リリカル・W・ボーイ (アドゥラ)
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原作前の時間軸
ファースト・W・プロローグ


ネタは今まで考えてあったのですが、試験的な感じで投下。
いくつか考えてあることが出来ればいいかなぁ。


 暗い部屋で目が覚めた。確か、自分は死んだはずだった。なんてことはない。異常気象で世界中、人が沢山死んでいた。その中の一人だっただけ。

 なのに、意識がある。体が動く。自分の手を見てみた……黒い?

 

『やったぞ! 実験は成功だ!!』

『あの人の理論は実証されたんだ!!』

 

 実験? 何の話だろう。

 日本語を話しているのがせめてもの救いか……後ろにポスターみたいなのも貼ってある。

 実験室って割には俗物的なものが多い。

 あと、俺がホルマリン漬けっぽい入れ物の中に入っているからか、声がくぐもって聞こえる。っていうかこの中大丈夫?

 

『プロジェクト・ベターマン、その最初の一歩。ここはまだ通過点にすぎない! 諸君、気を引き締めてかかれよ!!』

『はい!』

『分かってますよ!』

『よし、それじゃあセカンド・タイプの製造プランを上と交渉して――』

 

 眠くなってきた。疲れたし、少し眠ろう……ただ、ベターマンって…………昔そんなアニメがあったっけ。

 

 ◇◇◇

 

 アレから数日がたった。喋れないけど、目は動くし耳も聞こえる。

 今の自分の体はベターマンというアニメに出てきたDタイプのハンターというクローン人間……だったっけ? まあ、とにかくそれにソックリだった。

 いや、アレも人造ベターマンみたいなものだし、あながちベターマンってのは間違いではないけど……

 ちなみに、ベターマンとは簡単に言えば、あらゆる状況下でベターな姿に変身することからそう名づけられている。けっこうトラウマシーン多いアニメだし……同じ世界観のガオガイガーの方が好きだったなぁ

 閑話休題

 どういうわけか、その作品に出てきたクローン人間にソックリなのだ俺。

 というかこの研究所のプロジェクト・ベターマンってのがまんまあの作品のベターマンを人造的に製造する感じ。国際的にだめだろおい。

 これでリンカージェル(その作品出でてきた物質)が出てくれば、間違いなくあの死亡フラグ満載の世界だな。

 いい加減向き合うと、何故か転生しました俺。いや神様には会っていないけど……でもなぁ、あの当時って地球生物絶滅しそうだったし、神様も手一杯とか?

 まあそんな現実逃避は止めて、どうやって逃げ出すか……せめて暇つぶしだけでもしたい。

 でもなぁ違法研究している人たちだけど、なんていうか憎めないんだよねここの人たち。

 出来るバカっていうか……

 

『しかし、主任……このリンカーコアって凄いですね』

『だろう? ただ魔法を使うためだけの内臓器官にしておくのは勿体無い。見たところ色々と面白いぞ』

 

 はい? リンカージェルじゃなくてリンカーコア?

 え、リンカー違い?

 

『さて、異世界人に負けるなよ! この世界にだってクローニング技術はあるんだからな! まぁ、代表的なのはうちのライバルのHGS研究だが……あっちが超能力で来るならこっちは人を超えた人。ベターマン製造だ!』

 

 ええと、HGSって……超能力とくればとらハ? でもリンカーコアがあるってことは……

 

『主任! 上からの連絡です! 管理局ってのが来てとっ捕まりそうっていうかもうとっ捕まるって!!』

『なんだとぉぉぉ!?』

『研究データをはやくバックアップだ!』

『プロトタイプをはやく移動させろ!』

『ダメです――キャァ!?』

 

 あぁ……ここ、リリカルでマジカルな世界だったのか…………管理局の皆さんお疲れさまです。俺、どうなるんだろ……

 

『仕方がない……プロト、よく聞くんだ』

 

 なんですかぁ主任……俺もう眠いんだ。

 

『今からワープ装置を使ってお前を転移させる。上のほうでパワーバランスが崩れたのか知らんが、私達は一月もすれば此の世にいないだろう。その上で君に頼みたい』

 

 ええと、こういうシリアスな空気は少し苦手なんですが……

 

『君の体についてのマニュアルと、生体デバイスも一緒に転送させる。あと、まだ試作段階だがこの錠剤も付けておこう』

 

 生体デバイスって……なんか工具てきな物が散乱している机の上の虫っぽい奴?

 というか怪しい薬とか怖いんですが……

 

『すまなかったな……キミもこんな生まれ方は嫌だっただろう。だけど、キミは私達にとっては最後の希望なんだ。どうか、この世界を救ってほしい』

 

 そう言うと、主任は転送装置を起動させ始める。

 

『マニュアルはすぐに読んでくれ! きっとこれから先大変なこともある。戦わなくてはいけないだろう……だが、元気で暮らしてくれ。私達の子供よ!! それが私達の願いだ!!』

 

 そして、俺は光に包まれ研究所から消えた。

 その後に研究所で起こったことはわからなかった。

 

 

 気がつくと、森の中にいた。何処だかわからない。近くには薬箱とでかい虫みたいな奴がいた。あと、マニュアルってこの電話帳みたいな……分厚すぎる。

 

 

 ◇◇◇

 

 遠い異世界。ここにスクライアと呼ばれる一族がいた。

 その中でも一風変わった少年、彼の名前はユーノ・スクライア。

 まだ10にも満たないその齢で魔法学校を卒業した天才。

 だが、それゆえに彼の周りの人たちは一歩引いていた。

 

「お、お姉ちゃん……」

 

 だが、そんな彼を心配していたのか、一人仲のいい女性がいた。

 彼の姉であり母であり、友達であり……だが、そんな彼女も今、息絶えようとしていた。

 

「ハハハは! そんな奴を庇うからそうなるのさ! いい加減退けよ」

 

 ワケがわからなかった。いきなり自分のことを変な呼び方で呼び、殺傷設定で魔法を放ってきたこの男、本気でユーノを殺す気だった。

 

「逃げて、ユーノ……」

「いやだよ、お姉ちゃんも一緒に――」

「いいから逃げなさい!!」

「――う、うんっ」

 

 ユーノは転移魔法を使い、逃げだす。その距離には限界があり、まだ姿が見える距離だった。それを確認して、男はユーノに向かって砲撃魔法を発動させようとする。

 

「あなた、なんでこんなことを……って聞くまでもないわよね。どうせ同類でしょ」

「なんだ……お前も転生したのか。なら分かるだろ? アイツがいたら彼女達は幸せにならない」

「そんなことを本気で言っている馬鹿がいるなんてね。はぁ……私もツイていないなぁ。でもね、あの子を守るためなら私はなんだってやる。この世界で生きて、私が感じた全て。貴方の腐った根性とどっちが上かしらね?」

「言ってろ、どの道お前はここで死ぬんだよ!」

「そうね。でもただでやられるつもりもないから――」

 

 砲撃が放たれた。ユーノへ向かうそれの間に入る女性。そして、その砲撃を体で受け止め――

 

 ◇◇◇

 

「バカな女だな。お前一人のためなんかに死ぬんだからよ」

「あぅああぅああ……」

「さて、再会させてやるよ。あの世でなぁ!!」

 

 男が砲撃を放とうとした、そのときだった。

 

「ガッ!? く、鎖だとッ? 何処から――!?」

 

 いつの間にか男を絡めとっていた鎖。その先にはユーノがいた。ユーノの右手から魔力で構成された鎖が飛び出ていたのだ。

 

「チェーンバインドだと? い、いつの間に……」

「ゆるさ、ない……おねえちゃんを、お姉ちゃんを返せェェ!!」

 

 その戦い方は、男の目には転生する前に見たアニメやゲームのあるキャラの技を連想させた。いや、ソックリだったと言ってもいい。

 

「なんで天の鎖みたいな使い方……そうか、あの女か――まぁ、俺を捕まえたことだけは褒めてやる。だからもういいだろ。いい加減死にやがれ!」

 

 男はそう言って力をこめるが、鎖は外れない。

 

「なんでだよ! なんでハズレねえんだ!」

 

 男は二つ間違えた。ユーノは攻撃魔法との相性が極端に悪い。それなのに幼少期から総合Aランクを超えた実力をもつ。それは何故か?

 防御と捕縛、結界など他の面で他者より圧倒的に秀でているからである。

 なおかつ、複雑な式を必要とする魔法をその頭脳だけで展開することも出来る。

 それゆえに、彼の魔法の構成には隙がなく、壊しづらい。

 ゆえに、まず一つはユーノの実力を見誤ったこと。

 そしてもう一つは。

 

「お姉ちゃんを、返せェェェ!!」

「な、鎖が、ガアアアアアアアアアアア!?」

 

 既に男が生きているこの世界は、現実であり、なんでも自分の思い通りにいくと思ったら大間違いだということだ。

 

 ◇◇◇

 

 結局、魔力切れで倒れてしまうユーノ。ボロボロになるも、男はチャンスとユーノを狙うも女性が死ぬ間際に連絡したのか時空管理局が男を捕まえに来た。

 部が悪いと逃げ出す男、彼はこの後指名手配されることとなる。

 

「おねえちゃん……」

 

 原作とは違う関わりを持ち、心に大きな傷を負ってしまった少年。

 

《マスターユーノ、そろそろ……》

「わかってるよ、レイジングハート。じゃあ、行くね……」

 

 彼がジュエルシードを発掘するまでまだしばらく時間がある。

 物語はまだ序章にすらたどり着いていないが、まだまだ困難が彼らを待ち受けている。

 

 ◇◇◇

 

 前世の記憶を持って生まれてしまった生物兵器の少年。

 心に大きな傷を負うことになってしまった一人の少年。

 

 これはそんな二人の少年の物語である。

 




というわけで、主人公とユーノの話を交互に出来ればいいかなと考えています。
ポケモンの小説もやっていますが、なんか人が集まらないので先にこっちを書きたくなりました。

どっちも細々と続ける予定ですのでよろしくお願いします。



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ネクスト・A・マニュアル

この小説では、ウチの主人公がギャグパート。
ユーノ君がシリアスパートになると思います。
ただし、無印開始前だけですが。

今回から作中の用語とかキャラ解説などをあとがきで行います。

ってことで、早速説明とギャグやネタばかりの主人公パート


 とりあえず、日が暮れる前に薪を集めて焚火したほうが無難かな。

 思いたったが吉日ということで薪を集め始める。案外沢山あってすぐに必要な量は集まった。ついでに食べられそうな野草なども収穫。

 前世では土が一番のご馳走(腹が膨れるだけで意味は無い)だったからなぁ……隕石のやつめ、おかげで大変だったんだぞコンチクショウ。

 

