やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。 (AIthe)
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やはり俺がISを動かせるのは間違っている

青春とは嘘であり、悪である。

 

青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺き自らを取り巻く環境 を肯定的にとらえる。彼らは青春の二文字の前ならば、どんな一般的な解釈も社会通念も捻じ曲げてみせる。

彼らにかかれば嘘も秘密も罪科も失敗さえも、青春のスパイスでしかないのだ。仮に失敗することが青春の証であるのなら友達作りに失敗した人間もまた青春のド真ん中でなければおかしいではないか。

しかし、彼らはそれを認めないだろう。すべては彼らのご都合主義でしかない。結論を言おう。

 

青春を楽しむ愚か者ども、砕け散れ。

 

なんて思ってた時期が僕にもありました。こんな作文を書いて提出してみれば、「生き遅れ 何歳から」とか「婚活 千葉」なんて検索していてもおかしくない平塚先生に愛の暴力を振るわれ、奉仕部とかいう雪ノ下に罵倒されるだけの部活に入る羽目になった。

それから由比ヶ浜が来てクッキーと言う名の大量殺人兵器を生産したり、天使(戸塚)のテニス部を手伝ったり、天使と挨拶したり天使とお喋りしたりもう俺戸塚と結婚するわ。

 

そんなこんなである日。俺の通う総武高校で男子にのみ、IS適正検査が行われる。ISとは世界最強のパワードスーツ型の兵器である。詳しくは知らないが、その兵器は女性にしか扱えず、世界に四百機程しか存在しないらしい。

この兵器の登場により男女のパワーバランスは崩壊し、世界は女尊男卑が当たり前になった。が、そもそも女子と話さないぼっちの俺には無関係。ぼっち最高。

では、何故男子にIS適正の検査をするのか。

答えは簡単。つい最近、世界初の男性IS適正者が見つかったからだ。テレビや新聞のメディアはそれを大きく取り上げた。たしか織m‥‥織なんとかさんだった。我が愛しの妹小町とテレビを見ながら、「この人顔もイケてるし、モテるんだろうねー。」なんて話をしていた記憶がある。ああもうリア充爆ぜろ。

 

「はい、次の人。」

「あっ、ひ、比企谷八幡です。」

 

「あっ」てなんだ「あっ」て。八幡緊張しスギィ!

まあ、織なんとかさんみたいな例外(イレギュラー)もあるだろうが、俺みたいな善良な千葉県民にISが反応する訳がない。あ、そういえばISを初めて作った篠ノ之博士も千葉県民だったわ。案外関係があるのかもしれん。

俺は男心をくすぐる見た目をしたパワードスーツに、恐る恐る手を伸ばす。

すると、突然そのパワードスーツが光を放ち始め───

 

「ISが反応した!?」

「し、至急連絡を!」

「ヒキタニくんマジパネェー!」

「ヒキタニくん‥‥なんで‥‥‥」

 

武者を模った灰色の装甲が、俺の全身に纏わりついていた。

 

女性にしか反応しないISが、俺に反応してしまった(意味深)。これはマズイ。

 

俺はどうなっちまうの?教えてエロい人‥‥‥‥‥あと小町‥‥‥‥‥

 

───2───

 

その後、テンプレ的な黒服の方々に両腕を掴まれ、これまたテンプレ的な黒いリムジンに乗せられた。

高一の始めに似たような車に轢かれた事を思い出し、少しだけ顔を顰める。

隣には平塚先生が深刻な面持ちで座っている。きっと婚活の事で悩んでいるんだ。うん、そうに違いない。むしろそうであれ。

 

「比企谷。なんかすまんな。」

 

「某パズルゲームプロデューサーのみたいなこと言わないで下さい先生。俺は大丈夫ですよ。」

 

全然大丈夫じゃないですマジ助けて下さい。

ISが動かせちまったせいで、明るい未来(専業主夫)が見えない。マジ深淵見えちゃう。このシナリオは虚淵さんが担当なのかな?

 

真面目な話をすると、俺は家族が───特に小町が心配だ。二人目のISを動かした男性として俺もメディアの注目を浴びることになるだろうが、その被害が小町に加わるかもしれない。親は大人だから問題はないだろうが、小町はまだ学生だ。この数十分だけで俺がここまで疲弊しているのに、小町がそれに耐えられるとは思えない。

 

「‥‥比企谷。お前は優しいな。」

「人の心配してないで、先生は結kグフゥ!」

 

愛が重いです先生。死にます。結婚できない理由がわかった気がします。

 

「‥‥恐らく妹の事が心配なのだろうが、私に任せておけ。教員としてではなく、私個人がお前の為に、お前の妹の事を見ておいてやる。」

 

完全に見通されている。平塚先生はこんなに優しいのに何故結婚できないんだ‥‥誰か貰ってあげてよぉ!

 

「で、俺はどうなるんですか?」

 

研究所のモルモットとかになったら死ぬ。物理的にも、精神的にも。

もしかしたら、どこぞの劣等生の様に魔改造されるかもしれない。俺は妹への愛以外の感情がない的な?あの劣等生も千葉県民なのか?もうこれわかんねえな‥‥‥‥

 

「あの織斑一夏と同様、お前もIS学園に入学する事になるだろうな。それも明日から。」

「はぁ‥‥IS学園‥‥‥‥‥」

 

名は体を表すというが、まさにその通りだ。IS搭乗者を育てる学園。以上。

ということは、生徒は女子ばかりという事になる。いやー、ハーレムだ嬉しいなぁ(棒)。

確実にストレスで死ねる。次の日に発作を起こし、冷たくなった比企谷八幡が見つかるレベル。

余談だが、IS学園は東京にできる予定であった。が、空いている土地の少なさとか様々な事情があり、千葉に建てられている。これ千葉県民キレてもいいよね?東京ディスティニーランドもそうだけど東京都民千葉に色々押し付け過ぎ。俺が新世界の神だったら拾った黒色のノートに名前書き連ねちゃってる。

というより千葉県色々あり過ぎだろ。ディスティニーランドにIS学園、お兄様もいらっしゃるなんて‥‥なかなかできることじゃないよ(白目)

 

「毎日連絡するからな。」

「結構です。」

 

怖えよ。毎日とか愛が重いよ。愛が重い‥‥結婚ができない‥‥あっ(察し)

 

「そんな顔をするな。雪ノ下にも由比ヶ浜にもまた会えるさ。」

「‥‥‥‥そうですね。」

 

二人の顔が脳裏をよぎる。

俺は車に揺られながら、先生に今の顔を見せぬように俯いた。

 

───3───

 

今日のところリムジンで贅沢な帰宅をした俺は、帰り際平塚先生に肩を叩かれ、「ガンバレ」と励まされてしまった。なんで結婚できないんだ(三度目)。

というか帰宅するならリムジン乗った意味無いよね?

家に入ると両親と小町が玄関で待っており、何故か歓迎ムードを出していた。おかしい。こんなの絶対おかしいよ。

色々事情を説明して、現在比企谷家の居間。今日の事を小町に相談していた。

 

「と、いうわけなんだが小町。」

「うんうん、つまりお兄ちゃんのお嫁さん候補が増えるってことだね!あ、今の小町的にポイント高い!」

「話聞けよ。」

 

話聞いてないとかお兄ちゃん的にはポイント低いです。なんなのこの妹、兄の悲劇に心の底から嬉々としてるんだけど。

 

「でも、IS学園って全寮制だから小町登校するの面倒になっちゃうな。」

 

お兄ちゃんは登校に便利な自転車程度にしか思われていなかったのか‥‥‥絶望した!

 

「あ、お兄ちゃんホーシブはどうするの?」

「奉仕部な。そりゃあ、辞めるしか無いだろ。」

「ほうほう‥‥‥」

 

あそこは案外気に入っていたのだが、仕方がない。まあ、雪ノ下も由比ヶ浜も、俺が総武校から去って数ヶ月もすれば関係も切れてしまうだろう。所詮、部活動なんてそんなものだ。

だが、小町は疑わしげな表情を俺に向けてくる。まるで、飲み会を残業と偽る夫に「今日どこに行ってきたの?」と問い詰める妻のようだ。小町は俺の奥さんだったのか‥‥いや、俺には戸塚がいる。(戸塚と結婚する事を)強いられているんだ!

 

「最近のお兄ちゃん、とっても楽しそうだったよ?」

「そんな事ないぞ。俺はいつでも楽しく人生を送ってる。むしろ楽しくない人生を送っていないまでである。」

「ふーん、お兄ちゃんがそう言うならそれでいいけど。部活の人を大事にしなよ?」

「へいへい。」

 

なんだか面倒になりそうなので会話を適当に流し、砂糖たっぷりのヌルいコーヒーを喉に流し込む。

 

「じゃ、そろそろ荷物準備するわ。もう明日からIS学園に行かなきゃいけないからな。」

「うん、小町も手伝ったげる。」

「いいって。受験勉強でもしてろ。」

 

そう言い残し、考えたくもない明日からの生活の準備の為、俺は自分の部屋に戻った。

 

「お兄ちゃんがいない総武校なんて‥‥‥‥‥」

 

そんな小町の呟き声が聞こえた気がしたが、俺にはそれを聞き届ける勇気がなかった。

その夜、準備を終えた俺は、逃げるように布団に潜り込んだ。




次話から頑張ります。


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だから、比企谷八幡は怒り狂う。

前話に書いておきましたが、IS学園は千葉県にあります。
織斑兄妹も千葉県民です。
よって、篠ノ之姉妹も千葉県民です。

今回は、八幡に人間味をもたせてみました。コレジャナイ感が強いと思いますが、よろしくお願いします。


と、言う訳で翌日が来ちまったよ‥‥

朝5時頃に我が愛しの妹に叩き起こされ、荷物を持って玄関に出ると、昨日のリムジンが迎えに来ていた。だからリムジン嫌いだっての‥‥‥‥

柔らかいソファに腰掛けてぼんやりすること数十分。思ったよりも早くIS学園に着いてしまった。

一言で表せば、デカい。無茶苦茶デカい。幕張メッセかと思っちゃったぜ。

IS学園の前にはガタイの良い数人の警備員と、黒スーツ姿の女性の姿があった。どこかで見たことのある顔だ。

 

「はじめまして‥‥と言っておくか?ようこそIS学園へ。」

「は、はじめまして。比企谷八幡です。」

「私は織斑千冬だ。お前のクラスの担任でもある。」

「お、織斑千冬!?」

 

織斑千冬。その名を知らぬ者はこの世界にいないだろう。

第一回IS世界大会、通称モンド・グロッソの総合優勝及び格闘部門優勝者。公式戦の記録は全戦無敗。その美貌と実力より、「プリュンヒルデ」と呼ばれ、世界で慕われ続けている。

少し前に現役を引退したのはテレビで報道されていたので知っていたが、まさかIS学園の教師となっていたとは思いもしなかった。

あ、テレビってのはチバテレビな。ここテストに出るから。

 

「ど、どうも。出会えて光栄です。」

「ふふっ、思ってもいないことを口にするんじゃない。全く、君は前任の担任に聞いた通り、根性の曲がった人間なのだな。」

 

世辞を神回避された。なんなの?回避性能+2なの?モンハンなの?

しかも平塚先生何しでかしてくれてんだ。なんか笑ってるしもう明るい未来が見えない。あっ、元々でしたねすいません。

 

「まあ、ここで根性の曲がった事をしていたら私がお前を叩き潰す。わかったな?」

「ハ、ハイ‥‥‥」

 

あっ、世界最強に目をつけられた‥‥‥死んだな(確信)。

小町‥‥お兄ちゃんが死んだ後はベットの下は漁らないでね‥‥‥‥

 

「よろしい。私の事は織斑先生と呼べ。」

「わかりました、織斑先生。」

「ふむ。では、お前の寮室に向かいながら色々尋問するとしよう。」

「えっ、あの、ハイ。」

 

ここ学校だよね?海軍とかじゃないよね?この時点でこの先生きのこれない希ガス。ちょっと首吊ってきます。

 

「では、そうだな───」

 

───2───

 

「ええっ!ヒッキーがIS学園に転校!?なんでですか!?」

「お、落ち着け由比ヶ浜。会えなくなった訳じゃないんだ。」

「そうよ、少し落ち着きなさい由比ヶ浜さん。」

 

比企谷八幡のIS学園への転校。世間ではまだ発表されていないが、職員室では大騒ぎとなっていた。

扱いとしては、親の用事で転校という事になっている。彼の担任である私は、彼が所属していた奉仕部の部員には本当の事を伝えるべきだと思い、部屋の扉を叩いた。

それで伝えたのはいいのだが、予想以上に由比ヶ浜が動揺している事に、私の方が驚いた。あいつ自分の事ぼっちって言ってたよな?ん?

 

「どういう事ですか?」

「かくかくしかじかと言う訳でだな。」

 

事情を説明すると、雪ノ下は苦虫を噛み潰したかのような顔をする。あれ?この反応おかしいぞ。おっと、目から汗が‥‥‥

 

「それは‥‥仕方がありませんね。」

「で、でもそんなのおかしいよ!だって‥‥だって‥‥‥‥」

「これは国の決定なんだ。二人とも、すまない。」

「いえ、先生は何も悪くありません。本人も別にどう思ってる訳でもないでしょうし。」

「ゆ、ゆきのん!?」

「そうでしょう。だって、比企谷くんはこの学校が好きだった訳でもない。違うかしら?」

 

雪ノ下の言う通り、確かにあの男はこの学校が好きな訳ではなかっただろう。だが、彼はこの部活の事が嫌いじゃなかった筈だ。それは、この目の前の少女も同じだ。

あの男も、雪ノ下も、どちらも自分に素直になれない。捻くれ者で、誰よりも純粋な、自分の道を求める人間だ。だからこそ、私は雪ノ下を正してやらねばならない。

 

「それは違うな、雪ノ下。」

「‥‥‥ちなみにどこがどう違うのですか?」

「比企谷自身の事ではない。お前は、あの男を気に入っていただろう?」

「‥‥‥おっしゃってる意味がわかりません。何故私があの目の腐った男を気に入らなければならないのですか?」

 

ムッとした表情。やはり、こいつもまだまだ子供だ。

 

「お前は比企谷を拒まない。それが答えだ。」

「平塚先生。確かに私は彼を入部させましたが、それはあなたの頼みだったからです。」

「それは論点のすり替えだな。私が聞いているのは、お前が比企谷を拒むか拒まないかの話だ。」

「‥‥‥‥‥」

 

雪ノ下雪乃という人間は嘘をつかない。だからこそ、彼女の行動は読みやすい。彼女の思いも、その信念も。

 

「まあいい。取り敢えず比企谷の電話番号を教えといてやろう。煮るやり焼くなり好きにしろ。」

「‥‥‥‥‥」

 

メモ紙を書き残し、私は奉仕部を立ち去ろうとした。

 

「平塚先生。」

「なんだ?」

 

私の背中に声がかかる。

 

「‥‥‥ありがとうございます。」

「‥‥‥ああ。」

 

全く、どいつもこいつも素直じゃないな‥‥‥‥

 

彼女らの方を振り向かず、今度こそ私は奉仕部部室を後にした。

 

───3───

 

あの後織斑先生に様々な事を尋m‥‥聞かれ、弟をよろしくと頼まれた。テレビで話題の織なんとかさんは織斑だったのか。織斑家とISは深い関係♂にあるのか(困惑)。これもうわかんねえな。

部屋は入れ替えがあるらしく、荷物は織斑先生に預けた。

なんてことがあって現在、俺はIS学園1年1組の扉の目の前に立っている。

 

「ほら、入ってこい。」

 

いや入って来いじゃねえよ殺す気なの?確信犯だよ絶対‥‥‥‥

扉の向こうにはハーレムな世界が広がっている。いや、織斑先生の弟がいるから厳密にはハーレムではないのか。

どっちにしろ、俺のような人間が女衆の中に突っ込んだらそれこそ発狂物だろう。俺も嫌過ぎて発狂する。

あ、ちなみに俺は高二。ここ1年1組。後はわかるな?でも、こんな状況だって覆せる。そう、iPhoneならね。

 

「おい。」

「はっ、はい。」

 

扉を開く。疲れやら緊張やらでガチガチな身体を動かし、織斑先生の横に立つ。女子の目線が痛い。特にクロワッサンみたいなの吊るしてるやつ。あいつこわい。

 

「こいつは新たな男性IS適性者だ。おい、自己紹介をしろ。」

「ひ、ひき、比企谷はちみゃん‥‥です。」

 

噛んだ死にたい。今ならハイウェイ・トゥ・ヘル使える気がする。詳しくは「ハイウェイ・トゥ・ヘル ジョジョ」でググって、どうぞ。

 

「こいつはISについて右も左も分からないトーシロだ。お前ら仲良くしてやってくれ。」

 

なにこの姉御やだ惚れちゃう。

 

「お前の席は窓側、一番後ろだ。」

「わ、分かりました。」

 

なにそのベストプレイス。この先生俺の事知り過ぎだろ。平塚先生何やってんだ。俺の事なんて心配してないで早く結婚しろ結婚して結婚して下さいお願いします。

席に着く途中、前席に座っていた男、織斑弟と目が合ったが、すぐに目線を外して自分の席に着いた。

 

───3───

 

やべえ、授業全然わからん。なんだよあの、ぱっしぶいなー‥‥‥いなー‥‥‥なんだっけ?

まあいいや、初めての授業終わったし寝よ。もう疲れちゃったよ小町‥‥‥‥

 

と言う訳で、総武校にいた時と同じ様に耳にイヤホンを着けて机に突っ伏していると、不覚にも邪魔が入ってしまった。

 

「おい、おーい。」

「‥‥‥‥‥‥」

 

男の声。恐らく織斑弟の声だろうが、無視だ無視。俺は疲れているんだ。あとリア充とは関わりたくない。

 

「寝てるのかな‥‥‥」

「一夏さんが挨拶しているのに返事をしないなんて‥‥‥無礼にもほどがありますわ。」

 

ひでえ。寝てる人に向かって無礼とかひでえ。いや寝てないけどね?

 

「私のブルー・ティアーズで叩き起こしましょうか?」

「いやいやそれは死ぬだろ。」

 

俺の知らない間にこの二人が俺の運命決めちゃってるよ。俺の命は小まt‥‥いや戸塚のものだ!戸塚結婚しよう!

 

「ん‥‥‥なんだ?」

 

白々しく今起きました風の演技。演技もできるとか八幡SUGEEEEEEE!!自画自賛だけどSUGEEEEEEEEE!!

 

というより俺を褒める人なんていなかったわ(絶望)。

 

「俺このクラスで男子1人だったからヤバかったんだよー。」

 

性的な意味でですねわかりません。

軽々しく話しかけてきた織斑弟は、爽やかスマイルをこちらに向けてくる。すごい葉山臭がする奴だった。

 

「俺は織斑一夏。よろしくな。」

「わたくしはセシリア・オルコットですわ。以後お見知りおきを。」

「あ、はい。よろしく。」

 

適当に挨拶をし、再び机に突っ伏す。

 

「お、おい?」

「色々あって眠いんだ。」

「そ、そうか‥‥‥‥」

 

よっしゃ、葉山と違って諦め早くてうれしいぜ!俺の目に狂いしかなかった!濁りもあった!

濁りは旨味。つまり俺の目玉は旨味だったのか(動揺)。

 

「まあ、初対面の人の挨拶も適当に返すなんて人としての品格が知れますわね。」

「あーはいはいすいません。」

「なんですのその口の利き方は!?」

 

品格なんてねえよ。ぼっちにそんなもんある訳ねえだろ。

この時、俺は珍しくイライラしていた。家という安息の場所を奪われ、その上奉仕部の二人とも会えなくなってしまった。特に小町。

暫く小町と会えないというのは、俺の鋼の心にも響くものがある。

だから俺はこの時、こんな反応をしてしまったのだろう。

 

「ふん。こんな様子じゃ、ご家族も同じようなダメ人間なのでしょうね。レベルが知れていますわ。」

 

今なんて言った?俺の家族がダメ人間?

俺の視界が真っ赤に染まり、何がに乗っ取られたように狂い出す。

 

「あ?今俺の家族の事なんつった?」

 

この瞬間、俺を縛っていた何かが切れた。

 

───4───

 

こ、この人怖すぎますわ!ど、どうしましょう‥‥‥‥

 

「おい、もう一回言ってみろ。なんつった?」

「ひいっ!そ、その‥‥‥」

 

最初は、この男も一夏さんのように素晴らしい人である事を機体しておりました。しかし、現実はそうではなく、酷く濁った眼をした見るからにひ弱そうな少年でしたわ。わたくしは少し失望すると共に、人は見た目で判断してはいけないと思い、声をかけました。

そしたらなんと、この男。まともに挨拶する事もできませんでしたの。わたくし少しだけ‥‥‥少しだけですわよ?少しだけイラっときてしまい、彼の事を小馬鹿にしてみましたの。でも、芳しい反応はありませんでしたわ。

私はこの時、「ああ、この男はわたくしが最初に思っていた“あの男”と同じ、誰かの陰にコソコソと隠れる事しかできない能無しなのですわ。」と思ってしまったのです。

そして、何を思ったのかわたくしは立ち去り際に文句を言ってやろうと思い、彼の家族の事を馬鹿にしてしまいましたの。

それで現在に至りますわ。正直怖いですわ。織斑先生の比じゃありません。

 

「聞いてんのか!?」

「き、聞いておりますわよ!」

「‥‥‥‥もう話しかけてくんな。」

「い、今なんと?」

「俺に話しかけんな!二度と近寄らないでくれ!」

「お、おい比企谷。流石にそれは酷いんじゃ‥‥‥」

 

そう言い捨て、一夏さんの制止を無視し、彼は早歩きで教室から出て行こうとする。わたくしは彼に悪い事をしてしまった事に気付き、小走りで追いかけようとします。ですが、それよりも早く彼が手にかけた教室の扉が開きました。

 

「おい、比企谷。何をやっている?」

「‥‥‥‥‥‥」

 

扉を開けた人物は、一夏さんの姉。世界最強の人物。織斑先生でした。

 

「‥‥‥答えないつもりか?」

「‥‥‥調子が悪いので早退します。」

「‥‥‥ふむ。大体の事情は読めたぞ。おい、オルコット。」

「ひゃ、ひゃい!?」

 

突然の声掛けに声がひっくり返ってしまいましたわ。

 

「一週間後、こいつと模擬戦だ。」

「!?先生。俺はそんな事「比企谷。お前は黙ってろ。」

 

織斑先生は彼をギロリと睨み、こちらに視線を向けてきました。

 

「オルコット。こいつに代表候補生というものを教えてやれ。」

「わ、分かりましたわ。このセシリア・オルコット。織斑先生の「御託はいいから返事!」

「は、はい!」

 

織斑先生の計らいによって、わたくしとあの男が模擬戦をする事が決まりました。

この件、わたくしが全面的に悪いとは思っています。後で、謝つもりでもいます。

しかし、それとこれとは別です。

 

わたくしは一夏さんの時のように慢心をしません。徹底的に潰して差し上げますわ。

 




どうして八幡は怒ったの?
急にIS学園に移動させられ、奉仕部の連中に別れも言えず、小町とも離れ離れになってしまい、心が参ってしまった所に、セシリアが爆弾を投下したからです。
個人的な解釈ですが、比企谷八幡という人間は妹のを心の拠り所としていたため、馬鹿にされたら怒ると思い、こういう描写を取らせてもらいました。

感想、評価等よろしくお願い致します。


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それでも、比企谷八幡は立ち上がる

感想、評価等ありがとうございます。

一応はチェックを入れているつもりなのですが、誤字脱字等ありましたら指摘をお願いします。


結局俺は早退し、寮の自室で一人反省会を開く羽目になった。苛立ちと後悔の念が俺を襲い、それから逃げるように布団に潜り込む。

確かに俺は自分でもわかるほどにイライラしていた。あまりの環境の変化に耐えきれなかったのかもしれない。そういう意味では、あの金髪クロワッサンには悪い事をした。

だが、それと家族を馬鹿にした事は別だ。多分、俺がイライラしてなかったとしても、家族を馬鹿にされれば怒っていただろう。

だから、俺は俺自身に失望していた。自分の心の強さには自身があったのだが、所詮はそれも俺の大嫌いな“上っ面”でしかなかった。自分がどれほど薄っぺらい人間かが、嫌という程わかってしまう。

早く家に帰って、カマクラでも抱いて小町と話をしたい。あの俺の唯一の居場所を、俺から奪わないで欲しい。

 

「‥‥‥ん?」

 

ボストンバッグの中から、ケータイの振動音が聞こえてきた。ゴロゴロと転がり、のそーっとした動きで携帯を取り出す。着信はスパム‥‥じゃなくて由比ヶ浜だった。電話番号なんて教えたっけ?

 

「はい、もしもし。」

「も、もももしもしヒッキー!?」

「声でけえよ、どうした?」

「ヒッキー元気かなーって。」

 

こんな時でも、由比ヶ浜結衣は素直だ。素直な女の子ってのは素敵で、魅力的だ。こいつも、俺にはないものを持っている。

 

「ああ、ぼちぼちってトコだな。」

「そ、そっか。ほ、他の女の子に手出したりしてないよね!?」

 

なにこの子無自覚に彼氏に言う台詞見たいなの口走ってるの女の子ってこわい。

 

「ふっ。初日から机で寝ているエリートぼっちの俺には関係のない話だな。寧ろこっちが話しかけてもクラスメイトが後ずさりするまでである。」

「ヒッキーマジキモい‥‥‥」

 

罵倒された。うわぁ、グサっときたわー(棒)。

 

「俺がキモいのなんて常だろ。」

「つ、つね?」

「いつもって意味だ。やっぱり由比ヶ浜はアホの子だな。」

「アホの子じゃないし!ヒッキーキモい!」

 

自然と笑い声が出る。俺が求めていたのはこれだったのかもしれない。俺は、奉仕部が、あの二人の事が───

 

「ねえ、ヒッキー。」

「‥‥‥どうした?」

 

由比ヶ浜の声色が、突然真面目なものになる。そして、彼女の口から衝撃的な告白を聞く事になる。

 

「い、一年生の時、ヒッキー車に轢かれちゃったじゃん?あの時の犬、私の犬なの。」

「‥‥‥‥‥‥」

 

高揚していた俺の思考が一瞬にして冷める。

視界がぐるぐると回る。ズキズキと胸が痛み、ケータイを握る手に力がこもる。

 

「その、今まで言い出せなくて‥‥‥ごめんね?」

 

冷え切った俺の思考は、俺にとって最善の───最悪の判断を下す。

 

「由比ヶ浜。」

 

俺は、あの奉仕部の関係が好きだった。葉山のグループのような、仮初めの何かで固められた、ハリボテではないと信じていた。

 

「もう、俺に優しくしなくていい。」

 

だが、現実はそうじゃなかった。優しい由比ヶ浜も、負い目を感じているから、こんな俺に優しくしてくれたんだ。

 

「負い目を感じているなら、もう気にしなくていい。」

 

あの関係は全部、全部───偽物だったんだ。

 

「もう、俺に話しかけなくてもいいんだ。」

 

俺の手が、力なくだらりと垂れ下がる。ケータイから響き続ける騒音を電源ごと切断し、その辺に放り投げた。

 

脳裏に、一年前の光景が映る。

飛び出す犬。それに反応しきれない黒光りする高級車。追いかける飼い主。ブレーキをかける車。走り出す俺。

 

もう、何も考えたくない。俺はそのまま、朝方まで眠りについた。

 

───2───

 

「お兄ちゃん‥‥‥どうしたんだろう‥‥‥‥‥」

 

突然ですが、小町はお兄ちゃんが心配です。あの一人じゃダメダメなお兄ちゃんが、IS学園でやっていけるわけがないのです。

気が気じゃなくなってしまったので、小町は電話をかける事にしました。

でも、何回かけてもお兄ちゃんは電話に出ませんでした。何時もなら、小町がドン引きする位に早く出てくれる筈なのに‥‥‥

結局、小町が待っていても電話はきませんでした。

 

もう諦めて寝よう。そう思い布団を被ると、居間から電話の音が鳴りました。小町は急いで下に降りて、電話に出ました。

 

「もしもし、こちら比企谷です。」

「夜分に失礼します。八幡君の担任の織斑と申します。こちらは「お、お兄ちゃんになんかあったんですか!?」

「お、落ち着いて下さい。妹さんですか?」

「は、はい。小町は妹です。」

 

織斑と名乗る担任の先生からの連絡でした。心配と動揺が入り混じって、小町の心臓はバクバクです。

 

「ご両親はいらっしゃいますか?」

「いえ、もう寝ちゃいました。」

「そうですか‥‥‥では、ご両親に伝えて欲しいことがあるのですが、よろしいですか?」

「あ、メモとるんで待ってください‥‥おっけーです。」

「はい。実は───」

 

話を聞くところによると、ゴミ‥‥‥お兄ちゃんは早速クラスの子と喧嘩してしまったそうなのです。担任の先生は、お兄ちゃんが入学試験を受けていないのでどれ程上手くISが使えるのかを見るいい機会だと思い、ISの模擬戦で決着をつける事に決めたそうです。

でも、平塚先生からお兄ちゃんは頑張らない人間だと聞いているから、どうすれば努力するの?みたいな内容でした。

 

「お兄ちゃんが努力‥‥‥ありえませんね。」

「そうですか‥‥教師が一方的に問題を押し付け、やれと言うだけでは何も身に付きませんし、私も教師として責務を果たしているとは言えません。生徒にやる気を出させるのも教師の務めなのは重々承知をしていますが、八幡君の置かれている状況は世界に二人だけの男性IS適性者という、世間から注目を浴びざるおえない状況です。それに、IS学園は実質女子校なので気苦労も多いと思います。できればご家族の方から助言をいただき、可能な限り八幡君に望ましい形で環境を整えてあげたいと考えていたところなのですが‥‥‥」

 

お兄ちゃんが頑張れる方法。小町のちょっとだけ足りない頭をフル回転し、考えてみました。お兄ちゃんがどんな人間かという事は、小町が一番良く知っているのです。

そして、一つの案が思いつきました。

 

「そうですか‥‥あ。明日、お兄ちゃんと連絡を取る事はできますか?」

「はい、学園内の携帯電話の使用は許可されていますので、登校前の朝や放課後なら問題ありません。」

 

お兄ちゃんやっばり無視してたんだ。ポイント低いなぁ‥‥

 

「ですが、こういう話はご両親に「いえいえ、小町はお兄ちゃんの事を一番分かっているのです。お兄ちゃんの問題は小町におまかせください!そうだ、説得してダメだったら小町に電話して下さい。あ、学校行かなきゃいけないんで、朝八時くらいまでにお願いします。電話番号は───」

「え?あ、はい、はい。確認ですが───ですね。分かりました‥‥‥もしお願いするときは、よろしくお願いします。」

「いえいえ。うちの兄が迷惑かけてすいません。」

「いえ、八幡君も急な環境の変化に戸惑っているだけだと思います。勿論、IS学園教師一同は八幡君の事をできる限りバックアップするつもりではありますが、本人も高校生という多感な時期でありますので‥‥‥ご家族の方も色々とご苦労がおありとは思いますが、できる範囲でよろしいので気にかけてあげてください。ご両親にもよろしくお伝えください。」

「はい、分かりました。じゃあ、よろしくお願いします。失礼しまーす。」

 

社交辞令を済ませて、受話器を元の場所に置きます。

小町はケータイの音量を最大まで引き上げ、不機嫌モード全開でドテドテと部屋に戻りました。

 

───3───

 

由比ヶ浜結衣は焦ってしまった。話すべきタイミングと、その内容。比企谷八幡という人間への理解が足りず、間違えを重ねてしまったのだ。

翌日、彼女は奉仕部に向かい、雪ノ下雪乃に相談した。

 

「ゆきのん。私はどうすればいいのかな‥‥‥‥」

「由比ヶ浜さんは悪くないわ。悪いのはその車であって、貴女ではないもの‥‥‥」

 

何故か、雪ノ下の声が暗く沈む。

 

「比企谷君も色々あって疲れているのでしょう。今度、私から連絡を取ってみるわ。」

「ごめんねゆきのん‥‥‥‥」

「いえ、比企谷君の矯正は奉仕部の活動の一環なのよ。だから、貴女が謝る必要はないの。」

 

二人しかいない部室に静寂が訪れる。ぽっかりと空いたその椅子は、どこか寂しさを漂わせる。

 

「そ、そういえばゆきのん。ヒッキーなにやってるんだろうね?」

「エロ谷君はきっと女の子に鼻を伸ばしてるに違いないわ。」

 

由比ヶ浜結衣は、その沈黙を破ろうと懸命に話を続ける。

それに呼応するように、雪ノ下雪乃は二人の関係の修繕について思考する。

 

きっと、彼らにはこれからも間違い続ける。それは悲しくて、痛くて、辛いものなのだろう。それでも、彼らはそれに手を伸ばそうとする。例えそれが最善とはいえず、この関係を壊してしまう危機に陥ったとしても。

 

「ヒッキーはへんたいだからなぁ‥‥今なにやってるんだろ‥‥」

「そうね。気にならないといえば嘘になるわ。あの男が女子校もどきに送り込まれた絵なんて想像できないでしょう?それに、あの友達いない歴=年齢の眼をした彼が上手くやっていけるとは思えないわ。」

「ヒッキー本当はいい人なんだけどな‥‥‥‥‥ちょっとキモいけど。」

「ちょっとどころじゃないわよ。世界‥‥‥いや、宇宙規模ね。」

 

だから、由比ヶ浜結衣は彼がいない奉仕部を辞めることはない。いつか、想いを彼に伝えられると信じて。

 

───4───

 

現在朝の五時。

眼が覚めると、隣のベットに寝間着姿の女生徒が寝ていた。一人部屋じゃない事に絶望した!確かにベットは二つあったけどほら、男子だし?間違いが起きないように一人部屋でもいいじゃん?

それにしても、本当にホテルのような部屋だ。なんというか落ち着かない。壁掛け時計もなんかオシャレ(笑)だし、ベットもふわふわだ。目の前には織斑先生が立っているし───は?

 

「どうしておりむぐっ!?」

「静かにしろ、ちょっとこい。」

 

先手を取られた。圧倒的‥‥敗北感っ‥‥‥!

織斑先生に睨まれコクコクと頷くと、首根っこを掴まれて外まで連れ出された。首痛い死ぬ痛いマジ痛い。戸塚助けて!

 

「ここまでくれば大丈夫だな。」

 

俺の首は大丈夫じゃありません。眼だけじゃなく首も濁ります。でも俺のソウルジェムは濁らない!ダイヤモンドも砕けない!

 

「おい、聞いているのか。」

「すいません全然聞いていませんでした。」

「‥‥もう一度言うぞ?昨日の事だ。」

「ああ‥‥それがどうかしたんすか?」

 

せっかく忘れていた事を思い出し、気分が悪くなる。前言撤回。ソウルジェム濁るわ。魔女化待った無しですわ。

 

「ほら、比企谷。お前って入学試験受けてないだろ?だから無理矢理模擬戦という形で解決させてもらった。」

「あ、まあ、はい。」

 

やだこの先生最低。なにその無理ゲー。人生っていうリセットできないゲームくらい無理ゲー。あれ初期ステにばらつきがありすぎだろ。俺の眼のステータスどうにかしろよ。修正はよ。あと詫び石はよ。

 

「だから、オルコットを倒してくれ。」

「なんか話飛んでません?」

「いやぁ、あいつ入学早々日本を敵に回すような発言をしてな。あれでも少しは丸くなったんだが、もう少し落ち着かせたいのでな。」

 

あれより気性が荒いとか最早ヒステリックの域だろ。おんなのここわい。

 

「はぁ、それを俺に?」

「ああ。個人的にも弟を馬鹿にした事が気に食わんのでな。」

 

うわぁ、この人ただのブラコン教師じゃないですかやだー!!!

 

「そうですか。ですが、お断りさせて頂きます。」

「‥‥‥‥そう言うと思ったよ。」

 

俺はやらねばならない仕事は迅速に終わらせて全力で休むが、やらなくてもいい仕事は絶対にやりたくない。あれ?俺にしては凄いまともな考えだ!

 

すると、織斑先生はおもむろにポケットを弄り、ケータイを取り出した。そして、ぽちぽちと画面に触れて電話をかける。

 

「もしもし。はい、担任の織斑です。朝早くすいません。」

 

不覚にも、この先生敬語使えるんだと感心してしまった。くやしいでも感じ(ry

 

「はい、よろしくお願いします‥‥‥ほら、比企谷。」

 

渋々電話を替わる。さて、どんな人と電話する羽目になるのか。考えるだけで胃がキリキリする。

 

「もしもし!ゴミいちゃん!?」

「ファッ!?ここここ小町!?」

 

電話の相手はマイスゥィートシスター小町だった。あ、ちなみにマイスウィートエンジェルは戸塚な。これだけは絶対に譲れない。

てか織斑先生なんで小町の電話番号知ってるんだ怖えよ。先生!プライバシーが息してないです!

 

「昨日なんで無視したの?」

「無視?なんの事だ?」

 

ウーン、ハチマンワカンナイ。

 

「電話でなかったでしょ!小町は激おこぷんぷん丸なのです!」

「ああすまん、電源切ってたわ。」

「もう、ゴミいちゃんは‥‥‥」

 

小町の大きなため息。ため息つくと幸せが逃げるんだぜ!でも俺がため息をつくと女の子も逃げるんだぜ‥‥‥

 

「そういえばお兄ちゃん。今度模擬戦やるんだって?」

「一応な、まあ勝てるわけなんてないけどな。」

「ふーん‥‥‥努力しようとも思わないの?」

「ああ、働いたら負けだからな。」

 

働きたくないでござる!働きたくないでござるぅ!

