魔法少女リリカルなのはsts 光の英雄 (オカケン)
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プロローグ
プロローグ&キャラ紹介



ハーメルン初投稿です、オカケンと申します、よろしくお願いいたしますm(__)m

もしよろしければ感想、アドバイスをよろしくお願いいたしますm(__)m


 

 

「はっ……はっ……はっ……」

 

 

夜、どこかの暗い森で、一人の青年が何から逃げるように走っている。

 

 

しかし、後ろには誰もいない。

 

 

「はあ……はあ……はあ……。クソぉ!!」

 

 

 

ただ独り、孤独に叫ぶ。

 

 

「俺は……俺はどうすりゃあいいんだよ!!」

 

 

走るのを止め、暗い空に向かって叫ぶ。

 

 

そして、突然に頭に響く声。

 

 

ハカイシロ……ハカイシロ……ハカイシロ……

 

 

「うるせぇ………」

 

 

ハカイシロ………ハカイシロ……ハカイシロ……

 

 

「やめろぉ………」

 

 

青年はあたまを抱えながら苦しそうにもがく。

 

 

 

 

 

ハカイシロ………ハカイシロ……ハカイシロ……ハカイシロ……ハカイシロ……ハカイシロ……ハカイシロ……ハカイシロ……ハカイシロ……ハカイシロ……ハカイシロ……ハカイシロ……ハカイシロ……ハカイシロ………………………全てを…………破壊しろ!!

 

 

「黙れえええええええ!!」

 

 

青年は苦しみながら叫ぶ。

 

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

 

突如、青年の背中に金色に輝く翼が出現する。

 

 

右手には日本刀が握られていた。

 

 

「はあ!!」

 

 

青年はその刀を振るった。

 

 

振るった瞬間に、青年のいる森全体が光りに包まれる。

 

 

 

光が消え失せ、景色が見えた。

 

 

そこには、先程の森ではなく。

 

 

森がなくなり、そこには先程の森が焼けたあとが広がっていた。

 

 

辺り一面焼け野はらになっていた。

 

 

 

「はあ…はあ…はあ…はあ………」

 

 

青年はそこの中心にたっている。

 

 

青年の背中の翼と、右手の日本刀は消えていた。

 

 

「はあ…。会いたい。会いてぇよ」

 

 

浮かぶのは、自分にとってかけがえのない存在。

 

 

 

「なのは…………」

 

 

そう、呟く。

 

 

栗色の髪に笑顔が似合う、可愛い女の子。

 

 

高町なのはの顔が浮かんだ。

 

 

「ああ、クソォ。意識が………」

 

 

青年はそこで静かに倒れた。

 

 

……………………。

 

 

未来を照らす光があるのなら、それを塗りつぶす闇もある。

 

光と闇………決して相容れない2つ。

 

戦いが始まる。

 

光の英雄の魔法戦記が…………。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

キャラ紹介

 

 

名前: 神崎賢伍(カンザキケンゴ)

 

 

年齢: 19(なのは達と同い年)

 

 

身長: 177

 

 

体重: 65

 

 

秘密: なのはに片想い中(しかし、本人は自覚なし)

 

 

デバイス: ???

 

 

顔:

 

顔はファンタシースターポータブル2のヒューマンの基本設定(髪形も)です。

 

 

わからない人は、ググるかご想像にお任せします。

 

 

 

バリアジャケット:

 

これも、ファンタシースターポータブル2、ヒューマンの基本設定の服、クリムゾンウィングです。

 

 

これも、わからない人はググるかご想像にお任せします。

 

 

容姿はファンタシースターポータブル2ヒューマンの基本設定と全く同じだと思ってください。

 

 

 

説明:

 

 

かつて、管理局の光の英雄と呼ばれた男。

 

 

なのはと同じく地球出身で、高町家とは近所であったため、なのはとは小さい頃からの幼なじみ。

 

 

小学2年の時に、両親が原因不明の事故で死亡。

 

 

それからは、元々身寄りのなかった賢伍は、なのはの願いもあって高町家に居候。半年後には、本来の元気も取り戻した。

 

 

魔法に出会ったのは、なのはが魔法少女になってからすぐに後。

 

 

同じくジュエルシードを追っていた、フェイトと始めてぶつかった時に、ピンチのなのはを魔法使いの姿で助けた。

 

どうやって、魔法に出会ったのかは、誰にも話さず本人しか知らない。

 

 

その後、後にP・T事件と呼ばれる、ジュエルシード事件では解決に大きく貢献し、その後のフェイトの弁護でも活躍した。

 

 

闇の書事件の際にも、解決に大きく貢献。

 

その後、なのは達と共に管理局で働くことになる。

 

そして、管理局でも事件を何度も解決し管理局の光の英雄と呼ばれるようになる。

 

 

しかし、現在から4年前、当時15歳だった賢伍はある理由からなのは達の前から忽然と姿を消した。






はい、駄文ですね、申し訳ないです。

一応エブリスタのやつをコピーしていて、こことは投稿方式が異なるのでちょっと違和感があるのと短めに感じるかもしれません。

文才の方はあとの方は最初よりはましになっているのでできればここで見限らないでくれると幸いです。

では次の話にて。


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再会ともう一人の………

とりあえず自分は熱いやつが大好きです!

この作品も読者さんが熱くなれるようなものがかけるように頑張ります!


 

 

 

翌日……

 

 

ここはある施設の中。

 

 

その施設の中に、二人の女性がいた。

 

 

 

「………………………」

 

 

「なのはちゃん?ちゃんと聞いとる?」

 

 

 

「えっ?ああ、ごめん。何だっけ?」

 

 

「…………。また、賢伍君の事考えてたんか?」

 

 

「………うん」

 

 

 

この二人の女性は、管理局ではエースと呼ばれている有名な魔導士である、高町なのはと八神はやてだ。テーブルを挟み、イスに二人は座って話をしていた。が、当のなのはは上の空である。

 

 

「…………」

 

 

なのはは、4年前から失踪した自分にとってかけがえのない存在だった、神崎賢伍の身を案じていた。

 

 

 

~なのはside~

 

 

 

突然消えてしまった、私にとって大事な友達。4年間待っても、連絡すらない。なんで?何も言わずに、残さずにどうして?そう最初は取り乱していた。落ち着いてから私はあちこち探し回った、彼が好きなところ、行きそうな所、とにかく心当たりがある場所を何度も何度も行き来した。

 それでも見つからなかった。だから、今度は待とうと決めた。それからもう4年が経ってしまった。

 

 

「早く帰って来てよ………」

 

 

「なのはちゃん……………」

 

 あ、はやてちゃんに心配させちゃ駄目だ。そう思った私は目から出そうになった涙をこらえる。仕事をしてる間は考えずにいられるけど、それがなくなったらすぐに悲しくなってしまう。

 

「大丈夫だよ、はやてちゃん!きっとそのうちひょっこり帰ってくるよね!」

 

と、私は無理やり笑顔を作りはやてちゃんに微笑む。そう思っているんじゃない。そう思いたいだけで、だからヨケイ悲しくなる。

 

 

「うん。………そやね」

 

 

 

「それで、何の話だっけ?」

 

さっきまで、賢伍君の事を考えてたからすっかり話を聞き流してしまった。

 

「ほんまに聞いてなかったんか…………」

 

 

「にゃはは~。ごめんごめん」

 

とりあえず、謝る私。駄目だな、ちゃんと切り替えて集中しないと、賢伍君が帰って来たときに情けない姿を見せたくないしね!

 

 

「………。実はな、昨夜この近くで一瞬だけものすごい魔力反応が観測されたんよ」

 

 

「ものすごい魔力反応?」

 

 

「うん。詳しくは外で話そか。フェイトちゃんも待っとるで」

 

 

「フェイトちゃんいるの!?」

 

私はそう言うと、はやてちゃんはため息をついた。

 

 

「全然話聞いてないやんか!!」

 

 

どうやら、さっき話したみたいです。

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

とりあえず外に出た私とはやてちゃん。天気は快晴、今日も良い天気だ。賢伍君もどこかで見てるかな、なんてことを考える。

ふと目線を前に向けるとその先には、金髪の女の子フェイトちゃんがいました。

 

 

「フェイトちゃん!!」

 

 

「なのは!!」

 

フェイトちゃんがこっちに気づいてくれる。

 

 

「久しぶり!元気だった?」

 

実は、管理局の仕事が忙しくてずっとフェイトちゃんとは会っていなかった。

 

フェイトちゃんは「元気だよ!」そう笑顔で答えてくれる。

 

 

 

「再会の喜びは後回しや。本題に入るで」

 

 

と、はやてちゃんは真剣な眼差しで言う。

 

 

「フェイトちゃんにも言うたけど、そのものすごい魔力反応、気になってな、管理局に少し調べてもろたんや」

 

 

「それで……どうしたの?」

 

 

 

「それで、そのデータ見たんよ」

 

 

はやてちゃんは表情をくずさずにはやてちゃんは言った。

 

 

「………そっくりなんや」

 

 

「そっくりって………何が?」

 

フェイトちゃんが首を傾げて言う。

 

「そっくりなんや…………4年前に失踪した……………賢伍君の魔力にそっくりなんや」

 

 

「……………えっ?」

 

私はそうまぬけに声をあげた。

 

 

「本当?本当なの!?はやてちゃん!?」

 

 

私は、はやてちゃんの肩を掴みながら言う。

 

 

「落ち着いて!落ち着いてや!なのはちゃん!!」

 

 

「………ごめん」

 

 

ずっと会いたかった。やっと会えると思った私は、つい取り乱してしまう。でも、でも落ち着いてられなくて。

 

 

「はやて、それは本当なの?」

 

 

「本当や」

 

 

はやてちゃんは頷く。

 

 

 

「二人には私と一緒に調査してほしいんよ」

 

 

「うん!いくよ!今すぐ行こう!早く行こう!」

 

 

「駄々っ子か!?」

 

 

ごめんはやてちゃん。興奮しすぎたよ。

 

 

「でも、本当に賢伍なら心配だし。早く行こう!」

 

 

 

「せやな、ふたりともセットアップしていくで!」

 

 

 

「「うん!!」」

 

 

私たちは、セットアップして魔力反応があった場所へ向かいました。

 

……………………。

 

 

「ここや」

 

 

「これは………ひどい……」

 

 

魔力反応があった場所についたと同時にフェイトちゃんがそう呟いた。

 

 

それはそうでした。目の前の光景を見れば。

 

 

そこにあったのは、広大に広がる焼け野はら。

 

 

 

あちこち焦げていて、ひどいの一言しかでなかった。

 

 

 

そこの中心には誰かが倒れていた。

 

 

「賢伍君!!」

 

 

私は、叫んだ。あそこに倒れているのは間違いなく賢伍君だと確信してたから。何でか分からないけどそんな気がしたから。全力で走って、賢伍君に駆け寄る。

はやてちゃんとフェイトちゃんも後ろから走ってくる。

 

 

 

「賢伍君………」

 

 

間違いない。

4年たって背丈は変わっているけど、間違いなく賢伍君だった。

 

 

「賢伍君!起きて!」

 

 

私は賢伍君の体を揺さぶる。特に外傷はなかったから気絶しているだけだった。

 

 

「う………ううん………」

 

 

すると賢伍君はゆっくりと目をあけはじめました。

 

 

 

 

 

~賢伍side~

 

 

 

「う……ううん………」

 

 

なんだ?

 

 

「賢伍君!!賢伍君!!」

 

 

誰かが呼んでる?

 

 

視界がぼやけて見えた。

 

 

徐々にはっきり見えてきた、その目に写ったのは…………

 

 

「なの…………は?」

 

 

あれ、なんで?俺は確か…………

 

 

「賢伍君!!」

 

 

そう言うと、なのはが抱きついてきた。

 

 

「おい、な、なのは………」

 

 

ああ、胸になんだか柔らかい感覚が………。なのはの後ろには親友のフェイトとはやてもいてびっくりする。一体どういうことだ?

てかはやて、ニヤニヤしながらこっち見んな。あとフェイト、胸大きくなったな。

 

 

 

ムギュウ

 

 

「いてぇ!!」

 

 

等と変なことを考えているとなのはがいきなりつねってきた。

 

 

「賢伍君のエッチー」

 

 

「な!!ち、違っ……」

 

 

なのは、怖いよ。笑ってるけど笑ってないよ、目が。ていうかなんで考えてることがわかるんだよ。

 

 

 

ギュウ

 

 

「ずっと、心配だったんだよ………」

 

 

今度は強く抱きしめてきた。

 

 

「なのは…………」

 

 

ああ、ずっとこうしたかったんだ。

 

 

「これで………」

 

 

「解決だね!」

 

 

何かはいタッチして喜んでるはやてとフェイト。ああ、やっぱり俺はこいつらと一緒にいたい。状況は飲み込めないけど嬉しさが俺の胸を包んだ。

 

 

けど、タイミング悪くあの声が聞こえてきた。

 

 

 

「!!ぐ、ぐあああ!!」

 

 

くそ、来やがった!

 

 

ハカイシロ……ハカイシロ……ハカイシロ……

 

 

 

「賢伍君!?」

 

 

 

「なのは、はやて、フェイト………」

 

 

俺は、頭に響く声に耐えながら言う。

 

 

「逃げろ………早く………」

 

 

 

「えっ?」

 

 

「早くしろぉ!!」

 

 

疑問の声をあげるフェイトに間髪を入れず俺は声を張った

 

 

「俺が………俺が俺じゃなくなる!!うああああああああああああ!!!!」

 

 

「賢伍君!」

 

 

「『俺が俺じゃなくなる』?どう言うことや!?」

 

 

はやて俺の発した言葉に疑問を感じた。

 

 

 

~なのはside~

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

「賢伍君!!」

 

 

 

耳を塞ぎたくなるような叫び声が辺りにこだまする。私は、ただ叫ぶことしかできなかった。

 

 

「賢伍君!……きゃあ!」

 

 

賢伍君に触れようとしたけど、その前に何かの衝撃で吹き飛ばされた。

 

 

「なのは!」

 

 

「なのはちゃん!」

 

 

ふたりが吹き飛ばされた私を助けてくれた。

 

 

「あ、ありがとう。はやてちゃん、フェイトちゃん」

 

 

ドオン!!

 

 

何かの衝撃音が響く。私は、慌てて賢伍君の方を見る。

 

 

「…………!!」

 

 

「…………………………」

 

 

「賢……伍君?」

 

 

 

賢伍君が立っていた。

 

 

右手には黒い刀身の日本刀、背中には黒い翼をはやして。黒い翼?あれは一体…………?

 

 

「ククク…………」

 

 

「っ!!」

 

 

賢伍君が不気味に笑った瞬間、フェイトちゃんは身構える。

 

 

「ククク………ははははは!!」

 

 

不気味に笑う賢伍君。

 

 

「『俺が俺じゃなくなる』か。なるほどな」

 

 

はやてちゃんは何か察したみたい。

 

 

「きいつけて!!なのはちゃん、フェイトちゃん!!あれは…………あれは賢伍君じゃないかもしれへん!」

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

「どういうこと?」

 

 

賢伍君じゃない?私ははやてちゃんの発言に疑問を感じた。だって目の前にいるのは明らかに…………

 

 

「わはははは!破壊してやる!破壊してやるぞぉ……」

 

 

「あなたは………誰ですか?」

 

確信した。あれは賢伍君じゃない。賢伍君はあんな邪悪な顔はしない。あんな誰も受け付けようとしない雰囲気じゃない。

 

「俺か?俺は……………」

 

 

 

私たちは、それぞれ構える。

 

 

 

「闇だよ………闇そのものさぁ!!!」

 

 

 

「っ!?きゃあ!!」

 

 

「えっ!?」

 

はやてちゃんから驚きの声があがる。

 

 

「フェイトちゃん!!」

 

 

いきなり、フェイトちゃんの前に高速移動した賢伍君?はフェイトちゃんの腹部蹴りあげる。フェイトちゃんは耐えられずその場で崩れ落ちる。

速すぎて何が起きたのか分からなかった。

 

 

「あぐっ!………ゴホッ!……ゴホッ!」

 

フェイトちゃんが苦しそうに咳き込んでいた。そして、賢伍君?はフェイトちゃんに刀を振り上げる。っ!まずい!

 

 

「くっ!?フェイトちゃん!!」

 

フェイトちゃんが!させない!!

 

 

「………死ねぇ!」

 

 

 

ガキン!

 

 

 

「…………ちっ!」

 

 

 

金属と金属がぶつかる音が響く。

 

 

 

「…………くう!」

 

 

なんとか間に合った。私は降り下ろされた刀をレイジングハートで受け止めた。けど、重い!なんて力なの………!

 

 

 

「てやあ!」

 

 

隙を見たはやてちゃんが賢伍君?の後ろに回り込み、魔力弾を放った。

そのまま、賢伍君?に直撃した。

 

 

「……………な!」

 

 

「そう焦るな、すぐに……………」

 

 

魔力弾を受けた賢伍君?はまるでなにもなかったように平然としていた。

 

 

 

「………壊してやるからさ………」

 

 

 

「!!!!」

 

 

 

「!!!!」

 

 

はやてちゃんが震えていた。賢伍君?の放った殺気のせいだろう。私も怯んでしまった。

 

 

「だが………」

 

 

「きゃ!!」

 

 

賢伍君?に刀で押し負けて、私はその場で倒されてしまう。

はやてちゃんとフェイトちゃんは賢伍君?の殺気でその場から動けないでいた。

 

 

「まずはお前だ!!高町なのは!!」

 

 

殺気ははやてちゃんから私へと向けられる。

 

 

 

「っ!!!」

 

 

 

こわい。こわいよ。体の震えが止まらない。背筋が凍る。

 

「じゃあな」

 

 

右手の日本刀が私へとに降りおろされる。

 

 

「なのは!!!」

 

 

「なのはちゃん!!」

 

 

 

やだ。まだ死にたくない。死にたくないよぉ…………………。

 

 

やっと会えたのに、やっと…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブシュ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い鮮血が飛び散った。

 

 

 

 

 





オカケンです、閲覧ありがとうございますm(__)m

まだ違和感ありますがどうか暖かい眼で見てくださると嬉しいです。

ではまた、次の話で!


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分離


こんにちわ!オカケンです!急に気温が変化しているみたいなので皆さん体調に気を付けてくださいね!

それでは続きをどうぞ!


 

………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

痛みはない。

 

 

私は、恐怖のあまり閉じていた目を開いた。

 

 

 

その光景をみて私は驚いた。

 

 

「ぐうう~~~!!」

 

 

 

「………えっ!?」

 

 

 

賢伍君は噛みついていました。

 

 

自分自身の体に。

 

 

刀が握られた、自分自身の右手に噛みついていました。

 

 

右手には赤い鮮血が飛び散っていた。

 

 

 

~賢伍side~

 

 

やめろ!何をしてるんだ!

 

 

守るって決めたのに!絶対に守るって!

 

体が勝手に!!

 

 

やめろ!なのはが!!やめろ!やめろおおおおお!!

 

 

 

「イッテェ………」

 

 

ガシャン

 

 

右手の痛みで俺は刀を落とす。

 

 

「いい加減に………しやがれ………」

 

 

俺は何とか言葉を絞り出す。

 

 

"やつ"に体の主導権を取られているため、うまく喋れない。

 

 

 

「守るって…………決め………たん………だ………絶…………対に……………守るって!!」

 

 

 

「………賢伍君?……………賢伍君なんだね!」

 

 

 

なのはが嬉しそうに言う。

 

 

しかし、"やつ"は噛まれて血だらけになった俺の右手をなのはに向かって伸ばす。

 

 

「くっ………!させるかよ!!」

 

 

俺は何とか動かせる左手で先程落とした、日本刀を掴む。

 

 

そして、そのまま俺自身の右手の甲に突き刺し貫通させ地面に突き刺し、右手を抑える。

 

 

鋭い激痛が、俺の右手を襲った。

 

 

「ぐあああああああああ!!」

 

 

「賢伍!!何してるの!?」

 

 

すっかり"やつ"の殺気から解放されたフェイトは、俺の奇妙な行動に驚いているようだ。

 

 

 

それもそうだ。

 

 

旗から見れば、ただの変態だからな。

 

 

「体が言うこときかねぇんだ!!俺の近くにいたら、またお前たちに襲いかかっちまう!!これでわかったろ!俺は疫病神なんだ!皆と一緒にはいられないんだよ!」

 

 

 

右手を突き刺したお陰か、体の主導権が"やつ"から俺に移る。おかげで普通に喋れる。

 

 

「さあ!早く逃げろ!」

 

 

「逃げないよ」

 

 

「えっ?………」

 

なのはが間髪入れずにそう答える。

 

何で?何でだよ!?逃げろよ!

 

 

俺は疫病神なんだ!

 

 

皆とはいられないんだよ!

 

 

「逃げないよ…………だって賢伍君は、疫病神なんかじゃないよ!」

 

なのは……………。

 

 

「そうや!賢伍君は………疫病神なわけないやろ!」

 

はやて……………。

 

 

「いつだって賢伍が私達を守ってくれてたじゃない!!それなのに……疫病神だなんて言わないでよ!!」

 

フェイト……………。

 

三人は、泣きそうになりながら懸命に訴える。

 

 

今とは過去の話。

 

神崎賢伍は光のような男だった。

 

ジュエルシード事件はいつもなのはの隣にたちなのはを守ってきた。

 

敵であるはずのフェイトにも賢伍は邪険にしなかった。

 

プレシアの虐待を知り、憤り、悲しんだ。

 

友達が可哀想だと嘆いた。自分を友達と呼んでくれたあの時をフェイトは今も忘れていなかった。

 

闇の書事件ではなのはとフェイトそして守護騎士達のあいだを取っていた。

 

止めていたのだ、どれだけ傷つこうと、互いを守った。知っていたからだ、こんな悲しい戦いに意味はないと。互いの思いと思いを繋ごうとしていたのだ。ぶつかり合うのではなく、わかり会おうと。

 

そして、決着。

 

別れの時、リィンフォースが消えていくなか賢伍は一人涙を流していた。

 

「今度は………今度は皆を笑顔にして終わらせる」

 

彼の決意は後にエースと呼ばれる3人の女の子たちにも響いた。

 

そんな賢伍がここまで仲間たちに慕われていたのはある意味当然のことであった。

 

 

「お前ら…………」

 

何で…………

 

「賢伍君」

 

 

不意にはやてに呼ばれる。

 

 

「賢伍君は私達と一緒に居たいんやろ?」

 

 

「なっ!?当たり前だろ!………でも…………」

 

 

でも、俺は皆と一緒にいたら……………また皆を傷つけちまう。

 

 

「一緒に居たいけど!………でも!」

 

 

 

「それは逃げとるだけやで、賢伍君」

 

 

「何だと?」

 

 

逃げてる?いったい何から?

 

 

「自分自身の気持ちから逃げとるんや!」

 

 

「っ!!」

 

 

「『どんなことにも自分の信念を曲げるな』賢伍が私に言ってたじゃない」

 

それは………俺がジュエルシード事件の時に言った………。

 

フェイトのやつ、覚えててくれたのか。

 

は「もっと自分に正直になってもええんよ。賢伍君」

 

 

「はやて…………フェイト…………」

 

 

 

「私は賢伍君と一緒に居たい。だから賢伍君は私達と一緒にいて良いんだよ。賢伍君は………私にとって大切な人なんだから!」

 

 

「なのは…………………」

 

 

 

「それに……………」

 

 

「…………?」

 

 

 

それに……何だ?

 

 

 

「それに……寂しかった。私だけじゃない、はやてちゃんやフェイトちゃん、ヴィータちゃんにシグナムさん、シャマルさん、ユーノ君、アースラの皆、皆ずっと……………賢伍君が居なくて寂しかったんだよ?」

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

「私は賢伍君と一緒に居たい。だから………………一緒に帰ろう?皆のところに……………」

 

 

 

そう言いなのはは、爽やかな笑顔を俺に向け手をさしのべる。

 

 

 

…………………………なのは

 

 

 

「ありがとう……………」

 

 

そうだ、俺は独りじゃない。大切な仲間がいるじゃないか。

 

 

「お前たちには…………前へ歩き出す勇気をもらった………」

 

 

だから……………

 

 

「俺の中の闇よ!」

 

 

いい加減!!

 

 

「俺の体から…………出ていけ!!」

 

 

気力で"やつ"を追い出す。今まで何度も試した。もう失敗するわけにはいかない!

 

「はあああああ!」

 

 

俺の背中にある黒い翼は光輝く色に変わっていく。

 

 

…………しかし………

 

 

「ぐうう!」

 

 

思ったより"やつ"の抵抗が強い。

 

 

光輝いてた翼はまた黒に戻されていく。

 

 

「くそ!!もう少しなのに………!!」

 

 

また"やつ"に支配されんのかよ………

 

 

「賢伍君!」

 

 

「なのは…………」

 

 

 

だけじゃない

 

 

「賢伍君は独りじゃない!もうわかっとるやろ!?」

 

 

「賢伍には私達がいる!だから………」

 

 

「負けないで!!」

 

 

 

そう言い三人は、刺された俺の右手に自身の手を添える。

 

 

「……………」

 

 

そうだ………今は仲間がいる

 

 

だから………失敗するわけには

 

 

「いかねぇんだ!!」

 

 

 

賢伍「うおおおおおおお!!」

 

 

黒に戻った翼はまた光輝く。

 

「頑張って!!」

 

 

「ふふ……………」

 

 

こんなときに俺は少し笑ってしまう。

 

 

「???」

 

 

なのはが不思議そうな顔をしてる。

 

 

「なんかさ、なのはに応援されるとさ………」

 

 

何故だろうか………

 

 

「力が湧いてくんだ」

 

 

「えっ!?………」

 

 

何だ?なのはが急に赤くなったぞ?

 

 

何か変な事言ったか?

 

 

「おっと、それどころじゃなかったな」

 

 

追い出さないと、"やつ"を…………俺の闇を。

 

 

「あと少し!!」

 

 

そして、翼は黒い部分を完全に無くし光輝いた。

 

 

ピカァ

 

 

 

「くっ………」

 

 

「「「きゃ………」」」

 

 

光が眩しくて目を開けていられなかった。俺たちはそれぞれ腕で、目を隠す。

 

 

「……………」

 

 

視界が戻ってきた。俺は目をゆっくりと開ける。俺の中には"やつ"の気配はない。どうやら成功したようだ。

 

 

「うっ………………」

 

 

なのは達もゆっくり目を開けた。

 

 

 

「………………」

 

 

俺は辺りを見渡す。すると、数メートル先に人影が見えた。

 

 

目を凝らしてよく見る。

 

 

 

「………………な!!」

 

 

「えっ!?」

 

 

「そんな!?」

 

 

「どいうことや!?」

 

 

俺たちは、その人物を見て驚きを隠せなかった。

 

 

そりゃそうだ。

 

 

なんたってそいつは…………

 

 

「賢伍君が……………二人!?」

 

なのはの言葉通りだったから。

 

俺だったから。

 

 

背丈も、服装も、髪形も、顔もそっくりそのままの俺がいた。

 

ただ違いといえば………

 

「黒い……………翼!!」

 

俺とは対照的に背中に黒い翼をはやしていた。

 

 

 

 





はい!三話でした!エブリスタと投稿方式が違うのでまだ違和感があるのと文才のなさで見にくいとは思いますがこれかもよろしくお願いいたしますm(__)m

それと、次回から前書きにその話のポエム(笑)を入れます。
それでは次の話にて!


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闇の賢伍

光と闇は決して相容れるものではない。

一度分かたれた光と闇はどちらかが消えるまで潰し会う。



「お前…………"やつ"か」

 

 

俺には分かった。さっきまで俺の中にいたやつだ。

 

 

「なのは、フェイト、はやて、さっきお前らを襲ったのはこいつだ」

 

 

「この人が……」

 

 

先ほど蹴りあげられたフェイトがお腹をさすりながら言う。

 

まだダメージが残っているみたいだ。

 

 

「くっ!!うう!」

 

 

俺は右手に刺した刀を引き抜く。右手に大量の血が出たが関係ない。

 

 

俺は刀持ち、構えた。

 

 

「ククク…………ようやく出られたぜ!」

 

 

もう一人の俺はそう不気味に

 

 

「安心しろ。すぐに消してやる」

 

 

「できるのか?お前に?」

 

 

闇の俺は懐に右手を差し込みあるものを取り出す。日本刀の鍔の形をしたそれを高々と上げ叫んだ。

 

「ダークネスハート………セットアップ!!」

 

 

DNH《スタンバイ・レディ》

 

 

ダークネスハートと呼ばれたデバイスは日本刀へと変わっていく。

 

 

刀身が漆黒に染まった日本刀に………

 

 

「ヒャハハハハハハハハ!!これが力だ!俺様の力だ!俺の光よ!勝てるのか?この力に!!」

 

 

 

「くっ!………」

 

なんて忌々しい力だ。

 

俺の今の力では到底及ばなかった。

 

 

「今すぐお前を破壊するのもいいが………それではつまらん」

 

 

「何?」

 

 

「力をつけろ!そして、時が来たら貴様を殺しに行く!」

 

 

「そんなことはさせない!」

 

 

なのはが声を張る。

 

 

「ヒャハハハハハハハハ!高町なのは!貴様に止められるか?この俺が!!」

 

 

「!!!!」

 

 

闇の俺はなのはに殺気を向ける。

 

 

なのはは震えていた。

 

 

「大丈夫だ……なのは」

 

 

そう言い俺は、なのはの頭を俺の胸に押し付ける。なのは震えはすぐに止まった。

 

 

「け………賢伍君!?」

 

 

「安心しろ、なのは。俺は死なねぇ。むしろ返り討ちにしてやるよ………」

 

 

俺は闇の俺を真っ直ぐと見つめた。

 

 

「その時は精々楽しませてくれよ。これだけは覚えておきな、光は闇に喰われる運命なんだよ。フフ、ヒャハハハハハハハハ!!」

 

 

闇は不気味に笑った瞬間、回りの空間が歪んだ。

 

 

そしてそのまま闇の俺はどこかえ消えた。

 

 

「……………お前こそ首を洗って待ってやがれ!!俺がぶったおしてやる!!」

 

 

後の決戦に向け、俺は覚悟決めた。

 

「………………………」

 

 

よし、とりあえず何とか助かった。

 

 

うん?何か忘れているような?

 

 

「ぁぅぁぅぁぅ…………」

 

 

あ、忘れてた

 

 

「ご、ごめん嫌だったよな?」

 

 

なのはの頭を俺の胸に押し付けたままだった。

 

 

とりあえず俺は手を放したが…………?

 

 

 

「い、嫌じゃないよ、むしろ、もっとやってほしいって言うか………その……………」

 

 

 

「うん?顔が赤いぞ?熱でもあんのか?」

 

 

そう言い俺はなのはのおでこと俺のおでこを重ねる。

 

 

「ひゃあ!!」

 

 

「うお!」

 

 

びっくりした~~~~。

 

 

「わ、わりぃ。嫌だったか?」

 

 

「そんなことないよ!ただ、びっくりしちゃっただけだから………(うう………恥ずかしいよぉ)」

 

 

「そ、そうか……(か、かわいい………やべ、俺まで赤くなってきた)」

 

 

 

今に始まったことじゃないが、なのはの顔を見るとなんだか胸が熱くなる。

 

 

何故だ?

 

 

「その顔やと、まだ自覚しとらんみたいやなぁ」

 

 

「へ?何が?」

 

 

「いや、何でもあらへんよぉ」

 

 

と言い、はやてはため息をつく。

 

 

何だ?なんかしたのか俺?

 

 

 

「ふふふ」

 

 

何だかフェイトまで微笑み始めたぞ?

 

 

ますます意味がわからん?

 

 

 

「あぅ……………」

 

 

なのはは、なのはで顔を赤くしてるし。

 

 

でも……………

 

 

「はは…………やっぱり……」

 

 

「???」

 

 

「やっぱり……皆といるのが楽しいなあ。四年前に勝手に消えたのは俺だけどな…」

 

 

「私達の前から消えたのは………」

 

 

どうやら理由が気になってるみたいだな。

 

 

「お察しの通り、さっきの闇の部分の俺がいたからだ」

 

 

はやて「何で私達に相談しなかったんや………」

 

 

はやては悲しそうに言う。

 

 

「出来なかったんだ。いくら抑えても、何度もお前達を襲いそうになったんだ………」

 

 

「だから…………私達の前から?」

 

 

「ああ、消えたんだ」

 

 

それにお前らを巻き込みたくなかったしな。

 

 

「賢伍君」

 

 

なのはが若干怒り気味に俺を呼ぶ。

 

 

「………はい」

 

 

こ、怖いよなのは。ついはいって返事しちゃったよ。

 

 

「どうせ、賢伍君の事だから私達を巻き込みたくないとか思ったんでしょ?」

 

 

「うお!」

 

図星。さすがなのはだ。

 

 

「賢伍君、前に私に言ったよね?『一人で抱え込むな。お前には仲間がいるだろ?俺もいる。少しでも俺達を頼っていいんだぞ?お前は独りじゃないんだから』って」

 

 

「ああ」

 

 

そういえば言ったな。

 

昔、フェイトの事で一人で悩んでた時に。

 

 

「賢伍君だって独りじゃない。私達がいるじゃない」

 

 

「うん!」

 

 

「そうだよ!」

 

 

お前ら…………

 

 

 

「約束して?もう独りで抱え込まないって」

 

 

「ああ………約束する。ありがとな、三人とも」

 

 

忘れてた。こんなにいいやつら何だ。俺はこいつらをいつまでも守っていきたい。

 

 

そう思った。

 

 

 

「あ、あと遅くなっちゃったけど……」

 

 

「ん………?」

 

 

「…………………お帰りなさい!!賢伍君!!」

 

 

「!!……………ただいま、なのは」

 

 

ありがとう。

 

 

「うん!」

 

 

なのはの満面の笑みが俺の視界を包んだ。

 

 

 




さてさて、文才の無さはおいていて、数少ない閲覧者の皆さんとお気に入りをしてくれたひと達の皆さんに感謝しつつ頑張ります!

とりあえず、感想、要望等があればどうぞコメント等をよろしくお願いいたしますm(__)m


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機動六課


4年間の孤独に耐え、光の英雄は仲間達の再会を果たした。

そして、この再会が新たな闘いの幕開けを意味していた…………。


 

 

それから、俺はなのは達と一緒に管理局へ戻った。

 

 

ずっと行方不明だった俺は管理局への再入隊などの手続きを済ませた。一からの入隊ではなく前の階級のままお咎めなしで再入隊できたのは、リンディさんやクロノの根回しのお陰だ。

 

 

俺が手続きをしてるあいだ、なのは達が俺が帰って来たことを皆に報告したようだ。

 

 

次の日には、ミッドチルダの俺の家で皆でどんちゃん騒ぎ。

4年ぶりに訪れた俺の家も、まだ俺の名義で残っていたのは皆おかげだった。

 

 

守護騎士の皆や、アルフ、クロノ、エイミィ、リンディさん。

 

 

ユーノはどうしても外せない用事があるらしく来れなかったが、俺から連絡して話をした。

 

 

皆、俺のために一日だけ有給をもらってきたり中にはサボってきたやつもいた。

 

 

 

とりあえず、宴会では皆に怒られた。

 

 

とくにヴィータがいきなりハンマーをぶっぱなしてくる始末。もちろん、返り討ちにしたが。

 

 

 

次の日は、なのはと一緒に地球に戻り、今まで心配をかけてしまった高町家の皆の所に帰った。

 

ちなみになのはは有給を使って一緒に来ている。何でもかなりたまってるんだとか………

 

 

高町家に着いたら、お待ちかねの説教タイム。約二時間、なのはも含めた高町家の前で正座させられた。

 

 

ああ、今でも足が痺れて………

 

 

まあ、皆にはしっかりただいまと言っといた。皆笑顔で、受け入れてくれたのは嬉しかった。

 

 

そして、また次の日。

 

 

はやてに呼び出された。なんでも俺に大事な話があるらしい。

 

 

とりあえず、俺は呼び出されたはやてのミッドチルダの自宅行った。

 

 

「ここか…………」

 

 

ドアをノックする。

 

 

「どうぞ~~~~」

 

はやての返事が聞こえてきた。

 

迷わずドアを開ける。

 

ガチャ

 

「よう。って皆揃いも揃って、どうした?」

 

 

守護騎士の面々になのはとフェイトもいる。

 

 

「お、賢伍君か。急に呼び出してしもうて、ごめんなぁ」

 

 

「別に大丈夫さ。暇だったしな」

 

 

実はトレーニングしてたけどな。

 

 

「そっか、そんなら良かったわ」

 

 

「で、話ってのは何だ?」

 

 

「うん、実はな…………」

 

 

 

……………………………………………。

 

 

「ふむ。話をまとめると、部隊を設立するから俺にも入隊してほしいってことか?」

 

大雑把に纏めるとこうだ、

 

常に第一線に動けない自分達にどこかもどかしさを感じていたはやてが部隊を作ろうと思い立った。

 

しかし、作ろうとおもって簡単には部隊は作らない。

 

まず第一段階としてはやてが部隊長を勤める部隊を一年間試験運用することが決まった。

 

それにこじつけるのにもだいぶ苦労してたようだが。

 

んで、その部隊に俺にも入隊してほしいとの事だった。

 

「まあ、大雑把に言うとな………」

 

はやてが苦笑いで言う。

 

実際、少し俺を誘うことに関して戸惑っていたようだ。

 

 

「これは、主はやての……いや、主はやてと私達守護騎士達の夢への一歩何だ。できれば神崎、お前の手を貸してほしい………」

 

そう言い、シグナムは俺にたいしてこうべをたれる。

 

「シグナム………」

 

 

頭を下げるなよ、シグナム。

 

 

気まずいな、何か………

 

「 私とフェイトちゃんも入隊するんだけど………どうかな?」

 

なのはも少し心配そうに俺に聞いてきた。しかも上目遣いで。

 

 

やべぇ………かわいい。また胸が熱くなって来た。

 

 

「そんな頼むように言うなよ……」

 

 

もちろん、断るつもりなんてないのに………

 

 

むしろ…………

 

 

 

「むしろ逆に俺が頼みたいくらいだ!お前らには助けてもらった恩もあるしな。今度は俺がお前らを助けたい………守っていきたい……」

 

 

前日の俺の暴走を命がけで止めてくれた3人と、俺の帰りを信じて俺の居場所守ってくれてきた仲間達。

 

俺の力はその仲間達のために使うんだ。

 

そう、決めていた。だから、俺に迷いはなかった。

 

 

「はやて」

 

 

俺は敬礼をして立ち上がる。

 

 

「神崎賢伍一等空佐。………えっと……」

 

 

あ、ちなみに一等空佐は少なくともなのは達より階級は上だ。

 

てか、部隊名何だ?

 

 

「部隊名は…………」

 

 

とはやての後ろから小人のような銀髪の女の子が出てきた。

 

 

リィンだな。

 

 

「部隊名は……機動六課ですよ!賢伍さん!」

 

 

機動六課か。

 

 

「ありがとう、リィン。………神崎賢伍一等空佐、機動六課入隊を希望します!」

 

 

「うん。よろしゅうな、賢伍君」

 

 

はやても立ち上がって敬礼する。

 

 

「ああ!」

 

 

俺達の物語はここから始まる………!

 

 

……………………。

 

 

 

夜、人気のない場所で誰かが佇んでいる。

 

その人影は夜の闇にまぎれ、溶け込んでいるようだった。

 

 

「まだだ…………まだ殺すのは早い………」

 

月が照らされその人影を写し出す。

 

その人影を管理局では光の英雄と呼ばれている人物とそっくりそのままの顔をしていた。

 

「やつには…………俺の光にはもっともっと輝いてもらわないといけない…………それまでの辛抱だぁ……」

 

そういうと、ニヤリと口元が緩む。

 

もし、誰かがその光景をみたら不気味だと答えるだろう。

 

光の英雄とは正反対の存在………。

 

 

「フフフ……………」

 

その不気味な人影に、全く怯まずに近づく人が一人。

 

 

「何のようだ?きさま………」

 

 

闇は姿勢と視線を変えずにそういい放つ。

 

このようなやつには全く警戒する必要はないという判断だろう。

 

やろうと思えば一瞬で殺せたからだ。

 

しかし、なぜわざわざここに?という闇の好奇心がそれをさせなかった。

 

 

「いや、君に害をもたらすために来たわけでわないさ」

 

闇に近づいた人影はそう答える。

 

男だった。男は肩くらいに伸びた紫色の髪をしていてさらに白衣を着ていた。

 

「どうだい?私のところに来ないかい?」

 

突然の誘いに闇も少し驚く。

 

「ほう…………なぜ俺を?」

 

ようやくその白衣の男に向き直る。

 

「深い意味はないさ………ただ、君に興味がある………」

 

白衣の男はそう答え、さらに続けた。

 

 

「それに、私が目的のために行動することで君の目的にも利がある。君にとっては悪い話ではないだろう?」

 

 

「けっ、食えない男だ………」

 

そういうと闇はその白衣の男に近づく。

 

「が、いいだろう、貴様といれば退屈もしなさそうだ…………」

 

ニヤリと口元を緩めると白衣の男もニヤリと口元を緩めた。

 

 

「ふふ、歓迎するよ………ついてきたまえ、アジトに案内しよう………。これからよろしく頼むよ?闇の神崎賢伍………ククク」

 

 

「こちらこそ、よろしく頼むよ…………無限の欲望さんよぉ…………クク、クハハハハハハハハ!!!!」

 

闇の不気味な笑い声はその辺りに響き渡った。

 

 

ぶつかり合う光と闇。

 

それぞれの勢力についた二人の神崎賢伍…………。

 

さあ、闘いの幕が上がる。

 




というわけでプロローグ編終了です!

次からはストライカーズ編のたち位置である、「闇のjs事件」編です!

閲覧ありがとうございましたm(__)m

では、次の話にて。


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闇のjs事件編
集結 ~新たなる仲間達~



ついに設立された機動六課。

ここに新たな仲間たちと共に英雄達は集結する。


 

 

賢伍がはやてからの誘いを受けてから、一週間。八神はやては完成した、機動六課の隊舎へ来た。

 

 

そして今日、ここで機動六課の試験運用が始まる

 

 

期間は1年。賢伍にも教えた事だ。はやては、隊舎のエントラスで一人たたずむ。

 

すると、後ろから機動六課の制服を着た、フェイト、なのはに、なのはの肩に座っている、リィンフォースが来た。

 

 

「いよいよだね。はやて」

 

 

「うん。いよいよや………」

 

 

はやては回りを見据える。

 

「あとちょっとで、ここで部隊の皆を集めて編成式をするんだよね?」

 

 

「そやでなのはちゃん。そういえば賢伍君は………?」

 

 

「それがね、連絡しても返事が来ないんだ………」

 

 

なのはが少しため息をつく。

 

 

「まあ、賢伍の事だからトレーニングのしすぎて寝坊してるんじゃないかな?」

 

 

「ありうるなぁ………」

 

はやては困った顔をする。

 

 

「まあ、しゃあない。賢伍君は遅刻って事にして、編成式やろか」

 

 

「うん…………」

 

 

なのはがかなり残念そうにする。とりあえず、賢伍不在で編成式が始まった。

 

…………………………。

 

 

 

はやて「……………………………とまぁ、長い挨拶は嫌われるんでここまでや。皆、これから一年間よろしくお願いしますぅ」

 

 

パチパチパチパチ。

 

 

機動六課総部隊長による挨拶が終わり、隊全員の拍手がおこる。その編成式では、期待と不安を抱える4人のFW陣に守護騎士の面々。

 

なのは、フェイトの姿がある。

 

その他にも事務局員やその他様々な役職を持った局員達がいる。

 

本来はここにいるはずの神崎賢伍の席は空席になっていた。

 

編成式が始まったとき、式は極度の緊張感に包まれていた。

 

理由は単純、神崎賢伍の存在だ。

 

ミッドチルダのニュースで多くの管理局員はあの光の英雄が帰ってきたことは知っていた。英雄と呼ばれるほどの人物………いったいどんな人なのか…………。

 

賢伍に会ったことないほとんどの人は並々ならぬ緊張を辺りに撒き散らし、編成式は度を越えた緊張感に包まれていたが賢伍が不在と知るといなや、式にはちょうどいいくらいの緩みができた。

 

 

そういう意味でははやては賢伍が遅刻したことに感謝したと同時に遅れてやってきたらこってり絞ってやろうとおもうのだった。

 

 

 

………………………………。

 

 

 

編成式を終え、はやてとフェイトは管理局本局に向かった。部隊設立に関しての事について色々と報告するためだ。

 

 

なのはは、早速FW陣の訓練を開始する。

 

 

「皆、準備はいいかな?」

 

 

なのはは訓練施設にFWの皆を集めた。

 

 

「「「「はい!!」」」」

 

 

4人の元気な返事が辺りに響く。

 

 

「それじゃあ訓練を開始する前に一人だけ紹介するね。………………シャーリー」

 

 

 

「はーい!」

 

シャーリーと呼ばれた女性はなのはの隣に立つ。

 

「シャリオ・フィニーノです。皆はシャーリーって呼んでるからよかったら皆もそう呼んでね♪」

 

 

元気な女性であった。

 

 

「シャーリーは皆のデバイスの修理や改良をしてくれるよ。デバイスについて質問があったら、シャーリーに聞いてね」

 

 

「よろしくね♪」

 

 

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

 

お互いの挨拶を終える。

 

 

「それじゃあ、シャーリー、早速なんだけど…………」

 

 

「はーい!分かってますよなのはさん」

 

 

そう言いシャーリーは目の前に画面を作り上げ、それをパソコンのように手を動かし始めた。

 

 

「機動六課自慢の訓練施設、ステージセット!」

 

 

ポチ

 

 

シャーリーがボタンを押した瞬間、海がさけすこしの地響きと共に市街地を再現したステージが現れた。これが訓練施設なのだろう。

 

 

「うわぁ…………」

 

 

「す、すごい……………」

 

 

FW陣の内二人の青髪女の子と、ピンク色の髪をした少女が驚く。

 

 

「それじゃあシャーリー、お願い」

 

 

「はーい」

 

 

シャーリーは返事をすると、FW陣の4人を訓練施設へ転送する。

 

 

「じゃあ皆、訓練内容の説明するよ」

 

 

訓練施設全体になのはの声が響く。

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

「訓練内容はガジェットドローン、通称ガジェットの模擬戦だよ。数は8体、時間は15分。皆はガジェットとの戦闘は始めてだったよね?自分たちでどうすれば破壊できるか考えて戦うんだよ?私からのヒントはなし、機能説明はしてあげるから、頑張ってね!」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

 

FW陣の元気な返事が辺りに響く。すると、目の前にカプセル型のロボットが出現した。

 

 

ガジェットだ。

 

 

「それじゃあ、訓練開始!」

 

 

なのはが宣言した瞬間、模擬戦が開始した。

 

 

 

模擬戦開始から5分、新人達はいまだにガジェットを1体も破壊できていなかった。

 

 

「くう!なんなの!?あのバリア!」

 

 

新人内1人のオレンジ色の髪で、二丁拳銃のデバイスを持った女の子が叫ぶ。

 

 

「あれはAMF 。簡単に言うと魔力と攻撃を無力化するバリアかな。破壊するには、強力な攻撃と、あとは………自分で考えてね」

 

 

新人達はAMF に苦戦していた。

 

 

「シャーリー、デバイスのデータは取れそう?」

 

 

「ええ。皆、良い子に仕上げますよ♪」

 

 

なのはとシャーリーがデバイスについて会話してると………。

 

 

カンカンカン

 

 

不意に、こちらへ駆けてくる足音がした。

 

 

「???」

 

 

その方向を見るなのは。するとそこには……

 

「遅れてすみません!寝坊しました!」

 

 

聞き覚えのある声がした。

 

 

「賢伍君!」

 

 

「賢伍さん!」

 

 

賢伍が遅れてやってきた。

 

 

「わりぃなのは、遅れちまってよ」

 

 

頭をかきながら言う賢伍。

 

 

「もう………初日から遅れて来るなんて言語道断だよ」

 

 

と、頬を膨らませて言うなのは。

 

 

「悪かったって………」

 

 

「はやてちゃんにもちゃんと顔出したの?」

 

 

「ああ。ちゃんと謝っといたよ。説教されたけどな…………」

 

 

 

 

~賢伍side~

 

 

 

今年で19歳になった俺だが、同年代の女に説教されるとは………それも遅刻で…………トホホ。

 

 

「男としての威厳が………」

 

 

 

「ん?何か言った?」

 

 

 

「いや、何も」

 

 

なのはにも説教されたら、俺のメンタルがもたなかったかも。

 

「とっ、シャーリー新人どもはどうだ?」

 

 

新人達には俺だって期待してる、育てがいがあるな。

 

ちなみにシャーリーとは一度会ったことがある。といっても数日前だ、はやてに施設を案内されたときにたまたま居合わせただけだが、まあ親しみやすいやつだった。

 

他にも俺が失踪する前から知っているやつやシャーリーみたいに数日前に顔を合わせているやつも六課には何人かいる。

 

 

「あれ?賢伍さんて………」

 

 

「言っとくが、俺もなのはと一緒に新人どもの教導係だぞ?」

 

 

「ええ!そうなんですか!?」

 

 

 

そんなに驚かなくても………

 

 

「なあ?なのはは知っt「そうなの!?」おい……」

 

 

「初耳だよ!それ!」

 

 

 

はやての奴、言い忘れてたな。

 

 

「まあ、とにかく俺も一緒だからさ、よろしくな」

 

 

「うん!」

 

 

何か嬉しそうだな……何故だか知らんが俺も嬉しくなってきたぞ、何故だ…………?

 

 

「はやてさんの言う通り、鈍感なんですね♪」

 

 

「ああ?何か言ったか?」

 

 

「いいえ」

 

何かにやにやしてんな………気になるが放っておこう。

 

「とっ、新人達は………」

 

 

俺はモニターを見る。

 

 

「あ、全部破壊できたみたい」

 

 

 

とりあえず、ガジェット破壊はできたようだな、新人どもはもうぐったりしてるが………

 

 

「だが、まだまだ改善するべきとこもあるな………」

 

 

チラチラと覗き見たがあぶなかっしいとこもあったしな。

 

 

「まあ、そこはゆっくり教えて行こうね」

 

 

「ああ」

 

 

焦ることはないし、それのほうが確実だろう。

 

 

「じゃあ皆の所に行こうか、新人達に賢伍君のこと紹介しなきゃいけないしね♪」

 

 

「そうだな。行くか………」

 

 

 

俺はなのはと一緒に新人どものいる、訓練施設へ転移した。

 

 

 

 

………………。

 

 

 

「皆、お疲れさま」

 

 

すっかりヘトヘトになった新人達に声を掛けるなのは。

 

 

「そのままで良いから聞いてね?あと一人だけ皆に紹介しなきゃいけない人がいるんだ。私と一緒に皆を教導してくれる人だよ」

 

 

そうなのはが言ったあとに俺は新人どもの前に立つ。

 

 

「神崎賢伍だ!なのはと一緒にお前らを教導する事になった。よろしくな!」

 

とりあえず、こんなもんかな?

 

 

「えっ……………」

 

「神崎って………」

 

「あの…………」

 

「管理局の光の英雄の?……」

 

 

4人それぞれ反応する。

 

 

自分で言うのもなんだが、俺の名前はかなり世間に通ってるらしい。

 

「わ、私はスバル・ナカジマ二等陸士であります!」

 

青髪のグローブ型のデバイスを持った女の子が言う。

 

「ティアナ・ランスター二等陸士です!」

 

 

オレンジ色の髪をした、二丁拳銃のデバイスを持った女の子。

 

「キャロ・ル・ルシエ三等陸士と言います!この子は、フリード」

 

「キュピー!」

 

 

こいつは、ドラゴンの子か。

 

 

ピンク色髪の女の子にその相棒のドラゴン子、フリードか。

 

 

なかなか面白い組み合わせだな。

 

 

「エリオ・モンディアル三等陸士と申します!」

 

赤髪の男の子、槍のデバイスを持った少年。4人は慌て立ち上がり、敬礼する。

 

「ははは、そうかしこまんなんよ」

 

照れるだろ……

 

「皆、賢伍君に何か質問がある人いる?」

 

 

おい、勝手に話を進めるなよ、なのは。別にいいけどさ。

 

 

「では……………」

 

 

「ん?何だ?」

 

 

スバルが何か質問があるみたいだな。

 

 

「えっと、その………あの……」

 

何だか言いにくいみたいだな。

 

 

「遠慮せずにハッキリ言ってみな?」

 

 

「それでは…………」

 

 

スバルは意を決して言った。

 

 

「な、ななななななのはさんと、その…つ、付き合っているって噂、本当なんですか!?」

 

 

 

 

…………………は?

 

 

 

「何を………言っているんだ……」

 

 

誰だ!そんな噂流したやつ!血祭りにあげてやる…………

 

 

 

「ええええええええ!!」

 

 

なのはも驚いてるじゃないか。

 

 

「ば、ばか!」

 

ごつん

 

 

「あた!」

 

ティアナがスバルをどつく。

 

 

「はははは。…………スバルゥ………」

 

負のオーラ全開の俺はスバルを呼ぶ。

 

 

「は、はいぃ!」

 

スバルは少し怯えてしまったようだ。

 

 

「その噂、誰が流した?」

 

 

「えっ?………えっと……」

 

 

知らないみたいだな。

 

 

「まあ、いいや。…………とりあえず、管理局の局員をミナゴロシにすれば問題ないか…………フフフ」

 

 

「賢伍君!?」

 

 

は!俺は一体何を?

 

 

「まあ、冗談はこの辺にして、俺は別になのはと付き合ってないぞ?」

 

 

別にす…………あれ?俺ってなのはこと好きじゃないのか?好き?あれ?どっちだ?

 

 

「うん…………そうだよ………」

 

 

何かなのはが不機嫌になったぞ?

 

 

「おい、どうしたなのは?」

 

 

「知らない………賢伍君のばか」

 

 

あらら、何か不機嫌だぞ?何か気に触ること言ったか?

 

「で、でも管理局で、なのはさんの自宅の前で二人が抱き合ってたって噂が…………」

 

 

「なにぃ!?」

 

 

抱き合ってただと?あれ?そういえばこの前…………

 

 

 

~回想 4日前~

 

 

「よう、なのは」

 

 

「あ、賢伍君!いらっしゃい」

 

 

俺はこの日なのはに呼ばれていた。なのはのミッドチルダの自宅で、はやてとフェイトを交えてお茶会をするらしい。

 

 

 

最近はよく誘われる。

 

 

俺がいなかった4年間も会えなかったので、その空白を皆で埋めたいらしい。

 

 

「それじゃあ、おじゃましま……………」

 

 

とりあえず中に入ろうとしたとき、僅かな段差で足を引っかける俺。そのまま、真っ直ぐに転ぶ………事はなかった。

 

 

何故なら目の前には

 

 

「えっ?賢伍君!?」

 

 

玄関の前で、待ち構えていたなのはに盛大にダイブ。なのはは俺を抱き抱えて、押さえようとする。

 

 

「うわぁ!」

 

 

ムニュ

 

 

えっ?ムニュ?

 

 

「け、賢伍君……………」

 

 

今の状況を説明しよう。

 

 

俺を抱き抱えたなのはだが、そのまま俺の顔はなのはの胸にダイブ。

 

結果、なのはは俺を転ばないように抱いて抑える。俺はなのはの胸に顔を埋められる。

 

 

うむ、端から見れば抱き合っているな!

 

 

「うわっ、わっわっ、ご、ごめん!」

 

 

「あっ、そのえと………だいじょうぶ………だ………よ?………」

 

その日は、まともになのはと話すことが出来ず、1日は終わった。

 

 

~回想終了~

 

 

「あ~あれか………………」

 

なるほど、あれを誰かに目撃されたんだな。

 

「それも、誤解だ。とにかく俺となのはは付き合ってないぞ」

 

 

「はあ…………どうも…」

 

 

「……………………………」

 

 

なのはさん、不機嫌オーラ出しながらなこっち見ないで……。とりあえず、機嫌直さなきゃ。

 

 

「でもなぁ、なのはと付き合えたら幸せだろうな」

 

 

「えっ!?」

 

 

「特に美人だからな、なかなかなのは程可愛い奴はなかなかいないと思うぞ?」

 

嘘じゃないよ。これ全部本心だからな。

 

 

「も、もう!賢伍君、や………やめてよぉ……」

 

なのはは、顔を赤くしている。うん、やっぱ可愛い。

 

 

「可愛いなぁ……………なのはは」

 

 

「ふぇっ!?」

 

って、何口走ってんだあああ!ヤバイよ。あまりにも可愛いから、つい口走っちまったよ!

 

 

「あ!いや……その……」

 

 

やべー、俺も顔真っ赤になっちまうよ。

 

 

「えっとその……私……私マ〇ジン買ってくるから!!」

 

ビューとなのはとは思えないスピード走って離れていく。

 

 

「はいよ………っておい!言い訳ならもっとマシなこと言えよ!あと、お前マガ〇ン読んだことないだろぉ!?」

 

俺のツッコミをよそになのはは隊舎に走っていった………

 

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「……………………」

 

 

放心状態の4人。

 

 

「あっ!えっと……………他に質問あるやついるか?」

 

 

「えっ!……………では私が……」

 

ティアナが慌てて手をあげながら言う。

 

「おう、何でも聞きな!」

 

とりあえず気を紛らわした。

 

 

………………。

 

 

「………………………」

 

 

賢伍君が……………可愛いって、賢伍君が可愛いって言ってくれた!

 

「~~~~♪」

 

上機嫌ななのはであった。

 

 

 

 

 

 




というわけで闇のjs事件編スタートです明日からGWも終わるので更新スピードは落ちてしまいますがこれからもよろしくお願いいたします!m(__)m


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英雄は料理好き?

 

 

 

 

六課設立当日。訓練終了後……………

 

 

「あ~ただいまマイクのテスト中」

 

六課全体に神崎賢伍の声が響く。放送で呼び掛けているみたいだ。

 

「FW陣4人、部隊長3人、守護騎士4人、今すぐ食堂に集まれ。一番遅れてきたやつは、給料50%カットするからご注意を」

 

 

ダダダダダダ

 

 

六課全体に、響く足音。給料50%カットを防ぐため、11人の男女が走る。

 

 

「だはぁ!一番や!」

 

 

いち早く食堂に到着したのははやて。

 

 

「に、2番!」

 

次にゴールしたのはフェイトだ。流石閃光と呼ばれるだけはある。

 

「「「「セーフ!」」」」

 

続いて守護騎士がゴール。4人同時で仲良くゴールインだ。

 

「「「「セーフ!」」」」

 

そしてFWメンバー、こちらも全員で同時ゴールだ。

 

「にゃ~~!最下位!」

 

 

「さすが運動音痴、やはり最下位か」

 

 

運動が苦手ななのはが最下位だというのは賢伍の中で予測はしていてようだ。

 

 

「まあ、給料50%カットは冗談だから心配すんな。つーか、俺にそんな権限ないし」

 

 

賢伍以外「「「!!!」」」

 

 

「ばーか」

 

 

皆見事に引っ掛かってくれたな。

 

 

「で?なんでそんな大嘘ついて、ウチら呼んだんや?」

 

 

「ん?ストレス解消に決まってんだろ?」

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

だって最近ストレスばっか溜まるんだからいいじゃないか。

 

 

「冗談だよ冗談、用があるから呼んだんだけどな」

 

 

「用って?」

 

 

フェイトも若干怒ってます。

 

 

「そう、怒るなフェイト。用ってのはな…………」

 

 

俺は食堂のテーブルを指差す。そこには、大量の料理が置かれていた。高級ホテルの立食パーティーのような料理の数々。見た目はすごく豪華だ。

 

 

「俺が作ったんだ、今日は六課設立記念に皆にご馳走してやろうと思ってな」

 

 

皆賢伍の料理に注目する。

 

 

「うわぁ………美味しそう……」

 

 

スバルがよだれを垂らさんばかりに料理を見ている。いや、もう垂れていた。

 

 

「気が利くじゃねえか賢伍」

 

 

ヴィータも満足げな声をあげた。

 

 

賢伍の料理を見て、各々から感嘆の声が上がっていった。賢伍自身も満更ではないようだった。

 

 

「………………………」ブルブルブル

 

 

一方で、なのはだけが賢伍の料理を見て震えていたのは誰も気が付かなかった。

 

 

「それじゃあ、早速いただき!」

 

 

はやては料理に手を伸ばす。

 

 

「!!はやてちゃんだめ!」

 

 

なのはの静止を無視し料理を口の中に入れる。

 

「安心せぇや、なのはちゃん。ちゃんとなのはちゃんの分も残しとくから……………」

 

 

料理を口に含みながら言うはやて。

 

 

「モグモグ…………ん!!!」

 

 

バタ

 

 

 

「はやてえええええ!?」

 

突然倒れるはやて。突然の事態に絶叫するヴィータ。

 

 

「ふむ。気絶するほど、旨かったか」

 

 

ポジティブな賢伍。

 

 

「(賢伍の料理のせいだ)」

 

 

「(賢伍君の料理のせいだ)」

 

 

「主はやて!」

 

 

「はやてちゃん!」

 

 

「はやて!」

 

 

「我が主!」

 

 

「(賢伍さんの料理のせいだ)」

 

 

「(賢伍さんの料理のせいだ)」

 

 

「(賢伍さんの料理のせいだ)」

 

 

「美味しそう!」

 

スバルを除いて、賢伍の料理の悪夢を実感したフェイト達。

 

 

 

「さあ他の奴もじゃんじゃん食え!」

 

 

「はい!」

 

料理にがっつくスバル。

 

 

「ガツカツ………………んん!!」

 

 

バタ

 

 

「スバルうううううう!」

 

はやて同様倒れるスバル。次に叫んだのはティアナだった。

 

 

「ほらほら、まだたくさん残ってるぞ?」

 

と言い、守護騎士達の口に無理矢理料理を入れる。

 

 

「……ん!」

 

 

「………んん!」

 

 

「………う!」

 

 

「テオオオオオオオ!」

 

 

バタバタバタバタ

 

 

一匹だけ、妙な奇声をあげながら倒れる守護騎士達。

 

 

「………………………」

 

 

「………………………」

 

 

「………………………」

 

 

「………………………」

 

 

「………………………」

 

 

残った5人は震えながら、倒れっていった仲間達を見る。

 

 

 

 

「なのは…………」

 

 

口を開くフェイト、震えながらなのはに問う。

 

「なのはは………知ってたの?」

 

 

「うん。小学校の時賢伍君の料理を食べたんだ………そしたら、空から頭の上にわっかがある翼を生やした人が迎えに来たんだ…………」

 

過去のトラウマを震えながら話すなのは。

 

 

「なのは……………」

 

 

「うん?……………」

 

 

「骨は拾っておいてね…………」

 

 

「フェイトちゃん!?」

 

 

不吉なことを言うフェイト。そのまま、悪魔の料理の元へ向かう。その表情は戦争に向かう兵士のようであったと後々になのはは語った。

 

 

「安心して、なのは………。皆の分は私が食べてあげるから………」

 

 

「えっ!?だめだよフェイトちゃん!」

 

 

「そうですよ!?死ん………ごほんごほん!気絶しちゃいますよ!」

 

 

抗議するなのはとエリオッ。

 

 

「大丈夫………」

 

 

フェイトは料理に手を伸ばす。

 

 

「フェイト、お前も食うか?」

 

 

「うん…………(気絶する前にすべての料理を口に入れる!)」

 

 

死を覚悟するフェイト。果たして作戦は上手くいくのか………

 

 

「いただきます!………………パク」

 

 

 

バタ

 

 

 

「フェイトちゃあああああああん!!」

 

 

「フェイトさああああああああん!!」

 

 

「一口でも口に入れたら、お迎えがくるなんて……………フェイトさんの作戦は失敗……」

 

ティアナは無惨なフェイトを見てなお震えだした。

 

 

「……………」

 

キャロは口をポカンと開けながら顔を真っ青にしている。

 

なすすべのない4人だった。

 

 

 

「……………」

 

なおも口をポカンと開けたままのキャロ。

 

「キャロ?」

 

変に思ったティアナは、キャロの肩を掴む。

 

その瞬間……………

 

 

 

 

バタ

 

 

 

「キャロおおおおおおおお!?」

 

 

恐怖のあまり、既に気絶していたキャロ。残るのはあと3人。

 

 

「こうなったら!僕が行きます!」

 

勇ましく言い出したのはエリオ。その目は敵の料理を真っ直ぐ見つめている。

 

「だめだよエリオ!フェイトちゃんみたいになっちゃうよ!」

 

 

「構いません!」

 

 

料理に手を伸ばすエリオ。

 

 

「うわああああ!フェイトさんの敵討ちだあああ!……………………パク」

 

 

 

バタ

 

 

「エリオおおおおおお!」

 

 

 

残るは2人。

 

 

「もう……だめだ……皆、皆旅立ってしまった。もう…………おしまいだ……」

 

涙目になりながら言うティアナ。

 

 

「だめだよティアナ!諦めちゃダメ!」

 

 

 

「じゃあどうしろって言うんですか!?」

 

 

 

ティアナが声をあらげる。

 

 

「なのは…………」

 

 

不意になのはを呼ぶ賢伍。

 

 

「賢伍君?」

 

 

「なのはは…………俺の料理食べてくれないのか?」

 

 

悲しそうに言う賢伍。

 

 

なのは「う…………ぅぅ………」

 

 

不覚にもキュンときてしまったなのは。

 

 

 

「だめです!なのはさん!」

 

 

「はっ!………賢伍君、私もうお腹いっぱいなんだよ…………」

 

 

ティアナの静止で正気に戻るなのは。苦し紛れの言い訳をする。

 

 

「そうか…………そいつは残念だな…………」

 

 

しょんぼりする賢伍。

 

 

「あぅ……………」

 

 

キュンとするなのは。今度は惑わされなかったが…………

 

 

「なのはに一番…………食べて欲しかったんだけど……………」

 

 

 

「はぅぅぅ!!賢伍くぅん!」

 

 

なのは、玉砕。

 

 

「な、なのはさん!」

 

 

ティアナの静止も聞かず、料理を食べるなのは。

 

 

「…………………パク」

 

 

 

 

バタ

 

 

 

「なのはさあああああああん!!」

 

 

「あはは………あ、天使さんだぁ………連れていってくれるの?わあ……ありがとう。ああ、フェイトちゃん、はやてちゃん、皆…………今私もそっちに逝くからね……………」

 

 

不屈のエースオブエース……撃沈。

 

 

「う~ん、皆気絶しちゃったら味の感想聞けないじゃないか……」

 

 

残念と思う賢伍。

 

 

「しょうがねえ、自分で食うか…………」

 

 

「……………………」

 

すっかり、ティアナを忘れた賢伍。

 

「いただきます…………………パク……モグモグ………ゴクン」

 

神妙な顔をしながら自分の料理を口に含む。

 

「うん!?」

 

 

 

バタ

 

 

 

「…………………………」

 

 

独り取り残されるティアナ。

 

 

「あああもう!なんなの!ワケわからないわよおおおはおおおお」

 

ティアナの悲痛な叫びは真夜中の六課全体に響いた。

 

 

その頃…………。

 

 

「今誰かの叫び声聞こえなかったっすかぁ?」

 

「いや、私には聞こえませんでしたが………」

 

しかし、ティアナの必死の叫びは誰にも伝わらなかったという。

 

 

 






久しぶりの更新となりました。

前回もいった通りGWが終わり更新スピードは落ちていますがこれからも読んでいただければ幸いです。


それでは次の話にて、ありがとうございましたm(__)m


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サブストーリー1 ~シャイニングハート~

機動六課が設立される数日前の話。


光の英雄が使う日本刀の鍔の形をしたデバイス。

名をシャイニングハート

光を司り、闇を貫く!


機動六課設立から、2日程前の話。

 

 

「なのは~~。休ませてください~~~!」

 

 

いきなり情けない事を言って申し訳ない。しかし、しかしだ。泣き言くらい言わせてほしい。この状況は誰でも泣き言を言ってもおかしくないだろう。

 

 

「駄目だよ賢伍君、まだこんなに残ってるんだから……」

 

なのはは、机に置かれた大量の書類を指差す。俺の目の前には書類の山!山!山!その量で前方が見えないほどだ。

 

 

「おかしいだろ!?この量は!」

 

 

何?いじめ?こんな、大量の書類1ヶ月使ったって終わらんよ!?

 

 

「4年間も仕事そっちのけだったんだからそれくらい溜まるのは当然だよ。クロノ君やリンディさんが口添えしてくれなかったら今の地位のまま再入隊なんて出来なかったんだからね!」

 

その通りである。その点に関してはとてもとても感謝しているんだから。二人の口添えがなければまた嘱託魔導師に逆戻りだった。

 

4年前の地位のまま一等空佐のままで再入隊はできなかったんだからな。

 

「うう……そうだけど……」

 

それが理由でこの書類の量である。4年間で溜まりに溜まった書類だけでなく俺が失踪していたときの活動報告書も提出しなければならない。ただでは再入隊させてはくれないようだ。

 

「特にこの活動報告書!4年前のことなんか覚えてねぇよ!」

 

まぁいいや、「ごはん食べて寝た」と書いておこう。

 

次の日はお風呂入って寝たと書こう。

 

「賢伍君!幼稚園児の日記じゃないんだからぁ!」

 

なのはが頭を抱えながらツッコム。いや、分かんないもん、4年前のことなんて。

 

「ほら、私も手伝うから…………ね?頑張ろう?」

 

「うう…………面目ない…」

 

なのはに諭されペンを動かす。次の日はとにかく寝たと書いておいた。

 

「あっ………そういえば賢伍君………」

 

何かを思い出したのか、俺を呼ぶなのは。

 

「昨日レイジングハートがね、賢伍君に挨拶してないからしたいって………」

 

 

レイジングハート………なのはのデバイスだな。

 

「レイジングハートが?」

 

 

 

RH 「賢伍さん、お久し振りです」

 

 

なのはの首に掛けられている赤い宝石、レイジングハートが話掛けられる。

 

 

「よう、レイジングハート。久しぶりだな、元気か?」

 

 

RH 「はい。この度はご無事で何よりでした。また、これからマスターをよろしくお願いします」

 

「おう、ありがとうな」

 

 

レイジングハートとの挨拶を済ます。

 

 

「さぁ、お仕事再開………って賢伍くぅん!!」

 

あっやべ、報告書の「寝た」とだけかいた書類を見られた!

 

「もぉ!!これじゃあ幼稚園児のほうがましだよぉ!」

 

まずい、怒ってらっしゃる!?

 

P P P P P P P P

 

なのはのお話が始まりそうな時だった。突然なのはのレイジングハートに通信が入る。管理局からだった。

 

 

「こちら、高町なのは一等空尉です!」

 

 

敬礼するなのは。

 

 

「こちら、災害対策本部です!ミッドチルダ市街地付近に大量のガジェットが出現しました!今、動ける部隊がありません。至急現場に向かって欲しいんですが………」

 

モニターに写し出された管理局員が慌ただしく説明している。

 

 

「で?数は?」

 

 

「こ、これは!神崎一等空佐殿!?し、失礼いたしました!」

 

 

「挨拶はいい!状況を!」

 

 

「は、はい!数はおよそ………50です」

 

 

なっ、50だと!

 

 

「そんなに!」

 

なのはですら驚きを隠せなかった。

 

 

「とにかく、俺となのはで出る!そっちは、結界を張ってくれ!」

 

 

「了解しました!…………御武運を………!」

 

 

通信が切られる。

 

出撃準備を済ませ外にでる俺となのは。

 

 

「ここから市街地までは、そう遠くないはずだ…………」

 

単独飛行許可を申請するより車両で移動したほうが速そうだ。

 

俺は愛車(バイク)に股がる。

 

 

「よし。なのは、後ろに乗れ!」

 

 

なのはにヘルメットを投げ渡しながら言う。慌ててつつもしっかりキャッチした。

 

 

「えぇ!?それは………ちょっと…………」

 

 

何故か渋るなのは。

 

 

「早くしろ!一刻を争うんだぞ!」

 

 

「~~~~~~~~~!!。わかったよ…………」

 

 

観念したみたいに渋々と俺の後ろに乗るなのは。しかし、何故渋ったんだ?理由は分からなかった。

 

 

「け、賢伍君!安全運転でお願いね!?」

 

 

「んなこと言ってる場合か!」

 

 

ブォン!…………ブォン!

 

マフラーで吹かし、エンジンを暖める。

 

 

「ちょ!賢伍君!お願いだから安全運転に…………」

 

 

ブオオオオオオオオオオオン!!

 

アクセル全開!なのはの言葉を聞かず、俺はバイクをおもいっきり走らせる。

 

 

「ちょっと!待っ………キャアアアアアアアアア!!」

 

 

なのはの叫び声が辺りに響くが、生憎俺の耳にはバイクのエンジン音しか聞こえなかった。そのまま俺は、バイクで市街地に向かった。

 

 

…………………。

 

 

無事に事故もなく市街地に到着。

 

だが………………

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ…」

 

 

何故か息切れをしているなのは。疲れる要素はなかったはずだが………。

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

 

「大丈夫………はぁ……賢伍君の暴走運転には………はぁ……もう慣れたから………はぁ」

 

 

息をきらしながら、言うなのは。てか暴走運転てお前………

 

 

「普通に運転してただろうが」

 

 

「全然普通じゃないよ!」

 

 

なのはのツッコミを流してガジェットを見据える。

 

 

「たく、ご丁寧にお出迎えをしてくれるみたいだぜ」

 

 

およそ50はいるガジェット達が俺となのはを見ていた。破壊対象を俺達に変更したようだ。

 

 

「賢伍君、準備はいい?」

 

すっかり復活したなのはに言われる。

 

 

「ああ。久しぶりの実戦だ、派手にいくか!!」

 

 

その言葉と同時にガジェット達は俺たちの方へ向かってくる。

 

 

「くるぞ!なのは、油断するなよ!」

 

 

「うん!………いくよ、レイジングハート!」

 

 

RH 「いつでも行けます!」

 

 

「レイジングハート………セーットアーップ!!」

 

 

 

なのはがそう叫んだ瞬間、なのはは空に羽ばたく。

 

 

そこには……

 

 

白いバリアジャケットをみにまとい。レイジングハートの杖を持った、エースオブ エースが空を飛んでいた。

 

 

「一気にいくよ!レイジングハート!」

 

 

RH 「はい、マスター」

 

 

「ディバイィィィン………」

 

 

辺りから魔力を収束する。

 

 

「ほほう。なのはの十八番は健在のようだ」

 

収束砲撃魔法、なのは得意な魔法だ。その砲撃で数々の犯罪や闘いを制してきた。

 

 

「バスターーーー!!!」

 

 

ガジェットに向かって放たれるなのはの十八番。無惨にも破壊されるガジェット達。

 

 

 

 

「怖い怖い……………」

 

あの砲撃魔法はとても強力だ。しかし、強力と同時に体の負担がでかい、まぁ今のなのはなら前よりはしっかりと制御とか負担の軽減は出来ているが。

 

子供の頃は砲撃魔法の負担や仕事でそうとう無茶をしてたっけ………あの時も………

 

 

………………………。

 

「なのはは!?なのははどこに向かったんですか!?」

 

 

 

 

 

 

「くそぉぉぉ!!まにあえええええ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

「頼む…………死ぬな!死なないでくれよぉ!なのはぁ!」

 

 

……………………。

 

 

「………っ」

 

 

ズキッとお腹が痛む。消えないキズが痛んだ。

 

余計なことを………思い出してしまった。

 

今は戦闘中だ、集中しろ!

 

余計なことを考えて集中が切れていたが、すぐに接近してくるガジェットに気がつけた。

 

右手で拳を作る。

 

「うおらぁ!!」

 

 

そのまま接近してきたガジェットを殴る。AMFを貫き、ガジェットをも貫通する。

 

 

「嘘ぉ!?」

 

 

遠くから見ていた、なのはも驚いている。

腕を振りガジェットはそこらへんに捨てる。

 

大丈夫だ、もう大丈夫。今は過去のことは関係ないだろ。ようやく調子を取り戻せた。

 

俺は懐から刀の鍔を取り出す。正確には、刀の鍔の形をしたデバイス。

 

「起きろよ………相棒……」

 

 

俺はデバイスに話掛ける。

 

 

「はい、マスター。いつでも起きてますよ」

 

相棒は喋り始める。俺が魔導師になってからずっと一緒に闘い続けてきた俺の相棒。

 

 

「久し振りのにいくぜ、相棒」

 

 

「はい。マスター」

 

俺はデバイスを高々と掲げる。

 

 

「いくぞ!"シャイニングハート"!!セットアップ!」

 

 

SH「スタンバイ・レディ」

 

最初の変化は俺の服装だ。紫と黒をベースにした、バリアジャケットをみにまとう。

 

右手にあるのは、シャイニングハートが刀の鍔から日本刀に変わった俺の武器。

 

そして、俺は空高く飛ぶ、

 

 

 

「………いくぜ…………」

 

 

刀を構える。

 

 

「………光の英雄は………伊達じゃねえぞ!!」

 

 

よし、気合い入ったあ!

 

 

「疾風速影!」

 

俺は超スピードで、ガジェット達の背後に移動する。これが疾風速影。

 

超スピードを出すことが出来る。その気になれば、フェイトよりも早くできる。

 

「相変わらず速いなぁ………」

 

 

なのはの呟きは、俺の戦闘音にかきけされた。

 

 

「はぁ!!」

 

ガジェットを一刀両断する。

 

キン

 

人振りで

 

キン

 

切り伏せる!

 

キン

 

ただの刀の一振り、しかしガジェット程度が光の英雄と呼ばれるこの男の相手になるはずがない。

 

 

ガキン!

 

しかしあるガジェットに刀を振るった瞬間、それは弾き返される。

 

「くっ!」

 

 

こいつのAMF、特別に強力だな。他のガジェットと比べて明らかに性能が違う。

 

 

「けどな………俺には通用しないぞ!」

 

 

魔力を込めた手を刀に添える。

 

 

「宿れ、全てを焼き尽くす紅蓮の炎………」

 

 

刀は炎を纏う。烈火のごとく!

 

 

炎鳴斬(えんめいざん)!!」

 

 

炎を纏った刀で、先程のガジェット斬る!斬ったと言うよりは叩いたと表現したほうがいいかもしれない。

 

斬るために振るったのではない、

 

ドカァン!

 

爆発。

 

刀がガジェットのAMFに触れた瞬間にガジェットごとバラバラにした爆発が起きた。

 

炎鳴斬

 

炎の魔力を纏わせ爆発させる。斬るのではなくあくまで爆発させる。

 

 

「やっぱり強いなぁ、賢伍君は………」

 

 

遠くから賢伍を見つめながら呟くなのは。もう足手まといにはなりたくない。守られている自分ではなく、賢伍と同じ場所に立てるようになりたい。

 

 

なのはは自分の目標を再確認するのだった。

 

 

「ふぅ………まだうじゃうじゃいんな……」

 

 

50は思ったよりキツいな……。

 

 

「しゃあねぇ、一気にいくぜ……シャイニングハート!」

 

 

SH「了解です!」

 

 

 

「はあああああああああ!」

 

 

俺は刀に魔力をを溜める。日本刀は徐々に白く輝いていく。

 

 

「宿せ、光の力!」

 

 

見せてやるよ………

 

 

「光よ!……喰らえガジェットども!」

 

 

俺の……

 

 

「光の力を!」

 

 

刀は白く輝く。

 

 

「シャイニングバレット!」

 

 

瞬間、無数の光のレーザーが俺の刀から発射される。それは次々にガジェットを貫き、破壊していく。

 

 

賢伍の魔法は斬系統だけではない。光の魔法、シャイニングバレット。光の英雄と呼ばれる由縁。その1つだ。

 

 

「ラスト!」

 

 

最後のガジェットを光のレーザーが破壊する。残っていた、約35のガジェットを一瞬で破壊した。

 

 

 

「うおっしゃあ!勝ーー利!」

 

 

俺は高々と、ピースサインをする。すると、なのはがこっちまで飛んできた。

 

 

「お疲れさま、賢伍君」

 

 

「おう、お前もな!」

 

笑い会う二人。二人にとっては造作もない任務だった。

 

一方、賢伍は無意識に戦闘中にズキズキと痛んだお腹をさすっていた。

 

 

 

管理局では…………。

 

 

「あれが…………管理局の光の英雄………」

 

 

先程、なのは達と通信した管理局員が小刻みに震えながら言う。本来、ガジェット達が搭載しているAMFは普通の魔力攻撃でも中々破ることができないものだ。

 

 

しかし、賢伍は魔法はおろか何の装備もされていない素手で破壊していた。その力を見て、管理局員が震えるのは仕方なかった。

 

 

 

 

……………………。

 

 

 

「さて、任務も終わったことだし、さっさと帰るか」

 

 

俺は欠伸をしながら言う。

 

 

「そうだね、賢伍君は帰ったらやることもあるし」

 

 

 

やること?

 

 

何かあったっけ?

 

 

 

「しょ・る・い♪」

 

 

 

「………………っ!?」

 

 

すっかり忘れてた。

 

 

「じゃあ戻ろっか」

 

 

「俺、魔法少女リリカルなのはA,sのDVD 買わなきゃ行けないから!!」

 

 

エスケープ!!

 

 

 

ガシッ

 

 

俺は逃げようとしたが、なのはに肩を掴まれる。

 

「いつでも買えるよね?速くやらないと」

 

 

黒い笑顔で言うなのは。

 

 

「嫌だ!はなせ!離せよ!HA☆NA☆SE!!……………………………いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

俺の情けない絶叫は真昼の青空に轟いた。




はい、まともな戦闘回に入りました。戦闘描写は難しいですがもっとうまくかけるように頑張りますんでよろしくお願いいたします。

また、今回みたいにサブストーリー的なものをちょくちょく挟みますが本編に絡む伏線なりなんなりありますので飛ばさずに読んでくれると幸いです。

では次の話にて!


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訓練と砲撃の恐怖

 

 

 

 

機動六課設立から、二週間が経った。各々ようやく新しい生活にも慣れてきて設立当初の緊張感はだいぶ薄れてきた。FW陣も、最初は少しでヒーヒーいっていたがだいぶ慣れてきたようだ。

 

 

そして今は、朝の早朝練習をしている。

 

 

「FW4人集合!!」

 

 

俺はそう言うと4人が俺となのは元に集まる。もうすでに、かなりシゴいたから皆ボロボロだ。

 

 

「じゃあ、最後の練習に入るよ」

 

 

「今日は、シュートイベーションをやる」

 

早朝訓練の最後の仕上げであるシュートイベーション。いつもこれと決めているのではなく今日はたまたまシュートイベーションなだけだ。

 

 

「5分間私の魔力弾をかわしつづけるか、私に一発入れたらクリアだよ」

 

 

「お前らの内1人でも魔力弾に当たったらやり直しだ」

 

 

訓練の説明をする、俺となのは。

 

 

「みんな、もう少し頑張れる?」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

いい返事だ。当たり前のことだが返事が元気よく出来るのはとてもいいことだ。最近では返事もまともに出来ないやつもいるからな…………。少なくとも六課にはそんなやつは今のところいないけどな。

 

 

「それと、セットアップはしないが俺はお前らの妨害をするからな」

 

 

 

「「「「もう頑張れません……」」」」

 

 

「おい、さっきと言ったことが違げぇじゃねえか!」

 

 

変わり身早すぎでしょ君達!

 

 

「だって………」

 

 

「賢伍さんが参加する訓練は………」

 

 

「もう悪意があるとしか………」

 

 

「感じないんです………」

 

 

4人が口を揃えて言う。いや悪意なんてねぇよ、むしろ愛情だよ。

 

 

「まあ、賢伍君が参加する訓練は全部賢伍君が考えたやつだもんね………」

 

賢伍君は私より厳しいからと後に続いた言葉は耳が痛いので聞かなかったことにする。それにしてもだ、

 

 

………………………。

 

 

一応手加減してるんだぞ?

 

 

情け無用模擬戦(なのは命名)だって、刀使わなかったじゃん。

 

 

「わかったよ、じゃあ俺は右手しか使わない………それでいいだろ?」

 

 

 

「「「「…………………」」」」

 

 

 

「…………まだ不満か?」

 

 

とりあえず、脅す。この程度で根をあげてもらっちゃ困るし。

 

 

「「「「いえいえいえいえ!大丈夫です!」

 

 

よろしい。

 

 

 

「それじゃあ準備はいいかな?」

 

 

なのははすでにセットアップして杖を構えている。本人は準備万端のようだ。

 

 

 

「みんな、今の状態でなのはさんの攻撃を5分間かわしつづけれる?」

 

 

「無理でーす!」

 

 

「き、厳しいです」

 

 

「僕もです………」

 

 

おーおー、はっきり言うね。

 

 

「賢伍さんもいることだし、一発入れる方向でいいわね?」

 

 

「うん!」

 

 

「「はい!」」

 

 

いい判断だ………。今の自分達の状態も考えると逃げる続けるのは難しい。できれば短期で済ませたい状況だ。それに攻撃は最大の防御とも言う。事実そういう部分もあるのでティアナの判断は正解と言えるだろう。

 

「それじゃあいくよ………レディー…………」

 

 

「ゴー!!」

 

 

「ちょっと!それ、私のセリフ!」

 

 

 

セリフを奪う俺。いやー、爽快だねぇ。プンプンと怒りだすなのはを無視して模擬戦は始まった。

 

 

「てぇぇやあ!」

 

 

開始直後いきなりなのはに殴り掛かるスバル。

 

 

「単調すぎだ!」

 

 

俺は殴ろうとしていたスバルの右手の手首を掴み、振り回して投げ飛ばす。もちろん右手のみで………。

 

 

「キャア!…………いったぁい………」

 

 

地面にぶつけた尻を抑えながら言うスバル。少し罪悪感が芽生えつつも戦闘ではそんなこと言ってられないので割りきることにする。

 

 

「ばかスバル!来るわよ!」

 

 

即座にティアナが叫ぶ。既になのはが放った魔力弾がスバルに迫まっていた。

 

 

「えっ?………わあっ!」

 

 

ギリギリ体をダイブさせて魔力弾をかわすスバル。が、魔力弾はもちろん追尾可能。

 

 

「うわうわうわうわ!」

 

 

すぐさま反転してそのままスバルをターゲットにして追尾する魔力弾。

 

 

「くっ!待ってなさい!今撃ち落としてやるわ!」

 

 

そう言い、ティアナはデバイス銃の引き金を引くが………

 

 

 

 

ガキン

 

 

「あれ?もう、こんなときに!」

 

 

どうやら、デバイスにガタがきてるな……弾は発射されず、詰まる。ティアナは急いで弾をかえ、もう一度ガジェットに照準を合わせる。

 

しかし

 

 

「おおっと!撃たせないぜ!」

 

 

俺はティアナの前に立ちはだかり、射程を塞ぐ………。弾を詰まらせたのは運の悪さだがそこで生まれたスキを逃すほど俺も戦場も甘くはない。

 

「今!」

 

 

ジャリジャリジャリジャリ!!

 

 

「うわあ!」

 

 

誰かの声と共に、地面から鎖が現れ俺を縛りあげる。鎖が出てる地面からは魔法陣が展開されていた。

 

 

このバインドは………キャロか………

 

 

視線の先には、キャロが地面に展開された魔法陣と同じものがキャロの所にも展開させていた。

 

 

「ナイスキャロ!いけ!」

 

 

パァン!

 

 

銃を発射するティアナ、見事にスバルを追尾していた魔力弾を撃ち落とす。

 

 

「ナイスティア!………よし!」

 

 

 

スバルはウィングロードを展開し、なのはの元に詰め寄る。

 

「よし!」

 

 

ティアナはスバルとは逆からの方向に移動してなのはに銃を構える。

 

 

「うぉぅりや!」

 

 

スバルはなのはに拳を握り、振りかざす。ティアナは逆から、引き金を引こうとする。挟み撃ちの状態だ。

 

 

けどな…………

 

 

「甘い!」

 

 

バキン!!

 

俺は自分を縛る鎖のバインドを一瞬で破壊した。バラバラになり力をなくした鎖は地面に落ちながら消える。

 

 

「そんな!?」

 

 

キャロは驚く。いくらなんでもあんなに簡単に破壊されるとは思ってなかったようだ。

 

 

「疾風速影!」

 

 

そのままティアナの元に高速移動をする。ちなみに、疾風速影はセットアップしなくても使える。

 

 

「簡単にはやらせないぞ!」

 

 

「くっ!」

 

 

俺はティアナを先程のスバルと同じように投げ飛ばそうと右手を伸ばす……………。

 

が、

 

 

ブウン

 

 

「な!?」

 

 

触れることが出来ず、右手はティアナをすり抜けた。

 

 

「これは……………」

 

 

スバルののパンチをかわしていたなのは。そのまま魔力弾を当てようと放ったが当たらず、ティアナと同じくすり抜ける。

 

 

「シルエットか…………」

 

 

フェイクシルエット。要は残像だな。

 

 

「やるね、ティアナ」

 

俺は一旦なのはの元に移動する。

 

「これは………あきらかな時間稼ぎ………5分間逃げるきか?」

 

 

「違う、あれ見て!」

 

 

なのはが指示した場所に視線を移す。そこに見えたのは、

 

 

「くっ!ばれた!」

 

 

 

「もう少し終わります!」

 

 

キャロがエリオの槍、ストラーダを魔法で強化していた。エリオは既に足元に魔方陣を展開してストラーダのブーストを起動させていた。いつでもこっちに突進できる状態だ。

 

「俺を鎖で縛りつつ、魔力強化もしていたのか……キャロもやるな」

 

 

「でも、ばれちゃったね」

 

 

 

「ああ、問答無用で防がせてもらおうか」

 

俺だって出来ればこんなに厳しくはしたくない。実際かなりFW陣にはハードなメニューを組んでいる。しかしだ、今日だって来てもおかしくない実戦の時は命を落とす危険性だってある。厳しいようだがあいつらを死なさないためにもだ。

 

 

 

俺はキャロとエリオもとに移動しようとする。

 

 

「キュル!」

 

 

 

ボン

 

 

 

が、突如俺の背後にフリードが現れて、後ろから火炎弾を放ってくる。

 

 

「うお!アブねぇ!」

 

 

俺はギリギリ体を捻って回避する。が、これが僅かに時間を稼がれた。

 

 

「出来た!あ、あのとにかくスピードがでるので気をつけてください!」

 

 

「大丈夫!スピードだけが取り柄だからね。………いくよストラーダ!」

 

 

SR「ラジャー」

 

 

エリオは強化された槍をなのはに向けてそのままブーストを使ってなのはに向かって突っ込む。

 

 

なるほど、俺にバレるのも想定していたか。フリードにはいつでも俺の背後をとれるように待機させていたみたいだ。そのフリードだが火炎弾を放ったあとそのまますぐにキャロの元に移動していた。

 

 

「やるなエリオ!だが………簡単には行かせないぞ」

 

 

疾風速影でエリオの前に即座に移動し、エリオのストラーダの槍の先端を右手ひとつで止める。

 

 

「くっ!うおおおおおお!」

 

 

ストラーダのブーストは止まらない、しかし俺の右手で完全に動きは止まってしまった。

 

 

「なのは!」

 

 

「うん!」

 

 

なのはがエリオに魔力弾を放つ。桃色の弾はエリオに一直線で向かった。はい、これでやり直………

 

 

「させない!」

 

 

突如さっきまで姿が見えなかったティアナが現れてデバイス銃で魔力弾を撃ち落とす。

 

 

そして………

 

 

「はあああああ!」

 

 

ティアナ同様スバルも出てきて俺の左方向から迫ってくる。拳を握って…………。本来なら左手か、足を使って応戦するんだが…………、

 

 

「右手しか使っちゃ駄目何だよな…………」

 

 

仕方なく、俺はスバルの拳を顔面で受ける。

 

バキィ!

 

スバルの拳は俺の顔面をしっかりと捉えて叩き込む。

 

 

「………えっ!?」

 

 

しかし、スバルは驚愕の声をあげる。それもそのはずだ、何故なら………

 

 

「中々いいパンチだな………」

 

 

殴られた賢伍は平然としていた。吹っ飛びもせず平然とエリオの槍を止めていたのだ。

 

 

「それなら………」

 

 

スバルの拳に青い光が満ちていく。魔力だ。平然とする賢伍に驚きながらも次の行動に映る。

 

 

「ちょ………それは流石に……」

 

 

そういえばこのあいだなのはが嬉しそうに話してたっけ。

 

 

「ディバイイイイン……………」

 

高町なのはに憧れて魔導師になったスバルはなのはの十八番である砲撃魔法。

 

「まてまてまてまてまてまてまて!!!」

 

ディバインバスターを使えることを。まて、やばい。いくらなんでもそれは痛いよ!

 

 

「バスタアアアアアアア!!」

 

 

「うおおおおわあああああ!!!」

 

 

ゼロ距離のディバインバスターを食らう賢伍。そのまま吹っ飛ばされて地面に激突した。

 

「いっけええええええ!」

 

 

賢伍の右手から解放されたエリオは突進を再開する。

 

「皆やるなぁ………」

 

 

(なのは………)

 

 

ディバインバスターを食らって吹っ飛んでいた俺はなのはに念話で話しかける。

 

 

(何?賢伍君)

 

 

 

(予定変更だ、もうちょい続けるつもりだったが皆合格だ。エリオの突進受けてやってくれ、お前のバリアをギリギリだが破るだろう。………それに流石にディバインバスターはちょっと痛かった)

 

 

(普通はちょっとじゃ済まないんだけどね。うん、分かった)

 

 

 

なのはとの念話を止めると、なのはもエリオに向かって突っ込む。

 

 

「皆上達したなぁ…………」

 

 

俺が小さく呟いてるうちに、エリオはなのはにストラーダを突く。衝撃でまわりが煙だらけになる。

 

 

「うわあ!」

 

 

エリオはなのはのバリアの影響で吹き飛ばされた。

煙が晴れていく………なのはは平然と空を飛んでいた。

 

「そんな!?失敗……」

 

 

「ううん、合格だよ。ほら!、ここ」

 

 

なのはは自分の肩辺りを指す。バリアジャケットが少しだけ焦げていた。

 

「ちゃんとバリアを破って、バリアジャケットに届いてるよ」

 

 

なのははそう言うと微笑む。

 

 

「やっ…………」

 

 

 

「「「「やあああったああああ!!」」」」

 

 

FW4人はお互いを抱きながら喜びあう。

 

 

「おー、いたたた…………」

 

 

FWが喜んでいるなか俺は焦げてしまった服をはたきながら立ち上がる。

4人が俺が思っている以上に成長していることを喜びながらもある感情もあった。

 

 

「それにしてもスバルのディバインバスターでこの威力か………」

 

本物だと今じゃどれくらいの威力が………

 

「いや、考えるのはやめておこう………」

 

 

想像したらブルブルと背中が震えた。

 

 

「………ふふっ」

 

FWが喜びあっているの微笑ましく見ているなのは。こんなかわいい女の子がそんなすごい砲撃をバンバン撃っていることを今更ながら疑問に思う俺だった。

 

「あー、やばいほんとに痛い………」

 

こんなことならセットアップすればよかったと後悔する賢伍だった。

 

 

 

 

 





ふう、一応エブリスタのをすこし修正しながら投稿しているので思いの外時間がかかってしまいました。
閲覧ありがとうございました!


では次の話にて


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鈍感なのは悪いこと?

シュートイベーションは見事新人達がなのはに一発決めて言い終わり方が出来た。とりあえず、午前の訓練の最後のメニューが済んだので最後に整列して締めるとしよう。

 

 

「うん、それじゃあ皆………」

 

 

なのはもそう思ったのか皆を整列させようと声をかける。しかし!甘い、甘すぎるんだよなのは!

 

 

「整列!」

 

 

「だから私のセリフだよ!?」

 

 

本日二度目のセリフ奪取。膨れっ面で抗議してくるなのは。いや、ちょっとクセになりそうだ。そして、4人はもう整列していた。

 

 

「今日の早朝訓練はここまでだ!皆良い動きだったぞ!」

 

 

 

「「「「あ、ありがとうございます!」」」」

 

 

「チーム戦にもだいぶ慣れてきたみたいだし、皆上達してて私も嬉しいよ!」

 

 

俺となのははそれぞれ4人を褒める。今回の訓練でもう次のステップに進んでも問題だろう。多分なのはもそう思っているはずだ。

 

だが、ひとつ気になることが………

 

 

「何か焦げ臭いな………」

 

 

「確かに………そうですね」

 

 

 

何だ?このにおい。

 

 

「あ!スバル!ブーツ!」

 

 

ティアナがスバルのローラーブーツを指差す。

 

 

「ブーツ?…………あ!」

 

 

スバルのローラーブーツから黒煙とさらにバチバチと電気が走っていた。さっきのシュートイベーションで無理させたな………

 

 

「あ~~、無理させちゃったかなあ?」

 

 

スバルが何だか悲しそうに言う。

 

 

「う~ん。仕方ないね、あとで開発部に修理お願いしてこよっか」

 

 

「はぁい…………」

 

 

実はまだ気になることがある。

 

 

「ティアナ、お前のデバイスは大丈夫なのか?」

 

 

さっき弾を詰まらせたよな?デバイスとしてはだいぶ問題だ。

 

 

「はい、もうギリギリですかね………」

 

 

ティアナのだけでなく皆のデバイスも、ボロボロだ。そうだな、次のステップに行くついでに…………

 

 

「う~ん、皆のデバイスもボロボロだなぁ。賢伍君、もう実戦用の新デバイスに切り替えても良いんじゃないかな?」

 

ちょうどなのはが俺が考えていたことを代弁してくれていた。

 

 

「ああ、皆上達してきたしな」

 

いつまでも訓練デバイスでやっていたら実戦に対応出来ないからな。

 

 

「新……………」

 

 

「デバイス?」

 

 

ティアナとスバルの二人が首をかしげている。

 

 

「説明はまた後でな、とりあえずもう訓練はおわったから皆で隊舎に戻ってシャワーでも浴びるかぁ」

 

 

「そうだね、それじゃあ行こうか」

 

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

俺たちは訓練施設を後にして、隊舎に向かった。

 

 

……………………。

 

 

隊舎までは歩いて向かいFW達4人と雑談を交えながら向かっていた。

 

 

「えっ!?賢伍さん、なのはさんと幼なじみなんですか!?」

 

 

スバルよ知らなかったのか。多分だけどお前以外の六課の局員皆知ってると思うぞ。

 

ほら、他の三人も頷いてるし。

 

 

「おー、そうだぞ。小さい頃のなのははなぁ…………よく俺に向かって「大きくなったら賢伍君と結婚するー!」なんて人前でよく言ってたなぁ………」

 

 

「わー!わー!わー!ひどいよ賢伍君!!小さい頃の話でしょ!?恥ずかしいからやめてよー!」

 

などと真っ赤になったなのはをからかいながら隊舎に向かう。この時FW4人全員があんなに仲がいいのにどうして恋人同士ではないんだろうと疑問に思った。

 

その他雑談をしながら歩いていると前方から黒い車見えた。

 

あれは…………フェイトの車だな。

 

 

 

すると車は俺達の前で止まり、車の窓が開いた。

 

 

「よう、フェイト、はやて」

 

 

車には運転席にフェイト、助手席にはやてが乗っていた。

 

 

「ふふ、皆お疲れみたいだね」

 

 

「そうみたいやなぁ」

 

 

ニコニコと微笑みながらそう口を開く二人。

 

 

「すごい!これフェイトさんの車なんですか?」

 

スバルが興奮しながらフェイトの車を観察していた。

 

 

「うん。地上での移動手段なんだ………エリオ、キャロごめんね。私は二人の隊長なのに………」

 

 

どうやら、訓練に参加できない事を謝ってるみたいだ。

 

フェイトも六課の中でエリオとキャロの教導を担当しているが、それはフェイト自身が忙しいため中々できないのが現状だ。

 

フェイトは執務官という立場があるから、仕方がないんだけどな。

 

そして、機動六課は部隊を分けている。

 

 

スターズ分隊。

 

隊長なのは。

 

副隊長はヴィータ

 

メンバーは、スバルとティアナ。

 

 

 

ライトニング分隊。

 

 

隊長はフェイト。

 

副隊長シグナム

 

メンバーはエリオとキャロだな。

 

 

俺?俺は…………また後で教えてやる。

 

 

「あ、そんな……大丈夫です」

 

エリオとキャロも事情はよ分かっているから笑顔でそう答えていた。

 

「皆良い感じで上達してるよ」

 

そう様子を笑顔で見ながらなのはがそう答えた。

 

「ホント?それはよかった」

 

 

フェイトが嬉しそうに微笑んだ。 二人の保護者の立ち位置であるフェイト。時に過保護すぎないか?と思う場面にも出くわすがフェイトはフェイトなりにしっかりやっていることは皆が認めている。

 

 

「それで…………お前らこれから何処に行くんだ?」

 

 

さっきから気になってたが………

 

 

「うちは聖王教会で騎士カリムと会談に行くんよ」

 

 

「私ははやてを送ってるだけだよ」

 

 

聖王教会の騎士カリム…………。俺はまだ直接の面識はない。今俺達機動六課が追っているもの。ロストロギアであるレリックと呼ばれるものを追いかけているのも聖王教会からの依頼でもある。

 

機動六課の設立にも協力してくれたらしいが…………その実態は俺にもわからん。

 

 

「そうか、気をつけてな」

 

 

「うん」

 

 

「私は昼頃までには帰って来るから、お昼は一緒に食べようね?」

 

 

 

「「はい!」」

 

 

エリオとキャロ、何だか嬉しそうだな………。

 

 

 

「ほな、また後でな!」

 

 

「うん。いってらしゃい」

 

なのはがてをふるのを合図に窓を閉めてそのまま車を走らせるフェイト。

 

 

「じゃあ俺達も戻るか!」

 

 

「うん」

 

俺達もそのまま隊舎に戻った。

 

 

 

……………………。

 

 

 

ザアアアアア!

 

 

シャワー室に響くシャワーの水音。隊舎に戻った俺たちはそのまま共用のシャワールームに直行。エリオと一緒にシャワーを浴びている。

 

無論、女性グループは別室のシャワー室でシャワーを浴びているだろう。

 

 

「ふう!エリオ、今日の最後の突進、中々良かったぞ!右手がまだヒリヒリしてるよ」

 

右手をブラブラさせながら言う。実際に右手は槍を止めているときあまりの勢いで手が痺れていたのだ。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

「FWで唯一の男子だからなぁ、女子に言えない悩みとかあったら遠慮なく言えよ?」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

「恋の悩み………とかさ……」

 

 

 

「こ、恋ぃ!?」

 

普段敬語で話すエリオもそれを忘れるくらい驚いて反応してきた。

 

もしや………

 

 

「お前、キャロの事好きだろ?」

 

 

ズバリそうだろ?

 

 

「え!?いや、その………」

 

 

顔を赤くするエリオ。

 

 

「ハハハ、分かりやすいやつだなぁ」

 

 

おそらく初恋だろう。いや、まともな恋愛もしたことない俺が笑うのも変な話だが。

 

 

「まあ、頑張れよ。恋も、魔法もさ………」

 

 

「は、はあ」

 

 

まだ子供だからな。これからが伸びしろなんだからな………楽しみだ。

 

 

「その………」

 

 

「うん?」

 

 

エリオが口を開く。

 

 

「賢伍さんは…………なのはさんの事、好きなんじゃないんですか?」

 

 

予想外の言葉が………

 

 

「正直わかんねぇんだ……」

 

 

俺は答える。

 

 

「生まれてから一度も恋なんてしたことないからさ………俺がなのはに抱いている気持ちが恋かどうか分からないんだ」

 

 

「そうなんですか………」

 

 

 

エリオが意外そうな顔をする。

 

 

「ま、俺にも色々あったしな」

 

 

小さい時に両親が死んで、それからすぐに魔法に出会った。ジュエルシード事件、闇の書事件が重なって起きたし。

 

 

それからは、管理局で忙しい日々。

 

 

 

そして失踪。

 

 

ほんとにそれどころじゃなかったからなぁ…………。

 

 

ズキッと腹部に痛みを感じた。昔を思い出したついでにまた余計なことを思い出してしまう。

 

 

 

 

 

…………………。

 

 

 

 

 

そんな!?なのはだけじゃなくて賢伍まで!!なんで………なんでこんなことに………!

 

 

 

 

 

 

この傷は賢伍君をずっと苦しめることになると思うわ………そして、あなたが守ろうとしたなのはちゃんの心を傷つけるものにもなるってことを覚悟してください………。

 

 

 

 

 

 

…………………。

 

 

 

 

やめろ………止まれ………。見たくもない記憶の映像が頭に流れる。そのたびにズキッと腹部に痛みが生じる。止まれ…………止まるんだ………。

 

 

やがて、ようやく落ち着いてきた。腹部の痛みも、記憶の映像も止まる。

 

 

「け、賢伍さん………?」

 

 

「ん?……ああ、悪い悪い………ちょっとボーッとしちまったな………」

 

 

俺の様子を不自然に思ったであろうエリオには誤魔化す。

 

 

「とっ、これじゃあお前に恋のアドバイスはできないな!」

 

 

 

「いえ、そんなことは…………」

 

 

話題を戻しつつ俺自身も少し平静を取り戻す。

 

 

「ま、今は恋より魔法かな?これからも頑張れよ。期待してるからな!」

 

 

 

「はい!」

 

 

今日一番の返事が帰ってきた。その返事を聞いたときには完全に平静を取り戻すことができた。

 

 

 

…………………………。

 

 

ザアアアアアアアア

 

 

一方、女性のシャワー室。

 

 

そのシャワールームを使用している4人の女の子。

 

 

 

「今日は皆動きが良かったよ。この調子で頑張ろう!」

 

 

 

「「「はい!」」」

 

 

シャワーを浴びながら言うなのはに、エリオを除いたFW陣が返事をする。

 

 

「キャロ、頭出して、洗ってあげる」

 

 

 

「すみません」

 

 

 

「はは、皆仲がいいね」

 

 

 

「私とスバルは腐れ縁みたいなものですけどね………」

 

 

ため息をつきながら言うティアナ。

 

 

「でも、二人とも良いコンビだと思うよ?」

 

 

こんな感じで会話してると………頭を洗い終わったスバルがキャロに突然いい放った。

 

 

「キャロってさ………」

 

 

「はい?」

 

 

「エリオの事好きなんじゃないの?」

 

 

爆弾投下。

 

 

「えっ!?」

 

 

突然に聞かれ顔を真っ赤にしながらあたふたするキャロ。

 

 

「いや、その、エリオ君はカッコいいなぁ人だなぁと思っていますけど……そういうことはよく分からなくて………そのぉ……」

 

 

体を少しもじもじさせながらキャロは言う。顔も少し赤みを増して

 

 

「へ~。それじゃあ、なのはさんは賢伍さんの事好きなんですか?」

 

 

さらに爆弾を投下するスバル。

 

 

「ふぇ!」

 

 

いきなり聞かれたなのはは顔を赤くする。教官に聞くような質問ではないがそこはなのは人当たりのよさでずけずけと聞かれた。

 

 

「その………賢伍君はすごいカッコいいし、やさしいし。私もよく自分の気持ち分からないしぃ…………」

 

 

キャロと同じような状況になるなのは。しかし、キャロより取り乱している様子だった。

 

 

「でも、賢伍さんはなのはさんの事好きなんじゃないんですか?」

 

 

ここぞとばかりまた口を開くスバル。

 

 

 

「ふぇ!。賢伍君が!?そ、そんなわけ……あぅぅ……」

 

 

もうトマトみたいに赤くなるなのは。この暴走はしばらく続くのだった………。

 

ちなみにスバルは「なんてこと聞いてんのよあんたは!」というティアナの言葉と共にどつかれたようだ。

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

「どうして女ってのはシャワーが長いんだろうな………?」

 

 

 

「さ、さあ?」

 

 

 

既にシャワーを終えた男性陣はシャワーの長い女性陣をため息をつきながら待っていた。




今回は話事態はあまり進みませんね。文才のなさに嘆く日々ですがどうかよろしくお願いいたしますm(__)m


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ファーストアラート ~ランクとリミッターと英雄の言葉~






 

 

 

 

 

 

 

それから俺達は合流。結局結構な時間女性陣のシャワーが終わるまで待たされた。まあ、そこは女の子なので色々と時間がかかってしまうのだろう。

 

そのまま新デバイス説明のためデバイス室へ向かう。道中ずっとなのはとキャロの顔が赤くなってたが気にしないでおこう。

 

 

…………………………。

 

 

 

「わあっ………」

 

 

 

「これが………新デバイス」

 

 

 

各々の言葉をあげ感激する4人。

 

 

デバイス室についてからはすぐにFW4人新しいデバイスを手渡した。自分の相棒がパーアップしたのだから、4人がそれぞれ笑みをこぼしている。

 

 

今はシャーリーとリィンとなのはにデバイス説明している。

 

 

「ふう…………暇だ………」

 

 

俺からはデバイスについての説明はないからなぁ……とりあえず暇だ。

 

 

「そういえば賢伍さんの魔力ランクっていくつなんですか?」

 

 

唐突にスバルが聞いてきた。

 

 

適当な椅子に座ってボーッとしていたらいつのまにか話は魔力ランクの話に切り替わっていたようだ。

 

魔力ランクがそのまま魔導師の強さというわけではないが気になると言うのなら答えない理由はないな。

 

 

「俺に魔力ランクはないぞ?」

 

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 

 

「正確には測定不能かな」

 

 

FW4人がえっと声をあげ、すかさずなのはが付け加えてくれた。

 

 

「あまりにも強力で測定出来なかったらしいですぅ!」

 

 

リィンが両手を広げてそれがどれだけのことか体で表現してくれるが、生憎もとがミニマムサイズなのであんまし伝わってこない。

 

 

「今賢伍さんに失礼なことを考えられた気がします!?」

 

 

おおっと、鋭いな。

 

 

「「「「………………」」」」

 

 

4人はもう開いた口が塞がらない状態だ。実際に俺も最初に管理局に言われたときは同じような状態になった。

 

本来なら測定不能なんてあり得ないのだから。

 

「まあ、賢伍さんの魔力もそうだし賢伍さんのデバイス…………シャイニングハートも未だ謎が多いのよ………賢伍さんも、シャイニングハート自体も知らない力が眠っているとも言われてるから………」

 

 

シャーリーの言う通りである。このデバイスは俺には分からない機能、力が眠っているかもしれないのだ。俺が使う魔法、シャイニングバレッドやその他もろもろ。デバイスを改造してあみだした技ではない。

 

俺が今まで闘ってきたなかで突然身に付いてきたのだ。

 

 

「まったく困ったデバイスだよこいつは……」

 

 

SH「そう言われるのは心外ですね、マスターは私がいなければただの無能なのですが……」

 

 

「あぁん!?お前それがマスターに対する態度か!?おめぇだって俺がいなきゃただの刀の鍔しかないしインテリアとしても役に立たない不良品じゃねぇか!」

 

 

SH「…………言ってはならないことを言いましたね…………?」

 

 

「おお、やるかこのやろう………。塩分がたっぷり含んだ塩水につけてやろうじゃねぇか」

 

 

デバイスと賢伍の間に火花が散っていた。

 

 

「私、デバイスと喧嘩してる人……初めて見たかも………」

 

 

「うん、僕もだよ……」

 

 

少し呆れを含みながらエリオとキャロがいう。

 

 

「まあ、その点に関しても謎が多いのよ、あの二人は………」

 

 

デバイス管理者のシャーリィからしてみればとても貴重なデバイスなので、いい研究対象なのである。

 

 

「それでもね、賢伍君の使っている力は私たちの使っている魔法だと言うことは分かってるんだよ?だから、賢伍君のために新しいランクが出来たの」

 

 

未だに言い争いをしている賢伍とシャイニングハート横目で見ながらそういうなのは。

 

 

「特別なランク?」

 

 

エリオが首をかしげる。

 

 

「うん。SSS+を遥かに越える魔力ランク………魔力ランクEX 」

 

 

「EX …………」

 

 

ティアナが息を飲んだ。

 

 

 

「ちなみに魔力リミッターは3段階制限させられてるんだよ?」

 

 

「3段階!?」

 

 

スバルが驚くのも無理はなかった。魔力リミッターとは対象の魔導師の能力を限定させるものなのだが、例えば高町なのはが本来の魔力ランクS+なのだが、そんな力を頻繁に使われては回りの街や自然を破壊しかねない。

 

なので、その魔力を限定させ安定させるためにつけているのだ。そして、高町なのはでさえ第一段階でAAランクまで下げられる。人によるが、だいたいそこまで下げられるのだ。

 

 

「それでまだSランクだからねぇ…………私も最初はびっくりしたよ………」

 

 

「私達………とんでもない人と訓練してたんですね………」

 

 

「「「……………」」」

 

 

 

もう言葉が出ない4人。

 

 

 

「まあ、三段階も制限されるのはキツいが…………そのかわりリミッター解除は俺の判断で出来るからな…………」

 

いつのまにかデバイスとの喧嘩を終えた賢伍が口を開く。喧嘩の結果はどうなったが分からないがシャイニングハートは変わらず賢伍の懐に入っていた。

 

 

「え?でもリミッター解除って…………」

 

 

ティアナが顔をしかめた。

 

 

「うん。本人の意思じゃ解除できないよ。滅多なことがないと、上の人が解除してくれないんだ」

 

ティアナの疑問をなのはが代弁する。その通り、リミッターは自分の上司にあたる人物に解除申請をしないと解除できないのだ。

 

 

「ならどうして…………」

 

 

うんまあ、色々あったんですよ。

 

 

「上の人を脅したんだよね?」

 

 

なっ!?

 

 

「人聞きの悪い!命だけはお助けを!って言って快くそうさせてくれたんだぞ!?」

 

 

 

「それを脅したって言うんだよ?賢伍君………」

 

 

そうまでして権限を俺にしたのは勿論理由がある。1つは三段階もリミットをかけられては力を出したいときに非常に困るのと、申請が厳しくなかなか通らないからだ。現場にいない上官にそんなことは任せられない。

 

「まあ、魔力リミッターの話は今はどうでもいいから。なのは、デバイスの説明を早く終わらせろよ」

 

 

それでもこの話自体俺には不利なので話を切りあげる。

 

 

「うん。それじゃあ…………」

 

 

なのはがデバイスの説明を再開しようとした時だった。

 

 

 

 

ブー!ブー!ブー!

 

六課全域に響き渡る警報。全員がそれに反応した。

 

 

 

「アラート!?」

 

 

ついに来た。設立から2週間が経った機動六課。そろそろ来る頃合いだと多少なりとも予想はしていた。

 

 

 

「グリフィス君!」

 

 

 

なのはがグリフィスを呼ぶ。すると、六課の全てのディスプレイににグリフィスが写る。

 

 

「はい!教会本部から出動要請です!」

 

 

教会本部?今確か………はやてがいるはずだ!

 

 

「今、はやて部隊長に通信を繋げます」

 

 

 

ディスプレイが分割されもうひとつの画面にはやてが写る。

 

 

「みんな!」

 

 

 

「はやて、状況は!?」

 

 

 

「今説明する!教会騎士団で追っていた、レリックらしき物が見つかった!場所はエイリム山岳地帯、今リニアレールで移動中!」

 

 

レリック、今俺達が追いかけているロストロギアの事だ。

 

 

 

「移動中ってまさか!?」

 

 

今車に乗っているだろう、フェイトの声も通信に入ってきた。

 

 

「そのまさかや、内部に潜入したガジェットたちに車両のコントロールを奪われたんや!」

 

 

ちぃ!面倒なことを!

 

 

「それで、数は?」

 

 

 

「最低でも30はいる。中には大型や飛行型の新型ガジェットがおるかもしれん」

 

 

 

30か、新人どもにはちとキツいが…………

 

 

「なのは隊長、フェイト隊長二人とも行ける?」

 

 

はやては画面越しに聞く。

 

 

「いつでも行けるよ!」

 

 

「大丈夫!」

 

 

なのは達は答える。そこにはいつものなのは達ではなく、顔を引き締めた管理局の魔導師としての顔をしていた。

 

 

「スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、皆も行ける?」

 

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

 

「良いお返事や………」

 

 

 

微笑むはやて。自分の部隊のFW陣に頼もしさを感じたからだ。

 

 

「賢伍隊長も行ける?」

 

 

 

隊長………そう、俺は隊長だ。

 

 

 

はやては俺がいつ戻っても良いように、部隊設立前から俺の分隊を作ってくれていたんだ。

 

 

名は…………

 

 

「シャイニング分隊隊長、神崎賢伍!いつでも行ける!」

 

 

シャイニング分隊……なのは達のスターズ、フェイト達のライトニングをサポートする。

 

 

メンバーは俺だけ、しかし他の分隊をサポートするからには俺は誰一人も仲間を堕とさせるつもりはない!

 

 

「よし。グリフィス君は六課で指揮、リィンは現場管制を!」

 

 

「はいです!」

 

 

「了解しました!」

 

 

二人も管理局の1局員として今まで俺に見せてきたことのない顔をしていた。

 

 

「なのは隊長とフェイト隊長は現場指揮、賢伍隊長は新人達のサポートを!」

 

 

 

「「うん!」」

 

 

「まかせろ!」

 

 

お安いご用だ!

 

 

「ほんなら…………」

 

 

各々指示を出したはやては大きく息を吸い………

 

 

 

「機動六課FW部隊、出動!!」

 

 

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 

響き渡る号令と返事。俺達は慌ただしく準備を始めた。

 

 

「皆は先行を!私も後からいく」

 

 

 

「うん!」

 

 

「ああ!」

 

 

フェイトとの通信を切る。そして俺達はヘリに乗って現場へ向かう。

 

 

「新デバイスでぶっつけ本番になっちゃったけど、練習通りやれば大丈夫だからね」

 

 

ヘリに乗り込んだ俺たちはヘリ中で新人達を励ますなのは。

 

 

「はい!」

 

 

「がんばります!」

 

 

 

ティアナとスバルはやる気満々の様子だ。二人とも気合いを入れて待機している。

 

 

「エリオとキャロもしっかりですよ!」

 

いつもなら六課の制服を着ているリィンも既にバリアジャケットになっていた。

 

 

 

「「は、はい!」」

 

 

よし、良い返事だ。

 

 

だが、返事とは裏腹に4人はかなり緊張している。特にキャロが不安そうな顔をしていた。そりゃそうだな、初めての六課での実戦だ、誰でも緊張する。

 

 

「キャロ、大丈夫?」

 

 

「ごめんなさい……大丈夫……」

 

 

エリオがキャロを心配する。このままだと現場で思うように動けないだろう………。本来なら力を持っているのに現場で発揮できないのはもったいない。少し気恥ずかしいけど…………

 

 

「いいか、お前らよく聞け」

 

 

俺は口を開く。

 

 

「いいか、実戦では必ず俺の約束を守れ」

 

 

「約束………?」

 

 

キャロが呟いて反復した。俺はゆっくりにはっきりと言った。

 

 

「全力を出しきれ!そして、死ぬな!生き残れ!!」

 

 

「「「「…………は、はい!」」」」

 

 

すこし戸惑ったが元気よく返事をする4人。

 

 

「なあに、いざって時は必ず俺が守ってやる!だから……思う存分暴れてこい!!」

 

 

 

「「「「はい!!」」」」

 

 

賢伍の言葉により、緊張から救われた4人だった。

 

現場までもうすぐだ………

 

 

「よっしゃあ!!気合い入れて行くぞ!」

 

 

機動六課の初めての実戦が始まろうとしていた………。






また、短いです。申し訳ない。次回は戦闘回です。しっかりかけるよう頑張ります!


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光と星と雷

 

 

 

 

P P P P P P P P

 

 

 

ヘリで現場に移動中の俺達に通信が入った。

 

「大変です!」

 

通信をしてきたのはシャーリィだった。

慌てた様子でモニター画面に写っている。

 

「どうした!?」

 

 

「飛行先にガジェット反応が!数は………およそ70!?」

 

70だ!?さっきの報告より数が増えている!

 

「多分、また新しく出てきたんだと思う」

シャーリィの写っていたモニターの画面がヘリの前方を写し出した。

そこには俺達を待ち構えている大量のガジェットがいた。

 

「私とフェイト隊長で出る!」

 

 

「俺もいくぞ!」

 

 

「お願いします!」

 

シャーリィとの通信を切り、俺となのはで出撃しようとヘリのハッチへ移動。

そして出撃の前に新人共に渇を入れる。

 

「私達は先に出ちゃうけど皆もいつも通りにね!」

 

 

「「「はい!」」」

 

 

「は、はい!」

 

キャロだけ遅れて返事をする。

さっきの俺の言葉だけではやっぱり不安を完全にぬぐい去ることはできないか。

 

「キャロ………」

 

キャロを呼ぶ。

俺はキャロの事情をフェイトから聞いている。

キャロはある集落の生まれでその集落は代々竜を使役する人達らしい。キャロがその集落生まれの証拠がフリード、本名フリードリヒだ。

その集落のなかでも特に稀少な能力、いわばレアスキルを持って生まれたのだ。

そう、キャロはレアスキル持ちなのだ。

しかし、その力を恐れた集落の長がキャロを集落から追放したらしい。

 

「…………っ」

 

何度思い出しても胸くその悪い話だ。

その後のキャロはあてもなく放浪していたところを管理局に保護されて、後々事情をしったフェイトが保護者を買って出たのだ。

しかし話はそれで終わらない。

問題は次、キャロの相棒フリードだ。

「竜魂召喚」キャロのレアスキルはキャロ自身がまだ使いこなせていないのだ。

制御できずに暴走を起こしてしまったことも多々あったらしい。

その結果がキャロに恐怖を抱かせてしまったのだ。

その力を………自分自身を恐れている。

 

「いいか、キャロ」

 

そんなのってないじゃないか。

自分自身を恐れるなんてそんな可哀想なことは認めない。

だから言う、キャロと同じ目線になるようにしゃがんで肩に手を起き、真っ直ぐに目をみて俺は言う。

 

「キャロの力は誰かを傷つける物じゃない」

 

 

「えっ?」

 

 

「キャロの力はな、誰かを守る優しい力なんだぞ?自分を怖がるな………な?」

 

これが俺の素直な気持ち。

言葉で伝えれることを全て伝える。

 

「うん!」

 

なのはも頷いている。なのはも俺と同じ思いだったのだ。

 

「はい!」

 

元気な返事が返ってきた。

多少の不安は残っているもののいつまでもここにいるわけにはいかない。

出撃だ。

 

「ヴァイス!ハッチ開けろ!」

 

 

「あいよ!お二人さん、頼みますよ………」

 

ヘリのハッチが開くと同時にヴァイス声も聞こえてきた。

 

「ああ!」

 

 

「うん!」

 

ハッチのから見える景色を見下ろす。

さあ、出撃だ。

 

 

同時刻

 

ミッドチルダ市街地

 

 

「よし、私も出撃する!グリフィス、民間単独飛行許可を!」

 

車を運転中だったフェイトは近くのサービスエリアに車をおいて出撃の準備をする。

通信でグリフィスに飛行許可申請を要請した。

 

「承認しました!」

 

 

「うん。………いくよ、バルディッシュ!」

 

フェイトの歴戦の相棒バルディッシュ。

懐から取り出して呼び掛ける。

 

BD 「イエッサー」

 

 

「バルディッシュ・アサルト、セッートアップ!」

 

瞬間、黒いバリアジャケットに白いマントを身に付け、バルディッシュの斧形の杖を持ったフェイトが空に飛び立つ。

なのはと共に歩んできたその勇姿は誰が見ても見惚れてしまうだろう。

「ライトニング1。フェイト・T ・ハラオウン、行きます!」

 

そして、黄色い閃光が空へと舞い上がった。

 

 

……………………。

 

 

エイリム山岳地帯付近

 

 

 

 

「よし、いくぞ!」

 

 

「うん!」

 

俺となのはは手をひろげながらヘリから飛び降りる。

そして、お互いに自分の相棒に呼び掛ける。

 

「レイジングハート!」

 

 

RH「はい、マスター!」

 

なのはの相棒赤い宝石の形をしたデバイス、レイジングハート。

 

 

「シャイニングハート!」

 

 

SH「おまかせください!」

 

俺の相棒、刀の鍔の形をしたデバイス、シャイニングハート。

各々の相棒を呼び、叫ぶ。

 

「「セット・アップ!」」

 

俺となのはの服装がバリアジャケットにかわり、なのはは杖、俺は日本刀を持つ。

 

「スターズ1高町なのは……」

 

 

「シャイニング1神崎賢伍………」

 

 

「「行きます!!」

 

星と光が空に舞い降りた。

 

………………。

 

問題の地点に到着した。

そこにいたのは報告通りのガジェットの大群だ。

一度50体程のガジェットをなのはと共に対峙したがその時とは状況が違った。

 

「たく、はやての言った通りだ………ちょいと面倒だな………」

 

 

「そうだね…………」

 

なのはが杖をギュッと握る。

はやてのいった通り、この間倒したノーマルタイプとは違ったガジェットが大量にいた。

飛行型、大型など見たことないガジェットの群れだ。

 

「賢伍!なのは!」

少し遅れてフェイトも到着する。

 

「………ちょっと思ったより時間がかかっちゃうかも………」

 

フェイトもガジェットの群れを見て、俺となのはと同じような感想を抱いた。

確かに骨が折れるがこの程度俺達3人ならどうということはない!

 

「上等だ………行くぜ!!管理局の光の英雄と白い悪魔と黒い天使が揃えばできないことはないぜ!」

 

 

「うん!………って、私は悪魔じゃないよ!?」

 

 

「私は天使♪」

 

 

「むう…………」

 

なのは任務中だぞ?拗ねるなよ………。

冗談だっての………。

 

「悪かったから、任務終わった後でご馳走してやるから許…………」

 

 

「許すからご馳走しなくていいよ!!」

 

そこまで必死に止めなくても……。

この間の料理もみんな気絶するほどうまかったんだろう?

 

「ほら、もうガジェット来てるよ、構えて!」

フェイトの言葉を皮切りに俺達は一気に戦闘体制に入る。

 

「行くぞ二人とも!油断するなよ!」

 

 

「「うん!」」

 

俺が先頭に立ち、なのはとフェイトはそれに続く形になった。

さぁて、一体も残さずにぶっ壊してやろうか!

 

………………。

 

 

バキィ!

 

 

ドォン!

 

 

ヘリの中。

賢伍達の戦闘音はヘリにいる新人達にも届いていた。

 

「作戦はこんな感じですぅ。私も皆と一緒に現場管制をするので頑張ってください!」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

ヘリはリニアレールの真上に到着した。

操縦士であるヴァイスが再びハッチを開け4人に声をかける。

 

「よし。新人共!隊長達のお陰で安全に目的地に到着した!いいか、死ぬんじゃねぇぞ!」

 

ヴァイスの声を聞きうなずく4人。

スバルは拳を握りしめ、ティアナは頬を叩いて気を引き締める。

エリオは目を閉じて集中して、キャロは胸に手をあて落ち着かせる。

 

「スターズ3、スバル・ナカジマ!」

 

 

「スターズ4、ティアナ・ランスター!」

 

 

「「行きます!」」

 

そしてハッチから同時に飛び降りるスバルとティアナ、新デバイスを取りだし叫ぶ。

 

「行くよ、マッハキャリバー!セット・アップ!」

 

両手にカートリッジシステム付きのグローブを付け、白いハチマキを頭に。

両足にはローラーブーツを装着した青い戦士がリニアレールの上に降り立つ。

 

「お願い!クロスミラージュ!セット・アップ!」

 

両手に二丁拳銃を、白をベースにしたバリアジャケットを身にまといスバルと同じ場所リニアレールの後方地点に降り立った。

 

「さあ、次はちび共お前たちだ!」

開けられたハッチの前に立つエリオとキャロ。

眼前に広がるのは暴走しているリニアレールだ。

 

「…………う……………」

 

その光景をみてキャロはハッチから一歩引き下がってしまう。

いくら勇気を振り絞ろうともやはり恐怖心は簡単には消えなかった。

 

「…………一緒に行こっか?」

 

それに気づいたエリオがキャロに優しく微笑みかける。

エリオ自身、キャロと同様恐怖心があった。

しかし、エリオも小さいながらも男なのだ。

キャロのためには自分を奮い立たせる。

 

「え………うん!」

 

キャロに爽やかな表情が戻る。

エリオのちょっとした勇気はキャロにも勇気を与えたのだ。

 

「行くよ…………」

 

 

「うん………」

 

眼前に広がる光景に恐れず二人は叫ぶ。

 

「ライトニング3、エリオ・モンディアル!」

 

 

「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエ、フリードリッヒ!」

 

 

「キュルー!」

 

 

 

 

「「行きます!」」

 

同時に飛び降りる二人、そして………

 

「ストラーダ!セット・アップ!」

 

自身のデバイスの名を叫びセット・アップするエリオ。

槍を持った赤髪の小さな戦士がリニアレールの上にいた。

 

「ケリュケイオン!セット・アップ!」

 

キャロもエリオ同様にセット・アップする。

両手にグローブ型のデバイスを付けた、ピンク色の髪の小さな戦士が降り立つ。

ティアナとスバルとは対照的にリニアレールの前方地点に降り立った。

これで、新人4人が全員の準備が完了した。

 

「それでは、作戦開始です!」

 

リィンが通信で告げた瞬間、行動開始をする4人。

後方車両からスターズ二人、前方車両からライトニング二人の挟み撃ちでの作戦だった。

レリックはリニアレールのどこかにあるのは探知してわかっている。

妥当な作戦だった。

 

「お、始まったみたいだな………」

 

遠くで戦闘していた賢伍が戦闘をよそに新人達を見る。

賢伍も自分の教え子が大丈夫かと心配になる。

しかし、これも今後新人達が強くなっていくための試練の1つだ。

なるべく手を貸さないように心がけた。

 

「しっかりやるんだぞ………」

 

ポツリと呟く言葉は新人達には聞こえないけど、それでも呟かずにはいられなかった。

 

「賢伍君!前、前!」

 

突然なのはの声が。

前?

慌てて視線を前方に戻す、目の前にはガジェットが数機迫ってきていた。

 

「っ!?…………この……野郎!」

 

迫ってきた飛行型ガジェット、普通のガジェットと比べスピードが速い。

しかし、その程度のスピードなら十分に反応が出来た。

 

キン

 

 

ドコォ

 

 

1体は刀で切り捨て、1体は拳を叩き込む。

 

ドォン!

 

爆発、ガジェットは粉々になる。

 

「賢伍君!?大丈夫?」

 

 

「大丈夫だ!悪い、少しよそ見しちまった………」

 

しっかりしろ、新人達にも示しがつかないではないか。

頬をパンッと叩き気持ちを切り替える。

 

「よし、挽回しますか!」

 

目の前にはまたもガジェット達が。

先程よりも数を増やして俺に迫ってくる。

今度は先程の飛行型ではなく、ノーマルのガジェットだった。

 

「邪魔だ!」

 

切り伏せる!

普通のガジェットならば、一太刀で十分だ。

 

 

キン

 

ガキン!

 

「っ!?」

 

しかし、予想とは反してガジェットのAMFに防がれる……こいつは…………。

前にも戦った、特別にAMFが協力な種類のやつだった。

 

「ちっ!」

 

破壊できなかったガジェット数体が突進をしてくる。

しかし、なんなくそれをかわす。

だが、またも反転して再び突進をしてきた。

 

「だったら…………」

 

構える、少し深呼吸をして神経を集中する。

それはある剣術の構え。

賢伍が日本刀を使うようになってから剣術に対してなにもしなかったわけではない。

 

「神龍流剣術(しんりゅうりゅうけんじゅつ)…………」

 

神龍流剣術…………俺の家、神崎家には代々伝わる剣術がある。

俺の両親が死んだとき、遺品として神龍流剣術が記されている書物を見つけた。

俺の両親は元々剣術に長けていたのだ。

そして、俺が魔法を使えるようになったその日からなのはの父、高町士郎さんのもと、その本を参考にし特訓してきた。

そしてマスターした。

つまり、日本刀を扱う俺にとって神龍流剣術はただの剣の技でも……… 最大の武器になる!

 

「牙突!!」

 

両手で刀を持った形での突き。

一見ただの突きだが、普通じゃないのが神龍流剣術だ。

突かれたカジェットはAMFを貫かれガジェット本体さえも貫いた。

強力なAMFでさえも神龍流剣術の前では無力!

しかし、それでは終わらない。

 

「まだまだぁ!!」

 

1体を貫いたままもう1体に刀を突く!

一歩足を踏み出し、両手から片手に持ち変えてまたも刀の突き、牙突の連携技!

 

「牙連突!!(がれんとつ)」

 

キン!

 

一突き、それはまたももう一方のガジェットを貫く。

刀に刺さった2体のガジェットは刀を振るって落とす。

そして、またも性懲りもなく同じガジェットが突進を続けてきた。

 

「遅い!」

 

瞬間、賢伍の姿が消える。

対象を失ったガジェットは突進を中断して辺りを見回す、が賢伍は見当たらなかった。

 

「ここだ!」

否、消えたのではなく跳んだのだ。

ガジェットの真上から落ちてくる賢伍、ガジェットが気づいたときにはもう遅かった。

 

「空天牙突!!(くうてんがとつ)」

 

ただ重力に逆らわず、切っ先だけはガジェットに向けて両手でもった刀をタイミングよく突く!

重力の分威力は上がる、それが空天牙突の特徴だ。

 

キン!

 

 

ドォン!

 

ガジェットは簡単に破壊された。

神龍流剣術の技は一朝一夕に会得できた訳ではない。

何日も何日も刀を振り続けて会得した剣術だ。

ただ刀を振るうだけとは威力が違う!

 

「ふう…………。こんなもんか……」

 

刀を肩に置き少し楽にする。

一息つきたいところだが、ガジェットの数はまだ沢山いた。

 

「アクセルシューター!」

 

桜色のたくさんの魔力弾がガジェット達を破壊していく。

なのはの魔法だ、あそこまで絶妙なコントロールと威力を維持できるのは流石なのはといったところだろう。

 

「ハーケンセイバー!」

 

バルディッシュをサイズフォームにして、黄色い魔力刃を飛ばすフェイト。

それは次々にガジェットを貫通し、破壊していく。

「たく、ホントに頼りになるぜ…………」

 

俺がいなかった4年間でこんなに強くなっていた。

ホントに驚いたよ………。

「さぁて、俺も負けてられねぇな!」

 

なのはとフェイトに続いてガジェットの群れに飛び込む。

最初は少し気後れしたが、なんのこともない。

新型ガジェットの群れでもこのエース達の前では無力に近かったのだ。

光と星と雷が空を制すのは時間の問題だった。

 

 

 

 

 




今回で光の英雄の剣術が披露されましたね。

タグにも追加しましたが、技は侍道というゲームを参考にして名前も引用させていただきました。

例のるろうにとは違うと言うことを知っておいてほしいです笑
今回、感想をいただきましてそのアドバイスを参考にして投稿させていただきました。

書いてくれたお二方には感謝するのと同時にご指摘していただいた所を改善出来るように頑張りますので、読者の皆様これからもよろしくお願いいたします!!m(__)m


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想いの力を ~絆の竜魂召喚~

 

 

賢伍達の闘いとは一変、リニアレールでは………

 

 

 

「てええやあああ!!」

 

 

ドン!

 

 

「はあああああ!」

 

 

 

ドカン!

 

 

 

リニアレール内で拳を使ってガジェットを破壊していくスバル。

明らかに前とは威力が違う。

これが新デバイスの力だった。

 

「えい!」

 

ドンドンドンドン!

 

持ち前の射撃力でガジェットに魔力弾をヒットさせていくティアナ。

スターズの二人は、新たなデバイスでパワーアップした自分を感じながら進んでいった。

 

「駄目、こっちの車両も外れよ!」

 

この車両にはレリックらしきものは見つからなかった。

もう、3両ほど調べたが未だに見つからない。

 

「仕方ない、次の車両に…………」

 

と、スバルが次の車両に移動しようとしたときだった。

 

「はっ!スバル!後ろ!」

 

 

「え!?………うわ………」

 

後ろには大量のガジェットが押し寄せて来ていた。

全て破壊してきたがまた無尽蔵に沸いて出てきたのであろう。

無視して進むわけにはいかなかった。

 

「こっちを優先したほうがいいわね………」

 

 

「うん、レリックはエリオとキャロに任せよう………」

 

二人は構える。

恐怖はない、厳しい訓練で得た強さと新デバイスは二人に自信をもたらしていたのだ。

 

「いくわよ!スバル!」

 

 

「うん!」

 

大量のガジェットに飛び込んだ。

訓練校時代からのパートナーである二人をガジェットが止められるわけがなかった。

 

 

…………………。

 

 

「ここにもない………この車両にレリックはないみたいだよ………」

 

エリオとキャロもまた、パワーアップした自分の力を感じながら進んでいた。

しかし、スバルとティアナと同じでなかなかレリックは見つからない。

 

「エリオ、キャロ、聞こえてますですか?」

 

リィンからの通信だった。

 

「はい、聞こえてます」

 

 

「レリックの場所が判明しましたです!次の車両に反応があります、スバルとティアナは今ガジェットと戦闘中ですから二人が回収に向かってください!」

 

 

「了解です!」

 

通信を切る。

隣の車両ならすぐそこだ、しかし壁を魔法で壊して進むとレリックになにがあるか分からない。

リニアレールの上から進むしかなかった。

 

「あれは…………?」

 

キャロの視線の先にはにはレリックのある車両の扉のまえに立ちはだかる、新型の大型ガジェットがあった。

 

「あれを倒さなきゃいけないみたいだね…………」

 

ここまで進んできた過程であのタイプのガジェットとの戦闘はなかった。

不安がよぎるが二人は戦闘を開始する。

 

「フリード!ブラストレイ………」

 

 

「キュル!」

 

口のなかに魔力をためていくフリード。

徐々に火炎が帯びていく。

 

「ファイア!」

 

キャロの一声でフリードが一発の火炎弾を大型ガジェットに向けて発射する。

 

ドォン

 

 

そのままガジェットにヒット、AMFがあるとはいえ強力な一撃だった。

 

「っ!!そんな…………!?」

 

しかし、ガジェットは平然としていた。

何事もなかったように………ただ変わらず二人を先には進ませまいと阻んでいた。

 

「キャロ、強化を!」

 

 

「うん!」

 

即座に魔方陣を展開、今日の訓練時のようにエリオのストラーダを魔力強化するキャロ。

 

「よし、行くよストラーダ!」

 

強化された槍でガジェットを突くためガジェットとの距離を詰める。

射程圏内に入った、今だとエリオは槍を振るわんとする、

その時……………

 

ブウウウン

 

 

強化されて、黄色いオーラを纏っていたストラーダのオーラが突如として消える。

これが意味することは強化魔法が無効になったことだ。

 

「っ!!………これは………AMF!!」

 

エリオのストラーダだけではなかった。

この大型ガジェットはただ大きくて馬力が上がっただけではなかった、とてつもなく範囲が大きい、そして強力なAMF。

今回の戦いで一番厄介なガジェットだったのだ。

 

「うぅ!そんな、この距離で!!」

 

遠くで魔法陣を展開し、エリオをサポートしようとしていたキャロにもAMFの影響が表れる。

魔方陣はことごとく破壊され、無効化されてしった。

 

「く!………」

 

距離を詰めたため、近くにいたエリオに問答無用で攻撃するガジェット。

本体から伸びている腕のようなものでタコ殴りされる。

 

「ぐっ!………うわあ!」

 

魔法を無効化されてしまうので障壁も出せない。

エリオの力ではストラーダの槍だけでは防げなかった。

 

「エリオ君!」

 

キャロの叫びも、殴られ続けて意識が朦朧としているエリオには届かなかった。

 

「ぐうう………………」

 

ガジェットの大きな手で全身を捕まえられる。

この時エリオは既に半分意識を失っていた。

そして………

 

「いや!エリオ君!!」

 

リニアレールの上からエリオを放り投げるガジェット。

山岳地帯を走っていたリニアレールの外は崖だ。

エリオは力なく崖から落ちていく。

 

「エリオ君!今助けに!…………」

 

キャロは自ら断崖絶壁に飛び込んだ………。

少しの躊躇もなく、エリオを助けるために。

必死に手を伸ばした………。

エリオを掴んで抱きしめる。

 

「……………………くう!」

 

エリオとキャロ、そのまま二人は崖から落ちていく。

エリオは既に意識を失っていた。

このままでは二人とも落ちてしまう。

「うぅ、どうすれば……………」

 

飛び込んだはいいがここからどうすれば良いのかキャロに考える余裕はなかった。

バキィ!

 

偶然、偶然だった。

落ちている途中に崖からでている木の枝にバリアジャケットが引っ掛かり落下が止まったのだ。

人二人分とはいえ、子供の二人は体重が軽かったのだ。

それが幸いした。

キャロも助かったと思いホッと胸を撫で下ろす。

 

「でも………どうしよう………」

 

ここからどうやって抜け出してリニアレールに戻るか方法が思い付かなかった。

エリオを落とさないように抱き抱えてじっとこらえるしかキャロには出来なかった。

 

 

………………………。

 

 

 

「な!?」

 

俺達はガジェットをほぼ全滅させ、逃げたガジェットを追撃しようとした時だった。

エリオとキャロが崖から転落していた。

 

「っ!!………エリオ!キャロ!」

 

近くにいたフェイトも気づいたようだ。

慌てて助けに行こうとするフェイトだったが………。

 

「待て、フェイト!」

 

 

ガシッ

 

 

俺はフェイトの腕を掴む。

止めたのだ。

助けに行こうとするフェイトを止めた。

 

「賢伍!?離して!エリオとキャロが!」

 

 

「離すかよ!フェイト、俺だって今すぐ助けに行きたい!けどな、今キャロを助けたら多分キャロにはもうチャンスが来ない!」

 

 

「…………チャンス?」

 

瞳に少し涙をためながらもフェイトは動きを止めてくれた。

しかし、その表情は納得がいってなかった。

当たり前だ、俺はピンチの二人を見捨てようとしているんだ。

フェイトを止めたときにキャロを盗み見たが幸い木に引っ掛かって落下が止まったことは確認済みだ。

しかし、俺もグッとこらえた上でこの行動を起こしたのだ。

 

「ああ、チャンスだ。今しかないんだ、キャロの………キャロ自身の恐怖を克服するチャンスは……………」

 

あいつらだって、いつかは自立して一人で飛び立たなきゃならない。

六課が解散したら俺やなのははいつまでもあいつらを見てやれる訳じゃないんだ!

 

「俺は、FW4人に出来ることはいくらでもやる!キャロには俺がいる間には自分自身の恐怖を乗り越えてもらわなきゃいけない。実際、キャロもそれについて悩んでいるんだろ?だったら、ここはグッとこらえるんだ、キャロを信じて待つんだよフェイト!」

 

 

「でもっ!……」

 

フェイトは二人に対して少し過保護な一面がある。

それは二人に対してとても愛情を注いでいる証拠でもある。

フェイトらしいと言えばフェイトらしい。

けどな………フェイト。

 

「キャロが真に飛び立つには今しかない!キャロがこれから成長できるかどうかのターニングポイントなんだよ!」

キャロならできるはずだ、俺は信じてる。

仲間のためにみずから身を投げる勇気を持つキャロが自分自身に負けるはずがないんだ。

 

「頼む、気持ちは分かるんだよフェイト………」

 

俺だって、油断したらすぐに助けに行ってしまう。

けど…………けど………。

 

「キャロなら………乗り越えれるはずだ!」

 

信じたいんだ。

教え子と同時に仲間でもあるキャロを…………。

 

「くっ…………うぅ……」

 

唇を噛み締める。

フェイトだって分かっているのだ、このままではいけないって、いつか克服させないといけないって。

当たり前だ、俺よりずっとキャロと一緒にいたんだから。

だからなおさら歯がゆいんだろう。

 

「フェイトちゃん、私だって今すぐ助けに行きたいよ?でも賢伍君の言う通り、今は……キャロを信じよう?」

 

いつの間にかなのはも話を聞いていたようだ。

フェイトに寄り添いながら口を開く。

 

「……………うん」

 

フェイトも頷いてくれた。

俺達はキャロを信じて、経過を遠くから見ることしか出来なかった。

それでも、3人とも信じていた。

乗り越えられると…………。

 

 

…………………。

 

 

「…………………」

 

キャロは今も膠着していた。

そこから動きたくても動けない、しかしキャロを支えている枝もいつ力をなくし折れるかわからない状態だった。

 

「(どうしよう………どうすれば………)」

 

手はひとつあった。

竜魂召喚、フリードを真の姿に戻せばその背中に乗り、飛んでリニアレールに戻ることが出来るだろう。

しかし、迷いもあった。

大丈夫なのか?また暴走させてしまうのでは?