「まぁ、それは置いておいて……プレトや、ちょっと頼むぞ」

《GIGI》

 

 近くにいた虫っぽい形の生体デバイス……ベターマンにも出てたね、甲殻形成バクテリア。原作どおりそのままプレトって呼んでいるけど間違っていなかったみたいで、さっきマニュアルをパラ見したときも同じようなことが書いてあった。

 とりあえず、焚火を起こして芋っぽいものとか色々焼いておく。

 マニュアル分厚くて読む気しないけど、一応読まないとだめだよね……

 

「えっと、プロジェクト・ベターマン、クローン型生体兵器プロトタイプ01、固体名『アクア』か……って、名前あったんかい。てっきりプロトかと思っていたんだが」

 

 もう少し詳しく見ると、アクア・プロトっていう名前になるらしく、研究チーム人が自分の好みで呼び分けていたらしい。

 つーか、クローンや生体兵器相手にわが子同然に接するって……人格者なんだかそうでないんだか判断に悩むな。

 

「エージェントXよりもたらされた知識を元に、HGS能力者の遺伝子や竜種などの細胞、その他複数の素材を元に作られた『ベターマン』の試作体、ある生物に対抗するため、本来ならアクアの姿でのみ使えるアポトーシスプログラムを通常時でも使えるように調整。名前の由来もそこからきている。副次的な作用として、魔力を水へと変換できる可能性アリ」

 

 そういや、アクアの実ってあったな……っていうか魔力変換できるのか? なんていうか、魔力のまの字も感じないんだが。

 

「ん、注訳がついてるな……生体ユニットである外部接続型デバイスによる栄養のやりとりをしないとカプセル内での活動は出来ないと思われていたが、水へ変換する能力により、長時間の活動が可能となっているが、魔力を外部へ放出することはきわめて困難なものと思われる……いつの間に調べたんだ? っていうか魔法使えないのかよ」

 

 楽しみだったんだが……まあ、生命維持に使われているならいいか。

 

「なお、一部の栄養は生成できないため、髪から生体デバイスへと送り、生体デバイスに必要な栄養以外はアクアが取り込める物質に変換した上で還元される。って、やっぱりプレトとは一蓮托生……っていうか細かいところはともかく傍目からはまんまベターマンを見たのか? ってぐらい再現しやがって……誰だよエージェントXって」

 

 転生者か? だとしても、ここまで凝った事をする理由が分からない。ただの趣味だとしたら自分でやる気がするし、どういうことだ?

 それともただの偶然……まあ、分からないことをいつまでも考えていても仕方なし。

 とりあえず、芋っぽい根っこは焼けたみたいだし食うか。

 お味は……お察しください。あと、プレトが俺の長い髪(ポニー仕様)に噛み付いているんだけど――ああ、栄養のやりとりか。っていうかコイツも生きているから栄養は必要なのか。

 

「とりあえずもう少し読むか……プロジェクト・ベターマンの真骨頂である、特定物質を取り込むことによる変身能力について。お、これは――」

 

 おいおい……ちょっとやばいんじゃないのこれ?

 本物のベターマン顔負けの性能だぞ……

 

 まず基本形態である「ハンター」は、人間の姿をとり、遺伝子自体は人間と同じ。ただし、一部の内蔵機能などは異なる。この形態でのみ生体デバイスとの融合が可能。

 

 次に、「ネブラ」と呼ばれる飛翔形態。ソリタリーウェーブ(ソリトン)により特定物質のみを破壊する『サイコヴォイス』を使える。

 

 「ポンドゥス」と呼ばれる超能力使用形態。HGS能力者の遺伝子データを呼び起こし、超能力を使用可能にする。なお、このモードの時は背中から羽が生える。引力の力をおもに使う。

 

 「アクア」水中活動形態。通常時でも一部、この形態のときの能力を使えるように調整してある。相手の細胞を解析し、専用のアポトーシスウイルスを放出することで特定の相手のみを殺す「サイコフルード」を使う。なお、水が無い場所では雨を呼ぶことで水を操る。

 

 「トゥルバ」空気や気圧を操ることの出来る形態。真空弾と圧縮酸素弾を交互に打ち出すことで特定物質のみを破壊する「サイコカーム」を使う。ただし、辺りに被害が出る場合も多い。

 

 「フォルテ」巨人の姿となる。飛行能力はなく、肉弾戦のみ。相手の物質崩壊点(クランブルポイント)を頭部のスライドサーベルで突き粉砕する「サイコグローリー」

 

 その他「ルーメ」「オルトス」「ウィウェレ」などの文字も見えるが、空白になっていてよく分からない。

 

「つーかチート過ぎるだろ……いや、コンセプト的には間違っていないけど…………っていうか一部原作と違うような……気にしたらアウトか?」

 

 まあ、使えるものは使えってことか……変身条件は――は?

 

「えっと、ハンターは通常形態だからいいとして、ネブラへの変身に用いる錠剤のレシピって……毒草とかあるじゃん」

 

 何考えてんだよ……フォルテなんてテングダケ的なもの使うんですか? 無理です。っていうか恐くて摂取できないよ!

 アクアは比較的まともだけど……モリでエイを突かないとだめかも。

 というか基本的に毒が多いんだけど……つーか毒を使わないのってポンドゥスだけじゃん! はぁ……そう簡単にチート能力とか無理ですよね。

 ……あ、そういえば主任から薬を渡されていたんだっけ。

 

「えっと……あ、ネブラとアクアの変身丸薬!?」

 

 助かった! マジで助かったよ! いや、出来れば戦わないにこしたことは無いんだけど主任が言っていたよね、なんか倒さなきゃいけない奴がいるって。

 ということは、最低でも一回はなんかヤバイのと戦わないといけないと言うことで……

 戦いたくないんだけどなぁ……主任達のことも心配だし、まあ調べるだけ調べるか。

 というか今は原作のどの時期なんだ?

 俺の肉体年齢が大体7才。なのはさん達と同い年なら無印二年前。違うならどのへんだろう……というかここは日本だよね…………

 とりあえず、今日はもう寝て考えるのは明日にしよう。

 

 ◇◇◇

 

 朝日がまぶしいぜ。っていうか日の光を浴びるのも随分と久しぶりだ。

 とりあえず、今日の朝飯は近くに川があったからそこでとった魚数匹と木の実。

 

《GG》

「はいはい、適当に栄養もってって」

 

 相変わらずプレトが髪を噛んでいるように見えるので誰かがこの光景を見ていたらビックリするだろうね。

 とりあえず、肌が小麦色って言うか黒って言うか……まあ光を吸収する色で陽射しが暑いです。いや、熱いの方が正しいか?

 

「とりあえず、プレト。合体できるか試してみようか」

《GUO》

「……えーっと、セットアップ」

《……》

「…………ラクシャーサ」

《GUGAAAAA!!》

 

 プレトは飛び上がり、その体をパーツごとに分解する。俺の四肢や頭や胴体などにくっつき鎧のようになる。

 両手両足には巨大な爪、腰の辺りから伸びる尾、ヘルメットのように頭にかぶさるプレトの頭部。

 っていうか、そんなところを原作どおりに拘るって何物だよ……倒すべき相手よりエージェントXについて調べようと思った今日この頃。

 

「とまあ、それは置いておく。まずはどんだけ力が出るか……とりあえず肉でも狩るか」

 

 こういうときは決まって熊とかが都合よく出てきてくれるものだけど……流石に無いかぁ

 

「グオオオオオオ!!」

「って、フラグですよねー」

 

 普通に出てきやがった。熊は右前足を大きく振り上げ俺の体めがけて叩き込んできた。だが、俺はそれをクロスさせた腕で止める。

 

「グッ!?」

「お、かなりパワーが出ている……っていうか、変身って必要なくね? まあ別にいいか。今大事なのは前世含めて超々久しぶりなお肉をゲットすることだジュル」

 

 おおっとよだれがたれてきた。魚程度じゃ全然足りないんだよジュル。

 

「グ、オォォォ」

「逃げないで。セージなら案外そこらに生えているみたいだから、美味しくするから」

「……グガアアアア」

「逃がすか俺の食料!!」

 

 必殺!

 

「ブロウクンマグナム!」

 

 と言いつつただ突っ込むだけだったり(笑)

 

「ガァアア!?」

「まあ、お肉ゲットだぜ」

 

 あ、干し肉作っておこう。とりあえず情報収集は必要だし、なんか長旅になりそう。

 まあいざとなったら土を食う……のは嫌だなやっぱり。




今回の用語
『ラクシャーサ』

本家ベターマンにおいてチャンディーと呼ばれるクローン少女がプレトと呼ばれる甲殻形成バクテリアを身にまとう際に叫んでいる言葉。
本来は仏教用語とかそこらへんの言葉なのだが細かいことは言いっこなし。

本作品ではセットアップと同義。

融合状態は互換の共有だけでなく、アクアの身体能力を格段に強化する。
また、融合状態だとカロリーの消耗が倍以上になる。


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スタートアップ・Y・ホーム

今作のユーノ君は若干オリ設定が入っています。
これは、彼がどういう出生を遂げたのか、何故レイジングハートというデバイスを持っていたのか、自分なりに考察したからです。
っていうか公式でもかなり謎な部分が多いんですけど彼……

ユーノ君のサイドはシリアスになっていく傾向があります。
無印が終わるまでには何とかしたいですが。

今回の用語、勘のいい人はなんのことか判ると思う。


 ユーノは彼の姉代わりであった女性の死から2週間の間、まるで死人の顔のようだったと、その事件を担当した管理局員は言っていた。

 犯人の男も転移を繰り返すものの、管理局員の操作網から完全に逃げ出せずにいたのでしばらくの間近くの次元にいた。

 当然、局員の面々も駐屯しており、精神状態が不安定だったユーノは管理局、次元船の中の医務室で面倒を見られていた。

 