 

「どうせお兄ちゃんの事だから、負けてもいいと思ってるんでしょ?」

「もち、さすが我が愛しの妹だ。」

「でも、負けたら小町は悲しいな‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

 

そう言われるとぐうの音も出ない。ぼっちとしての俺の信条は、「押してダメなら諦めろ」だ。だから、基本的には諦める方針で行きたい。

だが、ぼっちは誰にも迷惑をかけず、誰も傷つけず、全ての責任を自分で背負う。それこそ、比企谷八幡が比企谷八幡である所以であるのだ。

だから、小町が傷ついてしまうと言うならば、俺は諦める事ができなくなる。諦めるとなれば、俺は自分自身に嘘をつく事になる。

 

小町は俺の事をよくわかっている。口八丁で言いくるめようとしても、それは無意味なのだ。

 

「だから‥‥‥小町の為に、世界でいーちばん強くなってくれない?」

「おいちょっとまて。」

 

シリアスになるかと思ったら全部ぶっ壊しにきたよこの子。世界一とかナチスの科学力かよ。

 

「えー!小町の言う事が聞けないの?」

「そう言われてもな‥‥‥」

 

昨日の事を思い出す。あの金髪クロワッサンが小町を馬鹿にした事を。

俺は、俺自身が馬鹿にされても構わない。だが、俺の家族を馬鹿にする事だけは絶対に許さない。

それに、俺は内心努力は必要だと分かっていた筈だ。世界で二人だけの男性IS適性者。そうなれば、いつどんな危険が自分に迫ってもおかしくない。

だが、俺はその問題から目を背け、逃げようとしていた。いつも通り、いつも通りと自分に言い聞かせ、努力をしない理由にしようとしていた。

そんな俺に、小町は行動する理由を与えてくれた。だから、俺は───

 

「‥‥可愛い妹のお願いなら仕方ないな。」

「うんうん。可愛い妹のお願いだもんね。」

 

す、少しだけなんだからね!べ、別に小町のために努力するとか、全然そんな訳じゃないんだからね!




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いつでも、織斑千冬は思考し続ける/それだから、相川清香は落胆する

ラウラが現れるまでノーヒロインなので、ISのモブキャラを登場させました。もちろん、奉仕部の二人はまた出てきます。


小町との電話を終え織斑先生にケータイを返すと、“イイ”顔をされた。いい顔ではない。“イイ”顔である。大事な事なので二回言いました。

これからは妹を通して色々頼まれる未来が見える。これもシュタインズゲートの選択‥‥?

 

「そうだ比企谷。お前今日具合が悪いだろう?」

「‥‥!‥‥‥そうですね、とっても具合が悪いですね。」

 

突然、織斑先生はよくわからない事を言い出す。数秒遅れて俺も反応し、面白おかしいやりとりを続ける。

 

「今日は休むといい。」

「そうさせて頂きます。」

 

「お、そうだ。」と言い、先生はわざとらしく手を打つ。

 

「そういえば、今日は第四アリーナを使う予定がなかったなー。おっと、どこかに訓練機貸出承認書を落としてしまった。まあいい、仕事に戻るとするかー。」

 

織斑先生の出席簿から手書きの申請書が滑り落ち、そのままどこかに去っていった。俺はそれを拾い、綺麗に畳んでジャージのポケットにしまう。

 

織斑先生がここまでお膳立てしてくれたんだ。後は、俺がどれだけ頑張るか。それだけだ。

 

───2───

 

比企谷八幡。前任の平塚先生から聞いていた通り、厄介な生徒だ。ただ無意味に捻くれているだけなら物理的に叩き潰すのみなのだが、そうなったのにも色々理由があるらしい。私は教員として未熟なのでその辺は分からないが、こういう生徒に力で指導するのは逆効果な気がする。

 

「織斑先生、おはようございます。昨日の事、しっかり反省してますか?」

「おはようございます。分かってますよ、次から気をつけます。」

 

職員室で適当に挨拶を交わし、椅子に腰掛ける。

話を戻すと、確か比企谷は妹の事を馬鹿にされて怒ったらしい。やはり、ただの捻くれた無気力症患者ではなかったようだ。

今ペルソナ3思い出した人、放課後に先生のところに来い。これは命令だ。

 

と、いうわけで、私はあの比企谷とかいう捻くれ者を鍛え上げたいのだ。一夏は前向きだしそれなりに向上心もあるから問題はない。だが、あの男は注意をしても全くやらないだろう。それどころか、こちらを舌論で負かしてきそうだから困る。私はそういうのが苦手なんだ。口を使うのは別の奴がやればいい!

 

そして、やる気のない女生徒なら放っておいてもそれは自己責任となるだけだろう。しかし、世界に二人しかいない男性IS適性者となれば話は別だ。

いつ、どこで、どのようにその身が狙われてもおかしくないのだ。本人にそれを伝えたところで、現実味が無さ過ぎて耳を貸すとは思えない。

 

そこで、私はオルコットと模擬戦をやらせる事で解決する事にした。妹を馬鹿にした相手だ。さすがに比企谷も努力をするだろう。あんなにお膳立てもした事だしな。

そして、あわよくばオルコットを倒して欲しい。弟を馬鹿にした事をお姉ちゃんは根に持っているのだよ。千葉の兄弟、姉妹、姉弟、兄妹は愛し合っているのだよ!ソースは私だ。

そして、負けたとしても比企谷に悔しいと思ってもらえるだろう。妹の事を想えば、自衛できるくらいには強くなってくれるだろう。むしろこっちが本命だ。正直、私も比企谷がオルコットに勝てるとは思えない。弟云々は“体”というやつであり、一夏自身が頑張ったから私としてはすでに満足しているのだ。

 

「ふん‥私もまだまだだな‥‥‥」

 

私も色々あって教師になった。私も比企谷とは違う方向に捻くれていた時期もあったしな‥‥人の事は言えんのだ。だからこそ、比企谷には頑張ってまともな人間になって欲しい。

というより、昨日の電話。妹さんにゴリ押されてしまったと話したら山田先生に怒られた。それもみっちり。こんなに怒られたのは初めてだ。比企谷の妹怖い。やっぱり、敬語とかを使ってペラペラと喋るのは私の仕事じゃない。こういうのは次から山田先生に頼む事にしよう。

 

───3───

 

右も左も分からない俺は、取り敢えず俺は自室で勉強する事にした。期限はたったの一週間しかない。

「いつISが出来たのか」とか、「ISに関する条約」などのテストにしか出なさそうなところはすっ飛ばし、実戦に使えそうなものだけを選んで学習した。同室の子に、「だ、大丈夫?」と心配されたので、「大丈夫だ、問題ない。」と返してみた。何のネタなのか分かっただろうか?

 

「取り敢えず、分かった事をまとめてみるか。」

 

・ISが世界最強の兵器という事

・シールドエネルギーについて

・絶対防御について

・ISの基本運用方法

・上記の注意点

 

うわぁ、特にこれといって得られたものがねえ‥‥四時間も無駄にしたわ。基本操作とかマジ基本中の基本じゃん‥‥‥多分あれ見ないでも余裕で扱える。十字キーで移動みたいなレベルだったし。その点トッポって凄いよな、最後までチョコたっぷりだもん。

その後、デカデカと『実践編』と書かれた参考書を手にしたが、今度は逆に全然わからん。数学の微分くらいわからん。X^2(Xの二乗)を微分すると2Xになるとか意味わからん。そもそも微分ってなんだ。数学の教科書常連のたかしくん教えろ下さい。

ってか、たかしくんりんご買うときに値段忘れたりするのやめろよ。レシート破ったり、池の周りを無意味に回ったりするの生産性なさすぎだろ。お役所仕事かよ。

 

なんて事があって現在昼前、十一時くらいだ。食堂があるって聞いたし、生徒がいない今のうちに飯を食いに行こう。ぼっち飯最高!

話は変わるが、IS学園の制服は自分で勝手に改造してもいいらしい。それにしても、この真っ白な制服、マジで似合わない。しかもあの織斑とかいう奴の予備だよ。少し小さいんだけど‥‥‥‥

 

と、いう訳で寮から出てみたのだが、IS学園は無駄に広くてどこがどこだか全く分からない。ディスティニーランドかな?

なんか東京にムカっ腹が立ってきた。東京許すまじ。

というより、東京って名前のつくアニメ多すぎだろ。レイヴンズとか喰種とかアンダーグラウンドとか。全部千葉に変えて再放送しろよ。少なくとも俺に需要がある。

 

「織斑先生地図くれたっていいだろ‥‥‥お?」

 

学園内を探索していると、遊園地にあるあれがあった‥‥あれだよあれ!(*ただの案内掲示板です。)

IS学園はテーマパークだったのか(驚愕)。テーマパーク‥‥甘城ブリリアントパーク‥‥うっ、頭が‥‥‥‥‥

 

電子掲示板らしく、スマホ初心者のような慣れない手つきで検索してみると、該当件数一件と、案外すぐに見つかった。どうやらこの道で合っていたらしい。

数分歩くと、目的地の学舎が見えてきた。完全に俺が昨日ブチ切れた一年一組がある学舎です本当にありがとうございました。

昨日の事を思い出すだけで死にたくなる。ロープあったら首吊ってるね。

 

学舎内で誰かに会うと面倒だと思い、ステルスヒッキーを発動させたが杞憂だったようで、誰にも会わずに食堂まで辿り着けた。案の定食堂のおばちゃん的な人物がいたので、怪しい者じゃないですオーラを出しながら話しかけてみる。あれ?これ逆に怪しいんじゃ‥‥‥

 

「す、すみません。ここの学生なのですが、食堂を利用するのが初めてでして‥‥‥」

「あらまあ、二人目の男子‥‥‥噂のヒキタニ君ね。」

 

いつから噂になっていたんですか?あと比企谷です。葉山思い出すんでやめろくださいお願いします。

 

「どれが食べたいのかしら?」

「あー、じゃあラーメンで。」

「はーい。ちょっと待っててねー。」

 

あれ?食堂のおばちゃんが優しい‥‥目からダシがでちゃう‥‥‥

 

「はいお待ち、熱いからふーふーして食べなよ。」

「あ、ありがとうございます。」

 

なんであの人俺が猫舌だって知っているんだ。新手のスタンド使いかよ。しかもふーふーって‥‥‥

お盆に乗っかったラーメンを運び、無意識的に端の、人気のなさそうな席に座る。

 

「いただきます‥‥」

 

小声でボソボソお呟き、汁が服に飛び散らない程度の勢いですする。

味はシンプルでいい感じだ。これで千葉県の地産地消製品とかだったら三食全部ラーメンにする。身体に悪い?細けえこたぁいいんだよ!

 

「はふっ、はふはふっ。」

 

なんというか、懐かしい味だ。最近は家系ラーメンみたいな豚骨醤油系ばかり食べていたが、こういうのもアリだ。ラーメンの原点に帰れた気がする。

器を掴んで汁を飲み干す。今ならラーメンについて一時間は語れる気がする。ラーメンマジソウルフード。マッカンの次に好きだね。関係ないけど、“うまみ”って旨味だけど、甘みともかけるじゃん?つまりマッカンはうまみの塊なんだ!

あと、綾鷹式に行けば濁りはうまみじゃん?つまり、濁り=うまみ=マッカンなんだよ。つまり俺の目はマッカンで出来ているんだ(暴論)。

 

「ごちそうさまでした‥‥‥」

 

ぼっち百八のスキルの一つ、早食いを発動させ、僅か十分で完食してしまった。ぼっちって偉大だわ。

 

「ごちそうさまでしたー。」

「はーい。」

 

食器をそそくさと片付け、俺は食堂を後にした。

 

───4───

 

私が今朝少し早く起きると、同室の比企谷くんはすでに起きていました。私を全く意に介さぬ様子で、「IS基礎知識の導」と書かれた辞書並みに分厚い参考書と睨めっこしていました。

なんとなく「大丈夫?」と声をかけると、「大丈夫だ、問題ない。」と返されました。問題がないなら良かったです。

制服に着替えようと思ったのですが、比企谷くんは退いてくれそうもないので風呂場で着替えることにしました。パパッと着替えを済まし、早めに食堂に向かうことにしました。

 

「おはよー。」

「おはよー相川ちゃん。」

「てか昨日さ───」

 

途中、クラスの子と合流しました。最初はどうなるかと思いましたが、結構うまくやっていけている方だと自分でも思っています。

朝ご飯は、日本食のセットを頼みました。ここのご飯はいいものが使われていて美味しいです。時々、家のご飯が恋しくなるけど。

みんなで丸いテーブルを囲んでいると、そこにこの学園一注目を集めている人物がやってきました。

 

「あ、織斑君だ!」

「おはよう織斑君!」

「おはようみんな。」

 

織斑くん。世界初の男性IS適性者で、私達一年一組のクラス代表でもあります。入学早々にオルコットさんと模擬戦をし、後一歩というところまで追い詰めました。結局負けちゃったのですが。

その堂々とした心意気に惚れた女子も多く、多分、私もその一人なんだと思います。織斑くんはかっこいいと思っている人は多いと思います。

 

「織斑君かっこいいよねー!」

「うんうん、流石うちのクラス代表っていうか?」

「優しくて素敵だよね!」

「だ、だよねー。」

 

話は織斑君の話題となり、みんながキャッキャと騒ぎ立てる。私はこういう内輪ノリみたいなものが得意じゃないです。頑張って合わせてみるけど、しっくりきません。自分だけが、世界から取り残されている感覚がしました。

 

「それに対して、もう一人はヒドイよね。」

「うんうん、セシリアさんに突然キレたんでしょ?」

「ヒキタニ君だっけ?織斑君とは大違いだよねー。」

「う、うん。そうだね。」

 

話が織斑くんから切り替わります。ああ、またこの流れかとうんざりしながら、事実と違う事を指摘する勇気のない私は、適当な相槌を打ちます。

 

昨日から、この流れは鉄板となりつつあります。織斑くんの話題になると、引き合いに必ず比企谷くんが怒った話が出されます。私はその時クラスにいたので比企谷くんが怒った理由も知っていますが、噂というのは怖いもので、「二人目の男子が、話しかけたセシリアさんに突然キレた」とか、「態度を注意したセシリアさんに逆ギレした」とか、怒ったという事以外勝手に捏造されていました。しかも、それが一年のほぼ全員に広まっているのです。私は女子高出身で、こういうのにも慣れっこではありますが、未だに好きになれません。

 

「しかも、今度セシリアさんと模擬戦するらしいよ?」

「絶対負けるのにバカだよねー。」

「うん、だ、だよねー。」

 

私は今日も、誰かの意見に相槌を打つ事しかできません。

 




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だから、相川清香は諦めない

感想欄で批評を頂いているのですが、ダメなところを指摘するのならもう少し具体的に言ってもらえると嬉しいです。

頂いている立場で少し図に乗りました。すみません。


腹ごしらえを済ませた俺は、それはもう驚く速さで第四アリーナに向かって行った。ぜかましちゃんとかけっこしても勝てたと思う。ちなみにみぜかましちゃんはだいたい時速70kmくらい。ぜかましちゃんに提督って呼ばれると興奮します。妹と戸塚の次に愛してると言ってもいい。この気持ち、まさしく愛だ!

 

という訳でアリーナに着いたのはいいのだが───

 

「なにあのヤンキー‥‥‥‥槍とか持ってるんだけど‥‥‥‥」

 

水色の髪の生徒が、アリーナの入り口に仁王立ちしている。それも、槍を持って。リボンの色が違うから多分上の学年なのだろう。

ってか、水色の髪とか絶対染めてる。しかも槍とか門番かよ、もしかしてなくてもデュエルスタンバイしちゃうの?

それより、織斑先生誰もいないって言ってじゃないですか!よくもだましたアアアア!!だましてくれたなアアアアア!!(AA略)

 

今日は諦めよう!槍を持った物騒な人を相手にするくらいなら、自室で勉強してたほうがマシだね。下手に話しかけたら不運と踊っちまう事になりかねないし。

 

「ちょっとなんで帰るのよー!」

「ひいぃぃ!お金ならありませんすいません!」

「なんで私がカツアゲしてる体になってんのよー!」

 

こっちに気づいてたのかよ。しかも速い。ぜかましより速い俺より速いとか人間じゃない。槍を持ちながら走ってるから完全に槍投げ選手のそれである。フォーム良スギィ!

なお、現実は腰の曲がったヒョロガキを、スポーツ選手ばりの速さで走る女生徒が一方的に追い掛け回しているという、なんとも残酷な絵である。

 

「つーかまえた!」

「うひょぇ!?おおおおお俺は食べても美味しくないですよ!」

「食べないわよ!」

 

捕まった瞬間の絶望を表すと、ラスボスまで辿り着いたのはいいものの、一発で瀕死になるような魔法を連発され、「今のはメラゾーマではない‥‥‥メラだ‥‥」と宣告された時と同じくらい。

 

「んんっ、初めまして。比企谷八幡君。私は更識楯無。この学校の生徒会長よ!」

「はぁ、生徒会長さんが俺に用ですか?」

 

自称生徒会長に捕まるとかストレスマッハで死ねる。取り敢えず槍下ろしてください死んでしまいます。

 

「あら、酷い言い方ね。お姉さん泣いちゃう。およよよー。」

「帰ります。」

「あっ、待ってよー!」

 

嘘泣きは小町で間に合ってますんで。というより全てが小町で事足りる。料理もできるし可愛いしハイブリットぼっちだしうちの妹スペック高い。お兄ちゃんとはぜんぜん違う。たまげたなぁ‥‥‥

 

「全く、織斑先生に頼まれたから来てあげたのにー。」

「はあ、織斑先生が?」

「あー、信じてないでしょ!お姉さんぷんぷんだぞ!」

 

ぷんぷん(笑)。スイーツが好きそうな言葉ベスト3に常にランクインしてそうですね。

 

「言っとくけど、ISの操作ってケッコー難しいのよ?最初は飛ぶことさえできない人もいるのよ。」

「えっ。」

 

参考書にはそんなこと書いてなかったわ。簡単そうに思わせて実戦で失敗させる巧妙な罠だったのか?それともこの自称生徒会長がテキトーなことを言っているだけなのか?

 

「まあまあ、悪いことはしないから大人しくお姉さんに教わりなさい☆。」

「は、はあ‥‥‥‥」

 

語尾に星ついてる気がするんだけど。食蜂さんなの?精神掌握しちゃうの?

 

───2───

 

なんて事があって、俺はこの更識とかいう自称生徒会長にISの稽古をつけてもらう事になった。

俺が現在装備しているのは、打鉄と呼ばれる日本の第二世代型量産機である。速度は出ないが防御力は高く、近接戦闘が得意でバランスがいいらしい。ISというものを装備したのは二度目だが、本当に自分の身体のように軽く動く。アリーナ内を駆け回るが、特に問題は感じられない。

 

「あら。あなた、スジが良いわね。」

 

スジってなんだよ。メロンなの?ハイエロファントグリーンなの?緑色で光ってなんかいないんだけど。ジョジョネタを振ってきてるの?

今Google先生にこの状況を検索したら、「もしかして オラオラ」って出てきそう。去年のクリスマス前に、「クリスマスケーキ 一人用」って検索したら「もしかして クリスマスケーキ 二人用」って出てきた。俺がぼっちという事を見越したGoogle先生の精神攻撃がヤバい。ま、まあ小町いるし?そういう配慮って可能性も残ってるじゃん?

 

「じゃあ次、飛行訓練行くわよ。」

「あぁ、まあ。はい。」

「取り敢えずやってみて。」

 

訓練機に搭載されたマニュアルを開く。背部のブースターが点火し、ゆっくりと機体が浮いて行く。

 

「おお‥‥‥‥」

 

今ならお兄様に飛行用デバイスを貸してもらった研究員の気持ちがわかるわ。とてつもなく自由を感じる、これハマっちゃうかもしれん。

 

「ほらほら、ボーッとしてると痛い目見る事になるわよ?」

「え?───うおおお!?」

 

途端、機体がバランスを崩し、速度を上げながらアリーナ内を右往左往する。

 

「ま、まず───あでっ!」

 

自分でも立て直そうと頑張ったのだが、結局地面に激突する羽目になってしまった。IS装備してるから特になんともないとか思ってた自分が馬鹿でした。普通に痛いです。え?痛いのはそれだけじゃない?‥‥‥心が痛いです。

 

「あははははっ!落ちたわね。ふふふふふふ‥‥」

 

わぁー、面白かったですかー。いい腹筋運動になりそうですねー(棒)。

とにかく、ふざけている場合ではない。俺には時間とかもう色々ないんだ。雪ノ下だったら、「あら、比企谷君にないのは時間だけでなく人権もなのだけれど。」とか言いそう。

由比ヶ浜は───

 

「っ‥‥‥」

 

由比ヶ浜の事は思い出したくなかった。

あいつが俺に優しかったのは負い目があったから。ただそれだけだ。何故俺は今になって由比ヶ浜を思い出した?もうあいつは関係ない筈だろ?まさか、俺はまだあの事を引きずり続けているのか?いや、そんな事はないだろう。俺は訓練されたぼっちだろ?別に、誰かとの縁が切れたくらいで───

 

「───君、比企谷君?」

「は、はい!?」

「大丈夫?すごい深刻な顔してたよ?」

「やだなぁ全然大丈夫ですよむしろ大丈夫じゃなかった時がないまでである。」

「ちょっとお姉さん何言ってるかわからないかな。」

 

あははと笑う自称生徒会長。色んな意味で怖いんで笑わないで下さい。あ、でも笑えばいいと思うよってどこぞのシンジくんが言ってた希ガス。

 

「ジュワワワジュワワ、ジュワジュワジュジュワワワワワ?」

「?(日本語でおkだから)」

 

はーい。嫌という程伝わりました。首傾げてにっこり笑うのやめてください眼力だけで死ねます。ま、まさか‥‥‥直死の魔眼?

 

「ふざけてないで訓練続けるわよ。」

「う、うーす‥‥‥」

 

こうして、俺は自称生徒会長にビシバシとシゴかれるのであった。

最後まで、槍を持っていた理由はわからなかった。

 

───3───

 

私、相川清香はハンドボール部に所属しています。練習は厳しいですが、毎日楽しくやってます。

今日は体力をつける一環として、学園内の外壁を三週するという課題が出されました。IS学園はバカみたいに広いので、三週となるとものすごい時間がかかります。走っているだけで部活の時間が終わってしまいます。ハンドボール部に入ったはずなんだけどなぁ‥‥‥

一周走るだけで私はヘトヘトになってしまい、ペースがガタ落ちです。体力には自信があったのに、本当にIS学園はレベル高い人ばっかりです‥‥‥

 

そこから更に半周し、学園校門の真反対のところまで走りました。すぐそこにある自販機に手が伸びそうです。

さすがに自販機で飲み物は買いませんでしたが、隣のベンチで休むことにしました。このまま走り続けていたら倒れてしまいそうです。

 

「疲れた〜、ふぅ‥‥‥‥」

 

独り言を言って、寂しさを紛らわせます。他の子は全員先に行っちゃったので、この置いてきぼり感が寂しいです。

 

そろそろ行こうかなと思い立ち上がると、少し離れたところから何かが落っこちたような、大きな音が鳴りました。確か、第四アリーナだった気がします。学舎から一番遠いので、放課後以外殆ど使われないと聞いています。

何があったんだろう?という野次馬根性で覗きに行くと、一つのISが空を舞っているのが見えました。中に乗っていたのは、想像もできない人物でした。

 

「え?ひ、比企谷くん?」

 

思わず声が出てしまいました。まさか、今日は風邪で休んでいるはずの比企谷くんがこんなところでISを借りて一人で練習してるとは思いもしなかったからです。そういえば、風邪と言っていた割には朝も元気でした。勉強もしていましたし。嘘だったのかな?でも織斑先生に嘘をつくなんてすごい勇気だなぁ‥‥‥‥

 

比企谷くんは空中で大きく機体を揺らしながら、手に持つライフルでターゲットを撃ち抜きます。今日がIS学園に来て二日目のはずなのに、とっても上手です。私はまだ空も飛ぶ事ができません。

そして、私の頭の中にある可能性が浮かびます。

 

もしかしたら、比企谷くんは本気でオルコットさんを倒すつもりなんじゃないかな?

 

でも、そんな事が出来るわけがないんです。オルコットさんは代表候補生で、私達のような一般生徒とは違いますし、織斑くんだってきっと織斑先生の弟だからあんなに善戦ができただけ‥‥‥そのはずなのです。だから、比企谷くんが勝てるわけがないんです。

 

でも、その動きからその真剣さが見て取れました。私は、比企谷くんが本気で勝つつもりなんだなと思い、少しだけ嬉しくなりました。

授業で練習している体で、織斑くんの事ばっかり気にしていた私とは大違いです。

こうやって頑張っている人を見ると、元気が出ます。私も頑張らなきゃ。そう思えます。

 

「よーし、頑張るぞ〜!」

 

自分自身に喝を入れて、拳を空高く突き上げます。比企谷くんが頑張るなら、私に立って頑張れるはずです!

 

だから、私も頑張るから、比企谷くん。頑張ってね。




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ふと、比企谷八幡は振り返る

少し先の俺ガイル原作に繋げる為の回です。特に話は進展しません。
そういえば、電話の回を大きく改定しました。感想欄に例をもらったので、それを参考にして書かせて頂きました。
ほぼ丸パクリです。批判は覚悟しています。
また、それのフォローとしてその次の話も改定しました。

関係ないのですが、ISの設定がガバガバ過ぎて辛いです。特にセシリア。代表候補生のくせに、初心者である一夏に負けそうになるのは流石に‥‥‥主人公補正やらを考慮しても、実はセシリア弱いんじゃないか?と個人的には思っています。
そもそもブルー・ティアーズがおかしいんですよ。専用機と言う名のただの実験機ですし、ブルー・ティアーズ駆動中は動けないとか欠陥がありすぎると思います。それに、スペックが第二世代型以下という‥‥‥‥
あれ?逆に考えればそれで頑張っているセシリアって強いんじゃ?

一夏+白式+零落白夜+運+初見=セシリア+ブルー・ティアーズ+油断

という事になるんですかね?

‥‥‥セシリア腕立ち過ぎじゃないですかねぇ?



自称生徒会長にISについて色々と教授してもらった後、一応お礼を言ってアリーナを後にさせてもらった。あの槍でいつ刺し殺されるかわからないもん。ほら、俺幸運Eだからどこぞのゲイボルグが必中じゃん?俺セイバーじゃないけど士郎と契約しなきゃ(使命感)。

なんて事があって寮に戻る途中、俺は会いたくない人物ベスト3に入る一人と鉢合わせてしまった。

 

「よう、比企谷。」

「うわぁ‥‥‥うっす。」

 

織斑弟。みんな仲良く(笑)とか、一致団結(冷笑)とか、「一人はみんなのために、みんなは一人のために(暗黒微笑)」とか好きそうな奴だ。葉山と同じ匂いがする。いや、ホモ的な意味じゃない。断じて違うんだ。

ちなみに一位は金髪クロワッサン。三位が織斑先生。というより話した事のある奴三人しかいないし?まじウケ‥‥‥ウケねーよ。

 

「風邪なんだってな。大丈夫か?」

「大丈夫だ。ハチマントッテモゲンキ。ハチマンウソツカナイ。」

「そっかそっか。よかった。まあ、部屋も近いしなんかあったら言ってくれよ。」

 

そう言って俺の肩を叩き、織斑弟は自室に戻った。リア充ってどうしてあそこまでコミュ力あるの?やっぱり初期ステの差がおかしい。こんなの絶対おかしいよ。

 

一応礼儀として、扉をノックしてから鍵を開けると、中には誰もいなかった。俺は宗教の勧誘か何かに成り下がってしまったのか。ああ、スクールカースト最下位、むしろスクールカーストに入ってない俺には成り下がる場所なんてありませんでしたね。

前から思っていたのだが、スクールカーストというのは間違っていた造語だと思う。カーストの語源はインドのカースト制度だが、あれは生まれた瞬間決まるものであって、落ちる事もなければ上がる事も絶対にない。それに対し、スクールカーストというものは理由があれば上下する。そうなると、それはカーストというべきではなくヒエラルキーと言った方が正しいのではないか?

なんて平塚先生に一撃をもらいかねん事を考えていると、同室の子が汗だくのまま帰ってきた。突然入ってくるとびっくりするんでノックして下さい。ノック大事。親しき仲に“も”礼儀あり‥‥ってな。親しくない仲にはもっと礼儀っていう意味だろ?つまり関わらなければ礼儀も必要ない。天才の発想だろこれ。Q.E.D.証明終了していい?

 

「あ、ひ、比企谷くん。大丈夫?」

「大丈夫だ、問題ない。」

 

頭が大丈夫か聞かれているんですねわかります。

今朝もこんなやり取りをした気がする。まさかエンドレスエイト?あれは八回も放送するべきじゃなかった。ハルヒ見るのやめた人続出だろ。ソースは俺。

 

「今日、比企谷くんの事見たよ。」

「え?」

「頑張ってたね。」

 

どこで何を見られていたんだ?アリーナには誰も来ていない筈だしな‥‥‥本当にどこで見ていたんだ?

 

「応援、してるから。」

「お、おう。」

 

応援されちゃったよ。そもそもこの子誰だよ。ルームメイトだけど名前すら知らなかったわ。礼儀がなってないのは俺だったのか。

 

「そ、そうだ。後でご飯食べに行かない?」

「‥‥‥すまん、今日は一人で食べるから。」

「そっか‥‥じゃあ先にお風呂頂くね。」

 

この子が何故俺に話しかけたのか。罰ゲームなのか、ルームメイトとして挨拶をしようとしたのか、俺にはわからない。

もしこの子が特に理由もなく俺に話しかけた、優しい女の子だとしても、今の俺はこの誘いを断っていただろう。

 

───由比ヶ浜。俺は、優しい女の子が嫌いだ。

 

───2───

 

それから数日間、俺は時間の許す限り必死に勉強した。こんなに何かを努力したのは人生で初めてかもしれない。疲れはしたが、 不思議と辛くはなかった。うわっ‥‥俺の社畜適正、高すぎ‥‥‥?

朝早く起きて知識を詰め込み、授業ノートを取り、休み時間もひたすら勉強する。放課後は、基本的に一人で練習し、副担任の山田先生が空いている時は、ISについて色々とレクチャーしてもらった。山田先生は先生と呼ばれる事が嬉しいらしく、俺が何かを聞くと「何でも聞いて下さいね。私は先生ですから!」と言ってくる。確かに他の生徒に「やまや」「まやちゃん」「やまちゃん」とか呼ばれていた気がする。童顔だから仕方ないね。

その辺を考えると、現在は順調に進んでいると言えるだろう。明日は身体を休めると共に作戦を考えるつもりだ。

だが、俺には目の上の瘤‥‥そこまで酷くはないが、それに近い人物がいる。

 

「比企谷くん、ご飯食べに行こ?」

 

こいつだ。このルームメイト。毎日断り続けているのだが、それでも誘ってくる。根気があるというか、諦めが悪いというか。何なんだこいつは?NHKの集金なの?チャンネルを付けていないのに集金しようとする害悪なの?

 

「なあ、どうしてそこまで俺を誘おうとする?」

「なんでって‥‥‥一人で食べるよりみんなで食べた方がご飯はおいしいよ?」

 

小学校の先生があんまり喋らない孤立した子に言いそうなセリフを頂きました。ぼっち飯を真っ向から否定されて涙目ですわ。食堂の一番端は俺のベストプレイス。俺の前には何者も座る事が出来ないのさ。あ、小町と戸塚は例外な。むしろ戸塚は俺の前に座って欲しい。戸塚の事は一万年と二千年前から愛してるね。八千年過ぎた頃からもっと好きになったもん。

 

「いや、今日は───」

 

またかよ。ある意味凄いよこいつ。罰ゲームでもここまで話しかけてくるやついなかったぞ。いや、ハニトラの可能性が‥‥‥織斑弟ならありそう。

 

さて、ここでの俺の選択肢は三つ。

 

①断る◀︎

②やんわりと断る

③理由をつけて断る

 

‥‥三択に見せかけた一択だった。脳内選択肢が俺の間違った青春ラブコメを全力で邪魔してるわ。

角を立てぬよう③を選ぼうと思ったのだが、ガイアが俺にもっと謀れと囁いている。

そして、ある考えが浮かぶ。

 

「‥‥‥‥今日だけだぞ。」

「ほんと!?ありがとね!」

 

顔がパァァと明るくなる。そういう顔されると勘違いしそうになるんでやめて下さい。

 

「あんまり人に見られたくないから遅めに行くぞ。」

「はーい!」

 

‥‥こいつには悪いが、少し利用させてもらうぞ。

 

───3───

 

「奢ってやる、好きなの頼めよ。」

「え?でも‥‥‥」

「いいんだよ。今まで断ってきたしな。それに‥‥‥いや、なんでもない。」

「‥‥うん、分かった。ありがとね。」

 

機嫌がいい方が都合がいいだけだけどな。それに、小町が「女の子とご飯を食べに行った時は、絶対に奢らなきゃダメだよ!」とうるさいかったからなぁ‥‥‥一緒に食べる人などいないというのに‥‥‥

 

「あらま、今日は二人かい?」

「あぁ、はい。ははは‥‥‥あ、ラーメンセットを一つ。お前は?」

「私は中華丼がいいな。」

「おう、あと中華丼で。」

「はーい。すぐできるから待っててねー。」

 

余談だが、IS学園の食堂は安い。学費の中から人件費等々が引かれているのか何なのかは知らないが、とにかく安い。俺はここに特別入学という扱いで入ってきたので、学費諸々は国が負担してくれる。そこで比企谷家が出すお金は食費のみになったのだが、これも国からの補助が出た。しかし、両親はそれを知らず俺の銀行口座に食費をぶち込んできた。

つまり、その食費分は好きに使える。これがスカラシップ錬金術ならぬ、食費錬金術である。完全な身内詐欺だが、親は総武校でかかっていた分の学費を払わずに済む。俺はお金をもらえる。winwinの関係なので問題はない筈だ‥‥‥そうだよね?

という訳で、誰かに飯を奢るくらいどうって事ないのだ。良い子のみんな、絶対に真似しちゃダメだぞ?

 

「はーい、どうぞー。」

「ういっす‥‥‥」

 

お盆を受け取り、ベストプレイスに向かう。初めて(前に座るの)は戸塚って決めてたのに‥‥‥

 

「はふ、はふふむぅはふはふ‥‥」

「‥‥‥‥‥いただきます。」

 

凄いガツガツ食べるな‥‥‥

 

「‥‥運動部か?」

「ふん(うん)。はんほほーるはよ(ハンドボールだよ)。」

「うんうん、成る程な。」

 

成る程全然わからん。ハフハフし過ぎだろ。小動物みたいだなこいつ。あんかけはトロッととしてるから熱を含みやすいんだぜ。火傷しないように気をつけてほしいところだ。

 

「今日もうまいな。」

「はーめんふきなほ?(ラーメン好きなの?)」

「まあそんな感じだな。」

 

もくもくと湯気が立つ俺の器から、香ばしい味噌の香りが漂う。バターがあれば完璧だった。醤油、豚骨の間に、時々味噌バターコーンを食うのがベスト。「味噌ってこんなにうまかったんだ!」という感動が得られる。毎日食ってると飽きるけど。

 

なーんて俺がラーメンに対する情熱を燃やしていると、突然目の前の少女が箸を止め‥‥ごめんなさいスプーンでした。いくら表現といっても嘘は良くないね。

 

「どうした?」

「いやー、お腹いっぱいかなーって‥‥‥あはは‥‥‥‥」

 

俺は瞬間的に察した。こいつはダイエットとしてご飯を抜こうとしているのだ。そこに図々しく、俺のお兄ちゃんスキルが発動する。

 

「知ってるか?ダイエットってのは身体に凄く悪いんだ。食事を摂らないと身体は栄養分が足りないと判断し、蓄えようとする。つまり、お前ら女子共が無理をして飯を抜けば抜くほど、身体はどんどん太りやすくなる。」

「じゃ、じゃあどうすればいいの?」

「いっぱい食っていっぱい運動しろ。その前にお前太ってないだろ。あまりに痩せすぎていると逆に気持ち悪いぞ。大事なのは体重じゃなくてスタイルだ。」

 

小町も同じような事を言っていたので、同じように諭してやった気がする。ドン引きするか苦笑いでもするのかと思ったが、予想外にも、その少女は優しく微笑む。

 

「比企谷くん。」

「‥‥‥どうした?」

「‥‥‥比企谷くん。」

「な、なんだよ。早く言えよ。」

「こんなに優しいのに‥‥どうして誰にもそれが伝わらないのかな‥‥‥‥」

 

そう言って、少女は俯く。それはあまりに痛々しく見えて、触れれば壊れてしまいそうな笑みだった。

突然の出来事に俺は反応できず、声は氷になったかのように咽喉でつっかえる。

 

「ごめん、先に戻るね。」

「‥‥‥‥‥おう。」

 

そのまま、彼女は立ち去ってしまった。

 

俺はこの時、何をすれば正解だったのか。結果的に見れば、あのルームメイトは正真正銘の善意で俺に話しかけてくれたのだろう。

ふと脳裏に、ピンク色の髪をした少女が浮かぶ。

 

由比ヶ浜‥‥‥お前はどうだったんだ?

 

こうやって、俺の心を惑わせる。だから俺は、優しい女の子が嫌いなんだ。





感想、評価等よろしくお願いします。


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着々と、比企谷八幡の計画は進んで行く/それでも、相川清香は諦めない

今回もほとんど話は進みません。次話こそIS戦が話に出せると思います。
それと、いつのまに評価が赤色になっていました。評価してくれた皆様、本当にありがとうございます。

これからもこの作品をよろしくお願いします。


比企谷くんは優しいです。不機嫌そうな顔をしていて、ご飯を誘っても毎日断られちゃってるけど‥‥‥なんて言うのかな。多分、理屈じゃないんです。でも、比企谷くんは優しいんです。誰に言ってもわかってもらえないと思うけど、そうなんです。

 

「ごめんね‥‥‥比企谷くん。」

 

比企谷くんと楽しくご飯を食べていたのに、私はそれをぶっちぎってしまいました。ご飯を食べて気を紛らわせようと思いもしましたが、ダメでした。

私は自分が情けないです。比企谷くんのクラスでの評価は低いです。みんな誤解しているだけなのに、こんなの酷いです。

でも、私はそれに反論することができません。誰かに嫌われる事が怖くて、自分の意見を言わないで、誰かの意見にうんうんと相槌を打つだけ。もし私が家族を馬鹿にされたら、適当に笑ってその場を誤魔化すだけなんだなと、比企谷くんを見てると、自分の弱さを指摘されている気がして───

 

「‥‥‥寝よ。」

 

───だから、私は私が嫌いです。こんな弱い自分、いっその事どこかに消えちゃえばいいんだ。私なんて、誰かの代わりですらない、意味のない存在なんだから。

 

結局その日、私は比企谷くんに謝る事が出来ませんでした。

 

───2───

 

朝から目覚めが悪い。早起きは三文の得というが、昔の三文は大体六十円ほどだったそうだ。寝てた方が得な気しかしない。

結局昨日は、あいつにセシリア・オルコットの事を聞きそびれてしまった。できたらクラスの連中からの情報が欲しかったんだが‥‥‥まあ仕方がない。本当はこいつから情報を仕入れて、作戦を立てるつもりだったのに‥‥‥‥

昨日の事を考えると、何故か由比ヶ浜の事も思い出してしまう。胸の中のモヤモヤとした何かを流すように、冷水で顔を洗う。顔を上げると、酷く濁った眼が鏡に映り込む。

まだまだパリッとしている真っ白な制服に着替え、俺は外に出た。

 

「‥‥‥行ってきます。」

 

当然のように、返事はなかった。

 

そして、彼女が起きていた事にも、当然気がつく事はなかった。

 

───2───

 

結局、昨日は寝れませんでした。一睡もできなかったっていうやつです。なんにも考えず、ボーッとしていると隣のベットからガサゴソと音が鳴ります。多分、比企谷くんが起きたんだと思います。

そのまま比企谷くんは準備を済ませ、「行ってきます」と呟いて部屋から出て行ってしまいました。どうせ眠れないのだからと私も身体を起こして、身支度を始めます。鏡に映る自分の目の下に、おっきなクマができていました。どうしよう‥‥‥‥

 

困った私は、まだまだ時間があるからと座ってココアを飲む事にしました。その暖かさは身にしみ、その甘さはまるでチョコそのものみたいでした。

人生も、ココアくらい甘かったら楽かもしれません。でも、本当にそんな人生は“楽しい”と言えるのでしょうか?もし本当に人生が甘口なら、私が比企谷くんのことで悩むこともなかったでしょう。そもそも、比企谷くんに出会えていたかもわかりません。

 

今の私には、比企谷くんに合わせる顔がありません。きっと、私のことなんて突然意味わかんないこと言って帰ったルームメイト程度にしか思ってないと思います。だからこそ、私は比企谷くんに謝る為に変わらなきゃいけません。きちんと胸を張って、比企谷くんの前に立てるように。

 

‥‥‥でも、私はどう変わればいいのでしょうか?ココアとは違う苦い人生の中に生きる私は、その術を知りません。

私が、私である為に。私の存在意義を自分で証明する為に。誰かに消えないで欲しいって思われる為に。私には何ができるでしょうか?