小さな女の子に刻んだ傷は大きくのしかかった。

でも………

 

「(私は守りたい………助けたい………私に優しく接してくれた人を………私を迎え入れてくれた皆を…………)

 

思い出すのは………始まったばかりの機動六課の日々。

満ち足りていた。

辛い訓練も仲間達と乗りきり、大好きなフェイトがいて、厳しくも優しいなのはと賢伍がいて。

部隊長のはやてもヴォルケンリッターのみんなもとても優しくて。

そして出撃前の賢伍の言葉………

 

「キャロの力は誰かを傷つける物じゃない」

 

「キャロの力はな、誰かを守る優しい力なんだぞ?」

 

 

「(誰かを守る優しい力…………)」

 

目を開く。

覚悟する、やるしかない。

制御できると信じて………やるしかないのだ。

 

「エリオ君。私が今助けるから…………竜魂召…………っ!!」

 

突然脳裏に浮かぶ映像。

以前暴走させてしまったフリードが暴れまわり、人を傷つけていく。

自然を壊していく。

集落の皆からの罵倒、そして追放された。

もしここで暴走させてしまったら?

また追い出されてしまう?

六課から?

いやだ、いやだいやだ!!

 

「駄目…………出来ない!!」

 

やらなくちゃ、やらなくちゃいけないのに。

言葉が出ない。

喉から声が出ない、怖い。

自分の力が………怖い………。

たまらず瞳に涙がたまった。

情けないと思った、自分が助けたい人がいるのに一歩が踏み出せない自分が情けなく感じた。

「やっぱり私は…………」

 

何にもできないと、言葉が出そうなときだった。

 

 

 

 

「キャロォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

それはとても大きな声だった。

通信越しの声?

違う、直接聞こえる。

上からだ。

見上げる、声が聞こえた方を探す。

いた、一人の男が…………。

 

「キャロ!!」

 

遠くから賢伍が叫んでいた。

キャロを見下ろす形で、声を張り上げて叫ぶ。

 

「何で躊躇した!?」

 

 

 

「えっ………?」

 

 

 

「何で躊躇したかと聞いてるんだ!」

 

その言葉は、怒りを含めた言葉ではなかった。

それはキャロにも理解できていた。

「…………………」

 

キャロは俯く。

なぜかと聞かれれば怖いからだった。

でも、そんなの情けなくて言えなかった、助けなきゃいけないのに怖くてできないなんて情けなくて声が出なかった。

「言ったはずだ!お前の力は誰かを守る優しい力だって」

 

賢伍の言葉はキャロだけではない、スバルにティアナ、なのはとフェイトに、通信越しで六課の全員にも聞こえていた。

 

「ですが……………っ!!」

 

頭から離れない。

失敗したあの時の映像が頭から離れない。

恐い、フリードに願ってない暴走をさせるのが、失敗して新しい場所を追い出されてしまうのが。

 

「キャロ、怖いのは当たり前なんだよ!」

 

そんなキャロの様子を見て賢伍は諭す。

「怖いのは仕方ないんだ!俺だって、お前と同じ立場だったら怖いさ、けどなキャロ…………」

 

キャロをまっすぐに見つめてそして、自分の思いをぶつける。

 

「お前は、前に進まなくちゃ行けないんだ!!」

 

いつまでも、そこで止まっていてはならない。

 

「失敗を怖がるな!本当の失敗は、失敗を恐れて何もしないことだ!」

 

 

「…っ!!………」

 

それは賢伍がキャロに対して言いたかった言葉であり、賢伍が数々の戦いを経て学んだことだった。

 

「お前の力を………本当の力を見せるんだ!誰かを守りたいという気持ちは、想いは!お前に勇気と力を与えてくれる!自分を信じろ!」

 

「賢伍………さん……」

賢伍の一言一言がキャロの心に響く。

まるで心を除かれているみたいに不安と恐れが少しずつ薄まっていった。

 

「それにな………例え失敗したとしてもお前を追い出すやつなんて六課にはいない!お前だって分かってるだろう?」

 

優しい言葉で諭す。

そうだ、その通りだ。

こんなにも優しく自分を受け入れてくれた優しい人たちがいる。

「それに俺は…………俺達は……」

 

自分の胸に拳をドンッとあてて賢伍は言った。

 

「お前を……信じてる!!」

 

 

「っ!!」

 

まるで体に電撃が走ったようだった。

自分を信じてくれている………それだけで心が軽くなった気がした。

それがとても嬉しかったのだ。

 

「キャロ!」

 

賢伍の声ではなかった。

 

「ふ、フェイトさん!?」

 

フェイトの声だった。

賢伍の隣にたって、叫ぶ。

 

「私も、キャロを信じてるよ!………だから………頑張って!」

 

 

「フェイトさん………」

 

たまらず涙が浮き出てくる………それは先程のような悲しみの気持ちではなく、むしろ逆で………

 

「頑張れ!キャロならやれるよ!」

 

「なのはさん………」

 

なのはもフェイトに続いて叫んだ。

この二人だけではなかった。

 

「キャロなら出来るよ!自信もって!」

 

 

「そんなチビ竜、キャロなら余裕でしょ?自信持ちなさいよ」

 

 

「スバルさん………ティアナさん……」

 

通信越しに声が聞こえた、賢伍の言葉に同調した仲間達の声、ガジェットと戦闘中でも声をかけてくれていた………。

 

「キャロ、思いっきりやったれ!うちも信じとるで!」

 

 

「はやて隊長…………」

 

六課の皆が、キャロを信じていた。

続々に六課の皆の声援が、ヴァイスにリィンにシャーリィからも。

皆キャロが心配だったのだ、皆が気にかけてくれていたのだ。

 

「キャロ…………見せてみろ………」

 

賢伍が口を開く、皆の想いをのせて言い放つ。

 

「お前の想いを………想いの力を……真の力を皆に見せてやれ!!」

 

 

「…………はい!!」

 

元気な返事と共に涙を拭う。

皆が信じてくれている、それに答えないなんて選択肢は存在しなかった。

やろう、乗り越えよう、自分の恐怖に打ち勝とう。

 

 

キャロの瞳に………迷いはなかった!

 

「フリード………」

 

自分の相棒を呼ぶキャロ。

その目はどこか申し訳なさそうで、どこか相棒への慈愛に満ちていた。

 

「今まで窮屈な思いをさせてごめんね…………」

 

今までの失敗を振り返る、望んでない破壊をさせて、そしてずっと本当の姿に戻さない日々がずっと続いていた。

 

「でも、今度はちゃんと制御するから…………私に力を貸して!」

 

 

 

「キュル!」

 

フリードの声は、俺には何を言っているのかは理解は出来ない。

出来ないけど、今フリードがイエスと答えたのは何故か分かっていた。

 

「………いくよ………」

 

キャロが呪文を唱え始める。

徐々に体は魔力を帯びて、それをフリードに送っていく。

 

「…………フェイト、よく見ておけ………」

 

俺は遠くでキャロを見守りながら口を開いた。

「え?」

 

 

「竜が………キャロがはばたく瞬間を!」

 

 

 

「…………うん」

 

フェイトの瞳に再び涙がたまる。

俺はそれを見てから、視線をキャロに戻した。

そうだ、キャロ………

失敗を恐れるな、お前にはかけがえのないものを持っている。

それを持ってるだけで、お前は力を手に入れられる。

 

「賢伍君」

 

不意になのはが口を開く。

 

「ん?」

 

 

「キャロが勇気を出せたのは…………」

 

 

「別に俺のお陰でも何でもないさ………」

 

 

「え?」

 

なのはの言葉を途中で遮る。

何を言おうとしていたのかは分かっていたから。

いいか、なのは、キャロが勇気を出せたのはな…………

 

「かけがえのない、仲間がいるからなんだ。それだけで人は強くなれる。仲間を想う力、それが絆の力なんだ」

 

絆が人を強くする。

 

絆が人に勇気を与える。

 

俺はそう信じてる。

 

「……………うん………」

 

なのはも納得して頷き、俺の隣で一緒にキャロを見守った。

さあ、キャロ見せてみろ。

 

お前の絆の力を!

 

「皆のために…………」

 

未だに気絶しているエリオを抱く力を強めてキャロは発動する。

いけ、唱えろ。

そして、信じてくれている皆に答えるんだ!

キャロの想いが解き放たれる。

 

「竜魂召喚!!」

 

叫ぶ。

キャロの魔力がフリードを包み、フリードはその小さき姿から徐々に巨大化していく。

その小さな手は大きくなり、さらに鋭い爪が表れ。

その小さな翼は突風を起こすほど大きく力強さを持ち。

そして、

 

「キュオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

可愛らしかった泣き声はどこか消え失せ、辺りは竜の咆哮がこだまする。

その背中の上には…………

 

「フリード!」

 

エリオを抱き抱えたキャロが乗っていた。

その目はさっきまでの弱気な目ではなく、前を真っ直ぐに見据えていた。

 

「あれが………あのチビ竜の真の姿………」

 

 

「すごい…………」

 

遠くでガジェットを破壊し終わったティアナ達も驚きを隠せなかった。

 

「ふっ、やりゃあ出来るじゃねえか…………」

 

一息ついて安心する。

フリードの目を見れば分かる………

あいつは暴走なんかしてない。

キャロがしっかり制御している。

さぁ、ここからだ。

 

「………う、ううん………」

 

キャロに抱き抱えられていたエリオがようやく目を覚ました。

 

「…………キャロ………?」

 

一番最初に視界に入った人物の名を呼ぶ。

起きたばかりでまだ少し状況を理解できてないみたいだ。

 

「エリオ君…………大丈夫?」

 

 

「う、うん…………あ……」

 

エリオは顔を赤くする。

まあ、突然起きたらキャロに抱かれている状態だったからな。

 

「ご、ごめん……………」

 

 

「え、あ、こっちこそ…………」

 

キャロもエリオに続いて顔を赤くする。

おーい、今戦闘中だぞ?イチャイチャするんじゃないよ。

しかも竜の上で……………。

 

「フリード!」

 

キャロの指示で大きな翼をはためかせてリニアレールの元まで戻るフリード。

しかし………

 

「く、ガジェット!」

 

飛行型の無数のガジェットが行く手を阻んでいた。

「フリード!お願い!」

 

 

 

「キュオオオ!」

 

口から火炎弾を放つフリード。

小さい状態の時とは比べ物にならない威力だった。

現れたガジェットを次々に焼き付くしていく。

そして、先程のリニアレールの元まで到着した。

 

「フリード!お願い!」

 

フリードが上空から、先程の大型ガジェットに向かって火炎弾を放つ!

 

ブウウウン

 

 しかし、またもAMFで防がれる………かに見えたが……

 

 

ボォン!

 

 

「やった!」

 

威力を弱らされながらもAMFを破り、フリードの火炎弾はガジェットに命中した!

AMFは破られたことにより完全に機能を失う。

 

「あとは僕とストラーダでやる、キャロ!」

 

 

「うん!」

 

ストラーダに強化魔法を行うキャロ。

さっきよりも強力な強化だった。

槍を先端はピンクの魔力に包まれてオーラを放っている。

 

「よし!今度こそ!」

 

 フリードの背中から飛び降りてリニアレールへ降り立つエリオ。

 まちうけるは……………先程敗北した大型ガジェット。

 

 

「はあああ!」

 

 ストラーダの槍で攻撃を仕掛けるエリオ。

 

 

 

ガキン

 

 

 

 しかしそれはガジェットの腕で阻まれる。

 今度はガジェットが腕を振り回しエリオを殴ろうとする!

 

「くう!」

 

 今度はエリオがその攻撃をストラーダで受け止める。

 そしてそのまま…………ジリジリとつばぜり合いが続き…………。

 

「はあ!」

 

 ガジェットの腕を弾き返す!

 それで生まれたガジェットの隙を逃すほどエリオは甘くない!

 

「やぁぁぁ!!」

 

 

ザシュ!

 

 エリオの気合いと共に槍の刃で腕部分を切り落とす!

 

「これで…………」

 

 それでよろけたガジェットとの距離を詰め、ストラーダを突く!

 

 

 

グサ

 

 

 

 その槍は大型ガジェットの本体を貫き………。

 

「最後だ!」

 

 貫いた槍をそのまま上に振り上げ一刀両断!

 エリオはそのままガジェットに背を向ける。

 

ドォン!

 

 真っ二つになったガジェットは、エリオの後ろで爆発する。

 ガジェットは粉々になっていた。

 

「エリオ君!」

 

 フリードの形態を元に戻し、エリオのもとへ飛び降りるキャロ。

 

「キャロ………」

 

 

「それじゃあ…………レリックを回収しよっか」

 

 

「うん!」

 

 レリックが積み込まれてる車両に移動しようとするエリオとキャロ。

 これで任務は完了。

 二人も任務完了を目の前にして安心しきっていた。

 キャロは出撃前より輝いた笑顔を見せ、エリオもそれにつられて微笑んでいた。

 

 

 ………………しかし、油断していた二人に魔の手はすぐそこに来ていたのだ。

 

「っ!?、キャロ!」

 

 上から、2体の大型ガジェットが腕を振り上げてエリオとキャロに向かって落ちてきた!

 

「え?………!!エリオ君!」

 

 二人が気づいたときにはもうすぐそこまで来ていた。

 確実にかわせない距離だ。

 お互いがお互いをかばうようにその場に倒れこむ二人。

 そしてエリオとキャロは恐怖で目を閉じた。

 

 

 

…………………。

 

 

 

 

 

ガシッ

 

 

 

「……………………」

 

 

 

「………………………」

 

 

 

 数秒時がたった。

 おかしい…………いつまでたっても、痛みが来ない。

 殴られた衝撃も感覚も来なかった。

 何が?と思った二人は、目を開ける。

 

「言ったろ?何かあったときは絶対に守ってやるって………」

 

 声が聞こえた。

 キャロにとっては今まで遠い存在でどこかで遠慮した態度を取ってきた人物で、だけど今日、自分を必死に励ましてくれた人で。

 エリオにとっては同じ魔導師として憧れの存在であった。

 

「「…………賢伍さん!」」

 

 そう、賢伍だった。

 賢伍は二人のピンチに気づき、二人の前に立ち2体の大型ガジェットの腕部分を自身の腕1本ずつでガジェットを止めていた。

 ガジェットがいくら腕部分に力を込めても賢伍はびくともしなかった。

 賢伍はそのまま顔だけ振り返り、エリオとキャロに笑顔を向ける………。

 

「お前ら、よくやった。あとは………俺に任せろ…………」

 

俺がそう言うと二人から「はい」と返事が返ってきた。

 怪我はないみたいだな………良かった…………。

 

「さて、ガジェット共………」

 

 安堵の感情から一変、ガジェットに対しての怒りの感情に変わる。

 よくも…………

 

「俺の大切な教え子を……仲間を傷付けようとしてくれたな…………覚悟しろ、ぶちのめしてやる!!」

 

 俺は片手で1体のガジェットを上に放り投げる。

 そのガジェットは遥か上空へ、

 

「牙連突!」

 

 その場にいたもう1体のガジェットを二回の突きで貫く!

 そのガジェットは爆発して破壊される。

 

「疾風速影………」

 

 爆発と共に賢伍の姿も消えた。

 速影で上に放り投げられてそのまま落下してきていたガジェットに一瞬で距離を詰める。

 

「くたばれ!」

 

 そう言って俺は魔力を込めた手を刀に添えた。

 

「宿れ…………」

 

 手を撫でるように添えた所から刀はだんだん白い氷を帯びていく。

 

「全てを凍らせる絶対の氷結!」

 

 対象に向かって刀を降り下ろす!

 

「氷鳴斬!!(ひょうめいざん)」

 

 氷の斬撃がガジェットを襲う。

 そして、斬られたガジェットはそのまま徐々に凍りつき動かなくなった。

 

「じゃあな…………」

 

 

 

チン

 

 

 

 刀を鞘に納めた瞬間…………

 

 

バリン!

 

 

 氷ごと、ガジェットが粉々になった。

 刀に魔力を込めた斬撃、炎鳴斬の爆発とは違い、斬られた対象はそのまま凍り漬けになる。

 それが氷鳴斬だ。

 

「よし、エリオ、キャロ、レリックを回収してくれ」

 

 

「はい!」

 

 俺の言葉に返事をすると、キャロとエリオはレリックのある車両へ向かった。

 これで、任務完了だな…………。

 

 

…………………………。

 

 

 

 無事にキャロとエリオはレリックを回収。

 そのまま、はやての指示で各々作業に入った。

 スターズのなのはとスバル、ティアナはヘリでそのままレリックを護送しに。

 リィンは乗っ取られたリニアレールのコントロールを取り戻し、リニアレールを止めて、フェイト、エリオ、キャロと共にリニアレールの破損部分のチェックに補修、保安部に現場の受け渡しをしていた。

 その最中で………

 

「フェイトさん…………私……」

 

 任務完了後、フェイトに向かってキャロが口を開いていた。

 

「キャロ…………」

 

 そういうとフェイトはそのままキャロを抱き締める。

 背中をなでで、あやすように。

 

「よく頑張ったね………偉いよキャロ………」

 

 

「フェイトさん…………フェイトさぁん……」

 

 キャロも抱き返す。

 その瞳にはまた涙がたまっていて、一方のフェイトの瞳にも少しだけ涙が滲んでいた。

 キャロは乗り越えたのだ。

 自分の恐怖を乗り越えて、中々できることではない。

 思いの力がキャロの恐怖に勝ったのだ。

 

「………………」

 

 俺はその姿を見届けて、別の車両に移動して事後処理を進めることにした。

 今は二人の時間だ、邪魔をする気はない。

 エリオもそれを察して別の車両へ黙って移動していた。

 二人とも気づいていなかったが俺とエリオの表情も二人の姿をみて緩んでいた。

 

 もしも、将来結婚して子供ができたのならまずは女の子が欲しくなった。

 

 

……………………。

 

 

「あちゃー、結構酷いなこれは………」

 

 破損部分のチェックをしているとちょくちょく破損が酷い箇所がいくつかある。

 派手に破壊されたなぁこれは。

 

「さて、どうするか………」

 

 応急措置でもしておくか、それとも余計な手は加えないで保安部に丸投げした方がいいか考えていると……。

 

 

ガララララ

 

 

 車両間の扉が開いた。

 

「あ、お疲れ様です!!」

 

 ペコリと挨拶してきたのはキャロだった。

 瞳に赤みがかかっているのは涙を流した影響だろう。

 どうやら車両チェックに来たみたいだ。

 

「あぁ、お疲れさん。この車両は俺がやっとくから別の車両のチェック、お願いできるか?」

 

 

「は、はい!」

 

 キャロの返事を聞いたあと、また問題の破損部分を凝視する。

 このやろう………めんどくさい壊れかたしやがってぇ…………。

 叩き壊すぞこのポンコツがぁ…………。

 若干イライラしながらもどうしようか悩む。

 

「あ、あの!」

 

 うがぁー!と自暴自棄になる手前でキャロに突然声をかけられた。

 

「んー?どうしたんだ?」

 

 

「あの………今日はありがとうございました!賢伍さんのお陰で、私自身の恐怖に勝つことが出来たから……」

 

 キャロは下を向きながら言う。

 恥ずかしがってんのかな?

 けど、ありがたい言葉だったが俺はそれを否定した。

 

「それは、俺のおかげじゃねえよ。キャロ自身の力何だから、キャロが頑張ったから成功したんだよ」

 

 思いの力、キャロが純粋に仲間を助けたいと思い、そして俺達の思いに答えてくれたキャロの力で成功したんだ。

 だから、俺のおかげなんかじゃない。

 

「いえ、そんなことないです!賢伍さんのお陰です!」

 

 こりゃ、引き下がらさそうにないな……。

 不毛なやり取りをするのも時間がもったいないので俺は言いたいことを言うことにした。

 

「なぁキャロ?今回成功したのはな、キャロが仲間を助けたいと願って頑張ったからなんだよ」

 

 言葉を続ける。

 

「今いる仲間達、皆を大切にするんだ。フェイトもそうだし、エリオやスバルにティアナもだ。皆みたいなかけがえのない仲間を想う力、絆の力があればこれからもキャロをどんな困難も助けてくれるはずだ」

 

 手をキャロの頭にポンポンと撫でる。

 

「だから………ずっと大切にしていくんだぞ?大切な仲間達を………」

 

 

「賢伍さんも………です……」

 

 

 

「えっ?………」

 

 ぼそぼそとキャロが何かを呟いた。

 少し頬が赤みがさしながらもキャロは俺に言ってきた。

 

「賢伍さんも…………私の大切な仲間………です!………そう思ってもいいですか?……」

 

 少しうつむきながらもキャロがそう言ってくれた。

 全く、今回の出来事で色々と成長したし俺との距離も縮めてくれたみたいだった。

 それは素直に嬉しかった。

 

「あぁ、勿論だ。キャロも俺にとって大切な仲間だ、……………だから、これからもよろしくな?」

 

 

「は、はい!」

 

 返事と共に顔をあげて子供らしいとびきりの可愛い笑顔が俺の視界を支配した。

 キャロの笑顔はとてもほっこりとする笑顔で俺も自然と笑みがこぼれた。

 こんな良い笑顔が見れたのなら、俺もああしてよかったな。

 

 

 リニアレールを照らしている夕焼けを見ながら俺はそんなことを思っていた。




今回は長くなってしまった!

自分の文才のなさでここまで長くなるとは………。

さて、またも感想をいただきました!
 とても励みになります、ありがとうございました!m(__)m

それでは、次の話にて!


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激突





 

 

 

 

 

 ファーストアラートから1日が経った。

 昨日は実戦だったというのに、FWメンバーは今日も訓練をしている。

 しかし、今回の訓練は俺は参加していない。

 理由は簡単だった……………

 

「くそぉぉぉぉぉぉぉ!!やってられるかああああああ!!!」

 

 バンッと目の前の机を手で叩きつける。

 その衝撃で机の上に乗っていた紙の束がひらひらと床に落ちた。

 この紙の束、書類である。

 そう、例の書類の山。

 俺が再入隊の手続きに必要な書類の束、量が量なので提出は再入隊の後でも許されたがその提出期限は明日に迫っていた。

 ちなみにこの間なのはと一緒にやってからの進み具合はゼロである。

 そう、ゼロである。

 

「ぐああああああああああ!どう考えても今日じゃ終わらねぇ!!」

 

 今日の朝、はやての突然の一言で放置されていた書類の記憶が呼び戻されたのだ。

 

「賢伍君?管理局から書類の提出を求められとるんやけど……もう終わらせたんやろ?」

 

 このときに軽食のつもりで食べいていたサンドイッチを目の前にいたヴィータに全て吐き出してしまった。

 すまん、ヴィータ……………とりあえず大量にスーパーカッ〇くんを献上しておいた。

 アイス好きのヴィータはこれで手打ちにしてくれたが。

 

「失踪の4年間の活動報告書………どうしよう………」

 

 これが問題だ。

 前回の時みたいに「寝た」何ての報告書はなのはのお話が始まってしまうので嘘とほんとを織りまぜてうまく捌いていたが、ここにきてネタ切れである。

 

「実際に起きた出来事なんて………」

 

 少し失踪してる間の時のことを振り返る。

 最初は俺と闇との人格の競り合いだったと思う。

 しかし、日を重ねるごとにどんどん俺の人格が保てる時間は短くなっていった。

 闇の破壊行為がなのは達を巻き込むことを恐れた俺は別の次元世界に逃げ込んだ。

 

「俺じゃあ、お前を抑えられない………だったらせめて………」

 

 せめて、皆に迷惑をかけないように………。

 

 様々な世界を旅した。

 もちろん、俺一人で生きて行けるわけでなく道中いろんな人に助けられた。

 そこで俺は知った、人の心の光の暖かさを。

 見ず知らずの俺を救ってくれた人達を俺は忘れない。

 闇との競り合いで意識が朦朧としていたから、俺があの時どうやってその次元世界にたどり着けるかは分からない。

 ミッドチルダに帰ってきたのもたまたま偶然だったのだ。

 けど、俺はこの戦いが終わり落ち着いたら、なんとしてでもお世話になった人達を探し出してお礼を言いにいこうと思っている。

 俺が失踪していたときの話はまた別の機会にしておこう、なぜなら………。

 

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!やっぱ無理だってぇぇぇぇぇぇ!」

 

 だって終わらないもん書類がさぁ!!

 今頃ヴィータ、なのは、フェイトが分かれて4人それぞれに訓練している頃だろなぁ。

 今日はそういう予定だったから、俺は皆のサポートの予定で今頃楽しく訓練してるだよほんとはよぉ。

 

「よし…………」 

 

 決めた、俺は覚悟を決め腹を括ることにした。

 そのときの俺の顔はどこまでも男らしかっただろう。

 そういえば、学生時代も提出物があるときにはいつも同じことをしていたなぁ。

 

「………諦める!!」

 

 一度決めてしまえばなんてことはない。

 軽い足取りでとてつもなく穢れのない笑顔で俺はなのは達のいる訓練所に向かった。

 

 

 

訓練場

 

 

 

 俺が、訓練場についた時にはもう既に終了後の集合をしていた。

 どうやら午前の訓練はもう終わったらしい。

 

「あ、賢伍君!」

 

 なのはが真っ先に俺に気付いた。

 手を振ってくる。

 振られる方は恥ずかしいからちょっとやめてくれ。

 

「おう?もう書類は終わったのかよ?」

 

 隣にいるヴィータの一言。

 やはりまだ顔にサンドイッチをかけてしまったことはご立腹のようだ。

 少しだけ怒っている気がした。

 

「書類?なにそれ?おいしいの?」

 

 ここまで清々しいほどの開き直りはあるかというくらいの開きなおっぷりである。

 俺もとても輝いた笑顔だった。

 

「あははは…………やっぱり……」

 

 フェイトも苦笑いだった。

 さっきも述べた通り、学生時代に提出物に関してはいつもこうなっていたのでフェイトとなのははある程度予想してたんだろう。

 

「もう!休憩したらちゃんとやるんだよ!」

 

 なのはも頬を膨らませて怒ったポーズを取ってくる。 

 正直全く怒ってるように見えないし、ただかわいいだけなので逆効果だ。

 

「わかったよ…………」

 

 なんだかんだでいつもなのはのお節介で提出物は期限以内出していたというのもここに一言付け加えておこう。

 俺が諦めても周りは許してくれない。

 多分この後、なのはとフェイト、おそらくはやても混じって俺に鬼のように書類をやらしてくるだろう。

 そう思うと憂鬱になった。

 ところでだ……………。

 

「午前の訓練はもう終わりなのか?」

 

 腕時計に目をやり時間を確認する。

 いつもよりかなり速い時間に終わったみたいだ。

 

「ああ、昨日は実戦だったからな。あまり根は詰めない方がいいだろうからな」

 

 ヴィータの一言でなるほどと思うと同時にある考えが浮かんだ。

 

「そういとこならもうひとつ追加したい訓練があるんだが………いいか?」

 

 

 

「え!?でも…………」

 

 フェイトは新人達の疲れを心配している模様だった。

 

「なに、大丈夫だ。そんなハードなことじゃないし、昨日の実戦の時の課題にも関わっていることだからさ」

 

 そういうとFW4人のもとに行き俺は口を開く。

 

「悪いな、どうだ?そんなキツいことじゃないけどまだやれるか?」

 

 念のため4人にも確認をとる。

 勝手に進めてしまうのも流石にかわいそうだからな。

 

「いえ、問題ありません!」

 

 

「まだまだ!やっちゃいましょう!」

 

 ティアナとスバルの気迫がこもった声を聞くことが出来た。 

 エリオとキャロも「がんばります!」とやる気は十分のようだった。

 

「よし、やる気は十分みたいだな。じゃあ早速始めるか、皆隊舎に移動してくれ」

 

 俺がそう指示をすると4人は駆け足で移動を始めた。

 なのはとフェイト、ヴィータは俺と並んで向かう。

 

「賢伍、ここじゃなくてどうして隊舎なんだ?訓練なら訓練所のほうがいいだろ?」

 

 隣に立つヴィータがそう問いかけてきた。

 まあ、皆疑問に思ったことだろうけど。

 

「訓練所より隊舎のほうが俺としては分かりやすい訓練だからな、魔法をつかうわけじゃないから回りを壊すなんてことはないし」

 

 歩きながらそう答える。

 今からやることは俺も普段やっていることだ。

 基本中の基本といっても過酷ではない。

 

「あー、それと新人達と一緒に俺達もこの訓練はするからさ。悪いけど頼むよ」

 

 新人達だけにやらせるのも示しがつかないし、先程と言った通り基本中の基本だ。

 なので、指導する立場の俺達も一緒に参加したほうがより一体感が生まれていいかもしれないしな。

 

「それは全然構わないけど………いったい何をするの?」

 

 フェイトの疑問を聞いて俺は立ち止まり、ニカッと歯を見せてこういい放った。

 この中で一人にはとても辛くなると思うがそれは耐えてもらおう。

 

「…………ランニングだよ」

 

 

 

「…………………えぇ!?」

 

 そのとても困るであろう一人がビックリした声をあげた。

 さあて、果たしてどうなるかな。

 正直結果は見えてるが。

 

 

………………………。

 

 

 

「ほらほら!頑張れ!あと3周だぞ!」

 

 隊舎に移動して軽く準備運動をして、早速ランニングを開始した。

 内容は隊舎回りを10周だ、ここを選んだのは普段俺が使っているコースだから距離が明確に分かるからだ。

 そして、ランニングを選んだのも基礎体力作り。

 最近は魔法の訓練ばかりで体力作りは少し間やっていなかったのだ。

 結果、昨日の実戦後の4人は少々疲労困憊だ。

 しかし、2、3日連続で実戦何て言うのも管理局ではざらだ。

 なので追い込めるときに追い込むことにしたのだ。

 もちろん急にやっても逆効果なので今回は軽めにして徐々に増やすつもりだ。

 

「はぁ……はぁ………はい!」

 

 息を切らしながらもしっかりとした返事が帰ってくる。

 よしよし、この程度なら大丈夫そうだ。

 

「よし!エリオとキャロはここまでだ!」

 

 

「「はぁ……はい!」」

 

 この二人に関してはペースと周回を減らして別に走ってもらっていた。

 まだこの二人の歳では本来トレーニングはあまりよくない、なのでそこで差別化をしたのだ。

 

「よしラスト!最後はダッシュだ!」

 

 俺も含めてみんなで最後は全力ダッシュ。 

 ゴールする頃には皆息を切らしてその場で座り込んでしまった。

 

「はぁ………はぁ……はぁー、久しぶりにこんなに走ったぜ………」

 

 ヴィータは息を切らしながらもその場に座り込むほどではなく俺の隣でそうぼやいた。

 

「そうだね……私も久しぶりだったよ………はぁ……」

 

 フェイトもヴィータと同じようにぼやいた。

 以外と、魔導師はランニングなどの基礎を疎かにする傾向がある。

 まあ、実戦の時は魔法を使うから魔法の訓練ばかりになるのは仕方ないと言ったら仕方ないが。

 

「ふぅ………そのままでいいから聞いてくれ!」

 

 座り込んで息を整えている4人にそのまま声をかけた。

 うつむきながらも4人は顔をこちらに向けてくれる。

 

「一見地味で何の効果も感じられない訓練かも知れないが基礎体力はとても大事なことなんだ。確かに魔法にはあまり関係してこないかも知れないが、体力の増加で日々の訓練の疲労軽減、そしてさらに濃密な魔法の訓練も出来るようになる」

 

 ただランニングをやらせるだけなのは4人には酷だ。

 しっかりとこの訓練の効果、そして意味を説明することにしたのだ。

 

「それに体力作り………特にランニングっていうのは自分との闘いでもある。どれだけ自分を追い込めるかどうかの勝負でもあるんだ。それに勝てば………」

 

 各々を見据えて言う。

 ある意味これは魔導師として、人としても大事なことだ。

 

「根性だってつく!な?一石二鳥や三鳥てとこだろ?」

 

 だから俺は日々のランニングは怠らないし、将来4人にはそういうことを大切にしてほしい。

 きっとその根性はどんな所でも役に立つから。

 

「じゃあ、午前の訓練はここまでだ!勝手にメニュー増やして悪かったな、午後に備えてしっかり飯を食うように!」

 

 

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 さっきまでの疲れはどこへやら。

 うって変わって元気のいい返事が返ってきた。

 うーむ、次回はもっとペースを早くするか………。

 

「あ、賢伍……」

 

 そんなことを考えているとヴィータが呼んできた。

何かに向かって指を指している。

 

「うん?………あー…………」

 

 その方向を見て、片手で顔を覆う。

 やっぱりというかなんと言うか、やっぱり耐えれなかったみたいだった。

 

「…………………(チーン)」

 

 

 

「…………なのは……………」

 

 その様子を見たフェイトも苦笑いである。

 そう、なのはだ。俺が一番困るだろうと思った人物もランニングと聞いて「えぇ!」と声をあげたのもなのはだ。

 最初はいやいや駄々をこねていたが残念、俺が連行した。

 新人4人よりなのはのほうがランニング等に関しては心配だからな。

 

「………………………」

 

 なのはは地面に突っ伏したまま動かない。

 声をかけても返事がない、まるで屍のよう……………。

 

「い、生きてるよ~」

 

 辛うじて、弱々しくそんな言葉が聞こえてきた。  

 俺の想像以上になのはの運動音痴は成長していなかった。

 むしろ変わってない、いや退化してるかもしれない。

 もうなのはにランニング止めよう。

 そう心に誓った。

 

「はぁ~~~、しょうがねぇなぁっと!………」

 

 倒れてたまま動かないなのはををおんぶする。

 

「うわわ!けけ、賢伍君!?」

 

 突然のことで顔を赤くしながらじたばたするなのは。

 

「じたばたすんなって、疲れたんだろ?俺が部屋まで運んでやっから」

 

 

「うぅ………でも恥ずかしいよぉ………」

 

 更に顔を真っ赤にするなのは。

 顔は俺の背中に押し付けて恥ずかしさに耐えていた。 

 

「どうした?顔が赤いぞ?そうとう疲れたんだな。今連れてってやるからな」

 

 そんななのはの心情には気付きもしない賢伍。

 その様子を見たフェイト達も思うことは一緒だった。

 

「(うわぁ……鈍感だ……)」

 

「(鈍感だな…………)」

 

「(鈍感…………)」

 

「(鈍感ですね…………)」

 

「(鈍感すぎる………)」

 

「(お昼何食べよっかな~~♪)」

 

 一人を除いて賢伍の鈍感さを再度確認した一同だった。

 そのまま賢伍はなのはを部屋に。

 フェイト達はシャワールームへ向かった。

 

…………………………。

 

 

 

 

「到着っと………………」

 

 とりあえずなのはの部屋に到着する。

 いや、正確には二人の部屋だ。

 俺は六課の制服のポッケから部屋の鍵を取り出して鍵をあける。

 そう、実はこの部屋なのはのだけではなく俺の部屋でもあるのだ。

 つまりは相部屋だ。

 

「ほらー、なのは着いたぞ?」

 

 呼び掛けても反応が帰ってこなかった。

 首を捻り顔を覗く。

 

「スー…………スー……」

 

 気持ち良さそうな顔をして眠っていた。

 途中急に大人しくなったかと思ったらそういう事だったか。

 こっちは背中の柔らかい感触から理性を保って必死だったというのに。

 よほど疲れたのだろう。

 起こさないようにベッドに寝かせて毛布をかける。

 やっぱなのはにはランニングやめよう。

 うん、改めてそう思った。

 

「さてと……………」

 

 六課が設立されて半月ちょっとくらいか、俺もようやくなのはとの共同生活には慣れてきた。

 最初はお互い照れ臭くて微妙な雰囲気だったしな。

 俺となのはが相部屋の理由は大したことないが説明しておこう。

 遡ること六課設立の前日だ……………。

 

 

……………………。

 

 

 

~機動六課設立の前日~

 

 

ミッドチルダ 八神はやて宅

 

 

「おーす、待たせちまって悪いな……」

 

 この日は翌日に設立される機動六課についての最終確認のようなものが行われていた。

 はやての家で主要メンバーが集まっていた。

 なのはにフェイト、ヴォルケンリッターにもちろんはやてもだ。

 

「おー、いらっしゃい賢伍君。それじゃあ全員そろったことやし始めよか!」

 

 話したことは様々、この部隊の目的。

 新人達の育成内容に目標。

 予算になんなりと様々だ。

 正直俺が直接関わりのないものは真面目に聞いてなかったが。

 

「よし、これで分隊の確認もOKやな………」

 

 

「あぁ、問題ねぇ……」

 

 話ばかり聞いているのは苦手だ、肩がこって仕方ない。

 

「それじゃあ………」

 

 俺が軽くあくびをしているとはやてが胸ポケットをまさぐり一枚のメモを取り出した。

 

「隊舎の部屋割り決めておいたから確認してや」

 

 そういって俺にメモを手渡してきた。

 手渡されたメモを確認する。

 

 

部屋割り

 

1号室 八神はやて ヴィータ シャマル (三人部屋)

 

2号室 シグナム フェイト・T・ハラウオン

 

3号室 神崎賢伍 高町なのは  

 

特別室 ザフィーラ

 

 

 と書かれていた。

 

 

「部屋割りはもうこれで決定やから………誰も異存は………」

 

 

「異議あり!」

 

 俺はどこぞの逆転弁護士の如く叫んだ。

 

「おかしいだろ!」

 

 そう、おかしいのだ。

 なぜだ?何で…………

 

「何で俺となのはが同じ部屋なんだよ!?」

 

 そういうことである。

 てっきり一人部屋にでもなるのかなーとか思ってたら予想外の部屋割りにビックリだった。

 

「別にえーやないか……中学生までずっと一緒に暮らしてきたんやから……」

 

 そーだけど、確かにそーだけど!

 

「部屋は別々だったよそれでも!お前は男女間のことを考えろ!アホ!」

 

 

「しゃーないやろ………部屋が足りないんやから、まだ二人のほうが生活しやすいやろと思ってそうしたんよ……」

 

 いやちょっと待て………。

 

「ザフィーラの特別室でいいじゃねぇかよ。それなら男同士だしなんも問題ないじゃないか」

 

 

「賢伍君がそれでええならええけど…………犬小屋やで?」

 

 

「………いや、やめとくわ」

 

 いやいや、いくらザフィーラでもそれは…………。

 今はザフィーラは狼の形態だ。

 確かに犬科だよ?犬科だけども!

 流石にそれはかわいそうだろ。

 いや、なんかザフィーラは特に異論はないみたいな顔してるし。

 気づけ!お前番犬としと扱われてるんだよ?気づけっての!

 

「まぁまぁ………私は気にしないし……それに賢伍君だったら私も一緒の部屋で嬉しいから………ね?」

 

 見かねたなのはがそう口を開いてきた。

 いや、別に俺は嫌って訳じゃなくて………

 

「その……やっぱり私と一緒の部屋は………嫌?」

 

 やめろ、そんな悲しそうな顔して言うなよ瞳うるうるさせんなよかわいいなぁもう!

 

「あー、まあなのはがいいってなら俺も異存はないよ……」

 

 これから大変そうだ。

 色々と。

 

「うん!(やった!賢伍君と一緒の部屋だ!)」

 

 

「よーし、じゃあ今日はこれで解散や。明日は遅刻しないよーに、よろしくな」

 

 はやてのこの一言でこの日は解散となった。

 無論、その後のなのはとの共同生活は最初は二人ともぎこちないものだった。

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

 今思い出しても普通に照れ臭い。

 いくら何でも幼馴染みだからってなぁ。

 なのははなのはで何だか時々ぎこちない態度をしてくるし。

 俺は俺でそんななのはを見て俺もぎこちなくなってしまう。

 いったい俺はなのはのことをどう見てるんだろう?

 その答えはいまだに出ない。

 

「なのはは寝かせたままでいいとして………」

 

 今そんなことを考えても仕方ない。

 なのははそのまま寝かせて俺はシャワーでも浴びにいくか。

 浴び終わる頃にはなのはも起きてるだろうし合流して一緒に飯でも食べるか。

 などと考えているときだった。

 

 

PPPPPPPPP

 

 

 通信を知らせる音が懐のシャイニングハートから流れ出した。

 

「まずいまずい!」

 

 なのはが起きてしまうので慌てて部屋からでて離れた所で通信に出た。

 

「神崎だ……どうした?グリフィス」

 

 

「はい、突然申し訳ございません」

 

 通信の相手はグリフィスだった。

 シャイニングハートが写し出すモニターにグリフィスが写し出されていた。

 

「気にすんな、それで?どうしたんだ?」

 

 

「はい、実は……………」

 

 重々しく口を開くグリフィス。

 どうやらいい話題では無さそうだ。

 

「先日の……エイリム山岳地帯付近で強力な魔力反応が観測されているんです…」

 

 強力な魔力反応?

 レリック?いや違う。

 レリックならはやてに連絡がいくだろうし昨日のファーストアラートの時点で気づいているはずだ。

 流石に同じ場所にまた出現したなんてことはないだろう。

 

「今……映像を送ります………」

 

 モニターの画面がグリフィスから別の映像に切り替わる。

 場所はグリフィスの言う通りエイリム山岳地帯。

 映像の中心に人が見えた。

 その人物は魔法を使っているのか空中に浮いている状態だった。

 そして、その人物を見てなぜグリフィスが真っ先にはやてではなく俺に連絡したのかがわかった。

 

「っ!………こいつは…………」

 

 体が自然と力んだ。

 まさか、こうも早く会えるとは思ってもなかったぜ。

 

「グリフィス、現場には俺が調査にいく。そしてこの事は他の誰にも連絡するな!いいな?はやてにもだ」

 

 

「えっ、……それは一体………」

 

 グリフィスの疑問に答えている暇はなかった。

 

「いいから!とにかく………誰にも報告はしないこと、俺がいって調査してくる。飛行許可の申請……頼んだぞ」

 

 そういって一方的に通信を切った。

 切ったと同時に隊舎からでて、シャイニングハートを掲げた。

 

「シャイニングハート!セットアップ!」

 

 

SH『スタンバイレディ』

 

 バリアジャケットを装備し、日本刀を握りしめる。

  

SH『マスター……』

 

 シャイニングハートから呼び掛けられた。

 なんだ、急いでいるんだ!

 

SH『………なのはさん達も一緒に連れていった方がよろしいのでは?』

 

 

「駄目だ!これは俺一人で片をつける事だ。なのは達は巻き込めない、いくぞ」

 

 

SH『………了解……しました……』

 

 シャイニングハートが俺を心配して言ってくれている事は勿論分かっている。

 それでもこれは俺の問題だ。

 だから……俺一人で行かなきゃならないんだ。

 俺は全速力で現場に向かう。

 待ってろよ………絶対に負けてたまるか!

 

 

………………………。

 

 

 

 

「………………………」

 

 一方的に通信を切られたグリフィスは一人考えていた。

 やはり、賢伍さんの言う通りに誰にも報告しないでおくか………。

 

「いや、だめだ……」

 

 賢伍さんの様子がおかしかったのもそうだが、自分の務めははやて部隊長の補佐である。

 やはり報告するべきだろう。

 

「あ、会談中に申し訳ございません。はやて部隊長……実は………」

 

 光の英雄の指示を破るのは正直怖かったが純粋にその英雄を心配してのことでもあった。

 ただのお節介で終わればそれでいいとグリフィスは思っていた。

 

 

……………………………。

 

 

エイリム山岳地帯付近。

 

 

 

 

「よお………ずいぶん早く会えたなぁ!」

 

 神崎賢伍は現場に到着していた。

 映像に写っていた人物とすこし距離を取って向き合った。

 

「来たか………」

 

 その人物は閉じていた瞳を開けてそう呟いた。 

 同じように俺に向き合って立つ。

 

「久しぶり……でもないか………」

 

 続いてそう呟く。

 そのまま俺と目が合う。

 俺が顔を引き締めてそいつを睨んでいるのとは対照的に相手は口元をニヤリと不気味に緩めた。

 

「お前はここで倒す!覚悟しやがれ………闇の神崎賢伍ぉ!!」

 

 その人物………闇の俺自身に向かっていい放った。

 倒す、こいつだけは!

 

「いいだろう………少し遊んでやるよぉ………来いよ光の神崎賢伍ぉ!」

 

 グリフィスが真っ先に俺に報告したのは、俺やなのは達と守護騎士以外は闇の俺の存在を教えていなかったからだ。

 それを見つけたグリフィスが瓜二つの姿である俺に真っ先に報告したのだろう。

 今はそれに感謝した。

 

「いくぞ、前と一緒だと思ったら大間違いだぁぁぁあああああ!!!」

 

 刀を振りかざし闇に突っ込む!

 

「ふんっ」

 

 闇も俺の刀を受け止める形で刀を振るった。

 刀身までもが漆黒にそまった日本刀を。

 

 

ガキン!

 

 刀と刀がぶつかり合い火花が散った。

 

 

 ぶつかり合う光と闇。

 闘え、どちらかが潰れるまで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





最近自分が住んでいるところは雨が多いです。
読者の皆様も風邪などにはおきをつけてくださいね(´・ω・`)

それでは、次の話にて


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圧倒的な力の差


光の魔法………光の魔力を使い発する魔法。
その魔法は悪を貫き闇を消し去る。

闇の魔法………闇の魔力を使い発する魔法。
その魔法はいかなるものを破壊し光を飲み込む。
 
対立する、2つの魔法と二人の神崎賢伍。


 

 

 

 

 

 初撃は互いの刀がぶつかり合い火花を散らせる。

 

「らぁ!」

 

 続けて二撃目、刀を振るう。

 

「ふん………」

 

 

ガキン!

 

 

 これもまた初撃と同じ結果になった。

 剣術のぶつけ合いはほぼ互角に見えた。

 しかし、俺も闇もまだ小手調べをしている程度。

 ならば…………!

 

「牙突!」

 

 一点に力をためた渾身の突きを浴びせる。

 闇がまだ俺の実力を測ろうとしているのなら敵がギアを上げてくるまえに先手必勝だ!

 

「へっ!」

 

 

キン!

 

 

 火花が散る。

 闇は鼻で笑うと同時に牙突の軌道を刀でずらしてきた。

 その表情は余裕の色が強かった。

 それを見て、俺は少し感情を高ぶらせた。

 

「っ!………舐めるな!!」

 

 軌道をずらされた切っ先をすぐさま戻し、構える。

 牙突は一撃じゃ終わらない!

 

「牙連突!!」

 

 少し大振りに気味に闇に向かって日本刀を突いた。

 狙うは敵の額、一撃で決めてやる。

 

「バカが………」

 

 闇の呟き。

 そんな一言は俺の耳には届かず、俺は闇の額を貫く。

 

「なっ!?」

 

 ことは出来なかった。

 闇は首を傾け、いとも簡単に俺の日本刀をかわした。

 多少大振りになったせいで動作を途中で止められない。

 完全な隙だった。

 

「おら!くらっとけ!」

 

 刀の攻防だから距離は闇との距離は近い。

 それに突きをした状態のままだから俺の胴体は完全に隙だらけだ。

 

 

ヒュン!

 

 

日本刀が空を切る音が、闇がその隙を逃すはずがなく俺の俺の胴体に向かって刀を振るったのだ。

 

「なに?………」

 

しかし、振るっても闇の腕からは人を斬った感覚がしなかった。

 ヒュンッと空気を切り裂く音が響いただけ。

 その場に賢伍はいなかった。

 

「舐めるなって言ったはずだぜ!」

 

 突如闇の背後から賢伍が現れた。

 疾風速影だ。

 その手に握られた刀は既に闇に向かって振るわれようとしている。

 そう、わざと大振りに牙連突を繰り出したのだ。

 それをかわし、隙を狙ってくると算段しての行動だったのだ。

 最初から行動が分かれば対応ができる。

 

「もらった!」

 

 闇に刀の刃を振るう。

 この距離、このスピードなら対応出来ないはずだ!

 

 

 ヒュン!

 

 

「んなっ!?」

 

 刀は闇と同様空を切った。

 バカな………かわされたのか?

 当たると確信していた斬撃をかわされて俺は戸惑いを隠せなかった。

 

「光の英雄か…………聞いてあきれる呼び名だなぁ………その程度の力で……」

 

 

 

「っ!?」

 

 背後から声が聞こえた。

 まさか………まさか読まれていた?

 俺の誘いの攻撃も読まれていたのか?

 確かにあの攻撃を反射でかわせたとは考えにくいが………うかつだった!

 

「お前こそ………闇の俺を舐めるなよ?……」

 

 慌てて後ろに振り向いて対応しようとする。

 が、それは遅すぎた。

 

 

 

ブシュ!

 

 

 闇の漆黒の刀身が光の英雄に降り下ろされた。

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

機動六課 訓練所

 

 

 

「はーい、じゃあ10分間休憩!皆水分補給をしっかりしてね!」

 

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 六課の午後の訓練は既に始まっていた。

 なのは号令と共に小休憩に入るFW4人。

 各々水を飲んだり汗を拭いたりとしていた。

 

「駄目だ………隊舎にもいなかったぜ」

 

 そう声をかけたのヴィータであった。

 

「そっかぁ………うーん……どこ行っちゃったんだろう……賢伍君」

 

 なのはが昼寝から起きたときには既に賢伍はいなかった。

 溜めている書類をやらせようと賢伍を探したのだが見つからず、仕方なく訓練を始めた。

 その時にもヴィータに探してきてくれるように頼んだのだがどうやら見つけることは出来なかったようだ。

 

「まぁ………賢伍のことだし、本気で投げ出すことはしないと思うからすぐに戻ってくるんじゃないかな?今は急な仕事とか用事が入ったのかもしれないし」

 

 一緒に訓練指導をしていたフェイトもなのはにそう声をかけた。

 

「………………うん」

 

 心なしかなのはは少し元気がないようだった。 

 

「まったく、それならそれで一言連絡しろってんだ。ほんとに世話の焼ける奴だぜ……」

 

 ヴィータは呆れながらそう言う。

 実際賢伍の心配はほとんどしていなかった。

 別にどうでもいいとかではなく、賢伍だからだ。

 きっと悪い悪いと言いながらひょっこり顔を出すだろうと思っていた。

 

「…………賢伍君…………」

 

 それでも高町なのはは心配だった。

 なぜだか、そう……。

 

「(なんだろう……胸騒ぎがする……)」

 

 なのはは幼馴染みである神崎賢伍に好意を抱いている。

 これはほとんど、賢伍以外の仲間たちには周知の事実であるがなおさら賢伍に対して敏感に反応してしまうのだろう。

 

「なのは、もう10分たったよ?」

 

 フェイトの言葉でハッと自分がボッーとしていたことに気づいた。

 

「それじゃあ皆、休憩おしまい!切り替えて頑張ろう!」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

 4人の返事が訓練所に響く。

 考えても仕方ない。

 今はFWの指導に集中しよう。

 不安はあったがなのははそう思い、不安を飲み込む。

 そうだ、フェイトちゃんの言う通り急な用事が出来ただけだろう。

 帰ってきたら一言声をかけなかったことを注意して書類をやらせて困らせてやろう。 

 そして、同じ部屋で大好きな賢伍君とまた楽しくおしゃべりしながら書類を手伝って上げよう。

 そう思って、なのはは訓練を再開した。

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

「ぐっ!…………うぅぅ……」

 

 血がどんどん垂れている。

 黒い刀で切られた箇所から次々に。

 手で傷口を押さえて止められないと分かっていても血を流さないように抑える。

 

「ふふっ、無様だな……光の神崎賢伍」

 

 闇は傷口を抑える俺の姿を見て満足そうに口を緩めた。

 くそっ、勝負を急ぎすぎたか………。

 奴の言う通り、なんて無様な……。

 

「まぁ、手加減はした。それにお前もかろうじて刀で軌道をずらしたな?致命傷ではないはずだぜぇ…………」

 

 確かに傷は浅い。

 斬られたのは右肩あたりか左の脇腹ぐらいにかけてだ。

 しかし、十分に動けるし闘える。

 だったら…………。

 俺は刀を構えた。

 闘えるのならまだ闘う。

 倒さなくちゃいけないから………これで終わるわけにはいかない。

 そんな俺の様子を見て闇は口を開いた。

 

「やめておきな、今日ここに来たのはお前を殺しに来た訳じゃないからなぁ………」

 

 

「何?」

 

 どういうことだ?

 

「今日は話に来ただけさぁ、光の神崎賢伍……貴様になぁ!」

 

 闇はそもそも、魔力を解放して俺を誘き寄せてきたのだ。

 闘いに来たのではなく話があるため。

 今戦闘を行ったのは闇なりに今の光の自分自身の力量を測るためだけだったのだ。

 

「ふざけるな!世間話に来たんじゃねぇんだよ!」

 

 そうとも知らない俺は闇のふざけた発言に憤りを隠せなかった。

 話にきただと?笑わせるな………。

 

「お前は………俺の大切な人達をきずつけた!そして………また傷つけようとしている………だから生かしちゃおけねぇんだよ……!」

 

 なのはとの再開の時もそしてこいつの目的も恐らく破壊だ。

 俺が倒されたら次はなのは達が狙われてしまう。 

 だからここで退くことは許されねぇし退く気もない!

 

「はっ!どの口が言ってるんだ?その程度の力で俺には勝てない……自分が分かっているんだろう?」

 

 闇の言う通りだった。

 俺と闇の力の差は広い。

 普通に闘ったって俺は勝てないだろう。

 それくらい力の差は歴然なのだ。

 情けないが魔力も剣術も俺が劣っている、なぜ俺の闇がそこまでの力を持っているのかは分からないがそれは曲げようない事実だ。

 

「それでも…………俺は闘う……」

 

 

「ほぉ?…………」

 

 そうだ、俺には理由がある。

 今もここで刀を握って、闇と対峙してるのだって。

 

「俺には大切な人達がいる!………その人達のために俺は闘う!!」

 

 これが俺が六課に入った理由であり闘う理由だ!

 

「やはり、お前は壊しがいがあるなぁ………」

 

 そう言うと闇は不気味に笑った。

 気持ち悪い笑顔しやがって、吐き気がする。

 

「それでどうする?まだやるか?」

 

 闇はそういって刀を構えた。

 俺もそれを見て再び刀を構える。

 それが答えであった。

 

「…………………」

 

 考えを巡らせる。

 どうする?何か戦法はないか?

 リミッターを解除をするか?

 いいや、駄目だ。

 ここは昨日のエイリム山岳地帯、すでに昨日戦いから復旧したリニアレールを巻き込みかねない。

 それにリミッターを解除しても奴の全力の方が力は上だろう。

 

「仕方ない………」

 

 少し荒っぽいが、今はそんなことを言っている場合じゃないだろう。

 

「疾風速影」

 

 高速移動、俺は闇の背後に回る。

 

「芸がないなぁ!光の英雄!」

 

 それはもう予測済みだったのであろう。

 闇は素早くこっちに振り向き応戦しようとする。

 だが、俺が狙っているのは今じゃない!

 

「疾風速影!」

 

 再び高速移動。

 今度は闇の真後ろではなく、真上に移動する。

 

「空天牙突!!」

 

 

「学ばないやつだなぁ、バカめ!」

 

 そう言って闇はこっちに跳んできた、技を出す前に防ごうと言うのだろう。

 

「バカはお前だ!疾風速影!」

 

 これも囮だ、今度は闇の右側に。

 

「ちょこまかと!」

 

 刀を振るう闇の賢伍。

 しかし、それも空を切った。

 

「こっちだ」

 

 再び疾風速影を使ったのだ。

 これを繰り返して俺は闇を翻弄する。

 

「やはりバカのようだな、貴様の体力がつきるだけだ!」

 

 確かに、ここまで多用したらすぐに疲れはててしまうのは目に見えている。

 だが逃げ回るためじゃない。

 頃合いだ…………。

 

「炎鳴斬!!」

 

 

「っ!!」

 

 真っ正面に高速移動したところで俺は闇に仕掛けた。

 慌てて闇は刀で受け止めるがそれは狙い通りだ。

 

 

ドオン!

 

 

爆発、炎鳴斬は触れたところを爆発させるいわば爆撃斬。

 受け止めてもそこが爆発して闇を攻撃する!

 

「ちっ!だが、その程度の技じゃ俺には聞かないぞ光の英雄!」

 

 

「そんなことは分かってんだよ、くそ闇野郎!!」

 

 いくら炎鳴斬を放っても闇には通じないのは予測している。

 俺が狙っているのは爆発によって引き起こる現象だ。 

 だが一回じゃ足りない。

 

「疾風速影!」

 

 再び背後に、そして………

 

「炎鳴斬!」

 

 

ドォン!

 

 

爆発、そしてまた疾風速影で移動をして

 

「炎鳴斬!」

 

 

ドオン!

 

 

「炎鳴斬!」

 

 

ドォン!

 

 

 全て闇の刀で防がれて爆発している。

 爆発の影響で辺りは黒煙に包まれて視界が悪くなった。

 

「よし…………」

 

 動きを止めて次の行動の準備をする。

 闇は視界が悪くなってその場から迂闊にな動けない状態だった。

 

「まさか目眩ましのつもりか?そんなつまらんことが狙いだったのか」

 

 それなら心底がっかりだと続けて、闇は刀を握り、

 

「はぁ!」

 

 振り上げた。

 その影響か黒煙は風という名の強い衝撃により徐々に晴れていった。

 この程度ではたいした時間稼ぎにはならないのは分かっている。

 そのたいした時間でいいんだ。

 

「そこか…………」

 

 煙が晴れて、賢伍の位置を視認する闇。

 

「十分たまったぜ……光の魔法がな……」

 

 が、そこにいたのは確かに賢伍だったが先程と違った。

 何が違っているのか?刀だ。

 シャイニングハートの刀が光輝く魔力に包まれて眩しいくらいに光を放っていた。

 

「貴様……!」

 

 俺の狙いはこれの発動だ。

 なるべく少しでも魔力を込めて発動するためのな。

 疾風速影で移動し続けたのは光の魔力をためるため。

 炎鳴斬で目眩ましをしたのは悟られないためだ。

 

「いっちょ食らってみろや………」

 

 解き放つ!光の魔法を!

 

 

 

「シャイニングバレットォォォオオオオオ!!!」

 

 

「ちっ!」

 

 闇の舌打ちをかき消すほどの無数の光のレーザーが刀から打ち出される。

 まだだ!もっと打ち続けろ!

 

「うおおぉぉぉぉぉぉ!」

 

 魔力量は気にしてられない。

 ひたすら、ただ無心に打ち続ける!

 その光のレーザーの量で闇がどうなっているか分からない状態だった。

 

 

「はぁ……………はぁ………はぁ」

 

 発射を止めた。 

 いや、止めざるを得なかった。

 これ以上は魔力を余計に消費するだけだ。

 疾風速影と炎鳴斬の多用でただでさえ魔力は大量に減っているからだ。

 

「はぁ………はぁ!………くっ、これで少しでもダメージを負わせられればいいんだけどな…………」

 

 大量の魔力レーザーの影響で闇の回りは再び黒煙に包まれていた。

 今の状況を視認することは出来ない。

 

「……………なかなかやるな………光の英雄……」

 

 煙の中から声が聞こえた。

 闇の声だ。 

 それと同時に煙も晴れていく。

 

「おいおい冗談じゃねぇぞ…………」

 

 状況を見て俺は愕然とすることしか出来なかった。

 闇の俺は………。

 

「この『闇の障壁』を使わせられるとは思わなかったぞ………」

 

 闇は手を開き真っ正面に伸ばしていた。

 その手から魔力を発して黒いオーラのようなものを出していた。

 これが闇の言っている闇の障壁か。

 それがバリアーのような役割をしてシャイニングバレットを防いだのだろう。

 

「お前の光の魔法があるように俺にも闇の魔法があるんだよ、光の英雄……」

 

 

「くそが………随分反則な魔力障壁じゃねぇか……無傷ってのは流石にショックだぜ……」

 

 あの数を全部防いだのかよ……強力すぎるだろ。

 

「ショックを受けるのはまだ早いぞ光の英雄」

 

 そういって闇の漆黒の刀が禍々しく魔力をためていった。

 闇の魔力といえばいいのか?

 しかし、俺は知っている。

 この魔法を知っている………。

 正確には似た魔法を………嘘だろ………。

 

「さっきも言っただろ?光の魔法があれば闇の魔法もあるんだってなぁ…………」

 

 こいつは………この魔力のため方は………。

 闇の刀がより漆黒の魔力に包まれた。

 解き放たれようとしている……まずい!

 

「いくぜぇ……しっかり避けろよ?」

 

 あれは……あの魔法は俺がさっき使った魔法だ!

 

「くそがっ!!」

 

 おそらく避けれない、どうする?

 考える時間は与えてはくれなかった。

 

「ダークネスバレット!」

 

 瞬間、無数の闇のレーザーが俺に向かって放たれた。 

 シャイニングバレットと同じ性質を持った魔力レーザー。

 違いと言えば込められた魔力が光ではなく闇の魔力というのと。 

 レーザーが漆黒に染まっているという所だけだった。

 

「ぐっ!………うああぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

 奴が俺と同じ魔法を使うなんて予想外だった。

 俺から生まれた闇の存在なら俺と同じ魔法も使うってのかよ?

 バレットがどれだけ厄介かなんて使っている俺が一番知っている。

 待てよ?………そういうことなら!

 

「付け焼き刃だが……うまくいってくれよ!」

 

 俺は右手広げた状態で前につき出した。

 その右手に魔力を込める。

 普通の魔力障壁なら奴のダークネスバレット防げない。

 なら奴は俺のバレットをどうやって防いだ?

 簡単なことだ!

 

「ふはははははははは!!さぁ、貴様の断末魔を聞かせろぉぉ!光の英雄!」

 

 さぞかし愉快な表情で闇はそう言葉を発していたのだろう。

 だがな、お前に勝てなくてもなぁ………冷や汗だけでも、傷ひとつでもつけてやらぁ!

 

「光の魔法があるなら闇の魔法もある………か……」

 

 その言葉………。

 

「そっくりそのまま返してやる!!」

 

 

 

ドォォォオオオオオン!!!

 

 

 

 闇のレーザーの大群が全て賢伍に命中した。 

 同様に黒煙が上がり視界が悪くなる。

 

「はははっ!どうだ光の英雄!これが貴様と俺との差だ!前にも言ったなぁ、光は闇に喰われる運命なんだとぉ!!」

 

 闇の高笑いが辺りに響く。

 闇は最初から賢伍を殺すつもりはなかったが、今の攻撃で虫の息にさしたつもりだった。

 それが闇にとってはとても愉快なことだったのだ。

 

「どうしたぁ?まさかこの程度で死んだとかぬかさないだろうなぁ?」

 

 煙で状況が判断できない状況で、たよりになるのは音である。

 その光の神崎賢伍からなにも返事が来ないのだ。

 

「………ぬかさねぇよ…」

 

 

 

「っ!?」

 

 突然の声。

 それの音源は煙の中からではなく。

 

「牙突!!」

 

 真後ろからだった。

 

「ぐぉっ!」

 

 とっさに回避を行う闇。

 しかし完全にかわしきることは出来なかった!

 

 

ブシュ!

 

 

脇腹をかすめる。

 

「くっ!」

 

 慌てて光の賢伍から距離を取った。

 次の追撃を警戒する。

 が、追撃は来なかった。

 

「はぁ…………はぁ………」

 

 光の賢伍はすでにボロボロだった。

 バリアジャケットはあちこちが焦げて、肌を露出させている。

 体はレーザーが当たったからか傷や血が目立っていた。

 しかし、闇は違和感を覚えた。

 

「貴様………ダークネスバレットを全て喰らったのに、その程度の傷で済んだのか?………」

 

 そう、傷が少ないのだ。

 あれは完全に全て命中していたはずだ。

 だが、それにしては傷が少ない。

 無傷ではないが、それにしても少ないのだ。

 

「はぁ…………はぁ………全部は喰らってねぇって事だよ………」

 

 そういうと光の賢伍は右手を前につきだして魔力を放った。

 そこから、魔力障壁が現れる。 

 ただの障壁ではない。

 光の魔力を使った障壁。

 いわば先ほど闇の賢伍が使った闇の障壁とは正反対のもの。

 

「俺で言ったら『光の障壁』ってとこか?………へへっ、それにしても魔力の燃費が悪いなこれ………それに全部防げなかった」

 

 初めて使ったこともあるだろうが。

 それでもかなり魔力を持ってかれる。

 いざってときにしか使えないなこれは………。

 

「驚いたな………俺がやったのを見よう見まねでしかも一回で取得したのか………」

 

 闇もそれは驚いた。

 確かに光の魔法もあれば闇の魔法もある、そういったのは自分だ。

 それは逆もあると言うこと。

 しかし、たった一度で成功させた。

 一度しか見ていない魔法を。

 数日練習すれば、闇自身と同じ固さになるだろう。

 

「はははは!ははははははははは!!!」

 

 愉快だった。

 光の賢伍につけられた脇腹の傷も気にした様子はなく闇は笑った。

 

「面白い!面白いぞ!光の英雄!貴様はやはりもっと強くなってもらわなければならない!!その時まで殺すのは待ってやろう……」

 

 そういうと闇は漆黒の刀を納めた。

 

「…………………」

 

 俺は何も言えなかった。

 いつもなら強がりでもふざけるなと言っているところだが、俺はボロボロ。

 しかし、闇は少し掠めた程度の傷のみ。

 これ以上は………無駄だろう。

 情けないことに………。

 

「さて、ようやく本来の目的を果たせる……」

 

 そういえば話にきたとか言っていた。

 俺は黙って聞くことにした。

 敗者にくちなしってな……。

 

「今、貴様が追っている事件………レリックを集めている首謀者と俺は協力関係にある」

 

 

「な、なんだと!?」

 

 どういうことだ!

 

「なぜ………お前がわざわざそんなことを?……」

 

 若干ふらつきながらも俺はそう口を開いた。

 ちっ、思ったよりダメージがでかい………。

 

「ただの利害の一致さ………それだけだ、次はもっと力をつけておけよ?くくく………ははははははは!!!」

 

 そう言うと闇の回りが歪みはじめ、最後は闇も歪んで消えた。

 なるほど………事件を追えばいずれ闇にも行きつくってことを俺に教えたかったのだろう。

 これはかなり面倒なことになる。

 が、今はそんなことは気にしてられなかった。

 

「くそっ…………」

 

 勇み足で挑みにいって、結局軽くあしらわれただけか。

 俺の完全なる敗北だった。

 敗北………もし闇が容赦していなかったら?俺は今頃殺されていた………。

 

「ちっくしょぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 空に向かって叫ぶ。

 傷の痛みなど気にしてられない。

 流れる血など気にならない。

 今はただ………悔しかった。

 

「俺は………俺は…………」

 

 なんて無力なんだ。

 空は太陽が照りつけ晴れ晴れとしていた。

しかし、どんなに空に叫んでも、俺の悔しさと虚しさは晴れることはなかった。

 

 

 

 

 

 






戦闘描写はとても苦手です。
自分のイメージを文にして伝えるのはとても難しく戦闘となれば自分にとってはなおさらです。

世の作家の方に脱帽ですね。
自分も精進しますm(__)m


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敗北の先の恐怖

 

 

 

 

 

 

PPPPPPPPP

 

 

 俺が空に向かって悔しさを叫んでいる途中だった。シャイニングハートから通信が入った。待機音を辺りに響かせている。

 

 

PPPPPPPPP

 

 

 正直今は出たくない。このまま無視してしまおうかと思った。

 

SH『マスター……』

 

 そんな考えを読まれたのかシャイニングハートが出ろと急かすように呼んできた。

 

「…………分かったよ」

 

 痛む体に鞭打ってシャイニングハートを待機状態にさせて通信を開く。慌てた様子でモニターに写っていたのは………。

 

「賢伍君!無事やった………なんやその傷は!?」

 

 はやてだった。通信を繋いで早々驚きの声を上げてくる。

 

「傷は大丈夫だ………それで?一体どうしたんだ?」

 

 俺が闇の元に向かったことはグリフィスに口封じをしている。おそらくはやてにも伝わってはいないと思うが…………。

 

「グリフィス君から聞いたで………まぁた、一人で抱え込んだんやな………」

 

 グリフィスこのやろう………言うなって言ったのに。でも、それが本来の仕事だしな、今回は勘弁してやろう。俺の勝手でグリフィスを困らせてしまったのは事実だしな。

 

「そっか………でも別に一人で抱え込んだわけじゃないんだ……ただ、俺一人でやるべき事だから」

 

 

「まぁ、そこらへんの事情は後でた~っぷり聞くからな?今は早く帰ってきてや………迎えはいる?」

 

 た~っぷり聞かれるのは面倒だから正直帰りたくないがそうも言ってられないか。

 

「頼むよ……自力で帰るのは正直きつい………」

 

 傷も痛むし、今はフラフラな状態だ。ここははやての厚意に甘えさせてもらおう。

 

「了解や、それじゃあヴァイス君をそっちに向かわせるからそこで大人しく待っててな?」

 

 

「あぁ、分かった」

 

 通信を切る。言われなくても動く気はないから大丈夫だよはやて。迎えが来るまででもいいから少し考える時間が欲しかった。これからどう闘うのか………。圧倒的な力の差がある、おれ自身の闇にどう立ち向かって行けばいいのか……。しばらく目を閉じて考えていた。

 

「俺は………勝てるのか?………」

 

 今回見せつけられた力の差を目の前にして、俺は自分にも気付かない内に怖じ気ついてしまったのかもしれない。奴の事を考えるだけで悪い未来しか想像できない。

 

「くそったれ…………」

 

 そんな自分に、心底腹がたっていた。

 

 

 

……………………。

 

 

パタパタパタパタパタ

 

 

 

「んっ………」

 

 遠くからヘリコプターのプロペラが空気を叩く音が響いてきた。ヴァイスの迎えが来たのか?閉じていた目を開く。もう、真上に上がっていた太陽も沈み始めていた。

 

「賢伍さーん!こっちこっちー!」

 

 言われなくても分かるっての。ヴァイスがこっちまでヘリを近づけてきてくれたので俺はそれに乗り込む。そのまま後ろの席に座った。

 

「悪いなヴァイス………忙しい所だっただろ?」

 

 

「いやいや、面倒なデスクワークを抜け出せたんで感謝してますよー」

 

 

「ははっ………そうかい……」

 

 この操縦士のヴァイスは六課設立前からの知り合いだ。以前の話だがヴァイスは魔導師としてシグナムの部隊で活躍していた人物だった。ある出来事がきっかけで今はパイロットとしての道を進んでいるが、シグナムの部隊ということで俺やなのは達も顔馴染みになったのだ。

 そして、本人の親しみやすさなのか俺の中ではかなり頼りになる操縦士であると同時に仲の良い友人である。たまに男同士で飯を食いに行ったりする仲だ。

 

「それで………何があったんスか?…」

 

 いつもなら少し俺に対してあっけらかんとした態度をとるヴァイスだが今だけは真剣な顔をして俺に聞いてくる。

 

「はやて隊長に賢伍さんが一人で動けない状態だから迎えに行ってやれって言われたときは驚いたッスよ。まさか賢伍さんがって今でも思ってます」

 

 ヴァイスの中では神崎賢伍という男は最強の魔導師だと思っていた。数々の重大事件の解決の貢献し、今では光の英雄と崇められているくらいの人物が今ボロボロの状態で自分が操縦しているヘリに乗っている。

 ヴァイスからしてみれば信じられない事だった。そして、仲の良い友人として純粋に心配している気持ちもあった。

 

「そう……だな。どうせ近いうちに六課の皆には周知の事実になるだろうからな。お前にだけ先に話しておくよ………」

 

 六課でも知っているのはごく一部、俺の闇の存在。別に隠していたわけではない。ただ、この情報は余計な不安や心配を局員たちに与えるだけだと判断したはやてがわざわざ伝えることはないと思っていたのだ。

 今追っているレリック事件とも関係はないと思っていた訳だしな。しかし、状況が変わった。闇はレリック事件の主犯と協力関係にある。つまり、六課の局員にも関わりがあるということ。それはすなわち、もう皆に話さなければならないということだ。

 

「そうだな、まずは俺が失踪した理由から話そうか……」

 

 俺は事の顛末をヴァイスに話した。途中何度か驚くようなリアクションを取っていたが無理やり納得してもらって話を最後まで終えた。

 

「正直信じがたい話っスね…………」

 

 話を終えてからのヴァイスの第一声はそれだった。

 

「賢伍さんをそこまでボロボロにするほど強いんスか………その闇ってやつは……」

 

 

「ああ、それに俺は闇に対してはほとんど傷を追わせられなかった」

 

 あのかすり傷をダメージとしては考えられない。そう考えると闇は無傷で俺は全身ボロボロ。天と地の差って言うのはこういうことだろうな。

 

「ははっ、それは厄介な相手っスね……」

 

 それを聞いたヴァイスは顔を苦笑いを浮かべていた。当然だ、管理局最強と思っていた魔導師をほぼ無傷でここまでボロボロにしたやからが存在するんだ。しかもそれは自分達の敵となる。ゾッとしてしまう。

 

「でも、賢伍さんならこのままで終わる気はないっスよね?……」

 

 六角設立前の仲だからヴァイス神崎賢伍という人物をある程度知っていた。彼はとにかく仲間想いの人物。時に厳しく、時にはわざとちゃらけて場を和ます。それが天然かどうかは置いておいて。そして、強い信念を持っている。

 仲間のため、強くなる。

 仲間のため、信念を貫く。

 仲間のため、諦めないで最後まで足掻く。

 彼が携わった事件を調べれば、彼がどのような人物かは想像がつくくらいだ。

 

「俺は……………」

 

 だから……………。

 

「俺は闇に一生勝てないかもしれない………」

 

 そんな言葉をこの人の口からは聞くことはヴァイスにとってはショックでもあった。

 

「らしくないッスね……賢伍さんがそんなに弱気になるなんて………」

 

 

「…………………」

 

 賢伍は黙ったままだった。ただ、上を見上げて難しい顔をしていた。

 

「でも、安心しましたよ………賢伍さんもそんな風に悩んだり弱気になったりするんスね」

 

 

「俺は完璧超人じゃないからな……」

 

 弱々しい言葉で賢伍はそう反論した。

 

「でも、やっぱり賢伍さんにはそんな状態似合わないっスよ。さっきも言いましたけどらしくないっス」

 

 

「らしくない………か…」

 

 

「ええ、らしくない……」

 

 俺らしいとは何なんだろうか。そんは関係ないことまで考えてしまっている。迷っている証拠であり、目先の問題から逃げている証拠でもあった。

 

「友人としての言葉です……」

 

 唐突にヴァイスの声に真剣さが帯びた。

 

「今の賢伍さんを見てると……ホントにあの時の俺と重なって見えるんスよ。魔導師としての道を諦めたあの時の俺に……」

 

 

「ヴァイス…………」

 

俺は………ヴァイスが何があって今のパイロットの道に進んだ理由は知らない。本人とってそれくらいの出来事があったんだろう。トラウマとなる出来事が。

 

「だから、賢伍さんには俺みたいになって欲しくないっス。賢伍さんは確かに強い。けどそれ以上に賢伍さんの強みはその心だと思うんスよ」

 

 

「心?……」

 

 

「そうっス、心です。その誰にも負けない信念の心ってやつですよ。いつもの賢伍さんだったら今頃負けたことに悔しがって、そして次は負けないと意気込むように、闘う前よりも気迫を見せる。それに感化されて俺たちも元気になるんスよ」

 

 

「俺はそんな………」

 

 出来た人間じゃない………そう言おうとした賢伍の言葉を遮ってヴァイスは続けた。

 

「きっと明日になる前に賢伍さんは立ち直ってると思ってますけどね。あなたはそういう人っスから……」

 

 クククッと笑いをこらえながらヴァイスはそう言う。

 

「お前……人が能天気みたいな事言いやがって……」

 

  けど、それまでずっと難しい顔しかしていなかった賢伍の表情に少しだけ、少しだけ笑みがこぼれた。ここで、賢伍は自分がヴァイスに励まされたことに気がついた。

 

「たくっ、生意気ばっか言いやがって……管理局に直談判してお前の給料下げさせんぞこのやろう」

 

 

「あ!それはないっスよ!職権濫用っやつじゃないスかー!」

 

 

「ははは、冗談だって………」

 

 

「冗談に聞こえないですってそれは………」

 

 ホントに直談判されたらマジで給料を減らされる。それくらい彼は管理局では発言力があるからだ。

 

「ヴァイス…………」

 

 

「はい?……」

 

 賢伍がヴァイス呼ぶ、ヘリを操縦しているからヴァイスの目線は外に向いたままだが。

 

「俺も友人として言うよ……サンキューな」

 

 

「な、何スか突然。やっぱりらしくないっスよ賢伍さん……」

 

 急な感謝の気持ちを伝えられてヴァイスは反応に困ってしまった。賢伍は軽口を言うヴァイスを適当に流しつつヴァイスに今一度心の中で感謝した。

 ヴァイスが友人でよかった。そして、これからもそれを大切にしていきたいと改めて思った。まだ、闇とこれからどう向き合っていくか分からないし、どうすればいいか分からない自分がいる。弱気な事を考えてしまう自分がいる。けど、ホントに………少しだけ賢伍の心は軽くなっていた。

 

 

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

「大丈夫スか?やっぱり医務室までも付き添います?」

 

 日が完全に沈む前に六課に到着した。ヴァイスははやてに到着したら医務室に連れていくよう言われていたみたいでまずは医務室に向かうことに。

 

「医務室まで行くくらいは大丈夫だよ。それに、野郎に付き添ってもらったってなんも嬉しくないしな」

 

 

「ははっ、確かに……」

 

 ヴァイスとはここで別れて俺は医務室に向かった。といっても六課の本部を少し歩けば着く場所までだが。ほら、もうついた。念のためノックして入る。

 

 

コンコン

 

 

「どうぞー!」

 

 中から女性の声が。といっても声を聞かなくても誰が中に入っているかなんては分かっているけど。とりあえずは扉を開けて中にはいる。

 

「悪いシャマルさん、治療を頼むよ……」

 

 声の主、ヴォルケンリッターの一人でもあり六課の医療班長を勤めるシャマルさんにそう声をかけた。

 

「あっ、賢伍君!はやてちゃんに言われて準備はできてるわ、上着を脱いでそこのベッドに寝てくれる?」

 

 指示通り、上着を脱いでベッドにゆっくりと横になる。そのふかふかした感覚に酔いたい所だが、傷が痛むのでそんなことは出来なかった。

 

「それじゃあ一旦診せてもらうわね?」

 

 そういうと俺の体の状況を確認し始めるシャマルさん。ある程度見終わった所でホッと胸を撫で下ろす仕草をしていた。

 

「傷はあちこちにあるしどれもひどい怪我……。けど後遺症を残すような傷や体に大変な致命傷はないわ。刀の切り傷もそこまで深くはないしそれに…………お腹の傷にも影響はでていないわ」

 

 

「そうか………それはよかった……」

 

 腹の古傷に関しては当時もシャマルさんに診てもらったのだ。

 だからシャマルさんからしてみれば古傷に影響が及んでいなかどうかが一番心配だったようだ。

 

「それじゃあ傷の方も治療しちゃおうか。これなら跡も残らないし、なるべくすぐ終わらせちゃうわね?」

 

 

「……申し訳ない、またお世話になっちまった………」

 

 

「いいえ、これが私の仕事ですから」

 

 シャマルさんの医療魔法に関しては誰もが認める腕の良さだ。多分、俺の腹の傷もシャマルさんが治療してなかったら、俺は今魔導師として生きてはいけなかったかもしれないほどの傷だったのだ。

 そして今も、その傷は治療を続けている。治ってはいるが完治はしていない。だからずっとお世話になりっぱなしなのだ。

だからシャマルさんには感謝してもしきれないし、頭も上がらない。

 

「けど無理はしないでね?お腹の傷、最近また治りが遅くなっているから………。最近は痛むときはある?」

 

 今回受けた傷を魔法で治療しながらシャマルさんはそう聞いてきた。だんだん痛みが引いてくるのを感じ、流石シャマルさんだと思いながらも俺は質問に答える。

 

「たびたびあるよ…………。特に、あの時のことをふと思い出した時にズキズキして痛む時がある」

 

 頻度はそんなに多くないけどそれでも昼夜問わずふと思い出しては傷が痛む。それでも、何とか完治に向けて傷は治していっていた。失踪してる間はそれが出来ずに少し酷くなってしまったが戻ってきてからはまた治ってきている。

 しかし、シャマルさんの言う通り最近はなかなかいい具合に傷の治りが進まない。多分………俺の気持ちに問題があるんだろうけど。

 

「そう、でも私が絶対に治すから心配しないで……ね?」

 

 シャマルさんもそこら辺の事情を察してあまり深く聞いて来ないことに感謝する。

 

「それと、そろそろはやてちゃんがこっちにくるはずよ。治療しながら話をするって言ってたから………」

 

 おいおい、勘弁してくれ。どうせ今回の単独行動に関して大目玉食らうだけじゃねぇか。逃げたいところだが……シャマルさんが逃がしてくれなさそうだ。大人しく待とう。

 

 

コンコン

 

 

 俺がそう覚悟を決めていると医務室ドアからノックが。おそらくちょうどはやてが来たんだろう。タイミングもぴったりだな。

 

「シャマル~?うちやー、入るでー?」

 

 ほぉらやっぱり。ドア越しからはやての声が聞こえてきた。シャマルさんは「どうぞー」と声をかけて、はやてを招き入れる。

 

「おー賢伍君いたいた、怪我の方は大丈夫?」

 

 

「ああ、もともと致命傷は無かったし何よりシャマルさんの治療で痛みも引いてきたよ」

 

 

「ほんならよかったわ」

 

 そういうとはやては俺が寝ているベッドの隣に椅子を持ってきてそこに座る。目線はまっすぐと俺を捉えていた。

 

「寝たままでええから今回のこと……何があったかちゃんと報告してくれへん?」

 

 

「あぁ、ちゃんと全部話すよ………」

 

 俺のことで心配をかけてしまったみたいだしそこら辺のことは最初からちゃんとするつもりだった。

 俺はある程度要約して今回のことを話す。グリフィスが闇の出現に気付き俺に報告したこと。それを口止めして単身現場に向かったこと。手も足も出ずに敗北したこと。闇がレリック事件の主犯と協力関係にあることを。

 

「これは………厄介なことになってしもうたなぁ……」

 

 

「ええ………本当に………」

 

 俺の治療をしながらはやてと一緒に治療していたシャマルさんも難しい顔をしていた。はやての言う通り厄介な話なのだ。闇が主犯側に付いたことによって起こることは事件の解決が難しくなるということ。

 今の起動六課に………いや、時空管理局に闇に対抗できる魔導師も兵器も恐らくない。この事実が事の重大さを示しているんだ。

 

「とにかく、闇の賢伍君のことを明日にでも六課の皆に話さなあかんな」

 

 

「ああ、そうしてくれ………」

 

 

「それと………夜にフェイトちゃんが隊長陣だけで緊急会議を開いて欲しいって言われたん、賢伍君も参加してな」

 

 

「ああ、ついでにその会議で隊長達には今日のことを話すよ」

 

 色々皆に言われるのは目に見えているが仕方ない。フェイトの話を聞いたあとに俺の話をしよう。

 

「それでお願いや。…………それでな賢伍君………」

 

 はやての表情がより一層引き締めた顔になった。はやてにとってこれからが本題何だろう。俺も、いつ言われるかハラハラしていたからな。

 

「なんで………一人で行ったんや……?」

 

 やっぱりその事だった。なぜ一人で現場に向かったのだと。はやては怒ってもいるし悲しんでもいた。

 

「約束したやないか…………一人で抱え込まないって……」

 

 俺たちが再開したときの約束か。もちろん覚えているし俺は………。

 

「俺は……一人で抱え込んだつもりはない!」

 

 つい、声のトーンが強めに出てしまう。それに気づいた俺は一言「悪い」と付け加えて続けた。

 

「俺は、闇の俺を倒すべきなのは俺じゃなきゃいけないんだよ。だから、邪魔されたくなかったからグリフィスにも口止めをしたし単身で乗り込んだんだ」

 

 

「その結果がこれやないか!見てみぃ自分の体を!あちこち傷をつけて帰ってきとるやないか!」

 

 

「くっ…………」

 

 それを言われたら何も言い返せなかった。事実を突きつけられて言葉が詰まる。

 

「それでも、俺が倒さなくちゃいけないんだよ!………そう思ってたんだ………」

 

 

「思ってた?」

 

 俺の言葉にはやては疑問を感じた。賢伍ならまた何かしら言い返してきて納得させようとしてくるからと思ったからだ。けど、今の言葉はとても納得をさせようとしている言葉じゃなかった。

 

「なぁはやて………闘うって怖いのかな………?」

 

 

「きゅ、急にどうしたんや賢伍君?」

 

 

「俺は今まで……闘うこと事態を怖いと思ったことは無かったんだ。それで仲間を守れるし、良いことに繋がっていくから。けど闇と闘って俺は初めて…………怖いと思ったんだよ………」

 

 口に出したらもう止まらなかった。情けない。大の男が情けなく弱音を吐いている。けど、俺の本心は隠せなかった。

 

「俺は闘いが………闇が……怖くなっちまった……」

 

 圧倒的な力の差。不気味で禍々しい深い闇。俺は自分が思っている以上にやつに対して恐怖を植え付けられたのかもしれない。

 

「くそぉ!!」

 

 

ドォン!

 

 

 情けなく壁に拳を叩きつけて八つ当たりをする。恐怖を抱いていることが情けない。叩きつけた拳でさえも恐怖で震えていることが情けない。

 とにかくとにかく………情けなかった。

 

「賢伍君…………」

 

 

「はっ、はっ、くっ………」

 

 呼吸を整えることさえおぼつかなかった。でも、なんでこんなに怖がってんだよ。ほんとにヴァイスに言われた通り、らしくねぇ………しっかりしろよ俺…………。

 

「賢伍君は……初めてですもんね……」

 

 

「シャマルさん?………」

 

 シャマルさんの言葉を俺はよく理解出来なかった。どういう事なんだろう。初めてっていうのは。

 

「賢伍君は、今まであんまり自分よりもすごく格上の人と闘ったことなかったでしょ?」

 

 その言葉も俺はあまり理解することが出来なかった。

 

「賢伍君はすごく強いから、自分でも自覚してると思うけどね。だから、いままで自分よりも強いって人とあまり闘ったことがないから…………だから、今すごく闇の自分に対して恐怖を抱いてるんじゃないかしら?」

 

 

「それは…………」

 

 そんなことを言われても分からない。確かに闇ほど力の差を感じるほどの相手と闘ったことはないけど………。

 

「どんなに強くても経験したことのない事態が起きたら心に余裕がなくなるのも当然よ………いくら光の英雄と言われている賢伍君でも」

 

 

「確かにシャマルの言う通りかもしれへんなぁ………」

 

 シャマルの話を聞いたはやても納得した様子で頷いていた。かくゆう俺は言いたいことは分かったがいまいちピンと来てなかった。

 

「だからって情けねぇよ………こんな弱腰になるなんて……」

 

 俺自身今の状態は嫌だった。まさに井の中の蛙大海を知らずというのを味わった気分だ。

 

「情けなくなんかないわ………。情けないのかどうかは………これから賢伍君がどうするか次第なんだから……」

 

 

「俺が………どうするか?」

 

 

「分かるでしょう?自分でもどうするべきなのかは………」

 

 ようは乗り越えろって言いたいんだろう。いやはや、シャマルさんも無茶を言う。簡単に行くならこんなに苦悩はしないぜ…………。

 

「そんなの…………出来るか分かねぇよ……」

 

 わからいんだよ。何に怯えているのか。なぜこうにも俺は闇を怖がっているのか。

 分からない…………分からない……分からないことも………怖いんだよ。

 

「大丈夫よ、なのはちゃんやフェイトちゃん……それにはやてちゃんも同じような状況を乗り越えて今があるんだから」

 

 

「えっ?3人が………?」

 

 

「賢伍君も当事者だから分かるでしょう?」

 

 そう言われてハッとした。そうだ、あったじゃないか。まずはなのは、ジュエルシード事件の時にまずはフェイトという壁にぶつかった。そして悩んでいた……どうすればいいのか分からないとずっと元気がなかった時期があった。

 そんななのはが出した答えは………。

 

『ねぇ!お話ししよう!』

 

 フェイトとの対話だった。フェイトはそれに応じることはなかったけど、なのはなりの答えを出して前に進んでいたじゃないか。

 

「フェイトは………」

 

 フェイトもジュエルシード事件の時だ。後々聞いた話だと、どんどん成長していくなのはが怖かったと言っていた。その重圧に耐えて、フェイトはフェイトなりに闘い抜いた。

 そして、次に二人を襲ったのが闇の書事件だ。当時は敵対していたヴォルケンリッターに力で圧倒されて敗北が続いていた。

 でも二人はどうしてた?

 

「諦めないで立ち上がり続けたじゃないかっ」

 

 リンカーコアの損傷に追い込まれても二人は立ち上がり続けていたじゃないか!そしてはやては?初めて魔導師になった途端強大な相手が立ちはだかっていた。

 そうだ、夜天の書の暴走プログラムだ。

あの強大な敵をいきなり前にしてはやてはどうした?3人はどうしてた?

 

「ずっとずっと前から……3人はこれを乗り越えていたんだな……」

 

 

「えぇ、そうよ………だから賢伍君もきっと……」

 

 

「あぁ、頑張ってみるよ……」

 

 正直自信はないが、やるしかないんだ。けれど………。

 

「賢伍君………」

 

 はやてがいち早く気づいて励ますように賢伍の名を呼んだ。そう、いくら言葉を並べても、表情を作っても……。

 

「………何でだよぉ……」

 

 賢伍の悲痛な声。どうしても、誤魔化せなかった。ずっとずっと、恐怖で震えているその右手だけは隠すことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 





今回は賢伍が情けない所が多かったですね。賢伍のメンタル面はそんなに弱くはないんです。むしろ強い方です。ですが、賢伍も同じ人間です。体験したことがないものに遭遇したらどうすればいいのか分からなくなると思うんです。
ようは今回の話は賢伍もよく悩む人間の一人として読者の皆さんに見てほしかったんです。
これから賢伍がこれにどう向き合い、どんな答えを出すのか。頑張って書いていこうとおもいます!閲覧ありがとうございました!

これからも光の英雄をよろしくお願いいたします!


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恐怖の先の進展と決意

 

 

 

 

 治療を終えた俺はシャマルさんに一言お礼を言ってから治療室を後にした。はやてもこれ以上俺の単独行動について問うことは出来ないと思ったのか何も言わずに出ていってくれた。

 

「………部屋に戻ろう…」

 

 傷も癒えたしシャワーでも浴びてスッキリしよう。それから考えよう、これからのことは。とにかく、なるべく考えたくなかったんだ。闇のことは………。

 そんな事を考えてるうちに部屋の前に着いていた。扉を開けて部屋に入る。

 

「あっ!賢伍君!」

 

 

「っ!」

 

 部屋にはなのはがいた。そうだ、もう訓練も終わっている時間帯だったな。なのはがいることまで考えてなかったので少し驚いてしまった。

 正直、今の状態でなのはに会いたくはなかった。

 

「もう!訓練も書類もほったらかしてどこに行ってたの!?」

 

 そんな様子に気づかないなのはは俺を説教しようとしてくる。普段なら甘んじて受けるけど、今はそんな気分じゃない。

 

「用事があるならしょうがないけど、それならそれでちゃんと一言連絡しておいてくれてね、色々と心配になっちゃうから……」

 

 

「あぁ、悪かった………」

 

 だから、少し素っ気ない態度をとってしまっていた。

 

「……?……あ、そうそう書類!ちゃんとやろうね!提出しないと大変なことになっちゃうから!」

 

 明らかになのはは俺の態度に対して戸惑っていた。無理に話題を変えてくる。

 

「あとでな………」

 

 この際書類不備で除隊してどこかでひっそりと隠れ逃げてしまおうかと一瞬頭によぎった。勿論そんなことはしないし、するわけがない。けど、一瞬でもそれを考えてしまった自分になおさらイライラした。

 

「……………賢伍君、大丈夫?何かあったの?」

 

 流石にどうしたのかとなのはは心配そうに俺を見つめながら行ってきた。そんな顔をさせてしまった自分にさらにイライラした。

 ガキか俺は………こんなあからさまな態度をとったらなのはは気にしてしまうってことくらい分かってただろ。

 

「別にどうもしねぇよ………」

 

 そう分かっていても態度を改めることは出来ず、俺はまた素っ気なくしてしまう。本当に…………ふてくされてるガキみたいだった。

 

「嘘、なにかあったんでしょ?良ければ相談して……イヤだよ……そんな風に悩んでる賢伍君を見るのは………」

 

 なのはは本当に俺のことを想ってそう言ってくれているのは誰もが分かるだろう。けど、俺は今本当にクズみたいな考えでただ鬱陶しいとしか思ってなくて。

 

「だから別になんでもねぇって………」

 

 冷たい態度しか取ることが出来なくて。

 ガキみたいに明らかな態度を取って。

 バカみたいに意地を張ってしまっている。

 

「賢伍君………お願い……」

 

 そんな風に健気な態度を取られたら俺がバカみたいじゃないか。止めろよ。ほっとけよ。

 

「苦しんでるなら私にも話してほしいよ……。賢伍君には元気でいてほしいから………ね?」

 

 そういってなのははそっと俺の手を両手で包むように握ってきた。安心させたかったんだろう。俺は今、とても幸せな状況なんだろう。なのはにこんなに想われて。

 けど、俺は………本当にクズだった。そんななのはに………。

 

「っ!ほうっておいてくれ!!!」

 

 

「キャッ!」

 

 なのはの手を振り払ってそう叫んでいた。その時になのはがバランスを崩して倒れこんでしまった。幸い、倒れた先はベッドでケガはないみたいだったが……俺は自分がした行動に驚いた。

 

「っ!?……ご、ごめん!」

 

 慌ててなのはに駆け寄る。最低だ!何やってんだよこのクズやろう!いくら、悩んでるからってなのはに当たるなんて最低だ!女の子に当たるなんて男として失格じゃないか!

 

「なのは、ごめん!大丈夫か?怪我は?」

 

 これでなのはに嫌われても文句は言えない、それほどのことをしてしまった。俺は、本当に情けないと感じざるを得なかった。

 

「なのはホントにごめ………っんん!!」

 

 謝罪の言葉の途中で突然に口が塞がって変な声が出た。なんで塞がったか?なのはが突然俺の頭を包むように両手で抱いてきたからだ。俺の顔はなのはの胸に当てられて俺は慌てる。

 

「なっ、なのは……一体……」

 

 

「大丈夫だよ………」

 

 優しい声でそう言われる。とてもとても優しい声だった。癒されるような声だった。

 

「大丈夫大丈夫………」

 

 俺の頭を優しく撫でながらなのははそう言った。何に対しての大丈夫という言葉なのか?別に怪我はないよ、ということか?

 違う、きっと…………。

 

「そんなに不安にならなくても大丈夫………私も一緒だから……私も一緒に背負うから……だから………大丈夫だよ………」

 

 暖かい。そう感じたんだ。頭を撫でられて心が安らいで、抱き締めてくれる腕がなんだか優しくて。そして、暖かくて気持ちがよかった。

 

「私は……いつだって賢伍君の味方だから………大丈夫」

 

 抱きしめてくれている腕にそっと自分の手を添えて、俺はいい続けた。

 

「…………っ、……ごめん………ごめんな…」

 

 溢れそうになる涙を堪えて、若干鼻声になりながら俺はずっと謝っていた。何にたいして謝っているのかは途中で自分でも分からなくなっていた。

 

「…………ごめん………ごめん……!」

 

 

「うん……大丈夫……大丈夫だから」

 

 なのははずっと俺の頭を優しく撫でながら、腕と体で包み込みながら俺を励ましてくれた。お互いずっとその言葉の繰り返しだったけど俺にとって、とても安らいで、心地いい時間だったんだ。

 

 

…………………………。

 

 

 

 

「悪い、服しわくちゃにしちまったな………」

 

 どれだけずっとああしていたんだろう。すでに完全に日が暮れて外は真っ暗だった。

 

「ううん、そんなこと全然気にしてないから…………」

 

 

「それと………振り払って悪かった……ごめんな」

 

 うわ言のように言っていた謝罪じゃ意味がないと思ったから、今一度言い直して謝罪した。

 

「……うん」

 

 なのはも素直に頷いて答えてくれる。俺は本当に何をしているんだと冷静に考えることが出来た。

 

「カッコ悪いとこ……見せちまったな」

 

 

「ううん、そんなことない。むしろ私は嬉しかったよ?久しぶりに賢伍君の泣いてる所が見れて」

 

 

「ば、ばか!泣いてねぇよ!」

 

 出そうにはなったけど涙はだしてない、だからあれはノーカンだ。

 

「えぇ~?嘘だぁ、あれは泣いてたよ~?」

 

 珍しくなのはが意地悪く追及してくる。だめだ、この話題に関しては俺は不利だ。

 

「うふふ、賢伍君の泣き顔ちゃんと見れなくて残念だなぁ……絶対かわいいと思うんだけどなぁ」

 

 おお、なのはらしからぬしつこさだ。仕方ないのでお灸を据えることにする。

 

「あー残念だ…………うにゃ!」

 

 

「あんまり男に向かってかわいい何て言うもんじゃないぞ」

 

ポンッとなのはの頭に手をのせて少し乱暴に撫でる。

 

「わっ!わっ!賢伍君!?髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃうよぉー!」

 

 

「うるさい、お仕置きだ。甘んじて受けなさい」

 

 

「うぅ………出来れば優しく撫でてほしいなぁ…………」

 

 子供かお前は。こら、やめろ。そんな上目遣いで物惜しげに見るな!それには弱いんだから!

 

「はぁ………たくっ」

 

 なでなで。なでなで。そんな効果音が聞こえるんじゃないかって思うくらい優しく頭を撫でる。俺はなのはには甘いんだなと再確認した。

 

「う~ん………えへへへ」

 

 

「何だよ?突然ニヤニヤして」

 

 

「だってー、賢伍君に撫でられるのすごく久し振りなんだもん。なんだか嬉しくて顔が緩んじゃう」

 

 

「そ、そうか………」

 

 真面目な顔してそんなことを言うな。照れくさい……。

 

「………言ってくれればいつでもやってやるよ…」

 

 

「ホント?じゃあこれから頻繁にお願いしちゃおっかな~!」

 

 そういってますますなのはは表情を崩す。そんな状態はあまり回りに見せることはない。だから、俺にそうやって見せてくれるのは素直に嬉しい。

 やっぱり物心つく前からの幼馴染みの特権なのかな。俺もなのにはしかあまり見せない一面だってあるわけだし。

 

「好き…………か」

 

 ふと、この間のエリオの言葉を思い出した。

 

『賢伍さんは………なのはさんのこと好きなんじゃないんですか?』

 

 好きとは勿論男女の関係の上での好きだ。俺がなのはに対して抱いている感情は好き……ということなのかな?俺にはさっぱり分かんなかった。

 でも、もっとなのはの一面を知りたい。会いたい。そばにいたい。そう思うことはやっぱり普通の幼馴染みに抱く感情とは違うんだろうか?実際に俺はそう思うときがある。

 

「ま…………考えてもしかたないか」

 

 なのはに聞こえないようにそう呟いた。そして、少し名残惜しいけど手を頭から離して撫でるのを止めた。

 

「…………賢伍君」

 

 

「………おう」

 

 不意になのはに呼ばれる。もうさっきのようにふにゃふにゃした様子ではなく引き締めた表情だった。

 

「話して……くれる?」

 

 言わんとしていることは分かる。なのははさっきからずっとそう言って来たんだから。

 

「話すよ…………話すけど……それは後ででいいか?」

 

 

「………どうして?」

 

 なのはが首を傾げる。勿論俺にも理由があった。

 

「このあとの会議でその事は皆に話すことになってるんだ………その時に一緒に話すよ。それに………まだそれに関しての答えは出てないんだ」

 

 こんなこと言っても内容を知らないなのははちんぷんかんぷんだろう。でも俺は構わず続けた。

 

「ちゃんと答えを出した上でなのはには聞いて欲しいんだ………それじゃあ駄目かな?」

 

 真っ直ぐになのはを見つめて俺は言った。正直なのはの中には納得出来ないところもあるんだろう。でも………なのはは

 

「うん……分かったよ。会議まで待ってる」

 

 笑顔でそう言ってくれた。

 

「それじゃあ、ご飯食べにいこっか?」

 

 

「いや、やることがあるから悪いけどフェイト達と俺抜きで行ってきてくれ……」

 

なのははちょっと寂しそうに「そう」とだけ答えたのを聞いて俺は部屋から出ることにした。

 扉に手をかけて開ける。

 

「賢伍君………」

 

 

「ん?」

 

 扉に手をかけたまま振り返る。なのはは少し微笑みながら言った。

 

「…………頑張ってね」

 

 

「ああ、ありがとう」

 

 そう言葉を返して俺は部屋を後にした。なのはには、俺が今何に悩んでいて今から何をしに行こうとしているのか筒抜けなんじゃないかと思った。そんなはずはないけどそう思わずにはいられなかったんだ。

 

 

 ガチャ。

 

 賢伍は部屋を出て扉が閉じられた。部屋にはなのは一人だけになる。まず、賢伍が出ていってからなのはが起こした行動は

 

「ううぅ~~~~~~~っ!!」

 

 

ボフッ

 

 

 恥ずかしそうに両手で顔を隠しながら自分のベッドにダイブした。

 

「~~~~~~~っ!!」

 

 そのまま恥ずかしさに悶えるようにベッドの上をゴロゴロと転がり回る。実際に恥ずかしさに悶えていた。

 

「私………自分からあんなことするなんて………」

 

 あんなこと………とは賢伍を励まそうと思いつい抱き締めてしまったことだ。あの時は元気になって欲しい一心で咄嗟にとった行動だったが冷静になってとても恥ずかしい気持ちになってしまったのだ。

 

「あ~どうしよう………。顔が熱いよぉ……」

 

 思い出しては顔を赤く染めて枕に顔を埋める。それの繰り返しだった。しばらくは顔の熱は冷えそうもない。

 

「うぅ~。でも、まあいいよね………」

 

 賢伍君は完全に元気を取り戻した訳じゃないけどありがとうと言ってくれた。それに想いを寄せている相手と長時間密着出来たのだ。そんな不純な気持ちで抱きしめた訳じゃないけど結果オーライという感じだった。

 

「でもやっぱり恥ずかしいー!!」

 

 また枕に顔を埋めてじたばたする。しばらくなのははこの調子だった。 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 訓練場

 

 

 

「ふぅ……………」

 

 訓練場にたどり着いてため息のように息を吐き出す。神崎賢伍は自室を出たあとに一人訓練場に来ていた。辺りは夜なので暗かった。

 

「シャイニングハート……」

 

 懐から自分のデバイスを取りだす。刀の鍔の形をしたそれを右手で持って呼び掛けた。

 

SH『どうしましたか?マスター』

 

 

「セットアップを頼む………バリアジャケットは展開しないで刀だけでいいから………」

 

SH『了解しました……』

 

 シャイニングハートがそういうとデバイスが魔力の光に包まれた。鍔しかなかった部位に刀身と柄を付け加え、俺の右手に握られた状態で現れる。

 

「よしっ!」

 

 

シュッ

 

 試しに刀を一振り。調子は問題無さそうだ。

 

「はっ!!」

 

 刀を構えて振るう。頭の中で目の前の架空の敵をイメージで作る。

 

「おらぁ!!」

 

 要は特訓だった。俺がここに来たのは刀を振るいに来たのだ。ただただ、空想の敵に向かって刀を振り続ける。無心に振り続けて、時には剣術の技を出して、時には疾風速影で動きを加えてより実戦に近く。

 

「はぁ………はぁ………はぁ………」

 

 どれくらい時間が経っただろうか。とにかく刀を振り続けて。息も上がり、握力も感覚がなくなってきた。

 それでも、やめない。やめたら………また悩んでしまうから。

 

「はぁ!!」

 

 

 ビュン!

 

 

「うらぁ!!」

 

 

 ビュン!

 

 

「くそぉぉぉおお!!」

 

 

 ビュン!ビュン!

 

 

 もう、後半は剣術の型も関係なしだった。とにかく振るう。今日情けない姿を見せ続けた悔しさをぶつけるように。ただそれだけ、無理な体勢でも無理矢理振るう。そんな状態だっからか………。

 

「…………あっ……!」

 

 ドタ

 

 足が絡んで転んでしまう。受け身もとれずに無様に転んだ。顔を地面に直接ぶつける。

 

「ぐぉぉ~~~~っ!!」

 

 顔と一緒に鼻もぶつけた!その痛みで少し悶絶する。痛みが引いても立ち上がれなかった。そのまま仰向けに大の字で寝ころんだ。

 

「はぁー。あぁ………空キレイだなぁ……」

 

 目の前に広がる光景に少し感動した。時間帯はもう夜だから、空には満天の星空が広がっていた。普段から空を見上げる習慣はないけどこの時はいつもより星が多く綺麗だなと思っていた。

 

「星かぁ………」

 

 星がキラキラと輝いている。一際輝いてる星を見つめると自然となのはが思い浮かんだ。星は…………なのはを象徴しているように感じた。

 なぜそう感じたのかは分からないけど、俺は星となのはを重ね合わせてそれを見つめる。

 

「俺…………なんで闘おうと思ったんだっけ?」

 

 そういっても答えは出ていた。今日の闇との闘いで俺は大見得切って言っているじゃないか。

 

 

『俺には大切な人達がいる!その人達のために俺は闘い続ける!!』

 

 

 そうだ…………答えは出ていたじゃないか。とっくのとうに出ていた。

 

「大切な人達のために…………」

 

 思い浮かんだのは六課の仲間たち。そうだ、俺は皆を守りたい。大切な人達を傷つけさせやしない。

 そして何より………またなのはの顔が浮かんだ。そうだ、なのはを守りたい。誰よりも、何よりも…………なのはを………。

 

「ははっ!………」

 

 そして気付いた。俺がなのはに抱く特別な感情。これの答えも…………。

 

「そうか…………好きって感情だったんだな……」

 

 不思議と笑いが込み上げてきた。だってそうだろ?それが事実なら……俺はなのはのことをずっとずっと、ずーっと前から好きだったてことになるから。

 きっと、物心つく前からずっと………。なのはに対して思っていた感情は小さい頃からずっと抱いていた物だから。

 だから…………もう迷うこともなかった。

 

「俺は………皆の為に………なのはの為に……」

 

 光の英雄の瞳には絶望の闇から、希望の光へと色を変えていた。さぁ、そろそろ会議の時間だ。シャワーでも浴びてから顔を出そう。そして伝える…………俺の確かな決意を…………。

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 シャワーを浴びて身も心もスッキリした。そのまま着替えて会議室へ、扉を開けて中に入る。

 

「おお、賢伍君来た来た。これで全員揃ったなぁ………」

 

 俺が入ってきて一番に反応したのははやてだった。どうやら俺が最後だったみたいだ。すでに囲むようにヴォルケンリッターの皆に、なのは、フェイト、はやては席に着いている。

 

「おう、悪いな……」

 

 そう一言告げてから俺は空いている席に座る。

 

「それじゃあ、賢伍君も来たことやし会議始めよか……」

 

 部隊長のはやてにより会議が開始が告げられる。俺の話は後回しとして最初の話は………。

 

「今日皆に集まってもろたのはフェイトちゃんから事件について重要な話があるとのことで集まってもろたんや………それじゃあフェイトちゃん、よろしく……」

 

 

「うん……」

 

 そう返事をするとフェイトは席から立ち上がって正面に移動する。背後には大きなモニターようのスクリーンがあった。

 

「今私達起動六課が追いかけている事件………ガジェットを使いレリックを回収している犯人が判明したの」

 

 

「「「っ!!」」」

 

 ここにいる全員が反応した。俺達が追いかけている事件の犯人が分かったのだ。それは大きな進展だ。

 

「で、だれなんや?」

 

 フェイトをはやては真剣な目で見つめてそう問いかける。

 

「………ジェイル・スカリエッティ……」

 

 フェイトの背後にある大きなスクリーンに映像が写し出された。

 

「ジェイル・スカリエッティ………聞いたことがあるな…」

 

 スクリーンに写っている映像を見て俺はそうぼやいた。どこかで小耳に挟んだ程度ではあるが聞いたことがある名前だった。スクリーンにはジェイルと思われる顔写真と経歴などが書かれている。

 

「確か、違法研究で広域指名手配にされている科学者だったな」

 

 シグナムが俺の疑問に答えるようにそう付け加えていくれた。その場にいる全員が最低でも名前は聞いたことがあるようだ。

 広域指名手配レベル犯罪者を俺達は幾度となく捕まえてきたがこいつに関しては油断できないと言うことだろう。

 

「で、なんでそんなやつがレリックなんかを狙ってるんだ?」

 

 素朴な疑問を口に出したのはヴィータだった。確かに何を目的としているのは知りたい所だった。

 

「それはまだ分からない…………けど…」

 

 

 

「そんな人にロストロギアを渡すわけにはいかない………ね」

 

 フェイトの言葉に続いて口を開いたのはなのはだった。なのはの言葉に全員が頷く。

 

「私からは以上かな。これからは起動六課はジェイル・スカリエッティを逮捕を目的として行動します」

 

 最後にお願いしますと付け加えてフェイトの話は終了した。これからの起動六課にとって重要な情報を得られた。

 それと同時に厄介だと言うことも分かってしまった。

 

「さて、次は賢伍君からの話や。これも重要なことやから皆しっかり聞いてな?」

 

 はやてがそう言うと何人かが少し驚いたように反応していた。俺から話があるのを知らなかった数人だろう。現に事情を知っているシャマルさんと話すことを俺から聞いているなのはの反応は普通だったから。

 

「あぁ…………」

 

 俺はその場で席から立ち上がる。モニターを使うわけではないからわざわざ前には移動しない。

 

「フェイト、今回の事件………ジェイル・スカリエッティが主犯とほぼ断定していいんだな?」

 

 

 

「う、うん…………間違いない……」

 

 念のために確認したがやはり厄介なことになってしまった。

 

「俺は今日……闇の俺に会ってきたんだ」

 

 

「っ!!」

 

 俺の直球な発言に皆は驚きを隠せなかった。

 

「………………」

 

 なのはも驚いた表情をしているが黙って俺の話を聞いてくれるみたいだ。

 

「そして闘った…………結果は俺の完全な敗けだ。シャマルさんに治療してもらったから今はもう治ったが、俺は闇にボコボコにされて対する俺はほとんどダメージを負わせることは出来なかったんだ………」

 

 バンッ!!

 

 俺のその言葉を聞いて誰かが机を思いっきり叩きながら立ち上がった。

 

「お前………ふざけんなよ…っ!」

 

 ヴィータだった。鬼気迫る勢いで俺を見ていた。

 

「お前一人で行ったのかよ!どうりで何処にもいなかったわけかよ!」

 

 

「悪いな………訓練すっぽかしちまって」

 

 

「そういうことを言ってんじゃ………!!」

 

 ヴィータの言葉が途中で止まった。

 

「落ち着けヴィータ。まだ神崎の話は終わっていない」

 

 シグナムだった。手でヴィータを制して落ち着かせている。

 

「ぐぐぐ……………分かった……」

 

 そういうとヴィータは大人しく席に着いてくれた。顔は不満げだったけど文句は後で聞く。

 

「続けるぞ?…………それで闇は言っていたんだ。奴は今、俺達がおっている事件の主犯と協力していると………」

 

 

 

「っ!?………とういことは!」

 

 フェイトがいち早く反応する。

 

「そうだ、闇の俺とジェイルは協力関係にあるっていうことだ………」

 

 誰も予測出来なかった事態だ。だからこそ……この場にいる全員が動揺を隠せなかった。

 

「だから皆、これから任務先に闇の俺が出てくるかもしれない………気を付けてくれ………」

 

 これで俺の話は以上だ。すこし空気が重くなってしまったが、隠すわけにもいかないだろう。

 

「じゃあ、これで会議は終了や。あとは………個人的なお話だけや……なぁ?賢伍君………」

 

 やっぱりそうなるか。だが、それはそれで俺にとっては好都合だった。

 

「賢伍………聞かせろ……なんで一人で行ったんだ……なんでなのは達の約束を破ったんだ!!」

 

 シグナムに諭され大人しくしていたヴィータも突っかかってくる。

 

「俺は確かに一人で挑みに行った………結果も皆を心配させることになっちまった………けどな………」

 

 自然と顔が引き締まった。拳を握った。体に力が入った。

 

「俺は………約束を破ったつもりはない!!」

 

 

「お前、何を言って!」

 

 

「俺は…………一人で背負い込んで挑んだわけじゃない………俺は………奴を倒したかったんだ………一人で奴に勝ちたかったんだ……」

 

 これは俺の完全なる驕りでもあったのかもれない。ちゃんと闇の実力を理解していなかった俺はこころのどこかで俺ならなんとか出来ると思っていたんだ。

 だから、負けた後にあんだけ子供みたいに情けない姿を見せたんだろうけど。

 

「だから先に謝っておく………すまなかった………勝手な行動をして悪かった。心配させてごめん…………」

 

 俺は頭を下げた。自然とそうしていた。

 

「………っ……」

 

 ヴィータは少し不満げだったがそれ以上は何も言ってこないでくれた。

 

「賢伍君…………」

 

 その中で唯一口を開いたのはなのはだった。

 

「なのは?」

 

 

「賢伍君の気持ちは分かったよ………。約束も破られたって思ってないから………だから頭を上げて?」

 

 

「…………あぁ……」

 

 姿勢を元に戻して、なのはを真っ直ぐみた。とても真剣な表情だった。今日はそんな表情ばかりさせてしまっているな……。

 

「それで………賢伍君はどうしたいの?今回は負けちゃったけど………また一人で戦うつもりなの?」

 

 

「あぁ、そのつもりだよ………」

 

 その言葉を聞いたなのはは複雑そうな顔をした。その理由は……やっぱり俺にあるんだろう。

 

「賢伍君がそうしたいと思ってるなら……私はそれを応援したい………けど一人で行かせられないよ………」

 

 すこし、瞳に涙を滲ませて………

 

「信じてないわけじゃない…………でも心配なの…………」

 

 不安な顔を隠しきれずに………

 

「心配で心配で…………しょうがないの……」

 

 自分の気持ちを吐き出した。大好きだから余計に心配で、大好きだからほんとは闘って欲しくなくて………でも、自分自身はその大好きな人より強くなくて………隣に立てなくて。

 そんな様々な感情がごちゃごちゃと混ざって、瞳からの涙が一筋流れた。

 

「ごめんなさい…………でも……」

 

 「大好きだから」という言葉が続きそうになったがそれは慌てて飲み込んだ。なのはは本当に神崎賢伍が心配だったのだ。

 

「………ありがとう…」

 

 そんななのはを見て俺はそういった。嬉しかった、なのはには悪いけどこんなにも心配されて、想われていてとても嬉しかった。気づいたのはついさっきだけど自分に取って好きな女性に思われている。

 俺はとても幸せ者だなと思った。

 

「でも………俺の……気持ちは変わらない……」

 

 たとえなのはの気持ちを踏みにじる形になっても

 

「俺はあいつに一人で闘って勝つ!別に背負ってる訳じゃないだ」

 

 俺のわがままと思われたとしても

 

「今回は負けた、けど俺は変わらない。今まで通りにやるだけさ」

 

 この決意を、曲げないためにも

 

「俺はもっと強くなる!次は負けないために、大切な物を守るために。今まで通りで最後まで足掻いて戦うだけだ!!」

 

 あきらめない。悩まない。勝てなければもっと強くなる。単純だった。とても簡単だった。答えなんて考えなくても良かったんだ。ただ、今まで通りに俺はやっていけばいい。

 闇に勝つために!止まらない!

 

「守るために、負けないために、勝つために。これが俺の答えだよ……なのは」

 

 

「………………」

 

 なのはは少し赤くした目を擦りながら顔を上げた。

 

「だったら…………安心させて……」

 

 

「えっ?」

 

 

「もっと強くなって………」

 

 

「………………おう」

 

 

「ケガしないで…………」

 

 

「………………おう」

 

 

「…………頑張って……」

 

 

「…………ありがとう」

 

 「頑張って」つまりは一人で任せてくれると言ってくれた。俺を信じてくれた。

 

 

「もっと強くなって、絶対に勝つ。なのはを安心させる………約束……」

 

 

 

「うん…………約束……」

 

 自然とお互いに小指を絡ませる。ゆびきりげんまん、恥ずかしかったけどなんだか心が暖まった。

 

「それじゃあ、賢伍君の意思を尊重して起動六課も闇の賢伍君に関しては全部うちらの賢伍君に任せよか………皆、それでええな?」

 

 はやての言葉を聞いて皆が頷いてくれた。事情を知っているシャマルさんはとても満足げな顔をして、シグナムは少し頬を緩ませて、ヴィータはそっぽを向いていたが異論はない様子で、ザフィーラは………狼形態だから分からないけど。

 フェイトとはやてはニコニコしていて、俺の答えに納得してくれてそしてなのは同様に皆信じてくれていた。

 そんな大切な人達のためを守るために………俺は闘ってきた。魔導師になったんだ。俺は変わらないで闘いつづける!

 拳を握って高く掲げた。

 

「さて、話も纏まったし。時間ももう遅いからこれで解散や!」

 

 はやての一言で皆それぞれ部屋に戻ろうとする。時間を見たらもう日付が変わろうとしている時刻だった。

んん?………日付が……かわ……る?

 

「あぁ、そうや賢伍君……」

 

 何かを思い出したようにはやては口を開いた。

 

「書類、もう出来たやろ?提出せなあかんから渡してくれへん?

 

…………………。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 しまったあああああ!!ばたばたしてて忘れてたぁぁぁぁあ!!

 

「嘘!賢伍まだ終わらせてなかったの!?」

 

 フェイトが心底驚いている。流石の賢伍も入隊がかかっているのだからやっているだろうとフェイトは踏んでいたのだ。

 

「あぁ…………」

 

 なのははしまったと言わんばかりに手で顔を覆っていた。

 

「やってもうたなぁ………」

 

 はやてはニヤリとしていた。

 

「しょうがないね……」

 

 フェイトはこれから睡眠時間が減ることを嘆いている。

 

「もう、ホントにしょうがないんだから……」

 

 なのははむしろ楽しそうに言った。

 いやいや、まさかねぇ?これから3人で監視のもとみっちり徹夜でやるなんてことは…………?

 

「「「さぁ、書類の準備は出来てる?」」」

 

 あるみたいでした。

 

「いやだ!だったら俺は諦め………えっ?いつの間に机と椅子に座らされてる?あれ?何処から持ってきた?書類が目の前にあるぞ?」

 

 ここぞとばかりに3人のスペックの高さを思い知らされた。

 

「ヴィータァ!助けてーー!!」

 

 だまって部屋から出ようとするヴィータに助けを求めた。

 

「……………自業自得だな、頑張れよ……」

 

 

 

ガチャ

 

 

「いやあああああああああ!!!」

 

 ちくしょー!あいつ絶対まだ顔にサンドイッチかけたこと根に持ってやがるぅ!!

 

「さぁ賢伍?」

 

 

「終わるまで寝かせへんからなぁ?」

 

 

「一緒に頑張ろうね!」

 

 キラキラした顔をしやがってえええ!?

 

「ちくしょう!結局こんな終わり方かよぉぉおおおおおおおおお!!!」

 

 俺の悲痛な叫びとは別に、書類は俺の魂を犠牲に時間ギリギリで終わらせられたことを追記しておく。

 

 

 

 

 





賢伍の答えはいままで通りやることで落ち着きました。

これからはまだ公開してない賢伍の過去や謎、その他諸々を徐々に書きながら進めて行きたいとおもっています!

それでは次回にて!!


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リフレッシュと魅惑の先生と恋の悩み

 

 

 

 

早朝の訓練場に朝の日の光が照らしていた。

 

「ぐっ、うおぉぉおおおお!!」

 

 

ブウン

 

 

朝、早すぎてまだ誰も使ってない訓練場で俺は右手に魔力を注ぐ。

 

SH『マスター、その調子です!』

 

ブウン

 

「ぐっ!はあぁぁぁぁ!!」

 

 魔力を注がれた右手の先に光輝く障壁が現れた。そう、『光の障壁』である。闇との敗北から数日がたち俺が強くなるためにまず始めたことはまずこの魔法をしっかり会得する事だった。

 

ブウウウウウン

 

 

SH『おめでとうございます。光の障壁はこれでほぼ完成です』

 

 

「そうか……………」

 

 発動していた光の障壁を解く。使われていた右手が一気に楽になった。

 

「………よしっ!」

 

 拳をギュッと握りしめて完成した喜びを噛み締める。最初の方はホントにダメダメで困り果てていたのだから。

 

SH『障壁の強弱と魔力の出力調整もほぼ完璧で問題なしです………。後は実戦で試すだけですね』

 

 

「あぁ、これはセットアップをしなくても出来るしもしもの時にも使えるからな………大きな進歩だ」

 

 数日特訓して、この障壁の特徴を理解できた。まず、セットアップせずとも使えること。魔力さえ注げばシャイニングハートを介さなくても使える。そのぶん障壁の強度が弱まるが大きな長所でその点は疾風速影と同じ理屈である。

 そして、強度の調整も出来る。単純に魔力を消費すればするほど障壁の展開時間が伸びて強度も上がる。強度自体もとても硬いから魔力を沢山消費するが砲撃クラスの魔法も無傷で止めることが出来るだろう。

 

「問題は………燃費の悪さだな」

 

 

SH『はい。ある程度出力調整が出来るようになったので幾分かはマシになりましたがそれでも魔力の消費は多いです……』

 

 

「あまり多用はできない………てことか」

 

 そこは改善は出来なかった。その証拠にここのところずっと障壁の特訓をしていたから魔力はもうスッカラカンに近い。使いすぎるとこっちの力が尽きるのが難点か………。

 

「じゃあ、後は剣術と筋トレでもして………」

 

 

SH『今日はもう訓練はお休みになったほうがいいと思います………』

 

 魔法の訓練はもう出来ないから後は体を鍛えるだけなのだがどうやらシャイニングハートは反対みたいだ。

 

SH『ここのところ仕事以外はすべて訓練をしています。あまり無理はなさらずに、休息を入れたほうが効率もいいですから』

 

 

「……………そうだな、光の障壁も完成したし今日はもう訓練は止めとくか……」

 

 シャイニングハートの心配も無下にしたくないし、何より言う通りであった。休息がないと逆に効率が悪いからな。今回はシャイニングハートの言う通りにしよう。

 

「んじゃ、もう待機モードに戻ってくれ。お前も休んでくれよシャイニングハート」

 

 

SH『ありがとうございます』

 

 みるみるシャイニングハートはもとの刀の鍔の形に戻る。俺はそれをいつものように懐に戻した。

 

「う~~ん!!じゃあ汗流してから朝食でも食いに行くか!」

 

 軽く伸びをして朝日を浴びる。今日も六課は平常運転になりそうだ。俺もいつも通りFW4人の訓練の教導とその他雑務だろう。

 

「雑務がかったりーなぁ………」

 

 そんなことをぼやきながら共用のシャワールームで汗を流したあとに自室に戻った。

 

 

ガチャ

 

 

「ただいま~っと」

 

 ゆっくりと静かに部屋に入る。まだ時間は未明くらいだ、時間的には朝だがまだ外は暗めだ。流石のなのはもまだ眠っている。なのはを起こさないように抜き足差し足で自分のベッドに向かう。

 とりあえずは仮眠をとりたい。ずっと起きていてもしょうがないからとりあえず足りない睡眠をここで補うのがここの所の日課である。今日は早く終えたからいつもより長く寝れそうだ。目を閉じてから眠るのにそう時間はかからなかった。

 

 

………………………。

 

 

「こい!スバル!」

 

 

「うぉぉおおお!!」

 

 向かってくる拳を手で受け止める。

 

「てやぁぁぁあ!!」

 

 2撃目はもう片方の拳で殴ってくる。

 

「あまいあまい!」

 

 それは受け止めずに受け流す。結構な体重をのせたパンチだったから反動でスバルの体が大きくバランスを崩す。

 

「はい終了な」

 

 その隙を逃さず俺はスバルを制圧して動けなくする。

 

「うぅ~~、やっぱりレベルが違いすぎますって~~~」

 

 朝の仮眠をとって、なのはから叩き起こされたあとに朝食をいただきその後の訓練の途中なのだ。

 

「情けないことを言うんじゃない。ほら、交代だ。なのはに課題を聞いて直してこい」

 

 

「了解です!」

 

 そういうと元気になのは元に向かった。うむ、もうちょいしごいたほうが良かったかもしれない。

 今の訓練は俺とマンツーマンでの模擬戦だ。俺はセットアップしないで戦い、なのはは離れてそれを見て悪かった点を教えて改善させる。ちなみにセットアップはしなくても魔法はちょくちょく使っている。

 いくら訓練でもダメージを負うつもりはない。俺の訓練でもあるからな。

 

「さて、次はティアナだ!かかってこい!」

 

 

「はい!…………行きます!」

 

 それが開始の合図だった。俺はまずは出方を伺う。

 

「っ!」

 

 

バンバン!

 

 

 ティアナのデバイスである拳銃二丁から一発ずつ弾が発射される。狙いは勿論賢伍だ。

 

「ふっ!」

 

 俺はそれをギリギリまで引き寄せてかわす。動体視力と反射神経には自信がある。銃弾程度なら軽々とかわせる。そしてそれはティアナも分かっている。

 

「はあぁぁ!」

 

 俺がかわす動作を始めた瞬間ティアナが突如横にステップした、そしてすでに拳銃は俺に向けられている。

 

 

バンバンバン!!

 

 

 今度は3発の銃弾が発射された。ティアナは最初からかわされると思っていたのだ、ならば狙い目は次になる。かわす動作をするときにはどうしてもどちらかに重心が左右かかる。強弱は技術者によるが人間の構造上そうなってしまう。

 

「…………っ」

 

 なるほど、俺が右側にかわすと分かった瞬間に俺の重心がかかった方向、つまり右側から銃弾を放ってきたか。確かにそれならば反応はできない。急に右に動いてる体を左に変えることはできない。

 タイムラグが発生するこれを利用してきたということ。やるなティアナ…………。

 

「だったらちょうどいい…………」

 

 こういう状況にこそこれは使えるだろう。早速試してやる。

 

「光の障壁…………」

 

 ボソッと呟いてそれを発動する。出力は極限まで下げる。銃弾ていどならそこまで強い障壁でなくても防げる。そして少しでも魔力消費を抑えるために銃弾が障壁に当たるギリギリまで発動しない。

 

 

 ブウン

 

 

 俺の体を半分以上の大きさで障壁が展開される。銃弾は障壁に阻まれてカンカンと乾いた音をたてながらその威力をなくして地面に落ちる。

 

「なっ!?」

 

 ティアナなにが起こったのか分からなかった。弾がなにか弾かれた?障壁か……しかしそれらしきものは賢伍の前には見えなかった。

 出力を極限まで下げたことと弾を防ぐ一瞬しか展開しなかったから肉眼ではハッキリとその魔力を視認するのは難しかったのだろう。

 

「これじゃあ銃はきかない…………」

 

 さて、その状況でどうするティアナ?どう攻める?

 

「くっ………」

 

 かろうじて銃を俺に向けて牽制するのが精一杯のようだ。どうやら焦って次の行動が思いつかないみたいだ。

 

「こないならこっちからいっちまうぞ!」

 

 ティアナに向かって駆けてあっという間に距離を詰める。

 

「っ!?」

 

 速い!疾風速影を使わなくても賢伍の身体能力は桁外れだ。パワーもスピードもティアナからしたら圧倒的すぎる!

 

「くっ!」

 

 

バン!

 

 

 反射でかろうじて賢伍に向かって銃を放つ。それは幸運か不運か、こちらに向かってくる賢伍の額を捉えていた。

 

「遅い!」

 

 が、それすらも賢伍には無意味。向かってくる銃弾を首を少し曲げただけでかわす。しかもこっちに向かってくるスピードは緩めないで。

 

「しまっ………!」

 

 ティアナが気づいたときはにはもう遅い。

 

「終わりだ」

 

 

ドン

 

 

「ぐう!」

 

 そのままティアナを地面に倒して制圧する。これでティアナも終了だ。

 

「な、なんで…………」

 

 地面に制圧されたティアナはそう呟く。

 

「なんでかわされたかって?」

 

 続きは俺が代弁する。手を差しのべてティアナを立たし、服についた土をはたいてやりながら答える。

 

「俺がお前に向かっているとき、俺は最初からティアナの指の動きに注目してたんだよ」

 

 

「指…………あ!」

 

 

「気づいたか?」

 

 銃を持つ相手にいくら弾をかわせるくらい反射神経が良くてもどうしても一歩遅い対応になってしまう。ならば指の動きを見て相手の撃つタイミングを予測し行動する。

 

「だからよけれたんだよ。今回ティアナに足りなかったのは冷静さと自分の動きが読まれていることに気付けなかったことだ。ま、お前たちは確実に上達してるから大丈夫さ」

 

 そういって頭をポンポンとする。実際に入隊当初比べたら皆別人のように強くなっている。だから俺は今の一対一での模擬戦をしているわけだ。本当ならもっと先にする予定だったんだから。

 

「……………はい……」

 

 そう小さく返事をしたティアナは小走りでなのはの元に向かった。

 

「ん?」

 

 一瞬様子がおかしく感じたが気のせいか?最近そんな様子がちらほらティアナに見えているから気になった。訓練の時自分が失敗したときに悔しそうな顔をしているとき、それはいいことだが行き過ぎというか焦りすぎているときがあったから。

 

「まあ、大丈夫か…………。よし次!エリオだ!」

 

 俺は考えすぎかと割りきってそのまま訓練を続行した。エリオと闘いそのあとはキャロと戦う。それで午前の訓練は終わり、シャワーを浴びて皆で昼食を食べた。

 この時の俺はそのティアナのことをちゃんと考えなかったことでこの先大きな波紋を呼ぶことになるとは思わなかったんだ。

 今のこのときは…………。

 

 

 

……………………。

 

 

「シャマルさーん!またたのむわ~」

 

 医務室に入るなり俺はそう声をかけた。中にいるシャマルさんは「待ってたわ」といって俺をベッドに座らせる。

 訓練を終え、昼食を食べた後に用事があって俺は医務室に訪れた。

 

「どう?お腹の傷の具合は?」

 

 

「うーん、今のところ特に進展なしってところかな………」

 

 上着を脱いで傷を見せながら俺はそう答える。

 

「そう、最近鎮痛剤は使ってる?」

 

 

「ああ、痛むときはあっても我慢できないほどじゃないからな。あまり使いたくないし」

 

 

「なら鎮痛剤は追加しなくても大丈夫そうね」

 

 そう言いながらシャマルさんはモニターのデータに今の情報を書き込む。そのデータは俺の今までの腹の古傷に関しての経過を書き留めておくためのものだ。

 俺がその傷を負い、シャマルさんが治療をしてくれたその日からずっとまとめてくれて俺の治療に勤めていくれている。

 

「……………あれからもう8年が経つのね…」

 

 

「ああ、そうだな………」

 

 

「それなのに、まだ完治出来ないなんて………」

 

 

「なのはは一生完治しない傷を負ったんだ………俺なんてこんなの軽い方だよ」

 

 今から8年前のある出来事。なのはを苦しませ、多くの仲間や家族が悲しんだ事件。魔法世界のミッドチルダには大々的に報道されたほどだ。

 

「なのはちゃんにはずっと隠しているの?」

 

 

「まあな、こんなことで罪悪感を抱えて欲しくないしな………」

 

 あいつは知らなくていい………たとえそれがなのはに嘘をつくことになっても。

 

「……………そうね……その方がいいかもしれないわね」

 

 シャマルさん少し寂しそうな笑みを浮かべながらもこれ以上は追及してこなかった。察してくれたのだろう、シャマルさんの気遣いに感謝する。

 

「それじゃあ、久しぶりにマッサージでもしてあげようかな!賢伍君お疲れみたいだしね」

 

 

「えっ、いいのか?じゃあ、お言葉に甘えてやってもらおうかな」

 

 早速とばかりに俺はベッドに寝転がる。医者だからかシャマルさんのマッサージはとても気持ちいいんだ。

 

「はーい、じゃあ失礼しますね…………あら、だいぶ肩こってるわね。それに全身の筋肉が張ってる………」

 

 

「あー、気持ちいい………。いや、ここんところずっと訓練続きだったからかなぁ、まあシャマルさんのマッサージ受ければすぐに元気になるよー」

 

 

「あら?おだてても何もでないわよ?」

 

 それにしても気持ちがいい。張っていた全身の筋肉もほぐれ、こっていた肩は少し楽になった。

 

「そうそう、賢伍君?まえから聞こうと思ったけどなんで私を呼ぶときは『さん』付けなの?別に構わないけど私以外には皆呼び捨てよね?」

 

 俺がシャマルさんをさん付けで呼んでいるのは出会った当初からだ。シャマルさんと………守護騎士達と初めて出会ったのは闇の書事件がまだ起こる前。はやてが魔法について何も知らず、守護騎士達がはやてを案じて闇の書の蒐集をし始める前のことだったなぁ。

 ひょんなことからはやてと知り合い、ひょんなことから食事に誘われて守護騎士達とも知り合ったのだ。だから俺はあの事件の時はどっちつかずの態度を取っていたのだ。知っていたから、守護騎士達の事情もなのはたちが譲れないことも。

 あの時俺は相当苦悩していたことを思い出した。今となっては思い出として語れるほど時間は経ったけど。

 

「シャマルさんはその………憧れとは違うけど魅惑の女性のイメージというか……」

 

 あまりこれに関しては話したくないがいつもお世話になっているシャマルさんに隠し事はよくないよな。

 

「その………男子としてはその………」

 

 

「うん?男子としては………?」

 

 ああ、やっぱり言いたくない。けど言わなければ。俺の真っ直ぐな思いを…………ぶつける!!

 

「当時の俺はその………学校で言うと保健室の先生みたいな感じと言うか………というか実際医者だったというか………白衣を着ている姿がもう魅惑の保健室の先生みたいでなんか憧れてて………そんときに出来たイメージがもうとれないって…………ははは」

 

 もう途中で乾いた笑いが出てきてしまった。何を言っているんだ俺は………まるで変態だ………いや変態なのかもしれないけどさ!

 

「あらー?賢伍君はそんな目で私を見てたんですか~?」

 

 

グリグリグリ

 

 

「痛い!?シャマルさん肘!肘痛い!」

 

 そんなに圧迫したらっていたたたた!

 

「うふふ、そんなことばっかり考えてたらまたなのはちゃんに怒られちゃうわよ~?」

 

 

グリグリグリグリグリグリ!

 

 

「痛ててててて!!シャマルさん痛い!結構マジで痛い!?」

 

 ちょっとシャレにならないって!グリグリしすぎだってだからいたたたたたた!!?

 

「はい、これでおしまいよ」

 

 俺が痛みに悶絶しているシャマルさんが口を開いた。そういうと腕をどけて俺から離れて自分のデスクに座る。

 

「ふぅ………シャマルさんちょっと強くやり過ぎ……………あれ?めっちゃ肩がかるいぞ!?」

 

 試しに肩をグルグル回してみる。すげぇ、マッサージしてもらう前と後じゃ全然違う。流石シャマルさんだ。

 

「それはよかったわ」

 

 そう言うとシャマルさんは少し顔を綻ばせ微笑んだ。うん、やっぱり魅惑の保健室の先生だよ貴女は。白衣とかもう似合っちゃってるもん。

 

「んじゃ、俺は行くよ。いつもありがとうシャマルさん」

 

 

「どういたしまして。それじゃあ、お腹の古傷でもなんでも何かあったらいつでも来ていいからね?」

 

 

「あぁ、そうさせてもらうよ。近いうちにお礼でもするかな」

 

 

「あら?気にしなくていいのに。それじゃあお大事にね……………ふふ」

 

 俺が医務室を後にするまでシャマルさんは始終微笑んでいた。やっぱりこの人には頭はあがらねぇ………。

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

「シャーリィ、シャイニングハートのメンテナンス頼めるか?最近無理させっぱなしだったからさ」

 

 

「あ、賢伍さん!お安いご用ですよ、任せてください!」

 

 そういうシャマルに待機状態のシャイニングハートを手渡す。ここはシャーリィが使用しているデバイスルームだ。辺りには俺には分からない機材があちこちに転々としている。恐らくデバイス関連の機材なんだろうけど。

 

「それじゃあシャイニングハートは確かに受け取りました」

 

 そういうとシャイニングハートをデバイス用のカプセルに入れて機械をカチカチといじり始めた。隣に置いてあるパソコンのキーボードをカチカチとならしながら作業している。

 俺がここに来たのはもちろんシャイニングハートのメンテナンスのためだ。そもそも俺が今日訓練をやめて休みにしたのもシャイニングハートを休めさせるためでもあったからだ。今回の特訓から闇との闘い、それ以前の闘いからずっと働かせてばかりでメンテはさせてあげれなかったからな。

 

「はとりあえず少し時間が掛かるんで終わったら賢伍さんに渡しにいきますよ」

 

 

「ん、そうか?悪いな」

 

 

「いえいえ、賢伍さんとシャイニングハートさんは技術者の私にとっては良い研究対象でもありますからね」

 

 そう言うシャーリィの顔はキラキラと輝いていた。確かに超がつくほどのデバイス好きであるシャーリィには良い研究対象だろうなシャイニングハートは……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたは力が欲しいですか?

 

 

ほしい……………。

 

 

 

どうして何のために?

 

 

 

それは……………守りたいから。

 

 

 

何を守りたいのですか?

 

 

大切な人を…………守りたい。守れるくらいの強さがほしい!!

 

 

 

その決意があるなら私があなたの盾となり剣になりましょう…………。誰かのために魔導師になりたいとあなたが言ったら力になってあげてくれと、私を作ってくれた人との約束ですから……………。

 

 

 

君を作ってくれた人って言うのは………だれなんだ……?

 

 

 

それは………………………。

 

 

 

 

……………………………。

 

 

………………………。

 

 

………………。

 

 

 

「賢伍さん?どうかしましたか?」

 

 

 

「えっ?…………あぁ………」

 

 昔を思い出すとすぐにそれに没頭しちゃうのは俺の悪いクセだな。シャーリィが不思議そうな顔をしていた。

 

「なんでもねぇよ、とりあえずメンテナンスよろしくな」

 

 そういい残し俺はデバイス室を後にする。シャーリィーは了解でーすと元気な返事が聞こえてきた。とりあえず用事はこれで済んだ。後は俺の個人的な私用だけだな…………。

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 メンテナンスが終わってシャイニングハートを受け取ってから、うってかわって訪れたのは起動六課を離れて都心部であるミッドチルダのとある喫茶店。

 ここで数人と待ち合わせをしている。

 

「あいつら遅ぇなぁ…………」

 

 腕時計で時間を確認するが呼びつけた二人が来ない。遅刻しそうだったからバイクを猛スピード走らせて来たってのに。途中管理局員に見つかって切符切られちゃったけどさ…………。

 ああやばい…………あと一回でも見つかったら免停だよ………。

 

 

カランカラン

 

 

 ドアのベルがなる音が響く。定員のいらっしゃいませという言葉につられて来客が誰かと目を向けると。

 

「あ、いたいた!」

 

 

「ごめんなぁ賢伍君、遅れてもうたわ………」

 

 フェイトとはやての姿があった。そう、この二人を俺は呼んだのである。なのはは今は訓練中で今頃新人たちをしごいている頃だろう。もちろん、呼ばなかった理由は他にもあるけどな。

 

「いやいいさ、急に呼びつけて俺も悪かったよ……………」

 

 ああ、後でスピード違反の違反金も払わないと。スピード出すんじゃなかった………。とりあえずは二人を席に座らせて3人分のコーヒーを頼む。

 

「それで?私達に相談てどうしたの?」

 

 注文したコーヒーを喉に通してフェイトがそう言ってきた。

 

「そうや、なのはちゃんに言えない相談なんやんて?」

 

 

「ああ、その………実はだな………」

 

 今回二人に相談とは他でもない。最近気づいた俺の気持ちについての相談だったのだ。いや、それにしても言いづらい。恥ずかしすぎる!

 

「き、聞いて驚くなよ?じつは…………」

 

 

「「じつは?」」

 

 二人は興味津々と言わんばかりなキラキラした表情だった。ますます言いづらい、そして恥ずかしい。今日はそんなことばっかりな気がする。

 

「お、俺!な、ななななな!なのは事が、す……す………す………」

 

 

「「す?」」

 

 

「す…………」

 

 ええい!ままよ!

 

「好きみたいなんだ!!女として!」

 

 言った!言ったぞ!ただ、友人二人に打ち明けただけだけど告白してるみたいに緊張してしまっていた。

 

「……………………」

 

 

「……………………」

 

 一方それを聞いた二人はなんだかポカンとしていた。確かに聞いて驚くなとは言ったがこんな反応とは思わなかった。この二人ならもっと…………

 

 

『うっそ!!いつから!ねえねえ!いつからなの!?』

 

 

『賢伍君も隅におけへんな~このこの!』

 

 

 という感じのを想像していたから。いや、逆に驚きすぎてこんな反応なのかもしれないな。

 

「お、驚くのも無理ないよな?実は昨日さ……」

 

 このままでは話が進まないので経緯を説明することにしたが、それは二人に阻まれることになる。

 

「「そんなことずっとずっとずっ~~~~と前から知ってるよぉぉおおおお(わあぁぁぁあ)!!?」」

 

 

「嘘ぉぉおおおおおおん!!!?」

 

 このあと、喫茶店の店長にうるさいと苦情を言われて俺達はしばらく回りに平謝りをしていました。

 

 

 

……………………………。

 

 

 

「ふぅ、それで?なのはちゃんが好きでどうしたん?」

 

 

「いやいや話を進めるな!俺は二人がずっと前から知ってたっていう事実について問いたいわ!」

 

 気をとり直してはやてが話を戻すが俺はそれより気になることができましたよ!

 

「そんなん気づかん方がおかしいちゅうねん、うちとフェイトちゃんだけじゃなくアリサちゃんやすずかちゃんも知っとるよ………」

 

 ぬぉぉお!あの二人までもか~~~~!!

 

「というか賢伍となのは以外はほとんど知ってると思うよ?賢伍と知り合いの人はぜ~んぶ」

 

 

「ち、ちなみに二人はいつ頃から………」

 

 知っていたのか?という言葉は伝わるだろうから省略した。

 

「う~ん、いつからと言われても………」

 

 

「「最初からかな(やね)」」

 

 俺が自分の気持ちを知るのに10年以上かかったというのにこの二人は最初から気づいていたのかよ!俺ばかみたいじゃん!?

