あまり謙虚じゃない騎士と小さな覇王のイチャイチャ話 (佐鷹)
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アルティマニア リリカルファンタジー(設定資料庫)

ばっちゃんがいっていた。
この手の痛い二次SSにはこういう設定集的な物が必要だと。


■人物設定

 

●ロト=サンドリア

性別:男

身長:178cm

体重:70kg

年齢:13

一人称:「俺」

二人称:「お前」

所属:Stヒルデ魔法学院中等部1年生

スタイル:近代ベルカ式

魔導師ランク:未取得(魔力量:AA)

レアスキル:???

備考:古代ベルカの王の一人、『騎士王ブロント』の血を引く少年。

   典型的なベルカの騎士。魔法の才能はそこそこだが、剣術や体術に秀でている。

   姉と弟がいるらしい。

 

所有デバイス:

Coming Soon…

 

■地理設定

●サンドリア

古代ベルカの中に存在した小国の一つ。ベルカ戦争の際には聖王家について戦っていた。

ベルカが滅んだ際にほぼ全ての国民がミッドチルダの極北部…グラナダンの遥か北にある島(試される大地、と呼ばれるほど寒さが厳しい土地であり、元々は人が住んでいなかった)へと落ち延びている。

なお、現在でもその島は元サンドリア国民による自治区として認められている。

一応は古代ベルカ語を公用語としていたようだが、訛りが酷く、ネイティブにとっては非常に聞き取りづらいものであったらしい。



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序章。英語でいうとプロローグ

一体誰が得するんだよこれぇ


 深紅に染まった空の下、クラウス・G・S・イングヴァルトは、傷ついた己が体に鞭を打ち、覚束ない足取りで歩を進めていた。

 大地の至る所に亀裂が走り、また足の踏み場もない程に瓦礫が積み上がっている。体力は枯渇しており、そして足場は非常に劣悪。しかもその足場がじわじわと、真綿で首を絞めるかのように体力を削るという悪循環。

 それでも──クラウスは、歩き続けなければいけなかった。

 自らの大切な人を守る/止める為に。

 

 

 一体どれほど歩いただろうか。

 クラウスの眼前で燃え盛る、深紅の炎──その中から、一人の男がこちらに向かって歩を進めて来る。

 クラウスよりも頭一つ二つは大きい長身。髪は白銀の短髪。身に纏う騎士甲冑も同じく白銀。右手には漆黒の、禍々しい意匠の剣を携え。そして左手には、紫色の、豪奢な装飾を施された騎士盾が。

 その男の姿には見覚えがあった。何故なら、男はクラウスの、唯一無二の親友なのだから。

 

「…ブロン、ト?」

「…なにいきなり話かけてきてるわけ?」

 

 よく耳に馴染んだ、サンドリア訛りのベルカ語による返事。それは、姿形が似ている別人ではなく、紛れも無いブロント本人だという証左。

 

「…一体、何故君がここに…それよりも、その傷は…?」

 

 目を凝らしてみれば、ブロントの騎士甲冑は所々がひび割れ、そして体の至る所には大小様々な傷がある。自分ほどボロボロではないとはいえ、しかし常人ならば歩くことも叶わない大怪我であることは間違いなかろう。

 

「お前はばかすぐる俺はナイトなんだからつねに主の側に控えてるのは当然。傷はちょっとそこらで転んだだけだから心配しなくていいぞ(リアル話)」

「…君みたいに頑丈な奴が、ちょっと転んだ程度でそんなになる筈がないだろう」

 

 言って、彼の顔を見つめる。暫く交差する互いの視線。やがて、ブロントが気まずそうに視線を逸らし、

 

「…止めようと、思ったんだが」

「……」

「ちくしょう俺は馬鹿だ。主が間違ったことをしてても止められにいとかメイン盾失格でしょう?」

「…そう、か」

 

 悲痛な面持ちで言葉を紡ぐブロント。その心境はクラウスにもよくわかった。

 何故ならば彼も、ブロントと同じ──

 

 その時、大地が大きく脈動した。

 