 

迷ってる時間など私にはないのです。

ココアを飲み干し、私は決意します。

 

試合が終わった後、比企谷くんが帰ってきたら謝ることをここに誓います。

私には何もない。だから、私に“だけ”できる、存在証明など存在するはずがないのです。

だから、私は私の誠心誠意を見せるだけです。何もないなりに、できることがあるはずです。

 

人生は苦いものです。私にとってブラックコーヒーみたいなものです。だから、ココアくらいは甘くたっていいんです。

 

私ももこのココアのように、誰かの人生の一瞬でも甘くすることができたら‥‥‥すごく嬉しいです。

 

「よーし!ファイトだ清香!がんばれ清香!」

 

私は自分に喝を入れて、えいえいおー!と叫びました。

 

───3───

 

寮を出て職員室に直行すると、まだ早かったのかほとんど人がいなかった。早起き過ぎた‥‥三文以上損したわ‥‥‥‥

そんな事があって数十分待つと、織斑先生がやってきた。凄い眠そう。小町と同じで朝が弱い系の人間なんだな。でもこんなのが姉だったら精神すり減らすわ‥‥‥

 

「おはようございます、織斑先生。」

「おはよう。どうした比企谷?職員室の前で待ち伏せしていた生徒は初めてだぞ。」

「いや、ちょっと聞きたい事がありまして‥‥‥セシリア・オルコットの事なんですけど‥‥‥」

「ふむ。それがどうかしたか?」

「‥‥どんな戦い方をするんですか?あと、どの機体を使う傾向にありますかね?」

「ほう‥‥?」

 

ニヤニヤとする先生。なんかこう、織斑先生とかの笑い方ってラスボスのそれなんだよな。普通に笑っているのか暗黒微笑なのか判断がつかなくて困る。コマンドで逃げるとか選択できなさそう。

 

「お前は知らなかったな。あいつは代表候補生だ。最近はゴタゴタしていてISの実習訓練をやってないからな。知らなくてもおかしくはない。」

「‥‥マジっすか?」

「ああ。それと専用機も持っているぞ。」

 

‥‥‥オワタ。あー人生詰みましたわ。さらば愛しの学園生活。全然愛しくないけど。

誰かこの事実を教えてくれたっていいだろ。授業以外で俺が教室にいなかったからなの?俺が悪いの?俺は悪くねぇっ(テイルズ並感)!

 

「ははは、絶望したか?」

 

なんだこのセリフ魔王かよ。やっぱりラスボスなの?まだ変身を残してるの?魔王なのに体力全開魔法使ったり、右手本体左手と分かれていて蘇生魔法で無限に復活してくるあの絶望感。現在、まさにその状態である。小町‥‥お兄ちゃんが死んでもパソコンの「資料」って名前のフォルダ、開いちゃダメだよ‥‥‥‥前も言ったけどベットの下もダメだからね‥‥‥‥

 

「‥‥‥トッテモサンコウニナリマシタ。アリガトウゴザイマス。」

「よろしい。では明日、楽しみにしているぞ。」

 

オレ、ドウスレバイイノ?

 

───4───

 

というわけで、放課後。いやぁ、まあ色々ありましたよ?授業とか昼休みとか授業とか。IS学園の授業って最先端だよな。全ての机にコンピュータと空間投影型ディスプレイが内蔵されてるとかハイスペック過ぎて辛い。スター・ウォーズ思い出したもん。映画楽しみだなぁ(ステマ)。

現在俺は家‥‥寮の自室だったわ。家帰りてえ、小町に会いたくて会いたくて震える。アル中かな?

結局俺のケータイ、誰からの着信もこないし。一週間近く小町の声が聞けないとか死ねる。完全に携帯できる多機能型目覚ましと化したね。「ぶち割り不可避!文鎮と化したスマホ」っていうタイトルに改名してほしい。作者あくしろよ。

 

「お、あったあった。」

 

俺が自室で探していたのは、セシリア・オルコットの動画だ。決していかがわしい意味ではない。神に‥‥神なんていなかったわ。戸塚に誓ってもいいね。

俺が真に求めているのは、セシリア・オルコットの“公式戦動画”である。たしか、代表候補生は他国と交流試合やらなんやら色々な機会で試合をしている。となれば、当然専用機持ちの彼女の試合が存在してもおかしくはない。

専用機の詳しいスペックは国家の機密として厳重に保管されているのが当たり前だが、試合の動画となれば話は別だ。それも公式戦となれば、テレビ中継される事もある。となると、彼女の動画がインターネット上に上がっているのは必然と断言しても良いだろう。ちなみに、不正にアップロードされたアニメをインターネットで見るのはダメだぜ?だからみんな円盤を買おうね(ニッコリ)。

 

「なにこれ‥‥‥えげつねえ。」

 

思わず声的な何かが出てしまった。一体俺の身体から何が出てしまったんだ‥‥‥‥

 

動画に映ったのは、青を基調とした機体がラファール・リヴァイヴ相手に蹂躙している姿であった。背部に浮いている翼状に広げられたビットが、その場所を離れ独立起動を取り、ラファールを囲み始める。すると突然ビットが止まり、その全てから青い光が放たれる。ラファールは十字砲火を食らい、大きくシールドエネルギーを削られてゲームセット。わかっていた結果ではあった。あったのだが───

 

「ももももちつくんだ八幡、諦めたら試合終了ってばっちゃが言ってた‥‥‥」

 

こんなんずるいわ。十字砲火ってレベルじゃねえ。これがIS乗りの動きだと!?じゃあ俺はなんだ!?所詮ノーマル生まれはリンクスに勝てないんですよ‥‥‥あ、アナトリアの傭兵はドミナントなんでこっちの席にどうぞ。

 

「コレどうにかなんねえかな‥‥‥」

 

他の動画も漁ってみるが、大体が同じ内容だ。青いのがびゅんびゅーんって飛んで、ラファールとか色々落としていて楽しかったです(小学生の作文並感)。

 

マズイ。この金髪クロワッサンが強過ぎて辛い。さっきの織斑先生のセリフと同じ種類の絶望感を感じる。これより強い織斑先生とかもうやべえよ‥‥人間じゃない‥‥‥いや、あってるのか。俺の見立て通り織斑先生は魔王だったんだ‥‥‥

 

俺はヤケクソになり、動画を見るだけの機械と化した。これで最後にしようと、一番日付が古いのを見る。

確かに最近の動画より下手になっている。それでも俺なんかとは格が違うのだが。

 

「ふーん‥‥‥?」

 

どこかその動きに違和感を感じ、動画を巻き戻す。

 

「もしかして‥‥‥もしかしてしまうのか?」

 

慌てて日付が新しい動画を開き、機体の動きを凝視する。そして、俺はその違和感の正体を可能性から確信へと変える。

 

‥‥‥‥金髪クロワッサン。家族を馬鹿にした罪は高く付くぜ。

 





感想、評価等よろしくお願いします。


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だから、織斑千冬は訝しむ

五月十四日に、この作品がランキング四十六位を記録させて頂きました。お気に入りに入れてくれた方々、評価をしてくれた方々、本当にありがとうございます。これからも頑張ります。

話は変わりますが、感想欄に時系列が分かりにくいとの話があったのでここで書いておきます。

一夏がクラス代表になり、その後鈴が入ってくる予定だったのですが、比企谷くんの影響でそれが大幅にずれてしまっています。俺ガイル基準で時間軸を決めているので、大体今は六月始めを予定しています。タグの通り原作崩壊しています。勿論この後にシャルもラウラも出てきます。シルバリオ・ゴスペルも出てきます。

更に話は変わりますが、ISの設定を変えさせて頂きました。今のままだと万能過ぎるので‥‥‥‥‥

まだまだ至らぬ点がありますが、これからもこの作品をよろしくお願いします。


金髪クロワッサンについて調べた次の日の朝、俺は突然織斑先生に呼び出された。ほぼ一徹してるから次の朝ってのはおかしいか?おかしくないよ!寝たの三時だもん(白目)。

 

そして開口一番、先生はこう告げた。

 

「今日、お前の専用機が届く事になった。」

 

‥‥‥ゑ?

 

「は?そういうのってもっと早く言ってくれるものじゃないんですか?」

「本当は一ヶ月近くかかる予定だったのだがな。今日の朝に、完成したから届けると連絡が来た。」

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

『おれは昨日打鉄に乗る事を想定した作戦を立てたと思ったら、突然今日専用機が届く事になった』

な…何を言ってるのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

言うのを忘れていたとか報告体制に問題があったとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ

織斑先生の無能さを味わったぜ…

 

「いでっ!?」

「今失礼な事を考えただろ。」

 

出席簿からあんな音が鳴るなんてヤバイ。何がヤバイってその威力。軽く振っただけなのに平塚先生のファースト・ブリットレベルを叩き出す。人間ってレベルじゃねえぞ!

 

「イテテ‥‥‥それで、放課後の模擬戦はどうなるんですか?」

「模擬戦?普通に専用機で実行されるに決まっているだろう。お前もスペックが高い方がいいだろう?そうだよな?」

「ハ、ハイ‥‥‥‥」

 

有無を言わさないこの圧力。この圧力だけで角煮作れる気がする。織斑先生は圧力鍋だったのか(困惑)。

 

「では放課後、楽しみにしているぞ。」

 

俺の肩をポンと叩き、織斑先生は立ち去ってしまった。

 

‥‥‥俺が昨日徹夜で練った作戦はどうするのさ?

 

───2───

 

という訳で、現在第三アリーナのピットに来ています比企谷八幡です。昨日の作戦がおじゃんになったので、もうヤル気0なんだゾ☆

マジでどうすればいいんだ?専用機は願ってもない事だが、俺は操作が下手だから打鉄の防御力を頼りにしてたのに‥‥‥‥これで専用機が速度特化とかだったら笑えん。それと現役時代の織斑先生みたいなブレオンの機体も死ねる。ブレオンってのはブレードオンリーの事な。アーマード・コアかボーダーブレイクやればわかるんじゃないかな(白目)。

 

「比企谷、届いたぞ。」

「あっ、はい。わかりま「あー!君が比企谷君かー!」

 

大声を出しながら、こちらに駆けてくる丸いシルエット。見るからにただのオッサン。凄い普通なオッサンだ。俺の手を掴み、大きく上下に振ってくる。なんか粘ついてるんですけど。この人汗かき過ぎだろ。鼻の先が完全に大洪水である。

「ど、どうも」と挨拶をするが、完全に苦笑いなのが自分でもわかる。

 

「よろしくね!私は千葉工の社長だよ。いやぁ、比企谷君、君に会えて光栄だよ。」

「千葉工の社長!?こ、こちらこそ会えて光栄です。」

 

掌返しが早い?え?なんだって(難聴)?

説明しよう!略名千葉工、正式名称千葉メカトロニクス株式会社とは、千葉県が誇る最大の工業系の企業だ!地元からの就職に根強い人気がある!近年はIS開発部が発足し、日本三大IS工業会社としての名が高いのだ!

余談だが、千葉工業高校と千葉工業大学という同じ略ができる学校が二校もあるが、それぞれ「工業」、「千葉工大」と言えば通じるのだ!

千葉県民にその名を知らぬ人はいないと断言してもいい!

 

どうだ俺の千葉愛は!いや、もはや愛を越え‥‥憎しみすら超越し‥‥宿命となった!

 

「いやぁ、僕の事を知ってるなんて嬉しいねー。」

「いやいや、千葉工の社長となれば知らない人はいませんよ。」

「比企谷くんに会えてよかったよ!同じ千葉県民として君みたいなのは誇りだよ!」

「俺もです!」

「ゴホンゴホン、そろそろ本題に入ってもいいか?」

 

今凄い盛り上がってたのに‥‥織斑先生とかみんながカラオケでリア充御用達の曲を歌ってるところに、アニソンを歌い始める系の人間だな。あの空気が冷める感は異常。まあそんな人達とカラオケに行く機会なんてないんですけどね‥‥‥‥

 

「社長、ISの方は?」

「もう来る筈なんだけど‥‥‥お、来た来た。」

 

ゴゴゴという轟音と共に、IS運搬用エレベーターが到着する。重々しいその扉が開き、ISが姿を現わす。

 

「じゃじゃ〜ん!」

「‥‥‥‥先生、これISですか?」

「‥‥‥‥お前がそう思うならそうなんだろう、お前ん中ではな。」

 

突然の少女ファイトはNGな。

それにしても、目の前のISはすごいよぉ!さすが‥‥さすがなんのお兄さんなんだ?

 

「これが、君の専用機だ。」

 

それを一言で表すなら、異端。そのISらしくない見た目を言葉にするならば、それが一番近いだろう。半ば頭部と合体した胸部の突き出た胴体。左腕よりも大きな右腕。がっしりとした両足。そのどれもがISとは程遠く、その統一性のなさにどこか違和感を感じさせた。

 

「千葉メカトロニクス試作第三世代型IS。名前はないよ!」

「ええー。」

「名無し‥‥‥何故に?」

「うーん。ちょっと事情があってね。これの製作エピソードにあるんだよねー。」

 

いやそこ重要だよね?むしろそこが一番重要だよね?

先にアリーナに出ている金髪クロワッサンをチラ見して、このままだと長くなって迷惑だと判断して、さっさとISを装備する。金属の装甲が全身を包み、真っ暗だった世界に色が宿る。ハイパーセンサーが起動し、ゆっくりと立ち上がる。社長が驚いた顔をしている。自社で作ったISだろオイ‥‥‥

 

「うーん。気分はどうかね?」

「‥‥はい、大丈夫です。」

「そうかそうか。じゃあ、頑張ってきてくれるね?」

「勿論です。」

 

楽しそうな社長に応対をしながら、俺はカタパルトデッキに脚部を接続する。緊張してドキがムネムネしちゃう。心臓病かもしれん。もしそうならトランクスが未来から来るまで待たなきゃ(使命感)。

 

「じゃあ行ってこい。比企谷、応援しているぞ。」

「わかりました。比企谷八幡、出ます。」

 

前傾姿勢を取り、カタパルトから俺のISが射出される。その寸前、俺の耳は確かに捉えた。

 

「あ、その子飛べないって教えるの忘れちゃった。」

 

‥‥社長ってほんとバカ‥‥‥‥‥‥

 

───3───

 

「社長。本当にあの機体は何ですか?正直私はあなたが信用できません。」

「いやいや、嫌われちゃったなぁ。」

 

アリーナの管制室で、私と千葉工の社長は比企谷の試合を見ている。だが、私は試合の結果を見届ける事よりも、この男の案件を処理したい。

 

「大体、一ヶ月後の予定が今日になるのはどう考えてもおかしいですよね?」

「いや、全然そんな事はないよ?」

 

この社長、実に怪しい。普通過ぎて逆に怪しい。一ヶ月が一日に縮まる訳がないのだ。それに、IS自体の形もおかしい。

もし比企谷に悪さをしようとしているのなら、私は教師として然るべき対処をさせてもらう。

 

すると、社長は突然自慢気に語り始める。

 

「あのISの名前、【源氏物語】って言うんだよねー。知ってる?」

「源氏物語‥‥‥」

 

国語の苦手な私でもそのくらいは知っている。確か、光源氏とかいうイケメンがハーレムを作ったのち、その息子もモテモテなけしからん純文学らしいが、どう考えても最近のハーレム系ライトノベルだ。これを純文学だと評価した人は頭が湧いているのではないか。当時流行った凄い本だとはいえ、内容が純文学からは程遠い気がする。

一夏もモテモテだからな‥‥‥こうなってしまうのか?一夏も光源氏なのか?

 

「そうそう。全部で五十四貼で作られた、光源氏の栄華と衰退を描いた作品だよ。まあ途中からその息子の話になるけどね。厳密には息子じゃないけどねー。」

 

社長はニヤニヤと笑う。その余裕の態度が不快だ。そうやって、人を見下す人間は嫌いだ。

 

「本当に一ヶ月かかる予定だったんだよ?ただ、それは【源氏物語】じゃない。もう一機の方だからねー。」

「じゃあ、比企谷が装備しているのは?」

「あれは、我々の思いの寄せ集めだよ。ボツになった五十四の設計図。【桐壺】から始まり、【浮夢橋】で終わる全てを混ぜ込んだ、最強の一機だよー。」

「混ぜ込んだ?適当にくっつけただけじゃないですか!?」

 

あのISの違和感がようやく分かった。あれは、様々なISの出来損ないを寄せ集めた、正に“出来損ない”だ。

私の胸の中がグツグツと煮えたぎる。比企谷はあんなに頑張っていた。なのに、この男は全てを台無しにした。誰かの頑張りを無駄にする行為を許すほど、私は出来た人間じゃない。

 

「おお、怖い怖い。そんなに睨まないでよー。」

「‥‥‥‥‥」

「大丈夫。あのISは何よりも強いよ。だってさ───」

 

そして、この男は衝撃的な発言をする。

 

「───あの子に反応した人は、今のところ比企谷君だけなんだからさ。」




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やはり、比企谷八幡の戦い方は間違っている/今だから、相川清香はその思いの丈をぶつける

比企谷くんが比企谷くんをやっていません。由比ヶ浜との一件があり、それを思い出させる相川との件もあり、心が荒んでいる荒み谷くんをイメージしました。コレジャナイ感が強いと思いますが、批判も覚悟しています。

ISの設定の件ですが、このように変えました。
・360度視界→通常視界+敵座標データ
・自動ロックオン機能→視界内に限定
・ハイパーセンサー→ハイパーセンサーの性能差を設定

今のところこんな感じです。これからも設定が変わるかもしれませんが、よろしくお願いします。


ずどーん!という大きな音と共に俺は落k‥‥着地した。俺は落下などしていない、頭から着地したんだよ(半ギレ)。飛べないとか先に言えよ。飛べないISとかただの豚じゃないですか‥‥‥

 

「だ、大丈夫ですの?」

「ああ‥‥よいしょっと。」

 

両手で身体を起こし、アリーナの土を踏みしめる。このISの駆動音のみが、アリーナに響き渡る。

 

「この前の事ですが、ご家族を馬鹿にした発言‥‥非礼を詫びますわ。」

「はっ、なんとでも言ってろ。」

「ですが、それとこの試合は別ですわ!」

 

人の話聞いてないだろこいつ。なんか校長先生の話みたいなの始まっちゃったよ。

俺は金髪クロワッサンを無視してシステムコンソールを開き、兵装を確認する。

 

‥‥ライフル以外現在ロック中か。まあ、二丁あるしそこまで問題じゃない‥‥‥か?元々地上で戦うつもりだったしな。

 

「って聞いておりますの!?」

「いや全然、早く試合始めるぞ。」

 

両手にライフルを呼び出し、ざわざわというアリーナ内の一定量以下の騒音をハイパーセンサーでカットする。腰を落とし、臨戦態勢に入る。ざわざわしてると集中できないからな。決してカイジじゃない。小指切り落としたりしないから。

 

「試合、開始。」

 

アナウンスと共に両機が動き出し、俺はライフルを、相手はレーザーライフルを構える。互いの第一射が衝突。炸裂し、爆発する。ブースターが利かないのでその場で走り出し、彼女に対して個人間秘匿通信を開く。

 

「セシリア・オルコット。お前が入学した時の話、覚えているか?」

「な、なんのことですの?」

 

右足で大きく地面を踏み、ブレーキをかける。地面に向けてデタラメにライフルを連射し、砂煙を巻き起こす。これで、あいつから直接こちらを視認する事は出来ない。ハイパーセンサーで敵の位置がわかるとはいえ、所詮データ上の座標だ。座標さえ分かれば狙い撃てるなどという机上論は、機動戦であるISの戦闘において通じる事はない。

 

「ブルー・ティアーズ!」

「おいおい、俺の事を無視するなよ。覚えているのかって聞いてるだろ?」

「なんの事だかわかりませんわ!」

 

だが、机上論で通じる例外もある。それは、敵が止まっている時だ。

ブルー・ティアーズには致命的な欠点がある。それは、ビットを操作している時に本人が動けないというものだ。最新の動画でも、隠してはいるがそれを確認する事ができた。

 

青いビットが動いたのを確認し、データ上の座標に向けて片方のライフルを連射し、もう片方を地面に向けて乱射しながら再び走り出す。

 

「くっ、こちらが見えていますの!?」

「話ぶっちぎってんじゃねえぞ。お前、日本を敵に回すような発言をした事、自覚しているよな?」

「そ、その件につきましてはしっかり謝罪をしましたのよ!」

「だからって、やってない事にはならねえよな?」

 

砂埃の中、灰色の装甲に青い光が掠める。見えないといえど、ビット四基から虱潰しに狙われればこの機体もすぐに落ちる。だから、俺のするべき事は───

 

「俺の家族を馬鹿にした。つまり、お前はその事を全く反省していない。」

「そんな事───!!」

「いや、あるね‥‥‥なぁ、セシリア・オルコット───」

 

俺は甘く、蠱惑的に囁く。その声は、獲物を飲み込む蛇のように彼女を絡め取る。

 

「───それを愛しの織斑一夏が知ったら、どう思うかな?」

「っ!?」

 

───今だ!

俺は動きの鈍くなったビットに向け正確な一撃を打ち込む。蜂の巣になったビットが地面に落ち、別の砂煙を巻き起こす。

 

ビットが強敵なら、それから落とせばいい。動くものを狙えないなら、止めさせればいい。

ビットというのは脳で操っているものだ。なら、その根元を揺らしてやればどうという事はない。

なら、彼女が見るからに想いを寄せている織斑弟に関してのOHANASHIをするだけだ。ぼっちの観察スキル舐めんな。

 

金髪クロワッサンが代表候補生って気付かなかった話はしないで下さい‥‥‥‥

 

その毒は、ゆっくりと彼女に侵食する。嬲るように、甚振るように。

 

「確実に、お前は嫌われるだろうな。」

「い、一夏さんはそんな人じゃありませんわ!」

「本当か?なら、本人に話してみるといい。」

 

マガジンを手動で変え、あちこちに砂煙を起こしながらアリーナ内を駆け回る。こんな戦法一度しか通じないだろう。が、俺はその一度を勝ち抜けばいい。どんなに姑息だろうと、勝てば何の問題もない。戦いにずるいもセコい何もないのだから。

 

「もしお前が織斑一夏に嫌われたのなら、クラスのみんなも同じようにお前を嫌うだろうな。そしたらお前は、“また”一人だ。」

「な、なんなんですの!あ、あなたは!?」

 

こいつは元々‥‥‥今もなのだが、相当にプライドの高い人間だった事は容易に想像ができる。なら、そのプライドはどこから発生した?

努力?才能?地位?名誉?

それを一つに絞る事はできない。何故なら、その全てが彼女のプライドに関わっているからだ。

彼女は生まれながらに、オルコット家という“地位”を持っている。そこまではISと嗜む程度の生活を送っていたそうだが、元々“才能”はあったらしい。

そして、丁度彼女が代表候補生になる前に、彼女の両親が事故で亡くなり、親族もいないためにオルコット家は一人になったそうだ。そして、長年の努力と共に代表候補生として専用機を貰うという“名誉”を獲得した。

 

一見、これはただの輝かしき歴史に見えるだろう。だが、「歴史は勝者が紡ぐもの」という考え方がある事を世間は知っているのだろうか?

 

歴史というものを英語にすると、historyとなる。hisとstoryが合体した言葉である事は想像が付く。

 

もし、もしの話だ。例えば俺が世界最強のIS操縦者になる未来があったとしよう。更に仮定して、ここでセシリア・オルコットを倒せたとする。未来に俺の歴史が紡がれ、語られる時、それは英雄譚のように語られ、「俺がセシリア・オルコットを言葉で動揺させ、ミスを誘った」などという俺という人間が姑息に見える、マイナスとなる内容は基本的には書かれないだろう。

つまりそういう事なのだ。彼(勝者)に都合よく、いいところだけを切り取った話(story)が歴史というものだ。

 

話が大きく逸れてしまったが、これは彼女の歴史にも通じる事だ。上で話したセシリア・オルコットの人生についてはイギリスのISを専門に特集する記事から見つけたものだが、国からすれば彼女の弱みを見せるわけにはいかない。だから、「両親が死んで一人になったにも関わらず、努力をして専用機を勝ち取った少女」という美談風に整えた記事を書く。それは歴史と同じように、彼女の弱みを隠して書いているのだ。

では、この記事からどういう弱みが読み取れるのか?

 

まず、彼女は名家の人間だ。オルコット家というのはそこそこ名が広いらしい。

そして、彼女には両親がいない。

この二つを足して考えると、特に権力も持たない“地位”だけのか弱い少女を、他の権力者が放置するだろうか?答えは否だ。どうやってその魔の手から逃れたかは知らないが、オルコット家が未だに健在ということや、今の態度から見ても確実に彼女は“一人”でその危機を脱したといえよう。

もしかしたら、タイミング的にも代表候補生になった事が関係しているのかもしれない。

二つ目に、彼女が代表候補生で専用機持ちという事だ。“才能”より代表候補生になる人間は少なくない。

だが、専用機持ちとなれば話は大きく変わってくる。彼女は“努力”し、ライバルを蹴落としながら上に這い上がったから、専用機(名誉)を獲得したのだ。

俺からすれば、そういう“努力”のできる人間は素直に尊敬できるが、他の人間もそうかといえば違うだろう。彼女の事を僻み、蔑み、恨む者さえ出てくるだろう。そうなれば、彼女は自然と孤立する。学校でも同じ事が言えるのではないか。例えば、雪ノ下とか。

 

つまり、彼女はいろんな意味で“一人”だったのだ。俺や雪ノ下のような友達がいない“ぼっち”ではなく、家族すらいない人間なのだ。

人間は本質的に一人を怖がる。俺だって小町という存在があるし、雪ノ下は‥‥雪ノ下にもそういうものがあるだろう。

だが、彼女にはそれがない。だからこそ、彼女はプライドという壁で自分を守った。

生まれ持った“地位”と“才能”を誇り、“努力”を続け、“名誉”である専用機を振りかざす。これが、誇り高き「セシリア・オルコット」という人間の正しき姿であり、弱点でもあるのだ。

だから、そのプライドを崩してやればいい。今が一人でないと言うのなら、一人になる恐怖を思い出させてやればいい。

 

「一人ぼっちは寂しいよな?もう、一人になりたくはないよな?」

「いや‥‥やめて‥‥‥‥」

 

再び止まったビットを弾数で撃ち抜く。俺は心の中で小さくガッツポーズをし、彼女本体にライフルを向ける。

だが、物事はそう簡単には上手く行くものではない。何事にも例外は存在するのだ。

 

「ああああっ!私は!私はもう一人じゃありませんわ!私には皆さんが、一夏さんがおりますの!」

 

思ったよりも復帰が早かった。流石は代表候補生。学生とはいえ、メンタルも並みのものではない。内心舌を打ちながら、再々に走り出す。

 

だが、それは俺にも言える事なのだ。

俺は自分への例外を想定していなかった。

不恰好なISは突然動きを止め、応答を停止する。

 

「っ!?動かねぇ!?」

「よし!隙だらけですわ!」

 

───そして、俺の世界が“黒”に染まった。

 

───2───

 

比企谷くんがピンチです。変なISが出てきたと思えば、突然ISが止まってしまいました。そのまま動けなかったらオルコットさんに蜂の巣にされてしまいます。

その場で膝をつくその姿は見るだけで自分が情けなくなります。

 

私は何にもできない。あんな誓いを立てておいて、ただ比企谷くんの足を引っ張って、一人で悔やんで、泣いて───

 

だから、私はそんな自分が嫌いです。今だって、もう一人の私は彼が負けてしまうと思っている。実際そうなのかもしれないけど、そんな事を思っちゃいけないんです。

 

───私にしかできない事。そんなものはないと、昨日は思っていました。でも、今この瞬間だけなら、私にだってできる事があります。

 

「がんばれ!」

 

周囲の目が一斉にこちらに向きます。怖い、怖い。言わなきゃよかった。そんな後悔を心の隅に押し込めて、私は叫び続けます。

 

世間体の為に話を合わせていただけのクラスメイトたちと、私が応援している比企谷くん。どっちが大事かなんて一目瞭然です。

勇気がでないなら、やってから後悔すればいい。比企谷くんに謝らなきゃいけないと悔やんでいるなら、それも纏めて吐き出しちゃえばいい。

比企谷くんからすれば私の自己満足なもので、自分勝手なものかもしれないけど、私は今精一杯叫んでいます。だから、だから───

 

「がんばれ!比企谷くん!」

 

───頑張って。この想い、きっと届いて。

 

───3───

 

「くそっ!」

 

身体に力を入れても、ISは全く反応しない。真っ暗な世界は、そのままゆっくりと、ゆっくりと俺の心を蝕む。

ここまで頑張ってきたんだ。なんで今、なんでこのタイミングで不調が起きるんだ‥‥運が悪いとしか言えん。くそっ‥‥‥‥

 

全てが無駄になった事を悟り、俺は徐々に身体の力を抜いてゆく。

やっぱり、俺が努力しても何の意味もなかった。結局、俺は努力をしたところで負ける。そう、これは予定通りなんだ。代表候補生に勝てる訳がない。俺は何も間違っちゃいない。これは全て予定通りの話だったろ?

 

俺は俺に言い聞かせる。自分自身を

傷つけぬよう、嘘で塗り固められた牢獄で自分を守る為に。

 

全部嘘なんだ。俺も、由比ヶ浜も、あのルームメイトも。

 

多分、俺はこの戦いで「信じたかったものの正しさ」を自分自身に認められたかったんだ。

俺はあの二人の優しさを、嘘だと認めたくなかったんだ。だから、自分自身の正しさを証明しようとした。

だが、やはりそんなものは欺瞞でしかなかった。

所詮、比企谷八幡は比企谷八幡のまま変わる事は無い。家族以外の誰かを信じる事もなければ、好んで誰かに話しかけに行く訳でもない。目を腐らせたまま今まで通りに生きて、変わらない平凡な毎日を過ごすだけだ。それの何が悪い?平凡ということは悪いことじゃないはずだ。そうだろう?

 

未だに抵抗を続ける自分自身に言い聞かせる。

 

「諦めろ」「無理だ」「できっこない」「終わったんだ」「もう頑張る必要はない」

 

数々の甘い言葉が俺を包み込む。

俺は自身の誘惑に従い、そのまま瞼を閉じようとして───

 

「────!」

「っ!ハイパーセンサーが!?」

 

外からの声。一定下の騒音はカットしていた筈だ。それを越える程の大きさの音が、ハイパーセンサーが起動しているという事実を伝え、諦めようとしていた俺の意識を覚醒させる。目の前が真っ暗で通信系統がどうなっているのかわからないが、確実にハイパーセンサーだけは起動している。

 

俺は全神経を集中し、その音に耳を傾ける。

 

「がんばれ!比企谷くん!」

 

その声は今思い出したくない人間ベスト3に入る、あのルームメイトのものだ。こんな大声を出して大丈夫なのか?こんなにもこっぱずかしい事をするなんて、なかなか勇気のあるやつだ。

 

フッと息を吐き、俺の口に笑みが零れる。

 

───そうだ。俺は何をやっている?家族を馬鹿にされたことを仕返すんだろ?少なくとも一人、ここに応援してくれるやつがいる。俺はその思いに応える義務があるんじゃないのか?うだうだ言ってて頑張らないで後悔するのなら、やって後悔したほうがマシだろ?

 

「うおおおおお!!!」

 

力を込め、身体を捩る。が、虚しくもISは動かない。

それでも、俺は諦めない。この一瞬だけでも、誰かの“優しさ”に縋ってもいいだろう。信じるなら、今しかない。自分を信じろ。他人を信じろ。

 

この一瞬だけでも、この想いに答えろ!

 

───I'm your sword.───

 

突如、俺の目の前に緑色の文字が踊る。

 

───I'm your shield.───

 

‥‥‥どういう事だ?

 

───I'm your wings.───

 

「お前‥‥‥IS‥‥なのか?」

 

俺の言葉に呼応するように、緑色の光が次の言葉を紡ぐ。

 

───Do you,you can wield the power for your rightness?───

 

俺自身の正しさ‥‥‥か。

 

俺は常に正しい事をしているつもりだ。それを誰かが否定する事は出来ないし、俺が他人の正しさを否定するつもりもない。だが、俺の正しさと他人の正しさぶつかる時、俺はどうするだろうか?

 

答えは、俺自身が一番よく知っている。それは───

 

 

「───“分からない”、だろ?」

 

その回答に満足したかのように、緑色の文字が霧散する。

正しい人間なんてこの世にいない。人間は、不完全だからこそ人間なのだ。自身の正しさだの思っているものが本当に自身の望むものかといえば、それは別の話だ。

なら、俺は俺なりの回答を出す。分からないなりに、答えに手を伸ばし続ける。間違いながら、俺は進んでゆく。

 

それが俺の答えなのだから。

 

「system all green.」

 

真っ黒な世界に亀裂が走る。

 

「“first shift” set up complete.」

 

世界は崩壊し、白い輝きを放つ。

 

「Please choose your preferred language.」

「ジャパニーズだ。」

「───言語選択。No.52は標準言語を日本語に変更します。」

 

世界が鮮やかさを取り戻して、俺の意識が段々と鋭くなってゆく。

 

「名証変更。これより、No.52は【浮舟】と名乗ります。」

 

凍りついたように動かなかった手足に感覚が戻る。

 

「【浮舟】、起動します。」

 

悪いが、勝たせてもらうぞ‥‥セシリア・オルコット。




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それでも、比企谷八幡と相川清香は間違いながらも近づく

前話の書き直し、というより完全改訂版です。
もともとこっちにする予定だったのですが、ヒロイックなISの方がいいかなーと思いまして‥‥‥‥

やっぱり、自分の好きなように書く事にしました。

前話は明日には削除します。


画面の向こうの現状が私には理解しきれなかった。跪き、動かなくなったISが突如として眩い光を放ち始め、その形を変えてゆく。

多分、あの光は一次移行のものだろう。だが、一次移行にしてはあまりにも機体のデザインが変わり過ぎていた。

 

黒漆に塗り潰された厚い装甲。

先程よりも重量感の増した脚部。

安定した腰部。

大きさをそのまま、更に尖鋭的になった胸部。

丸みを帯びた肩部。

五角形の何かが取り付けられた左腕。

砲口のないカノンが取り付けられた右腕。

そして、胸部と完全に接合した機能的とはいえないデザインの頭部。その蒼いラインアイは獲物を待つ猛獣のように淡い光を放っていた。

背部に浮く折れた翼のような非固定部位が痛みにもがき苦しむように動き始め、蒼炎の如き光を撒き散らす。

 

「なんですか‥‥‥あれは?」

「あれが【源氏物語】が選び出した、比企谷くんの本質だ。」

 

ニヤニヤと笑う社長が、自慢気に解説を始める。

 

「あの子───正確にはあの子達、かな?まあ、あの子でいっか。あの子には全ての設計図のデータが含まれているんだよねー。だから、一次移行の時はその全データ内から比企谷くんに合ったものを組み合わせてできているんだよー。だからね、あの姿は比企谷くんの本質を表してるってわけ。」

「比企谷の本質‥‥‥‥」

 

もしこの胡散臭い社長の言う事が本当なら、比企谷の精神はどうなっているのか。この分厚い装甲こそが、比企谷の本当の姿だというのか?あの飢えた獣のような姿が、本当に私の知っている比企谷の姿なのか?もし仮にそうなのだとしたら。比企谷、お前はどんな獣を心の中に飼っているんだ?