 

「ていうか、わかりやすすぎるねん。賢伍君もなのはちゃんも……」

 

 

「あ?なのはも?俺は全然は分かんねぇけど………」

 

 

「はあ、自分の気持ちに気づいたから少しは成長したと思ったんだけどそうじゃないみたいだね………」

 

 頭を抱えながらフェイトがそうぼやいた。いや、ため息をつかれましても。俺にはなんのことやらさっぱり分からない。

 

「えっと、結局二人は何が言いたいんだ?」

 

 この際直球で聞いてみることにした。

 

「とにかく賢伍は」

 

 

「「鈍感だってことだね(やね)」」

 

 

グサッ

 

 

「ぐぉぉぉおおおおお……………」

 

 なんのことかさっぱりだったが何故か心にグサッと来た。

 

SH『全く、お二方の言う通り全く成長していないってことですよマスター』

 

 

「お前は黙ってろシャイニングハート!」

 

 懐に入れてある相棒をペシペシと外から叩く。突然口を開いたかと思えばすぐこれだ全く。

 

「ははは、まあデバイスにも言われちゃうくらいってことだよ」

 

 

「むぅ………」

 

 納得できないがフェイトの言う通りなんだろう。納得できないが。

 

「それで?なのはちゃんに恋している賢伍君が私達に相談てのはなんなん?」

 

 ようやく本題に入れるぜ………。

 

「やっぱりさ、恋している訳だからさ………なのはとその………いわゆる恋人同士になりたい…………だろ?」

 

 

「なんで疑問系なのかは置いておいて、そりゃそうやね」

 

 そんなのは当たり前だという態度ではやてがしれっとそう言った。

 

「だからその……………どうやって恋人になるんだ?」

 

 

ズルッ!!

 

 

 この発言に二人が盛大にずっこけた。

 

「ちょ、あんた何言うてんの!?」

 

 

「ボケだよね賢伍!?お願いボケって言って!!?」

 

 鬼気迫らんばかりの勢いでこっちに詰めよってくる二人。お、落ち着け二人ともそんなに騒いだら……………。

 

「ゴホン!…………お客様……」

 

 また、店長に怒られちゃうじゃないか………。

 

 

 

 結局また店員や回りの人に平謝りしました。

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

「そ、それで………どういうことやねん賢伍君……恋人にどうやってなるかって………」

 

 

「どういうことも何も言葉通りの意味なんだが……………」

 

 

「どうやってなるのかって言われても…………」

 

 二人はうーんと考え込み言葉を探す。

 

「そんなん普通にデートを重ねたり…………」

 

 

「どんどん距離を縮めて晴れて恋人になるんじゃないかなぁ………」

 

 デートか…………。デートねぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

ほら賢伍くんー!

 

 

 

あははは、待てよなのはー!

 

 

 

うふふ、つかまてご覧なさ~い!

 

 

 

あっ、待てって~!!

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

「それはあかん」

 

 

「それはないよ」

 

 

「あっ、やっぱり?」

 

 俺なりのデートがどんなものかを伝えてみたがドン引きされてる。いや、俺も流石にそれはないなと思ったけどさ。

 

 

「賢伍君がどれくらい恋愛に疎いかはよーく分かったけど、うちからアドバイス出きるのは一つだけや」

 

 

「お、なんだよ?」

 

 

「自分がしたいことをしたらええんよ。なのはちゃんかが好きっていう気持ちに嘘つかんでなのはちゃんに接したらええとうちは思うで?」

 

 

「そうか…………」

 

 その言葉は、普通に恋愛をしてきた人達には当たり前のことなのかも知れない。けど、俺にとっては的確でまっすぐなアドバイスだった。今考えれば俺は少し焦っていたのかもしれない。急に気付いた俺の10年以上溜め込んだ好きと言う気持ち。

 その気持ちが前に出すぎて俺は二人を呼び出してアドバイスをもらおうと思っていたんだ。

 

「賢伍は少し焦りすぎだよ。もうちょっと自分のペースで頑張ればなのはも歩み寄ってくれると思うよ?」

 

 そんな俺をお見通しなのかフェイトも的確な言葉を俺に伝えてくれた。

 

「でも、もたもたしすぎたら離れて行っちゃうで?しっかり放さんようにな」

 

 

「「((ま、それは万が一でもないと思うけど))」」

 

 なのはの気持ちを知っている二人は心の中でそう思った。なのはと賢伍が両思いなのを伝えないのは意地悪をしている訳ではないのだ。二人には幸せになって欲しいと心から思っている。だから、自分達が手助けをしすぎずに二人とも自身が勇気を振り絞って結ばれてほしい。

 フェイトとはやてなりの二人へのエールなのだ。

 

「……………おう」

 

 そんなはやてとフェイトのエールに気付くことがなかった俺だが、二人はやはり俺の親友でいてくれる大切な仲間だってことを改めて思った。

 

「さぁ、速くスピード違反の罰金払ってきや。私達も仕事やからそろそろ行くで?」

 

 

「おーう、…………って何でいつもお前は変なとこまでお見通しなんだよ!?」

 

 はやてに関しては気を付けた方がいいかも知れないと思った。

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

 

 結局今日のうちに違反金を払うはめになった。別にそこまでお金に困っているわけじゃないがやっぱり払うのに抵抗があった。  

 俺が六課に戻って来た頃にはもう時間帯は夜になっていた。そのまま、部屋に戻り軽く雑務をしていた。が、そろそろ明日に備えて寝る時間だ

 

「ふぁ~~~あ……………」

 

 

「随分大きな欠伸だななのは」

 

 それを告げるかのようになのはが大口を開けて欠伸をする。指摘されたなのはは慌てて口を隠し、恥ずかしさで顔を赤く染めた。

 

「うぅ~、見られたぁ……」

 

 

「あくびくらい小学生の時に一緒に暮らしてたときに何回も見られてだろ?」

 

 

「小学生と今は違うよぉー!」

 

 そんなことは知ったこっちゃない。が、恥ずかしそうにするなのはの姿はかわいいので目の保養になるのでよしとしよう。

 

「ほら、そろそろ寝るか?電気消すぞー」

 

 

「あ、ちょっと待ってよぉ!」

 

 なのはがベッドに寝転んだのを確認して電気を消す。お互いにそれぞれのベッドで寝る体制に入る。今日も色々あったし少しくたびれたな。明日からまた特訓再開だ。

 

「賢伍君…………」

 

 などと考えているとなのはに不意に呼ばれた。

 

「ん?」

 

 

「……………………」

 

 返事をしてみるが中々返事が帰ってこなかった。もう一度返事をしようとしたときだった。

 

「明日も………楽しい1日になるといいね」

 

 ふとそんなことを言われる。脈絡のない言葉だがなのはは楽しげな顔をしていた。

 

「それじゃあ、おやすみなさい………」

 

 

「ああ、おやすみ………」

 

 そう挨拶を交わして俺は眠りにつくことにする。なのはの言った通り明日も楽しい1日となることを祈って俺はまぶたを閉じる。このときの俺は気づかなかったが今日の1日はずっと闇との闘いを意識して肩肘を張りっぱなしになった俺にとってリフレッシュできた1日にもなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パン!…………パン!

 

 

「はぁ………はぁ!まだまだ!!」

 

 深夜に響く銃声。もう誰もが寝ている時間の訓練場オレンジの髪をなびかせたティアナが汗をかきながら激しく動いている。

 

「もっと速く!」

 

 自主練をしているのだろう。しかし今は深夜、非常識な訓練だ。明らかな過度の訓練だ。

 

「負けない!私は…………私は!!」

 

 ティアナの脳裏に浮かぶの亡き兄の面影。この兄への思いと、強くなりたいと思う気持ち。そして、周りへの劣等感。

 

「負けない!誰にも負けない!」

 

 光の英雄にだっていつか認めて貰えるくらいに………。ティアナの目標の一つでもある。この思いが、次の物語に波紋を呼ぶこととなるのはまだ誰も知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





テストはまだ終わってないですが先に投稿しました。といっても明日にテストが終わりますのでまた執筆再開をいたします。

それでは改めてよろしくお願いいたします!!


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ホテル・アグスタ ~焦りと怒り~

 

 

 

 

 

 

 

 昼間の太陽に照らされながら、俺たちはヘリでミッドチルダの首都南東地区を移動中だ。

 

「ほんならあらためて、ここまでの流れと今日の任務のおさらいや」

 

 部隊長のはやてが今回の任務の説明を行う所だ。ちなみにヘリに乗っているのは、俺、なのは、フェイト、はやてにシャマルさん、いつものFWメンバーだ。

 

「これまで謎やった、ガジェットドローン製作者および、レリックの収集者は現状ではこの男、広域指名手配者のジェイル・スカリエッティの線を中心に操作を進める」

 

 モニター画面にジェイルの画像が写し出される。

 

「こっちの捜査は基本私が行うんだけど、皆も一応覚えておいてね」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 FW陣の返事が響く。ちなみに闇の神崎賢伍に関してはすでに六課の全体集会で告知済みだ。最初は皆戸惑っていたが今は六課の全員が切り替えてすべきことに取り組んでくれている。

 

「で、今日これから向かう先はここ、ホテルアグスタ」

 

 リィンがモニターの前まで移動し、ホテルアグスタの画像を表示させる。

 

「骨董美術品オークションの会場警備と人員警護、それが今日のお仕事ね」

 

なのはも説明を追加する。

 

「取引許可の出ているロストロギアがいくつも出品されていて、その反応をレリックと誤認したガジェットが出てきちゃう可能性が高い、とのことで私達が警備に呼ばれたです!」

 

 ロストロギアがオークションで売り出されるというのは一見物騒な話にも聞こえるがロストロギアがなんでもかんでも危険で悪用にしか使われるというわけではない。

 

「この手の大型オークションだと、密輸取引の隠れ蓑なったりするからな、色々と油断は禁物だぞ?」

 

 俺の言葉に各々が頷き返す。まあ、密輸取引の摘発は悪魔でついでなのでそこまで重要視することはない。ようは普通に警備と見回りをすればいいんだから。

 

「現場には昨夜から、ヴィータ副隊長にシグナム副隊長その他数名の隊員が張ってくれている」

 

 

「私達隊長陣は、建物の中の警備に回るから、前線は副隊長達の指示に従ってね」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 はやてとなのはの付け足しで説明は以上だ。

 

「あの、シャマル先生、さっきから気になってたんですけどその箱って……」

 

 キャロがそう口を開きシャマルの足元にある4つの箱を指さす。

 

「ああ、それ俺も気になってた、なんだそれ?」

 

 俺には特に覚えのない荷物だった。

 

「ん?ああこれ?ふふ、隊長達のお仕事着♪」

 

 あー、嫌な予感しかないぞー。しゃべってる途中で微笑んでるシャマルの笑顔とちゃっかりいまいたずらを企んでニヤニヤしているはやての顔が見えて嫌な予感しかないぞー。

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 

 所変わって、ここはホテル・アグスタ前、前線メンバーはもうすでに配置につきに行った。俺達隊長陣は、シャマルが用意したお仕事着に着替えた所だ。

 

「確かにオークション会場の中の警備となったら、怪しまれないように正装で行くのは当然だ。しかしな…………」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 こんな…………

 

 

 

「こんなヒラヒラのタキシードはねえだろ!?」

 

 どこかのエリートか俺は!?首に布を巻いて風でヒラヒラさせている、そう、まるでどこかのエリート様のような格好。タキシードの色を赤に変えればどこぞの逆転検事みたいに「異議あり!」と叫びたくなるくらいだ。

 

「えー?そうかな?賢伍君似合ってると思うけどなぁ」

 

 

「うちらがチョイスしたんやから信用してや賢伍君」

 

と、ニヤニヤしながら言ってくるはやて。お前か!またお前かはやて!

 

「まあまあ、似合ってるから大丈夫だから……」

 

 フェイトが間をとるようにそう言ってくる。でもなんか納得出来ないぞ?

 

「そんなことよりも………どうや?うちらのドレス姿は?………何か言うことはないんか?」

 

 なのは達はドレスか………いいねドレス、それに六課の制服よりも全然露出が多くなっている肌が眩しいぜ……。

 

「そうだな………やっぱ皆……」

 

 

「うんうん」

 

 両手両指を怪しく動かしながら俺はこういい放つ。

 

「皆おっぱい大きくなったな。是非とも俺に揉ませて………」

 

 

 

グキっ

 

 

 

「うおおおおおおお!指がああああああああああああ!!」

 

 なんだ!?指があり得ない方向に曲がっているぞ!?

 

「そんなこと聞いとらんわ!!ドレスが似合うかどうかの話や!?」

 

 

「うわぁ、セクハラだよそれは。変態ドスケベだよ賢伍………」

 

 

「もう………賢伍君てば、そんな変態さんじゃなかったのに………」

 

 各々そんな反応を返してくるが俺からしてみればいつも通り。いつもの冗談がただ欲望に忠実になっただけである。

 

「ふふん、なのはよ、男は皆変態なんだよ!お前らみたいなスタイルよくてかわいいやつらにそんな格好見せられちゃがまんできないよ!」

 

 とりあえずはそんなことを言ってみた。いや、本当のことなんだけどよ。

 

「もう、また調子の良いこと言って…………」

 

 なのはがため息をつきながら言う。

 

「ま、素直にドレスは似合ってる。お前たちも一段と美人に見えるし」

 

 

「お?急に褒めても信用できへんで?」

 

 そう言うとはやてはなのはを俺の前に連れてくる。とうのなのははどうしたの?という顔をしていた。

 

