう事を、まだ知らないままで



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取引

作者「今思ったけど、これ東方軍事組織を見ていない方にどうすればいいだろう?」

和人「ならそっちも見てもらえばいーだろうが」

作者「その手があったか!」

さとり(こんな作者で大丈夫なのかしら)


人気の無い寂れた港で、灰色のセダンが止まり、SMGを持った警官達がボストンバッグを肩にかけて降りてくる。目の前には二人の男達がいた

 

 

「時間ぴったりだ。やるじゃないか」

 

 

「取引は時間との争いだからな。ほら」

 

 

警官の制服を着た男が何かがぎっしり詰まったボストンバッグを渡すと、私服の男がボストンバッグを開ける。中には白い粉が入った袋がぎっしり入っていた

 

男はそれをひとつ破り、少し指につけて舐める

 

 

「間違いない。本物の覚醒剤(シャブ)だ」

 

 

男は仲間に向かってそう告げると、仲間の男がセダンのトランクに入ったアタッシュケースを二つ出し、車の上においてケースを開ける。中にはぎっしりつめられた札束が入っていた

 

 

「そっちの要求通りの金だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 

「良いだろう」

 

 

警官達が、押収された覚醒剤との交換でアタッシュケースを受け取り、自分達が乗ってきた車両にそれを詰め込む中、UZIを持ったスキンヘッドの男が茶髪の髪の男に声を掛ける

 

 

「アルト、見張りと連絡がつかない」

 

 

「ジャックの奴か?ったく、あのバk・・・」

 

 

アルトと呼ばれた彼は突如銃声と共に額に穴を開けられてコンクリートの床と平行になる

 

 

「ッ!?」

 

 

彼と警官達が車両に身を隠し、少しだけ顔を出して覗くと、スーツを着た男がハンドガンを構えていた

 

 

「警察だ!!今の男みたいになりたくなかったら全員動くな!!」

 

 

「警察っ・・・・!!」

 

 

彼は別の車両に身を隠している警官達を睨み付ける

 

 

「貴様ら、図ったな!!」

 

 

「バか言うな!あんな奴知らねぇ!」

 

 

彼は警官達の必死の表情を見て、言ってることが本当だと確信する

 

 

「クソッタレ!こんなとこで捕まってたまるか!!」

 

 

警官の一人がMP5を発砲すると、スーツ姿の刑事、三浦和人は壁に身を隠す

 

 

(・・・汚職警官共が)

 

 

和人はSIG社のSP2022からベネリ社のM4スーペル90に切り換え、銃撃が止んだタイミングを見計らって引き金を絞る

 

 

銃口から飛び出た弾丸は警官の顔に命中し、彼は倒れてピクリとも動かなくなる

 

 

(スラッグ弾ッ・・・!!?)

 

 

「ち、ちくしょう!!」

 

 

もう片方の汚職警官は片手でMP5Kの引き金を絞り、弾丸をばら蒔きながら車のドアを開けて乗り込む。取引が成立したところで、彼は最早用無しだったからだ

 

自分が乗ってきた灰色のセダンのエンジンを掛けて逃走しようとするが、セダンが前を向いた瞬間、スラッグ弾がフロントガラスを突き破り彼の顔に命中して、彼の遺体はハンドルにもたれ掛かって、港の辺り一体でクラクションが鳴り響く

 

 

「ッ!!」

 

 

彼はクラクションに一瞬気を取られ、彼から視線を外すが、その数秒後に彼女の足元にカランカランという乾いた音が鳴り響く

 

彼が足元に視線を向けるが、その瞬間彼の視界を真っ白な世界が包み込み、耳には甲高い音が貫くように鳴り響く

 

 

(フラッシュバンッ・・・・!!)