 

「でも僕もびっくりだよ。こんなピーキーな機体に仕上がるなんてねー。あ、そろそろ次の仕事があるから帰るね。」

「‥‥‥さっきの言葉、どういう意味ですか?」

 

踵を返した社長に問う。

あのコアが比企谷にしか反応しない。それはコアの選り好みレベルの問題ではなく、極めて例外的な事案となり得る。ここで聞かず、どこで聞くというのか。

 

「そのままの意味だよ。こっちとしてもよく分かってないからね。ま、比企谷くんに賭けてみて正解だったよ。あの機体、とっても面白そうだしねー。」

 

振り返らずに、社長は管制室を立ち去って行った。

私は一人取り残されこれからの事を思い、ふぅ、と溜息を吐くのであった。

 

───2───

 

視界に映る全てが色鮮やかだ。

手足の先まで鋭い、しゃんとした感覚がある。

さっきまでとは違う、世界全体が俺と繋がったような感覚。

このIS───【浮舟】が、まるで自分自身になったかのような気分だ。不安や心配は全部吹き飛び、今は妙な安心感だけが残っている。

 

‥‥‥いける。

俺は上を見上げ、こちらにレーザーライフルを向けている少女を注視する。豆鉄砲を食らったという表現が正しい、まさに“今私驚いています”という顔をしている。

 

「現在所有する全システムのロック解除を確認。【藤壷】、起動します。」

 

右腕を侵食する程の大きさのカノン砲後部ジェネレータから蒼い光が漏れ、冷却装置がカパカパと動く。

 

「【藤壷】の起動を確認。続いて【若紫】、起動します。」

 

背部の折翼型のユニットがガバッと動き始め、展開する。八つのブースターが点火し、蒼く燃え盛る翼を取り戻す。

 

「【若紫】の起動を確認。続いて【六条】の起動、確認。【朝顔】の起動、確認。【葵】の起動、確認。全兵装の起動を確認しました。【浮舟】、システムを機動戦闘モードに移行。」

 

【浮舟】は飛べない。宇宙用に作られた筈のISの中では異質な存在であるし、飛べないとなればそれ相応に不利なのだ。だが、こいつにはそれをカバーしうるほどの能力がある。

 

「待たせて悪いな、続きをしようか。セシリア・オルコット。」

「最初はどうなるかと思いましたが‥‥望むところですわ!」

 

彼女の持つレーザーライフルから光が放たれる。燃え盛る翼が大きく煌き、爆風を巻き起こしながら高速で回避する。

 

「は、早い!?」

 

【浮舟】は“空”を完全に捨てた代わりに、地上での移動速度がダンチだ。防御力も高く、単純な機体性能だったらどのISにも負けないだろう。動けるデブというやつだ。

 

「1st code:Assault rifle!」

 

砲口に見えたカノンの先端が光を放ち、二対のレールが姿を見せる。右腕を上げ、レールから幾つもの青白い光を放つ。が、これは完全に腕の差で、全く当たらない。流石は代表候補生だ。

 

「そんな動きではっ!」

 

彼女の呼び声で二つに減ったビットが宙を舞い始め、合計三方向からの集中砲火を食らう。装甲が軽く焦げ、漆のような黒の中に別の黒が混じる。

追撃を加えようとする彼女に向け、俺は声を振り絞って大きく叫ぶ。

 

「【朝顔】!」

 

左腕に取り付けられた正五角形の一角一角が展開し、エネルギーシールドを生み出す。薙ぐ風にして腕を振り、レーザーを防ぎ、そして弾く。

 

「なっ!ブルー・ティアーズが!?」

 

光と鏡の関係のように、いとも簡単にレーザーが弾き飛ぶ。弾き飛んだそれはビットに直撃し、黒い煙を立てて撃沈する。残り一つとなったビットは退散し、空を支配し続ける彼女の元へと戻る。

 

「2nd code:Sniper rifle!」

 

レールが青い粒子となり、霧散する。同時に長いレールが四本出現し、カノンに接続する。地面に接しそうな程に長いそれを構え、発射する。細い閃光が空を駆ける。

 

「くうっ!」

 

辛うじて避けられる。このスナイパーはアサルトライフルに比べて威力が高く、弾速も早い。だが次弾装填が遅く、銃身が大きいので使いにくい。個人的には連写の効くアサルトライフルの方がいい。

 

「Final code:【桐壺】!」

「【桐壺】、スタンバイ開始。全特殊補助兵装を展開します。」

 

その武装の名を叫ぶと同時に、砲身だけでなく右腕全体が輝きを放つ。

 

「全システム統制を【浮舟】より【桐壺】に委託。システムを掃撃モードに移行します。」

 

スナイパーの三倍はある巨大な砲身が、その姿を顕現する。大量のコードが他パーツと接続し、右肩まですっぽりと覆い込む。両足裏のパイルドライバが地面へと突き刺さり、ジェネレータがガタガタと震え出す。

腰部から支脚が展開され、安定した体制を保つ。

 

「全エネルギーラインを直結。供給を開始。」

 

ジェネレータより供給される過負荷なエネルギーがコードより漏れ始め、ノイズのように蒼い稲妻を発生させる。

 

「ジェネレータの超過駆動を確認。」

 

冷却装置が真っ赤に染まり、それを覆っていたカバーが完全に吹き飛ぶ。

 

「ライフリング、回転開始。」

 

とうとう砲口から光が溢れ始める。

 

「シークエンスを完了。発射可能です。」

 

自身が砲台になったつもりで、右腕を空に向け掲げる。砲身が少女を捉え、圧縮した光が機体を包み込む。

 

「trigger!」

 

コールと共に、圧倒的な破壊が宿る“蒼”が放たれる。空が割れ、アリーナのシールドが紙屑のように吹き飛ぶ。空気が焼け、熱気がアリーナ内を包む。

空を引き裂いていた光はゆっくりと収束し、消える。

 

これぞこの【桐壺】の真髄。直線上の全てを消し去る、超長距離掃撃砲。

IS相手なら確実に絶対防御を発動させる、一撃必殺の兵器。

 

だが、この武装には致命的な弱点がある。

 

「危なかった‥‥‥ですわ。」

「外れちゃったのかよ‥‥‥‥」

 

打った後、暫く動けないのだ。一分くらい。

 

あっ(察し)。

 

───3───

 

みんなの予想通り負けちまったよ小町。諦めたらそこで試合終了だけど諦めないで頑張っても終了しちゃいました。てへっ☆

あの金髪クロワッサンに無双され、ボロボロになったISを引き摺りおうち‥‥‥じゃなくて寮に帰ろうとしている俺の前に、鬼教官が立ちはだかった。

 

今からラスボス戦だそうです。SUN値減るわ。

 

「比企谷、あの最後に使ったやつは禁止だ。」

「マジっすか?」

「危険過ぎる。理由は以上だ。」

 

「お疲れ」とか「頑張ったな」とか、そういう優しい言葉はありませんでした。べっ別に、期待なんてしてないんだからね!

 

「今回の戦い、余り評価されるものではない。」

「‥‥‥‥‥」

 

そんなことは知っている。

他人の弱みに付け込むのは、教師の立場からすれば“正々堂々”とは言えないだろう。

 

「だがな。」

「?」

 

織斑先生は語気を強める。

 

「その努力は認めてやろう。精進しろよ、比企谷。」

「‥‥‥うっす。」

 

俺の肩を叩き、織斑先生はアリーナに消えて行った。

褒められる事自体、悪い気分はしない。ただ、それに裏があるのではないかと疑ってしまうだけだ。

今の言葉の真意を見極めている俺の肩を、また別の人が叩く。

 

「比企谷くんお疲れ!」

「お、おう。相‥‥‥まあいいや。」

「相川だって!覚えてよー!」

 

ぷっぷくぷーっと頬を膨らませる。わー、あざといなぁ(棒)。

 

「あのでっかいの凄かったね!SF映画かと思ったよ!」

「俺もそう思ったよ。ははっ、ワロス。」

 

あー、あるあr‥‥‥ねーよ。実際打つと反動だけで死ねるから。パイルドライバー地面に打ち込んでるのに反動がヤバい。捨て身タックルとか比じゃない。がんじょう欲しいれす。

 

「‥‥‥ねえ、比企谷くん。」

「お、おう?」

 

突然真面目な声色に変わる。夏にしては涼しげな風が俺達を包み込む。

 

「私と、友達になってくれないかな?」

 

息が詰まる。今の一言は色々な意味で唐突すぎた。風が止み、梅雨明けのジメジメとした不快感が込み上げてくる。

一度大きく深呼吸し、きっぱりと告げる。

 

「悪い、俺とお前の関係はそういうものじゃない。」

「‥‥‥‥‥」

 

そう、俺とこいつはただのルームメイトで、それ以上でもそれ以下でもない。それは、最初から変わらないのだ。

 

「そっか。ならそれでもいいや。多分、比企谷くんのいう“友達”と私の“友達”は違うし。今はルームメイトで我慢してあげる。」

 

裏のない屈託の笑顔に、思わず俺はたじろぐ。

そのまま彼女は、俺を置いて先に走っってゆく。石畳の音が軽快に鳴り響く。

 

「でも───」

 

そして、その場で立ち止まる。

 

「───いつかは、ね?」

 

夕日に照らされた彼女の顔は、どこか赤かった気がした。

俺も、不思議と悪い気はしなかった。

 

夕日が綺麗だな、と、久しぶりに素直に思えた。

 




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毎日はつつがなく進み、されどそれは平凡に非す。

今日、五月二十五日にこの作品が日間ランキング第十二位を更新させて頂きました。評価をしてくれた皆様、感想を書いてくれた皆様、本当にありがとうございます。
特に感想は作者のやる気の源なので、本当に助かっています。

この順位は作者の実力ではなく、作品のネームバリューである部分が大きいです。これからも、精進して参ります。

これからもこの作品をよろしくお願いします。


シュレーディンガーの猫という思考実験を知っているだろうか?名前は聞いたことがあるが、説明してと言われるとわからないという人が多い実験である。

 

蓋のある箱に、猫を一匹入れる。箱の中には猫の他に、放射性物質であるラジウムを一定量と、ガイガーカウンター、青酸ガス発生装置を一台入れておく。このまま一週間放置すると、はたして猫の生死はどうなっているのだろうか?というものだ。

 

総武高校にて数学の学年最低点を記録している文系の俺にはよく分からないが、パラレルワールドの証明になるとか、生きてるだか死んでるとか確率が半々になって同時に存在するとやらなんとやら。

正直な話、よくわからない。そもそも死んでいるか生きているかという問題以前に、猫は絶食のできない生物である。つまり、シュレーディンガーは確実に猫を殺しにかかっているのである。

 

結論を言おう。

 

無闇な殺傷は良くないでござるよ。拙者はただの流浪人でござ(ry

 

「比企谷くん朝だぞー!起きろ〜!」

「‥‥‥‥‥」

 

ほーら、噂をすればこれだ。

働きたくないでござる!!絶対に働きたくないでござる!!

俺の惰眠を奪わんとする奴がやってきたよ。小町なのか?俺の妹なのか?確かに年下だけどこんな妹はいらん。小町一人で十分だ。

 

「起きないと織斑先生呼ぶよ〜?」

 

なんだそれは。「いーけないんだ、いけないんだ、せーんせいに言っちゃーお。」レベルの台詞である。小学校の思い出が浮かび上がりやがるからやめてくださいお願いします。

 

「‥‥うっす。」

「今日は家に帰るんでしょ?」

 

布団をまくり取られる。俺の人生に八番目くらいに大事な布団が取られた。ちなみに一番は小まt‥‥戸塚だわ。夏だけど僕の右ポケットにお招きしたくなる。今は暑いんでこの上ない理由にはならないですね。早く冬が来ないかなぁ(スノースマイル)。

 

「なんか暑くて面倒。」

「えー!帰んないのー?」

 

本日は土曜日。社畜は出勤するが、学生には楽しい楽しい休日である。IS学園も授業がなくなり、生徒達は各々の活動を始めるのだ。ISの訓練をするのもよし、部活動をするのもよし、遊ぶのもよし。近ければ家に帰るのもよし。

ただ、うるさくしていると織斑先生にしょっ引かれる。

 

「帰りなよー!」

 

I❤︎千葉と書かれたTシャツを着た俺になんて事を言うんだ。我が家に帰れたらとっくに帰ってます。てかどんだけ俺に帰って欲しいんだこいつは‥‥‥

 

「今日小町は友達と遊びに行ってていねえんだよ。親父と母さんは寝てるし。帰っても意味ねえの。」

「そっかぁ‥‥‥じゃあご飯食べに行こっか!」

「何その超理論、まあいいけど。」

 

こいつ俺飯に誘い過ぎだろ。ぼっちなの?いやクラスで普通に話してたけどさぁ‥‥‥‥未だに罰ゲームなんじゃないかって思っちまうぜ!

 

「んじゃ行くか。」

「ほーい!」

 

てめえはアラレちゃんかよ。

 

───2───

 

朝飯を済ませた後、俺は相‥‥‥相なんとかさんと別れ、職員室に向かった。山田先生に頼んでみたところ、すごく嬉しそうな顔をして「はい、なんでも頼んで下さい!私は先生ですから!」と胸を張った。あの自己主張の強い箇所をさらに主張するとか身体に悪い、俺の方が。

ってかこの先生マジ優しい。時々、女尊男卑っていう時代の流れを知ってるのか不安になる。

スペック詳細は企業秘密なので、模擬戦で使用した武装のみの感想をレポートに纏めて、山田先生に提出した。俺氏有能。

 

「比企谷くんのISは‥‥うーん。飛べないんですね‥‥‥‥」

「い、一応ジャンプはできます。」

 

何言ってるんだろ俺。フォローになってないじゃん‥‥‥

 

「でも、このふじ‥‥【藤壺】っていう武器が強いですね。第三世代型兵器とは思えない燃費の良さですし。」

「おすs‥‥そうなんですか?」

 

他のレーザー武器を使った事がないので分からないが、どうやら燃費が良いらしい。第三世代機は基本的に燃費が悪い。だか、この【浮舟】は何故かPICという慣性制御装置が取り外されているので、その分を他の武装に回せるのだ。飛べないけど。

 

「特にこのスナイパー、すっごい強いですね。」

「えっ。」

 

俺が嫌いな武器を選んできたよこの人‥‥天使に見せかけた悪魔なの?

 

「いやぁ、リロードの遅い武器はちょっと‥‥‥」

「そうですか?ちょっと展開してみて下さい。」

「うっす。来い、【浮舟】。」

 

真っ黒な装甲が俺を包み込む。ラインアイが走り、視界が開ける。

初心者なので名前を呼ばないと出てきません。厨二っぽくてカッコ恥ずかしい。顔からファイアが出るわ。ファイアじゃなくてファイガでした、へへっ。

 

「2nd code:Sniper rifle.」

 

砲口のないカノンが形を変え、四本のレールが取り付けられる。

 

「かっこいいですね!」

「えっ?は、はい。」

 

メカメカしい武器が好きなのか。それともどこぞの機動戦士とかが好きなのかな?ここで突然ボトムスとか言われたら尊敬する。ATライフル持ち出すレベル。

腰を落とし膝を曲げ、レールを前に構える。右脛がカパカパと動き出し、物理シールドを展開する。

 

「システムを精密射撃モードに変更。照準、表示します。」

 

視界に十字のあれ(照準)が現れた。画面じゃない。視界にだ。大事なことなので二回言いました。

かがくの ちからって すげー!

 

「試しにターゲットを出すんで、撃ってみて下さい。」

 

なんだか乗せられている気がする。乗るしかない、このビックウェーブに。

アリーナの端、俺の真正面側に小さな空間認識型のターゲットが出現する。濁った目を軽く動かし、ターゲットを注視する。引き金を引くと共にチャージングが始まり、視界に軽く青いノイズが混じる。

 

「trigger.」

 

迷わずに引き金を離す。閃光は確実にターゲットを貫く。結晶のように砕け、消える。

 

「すごいじゃないですか!思った以上に威力も高いです!」

「あ、まあ、はい。」

 

あ、ってなんだよ。名詞が続くの?

山田先生はぴょんぴょんと跳ねて身体で喜びを表現する。ストリップショーかな?

 

「絶対スナイパーの才能がありますよ。折角この武器があるんですからちょっと練習してみましょうよ!」

「えっ。」

「じゃあ、レーザーについてどのくらい知ってますか?」

「いやぁ、全然っす。」

 

すごいペース持ってかれているんだけど。山田先生コミュ力高スギィ!でも男が苦手って聞いてるんですけど‥‥‥あっ、俺が男と思われてないんですねわかります(白目)。

 

「レーザーは有効射程を離れると、一気に減衰して威力が低下してしまうんですよ。」

「‥‥まじっすか?」

 

それは盲点だった。ほら、レーザー兵器って値段が高いけど威力が高いっていうゲーム的なイメージあるじゃん?しかもゲームだと有効射程とか気にしないじゃん?さっきからじゃんじゃん言い過ぎじゃん黄泉川先生じゃん。

 

「だから、チャージングでその射程とか威力とか速度とかを伸ばすんです。チャージしなくても打ち合いでは高速弾として使えますし、チャージすればスナイパーライフルとしての威力を発揮しますね。スナイパーライフルというより、チャージ式のレーザーカノンに狙撃機能を取り付けたって言うのが正しいかもしれません。」

 

すごい饒舌になったんだけど‥‥山田先生実はコミュ障なんじゃね?自分の話せることだけにやたら饒舌になって、ネタが尽きるとだんまりするあれ。あと知らないネタだと反応が薄いやつ。コミュ力高スギィとか思ってたけど違うのかな?

 

「ノーチャージで撃ってもらってもいいですか?」

「うっす。」

 

先程よりも近くに現れたターゲットに対し、ガンマンのように素早い挙動で構え、撃つ。光はターゲット左端を捉える。少しずれたが、まあ及第点というところだろう。

 

「ふーむ‥‥‥チャージするとレーザーは細く濃縮されるんですね。ふむふむ‥‥‥」

 

いや、確かにさっきの方が光が小さかった気がするけど独り言はやめましょうね。ぼっちはすぐに話しかけられてると勘違いするんで。「自意識過剰乙」と言われたらそれまでなんだけどな。

 

「じゃあ、もう一回構えて下さい!」

「‥‥っす。」

 

俺にアサルトライフルの練習をさせてくれ!アサルトライフルゥゥゥ!!

 

───3───

 

あの後山田先生にスナイパーライフルのことしか教わってない。まあそこそこ役に立ったけどね?でも立ち回りとか練習することまだまだたくさんあるじゃん‥‥‥私ってほんとバカ。

 

「はぁ‥‥」

「どうしたの?」

 

溜息の訳を聞いてみても自分じゃないからわからないって誰かが言ってたろ。だからせめて知りたがるんですねわかりません。

 

「暇だ。」

「布団でゴロゴロしてるじゃん〜。」

「お、おう暇だからな‥‥はぁ。」

 

最近相なんとかさんの服装が際どい。蒸し暑いのはわかるけどキャミソールとか誘ってるの?どこぞの第一位みたいに叫べばいいの?俺じゃなかったら勘違いしちゃうぜ。

 

プルルルル、プルルルル

 

「比企谷くんのケータイが鳴った!?」

「驚くことじゃねえだろ‥‥‥誰だ?」

 

IS学園に入って初めてかかってきた番号は小町‥‥‥ではない。知らない番号だ(シンジ並感)。

 

「はい、もしもし。」

「もしもし、比企谷くん?」

「ゆ‥‥雪ノ下か?」

 

意外な人物、雪ノ下雪乃だった。てかなんで俺の電話番号知ってるんだ?どこかで安売りされてるの?セール中なの?

 

「比企谷くん、誰だった?」

「ちょ、おま「あら、エロ谷くん。女の子を侍らせて楽しそうね。」

「おい待て、俺に侍られる女子がいる訳ないだろ。」

「そうね。あなたの周りに人間は集まってこないものね。」

「あーはいはい。」

 

楽しそうな声色だ。俺がいないと自慢の毒舌を吐く相手がいないからストレスが溜まってるのかな?いや、そんなこと言ったら「あら、比企谷菌の分際で自惚れ過ぎてはないかしら。」とか言われそう。

ひ、ひとりでもぼっちだから気にしないもん!

 

「そろそろ本題に入りたいのだけれど。」

「お、おう?」

「来週の日曜日。由比ヶ浜さんの誕生日なのよ。」

「‥‥‥そうか。」

 

由比ヶ浜結衣。その名は俺が一番思い出したくなかったものだ。どんな顔をして会えばいいのかわからない。

 

「彼女、悲しんでいたわよ。比企谷くんを悲しませちゃったってね。」

「だから、どうした?」

「あなたの思っている“それ”は勘違いよ。そういう気持ちが微塵もなかったとなれば嘘になると思うけれど、彼女の思いは本当よ。」

「‥‥‥‥」

「そうなれば、あなたが彼女を拒絶する理由はなくなるわ。」

 

もし、もし仮に。相川清香のように、本物とは言えずとも、あの優しさが嘘じゃないと言うのなら。

 

「だから、比企谷くん───」

 

凛とした声で、雪ノ下は宣言する。

 

「少し付き合いなさい。」

「‥‥‥は?」

 

 




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やはり、こんなエンカウント率の高い買い物は間違っている

買い物回です。


あの電話から丁度一週間後の土曜日。俺はららぽーとにて放課後ティータイムを、楽しんで───楽しんでなんえなかったわ。心ぴょんぴょんしないし「にゃんぱすー」とも言わない。無論SOS団の集まりでもないし、古典部でもない。二次元なんて幻想なんだよ。単に待人がいるんだけだ。

そういえば今年のおみくじは吉だった。待人は「心して待て」だそうだ。一体誰が来るんだ‥‥‥‥

 

「ういっす。」

「あら、珍しい動物がいるのね。」

「人をホモ・サピエンス扱いするのやめようか?」

「いえ、私は目の腐ったカエルの事を言っているのだけれど。」

「ヒキガエルくんってか。昔のあだ名を思い出させる精神攻撃なの?」

「冗談よ。久しぶりね、比企谷くん。」

 

おいでなすったのは雪ノ下雪乃。一体どこからどこまでが冗談なのか。

というより先週は「付き合って」とか言われて一瞬勘違いしちゃったZE☆どう考えても買い物にです本当にありがとうございました。

俺としたことが死にてえ。ららぽーとって三階建てだから落ちても大丈夫だよな?な?

 

「なんでツインテールなんだ?」

「人の髪型に文句をつけるなんて比企谷くんの分際で生意気ね。」

 

うわぁすげえ楽しそう。やっぱりその毒溜め込んでたの?毒袋とかついてるの?ゲリョスなの?

それより服が凄い。センスが良いという意味で。クリーム色のカーディガンに清楚系ワンピースかよ。二次元美少女ばりのスペックだよこの子。俺なんて時代錯誤な英語が書いてあるTシャツだぞ?

 

「で、なんで俺は呼び出されたんだ?」

「決まっているじゃない。誕生日よ?プレゼントを買うしかないじゃない?」

 

みんな死ぬしかないじゃない!的なあれですね。雪ノ下はマミさん‥‥いや胸が足りない。圧倒的敗北感っ‥‥!ってなるのかな?ならねえな。寧ろ相手を論破するまでである。

 

「それだったら俺が呼び出された必要なくないか?」

「いえ。自慢じゃないけれど、私は普通の女子高生とは感性が違うもの。それに───」

 

感性が違うことは概ね同意だわ。こんな女子高生が大量にうろちょろしてたら引きこもりになる。元々だけど。

 

「───誕生日プレゼント、貰ったことないもの‥‥‥」

「‥‥‥‥‥ふっ。」

 

プークスクス、雪ノ下さんって〜誕生日プレゼントもらったことないんだって〜

え〜?マジ?ヤバくねぇ〜?

まじウケるんですけど〜

 

こんな感じですかね、全然ウケません。まあ、おおおお俺は高津くんからトウモロコシ貰ったことあるけど?べっ、べべ別に親同士に関係があったからもらったとか全然そういうわけじゃないし!?

 

「比企谷くんに笑われるなんて一生の不覚だわ。」

 

よくわからんが自己完結しだしたよこの子。でも勝った気がするからいいや、この流れは放置しよう。将来履歴書に書けそう。でもそれって就活しなきゃ意味ないじゃん!あ、平塚先生は婚活して、どうぞ。

 

「取り敢えずだな。雪ノ下、お前の感性で判断すると何をプレゼントするんだ?」

「‥‥‥万年筆とか、あと‥‥‥工具セットとか?」

 

万年筆はともかく工具セットってなんだよ。由比ヶ浜が「うわぁ!このドライバーセット欲しかったんだ!あ、ガジェットも入ってる!ゆきのんありがとう!」とは言わないだろう。いや、工業系女子‥‥森ガール的なあれで流行るかもしれん。リケジョ的なあれですよ!あれあれ!

 

「お前のセンスを疑うわ。」

「そうね、疑われても仕方がないわ。じゃあ、比企谷くん。あなたは何をプレゼントすれば由比ヶ浜さんが喜ぶと思う?」

「そうだなぁ‥‥」

 

スイーツ(笑)が喜びそうなもの。小町が呼んでる偏差値低そうな本借りてくりゃよかった。「これで私も愛されガール!」みたいなやつ。C.C.のギアスかな?

 

「首輪とか?」

「もしもし警察ですか?」

「そういう意味じゃねえよ。犬のだよ犬の。」

「本当かしら?エロ谷くんなら考えかねないもの。」

 

一瞬想像してしまった。煩悩退散!煩悩退散んん!!

 

「そ、そもそもプレゼントなんて関係性によるだろ。知り合い程度だったら重くない方がいいしな。」

「あら、比企谷くんにしては役に立ちそうな事を言うのね。」

 

ソースは小町とか言えないし言わん。

 

「私と由比ヶ浜さんはと‥‥と、とも、友達よ。」

「ふーん。」

 

デレデレしてやがるぜ。桜trickかな?それともゆるゆりかな?

 

「でも、これで私は一人じゃないわ。」

 

やっぱりマミさんだよな?狙ってるよな?あと一人っていう自覚あったのな。

 

「ふっ、友達ってのは複数いるから友“達”なんだよ。」

「あなたらしい屁理屈ね。でもいないよりはマシよ。」

「ぐぬぬ。」

 

知らなきゃいけない事は1と0の間だから(震え声)。

 

「そ、それより早く買い物しなくてもいいのかよ。」

「ええ、そうね。じゃあ行きましょう。」

 

わぁい、たのしいでーとのはじまりだぁ(棒)。

 

───2───

 

というわけで、買い物に出かける事になった八幡!そこに、買い物を阻む敵襲が現れる!

 

「あっ!?比企谷くんがデートしてる!」

「比企谷くん、あの子をいくらで買ったの?」

「買ってねえよ、失礼だろ。あとデートじゃない。」

「見知らぬ人だけれど比企谷くんに脅されているなら相談に乗るわ。」

「いやいや脅し「そんな事ないですよ〜!比企谷くんは私のルームメイトですよ〜。」

 

うわぁ、相なんとかさんじゃん。エンカウントしたくない人物第二位とかにランクインしてるやつ。あっ、戸塚は何時でもウェルカムなんで。

 

「こいつは雪ノ下だ。前の学校で入ってた部活の部長だ。こっちは相川‥‥‥相「相川だよ!いい加減覚えてよ〜!あ、初めまして。相川清香です。よろしくお願いします。」

「初めまして、相川さん。雪ノ下雪乃よ。」

 

感嘆符多すぎだろ。感嘆符つけないと死んじゃう病気なの?あと俺が幸先よく空気なんですけど。このまま帰っていいかな?よし帰ろう。

 

「待ちなさい。」

 

ハチマンは にげだした!

しかし まわりこまれてしまった!

 

「いや、ほら、家で小町が「あ、お兄ちゃん!」

「あら、小町さんがどうかしたのかしら?」

「ナ、ナンデモナイデス。」

 

うわぁ、小町友達と遊びに行ってるんじゃないのかよ。いや、遊びに行ってるからエンカウントしたのか。先週も会えなかったし会えたのは嬉しいけどタイミングが‥‥‥音ゲーだったら不可かMISSって出るよこれ。

 

「お兄ちゃんが女の子を二人も!?小町的にポイント高い!」

「お兄ちゃんってことは‥‥‥妹さん?」

「はい、お兄ちゃんの妹の比企谷小町です。うちの愚兄がお世話になってます。」

「初めまして、ルームメイトの相川清香です。比企谷くんにはいつもよくしてもらってます。」

 

やっぱり空気になったわ。しかも雪ノ下まで。雪ノ下を空気にするとかこいつら‥‥‥‥

 

「こんな可愛い人がルームメイトなんて‥‥本当にうちのゴミいちゃんが迷惑かけてすみませんね。」

「いえいえ、とんでもないです!いつもこまめに掃除とかしてくれて助かってるんですよ!」

「あ、いろいろありますし連絡先交換しましょう!」

「いいですね〜。えっと、赤外線通信でいいですか?」

 

なんか同じ親から生まれてきたとは思えないコミュ力の高さなんですけど。出会って数分でメアド交換とかどこの部族だよ。

 

「おい、雪ノ下。」

「何かしら比企谷くん?」

「もう行こうぜ。そろそろ俺の対人キャパシティ許容量を超える。」

「悔しいけれど概ね同意するわ。行きましょう。」

 

二人をよそ目に、俺達はその場を後にした。

 

───3───

 

「酷い目に遭ったな。」

「あなたの顔ほど酷くはないわ、ふふふっ。」

「俺は今酷い目に遭ったよ。あと笑い方怖い。」

「あら、私とあなたじゃ怖いのがどっちかなんて一目瞭然じゃない。犯罪者的な意味でだけれど。」

「ああ、タイーホされるんですね。冤罪だ‥‥‥」

 

それにしてもこの少女、ノリノリである。その絶対零度の微笑みをやめて欲しい。一撃必殺されそう。それより買い物しなくていいのかよ。買い物!

 

「おい、由比ヶ浜の誕生日プレゼントはどうすんだ?」

「どうするもなにも‥‥ノープランよ。」

 

ここまで清々しいノープラン野郎は初めて見た。プランB?んなもんねえよ!みたいな。プランCは屠られるのでちょっと‥‥‥

 

「あ、あれ?ゆきのん?それにヒッキー?」

「あら、由比ヶ浜さん。こんにちは。」

「‥‥‥うっす。」

 

一番エンカウントしてはいけない相手にエンカウントしてしまった。これは拙い。どう接していいかわからんしな。

 

「ヒッキーとゆきのん‥‥なんで‥‥‥あっ、そうだよね‥‥休日に二人で‥‥そうだよ‥‥ね‥‥‥」

 

愛しのゆきのんを借りててなんかすいません!いや俺はここに居たくて居る訳じゃないからな。今すぐ由比ヶ浜に譲ってやりたい。

 

「いやいや、特に意味なんて「べ、別にいいの。なんでもないから‥‥‥私って空気読むのだけが取り柄なのに‥‥‥‥」

 

あーこれ勘違いされてますわ。こんな釣り合わん相手と勘違いするなんてこいつもあれだな。アホの子だな。

ここで弁解するのは、逆に肯定しているようなものだ。

「二人って付き合ってるの?」「そんな事ないわ。ね?」「え?そ、そうだな。」

ほら、大体俺のせい。

 

「由比ヶ浜さん。私たちの事だけれど、あなたにはしっかり伝えておきたいと思っているわ。」

「はは‥‥‥今更っていうか‥‥‥かなわないっていうか‥‥ははは‥‥‥‥」

 

やんわりとした声色だが、明確な拒絶があった。由比ヶ浜にしては珍しい、“拒絶”という行為に、俺も雪ノ下もたじろぐ。

 

「その‥‥明日。部室で待っているわ。」

「‥‥‥‥ん。」

 

曖昧な返事をし、由比ヶ浜は去っていった。そのたった数歩の距離の間に、明確な線が引いてある気がして。そこは超えてはいけない境界のように見えて。

 

「───くん、比企谷くん!」

「ど、どうした?」

「大丈夫?顔色が悪いわよ?」

「んなこたぁねえよ、ほら、さっさと行くぞ。」

 

顔色が悪い?冗談だろ。そんな訳がないし、そもそもなる理由がない。俺はいつも通り。ノープロブレムだ。

雪ノ下の心配を振り切り、俺は大股で歩き出した。

 

由比ヶ浜の引いた、あの境界。いつか、超えなければならない境界。そんな気がして、俺の心をざわつかせた。

 

───4───

 

何を思いついたのか、雪ノ下はズカズカと歩いてランジェリーショップの前で立ち止まる。と思ったが、立ち止まったのは俺だけで、雪ノ下はその横にあるキッチン用品の店へと入ってゆく。

ランジェリーショップの下着ってあんまりエロさを感じない。あれは最早布切れだね!

そんな個人的な話はどうでもいいとして、由比ヶ浜とキッチン用品とはこれまた何を考えているのか。また俺を殺す気なのか?ムドオンカレーならぬマハムドオンクッキーを精製してしまうのか!?まあ、クッキーに関してはまともになっているかもしれんが、あれ以上複雑なものは作れんだろう。むしろ作らないでほしい。

 

「比企谷くん。」

「ん?」

「これ、どうかしら?」

「まあ、よく似合ってるんじゃねえの?」

 

買い物は由比ヶ浜のじゃなく自分だったらしいです。黒色の生地のエプロンは雪ノ下が着るとどこか涼しげに見える。胸元に小さく猫の足跡があしらわれている。動きやすさを確かめる為か、円舞曲でも踊るかのように一回転して見せる。どこぞのファッションショーかよ。

 

「そう、ありがとう‥‥でも私じゃないわ。由比ヶ浜さんにどうかしら?という意味よ。」

「それはナンセンスだな。そういう清楚系アイテムより頭の悪そうなぽわーっとしたものがいいんじゃないか?」

「悔しい程に的確ね‥‥‥‥」

 

ブツブツと言いながら、エプロンを脱いで綺麗に畳む。几帳面だなこいつ。

どうでもいい話なのだが、こういうキッチン用品は見ているだけで楽しい。フライパンの取っ手が取れて別の商品との互換性があるとか‥‥‥こっからここまで、全部ください!

 

「これはどうかしら?」

「あー、うん。そっちのほうがいいと思うぞ。」

 

ピンク色の普通に多機能そうなエプロンだ。真ん中の大きなポケットが可愛らしい。由比ヶ浜とか好きそう。

 

「これにするわ。」

 

カゴに入っているのは、ピンクと黒のエプロン二つ。まじちゃっかりさんだよ‥‥‥‥




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やはり、こんなエンカウント率の高い買い物は間違っている・続

戦闘描写が好きです。
でも苦手です。どうすればいいのでしょうか?

あと、雪ノ下陽乃の人物像が全く掴めません。


そんなこんなでペットショップ。八幡は、由比ヶ浜へのプレゼントを買っていたのであった!

いや、隣に雪ノ下がいないのは別に置いてきた訳じゃないんですよ。別行動しようぜ!俺ペットショップな!って言っただけ。あれ、俺スタンド使い?氷とか吐いちゃうの?

 

グッズコーナーを抜けると、雪ノ下ゲージの、猫の前でしゃがんでもふもふしている。

 

「にゃー‥‥‥」

 

うわぁ、猫に話しかけてるよこの子。猫好きなの?ちょっと可愛いと思ってしまった不覚!これがギャップ萌えってやつですね‥‥‥‥

てか話しかけらんねえ。ちょっとグッズコーナーまで戻りますわ。

 

一旦グッズコーナーに戻り、少し大きな音を立てながら近づくと、ひょこっと立ち上がり、そのブリザードな表情をこちらに向ける。周りから見たらすげえ滑稽なんだろうな。グッズコーナーを徘徊する不審者とか言われかねん。

 

「あら、早かったのね」

「悪いな」

「で、何を買ったの?まあさっき言ってたような気もするけど」

「まあそんなもんだ。お前の考えてる通りだと思うぞ」

「そう‥‥‥」

 

その返事は短かったが、顔はどこか満足気だった。正解したことが嬉しいのか?

 

「けれど、以外ね。あなたが由比ヶ浜さんのプレゼントを買うなんて」

「別に‥‥‥そういう気分なだけだ」

 

俺はエリカ様かよ。上手い言葉が思いつかねえ。

まあ、俺も由比ヶ浜との関係を清算しときたいと思っているしな。あの学校にはもう行く機会はほとんどないけど、それでも俺は清算しておくべきだ。二人のためにも。

 

「用も済ませたし、帰るか」

「そうね」

 

出口に向かう途中、複数人向けのゲームコーナーがあった。メダルゲームからレーシングゲーム、プリクという、なんともぼっちに優しくない。

一瞥をやり、そのまま進もうとすると、雪ノ下がその場て立ち止まる。まさか興味があるのか?

 

「なんかやりたいものでもあるのか?」

「いえ、ピコピコするゲームに興味がないわ」

 

じゃあ何に興味があるんだ‥‥‥それとピコピコってなんだよ。俺の母さんでもファミコンって言うぞ。

そう言う雪ノ下の視線は、一台のクレーンゲームに釘付けである。中にはパンダのパンさん。まあ釘付けになる理由もわからんでもない。ちょっと不気味だしな。

 

「‥‥‥やってみるか?」

「結構よ、別にゲームがしたいわけじゃないもの(ただあのぬいぐるみが欲しいだけだもの)」

 

はいはいツンデレツンデレ。いや、ツンデレとは違うな。じゃあ何デレなんだ?そもそもデレていない気がする。

そろそろデレって言葉がゲシュタルト崩壊してくるからやめよう。

 

「まぁ、欲しいならやればいいんじゃないか?取れないと思うけど」

「あら、比企谷くんの分際で挑戦的ね?私を見くびってるのかしら?」

 

なんか入れてはいけないスイッチを入れてしまった気がする。冷気を放出するのはやめてくれ。涼しいを通り越して凍る。エターナルフォースブリザード、相手は死ぬ。

 

「いや、別に‥‥あぁ‥‥‥‥」

 

すでに投入口の横には百円玉が積んであった。全部吸われるのにな。こういうのって買った方が早いのに。ソースは小町。

 

「‥‥‥‥」

 

気迫だけで人を殺せるんじゃねえのこの子。そもそも操作方法はわかるのか?

 

「右のボタンで左に移動して、左のボタンで前方な。押してる間は動き続けるぞ」

「そ、そう。あ、ありがとう」

 

わぁ、素直だぁ。明日は雪かな?いや、ヤドクガエル‥‥ジョジョネタはもういいですか。そうですか。救いがたい変t‥‥‥この場合は救いがたい何さんになるんだ?

 

「くぅ‥‥‥」

 

クレーンゲームにここまで本気になれる人間って初めて見たわ。あと失敗するたびに「ふええ〜」って鳴るあの音やめようぜ。俺の中でクレーンゲーム=幼女の方程式が成立しそう。そもそも方程式ってなんだ?これ等式じゃね?

 

「や、やっ‥‥‥‥」

 

アームがガッチリとパンさんを掴む。ゆっくりと上昇して、そのまま穴(意味深)に向かって───

 

「ふええ〜」

「くっ‥‥‥今のは絶対掴んでいたわ‥‥‥アームが弱いのね‥‥‥」

 

はい、無理でした。まあ仕方ないよね、初心者だし。俺もよく小町にねだられました。主にお金を。

まあ、俺だったらとれん事もないけど。

 

「まあ、俺だったらとれん事もないけど」

「‥‥‥言うじゃない?」

「ファッ!?今なんか言ってたか?」

「ええ、「まあ、俺だったらとれん事もないけど」って、ね?」

 

真空チルドばりに冷気を出すのやめて下さい腐った目の鮮度が保存されてしまいます。

心の声が出てたのか?それとも心を読まれたのか?どっちにしろ雪ノ下怖い。

(心の中の)小町が俺にもっと輝けと囁いている(財布的な意味で)。もうやるしかねえ!

ええい、ままよ!

百円を投入し、軽快な音楽と共にクレーンゲームにを始める。

こういうのは正攻法じゃ取れねえんだよ。アームで押すのが定石だってばっちゃが言ってた!