 そんな彼が、再び生気ある顔になったのは、遺品を相続する関係で女性の家に来た時だ。

 局員が調べたところ遺書が見つかり、ユーノに存続させるという内容が書かれていたのだ。

 照合や手続きで少しばかり遅れた上に、ユーノもまともな判断能力を取り戻すのに時間がかかっていたので本来ならもう少しはやく渡される予定だった。

 

「はい、これが彼女の遺品。それからこっちが遺書よ」

「……ありがとうございます…………少し整理させて欲しいので、一人にしてくれませんか?」

「いいけど、私達も立場があるから家の外にいるわね」

 

 そう言い、管理局員達は外に出る。

 女性が一人に、男性が二人。共通するのは物悲しそうな顔だけだ。

 

「まだ若いのに……こんな酷い事件を防げない自分に腹が立ちます」

「しかたないわよ……所詮、私達は事件があってからでないと動けない。事件が起こる前に解決するなんて神様ぐらいにしかできっこないのよ」

「それでも、僕達にはあの子のために何かしたい。そう思ってしまいますよ」

「……そうね、どうすればいいか分からないけど彼のことは何とかしてあげたいわね」

「しかし、スクライアって旅をする流浪の民族でしょう? なんで家を持っていたんですかね?」

「遺品を見た人たちによると、どうも被害者は『ミッシングリンク』の可能性があるわ」

「えっと、なんですかそれ?」

「たしか……魔法学的にどういった道順を辿ったか分からない魔法体系の魔道師、もしくはそれに準ずるものでしたっけ?」

「まぁ、色々皮肉を込めた呼び名なんだけどね。今まで確認されただけでも『不死者』、『ミスターX』、『デビル』とかいるわね。予言のレアスキルをもっている人によると全部で12人いるらしいけど……ようはロストロギア級のレアスキルをもっている人たちってこと。ただし、その全員がどんな魔法体系を辿ればそうなるのかまったく分からないの」

「……色々と、とんでもないですね」

「で、そんな規格外な奴らだからね……管理局では一人、死亡が確認されて残り11人。今回の被害者がそうだとすると、残りは10人」

 

 そこまで、女性局人が言ったところで仲間の一人が何かを思い出したかのように呟いた。

 

「そういえば、この事件の犯人ですが……妙な魔法を使うと聞きましたね」

「妙な魔法?」

「なんでも、全身を雷に変換する魔法だとか。魔力を異常に消費していたので滅多に使えるわけではないらしいのですが」

「よくそこまで情報を引き出せているわね……ロストロギアを使っていないのなら、間違いなく『ミッシングリンク』のはず」

「ええ、どうも能力は高いらしいのですが戦闘技術はほぼまったく無いそうです。目撃者によるとユーノ・スクライアのチェーンバインドを解除できなかったようですから」

「……そういえば『ミッシングリンク』の中にはそういう連中ばっかりって噂程度に聞いていたけど……本当なのかしら?」

「自分も聞いたことがあります。『不死者』とか一部例外はいるみたいですが」

「まあ、長く生きていれば嫌でも経験をつむってことじゃないのかしらね。全次元中出会いたくない人物ナンバー1の危険な奴だけど。年の功ってのは馬鹿に出来ないのかもね」

「それにしても、なんか静かですね。彼は大丈夫ですかね?」

「自殺したりしたら困るから生体反応は確認しているけど……別に平気ね」

「いつのまにそんなことを……」

 

 ◇◇◇

 

 局員が外で話している頃、ユーノは遺書を読んでいた。

 手は震え、涙で目の前がぼやけそうになる。そのつど、胸にあるレイジングハートが自分を慰めるように点滅するのがユーノには感じ取れた。

 

「スゥ……ハァ」

 

 深呼吸をし、気持ちをなるべく落ち着けてから遺書を読み始める。彼女が何を思ってこれを書いたのか。ユーノは知らなければいけなかった。

 

 

『ユーノへ 私がこの手紙を書いているのは、私が長く生きられないからです。貴方も噂程度には聞いたことがあるはずです。ミッシングリンク、私もその一人だから、それが原因で私はきっと長くは生きられないでしょう。

 優しいユーノは、きっと私が死ぬようなことがあったら自分のせいだと思ってしまうでしょう。ですが、それは違います。

 私は貴方に出会えてよかったと思っていますし、貴方と一緒に暮らせてうれしかったです。

 ……私のミッシングリンクとしての能力は未来を予知する能力。それもかなり正確に。

 ミッドでもベルカでもない、誰も知らない魔法体系。いえ、体系にすることさえ出来ない力。それがミッシングリンクです。

 未来は様々な選択でどのようにも姿を変えます。ですが、はっきり分かっていることがあります。

 近々私の命が終わること。貴方がミッシングリンクと戦わなくてはならなくなること、ですが、その先に絶望などない。そう信じています。

 二つは確実に起こる。なんとしても防ぎたいですがこの遺書を読んでいるということは私はもう此の世にいないでしょう。

 未来は必ず変えることができる。貴方は本当は強い子。自分を信じて』

 

「お姉ちゃん、相変わらず心配性で……僕は何も出来なかった」

 

 ユーノはうつむく。彼女はいつもそうだった。何かあると自分を心配して。過保護すぎるのだ。自分を庇うことは無かったのに。なんで、なんで……

 

《マスター、最後の方に何か反応を感じます》

「……反応? でも、魔力検査や暗号の解読とか防犯のために管理局が調べているはずだけど?」

《いえ、果汁のようなものがあるようです。彼女が教えてくれたアレではないですか?》

「…………まさか!?」

 

 ユーノの頭に、ある出来事が浮かんできた。前に彼女が教えてくれたあぶりだし、というものだ。

 魔法という便利な通信手段があるためか、次元世界にはあまり知られていない技法だったためか、局員にも気がつかれなかったようだ。

 彼女が教えてくれたあぶりだしは、二重のロックになっていて、まず火等の熱源に紙を当てる。果汁に彼女の魔力が微量だが混ぜられてるのでこのままでは文字が出てこない。

 そこで、熱源に当てつつ自身の魔力を当てて果汁に含まれた魔力を取り除かないと字が読めない仕組みなのだ。

 この方法を知っているのは次元世界広しと言えど、自分と彼女、それにレイジングハートだけであろう。実際、彼女が編み出した技法らしく、信頼できる友達以外には話すなといわれている。

 

「出てきた……」

 

『レイジングハートもいるからこのメッセージに気がついたと思う。最後に言っておくよ。私達の写真が入っている写真縦の裏、そこにユーノへのプレゼントがあるよ。ミッシングリンクの中には心を操る人がいる。そのリストバンドはそういった力を寄せ付けない。きっと役に立つと思う。

 追伸 貴方は優しい子。私が誰かに殺されても、それを忘れないでね』

 

 

 ◇◇◇

 

 ユーノが外に出ると、管理局員は慌しかった。なんでも、犯人が包囲網を突破して逃げたらしい。会話の中でミッシングリンクという言葉が聞こえていた。

 

「きっと、このことなのかな……ミッシングリンクの人と戦うことになるって」

《マスターユーノ。大丈夫ですか?》

「……あの人は僕を狙っていた。だったら、いつか絶対に来るはずだ…………」

《彼女の言葉、覚えていますか?》

「うん、大丈夫……でも、許すことなんて出来ない。だから、一生かけて償わせてやる」

 

 姉であった女性の言葉、それがユーノをユーノのままつなぎとめた。

 大きな傷を心に負ってしまっただろう。それでも、道を間違えずにすんだのだ。

 幼いが、不屈の心をもった少年。ひとまず彼はジュエルシードを発掘するまでは表舞台に出てこないであろう。

 だが、運命の日は刻一刻と迫っている。

 ユーノにはまだ、宿命とも言うべき秘密が隠されていたのだから。

 




今回の用語
『ミッシングリンク』

ミッドでもベルカでもなく、他の魔法体系からも、どういう風な進化をすればたどり着けるか分からない魔法のこと、もしくはその使用者。
進化の道筋が分からないことからこう呼ばれる。
聖王教会にいる予言のレアスキルを持っている人や、そのほかの予言型スキルの所持者による予言の結果、宇宙の始まりから終わりまでに12人出現することが分かっている。
古代ベルカに二人存在し、内一人は大昔の大戦で行方不明になり、もう一人は『不死者』と呼ばれる、現在でも生きていると噂される人物。管理局はその存在を掴んでおり、捕らえようとしている。
確認されているのは5人ほどで、何故かここ数年で一気に出現した。

予言スキルをもつもの曰く、この時代で集結、もしくは全員でそろうのではとも言われている。

共通するのは
「子供の頃から不自然なほどに大人びている」
「解析不能の能力を持つ」

また、戦闘能力は高いのに、何故か素人の動きをしている場合が多い。

以上が管理世界に伝わる話である。


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フォレスト・A・ランナウェイ

というわけで主人公パート(ギャグパートともいう)
ちなみに、誰がメインのパートなのかは法則がありますが、ぶっちゃけ頭文字。
W→主人公とユーノ
A→主人公
Y→ユーノ

他の頭文字が出たら、その人や物に対応しているということです。


 熊を狩り、干し肉作ってから一週間が過ぎた。現在俺は森の中を走ったり、寝たり走ったり食糧確保したり、時々マニュアル読んだり。

 まあ、そんな感じで今何処にいるか調べたり。

 簡単に言えば、サバイバル生活満喫中。警察とかに見つかったらアウトです。戸籍無いから色々と……ね、

 

「しかし、日付は分かったけど……いや、原作っていつ始まるのか分からないから意味は無いか。地球の事件とかも覚えていないし」

 

 原作知識なんて主要人物の大まかな特徴と大まかな性格しか分からんよ。流れも本当に大雑把にしか分かりません。リンカーコアを覚えていたのはベターマンに出てくるリンカージェルって単語から、リンカーつながりで覚えていただけだよ。

 ぶっちゃけサブカル系である程度覚えているのは勇者王とベターマンと天元突破を少し。あとは携帯獣ぐらいか?