「さぁ、自分の本心を言ってみ?さあ!」

 

 ~~~~~~~このたぬきめぇぇぇぇ。確かになのはの事が好きだっていう相談を先日したけどこんな風にしてくるとは。

 

「~~~~~~。そ、その、似合ってるしかわいいぜ?ドレス………」

 

 俺はへたれだった。なのはと言葉をつけずに3人に言ったような形になる。

 

「あ、ありがとう…………」

 

 とうのなのはの顔も俺につられてか赤くなる。全く可愛いなぁ。言われ慣れてないのかなぁこいうことは。

 

「ほな、おしゃべりは止めて、さっさとホテルにいこか…」

 

 

「そうだね、そろそろ行かないと………」

 

 俺となのはの反応を見て満足そうにしたはやてとフェイトはそう言い出した。確かにあんまし遅くなるわけにはいかねえしな。

 

「あぁ、行くか………」

 

 少し気恥ずかしい気持ちを仕事モードに切り替えてごまかしたかった。

 

「よかったね、なのは」

 

 

「フェイトちゃん!?…………う、うん……」

 

 後ろでこんな会話があったことは気づかずに俺はホテルに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

~ホテル・アグスタ内部~

 

 

 とりあえず、隊長陣の俺達もホテルに入った。そっからはそれぞれ別行動になり、ホテル全体の見回りをした。そして、俺はなのはと合流して一緒にオークション会場の見回り中である。

 

「どうだ?ホテル内の警備は?」

 

 

「うん、流石にホテルの警備は厳重みたいだよ。これなら一般的なトラブルにも対応出来るんだろうね」

 

 ま、それくらい厳重じゃないと困るしな。

 

「外には六課の皆が固めてくれてるし、入り口には防災用の非常シャッターもある、ガジェットがここまで入ってくることはななさそうだな…………」

 

 

「うん、油断は出来ないけど少し安心したよ」

 

 まあ、ここまで厳重だと俺も安心しちまうな。もうちょい緩い警備だと思ったが思ったよりも厳しくしているようだ。

 

「まあ、どっちにしても俺以外の隊長陣の出番はほんとの非常事態だけだしな」

 

 

「ホントは賢伍君もなんだけどね、何でガジェットがきたら前線に参加するなんて言い出したの?」

 

 その事か………。

 

「それは闇の俺が出てきた時のためだ。そんなホイホイと出てこないとは思うけど念のためな………」

 

 

「やっぱり………でも、ちゃんと私達を頼ってね?」

 

 先日の件もあったからだろう。なのはが少し心配そうにそう聞いてきた。

 

 

「ああ、もう勝手な行動はしないよ。皆頼りにしてる」

 

 

「うん、信じてるよ………」

 

 ありがとう、なのは。口には照れ臭くて出さないが、俺は本心でそう思った。

 

「それと、それだけじゃないんだ………理由は……」

 

 

「えっ?」

 

 なのはが首を傾げる。

 

「勿論俺だって、新人たちの良い経験の場を奪いたくない。前線と言っても、戦闘には直接参加しないでせいぜいちょっとしたバックアップだ」

 

 新人たちにはもっと強くたくましく成長してほしいからな。このような実戦はFW4人にとっては成長するために必要なことだから。

 

「ただ……最近ティアナの様子が変なんだ」

 

 よく、わからないけど………様子がおかしいんだ。ぎこちないと言うか。何だか焦っている?抽象的だがそんな風に最近感じるんだ。

 

「それが心配でな………」

 

 

「賢伍君も………感じたんだ?」

 

 も?………つうことは……

 

「なのはも……か?」

 

 様子が変に見えるのか?

 

「うん。賢伍君と同じ、よく分からないけど、何かおかしいかなって………」

 

 

「理由は俺にも分からない………けど、一応心配だから近くで様子を見ておこうと思ってな……」

 

 近くにいれば、何かやらかした時もすぐに俺が対応出来るしな。

 

「そうだね、それなら安心かな。この任務が終わったら二人で話そうと思ってるんだけど……どうかな?」

 

 

「良いんじゃないか?それが今できる最善の事だと思うぞ?」

 

 そのためにも、今日はなにも起こらないことを祈るしかないな………。

 

「分かった、じゃあ私他の所も見回りしてくるから…」

 

 

「ん?そうか、気を付けてな」

 

 

「うん!じゃあ………」

 

 そうして、なのはとは一端別れることになった。

 

「…………………」

 

 なのはが見えなくなったところで少し考えてみる。ティアナの様子が変な原因を。ティアナの最近の行動を振り返る。切羽詰まった様子に訓練時に感じる異常な疲労感。ここまでで推測すると過度な自主練をしているくらいか。しかし、それだと焦っている理由が分からない。

 自主練と関係しているのなら恐らく回りと比べて自分は成長してないとでも思っているのか?だが俺はそうは思わなかった。

 ティアナ・ランスター……。射撃の腕は抜群。的確な作戦と指示、何よりもあの根性と頑張りやな所は高く評価されるべきだと思ってる。まあ、根性と頑張りやに関しては他の新人達にも言えることだが。

 

「………………………ん?」

 

 ティアナの事を考えているとあることに引っ掛かった。

 

「ティアナ…………ランスター………」

 

 うわ言のようにティアナのフルネームをぼやく。俺が六課に入隊が決まったのは六課の始動する数日前。なので色々と関連書類を覗いたが急ぎ足になっていた。

 中でもFW4人のデータは訓練をすれば分かると思って目を通さなかった事を思い出した。

 

「ランスター…………ランスター……」

 

 だから、ティアナの姓名は自己紹介の時聞いて以来それから聞くことも口にすることもなかった。俺も含めて皆彼女のことはティアナと呼んでいたから。

 思い出せそうで思い出せない嫌な感じが続く。脳をフル回転させ情報を集める。記憶を……………記憶を…………記憶を………。

 大切な事があったはずだ。俺が失踪した時じゃない。なのはが撃墜された時の記憶でもない…………もっともっと以前の………。

 

 

 

 

 

君かい?地球から来た天才魔導師っていうのは?

 

 

 

 

 

君とは良い友達になれそうだよ。これからも一緒に頑張っていこうな。

 

 

 

 

 

君よりも年が小さい妹がいてね。僕が支えていきたいんだ。君みたいな立派な魔導師になってほしいからね。

 

 

……………………………。

 

 

 

 

あいつは犬死した役立たずの落ちこぼれだ!管理局の………私の顔にドロをぬった使えない奴だ!

 

 

 

 

 

ふざけるなぁぁぁぁぁあああ!!!!お前なんかに!あいつの何がわかるって言うんだよぉぉぉぉ!!!

 

 

 

 

 

酒飲めるようになる年まで待っててくれんじゃなかったのかよ。先に逝きやがってちくしょうが……………。

 

 

 

 

………………………………………………。

 

 

「ティーダ………ランスター……」

 

 そうか、お前の妹ってのは………そうか……そういうことかよ。神様はとんだイタズラを仕掛けてきたもんだ。俺はまた、大切な事を忘れていたんだな。自然と手に力が入った。拳がプルプルと震えるくらい。血がどんどん滲むくらい。ふつふつと沸き上がる怒りという感情に包まれて。

 

「すぅ………………はぁ………」

 

 深呼吸をして心を落ち着かせる。そうか、ティアナはもっと小さいときにあんなことになってしまったんだ。だから回りを過剰に気にして、強さにこだわって、焦っている。

 

「俺、あんたの約束を守んなきゃな………」

 

 きっとティアナもそう思ってる。多分、俺がいくら言葉を並べてもティアナには届かない。なら、根本的に解決することにする。時間はかかるかもしれない。もしかしたら永遠に解決できないかもしれない。けど………………。

 

「絶対に…………解決してやる。あんたの無念を晴らしてやる!」

 

 ティアナ云々のまえに俺がそうしたかった。そして、それがティアナを正しく導けることに繋がる事を信じて。

 

「あぁ、グリフィス俺だ。今回の事とは関係ないんだけどよ………ちょっと頼まれてくれないか?」

 

 俺はそのための行動を開始することにした。グリフィスに頼み事をして進展があるまで待つ。

 

「さて、そんじゃ警備に戻るか」

 

 と、またホテル内の見回りを始めようとしたときだった。

 

 

ドォォオオン!

 

 

ブー!ブー!ブー!

 

 

 爆発音のあとにやかましく鳴り響く警報。

 

「ちっ、来やがったか!レリックはないってのに!!」

 

 悪態をつきながらホテルの外を目指す。途中、はやてから通信が入った。

 

「賢伍君!防衛ラインにガジェットが侵入したみたいや!すでに前線のメンバーは戦闘に入ってる!賢伍君も!」

 

 

「了解!」

 

 通信を切って懐からシャイニングハートを取り出す。セットアップしようとしたが途端にティアナの顔がよぎる。

 

「頼むから変なことをしないでくれよ…………ティアナ!」

 

 不安が多かったがどちらにしろ俺がとるべき行動は前線に出ることだった。

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 所変わってホテルアグスタから少し離れた森林にて、アグスタを見つめながら佇む2つの影があった。すでにアグスタ回りには黒煙が上がっている。襲撃しているガジェットが既に破壊されているからだろう。それをただ見つめているのは大柄な男と小さな少女。

 その二人の前に突然モニターが写し出された。

 

「やあ、ごきげんよう。騎士ゼスト、ルーテシア」

 

 モニター画面に写っていたのは白衣を着た長髪の男。名をジェイル・スカリエッティ。一連のレリック事件の首謀者である。ジェイルは大柄な男をゼストと少女をルーテシアと呼んだ。ルーテシアは同じく「ごきげんよう」と挨拶を返すが、

 

「何の用だ?」

 

 とゼストはそう冷たく返す。

 

「相変わらずだね、騎士ゼスト」

 

 とジェイルはそんなに気にもせず用件を伝えることにした。

 

「アグスタにはどうやらレリックはないみたいでね。それを報告しようと思ったのさ」

 

 どうやらこの男もそれには気づいていたようだ。

 

「しかし、そこのオークションの商品で興味深い骨董品があってね。実験に使いたいからその骨董品の確保に協力してくれないかい?」

 

 この二人からすればそんなことは造作もないことだろう。だからこそジェイルは二人にそう申し出ているのだ。

 

「断る。レリックが絡んでいないのなら我らは不可侵を貫くとそう決めたはずだ」

 

 ゼストはすぐにそう答えた。何故かと聞かれれば言葉の通りだ。ゼストはゼストなりの目的があって行動している。それと今回の件は関係ない。簡単な理由だった。

 

「君はどうだい?ルーテシア」

 

 ジェイルはゼストがそう答えることを予測してたのか残念がる様子もなくルーテシアにそう問う。

 

「いいよ」

 

 ルーテシアはただそう答えた。

 

「優しいなぁルーテシア。今度是非ともお茶とお菓子を奢らせてくれ。…………君のデバイスにその骨董品のデータを送っておいたから確認しておいてくれ。それじゃあいい報告を期待しているよ騎士ゼスト、ルーテシア」

 

 

「うん。じゃあごきげんようドクター」

 

 

「ごきげんようルーテシア。あぁ、そうそうルーテシア」

 

 何かを思い出したのかようにジェイルはさらに言葉を続けた。

 

「もうひとつ伝え忘れていたよ。君に紹介したい人がいてね?私に協力してくれている者なのだが、さっきそっちに向かったからそろそろ着く頃だ。どうやら退屈で仕方なかったみたいでね。話でもしてみてくれ」

 

 

「うん」

 

 ルーテシアはそう短く返すとジェイルからの通信が切れた。

 

「協力者か………一体誰のことだ」

 

 ゼストはジェイルの口からあがった協力者について気になった。どちらにしろ自分の邪魔さえしてこなければそれでいい。その程度でしか考えていなかった。

 

「随分隙だらけだな………俺がその気になったら死んでるぜあんた?」

 

 

「っ!?」

 

 ゼストは背後からの声を聞いて驚愕した。気づけなかったからだ。ここまで近づいてくる事に気づけなかったことに驚いたのだ。気配を感じず背後をとられた。ゼストにとってはとてつもなく屈辱だった。声の主は森林の木を背に預けて寄りかかっていた。木陰で顔はよく見えない。

 

「貴様が………」

 

 

「あなたが……ドクターの言ってた協力者?」

 

 警戒心丸出しのゼストの言葉を代弁するルーテシア。ゼストとは正反対に全く警戒するどころか表情も変わっていなかった。

 

「まあそんな所だ……」

 

 声の主は背を預けていた木から離れてゼスト達に近づく。顔が徐々にあらわになった。

 

「貴様は………!」

 

 その顔を見たゼストはまたも驚いた。見覚えのある顔。いや、この世界ほとんどの人が知っている顔だった。

 

「光の英雄…………」

 

 ルーテシアがそう静かに答える。

 

「残念、外れだ。俺はお前が言う神崎賢伍じゃない」

 

 その男は六課では闇と呼ばれている存在。光の英雄、神崎賢伍の影であり闇である。

 

「俺は闇の神崎賢伍と言えば分かるか?説明すると面倒だからな。そういうものとでも思ってくれよ」

 

 

「何て呼べばいいの?」

 

 

「あぁ?」

 

 ルーテシアの言葉に闇は柄悪く返事をした。少し驚いたのだ。そんなことを言ってきたから。

 

「神崎賢伍じゃないんでしょ?なら、なんて呼べばいいの?」

 

 闇は心底返答に困った。そんなことを聞かれたことはなかったからだ。言われて見れば名前なんてないみたいなものだがそんなことは気にしていなかった。しかし、この少女は自分を何て呼ぶか真剣に考えていた。

 

「さぁな、好きに呼べ」

 

 闇はそう冷たくあしらった。

 

「ならお兄さん………」

 

 

「はぁ?」

 

 またも柄悪く返事をする。予想外の言葉だった。

 

「年上の男の人。名前は分からない。ならお兄さんが妥当」

 

 ルーテシアは表情を変えず淡々とそう答えた。いくら闇でも何を考えているのかさっぱりだった。

 

「それで、貴様はなぜわざわざここまで来たんだ?」

 

 ゼストはまだ闇に対して警戒心をとらずにそう口を開いた。ゼストにとっては予想外の人物だったからだ。光の英雄の闇だと目の前の男はそう語った。つまりは光の英雄と同等の力を持っていると言うこと。いや、肌でピリピリと感じる闇の禍々しさはもしかしたらそれ以上の力だとゼストは感じた。

 

「ジェイルから聞いてなかったのか?退屈だからだよ。それに、アグスタには機動六課が………光の英雄がいる。ルーテシアとゼストとか言ったな?お前ら二人じゃ神崎賢伍には敵わないだろ。ジェイルもそれを案じてな、俺が派遣されたわけだ」

 

 

「私達の……護衛?」

 

 ルーテシアは首を傾げながらそういった。

 

「そういう風に捉えてもいいさ」

 

 

「そんなものは要らん」

 

 ゼストが冷たくいい放つ。ゼストにとってこの闇と行動するのは心底嫌だった。

 

「ふっ………………」

 

 闇はその言葉を聞いて鼻で笑った。不気味に感じたゼストはさらに警戒心を高めた。その時だった。

 

「誰に物を言ってるんだ?ゼスト……」

 

 

「ぐっ!?」

 

 突如として闇が目の前から消える。気配は後ろに感じる。目の前にいた男から突如として背後を取られた。そして、

 

 

 

ジャキ

 

 

 漆黒の刀身が自分に向けられていたのだ。それだけではない。後ろから放たれるプレッシャーに背筋が凍る、息が止まる、汗が吹き出す。恐らく、余計な行動を起こしたら一瞬で胴体から首が離れるだろう。

 

「お前は俺より弱い。弱いやつが俺に意見をするんじゃねぇ。その首を跳ねられたいのか?ええ?」

 

 ゼストの隣にいたルーテシアも、そのスピードとプレッシャーで表情に少し驚きの色があった。

 

「俺に意見していいのは俺が気に入ったやつだけだ。今のところはジェイルだけだからなぁ………」

 

 不気味。一言で言えばそうだ。その言葉を言われているゼストが感じたものを率直に表現するとこうなった。

 

「お兄さん……………」

 

 

「あん?」

 

 不意にルーテシアに呼び名を呼ばれる。その呼び名を許可した覚えはないが好きに呼べと言ったのは自分だったのを思いだし良しとする。

 

「ゼストをいじめないであげて………お願い」

 

 相変わらずの無表情だったが闇に対してルーテシアはそうお願いした。

 

「くくくっ、ハハハハハハハハハハ!!クハハハハハハ!!」

 

 その言葉を聞いて、闇は突然笑い出した。

 

「お前、さっき俺が言ったことを忘れたのか?なのに面白いやつだ!クハハハハ!!」

 

 ルーテシアの顔は無表情だったが。頭の中は?で埋め尽くされていた。

 

「ははは………いいだろうルーテシア。お前も気に入った。お前の願いを聞こう」

 

 そう言うと闇は刀を下ろし消滅させる。闇のデバイスであるダークネスハートを待機状態にし、懐にしまう。

 

「ありがとう。お兄さん」

 

 

「最初から殺すつもりはなかったが面白いもんが見れたからよしとしよう。おいゼスト、ルーテシアに感謝するんだな……」

 

 

「はぁ……はぁ…」

 

 ゼストは返事をしない。それがまだ敵意を表していると言う返事にでもあるだろうから。呼吸を整えて小さくため息をし、ルーテシアに近づいて口を開く。

 

 「本当にいいのか?」

 

 その言葉はレリックとは関係ないジェイルの頼み事を引き受けるのか?という意味だった。そして、闇をそばに置いていて良いのか?という意味でもあった。

 

「うん。ゼストやアギトはドクターの事嫌うけど、私はドクター達のこと嫌いじゃないから。それに、お兄さんは何故だか分からないけど嫌じゃない、居心地がいいし」

 

 

「そうか」

 

 ルーテシアは羽織っていたコートをゼストに預け、魔法陣を展開させる。ゼストはそれを見守るように、闇は興味深そうにそれを観察さる。その魔法陣召喚魔法だ、ルーテシアの詠唱が終わると同時に、機械の羽虫のようなものが多数現れる。

 

「ミッション・オブジェクトコントロール…………。いってらっしゃい」

 

 その言葉を合図に羽虫達は飛び立って離れていく。

 

「さて、お前は魔法に集中していな。ジェイルに頼まれたのもあるが俺も個人的にお前が気に入ったからな。しっかり守ってやるよ。けけけ………」

 

 最後に不気味な含み笑いを付け加えて闇はそういった。皮肉にもルーテシアはその言葉に、普段六課のメンバーが光の英雄に感じる安心感と同等のものを感じた。

 

「うん、ありがとう。安心する」

 

 闇とルーテシア本人も気づかなかったが、そう言ったルーテシアの表情が少しだけ。誰にも気づかないくらいほんの少しだけ綻んでいた。

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

~ホテル・アグスタ~

 

 

 

「シャマルさん!敵の情報を頼む!」

 

 通信を繋げて、シャマルさんの今日の役割は全体のバックアップと指示だ。なので前線に出る前に情報を聞くことにする。

 

「賢伍君!敵は召喚魔法で出てきた多数のガジェットよ。ほとんどはノーマルタイプのガジェット………けど……動きがいつもと違うわ」

 

 

「動きが………?有人操作か!」

 

 

「その通りよ、恐らく敵の召喚師の仕業。ノーマルタイプだからといって油断は禁物よ。シグナムがその召喚師の捜索をしてくれているわ!賢伍君は防衛ラインのFW4人のバックアップを!」

 

 

「任せろ!………行くぞシャイニングハート!」

 

 

SH『了解!』

 

 セットアップをし、紫と黒色のベースのバリアジャケットを見にまとい。右手には日本刀を。そのまま、前線に到着。防衛ラインには大量のガジェットが。

 

「くぅ!何なのよあのガジェット!」

 

 

 

パン!パン!

 

 

 防衛ラインを守備していた新人4人は、有人操作されているガジェットに苦戦を強いられていた。ティアナが放った銃弾は、ガジェットらしかぬ動きでかわされている。

 

「お前ら!」

 

 ティアナ達4人のもとに駆け寄る。

 

「賢伍さん!」

 

 気付いたエリオがそう口を開いた。

 

「シャマルさん!戦況はどうなってる?こっちにガジェットが集まってるみたいだぞ!」

 

 ガジェットの数を見てその数を多く感じた俺は再び通信を繋げてシャマルさんに報告する。

 

「ええ、防衛ラインにガジェットが集まって来ているわ!今ヴィータ副隊長もそっちに向かってる!それまで防衛ラインを維持して!」

 

 

「了解!」

 

 通信を切って刀を構える。

 

「よしお前ら!今の通信は聞こえたな?確実にここを守るんだ!俺もバックアップする!」

 

 

「「「はい!」」」

 

 新人3人から返事が帰ってくる。そう、3人である。4人のうち1人を除いて………。

 

「バックアップの必要はありません!私達だけで充分です!」

 

 その1人が俺の指示に対して異議を唱える。

 

「ティアナ…………!」

 

 そうティアナである。その言葉はきっと強くなりたいという焦りから出てきた言葉だろう。兄、ティーダ・ランスターのとある事件が原因で。だが、だからといってティアナの言い分を認めるわけにはいかなかった。

 

「駄目だ!これは任務だ、ホテル・アグスタに人達を守るという任務なんだ。お前の私情を挟んでいる場合じゃないんだよ!」

 

 

「私情じゃ、ありません!!それに、守ってばかりだといずれ行き詰まります!ちゃんと全機撃ち落とします!」

 

 俺が却下してもティアナは食い下がる。ばか野郎………今のお前の精神状態じゃまかせらないんだよ!

 

「エリオとキャロはセンターに下がって!私とスバルのツートップでいく!」

 

 

「は、はい………」

 

 

「了解………です……」

 

俺の方を見て気にしながらも返事をするエリオとキャロ。

 

「いくわよスバル!クロスシュートA!」

 

 

「うん!」

 

 それを合図に二人は敵に突っ込んでいく。

 

「ばっ……!!無茶をするな!」

 

 

「無茶じゃありません!毎日朝晩、練習してんですから!」

 

 俺の制止を振り払い、ティアナは突っ込んでいった。

 

「ま、待て!…………っ!」

 

 止めに入ろうとしたが。俺の目の前に数体のガジェットが立ちはだかる。

 

「くっ!邪魔をするな!」

 

 

シュッ!

 

 ガジェットに向けて刀を降り下ろす。が、それは空を切った。

 

「…………ちっ!……」

 

 有人操作されているガジェットは俺の斬撃を見切ったかのようによける。

 

「なら、遠慮はいらねぇなぁ………そこをどけぇ!!」

 

 疾風速影で一瞬で距離を詰める。

 

「氷鳴斬!」

 

 

ガキン!

 

 

 一体のガジェットを氷漬けにし

 

「牙連突!!」

 

 

 ザシュ!

 

 

 2連の突きでさらに破壊する。危険を感じたガジェットがさらに数体、逃げていく。

 

「逃げられると思うんじゃねぇ!!」

 

 刀に光の魔力を込める!

 

「シャイニングバレット!」

 

 魔力少量だけ込めた魔力レーザー。数は少ないがガジェットを破壊するのには十分の威力とスピードだ。

 

 

ドオン!

 

 

 粉々になるガジェット達。しかし、今の戦闘で余計な時間を食ってしまう。

 

「ティアナ!」

 

 俺の制止を意味した声は………届かない。

 

「証明するんだ………」

 

 ポツンと呟くティアナ。魔法陣を展開し、攻撃の準備を始める。

 

「特別な才能や凄い魔力が無くたって………一流の部隊でだって………どんな危険な闘いだって……」

 

 徐々にティアナの回りにオレンジ色の魔力弾が作られている。

スバルは敵の頭上でウイングロードを展開し、敵の意識を自身に向けさせている。ようは囮をしていた。

 

「私は………ランスターの弾丸は……ちゃんと敵を撃ち抜けるんだって!!」

 

 大量の魔力弾がティアナの回りに集まる。

 

「ばか野郎!まだ、お前にはその量の魔力コントロールは無茶だ!無理をするなティアナ!」

 

 

「できます!!」

 

 

 ティアナは即答する。失敗するはずがないと信じているみたいだった。

 

「クロスファイヤー……」

 

 これを合図にスバルは敵に背を向けた。敵の意識を完全にティアナから外すためだろう。

 

「シュート!!」

 

 腕を交差させ、大量の魔力弾を発射させる。

 

 

 

 

ドン!ドン!ドン!

 

 

 

 その弾は次々にガジェットを破壊していった。キレの良い魔力コントロール。一瞬誉めてやりたいくらいだと思った。

 

 

 

しかし………。

 

 

 

 打ち出された魔力弾の内、3発の弾が、コントロールしきれず、敵から外れる。しかもその弾はウイングロードで敵を引き付けていたスバルに迫っていった…………。

 

「っ!?」

 

 自分に迫る弾に気づくスバルだが気づくのが遅かった。かわせない。完全な直撃コースだ。

 

「くそがぁ!」

 

 焦りながら俺は疾風速影でスバルに迫る魔力弾の目の前に移動する。

 

「はぁ!」

 

 刀で弾を切り落とす。が、焦って移動して位置関係をミスしたためか3発の内1発だけ刀が届かなかった。

 

「しまった!?」

 

 俺としたことが!駄目だ、今からじゃ間に合わない!

 

「くぅ!」

 

 弾丸はスバルの目前、そのまま直撃………

 

「うらぁ!」

 

 

 

ドガン!

 

 

 弾が打ち返される。ヴィータだった。アイゼンのハンマーで俺が逃した魔力弾を打ち返してくれたのだ。グッドタミイングだぜヴィータ!

 ヴィータとのお陰で、スバルはなんとか無傷で済んだ。

 

「ティアナ!このバカ!!」

 

 ヴィータが怒りの声をあげる。当然のことだった。

 

「無茶やった上に味方撃ってどうすんだ!!」

 

 当の上を見上げてティアナは呆然としていた。ショックだったのだろう。コントロールをしきれなかったことも、味方に向かって誤射してしまったことも。

 

「あ、あのヴィータ副隊長………その、今のもコンビネーションの内で……」

 

 スバルはおろおろとしながらティアナの弁解をする。しかし、それはヴィータに対して火に油を注ぐ行為だった。

 

「ふざけろタコ……直撃コースだよ今のは!」

 

 

「違うんです!今のも私がいけないんです!」

 

 なおもティアナを庇うスバル。

 

「うるせえバカ!………もういい……あとは私と賢伍がやる……二人まとめてスッこんでろ!」

 

 

「そ、そんな……待ってくだ……」

 

 

「おい…………」

 

 

「っ!?」

 

 スバルこの時驚愕した。おい、と冷たく背筋が氷るような声をあげたのは神崎賢伍、自分の教官だった。いつも訓練は厳しくも優しく、冗談を言って笑わせてくれる楽しい人。それがスバルの抱く神崎賢伍だった。

 その神崎賢伍からそんな冷たい声が、今まで見たことないような怖い顔をしているのだ。

 

「ヴィータの言う通りだ……お前ら邪魔だ………ティアナもスバルも……どっかに消えてろぉぉぉぉ!!!」

 

 

 怒鳴り声。賢伍はこれでも必死に怒りを抑える………。しかし、抑えきれる怒りじゃなかった。

 

「は……は……い…………」

 

 スバルは恐怖と驚愕でまともに返事も出来なかったようだ。それくらい、怖かったのだ。目の前にいる光の英雄が。今まで感じたことのないくらい、ただ純粋に怖かったのだ。二人を退却させ、賢伍はヴィータと敵の掃討にあたった。

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

「ふぅ……全機撃墜っと………」

 

 

 ヴィータが一息ついてそう呟く。地面にはガジェットの残骸が散らばっている。

 

「おう………おつかれ」

 

 俺はヴィータの頭に手をおき撫でる。

 

「な!?このやろ……子供扱いすんな!」

 

 赤くなりながらヴィータは怒ってくる。といってもこれはいつものじゃれあいの一つだ。

 

「まぁ、落ち着けって。後でアイス奢ってやるから………」

 

 

「ほんとか!?約束だぞ!絶対だからな!」

 

 まったく、子供扱いしたくなっちうだろが………。

 

「こっちも全機撃墜した。召喚師はみつけられなかったが………」

 

 森林の奥からシグナムが出てくる。どうやら捜索を終えて戻ってきたようだ。

 

「まぁ仕方ないだろうな。召喚師はまた今度取っ捕まえればいいだろ」

 

 ガジェットの有人操作は厄介だがな………今回は仕方ないだろ。

 

「キャロ、スバルとティアナはどこに行ったんだ?」

 

 自分で追い出しといてというツッコミはなしだ。少し、怒り過ぎたと反省しているから気になった。

 

「はい、ホテルの裏のほうで警備をしています………」

 

 

「そうか…………」

 

 ティーダ………悪いな。ちょっと今はティアナとうまくいってねぇよ。けど、ティアナの無茶を認めるわけにはいかねぇ………だってそれは………………………なのはを裏切ってることでもあるから。悔しさに俺はいつの間にか拳を力強く握っていた。

 

 

 

 

 

 

……………。

 

 

 

 ホテル裏

 

 

 

「……………」

 

 壁に手をつき震えているティアナがそこにあった。

 

「私は………私は……………」

 

 

 

 自分の不甲斐なさに、悔しく涙するティアナだった。 そして、この波紋はまだ序章に過ぎずこれからもっと大きい波紋が起こることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 





久しぶりの投稿になります。最近は気温も上がったり下がったりですね。

読者の皆様、体調には十分気を付けてくださいね!

それじゃあ、また次回話にて!



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忘れられぬ過去

 

 

 

 

 

 

 

 

「最悪だ…………」

 

 俺は誰かに聞かせるわけでもなくポツリと呟いた。

 

「ホントに最悪だ………」

 

 先程ののことをついつい思い出してしまう。ホテルアグスタの警備任務のことだ。襲撃してきたガジェットの迎撃の時の出来事。

 

「あー、くそ!なんで抑えられなかったんだよ俺は………」

 

 後悔してることは分かるだろう。ティアナの件だ。無理してミスをしてしまった事、まだ何も話し合ってもいないティアナの言い分を聞かず怒鳴ってしまったこと。あんなにキレることなんてなかったのだろう。無事にオークションも終わり、こうしてガジェットの残骸調査のと最中で地面に腰掛け頭を抱えている始末だ。

 でも、どうしても………どうしても無茶をしていることは許せなかった……。なのはの教導の意味を理解してなかったから。いや、理解しようとしなかったから。

 

なのはの思いを………。

 

あいつの教導の意味を………。

 

「はぁ………………」

 

 ため息ひとつで幸せが逃げていくと言うが今はそれも気にならなかった。結局駄目な奴なんだなぁ俺は。けど、ティアナを怒鳴ったってあいつはきっと考えを改めてくれないだろう。それに、今日の件でますますティアナは焦っていくんだろうな。だったら、やるべきことはやらないと。

 

 

PPPPPPPPP。

 

 

 ちょうどそのやるべきことに必要なものが来たようだ。

 

「おう、俺だ」

 

 掛かってきた通信を繋げる。相手は俺の予想通りの奴だった。

 

「お疲れ様です、賢伍さん。グリフィスです」

 

 

「おう、悪いなグリフィス。頼んどいた資料見つかったか?」

 

 俺がガジェットに襲撃される前に通信でグリフィスにとある頼み事をしていたのだ。

 

「はい、とりあえずすぐに見つかった資料は賢伍さんのシャイニングハートにデータを送りますね。新しい資料が見つかったら随時賢伍さんにお送りします」

 

 

「あぁ、頼むよ。悪いな、六課の仕事と関係ないこと頼んで」

 

 グリフィスにこの手の頼み事をするとすごく頼りになるがその分申し訳なさも感じてしまう。実際グリフィスの仕事とは関係ない頼みでもあるから。

 

「そんな、賢伍さんがわざわざ頼みに来るんですから重要なことなのは重々承知ですよ。それではまた連絡します」

 

 

「あぁ、ありがとな。埋め合わせはするよ。じゃ………」

 

 そう最後に言って通信を切る。そして、デバイスに送られてきた資料をモニターにして目を通す。

 

「うーん………」

 

 一通り目を通して見て見た結果。大体の概要は理解できた。グリフィスに頼んだこの資料、ある事件の資料だ。ティアナ・ランスターの兄、ティーダ・ランスター。ティーダが魔導士として扱った最後の事件。そう、ティーダは…………この事件で殉職したんだ。

 事件内容は逃亡したある違法魔導師の捕縛任務。ティーダが所属していた部隊が担当した任務だった。勿論その任務にはティーダも駆り出された。しかし………。その任務でティーダは逃げたターゲットを深追いしすぎて逆に返り討ちにあい殺された。ターゲットはそのまま逃走。任務は失敗に終わった。しかし、問題はそのあとにも続く。ティーダという魔導師を犠牲にし、なおかつ失敗に終わらせたティーダの上司は責任追求をされた。そいつは会見で怒りに任せティーダの死は無駄死にだ、不名誉な死だと吐き捨てた。

 

「……………ちっ」

 

 思い出しただけでも胸糞が悪い。その会見のせいで将来を有望されていたはずのティーダは世間で役立たずの落ちこぼれというレッテルを貼られ、時間と共に人々に忘れ去られていった。6年前の話だ。俺はこの会見のことはよく知っていたが事件の内容については俺はほとんど知らない。

 だから、俺がしようとしていることにこの書類はとても重要なのだ。事件は知らなくてもある事実だけは知っていたから。そう、容疑者は未だ逃走中だということを。

 

「はぁ……………」

 

 といってもようやくスタートラインにたったところだ。これからやることがさらに増え、そして俺がやろうとしていることが一筋縄にはいかないことに関して思わずまたため息が出る。

 

「賢伍、そんなにため息ばっかりしてたら幸せが逃げちゃうよ?」

 

 

「そうは言っても出ちゃうのは仕方な…………………えっ?……」

 

 誰だ?くいっと顔をあげ俺の名を呼んだ人と目が合う。メガネをかけた俺と年の変わらない青年ががこちらをじっと見ていた。見知った顔だった。そして、俺の口からそいつの名前が反射的に出てくる。

 

「ユーノ!ユーノじゃねえか!どうしたんだよ!なんでここに!?」

 

 

「やぁ賢伍、こうして会うのは久し………わぶっ!」

 

 ユーノがなにかいいかけたが俺はそれを待たず、ユーノにヘッドロックを決める。

 

「はははは!顔会わせんのは久しぶりじゃねえか!元気だったかユーノ?」

 

 俺が失踪し、帰還してからはユーノと連絡は少し取り合ってはいたが、顔会わすのは久しぶりだった。4年ぶりの再開の嬉しさで自然と俺の腕にも力が入る。

 

「ぐぉ!け、賢伍!ちょっ、ギブギブ!!苦しいってば!」

 

 

「なんだよなんだよ!こっちに来るなら連絡のひとつも寄越せよバカヤロー!」

 

 俺の表情は先ほどと売ってかわって輝いているが、ユーノはどんどん青ざめていく………。俺はそれに全く気づかない。

 

「け、賢伍君!?ユーノ君死んじゃうから!?ほらタップしてる!気付いて賢伍君!?顔色もすごいよ!?見たことないくらい青いよ!!?」

 

 いつの間にかいたのかなのはが慌てながらヘッドロックを決める俺の腕を外す。

 

「はぁ……はぁ……ぐぉぇ!や、やあ賢伍、久しぶりに会えて嬉しいよ……」

 

 特に何もなかったかのように振る舞うユーノだが、少し顔色が悪い。が、気にしないでおこう、気にするな。気にしたら負けだ。

 

「ああ、俺も嬉しいぜ。元気そうでよかったよ」

 

 ユーノとはジュエルシード事件から闇の書事件で背中を合わせてきた戦友であり親友だ。だから、ユーノと会えたのは素直に嬉しかった。

 

「うん、でもなんでユーノがここにいんだ?」

 

 ユーノは管理局が集める情報、事件やその他諸々がまとめられている無限書庫の室長を勤めている。普段は忙しいらしくこんなところにいるのに疑問を感じた。

 

「ああ、このオークション品の鑑定を頼まれてね。さっきまでオークションを一緒にやってたんだよ」

 

 

「で、私はユーノ君の護衛をしてるの。無限書庫の室長でもあるからね。護衛は必要だってはやてちゃんがね……」

 

 うん、確かに納得がいくな。なのはとユーノが二人きりってのはちょっと妬きそうだけど………、いやもう軽く妬いてる。よし、殺すか。小学生の時にフェレット姿で合法的にアリサやすずか、なのは達と風呂に入ってたりしてたしな………。よし、殺そう。

 

「…………け、賢伍?どうしていつの間にかセットアップして刀を握ってるんだい?」

 

 

「いや、何でもないよ。ただ、妙にお前に殺意が湧いてな?ちょっとみじん切りにさしてくれよ?」

 

 

「どうしてさ!?」

 

 

「うるさい変態フェレット」

 

 

「変態フェレット!?」

 

 この言葉を聞いたユーノが地に膝をつく。余程ショックだったのだろう。しかし、事実だからな。このまま追い討ちして首を…………。

 

「賢伍く~ん?」

 

 

ドスッ

 

 

「ぐほぉ!?」

 

 脇腹に食い込んでくるなのはの肘鉄。ヤバイよそれは。いいとこ入った!いいとこに入ってる!?

 

「もう、ユーノ君いじめてどういうつもりなのかな~?」

 

 

グリグリグリ

 

 

「ぎゃあああああああああ!!!!!」

 

 一時の嫉妬心でとんでもない行動を起こすのはよくない。当たり前のことだが今俺の胸に深く刻まれた。

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

「そ、それじゃあ、僕はもういくね………」

 

 時計で時間を確認するユーノ。室長ともあれば色々忙しいのだろう。

 

「護衛は大丈夫だから、なのはと賢伍もケガしないで頑張ってね、それじゃあ!」

 

 そういってユーノは小走りにホテルに向かっていく。

 

「あぁ、お前もしっかりな、体壊すなよー!」

 

 

「ユーノ君!またねー!」

 

 ユーノは振り返り、少し笑顔を見せて手を振った。俺となのはもそれに応じて手を振り返す。

 

「…………………はぁ」

 

 ユーノが見えなくなったところでふとため息がでる。多分またしばらく会えないだろう。すこし寂しさを感じつつ声をかけてくれたユーノに感謝する。

 

「それで?」

 

 

「うん?」

 

 ふとなのはに声をかけられる。

 

「私達が来る前にどうしてそんな難しい顔してたの?」

 

 

「えっ………あ、あははは………お見通しか………」

 

困ったな……そんな顔に出てたか?

 

「賢伍君とは小さい頃からいっしょだもん、少しくらいの変化はわかるもん」

 

 ニコッと笑うなのは。別のやつだったら見通されるのはいやだけどなのはに見通されるのは何故か嫌じゃなかった。

 

「まあ、聞かなくても理由は分かるけどね………ティアナのことでしょ?」

 

 

「なんだよそこまでお見通しかよ、最初から聞くなよな………」

 

 頭をポリポリとかく。ヴィータ辺りから今日のこと聞きやがったな、あのお節介やきめ。

 

「にゃはは……ごめんごめん」

 

 まあ、なのはにも完全に無関係ってわけじゃないからいいだろ。同じ教官な訳だし。

 

「賢伍君がティアナに少し叱りすぎちゃったのかどうかは実際に見てなかったから分からないけど………」

 

なのはは優しく俺に語りかけてきた。

 

「それでも、賢伍君はちゃんと叱るべきことで叱ったんだから………そんなに落ち込むことはないよ!」

 

 元気付けてくれるように俺にそう言ってくれる。いとおしく感じた。俺にそんな甲斐性があればこの場で抱き締めたい所だ。

 

「ま、そんな事出来ないけどな………」

 

 

「ん?」

 

 

「いや、何でもないよ。ありがとう………なのは」

 

 ポンポンと頭を優しく叩き感謝の念を伝える。栗色の髪はいつも通りさらさらしていて。当のなのはは満更でもなさそうな顔をしてくれている。

 

「うん!どういたしまして」

 

 そしてまたニコッと笑う。なのははやっぱり笑顔が一番似合う。この笑顔が好きだから、俺は……………俺は………。

 

 

 

 

ドクン

 

 

 

 

「…………っ!!」

 

 体の中の何かが脈打った。血の気が引いていく感覚。体が冷たくなっていくのが分かる。そして、何故か頭は冴えている。急に脳内にある記憶の映像が再生される。自分の意思ではなく、勝手にだった。今目の前の写っているのはニコッとしたなのはの笑顔。

 そして記憶の映像に写っているのも、今の笑顔と大差ないなのは笑顔だ。ただ違うとすれば状況が違う。目の前にいるなのはは教導官として頑張っている現在のなのは。記憶の映像のなのははまだ小学生の頃のなのは。そして、今いる森林の対して映像に写っているのはある病院の病室。映像にはベッドの上に病院服の姿でなのはが俺に向かってニコッと笑っている。

 

 

 

 

 やめろ………流すな………止まれ…………止まれ…………。

 

 

 

 

『しょうがないよ、私が勝手に無茶したことだし。でも心配してくれてありがとう賢伍君』

 

 

 

 あのときのことは………。なのはを守れなかったあのときのことは…………。

 

 

 

『何で!何でなんだよ!どうしてこうなっちまうんだよぉ!!』

 

 

 

 

 俺の人生で一番後悔した出来事を………おもいださせないでくれ!!!!!

 

 

 

 

『お前は無力だ…………』

 

 

 

やめろ!止まれ!!

 

 

 

『無力なんだよ………』

 

 

 

やめてくれ!もう、止めてくれよ!!

 

 

 

『力が、力がほしい…………』

 

 

 

 

守るために。なくさないために力を………。

 

 

 

『力を力を力を力を力を力を力を力を力を』

 

 

 

『ちからちからちからちからちからちからちからちから!!!!!!!』

 

 

 

 

とまれぇぇぇえええええええええええ!!!!!!

 

 

 

 

 

バキン!

 

 

 

 

 

 

 

「…………はっ!!」

 

 今のは……………。あぁ、なんで急に………あの時のことを思いだしてんだよ………。あれはもう終わったことだ。終わったことなんだ。落ち着け…………落ち着くんだ………。

 

「け、賢伍君?………どうしたの?大丈夫?」

 

 いつの間にかなのはが俺に寄り添って心配そうに見つめていた。落ち着けよ俺………。大丈夫だ。大丈夫。

 

「あぁ、悪いなのは。別に何とも…………ぐっ!!?」

 

 唐突に訪れる腹部の激痛。例の古傷。今までとは桁違いに傷が痛み出す。

 

「ぐ、ぐあぁあ!」

 

 

「け、賢伍君!?」

 

 腹の中がズキズキと暴れまわっているように錯覚させられる。熱い、痛い!

 

「ぐっ、ぐうう!!」

 

 ち、鎮痛剤を…………。そう思い激痛に耐えてポケットをまさぐるが薬は見当たらない。しまった、最近ほとんど使ってなかったから部屋に置いておきっぱなしだった!

 

「ううぅ!うぅぅうううう!!」

 

 歯を食い縛り痛みにただ耐える。そして、痛みと同時にまた記憶がフラッシュバックする。

 

「賢伍君!しっかりして!今ホテルの医務室に」

 

 慌てながらなのはは俺を抱えながら医務室に向かう。俺も辛うじて医務室に向かって歩を進めるが激痛に耐えきれずに半分意識を失っていた。

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

「シャマルさん!賢伍君が!」

 

 倒れ混むように医務室の扉を乱暴に開けて入る。防衛任務が終わり調査に入った段階でアグスタの設備の医務室にシャマルさんは待機していたのだ。

 

「なのはちゃん!?それに賢伍君も、一体どうしたの!?」

 

 

「ぐあああ!ぐぅううう!?」

 

 俺は未だ激痛で古傷を押さえながら叫んでいた。叫ばないと、痛みでどうにかなってしまいそうだった。

 

「……………分かったわ。賢伍君をベッドに寝かせてくれる?そしたらなのはちゃんは医務室から一旦でてもらえるかしら?」

 

 俺の状況をみてなにが起きているのか察したシャマルさん。古傷が原因のことも気づいてくれているようだ。

 

「えっ?でも…………」

 

 

「大丈夫よなのはちゃん。痛そうにしているけどすぐに良くなるわ。だから心配しないで。それにちゃんと治療の集中したいから、ね?」

 

 

「分かり………ました」

 

 そう言われたなのはは少し不満そうだったが了承してくれる。

 

「ごめんね?少し時間がかかっちゃうからホテルの近隣の調査に戻っててもらえる?治療が終わったらなのはちゃんにちゃんと連絡するから」

 

 

「はい………お願いします………」

 

 なのはは最後に俺をチラッと見てそのまま調査に戻っていった。

 

「ぐううう!!うう!」

 

 そこでかたが外れたように俺はまた叫ぶ。

 

「賢伍君!鎮痛剤は?」

 

 

「ぐおお!……六課に………ぐうううう!!!」

 

 置いてきたとまでは言葉が紡げなかったがこれで伝わったはずだ。

 

「ちょっと待ってて!」

 

 そういってシャマルさんはポッケか小さいポーチを取り出して中から沢山の錠剤を取り出した。

 

「あなた用の鎮痛剤よ、早くこれを飲んで!」

 

 そういわれて俺は口をこじ開けて薬を飲み込む。シャマルさんからコップに入った水を手渡されてそれも一気に喉に通した。

 

「ぷは!…………はぁー!はぁー!」

 

 徐々に痛みが和らいでいく。ズキズキとした感覚は徐々に弱くなり俺も落ち着きを取り戻す。

 

 

「はぁー…………」

 

 最後に息を大きく吐いて完全に落ち着きを取り戻す。まだ少しだけズキズキと痛み出すがどうと言うことはない。

 

「ごめんシャマルさん………」

 

 自然と謝罪の言葉が出ていた。

 

「いいえ、最近痛みは少ないって言ってたからついつい置いてきちゃったのよね。鎮痛剤は」

 

 シャマルさんは気にした様子もなくそう言葉を続けた。

 

「でも、一度こうなった以上これからはちゃんと鎮痛剤を常備しててね。またなのはちゃんに心配をかけちゃうから」

 

 

「あぁ、気を付けるよ………」

 

 そういってベッドから起き上がろうとする。

 

「あ、痛みが完全に引くまでまだ寝ててちょうだい?それに、色々と調べないと行けないし………」

 

 俺は黙って指示に従い、ベッドに寝転んだ。

 

「それじゃあ、先に傷を見せてくれる?」

 

 俺は黙って上着を脱いでシャマルさんに傷を見せる。俺が見た感じは特に傷に変化はないように見えた。出血をしているわけでもないみたいだ。しかし、シャマルさんは少し深刻な表情をしながら口を開いた。

 

「少し………本当に少しだけだけど………傷が少し開いているわ………」

 

 その言葉に俺は少し頭がクラッとする。最近は順調だと思っていたがまたひどくなってしまった。少なからず、その言葉を聞いて少しショックだった。

 

「といっても、これくらいならすぐに元に戻ると思うわ。もちろん無理をしない前提での話よ?」

 

 それを聞いて少しホッとする。ならば、たいしたことは無さそうだ。すごい痛みだったが。

 

「でも原因はなにかしら?心当たりはある?任務中にお腹に攻撃を受けたとかそういうことは?」

 

 

「いや、そんなことは全くなかった。ただ………」

 

 

「ただ?」

 

 

「ただ、傷が痛み出した直前に………あの時記憶がフラッシュバックしたんだ」

 

 

「………………」

 

 シャマルさんは黙ったままだが、なんのことかは理解してくれている。あの時とは……8年前、なのはが撃墜し大ケガしたときの事だ。

 

「なのはがベッドの上で皆に心配かけないようにして無理に笑顔を見せてた時の記憶が唐突に流れて来たんだ………そしたら、後はそれに関する記憶が波のように押し寄せてきて、それで…………」

 

 

「いいわ、もう分かったから」

 

 シャマルさんは優しく微笑みながら俺にそういい放った。俺も話すのはやめた。そして、シャマルさんは少し何かを考え始める。

 

「でも、今回のことではっきりしたことがあるわ」

 

 

「えっ?」

 

 考える動作を止めるとシャマルさんはすぐに口を開いた。

 

「もう8年も経っているのに、どうして傷が完治しないのかずっと疑問に思っていたわ。それで、前から考えていた事なんだけど、今回のことで間違いないと思うわ……」

 

 シャマルさんは少し困った顔をしながらこう続けた。

 

「医者の私がこれを言うのもおかしな話なんだけどね?病は気からっていう言葉あるだけど…………」

 

 その言葉は聞いたことがある。実際にただのお馬鹿な根性論等ではなく、気の持ちようで病気も怪我もどうにかなるっていうのはデータとしても証明されている。

 

「賢伍君はいまだに乗り越えられていないのよね?なのはちゃんが撃墜したときの事件を…………」

 

 

「………………っ」

 

 返す言葉がなかった。その通りだ、あの事件は俺にしたら永遠に終わらない。終わらせられない。なのはが無惨にも傷つき、血を流した。忘れられるはずもない、俺がなのはを守れなかった贖罪かのように残り続ける腹の傷。そして、思い出すたびに痛み出す。最初から俺もシャマルさんも答えに気づいていたのかも知れない。

 この傷をなのはに隠しているやましさや未だに俺の心に深く残り続けるこの撃墜事件。最初から、消えてくれるわけがなかったのだ。この傷は罰なのだから……。守れなかった、そして自分も無茶をした罰なのだから。すでに、俺にはこの傷を見るたびに事件を思い出しては痛みを感じるトラウマのようなものだったからだ。

 

「賢伍君自身が過去に向き合って、それを克服するまでその傷はもしかしたら消えないかも知れないわ…………。自分でも原因は分かっているはずよ、なのはちゃんにずっと隠しているやましさや、それに伴う負の感情が傷が残り続けている理由よ」

 

 なるほど、それで病は気からって事か。言いたいことは理解したし、納得はした。しかし、俺の答えは決まっている。

 

「けど、なのはにこの事を話すわけにはいかない。あいつは自分を責めすぎるんだ、あいつの心に傷をつけたくはない」

 

 なのはが原因じゃないのに、なのはに真実を話したらなのははきっと自分を責めるだろう。だからこそ、俺はたとえこの傷を永遠に背負うことになっても話すつもりはない。

 

「……………そう言うと分かっていたわ、賢伍君なら」

 

 だから、シャマルさんも俺の答えについて何も問うつもりはないみたいだった。

 

「とりあえず、これからこんなことが頻発するかも知れないわ。とりあえず鎮静剤は持っておくこと!今は私の持っている薬を持っていってね?」

 

 そういって薬を手渡してくる。

 

「そして、これから毎日診察に来ること!いいわね?サボらないようにね、なのはちゃんに心配をかけたくないでしょう?」

 

 

「あぁ、勿論だ」

 

 俺自身、またあんな痛みを味わうのはごめんだからな。

 

「それじゃ、とりあえず今日はもういいわ。休んで………ここの階のホテルの部屋なら使っても問題ないからそこでね?なのはちゃんには連絡しておくから」

 

 

「あぁ、流石に少し休まして貰うよ。色々と迷惑かけちゃって悪かったよシャマルさん」

 

 シャマルさんの「気にしないで」という言葉を聞いてから俺は部屋を後にし、そのまま別の部屋に適当に入る。中は普通のホテルの一室でベッドと適当に家具が少し置いてある部屋だった。そのままベッドに寝転がった。

 

「やっぱり………俺はまだ怖がってるんだな………」

 

 

 あの事を………。

 

 

 

 俺やなのはが管理局に入隊して数年………11歳の頃に起きたことだ。高町なのは撃墜事件。世間ではそう呼ばれていたらしい。管理局の任務中に起きた事件だった。なのはとヴィータがその任務についていた。いつものなのはなら造作もない任務だった。

 しかし、事件は起きた。実力者だったなのはには危険な任務の連続での疲労。11歳という体では負担のかかる砲撃魔法。そして、自分の限界を無視したなのはの無茶。これが重なりなのはの動きが本調子ではなく、任務中のターゲットだったガジェットらしき大群に滅多うちにされた。

 至るところに刺し傷、出血多量。そして、魔導士には魔法を使うために絶対に必要なリンカーコアまでも酷く損傷した。魔法どころかこの先歩けるかどうかも危うい状況だった。

 

「あ、賢伍君!」

 

 俺がなのはのお見舞いにいったのは事件が起きてから2ヶ月後のことだった。俺はある理由ですぐになのはのお見舞いには行けなかった。とんだ薄情なやつだった。それでもなのははベットの上で笑顔で俺を迎えてくれた。俺と話をするときも笑顔を絶やさないでいた。

 

 

……………無理していることは一目瞭然だった。

 

 

「なのはさん、リハビリの時間ですよ」

 

 

 俺の最初のお見舞いは看護師のこの言葉で終わった。なのはと互いに別れを告げて俺は病室をあとにした。そしてこっそり、なのはの後を着いていった。また魔法使いとして飛ぶことを選んだのはフェイトから聞いていた。だから、リハビリを見ようと思っていた。

 

「うぅ!……あっ!」

 

 手すりがないとまともに歩けない。むしろ手すりがあってもまともに歩けていなかった。

 

 そして………

 

「くっ!……うう!!」

 

 苦しみ、痛みに悶える表情は他人から見ても辛いものがあった。俺は見ていられなくて、その日は最後まで見届けることなく病院をあとにした。それからは、なのはが退院するまでは頻繁にお見舞いにいった。遠回しになのはに魔導士を止めるようにも言った。直接言ったときもあった。

 

「私は、賢伍君がいくらそういっても諦めないよ。だって、私はやるべき事が出来たから」

 

 そういってなのはは拒んだ。それからは俺もなのはの意思を尊重することにした。

 

 今でもたまに思うことがあった。俺はアナザーの件で1人姿を消して旅をしていたときも、皆のお陰で戻ってくることが出来た後もずっと思うことがあった。なのはに魔導師を続けさせてよかったのかと。確かに今のところ大きな問題はない。教導官としても優秀だし機動六課としてもしっかりと任務もこなしている。俺が失踪する前よりも一段と魔導師として成長していた。

 

 それでも、もし何かあったら?

 

 

 撃墜事件のような事があったら?

 

 

 またなのはを守れなかったら?

 

 ……………やめよう、嫌なことを考えるのわ。それにこれじゃあなのはの事を信じていないみたいじゃないか。なのはは魔導師としても優秀なんだ。なのはの力を信じないでどうするんだ。

 

 

 

 

 

 

ガチャ

 

「あ、この部屋にいたんだ?」

 

 扉を開く音と共になのはの声が聞こえた。

「おー、なのはか。調査は終わったのか?」

 

 

「ううん、まだ途中だけど抜け出して来ちゃった。賢伍君、具合はどう?」

 

 心配そうになのはは聞いてきた。

 

「あぁ大丈夫だ。ちょっと賞味期限切れ牛乳を一気飲みしたのがあたったみたいでな。すごい腹痛を起こしたみたいだよ」

 

 我ながら下手な言い訳である。

 

「そ、そうなんだ?」

 

 なのはも少し苦笑いをしていた。

 

「それじゃあ、もう体調は大丈夫?」

 

 

「ああ、問題ないよ。大丈夫」

 

 なのはは そっか」と言って満足したようだ。まったく心配性なやつだ。

 

「で、また考え事してたんでしょ?こんどは何を考えてたの?」

 

 ああ、相変わらず俺に関してだけはなんて洞察力なんだろう。

 

「なのはには関係ないことだよ」

 

 とりあえずこう答えておけば安心だろ。

 

「…………………」

 

 

「分かった!分かったよ!言うよ!」

 

 そんな目で見るな!全く。

 

「昔の事思い出してたんだ」

 

 

「昔の事?」

 

 なのはが首を傾げた。

 

「なのはが………撃墜されたときの事だよ」

 

 

「──────っ!」

 

 なのはの表情が変わった。嫌なことを思い出させたくなかったんだけどな。

 

「どうして………今その事を思い出したの?」

 

 率直な疑問だった。

 

「ティアナの事を考えてたらちょっとばかし似てるかなって思ってさ。今のティアナがあの頃のなのはに。無理に仕事について、遠慮して断ることも出来ないなのはがいく必要のない仕事に駆り出されて、それを重ねても休むことなくこなしてさ」

 

 

「あはは……もう反省はしてるんだからそんなにいじめないでよ~」

 

 なのはがちょっと困った顔をしてる。うん、その表情のなのはもいいな………っと何考えてんだ。

 

「それでさ、俺なのはが大ケガして入院した時にさ、すぐになのはのお見舞いに行けなかったよな?それでちょっとさ…………」

 

 

「うーん、まだ気にしてたの?しょうがないよ、管理局のお仕事で遠出してたんだよね?」

 

 

「そうだよ………そう、仕事があって……さ……」

 

そうだ、仕事があったんだ。

 

仕事があったんだよ。

 

仕事がさ。

 

 

仕事が………………

 

 

 

 

 

 

 

なのは!?なのは!しっかりしろよ!なのはぁ!!

 

 

 

 

 

この機械グズどもがぁ……ぶっ壊してやる!!

 

 

 

 

 

やらせるかよ……これ以上俺の大切な人を傷つけさせてたまるかよ………うっ……

 

 

 

 

…………。

 

 

 

全くなんて無茶するの!なのはさんのそばには貴方がいなくちゃ行けないのよ!

 

 

 

 

 

その傷では高町なのはに余計に心配させるだけだお前はそれが治るまで面会は控えといた方がいいだろう。

 

 

 

 

ごめん!ごめん賢伍!なのはだけじゃなくて賢伍も……二人を守れなかった……本当にごめんなさい!!

 

 

 

………………。

 

 

 

「……………っ」

 

 

 

 くそ、また余計なこと思い出しちまった………。せっかく引いてきた腹の痛みが少しだけぶりかえしてきた。

 

「賢伍君?………」

 

 なのはが心配そうに俺の顔をのぞきこんでいた。

 

「大丈夫、なんでもないよ」

 

 

 なんでも………。

 

 

「…………うん……」

 

 納得いってなさそうな顔をしていたがなのはは深く聞かないでくれた。

 

「賢伍君………」

 

 

「ん?」

 

 なのはが真っ直ぐこっちを見つめていた。

 

「さっきの続きなんだけど………」

 

 ぐっと少しだけ詰めよってくるなのは。一体どうしたんだ?

 

「お、おい………」

 

 俺が困惑するなかなのはは口を開いた。

 

「私……賢伍君が忙しくて最初にお見舞いにこれなかったこと……気にしてないからね?」

 

 

「………なのは………」

 

 

「賢伍君が初めてお見舞いに来たときに賢伍君すごい謝ってたの……覚えてる?」

 

 

「ああ、覚えてるよ」

 

 あの時の出来事は例え小さなことでもそれに関係していることは忘れてなんかいない。俺の記憶に深く刻まれているのだから。

 

「私ね?正直に言っちゃうと……賢伍君がくるまでね、すごく寂しかったの」

 

 あの頃を思い出すようになのはは語り始めた。

 

「私が自分の力を過信して、無理して、勝手に自滅しただけなのに……皆血相代えて駆けつけてくれて………」

 

 当たり前だよなのは。皆、お前の事を大事に思っているんだから。

 

「それでね?私がまた魔導師をするって決めたときも、皆私を心配して反対してくれた。皆に大事にされてるんだなぁって思ってちょっぴり嬉しくなって」

 

 最初は誰一人も賛成している人はいなかった。当たり前だ、そんな事件が起きてしまったのだから。

 

「それでも、魔導師としてやるべき事を見つけたから、ここで諦める訳にはいかなくて、家族に止められて…………賢伍君にも止められて……」

 

 当時の俺からしてみれば止める以外の選択肢はなかった。やめさせるべきだと思っていたから。

 

「でも賢伍君は最初は止めてたけど………私の意思を聞いて言ってくれたよね?」

 

 

「さあな?なんか言ったけかな?」

 

 

「ふふっ…………賢伍君はね、私にこう言ったの……」

 

 

 

 

 

『それがなのは意思なら俺が止める筋合いはない。だけど、俺の本心はもとの普通の生活に戻ってほしい。けれども、それでもなのはが続けるって言うのなら……俺がなのはを守り続けてやる。もう二度こんな事は起こさせない!俺がずっとずっと守り続けてやる」

 

 

「てね!」

 

 鮮明に覚えている。あの時の、今の俺にとってもとても大事な言葉だったから。今の言葉は誓いだったのだ。もうなのはをこんな目に会わせないと。なのはを守り続けると。

 

 しかし………

 

「俺も調子のいいこと言ったもんだよな……」

 

 

「えっ?」

 

 なのはが不思議そうな顔をする。

 

「だってそうだろ?口ではなのはを守るとか言ってさ、俺ついこの間まで皆をほっといて1人で失踪してたんだぜ?何が守るだよ。調子のいいやつだよ俺は」

 

 自分でも笑えてくる。何が守るだよ。何が誓いだよ。1人皆をほったらかして失踪して。皆に心配をかけて。守るどころかいい迷惑じゃないか。こんな駄目なやつなんだ。だからあの時も……なのはを守る事が出来なかったんだ。

 

「それでも……………」

 

 なのはが口を開いた。

 

「それでも、私は賢伍君のその言葉に救われたんだよ?」

 

 

「…………………」

 

 救われた………か。なのははそう言ってニコニコしながら俺を見ていた。そうか、確かに俺は誓いを破った。けど、だからって止まるわけにも行かない。この間改めて決意したんだ、今度こそ守ろう。なのはを。なのはだけじゃない。機動六課の皆も。たくさんの人を。俺の手が届く範囲まで。いや届かなくても守ろう。

 

 

今度こそ守ろう、この誓いを……。

 

「賢伍君?」

 

 

「えっ?」

 

 

「またボーッとしてるよ?大丈夫?」

 

 だから、俺が今やるべきことをやる。ティアナに気づかせるためにも、友の無念を晴らすためにも…………。

 

「なのは……」

 

 

「ん?」

 

 

「そろそろ行けよ?まだ調査があるんだろ?俺は大丈夫だからさ」

 

 俺はなのはの返事をまたず部屋のドアに近づく。

 

「そうだけど、賢伍君はどこにいくの?」

 

 

「ああ、俺も調査しに行くんだよ。といっても個人的な事だけどさ」

 

 まずは管理局の本部に行って、ティーダの最後の事件の資料を探しに行くかな。そっからだ。

 

「なのは」

 

 立ち止まり、後ろにいるなのはには振り返らずなのはを呼んだ。

 

「ん?」

 

 

「…………ありがとう」

 

 照れ臭くて少しボリュームを下げて言う。何に対してのありがとうなのかは分からない。でも……

 

「うん!」

 

 俺となのはなら別に口に出さなくても通じた気がした。俺が生きていく上で、なのはの存在はもはや必要不可欠となっている。だから、なのはのためにも、なのはが気付かないうちにティアナのことを解決しないといけない…………。

 なのはがそれに気づいて、傷ついてしまわないためにも………………。たとえこの選択が、後々後悔することとなることになっていても、今の俺はそれが正しいことだと思っていたから。

 

 

 

 

 

 





徐々に明らかになっていく過去。途中自分でも何を言っているのか分からなくなってきてしまいましたが。もうちょっとうまくまとめられるようにしたいですね。

閲覧ありがとうございました!!


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託すものと託されるもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーむ………」

 

 ホテルアグスタの任務から一夜明けて、調査も終わり俺達機動六課は本部に帰還した。皆それぞれ明日に向けて寝静まった。時間はもう朝日が立ち上る頃、一方の俺は自分のデスクである資料とずっとにらめっこしていた。

 

「結局その後の犯人の足掛かりも掴めてないし、情報も少ない。解決してない事件とはいえ、もう6年も経っている」

 

 事件の捜査は書類上いまだに続いているみたいだが、実際はほぼ打ち切り状態か。管理局も過去の事件に人を回せるほど人員に余裕はないかも知れないが余りにも早すぎると感じた。人が死んでいるんだし普通ならもう少し犯人逮捕のために調査を続けている筈だ。

 

「ふぁ~~~あーー!」

 

 あくびと同時に叫ぶ。結局一睡もせずに事件についてあれこれ調べたが特に進展はなし。とりあえず、当時の事件の関係者のリストは手に入れたのでその人の話を聞きに行こうかな。

 

「その前に少し仮眠……………」

 

 資料を整理して片付けてから俺は机にあった適当な本を枕にして突っ伏してそのまま仮眠を取った。寝るのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

「眠い……………」

 

 小一時間仮眠をとってからちょうど朝の起床時間になった。そのまま朝食をいただきに食堂へ。他の隊員に元気よくおはようございますと挨拶されるが眠気のせいでそれも適当に返すことしか出来なかった。

 

「うぇ、朝から重いなぁ………」

 

 メニューは朝食とは思えないラインナップだった。皿には肉、肉、そして魚!しかも脂が濃さそうな。ここまでくると端に置いてあるキャベツの千切りが腹立たしく見えてくる。しかし、とりあえず食べて置かないと後が辛いので無理矢理腹に詰め込んだ。

 

「賢伍~?早食いはあんまりよくないよ?」

 

 と、俺と同じ朝食のトレイを持って声をかけてきたのはフェイトだった。両隣にはエリオとキャロもいる。

 

「「おはようございます」」

 

 

「あぁ、おはよ……ふぁ~~~~~」

 

 挨拶してくれた二人に悪いが途中であくびが出てしまう。許せ、止められないんだ。

 

「随分眠そうだね?」

 

 そう言いながらフェイトは俺と同じテーブルにトレイを持って座る。エリオとキャロもそれに続いた。

 

「あぁ、ちょっと徹夜してな………」

 

 

「ふーん………」

 

 話を聞きながらフェイトは料理を口に運ぶ。あ、今一瞬表情が曇ったぞ。流石にフェイトも朝からこれはと思ったのかも。

 

「徹夜してまでなにしてたの?」

 

 素朴な疑問を投げかけてくる。別に話しても構わないんだけどなるべくこの事はなのはやティアナの耳に入れたくないからな。フェイトがお喋りって訳じゃないけど周りの誰かがそれを聞いてそこから広がるの嫌だしな。誤魔化すことにした。

 

「なに、別に大したことじゃないよ」

 

 

「あれ?何で隠すの?別に教えてくれてもいいんじゃないかな?」

 

 

「別に教えてもいいけど多分後悔するぞ?」

 

 

「しないしない。言ってみてよ」

 

 フェイトとしては逆に隠される方が気持ちが悪いのだろう。しかし、時としてその好奇心が自分の首を絞めることになることをおしえてあげないといけないな。

 

「なに、たまたま見つけたアレな動画が想像以上に良くてな?ずっと見てたんだよ。やっぱり巨乳物がいいなぁ!!」

 

 この発言で食堂の空気が凍ったのは言うまでもないだろう。フェイトはフェイトでさりげなくサッと胸を隠している。キャロは言っている意味が分からないようでキョトンとしていた。エリオは…………食べるのに夢中で聞いてなかったみたいだ。

 

「……………どスケベ賢伍」

 

 ぬぉぉ、思ったよりグサッとくる。しかし、ここで負けるわけには行かない。正直こんなこと言うのは頭おかしいがここで引き下がったら男じゃない。

 

「お前が教えてって言ったんじゃないか。スケベなのはどっちだよフェイト君?」

 

 

「私は………まさかそんなことだとは思わなかったから…………それになのはがいるのにそんなことしてていの?」

 

 別にまだ付き合っている訳じゃないけど、フェイトにも相談した手前、フェイトもからかいを込めて言ってるんだろう。

 

 

「それとこれとは別なんだよ、男っていうのは。昨日の巨乳の娘はなかなか良かったぞ………………なのははちっぱいだしな!」

 

 さらに空気が凍った。いや、別に冗談だぜ?俺目線だけどなのはの胸は標準サイズだと思われる。

 

「…………………」

 

 冗談だとフェイトにも伝わったと思ったのだがフェイトは少し青い顔をしながら震えていた。

 

「どうしたんだよ、そんなに震えて。別にそんなの冗……………」

 

 

「面白そうな話をしてるねぇ、賢伍君?」

 

 

「…………………………………」

 

 いや待て幻聴だろう。まさかこんな狙ったかのようなタイミングで後ろにいるわけないだろう。うん、幻聴だ幻聴。と思い振り返ってみる。

 

「………………………何の話をしてたのかなぁ?」

 

 

「…………………(ガクガクブルブル)」

 

 後ろには般若の如くオーラを感じるなのはがいた。

 

「いやー、べ、別にたいした話じゃないぜぇ?」

 

 

「ふーん、なんだか巨乳とかちっぱいとか聞こえたんだけど?」

 

 あら、そこまで聞かれていましたか。

 

「なぁ、なのは?」

 

 

「ん?どうしたの賢伍君?」

 

 この時の俺は、なんとか穏便に済ます方法を考えていた。でも、それ以上に焦っていた。だからだろう。

 

「………俺は、そんななのはの胸も好きだぜ?」

 

 そんなことを口走っていた。ちなみにそれ以降どうなったか、残念ながら記憶に残ってないので分からないが。何か恐ろしいことになったことだけは覚えていた。

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

「えっ?今日は訓練に参加しないの?」

 

 朝食後、なのはが訓練所に向かう前に俺は今日訓練に参加しないことを告げた。

 

「あぁ、多分しばらくはちょくちょく参加できない日があると思う。悪いな……」

 

 

「いや、そんなの全然構わないんだけど………一体どうしたの?」

 

 

「やることができちまってな。それが解決するまでちょっと忙しくなっちまうんだ」

 

 出来ることなら早期解決がティアナのためにもなるし、なのはにも余計な心配をさせずに済むだろうから。

 

「うーん、内容を言わないってことは………言いたくない用事なんだ?」

 

 

「………………あぁ、悪いけど詮索はしないでくれよ。終わったらちゃんと話すからさ」

 

 

「うん、分かった」

 

 なのはの返事を聞いて、俺はそこから立ち去った。午後の訓練は途中からでも参加できそうなら参加しよう。

 

「それじゃ、管理局に向かうかな……」

 

 そう思い歩を進めていると。

 

「あっ………」

 

 

「……っ………」

 

 ちょうど訓練所に向かおうとしていたティアナとスバルに遭遇した。二人は気まずそうな表情を浮かべていた。ホテルアグスタの件から一度も話してないし仕方ないだろう。俺もこんな状況は嫌だし、言いたかったことを言うことにした。

 

「……………この間は怒鳴ったりして悪かったな……」

 

 二人の頭をポンポンと撫でながらそう言った。

 

「ぇ………」

 

 二人は驚いた顔をする。

 

「そんだけだ。これから訓練だろ?俺は今日参加出来ないけど、二人とも無茶しすぎないで頑張るんだぞ」

 

 そういって俺はすぐに二人から離れる。あんまし慣れてない状況で少し照れ臭かったからだ。

 

「「は、はいっ!」」

 

 遠くからそんな二人の返事が聞けたので、俺の行動は間違ってなかったと少し安堵した。そのまま俺はバイクで管理局本部に向かった。道中またスピード違反で捕まりそうになったことは割愛させていただく。

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

「さてと、まずはこの人達からだな」

 

 本部に到着し、まず俺が始めたことは事件のリストにのってた関係者の話を聞きに来た。当時のティーダがいた部隊はちょうど今一時的に本部に出向中らしい。なので、取っ捕まえて話を聞くことにしたのだ。まだ、当時の隊員が残っていることを願って。

 

「お、いたいた」

 

 休憩中なのか本部の休憩室で駄弁っている例の部隊若い隊員を見つけた。

 

「ちょっと邪魔するぜ。悪いんだけど聞きたいことがあるんだけどさ」

 

 入って早々俺はその隊員にそう告げた。

 

「なっ、何ですか!急に!」

 

 その隊員は慌てながらそう言った。なるほど、こいつ休憩してたんじゃなくてただたんにサボってたみたいだな。

 

「いや何、別に怪しいもんじゃないよ。お前んとこの部隊について聞きたいことがあるだけさ」

 

 隊員は「はぁ」と返事を聞いてから俺は質問を口にした。

 

「あんたの部隊で、6年以上前からそこにいるって言う隊員を教えてくれないか?」

 

 

「6年以上前……ですか?……」

 

 うーんと、隊員は頭を捻る。少し待つと、何か思い出したようで口を開いた。

 

「あぁ、副隊長ですよ。6年以上前からいるのは。それ以外はいないと思います」

 

 

「そうか、その副隊長さんは今どこに?」

 

 

「多分、ここの資料室だと思います。何か調べるものがあると仰っていたので」

 

 

「OK、ありがとな。お礼に良いこと教えてやるよ」

 

 俺はそう言うと隣の休憩室を指差しながらこう言った。

 

「サボるならここより隣の部屋を使った方がいいぜ?あそこなら入り口からパッと見ただけじゃ誰が入ってるかどうか分かんないからさ」

 

 そう言ったら、若い隊員はゲッと声をあげた。

 

「ハハハ、まあサボってたことは誰にも言わないでおいてやるよ。そんじゃな」

 

 俺はそのままそこから立ち去った。若い隊員は一人取り残される。

 

「それにしても今の人どっかで見たことあるんだよなぁ………」

 

 隊員は一人記憶を振り絞り思い出そうとする。そして一つの答えにたどり着いた。

 

「あぁ!!今の人って!……………光の……英雄!?」

 

 その声は遠くに立ち去ったはずの俺の耳にまで届いていた。ちなみになぜ俺がサボりスポットを知っていたかというと、俺も本部に出向したときはよくサボっていたからである。

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

「あんたが副隊長さんか?」

 

 資料室にたどり着き、そこにいた一人の男性に声をかける。例の部隊の制服を来ていたのと、確認したリストの顔写真に6年前のとはいえ面影が残っていたからだ。

 

「む、そうだが…………君は……っ!?」

 

 リスト通りなら、この人の年齢は20代後半だ。少しそれよりも若く見えるが、目上の人ならある程度態度を変えないとな。

 

「急に失礼しました。ショウ副隊長、あなたに聞きたいことがあります」

 

 

「……………かの光の英雄が、私に何の御用で?」

 

 少し冷たい態度に聞こえるがショウ副隊長本人は別に警戒心やそういうのは見受けられなかった。どうやらただ単にぶっきらぼうな人のようだ。

 

「少し、長くなるかも知れません。お時間よろしいですか?」

 

 

「…………少し凝った話のようですね。分かりました。ここじゃ目立ちます、近くの喫茶店でお話を聞きましょう」

 

 

「ありがとうございます」

 

 そのまま、俺とショウ副隊長はその喫茶店に向かった。

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

「それで、話と言うのは何かな?」

 

 それぞれ、注文したコーヒーが運ばれてからショウ副隊長はそう口を開いた。

 

「俺の友、ティーダ・ランスター、彼が扱った最後の事件について知っていることを全て話してほしい」

 

 その言葉を聞いたショウ副隊長は、目を見開いて驚きの表情を浮かべた。

 

「……………話すのは構わないがどうしてそんなことを聞くんだ?理由を聞かせてほしい」

 

 反応から見るとこの人もきっとティーダの死を悲しんでくれた人の一人なんだろう。だからこそ、俺は正直に理由を話すことにした。

 

「俺はティーダの妹………ティアナ・ランスターの教官をやっています。………そいつが今……ティーダと同じ間違いをしようとしているんです」

 

 

「同じ間違い?」

 

 

「はい…………無茶……をです」

 

 俺の言葉を聞いてショウ副隊長は「なるほど」と呟いた。

 

「ティーダが死んだ原因は捕縛しようとした魔導師を一人で無茶して深追いをしたことです」

 

 俺はティアナにティーダやなのはや俺の二の舞にはなってほしくなかった。だからこそ、無茶と必死の違いを教えたかったのだ。

 

「そして、ティアナもその兆候があります。情けないことに教官の俺の言葉はティアナには届きません。兄のティーダの事もあるから………」

 

 ティアナは自分が強くなることで兄の世間の評価を変えようとしているんだろう。たとえ過去のことでも。妹はすごい優秀で兄と同じランスターなのだと。

 

「だから、俺がティアナの不安を払拭しなきゃいけないんです。そのためにも、ティーダの事件を解決して、ティーダの無念を晴らして、世間の評価を変えたいんです」

 

 実際にティーダは、そんな評価を受けていい奴じゃないから。ここまで言ったところでショウ副隊長の口が開いた。

 

「君が事件を解決したって世間のティーダの評価は変わらないだろう。君が未解決事件を解決したと褒め称えられるだけではないのか?」

 

 ごもっともな意見だ。確かにただ解決したならティーダの無念は晴れても世間の評価は変わらない。だが、俺にも考えがあった。

 

「俺は、6年前の事件を調べて妙だと思った点があるんです」

 

 

「妙な点?」

 

 

「はい、ティーダが……無茶をして犯人を深追いしたことです。ティーダと同期の貴方なら当時疑問に思ったはずです」

 

 

「っ!?」

 

 

「すいません、貴方のことも少し調べさせて頂きました。訓練校時代から一緒だったことと、当時ティーダを悪くいった例の上司に唯一部隊の中で楯突いたことも」

 

 

「そうか……………」

 

 そこでショウ副隊長は寂しげな表情を浮かべた。当時の事を思い出しているのだろうか。

 

「貴方も知っている通り、ティーダはエリート中のエリートでした。人柄も魔導師としても文句の付け所はなかった、そのティーダがなぜわざわざ危険な真似をしたのか?そして、なぜその犯人に返り討ちに合って殺されたのか、妙だとは思いませんか?」

 

 逃走した犯人の資料も確認したがその犯人自体も実力はさほどない。ティーダなら、造作もなく捕縛できるほどの相手の筈だ。

 

「確かに、それは私も疑問に思っていた点だ。なら、君はその行動についてどう考えているんだ?」

 

 

「……………そうせざる負えない状況だったのは確かでしょう。その理由は分かりません………が……」

 

 そこで俺はもうひとつ妙な点を口にした。

 

「この事件、実はもうほとんど調査が行われていないんですよ。人が死んで、犯人も未だ逃走中だと言うのに」

 

 

「なっ!バカな、資料には調査は行われていると!」

 

 

「資料には………です。実際はほとんど行われていません」

 

 

「なぜ君がそんなことが分かるんだ!」

 

 ショウ副隊長は声を荒げる。少し冷静さを欠いているようだ。

 

「自分で言うのもなんですが、光の英雄と言われるほど有名になっちゃいましたからね。そうなると色々と無茶な注文も出来ちゃう訳です」

 

 この肩書きは正直言って俺はあまり好きじゃない。理由を聞かれれば返答に困るが好きじゃないんだ。しかし、使えるものなら何でも使う。なりふり構ってる場合じゃないから。

 

「なるほど……済まない、大声をあげてしまって」

 

 

「気にしないでください、寧ろ嬉しいですよ。そこまで過敏に反応するということはティーダの事を深く考えてくれているっていう証拠ですから」

 

 そこで、咳払いをして話を元に戻す。

 

「おかしい点はまだあります。極端に資料が少ないものがあるんです」

 

 たとえば、犯人が一体何の罪で追われていたのか、当時の上司はどう指示をしたのか、部隊の編成、作戦は?普通なら資料には細かくそう書かれているはず。しかし、それがないのだ。特に犯人の情報、特徴や追われる原因に関しては当時の新聞の切り抜きどころか資料のどこにもない。そう、まるで犯人の情報を隠しているかのように。その有無を副隊長に伝えた。

 

「確かに、捕縛任務を受けた私達にもそれは聞かされなかった」

 

 

「きっとその謎を解けば、ティーダの行動の原因も知ることができるはずです」

 

 

「君はまさか………」

 

 

「そうです、俺はハナから犯人を捕まえようとしているんじゃない。ここまでのことを察するにこれはただの事件じゃ押しとどまりません」

 

 この推測はおそらく間違っていない、だからこそ俺は一筋縄じゃ行かないと思っているんだ。

 

「恐らく、誰かが仕組んだ事件だ。ティーダの死も、犯人の逃走も、情報操作も何もかも。そんなことができるのは管理局の局員しかいない………それも上の地位の。そして、ティーダはそれを掴んでいたのかも知れない」

 

 俺は資料見た時点でこの答えに達していた。なにせティーダが死んだんだ。あいつが死ぬほどの事件なんてただの捕縛事件な筈がない。最初からそう思っていたから。

 

「だからこそ、力を貸して欲しいんです。絶対に解決するために。友の無念を晴らすために。友が大切にしていた妹を正しく導くために」

 

 これが俺の正直な思いでもあったから。俺は、頭を下げた。別に断られたわけでもないのに自然と頭を下げていた。

 

「……………ティーダは訓練校時代からの友達だったんだ……」

 

 

「ショウ副隊長?」

 

 突然、ショウ副隊長は語り始めた。

 

「あいつとはすぐに打ち解けた。真っ直ぐで暑苦しいやつでエリートで、しかもシスコン気味ときたものだ笑ってしまったよ」

 

 そういってショウ副隊長は少し笑みを見せた。ぶっきらぼうな性格とは思えない笑みだった。ちなみにシスコンという点が一番共感した。

 

「それからほぼずっと一緒だった。一度だけ別の部隊になって別れたけどすぐにまた一緒の部隊なったんだ」

 

 そうか、この人もなのか。

 

「けど、6年前のあのとき、ティーダと一緒に出撃して。あいつが深追いし始めたところを私は止めることが出来なかったんだ」

 

 この人も、俺と同じなんだ。

 

「私が追い付いた頃には、もうティーダは冷たくなっていたんだ………」

 

 この人も俺と同じで、過去を乗りきれないでいるんだ。俺は高町なのはの撃墜事件を、ショウ副隊長はティーダが死んだ6年前の事件を……………乗り越えられないでいるんだ。

 

「君は先程、私がティーダを悪く言った上司に楯突いた唯一の部隊の隊員だと言ったね?」

 

 

「はい」

 

 

「それはね、君に触発されたからなんだよ」

 

 

「俺に?」

 

 そういってショウ副隊長が少し微笑んだ。

 

「あぁ、君だって忘れた訳じゃないだろう?あの会見でしでかしたことを」

 

 

「………………………」

 

 それを言われて俺は頭をかく。まだ俺は年齢的には大人とは言えないが当時のあれは若気の至りと言いたい。

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

~6年前~

 

 

 その日は特に何もない日だった。何もない日で暇だったからとりあえず、未だ慣れていないミッドミルダの町に一人で繰り出したのだ。行き交う人々、それにぶつからないようにただ宛もなく歩いていた。途中歩き疲れて公共ベンチに座り込んだ。そして俺はおもむろに、理由もなくビルに設置されていた大型モニターを見た。そこにはミッドチルダのニュースが放送されていて俺はボッーとそれを見ていたんだ。

 

『次のニュースです。先日報道された魔導師殺害事件について続報が入りました』

 

 誰か殺されてしまったのか?当時の俺はその時、同じ管理局で働いている仲間が死んでしまったと思った。会ったことも話したこともない人物だろうけど同じ仲間として冥福を祈ろうとそのニュースを真剣に見つめていた。

 

『殺害されたのは、違法魔法使いの捕縛任務を受けていた部隊の一人…………』

 

 だからまさか、その時、

 

『ティーダ・ランスター、21歳………』

 

 ティーダの名が聞こえたときは俺は自分の耳を疑った。

 

「なん………だって……?」

 

 それ以降、ニュースキャスターの声は俺に届かなかった。何故だ?ティーダが?何で?何で死んだ?バカな。なぜ?なぜ!?血の気が引いていく感覚を感じながら、ふらついた体を支えて俺はもう一度画面に目を向けた。

 

『今、ティーダ・ランスター氏の上官であるズーク・ライアス氏が管理局本部にて会見を開いています。中継を繋げます』

 

 映像が記者会見の映像に切り替わる。会見席に座っているのは肥満ぎみな体型をした男だった。そいつはカメラを睨み付けながら記者の質問に応じていた。

 

『ティーダ氏の殉職、及び犯人の取り逃がしは上官であるズーク氏の責任であると言う声が上がっていますがそれについてはどうお思いでしょうか?』

 

 記者のその質問にズークは青筋を浮かび上がらせた。目はさらに鋭くなりおいてあるマイクを手に取りズークは怒鳴り散らすように言葉を並べた。

 

『貴様!!私の責任だと言うか!?犯人を取り逃がしたのも、勝手に殉職したのもティーダ・ランスターという無能のせいだ!!!』

 

 ………………………何を…………言っているんだあいつは。

 

『勝手な行動をとり、部隊の行動を邪魔したのだ!!私のせいなどではない!すべてはあの落ちこぼれのせいなのだ!』

 

 ふつふつ体が、頭が熱くなっていくのを俺は感じていた。

 

『あいつは犬死にした役立たずの落ちこぼれだ!管理局の…………私の顔にドロをぬった使えない奴だ!』

 

 この言葉で俺は完全に理性と言う抑制を失った。あるのは目の前に写るこの豚野郎をぶん殴るという気持ちだけ。自然と俺は、管理局に向かって全力でダッシュしていた。

 

「はぁ!はぁ!はぁ!」

 

 走っている間にも怒りが増していった。自分でも驚くくらい、頭に血が上っていたのだ。なぜああまで言われなければならない!ティーダは落ちこぼれでも!無能でも!役立たずでもないのに!何でだ!なんでなんだ!!

 ティーダの死の悲しみを俺は激情の怒りで誤魔化していたことに気づかないまま、管理局へとたどり着く。ついてすぐに目立つところに会見場を見つけた。ちょうど会見が終わってズークが出入り口から出てきた所だった。記者たちは会見が終わると一斉に会社に戻ったようでもう無人の状態だった。好都合だ…………。

 

「まったく!!奴のせいで私の面子が丸潰れだ!あの落ちこぼれのクズがぁ……」

 

 会見が終わってもズークは不機嫌のようで性懲りもなくまだそんなことを言っていた。それを聞いて俺の怒りは頂点に達した。

 

「ズーク・ライアスぅぅぅううううううううう!!!!!!!」

 

 

「むっ、………なっ!?」

 

 ズークが俺に気づいた時にはもう遅かった。

 

 

 

ドゴォ!!

 

 

 鈍い音が辺りを響かせる。俺は全力疾走でズークに突っ込み、その汚い顔面に拳を叩き込んだのだ。当時13才だった俺の拳でもこの頃には管理局で光の英雄と言われていた俺のパンチは相当きいたはずだった。

 

「がはっ!……貴様ぁぁあ!?この私に何を………」

 

 

 

 言葉を最後まで紡がせることはさせなかった。

 

 

 

バキィ!!

 

 

「ぐはぁ!!?」

 

 今度は腹に思いっきり蹴りを入れた。こいつだけは潰す、なにが何でも潰す!!追撃に拳を握ったが、三発目は打たせてはくれなかった。

 

「おい!取り押さえろ!!」

 

 

「なっ!離せ!!この!離しやがれぇええええ!!!」

 

 

「何て馬鹿力だ!おい、手伝ってくれ!」

 

 ズークの護衛数人に、俺は取り押さえられた。

 

「誰かと思えばただのガキか!いきなり殴りかかってきやがってこのクソガキが!!」

 

 

バキッ!

 

 

「がっ!!」

 

 顔面に蹴りを入れられる。正直ものすごく痛かったがそんなことは言ってられなかった。

 

「何でだ!!何でティーダをあんな風に言ったんだ!!」

 

 俺はズークを睨み付ける。当のズークはは不機嫌そうにこう答えた。

 

「お前、ティーダの知り合いか?………よく見たら最近噂の光の英雄じゃないか!なるほどぉ………あの役立たずの知り合いだったということか」

 

 

「テメェ!もう一度ティーダを悪く言ってみろ!!テメェの顔面を原型留めなくなるくらいボコボコにしてやる!!」

 

 

「はっ!クソガキが、舐めた口を聞くんじゃねえ!」

 

 そういってズークは俺の腹に蹴りを入れてきた。

 

「ぐっ………………」

 

 

「落ちこぼれを落ちこぼれと言って何が悪い!役立たずを役立たずと言って何が悪い!」

 

 

「ティーダは落ちこぼれでも役立たずでもねぇ!!ましてや無能なんかでもない!!」

 

 力の限り拘束から抜けようとする。しかし、複数人にガッチリと抑えられ身動きが取れなかった。せめてあと一発!あの顔面に拳を入れたかった。

 

「それは間違いだ!クソガキ!光の英雄ともてはやされて、調子に乗っているのか。ティーダもエリートと言われて調子に乗っていたんだろうよ、だから犬死になんぞしたのだ!!」

 

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁあああ!!!!お前なんかに!あいつの何がわかるって言うんだよぉぉぉぉ!!!?」

 

 ただ、わめき散らかすことしかできないのが悔しくて、悲しくて。それでも、言葉を止めることが出来なかった。

 

「お、おい………なんだよあれ……」

 

 

「え?子供?」

 

 いつの間にか騒ぎを聞き付けたのか回りに野次馬が群がっていた。

 

「ちっ!行くぞ、ガキの相手なんぞしてられない」

 

 ズークはそう言って立ち去ろうとする。手を出してきたのは俺からとはいえ回りから見たら子供の俺を複数人の大人が無理やり拘束しているように見えているのだ、状況がよくないと判断したんだろう。

 

「待て!!謝れよ!ティーダにあやまれぇぇええ!!」

 

 護衛は未だに俺を押さえつけていて身動きが取れない。ズークは最後まで俺の方に振り返らず黙ってどこかへ行ってしまった。護衛も俺の拘束をといてどこかへ立ち去った。俺は一人地面に倒れ付していた。

 

「くそぉ……………何でだよバカ野郎………」

 

 ある程度頭がクールになり、怒りと言う激しい感情が消えれば後は悲しみだけが広がっていた。ティーダの死を受け入れられず、怒りと言う逃げ道を使った俺は、ただ悲しんだ。友の死を。友の無念を。溢れる涙を止められずに、俺はそこを動くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 

「あれを見られていましたか……」

 

 ポリポリと頭をかく。今よりももっと未熟だった俺が取った幼稚な行動だ。多分、今でも俺は同じことが起きたら繰り返してしまう気がするが。

 

「あぁ、それを見たら………私もいてもたってもいられなくなってね。そういう訳なのさ……」

 

 

「ははは、お恥ずかしい限りです」

 

 ショウ副隊長もきっと悔しかったのだろう。あの暴言を許せなかったんだろう。

 

「だから、私は君に託すことにしたよ」

 

 ショウ副隊長はそう言うと持っていたバックから厚いファイルを数個取り出してテーブルに置いた。

 

「これは?」

 

 

「私が、6年前から独自にティーダの事件を調査した資料だ」

 

 

「っ!?」

 

 こんなに!その量が物語っていた。この人がいかに身を削ってそれについて調べて回ったことが。どれだけティーダを思っていたのかが伝わる量だった。

 

「君が探せなかった消されていた情報も地方の資料館を回って消されていなかったものを探し当てたものがいくつかある。きっと役に立つ筈だ。それを………君に託す」

 

 

「…………………………」

 

 言葉が出なかった。これはショウという一人の隊員が、無念で死んだ友のために闘い続けた記録。丁寧な文字でしっかりと整理されてまとめられている。きっと今日資料室にいたのもそのためだったのだろう。彼は闘い続けたのだ、6年間孤独に闘い続けた。友のために、6年と言う長い歳月をかけて作り上げた結晶を俺に託すと言ってくれているのだ。

 

「実は、もう調査がどん詰まりでね。数年ほどはほとんど新しい情報はつかめていなかったんだ」

 

 そんな状況でも、彼は諦めずに闘い続けたというのか。

 

「でも君ならきっと、もっと進められる筈だ。君の話を聞いて、私は託すと決めた。だから遠慮することはない」

 

 

「……………ありがとうございます」

 

 ただ俺はそういった。他に言葉はいらない、この人は託すと、自分の6年間を託すと言ってくれたのだ。ならば、俺はそれに答えなければならない。

 

「光の英雄…………いや、神崎賢伍君!」

 

 ショウ副隊長は立ち上がり頭を下げてこう言ってきた。

 

「ティーダの…………私の親友の無念を……どうか晴らしてやってくれ!!」

 

 彼は涙ながらに訴えた。

 

「私ではここで限界だ!とても悔しいがここまでなのだ。でも君なら!私と同じくらいティーダを思ってくれている君ならきっと!」

 

 彼は、そう言ってくれた。

 

「…………貴方の6年は決して無駄なんかにはしない!俺が貴方を引き継ぎます」

 

 ティアナを目覚めさせるためにも、ティーダのためにも!

 

「俺が絶対に!あなたが託したものが無駄じゃなかったと!ティーダの死は無駄ではなかったと!役立たずの落ちこぼれではなかったと、証明する!!」

 

 俺は改めて誓った。この胸の思いを、託された熱い心を無駄にしないためにも。そして何より、ティーダとティアナのためにも。

 

 

 

 

 






しばらくはこんな感じで、話自体はあんまり進まないかも知れません。そして、初めてのまともな過去回想。一応少しずつ、伏線を回収できるようがんばります。伏線といっていいかは分かりませんが(´・ω・`)


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重荷とプレッシャー

 

 

 

 翌日、俺はショウさんから受け取ったデータを六課に持ち帰り、徹夜してそれを読んだ。ショウさんとはあの後お互いに連絡先を交換して別れた。その際にショウさんから『副隊長』と呼ばれるのは堅苦しいと言われ、今はショウさんと呼ばせてもらっている。

 

「それにしてもホントにすごいデータ量だ。どの資料も詳しく細かく書かれてやがる」

 

 内容を読んだことでショウさんがいかにこれを調べあげるのにティーダへの想いがどれ程のものか感じさせるものだった。とりあえずこれのお陰で分かった重要な情報がいくつかある。1つはティーダが追っていた犯人の情報。そもそもこの犯人が何故管理局に追われることになった原因は魔法を使いある大事件を起こしたからだ。

 その大事件とは、ミッドチルダ郊外のとある銀行を襲撃し金を強奪したこと。いわば、銀行強盗のことである。しかし、郊外の銀行とはいえ莫大の金額が盗まれたらしく犯人はそのまま逃げおおせたということだった。さて、ここで疑問に思うのはなぜそんな大事件を俺が知らないかという点だ。

 

「日付は…………11年前か」

 

 その銀行強盗が発生したのが現在から10年前、ティーダが殺される4年前のことだ。まだ俺が魔法すら知らないときの話だ。人は時間がたてば大きい出来事さえ忘れてしまうものだ。俺が管理局に入隊したときでも何年も経っている状態だ、だから俺の耳には入ってこなかったんだろう。

 

「そして、銀行強盗から4年が経って犯人の足取りが掴めて捕縛任務が実施されたわけか……」

 

 他にも気になる点は、当時のティーダの部隊の指揮官、つまりは上司のズーク・ライアス。資料によれば奴は捕縛作戦に自ら志願して自分の部隊に任せろと言い出したらしい。捕縛任務中は現場指揮官をやっていたらしいが、ショウさんいわく現場にはいなかったと言っていた。ショウさんの言葉が正しければズークはその時どこにいたのか?それもショウさんいわく、どうせサボっていたのであろうと言っていた。元々、色々とめんどくさがりやな性格らしく指揮官には向いてなかったらしい。

 

「それにしても報告書には現場指揮官と提出して実際じゃ現場どころかサボりか………」

 

 この情報自体役に立つか分からん情報だがこの事実がありながらズークは会見でティーダを罵っていたのだと思うとますます奴が憎たらしくなった。俺が調べ回っても見つからなかったのは恐らくズークがこの事実を隠蔽したかっただけだろう。ホントにムカつくやろうだ。

 

「まぁ、念のため頭の隅っこにはおいておくか」

 

 正直あまり事件とは関係なさそうだが。念のためとはいえあの野郎を頭の隅に置いておかないといけないのが腹が立つ。そのズークも現在は管理局を引退して隠居生活を楽しんでいるようだ。それなりの地位だったからかとても裕福だそうだ。いわゆる大金持ち。そんなにもらえるのか?ってくらいだ。いや、そんなことはどうでもいいけどよ。

 とりあえずその他諸々新しい情報は得られた。後は実際に独自で調査するだけだな。

 

「その前に………寝よう」

 

 少しでも寝ておかないと体が持たない。昨日と同じくまた自分のデスクで突っ伏して目を閉じる。意識が闇に落ちるのに時間はそうかからなかった。

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

「今日も訓練はお休みするの?賢伍君」

 

 小一時間仮眠を取ってから、俺はいつも通り六課の食堂で朝食をいただいていた。目の前に座っているのはなのはで、そのなのはがそう口を開いた。

 

「あぁ、まだ終わってなくてな。悪いけど今日も一人で頼むよ」

 

 

「うん、任せて」

 

 そうだ、やらなきゃ行けないことはまだ沢山ある。朝食を無理矢理喉に通して俺は席を立つ。早速出掛けよう。

 

「賢伍君」

 

 ふとなのはに呼ばれた。

 

「ん?」

 

 

「……………あんまり無理しないでね?」

 

 

「……あぁ、気を付けるよ」

 

 そう言い残し俺はそこから立ち去った。なのはに余計な心配をさせないためにも早く終わらせないとな。俺は急いで目的地に向かった。

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

「うーん、やっぱり何もないか…………」

 

 俺がまず向かったのは管理局本部。そこである許可を得にいった。ティーダが死んだ現場の調査許可。申請はあっさり通った。そして今、現場で調査をしているところだが。いった通り何も手がかりは得られていない。

 

「もう時間も経ってるしなぁ、今さらここで真新しいことは見つからないか………」

 

 あまり期待はしていなかったがやはり残念だ。

 

「シャイニングハート」

 

 

SH『はい、マスター』

 

 

「ちょうどここで逃走犯がティーダを殺したとして、そのまま管理局を欺いて逃げ切れるルートはどれか分かるか?」

 

 

SH『検索してみます…………。難しいですね、町に向かうルートは論外ですしここは見晴らしがよすぎます。逃げ切ったとは思えません。転移したと考えた方がいいでしょう』

 

 

「それも論外だ。資料によればそいつは転移魔法の使い手ではないし、機械もなしで、しかも一人でそんな長距離の転移魔法は無理だ」

 

 となるとやっぱりおかしい。どうやって逃げ切ったんだあの犯人は。単独で逃げ切れるとは思えないぞ。他に共犯が?いや、それも考えにくい。ティーダの死んだ場所を凝視する。その場所は見晴らしのいいこの場所で唯一隠れられる岩場。そこでティーダは発見された。

 

「ティーダ…………お前は何を掴んでたんだ?何を知っていた?何をしようとしていたんだよ」

 

 全然分からなかった。俺の推測はきっとティーダはこの事件の裏を知っていたのだろう。俺が必死に調べていることを知っていたんだ。だから……………一人で無茶して………。

 

「待てよ……………」

 

 違和感を感じた。逃走経路が分からない犯人。そして6年間捜索しても見つからない。そんなたいした相手でもない、負けるはずもない相手に殺されたティーダ。これが分からない以上事件の説明がつかない。ならなぜこんな事態になった?

 

「……………………………………」

 

 閃きそうで閃かない。なにか材料が足りない。材料を探さないと。今まで調べた資料を一つ一つ頭に浮かべる。どんな些細な情報も浮かべる。そしてそこから探せ、このおかしな状況を説明できるものを。なぜあの状況から逃げ切れた?なぜ6年も見つからないでいる?ティーダはなぜ負けた?資料はなぜことごとく隠蔽されていた?情報と情報をくっつけて整理する。謎のピースをはめていく。

 

「っ!」

 

 そして、1つの答えにたどり着いた。証拠も何もないが、今の状況をすべて破綻なく説明できるある答え。だが証拠がない。証拠が……………。そして、事実とは別に俺の推測も入っている。が、俺にはこれ以外に考えられなかった。ならば、このまま突き進んで行くしかないだろ!

 

「何とか、証拠を見つけないと…………」

 

 ここからの調査は俺にとって一番辛いものになるとは到底思ってもいなかった。

 

 

 

…………………………。

 

 

「くっそ!!」

 

 

 

バン!!

 

 

 つい感情的になり机を叩いてしまう。あれから数日、証拠発見に向けて俺は寝る間も惜しみ調査したがここにきてどん詰まりだった。全く見つからないのだ。

 

「だめだ、落ち着け…………。ショウさんは数年間どん詰まりの状況でも耐えてきたんだ…………」

 

 たかが数日………。すこし詰まっただけだ。諦めるな、まだ可能性はある。探し続けろ。探し続けるしかないんだ。そしてまた資料をペラペラとめくる。見落としがないかもう何周もする。しかし、数時間作業を続けたが何も進展はなかった。

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 時間はちょうど正午。俺は一旦六課に戻った。資料の整理をするためとついでに昼食を食べたかった。今日は皆が起きる前に六課をでたから朝食を食べてなかったからだ。

 

「おー、久しぶりの麺類だ」

 

 別に麺類が特別に好物というわけではないが。なんとなく新鮮だった。

 

「あ、賢伍君。帰ってきてたんだ?」

 

 席を探していたらすでになのはが席に着いていた。なのはだけじゃなくフェイトにFWメンバー4人も一緒に座っていた。

 

「あぁ、隣いいか?」

 

 

「もちろん」

 

 その言葉を聞き、空いているなのはの隣に座る。

 

「そんじゃ、いただきます」

 

 麺をすする。最近睡眠時間が減ってきてしまったせいか、食欲も出ない。が、倒れでもして回りに迷惑はかけたくないから無理にでも腹に詰め込む。

 

「賢伍、少し疲れてる?何だか元気がないみたいだけど………」

 

 目の前に座っているフェイトが俺にそう言ってきた。そんな顔に出てるのか?

 

「あ?あぁ………最近徹夜続きでな。ちょっと疲れてきたみたいだな」

 

 

「そうなの?倒れる前にしっかり休んだ方がいいよ?」

 

 そのフェイトの言葉でなのはも新人達も俺の方を見てきた。各々心配そうな表情をしていた。教え子に心配されるのは俺としても情けなかった。

 

「そうしたいのは山々だけどあんまりゆっくりしてられないんだ。だからしばらくはこういう生活になると思う」

 

 そう言葉を聞いたなのはが少し怒ったように口を開いた。

 

「もう、無理しないでって言ったのに!今日はもう休みなよ?」

 

 

「いや、だからあんまりゆっくりできないんだよ。急ぎの用なんだ」

 

 そう言って俺は席を立つ。今の状態のなのははとことん俺を休ませようとしてくるだろうから。心配してくれているのは嬉しいけど、はいそうですかって言う通りにするわけにもいかない。

 

「だめ、急ぎの用だからって賢伍君が体を壊したらもとも子もないでしょ!」

 

 そういって俺の手を掴んでくる。

 

「離してくれなのは。急がないといけないんだよ」

 

 

「…………嫌だ…」

 

 お互い気づかないうちに目が鋭くなっていた。俺もなのはも、意地でも自分の意見を通そうという気持ちだった。

 

「ふ、二人とも………落ち着いて……」

 

 様子を見ていたフェイトがおろおろしながらそう言ってきた。

 

「なのは…………」

 

 手を軽く引いてみるが掴んだ腕をなのはは離してくれない。無理矢理払うわけにも行かない。なのははずっと俺を見ていた。

 

「……………はぁ」

 

 俺もここでのんびりしてられない。少し強引だけどしょうがないか。

 

「なのは!!!」

 

 食堂全体に俺の声が響き渡る。一緒に座っていた皆だけでなく食堂にいた職員全員が俺に注目していた。その声にビクッとなのはが驚いた所でなのはが掴んでいた手を軽く払う。

 

「………………邪魔しないでくれ……」

 

 

「あっ……………」

 

 俺はそのまま食堂を後にする。

 

「……………………ごめん………」

 

 ボソッと小声で自然とそんな言葉が出ていた。なのはの心配を踏みにじってしまったけど、これは……ティアナを分からせることは、なのはのためにもなると信じているから。心がズキズキと痛んだけど気づかないふりをして、俺はまた管理局の資料室に向かった。

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

「…………………………」

 

 無言で資料とにらめっこをする。管理局についてすぐに作業を始めた。時間の感覚が分からなくなるくらい続けていたがあいも変わらず、進展はなし。さっきみたいに自暴自棄にはなってないが頭の中ではかなりイライラしていた。

 

「……………はぁ……」

 

 パサッと見ていた資料を手放す。

 

「全然証拠が見つかんねぇ…………」

 

 そもそも俺の推理が正しいかどうかさえ怪しくなってきた。しかし、これ以外は考えられない。そうじゃなければとても解決なんて出来ないからだ。

 

「………………これじゃあショウさんに顔向け出来ねぇよ……」

 

 

「私がどうかしたか?」

 

 

「うぇ!?」

 

 驚いて変な声が出てしまった。

 

「あ、ショウさんか…………びっくりさせないでくださいよ……」

 

 ショウさんは笑いながらすまないと一言言ってから俺の目の前に座る。

 

「それでどうだ?今のところの進展は?」

 

 

「俺なりに推理してみました。今はそれがあってるかどうか証拠を探しています。といっても見つかりそうにないです」

 

 ため息をつきながら俺はそう答えた。

 

「ふむ…………よければ聞かせてくれないか?君の推理を…………」

 

 

「…………………分かりました」

 

 俺はショウさんに自分が出した答えを話した。どうしてそれにたどり着いたか。根拠、可能性、理由、すべてだ。始終ショウさんは相づちを打ちながら聞いてくれていた。

 

「なるほど………確かに筋は通っている」

 

 話を終えるとまずショウさんはそう言った。

 

「しかし、君の言った通り証拠がないとそれは証明できない。6年も経っているんだ、もうすでに隠滅されているだろう」

 

 

「………くっ」

 

 やはりそうか。調査していく上で絶対どこかで行き詰まっていた。ようは隠蔽されているということだ。証拠も、目撃情報も。俺の推理が正しいなら、俺が考えている犯人が握りつぶしたのだろう。

 

「ここまできたら流石の君も打つ手はなしか………」 

 

 ショウさんはふぅと息をはいてそう言った。

 

「いや、まだです。俺はあなたの意志も引き継いだんだ。だから、こんなところでは終われない」

 

 この人の6年間を無駄にはできない。俺は約束した。ショウさん親友であるティーダの無念を晴らすと。ティアナを呪縛から解放すると。そして、なのはには何も悟られずいつもの日常に戻ると。

 

「きっと探せば………どこかに!」

 

 

「無駄だよ。それは君にも分かっているんじゃないか?」

 

 すっぱりとそう言われた。

 

「……………っ」

 

 その言葉に、俺は何も言い返せなかった。言い返す言葉が浮かばなかった。今のままの調査を続けたって、解決出来るほどの証拠は見つからない。分かっている。だけどこれ以外の方法はないんだ。調査隊を組んだところで隠滅されていたら意味がない。

 

「それでも俺は…………これを続けるしかないんです!」

 

 

「………………………」

 

 たとえ無駄な行動だとしても俺はやり遂げなければならないんだ。しつこいようだけど、ティアナのためにもティーダのためにも………。

 

「君は………ティーダは事件の裏を知っていたと推測していたね?」

 

 

「えぇ、だからこそ殺されたんだと思います。恐らく……………」

 

 俺の予測ではティーダはきっと俺が今掴み取ろうとしているものを持っていたんだろう。だからこそ、あんな不自然な形で殺されたんだ。そうでないとティーダが殺されたことが不自然過ぎるからだ。状況から見ても、殺した張本人だと思われている逃走犯の力量を考えてもおかしいのだ。

 

「だったら、君はもう答えを知っているのかもしれないな…………」

 

 

「えっ?」

 

 

「ティーダなら念には念をと、きっと何かしら対策や証拠を残していたかも…………。いや、忘れてくれ」

 

 ショウさんは途中で口を閉じた。自分の至った考えを否定したのだろう。もしもそうならそれすらも隠滅させられているだろう。完全に八方塞がりだった。

 

「とにかく君はもう帰ったらどうだ?」

 

 

「いや、こんな体たらくでは帰れません」

 

 

「…………最近鏡は見ているか?」

 

 

「えっ?」

 

 突然のその言葉に俺は驚きを隠せなかった。

 

「気づいてないみたいだから教えておくが、とてもひどい顔だぞ?そんな状態だと君の仲間も心配しているのではないか?」

 

 

「…………………」

 

 とうに心配されている。ショウさんにそこまで言われると言うことは相当ひどいのだろう。フェイトが、疲れてそうな顔をしていると言っていたがきっとオブラートに包んで言っていたのだろう。

 

「おとなしく今日は休みなさい。時間もちょうどいい時間だ」

 

 時計を見る。ちょうど局員たちも残業がなければ仕事を終える時間だった。

 

「あんまり気負いすぎるな。私は確かに君に想いを託したがそれで体を壊すと言うのなら話は別だ」

 

 すこし目が鋭くなった。ここはショウさんの言う通りにしないと不味いかもしれない。

 

「分かりました…………」

 

 俺は資料を整理してバッグにつめる。そのまま背負って帰路につくことにしよう。

 

「……………神崎君」

 

 

「はい?」

 

 

「………………ティーダの妹さんに無茶や無理をさせないために行動しているのなら。君も無茶や無理は大概にしておきなさい」

 

 

「っ!?」

 

 

「それだけだ。色々とお節介が過ぎたようだが気を悪くしないでくれ。それじゃあ、お疲れ様」

 

 そのままショウさんは立ち去って行った。

 

「……………何やってんだよ俺は」

 

 自分がしてきた行動。調査が進まず、なおかつ自分が注意しようとしたことを俺自身が破っていた。そして、なのはの心配を蔑ろにしてしまったことを今更ながら後悔した。

 

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

「……………ひでぇ顔だ……」

 

 太陽も完全に沈んだ頃、俺は六課に再び帰ってきた。まずは鏡で自分の顔を確認した。コメント通りひどい有り様だった。目の下に隈ができていて、だらしなく伸びた無精髭。とりあえず髭くらいは後で剃っておこう。

 

「はぁ………………」

 

 一旦部屋に戻ろうと思うが、昼間の一見もあってなのはと顔を会わしづらい。俺が悪いのは分かっているけども。

 

「とりあえず行くか………」

 

 歩き出す。

 

「……………っ」

 

 そこで一瞬立ち眩みを感じた。壁に手をついて倒れないように支える。

 

「くそ……………」

 

 俺が感じている以上に、体にガタが来ていたようだ。少し歩をゆっくりに進めて自室に向かう。部屋の前にまでたどり着いても、入るか入らないか悩んでいた。今日も自分のデスクで寝てしまおうかと思った時だった。

 

「あ、賢伍君」

 

 

「………なのは」

 

 後ろから声をかけられた。予想外の遭遇に少しだけ動揺する。

 

「えっと………」

 

 少し気まずくて言葉をうまく紡げなかった。きっとなのはは怒っているだろう。だからこそ、俺からなんとか話をしないと。

 

「……………とりあえず部屋に入ろっか?」

 

 そう笑顔でなのはがそういった。

 

「あ、あぁ…………」

 

 俺の口からはそう短く返事することしか出来なかった。

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

「はいコーヒー」

 

 

「………サンキュー」

 

 手渡されたコーヒーを一口。ほんのり苦味があり、甘さ控えめ。俺の好きな味だった。

 

「……………………」

 

 

「……………………」

 

 痛い沈黙が続く。昼のことを謝らないといけない。とりあえず何か言わないと………。

 

「なのは……………」

 

 

「ん?」

 

 

「…………………」

 

 …………………何か言えよ俺ぇ!?そんな口下手ではないはずだ。とにかく声を発しろ。じゃないと話が進まない。

 

「昼間は………その…」

 

 

「どう?用事の方は……」

 

 俺の言葉を遮ってなのはが口を開いた。

 

「え?……あ、あぁ……………今行き詰まってるんだ……」

 

 つい正直に答えてしまった。

 

「ふぅん………それで、何とかなりそう?」

 

 

「………………正直分からない……」

 

 つい、弱音を吐いてしまう。

 

「最初は順調だったんだ。でもあと一歩なんだ………その一歩が……果てしなく遠いんだ」

 

 正直、ここ数日は辛かった。眠い目を無理やりこすり、それでも寝そうになったら無理やり頬を叩き眠気を消した。あと一歩で目的にたどり着くと言う喜びから一変、証拠は恐らく残っていないという現実を突きつけられた。ほんとならば、真犯人をふんじばってティーダの墓の前で土下座させたい。それすら叶わない。たかが数日、されど数日。俺は完全に焦っていた。焦り続けていたんだ。

 

「結局なにも出来やしないのかよちくしょう…………」

 

 ショウさんの期待に答えられず、友の無念を晴らせず、友の大切な妹でさえ導いてやれない。俺は……………なんて……。

 

「頑張ってるんだね…………」

 

 

「………え?」

 

 

「賢伍君がそんな弱音を吐いちゃうくらい、頑張ったんだね。体が悲鳴をあげるくらい疲れてるのに、一生懸命やったんだね…………」

 

 なんで、なんでだよなのは………。

 

「なんでお前がそんな顔してるんだよ………」

 

 今にも泣きそうな悲しげな表情だった。なんでそんな顔をしてんだよ。なに泣きそうにしてるんだよ。誰のためにそんな顔をしてるんだよ…………。

 

「だって………そんなになるまでやってるのに………まだ頑張り続けなきゃいけないなんておかしいよ…………っ!」

 

 おかしくなんかない。人生はうまくいかないことの連続だ。たかだか19年しか生きていない俺でもそれは理解している。ショウさんは6年探し続けても真実には至れなかった。そういうことだ。

 

「あとどれくらい頑張らないといけないの?そんな調子でやり続けてたら……本当に体壊しちゃうよ………」

 

 

「でも、頑張らないと達成できないことなんだ。だから…………やり続けないといけない」

 

 頑張っても達成できない時もあるだろう。けど、頑張らないと達成する可能性すら消えてしまう。だから、『努力』するんだ。

 

「賢伍君………忘れてるよ………『努力』と『無茶』は違うってことを……」

 

 

「っ………」

 

 ショウさんと同じことを言われちまったな。

 

「あぁ、分かってる。だから、ここに来たんだ」

 

 

「え?」

 

 

「無茶じゃない、努力を続けるために………一旦休みに来たんだよ……」

 

 その言葉を聞いたなのはが驚くような表情を浮かべた。

 

「えっ?………ぇえ?……」

 

 

「なんだよ?おかしいか?」

 

 急にあたふたし始めるなのは。

 

「いや、その。だって私、またこのまま賢伍君が出掛けちゃうって思ってたから!だから、休ませなきゃって思って………その……色々どう説得しようか考えてたから!」

 

 ……………どうやら、また迷惑をかけてしまったようだ。

 

「俺も反省したんだよ。なのは言った通りさ。休みも必要だって。そんな当たり前のことは分かってたけどさ、ついつい目先のことに囚われちまってた」

 

 変に焦ったりして、重荷を感じていたから。だからこんな事になっちまって。教え子に注意しなきゃいけないことを自分でしてしまっていた。本末転倒もいいところだ。

 

「だから、ちゃんと自分を見つめ直して……努力するために。今日は休む。たんと寝る。すさまじく寝る」

 

 だって…………。

 

「諦めてないから。諦めないから、うまくいかなくたってうまくいくまでやり続けるだけさ………」

 

 

「うん…………それが賢伍君らしいよ……」

 

 だから俺は、休む前に言うべきことを言うことにする。

 

「……………昼間は悪かった。大声出したりして……」

 

 最初とは大違いでとても簡単にその言葉を紡げた。

 

「ううん、最初からきにしてなかったよ?」

 

 

「それでも………さ……」

 

 

「………うん」

 

 言い様のない雰囲気に包まれる。言葉では表せなかったけど、不思議と嫌ではなかった。

 

「私、今賢伍君が何をしていて何のためにそれをしているのか分からないけど………でも、応援する」

 

 

「あぁ…………ありがとう。それじゃあ、俺は寝るよ。久しぶりに明日の訓練も参加する」

 

 

「うん、分かったよ。それじゃあ私も寝ようかな……」

 

 二人して各々のベッドに潜る。各々のベッドに。各々の……………。

 

「……………なんで俺のベッドに入ってきたんだ?なのは………」

 

 自分のベッドじゃなくて俺のベッドに潜り込むなのは。いつもの俺ならここであたふたしているところだがあいにく疲れがピークを達しているためか、リアクションが薄くなる。

 

「えへへ、一緒に寝れば疲れも2倍に取れるんだよ?」

 

 

「んなわけあるか。疲れが2倍増えるわ」

 

 

「私と一緒に寝たくないの?」

 

 

「顔赤くして言うセリフじゃないだろ?」

 

 

「賢伍君だって顔赤いもん」

 

 

「それは疲れてるからだ………」

 

 お互いますます顔を赤くする。そんなに恥ずかしいんだったら最初からそうしなきゃいいのに………。

 

「まあいいや…………。とりあえず…………もう………疲れ………た…………………」

 

 俺の意識はそのまま闇に包まれた。もう限界だったのだろう。となりに寝ているなのはを気にする余裕もなく俺は寝てしまった。

 

「……………………寝ちゃった……」

 

 賢伍が寝ると、なのははすぐ手に魔力を込めた。桜色の魔力に包まれた手でなのはは賢伍の体に触れる。

 

「疲れが取れますように…………」

 

 一種の治癒魔法である。治癒といって体に溜まった疲労を軽減する治癒魔法の初級中の初級魔法。効果も少しだけだ。それでも、なのはは賢伍のためにこの魔法を使った。そもそも、ベッドに進入したのも密着してこの魔法を高めるためだ。本当なら顔が爆発するくらい恥ずかしかった。でも我慢した。下心がないと言えば嘘になるが。

 

「ふふっ、いいよね?このまま寝ちゃっても……………」

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

………………………。

 

 

 

……………。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり恥ずかしいよ!?」

 

 結局二人は別れて寝た。

 

 

 

 





今回は執筆に時間がかかってしまった。もっと集中しなければ!!

今後ともよろしくお願いいたします!


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友として





 

 

 

 

 

 

「…………うっ……」

 

 太陽の日射しが俺の目に当たる。眩しさで思わず重いまぶたが持ち上がった。

 

「ぐぅ………ぉぉおお………」

 

 ベッドでそのまま体を伸ばす。眠りから覚めたら誰もがする行為だろう。そのまま枕元に置いてある時計を確認する。

 

「……………………げっ……」

 

 完全に寝坊した……………。

 

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

「たく、なのはやつ。気ぃ使って俺のこと起こさなかったな」

 

 別に俺はいつも通り起きる予定だったんだけど、まあたくさん寝れたお陰か体は調子が良い。久しぶりにとても清々しい朝を迎えられた。

 

「あぁ、やっと見えてきた」

 

 今はダッシュで訓練所に向かっているところだ。すでに訓練は始まっている時間だ。急がないと。

 

「遅れましたぁ~!申し訳ない~!!!」

 

 

「キャア!!」

 

 えー…………?

 

「なのは、その反応はないよ。それはないよ………」

 

 本気で心にグサッとくるぜ………。

 

「え?あ、ごめんね?賢伍君今日はずっと寝てるかなって思ったから………まさかそんな奇声を発しながら来るとは思わなくて………」

 

 奇声ってお前…………。

 

「別に気をつかなくていいよ………ってなんで顔隠してるの?ていうか徐々に距離とってるよな?今」

 

 なのはを観察するとまさに言葉通りだった。両手で顔を覆いさりげなく一歩ずつ俺から離れていく。

 

「そ、そそそそ、そんなこと………ないよぉ?」

 

 いや、どもりすぎだよお転婆娘。

 

「だ、だって、今日も賢伍君休むと思ってたからいつもよりメイク薄めで………だからその………ぶつぶつ……」

 

 そこまで言ってなのはの顔がみるみる赤くなっているだろうことは容易に想像できた。最後の方はぶつぶつ言っていたから聞こえなかったけど。まったく、聞いた俺まで照れ臭くなってしまう。

 

「そんなの気にしないから、腕どけろって」

 

 なのはの腕をどけようとする。

 

「私は気にするのぉ~~~~」

 

 おっ、なのはが抵抗してきた。

 

「いいからいいから」

 

 

「うぅぅ………………」

 

 そこは男女の力の差、すこし力を入れればすぐに腕はどけられた。なのはは凄く恥ずかしそうにしていたが。

 

「何をそんなに恥ずかしがってんだよ。メイクが薄かろうがぜんぜん可愛いいだろうが」

 

 好きと自覚した影響もあるのか最近は開き直ってこの手の発言もそろそろ慣れてきた。

 

「ふぇ!か、かかかかかわっ!……」

 

 なのははまだ全然のようだが。

 

「そんな、かわいいって………賢伍君!あんまりからかわないでよ!」

 

 あるぇ!?なんでおこってんの!?

 

「メイク薄いから顔見せたくないって。なのはよ、毎朝俺はお前の寝起き顔見てんだぞ?」

 

 

「あっ!……………」

 

 

…………………。

 

 

「うゅ~~~。なんだか今まで気にしなかったのに急に恥ずかしくなってきたよぉ………」

 

 なのはは顔を真っ赤にしてぼやいていた。

 

「ははっ、まあ寝起き顔も今の顔もかわいいってのは嘘じゃないから心配すんな」

 

 

「もぉ、またからかって………」

 

 

「からかってないよ。ほら、新人たちも待ちぼうけしてるからさっさと再開しようぜ?」

 

 新人たちもポカンとした表情で待ってるしな…………。

 

「ううぅぅ~~~~~~」

 

 そう言ってもどうやらなのはは納得してないようだった。

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

「ストラーダ!」

 

 

SR『ラジャー、マスター!』

 

 

「いけぇぇぇぇえええ!!」

 

 ストラーダの槍をブースターを使い突進してくるエリオ。

 

「動きが単調だぞ!エリオ!」

 

 だが、まっすぐ突っ込んでくる分かっている攻撃は簡単かわせる。俺は身を翻して槍を交わしながら槍の持ち手を掴んだ。

 

「ほら、こんな簡単に捕まったろ?」

 

 エリオと目と鼻の先の距離で俺はエリオにそういった。

 

「くっ!うおおおお!」

 

 だが、エリオはブースターを止めずさらに加速する。

 

「おっ!?」

 

 以前よりブースターの強度が上がっている。槍を掴んだままの俺はエリオと一緒に槍に引っ張られる。このまま空の散歩に付き合うきはない。掴んだ手を離そうとする。が、

 

「何!?」

 

 手が離せなかった。よく見ると俺の槍を掴んだ手が槍ごと鎖で縛られていた。下を見ると魔法陣を展開したキャロがいた。

 

「キャロめ、いつの間に………」

 

 手が離せず、俺はそのまま槍に引っ張られる。俺もエリオも延々とぐるぐると空を駆け回るだけだった。

 

「エリオ、お前と空の散歩にいつまでも付き合う気は……………」

 

 

「スバルさん!今です!」

 

 

「っ!」

 

 そう叫んだエリオにつられ背後を見る。

 

「了解エリオ!」

 

 拳を握ったスバルがいた。

 

「やるなぁ!けどまだまだ甘いぞ!」

 

 この戦術の欠点は俺の片腕しか封じていないと言うこと、つまりはもう片方の腕が自由なのだ。その片手でエリオを引き離すか、スバルの拳を受け止めるかできる。

 

「悪いなエリオ!」

 

 自由に動かせる腕でエリオをひっぺがそうとエリオの腕を掴もうとする。

 

 

 

パァン!

 

 

「ぐっ!」

 

 唐突にその腕に痛みが走った。

 

「今よ!!」

 

 ティアナか!正確な射撃で俺の腕に魔力弾を当ててきたのか。

 

「やぁぁぁあああああああ!!」

 

 スバルの咆哮と共に拳が俺の頭に飛んでくる。腕を撃たれた時点でどうやらスバルの拳を避けることは無理だったようだ。

 

「ぐぁぁ!!」

 

 そのまま俺は地面に落下。縛られていた腕もタイミングよくキャロが解除したようだ。

 

「はいそれまで!」

 

 俺の撃墜を確認したなのはがそう声をあげた。

 

「お疲れさま!今日はみんないい連携だったよ」

 

 新人達を集めてなのはがそういった。今回の訓練は4vs1の模擬戦。俺の撃墜、もしくは10分間誰も落とされずに耐えるまで終われない訓練のはずなんだがまさか撃墜狙いとは予想外だった。

 

「おー、いってぇ………」

 

 首をふってコキコキと骨を鳴らす。スバルからもらった一発も以前と比べ相当ダメージがアップしていた。

 

「俺の予想より皆成長している。それでもまだ足りないのかよ………ティアナ」

 

 なのはの言葉を嬉しそうに聞いているスバルとエリオ、キャロを遠くから見つめる。なのはが誉めているんだろう。それでも、ティアナだけは浮かない顔をしていた。

 

「うん?」

 

 ボッーとそれを眺めていると話を終えたなのはがこっちに向かってくる。午前はこれで終わりなんだろう、新人4人は解散していた。

 

「…………大丈夫?」

 

 

「いや、結構痛いわ」

 

 

「ふふ、そう……」

 

 

「なんだ?嬉しそうだな」

 

 

「ふふふ、だって賢伍君に痛いって言わせたんだよ?皆成長してるってことだもん」

 

 

「その度に痛い思いをするのは勘弁だっての」

 

 

「ホントは賢伍君だって嬉しいくせに~」

 

 

「人をドMみたいに言うんじゃない!」

 

 そう言って俺もなのはもクスクスと笑う。下らない会話もなのはと話すのが一番楽しい。

 

「じゃ、私達も戻ろっか?午後はどうするの?」

 

 

「あぁ、午後は用事を済ましてくるよ。また、いつもとは違う用事があるんだ」

 

 

「違う用事?それって…………」

 

 

「あ、いたいた!賢伍さん!!」

 

 なのはが何かをいいかけた所で誰かが俺の名を呼んだ。

 

「うん?……ヴァイス?どうしたんだ?」

 

 小走りで俺のもとに来たヴァイスに俺はそう言った。

 

「あぁ、すんません。ちょっと………いいスか?」

 

 

「………………あぁ、いいぜ。悪いなのは、先に行っててくれないか?後から俺は行くよ」

 

 

「…………うん、待ってるよ?」

 

 なのはそう答えてくれた。

 

「悪いな」

 

 

「スンマセン」

 

 俺とヴァイスの言葉を頷きなのははそのまま戻っていった。

 

「いやー、察してくれて助かりました~」

 

 

「いいから。で?なのはにも聞かれたく話なんだろ?どうしたんだよ?」

 

 

「あぁ、はい………実はッスね……」

 

 

 

……………………………。

 

 

「それは本当か?いつから?」

 

 

「いつからかは分かんないスけど、少なくとも最近ですね。もっと早く伝えたかったんスけど、ここんとこ賢伍さんいなかったもんで」

 

 そいつは悪いことをしちまったな。

 

「…………つーことは恐らく今もやってんだろうな。ヴァイス、案内してくれ」

 

 

「了解!」

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

 

バン!…………バン!

 

 

 目指した場所に近くなると次第に銃声が聞こえ始めた。そこで銃を放っていたのはティアナだった。

 

「はあ………はあ………」

 

 汗を地面に垂らしながら必死にうちつづける。先程午前の訓練が終わったばかりだと言うのに。ヴァイスから聞いた話はここでティアナが過度な自主練をしていると言うこと。近くまで案内してもらった所でヴァイスを一旦持ち場に戻らせた。ブーブー文句を言っていたが会話を聞かせたくなかったから。

 

「自主練か………随分気合いが入ってるなティアナ」

 

 

「っ!?…………賢伍さん…………」

 

 俺を見て気まずそうに目をそらすティアナ。

 

「ヴァイスから聞いたんだ。大丈夫、俺もヴァイスもなのはたちには言ってない」

 

 そういうとティアナはどこか安堵したような顔をする。

 

「ただ、この間の任務で失敗して焦る気持ちは分かるが根を詰めるのは感心しないぞ」

 

さっき訓練を終えたばかりだ、軽い調整程度ならともかくティアナがやってるのは完全なトレーニング。見過ごすわけにはいかない。そう思ってヴァイスも俺に伝えてくれたんだろう。

 

「根は詰めていません!これくらいわけないです!」

 

 ティアナは俺に目もくれず特訓を続ける。

 

「そうは見えねぇな、何をそんなに焦っているんだ?」

 

 

「…………………」

 

 もう、返事もしてくれなかった。ある意味、いくら言っても従うきはないという意思表示だろう。

 

「ティーダ・ランスター」

 

 ピクッとティアナの動きが止まった。

 

「な、何ですか急に…………」

 

 ティアナが怪訝そうな顔をしながら俺をみる。

 

「6年前、とある任務の途中に殉職したお前のお兄さんだろ?」

 

 俺は言葉を続けた。

 

「任務内容は逃亡した違法魔導士の捕縛。その任務でティーダ・ランスターは逃げるターゲットを深追いしすぎてその魔導士に返り討ちに逢い殺された」

 

「やめてください…………」

 

 

「そのままターゲットは逃走、任務は失敗に終わり責任追求をされたティーダの上司は怒りに任せて会見でティーダの死は無駄死にだ、不名誉な死だと吐き捨てた」

 

 

「やめて…………ください………」

 

 ティアナの体が小刻みに震えだした。それは怒りか、悲しみか、俺には分からなかった。

 

「この会見の影響もあり将来を有望されていたはずのティーダは世間に役立たずの落ちこぼれのレッテルを貼られ、時間と共に人々の記憶から消え去っていった」

 

………………俺だってこんなこと言いたくない。お前の大切だった、今でも大切なお兄さんを俺の友であるティーダを悪く言うのは俺だって胸が苦しい。痛い。けど言わなくてはならない、事実を受け止めティーダと同じようにはなってほしくなかったから。

 

「ティーダは…………」

 

 

「やめてって言ってるじゃないですかぁ!!!」

 

 パァン!

 

 ティアナの叫びと乾いた音が同時に辺りに響いた。

 

「……………ティアナ……」

 

 ティアナが俺に向かって銃を撃ってきたのだ。弾は最初から俺に当てる気などなかったように俺の横をすり抜けていった。実際わざと外して撃ってきたのは明白だ。

 

「………………お前がどういうつもりで今過度な訓練をしていることも、焦っているのも分かっているつもりだ」

 

 ティアナに背を向け歩き出す。

 

「けど、その行動が誰かを悲しませる事に繋がっている事を忘れるなよ」

 

 俺はそう言い残しティアナから離れた。ティアナはずっと俯いて黙ったままだった。

 

…………。

 

 

 

 

少し離れたところに行くと一人俺とティアナを見ていた男がいた。

 

「ヴァイス、盗み聞きなんて趣味が悪いんじゃねえか?」

 

 その男、ヴァイスに話しかける。

 

「そんな、心配だから見に来ただけじゃないッスか~」

 

 

よく言うぜ。見てほしくなかったから無理矢理戻らせたのに。

 

「まあ、もう一人よりはましか………」

 

 

「……………?」

 

ヴァイスがなんのことかわからず首を傾げる。

 

「スバル!最初からいるのは分かってる!出てこい!」

 

 俺はそう叫んだ。

 

「………は、はい………」

 

 そう小さく返事をしたスバルが隠れていた木陰から出てくる。

 

「ティアナの自主練の付き合いに来たんだろ、早く行ってこい」

 

 

「えっ!ちょっ、賢伍さん!?」

 

 止めないんすか!?というヴァイスの言葉を腕で遮る。

 

 

「俺が何言ったって言うことを聞かないのは分かってる、めんどうだから行くなら早く行きな」

 

 

「…………すいません………」

 

そういってスバルはティアナの所に走って向かっていった。

 

「よかったんスか?止めなくて…………」

 

 

「どうせ今無理矢理止めたってそのあとも続くだろうからな、結局は説得するしかねぇよ。スバルじゃなくてティアナをな………」

 

 恐らくスバルは親友のティアナを支えたいと思って一緒に特訓に付き合っているのだろう。結局はティアナを納得させないといけないんだ。

 

「まあ、あとは賢伍さんに任しときますよ。俺は隠れて見張ってるくらいしかできないっすからねぇ」

 

「十分だ、俺にだけ伝えてくれたのも感謝してる」

 

 ヴァイスがもし、俺だけでなくなのはやフェイトなんかに伝えてたら面倒なことになっていたからな。

 

「まあ、賢伍さんっすからねぇ」

 

 

「どういう意味だよ?」

 

 言葉の意図が分からず首を傾げる。

 

「賢伍さんなら、最後は上手く終わらせてくれますからね。他力本願で申し訳ないっすが」

 

 

「買いかぶりだ、俺はそんな出来た人間じゃない」

 

 

「まあまあ、不思議と賢伍さんなら大丈夫って思えるんすよ。それに、もうなにか考えがあるんでしょう?顔に書いてありますよ」

 

 ニヤニヤしながらヴァイスが俺の顔を指差してきた。

 

「さあ、どうだろうな………………」

 

 ティアナ気づかせるために色々動いてはいるが、結局解決できていない。このまま行き詰まってたら手遅れになってしまう。今のティアナの現状を知って、ゆっくりしてはいられないということを再認識した。

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

「ただいまーっと」

 

 ヴァイスと別れ、そのまま自室に戻った。今ごろなのはたちは昼飯を食べている頃だろう。特に特別な理由で自室に戻った訳じゃない。ただシャワーを浴びたかっただけだった。シャワーを浴びてとりあえずは気持ちをスッキリさせたかった。自室にも一応備え付けのシャワーがあるので使わないてはないだろう。シャワールームに入りシャワーを浴びる。体が芯から温まるような感覚、心地よい気分に浸りシャワーを終える。

 体を拭いてふと鏡を見た。目に飛び込んで来たのは、腹の若干左側の傷。そこだけは普通の皮膚と異なる色をしており痛々しく縫いあとが残っている。いつも、忘れた頃に思い出す古傷。まるで、俺に例のことを忘れさせないためのように。古傷というよりは呪いのように感じる。

 

「ぐっ!…………くぅぅ……」

 

 腹の傷を見てまた記憶がフラッシュバックする。痛みと共にあのときの映像が流れ出す。

 

「がぁぁぁ!!………あぁ!」

 

 慌てて掛けておいた制服のポケットをまさぐる。そこから取り出したのはシャマルさんからもらった薬。鎮痛剤だ。

 

「ぐっ…………ゴクン………ぷはぁ………」

 

 薬を無理やり飲み込む。効果は即効性だからかすぐに痛みは引いた。

 

「はぁ………はぁ………くそっ……!」

 

 次から次へと問題が重くのし掛かってくる。悪化していく古傷。ティアナの暴走。進展しない調査。けど、だからこそここで踏ん張らないといけない。

 

「とにかく、用事を済ませよう……」

 

 なのはにも言ってあるし、そのまま向かおう。まだ若干痛む傷を無視して俺はとある場所に歩を進めた。

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 時間は正午を過ぎ昼休みが終わる頃。俺はその場所に到着した。今は明るいが夜だと不気味に見えるその場所にはたくさんの墓石が並べられている。墓石には十人十色の名前が刻まれてる。墓場、そういえば分かるだろう。管理局で命をかけて闘った戦士たちが眠る場所。俺の手には何かが入った瓶と一輪の花が握られていた。ある墓石の前で立ち止まる。

 

「よう、元気にしてたか?」

 

 墓石を見下ろす。そのまま手に持っていた瓶のせんを開ける。

 

「土産だぜ?なかなか上等な酒だそうだ。といっても俺には酒の味はまだ分からないけどな……」

 

 と、俺は苦笑する。そのお酒を上から墓石にかける。ポタポタと音をたてながら液体は墓石全体に広がっていく。お酒をかけながら賢伍は口をひらいた。

 

「お前の妹はすごい頑張ってるよ、あんたと同じでな」

 

 そう言った所で俺もその酒をそのまま口に含んだ。別に酒になれている訳ではないからただ単純に苦く不味かった。

 

「けど、無茶するところまであんたに似てるよ。まったく困ったもんだぜ」

 

 俺の口は止まらない。

 

「今お前が生きてたら、妹になんて言ってたんだろうな?」

 

 瓶のお酒が空になった。

 

「あんたには妹に会う機会があればその時はよろしくって頼まれたのにすぐに気づけなくて悪かったな」

 

 延々と口は止まらない。ただ、誰も答えてくれないと分かっていてもこの墓石に名を刻まれた人物に届くと願って。

 

「けど、あんたに頼まれたんだ………ちゃんと立派な魔導師に育て上げる。兄であるあんたの代わりにはなれないけど、上司として…………」

 

 墓石に刻まれた文字を見る。

 

「そして………ティーダ、あんたの友として……お前の妹を………ティアナを絶対に守っていくよ………」

 

 墓の前でしゃがみこむ。

 

「なぁティーダ。全く接点もなかった俺とお前が友と呼べる関係になったきっかけ………覚えてるか?」

 

 俺は………今でも鮮明に覚えてるぜ?

 

 

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

 

「君かい?地球から来た天才魔導師っていうのは?」

 

 突然俺は声を掛けられた。当時、俺がまだ10歳になるかならないかくらいの時だった。当時の俺はというと…………。

 

「あぁ?何だよあんたは………?」

 

 それなりにまぁ、生意気な年頃だった。

 

「あぁ、気を悪くしたのなら謝るよ。神崎君だったよね?」

 

 

「そうだけど…………」

 

 正直いきなり見知らぬ人に話しかけられて俺はかなり戸惑っていた。

 

「あれ?おかしいな?今度の任務で一緒のチームメンバーのティーダっていうんだ。よろしくね?」

 

 そう言ってティーダは右手を差し出してきた。握手を求めているのだろう。

 

「あぁ、そう。よろしく………」

 

 俺はそれには応じず。言葉だけでそう返した。ティーダは笑顔のまま、腕を下ろす。俺は10歳の頃、常日頃からこんな態度をとっていた訳ではない。ただ、管理局の仕事のときはいつもこうなってしまっていたのだ。

 

「最近君は噂になっているみたいだね?まぁ、それも仕方ないか。あの大騒ぎになっていた闇の書事件を解決したんだからね……」

 

 まるでティーダは感心しているかのように話始めた。悪気はないのは分かっていた。ただどうしても気に入らなかった。

 

「俺一人の力じゃない。仲間と力を合わせたからだ。それに…………あんなの解決したと俺は思いたくない………っ!」

 

 仲間が一人、死んだんだ!はやてが悲しんだ!守護騎士たちも悲しんだ!皆悲しんだ………あいつとの別れを……。それで解決なんて………思いたくなかった。

 

「…………そうかい」

 

 俺なりの思いというのを察してくれたんだろう。ティーダは深く聞いては来なかった。

 

「おお~?こんなところにいたよ~?天才君がぁ」

 

 

「ちっ………」

 

 

「うん?」

 

 突然聞こえた声で俺は思わず舌打ちをする。だから嫌なんだ、ここで仕事をするのは。

 

「こんなところで暇しているのかい?羨ましいねぇ………」

 

 

「天才君は作戦会議なんて参加するまでもないみたいだからなぁ?」

 

 二人組の男がバカにするようにそう口を開いてくる。実際にバカにしているんだろう。

 

「……………何の用だ。俺は作戦会議には参加しなくていいと上官から許可もらってんだよ」

 

 自分でも驚くくらい冷たく素っ気ない声でそう言い返していた。今回俺がここにいるのはとある任務のチームの顔合わせのため。10歳の時点で嘱託だったおれは闇の書事件を境に日常生活にはギリギリ影響が出ないくらいの頻度で任務に参加させてもらっていた。当時の上官も俺に期待してくれていたようで今回の任務のために用意された数ある部隊の一つの小隊長に任命された。別に今回が初めてではないが。

 

「それでも僕たちの部隊の小隊長という立場のお前が作戦会議に出ないとはいいご身分ですねぇ?」

 

 俺だって出れることなら出たいさ。しかし、俺は地球で言うところの小学4年生。義務教育という地球では学ばなければならないことがある。そのことを知っていた上官はしっかり学びなさいと、作戦会議には出ずに学校に行けと言ってくれた。時間は早朝、せめて顔合わせだけでも学校に間に合う時間ギリギリまでいたのだ。そうして学校に向かうため転移装置に向かおうとしたところティーダとこのうざい二人組に声をかけれたという事だ。

 

「おい!彼は用があって会議には出れないって上官が言っていたじゃないか!僕達の小隊長なんだ、失礼にも程があるだろ!」

 

 

「っ!」

 

 状況を理解したティーダが俺の前に立ってそう言ってくれた。少し驚いた。俺がこんなに生意気な態度をとっていたのは、今思えば嘱託魔導師となってからずっとこのようなことが続いていたからだった。嫉妬、妬み。自分よりも遥かに年が下な子供に自分より地位が優遇されていたらそのような感情が芽生えるのは仕方ないといえば仕方ないだろう。

 が、まだ体も考え方も子供だった俺にはそこまで理解が及ばなかった。だから、今俺の目の前に立って俺を庇ってくれているティーダという男の行動に驚いた。

 どうせ他のやつと一緒と思っていたから。どうせすぐに俺のことをバカにしてくると思っていたから。

 

「あぁ?お前もエリートだからって調子に乗ってんじゃねぇ!」

 

 何に対して火がついたのか急に顔を真っ赤にして怒りだした。今思えば、こいつは自分より上のレールを歩いているやつがただ単に気に入らないのだろう。ティーダも例外ではなかったのだ。

 

「ぐっ………、落ち着けよ……」

 

 いきなり胸ぐらを掴まれて少し戸惑ったティーダだったが、冷静にその腕を掴み力で離させる。エリートと言われているのは伊達ではないと言うことだろう。

 

「このやろう!」

 

 突然、もう一人の男が拳を作りティーダに振り上げていた。

 

「っ!?」

 

 ティーダも予想はしていなかったのだろう。反応が間に合わない。

 

 

バキィ!

 

 

 

「ぐっ………!」

 

 その拳を顔面で受け止める。受け止めたのはティーダ……ではなく……

 

「か、神崎君!?」

 

 俺だった。まったく、この二人組はばかにしてきたと思ったら急にキレて暴れまわりやがって。クズやろうが………。自分でも、なんでティーダを庇ったのかは分からなかった。

 

「………ぐっ、ちっ………」

 

 

「大丈夫かい!?」

 

 ティーダの心配をよそに俺は立ち上がり、二人組の男を睨み付ける。

 

「な、なんだよ……………」

 

 二人がびびって一歩下がった所で俺は口を開いた。

 

「俺をバカにすんのは勝手だけどよ………関係ない奴まで巻き込むんじゃねぇ!!ぶっ殺すぞぉ!!!」

 

 無意識に魔力を解放して最大限の殺気を二人に放っていた。いつの間にか右手には刀が握られている。これも無意識にシャイニングハートを起動させていたようだ。

 

「ひっ、ひぃいい!!」

 

 

「ば、化け物ぉ!」

 

 それが効果覿面だったようだ。二人は尻餅をつきながらべそかいて逃げていってしまった。

 

「ふぅ…………」

 

 感情的になったの無理やり息をはいて落ち着かせる。

 

「………大丈夫かい?」

 

 ティーダはまたそう口を開いた。

 

「大丈夫………」

 

 このまま転移装置に向かおうと思ったが踏みとどまる。しっかりと筋を通すことにした。

 

「その、俺のこと……庇ってくれてありがとう…………ございます。次の任務ではよろしく……………………お願いします」

 

 俺のことを庇ってくれたことはしっかりと感謝の気持ちを伝えたかった。何より、嬉しかったのだ。当時では久しぶりになのはたち以外で人の優しさに触れられたから。

 

「ぷっ、ははは!無理に敬語は使わなくてもいいんだよ神崎君!」

 

 ティーダはいきなり吹いて笑い出した。俺のぎこちない敬語が面白かったのだろう。

 

「それに、君も僕を守ってくれたしね。お互い様だよ」

 

 そう言ってティーダは右手を差し出してきた。

 

「僕はティーダ・ランスター。今度は…応じてくれるよね?」

 

 笑顔だった。笑顔でティーダはそう言ってきた。俺は………それに応じて右手を差し出し握手をする。

 

「………神崎賢伍だ。………よろしく、ティーダ……」

 

 

「あぁ、よろしくね。賢伍………」

 

 握られた右手がすでに友情の証のように感じた。これが俺とティーダの出会いであり、友になった瞬間だった。

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

 その後の俺たちは例の任務のあとも友人としての付き合いが続いた。

 

「君とはいい友人になれそうだよ。これからも頑張っていこうな」

 

 最初は年上のお兄さんのように感じるのかなと思っていたが完全に同年代のそれと同じ雰囲気だった。

 

「やぁ、お疲れ賢伍」

 

 

「おうティーダ。お疲れ」

 

 たまたますれ違えばそう声を掛けたり掛けられたり。

 

「あぁ、ここの居酒屋のお酒は美味しいんだよ。ここにしようか」

 

 

「おいおい!小学生に酒を進めるなぁ!?」

 

 

「いや、別にお酒は飲まなくていいんだよ。お酒は賢伍が飲める年になるまでまつさ」

 

 たまにミッドで食事に誘われたり。

 

「うぉぉおおおお!!」

 

 

「違う違う!うぁぁああああ!!って感じだ!」

 

 

「う、うぁぁぁあああ!!」

 

 

「だーかーらー!うぁぁああああ!!だってば!」

 

 

「抽象的過ぎて分からないよ賢伍!」

 

 

「そもそも剣術使いの俺が全くタイプの違う銃使いのティーダに魔法を指導する時点でまちがってんだよ!」

 

 一緒に切磋琢磨し。

 

「あー、そこの休憩室より隣の休憩室を使った方がいいよ賢伍。そっちなら入り口から死角になってるからサボってるのバレないからね」

 

 

「べ、べべべ、別にサボってた訳じゃねぇーし!!」

 

 変なアドバイスをしてもらったり。とにかく俺にとってとても絆が深い友人だったのだ。

 

「へー、ティーダに妹いたんだ」

 

 喫茶店で雑談していたら、いつの間にかそんな話題になっていた。ティーダはうんと頷くと嬉しそうに口を開く。

 

「君よりも年の小さな妹がいてね。僕が支えていきたいだ。君のような立派な魔導師になって欲しいからね」

 

 ティーダの家庭の事情はある程度直前に聞いた。複雑な家庭だ。だからこそ、ティーダがどれだけ妹さんを大切にしていたか伝わってきた。

 

「それにね、とっても可愛いんだ。この間なんか僕のデバイス銃を持って、『お兄ちゃんみたいな魔法使いさんになりたい~』て言い出してね。もうかわいくてかわいくて!」

 

 

「……………このシスコン」

 

 

「いいんだ。自覚してる」

 

 開き直るなバカ野郎。

 

「それじゃあ、兄妹揃って執務官てのももしかしたらあるかもしれないなぁ………」

 

 ティーダが目指しているのは執務官。これも前に聞いたことだ。

 

「あぁ、狭き門だけど頑張らないと!」

 

 妹自慢を聞かされて夢を語り合った。そして……………。

 

 

 

「そういえば賢伍は妹にあったことなかったね?もし会う機会があればよろしく頼めるかな?」

 

 ティーダ曰くその妹さんとやらは本気で魔法使いを目指し始めているようで。管理局の訓練校に来るのもそう遠い未来ではないのかもしれないということだった。

 

「そうか後輩か………。そりゃあ楽しみだな」

 

 

「…………妹には手を出すなよ?」

 

 

「出すかこのシスコンめ!!」

 

 いつものようにお互いにふざける。すると突然ティーダが「そういえば」と口ずさんだ。

 

「賢伍は本を読んだりはするのかい?」

 

 

「本?いや、あんまし読まねぇなぁ」

 

 たまにタイトルやベストセラーに惹かれて読むくらいで普段はほとんど読んでいないな。

 

「そうなんだ。ならさ、おすすめの本があるんだよ。読んでみないか?」

 

 

「いや、だからあんまり読まないって………」

 

 

「『オレンジ』っていう厚めの小説なんだ!長く物語を楽しめるしすごくオススメだよ!!」

 

 話を聞けぇ!!ぐいぐいとオススメしてきやがって。こいつがこんなにしつこいの初めてだった。

 

「わぁーたわぁーた!気が向いたら読むよ!気が向いたらな!」

 

 

「あぁ、気が向いたら手にとって見といてくれ!」

 

 ティーダは満足そうにそう言ってふと立ち上がった。

 

「そろそろ、仕事に行かないと!それじゃあ!」

 

 慌ただしく準備をしてティーダは駆けていった。

 

「おー!気を付けてなー!!」

 

 遠くなっていくティーダに声を大きい声で見送る。

 

「あぁ!今度妹を紹介するよー!」

 

 こうしてお互いに声をかけあって別れた。そして、この1ヶ月後に俺はティーダの訃報を聞くことになる。俺とティーダご交わした最後の会話はいつも通りの、他愛のない内容だったのだ。

 そしてティーダの訃報を聞いてから数ヶ月がたった頃に、俺は初めてティーダの墓標の前に立った。俺の手に握られていたのは適当に買った一輪のオレンジ色の花。それを墓に添えて、ふと口を開く。

 

「酒飲めるようになるまで待っててくれるんじゃなかったのかよ。先に逝きやがってちくしょうが…………」

 

 もっと色々な話を聞かせて欲しかった。ティーダが執務官になるのを見てみたかった。もっと背中をあわせて戦いたかった。一生友人としてお互い支えていきたかった。自然と涙が流れた。とめどなく流れて止まらなかった。

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 ~現在~

 

 

 

 

「今年も適当なオレンジの花を持ってきたぜ。お前はオレンジ色好きかどうかは知らないけどさ…………」

 

 でもきっとあいつの好みだろう。最後に交わした言葉の内容におすすめしてきた本のタイトルは『オレンジ』と言っていた。それに、あいつの大好きな妹の髪の色だからな。それを墓に添えて俺は立ち上がる。

 

「またしばらくしたら来るよ。その時は、ティアナのことも含めていい報告をして見せるからさ………」

 

 墓に背を向けて歩き出す。次ここに戻ってくるのは例の事が解決してからだ。ちなみに俺はいまだにティーダに薦められた本は読んでいない。あいつに言ったとおり気が向くまでは読むつもりはないから。

 多分、俺は読まないだろう。内容が気になっている間はあいつのことを忘れず、思い出を心にしまっておける気がするから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




相変わらず話が進まない!更新スピードも落ちている!?しかぁし!自分はそれでも自分なりに書きつづけるぜぇええええええ!!!

うるさくて申し訳ない(´・ω・`)。感想などお待ちしております。


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思い、届かず


 


 

 

 

 

 

 

 

 

 墓参りを終えて俺はそのまま六課に戻った。翌日から、また6年前のことを調べ回っていた。しかし、やはり進展はなし。本当に打開策は残っていなかった。しかし、それでも時間は無情に過ぎていく。ティアナは相変わらず無理な訓練を続けている、ヴァイスに監視を任せているがほとんどは言うことを聞いてくれないだろう。

 

「ぐっ…………っ!?」

 

 そして、最近は頻繁に痛み出す腹部の古傷。もういつも鎮痛剤を持ち歩いていないと俺も安心できなくなってしまった。それでも、続けるしかない。意味もないかもしれないこの調査を続ける他なかった。

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

「シャマルさん、また頼むよ………」

 

 医務室に顔を出すのも、最近でほぼ日課になってしまった。シャマルさんにまた傷を見てもらう。

 

「……………傷の具合に変動はないみたいね。もう薬は切れそう?」

 

 

「あぁ、あと数回分しかないかな」

 

 

「前より薬を使うスピードが上がってる…………。分かったわ、とりあえずこれだけ渡しておくわ」

 

 袋に入った大量の錠剤を手渡される。本当ならこんなもの使いたくないが、仕方ない。なのはの前で、またこの間みたいにのたうち回る訳にもいかないからな。

 

 コンコン。

 

 ふと、医務室の扉からノックがした。

 

「ん?誰かしら?………どうぞー?」

 

 

ガチャ

 

 

「あ、いたいた!」

 

 

「やっぱここにおったかぁ………」

 

 医務室に入ってきたのはフェイトにはやて、だけではなかった。

 

「…………………………」

 

 

「探したぞ、神崎」

 

 ヴィータにシグナムまで来ていた。

 

「なんだお前ら?俺に何か用か?」

 

 心なしか、全員すこし芳しくない表情をしていた。どうやら、いい知らせではないのは容易に想像できた。

 

「実は…………」

 

 

「なのはちゃんに………賢伍君の傷……感づかれ始めたかもしれへん……」

 

 

「………………………は?」

 

 何だって?

 

「それは………どういうことなんだよ!?」

 

 つい声を荒げてしまう。しかし、そんなことは気にしていられなかった。

 

「感づかれたかもって、一体どうして!」

 

 

「昨日ね………」

 

 俺の問いに、フェイトが答え始めた。

 

「昨日、賢伍が出掛けたあとなのはに聞きたいことがあるって呼ばれたんだ。そしたらなのはが…………」

 

 

『フェイトちゃん………私が撃墜されたとき……あのときの現場に賢伍君はいたの?』

 

 

「って………聞いてきたんだ」

 

 フェイトのその言葉を聞いて俺は頭が痛くなった。何でだ………どうしてなのはがその事を……。

 

「私はなのはに、どうしてそう思うの?って聞き返したんだ。そしたらなのは……」

 

 

『だって………頭に写ってくるんだもん……。賢伍君が……いるんだもん。あの時、あの場所で………賢伍君が闘ってる記憶が!』

 

 

「そう…………言ってたんだよ」

 

 

「それで、たまたまその現場鉢合わせたうちら3人とフェイトちゃんとでここにきた言う訳や。賢伍くんにこの事を伝えるために」

 

 

「…………どうしてなのはのあのときの記憶に俺が写ってんだ……。だってなのははあのとき!」

 

 

「多分…………」

 

 ここで今まで口を塞いでいたヴィータの口が開いた。

 

「多分………まだかすかに意識が残ってたのかも…………。賢伍があそこに到着して、………あれが起きた時もずっと………」

 

 そうだとしたらおかしいんだよ!

 

「だったら何で、なのはは今まで気づかなかったんだよ。おかしいだろ………っ!」

 

 あれを見ていたってんなら、なのははとっくの昔に俺やフェイトたちに問いただしてきてるはずだ。なのに何で、今さら………。

 

「きっと………あれだけのケガを負った状態だったから………なのはちゃんの意識もかなり朦朧としてたはずよ………。だから……たまたま思い出せなかったのよ」

 

 シャマルさんはそう分析した。

 

「だとしても!どうして今さら思い出したんだよ!!」

 

 

「恐らく原因はお前だろう、神崎」

 

 俺が大声を出してもなにも表情を変えずにシグナムが落ち着いた様子でそう言ってきた。

 

「俺の…………せい?」

 

 間抜けに俺はそう返した。

 

「この間、お前は高町なのはの前で古傷の痛みで倒れたらしいな…………」

 

 シグナムは淡々と言葉を続けた。

 

「その直後に、テスタロッサが高町が何だか悩んでいるところを幾度か目撃したらしい………」

 

 

「じゃあ……なのはは……」

 

 

「あぁ、お前が苦しんでいるところを見て……少しだが思い出したのだろう」

 

 

「うちもそう思う……」

 

 あぁ、何てことだ………。記憶の奥深くに眠っていたなのはの記憶。ずっとずっとしまわれている筈だった。そうすれば、余計な波風たたせずになのはに辛い思いをさせずに済んだ。なのに、俺が………俺が原因で………しまわれていたはずの記憶が引き出されたってのかよ……………。

 

「もしかしたら、なのはが思い出すのも時間の問題だと思う。きっと何かを拍子に思い出すかもしれないし………」

 

 フェイトの顔も、少し焦りの色があった。フェイトだけじゃない。みんな、焦りの色がある。

 

「だから、うちらで話し合って決めたんや。なのはちゃんに………自分達から話してあげようって。ずっとずっとなのはちゃんに隠していたことを…………」

 

 はやてのその言葉に俺は感情を昂らせてしまう。

 

「駄目だ!!」

 

 立ち上がり、大声をあげる。一瞬時が止まったかのような不思議な感覚があった。

 

「それだけは…………駄目だ………」

 

 

「でも、思い出すのも時間の問題やで?」

 

 

「思い出さないかもしれない!それが一番いいんだから!だからっ!」

 

 

「何も聞かされずになのはちゃんが思い出した方がなのはちゃんの傷は深くなるんや!!」

 

 

「っ!」

 

 お互い、なのはを思うがゆえ。意見が別れた。俺とはやての軽いにらみ合い。俺以外の皆は、どうやらはやての意見に賛成のようだ。

 

「話したって………なのはは傷つく。絶対にあいつは自分を攻める。だから………皆俺に賛同したんじゃないのか!隠すって選択をしたんじゃないのかよ!!」

 

 

「……………でも今はきっと……なのはちゃんは乗り越えてくれる。なのはちゃんからしてみても………きっと話してもらった方がええに決まっとる。当事者である賢伍君にな………」

 

 

「でもよ……………」

 

 

「なのはちゃんは…………賢伍君が思ってるより強い子や………。うちらは…………賢伍君がいなかった4年間、なのはちゃんがどれだけ頑張っとったか見てたから」

 

 俺が知らない…………なのはの頑張り………。4年もの間なのははどうしてきたんだろう。

 

「…………前にもいった通り、賢伍君の傷はなのはちゃんにずっと隠してるっていうやましさで治らないでいるわ………………」

 

 シャマルさんが口を開く。

 

「だから………きっと話すことがなのはちゃんの為でも、賢伍君の為でもあるのよ」

 

 なのはの………為。俺は…………俺は………。

 

「俺は…………話すべきなのかな……?」

 

 なのは為に俺はずっと隠し続けてきた。

 

「隠すのはもう…………止めるべきなのか?」

 

 でも今は……なのはの為に隠す事はもう止めるべきだと仲間たちが言っている。

 

「決めるのは………お前だよ賢伍」

 

 ヴィータは真剣な目付きで俺を見てそう答えた。そうか………そうか……。

 

「………………話すか……。隠し続けるのも………もう疲れたしなぁ………」

 

 

「うん、私達も一緒に行く。皆で話して………」

 

 

「けど、今は駄目だ」

 

 フェイトの言葉を途中で遮って、俺はそう言葉を紡ぐ。

 

「なんでや!今すぐ話さんと…………」

 

 

「分かってる!分かってるんだ!!けど………今はまだ駄目なんだ!」

 

 反論されるのは分かっていた。しかし、今はダメなのだ。まず先に片付けないといけないことがある。ティーダとティアナの事。ティアナの反発、ただでさえそれもなのはにバレるのは時間の問題なのだ、それだと別の事でなのはが傷ついてしまう。だからまずはそっちを先に解決しないといけない。

 

「頼む、今俺がしていることもなのはの為なんだ!先ずは、そっちを片付けないといけない!」

 

 具体的に何をしているのかは教えられないけど今はこの説明で納得してもらわないといけない。頭を下げて俺は懇願する。

 

「………はぁ……」

 

 ふと、はやてからため息がこぼれる。呆れたような、仕方なさそうな、二つの感情が混ざったかのようなため息。

 

「しゃーないなぁ、なのはちゃんにはうちらでバレんようやるさかい、賢伍君はその先にやるべきことを早くやってな」

 

 

「主はやて!」

 

 抗議するシグナムを手で制し、はやては続けた。

 

「賢伍君もこう言っとるしうちからも頼むわ、シグナム?」

 

 

「…………主がそう言うのであれば…」

 

 渋々とシグナムは引き下がる。すまない、はやて、シグナム。すまない………

 

「ありがとう………」

 

 感謝の念が、自然と口からこぼれていた。

 

「でも、時間がないことには変わらねぇ………。なるべく急いでくれよ賢伍……」

 

 

「できれば無理しないように………ね?」

 

 

「あぁ、分かってる。ヴィータ、フェイト………ありがとな」

 

 ヴィータの言う通り、これで急ぐ理由が増えた。なおさら今のこの現状を打開しないといけない。停滞しているこの状況を…………。

 

「賢伍君…………」

 

 

「シャマルさん?」

 

 

「…………また傷が痛み出したら迷わず医務室に来てくださいね?絶対に治してみせます!」

 

 …………………シャマルさん……。

 

 

「あぁ、ありがとうシャマルさん………。それじゃあ俺いかないと!」

 

 そう言って皆の返事を待たずに駆け出す。まだだ。まだ間に合う!俺は………絶対に………一番いい形で全部終わらせてやる。いい加減………大切な仲間たちに余計な心配をかけるわけにはいかねぇ………。なのはにも………隠し続けるの終いだ。俺は新たに決意し管理局に急いだ。

 

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

「………………ふぅ」

 

 息を吐き一息つく。事が終わったら腹の古傷のことを話すと決意したのは昨日のことになる。1日たってそのまま資料の見直しと探索をただ延々とし続けた。相も変わらず状況は進展していないが俺の心はまだ折れてはいなかった。

 

「流石にこれの見落としはもうないだろう…………」

 

 そう呟き一つの資料の束をパサッと落とす。すでにそこにはいくつもの資料がまとめられている。俺が何度も何度も確認して完全に見落としはないだろうと判断したものが置かれている。

 

「………………やっぱり一度調査し直した方がいいか………?」

 

 それも全て何度も行った。当時の関係者の証言や現場の調査、全てだ。

 

「……………考えろ………なにかあるはずなんだ………すべての足跡を完璧に消し去る事なんて不可能なんだ………絶対にどこかにあるはずだ……」

 

 もう一度頭の中を整理して情報をまとめる。

 

 まずは事件の概要。6年前、とある逃走中の違法魔導師の捕縛任務が実施された。我こそはとそれに自ら参加を表明したのは当時ティーダの上司であったズーク・ライアス。それでティーダがその任務に駆り出されたと言うわけだ。

 

「この任務の途中でティーダは逃走中の犯人を深追いしすぎそのまま返り討ちにあい殉職……。犯人は未だ逃走中で行方不明………公式資料にはそう書いてあるが…………」

 

 そこで俺は不自然な点を見つける。1つは犯人の実力。ショウさんが見つけた資料によれば逃走犯の魔導師としての実力は下位におよぶ。いくらなんでもエリートと言われていたティーダを………俺がどれくらいあいつが強いか知っているからこそ断言できる。逃走犯では確実にティーダには勝てないということ。ならば何故ティーダは死んだのか?それが不自然な点の一つ。

 

「もうひとつは…………」

 

 現場の上空写真を見る。現場調査の時にも確認したがとても犯人が逃げ切れるとは思えない場所だ。基本は草原の見晴らしがいい場所だ。ティーダが死んでいた場所は狙ったかのように唯一、死角になる大きな岩。その裏に遺体は発見された。とはいっても死角になるだけで探せばすぐに見つかってしまうような場所だ。

 

「そこからどうやって逃走犯は逃げ切ったんだ。ティーダ以外にも部隊の隊員が一緒に捜索しているなかどうやって?」

 

 それが二つ目の不自然な点だ。そして、次は犯人の情報だ。そもそも犯人は何のその罪を犯したかというと、それは銀行襲撃だ。ミッドの郊外の銀行が襲い、金目の物をかなり盗んでいったらしい。

 

「それにしても大胆なことをしたもんだぜ………」

 

 普通そんな金が欲しくてもそんな発想にはならない。成功すると確信していたのか?だとしてもそれも色々と不自然だが…………。

 

「とりあえずこんなもんか…………」

 

 あとはズークのその後とか色々細かい情報があるが今は割愛しよう。今はそこを考えている時ではないからな。

 

「やぁ、神崎君………」

 

 考えを巡らせていると、ふと名前を呼ばれた。そこにはいくつかの資料を抱えたショウさんがいた。

 

「ショウさん………それは?」

 

 抱えているいくつかの資料を指差して俺はそう言った。

 

「これか?これも6年前の事件に関係している資料だよ………とっいても何度も見直して見たが君が知っていること以上の情報はなかったがね」

 

 ため息をつきながらショウさんは答える。そうか、ショウさんも調査をし続けていてくれたのか…………。彼も諦めていない。6年調査をし続けてもなおまだ…………。

 

「……………ありがとうございます」

 

 

「礼を言うのはよしてくれ。私がしたいからそうしているだけだ。君も諦めていないのだろう?さぁ、二人で調査を続けよう…………」

 

 

「………………はい!」

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 一時間………二時間………着々と進む時間の中俺とショウさんは黙々と作業を進める。お互いに成果はない。もう選択は決まったのだ。諦めないと。だから………続けられたのだ。

 

「…………神崎君、そろそろ休憩にしようか……」

 

 

「そうですね………」

 

 一旦資料を手放して伸びをする。ずっと同じ態勢だったからか体の節々がポキポキとなった。

 

「……………ここに来るとティーダの事を毎回思い出すんだ」

 

 ショウさんは突然そう言い出した。

 

「……事件の事を調べるからですか?」

 

 

「いいや、そうじゃない。よくあいつに付き合わされたんだ。この管理局の図書館で本を借りにいくときなんかにな…………」

 

 「あいつはよく本を読んでいたから」と一言付け加えてショウさんは図書館内を見渡す。

 

「……そういえば俺もティーダとの最後の会話は本のことでしたよ……」

 

 ふと思い出す。

 

「俺にオススメの本があるとか言い出して、ちょっとしつこいくらいに薦めて来たんです…………」

 

 

「へぇ、珍しいな。あいつがそんなに人にしつこく本を薦めるなんて…………」

 

 

「えぇ…………俺も当時はそう思いましたよ」

 

 ちょこっとこんな本があってどこが面白かったなどと何度か話を聞いたことはあったが。薦められたのはあの時が初めてだった。

 

「ほんと、ティーダらしくなかっ…………」

 

 

ドクン

 

 

「っ!」

 

 心臓が一度大きく脈打ち立ち上がる。あれ?なんだ、この違和感は………。待てよ………まさか。

 

「………?……どうしたんだ神崎君?」

 

 ショウさんの言葉は耳に入っては来なかった。ただ頭には一つのとある考え。ティーダは事件の裏について前からなにか知っていたのたかもしれないと俺は推理した。そして、以前ショウさんは俺に対してこう言った。

 

『ティーダなら念には念をと、きっと何かしらの対策や証拠を残していたのかも………いや忘れてくれ……』

 

 この発言自体、ショウさん自身は特に他意はないのだろう。そうあってほしいという願望に近い発言だったのだ。しかし…………。

 

「………そうだよ」

 

 そうだ、ティーダはただで死ぬような男じゃない。無惨にも殺されてしまったが奴は優秀なエリート管理局員ティーダ・ランスターだ。あいつの実力を………俺の親友を………………侮るな!

 

「ショウさん!」

 

 

「っ!な、なんだい突然?」

 

 

「ティーダがよく利用していた図書館はこの図書館なんですよね?」

 

 

「え?……あぁ、そうだが?」

 

 その言葉を聞き俺は駆ける。向かう場所は先程からあさっていた過去の事件等の資料が置いてある棚ではなく別の棚。小説等の娯楽として置いてある棚。そこを見落としなく一つ一つ本を見て探す。幸い、本のならびはタイトルのあいうえお順だった。

 

「っ!………あった!」

 

 だから、目的の本はすぐに見つかった。それを手に取り戻る。

 

「どうしたんだ?突然走り出したと思ったら…………」

 

 そう口を開くショウさんに俺はその取ってきた本を見せる。

 

「…………それは?」

 

 

「………………『オレンジ』というタイトルの普通の小説です。そして…………ティーダが俺との最後の会話でしつこく薦めてきた本です…………」

 

 

「……………なるほど……」

 

 ショウさんにも、俺の意図が伝わったようだ。

 

「まずこれに間違いないか確認します」

 

 まずは貸し出し表を見る。普通の図書館と一緒で本についている貸し出しカードに日付と名前を記入して借りれるタイプのやり方だ。カードには7~8人ほどの名前が書かれており6年前の日付にティーダの名前があった。

 

「………これは恐らくティーダの字だ。ティーダが言っていたという本はこれで間違いないだろう………」

 

 

「……………………」

 

 一気にこの一冊の本が重要なものに感じた。この本がいつから置いてあるものかは知らないが最低でも6年でたった8人しか貸し出されていない。つまりは知名度は低い小説なのだろう。

 

「もし、ティーダが証拠を残してくれているのなら…………恐らくここにあります」

 

 条件はそろっている。しつこく勧めてきたこと、知名度が低い本だからあまり人の目に付かないこと。おそらく隠蔽されるのを恐れてあえてその本を選んだのだろう。

 

「…………よし」

 

 とりあえず本を調べる。おそらく中身出はなく物的証拠を残してそうだからだ。本を叩いたり振ってみたりする。何処かに違和感はないか調べる。

 

「……………ん?」

 

 そこで違和感に気付いた。表紙の裏の角。本読む上で基本的に触れない部分にちょっとした凸凹を感じた。単純かつ大胆な場所。幸運にも今まで誰も気づかなかったようだ。表紙のカバーを外してみる。

 

「っ!……………これは……」

 

 