 

「ふええ〜」

「ふっ‥‥‥掴めてすらいないじゃない。」

「くうっ!」

 

全然動かねえ、漬物の重石かよ。こういうのって少し揺れて期待だけさせてくれるものじゃん?

 

「もう一回だ。」

「ふふっ、無理よ。」

 

こいつは何者だよ、RPGのラスボスかよ。なんで取ろうとしてるのに無理とかいうの?扱いが辛辣すぎるよ‥‥‥仕方ねえ、次の作戦だ。

 

ミッションを説明しましょう。

依頼主は雪ノ下雪乃。目的はゲームセンター内の景品、「パンダのパンさん」の奪取となります。

敵の主戦力はアームの弱体化です。

そちらの実力次第ですが、まあ、比企谷八幡が手こずる相手ではないでしょう。

また、目標には景品のタグが繋がれています。

説明は以上です。

雪ノ下雪乃との繋がり(笑)を強化するいい機会です。

そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?

 

うわぁ、オーメル仲介人腹立つわ。ミッション即破棄したくなるもん。でも仕事はしっかりしてるんだよな‥‥‥

 

慎重にボタンを操作し、タグに引っ掛ける。そのまま持ち上げて───

 

「ふええ〜」

「わけがわからないよ」

「‥‥‥‥そこまでのようね」

「まだだ、まだ終わらんよ!」

 

最後の手段、行くZE!俺はおもむろに右手を堂々と掲げる。◯◯さんを中心に、体操の体形に、ならえ!ってやつ。指先までピンってしないと怒られるよな。

 

「すみませーん、店員さーん、これ欲しいんすけど‥‥‥」

「はーい、こちらのパンダのパンさんでよろしいですか?行きますよー!」

 

クレーンゲームがふええ〜と泣き、ごとっとパンさんが落ちる。

 

「はい、どーぞ」

「あ、どーも」

 

爽やかな笑みとともに、ゲームセンターのお姉さんが景品を渡してくれる。これぞ、最近ありがちな「代わりにとってくれるサービス」である。お金の代わりにプライドを支払う必要があるけど。

そして俺にこの秘儀を使わせた雪ノ下は、不機嫌な、ドン引きした表情でこちらを見ている。

 

「比企谷くん。生きてて恥ずかしくないの?」

「ばっ‥‥失礼だな。生きてるってのは尊いんだよ。命を大事にしない奴なんて大嫌いだ、死ねばいいと思う。」

「言ってる事が矛盾してるのだけれど‥‥‥」

 

髪を掻き揚げ、ため息を疲れる。ため息の数だけ幸せが逃げるぞ。涙の数だけ強くなるという話も聞いたことがあるな。

 

「たまには真面目に取るのかと思ったのだけれど‥‥‥‥」

「はいはい、ほらよ」

 

パンさんを渡そうとすると、雪ノ下は複雑な表情を浮かばせる。

 

「それはあなたのとったものよ。それは受け取れないわ」

 

真面目‥‥‥というより偏屈だな。ただの偏屈。雪ノ下って頑固だよな。がんこちゃんとか言われてんじゃないの?

 

「いや、これはお前の金で取ったものだ、よってお前のものだ」

「そ、そう。なら仕方ないわね‥‥」

 

偏屈なら負けない。小町に言ったらゴミ扱いされそう。ゴミいちゃんはともかく、たまにゴミって言ってくるからな。「いちゃん」付けろよ。「いちゃん」をよ。

渋々受け取った雪ノ下は、何故かモジモジし始める。モジモジ系女子ってのはこの先生きのこれるかもしれない。でも俺にはトイレに行きたいようにしか見えない。

 

「こんなのが好きなんて‥‥おかしいかしら‥‥‥‥」

「おかしくなんざねえよ。好きなものは人それぞれだしな」

 

僕はプリキュア!二人はプリキュアとか二人じゃねえじゃん、映画版許さねえ。マックスハートしてんじゃねえ。

そして、雪ノ下は更にモジモジし始める。マジでトイレ行きたいんじゃないのかこいつ。それとも照れているのか。いや、ないな。そんな事言ったらどんな罵倒が飛んでくるかわからん。

 

「その‥‥‥」

「ん?」

「あ、ありが「あ、雪乃ちゃ〜ん!!」

 

無遠慮な軽い声が雪ノ下の声を遮る。

一瞬にして、雪ノ下の顔が苦虫を噛み潰したかのようなものへと変わる。肩を強張らせ、醸し出す空気は刺々しい攻撃的なものになる。

 

「やっぱり雪乃ちゃんだー!あ!デート?デートだな!このっ!」

「姉さん、やめてもらえるかしら」

「は?姉さん?は?」

 

目の前で雪ノ下を肘でうりうりとつつく女性は、とんでもなく美人だった。艶やかな黒髪、透き通るような肌。整った顔立ち。その露出の多い服装からは想像もできないような気品を漂わせていた。

言われてみれば、パーツは雪ノ下に似ている。あの無愛想な表情がコロコロと変わるようになればこうなるのだろうか。

だが、それは雪ノ下とは全く違う人種だった。あいつはここまで友好的な人間じゃないし、胸‥‥‥胸はいいとして、その雰囲気は百八十度違うものだった。

だが、それだけではない。この違和感は、それだけで説明のつくものではない。

 

「ねぇねぇ、あれ雪乃ちゃんの彼氏?彼氏なんでしょー!」

「‥‥‥同級生よ。」

「もー、照れちゃってぇー!あ、初めまして、雪乃のお姉ちゃんの雪ノ下陽乃でーす。太陽の陽に、雪乃ちゃんの乃でーす!」

「はぁ、えっと俺は───」

 

一瞬本名を言いかけたが、慌てて踏み止まる。ここで本名を晒していいのか?自慢じゃないが、俺の名前は世界的に有名だ。勿論、顔写真はお国の力で現在非公開となっているが。

ここで本名を晒せば、どうなるか?相手は雪ノ下の姉。雪ノ下の親は、どっかの議員をやっていると聞いた事がある。

それを考慮して考えるとする。雪ノ下の姉が俺の名前を知り、親に伝えたらどうなるか。下手を打てば上手く利用されかねない。雪ノ下にさえ被害が及ぶ可能性がある。

それに、この違和感。リア充特有のコミュ力とかそういうものじゃない。隙を見せれば、奈落の底に引き込まれてしまうような。蠱惑的な、ドス黒い何か。

 

「神宮寺っす」

「‥‥‥‥‥」

「あ、あなた「ふーん。そっかそっか〜!」

 

そのニコニコとした表情が陰る。それも一瞬の事で、また先程のニコニコ顏に戻る。俺の耳元に潤った唇を近づけ、甘く優しく囁く。

 

「じゃあ、雪乃ちゃんをよろしくね‥‥比企谷くん♪」

「っ!?」

 

刹那、背中を撫で回すような寒気を全身に覚える。

俺は純粋にこの人が怖い。不確定要素が多すぎる。この人は、雪ノ下陽乃は、害となり得る存在だ。

 

「あー、雪乃ちゃんパンダのパンさん持ってるー!私これ好きなんだよねー!」

 

コロコロとその表情を変え、元のニコニコスマイルでパンダのパンさんに手を伸ばす。

 

「触らないで」

 

空気さえも凍らせるような、拒絶の声。それは由比ヶ浜のそれに似ていて、その二人の間には大きな溝があるように思えた。

その反応が予想外だったのか、雪ノ下姉はその笑顔を凍りつかせる。

 

「ご、ごめんね雪乃ちゃん、お姉ちゃんちょっと無神経だったね」

「いや、彼氏じゃないんで」

「き、君もムキになるのはよくないぞ〜?」

「あーそうっすね。雪ノ下、行くぞ」

「え、ええ。そうね。じゃあ、姉さん、さようなら」

 

一刻も早くあの場を立ち去りたかった。だが、最後に雪ノ下姉、通称魔王は爆弾を投下する。

 

「お母さん、一人暮らしのことまだ怒ってるんだよ。その辺のこと、忘れないでよー?」

 

雪ノ下が「お母さん」という単語に大きく反応し、強張る。

 

「っ!?な、なにを「とっとと行くぞ」

 

その弱々しい手を引き、俺はその場から立ち去った。魔王が追いかけてくることはなく、安堵の溜息を吐く。

 

「は、放してちょうだい」

「あ、悪い」

 

「比企谷くんに手を握られるなんて屈辱だわ」とか言われるかと身構えていたが、そんな余裕もないらしい。

数秒の気まずい沈黙が場を支配する。それを振り切るように、罪を白状するように、雪ノ下は語り出す。

 

「あれが私の姉さんよ。容姿端麗、成績優秀、文武両道、多芸多才‥‥‥そして温厚篤実。あそこまで完璧な存在もいないでしょう。誰もがあの人を褒めそやすわ‥‥‥」

「はぁ?自慢乙。それブーメランだから」

 

雪ノ下がポカーンとした顔をする。ネットスラングは難しかったか。

 

「ブーメランってのは自分に返ってくるって意味のネットスラングだよ。」

「そ、それくらいは知っているわ。で、でも‥‥‥‥」

 

知ってるのかよ。反応おかしいだろ。

 

「なら分かるだろ。俺から見ればお前がそう見えるってことだ。温厚篤実ではないけどな。」

 

一見、雪ノ下陽乃はいつもニコニコしていて、楽しそうに見える。だが、先程の表情、声色を見るに、それは偽物だ。いくら繕おうと、華やかに見せようと、“偽物”には意味がない。それは幻想ですらない、醜い嘘なのだ。

 

「お前の姉のそれはなんつーか、追加装甲?ISを装備してるみたいな‥‥‥強化外骨格ってやつだな。あんな偽物の笑顔なんざ誰得だよ」

「‥‥腐った目でも見通せることがあるのね‥‥」

 

大丈夫!雪ノ下の真空チルドなら鮮度も抜群!

いや、すでに腐ってるけどね?腐りかけのレディオとか替え歌作っちゃうレベル。だからすでに腐っているとあれほど(ry

 

「ほら、俺の目って空気清浄機のフィルターみたいになってるから嘘は通らねえんだよ」

「だから腐っているのね、納得だわ」

 

だれが‥‥‥だれが上手い事言えと!?新品のフィルターって可能性だってあるじゃないですか!

 

そろそろご帰宅の時間なのか、雪ノ下は時計をチラリと確認する。

 

「‥‥そろそろ帰るわ」

「おう」

 

出口に向かって、雪ノ下が歩き出す。

そして、振り返らずに言葉を紡ぐ。

 

「でも、その、今日は楽しかったわ」

「‥‥‥は?」

 

今度はこっちがポカーンとしてしまった。雪ノ下が「楽しかった」なんて言うのか?耳がイかれたのか?

 

「ありがとう、また、明日ね」

 

それは聞き違いなんかじゃなかった。

 

別れの言葉は深く俺の耳元に響き、染み込んだ。

 




話が全く進んでいません、すみませんでした。

感想、評価等よろしくお願いします。


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やはり、彼と彼女は同類である


次からはISが出せると思います。
それと、前話を少し改定させて頂きました。


真っ白な世界。

色という概念が存在しない、“無”を象った世界。

俺初めて見たこの世界を、「寂しい」と思ってしまった。そして、この世界に何故か既視感を覚えてしまう。

 

「ようこそ、僕の世界へ」

 

その声は全てを司っていた。

男、女、子供、大人、赤子、老人、罪人、聖人、愚者、賢人───そのどれにも該当し得るが、決して該当する事のない、全てを孕む声。

 

「僕は‥‥名乗る必要もないね?わかっているんでしょ?」

 

楽しそうな口調で話す。が、そこには喜怒哀楽がぽっかりと欠けている。楽しそうに話しているはずなのに、全く楽しそうに見えない。

 

「君は、あの子‥‥陽乃ちゃんを“害”と認識したよね?」

 

声の主の言う通り、彼女は害悪な存在だ。俺の名前を知っていたし、何よりもあの深い闇が怖い。あんな人間は今まで見た事がない。深淵よりも深い闇。それを覗けば、もう二度と戻ってこられなくなる気さえした。容姿端麗、才色兼備、多芸多才、温厚篤実、大胆不敵。その全てを兼ね備え、そして全てが偽物の外骨格でしかない。なら、あの中身は本当に人間と言えるのだろうか?

同じ人間とは思えない。

そう、あれはまるで───

 

「“化け物”みたいだった?」

 

声の主はクスクスと笑う。もちろん、そこに感情は存在しない。

 

「でもさ───」

 

白い世界がゆっくりと狭まる。閉じて、圧縮されて、何処かに消えてしまうかのように、小さくなってゆく。

 

「───本当の化け物は、どっちなんだろうね?」

 

意味深な言の葉が世界を支配し、俺の意識は落ちていった。

 

───2───

 

現在日曜の午前十時過ぎ。

完全にプリキュアを見逃した俺は、軽い頭痛を抱えながら意識を覚醒させた。嫌な夢を見た気がする。落ちる夢とか追いかけられる夢みたいな、いわゆる怖い夢を見た後の気分だ。まあそのまんまだな。内容はよく覚えてないけど。よし、時間もあるし二度寝しよう。二度寝こそ正義だ!

 

「ひっきがーやくーん!!」

「うるせえよ‥‥‥‥」

 

朝からうるさいのがやってきた。ルームメイトだし悪意はないから多少はね?でも惰眠の妨害は許容できん。あと部屋が汚い。雑乱としすぎだろ、脱いだ制服くらいハンガーにかけとけよ‥‥‥結局俺がかけるんだけどさ?

 

「も〜!朝ご飯の時間過ぎちゃったよ〜」

「昼飯と一緒に食うから良い」

「何食べるの?」

「ラーメン」

「ラーメンマンじゃん!」

「‥‥‥‥‥‥」

 

うるせぇラーメンマン関係ないやろ。キャラメルクラッチ食らわせるぞ。

 

「昼食ったら出るわ」

「えっと、雪‥‥雪ノ下さんのとこ?」

「まあそんなところだ」

 

正確には総武校で、だがな。

 

「む〜!昨日もデートしてたし‥‥‥ちょっと妬けちゃうかも‥‥」

「デートじゃねえから、あとお前は一体何を焼く気なんだよ‥‥‥」

 

まさか俺なのか。メインディッシュは俺なの?注文多かったりする料理店なの?それとも「そんな脳味噌はいらんわなぁ」的なあれですか?うしおととらアニメ化めっちゃ嬉しい。みんな見ようね(ステマ)。

雪ノ下に「昨日比企谷くんとデートしてたの?」なんて聞いてみろ。複合的に死ねるぞ。ドMの方にオススメするわ。

 

「そりゃあ、雪ノ下さんに?」

「‥‥‥‥は?」

 

「に」っておかしいだろ。雪ノ下に相‥‥相‥‥相なんとかさんが焼かれるんですか!?まああり得ない話じゃないな。余りの毒舌で焼き殺される(痛みの表現)的な意味なら。「私の毒舌は百八式まであるわよ」とか言いかねん。テニプリはそろそろテニスしろ。

関係ないが、テニスといえば戸塚。戸塚といえば可愛い。つまりテニス=可愛い‥‥‥真理の淵を除いてしまった気がする。

 

「行ってくる」

「早い!脱兎の如くってやつだね!」

 

覚えたての言葉を使いたがる中学生みたいだな。使い方違うから国語を勉強しようか。

やっぱり、小町的な要素があr‥‥ないわ。小町の方が腹黒いし‥‥‥底は浅いけどな。あと小町の方が可愛い。千葉の兄妹は愛しあってんだよ。

 

「マジで行ってくるわ」

「五時までには帰ってくるんだよー?」

 

お前は俺の母さんかよ。

今流行りの感嘆符多い系女子、相なんとかさんを置いて俺はIS学園を後にした。

 

───3───

 

電車とか色々乗り継いで数十分。

久々に総武校に来た。久々といっても数週間ぶりなだけだけどな。

まあ、ここ最近は忙しかったからそう思うのも仕方のない事かもしれない。あれ‥‥俺の社畜適正‥‥高すぎ?

 

俺はもうここの生徒ではない。なので来賓という扱いになるはずのだが、どう考えなくても来賓する理由も必要もない。来賓用玄関から堂々と入ってみろ。この眼のお陰で警察に厄介になることになる。

 

「おお、比企谷。待たせたな」

「いえ、こちらこそ休日にすいません」

 

という訳なので、平塚先生にお願いする事にした。来賓として扱ってもらえるように取り計らってくれるそうだ。私服だけど。千葉県が描いてあるけど。

 

「今日は奉仕部の集まりと聞いているが、どうして部室なんだ?」

「‥‥そういえばなんででしょうかね?」

 

聞いてなかったわ。まあ、それ以外に思いつかなかっただけだと思うけどな。それに、雪ノ下なりに気を使ったのだろう。俺にも、由比ヶ浜にも。

 

「すみません、来賓の───」

 

それより、由比ヶ浜は本当に来るのだろうか。あの顔、あの表情、あの距離───俺だったらバックれてしまうだろう。まあ、由比ヶ浜はお人好しだ。嫌でも来るのかもしれない。というより、雪ノ下的には来ないと困るのだろう。

 

「許可が取れたぞ、あんまり目立つ行動はするなよ?」

「ありがとうございます」

 

首から来賓用と書かれた認可証を吊るし、晴れて俺もお客さんの仲間入りを果たす。自分は総武校の生徒じゃなくなった事を改めて実感し、感慨深いものを感じてしまう。

 

「どうした?」

「‥‥また今度、ラーメン食いに行きましょう」

「‥‥そうだな、トマト麺以外だつたら付き合ってやろう」

 

やはり、平塚先生は“イイ”先生だ。模範的という意味ではない。人間的にだ。

本当にこの人は尊敬できる。俺の事を未だに生徒扱いしてくるのだが、それは俺がネームがあるから関係を築いておきたいとか、そういうやましいものではない。シンプルに、「自分の生徒」として扱ってくるのだ。本当に、人間として出来ている。何故結婚できないのか。早く誰かもらってあげろ下さい。

 

「じゃあ、行ってくる‥‥っす。本当にありがとうございました」

「気にするな。頑張ってこいよ」

「うっす」

 

平塚先生に背を向け、来賓用玄関から中に入る。土日なので、部活動の人以外はいないはずだ。それに、基本文化部は休みに活動をしない。吹奏楽とかいう朝からファーファうるさいのは別だけど。それなんて洗剤?

 

「‥‥‥‥ふぅ‥‥」

 

誰もいない静かな階段に、パタパタというスリッパの音だけが響く。今日がなかったら、もう二度とここに来る機会などなかっただろう。まあ、この辺は雪ノ下に感謝だ。特に思い出もない学校とはいえ、ここに入るために頑張って勉強した事を思い出せば、まあそこそこの情は沸くものだ。RPGのスライムくらいにはな!あれ、それってすごい湧いてるんじゃ‥‥‥

 

「うーっす」

「あら、挽肉谷くん。早かったのね」

「ひでぇ。理不尽に罵倒されたんですけど」

 

部室の扉を開くと同時に飛んできた罵倒。雪ノ下らしいといえば雪ノ下らしい。が、挽肉はないだろう。まず意味わかんねえし。もっと語呂がいいのなかったの?

毎日俺のあだ名リストが更新されているんですがそれは。雪ノ下に付けられたあだ名だけでリスト埋まるわ。

 

「比企谷くんに人権があると思ったのかしら?」

「ふえぇ‥‥‥」

 

人権すらないそうです。八幡のメンタル力が足りなくて泣いちゃうゾ☆

 

「あの、比企谷くん」

「あ?」

「姉さんのこと‥‥‥なのだけれど‥‥‥」

「‥‥‥ああ」

 

あの強化外骨格系女子の話か。プラスの意味の四字熟語を全部くっつけたみたいな外骨格してる。そもそも外骨格って節足動物の殻の事だろ?雪ノ下姉ってカニなの?

 

「その、姉さん‥‥が‥‥その‥‥‥‥」

 

雪ノ下にしては珍しく、要領を得ない話し方だ。モゴノ下モゴ乃になってしまったのか。いや、語呂悪いな。

 

「‥‥やっぱりなんでもないわ」

「気になるからやめろよ‥‥‥」

 

一体全体雪ノ下姉がなんだってんだ。それを好奇心の猛獣相手にやってみろ。「私気になります!」っていう呪いがかけられて乙るぞ。

 

「‥‥‥来たわね」

 

「‥‥‥来たか」みたいなのやめようよ‥‥‥‥

扉に手をかけられ、ガラガラッと音を立てて開く。そこにいたのは、夏服を着た由比ヶ浜。今まで冬服姿しか見た事がないので、どことなく新鮮に見える。

 

「‥‥‥こ、こんにちは」

「こんにちは。待っていたわ、由比ヶ浜さん」

「‥‥‥‥‥」

 

こいつ、本当に大丈夫かよ。「やっはろー」しない由比ヶ浜とか由比ヶ浜じゃない。由比ヶ浜の皮を被った何かだろ。

 

「その、話っていうのは「あーあー、まてよ雪ノ下。俺から言わせろ」

「‥‥わかったわ」

「う、うん‥‥‥」

 

この前の買い物で完全に勘違いされているのに、そこから「ええっ!?ヒッキーとゆきのん付き合ってるんじゃないの!?」なんて由比ヶ浜が言ってみろ。静かな部室が戦場になるぞ。

 

「由比ヶ浜、ちょっとこい」

 

部室の外へ由比ヶ浜を連れ出し、雪ノ下の方をチラッと見て扉を閉める。凄い訝しげな目線を向けてたよあの子‥‥‥

 

「あのな、由比ヶ浜。お前は勘違いをしている」

「え?」

「俺と雪ノ下は付き合ってない。」

「ええっ!?ヒッキーとゆきのんって付き合ってないの!?」

「あっ、バカ!」

 

般若の表情を浮かべた雪ノ下が、再び扉を開く。シリアスでもアホの子は変わらないのか‥‥連れ出した意味ないじゃないですかやだー!!

 

「あら、楽しそうな話をしているわね?」

「ゆ、ゆきのん?」

「おい、由比ヶ浜しっかり謝れ。部長がお怒りだぞ」

「ええー!ゆきのん〜」

「しっかり謝るべきはあなたよ、私の潔白の人生が汚れたわ」

「‥‥‥死にてえ」

 

ゆるゆりかよ。時代はゆきゆいなんですね。

突然、雪ノ下が何かを思い出したかのように部室に戻る。ガサゴソと音がしたと思えば、ラッピングされた袋を持って帰ってきた。

 

「今日は、由比ヶ浜さんの誕生日をお祝いしようと思っていたのよ」

「ゆ、ゆきのん、ヒッキー!ありがとう!」

「それと、これは誕生日プレゼントよ」

「ゆ、ゆきのんー!ありがとう!!」

 

由比ヶ浜が雪ノ下に抱きつく。マジでゆるゆりだった。いや、Aチャンネルレベルの百合かな。ユー子可愛いよユー子。

 

「ゆ、由比ヶ浜さん。暑苦しいわ」

 

と言っておりますが、満更でもない様子です。ATフィールドを感じる。中和しなきゃ(使命感)。

雪ノ下の目線が「武室に戻るぞオラ」って言っている。怖い。

渋々部室に入って、由比ヶ浜がそわそわとした様子で扉を閉める。そして、わくわくとした表情を雪ノ下に向ける。

 

「開けていい?」

「ええ、勿論よ」

 

日本人特有の丁寧な開け方で、ラッピングの紙を剥がす。アメリカンな方々みたくビリビリ破けばいいのに。ちなみに俺はそういうの経験したことないのでちょっと‥‥‥‥

 

「わぁ、エプロンだぁ!」

 

中から出てきたのは、まあ言う必要もないだろう。由比ヶ浜はエプロンを抱き締め、にひひーと笑っている。ああもう可愛いなぁ‥‥戸塚が。

え?戸塚?

 

「戸塚ぁ!」

「は、八幡!」

 

窓から俺の腐った目が捉えたのは、テニスコートで輝いている天使(八幡談)の姿だった。可愛いなぁ、天使だよなああ!!!

 

「結婚しよう!」

「え?なに?」

「いや、なんでもないぞー!」

 

何時もは出さない大声を出し、大きく手を振る。由比ヶ浜と雪ノ下から白い目で見られている気がするが、そんな事は知らん。時代はゆきゆいからとつはち(戸塚×八幡)に変わったのさ!

 

「そっち行くねー!」

「おう!」

「ヒッキー‥‥‥頭大丈夫?」

「比企谷くん‥‥生きてて大丈夫かしら?」

「一つ目はともかく二つ目はなんだよ。」

「頭がおかしい事は否定しないのね‥‥‥」

「ばっか、お前、人間ってのは「はちまーん!」

「戸塚ぁ!」

 

奉仕部部室に天使が降臨した。やったぜ。

そろそろ雪ノ下に怒られそうだ。少しは空気を読むとしよう。由比ヶ浜も喜ぶだろう。喜ぶよね?

 

「今日、由比ヶ浜の誕生日なんだ。一緒に祝ってやってくれないか?」

「‥‥‥‥少しは空気を読めるのね」

 

なんか雪ノ下に言われてる希ガス。ボソボソしてて聞き取れないんだけど。難聴系主人公扱いされそうだからそういうのやめちく‥‥何でもないです。

 

「うん、知ってるよ?あ、今日鞄に入ってるかも。ちょっと待ってて」

 

知ってたしプレゼントも用意してた、すげえ。俺にも婚姻届プレゼントしてくれないかな?いや、俺がプレゼントしなきゃ(使命感)。

 

「はい、誕生日おめでとう!」

「わー!髪ゴムじゃん!私より女子力高い‥‥‥なんでだろう?ありがと!」

「いえいえー」

「んんっ、由比ヶ浜さん?」

 

咳払いをする雪ノ下、なんかエロい。

 

「比企谷くんも、プレゼントを用意してくれているわよ」

「おう、ほらよ」

 

出来るだけ無愛想に、顔を見せないように渡す。誕生日プレゼントとか小町以外にあげたことも貰ったこともねえや。恥ずかしいっつーの。

 

「ヒッキー‥‥‥」

「由比ヶ浜。あの事故のことなんだが‥‥‥」

 

ここからが本番だ。

 

「その、これでチャラにしないか?」

「でも‥‥‥」

「俺は‥‥俺はお前だから助けた訳じゃない。」

「っ!」

 

由比ヶ浜の表情に一瞬の陰りが見えたが、それもまた元に戻る。

俺が犬を助けたのは、別に由比ヶ浜の犬だったからではない。多分、それが大嫌いな奴の犬だろうと、俺は助けていたし、結局それのせいでぼっちになった訳ではない。

 

「だから、これで終わりだ」

「‥‥‥終わりなんて‥‥やだよ‥‥‥」

「いいじゃない、またやり直せば」

 

全員の目線が雪ノ下に向く。その表情は優しく、だが‥‥どこか儚く、寂しげだった。

 

「あなた達ならやり直せるわ、きっと‥‥ね?」

「‥‥‥そうだね」

「よく分かんないけど、きっと由比ヶ浜さんと八幡は仲良くできるよ!」

「‥‥‥そう、だな」

 

本当は喜ぶべきところなのだろうが、俺は素直に喜べなかった。その、雪ノ下の表情。それが俺の脳内で反芻し、こびり着いてしまった。

 

雪ノ下、お前は何を‥‥何を考えて、思って、隠しているんだ?

 

───4───

 

曰く、「私」は天才。

曰く、「私」は運動神経抜群。

曰く、「私」は温厚篤実。

曰く、「私」は多芸多才。

 

曰く、「私」は完璧。

 

だが、それは全て“嘘”だ。それは「私」であり、「私」でない。「私」はただ与えられただけだ。勉強しなさいと言われたから勉強をし、運動をしなさいと言われたから運動をした。やりなさいと言われたものは全てこなし、完璧に納めてきた。

だから、世界はつまらない。全てが受動態で手に入る。そう思い、信じていた───あの日までは。

 

あの日から、「私」の評価は変わった。

 

曰く、「私」はただの秀才。

曰く、「私」はただの八方美人。

曰く、「私」はただの努力家。

 

曰く、「私」は欠陥品。

 

だが、それも全て「偽物」だ。「私」自身が受身の「偽物」でしかないのなら、「私」の評価も「偽物」だ。

だから、世界はつまらない。いくら足掻いても、手に入らないものがあるのだから。

「偽物」だろうと、「私」は「私」であり続ける。それが間違っていたものだとしても、「私」はこの手を伸ばし続ける。

 

そういえば、つい最近。面白い少年を見つけた。目の腐った、今話題の男の子。一緒にして、「私」の本性を見破った。あれは、私と同類。いや、それ以上の“化け物”だ。成績とかそういう数値に出るものではない。彼が心に飼い慣らしているそれに、堪らなく興味が沸く。それに、“あれ”に選ばれたとなれば、それ相応の人物なのだろう。

 

「まあ、できたら計画に組み込みたかったんだけどね?刀奈ちゃん?」

「その呼び方やめてって言わなかったかしら‥‥‥」

 

青髪の少女は溜息を吐く。

 

「言う程の人には見えなかったんだけど‥‥‥」

「あれの本性は引き出すように話さないと分からないよ?見た目は目の腐った男の子のしか見えないし。」

「ふーん‥‥‥‥」

 

壁から背を離し、うーんと背伸びをする。私の口が三日月型に歪み、不敵に笑う。

 

「じゃ、そろそろ始めよっか。『親離れ』をさ?」

 

「私」に届かない場所なんてない。この手を伸ばして、伸ばして、絶対に手に入れてやるんだから。

 





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それでも、比企谷八幡は奉仕部を辞めない

由比ヶ浜の誕生日会が終わり、次の日。みんなのアイドル月曜日の放課後、俺は職員室の扉を叩いた。

 

「失礼します、織斑先生いますか?」

「ん?また比企谷か」

 

またってなんだまたって。職員室に来た優良な生徒と言って欲しいね。と言っても、ここまで職員室に来る生徒も珍しいのか。ほら、俺って優秀だし?納めるところはしっかり納めるし?

 

「少し頼みたいことがあるのですが‥‥‥」

「頼みたい事か‥‥‥私にできる範囲なら協力してやろう。三日後にクラス代表戦が控えているから大したことはできんが。」

 

ああ、そういや隣のクラスに変なちっこいのが来てた気もしないでもない。「二組の代表は私よ」的な事言ってたかも。

ちっこいのが織斑弟にベッタリだった事なんて知らない。織斑弟が女子を三人連れ歩いてる事なんて知らないもん!

 

「ええっと、そのですね‥‥‥」

「歯切れが悪いな、早く言え」

「部活を作りたいんですが‥‥‥‥」

「ほお、お前が部活?ちなみに何部だ?」

「奉仕部‥‥‥っていう部活なんすけど‥‥‥」

「ふむ‥‥‥‥」

 

部活動申請書を提出すると、織斑先生が目を細める。

IS学園出張奉仕部。俺がたった今織斑先生にお願いした部活動の正式名称だ。理由は、この前の誕生日会に遡る。

 

───回想───

 

「うーん、働かずに食べるケーキはスペシャルに美味しい」

「何を言っているのかしら‥‥‥‥」

 

あの後、誕生日ケーキを切り分け、みんなで食べる事になった。ケーキってたまに食うと美味いよな。食う機会ないけど。夢色パティシエールしちゃう。

 

「そういえば、ヒッキーIS学園で何やってるの?」

「ナニって‥‥‥勉強に決まってるだろ。これだからビッチは‥‥」

「ビッチ関係ないし!ビッチじゃないし!」

 

やはり、由比ヶ浜は今日も平常運転だ。俺の嫌いな優しい女の子。だが、そこが彼女の魅力なのだろう。素直な事は素敵な事だ。少しだけ、少しだけだが、羨ましい。

 

「でもアホの子なのは事実なのよね‥‥‥‥」

「ひどい!ゆきのんひどい!」

「僕も気になるなー」

「えっとだな、ISの訓練とかISの訓練とか担任にしごかれたりとか担任にパシられたりとかしてるぞ」

「ヒッキーさいちゃん好き過ぎでしょ‥‥‥‥」

「私は担任にいいように使われている事が気になるのだけれど‥‥‥」

「へぇー、八幡頑張ってるんだね!」

「おう!」

 

戸塚の為だったら何でもできる。地球の自転止めてビルを投げたり、知恵の泉と混沌の欠片で退屈を潰す事なんて余裕ですわ。

 

「でも、ヒッキーがもう部室来ないのかぁ‥‥」

「まあ、会えなくなった訳じゃないだろ?」

「そうよ、彼も一応は奉仕部の部員であるのだし」

「「え?」」

 

 

由比ヶ浜とハモった。こっちチラチラ見てくるよこの子。ハモってなんかすみません!

 

「由比ヶ浜さんにさえハブられてしまったのね‥‥‥‥」

「そんな事言ってないよ!どういうこと?」

「‥‥‥書類上は部活動‥‥学校にさえ参加していないけれど、元は奉仕部の一員よ。それに、彼が入部した理由は彼自身の矯正。つまり───」

 

雪ノ下ははっきりと断言する。

 

「───比企谷くん、奉仕活動を続けなさい。これは命令よ」

 

───回想終了───

 

という訳だ。あの後平塚先生に尋ねてみると、「そりゃクールだ(洋画風)」と答えた。なにそれ、そりゃ悪手なの?千手観音なの?

 

不本意ではあるが、命令されたのなら仕方がないだろう。雪ノ下&平塚先生の言う事を無視してみろ。罵倒と拳が飛んでくるぞ。

 

「だが、生憎部室がだな‥‥‥‥」

 

生憎って挽肉に似てるよな。ハッ!この前の雪ノ下の「挽肉谷くん」は伏線!?

 

「いえ、部室は大丈夫です。その代わりとは何ですが‥‥‥」

「ほう、言ってみろ」

 

織斑先生が愉快そうに俺を睨みつける。実際は睨みつけているのではなく、目つきが悪いだけだ。

でも一々威圧してくるのやめてもらえますかね?怖いんで。

 

「IS学園内IDのみで入れるお悩み相談サイトを作りたいのですが‥‥‥‥」

「うっ‥‥クックックッ‥‥‥ハッハッハッハッ!!」

 

突然の大笑いに視線が集中する。切実に帰りたい。ってか、そもそも笑われる要因があったか?

 

「ひーっ、ふぅ‥‥‥面白かったぞ、比企谷。いいだろう、じゃあ顧問は私でいいか‥‥‥山田先生!後は頼みました!」

「ええーっ!?」

 

この先生って先生としてどうなんだよ‥‥なんか平塚先生が教師やめて荒くれたverみたいだな。あそこまで人格が成ってるとは思わんが。取り敢えず山田先生に合掌。

 

「あの、ありがとうございます」

「いやいや、構わんよ」

 

集まっていた視線から逃げるように、俺は職員室を飛び出した。

 

───2───

 

場所は変わって第四アリーナ。

 

「trigger」

 

【藤壺】の砲身より漏れ出た光が高速で射出され、ターゲットを射抜く。脛部の物理シールドが格納され、膝を伸ばして立ち上がる。

 

今日は山田先生が俺の私用によって忙しいので、実質アリーナを独占している。なぜこのアリーナは人が少ないのか。遠いが、人が少ない方が快適だと思う。広々使えるしな。

それにしても、何で俺はこんなにスナイパーライフルの練習をする羽目になったのだろうか。ライフルの状態でばら撒きたいんだけど。くっそ山田先生許さねえ。

 

次は高速移動の訓練でもするかと思い、【若紫】を起動する。折翼から蒼炎が広がり、翼を取り戻す。

鼻歌を歌いノリノリで訓練を始めようとしたのだが、アリーナに入ってくる人影を発見し、動きを止める。

 

「あんたが二人目?」

「‥‥‥‥‥」

 

入ってきたのは隣のクラスのちっこいの。クラス代表だったっけか。

こいつアスカなの?シンジくんを探しているなら回れ右をしてどうぞ。いや、シンジくんじゃなくて織斑弟でしたか。

訳すと、「あんたが(男性IS適正者の)二人目?」という事だろう。そうじゃなかったら逆に何の用で来たのかさっぱりだ。

 

「なんとか言いなさいよ」

「‥‥‥まあそんな感じだ」

「へぇ‥‥‥‥」

 

訝しげな視線を送りながら、ちっこいのは近づいてくる。マジで小さいな、小町サイズだよ。

 

「あんた、強いの?」

「いや全然」

 

だってこの前金髪クロワッサンに負けましたし。

 

「きっぱり言うのね‥‥‥‥でも代表候補生相手に善戦したって聞いてるわよ?」

「ありゃあ初見だったからだ」

 

強いのは機体であって、俺じゃないし。しかもこの前のは弱点を調べ尽くした上でのハンデ戦だったからな。次やったら問答無用でボコボコにされるだろう。

 

「‥‥‥あくまでも謙遜するの、ふーん‥‥‥‥」

「いや事実だから」

 

謙遜する強キャラ見たいな扱いになってるんだけど。

 

「あんた、有名よ。「代表候補生に精神攻撃を仕掛けた」とか、「初日に逆ギレした」とか‥‥‥他にもあるけど。」

「半分くらいは合ってるんじゃないか?」

「清々しいくらいのクズっぷりね‥‥‥来なさい、甲龍」

 

 

赤───いや、ピンクと言うべきだろうか。ともかく赤に近いピンクと黒が噛み合った装甲。肩付近にはスパイクのついた非固定部位が浮かんでおり、その推進器らしくない姿がこれも武装の一種なのではないかという疑いを呼ぶ。

両手に武器を持っていないのも厄介だ。こっちは常に全武装を開け晒しているのに不平等な気がしないでもない。が、それも戦術のうちなのだろう。仕方がない。

今からボコられるのか?一応は抵抗するけど絶対勝てないだろ。

 

「らあっ!!」

「あ、【朝顔】!」

 

声よりも早く、大きく踏み込まれる。両手には光が溢れ、それは剣を象る。

ほぼ反射的にその名を叫び、左腕のエネルギーシールドが展開する。姿を現した青龍刀を受け、左に流す。【若紫】が炎を吹き出し、右側に大きく機体を動かす。

 

「Code:assault rifle!」

 

レールが短く二本に変化し、不意をとってその銃身を頭部に向ける。が、それも読まれていたのか、俺の首筋に青龍刀が沿われる。

この状況。どう考えても俺の負けだろう。わざわざ地上戦に合わせてくれるなんて優しいこった。

 

「‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

 

こういう時に、なんて言えばいいのか分からない。「降参」はそもそも吹っかけてきたのはあっちだし違う。「俺の負けだ」も同上の理由で違うだろ。綾波レイ状態と名付けよう。

 

「‥‥‥強いじゃない」

「たまたまだ」

 

両手を上げ、武装を解除する。実際にまぐれです。運良くガードできただけだし。

 

「‥‥‥本当に自分に自信がないのね。まあ、分からなくもないけど」

「‥‥‥‥」

 

ちっこいのがISを解除する。

まぐれで今の一撃を受けたからって強敵認定するのやめてもらっていいですか?