 勇者王とベターマンに関しては結構覚えいている。これは純粋に好きだったから。ベターマンは勇者王を見ていたからって部分も多いけど。

 天元突破は……色んなセリフが生きる力をくれたよ。いや、転生する前の世界がひどいことになっていたからね……まあ過ぎたことは考えても仕方が無い。

 携帯獣は単に小さいころからやっていて覚えていただけです。

 残りは少しの単語か流れを覚えているぐらいだな……ぶっちゃけリリカル以外は必要ないんだけど……タイトルと少しの知識と元がとらハっていうゲームだったのと、さっき言ったことしか覚えていない。

 インパクトが強い部分は覚えていることも多いんだけど……なんていうか培養液を出てから物忘れが激しくなったっていうか、段々と前の世界のことを忘れている気が……まさか世界から修正をうけているとか!?

 …………サバイバル知識とか、今実際に使っている記憶とか知識はなくならないみたいだから別に困らないからいいか。

 

 そうだ、いっそのことこのままサバイバル生活をエンジョイするか。もしくはネブラに変身してどっかに飛ぶとか。

 いやいやいや、早まるな。まずは衣食住の確保。食は何とかなるし、住は雨風しのげればなんとかなる。

 問題は服だ。ぶっちゃけ着の身着のままっていうか、色々マズイ。

 さて、どうしたものか……

 

「まあこんな時こそ、マニュアルを使おう!」

 

 えっと、オルトス変身のための材料その1・人の心臓って、無理だわ。なんつうエグイ……っていうか、オルトスって確か最終形態だよな。使わなければいけない状況が来ないことを祈ろう。

 魔法の使用法……お、たしか防護服があったよね。名前忘れたけど…………えっと、ミッドチルダ式の魔法は我々には理解できず(言語が伝わらなかった)、使用は諦めた。

 

 さて、行き詰った。……って待て待て! 諦めるなよ、もうちょっと頑張ってよ

 

 とりあえず、続きを読む。ミッドチルダ式を諦めただけで他の方法を探していたみたいだ……っていうか、研究者達の日記風な部分があるんだけど?

 あそこ、アットホームだったのか……どうなったか心配だし、出来れば様子を見に行きたいけど日本国内って事以外に分からないんだよなぁ……

 しばらく読み進めると、使える魔法体系が書かれている。

 えっと、『プログラムで魔法を発動する方法に注目した結果、物に文字を刻みつけ魔力を通すことで魔法を発動するルーン文字を使用するのが現状でもっとも効率がいい』

 ってルーン魔術!? いや、分からんよそんなの!

 と思ったらルーン文字一覧表が出てきた……それぞれに意味があり、組み合わせで効果を変えるらしい。

 研究者の中に魔力を持っているのがほとんどいないし手探りだったのでやれるたことは少ないみたいだ。

 

「まあ、とりあえず適当に木の枝にでも刻んでみるか……火辺りを」

 

 ◇◇◇

 

「意味ねぇ……疲れるだけだし」

 

 結論、煙が少し出たよ! たいした魔力を使っていないはずなのに体力持って枯れたよ(誤字にあらず)

 やったねアクア君!

 レベルが1上がった

 体力を500消費した

 魔力を5消費した

 くたびれた表情を手に入れた

 

「いや、魔法が使えないわけじゃない……もう少し研究すれば色々できるんじゃないか?」

 

 とりあえず、このときの俺は衣服をどうにかするという最初の目的を忘れていたのだった。思い出すのは数日たって、相性のいい水を操る魔法を使えるようになってからだった。

 

 ◇◇◇

 

 わたし、高町なのは小学一年生です。友達のアリサちゃんとすずかちゃんと一緒にバスの中。突然アリサちゃんがこんなことを言い出しました。

 

「ねえ知ってる? 最近森の方に走る怪人が出るって」

「あ、私も聞いたよ。なんか大きな爪と足をもったUMAがいるとか」

「そういえば、お父さんたちが調べにいくとか言っていたような……?」

「お姉ちゃんも装備を作るって張り切っていたよ」

「あんた等の家族が関わるとかシャレにならないわよ……むしろUMAが心配だわ」

 

 アリサちゃん、SAN値的な意味でってなんなの?

 

 ◇◇◇

 

 俺が衣服のことを思い出してorzになっているころ、言い知れぬ悪寒を感じた。なんだ?一体俺の第六感は何を訴えているんだ?

 食料を求めているうちに森の出口付近に来てしまったが。

 

『しかし、本当にそんな生き物がいるのか? 美由希の見間違いじゃ……』

『お父さんまで疑うの!?』

『父さん、現に俺も遠くからだが見たぞ。他にも何人かの人が見たって』

『お、レーダーに反応アリ!』

『本当か忍!?』

 

 ふむ、よくわからないが見つかったっていうかやばいな……逃げるか。

 

 とりあえず、俺はダッシュ、いや、ランナウェイだ! 何も考えるな。今はただあの人たちから逃げ切れ。俺の直感があの人たちに捕まると厄介なことになると叫んでいる。

 逃げたぞとか、追うんだとか、色々声も聞こえるし、段々距離が詰められている?

 おかしいな……一応、俺って遺伝子上も構造的にも人間辞めてるんだけど、それより高い身体能力って何者?

 とりあえず、追いつかれる前にキャンプポイントに到着!

 

《GU?》

「説明は後! ラクシャーサ!」

《GUAO!》

 

 体に装着されるプレト。この形態なら身体能力が格段にアップ。懐にマニュアルとか干し肉を出来るだけ入れて俺は走り出した。

 

『スピードが上がったぞ!』

『本格的に逃げるつもりなんだな……私達も本気を出すぞ!』

 

 あれでまだ本気じゃないと……?

 

『神速は?』

『もう少し距離をつめてからだ。取り囲むように私と恭也は先回りする』

 

 ってまだ速くなるんですか!? っていうかヤバイ。色々と危ないよこの状況。転移したときの感覚から研究所は近くにあると思うんだけどな……仕方が無い。ほとぼりが冷めるまでしばらく遠くに逃げるか。

 

 一旦、大きく跳躍してプレトを脱着する。実はあったポケットから錠剤を一つ。っていうかでかいな……

 取り出したのはアクアの実。それを口に含めたとたん、俺の体に劇的な変化が起きた。

 

「ぐ、グゥオオオオオオオオ!!』

 

 自分の周りに水分が集結し体を覆う。その中で体が組み変わっていくのが分かる。正確には体の外を爪や髪のような物質が外骨格のようなものを形成するのだが……体の感覚的には本当に別の生き物へ変貌するかのような感覚だ。

 

「なんだ!?」

「ど、どどどどどら、ドラゴン!?」

 

 さっきの人間達に気がつかれたみたいだけど、とっとと逃げさせてもらう。

 

『オオオオオ!』

 

 雄たけびをあげ、雨を呼ぶ。滝のような雨を局地的に降らせ、それを昇っていく。そのまま雲の中に入り、遠くへ逃げる。空から下を見たとき、大まかな地形を把握したので大体どの県かは分かった。

 次に来る時は装備を万全にしようと硬く決めた俺だった。

 つーか、自分でも思うけどとんでもないスピードだ。

 ちなみにプレトとかは口の中に入れています。別に変身した姿は物を食べる必要は無いので飾りみたいなものだから大丈夫。

 

 ◇◇◇

 

 高町恭也は驚いていた。UMAなんて自分でも半信半疑だった、だが、それ以上にとんでもないものを見てしまった。

 突如現れた巨大なシルエット。地球にあんなものがいたのかという驚きと、その力。

 その声だけで空から滝を降らせるという信じられない現象。

 

「……」

 

 そのときはただただ呆然とするしかなかった。

 後に、深くとまではいかなくても、あのドラゴンのような生き物と関わることになろうとは、このときの彼は夢にも思わなかった。

 

 ◇◇◇

 

「わ、わすれてた……」

 

 ベターマンは変身すると、しばらく行動不能時間があるんだった……体が繭みたいなものに包まれ動けなくなる。

 幸い、何処かの洞窟の中らしく、人に見つかる心配は無い。

 結局この後、目が覚めるのは数日経ってからだった。

 初変身が負担だったのだろうが、日にちの感覚が無かった俺には一生知ることの無い事実だった。




今回の用語
『アクアの実』
ベターマン・アクアに変身するための錠剤の通称名。
結構でかい。
主人公が一番相性がよく、材料もそんなに集めにくくない。

この世界にはアニムスの花というベターマンが変身するための実をつける植物が無いので、錠剤という形をとっている。

ベターマン・アクアは水中活動形態だが、雨を呼ぶことで一時的に空中行動可能だったりする。その場合、雲の中に潜伏することで人工衛星やレーダーをかいくぐっている。

主人公の名前もアクアだから紛らわしいことが多い。


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ワールド・A・ライフ

再び主人公パート。
連続することもある、ということで。

原作開始前をグダグダやるつもりもないのでちゃっちゃと進めましょうか。
というか、すぐにでも原作開始したいんですけどね。

前準備というのが必要なこの作品でした。


「さて、ここは何処だろう……とにかく遠くに逃げようとしたからなぁ…………」

 

 俺ことアクア・プロトは今現在困っています。

 まあ、目が覚めたから繭を破って、外に出てみたんだけど……マジでここ何処?

 息苦しいし、なんていうか……日本? もしかして外国まで逃げちゃった?