 

 

彼はフラフラとよろめき、ようやく目が慣れたときに見えた物は、SIG社のオートを構える和人の姿だった

 

その姿が見えた彼は、UZIを落として両手を挙げ、無抵抗の意思を示す

 

 

「ま、待ちなよ!アンタもブツが欲しいんだろ?わ、分けてやるから!」

 

 

「・・・・」

 

 

和人はひきつった笑みを浮かべる彼を、家畜を見下すような目で見ていた

 

 

「こんだけのヤクをさばきゃたちまち大金持ちだ。悪い話じゃねぇだろ?へへ・・・・。二人で大金持ちになろうぜ」

 

 

「・・ごたくはいい。お前達のボスはどこだ」

 

 

和人はSP2022の銃口を男に突きつけたまま問いかけるが、彼は口を割らない

 

 

「い、言えないっ!それをいっちまえば俺は消されちまう!」

 

 

「・・・お前、勘違いしてないか?どっちみちお前は俺に消されるんだからよ」

 

 

「そ、そんなっ!!お前は警察だろ!?」

 

 

「生憎と、俺は俺の正義を貫く主義でな。さぁ、答えろ。どっちみちお前は死ぬんだからよ。恐怖に怯えながら生きるか、今ここで楽に死ぬか、どっちかだ」

 

 

「そ、それは・・・・」

 

 

言葉につまった彼を、和人はハンドガンで殴り倒し、腹を踏みつける

 

 

「ぐっ!!」

 

 

「さぁて、質問の続きだ。お前の親玉は?言えば治療して、お前を親玉の手の届かないところに送ってやる」

 

 

「かはっ・・・・い・・今ごろは・・・・たぶん、アジトに・・・」

 

 

「場所は?」

 

 

和人が男の鼻をへし折ると、男は短く悲鳴をあげる

 

 

「いぎっ・・・!!5地区の・・北部のパール州だ!!そこにいるッ!!こ、これでいいだろっ!?」

 

 

「よく言えました。最後に地面にキスをしてこの世との別れを告げな」

 

 

和人はSP2022の銃口を男に向け、撃鉄を起こす。当然、男は納得がいかずに声をあげる

 

 

「お、おいっ!約束が・・・」

 

 

「何言ってるんだ?ちゃんと最初に言ったろ?"ケガの治療"して、"親玉の手の届かないところに送る"ってな」

 

スキンヘッドの彼はここでようやく嵌められたことに気づき、肩越しに和人を睨み付けて悪態をつく

 

 

「クソッタレ・・地獄に落ちやがれ!!」

 

 

「地獄に落ちるのはお前だよ。bad lack(ツイてなかったな)

 

 

和人が引き金に掛けた人差し指を引こうとすると、遠くからパトカーのサイレンが鳴り響き、どんどん此方に近づいてくる

 

 

(チッ・・・・誰か通報しやがったか?)

 

 

和人はサイレンの音に一瞬気をとられるが、躊躇わずに引き金を絞る。辺りに響いた銃声が完全に消えた後、和人の視界にパトカーが映りスーツを着た2人の女性警察官が銃を構えて降りてくる

 

 

「警察だ!無駄な抵抗はせずに武器を捨て・・・・・」

 

 

「ねぇパルっち・・あれ、和人じゃない?」

 

 

現場にやって来たリサは隣にいるパルスィにボソッと呟く。パルスィにも、あれが和人だと分かっているようだ。パルスィは和人に問いかける

 

 

「和人。貴方なにやってるの?」

 

 

パルスィが和人に向かって問いかける、和人は別段取り乱したりせず、むしろ少し笑っていた

 

 

「案外来るの早かったじゃないか。暇だったか?」

 

 

「質問に答えなさい。貴方は何をしてた」

 

 

「見てわからねぇか?お気に入りの女から聞いた悪人どもを成敗してたのさ。あ、そこでぐったりしてる警官どもは汚職してたからな」

 

どうやら和人が言っていたお気に入りの女と言うのは、情報提供者のことのようだ。だが、パルスィはまだ疑問が残っており、それを和人に尋ねる

 

 

「なんで殺したの?」

 

 

「?」

 

 

彼は"質問の意味が分からない"といった具合に、首をかしげる。しかも、彼の表情に罪悪感の欠片も感じられなかった

 

 

「・・・・なんで手錠(ワッパ)描けずに殺したの?」

 

 

「一応警告はしたんだぜ?にもかかわらず此方に発砲してきた。その時点で投降の意思はないと判断し、発砲、射殺した」

 

 

「警察でそれやって許されると思う?私たちの仕事は可能な限り犯罪者を捕らえることよ」

 

 

「その台詞、今まで耳にタコができるほど聞いたよ」

 

 

和人は軽く頭をかきながら、銃口を向けるパルスィに視線を向け続ける

 

 

「とにかく、コイツらが応戦してきたから撃ち殺した。それだけだ」

 

 