「これ、は──?」

「…どうやら聖王のゆりかごが起動したようなんだがこうなってしまってはもうだめ。オリヴィエをたすけられる可能性は裏世界でひっそりと幕を閉じられた」

「ッ…ま、まだだ! まだ私は──」

 

 こんな所で歩を止めている暇はない。クラウスは最後の力を振り絞り、駆け出そうとして──

 

「メガトンパンチ!」

 

 ブロントのシールドバッシュで頬を打たれ、無様にも地面へと倒れ伏せた。

 

「が、ぐ……ブロン…ト……君、は…一体何、を…」

 

 全身に走る激痛を気合で無視しながら、クラウスは立ち上がり、そしてブロントを強く睨みつける。

 

「何をとか主に仕える騎士に対して愚問すぎるでしょう? クラウスが来たらバラバラに引き裂け、それがオリヴィエが俺に下した命令なんだが?」

「君は…それでいいのか?」

「……」

「君だって…オリヴィエを…止めようと…」

「うるさい…だまれ!」

 

 叫び、ブロントは右手の黒剣をクラウスに向け振るう。クラウスはそれを魔力を込めた右腕で受けた。

 鈍い衝撃が全身の傷に響き、思わず顔を顰めた。

 

「やめろ! こんなところで君とやり合っている時間は──」

「黙れと言っているんだが。どうしても通るつもりなら──」

 

 再び、交差する二人の視線。

 そして──

 

「ッ…そこを退け、ブロントぉぉぉぉぉぉ!!」

「お前…ハイスラでボコるわ…」

 

 戦いの火蓋は、切って落とされた。



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01

 ──なんか、変な夢を見ていたような気がする。

 そんな感覚に首を傾げながら、Stヒルデ魔法学院中等科一年生──ロト=サンドリアはゆっくりと学院の中庭に備え付けられたベンチから身を起こした。

 まだ若干寝ぼけた頭を振りながら、校舎の壁にかかっている時計を見る。次の授業が始まるまでにはまだ幾らか時間があった。

 

「…うーん。さすがに二度寝するには足りんが、かといってほかにやることもないしな。どうしたもんか…」

「でしたら──」

 

 唐突に、ロトの後方から響く、凛とした少女の声色。

 それを聞いたロトは、実に嫌そうな、心底うんざりしたような顔を浮かべながら、ゆっくりと後ろを振り向く。

 

「今日という今日こそは、決着を付けていただきます」

 

 薄い緑がかったブロンドの長髪。ロトよりも頭一つ二つは小さい小柄な体躯。非常に高いレベルでバランスの取れた顔つきの中で、紫と青のオッドアイが圧倒的な存在感を放っている──そんな美少女が、ロトのことを、強い意思を秘めた瞳で見つめていた。

 

「…またお前か、アインハルト」

 

 アインハルト=ストラトス。『ベルカ王家の末裔』としての正式なフルネームは、ハイディ・E・S・イングヴァルト。それが少女の名前だった。

 

「ええ、また私です」

 

 ロト=サンドリアは、数年前、まだ初等科にいた頃に初めてアインハルトとクラスメイトになった日から、毎日のように彼女に粘着される日々を送っていた。

 なんでも、アインハルトの先祖である『覇王イングヴァルト』とロトの先祖である『騎士王ブロント』の間には並々ならぬ因縁があるそうで、ことあるごとに『決闘だ』だの『決着を付けよう』だの宣ってくるのである。

 ぶっちゃけご先祖様のことには全くもって興味のないロトにとってアインハルトの存在は、平穏な学園生活をぶち壊すイレギュラーでしかない。最初の数年は、まあ自分も血気盛んなお子様だったということもあり普通に付き合ってやっていたが、それが何年も続くとさすがにうんざりしてくる。

 

「…だから、先祖の因縁だかなんだか知らんけどさ。そういうのを持ちだされてもこっちとしては困るだけだって、何度言ったら理解できるんかね?」

 