 

「……人探すか――の前に食糧調達。まあ…………このサソリでいいか」

 

 生意気にも俺のこと刺そうとしていやがったので捕まえる。そういや、サソリの毒もどれかの薬の材料にあったな……保管するって、ビンとか無いか。

 

「……あ、あの手があった」

 

 ◇◇◇

 

 俺が思いついたのは、ベターマンの原作に出ていたある情報。ベターマンこと、ソムニウムと呼ばれる生命体は着ている服とかサングラスとか、自分の体から出る物質を使って作っていたような……たしか、さっきの繭とか変身後の外骨格と同じ成分だったはず。

 そこで、繭のところに戻ってチマチマと、ビンのようなものを作っています。

 

「骨が折れる……っていうかマニュアルに作り方が書いてあるのにも驚きだよ。俺以外にも実験体がいたのか?」

 

 どうも、繭や外骨格を粘土のように溶かすことの出来る液体をプレトが出せるように調整していたらしい。服とかも作りたいし、繭だけじゃ材料足りないかな~と思った矢先。

 

「忘れていたけど、残るんだよなこれ……材料になるから助かったけど、どうしようか…………」

《GA?》

「あ、うん。とりあえず溶かしておいて。これ見つかったらヤバイ」

 

 俺が変身していたベターマン・アクアの外骨格がそのまま残っているんだよね……コア部分に俺がいるだけで、俺と分離した後、死体のように固まる……っていうより、サナギの抜け殻に近い。

 サナギを動かしていた? って言えばいいのか……微妙に違う気もするけど、俺の頭の中に、それ以上的確な言葉が見つからなかった。

 

「まず、必要なのは服と……荷物を入れるリュック、ビンを何本か。後は……適当に考えるか」

 

 まずはこねてこねて、薄くのばす。時間かかりそうだな……どんな服にしようか悩む。

 

《GAA》

「ん、どうかした? って、このページを読めって?」

 

 プレトがマニュアルのあるページを指差す。トカゲみたいな見た目のクセに芸が細かい。

 さて、何が書かれているのか……えっと、『生体デバイスとの合体の際、なるべく薄着でなくてはいけない』

 あー、そこまで気にしていなかったけど、接続不良とかでたらダメだよな。

 とりあえず、薄着で……まあ、目立たない感じで半袖にズボンで、上着を着ておくか。

 ここ肌寒いから、なんか調達しないと……っていうか、服はちゃんとしたのを入手しよう。かなりごわごわする。

 

 ◇◇◇

 

 目が覚めてから一ヶ月が経ちました(笑)

 

 

 

 ……スイマセン、予想以上に単調な日々が続いていたんです。ここならある程度俺の見た目でも違和感なく働けるのでなんとかやっていけます。

 とまあ、そんな変なことを考えていたが、一ヶ月を簡単に振り返ると、まずここが世界一高い首都がある国だということに気がついた。

 どうりで息苦しいはずだよ……一番高いところだと富士山より高いんじゃなかったっけ? まあ、公式の記録でも数100メートルぐらいの差だし、息苦しいことには変わりないって…………数日で慣れたこの体に少し戦慄は覚えたけど。

 言いたくないけど、子供も働いていることがあるからねこの国。っていうか、日本にまったくと言っていいほどそういう子供がいないだけで、他の国にいくと結構目にする機会はあると思うけどね。こういう問題はその国の政府が何とかしないといけないから旅行にいった場合、自分の行動は自己責任(以下関係ない話が続くので略)

 閑話休題。まあ、着るものを買えるぐらいには金稼ぎました。長かった。実に長かった。

 まあ、着るものって言ってもズボンとシャツと、あとポンチョ。

 ……糸で首から吊るしたらまるでテルテル坊主ですね。

 

「さて、準備も整った」

《GG》

「いざ研究所へ行くぞ……所長、一ヶ月したら此の世にはいないとか不吉なこと言っていたからなぁ…………はやくもどるか」

 

 とりあえず、ネブラの実を捜すか。

 さっきは軽く流したけど、この国って南米なんだよね。アクアの姿ってそんなに速かったっけ? まあ、気にしてもしょうがないしなぁ。

 そういえば……あのマニュアルってちゃんと編集できていないからか、かなりカオスで、情報のつけ足しが多くてどれがどれだか分かりにくい。

 

「あったあった、よし、いくぞプレト」

《GAA》

 

 とりあえず、考えるのは後、今は日本に早く帰ろう。

 ネブラの実を取り出し、口に含む。

 

「ゴゥオ!? ――――グ、ガアアアアア!!』

 

 摂取した瞬間、体中に痛みが走る。

 メキメキと音をたてて、体が組み変わる。

 大きく、しなやかな体。ベターマン・ネブラの形態。

 原作でもおそらくもっとも多く使用された姿。

 

『グゥゥ……』

 

 この形態は音波などを用いる姿、口に物を入れて運ぶことは出来ないため、手のひらに荷物とプレトを乗せる。

 

『グアアアァ!』

 

 翼を広げ、一気に上まで上昇。そのまま進路を北のほうへ。目指すは日本。

 並みの飛行機を上回る速度が出ていると、自分でも思う。

 だが、ここまできたときはアクアの姿。水中なら話は違うが、空中ではネブラ以下のスピードしか出せないと思うのだが……何故ネブラ以上のスピードだったんだ?

 

 ◇◇◇

 

 電磁波を纏いレーダーや人工衛星対策を済ませ、何処か着陸出来そうな場所を探す。

 なるべく人目につかず、抜け殻を処理できそうな場所でないと……

 

《GAGAGA》

 

 ん、プレトから念話が通じた。っていうか、通じるのか……

 どうやら、この付近にいい場所があるらしい。

 着陸してみると、森の中で小さな小屋がある以外は人目に…………小屋がある時点でアウトじゃん。

 

「おいこら……変身といちゃったじゃないかよ」

《G?》

「いや、なんで疑問に――あ、勝手に入るな!」

 

 しばらくの間は休眠に入らなくても大丈夫だけど、時間がないな……小屋の中に入っていったプレトを仕方なく追いかけることにする。

 小屋の中は殺風景で、隠し扉を今プレトがくぐったこと以外は別に普通……なんで隠し扉があるんだよ!?

 

「……はぁ」

 

 ため息を一つ。とりあえず、中に進むけど……どこかで見たような風景だな。

 どこだっけ……記憶を探っていると、中の開けた場所に出た。

 

 

 

 

「……うそ、だろ?」

 

 

 

 そこは、ボロボロだったが俺がいた研究所だった。

 物は散乱し、機材は壊れ、研究員の白衣と思われるものがぼろ雑巾のように壁に引っかかっている。見ると、壁から鉄筋が飛び出ていた。

 

「たしかに一ヶ月って言っていたけど……こんなになるものなのか?」

 

 ぐ……目がかすむ…………まだ変身に慣れていないからか、すぐに眠くなる。

 仕方がない。危険だけどこのまま寝るしかない。

 

 ◇◇◇

 

 目が覚めた。プレトが足元で眠っている。繭を破り体をほぐす。前回よりは体に負担は少ないみたいだ。

 

「さて、何があったんだろう……とりあえず、ルーン文字をあたりに刻んであるのはなんでだ?」

 

 管理局って魔法を取り締まるところだっけ? よく覚えていないけど、気がつかれているんじゃ……いや、まだ魔力を通していないルーンなら魔力反応はしないか。

 

「なら、魔力を通して起動させる」

 

 それに、意味を理解していないと発動しないってマニュアルにかいてあったし。

 とりあえず、壁の一部に書かれていたところを試す。

 

「えっと、『開く』『収納』……とりあえず、通す」

 

 魔力を通すと、壁の一部が開き、中から本のようなものが飛び出す。

 慌ててとると、表紙には『マニュアル完全版』と書かれていた。

 少し読むと、どうやらあのマニュアルをちゃんと編集したものらしい。

 

「ったく、こんなの書いている暇あるなら逃げろよ……他にはなにかないか?」

 

 いくつもルーンを起動させて分かったのは、全て俺のために残していった物だったということだ。

 食糧や、丈夫な鞄。雨具や持ち運べるテント。よく分からないがドッグタグ型の何か。

 そして……オルトスを除く最強の形態、フォルテへの変身丸薬が一つ。

 

「……最後に手紙か…………『アクア・プロトへ、私達は君という生体兵器を生み出してしまった。エージェントXの協力により、君には一般常識程度の知識があるはずだから私達のことを怨んでいるかも知れない。

 私達、研究チームは全員子供を作れない体だった。その反動なのか、生命を自分達の手で作ってしまう禁忌の道に進んでしまった。

 ……こんなことを言うべきではないのかも知れない。でも、キミは私達が望んで生み出した存在だ。君の意識のない頃から、少しずつ少しずつ、大きくなっていくのを見て一喜一憂した。

 プロジェクトのためとはいえ、君には重荷を背負わせてしまったことを後悔している。だけど、君は確かに私達の子供なのだ。本当はちゃんと話したかった。一緒に暮らしたかった。

 君がクローン技術を元に生み出されたとしても、ヒトとは違う体でも、君は私達の子供だ。

 出来るのなら、自分の命に誇りを持って欲しい。私達10人の願い、その結晶が君だから。『不死者』に子供を作る力を奪われた私達、図々しいのは分かっているが、どうかそのことを覚えていて欲しい』……んなこと言われても、困るだけだっての」

 

 培養液の中から見ていたあの人たちは、バカやって、笑って、またバカやって、漫才やっているみたいにどつきあって、楽しそうだった。

 その笑顔も、俺のほうに向けられたことも沢山あった。

 きっと、『不死者』ってのを何とかしてほしいがために俺を作ったんだろう。

 子供を作る力を奪われた……結局、俺はその復讐の道具として作られたのかもしれない。

 

 

 それなのに…………

 

 

「その道具に情が湧くとか……まったく、なんとかしたくなっちまうじゃん」

 

 なんとなく生きていくつもりだったけど、やりたい事、やるべき事が見つかった。

 どうしたらいいか分からない。とりあえずは魔法を使えるようにすること。海鳴に行って原作開始した後なのか前なのかぐらいは確認するべきだろう。

 そして、『不死者』……不吉な名前だけど、調べるには越したことはない。手探りになるけど、前に進むんだ。

 




今回の用語
『ベターマン・ネブラ』
ネブラの実を使うことで変身する形態。
原作ベターマンも、一番使用頻度が高い形態。

音波や電磁波などの高周波を操る。
腕から電磁波を出し電子レンジのような攻撃方法やレーダーのかく乱。
電子機器を遠隔操作したりできるが、経験が必要な技もある。

必殺技は固有振動数にあわせた音波で対象のみを粉々にする『サイコヴォイス』
使用前に、頭部のムチのような部分で相手を叩き振動数を確認する。

高速飛行可能な形態でもある。
能力を駆使してレーダーなどから感知できなくすることも可能。


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アドバンス・Y・チーム

ちょっと短めです。
今回はユーノ君の話。

この作品のユーノ君はオリ設定はいっていますが、レイジングハートともども色々謎な部分が多いので自分の考察から、こうなってしまった。って感じです。

ユーノ君は原作より強化されていますが、ヴォルケンのシグナムさんよりは確実に弱いです。ヴィータには勝てる可能性がある(原作でも攻撃を防いだので)ぐらい。勝率低いですが。



 ユーノ・スクライアが遺品の相続をしてから一年の時が過ぎた。その間、基礎能力を高めるために、魔力付加をつけて魔力量をふやしたり、魔法の開発など、自分に出来ることを行っていた彼だが、今現在ある困難に直面していた。

 

「僕が発掘隊のリーダーですか?」

 