和人は先程自分が殺した男の死骸を足蹴にすると、ずっと手に握っていたSP2022をホルスターに戻す。すると、P30をずっと構えていたリサが突然和人の足下に向かって発砲する

 

 

「リサ!?貴女まで何してるの!!」

 

 

「パルっち・・・私、和人を許せない」

 

 

P30のグリップを握るリサの手に力が籠る。リサは本気で和人への怒りの感情を露にしていた

 

 

「おいおいおい、なんでそんなに怒ってるの?」

 

 

「まだ分からない?貴方が彼等(犯罪者)の法を受ける権利を蹂躙し、殺したからよ!」

 

 

リサは和人に怒鳴り付けるが、和人はまた首をかしげる

 

 

「ヤクの密売、それを他人に売りつけて人生めちゃくちゃにする輩に人権なんてあるのか?ましてや犯罪を取り締まる側の人間が犯罪を犯して、真っ当な法の裁きを受けられるとでも?」

 

 

「法の裁きを決めるのは貴方じゃない!!それは司法の手に委ねられる事だ!!貴方の行ったことはただの私刑よ!!」

 

 

「私刑かぁ、いい響きだ。これからは私刑執行人とでも名乗ろうかな」

 

 

和人はヘラヘラした笑みを作り、リサを挑発する。和人の態度に、リサは人差し指を掛けた引き金を絞りそうになるが、必死に堪え続ける。今ここで和人を撃てば、和人と同じになってしまうと判断したからだ

 

 

「俺は警官として俺の正義にしたがっただけさ。誰もが正義感ってのを持ってるだろ?」

 

 

「貴方の正義は間違ってるわ!」

 

 

「お前が他人の正義を否定できるのか?自らの思想を相手に押し付け、相手の思想を頑なに拒む事が正しいことなのか?」

 

 

「お前達は犯人を生かしたまま逮捕し、法の裁きを受けさせるのが正義で警官の勤めだと思っているようだが、俺の正義は犯罪者を排除し、権利を蹂躙されようとしている民間人を被害に会う前に助ける。これが俺の見出だした正義だ」

 

 

「そんなの・・・そんなの・・正義じゃない!!貴方の抱えるものは独善的すぎるわ!!貴方のそれじゃ誰も守れない!!」

 

 

リサのその言葉が、和人の心に突き刺さる。それと同時に、和人の頭の中に眠っていたある記憶が甦る

 

 

「・・誰も守れない・・か」

 

 

和人はリサを強く睨み付ける。リサに向けられたそのまなざしは、猟犬のように鋭い物だった。すると、先程まで黙っていたパルスィが口を開く

 

 

「・・理由はなんであれ、私達と来てもらうわ」

 

 

「・・・へいへい」

 

 

和人はM4スーペル90とSP2022を地面に置き、両膝を地面につけて腕を頭の後ろで組む

 

 

それを確認したリサとパルスィがハンドガンを向けたまま、和人に向かっていき、彼を地面に倒す

 

 

「三浦和人。殺人の現行犯で逮捕する。午前10時29分」

 

 

パルスィは和人に手錠を掛け、パトカーに押し込む。その間、リサは別の地点で待機していたさとり達に無線で知らせる

 

 

「チーフ、容疑者を確保しました」

 

 

【ええ。此方でも確認したわ」

 

 

さとり達はプライマリのサイト越しに、和人の身柄を拘束したのを確認していた。万が一何かあったら和人を射殺できるように

 

 

「リサ、そのまま和人を連行して。私達もすぐに戻るわ」

 

 

【了解です】

 

 

リサはさとり達の待機ポイントに向かって、『グッド』の合図をする

 

 

「私達も帰りましょう。やることはたくさんあるわ」

 

 

さとりはため息をついてパトカーのドアを開ける。帰った彼女達には和人のやったことに対する膨大な事後処理が待っているのは目に見えていたからだ



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お買い物

ーー前回の事件から2時間後ーー

 

 

たいして厳しくもない取り調べのあと、和人は独房に入れられていたが、備え付けの粗末なベッドに転がり天井を見上げていた

 

 

(はぁ・・・こんなことだったら刑事課配属の話断りゃ良かった)

 

 

正直、こんなに厳しいとは思っていなかった。張り込みしながらあんパンと牛乳を飲んでいればいい仕事だと思っていたからだ。すると、和人は交番勤務の時の事をふと思い出す

 

 