「……………………」

 

 俺とショウさんはそこにテープで貼り付けられたものを凝視する。ティーダ…………、ようやく見つけたぞ!ようやく尻尾をつかんだぜ…………。待ってろよ………!

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

「あれ?賢伍君帰ってたんだ?」

 

 時間は少し進み夜になった。俺は一旦管理局から六課に戻り、自室に戻っていた。そこでくつろいでいた所に同居人のなのはが帰ってきてそう言ってきた。

 

「あぁ、お疲れなのは」

 

 

「うん、お疲れ様。………賢伍君、何か良いことでもあったの?」

 

 

「………?なんでそう思うんだ?」

 

 確かに良いことはあったがいきなりそれを見抜かれて驚く。

 

「何か…………機嫌が良さそうな顔してる……」

 

 どうやら、表情に出てたようだ。

 

「まぁ、いいことはあったよ。ようやく決着がつきそうだからさ………」

 

 なのはには具体的なことは伝えてないが今まで外で調べ回っていたことというのは伝わっただろう。

 

「そうなんだ………。良かったね、ずっと頑張ってたもんね………お疲れ様」

 

 

「あぁ、まだ完全には終わってないけどもうすぐだよ。ありがとう………」

 

 調査を開始してどれくらい経っただろうか。最初は大手を降って開始した。ショウさんに託された。調査が停滞して苦しんだ。なのはと衝突した。反省して仲直りした。覚悟を決め直した。古傷と過去に邪魔された。そして向き合い、なのはに話すと決めた。

 

「……………ねぇ賢伍君………」

 

 

「…………ん?どうした?」

 

 ふとなのはに呼ばれ向き直る。なのはは、何だか少し元気がないように思えた。

 

「賢伍君…………私に何か隠してることない?」

 

 

「…………………………」

 

 驚きで言葉を返すことが出来なかった。先伸ばしにした問題に早速直面する。なのはには話すと決めた。決めたんだ………けど………けど………。

 

「そんなもんないよ。突然どうしたんだ?」

 

 今はまだその時じゃない。

 

「…………そっか……。ごめんね?急に変なこと聞いちゃって………」

 

 どうやらはやて達の言う通りなのはにばれるのは…………なのはが思い出すのは時間の問題のようだ……。

 

「それじゃあ私先に寝ちゃうね?お休み!」

 

 ……………ごめんなのは。ごめん………。でも大丈夫だよ。明日だ。明日にはきっと決着がつく。明日の夜に………色々落ち着いた頃に皆でお前に話すよ。本当なら今はその場の流れで全て吐き出してしまいたかった。でも駄目だ、はやてもフェイトもいない。ちゃんとみんなの前で話さないとダメなんだ。はやては言った、きっと俺が直接話したらなのはの傷も浅くすむと。発覚という形でなのはに伝わるのか、正直に話すと言う形でなのはに伝えるのか。なのはにとってもきっと大きな差なのだから。

 

「明日なんだ…………明日で………」

 

 すべての問題に、最高の形で終わらせられるはずだから!……………そう、思っていたんだ……。

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 

「今日の夜やね。ようやく覚悟を決めたんやな………」

 

 翌日早朝。いつも隊長という立場で比較的早く起きているはやてに俺は今日の夜、なのはに打ち明けると決めたことを話した。

 

「あぁ、だから皆にも伝えておいてくれ。俺はこれからずっとやっていた用事の最後の仕上げだからよ。午後までに帰るよ」

 

 

「了解や………ほな、皆には伝えておくさかい。しっかりな?」

 

 

「おう、サンキュー…………」

 

 はやてに後押しされ俺はまだ上がりきってない太陽を横目にとある場所に向かった。

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

「やぁ、待っていたよ神崎くん」

 

 現地での集合で待っていたのはショウさん。決着をつけるためにショウさんにも協力してもらう。

 

「お待たせしました。さぁ、行きましょう………」

 

 目の前に見えるののはとある立派な豪邸だ。ここの主人に俺たちは用があった。そうだ、ここにいるのだ。元凶が、俺の友を殺した黒幕が。

 

「ティーダ待ってろよ…………。お前の無念………晴らしてやる…………っ!」

 

 勇み足で俺とショウさんはそこに向かった。決着に向けて動き出していく、そしてそれと同時に悲劇に向けて時間は動き出していんだ。

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 俺ははやてに言った通り午前の訓練終了までには六課に戻っていた。そのまま合流して途中から参加という形になった。少しティアナことが心配だったが、最近はちょくちょく訓練も覗いていたので今のところなのはの教導に対してなのは前で反発は起こしていない事は確認している。がやはり不安は拭えなかった。

 

「さーて、それじゃあ午前中のまとめ2on

1で模擬戦やるよ」

 

 午前の仕上げの模擬戦だ。今回は俺となのはで話し合った結果俺は参加せずなのはのみだ。じっくりと今どれだけの力を出せるか確認がしたいからとなのはからの要望だ。俺は外から観戦する役目だ。

 

「まずはスターズからやろうか、バリアジャケット....準備して?」

 

 

「「はい!」」

 

 スターズ二人が元気よく返事をする。いつもなら感心するところだがその元気さでなにか仕掛けてきそうで怖く感じた。そう、特訓の成果を出してくるのではないかと。俺は参加しない模擬戦だからな、絶好のチャンスだ。

 

「エリオとキャロはあたしと賢伍と一緒に見学だ」

 

 ちなみに今日のトレーニングにはヴィータも参加している。ヴィータの言うとおり、俺も見学なのでどこか邪魔にならないところに移動する。

 

「やるわよ、スバル!」

 

 

「うん!」

 

 バリアジャケットを装備した二人の会話がわずかに聞こえた。余計に不安が募っただけだった。なんだか胸騒ぎがする。いや、大丈夫だ。今日さえ乗りきれば………ティアナがなのはを裏切る行為をしていると言うことに気づかれずにティアナを説得できる。それに今日の夜にはなのはに隠していた過去も話すんだ。うまくいく、うまくいくはずだ。

 すこし離れた場所まで移動し終わる頃にはすでに模擬戦は始まっていた。今のところは何事もなく進んでいる。

 

 

 タッタッタッタッタッ

 

 こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。

 

「あ、もう模擬戦始まっちゃってる?」

 

 フェイトだった。

 

「フェイトさん」

 

「私も手伝おうと思ってたんだけど…………」

 

どうやら雑務で遅れてきてしまったようだ。

 

「今はスターズの番」

 

 

「ホントは、スターズの模擬戦も私が引き受けようと思ったんだけどね……」

 

 

「ああ、なのはもここんところ訓練密度が濃いぃからな………少し休ませねぇと」

 

 その意見は非常に賛同したいところだ。

 

「そうだな、なのはのやつ部屋に戻ってもずっとモニターに向かいっぱなしだったりするしな」

 

 この間も訓練メニューの編成やビデオで連携の確認とかで。

 

「そういう賢伍も睡眠時間削って自主トレーニン グとかしてんじゃねぇか」

 

「なに、俺のはちゃんと無理のないようにだし。それに最近は控えてたよ」

 

 ここんところは色々と考えすぎてする気にもならなかった。

 

「なのはさん…………訓練中も、いつも僕たちのことを見ててくれるんですよね……」

 

 

「ホントに……ずっと………」

 

 エリオとキャロが感慨ぶけにつぶやいた。なのははれっきとした教導官で信念をもって新人たちの教導に取り組んでいる。

そんななのはが生徒と壁ができやすい教導官の立場でここまで慕われているのは当たり前かもしれない。おまけで一緒にやっている俺とはそこでもう天と地の差だ。

 

「なあ……………賢伍」

 

 

「ん?どした?」

 

 ヴィータの視線は俺の腹部のほうに向いていた。そう、例の傷の………………。

 

「痛むのか……………?」

 

 突然何を言い出したのかと思った。が、すぐにきずいた。無意識に…………その患部に手を添えてさすっていた。実は先程から軽くズキズキと痛み出していたのだ。軽くだが。

 

「いや、別にそういうわけじゃねぇよ.....」

 

 慌てて古傷から手を放してそう答える。

 

「そうか....ならいいんだけどよ...」

 

 そういうとヴィータは模擬戦の方に視線を戻した。先ほどより心なしか表情が暗くなっているように見えた。なのはの撃墜事件で傷を負ったのはなのはだけじゃない。当事者であるヴィータにも心に深い傷を負った。俺がなのはに隠していることはなのは以外の仲間たちは全員知っていることだ。ヴィータもあの時は必要以上に自分を責めていたことを思い出した。こいつも、今日なのはに話すことになって色々と敏感になっているんだろう。

 

「お、クロスシフトだな」

 

 模擬戦に視線を戻していたヴィータが口を開いた。それにつられて俺も模擬戦に視線を戻す。ティアナがクロスファイアーを撃とうとしていた。

 

「.......ほっ..」

 

 それを見て少し安心した。前回のアグスタのときのような無理な数じゃなかったからだ。

 

「クロスファイアー.....シュート!!」

 

 十数個の弾が撃ちだされる。

 

「.....ん?」

 

 そこで違和感を覚えた。

 

「...?..なんかキレがねぇな...」

 

 その通りだった。

 

「コントロールはいいみたいだけど....」

 

 

「それにしたってあれは....」

 

 いくらなんでもキレが悪すぎる。これじゃあまるで…………最初からあてる気はないみたいだ。しかし、それを否定するかのようにティアナの放った魔力弾はなのはに向かって追尾していく。

 

「……………?」

 

 なのはもそれに違和感を感じながらも軽々しく避ける。

 

 

 

ヴィぃぃぃン

 

 

「...っ!」

 

 なのはが避けた先に突如としてウィングロードが展開された。その道をつかって誰かがなのはにむかって突っ込んできている。

 

「くっ!」

 

 スバルだ。ローラーブーツでなのはにどんどん迫ってきている。

 

「うおおおおおおお!!!」

 

 すでににぎられている拳がなのはにふりおろされた。

 

「くっ!」

 

 なのははそれを魔力障壁で受けとめる。

 

 

ドァン!!

 

 

 衝撃が響いた。

 

 

「くう...うううう!!」

 

 つばぜり合い。魔力の火花が飛び散っていく。

 

「シャイニングハート.....」

 

 

SH『はい?マスター?』

 

 

「念のため…………いつでもいけるようにしておいてくれ………」

 

 

SH『了解……』

 

 少しだが、あいつらなのはが教えていたフォーメーションとは違う形で攻めている。頼むから、途中で止めさせるような真似はしないでくれ………。やっとこさここまでやって来たんだ………俺の努力の無駄にはさせないでくれよ。

 

 

「…………くっ!」

 

 

「あっ………!きゃああああああああああ!!」

 

 つばぜり合いはなのはがうまくスバルを受け流しウィングロードから突き落とした。

 

「うわっ……とと……」

 

 そのまままっさかさまに落ちて行ったがあらかじめ展開していたウィングロードにかろうじて着地する。

 

「こらスバル!だめだよ、そんな危ない軌道!」

 

 

「すみません!でもちゃんと防ぎますから!」

 

 そんな会話が聞こえてきた。その注意だけで事が収まれば楽なんだけどなとついそう考えてしまい苦笑する。

 

「む………ティアナはどこだ……?」

 

 先ほどいた場所にはいなかった、どこに行ったんだ?

 

「…………いた!」

 

 すぐに見つけれた。ビルの屋上で遠くからなのはにデバイス銃を向けていた。

 

「砲撃!?ティアナが?」

 

 そんなばかな!ティアナのやつ砲撃魔法を身につけたとでもいうのか?

 それにはなのはも気が付いていた。

 

「うおおおおりゃあああ!!」

 

 そこにまたスバルからの追撃、先ほどと同じようにウィングロードを使い真正面からなのはに拳を叩き込む。

 

「またっ!」

 

 さっき注意したばかりなのに!そう思いつつもなのははまた魔力障壁でそれを防ぐ。またもつばぜり合い。

 

「ティアァァァァァァァァァ!」

 

 スバルが叫ぶ。今だと合図するみたいに。

 

「そういうことか…………」

 

 スバルが叫んだ瞬間砲撃魔法を構えていたティアナが残像のごとく消え失せた。

 

「あっちのティアさんは幻影!?」

 

 

「本物は!?」

 

 キャロが幻影だったことに驚き、エリオが辺りをまんべんなく探す。

 

「上だ………」

 

 俺がそう答えると全員視線を向ける。ちょうどなのはの真上、そこにウィングロードを使って走っていた。デバイスの銃から魔力刃を突き出してなのはに向かってまっすぐに飛び込む。その刃をなのはに向けて。

 

「てやあああああああああああ!!」

 

 ティアナの咆哮が辺りにこだました。負けないと。自分だってやればできるんだと叫んでいるかのように。

 

「くっ!!シャイニングハート!」

 

 相棒の名を叫ぶ。

 

SH『了解!』

 

 止める。模擬戦は中断だ!げんこつしてでもティアナは止める!あれは………あのフォーメーションは完全になのはが教えたものではなかった。あれは…………あれは敵を倒すことに特化した技だ。それも自分自身を顧みないで。

 

「シャイニングハート………セット」

 

 セットアップと続けようとした時だった。

 

「レイジングハート………モードリリース」

 

それはなのはの小さなつぶやきだった。誰に聞かせるわけでもない本当に本当に小さなつぶやき。けどなぜだかそのつぶやきは俺の耳にはっきりと聞こえた。その言葉を聞いて俺の動きは止まった。セットアップしようとした言葉も止まった。

 

 

ドォン!!

 

 

 衝撃が起こった。なのはに突っ込んでいったティアナがなのはと衝突したからだ。衝突の影響でなのは達が黒煙に包まれる。こっちからじゃ今どうなっているのかわからない。

 

「なのは!」

 

 フェイトがなのはの名を叫んだがそんなことは気にしてられなかった。

 

 

「………しまった……」

 

 そう思った時にはもう遅い。絶望という感情に支配される。なぜもっと早く俺は事を済ませられなかった!なぜもっとうまくできなかった!!してもしょうがない後悔の念が頭の中でぐるぐると回る。

 

 

 

 

煙が晴れた。状況が視認できるようになった。目を凝らしてなのは達を見る。それを見て俺は自分が完全に失敗したことを認めざるを得なかった。

 

 

 

 

 

ああ、─────間に合わなかった。

 

 

 

 

そう無意識につぶやいた気がした。

 

 

 

 煙が晴れて真っ先に目に写ったのは、悲しげな....虚ろな顔をしたなのはだった。

 

「おかしいな………二人とも.……どうしちゃったのかな…?」

 

 なのはの声が聞こえた。その声はいつもみたいな明るい声じゃなくて、いつもみたいなまわりを和ませる雰囲気でもなくて。ただただ、淡々と感情のない声だった。

 

「あ………ぁぁ...」

 

 さらに煙が晴れて次にみえたのはスバルだ。なのはに振り下ろされた拳はなのはの左手によって止められていた。スバルは今のなのはを見て気後れしていた。スバルは平気だと思っていたのだろう。

 たとえ指示を無視したフォーメーションでも、うまくいけば大丈夫だと。自分の憧れであるなのはさんは優しい人だからと………。

 

「………………えっ……?」

 

 そして最後にティアナの姿も見えた。浮遊したまま動きは止まっていた。なのはに向けた魔力刃はスバルの拳を止めた手とは反対、右手によって止められていた。刃の部分をギュッと握って。血が滲むのもいとわずに。

 

「頑張ってるのはわかるけど………模擬戦はケンカじゃないんだよ?」

 

 感情のこもってない声で、淡々とただ続ける。

 

「練習の時だけ言うこと聞いてるふりで、本番でこんな危険な無茶するなら......練習の意味.....ないじゃない」

 

 

「なのは………」

 

 すまない、二人に分からせることができなかった。こんなはずじゃなかった。なのはにこんな思いをさせるつもりじゃなかったんだ.......。

 

「ちゃんとさ………練習どおりやろうよ?」

 

 刃をつかんでいるなのはの右手が震えだす。血はますます滲んでぽたりとこぼれ落ちた。怒りで震えている?違う、そうじゃない。悲しいんだ。悲しくて震えているんだ。

 

「ねぇ?私の言ってること、私の訓練………そんなに間違ってる?」

 

 いつもの俺なら、間違ってないと、なのはは正しいと。そう叫んでいたかもしれない。けど、この事態をまねいたのは俺のせいでもあった。だから………喉から言葉が出なかった。

 

「くっ!!」

 

 こう着してから先に動いたのはティアナだった。魔力刃を解除してなのは右手から逃れる。そのまま距離をとって両手にもった二丁の拳銃をなのはに向けた。

 

「私は!もう誰も………失いたくないからぁ!」

 

 それは悲痛な叫びだった。

 

「もう誰も………傷つけたくないからぁ!!」

 

 心からの叫び声。ティアナの素直な気持ち。最後は世間でバカにされて死んでしまった兄がいて、自分の不甲斐なさでパートナーを傷つけそうになって、もうそうならないように死ぬ気で、身を削って自分なりに努力してきた少女の叫びだった。

 

「だから…………強くなりたいんです!!」

 

 その瞳に涙がたまって、流れた。気持ちの吐露。ため続けた気持ちを一気に吐き出して。ティアナは魔法を発動させる。

 

「……………少し……頭冷やそうか?…」

 

 虚ろな、そしてどこか悲しげな目をしたなのはがいい放った。人差し指をティアナに向けながら。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!ファントムブレイッ─────」

 

 ティアナの魔法が発動する、そう思ったその一瞬、

 

「クロスファイアー……シュート……」

 

 

「─────ッ!?」

 

 

ドォォォン!!

 

 

 それよりも早くなのはの放ったクロスファイアーがティアナに命中した。わざわざティアナが得意とするクロスファイアーを使ったのは、ちゃんと意味があったんだろう。

 

「ティア!………っ!バインド!?」

 

 なのはの隣で現状を見ていたスバルはティアナのもとに向かおうとするがスバルの動きが止まった。いつのまにか桃色のバインド魔法で捕らえられていた。

 

「そこにいて、よく見てなさい……」

 

 なのはだった。そのまま追撃の魔法を発動する。先程と同じクロスファイアーだ。

 

「もういい…………」

 

 ティアナは最初のクロスファイアーで半分意識を失っている状態だった。突きつけていた腕はだらんと垂れ下がり、瞳は光を宿していなかった。

 

「なのはさん!」

 

 親友が、ティアナがまた攻撃されるのを黙って見ているスバルではなかった。しかし、すでに遅い………。

 

「………シュート」

 

 2発目が打ち出された、まっすぐにティアナのもとに向かっていく。

 

「もういいんだよ、なのはぁ!!」

 

 それ以上重荷を背負うことはないんだよぉ!

 

 

ドオオオオオォン!

 

 

 

 俺の声はその爆発音でかきけされた。

 クロスファイアーが直撃したことによりティアナの回りを煙が包む。

 

「ティアアアアアアアアア!!?」

 

 スバルの叫びがこだました。その場にいた誰もがティアナに直撃したと思っている。しかし、

 

「もう十分だよ………なのは……」

 

 煙の中から聞こえたのはティアナの声ではなくて。

 

「っ!?賢伍は!?」

 

 先程まで隣にいた男がいないことに気づくヴィータ。煙は徐々に霧散し、消える。そこにいたのは………。

 

「賢伍………君……」

 

 その名を呼ぶなのは。クロスファイアーが直撃したのか賢伍制服はボロボロで上半身は半分ほど露出してしまっていた。ティアナは賢伍に抱き抱えられてそのまま気絶してしまったようだ。

 

「お灸はそれくらいでいい、憎まれ役を買おうとしなくていいんだ………」

 

 自分でもびっくりするくらいとても優しい声。なのは諭させようとする俺の声はなのはを落ち着かせるのにも役に立った。

 

「………うん」

 

 軽く頷いてくれるなのは。俺は抱えているティアナをウィングロードにゆっくりと寝かせる。その手には気絶してもなお、銃が握られていた。

 

「ティア!!」

 

 バインドに縛られながらもティアナに駆け寄るスバル。俺は止めずにそのまま好きにさせてこういい放った。

 

「今日の模擬戦はこれまでだ。二人とも撃墜されて終了。後は二人で頭を冷やしてこい…………」

 

 

「…………っ……」

 

 スバルが何か言いたげだったが有無を言わせるつもりはなかった。

 

「お前の反論を聞くのはお前自信、血がのぼってる頭を冷やしてからにする。それに…………模擬戦をただ対象を倒すものと勘違いしてるやつの反論を聞くつもりはない………いいな?」

 

 スバルは悔しそうに瞳を滲ませながらも「はい」とだけ言い残し、ティアナを抱えて隊舎向けて移動していった。

 

「賢伍君…………」

 

 不意になのはに呼ばれる。

 

「…………………………」

 

 返事はしない。これからなのはが言わんとしていることは分かっているから。

 

「知ってたん………だよね?賢伍君は………」

 

 何が?と聞くことは愚問だろう。もちろんティアナとスバルのことだ。俺は正直に答える。

 

「…………あぁ、知ってたよ」

 

 なのはに向き直る。その眼は完全に悲しみと言う感情に包まれている眼だった。

 

「……………そっか………」

 

 天を仰ぎ見るなのは。そして一気になのはの中の何かが決壊しようとしていた。

 

「そうやって………また隠して………」

 

 俺と目が会う。既になのはの眼には涙がたまっていた。

 

「私が………気づけなかったのも悪い……悪いけど……知っていたならちゃんと教えて欲しかった………」

 

 震える体を止めようとしているのか両腕を抱きながら言うなのは。俺は………俺はまた…………選択を誤った。それがまたなのはにこんな顔をさせてしまっている。ちくしょう、くそぉ………。

 

「どうして!?」

 

 溜め込んだ思いは一気に吐き出されて

 

「私が悲しむから!?私が賢伍君と比べてこんなにも弱いからなの………?」

 

 ちがう!違う!違うんだよ!!傷ついてほしくなかったんだよ!!ただそれだけだったんだ!

 

「他にも私にまだ隠してることがあるよね?多分私がすごく関係してること、知らなくちゃいけないようなことを!分かってるんだよ?昨日の賢伍君の態度を見れば!!」

 

 

「違うんだよなのは!俺はただ………っ!」

 

 

「………………どうして? 」

 

 

 

 俺は……………

 

 

 

「どうして何も教えてくれないの?」

 

 

 

 俺は……………っ!

 

 

 

「いつになったら私は賢伍君と同じ所に立たせて貰えるの?……………ねぇ……」

 

 俺は惚れた女の子に何て顔をさせてんだよぉ!!違う!こんな状況望んでいない!違うんだ!なのはがこんなにも取り乱しているのは、きっと今まで溜め込んでいたからなのか?はやてたちが気づく前からなのはは徐々に思い出していたのかもしれない。

 それからずっと、ずうっと溜め込んでいたんだ。それが、今の模擬戦で完全に型が外れてしまった。

 

「…………………………」

 

 何か言えよ俺!なんとか言い返せよ!…………。くそ、言葉が出ねぇよ…………。何も言い返せない………。

 

「……………………それは………何?」

 

 

「……………えっ?」

 

 なのはが悲しみから一変、驚愕した表情を浮かべて口を開いた。

 

「…………その……お腹の傷は何?」

 

 

「っ!?」

 

 なのはのクロスファイアーを生身で受けて俺の服がボロボロになっていることに今さら気がつく。ヤバイ、見られた!例の古傷を………見られた………。

 

「あれ?…………えっ?………あ、あぁ………」

 

 途端に頭を抱え出すなのは、体は震え、顔色はみるみる悪くなる。

 

「あれ、だって賢伍君は………………」

 

 俺には分からなかったが、今なのはの頭の中では6年前の記憶がフラッシュバックしていた。

 

「あぁ……………っ!?」

 

 なのはの中で封印されていた記憶。すべて思い出した訳ではない。けど、一つの決定的な出来事を思い出す。

 

「あぁ………そっか………その傷…………」

 

 なのはの顔がまたも悲しみという感情に包まれていた。おい、まさか………。

 

「私の………………せいで………」

 

 

「ちがっ………!」

 

 否定の言葉を述べようとした時なのはの顔を見て言葉が途中で止まった。

 

「私の……………せいなんだね……」

 

 深い絶望に落ちた顔。

 

「私が…………」

 

 目から一筋涙を垂らして……。

 

「……………………嫌ぁ……」

 

 何も………………言えなかった。

 

「…………………っ!」

 

 そして、なのはは突然駆け出した。ここにいられなかった。顔向けできなかった。何も知らずにただのうのうと過ごしていた自分が恥ずかしかった。

 

「な!ま、待て!……なのは………」

 

 

ズキン!

 

 

「ぐぅ!?ぐああああああああ!!!」

 

 こ、こんなときにぃ!傷がぁ…………。

 

「賢伍!?」

 

 たまらずヴィータが俺に駆け寄る。

 

「……っ!私はなのはを追いかけてくる!」

 

 

「頼んだ!」

 

 一瞬俺の方を気にしながらもフェイトはそのままなのはが走り去った方へ駆け出す。

 

「ううぅ!!あ、ああああああ!!」

 

 

「おい賢伍!しっかりしろ!!賢伍!」

 

 待て、なのは…………行くなぁ……。

 

「僕とキャロでシャマルさんを呼んできます!」

 

 

「エリオ君!早くっ!」

 

 

「頼むぞ!……………おい賢伍!鎮痛剤はどこだ!?」

 

 違う………違う………。こんなはずじゃなかった……。こんな…………今日の夜で終わらせられるはずだったんだ……。

 

「おい!しっかりしろ!!賢伍!」

 

 

「があああ!うわあああぁぁぁぁぁ!!」

 

 この叫びが、痛みによるものなのか、ふがいない自分に対する悔しさなのか、はたまた両方か…………分からなかった。しかし…………。

 

 

 

俺は………失敗したということだけは。最悪の状況になったことだけは理解できていた…………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






今回は…………長かった………。ようやくここまでたどり着いた………。

ここからどうなるか!

それでは次回話にてm(__)m


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「はっ!」

 

 唐突に意識が覚醒し、俺は勢いよく飛び起きた。

 

「あれ?………えっ?」

 

 ここは…………?医務室?俺は…………眠っていたのか?記憶を探り直前の出来事を思いだそうとする。

 

 

 

『いつになったら私は賢伍君と同じ所に立たせて貰えるの?……………ねぇ……』

 

 

 

「………………くそっ……」

 

 俺は……俺は………ちくしょう。失敗した。間に合わなかった。ティアナに分からせてあげることができなかった。なのはを傷つけてしまった。

 

「何をやってんだよ俺は………っ!」

 

 頭を抱えてうずくまる。もう少しだった。もう少しだったんだ………。なのに直前で……こんなっ!

 

「あら?気がついたのね?」

 

 

「っ!………シャマルさん………」

 

 医務室にはシャマルさんがいた。当然といえば当然か、担当なんだし。

 

「俺は……………」

 

 

「…………直前の事は……しっかり覚えてるみたいね?」

 

 

「………………あぁ」

 

 失敗したことを。俺がなのはを傷つけてしまったことを。

 

「あなたが倒れた時、キャロとエリオに慌てて連れられてね?そのまま応急処置だけしてそのまま皆でここに運んだのよ」

 

 俺が意識を失ってからの事を説明してくれる。どうやら迷惑をかけてしまったようだ。

 

「なのはは?………」

 

 それが一番気になる所だった。

 

「なのはちゃんは………今フェイトちゃんがそばに居てくれてるわ。といっても、なのはちゃんは心ここにあらずって感じらしいけど……」

 

 

「そうか………」

 

 それを聞いて頭が痛くなった。俺がしたことは結局、なのはを傷つけるだけだったのか?

 

「俺は………ホントに駄目なやつだ……」

 

 

「賢伍くん?」

 

 

「結局、こんなことになって………俺はやっぱり皆に迷惑をかけるだけなのかよ!」

 

 つい声が大きくなってしまう。なのはが撃墜したときも、俺が失踪したときも、そして今も!俺はただただ皆に迷惑をかけてしまってる。

 

「やっぱり、俺なんて居なかった方が………っ!」

 

 

 

パァン!

 

 

 

 医務室に渇いた音が響き渡った。それと同時に俺の頬に衝撃を感じた。なんだ?目の前には手を広げて腕を振り上げたシャマルさん。……………シャマルさん?

 

 

「…………え?……え?」

 

 最初は分からなかった。分からなかった。けどその衝撃を感じた頬に手を添えた。あぁ、そうか。ぶたれたんだ。

 

「なんで………」

 

 と、抗議の声をあげようとシャマルさんを見据える。が、声は出なかった。

 

「シャマルさん…………」

 

 とても、悲しそうな顔をしていたから。とても、怒ったような顔をしていたから。

 

「何てことを言うのあなたは!」

 

 

「っ!」

 

 初めて、シャマルさんの怒った声を聞いたかもしれない。

 

「あなたは!つまずいたらすぐにあきらめるの?違うでしょう!?」

 

 一言一言が、俺の心に突き刺さる。

 

「迷惑かけてしまうから自分はいない方がいい?当たり前じゃない!仲間だから迷惑かけちゃうんでしょ?それが仲間ってものなんでしょ?それを教えてくれたのは誰よ?」

 

 

「……………………」

 

 何も言えない。何も…………さっきのなのはと時と同じ、何も言えなかった。

 

「簡単にいない方がいいとか言わないで。あなたのその一言であなたの仲間が悲しむわよ。私だって…………」

 

 

「…………ごめん………シャマルさん」

 

 嫌な沈黙が流れる。少しだけ叩かれた頬がヒリヒリとした。それが、なんだか………痛かった。

 

「ここであきらめるの?賢伍君は?」

 

 ふと、口を開くシャマルさん。

 

「確かに私達は失敗したわ。なのはちゃんを傷つける結果になってしまった。けど、それで終われないでしょう?」

 

 

「当たり前だ…………」

 

 俺は……………決めたんだ。諦めないと。闇との闘いもそう、そして今回のことも、俺は諦めないと決めたんだ。だから………。

 

「ここでくすぶってる場合じゃないよな………」

 

 

「ええ、その方があなたらしいわ。賢伍君………」

 

 互いに見つめあいそう言った。俺らしいか…………。そうだな、ここで自暴自棄になって沈んでる場合じゃない。確かに、ショックだった。なのはにあんな顔をさせてしまって。けど、今一番苦しんでるのは………なのはだから。俺はベットから立ち上がり、

 

 

 

パンパン!

 

 

 

 頬を両手を使って思いっきりたたく。

 

「よし!」

 

 やれることは…………まだある!俺がすべきこと、まだ結果を決めるのは早い。まだ、良い終わり方ができるはずなんだ。

 

「ふふ、気合いを入れるのはいいけど隣の人を起こさないようにしてね?」

 

 

「え?」

 

 そういわれてふと隣を見た。そこはカーテンに囲まれているベッドがある。ちょっと覗いてみると。

 

「……………ティアナ」

 

 そうか、あいつも気を失ってあのあとスバルが医務室まで運んでいたのか。大丈夫だ、お前の思いは……分かってる。だからこそ明日は楽しみにしておいてくれよ。ティーダは…………。いや、明日には分かることだしな。

 

「……………そういえばシャマルさんもさっき声大きくしてたじゃないか?」

 

 俺のことを怒ってくれた時に。ティアナが寝てると知っていたシャマルさんが大声を上げたという事実をいたずら心で指摘する。

 

「あ、あれは!………賢伍君が………はぁ………そうね………迂闊だったわ」

 

 そういってシャマルさん手を額につけて困った顔をする。ビンタされたからちょっとした仕返しだ。

 

「ははは、そんじゃちょっといってくるよ」

 

 そのまま医務室をあとにする。

 

「シャマルさん………ホントにありがとう。感謝してる」

 

 医務室のドアを前にして俺はそう口を開いた。最近は特に迷惑掛けぱなっしだ。傷の治療のこともあるし、今みたいに何度も励まされている。ホントに、感謝していたんだ。

 

「ふふ、いいのよそんなこと……」

 

 照れくさそうにシャマルさんはそういってくれた。

 

「なぁ、シャマルさん………一つ聞いていいかな?」

 

 

「ん?いいわよ?」

 

 

「どうして、俺にここまでしてくれるんだ?」

 

 ただ、気になった。変な質問だけど、何故か聞きたくなったんだ。

 

「そんなの決まってるじゃない………」

 

 シャマルさんはなんのことなくこう答えた。

 

「仲間だからよ………」

 

 

「…………………」

 

 仲間……………。そうだな、また大事なことを忘れそうになっていた。俺はいつだって、仲間に支えられている。だから、六課に入って皆を支えたい、守りたいと思ったんだ。だから、そんな資格はないかもしれない。けど、今苦しんでいるなのはを支えたいんだ。

 

「本当に、ありがとう。行ってくる………」

 

 

「はい、頑張ってね……」

 

 シャマルさんに見送られて、俺は医務室を後にする。目指すべき場所はなのはのいるところ。手当たり次第探すことにした。

 

 

 

「…………………」

 

 一人医務室に残ったシャマルは一息ついて、未だベッドに寝ているティアナの様子を見る。穏やかな寝息をたて、ぐっすりしっていた。疲労が溜まっていたのだろう、しばらくは起きそうもなかった。

 

「………全く世話が焼けるんだから」

 

 椅子に腰かけて一人そうぼやく。ティアナに向けた言葉ではなく先ほど出ていった男に向けた言葉だった。シャマルにとって、賢伍とは大事な仲間であり弟のような存在なのだ。だから、なんだか放っておけない。それがシャマルが抱く賢伍の思いだった。

 

「仲間って、どんなものかを教えてくれたのは貴方なんだからもっとしっかりしてほしいわねぇ…………」

 

 直接教えられた訳ではない。しかし、シャマルは賢伍の姿を見て学んだのだ。ヴォルケン・リッターと神崎賢伍の出会いは闇の書の蒐集を始める前。ひょんなことで知り合いになりひょんなことで、はやてと皆で仲良くなった。

 そして、闘い。管理局側の魔導師で当時は敵対していたなのはとフェイトとの死闘。そして、間に立ち続け、闘いを止めようとした賢伍。彼のその姿を見て学んだのだ。仲間とは何なのか、絆とは。

 

「ふふ、前よりも頼もしくになったけどやっぱり………」

 

 手のかかる弟は未だ見てあげないと不安で仕方ないと言った感じだった。とりあえず、何も考えずに飛び出した賢伍に少し手助けをしてあげないと。

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

「……………ここにもいないか……」

 

 医務室を飛び出してなのはを探しはじめて数十分。部屋にも訓練所にもどこにもいなかった。いそうな所はあらかた探したが、結局なのはは見つかっていない。

 

「……………はぁ、一体どこにいるんだ?」

 

 

PPPPPPPPP

 

 

 途方に暮れているところで、シャイニングハートに通信が入る。…………フェイトからだった。

 

「何だフェイト、どうした?」

 

 モニターにフェイトが写し出される。

 

「あぁ、賢伍。シャマルから連絡がきてね、賢伍がなのはを探してるって言うから………」

 

 

「居場所知ってるのか!?」

 

 

「う、うん。今一緒にいる。通信はなのはと離れてしてるけど………」

 

 そこら辺は気を使ってくれたらしい。なのはは、きっと俺に会いたくないだろうから。俺が来るとなったら移動してしまうかもしれない。

 

「分かった。じゃあそっちに向かうよ。ちょっと待っててくれ」

 

 

「うん。任せて」

 

 フェイトから居場所を聞いて、俺は駆け足でその場所に向かった。

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

「はぁ…………はぁ……………なのは!」

 

 六課の敷地内である外の広場。そこのベンチになのはとフェイトが腰かけていた。

 

「っ!…………賢伍君………」

 

 俺の呼び掛けにビクッと少し怯え気味に反応するなのは。それが、悲しかった。そして、今のなのはの雰囲気は見てられなかった。声を掛けるのも戸惑うくらいに。表情は暗く、眼は光を宿していない。まるで別人だ。俺の事だけじゃなくて、ティアナ達のこともショックだったんだ。それで、俺のことも重なってしまった。状況は最悪だ。

 隣に座るフェイトを見る。フェイトは悲しい顔をして首を振っていた。かなり沈んでしまっていることはそれで分かった。

 

「なのは…………」

 

 呟きゆっくりと近づく。

 

「………………………」

 

 なのはは何も言わない。けど、俺が近づく度に少し後退してるように感じた。いや、実際に少しずつ下がっていた。

 

「なのは、話がしたいんだ………頼む……」

 

 

「…………」

 

 何も、言ってくれなかった。

 

「嫌だよ………賢伍君………」

 

 ようやく口を開いたが、出た言葉は拒絶の言葉。

 

「私に近づいたら……また傷つけちゃうよぉ………」

 

 顔をくしゃくしゃにしながらそんなことを呟いていた。

 

「俺はなのはせいで傷ついた事なんて一度もないだろ?」

 

 

「やめてよぉ……………」

 

 …………………本当に見ていられなかった。俺のせいで…………なのはが……。

 

「ごめん。ごめんね…………。でも嫌なの………私のせいでもう傷ついてほしくないの…………。私のせいであんなに叫ぶほど痛がってて、私はそれを知らなくて…………」

 

 拳が震えるほど力が入る。血が滲むほど手が震える。

 

「何で………私なんか庇わないでよ……いっそお前のせいだって言われた方がまだ良かった………。私もう…………賢伍君とは一緒にいられない。いれられないよぉ…………」

 

 とうとう、頭を抱え出して涙が溢れだした。だめだ、止めてくれ。そんなこと言わないでくれ………。俺は一度もお前のせいだなんて思ってない。俺が勝手にしたことだから。おまえに隠していたのはお前が自分を責めると思ってたから……………。

 

「ティアナやスバルにも不満を与えちゃって………あんなことになって………教導官としても失格だよ…………。ホントに………ダメなんだなぁ私………」

 

 

「なのは…………」

 

 また…………何も言えない。分かったから。今俺がなのはに何を言ったってなのはの心には届かない。むしろ余計になのはが傷つくかもしれない。

 

「俺は……………………」

 

 それでも、これだけは言っておかないといけない。これだけでも。

 

「俺は…………なのはに取って最善の選択だと思うことをし続けてきたつもりだった。けど、それがこんななのはを追い込むことになるなんて思わなかったんだ…………。だから……………」

 

 だから……………………。

 

「すまなかった……」

 

 せめて、これだけは伝えておきたかった。

 

「……………ヒッ………グスッ……」

 

 なのはは何もいってこなかった。ただ、溢れる涙をぬぐい続けるだけ。

 

「…………私………どうすればよかったのかな……」

 

 言葉を紡ぐなのは、それは謝罪に対しての返答ではなくて、独り言のようだった。

 

「教え子にあんなことさせちゃって、ちゃんと教導のことを理解させてあげられなくて。賢伍君にも心配ばかりかけちゃって…………」

 

 どうすればいいんだろう………。そうもう一回呟いて、途方にくれてるようだった。

 

「私なんか…………いない方がよかったのかな………」

 

 っ!!

 

「そんなこと言うな!!」

 

 とっさにそう叫んでいた。

 

「いない方がよかったなんて言うなよ!………」

 

 あれ?これって……………。

 

「そんなこと言ってたら、皆悲しむじゃないか!俺だって!」

 

 あぁ、そうか。さっきのシャマルさんはこんな気持ちだったんだな。だからなおさら、俺は言葉を止められなかった。

 

「俺にとって、なのはは必要なんだよ!かけがえのない存在なんだよ!」

 

 

「賢伍君…………………」

 

 小さく小さく。震えた声でなのははそう呟いた。

 

「だから……………そんな悲しいこと言うなよ………」

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 静寂。その言葉を最後に誰も言葉を発しなかった。フェイトも俺もなのはも。それぞれが下を向いていた。だれも目を合わせず。ただ下を向いていた。

 

「………………………」

 

 俺は黙って、そのままそこを後にした。ゆっくりとした足取りで、そこから逃げた。もうなのはに対して言うことも、出来ることも…………思い付かなかったから。

 

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

「…………………」

 

 少し肌寒く感じる風を感じながら。俺はその場所の備え付けのベンチに横たわる。六課の本部の屋上。特に何も考えずフラフラしていたら、いつの間にかその場所にたどり着いていた。

 

「……………結局俺は……」

 

 このまま何もできやしないのか………。このままで終わらせてしまうのか?

 

「………………………」

 

 どのくらい自問自答を繰り返したのか。すでに景色は暗い。いつの間にか夜になっていた。時間は………何時だろうか。確認する気もおきない。

 

SH『マスター』

 

 その静寂を破ったのは、俺の愛機のシャイニング・ハートだった。

 

「どうした。ボンクラデバイス…………」

 

 

SH『………………まあ今はツッコまないでおきましょう。ショウ副隊長からメールです……』

 

 

「………読み上げてくれ」

 

 体勢を代えずに俺は短くそう答えた。

 

SH『分かりました。…………………こちらの準備は完了した。予定通り明日の朝に始められる。明日はよろしく頼む。…………だそうです』

 

 

「分かった。了解したと返事を送っておいてくれ」

 

 シャイニング・ハートは了解しましたと答える。そこでまた静寂が訪れると思ったがその予想は外れた。

 

SH『いつまでしょげてるんですか?マスター………』

 

 唐突にそんなことを言われてしまった。

 

「うるせー。別にしょげてなんかねぇよ………」

 

 

SH『私にはしょげてるようにしか見えないのですが…………』

 

 

「あー、もう!わかったよ!しょげてますぅ!!ふてくされてますぅ!いじけてますぅ!!これでいいかこのやろう!」

 

 

SH『わかればいいんです。わかれば』

 

 このやろう…………。この世話焼きデバイスめ。こちとらこれからどうするか考えてるっていうのに…………。

 

SH『物事はいつだって単純なことが多いです』

 

 

「ん?………」

 

 突然、シャイニング・ハートが語り出した。こいつは普通のデバイスと比べたら饒舌な方だがそれでもこんなにしゃべるのは珍しい。

 

SH『だからこそ。案外単純なことで、それは解決したり、終わったことになったりします』

 

 

「…………………………」

 

 

SH『だからマスター。深く考えるより、貴方はするべきと、したいと思った行動を迷いなくすべきだと私は思います。それが単純なことだとしても。その方が、マスターらしいですから』

 

 まるで説教された気分だった。シャイニング・ハートにまで励まされてしまっている。

 

「うるせぇなぁ。それが出来りゃ苦労しないんだよ。………………けど、そうかもな」

 

 その方が……………いいかもしれない。いや、その方がいいだろうな。俺がやりたいこと、やるべきと思ったこと。単純だけど、大切なことを………………。

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

「………………」

 

 訓練所の前でパチパチと機械音が鳴り響いている。モニターを展開し、色々設定をいじったりしている人物がいた。高町なのはだ。賢伍がいなくなった後時間をかけてようやく落ち着いてきたなのはは自分がすべきことをすることにした。

 まずは明日の訓練の準備。賢伍の事や思い出した記憶で色々思うことはあったが、これ以上皆には迷惑をかけられない。こんな姿を部下の4人も見せられないのでなのはは切り替えるよう努力したのだ。

 

「なのは!」

 

 

「フェイトちゃん…………」

 

 呼ばれた声に反応して振り替えると、小走りでこちらに近づいてくるフェイトだった。あのあとは、一旦もう大丈夫だからと伝えて別れたのだがいったいどうしたのだろうかとなのはは思った。

 とりあえず、作業も終わったので一緒に隊舎で向かって歩きながら話を聞くことになった。

 

「さっきティアナが目を覚ましてね、スバルと一緒にオフィスに謝りに来てたよ」

 

 

「……………うん」

 

 

「なのはは訓練所だから、明日朝一で話してみたらって伝えちゃったんだけど……」

 

 

「うん、ありがとう………でもごめんね……」

 

 なのはから出た言葉は、感謝と謝罪の言葉だった。

 

「私の監督不行き届きで、フェイトちゃんや…………ライントニングの二人にまで巻き込んじゃって………それに…………」

 

 その後に言葉は続かなかった。続けたくなかったのだ。思い出したくないから。あのときのことも。今は賢伍のことさえ思い出したくない。………切り替えようとしている自分が保てなくなるかもしれないから。

 

「あ、ううん…………私は全然……」

 

 フェイトもおろおろしてそう答えることしか出来なかった。

 

「ティアナとスバル…………どんな感じだった?」

 

 なのははそう心配そうに言った。やはり気にはなっていた。

 

「やっぱり………まだちょっとご機嫌ななめだったかな……」

 

 やっぱりとなのはは思った。今回の事でずっと自分に対して不満を溜め込んでいたと実感してしまったのだ。自分の思いをしっかり伝えてあげることが出来ていなかった。他にやりようがあったのかもと思ってしまう。

 

「まぁ、明日の朝ちゃんと話すよ………FWの皆と……」

 

 

「うん……」

 

 そこでフェイトは少し表情を緩めた。少し安心したのだ。なのはが前向きな発言をしたことを。それと同時に、全く賢伍についてなのはが語らなかった事に不安も高まった。

 そう言ったなのは自身も、明日の朝FWの皆とどう話せばいいのか悩んだ。ティアナが納得してくれそうな言葉を自分では語ることが出来ないと思っていたから。

 そのまま二人は隊宿に到着する。そのまま、解散しようとしたときだった。

 

 

 

 けたたましく。赤色の光が辺りを点滅させ始める。モニターが展開され、そこには大きくアラートと表示されていた。

 

「「っ!」」

 

 警報、緊急出動の合図だった。

 

「あっ!」

 

 

「っ!?」

 

 その警報は食堂で飲み物を買おうとしていたエリオとキャロにも。

 

「っ!」

 

 

「はっ!」

 

 自室で休んでいたスバルとティアナにも。

 

「アラートか…………」

 

 

SH『こんなときに…………ですか……』

 

 屋上で寝転がっていた賢伍とシャイニングハートにも伝わっていた。

 

「いや…………」

 

 寝転がっていた態勢から、サッと立ち上がり賢伍は口元をニヤリと緩めながら言った。

 

「むしろ好都合かもな………」

 

 これで実行に移せそうだ。と、心の中でそう思ったのだった。

 

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

「東部海上にガジェットドローンが出現しました」

 

 警報により六課のスタッフが指令室に集まり状況を伝える。そこには部隊長のはやてに、なのはやフェイト、グリフィスの姿もあった。正面の大きなモニターにはそのガジェットの映像がリアルタイムで表示されている。

 

「機体数は20………。現在旋回飛行を続けています!」

 

 

「レリックの反応は?」

 

 グリフィスが状況を説明しているスタッフにそう問う。

 

「現在付近に…………反応はありません。ただ…………これ……」

 

 スタッフはそこでキーボードを操作しながらいいよどむ。

 

「機体速度がいままでよりもだいぶ…………いや、かなり速くなっています!」

 

 モニターは海上すれすれを水しぶきをあげながら猛スピードで飛行する飛行型ガジェットが写っていた。

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 場所は変わって、とある場所にモニター越しで満足そうに海上を飛行しているガジェットを眺めている男が一人。

 

「…………………………」

 

 名をジェイル・スカリエッティ。自身のアジトで彼は一人ただモニターを眺めている。そうしていたらそのモニターに小さく重なり、別の映像が表示された。

 誰かから通信が来たようだ。通信の相手がモニターに写っていた。

 

「おや、これは珍しい…………。君から連絡をくれるとは嬉しいじゃないか…………ルーテシア……」

 

 その相手の名前を呼ぶスカリエッティ。続けて言葉を紡いだ。

 

「ゼストとアギトはどうしたね?」

 

 いつもは一緒に行動している人物がいないことにスカリエッティは疑問の声をあげる。

 

「二人とは別行動。今はお兄さんと二人でいる」

 

 対するルーテシアは淡々と無感情にそう答えた。

 

「お兄さん?………あぁ、闇の神崎賢伍の事か………」

 

 モニターのはしっこにかろうじてその姿が見えた。それで、誰のことを指しているかスカリエッティは理解する。

 

「最近見ないと思っていたらルーテシアと一緒にいたのか。闇の賢伍………」

 

 

「あぁ?何か問題でもあったか?」

 

 闇は気だるげにそう返答する。

 

「いや、問題はないよ。むしろ君がルーテシアのそばにいてくれた方が私も安心だよ。万が一が、ないからね………」

 

 スカリエッティにとってはこれ以上のない護衛役だった。

 

「しかし、仕事の時は戻ってきてもらうよ?君にとっても必要な事なんだろうからね…………」

 

 

「ちっ。分かってるよ………」

 

 悪態をつきながらも闇はそう素直に答える。

 

「それで?ルーテシア、用件は何かな?」

 

 話が少し脱線してしまったが、スカリエッティは本題の方に戻す。

 

「……………遠くの空で、ドクターのおもちゃが飛んでるみたいだけど………」

 

 果てしない空を見上げながらルーテシアは表情を変えずにそう言った。

 

「ふふ、直に綺麗な花火が見えるはずだよ」

 

 

「レリック……」

 

 この言葉だけ、ルーテシアは少し力が入った声で発した。

 

「だったら、君に真っ先に報告しているさ………」

 

 スカリエッティはそう言うとキーボードを操作し始めた。

 

「私のおもちゃの動作テストなんだよ。破壊されるまでのデータが欲しくてねぇ……」

 

 

「破壊されちゃうの?」

 

 

「ははっ。私はあんな鉄屑に直接戦力は期待してないんだよ。………私の作品たちがより輝くためにデコイとして使うガラクタさ……」

 

 それを聞いたルーテシアは完全に興味を失ったようだった。

 

「そう、レリックじゃないなら………私には関係ないけど……でも、頑張ってね、ドクター………」

 

 

「ありがとう………優しいルーテシア……」

 

 

「それじゃあ、ごきげんよう…………」

 

 それを最後に通信は切られる。

 

「お兄さん、行こう。レリックとは関係ないみたいだから」

 

 

「何だ、つまんねぇなぁ………」

 

 そう言って二人は並んで歩き出す。ゼストとアギトの合流地点に向かう。

 

「お兄さん、いつまで私といてくれるの?」

 

 唐突にルーテシアはそう口を開く。

 

「あぁ?ジェイルに呼ばれるまではお前と一緒にいてやるよ。この間も言ったが、俺はお前のことが気に入ったからなぁ………」

 

 

「そう。ドクターの用事が終わったら、また戻ってきてくれる?」

 

 ルーテシアは変わらず淡々と無表情でそういい放った。

 

「ふっ、そうだな。そうしてやろう。どうやらお前も俺ことを気に入ってくれたようだしなぁ…………」

 

 からかうように闇はルーテシアにそう言葉を返す。

 

「……………………」

 

 ルーテシアは相変わらず淡々として、無表情のままだった。

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

「ガジェット、20機編隊で未だ飛行中です」

 

 

「これは………まるでいつでも墜としにこいと言っている見たいですね………」

 

 場所は戻って六課の指令室。モニターの映像を見てグリフィスはそう呟いた。

 

「そやね………」

 

 はやてはその言葉を聞き首を捻る。実際の所もはやてもグリフィスと同じような考えを持っていたからだ。場所は何もない海上、そして延々と同じところをいったり来たりだからだ。

 

「テスタロッサ・ハラオウン執務官はどう見る?」

 

 

「相手がスカリエッティならこっちの動きや航空戦力を見たいんだと思う………」

 

 

「うん。この状況ならこっちは超長距離攻撃を放り込めば済むわけやし………」

 

 

「一撃でクリアーなのですー!」

 

 唐突にリィンが拳を掲げながらそう元気よく言う。実際リィンの言う通り、それで万事解決だ。が、

 

「うん、だからこそ……奥の手は見せない方がいいかなって……」

 

 

「まぁ実際、この程度のことで隊長達のリミッター解除って言うわけにはいかへんしな………。高町教導官はどう?」

 

 なのはにも一応意見を聞いてみる。

 

「こっちの戦力調査が目的なら、なるべく新しい情報を出さずに、今まで通りのやり方で片付けちゃう………かな」

 

 なのはも概ね同じ意見だった。

 

「うん。それでいこか。………神崎一等空佐は………」

 

 ここにいない賢伍の名前が出された。その瞬間になのはの顔が少し沈んだのをはやては見逃さなかった。すでに今日の訓練中の出来事は聞いている。本来なら賢伍も隊長としてここにいなくちゃいけないのだが………。

 

「……今日の出撃は、賢伍君はなしで行こう」

 

 恐らく本人もそんな状態じゃないのだろう、精神的に。なのはの方も心配だが賢伍がいないときになのはもいないのは駄目だ。だからはやてはそう判断した。

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 出撃直前のヘリポート。ヘリはすでにプロペラを回して飛行準備をしている。

 

「今回は空戦だから、出撃は私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長の三人」

 

 列にして並んで立っている4人のFWに対してなのははそう説明する。隣にはシグナムの姿もあった。

 

「皆はロビーで出動待機ね」

 

 

「そっちの指揮はシグナムだ。留守を頼むぞ?」

 

 フェイト、ヴィータでそう付け加える。

 

「「「はい!」」」

 

 

「………はい」

 

 三人が元気よく返事をするなか、ティアナだけが遅れて静かに返事を返す。顔は下を向いている。そんなティアナを見て、なのはは心配そうに見つめながらも口を開く。

 

「…………ティアナは出動待機から外れてとこうか」

 

 

「っ!」

 

 ティアナは驚愕した表情を浮かべる。ヴィータは厳しい目付きをし、ティアナ以外のFWメンバーも続いてビックリしていた。

 

「その方がいいな………そうしとけ」

 

 ヴィータもなのはの意見をフォローする。

 

「今夜は体調も魔力も万全じゃないだろうし………」

 

 

「言うことを聞かないやつは…………使えないってことですか?」

 

 ティアナの発言になのはの言葉は止まる。はぁ、と小さくため息をつきながらもなのははまた口を開いた。

 

「自分で言ってて気づかない?当たり前の事だよ………それ」

 

 

「現場での指示や命令は従ってます!教導だって………ちゃんとサボらずやってます!」

 

 そう言われてもティアナは納得がいかなかった。なぜ?自分はしっかり真面目にやっているではないか?強くなるために無茶して何がいけない?頑張っていけない?納得が行くわけなかった。

 

「それ以外の努力も、教えた通りじゃないとダメなんですか?」

 

 たまらずヴィータは厳しい表情をして動き出す。何もわかっていないこのアホに一言言ってやろうと思った。が、

 

「…………………」

 

 口を閉ざしたなのはに手で遮られる。言わせてやれって言いたいのだろうか。そう意味を汲み取ったヴィータはおとなしく引き下がる。

 

「私は!なのはさん達みたいにエリートじゃないし、賢伍さんみたいに英雄と呼ばれるような天才でもない!」

 

 結局はティアナにとっての問題はそこなのだ。自分は凡人。回りは天才そして、

 

「スバルやエリオみたいな才能や、キャロみたいなレアスキルもない………」

 

 同僚もこの調子だ。そう、怖いのだ。置いてかれるのが、自分だけ役立たずと思われるのが。兄の汚名を晴らせなくなるのが、怖いのだ。

 

「少しくらい無茶したって!死ぬ気でやらないと強くなんかなれないじゃないですかぁ!!」

 

 ここでティアナの表情が急変する。気持ちの吐露によっての若干の怒りから驚愕に。体が引き寄せられる。胸ぐらを捕まれて引き寄せられる。目の前には拳を握っているシグナム。あ、殴られる。ティアナは一瞬にしてそう思った。

 

「シグナムさん!」

 

 いち早く気付いたなのはが止めようとするが無理だ。明らかに間に合わない。

 

 

 

 

パシッ。

 

 

 

「おいおいシグナム。グーは駄目だろグーは………」

 

 

「…………神崎」

 

 シグナムの拳はティアナには届かず、突如現れた賢伍によって止められていた。止められたシグナムは厳しい口調で口を開いた。

 

「神崎、ティアナを庇うのか?駄々をこねるだけのバカはなまじ付き合うからこうなる……………」

 

 

「いや、別に庇った訳じゃねぇよ。最初の言葉通りさ。グーは駄目だ………」

 

 俺はシグナムの拳を止めていた手を外しながら言葉を続ける。

 

「けどさ、ティアナは俺の教え子なんだ。だから、叱るのも、叩くのも本当はシグナムにさしちゃいけないんだ…………だから…………」

 

 

「っ!?」

 

 

 

 パァン!!

 

 

 

 突如ティアナがその場で崩れる。渇いた音が響く。俺がティアナに対してビンタしたのだ。

 

「これも……俺の役目だ」

 

 

「ティア!」

 

 スバルがティアナに駆け寄る。やっぱりスバルにとってティアナは大事な親友なんだと見てとれる行動だった。

 

「俺も、なのはも、お前たちに何も考えずに訓練を課してんじゃない」

 

 崩れたままのティアナを見下ろして俺は言葉を続ける。

 

「けど、不安にさせちまったのは俺の不甲斐なさであり力不足だ。それは………謝る。けど、なのはを裏切ったことは許さない」

 

 ヘリのプロペラがけたたましく騒音を立てるなか、俺はなのはを見つめた。なのはは目をそらすのを我慢して俺を見続けてくれた。

 

「フェイト、ヴィータ、なのは…………」

 

 さぁ、ここからが本題だ。

 

「お前らも残れ。出撃は………俺一人で行く……」

 

 

「何言ってんだ!出撃はあたし達が出ることになってんだよ」

 

 ヴィータが声を少し大きくしつつもそういい放つ。ヴィータは恐らく今日の俺には行かせたくなかったんだろう。訓練中の出来事を全て間近で見ていたから。俺を心配してくれているのはすぐにわかった。

 

「関係ねぇよ。俺が行く…………」

 

 俺は鬼気迫る勢いでそう言う。ここは、譲れない………。

 

「…………っ。わかったよ………」

 

 

「うん、任せる……」

 

 そんな俺を汲み取ってかヴィータは不満そうにしながらも、フェイトは快くそう言ってくれた。

 

「なのはも………ここに残れ」

 

 

「………………………」

 

 なのはは、何も言わなかった。下を向いて俺を見ようとしてくれない。けど、それでいい。今はそれでいい。俺となのはの事より、今はもうひとつの問題を解決させる。

 

「お前は残って、……………ティアナ達に話せ……。8年前の事を………」

 

 

「っ!」

 

 それを聞いたなのははビックリした様子で俺の方を向いた。

 

「俺はなのはの教導も、やり方も間違ってないって分かってる。けどよ、やっぱりそれを理解してもらえるようにするにはさ、直接伝えることが一番なんだよ」

 

 簡単な事だった。なのはがその教えを貫くことになった原点を教えてあげれば良かったんだ。なのは自身の言葉で。それならば、ティアナもどういう思いでなのはが皆に教導しているか分かってもらえるだろうから。

 俺は最初からティアナが暴走してることをなのはに伝えるべきだった。なのはが傷つく姿を見るのを恐れて俺はそれを避けていた。けど気づいた、逃げていたのは俺だ。その後どうなるかなんて考えないでその場でなのはが傷つく姿を見た自分が傷つくのを恐れたんだ。

 何から何まで俺は間違えていたのだ。だからこそ、今度は間違えないために。

 

「なのはのためでもあると思う…………出来るか?」

 

 

「………うん。ちゃんと話してみる………」

 

 そう短く答えてなのは俺を見据える。そして、なのはがそう決意したなら俺も決意しなければならない。

 

「なら、俺も帰ってきたら全部なのはに話すよ。隠してきたこと全部…………聞いてくれるか?」

 

 

「うん、ちゃんと聞く………。だから気をつけて行ってきて………」

 

 きっとなのはにも思う所は沢山ある。でも、俺もなのはもきっとこれだけは分かっていた。

 もういい加減に、前に進まないと行けない。

 

「それじゃあ、行ってくる…………」

 

 

「行ってらっしゃい……………」

 

 なのはに古傷が発覚してから、1日も経ってないがなのはと普通に言葉を交わすのがなんだか久し振りに感じてしまう。それだけで俺はさっさと終わらせてやろうとやる気を出せる。

 分かってる。好きだから。なのは、お前のことが好きだから。俺は、もうお前虜だ。だからこそ、もう迷わない。本当の意味で、なのはのことを信じる。

 

「(フェイト、ヴィータ、シグナム)」

 

 ヘリに乗り込み、ハッチがしまる前に俺は3人に念話で話しかけた。

 

「(なのはの側でフォローしてあげてやってくれ。自分のこととはいえ話しにくい事だと思うから………)」

 

 そう念じると3人が俺に向かって頷いているのが見えた。あとは3人に任せよう。俺は、早く終わらせて戻らないと。

 

「ヴァイス!出してくれ!」

 

 

「あいよ!」

 

 ヘリが離陸し、なのはたちからどんどん離れていく。ふと窓からなのはを見た。なのはも俺を見ていた。

 

「…………………」

 

 

「…………………」

 

 互いに頷きあい、顔をそらして前を向く。なのはが俺を許してくれるかはわからない。真実を話して元の関係に戻れるか分からない。けど、俺もなのはも前に進むために。

 今はお互いが出来ることを。たとえ元に戻れなくても…………。

 

「大好きだぜ……………なのは……」

 

 口が勝手にそんな言葉をこぼしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。投稿が徐々に遅くなっていますが、それと同時に気温も下がってきましたね。読者の皆様、風邪などにお気をつけてm(__)m

 感想、評価、意見、お待ちしております。m(__)m

 それでは、次回話にて(´・ω・`)


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聖なる殲滅の光





 

 

 

 

 

 

 けたたましくプロペラが空気を叩く音が響く。ヘリの中にいてもそれの音は聞こえてくるものだが今は気にならなかった。

 

「結局賢伍さん一人で出撃になっちゃいましたけど、大丈夫スか?」

 

 パイロットのヴァイスがヘリを操作しつつ俺にそう言葉を投げ掛けてきた。

 

「なぁに、偵察ガジェットなんて問題にもなんねぇよ。大丈夫だ」

 

 

「まあ、俺も大丈夫だと思ってますけどね………」

 

 

「なら聞くなよ」

 

 そう悪態つきながら俺は窓を覗く。もう六課の本部は見えない。広がっているのは黒い海。時間帯はもうとっくに夜だから当たり前といえば当たり前だが。

 

「とっ、そうだはやてにも連絡しないと…………」

 

 シャイニングハートでうちの部隊長にに通信をかける。1コールをしてすぐに繋がった。

 

「はーい、なんやー?賢伍君ー?」

 

 

「ノリ軽っ!…………いや何、出撃なんだけどな、3人には残ってもらって俺一人で出撃したからよろしくー」

 

 

「おー、そかそか。分かったー、気を付けてなー…………って待て待てぃ!」

 

 

「?………何だよ?」

 

 ちょっとノリツッコミみたいなことしてどうしたんだこの関西娘は。

 

「何だよ?じゃない!どういうことやねん!?なんで賢伍君一人で出撃してんねん!」

 

 ま、実はこんな感じの反応で返ってくるとはちょっと予想してたりする。

 

「なーに、ちょっとな………」

 

 とりあえず一から俺は事情を説明した。なのはは残してFW達に撃墜したときの話をさせたこと。俺は帰ったらちゃんとなのはに向き合って隠し続けたことを話すことを。

 

「そうか…………。くさらずにちゃんとしたんやな………」

 

 

「ま、お節介なポンコツデバイスに背中を押されたんでな。くさってるわけにもいかねぇだろ」

 

 立体映像ではやてを写している自分の相棒を指しながら俺はそう言った。

 

「ほんなら、さっさと終わらせないかんな………。うちもこっちでサポートするで」

 

 

「その事なんだけどよ…………」

 

 はやてには、そっちでやってほしいことがあった。だから今、こうして通信を寄越したのだ。

 

「俺のサポートはいらねぇ、オペレーターもいらねぇ。どうせそこにシャーリィーもいんだろ?」

 

 

「ちょっと賢伍さん!?どうせって何ですか!どうせって!」

 

 画面には写ってないがシャーリィーのそんな声が聞こえてきた。まぁ、華麗にそれは無視してだ。

 

「二人には、なのはのそばにいてやって欲しいんだよ」

 

 

「え?」

 

 

「なのはさんの?……」

 

 フェイトとヴィータ、シグナムにもフォローを頼んだだがやっぱり関係があるはやて、そしてなのはの撃墜事件をしっているシャーリィーにもそばにいてあげて欲しかったんだ。

 

「でも、賢伍君!それじゃあ…………っ!」

 

 

「俺の心配はいらねぇ………。こんな任務、サポートなんて必要ない………すぐ終わらせて帰るよ………」

 

 たかだかガジェットの20や30、どうとでもない。すぐ終わらせられる。

 

「……………わかった……。賢伍君………気ぃつけてな………?」

 

 

「あぁ、任しとけよ……」

 

 

「うん、じゃあシャーリィーも行こか?」

 

 

「あ、はい!」

 

 この声を最後に通信は切られた。

 

「賢伍さん……見えて来ましたよ」

 

 ヴァイスに言葉で俺は窓から外を覗いてみる。遠くにかろうじて飛行しているガジェットが見えた。

 

「よし。ヴァイス!ここで降ろせ!」

 

 

「えぇ!?まだ近付かないと遠いっすよ!?」

 

 

「構わない!お前もここで待機だ!巻き込まない自信はないからな!」

 

 

「げぇ!?」

 

 げぇ、と実際に言葉を発したやつは初めて見たぜ。出撃用のハッチが開かれていく。完全に開かれないうちに俺はそこから飛び降りた。

 

「シャイニング・ハート!セットアップ!!」

 

 

SH『了解!』

 

 纏うのは紫と黒をベースにした上下セットのバリアジャケットを身に付け、右手には日本刀。シャイニング・ハートの鍔も日本刀の一部となる。浮遊した状態で俺は刀を構えて遠くのガジェットに存在を示すかのように叫ぶ!

 

「起動六課シャイニング隊隊長、神崎賢伍!!今からお前らをぶっ壊す!……………光の英雄は………伊達じゃねぇぞ!!」

 

 まっすぐに速く、ガジェットの群れに向かって猪突猛進の如く飛び込む。すぐに終わらせてやる!!

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

 時は少し遡り、場所はヘリポート。賢伍が乗ったヘリがちょうど見えなくなったくらいの頃だ。 

 

「それじゃあ、とりあえずロビーに行こうか」

 

 そう口を開いたのは高町なのは。表情は既に覚悟を決めている顔だった。決心していたのだ、自分で自分の失敗を話すと。単純だけど一番簡単に伝えられる方法だと賢伍は言っていた。

 なのは自身も、それについてはとても納得したのだ。しかし、それと同時に怖くもあった、果たしてそれを聞いてティアナは納得してくれるのか?そのあとに待ち受けてる賢伍から聞かされる話も怖かった。けど、もう逃げたくない。なのははそう決めていたのだ。

 

「あ、あの!」

 

 突然スバルが声をあげた。表情は真剣そのもので本人にも言いたい事があることはそれで見てとれた。

 

「命令違反は絶対駄目だし………さっきのティアの物言いを止められなかった私は確かにダメだったと思います………」

 

 スバルはうつむき、表情を曇らせながらもそう言葉を綴った。

 

「でも………自分なりに強くなろうとか、キツイ状況でもなんとかしようって頑張るのって……そんなにイケないこと何でしょうか!?」

 

 二言目は真っ直ぐ顔を上げ、曇りない真っ直ぐな瞳でなのはを見つめながら言葉を発していた。スバルはどうしても我慢出来なかった。親友が、ティアナが一生懸命にやっていて………親友である自分はそれを支えようと決心して。

 二人で頑張っていた。しかし、本人からしてみればそれを頭ごなしに否定されて………。

 

「自分なりの努力とか、そういうこともやっちゃイケない事なんでしょうか!」

 

 だから、ティアナのためにもスバルはその言葉を止めることは出来なかった。憤っていた。だからこそ、スバルにとってはなのはもこの場にいない賢伍も、尊敬していた人物からの納得いかない否定に尚更感情が昂っていた。

 

「確かに自主練習も、強くなろうとすることもいいことだと思うわ」

 

 唐突そのスバルの言葉を返す声がヘリポートの入り口の階段付近で聞こえてきた。

 

「シャマル…………」

 

 シグナムがその名を口にする。どうやら心配になって見に来たようだ。出撃用のヘリがこの場にないことと、なのは達がここに残っていて、手間のかかる弟がこの場にいないことにシャマルは大体の状況を把握した。

 

「ならなんで…………」

 

 スバルが不満をそのまま口にした。だからこそ、その不満の解消のため。なのはは一歩踏み出す。

 

「皆ロビーに集まって………。皆にちゃんと教えるよ。私の過去を………この教導の意味を…………」

 

 その目はまさに儚げに切なく見える。その様子にスバルも口をつぐんだ。そのまま、誰も口を開かず静かに全員ロビーに移動した。

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

「空天牙突!!」

 

 天高く飛翔し、落下と共にガジェットの頭上から刀を突く!

 

 

 キン!

 

 

ボォン!

 

 

 同時に数体のガジェットを破壊し爆発する。既に戦闘が始まってから少し時が経った。20体のうち半数は粉々にしている。

 

「はぁ!」

 

 こっちに接近してきた一体をこちらから近づき切り捨てる。しかし、一体一体切り捨てるのは効率が悪い。神龍流剣術はそもそも一対一を想定した剣技ばかりだ。そして、眼前にはまだガジェットがそれなりにいる。

 

「ちっ、面倒だ…………一気に決めるぞ!!」

 

 左手に魔力を込める。そのまま刀の刀身を全部を撫でる。

 

「宿れ…………………」

 

 撫でていった所から刀はバチバチと音を奏で始める。色は電気のようなライトイエローに、そう実際にそこに宿っていったのは……………。

 

「全てを痺れ震わせる怒りの雷!!」

 

 刀は雷の如く電気を帯、すでにその場だけでなく辺りをバチバチと電気の火花を散らせていた。

 

「雷鳴斬!!(ライメイザン)」

 

 一体のガジェットに迫りその刀を振るう。豆腐を斬っているかのようにキレイにガジェットは真っ二つになった。しかし、それだけではない。

 

 

バチ……………

 

 

 真っ二つなったガジェットから火花が散る。徐々に…………

 

 

バチバチ!!

 

 

 徐々に大きく………それは帯電とも言うかもしれない。だが確実にその電気は

 

 

バチバチバチバチバチ!!!

 

 

「感電しろ、雷の如く!!」

 

 その回りにいるがジェットをも巻き込む!

 

 

 

ドォンドォンドォン!!

 

 

 感電させ誘爆をさせる。連鎖的にそれは起き、確実にそこにいた全てのガジェットを破壊する!

 

 

SH『……………ガジェット全機破壊を確認。ミッションコンプリートです………』

 

 シャイニングハートのその報告を聞き俺は刀を肩にのせてふぅと息をはく。

 

「よし、ヴァイスと合流して急いで帰るぞ………」

 

 

SH『了解です。今ヴァイス曹長に通信を……………。っ!マスター!』

 

 突然にシャイニングハートに呼ばれる。

 

「あぁ?一体どうし……………っ!」

 

 返事をしながらふと前方を見て愕然とした。

 

SH『北東から………大量のガジェットが接近しています………数はさっきのおよそ…………10倍です……』

 

 

「…………見りゃ分かるよバカヤロー………」

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

「ふふ、済まないね光の英雄……」

 

 モニターに写る神崎賢伍を見ながらジェイル・スカリエッティはそう呟いた。

 

「しかし、まさか君だけで来るとは思わなかった………簡単にやられ過ぎてデータも取れないからね…………」

 

 そこでジェイルニヤリと口元を緩める。本人からしてみればそれは嬉しい誤算だったのだ。

 

「一度君の力をしっかりと見ておきたかったんだ………さぁ、この数を相手にどう戦う?光の英雄…………」

 

 そこジェイルの高笑いがアジトに響く。モニターには新たに送ったガジェットの総数も刻まれていた。そこに刻まれていた数字は………230。そう刻まれていたのだった。

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 見たこともない数。それが徐々にこっちに接近してくる。種類は飛行型、通常型、大型問わずだ。なんだ?何が起きた?あまりの数に俺は少し圧倒されてしまった。ジェイルの目的は偵察じゃなかったのか?いや、俺一人で来たことによって考えを改めた?

 色々と考えを巡らせるが答えは分からない。

 

「いや…………………今はそんなこと考えても仕方ない」

 

 頭を二、三振って切り替える。そうだ、こいつらもさっさとぶっ壊せばいい話だ。早く六課に戻らないといけない、だから俺は刀を構える。

 

「行くぞシャイニングハート!数が多いとか関係ねぇ…………全部叩き斬るまでだ!」

 

 

SH『はい!マスター!』

 

 俺達はそのガジェットの群れに飛び込む。正直に言えば一人でこの数はキツイ。だが、弱音を吐いてはいられない。俺にとって今早く六課に戻ることは何よりも重要だったから。

 

「かかってこいポンコツ共!一匹残らず破壊してやる!!」

 

 空に俺の気合いの声が響く。しかし、俺が六課に戻るにはもう少し時間がかかりそうだった。

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 起動六課のロビー。そこは今重い空気が漂っていた。備え付けの椅子に座るFW4人に、そこに向かい合って座っているなのはにシャマル、シグナムと後から合流したシャーリィー。

 そのすぐ横にフェイトが立っていて、ヴィータに同じく後から合流したはやてとその回りを浮いているリィンが少し離れたところで座って見守っていた。

 

「それじゃあ、話を始めるね?」

 

 そうなのはが一番最初に口を開いて話は始まった。

 

 

 そしてなのははこれまでの自分の物語を全て語った。

 最初は地球という魔法のない世界で過ごしていたこと。ユーノとの出会いで初めて魔法に関わったこと。そのまま魔法使いとしてユーノの手伝い、ジュエルシードを封印してきたこと。そして、賢伍も似たようなタイミングで魔法使いになったこと。フェイトとの闘いのことも。途中エリオとキャロが驚いていたがフェイトがそこをフォローしてあげた。

 

「それから…………」

 

 闇の書事件の闘い。今は仲間の守護騎士達との死闘。敗北し、当時安全性が損なわれていたカートリッジシステムを組み込んだこと。

 なのはが話しにくい所や言いづらいことは所々に回りの皆がフォローを入れてくれていた。

 

 

 そして………………高町なのは撃墜事件のことも語られた。人手が少ない管理局の仕事をこなす日々。あろうことか常人では考えられない仕事の量を当時10歳だったなのはがこなしてきたこと。

 疲労が限界を超え、ヴィータとの任務中にいつもなら負けなかったであろう未確認機械に襲われて大怪我を負ったこと。

 

「その結果が…………これ……」

 

 シャーリィーがモニターを出して当時の痛々しい映像を写し出させた。それを見てFW4人は驚きを隠せなかった。この時の大怪我が魔法どころか歩くことさえ出来なくなるかもしれない状況だったのだから。

 そして伝える…………自分が皆に伝えたいことを。この教導の意味を…………。自分と同じ目にあってほしくない。だからこそ、一つ一つを丁寧に少しずつステップアップさせていきたいと。

 

「皆が無茶をする必要がなくて、無事に帰ってこられるように………」

 

 それが、高町なのはという一人の教導官の想いだった。

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

「大丈夫だったかな?あんな感じの話し方で…………」

 

 話が終わって、なのははロビーから離れて別の場所に移動した。なのはがそう聞いたのも理由があった。話が終わったあとのFWの4人は顔も上げてくれない状態だった。ティアナに関しては顔を覆って俯いてしまっていた。

 

「ま、あいつらの反応からしてちゃんと心に響いただろ。流石に本人から聞かされるのも説得力が違うしな」

 

 そう答えたのはヴィータだった。ヴィータも何度かフォローして補足を口に出したりしたが特に問題はなかっただろう。

 

「でも、FWの皆……………特にティアナにも考える時間を少しあげないと……」

 

 フェイトがそう答える。実際にティアナの心に響いただろう。ティアナの反応から見ても、きっと今頃なのはに対しての罪悪感に苛まされているだろうから。

 

「うん、それはもちろんだよ……。後は……賢伍君を待つだけ…………」

 

 今頃ガジェット相手に戦っている賢伍に想いを馳せる。これから聞かされる話は思い出しつつある記憶のせいで大方予想できてしまう。しかし、賢伍本人の口から聞きたいと思っていた。それなら、真っ直ぐ受け止められる気がしたから。

 ヴィータもフェイトも、「うん」と返事をして賢伍の帰りを待つことにした。二人も当事者であり、ある意味の共犯者でもあったから見届けないといけない。そう思っていたから。

 

「早く帰って来ないかな…………」

 

 無意識に、なのははそうぼやいていた………。

 

 

 

 

…………………………………………………。

 

 

 

 

「くそ!キリがねぇ!!」

 

 ガジェット一体を切り伏せる。時間の経過具合からみてもうすでになのはの話は終わっているだろう。しかし、ガジェットはとどまることをしらないように無限に湧き続けた。

 

SH『後方から2機接近してきます!』

 

 

「分かってるよ!」

 

 振り返り様にその2体を切り捨てる。一体一体相手にしていては効率が悪すぎる。ならシャイニングバレットで!

 

「光よ!」

 

 一瞬にして光の魔力をチャージさせ………。

 

「貫け!シャイニングバレットぉぉおお!!」

 

 数多の光のレーザーを打ち出す。次々とそれはガジェットを貫き数を減らしていくが…………。

 

 

 

ブォン……………。

 

 

「ちっ!」

 

 そこでAMFが発動される。数体のAMFなら俺の魔法で貫ける。しかし、今回は違った。

 

SH『いつも手こずらせてくれるAMF特化型のガジェットが数十体集まっています。協力してAMFを強化しているようです』

 

 

「そうみたいだな…………」

 

 そのせいで、一体一体斬ることしか今の俺には手段がなかった。今の俺では………。

 

SH『いかがいたします?マスター』

 

 

「…………………………」

 

 考えを巡らせる。ジェイルの狙いは偵察。だから、なるべく手の内を見せたくない。あっちには俺の力を知っている闇の俺がいるとはいえ、直接見せたくなかった。

 しかし、それだと時間がかかりすぎてしまう。

 

「くそがぁ!!」

 

 怒りに任せて包囲しようとしてくるガジェットどもを斬る。がまたも湧いてくる。後方にも大量のガジェットが待ち伏せており俺の様子を伺っているように見える。隙を見せたら終わりだ。

 

SH『今の状態でのこの数を相手にするのは無謀です。マスター………』

 

 そんなことは闘っている俺が一番分かっている。そう、今の状態ならな…………。

 

「……………………………」

 

 ふと、なのはの顔が浮かんだ。

 

「笑顔…………」

 

 そう、なのはの笑顔が少なくなってしまっていた。ティーダの事件の真実を追って無理をして心配させて、そして今回のことで…………。今もきっと、待たせれば待たせるほど表情を曇らせてしまう。

 

「別に見られたって構わねぇよな………」

 

 それで少しでもなのはを笑顔に出来るかもしれないなら…………安いもんだろ!

 

「おい!どこかで見てるんだろ!ジェイル・スカリエッティ!!」

 

 そこにいないと分かっていても、俺は天に向かって叫んだ。

 

「お望み通り俺の力を見せてやるよ!けどな………ちゃんと見ろよ?見逃すなよ?そして……………後悔すんなよ!!」

 

 刀を天高く掲げ俺は言う。

 

「シャインニングハート!リミッター解除、レベル1だ!」

 

 

SH『OK、マイマスター…………リミッター解除………レベル1』

 

 シャイニングハートがそう口にすると徐々に俺に力がたぎっていくのが分かった。

 

SH『魔力量、魔力ランク共に1段階解除………』

 

 体にある魔力が増幅、強化したことを感じる。

 

SH『身体能力、動体視力共に2段階解除…………レベル1解除………完了しました』

 

 制限されていた俺の体が、力が、何もかもが少し解放された。レベル1の解除はシャイニングハートの述べた通り3段階あるリミッターのうち魔力関連が一段階、体力に関係するものが2段階解除される。

 無論、個別に解除することも可能だ。レベルは目安のようなもの。レベル1まで解除すれば……………。

 

SH『レベル1以上の解除を確認、1つの魔法のロックを解除します………』

 

 ということだ。ある魔法のロック解除される目安。レベルはそのために設定したのだ。

 手を握ったり開いたりし、久しぶりに解除した体に違和感がないか確認する。特に問題はない。が、そこまでガジェットが待ってくれる訳もなく………。

 

SH『…………ガジェット一体が接近してきます。飛行型です』

 

 しびれを切らしたのか、一体がこっちに迫ってきた。全速力で。

 

「問題ない……」

 

 俺はそこから動かずに迫りくるガジェットを………

 

 

パシっ

 

 

 片手で

 

 

ギュッ

 

 

 キャッチし

 

 

グシャ!

 

 

 握り潰した。

 

 

 

「レベル1でこんなもんだっけか………………」

 

 手を離して、バラバラになったガジェットはそのまま海の藻屑となる。俺はそのまま前方にいるガジェットを見据える。

 

「ざっと見て200機弱ってとこか………」

 

 一発でいけるな。あまり目立つから使いたくないが………

 

「大事な人を待たせてるんだ。だから…………一瞬で終わらせてもらう!!」

 

 刀をを突き出してガジェットにそれを向ける。俺のデバイスはもう分かっている通り刀、日本刀だ。得意は接近戦と1on1。しかし、シャイニングバレットのような遠距離魔法だって使う。そう、見た目で判断するなかれ……………。

 刀の先端に光の魔力が球形に溜まっていく。

 

「はあああぁぁぁぁぁぁ………………」

 

 刀身が光の如く耀き、それを先端に貯めて刀身の色が戻る。そしてまた光の魔力が刀身にたまり光輝き先端に貯める。これの繰り返し。辺りから魔力を収束するなのはの得意魔法…………。俺は少しばかり違うが大体の原理は一緒だ。

 

「宿せ、光の力!」

 

 球は徐々に肥大していき魔力の濃度がましていく

 

「世を脅かす存在よ!聖なる光の魔法を受け止めろ!!」

 

 それを、放出するだけ!

 

「光輝燦然!(コウキサンゼン)」

 

 意味は強く鮮やかに、光輝くという意味だ。この魔法を現したかのようなぴったりな言葉だ。

 

「シャイニング……………」

 

 消え失せろ!鉄屑野郎共!

 

「ブレイカァァァァァァァアアアアアアアアア!!!」

 

 収束砲撃魔法。光の魔力で放出する砲撃。レベル1までロックされている意味を考えてみるんだ。それ相応の威力。

 辺りは全てのガジェットを巻き込み、光に包まれた。俺でさえ何が起きているのか分からない。だが結果は見えている。

 砲撃を止めて、光が消え失せた。そこには…………………何にもなかった。さっきまでいたはずのガジェットも、その残骸も、何にもなかった。

 

SH『回収班の要請は………結構ですね。ブレイカーの光の魔法に耐えれなかったようです。全機灰になりました…………」

 

 そっちの方が引き継ぎとかしなくて時間がかからないから好都合だった。

 

「じゃあ、ヴァイス呼んでくれ。このまま急いで六課に戻る………」

 

 再びリミッターを掛けて俺はヴァイスを急かして大急ぎで六課に戻った。すでに話を終えて俺を待っているだろう。なおのことヴァイスを急かすのだった。

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

「まったく、これではデータにならないな………」

 

 モニターの映像を閉じてアジトにいる、ジェイルはそうぼやく。

 

「しかし、やはり君の闇を仲間に引き込んでおいて正解だったよ………。神崎賢伍、君を抑えられるのは君の闇だけだからね………」

 

 キーボードを操作しながらアジトで一人ジェイルは口を開き続ける。

 

「さて、光が闇を照らすのか………はたまた闇が光を飲み込むのか………見ものだな」

 

 彼自身、いっぱしの研究者としてジェイルは二人に興味を引かれていた。しかし、諦めた方が良いだろう。すでに彼らの力は理解の範疇ではない。

 そう思ったジェイルは辺りを響かせるような高笑いをするのだった。

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

「今の……………」

 

 

「んあ?どーした小娘?」

 

 ゼスト達との合流場所に向かっている最中、突然ルーテシアが歩みをとめ後ろを振り返っていた。

 

「…………私の名前はルーテシア………」

 

 

「あーはいはい。ルーテシアさん、一体どうしたんですか?」

 

 そんな闇の態度にルーテシア少しムッとしたもののそこは流して言葉を続けた。

 

「今、空がピカッてすごい光ってた………」

 

 

「あぁ…………」

 

 闇はそこで察しがついた。

 

「神崎賢伍だろうな………。ジェイルが言ってたガジェットとやらも全滅されたんだろうな……」

 

 何故か闇は満足げにそう口にした。闇が望むのは強者である光の英雄との闘い。その強さの片鱗を感じて満足したのだろう。

 

「………何でお兄さんは神崎賢伍と闘うの?」

 

 素朴な疑問をルーテシアは口にした。

 

「光は闇に喰われる運命…………そう言っていた奴がいた…………」

 

 その言葉は闇が光と分離したとき、別れ際に闇が光に対して言ったときの言葉だ。

 

「そして……………………」

 

 そこで闇はピタッと言葉を止めた。

 

「なんで俺がお前にそこまで言わなきゃならん?」

 

 そういうことだった。

 

「………別にいやだったら言わなくてもよかったんだけど?」

 

 若干不満そうな顔をしながらもルーテシアはそう言い返す。

 

「チッ、お前が聞いたんだろうが………」

 

 そう悪態をつけながらも闇は歩を進めた。ルーテシアはまだ不満そうな顔をしてそこから動かなかった。

 

「はぁ…………。何ぼさっとしてんだ?行くぞルーテシア…………」

 

 

「………分かってる」

 

 そう言ってルーテシアも闇の隣に立って歩を進めた。今回は………名前を呼んでくれたからそれに免じて許してあげよう。ルーテシアはそう無意識に考えていたことに気づかぬまま一緒に歩を進めるのだった。

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

「悪いなぁ、ヴァイス。急かしちまってよ、でもお陰で速く着いたな………」

 

 

「いえいえ、あとは頑張ってくださいね……」

 

 ヘリポートでヴァイスと別れ俺は皆が待っていると思われるロビーに向かう。さぁ、何て切り出して話をしようか。どう話せばなのはは傷つかないだろうか?

 

「…………やめた」

 

 考えるのはよそう。もう逃げないと決めたのだから。その時に浮かんだ言葉で説明しよう。俺の正直な気持ちを話そう。

 

「…………ただいま」

 

 そう言ってロビーで待ってくれていた仲間たちに声をかける。皆から労いの言葉をもらいなのはが座っていてる場所の対面に座る。

 

「……………おかえり」

 

 なのははそう声をかけてくれた。若干気まずそうだが今はしょうがない。

 

「……どうだった?」

 

 まずはなのはの過去を話してどうなったのか気になった。

 

「うん。ちゃんと皆に話したよ。皆それぞれ思うところがあるだろうから、今は色々考えてると思う」

 

 

「そうか…………」

 

 少しの沈黙。記憶を巡らせる。覚悟を決める。そしてとうとう、話すんだ。なのはにあの日の真実を…………俺がなのはと一緒に無茶して失敗したことを…………。

 

「じゃあ、今度は俺の番だな…………」

 

 語ろう。8年前のあのとき、一体俺はどうしたのか?何があったのか?もう、隠さない。俺は…………その重かった口を開いた。

 

 

 






さてさて、ようやくここまでやって参りました。次で終わらせられるといいなぁ………。うまくまとめられるか心配ですが………。

さて、ようやく私が出したかった魔法が解禁されました。

「シャイニングブレイカー」。安直ですがシンプルな名前が一番しっくり来ますね。で「光輝燦然」はなのはでいう全力全開、前口上のようなものです。主人公にも欲しいなと思いまして、本編中にも書いた通り、強く鮮やかに光輝くという意味です。あまり聞かない四字熟語ですが、彼らしいと思いこれを採用しました。


閲覧ありがとうございますm(__)m。感想、意見、誤字脱字の指摘、評価、お待ちしております!

それでは次回話にて


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和解と決着

 

 

 

 

 

~8年前~

 

 

 

 

「えっ?なのはまた任務に行ってるんですか?」

 

 管理局で一仕事を終えて一緒に帰ろうと本局に出向いた所で、俺を待っているはずのなのはが任務に行っていることを聞かされた。

 

「そうなのよ、だからなのはちゃんが賢伍君に先に帰っておいてほしいって伝えてくれって頼まれたのよ……」

 

 そう教えてくれたのはたまたま用事があり本局に出向いていたリンディさんである。なのはもたまたまリンディさんと会い、しばらくはここにいると言うことで伝言を頼んだようだ。

 

「はぁ、またかあいつは………」

 

 そう困ったように俺は頭をポリポリと書く。

 

「そうねぇ………最近なのはちゃんの仕事が多いのよねぇ……」

 

 その通りである。なのはだけではなくはやてはフェイト、俺も10歳の子供と言えど容赦ない数の任務を管理局から受け持たされる。ブラック企業かここは、などと文句を言いたくなる。特になのははひどかった。なんでもかんでもイエスと答えてしまうなのはに甘えて彼女の担当でない任務さえ与える始末だ。

 

「それに関して一応抗議はしてるんだけど………管理局も人手不足だから……」

 

 リンディさんも困り果てているようだ。

 

「なんか心配だな………」

 

 ふと胸騒ぎがした、なんだろう………何か………急に不安になってきた。

 

「あいつ最近疲労もたまってるみたいで………。この間なんて初めて授業中に寝てましたよ………」

 

 あの大真面目のなのはがだ。教室も騒然としていた。本当に居眠りなんてしたとこ見たことなかったから。

 

「そう、やっぱりなのはちゃんにもちゃんと休んでもらわないとね……私が何とか掛け合ってみるわ……」

 

 

「ありがとう、リンディさん……………」

 

 不安は拭えない。本当に、本当になんだこれは?胸騒ぎ、何故か嫌な予感が止まらない。

 

「リンディさん、俺なのはのとこ行きます。なんだか心配になってきて…………」

 

 そう言われたリンディさんは何だか困った表情を浮かべていた。

 

「うーん、貴方も10歳の子供じゃおかしい任務の量をこなしてるのよ?」

 

 要するに無駄な疲労をしないであなたもゆっくり休みなさいと言いたいらしい……。

 

「けど、何だか心配で……」

 

 何だよ!何なんだよ!何でさっきから………嫌な考えしか頭に浮かばないだよ!!

 

「なのはちゃんだって優秀な魔導師よ?万が一なんてないわよ、きっといつも通り無事に帰ってくるわ…………」

 

 きっと、そう言うリンディさんも心配で仕方ないのだろう。いくらなのはといえども、連日の疲労で万が一大怪我を負いかねない。皆それについては心配していたのだ。休むように言っても頑固ななのはは仕事を続けていたから。

 

「…………はい」

 

 俺が無理いって出撃してリンディさんにも余計な心配をかけるのは忍びないと俺は首を縦に降った。仕方なく先に高町家に帰るとしよう、その時の俺の家族であり、もうひとつの家だから。

 

「それじゃあ、お先に失礼します」

 

 

「ええ、貴方もゆっくり休むのよ」

 

 それで、別れようと一歩踏み出した時だった。慌ただしく、数人の局員が俺の前を走って通り抜けていった。危ないな、と思ったが無視して帰ろうとしようとした矢先に俺は聞いてしまった。

 

「通信が繋がらないってどういうことだよ!管理局の期待のエースに何かあったらヤバイぞ!!」

 

………………………は?

 

「分かってるよ!突然爆発音が響いて通信が途絶えたんだ!恐らく通信無線がやられただけならいいんだが…………」

 

 

「とにかく!ヴィータ三等陸士と高町二等空士の今の状況を上官に伝えて指示を仰ぐんだ、俺達だけじゃ判断つかない!」

 

 走り去っていくその二人の会話が耳に入る。何て言ってた?通信が途絶えた?ヴィータ?………高町?

 

「急がねぇとやべぇぞ……っと!」

 

 走っていた局員が突然をバランスを崩して止まる。理由は急に腕を捕まれたから。局員は怪訝な顔をしながら驚いて口を開いていた。腕をつかんだ張本人は…………俺はその局員にこう口を開いていた。

 

「なのはは!?なのははどこに向かったんですか!?」

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 ~管理外辺境世界~

 

 

 

 

 急に俺に問い詰められた局員は驚きのあまり口を滑らせて場所を吐いてくれた。止めるリンディさんの制止を振り切り単独で俺はなのはとヴィータが調査しに行ったと言う管理外世界に向かった。

 そこは空が曇っていて、細やかな雪が降っていてそれが積もり、辺りを白の世界で包んでいた。

 移動は転送装置を使ったから、場所はなのは達が最初に降り立った場所と同じはずだ。

 

「シャイニングハート、たどれるか?」

 

 

SH『少々お待ちください……………南東に魔力反応を確認、戦闘中のようです……急いだ方がいいでしょう。徐々に生体反応が弱まっています』

 

 

「っ!!」

 

 その言葉を聞き、俺は全速力で空を駆け巡った。迷いはなく、速すぎて冷たい冷気で顔が痛くても、痛く感じなかった。恐れていたことを、この中で一番最悪な状況ではないことだけを願って。

 

「っ!あれか!」

 

 前方に黒煙が立ち上っているのが見えた。そこに向かってさらにスピードをあげる。黒煙を抜けて、そこに人影が見えた。それと同時に見たことのない機械。機械と言うよりはロボットという方がしっくり来ていた。戦闘型ロボット、どうやらこいつらと戦闘中らしい。

 

「うおりゃあああああ!!」

 

 そこにヴィータの雄叫びが聞こえてきた。そのあとに機械がグシャッと潰れたような音が続けて聞こえた。お得意のハンマーで粉砕したらしい。

 

「ヴィータ!!」

 

 そこに俺は降り立つ。

 

「っ!………賢伍!?何で………」

 

 

「説明は後だ!俺も戦線に加わる!なのははどこだ!」

 

 

「っ!そうだ!なのはが!…………」

 

 そう言ってヴィータが後方を見た。それに続いて俺も同じ場所を見た。

 

 

 

……………………。

 

 

ポタッ

 

 

「…………嘘だろ……」

 

 滴る赤い液体。

 

「なのは………?」

 

 なのはは倒れていた。倒れていたのだ。破損したレイジングハートの杖を持ったまま倒れていた。

 

「なのは!?なのは!しっかりしろよ!なのはぁ!!」

 

 駆け寄ってそう叫んだが返事はなく、周りには積もった雪が赤色に染まっている。手には赤い液体が付着していた。………血?………………。

 

「通信無線が最初襲われた時にイカれちまって救護が呼べねぇんだ!賢伍っ!早くしないと………」

 

 誰だ?なのはをこんな風にしたのは…………?

 

 無言で俺はヴィータに持ってきた通信無線を渡す。

 

「下がってろ……」

 

 そしてそう告げた。ヴィータはその間に救護申請をしてなのはのそばに。俺は未だ襲いかかろうとしているロボット達を見つめた。怒り、憎しみ、どす黒い感情が俺を包むの感じる。

 だが、それは今は心地いい。お前らは、お前らだけは…………砕き、粉砕し、壊す。壊す、壊す、壊す。

 

 

殺す、殺す、殺す……………。

 

 

「あああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 魔力を解放。切っ先をあの鉄屑野郎共に向ける。

 

「この機械グズどもがぁ……ぶっ壊してやる!!」

 

 それから始まったのは戦闘ではない。一方的な殲滅。そう、破壊するものと破壊されるもの。それしかなかった。

 

「消えろ雑魚がぁ!!」

 

 剣術も何もない。怒りに任せて振るう刀。それでもガジェットは両断され、

 

「消えろ!消えろ!消えろ消えろ消えろ!!」

 

 ただ、無駄に魔力を浪費しありったけの魔法を繰り返す。頭にあるのは目の前にいる憎き敵を破壊することだけ。ただ、それだけだ。

 

「があああああああああああ!!」

 

 暴走、すでに俺は理性などない。壊すだけ、なのはを傷付けたこいつらを壊すだけ。あぁ、機械だから痛みが、意思がないことが惜しい………苦しめて殺すことができないから。

 

「くたばれ!全員くたばっちまええええええええ!!」

 

 すでに溜め込んだ魔力を放出する。これで、全員消えろぉ!!

 

「シャイニングブレイカァァァァアアアアアアアア!!!」

 

 閃光の砲撃がロボットども包む。消えろ、灰になれ。元々存在しなかったかのように!消えてなくなれえええええええ!!俺の思惑通りロボットは消えてなくなった。怒りの感情は徐々に冷めて、冷静を取り戻していく。しかし、暴れすぎた。

 

「はぁ!…はぁ!……はぁ!」

 

 息はあがり、考えずに魔法を使いまくった結果、既に俺の魔力は0に近い。足取りもおぼつかず、視界も霞む。

 

「賢伍!このバカ!無茶しやがって………」

 

 なのはに出来る限りの応急処置をしたヴィータが慌てて俺に肩を貸してくれる。

 

「なのは…………なのはは……?」

 

 そこでヴィータは黙ってしまう。聞かなくても分かっていた。危ない。命の危機。一分一秒を争うほどの状態、しかし救護舞台はまだ来ない。最悪だ…………最悪だ……。

 ヴィータの力を借りてゆっくりとなのはに近づいていく。だが、ロボットたちは容赦はしてくれなかった。

 突如、3機のロボットが………腕に取り付けられている小刀を構えて、なのは前に現れた。明らかになのはを狙っていた。既になのはに向かってその刃が降り下ろされようとしている

 

「っ!しまっ………」

 

 ヴィータがその存在に気づいたと同時に俺は既に動いていた。残りカスの魔力を全て足に回し、疾風速影を使う。

 今度はどんな感情を抱いていたんだろう?怒り?憎しみ?違う………。ただ、ただ………これ以上………なのはを傷つけないでくれ。それでも傷つけると言うのなら…………。

 

「くそぉぉぉ!!まにあえええええ!!!?」

 

 傷つけると言うのなら……………。

 

 

 

ザシュ!

 

 

 

「がはっ………!」

 

 俺が…………護る!

 

「賢伍!!」

 

 ヴィータがハンマーを抱えあわてて駆け出した。

 

「やらせるかよ……これ以上俺の大切な人を傷つけさせてたまるかよ………うっ……」

 

 なのはとロボットの間に入り、庇うような形で俺は3つの刃で腹を貫かれる。なのはには届かないように後ろには引かない。これ以上傷つけさせやしない!

 

「くそぉ!!」

 

 ヴィータのその叫びと共にアイゼンのハンマーで叩き潰される3体のロボット。

 

「くそ!くそ!賢伍!!お前まで………っ!」

 

 

「ぐっ…………ゴボっ!!」

 

 たまらず口から血が飛び出てくる。吐血してしまったようだ。雪がなのはと、俺の血でさらに赤く染まっていく…………。そのまま立っていられなくなったようだ、自然となのはの隣に倒れこんでしまった。

 

「おい!賢伍!しっかりしろ!おい!!」

 

 ヴィータの声でさえしっかり聞こえて来なかった。隣で寝ているなのはを見る。自然と手を伸ばして、なのはの頬を触っていた。

 ああ、冷たいか暖かいかさえ分からない。感覚が掴めない。俺もヤバイかもな………。

 

「死ぬな…………なのは……」

 

 起きたらさ、笑ってくれ。いつも通りにさ、流石に無理か……ははっ。けどよ、俺お前には笑顔でいてほしいんだ。お前の笑顔が好きだから………だから俺は……………。

 それから意識を失うのにそう時間は掛からなかった。

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 それから目覚めたのは翌日。目を開いて最初に目にしたのは俺の大事な家族だった…………。

 

「良かった………目が覚めたか……」

 

 

「し、士郎さん?…………」

 

 なのはの父、高町士郎さんだった。前にも語ったが、俺の本当の両親は俺が小さい頃に原因不明の事故で他界した。他に親族もなく、孤独で悲しみにくれていた頃、俺に手を差しのべてくれたのは家が隣で家族ぐるみの付き合いがあった高町家の皆だったんだ。

 

「士郎さん………何で……っ!」

 

 記憶が甦っていく。辺境世界に行ったこ

と。怒りに任せてロボット供を破壊しつくしたこと。なのはが血だまりで倒れていたこと………。

 

「なのは!なのはは無事なんですか!?」

 

 掴みかからんばかりに俺は士郎さんに詰め寄った。全身に力が勝手に入る。

 

 

ズキン

 

 

「ぐっ!?……ぐぅぅぅうううう!!」

 

 腹部に強烈の痛みが走った。そこでその事も思い出した。そうだ俺………刺されたんだっけ………。

 

「賢伍!………無理しないで安静にしてなさい………」

 

 そう言ってベッドに寝かされる。だが俺は聞かずにはいられなかった。

 

「なのはは………大丈夫なんですか?……」

 

 沈黙。その沈黙のせいで俺の頭には最悪の事態が浮かんだ。何で………嘘だろ………?

 

「なのはは………一命をとりとめた………」

 

 

「っ!…………よ、良かった…………」

 

 心底安堵した。良かった、良かった……………。なのはが死んだなんて言われていたら………俺は………俺は……。

 

「だが…………………」

 

 しかし、その後に続く士郎さんの言葉で俺は、驚きを隠すことが出来なかった。

 

「一命とりとめたが、この先魔法どころか……立って歩く事ですら危ういらしい…………」

 

 

「なっ!?…………」

 

 その言葉を聞いて、俺は力なくベッドに沈む。そんな……………そんな!

 

「くっ!くううううう!!」

 

 悔しい。悔しい。情けない、涙が溢れてきた。腕で顔を隠して、俺は自然と言葉が漏れていた。

 

「ちくしょう………畜生…………っ!」

 

 血だまりで倒れているなのはが浮かぶ。

 

「俺!………守れなくてっ!」

 

 なのはの笑顔が浮かんでは、それが砕かれるように消えていく。

 

「俺のせいで…………俺が、もっと早く駆けつけていればっ!!」

 

 後悔が、俺を襲う。力があれば守れたのか?力があればなのはは傷付かなかったのか?

 

 

 

『お前は無力だ…………』

 

 

 だ、誰だ!?

 

 心のなかでそんな声が響き渡る。

 

 

『無力なんだよ………』

 

 

 一体何だってんだよ!!

 

 

『力が、力がほしい…………』

 

 

 うるさい!俺の心の中で喋るなぁ!!

 

 

『力を力を力を力を力を力を力を力を力を』

 

 

 黙れよ!だまれぇ!!

 

 

 心が飲み込まれていく。後悔と自責の念で闇が侵食してくる。深い、深い、闇が。

 

 

『ちからちからちからちからちからちからちからちから!!!!!!!』

 

 

 あああああああああああああああ!!!

 

 

 自分でも何が起きているのか分からなかった。心と心のせめぎあい。一体どういうことなんだろうか。

 それは現実でも影響して、

 

「俺にもっと力があれば…………俺のせいで……なのはが…………っ!」

 

 そう言葉を発していた。

 

 

『さぁ、受け入れろ……………闇を……』

 

 

 っ!?

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

「……………ぇ……?」

 

 温かい温もりを感じる。俺は何をしてる?何をされている?体が引き寄せられて、あれ?

 

「…………何を言っているんだ………賢伍のせいなんかじゃないだろう?」

 

 

「士朗さん?………」

 

 強く、強く、抱き締められていた。温かい、俺のもう一人のお父さんの温もり。大切な、家族の温もりだった。

 

「ヴィータさんから話は聞いている。賢伍がなのはを守ってくれたって、賢伍が駆けつけてくれなかったらなのはは死んでいたっていってたよ……………」

 

 

「ヴィータが…………」

 

 ちがう、俺は守れなかった。間に合わなかったんだ。だから…………。

 

「なのはを守ってくれて………ありがとう」

 

 

「くっ!………ぅうう!!」

 

 違う。違うだ士郎さん、違う………。守れなかった、駄目だったんだ………。俺は無力で、ダメなやつで…………。

 

「でも、それで賢伍が傷ついたら意味がないだろう?」

 

 士郎さん抱き締める手を緩めて両手を俺の肩に乗せて真っ直ぐ俺を見つめてきた。そして、そう言葉を続ける。

 

「賢伍は私達の大事な家族だ。お前が大切なんだ。だから賢伍、無茶をしないでくれ………」

 

 そこで士郎さんは悲しそうな顔をする。俺のために、そんな顔をしてくれていた。 

「守るために自分まで傷付くのは間違ってる」

 

 

「…………あっ……」

 

 その言葉は俺の胸に深く刺さる。

 

「守るなら、自分も傷付いたら意味がない。そうだろう?だから、次はこんな無茶はしないでくれ………」

 

 後から聞いた話だと、俺も最初運ばれたときは危険な状態だったそうだ。だから、こんなにも深く士郎さんの言葉は重かった。心配させてはならない、大切な………家族を……。

 そして士郎さんはまた俺を抱き締めてくれた。暖かい、家族のぬくもりを感じて俺は救われた。心が救われた気がした。

 

 

『…………ちっ……』

 

 

 心の中でそんな舌打ちが響いたのも気づかないくらい、こころは穏やかになっていたんだ。

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 その後、士郎さんはなのは様子を見てくるといって病室から出ていってしまった。今は病室で一人寝ている状態である。

 

「ぐっ!………くぅうう!」

 

 腹の痛みを我慢して俺はベットから降りて立ち上がろうとする。ちょうど松葉杖がすぐそこに立て掛けられていてそれを使ってなんとか踏ん張る。それからゆっくりとした足取りで俺はなのはの病室に向かう。大体同時に運ばれたであろう患者は隣の病室だと予想したがそれは当たっていた。

 

「がっ!……………ぎぃぃぃ…………」

 

 腹がこれ以上動くなと訴えをかけてくるように痛む。士郎さんにもまだ動いていい状態じゃないから安静にしてろと言われたが俺はそれを破った。もうこの時すでに、俺はあることを決断したから。だからこそ、今はまだ眠ってるであろうなのはの様子を見に行きたい。顔を見ておきたかった。なのはが眠っているうちに……………。

 

「はぁ……はぁ…………はぁ……」

 

 嫌な汗が滲み、息を切らしながらも何とかなのはの病室の扉までたどり着く。手をかけて扉を開けようとしたら、中からの会話が漏れて聞こえてきた。

 

「そんな!?なのはだけじゃなくて賢伍まで!!なんで………なんでこんなことに………!」

 

 フェイトの声だった。どうやらなのはが墜ちたという話で飛び出してきたが後から俺もケガをしたという事を聞いて取り乱しているみたいだった。

 中には他に大勢いるみたいでフェイトをなだめる声も聞こえてきた。これ以上立ち話を盗み聞きするわけにはいかない、俺は扉を開けた。

 

「っ!」

 

 

「………賢伍!」

 

 皆俺が来て驚きの表情を浮かべる。さっきまで俺の病室にいた士郎さんもいた。高町家の皆も、フェイトも、ヴォルケンリッターにはやても。

 が、俺が目に飛び込んできたのは皆じゃなくて、ベッドの上で包帯だらけのなのはが眠っている姿だった。

 

「……………なのは……」

 

 一歩踏み出してなのはに歩み寄ろうとした時に士郎さんの口が開く。

 

「賢伍!無茶するなと言ったばかりじゃないか!」

 

 俺の肩を支えてくれる。

 

「ごめんなさい。士郎さん、でも……なのはの顔を……一目だけでも………しばらく会えなくなるから…………」

 

 俺の言葉の士郎さんは首を傾げながらも「わかった」となのはの目の前まで連れていってくれた。回りの皆は俺の必死さを見て黙って道を開けてくれる。

 

「………あっ」

 

 規則的な寝息をたて、今は安らかな顔をして眠っているなのはの姿目の前にあった。

 

「………………ごめん」

 

 まず出た言葉は謝罪の言葉。

 

「………………なのは」

 

 次の言葉は当時自覚のなかった想い人の名前。

 

「……………絶対に守るから……」

 

 最後に誓いの言葉を

 

「もう絶対になのはを傷付けさせないから……」

 

 誓いを胸に抱いて

 

「絶対に………………ぐっ!」

 

 全身響かせるかのように痛む。三機のロボットの刃に刺された腹。血が滲み出してくる。

 

「賢伍っ!……もう病室に戻るんだ、今度こそ安静にしてなさい!」

 

 

「うん、ごめんなさい士郎さん」

 

 そして、俺は士郎さんに担がれて再び自分の病室に寝かされる。見張りやくとしてか今度は士郎さん以外の高町家の皆に囲まれる。

 

「皆も………心配かけてごめんなさい……」

 

 ここでもまずは謝罪の言葉が出た。

 

「良いのよ、今はゆっくり休んでね?なのはもきっと良くなるから………賢伍もね?」

 

 

「うん、ありがとう桃子さん………」

 

 なのはの母親であり俺のもう一人の母親の高町桃子さん。きっとこの人のことだから本当はなのはのことも、俺のことも心配で心配でならないんだろう。

 

「とにかく、さっきみたいな無茶はもうするなよ?早く治るケガも治らなくなっちゃうからな」

 

 

「うん、恭也さん」

 

 なのはの兄であり、剣術の兄弟子である恭也さん。

 

「それでさ、賢伍………」

 

 

「うん?どうしたの美由希さん……」

 

 なのはの姉であり、俺のお姉さんで居てくれている美由希さん。その美由希さんが疑問を口にした。

 

「さっきの…………なのはにしばらく会えなくなるからって………どういう意味?」

 

 あぁ、そのことか。皆気になっていたのか3人とも食い入るように俺を見て答えを待っていた。

 

「それは………………」

 

 

ガチャ………。

 

 

 その疑問に答えようとしたその時、俺の病室の扉が開く。俺を含めて皆注目した、だから言葉も途中で止まる。

 

「…………っ」

 

 その扉を開けた人物は俺と目が合うと悲しみで顔を染めた。

 

「リンディさん…………」

 

 その人の名を俺はぽつりと呟く。少し気まずかった。俺が次元世界に飛んでいく前に、俺はリンディさんの忠告と制止を振り払って無理やり飛び出し結果はこの様だったから。桃子さんも恭也さんも美由紀さんも黙ったままだった。

 

「……………………」

 

 リンディさんは黙ったまま俺に近づいてくる。そして俺を見下ろす形で立ち止まり、軽く息を吸って言葉を紡いだ。

 

「一体何をしてるのよ貴方は!!」

 

 そう、大きい声で言われた。俺も、桃子さん達もその声の大きさに驚いてしまう。

 

「全くなんて無茶するの!なのはさんのそばには貴方がいなくちゃ行けないのよ!」

 

 その言葉は俺の胸に深く突き刺さる。

 

「なのはちゃんが起きたら、まず貴方が!励ましてあげなきゃ行けないのに、貴方まで無茶して怪我をしてどうするの!」

 

 ごめん、リンディさん。

 

「私は言ったわよね?貴方も疲労が溜まってるって、ゆっくり休まなきゃいけないって!」

 

 そんなこと言わせてごめん。そんな………。

 

「なのはちゃんを助けに行って貴方まで怪我したら………本末転倒じゃない………っ!」

 

 

「そんな顔させて………ごめんなさい、リンディさん…………」

 

 

「っ!?」

 

 …………………なんで泣くんですか……。なんで、そんなに泣いてるんですか………。

 

「私は…………貴方を止めてあげられなかった…………」

 

 

「勝手に飛び出したのは俺じゃないですか………」

 

 

「私が貴方となのはちゃんを魔法の世界に引き込んで…………こんなことに……っ!」

 

 リンディさんは責任感の強い人だ。だからこそ俺達の怪我を魔法の世界に引き込んだ自分のせいだと言っている。何をいってんですか…………。

 

「決めたのは俺たちです………。きっとなのはもそう思っています。リンディさんは何も悪くな…………」

 

 そこで言葉が途切れた。リンディさんが俺の肩を掴んで真っ直ぐ見つめてくる。その瞳には悲しみが、そして、

 

「死ななくてよかった……………」

 

 そして、言葉には暖かさと優しさがあった。俺はそのときに思ったんだ。俺の命は俺の物だけじゃない。俺を支えてくれて、俺の事を想ってくれている皆のものでもあるんだ。

 

「……………ありがとうリンディさん……」

 

 やっぱり、最後には俺の口から感謝の言葉が出てきた。

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 リンディさんの軽い説教を受けて、ちょうど面会時間が終わった。皆それを機に帰って俺もそのまま死んだように眠った。次に起きた時はすでに日にちが変わり、目を開けると天井ではなく人の顔が視界を包む。

 

「……………ヴィータ」

 

 ヴィータだった。そこで腹の傷の事を思い出しゆっくりと体を起こす。と、思ったがどうやっても腹に響きそうだったからベッドをリモコンで上側だけ傾けて座る形にする。

 

「あ、皆もいたのか…………」

 

 よく見たら他にも来ていたようだ。ほとんどが俺の病室に集まってくれていた。

 

「………どうや?具合は……」

 

 まずはやてがそう口を開いた。

 

「あぁ、割りと体調は良いよ……」

 

 そこで皆はホッと胸を撫で下ろしたような顔をした。皆心配しすぎだよ、俺なんかよりなのはの方が重症だってのに…………。

 

「………………」

 

 

「…………ん?」

 

 そこで俺は、ヴィータがずっとこちらを見つめているのに気がついた。拳をギュッと握りしめ、唇を噛み締め何かを必死に伝えようとしている。勇気を振り絞ろうとしていた、何を言おうとしているのかは大方察しがついてしまった。

 

「あたし………」

 

 ヴィータがボソッと口を開く、そこで言葉は止まってしまったがヴィータは意を決したように再び言葉を紡いだ。

 

「ごめん!ごめん賢伍!なのはだけじゃなくて賢伍も……二人を守れなかった……本当にごめんなさい!!」

 

 頭を下げられてそう言われる。予想通りの内容で俺は困った。ヴィータに謝られることなど何一つないんだから…………。

 

「俺はさヴィータ、お前に感謝してるんだよ………」

 

 だから俺は、俺の素直な気持ちを伝えることにした。

 

「お前がいてくれなかったらなのはも、そして俺もきっと死んでた………応急処置してくれたんだろ?俺にもさ………」

 

 ヴィータのことだ慌てながらも救護班が来るまでの間俺となのはを守ってくれていたんだ。

 

「俺が勝手にした無茶で苦しまないでくれ、自分のせいだと言わないでくれ、お前は守ったんだよ………俺となのはを………ありがとうな………」

 

 これが俺の本心だった。

 

「くっ!」

 

 

「あ、ヴィータ!」

 

 俺の言葉を聞き、ヴィータは突然病室から走り去ってしまった。ヴィータからしてみれば耐えられなかったのだろう。今はヴィータなりに時間が必要だ。今回のことで、あいつの心にも傷がついたのだから。

 

「…………………………皆にお願いがあるんだ」

 

 ヴィータが走り去って重い空気となった病室で俺は口を開く。皆は首を傾げていた。ちょうどヴィータ以外の皆はここにいる。リンディさんも、クロノとエイミィも俺の家族も、八神家も、フェイトも。

 

「俺を…………別の病院に移してくれ」

 

 そこでみんなはどう言うことだと俺に疑問を抱く。俺は昨日から決めていたのだ、この決意を………。

 

「今なのはが目覚めたとして、俺のことは重荷にしかならない」

 

 理由はそういうことだ、きっとなのはがこの怪我の事を聞いたらきっと自分を責めるだろう、そうなれば怪我の治りがますます遅くなるだけだ。まずはなのはが起きたときはしっかり今の自分に向き合って気を確かに持つこと。

 俺の事を知ればそれを邪魔することになる。病院を移してほしいのは接触を避けるため、そしてなのはが無事退院しても俺の事は伝えない。今後の人生でなのはに俺の事を重荷にしてほしくない。なのはには笑顔でいてほしいから…………常にあの輝いた笑顔で………俺の想いを皆に伝えた。

 

「確かに……………」

 

 そう呟いたのはシグナム。

 

「その傷では高町なのはに余計に心配させるだけだ。お前はそれが治るまで面会は控えといた方がいいだろう」

 

 そう意見に賛成してくれる人もいれば。

 

「いや、今でなくてもいずれなのはには伝えないといけないことだ。隠す事は賛成できない」

 

 士郎さんのように反対する意見も出た。大方それは予想している。だから俺は、こんな手は使いたくなかったけど、そう行動をとることにしたんだ。

 

「協力してくれないなら…………俺は自分でここじゃ扱えないような重症を負ってやる………」

 

 そうすれば嫌がおうでも病院を移せざる負えないからだ。皆の優しさを利用する形になったことはとても申し訳なく思う。それでも、俺の意地を通したかったんだ。

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 すぐに別の病院に移されてすぐに、なのはが目覚めたという連絡が俺に入った。それからは皆からなのはの様子を教えてもらうようになった。

 再び翔ぶことを決意したことも、そのために過酷なリハビリを始めたことも、数週間後に聞くことになる。俺は自分が思っていたよりも重症で、退院までに数ヶ月かかった。なのははそれでもまだリハビリ段階だが。俺も、退院したからといって傷が治ったわけではなかった。それからその傷がずっと俺を苦しめることになることもその時は思わなかった。

 

「この傷は賢伍君をずっと苦しめることになると思うわ………そして、あなたが守ろうとしたなのはちゃんの心を傷つけるものにもなるってことを覚悟してください………」

 

 俺が無理やり通した意地で、そのときのシャマルさんの言葉が現実になるとも俺は思わなかった。

 

「………………………」

 

 そして俺は今、なのはの病室の前に立っている。今まではずっと長期任務の遠征に行っていたことにしてある。とにかくボロが出ないようにしないと。

 そして俺は………久方ぶりになのはの顔を見るべく……

 

 

 ガチャ

 

 

 その扉を開けた。

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

~現在~

 

 

 

「後はなのはが知っての通りだよ」

 

 長かった話を終えて辺りは静寂が訪れる。当のなのはは……………。

 

「うぅ…………ひぐっ!………うっ」

 

 泣いていた。ただただ、泣いていた。悲しみ?隠していたことの怒り?違う、きっと違う。なのはは俺のために泣いているのだ。

 

「私、本当に………ひぐっ!………何にも知らなくてぇ………」

 

 涙声になりながらなのははそう口を開く。

 

「俺が隠してたんだ、仕方ないだろ?」

 

 

「でもぉ、でもぉ………私のせいで………賢伍君がぁ…………ぅ……」

 

 顔をくしゃくしゃにして、涙を流し続ける。

 

「なぁなのは……………」

 

 

「…………ぇ?」

 

 俺はなのはを真っ直ぐに見つめて、自分でもビックリするくらいの柔らかい表情で言葉を紡ぐ。俺はさ、なのは。自分がどれだけ無茶して、どれだけなのはに最低なことをしてるかって自覚はあったんだ。

 

「どうして、俺がこんなことをしたと思う?」

 

 

「え?…………ぇ?」

 

 そこでなのはは困惑する。そんなことを聞かれても本人には分からないだろうから。

 

「…………俺さ、お前の笑顔が好きなんだ」

 

 最初から俺の想いはそれだけ

 

「お前の輝くような笑顔を………無くしたくなかった」

 

 たとえ手段が間違ってても

 

「お前にはいつも笑っていてほしいから…………」

 

 結局なのはを傷つける結果になってしまったけど

 

「お前の笑顔が…………なのはが大切だから……」

 

 

「賢伍君……………」

 

 言葉でしか伝わらない事がある。ハッキリ言わなきゃ伝わらない想いがある。手段を間違えた俺は今度こそ正しい事をしたい。

 

「なのはに責任を感じてほしくない。俺に責任を感じるなら、いままで通り笑っていてほしい………いままで通り楽しくなのはと過ごしていきたい」

 

 どれだけクサイセリフでも、恥ずかしいセリフでもそれが俺の…………本心だから。

 

「お前を庇っていってるわけじゃない。なのは………それがお前にしてほしい事なんだ……………」

 

 なのはが俺を心配して、責任を感じて、想ってくれているように俺もなのはを想う気持ちがあるから。

 

「……………これが俺の本音だよ」

 

 言った、言いきった。後から思い出したら恥ずかしく感じてしまいそうなセリフを並び立てていた。けど、今は別に何とも思わなかった。だって、本心なんだから。

 

「………………賢伍君」

 

 なのはは、俺の目に前に立ってきた。そのまましゃがみ、少し戸惑いながらも………

 

 静かに

 

 

 ギュッと

 

 俺のお腹に顔をうづめて抱き締めてきた。

 

「…………………あの時………痛かった?」

 

 

「痛かった…………けど、きっとなのはが傷付いた方がもっと痛かった」

 

 お腹の古傷を服越しに優しく手を添えてくる。

 

「……っ、ごめんね……ごめんね……」

 

 まるで癒してくれているかのように触れられている手は暖かくて、

 

「私を守ってくれて、命懸けで助けてくれてありがとう…………」

 

 そのまま顔を上げて俺を見てなのははそう言ってくる。

 

「でも、賢伍君が傷ついちゃやだよ………だから無茶しちゃいやだよ………」

 

 ………守れるだろうか、幾度となく誓いや約束を破ってきた俺に守れるだろうか。いや、守るんだ。この間皆の前で誓ったのと同じだ。守るんだ、なのはとの大切な約束を。

 

「………あぁ、勿論だ。だから、なのはも…………笑ってくれ。笑顔を見せてくれ、それで俺は………これからも頑張れるからさ」

 

 そう言われたなのはは俺から離れてくしゃくしゃになった顔や目元を手で拭う。とにかく、泣いた後を残さないよう使用としていた。

 

「…………………うん!」

 

 あいにく、今日だけでどれだけ泣いたのか物語っているくらい目が赤く腫れていた。でも、それに負けないくらいの輝いた笑顔を、前に進む決意をしたなのはの笑顔が俺の視界を奪う。

 

「………ふふっ」

 

 自然と俺も笑みがこぼれる。なんだろうか、体が軽く感じる。古傷もなんだか消えたようになにも感じなかった。いつもなら疼くなり痛むなりしていたのに。ああ、そうか………俺も、前に進めたのか………。きっと、俺の中にあったわだかまりが取れた………そう思いたかった。

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

「ほんで、どうや?気分の方は………」

 

 

「…………さぁな、複雑でわかんねぇや。けど、スッキリしたよ」

 

 話が終わり、一応なのはと和解という形でその場は解散となった。といってもほとんどはその場に残っているが。そして、俺はなのはにティアナのとこに向かうよう薦めた。実は俺が話しているときにティアナ以外のFW3人が戻ってきて話を盗み聞きしていた。別に聞かれてもよかったが。

 で、3人にティアナがどこにいるのかを聞いて、なのはにその場所を教えてそっちの方の決着もつけるようにと背中を押した。きっと、今の二人なら和解できるだろう。何の心配もなかった。

 

「じゃあ、話して良かったね。一時はどうなることかと思ったけど」

 

 

「あぁ、フェイトにも色々と迷惑かけちまったな。悪かったよ………」

 

 フェイトは「そんなことない」と首を振って否定してきた。とにかく、皆が背中を押してくれたお陰だ。感謝しているし、俺の意地でずっと心配させてきてしまったことを申し訳なく思ってる。

 

「ヴィータも、ありがとな………」

 

 8年前のあの時、当事者のヴィータにも自然とそう言っていた。

 

「あたしは……別に何もして……」

 

 

「ありがとう……」

 

 

「………たくっ、変なやつだぜ」

 

 きっとヴィータだってあの時の事件を少しでも引きずっていた。あいつも傷付いたから。だから、俺と一緒に前に進んでくれると信じてる。

 

「さてっ!俺はなのはたちの様子を見に行ってくる。そのまま寝ちゃうわ、今日は何だか疲れた。皆、付き合ってくれてありがとう………」

 

 そう言い残して、俺はロビーを後にする。そのままなのはたちの元に向かう足取りは軽かった。

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 俺が到着したときは既に和解は済んでいるようだった。ティアナは涙を流しながらなのはに謝り続け、なのははティアナを抱きしてめて慰めている。ま、せっかく様子を見にきたし、俺もティアナに用があったから声をかけることにした。

 

「あ、賢伍君………」

 

 

「…………賢伍さん」

 

 俺の呼び掛けに二人はすぐに気が付いてくれた。二人とも俺に向き合う形になる。

 

「……………ティアナ………」

 

 目を赤くして拭っているティアナに俺は優しく名を呼ぶ。

 

「明日から…………またついてきてくれるか?」

 

 

「…………………はい!」

 

 そう、元気のいい返事が返ってくる。スッキリしたような顔をしたティアナを見て俺は満足する。

 

「じゃ、ぶったことも謝らなきゃな。ごめんな………」

 

 

「い、いえ!そんな………私こそ……」

 

 お互いに謝り会う形になってしまう。

 

「ま、とにかく今日はゆっくり休め。明日からまたビシバシなのはがやってくれるからな」

 

 

「…………え?賢伍君は………?」

 

 俺の発言になのはは疑問を口にした。それはそうだ、今の俺の言い方だと俺は訓練に参加しないと言っているようなもんだからだ。

 

「あぁ、明日だけ用事があってな。悪いけど参加できねぇや。あ、でも明後日からいつも通り参加するよ」

 

 問いかけの答えになのはは「そっか」…………と答えて何も言ってこなかった。

 

「ま、つー訳でささっと休みな……俺はもう行くからよ」

 

 そう言って俺は歩き出す。後ろからなのはに「どこにいくの?」と声をかけられたが俺は手をヒラヒラと返しただけで何も言わなかった。

 

「…………ティアナもなのはも、二人とも乗り越えてくれたんだ……………」

 

 だから…………いい加減俺も決着をつけようか。ティアナと俺と、亡き友のために……………。

 

 全ては明日。このゴタゴタの中でも俺は一瞬たりとも忘れてはいなかった。

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 

 翌日。早朝訓練を終えてなのは、フェイト、ヴィータとFW4人は食堂にて昼食を食べていた。ティアナとなのはの間のわだかまりも解け、全員楽しげな雰囲気で食事をとっていた。

 そこに………

 

「み、みんなー!た、大変!大変や~!!」

 

 

「大変ですぅ!!」

 

 はやてとリィンが慌てた様子で食堂に走り込んできた。

 

「き、急にどうしたの?はやて?」

 

 突然走ってきた二人に驚きながらもフェイトがそう口を開く。

 

「て、テレビ!テレビつけてや!!」

 

 そう言われティアナが急いで食堂の備え付けのテレビに電源を入れる。

 

「………………え?」

 

 その画面を見て、ティアナは驚く。その場にいた全員が驚いていた。

 

『これから皆さんに聞いていただくのは、6年前に起こった未解決事件。「違法魔法使い逃走、ならびに殺人」事件の真実です』

 

 その画面に写っている男の声がテレビのスピーカーから漏れ出していた。そう、その人物こそ………。

 

「賢伍………さん……」

 

 ティアナがその名を呟いた。神崎賢伍は報道陣を目の前にして堂々と構えていた。全ては、友の無念を晴らすために…………。

 

 

 

 

 

 





終わらなかった………だと?すいません、まとめきれませんでした(;・ω・)。というわけで、ティーダ編は次で完結です。いや、まさかこんなに時間がかかるとは思いもせず自分の文才を呪うばかりです(/o\)


それと、皆さん。メリークリスマスですね。クリスマス特別編でカオス回を書こうとしていたんですが、本編が思ったより進まなかったので見送りにさせていただきました。m(__)m

読者の皆さまに素敵なクリスマスを…………あ、自分ですか?僕は勿論専門の寮生活ですので実家に帰省して家族と過ごしますよ?ええ、家族と……………。どうやら生まれてくる次元を間違えたようだ(´・ω・`)


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オレンジの絆

なっがい!まとめきれずこんなに長くなってしまった!それと遅れましたが新年明けましておめでとうございますm(__)m

読者の皆様には2016年は良い年でありますように。


 

 

 

 

 

 時は少し遡り早朝、俺はとある場所を訪れていた。

 

「やぁ、待ってたよ」

 

 その場所に一足先に到着していたショウさんにそう声をかけられた。俺は首を下に傾けて返事を応対する。

 

「お疲れ様です。どうですか?段取りは?」

 

 

「昨日のうちにマスコミにも会見を行うと呼び掛けておいたし、人数はそれなりに集まる筈だ。いくつかのテレビ局は生中継も決まってるみたいだぞ?」

 

 

「…………万全ですね」

 

 想定していた中でも一番良い状況であることに俺は思わずニヤリと口許を緩ます。

 

「あぁ、会見は正午頃を予定している。しっかり頼むぞ?」

 

 そう言いながらショウさんに肩をポンと置かれる。ショウさん自身は気づいていないんだろうが、その手には少し力が入っているように感じた。

 

「………………やっぱり、俺じゃなくてショウさんが会見に出たほうが………」

 

 俺はそう進言した。実際、年月で考えたら適任なのはショウさんだ。6年という歳月の中、時間があればずっと自分なりに事件を追っていたショウさん。親友の無念を執念で追い続けたこの人こそが前に出るべきなのだ。

 

「いいや、それじゃ駄目なんだ……」

 

 しかし、それをショウさんは首を振って拒んだ。

 

「会見という公のことで目立たせるためには俺みたいな一般局員じゃなくて、お前みたいな英雄と崇められてるような人が出ないと注目されない。俺のことは気にするな、それに…………ここまでこれを導いたのはお前の力だ。胸を張れ、賢伍」

 

 そう言われ、背中を押される。

 

「…………………はい」

 

 俺はショウさんに感謝しつつ、あと数時間ほどでくる会見の時間に胸を馳せる。きっと俺があれこれ考えてる内に会見の時間はやってくるだろう。

 

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

「…………………うーむ、これどないしよか……」

 

 八神はやては自身の部隊である起動六課の部隊長室で書類とにらめっこしていた。彼女は仮にも一個部隊の部隊長という立場、予算や上への報告書など整理しなければならない書類は山積みなのだ。

 

「はぁ、リィン…………テレビでもつけてくれへんか?景気のいいニュースでも見てやる気ださなあかん…………」

 

 

「はいですぅ!」

 

 はやての指示通りリィンは自身と同じくらいの高さのリモコンもちテレビをつける。適当にチャンネルを変えてなにかやってないかと探す。

 

「あ、管理局が会見を開いてる見たいです!」

 

 そこでとあるチャンネルで指が止まる。リィンもはやても管理局所属。自分達の組織が会見を開いてるというなら少し気になった。

 

『ちょうど今会見が開始されようとしています…………』

 

 ニュースキャスターの声がスピーカーから聞こえ、リィンとはやてはまじまじとテレビに注目した。おもむろに置いてあるコーヒーに二人は口をつける。

 

『主催者は光の英雄で有名な神崎賢伍一等空佐であり……………』

 

 

「「ぶううううううう!?」」

 

 二人は同時に口に含んだコーヒーを盛大に吹いた。

 

「な、ななななななんで賢伍さんが!?」

 

 

「一体………………どういうことやぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 とりあえず二人はこの事実を皆に伝えるべく、今頃昼食をとっているであろう食堂に向かった。

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 初めての経験に俺は戸惑っていた。会見開始が宣告されて記者たちの前に出てみればフラッシュの嵐。目がチカチカしてしょうがない。それに加えて俺が想像していた以上の人数で会場は溢れかえっていた。

 念のためと多めに用意しておいた椅子も全て埋まり、中には端で立っている記者の姿も見受けられる。

 

「本日はお忙しい中、この会見に集まりいただき、ありがとうございます」

 

 台本通りの挨拶を済ませ、咳払いを交えつつ早速本題に入る。

 

「今回皆さまにお集まりいただいたのは、昨日の告知通り…………」

 

 辛かった……………。ここまでたどり着くのに短い期間とはいえ様々な苦悩があった。だがようやく俺もショウさんも報われる。

 

「これから皆さんに聞いていただくのは、6年前に起こった未解決事件。『違法魔法使い逃走、ならびに殺人事件』の真実です」

 

 この言葉に記者たちがざわつき始めた。それに構わず言葉を続ける。

 

「6年前、ある一人の管理局員が殺害されました。名は、ティーダ・ランスター……」

 

 モニターにティーダの写真と経歴を写し出させ、俺は話を進める。

 

「ランスター氏はとある違法魔法使いの追跡及び捕縛の任に付き、その任務中に件の魔法使いに返り討ちに遭い殺害されたと結論付け捜査が進められました………」

 

 ちらりと記者たちを観察すると何人かはウンウンと頷いているのが見てとれた。当時はズークの会見の事もあり騒がれていたからか、ここまで説明して思い出したようだ。

 

「しかし捜査は難航、犯人と思われる違法魔法使いも依然見つけることは出来ずに事件は未解決のまま風化していきました……」

 

 ですが……………と俺は最後に付け加える。さあ、ここからが本番だ………言葉を慎重に選んばないといけない……。

 

「私は、とある私的理由からこの事件を独自に調査しました。事件が起きた当初からずっと独自調査を続けていた管理局員にも協力してもらいとある事実にたどり着きました…………」

 

 一瞬言葉が詰まりそうになるが耐える。狼狽えるな、たとえ慣れてない環境でも弱味を見せるな。相手はマスコミ、隙を見せてはいけない。

 

「それはこの事件の真実であり、犯人、原因、そのすべてです!」

 

 この言葉を発した直後、報道陣がざわざわと騒ぎ始める。カメラのフラッシュを存分に浴びせてくる記者たちに俺は態度を崩さず耐える。

 

「独自調査をする理由となった私的理由とはなんでしょうか!」

 

 どこかの記者からそんな質問をしてくる。やるな、会見は嘘偽りなく伝えねばならないからそれについても伏せずに「私的理由」という言葉で伝えてそのあとに会見の見所を提示して騒がせてうやむやにしたかったのだが、それを見抜いて質問してきたな。

 ここで「友人だったから」と素直に答えれば俺のこの説明はすべて「被害者と親しい仲だった者が被害者贔屓している」と思われ信憑性を薄めてしまう。だから隠したかったのだが。が、ちゃんとそのための返答を用意してはある。

 

「それについては本会見と今から説明する事件の真実とは全く関係ないので回答を拒否します」

 

 これならば、あちらもなにも言い返しはできまい。進行の妨げになると遠回しに釘を指したのだ、記者もこれ以上追求はしてこなかった。

 

「それでは、以下にしてその真実にたどり着き、犯人はだれだったのか?全て今から説明します………………」

 

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

「まずはどう切り出す気だい?賢伍」

 

 眼前にそびえ立つ豪邸を前にしてショウさんはそう口を開く。

 

「具体的な事は何も考えていませんが………土壇場で出た言葉が一番うまくいくもんです」

 

 そう返答する。時は会見の前日、賢伍となのはとティアナのわだかまりが解決したのが深夜で、件の模擬戦が昼過ぎ、そして午前はずっと六課を留守にしていた。その理由がこれだ。現地で待ち合わせをしたショウさんと合流し、いざ突入の直前だ。

 

「そっちの準備は出来てるな?…………あぁ頼むぞ」

 

 ショウさんが通信機で誰かと会話を交わす。決戦前の下準備というやつだ。今まさに俺達は6年前の事件の黒幕の本拠地に来ているのだ。

 本拠地という言い方は大袈裟だが、用はそいつの自宅だ。

 

「今から全部暴いてやるぞ………覚悟しやがれ……」

 

 そう口ずさみ目の前にあるインターホンを押す。

 

『………………誰だ?』

 

 ちょっとしたノイズ音と共にその豪邸の家主がスピーカーから声を発してきた。

 

「時空管理局の者なのですがお伺いしたい事がございますので扉を開けてもらえますでしょうか?」

 

 

『…………………………………』

 

 スピーカーから返事は聞こえて来なかった。ここで断ればこっちはゆさぶって無理にでも戸を開けてもらわなきゃならなくなる。できればそれは避けたい、初っぱなから警戒されてしまうからな。

 

『………………入れ』

 

 その心配は杞憂に終わったようだ。とりあえず、第一段階は予定どおりだ。自動的に開いた扉に俺とショウさんは一歩踏み出し入る。そのまままっすぐ進むとその先にまた扉があった。それも自動的に開き応接室のような部屋に入る。

 外観の豪華さに負けないくらい内装もそれは豪華で優雅な家だった。

 

「……………ふん!どこの馬の骨が来たかと思えば貴様だったか!忘れてはいないぞ………貴様が俺にした舐めた仕打ちをな!」

 

 その応接室にテーブルを挟んで豪華な椅子に座りふんぞり帰っているのは家主であり黒幕。6年前からメタボ気味な体型は変わっていない。俺はその憎き人物を鋭い目付きで見据えながら口を開く。

 

「あぁそうだよ…………あんたに用があったんだよ……ズーク・ライアス!!」

 

 その人物の名を叫ぶ。6年前の会見でティーダを罵り、不名誉なレッテル世間に張らせた張本人。俺の言葉は怒りと憎しみの感情を込めていた。それでも目の前にクズは挑戦的な態度を崩さずフッと鼻で笑ってくる。

 

「まずは座れ、話はそれからだ」

 

 用意されていた二つの椅子に俺とショウさんはズークと対面になる形で座る。

 

「それで?話とは一体なんだ?」

 

 先にズークはそう切り出してくる。

 

「単刀直入に聞きます………6年前のティーダが殺されたあの事件………私達は貴方が一枚噛んでいると踏んでいます。それについて………何か言い分はありますか?」

 

 ショウさんがそう言葉にするとズークのまぶたがピクッと動いたのを俺は見逃さなかった。この話に何かしらの反応を起こした証拠、ただ驚いただけかもしれないが。

 

「ティーダ?…………あぁ………ティーダ・ランスター…………あの無能のことか……」

 

 

「テメェっ!………っ!?」

 

 俺がその言葉を聞き、カッとなり奴の胸ぐらを掴みそうになった。が、それをショウさんが手で制してきた。

 

「………………」

 

 その手が小刻みに震えていた。ショウさんも怒りを必死に抑えている。そうだ、ここで台無しにしてはならない。落ち着け、落ち着くんだ。

 

「ふん!何を言い出したかと思えば、世迷い言を………ワシがその事件に絡んでいるだと?誰に物を言っているのか分かってるだろうなキサマァ!!」

 

 ドンッと目の前のテーブルを叩きながらものすごい剣幕でそう怒鳴ってくる。一瞬怯みそうになるが少しでも隙は見せない。

 

「勿論根拠なしでそう言っているわけではありません。それは今からこの賢伍が説明します……」

 

 

「ふん!ならば説明してみろ………聞いてやろうではないか………」

 

 ズークはニヤリとした顔を浮かべながらそう言ってくる。どうやら自信満々のようだ。

 

「それじゃあまず、事件を整理しよう」

 

 事の発端は6年前、とある逃走中の違法魔法使いの足取りが掴め追跡捕縛任務が発足された。

 

「その魔法使いはミッドチルダ郊外の銀行を大胆にも強盗に入り、とてつもない大量の金を強奪した指名手配中だった魔法使いだ」

 

 その捕縛任務は当時はまだ引退する前のズーク・ライアスが指揮していた部隊が名乗りを上げた。ズーク自らが推挙したらしい。そして、当時はその部隊にいたティーダとショウさんもその任務についた。

 

「その任務の途中でティーダはその違法魔法使いに殺害された。逃走犯もそのまま逃走、金も犯人の行方も未だ知れず………て所だ」

 

 一通りを説明し、一旦ここで区切る。ズークはずっと黙って聞いたままだった。ならば、このまま続けようか。

 

「俺とショウさんはその中でいくつか不自然な点に気がついた、次はそれを整理しよう」

 

 まずは発端の銀行強盗、犯人の資料を見たところとても一人で銀行強盗を成功させるような能力者じゃなかった。

 

「まず無謀な犯行なんだよ、郊外とはいえ厳重な警備をくぐり抜けられるような人物ではないだろう」

 

 

「そんなもの資料に書かれてないだけかも知れんだろう?隠された能力があったのではないか?」

 

 ここで初めてズークが反論してきた。確かにごもっともな意見だ。

 

「その可能性は極めて低い。そんなとんでも能力があったらそもそも足取りが掴めて捕縛任務が発生すること事態がおかしくなる」

 

 銀行の厳重な警備を逃れられる能力があったのだとしたら、足取りはまず掴めない。それに、捕縛任務の際には普通に走って逃走していたらしいしな。

 

「これが一つ。次は二つ目、これも一つ目と関係してくるがティーダがその逃走犯に殺されたという事実も少し不自然なんだよ」

 

 先ほど述べたとおり、犯人は魔法使いとしては二流三流レベルだ。その犯人がエリートで一流魔法使いだったティーダを返り討ちに出来るほど力があるのか?いやない、明らかに不自然だ。

 

「ただ単にティーダが無能だっただけだ」

 

 俺のその指摘にズークはそう切り捨てた。一瞬殴りかかりそうになるが堪える、怒りを感じているのは俺だけじゃないんだ。だからこそ、俺も耐えないといけないんだ。

 

「現実味がないってことだ、あくまでも不自然な点だからな」

 

 

「ふん……………」

 

 こういう形で納得してもらう。じゃないと話が進みそうにもなかったからな。

 

「最後に、逃走犯が追跡から逃げ切った事だ。あんたも分かってるとおり、捕縛任務の現場は見晴らしが良くて逃走には向いていない場所だ」

 

 実際に俺も見に行き、シャイニングハートにもシミュレーションさせたが管理局の追跡を一人で逃げるのはほぼ不可能なところだった。唯一の死角もティーダの遺体が発見された大きな岩場くらいだ、近づかれたらすぐばれるような所だが。

 

「大雑把で他にもまだあるが大体の不自然な点はこんなところだ」

 

 

「それで?今の話でワシが事件に絡んでいる証拠も根拠もないようだが?」

 

 

「焦るなよ、今そこを説明してやっからよ」

 

 さて、面倒だから一気に教えてやろうか。俺がまずズークを犯人だと目星をつけた理由からだ。

 

「まず件の逃走犯の能力がカギとなる。奴の能力はお前も知っている通り『魔力遮断』だ」

 

 数分間、外部から自身の回りの魔力反応を遮断し、感知されなくなる魔法。時間の短さと、自身が見えなくなるわけではないので実用性のなさであんまり認知されていない魔法だ。

 

「そして、ズーク・ライアス…………あんたの特別な能力…………「透明化」だよ」

 

 

「っ!」

 

 その名の通り、自身を透明化して視界から消える魔法。一見とても魅力的な魔法だが、デバイスや自身の魔力感知で透明になった所で場所はすぐにバレる。

 発動した時点で魔力を発しているのだから。

 

「この『魔力遮断』と『透明化』………個々では使い物にならない能力だが、組み合わせれば………とんでもない能力になる」

 

 

「ははは!バカめ!!貴様の考えが読めたぞ神崎賢伍!」

 

 突如、勝ち誇ったようにズークが喋り出す。

 

「つまりこう言いたいのだろう?その逃走犯の能力とワシの能力を合わせれば『姿が見えないしなおかつ魔力感知もされない』魔法が出来上がると…………そうすれば貴様が言っていた不自然な点も解消されると!」

 

 それが可能なら、逃走犯が銀行強盗を成功させたのも、倒せるはずのないティーダを殺せたのも、見晴らしのいいあの現場から逃げ切れたのも説明することができる。

 

「だが残念だったなぁ!ワシの透明化はワシ自身にしか使うことは出来ないのだよ!逃走犯の魔力遮断は確かに一定の範囲内ならワシも影響を受けることが出来るが透明化は別だ!」

 

 ズークは愉快そうに饒舌にそう語る。本人はさぞ愉快そうに、俺とショウさんは黙ってそれを聞き続ける。

 

「嘘だと思うなら管理局のワシの資料を見てみるといい!管理局の正式なプロフィールにもそう書いている!」

 

 

「その書類ならちょうどここにあります………」

 

 ショウさんが事件にまつわる資料が入ったケースからすぐにズークの資料を取り出す。

 

「そうだそれだ、そこにそう書いてある」

 

 俺はショウさんからそれを受け取り何度も何度も目に通したその資料に目を通す。

 

「あれれ?おかしいなぁ…………こっちの資料には………『一定のサイズ内のものなら、触れているものを共に透明にすることも可能』って書いてあるんだけどなぁ」

 

 

「なっ………に!」

 

 どうやら上手いこと釣れたようだ。ここまで上手く行くとは思っても見なかったから自然と口が緩む。

 

「あぁそうか!これはお前自身が自分のデータを改ざんする前の物だもんな!そりゃあ内容は違うわけだ」

 

 

「っ!?………貴様ぁ!」

 

 一見無駄だと思えることも俺とショウさんは調べつくしてきたのだ。それでたまたま当時データを管理していた局員と話すことが出来た。どんな些細なことでもいいと何度も頭を下げた。例の事件と少しでも関係してそうなことをと。

 そして聞き出すことが出来た、事件後すぐにズークに脅されてデータ改ざんを無理矢理やらされたことを!

 

「さっきはわざと言わなかったが、この事件を調べるときに妙にデータが少なくてな。逃走犯の資料さえなかなか見つからなかった」

 

 それは6年もかけて見つけてくれたショウさんのお陰で俺も知ることを出来たわけだだが。

 

「その時点で俺は裏で誰かが暗躍してるとにらんでたんだよ、証拠の隠滅行為だとな。しかもそれなりの地位がないと出来ない所業だ。だからその時には俺のなかではお前は容疑者だったんだよ」

 

 で、さらに自分のデータを脅してまで改ざんさせたという事実を聞きその時に俺はズークが黒幕だと確信した。ズークの能力がないと、すべての不自然に答えを見つけることが出来なかったのも要員の一つだ。

 

「さぁ、反論があるなら聞いてやる!」

 

 

「ぐぐ………ぐぐぐ…………ふっ」

 

 最初は悔しそうな顔をしていたズークだったが、突然笑みをこぼし始めた。

 

「証拠はどうした?えぇ!?証拠はあるのか!?」

 

 ヒステリック気味にそう叫び始める。

 

「貴様の推理は穴だらけだ!貴様の言うその局員の証言は真実だと言う証拠はあるのか!?それに、ワシがその逃走犯と協力したとしよう…………それならば銀行強盗の時点で犯人の区別すらつかないであろう?居場所を掴まれるヘマなどしないはずだ!」

 

 ズークの言いたいことは理解している。確かに、感知もされない透明の状態でなら銀行強盗を犯した人物を捕まえるどころか誰が犯人なのかさえ区別はつかない。だが、そいつは指名手配され、足取りも掴まれた。

 もし、ズークが協力していたのならその事実がおかしくなると言うことだ。

 

「確かにお前の言う通りだ…………お前の目的が本当に銀行強盗だけならな」

 

 

「っ!……………」

 

 ここからは俺の想像も入ってた推理だったが、とある証拠がそれが全部真実だと導いてくれた。さぁ、ここから一気にまくし立ててやる!

 

「確かに最初は金目的で銀行強盗をして、お前は逃走犯と繋がってたんだろう。が、そこでお前にとって思わぬ事が起きた……………ティーダだ」

 

 

「………………」

 

 ズークの顔色が明らかに変わる。これが6年前の事件のきっかけ。ティーダは前から世間を騒がせた銀行強盗にズークが関わっていると睨んでいたのだ。そして、掴んだのだ…………例の逃走犯と繋がっていることを。

 

「お前も管理局という立場上、ティーダがお前を嗅ぎ回っていたことは耳に入ってきたんだろ。お前は焦った…………だから………逃走犯の情報をリークしたんだろ?」

 

 

「で、デタラメだ!貴様ぁ、これ以上戯言をぬかすと………」

 

 

「デタラメかどうかこれから分かる!………黙って聞いていろ……」

 

 殺意を込めた眼差しでズークを黙らせる。実際に殺してやりたいぐらいだ。だがそれではダメなんだ。それでは………。

 

「お前は自身の罪を知っているティーダを排除する機会を伺った。だが、ただ排除するには危険すぎる。だから…………逃走犯を指名手配に仕立てあげ、気を見て足取りの情報を流した」

 

 そう、すべてはこいつの計画。逃走犯が指名手配されたのも足取りが掴め捕縛任務が発注されたのも…………こいつの狙いだったのだ。

 

「そしてお前はその任務に自分の部隊を立候補した。それで、部隊の傘下にいたティーダを捕縛任務につかせた…………そして………逃走犯に唯一の死角となったあの

岩場にティーダを誘い込み………透明と感知遮断を使って不意討ちで殺したんだ!!」

 

 むちゃくちゃに聞こえるがズークならば可能の話なのだ。その時の任務はいつもはしない現場入りをして、任務中は姿が見えなかった。任務に参加していたショウさんによれば直前に隊員一人一人の追跡ルートを設定させた。

 つまり、ズークがティーダだけそこに誘い込むのは可能。もちろんティーダも馬鹿ではない。自分が誘い込まれているのにも気付いてたのだろう、だがもっと決定的な証拠を求めていたティーダはそれが掴めると思ってわざと誘いに乗った…………それで………殺された。

 

「……………………見事な推理だ光の英雄。だが…………さっきも述べた通り………証拠もない空想だ!みせろぉ!証拠をなぁ!」

 

 唾を撒き散らしながらそう言葉を響かせるズーク。どうあっても、自分から認めるきはないようだ。ならば…………。

 

「証拠か…………あるよ」

 

 

「……………何?」

 

 

「証拠となるものならあるよ…………これにな!!」

 

 俺はそれをズークに見せた。

 

「それは…………データチップ?」

 

 

「その通りだ………そしてこの中に………ティーダが掴んだお前が逃走犯と繋がってた証拠があるんだよ!!」

 

 

「なっ、なに!?ば、バカな!!」

 

 それを聞いたズークは狼狽えていた。ハッタリだ、あり得ないと叫んでいるのを俺は無視して続ける。

 

「この中にお前の通信、会話の記録が入ってた。バッチリお前の声と逃走犯の会話とメール、通話、内容も全部だ。ティーダはお前の悪事の証拠を掴んでたんだよ!そして………それを俺たちに託してくれたんだ!!」

 

 このチップこそがティーダの最後の足掻き。生前にそれを出さなかったのはきっと自分より遥かに立場が上のズークなら提出された所で揉み消されると思ったからなんだろう。だからこそさらなる証拠を求めてあの事件のときに自ら罠に嵌まりにいったのだ。

 ズークに抹消されるのを恐れて図書館の本に隠し、俺に託してくれた俺達の絆の証拠。これは、ただのデータチップではない。ティーダの思いが込められた、いち管理局員として必死に闘ったティーダの闘いの記録。自分がズークに抹殺されたときのことも想定してまでのことだったのだ。

 

「いい加減罪を認めろ。悪あがきはよすんだな…………」

 

 これで、決まる。

 

「くくく………くははは!!はははははは!!」

 

 と思った矢先に、ズークが高笑いをし始める。どうやら、まだ終わりそうもないな。

 

「くくく………まさか………あんなクソガキにしてやられるとはなぁ…………」

 

 やれやれとズークが口ずさむ。

 

「しかし、その証拠は………本当に私の会話記録なのか?ええ?」

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

「本当に?信頼できる証拠なのかと聞いている。ワシは潔白だ、つまり………それはねつ造………」

 

 

「なんなら今から管理局に提出して調べてもらおうか?すぐに分かるぜ?ねつ造かどうか?………」

 

 そういいながら俺は指に挟んでズークの目の前にひらひらとチップを見せる。瞬間、

 

「くっ!」

 

 

「っ!しまっ………!」

 

 突如ズークが俺が軽くもっていたチップを強奪する。それを地面に叩きつけ、

 

「ふん!」

 

 勢いよく足で踏み潰した。バキッと機械が壊れた音が響く。

 

「なっ…………」

 

 

「……………………」

 

 俺とショウさんは言葉が出なかった。呆然とする。あっけなく、ティーダとの絆が壊されてしまった。

 

「ふはは!はははははははははは!!!これでワシの犯行を立証出来るものはなくなったぁ!ざあまないな光の英雄!!」

 

 

「………………お前、これを壊したってことは………罪を認めたと同じことだぞ?」

 

 

「あぁそうだ!そうだとも!ワシが黒幕だ!!ワシがその逃走犯を手引きし、銀行強盗をさせて、ティーダを殺したのだ!」

 

 ついに……………認めやがったか。

 

「だがそれがどうした!?証拠がなければワシを裁けなどしない!!ワシがそのチップを壊したと法廷で立証することも不可能!貴様らの証言でとどまるのだよ!!」

 

 ズークは自分の勝利を確信していた。だからこそ、もう隠すことはないとべらべら喋ってくれた。

 

「…………それで?その逃走犯は今どうしてるんだ?」

 

 

「ふん!奴などティーダを始末したその日に口封じに殺したわ!銀行で奪った金も全てワシのもの!!ワシだけものだ!」

 

 目は完全に金の欲に支配された哀れな目をしていた。汚ならしい強欲のためにティーダは殺された。この豪邸もその名残か、おかしいとは思っていた。いくら地位の高い人でも豪華すぎると思ったから。

 逃走犯も見つからないわけだ、死んでるんだから。遺体は魔法でどうとでもなっちまうし、予想はしていたが。けど、俺は待ってた……この時を待っていたんだ………。

 

「ショウさん……………」

 

 

「あぁ………」

 

 俺の呼び掛けにショウさんは頷くと、デバイスの通信を繋げた。6年前のティーダを罵った会見で、ティーダは火がついたら止まらない性格だと知った。人間の性格はそう簡単には変われない。きっとそのままだと思っていた。

 

「こちら現場、録音と録画………バッチリか?」

 

 

『おいっす、バッチリですよ副隊長!』

 

 通信越しでショウさんとその部下の会話が繰り広げられる。ちなみにこのショウさんの部下、ショウさんと初めてあった日に休憩室でサボってた少年だ。

 

「な………な……っ!」

 

 この会話を聞いたズークは口をパクパクさせた。

 

「いやぁ見事に引っ掛かってくれたな。ズーク・ライアス………」

 

 

「ききき!!きさ………貴様ああああああああああああああ!!!!!」

 

 見事に計画は成功だ。すべてはこのため。ズーク自らの口から引き出さすため、自分の犯した罪を。

 

「ちなみに、さっきお前が壊したチップは偽物で………本物はこっちだ」

 

 そういいながらポッケから本物を取り出してそれを見せる。俺が大切な絆をぞんざいに扱うわけないだろうが。

 

「このチップにはお前と逃走犯が繋がってる証拠はあったんだけどよ、ティーダを殺した証拠はない。だから、お前自身で証明してもらったってわけさ…………」

 

 最初から全てこの結果に導くための自作自演。だから我慢した。友を目の前でバカにされても。こいつを完全に裁くために。

 

「い、いい違法だ!こ、こんなぁ!こんな証拠など!!と、盗聴盗撮だ!ゆ、ゆ、許されん行為だ!」

 

 

「許されない行為をしたのはお前だズーク・ライアス!!」

 

 この言葉でズークはぐぅの音も出なくなる。ふざけたことをいってんじゃねぇぞばか野郎が!

 

「それにな、確かに盗聴盗撮だ!裁判じゃ印象が悪い証拠になる。けどな、それを聞いている人もいるんだよ…………」

 

 

「な、なに?」

 

 俺はシャイニングハートに通信を繋げる。今ショウさんの部下と一緒にこの状況を見ている人物に。

 

『………………はいはいー、バッチリ聞かせて貰いました』

 

 

『全く、僕だってそんな暇じゃないんだぞ賢伍!』

 

 

「悪いな、でも………来てくれてありがとうよ、リンディさん………クロノ」

 

 その人物に一応の感謝の気持ちを伝える。

 

「リンディに………クロノだと?ま、まさか………………」

 

 そう、そのまさか…………

 

「引退してもそれぐらいは覚えてたか…………お察しのとおり、リンディ総務統括官に、次元航空隊クラウディアの提督、クロノ提督だよ」

 

 そして、俺の大切な仲間だ。

 

『ズーク・ライアス元総隊長』

 

 

「はっ、ははぁ!」

 

 長年管理局に勤めて癖になってしまったのかリンディさんに名を呼ばれビシッと姿勢をただすズーク。

 

『話は聞かせて貰いました。それ相応の処置をさせていただきます』

 

 

『今そっちに応援を送る。自分の罪を悔いながら大人しく待っていることだな』

 

 お二人からありがたーい言葉を頂いた。

 

「あぁ………あぁぁぁ………」

 

 ズークはガクッと膝から崩れ落ちた。……………決着だ。ティーダが残してくれた証拠がなければきっと追い詰めることが出来なかった。だから、俺は言う。

 

「お前が散々バカにしたティーダにお前は全てを明かされんたんだよ。俺の友を舐めるな…………一生ブタ箱でそれを悔いていろ!!」

 

 これで、俺達の勝ちだ。すべて、無駄ではなかったのだ。ティーダの死も、ショウさんが苦しみ続けた6年も。

 

「賢伍君……………ありがとう」

 

 ショウさんに手を差しのべられる。俺はそれを握手で返した。

 

「ショウさんのおかげでもあります。あとは…………そっこく会見を開いてこの事実を……」

 

 

「ワシはいやだ!!こんなことで!ワシは捕まりたくはなぃぃぃいい!!!」

 

 突如全て観念したかと思っていたズークが叫びながら駆け出す。逃げるつもりだ!

 

「ま、まて!!」

 

 無駄な行為だ。俺はそう分かっていても焦ってそう声を発した。と同時に、目の前にいたはずのショウさんの姿が消えた。ショウさんは現役で部隊の副隊長という立場の人、実力者だ。

 だから、ショウさんが引退してさらにブクブクと太ったズークに追い付き回り込むの容易だった。

 

「そ、そこをどけショウォォォ!!」

 

 

「………………これ以上、無様な真似をするんじゃない!!」

 

 

 バキィ!!

 

 

「ぐはぁ!!」

 

 無理矢理突破しようとしたズークをショウさんはその顔面に拳を叩き込んだ。顔がかなりめり込んでいる、本気でやったようだ。こりゃ鼻の骨もおれてるだろう。

 

「…………………………」

 

 ズークはそのままのびてしまった。

 

「…………はぁ、これは私も連行されそうだな」

 

 

「いやいや、ショウさんはただ逃げようとした容疑者を制圧しただけですから。管理局員として正しいことしただけですよ」

 

 流石に殴るのは不味かったが、まぁズークがかなり抵抗したと誇張しておけばいい。

 それに、こんなこと思うのは局員として間違っているがショウさんには殴る権利があると思いたい。なんだってずっと我慢してきたのだから、元はズークの部下だったのだからティーダの悪口はずっと聞かされてきたのだろう。

 本人はずっと我慢してきたのだ、6年も耐えて耐えてやってきた。そして、いまようやくショウさんは親友のためにその拳を握ることが出来たのだ。

 

「よし、とりあえず一応縛っておくか…………かなりキツめにな」

 

 

「もしかしてショウさんてそっちの気があるんじゃ…………」

 

 決着がついて俺は気持ちが緩んで他愛のない会話をふる。ショウすんもそれに乗ってくれる。憑き物が落ちたような、清々しい顔で俺達は適当な話をしながら応援が来るのを待っていたんだ。

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

「これが、真犯人のズーク・ライアスの逮捕の敬意とその理由です」

 

 一通りの説明を終える。説明中、マスコミに教えたら不味そうなものは省いてうまく説明した。ここまで言い終えて会見の終わりも見えてきたと思っている記者も記事の準備をしようとしているのか皆それぞれどこかと連絡を取っていた。

 

「今回の事件…………全てここまで導いてくれたのはティーダ・ランスターが命をかけて残してくれた証拠品のおかげでした」

 

 俺の話はまだ終わってない。むしろここからが俺にとって重要なことだ。

 

「6年前彼は殺され、ズークの会見の影響で世間では不名誉なレッテルを貼られました」

 

 これは事件とは直接の関わりはない。それでも俺は言わなければならない。会見を開いたのは全てはこのため。友の名誉を取り戻すため。

 

「彼を信頼する人たちが、その家族が悲しみに暮れました。皆信じていたのです。彼は世間でそんな扱いを受けるべき人ではないと」

 

 俺の語りに辺りがざわつき始めた。事件と関係があるのか?と疑問を投げ掛ける記者も気にせず俺は続ける。大々的に宣伝したから、テレビ局からもカメラが生放送できている。

 ティアナ、見てるか?

 

「そして今日証明された!ティーダ・ランスターは命をかけてズークの犯罪を追及し続けた!それを俺たちに託し、事件を解決に導いたのだ!死してなお、彼は管理局員としての使命を全うしたのだ!」

 

 お前のお兄さんは、お前の思う通りの人だ。それを世間が認めてくれなくて辛かっただろ?苦しかっただろ?

 

「彼は犬死にした役立たずでも、落ちこぼれでもない!!彼は…………ティーダは!」

 

 お前が果たせないことは俺が果たしてやる。兄の無念を晴らしてやる、俺のためにもな。だから………………。

 

「ティーダ・ランスターは、この俺光の英雄も認める、管理局を代表するにふさわしい魔導師だ!それを今目の前にいる人たち全員に伝えたい!!」

 

 だからお前も、もう素直になれ。お前も兄の死を乗り越えて、兄の分まで……胸を張って生きるんだ。

 

「ティーダ・ランスターこそ、真の英雄だ!!」

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

「うぅ…………ぐすっ!………ぅぅ」

 

 起動六課では皆会見終了まで食堂でテレビを見続けていた。賢伍の最後の言葉に、ティアナは膝から崩れ落ちすすり泣く。それをスバルが背中をさすってあげていた。

 

「こういうことやったんやなぁ…………賢伍君がずっと言ってた用事って」

 

 

「まぁ、今回はティアナのためにとはいっても相変わらずむちゃくちゃだなぁ………賢伍は」

 

 やれやれと言った様子ではやてもフェイトも息をつく。同時に、ここまでやる賢伍をまた頼もしく思った。だから自分達は、彼の事をとても信頼してるのだろう。そう思わせてしまうような人だから。

 

「ふふ………良かったね賢伍君……」

 

 なのは一人そう呟く。なのはは知っていた、ティーダと賢伍が友と呼べる関係だったことを。だからきっと、ティアナ為だけじゃない、自分のためにも賢伍はそうしたのだろう。きっかけはティアナだけど、賢伍もずっとティーダの死に胸を痛めていたのだから。

 それを理解していたなのはは、ただただ笑みをこぼしていた。

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

「もう、何も言わずにあんなことするんだもん。びっくりしちゃったよ」

 

 

「悪かったって!バタバタしてたから仕方なかったんだよ」

 

 時間は夜と呼べるまで流れ、俺はこっそり六課に帰ってきた。後処理はショウさんや会見を開くのに協力してくれたリンディさんとクロノに任せた。ショウさんからはお礼を改めて言われた、彼もこれからティーダの分まで頑張ると言ってくれた。

 

「ティアナも大泣きしちゃったし………」

 

 となのはは困ったようにそう言った。正直ティアナは見てないだろうなと思っていたが見てくれていたようだ。

 

「まぁ、これで俺の目的も果たせたよ。だから明日から通常業務に戻ります!んじゃ!」

 

 といって脱兎の如くおれは逃げ出す。

 

「あ!ちょっと!まだ話は終わってないよぉ!!」

 

 

「ちょっと野暮用があるんだよ、先に寝ててくれー!」

 

 なのはの制止も無視して俺は駆け出した。まぁ、特に用はない。ただ、これから始まるであろうお話から逃げたかった。適当に走ってたどり着いたのは、川が見える道。六課なかてでも風景がいいちょっとしたスポットだ。

 俺はそこに腰かける。すこしこの風景をゆっくり見てから戻るとしよう。

 

「………………あっ」

 

 

「ん?」

 

 しばらくボーッと眺めていると後ろから声がした。

 

「………どうも」

 

 

「ティアナか」

 

 ティーダの妹、そんで俺の教え子の一人が来ていた。どうやらたまたまティアナもこの風景を見に来たのだろう。ティアナに隣に座るように促して座らせる。

 

「……………見たんだってな、会見」

 

 

「はい………」

 

 最初に口を開いたのは俺だった。ティアナも何か喋りにくそうにしている。ちょっとまずったかもしれない。

 

「その………ありがとうございました!」

 

 

「いや、お礼を言われる筋合いはないんだ」

 

 ティアナは意を決したようにそう口を開いたが俺はすぐにそれを否定した。当のティアナは不思議そうな顔をしている。

 

「俺は俺のためにも行動しただけだ。だから………その言葉は受け取れない」

 

 

「それでも………私は感謝しています。兄の汚名を晴らしてくれて………」

 

 それでもティアナはそう言ってきた。俺は、何も言えなかった。

 

「でも、賢伍さんは何で……?」

 

 あぁ、そうかティアナは知らないもんな。俺とティーダの関係を。

 

「俺とティーダは………友達……親友みたいなもんだったんだ」

 

 

「えっ!?あ、兄と……!」

 

 心底驚いた顔をしていた。ティーダは俺のことを特に話していた訳ではないらしい。

 

「だから、俺があぁしたかっただけなんだ」

 

 行動を始めた理由はティアナの暴走を止めるためだったのは伏せておこう。話がこじれそうだ。

 

「まぁ、だからそういうことだ」

 

 

「そうだったんですか……」

 

 そこでちょっとした静寂。ふと川を眺めるティアナを見る。オレンジの髪を風になびかせてどこか儚げな表情をしていた。

 雰囲気も、顔もそんなにティーダには似てないような気がする。けど、妹を語っているティーダの姿と兄を想うティアナを見ていると本当に兄妹なんだなと感じた。

 

「俺さ、生前ティーダにお前の事を任されたんだ………」

 

 

「えっ?」

 

 

「もし妹と会う機会があればよろしく頼むってさ、何をよろしくすればいいのか知らないけどよ、とにかくそう言われた」

 

 最初に会ったときにティアナの事を気づけなかったのは俺の罪だ。それで、ティアナの事を深く考えさせてやることが出来なかった。けど、ティーダ………いいよな?今からでも………いいよな?

 

「だから俺はお前を強くしてやる。なのはと一緒に強くしてやる、そしてお前を守る。ティーダのような兄の代わりにはなれない、けどお前は俺の大切な仲間だ。大切な親友の妹だ、支え続けてやる………だからさ、お前も俺の事を信頼してくれ………」

 

 俺はティアナの頭を撫でる。ポンポンと優しく叩いたりする。

 

「俺や皆は…………お前の前からいなくなったりはしないよ」

 

 

「っ!………グス………はい!」

 

 

「なんだ?泣いてるのか?泣け泣け、スッキリするぜ?」

 

 

「な、泣いてません!……グスン……泣いてなんかいませんから!」

 

 俺に隠すようにティアナは顔を背ける。しかしその顔は隠しきれてなくて、涙でくしゃくしゃになっていた。

 

「はははは!強情だなぁ………」

 

 その姿がなんだか可愛らしくてすこしからかってしまう。なんでだろうか、ふてくされてる妹を慰めてる気分になってきた。

 