 スクライアの族長に、発掘隊のリーダーをしてみないかといわれたのだ。

 自分では仲間に打ち解けているとは思っていないのだが、リーダーなんて務まるのだろうか? どうしてもその疑問が頭から離れない。

 

「お前が思っている以上に、お前は皆から信頼されているよ。今のお前に足りないのは自信だ。まあ、一度頑張ってみてからでも遅くはないだろう」

「……はい。わかりました」

 

 いくら学校を卒業していようと、自分はまだ8歳。経験が足りないと思うのだが、族長命令であるから仕方がない。

 族長のテントをでて、発掘隊が集まっているところへ向かう。やはり自分より年齢が上の人たちばかりだ。

 その人たちをみて、やはり自分とは見た目が違うと思う。

 ユーノは自分では思っていないが、彼は地球で言うところの難関と呼ばれる大学を卒業できるほどの頭脳を持つ(ただし、経験が足りない部分があるので鈍いところもあるのだが)。

 そして、部族内の人たちの顔と自分の顔、その特徴をこの歳でよく掴んでいるのだ。普通、人の顔とは自分が見た人の顔の平均顔を脳内に作ることで、それを基に判別している。

 だが、ユーノは自分の顔のパーツ一つ一つをほかの人と見比べることで、自分に近しい人、つまり血縁者がいるのか考えたことがあるのだ。

 答えは否。ほかの人からも言われていたが自分には家族がいない。

 

 ユーノは頭が良すぎるがゆえに人に壁を作っていた。

 

「発掘隊のリーダーに選ばれたユーノです。よろしくお願いします」

 

 隊の中から、同じ部族なのだからもう少し気楽にいけばいいのにという声が上がる。

 たしかに、そのほうが良いのかもしれないとユーノは思う。

 

「ですが、皆さんは僕より経験が上ですので……」

「かたっ苦しいのは嫌いなんだよ!」

「まったく、もう少し子供らしくしてもいいんだぞ」

 

 そういわれ、頭を強く撫でられる。というか、縮むとユーノは叫びたかった。

 目を白黒させながらも、遺跡の方へ向かうことになった。皆が話しかけてくる。そういえば、沢山の人と会話したことって少ないな。

 この一年、魔法の練習だけじゃなくて、発掘の手伝いもしていたけど……トラップとかの解除をしたり、変身魔法の発展型を使っていたときとか、段々とみんなの態度が変わってきたな……そう思っていると、隊の中で一番年長のものが話しかけてきた。

 

「そういえば、前はごめんな」

「前?」

「いや、お前が学校卒業した時だよ」

 

 そういえば、彼は学校を卒業したばかりの自分に変な言いがかりをつけてきたことがあったっけ。あの時は姉が追い払ったけど……

 

「俺、結局学校卒業できなかったから、飛び級で卒業したお前を見てたらなんかむかむかして……ホントスマン!」

「あ、いえ。僕も気にしてませんから」

「そうだぞ、コイツが馬鹿なのが悪いんだから気にしなくていいんだぞ」

「ちょ、いくらなんでもハッキリ言いすぎだろ!?」

 

 紅一点の、長髪の人がものすごくさげすんだ目で見ている。というか、笑っている。

 涙目になってしまう男性。その二人の掛け合いを見ていると、なんだか笑えてきた。

 

「お、やっと笑ったな」

「あ……」

「一年前から笑っているところを見ていなかったからな。心配したんだぞ」

「私達も配慮が足りなかったから……まあ、コイツをからかえばみんな元気になる」

「そうそう……っておいコラ」

 

 なんで、こんなにみんな心配してくれるんだろう。なんで優しくしてくれるんだろう。

 ユーノは前とは違うこの状況に戸惑っていた。

 

「不思議そうな顔だね」

 

 こんどは、丸っこいめがねをかけた男性が話しかけてきた。

 

「それはね、この一年君が頑張ったからだよ」

「頑張ったから?」

「そう。今までは君が何もしなくても良い結果を出せる天才だと思われていた。だけど、君はこの一年、血反吐を吐くような特訓をしていたし、発掘しているときに誰かが危ない目に遭いそうだったら真っ先に動いたのは君だった。

 あの人が亡くなって、君に同情していた人も多いと思う。でも、そんな状況でも、君は前に進んだだろう?

 だからこそ、一人きりで頑張っていた君を見てくすぶっていた連中も頑張りだした」

 

 そこまで語ると、めがねの人は「もちろん、僕もね」と付け足した。

 たしかに、この人の言っている事にウソは感じない。でも、一番最初に自分を避けていた理由が分からない。自分が学校に通う前からなんか、余所余所しい所があったと思うのだ。

 

「……もしかして、僕だけなにか見た目が違うから?」

「スクライアの民は色々な人がいる。それでは不十分かい?」

「でも、僕の家族はいません」

「…………それは君の血縁という意味でかい?」

「はい」

「……族長には言わないでくれよ」

 

 そう言って、彼は語りだした。ちょうど自分もむかし参加した発掘調査。ある不思議な遺跡を相手にしたのだが、その遺跡の中の一室。変な魔力を感知した発掘隊はその部屋である赤ん坊を発見した。

 

「その赤ん坊が君さ。だれかに捨てられたのか、それとも、何かしらの封印で君が眠っていたのかは分からないが……」

「そう、ですか…………このこと、お姉ちゃんは」

「知っていたよ。彼女もそのとき一緒にいたからね。ただ、彼女は何かに気がついたみたいだけどね。今となっちゃ誰も知らないが」

 

 遺書にも遺品にも書かれていないことがあった。いったい、自分は何処から来たのだろう。そんな謎だけが残された。

 だが、一つだけヒントが残されていた。

 

「あ、そうそう。君の持っているレイジングハートだけど、そのときから君の首にぶら下がっていたんだ」

「え、そうなんですか!?」

《はい。私はマスターユーノが赤ん坊の頃より貴方の持ち物でした。それ以前の記録は残されていないので何ともいえませんが》

「どういうわけか君には完全な形で起動できないけど、最新のデバイス並み、いやそれ以上かもしれないスペック。さらに使用者の意思で最適な形に構築する機能。ロストロギアに匹敵するかもしれないよ……ミッド式の魔法を使うし、AIのタイプも出回っている最新のものだったから誰かが作った実験機か試作機ってことで落ち着いたけどね」

 

 そういえば、普通のインテリジェントデバイスとは毛色がかなり違う気がする。

 遺跡で発掘されたって族長に聞いたけど……自分も発掘されたとは知らなかった。

 

「まあ、とにかく目的地はもうすぐだよ」

 

 ◇◇◇

 

 目的地には小さな遺跡群があり、そこで手に入れたのがロストロギア『ジュエルシード』の情報。

 近くに埋まっていることしか分からなかったが、族長へ持ち帰った情報から再び発掘チームが作られることになった。

 今度は大掛かりになる。ユーノ自身はなんとか族長に自分がいた遺跡のことを聞いて自分の出生の手がかりを見つけようと思ったが、

 

「こ、今度もリーダーですか!?」

「うむ。現場指揮をたのむぞ」

 

 どうやら、長期計画の発掘のためしばらくは無理そうだった。

 

 

 この後、半年後から始まるジュエルシードを巡る長い戦いが彼の出生の謎を明かすことになろうとは、ユーノは思ってもいなかった。

 




今回の用語
『スクライア族』

遺跡の発掘などを生業とする一族。
全員が血縁関係というわけでもなく、拾われた子も多い。
ユーノは拾われたという設定になった。詳しくは上の話で。

違法なところには売っていないみたいなので、管理局とも多少はつながりがある。
色々な世界をたびする関係上、一つの世界に留まっているわけではない。
ユーノのように、学校へ行く者もいる。


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カウントダウン・A・リリカルタイム

もうすぐ原作開始です。
主人公が暴走しているから注意。

忙しくなってきたので次の更新は未定。なるべくはやくしますが。


 チャルメラはどうしてこう、不思議なメロディを鳴らすのでしょうか?

 独特の音、日本ではラーメンが食べたくなりますね。

 ……しばらく、食べてないなラーメン。

 

「…………いい加減、現実逃避をやめますか」

 

 アレからだいぶ時間が経ちました。今では研究所跡地を寝床にしています。ネブラの抜け殻を溶かした材料で補強したり、薬の調合や自分なりに特訓したり、色々とやることもありましたよ。魔法の開発で、ガオガイガー技を再現したり。

 新マニュアルによると、魔力のみを放出するのが難しいだけで、術式などにそって使う場合には問題はないのだと。ただし、バインド系には気をつけろとも。

 よく分からんので魔法に詳しい人に聞くしかない、今日この頃。

 とりあえず、覚えている限りの原作知識から目の前の光景でビックリ仰天しています。

 今は、ポンドゥスの実を使い、光の屈折率を変えてスニーキングミッション中。ポンドゥスは使用後の負担も少ないから助かった。

 あ、言い忘れていたけどね、研究所……海鳴の近くだったんだ。

 

「しかし、これはいったいどういことなんだろうか?」

 

 ガラス越しだけど、今俺が見ているのは、聖祥小学校の卒業式。壇上には成績トップの人が上がっている。卒業生代表とか言っていたけど……ローウェルさんでした。

 っていうかとらハ!? 士郎さんが生きていたのは遠くからだけど確認したよ!? 年齢的にも生きている人じゃないと思うんだけど…………まあ、無事ならそれでいいんだろうけど、やっぱり俺以外にも転生者っているのかな?

 高町なのは(リアルな見た目なので非常に分かり辛かった)を確認した時、小学2年生。この卒業式が終わって4月になれば原作開始じゃないですかヤーダー……それは後にして、まあクラスも確認したんだけど、くぎみーボイスのアリサとすずかはすぐに分かった。この二人は意外と特徴あるんだ、だがその近くにいた銀髪。おめーはだめだ。

 まあ、転生者なんだろうな……痛い部類の。っていうかよくピンポイントで海鳴に転生して痛い見た目になって主人公達と同い年に……だけど、魔力とか覇気とかほとんど感じなかったから保留。なんていうか、すずかさんより弱いのよこの、山本のぼる君。

 そんな状況だから、転生者っているのか悩ましいんです。

 

「と、戻って特訓するか」

 

 なんでローウェルさんがいるのか謎だけど、原作開始まで時間がないんだよな……他に転生者がいるのならたぶん誰か絡んでくるし、『不死者』について調べないと……

 

 ◇◇◇

 

 プレトのを装着した時に思ったことがある。右腕の部分に、『回転』『追尾』『突撃』とかそんな意味をこめたルーンを刻めば、ガオガイガーのロケットパンチ、ブロウクンマグナムが使えるのではないかと!