用が済んだのか、背中を向けて去ってゆく。思いついたかのように立ち止まり、こちらに手を振ってくる。

 

「凰 鈴音よ、覚えておいて!」

「お、おう!?」

 

名前を言い残して、走って行ってしまった。

マジでなんだったんだあいつ。俺のSAN値だけ削って帰りやがりやがった。許さねえ。

 

───2───

 

「明日はクラス代表戦だね!」

「そーだな」

「色んな人が来賓で来るんだってー!」

「そーだな」

「一組と二組どっちが勝つと思う?」

「そーだな」

「やっぱり全然聞いてないじゃん!」

「‥‥‥なんだよ?」

 

カタカタッターン!!とEnterキーを押し、編集を一旦中止する。月みたいに俺の周りをぐるぐると回ってて凄く目障りだ。「ねえ、今どんな気持ち?」ってやられている気分。

 

「今なにしてるのー?」

「関係ないだろ」

「いいじゃんいいじゃん教えてよー!」

 

制服の首元を掴まれ揺らされる。首が締まり、俺の頭がぐらんぐらんと揺れる。

 

「苦し‥‥わかった、教えるから離せって!」

「にひひー」

 

にひひーじゃねえよ。呼吸困難で死ぬぞ。

 

「サイト作ってたんだよ」

「へー、すごーい!」

 

正確には、サイトの編集をしていただけなんだけどな。

今俺が編集していたサイト、「IS学園お悩み相談室」は、学生からメールで悩みを聞く為のサイトだ。本当は奉仕部のように部室を用意して殆ど来ない人を待っても良かったのだが、ぼっちどころか評価が低い俺の元に誰かが相談に来るのだろうか。雪ノ下や由比ヶ浜のような人物がいれば話は別なのだが。

それに、部室として使える場所もないらしい。なら、メールで相談を受ける事くらいしかできないだろう。むしろそっちの方がいい。部屋に帰ってきてメールをチェックするだけの快適な奉仕部ライフを送れる。

リンクやらなんやら俺にはよくわからない事は山田先生がやっておいてくれたので、先程まではサイトの説明等を載せていた。どこぞのキョンくんと違って独学でサイトを作る事なんてできないんですよ、ええ。

 

「あと少し待ってろ」

「ほーい」

 

カタカタとキーボードを叩く心地の良い音だけが部屋に響く。

空間投影型ディスプレイに実機のキーボードというのは少し不恰好だが、叩く感触があった方が調子いいのだ。俺専用のコンピュータだし問題はないだろう。

雪ノ下の受け売りを書き込み、サイトの編集を完了させる。

 

「終わったぞ」

「なんのサイトなの?」

「秘密だ」

「えー、ケチ!」

 

ケチもなにも教えたら悲惨な事になる未来が見えるからな。教えん。

 

「比企谷くんのケチんぼ!」

「ケチんぼなんて言う奴初めて見たぞ‥‥‥‥」

 

中年なのか?中年のおじさんなのか?それともハピネスをチャージしてしまったのか?

 

「む〜!まあいいや。今日は諦めるけど、明日は覚悟していてよね!」

「はいはい、早く寝ろ」

 

渋々「はーい」と答えて、布団に潜り込んでしまった。相なんとかさんはダンゴムシのように丸まる寝相なのだが、あれは本当に寝れているのだろうか。たまに心配になる。

 

「‥‥‥寝るか」

 

パソコンをそっ閉じして、俺も布団に潜り込んだ。




感想、評価等よろしくお願いします。


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わけも分からず、比企谷八幡は逡巡する


次話は大事な回なので頑張ります。


「ええっと、ここは───」

 

日が変わってクラス代表候補戦当日になった訳だが、特にやる事もない。やる気もない。授業中だけど眠い。早く部屋に帰って惰眠を貪りたい。それか本屋にでも行きたい。

 

山田先生が黒斑の前でアワアワしている。実際には普通に授業をしているだけなのだが、その体格とオドオドとした性格からそう見えてしまう。

 

「じゃあここを‥‥比企谷くん!」

「は、はい。え、えっと、IS学園はIS国際委員会に所属する全ての国と地域から集めたお金で動かしています。その為───」

「はい、よくできました!」

 

山田先生に指されて少しドキッとした。大丈夫だよな?挙動不振じゃないよな?

周囲からの視線が痛い。いちいち動く度にこっち見んな。

周りの視線から逃げるようにコンピュータを開き、「今勉強しています」感を出す。すると、少し前に設立したばかりのあのサイトにメールが来ていた。スパムかと思っちゃったぜ。ってか特に公表してないのになんでもうメールが来たんだ?

 

『好きな人がいたんですけど、今は別の人が好きになっちゃいました!どうすればいいですか?byA.K』

 

ふむふむ、要約すると『(前の学校で)好きな人がいたんですけど、今は別の人(織斑弟)が好きになっちゃいました!』という事ですね。分かります。

それにしてもA.Kって銃の名称っぽい。名字がKの奴か‥‥詮索は良くないな、うん。落ち着こうぜ。

前方でウトウトしている織斑弟に目線を注ぐ。授業中に寝るなんて良くないぞ!(瞼を擦りながら)

さて、メールの文章を読み直すと、まあ恋多き乙女(笑)のようだ。前好きだった男には合掌。織斑弟は滅びよ。もしくは十字架を抱いて生きろ(テニプリ並感)。

コミュ力の低い俺に、特にアドバイスする事はない。まあ、強いて言うならば───

 

『今あなたが恋をしている相手は相当な朴念仁、朴念神と言い切っても過言ではないので、どんどんアタックしましょう。』

 

これでいいや。百点満点の回答とは言えないが、及第点くらいには届くだろう。ってかこの学校で恋愛相談とか相手が特定余裕だから気をつけようぜ。

 

「では、授業を終わります。復習をしっかりしておいて下さいね〜」

「気をつけー、礼」

 

あざっーしたーと適当に返事して、学生の安息の一時、昼休みに突入する。今日は昼休みが終わったら掃除で、五時間目からはクラス代表候補戦に突入する。見学は原則自由だが、殆どの人が自分のクラス代表を応援するだろう。また、全アリーナを使って行なわれるので、今日はISの練習ができない。つまり今日一日は暇なのだ。やったぜ。

 

迷わず食堂に直行する。今だったらアクアジェットでふっとばして、もやもや気分霧払いできる。もしくはガンガン行って風切ったりできる。ポケモンの話はやめろ。通信交換する相手がいなかったからカイリキーとハッサムが作れなかった話はやめろ下さい。

 

「すみませーん」

「はいよ、ラーメンね」

「あ、う、うっす」

 

思考が読まれててキョドっちゃったぜ。男ってだけで名前覚えられんのな。やりますね。

それにしても食堂のおばさん達は女尊男卑を知らないのか。クラスの大半はそんな感じだが、あの感嘆符多い系女子とか織斑先生とか思想が遅れてるだろ。いや、こっちとしてはありがたいんだけどさ。ほら、「男の癖に生意気」とか「ヒキガエルくん癖に生意気」とか‥‥‥最後の雪ノ下じゃね?

 

「‥‥‥‥っ‥‥」

 

雪ノ下という名前を思い出した瞬間、少し気分が悪くなる。何故だ。

 

「比企谷くん早いよー!」

「‥‥‥どうした?」

「一緒にご飯食べるって約束したじゃん!」

「してねえよ」

「あれ?そっか、じゃあ一緒に食べよっか。すいませーん!」

 

じゃあの使い方前衛的すぎるだろ。そもそも約束してないから。絶対にしてない。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

相なんとかさんを放っておいて、ベストプレイスに着任する。最近のゲームってよく喋るよな。プレイしてなくても勝手に喋り出すもん。艦これとか。

 

「いただきます‥‥‥」

「待ってよ〜」

 

トコトコとお盆を運ぶ。あまりに危なっかしくて食事に集中できない。

 

「おまたせー」

「はいはい」

 

今日は塩ラーメンの気分だ。いつもより大きなチャーシューと淡麗なスープの組み合わせが美しい。

スープを口にする。鶏と魚介の風味がふんわりと効いており、柚子の香りが爽やかさを演出する。三葉が乗っているのも八幡的にポイントが高い。

麺を啜る。若干ウェーブがかかった縮れ麺で、スープがよく絡む。喉越し抜群だ。

 

「凄く美味しそうに食べるね‥‥‥」

「なにそれこわい」

 

ふたりドゥビドゥバしてるの?それとも幸せなブタちゃんなの?全員カレーライスを食っていいという可能性も捨てきれんぞ‥‥確実に死亡フラグ立ってるじゃねえか。

 

「うーん、おいしいね」

「‥‥‥まあな」

 

相なんとかさんが食べているのはハンバーグだ。オニオンソースっぽいのがかかっているが、米‥‥‥この場合にはライスというべきなのだろうか。何故かライスにはカレーがかかっていた。オニオンソースとカレーってどうなんだよ‥‥‥

 

「そういえば、今日比企谷くんはどこで何をするの?」

「え?報告しなきゃいけない義務でもあんの?」

「いいじゃん教えて教えてー!」

 

アリーナ空いてないなら特にする事なんてねえよな‥‥‥どうしようか‥‥‥

 

「部屋にいるわ」

「ええー、クラス代表戦見ないの?」

「お前だって誰かと見る約束してるんだろ。俺が行ったらどうなるか予想してみろ」

「うーん‥‥‥でも比企谷くんいた方が面白いし‥‥‥」

 

面白いって言われてもネタにされる未来しか見えねえよ。

 

「じゃあ、今度一緒に遊びに行こっか!」

「さっきから話跳躍し過ぎだろ」

 

じゃあの使い方が前衛的過ぎる。大事な事なので二回言いました。

 

「いいじゃんいいじゃん行こうよー!」

「断る、理由がない」

「ぶー、ケチ!」

 

ラーメンをすすりながら、こいつ語彙少ないなと思う。IS学園に入れるんだから俺より頭がいいはずなんだけどな。

外人に向かって普通に「相川清香です!よろしくね!」とか言いそう。キヨカ・アイカワって言えるかな?

 

「いいじゃんいいじゃん!」

 

そろそろうるさいのも限界が来そうだ。何故俺はここまで機嫌が悪いのか。自分でもわからん。

 

「良くない。あと静かにしろ。そして食事中に喋るな。汚いぞ」

「ごめん‥‥‥‥」

 

あんなに元気だったのに簡単に萎れてしまう。感情の起伏が激しいのか。あんまり怒ったりしなさそうに見えたんだけどな。

 

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

 

気まずい。なんて爆弾を投下してくれたんだ奴は。小町!どうすればいいか教えて!

(脳内小町)「女の子を悲しませるとか小町的にポイント低いよ!」

(脳内俺)「じゃあどうすりゃいいんだ!」

(脳内小町)「謝って」

(脳内俺)「え?」

(脳内小町)「謝って」

(脳内俺)「いや、だか「謝って」

(脳内俺)「ふえぇ‥‥‥」

 

脳内小町怖い。小町ってこんなに怖かったっけ?そういえば最近小町の声聞いてないな。サイリウムとコマチニウムが足りない。前者って確実にライブで使う光る棒だよな。もしくは食物繊維。

 

「まあ、その、気にすんな。言い過ぎた」

「う、うん。ごめん‥‥‥」

「食べながら喋る事だけで嫌われたりするからな、ソースは俺」

「‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

 

再び沈黙。何て言えば正解だったのだろうか。

 

「‥‥‥‥先戻ってるわ」

「うん‥‥‥」

 

少し残ったラーメンをお盆ごと持ち上げ、ベストプレイスから立ち去った。

 

───2───

 

場所が変わってIS学園郊外。俺は風通しのいい場所で本を読んでいた。今日は夏らしい暑さをあまり感じず、逆にこの風が心地よい。

 

『これより、一組クラス代表対───』

 

学校中にアナウンスが響き渡る。もう始まったらしい。そういえば織斑弟はあのちっこいのとやる予定だったはずだが、勝てるのだろうか。優勝すればデザート食べ放題がどうのこうのと騒いでいたし、あいつも張り切ってる事だろう。

 

「‥‥‥‥はぁ」

 

さっきの返答。俺はなんと答えれば良かったのだろうか。俺は正しい事を言ったはずだ。正しさは時に人を傷つけるというが、正しさとは主観でしかない。俺が【浮舟】に対して「わからない」と答えたように、正義など俺には「わからない」。

もし、もしもの話だ。人生がゲームのようにリセットできるとするならば。

俺の人生は変わっていただろうか。

答えは否だ。俺がぼっちなのも、奉仕部に入れられたのも、ISを動かせていたのも、全部変わることはないだろう。

俺の行動は俺自身に責任が生じる。何故相川の機嫌を損ねてしまったのかはわからないが、あれは俺の責任だ。

なんて珍しくまともな考え事をしていると、ケータイがピロリンと鳴る。スパムだと思っているのに、何故かメールを確認してしまう。

 

「‥‥‥またか」

 

再びサイトにメールが来ていた。それも二件。直接メールフォルダに入る仕組みになってるのか。

つまり俺のメールアドレスが世界に公表されてる状態なのか?

まあ、ネット上の会員登録は捨て垢でやってるし、このメールアドレスも小町相手にしか使うこともないから別に問題ないのだが。

 

『友達と気まずくなってしまいました。どうすればいいですか?byA.K』

 

またこいつか。だからなんでこのサイトを知ってるんだ。

だが、内容が内容だ。今の俺にぴったりのお悩みである。

 

「‥‥‥‥‥わかんねえ」

 

そもそも友達がいない俺に仲直りの方法を聞かれても困る。ここはテンプレで行こう。

 

『きっと相手も仲直りしたいと思っていると思います。仲違いの理由を考えて、素直に謝りましょう。』

 

完璧だ。友達が五倍に増えるレベル。あっ、0に何かけても0ですね。もうやだこの世界‥‥‥

 

「二件目は‥‥‥‥」

『このサイトのURLを学園の掲示板に貼っておいby織斑』

「あっ‥‥‥」

 

察しましたそういう事ですね。織斑先生マジ無能。事後報告とか良くないっす。あと最後まで書こうか。

 

「さて‥‥‥‥」

 

寝るか。相なんとかさんにはしっかり謝ろう。ルームメイトと気まずい状態が続くなんてたまったもんじゃない。

帰ろうと立ち上がると、学園に建てられたメガホンからゴソゴソという雑音が聞こえた。ぼんやりと上を向く。

 

『侵入者!?レーダーには‥‥』

 

ブチッという音と共にメガホンは音を失う。

侵入者。その単語に、俺の身体は強張る。だが、俺が何かをする必要もないし、する実力もない。そう思っていたし、そうだと確信していた。

が、ある言葉が頭をよぎる。

 

「色んな人が来賓で来るんだってー!」

 

相川が言っていたあの言葉。“来賓”という言葉の意味。そして、侵入者が来たのは今日。わざわざクラス代表戦が行われ、来賓が来るこの日。

なら、狙いは明確だ。

そして、IS学園という場所。織斑千冬が教員をやっているという事実。それを考慮して勝算があるとするならば、この状況は全て予想されているはずだ。

 

「‥‥‥【浮舟】」

 

なら、この場合のイレギュラー因子は俺自身だ。こんな学園の端に生徒がいる事を侵入者は予想しているだろうか?十中八九それはないだろう。

時間稼ぎくらいなら俺にもできるはずだ。数の勝負ならIS学園は確実に負けないのだから、時間さえ稼げれば教師がどうにかしてくれるだろう。

 

【若紫】を起動すると同時に、上空に黒い物体を発見する。ハイパーセンサーを拡大し、その姿を視認する。

それは真っ黒な、見た事のないISだった。両腕が異常な程に大きく、不恰好な姿をしている。

侵入者と思われるISは突然急降下し、その姿を校舎の奥に隠す。俺は慌てて急発進し、大きくジャンプして桜の木に飛び乗り、更にそれを蹴り飛ばして校舎の屋上に飛び乗る。

屋上から隣の屋上に飛び乗り、更に隣の屋上に飛び移る。黒いISはこちらに気づいてないのか、地上をウロチョロとしている。

 

「Code:sniper rifle」

 

【藤壺】に四本のレールが接続され、エネルギーチャージが開始される。この距離ならそこまで遠くない。当てられるだろう。

膝をつき、念の為にシールドを展開する。

 

「システムを精密射撃モードに変更。標準、表示します。」

 

視界に現れた十字を黒いISに合わせる。光が収束し、砲身から漏れ出す。

チャージが完了したのだ。

 

トリガーを引こうとした瞬間、ハイパーセンサー内に別の影を捉える。

 

三つの反応。

この学園の生徒が二人。そして、スーツを着た黒髪の少女が一人。黒いISの姿は柱の死角になっており、丁度見えない位置だ。

三人はその柱から出てしまう。慌ててトリガーを引こうとしたが、それは叶わない。

 

そよ風に髪を棚引かせ、その顔を露わにする。

 

「なっ‥‥‥‥あれは!?」

 

流れる黒髪。氷のような冷たい無表情。その少女は、紛れもなく雪ノ下雪乃であった。





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かくして、比企谷八幡はゆっくりと崩壊を始める

ようやく、ようやく本編がスタートしました。こっからメインヒロインが出てきてようやく書きたい話が書けます。嬉しいです。

余談ですが、作者は感想を頂けると凄く嬉しいです。評価やお気に入りよりも、悪評でもいいから感想を頂けるだけで嬉しいです。もしよろしければ、感想を書いてくれれば幸いです。


その姿を見た瞬間、俺の中の時が止まった。雪ノ下雪乃。なぜお前がここにいるんだ?

猛烈な吐き気が俺を襲う。あの儚げな、諦めたような顔が脳裏に映る。訳の分からない感情が喉元まで登り上がる。頭の中がぐるぐると回り、グニョグニョに歪んだ視界が揺れる。

 

黒いISが三人に近づく。

震える身体を抑え込み、トリガーに指をかける。が、照準が黒いISに合っている気が全くしない。十字が宙を踊り、霞む。手がガタガタと震える。

 

引けよ。引くだけだろ。ただトリガーを引くだけだ。そう思え。ただ、ただそれだけなんだ。

だが、その指は全く動かない。その気配すらない。

 

「うっ‥‥あうっ‥‥‥」

 

酸っぱい匂いが喉奥より立ち込め、慌てて口を抑える。

 

黒いISは三人の少女と目と鼻の先の距離だ。腕を振れば、三人は紙屑のように小さな命を散らしてしまうだろう。

 

三人のうち一人が腰を抜かしてしまい、その場に倒れこむ。顔はよく見えないが、膝がガクガクと笑っている。

 

目の前で命の危機に陥っているというのに、俺には指一本をを引くことさえできない。

 

ゴクリと、唾を飲み込む。吐き気は収まるが、身体は未だに震えている。

 

何故撃てないのか。いや、分かっているが認めたくないだけなのだ。

俺は誤射が怖い。間違って雪ノ下達に当たれば、彼女らは確実に死ぬだろう。俺はそれが怖いのだ。

今あのISを止められなかったら高確率で三人は死ぬだろう。だが、もし俺が外してしまえば同じ結果が待っているのだ。その責任を俺が背負ってしまっていると、三人の命を俺が握ってしまっていると思うと、それだけで逃げだしたくなる。

こういう言い方は最低だが、もし雪ノ下がいなかったら俺は躊躇なく撃てていたのだろう。

 

いや、分からない。それでも俺は撃てていなかったかもしれない。散々他人は関係ないとか偉そうな事を垂れておいて、このザマだ。

所詮、俺は何もできない無力な人間なのだ。

 

そして、

 

ISとは兵器だったのだ。

俺はその兵器に乗っているのだ。他人の命を簡単に操れてしまう、人殺しの兵器に。

だが、俺はそれを失念していた。ISというものについて熟考せず、スポーツ感覚で乗り回し、平気で銃口を他人に向ける。愚かで浅はかな自分がそこにはいたのだ。まるで新しい玩具を手に入れた子供のようだった。

 

最後に、雪ノ下。俺は雪ノ下に何を求めている?あの諦めの色を思い出してしまうたびに、俺の心が折れてしまいそうになる。

不快感や嫌悪に近い何か。だが、それは雪ノ下が発端ではあるが、雪ノ下に向けられていない。その方向は混沌とした真っ黒な、訳の分からない自分自身にに向けられているのだ。

 

三人にその大きな腕が向けられる。俺は目の前で起きる“死”を実感し、受け入れようとしている。死ぬ事は既に確定事項で、それからどうするかを考えてしまっている。

 

が、それを絶対に受け入れたくない自分が、身勝手にも動き出す。自分という名の迷路に迷い込んだ“それ”が、衝動となり、化け出でる。

 

───殺せ

 

突然、喉元まで迫った何かが呆気なく後退し、冷たい“何か”が俺を侵食してゆく。絶対零度という名が相応しい、人間の感情とは程遠い“何か”。

 

───敵ヲ殺せ

 

自分でも驚く程に冷えた心が指先まで伝わり、低下した温度が機体内を支配する。視界が鮮明になり、標準が完全に合致する。

心臓をも飲み込む“それ”が、蛇のように身体に巻き付く。

 

───己ヲ、殺セ

 

機械のように冷たくなったゼンマイ仕掛けの身体が動き出し、引き金に指を掛け直す。

血と臓物をごっちゃに混ぜたような、濁りきった、底無し沼のようなドス黒いものが完全に消え、今は身体を完全に別の“何か”が支配する

 

───殺せ、殺せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セこロせこロせこロせこロセこロセこロセこロセこロセこロセコロせコロせコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ───!!!!!

 

「trigger」

 

一切の躊躇なく発射された閃光は、黒く大きな右腕を弾く。右腕からは熱戦が放たれ、植えられていた木々を焼き切る。焼けた空気が鼻をつんざくが、不思議とその熱は感じない。

 

「【若紫】───瞬時加速」

「【若紫】、超過駆動を開始‥‥‥3、2、1───GO」

 

折翼が今までで一番大きな蒼炎を宿し、瞬間的に最高速度まで達する。上空から直線的に突っ込み、その距離を大きく詰める。

撃たれてようやくこちらに気付いたボンクラが、両腕をこちらに向ける。が、すでにその距離は目と鼻の先で両腕を掴んでへし曲げる。威力を殺さずに突っ込み、敵を地面に叩きつける。大きな衝撃を殺すようにがっちりと両腕を掴み、黒い巨体が地面を直線的に大きく削ってゆく。

焼けた空気と巻き起こった砂塵が混ざり合い、立ち込める匂いに顔をしかめる。

 

「比企谷くん!?」

「相川か、二人を連れて逃げ‥‥‥無理か。雪ノ下、頼む」

「ひ、比企谷くんなの‥‥!?」

 

雪ノ下の驚いた顔が視界に映るが、今はそれどころではない。腰を抜かしていたのは相川だったらしい。

まあ(・・)そんなことは(・・・・・・)どうだっていいが(・・・・・・・・)

 

全身を捻り、【浮舟】を吹き飛ばしながら、人間とは思えない複雑な動きで黒いISが起き上がる。上空に飛び、両腕をこちらに向ける。

完全に真上を取られた。が、標的は俺ではないらしく、その腕は三人の少女に向けられる。光が収束し、いとも簡単に発射される。

 

「【朝顔】!」

 

大きく後方に下がり、三人を庇うようにして【朝顔】を展開する。五角形のエネルギーシールドが熱線を防ぐ。が、あまりの衝撃にじりじりと後退する。一発一発が馬鹿みたいな威力だ。これでは【朝顔】のエネルギーが切れるのも時間の問題だ。

 

「早く逃げろ!」

「で、でも足が「早く!」

 

雪ノ下ともう一人は相川に肩を貸し、ゆっくりと場を離れてゆく。

 

ギリギリ間に合った。エネルギー切れで【朝顔】はもう使えん。まあ、校舎内に入ればここよりはよっぽど安全だろう。

エネルギーがかき消え、一瞬無防備になる。熱線が機体を掠め、それだけでシールドエネルギーを大きく削る。装甲が歪み、漆のような“黒”が黒く焦げる。

機体を右、左と左右に揺らしながら回避し、【藤壺】の銃口を敵に向ける。

 

「Code:assault rifle!」

 

現れた二本のレールから青い光が乱射され、完全に乱戦の場と化す。光と光が空中でぶつかり合い、弾け、爆散、誘爆し、花火のように煌めく。光量が強く、相手の位置がしっかり認識できない。

 

「Code───」

 

両足に力を込め、地面に穴をあける程の衝撃で大きくジャンプする。【若紫】が一瞬だけ推進力を発揮し、今まで最大の距離を更新する。

丁度真下には、忌々しい“黒”が俺のいた場所を注視し、熱線を放ち続けている。

 

「───sniper rifle!!」

 

身体を弓のように大きく引き絞り、右腕を突き出す。その鋭利なレールの先をIS本体にねじ込み、突き刺す。立て付けの悪い家が風で鳴るように、銃口がミシミシと音を立てる。

 

右腕、貰った。

 

「trigger」

「───!?!?」

 

燃え盛る“蒼”が破裂し、右腕を残酷に引き千切る。あまりに暴力的なその一撃に、敵がたじろぐ。

 

「まさか‥‥‥」

 

右腕痕を見て、ある事実に気がつく。

 

このISの搭乗者、右腕がもげたというのに出血も呻き声も聞こえない。

 

そんな事があり得るのか。いや、まさか‥‥‥人が乗っていないのか?

 

地面を揺らしながら着地し、砲身を抱える。黒いISは右腕に一瞥をやり、それをなかった事と言わんばかりに、簡単にその左腕を向けてくる。

やはりこのIS、無人だ。切り替えの早さが人間業じゃない。無人ISなどあり得ないはずだが、目の前で起きている事を否定する理由はない。

 

「チッ!」

 

高威力の超弾幕はなくなったが、それでも地上対空中だ。戦況が厳しい事には変わりない。それに、一発の威力が下がった訳ではない。それに、さっきのジャンプ攻撃もあの超弾幕で機体を隠せていない以上当てるのは至難の技だ。

 

なら、方法は一つ。

 

一撃で地上に撃ち落とせ。

 

再々、蒼炎が砲身に宿り、荒ぶる“蒼”を撒き散らす。

その場から走り出し、スライディングを決める。熱線の雨を潜り抜けながら真下に潜り込み、空に銃口を掲げる。

 

「trigger」

 

狙いはブースター。幾らPICがあれど、初速を作り出すブースターがなければ意味がない。

一閃でブースターは射抜かれ、誘爆する。バランスを崩して地に落ち、翼を失った鳥のようにもがく。

滑り込んだ体勢を直し、両足で素早く立ち上がる。ラインアイが鋭い光を放ち、それでも立ち上がろうとする“黒”を睨みつける。

 

「Code:assault rifle」

 

二本になったレールを落ちたISに向け、連射する。シールドエネルギーや装甲がゴリゴリと削られてゆき、敵は必死にもがき、必死に足掻く。が、無慈悲にもその光は止まず、シールドエネルギーを削り切ってしまう。

完全に活動を停止したそれに近づいて、ベリベリと装甲を剥がす。やはり、中には人が入っていない。無人だ。

身体から力が抜け、冷え切った“何か”がスルスルと身体を抜けてゆく。目の前でグシャグシャになったISを見て、あの三人を助けられた事を実感する。

 

だが、

 

───もし、これに人が乗っていたら?

 

「うっ‥‥おあっ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥‥‥」

 

吐き気、めまい、倦怠感が同時に襲いかかる。視界が霞み、目の前がよく見えない。全身の感覚が抜けてしまい、自分自身がここにいるのかさえも分からなくなる。

俺が人殺しだったかもしれない未来。存在しないはずの未来。それを想像するだけで、俺は俺自身が信じられなくなってしまう。だが───

 

「‥‥よかっ‥‥た‥‥‥‥‥」

 

二人と、見知らぬ一人を助けられて良かった。俺でも、役に立てて良かった

 

急速に意識が遠のき、それを手放す。

 

「あれ、だ、大丈夫!?」

 

最後、聞き覚えのある誰かの、焦ったような声が聞こえた気がした。

 

───2───

 

早送りのように意識がはっきりとしてくる。ぼやけた視界に白い天井と、雪ノ下姉‥‥‥雪ノ下姉?

 

「あ、比企谷くん。おっはろー」

 

そこには、上から俺の顔を覗き込む雪ノ下陽乃の姿があった。その顔から妹が連想され、俺はベットからガバッと身体を起こす。節々が痛い。

 

「ゆ、雪ノ下は!?三人はどうなりましたか!?」

「比企谷くんの活躍のおかげで無事無傷‥‥無傷ではないかな。途中で足をくじいちゃったってさ」

 

妹の容態をまるで他人事のように、淡々と告げる。それに少しの恐怖を覚える。そして、“雪ノ下”という単語を思い出した瞬間、先程の戦闘がじわじわと記憶に蘇ってくる。まるで自分が自分でなくなるような、冷め切った感覚。ISに銃口を向けた時の明確な殺意。自分から出たとは思えないあの恐ろしい“何か”。

 

そして、黒い無人のISを“殺し”た事。

 

恐ろしい速度で胃酸が逆流する。慌てて近くのゴミ箱を口元に寄せる。

 

「うっ‥‥おえぇ‥‥‥があっ‥‥」

 

よりによってこの人の前で嘔吐してしまった。だが、腹の中を蠢く冷たい“何か”が出て行く気がして、黄色い膜に包まれた流動物を吐き出し続ける。胃が空になる程吐き出してしまう。

 

「うんうん、怖かったね‥‥よしよし‥‥‥」

「がはっ‥‥うっ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥‥あっ‥‥‥‥」

 

俺の背中をさする、優しく柔らかな手。それは強化外骨格、雪ノ下陽乃のものとは思えない程の優しさで、思わず安堵してしまう。ゴミ場をを抑えている左手とは逆の手に、数枚ティッシュを受け取る。口の中にこびり付いた胃酸を絞るようにして吐き出す。舌先についたティッシュの端を手に取り、丸めてゴミ箱に投入する。酸っぱい匂いが立ち込めるゴミ箱の袋の先を縛り、雪ノ下姉とは逆側に置く。後で処分しよう。

 

「はい、麦茶」

「あ、あざっす」

 

軽い力でペットボトルのキャップを開き、麦茶をゴクゴクと飲む。少しぬるいが、口の中の酸っぱさが消えてゆくのが心地よい。

 

「あ、それ私口つけたやつ」

「ごほっ、ごほっ!ゆ、雪ノ下さん!」

 

雪ノ下姉が愉快そうに笑う。

なんて人だ。考えないようにしていたのに、本当にこの人は意地が悪い。自分が楽しむ事に全力を尽くし、そのための手段や方法は問わない。そんな人間に見える。さっきの優しかった姿とはまるで正反対だ。あれも強化外骨格の一つだったのだろうか?

 

「‥‥‥落ち着いた?」

「‥‥!‥‥‥うっす」

 

本当にこの人は侮れない。この一連の流れは、俺を落ち着かせるためにわざわざ演じてくれたのだ。

純粋に怖い。が、それもこの人の一部であり、良さであり、悪さでもあるのだろう。今なら、そう思える。

 

「今日は“来賓”として来たんだけどー、まさか中止になるなんてねー」

「‥‥‥そういう事ですか」

 

来賓。その言葉で、パズルのピースがはまった音がした。詳しくは知らないが、雪ノ下家というのはそれなりに有名だとどこかで聞いた事がある。俺もあまり詳しくは知らないのだが。

 

「うん、母がIS関係の人でね」

「‥‥‥そう‥‥ですか」

 

その一言の“母”という単語に、どこか重みを感じさせた。言い回しが少し遠い、それは心の距離を表している気がした。

 

「ま、雪乃ちゃんは大丈夫ってことだよ」

 

ISの関係者でIS学園で来賓に招かれる程の権力とはどれほどのものなのだろうか。想像もつかない。

すると、雪ノ下姉は時計をチラリと見て、鞄を支度し始める。

 

「あ、もう時間だ。そろそろ私は帰るねー」

「あっ、雪ノ下さん」

「ん?」

 

最後に聞かなければ。雪ノ下のあの表情の理由を。彼女が何を諦めてしまい、何を隠してしまっているのか。

 

「雪ノ下は‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

 

だが、どう聞けばいいのだ。明確な理由もないのに、ただ俺の勘違いだけという可能性だってなきにしもあらずだ。寧ろ、俺の人生においてはそっちの方が多い。

勘違い。勘違いだと自分に言い聞かせ、言葉を飲み込む。

 

「‥‥‥雪ノ下によろしく伝えておいて下さい」

「‥‥‥‥‥わかった、じゃ、まったねー!」

 

ガララと音を立てて、雪ノ下姉は去っていった。

静かな病室には、俺だけが残された。保健室特有のひんやりとした空気が、俺の身体を支配していたそれを再び思い出させる。

最後、俺は明確に止めを刺していた。

 

「片付けるか‥‥‥‥」

 

俺は、俺は───

 

「‥‥‥‥‥‥‥」

 

───屑以下の、人殺しに成り下がってしまったのだろうか?

 





感想、評価等よろしくお願いします。


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【浮舟】設定

要望があったので作りました。


千葉メカトロニクス試作第三世代型IS【浮舟】

所有者:比企谷八幡

名称:【源氏物語】→【浮舟】

武装①:【???】

武装②:【藤壺】

武装③:【若紫】

武装④:【朝顔】

武装⑤:【葵】

武装⑥:【六条】

 

千葉工自慢の飛べない陸戦型IS。【桐壺】から【夢浮橋】までの五十四の設計図データが詰め込まれた、社長曰く「最強」の一機。彼の宣言通り、単純なスペックは第三世代型中最高峰で、空を捨てたことに見合う程の性能を持つ。

実際は飛べないのではなく、ホバーで地面を数mm程度浮遊している。が、それ以上高くは飛べないので、飛べないと断言しても差し支えない。

イメージインターフェースを採用しているが、【藤壺】のトリガーは自分で引く必要がある。

 

武装①:【???】

???

 

武装②:【藤壺】

多目的レーザー兵装。三種類の兵器に換装できる。

 

1st code:Assault rifle

アサルトライフル。もっともポピュラーな兵器であり、連射も効いて威力もそれなりに高い。ただ、全レーザー兵器の特徴として射程距離外に入ると大きく減衰し、威力は期待できなくなる。

 

2nd code sniper rifle

スナイパーライフル。なのだが、実際はスナイパーライフルとレーザーカノンを足した性能。チャージ量により飛距離、威力、速度の全てが変わり、チャージする程レーザーが細く収束される。ノーチャージでも打ち合いではその威力と速度が光る。

実際の狙撃でも十分に使用可能である。

ただ、【藤壺】自体のジェネレータが発光し、その光が砲身から漏れ出るので、隠密狙撃には向いていない。

 

山田先生がかっこいいといって気に入っている。

 

Final code:【桐壺】

ジェネレータと冷却装置を過負荷な状態で運用し、限界を超えて収束されたレーザーカノンを放つ超長距離掃撃砲。全長がスナイパーライフルの三倍はあり、砲撃時には有無を言わせずに機体は固定砲台と化す。

これを撃つには地面にパイルドライバを差し込んで固定し、腰部に支脚を展開して安定させ、【桐壺】に全エネルギーを注ぎ込む必要がある。

また、システムの全権限を【桐壺】に明け渡し、全シークエンスをクリアする必要がある。

 

「【桐壺】、スタンバイ開始。全特殊補助兵装を展開します。」

「全システム統制を【浮舟】より【桐壺】に委託。システムを精密射撃モードに移行します。」

「全エネルギーラインを直結。供給を開始。」

「ジェネレータの超過駆動を確認。」

「ライフリング、回転開始。」

「シークエンスを完了。発射可能です。」

 

この一連の流れにも時間がかかるのだが、発射後は一分近く動けない。掠っただけでシールドエネルギーを消し飛ばす一撃必殺の武器だが、外せば自分もピンチという諸刃の刃である。

 

武装③:【若紫】

折れた翼のような姿をしているが、片方に四つ、合計八つのブースターが点火すると、伸びた蒼炎が翼を描く。が、飛べない。

超過駆動(瞬時加速)もできる。

 

武装④:【朝顔】

五角形のエネルギーシールド。殆どの攻撃を受ける事ができるが、攻撃を受けるたびに【朝顔】専用のジェネレータ容量が減ってゆく。0になると展開できなくなる。攻撃の威力に比例してエネルギーが消費される。

 

武装⑤:【葵】

多機能型脚部武装。パイルドライバ以外は現在不明。

 

武装⑥:【六条】

第三世代型兵装。一瞬だけ、範囲内全ての注目を自分に集める能力。最初能力を見たときには使えないと判断したが、青銅色のIS(タロス)との戦闘によってその価値を見出した。

 



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奇しき時期に、シャルル・デュノアはやってくる

シャル登場回です。ところで、シャルって男装をしていても女にしか見えないのは作者だけなのでしょうか。

すごくどうでもいい話なのですが、ISのコアは限られた数しか存在しないのに量産機とはどういう事なのでしょうか。そこまで国のお金はカツカツだと国家として問題があるような気がします。


既視感のある真っ白な世界をキャンパスにして、様々な色が重ねられていた。初めて見たはずの世界なのに、もう幾度も訪れている気がする。

 

「ようこそ、僕の世界へ」

 

その声は全てを司っていた。

男、女、子供、大人、赤子、老人、罪人、聖人、愚者、賢人───そのどれにも該当し得るが、決して該当する事のない、全てを孕む声。

 

「今回は大変だったね」

 

喜怒哀楽のどれもを含む、普遍的な声。顔が見えず、その表情は伺えないが───それはどこか笑っている気がした。

 

「やっぱり君は“化け物”だよ」

 

そんな事はない。俺は普通だ。至って普通の人間なのだ。

 

「普通じゃないから、理性が暴走しちゃうんだよね」

 

理性が暴走する。「感情が暴走する」という言葉なら聞いた事はあるが、理性が暴走するというのはあり得ない。なぜなら、高まった感情を抑制するものが理性であり、それは物事を道理で考える為の感情の枷だからだ。

 

「あまりに強すぎる理性が、感情を殺してしまうなんて‥‥やっぱり僕の見込んだ通り、君は不完全な化け物だ」

 

声の主は断言する。その声を聞いた途端、収束するように世界が閉じてゆく。

 

「ま、頑張ってね。応援してるよ」

 

世界が、閉じられた。

 

───2───

 

「うわぁ‥‥‥眠っ‥‥‥‥‥」

 

凄まじい眠気が俺に襲いかかる。眠い、眠過ぎる。馬鹿じゃないのか。思わず独り言を呟いちゃうレベルだ。

雪ノ下さんが去ってブツを片付けた後、疲れていたのか、俺はぐっすりと眠りについてしまった。暫くして再び眼を覚ますと、もう夜遅く、とっくに就寝時間を過ぎていた。もう一度寝ようと思ったのだが昼寝をすると寝られなくなる現象が起き、目をパッチリとしたまま保健室で一晩を過ごす羽目になった。

そして現在、朝の六時。ここまで一睡もできませんでした。

窓を開けると、焼けたアスファルトの匂いとむしばむような暑さが流れ込む。まったく、夏は最高だぜ!