「ち、違いま………グスッ………す!…………」

 

 その涙はきっと兄を想う涙。兄のために自分を高め続けたティアナ。しかし、ティーダの汚名は晴れた。それが嬉しくて嬉しくてたまらないのだろう。本人も諦めていた方法だったのだから。

 

「つーわけで、これからも厳しくやってくからな!覚悟しろよ!」

 

 

「グスッ………は、はい!!」

 

 その目の前に広がる親友の妹の姿。必死に背伸びをして大人びた雰囲気を保ち続けていた少女の年相応の笑顔が広がっていた。

 

 

 

 

 翌日、賢伍の会見について大々的に様々なメディアで報道された。テレビ、新聞、雑誌と種類を問わず様々な見出しがあった。1つは賢伍の態度は会見に相応しくないと批判が見出しのもの。

 1つは未解決事件を解決したと賢伍が讃えられる見出し。

 

 もう1つは……………「6年前の真実、ティーダ・ランスターは英雄だった」とそんなタイトルの見出しも少なくはなかった。

 

 

 

………………………………。

 

 

 

「………………あ」

 

 賢伍は自分のデスクに置いてあるとある本をみてつい声を出す。ティーダが残した最後の証拠の隠し場所『オレンジ』という小説。

 

「……………………」

 

 それを親友との思いでとして賢伍は取っておきたかった。だからティーダに薦められても読む気はなかったのだ。しかし、賢伍は黙ってその本を手に取った。

 

「…………つまんなかったらお前の墓場に投げつけてやるよティーダ」

 

 賢伍はそう呟きそっと最初のページを開いた。

 

 

 

 





やあっと!やっと!終わったぁぁぁ!いやあ、ほんとにティーダ編でこんなに時間がかかるとは思わなかったです。
 しかし、初期の構成からティーダを無念を晴らすという事をやりたいと思っていました。そのためにも事件を自分なりに細かく組み立てて賢伍が解決するという描写が必要でした。
 しかし、その描写のために推理小説みたいな展開も多々に書く必要もありました。一応自分なりに読者の皆様にはティーダ編開始からヒントをたくさん置いてました。
 長ったらしくて読み飛ばした人も多数いると思いましたが、しっかり読んでくれていた方には少しはあぁ、このための描写だったのかと思わせられると思います。

しかし、大変でした。多分あら探しをすればおかしいと思われるところもあると思います。世の推理小説家には脱帽ですね、本当に大変でした。多分もう書きません笑。

とにかく!これでティーダ編は終了です!次回から本編に戻ります!新年も明けましたし、またこれからもよろしくお願いします!

ああ、それにしても自分の駄文で推理に挑戦したのにはちょっと後悔……。感想、評価、意見、誤字脱字指摘、お待ちしておりますm(__)m


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ある六課の休日 ~レリックと少女~

あー、やばい。リアルが忙しい。2月は更新スピードが落ちると思われます。申し訳ございません、それでは本編です!


 

 

 

 

「よし、それまで!」

 

 ちょっとした事件が起きた起動六課は今日もいつも通りFW達の訓練に勤しんでいた。会見を行ってからすでに一週間が経過し、いつもの日常に戻る。

 あの事件を気に、FW達の絆も深まったようでより仲がよくなっていた。自然と戦闘の連携も安定してきて教官としてはとても嬉しい限りだ。

 

「はぁー…………」

 

 

「ふぅ…………」

 

 4人はくたびれた様子で座り込み、肩で息をしていた。もちろん、今日も鬼のようにしごいたわけで。

 

「はい、今朝の訓練と模擬戦も無事終了……お疲れさま!」

 

 その4人対しなのはがそう労いを掛ける。今日の訓練はフェイトもヴィータも参加して教官陣もフルメンバーだった。

 

「でね?実は何気に今日の訓練は第2段階クリアの見極めテストだったんだけど………」

 

 そういうことだ。4人には知らせず抜き打ちでテストをさせてもらったわけだ。ちなに結果は………。

 

「合格」

 

 

「「はやっ!」」

 

 フェイトのあっさりした合否発表にスバルとティアナがすかさず声を揃えた。

 

「まぁ、こんだけみっちりやって問題あるようなら大変だってことだ」

 

 ヴィータの言う通り、俺達も失格はないだろうと見通していた。それほどの訓練量を4人は頑張ってこなしてきたというわけだ。

 

「ま、どこぞのド阿呆が『強くなりたいんです!!』って上官に逆らって言うくらいだからな……当然だろ。な?ティアナ」

 

 

「ちょ、もうそれは掘り下げないで下さいよ………それにド阿呆に関しては賢伍さんに言われたくないです」

 

 な、なにぃ!?お前曲がりなりにも教官に向かって!

 

「なにをぉ!このブラコンめ!!」

 

 

「なっ!兄がシスコンだっただけです!」

 

 

「お前も大概だけどな!」

 

 

「賢伍さんの鈍感が大概ですよ!」

 

 

「ぐはぁ!?」

 

 敗北。うぅ………何故だろう。なんでそんなこと言われてる理由は分かんないのになんで心にこんなにグサッと来るのだろう………。

 

「あ、あははは……」

 

 やり取りを見ていたなのはも少々苦笑いだ。川沿いのティアナとのやり取りからティアナの俺に対しての態度が少し変わった。

 普段は今までとあまり変わらない。少し表情が柔らかくなり素を見せてくれるようになったくらいだ。が、何かをスイッチに今のように子供みたいな言い合いに発展する。

 いや、別に構わない。別に俺への尊敬が薄れているように感じたとかそんなことはまぁいいんだ。いいんだ…………。あぁ、ティーダ………お前の妹は元気だぞ……あぁ泣きたくなるほど元気だ。

 

「ま、まぁとにかく!私もみんないい線言ってると思うし、じゃぁこれにて二段階終了!」

 

 なのはがそう言うと4人の表情が緩み笑顔を見せてくれた。スバルも「やったー!」とガッツポーズを見せているうむうむ、本当はこれからが大変なんだがそれは今は黙ってあげよう。ふふふ…………。

 

「デバイスリミッターも一段解除するから、あとでシャーリーの所に行ってきてね?」

 

 

「明日からはセカンドモードを基本型にして訓練するからな」

 

 フェイト、ヴィータがそう追加で説明する。ん?ちょっと待て、明日から?

 

「「「はい!」」」

 

 

「え?明日?」

 

 そう返事をする3人に対してキャロだけ俺の思ったことを代弁するかのように、そう疑問の声をあげる。

 

「あぁ、訓練再開は明日からだ」

 

 

「ん?てことはヴィータ、午後は休みか?」

 

 

「あぁ、一応な。まぁこの4人だけ………」

 

 

「いやっほおおおおおおおおおおおい!!!!」

 

 途中のヴィータの言葉を聞ききる前に俺はそう叫んだ。

 

「マジか!休みか!おおおおお!!久しぶりのやすみじやぁあああああああああ!!!」

 

 あまりに嬉しくて俺はあっちこっちとぴょんぴょん跳ね回る。時にトリプルアクセルや三回転捻りを加えながら喜びを表現した。

 

「休みだあああああああああああ!!」

 

 

「いや、私達は隊舎で待機だから休みじゃないよ?」

 

 

「へぶれば!!」

 

 なのはの言葉に勢い余ってずっこけた。

 

「そんな!嫌だ俺は休みたい!」

 

 

「け、賢伍………皆見てるんだから……」

 

 4人に示しがつかないからと困りながらフェイトは止めようとするがそんなことは関係なかった。

 

「いやだぁ!休みぃいい!!休みぃぃいいい!」

 

 ゴロゴロじたばたと慌ただしくする。駄々っ子と言いたいのか?だがそれは違う。人間時には休みが必要、俺達もそろそろ休まないと判断しての行動で………。

 

「どうせ待機だから書類作業やらされると思って駄々こねてんだろ?」

 

 

「うっ!」

 

 ヴィータめぇ…………そこは察して言わないでくれよぉ!

 

「そういことなら…………大人しくしようか?賢伍」

 

 

「ふぇ、フェイト!?ちょ、離せ!」

 

 後ろからフェイトに羽交い締めにされる。無理やり剥がしたいがそんな乱暴なことは出来ない。

 

「ダーメ。賢伍はただでさえ書類溜まってるだから、今日で頑張って消化しよ?」

 

 

「絶対にやだね!なのは、お前なら分かってくれるよな?な!?」

 

 

「フェイトちゃーん、離しちゃダメだからねー」

 

 

「なのはさん!?」

 

 ええい、どうする。クールになれ神崎賢伍。ここは落ち着いてこの状況を打破するんだ!お前なら出来る!フェイトを引き剥がして逃げれば万事解決だ。ならば!

 

「フェイト………さっきから背中にお前のデカイ胸があたってんだけど?」

 

 

「いや別に賢伍の背中に触れるくらい何とも思わないけど?あとそれセクハラだからね」

 

 なにゆえ!?くそぉ………こういう下の話はフェイトは慣れていないから行けると思ったのに……。仕方ない、こうなったら!

 

「へへへ、いいんだな?後悔するなよ?離さないんだったらお前のその無駄にデカイ乳揉みしだいてやろうか!胸ばっかり栄養がいってるデカパイめ!少しはペチャパイのヴィータに分けてやれ!………………あー、すまん言い過ぎた。だからそんな顔するな?な?落ち着け?冗談だじょうだ……いててててて!?それ間接!フェイト間接入ってるって痛い!!………ちょ待てヴィータ!アイゼンを出すな!お前のも冗談だからって……待て待て!死ぬ!?流石に死ぬううううううう!!」

 

 判断ミス。どうやら逆に怒らせてしまったようだ。どこで間違えんたんだ俺は…………。

 

「まぁ、そんなわけで皆は1日お休みです。町にでも出掛けて遊んで来るといいよ」

 

 

「「「「はーい!!」」」」

 

 こんな状況も見慣れてきたのか4人となのはでちゃんと締め括っていた。ちなみに、4人全員気づいていたがこの時のなのはの目は笑ってなかった。

 解散と同時に賢伍にお灸を据えるなのはを見てみぬフリをして4人はそそくさとそこから立ち去った。

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

「なのは、そこのケチャップ取ってくれ」

 

 

「ん………はい」

 

 

「ん、あんがと」

 

 訓練を終えて俺達は食堂で昼食を取っている。新人4人は一足先に食べて今頃出かける準備をしているころだろう。

 

「賢伍君、マヨネーズ取ってくれへん?」

 

 

「ほらよ」

 

 

「…………これはタルタルソースや」

 

 

「それしかねぇんだよ」

 

 渋々しながらもはやてはタルタルソースを使った。珍しく普段は忙しくて中々一緒にならないはやてとリィンも同席している。それにしても会話は少ない。静かだなと思ったのでふと俺は備え付けのテレビをつけてみた。

 

「ん?レジアス中将じゃねぇか」

 

 テレビには管理局の重役、レジアス・ゲイズがでかでかと写っていた。会見か?俺の言葉で皆テレビに注目する。

 どうやら自分の思想について演説してるようだ。兵器運用の増加を求め、地上部隊の防衛の重要性を説いていた。あくまでも犯罪発生率を下げるという目的のため。

 

「レジアス中将は古くから武闘派だからな」

 

 シグナムがそう口を開く。確かにそのような一面が垣間見える演説だ。レジアス中将も悪い噂をよく耳にするのも事実だ。

 

「まぁ、やり方はともかく………レジアス中将なりに信念を持って行動をしてるんだろ。その点は俺も評価している」

 

 

「あら、賢伍君にしては意外な意見やな」

 

 俺がそう口にするとはやてがすかさずつっこんできた。

 

「無論、やり方は気にくわないけどな。だが正しい信念を持って行動してるやつを否定するつもりはないだけさ」

 

 レジアス中将がその正しい信念、犯罪発生率を下げるため、果てはミッドの治安維持のため…………それが本心であることを願うばかりだ。

 

「あ、ミゼット提督………」

 

 

「ミゼットばあちゃん?」

 

 なのはが画面見てそう声をあげた。そのあとにヴィータが声を発する。おっと…………まさかこの人たちまでいたのか。

 

「あ、キール元帥とフィルス相談役もご一緒してるんだ」

 

 

「伝説の三提督の揃い踏みやね」

 

 フェイトとはやての言った通りミゼット提督だけでなく元帥と相談役の姿まで見えた。おいおい、なんでそんな大物まで揃い踏みなんだよ。

 

「でもこうしてみると…………普通の老人会だ」

 

 ヴィータがそう口にした。伝説の三提督に向かってその物言いはある意味すごいぞ。そういえば、はやてとヴィータは以前ミゼット提督の護衛をしたことがあったらしいな。

 それで顔見知りでそれなりに交友があるわけか。

 

「駄目だよヴィータ……偉大な方達なんだから……」

 

 

「管理局の黎明期から今の形まで整えた功労者さん達だもんね」

 

 フェイトとなのはがそれを知ってるくらいだ。この3人を管理局員で知らない人はいないだろう、訓練校なんかじゃ耳にタコが出来るくらい偉大さを説明してるらしいしな。

 

「ま、今度3人に茶でも送ってやるか。いい加減引退してもおかしくない年だしな、この老人達も」

 

 

「もう、賢伍君まで………あれ?賢伍君は三提督と知り合いなの?」

 

 

「あぁ?言ってなかったけか?会ったことあるぞ………3人とも同時でな」

 

 

「ふーん、でも賢伍ならあり得る話だよね」

 

 

「……………まぁな」

 

 光の英雄という通り名までつくくらい俺の知名度はあがった。正直この通り名は今でも重いと思うことは最初の時期からあった。それについて俺が失踪する前に呼び出されたことがある。

 ただ単に台本通りの激励を言われただけだが妙に緊張したのをよく覚えている。けど、台本通りだとしてもその通り名を背負ってく覚悟を決めれたのも3人の後押しのおかげだ。色々と光の英雄の名を使わせてもらっているしな、この間の会見もそうだし。

 

「ま、とっとと引退して余生をゆっくり過ごしてほしいもんだよ…………この三人にはさ」

 

 それが俺なりの伝説の三提督を気遣う俺本心の思いだ。過労で体を壊すような事が無いことを願うばかりだ。

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

「バイク貸すのはいいけど、こかすなよ?プロテクターは?」

 

 

「自前のオートバリアです」

 

 

「メットは持ってんのか?」

 

 

「はい賢伍さん、大丈夫です」

 

 昼食を食べ終わり、起動六課の車庫の前に俺は訪れていた。そこでティアナがヴァイスからバイクを借りていた。こいつはこれから休みだからな、バイクでどこか出掛けるんだろう。

 

「にしても、ヴァイスも中々良いバイク持ってるよな、このフォルム………この色合い………少し大きめで荒々しいマフラーのエンジン音……………俺好みだ………」

 

 

「ははは!今度賢伍さんにも貸しますよ」

 

 

「おお、そいつはありがてぇ。俺のバイクも今度貸してやんよ」

 

 俺のバイクは地球のメーカーのバイクをミッド式のバイクに魔改造したバイクだ。無論、法にギリギリ触れない程度。バイク好きのヴァイスも反応は上々だった。

 

「それにしても、ティアナ最近動きが良くなってきたんじゃないスか?訓練見てると一段と変わってましたよ。状況や戦力に応じた動きが出来るように」

 

 

「ん?良く見てんな?まぁ、まだまだこれからだよなティアナ?」

 

 そう言って俺はティアナの頭を撫でてやる。少し恥ずかしそうにしている所を見るとあまりに慣れていないようだ。

 

「…………なんかこうしてみると兄妹みたいっすね、賢伍さんとティアナ」

 

 ヴァイスが急にそんなことを口にした。

 

「ははっ!ならもうちょっと素直な子を所望するよ」

 

 

「なっ!わ、私だって賢伍さんなんて真っ平ごめんです!」

 

 なんてことを言い合いつつ、俺はティアナの頭から手を離す。

 

「んじゃ、俺はエリオ達の様子でも見に行ってくるわ」

 

 そういいながら俺はその場を後にする。それにしても、ヴァイスは元武装隊なだけあってティアナがどう成長しているか見抜いていた。………………あいつ自身、今の仕事に満足してるんだろうけど悔いは残ったままだろうな、武装隊時代の事を……。

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 適当にぶらぶらとエリオを探していると休憩室でフェイトと一緒にいるエリオを見掛けた。

 

「ハンカチもったね?IDカード忘れてない?」

 

 フェイトがエリオの服を整えてあげていた。

 

「ええっと………はい、大丈夫です」

 

 

「あ、お小遣いは足りてる?もし足りなくなると大変だから…………」

 

 そう言いながらポッケから財布を取りだそうとしている。いや待て待てフェイト………。

 

「あのフェイトさん!僕ももうちゃんとお給料をいただいてますから………」

 

 エリオが困った顔をしながらそう言葉を口にしていた。

 

「そうだぞフェイト、少し過保護が過ぎるぜ?」

 

 

「あ、賢伍さん………」

 

 

「賢伍………」

 

 頃合いかと思い俺は声をかける。

 

「エリオもしっかりしてっから、あんまりしつこいと反抗期が早くきちゃうぜ?」

 

 

「むぅ、エリオはそんな子じゃないもん」

 

 これだよ。悪いことじゃないけどたまに目に余るものがあるんだよぁ。まぁフェイト自身の生い立ちもあるからその影響もあるんだろうけどさ。

 

「とにかく、エリオは男の子だしキャロよりも2ヶ月年上なんだから、ちゃんとエスコートするんだよ?」

 

 

「お前が楽しむことも忘れずにな」

 

 

「はい!」

 

 うむ、エリオも気になる女の子と二人で出かける訳だからな。あんまし肩肘張んないで楽しんでほしい所だ。

 

「すいません!お待たせしました」

 

 そんなことを考えているとキャロが急ぎ足でこっちに来た。子供とはいえ女の子だ、ちゃんとおしゃれをしてきていた。

 

「あ、キャロ………いいね、可愛いよ」

 

 

「あぁ、どこのモデルさんかと思ったぜ」

 

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

 うんうん、恐らくフェイトが用意してあげた服だろうな。キャロにぴったりなピンクをベースにしたコーディネートだ。

 

「………………………」

 

 そんなキャロをエリオは見とれてしまっていた。全く可愛いやつだ。

 

「あんましエロい目で見てると気づかれるから気を付けろよ?」

 

 

「っ!?け、賢伍さん!」

 

 初な反応が帰ってきた。いやはや、ごちそうさまです。

 

「んじゃ、行くか。俺も見送ってくからよ」

 

 

 

……………………………。

 

 

 

「ねえ賢伍、さっきの話の続きなんだけどさ」

 

 

「んあ?過保護の話か?」

 

 六課の出口まで一緒に向かってるなかフェイトがそう言葉を紡ぐ。

 

「うん、私の見立てだけどね?………賢伍も自分に子供とかできた時には私より過保護になると思うんだよね」

 

 

「俺が?フェイトじゃあるまいし…………俺は時に厳しく時に優しくだ。そんなバカ親みたいなことにはならねぇよ」

 

 

「さぁ?どうだろうねぇ?」

 

 楽しそうな顔をしやがって。俺ってそんなイメージか?そんなことはないと思うんだけどなぁ。

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

 4人を無事に見送って俺は楽しい楽しい書類作業に打ち込んでいた。ヴィータとシグナムはスバルの父、ゲンヤ・ナカジマさんのとこに出張でいない。それ以外の面子は各々自分の仕事に没頭していた。

 

「ん~~~あぁ、肩こるわ。休憩にしよう」

 

 腕を回すとずっと同じ体勢だったからか体がバキバキと音を発する。昔から勉強は苦手で嫌いだったしなぁ。

 体育の時だけ元気になるタイプの典型的な小学生だったからねぇ。

 

「あぁ、休憩ついでに連絡いれとくか」

 

 シャイニングハートを取り出して、俺は通信を繋いだ。

 

『おい、僕はそんな暇ではないと言っているだろ賢伍』

 

 開口一番そんな悪態をつきながら通信に出た相手は俺の戦友の一人であり起動六課設立に協力してくれた人物だ…………

 

「そう言うなよクロノ、こっちはこの間のお礼でも言おうと思って連絡してんだから」

 

 そう、クロノ・ハラオウンその人だ。先日のズークの件で世話になったからな、何も言わないのは筋が通ってないと思ったから。

 

『そんなものはいらん。用はそれだけか?なら切るぞ………』

 

 

「おいおい待てよ!せっかく連絡したんだ、ちょっとくらい話そうぜ?」

 

 

『暇ではないと言ってるだろ?』

 

 

「まぁまぁ、どうよ?エイミィやお前んとこのお子さんは元気か?」

 

 俺が話を切り出した所でクロノ少しため息のように息を吐き出した。ふむ、あきらめて俺に付き合うことにしてくれたようだ。

 

『あぁ、子供達は元気に育ってるしエイミィもしっかりしてくれている。アルフもいるしな』

 

 そういえばフェイトの使い魔であるアルフは今はクロノの家で世話になってんだったけ、子供達の遊び相手をしていた。こっちに帰ってきてから一回お邪魔したことがあったからそこは知っている。

 

「ふーん、でどうなんだよ?エイミィとはうまくやってんのか?」

 

 俺は少々からかう意味合いも込めてそう言った。俺はこいつらの祝辞にも失踪してて参加出来なかったからな、そこらへんは気になるところだ。

 

『あぁ、君となのはに比べたらうまくやっているよ』

 

 

「おう…………ここでも漏洩してるのか……」

 

 

『最初から知っていたがな。君の気持ちに関しては』

 

 お前もかぁぁぁぁぁあああああ!!クロノ、お前もなのかぁぁぁああああああ!!!

 

「はぁ、とにかく仲良くやってんなら何よりだよ」

 

 これ以上この話題は避けたかったから、そう言って無理やり終わらせる。

 

『そうそう、それと君はまだ騎士カリムと会ったことがなかったよな?』

 

 

「カリム?………あぁ、聖王教会の……六課の後見人もしてくれている人だよな?確かに挨拶も何もしてないな…………」

 

 ばかしたな。一度くらい俺も隊長なんだから挨拶しとかないと失礼だよな………。

 

『なに騎士カリムもお前が忙しいことは分かってくれているさ。ちょうど今会いに行くから思い出しただけだしな』

 

 

「お、なんだ?浮気か?」

 

 

『茶化すな。とにかく、機会があれば顔を出せってことだ』

 

 

「あぁ、善処するよ」

 

 流石に六課を支えてくれている人に何もしに行かないのは失礼だしな。でも聖王教会は行ったことないからどんな場所か知らないから正直怖いんだよな。

 

『あぁ、今度また家にでも遊びに来てくれ。子供達も君に会いたがっていたからな』

 

 

「あぁ、そうさせてもらうよ………んじゃ」

 

 最後にそう締めくくり通信を切る。さてと、次はリンディさんに…………いや今は止めておくか。あの人くらいの地位だったら今の時間は確実に出れないだろうからな。

 まぁ、ほんとはクロノが忙しいのも知ってたけどね。

 

「あぁ、リンディさんには贈り物でもしとかないと。あと三提督に贈る茶も用意しないとな」

 

 三人ともいい年だからな…………健康にいいお茶っていうと…………なんだろう?まぁ、どちらにしろまずはこの書類を片付けないといけない。

 

「さぁて、誠に不本意だが書類の続きやるか………」

 

 泣きたくなる衝動を抑えて、俺が作業を再開しようとしたときだ

 

 

 

PPPPPPPPP

 

 

 シャイニングハートが通信を知らせてきた。

 

「っ!全体通信?キャロからか?」

 

 ロゴを見ると俺だけなく六課全体に繋げているようだ。とりあえず俺は通信を繋げる。

 

『こちらライトニング4!緊急事態につき現場状況報告します!』

 

 どうやら、ゆっくりと書類作業をしてる暇はなくなったようだ。

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

「レリック反応を追跡していたドローン壱型6機が全て破壊されています」

 

 場所は移りジェイル・スカリエッティのアジトにて、大型モニターに写っている長髪が大人の雰囲気が印象的の女性がジェイルにそう説明をしていた。

 

「ほう………破壊したのは局の魔導師か、それとも当たりを引いたか?」

 

 

「確定は出来ませんが、恐らく後者かと」

 

 

「素晴らしい………早速追跡を掛けるとしよう」

 

 そう言いジェイルはほくそえむ。しばらく状況は停滞してつまらなかったようで、久しぶりの進展に思わずそうしてしまったようだ。

 

「ねぇドクター、それならあたしも出たいんだけど?」

 

 突然少女がジェイルに近づきながらそう告げた。

 

「おいおい、ノーヴェ………お前たしかまだ調整中じゃなかったか?」

 

 ノーヴェと思わしき少女にジェイルの後ろに控えていたとある男がそう言葉を紡ぐ。

 

「ちっ!いたのか神崎賢伍………」

 

 ノーヴェはその人物の名を呼ぶとそう悪態をついた。否、神崎賢伍ではない。それとは対照的な闇の魔力を纏う神崎賢伍と瓜二つの人物だ。

 

「おーおー、相変わらずルーテシアとジェイルと一部のナンバーズ以外には嫌われてるねぇ俺は………」

 

 

「素性も分からないだけでなく、敵と瓜二つの姿をしたやつなんて信頼しろと言う方が無理な話だ!」

 

 噛みつかんばかりの勢いでノーヴェはそう闇に言葉をぶつける。

 

「ふふ、ノーヴェ………少し落ち着きなさい」

 

 そんな姿を観察しつつジェイルはそう口を開いた。

 

「私としては今日はこのまま落ち着いて待ってほしいな…………いいね?」

 

 

「……………わかった」

 

 若干不満そうにしながらもノーヴェはその部屋から出ていった。

 

「さて、闇の神崎賢伍…………急で済まないが仕事だ。頼まれてくれるかい?」

 

 

「断ったってどうせ無理やりやらすんだろ?」

 

 

「よくわかってるじゃないか」

 

 

「はー………………」

 

 闇は頭を掻きため息をつきながら彼のデバイス、ダークネスハートを取り出す。

 

「仕方ない、引き受けてやるよ。ただし、直接は介入しないぞ。今は光の俺と闘うのは俺自身も望まないからな……」

 

 

「それで構わないさ。今向かってる他のナンバーズにもしもの事があれば助けるだけでいいさ。懸念なのはは光の英雄だけだからね。それに…………君自身ルーテシアが心配なのだろう?」

 

 

「ちっ。やっぱりルーテシアも出すのか。よーしいいだろう。なら早速向かうとするか………………」

 

 そう言いながら闇はゆっくりとした足取りでその部屋を後にする。ジェイルも彼さえ向かわせれば万が一はないと安堵する。

 

「ドクター………なぜ奴を引き込んだのです?」

 

 

「ウーノ、闇の神崎賢伍のことかい?………君も彼には不満かね?」

 

 

「正直にいえば、私もノーヴェに言い分には一理あります」

 

 彼女らからすれば突然自分等の主が連れてきた得体のしれない人物だ。素性不明、本名不明、何もかも不明、分かっているのはナンバーズ全員が束になってかかっても彼が本気を出したら勝てないということだけだ。

 それゆえに一部のナンバーズ以外は闇の神崎賢伍を警戒している。彼がその気になれば自分達など一晩もしないうちに殲滅させられるから。

 

「ふふふ、心配することはないさウーノ………彼は私達を裏切ることはないよ」

 

 

「何故そんなことが言えるのです?」

 

 

「彼の目的は光の英雄との直接対決だ。そして私達と協力関係を結ぶことで光の英雄を誘き寄せその時を待っているのさ。彼が望む対決は光の英雄がより強くなった姿を倒すことだからね」

 

 そもそも何故闇が光の英雄がより強くなった状態での対決を望んでいるのかは不明だがそれを望んでいることはジェイルもわかっていた。

 

「それに我々には光の英雄に対抗できる手段は存在しない……故に彼にそれを任せられるだろう?あとは…………彼は私の良い観察対象だ…………プロジェクト『S』の遺産だからね」

 

 その言葉にウーノは首を傾げた。

 

「プロジェクト『S』?プロジェクト『F』ではなく?」

 

 

「あぁ、それは君は知らなくていいことだよ…………長話はここまでだ。サポートを頼むよ………ウーノ」

 

 

「お任せ下さい…………」

 

 その言葉を最後にウーノが大型モニターから姿を消す。完全に一人になったジェイルは一人こう呟いた。

 

「やれやれ…………プロジェクト『S』と口を滑らせてしまうとは……闇の神崎賢伍の前でそんなことをしていたら危なかったな………」

 

 そう言いながらもジェイルはそれすらも楽しんでいるかのように一人笑いをこらえているのだった。

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 

「レリックにそれを持っていた小さい女の子……………厄介なことになってるな……」

 

 場所は戻り起動六課。キャロから来た通信を要約すると、休みで街をぶらついていたら路地裏で倒れている小さい女の子を保護。

 その女の子はどうやらレリックを持ち歩いていたようで、それで通信を寄越したようだ。

 

『女の子は意識不明です…………指示をお願いします』

 

 一緒にいるエリオの声も聞こえてきた。俺は通信を聞きながらロビーでなのはとフェイトに既に合流。はやてもそろそろ出てくるだろうな。

 

「スバル、ティアナ………ごめん、お休みはいったん中断」

 

 

『はい!』

 

 

『大丈夫です』

 

 通信越しで二人になのははそう告げる。全くもって神様は空気を読まない。せっかくの新人たちの休みだったのに。

 

「救急の手配はこっちでする。二人は女の子とレリックを保護…………応急手当をしてあげて」

 

 

『『はい!』』

 

 エリオとキャロにはフェイトがそう指示する。

 

『全員待機状態、席をはずしてる子は戻ってな。安全確実に保護するで………レリックもその女の子も………!』

 

 はやてもそう通信で全員に告げる。言われるまでもねぇ!

 通信モニター越しに見えるエリオが抱えてあげている件女の子を見る。

 

「安心しろ、今安全な所に連れてってやる!」

 

 俺はそう声を張り上げて準備を始めた。さぁて、アグスタ以降の久しぶりの実戦だが…………やってやろうじゃないか!

 

 

 

 

 




今日は重要な単語が出てきました。プロジェクトS。この小説、光の英雄の重要な物語のキーとなります。まぁ、頭のはしっ子にでも置いといてください。
 フラグが乱立させてるでき損ないの作品ですが、それらしきものは忘れていないでくれると嬉しいです笑

 次もこれの続きですので、よろしくお願いいたします!!


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ある六課の休日 ~幻影と限定解除~

 

 

 

 

 ヘリに乗り込み、編成されたメンバーはまずは件の少女とレリックの元へ向かう。メンバーは俺になのはにフェイト、現場指揮でリィン、救急医でシャマルさん。パイロットのヴァイスもだ。

 

『賢伍君』

 

 

「ん?どうしたはやて」

 

 通信モニターに写るはやてに唐突に呼ばれる。

 

『恐らくスリエッティのガジェット達と戦闘が見込まれるんやけど………賢伍君は今日の戦闘で約束してほしいことがあるんや』

 

 

「約束してほしいこと?」

 

 

『うん、今日はリミッター解除……しないでくれへん?』

 

 っ!やっぱりそうなるよな…………。

 

「この間の戦闘で第一段階解除したのは不味かったか?」

 

 

『うん、あれから1週間くらいしか経ってへんし、それに今日は市街地が戦闘になるかもしれへん…………権限は賢伍君とはいえあんまりリミッター解除されると地上部隊に目をつけられる…………』

 

 確かに今後の六課の活動に支障をきたすことになるのは避けたい。リミッター解除は俺が思っているより面倒な手続きが必要だ。それを判断する上司………クロノさえ一度許せば権限再取得には時間がかなりかかる。

 だからこそ、俺は無理やり権限を半永久的に俺に写したんだがそれが裏目にでたか。多分俺の知らないところではやてが説明追及されたんだろう。

 

「悪い………俺のせいで迷惑かけたみたいだな」

 

 

『ふふ、それが部隊長の役目や。とにかく、今日はリミッター解除なしでよろしゅうな?それじゃ!』

 

 プツンと通信が切られた。今日はなるべく交戦は避けるべきかな俺は。けどそういうときに限って…………面倒なことが起こるんだよな……。

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 そのままヘリで既に集合していたFW4人と合流。まずはシャマルさんが気絶している少女の容態を診る。

 

「………………バイタルは安定してるし、危険な反応もないわ。大丈夫よ」

 

 

「はぁー」

 

 

「よかったー」

 

 ほっと胸を撫で下ろす面々。まずは一安心だが、まずはここからだ。

 

「ケースと女の子はこのままヘリで搬送するから、皆はこっちで現場調査をお願いね」

 

 

「休みの最中で申し訳なかったな。けど、今のお前たちの実力を試せる機会でもある…………気を抜かずにな!」

 

 

「「「「はい!!」」」」

 

 なのはがそう指示し、俺は激励をする。今の4人なら問題もないし心配もない、不足の事態にさえならなければ大丈夫のはずだ。

 

「それじゃあなのはちゃん、この子をヘリまで抱いてってくれる?」

 

 医療器具を片付けてシャマルさんがなのはにそう頼む。なのはも頷いて女の子を抱き上げる。見たところ4、5歳くらいの女の子で背中にかかるくらい長い金髪が印象的だ。

 

「こんな小さい子がどうして………」

 

 フェイトが思わずそう口をこぼす。

 

「さぁな、とにかく俺達でこの子を安全に六課まで連れていく…………絶対にな」

 

 

「だね」

 

 俺は少し憤っていた。その女の子は体中ボロボロだった、どうやら長い距離を歩いていたようだ。腕には鎖でケースとつなげられている。一体誰がこんな小さな子にこんなことをしたんだ……………そう思うとどうしようもない憤りが込み上げて仕方ない。

 

「安心しろ、俺が絶対に守ってやるからな」

 

 なのはに抱かれているその女の子を撫でながら俺はそう呟く。とにかく急がないとな。急ぎ足でヘリに向かう。その途中また通信が入ってきた。

 

『っ!来ました!ガジェットです!』

 

 オペレーターのシャーリィからの通信だった。

 

『地下から数機ずつのグループで16…………20です!海上方面から12機単位が5グループ!……………っ!その逆方向からは12機体が3グループです!』

 

 

『こりゃまた多いなぁ……』

 

 はやてがそう言葉をこぼす。確かに多い、今までならもう少し小規模で来ていたはずだ、俺も参戦しないといけないだろうな。どうやら連中にとって重要な代物のようだし…………それはレリックなのか……それともあの女の子か……。

 

『スターズ2からロングアーチへ………こちらスターズ2!』

 

 ヴィータの声が聞こえてきた。あれ?ヴィータは確か出張中じゃなかったか?

 

『海上演習中だったんだけどナカジマ三佐が許可をくれた。今現場に向かってる、それからもう一人………』

 

 

『108部隊、ギンガ・ナカジマです』

 

 む?知らない声だ…………ギンガ……ナカジマ?ナカジマっつうことはスバルの親族か?

 

『別件捜査の途中だったのですが、そちら件と関係がありそうなんです。参加してもよろしいでしょうか?』

 

 

『うん、お願いや。ほんならヴィータはヴリィンと合流、海上の南西方向のガジェットをお願いや』

 

 

「はいです!南西方向了解です!」

 

 俺の肩に乗っていたリィンが元気よくそう返事をした。

 

『なのは隊長とフェイト隊長は北西部から』

 

 

「「了解!」」

 

 

『賢伍君は………リミッター解除禁止のとこ悪いんやけど、逆方向からのガジェットをお願いや』

 

 

「任せろ!」

 

 時間は少しかかるが問題ない。いつも通り斬り捨てるだけだ!

 

『ヘリの方はヴァイス君とシャマルに任せてええか?』

 

 

「お任せくだせぇ」

 

 

「しっかり守ります」

 

 本当ははやてもヘリの護衛にもっと人員を割きたいだろうけどな……敵の数が多すぎる。仕方ないだろう。シャマルさんもどちらかといったら戦闘タイプじゃないし、早めに制圧して戻らないといけないな。

 

『ギンガはそこから地下でFW4人と合流、後々別件のことも聞かせてな?』

 

 

『はい!』

 

 これで全員の指示は終わりだ。なら………。

 

「よし、各々指示は受けたな?こっからは俺達は防衛戦だ!FW4人はいつも通り思いっきりやれ!!お前らの成長を俺に見せてみろ!」

 

 

『『『『はい!』』』』

 

 

「ギンガ………さんでいいな?」

 

 

『えっ?あ、は、はい!』

 

 

「初めましてだが挨拶は後回しだ!4人を頼むぞ!108部隊の腕をFWに見せつけてやってくれ!!」

 

 

『り、了解です!』

 

 

「よし…………各々行動開始だ!無茶はするなよ!」

 

 

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

「かー!燃えとるなぁ賢伍君は!」

 

 彼は無意識に味方の士気を上げる才能がある。はやてはそれをよく分かっていた。そしてそれが発揮されるときは大抵自分も燃えている時だ。

 

「本当ですね、どうしたのでしょうか?」

 

 グリフィスはいつもより気合いの入っている賢伍に少し驚いていた。一体本人に、どういう心境の変化があったのだろう?

 

「あー、まぁ賢伍君は優しいからなぁ………多分女の子のことでちょっと腹が立ってるんやと思うで?」

 

 彼は人々を守ることに誇りを持つと同時に、たとえ自分と関わりのない人でも理不尽な目にあっていたら怒れる人だ。それで見知らぬ子とはいえ、小さな女の子がボロボロの姿で発見された。先ほど述べた通り彼は優しい、それを見て怒っているのだ、なぜその子はそんな目にあっているのだろうと。

 

「賢伍君にも負けてられんしな!うちらも全力でサポートや、ええな!」

 

 

「「「了解!」」」

 

 賢伍の言動は指令室の士気をも上げる結果になったのだった。

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

 既にFW4人はセットアップして地下に潜入していった。俺となのはフェイトはヘリポートに残りヘリは既に出発していった。

 

「FWの皆、ちょっと頼れる感じになってきた?」

 

 フェイトが自身の相棒であるバルディッシュを取り出しながらそう口を開く。

 

「あはは、もっと頼れるようになってもらわなきゃ………」

 

 なのはも同様、レイジングハートを手に乗せながらそう返答する。

 

「まぁ、あいつらは大丈夫さ。援軍のギンガって子も来てくれてるしな………ていうかギンガってスバルの家族なのか?同じナカジマみたいだったけどよ」

 

 

「あぁ、スバルのお姉さんなんだよ」

 

 なのはがそう答えてくれて少し納得する。ギンガが所属する108部隊はスバルの父、ゲンヤ・ナカジマさんが隊長をしている部隊だ。一度挨拶に伺ったことがあるがまさかお姉さんも108部隊とはねぇ………。

 

「ふーん………。さてと、俺らも行くか………」

 

 俺は懐からシャイニングハートを取りだす。3人が互いに顔を見合い頷く。そして言葉を紡いだ。

 

「「「セットアップ」」」

 

 辺りが俺達の魔力光に包まれる。それが消え失せるとバリアジャケットを身を包み、各々姿を変えた相棒を手に取っていた。

 

「早く事件を片付けて、また今度おやすみ上げようね………」

 

 

「うん」

 

 

「だな」

 

 フェイトの言う通り今日で潰れてしまった分の休みあげないとな4人は。が、まずは任務だ。

 

「こっから俺は別行動だ。担当区域を制圧したらすぐにヘリの護衛に戻ろう。そっから他のサポートに回る」

 

 

「うん、気を付けてね」

 

 

「お前もな、なのは」

 

 そう最後に言葉を交わし、俺は足に魔力を注ぎ浮遊し全速力で区域に向かう。なのは達とはちょうど逆方向、ヘリから大きく離れることになるから急がないといけない。

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 舞台となってる市街地のビルの上で一人女の子がたたずんていた。その女の子はルーテシア、強い風に長い髪をなびかせてただひたすらそこにたたずむ。

 

『よぉルーテシア、ウーノから指示を預かってきたぜ』

 

 そのルーテシアの目の前に突如通信モニターが展開されそこに写っている人物に名前を呼ばれる。

 

「お兄さん?お仕事は?」

 

 

『そっちはもう片付けた。とりあえず指示だ、ヘリに確保されたケースとマテリアルはナンバーズのバカ女どもが奪うそうだ。お前は地下だルーテシア』

 

 

「うん」

 

 ルーテシアはあくまで淡々と頷くだけだった。

 

『ゼストとアギトは…………また別行動か?』

 

 

「うん」

 

 闇はそこでため息をつく。どうやら自身にとっては想定のなかで一番最悪の状態だったらしい。

 

『つーことは一人か、大丈夫かお前?』

 

 

「大丈夫、それに一人じゃない」

 

 そう言うとルーテシアは手をかざす。するとそこに突如黒い魔力で凝縮された結晶のようなものが出現した。それを両手で大事そうに持ってルーテシアは再び口を開く。

 

「ガリュウもいるから」

 

 

『護衛としては弱すぎて心配なんだがな俺としては』

 

 ルーテシアはそれはあなたに比べたら誰でもそうなると心のなかで思ったが口には出さなかった。彼の容赦ない言い方は今に始まったことじゃない。

 

『俺も今そっちに向かってるがもう少し時間がかかりそうだ。俺がいくまでは変な無茶して俺の手を煩わせるなよ』

 

 

「優しいのね」

 

 それはつまりピンチになったらいち早く助けるという意味でもあった。

 

『バカが、死なれたら困るだけだ。それじゃあ切るぞ』

 

 そこで通信は切られた。それを合図にルーテシアの足元に魔法陣が展開される。するとルーテシアは跡形もなくそこから姿を消した。

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

「オラァ!!」

 

 

 キン!

 

 

 数体のガジェットを切り伏せる。担当区域にたどり着いた瞬間いきなり多数のガジェットに強襲された時は俺も焦った。が、その程度で俺は遅れは取らない。

 

「はぁ!」

 

 いち早くヘリの防衛に戻らないといけない。俺はただひたすらに目の前に立ちはだかるガジェットを斬る!

 

「っ!」

 

 が、ガジェットの数は一向に減らない。いや、減ってはいるのだ………しかし、またどこからか沸いて出てくる。キリがねぇ……。それに、ガジェットどもの動きも俺に前より対応出来るようになっていた。この間で俺のデータを取られたからか、以前よりも戦いづらい。

 

「ふぅー………………」

 

 息を吐き出して冷静になる。そうだ、俺の動きをデータとして入力されてるのなら未だ見せてない技を披露すればいいだけのことだ!

 

「神龍流剣術…………」

 

 刀を鞘に納め神経を研ぎ澄ませる。まだだ…………もう少し………もう少し。ガジェットが四方八方から近づいてくるのを感じる。だがまだだ、ガジェットが俺のテリトリーに入るのを待つ。 

 この剣術はただ中段構えだけの単純な剣術ではない………居合い抜刀術、鞘から刀を抜くのと同時に斬る一撃を高めた技………今だ!!

 

「天昇斬!!(てんしょうざん)」

 

 瞬間、俺のテリトリーに入っていた全てのガジェットが真っ二つになった。前後左右問わず、俺の円域に入った物体を抜刀の切り上げで全て切り伏せる。

 威力のみを重視した技、前に切りつけただけなのに後ろまで影響があるのは一瞬で一回転をして切り上げるからだ。

 

「はぁー、くそまだいやがる………」

 

 今のでそれなりにガジェットを倒したが未だ終わりは見えなかった。剣術はただの技だから魔力は消費しないが、多用をすると体力をかなり使う。ただ斬るのも一苦労だ。

 

「弱音を吐いてる場合じゃねぇな、行くぜシャイニングハート!」

 

 

SH『はい、マスター!』

 

 

「宿れ………全てを焼き尽くす紅蓮の炎!炎鳴斬!!」

 

 爆発の剣が周囲のガジェットを巻き込みその威力を発揮する。黒煙で辺りの視界が悪くても俺には関係ない!

 

「怒りの雷を………雷鳴斬!」

 

 続けざまに雷の剣を見舞う。バチバチと音をたててガジェットどもを灰にする!

 

「光の英雄は………伊達じゃねぇぞ!!」

 

 魔力と体力を気にしている余裕はない。全ては少女を安全な所に連れていくため、ヘリに戻らないと…………何故だか嫌な予感がする………。

 

『それで、そろそろ聞かせてくれへんかギンガ………』

 

 全体通信は未だ繋がれていてはやてのそんな言葉が耳に入る。先ほどギンガが言っていた別件捜査のことを聞いているのはすぐに分かった。俺はガジェットどもを壊しながら会話に耳を傾けることにした。

 

『はい、私が呼ばれた事故現場であったのは…………ガジェットの残骸と壊れた生体ポットなんです』

 

 

「っ!生体ポットだと?」

 

 その言葉に俺は過敏に反応する。なんでそんなものが…………。

 

『はい、ちょうど5、6歳の子供が入るくらいの……』

 

 おいちょっとまて…………エリオたちが発見して俺達が保護した女の子もたしか5歳くらいの女の子だったぞ……………。

 

『近くに重いもの引きずった跡のようなものがあって、それを追っている最中に連絡を受けた次第です』

 

 発見した女の子は重いケースを腕に鎖で繋がれていた、それを引きずって移動したと考えるのが妥当だ……だとすると……。こういうときにすぐに結論を思いつく自分に腹が立った。

 

「その生体ポット………もしかしてはやてやギンガが見たことある代物じゃなかったか?」

 

 

『はい、賢伍さんが考えている通りだと思います………』

 

 

「じゃあ何か?俺達が保護したあの女の子は…………人造魔導師の素体として作られた女の子ってことかよ!」

 

 人造魔導師…………言葉通りの腐った計画だ。優秀とされた魔法使いの遺伝子を使い、人のてにより作られた人間を投薬や機械部品を使って後天的に優秀な魔力や力を得させる計画。

 倫理的問題だけでなく技術面の不足や様々な問題を抱えて当たり前に計画は頓挫したはずだ。あんまりこんなことを言いたくはないけど、フェイトがその一例だ…………母親であるプレシアがアリシアのクローンとして産み出された人造魔導師…………フェイトはそれで苦悩してきた。けど、仲間であることに変わりはない。前にリンディさんが言ってたけどただ皆と違う生まれかたをしただけで他は普通の人間なんだ。関係ない、だって産み出されたその人間に罪はないんだから!

 

「一体誰が何のためにそんなことを………」

 

 一番苦しむのは生み出されたその子本人だってのに!生まれてきただけで罪はないのに!

 

「ますますその子を守らないとな………」

 

 今の話は俺のやる気を最高潮にさせた。もしその子が人造魔導師だってなら………その子を作った変態野郎には絶対渡せねぇ…………俺が守って、その子に幸せを与えてやる!その子は生まれてきたのなら、幸せに生きなくちゃいけないんだ、それを邪魔するなら………誰であろうと容赦しない!たとえ見知らぬ少女でも、不幸になることを分かっててみすみす敵の手に渡してなるものか!

 

「来いよガジェット!お前ら速くぶっ壊して…………ヘリに戻らないと安心できねぇからなぁ!!」

 

 刀を構えて俺はそう叫ぶ。あの子に同情したわけじゃない…………けど俺はあの時、ジュエルシード事件の時………プレシアもフェイトも真の意味で救うことは出来なかった。フェイトは母でプレシアを失った悲しみを背負い、プレシアは最後までフェイトに心を開かずに次元空間に身を投げた……………人造魔導師がらみで俺はもう二度とそんな悲しい結末をさせたくない!!

 今も心の中で後悔してる俺の過去が、今のために俺自身を奮い立たせていた。

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 

「ライトニング1、スターズ1、共に2グループ目撃破です!」

 

 六課司令室ではオペレーターがはやてにそれぞれの状況の報告をしていた。

 

「スターズ2、リィン曹長及びシャイニング1は1グループ目を撃破!順調です」

 

 

「うん、この調子で行けば問題はあらへん…………」

 

 少し安心するはやて。とりあえずはこのまま順調に進むことを祈るばかりだ。が、それはすぐに打ち砕かれることになる。

 

「っ!?これは………ガジェット反応増大!?」

 

 

「なんだ、これは!」

 

 モニターを見たオペレーターとグリフィスが驚愕の声をあげる。それもそのはずだ、さっきまで順調数を減らしていたガジェットが一瞬にして各々のグループの何倍にも数が膨れ上がっている反応を示したのだ。

 

「波形チェック!誤認じゃないの!?」

 

 シャーリィがキーボードを叩き確認するが機械の誤差ではない。

 

『こちらスターズ1、ライトニング1と共にこっちも目視で確認した。敵の援軍て考えるのが妥当かな』

 

 なのはからのその通信で事実であることが決まる。

 

『シャイニング1だ、こっちも確認した。恐らくヴィータとリィンの所も同じ状況だろう。それと試しに斬って見たんだが普通に壊せる機体もあれば、すり抜ける機体も確認できた。どうやら幻影と実機の編成みたいだ』

 

 賢伍の報告でさらに状況が悪くなったことがわかった。

 偽物がまじってるなら事実上の数は減るから楽だと思いたい所だが実はその逆だ。幻影を攻撃すれば無駄な時間となりそれを無視して他を攻撃しているうちに幻影はまた隠れて本物と紛れてくる。いたちごっこみたいな状態になるのだ。

 結果的に時間をかなり稼がれる。

 

「…………グリフィス君」

 

 はやては自身が座っていた椅子から立ち上がり、そう呟く。

 

「…………はい、わかりました」

 

 グリフィスはそんなはやてを見てはやてがどうしたいのか伝わった。そしていま起動六課の部隊長、八神はやては部隊長としての上司の顔から一人の魔導師としての戦士の顔に変わっていた。

 

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

「シュート!」

 

 なのはが放った桜色の無数の魔力弾がガジェット達を破壊していく。が、そのなかの3割ほどはただすり抜けただけだった。幻影と実機の判別がつかない今の状況ではなのはも、がむしゃらに攻撃するほかなかった。

 しかし、敵の数もちゃくちゃくと増えていく状況の中これではじり貧だ。なのはが展開したバリアにフェイトと背中合わせで入り、敵の攻撃に耐えながらこの先どう闘うか模索することにした。

 

「防衛ラインを割られない自信はあるけど………これじゃあキリがないね」

 

 

「ここまで派手な引き付けをするってことは……………」

 

 

「地下か、ヘリの方に敵の主力が向かってる……」

 

 なのはとフェイトはそう推測した。

 

「賢伍君!そっちの状況はどう?」

 

 通信で自分達と離れて対極的な場所で防衛している賢伍に呼び掛ける。

 

『なのはか、こっちもそっちと似たような状況だよ…………くっ、これも幻影かよ!』

 

 そう悪態ついてる所を見るとうまくいってはいないようだ。せめて幻影との区別が付けばなんとかなりそうなのだが。

 

「なのは、私が残ってここを抑えるから……ヴィータといっしょに地下とヘリに!」

 

 

「フェイトちゃん?」

 

 

「コンビでも普通に空戦してたんじゃ時間がかかりすぎる………限定解除すれば広域殲滅で落とせる!」

 

 

『アホ!ここでお前が限定解除したら少なくとも六課にいる間で再取得は難しくなるぞ!』

 

 通信を繋いだままだった賢伍にも会話は聞こえたらしくそう口だす。

 

「迷ってる暇はないんだよ賢伍………こうしてる間にもヘリか地下に敵の主力が向かってるかもしれない………」

 

 

『確かにそうだけど…………』

 

 

「それになんだか嫌な予感がするんだ………だから」

 

 結論は出たと言わんばかりにフェイトはそれを実行に写そうとした。その時、突然なのはとフェイト、更には賢伍の前に通信モニターが新たに展開される。

 

『割り込み失礼』

 

 その言葉とともにモニターに写っていたのははやてだ。しかし、いつもの部隊長服ではなくバリアジャケットである騎士甲冑に身を包んだ状態だ。

 

『ロングアーチからライトニング1へ、その案も限定解除も、部隊長権限で却下します』

 

 

『はやてっ!?』

 

 

「はやて!」

 

 

「はやてちゃん?なんで騎士甲冑!?」

 

 三者三様にそう反応する。その格好を目にするのは中々ない、本人は立場ある地位でずっと書類作業ばかりしてるがはやてもいっぱしのエースと言われる魔法使いだ。

 

『嫌な予感がするは私も一緒でな、クロノ君から私の限定解除許可を貰うことにした。空の掃除は私がやるよ』

 

 はやての限定解除許可権限をもっているのは六課の後見人であるクロノと騎士カリムだ。今日クロノはカリムに会いに行くと言っていたし今ごろ二人で戦況を見ているんだろう。

 

 

『けどはやて!お前も限定解除したら再取得に………』

 

 

『力を出し惜しんで後で後悔したら意味ないやろ?それに、賢伍君にリミッター解除させるわけにもいかへんしな』

 

 

『…………………………』

 

 その言葉で俺は何も言い返せなくなる。確かにはやての言う通りだ。自分がリミッター解除を警告されたからって何無駄に慎重になる必要があるんだ、ここははやての判断がきっと正しいんだから。

 

『ちゅーことで、なのはちゃんフェイトちゃんは地上に向かってヘリの護衛………ヴィータとリィンはFW陣と合流、ケースの確保を手伝ってな』

 

 いつの間にか通信が繋がってたヴィータとリィンにも指示が下され各々了解と返事をする。

 

『賢伍君はヘリか地下、状況をみて自分がフォローすべきと思ったところを援護してあげてくれへん?』

 

 

『了解だ………………はやて、ここは任せたぜ!』

 

 そう言って賢伍は拳を握ってガッツを伝える。

 

『おう、任せとき!』

 

 対するはやても同じように拳を握ってそう返事をするのだった。そして、賢伍達は各々自分達が向かうべき場所へと移動を始めた。

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

「よし……………久しぶりの遠距離広域魔法………いってみよか!」

 

 雲の上まで上昇しそこで滞空している、はやてがそう口ずさむ。右手には杖を、左手には魔導書を携えて足元に白い魔方陣を浮かびあがらせる!

 

「来よ、白銀の風…………天よりそそぐ矢羽となれ!」

 

 高く掲げたその杖から放出されようとする超遠距離魔法。それは魔力弾というのは生易しい白い魔力の塊、砲撃とも取れるし魔力弾とも取れる、そしてそれは幻影ごとガジェットを包み、塵と化す!

 

「フレースヴェルグ!」

 

 そしてそれは打ち出され、敵によって産み出された幻影と機械の塊達は次々とそれに包まれていく。起動六課部隊長、八神はやて。夜天の主の称号は伊達ではない。

 

「……………………相変わらず、おっかねぇ奴だな」

 

 それを移動しながらも遠巻きから見ていた光の英雄はそう言葉をこぼした。

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

「行くよスバル!」

 

 

「うん、ギン姉!」

 

 場所は移り地下。FW4人は、すでに合流を果たしていたスバルの姉ギンガと共に遭遇したガジェットとの戦闘に当たっていた。

 

「はぁ!」

 

 立ちはだかる大型ガジェットの腕部分に拳を叩き込んだのはギンガ、彼女の戦闘スタイルはスバルと同じシューティングアーツ、ローラーブーツと拳を使う近接特化。そして、スバルにシューティングアーツを教えたのもギンガである。

 つまり、彼女の実力はスバル以上………ガジェットごときに遅れは取らない!

 

「行くぞぉぉぉ!!」

 

 ギンガの拳により隙が生まれた大型ガジェットにすかさず追撃を狙うスバル。腕に魔力を込め、放つ!

 

「ディバィィィン…………バスタァァアア!!」

 

 青き魔力でガジェットを貫くスバルのディバインバスター、地に伏すガジェット。オリジナルであるなのはのとは威力は劣るが、かなりの一撃だ。

 

「あらかた片付いたわね。ケースを探しましょう!」

 

 ギンガは回りを見ると他のメンバーもすでにガジェットとの戦闘を無事に終わらせていた。ならば、本来の任務である捜索をレリックの入ったケースを見つけねばならない。

 

「あ、ありました!」

 

 捜索を開始してすぐにキャロがケースを発見した。それを大事そうに抱えると、他のメンバーもつい笑みをこぼして気が抜ける。が、

 

 

 

バンっ!…………バンっ!

 

 

「ん?」

 

 突然地下になにかを打ち付けるような音が響き渡る。大きな足音と言うのが正しい表現かもしれない。

 

 

バンっ!……バンっ!

 

 

 音は徐々にこちらに近づいてくる。しかし、視界には特に怪しいものは見えない。だが確実に何かが近づいてきているのは確かだった。そして全員がそれに警戒をする前に、先に音の主は仕掛けた。

 

 

 ドォン!!

 

 

「っ!?キャア!」

 

 突如ケースを持っていたキャロに黒い魔力弾のようなものが襲いかかる。が、それを放った人物の姿は見えなかった。その衝撃でキャロは吹き飛び、ケースを手放してしまう。

 

「てやぁぁ!!」

 

 が、FWもただ黙ってはいなかった。いち早く異変を察知したエリオがその魔力弾の発射元をストラーダの槍を降り下ろす!

 

 

ガキン!

 

 

 何もないはずの場所に降り下ろされた槍に確かな衝撃をエリオは感じた。そう、姿は見えなくとも敵はそこにいる!エリオは一旦距離をとりキャロのそばに移動する。

 

 

プシュ

 

 

「ぐっ!」

 

 すると突然、エリオの頬から血が吹き出してきた。軽く切れている、いつの間にかやられていたようだ。

 

「エリオくん!」

 

 キャロが心配そうに叫んだがエリオは怯まずにストラーダを構える。

 

「……………………」

 

 すると、エリオ達に立ちはだかるように黒い人型の何かが姿を表していた。少なくとも人間には見えない、誰かの使い魔だろうか?魔力弾で仕掛けてきたのも恐らくこいつだ。透明化の魔法でもあるのかとエリオは分析する。

 

「あっ!」

 

 その黒い使い魔に気をとられているうちに落としたケースを何者かに拾われてしまう。それに気付いたキャロは慌てて取り戻そうとする。

 

「…………じゃま」

 

 そのケースを奪ったのはキャロとそれほど変わらない背丈の少女だった。そう、ルーテシアである。ルーテシアは手を前にかざし近づいてくるキャロを強力な魔力砲で吹き飛ばす。

 

「っ!キャアアアアア!!」

 

 

「キャロ!うわあぁぁ!」

 

 慌てて障壁を展開したがいとも簡単破壊され後ろにいたエリオを巻き込んで二人共々吹っ飛ばされる。

 

「っ」

 

 そしてそのまま黒い使い魔が追撃を掛けようと動き出す。

 

「うおおお!!」

 

 が、スバルはそれを許さなかった。黒い使い魔に向かって助走をつけた蹴りをお見舞いする。

 

「………っ」

 

 しかし、黒い使い魔の反応速度は早かった。体を全体を横にし、蹴りをかわす。

 

「はあああああ!!」

 

 すかさずギンガが使い魔の後ろに回り込み拳をお見舞いする。

 

「っ!」

 

 ギリギリで障壁を展開したがギンガの拳は軽くはない。直接ダメージはなかったものの使い魔はそのまま後ろに吹き飛ばされる。

 その隙をつき、ケースを持って立ち去ろうとするルーテシアにティアナが銃を突き付け言葉をぶつけた。

 

「ごめんね、乱暴で………でもそれ、ホントに危ないもんなんだよ………こっちに渡してくれる?」

 

 ルーテシアはそこで顔をしかめた。このまま無理矢理押しとおるのは危険だ。かといってレリックをみすみすとられるわけにもいかなかった。実質お手上げ状態だ。

 

「ルールー!目ぇ閉じてろ!」

 

 瞬間、そんな叫びともに轟音と閃光が地下を包んだ。攻撃ではなく完全に目眩ましを想定した魔法。FWメンバーとギンガはたちまち目と耳を塞いでしまう。

 

「くっ」

 

 その隙にルーテシアはティアナからさらに距離をとり安全圏を確保する。黒い使い魔もルーテシアのそばによりかばうように前に立つ。

 

「たくもー、あたしたちに黙っては勝手に出掛けちゃったりするからだぞ………ルールーもガリュウも」

 

 先程と同じ声のトーンでそう口を開く人物が一人。髪は赤く、背中に小さい翼のようなものを生やしていた。さらには、リィンと同じような背丈だった。全長わずか30センチほどだろうか。

 

「アギト………」

 

 ルーテシアがその人物の名を呟く。この小さい少女こそルーテシアがゼストと一緒に行動しているもう一人の人物だ。

 

「おう、ホントに心配したんだからな~」

 

 アギトはルーテシアの前で浮遊してそう言葉を紡ぐ。

 

「けどもう大丈夫だぞルールー、なにしろこのアギトさまが来たからな!」

 

 アギトが一人で盛り上がっているうちにギンガたちは体勢を立て直し、ルーテシアたちに対峙していた。が、それに構わずアギトは言葉を続ける。

 

「おらおら!お前らまとめて、かかってこいやぁ!」

 

 

 

……………闘いはさらに激化していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し遅れてしまいました。まだ私事で忙しいのでまた更新が遅れてしまうかもしれませんm(__)m

最近は気温が上下してますので皆様体調には充分気をつけてください(´・ω・`)
では、次回話にて


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ある六課の休日 ~ナンバーズと闇~


 今回ちょっと長めです。しっかりまとめきれないと書く量だけが増えていく………………。


 

 

 

 

 

 

 激化していく闘いの中、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンは持ち場を限定解除をした八神はやてに任せ、ヘリの護衛に向かう。同じくヴィータとリィンも八神はやてに任せて地下にFW達の援護に向かう。

 そして、神崎賢伍はまずは移動しながらも自分はどちらに向かうか悩んでいた。

 

「シャイニングハート!まだ状況はわかんねぇか?」

 

 

SH『ヘリは今のところ問題なく移動中のようです。ですが、地下の状況はまだ掴めません』

 

 

「そうか…………」

 

 普通なら、今のところ問題ないヘリではなく地下の援護に向かうって判断を下したいところだが……………。

 

「くそっ、なんなんだよこの胸騒ぎは………」

 

 そうわかっていても、何故だか不安は拭えない。奴らが決定打を狙ってるのはどっちだ?地下?ヘリ?両方?どれを選べば防げる?

 

「どうする…………どうするっ………!」

 

 速く決めねば、どちらにしろ手遅れになっちまう!

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

「オラァ!」

 

 アギトの咆哮と共に魔力で作られた複数の火炎魔法が繰り出される。FWとギンガ、ルーテシア達の地下の攻防はさらに激しさを増していた。そして、アギトの出現により、FWとギンガ達は苦戦を強いられていた。

 

「くっ!」

 

 5人は炎から逃れるべく地下の柱に一旦隠れる。衝撃は大きく、当たっていたらひとたまりもなかっただろう。

 

「ティア、どうする?」

 

 隠れて様子を見ながらスバルが声を抑えてそう口を開く。

 

「任務はあくまでケースの確保よ、撤退しながら引き付ける」

 

 冷静にティアナがそう告げる。確かに、ケースさえ確保できればいいのだ。敵を倒すのが目的ではない。

 

「こっちに向かってるヴィータ副隊長とリィン曹長にうまく合流できればあいつらを止められるかも………だよね?」

 

 

「そ、なんとか合流しないと」

 

 

「(よし、中々いいぞスバルにティアナ)」

 

 すると、突然5人全員に頭に直接声が響き渡ってきた。念話だ。

 

「(ヴィータ副隊長!)」

 

 

「(私も一緒です、二人ともうまく状況を読んだナイス判断ですよ)」

 

 あとからリィンの声も聞こえてくる。二人は既にもう地下にたどり着いていたのだ。場所はもう…………。

 

「っ!?ルールーまずい!真上からデケェ魔力反応が!」

 

 アギトがすぐさまが気付いたが遅かった。

 

「っ!」

 

 

 

 ドゴォン!!

 

 

 突如天井が突き破れ、轟音が鳴り響く。その土煙からゆらりと現れたのはヴィータとリィン。ヴィータのアイゼンならば天井を破るくらいそれくらい容易である。

 

「ふっとべぇぇぇ!!」

 

 そのままヴィータがハンマーを振りかざす。捉えたのはガリュウと呼ばれるルーテシアの使い魔だ。

 

「っ!?」

 

 ガリュウはそれをまともに受けて、地面や壁に打ち付けられながら言葉通り吹っ飛ばされる。

 

「捕らえよ!凍てつく足枷!」

 

 続けてリィンがルーテシアとアギトに向かって手をかざし魔力を込める。

 

「フリーレンフェッセルン!」

 

 その言葉と同時にルーテシアの足下に白い魔法陣が出現する。

 

「ルールー!避けろ!」

 

 

「っ!」

 

 それはルーテシアとアギトを捕らえるための氷結のバインド。アギトとルーテシアを全身包むには充分な氷が現れる。が、ルーテシアとアギトはそれを慌ててかわした。否、かわし切れなかった。

 

「くっ…………」

 

 

「ルールー!」

 

 ルーテシアの右膝下がリィンの氷によって捕らえられる。ルーテシアは必死に足に力を込めるが右足には力が入らず、抜けそうもない。

 

「そこまでだぜ…………おとなしく捕まってもらうぞ」

 

 ヴィータがハンマーを突き付けそう口を開く。物陰に隠れていた5人も表に出て、ヴィータの後ろに控えていた。

 

「くそっ……」

 

 アギトはそう悪態をついた。打つ手はない、ルーテシアは捕らえられガリュウは戦闘不能、自分一人ではこの人数を相手にするのは無謀だ。

 

「……………………」

 

 ルーテシアは応戦体制のままだった。ただ無抵抗で捕まるのは論外だ、魔法は何とか使えないことはない。

 

「……………なら力ずくだ」

 

 それを見てヴィータはハンマーを構える。見たところ子供のようだがデバイスの設定は非殺傷設定だ、殺すわけではない。大人しく渡さないのであれば、あくまで気絶させケースを取り返し、全員捕らえるつもりだった。

 

「アギト…………逃げて」

 

 

「バカ!ルールーを置いてけるかよ!」

 

 

「どっちも逃がすつもりはねぇぞ!」

 

 ヴィータが構えていたハンマーをを振りかざした。まずはルーテシアだ、アギトがそれを防ごうとルーテシアの前に魔力障壁を展開するが、

 

 

 パキン!

 

 

 いとも簡単に崩される。

 

「くっ、ルールー!」

 

 

「っ!」

 

 

 

 ドォン!

 

 

 衝撃、ヴィータのハンマーによるものだ。しかし、ヴィータのハンマーはルーテシアには届かなかった。

 

「なに!?」

 

 手応えはあった。当たったがルーテシアは先程と変わらずピンピンしていた。何に当たった?何によって阻まれた?

 

「ほお…………中々の力だな」

 

 

「っ!?」

 

 ヴィータは驚愕した。衝撃によって舞った土煙から聞こえてきた声は自分がよく知っている声だった。土煙から覗く顔もよく見知った顔だ。

 

「あれは!?」

 

 

「嘘!?」

 

 スバルやティアナも驚愕の声をあげた。理由はヴィータと一緒だった、その人物は自分がよく知る人物とまったく同じ姿をしているから。

 

「…………お兄さん」

 

 ルーテシアが普段その人物の呼び名を呟く。そう、迫るハンマーを片手でいとも簡単に受けとめ、ルーテシアを守ったのは………。

 

「ふん、無茶をするなと俺は言ったはずだったんだがなぁ…………あんまし手間をかけさせんじゃねぇよ」

 

 

「……………………」

 

 

 その憎まれ口にルーテシアは黙ってしまう。実際に手間を掛けさせてしまったからだ。

 

「ま、面白い状況みたいだからいいけどな………なぁ?光の英雄の仲間ども………」

 

 

「そうか………お前が………」

 

 それでヴィータは察した。目の前に現れた人物の正体を。話は聞いていた、だが実際に見たことはなかった。本人と瓜二つと聞いていたがここまで似ているとは思わなかった。いや、見た目はもう本人そのものだ。その禍々しい雰囲気以外は………。

 

「お前が…………賢伍の偽者…………闇の賢伍かぁ!!」

 

 

「…………………ふん」

 

 ヴィータの怒声に闇は不敵に笑うのだった。

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

「はぁ…………はぁ………はぁ」

 

 

『はやて部隊長!またガジェットが来ます!』

 

 

「分かっとる!第………5、6波?ええい、どっちでもええ!行くでぇ!」

 

 

『はい!お願いします!』

 

 上空ではやては指令室のシャーリィと通信しながら超長距離砲撃でガジェットどもを撃墜していた。が、幻影と混じったガジェットは一向に減る様子を見せない。はやてにも疲れが見えてきた。

 

「ふぅー、こりゃきっついなぁ…………」

 

 

『はやて部隊長………大丈夫ですか?』

 

 流石にずっと砲撃を打ちっぱなしのはやての体をシャーリィは心配する。いくら部隊長で優秀な魔導師のはやてでも表情には疲労の色が見えていたからだ。

 

「なぁに、賢伍君に大見得切って任せろって言ったしなぁ………それにヴィータ達だって頑張ってるんや……それに比べればこれくらいどうってことない!」

 

 そう言い次の砲撃の準備をするはやて。これこそがエースの集まる起動六課を束ねる部隊長の姿である。

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

「ぐっ………このっ……」

 

 ヴィータは焦っていた。ここで、闇の賢伍の出現は考えられる状況で一番罪悪の状況だった。闇の賢伍によりアイゼンのハンマーはいとも簡単に片手で掴まれて動けない。いくら力を込めてもびくともしなかった。自分の戦友である神崎賢伍を打ち負かすほどの実力……………まともに闘えばこちらに勝ち目はない。

 

「へっ、焦るなよ鉄槌の騎士ヴィータ」

 

 

「お前…………何であたしの名前を……」

 

 闇の賢伍とは面識がなかったはずだが。

 

「元々はずっと神崎賢伍の中にいたんだ。その間で神崎賢伍が知っていることは俺も全て知っている………まぁ、後ろにいる雑魚どもは知らんがな……」

 

 

「なるほど………」

 

 つまりは賢伍が帰ってきたあの日、闇と分離した以前のことは全てあたしたちのことは筒抜けということだ。

 

「ヴィータ副隊長…………」

 

 スバルが拳を構えて、そう呟く。場が膠着しているいま、スバルが何か仕掛けようとしている。

 

「やめろスバル!こいつに迂闊に攻撃するんじゃねぇ!!」

 

 それを見たヴィータはそう声を荒げた。スバルはビクッとして動きを止める。ヴィータがここまで大声を出すのは初めて見たからだ。

 

「良い判断だ鉄槌の騎士。だが、安心しろ………俺はこのちびどもを助けに来ただけでお前らとドンパチやろうって訳じゃない……」

 

 そう言いながら闇はアイゼンを掴んでいた手の力を緩める。すぐさまヴィータは後ろにステップし闇から距離を取った。

 

「だぁれがチビだ!言っとくけど、俺はあの変態ドクターの仲間のお前を俺達の仲間なんて認めてねぇからな!」

 

 闇のチビという単語にアギトが憤慨しながらそう口を開く。

 

「ふん、別に仲間なんて思ってくれなくても構わねぇなぁ…………だが、俺が来なかったら今頃ルーテシアとお前が捕まってただろうよ」

 

 

「ぐぐぐ…………」

 

 その事実にアギトは何も言い返せなくなる。たしかに、今頃闇の賢伍がいなかったら二人とも管理局に捕縛されていただろう。

 

「まぁいい、いつまでもここにいることはない……ルーテシア、転移だ」

 

 そう言うと闇は漆黒の刀でルーテシアの足を捕らえていた魔力氷をいとも簡単に壊した。

 

「けど、レリックが…………」

 

 闇の言葉にルーテシアがそうぼやく。どうやらリィンの拘束魔法に捕らわれたときにせっかく奪ったケースを手放してしまったようだ。それをフリードが重そうに口に加えてキャロに渡していた。

 

「後で取り返せばいい。今、こいつらとドンパチやって俺が闘えばこんな地下あっという間に潰れちまうからな………こんなところで生き埋めはごめんだ」

 

 

「……………貴方がそう言うなら」

 

 ルーテシアは頷くと、魔力を高めて自分と闇の賢伍、アギトにガリュウを魔法陣で包む。

 

「それじゃあな起動六課、今度は…………容赦なく切り刻んでやるよ………」

 

 

「「「っ!?」」」

 

 そう言い残し、地上へと転移した闇の残した言葉に全員戦慄を覚えた。蛇に睨まれたカエルのような気分、捕食者と被食者の圧倒的な力関係を思い知らされたようだった。

 

「はぁ………たく、賢伍と違って嫌な感じだぜ…………」

 

 

「相手が闘う気がなくて助かったです………」

 

 闇が目の前からいなくなるとヴィータとリィンはついそう口をこぼした。二人ほどの実力者だからこそ感じた、闇の底知れない力に冷や汗が止まらなかった。

 

「あれが……………闇の賢伍さん……」

 

 

「見た目はそのままだけど、中身は全然違ったね………」

 

 

「そんな呑気な感想で済む人じゃないわよ」

 

 新人4人も冷や汗を禁じ得なかった。

 

「あの、私にはなにが何だかさっぱり………」

 

 そこでギンガは疑問の声をあげる。

 

「あの人は?神崎賢伍さんにそっくりな人はなにもの?敵なの?」

 

 事情を知らないギンガには何が何だかさっぱりだった。会ったことはないが神崎賢伍はよくテレビなどで見たことがある。この間の会見を開いていた時もたまたま拝見していた。だから顔は知っている、それと瓜二つの人物が自分達に立ちはだかって来たのだ。

 ギンガがそう口に出すのも仕方のないことだった。

 

「……………それは……」

 

 スバルがその疑問にうまく答えようと言葉を探しているとき、地下全体が震えだした。

 

「っ!?な、なに?地震?」

 

 地下が地響きにより、ボロボロと瓦礫が崩れ始めた。周りは崩壊を始め、地響きはさらに大きくなる。

 

「大型召喚魔法の気配があります………多分それで………」

 

 キャロがそう口を開く、どうやら敵による攻撃だ。おそらく、先程転移で地上にでたルーテシア辺りだろうとキャロは思う。

 

「さっきの闇の賢伍についての説明は後だ!はやく脱出するぞ………スバル!」

 

 

「はい!……………ウィングロード!」

 

 その叫びと同時にスバルが拳を地面にあてがうと青色のウィングロードがヴィータが穴を開けた天井から地上へと繋がっていく。

 

「ギンガとスバルが先行して行け!アタシとリィンは後から飛んでいく!」

 

 

「「はい!」」

 

 指示通り二人はローラーブーツを生かしてすいすいと登っていった。続いてエリオが登っていく。

 

「キャロ、レリックの封印処理………お願いできる?」

 

 

「あ、はい……やれます」

 

 ウィングロードを使って地上を目指す前にティアナがそうキャロに声をかける。

 

「ちょっと考えがあるんだ、お願いね」

 

 

「はい!」

 

 そう言葉を交わして、二人も地上を目指してウィングロードを駆け出していった。全員が地上を目指したことを確認して、ヴィータとリィンも跳んで地上を目指すのだった。

 

 

 

 

 

…………………………………………。 

 

 

 

 

「ジライオウを使って地下ごとあいつらを潰すか………ルーテシアも結構エグいことするなぁ」

 

 闇は地面を見下ろしながらそう呟くルーテシアの転移で地上にでた闇の一行たち。彼らは今、市街地の真ん中で魔法で浮いている状態だ。

 そして、地面にはルーテシアが召喚したジライオウと呼ばれる特大サイズの虫のような形をした物が、辺りに地割れをおこし地面をえぐっていた。地下の地震と崩壊の原因はこれである。

 

「駄目だよルールー!これはまずいって!」

 

 そのルーテシアの行動にアギトが異議を唱えていた。

 

「埋まった中からどうやってケースを探す?あいつらも局員とはいえ潰れて死んじゃうかもなんだぞ?」

 

 

「ギャーギャーうるせぇアギト、奴等のレベルならそれくらいじゃ死にはしねぇだろうよ、別に死んだって構いはしねぇし」

 

 

「お前には聞いてねぇよ闇賢伍!」

 

 

「はいはい………」

 

 闇はそう言ってお手上げのポーズを取る。前の闇ならそんなことを言われたら直ぐ様斬っていただろう。だが初めて闇がルーテシアと出会ったときに口にした言葉通り、気に入った奴ならそんなことはしないのだ。

 そして闇はルーテシアやそれと一緒に行動しているアギトもその対象になるのだ。対するアギトは最初は完全に拒絶していたがそれも薄まりつつある。とはいえ、未だ警戒はされていた。

 

「アギト、お兄さんをいじめないであげて……………それにケースは後でクアットロとセインに頼んで探してもらう」

 

 

「良くねぇよルールー!あの、変態ドクターやナンバーズ連中………そしてこんな訳の分からない奴と関わっちゃダメだって!」

 

 アギトは闇を指差しながらそう口にする。その言葉に対してルーテシアは特に反応を示さなかった。

 

「ガリュウ、傷は大丈夫?」

 

 ルーテシアがガリュウにそう問いただした。ガリュウは問題ないと伝えたかったのかただ頷くだけだった。

 

「もう戻っていいよ、お疲れ様」

 

 そうルーテシアに言われるとガリュウは紫色の魔法陣に包まれて消滅した。それを見た闇の賢伍が口を開く。

 

「まぁ、俺の役目ももうないだろ………奴等もしばらくは上がって来ないだろうしな……俺はクアットロ達の様子も見にいかなくちゃならんからな」

 

 

「分かった………気をつけてねお兄さん」

 

 

「さっさと行っちまえ、不気味な闇野郎め!」

 

 闇は二人の言葉に何も反応せず、移動を開始した。動きは俊敏でやはり光の英雄とひけをとらないスピードだった。

 

「さぁて、あまり時間はないぞ光の英雄…………ククク」

 

 誰にも届かない小さな呟きをしつつ、闇は笑いながらその場を後にした。

 

「なぁ、ルールーもうやめとけって」

 

 闇が移動したのを見届けてからアギトは再びジライオウを止めるよう制止するが、ルーテシアはやめる気はないようだった。そろそろ地下が潰れるのも時間の問題だ、最後に止めで思いっきり地響きを起こすようジライオウに指示をだそうとする。

 が、それは叶わなかった。

 

「っ!?」

 

 突如、ジライオウの足元にピンクの魔法陣が浮かび上がる、そこからピンクの魔力光で構成された鎖………チェーンバインドがジライオウの動きを止めさせた。

 

「あれは!」

 

 そのバインドの魔力源を辿ると少し離れた所に魔法陣を展開したキャロがいたのだ。

 

「あいつら、もう出てきたのかよ!」

 

 アギトがそう苦しそうに叫ぶ、キャロの背後からは左右からウィングロードを展開しながらギンガとスバルが、中央からヴィータが飛んで迫ってきていた。

 

「そこ!」

 

 パアン!

 

 

 そしてさらに横からティアナの射撃が迫る。

 

「くっ!」

 

 アギトとルーテシアはすぐさま反応して交わす。ティアナに接近を許したことにより退路が限られてしまった。体制を立て直すべく二人は橋型の道路に着地する。

 が、それはヴィータ達の思う壺だった。

 

「ここまでです!」

 

 

「っ!?」

 

 

「ちっ!」

 

 そこにリィンとエリオが待ち受けていた、リィンの魔力刃でアギトは囲まれ、ルーテシアはエリオにストラーダを突きつけられる。

 動きを止めた二人の隙をリィンは見逃さず、バインドで拘束する。完全にアギトとルーテシアは捕まる形になった。

 

「子供いじめてるみてぇであまりいい気分はしねぇが…………」

 

 そこにヴィータがいち早く降り立ち口を開く。

 

「市街地での危険魔法使用に公務執行妨害、その他諸々で逮捕する」

 

 こうして二人は拘束される。ヴィータ達が地上に出た時にはすでに闇の姿はなく、それをチャンスとばかりにあらかじめ立てておいた作戦が効をさしたのだった。

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 市街地の辺り一帯はすでにボロボロであった。これはルーテシアのジライオウの影響もあるが、もともとここら一帯は廃棄都市区画………全体的にボロボロな理由はそれである。

 そのボロボロの市街地のビルの一角………その屋上に人影が2つ。

 

「ディエチちゃん、ちゃんと見えてる?」

 

 そのうちの一人、眼鏡をかけた女、名をクアットロがそう口を開く。そして、彼女がガジェットの幻影を生み出し、なのは達を撹乱させた張本人であった。

 

「あぁ、遮蔽物もないし空気も澄んでる…………よく見える」

 

 ディエチと呼ばれた女はそう言葉を返す。片手に大きな布に包まれたなにかを抱えながらある一点を見つめていた。その目に写っているのは………ヴァイスが操縦するヘリコプターだった。

 

「よぉ、首尾はどうだ?」

 

 その二人の背後から突如声が聞こえてくる。デバイスである漆黒の日本刀を鞘に納め、腕を組んだ状態でその男は現れた。

 

「あらー、誰かと思えば闇の神崎賢伍さんじゃありませんか………一体何の用で?」

 

 その闇の出現に少し警戒しながらもクアットロはそう言葉を発した。

 

「その猫撫で声はやめろクアットロ、不愉快だ」

 

 

「別にそんなつもりはありませんけどぉ?」

 

 

「やめろ二人とも、作戦中だ」

 

 今にもおっ始めそうな二人に対してディエチが口を挟む。

 

「だってディエチちゃん、こんな訳の分からない奴と協力するなんてごめんよ」

 

 

「ドクターが私達の協力者と言ったんだ、それなら従うだけだよ」

 

 

「そうだけどぉ~」

 

 闇が出撃前にジェイルにこぼしたように、闇とナンバーズの関係はこじれているようだ。一部以外のナンバーズには反感を買っている模様である。実はそう言うディエチでさえ、内心では納得はしてないようだ。

 

「それで闇の神崎賢伍、ホントに撃っちゃっていいのか?中のケースは残るだろうけどマテリアルの方は破壊しちゃうことになる……………」

 

 

「あぁ、ジェイルとウーノが言うにはそのマテリアルが当たり………聖王の器とやらなら砲撃位じゃ死にはしないそうだから大丈夫だとさ………」

 

 その言葉を聞きディエチは布で包んでいた大きな何かを取り出す。姿を表したのは全長がディエチ本人よりも高い狙撃砲、それを構え装填する。

 

「撃つといってもどれくらいの威力でやるつもりなんだ?流石に本気でぶっぱなしはしないんだろ?」

 

 

「あぁ、大体Sランク位の威力で撃つつもりだ」

 

 闇の質問にディエチがそう答える。それを聞いた闇は「ふぅん」とそっけなく呟き少し眉をひそめた。

 

「ん?」

 

 するとクアットロと闇の賢伍の目の前にモニターが展開される。そこに写っていたのはジェイルにウーノと呼ばれている女性だった。

 

『クアットロ、それと闇の神崎賢伍………ルーテシアお嬢様とアギト様が捕まったわ………』

 

 

「何だと?」

 

 

「あぁ、そういえばさっき例のちび騎士に捕まってましたねー」

 

 闇はそれを聞き表情を固くする。自分がちょうどルーテシアと別れた後だったのだろうか、こっちに向かっている途中で気づかなかった。

 そもそも、起動六課がそんなに早く地下から這い上がって来たこと事態、闇にとっては予想外だった。どうやら彼女らの力を見下し過ぎたようだ。

 

「ちっ…………で?俺に助けにいけってか?」

 

 

『いや、その逆だ。救出はこちらに任せてもらう。お前には余計なことをするなと釘を指しに来たんだ。お前はルーテシアお嬢様には甘いようだからな』

 

 

「ふん、知れたことを。ジェイルに護衛を頼まれてるんだ、自然とそうなる」

 

 通信でわざわざ釘を指しに来たということは闇が救出に向かえば乱戦は避けられないと思ったからだろう。奴等に奪われているケースも取り戻さなければならない、救出をしつつケースも奪うとならば力押しではなくあくまで隠密がいいとウーノが判断したのだ。

 そして、闇もそのことについて察した。

 

『今はセインが様子を伺っている……………クアットロ』

 

 

「フォローします?」

 

 

『お願い』

 

 最後に短くそう言葉を交わして通信は切られる。

 

「(セインちゃん……)」

 

 先程の会話に出てきたセインと呼ばれる子にクアットロは念話を送る。

 

「(はいよー、クア姉ぇ……)」

 

 そのセインと呼ばれる少女から返事が帰ってくる。すこし離れた所にセインはいた。しかし、姿は見えない。代わりに地中から腕が突き出されている、それがセインの能力だった。

 地中を海に潜るかのように自由自在に移動できる能力。今は外の状況を確認すべく、地中から腕だけを出して指に搭載されている視認カメラで観察していた。

 

「(こっちから指示を出すわ、お姉さまの言う通りに動いてね?)」

 

 

「(うーん、了解)」

 

 地面から突き出ていた腕はそのまま地中に潜っていった。

 

「セインの能力は結構便利だな………」

 

 その様子を見ていた闇の神崎賢伍がそう言葉をこぼしていた。そして、ディエチはそれを合図に砲撃のチャージを始めた。

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

「見えた!ヘリだ!」

 

 俺は視界にヘリコプターを視認してついそう言葉をこぼす。結局俺が選択したのはヘリの護衛だった。理由は至極単純、地下より距離が近かったからだ。

 

「ん?あれは…………なのはとフェイトか!」

 

 自分と反対方向からなのはとフェイトが同じくヘリに向かっているのが見えた。あっちも俺に気づいたようで目が合う。

 

「ちょうどいい、ヘリの前で合流してそっから俺はヴィータの援護に…………っ!?」

 

 

SH『市街地にエネルギーチャージ反応を確認!マスター!』

 

 シャイニングハートがその魔力をキャッチし俺に伝えてきた。

 

『市街地にエネルギー反応!これは………大きい!?………砲撃のチャージを確認……物理破壊型、推定Sランク!?』

 

 それと同時に六課の指令室からも情報が伝えられてくる。

 

「こいつはまさか………」

 

 ヘリを…………狙ってるのか!?

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

「インフューレントスキル…………ヘヴィバレル………発射まで12秒…………11」

 

 ディエチが砲撃のカウントダウンを始める。クアットロはルーテシアに念話を送り、救出を円滑に進めるための指示を送っていた。

 

「………9………8………7」

 

 そして砲撃まで7秒を切った所で、それまでずっと大人しくしていた闇が動いた。

 

「っ!?貴様何を!」

 

 闇は一瞬でディエチの隣に立ち、ディエチが構えている狙撃砲に手を置いた。

 

「やっぱりSランク砲撃じゃ物足りないな、どうせなら派手にやろうじゃないか!」

 

 その言葉と共に、闇は狙撃砲に自分自身の闇の魔力を流し込んだ。

 

「ぐっ!?あぁ!………お前!制御が……っ!?」

 

 

「その狙撃砲に闇の魔力を注いだ、無理に制御しようとしても無駄だぜ?強制的に威力はSSランク砲撃と同等になるだろうよ、撃つのを躊躇えば暴発してこっちがひとたまりもないがな…………ハッハハハハハハ!!」

 

 

「貴様っ!」

 

 

「ふっ、安心しろ………普通に撃てば少し反動が強くなるだけでお前の体に害はない………ククク」

 

 そう言い残し闇は何処かへと消えた。暴発を恐れた訳でなく、あくまで一旦身を潜める理由があったのだ。

 

「くっ、仕方ない………」

 

 色々と乱されたが予定に変更はない。威力が強くなるだけのこと、ケースとマテリアルが破壊されないか懸念だが考える時間はなかった。

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

「……………逮捕はいいけど、大事なヘリを放っておいていいの?」

 

 

一方ヴィータ達は捕まえたルーテシアに情報を引き出そうとしていた。頑なに口を閉ざしていたルーテシアがいきなりそう口を開く。これはクアットロの策略だった。  ヴィータ達の動揺を誘うため、クアットロがルーテシアに自分の言葉を復唱させているに過ぎなかった。効果覿面で、全員それを聞いて驚きを隠せなかった。そしてさらにクアットロはルーテシアにさらに言葉を紡がせた。

 

「あなたはまた…………守れないかもね」

 

 

「っ!?」

 

 これはルーテシアの目の前にいたヴィータに向けた言葉だった。それを言われたヴィータの頭の中に浮かんだのは、あの雪の日の出来事…………なのはが賢伍が血を流し、自分だけが何もなかったあの日の事件。

 クアットロからしたらその場にいる一番厄介な存在であるヴィータを挑発するための言葉だった。しかし、それはヴィータにとっては触れられたくない過去、トラウマ、頭に血が上らない訳がなかった。

 

 

そして……………。

 

 

 

「発射!」

 

 

 

 バアァァン!!

 

 

 ディエチと闇の賢伍の魔力が混ぜ合わされた砲撃が発射された。

 

 

「なっ!?」

 

 地面でルーテシアを問答していたヴィータ達は目でそれを追いかけるのが精一杯で

 

「あぁ!」

 

 天空で砲撃を行っていたはやてにもそれを止めるすべはない。

 

「疾風速影ぇぇええ!!」

 

 ヘリに近かった賢伍はいち早くヘリに前に瞬間移動する。しかし、賢伍は焦った。

 

「(推定魔力Sだぁ?ふざけんな……SS位あるぞ!)」

 

 Sでさえ今の自分の状態………フルでリミッターを掛けられている状態で防げるかどうかという位だ。それに加えてSSランク砲撃を今の賢伍では防ぐすべはなかった。そしてそれを解除する時間もなかった。

 

「光の障壁!!」

 

 しかし、それでもあがくしかなかった。恐らく防ぎきれない………だがこのヘリにはヴァイスが………シャマルが……賢伍の仲間が乗っている……そしてあの小さな女の子も………。

 

「させねぇぞおおおおお!!」

 

 砲撃が直撃するギリギリまで光の障壁の強度を上げるために魔力を込める………それすらもわずかな時間では最大強度にまで達せず………………。

 

 

 

 ドオオオン!!

 

 

 無慈悲にも砲撃が直撃した爆発音が辺りに響き渡った………。

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

「砲撃…………ヘリに直撃?……そんなはずない!ちゃんと調べて!」

 

 指令室ではシャーリィの声が響き渡る。

 

「ジャミングがひどい………状況掴めません!」

 

 オペレーターもジャミングの影響で誰もヘリの状況を掴むことは出来なかった。そしてその会話は全体通信を通して、ヴィータやスバル達にも聞こえていた。

 

「そんな………」

 

 

「ヴァイス陸曹とシャマル先生が………」

 

 片手に槍、もう片方にはケースを抱えていたエリオがそう呟き、青ざめた顔をしてティアナがそう口を開く。

 

「テメェ!」

 

 そして、怒りの声でヴィータはルーテシアに掴みかかる。

 

「副隊長!落ち着いて………」

 

 

「うるせぇ!」

 

 スバルがヴィータをなだめようとするが、ヴィータはそれを一言で振り払う。

 

「おい!仲間がいんのか!?どこにいる?言え!」

 

 ヴィータにそう迫られてもルーテシアは表情1つ変えなかった。そして、ヴィータが怒りで騒いだ影響で…………全員背後に隙が出来た。

 

「っ!エリオ君、足元に何か!」

 

 敵の接近にいち早く気づいたのはギンガだった。

 

「えっ…………うわっ!?」

 

 

「へへ~、頂き!」

 

 エリオの反応は遅れ、その隙をつき地面から姿を表したのはクアットロにはセインと呼ばれていた女の子だ。隙をつかれたエリオは持っていたケースを奪われ、セインは再び地面に潜る。

 

「くそ!」

 

 セインがケースを奪い、そのまま逃走する気だと判断したヴィータはルーテシアから離れて追いかけようとする。が、地面に潜った敵が見えるわけなくどこにいるか判断つかなかった。

 そして、自分を探すために全員がルーテシアから離れるのがセインの狙いだった。

 

「あっ!こいつ!」

 

 次にセインが現れたのはルーテシアの足元からだった。そのままルーテシアごとセインは再び地面に潜る。

 

「アギトが…………」

 

 セインに抱えられながらルーテシアはそう口にする。

 

「あー、アギトさんならさっきの一瞬で離脱したようですよ。流石、いい判断です」

 

 そして、セイン達は完全にそこから離脱した。

 

「反応………ロストです………」

 

 リィンが全員に敵に逃げられたことを伝える。ケースも奪われ、捕らえていた敵もみすみす逃してしまった。悔しさでヴィータは拳を地面に打ち付ける。

 

「くそっ!………ロングアーチ、ヘリは無事か?あいつら………堕ちてねぇよな!?」

 

 今、最悪の結果になってしまったヴィータにはヘリが無事かどうか?無事であってほしいと………そう願い、すがることしか出来なかった。

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

「うっふふのふー………威力が予定より大きくなったけど、どう?この完璧な計画」

 

 鼻歌混じりでクアットロがそう楽しそうに言葉をこぼした。

 

「黙って、今命中確認中………」

 

 そう言ってディエチは目に搭載されたカメラでヘリのあった場所を見つめる。

 

「あれ?まだ飛んでる!?」

 

 

「あら?」

 

 闇のせいで威力が底上げされた砲撃を放っても未だにヘリは飛行を続けていた。煙が徐々に晴れ、ジャミングも軽減してきた。そして、ディエチの耳には盗聴していた敵の通信が聞こえてくる。

 

「スターズ2とロングアーチへ…………」

 

 通信から男の声。ディエチはその声を知っている。別人だが、まったく同じ声を先程まで聞いていた。

 

「こちらスターズ1及びシャイニング1、ギリギリセーフでヘリの防衛に成功!」

 

 そして後から聞こえてきたのは、管理局のエースオブエース、高町なのはの声だった。

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

「助かったぜなのは…………俺一人じゃ防ぎきれなかったよ」

 

 

「それはお互い様だよ………賢伍君と一緒じゃなきゃ防げなかった」

 

 隣に立つなのはとそう会話を交わす。背後のヘリは旋回して、急いで離脱した。ヘリは無傷ですんだ。

 俺一人じゃ防ぎきれなかったであろうあの砲撃、直前でなのはもヘリの防御に参加してくれたのだ。限定解除のエクシードモードを発動させ、俺に重ねてバリアを張ってくれてたお陰で砲撃を防御できたのだ。

 

「けど、賢伍君………あの魔力……」

 

 

「あぁ、俺も感じたよ………あの砲撃……闇の魔力が少し混じってた……………奴がどこかにいる」

 

 1度対峙したことあるなのはにも感じたようだ。奴の魔力を、だからこそあれほどの威力だったのだろうか?

 

「だが今はあそこのビルの屋上にいる二人の確保だ、フェイトは?」

 

 

「もう向かってるよ」

 

 

「仕事が速くて助かる」

 

 だったら俺も援護にまわるか。ヘリを砲撃して上等してくれた奴等をただで帰させるわけがなかった。

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

「あら~」

 

 

「闇の賢伍が無理矢理威力を上げてきた砲撃を…………マジかよ」

 

 ビルの上で計画が失敗したことに驚く二人。二人は高町なのはの実力も、光の英雄の力も自分達が想定していものより上だった。そうなると、自分達と協力関係にある闇の賢伍ももしかしたらとんでもない化け物なのかもしれないと密かに思う。

 

「「っ!?」」

 

 などと考えていると二人がいるビルの屋上に黄色い魔力光の魔力弾の雨が降り注いだ。二人はすぐさま別のビルの屋上に移動して回避する。

 

「見つけた」

 

 その直後に、二人の背後から声がした。すぐさま振り返ると自身のデバイスであるバルディッシュを構えたフェイト・T・ハラオウンが。

 

「こっちにも!?」

 

 

「速い!」

 

 すぐに二人はフェイトから逃走を図る。クアットロは飛行していたがディエチは強化された身体能力でビルからビルへと跳んで逃げる。フェイトも飛行ですぐに追いかける。

 

「止まりなさい!市街地での危険魔法使用及び殺人未遂で、逮捕します!」

 

 そのような呼び掛けでもちろんクアットロ達は止まるわけがなく。

 

「今日は遠慮しときますー!………IS発動………シルバーカーテン」

 

 そう唱えると、クアットロとディエチが魔力に包まれて消える。転移ではなく、見えなくなったという方が正しい。

 

「っ!はやて!」

 

 

「位置確認!詠唱完了………発動まであと4秒!賢伍君も頼んだで」

 

 フェイトの呼び掛けが合図となり空高くいるはやては魔法を発動させる。

 

「おう!ちょうど試したい技もあるしな………フェイト、お前もなのはと一緒に位置についとけ、そっちに誘導させる」

 

 

「了解!」

 

 俺の言葉通り、フェイトは二人を追いかけるのをやめてその場から離脱した。

 

「離れた?なんで……」

 

 ディエチのその言葉にフェイトが離脱したことを確認するとクアットロは魔法をといて姿を表す。

 

「まさかっ!」

 

 そしてあることに気づく、視線のさきに高い魔力濃度を感じさせる黒い球体の存在に。

 

「広域……空間攻撃!?」

 

 

「うそぉ!?」

 

 俺らの部隊長を甘く見ないことだな!

 

「デアボリックエミッション!」

 

 魔法を発動させる。はやてとは別の空間に作った黒い球体は徐々に拡大していく。クアットロを達を飲み込まんとして。

 

「やばい!」

 

 飲み込まれたらひとたまりもない!その球体から逃げるため必死にディエチを抱えてクアットロは飛行する。少し体の一部が巻き込まれダメージを受けるが軽傷ですんだようだ。

 なんとか逃げ切れたと思いホッとする間もなく。

 

「待ってたぜ?」

 

 

「っ!?」

 

 空間攻撃から逃げるにはそれと反対側に移動しなければ避けられない、当たり前のことだ。そしてそれを見越してそこに待機していた俺と鉢合わせになるのは当然のことだ。

 

「宿れ…………」

 

 刀身を撫でて魔力を込める。イメージは………。

 

「全てを切り裂く疾風の刃!」

 

 

「まずい!」

 

 二人は再び俺から離れるべく逃走を図る。そして俺は叫ぶ。新たな俺の刃を!

 

風鳴斬(ふうめいざん)!!」

 

 それを振るった瞬間、俺の回りに竜巻のような現象が起こる。無論、魔力がそう見せているようにしているだけで実際には鋭利な魔力弾が一定範囲を高速にぐるぐる竜巻のように回っているだけだ。

 しかし、触れれば………。

 

 

 プシュ

 

 

「くっ!」

 

 刃と同じように切れる、かまいたちと言えば分かりやすいだろうか。ディエチが軽く触れた部分が切り裂かれる。まぁ非殺傷設定だから死にはしない。そして俺はさらに退路を制限するべく規模をどんどん大きくする。

 既に二人はもう届かない距離まで逃げられている。が、逃げられるのは予想済みだ。あとは………。

 

「決めろなのは!フェイト!」

 

 逃げる場所を予測していた場所に待機していたなのはとフェイト達の番だ。俺とはやてで追い込み、止めはこの二人だ。

 クアットロとディエチを二人で挟む形で各々デバイスを構える。

 

「しまった!」

 

 クアットロが誘い込まれたことに気づいた頃にはもう遅い。既に二人は準備完了だ。高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの二人のエース級魔法………全力ではなくとも破壊力は絶大、魔力チャージは…………完了している!

 

「トライデント………」

 

 

「エクセリオン…………」

 

 その絶大な魔力を………。

 

「スマッシャー!!」

 

 

「バスター!!」

 

 放つ!

 

 

 

 ドオオオオオオオン!!

 

 

 

 2つの絶大な魔力を挟み撃ちで打ち込まれる。ひとたまりもないはずだ、これで…………っ!

 

「っ!避けられた!」

 

 

「直前で救援が!………シャーリィ!」

 

 なのはとフェイトが自身の砲撃を避けられた事実をすぐ認識してすぐに指令室に反応を追うよう求めた。

 

『反応…………ロストしました』

 

 

「逃げられた………」

 

 フェイトが悔しそうにそう呟く。これで完全に取り逃がしてしまったと後悔する。

 

「あー、その事なんやけど………」

 

 

「はやてちゃん?」

 

 上空にいたはやてがなのはたちと合流して、頭をポリポリと掻きながら口を開く。

 

「すぐに賢伍君が追ったみたいやで?」

 

 そう、困ったようになのは達に伝えた。

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

「ふぅー、トーレ姉様………助かりました」

 

 

「感謝………」

 

 クアットロとディエチはそう言葉を溢しながら脱力する。砲撃が直撃する直前でトーレという同じくナンバーズの女性に助けられたのだ。

 

「ボーッとするな、さっさと立て………馬鹿ものどもめ」

 

 トーレがやれやれといった感じでそう言葉を紡ぐ。そもそも監視役としてついてきていたらしく、それですぐに救援に入れたようだ。

 

「セイン達とも合流した。さっさと戻るぞ」

 

 その言葉通りすぐそこにはセインに、ルーテシアとアギトがいる。ルーテシアはクアットロのそばによると口を開いた。

 

「お兄さんは?」

 

 この場にいない闇の神崎賢伍について聞きたいようだった。

 

「さぁー?けど彼なら大丈夫でしょう?」

 

 正直クアットロからしたらどうでもいいことだがここでルーテシアを不安にさせるような言葉を選ぶ理由もなく、思ったことを口にした。

 

「さぁ、さっさと戻るぞ。お嬢、転送を………」

 

 トーレがルーテシアにそう頼む。ルーテシアは頷いて魔法を発動しようとする。

 

「ちょっと待ってもらおうか?」

 

 

「「「っ!?」」」

 

 全員がその場からステップで離れた。突如現れたその男から離れるために。

 

「危険魔法使用に公務執行妨害、殺人未遂にえーと………とにかく色々と逮捕だ」

 

 

「光の英雄…………神崎賢伍!」

 

 苦しそうにトーレが目の前にいる人物の名前を口にする。闇の賢伍と瓜二つとはいえ、そのまとう魔力と雰囲気でどっちか何てすぐに分かる。

 

「俺の仲間を打ち落とそうとしてくれたんだ…………むざむざ逃がすと思うなよ?」

 

 俺は刀を突きつけプレッシャーを与える。そこで一人が怪しい動きをしているのを俺は見逃さなかった。背中まで伸びた髪にエリオたちと同じくらいの年の子供だ。ルーテシアと呼ばれていた情報があったかな?

 

「おい、転送か?止めておくんだな、それを発動する前にお前ら全員拘束するのは難しくないぞ」

 

 闇はジェイル・スカリエッティと協力関係にあると言っていた。つまりこいつらとも面識がある可能性は高い、そしてそれならば俺の力も理解しているはず。

 とはいえそれはハッタリだ、流石にリミッター解除なしでそれは厳しいだろうな。だが、ハッタリは通じたようで妙な動きを止めてくれたようだ。

 

「さぁ、大人しく投降しろ!」

 

 俺がそう言うが全員その気は無さそうだった。一人は俺の隙をうかがい、一人はいつでも離脱できるように、一人は構えて俺といつでも闘えるように。

 当のトーレ達も焦っていた、全員束になっても勝てる見込みは少ない。このままで全員捕まる、それはトーレだけでなくナンバーズ全員が思っていた。

 

SH『マスター、投降の意思は見受けられません。実力行使を提案します』

 

 

「乗ったぜシャイニングハート…………行くぜ?………手加減は出来ねぇぞ!!」

 

 俺は刀を振りかざし、敵に単身突っ込む。

 

「っ!」

 

 余裕はない、少し辛いが………全員一撃で制圧する!その気で俺は刀を振るった。

 

 

 

ガキン!

 

 

 耳に響いたのは鉄と鉄がぶつかり合う音。火花を散らし俺の刀を誰かが防いできた。しかし、感じたことある手応え……そして俺の刀を防いでいる黒い刀を見て俺はすぐに誰か分かった。

 

「やっぱりいたのか…………そろそろ出てくる頃合いかと思ったぜ?」

 

 

「ほう?おもしろい…………それは俺が防いでくると予想してたということか?光の英雄」

 

 

「あぁ、そうだよ…………闇の俺!」

 

 そう言い合い、互いに後ろにステップして距離を取る。目の前にいるのは宿命の敵、闇の俺自身。前回は大敗を期し絶望したが、今の俺の刀に迷いはない。

 

「闇の賢伍!貴様一体どこに?」

 

 トーレが闇を睨み付けながらそう言う。実際こうなる前に合流してさっさとアジトに戻りたかったというのが本音だった。

 

「うるせえ奴だな………ジェイルに指示されたんだよ……お前らが本当にピンチになったときのために隠れて様子を伺えってな………たく、ジェイルも俺にこんなことさせやがって」

 

 

「やっぱりか…………」

 

 俺の睨んだ通りだった。あの例の砲撃には闇の魔力が含まれていた。なのに、闇自身はどこにもいない。どこかに身を隠していると考えるのが妥当だった。

 

「お兄さん…………」

 

 ルーテシアがホッとしながらそう呟く。どこにも姿が見えなくて案じていたらしい。が、ルーテシアはその感情に自覚はなかった。

 

「ルーテシア!集団転送だ」

 

 

「うん」

 

 闇の指示通りルーテシアは魔法陣を展開させ準備を始めた。

 

「行かせるか!」

 

 俺は疾風速影でルーテシアの前に移動して斬りかかる。

 

 

 ガキン!

 

 

 が、それもさっきと同じ人物に止められる。

 

「悪いな光の英雄、今日はこのままずらかるんでな…………」

 

 

「ふざけるな!」

 

 闇の刀を弾き返し、すぐに弐撃めを振るう。

 

 

キン!

 

 

 しかし、闇の対応も速い。再び刀と刀が火花を散らせた。

 

「くっ…………邪魔をするな闇の賢伍!」

 

 

 キン!

 

 互いに刀を振り合う。何度も

 

 

 キン!

 

 

 何度も

 

 

 キン!

 

 

 何度も。打ち付け合う刀と刀、だが俺は感じた………自分の成長を。……見える………奴の刀の動きが前より………見える!

 

「そこだぁ!」

 

 刀を打ち付け合いながら見つけた僅かな闇の隙。それを見極めら奴の額目掛け突きを放つ。

 

「っ!ちっ」

 

 奴はすぐに反応して首を曲げて回避する、だが俺の攻撃はそれでは終わらない。刀の持ち手とは逆の腕、左手で拳を作り奴の腹に叩き込む!

 

 

 ドゴォ!

 

 

「くっ!?」

 

 確かな手応え、闇は後ろに仰け反りながら吹っ飛ぶが足はしっかり地につけ、倒れはしなかった。だがこの瞬間、俺は始めて闇にまともな攻撃を当てることができたのだ。

 俺は一度闇から距離を取り、離れる。闇はほんの少し悶絶していたがすぐに顔を上げて俺と目があった。

 

「ククク…………くはははははは!!!」

 

 そして高らかに笑いだした。

 

「腕を上げたな光の英雄!!そうだ、それでいい神崎賢伍!お前は強さを求め続けるんだ!」

 

 狂ったように笑いだし、至上の笑顔を浮かべながらそう口を開く闇。

 

「貴様に限界はない!だからさらに力をつけろ!もっともっとなぁ!……………だが、いくら力をつけても………お前は俺には勝てないがな」

 

 

 プシュ

 

 

「っ!?」

 

 闇がそう言葉を紡ぐと、俺の右肩がバリアジャケットごと少し裂けた。別に痛みはそうないほどの傷だか、血がだらりと垂れる。どうやらいつの間にか斬られていたようだ。まだ、奴の動きを見極められてはいないようだ。

 奴に拳を叩き込んでなかったもっと深い傷だったかもしれない。

 

「覚えておけ光の神崎賢伍…………光は闇に喰われる運命なんだとな…………」

 

 そう言うと闇の神崎賢伍達とルーテシア達ナンバーズが魔法陣に包まれる。ルーテシアの集団転送が始まったようだ。

 これはこのまま逃がすしかないな。どのみち闇の神崎賢伍が乱入した時点でこいつらを捕まえる余裕なんてなかった。

 

「俺は一度お前に敗れた。けどな、それで俺は諦めないと誓ったんだ」

 

 たとえ闇がどんなに巨大な力の持ち主でも俺はそれを越えればいいだけのこと。単純な答えを導きだして、強くなるって誓った。

 

「いつまでも俺より上にいられると思うなよ闇の神崎賢伍!俺は絶対にお前をぶったおす!」

 

 刀を突き付けて俺は闇にそう言い放った。そして闇はナンバーズたちとともに転送された。転送される直前で、俺の言葉を聞いた闇の表情はそれでいいと言わんばかりに顔を緩めていた。

 またしてやられたが自分の成長を感じることが出来た俺は絶望ではなく、希望を抱いていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






どうもです。3月になりましたね、読者皆様には卒業や進級などが関わっているかたもいらっしゃるのではないでしょうか?また、社会人の方達はいつも通りですかね?
 今回は長くなってだれてしまいましたが、光の英雄もアニメの話数としては、半分を越えました。

一旦節目として、読者の皆様に深くお礼申し上げます。次はほのぼの回の予定?

では、次回話にて!閲覧ありがとうございました!


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サブストーリー2 ~男の拳~


ほのぼの回と言ったな?あれは半分嘘だ。そして本編ではないという予定外。しかし、本編とは繋がっているのでみてほしいです!


 

 

 

 

 

 これは起動六課が設立してから一週間が経った頃の話。ファーストアラートでさえ起こる前の時期だ。

 

「ふぁ~………あぁ……」

 

 

SH『大きなあくびですね。だらしがないですよマスター』

 

 

「時間が時間なんだ………大目に見てくれよ」

 

 俺の大きなあくびに対してのシャイニングハートがそう言葉をかけてくる。しかし先程いった通り大目に見てほしかった。

 なんといっても時間は夜中の3時。一緒の部屋で寝ていたなのはも未だ静かに寝息を立てていた。勿論この時間帯で起きたのには理由があるわけで、

 

「あ、いたいた………。よう、ザフィーラ」

 

 

「む………?」

 

 その理由であるザフィーラに声を掛ける。

 

「賢伍か………早いな、お前もトレーニングか?」

 

 

「いや、今日は違うんだ」

 

 ザフィーラは頻繁に朝早くにトレーニングをしていたことは知っていた。俺もちょくちょく自主トレをしている所を何度か見かけていたから。

 

「ザフィーラ、お前に用があるんだよ」

 

 

「私にか?」

 

 ザフィーラは本来管理局には入隊していない。しかし、この起動六課にいるのは守るべき主であるはやてのそばにいるため。普段は獣状態で過ごしているが今みたいに皆が寝静まっているタイミングで人型になりトレーニングに勤しんでいるのだ。

 

「あぁ………。なぁ、ザフィーラ………俺と勝負してくれないか?」

 

 

「…………気にしていたのか?例の約束を」

 

 

「…………まぁな」

 

 ほんとはこんなこと申し込める立場ではない。俺が………皆の前から失踪する少し前の話だ。俺は一度ザフィーラとある約束をしたんだ。俺はそれを………破ってしまったのだ。

 

「私は最初から気にしてない。お前が失踪した理由も聞いたからな、仕方なかったと分かっている」

 

 

「それでも…………」

 

 それでも………破ってはいけない約束だったんだよ。ザフィーラ…………。

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 ~賢伍が失踪する数ヵ月前~

 

 

 

「よう、ザフィーラ」

 

 

「む、賢伍か」

 

 この日俺ははやての家に遊びに来ていた。中学を卒業してから2ヶ月ほど経ち、俺やなのはとフェイト、はやては久しぶりに休みを貰えた。

 小学生の頃から管理局の仕事を受け持っていたとはいえ、今度は学生と言う言い訳が聞かなくなり仕事の量は増大。地球にいる時間の方が少ないくらいだ。そこでせっかく貰えた久しぶりの休み、はやて宅で4人とアリサにすずかを加えて皆でお茶会を開くこととなった。それで今は矢神家の番犬に徹しているザフィーラに挨拶をした所だ。

 

「お前以外はもう来ていた。早く行ってやれ」

 

 なのはの家で居候してるからなのはと一緒に出ようと思っていたら既に部屋には居なかった。どうやら先に行ってしまったようだ。まぁ仕方ないだろう……………寝坊したからな。起こしても起きなかったて桃子さんにも言われたし。

 

「おう、サンキューな」

 

 そのまま家の扉をあけてお邪魔することにする。

 

「あら、賢伍君いらっしゃい」

 

 玄関ではシャマルさんが出迎えてくれた。

 

「もう皆お部屋で待ってるわ、どうぞ」

 

 

「お邪魔します。シャマルさん、シグナムとヴィータは?」

 

 

「二人は今日はお仕事よ」

 

 なるほど、矢神家はたまたま今日ははやてとシャマルさんだけが休みか。シャマルさんに案内されてはやての部屋の前に立つ。シャマルさんは「ごゆっくり」と言い残して居間に戻っていった。完全にお母さんみたいだな、料理ははやて担当だけど。

 

「おーす、遅れてごめんなー」

 

 扉を開けて俺はそう声をかける。

 

「お、待ってたで」

 

 

「たく、遅いじゃないのよ!」

 

 

「あ、久しぶりだね賢伍君」

 

 はやてはともかく、アリサとすずかとはすずかの言う通り久しぶりの対面だ。卒業以来かな?おっ、フェイトとなのはもいた。

 

「賢伍、なのはが怒ってたよ?起こしても中々起きなかったて」

 

 

「え、マジかよフェイト………なのは、機嫌直してくれよ」

 

 

「寝坊助さんと喋る口は持ち合わせておりません」

 

 と、なのははご立腹のご様子だ。確かに悪かったけどそこまで言わなくてもいいじゃないか。

 

「まったく、相変わらずみたいね二人も」

 

 

「アリサ、お前もあんまし変わってねーけどな」

 

 

「賢伍…………それは褒めてるの?それとも逆?」

 

 

「後者だろうな、お前を褒める要素が見つからな……………いたい!まて、久しぶりに会った友人をいきなり殴るの!?お前はサイコパスか!?………あ、ごめん、嘘です!だから拳を納めて…………いたい!」

 

 会って早々洗礼を受ける俺。アリサも相

変わらず俺に対しては暴力的なのは変わらない。それが異性に対して気になる相手だからついそうしちゃうとかなら可愛いものだがこいつに関しては違う。

 だってマジだもん、痛いもん。

 

「うふふ、アリサちゃん4人に久しぶりに会えるのすっごく楽しみにしてたもんね~」

 

 

「ちょっ、すずか!余計なこと言わないでよ!」

 

 

「おっ?ツンデレか?ツンデレだったのか?でもごめんな、俺はお前みたいなやつタイプじゃな……………だから痛いってば!?」

 

 ちょっと冗談を言えばこの小娘はすぐに俺に暴力を振ってくる。まったく、癒し系のすずかとはえらい違いだ。

 俺とアリサとすずかの出会いはなのはがこの二人と友達になった少しあと。なのはに紹介される形で俺がこの二人とも友人と呼べる関係になったのだ。

 そして、俺が両親を原因不明の事故で亡くして、自分以外の誰もを拒絶し引きこもっていた時代に高町家全員と一緒に俺を励まし続けてきてくれた恩人でもある。だからこの二人には感謝してる、しているが絶対に表には出さん。

 

「ふん!まぁいいわ………そういえば賢伍?あれは持ってきたわよね?」

 

 あれ?あぁ…………。

 

「中学の参考書のことか?お前に言われたから持ってきたぞ、なんだって今更こんなもの」

 

 アリサとすずかは高校生、俺達がもし魔法に出会わなければ今頃通っていたであろう高校と言う所で日々勉強を頑張っている。昨日メールで頼まれたときには中学の復習でもしたいのかなと思っていたが。

 

「ふふ、じゃあ始めるわよ…………」

 

 アリサが俺がバックから取り出した参考書を見るとニタァと怖い笑みを浮かべる。

 

「は、始めるって………何を?」

 

 よく見るとアリサだけじゃなくフェイトやなのは、はやてにすずかまで似たような表情をしていた。

 

「ふふふ…………お・べ・ん・きょ・う」

 

 語尾にハートが付きそうな言い方でアリサは言葉を発してきたが、生憎俺には恐怖しか感じなかった。

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

「うぅ…………なんだよ因数分解って、勝手に分解すんなよ、自然のままにしておけよ……」

 

 ただいま自分で持ってきた参考書とにらめっこしている。事の発端はなのはたち魔導師3人のせいだ。俺たちは地球出の魔法使いということで地球での義務教育を終え、

本格的に管理局で働くことになってから訓練学校に通いながら仕事をしている。

 が、すでに数々の事件を解決している俺達には実戦の訓練ではなく座学のみ参加という形だ。問題はそこだ、魔法を主としている世界だから勉強も勿論魔法について。

魔法物理学なんて科目もある。そして、魔法の基本のマルチタスク………、簡単に言えば同時に数種類のことを考えること。

 変な例えになるがテレビを見ながら読書をしてゲームをするような行為だ。で、それを高めるために地球にも存在した数学といのもあるのだが、察しのとおり俺は勉強はダメダメだ。特に数学が苦手だ。それを3人から聞いたアリサが、

 

「だったら勉強会よ!」

 

 とのことらしい。アリサ達も普通に知っている知識だから俺に教えられるだろうとのことだ。どうせ本音は俺を苦しめて面白がるためだろう、とはいえ俺のための勉強会だから了承してペンを握りしめた………までは良かったのだが……………。

 

「ホラホラ、まだ問題はあるだからちゃっちゃと解きなさい!」

 

 アリサが竹刀を持ち出してくるほどのスパルタなのだ。やはりこいつはこの状況を楽しんでやがる。というかどっから取り出したその竹刀。

 仕方なくもう一度しっかり問題文を読んでみる。

 

 

 次の式を因数分解しなさい

 

 

「分かるかぁ!?」

 

 まったく理解してない人間にこれは無理だ。

 

「ほら、ここはこうして………こうすればいいんだよ………」

 

 

「おお?おぉぉ!」

 

 なんでそうなったか全く分からないが式を解いていくフェイト。すごい、輝いて見えるぞ!

 

「ありがとうフェイト………やっぱりお前は黒い天使………」

 

 

「解けなかったから問題追加ね♪」

 

 

「んなこったろうと思ったよ黒い悪魔!」

 

 黒い悪魔に指示された問題は数個あった。一個分からなかったら複数増やすとは鬼畜の極みである。

 

「…………分からん!」

 

 やはりこれに尽きるのだ。

 

「皆、お茶入ったで~」

 

 そう言いながらお盆を持って部屋に入るはやて。いつの間にか部屋からでて準備をしたのか。各々ありがとうと言いながら受けとる。が、全員にいきわたった所で俺の分がないことに気づく。

 

「あれ?俺のは?」

 

 

「それ解けるまで渡さへんで?」

 

 とニヤニヤしながらそう言ってきた。ほぉ?俺にだけ何も渡さないと?本気で悲しかった。

 

「ま、それは可哀想やからな………後でちゃんと持ってきたあげる…………」

 

 

「なんだ………」

 

 いじめられてると思ったじゃないか。まったくビックリさせる………。

 

「その問題解けへんかったらシャマルが淹れたやつな?」

 

 

「「「「ブフゥー!!」」」」

 

 それを聞いたはやてと俺以外の4人が口に含んでいたお茶を思いっきり吹いた。そして全部狙ったかのように俺の顔にかかった。はやては「それは私が淹れたやつや~」と笑いながらそう言って4人はホッと胸を撫で下ろしていた。

 俺はすずかに「ごめんね?」と手渡されたハンカチで顔を拭くがなかなか顔の水分は取れなかった。同時に冷や汗も出ていたからだ。絶対に解こう、そう思い再度問題を確認した。

 

「よ、よし!絶対に解く!」

 

 1問目!

 

 

AB = DC、AB // DCの△ABCと△CDAがあるとする。このとき、角ABC = 角CDAで合同あることを証明しなさい。

 

 文の下には明らかに同じ大きさ、形の三角形が2つ。

 いわゆる証明問題。

 

「下に書いてある図、明らかに同じ、いわゆる合同じゃん!?わざわざ証明する必要はねぇだろおおおおおおおお!?」

 

 叫んだ。思いっきり叫んだ。中学生時代これは俺以外のクラスメイトもあたまを悩ませていたことを思い出す。

 ええい、とばそう次だ次!

 

 

 2問目!

 

 

 

 

タテの長さが4cm、横の長さが5cmの長方形ABCDの周上を、点Pは毎秒1cmの速さで、AからB、Cを通ってDまで移動します。

 

PがAを出発してからx秒後の△APDの面積をy c㎡とするとき、yはxの変化にともなってどう変化するのか説明しなさい。

 

 

「動くなぁぁぁぁ!点P動くなぁぁぁぁ!!落ち着けぇぇぇえ!?」

 

 これもとばす!次は!?

 

 3問目!

 

 

確率が1/2のコイントスを100回行った。仮に表が8回連続してでたら終わりとし100回トスして成功率は何%になりますか?

 

 

「暇人かぁぁぁあ!?誰が好き好んでそんなことするかぁぁぁ!?そんなに暇なら勉強しろぉ!!」

 

 人のことは言えないが心底そう思った。ちなみに結局問題は1問も解けず、シャマルさんがニコニコしながら持ってきたお茶を頂いた。その後のことは覚えてない、無自覚の料理下手ほど怖いものはないと思った。

 俺なんて小学生時代に作った料理をなのはに試食させたら気絶させるほどうまいものを作ったというのに………………。

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

 俺が目覚めた時、5人は台所で昼食を作っていた。時間を確認すれば正午から約50分前、すこし早すぎやしないかと思ったがどうやら凝ったものを作るようでだいぶ時間がかかるよう。

 ならばただ座ってるのも居心地が悪い。

 

「俺も手伝うよ」

 

 

「あ、私も」

 

 まずい!シャマルさんまでそんなことを言い出した!?

 

「「「「お前は台所に立つなぁ!」」」」

 

 

「賢伍君もね!!」

 

 揃ってそう言われてしまった。シャマルさんは「ひどいです!?」なんて言っている。シャマルさんはともかくなんでなのはは俺にまでそんなこと…………?

 疑問は募るばかりだが、とりあえず料理もかなり時間がかかるようだし俺はなのはたちに適当に一声掛けてから八神宅をでる。そしてすぐそこにいた狼形態のザフィーラに声をかける。

 

「ザフィーラ、ちょっと付き合えよ」

 

 

「む?」

 

 何の用だと疑問を浮かべていたが、俺の重い声を察してくれたのか、ザフィーラは黙って俺についてきてくれていた。

 

 

 

 

………………………………………………。

 

 

 

 

 お互い何も言葉を語らずに歩き続けて数十分、とある廃校になった学校の体育館に無断に進入し俺とザフィーラは向き合う形で歩みを止めた。

 

「こんなところまで連れてきて何のつもりだ?」

 

 狼形態だから表情は掴みづらいが、とくに怒った様子もなくザフィーラはそう口を開いた。

 

「なに、ここなら思いっきり出来るだろうと思ってな」

 

 そう言いながら俺は懐にしまってある刀の鍔、シャイニングハートを足元に置く。

 

「なんのつもりだ?」

 

 その行動を見たザフィーラは再び疑問の声をあげるが俺はその問いには答えず今度は上着を脱いで動きやすい格好になる。それから手首や足首、首をコキコキと鳴らしてから俺は口を開いた。

 

「ザフィーラ、俺と今ここで闘ってくれないか?…………魔法は無しの、拳と拳でさ」

 

 それが俺のザフィーラの用件だった。ようはザフィーラと肉弾戦での戦いを所望していた。シャイニングハートを手放したのも、下手に魔法を使わないようにするためだ。

 

「ほう…………何故だ?」

 

 ザフィーラがそう疑問の声をあげるのは当然の事だった。ザフィーラは俺がどれだけザフィーラとの拳の勝負を望んでいたか知らないのだから。

 

「以前俺はお前に拳でボコボコにされたからなぁ、覚えてるか?……………俺とお前が始めて対峙したときのこと」

 

 俺とザフィーラが始めて出会ったのは始めてはやてと出会って、家に招いてもらったときだ。まぁ、狼形態だったが。

 幾度となく説明したが俺が闇の書事件が起こったときに取った行動はなのは達の味方でもなければ守護騎士達と手を組んだ訳ではなかった。互いのことを知っていたからこそ、俺は間に立って闘いを止めることを選んだ。それで余計な混乱を招いたことは幾度もあったが、当時の俺はそれが正しいと信じていた。

 そして、その際に始めて対峙したのは人型に変化したザフィーラだった。なのは達も守護騎士達も傷つけたくなかった俺は魔法は最低限の防御だけに使い、拳で闘いを挑んだ。

 

『お前らがやってることは仕方ない理由があるのは分かってる!お前らは本当は優しい奴らって俺は知ってるからな!………だから、まずはぶん殴ってお前から詳しいを事情を聞かせて貰おうかザフィーラ!』

 

 

『………主はやての友人とはいえ、我らも譲れない目的がある。容赦はしないぞ、神崎賢伍!』

 

 

 

 結果はボコボコにされてKO負けだった。それ以降もザフィーラだけでなく俺は全員に拳で挑み続けた。事件で本気を出したのは、最後の暴走プログラムとの決戦の時ぐらいだったかな……………。

 

 

 

「俺は事件が終結して時が経った今でも、お前に拳で負けたのが悔しいと感じていた。だから、俺はもう一度お前と闘いたい!闘って、勝ちたいんだ!それに………俺はあのとき、時には魔法とは違う強さが必要なときがあることを知ったんだ」

 

 だからこそ、魔法だけじゃなく体術の訓練も惜しまなかった。その成果を、体術で確かな実力を持つザフィーラで試したくもあった。かなりわがままな要求だったが………。

 

「ふっ、いいだろう…………」

 

 そう言葉を発するとザフィーラは狼形態から人間形態に変化した。あっさりと了承してくれたザフィーラに驚く。

 

「だが私にも騎士としての誇りがある。手加減はしない」

 

 

「当たり前だ、そうじゃなきゃ困るよ」

 

 なるほど、ザフィーラも戦士の端くれ。闘いを挑まれたら自身も燃えてきたのだろう。だから簡単に了承してくれたわけだ。

 

「なら準備はいいな?構えろザフィーラ…………」

 

 

「……………………」

 

 互いに両手に拳を作り構える。それから無言で制止し続ける。時間はもうすぐ正午を示そうとしていた、お互いに始まりの合図は言葉にしなくても理解できた。

 

 

コーン!コーン!

 

 

 海鳴に正午を知らせる鐘が鳴り響く、そしてそれが開始の合図だった。

 

「ふっ!」

 

 

「っ!」

 

 先に仕掛けてきたのはザフィーラだった、数メートル離れた場所からワンステップで俺の目の前に移動する。そして、そのまま右手のつを向けてきた。

 

「くっ!」

 

 

パシッ

 

 

 直ぐ様反応し、俺は左手でザフィーラの拳を包んで防ぐ。

 

「はぁ!」

 

 が、無論それでザフィーラの攻撃が止むわけではなく、続けざまにもう片方の腕で拳を見舞ってきた。

 

「うぉ!」

 

 だが俺もバカではない、セオリー通り逆の腕を使ってくることくらいわかっていた。ならば、俺はその前に膝でザフィーラの脇腹に一撃を食らわせる!

 

「ぐっ!………はぁ!!」

 

 しかし、俺の目論みは外れた。脇腹のダメージで怯んで止まるかと思っていたザフィーラの拳は止まることなく俺の脇腹に一撃を入れた。

 

「ぐふっ!?」

 

 一瞬肺の空気を全て押し戻されるような感覚に見舞われたが、俺の膝の攻撃が効いていたのかダメージはあるものの思ったほどではなかった。そして、互いに脇腹にダメージを抱えながら二人でバックステップをして距離を取る。俺もザフィーラもすでに額に汗を浮かべていた。

 

「…………腕をあげたな、賢伍」

 

 

「あぁ、お前もなザフィーラ………」

 

 今は平和な時が流れていてもザフィーラも俺も強さへの探求をやめるわけなかった。まだ見ぬ強さへ、境地へとたどり着くために。

 

「へへっ、ますます燃えてきたぜ…………」

 

 

「ふっ、私もだ………」

 

 互いにニヤリと笑い、再び拳を構える。ジリジリと足を地面に擦り付け間合いを伺う。焦って攻撃を仕掛ければ反撃を受けるのはザフィーラの構えから感じるプレッシャーで分かる。伺う、機を伺う。そして、それはザフィーラも同じだった。

 

「っ!」

 

 ザフィーラが再び拳を作り迫ってくる。今の俺の状態を好機と見たのかは分からない、しかし俺もただその拳を受けるほどお人好しじゃない。

 

「おおおお!!」

 

 俺も拳を作り反撃を狙う。互いの拳が互いの顔面を捉える。そしてザフィーラの拳が俺の眼前にまで迫ったときだった。

 

「「「「「何やってんのおおおおおおおおお!!!!???」」」」」

 

 この場には似合わないツッコむのような口調で5人の女の子の声が響き渡り、俺とザフィーラの動きはピタリと止まる。なのはたちだった。俺が中々戻ってこなかったからか俺のシャイニングハートの魔力をたどり探してきたようだ。

 無論この後の俺とザフィーラの勝負は止められて二人して正座で説教を受けるはめになった。粛々となのはとはやてに大目玉をくらいながら俺はザフィーラに念話で用件だけ伝えた。

 

「(ザフィーラ、今度は…………半年までにはぜってぇー管理局の仕事で休みを作る。その時まで勝負はお預けだ)」

 

 半年という長い期間を選んだのはそう簡単に休みを取らしてくれないからだ。

 

「(心得た。…………楽しみに待っている)」

 

 そう念話で言葉を交わして、二人して笑みをこぼした。俺もザフィーラも楽しみだからだ、次の再戦が……………。そして二人して笑うもんだから反省してないのかとさらに説教が長くなったことは多くは語りたくない。

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 

「それから数ヵ月で俺は自分勝手に皆の前から姿を消した。お前との約束も無視してな………………」

 

 昔を思い出すように俺は目を閉じてそう言った。実際その時のことを思い出していた訳だが。ザフィーラも黙って俺の言葉を聞きながら二人して歩いてる。自然と歩が進んでいく方向へ歩いていた。

 

「さっきも言ったが仕方のない事情があったのだ。私達を巻き込まないためにという理由があったのだろう?」

 

 それまでずっと黙っていたザフィーラがそう口を開いた。確かに俺はどんどん自分の体を支配されていく闇が、仲間たちを傷つけることを恐れて皆の前から姿を消した。だが、それでも…………

 

「俺はお前との約束は破った…………その事実は変わらない」

 

 きっと俺は自分でも心残りだったんだろう。果たせなかった約束を、楽しみにしていたザフィーラとの対決を実行に移すことができなかったことを…………。

 

「だから、お前がよければ…………今果たしたいんだ。4年越しの約束を」

 

 いつの間にか二人の歩は止まっていた。たどり着いたのはいつも新人達を毎日しごいている訓練所だった。いつの間にか俺達はここに向かっていたようだ。

 

「今なら誰にも邪魔されない、闘うには絶好の場所もある…………どうだ?ザフィーラ………」

 

 とてもこんなことを言える立場じゃないし、おこがましいことだ。けど言わない訳にはいかなかった。言いたかったんだ。

 

「俺と………勝負してくれ」

 

 まっすぐにザフィーラを見つめて俺はそう言葉を発した。はたしてザフィーラはこの提案に乗ってくれるのだろうか不安だった。突然の申し出だし、俺は一度その約束を破った。だから勝負を受けてくれるかどうか分からない。だがその不安は杞憂だったようだ。

 

「ふっ、勿論だ…………」

 

 ふっと軽く笑みを浮かべてザフィーラはそう即答した。迷わず、考える素振りをせずに。ただ、嬉しそうにそう言った。

 

「いいのか?………」

 

 俺がどういう意味でそう言ったのかは伝わっただろう。しかし、ザフィーラは口調を変えずに続けた。

 

「愚問だ。私も望んでいたに過ぎないのだからな…………」

 

 なるほど、と言葉には出さなかった。ザフィーラも戦士だ、俺と一緒で血がたぎっているのだ。4年経とうと、中途半端で終わった闘いの続きに飢えていてくれてたのだ。俺と同じで。

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 だから俺達は示し会わせたようにたどり着いた訓練所に黙って入り。対立するように向き合って構えを取る。

 

「いくぜ………」

 

 

「こいっ!」

 

 4年前とは異なるスタートの合図だった。

 

「「うおおおおおおおおお!!」」

 

 二人の咆哮が重なり、辺りを響かせる。互いに全力で突っ込みながら拳を振りかざす!

 

 

 ドゴォ!

 

 

 拳と拳がぶつかり合い鈍い音が響く。だが、不思議と拳に痛みは感じなかった。それはザフィーラも同じようだ。そして、一度拳を引っ込め右足でザフィーラの

こめかみを狙う。

 

「うらぁ!」

 

 

「ぐっ!」

 

 間一髪でその追撃は腕で防がれる。だかこんな簡単に攻撃の手は休めない!

 

「はぁ!」

 

 拳を。

 

「このぉ!」

 

 足を。

 

「おらぁ!」

 

 肘、膝。いかなる体の部位を使い追撃する。しかし、

 

「ふっ!」

 

 ザフィーラにことごとくガードされ、時にはかわされる。完全に俺の動きに対応されている。

 

「くっ!」

 

 これでは俺のスタミナを無駄にするだけだ。そう判断し一度距離を取った。が、それはすぐに判断ミスだと理解することになる。

 

「っ!」

 

 距離を取って離れたはずのザフィーラがすぐ目の前にいた。すでに拳を握りしめ、俺に向かって降り下ろされようとしている。俺の攻撃が止まるまでの隙を突かれていたらしい。なすすべなく、俺はザフィーラの拳をみぞおちに食らった。

 

「がぁっ!?」

 

 肺の中の空気が押し戻され意識が飛びそうになる。目の前の景色は歪み、吐きそうになる汚物を慌てて引っ込めた。しかし俺はそのような状況になっても集中は切らしていなかった。

 

「ふっ!」

 

 ザフィーラの追撃の拳を察知して、ガードをする。殴られた腕に衝撃を感じた、上手くガード出来たようだ。俺はそのまま再度ステップで後ろに跳んで距離をかせぐ。

 ザフィーラの追撃は無かった。

 

「はぁ………はぁ………はぁ…」

 

 

「はぁー、ふぅ………」

 

 お互い今の攻防ですでに息が上がる。思っている以上に拳の勝負ではスタミナを使う。結局はスタミナを根性でどうカバー出来るかだが。

 

「………うおぉ!」

 

 

「っ!」

 

息が上がっている相手に休ませるほど俺は甘くはない。自分も同じだがそこは気持ちでどうにかする。俺は大降りで拳を振りかざしザフィーラに全力で突っ込む!

 

「はぁぁ!」

 

 ザフィーラも同様にこちらに全力疾走で向かってきた。あっという間に二人の距離は縮まり互いの拳が相手の顔面を捉える。

 

「ぐっ!」

 

 

「がっ!」

 

 顔を殴られ互いに体をふらつかせる。だが、倒れない。倒れるわけにはいかない。

 

「ぐ、ふぅ………うおお!!」

 

 そして、体をふらつかせながらも次に拳を見舞ったのザフィーラだった。

 

「がはぁ!」

 

 殴られて体がさらにふらつく。が、歯を食い縛り耐える。ここで倒れたら負けだ。負けたくない、絶対に!

 

「おらぁ!」

 

 今度は俺が体をふらつかせながらザフィーラに拳を見舞った。相手のボディーの捉えて、叩き込む。

 

「ぐふっ!…………」

 

 ザフィーラがさらに体をふらつかせたが、倒れなかった。負けたくないというのはザフィーラも同じこと。そして再びザフィーラが俺に拳を叩き込んできた。

 

「ぐっ!………この!」

 

 そしてまた俺が拳を叩き込む。それが延々と繰り返された。二人ともかわさなかった。互いの拳がどんどんふらついてもかわさなかった。意地だ、意地が二人に交わすと言う動作を許さなかった。どちらが先に倒れるか、ただそれだけ。

 

「ぜぇー…………ぜぇー………」

 

 

「はぁ…………はぁ………はぁ」

 

 完全に二人の息は上がり、限界を超えていた。薄暗かった景色も徐々に朝日が上っていく。それでも闘いは終わらない。まだ、二人とも立っているから。

 

「ザフィーラぁ!」

 

 

「賢伍ぉ!」

 

 体感で何時間も闘っている気分だった。あれからどれくらい経っただろうか、もう限界を超えていた俺とザフィーラの闘いもむちゃくちゃになっていた。途中で互いに肩を掴み合い頭突きをしあったりなどとにかくむちゃくちゃだった。お陰で余計頭はフラフラしている。奴も中々の石頭だ。

 そんなこんなでいまだ闘っている俺達は気付かなかった。

 

「一体何事なの!?」

 

 

「っ!……………なのは?」

 

 すでに朝日が顔を出し、もう訓練の時間になってしまっていた。なのはだけでなく新人4人もいた。それだけじゃない騒ぎを聞きつけたのか、はやてやフェイト、ヴォルケンまでも訓練所に集まっていた。

 

「おいおい………もうそんな時間だったのか」

 

 俺もザフィーラも、まさかそんな長時間闘っているとは思ってもなかった。

 

「なにしてんのや!?ケンカか?ケンカかいな!?」

 

 珍しくはやてがおろおろしながらそう言った。ザフィーラが絡んでるからだろうか。

 

「ははっ、ちげぇよ。決着つけたいだけさ、拳で、どっちが強いのかさ」

 

 

「な、なんでや?そんな傷だらけになって!ザフィーラ!もうやめてや、これ以上は許さへんで!」

 

 はやては少し怒っていた。怪我をしてまでそんなことをしなきゃいけないのかと、純粋に心配して怒っていたのだ。自分の家族であるザフィーラの事もあって。

 

「申し訳ありせん、しかし今だけはご命令に背くことをお許し下さい。我が主」

 

 それまでずっと寡黙でいたザフィーラが口を開いた。そしてその言葉にはやては驚く。

 

「ザフィーラ…………」

 

 普段ザフィーラははやての言うことには忠実だ。それをはやてが強要しているわけではないがザフィーラの性格上今まで逆らったことなど無かった。だからはやてもそこまで気負わなくいいという言葉を掛けるのもその内なくなった。

 そのザフィーラが、はやてにその言葉の通りに出来ないと告げたのだ。

 

「これは………私と賢伍のプライドを掛けた闘いなのです………」

 

 そうはやてに言いながらふらつ足をしっかり地面つけてザフィーラは構える。

 

「負けたくない、勝ちたい。その意地の張り合いなんだ。だから途中でなんて終わらせられねぇんだよ、はやて」

 

 俺もそうはやてに言葉を掛けながらフラフラする体をしっかりとさせながら同じように構える。

 

「絶対に負けるなって言ってるんだ、この俺とザフィーラの男の拳ってやつが!!」

 

 下らないと投げ捨てればそれまでだ。だけど俺達の間にある拳っていう魂の繋がり。繋がってるからこそ、勝ちたいと思う。俺は一度負けたから、だからその負けた拳でリベンジして魔法とは別の強さを追求し続けるために。そして、ザフィーラにも一度負かした相手に負けるわけにはいかないという意地がある。

 

「だからこそどちらかが倒れるまでこの闘いは続けます。なにより私は………」

 

 

「俺は…………」

 

 

「「お前には絶対に負けたくない!!」」

 

 重なる俺達の思い。それを聞いたはやてやなのは達は好きにしろと言わんばかりに言葉を発しなくなった。そして………

 

「さぁ、仕切り直しだザフィーラ………行くぜぇ!」

 

 

「あぁ!!」

 

 再び、拳と拳の攻防が始まった。

 

 

 

……………………………。

 

 

 それからまた長時間闘った。体はボロボロ、互いに多少出血すらある。殴られた後のアザなど数えきれないほど出来た。だが互いの実力は拮抗していた。だから終わらなかった。今も俺とザフィーラは膝をガクガクさせながら立っている。もう完全に、激しい動きは出来なかった。

 

「ぜぇー、ぜぇー、ぜぇー、はぁ、ぜぇー」

 

 

「はぁ……はぁ……ぜぇー……」

 

 息なんかもうずっと整っていない。

 

「はぁ、はぁ、…ザフィーラ……」

 

 絶え絶えな息を我慢しながら俺は言葉を発した。ザフィーラは返事はなしなかったが、肩で息をしながら目線だけはこっちをしっかり見ていた。

 

「はぁ………はぁ……もう……俺もお前も限界だ………次の一撃で決めるぞ…………」

 

 

「………あぁ」

 

 これ以上は続けられない。ザフィーラもそれが分かったから了承した。お互い渾身の一撃を狙う。先制で先に食らわせるか、交わされてカウンターで自分が食らうか。お互い食らって耐えた方の勝ちか…………。とにかくこれで終わる。ぎゅっと拳を握る。これで、最後。あたりに緊張が走り、ずっと見守っていたはやて達は生唾を飲んだ。

 

「……………………………」

 

 

「……………………………」

 

 お互い探りあい機を伺う。下手に仕掛ければやられるだけ。慎重になっていた。そうな状態が数分続き…………。

 

 

「っ!うおおおおおお!!」

 

 先に動いたのは、ザフィーラだった。一瞬で俺の目の前に移動して拳を降り下ろす。今までの攻撃で一番速く、俺の対応が遅れたような形になった。眼前にザフィーラの拳が迫っていた。

 

「っ!」

 

 ザフィーラは勝利を確信した。自分が繰り出した拳は既に賢伍の顔面に触れるかどうかの距離。この自分の全力の拳を決めれば既に満身創痍の賢伍は戦闘不能になるだろう、賢伍の対応が遅れたこともありザフィーラは勝利を確信したのだ。だが、それはザフィーラの驕りだった。

 

「神龍流体術……………」

 

 そう、この時を待っていたのだ。対応が遅れた?ちがう、まだ速かっただけだ。拳が迫っている?ちがう、待っているのだ。

 いかなる生物にも気を緩めてしまう瞬間がある。これもその一つ、攻撃を当たると思う瞬間、勝利を確信した瞬間。どんなに気を配っても気を緩めてしまう瞬間だ。そこを狙う、その一瞬が一番の無防備な状態。

 

「っ!?」

 

 神龍流体術は神龍流剣術の技を取得するために必要な体術だ。剣術という体に負担が多い技に耐えうる肉体を身につけるために、まずは体術を学び体を鍛える。だが俺は剣術を速く身に付けたくてその修行は最低限に済ませてすぐに剣術を学んだ。それが魔法において強くなるための近道だと思ったから。

 だかそれは闇の書事件の時に否定された。時に相手を傷つけないように闘わなきゃいけないときがあると知り、俺はザフィーラに敗北したのを切っ掛けに体術も学んだ。そしてこのために唯一取得した技。

 

「虎落とし!!」

 

 相手に一番無防備な状態を誘うためにギリギリのギリギリ、攻撃を受けるコンマ一秒前に仕掛けるカウンター技。針のようにするどく、ジャブのよりも早いパンチを繰り出す。相手が無防備なぶん、決まればとてつもない威力を与えられるがタイミングが少しでもずれればまともに攻撃を受けるというリスクがある諸刃の剣。

 本当は4年前の勝負のために取得した技だが、ようやく披露することができた。

 

「ぐおおっ!?」

 

 その一撃を、ザフィーラのボディーに叩き込む。完全に成功だ。ザフィーラは後ろにふっとんでそのまま地に伏した。

 

「…………やった……俺は……ザフィーラに……っ!」

 

 勝利を全身で噛みしめ、喜びを感じていた。勝てたので、一度負けた相手に勝てたのだ。俺は………拳で!

 だが、次に俺の目に飛び込んで来たのは俺にとって信じられない光景だった。

 

「ぐっ、………ぐぅぅ、おおおお!!」

 

 ザフィーラは、雄叫びをあげながら。必死に、立ち上がろうとしていた。

 

「な…………虎落としを食らって……立てるのかよ……」

 

 しかもすでにボロボロの状態であったのにだ。信じられない。

 

「ぐううう、おおおおおおおおお!!!」

 

 立ち上がった。ザフィーラは立ち上がった。体はボロボロ、足元はおぼついている。しかし、目は死んでいなかった。

 

「テオオオオオオオオオ!!!」

 

 呆気にとられた俺の隙をつき、ザフィーラは再び俺の目に一瞬で距離を詰めてくる。拳を握りしめて。

 

「しまっ………!」

 

 

 ドゴォ!

 

 渾身の一撃が俺のアゴをアッパーの形で捉えられた。体が中に浮き、そのまま地面に叩き付けられる。意識が飛びそうになるがそれはこらえた。が、体が動かなかった。

 

「く………くそ……」

 

 油断した。勝利を確信して無防備になってしまうのは俺も一緒だった。やられた、俺の負けか…………。

 

 

 ドサッ

 

 

 そう思ったが視界の端に見えたザフィーラが突然倒れた。どうやら虎落としの影響はあるみたいだ。最後に立ち上がったのはあいつの意地とプライドだったんだろう。その支えも限界に達したようだった。

 

「おいおい………二人して倒れたらどっちが勝ったかわかんねぇじゃねぇかよ」

 

 

「…………そうだな……」

 

 二人とも立ち上がることが出来ないから寝たまま言葉を交わす。

 

「………………ちぇ、引き分けなんて納得しないぞ俺は」

 

 

「結果的にそうなったのだ、仕方があるまい」

 

 ザフィーラも不満そうな顔をしていた。納得してないのはお互い様のようだ。

 

「ザフィーラ!」

 

 

「賢伍君!」

 

 二人して倒れたから経過を見守っていたはやてやなのは達が駆け寄ってくる。ゆっくりと二人して抱き抱えられる形になった。

 

「あぁもう………こんなに顔腫らして………」

 

 シャマルがそう呟いて「医務室で治療の準備してきます!」といいながら宿舎に向かって走っていった。

 

「二人してボロボロになってもう~頭が痛い…………」

 

 そういって頭を抱えて悶えるはやて。

 

「ははっ、悪いな………」

 

 

「申し訳ありません………」

 

 二人揃って謝ることしか出来なかった。

 

「とにかく医務室や!皆でこのバカ二人を運ぶの手伝ってな」

 

 

「それなら私車回してくるよ」

 

 そういってフェイトも宿舎に向かって走っていった。

 

「俺達はもう大丈夫だ。フェイトが戻ってくる頃には動けるようになってるから皆も今日の作業や準備があるだろ?」

 

 最後に迷惑かけてすまないと伝えて皆には一旦戻ってもらった。はやても渋々ながら戻った。この部隊で一番忙しい身なのだから。

 

「後で二人ともお説教だからね!」

 

 なのはに関してはそう言い残して戻っていった。その言葉に俺はただ苦笑するしかなかった。そして、回りには俺とザフィーラ二人だけになる。

 

「ぐっ………いつつ」

 

 なんとか上半身を起こして座る形になる。体が悲鳴をあげるがなんとかその態勢になる。ザフィーラも同じように苦労しながらも同じ態勢をとった。

 

「ザフィーラ………」

 

 

「む?」

 

 同じようにボロボロの姿になったザフィーラを呼ぶ。

 

「今回は引き分けに終わっちまったけどよ、“次“は負けねぇぞ?」

 

 次、再び闘おうと俺は提案する。それはあとどれくらい経ったらするのかとかは考えていない。だけど、俺はそう言った。そして拳をザフィーラに向ける。

 

「ふっ、それは私のセリフだ…………」

 

 そう言ってザフィーラは口許を緩めながら俺の拳に自分の拳をぶつけた。

 

 

 コツン

 

 

 合わさる拳が互いに認めあった証。顔が笑顔なのはお互いに仲間だから。俺たちは再戦の約束をした、今度は破らない。互いに認めあった仲間だから、ライバルだから、破るわけにはいかない。

 

「楽しみにしてるぜ………ザフィーラ……」

 

 

「ああ……」

 

 一日の始まりを知らせる、まぶしい朝日に照らされながら俺たちは笑顔でフェイトが来るのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いやぁ、かなり執筆が遅れました。これを機にペースを元に戻せるように努力します。さてさて、実は本編の予定だったのですがこちらを少しずつ書いていい加減投稿するかと思いこちらにさせていただきました。

 本編と無関係というわけではないので目を通してくれて嬉しい限りです。次回は本編に戻って、ついに皆さんの大好きなあの娘の登場です(´・ω・`)


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子供をあやす魔法の言葉?


たまにはこんなバカみたいに暴走した回を書きたくなったりします。
 
ちょっとやり過ぎた感は否めない、反省はしてる。後悔もしてる。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みすみすと敵を全員逃してしまった俺は、とりあえずはやて達の元に戻った。逃げられた事を報告し、新人達の様子はどうかと思いすぐにヴィータ達のとこに移動して、現状を聞くことにした。

 

「お、お初お目にかかります!108部隊のギンガ・ナカジマです!」

 

 通信で2、3度言葉を交わしたギンガにそう敬礼までされたがとりあえず今は会釈だけで済ます。ちゃんとした挨拶は後にして、今知りたいのは報告だった。悔しそうなヴィータに事情を聞くと捕まえてた召喚師とレリックを奪われたらしい、リィンも一緒に落ち込んでいた。俺も逃がしたのは一緒だったからお前らは悪くないと言葉をかけたが聞く耳持たずだった。

 

「あ、あのヴィータ副隊長………」

 

 そんな中気まずそうに声をあげたのがスバルだった。

 

「今報告中だ、後にしろ」

 

 バッサリと切り捨てるヴィータをまぁまぁとなだめて俺はどうした?と声をかける。

 

「あの、ずっと緊迫してて切り出すタイミングがなかったんですけど………」

 

 そう困った顔をしながら言うのはティアナだった。

 

「「うん??」」

 

 首を傾げる俺とヴィータにティアナとスバルは困ったようにどう説明しようかと苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

………………………………………………。

 

 

 

 

「ふぅ、やっと戻ってこれた………」

 

 

「お嬢の集団転送のお陰ですね、ありがとうございます」

 

 

「うん」

 

 場所は移り、転送で光の英雄から逃げ仰せアジトに向かう通路まで戻ってきたナンバーズ一行。それにルーテシアにアギト、闇の賢伍の姿もあった。

 

「あぁ、セインちゃん………箱の中確認」

 

 

「はいよー」

 

 クアットロにそう言われセインは早速箱の封印を解除して中身をあけた。

 

「ジャジャーン!………ってあれ?」

 

 しかし、そこには何も入ってはいなかった。

 

「からっぽ!?」

 

 

「どういうことだ!」

 

 

「そんなはずは…………」

 

 セインが慌ててモニターを展開し、自分が箱を奪った際の熱源探知の画像を出した。それを全員で見るが………

 

「ケースは本物みたいだけど…………」

 

 特におかしな所は見当たらなかった。が、トーレがすぐに気づいた。

 

「馬鹿どもが、お前らの目は節穴か!」

 

 

「ふふっ、どうやらお前ら………あのガキ共4人に一杯食わされたようだな………」

 

 そう笑いながら声をあげるのは闇の賢伍。闇はモニターの前まで移動して

 

「ほれ、ここだよここ」

 

 ある場所を指差していた。そこは、キャロの頭部を指差していたのだった。

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

「なーるほどぉ………」

 

 人通り説明を受けたリィンが感心の声をあげる。ティアナ達の説明によると奪われたケースは本物だったが先に中身だけ取り出してケースに封印をかけて取り出したレリックは直接戦闘の少ないキャロの帽子の中にティアナが幻術で花のついたカチューシャに変えて頭部に着けて隠していたのだ。その説明通り、ティアナがパチンと指を鳴らすとカチューシャはレリックに戻り、俺達の前に表れた。

 

「は、はは…………」

 

 ヴィータは半笑いだった。自分があんなに悔しがってたのは何だったんだろうと思ってるのだろう。

 

「ははは!お前らぁ……………よくやったぞ!!」

 

 俺はそういいながらFW4人全員を両腕で引き寄せて抱いて持ち上げる。

 

「わ、わわわ!!」

 

 全員慌てているがそんなのは関係ない、すごく誉めてやりたかった。なんてったってこいつらのお陰で俺達はレリックを死守出来たのだから。きっとティアナやキャロだけでなくスバルやエリオだって敵に近付けないようサポートしていたのだ。全員を誉め殺してやりたい。

 

「今日のMVPはお前ら4人だ!なぁ?ヴィータ?」

 

 

「え?あ、あぁ………そうだな」

 

 俺が笑顔でヴィータにそう声をかけるとヴィータはようやくちゃんとした笑みを浮かべたのだった。そしてそれを一歩離れた所で見ていたギンガは一人こう呟く。

 

「なんだか、親しみやすそうな人だなぁ………」

 

 初対面ながらそんなことを思っていた。しかし、それと同時に今日遭遇したもう一人の神崎賢伍はいったい何者何だろうとも思っていたのだった。

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

「すいませんお嬢、愚妹の失態です……」

 

 トーレは自分の妹達がしてやられたことを知るとすぐにルーテシアにそう言葉をかける。

 

「別に………私が探してるのは11番のコアだけだから……」

 

 ルーテシアがそう素っ気なく言うと何処かへと歩き出す。

 

「なるほど、これは6番か………」

 

 ケースに記されているナンバーを確認した闇の賢伍がそうボソッと呟く。

 

「おいルーテシア!お前は先にゼストと合流してろ、俺はジェイルに顔を出すからよ。後で追い付く」

 

 そう闇に言われルーテシアは歩みを一旦止めて振り返り黙って頷いた。アギトも心配そうにルーテシアを見つめて後に続く。

 

「アギト、ルーテシア励ましとけ。後で泣き付かれてもめんどうだからな」

 

 

「けっ!お前に言われるまでもねぇよ」

 

 ルーテシアに聞こえないように闇がアギトにそう告げる。アギトは悪態をつきながらルーテシアの隣に並んで一緒に外に向かっていった。

 

「お嬢には甘いんだな、お前」

 

 

「うるせぇぞ、ディエチ。さっさとジェイルのとこに行くぞ」

 

 闇は舌打ちしながらそう言うと歩みを進め始めた。先頭で歩いていると後ろからは完全に警戒されているナンバーズの視線を感じた。歩きながら闇は振り返り

 

「いい加減俺はお前らの敵じゃねぇってことを理解して欲しいんだがな」

 

 その場にいるトーレ、クアットロ、ディエチ、セインに口を開く。

 

「無理だな、ドクターはお前を信頼しているようだが私達は今すぐにそう思うことは出来ない」

 

 トーレのその言葉に闇は「だろうな」と言葉を足しそのまま前に向き直った。

 

「けど、今回助けられた事は事実だから感謝はしてるよ。全員」

 

 そう言葉を紡いだのはディエチだった。ディエチの意外な発言に全員面食らった顔をする。

 

「ふん」

 

 闇はその言葉に鼻をならしただけだった。

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

「あぁ、なのは………お前もいたのか」

 

 

「あ、賢伍君………」

 

 あの後俺は多少の後処理と引き継ぎを済ませてすぐにここ、聖王教会が管理する聖王医療院に足を運んだ。ここに今日連れ帰ったあの女の子がいるのだ、今はベッドの上で静かに寝ているようなのだが一度様子を見に行きたかったのだ。

 

「こんなとこでなにやってんだ?」

 

 なのははここの病院の売店らしきとこの前に突っ立っていた。すでに時間は夕日を照らし出している頃、売店に人はいなかった。

 

「これ………あの娘にいいかなって……」

 

 そう言って指差したのはウサギの人形だった。売店の商品のようだ。

 

「あぁ、確かに一人じゃ心細いだろうからな。持っていってやるか」

 

 そう言って俺は懐からメモ用紙を一枚ちぎって取りだし、普段常用しているペンで「ウサギの人形を頂きました」とメモをカウンターの上に置いて、さらにその上に表示されている代金よりも少し多めにお金を置いておく。ウサギの人形をなのはに手渡して二人で女の子のいる病室へ向かう。

 

「あとで払うよ」

 

 

「これくらいで気にすんなって」

 

 俺の懐はそれなりに潤っている。望んでないが英雄と呼ばれれば管理局から下りる給料も多すぎるくらいだ。まぁ、そこらへんはなのはも同じだろうけど。

 

「ん、ここだな」

 

 そんなこんなで二人して歩いてれば直ぐに件の病室にたどり着いた。寝ていると言っていたが念のため軽くノックをしてから扉をあける。開ければ目の前には当たり前に普通の病室な訳で、中央のベッドに点滴で繋がれた少女が安らかに寝息を立てていた。

 なのはは黙って先程買ったウサギの人形を枕元に置く。様子を見に来て少し安心した、やはり直接確かめないといてもたってもいられなかったから。

 

「ママ………ママどこ……?」

 

 ふと、少女の口からそんな言葉が漏れた。寝言だろうか、なのはの腕を無意識に掴んでそう言っていたのだ。

 

「……………………」

 

 

「……………………」

 

 なのはと目が合う。なのははどこか切なそうな表情を浮かべていた、たぶん俺も似たような表情だったかもしれない。行き場がない女の子が寝ているときもそんな不安げな様子を見せられたらそんな顔にもなる。

 

「パパ…………パパァ…………」

 

 ママの次はパパを探し始めた。なのはの腕を掴んだ手とは反対の手をふらふらとさせていた。俺は咄嗟に、自分の手を渡していた。

 

「………………スゥ」

 

 ママとパパを夢の中で見つけたのだろうか、安堵した表情で再び寝息をたて始めた。なのはは「大丈夫だよ………」と励ますように声をかけていた、それでも表情は切なそうで。

 俺の手を握り返しているこの女の子の手はとても小さくとても弱々しかった。だけど俺の手を必死に握ろうとしているのは伝わった、軽く握り返してあげる。

 

「この子は…………」

 

 人造魔導師………その言葉はギリギリ発しないで済んだ。なのはになんでもないと伝えて一人考え込む。なんでだろう、俺とこの子は赤の他人。きっとほとぼりが冷めたら専用の施設に送られてしまうのだろうか。それが一番いい選択かもしれない…………でも何故だろう。まだ言葉も、何も交わしてないこの子を見てると………

 

「俺が…………護ってやるからな」

 

 そう思っていた。俺自身の手で護りたいと思ったんだ。寝ている女の子の表情がすこし緩んだように見えたのは、きっと気のせいじゃないと俺は信じたい。

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

 翌日、俺は六課のロビーではやてにフェイトと一緒にいた。とりあえず現状の確認とこれからの事を話し合っている所だ。昨日はヴィータ達も闇の俺と遭遇したらしいし、直接戦闘は行っていないことが不幸中の幸いだった。一緒に遭遇したギンガには後日しっかり説明すると伝えて帰ってもらったが。だが、そんなことも今の俺にはもっと気になることがあった。

 

「そんなそわそわせんでも大丈夫やって賢伍君……………」

 

 

「いや、別に俺は…………」

 

 はやてにそんな指摘をされ、俺は少しぎょっとする。

 

「まぁ、気持ちは分かるけど少し落ち着いたら?」

 

 

「フェイト、だからそんなんじゃねえって………」

 

 確かに落ち着かない気持ちではあるけどさ……………いやそれがそわそわしてるって言うことか?

 

「そろそろなのはちゃんが帰ってくる頃やから、そこで聞けばええやろ?私が賢伍君を同伴させなかったのは悪いとは思っとるけど………」

 

 

「いやいいんだその事は…………」

 

 実は今日の朝、なのはとシグナムがあの女の子がいる聖王医療院に向かった。理由は女の子の様子を見に行くのとその女の子をこれからどうするか聖王教会の関係者と話し合うため。俺も同伴する気満々だったのだが、はやてに「賢伍君が行ってもしゃーないやろ?そんなことより軽く会議するからそっちに参加してや」とのことである。確かになのはとシグナムがいれば十分なのだろうけど俺は気が気でない。

 

「それで、査察のことなんやけど………」

 

 そういえば話の途中だった。少し振り替えって話を思い出す。地上部隊からこの起動六課の臨時査察があるとはやてがそんな動きがあることを察知したらしい。

 

「地上部隊の査察は厳しいらしいからね。今シフトや配置の変更命令が出たら致命的だよ」

 

 

「うちはただでさえツッコミ所満載の部隊やからなぁ…………なんとか乗り気らなあかん……」

 

 そんな風に深刻そうに話す二人。確かに査察は面倒だ、結果によっては今後の六課のいく末を左右されかねない。

 

「どうせレジアス中将の手引きだろうしな、ねちっこいなぁもう」

 

 この間はレジアスのやり方は気に入らないが目指しているものは共感できるものもあると言ったが、矛先がこっちに向くのはやはり面白くなかった。

 

「まぁ、なんとかなるだろ。やましいことをしてる訳じゃないんだしな」

 

 

「あはは、能天気な賢伍が羨ましいや」

 

 

「止めろよフェイト………照れるだろ」

 

 

「誉めてないけどね」

 

 真顔でそんなこと言うな、悲しくなるから。今、そんな暗くなってたって仕方ないんだからいいだろうよ。

 

「それで、査察の対策にも関わる事なんだけど…………そろそろ六課設立の本当の理由、教えてくれないかな………はやて」

 

 その言葉に俺は少し表情が硬くなる。

 

「そうやね、まぁええタイミングかな。今日聖王教会の騎士カリムのとこに報告しにいくんや、クロノ君も来る」

 

 

「クロノもか?」

 

 

「うん。なのはちゃんも連れて2人ともついてきてくれへんかな?その時まとめて話すから」

 

 

「うん………」

 

 

「あぁ」

 

 フェイトがそう頷いて俺も返事を返す。俺を六課に誘うときに話した目的はあくまでで表向きというのは聞かされたが、ようやく本当の理由を聞けるわけか。

 

「もうなのはも戻ってるかも………」

 

 そう言ってフェイトがなのはに通信を繋げる。すぐに繋がりモニターに画面が写し出された。

 

『うわあああぁぁぁぁぁん!!いっちゃやだぁー!!』

 

 

『あぁ、ほら泣かないで?』

 

 モニターから聞こえてきた音声はまず泣き声だった。画面には六課の宿舎のロビーに戻っていたなのはが何故かその場にいる例の女の子に泣き付かれていた。なのははどうすればいいのか分からずおろおろとしていて、その場にたまたま居合わせていたのかFW4人も一緒におろおろしている。

 

「「「…………………………………」」」

 

 とりあえず俺達3人はそのツッコミどころ満載の状況をどこか冷静になって眺め、目を合わせれば思いはひとつだった。

 

「「「あやしにいこう」」」

 

 なぜそこにあの女の子がいるかは知らないがまずはそこだった。

 

「あぁ、あやすならあれが役に立つかもな…………二人は先に行っててくれ」

 

 俺はそう告げてまず自室に向かった。なんの役に立つか分からず変なテンションで買ってしまった例の物がここで活躍するとは思わなかった。

 

「どうしよう………嫌な予感しかしないよ」

 

 

「奇遇やな、うちもや………」

 

 二人はそんな賢伍の様子を一言でそう表すと、先になのはのいるところに向かったのだった。

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

「あー、あったあった!」

 

 自室のタンスから目当ての物を引っ張り出す。それを体に身につけて急いで目的に場所に向かう。途中で大あくびをしていたヴァイスとすれ違った。

 

 

「ようヴァイス!お疲れ!」

 

 

「あ、その声は賢伍さんじゃない……ってうわぁ!!?なんすかその格好!」

 

 

「子供をあやすのに使うんだよ。それじゃあな!」

 

 そのまま走り去る。一人取り残されたヴァイスはこう呟いた。

 

「あやすどころか泣き出しますよ賢伍さん…………」

 

 はやてとフェイトの嫌な予感は、当たっているようであった。

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

「ほら、こんにちわ~」

 

 ロビーではフェイトがウサギの人形を使ってうまく女の子をあやしていた。小さい頃のエリオやキャロ、それにすでに姪っ子や甥っ子がいるフェイトは手慣れている様子だ。ちなみに、そのウサギの人形は賢伍となのはが女の子の枕元に置いておいたもので、女の子が持ってきたようだ。

 

「おーす、待たせたな」

 

 そこで、賢伍が勢いよく扉を開けて登場した。

 

「あぁ、賢伍君待ってたで………っ!?」

 

 

「あ、賢伍君、やっと来………っ!?」

 

 

「「「「っ!!??」」」」

 

 その賢伍の姿をみて全員が開いた口を塞げなかった。そんなこともお構いなしに賢伍はなのはの腕を不安そうにぎゅっと掴んでいる女の子のもとにつかつかと近づく。

 

「…………………………」

 

 この異様な状態に明らかに場の空気は変わった。悪い意味で、それも賢伍の姿を見ては仕方のないこと。彼の姿は全身が黄色く所々赤のラインが入った服に身を包み、靴は明らかにサイズがでかすぎる赤色の物を着用。さらには赤いアフロの桂をかぶり、顔は過剰メイクでもしたのか顔面真っ白、そのわりには唇は真っ赤に染まっていてそう、まるでピエロのような姿だ。しかし、ただのピエロではない。

 ここから遥か遠い地球では馴染みのあるキャラクター。時に教祖様と崇められ、時に魔法の呪文で地球すら破壊できると言われ、一時期はテレビのCMで人気者なっていた。そう、まさしくその姿は!

 

「やぁ、僕は『ド〇ルド』!」

 

 と、変装のせいで不気味に見える笑顔を女の子に見せた。彼こそは地球では人気の某ジャンクフード店のイメージキャラクター。ドナ〇ド・マクド〇ルドだ。

 

「………………うぅ」

 

 そんな姿を見せられた女の子は徐々に表情を崩し………………。

 

「………?」

 

 

「うわあああぁぁぁぁぁん!!怖いよぉー!!」

 

 今まで以上に泣き叫び始めたのだった。

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

「なんでや!なんでよりにもよってそれをチョイスしたんや!」

 

 

「もう!せっかくあやしたのに…………」

 

 

「あぁ、怖かったねー、大丈夫だよ大丈夫」

 

 三者三様の反応を見せられ言葉に詰まる俺。何故だ?結構気に入ってくれるとおもったんだけどな…………。けど、怖がって泣き出しちゃったし…………。

 

「まぁ、落ち着け。ちゃんとネタはあるんだ、任せろ」

 

 そう言ってはやてのツッコミとフェイトの文句を止めさせて静かにさせる。ならばとっておきの物を見せてやろう。当事流行ってたからこの子も気に入ってくれるはずだ………。

 

「ラ〇ラ〇ルー!〇ン〇ンルー!!」

 

 ポーズを取りながら魔法の呪文を唱える。いやー、ほんとに小学校の時流行ってたからなぁ………。

 

「ド〇ルドは嬉しくなると、ついやっちゃうんだ♪」

 

 お決まりのセリフも忘れずに付け加える。

 

「ほらこの靴、大きいだろ?大きさは大体ハンバーガー4個分くらいかな?」

 

 

「……………………………」

 

 

「……………………………」

 

 

「……………………………」

 

 訪れるのは静寂。泣き叫んでいた女の子もキョトンとしていた。お?これはいい感じじゃないか?

 

「うわあああぁぁぁぁぁん!!」

 

 訂正、状況は悪化しました。

 

「あぁ、もう余計なことばっかりして!」

 

 なのはとフェイトが必死にあやしているがあまり効果は無さそうだ。

 

「センス無さすぎや!なんでマ〇ドのイメージキャラなん?どう考えても怖がるわ普通!!」

 

 

「マク〇?あぁ、関西なんかは〇ックのことそう呼ぶらしいな。ちなみに関東はマッ〇が主流だぞ」

 

 Mマークがシンボルのあのお店です。

 

「そんなうんちくはどーでもええねん!?なんでそれであやせるとおもったんや!」

 

 

「え?だって上手いじゃん。マクドナ〇ド」

 

 

「お前の頭はハッピーセットかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 はやてにコスプレ一式全部ビリビリに破かれた。安くなかったんだけどなぁ…………。

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

 というわけで、仕切り直しだ。

 

「君、名前は何て言うんだい?」

 

 余計に泣かしてしまったのは俺なので汚名返上のため、今度は余計なコスプレをせずにしゃがんでその娘の背丈に合わせて目線を合わせる。

 

「……………………………」

 

 しかし、一度怖がられたせいかなのはの足の後ろに体を半分以上隠してしまった。しかし、まだ顔を出してチラチラとこっちの事を見ている。まだ、チャンスはある。正直嫌われたまま出掛けるのは俺の心が痛いので何とか誤解を解きたい。できればなのはには行くところがあるから一旦離れてもらえるように説得もしてあげないと。

 

「俺は神崎賢伍って言うんだ、よろしくな」

 

 そう言って手を差し出して握手を求める。しかし、俺の手をじっと見るだけで握手には応じてくれそうもなかった。まぁ、それは予想済み。いきなり心を開いてくれる訳でもないからな、きっかけがいるだろう。俺はごそごそとポッケをまさぐりあるものを取り出した。

 

「飴、食べるか?イチゴ味」

 

 袋から取り出して赤色の球体を見せてみる。が、女の子は頭をふるふると横に振っていらないと意思表示をしてくる。仕方なくその飴は自分の口に入れる。まぁ、物で釣るのは良くないかと少し反省して別の手段を取る。といっても、後は正直な気持ちを言葉にするしかなかった。

 

「君は、そのお姉さんから離れたくないのかい?」

 

 その問いに女の子は軽く頷いた。

 

「そっか、でも大丈夫。そのお姉さんは君の前からいなくなったりしないよ。でもな?大事な用事があって一旦離れないといけないんだ。分かるね?」

 

 

「………いっちゃやだぁ」

 

 ますますなのはにぎゅっと腕に力を込めて離れたくないと言う。

 

「そうか、けどな?そうじゃないとそこのお姉さんは凄く困っちゃうんだよ………それでも駄目かな?」

 

 そう言うと女の子はますます不安そうな顔をした。離れたくない、でも困らせたくないと思っているんだろう。矛盾した二つの気持ちに戸惑っているんだ。

 

「それじゃあ、約束しようか」

 

 

「約束…………?」

 

 ようやく、女の子は俺に声を聞かせてくれた。

 

「その大事な用事が終わったら、すぐに俺がお姉さんを連れて帰る。約束だ」

 

 そう言って小指を付き出す。指切りげんまんってやつだ。きっとこの子は一度離れたらもう戻ってこないと思ってるんだろう、だから不安で不安で仕方がないんだ。すがるものも、頼りになるものも今はないのだから。だからそれを解消してやればいい。

 びくびくしながらも女の子は自分の手の小指を絡んできてくれた。

 

「指切りげんまん、嘘ついたらはり千本………いや、一万本飲んでやる………俺はちゃんと約束を守るからな!」

 

 安心させるために自信満々にそう言う。一番約束を破ってきた男が何をいってんだがと内心思ったけど今は関係なかった。

 

「…………信じてくれるかい?」

 

 

「………………………うん」

 