 ほとんどネタ的な意味で作った。後悔はしていないけど……反省する気もない。

 

「まさか実戦で使えそうな技になっているとは……」

 

 ネブラの抜け殻で作った訓練用の的(凄く硬い)を易々と貫通した……対人戦がないとは限らないけど、自重しよう。

 あ、もちろん左手にはプロテクトシェードを再現しています。

 これでヘルアンドヘブンが使えれば……惜しむらくは、俺の魔力光って黒に近い紫ってことだ……あの独特な緑色がよかった。こればっかりは仕方がないけど。

 下準備(プレトにルーンを刻む)だけは出来ているけど、今の魔力量だと無理なんだよね……基準が分からないからどれだけ魔力があるか分からないけど。

 

「さてと……後はデバイスのチェックだな」

 

 研究所にあったドッグタグ、あれはどうやら管理世界の魔法を参考に作ったデバイスというものらしい。ただ、あることに特化させているし、自分で計算式を作らなきゃいけないのがなぁ……ある程度のAIはあるからそこまで困らないんだけど。

 

「っていうか完全に見た目覚醒人だよな……右腕だけだけど」

 

 右腕に覚醒人の機能を集約させてありますね。シナプス弾撃とかもセットでした。っていうか使えることに驚き、『エージェントX』がまた絡んでいることになっとく。

 絶対に奴は転生者だ。ネタがマニアックだが、確実に分かってやっているだろ。

 まあ、化学物質合成で変身のための薬を調合しやすくするためなんだろうな。一応、戦闘にも使えるし、スキャニングのためのモードもある。

 名前は……ハンドウ。漢字で半道。あれか、ネタが微妙すぎて分からん。いや、何が言いたいのか分かったけど……大脳皮質使ってないよね?

 

 さてと、おなかもすいたしファーストフード店の裏に行ってみるか……目的はいわないでも分かると信じたい。

 

 ◇◇◇

 

「な、なん……ですと?」

 

 ゴミ箱が空……だと!?

 そ、そんなバカな……ここらへんのゴミの出るペースは全て覚えているのに、な、何故!? ど、どうする……また山に戻っても、最近修行している高町剣士の人たちに出くわしたりしたらアウトだからここが最後の希望だったのに!?

 

 と、そのとき俺はあるものをこの目(視力はマサイ族並みになることもある)で発見した。大きなゴミ袋を抱えた、中学生ぐらいの少年の姿を。なぜか手にモップをもっているけど、関係ない! あの匂い(嗅覚は犬並みになることもある)はハンバァガァデスネ!

 

「肉食わせろぉぉぉぉぉおおおぉお!!」

「お、おおお!? 『ブルーム』スタンバイ!」

 

 一瞬で相手の姿が変わるけど気にしない。

 

「プレト、ラクシャーサ!」

《GG》

「と、トカゲと合体した!?」

 

 ふっふっふ、そのゴ○袋のなかのニクヲォォ……食わせろぉぉぉ

 あとで、思ったことだが、このときの俺はどうかしていた。というか、一週間ものあいだ肉を食べてないから気が動転していたんだ。

 

「そうか、お前が最近巷で噂のトカゲ人間! よし、おれっちが掃除してやる!」

「…………はぁぁ、『ブロウクンマグナム!!」

「なっ!? ガオガイガー!? コイツまさか転生者!?」

 

 俺の聴覚(わりと人並み)は今、大事なことを言っていた気がするけど……今の俺には関係がなかった。ただ、本能のままに行動するだけだ!!

 

 

 

 

 

「ご飯めぐんで下さい」(土下座)

「ちょ、往来で土下座すんな!!」

 

 

 ◇◇◇

 

 彼の名前は七夕リンネさん。この前小学校を卒業したばかりで、ローウェルさんとはずっとおなじクラスだったらしい。というか、この人が助けたのか……どうも、リリカルなのはやとらいあんぐるハートのことは知らないみたいで、ここが舞台だとも知らなかったみたいだ。

 

「いやぁ、いいこと教えてくれてあんがとな」

「こっちこそ、ご飯ありがとうございます」

「まあ、困ったときはお互い様。それにようやく知りたいこと知れたからこっちも感謝してるってことで」

「というか転生者ってそんなことになっていたんですね」

 

 どうも、次元世界中に転生者って沢山いるらしいんだけど、そのほとんどは記憶を消し、魂も浄化された上で転生しているらしく、もしかしたらそこらにいるかも知れないとのこと。転生者に含めなくてもいいと思うけど。

 ただし、隕石が落ちてきても最後まで生き残った12人だけは神様から特典を貰い、記憶も引き継いだ上で転生したらしい。

 って、俺にはそんなのありませんでしたが?

 

「そこが分からん。おれっちはただ小さいころから掃除が好きでな、こうしてモップ一本でこの街を掃除してまわっているだけだ」

「なんていうか、変わった趣味ですね」

「自覚はしているけどな」

 

 爽やかに笑う七夕さん。この人、結構ないい人で、この後調べてみたけど本当に掃除してまわっている人だった。街中でかなり評判のいい子供として有名だった。山の中にいたからなぁ……世情には疎くて。

 

「で、春になったら事件が起こると?」

「まあ……記憶どおりなら。開始前に何かしらやった転生者がいないとも限りませんけど。原作みたいに事件が起こったら、かなり大変な事態になるかもしれませんね……俺としてはやることがあるのでなるべく起こってほしいんですけど……」

「おれっちは街が壊れるのは黙ってみていられねぇな」

「ですよね……人探しも楽じゃないです」

「『エージェントX』と『不死者』だっけ?」

「ええ、Xのほうは間違いなく転生者ですよ。ネタを知りすぎています。『不死者』はどうだか知りませんけど」

「いや、たぶん転生者だな」

 

 彼によると、転生者とは最後まで生き残っていた人ほど強い特典を貰え、さらに死ぬ間際までの強い意志に応じて転生後の能力値が決まるらしい。

 彼は前の世界で、他人の肉を喰らって生き延びている人がいた。そう言ったのだ。

 

「でも、それと不死者になんの関係が?」

「不死って聞いて吸血鬼が浮かんでよ、で、そいつが浮かんだから」

「…………安直ですね」

 

 とりあえず、その日はお礼を言って分かれた。

 あ、山本のぼるのことも言っておいたけど、なんか我とかいてオレと読む的な人らしい。

 絶対に転生者……って言いたいけど、12人の生き残りに含まれるような奴なのか怪しいからやっぱり保留になった。

 

 ◇◇◇

 

 そこからしばらく経ち、体の内側に変な感覚がやってきた。魔力が何かに反応して落ち着かなくなる。

 空から膨大な魔力を持つ何かがふってくるのを感じた。

 

 いよいよ原作が始まろうとしていた。いや、原作とは既にかけ離れていた物語だとはこのとき俺はまだ知りもしなかった。

 




今回の用語
『ハンドウ』

アクアが貰ったデバイス。ミッドのデバイスを元に研究チームが作った一品。
分類上はストレージに近いが、中のシステムが独自のものなので種別出来ない。

サーチやスキャンに用いるアクセプトモード
起動能力の確保や攻撃、化学物質の合成に使うアクティブモード
二つのモードがある。

元ネタはベターマンの覚醒人。
名前の由来は、覚醒人にバンドウイルカの大脳皮質が使われていたことから。

右腕にのみ装着する。燃費が悪いので現在は戦闘に使用するのは困難。
普段はドッグタグ型になっている。


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既に壊れていた原作開始
リリカル・Y・スタート


なんか、早く出来てしまいましたので投稿。
今回も少し短め。
いよいよ原作開始ですが、はじめから言います。無印はある程度原作に沿うかも。あくまで、『かも』です。

というか最初から原作とは違う展開を歩み始めています。

前々からやっていましたが、あとがきの用語のコーナー。
この小説の独自設定を多分に含んでいますので。


「ふぅ……ジュエルシード、シリアル13封印!」

 

 森の中、ユーノ・スクライアは自分が現場指揮をつとめた遺跡から発掘したロストロギア、ジュエルシードを第97管理外世界にて封印し、回収を行っていた。

 

《マスターユーノ、あまり無茶はなさらないでください。無理やり転移魔法を連続で使用した上、適合できていない私を使っての封印魔法。少しは魔力を回復させてください》

「わかってるよ、レイジングハート。でも、僕が回収しなくちゃいけないものだから……」

《ですが、あれは襲撃者が…………》

「それでも、自分が何も出来なくて誰かが傷つくのは嫌だから」

 

 ◇◇◇

 

 時はユーノがジュエルシードを発掘するまで遡る。発掘チーム数名で封印処理をしている頃、ユーノは誰かの視線を感じていた。

 質は違うが、昔……そう、姉を殺害した男が自分をみていた時のような視線。雰囲気は違うが、人を物を見るかのような目で見る視線。

 すぐに感じなくなったが、嫌な予感がしたユーノは後日、輸送機の中に乗り込み、同行することにした。

 嫌な予感は現実のものになった。

 

 紫色の魔力光が見えたと思ったら、一瞬で強力な雷が輸送機を襲った。次元航行中の船を攻撃できる技能。Sランクに匹敵する技能を持つものの仕業……いや、それ以上の使い手かもしれない。

 ユーノは真っ先にジュエルシードのところに向かった。

 そこには、全身を青色のボディスーツで身を包んだ女性がいた。だが、見た目のインパクト以上にユーノが感じ取ったのはその視線。似ているのだ。発掘の時、自分を見ていた視線と。

 

「あなたは……発掘の時に僕をみていた人ですか?」

「ほう、あの視線に気がついたのか……だがそれは私ではなくクアットロなのだが…………」

 

 どうやら、違う人物がみていたようだが、似ている。人を見るのではなく、物……いや、目の前の人をちゃんと認識できていないような違和感。

 

「む、勘が鋭いな……まだ製造から時間が経っていないからな。さて、ロストロギア、貰っていくぞ!」

「させません!」

 