 ゆったりとした動作でベンチから立ち上がると、ロトはアインハルトの方をしっかりと向き直し、先程まで座っていたベンチを挟む形で彼女と正対した。

 自分よりも遥かに大柄なロトに睨みつけられ、しかしアインハルトは欠片も物怖じせずに言葉を紡ぐ。

 

「貴方にとってはそうかもしれません。ですが、私は──」

「覇王…クラウス・G・S・イングヴァルトの記憶がある…んだったっけ? まったく、難儀なもんだねぇ。ベルカが滅んでから何百年も経つっていうのに」

 

 こんな言い草だが、ロトにだってベルカ王家の末裔である自覚はあるし、次期当主として、騎士王家の名を次代へと繋いでいかなければならない、という覚悟も持っている。

 しかし、何百年も前の因縁に縛られ、そしてそれに固執するアインハルトの行動原理については理解ができない。いや、心情は判らんでもないが、しかしもうすでに過ぎ去ったことにいつまでも拘ったところで何の意味もないだろうと、彼は考えていた。

 

「……」

「……」

 

 しばし、無言のまま視線を交差する二人。何分ほど時が流れただろうか、先に折れたのはロトの方だった。

 なんか前にもこんなことがあった気がするなぁ…なんて心中で呟きながら、重々しくため息をつく。

 

「…はぁ。わかったよ。さすがに今から始めたんじゃ授業に間に合わなくなるし、放課後になったら運動場に集合な。立会人は…ソル先生で問題ないな?」

「…ええ。ありがとうございます。では、また放課後お会いしましょう」

 

 ロトの言葉に小さく頷き、そして踵を返して中庭から去っていくアインハルト。

 表情から感情をうかがい知ることは出来なかったが、しかしその足取りは普段よりも(付き合いの長いロトでなければわからない程度に)幾らか軽やかであり、どうやら決闘の約束を取り付けられたことを喜んでいるらしかった。

 アインハルトの姿がすっかり見えなくなったところで、ロトはどこからか取り出した缶ジュースを口に含みつつ呟いた。

 

「また放課後って…お前、俺と同じクラスだろうがよ…」

 

 ジュースは春の陽気ですっかり温くなっており、思わずロトは眉を顰めた。



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02

 結論からいうと、結局今日の模擬戦──という名目の決闘、あるいは果し合いはお流れとなった。

 放課後、二人は当初の予定通り、学院でも随一の武闘家としても有名な教師であり、ロトが所属する剣術部の顧問でもあるソル先生に話を通しにいったのだが、

 

「面倒クセェ」

 

 の一言で一蹴されてしまったのである。何度頼み込んでもどこ吹く風。終いには「目障りなんだよ、消えろ」という言葉とともに、力づくで部室から叩き出されるハメになった。

 ならばほかの先生を…と思い職員室に向かったのだが、なんの偶然か模擬戦の審判・立会人を務めることが出来る先生は全員用事で外出中。

 そんな訳で、ロトとアインハルトの二人は、なんとなく釈然としないといった表情を浮かべながら、並んで通学路を歩いていた。

 特にアインハルトは見るからに不機嫌そうなオーラを醸し出しており、横を歩くロトは恐る恐る、チラチラと彼女の顔を伺っている。

 

「あの…アイン、ハルト、さん?」

「…なんでしょう」

「…いや…なんでもない」

 

 …こりゃあ明らかに怒ってるわ。

 そう結論づけたロトは、とりあえず頭が冷えるまで放っておくことにしよう、と、口を閉じた。

 互いの無言のまま、ひたすらに家へと向かって歩を進める。

 

(…しかし)

 

 アインハルトに気取られぬよう、こっそりと横顔をチラ見しながらロトは思考に耽る。

 

(こいつが『覇王』の記憶を持っていて、その『覇王』と俺の先祖である『騎士王』との間に因縁があったとはいっても、さすがにこの粘着っぷりは度を過ぎてる気がするんだよ、な)

 

 そして、今の彼女が取っている態度。確かに決着をつけるチャンスはふいになった。だが、模擬戦をやる機会はまだまだ幾らでも転がっている。

 聡い彼女ならそんなこと百も承知であろう。だというのに、この怒り様は…

 