(鈴のやつ元気にしてるかなぁ・・・)

 

 

和人は自分の後輩のことを思いだし、しばらく思い出に浸るが、ここは昔の勤務先ではない。そんな思い出などすぐに打ち砕かれた

 

 

「はぁ・・・・・」

 

 

ため息をついた和人はベッドで静かに眠り出す。彼は執務室で起きていることなど当然知らず、すぐに寝息をたてる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「納得いきません。何故彼を処罰しないのですか?」

 

 

さとりは執務室でコーヒーを飲んで寛いでいる紫に異議を申し立てている最中だった

 

 

「無警告で先制攻撃を行った。それは認めるわ。だけどね、彼は押収した薬の取引を防いだ挙げ句、ボスの居所まで吐かせたわ。それも、かなり大物のね。そのお蔭でボスを確保出来た上に薬も全部の押収に成功した。この功績は大きいわ」

 

 

「ですが、取引を行おうとしていた者達も逮捕するべきではなかったのですか?確保して法の裁きを受けさせるべきではなかったのですか?投降させるべきだったと思いますが?」

 

 

「あら、銃撃した挙げ句に車で逃走を図った犯人達に投降の意志があるとでも?それに、貴女の部下のハーフの子・・・リサだっけ?彼女だって彼に向かって私情で引き金を引いたでしょう?これも十分アウトなのだけど?そして、それを黙って見過ごしていた貴女にも問題点はあるわ」

 

 

そういい放った紫は飲み干したコーヒーのマグカップを机に置いて椅子の背もたれに背中を預ける

 

 

「ッ・・・・・」

 

 

「でもこのままじゃ双方に不利益が生じたまま。そこで、取引といきましょう」

 

 

「取引・・・・?」

 

 

「彼を釈放させる代わりに、貴女とリサの事を見逃してあげる。どう?悪い話じゃないと思うけど?」

 

 

「・・もし断れば?」

 

 

「貴女とリサをクビにして、彼を法廷に出すわ。まぁ、事件に対する責任能力が無いでしょうから、結局無罪でしょうね」

 

 

つまり、リサとさとりがクビになろうが残ろうが結局和人は職場に復帰する、ということだった

 

 

「・・・最初から貴女に不利益なことなんて無いじゃない」

 

 

「上手く相手を誘導させて自分に少しでも有利な方に傾ける。これが私なりの交渉術よ」

 

 

「・・・乗ったわ。今回の件に関して、和人には何も言わない」

 

 

「交渉成立ね」

 

 

紫はフフン、と勝ち誇ったような顔をするが、さとりはどこか悔しそうな顔だった

 

 

「・・失礼するわ」

 

 

さとりは紫に背中を向けて執務室を出ていく。さとりは悔しさのあまり唇を血が出るほど噛み締め、手で口を押さえて泣いていた

 

 

和人を法廷で裁く事が出来ない。そして、なに事も無かったかのように復帰させられる。こんな理不尽がさとりには納得いかなかった

 

 

刑事課の待機室に戻った彼女を見たリサ達は、さとりの表情を見て察する

 

 

「お姉ちゃん・・ダメだったの?」

 

 

さとりは返事の代わりにコクコクと頷く。さとりは椅子に座って紫に言われたことをリサ達に説明する

 

 

「・・・ごめんなさい。私のせいで・・」

 

 

「いいのよ・・リサのせいじゃないわ。貴女が責められるべき対象じゃないの」

 

 

さとりはそう言うが、リサに大きな責任がのし掛かる。あのとき私情で引き金を引かずに、それを堪えて和人を確保すれば良かった。そうリサは考えていた

 

 

すると、待機室のドアが開いて元凶である和人が入ってくる。なんの悪びれもなく、フーセンガムを膨らませながら入ってきた態度をとっていた

 

 

「よぉ、一同お揃いのようで」

 

 

和人は破れたフーセンガムをまた口の中に戻して、クチャクチャと噛み始める

 

 

「ッ・・・あんなこと起こした張本人がよくそんな態度とれるわね」

 

 

「んぁ?まだ気にしてんのかよ。しつこいなぁ。もう過ぎた事じゃないか」

 

 

「それをまた起こさないために犯人殺害は控えてほしいけどね」

 

 

「何故?警告に従わない犯人は殺すべきだろ?自分の身が危ないからな」

 

 