 ギリギリ聞き取れるくらいの声でそう返事をしてくれた。

 

「良い子だ…………飴、食べるか?」

 

 頭を優しく撫でてあげ、今一度イチゴ味の飴を差し出す。今度は頷いてくれたので女の子の口にそっと飴を入れる。

 

「上手いだろ?」

 

 

「………うん」

 

 

「噛まないでちゃんとなめるんだぞ?」

 

 その問いには声を出さず頷くだけだった。

 

「俺の名前は神崎賢伍、君の名前を教えてくれるかい?」

 

 

「………ヴィヴィオ……」

 

 

「ヴィヴィオか!可愛くて良い名前だな」

 

 もう一回頭を優しく撫でて、俺は立ち上がる。少しの間膝を曲げてたからかポキポキと間接が鳴る。

 

「ちゃんと良い子にして待ってたら、今度は違う味の飴をあげるからな。もちろん、お姉さんも連れてくるよ。いいかい?」

 

 ヴィヴィオはゆっくりと頷いて。少し不安な顔をしつつも掴んでいた手を離してくれる。なのはも一言すぐに帰ってくるからねと伝えて俺達4人はティアナ達に面倒を任せてロビーを後にした。

 

「最初からあぁすればいいものをあんたは余計なことばっかするんやからもぉ………」

 

 ロビーを出て廊下を歩いてる所ではやてに小突かれながらそう言われる。ドナル〇の何がいけなかったか分からないが、事実なので返す言葉がない。

 

「賢伍君が変なことしなかったらフェイトちゃんがあやしてくれてたんだよもぅ………」

 

 

「あはは、まぁでも後から思ったより賢伍………上手くヴィヴィオをあやしてたね」

 

 フェイトが少し感心したようにそう口を開いた。

 

「なに、大したことじゃないさ」

 

 俺も両親を失ってこの世に俺の頼れるものは何もないと不安だった時期があった。だから、女の子………ヴィヴィオの気持ちは痛いほど分かったような気がしただけだ。

 

「ふぅ……………」

 

 今は亡き父と母に思いを馳せる。突然死んだ両親、原因不明の事故など警察に言われても納得がいくわけがなかった子供の頃の俺。小学2年生の俺には塞ぎこむことしか出来なかった。頼りになる親戚もいなかった。手を差し伸ばしてくれた高町家、あの時の救われた気持ちと感謝の念を俺は忘れてなどいない。

 おかげで時間はかかったけど両親の死を受け入れて、ようやく遺品の整理をしだしたときに見つけたのはシャイニングハートだったから。

 

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 

 

それは…………あなたの両親です。

 

 

 

えっ!父さんと母さんがお前を作ったのか!?どうやって?どうしてそんなこと!?

 

 

それについてはお答えすることはできません。

 

 

ふざけんな!そんなこと言われて納得するかよ!!

 

 

お答えできません。しかし、あなたが欲している守るための力をあたえられます。そうすれば、いずれ貴方も…………あなたの父君と母君の意図にたどり着くはずです。いずれきっと…………………。

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

「賢伍君?…………」

 

 

「ん?あぁ、わりぃ………なんだっけ?」

 

 あまり答えの出てない過去の事を思い出しても仕方がない。何てったって相棒の俺でさえシャイニングハートについてはほとんど理解していないのだから。シャイニングハートが口を割らないのなら、俺は俺のするようにするしかないのだから。

 

「このまま教会本部に向かうって話だよ。フェイトちゃんが車にのせてくれるって」

 

 いつの間に話が変わっていたようだ。ふむ…………そうだな俺は………。

 

「俺はバイクで行くよ。後ろからついてくからさ」

 

 

「うん?なんでわざわざバイクでいくんや?乗せてってもらったらええやんか」

 

 

「定期的に乗らないと落ち着かないんだよ。まぁ、風になりたくなったんだ」

 

 そう言って俺はバイクを取りに行く。といっても皆もフェイトの車に向かってるから行き先は六課の駐車場だから一緒だ。ついたらすぐにヘルメットを取り出してかぶりバイクにまたがる。

 

「んじゃ、行くとしますかね。聖王教会に…………」

 

 俺はそう呟いてフェイトの運転する車に後ろにぴったりくっついてバイクを走らせる。全身で風を感じながら俺は思った。

 

「早く済ませて、ヴィヴィオちゃんになのはを会わせないとな」

 

 実はバイクで行くと言ったのも帰りは後ろに乗せて大急ぎに帰れるようにするためだったりする。まぁ、重要な話だから適当には済ませないがそれでも俺は早く終わればいいなと思うのだった。

 

 

 

 

 






バカにみたいにやり過ぎた。まさか〇ナルドを登場させるとは予定外。しかし、一度書いたら書き直すのは勿体なかったので許してほしいです。ネタが分かんなかったらYouTubeで「マック ドナルド CM」 で検索しましょう(´・ω・`)

 それと途中の短いシャイニングハートとのやりとりの回想はサブタイトル、「リフレッシュと魅惑の先生と恋の悩み」の時に出てきた回想の続きです。忘れた方はチェックしてみてください。
 閲覧ありがとうございます。では、次回話にてm(__)m


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騎士と英雄


 まさかここまでこのシーンが長くなるのは予想外。相変わらず余計なことばかり書く作者ですが今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m


 

 

 

 

 

 

 バイクを走らせて小一時間。スピードを出しすぎて管理局員に追われながらも何とか撒いて聖王教会に到着した。その時に後でバレないように魔法でナンバーを隠しておいたから問題はないだろう。

 

「この、アホ!」

 

 と、はやてにど突かれたのは言うまでもないだろうが。まあ、そんなこんなでようやくたどり着いた聖王教会の感想はとにかくでかかった。教会と言われればそんな雰囲気はあるけど建物自体が大きすぎてつい教会だと言うことを忘れそうだ。

 何度も足を運んでいるはやてについていき恐らくは応接室と言ったところか、部屋にたどり着く。とりあえず扉をノックする。

 

「どうぞ」

 

 そんな返事が返ってきたので、遠慮せず扉を開ける。

 

「高町なのは一等空尉であります」

 

 

「フェイト・T・ハラオウン執務管です」

 

 中で返事を返してくれたであろう人物にすかさずなのはとフェイトが敬礼をしながらそう言葉を発する。初対面の人物には最初が肝心だ、俺もしっかりとやっておこう。

 

「神崎賢伍…………一等空佐?だっけ?」

 

 やべぇ、自分の階級を忘れた。

 

 

ドゴォ

 

 

「ごふっ」

 

 すぐにとなりのなのはから脇腹に肘鉄が飛んできた。あぁ、良いとこ入った………。

 

「賢伍く~ん?一等空佐だよ?」

 

 

「う、あ、え~、神崎賢伍一等空佐であります」

 

 カッコはつかないがもう一度そう名乗って敬礼する。いや、普段自分の階級なんて名乗るような挨拶交わしてないから。忘れちゃうよそりゃぁ、…………いや普通忘れないか。

 

「ふふっ、はじめまして………聖王教会、教会騎士団騎士………カリム・グラシアです」

 

 俺となのはのやり取りを見てか一度微笑みながら同じく自己紹介するのははやてから何度か聞かされた人物、カリム・グラシア。この人が六課の後見人の一人だ。長い金髪なのが印象的だ。

 

「どうぞ、奥へ」

 

 そう言われ奥のイスとテーブルに案内される。イスにはすでにはやてが席に付き事前に聞かされた通り、同じく六課の後見人クロノの姿もあった。なのはとフェイトと俺は一言失礼しますと付け加えて席につく。

 

「ふふ、三人ともそう堅くならないで?」

 

 そこでカリムはそう口を開く。続けて言葉を被せてきた。

 

「私達は個人的にも友人だから、いつも通りで平気ですよ」

 

 私達とは恐らくはやてとクロノの事を言ってるんだろう。

 

「と、騎士カリムも仰せだ。普段通りで………」

 

 

「平気や」

 

 クロノとはやてがそう付け加える。それならと俺達3人は固くなっていた表情を少し緩めて口を開いた。

 

「それじゃあ、クロノ君、久しぶり」

 

 

「お兄ちゃん、元気だった?」

 

 フェイトのいきなりのお兄ちゃん発言に、一瞬クロノが頬を赤く染める。まぁいきなりは確かに照れるだろうな。

 

「それはよせ。お互いもういい歳だぞ?」

 

 

「兄弟関係に歳は関係ないよ、クロノ」

 

 それでもフェイトの表情はニッコリとしたままだ。この二人が兄弟になったばかりの時、どのように接してたのか気になるところだ。なれば、そんなクロノが弱味を見せてる時にむざむざ見逃す理由もないわけで。

 

「そういえばこの間の礼を直接言ってなかったな?」

 

 先日のティーダの件の事だ。頼むときにはわざわざ会いにいったが、礼は通信で済ませてしまったからな。良い機会だ。

 

「助かったぜ、ありがとうな。クロノ………いや、お・兄・ちゃん?」

 

 バカにするように語尾にハートマークがつきそうな感じで言ってみた。

 

「やめろ気持ち悪い、寒気がする」

 

 

「大丈夫だ、フェイトにそう言われて照れてたお前も中々吐き気がしたから」

 

 

「うるさいぞ、お前もふざける場所くらいわきまえたらどうだ?」

 

 

「これが普段通りなので、クロノお兄ちゃん?」

 

 

「おい、マジでやめろ。ホントに吐きそうだ」

 

 

「ああ、今のは自分で言ってて吐き気がした」

 

 お互い口を押さえて嗚咽を我慢する羽目に。なぜ俺がクロノをお兄ちゃんなどと呼ばねばならん。可愛い女の子に言われるならともかく言う願望はないぞ。自分で言っといてというツッコミはなしだ。

 

「ふふ、はやてに聞いていた通り……面白い方ですね。神崎賢伍さん」

 

 微笑みながらカリムはそう、言葉を紡ぐ。おそらなく皮肉でそう言ったわけではなさそうだ。

 

「はやてにどう俺について聞かされているか非常に気になるところだが、まぁいいか。俺は想像していたより、カリムさんが別嬪さんで緊張している所だよ」

 

 などと軽口を叩いてみる。実際美人さんだ、褒めても皮肉にはならない。

 

「あら、お戯れを」

 

 などと頬に手を当てて照れているように見せかけるカリム。が、別段この手の話題が嫌という訳ではなくて安心する。もしそうなら、頭から地雷に突っ込みに行くよう物だった。

 

「あぁ、俺も魅了されないよう気をつけ……いぎぃ!」

 

 言葉の途中で左足に激痛が走った。足元をちらっと見れば、なんのこともない。なのはが俺の足をグリグリと踏みつけているだけだった。

 

「調子にのらないの~。話が進まないでしょう~」

 

 

「痛い痛い、地味に痛いって。なにそんなに怒ってんだよ?」

 

 

「ふん、知らないもん」

 

 ぷいっとそっぽを向いて怒りだすなのは。いやいや、何を急にそんな…………。

 

「賢伍、お前も相変わらずのようだな」

 

 と、クロノに口を挟まれる。なんの事を言っているのかさっぱりだが、とりあえず俺をバカにしていることはよくわかった。

 

「コホン」

 

 と、はやてがわざとらしく咳をしてそろそろと雰囲気を変える言葉をかけた。さて、ふざける時間はおしまいだ。

 

「さて、早速機動六課設立の裏表と………今後の話をしよか………」

 

 はやての真剣な雰囲気に俺はただ首を縦に降って答えていた

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 クロノやはやて、それにカリムの説明はこれまでの事を踏まえての説明になった。まず、六課の表向きの活動内容はロストロギア、レリックの対策と独立性の高い少数部隊の実験例としての役割。これに関しては俺も前から聞かされていた。

 その六課の後見人を務めてくれているのが目の前にいるクロノとカリム、そしてクロノとフェイトの母親であるリンディさんだ。

 

「そして、かの三提督も設立を認め協力を約束してくれている」

 

 そのクロノの言葉には驚きを隠せなかった。管理局の三提督といえば知らない人はいないだろう、そのような人物たちが協力をしてくれているということは与えられている責務もそれだけ重いということだ。つまり、裏の目的が俺の想像を遥かに越えるほどスケールがでかいということ。

 

「その理由は私の能力と関係があります」

 

 カリムが立ち上がって俺達から少し離れたところで懐から紙の束を取り出した。そのまま説明を受ける。

 まず彼女の能力は俗に言うレアスキル。預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)と呼ばれるもの。名前の通り最短で半年、最長で数年先に起こる預言書の作成だ。といっても表示される文字は古代ベルカ語で表記されることで解釈の違いが生じてしまうことや1年に一回しか作成出来ないこと、さらには100パーセント的中するわけではないらしい。

 だが本人曰く、確率はよく当たる占い程度で無視はできないくらいだ。ページのひとはしを見せてもらったが当たり前に何て書いてるかなんて分からなかった。管理局の航空部隊のトップもこれには目を通して、あくまで予想情報として把握しておくらしい。

 

「ちなみに地上部隊はこの預言はお嫌いや、実質のトップがこの手のレアスキルがお嫌いやからな」

 

 あぁ、レジアス中将ね。うん、会ったことないけど多分俺も嫌われてんだろうなぁ。

 

「そんな騎士カリムの預言に数年前からある事件の事について少しずつ書きだされている」

 

 クロノがそう説明してカリムが頷くとその預言の内容を読み上げてくれる。その内容には覚悟していた俺でも驚きを隠せなかった。ベルカ語独特の言い回しで少し分かりづらい部分は理解できなかったが、大筋の部分はいやでも理解できしまう。

 

「ロストロギアをきっかけで始まる管理局地上本部の壊滅と…………管理局システムの崩壊………」

 

 カリムが分かりやすくそう言い直す。バカみたいな話だ、地球で言えば警察が政府が崩壊して無政府状態になると言っているようなものだ。

 

「不確定情報ということもありますが管理局の崩壊ということ事態があり得ない話ですから」

 

 確かにあり得ないだろう。それくらい管理局の基盤は固まっている、問題はそのあり得ないことがよく当たる預言書に記されたこと。問題のきっかけと思われる地上本部の壊滅という内容に関して地上本部が信じていないことらしい。

 だからレジアスの名前が先程あがったのだ。預言の内容を信じないレジアスは特別な対策はとらないらしい、本局は警戒強化を高めて協力を要請したが異なる組織が過度な要請をしては言い掛かりをつけられ政治問題にまで発展する。

 

「なるほどそういうことか…………何か起きたときに地上本部に対しては本局は主力部隊の投入は難しい、だが多少の裏技で地上本部で自由に動ける部隊が欲しかった。それが……………機動六課か」

 

 それなら全ての事象に合点がいく。こんなエースを集めた無茶苦茶な編成のメンバーでも。三提督が協力してくれているのも。

 

「その通りや、レリック事件で済めばそれでよし。大きな事件に繋がるなら最前線での活動を行う…………それが六課の意義や」

 

 三提督が協力してくれるということはそれだけ大きな責務がある。かなり危険なことになるのは覚悟しろということか。もしもカリムの予言が当たれば、世界を崩壊させるような事件を最前線で本局や地上本部が本腰をいれるまで六課だけで事に当たれということになるのだから。

 

「以上のように危険がとても伴う任務になるかもしれません」

 

 カリムが俺達を真っ直ぐと見つめて口を開く。その濁りのない目に見つめられ俺も咄嗟に背筋を伸ばす。

 

「改めて、聖王教会騎士団騎士カリム・グラシアがお願いします。華々しくもなく危険が伴う任務ですが…………協力をしてくれますか…………?」

 

 カリムが重々しい雰囲気をただよさせて頭を下げてくる。素直に首を縦に降るのが吉だろう。そんなことは分かってる、だが俺は………言わずにはいられなかった。

 

「……………重い………」

 

 

「…………え?」

 

 俺の予想外の返事に驚いたのかカリムが少し間の抜けた声をだした。

 

「………………話が…………重いわ!」

 

 叫ばずにはいられなかった。

 

「え?は?え?」

 

 分かりやすいくらい動揺するカリム。あたふたする姿は少し可愛らしさを感じるがそんな邪な考えを一旦追い払い俺は言葉を続けた。

 

「地上本部が壊滅とか管理局システムがなくなって世界が混乱するだとかなんだ?無駄にでかいスケールで重々しい話をしやがって………」

 

 俺は椅子から立ち上がり目の前のテーブルをバンっと叩いて言葉を続けた。

 

「いいか!この先に絶望的な未来が預言されようがしまいが俺のやることはかわんねぇ!仲間のために、自分のために闘うだけだ!」

 

 回りくどいのは嫌いだ。この際ハッキリさせたかった。カリムに対してだけではない、なのはたちにもだ。

 

「俺がなんではやての誘いに乗って機動六課に入隊したと思う?それは………」

 

 それは…………

 

「なのは、フェイト、はやて。この3人が俺を救ってくれたからだ!あんたも知ってるだろ?俺がついこの間まで失踪してたことは……」

 

 最初は呆気にとられてた俺以外の全員は今はしっかり俺の話を真剣に聞いてくれている。

 

「俺が今ここにいるのは俺の帰りを待ってくれていた仲間達全員のお陰だ。その仲間が俺の力が必要だと言ってくれた、今度は俺が助けるばんだ。そう思って入隊した!」

 

 だが状況は変わった。任務をこなしていくうちに俺は人々を救うこの仕事の素晴らしさ再確認した、仲間のためだけでなく自分のためにも闘うと気持ちが変化した。そして、後に知った自身の闇が敵対しているという事実。そいつに勝つためという目的が増えた。

 

「地上本部が崩壊しようが俺は多分仲間たちを優先する。六課の誰かがピンチならそっちに俺は駆けつける!」

 

 それが俺の本性。守りたいものは沢山ある。勿論ピンチなら顔を知らないやつだろうが誰であろうと俺は助けたい、どんな人にも手をさしのばしたい。だが、この任務はかなり危険なもの。仲間がピンチなるのはまず間違いない。そんなとき俺ならどうする?管理局を守る?仲間を守る?確証はない。カリムの願い通りそれを阻止することに全力を注ぐ選択をするとは限らない。だから、安易に首を縦にふることはできない。

 

「今ここで首を縦に振るのはカリム…………あんたに嘘をつくことになる。だから俺はこう説明した」

 

 

「確かに貴方ならそうおっしゃるのではと考えていました。しかし、神崎賢伍さん。この危機が訪れたとき光の英雄の力は必要不可欠と私は判断してお願いしています。私は、私なりの信念をもって………この事件に当たりたいのです」

 

 俺とカリムの言葉ですこし空気が静かになる。俺は意地悪を言いたくてこんな事を言っているわけではない。だから…………俺はそのカリムの言葉を聞いて…………笑みをこぼした。

 

「ははっ、分かった………神崎賢伍一等空佐、騎士カリム・グラシアの要請に全力でお答えします!」

 

 俺は姿勢を正してしっかりとした敬礼をしてそう答える。突然の手のひら返しにカリムの目は点になっていた。

 

「えっと………あの………よろしいのですか?」

 

 さっきまで必死に頼もうとしていたカリムだが今度はほんとにいいの?みたいな顔をしている。まぁ、仕方ない。種明かしだ。

 

「もっとも、最初から協力する気満々だったんだけどな、実は」

 

 

「え?しかし………さっきのは一体………」

 

 

「あぁ、悪いな。あれは演技、騎士団のカリム・グラシアという人間を見極めたかったんだ」

 

 俺とカリムは今日初対面。はやての友人とはいえ頭のてっぺんから足の指先まで信じるのはいきなりじゃ出来ない。

 

「あんたの言葉が真実かどうか…………俺達をただ利用して別の目的があるんじゃないか………警戒というほど物騒じゃないけど頭の隅には考えたんだよ」

 

 そこでカリムは少し驚いた表情を浮かべる。理由は疑われるなんて心外だとかそんな小さなことじゃなくて、俺が警戒していたという事実にだろう。

 

「すごいですね………まさかそこまで考えているなんて見抜けませんでした。それじゃ最初の挨拶も私に油断させるために階級を忘れたフリを………」

 

 

「いや、あれは演技じゃなくて素だ」

 

 

「………………………」

 

 カリムがなにか言い難い表情を浮かべる。うん、ごめん。なんか………ごめん。

 

「でだ、俺はあんたと言葉を交わしてあんたはそんな人じゃないって確信したんだよ。あんたの言葉は空っぽじゃなくてちゃんと信念があった」

 

 正直にいえば最初からそんな可能性は万が一でもないだろうと思っていた。はやての友人だ、そんな訳ないと。けどこの問題は俺一人の問題じゃない、だからこんな試すような真似をしたんだ。

 

「あの、お願いする私がこんなことを言うのもおかしな話ですが…………本当に私を信じてよいのですか?」

 

 

「ははっ、本当におかしい質問だな。なに、俺はそれなりに人を見る目があると自負してるからな。俺の勘は結構当たるぜ?」

 

 少なくともこのカリム・グラシアという

人物には下心も腹黒さも感じなかった。

 

「貴方はみた目通り、清楚でおしとやかな女性ってことさ」

 

 最後にそう付け加える。隣のなのはが静かに足をグリグリと踏みつけてきたがこさこはスルーだ。

 

「まぁ、途中から賢伍くんが何を狙ってるかきづいとったから………カリムがあたふたしてる所をみれて面白かったわ」

 

 そこでずっと黙っていたはやてがそう口を開く。カリムは気づいてたのって少し不満そうにはやてに言っていたが恐らくクロノもなのはもフェイトも気付いてたんだろう。ずっと口を出さなかったのが証拠だ。

 

「騎士カリム、賢伍は結構抜けてるところがありますが時々抜け目ないとこもある困ったやつですから」

 

 と、クロノも閉じていた口を開けてカリムにそう言葉を紡ぐ。てかおい、どういう意味だこの野郎。

 

「はぁ…………なんだか私だけ疲れてしまいました………」

 

 

「悪かったよ騎士カリム。けど、あんたに協力するっていうのは嘘じゃねぇ………粉骨砕身頑張らせてもらうぜ」

 

 

「ありがとうございます…………しかし、先程の貴方の演説も………嘘ではないのでしょう?本当によいのですか?」

 

 演説…………。俺は仲間のために闘うと言った事だろうか。俺に言われてカリムも少し考えてしまったのだろう。六課の隊員と管理局危機……もしも同時に起きてしまったらどっちを選ぶか。そんな状況はないなんていえない、こんな危険なことに任務なら特に。担当する部隊が一番の危険の対象なのだから。

 

「貴方に言われて私も考えてしまいました。もしそんな状況になれば………どうすればいいのか………」

 

 

「簡単だよ」

 

 そういう極限な選択は過去に幾度となく迫られた。ジュエルシード事件、闇の書事件…………それを経て、俺は自分の答えを出している。

 

「意地でも両方守ればいいだけだろ?」

 

 あっけらかんと答える俺にカリムは一瞬驚くがすぐに顔には少し笑みが宿った。

 

「ふふ、本当に………はやての言っていた通りの方ですね………神崎賢伍さん」

 

 少し桁が外れたように笑い出すカリム。あれ、俺おかしな事を言ったか?

 

「そんなんよカリム………そういう人なんよ…………なぁクロノ?」

 

 

「あぁ、そういう人だったな……なぁ、フェイトになのは」

 

 

「あはは、そうだね………そういう人だもんね賢伍は……」

 

 

「うんうん、そういう賢伍君はそういう人だからね……」

 

 いつのまにか俺以外の皆がくすくすと笑いだしていた。えぇなに?バカにされてるの?俺変なこと言った?

 俺が首を傾げてる間、5人の笑いは収まらなかった。

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

「コホン…………では改めて……なのはさん、フェイトさん、そして………賢伍さん……」

 

 仕切り直しで再びカリムが真剣な面持ちで口を開く。

 

「私達に…………協力してくれますか?」

 

 

「全力にて………」

 

 

「承ります」

 

 フェイトとなのはが二人でそう返事をする。俺も一言、言わせてもらった。

 

「大船に乗ったつもりでいてくれよ……………騎士カリム」

 

 そういって手を差し出す。握手だ。

 

「はい、ありがとうございます………」

 

 快く、カリムはその握手に応じてくれたのであった。

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

 教会から出たときには既に日も傾け始め夕方になっていた。

 

「まずいなぁ、帰る頃にはもう夜になってるなぁこれは………」

 

 ヴィヴィオちゃんになのはを早く届けると約束をしたのにこれでは遅いくらいだ。しかも原因が俺の無駄な探りをいれようとして話がながくなったこと打というなんともどうしようもない話だ。

 急ぐしかないなぁ…………。

 

「ほれ、なのは」

 

 フェイトの車に乗ろうとしているなのはにメットを投げて渡す。慌ててキャッチしたなのはが口を開いた。

 

「賢伍君………これは?」

 

 心なしかなのはの表情は硬い。

 

「ヴィヴィオちゃんに約束したからな。お前を早く連れてくってさ、だから後ろ乗れよ」

 

 バイクなら小回りが聞くから前の車をじゃんじゃん追い抜けるしな。

 

「で、でもほらぁ?ね?その…………スピードだしたらさ?危ないしそれに………」

 

 

「今頃寂しがってるよなぁ…………ヴィヴィオちゃん」

 

 

「うぅ………」

 

 その言葉でなのはは何も言えなくなる。

実際心配なのは俺だけじゃなくてなのはも一緒だろうからな。

 

「うぅ~、フェイトちゃぁん………」

 

 

「ご、ごめんねなのは………私は安全運転だからそんなにスピードださないし………」

 

 

「目をそらさないでよぉ………」

 

 

「まぁ、なのはちゃんも運のつきやな……達者でななのはちゃん」

 

 

「シャレにならないよはやてちゃぁん~」

 

 

「いや、別に俺だって安全運転だろうよ?」

 

 

「「「嘘だ!!」」」

 

 どこのひぐらしですか君たちは。

 

「うぅ~~~うぅ~………」

 

 ずっと唸っているなのはだったが結局泣きながら俺の後ろに座った。むしろ泣きたいのは俺だ、好きなひとに後ろに乗りたくないと言われているようなもんなんだから。

 

「あぁ、前にもこんなことあったような気がするよ………」

 

 

「んじゃ、しっかり捕まってろよ………。急ぐからいつもよりちょっとばかしスピード出すからな」

 

 そういながらエンジンを点けてマフラーをふかせる。バイク好きにはたまらないエンジン音が耳に入ってくる。

 

「えっ!?ちょっと賢伍君!いくらなんでもそれは私でも耐えれな……………」

 

 

「んじゃしゅっぱぁ~つ」

 

 

 

 ブオオオオオオオオオオオオンン!!

 

 

「ってちょっと人の話聞いて………キャアアアアアアアアア!!!!」

 

 例の如く、なのはの声はエンジン音にかきけされて俺の耳には届かなかった。

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 教会一室には未だカリムとクロノが残っていた。二人は窓から賢伍達の様子を微笑ましそうに見ていた。

 

「光の英雄…………初めてお会いしましたが、彼がなぜそんな風に呼ばれているのか分かった気がします」

 

 

「そうですか………」

 

 カリムのその言葉にクロノは目を細めて答える。彼はいつの間にかそんな風な異名がつき本人はそれを嫌がっていた。この間のズーク・ライアスの一件の時に会ったときには使えるのものは使うさと自分の立場を利用して会見を注目させるなど心境の変化はあったようだが。

 

「騎士カリム、本当に賢伍にお伝えしなくてよかったのですか?」

 

 重々しく口を開くクロノ。

 

「えぇ、この預言を伝えても彼が為そうとするものは変わらないでしょうから。きっと、そんなものは関係ないと言うでしょう」

 

 そういってカリムは一枚の預言のページを取り出す。ベルカ語で書き込まれているその預言をカリムは読み上げる。

 

「無限の欲望と管理局の闘いの最中に幾度となくぶつかり合う闇と光。一つの決着ががついたとき、闇と光の闘いも終焉が訪れる。光は消え、世界は絶望の闇に染め上がる」

 

 

「光とは………恐らく賢伍の事……そして闇というのは……」

 

 

「先日貴方から聞いた神崎賢伍さんの闇のことでしょう。預言通りなら彼は闇に敗れる………しかし、例えこの預言通りに事が進んでも彼なら………この預言を、未来を変えるのではと思います」

 

 

「確かに………そうかもしれませんね。それなら、わざわざ伝えなくても良かったかもしれません」

 

 カリムの預言は不確定なもの。だが、当たる確率が低くないのも事実。それならば伝えた方がいいと思っていたクロノだが、考えを改める。

 

「今日初めてお会いしましたが、彼には不思議な物を感じます。きっと彼なら………」

 

 そこで言葉を止めてカリムは窓から見える賢伍達を覗く。バイクでとんでもないスピードを出して出発した賢伍を見送りそっと微笑んだのであった。

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 六課に到着したのは予想通り夜になる頃だった。しかし、スピードを出して走った筈なのに俺が到着したのはフェイトが運転する車と同着だった。理由は簡単、途中で管理局に追われたから、スピード違反で。今日教会に向かうときに追われた局員と同一人物だった。例の如く、魔法でナンバーを隠して逃走。撒くために本来のルートをそれたため遅くなってしまったのだ。

 アクション映画顔負けのカーチェイスを披露したせいか局員を撒いて六課に到着した瞬間になのはに泣きながらビンタされた。

 

「怖かったよぉぉお!何回も死を覚悟したよぉおお!!」

 

 と泣き叫んでいた。確かにスピードは出していたがそこまで泣かなくてもと思った。

 

「それじゃあ情報は十分もらったからよ。また明日な………」

 

 はやてと玄関で別れる。俺となのはとフェイトは今頃エリオ達に相手してもらっているヴィヴィオちゃんを迎えにいかなければいけない。

 はやてはまだ雑務が残っているそうで、部隊長も大変だ。

 

「…………あのな、なのはちゃん、フェイトちゃん、賢伍君……………」

 

 別れようとした所ではやてに呼び止められる。振り向くがはやては何て言おうか言葉を探していて中々声を発しなかった。何を言いたいのか察する。だから、俺の方から言葉を返した。

 

「お前が俺達に遠慮することはねぇよ。俺達は親友だ、仲間だ。今更部隊に引き込んだことを申し訳なく思われるのは逆に心外だぜ?」

 

 きっと、今日で目的を全て話したうえでそれを伝えなかった俺達に罪悪感が芽生えたのだろう。そんなものはいらない、俺達は覚悟の上で出向したのだ。はやて、お前の夢のためにここにいるんだ。

 

「お前は俺達の上で偉そうにしてろ、そっちの方が威厳があっていいだろ?」

 

 

「うん、賢伍の言う通りだよはやて……」

 

 

「はやてちゃんは何も間違ってないから……安心して?」

 

 フェイトとなのはも同じ気持ちだ。だからはやてにはそんな気遣ってほしくない。それが俺達の本音。

 

「あ…………うん!」

 

 先手を打たれたはやては少し顔を赤くしながら笑顔で頷く。俺達は4人は笑いあう。出会ったときから変わらず、俺達は笑いあう。

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 ヴィヴィオがいるロビーの扉を開けてなのはが開口一番そう言う。ヴィヴィオは座っていた椅子からすぐに立ち上がりなのはのもとに駆け寄っていく。なのははそのままヴィヴィオを抱き抱える。

 

「ヴィヴィオ、ただいま……いい子にしてた?」

 

 

「うぅ………」

 

 返事の代わりに涙目になりながらヴィヴィオがなのはを力一杯に抱き締める。その様子を見て俺は余計なことをして帰るのが遅くなった事を後悔する。

 

「ありがとね、エリオ………キャロ」

 

 フェイトがヴィヴィオを軽く撫でながらそう言う。

 

「いえ………」

 

 

「ヴィヴィオ、いい子にしてましたよ」

 

 

「お、そうか………偉いぞ~……」

 

 そういって俺も軽く頭を撫でる。するとヴィヴィオはなのはを抱き締める手を片方というて俺に向かって手を伸ばす。

 

「ん、どうしたんだ?」

 

 

「あ、ヴィヴィオ………賢伍君のこと待ち遠しかったんじゃない?」

 

 いや、一番の待ち遠しかったのはお前だろうよなのは。けど俺の方に必死に手を伸ばしているのも事実だ。なのはは微笑みながらヴィヴィオを俺に預ける。

 

「おっととっ!」

 

 子供を抱いたことはないから少しやり方が分からず戸惑う。なるべく優しくすることを心がける。

 

「…っ」

 

 なのはと同様、俺にも抱きついてきた。必死に必死に抱きついてきた。

 

「……………ごめんなぁ、遅くなって……」

 

 そういいながら俺は一旦ヴィヴィオ離して再びなのはに渡す。

 

「ほら、いい子にしてたご褒美だ。約束の飴玉だぞ………」

 

 そういってオレンジ味の飴を取り出してヴィヴィオに口に入れる。美味しそうに口のなかで転がすヴィヴィオ。それを見てこの場にいる皆が和んだ。

 そして俺は再び決意する。この娘を守ると。この弱々しく儚げに、必死な少女を………俺は守る。ヴィヴィオの顔は、安心からか笑顔にみちあふれていた。

 

 

 

 

 

 






 さてさてパロネタ少し入れましたが有名なネタなので大体のひとは通じると信じたい。ちなみに僕は鉈女派です。かあいいですもんあの子。はぅぅ~ですよね。
 さて、思ったよりカリムとの対談のシーンが長くなって話が進んでないことはご愛敬で。賢伍の目的の再確認ですね。

 今更ですが完全な自己満足のこの作品には作者の私利私欲が渦巻いております、パロネタもしかり、いま同時に執筆しているサブストーリ3なんて思いっきりパロディというかコラボみたいな感じに。あまりにも多かったらタグを追加しようと思います。

 というな感じで作者の自己満足ですが皆様にも楽しんで貰いたいのでしっかりと頑張ろうとおもいます。今後とも光の英雄をよろしくお願いいたします。それと、意見や質問、感想、評価をしてくれている読者様、ありがとうございます。これを励みにがんばります。勿論、閲覧してくださる読者様に感謝を込めて。それでは次回話にて。


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エースはママ。英雄はパパ。



 タイトル通りですね。ではm(__)m


 

 

 

 

 

 

 

「ぶえっくしょん!」

 

 自分のくしゃみで朝もやの中、目を覚ます。タオルケットを体に巻いたまま宿舎のロビーのソファーから起き上がる。

 

「ズズ………あ~、さみぃ…………」

 

 少し垂れてきた鼻水をすすりそう言葉を溢す。流石にロビーで寝るのはまずかったか、それともパンツと薄いシャツ一枚で寝たのがまずかったのか、はたまた両方か。

 

「部屋に戻って着替えるか………」

 

 そもそもなんで俺がこんな所で寝ていたかというとちゃんとした理由がある。昨日、教会から六課に戻った後……怖くて一人で眠れないヴィヴィオのためになのはとフェイトが川の字で寝ることになった。それなら、俺となのはの部屋のベッドを使って寝ることになり俺は最初はフェイトに気を使って外で寝ると提案したのだが…………。

 

「一緒の部屋で寝るくらい気にしないよ?」

 

 と、お前は本当に女の子か?と疑問に思う発言をする始末。まぁ確かにベッドのサイズの問題で一緒の布団で寝るわけではないしソファーで寝ることになったからそれはそれでいいかと思考するのを諦めた。ソファーで寝ること事態も心配されたが、失踪してた時代は野宿も多かったから慣れたと伝えてそれで収まるはずだった。だったのだが…………。

 

「フェイト!?なんて格好してんだお前は!」

 

 

「え?」

 

 フェイトは普段寝るときは軽装なのかほとんど下着のような格好だった。確かに寝るときは楽な格好がいいよなぁ……じゃなくて!なのはも結構目のやり場に困る格好で寝てるのに!ようやく慣れたと思ったら次はフェイトか。少しは男の目を気にしろ!と、ビシッといってやるが。

 

「今更賢伍にそんなこと言われても………ていうか照れてるの?普段からセクハラばっかのくせに照れてるの?」

 

 などとバカにしてくる始末。ば、ばか!照れてなんかねぇよ!と、中学生みたいな反応になりながら俺はソファーに体を預けた。そのまま電気も消して部屋には静寂が訪れ次第に3人の寝息も聞こえてきた。そして…………俺は全く寝れなかった。

 

「(やべぇ!興奮して寝れねぇ!)」

 

 情けないことに俺は女の子の扱いに慣れてない思春期男子、気になって気になって仕方がなかった。ちょっぴりなのはとフェイトに触っても………などと頭によぎった時は壁に頭を何度も打ち付けた。だから、心の安寧を求めて俺はこっそり部屋から出てそのままロビーのソファーで一夜を過ごしたというわけだ。

 

「変なこと考えて体が熱くなってパンツとシャツ一枚になったからなぁ………だれかに見られる前にさっさと部屋に……」

 

 と、一人呟きながら歩いていると向こう側から人がきた。誰だ!?まずい………この格好はまずい!いくらなんでもまずい!!頼む………男こい!ヴァイスか、グリフィスこい!頼む頼むぅぅぅ!!

 

「おー、賢伍かおはようさん」

 

 

「ヴィータかよちくしょうううう!!」

 

 俺の願いが届かなかったことに思わず地面にうちひしがれる。

 

「なっ!あたしだとなんか悪いのかよ!」

 

 と、勝手に怒りだしたヴィータは気にせず。俺は遠い目になる。捕まりたくない………こんなことで捕まりたくない。

 

「て、お前俺の格好見て反応なしかよ………」

 

 

「ん?あぁ、なんでそんな格好してんだお前?」

 

 遅い!気づかなかったの!?

 

「あぁ、それはまぁ…………」

 

 軽く事情を説明してヴィータに弁明する。とはいってもヴィータは別になんも気にしねぇよと言われる始末だった。

 

「なに?何なの?俺もしかして皆に男として見られてないの?ねぇ」

 

 と、疑いそうになる。何だろう、長いこと一緒にいると感覚がマヒしてくるんだろうか。いやでも4年間はずっと会ってなかった訳だし……………うーん。

 

「別にお前の全裸を見ない限りは動揺しないんじゃないか、皆」

 

 

「流石に皆の前で全裸にはなりません」

 

 などとコントをしている場合ではなく。ヴィータとは別れて急ぎ足で部屋に向かう。たしかにヴィータやフェイトみたいに俺のこと男としては何とも思ってない奴らは俺の下着姿くらい平気なんだろう。だけどそう思ってる奴も全員な訳がない。その人達に出会う前に部屋に戻らないといけない。

 とか何とか思ってたら今度はFW4人と遭遇する。人生とはままならないものだ。

 

「えっと…………」

 

 そこでエリオが困ったような声をあげる。俺は一瞬で4人の反応を読み取った。エリオは…………。

 

「あぁ、えっと………」

 

 困惑していた。うん、これは正しい反応。これで初な女の子のような反応されていたら俺は薔薇の道へ進むはめになるところだ。キャロは、

 

「……………?」

 

 キョトンと首を傾げていた。多分俺の格好のこと事態には何も思っていない。あれは疑問の顔だ、俺がその格好をしている理由の方が気になっている顔だ。いや、いいキャロはまだ小さいから………。スバルは、

 

「あ、おはようございます!」

 

 あぁ、最初からお前には期待してなかったよ。ティアナは?

 

「な………な……」

 

 お?

 

「なんて格好してるんですか!?」

 

 そういうティアナの顔は恥ずかしそうに朱色に染まっている。

 

「それだよティアナ!それだ!」

 

 それが正しい反応だよ!うん、そう。他の奴は皆俺を男として見ていないみたいだけどお前は違った!嬉しく思う!

 

「え?あの………」

 

 

「そうだよ………皆わかってない。でもお前は分かってた、うん」

 

 

「あの、なんで泣いてるんですか?て、ちょっと徐々に近づかないでくださいよ!」

 

 困惑するティアナの言葉は耳に入らず。俺は嬉しさのあまり両手を広げて叫んだ。

 

「ティアナぁぁあああ!!お前だけだぁ

ああああ!俺は嬉しいぞおおおおお!!!」

 

 

「ちょ、その格好でこっちに来ないで………てうわ気持ち悪い!!」

 

 

「おい、逃げんなよティアナ~」

 

 

「あぁ!無駄に足が早い!?ちょ、追い付かれる………こっちに来ないでくださっ…………いやぁぁぁあああああああ!!!」

 

 今日の六課の局員のほとんどはティアナの叫び声で起きたそうな。

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

「そうだったんですか………私もビックリして飛び起きちゃいましたよ」

 

 

「うん、ごめん。ちょっと俺も調子に乗りすぎちゃったんだよ」

 

 場所は移動して医務室。朝の大騒ぎでティアナにあらぬ誤解を受けてフェイトに引かれてなのはに怒られてヴィヴィオに癒されたのは先程の出来事。今はシャマルさんの定期検査を受けている。

 

「まぁ、私はパンツ一丁の賢伍君にマッサージしたりしてるからかしら…………慣れちゃったわ」

 

 

「シャマルさんは医者だからね……」

 

 そう考えたらむしろ俺が気にしすぎなような気がしてきた。

 

「……………はい、もう上着着ていいですよ」

 

 検査を終えたようでそう言われる。言われた通り上着を着て俺はシャマルさんに口を開く。

 

「どうかな?シャマルさん」

 

 

「うん、良好だわ。古傷も順調に回復傾向になってるし、鎮痛剤も使ってないようだし」

 

 

「そっか………」

 

 それは素直に嬉しい。前みたいに突然痛み出すことも少なくなったし、たとえ痛みだして大騒ぎするほどじゃなくなった。

 

「この調子なら完治するのも遠くないわ。くれぐれも無茶しないでね?」

 

 

「はははっ、肝に命じますよ」

 

 約束はできないけどね。正直。

 

「それで?賢伍君は訓練には参加しないの?」

 

 

「ん?あぁ、今日は俺はいらない内容だからさ。検査もあるからなのは一人に任してきてるんだ」

 

 今日は午後の訓練はない。理由は仕事があるから。ライトニングの二人はフェイトとギンガの部隊のと合同で先日の市街地での戦闘の後処理と調査、ティアナははやてがクロノが提督を勤める次元船クラウディアの出向の付き添い、スバルは一人デスクワーク。俺となのはもデスクワーク、勘弁してくれ。

 

「それだと例のヴィヴィオちゃんは一人になっちゃうけど……大丈夫なの?」

 

 

「ヴィヴィオなら寮母のアイナさんが見てくれてるし、ガードと遊び相手にお宅のザフィーラを置いてきたから」

 

 きっと狼形態のままヴィヴィオと遊んでくれているだろう。完全に狼ではなく犬になってしまうような気がするが。

 

「それなら安心ね………はい、一応鎮痛剤は渡して置きますから我慢できなかったら使ってね」

 

 

「ん、ありがとうシャマルさん…………それじゃ」

 

 そういって医務室を後にしようとするが、途中で足を止めて振り返る。そういえば、まだ伝えてなかったことがあった。

 

「シャマルさん」

 

 俺に呼ばれて顔をこっちに向けるシャマルさん、どうしたの?と声を発してきた。

 

「腹の傷、シャマルさんのお陰でここまで回復できた………すげぇ感謝してる。ありがとうな」

 

 あの事件からずっと俺の傷のことを心配して治療をしてくれたシャマルさん。彼女がいなければ、俺はいまこうして立っていられなかったかもしれない、だから真っ直ぐに………お礼を言いたかった。

 

「んじゃ!」

 

 気恥ずかしくなってシャマルさんの返事を待たずに俺は医務室を後にして駆け出した。それでも、感謝の念を伝えることができたはずだ。

 

「………ふふっ………どういたしまして」

 

 一人取り残されたシャマルは人知れずそう呟く。その顔は、とてもとても満足そうな顔で慈愛に満ちていた。

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

 医務室を後にすればもうお昼の時間だった。もうすでにはやてやフェイトたちはもう調査や出向に行ってるだろう。と、昼食を食べに行こうとしていたら途中でなのはとスバルが隣り合って歩いていた。

 

「よう、今から昼飯か?」

 

 とりあえず二人に声をかける。

 

「あ、賢伍君。うん、ヴィヴィオにそれからスバルも一緒に食べようと思って」

 

 となると今はヴィヴィオを迎え行こうとしているのか。

 

「賢伍さんも一緒にどうですか?」

 

 

「そうだな、ご一緒させてもらおうか」

 

 それならわざわざヴィヴィオに迎えに行って食堂に行くのも些か面倒だ。途中の売店でサンドイッチを購入。大食いのスバルもいることだしかなりの数を買って置いた。

 

「あぁすいません。後でお支払しますね」

 

 

「アホ、教え子にしかも女の子の出させる男の上司がいるか」 

 

 

「あぁごめんね賢伍君、後で私も出すよ」

 

 

「ねぇ話聞いてた?お前も含まれてるんだよ?」

 

 なんて会話を繰り広げたのは置いといて、そのままヴィヴィオが待ってる部屋に向かう。きっとお腹を空かして待ってるだろう、なるべく急ぐか。なんて思っていたら、

 

「ヴィヴィオ………これからどうなるんですか?」

 

 スバルが重々しく口を開く。きっと六課の誰もが思った疑問。明確な答えは………まだ出ていない。

 

「受け入れてくれる家庭がいれば、それが一番いいと思うんだけど…………」

 

 

「難しいんでしょうね、やっぱり普通とは違うから………」

 

 そういうことだ。ヴィヴィオは人造魔導師の素体だ、その事実は変えられない。正直なかなか見つからないだろうな、無償の愛を注いでくれる家庭は………。

 

「見つかるまで時間が掛かると思うんだ………だからそれまでは私が面倒見ようと思ってるんだ。保護責任者として」

 

 その言葉を聞いたスバルはパァァと分かりやすく表情を明るくする。そして、俺は少し驚いた。まったくそんなことは聞いてなかった、話し合わなきゃと思ってはいたけどなのははもう答えを出していた。不思議だ…………いつもなら短絡的に考えるなって言葉を出していたかもしれない。だけど、今回は……………俺が短絡的に行動していた。

 

「俺も………一緒に面倒見るよ。責任を持って……」

 

 そう、言葉を紡いでいた。とっさに………言っていた。こんな無責任なことを簡単に言ってはいけない。子供の面倒を見ると言うことは今後の彼女の人生に置いて様々な影響を俺によって与えられるんだ。考え方、成長の仕方、それらに責任を持たないといけない。だから、短絡的に答えを出してはいけない………それでもそう言っていた。だってあの子を……………ヴィヴィオを支えたいと思ったから。

 

「うん、お願い……」

 

 なのはも笑ってそう言ってくれる。

 

「いいですね!ヴィヴィオきっと喜びますよ」

 

 スバルが元気にそうに口を開く。ヴィヴィオが喜んでくれるか…………ねぇ。

 

「う~ん、喜んでくれるかなぁ………」

 

 

「なのはは喜ばれるだろうさ、俺なんかいきなりトラウマ植え付けたんだぞ?絶対嫌がられる気がする」

 

 

「いやぁ、賢伍さんにも心を開いてそうな感じでしたけど?」

 

 

「うーん、そうかぁ?」

 

 いくらスバルにフォローされても、なのはと俺はヴィヴィオが喜んでくれるかどうか不安で仕方なかった。

 

 

 

 

 

………………………………………………。

 

 

 

 

 

 というわけで早速ヴィヴィオの待つ部屋にたどり着くと先程の話をすることに。引き取ってくれる家庭が見つかるまで俺となのはが親代わりになると言う話をヴィヴィオにすることに。

 

「………ん?」

 

 

「ほら、やっぱりよく分からない」

 

 特徴である赤と緑のオッドアイを輝かせながら、首を傾げるヴィヴィオになのはが困った顔をする。ヴィヴィオは話をよく理解できないようだ、まぁいきなりしばらくヴィヴィオの保護責任者になると伝えても年端のいかないヴィヴィオにはピンと来ないようだ。遠目で寮母のアイナさんとザフィーラも見守っていた。

 

「うーん、つまり…………しばらくはなのはさんと賢伍さんがヴィヴィオのママとパパになるってことだよ」

 

 と、上手く例えてスバルはヴィヴィオに説明する。しかしそれだと色々と問題がありそうな気が…………。

 

「ママ?パパ?」

 

 

「…………いいよ、ママでも。ヴィヴィオの本当のママが見つかるまでなのはさんがヴィヴィオのママの代わり…………」

 

 

「んで俺がパパの代わりだよ」

 

 二人してヴィヴィオの背丈に合わせてしゃがんでそう口を揃える。

 

 

「ヴィヴィオは…………それでもいいか?」

 

 笑顔で俺はそう聞く。彼女は今、きっと孤独を感じている。目覚めたら知らない場所にいて、自分が知る人は誰もいなくて、不安で不安で仕方なくて………孤独を感じていた。幸いなのはやフェイトに懐いてくれたが、きっと心はまだ孤独を感じている。だから、俺がその孤独を埋めたいと思った。寄り添ってあげたいと思った。両親を亡くして、一人孤独にうちひしがれていたあの時…………俺に手をさしのべてくれた高町家のように………今度は俺が、手をさしのべたい。

 

「………ぐすっ………うわぁぁあん!」

 

 ヴィヴィオは泣きながら、俺となのはに両手で抱きついてきてくれた。…………受け入れてくれた。

 

「もう、なんで泣くの~?」

 

 笑いながらなのはと俺は二人でヴィヴィオを抱き抱えてあげる。ヴィヴィオに抱きつかれてるせいでなのはとの距離は近くなり離れようとするがヴィヴィオは中々離してくれなかった。新しく出来た愛娘は…………とても寂しがり屋のようだった。

 

 

 

 

…………………………………………………。

 

 

 

 

 

「ねぇアイナさん………」

 

 

「はい?何でしょうか?」

 

 ソファで仲良くサンドイッチをほおばっているなのはとヴィヴィオ、それの隣で女の子らしかぬ食べ方でがっついているスバルを遠目で見ながら俺は寮母のアイナさんに話しかける。アイナさんが寮母という立場上、元々それなりに交流はある。

 

「ヴィヴィオに受け入れて貰ったことは嬉しかったけど…………なんで受け入れてくれたんだろう?」

 

 ヴィヴィオはなのはとフェイトに特に懐いている。俺も少し心を開いてくれたようだがやはり少し遠慮した態度のように感じる。そんな俺を受け入れてよかったのかなと今更ながら心配になって、面倒を見ていたアイナさんに相談する形になった。

 

「…………守ってくれたから………だそうですよ」

 

 

「え?」

 

 

「今日、ヴィヴィオちゃんに聞いてみたんです。どうしてなのはさんや賢伍さんが好きなの?って」

 

 質問事態はきっとヴィヴィオを退屈させないためのおしゃべりのひとつだったんだろう。

 

「そしたら、賢伍さんは………守ってくれたから………だそうですよ。子供だからって分からないことばかりじゃないですよ………何となく………分かるんですよきっと………」

 

 はははっ、そんな馬鹿な………。ヴィヴィオは最初意識はなくてその事は知らないはずだけど。

 

「声が聞こえたような気がしたって言ってました………守ってやるからなって……」

 

 寝たフリでもしてたのかって疑いそうになる。けど…………嬉しかった。俺の言葉を聞いて、そう思ってくれていたことに嬉しかった。

 

「それに、態度がなのはさんと違うのもきっと自分とは違う男の人だからですよ。すぐに………心の距離はグッと近づきますよ。賢伍さんなら……」

 

 

「……………だといいんだけど」

 

 俺はそう簡単にいかないと思ってる。まだ無邪気なお年頃のヴィヴィオだ、いきなりよくわからん俺みたいな男に心を完全に開いてくれるのは難しいだろう。アイナさんが言うように上手くいかないと思った。それに、今でさえ俺をどれだけ信頼してくれているか分からないし…………。

 

「ん!」

 

 などと考えているいつのまにか目の前にヴィヴィオがいた。手に持っている何かを俺の目の前に差し出してくる。

 

「うん?どうした、ヴィヴィオ?」

 

 

「ん!」

 

 手に持っているのはサンドイッチ。なのはとスバルは笑いながらこっちの様子を見てくる。これは…………。

 

「一緒に食べよ!パパ!」

 

 

「っ!」

 

 少し舌足らずな声で、ヴィヴィオはそう言った。俺のことを………パパと言ってくれた。

 

「…………あぁ、ありがとうヴィヴィオ。そうだな、一緒に食べるか!」

 

 そう言ってヴィヴィオからサンドイッチを受け取って一口頬張る。卵とレタスが上手くマッチし、ハムに塩気がきいていて旨かった。そのままヴィヴィオの手をとり、なのはとスバルが座るソファで4人で談笑しながら食事をする。ふと、アイナさんの方を見る。

 

「…………………」

 

 ほらねっと勝ち誇ったような顔をして笑みを浮かべていた。どうやらアイナさんが正しかったようだ。そういえばアイナさん子育て経験者だったけ…………。

 

 

 

 

……………………………………………………。

 

 

 

 

 

「そう、なのはと賢伍がママとパパになってくれたんだ」

 

 

「うん!」

 

 フェイトのその言葉に元気よくうなずくヴィヴィオ。時間はもう夜にまで動いた。調査に行っていたフェイトももうすでに帰ってきて、俺となのはの部屋でヴィヴィオを交えて話していた。

 

「でも実はフェイトさんもちょっとだけヴィヴィオのママになったんだよ」

 

 人差し指を立てながらそう言うフェイト。ヴィヴィオは言葉の意味が分からず首を傾げる。実はフェイトには後見人という立場になってもらったのだ。俺となのはとヴィヴィオを見守る役目と聞こえ良く言えばそういうことだ。それをヴィヴィオに簡単に説明するが恐らくピンと来ないだろう。

 

「えっと…………なのはママと、フェイトとママと………賢伍パパ?」

 

 ヴィヴィオが出した結論はそうなった。ママが二人いるのに色々と問題があるがまぁいいだろう。フェイトがいた方が安心だ。

 

「うん」

 

 

「そう」

 

 

「あぁ」

 

 なのははヴィヴィオの右手をフェイトは左手を手に取り、俺は頭に手を置いて撫でて3人で微笑む。

 

「………ママ?」

 

 

「「はーい」」

 

 

「パパ?」

 

 

「はいよ」

 

 

「………っ!」

 

 ヴィヴィオの顔が分かりやすくパァと明るくなる。4人で楽しそうに微笑む。今後は俺達3人が中心となって六課でヴィヴィオの面倒を見るのだ。……………絶対に守る。この娘を危険な目になんか合わせやしない。そんなやつ………俺がぶったおす!守るべきもの、守りたいものが増えても………俺の誓いにぶれることはない。

 俺は、俺にとって大切な仲間を………大切な人達を守ると誓ったのだから。

 

 

 

 

…………………………………………………………。

 

 

 

 

「ごめんね賢伍………なのはと二人で夫婦気分だったの邪魔しちゃって」

 

 

「そんな真面目そうにアホなこといってんじゃねぇ」

 

 夜空に浮かぶ月を眺めながら俺とフェイトは隣り合って口を開く。なのはは今ヴィヴィオと一緒に風呂に入ってる、することもないのでこうして二人して外の景色を見に来ていた。

 

「賢伍が中々なのはにアタックしないから私としては何て言うか………焦れったくて仕方がないんだよね」

 

 

「今は忙しいし出撃も多くなってきてんだ。そんな暇ない」

 

 

「また言い訳して………」

 

 そこではぁとため息をつくフェイト。俺だって出来るもんならじゃんじゃんアタックしたいさ。

 

「俺…………やっぱり恋愛向いてねぇのかなぁ………フェイト~」

 

 

「私に助けを求めないでよ………私だって経験ないんだから………」

 

 今度は二人してはぁとため息をつく。

 

「お前他の局員によく告白されてるらしいじゃねぇか。なんで断るんだよ?」

 

 ちまたでそんなことを聞いたから興味本意で聞いてみる。実際フェイトはスタイルだっていいし美人さんだ、モテてないわけではないんだろう。

 

「うーん…………やっぱりいきなり接点なく告白してる人ばっかりだからかなぁ………」

 

 あぁなるほど。多分皆玉砕覚悟で告白してるんだろうな、高嶺の花と思われてる証拠だ。

 

「それならあれは?周りでよく一緒する男とかいないのかよ?」

 

 

「うーん…………誠に遺憾ながら賢伍だけかなぁ……」

 

 

「政治家みたいな言い方すれば悪くいっても誤魔化せると思うなよ?」

 

 地球の政治は今どんな感じなのかねぇ?俺の政治知識は総理大臣が〇泉総理の時で止まってるから分からない。

 

「二人して恋愛初心者じゃアドバイスも聞けねぇや…………」

 

 

「だから最初から私に聞かないでっていったよね?」

 

 月は俺のことをバカにしているのか慰めているのか分からないような光で俺とフェイトを照らす。3回目のため息は一番大きいため息だった。

 

 

 

 

……………………………………………………。

 

 

 

 

「…………………ちっ………ぺっ」

 

 夜の暗闇に紛れて、森の奥ふかくに佇むいくつかの人影がある。そのうちの一人は地面に胡座をかき、他は全員眠っているようだった。その胡座をかいている人物…………姿は光の英雄のそれ。闇の賢伍が手に持った果実を口に含むと舌をならして吐き出した。どうやら、口に合わなかったようだ。

 

「…………………」

 

 無言で今度は別の果実を手に取る。森で無差別にむしりとった果実は様々で今度は赤色の実をそのままかじる。

 

「…………ふん」

 

 納得いく味だったようでそのまま二口目を口につける。

 

「…………ん」

 

 そこで眠っていたところから一人起きたようでその体を起こす。

 

「なんだルーテシア………起きたのか」

 

 

「…………………………」

 

 ルーテシアは答えない。ただ少しまだ眠気を感じているようだ。目を擦りながら近くで寝ているアギトとゼストを起こさないように立ち上がり、闇の賢伍の隣に座る。

 

「…………………なんだよ?怖くて眠れなかったのか?」

 

 ガキだなぁと言葉をつけ加えバカにするように軽く笑う。ルーテシアはそれに気にした様子もなく、闇の回りに散らばった果実を1つ手に取る。

 

「それはまだ熟してねぇよ。こっち食え」

 

 闇はそう言うと自分が食べた果実と同じものを渡す。

 

「…………ありがとう」

 

 ぼそっと小さな声でルーテシアは呟く。初めて会ったときと比べるとだいぶ闇とルーテシアの関係も深くなった。だが本人達はその自覚も興味もなかった。

 

「……………おいしい」

 

 一口かじるとほどよい甘味が口に広がる。ついそう言葉をもらした。

 

「…………………ふん」

 

 闇も自分の分の果実を頬張る。果実を持つ手とは逆の手で自然と腹に手を添えていた。

 

「痛むの?……………光の英雄に殴られたところ」

 

 ルーテシアがそう言いながら闇の腹部に手を添える。

 

「けっ、この程度何ともねぇよ」

 

 何ともなさそうに闇は答える。実際にダメージを受けているのかどうかはわからなかったが、ルーテシアにはそれは強がりに見えた。

 

「お兄さん………また闘うんでしょ?光の英雄と………」

 

 

「当たり前だ。あいつにはまだまだ強くなってもらわないといけない…………それまで何度も闘って奴を煽んないといけないからなぁ…………」

 

 相変わらずの邪悪の笑みを浮かべる。

 

「前にも聞いたけど、お兄さんはなんで光の英雄の闘うの?」

 

 ルーテシアはいつかの日にした質問を再度問う。ここまで光の英雄に固執する理由は確かに誰にでも気になるようだ。

 

「ふん、お前に教える義理はないと言ったはずだ」

 

 そういって闇は遠くを見る。何を見据えているのかルーテシアは分からなかった。だが、いくらきいても教えてくれないことはよく分かった。

 

「まぁ強いて言うなら………………それが俺の生まれた理由でもあるからなぁ………あのくそ野郎にな…………」

 

 怒りを含んだ声で闇は呟く。少し気になる言葉だったが触れては彼を怒らせるだろうと思い、ルーテシアは深く追究しなかった。

 

「光の英雄とまた闘うなら………今度は私も………」

 

 手伝うと言おうとした言葉を闇は人差し指を唇に近づけて止めさせる。

 

「その必要はない。奴もようやく力をつけたようだからなぁ…………今度は………」

 

 

 

 ぐしゃ

 

 

 と手に持っていた果実が潰れる音が響く。果汁を飛び散らせて、闇の握力での中で原型を留めなくなる。

 

「今度は…………もう少し本気を出してもよさそうだ」

 

 闇は、再び邪悪な笑みを浮かべる。光の英雄を照らしている月と同じ光がその表情を薄く照らしていた。

 

 

 





 ヴィヴィオちゃんの可愛さにきゅんきゅんしつつも闇の賢伍にまた出生のヒントが…………。

正直無駄に謎を広げてしっかり畳めるか不安ですかしっかり頑張ろうとおもいます。

感想や評価をしてくれ方、ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします!!


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迫る運命

 今回はあとがきに私用ですがお知らせがありますm(__)m


 

 

 

 

 

 

 

 今日も六課は平常運転である。特に目立った事件はなく、少し平和にうつつをぬかす。19歳にしてパパと呼ばれてから早数日、ヴィヴィオはどんどん明るくなった。それが本来の姿だったのだろう、喜ばしい変化だ。俺となのはの部屋は寝るときだけフェイトとなのはとヴィヴィオが支配し、へたれな俺はヴァイスの部屋のソファをお借りして寝ている。ヴァイスがいて助かった。

 

「よーし!じゃあ今日も元気よく訓練するぞ皆!」

 

 そして、今は早朝訓練の時間。訓練所でいつも通り整列する4人に俺はそう言葉を発する。

 

「賢伍君テンション高いねー、なにか良いことでもあったの?」

 

 隣にたつなのはにそんなことを言われる。ちなみに今日は隊長陣フル出場で、フェイトだけでなくヴィータやシグナムも一緒だ。

 

「いやぁ、今日朝準備してたらよぉ………ヴィヴィオがさぁ………」

 

 

『パパ、今日もお仕事頑張って!』

 

 

「だってよぉ!もうどんだけいい子なんだよヴィヴィオは!!ハハハハハハ!」

 

 

「………………ロリコン」

 

 

「はいそこヴィータぁ!それ禁句、あとお前が言うなペチャパイ」

 

 顔を殴られました。痛い…………。

 

「あはは、まぁヴィヴィオの事は置いといて…………ひとつ皆に連絡事項があります」

 

 なのはがそう言うと前に出てきた人物が一人…………。

 

「陸士108部隊からギンガ・ナカジマ陸曹が暫く六課に出向となります」

 

 

「ギンガ・ナカジマです。よろしくお願いいたします」

 

 そう、ギンガだ。彼女は今日から六課に暫く身を置くことになったのだ。理由は先日の戦闘機人のデータの譲渡やらなにやらで理由は様々だがとにかくそういうことだ。

 

「それと、マリエルさん…………」

 

 フェイトがそう言ってマリエルを紹介する。108部隊の技術士でギンガと一緒の出向だ。マリエルは俺達のデバイスをずっと見てくれていた人の一人だ。

 闇の書事件の際にフェイトのバルディッシュ、なのはのレイジングハートを強化した人だ。さて、紹介はこれくらいにして………

 

「今日からギンガちゃんもお前たちと一緒に訓練に参加するから気を引き閉めるように!」

 

 

「「「「はい!!」」」」

 

 よしじゃあ早速訓練行ってみよーと声をだそうとしたところなのはに阻止される。

 

「ねぇ賢伍君、いきなりギンガにちゃん付けは失礼じゃないかなぁ?」

 

 

「えぇ?別にいいだろ…………なぁギンガちゃん?」

 

 

「え?あ、はい!私は別に…………」

 

 とギンガは気にした様子もなくそういうが………

 

「賢伍、女の子によってはそれセクハラに感じる人もいるんだからね?」

 

 と、フェイトに少し注意される。うん、まぁ確かにそれは失念だった。

 

「でもなんでか知らないけどギンガちゃんの方がしっくりくるんだよねぇ………」

 

 というわけで、ギンガちゃんに決定!

 

「あの、呼び名に関しては別に何でもよろしいのですが………その……」

 

 

「うん?どうしたギンガちゃん?」

 

 

「さっきから………胸に視線を感じるんですが………」

 

 

「はははっ!気のせい気のせい」

 

 

「とてもそうは思えないんですけど………」

 

 さっと胸を両手で頬を赤めながら胸を隠すギンガちゃん。いや、それは冤罪ですよ。なんか皆白い目で見てるし。おいエリオ、なに少し距離取ってるんだ。

 

「賢伍く~ん?」

 

 がしっと肩を掴まれる。

 

「お~、落ち着けなのは………確かにギンガちゃんの胸に目が言ったのは事実だ。それは認める………けどな?やっぱり胸を見ないようにするのは男として無理な話なんだよ。な?」

 

 

「弁解はそれだけかな?賢伍君」

 

 

「待て待て待てなのは。ほら見ろよギンガちゃんの胸、美しいラインにちょっと大きめのサイズだ…………許されるなら顔を埋めたいくらい魅力的だろ?な、エリオ?」

 

 

「ちょっ!僕に振らないでくださいよ!」

 

 

「恥ずかしがらなくていいんだエリオ、男なら仕方ないだろ?お前にならわかるはずだ」

 

 

「僕、賢伍さんのお陰で綺麗なまま大人になれそうです」

 

 遠い目をするなエリオ。まるで俺が汚れてるみたいじゃないか!あぁやめてギンガちゃん、距離取らないで、胸を必死に隠さなくていいよ、とって食おうって訳じゃないんだから。

 

「光の英雄の神崎賢伍さん…………この間まで結構尊敬してたんだけどなぁ………」

 

 

「ははは、分かるよギン姉……私も想像して人とだいぶ違ったもん」

 

 あれぇ?いつのまにかどんどん俺の株落ちてる?大暴落?

 

「もう、いつも女の子の胸ばっかり!そんなに好きなら………」

 

 なのはが怒りつつも顔を赤めながら口を開く。

 

「そんなに好きなら………私のいくらでも見せてあげるのに………」

 

 そんな爆弾発言が投下された。全員が絶句するなかその空気を感じ取って自分が何を言ったのか理解しだしたなのはの顔がリンゴのように真っ赤になっていく。ちなみに俺もかなり真っ赤になっている。

 

「えっと…………なのはさん?それはどういう………?」

 

 言葉の意図が理解できず困惑する俺。なに?俺のこと好きだから?そう言ってくれてるとか?いやいやいやそれはない。そんな風に都合よく考えちゃダメだ。俺はなのはのことが好きだからすぐ自分にとってプラスに考えるのは危険だ。うん、落ち着け。

 

「賢伍君の………」

 

 なのははプルプルと震え出す。顔も耳も真っ赤にしていた。なんだ?どうした?おーい?

 

「賢伍君のバカァーー!!」

 

 

「お前の失言に関しては俺全く悪くな…………ごふぁ!」

 

 本日二回目の鉄拳は、それはそれはボクシング世界王者並みだった。

 

「(ねぇスバル………賢伍さんとなのはさんって付き合ってるの?)」

 

 

「(ギン姉?うーん………相思相愛だけどお互い一歩踏み出せてないって感じかな~)」

 

 

「(あぁ、なるほど……)」

 

 とある姉妹の念話でそんな会話が繰り広げられたが、姉の方はその一言二言で大体の事情は察したようだ。

 

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

 

「ほー、どれくらいの実力か気になってたが…………思ったより鍛えられてるなぁギンガちゃん」

 

 遠目で見守りながらそう言葉を漏らす。今は訓練最中………なのだがやっているの一部だけ。ギンガとスバルの模擬戦だ。他の皆は全員それに見入っていた。実は準備運動をしていた所、なのはがギンガに………

 

「スバルの出来上がりを見てほしいんだ」

 

 と一言。ギンガは笑顔で承諾し、スバルもやる気満々だった。聞くところによればギンガはスバルと同じローラーブーツとグローブ型のデバイスを用いた戦闘スタイル…………シューティングアーツの使い手でその基本をスバルに叩き込んだのもまたギンガらしい。ギンガとしては久し振りに妹兼弟子と闘えて楽しそうでそれはスバルも同じだった。その証拠に…………

 

「なんだか…………楽しそうですね」

 

 キャロがそんな言葉を漏らしていた。その言葉通り、二人は真剣な表情で拳を交えながらもどこか楽しそうな表情も交じっていた。

 

「おっ、決着はついたようだな」

 

 などと考えていると勝負は決まったようだ。スバルの顔面に拳を寸止めしているギンガが見える。まだまだ姉の方が上のようだ。スバルは少し悔しそうにしているがやっぱり笑顔だった。

 

「どうだった?スバルの成長は………」

 

 一旦こっちに呼び寄せて俺がギンガにタオルと水を渡すとなのはがギンガにそう質問をする。

 

「ビックリしました!攻防の切り替えもスムーズになってて………威力も段違いで」

 

 俺となのはで鍛えぬいた成果は上々のようだ。俺も少し鼻が高くなる。少し離れた所ではヴィータがスバルに課題点と良かった点を説明していた。

 

「それはそうとギンガちゃん、ちょっと……」

 

 そう言って俺は手招きをする。が、ギンガは胸を腕で隠して逆に俺から距離を取った。

 

「あー、さっきの悪かった。別にセクハラする訳じゃないから………」

 

 すこし泣きそうになりながらもギンガを近くまで来させて、俺は再び口を開く。

 

「さっきの模擬戦で気になった点があってな…………ちょっと全力で構わないから俺に殴りかかってこい」

 

 道端に落ちてる適当な細い木の棒を拾いながら俺はそう言葉を発する。

 

「は、はぁ…………」

 

 すこし困惑しながらもギンガが構えを取る。雰囲気が少し変わり、格闘家特有のオーラを感じとる。

 

「はぁ!」

 

 

「っ!!」

 

 想像以上の素早さがある拳が俺の顔面に襲い掛かってくる。ギリギリで首を捻って回避する。

 

「ちょっ、ちょっとタイム!」

 

 

「はい?」

 

 ギンガが不思議そうに首を傾げる。まったく可愛い顔して恐ろしいパンチもってやがる。これは俺も締めてかからんといけないな…………だが集中すれば問題はない。

 

「ふー…………悪い悪い。いいぞ………どんどんこいや」

 

 息を吐き出し集中する。目を見開きしっかり観察する。

 

「やぁぁ!」

 

 来た!

 

「っ!」

 

 今度はしっかり見切る。拳を回避しつつギンガからは目をそらさない。

 

「くっ!えいやぁああ!!」

 

 追撃、これもしっかり回避する。

 

「はぁ!」

 

 再び追撃、そしてかわす。目を離さなければ見切れない動きではない。

 

「はぁああ!」

 

 

「ほれ、脇が甘い」

 

 

「っ!?」

 

 次の追撃を放たんとしたギンガの拳をかわす前に先に刀に見立てた木の棒を脇に入れ込む。これが本場なら、俺はすでに切り捨てている。

 

「分からないか?いいぜ、じゃんじゃんこい」

 

 今度は木の棒を捨てて体術の構えを取る。

 

「っ!やぁああ!!」

 

 

「ふっ!」

 

 次々に襲いかかるギンガの拳、足。それを全てかわし、ガードし、甘くなった所をつく。

 

「ボディのガードが甘くなってるぞ」

 

 拳を寸止めしてそう言う。

 

「慌てて下手な防御をするな!次の攻撃に対応出来てないぞ!」

 

 攻守が逆転すればガードの甘い点を指摘する。そして、数分軽く指導して俺はギンガもういいと手で制する。

 

「分かったか?自分が攻撃を加えれば加えるほど細かい動きが荒くなってる、ガードに関しては一ヵ所に意識を持ってき過ぎだ」

 

 

「は、はい!」

 

 

「いいかギンガちゃん?体術ってのは攻撃の出が速いのが魅力的だ。しかしそれに囚われて細かい動きが徐々に疎かになってるな、それじゃあダメだ。もうちょっと意識してみろ、多少ぎこちなくなっても構わない。それを繰り返せば集中力がもっとつくはずだ………そうすれば時間をかけた戦闘でも荒さが目立たなくなる」

 

 

「は、はい…………」

 

 俺にすこし注意されたからだろうか、少し消沈気味の返事が返ってくる。まったく世話の焼ける。

 

「だからって自信を無くす必要はない。お前の拳と速さは誇っていい。建前じゃないぞ?俺が今言った点をしっかり頭に叩き込め、お前はまだまだ成長できる。まだまだ強くなれる………それを忘れんなよ」

 

 そう言ってギンガの額に拳を当てる。

 

「まぁ、散々小言を言っちまったけどよ。ようは自信持てってことだ。お前は十分すぎるくらい強いよ」

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 うん、よし!

 

「これから暫くは同じ部隊の仲間だ、一緒に頑張ろうぜ」

 

 

「はい!!」

 

 俺はそう言い残してギンガの額から拳を離す。さぁーて、今度はスバルだ。あいつはギンガより気になった点が多いからすこし長くなりそうだ…………。

 

「……………………」

 

 

「驚いた?」

 

 

「えっ!わ!フェイトさん………はい、ビックリしました………」

 

 ギンガが少しビックリしていた所にフェイトがそう話しかける。一緒にいるなのはは少しくすくすと笑っていた。

 

「108部隊では剣術と魔法ではとてもすごいと聞いていたのですが…………体術までここまですごいとは驚いてます。……………それとさっきセクハラしてきた時と雰囲気が違くて………」

 

 

「あはは、賢伍はしっかりやるときはやる人だから………まぁセクハラされたときはぶん殴っちゃっていいから」

 

 

「あまりにも酷かったら私に言ってね?砲撃でお仕置きしてあげる」

 

 

「な、なのはさん…………少し顔が怖いです……」

 

 困惑しながらもギンガはそう口を開く。そして離れた所でスバルにあれこれ真剣に説明している賢伍を見て思った。彼はすこし…………いや、かなりちゃらんぽらんな所はあるが…………光の英雄と呼ばれている実力は伊達ではない。108部隊でも知らない人はいないし、他の部隊の知り合いともちらほら神崎賢伍の名前は出てくる。

 本局と溝が深い地上部隊にもその名はまかり通っている。改めて知った………彼の強さを………そして先日説明された彼の闇の恐ろしさを………………。

 

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 スバルの軽い説教が終わったあとは本格的に全員の訓練を開始した。といっても今日のメニューは1つ。隊長VSフォワード4人とギンガでの模擬戦だ。今日はギンガもいることだし俺はいつものハンデはなしで情け無用に行くことにした。

 それを伝えた時ギンガの目は点になっていた。「ふぇ?」なんてかわいい声を出していた。FW4人は

 

「鬼畜!」

 

「悪魔!」

 

「鬼!」

 

「えっとえっと………ご、ごめんなさい!変態!」

 

 4人の内誰がどれを言ったかは想像に任せよう。とりあえず全力で潰しました。叩きのめしました。やり過ぎてなのはとフェイトとヴィータとシグナムが寝返って9人VS俺になった。ボロクソにやられました。なんか今日こんなんばっかだよ全く。

 

「だぁー!疲れたぁ………」

 

 そんなこんなで朝の訓練も終了。しかしボコボコにされたせいでしばらく立てそうになかった。

 

「パパ~!ママ~!」

 

 すると遠くからヴィヴィオの声が。我慢できなくてお迎えにきてくれたようだ、ザフィーラを連れてこっちに向かってきている。俺達の姿を確認するや否や歩を早めて走り出した。

 

「ヴィヴィオ~」

 

 

「転ばないように気を付けるんだよ~」

 

 なのはとフェイトの呼び掛けにヴィヴィオが元気にうんと返事をする。だが少し危なっかしく感じるその走り方は余計に俺を心配させる。ああやばい、転びそう………

 

「ぶぇ!」

 

 

「「「「「あ」」」」」」

 

 転んだ。足をもつれさせて顔を地面にだいぶさせる形で盛大に転んだ。その場にいた全員がつい声を上げた。見事な転びっぷりだった。

 

「ヴィヴィオ!」

 

 慌てて駆けつけようとするフェイトをなのはが手で制する。

 

「大丈夫、地面柔らかいし綺麗に転んだ。怪我はしてないよ」

 

 

「それはそうだけど………」

 

 なのはの言葉にフェイトは心配そうな顔は崩さない。ヴィヴィオを世話するうちに分かったことがある。フェイトは決して甘やかし過ぎてるわけじゃないがどっちかっていうとヴィヴィオには甘い。逆になのはは厳しいというと大袈裟にはなるがフェイトほどヴィヴィオを甘やかしたりはしていなかった。それでも優しく接してはいる。

 

「ヴィヴィオ~?大丈夫?」

 

 

「うぅ………ぐすっ」

 

 なのはの言葉に反応してヴィヴィオは顔をあげるがその瞳に涙が溜まっていた。

 

「怪我してないよね?頑張って自分で立ち上がってみよっか?」

 

 なのはさん!貴方は鬼畜か!?こんなか弱い少女に転んで自分で立てだと?厳しいにも程がある!!あぁ、ほら泣いてるよ~。助けを求めてるよ~。なのは~、うちのエンジェルが泣いてるよ~。あぁ、落ち着け。これくらいのしつけはヴィヴィオのためだ………ヴィヴィオのため…………。

 

「ママぁ………」

 

 

「うん、なのはママはここにいるから………おいで?」

 

 慈愛の笑顔で手を差しのべるだけで動かないなのは。確かに!確かに甘やかしてばかりなのも良くないけど!けどぉ!!

 

「うぅ………ぐすっ……うぅ~」

 

 ヴィヴィオの瞳に溜まった涙がポロポロと流れ出す。あぁ、ダメだ………俺………俺………。

 

「パパぁ…………」

 

 そして、俺の中で何かが決壊した。

 

「もう、ダメだよなのは…………ヴィヴィオまだ小さいんだから」

 

 そう言いながら駆け出すフェイト。しかしそれよりも早く俺は動き出した。光を上回るスピードと宇宙でさえちんけに感じる愛をもって、俺はヴィヴィオに駆け寄った。

 

「ヴィヴィオーーー!!」

 

 それはもう早かった。戦闘でもそんなスピードは出したことはない。閃光と呼ばれたフェイトでさえ目で追うことすら許されないスピード。そのままヴィヴィオだっこして地面から離す。

 

「おー、痛かったなぁ………よしよし。大丈夫だ大丈夫。痛くないぞぉ…………パパがいるから大丈夫だぁ………はぁい、いないいないばぁ!いないいないばぁ!ぶるブルブル!!」

 

 あの手このてを使ってヴィヴィオの笑顔を誘う。

 

「うぅ………パパぁ……」

 

 だがヴィヴィオの涙は止まらず、ますます俺にぎゅっと力を込めてくる。

 

「泣くなぁヴィヴィオ~…………。そうか、この地面がいけないんだな!?このヴィヴィオを転ばせた憎きこの地面が!よぉし待ってろ、今叩き壊してやる!」

 

  

 ドゴォン!ドゴォン!ドゴォン!

 

「ちょっ!賢伍君!?ひたすら地面本気で殴らないで!?一応大事な訓練所だから!あぁ揺れてる!?揺れてる!」

 

 

「か、神崎!落ち着け!地面がどんどん陥没している!?地盤が崩れてる!?」

 

 なのはやシグナムの声など俺には届かない。今俺がすることは……この憎き地面を叩き壊すのみ!

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!」

 

 

「誰かあいつをとめろぉーーーー!!!」

 

 ヴィータの叫びは虚しくも昼の青い空に響き渡った。

 

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

「もう…………フェイトママと賢伍パパはちょっとヴィヴィオに甘いよぉ………特に賢伍パパ…………」

 

 

「はい……………すみませんなのはママ……」

 

 

「なのはママは厳しすぎです」

 

 なのはのため息に俺は土下座で、フェイトは言葉を発して返す。あ、地面?ちゃんと直したよ魔法で、うん。話を戻してと、親が3人いる以上教育方針………と言えば大袈裟だがやはりそれは三者三様でこうなることは目に見えていた。まぁ、そこは追々話し合うとして今は…………。

 

「ヴィヴィオ、気を付けるんだよ?ヴィヴィオが転んで怪我なんかしたらなのはママもフェイトママも泣いちゃうよ?賢伍パパなんか号泣しちゃうよ?」

 

 自身の腕で抱いているヴィヴィオに優しく問いかけるなのは。そうだよなのはママの言う通りだよ、号泣どころか自殺しちゃうよ俺。そんな思いが届いたのか、ヴィヴィオは頷きながら小さい声で

 

「ごめんなさい…………」

 

 そう言った。うん、謝らなくていいと思ったがここは笑顔でヴィヴィオの頭を撫でる。

 

「あ、肘に軽い擦り傷が………」

 

 

「うあああああああああ!!!ヴィヴィオを守れなかった俺なんて!俺なんてええええええええ!!」

 

 

「ちょっ、賢伍君なに刀取り出して切腹しようとしてるの!?ヴィヴィオにこれ以上変なトラウマ植え付けないでよぉ!!」

 

 再び始まった俺の暴走はいい加減うるさいと思われていたようで全員に袋叩きにされた。ていうかFW4人もギンガもちゃっかり一緒に参加していたことは目を瞑ってあげようと思った。

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 

「おー、オムライスか。上手そうじゃないか」

 

 まぁ、そんなこんなとあったわけだが今は昼食の時間だ。今日は久し振りに全員席を共にしての食事だ。いつも忙しそうにしてるはやてもいる。

 

「わぁぁ………なのはママ!これおいしそう!!」

 

 そして、愛すべき俺達の天使であるヴィヴィオも勿論一緒だ。なのはとフェイトに挟まれて目の前には俺という形で席につく。ヴィヴィオの天真爛漫な笑顔を見ていると俺も自然と表情が緩む。

 

「そうだね、美味しそうだねぇ」

 

 

「よく噛んで食べるんだよ?」

 

 

「うん!」

 

 なのはとフェイトが側にいてくれればヴィヴィオに何も心配はない。フェイトはキャロとエリオの保護者でもあるから子供の扱いには慣れてるだろうしなのはもしっかりしてるから本当に助かっている。俺がしていることといえば遊び相手になってあげることくらいしか出来てない。美味しそうにオムライスを頬ぼるヴィヴィオにほかにもっと俺に出来ることはないもんかねぇ?

 

「しっかしまぁ、子供って泣いたり笑ったりの切り替え早いわよねぇ~」

 

 そんなヴィヴィオを見てティアナがそんな言葉を漏らす、一緒の席にいるスバルとギンガはうんうんと頷いている。

 

「そういえば、スバルが小さいときもあんな感じだったよねぇ~」

 

 

「えぇ~?そうかなぁ?」

 

 懐かしむようにそう口にするギンガ。スバルは恥ずかしかったのか少し顔を赤くしている。

 

「リィンちゃんもそうだったかなぁ?」

 

 近くで話を聞いていたシャマルさんも続けてそう口にする。

 

「えぇ~!?リィンは始めっからわりと大人でしたー!」

 

 真っ向に否定するリィンだが、ぶっちゃけ対抗してる時点で大人の要素など微塵も感じてない。見た目が小さいのも問題だし。

 

「嘘をつけ」

 

 

「体はともかく中身は完全に赤ん坊だったじゃねぇか」

 

 そんなリィンの主張もすぐにシグナムとヴィータに否定される。リィンは少し困った顔をしながら

 

「はやてちゃ~ん!」

 

 と、主に助けを求めていた。

 

「ふふ、どうやったかなぁ~?」

 

 とうの本人は素知らぬフリだが。

 

「まぁ、体もミニマムだから心もミニマムサイズだったんだろ?今だって大して大人には見えないけどな」

 

 面白そうだったので横槍を入れてみる。

 

「あぁ!?賢伍さんひどいですぅ~!」

 

 

「はははっ、悔しかったらもうちょっと魅力的な大人を目指すんだな!せめてももう少し胸を何とかしな」

 

 

「うぅ~、私だって普通のサイズならスタイルだってもっと良く見えますよぉー!というかちゃっかり変態さんなのです!?」

 

 ちなみにリィンは主のはやてを気遣って魔力供給の少ないミニマムサイズだが、供給を多くすれば大人の体型にだってなれる。まぁ、中身はそのままだから本当の意味で大人になるわけではないが。

 

「うぅ~」

 

 うん?リィンを少し弄って楽しんでいたら目の前のヴィヴィオのスプーンが止まっていた。うねりながら皿の上にある何かをジーっと眺めている。

 

「あ、ヴィヴィオダメだよ?ピーマン残しちゃ」

 

 いち早く状況を理解したなのはがヴィヴィオにそう注意をする。好き嫌いか大抵の子供ならほとんどの子が通る道だ。今後それをしっかり食べれるようになるかは親次第だしな、今回はなのはに賛成だった。

 

「苦いの嫌い~!」

 

 

「えぇ?美味しいよ?」

 

 

「食べないと大きくなれないぞ?ヴィヴィオ」

 

 フェイトと俺の言葉にも嫌々と首を振るヴィヴィオ。想像以上に苦手らしい、まぁ気持ちは実は分かったりする。

 

「食べへんとママみたいに美人さんになれないで~」

 

 はやてのその言葉が聞いたようだ。嫌々と振っていた首を止めて真剣にピーマンを見つめるヴィヴィオ。あ、スプーンに乗せた。ゆっくりゆっくり口に近づけて…………

 

「はむっ」

 

 目をぎゅっと瞑りながら口にいれる。一生懸命噛んで………飲み込んだ!

 

「うん、偉いよヴィヴィオ~」

 

 

「頑張ったね~」

 

 二人にママに誉められたからかピーマンの苦さに顔をしかめていたヴィヴィオだかすぐに笑顔が宿る。

 

「流石ヴィヴィオだなぁ。じゃあそろそろ片付けて………」

 

 俺の皿の上に残っているピーマンを見られないようにしながら立ち上がろうとする。

 

「賢伍君~?お皿の上にあるそれはなにかなぁ?」

 

 あっ、まずい。

 

「あれ?賢伍ピーマン食べないの?」

 

 フェイト!余計なこと言うな!

 

「パパずるい!ヴィヴィオはちゃんと食べたもん!」

 

 ヴィヴィオ!やめて、声が大きいよ!

 

「なぁ?ヴィヴィオ、パパはな?ピーマンアレルギーでな?食べたら大変な事になっちゃうんだよ?だから………な?」

 

 

「うぅ~!だったらヴィヴィオもピーマンアレルギーだもん!」

 

 

「いやそういうことじゃなくてね?」

 

 

「言い訳はそれだけかな賢伍君?」

 

 あぁ、なのはがいつもより清々しい笑顔だ。けど何でだろう、顔に影があって怖いんだけど。

 

「はいアーン?」

 

 あぁ、好きな人にそんなことされて嬉しいシチュエーションなはずなのに何でこんなに喜べないんだろうか。

 

「だって…………苦いの嫌い………」

 

 ヴィヴィオと同じ言い訳になっちゃった。

 

「知りませ~ん。ちゃんと食べようね~」

 

 

「ちょっなのは!?無理矢理口に押し込むんじゃ……………ゴボボボボボ」

 

 ピーマンがぁ!ピーマンが俺の体に浸入してくるよぉ!!

 

「パパ!パパ!ヴィヴィオ、ピーマンアレルギー!!」

 

 愛娘よ、パパはそれどころじゃありません。ていうか今日本当にろくな目にあってない気がするんだけど…………。

 

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 

「………………来たか、闇の神崎賢伍……」

 

 

「けっ、急に呼び出しやがって。で?ジェイル、一体何の用だ?」

 

 時を同じくして場所はスカリエッティのアジト。そこに闇とジェイルの声が響いていた。

 

「まぁそう怒らないでくれ。ルーテシアとの時間を奪ってしまったのは謝るよ」

 

 

「そんなに死にてぇなら手伝うぞ?」

 

 闇のその言葉にジェイルは両手を上げて「冗談だ」と付け加える。

 

「さて本題に入ろう。もうすぐ来るべき日の準備が完了する………君にもしっかり仕事をしてもらうよ」

 

 

「そいつは構わねぇよ…………で?俺はどうすればいい?」

 

 

「指示は追々伝える。基本はいつもと変わらないからね。それより………これを見てくれ」

 

 そう言ってジェイルはモニターを展開してスイッチを押す。すると、轟音を立てて壁が真っ二つに割れ、扉のように開く。

 

「ほぉ…………よくここまで作ったもんだ」

 

 その中にあったのは多種多様のガジェットドローン。それも軍隊のようなものすごい数だ。その迫力に闇も感嘆の声を上げる。

 

「もうすぐ私の娘達の調整も終わる」

 

 

「お転婆娘どもか。悪いがもう子守りはごめんだぞ?」

 

 

「そう言わないでくれ、君も存外ルーテシアのように少しは私達の事を気に入ってくれているのだろう?」

 

 

「…………根拠は?」

 

 

「強いて言えば勘だよ」

 

 

「科学者が勘に頼ってんじゃねぇよ」

 

 そう言いながらも闇はジェイルの言葉を否定しなかった。ジェイルは分かっていたのだ、気に入られていなければここまで協力はしてくれなかったであろう。自分の目的のためとはいえ、それにしたって指示を良く聞いてくれたのだ。

 

「まぁいい、お前の指示通りには動いてやるよ。だが決行までは好きにさしてもらう………」

 

 

「あぁ構わないよ、ルーテシアの所に戻っても」

 

 ジェイルの茶化しが含まれた言葉を浴びせられても今度は闇は反応しなかった。

 

「そうそう闇の神崎賢伍………」

 

 ふと、ジェイルが闇を呼び止める。

 

「あぁ?」

 

 もうアジトを後にしようとしていた闇の歩も止まる。

 

「アーノルド博士は元気かね?」

 

 

「っ!」

 

 咄嗟に、闇はダークネスハートを待機状態から漆黒の刀へと変化させそれをジェイルの首筋に当てる。

 

「貴様…………何故その名を……あのジジイの名前を知っている?」

 

 闇は今まで放ったことのないほど鮮烈な殺気をジェイルに浴びせる。睨み付ける目は血走り、刀を握る拳は力が入りすぎて赤く滲んでいた。それは怒り、憎しみ………その感情を表していた。

 

「ハハハ!落ち着きたまえ闇の賢伍、私はただ元気か?と聞いただけさ。一度だけ会ったことがあるからね、気になっただけさ」

 

 

「…………………」

 

 闇は黙ったまま刀を待機状態に戻す。だが相変わらずジェイルを睨み付けたままだった。

 

「………奴の居場所を知っているのか?」

 

 

「まさか、私が知るはずもない。むしろ君が知らないことに驚いているよ」

 

 

「お前はどこまで知っている?」

 

 

「そうだね、正直に答えないと君に殺されそうだ。プロジェクト「S」は知っていると答えておこう………」

 

 闇の表情が驚愕の色に変わる、しかしすぐに闇は表情を戻して笑い出した。

 

「くははははははは!!そうか、そこまで知っているのか!だからお前は俺を知っていて仲間に引き込んだのか…………」

 

 

「あぁ、勿論君に敵意はないし君が望む情報を手にいれたら迷うことなく君につたえるつもりだった……………アーノルド・ジーマンの居場所………等とかね」

 

 

「………………見返りは?」

 

 

「それはもう貰っているさ、君が私に協力してくれているだけでお釣りがくるくらいさ…………計画も最終段階に入りつつある……だからこのタイミングで私は君にこの話をしたのさ……ささやかなお礼としてね」

 

 

「ふっ、いいだろう…………計画が完遂したらお前に色々調べてもらおうか………その代わり俺も、お前の計画に今まで以上に協力してやる」

 

 闇は売って変わって機嫌がよくなる。彼の目的はますます謎が深まるなか闇は邪悪と怒りが混じった笑みで口を開く。

 

「光の英雄も……アーノルドも、俺が全て飲み込んでやろう………」

 

 深淵の闇は、またひとつ黒に近づいていった。

 

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 

「公開意見陳述会が狙われるって?」

 

 

「うん、教会から最新の予言解釈としてそう届いたんや」

 

 太陽が沈みかけ時間は夕方。夕日に照らされた六課のロビーで俺とはやて、なのはとフェイトで今後の話をしていた。そして、問題になったのが例の預言………地上部隊の壊滅から起こる管理局の崩壊…………その始まりが一週間後に迫った公開意見陳述会とやらの時に始まるらしい。

 

「……………警備はこれまで以上に厳重になるし、六課も全員で警備に当たる。中に入れさせて貰えるのはうちら4人だけかもしれへんけど」

 

 ふむ、なら今後はそれについて考えた方がいいな。そう言って4人で意見交換をする。だが俺達に焦りはなかった。ヴィータやシグナムこれまで以上に万全だし、新人達の訓練も明日からまたステップアップする。

 

「きっと…………なんとできるよ………私達なら………」 

 

 なのはのその言葉に全員油断したわけでない。だが、その言葉を皆信じて肯定して頷いていた。預言なんて関係ない、俺達には俺達にしか出来ないことをするだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

「ふぅー、今日も1日疲れたなっと…………」

 

 

「あはは、そうだねぇ………」

 

 俺となのは、二人でゆっくりとした足取りでヴィヴィオが待つ自室に向かう。フェイトとはやてとは別件で別れたので今は二人だけだ。

 

「…………大丈夫……だよね?」

 

 なのはのその言葉の意図はすぐに分かる。公開意見陳述会、さっきはああは言っても不安は拭えてないんだろう。

 

「はっ、関係ないさ」

 

 俺は鼻で笑ってそう一蹴する。

 

「言ったろ?俺が守るってさ。どんな事になろうが俺は皆を守る、そして奴にも勝つ!それ以外の結末なんてあり得ねぇよ………」

 

 拳を高々もあげてそう口を開く。虚勢だろうがなんだろうが関係ねぇ、俺は俺のやりたい通りに全力で闘うだけだ。

 

「ふふふ、やっぱり賢伍君だね…………頼もしいや」

 

 

「ばか、俺だってお前を頼りにしてんだよ。そこを忘れんな」

 

 なのはの頭を軽くこずく。そのまま流れで頭を撫でた。

 

「…………えへへ、なんだか楽しいね……ヴィヴィオが来てから毎日が……」

 

 

「そうだな」

 

 たとえ危機が迫ってると言われても、俺達はいつも通り楽しく過ごす。やるべき準備はしっかりやりつつ、楽しく過ごすのだ。

 

「ねぇ賢伍君?」

 

 

「うん?」

 

 

「…………抱き締めていいかな?」

 

 

「…………………むしろ俺からお願いするよ!」

 

 

「きゃっ………もう賢伍君ったら子供みたいだよ~」

 

 

「先に言い出したのはなのはだろ~」

 

 じゃれあいながらそう言葉を交わす。愛しき人の、なのはの温もりを感じる。

 

「んっ…………なんだか……恋人同士みたいだね…………」

 

 真っ赤になりながらなのははそう言う。その言葉の意図はなんだったのか?今度は分からなかった。だから俺は黙って抱き締める手を少し強める。

 

「全部終わったら………告白するよ………それが現実になるようにさ」

 

 誰にも聞こえないようにそう呟く。今、決めた。俺はもうこのままの関係で居続けるのは辛い。だから伝える、自分の中の思いを。自分の中で小さい頃からくすぶり続けてきたこの気持ちを。新しく立てた、自分自身の誓い。

 

「ん?何か言った賢伍君?」

 

 

「なんでもねぇよ、ほらさっさと部屋に戻ろうぜ」

 

 そう言って歩みを進める俺。

 

「……………私ね………賢伍君のことが好きだよ」

 

 そのなのはの呟きは自分に言い聞かせるようで、なのは以外には誰にも聞こえず。

 

「全部終わったら………私……賢伍君に……」

 

 その先の言葉は出さなかった。恥ずかしくて、出せなかった。けど、心の中では呟く。告白する………と。

 

「なのは、早くいこうぜ?」

 

 

「………うん!」

 

 二人は互いに気づかずに同じ誓いを立てて、同じことを思う。

 

「「(たとえこの想いが届かなくても……)」」

 

 そんなことには決してならなそうな心の呟きを二人は奥にしまいこみ。ヴィヴィオが待つ自室の扉を開ける。

 

「お帰りなさい!なのはママ!賢伍パパ!」

 

 扉をあければ笑顔が待っている。

 

「おう!」

 

 

「ただいまヴィヴィオ」

 

 英雄が守ると誓った小さな女の子と愛する女の子。目前に迫る危機がありながらも彼の誓いは変わらない。

 

 

 

そして……………決戦の日は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 





 最後はこじつけのようになってしまいましたが、最近のなのはに尻をしかれてるばかりで恋愛の発展がないなぁと思いまして。  

それでお知らせですが、実は本日5月4日はこの作品、光の英雄を投稿してから1年がたったのです。

だからどうした?と言われればそれまでですが、一応報告させていただきます。一年間、予定より話が進まなかったり増えたりと色々あったわけですが、読者の皆さんのアドバイスや応援のお陰でやってこれました!その感謝の気持ちを伝えたく、この場をかりてお礼申し上げます。
 そして!これからもよろしくお願いします!!



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変わらない言葉



公開陳述会の前にオリジナル会を何回か挟みたいと思いますm(__)m


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしよし、今日もバッチリだな………」

 

 鏡の前の自分の身だしなみをチェックしながらそう呟く。制服にシワはなし、髪もしっかり整ってる。うむうむ、いつも通りだ。

 

「…………行くか……」

 

 そしてそのまま俺は訓練所に向かう、今日は皆どんな風な動きをしてくるのか楽しみだ…………。

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

「行くぞストラーダ!」

 

 

SR『ラジャー!』

 

 

「てえええやぁ!!」

 

 ストラーダのブーストを使い、空中で浮遊してる俺めがけてエリオが槍を突く。

 

「甘い!」

 

 

「っ!」

 

 槍の先端を刀で受け流す。地上なら態勢を崩させて制圧するのだが、空中だと話は別だ。俺の横をブーストで通り過ぎたエリオは、方向転換をして再び突進を行う。

 

「いっけええええええ!!」

 

 

「甘いっていってるだろ!『光の障壁』!」

 

 右手を前にかざし、光の魔力で構成されたバリアを作り出す。

 

 

 

 ドォン!

 

 

 槍とバリアの衝突で衝撃が響く。俺とエリオの回りに黒煙が立ち上ぼり辺りの視界を悪くする。

 

「くっ!………あっ!?」

 

 

「捕まえたぞ~」

 

 エリオが先に距離を取り離脱しようとする前に右手で腕を掴んで俺は楽しそうにそう言った。

 

「そぉら、床とキスしてこい!」

 

 腕を掴んだままエリオを地面に向かって投げ飛ばす。

 

「うわ!わああああ!!」

 

 なすすべなく地面に吸い込まれていくエリオ。まぁ、バリアジャケット来てるんだしちょっと痛いかもしれんがケガはしないはずだ。

 

 

 ドォン!

 

 

「…………………………」

 

 予想より地面との衝突音が大きくてつい黙ってしまう。地面とキスするどころか貫通してそうだ。

 

「うおおおお!」

 

 

「やああああ!」

 

 と、エリオを心配していると背後から襲撃される。

 

「来るだろうと思ったぜスバルにギンガちゃんよぉ!!」

 

 が、二人が拳を使って俺の背後をとってくるだろうことは予測していた。二人の一撃は出が早く強力だ、警戒していない訳がない。

 

 

 ドォン!

 

 

 再び衝撃。二人の拳は俺を捉えていた。俺に向けて振り上げていた、しかしそれは俺には届かない。

 

「っ!これは!?」

 

 

「障壁!?」

 

 そう言うことだ、俺の背後がわに光の障壁を展開し防いだのだ。光の障壁は展開が早い。スバルとギンガの動きが分かれば、充分に対応には間に合う。

 

「このタイミングで来るのは予想してた、つまり罠も仕掛けさせてもらったぜ?あ、仕掛けたのは光の障壁だけじゃねぇぞ?」

 

 そう言って指をパチンとならす。すると徐々に俺が初歩の幻術魔法で景色に溶け込ませていた無数の魔力弾をスバルとギンガを囲い込む形で出現する。言っておくが俺は幻術魔法なんてほとんど使えない。こんなもの魔法学園の小等部の子でも使える子はいくらでもいる。

 魔力弾の色を少し薄く見せただけ、俺の魔力光は光の魔力なだけあって薄いイエローに近いいわば光色、それを薄くして立ち上る太陽で視認しづらくしただけ、こんなもの本来ならスバル達でもすぐ見抜けられるだろうがあいにく俺の背後を取るのに夢中になりすぎたようだ。

 

「もうちょっと回りを見れるようにしような二人とも?」

 

 

「は…………はは………」

 

 

「………終わった………」

 

 満面の笑みで俺がそう口を開くことに対して、二人は渇いた笑いを浮かべる。

 

「んで、反省としてこの魔力弾全部ぶつけるけど…………その前に何か言うことあるかい?」

 

 言い訳くらいは聞いてやろうじゃないか。

 

「「もう少し手加減してください」」

 

 

「おやすみ(ニコッ)」

 

 耳が痛かったのですぐに全弾発射させる。

 

「「きゃあああああああ!!??」」

 

 叫び声とともに無数の魔力弾により轟音が走る。そしてフラフラと地面へと落下していくギンガとスバル。

 

「あー、ちなみになのはが作った訓練用魔力弾だから体にダメージは……………ないはずなんだけどなぁ………?」

 

 落下してった二人を見て本当に大丈夫か不安になる俺だった。

 

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

「け、賢伍さん…………今日は容赦なさすぎですよ~」

 

 スバルが地面に座ってがっくりとうなだれながらそう言う。

 

「そうか?そんなつもりはないんだけどなぁ」

 

 タオルと水を渡しながらそう口を開く。今日もいつも通り訓練から一日が始まっな。先程のは模擬戦闘であのあとキャロと

ティアナも撃墜して戦闘は終了したんだが、いかんせん全員から不満を言われている。

 

「こ、これじゃあ…………訓練にもなりませんて……………」

 

 ティアナもスバルと同じようにそう言葉を発する。

 

「まぁまぁ皆、許してあげて?賢伍君皆がどんどん強くなってるから嬉しくてついはしゃいじゃったみたいだから………」

 

 訓練を見ていたなのはがそうフォローしてくれる。ふむ、確かに言われてみればそうだったかもしれない。気づかずに手加減を忘れていたようだ。

 

「まぁ、賢伍君がはしゃいだお陰で皆の新しい課題も見つかったことだし結果オーライかな………」

 

 なのはがそう笑顔で言う。その言葉を聞いてすこしホッとする。やり過ぎたからなのはに怒られるんじゃないかと少し心配になったから。訓練となるとなのはは過敏だ、教官でもあるし皆の今後に関わってくるからそりゃ敏感になるだろう。

 だから、ちょっと気を悪くしたかなと心配したが杞憂だったようだ。

 

「ま、それとこれとは別にして賢伍君には少しお灸が必要なんだけどねぇ………」

 

 訂正した方が良さそうだ、なのはは少し怒ってる。

 

「わ、悪かったって………午後はしっかりやるからさ……」

 

 なのはは本当?と渋々とした顔をしていつの間にか構えていたレイジングハートをしまった。少し冷や汗を感じつつも安堵する。

 

「んじゃ、俺のせいで皆ボロボロだし午前はここまでにするか………」

 

 俺がそう呟くとなのはもそうだねと俺の言葉に同意する。それに…………一人話があるやつがいる。

 

「皆お疲れさま、お昼までまだ時間あるしシャワーでも浴びてゆっくりしてるといいよ………それじゃ、解散!」

 

 なのはのその言葉で訓練は終了となる。ギンガを含めたFW陣はありがとうございましたと挨拶をしっかりとしてから解散している。女性陣は笑いながらシャワールームへと向かっていく。

 

「よし、エリオ!俺たちも汗流すか?」

 

 

「あ、はい!」

 

 エリオを連れ添ってシャワールームへと向かうことにする。勿論男性用の所だ。

 

「賢伍君~!ヴィヴィオ待ってるからあんまり長居しないようにね~!」

 

 なのはのその忠告に俺は背を向けたまま手を振って返す。そして俺は見逃さなかった、ヴィヴィオという単語を聞いたエリオの表情が…………何かを感じとるような言葉では表現できない微妙な変化をしたことを。

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 

 

 シャワーの独特な音がシャワールームに響く。キュッと音をならしながらシャワーのバルブを閉めて止める。

 

「ふぅー!やっぱ動いたあとのシャワーは気持ちいいな」

 

 

「そうですね!」

 

 水滴を払い、タオルをとって濡れた体を拭う。しっかり拭き取ったら髪をドライヤーで乾かしてエリオより一足先に服に着替える。

 

「ほれエリオ、頭乾かしてやるから来いよ」

 

 ドライヤーを持ちながら体を丁度拭き終わったエリオにそう口を開く。

 

「え?いやそんな…………自分でできますよ……」

 

 

「そう言うなって、ヴィヴィオにもやってあげるときがあるんだけどさ。他人にやるのは上手くいかないんだよ、だから練習させてくれ………な?」

 

 またヴィヴィオっていう単語に何かに反応したエリオを感じつつも俺は手招きでエリオを前にたたせる。エリオも「そういうことなら……」と応じてくれた。

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

「ほら、乾いたぞ」

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 ドライヤーでしっかり乾かしたエリオの髪をポンと軽く叩いてそう言う。脱衣場で着替えてるエリオより一足先に外に出て売店でミネラルウォーターを2つ買って近くの休憩スペースになるソファに座ってエリオを待った。

 

「お待たせしました」

 

 

「ん」

 

 エリオの言葉に短く返事をして隣に座らせる。買っておいたミネラルウォーターを渡すとエリオは美味しそうにそれを飲み干した。

 

「ちょっとゆっくりするか…………」

 

 

「………?。ヴィヴィオはいいんですか?」

 

 

「なのはと一緒に行った方がヴィヴィオも喜ぶだろ」

 

 女性のシャワーは長いのがセオリーだ。それに今日は人数も多いだろうから時間がかかるだろう。それまでゆっくりして待つだけだ。

 

「………………………」

 

 

「………………………」

 

 俺とエリオの間に沈黙が訪れる。だが俺もエリオも気まずくて黙ってるわけではなく、ただ話すようなことはないだけ。六課を設立してから距離が縮まるには充分に時が経った。

 エリオもそれ以外3人も俺の大事な部下だし仲間だ。あいつらもきっと同じように思ってくれていると信じている。その自信はある。だから俺は…………エリオに聞かずにはいられなかった。

 

「エリオ……………なにかヴィヴィオに思うところでもあるのか?」

 

 

「えっ?」

 

 ヴィヴィオという単語を聞くと時折見せる考えるような表情、それが気になった。悩み事なら全力で力になりたい。話すだけでもエリオが楽になるならいくらでも聞いてやる。俺の考えすぎならそれでいい。

 

「いや…………そんなことは……」

 

 

「エリオ」

 

 エリオの言葉を遮って俺は名前を呼ぶ。別にお節介を焼きたい訳じゃない。話したくないなら聞くつもりはない、けど。

 

「何か悩みや考え事があるなら俺は力になる。本気で構ってほしくなかったらそっとしておく。けどもし…………少しでも俺に力になれるんだったら………話したいことがあるなら俺はお前の心の内を聞きたいんだ。気のせいなら気のせいでいい、だから正直に答えてくれないか?悩み事や考え事はあるか?俺は力になれるか?」

 

 話すと楽になれることを俺は沢山実感している。だからエリオには遠慮してほしくない、迷惑かけてしまうなんて思ってほしくない。

 

「俺はお前の先生だ、お前は俺の大切な仲間だし……………弟分のように思ってる………」

 

 だから正直に言ってくれと俺は再びエリオに伝える。前からエリオの態度に気にはなっていたしフェイトからキャロの事情は聞いていたけどエリオについては全く聞いていない。なんでフェイトが面倒を見ることになったのか、なにか事情があるのは明白だし、気にはなっていた。しかし立ち入っていい話ではないだろう。

 だからエリオとゆっくり話したかった。別にお前の過去を聞きたいわけじゃない、ただ話したかったのだ。悩んでいるなら、考え事があるなら。

 

「……………………………」

 

 エリオはビックリしたような表情を浮かべて言葉を詰まらせる。一方的に俺の気持ちを伝えられ困っているようだ。だから俺はエリオの言葉を待った。視線を落として考えてチラッと俺の事を見て様子を伺う。それを何度か繰り返してエリオはようやく口を開いた。

 

「賢伍さんは…………プロジェクトFをご存知ですか?」

 

 最初に出てきたのはそんな言葉。

 

「あぁ、知ってるよ………」

 

 どっかのバカな化学者が考案し実行したいわば人間のクローンを生み出す人造魔導師計画。フェイトもプレシアによってプロジェクトの一人として、アリシアの代わりとして生み出された被害者。それで苦しんでいたフェイトを忘れることは出来ない。そしてそれによって生まれた悲劇も………………。

 

「フェイトさんが僕がもっと小さい頃に保護者として受け入れてくれたことは?……」

 

 

「それも知ってる。どういう経緯かは全くしらないけどな」

 

 その言葉を最後に静寂が訪れる。エリオは口をパクパクさせて続きを喋るか喋らないか迷っている。気長に待とうと思い、体勢を楽にする。数分程でエリオは口を開いた。

 

「ぼ、僕は……………………」

 

 その唇は少し震えている。表情も暗い。

 

「僕は………プロジェクトFで生み出されたクローンなんです」

 

 

「…………………………」

 

 驚かなかったと言えば嘘になる。そんな話聞いたことなかったし、知りもしなかった。けど俺は表情を崩さなかった、続くエリオの詳しい話に耳を傾けていたから。

 切っ掛けは管理局員がエリオの家、モンディアル家に訪れた日。局員に連れ去られようとしているエリオを見たエリオの父と母はどういうことだと勿論反抗した。うちの息子をどうして連れていこうとするのだと。しかし、局員はエリオの目の前でその父と母に全ての真実を伝える。

 

「モンディアル家の子供、エリオ・モンディアルという人物は既に事故で亡くなっている筈だ」

 

 と。それで両親は口をつむぐ。そう、全てはその両親が息子を亡くした寂しさを埋めるために生み出されたのがエリオ・モンディアルのクローン、現在機動六課のエリオだと言う。

 プロジェクトFそのものに関わるのは罪だ、エリオの両親も捕まり、その事実を局員に突きつけられたときに両親はエリオから目をそらした。悪く言えば見捨てたのだ。

 

「お父さん!お母さん!」

 

 それでも必死に叫び続けることしかできなかったエリオにはその現実を受け止めるにはまだ小さすぎたのだ。

 その後エリオは管理局の研究施設に連れていかれた。それでもエリオの不幸は終わらない、その施設でひどい扱いを受けていたようだ。具体的に何があったかは聞くつもりはなかったが大方想像がつく。

 フェイトの保護下になるまでは今とは想像がつかないくらい荒れていたそうだ。

 

「それが僕の秘密なんです。だから…………ヴィヴィオにその………」

 

 

「あぁ、それ以上言わなくていい」

 

 分かるから。ヴィヴィオも同じクローンで生み出された可能性が高い。それと自分を重ね合わせてしまうんだろう。エリオが管理局に連れていかれた年と大差ないヴィヴィオ見て。

 

「…………その、すいません」

 

 

「なんで謝るんだ?」

 

 

「だって………こんな話してしまって……」

 

 

「聞いたのは俺だ。謝ることはない」

 

 そう言ってもエリオは申し訳なさそうにしていた。それより少し怖がっていた。俺に自分の秘密を隠していたことを知られたのだから、何かを心配している。その何かは分かっている。

 

「僕は……………普通の人間ではないんです」

 

 あの時のフェイトと…………重なって見えたから。

 

「なぁエリオ…………お前今幸せか?」

 

 だから俺は唐突にそう口を開く。

 

「え?」

 

 

「幸せか?フェイトと一緒にいれられて。楽しいか?機動六課の皆といることが」

 

 エリオは最初、少し意味がわかってないような顔をしていたがすぐに冷静になって言葉の意味が分かると頷きながら

 

「はい、幸せです」

 

 と答えた。迷いなくそう答えたのを見て、俺は表情を綻ばしながら言葉を発する。

 

「ならそれでいいじゃないか……」

 

 そう、それでいいんだ。その言葉にエリオは首を傾げていたが俺は構わず続ける。

 

「お前が幸せならそれでいいじゃないか、お前がクローンだとか、普通の人間じゃないとかそんなことは関係ないだろ?」

 

 

「あっ……………」

 

 

「少なくとも俺はお前がクローンだとか関係なくお前の事を俺の弟分、エリオ・モンディアルだと思ってる。普通の人間じゃないとかそんな下らないことに囚われるな、お前はお前だ…………」

 

 

「け、賢伍さん………僕は………」

 

 

「前を向けエリオ。お前がクローンだろうが、普通の人間じゃなかろうが、たとえどんな姿形をしていたってな……………お前は俺の大切な仲間だ…………」

 

 エリオの頭にポンッと手をのせる。普通に憧れていたエリオ。自分がクローンという事実に苦労したエリオ、だがそんなのは無意味だ、そんなことで一人の価値なんて決まらない。クローンだって人間だって…………本当に大切なことは………その人がどういう人なのかってことなんだから。

 

「……………はい」

 

 

「それと、普通の人間じゃないとかそんなこと言うな。フェイトが悲しむ、それが分からない訳じゃないよな?」

 

 

「はい………すいません」

 

 

「いい子だ」

 

 噛み締めながら口を開くエリオに俺は頭をポンポンと叩く。

 

「何かあれば今日みたいに全部吐き出せ。楽になる、俺に遠慮することはない。俺はお前の…………」

 

 きっとそれは大切なこと、そして俺とエリオを言葉で表すにはぴったりな言葉だと思った。

 

「兄貴分なんだからよ!」

 

 

「………はい!」

 

 ニカッと笑う俺にエリオも似たような笑顔で元気な返事で返す。笑ってくれた礼に、瞳に溜まっていた少量の涙をからかうことをやめる。

 

「俺が言えることはそれだけだ……………フェイト!そこにいるんだろ!」

 

 声を少し張り上げてここから死角になってる物陰に向かってそう言葉を紡ぐ。

 

「あ、やっぱりバレてた?」

 

 

「フェイトさん!?」

 

 少し困った顔をしながらフェイトが物陰から出てくる。

 

「たまたま通りかかって隠れてるところをたまたま見ちまってな」

 

 話の最初の方から実はフェイトは隠れて聞き耳を立てていた。いい機会だしわざと気づかないフリをしていたのだ。

 

「エリオ、フェイトを悲しませるの駄目だけどさ…………迷惑はいくらかけてもいいんだよ。今日みたいに悩むことがあったら、今度はフェイトに話してやれ。きっとフェイトもその方が喜ぶから」

 

 俺はエリオにそう耳打ちをしてその背中をフェイトの方に向かって押し出す。

 

「んじゃ、俺はそろそろ戻るよ。愛娘が待ってるんでな…………」

 

 そう言って手をヒラヒラさせながら歩き出す。向かう先は言葉通りヴィヴィオがまつ俺となのはの部屋だ。

 

「あ、賢伍さん!」

 

 反射的に俺を呼び止めようとするエリオ。だが俺はもう一度手をヒラヒラさせて止まることはしなかった。

 

「恋の悩み以外ならいつでも聞いてやんよ」

 

 それだけは、役に立ちそうにないからな。そう言い残して俺は足を少し早めて部屋に向かった。

 

「………………エリオ、賢伍に話したんだね」

 

 

「えっと………はい、すいません……」

 

 

「ふふっ、なんで謝るの?」

 

 そう言ってフェイトはしゃがんでエリオを抱き締める。なんでこれまでフェイトは賢伍にエリオの事を隠していたのか?その理由は六課の顔合わせの前にエリオが最初は知られたくないと言ったからである。

 キャロは自分の過去を賢伍に話してもいいと了承をとってフェイトは賢伍に事情を説明した。しかし、エリオは時間が立ったら自分で話すと言っていたのだ。確かにフェイト自身に神崎賢伍がどんな人物か話を聞いていたが、自分自身会ったこともない人物にいきなりデリケートな過去の話をするのはエリオには躊躇われた。仕方のないことだった。

 

「私の言った通りだったでしょ?賢伍はそんなことは関係ないって言うって…………」

 

 

「…………はい」

 

 フェイトのその問いにエリオは素直に頷いた。機動六課との生活を初めてそれなりの時間が立ってエリオは神崎賢伍に憧れを抱くようになった。様々な姿を見た。料理はお世辞にもおいしいとは言えない、ところ構わずセクハラをして女性を困らせ、ヴィヴィオという娘が出来てからはとんでもない親バカを発揮する。

 そして、訓練は厳しくも優しく導いてくれて、普段は何かしら行動して皆を笑わしてくれる。ある時は殻にこもったキャロを励まして飛び立つ手伝いをしてあげ、部下の悩みを放っておけず身を削ってまでその悩みの元であった、ティーダ・ランスターの名誉を証明した。

 尊敬しないはずがない、素直にかっこいい人だとエリオは思っていたから。だからこそ…………共に過ごす時間が長くなればなるほど…………その過去を話すことが怖くなった。それは純粋な恐怖、尊敬する人が自分の事を見る目が変わることを恐れた。そんなことはない、彼はきっとそんな風に区別する人ではない。そう分かっていてもエリオは話せなかった。今の楽しい生活が壊れてしまうかもしれないことが怖かったから。

 

「本当に不思議な方ですね…………賢伍さんは……」

 

 

「うん、私もつくづくそう思うよ」

 

 だが今日賢伍に詰め寄られて全て暴露した。フェイトも見かねて少し前に、話してあげたら?とアドバイスをしていた。エリオは結局先伸ばしにしていたが賢伍はそれを許さなかった、そして関係ないと吐き捨てた。彼は最初からそんなことは問題ではなかったのだ。エリオが元気を出してくれればそれでよかったのだから。

 

「……………全く、賢伍はすごいよ………」

 

 フェイトはポツリとそう呟く。エリオにもその呟きは聞こえたが特にその言葉には反応を示さなかった。フェイトは思い出す、ジュエルシード事件のあの時、なのはとの勝負に負けてアースラに保護されたあの時。母であるプレシアが通信越しでアースラに姿を現し、投降しろという言葉を無視して彼らに宣戦布告し、フェイトに向けられた残酷な言葉。アリシアのクローンであることが判明して絶望するフェイトに追い打ちをかける言葉。

 

『あなたを作り出してからずっとね、私はあなたが…………大嫌いだったのよ!』

 

 世界が割れる音がした。大切な何かが崩れ落ちる音がした。深い………深い……深淵の闇に落ちていく。そんな感覚がフェイトを包み込んだ。信じていたものはなんだったのかさえ分からなくなり、ショックで意識を手放しそうになるほど。まだ小さかったフェイトには重すぎる現実。そんな絶望にかられたフェイトの耳に、とんでもない大声が耳を貫いた。

 

『ふざけんなぁぁぁああああああ!!!』

 

 その声で地響きが起きたような錯覚を感じるくらいの声量。一人の喉では出すことなど到底できない大声だった。だがその声を発したのは一人の人物でありフェイトと同い年の男の子。その男の子はフェイトに背中を見せる形で前に立った。そして、その声でフェイトの意識は現実に引き戻された。

 

『クローンだ?人形だ?知るかそんなことは!俺が今分かってるのはあんたがこいつを傷付けたことだ!!悲しませたことだ!!大嫌いだっただと?ふざけたことぬかしてんじゃねぇぞクソババァ………母親なら………この子を………フェイトを生んだことを誇りに思えよ!責任もてよ!』

 

 少年は当時9歳、口から出る言葉をそのまま考えずにぶつけていただけだった。本人は既に両親を亡くしていた、だからこそある意味プレシアがアリシアを亡くしたことを同情していた。いや、同情ではない、同じ悲しみを共有出来ていたのだ。だからこそ少年は叫んだのだ。

 

『貴方みたいなガキには分かりはしないわ。そこにいる人形が私にとってどれだけ不愉快だということを!』

 

 

『あんたにだって分かりはしないだろうさ!俺にとってこの子は…………フェイトはもう俺の友達だ!その友達を傷付けることは許さない!!』

 

 

『ふっ…………友達?その人形と?』

 

 通信越しでも分かるように鼻で笑うプレシアを見て、少年は頭に血がのぼる。モニターを壊して当たりたい気分になった。だがまだ言葉を出しきっていない、愚行を押し留める。まだ9歳という身も心も未熟な少年は必死になって叫んだ。

 

『俺にとってフェイトがクローンとかそういうのは関係ないんだよ!!フェイトはフェイトだ!俺の友達のフェイトをこれ以上笑ってみろ……………俺が絶対に許さねぇ!!』

 

 その言葉を最後に少年のは我慢の限界を迎える。生成した魔力弾をモニターに

ぶつけて破壊してしまった。子供ゆえのワガママな八つ当たりだった。その少年こそ後の光の英雄神崎賢伍。そして同じく9歳のフェイトは賢伍の背中に暖かな光を感じた。フェイトが賢伍に全幅の信頼を置くようになるきっかけの出来事。そして…………フェイトの心が救われた瞬間でもあったのだ。

 

「変わってないよ…………賢伍は……」

 

 過去の出来事に思いを馳せながらフェイトはそうポツリと呟く。あの時はフェイトを、そして今度はエリオの心を救ったのだ。エリオにもっと前に歩み出すために背中を押してあげたのだ。いつまでも変わらない英雄の背中を見て、フェイトはエリオを抱き締める手を強めるのだった。

 

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

「んで?娘との楽しい一時を中断させてまで俺を呼んだのはなんでだシャーリィ?」

 

 時間は昼過ぎとなった。エリオと別れてヴィヴィオとなのはも交えて遊んであげてそのまま昼御飯を食べている最中、通信でシャーリィに呼ばれた。最初は無視していたのだが、どうしてもというのでここまで来たわけだ。

 

「そんな怖い顔しないでください賢伍さん………。シャイニングハートの事でお話が………」

 

 

「メンテは終わったのか?」

 

 実は午前の訓練が終わってすぐにシャーリィにメンテナンスを頼んでおいたのだ。特別理由があるわけでなく、ただの定期メンテナンスだ。

 

「はい、メンテナンスの方はすでに。マリエルさんと合同でやらせて頂いたので………」

 

 なるほど、そりゃあ仕事が早いわけだ。シャーリィも相当な技術者だがマリエルさんもレイジングハートとバルディッシュにエクセリオンとアサルトを加えた技術者だ。この二人ならデバイス関連で死角はないんじゃないか?

 

「それで、マリエルさんと二人でシャイニングハートの解析を進めたんですが…………」

 

 

「何か分かったのか?」

 

 

「はい、今まで分かっていた事ですが………やっぱりシャイニングハートにはまだ何かしらの力が隠されているみたいです………」

 

 やっぱりか…………。シャイニングハートは出会った当初から力を隠し続けていた。今まで何かを切っ掛けに力が解放されていったが未だ何か隠しているということは分かっていた。

 

「それとその力はシャイニングハートが自分の意思で隠しているのかと思っていたんですが……………どうやらそういうわけではないようなんです」

 

 

「どういうことだ?」

 

 

 

「シャイニングハートもわざと力を発揮してない訳ではないみたいなんです。出来ないんですよ、シャイニングハート自身も力を発揮することが……………」

 

 

「…………そうか……」

 

 ということは、そんなめんどくさい仕様にした張本人はシャイニングハートの製作者ということになるな…………つまり……。

 

「シャイニングハートにまだどんな隠された力があるかは分かりませんが………賢伍さんなら使いこなせると思いますよ」

 

 そう微笑みながらシャーリィは俺にシャイニングハートを手渡してくる。それを懐にはしまわずに手に持ったまま、俺はシャーリィに礼を言ってその場を後にした。

 

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

 

 シャーリィと別れた後はもう食事を済ませて部屋に戻ってるであろうヴィヴィオの元に向かう。コツコツと廊下を歩く足音を響かせながら俺は口を開いた。

 

「シャイニングハート、話は聞いてたんだろ?」

 

 

SH『はい、勿論聞こえていました』

 

 手にのせた相棒にそう語りかけるとすぐに返事が返ってきた。

 

「俺はお前のその力ってやつについては追求しないよ、それが約束でもあるからな………」

 

 

SH『………感謝します……』

 

 

「父さんと母さんがなんでお前を俺のために作ったのか…………それは俺が闘っていけば分かるんだろ?だったらお前のその言葉を信じて俺は黙って闘うよ……」

 

 初めてこいつと出会ったあの日、そう言われて、闘い続けると約束したのだから。

 

SH『私もマスターに可能な限りお力添えをします。それが貴方の両親との約束ですから…………』

 

 そのシャイニングハートの言葉を最後に俺は笑いながら懐に相棒をしまった。

 

「パパ!」

 

 ふと前を向けばヴィヴィオが走ってこっちに向かってきていた。どうやらちょうど部屋に戻ろうとしていたところ運よく遭遇したようだ。

 

「どぉーん!」

 

 そう言いながら俺に向かってダイブするヴィヴィオ。それをしっかりと受け止めて抱き上げる。

 

「おうヴィヴィオ、さっきぶりだなー」

 

 

「うん!ねぇ、パパ?ヴィヴィオちゃんとご飯全部食べたんだよ!」

 

 

「なに!すごいなヴィヴィオー!えらいぞ~」

 

 

「えへへ~」

 

 頭を撫でてやるとヴィヴィオはふにゃっとした顔をする。そんな表情を浮かべるヴィヴィオを見てさらに愛らしさを感じて延々と頭をなで続ける。

 

「話はもう終わった?」

 

 そんな娘とのスキンシップを楽しんでいるとヴィヴィオの後を追うようになのはが来た。

 

「あぁ、話はもう終わったよ」

 

 そう答えながらヴィヴィオを下ろして手を繋ぐ。すべすべした子供特有の小さい手を慎重に握って俺はヴィヴィオを見た。

 

「パパ~」

 

 笑顔だった。それを見て俺もきっと笑顔を浮かべているだろう。

 

「娘にデレデレしないの」

 

 

「あたっ」

 

 まったくもうっていう顔を浮かべながらなのはが俺をド突く。それを見てヴィヴィオは声をあげて笑う。ヴィヴィオとなのは、この二人に囲まれてる俺はきっとしあわせものだ。だから頑張れるんだ。

 

「そんじゃ、部屋戻ってパパと…………」

 

 一緒に昼寝しようか………という俺の言葉は遮られる。1つの警報音によって。回りが赤く点滅して、あちこちのモニターにはアラートの文字。

 

「っ!アラートか!」

 

 

「うぅ………」

 

 急に変わった景色にヴィヴィオが不安がって俺に体を寄せてくる。それをしっかり抱き止めて俺はヴィヴィオに笑顔を浮かべた。

 

「大丈夫だヴィヴィオ、パパが何とかしてくるよ……」

 

 そう伝えるとヴィヴィオは少し不安な顔をしながらも頷く。急いでヴィヴィオを部屋にいたアイナさんに預けて、なのはと頷き合いながら指令室へ走る。

 

「行くぞなのは」

 

 

「うん」

 

 娘との一時を楽しめるのは、もう少し先になりそうだ。

 

 

 






今回で賢伍の今のところ現状を軽く確認と無印時代の役割を大方書いてみました。

やっぱり主人公は熱くなくちゃ(´・ω・`)


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思わぬ天敵



 うぇーい、書く時間がない~。とりあえずスピードが落ちてますが頑張ります・・・(;´Д`)


 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァイス!もう出るぞ!」

 

 

「おいっす!」

 

 それを合図にヘリはプロペラを回して飛び立つ。けたたましく空を気叩く音を響かせながら目的地へと向かう。

 

「よし、皆聞いてくれ」

 

 同乗しているメンバーにそう呼び掛け集める。このヘリに乗っているのは俺とパイロットのヴァイスを合わせて6人だ。が、それはいつものメンバー編成とは大きく違っていた。そのメンバーを見渡すと先程の出来事が頭によぎる。

 

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

「はやて!状況は!?」

 

 警報によって俺となのはは急いで指令室に向かい、扉を開けると同時にそう叫ぶ。見ればはやてとオペレーターの他にフェイトもすでに指令室にいた。

 

「うん、これで隊長は揃たな…………状況を説明するで」

 

 そう言われはやてに指差された目の前大型モニターに目をやる。

 

「ミッドミルダ首都部から北西方向の海上で大量のガジェットが偵察飛行を繰り返してる。まだ具体的な数は割り出してないんやけど相当な数や………」

 

 

「もしかしてレリックが?」

 

 

「いや、レリックの反応は確認してないんや」

 

 フェイトのその問いにはやては首を振って否定する。

 

「するとまたこの間みたいな偵察か?それにしては大がかりな数だが………」

 

 

「うん、だから相手の目的は分からない。けどこのまま放っておくわけにもいかない……………」

 

 そりゃそうだ。それじゃあ何のために管理局や地上部隊、ましては機動六課があるのか分からなくなるからな。

 

「それじゃあ、FW4人は残して私たちで出撃する?それなら奥の手を出さずに敵に偵察されることなく終えられるし………」

 

 なのはのその提案に俺は頷く。確かにそれが無難だろうな、俺に関しては少し前の出撃でリミッターのレベル1解除を既に見られてる訳だし。

 

「いや、それがそうもいかん………」

 

 そう言いながらはやてはモニターを操作して画面を切り替える。そこに表示されたものはミッドの上空から見下ろした地図だった。

 

「首都部から北西の海上にかなりの数のガジェットがおるんやけど、どうやらそこだけやないんや………」

 

 カチッとはやてがキーボードーを叩くとガジェットの出現場所を示す光点が出現する。しかし、それは北西部の場所だけではなくかなり離れた別の場所にも光点が出現した。

 

「北西の他にも北東、南南東の海上にもガジェットが偵察飛行を繰り返しとる。数は北西ほどやないけど無視できないレベルや」

 

 モニターに写し出された上空映像を見ても確かに数が多い。

 

「これは…………俺達だけで出撃するのはやめておいた方がいいな…………時間がかかりすぎる」

 

 この数相手に3人での出撃は論外だ。となると…………

 

「今出撃できるメンバー全員で当たった方がいいかも………」

 

 フェイトの言うとおりだ、数が数だしな………特に北西が。だが他にも気になる点がある。

 

「これ…………明らかに分散させるための布陣なんだろうけど、どうして北西だけ戦力を集中させてるんだろ………」

 

 なのはの疑問に全員が唸る。その通りなのだ、俺たち全員のデータが欲しくてとんでもない数のガジェットを放り込むの分かるし、分散させるために三方向に分けたのも納得は出来る。しかし北西にだけ他の方角より明らかに戦力を集中させすぎなのだ。

 

「………………賢伍君をおびき寄せてる?」

 

 なのはの一言にフェイトとはやてがハッとする。

 

「確かに、賢伍のデータが欲しいけど少数のガジェットじゃ賢伍が出撃しない可能性があった。だから相手は大量にガジェットを送ったんだ…………」

 

 

「そして何としても賢伍君を北西方向におびき寄せたかった。そこに何があるかは分からへんけど、そこに戦力を集中させて六課で一番の実力者の賢伍君をおびき寄せるためなのかもしれへん。それなら説明もつく……………」

 

 3人のその説明を聞いて俺も納得する。敵は何としても俺のデータが取りたいのだろう。今思えば、なのはと仲違いして出撃したときだって後から大量に投入されたあのガジェットは俺が来たからだったのかもしれない。

 

「それならわざわざ誘いに乗ることはあらへんな………賢伍君は北西以外に向かってもらって………」

 

 

「いや、逆だ。あえて誘いに乗ろうじゃないか」

 

 はやての提案を俺は即座に否定する。逆に俺の提案にはやては怪訝そうな顔で口を開いてきた。

 

「…………一応理由を聞こか?」

 

 

「何、簡単なことだ。俺なら何が来ようがこれ以上手の内を見せずに対応できる」

 

 

「おびき寄せる理由がデータの取得だけじゃなかった場合はどうするん?例えば賢伍君に対しての新兵器の動作テストかもしれへんで?」

 

 その可能性は十分にあり得る。覚えてるだろうか?俺が何度か対峙して手を焼いたガジェットがいたことを…………あのAMF特化型ガジェットだ。実はあのガジェット………他のメンバーは遭遇したことがないらしい。俺にだけ向けられたガジェットである可能性が浮上したのだ。今までのも動作テストだった可能性が高い。その事実をはやてに伝えたから、はやて自身もそれを警戒しているんだ。

 

「だからこそだ。逆に俺が見ておきたいんだよ…………どれくらい厄介になったのかってな………」

 

 発想の逆転だ。俺が偵察に向かうと考えるってことだ。

 

「た、確かにそう考えることも間違ってはないんやけど…………」

 

 

「心配すんな、一人でいこうって訳じゃないさ、勿論人員はこっちに割いてもらう…………そうだな………はやて、今出撃できない隊長陣は?」

 

 

「ええっと…………ヴィータだけかな。ヴィータは朝から本部に出向しとるんや」

 

 そういえば今日は見かけてないな。となるとヴィータ以外は動けるんだから………。

 

「そうだな………ならこの編成でどうだ?」

 

 シャイニングハートに指示して小さいモニターを展開させて俺の考えた編成をその画面に写す。

 

「うん………まぁええやろ……。なのはちゃんとフェイトちゃんもこれでいいな?」

 

 はやての問いに二人は迷わず頷く。俺の提案に乗ってくれたことに感謝しつつ俺は少し息を吸って言葉を紡いだ。

 

「よっしゃあ!そうと決まれば出撃だ!!」

 

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

「つーわけで、俺達がこれから向かう現場はガジェットが相当の数待ち受けている…………頭おかしいんじゃねぇの?ってくらいな」

 

 俺の説明にメンバーは頷く。この場にいるのは俺とヴァイス以外にライトニングのエリオとキャロ、助っ人として六課に出向中のギンガ、そしてはやての指示で追加メンバーにリィンも連れてきている。

 ちなみに、北東のガジェットはライトニングの隊長陣であるフェイトとシグナムにむかってもらい、残る南南東のガジェットはなのはとスバルとティアナという編成だ。

 

「よし、配置もセオリー通りでいこうか………前衛はエリオとギンガが中心で行こう」

 

 

「了解しました!」

 

 

「はい!」

 

気合いを入れるように拳をギュッと握って返事をするギンガと冷静に頷くエリオ。エリオに関してはさっき話をしたばかりで何か気まずさを感じてたらどうしようかと心配していたが杞憂だったようだ。

 

「キャロは後衛で前衛のサポートを、リィンはキャロの側でガードと現場管制を頼む」

 

 

「はい!」

 

 

「はいです!」

 

 こっちも冷静に返事を返してくる。流石にキャロも出撃には慣れてきたか、それは油断や驕りならともかくキャロはそういう意味合いの感じではなかったので特に問題は無さそうだ。

 

「俺は遊撃だ。前衛に出たり後衛に回ったりする、皆は俺のことは気にせずに目の前のガジェットに集中するんだ、いいな?」

 

 その問いかけもしっかりと頷いてくれる。俺達の現場は他の2つと比べて敵の量が多い…………。だが逆に考えれば敵の戦力を大きく削れるチャンスだ。

 

「危なくなったらすぐに退くんだ、無理して戦場に残ってもプラスになることはない、いざってときは任せろ…………絶対に守ってやる」

 

 

「リィンも一緒なので安心してください!」

 

 

「いや、ある意味お前が一番心配だけどな」

 

 

「そんな!?なんでですか~!」

 

 ポカポカと両手で俺を叩いてくるリィン。そういう子供っぽいところを言っているんだが口に出すのは止めておこう。

 

「賢伍さん!あと5分程で到着します、準備しといてください!」

 

 操縦席からのヴァイスの声で全員の顔が引き締まる。

 

「よし、準備はいいな?…………気合いいれていくぞ!!」

 

 

「「「はい!!」」」

 

 元気の良いその返事は、ヘリのプロペラの轟音でさえ小さく感じるほど頼もしく感じた。

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

 

「行くぜシャイニングハート!」

 

 

SH『はい!マスター!』

 

 シャイニングハートを掲げながらヘリのハッチから飛び降りる、真下にはガジェットの軍勢が。ヴァイスにはガジェットよりも上空に位置してもらいそこから俺が仕掛けて先ずは他の皆の安全圏を作る。

 

「シャイニングハート、セットアップ!!」

 

 叫びと同時に俺の姿が六課の制服からバリアジャケットに変化していく。黒色がベースの紫のラインが入ったバリアジャケットを身に包み、右手には日本刀。そのまま停滞しているガジェットの群れに落下していく形で接近する!

 

「神龍流剣術………『空天牙突』!!』

 

 落下の勢いを使った空中からの突きを一体の大型ガジェットに見舞う。貫かれたガジェットはすぐに爆発して粉々に。そして、すぐ近くにいた回りのガジェットが俺を認識して襲いかかってくる。 

 近づいてきてるのは6機、この位なら!刀を鞘に納めて機を待つ。技の直撃範囲、自分から半径3メートルの円をイメージして現実に作り上げる。

 

「まだだ…………」

 

 6機のうち4機が範囲に入る。しかし我慢だ、残りの2機が近づいてくるのを待つ。もう少し……………今だ!!

 

「『天昇斬』!!」

 

 自身を一瞬で一回転させて同時に抜刀の要領で斜めに切り上げる。360度一分の隙もなく刃が通る。

 

 

キン!

 

 

ドゴォン!

 

 

 直撃範囲にいた6機のガジェットは一瞬で真っ二つになり爆発。これで少しガジェットの群れから僅かだが安全圏が作り上げられる。

 

「ちっ!」

 

 つい舌打ちをする。すぐにガジェットは迫りその安全圏を狭めようとしてきたのだ。

 

「はぁぁ!」

 

 

「やぁぁああ!!」

 

 真上から2つの咆哮。槍と拳が上空からガジェットに襲いかかり、数機のガジェットが破壊される。エリオとギンガだ、俺の攻撃が止んだらそのまま出撃するように伝えておいたのだ。

 

「よし二人とも陣形を整えろ!このまま安全圏を広げるんだ!」

 

 

「「はい!」」

 

 3人で回りのガジェットを破壊していく。数分もすれば安全圏はかなり広がりガジェットも無闇に突っ込んではこなくなる。

 

「よし、キャロとリィンも降りてこい。ヴァイスはそのまま離脱して戦闘に巻き込まれない位置で待機だ」

 

 通信でそう告げると、真上を飛んでいたヘリからキャロとリィンがバリアジャケットの姿で飛び降りる。そのままキャロ達がゆっくりと俺たちのもとへたどり着くと、ヘリはそのまま離脱し俺達は魔法で空中に浮遊したままガジェットの群れを見渡す。

 

「うわぁ、すごい数…………」

 

 ギンガがポツリとそう呟く。確かに改めて近くで見るとこの数は圧巻だ。100や200じゃないな。リミッター解除も出来れば苦戦はせずに済みそうなものだが、はやてにはまだ控えるように言われている。簡単には使えない。

 

「なに、俺達なら全部倒せる…………いくぞ!」

 

 それを合図に、俺達は戦闘を再開した。

 

 

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 スカリエッティのアジトに二人の人影があった。一人はそこの主であるジェイル・スカリエッティ、一人は闇の神崎賢伍と呼ばれている存在。二人は目の前に浮かぶ大型モニターの映像を覗いていた。

 モニターには数種類に小分けされた映像が写し出されており、その共通点はどれもリアルタイムでガジェットとの戦闘映像を写し出していることだった。

 

「それにしても、お前も随分ガジェットを出撃させたな……………陳述会の前にそんなに戦力を割いてよかったのか?」

 

 ふと、闇の賢伍がそう口を開く。闇から見てもこのガジェットの量の出撃は異様に見えたのだ。

 

「ふふ、今でているのは余り物だよ。来るべき時には使わない本物のガラクタ達さ…………どうせ捨てるならこのように活用したほうが良いだろう?」

 

 さも当たり前のようにジェイルはそう答える。闇はそれを聞いて口を閉じる。あの陳述会の為に、そしてすべての計画の為に用意されたガジェットの軍勢…………あれとはまた別に用意されていたガジェットだったということなのだ。どれだけ量産したんだと想像するのもバカらしく感じたようだ。

 

「だが光の英雄も、君も………本当に良い観察対象だよ………飽きることがない」

 

 モニター越しに次々とガジェットを切り伏せている光の英雄を覗き見ながらジェイルはそう呟く。

 

「だからこそ………彼を封じる物を作りたい」

 

 

「それが今回の目的か…………お前の目論見通り奴を北西方向におびき寄せはしたが………どうするつもりだ?」

 

 ジェイルが光の英雄の対策を常に考えていたことを闇はよく知っている。それは闇自身を引き入れたことも含まれているから。そして、自分が光の英雄を封じる何かを持てればさらに計画が滞りなく進めるとジェイルは考えている。ジェイルはそれほどまで光の英雄を警戒していた。

 

「見ていれば分かるさ…………この検証がうまくいけば陳述会までには形にできる…………それに、調整が終わった娘達も向かった………ディードには本番前の肩慣らしになるだろうからね」

 

 

「ふん、初めてお前を敵に回さなくて良かったと思ったぜ………」

 

 

「それはお互い様だろう?闇の神崎賢伍………」

 

 互いに牽制するように言葉を浮かべる二人。しかし、その二人の表情はどちらかといえば笑顔に近かったそうだ。

 

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

「エリオ、ギンガちゃん………伏せてろ!!」

 

 

「「っ!?」

 

 刀の刀身に光の魔力を貯める、徐々にそれは光輝きあとは放出するだけ!

 

「『シャイニングバレット』!」

 

 無数の光のレーザーがガジェットを貫いていく。出の速さを重要視したせいか魔力の溜めは少なくレーザー数自体は少ない。

 

「まだまだぁ!………『風鳴斬』!!」

 

 自分の回りに高速の竜巻を起こしかまいたちをイメージした鋭利な魔力弾がガジェットを切り刻む!

 そしてそれを抜けるように一体の大型ガジェットが接近してきた、今の俺を隙とでも判断したのだろうか………しかしそれは判断ミスだ!!

 

「遅えなぁ!………『炎鳴斬』!!」

 

 炎の剣が爆発音と共に近づいてきたガジェットを粉砕する。爆発の黒煙の先には隙を伺うように浮遊するガジェット達。

 

「賢伍さん!」

 

 エリオの声と同時に背後に気配。飛行型ガジェットが猛烈なスピードで近づいてくる。しまった、反応が遅れた……。

 

「はあああ!!」

 

 少しダメージを受けるのを覚悟した矢先に、そのガジェットは文字通り横槍を入れられ貫かれる。危機を知らせてくれたエリオが咄嗟にそのガジェットを破壊してくれたのだ。

 

「大丈夫ですか!」

 

 

「あぁ!悪いな、助かったぜ………」

 

 エリオと背中合わせになる形で気を取り直して刀を構える。すでにガジェットが取り囲もうと数で押して陣形を組んでいる。

 

「こいつはまたキリがないな………」

 

 

「そうですね………」

 

 エリオも少し苦しそうに口を開く。しまった、失念していた。エリオやギンガだって前に出て戦ってるんだ、消耗が激しい…………これじゃあじり貧だ。自分のスタミナを前提とした考えだったことに思わず唇を噛む。だが一人じゃない、連携をしっかりすれば……………。

 少し距離を置いたところにはキャロを背に庇うようにガジェットに向かうギンガ、キャロはフリードに上手く指示しながら補助魔法を展開。リィンはギンガとキャロを気にしながら二人とはあまり離れず戦闘中。陣形が少し崩れつつあった。

 

「だったら巻き返して元に戻せばいい………」

 

 ここにいるメンバーで最適な方法をすこし考える。とはいえっても答えはすぐに出た。

 

『キャロ!聞こえるか?』

 

 全員に念話を掛けてキャロに語りかける。これでキャロ以外にも指示が伝わるはずだ。

 

『は、はい!』

 

 

『補助魔法を一旦止めてお前のチェーンバインドで封じられるだけ近くにいるガジェットの動きを封じてくれ。出来るだけ多くだ………術式の展開に時間が掛かるなら俺達が稼ぐ!』

 

 

『わ、分かりました!』

 

 言うが否やすぐにキャロが準備を始める。

 

『他の皆はキャロを援護だ!キャロがバインドを仕掛けたら俺の合図で一斉にバインドに掛かったガジェットを仕留めるぞ!!』

 

 

『『『了解!!』』』

 

 俺の見立てじゃキャロの技術なら陣形を建て直せる程の数のガジェットを封じられるはず。そこでまた立て直して一気に押し上げるのが狙いだった。

 

「どけぇ!」

 

 包囲されていた状態を無理矢理突進して突破する。その時エリオを抱えるのも忘れない。そのままキャロのもとに。

 

「キャロ!どれくらいかかる?」

 

 

「もういつでも行けます!」

 

 は、速いな。予想よりキャロの魔力展開の速さに少々驚く。

 

「よし、だったらキャロのタイミングで仕掛けろ!」

 

 

「はい!」

 

 すぐにキャロのピンクの魔力光がふわっと浮かぶのが見える。辺りに展開されていく魔法陣、しかし俺が想定していた以上の規模。

 

「ま、マジかよ…………」

 

 どうやら、俺はキャロのことを見誤っていたようだ。

 

「いきます!」 

 

 その言葉と同時に全ての魔法陣から無数のピンクの魔力光で形成された鎖がガジェット達の動きを止めていく。圧巻、その一言に尽きた。自分がキャロの上司としてキャロの実力を理解してなかったことに少しショックを受けるが今はその時ではない。俺の想像以上の働きをしてくれたキャロに報いなければいけない。

 

「ギンガちゃん、エリオ、リィン!今だ!!」

 

 合図と同時に全員が動き出す。

 

「らぁぁぁああ!!」

 

 ギンガが拳を振るってガジェットを粉砕していき

 

「やぁぁぁあああ!!」

 

 エリオがブーストを使いながらガジェット貫いていき

 

「はぁああ!」

 

 リィンが魔力弾を精製してそれを放っていき

 

「うぉぉおお!」

 

 そして、俺の刀がガジェットを切り伏せていく。すでに何体ものガジェットは破壊され、その数を着実に減らしていたのだ。

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

「頃合いだな…………」

 

 遥か上空から魔法で気配を消して光の英雄を観察していた二人の戦闘機人いた。その内の一人がポツリとそうこぼす。その見た目は幼く、特徴的な銀色の長髪の髪を風になびかせていて、極みつけには右目を眼帯で覆っている。

 

「そうですね、チンクお姉様………」

 

 続いて片割れがそう答える。チンクと呼ばれた戦闘機人とは対照的にスラリと一般的にはスタイルが良いと呼ばれるくらいは体が発達した姿で髪は黒に近い栗色の長髪を同じく風でなびかせ、機械でできたカチューシャのようなものを頭につけているのが特徴的だった。

 

「仕掛ける…………いくぞディード」

 

 

「了解です………」

 

 その言葉と同時に二人はそこから消えるように姿を消した。

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

「『雷鳴斬』!」

 

 雷の斬撃がチェーンに縛られたガジェットを感電させ爆発させる。これで動きを封じたガジェットは全機破壊完了、近くで包囲しようしてきたガジェットはもういない、あとは…………。

 

「よし、今のうちにフォーメーションを整えるぞ!この調子ならなのは達がカバーに来る前に終わらせられる!」

 

 そうエリオたちに向かって振り向いて伝える。なのはやフェイトの別動隊は見立てじゃそろそろ自分達の担当を終わらせていても不思議じゃない時間はたった。数が多いとはいえこっちよりは少ない、後からフォローに来てもらうのが手筈だったが………なんとかなりそうだ。そう安堵する、終わりが見えてくるのはとても安心するもんだ。だからだろう…………

 

「ツインブレイズ………」

 

 

「っ!?」

 

 俺が………不覚にも背後をとられたのは。

 

 

 

 ドォン!!

 

 

「ぐああ!」

 

 

「賢伍さん!?」

 

 ギンガの驚愕の声も自分自身の叫びで打ち消してしまう。突如現れた黒っぽい長髪の女に二刀型の武器で叩き落とされたのだ。空から海に向かって俺は落ちていく…………

 

「ぐぅうう!」

 

 が、それに至らず。海に落ちず海上ぎりぎりで踏ん張れたのは咄嗟に発動した光の障壁のお陰だろう。チャージが短すぎてないよりはまし程度の効果だったが。

 

「くっ!エリオたちは!?」

 

 海上から上を見上げればエリオたちが俺を二刀で叩き落とした女と対峙していた。ギンガとキャロは真っ直ぐと女を見つめて警戒する。エリオはチラチラと俺の方をみて気にしているようだった。心配するなエリオ、俺は大丈夫だ。

 

「ちっ、背後を取られるとは………迂闊だった…………ぜ!」

 

 言葉の終わりと同時に勢いよくその女の元に跳ぶ。落とされたら再び飛べばいいだけだ。が、俺はそれを途中で止める羽目になる。

 

「くっ!」

 

 魔力で浮遊してそこへ向かおうとしたが急ブレーキをかけて止まる。突然目の前に何者かが立ちはだかって来たからだ。太陽の逆光で姿をちゃんと認識出来なかったが1つだけ分かったことがあった……………。

 

「戦闘………機人か………!」

 

 恐らく俺を叩き落としたのも同じ戦闘機人だろう。そう考察してる間に立ちはだかってきたその戦闘機人は腕を振り上げる。

 

「はっ!」

 

 間髪言わず投げ込まれたのは無数の………

 

「っ!クナイ!?」

 

 思わず声をあげる。クナイと言うには少し形が違うがイメージとしてはそれだった。投げナイフとも言えるかもしれない。

 

「な………めんなぁ!」

 

 だがそれは結局はただの刃物。それを俺は刀で弾き落とす。金属同士がぶつかり合う音が響いた所で俺は自分の浅はかさに気づいた。そのクナイを弾く感覚に違和感。

 

「しまっ………!」

 

 

 

 ドォォオオン!!

 

 

 爆発音が辺りに響く。クナイを弾いた瞬間に投げ込まれた全てのクナイが爆発したのだ。爆風に巻き込まれ、辺りは黒煙か立ち上る。

 

「賢伍さん!」

 

 ブーストを使って俺の元に向かおうとするエリオ。

 

「いかせません………」

 

 しかし、それはもう一人のナンバーズによって立ちふさがれる。二刀を目の前で構えられエリオだけでなくキャロやギンガも迂闊には動けなかった。

 

「くそっ!」

 

 俺は爆風によって再び海面近くに押し戻される。バリアジャケットはあちこち焦げてしまったが、回避が間に合ったのかダメージは少なくすんだ。

 

「光の英雄……………貴様には悪いが……ここで分断させてもらう」

 

 クナイを投げてきたその人物を目をよく凝らして凝視する。見た目は女、髪は長髪の銀色、そして右目に眼帯………。

 

「この間会ったナンバーズ連中とは違うな?……………お前………名前は?」

 

 

「ナンバーズ5…………チンク……」

 

 その銀色の髪をなびかせ、あくまで淡々とチンクは答える。が、俺を見据えるその目は少し冷酷に見えた。いや、元々感情を表に出すタイプではないのかもしれない。

 

「それじゃあチンク…………そこを退いてもらおうか……」

 

 

「それで退くと思うか?」

 

 

「まさか、ただ言ってみただけさ」

 

 互いに牽制しあって機を伺う、だがそのまま停滞するのは相手の思う壺。チンクはハッキリ言った。分断させると、今の状況は相手の思惑通りなのだ。だったら…………。

 

「押し通る!!」

 

 今はただ前に出て突破するしかない。

 

「すまないな光の英雄…………お前の足止めをするのは………」

 

 チンクはそう呟く。なんだ?まだなにかあるのか………?

 

「私じゃないんだ」

 

 そう俺に告げた瞬間、チンクの目の前で魔法陣が展開された。これは、召喚魔法か?だがチンクが発動したものでは無さそうだ………最初から仕掛けられてたのか!

 

「邪魔だぁぁぁあああ!」

 

 その召喚魔法から出てきた無数のなにか、それを確認する前に俺は刀を降り下ろした。

 

 

 

ガキン!!

 

 

 

「くっ…………」 

 

 

 金属がぶつかり合う、反動で手に少し痺れを感じる。つまりは斬れなかった、弾かれたのだ。別に防がれたわけではない、当たりはしたが斬れなかったのだ。一旦距離を取って後退する。そして、魔法陣から徐々にそれは姿を表した。

 

「ガジェット…………?」

 

 出てきたのはちょうど10機のガジェット。だが俺はそのガジェットに少し見覚えがある。俺の目の前に何度も現れ、俺を手こずらせてきた。こいつは………。

 

「AMF特化型ガジェット!」

 

 そう、数が集まれば一度にシャイニングバレットでさえ防がれたことがある例のガジェットだ。

 

「正確には対神崎賢伍特化型ガジェットだ……」

 

 チンクは起伏のない声で補足する。なるほど、どうりで俺以外の六課メンバーは遭遇したことないわけだ。俺のために作り上げられたガジェットなのだから。

 

「ふざけるな!ガジェット擬きに止められる俺じゃねぇ!!」

 

 構わず俺は突っ込む。シャイニングバレットを止めたあのガジェットだ、改良も加えられてるだろうし恐らく効かないだろう………だったら!

 

「凍りつけ!『氷鳴斬』!!』

 

 光の魔力を使わない魔法で斬ればいい。

 

 

ガキン!

 

 

「なに!?」

 

 氷を帯びたその刀は、ガジェットに触れる前にただの刀に戻っていた。そのままガジェットに当てたから先程のように弾かれる結果となった。

 

「言っただろう?お前の為に作られたガジェットだと…………」

 

 

「光の魔法だけでなくそれ以外の魔法も効かないってことかよ………」

 

 想像していたよりガジェットが改良されていたことに驚く。だがこれで俺の手が尽きたわけじゃない。俺専用に作られたAMFが厄介なら…………魔法を使わない攻撃を仕掛けるだけだ。

 

「俺にはまだ、この刀と拳があるんだよ!!」

 

 そう言って俺は再びガジェットに仕掛ける。俺の力は魔法だけじゃない。親が遺したこの剣術だってあるのだ。

 

「『牙連突』!」

 

 切っ先に力を集中させた渾身の二連撃を浴びせる。

 

 

 

キン

 

 

 

「…………ふざけやがって………」

 

 ガジェットから距離を取ってそう悪態を溢す。結果的にいえば、刀はガジェットを貫くことは出来なかった。同じように弾かれただけだ。

 

「光の英雄、お前のどの攻撃も動きもそのガジェットには通用しない。お前がドクターに見せたもの全てはな………」

 

 つーことは無視して素通りすら防がれるというわけだ。チンクの…………いやジェイルの狙いは俺に力を引き出させること。それを見てそれすらも防ぐガジェットを作り出そうとしているのか。

 

「はっ!俺にリミッターを解除しろってか?残念だったな………そんなことしなくたって俺はそのガジェットぶっ壊してやるよ!!」

 

 だが俺にはそう答えるしかない。今それをするのは六課の立場を余計に悪くする。ただてさえ不安定な立ち位置なのを悪くはできない。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 虚勢というものだったかそれは分からない。けど、俺にそれ以外の選択肢はなかった。

 

「無駄だと言うに…………」

 

 チンクのその呟きは生憎俺の耳に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

「ストラーダ!」

 

 

ST『ソニックムーブ』

 

 文字通り音速を越えるようなスピードでエリオがその場を突破しようとする。

 

「無駄です………」

 

 しかしそれをナンバーズ12、ディードが許さない。無数のガジェットがエリオを覆い尽くし動きを止めさせる。

 

「あっ!」

 

 ディードとエリオ達の戦闘が始まってから少し時間がたった。エリオとギンガ、キャロにリィンと数で勝っているはずのディードと膠着している理由は簡単だった。

 

「エリオ君!くっ!」

 

 エリオの様子を見て援護しようとするギンガ、だがそれも同様にガジェットに阻まれる。そう、ある程度破壊していたとはいえ元々存在していたガジェットの数は膨大だ。ディードがそれをうまく使い、翻弄していたのだ。

 

「作戦は上手くいったようね…………」

 

 

「えっ?」

 

 ディードの言葉に反応するエリオ。

 

「下をみれば言っている意味が分かりますよ」

 

 そう言われエリオは素直に下に目を向けた。

 

「なっ!?」

 

 そして驚愕した。エリオにとって信じられない光景だった。

 

「はぁ………はぁ………はぁ……!」

 

 見えたのは海面の近くで苦しそうに肩で息をしている自分の上司。そう神崎賢伍だ。

 

「粘るな………いい加減に隠している力を引き出せ!」

 

 さらに見えるのは銀髪の女性。言葉と共に放ったクナイを賢伍に向けて投げる。

 

「ちっ!」

 

 それを回避しようと動くが………。

 

「っ!?」

 

 その先にガジェットが行く手を阻んで動きを止めさせる。よく見ると自分達が対峙しているガジェットとは違うように見えた。そして、動きを止められた賢伍にクナイの雨が。

 

 

 

 ドオオオオオオオオオオン!!

 

 

「ぐああああああああ!!!」

 

 その全てが突然爆発し。賢伍に苦痛の声を引き出す。

 

「賢伍さぁぁぁん!!」

 

 叫ぶ。エリオはただ叫ぶ。しかしそれに意味はない、それで状況は好転しない。

 

「今………行きます!」

 

 

「させません………」

 

 エリオに立ちはだかるディード。エリオも迂闊に動けない。

 

「私達の作戦は上手くいきました。貴方たちと光の英雄を分断するという作戦が……」

 

 手のひらの上で踊らせられたというのか。エリオは悔しさで歯を食い縛る。

 

「があああ!」

 

 聞きたくない賢伍の苦痛の声が耳に入る。

 

「(どうする!どうすれば………)」

 

 エリオは心のなかで叫ぶ。

 

「(どうすればいいんだ………)」

 

 自分の無力を呪いながらただ叫ぶ。

 

「(どうすれば………賢伍さんを助けられる?)」

 

 エリオの思いはただそれだけ。助けてもらった、何度も。励ましてもらった、幾度も。そして今日、前に歩み出すために背中を押してくれた。だからエリオは助けたい、仲間といってくれた賢伍を。作り物の自分を弟分と言ってくれた兄貴分を。

 

「助ける…………僕が助ける!」

 

 覚悟というには少し違うかもしれない。だがエリオには覚悟決めた男の目をしていた。ただ尊敬する大切な人の力になるため、彼は槍を構えた……………。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこのときその場にいる誰も、それを監視していたものたちも誰もきずかなかった変化があった。賢伍のデバイス、シャイニングハートの日本刀の鍔の部分が光っていた。それは太陽の下では打ち消されるくらいの輝き。

 そしてそれと同様の輝きがエリオの胸のリンカーコアにも同じように起こっていた。まるで引き寄せ会うように、共鳴するかのように。

 

 このときは誰も知らないであろう。この現象が光の英雄の新たな力の目覚めだということを。この現象がこの状況を覆すきっかけとなるということを。そして…………

 

 

 

 この力が、後の戦い。レリックを巡るジェイルと六課、光の英雄とその闇。その闘いの後、さらなる過酷な闘いが待ち受ける未来で………希望を切り開き、光を照らす力となることを………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 さーて、風呂敷を広げすぎていますがしっかり畳めるように頑張りますよ~。
 

それでは次回話にてm(__)m


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シンクロ



 最近投稿頻度が下がってしまっています。これからリアルが忙しくなっていくのでこれより下がってしまう可能性がありますが、これからもよろしくお願いいたしますm(__)m


 

 

 

 

 

 

 

 

 

~20年前~

 

 

 

 

 

「よし!これで完成だ」

 

 男はそう言って椅子から立ち上がり歓喜する。男は何年も何年も研究しそれに打ち込んできた、その想いを写すように喜びを体で体現していた。

 

「お疲れさま、あなた………」

 

 そして男とは別に女性の声も聞こえてくる。女性はこの男の妻であり、夫を一番支えてきた女性だ。彼女も感動してか感化されてか少し瞳に涙をためる。

 

「ああ、ありがとう!これでようやく俺も研究者を止められる…………」

 

 男にとってたった今完成したものが研究者としての全てだった。だから男はその発明が最後だと決めていた。

 

「えぇ、魔導師を引退して………あの静かな世界………地球でようやく本当のスタートが切れるのね………」

 

 

「いや、まだだよ」

 

 男はそう言って自分の妻である女性に近づく、そしておもむろにその女性のお腹を優しく撫でた。

 

「…………この子が生まれたときがスタートだ」

 

 

「そうね…………私達の宝物が生まれたときがスタートよね。あなたは男の子?それとも女の子かな?」

 

 妻も優しい笑顔で問いかけ、男と同じように自分のお腹を撫でる。

 

「……………けど安心はできない、俺達はこの子を守っていかなきゃいけない。奴はこのまま黙ってるわけないからな」

 

 

「分かってる。私達がしっかりしないとね…………はぁ、魔法の腕も錆びないようにしないとね………」

 

 

「ははは、君は昔から訓練やら特訓が嫌いだったもんな。俺は好きだったけどなぁ」

 

 男と女の絆は深かった。互いを愛し、互いを支え、幸せな夫婦だった。

 

「けど、もし私達が…………死んでしまったら………」

 

 

「駄目だ、そんなこといったら!絶対にお腹の子も守るし、俺達も死なない!それを目指すんだろう?」

 

 

「うん、分かってるわよ。けど世の中に絶対はないわ、だから貴方に頑張ってもらったんじゃない…………そのデバイスを作ってもらうために」

 

 机の上に置かれてるそれを見る。

 

「ふふふ、デザインが完全にあなた好みね…………」

 

 

「いいじゃないか、俺の子供だ。きっと剣術の才能もあるよ、だからデバイスも刀型にしたんだから……」

 

 男はすでに親バカのようだった。

 

「はいはい…………この子に使いこなせるかしらね………人と人とが紡がれる絆の力………魔法では説明がつかない力を………」

 

 

「きっと使いこなせるさ、何てったって………俺と君の子供なんだから………」

 

 

「そうね…………きっと………。あぁそういえば名前は決まったの?そのデバイスの名前…………」

 

 妻の問いかけに男は微笑むとそのデバイスを掴んで高々と掲げた。

 

「こいつは光………人が皆暖かい心を持っていることを証明するものだ。そして、もしこいつが起動した時、俺達の子供にとっての光にもなる。そして子供に教えてほしいんだ………人の心の光を」

 

 夫婦が信じるのは光と絆。この夫婦の人生を支えてきたのは人の光と絆だった。だからその素晴らしさも知っている。そしてその素晴らしさを生まれてくる子供に知ってほしいと思っていた。

 

「それを象徴するもの…………だから、『シャイニングハート』」

 

 

「その子にぴったりな名前ね…………いいと思うわ」

 

 二人は上を見上げる。先が不安な道でも二人はそうやって乗り越えてきたから。だから上を見上げる。

 

「そういえば、地球の新居どうだった?」

 

 

「あぁ、もうすぐ完成するってさ。気は早かったけどお隣さんにも挨拶してきてさ、高町さんって言うんだけど凄く人のいい人でな、仲良くやってけそうだよ」

 

 

「ほんとに気が早いわよ~」

 

 それから1ヶ月もたたないうちに、この夫婦は地球で新たな生活を始める。その新天地は地球では海鳴と呼ばれる場所だった。さらにその半年後、この夫婦の間に新たな生命が産まれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………。

 

 

 

 

~現在~

 

 

 

 

「やぁああああ!!」

 

 槍を振り回してエリオは次々にガジェットを貫いていく。その姿は先程のエリオとは気迫が違った、彼は闘っている…………この状況を覆すために………神崎賢伍を助けるために。

 

「っ!思ったよりやりますね………」

 

 一方ナンバーズ12のディードは少し驚きながらも表情を崩すことなく対応していた。このジェイルが余りものと言っていたこのガジェットに限って、ディードは思うがまま操れるようにジェイルにプログラミングされている。

 全ては神崎賢伍とそれ以外を分断させるため。ディードは一撃必殺型の戦闘スタイルだ、だから神崎賢伍を強襲したあとはどうしても不利になる。だからジェイルはこの作戦の間だけディードにガジェットの操作を出来るようにしたのだ。普段からこんなことしていたら負荷が大きく危険なのだが、この作戦限定なら問題はない。

 

「そこっ!」

 

 エリオの動きを読み、止まった瞬間を狙ってガジェットを仕掛けさせる。

 

「あっ!」

 

 隙をつかれたエリオにかわす手段はなかった。

 

「フリード!」

 

 

「させないです!

 

 が、ギリギリの所でガジェットはキャロの指示で放たれたフリードの火炎弾とリィンの魔力弾で破壊される。

 

「キャロ、リィン曹長!」

 

 

「私達ががガジェットの動きを止めるから……エリオ君は賢伍さんを!」

 

 

「リィンとキャロに任せるです!」

 

 そう意気込む二人だがエリオの表情は優れない。

 

「けど、まだあの戦闘機人が…………」

 

 二人にガジェットの動きを止めてもらってもまだディードが邪魔してくるだろう。男らしく抜き去ると言いたいところだがチャンスは一度きり、失敗したら一回見られた戦術は通用しない。だから慎重になるしかなかった。

 

「だったら私に任せて………一時的に動きを封じればいいのよね?」

 

 ウィングロードを展開させ足場を作りながら戦っていたギンガも加わる。

 

「この中で一番速いのはエリオ君だから…!賢伍さんの救援はエリオ君に任せる…………ここは私とキャロとリィン曹長に任せて行って!」

 

 エリオだけではない、3人も何としても賢伍を救出したかった。それで一番それを成功させる可能性が高いのはエリオだ。ソニックムーブを使えば一度抜き去ればまず追い付かれることはない。そのまま賢伍の元に向かわせるのが算段だ。

 

「そうと決まれば早速実行です!賢伍さんを私達で助けて、見返してやりましょう!」

 

 

「リィン曹長…………ヘリで賢伍さんに心配だって言われたこと、根に持ってたんですね………………」

 

 リィンが皆を鼓舞するが、正直妖精みたいなサイズのリィンには威厳も何も感じなかったようだ。 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

 

「いい加減…………しつこいなお前も……」

 

 チンクは少し苛立ちを覚え始めた。光の英雄を追い詰めている絶好のチャンスだ。チャンスなのに…………あと一歩が届かなかった。

 

「へへっ!ようやく動きが読めてきたんだからよ…………それにしつこいのはお互い様だろ?」

 

 俺は少し笑みを見せてそう言ってやる。勿論そんなものは強がりだ、ギリギリ致命傷を回避しているだけで俺は突破口をまだ思いついていない。剣術は当たっても効かず、魔法はかき消され、体術なんて論外。逃げようとすれば動きを読まれ回り込まれ一定の範囲以上からは抜け出せないでいる。

 が、ここまで時間をかけても俺に決定打を与えられていないのはチンクも同じことだ。どっちが先に焦れるかだ…………。 

 

「いくぜおらぁぁあああ!!」

 

 自分を鼓舞するように大声をあげて特化型ガジェットに突っ込む。

 

「『牙突』!」

 

 刀の切っ先をガジェットに向けてそれを見舞う。ガキンっと弾かれた音が響き、結果は変わらず通用しなかった。

 

「諦めて力を解放しろ!今のお前では何もできない!」

 

 

「その答えを出すにはまだ早いんじゃねぇかな!!」

 

 投擲された爆発するクナイを回避しながらチンクとそう言葉を交わす。魔法を使えばたちまち無効化されるので疾風速影と光の障壁も使えない。反射で回避するしかないのだ。

 

 

 

 ドォォォォン!!

 

 

 しかし、爆発そんな生易しいものじゃない。いくらかわしても爆風には巻き込まれる。だが俺だってやられっぱなしでは終わらない。

 

「はぁ!」

 

 無効化されないよう爆発する一瞬、タイミング良く光の障壁を一瞬だけ発動するのだ。これで先程から致命傷を避けられている。

 

「ぐっ………うぉぉおおお!!」

 

 爆発の衝撃に体を揺られながらもすぐに体勢を立て直し反撃を狙う。

 

「『牙連突』!!」

 

 ニ連の突きがガジェットを襲う。だがそのニ撃でさえ刀を弾く金属音と共に俺はすぐにその場を離れて距離を取る。

 

「くっ!」

 

 チンクが慌てて追撃でクナイを放ってくるがそれはなんなくかわせてみせる。そしてまたガジェットに刀を振り上げる。

 

「はぁ!!」

 

 キンッ!という音が再び耳を貫きそしてすぐにガジェットから離れて体勢を整える。

 

「ぐっ………何度やろうと無駄な足掻きだ!」

 

 チンクが再びをクナイ投擲してくる。しかし、今度は俺に届く前に爆発した。

 

「っ!?目眩ましか!」

 

 爆風で俺の目の前が煙に包まれ視界を奪われる。慌てて煙から脱出してチンクを見上げるが、すでに先手を打たれていた。

 

「っ!」

 

 俺がどこに脱出するのか読まれていたのか出てきた瞬間にはすでに俺に向かってクナイが投げ込まれていた。

 

「甘い!」

 

 しかし俺だってそれは警戒していた、すぐに体を捻りながらクナイから離れて爆発を回避する。

 

「まだまだぁ!」

 

 そして間髪いれずガジェットに刀を見舞う。何度も打ち付ける。

 

「無駄だと言うことが分からないか!」

 

 

「やってみなければ分からないだろうが!!」

 

 ガキンガキンと刀が音を立ててガジェットにぶつけられる。壊せない機械なんてない!完璧なものなんて存在しない、だから…………!

 

 

 

 ピシッ

 

 

 

「っ!」

 

 

「なっ!?」

 

 だから、同じガジェットに同じ場所を攻撃し続ければいずれボロがでるはずだ!

 

「そこだぁぁあああああああああ!!!」

 

 雄叫びをあげながら亀裂が出来た箇所にピンポイントに刀を突く。

 

 

 

 キンッ!

 

 

 

「ば、バカな!?」

 

 チンクが驚愕の声をあげる。

 

「………言ったろ?やってみないと分からないってな」

 

 刀で串刺しにしたガジェットを振り払って捨てる。それで機能が停止したのか、ガジェットは抗うことなく海に落ちた。

 

「あ、ありえない………リミッターを解錠せずにこのガジェットを破壊したというのか!」

 

 チンクはどれだけこれが神崎賢伍にとって厄介なものだというのを理解していた。既に情報を得ている神崎賢伍の力を全てインプットし、動き、思考、技、魔法、全て神崎賢伍のために作られたガジェットなのだ。

 

「へへへ…………あとこれを9回繰り返せばいいんだろ?やってやろうじゃないか…………」

 

 無理だ。チンクはそれが賢伍の強がりだとすぐに気付く。確かに一機だけでも破壊したことは称賛に値する。敵ながらあっぱれ、言葉には出さないがチンクはそう思った。しかしその一機を壊すのに労した時間とスタミナは相当なものだ。必死に隠しているようだが息も少し上がっている。

 