(…うーむ、女心ってのは判らんな。姉貴もそうだが、本当に女ってのは謎めいた生き物だ)

 

 頭をポリポリと掻きながら、ロトはとりあえず思考を打ち切った。

 それとほぼ同じタイミングで、アインハルトがぽつりと口を開く。大分気も落ち着いたのだろうか、その口調は幾分穏やかなものとなっていた。

 

「…いつも」

「……ん?」

「いつも、迷惑をかけて、ごめんなさい」

 

 唐突な謝罪の言葉。何を言ってるんだこいつは、と思いつつもロトは返答する。

 

「別に。もう慣れっこだから構わねーよ。ってかそれ以前に、迷惑だって自覚してるならやめなよ」

「…すみません。だけど、この因縁についてだけは、どうしても譲ることができないんです」

「……」

「それに…」

「それに?」

「あ…い、いえ。な、なんでもありません」

 

 頬を朱に染めながら、頭をブンブンと振り回すアインハルト。

 彼女の突然の奇行に目を丸くしながら、ロトは改めて

 

(やっぱり、女心ってのはよく判らんわ)

 

 などと考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校を発った当初に比べれば幾らか和らいだ雰囲気の中、二人はぽつりぽつりと他愛のない世間話をしながら歩いていた。

 

「やっぱり大皿に載った唐揚げにレモン汁をかけるのはアウト…ですよね」

「まあそりゃそうだろう。別にかけること自体は個々人の好きにすりゃいいと思うが、苦手な奴もいるっちぇことを理解しないといけにいのは確定的に明らかなんだが…おおっと」

 

 ついうっかり故郷の訛りを出しちまった、とロトは悔しげな表情を浮かべる。長年に渡る矯正の結果、今でこそ大分流暢にミッド標準語を操ることができるようになったが、今でも気を抜くとこのザマである。

 ミッドに留学してきた当初、今よりも大分訛りが酷かった頃には、よくクラスメイトに後ろ指を指されて笑われたものだ。そんな苦々しい記憶を思い出して悶絶するロトに対して、アインハルトの表情はやけに穏やかだ。微笑さえ浮かんでいる。

 そんな彼女の態度が若干癇に障り、ロトはアインハルトにジト目を向ける。

 

「…なんだよ?」

「え? …ああ、いや。なんだか、懐かしいな、と思って」

「懐かしい…? あぁ、なるほど。クラウスの…」

「はい。…ところで、ロトさん」

「ん?」

「…いえ、やっぱりなんでもありません」

「……?」

 

 ロトがアインハルトの言葉に首を傾げていると、アインハルトは誤魔化すように「ほ、ほら。着きましたよ」と声を荒げる。

 どこに? と思って周囲を見渡すと

 

「…あぁ、俺の下宿先か」

「で、では私はこれで…」

「あ、ちょっと待て」

「あ、え?」

 

 そそくさと、逃げるように駆け出そうとしているアインハルトに待ったを掛ける。そういえば、彼女に一つ聞いておかねばならないことがあったのだった。

 

「こないだ、局に勤めてる姉貴に聞いた話なんだけどさ…」

 

 そこで、一息。本当に聞いてもいいものか一瞬だけ悩んだ後、そして再び口を開いた。

 

「なんでも、『覇王』の名を騙る通り魔が最近出没してるって話だが…お前、何か心当たりはあるか?」

「…………いえ、なにも。では今度こそ私はこれで。失礼します」

「…あぁ、また明日な」

 

 ゆっくりと、無表情を顔に貼り付けながら立ち去るアインハルトの後ろ姿を眺め、ロトは呟く。

 

「…相変わらず、嘘が下手くそだな、あいつ」

 