和人はそう言うと、またフーセンガムを膨らませる。分かりきったことだが、反省の色など全く見えなかった

 

 

「・・・はぁ、もういいわ」

 

 

さとりはため息をついて椅子に座り、それ以上何も言わなかった。紫に言われたことを思い出したからだ。それを聞いた和人はガムを包み紙に包んでごみ箱に捨てる。そして、口直しをするかのようにタバコに火を付ける

 

 

「いい加減に機嫌治しなよ。くだらないことでそんなに怒るなよ」

 

 

「誰のせいだと思ってんのよ」

 

 

「はいはい悪ぅござんしたぁ。そんなことより俺のロッカーどこ?」

 

 

「・・・そこよ」

 

 

リサが不機嫌そうにロッカーを指差すと、そこにはちゃんと「箕輪和人」と書かれたプレートが付けてあるロッカーがあった

 

 

「お、あったあった。さて・・物はちゃんと入ってるかな」

 

 

和人がロッカーを開けると、そこにはちゃんと自分が頼んだアサルトカービンが入っていた。偶々ロッカーの中身を見たヤマメが立ち上がりロッカーの中身を覗き混むように見る

 

 

「お、おい・・・お前なんでこんなもん持ってるんだよ!?」

 

 

ヤマメの血相変えた声に、さとり達も和人のロッカーの方を振り向き、目を丸くする。ロッカーの中に、正規の警察の装備ではないアサルトカービンが入っていたからだ

 

 

「コルトM5・・・よく手に入ったなぁ・・」

 

 

「行きつけの場所があってな。そこで買った」

 

 

和人は、珍しそうに見るヤマメを他所に、ロッカーの扉を閉める。ヤマメは思わず、「あっ」と短く声に出す。まだ、見たかったようだ

 

 

「はい、おしまいだよ」

 

 

「もう少し見せてくれよ、ケチ」

 

 

ヤマメは少し不機嫌そうにタバコをくわえる。すると、和人はヤマメのタバコにライターで火を付ける

 

 

「お、あんがとよ」

 

 

「どういたしまして」

 

 

和人はどうやら銃を見て目を光らせたヤマメを軽く気に入ったようだ。リサ達に聞こえないように彼女にそっと耳打ちする

 

 

『後でいいとこ連れてってやる』

 

 

彼はそれだけ言うと、待機室を後にする。ヤマメには"いいとこ"というのが少し気になっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間17分後。和人とヤマメは覆面パトカーに乗ってパトロールをしながら目的の場所に向かっていた

 

 

「いやー、今日はいい天気だな。デートにはもってこいだ」

 

 

「・・・私はそんなつもりはないぞ」

 

 

「んだよ、単なるジョークさ」

 

 

「ふん、どーだか」

 

 

ヤマメは少し不機嫌気味だが、窓を開けて車内に溜まっていたタバコの煙を外へと逃がす。少しの沈黙が守られるが、和人が唐突に口を開く

 

 

「ヤマメ、ここで質問だが構わないか?」

 

 

「・・んだよ」

 

 

ヤマメは和人の方に顔を向けるが、相変わらず和人はフロントガラスの方を見ていた

 

 

「Aと言う男がBと言う男を殺しました。パトロール中の警官である貴女はAを偶々見つけましたが、Aは凶器の包丁を持っていました。さて、貴女が取るべき行動は?」

 

 

「・・・相手の凶器を落として手錠をかける」

 

 

ヤマメの答えを聞いた彼は溜め息を吐いて、少しがっかりしたような雰囲気を出す

 

 

「なんだよ。私がなにか間違ったこと言ったか?」

 

 

「なんで殺さない?」

 

 

ヤマメは「は?」と言いたそうな顔をするが、和人は続けて言葉を発する

 

 

「AはBの生きる権利を蹂躙したのに、なんで殺さない?」

 

 

「なんでって・・・そりゃお前、殺したら法的に不味いだろ」

 

 

「一人の善良な市民も守れない法律を守る必要があるのか?そもそも法律を破った人間に対してまともな手段でいくのが正しいことなのか?高々5年か10年ちょっとで出てきていいのか?」

 

 

「和人、お前の言いたいことは分かるがそれは私達の仕事じゃない。私達の仕事は法律に従って犯罪者を捕まえるのが仕事だ」

 

 