「ふっ………」

 

 

「っ!」

 

 しかし、チンクを射ぬくその視線がそれを忘れさせる。奴ならばやってしまうのでは?と。ボロボロの今の状態でもチンクは神崎賢伍に危険を感じた。

 

「……………」

 

 一方賢伍は今必死に疲れを隠していた。正直にいえば彼に残りのガジェットを破壊する力は残っていない。方法となるとリミッター解錠くらいか…………しかしレベル1解錠は一度見られている。

 対策が練られているのは目に見えているのだ、ならばレベル2を解放するか…………しかしそれは論外だった。今そんなことをすれば六課に要らぬ圧力がかかる。今後のためにも自由に動けなくなるのは避けたかった。

 

「私は少々貴様の力を見くびっていたようだ…………そんなつもりはなかったのだが考えがたりなかった。もう容赦はしない……」

 

 チンクの目付きが変わる。両手で持てるだけクナイを持ち構えだした。おいおい、こっそり息を整えてたんだからもう少し休ましてくれよ。それにまだ状況を打開する方法を思いついていないんだがな…………。

 

「賢伍さぁぁぁあああん!!」

 

 

「っ!」

 

 

「誰だ?」

 

 突然耳につんざく俺の名を呼ぶ声。音源をたどり真上を見る。

 

「エリオ!?」

 

 ストラーダのブーストで猛スピードでこっちに向かうエリオの姿があった。

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 エリオは必死に賢伍の元に向かっていた。作戦通りキャロとリィンがガジェットの動きを止めその隙にギンガがディードに詰めよって仕掛けて足止めをしてくれた。エリオはその隙にソニックムーブでディードを抜き、そのままブーストで賢伍の元に向かっている。

 

「賢伍さぁぁぁあああん!!」

 

 その姿を確認したときエリオはそう叫んだ。そしてそこで賢伍を見下ろして追い込んでいるもうひとりの戦闘機人の存在も確認する。

 

「ちっ、ディードを抜いてきたか………」

 

 チンクは賢伍に向けていたクナイを体を反転させてエリオに向けて投げた。

 

「気を付けろエリオ!そいつは爆発するぞ!!」

 

 

「っ!」

 

 槍で弾き返そうとしたがエリオは賢伍の言葉を聞いて慌ててそれをやめる。

 

「くっ!」

 

 ブーストを更に加速させ、左右にジグザグに動きクナイと爆発を回避する。

 

「うおおおお!!」

 

 エリオの咆哮が響く。

 

「そこをどけぇ!」

 

 対峙するチンクに真っ向からぶつかる。

 

「くっ!」

 

 

ドォォォォン!!

 

 

 チンクが展開したバリアと衝突して衝撃が響く。

 

「エリオ!」

 

 衝突したからか煙が邪魔で状況を確認できない。どうなった?エリオは無事なのか!

 

 

ドォォォォン!!

 

 

「うわぁああああ!」

 

 今度は爆発音が響きエリオの叫びが響き渡る。煙から爆発を受けたエリオが海面に向かって落ちる。チンクめ…………ゼロ距離で爆発させやがったか!

 

「ぐっ!」

 

 が、ギリギリのとこでブーストを発動させて墜落を避けた。そのまま体勢を立て直し再びチンクと対峙する。

 

「よせエリオ!俺のことはいい、お前らは一旦退却しろ!」

 

 

「嫌です!」

 

 俺の言葉をエリオは間髪いれずにそう返す。

 

「命令だ!今すぐ退却しろ!」

 

 

「できません!」

 

 

「エリオ!」

 

 だめだ、チンクは手強い………。危険だ………既にエリオは一度爆発を受けている。バリアジャケットが少し焦げた程度で済んだみたいだがこれ以上は危険だ。

 

「エリオ、俺は大丈夫だ…………なんとかして見せるだからお前は一旦………」

 

 

「僕は賢伍さんを助けたいんです」

 

 再び説得しようとした俺の言葉を遮ってエリオはそう口を開いた。

 

「賢伍さんは僕の憧れです…………そして………僕の兄貴分なんです……」

 

 

「エリオ……………」

 

 

「兄貴分がピンチの時にただ見てるだけなんて…………弟分の僕には出来ません!」

 

 その目は真剣だった。男の目、覚悟を決めた男の目の輝きを放っていた。

 

「僕を仲間だと…………クローンなんて関係ないって言ってくれた賢伍さんの………力になりたいんです!!」

 

 その叫びはエリオの真摯な想いだった。嬉しかったのだ、出撃前に二人で話した時の出来事が。救われた気がしたのだ、本当の意味で。だからエリオは、賢伍のためにここに立っている!

 

「いくよ、ストラーダ!」

 

 

ST『ソニックムーブ』

 

 閃光と呼ばれたフェイトを思わせるスピードでチンクに向かう。

 

「性懲りもなく!」

 

 クナイを構えて応戦体制をとるチンク。

 

「僕が賢伍さんを助けるんだぁぁぁあああ!!」

 

 

 ドォォォォン!!

 

 同じような衝撃音が響く。同じように煙に包まれる。しかし結果は違った。

 

「なにっ!」

 

 

「やぁぁぁあああ!」

 

 チンクの前にエリオはいなかった。彼は既に後ろ…………チンクが見失いくらいのスピードでチンクを抜き去ったのだ。最初からチンクに勝つつもりなどなかった。目的は賢伍の救出のみ!

 

「サンダー………レイジー!!」

 

 雷の槍が賢伍を囲んでいたガジェットの内数機を破壊する。

 

「やった!」

 

 続けて残りのガジェットの破壊を試みる。エリオがあっさりとガジェットを破壊できたのは神崎賢伍特化型ガジェットは文字どおり賢伍のために作られたガジェットだからだ。彼の魔法を無効化することに絶対的な力を誇るが、逆に彼以外の魔法には対策は施されていない。それを捨てることでここまで賢伍を苦しめることが出来たのだ。

 それがこのガジェットの最大の弱点。他の魔導師にはただの鉄の固まりと同等になってしまうのだ。

 

「このまま一気に………」

 

 再びエリオがガジェットを破壊するべく槍を構える。

 

「エリオ後ろだ!逃げろぉおおお!!」

 

 

「えっ……………」

 

 俺の言葉で槍を構えたまま振り返るエリオ。そのエリオの目に写ったのは………二刀型の武器、ツインブレイズを今まさに降り下ろさんとしていたディードだった。

 

「っ!?」

 

 何故ディードがここに?答えは簡単、足止めをしていたギンガ達をすり抜けてきたのだ。ギンガたちはディードの指示を受けたガジェットに囲まれその場から動けなくなってしまったようだ、必死にガジェットを破壊しているが明らかに間に合わない。

 

「(やられる!?)」 

 

 エリオのとっさに浮かんだ言葉は口に出ることはなかった。

 

 直撃、その場にいる誰もがそう思った。

 

「やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 必死に手を伸ばして叫ぶ賢伍をエリオは視界の端に捉えた。

 

「(僕は……………まだ賢伍さんを助けてない!力になれてない………!)」

 

 エリオの頭にはまだ賢伍の救出のことで一杯だった。

 

「(賢伍さんの力になりたい………だから………ここでやられるわけにはいかないんだ!)」

 

 しかしそのエリオの純粋な思いも、目の前のツインブレイズで砕かれる…………筈だった。

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、エリオの体が光輝きだした。

 

 

 

 

「なに!?………うぁぁ!?ああああ!」

 

 その光を浴びたディードは突然苦しみだし、慌ててその場から退く。

 

「何だ、何が起きてる!?」

 

 近くにいたチンクも少し冷静さを欠いた声が発せられる。

 

「こ、これは………?」

 

 当のエリオは自分の体に何が起きているのかさっぱりだった。ただ分かっていることは自分から発せられているその光の暖かさ、安心さを感じさせてくれることだった。

 

「これは…………一体?」

 

 突然エリオが光輝いたかと思えば、俺の右手に握られているシャイニングハートの本体部分も同じように光輝いている。

 

「シャイニングハート!どういうことだ!」

 

 

SH『……………………………』

 

 シャイニングハートからの返答はない。

 

「シャイニングハート!」

 

 

SH『……………1人の光魔力エネルギーの存在を確認………絆システム起動、シンクロを開始します…………』

 

 

「ど、どういうことだシャイニングハート!おい!」

 

 突然喋り出しかと思えば訳の分からないことを言い始めた。俺の言葉の返答は変わらず返ってこない。

 

「うわわ!わわっ!?」

 

 シャイニングハートの言葉が合図かのようにエリオの胸あたりがさらに眩しく輝きだした。エリオはもう訳が分からず、驚きの声をあげることしか出来ない。

 

SH『対象者、エリオ・モンディアルの光魔力エネルギー、所定ラインを突破…………』

 

 

「えっ!?」

 

 

「なっ!」

 

 眩しいくらいに輝いていたエリオの輝きが凝縮されたかのように消える。するとゆっくりエリオの胸から出てくるように光輝く球体が出現した。そしてその球体は凄まじいスピードで俺に向かってくる。それはAMFを発動していた筈の特化型ガジェットを何事もなかったかのように素通りし、俺の胸から体に入り込んできた。

 

 

 

 

   ドクン

 

 

 

「っ!」

 

 なんだこれは……………。

 

 

   ドクン

 

 

 体が自然と力む。そしてからだ全体が、日本刀が、軽く光輝いている。

 

 

   ドクン

 

 

 全身に暖かさと同時に優しさを感じる。

 

 

   ドクン

 

 

 そして、守るための力を感じる!

 

 

 

「ぐっ!うああああ!!」

 

 有り余る力を発散させるように魔力を帯びさせた刀を特化型ガジェットに振るった。

 

 

 

  キン

 

 

 一刀両断。先程まで防がれてきた刀の一撃が、豆腐を切るかのように一撃で簡単に残りの数機体のガジェットを破壊した。

 

「う、嘘だろ?」

 

 振るった本人が一番驚いている。どうなってる?俺にも何が起きたかさっぱりだ。エリオの体から出てきた謎のエネルギーが俺自身の体の中に取り込まれた瞬間、爆発するかのように力が溢れ出してきている。

 

「ば、バカな!?特化型ガジェットを一撃で!」

 

 チンクも同様驚きの表情を浮かべた。

 

SH『シンクロ率100%に到達…………さぁ、マスター………その力を存分に振るってください』

 

 

「正直何が起きてるのかさっぱりだが………今はお前の言葉に乗せられてやるとするかぁ!」

 

 一歩踏み出し、跳ぶ!

 

「なに!?」

 

 

「っ!?」

 

 その一歩で隣立ってるチンクとディードに詰め寄る。疾風速影のスピードも飛距離も上がっている…………俺の戦闘スキルが何から何まで強化されたみたいだ。

 

「エリオを傷付けた礼だ…………」

 

 

「しまっ!?」

 

 

「くっ!」

 

 防御体勢をとるチンクに対して、ディードはツインブレイズを構えてチンクを庇うように前にでてくる。

 俺は拳を作りそれを……………。

 

「倍で返してやるよ!!」

 

 それをディードに思いっきりぶつけた。

 

「ぐあっ………!」

 

 

「ディード!ぐはっ!」

 

 その拳はディードのガードしてきたツインブレイズをいとも簡単に崩してディードの腹部辺りに決まる。耐えきれず後ろに吹っ飛ぶディードは真後ろにいたチンクも巻き込んで海に落ちた。その証拠に水しぶきが上がったことを確認しすると、俺は踵を返してエリオの元に向かう。

 

「エリオ!無事か?怪我はないか?」

 

 少し呆気にとられたエリオをよそに俺はエリオの体をまさぐって安否を確認する。

 

「だ、大丈夫です、大丈夫ですから!」

 

 エリオが慌ててそう俺を押し退けて口を開く。少し過保護気味に扱われて恥ずかしかったのだろうか、これじゃあ俺もフェイトの事は言えないな…………。

 それとエリオの言う通り特に目立った怪我はないようだ、少し安心する。

 

「それにしても………一体なにが起こったんでしょう?賢伍さんが何かしたんですか?」

 

 

「いや、俺にも何が何だかさっぱりなんだ…………エリオは体に特に異常はないのか?」

 

 あの光輝いていた球体…………シャイニングハートは光魔力エネルギーと言ってたか?俺の体に入ってきたと思ったら、今もいきなりみなぎるような力がわき出てきている。そんな効果があるエネルギー体がエリオの体から出てきたのだ、何か悪影響を及ぼしてるんじゃないか?

 

「いえ、特には…………。魔力が減ったわけでも、疲れとかそういうのは全くないです。変化なしです…………」

 

 それを聞いてますます分からなくなる。自分なりに今のこの力を分析してみてまずひとつ思い浮かんだ能力は魔力の譲渡、または搾取だった。他人から魔力を貰う、または奪うことで力を得る能力だ…………珍しい能力だがそれは別段特別と言うわけでもない………似たような能力を持っている人物は管理局にもいると思う。

 だからそれだと思ったんだが違うようだ、もしも俺の予想通りだったらエリオは魔力を奪われてるわけだから魔力が減ってるはずだ…………しかしエリオは変わらないと答えた。だから分からなかった、エリオから出てきたあのエネルギーはなんなのか?何故俺にこんな力が与えられたのか。

 

「賢伍さん、ギンガさんたちが上でまだ闘ってるんです!」

 

 思い出したかのようにエリオはそう言葉にする。

 

「っ!そうだな、今度は俺が助ける番だ…………行くぞエリオ!」

 

 

「はい!」

 

 返事と共に俺とエリオは上空に向かって翔ぶ。そのスピードは先程の二人とは桁違いだった。そして俺の視界に真っ先に写ったのはガジェットに囲まれている仲間の姿。

 

「邪魔だガラクタ野郎共ぉ!」

 

 スピードに乗せたまま刀を振るい上げてその包囲を崩す。数機破壊すればガジェットは警戒してギンガ達から距離をとる、その隙にエリオと俺はギンガ達の元へ。

 

「お前ら!大丈夫か!?」

 

 

「け、賢伍さん!エリオ君も!よかった…………ご無事でしたか………」

 

 俺達の姿を確認するとギンガはホッと胸を撫で下ろして脱力する。

 

「賢伍さん、何だか体が………」

 

 

「光ってます…………」

 

 今の俺の状態をリィンとキャロがそんな風に疑問の言葉をあげる。

 

「後で説明する………」

 

 説明できるほど俺も分かっていないが。

 

「ごめんねエリオ君、私がしっかりあの戦闘機人を足止め出来なかったから………」

 

 思い出したようにギンガは謝罪の言葉を述べる。自分がディードと名乗ったあの戦闘機人を足止め出来ずエリオに危険をさらしたことを後悔してるようだった。

 

「いえそんな!僕は皆のお陰で賢伍さんの元までいけたんですよ…………」

 

 

「エリオの言う通りだ、ギンガちゃんがディードの相手をしてくれなかったらエリオが俺を助けにこれなかった、そしたら今ごろ俺は敵の思う壺になってたかもしれない…………死んでたかもしれない………」

 

 申し訳なさそうにしているギンガに俺はそう言葉を投げ掛ける。何もギンガが謝ることなどひとつもないのだから。

 

「ありがとなギンガちゃん、勿論キャロとリィンもエリオも」

 

 そう全員を見据えて言う。見守っているつもりだった。まだまだ導いてやらないとなと思っていた。けど、今日俺はこいつらに助けられた。成長していた、教導をして教えていると思っていたら教わられていることもたくさんあった。

 

「賢伍さん…………」

 

 

「ははっ、そんな顔すんなよギンガちゃん…………後は3人は休んでてくれ、本当に助かったよ」

 

 そう言って振り返りガジェット達を見渡す。ギンガ達が結構破壊してくれたみたいでもう最初の半分のガジェットもいないようだ。俺を助けようと必死になってくれたみたいだ。その証拠に、隠しているようだが3人が息を切らして疲労をためている。

 

「け、賢伍さん!私だってまだ戦えますです」

 

 この中で一番サイズが小さいリィンがそう強がる。だが管制として俺だけじゃなくギンガやキャロにも気にかけていたようで、一番くたびれているはずだ。

 

「いい、リィンは休んでろ……………後は俺とエリオでやる…………この力を見極めないといけないしな………」

 

 何も3人が足手まといだとかそう思ってる訳じゃない。この俺の体を光輝せている謎の力、これがどういうものなのか試すにはちょうどいい。

 

「分かりました…………です……」

 

 

「悪いな、けど今日はほんとにお前は頼りになったよリィン」

 

 

「賢伍さんが私を誉めるなんて明日は台風が来そうです」

 

 

「言ってろドチビ」

 

 普段バカにしてる言葉は本心じゃないっての、流石にリィンにも伝わってるはずだ。それに、リィンが悔しがる必要もない。

 

「さーて…………」

 

 眼前に広がるガジェット達を見据えて俺はそう呟く。

 

「できればゆっくりこの力を確かめたい所だが……………」

 

 そんな悠長なことは言ってられない。ギンガ達も疲労困憊だ、早く休ませて上げないと。

 

「僕はどうすればいいでしょうか………?」

 

 エリオもエリオでそろそろ限界が近いかもしれない。なら理想なのは一撃必殺………なんとか方法はないだろうか。

 

SH『マスター、システム『シンクロレイド』が使用可能です………』

 

 そんな俺の考えを読んだかのようにシャイニングハートが突然言葉を紡ぐ。

 

「『シンクロレイド』?…………なんだそれは?」

 

 この光輝いている状態と関係してる力なのか?

 

SH『使うかどうかはマスターにお任せします………』

 

 

「おい、俺はそれがどんなものか知らな…………っ!」

 

 突如頭に流れてくる情報、シャイニングハートが俺に直接流しているようだ。それがどんなものか、どうすれば発動するのか、曖昧に頭に流れてくる。

 

「えっ!?あれっ?えぇ?」

 

 するとエリオも頭に手を置き訳がわからないと言うような顔をしていた。よくみると俺のリンカーコアとエリオのリンカーコア辺りが共鳴するかのように点滅していた。もしかすると…………エリオにも同じように情報が頭に流れている?

 

「エリオ………」

 

 

「……………は、はい?」

 

 多分そうだ、エリオも俺と同じような状態だ。体が光輝くこの力をシャイニングハートは『絆システム』と呼んでいた。憶測だが名前の通りなら…………この力はきっと…………。いや、考えるのは後だ。いい加減このガジェット達も見飽きた。

 

「行くぞ…………」

 

 そう言って俺はエリオに向かって日本刀を向ける。

 

「………はい!」

 

 情報が流れてきたのなら、何をすればいいのか分かるはずだ。エリオは期待した通り自分の槍、ストラーダをシャイニングハートに重ね合わせる。

 

SH『シンクロ率上昇…………対象者、エリオ・モンディアルとのシンクロレイド発動可能です………』

 

 瞬間、俺とエリオの体がさらに光輝く。さっきまで少し体が発光しているなと感じるくらいの輝きから、どこか神聖さを感じさせるくらい光輝く。俺とエリオを巻き込んで、そして共鳴するかのように。

 

「『シンクロレイド』!!」

 

 次第に重ね合わせた剣と槍から魔力が形成されていく。球体状にどんどん肥大化していき、それは俺の魔力の光とエリオの魔力を表す雷を帯びて。シンクロレイド…………絆が紡ぐ、人と人の力、絆によって可能になる合体魔法。

 

「行くぞエリオ…………これが……俺とお前の力だ!」

 

 

「はい、賢伍さん!」

 

 俺の体全体を包み込めるくらい大きくなった俺とエリオの魔力で固められた球体を二人で放つ!

 

「「『ライトニングインパルス!!』」」

 

 光の雷が辺りを照らし、痺れさせる。爆発し、拡散し、ガジェットは破壊されていった。俺とエリオも、想像以上のその威力に放った自分達でさえ驚いてしまうほどだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

「ぷはぁ!」

 

 海中から海上へ姿を表したのは銀色の髪と右目の眼帯が印象的な少女だった。海によって濡れた髪を意に返すことなくその少女は海に浮かび辺りを見回す。

 警戒すべきものが無いことを確認するとチンクは両手で支えていたもう一人の戦闘機人、ディードをおんぶの形で支えて泳ぎ始める。

 

「申し訳………ありません……ご迷惑をかけます………チンクお姉さま………」

 

 

「気にするな………寧ろ私を庇ってくれたのだ、礼を言う」

 

 神崎賢伍によって腹部を殴られたディードは大きな損傷は無いものの今は動けない状態だった。それほどまで光の英雄の拳は重かった。

 

「(しかし………やつのあの力はなんだ?)」

 

 辺りを慎重にうかがいながらチンクはふと考える。賢伍を苦しめていたあの特化型ガジェット…………あのままいけばチンク達の目的通り、自らの命には変えられないと賢伍はリミッター解除レベル2を発動していたかもしれないのだ。

 そうなる手はずだった…………しかし実際に起こったのはリミッター解除ではなく新たに判明したあの力。体が光輝きはじめたと思ったら一撃でこれまで苦戦していたガジェットを破壊していた。見たところ賢伍本人も理解していなかったが一体どういう能力なのだろうか?

 

「……………本来の目的は達成できませんでしたが、隠されている力をドクターには見せることは出来たことに出来ました…………このままアジトに撤退しても問題ないでしょう……」

 

 

「あぁ、私も最初からそのつもりだ」

 

 どちらにしろ、今のディードを抱えたまま闘うのはチンクには無理だ。言い方は納得いかないが撤退以外の判断は愚行だろう。ディードもそれを弁えた上での判断だった。

 

「だれか迎えに来てくれると助かるんだが…………」

 

 

「おう、呼んだかよ」

 

 チンクがそうぼやいた直後に突如背後に気配を感じる。一瞬敵かと思い驚くが、振り向むくと海面の上に立っているように宙に浮かでいるその既に見知った人物であり自分達と協力関係にある者でもあったので少し安堵する。

 

「お前が迎えか……随分安心する迎えだな」

 

 

「それは皮肉か?それとも本心か?」

 

 

「さぁ、どうだろうな?お前はどっちだと思ったんだ?闇の神崎賢伍…………」

 

 

「けっ、口の減らねぇ女だ………とりあえず皮肉として受け取ってやるよ」

 

 闇の賢伍はそう言うと海に浮かんでいた二人を無理矢理引っ張りだし、動けないディードを左肩に担ぎ上げ、チンクを右手で小脇に挟む。ちなみに、チンクの言葉は皮肉半分本心半分といったところだった。

 

「む、貴様…………バカにしてるのか?」

 

 

「…………離してもらえますか?」

 

 闇の賢伍の行動に二人から非難の言葉が上がる。それが少女チックの照れ隠しなら可愛いものだったのだが生憎二人の言葉の感情にそれは無かった。

 

「はぁ?お前ら二人して泳いで帰るつもか?しかも一人はまともに動けないやつを抱えて」

 

 闇の賢伍はあくまで効率を考えての行動。二人を抱えてとんだ方が速いと思ったのだろう。しかし、チンクとディードからすればそれはある意味で屈辱だ。情けない状態であるには変わりない。

 

「……………仕方ない。お前にこうした形で頼るのは屈辱だが」

 

 実はチンクは他のメンバーと違い闇の賢伍を最初からそこまで敵対視はしていなかった。それなりに警戒する程度で、あまり深く考えていなかった。それにチンクは自身の妹達の面倒見はいい、何度も妹達を助けている闇の賢伍には少なからず感謝している部分はある。チンクは義理堅かった。決して表には出さないが。

 

「…………仕方ありませんね……」

 

 そしてディードも闇にそんな嫌悪感を抱いてはいなかった。彼女はつい最近目覚めたばかりで起きたときにはジェイルに仲間と紹介されたからだ。他の戦闘機人には釘を刺されなどもしたが、自分の世話役だったチンクは特にそのようなことを言わなかったというのも大きい。

 

「ふん、めんどくせぇ女どもだ………」

 

 そのような態度を取られては闇も面白くなかった。闇自身も彼女らにはそこまで警戒をしていなかった。目的のための協力者、彼も危害を加えるつもりはない。立ちはだかるのなら容赦なく彼はこの二人でさえ、ジェイルでさえ殺してしまうだろうが。

 

「………………………………」

 

 ふと、闇は遥か遠くの上空にいる自分自身の光に意識を向ける。チンク達の救援に向かうギリギリまで起こった出来事はモニターで確認していた。突如光輝いていたあの力。

 

「(……………俺でさえ知らない力……)」

 

 光の自分の力は把握していた。リミッター解除後の力も全て。何せずっと彼の中にいたのだから。だがあれは知らない。闇には知らない力だった。

 

「面白い。面白いじゃないか……ククク」

 

 それでも彼の表情は綻ぶ。力があればあるほど、彼の目的へと近付くのだから。やはり、闇の浮かべる笑みは背筋を凍らせるほどだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 オリジナル回はあと一回だけ続きます。

最近はまってるアニメでリゼロというのがあるのですがいいですね!

 主人公がかっこいいし自分好みでした。あ、自分はメインヒロインが基本好きですがやっぱりレム派ですかね?笑


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不明の力より信頼の力を


 お疲れさまです。だいぶペースが落ちてしまってますが閲覧よろしくです!


 

 

 

 

 

 

 

 結果的に言えば、俺とエリオの一撃でガジェットはほぼ全滅した。シンクロレイドを放ったら、あの光輝いていた体は元に戻っていた。あとは皆で取りこぼしたガジェットを破壊して殲滅は完了、先に担当区域を終了させてこっちに救援に向かってくれたなのはやフェイトの隊が合流した頃には任務は終了と言ったところだった。

 

「賢伍くん!」

 

 服がボロボロの俺の姿を見てなのはが慌てて俺に駆け寄ってくる。見た目ほどひどい怪我は負っていない。強がりでも何でもなくそれがあくまで事実だった。

 

「あぁ大丈夫だ、それより皆に肩貸してやってくれ、大した怪我はないけど皆もうくたびれてるからよ」

 

 今回4人にはだいぶ苦労をかけた。こいつらがいなかったら俺は今ごろ大怪我を負っていたかもしれない。

 

「ほら、キャロ」

 

 

「すいません………」

 

 ティアナがキャロをおんぶの形で支えてあげ。

 

「ギン姉、大丈夫?」

 

 

「ありがとうスバル。うん、大丈夫だよ」

 

 スバルがギンガに肩を貸してそう声を掛け合う。

 

「もうくたくたです~」

 

 

「ご苦労だったな」

 

 フラフラと飛びながらシグナムの肩でへたりと寝転がるのはリィンだ。こいつにも今日は本当に助かった。

 

「エリオ、ほら?」

 

 フェイトはそう言ってくたびれた様子のエリオに手を差しのべる。

 

「あ、フェイトさん…………すみま…………せ………ん」

 

 

「おっと!」

 

 突然体勢を崩して倒れそうになるエリオを抱える。

 

「スー……………スー……」

 

 

「あらら、寝ちまったか………」

 

 そうとう疲れていたんだろう。我慢の限界もとっくに切れていたはずだ。そうなるまで戦ってくれたエリオに俺は感謝しつつフェイトにだっこの形でエリオを渡す。

 

「はぁ………皆に無理させちゃったなぁ」

 

 誰にも聞こえないようにそうぼやく。これじゃあ上司失格だ、もっともっと強くならないとな。けど、今日は俺もくたびれたので早くベッドにダイブしたい気分だ。

 

「さて、さっさとヘリに………お?」

 

 

 

 フラッ

 

 

 

「あぁ、ほら!賢伍君もやっぱりお疲れじゃない………」

 

 迎えに来てくれたヘリに向かおうと体を動かすと俺は一瞬立ち眩みを感じて倒れそうになる。そんな俺を見抜いて俺をずっと見ててくれたのかなのはがすぐに俺に肩を貸してくれる。

 

「あはは、悪いなのは………このまま俺も支えてもらっていいか?」

 

 

「勿論だよ」

 

 エリオ達の心配をする前に自分のこともしっかり管理しなきゃな。じゃないと好きな女の子にこうやって情けない姿を見せるはめになる。

 

「もうそんな顔しないの~、全然情けないとか思ってないんだからね」

 

 そんな俺の心を読んだのかなのはがそんなことを言う。分かりやすく顔に出してしまったらしい。それにしても今回は本当に危なかった。

 

「はやてちゃんの予想が当たっちゃったみたいだね………」

 

 見た目はボロボロの俺を見てなのはがそう口を開く。

 

「あぁ、どうやら厄介な代物を作ってやがった」

 

 俺のために作ったと言うあの特化型ガジェット。リミッター解除なしでの戦闘では俺一人で勝つのは無理だ。いくら俺専用とはいえあそこまで動きを封じられるとは思わなかった。

 これは素直にあのガジェットの開発者…………ジェイル・スカリエッティに脱帽だな。

 

「今日はひどい目にあったが…………そのお陰で俺がどれだけ警戒されているのかは分かった。今後は俺も対策を練れる」

 

 なんというんだっけかな?肉を切らせて骨を断つ?ちょっと使い方が違うか。とはいえ、具体的な案は思い付かないけどな。あくまで気持ちの準備が出来るくらいだ。まぁ、それだけでも儲けものだろう。

 

「体………大丈夫?」

 

 肩で俺を支えながら顔を覗き込むように聞いてくる。

 

「あぁ、見た目ほど大した怪我じゃない。嘘じゃないぜ?」

 

 

「そう、ならよかった」

 

 心底安堵したようになのははホッと胸を撫で下ろす。なのはを見ると見た目もキレイそのものだった、そっちはそっちで苦もなくガジェットを殲滅出来たようだ。

 

「はぁ、くたびれた…………」

 

 

「いいんだよ?このまま寝ても?」

 

 

「流石に寝たまま運んでもらうわけのもいかんだろ」

 

 まぁせめて、六課に戻ってから今日の報告をするまで寝ないようにしないとな。なにしろ上司がねてちゃ示しがつかないし、眠たいけど。あぁ、いかんいかん…………他の皆だってもっと頑張ったんだ、俺だけ寝るわけにもいかんだろう。

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

「ぐか~…………むにゃ…」

 

 

「で、運んでたらいつの間にか寝ちゃったみたい」

 

 ヴァイスが操縦するヘリのなかで六課に向かってる最中なのははそう口を開いた。いつの間にか寝ていた賢伍をヘリの座席に座らせて、さらに自分の肩に頭を乗せて寝やすくしてあげている状態だ。地球では通勤電車でよく見掛ける光景だろう。

 

「六課につくまで寝かせてあげようよ。エリオも賢伍もお疲れみたいだし」

 

 そういってフェイトは自分の隣で同じように寝ているエリオの頭を撫でる。

 

「お前達もここで仮眠を取ったらどうだ?」

 

 今日同じチームだった3人、シグナムが気遣ってそう声をかける。

 

「いえ、大丈夫ですよ………今日一番大変だったのはこのお二人でしょうし」

 

 

「私も同じくです」

 

 ギンガとキャロがそう答える。別に遠慮してるわけでもなかった。寝ようと思えばすぐさま寝れるくらい疲れてはいたが。

 

「……………スー……」

 

 

「それにしても賢伍さん…………なんだかこうやって寝てるところ見ると何だか………」

 

 賢伍の寝顔を覗き見ながらスバルが口を開く。

 

 

「ふふっ、かわいいでしょ?」

 

 

「かわいいっていうかその………………和む表情してますね」

 

 スバル達からみれば賢伍のイメージは最初の頃と比べてだいぶ変わっている。光の英雄とまで言われていたからとてもクールでかっこいいイメージだったが、六課が始動してから一週間もしないうちにただのセクハラ変態野郎に変わったのだ。

 とはいってもやるときはしっかりしてるし、実力も想像を遥かに超え、さらには上司という壁を感じさせない人当たりのいい人という事実もあり尊敬はしていた。セクハラに関しては困ったものだが。

 

「普段の賢伍さんからは想像がつかない寝顔ですね……小さい子供みたいな」

 

 キャロも少し表情を崩しながらそう言った。確かにとても気持ちよさそうに寝ている賢伍の寝顔は子供っぽく感じるようだ。

 

「まぁ、中身はまだ子供みたいな所もあるしね」

 

 決してどの部分がというのはフェイトは口にしなかった。

 

「いい加減助平な所も治してほしいところだがな」

 

 結局シグナムがはっきりと告げる。

 

「そういえば賢伍君、小さい頃から他の男の子よりスケベだったかなぁ………」

 

 昔を懐かしむようになのははそう口にする。

 

「小さい頃って、私がまだなのはと出会う前の話?」

 

 

「そうそう、フェイトちゃんとまだ出会う前だね」

 

 

「具体的にどんなことがあったんですか?」

 

 ティアナが興味津々に聞く。ティアナ的には寝ている今のうちに賢伍の弱味や恥を知りたいのだろう。ティアナだけでなくスバルやギンガも気になるようすだ。

 やはり上司としての威厳は既に暴落気味のようだ。

 

「うーん、まずスカートめくりは当たり前にしてたかなぁ………私だけじゃなくて幼稚園の一緒の組の女の子にも先生にもしてたし」

 

 

「「「うわぁ………」」」

 

 まずこの事実でティアナとスバルとギンガは軽く引いていた。賢伍が起きていたら今頃ガキの頃なんてそんなものなど言い返していただろうか、ちなみにスカートめくりをしている幼稚園児は少数派だ。

 

「あとエッチな本………小学一年生くらいに賢伍君の家の部屋で見つけたときはビックリしたよ。思わず床に叩きつけちゃったし」

 

 

「あぁ、私とはやても賢伍の部屋で見つけたことあったなぁ…………小学校高学年くらいだったかな?なんか恥ずかしかったから二人で見なかったことにしたけど………」

 

 

「ず、随分小さい頃からませてたんだな………」

 

 赤裸々に暴露していくなのはとフェイトについシグナムがそう言葉を発する。自分がはじめて聞く事実がちらほら出てきて驚いている模様だ。

 

「他にもあんなことやこんなことまでしたりして………………………はぁ………」

 

 途中でなのはもため息をついて説明を放棄する。説明が長くなりそうだから止めたのかそれともあまりにも話す気が起きなくなるような過去なのか。少なくとも前者ではないだろう。

 

「今じゃ光の英雄なんて呼ばれてるけど私達から見れば今も昔もただの変態男なんだよ」

 

 そういいながらフェイトがイタズラをするように寝ている賢伍の頬を指でつつく。

 

「んん…………すー………」

 

 爆睡している賢伍はそんな風に少し反応するだけだった。

 

「フフフ…………」

 

 そんな賢伍になのはがニコニコしながら笑いかける。

 

「ふふっ…………へへ………マジかよぉ………」

 

 

「ん?」

 

 すると突然賢伍の口から声が発せられる。しかし瞳は閉じられたまま、どうやら寝言のようだ。表情はなんだかいやらしい笑顔になのはたちは見えた。

 

「なかなか良いおっぱいじゃん……………でへ、でへへへ………」

 

 

「…………………………」

 

 

「…………………………」

 

 

「…………………………」

 

 空気が凍る。全員の表情が一斉に無になる。あるものはサッと自分の腕で胸を隠し、あるものはキョトンとし、あるものは完全にドン引きし、あるものは青筋を浮かべる。

 

「…………(ニコッ)」

 

 それでも寝ている賢伍に爽やかな笑みを見せるエースオブエース。その表情を崩さないまま顔面に思いっきり肘を叩き込んだ。

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

「なぁ?なんか鼻がちょっと痛いんだけど……寝てるときぶつけちゃったりしてたか?」

 

 

「知~らない~」

 

 いつの間にかヘリは六課に到着していた。ヘリを降りた所でズキズキ痛む鼻についてなのはに聞いてみたがそっぽを向くばかり。

 

「なぁフェイト、お前はなんか知らないか?」

 

 

「いやっ、ちょっと近づかないでよ汚れるから」

 

 

「………………………ティアナにスバルにギンガちゃん、お前らは何か知らな……」

 

 

「「「…………………(サッ)」」」

 

 

「いやいや三人同時に目をそらすな、そして同時に胸を隠すな」

 

 このようになのは以外に聞いてみてもなんだか冷たくされる。

 

「………?」

 

 

「ふぁ~」

 

 特に態度が変わってなかったのは、首をコトンと傾けて頭に?マークを浮かべているキャロと寝起きで大あくびをしているエリオだけだった。

 

 

 

 

…………………………………………………。

 

 

 

 

 六課に到着したらすぐはやてへの報告を済ませ、今日は解散になった。そしてすぐにはやてに話があると呼ばれた。理由は分かっている。連れてこられたデバイス室とそこにいたシャーリィを交えてはやては口を開いた。

 

「あれはなんや?」

 

 あれとは今日の戦闘中に突然発生したあの光のことだろう。だが寧ろそれを聞きたいのは俺の方だった。

 

「分からない。だがとてつもない力を感じたのは確かだ…………」

 

 あの光の力。普通の魔力ではない何か。俺も状況は飲み込めていない。

 

「映像を見る限りだと、あの光の切っ掛けを作ったのはエリオでした。それと同時にシャイニングハートも同調するように光輝き…………エリオの体から凝縮された光が出てきて賢伍さんの体内に。それから賢伍さんの魔力が上昇しています」

 

 映像を見比べ、さらにそれの計測データを見ながらシャーリィはそう言う。

 

「さらにその光の集合体を計測してみたのですが……………」

 

 そこでシャーリィが口ごもる。

 

「何だ?何か問題があるのか?」

 

 少し気になったので急かすようにそう口を開いてしまう。少し反省しつつシャーリィの言葉を待った。

 

「魔力反応を関知できませんでした。あの光は………魔力ではなかったんです」

 

 

「っ!」

 

 魔力ではない。それはとんでもない事実だ。俺達魔導師は言われるまでもなく魔力と呼ばれるエネルギーを行使して闘う。それが体内に眠っている唯一の闘うための特別な力なのだ。そのエネルギーを使った力を魔法と呼び、俺達はそれを頼りに闘ってきた。しかしシャーリィはあの爆発的な力を産み出した光の集合体を魔力ではないと言った。

 ありえない、魔力以上の力を感じたあの光が俺達の知ってる魔力ではない。地球で言うなら宇宙にロケットを発射したがエンジンは使ってない。また新たに変わるもの使ったと言われてるようなものだ。

 

「魔力でないならなんなんやろな?」

 

 顎に手を添えてうーんと考え込むはやて。

 

「そういえば、シャイニングハートはあの時この力を『絆システム』と言っていたな………」

 

 

「『絆システム』?」

 

 懐から刀の鍔、シャイニングハートを取り出す。ずっとここまでだんまりだったシャイニングハートに説明を要求しなければならない。

 

「おいシャイニングハート、話せることは全て話せ。話せないことはいい…………」

 

 

SH『分かりました…………まず何を説明すればよろしいでしょうか』

 

 珍しく素直に説明するとシャイニングハートは言う。それならちょうどいい、機嫌が変わらないうちに聞きたいことを聞こう。

 

「まずあの光だ。あれは何だ?」

 

 

SH『あれは私にも説明が出来ません。強いて言うならば、人と人の絆によって生まれる力と言ったところでしょうか?』

 

 

「絆の力?おい、テレビゲームじゃねぇんだ。友情パワーとでも言うんじゃないだろうな?」

 

 

SH『もしかしたらそれに近いかもしれませんね。絆によって生まれる魔力に成り代わりそれと同等、いやそれ以上の力を生むエネルギー。私の作成者であるマスターの両親はそれを光魔力エネルギーと名付けました』

 

 ふむ、魔力とは別物だと思ったがあえて父さんと母さんは光魔力エネルギーと名付けたのか。確かにそのエネルギーで既存の魔法が使えた。従来とは別物の魔力と考えた方がいいかもしれない。

 

「ちょ、ちょっと待ちぃ!今シャイニングハートが、自分の作成者は賢伍君の両親て……………」

 

 と、はやてが少し驚いた様子を見せる。そういえば、このことは誰にも伝えてなかったな。

 

「あぁ、別に隠してた訳じゃないんだ。わざわざ言うことでもないと思ってな。それについてはあとで俺から話すから」

 

 俺がそう説明するとはやては「わかった」と納得してくれたようで追求を止めてくれる。今はそんなことよりシャイニングハートに聞くことがまだあるしな。

 

「それじゃあシャイニングハート、続きを頼む」

 

 

SH『はい。とはいえっても光魔力エネルギーについては私も全て分かっている訳ではありません。どういう原理なのか、なぜ発生するのか。ただ分かることは、今回の絆システムの発動の切っ掛けはエリオ様です』

 

 

「だろうな」

 

 エリオから発せられた光、光魔力エネルギーが形成されそれが俺に送り出される形で俺に力を与える。

 

SH『絆システムとは対象者が光魔力を発生した際に、それをマスターの体内に存在する光の魔力を司るリンカーコアと光魔力を形成したエリオ様のリンカーコアをシンクロさせ、そのエネルギーをマスターに送り出し力を与える能力です』

 

 

「光魔力の発生させる条件は?」

 

 

SH『それは正確には分かりません。絆システムの名の通り、マスターと誰かが絆と言う強い思いの力が光魔力を形成させるのです。今回はエリオ様がマスターを救いたいと、助けたいと願い、その思いの力が光魔力に変換されたのです』

 

 エリオが……………。そうか、そんなに俺を思ってくれたのか。シャイニングハートに聞かされたエリオの気持ちに素直に胸が熱くなる。だがまてよ、今のシャイニングハートの口ぶりからすると……………。

 

「シャイニングハート、今の言い方だと光魔力エネルギーは誰もが発生させられる力なのか?」

 

 そういうことだ。絆云々は抜きにして可能であるかどうかの話。

 

SH『そうですね。正確には誰でも………それこそ魔力が極端に低い人でも有していますがその力を行使できるのはそれをシンクロさせる私…………つまり、シャイニングハートの所持者でありなおかつ光の魔力を有したリンカーコアを持つマスターだけです』

 

 ふむ、簡単にまとめると………誰もが光魔力エネルギーを有しているがそれを発生させることが出来るのはシャイニングハートでその力を使うことが出来るのは俺だけってことか。さらに発生条件が曖昧だ、絆シンクロと言っていたし今回のエリオの事も考えると俺との絆を深めること?はちょっと違うがそんな感じなんだろうか。

 

「そうなると俺の力というよりは皆の力だな。だとしたら……………」

 

 

「今後それを頼りにするのは出来ないってことやな………」

 

 はやての一言で纏まる。そういうことだ、つまりは今後その力を使えるかどうか分からない。どうすれば使えるのか分からないから、まず俺一人で発動できる訳じゃないから。そして、今後再び特化型ガジェットに遭遇したとき俺は今度こそリミッター解除をさせられると言うことだ。ただでさえ目をつけられがちな機動六課にそれはよろしくない。

 今後闇と対峙したときに切り札にすることも出来ない。結局俺の状況は変わらないのだ。

 

「まぁ、それはそれで構わないさ。謎が多すぎるしな……………。それで?父さんと母さんがなんでこんな力を俺に託したんだ?そしてなんでお前はこれについて今まで黙ってた?」

 

 そして核心に迫る質問をシャイニングハートにぶつける。これが一番気になっていた。

 

「それは分かりません。私の作製者である貴方の両親がなぜこの力を与えたのか。黙っていたのはこれを突然説明しても理解は不能かと判断いたしました」

 

 

「………………………………」

 

 分からない…………か。まったく、父さんも母さんも俺に何を望んでシャイニングハートを残したんだろう。その謎は未だ分からない。闘い続ければシャイニングハートはいずれ分かると言っていた。それまで待つしかないのか。

 

「分かった…………。聞きたいことはもうねぇよ、これ以上聞いても分かることは無さそうだしな」

 

 とりあえずこの場はここでお開きになった。

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 

「……………………………」

 

 六課内の廊下をスタスタ歩きながら考える。色々と謎なことが多い、シンクロもそうだしその力の原理でさえ。それを生み出した両親の意図でさえ。

 

「あぁ考えても時間の無駄か………」

 

 頭をグシャグシャとしてから結局そう結論付ける。やっぱり変に考えるよりはそれを受け入れて今はもっと別の事に集中した方がいい。もうすぐ公開陳述会もある、意のままに使えない力の事を考えるよりやるべきことは沢山あるからな。

 

「あ、賢伍さん。お疲れさまです」

 

 

「ん?」

 

 そう纏まったところで突然声をかけられる。エリオだった、いつの間にかメインロビーにまで歩いていたようでそこのソファーに座っていたエリオに見つかったようだ。ソファーにはエリオだけでなくフェイトとキャロになのはの姿もある。

 

「賢伍パパ!」

 

 そしてそのなのはの膝の上に座っていたヴィヴィオの姿も。

 

「ヴィヴィオ~!!」

 

 飛び付いたのはヴィヴィオではなく俺の方だった。小さなその体を抱き締めてそのまま持ち上げる。そのまま娘に頬擦りすることも忘れない。

 

「スリスリ~」

 

 

「きゃぁパパくすぐったい!」

 

 きゃっきゃっとしながらヴィヴィオは笑顔なので頬擦りは止めない。それにしても子供特有のもっちりとした肌が心地いい。これは大きくなっても変わらないように努めねば、いや?子供の頃から美肌効果のあるクリームなんか塗るのは逆にダメなのだろうか?後でなのはに聞いてみよう。

 

「それで?お前らこんなとこでなにやってんだ?」

 

 てっきり自室で休んでるかと思っていたが。

 

「夕食の時間までまだあるからね、皆でここでおしゃべりして待ってるんだ」

 

 そうフェイトに言われてちらっと時計を見る。日は傾きかけてはいるものの、時間はまだ夕方の5時前を指し示している。食堂が開くまでもう少しかかる時間だ。

 

「ふーん、なら俺も一緒にここで待たせて貰おうかな」

 

 そう言って俺はヴィヴィオを抱えたまま空いてる椅子に座り、ヴィヴィオは俺の膝の上に腰を下ろす。

 

「ねえ賢伍パパ!今日ヴィヴィオちゃんと良い子にして待ってたよ!偉い?偉い?」

 

 

「おおそっかそっか~、偉いなヴィヴィオは~」

 

 上目遣いでそう言ってくる娘に愛らしさを感じながらも頭を撫でてそう誉める。あんめり変ににやにやしないように意識するが多分表情はだいぶふやけてるだろう。

 

「ははは、可愛いなぁヴィヴィオは~、どうしてそんなに可愛いいんだぁ~」

 

 

「えへへ~」

 

 これはもうあれだね。将来絶対にヴィヴィオに変な男は寄り付かないようにしないとね。いや、これから先ヴィヴィオとずっと一緒にいられるかは分からないけども、俺が本当の意味で父親になったなら絶対にヴィヴィオを悲しませないようにしないとだ。ていうか男と交際するなんてパパは認めません。

 

「ねぇフェイトちゃん、私最近賢伍君にヴィヴィオを任せていいかすっごく不安になるんだけど」

 

 

「奇遇だねなのは、私もちょうどそう思ってた所だよ」

 

 俺の心境を知ってか二人がそんなことを言い出す。しかしそんなことは関係ない。何を言われても俺のヴィヴィオへの愛は止まらないのだ。止まらないったら止まらないのだ。

 

「にしても今回は参ったぜ…………」

 

 落ち着いて腰を下ろしたところでどっと思い出したかのように疲れを感じる。ついついそんな言葉が漏れる。

 

「大変だったみたいだね、体の方は平気なの?」

 

 

「ああへーきへーき、まだフェイトの胸をもみもみ出来るくらいは元気だ」

 

 

 

 ゴキッ

 

 

 

「ちょっと冗談で手をわきわきしたくらいで指を折るのはどうかと思う……………」

 

 

「あんまり痛そうにしてなさそうだからいいじゃない?」

 

 疲れてるからリアクションがとれないだけだよ。スゲーいてぇよ、どうすんだよ人差し指だけ曲がっちゃいけない方向に曲がってるよ。

 

「もみもみー!もみもみー!」

 

 ヴィヴィオ、俺のおっぱいもとい胸触ってもおっぱいの感触は楽しめないぞ。というかすぐ俺の真似をするのはやめなさい、お父さんはこれからのヴィヴィオの成長が心配になるよ。まぁかわいいからなにも言わずに俺はほのぼのしてるけどさ。

 

「結局賢伍君の目論見通りどれだけ相手が賢伍君の対策を取っているか知ることが出来たけど、どうするの賢伍君?なんとか出来そうなの?」

 

 心配しつつも少し変に笑いながらなのはがそう聞いてくる。既に俺が今回ひどい目にあったのは周知の事実。もし一人だったらリミッター解除をしていただろう、そうなってたと思うとゾッとする。機動六課は常に自由に動けるようにしなくちゃいけない。変に問題を起こして自分の首を絞めるようなことにしてはならない。

 

「さぁな、なんも思い付かねぇや…………」

 

 正直にそう答える。リミッター解除せずして俺ではあの特化型ガジェットを突破するのはほぼ不可能だ。だけど、

 

「だけど、何とかして見せるさ。次はそう簡単に俺を封じ込められないってことを見せ付けてやる。それにさ…………」

 

 皆を見渡してから再び口を開く。

 

「俺は一人じゃねぇから。ピンチになったら皆に助けてもらうよ」

 

 素直にそう言えた。なのははその言葉が聞きたかったと言わんばかりに頷いて笑みを浮かべる。その表情に吸い込まれそうになにりながらも、俺も笑顔で頷き返す。仲間を頼りにすることは弱さじゃない。今までどこかでそれを理解してなかった。だけど今日知った、皆の成長を見て、ずっと守り続けてやらなきゃと思ってたエリオたちに助けられて。だからこそ、俺は素直にそんな言葉を自然に発していたのかもしれない。

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

「いやはや、やはり良い観察対象だ。光の英雄…………」

 

 

「にやにやしてんじゃねぇよ気持ち悪りぃ」

 

 一人笑うジェイルをみて闇の賢伍はそう言葉を発する。海で漂流してたチンクとディードを抱えてアジトに戻ってから少したった頃だ。特に目立った傷はないチンクは今ごろ休んでいるだろうが腹に一発貰ったディードは先ほどジェイルにメディカルチェックを受けていたところだ。特に問題はなかったようだが。

 

 

「おやおや言葉が悪いな闇の賢伍、君の手を煩わせてたのは悪かったがそこまで不機嫌にならなくてもいいじゃないか」

 

 

「うるせぇ、別に不機嫌でもなんでもねぇよ」

 

 闇の言葉にジェイルは反応を示さず、すぐにモニターのキーボードを操作し始める。最後にエンターキーを押したところでとある映像が写し出された。

 

「シンクロ…………か、中々に興味深い」

 

 その映像を見てジェイルはそう呟く。映像には今日賢伍が突如力を爆発させたときの映像だった。

 

「それにしても、君も知らない力とは聞いて驚いたよ。光の英雄の片割れの君も知らない力とは」

 

 

「あぁ、しかしあの力、どうやら本人も何が何だかわかってない様子だったぜ。おそらく今後自由に扱える訳ではなさそうだ」

 

 

「それにしては、何だか残念そうな顔をしているよ。闇の賢伍」

 

 敵の力はなるべく脅威にならない方がジェイルにとっては都合がいい。それは当たり前なことだ。しかし、闇の賢伍に関してはそれは違った。

 

「ふん、奴がどうあがこうが最後に勝つのは俺だ。奴を殺し、俺は俺の目的を達成させる」

 

 漆黒の日本刀を取り出す。それを払いながら闇の賢伍はそう語る。

 

「だが簡単に終わらせるのはつまらない。それにそれだと意味がない、奴がさらに強くなった姿と闘わないと意味がないからな。だからどんどん力をつけてほしかったんだがな…………」

 

 光の英雄がシンクロとやらの力を自由に扱えれば闘いはもっと面白くなる。闇はそう考えていたのだ。

 

「まぁいい…………どうせ結果は変わらない。光は闇に喰われる運命だからな………ククク」

 

 闇の不気味な笑みを最後にその口は止まった。そして今度はジェイルが映像を切り替えて見比べながら口を開きはじめる。

 

「だが、本来の目的だったリミッター解除レベル2を見れなかったのは残念だ、陳述会の前にガジェットにデータをインプットさせたかったのだが………」

 

 

「そんなことするつもりだったのか。止めておけ、何をしたってガジェットじゃレベル2は止められないだろうな」

 

 

「ほう……そこまで……」

 

 なおさら見たかったとジェイルは感嘆げに呟く。そんなジェイルを見て闇は言葉を付け足した。

 

「なに、どうせ近いうちに見れるだろうさ。レベル2はな………………」

 

 

「ふふふ、それは…………楽しみだ」

 

 

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

 

 

「パパー、ヴィヴィオお腹すいたー」

 

 

「ん?そろそろいい時間かな」

 

 しばらく談笑してるとヴィヴィオがお腹を鳴らしながらそんなことを言い出す。食堂ももうすぐに開く頃の時間だ。

 

「ちょうどお腹も空いてきたし、皆でいこうか」

 

 なのはのその一言で全員腰を持ち上げてぞろぞろと歩き出す。ヴィヴィオも俺の膝の上から飛び降りて真っ先に食堂に向かっていく。それが少し寂しくて涙を流しつつも、俺も立ち上がって歩き出す。

 

「ほら、何ボーッとしてんだエリオ。行くぞ」

 

 

「あ、は、はい!」

 

 慌ててエリオが俺の隣に立って並ぶ形になる。

 

「なんだ?まだ眠たいのか?」

 

 

「い、いえ、大丈夫です………」

 

 そう言って下を向くエリオ。別に深刻なことを考えている訳じゃないだろうけど俺と顔を合わせるのが照れくさいのだろうか。今日は色々あったしな。

 

「ま、エリオも皆もどんどん成長してて俺はこれからが楽しみだよ」

 

 唐突にそんなことを言ってみる。もちろん本心だ。

 

「いえ、僕なんか賢伍さんに比べたらまだまだですよ…………」

 

 そう言って苦笑するエリオ。なるほど、何を考えてるか大体だがわかった気がする。だったら、俺は言いたいことを言ってやるだけだ。

 

「そうだな、俺に比べちゃまだまだへっぽこだよ」

 

 あえてそう言う。少し驚いたような顔をしたエリオだが、その言葉を肯定として頷いている。

 

「けど、今日俺はお前に助けられた………その事実は変わらない」

 

 

「そんな!僕は結局………賢伍さんの助けには…………」

 

 

「なったよ」

 

 エリオはきっとこう思ってる。今日俺の役にたてなかったと。シンクロがなかったらエリオも俺もただじゃ済んでなかったと。歯痒い思いをしていたのは、俺だけじゃなかったのだ。エリオは真面目だ、だから余計にそう思っているんだろう。お前のお陰で俺は今こうして無事ですんでるのに。だから、その事を伝えないといけない。

 

「俺のことを助けてくれたじゃないか」

 

 

「あれは………あの不思議な力のお陰で……」

 

 

「その不思議な力のトリガーになったのはお前なんだよエリオ」

 

 

「えっ?」

 

 エリオが俺に対して思ってくれた助けたいという意志。それが今回のシンクロ発現理由だ、謎が多い力だがそれは間違いない。

 

「たしかにシンクロが発動してなかったら、二人とも無事じゃ済まなかったかもな。けど、お前が俺を助けようとしてくれてなかったら、駆けつけてくれなかったら………シンクロそのものが発動しなかった。お前が欠けてたら今ごろ俺は病院のベットか下手したら死んでたかもしれない」

 

 だからこそ、それが事実だからこそ俺は伝えるのだ。

 

「だから、駆けつけてくれて……………俺を助けてくれて…………ありがとう」

 

 そう言って右手を差し出す。エリオそれを不思議そうに見つめるだけだった。

 

「いっとくが今の礼はエリオの上司としての言葉じゃねぇ。今日一緒に闘った戦友として俺の感謝の気持ちだ」

 

 そう言ったところでエリオはようやく意図に気づいたのか自身の右手を俺の右手に重ね合わせる。握手、信頼の証と感謝の念を詰めた。

 

「それにお前にはいつか魔導師として俺を越えてもらわなきゃな」

 

 

「え!?そんな、無理ですよ!」

 

 

「無理じゃねぇよ、お前は俺を越えるさ。ま、そう簡単には越えさせねぇけどな」

 

 頭をポンポンと優しく叩いて俺はボーッと立ち止まるエリオより先に歩く。

 

「ほら、ボーッとしてないで行くぞ」

 

 一度だけ振り向いてそう言い歩を進める。

 

「…………………あ」

 

 エリオはその背中を見つめる。とても大きくて安心して力強く感じる背中を。自分の憧れの人のその背中を。

 

「はい!」

 

 そう返事を返しエリオはその背中に向かって走り出す。いつかは追い付きそして追い越すことが目標のその背中を。そしてエリオは、まだその背中を追いかけている最中だ。

 

 

 

 

 

 

 

 





本当に遅くなってしまいました。でもですよ!言い訳ですがあまりにも忙しいのです!リアルを持ち込んでの言い訳はみっともないですが!本当に書きたくても時間がなかったり疲れてやる気が起きなかったりなど。
 まあペースが遅くなっても頑張って書くのでこれからもよろしくお願いいたしますm(__)m

それと、コンカイハ説明が少し多めですが日本人なのに日本語が下手の作者の説明ですからワケわからんと感じたかたは質問してください。答えられるものは全てお答えします!



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その日、起動六課 ~前哨~


 お久し振りです。夏もあけて次第に暑さも和らいできましたね。台風などで色々と大変ですが、読者の皆さま方も対策を怠らないようお気をつけください。

 それでは本編です。


 

 

 

 

 

 

 

 公開意見陳述会、その名の通り様々な世界のお偉いさんが集まり意見を述べぶつけあい、討論するもの。そしてその様を大衆に向けて公開するものだ。多くの人がその陳述会に目を向け注目している。そして、その日は刻々と近付きついに明日へと控えている。

 

「ふぅー、少し冷えるな…………」

 

 もう夜の10時頃だろうか、辺りは真っ暗になるはずの時間帯だが警備のためあちこちに照明が設置されていて場は明るく照らされている。

 

「神崎一佐、人員の配置と交代作業が完了しました!」

 

 少し肌寒さを感じていると本局から派遣されている俺よりも年季を感じさせる魔導師警備員が敬礼しながらそう俺に伝えてくる。ちなみに一佐とは一等空佐の略称だが、言われ慣れしてなくて最初は誰の事を言ってるのか分からなかったのは秘密だ。

 

「ご苦労様です。引き続き油断せず警備に当たってください。それから定期的に皆にお茶でも渡してあげてください、貴方も含めてそろそろ疲れが見えてくるでしょうから」

 

 そう言ってお盆に用意しておいた複数のお茶が入ったコップをお盆ごと渡す。

 

「お気遣い感謝します」

 

 警備員は一礼してそれを受けとるとそれを配るためまた建物のなか戻っていく。やれやれ、本局から派遣された局員は良くも悪くも態度が堅いな。これじゃあ柄じゃないのに俺の態度も自然とそれ相応になってしまう。

 

「はぁ、なのは達はまだ六課かなぁ。俺だけ先行して参加するのは寂しい話だなぁ…………」

 

 そう、今のこの会場の警備で起動六課として参加しているのは俺だけだ。なのは達もその内には合流する予定なのだが生憎俺は早々に顔を出さねばならなかった。起動六課も警備の参加をする以上陳述会を統括する本局と地上本部に従わなければならない。

 その連中からの指示なのだ。時間が立てば立つほど気の緩みが生じやすくなる警備という任務のなかで俺を常に現場に常駐させることで場に緊張感を持たせたいとの仰せだった。大方、俺の肩書きの光の英雄を利用したところだろう。後は六課をよく思っていない連中の軽い嫌がらせか。正直勘弁願いたい。もう眠くてしょうがなった。

 

「ふぁ~、コーヒーでも飲んで眠気冷まさないと」

 

 近くに自動販売機あったかなぁ。弱ったなぁ、ここの会場には始めてくるからどこに何があるのか全く分からない。

 

「お疲れのようだな」

 

 そんなことを思っていると突然背後から声をかけられる。振り返ると急に何かが俺に向かって飛んできた。

 

「とっ!」

 

 反射的にそれをキャッチすると手が少し熱く感じた。投げ渡されたのは温かい微糖の缶コーヒー。ちょうど欲しいと思っていたものだ。

 

「やぁ、元気だったかい神崎くん?」

 

 投げ渡してきた人物がそう言葉を発する。照明の明かりですぐに誰かは判別でにた。

 

「あ!ショウさん!?」

 

 そう、ショウ副隊長。俺と共にティーダの名誉の回復のために尽力と協力をしてくれた恩人その人だった。直接会うのはあの会見以来だった。

 

「どうしてここに?」

 

 

「何、私達の部隊もここに派遣されてるのさ」

 

 俺の隣に立ってショウさんは俺に投げ渡した缶コーヒーをプシュっと開けながらそう言う。確かに冷静に考えたらそれが理由だとすぐに分かることだった。

 

「私の奢りだ、遠慮しないで飲んでいいんだぞ?」

 

 

「それなら遠慮なく………」

 

 一言礼を言って同じように缶コーヒーを開ける。互いにほぼ同時にコーヒーに口をつけその味を楽しむ。冷えた体に暖かさを感じ、眠気を感じてしょぼしょぼした目は心なしかマシになった気がした。

 

「…………どうだい?あれから色々変化はあったかい?」

 

 あれから………というのはきっとティーダの会見の後の事を言っているのだろう。

 

「えぇ、色々上手く行きました。山積みだった問題も解決しましたし、ティアナ…………ティーダの妹とも真に分かり会えたと思います」

 

 あの時ティーダの事を調べる上でショウさんにはそのときのティアナとのいざこざや問題を話していたっけ。だからずっと気にしてくれていたのだろう。

 

「そうか、それはよかった……………」

 

 

「ショウさんもいい機会ですしティアナに会ってみたらどうですか?」

 

 安心したかのようにそう言葉をこぼすショウさんに俺はそんなことを提案してみる。話を聞いた感じだとティアナと面識はないみたいだった、それにティアナに紹介したい。6年間ずっとティーダの汚名を晴らそうとしてくれた一番の功労者として。

 

「いや、気を使わなくていい。私はあくまでティーダの親友だ、妹さんに会って困らせるような事はしたくない」

 

 

「困ることはないと思いますよ。きっと色々とティーダについて話を聞きたがるんじゃないかって思います」

 

 ティアナも隠しているがお兄ちゃん子だしな。兄妹そろってシスコンと分かればショウさんの反応も面白そうだった。

 

「ははは、まぁ…………機会があればな………」

 

 ショウさんは曖昧にそう答えて後は何も言わなかった。そこでしばし静寂が訪れる。少し風に体が揺れながら遠くを見つめる俺とショウさん。その先に親友の姿を思い浮かべていたのは俺だけじゃないと思った。

 

「それにしても君も大変だな」

 

 

「え?何がですか?」

 

 静寂を破ったのはショウさんだった。突然のその問いに俺はつい首をかしげる。

 

「君の階級は一等空佐だろう?本来なら暖かい部屋で椅子に座って航空部隊の重要会議や指揮だなんだと上から指示を出す側の筈だ。なのにこんな所に駆り出されて現場で警備なんて階級と釣り合ってないと思ってな」

 

 それは確かに誰もが思う疑問だろう。一等空佐なんて本来なら歴戦の猛者、現場から退いた上階級の局員が座る椅子だ。ほんな椅子に座らされているだけなのだ俺は。

 

「何も不思議なことはないですよ。一等空佐の階級なんてただの飾りです」

 

 そもそも俺の年で一等空佐なんて土台無理な話だ。だが問題は俺の肩書きにある。光の英雄という2つ名を管理局は俺が思っているよりも重く重要視していた。なんの議論をしたか知らないが光の英雄と呼ばれる局員が一般局員と同列の階級など見映えが悪いとのこと。

 そんなバカな理由で階級を底上げされたなんて誰が信じるだろうか、しかしそれが事実だ。管理局の重役達は象徴が欲しかったのだろう、管理局に光の英雄ありと。それを目立たせるための異例の出世だ。かの三提督も許可をしているあたりそれほど必要だったらしい。象徴となる英雄は実在すると思わせて犯罪発生率を下げるも目的もあったとか。実際に効果があったのかは知らないが、ありがた迷惑な話である。

 

「てなわけで形だけの階級なんですよ、それに俺は離れたところから指示を出すより現場で共に体を動かしてる方が向いてますしね」

 

 

「ふむ、そうか。私は君はどちらかというと指揮官に向いてると思ってたんだがな……」

 

 ショウさんはそうぼそぼそと口にする。指揮官に向いてるかどうかは正直どうでもいい話だ。どちらにしろ、俺は現場に出て体を動かすことを望むだろうから。たとえ指揮官に向いてたとしてもだ。

 

「さて、そろそろ持ち場に戻らないといけないから私は失礼するよ」

 

 ちらっと腕時計を見てそうこぼし、ショウさんは会場の中へ戻っていく。

 

「ショウさん!今度はゆっくり食事でもしましょうよ」

 

 

「あぁ」

 

 俺の言葉に笑みを浮かべてそのまま会場の中へ消えていった。さて、俺も頑張るか。そう気合いを入れ直して眠気を払うように両手でパンと自分の頬を叩く。ショウさんからもらったコーヒーを飲み干して、俺は再び見回りをするのだった。

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

「眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い」

 

 

SH『マスター、うるさいです』

 

 相棒に注意されてピタッと言葉を止める。しかし眠気は治まらない。わがままと言わないで欲しい。流石に丸1日寝てないのは辛いのだ。現場に入ったのがちょうど1日前でショウさんと別れたのが数時間前、ずっと立ってるのは辛い。

 

SH『管理局に入隊する時にそれくらいは覚悟してたでしょうに。もう少ししゃんとしてくださらないと…………』

 

 

「そうは言ってもよシャイニングハート、俺学生時代は基本的に授業中は眠気に負けてた男だぜ?眠気の耐性はないんだよ」

 

 

SH『そんなもの気合いと根性でどうにかしてください』

 

 

「気合いじゃどうにもできねぇよ………しかも今日ほとんど一人だしよー。寂しいよー、悲しいよー、ヴィヴィオに会いてぇよー」

 

 

SH『ここ数日でまた親バカに磨きがかかりしたね』

 

 いつもだったら今ごろヴィヴィオとおねんねしてる頃だろう。最近たまになのはとフェイトではなく『今日はパパと寝るー!』と言い出す時があってそのときは一緒のベッドで寝るのだ。最初はなのはとフェイトと俺とヴィヴィオで4人で寝たいと言い出していたがベッドのサイズ的にも男としての尊厳的にも無理なので我慢してもらった。

 

「だってよー、うちの娘は天使なんだぞ?可愛がりたくなるなじゃないか………」

 

 

SH『甘やかしてばかりなのは将来のためになりませんよ』

 

 

「勘弁してくれ、なのはに耳にタコが出来るくらい言われてる言葉だよ」

 

 けど可愛くて可愛くて仕方がない。昨日だって警備で数日間会えないってヴィヴィオに伝えたら……………。

 

『え?パパ今日はもう会えないの?明日も?………いやー!いっちゃやー!』

 

 じわぁと少し瞳に涙をためながらじたばたするヴィヴィオ。

 

『ほらヴィヴィオ、賢伍パパお仕事なんだからわがまま言わないの』

 

 

『数日なんてあっという間だから、ね?』

 

 なのはとフェイトがそう言ってもヴィヴィオはじたばたをやめない。そうか、そんなに俺のこと…………。

 

『そうだなヴィヴィオぉ!寂しいよなぁ、ようし分かった!パパもう仕事いかない、管理局やめる、ヴィヴィオとずっといてやるからなぁー!』

 

 このあと全員から鉄拳を喰らってヴィヴィオ共々説教されたのはまた別の話。結局ヴィヴィオとなるべくすぐ帰ってくると約束をしてからしくしくと警備に向かったのだ。

 

 

「はぁー、いつの間にか寂しがりやになっちゃったなー。前はそんなんじゃなかったのに………」

 

 六課に入ってから一人の時間はどんどん少なくなってきた。最近じゃ寧ろ絶対誰かと一緒に過ごしている気がする。失踪してるときとは正反対の生活だ。それの影響だろうか、1日一人でいただけでこんなに寂しく感じるのは。

 

「寂しいのう、寂しいなぁ…………」

 

 

「そんな寂しさを癒しにきてあげたよ」

 

 

「へ?」

 

 後ろからの声に振り返る。とうに聞きなれた声なので振り向かずともすぐに誰かは分かったが。

 

「な、なのはぁ………」

 

 

「うん、お疲れ様。そんなに寂しかったの?」

 

 軽く手をあげていたずらっぽく笑うなのは。それに少しドキッとしながらも少し俺は恥ずかしそうにすぐに顔を前に戻す。

 

「うるへー、こう見えて色々と情けないんだよ俺は」

 

 

「まぁ、否定はしないけどね」

 

 

「否定しろよ………」

 

 ふいに隣に立ってくるなのはを尻目に俺はわざとらしくむすっとした顔をする。風になびく髪を抑えながら遠くを見つめているなのはをみて今日も綺麗だと内心思いつつ少し高鳴る鼓動を気づかれないように口を開く。

 

「皆は?」

 

 

「半分はもうこっちに来てるよ。もう半分は朝方に合流の予定かな」

 

 警備だからローテーション組んで回すのだろうから2グループに分けたのだろう。

 

「すごい寂しい寂しいって聞こえてたんだけどそんなに寂しかったんだ?」

 

 再びいたずらっぽい表情を浮かべ掘り返してくるなのは。

 

「あぁ、やっぱり皆といるのが一番だよ。特に…………」

 

 

「特に…………?」

 

 何か期待を込められてるような目をするなのは。それの意図には全く気付かず俺は言葉を続ける。

 

「ヴィヴィオだよー!ヴィヴィオに会いてぇよおおおおお!!」

 

 娘成分をおおお!!パパに娘成分をおおおおおおおおお!!

 

「え?あ、ヴィ、ヴィヴィオね!うん………だよね」

 

 

「んえ?」

 

 俺の魂の叫びを聞いて何だかあたふたとするなのは。まるで残念がってるようなそんな感じだ。いや、多分だけど…………俺の驕りでなければきっと………。なのははきっと、特になのはと一緒がいいって言ってほしかったのか?だとしたら思いっきりやらかしたぞ俺。いや待て俺、それはちょっと都合よく捉えすぎなのかもしれない。

 

「まぁそのなんだ…………」

 

 恋は盲目とよく言ったものだがやっぱり期待したくなってしまうもだ。それに嘘を伝える訳じゃない。だから、自然と言葉が出てしまっていた。

 

「勿論なのはも一緒にいてくれた方が嬉しいし楽しいよ」

 

 少し照れて顔が赤くなっているのが分かる。悟られぬよう表情は無表情のままになるよう意識する。

 

「………………ふふっ、なにそのついでみたいな言い方」

 

 

「つ、ついでじゃねぇよ!その…………これも本心だってことだよ」

 

 もう限界。何を言い出してるんだ俺は。全部終わったら告白するって誓った時から何だか冷静でいられたのに今日は変だ。胸が高鳴ってる。久し振りに二人きりになったからだろうか。

 

「うん………ありがとう!私も賢伍君と一緒の方が楽しいし嬉しいよ」

 

 

「っ!」

 

 少し頬を朱に染めて恥ずかしそうにそんなことを言うなのはについつい視線をずらす。今のは反則だろ。可愛すぎかよ!ていうか何なんだよ、警備頑張った俺へのご褒美なの神様!?そんなこと言われたら今すぐにでも告白しそうになっちゃうよ! 

 

「そ、そっか…………はは……ははは」

 

 

「う、うん……そう………ははは………」

 

 心なしかお互い乾いた笑いを浮かべているような気がした。

 

「………………………」

 

 

「………………………」

 

 沈黙。いや本当に何なの?なのはもなのはでわざわざ一人で俺のところに来たってことは期待していいの?両思い?夢の両思いですか!?

 

「(いや落ち着け俺、さっきも言い聞かしたろ。都合よく捉えちゃだめだ、足元すくわれるぞ)」

 

 と、思いつつもチラッと隣のなのはを盗み見る。

 

「っ!」

 

 するとなのはもこっちを見ていたようで、その視線が重なりあう形になる。お互い恥ずかしくてすぐ視線をそらして顔を赤くする。しばらくまた沈黙が続くがそれを破るにはそう時間がかからなかった。

 

「あ、賢伍さん!お疲れ様です」

 

 またも背後から聞きなれた声がする。振り向くとスバルとティアナ、ギンガの姿がある。声をかけてきたのはスバルで3人揃って小走りで向かってくる。

 

「よう、お前たちがいるってことは…………先に来たグループはスターズとギンガちゃんってわけか」

 

 となると副隊長のヴィータも今ごろどこかでほっつき歩いてるのだろう。

 

「賢伍さん大丈夫ですか?もう疲れてる見たいですけど……………」

 

 そうティアナが言葉を投げ掛けてくれる。確かにもう眠い。なのはとの掛け合いでドキドキしてて気にならなかったけど思い出したらどっと疲労を感じてきた。

 

「ああ、ごめんね賢伍君。私達と交代って形で賢伍君はもう休んでて?」

 

 しまったと顔をしてそう言うなのは。多分俺と少し話して俺を休ませようとするのを忘れてたんだろう。まぁ、なのはなら絶対にそう考えていたんだろうし。俺的にはなのはと話せて万々歳と言ったところだから寧ろありがとうって感じだ。

 

「あぁ、お言葉に甘えて休もうかな。仮眠とらんとやってけねぇや………なのは、もし起きなかったらたたき起こしてくれ。んでお前ら、警備テントに配置が書いてあるからそれ確認しておけよー」

 

 あくびをしながらそう口を開き俺は局員用に用意されている仮眠室に向かう。スバル達の返事にはてをヒラヒラして返すだけにしてまたもあくびがでる。少し寝れば少しはましになるだろ。

 

「け、賢伍君!」

 

 

「ん?」

 

 またも背後からなのはに呼び止められる。先程のなんとも言えないむず痒い空気が漂う。

 

「ご、ごめんね、疲れてるのに……。でも、その…………えっと……………」

 

 顔を赤らめて少しもじもじしながら言葉を探すなのは。

 

「あの、今のゴタゴタが終わって…………六課が落ち着いてきたら………その……わ、私と……………っ!」

 

 

「二人で出掛けるか」

 

 

「ふぇ?」

 

 意をけして言おうとした言葉を俺に先に言われてなのはは変な声を出す。

 

「落ち着いたらさ、たまには二人で出掛けようぜ。詳しいことは何も考えてないけどさ、とりあえず約束しないか?」

 

 俺は気づかなかったがなのははもうさっきのむず痒い雰囲気に耐えれず積極的になろうとしていたらしい。かくゆう俺も、その雰囲気に感化されてそんなことを口走ってる。

 お互い自分の気持ちが通じ会えるか分からない。そして初めての恋というと甘酸っぱい心に戸惑うばかり。しかし、今日想いは止まらなくなり始めてる。件予言での世界が左右されるかもしれない陳述会の前だからとか勢いとかではない。

 ただ告白という1つの誓いを立てた俺となのはの心情の変化、止まらなくなる想いが今の状況を作っている。それにお互い気づかないままで。

 

「それに、お前に伝えたいことがあるんだ。色々終わったあとにさ………」

 

 

「うん、いいよ。二人でお出掛けしよう、私も落ち着いたら賢伍君に伝えたいことがあるから…………」

 

 

「そっか…………なら約束だな」

 

 そう言ってなのはに小指を差し出す。それを見たなのはも小指を差し出して互いのそれを絡める。

 

「約束…………また増えたね」

 

 

「あぁ…………」

 

 1つはなのはを守り続けると約束したこと。1つは強くなって闇に打ち勝つこと。どれも果たさなくてはならない約束。それがまた1つ増えたのだ。成すべきことら変わらない、ただ増えただけ。守るべき誓いが増えただけのことなのだ。

 

 

 

 

 

 

………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

「……………………ん」

 

 深い眠りから覚めて体を起こす。回りを見渡たせば俺が仮眠をとった仮眠室であり、そこの簡易ベッドから降りて体を伸ばす。ふと壁に掛けてある時計に目をやれば……………。

 

「げっ」

 

 俺が寝たと思われる時間から8時間ほど経過していた。いやもう仮眠ってレベルじゃなかった。熟睡だ。深い眠りから覚めて体が軽く調子がいいのが証拠だ。慌てて六課の制服に上着を着て駆け出す。ほんの小一時間仮眠のつもりが熟睡なんてアホな話だ。なのはが起こしに来なかったのも多分気を使って休ませようとしてくれたのだろう。とにかく慌てて持ち場に戻った。

 

「ご、ごめん!寝坊しちまった!」

 

 慌てて駆け出して持ち場に行けばそこには既に合流をしていたのであろうか、フェイトとなのはが軽く話ながら警備をしていた。

 

「あ、賢伍君…………ゆっくり休めた?」

 

 なんてことない顔でなのはがそんな風に口を開く。

 

「あぁ、体調はすこぶるいいんだが…………悪いな気を使わせて………わざと起こさなかったんだろ?」

 

 

「ううん、元々賢伍君のスケジュールだとまだ休んでても大丈夫なはずだよ」

 

 

「え?」

 

 疑問の顔を浮かべる。そんな俺にフェイトがはいっと言ってスケジュール表を渡してくる。そこには俺が見たときとは違うローテーションが組まれていて疑問の種が増える。ちょうど俺が休まず警備していた分の休憩が連続して与えられていた。

 

「これ…………誰が組んだんだ?このローテーション」

 

 

「えっとね………名前は分からなかったんだけど………」

 

 フェイトが事細かにこのスケジュールを渡してきた人物の特徴を言葉で並べ始める。すぐに誰かは分かった。なのは達と合流する前に俺に気遣って声を掛けてくれた人物だ。あの人も副隊長という立場だし少しのローテーションの変更くらいは出来たのだろう。しかも、なのはやフェイトの負担も軽減されていて小まめに休憩を取らせて貰っているようだ。スケジュールを見れば明らかだった。

 

「それでその人から伝言。『口を酸っぱくして何度も言うが無理はするなよ』だってさ」

 

 ニコッとしながら言うなのはにその伝言をした人物に頭があがらぬ思いだ。そしてなのはも自分が言いたいことも同じことだ言わんばかりの笑顔である。心のなかで素直に感謝の念を抱いて休んだ分また頑張ろうと気合いを入れ直す。今はまだ午前で午後から始まる陳述会には時間がある。

 

「まぁ、休憩は十分すぎるほど取らして貰ったし俺も今から警備に合流するよ。これから会場のなかの警備だろ?」

 

 目を通したスケジュールにそう書いてあったのだ。

 

「うん、丁度賢伍も合流するならもう会場の中に入っちゃおうか」

 

 そう提案するフェイトに俺もなのはも頷いて歩みを進める。会場にゆっくり歩いている最中に大体の状況は二人から聞かせてもらった。すでに副隊長を含めたライトニングも合流して警備に当たっておりはやても陳述会に出席するから既に会場の中に。留守番はオペレータの皆とスターズでもライトニングでもないシャマルとザフィーラ。そして送り迎えのヴァイスももう六課に戻ったところだろう。

 まぁ、手薄になってしまっている状況だがまさか六課本部を襲撃しにくる連中もいないだろうし。

 

「何て事考えてたら六課で待ってるヴィヴィオのこと思い出した。パパ寂しいよ………1日も娘の笑顔を見れないと孤独死するよ…………」

 

 ほろりと涙する俺を見てフェイトとなのはが苦笑いしてることも気付かずに悲しみに暮れる。やっぱりヴィヴィオに会えないのは辛かった、ああ、将来子離れ出来るかなぁ俺……………。

 

「なら丁度いいね、会場の中の警備だとデバイスを預けないといけないから手元にあるうちに…………」

 

 そう言ってフェイトがバルディッシュを操作してどこかに通信をつなげはじめた。

 

『はーい!ヴィヴィオだよー!』

 

 

「ヴィヴィオぉぉぉおおおおおおおお!!」

 

 なんとモニターに映ったのはヴィヴィオだった。その後ろでお世話を頼んでいるアイナさんがてきぱきと家事をしているのも見てとれる。言うまでもなく六課のヴィヴィオの部屋につなげられたようだ。

 

「なんだヴィヴィオー、まるで通信が来るのを待ってたみたいに」

 

 

『うん!フェイトママにね!今日の朝お仕事行く前にお願いしたの!』

 

 

「ヴィヴィオも賢伍パパとなのはママと会えなくて寂しかったんだもんねー?」

 

 おお、天使かうちの娘は。わざわざ通信で顔を見せてくれるなんて…………。

 

『えへへ………嬉しいパパ?』

 

 

「うん嬉しい。嬉し過ぎて今ならパパ何でも出来る気がする」

 

 今なら世界征服も数秒で出来る気がする。よしやろう世界征服、そうすれば仕事なんかなくずっとヴィヴィオと過ごせるし。やろう世界征服。

 

「えいっ!」

 

 

「いたっ!?」

 

 唐突になのはに頭をチョップされる。

 

「何すんだよなのは…………」

 

 

「うんごめんね、なんかこうして置かないと世界の危機が訪れそうな気がして………」

 

 何を言ってるんだまったく、さっきまでなに考えてたかすっぽり頭から抜けてしまった。

 

『あはは!パパカッコ悪い―!』

 

 お構いなしにそう言ってくるヴィヴィオに少し泣きそうになる。

 

『ほらヴィヴィオちゃん………パパ達はあんまり時間ないんだから言おうと思ったこと早く伝えてあげて?』

 

 そうヴィヴィオをたしなめるのはアイナさん、確かにあんまりぐずぐずしてるわけにもいかない。悲しいことだが。まことに悲しいことだが。

 

『うん!………………あのね………フェイトママにね、なのはママに賢伍パパ!』

 

 

「「「はぁーい」」」

 

 見事にシンクロして返事をする俺たち。ヴィヴィオは少し恥ずかしそうにもじもじとしながら言葉を続けた。

 

『ヴィヴィオ!いい子にして待ってるからねあのね!だから、パパとママとママお仕事頑張ってね!』

 

 満面の笑顔でそう言う。しかし、少し瞳を潤んでいるのもすぐに気づいた。寂しくて少し心細かったのか、それともまだ朝だから少し眠かったのかはしらない。けど、俺となのはとフェイトは…………。

 

「あぁ、今日の夜までには帰れるから後で一杯遊ぼうな」

 

 

「ちゃんとアイナさんの言うことを聞いていい子で待ってるんだよ?」

 

 

「私達もお仕事頑張るからね」

 

 俺もなのはもフェイトも、その笑顔に負けないくらいの笑顔でそう返す。

 

『うん!頑張ってね!バイバーイ!』

 

 その言葉を最後に通信は切られる。全く、元気を与えなきゃいけない俺が娘から元気を貰うなんて情けない話だ。いや、それでもいいか……………後でそれ以上にヴィヴィオに元気を分け与えれるに頑張ればいい。俺達3人は目が合うとただ娘の存在の大きさに笑い会うだけだった。

 

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

 会場の中に入ったらいかにも偉そうだな―と思わせる雰囲気の面々とすれ違うのが多くなる。確かにこの中の警備となるとデバイスを持ち込めないのは頷ける。こんなお偉いさんの集まりじゃ管理局員でも警戒しなければいけないんだろう。シャイニングハートはなのたちの相棒と一緒に前線警備のスバル達に預けてある。今の俺は無防備な状態だ。

 いつも共にある相棒がいないことに少し落ち着かない気分になりながらも警備と称して適当に内部をぶらつく。一通り回って道を覚えておけば何かあったときに生かせるしな。ちなみに、既にフェイトとなのはとは別れて行動している。

 

「うわ、テレビ局までいるな…………」

 

 アナウンサーらしき人がカメラの前でマイクをもって何かしら喋っている。確かに一般公開される陳述会でテレビ局が来ないのはおかしな話なのだが。

 

「今回の陳述会の議題はレジアス中将の提唱するアインへリアルについてと思われ………」

 

 ふと、アナウンサーの声が俺の耳に入る。アインへリアルか……………。レジアス中将が中心に開発を進めてる超大型魔導兵器という情報しか分からない俺にとって興味のない事だった。それに今日俺達機動六課が警戒しているのは陳述会事態ではなく今日の日に記された予言の事だ。

 

「(それにしても分からねぇよな………)」

 

 突然ヴィータの声が頭に響いてくる。念話だ。あいつは今頃FW陣と前線の警備をしてるんだっけか。つまりは会場の外だ。

 

「(何が?)」

 

 とりあえずそのヴィータの問いに率直に答える。

 

「(予言通り事が起こるとして内部のクーデターってのは薄いんだろう?)」

 

 

「(アコース捜査官が捜査してくれた範囲ではね…………)」

 

 ヴィータに続いて一緒に念話を聞いていたなのはがその疑問に答える。

 

「(そうすっと外部からのテロだ………。だとしたら目的はなんだ?)」

 

 

 ヴィータの疑問に押し黙る俺となのは。そう、これは今日この日までいくら考えても分からなかった。予言通りの事が起こるなら管理局を破滅させるなにかをしようとするということ、なぜ?なんの得があって?リスクばかりが高いのだ。それに見会うメリットが思い浮かばない。

 

「(犯人が奴ら…………スカリエッティ一味だとしたら…………ますます目的が分からないし………)」

 

 ヴィータの疑問も最もだ。予言に記されていた訳ではないが犯人の最有力候補はスカリエッティだと俺達は結論付けた。理由は様々だが、一番は最近になって何かを準備するようにレリックの回収を目立ってやっている。集めていたのはずいぶん前からなのだろうが目立ち始めたのは最近だ。未だ奴らの目的は分からないが今回予言が記した事件が起こるとしたら奴が無関係だとは思えない。

 

「(まぁ、あんまり考えていても仕方ないよ。信頼できる上司からの指示を私達は全力でやればいいんだから…………)」

 

 なのはがそう結論付けて、俺とヴィータもそうだなと同意したところで念話は打ち切られる。確かにどうせ考えたって答えは出ない。今俺達は来るかもしれない脅威を警戒するしかないのだ。

 

「さて、ここは十分見回ったし次のとこへ…………とっ!」

 

 

 ドン!

 

 振り返った所で誰かと体がぶつかる。

 

「おっと、失礼しました」

 

 そう言って謝罪の言葉を述べてからゆっくりとそのぶつかった人物の顔を見る。体は大きくガタイがいい。しかしただ大きいと言うわけでなく鍛えられていた体が少し衰えたくらいでただ肥えているような体型ではなかった。しかし、そんなことより驚いたのはその人物の顔を見たときだった。

 

「っ!…………あんたは……」

 

 

「む、貴様……………」

 

 元々目付きが悪いのか睨むようにこちらを見てくるその人物は今日の陳述会の中心と言っても過言ではない。

 

「レジアス…………中将」

 

 

「ふん、神崎賢伍か………」

 

 鼻を鳴らしながらそう口を開くレジアス。突然の邂逅に少々狼狽えながらも俺も口を開く。

 

「お初にお目にかかります。神崎賢伍です…………」

 

 

「そんなことをいちいち言わんでもいい」

 

 と興味なさげにそう突き放す。ありゃ、やっぱりよく思われてないみたいだ。まぁ、そもそも起動六課事態を快く思ってない人物だ、その隊員も快く思ってはいないだろう。

 

「わしはこれから陳述会で忙しい、用がないならこれで失礼するぞ」

 

 といってすたすたと歩き去ろうとするレジアス。ふむ、牽制じゃないけど一言くらいは言っておこうかと思った。

 

「あんまりうちの隊長さんをいじめないでやってくれやレジアスさんよ。あれで結構世のため人のためって頑張ってんだからさ」

 

 不敵に笑う俺の言葉を訊きレジアスがピタッと止まる。そのままゆっくり顔だけ振り返り俺を値踏みするようにじろじろと見てくる。

 

「なんだ?惚れちまったか?」

 

 などと煽るようにわざとふざけてみる。

 

「ぬかせ。………………同じ目をしているな、あの男とあの女に。やはり、あの夫婦の息子だったか」

 

 

「あぁ?ぼそぼそと何言ってやがる?」

 

 

「ふん……………」

 

 レジアスは今度こそ興味を無くしたようにすたすたと去っていった。まぁ、これから陳述会なのだから向かっているのはその会場なのだろうけど。

 

「はぁ…………………」

 

 ふとため息を漏らす。いくらはやてとかが軽い嫌がらせ程度に査察だなんだと小言言われてるくらいで俺もあからさまに態度にだしすぎたかもしれない。

 

「やっぱまだ子供だな…………俺も」

 

 未熟な自分を嘆きつつ警備を再開するのだった。

 

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

 

 外はもう日が傾き初め夕方となっていた。既に陳述会は始まる所かもう少しで終了予定の時間となろうとしている。ずっと交代しながら建物の中で警備をしていたが特に異常も何も起きなかった。油断は出来ないが、予言外れたのだろうと頭に浮かぶ。

 

「これなら、約束通り夜には帰れるな………」

 

 ヴィヴィオも今頃俺が帰るのを待ちわびてくれているのだろうか。驕りじゃなければそう思いたい。帰ったらなにしようか、とりあえずあの娘を思いっきり抱き締めよう。そしてたくさんの笑顔を与えよう。一緒に遊んで、今日の話をして笑いながら眠るところを見届けてあげよう。そう考えると頬が自然と緩む。

 

「そうだ、帰りに何か買ってあげるか」

 

 人形でも何でもいい、なのはと相談していい子に待ってたご褒美だって渡してあげるんだ。ヴィヴィオの喜ぶ姿が目に浮かぶ。そこまで考えたら早く帰りたりな、これ以上待ちたくないし待たせたくない。

 

「シャイニングハート…………この近くでどっかヴィヴィオが喜びそうな物が置いてるいい店がないか調べてくれよ」

 

 

SH『……………親ばかが過ぎるのも考えものですがまぁいいでしょう。……………そうですね、ここから1キロも離れてないところに………』

 

 

 

そしてそれは突然起きた。

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 

 

 何かが爆発したような大きな音が鳴り響く。その影響か地面が少し揺れつまずきそうになるのを踏ん張る。

 

「な…………んだ?」

 

 どこもかしこも鳴り響く警報。突然事態に頭が真っ白になりそうになる。しかし、頭を降って切り換え冷静に行動を始める。

 

「くそ!期待させて結局これかよ!」

 

 悪態をつきながら走る。まずは、なのは達と合流しないと。おそらくこれは………。予言と同じ事が起ころうとしてるのかもしれない!

 

 

 

 

 

 

 始まる、決戦が。その前哨が、光と闇の闘いが。

 

 

 

 

 

 

 





 オカケンです、どうもです。暫く時間が空いてしまいましたがなんとか投稿できました。今回話はあんまり進んでませんがヴィヴィオのことをたくさんの書きたくてこうなっちゃいました笑。やっぱり天使ですね、ヴィヴィオ。
 そして終わってしまった、リゼロ。はまってたアニメなだけあって残念。アニメ好きな方良ければ見てみてください、超おすすめです


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1人だが、1人じゃない



だいぶお久しぶりになってしまいました。言い訳するならば忙しいのと筆が進まなかったとしか。とまぁ、遅くなってしまいましたが本編です!遅れて申し訳ございません


 

 

 

 

爆発と共に揺れる会場。一変する状況にざわざわと騒ぎ始める局員たち。それらを少し強引に押しのけながら俺は走りながら叫んでいた。

 

「落ち着け!先ずは状況を確認し各自指示を仰げ!とにかく落ち着くんだ!」

 

騒ぎが収まらないところを見るとあまり俺の言葉に効果はないようだ。だがいつまでもここにいる局員たち一人一人に声をかけている時間はない。多少強引にも俺は進んでいく。まずは非常口への階段を目指して、登った先にあるなのはとフェイトが担当していた警備場所を目指す。たしかこの建物のエントランスの役割を果たしていた筈だ、そこなら人も多いし情報交換が望める。

 

「くっ!」

 

足を止める。止められる。階段が防壁のシャッターで閉ざされていた。そこで1つ希望的観測だったがさっきの爆発が事故ではないことが確定する。事故なら避難を行うための非常口を塞ぐ筈はない。シャッターが閉められたと言うことは侵入を防ぐため、つまり襲撃されていると言うことだ。とにかく外の状況が知りたい。回れ右をして再び走り出す。合流するための道はどこかに残されている筈だ。

 

「確かあそこなら……」

 

シャッターが機能しない道が警備用よ地図に示されていたのを思い出す。手元にないがなんとか記憶から引っ張り出してそこのルートを辿る、が。

 

「ちっ!ここもか」

 

いかんせん、爆発の影響か壁が崩れその道を閉ざしていた。仕方なくその道を諦めて別ルートの探索に回る。この時点で俺はだいぶ時間をロスしてしまっていた。

 

 

 

……………………………………………。

 

 

 

「エレベーター………」

 

ふとエレベーターの前で足を止める。試しにスイッチを押して見る。勿論反応はない。爆発で故障したか意図的に止められたのか。しかしあることに気づく。なのは達がいると思われるエントランスにもエレベーターは繋がっている。ならば

 

「ふっ!ぬうぅううううう!!」

 

エレベーターの扉に手をかけ歯をくいしばる。

 

「ぐうううううう!ぬおおおおおお!!」

 

扉は歪んでしまっているのかこじ開けようとしてもなかなか動いてはくれない。

 

「うううううう!毎日欠かさず筋トレしてるこの筋肉を舐めるなよぉぉぉおおおおお!!」

 

徐々に扉がガタガタと動き出す。ゆっくりゆっくりと扉が……

 

「ああ!めんどくせぇー!」

 

ドガァーン!

 

痺れを切らして手を離してそのまま拳を作り扉にそれを叩き込む。扉はそのまま形を崩すことなくキレイに外れて真っ逆さまに落ちていきしばらくすると地面に激突したのか甲高い音が響いてきた。

 

「ふむ……」

 

一呼吸入れてふと呟く。

 

「引き戸じゃなくて押すタイプだったか」

 

 

 

…………………………………………………。

 

 

 

 

エレベーターのロープをたよりに地道によじ登る。シャイニングハートがあればセットアップして跳べばいいのだが手元にいない以上仕方ない。えっちらほっちらと十分ほどよじ登っただろうか、扉を数えてようやく目的の階に到着する。

 

「さーて、どうやって開けよう」

 

目の前にある扉もさっきと同じように固く閉ざされている。ロープに手でぶら下がっている状態だからこじ開けるのは無理だ。となると………。

 

「勢いつけてタックルするしかねーよな……」

 

だけどそれは失敗した時はかなりまずいだろうな。扉をぶち破れなかったら奈落の底に真っ逆さまだ。残念ながら暗闇のせいでどれくらい地面と離れてるか確認は出来ないが落ちたらひとたまりもないのは明らかだ。

 

「男は度胸、やってやろうじゃねぇか」

 

ロープにぶら下がりながら体だけを揺らして勢いをつける。その勢いに任せて扉とは反対側に跳ぶ、そしてタイミングよく体をひねって壁を蹴る。それにより勢いを増して今度は扉に向かってタックルをする態勢に。壁キックで勢いが強くなった状態なら破れるかもしれない。そんな期待を込めて扉に体を打ち付ける。

 

「うー!開いたぁ…」

 

ことはなかった。扉にぶつかる直前、それが勢いよく開いたのだ。その先にいるのは複数の人、大人数で扉をこじ開けたのだろう。そしてその真ん中にいるのは……。

 

「あっ」

 

なのはとフェイトである。ふたりと目が合う、まずい。タックルの勢いは止まらない。慌てて両手を広げて衝撃を弱めようとするが焼け石に水だった。

 

「うわああああ!?」

「「きゃあああああ!?」」

 

結局2人に勢いよくぶつかる羽目になる。おれが馬乗りになり2人は下敷きに床に倒れる。幸い下はただの固い床ではなく前面に余すことなくカーペットが敷かれていて衝撃は幾分かマシだった。

 

「いててて………」

 

むくりと体を持ち上げようとすると両手に感触に違和感。床に手をついて立とうと思ったら想像以上に柔らかい感触。ムニュムニュと擬音が聞こえてきそうなさわり心地だった。何だか触っていて気持ちいいので右手をもう一揉み。

 

「うぅ……」

 

左手ももう一揉み。

 

「ひうっ…」

 

下敷きになってる2人から艶めかしい声が聞こえる。察する、ばっと体を起こして自分の状況を確認する。両手は見事になのはとフェイトの胸に手を置いていた。なのはとフェイトも状況を理解する。みるみる顔を赤くする。俺も赤くなる。

 

「うわっ、わ!ご、ごめんなさい!!?」

 

慌てて両手を離して2人から離れる。それでも2人の顔から赤色が抜けることはない。俺もどうしたらいいか分からずなんとか言葉を捻り出す。

 

「えっと、そのなんだ…………。めっちゃ良い形の胸だな2人とも!」

 

言葉を言い切ると同時に顔面に2つの拳が飛んできたのは言うまでもないだろう。それと口が裂けても言えないがやはり胸はなのはよりフェイトの方が少し大きかった。しかし考えが読まれたのか知らないがなのはから再び追撃の蹴りが訪れるのは予測不能であった。

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

「汚されたよ、賢伍に汚されたよ。最悪だよ、変態すぎるよ」

「酷いよ賢伍君……いきなり襲いかかるなんて」

 

胸を両手で隠しながらジト目で俺に責めの言葉を浴びせる2人。かく言う俺は2人に頭を下げて謝っているわけで。

 

「ごめんなさい、でもわざとじゃないだ!扉をぶち破ろうとして突っ込んだらたまたまなのはとフェイト達が扉をこじ開けててそのままぶつかっちゃったんだよ!事故なんだ、信じてください!」

 

事故は事故なんだが実際に被害にあったのは2人だ。なので謝るしかない、しかし弁明の余地くらいは欲しく言い訳を並び立てる。今の俺は自分でもかなりダサい状況だろうと思わざるを得ない。

 

「それは分かってるよ、分かってるけど………」

「何回か……も、も、揉んできたじゃない……」

 

恥ずかしさに耐えるように言うなのはとフェイト。フェイトに関しては言葉の途中でどもり始めていた。

 

「そ、それはその……最初は何を鷲掴みにしてるか分かんなくて…」

 

嘘はついていない。というかつけない。

 

「それで……何だか柔らかくて気持ちいいなって思ってついついモミモミと…」

 

あれ?何とか弁明しようとしたけどますます状況を悪くした気がする。俺の言葉にもう耳まで顔を真っ赤に染め始める。ついつい、さっきまでそこを触ってたんだなとなのはとフェイトの胸に目がいく。

 

「賢伍君のエッチ……変態スケベ」

「見境いなしのセクハラ男……」

 

「視線には鋭いね君達!?」

 

俺の視線に気付いた2人がそんな言葉を浴びせてくる。というかこんな事してる場合じゃないよ、今緊急事態だよ。何をしてるんだ全く。いや、俺のせいだけどさ。

 

「と、とにかく!今はこんなことしてる場合じゃないしこの話は一旦おしまい!賢伍君は私とフェイトちゃんから後でお話だからね!」

 

おふっ、それは勘弁。ヴィヴィオ関連で最近は特にお話が多いからできればやめてほしい。まぁ、いいか。不可抗力とはいえ2人の胸を触ってしまったわけだし。正直感触を楽しんで満足した気持ちもあるし。

 

「賢伍、私賢伍のこと信用はしてるけど最近の目に余るセクハラ行為でだいぶ信用は落ちてるからね?お願いだからもうちょっと自分の欲求を抑えて」

 

俺が何をしたというんだ。たまにフェイトの胸を凝視したりその大きさをからかって弄ったりしてるだけじゃないか。俺は悪くないぞ。そんなけしからん胸をしているフェイトがいけないんだ。

 

「はぁ………なのはの言う通り今は緊急事態だ。終わったら後でちゃんと甘んじて受けるよ」

 

それでフェイトも文句はないようでお互い切り替える。ていうかなんだかんだで優しいな2人とも。胸触って普通に接してくれるとか天使すぎるだろ。なんならもうちょっと触っておけばよかった……。

 

「「………………」」

 

ジト目で見て来る2人に気づかないふりをしつつコホンと咳払いを1つ。考えてること筒抜けな気がする。

 

「んで、だ。状況は分かるか?俺は全く把握してないんだ」

 

今度こそ真剣な顔をして俺はそう口を開く。まずは情報が欲しい。今がどういう状況で一体何が起こっているのか。何も分からないままではどうすることもできない。

 

「私達も詳しくは分かってない。けど襲撃されてるのは確実みたい……」

 

フェイトが考えるそぶりをしながらそう答える。ふむ、ならば。

 

「ここにはデバイスを持ってない管理局員がほとんどだが、なんとか通信手段を探して指示を仰ぐしか………」

 

「それは出来ないみたい。この会場の通信ですら繋がらない状況みたいで外部からの連絡は完全に遮断されてる」

 

「なに?」

 

なのはの言葉に俺は眉をひそめる。通信が遮断されてるなんてよっぽどのことだぞ。通信管制システムに異常?いや、まさか制圧されたか?それが一番最悪だ。デバイスを使っても連絡が取れない可能性があるのはまずいぞ。他のメンバーにも指示を出せない。

 

「うーむ…」

 

頭を捻って考える。今は最善の選択をするべきだ。はやてやカリム達がいるであろう会議室までの道は隔壁で閉ざされてるし、なおかつ連絡がつかない。外との通信も繋がらず、そもそも俺たちの手元にはデバイスすらない。なら今やるべきことは………。

 

「まずは外に出よう。襲撃者が誰であれ俺たちで当たるしかない。外で警備してたスバルたちと合流するのが先決だと思う」

 

俺たちのデバイスを預かってくれているのもスバルたちだ。もしかしたら俺たちに渡そうとこっちに向かってる可能性もある。

 

「そうだね、ここでジッとしてる訳にもいかないし」

「私もそれに賛成かな」

 

なのはとフェイトの了承を得てまずするべきことは決まった。そしたら行動に移すのみ。

 

「んじゃ、早速外に向かうとしますか」

「でもどうやって?」

 

なのはの疑問の言葉に振り返りながら俺は答える。デバイスがない状態じゃ窓をぶち破って空を飛ぶのは無理だ。そもそもこの建物はおそらく襲撃者達に包囲されてる。それは愚策だ。なら……。

 

「こいつでとりあえず下まで行こう」

 

と言いながら先ほどなのは達がこじ開けたエレベーターを指差す。といってもエレベーターは今は動いてない。あるのはそれを吊るしてる長いロープだ。それで俺は登って来たのだから降りるのもそれを使うのは道理だろう。

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

「こんなこと陸士訓練校以来だけど、色んな訓練やっとくもんだね」

 

エレベーターのロープを手で掴みそのまま滑らせて猛スピードど下降していく中、フェイトがそう言葉を漏らす。ちなみに流石になにも施さず手をロープで滑られてるのではなく手首くらいまでは自分の魔力を覆い保護している。その証拠に俺となのはとフェイトの手からはロープの摩擦で火花を散らせていた。

 

「だね!」

「だな!」

 

俺となのははそう同時に返す。失踪する前に俺となのはとフェイトとはやてで受けた訓練の一環でやったことがあるのだ。3人はこともなさげにやっていたが俺はなかなかうまくいかずに手のひらをよく怪我していた。手の皮が軽く剥けた時は泣きそうになったなぁ。

 

「緊急時の移動ルートは指示してあるからそこに行こう。目標合流地点は地下通路、ロータリーホール」

 

なのはも準備がいいな。スバル達に一応そこまでは伝えておいたわけか。念のためっていうのは緊急時にすごく助かる事が多い。今がまさにそれだ。

 

「よっと!」

 

などと考えていたらあっという間に目的の地下に到着する。先ほどとは違いすでに扉は開かれている状態で簡単に出る事が出来た。いや、そもそも緊急用通路に繋がってるなら襲撃されたと同時に解放されたと考えるのが妥当か。

まあ、それはどうでもいいか。俺たちはそのまま止まる事なく真っ直ぐ駆け出す。運が良ければ、スバル達ももうすぐそこにいるかもしれない。

 

「高町一尉!」

 

少し走ったところで背後からなのはを呼ぶ声がホールに響く。3人同時に振り返れば見覚えのある顔が見えた。紫色のショートカットな髪をなびかせながら走ってこちらに向かってくるその女性の名を口に出す。

 

「シスターシャッハ?」

 

本名シャッハ・ヌエラ。聖王教会の騎士カリムの秘書をしている。この場にはカリムの付き添いで来ていたのだろう。初めてカリムと会った時、教会内でシャッハとも2、3度言葉を交わしたからすぐに分かった。ちなみに、普段が秘書でシスターをしているが騙される事なかれ、魔導師としては相当な実力者だ。大人しそうな顔をしているが瞳の中にある戦士としての本能を感じた。

実際に聞くところにも寄ればシグナムとも渡り合えるという。

止まっていた俺たちに追いつくと息を切らしながら膝に両手をつく。

 

「シスター、会議室にいらしたんじゃ…」

「会議室のドアは、有志の努力で何とか開きました……それで、私も急ぎあなた方を追って…」

 

フェイトの疑問にシャッハは息を整えながらそう答える。てことは、上の連中も今は動けるということか?

 

「はやて達はどうしてる?」

 

もし動けるならだいぶ助かる。状況が分からない今、少しでも現場で動く人間が必要だ。

 

「お三方ともまだ会議室にいます、ガジェットや襲撃者達について現場に説明を」

シャッハの回答に内心で舌打ちをする。やはりダメか。カリムはともかく、六課の隊長としてもはやては指示する側にどうしてもなってしまうか。となると、補佐としてはやてと一緒にいるシグナムに動いてもらう他ない。それなら早く、デバイスを届けないと。

どうするべきかと色々考えているとシャッハが走って来た方向とはちょうど反対側から複数人の足音が聞こえて来た。一瞬警戒したが、それは杞憂に終わる。

 

「あぁ、いいタイミング」

 

フェイトの言葉に頷く。ちょうど俺もその人物達が目ではっきり見える。スバル達FW4人だった。

 

「お待たせしました」

「お届けです」

 

スバルとティアナのその言葉に「サンキュー」と一言述べてから持って来てくれたデバイスを受け取る。なのはとフェイトも一言お礼を言ってから同じように受け取る。

 

「こちらは、私がお届けします」

 

そう言うとシャッハはシグナムとはやてのデバイスを受け取りしっかりと両手で握り胸元に持っていく。

 

「お願いします」

 

なのはの言葉にしっかり頷き返すシャッハ。これでシグナムのデバイスが届けられれば現場に出られるだろう。そしたら後は俺たちはこれからどう行動するかだが……。

 

「ギン姉?………ギン姉ぇ!……ギン姉ぇ!!」

 

並々ならぬ雰囲気で通信無線に耳を当てながら突然叫び出すスバル。それを見てそこまで俺も察しは悪くない。トラブルだ。無線がじゃない。多分、ギンガが……。背筋がヒヤッとする感覚を感じた。

 

「どうしたの!?」

 

なのはのその問いにスバルは狼狽えながらも答える。

 

「ギン姉と通信が繋がらないんです!」

 

建物内の通信は封じられているが、外に出れば無線の通信は可能なのだろう。ギンガは襲撃前は外の警備をしていたはず。スバル達と合流してから各々考えて別行動を取ったのだろう。

 

「実はここに来る前に戦闘機人2名と交戦しました、表にはもっといるはずですから……」

「詳しく頼む」

 

ティアナの言葉に俺はさらなる説明を求める。………要点をまとめると今まで遭遇した戦闘機人とはまた別の戦闘機人2名の襲撃を4人は受けたらしい。しかし、それはこいつらの頑張りとティアナとキャロによる幻影を駆使してうまく撒いてここまで来たらしい。その2名からの追撃に合わなかったとか。さて、ここで問題点が二つ。

一つは戦闘機人の数だ。この時点で襲撃者が分かりきっていたことだがスカリエッティ一味と確定したところで今まで遭遇した戦闘機人が全てじゃない事が分かる。おそらくその2名だけじゃないだろう。まだ、戦闘機人の総数は掴めてないそれが問題だ。相手の戦力に検討がつかなくなる。

そしてもう一つの問題が………。

 

「下手したらその2名の戦闘機人と交戦してる可能性がある」

それは本当に最悪だ。戦闘機人の厄介さは身をもって知っている。そいつらと1人で戦うのは危険だ。かと言って逃げれるわけでもないが。それにスバル達と別行動を取っていたならまた別の戦闘機人と最初から戦っていた可能性もある、その戦闘機人がスバル達を逃して手の開いた2人に応援を要請した………筋が通り過ぎて腹が立つ。

 

「ロングアーチ、こちらライトニング1」

 

いつの間にかフェイトが六課本部に通信を試みていた。こちらとしてもロングアーチに細かな情報教えてほしい状況だ。じゃないと、こっちもどう動けば最善か分からない。

 

『ライ……ング1………こち…ロン……アーチ…!』

「グリフィス!どうしたの?通信が……」

 

フェイトが困惑の声を上げた。グリフィスのからの通信はザザッとノイズが混じっていて少し聴き取りづらい。しかし、多分通信を妨害を受けてる訳じゃない。これは……。

 

『こちらは今………ガジェットとアンノーンの襲撃………受けて………持ちこ……ていますが…もう!』

「っ!」

 

フェイトの無線から驚愕の事実が届いた。六課が襲撃されている。その事実に一同驚きを隠せない。衝動的に、走り出しそうになるのを堪える。なにも考えず突っ走るのは……下策だ。

そんな俺の葛藤の気づいてか、なのはとフェイトが無言で頷きあい

 

「分散しよう」

 

なのはがそう告げる。

 

「スターズはギンガの安否確認と周辺戦力の排除」

「ライトニングは六課に戻る」

 

なのは、フェイトがそれぞれの部下にそう言いティアナ達もハイと返事を返す。

 

「俺は………」

 

どうするべきだろう。ギンガを探すのを手伝うか、六課を助けるのを手伝うか。合理的に選ぶのなら六課だ、ギンガも戦闘機人相手とはいえそう簡単に遅れを取るような相手ではないし、そもそも危機的な状況を想像したのもそもそも俺の推理であって確定してる訳ではない。

だが六課は違う、今も襲撃を受けている最中だ、どれくらいの戦力で襲われているのか分からないし六課に残った戦闘員はザフィーラとシャマルさんだけだ。ザフィーラはともかくシャマルさんは元々戦闘向きの魔導師じゃない、恐らく多勢に無勢な状態だ。

しかし………仲間を助ける選択をするのに合理的に考えられるほど俺は人間できちゃいない。

 

「賢伍君は……会場を包囲してる敵戦力の掃討をするのがいいと思う」

「………はっ?」

 

なのはからの予想外の提案に俺はつい間抜けに返事を返す。

 

「な、何言ってんだ、俺もなのはかフェイトと一緒に………」

「私もなのはと同じ意見かな」

「フェイト……っ!」

 

フェイトも続いてそんなことを言ってくる。た、確かに状況的にはそれが一番いいのは俺だって分かってる。けど……

 

「ギンガちゃんが心配だし……」

「スターズに任せて、探すのはそう時間はかからないと思うし」

 

「六課には………ヴィヴィオが……っ!」

「私だってすごく心配だよ。だからライトニング任せて、六課と一緒に守ってみせる」

 

なのはとフェイトに退路を塞がれる。俺は多分助けに行くことに関わりたかったのだ。仲間より優先することなんかない。だから、自分がここで敵の殲滅をするのが最善だと分かっていても助けに行かない自分は嫌だったのだ。

 

「大丈夫、賢伍君だけじゃない……私達がいる。一人で抱え込まないって約束したでしょ?それと、自分で騎士カリムに言ったこと忘れちゃった?」

 

「カリムに言ったこと……?」

 

カリムとの会談の際に俺は………。そうだ、カリムは言った。六課の仲間の危機と管理局の危機。両方とも同時に起きた時どうするつもりなのかと。俺がそれについて言葉を添えたからカリムは俺から納得のいく回答を聞きたくてそう問いてきた。俺は…………

 

『意地でも両方守ればいいだけだろ?』

 

そう言った。そうだ、落ち着け。動揺するな、自分1人で全てをこなさなくてもいい。頼りになる仲間もいる、出来ないことじゃない。六課に残った仲間達、ギンガ、そしてヴィヴィオ………皆んなが危ないかもしれないと思い焦ってしまった。だがそんな時こそ冷静になれ。どれが一番最善で皆んなを助けられるか、その選択をするんだ。カリムにも宣言したんだ。期待してくれたのだ。それに沿うだけだ。

 

「そう……だな。つい癖で1人でどうしようかって考えちまってた。……………分かった、俺はここに残って包囲を解く。この会場内にいる人達を守る………だから皆、ギンガと六課の仲間達と……ヴィヴィオを頼む……」

 

歯痒い。とても歯痒い。しかし、それが何もかもを守れる1番の手段だ。分散して各個解決すれば万々歳。うまく行かなければうまく行った誰かがそこに援軍としてむかう。仲間の救出に直接関われないのは胸が痛いが自分の我儘を通すわけにはいかない。

俺のそんな思いを受けっとってくれたかのようにその場にいた全員は力強く頷いてくれた。

 

「それじゃあ………行くよ皆!」

 

なのはの声と共に分散する俺たち。俺はこの地下から地上にでて会場を包囲する敵を。シャッハは会場に戻ってデバイスとはやてへの報告に。なのは達スターズはそのまま地下ルートでギンガの捜索。フェイト達ライトニングは六課へ救援に。俺たちはそれぞれの目的地へと全速力で向かったのだった。

 

 

 

………………………………………。

 

 

 

地上に出てすぐに目にしたのは会場を取り囲む圧倒的な数のガジェット達。会場を守っている魔力結界に張り付いて取り囲むガジェットとその後ろで余力はまだあると訴えるように控えているガジェット、そしてその周辺の建物を壊し回っているガジェット。ふつふつと怒りが湧いて来る。火の海にならんとする街、それを見て俺は迷わず叫んだ。

 

「シャイニングハート、リミッター解除レベル1!」

SH『YESマスター。………魔力ランク、魔力量共に1段階解除……続けて身体能力…1段階…………2段階解除。レベル1解除を完了しました』

 

眠っていた力の一部が目覚めるような感覚。見えてる景色さえ先ほどとは違って見える。その膨大な数のガジェットでさえ恐れはない。ただ、破壊を繰り返すクソッタレな機械をこっちが破壊するだけだ!

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

跳ぶ、たまたま空中で浮遊していて目に付いたガジェットの元へ。跳ぶと言うよりは跳躍が正しい。地面を蹴って速影でガジェットに猛然と迫る。

 

「らぁ!」

 

すれ違いざまに刀を一太刀。ガジェットを抜き去った時にはもうそれは真っ二つになり爆発し粉々に。その爆発で辺りのガジェットが俺へと注目する。

 

「今回は余裕がねぇ、だからいつもみたいに優しくは出来ねぇぞ機械クズども………」

 

飛行魔法で滞空しながら刀を構えて戦闘態勢に。暴れまわったツケを払ってもらおう。

 

「光の英雄は………伊達じゃねぇぞ!!」

 

それが合図だったかのように一斉に迫るガジェット達。だが今回は待たない、俺が仕掛けにいく!

 

「はぁ!」

 

こちらから近づきガジェットが放った爆発物を全て避けてから一機に一太刀を入れる。一回で十分た。レベル1ですでに身体的な能力は全力の8割を解放されている、剣術を一度も怠らなかった俺の太刀筋はそれだけあればガジェット如き造作もない。

 

「うおらぁ!」

 

続けて二撃三撃と繰り返し1機ずつ切り捨てる。動体視力も上がっているからガジェットの動きもいつもより遅く感じるくらいだ。この流れで一気に攻め落とす!

 

「おおぉぉおっ!」

 

刀が曲線を描くたびに一機、また一機と地に伏せるガジェット。機械の人形で俺を止められると思うな。

 

「シャイニングバレットォォオオオ!」

 

刀から打ち出される無数の光のレーザーがガジェットを貫く。リミッター解除による解放は体だけでなく魔力も解放されてる、その影響で精度も威力もあがっているのだ。

しかし、やはり襲撃してきただけであって敵の数はいくら破壊しても減っているようには見えない。

 

「ちっ!」

 

飛行型ガジェットから打ち出された小型ミサイルを回避しながら状況に舌打ちをする。

 

「ヴィータはどこだ!俺一人じゃ時間がかかりすぎる!」

 

ヴィータがいれば、一気に戦線押し上げて力づくでねじ伏せられる。突出しても万が一のサポートで背中を、会場を任せられるから。ヴィータは破壊力もさる事ながらしっかりとサポートもしてくれる。背中を預けられる仲間が一人いるだけで状況は変えれるのだ。

 

SH『この近辺にはいませんが、そう遠くない場所にいるようです。…………正確な位置は割り出せませんが、上空で敵の魔導師と交戦中の模様、敵もやり手の魔道師のようです』

 

そう告げるシャイニングハートの言葉につられて空を見上げるがヴィータは見つからない。少なくとも交戦中か、探して応援に向かいたいがここを離れるわけにはいかない。ヴィータを信じて俺はここで戦線を維持するしかない。だが、数が数だ。防衛が中心だとどうしても攻め手に欠ける。

 

「他に部隊と戦力はいないのか!」

 

SH『多くは民間人の避難と会場内警備に回ってる模様です。また、襲撃のパニックでまともに動けない部隊も』

 

くそ、そこから人を割くわけにもいかないか。パニック状態の部隊は戦力として判断しないのが妥当だろう。

 

「くっ、結局1人でやるしかねぇってか!」

 

言い終わると同時に再び数機のガジェットを切り伏せる。だがガジェットは嘲笑うかのように群れをなしていく。斬っても、斬っても、無限に湧いて来るかのように。

 

「やってやる………俺1人でもここを守りきってガジェットっ全員ぶちのめしてやる!」

 

「1人じゃないさ、神崎君!」

 

突如耳につんざくその声。そこまで年を召してる訳ではないがその人の声はそれなりに渋く年季を感じる。同時に俺が油断して気付かずに近づかれていたガジェット数機がその人の魔力弾によって破壊される。

 

「っ!」

 

声がした方へ視線を向ける。ガジェットの群れにはしっかりと意識を外さぬまま。

 

「待たせてすまなかった神崎君。他の部隊を落ち着かせて連携を取るのに時間がかかってしまった」

 

そう言いながら再び魔力弾を放つ。両手に持ってる一般局員用の専用魔法杖を慣れた手つきで扱いながら無駄のない動きで次々とガジェットを破壊する。

 

「まぁ、今から君の背中は私が……私達の部隊が引き受ける」

 

「ショウさん……っ!」

 

一緒に苦難を乗り切ったときよりも頼もしく感じる顔を見せながら。自分の背中には屈強な自分の部下たちを従えてそう言う。彼はティーダと同期と言っていた。ティーダはエリートコースで自分を高めていた。その同期ということはまた彼も………エリートと呼ばれた魔導師。

 

「全員私が鍛えた優秀な隊員達だ。君ほどの実力はないが役には立てるだろう。君に一時部隊に指揮権を渡す、一緒に戦おう……光の英雄、神崎賢伍君…」

 

「………はい!ショウさん!」

 

俺はそう返事を返す。この状況でもショウさんを含めてその部下全員、目の輝きが失われていない。その真っ直ぐな視線に背中を向けて。

俺は現場に行かず椅子に踏ん反り返って指揮するのには向いてない。指揮官に向いてない、だがこれでも教導をこなす身。人を導くことは出来る。

 

「全員でこの状況を覆す!………俺に続けぇぇえええ!!」

 

「「「オオオオオォォォォ!!」」」

 

英雄は駆ける。己が望む未来へ。同志とともに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






これ以上遅くなるなら亀更新のタグをつけようかなと思います。そうならないように頑張りますが、これからもどうか閲覧よろしくおねがします!

それと、空白をその場の状況や雰囲気ごとで変えてみました。変なようなら修正いたします


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その日、機動六課 〜激戦〜

後書きに今後について軽く報告があります。目を通していただければ幸いです


 

 

戦場は混沌と化していた。数種類のガジェットが本来戦場であってはならない場所を火の海とかそうと血気盛んに暴れまわっている。叫び声をあげながら逃げ惑う人々、それでもガジェットは容赦なく攻撃の手を緩めなかった。

 

「らぁぁああああ!」

 

雄叫びと共にガジェット数機が真っ二つになる。一般人に襲いかかろうとしたその機械を手にする日本刀のデバイスで両断する。

 

「止まるな!各々避難所まで迅速に、かつ焦らず向かえ!」

 

非戦闘員である一般人にここは危険すぎる。まずは人々を襲うガジェットを掃討、そして避難させるのが先だ。

 

『神崎一佐!こちらB班、西地区の住民避難はほぼ完了しました!』

 

耳に付けてる通信無線にショウさんの部下の声が発せられる。早いな、ショウさんが鍛えたと言うだけはある。

 

「よし!なら部隊を半分に分けて片方はその場に留まりガジェットの掃討、もう片方は避難が滞ってる南地区のA班の応援に向かえ!編成は君に任せる!」

 

『了解!』

 

ショウさん指揮権を譲り受けた以上、今この場のリーダーはとりあえず俺と言うことになる。俺はまず部隊を3つに分けた。A、B、班は各地区の避難誘導を優先させ、C班は会場を防衛。ショウさんは会場防衛の管制を任せ俺は住民避難の援護に回っている。

 

「ショウさん、そっちの状況をお願いします」

 

通信を繋げてそう声を発する。いくら攻めても肝心の会場が守れてなきゃ意味がない、定期に状況を聞かなくてはならない。

 

『あぁ、問題ない。敵の数も神崎君達のお陰でこっちまでにはそう流れてきていない』

「分かりました、引き続き防衛をお願いします」

 

通信を切る。さて、とりあえずは落ち着いてきた。無数のガジェット達もこれだけ優秀な部隊員が味方にいれば確実に数は減らせている。ショウさん達の援軍で状況は好転した。

 

『こちらA班、援軍に来たB班と協力し住民避難はほぼ完了しました。そのまま各地区のガジェットの掃討にあたります』

 

通信で伝えられた報告に驚きを隠せなかった。早すぎる、いくら優秀な部隊とはいえ避難まで完了させるとは。予想以上に早い展開だ。この調子なら思ったより早く片がつけれるかもしれない。そうしたらなのはかフェイトの応援にも行ける。

 

「了解した、油断せず当たるように!」

 

通信相手にはそう伝えて切る。さて、このまま俺もちゃっちゃとこっちを終わらせよう。ここらへんの避難も完了してるはずだ。なら掃討に当たるか……。

 

SH『マスター!右前方に子供が、ガジェットも接近中!!』

 

「何!?」

 

慌ててそこに目を向ける。必死に足を動かして迫り来るガジェットから逃げる一般人の姿が。しかも子供だった、女の子の。

 

「あっ!」

 

必死に逃げていた女の子は何かにつまづき無様に転ぶ。地面に体を打ち付け震えながら後ろに振り返る。そして猛然と迫るガジェットを確認すると目から涙を流し絶望する。

 

「ママぁ………パパぁ……」

 

その少女の呟きが、不思議と俺の耳に届いた時にはもう動いていた。

 

「させるかぁぁぁああああああああああ!!!」

 

足に魔力を限界まで込め最速で速影を発動する。ほぼ一瞬で少女に迫るガジェットにたちはだかる形で移動する。

 

キン

 

 

そのまま刀を振り下ろしガジェットを斬る。少女の脅威を葬り去りすぐに地面にぺたりと座ったままの少女に駆け寄る。

 

「嬢ちゃん、大丈夫か?ケガはないかい?」

 

少女が頷くとそのまま服についた汚れを軽くパンパンとはたきながら少女を立たせる。頰を伝う涙を親指で拭い少女の肩に両手を置いて口を開く。

 

「よかった。もう大丈夫だぞ、あとはお兄ちゃんが嬢ちゃんを安全なところまで連れてってやるからな」

 

「パパとママは?………」

 

安心させるために発した言葉にそう返され俺は言葉に詰まる。それを見て少女がまた泣きそうな顔をしだした。

 

「あー、泣くな泣くな。大丈夫だ、嬢ちゃんのパパとママもきっと今から向かう場所にいるから大丈夫だ!」

 

「本当?…」

 

「本当だ!俺を信じろ、ちゃんとパパとママの所に届けてやるからな」

 

俺の圧に押されたのか少女はキョトンとしながらも少しだけ口元を緩めてうんと頷いてくれる。

 

「よし、んじゃ早速そこまで届けてやるからな」

 

そう言いながら俺は少女を左手で抱っこする形で抱え上げる。右手の日本刀をしっかりと握り返して……。

 

「しっかり掴まってろよー……」

 

フワッと少女に負担をかけない程度の速さで翔ぶ。少女は初めて空を飛ぶと言うことに不安なのか俺のバリアジャケットをギュッと両手掴んでいた。時折迫るガジェットには少女に目を閉じさせて刀で両断して対処する。スピードは早めにされど負担をかけない速さで、避難所にしている陳述会の会場にたどり着く。

途中防衛をしていたショウさんに援護してもらい目を合わせて互いに頷き意思の疎通を測る。俺の状況を見て察してくれたようでショウさんは避難所の入り口を指で指し示す。その指示通りの方向に向かうと入り口までたどり着いた。

 

「お疲れ様です」

 

その入り口をガジェットが侵入してこないよう警備、防衛してるショウさんの部下の敬礼を手で制しながら少女を下ろして一緒に避難所に入る。さっき少女に言った言葉。避難所に両親はいると言ったあの言葉は少女を安心させるためについた嘘のつもりはなかった。状況的にその可能性が一番高い。今の所避難した市民の中で軽傷はいたものの命に関わるような重傷者もましては死者も出ていない。

 

その近辺の市民のリストと共に確認しているから間違いはないはずだ。そもそもガジェットにインプットされている破壊対象は建築物と魔導師のようで基本的に市民に直接襲いかかっているような状況は殆ど見かけなかった。ならばなぜ先ほどの少女に襲いかかっていたガジェットがいたのか?それは分からない、たまたまとしか考えられなかった。それとも戦いの中で起きた誤作動か。まぁ、今はそれはいい、話を戻すとそれらを統合すれば両親が最悪命を落としているという可能性は低い、またこの少女を探しているとしても避難の支援を行なっていた俺が先にその両親を見つけているはずだ。

大勢の人が我先にと避難する人混みの波を押し返して探しているなら目立つ。おそらく少女と一緒に避難所行く途中はぐれてしまい少女はたまたま人の波から抜けて孤立、両親は波に逆らえずそのまま避難所に連れていかれたのだろう。それが一番可能性が高い。

 

「……………」

 

避難所に入った少女は辺りをキョロキョロとし両親を探している。避難が殆ど完了したからか大勢の人のなかで特定の人を探すのは至難だろう。とくに少女のように体が小さい子なんかは。さてどうしたものだろう。仕方なく俺が少女を高く掲げて「この子の両親いますかー!」と叫ぶしかないかと少女を抱えようとした時だった。

 

「あんたら辞めとけって!外は危険なんだぞ!」

 

「うるさい!娘が、娘が外で危険な目に遭ってるかもしれないのに黙ってここで待つことなんてできるか!」

 

「離して下さい!私達の大切な娘なんです!」

 

軽い怒号が聞こえてくる。どうやら外に出ようとしている若夫婦を大人数人で止めに入ってるようだ。会話の内容からして状況はすぐに分かった。これはもしかすると…………。

 

「パパ!ママ!」

 

ビンゴ、外に出ようとしたこの2人が少女の両親だったようだ。両親少女の姿を確認すると驚きつつすぐに涙を流しながら少女の名前を叫び三人で抱き合う。

 

「よかった………よかった!」

「本当に無事で……」

「パパぁ……ママぁ…」

 

泣きながら抱き合う3人を見据えて俺も内心ホッとする。高い可能性だったとはいえちゃんと避難所にいるかどうかは俺も少し不安に思っていたから。

 

「あのお兄さんがね、助けてくれたの!」

 

そう言いながら俺を指差す少女。その場で何度もありがとうと頭を下げる両親。俺も頭を下げる形で返す。だが俺はまだやることが残っている感謝の言葉を胸に受け取りながら振り返り再び外へ。

 

「お兄さん、ありがとうー!」

 

少女は手を振りながら一番の笑顔でそう伝えてくれる。その姿がどこかあの子と重なる。

 

「お、おう!もうパパとママとはぐれるなよ」

 

少し戸惑いながらも俺はそう返して再び外へと赴く。避難は終わってもまだ無数のガジェットが町を襲っている状況は変わらないのだから。

 

SH『マスター、どうしたのです?』

 

俺の若干の変化に気づいた相棒がそう言葉を投げかけてくる。

 

「いやなに、さっきの女の子がさ………少し似てると思ってな……ヴィヴィオに」

 

顔は全くの別人だか雰囲気というか無邪気さとか、ついでに髪の色と長さは本当にそっくりだった。おかげで重なって見えた。それと、今六課で怖い思いをしてるであろうヴィヴィオに対する心配の気持ちが増した。

 

SH『そうですか………ですがマスター』

「分かってる、今は俺たちがなすべきことをだ」

 

気持ちを切り替えて会場の周りで順調にガジェットを倒しているショウさんに近づく。

 

「避難も完了、後はここの防衛と掃討のみ………流石神崎君だ。中々のリーダーっぷりだったよ」

 

俺が後ろから近づいてきたのに気づいたショウさんは俺に背中を向けたままガジェットに向かって魔力弾を放つ。その作業を止めないままそう語りかけてきた。

 

「よしてください………それにまだ終わったわけではありません」

 

避難が完了してもガジェットの脅威が去ったわけではない。これだけの数を導入して敵は何を考えているんだ。戦争でも起こそうと言うのか?そう思ってしまうほどの数がまだ市街で暴れているのだ。

 

「くそ、ヴィータのやつ......無事だろうな」

 

未だに空から戻ってこないヴィータ。戦闘中なのは間違いないんだろうがいくらなんでも長すぎる。相手がよほどの手合なのだろうか、先にヴィータの居場所を探して救援に向かう方がいいのだろうか。

 

『神崎一佐、こちらA班、敵の掃討に戸惑っています!人員の要請を!』

「了解した......、C班!そっちの状況は?」

『こちらも似たような状況です!援軍送れる余裕はありません!』

ちっ、また数が増えやがったな。仕方ない......。

 

「防衛班!人員の半分でA班とC班の援軍へ!B班はそのまま南地区に留まり掃討を続行!防衛の穴は俺が埋める!」

 

防衛は手薄になるが俺でカバーし掃討に力を埋める。これでだめなら掃討は諦め、次の援軍がくるまで防衛に徹するしかなくなる。それは避けなければならない。

 

「神崎君!敵が来るぞ!」

 

ショウさんの声にハッと振り向いてこっちに向かってくるガジェットを確認する。刀を構えて迎撃体制に。

 

「無事でいてくれよ...皆...っ!」

 

そう呟き、刀を振るう。戦況は敵の圧倒的な物量により徐々に押されつつあった。

 

 

 

.......................................。

 

 

 

 

場所は変わり、賢伍達が奮戦している場所から遥か上空に佇む二つの影。片方はハンマー型のデバイスを掲げる少女、もう片方は槍を構えた大柄の男性。

 

「はぁ...はぁ...はぁ......」

 

少女.........ヴィータは既に息をあげているが相対する男に対して集中を乱してはいなかった。少し黄色がかった赤髪を揺らす。いつもとは違う髪色だった。ヴィータとリィンによりユニゾンの影響だった。リィンはそもそも人格型ユニゾンデバイス.........意思を持ったデバイスだ。普段一緒に生活しているとそれを忘れそうにはなるがそれがリィンである。

そして、リィンは主であるはやてのデバイスであるがはやての騎士......ヴィータともユニゾンが可能なのである。魔力の向上に身体能力の上昇、そして体の中にいるリィンのサポート付きだ。ヴィータは滅多なことがないとこのユニゾンを使わないがそれをさせるほど目の前に立つ男が強敵なのだ。

 

「…………............」

 

男は寡黙に槍を構えるだけ。既に何度も武器を交えたが互いに決定打はなかった。男............ジェイル達の間ではゼスト呼ばれた男だ。そのゼストもいつもとは違う髪色だった。普段の黒色の髪は一切の面影を見せず、金色に成り代わっていた。ゼストもまたヴィータと同様相棒であるアギトとユニゾンをしているのだ。ユニゾン同士の手練による戦い、早々に決着がつかないのも頷けるだろう。

 

「むっ、オーバーSが数人動き始めている......」

 

一旦構えを崩してゼストはそう呟く。ゼスト側からすれば相手の守りが復活したことを表していた。

 

「ここまでか......撤退するとしよう」

 

そう言ってゼストは槍を払うとユニゾンが解ける。証拠に金色の髪はいつものように黒色に戻っていた。ゼストの体内にいるアギトは

 

『くそ......せめてあいつらだけでも......』

 

ヴィータ達を仕留めきれなかったことに悔しさを滲ませているのか。ユニゾンが解けた瞬間にすぐに外に出る。

 

『ヴィータちゃん!上!』

「っ!」

 

体内のリィンからの声に釣られヴィータは視線を上に移す。そこにはすでに特大の魔力で構成された火炎弾を今にも放たんとしているアギトの姿が。大きさはゆうにヴィータを丸呑み出来るほどだ。

「せめて......あたしがここで叩いとく!」

 

「くっ!」

 

アギトの叫びと同時にヴィータがそれを止めるべく動き出す。ハンマーを構えてアギトの元へ跳ぶ。それでヴィータは一瞬ゼストから意識を外す。その隙を逃すほどゼストは甘くはなかった。

 

『フルドライブ、スタート』

 

ゼストの槍がそう機械音を発する。まさにその一瞬、ヴィータがアギトに接近する前に猛スピードでヴィータに襲いかかる!

 

 

ドォォオン!!

 

 

衝撃、上空の雲が揺れるほどの。

 

 

「なっ!?」

 

ヴィータは辛うじてアイゼンでゼストの槍を受け止めた。しかし.........

 

 

ビキッ......ビシシィ!

 

 

アイゼンにヒビが入った。ゼストがさらに力を込めるとヒビはさらに広がり.........

 

「はぁぁぁああああああ!!」

 

気合いと共に槍を振り抜きアイゼン事ヴィータを吹っ飛ばす。アイゼンは一部が砕け

 

「うあああぁぁぁぁ!」

 

ヴィータは叫びをあげながら下へと真っ逆さまに落ちる。

 

 

ドォォォオオン!

 

 

と、再び衝撃が。ヴィータが上空からとあるビルの屋上に叩きつけられた。その轟音はあたりに響いていた。

 

 

 

....................................。

 

 

 

 

ドォォォオオン!

 

 

 

衝撃が響く。ちょうどもう何体目かも分からないガジェットを斬り裂いた直後だった。

 

「な、なんだ?」

 

背後にあるビルの屋上に薄い煙が舞っている。誰かが.........落ちてきたのか?ドクンッと心臓がはねる。まさか......と疑う気持ちとそんなはずはないとそれを否定する気持ちが同時に込み上げてくる。

 

「ショウさん、ここをお願いします!」

「む.......分かった。様子を見てきてくれ」

 

すぐに俺の意図に気が付いたショウさんはすぐに頷いてくれた。それを確認すると俺は真っ先に速影でその衝撃があった場所に移動する。すでに煙は薄れて視界を遮るものはなくなっていた。一目見ただけで何があったのか全て察する。

 

「賢伍......っ」

 

悲痛な声で俺を呼ぶ。ぺたりと地面に足と尻をつけ大事そうに両手で何かを包み込んでいた。赤い服、頭から離れた赤い帽子、近くには見覚えのあるハンマー型のデバイスが破壊された状態で置かれている。

 

「リィンがっ!.........アイゼンも......」

 

両手に包み込まれていたのは気を失っているのか力なく横たわるリィンの姿が。そして悲痛に叫ぶのはヴィータだった。何があったか......大体想像はついた。

 

「くぅ......うぅ!」

 

今にも泣きそうな.........いや、すでに瞳に涙を貯めてヴィータは呻き声をあげる。普段のヴィータとはかけ離れている状態だった。そして、ヴィータの両手の上で気を失っているリィンもいつもの元気な姿とは正反対で弱々しく感じた。...............2人を.........こうさせたやつがいる。その事実だけが頭に鮮明に響く。

 

「シャイニングハート.........」

SH『すでにサーチしています、残存魔力から追い掛けることは可能です』

 

まずい感情が沸き立つのが分かる。これに飲まれては行けないと理解している.........が、それに逆らわない。いつもここで歯止め役となる筈のシャイニングハートは進んで敵を追っていくれていた。つまり、俺がこれから起こす行動に異議は無いということ。

 

SH『捉えました。マスター......ぶちのめしに行きましょう』

「.........あぁ!」

 

デバイスにだって感情があるのだから。仲間がやられたら......デバイスも人も悲しみ、そして怒るのだ。落ちているヴィータの赤い帽子を深く被せてやる、涙を隠すように深く。そして2、3度ポンポンと頭を優しく叩いてから.........猛然と捉えた敵の元に跳んだ。敵もここから離脱しようと言うのか急いだ様子でどこかに飛び去ろうとしていた。そうは行かない、きっちりやられた分はやり返す!

 

「お前かぁぁぁああああああああ!!!」

「っ!?」

 

一瞬にして標的の真横まで移動し刀を振り下ろす。ガキンっと金属同士のぶつかり音が鳴り響く。咄嗟にそいつの持っている槍で攻撃を防がれる。

 

「くっ!」

 

苦し紛れな声をあげながら標的は一瞬に状況を理解し俺から距離を取る。こいつ……只者ではない。ヴィータを堕とした実力は本物だ。だが………

 

「ぶちのめす!」

 

既にその動きを予測していた俺には距離をとろうが無意味。だれも奇襲をかけられれば反射で距離を取ろうとする。人間の防衛本能が体にそう命じるのだ。警戒しながらならともかく完全に意表を突かれた形になれば体が勝手に反応する。そして、意表をつくために相手に感知される前にスピードで奇襲をかけたのだ。おかげで魔力はそれ相応に使われる。魔力量を考えると戦闘では絶対に使わないほどだ。だが、それ故に完璧な奇襲となった。

 

「ふっ!」

 

距離を取った標的に向かって俺は刀を槍のように投げた。切っ先は標的に向かって真っ直ぐにとぶ。距離を取った直後の俺の行動に標的は慌ててその手に持つ槍で刀を弾く。金属同士のぶつかりで一瞬火花が散った。

 

「なにっ!?」

 

その一瞬だ。火花が完全に消えると同時に俺は既に標的の横に移動していた。刀は投擲したため手元になし。が、代わりに右手には血管が浮き出るほどに力を込めた拳を作る。

障壁を作る時間も、動きを予測し避けさせる時間も与えない。単純にして速く、鋭い拳を

 

「おらぁぁああ!!」

 

ぶつける!

 

「ぐふっ」

 

殴られた相手は空中を数回回転しつつも墜落はせずに留まる。追撃を掛けたいところだったがここは素直に弾き飛ばされた刀の元へ移動し地面に落ちる前にキャッチする。

そしてそのまま切っ先を向ける。

 

「今の1発はリィンの分だ......そして...」

 

速影で相手との距離を詰めて刀を振るう。俺に殴られてもなお、敵は片手でリィンと同じサイズの自律型ユニゾンデバイスらしき少女を抱き抱えもう一方の手で槍を構えて俺に応対する。

だが、単純に両手で構えた武器と片手で構えた武器とじゃ自然と力の差は出る。

 

「こいつはヴィータの分だ!」

 

「がっ!?」

 

敵の槍を崩し隙を生ませ、今度は敵の顎に蹴りをいれる。刀を警戒していた敵は思わぬ所から攻撃を受けて先程と同じように空中を少し彷徨う。

 

「ちっ!」

 

が、俺の動きはそこで止まる。これ以上の追撃は体に悲鳴を上げさせるようだ。その証拠に速影の速度を無理に底上げさせたせいか足にズキンと痛みが走った。

 

「ぐっ、接近に気付くよりも速いとはな……」

 

敵の男は態勢を立て直しそう言葉を漏らす。変わらずに片手に赤髪のリィンと同じサイズの女の子を抱きかかえたまま。報告によればその子は確かアギトと呼ばれていた自律型ユニゾンデバイスだ。

 

「こんなもんじゃないぞ、ヴィータとリィンの借りはまだ返しきれてないからな!」

 

ここで逃しはしない、ぶっ飛ばしてから捕縛してやる。

 

「仕方ない……か」

 

敵の男……賢伍は名を知らないがゼストと呼ばれる男はそう呟く。まさかの遭遇だった、ルーテシアが慕っている闇の神崎賢伍と合間見えた時と同じ焦燥感だった。

全開ならまだ戦える、簡単にはやられたりはしない、ゼストにはその自信があった。実際にその通りでもあった。しかし、先ほどまで強敵と戦っていたゼストは多少なりとも消耗しなおかつ1人を庇っている状態だ。勝ち目はないし逃げることも無理だ。

相手の方が上なのだから、相手の方が一枚上手なのだから。だからゼストは下唇を噛んだ、相手が自分より上だという事実にではない、これから自分が行う行動にだ。

騎士と呼ばれる自分には些かプライドを傷付ける行動だがゼストはプライドよりアギトの安全を選んだ。

 

「光の英雄と呼ばれるだけはある、俺より一枚も二枚も上手か……流石はあの親子の子だ」

 

「…なに?」

 

ピクリと賢伍はゼストからの思わぬ言葉で構えを崩す。

 

「お前……一体何を知って……っ!」

 

問いかけ、隙が出来た賢伍にゼストは躊躇せず全速で全力で槍を仕掛ける。

 

「くっ!」

 

「光の英雄、俺はここで捕まるわけにはいかんのでな」

 

「待て!にがさねぇぞ!」

 

「俺に構っている場合ではないぞ!お前の居場所である機動六課……今頃は火の海だぞ」

 

「なっ……」

 

頭がくらっとする。刀を手放して落としそうになる。だめだ、これは……ダメだ。

 

「ふざけんな!六課を守ってる皆んなはそんなやわじゃねぇ!」

 

言葉はそう言ってるが頭ではいやな考えが浮かぶ。目の前にいる男が逃げるために言っているのだろうがどうにも嘘には聞こえない。

事実、機動六課からの連絡は途絶え……直前にはノイズ混じりの通信で襲撃を受けたとグリフィスからの報告があったのだから。

 

「信じる信じないはお前の自由だが……俺に構えば構うほど後悔することになるぞ………」

 

逃すわけにはいかない。こいつはヴィータとリィンを傷つけた。それだけじゃない。俺の母親と父親を知っている口振りだった。………聞きたいことが山ほど出来た、でも………。

 

「ぐぐ……ぐぅ………くそぉ!!」

 

俺はゼストを見逃し、機動六課の方角に向かって跳んだ。頭に浮かんだ娘の笑顔を失うわけにはいかなかったから。フェイト達が向かっているとはいえそこまで言われたら居ても立っても居られなかった。

 

「こちら神崎賢伍!ショウさん、応答を願う!」

 

『どうした!?』

 

通信無線でショウさんに繋げ。俺はこのまま六課に向かうと報告した。

 

「ワガママを言ってるのは分かってます!しかし……」

 

『いい、何も言うな……後は私達に任せるんだ』

 

『そうっすよ!光の英雄さん!水臭いじゃないっすか!』

 

『ここは僕達に任せて、神崎さんは早く!』

 

いつの間にか一緒に通信を傍受していたのかショウさんだけでなくショウさん部下たちにも励まされた。まったく……。

 

「すまない……恩にきます!」

 

背中を押された俺は全速力で六課に向かった。しかし、これは……この選択は…大きな間違いであったと気付かされるのは遠い未来ではなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






約半年ぶりとなった本編投稿です。遅くなっていまいました。とりあえず言い訳をさせていただきますと、よくある社会人になりましたってやつです。

書く時間がまったくないわけではありません。しかし、仕事から帰ってきてそれから執筆なんてするほど気合いとやる気も足りずこんなスローペースの速度になってしまいました。

正直、こんなに遅くなるくらいなら作品の展開を速くして完結させてしまおうかなんて考えていましたがやはりそんな妥協は自己満足で始めたこの作品でも許せず、こんな駄作にお気に入りや評価してくれている方々、意見や感想を述べてくれる方々、メッセージでわざわざ更新するかどうか聞いてくれる方々に対しては全力で自分の作品を読んでほしいですし、書きたいです。

ですので今後もこんなペースよ可能性もあれば徐々に環境になれて速いペースで送ることもできるかもしれません。皆さまとも今後書き手読み手の関係で繋がっていきたいと思っております、どうかよろしくお願いいたします。

そして、今日はこの小説が投稿されてから2周年となります、節目として気合いとやる気を入れ直し頑張りたいと思います。


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ツバサ

 

 

燃え盛る火の海。その火の中にまだ倒れんと耐えている六課の施設だったもの。しかし、それが崩れるのももはや時間の問題。ギシギシと音を立てて徐々に…徐々にそれは形を失う。

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

全てが燃えて崩れ去ると同時に頭を抱えた男の後悔の咆哮が木霊する。それは目の前の自分の居場所が無くなった悲しさと…何もかも……全てどころか1つも守れなかった男の魂の絶叫だった。

 

 

 

 

 

……………………………………………………。

 

 

 

 

時を、少し戻そう。神崎賢伍は全速で六課に向かった。ゼストへの無理な追撃のために速影を乱用及び無理やり加速度を高めた影響で少なからず魔力を消耗していたが、それに構わず全速で向かう。

 

「応答願う!こちら神崎賢伍、応答願う!………クソッ!なんで誰も出ないんだよ!」

 

六課に向かいながら通信を何人にも繋げていた。ギンガを探しているなのは班に先に六課に向かったフェイト班、そして六課の本部にも。どれも連絡が取れず焦りもさらに増していた。

六課本部は俺が通信を試みる前から通信が途絶えていたのは分かっていたし、なのは達は地下の探索だろうからたまたま条件が悪かったのかもしれない。まだ、言い訳は見つかる。しかし、フェイト達が誰も出ないのはきっと良くないことが起こっているのだろう。

空に飛んで向かっているのなら通信が繋がらないという事はないのだから。

 

SH『マスター!前方に魔力反応を確認、3人です。内1人は……』

 

「フェイトか!」

 

視認できる距離まで近づくと状況はすぐに理解できた。フェイトが2人の戦闘機人に対して闘いの真っ最中だった。フェイトなら2人相手でも遅れは取るまい。そう思っていたのだが、パッと見た感じ少々分が悪いようだった。

 

「くっ!」

 

表情を歪めるフェイト、まるで落ち着きのない急いでいるような闘い方だった。戦闘機人の1人は一度刃を交えたことのあるトーレと呼ばれた青髪の女性ともう1人は初めて見る、ピンク色の長髪にヘッドギアのようなものを付けた女性だった。

 

「セッテ!」

 

「はぁ!」

 

トーレに名前を呼ばれたもう1人の戦闘機人、セッテは呼びかけに応えるように手の平から魔力砲を打ち出しフェイトを牽制、その好きにトーレが接近戦に持ち込み仕掛ける。

 

「ぐっ!くぅ!」

 

フェイトは魔力刃をこしらえたバルディッシュで応戦するがすかさずに入るセッテのフォローで上手く反撃が出来ない。ならば!

 

「うらあぁ!!」

 

俺は3人の間に割り込む形でまずはフェイトに追撃を与えようとするトーレに突進しながら回し蹴りをお見舞いする。

 

「貴様は!くっ!」

 

頭を狙った俺の蹴りは上手く対応したトーレの両手のガードで防がれる。しかし、トーレはそのまま俺と距離を取って後退する。セッテも突然の来訪者に戸惑いながらも冷静にトーレの隣まで後退した。

 

「賢伍!?」

 

「ようフェイト、無事か?」

 

俺の問いにフェイトは大丈夫と頷いた。

 

「地上の防衛は?」

 

「他の部隊も復帰して合流してくれてな、その人達が戦ってくれている」

 

不測の事態がない限りショウさん達で大丈夫のはずだ。そうである事を祈るしかない。

 

「それで?エリオとキャロは?」

 

一緒に六課本部に向かったはずの2人の姿は見えない。

 

「2人は先に六課に向かわせた、賢伍もここに来たってことは六課の救出に来たんでしょ?ここは私が残るから先に行って!」

 

フェイトも先に行かせた部下でもある2人は信頼してるだろうが、やはり不安は募るだろう。だが、俺はその選択を迷った。

 

「そうは言うが、ここは2人で早く決着をつけて2人で向かうべきだろう。いくらお前でも2人相手は厳しい………」

 

本心はフェイトも心配になったこともある。それに、すぐにでもあの2人相手でも制圧する自慢があった。無意識に刀を握る右手はすぐにでも仕掛けられるように強く握られていた。

 

「賢伍、焦って正常の判断ができなくなってるよ。相手の戦闘機人をよく見て」

 

フェイトに内心を悟られたのかそう言われ素直に目を向ける。

 

「っ!」

 

自分の浅はかさに顔を覆いたくなる。トーレ、セッテと呼ばれていた2人はすでに身構えていつでも戦闘を始めれるよう準備していた。その目にはフェイト、そして俺を敵とみなし見つめている。特に俺に対してはフェイトよりも少し強い敵意の目をしている。

不覚にも、生唾を軽く飲み込む。あの目は、相手にも遅れは取られないと決意を固めた目だ。少なくともあんな目をした相手に俺は速攻を決めようと思った自分を恥じた。なんたる驕り、なんたる慢心。敵と言えども戦士に対する侮蔑他ならない。そして、速攻で決めれるなんて無理だ……勝てたとしても手こずるだろう。実力的にもそうだし、例のガジェットだってある。

 

「私は大丈夫。すぐに追いつくから……六課の皆んなをお願い」

 

「あぁ、分かった……」

 

ここで1番ダメなのは2人とも足止めされてしまうことだ。俺の天敵のガジェットなんか出されたら俺は足手まといになる。なら、そんなリスクを背負うより俺は先に向かった方がいい。

俺よりフェイトの方がずっと冷静だった。

 

「っ!」

 

目を見開き跳ぶ、道を塞ぐ2人の戦闘機人の頭上を抜く。

 

「しまっ……!セッテ!」

 

「はい!」

 

セッテが手を振りかざすと魔力で透明化され潜んでいた件のガジェットが俺に追いすがる。やはり、潜ませていたようだ。

 

「バルディッシュ!」

 

しかしそれは俺に続いて高速で移動していたフェイトによって一刀両断される。俺の魔力には恐ろしい対策を持っている代わりに、それ以外には並みのガジェットにも劣る。

以前の戦闘でエリオが示してくれた事だ。

 

「はぁ!」

 

そのままトーレとセッテに接近して仕掛けるフェイト。仕掛けられた2人は仕方なく迎撃。俺から視線が外れる。それを尻目に俺はそのまま六課に。

 

「……すまねぇ、フェイト」

 

その呟きだけを残して俺はさらにスピードを速めたのだった。

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 

「急げ!急げ!急げ!!」

 

魔力を限界まで高め、疾風速影の連続発動での移動。後のことを考えている余裕はなくただ、急いで六課の本部に急いだ。

 

「よし、見えてきっ…………!」

 

唖然とする。おかしい、あそこに六課の本部がある。俺たちの活動の場、その本拠地。稼働してからずっと皆んなと過ごしてきた思い出となる場所。

そこが今、赤く……赤くゆらゆらと揺れている。黒煙が立ちのぼり、陽炎を作る。燃えている、俺たちの六課が……燃えている。笑顔溢れていたあの場所がまるで地獄の業火の如く燃え盛っている。

 

「クソぉ!!」

 

まただ!また、間に合わなかった。ちくしょう、ちくしょう!!

燃え滾る火の手に突っ込む形で六課に突っ込む。降り立った所にちょうどぺたんと呆然と座り込んだキャロがいた。

 

「おい!キャロしっかりしろ!おい!」

 

顔を軽く叩いて意識を戻す。キャロはハッとしながら目に光を灯した。

 

「け、賢伍さん……」

 

泣いていた。大粒の涙をポタポタと地面に垂らしていた。さっきのヴィータの姿と重なる。自然と右腕が力んだ。

 

「六課が……エリオ君が……」

 

小さな呟きと共に俺に縋り付くキャロ。すぐ近くにエリオがストラーダを握りしめたまま横になって気絶していた。生きていた事に安堵しつつ、またも更に右腕が力んでいた。

 

「ごめん、遅くなって……ごめん」

 

左手でキャロを抱き寄せ頭を撫でる。しかし、キャロの涙は止まらない。止まりはしない。

 

「ここで待ってろ、中の様子を見てくる……」

 

一旦キャロを引き離し俺は走って六課の中へ。炎をものともせず突き進む、火を消している時間は無い。他の安否の確認を……。

 

「ザフィーラ!」

 

狼形態のザフィーラが傷だらけで倒れていた。抱き寄せる、息はある。しかし重症。

 

「シャマルさんっ!」

 

シャマルさんも同じく傷だらけで倒れていた。他のここの局員も、戦闘員だけでなく通信班も……皆んな無傷ではなかった。非戦闘員の方々までも。

 

「ヴァイス!」

 

倒れこむヴァイスを発見。すぐさま周りの火の手を遮り火が弱い場所へ。

 

「す、すいま……せん」

 

途切れ途切れながらもヴァイスは声を紡いだ。

 

「ヴァイス、喋らなくていい……今治療を……」

 

「ヴィヴィオ……連れてかれて……俺、守れなくて…」

 

その言葉に背筋が凍った。予感はあった。何でこのタイミングで六課が強襲されたのか。陳述会と同時の襲撃、狙いはなんだ?主力メンバーを欠いた六課になんの用があった?他に沢山の部隊があるなかで何故六課?

変わったことは無かったか?最近になって変わったことは?奴等が欲しがっているものを何度か奪い取っている。レリック、しかしその保管場所は六課じゃない。他に何が?そう、奴らは何故かヴィヴィオを保護したあの日、ヴィヴィオをつけねらっていた。

何故、町の破壊を主としていたガジェットが。無害であったヴィヴィオと雰囲気がよく似ていたあの女の子を追っていた?故障?襲撃中の故障?故障で顔認証に不備があった?似た人物を襲った?

 

「大丈夫だ、ヴァイス……俺に任せろ」

 

全て繋がった。しかし、時すでに遅し。俺はヴァイスに向けて笑顔を向ける。

 

「今はゆっくり休め……よく頑張ってくれた。無駄にはしない。お前が少しでも稼いでくれた時間は無駄にならない。そのおかげで俺はヴィヴィオを取り返せるからな」

 

「お願い……します………」

 

ヴァイスは再び目を閉じる。安全な場所まで運び、キャロの元へ戻る。

 

「キャロ、ここを頼む。皆んなに手当てを…応援が来るまで頑張ってくれ」

 

「は、はい……」

 

時間が惜しい、キャロを奮い立たせる言葉を考えてる時間もない。キャロが自分で気を持ち直すことを願って俺は跳んだ。

 

「シャイニングハート!分かってるな!」

 

『既に準備は出来ています、発動の宣言をマスター!』

 

目を見開き、息を吸い、叫んだ。

 

「シャイニングハート!リミッター解除、レベル2!!」

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで離れれば大丈夫でしょう」

 

炎上した機動六課から北東に数キロの空に飛ぶ5つの影があった。1人は一度賢伍とも刃を交えた戦闘機人のディード、同じく戦闘機人であるナンバーズ8、オットー。

さらに、その幼い見た目とはかけ離れた能力を持つルーテシアとその召喚獣であるガリュー。そして、ルーテシアが飛行用に召喚した召喚獣の上で気絶し横たわっているヴィヴィオの姿もある。

 

「後の始末はガジェット達がしてくれます」

 

ディードはそう言葉を紡ぎヴィヴィオを早く連れて行けとルーテシアを促す。彼女らが六課を襲撃し、ヴィヴィオを拉致した実行犯なのは明白だろう。ルーテシアはその言葉に頷くとガリューと共に転移の準備に入ろうとする。

2人の戦闘機人はガジェットに機動六課の本部施設にトドメを刺すためのプログラムの準備を。全員警戒を怠らず魔力感知は常に発していた。

抜かりは無かった。油断も無かった。自らの任務を安全に完了するため余念はない。

 

 

 

 

 

 

なのに、気づかなかった。

 

 

 

「っ!?」

 

ディードの背筋が凍る。表情が強張る。その場にいた全員動きが止まる。見えない何かの圧迫感、緊張する、心臓の鼓動が速くなる。落ち着かない、吐き気がする。何故、何故、何故!?

 

「動くなよ、余計な動きをしたら頭と胴体が離れるぜ」

 

何故!光の英雄が4人の誰にも気付かれずに接近しているのか!それどころかディードは首元に刀を突きつけられ、オットーはそれとは逆の手で顔を鷲掴みにされ動きを止められている。

 

「な、何で………」

 

オットーの呟きに、光の英雄はにべもせず答えた。

 

「俺が速いだけだ、お前達の能力不足じゃない。安心しろ、ただ速かっただけだから」

 

口調は軽やかだが、その言葉に感じる圧力は果てしなく重く感じるものだった。

 

 

 

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

そもそもリミッター解除の3段階の制限は単純に能力を3分の1ずつ制限されているわけではない。レベル1の段階で魔力、身体能力は開放はオマケであくまでメインの封じ手は砲撃魔法、『シャイニングブレイカー』だ。これの扱いのためのレベル1である。

そしてレベル2もとある魔法の解除を主とした封印でその魔法を使用するのに俺は魔力も自身の身体能力もフルに使わなければならない。そうしないとその魔法の負荷に耐えられないからだ。つまり、レベル2の解除の時点で俺は魔導士として、戦士としての身体能力は全力状態となる。簡単に言うならば『本気』を出せるのだ。

 

 

 

 

 

「俺が速いだけだ、お前達の能力不足じゃない。安心しろ、ただ速かっただけだから」

 

全速力で魔力を開放した疾風速影の連続使用。普段なら息は絶え絶えとなるが、身体能力を全開放した自分のスタミナは半端じゃないと自負している。19年間どれだけ走り込みを、トレーニングをしたと思っている。

 

「大人しく言う事を聞いてくれるなら、手荒な真似はしない。女の子を斬るような真似は避けたいんだ」

 

優しい口調を心がけるが端々に語気が自然と強くなってしまう。ヴィヴィオを拉致され敵への怒りと自分への情けなさを感じているが今はそれを抑える。感情で正常な判断を下せなくなるのは避けたい。本当ならこの速さで追いつき、奇襲でヴィヴィオをすぐにでも取り戻したかったが、情報ではルーテシアと呼ばれたあの女の子、あの子に付き従うガリューなる召喚獣がヴィヴィオに仕込み爪を突きつけていたのだ。直感というか野生の勘というか、とにかく迂闊に手は出せず仕方なく力の差を見せつけ戦意を削ぐ作戦に切り替えた。

 

「その子を、ヴィヴィオを返してもらう。そうすれば見逃してやってもいい」

 

「そう言って、貴方の言う通りにしたら問答無用で捕縛するんでしょ?」

 

誰も動けない中唯一ルーテシアがそう言葉を発してきた。中々どうして肝の座った子だ。

 

「さあな、どちらにしろ君もこの2人も他に手段はないと思うけどな」

 

「姿は瓜二つだけどやっぱりお兄さんと全然違うのね」

 

ルーテシアの言葉に俺は思わず眉をひそめる。俺もそこまで察しは悪くない。もう1人の、闇の俺の事を言っているのだろう。

 

「時間稼ぎのつもりならそれに付き合うつもりはないぞ。従わないのなら俺はこの力を行使する。お前達を捕縛しヴィヴィオも返してもらう」

 

少しでもヴィヴィオが傷つく可能性のある行動は避けたい。俺の提案に乗ってくれるのを祈るしかない。実力行使は最終手段だ。見逃すと言ったのも嘘ではない。だから、頼む。大人しく提案に乗ってくれ。

 

「選べ、俺の提案にかけるか……お前らにとって最悪の結末を望むか」

 

俺ももう我慢は出来ないぞ。頭は多少なりとも血が上っているのだ。

 

「貴方も譲れないのと同じで私も譲れないの」

 

ルーテシアはそう言ってデバイスを構えた。こいつにもこいつのなりの目的のためにか。心意気は、信念は買おう。幼いながらまるで感情がないような目付きをしていたが、どうやらそんな事はなかったようだ。しかし、ヴィヴィオは渡せない。

 

「分かった……」

 

そう言って戦闘機人2人の拘束をといて一瞬でルーテシアの前まで移動する。ガリューなる僕が間に入ろうとしていたが刀を持ってない左手で裏拳の形で頭部を殴打し隙を作る、そしてそのまま刀を峰打ちでルーテシアに向かって振り上げる。

ちょっと痛いだろうがしばらく眠っていてもらう!

 

「お嬢っ!」

 

状況にようやく気付いたディードは慌てて叫ぶ。しかし遅い。このままでは一瞬でこの化け物に制圧される、ディードは直感でそう感じた。

 

「っ!?」

 

 

ガキン!

 

 

 

ルーテシアに刀を振り下ろす直前、背後に悪寒が走った。殺気、ただの殺気じゃない。よく知っている気配だ。慌てて振り向き刀で受け止めると鉄と鉄がぶつかり合う音が響く。

 

「ようやく、その状態のお前と殺し合えるなぁ………待ちわびたぜ光の英雄…」

 

最悪のタイミングでこいつは登場した。まるで狙いすましたかのように。まるでこの少女を助けるかのようにそいつは現れた。

 

「失せろ、闇の俺…今はお前に構ってる暇はねぇ!!」

 

刀を弾き返しそのまま奴の横っ腹に蹴りを入れる。

 

「ぐっ!」

 

レベル2開放の影響で身体能力は全力を出せる。蹴りの速度も威力も今までとは異なる。闇はもろにそれを受け、仰け反る。その隙にヴィヴィオが載せられている飛行型の召喚獣の元へ移動し手を伸ばす。

 

「ヴィヴィオっ!」

 

指先残り数十センチの所まで迫るがヴィヴィオに触れるその直前に伸ばしていた手に激痛が走った。

 

「っ!」

 

二の腕に俺のバリアジャケットを貫通しそのままガリューの仕込み爪が突き刺さっていた。空中で血潮が舞い俺の動きが止まる。闇の出現で焦りすぎたか、横槍を許してしまった。

そして、その刹那の出来事で闇が体制を立て直し再び俺に斬りかかってくるのには十分な時間だった。

 

 

ガキン!

 

 

 

「くっ!」

 

痛みを堪えて体を捻りながら刀で応戦。その隙にヴィヴィオを連れたルーテシア、ディード、オットーは全速で戦線を離れ逃走した。

 

「待て!」

 

追いかけたくても闇がそれを阻む。奴に立ち塞がれては追い抜きさるのも一苦労だ。いつの間にか俺の腕に一発くれたガリューもルーテシアを追いかけ消えていた。

 

「どけ!どけよテメェ!!」

 

「クハハハハ!!随分必死だなぁ!そんなにあの小娘が大事か」

 

斬撃と斬撃の応酬で火花を散らしながら奴は笑う。嘲笑う。

 

「当たり前だ!大切な……」

 

浮かぶ、ヴィヴィオの笑顔が…ここ最近の楽しい日々が。無邪気に俺に向かって手を伸ばすヴィヴィオ、それに応えて抱っこして笑い合う。そうだ、娘なんだ。俺は父親なんだ、誰がなんと言おうとあの子は俺の娘なのだ。

 

「大切な家族を守れないで、光の英雄なんか名乗れるかぁ!!」

 

 

「ちっ!」

 

力を込めた一振りを見舞いそれを受け止めた闇は一瞬怯む。

 

「うらああああああ!!」

 

その隙に相手の腕を襟を掴み背負い投げの要領で海に向かって投げ落とす。

 

「っ!」

 

普段ならそんな大立ち回りを許してはくれないだろうが今の俺はレベル2解除をしている。身体能力も魔力も前回。力も速さも技術もこれまでで見せたことの無い領域なのだ。

水しぶきを上げて海に落ちた闇を一瞥もせずに足に魔力を込めて速影を発動する。この程度でくたばっちゃいないだろうが距離を開けてヴィヴィオを助けにいかないと。

ヴィヴィオを連れていった三人の位置はまだ掴めている。魔力を気にせず使えばすぐに追いつけるはずだ。

 

「っ!」

 

数十メートル速影で移動した所だった、闇を海に放り投げてから1秒しか経ってないこの時。一瞬で奴は俺の側面に回り込み刀を振り上げていた。

 

「隙だらけだぜ英雄さんよぉ!」

 

「何!?」

 

辛うじて刀で受け止めたが俺の足は止まる。早すぎる、いくらなんでも!

 

「ククク、驚くようなことか?この程度の速さで」

 

互いに距離を開けて構える。闇は心底楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

「お前がこれまでレベル2を使わなかったように、俺も今まで貴様に対して本気を出したことはなかっただけの話さ……お前だってそれくらいの事は分かってたろう?」

 

その通りだ。互いに全力を出した事は一度もない。状況や環境がそうさせなかった事が多かった。だが、それは俺の事情であって奴には関係のない事だ。

それでも奴は本気など一度も見せてこなかった、遊び感覚で戦われていたのは最初からわかっていた事だった。しかし、こうして目の当たりにされると思ったよりショックは大きい。今のでさえ奴は別段本気を出しているわけではないのだから。

 

「さぁ来い光の英雄、お前がどれだけ強くなろうと俺には勝てない。何度でもそれを教えてやるよぉ!」

 

両手を広げて挑発するように奴は言う。俺は軽く深呼吸をして心を落ち着かせる。焦るな、冷静になるんだ。………冷静になんてなれるか!

 

「うるせぇ!いいから道をあけろぉ!!」

 

ヴィヴィオが連れてかれてしまう。大切な娘が俺の手からこぼれ落ちてしまう。いやだ、そんなのは嫌だ。分析も、深い思考も出来ない、早くヴィヴィオを救い出したいという気持ちがすぐに俺の体全身に広がって行動を起こす。切っ先は不安定なれど、その斬撃には絶対に救うという想いを込めて。

 

「あけさせてみろぉ!」

 

刀と刀の応酬。火花散る2人の瞳には怒りの炎と底の見えない闇が灯っていた。

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 

「ほっほっほ、興味深い……」

 

とある場所。どこかの研究施設。巨大モニターに映し出された映像を見ながら白衣を着た老人が愉快そうに笑っていた。

 

「どこをほっつき歩いているかと思えば早速オリジナルと戦闘とは闇も血気盛んな奴だ……」

 

指先で魔力で構成されたキーボードを操作し、モニターを分割しそれぞれ別の映像に切り替える。1つは光と闇の戦い、1つは燃え盛る町々と逃げ惑う人々、1つはヴィヴィオを抱えて飛ぶ戦闘機人一行と様々だ。

 

「ジェイルも派手な事をする………久々にミッドチルダを観察してみればこんな面白い事になっていたとはなぁ」

 

くつくつと笑いながら老人は肩を揺らす。薄暗い部屋で1人笑う老人はどこか不気味であった。

その施設には様々な機材が置いてあるが異常な数のとある物が埋め尽くされている。

老人はゆっくりと歩を進めてそのとあるものの1つに近づき優しく撫でる。

 

「実験も順調に進んでいる……完成はそう遠くない……「S」計画は誰にも止められぬよ」

 

とあるもの……名を挙げるなら生体ポッドと言うものだろう、それが部屋の3分の2以上に埋め尽くされていてそれぞれに生気のない人の形をしたナニかが入れられている。

 

「ククク、そろそろ『レイン』も動く時かの………こちらも準備を進めておこう」

 

そう言って老人は部屋の奥へと歩き出す。一度立ち止まり、モニター流し見る。

 

「忌々しい神崎夫妻の息子よ………ワシを…このアーノルド・ジーマンを止められるかな?」

 

神崎賢伍が映し出された映像に向かってそう吐き捨て老人は部屋を出た。残ったのはモニターに映像の薄い明かりに照らされた大量の生体ポッドのみだった。

 

 

 

 

 

 

…………………。

 

 

 

 

 

「クソっ!クソォ!どけ、どきやがれこの野郎!!」

 

ただがむしゃらに闇に向かって刀を振るう、いわば突撃。距離が離れれば考えなしに突っ込み斬りかかる。とにかくこいつを早く倒さねばヴィヴィオを救い出せなくなる、既に時間はそれなりに経過している、これ以上は本当にマズイ。

 

「ふん!つまらねぇなぁ……その状態じゃ最初お前と刀を交えた時の方がまだマシだぞ?」

 

鼻でつまらなそうに笑いながら俺の刀を簡単にいなし一太刀浴びせてくる。

 

「ちっ!」

 

肩を少し掠めたがギリギリ回避、いつもなら距離を取る場面だが構わず俺は刀を再び振るった。

 

「つまんねぇって言ってんだろうがぁ!」

 

「がはっ!?」

 

しかし、それよりも早く奴の右膝が俺の鳩尾に入る。堪らずその場でうずくまり動けなくなる。

 

「はっ、こんな攻撃を許すとはな……頭に血を登らせて俺に勝てると思ってるのか?」

 

大きな隙が出来たはずだが、闇は追撃を行わず逆に少し距離を取った。しばらく戦闘を続けたが既に俺は重傷という怪我はないものの刀の生傷があちこちに出来ている。対する闇は目立った外傷はなかった。

 

「はぁ…はぁ……」

 

突撃ばっかり繰り返していたからか息も上がっている。闇の言う通りがむしゃらに戦って勝てる相手ではない。そんなことは分かっている。

しかし、どう律したくてもヴィヴィオの事が頭にちらつき正常な判断を阻害してくる。

 

『マスター……このままでは…』

 

「分かってるシャイニングハート……」

 

もうヴィヴィオを追いかけるのは難しい。既にシャイニングハートの探知可能エリアからは脱出されている。更に時間が経てばもう手遅れになるだろう。

 

「光の英雄ヨォ………今の貴様を相手するのはウンザリしてきた。しかし、ルーテシアに近づけさせないのが俺の仕事だからなぁ……そろそろ終わりにしよう……」

 

そう言うと闇は高度を上げて俺を見下ろす形に位置取った。

 

「安心しろ、殺しはしない………しかし瀕死になるかもしれんがな」

 

闇は真っ黒な刀の切っ先を俺に向け、ブツブツと何かを呟く。すると大気が揺れるような感覚を覚える。ドス黒い何かがその切っ先に大気を揺らしながら集まっている。

 

「収束砲撃……」

 

シャイニングブレイカーの対となる魔法。バレットも奴は発動できた、ならブレイカーだって使えるのは不思議じゃない。

だが重苦しく感じる魔力が俺の背筋を凍らせる。あんなのをまともに受けたら死ぬ未来しか浮かばない。

 

 

 

それはダメだ。死んだらヴィヴィオを助けれない。死ななくてもあれを受けて助けに行けるような状態を保てるなんて思えない。あれは、あの砲撃は何とか防がねばならない。

避けるのもダメだ、寧ろ避けれない。防ぐのだ、耐えるのだ。いや、かき消せ!

 

「ダークネスブレイカー!!」

 

高密度の闇の魔力を帯びた暗黒の砲撃が迫る。迫る、体が動けない。震えるほどの恐怖が身を包む。奴に恐れをなしたのではない、ヴィヴィオがいなくなる恐怖を想像した故。

 

 

 

 

………あなたの力はこんなものではないでしょう?

 

 

 

 

ふと懐かしさを感じる声が頭に響く。誰の声だろう、そんな疑問すら浮かばないほど俺にとって落ち着く響きだった。

 

 

 

「…………それは全てを照らす光」

 

口が勝手に言葉を紡いでいた。先程の声に導かれるように、呪文を唱える。使ったことは一度もない、効能も効果も知っている。しかし、使わなかった。代償があるとかそういう理由じゃない、ただ何故だろう………あまり安易に使ってはダメのような気がして使えなかった。

けど、今はそれを感じない………寧ろ使うべきだと。今こそ解き放つ時だと魂が叫んでいる。

 

「一切の邪悪を許さず、希望と平和の未来の礎となるが為………光と共に羽ばたかん!」

 

突然だが、闇と初めて対峙した時の事を覚えているだろうか?なのは達が俺を見つけて、俺と闇が分離する事となった全ての始まり。

あの時の奴の背中には黒い翼が生えていた。厳密に言うならばあれは生えているのではなく高密度の魔力体が翼の形を有しているだけなのだ。

 

あれ以降、闇はその翼を俺に見せた事はない。今まで一度もだ。あれはただの飾りじゃない。そう安易に使うものじゃない。闇もそれを感じているのだろう。だからあれ以降使わなかったのだ。そして闇も使えるその魔法、切り札となるその魔法。俺が使えないわけがない。

 

「光魔力展開!………『シャイニングウィング』発動!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、辺りは光に包まれる。その光は六課に燃え盛る町にヴィヴィオを連れ去るルーテシアの元まで届いた。暖かい、心地の良い光。それを浴びた人々は一瞬そんな感情を抱いた。

 

「ハッハハハッハハハハハ!!!そうか!貴様もついに使うか!それを!!ようやくだ、待ちわびたぞ我が光よ!!」

 

闇は笑う。目的は達成したと笑う。今まで1番心底嬉しいそうな声音で笑っていた。

そして、闇の砲撃はその光に包まれるように一切消えていた。何の音も衝撃もなく消えた。

 

「俺は光だ。光の英雄、神崎賢伍……」

 

光の高密度の翼が出現している。変化はそれだけ、翼としての役割などあるわけなくただそこにあるだけだ。しかし、それを目前にしている闇はわかる。それだけではない、全てが変わった。強さも、輝きも……。

 

「光の英雄は………伊達じゃねぇぞぉ!!」

 

その力こそ光の英雄と呼ばれる由縁。闇を祓い希望を掴み取る為の力。

 

 

 

全てを救う為に闘い続ける神崎賢伍の力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ハイというわけでお久しぶりでございます。

相変わらず稚拙で雑な文ですが温かい目で見てくれるとありがたいです。

エたる作者の作品なんか見れるかっ!と思われるかもしれませんが、メールでの催促や続投を希望してくれるメッセージが励みになりなんとか続けれました。ペースを戻せるよう頑張りますんで、これまでの読者様、そして新しい読者様、よろしくお願いします


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