 

コンコンと扉が叩かれ、出席簿(物理)を持った織斑先生が扉を開く。壁に寄りかかり、俺を何度も確認するように見ると、ふむ、と言って何かを書き込む。

 

「比企谷‥‥‥目、大丈夫か?」

「大丈夫ですよ‥‥おはようございます」

「おはよう‥‥本当か?いつにも増して濁っているのだが」

 

いつもがどれくらいか知らないが、目の濁りとはそう簡単に変わるものだろうか。そもそも濁ってるってなんだよ。魚だったら死んでるじゃん。

 

「まあいい、今日は学校‥‥来れそうか?」

「ええ、まあ」

「そうかそうか。今日は転校生が来るからな、楽しみにしておけ」

 

この時期に転校となれば、確実にあれだ。代表候補生やらなんやら色々名前の後に付く奴らだ。あのちっこいのといい金髪クロワッサンといい、代表候補生にはまともなやつがいない。

 

「じゃあ、最後に一つ」

 

織斑先生が扉に手をかける。

 

「簡単に引き金を引ける人間はさぞかし楽だろうな。しかし、それを躊躇える人間は“心”のある人間だ。だがな───」

 

はっきりと告げる。

 

「───必要な時、非情になれない人間は、自分の手を汚したくない偽善者だ。覚えておけ」

 

強い音を立てて、扉が閉められる。

言葉は深く胸に突き刺さり、痛みが消える事はなかった。

 

───3───

 

「シャルル・デュノアです。よろしくお願いします」

 

息をするのさえ苦しい夏。汗で濡れた下着が張り付き、気分が悪くなる夏。

そんな時期に、転校生がやってきた。ブロンドのショートヘアを揺らす、おそらく代表候補生。誰かさんよりも慎ましい胸が特徴的だ。顔は整っており、男に困ってなさそうな顔をしている。

 

「シャルルくんは───」

「‥‥‥‥くん?」

 

耳がトチ狂ったのか。「くん」って聞こえたぞ。寝不足で疲れているのかもしれない。うん、きっとそうだ。

黄色い声がいつもに増してる気がする。やっぱり美形の転校生って女子校でも歓迎されちゃうのな。美少女って凄いわ‥‥‥‥

 

「じゃあ、シャルルくんは比企谷くんの隣に座って下さい」

「はい、わかりました」

 

かかとを軸にした美しい歩き方で、まるでレッドカーペットの上を歩く、テレビの中の女優のようだ。雰囲気といい、どことなく“お嬢様”の気を感じる。

 

「よろしくね、比企谷くん」

「うっす」

 

スマイル全開で挨拶される。苦手なタイプだ。雪ノ下姉とはまた違う、自分の魅力を分かってらっしゃるあざといスマイルだ。日本語が上手だなおい。

 

「じゃあ、次の授業は実習なんで、早めに準備して下さいねー」

 

山田先生がSHRを切り上げ、ニコニコ笑顔で教室から出て行く。実習となればあの鬼‥‥じゃなくて織斑先生が担当のはずだ。すなわち、遅刻=死に直結する。

ISスーツの入ったスクールバックを肩にかけ、そそくさと教室を出ようとすると、

 

「比企谷くん。次の授業って‥‥‥」

「実習だ。女子更衣室は廊下を突き当たって右だ」

 

転校生に優しい俺KAKKEEEEEEして、今度こそ男子更衣室に向かおうとする。

 

「ま、待ってよ」

「いやだから女子更衣室は「そうじゃなくて」

「‥‥‥‥」

「僕、男なんだけど‥‥‥」

「は?は?マジ?」

「う、うん‥‥‥‥」

 

は?マジ?嘘だろ?なんで俺の周りって性別不詳が多いの?性別が秀吉なの?それとも彩加かな?

てか男ってどういう事だ。また新しい男性IS適正者が見つかったのか、それとも───

 

「‥‥まさかな」

「へ?」

「なんでもない、行くぞ」

「あ、まってよー」

 

本当ならあの織斑弟に放り投げ‥‥任せてやりたいところなのだが、あいつに頼めば「じゃあ比企谷も一緒に行こうぜ!」とか言ってくるに決まっている。ああいうザ・リア充感を漂わせる人間は苦手だ。

 

「おっ、比企谷に転入生。えっと‥‥」

「シャルルだよ。シャルル・デュノア。よろしくね」

「俺は織斑一夏だ。よろしくな」

 

噂をすればなんとやらというが、本当に来やがった。ここまで苦手オーラを出してるのに近寄ってくるなんて無神経というかなんというか、空気が読めないというか‥‥‥‥

 

「じゃ、行こうぜ」

「うん、行こっか」

 

この二人息ぴったりやん。俺必要なくね?

なんて事を思いつつ、駆け足で男子更衣室に向かう。何しろ男子更衣室は遠い。実質、女子校の使っていない女子更衣室を無理矢理に男子更衣室にしただけだし、遠いのは仕方がない。

 

「ここだぜここ」

「へえ、結構広いんだね」

「‥‥‥‥‥使うやついないしな」

 

マジで俺いらなかった。これもうわかんねえな。

電気を付け、俺と織斑弟はそそくさと上着を脱ぎ始める。デュノアの方をチラリと見ると、顔を真っ赤にしてあわわ、としている。

 

「どうした?」

「う、ううん。なんでもないよ!」

 

戸塚並の可愛さだぜ。俺を専業主夫として養ってくんねえかな‥‥‥戸塚もそうだけどこいつらマジで男なのか?

ジロジロと見るのもあれなので目線を外し、自分の着替えを済ませる。

ISスーツは水着のような見た目をしている。着心地はひんやり、ピタッとした‥‥つまり水着そのものなのだが、下だけでなく上まで用意されている。だが、身体の線が見え、ヘソが丸出しになるデザインで、正直上を着る意味がわからん。

デュノアの方からゴソゴソとなり、「こいつマジで男なの?」という好奇心とともに尻目に見ると、

 

「早いな」

「う、うん」

 

すでに着替えを終えていた。あれか、アニメの風呂シーンで出てくる湯気的なあれですか。ISスーツは湯気だったのか‥‥‥‥

 

「ってかさぁ、ISスーツってきつくないか?」

「わからんくもないな。下はひっかかるしな」

「ひ、ひっかかる!?」

 

いやだって引っかかるじゃん。

 

初心な少女のように顔を真っ赤に染め、両手をブンブンと振るデュノア。こいつの顔赤い率は異常。リンゴかと思っちゃったぜ。

 

「どうした?」

「な、なんでもないよ!」

「‥‥‥‥‥」

 

デュノアは本当に身体が細い。俺も人のことを言えないガリガリだが、ここまでじゃない。それに細いというより、どちらかといえば華奢というべきだろう。胸はないが、本当に女の子っぽい。

ここまではいかないが、織斑も女顔だ。織斑先生とよく似ている。可愛いというより、凛としたと言った方が近い。

 

「織斑、デカイな」

「そうか?比企谷もなかなか大きいよな」

「嫌味かよ」

「で、デカい!?大きい!?」

 

もちろん身長の話である。俺も170cmと中々大きい方なはずなのだが、織斑は俺よりも大きい。しかも年下。ここ重要な。

ここでデュノアがホモの可能性が出てきた。これはマズイ。あまりの鈍感さに織斑弟はホモだという疑いをかけていたのだが、ここにもホモ疑惑が発生した。自分の尻は自分で守らなきゃ(使命感)。

 

「うっし、じゃあ行くか!」

「おー!れっつごー!」

「‥‥‥‥」

 

それにしてもこのデュノア、ノリノリである。

 

───4───

 

グラウンドに出ると、すでに他の生徒は外で並んでいた。今日は一組二組合同の実習だ。整列している女子の姿が目に毒だ‥‥‥けしからん。もっとやれ!

 

「さて、そろそろお前らも実技を学ばねばならんな。座学も重要だが、肝心のISを使えねば意味がない。しっかり学ぶように」

「「「はい!」」」

 

軍隊のようにいい返事だ。合同授業だからか、どこか気合いが入っている気がしないでもない。

 

「ではまず、凰、オルコット。出てこい」

「はい!」

「わかりましたわ!」

 

金髪クロワッサンとちっこいのが前に出る。あの二人もうやだ。片方はひどく無礼だし、片方はいきなり喧嘩吹っかけてくるし‥‥織斑先生成敗してくんねえかな‥‥‥‥

 

「ねえねえ」

「あ?」

 

横に並ぶデュノアが俺をちょんちょんとつついてくる。キツツキかよ。

 

「比企谷くんも専用機、持ってるの?」

「一応な」

 

“も”って事は、デュノアも専用機を持っているのだろう。しかしまあ、デュノアって名字はどこかで聞いた事がある気がする。思い出せん。

 

「ふふふ、今日こそ───」

「それはこっちの───」

 

また織斑ハーレムメンバーが争っている。いつもはもう一人多いのだが、どうしたものか。専用機持ちじゃないのか。

 

「誰がお前らだけで戦えと言った?ガキの勝負など役に立たん。相手は別に用意してある」

「え?」

「へ?」

「は?」

 

代表候補生相手に「ガキ」なんて一蹴できるのはこの人くらいだよな‥‥他の人が言ったらIS戦でボコボコにされるか、国家問題に発展して爆死するよな。え?転校初日にマジギレした生徒がいた?‥‥‥知らない子ですね(震え声)。

織斑先生は上を見上げ、それにつられて俺も顔を上げる。遠くには、流星のように降下する緑色の影が見える。

 

「ひやぁぁぁぁぁっ〜!危ないですぅ〜!!!」

「山田先生なにやってんだ‥‥‥‥」

「ははは‥‥‥おっちょこちょいな先生だね」

 

山田先生だった。前で並んでいた織斑弟がISを展開し、直前で受け止める。二人とも、勢いのままゴロゴロと転がりってゆく。

 

「ひゃっ、おり、おりおり織斑ひゃ───ひゃん!」

 

さりげなく胸を揉む織斑弟。

ラッキースケベかよ。くっそ羨ま死ね。

 

「あ、ああ、こんな明るいうちから‥‥あ、いえ、嫌というわけじゃくてですね───」

 

この先生はなにを言っているんだ。

勿論、こんな事があればヒロイン達が放っておくわけがなくて、なにやらボコスカと戦闘が始まる。

さすが織斑!おれたちに立てられないフラグを平然に立ててのけるッ!そこにシビれる憧れるゥ!ただしここには死亡フラグも含まれる模様っと‥‥‥カタカタカタッターン!!

 

「ははは‥‥織斑くんはモテモテだね」

「ああ、イケメンでそれなりに優しくて朴念仁だからな、ハーレムを築くために生まれてきたみたいなスペックだし」

「ぼく‥‥‥ぼく?」

「いや、なんでもない。気にするな」

「う、うん‥‥‥」

 

こんな事言われたら絶対気になって家帰ってから辞書で調べるわ。「朴念仁」で検索検索ゥ!

 

「え?二対一で‥‥‥‥?」

「む、二人では不安か?どうやら自分の実力をしっかり弁えているようだな‥‥‥‥」

 

織斑先生けしかけるのうまいな。プライドを逆撫するなんて煽り力高い。

二人の瞳に炎が宿る。絶対闘志とか漲らせちゃってるよ。

 

「いえ、一人で十分ですわ!」

「まったくその通りよ!」

「よし、では始め!」

 

ばきゅーん、どーん、ばーん。

最初はどうなるかと思ったが、あの二人、まったく連携できていない。その穴を突くように二人を翻弄する山田先生は、緑色のISを駆使して二人を圧倒している。

 

「すげえな‥‥‥ラファ‥‥ラファールだっけか‥‥‥」

「ラファール・リヴァイヴだよ。デュノア社の第二世代型量産型IS。世界第三位のシェアを誇ってるんだよ」

「‥‥‥詳しいな」

「父が社長だからね‥‥‥‥」

 

ああ、そういう事と相槌を打つ。

デュノアという名前は聞いたことがあったが、確かに有名な名前だった。つまり、この少年は社長の息子、デュノア家の御曹司という訳だ。

だが、その父という呼び方はどこか遠く、暗く、酷く物憂げな印象を覚えた。親と仲が良くないのだろうか。

 

「さて、では実習に移る。まずは基礎からだ。専用機持ちをリーダーとして、グループに別れろ。始め!」

 

デュノアと話をしていたらいつの間にか授業が進んでいた。あの二人どうなった?

普通だったらチョークか出席簿が飛んでくるレベル。気付いてないからいいよね?バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。

 

片腕をゆっくりあげ、その名をコールする。だが、その時、俺の身体に異変が起きる。

 

「来い‥‥【浮ふ‥‥うっ‥‥‥があっ‥‥‥‥ゲホッ、ゲホッ!」

「だ、大丈夫!?」

 

鼻をつんざくような酸が、胃から這い上がってくる感覚。口元を押さえ、身体をくの字に曲げる。ダメだ。ISを展開しようとするだけで、あの“冷たさ”が蘇ってくる気がしてしまい、怖くなってしまう。

PTSD。心的外傷後ストレス障害。ふとそんな言葉が頭をよぎる。

何らかの原因で強い精神的衝撃を受けた事を原因とし、生活に支障をきたすストレス障害だ。確か、症状はフラッシュバック、不眠、吐き気、悪夢などが挙げられる。思い当たる節は‥‥ある。

織斑先生が駆け寄り、俺の肩に触れる。

 

「比企谷、大丈夫か?」

「‥‥‥ええ、大丈夫です」

 

曲げた身体をゆっくりと起こし、深呼吸をする。どうやらこの調子では、ISは展開できないようだ。

織斑先生は眉間にしわを寄せ、肩に触れた法の手でこめかみを抑える。

 

「今日は帰って休め」

「いえ、でも「いいから休め、これは命令だ」

「‥‥‥‥うっす」

「比企谷くん、お大事にね」

「おう。じゃ、お言葉に甘える事にします」

「ああ」

 

集まる好奇の目線と絡みつく恐怖から逃げ出すように、俺は寮に帰った。




厳密に言えば、これはPTSDではなくてASDらしいです。
それと、「あれ?ゴーレムについてほとんど書かれてねえ」と思った読者の方も多いと思いますが、その辺の説明は次話で行われます。

感想、評価等よろしくお願いします。


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やはり、シャルル・デュノアは男の娘である

奉仕部を設立したのに全然出てこないとか言わないで下さい。作者のライフはもう0です。



自室のベッドの上。頭に手を当て、俺はグダグダとしてしていた。

今日は早退という形で逃げる事ができたが、実習のたびにこうではさすがに問題だろう。それに、ISに拒否反応が出てしまう生徒をいつまでもこの学園に置いておいてもらえるものなのだろうか?

事は早急に解決せねばならない。

だが、俺はあの恐怖を乗り越えられる気がしない。俺を蝕む、真っ黒で冷たい“何か”。あの温度に触れるだけで吐きそうになる。ダメだ。考えるだけで気分が悪くなる。

 

溜息を吐き、顔でも洗うかと立ち上がると、タイミングよく扉がノックされる。

 

「どうぞ」

 

扉を開く。

 

「やっはろー、覚え」バタン

 

扉の隙間から青い髪が見えた瞬間、まるでなかった事のように扉を閉める。え?誰か来てた?いやいやいや、青い髪の人なんて三次元に存在するわけないじゃないですか。しかも学生ですよ?

確か、あの顔は自称生徒会長だ。アリーナに槍を持って待ってた不良。あんな槍もってる人が生徒会長なわけないじゃん。風紀委員が風紀乱してるくらいの矛盾なんだけど。

 

「ちょっとなんで閉めるのよー!」

「いえ、人違いです」

「ちょっと、開けてよー!」

 

ダンダンダンと扉が叩かれる。管理人にドアを開けてみろって聞いてみ?不審者扱いで帰れ、帰れって言われるレベル。ちなみに管理人は織斑先生な。ミスチルわかんないか、そうですか‥‥‥‥

うるさいので扉を開けてやると、するりと隙間から室内へと侵入してくる。CMのクレンジングオイル並にするりとしてるわ。あれ本当に化粧落ちるの?

 

「ここが比企谷くんの部屋かぁ」

「あの、何の用ですか?」

 

なんで同級生に敬語使ってんだろ俺‥‥‥そういえば留年してるんだよな。死にたい。

自称生徒会長は部屋をキョロキョロと見回し、ベッドの下や本棚を勝手に漁り始める。

 

「‥‥マジで帰ってくれませんか?」

「比企谷くーん、エロ本は?」

「いや持ってませんよ」

 

時代は電子化だよな。エロ“本”は持ってない。嘘は言ってない。だから小町、俺のパソコンをいじっちゃダメだ。ダメ、絶対。

 

「あ、老人と海だ。私ヘミングウェイ好きなんだよねー」

「マジっすか。何読んだ事ありますか?」

「日はまた昇るとか?」

「‥‥ふ、ふーん」

 

本棚を漁った自称生徒会長は、薄い本(意味深)を引っ張り出す。

俺が住んでいるこの部屋の本棚だが、相川の分も占領させてもらっている。ここに置いてあるのは俺の厳選したベストコレクションを更に厳選したもので、家に帰ればこれの数倍はある。

ちょっとだけ自称生徒会長を見直した。ヘミングウェイの凄さがわかるなんてな。あの薄い一冊の中にあれ程の内容を詰め込めるとか凄いよな。

小町に読ませてみたら途中で寝た挙句、「結局魚取るだけじゃん」とか言われてお兄ちゃんショック。そういう事じゃねえよ。

 

「あ、砂漠だ。比企谷くん伊坂さんの本も読むんだ?」

「それ読むと大学に行きたくなりますよ」

「そうなんだー、借りていい?」

「まあ、汚さないのなら」

「ふふっ、ありがと」

 

平和を築こうとするのをみんな邪魔するんだよな。あの言葉には衝撃を受けましたよ、ええ。

はっ!?これはまたこの部屋に来る口実にする気だな!?汚いさすが生徒会長きたない。

自称生徒k(ryは本を机に置くと、トランポリンを見つけた子供のように俺のベットに飛び込んだ。布団にぐるぐると巻かれ、シーツをくしゃくしゃにする。

 

「ねえねえ比企谷くん、ベット座っていい?」

「いや、もう使ってますよね?」

「ふかふかー!比企谷くんの匂いがするー!」

 

うわぁ、これはわざとらしいっすわ。ハニトラ?ハニトラなの?織斑弟ならあっちなんだけど。帰れ。

 

「あの、そっちは相川のベットですよ」

「‥‥‥は?」

 

いきなり素に戻る。はっ、自称生徒会長に一泡吹かせてやったぜ!実際は俺のなんだけどな。

 

「嘘は良くないよー、比企谷くーん。ね?」

 

訳:「嘘ついてんじゃねえぶっ殺すぞ。ああん?」

こうですね、わかります。

ってかIS学園の人間ってマトモなやついないの?出席簿(物理を超えた何か)に金髪クロワッサン、突然喧嘩を吹っかけるちっこいのに朴念仁‥‥‥うん、ダメだこれ。

 

「ねえねえ比企谷くん」

「用があるなら早くしてもらっていいですか?今すぐ寝たいです」

「お姉ちゃんの膝でも使う?」

「結構です」

 

こういう押し売りはキッパリ断れって親から教えてもらっているんでね。自称生徒会長ってクーリングオフできるのかな?

 

「本題に入るんだけど‥‥‥‥シャルル・デュノアについてどう思う?」

 

声色がふざけたものではなく、真面目な重いものへと急変する。

突然シリアス挟んでくるのやめてもらっていいですかね。

 

「‥‥‥‥‥」

 

適当に流そうと思っていたのだが、この質問。試されている気がする。だからなんだという話なのだが。

 

それにしてもこの人の纏う空気。どこかで見た事がある。

 

「‥‥‥‥強化外骨格」

「ん?」

「いや、なんでもないです」

 

そう、この人は雪ノ下陽乃の強化外骨格に似たものを持っている。自分を隠す為の“完璧”な外骨格を持ち合わせている系の人間だ。そうなれば、単純な“意味”は聞かれているはずもない。

 

「そうですね‥‥‥女に見えます」

 

となれば、こう答えておけば堅実な答えだろう。こう答えておけばツマラナイと判断されて、もう関わないで済むかもしれない。実際見た目は女みたいだったし、これほどありきたりな解答もないだろう。でも戸塚といいデュノアといい俺の周り可愛い男の子多いよな。幸せ。

 

「ふーん、陽乃ちゃんが言った通りね‥‥‥‥」

「え?」

「なんでもないわ。比企谷くんもそう思ってるのよね‥‥‥」

 

ブツブツと呟き始める。今ルート分岐間違えた気がする。おかしい。今まで戸塚ルート直行だったはずなのに‥‥‥‥いや、デュノアもありか?あんな可愛いのに男とか神様お前ってホモなの?

 

「ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな───」

 

 

───2───

 

「は?デュノアが女か探れと?俺に?」

「そう、やってくれない?」

「お断りします」

 

比企谷八幡。陽乃ちゃんの言っていた通り、彼は面白い逸材だ。最初はただの目の腐った男の子だと思ったけど、その本質は全然違う。

黒い無人IS二機のIS学園強襲。一体はアリーナ、もう一体は学舎近くに強襲した。私や教員を含め、全員アリーナ隔壁のロックを解除するのに手一杯で、もう一機には気付かなかった。

情報が出回った時にはすでに無人機は沈黙しており、来賓として招待されていた雪ノ下雪乃、生徒である相川清香、布仏本音の三人が教師に助けを求めたことにより発覚した。

 

「えー、ダメ?」

「ダメです」

 

その後、学園内の監視カメラをチェックした時、私は戦慄した。

彼はISに触れて数週間のニュービーの筈だ。だが、無人機相手に三人を守りながら一人で奮闘し、完全に沈黙させたのだ。

だが、彼の本質はそこには隠れていない。問題はその、無人機の破損状態だ。アリーナの方の無人機は三対一でボロボロになっているのは納得できるのだが、彼が相手をした無人機の状態には狂気さえ感じさせた。

右腕は肩からバラバラに弾け飛び、装甲はボコボコに凹んでおり、人が乗っているはずの場所の装甲が引き剥がされ───それは人間の仕業とは思えない、本当に「殺す」つもりの人間にしかできない残酷さが混在している。

 

だが、私も人の事は言えないのだ。国の、家の為と銘打って、沢山の人間の命を奪ってきた。この血で真っ赤に染まった手で、何人の人を殺してきたのか。もう覚えていない。

 

だが、初めて人を殺した時の事は未だに覚えている。

 

胸奥深くに刺さったナイフ。迸る血飛沫。ビクビクと痙攣する標的の身体。帰り血で染まる手。鼓動を打ち続ける私の心臓。鼓動を止めた標的の心臓。

 

私は怖くなり、その場から逃げ出した。今は慣れているとはいえど、最初はトラウマになるほどの恐怖だった。今でも、殺す事に抵抗はある。

 

しかし、この目の前の男は違う。あの殺し方は、初めて人間を殺した時のそれではない。人間を殺す事を許容する、人間の理から外れてしまった人間。“壊れて”しまった人間の、混沌のかけらが見て取れてしまった。

 

「じゃあさ、成功したら比企谷くんの欲しがってた偽の戸籍、作ってあげちゃおっかな?」

「‥‥‥そんな事言った覚えはないですよ」

「嘘だよ、この前は神宮寺なんて名乗った癖に」

「‥‥‥‥雪ノ下さんと関わりがあるんですね」

 

この男の子の濁り腐った目には、一体何が混ざりこんでしまったのか。それは、本人しか、いや、本人すらわからないかもしれない。ただ、あの目は他人の本質を見抜く。本質を見抜くと言うよりは、本質しか見えていないのだろう。

だから、陽乃ちゃんとか私は警戒され、距離を取られるのだ。全くもって恐ろしい。あの世界最強がバックについた弟とは別の意味でやりにくい。それに、先生方には真面目だって気に入られているし。

 

「ね?お願いー!」

「‥‥‥無理だったらすぐに報告するんで」

 

でも、困った事が一つ。

ここまでガードが固いと、ちょっと陽乃ちゃんの『親離れ』には使えなさそうだ。

ま、取り敢えずは目先の問題を解決しなきゃね。

 

比企谷くん。あなたのやり方、楽しみにしているわよ。

 

───3───

 

なんだったんだあの人。怖えよ‥‥怖えよ‥‥‥通りで「やっはろー」とか言ってると思ったぜ‥‥‥‥

 

だが、偽の戸籍が手に入る可能性があるならやるしかない。外で「比企谷八幡」って名乗ってみろ。嘘を吐いているとか言われて警察のご厄介になるか、どこかの女性権利団体に拉致られるぞ。女尊男卑とか男尊女卑とかどうでもいいわ‥‥‥‥

 

パタンという音を鳴らし、本が閉じられる。

IS学園に入って、久しぶりに本を読んだ。本は心の栄養という言葉があるが、まさにその通りだ。人生を豊かにしてくれる。物事の価値観とかが変わったりするし。

こんなに面白いのに読まないなんて絶対人生損しているよな。

 

仕方なくパソコンの前に腰掛け、「シャルル・デュノア」で検索する。予想はしていたが、全く検索に引っかからない。情報操作で完全に消されているのだ。多分、俺や織斑の名前で検索してもまともな情報は出てこないだろう。

仕方がないので、「デュノア社」で検s‥‥‥ググる。すると、様々な検索結果が引っかかる。その中に、気になる記事を見つけた。

「ドミニク・デュノアの輝かしき歴史」とかいうクール(暗黒微笑)な記事の中に、「娘を亡くした」という文字が目につく。現地のニュースを訳したぎこちない日本語を斜め読みし、大体の内容を理解する。

要約すると、デュノア社社長のドミニク・デュノアの娘(名前不明)は病死してしまった。だが、そのショックにも負けずにラファール・リヴァイヴを開発した。と言うらしい。あまりの感動に涙出るわ。素晴らしいサクセスストーリーだな。

冷蔵庫からマッカンを取り出し、人差し指を器用に使って片手で栓を開く。

マッカン樽とかで売ってくんねえかな。ビールみたいに。マッカンのサーバーとか発売されたら即買いするよ。

 

それにしても、この死んだ娘。タイミングに違和感を感じる。いや、死ぬ事にタイミングも何もないのだが、その数ヶ月後にラファール・リヴァイヴが出来上がるなど出来過ぎやしないだろうか。

 

「娘が死ぬ必要があった‥‥‥?考え過ぎか‥‥‥‥」

 

もし仮に、もし仮にだ。このラファール・リヴァイヴの開発の為にデュノアの娘が世間から消されるというのなら、それはどういった理由だろうか?

いや、考え過ぎだ。最近疲れているからな、裏の裏とか疑っちゃう。節子、それ裏やない、表や。

 

まあその辺はどうでもいいだろう。娘がいたという事実だけで十分だ。シャルル・デュノアを疑う材料としては少し弱いが、数が出揃えば立派な武器となる。

 

もう少し調べないと全体像が掴めて来ない。次はデュノア社のラファール・リヴァイヴの事について調べようと入力を始めると、再び扉がコンコンと叩かれる。

 

「‥‥‥‥‥」

 

居留守を決め込んだ。こういう時は面倒なのが来ると決まっているのだ。ソースは自称生徒会長。

 

「あの、比企谷くん?」

「ああ、デュノアか。どうした?」

 

噂のデュノアがやってきた。

扉を開けると、少し困り顔のデュノアがそこに立っていた。スーツケースが重かったのか、少し手が赤い。

肩をモジモジとさせ、上目遣いでこちらを見つめてくる。マジ可愛い。いや、絶対デュノアに負けたりなんかしない!

 

「あ、あのね‥‥‥‥」

 

上目遣いには勝てなかったよ‥‥‥

 

「あの、部屋ここって言われたんだけど‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥は?」

 

いや、あの、えっと‥‥‥は?

 

───4───

 

とあるラボ内。

紫髪を揺らし、アリスチックなドレスをパンパンと払い、頭に機械仕掛けのウサ耳をピョコピョコと動かす女性は、その視線を一点に注いでいた。

画面の向こう、そこにいるのは一人の少年。IS学園の制服を着用した、目の腐った少年。

 

「うーん、この子がNo.52に選ばれたのかー、へぇ‥‥‥‥」

 

No.52と書かれたファイルが開かれる。

様々なデータと、それを纏めたレーダーチャートが表示される。チャートの「自我」と書かれた数値が理論値を突破している事に気付き、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「あのゴーレムを一人で倒すなんてね‥‥こんなに面白い子は初めてだよ」

 

その声色を例えるなら、全てを飲み込む大蛇。どれだけこちらが抵抗しようが丸呑みにする、“絶対”を感じさせる、背筋をそおっと撫でられたかのような恐怖と安心感。

瞳は爛々と輝き、舌舐めずりをするその姿は、もはや“兎”とは言えないだろう。

 

「ここまで興味をそそられたのは本当に久しぶりだよ。退屈な下らない世界だと思ったけど、案外捨てたもんじゃないねー」

 

彼女の思い描く未来に、四人以外の人間はいらない。だが、ここまで面白い、遊び甲斐のありそうな人間がいるのなら、少しは考えを改めてもいいかもしれないと思ってしまう。

 

電子キーボードにカタカタと何かを入力すると、ガレージに眠るようにして佇むISが、目覚めたように立ち上がる。

 

「この子は一機しか作ってないけどいいよね?どうせオリジナルじゃないし」

 

鷹の爪ように鋭い、二つの白眼が光を放つ。錆び付いたようにみえる身体をギシギシ、ミシミシと鳴らし、ゆっくりと浮遊してゆく。

 

「くれぐれも、私を失望させないでよ、はーちゃん?」

 

ラボの天井が開き、青銅色のISが、巣から飛び立つ雛のようにして飛び出して行った。

そこには、天災と呼ばれた兎だけが残された。

 




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やはり、俺達の三人暮らしは間違っている/やはり、織斑一夏にはホモの気がある

「‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

 

気まずい。めっちゃ気まずい。一緒の部屋になると知って瞬間は「勝った!第三部完!」とか、UCのBGM流れたりしたはずなんだけど‥‥‥

何が気まずいって良く考えたら女の可能性があるんだよな。もちろん可能性の話なので信憑性も何もない。が、もしもデュノアが女なら何故男のフリをしていたのかという話になり、同室の俺が危険な目に遭う可能性が発生するのだ。まあ、全て可能性の話でしかないのだが。

まあ、デュノアの無実を証明するつもりでやればいいだろ。無実を証明して俺は偽の身分を手に入れる。俺のデュノアの間にwin-winの関係が発生するわけよ。

ってか偽の身分を用意できる不良生徒会長って何者なんだ?いや、雪ノ下姉と関係してるってだけでなんとなく納得できちゃうのがくやしい。あの強化外骨格にできない事とかなさそうだもん。

 

「さ、先にお風呂頂くね」

「お、おう」

 

空気に耐えられなくなったのか、デュノアは逃げるように風呂へ直行する。

デュノアの後に風呂!?ちょっと興奮してきた。テクノブレイク不可避な展開なんだけど。

 

今デュノアの事を調べるわけにもいかない。となると暇になるので、適当な本を開く。パラパラとページをめくる音と、シャワー音だけが部屋に響き続ける。

 

「‥‥‥‥‥‥」

 

本を閉じ、物思いに耽る。

そういえば、相なんとかさんはどうなったのか。部屋に荷物散乱しているままだが、まさか追い出されたのか?相なんとかさんは犠牲になったのだ。犠牲の犠牲にな。

まあ、別部屋になったのなら仕方がない。同じ学校にいる以上、会えなくなるわけじゃない。どうせまた「ご飯食べよー!」とか叫び散らしながらこの部屋を訪れるだろう。

 

再び本を開く。外からは、「この不埒者ォ!」「ま、待って下さい篠ノ之さん!木刀だけは止め、アッー!!」という騒音が聞こえる。織斑弟またなんかやらかしたのか‥‥‥

 

そんな痴話喧嘩の声に隠れ、硬くて慌ただしい小さな音が近づいてくる。扉の前で音は止み、バァンと音を立てて勢いよく扉が開かれる。

 

「たっだいまぁ‥‥‥」

「おうお前か‥‥‥‥どうした、いつもの元気はどこやった?」

「うん‥‥‥実はね‥‥‥‥」

 

すると相川は、制服の上からその女の子らしいふっくらとした胸に触れて、

 

「おっぱい揉まれちゃったの‥‥」

「‥‥‥うん、うん??」

 

何を言ってるんだこの子は。色々突っ込みたい事が多すぎて何から突っ込んでいいか分からないんだが。

 

「もしかして疲れているのか?」

「疲れてないよ!本当だもん!」

 

胸揉まれた事を本当とか言われてもちょっと困るんですか‥‥‥‥‥

 

「今日の実習、比企谷くんが帰っちゃった後に織斑くんに‥‥あ!比企谷くん大丈夫だった!?」

「お、おう‥‥大丈夫だけど‥‥‥‥」

「なら良かった〜。あ、それでさー、打鉄に乗せてもらう時にどさくさに紛れて揉まれちゃって‥‥‥」

「織斑なにやってんだ‥‥‥‥」

 

こいつ忙しいな。言いたい事がたくさんあるんだな‥‥‥なんか最近こいつに構わなきゃいけない使命感に襲われるんだが。

なんか小動物みたいだよな。構ってやらないとどこかでコロリと死にそう。ちなみに兎が寂しくて死ぬってのは嘘なんだぜ。

優しい女の子っていうポイントがアレだが。

 

それにしても織斑はハーレムメンバー以外にも手を伸ばし始めたか。流石最強のフラグメイカーですね。

そうだ、そろそろ教えてやらないと。

 

「お前、この部屋じゃないぞ」

「へ?」

「デュノアが引っ越してきた」

「‥‥‥‥‥嘘でしょ?」

「ところがどっこい‥‥‥夢じゃありません‥‥‥!現実です‥‥‥!これが現実‥‥!」

「先生から聞いてないんだけど」

「‥‥‥俺もついさっき聞いたばっかだから」

 

ネタスルー力高杉ィ!カイジもアカギも涙目になるレベル。

声に怒気的なものが混じってるんですが‥‥‥まさか俺と離れるのが‥‥無いな。突然部屋を移動しろなんて言われたら誰だってキレるわ。しかも先生報告してきてないんだぜ?教師としてダメすぎワロエナイ。

 

「デュノアくんは?」

「風呂」

「そっかぁ‥‥」コンコン

 

今日異様に部屋に来る人多くない?なんで?この流れだと宗教の勧誘とか来てもおかしくないんだけど。

 

「はーい」

「お、相川か。比企谷はいるか?」

「あ、なんすか?」

 

そして突然の織斑先生。ここだけ人口密度高い希ガス。相なんとかさんが連れ去られるんですね。わかります。

織斑先生は扉の前にフカフカの布団を置く。俺と相なんとかさんがぽかーんとそれを見ていると、「え?知らないの?時代遅れ〜」という顔でこちらを見てくる。イラっとするなぁ。

 

「ほら、お前用の布団だ」

「‥‥‥ん?」

 

あれ?なんかおかしいぞ?

先生は鼻を鳴らし、腰に手を当てて逆の手で出席簿をふらふらと揺らす。

 

「相なんとかは連れてかないんですか?」

 

ふらふらとした出席簿は、自分自身の頭に着陸する。それはこめかみを抑える仕草に良く似ていた。

 

「‥‥‥実はだな、部屋が足りなくてだな」

「え?」

「いや、本当はあと五部屋、十人分余っているんだが、去年色々あってな‥‥‥‥」

「‥‥‥‥色々?」

「あの更識が‥‥いや、なんでもない‥‥はぁ‥‥‥」

 

心中お察しします。

自称生徒会長なにやらかしてんだ‥‥‥マジで何やったんだよ?私、気になります!

 

「という訳で、すまんが比企谷。業者を呼んで部屋を直すから一週間は布団で過ごしてくれ」

「いや、あの、は?」

「本当は友達のいる織斑の方にデュノアを送り込みたかったのだがな、生憎部屋の二人が毎日喧嘩しているのでな‥‥‥‥」

「さりげなく俺をディスるのやめてもらっていいですか?」

「そうですよ!比企谷くんにもいいところがあります!」

 

両手をバタバタと動かす相なんとかさんマジペンギン。

おおっ、ナイスフォロー!やるじゃん!ちょっと見直したわ。

 

「ラーメンをすごく美味しそうに食べるんですよ!」

「‥‥‥‥‥」

「‥‥‥比企谷、すまんな」

 

なお棒読みの模様。

期待した俺がバカだったよ‥‥相川ネキマジ頼りないっすわ‥‥‥‥

なんてやり取りをしていると、頭に湯気をホカホカと浮かべた少j‥‥少年が、ジャージに着替えて出てくる。困惑した表情で辺りをキョロキョロと見回す。艶やかな唇といい、細い線といい、染まった頬といい、どう見ても女だ。

だが男だ。やばい、鼻血出そう。

 

「あ、あれ?織斑先生に、えっと‥‥‥」

「私は相川だよ〜」

「は、はじめまして。ど、どうしてここに?」

「え?お?うん‥‥‥色々あってな‥‥‥ここに三人で住む事になった」

「そ、そっか‥‥‥」

 

少し残念そうな顔をする。そうだよな、狭いのは嫌だよな。だいたい自称生徒会長のせい。生徒会長許すまじ。

くっそほかほかデュノアのせいで集中できない。髪の毛めっちゃいい匂いするんですけど。いい匂いの秘密はシャンプーとか言うけどそれだけじゃないでしょ絶対。こんなの絶対おかしいよ!

落ち着くんだ俺!相手は男だろ!?もちつくんだ!素数を数えろ‥‥‥1、2、3、5、7‥‥‥1って素数じゃなくね?