 まあ、俺も人のことは言えんがね。そう嘯きながら、彼は下宿先であるアパートの敷地内へと入っていった。



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03

自分の文才をなさが怖い(リアル話)
俺はこのまま骨になる


 最初は、覇王と騎士王の因縁に決着をつけることだけが目的だった。

 それが、いつからだろう。

 何度か拳と剣を交える内に、過去の因縁とは関係なしに、『彼』と戦うことそのものに悦びを感じている自分自身に、私は気付いてしまった。

 その感情が、一体何に由来するものなのか。…その答えが出るまでに、そう時間は掛からなかった。

 そう、私は──

 

 だけど、その想いを彼に伝えることは出来ない。

 少なくとも今は──そう。私の中に眠る、覇王の無念を晴らし、覇王流こそが古代ベルカ最強の流派であるということを証明するまでは──

 だから──

 

 

 

 

 

 

 ゲームセンターで遊んだ帰り、春とはいえまだ肌寒さの残るミッドチルダの夜道を、ロトは一人歩いていた。

 

「…ったく、何が『200円やるからすぐやめろ』だっつーの。別にどんな風にプレイしようが人の勝手だろうが」

 

 その表情は見るからに不機嫌そうであり、歩調もどことなく荒々しい。その手に握られている、先程購入した缶ジュースが、彼の握力によってギシギシと嫌な音を立てている。

 ロトは若干形が歪んでしまっているジュースの封を開けると、やけ酒を呷るように一気に中身を飲み下し──そして、盛大にむせ返った。

 

「ご、ごほっ…ごほ…う、うげ…ちょ、ちょとsYレならん…何だ、この味…」

 

 どうやら買うジュースを間違えていたらしい。

 口に広がる微妙な味わいと、鼻に突き刺さる強烈な刺激臭。それのおかげか多少は頭が冷えたようで、ロトは小さくをため息をついてから辺りを見渡し──

 

「…あん? ここは…どこだ?」

 

 怒りに任せて歩いたせいだろうか。全く見覚えのない道を、ロトは進んでいた。

 辺りを見渡しても人は見当たらず、それどころか開いている店すら見つからない、いっそ惚れ惚れするくらいの寂れっぷりだ。

 

「…また怒りが有頂て…ああいや、キレて周りが見えなくなった…ってことか」

 

 先祖代々伝わる病気のようなものらしいけど、どうにかならんもんなのかね──とうんざりしたような口調で言う。

 

「あの意味不明な方言といい、覇王とやらとの因縁といい、何でこう…厄介なもんばっかり残していきやがるんだかね、うちのご先祖様は」

 

 …こうやって独り言を続けていても仕方がない。ロトはそう結論づけると、とりあえず大通りに出てみるか、と踵を返そうとして──

 

「…ん?」

 

 馴染みのある人影が少し離れた所を歩いているのが視界に入った。

 

「あれは…アインハルト?」

 

 何であいつがこんな所に、と訝しみながらも、

 

「…とりあえず挨拶くらいはしておくか」

 

 と、ロトは彼女の方に向かって歩を進める。

 

「おーい、アインハルトー」

「…ロト、さん?」

 

 少し近づいた所で名を呼ぶと、どうやらあちらもこちらに気づいたようで、軽く顔を上げながら名を呼び返してきた。…普段よりもやや張りのない声で。

 ん? と首を傾げながら、もう少し距離を詰める。…心なしか、表情もなんだか苦しそうに見える気が…

 

「…どうした? なんか調子が悪そうだけど…」

 

 あまり見たことのない彼女の様子に少々戸惑いながらも、ロトは更に声を掛ける。

 だが──

 

「…おいィ? アイン…」

 

 答えは、返って来なかった。

 

「! お、おい!? アインハルト!?」

 

 唐突に──まるで、糸の切れたマリオネットのように、力なく崩れ落ちるアインハルト。

 その姿を見たロトはカカッっとダッシュしながらアインハルトに近づき、慌てて彼女の体を抱き起こした。

 

「おい! アインハルト! しっかりしやがれ!」

 

 声を荒げ、何度も彼女の体を揺する。が、アインハルトは目を覚まさない。

 一体どうすれば──と、狼狽するロト。

 人の気配のない裏通りに、彼の叫び声が木霊した──



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