ヤマメは自分の思っている警察官の職務を和人に向けて言い放つと、和人はため息を吐いてそれ以上何も言わなかった。やがて赤信号が青に変わり、和人はアクセルを踏む

 

 

それから再び沈黙が守られるが、20分してから和人が教会の敷地内にある駐車場に車を停める

 

 

至って普通の教会で、シスターや神父が外で子供と遊んでいた

 

 

「行くぞ」

 

 

和人は先に車を降りて教会の中に入っていくと、ヤマメもそれに続いて和人の後についていく

 

 

それなりに大きな扉を押して入るが、中には誰一人居なかった。今は礼拝の時間では無いのだろうと、ヤマメは察した

 

 

「おい和人、誰もいないぞ?」

 

 

「心配すんな、いつものことだ。こんなとこに参拝に来んのは好奇心旺盛なガキとよっぽどの物好き位しか居ねえよ」

 

 

「神の御前でなんつー事抜かしてやがる。不信者が」

 

 

和人の位置から近いドアから一人の神父が悪態を吐きながら入ってくる。顔立ちから考えると、どうやらロシア人のようだ

 

 

「お前こそ客に対してなんつー口の聞き方だ。イワン」

 

 

イワンと言われたロシア人の彼は、左手で持った花を教壇に置かれた鉢に活け始める

 

 

「ここにゃ殺戮好きの警官に食わせるパンやブドウ酒はねえよ。神様の逆鱗に触れたくなけりゃとっとと帰れ」

 

 

「タダ飯やタダ酒を貰いに来たんじゃねえよ。こいつに良いもの買わせてやろうと思ってな」

 

 

和人が親指でヤマメを指すと、イワンは溜め息を吐きながら頭を軽く掻いて自分の携帯をだす

 

 

「嬢ちゃん、何番がいいんで?」

 

 

「えっ・・・?」

 

 

いきなり番号を問われて、若干うろたえるヤマメに和人を助け船を出す

 

 

「ヤマメ、ここじゃ"商品"は皆番号なんだよ。月によって番号は違うが、メールで配信されてる。まぁ、俺は迷惑メール扱いだがな」

 

 

「最後の一言は余計なんだよ、ボケ」

 

 

「へーへー、悪ぅござんしたぁ」

 

 

和人はそう言いながら、保存されたメールを開いてスマホごとヤマメに渡す

 

 

そこには、番号と共に弾薬や本来なら民間には出回らない代物の写真が添付されていた

 

 

(うっわ。こりゃヤバいヤツじゃねえか・・・)

 

 

メールを見ながらどれにするか迷っているヤマメを他所に、和人が立ち上がってイワンのもとに歩き寄る

 

 

「イワン、最近警察の連中が押収した銃のルートを探ってる。お前ん所がバレるのは時間の問題だ」

 

 

「だろうな。最近尾行(ツケ)られてる」

 

 

「彼女の件でラストオーダーにしろ。そのあとはほとぼりが冷めるまで何処かに隠すか本国にでも送り返しておけ」

 

 

「ちぇっ。商売上がったりだ」

 

 

「おぉーい和人ぉ」

 

 

和人を呼ぶヤマメの声が後ろから聞こえてくる。どうやら決まったようだ。和人が彼女のもとに駆け寄ると、ヤマメは"7番"のライフルを指さしていた

 

 

「いい趣味してんなぁ、お前さん」

 

 

「そりゃどーも」

 

 

和人はイワンに向かって左手をあげて、ハンドサインで7を表すと、イワンはコクりと頷く

 

 

「んじゃあ代金の郵送方法だが・・・」

 

 

すると、和人が歩み寄って耳元で小さな声で囁きだす

 

 

『タダにしてやれ』

 

 

その言葉にイワンは驚愕に満ちた顔を作る。それもその筈、ヤマメが選んだライフルは一級品であり40万ほどの価格だからだ

 

 

『ジョーダンじゃねえよ!なんでタダにしなきゃなんねぇんだよ!』

 

 

『よく考えろ。ここで40万を損してこれからも安全に銃を売るか、40万得してブタ箱に入って強制送還になるか、どっちがいい?』

 

 

『くっ・・・・』

 

 

結局、彼は渋々代金をチャラにして商品を受け渡していた。客と冷やかしの刑事はイワンの方を振り返らずに礼拝堂から出ていく

 

 

「はぁ・・・あの野郎にゃ敵わねぇ」



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