 

「三人共、こちらの不手際が原因でこうなってしまった。本当にすまないな」

「い、いや、俺は‥‥」

「私はうれしーなぁ、比企谷くんと同じ部屋だと楽しいし」

「ぼ、僕も人が多い方が楽しいし‥‥」

 

「俺は一人部屋がいいんですが」とか言えない空気。あとそこ、俺じゃなかったら勘違いしてるからやめれ。これって悪意なく言ってるからタチ悪いよな。いや、デュノア相手ならむしろ勘違いしたい。戸塚でも可。

先生の話に集中できねえ。でもなんかあの布団見ると現実に引き戻されるわ。三人部屋なんだよな‥‥‥

 

「ふむ、理解のある生徒達で助かった。では、私は寝る」

 

パタンと扉を閉じ、織斑先生が出て行った。

部屋には苦笑いを浮かべるデュノアと、楽しそうなオーラを吹き出す相なんとかさんと、頭を抱える俺と、フカフカの布団だけが残された。

 

布団って興奮を抑える成分でもあるの?

 

───2───

 

部屋云々は全て嘘だ。私が考えたわけではない。本当だ。あの部屋に三人は狭すぎるだろう。流石の私もそこまで鬼ではない。

 

「おい、更織。これでいいんだろ?」

「ええ、ありがとうございます織斑先生」

 

答えは、更織に頼まれたから。だ。

扇子には、「感謝」と言葉が書かれている。いつも思っているのだが、あの扇子はどうなっているのだ?開く度に違う文字が映し出されるのだが、プロジェクターが付いているようにも見えない。

 

「だが、本当にこんな適当な設定でいいのか?」

「ええ、すぐに比企谷くんが解決してくれますよ」

 

こんなすぐにバレるであろう嘘をついた理由。それは、シャルル・デュノアに人の目を向けておく為である。更織曰く、デュノアは「怪しい」らしい。突然の入学、男という事実をひた隠しにしていた事、あの容姿。言われてみれば怪しい。

そして、もし仮にそれが嘘だとするのなら、デュノアの目的はすぐにわかる。データの入手だ。ISの世界に入ってきたばかりの、疎い二人ならば、国の重要機密と同等の価値を持つそれを手っ取り早く盗めるだろう。それに、“男”と名乗ればそれだけで男と同じ部屋になれると考えたと仮定すれば、辻褄は合う。

 

「比企谷を信用しているんだな」

「ええ、まあそれなりに」

 

だが、本当にこんな適当な理由でよかったのだろうか?確かに捻くれているとはいえ、比企谷は優秀だ。だが、それは生徒という領分の範疇だ。国、企業の秘密を暴けるほどのものではないだろう。

 

「私が直接聞いた方が早いのではないか?」

「いえ、それはダメです。私はシャルル・デュノアの真意が知りたいだけで、ここから追い出したい訳ではありません。まあ、害と判断したらすぐに追い出しますけどね」

 

扇子が閉じられ、再び開かれる。「追放」の文字が浮かび、その仕組みの意味不明さに思わず首を傾げてしまう。

だが、そんな重要な仕事が比企谷にできるのだろうか?心配だ。

 

「じゃあ、今回の報酬です」

「うむ、確かに受け取った」

 

私が受け取ったのは、一夏の勇ましい写真。ISを駆り、セシリア・オルコットに拮抗していたあの時の写真。最近の一夏は記念写真以外取ろうとすると嫌がるからな。こうやって写真を集めれば思い出として取っておける訳だ。思い出は大事だからな。

ブラコン?悪いか。ブラコンで何が悪い。

 

「織斑先生も大概ですね」

「はっ、更織。お前も人の事を言えないだろう?」

 

そう、この青髪の少女。更織楯無は重度のシスコンだ。学園の一年に更織簪という妹がいる。チッフー知ってるよ。お前が妹を隠し撮りしてる事。

流石の私も隠し撮りはせんぞ‥‥‥

 

「では、またお願いしますね?」

「はっ、次がないといいのだがな」

 

さて、この事をどうやって他の教員に誤魔化そうか‥‥頭の痛い問題が積み重なっているぞ‥‥‥‥

 

───3───

 

あの後、部屋のメンバーでポーカーとか大富豪とかスマッシュがブラザーズするゲームをやる事になった。まさかデュノアがロボット使いで相なんとかさんがピクミン使いだったとは‥‥‥‥ボルテッカーした後に垂直落下して死ぬ俺に謝れ。

最初は操作すらおぼつかないデュノアだったが、最終戦頃には俺や相なんとかさんと拮抗するレベルにまで成長していた。ゲームの才能があるんじゃないかと本気で思ったね。

 

「お、比企谷?」

「げっ‥‥織斑‥‥‥‥」

 

ゆうべは おたのしみでしたね(痴話喧嘩的な意味で)。

朝から変なのに出くわしてしまった。俺があからさまに嫌そうな顔をしているはずなのに、織斑弟は爽やかスマイルを浮かべている。何故だろう。負けた気がする。

 

「早いじゃねえか」

「そっちこそ。いつもはもっと遅いだろ」

 

朝は早く出て、誰もいないガランとした食堂で素早く食事を済ませ、残りの時間は本を読むか勉強をするか、大体そんな生活を送っている。その為、朝に誰かと会う事は殆どない。

 

「あ、俺注文するよ。何がいい?」

「ラー‥‥パンセットで」

「すみませーん、えっと───」

 

気配りができるイケメンとかモテるに決まってますわ。完全敗北ですわ‥‥‥‥

女尊男卑のこの時代、葉山や織斑といったラノベに出てきそうなパーフェクトな野郎は珍しい。男というだけで無駄な差別を受けるので、基本的にみんな顔色を伺いながら生きている。つまりそもそも誰とも関わらない俺最強。理にかなったぼっちなのである‥‥‥話が脱線したわ。

俺が言いたいのは、葉山や織斑がモテる理由はそこにあるという事だ。理想的、まあ理想でしかないのだが、それに近い存在。自分にとってのヒーロー、王子様となり得る存在。つまりそういう事なのだ。

 

「あ、あざっす」

 

お盆を受け取る。厚切りのトーストに目玉焼きが乗っかっているのは、どこぞの天空の城を彷彿とさせる。

トーストと一緒にサラダが盛り付けられており、ちょこんと乗ったトマトが可愛らしい。

一緒に付いてきたコーヒーには砂糖が入っているのだろうか。ブラックだったら苦くて飲めないんだけど。

それと「あ」ってなんだよ。名詞続いちゃうの?

 

「席あそこでいい?」

「は?一緒に食うの?」

「食わないの?」

 

どうやら織斑一夏大先輩の中では一緒に食うことが確定していたらしいです。流石リア充、やりますねぇ。

ここで逃げるのは不可能だろう。仕方ねえ‥‥‥

 

「‥‥俺あっち座るから」

「おう!」

 

ソファに腰掛け、コーヒーを口に含む。苦い塊が喉を通り、食道に熱を感じる。

 

「そういえば比企谷と話した事ってあんまりなかったな」

「まあ、用事もないからな」

 

それに織斑弟苦手だし。

 

「お前のISかっこいいよな」

「お前だってあれだろ、あれ。織斑先生の武器なんだろあれ」

「正確には千冬姉の後継武装なんだけどな」

 

織斑弟の専用機、白式の武装はたった一つ。雪片弐型と呼ばれる大剣のみだ。ただ、その単一能力は彼の姉が使っていたものと同じ、【零落白夜】だ。剣身に触れたエネルギーを完全に消滅させるというチート級の能力だ。IS戦闘においては最大の盾であるシールドバリアーを斬り裂き、機体に直接一撃を加える事ができる、最強の矛。

しかし、それの使用には自らのシールドエネルギーを消費しなければならない。文字通り命を削った一撃なのだ。

 

「でも比企谷のきり‥‥‥きりなんだっけ?」

「【桐壺】か?」

「そうそれ。あれかっこいいよな。ロマン感じるんだけど」

「わからんでもないかな」

 

確かに【桐壺】はかっこいい。一回しか使った事はないし、使う予定もないが、ああいう弱点のある一撃必殺武装は本当にロマンを感じざるおえない。男の性ってヤツですよ。

 

「そうだ、あれ見せてくれよ」

「無理、織斑先生に禁止されてるから」

 

箸でこちらを差してくる。

禁止って言われた事を破ってみろ。グラウンド何周させられると思ってんだ。

それに、今は【浮舟】を起動できる自信がない。

 

「マジかよ。禁止されると不利じゃないか?」

「いや、使い時がないからそこまで困らないな」

 

米を食っては話し、食っては話しと忙しそうだ。案外礼儀がなってるんだな。少し感心したぞ。

【桐壺】使えって言われてもな‥‥あんな狭いアリーナでぶっ放しても無駄に弱点晒しているだけだからな。近寄られて斬られたら即終了。

 

「そうだ!比企谷、一緒にISの訓練やらないか?」

「‥‥‥無理」

「ちょっとだけ!ちょっとだけだからさ!」

 

そう言って両手を合わせる。ご馳走かな?

先っちょだけみたいな感じに言うの止めろよ‥‥ホモかよ‥‥‥‥

 

「今【浮舟】使えないんだよ」

「そっか‥‥じゃあ、俺の動き見てくれないか?」

 

マジでホモなんじゃないか?もうそんな気しかしないんだが。自分の尻は自分で守らなきゃ(白目)。

 

「いつもの三人がいるだろ」

「いやぁ‥‥箒もセシリアも鈴も一緒にやると途中から練習じゃなくなっちゃってさ‥‥‥」

「ああ‥‥‥納得だわ‥‥‥」

 

いつもこいつを争って喧嘩してるよな。国家間戦争が起きてるんじゃねえの?そして国家から企業へとパワーバランスが変わっちゃうわけですね。わかります。少しだけ同情。そしてこいつの未来に合掌。

 

「その、アドバイスしてくれないか?同じ男だし、分かり合えると思うんだ」

 

分かり合える(意味深)んですね。

あまりの不安に冷や汗とか掻いてきたんだけど。目の前の男が道を踏み外してそうで食事に集中できない。

 

「‥‥‥デュノアも誘うか?」

「同じ部屋なんだっけ?そうだな、相手になってくれる人がいた方がありがたいな、頼めるか?」

「一応聞いてみる。期待すんなよ」

 

こうして今日の放課後、織斑弟の練習に付き合わされる事になったのだ。

 




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残酷にも、天災は容赦をという言葉を知らない。

前話の描写を改定しました。
今までの話を見返し、誤字等修正しました。

突然のシリアス回です。ご容赦を。


放課後。人のいない第四アリーナ。監督の先生がいるのかいないのかわからない程にガラガラなこの場所で、俺は一人立ち尽くしていた。

昨日の昼休み、デュノアに聞いてみたところ「全然大丈夫だよ。こっちから誘おうと思ってたくらいだし!」と言っていた。マジ天使。養ってくれねえかな。

それにしてもあの二人が遅い。五時には集合な筈なのだが、来る気配すらない。五分前に来いとは言わんが遅刻はダメでしょ‥‥‥三十分も待たされてるんだけど何これなんて新手のイジメ?

 

「お待たせ〜!」

「悪いな比企谷、訓練機借りるのに手間取っちゃってな‥‥」

「ここがIS学園のアリーナ‥‥‥」

 

ようやくきたと思ったら、一人多い。もう一度言おう、一人多い。ここ重要な。テストに出るぞ。

 

「相なんとか、どうした?」

「相川だって!覚えてよー!」

 

ぷくーっと頬を膨らませる相川さんマジハムスター。とっとこ走っちゃうね。

 

「へいへい、で?なんでお前がいるんだよ」

「あの‥‥‥そのね?みんな集まるなら私も見学させてもらおうかなーって」

「ってな訳で訓練機も借りてきたぜ」

「今日の趣旨忘れたのかよ‥‥‥」

「ははは‥‥‥」

 

打鉄を装備した相川が、おぼつかない足取りで近づいてくる。それは生まれたての小鹿のようで、足がぷるぷると震えている。

 

「おり‥‥デュノア‥‥‥すまないが手伝ってやってくれないか?」

「う、うん?わかった」

 

織斑って言おうと思ったんだけどこいつ胸揉み魔なんだよな。こいつに手伝わせてみろ。相川が転んだ拍子に再び胸を揉むぞ。

 

「それがお前の専用機か?」

「うん、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。僕の専用機だよ」

 

デュノアが装備しているのは、かのラファール・リヴァイヴに似たIS。装甲はオレンジを基調としたもので、ラファール・リヴァイヴよりもスラスターが多く、装甲が薄い。名の通りカスタム機なのだろう。

これだけでも十分きた価値があった。これを承諾したのはこの為だしな。

デュノアの情報は出来るだけ欲しい。専用機の姿が見れれば、それだけでも何か得られるはずだと思ったのだ。結果的に、デュノアが可愛い事しか分からなかったが。もうそれだけわかればいいや(錯乱)。

 

「右足から行くよ?」

「う、うん。いっちに、いっちに、いっちに───」

「そうそう、いい感じ。いっちに、いっちに、いっちに───」

 

シャルル!シャルル!シャルル!シャルルぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!

 

あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!シャルルシャルルぅううぁわぁああああ!!!

 

あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!!いい匂いだなぁ…くんくんんはぁっ!シャルル・デュノアたんのブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!

 

間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!

 

湯上がりのシャルルたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!

 

ジャージ姿も可愛いかったよシャルルたん!あぁあああああ!かわいい!シャルルたん!かわいい!あっああぁああ!

 

同じ部屋で寝泊まりできて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!

 

ぐあああああああああああ!!!男の娘なんて現実じゃない!!!!

 

あ…よく考えたら… シ ャ ル ル ち ゃ ん は 男 の 娘 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!

 

そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!フランスぁああああ!!

 

「おい、比企谷!大丈夫か?」

「はっ!?ハルケギニアにトリップしていた気がする‥‥‥」

「は、はるげ‥‥‥?」

織斑弟に肩を揺すられ、現実に戻って来る。危うく間違った道に踏み外しちゃうところだったぜ‥‥いや、むしろ踏み外そう。

 

「まあいいや、早く始めようぜ」

 

右手を大きく掲げると、粒子の中から黄色のラインが入った白い装甲が現れる。右手には一本の大剣。雪片弐型が握られていた。

 

「シャルル、ちょっと協力してくれー!」

「あ、待っててー!」

 

「ゴメンね?あとは───」「うん、分かった〜」とやり取りをし、スムーズな動きでデュノアがこっちに向かってくる。

 

「じゃあ比企谷、離れててくれ」

「あ、うぃっす」

 

場所を離れると、白とオレンジのISが空へ浮かんでゆく。

 

「じゃ、いくよ?」

「おう、どんとこい!」

 

織斑弟は剣を両手で構え、彼らしく単純に突っ込む。それを予想してたが如く、既にデュノアの手の中には銃器が握られていた。先程まではなかったはずだ。

 

「呼び出しが早いな‥‥‥」

「比企谷くーん」

 

声に反応してチラリと見ると、相なんとかさんが手を振ってきている。仕方なく駆け足でそちらに向かう。

 

「どうした?」

「ねえねえ、織斑くん不利じゃない?」

 

わざわざ呼んで聞くことじゃないだろだろとも思いつつ、視線を二機に戻す。織斑弟は直線的な動きで距離を詰めようとしているが、対してシャルルは両手の銃器───おそらくショットガンで機体を引きながら応戦している。

 

「どうしてそう思う?」

「だって、ブレードとショットガンだよ?相性が悪いよ」

「確かにな‥‥‥」

 

否が応でも近づかなければならない織斑弟と、距離を離しながら射撃戦に持ち込めるデュノア。相性は言わずとも分かるだろう。

不利だと判断したのか、距離を離して高度を取る。白い装甲が陽光を反射し、剣先が輝く。

 

「ねえ!今の見た!?」

「え?‥‥‥‥は?」

 

俺が少しぱちくりと瞬きをした一瞬で、デュノアの手にはショットガンではなくブレードとアサルトライフルに変わっていた。そう、これは実践編の教科書に書いてあった。

名前は───

 

「‥‥‥高速切替か」

 

高速切替。武装を拡張領域に収納し、別の武装を拡張領域から呼び出すという基本的な行為を瞬間化した技術の総称だ。手品のように武装が切り替わり、弾倉を入れ替え、攻撃が止むことはない。

そして、ラファール・リヴァイヴという機体。カスタムされたこの機体についてはよく知らないが、原型の方は近距離から遠距離まで、十個近くの武装が積まれている。

つまり、この機体相手に相性という言葉は存在しない。遠くに行けばスナイパーやキャノンで撃たれ、中距離はアサルトライフル等、近距離はショットガンやブレードと、全距離に対応できる。本人もそれをわきまえ、堅実な、弱点を突く戦闘を行う。実に厄介な組み合わせだ。

 

「言う通りになりそうだな」

「でしょ〜?」

 

この少女。ISを使う事に関しては全然だが、ものをよく見ている。練習をして、使いこなせるようになれば大物になるんじゃないかと思う。まあ、俺みたいな素人に言われても説得力がないんだがな。

 

「うおおおお!」

 

白式のウィングスラスターが光を溜め込み、一気に噴出する。

瞬時加速によってデュノアとの距離を一気に詰め、白い大剣を一薙ぎ。

対するデュノアはそれを危険だと判断したのか、距離を取る。

そう、ここまでは普通の模擬戦だった。そうだったのだ。

なのに───

 

「あれは‥‥‥‥」

 

【浮舟】を展開していないのにも関わらず、遠くに黒い影が見える。アリーナのシールドバリアーよりも上、こちらに向かって、一直線に近づいて来ている。

 

「デュノア!織斑!」

 

普段大きな声を出さないので、上手く声が出ない。だが、ハイパーセンサーで俺の声を捕らえたのか、二人はこちらを向く。

 

「上だ!」

「比企谷くん、なに?どうしたの?」

 

その影から、真っ白な光が雨のように放たれる。

 

「相川、シールドを!」

「え、ええっ!?し、シールド展開!」

 

疎らに、めちゃくちゃに撃たれたそれを上空の二機は華麗に避ける。が、俺と相川は避ける術がない。すぐさま打鉄の背後に隠れる。

機体は相川の声に反応し、打鉄の両肩に浮く盾が前方に構えられる。光が着弾、弾け、打鉄がじりじりと後退する。

運が良かった。打鉄は防御力重視の日本の第二世代型だ。ちょっとやそっとの攻撃じゃあ耐え切れる。

相川には悪いが、直撃したら俺は死ぬ。ISの攻撃とはそういうものだ。兵器とは、そういうものなのだ。

白い雨が止み、機体の脇から顔を覗かせる。

空には三機のIS。白、橙、青銅が宙にて交じり、離れ、弾き飛ぶ。踊るようなその様は美しいが、それを美しいと思ってしまう自分に恐怖してしまう。自分が普通じゃない気がして、心苦しくなる。

 

シールドバリアーを破った所属不明機は二対一にも関わらずに攻勢で、機体を己が身体のように華麗に操る。

その合理的過ぎる動き、見覚えがある。見覚えどころの話ではない。あれは───

 

「うがあっ‥おえっ‥‥はぁ、はぁ‥‥‥」

「ひ、比企谷くん大丈夫!?」

 

あの黒い無人機。あれの動きにバリエーションを増やしたというのが一番近い。

外では監視役の教師が何かを言っているように見えるが、よく聞こえない。

またあの恐怖が襲ってくるのかと思うと、手が震える。心が怯える。視界が狭まる。音が遠ざかる。

俺が撃った、殺した相手。地獄から再び這い上がってきた復讐者のように思えて、思わず口元を抑える。

 

「比企谷!相川!」

「逃げて!」

 

空の切る音。朧げな視界には、青銅色の何か。段々と近づいている。俺を殺しに来たのだ。

 

死ぬ直前に時間が遅くなるというが、まさに今がそれに似た状態だ。一秒一秒が何百倍に伸ばされたかのように、世界が速度を落とす。

まず見えたのは無人機の、鷹のように鋭い、白く光るカメラアイ。食物連鎖の最上位に君臨する、獲物を狩る眼。だが、そこには感情がない。無機質な、殺す事だけを目的とした機械。

 

次に、その容貌が見えてくる。流線型の空気抵抗の少なそうな装甲に、錆び付いた銅に似た色。両肩に浮くウィングスラスター。全身からは煙を吹き出しており、装甲走るラインが真っ赤に染まる。その姿は、どこかの神話に出てきた青銅の巨人に似ていた。タロスといったか。青銅の巨人と呼ばれる、作られた自動人形。

となれば、作った人物は発明の神か。たしかに、言い得て妙だ。無人機など、本当はあり得ない代物なのだから。

 

最後に、その武装。両手に握られる対の日本刀は、その姿には全く似合わない。だが、その殺意と殺気は完全に重ねられ、剣先は鋭く光り、俺に向けられているように感じた。

 

「比企谷ぁぁ!!」

 

誰かの声。俺の脳が急速に回転を始め、反射的に身体を動かす。

先程、この無人機はアリーナのシールドバリアーを破って侵入してきた。そんな一撃を、打鉄が耐えられるだろうか?

恐らく不可能だ。あの日本で突き刺されでもしたら、絶対防御が発動した後に、シールドエネルギーが切れた機体にもう一撃加えられ、下手を打てば死ぬ。それに相川は初心者だ。逃げることなど到底不可能だ。

なら、どうする?俺ができることなど何もない。

 

だからってこのまま何もしないのか?そんな理由にはならないはずだ。少し耐えれば、ほんの少しの時間耐えれば、二人がどうにか気を引いてくれるはずだ。

人が目の前で死ぬかってところを、俺は見捨てるのか?自分の死ぬ可能性と他人の死ぬ可能性が釣り合うのか?

なら、俺は。俺がやるべき、やるべき事は───

 

「【浮舟】!!」

 

地面を蹴り飛ばし、相川の前に躍り出る。

襲いかかる猛烈な吐き気、目眩。だが、今は耐えねばならないのだ。あの恐怖を。恐怖にうち勝たねば。耐えろ。耐えろ。耐えろ。

 

展開できたのは一部分だけで、両腕のみ。ハイパーセンサーは起動したらしく、近づく日本刀を捉え、思い切り弾く。手がビリビリと痺れ、下唇を噛む。

 

「らあぁぁぁ!!」

 

二回目、三回目と凄まじい速度で剣撃が繰り出され、必死の思いで弾く。が、それも数回で読まれてしまったのか、今度は俺の右腕が弾かれる。

 

「ま、まずっ───がはっ!?」

 

突き出される剣撃。灼熱の痛みが俺の脇腹を走り、苦痛に顔を歪める。

 

痛い。痛い。痛い。

 

死の実感が脇腹を中心にして、じわじわと広がる。

 

「あ‥‥いか‥‥わ‥‥‥にげ‥‥‥」

 

俺の意識は、途絶えた。



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そして、比企谷八幡は引き金に指を掛ける

前話は何が悪かったのでしょうか。やはり話を二つに分けてしまったのがいけなかったのでしょうか?


夢を見た。昔の夢を。

俺が小学生‥‥小学何年生だっただろうか。その時は小町も小学生だったはずなので、最低でも小三だ。俺も幼かったのでその位の時期だったと思う。

あの日は確か、IS博覧会を見に行った。日本に世界各地のISが展示されると聞いて、家族総出で出かけたのだ。

よく覚えていないが、子供だった俺は無邪気な気持ちでISを見て、キャッキャと喜んでいたと両親が言っていた。小町もまた然りだ。

 

そして、最後に日本のコーナーに入った。やはり日本が主催しただけあって、コーナーは他コーナーの数倍の広さがあった。映像に残っていた白騎士を元にして作られたレプリカ人形や、日本の第一世代型ISが並べられ、他のコーナーとは格別の待遇だった。

 

その中に、一つのISを見つけた。それは日本の作った最新機だったそうだ。

俺は両親と離れ、何故か吸い寄せられるようにそれに近づいて、ペタペタと触ってみた。

すると、

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎?」

 

声が聞こえた気がした。最初は空耳だと思ったのだが、確かに聞こえた気がしたのだ。

夢の中の俺は‥‥‥夢だからなのだろう。その声に当たり前のように応答をした。

 

「◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎。◼︎、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!」

「◼︎◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎◼︎◼︎。◼︎◼︎◼︎◼︎───」

 

法廷にて判決を告げる裁判のように、その声は断言する。

 

「───◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎?」

 

子供には残酷な、答えの出しようがない問いがぶつけられる。

が、夢の中の幼い俺はその真意を汲み取ることもなく、単純な答えを導き出す。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎‥‥◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎」

 

声が「◼︎◼︎◼︎」と小さく返事をする。

すると、小さな手に針で刺されたような痛みが走る。幼く、丸みのある指先からは血が出ていた。

もう、声は聞こえなくなっていた。

 

その後も、他のISをペタペタと触っていたのを警備員に見られてしまい、カンカンに怒られてしまった。

 

あれが夢の中で作られた架空の話なのか、現実だったのか、よく覚えていない。

まあ、そんな事は現実に起こる訳がない。おそらく前者であろう。

 

 

だが、それが大事な記憶だった事は、今でも覚えている。

 

 

───2───

 

様々な色を重ねる世界。色で塗り潰され、真っ黒に染まった世界。

初めて見たはずなのに既視感を覚えてしまう。が、俺はこの景色に恐怖してしまう。

 

「ようこそ、僕の世界へ」

 

その声は全てを司っていた。

男、女、子供、大人、赤子、老人、罪人、聖人、愚者、賢人───そのどれにも該当し得るが、決して該当する事のない、全てを孕む声。

 

「いやぁ、大変だ。脇腹をブスッとやられちゃったね」

 

喜怒哀楽の全てを含む声。それは人間のものではないはずなのに、なによりも人間らしかった。

 

「君はまた守ろうとした。その手で誰かを」

 

声の主がクスクスと笑う。俺は守ろうとなんてしていない。ただ、やるべき事をやっただけだ。

 

「君も、あの子も、理由がないと動けない。感情での行動に理由をつけようとする。まさに欠陥品だよ。まあ、そこがいいところなんだけどね?」

 

女性のように高いが、落ち着いた声。聞き覚えのある声。

 

「でも、自分が傷つくんじゃ、本当に守りたいものなんて守れないんだよ?だってその人は、君の事が大事なんだからさ?」

 

分からない。分からない。俺に守りたいものなんてないはずなんだ。

人間は本質的に常に一人だ。守りたいもの、犠牲になるものなんて存在しない。誰かが誰かの為に犠牲になるなどあり得ない。ましてや俺が、他人の為に犠牲を払う事などあってはならない。そんな俺は存在しちゃいけない。

 

「君の願いは叶わない。自分を壊してまで、守るべきものなど存在する訳がないんだから」

 

声の主がニタニタと笑う。張り付くような、粘り気のある笑い方。だが、そこには悪意の欠片もない。

 

「それでも、僕は君を応援しているよ。誰よりも純粋で、本物を求めて、誰よりも優しい。不器用な君が、僕は大好きだ」

 

意識が遠ざかってゆく。

 

「だから頑張ってね。僕はずっと、君の味方だよ?」

 

最後に、その声の“顔”少しだけ見えた。

それは少女。幼い少女の顔をしていた。が───

 

───それはとっても、俺に似た表情をしていた。

 

───3───

 

シュレーディンガーの猫と呼ばれる思考実験を知っているだろうか?世界的に知られる量子力学の未解決問題なのだが、名の割に内容はよく知られていない。

ノイマンやウィグナーの意見を皮肉って書かれた論文で、「二人の意見が本当なら、箱に猫と毒ガス発生装置、放射線検出装置を入れた時、箱を開けるまで猫の生死がわからないという結果になるが、それはおかしい」という事を書き記したものだ。

つまり、「二つの事象が同時に重なり合っているのはあり得ない。また、その結果が観測者によって変わる事もない」という事を示している。

 

さて、ここまで俺が長々と苦手な理系の話をしてきた訳だが、この実験で一つわかる事がある。

それは、「可能性などない。結果は常に一つ」という事だ。よって、この世界にIFはあり得ないし、それを考える事は無駄なのだ。

 

しかし、逆に考える事もできる。

猫と一緒に毒ガス発生装置を入れなければ、猫は死なない。

 

つまり、当たり前なのだが、世界とは個人の意思で動いている事になる。誰かの行動によって誰かの命運が決まる。あらかじめ決まった未来など存在しない。そして、そこに“可能性”などと言う甘い言葉も存在し得ない。

だから、行動には責任が生じる。過去の愚行をやり直す事はできず、悔やみ、苦しみ、不幸を嘆く。

 

だが、誰もがその“当たり前”を諦め、自分が手に入れられるもので満足しようとする。自分が傷つくのが怖くて、他人を傷つけるのが怖くて、距離をとって、その場所から手の届くものだけを掻き集める。

そんなものは偽物でしかない。受け身で手に入る幸せなど、俺はいらない。

 

また、ある本の人物、フィリップ・マーロウはこう言っていた。

「Take my tip—don't shoot it at people, unless you get to be a better shot. Remember?」

訳すと、「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」というものになる。

整備した銃を返し、それを撃てば次は自分が撃たれる立場になるぞと戒めているシーンだった。

確かにこれは深いセリフだ。元の意味はともかく、「撃つ」という、引き金を引くだけの行為にはそれだけの勇気と覚悟が要るのだし、撃たないならそれに越した事はない。まさに名言といえよう。

 

だが、誰かを守らねばならない時。その言葉は正しいと言えるのだろうか?自分が撃たれるという時に、人間は気高く生きていられるのか?

答えは否だ。俺はフィリップ・マーロウのようにタフでもなければ、ヘミングウェイの作品、「老人と海」の老人のように強くもない。

 

だから、俺は躊躇ってしまう。自分が銃を握る事によって、誰かの運命を変えてしまう事を。自分に撃たれる覚悟がない事を知っているから、臆病な俺は銃を握れない。人を殺せない。

それは普通の事なのだ。人を殺すことを正当化するのは、殺す行為を美化しているだけでしかない。正しい訳がない。

 

しかし、今現在。一体誰が正しいと言えるのか?

 

無人機を撃退しようとした織斑とデュノア?

怯えている相川?

相川を守ろうとした俺?

それとも、襲いかかってきた無人機?

 

答えは存在しない。誰もが自分の中では正しく、他人の中では間違っているのだ。

もしかしたら、この無人機はもの凄く正しい事をしようとしているのかもしれない。俺や織斑が世界の中の異分子で、殺さなければ世界が危機に陥るなどという壮大なストーリーが繰り広げられているのかもしれない。

 

だが、それが何だ?正しさなど所詮は主観だ。主観のぶつけ合いが平和で解決する訳がない。他人が納得するしかないのだ。

 

なら、正しさのベクトルを変えてしまえばいい。主観を変えろ。殺しを正せ。非常に成れ。己を守る為の殺しを容認しろ。

 

俺は何の為に何を殺す?それは正しい。俺は正しくあるのだ。いつも、いつまでも。

自分が自分でいる内は自分が正しさの基準であり、自分という世界の基準だ。

 

俺は何の為に生きている?今、この場で死ぬ事を容認してしまっていいのか?自分に美化したような事を言い聞かせ、逃げる事が本当に正しいと言えるのか?怖がって、怯えて、受け入れるだけの人間が嫌いなんじゃないのか?本当にそんな“偽物”が欲しいのか?

 

手を伸ばせ。運命を変えろ。欲しいものがあるのなら、傷付き続けろ。可能性など存在しない。“本物”はそこには存在しない。

 

手を伸ばせ、伸ばせ、伸ばせ!!

 

「お‥‥‥おおおおおおお!!!!」

 

吹っ飛んだ意識が再び手の中に舞い戻る。さあ、その名を言え。その名を口にしろ。思いの丈をありったけ叫べ。

 

「【浮舟】ぇぇぇぇ!!!!」

 

この手よ、今だけは震えないでくれ。

この足よ、ちゃんと俺を支えてくれ。

この心よ、恐怖に打ち勝ってくれ。冷たい“何か”に耐えてくれ。

 

「らああぁぁぁぁ!!!」

 

脇腹に刺さった刀をヘシ折る。全身を駆け巡る真っ赤な痛みに耐え、叫び、引き抜く。全身にを装甲が包み込み、血がドクドクと流れ出す。自分が今生きている。まだ手遅れじゃないと感じられる。

そして、身体の奥底から自分が浸食されてゆく感覚。あの冷たい、絶対零度の“何か”。自分が別の誰かに乗っ取られたかのように、身体が軽くなる。

不気味なまでに痛みが引いてゆき、血が止まる。だが、前とは違い、今自分がここにいる事。それだけは分かる。これは自分の意思なのだと、実感を持って確信できる。

 

「システム、戦闘モードを起動。損傷確認。シールドエネルギーの33%を使用し、止血、自然治癒促進に使用します」

 

何の為にとか、誰の為にとか、理由はどうでもいい。ただ俺の為に、俺自身の正しさの為に、こいつを殺す。殺しているんだ。殺されもするのは相手も承知しているだろう。

だから、躊躇無くやれる。遠慮はいらない。さあ───

 

「───死ね」

「Code:assault rifle」

 

打鉄を蹴り飛ばし、相川を避難させる。そのまま彼女を足場にして、身体を捻り、飛び出し、左腕でその頭を掴む。地面に叩きつけ、【藤壺】を連射する。青い光が地面と装甲を焼き、砂塵が巻き起こる。ハイパーセンサーによって強化された嗅覚が焼けた砂の匂いをキャッチする。

無人機はグニョグニョとあり得ない方向に身体を曲げながら、必死に一本減った日本刀を突き出す。それは空を斬り裂き、俺は完全に回避したと思い込む。

 

「な───ちいっ!」

 

突如、日本刀を周りに白い光がポツリポツリと現れ、俺に向かって飛来する。地面を蹴り飛ばし、【若紫】で後方に、体勢を崩してまで吹き飛びながら、苦し紛れに回避する。

 

「デュノア!」

「わかってるよ!」

 

追撃を加えようと動き出した無人機に、実弾の雨が降り注ぐ。流石は専用機持ちと言ったところだ。言わなくてもわかってやがる。

地面を強く踏み、膝をついて着地する。足がピリピリと痺れるが、すぐさま【藤壺】を構えて牽制する。勿論これは簡単に避けられてしまう。

だが、これは予想済みだ。

 

「織斑!切れ!」

「ああ!【零落白夜】!」

 

瞬時加速で流星の如く飛び降りてきた白式の一太刀を受け、距離を離す。

これで三対一だ。二対一で優勢だったのかもしれんが、流石に三体を同時に相手するのは厳しいだろう。

無人機と距離を取ると、白いISが俺に近づいてくる。

 

「比企谷、大丈夫か?」

「腹をやられたが問題ない」

 

今は、だがな。

 

「比企谷くん。い、痛いよー!」

「相川、すまん。後できっちり謝るから。取り敢えず今は目立たないでくれ」

「う、うん」

「二人共!話している場合じゃ───ああもう!」

 

俺への攻撃を諦めたのか、急速に高度を上げる無人機。日本刀を突き出し、橙色の装甲に向けて白いレーザーを放つ。

 

「織斑、俺があいつの動きを止める。やれるか?」

「ああ、でもどうやって?」

「説明する時間が惜しい。その時までお前は相川に気を配っといてくれ。いいな?」

 

「分かった」と業務的な返事を受ける。顔を上げ、回避に専念するデュノアではなく、それを追いかけ回す無人機を注視する。

相手は何故か日本刀からレーザーを出すというとんでもない攻撃ができるが、あの動きを見るに、基本的には近接機だ。誰か一人がヘイトを取って、織斑が一撃必殺すりゃあいい。

「Code:sniper rifle」

「システム、精密射撃モードに変更。照準、表示します」

 

視界に緑色の十字が現れ、引き金に指を掛ける。チャージによりジェネレータが強く光を放つ。

すぐにチャージが完了し、その砲身を無人機に向ける。

 

待て。まだだ。もう少し待て。

手に冷や汗を掻き、じっとりと粘つく。焦るように指を遊ばせながらも、その照準を外さない。

 

そして、無人機がデュノアに斬りかかる。デュノアもブレードを高速切替で展開し、迎え撃つ。

 

───今だ!

 

「【六条】!」

 

初めて呼ぶその名。六条御息所の“自分以外を見て欲しくない”という呪いの意味を持つ、彼女の嫉妬を体現したかのような第三世代型武装。

使い時がない武装だと思った。使う事もないと思っていた。だが、今なら、この瞬間だけなら役に立てる。

 

その名を叫んだ刹那、一瞬にして全ての視線が俺に集まる。この世界の全ての人間に見つめられているような、後ずさりしたくなる感覚。

 

「trigger」

 

こちらを振り向いてしまった無人機の左肩を、蒼い閃光が貫く。標的が俺に変わったのか、白い鷹のような双眼が俺を射抜く。

 

【若紫】が大きく火を噴き、距離を取る。すでに無人機の視線は俺に夢中のようで、デュノアに目もくれずに一直線に突っ込んでくる。

 

「パイルドライバを起動しろ」

「【葵】、パイルドライバ射出完了」

 

多機能型脚部武装【葵】が起動し、地面に鉄杭が突き刺さる。両手を前に広げ、長い砲身を構える。

敵は日本刀を縦に構え、真上から振り下ろす。

 

「比企谷くん!屈んで!」

 

が、それはフェイントだったらしく、反応できないほどの速度で横一文字の一閃を放つ。相川の声に反射的に反応した俺は、すんででその一撃を避ける。

上半身をガバッと起こし、両腕も纏めて抱き締める。金属と金属が削り合い、不協和音が響き渡る。

 

「織───斑ァ!」

「おおおお!!!」

 

その瞬間だけを待ちわびていた白い騎士が、最高速度で突っ込んでくる。そのまま一薙ぎ。全てのエネルギーを消し去る最強の一撃を繰り出し、無人機の胴を真っ二つにする。

剣先が俺の機体を掠め、それだけで大きくシールドエネルギーが持っていかれる。

 

「‥‥‥終わったな」

「ああ、無茶苦茶な野郎だったな‥‥‥」

 

乱入してくるなんてとんでもないやつだ。全く死ぬかと思った。

 

「二人共大丈夫?特に比企谷くん!お腹は大丈夫なの?」

 

視界の端にヘナヘナと倒れこんだ相川を発見する。なぜあの時、あれがフェイントだと分かったのか?

まあ、そんな事は後で考えるとしよう。

 

「‥‥腰抜かしてるやつがいるから頼むわ。俺は保健室行ってくる」

 

それよりもなんか段々痛くなってきたんだけど。保健室行かないとヤバイわ。

 

「おう、肩貸すぜ」

「悪いな」

 

織斑の肩を借り、ISを展開したまま保健室へ向かった。

今回は助かった。本当に誰も死ななくて良かった。

 

ふと、未だ明るい放課後の空を見上げる。

今日はいつもとは違い、透き通ったような気分がした気がした。

 




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