 思わず口に出ていた部分があったようだが、ジュエルシードを狙われている。そう判断したユーノは無詠唱でチェーンバインドを使い、襲撃者の腕を掴む。

 

「グッ……子供だと思って油断したか。だが、所詮は――む、わかった。時間切れのようだ。あとはあの女が自分でやるだろう」

「なんの話だ?」

「お前には関係のないことだ……ライドインパルス!」

「なッ!?」

 

 何か叫んだかと思った次の瞬間、女性は力技でバインドを引きちぎり脱出した。装甲に穴が開き、遠くに小型の次元船が見える。

 

「い、一瞬であそこまで移動したっていうのか?」

 

 ユーノは目の前の出来事に驚いていると、自分の乗っている船から爆発音が聞こえてきた。

 

「レイジングハート、なにが起こっているの?」

《どうやら、爆発物を仕掛けられていたようです。急いで脱出をしないと……》

 

 レイジングハートの言うとおりだ。だが、ジュエルシードや他の乗組員たちのことも気になる。

 

「なるべく、ギリギリまでいよう。まずは他の乗組員がどうなったか確認。そしてジュエルシードのところへ向かおう」

《ですが、》

「人命優先!」

《分かりました。私としては、貴方の身を優先して欲しいのですが……》

 

 その後、気がついたのは輸送機の中に人がいなかったことだ。既に脱出したようだが、ロストロギアを運ぶ船だ。武装局員の一人くらいいそうなものだが……

 

《マスター、記録の引き出し終わりました。再生します》

「相変わらず、仕事が早いね……よろしく、レイジングハート」

 

 レイジングハートが引き出した航行記録から分かったことは……正直、見たくはなかったものだった。

 

「まさか、はじめからハメられていたなんて……」

《どこで正規の管理局員とすり替わったのでしょう?》

 

 そう、いつの間にか管理局員ではなく、ジュエルシードを目的とした何者かとすり替わっていたのだ。機内には自分以外敵だらけだったということだ。

 自分でも無事なのが不思議なくらいだ……いや、さっきの爆発の感じからすると、爆発に巻き込んで自分ごと証拠を消すつもりだろう。

 

「とにかく、ジュエルシードを回収するよ」

 

 ◇◇◇

 

 その後見たのは、黒いローブを羽織った何者かがジュエルシードを回収しようとしていた場面であり、その何者かもジュエルシードの魔力に耐え切れずに、ジュエルシードは散らばったこと。

 ジュエルシードの反応を追い、ユーノも転移魔法を連続で使用しこの地に降り立ったというわけである。

 

「ようやく見つけて、一つ目を回収……残り20個、先が思いやられるよ」

《襲撃者の件もあります。無茶はしないでくださいね》

「分かってるよ……でも、そうは言っていられないみたいだね」

《!? 背後に膨大な魔力反応! 暴走状態のジュエルシードです!》

「少しは休ませてよコンチクショウ!!」

 

 ついつい言葉遣いが悪くなる。魔力量的に、肉体強化と封印、多く見積もっても4回の魔法使用が限界。出来れば結界を張りたいところだが……

 

「レイジングハート、結界を張るから防御魔法を前面のみに展開」

《了解しました》

 

 結界のための術式をつむぐユーノ、同時に、右手で封印のための魔法を練り始める。スライム状の暴走体がユーノに飛び掛るが、レイジングハートがそれを防ぐ。

 このユーノは1年かけて魔力量をより増やそうと特訓してきたため、いわゆる原作のユーノよりも魔力量は2倍近くある(それでも当然、なのはやクロノよりも少ない)ため、まだ魔力には多少余裕があった。もっとも、転移で大分消耗していたが。

 

「肉体強化……第一段階から第二段階、チェーンバインド!」

 

 先ほど暴走体を封印した時にかかっていた身体強化を引き上げ、左手で即座にチェーンバインドを発動。相手を絡めとり、自分の方へ引き寄せる。防御魔法で弾かれていた暴走体は反応できずに、されるがままだった。

 

「はぁぁ……シールバインド!!」

 

 右の拳に練っていた魔力を、チェーンバインドで引き寄せた暴走体にぶつける。殴ると同時に暴走体の表面を覆う文字列。細かい文字がユーノの魔力光である翠色に発光し、暴走体を封印する。

 

「ジュエルシード……シリアル、21…………ふう、いん」

 

 肩で息をし、満身創痍のユーノ。魔力も残り後わずか。体に力が入らなくなったのか、その場に倒れてしまう。

 

《マスター!?》

「大丈夫……ちょっと疲れただけだから…………」

《本当に、無茶はやめてください……貴方の体が持ちません》

「……そうだね、すこし眠るよ」

 

 目を閉じ、体を休める。まだ二つしか封印できていない。急がないと……そう思うものの、体は休眠を求めている。

 襲撃者や、ジュエルシードを狙っている人、いや複数の人物が狙っている可能性がある。今後、どうするべきか眠りに落ちながらもユーノは考えているのだった。

 

 ◇◇◇

 

~蛇足、もしくはずれた世界での主人公~

 

 高町なのはは夢を見ていた。金髪の少年と、喋る赤い宝石が黒い泥の塊みたいなスライムと戦っている夢を。

 このとき、レイジングハートがあたりに魔力を持っているものがいないか広域に、薄くだが魔力を発してソナーのように使用したため、まだ覚醒はしていないがなのはが感知し、偶然ユーノが戦っている光景を見てしまったのである。

 偶然とはいえサーチャーのような魔法を使ってしまう辺り、なのはが空間認識能力の強い適性を持っていることをうかがわせる。

 

「……んみゃぁ…………すぴー」

 

 もっとも、このずれた世界において、彼女が魔法と出会うのはもう少し後のことである。

 今はただぐっすりと眠るのみだった。

 




今回の用語
『シールバインド』

ユーノが自作した封印魔法とバインドを合わせた魔法。
射程距離が極端に短いなど、欠点も多い。
だが、少ない魔力で封印が可能な上、封印のための魔力を相手の魔力を吸収し使用するなど利点も多い。
ジュエルシードの魔力は強力なので、現在は結果的に吸収魔力より、魔法の強度を上げるのに使用する魔力の方が上回っているので燃費が悪くなってしまった。
ユーノの技量が上がればもっと使い勝手はよくなる。

ユーノは自分でも気がついていないが、膨大な魔力を持つ相手には使用の際にコツがいる。膨大な魔力を持つものを封印したことがあまりないので気がついていないのも仕方がないが。


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リリカル・A・スタート

アクアサイドの事件の始まり。
まずは初戦ですね。

主人公の戦闘能力は……ものすごくピーキーとだけ言っておきましょう。
正直、書きにくいよ。ボス戦とかだと扱いやすいんだろうけど。

これから、用語に加えてジュエルシードの所持者リストや番号などもあとがきで書いていきます。


 アクアはダッシュで逃げていた。それもそのはず、彼を巨大な虎が追いかけているのだ。

 いや、虎と言うには無理があった。背中には翼があり、体のあちこちからトゲが生えている。

 

「なんでこうなっているんだよ!?」

 

 ◇◇◇

 

 遡ること数時間前、突如膨大な魔力を関知したアクアだったが、ジュエルシードはみつからず、一応協力関係になったリンネは、数日前にローウェルに引きずられて何処かへいってしまったために一人での捜索だった。

 どうも、前々から約束していた事がありしばらくは海外にいかないといけないらしい。

 悪いことしたかなと思いつつ、結局一人でジュエルシードを探すことになったアクア。

 覚えているところだと、神社のあたりだっただろうかと、向かってみると……なんか、どこかで見たことのある銀髪がいた。

 

「ふっふっふ、これで我はオリ主への階段を……」

 

 いけない、死亡フラグを建てているよあの子。そう思って、目の前で見捨てるのも嫌だしなー、そんなことを呟きながらもアクアは山本君をとりあえず止めようとするが、天は彼に一体どんな試練を与えようとしたのだろうか……

 

「ニャァー!」

 

 突如飛び出してきた灰色のトラ猫。さあ、おわかりだろう。

 

「あ、こら飛びつくな……ジュエルシードを咥えるなぁぁぁ!?」

 

 まあ、見た限りロクに戦闘能力もないような奴なのでとりあえず助けようと、プレトを装着する。いきなりポンドゥス辺りを使うのもいいのだが、使用後の回復にどうしても時間が必要になるので、出来る限り温存したいという考えだった。

 

 見る見るうちに姿が変わる猫。四肢は伸び、翼が生え……体のあちこちからトゲが飛び出してくる。

 凶暴なうなり声を上げ、山本君を見下ろしている。

 腰を抜かしたのか、動けなくなってしまう山本君。その体に、ジュエルシードにより発生したシードモンスターの爪が襲いかかろうとしていた次の瞬間、左手を突き出したアクアが飛び込んだ。

 

「グガァアアァ!!」

「グッ……プロテクトシェードでも防ぐのがやっとかよ」

 

 反射能力を持った防御技、『プロテクトシェード』を持ってしてもあいての攻撃を抑えるのがやっとだった。恐ろしきはジュエルシードの出力ということか。

 

「そこの銀髪! 早く逃げろ」

「ひ、ひ……」

「チッ……オイコラ化け猫、カツオ節やるからついてきな!」

 

 非常食にと持ち歩いていたカツオ節を取り出し、シードモンスターの前で左右に振る。シードモンスターの目がカツオ節に釘付けになり、よし、とちいさく呟く。

 脚力に身体強化を集中し、一気に森のほうへ駆けていく。シードモンスターは匂いに釣られて追いかけていく。その目にはすでに目の前の獲物である山本君は映っていなかった。

 

 ◇◇◇

 

 で、その後数時間……攻撃は通らず、防御も限界ギリギリ。というか封印魔法を使えないのではないかと今頃気がつくなど、かなりうっかりしていた。

 

「ブロウクンッ……マグナーム!!」

 

 右手に装着した甲殻を回転させ、威力を高めた後、標的に向けて発射するロケットパンチの一種、『ブロウクンマグナム』

 シードモンスターにも多少はダメージを与えられているようだが、まだまだ相手は元気な様子だ。

 

「対抗できそうなのっていうと……ネブラで破壊するか、新マニュアルにあった実をためすか……」

 

 実とは、アクアが変身に使う薬を便宜上そう言っているものである。ただ、負担は少ない方ではあるが、魔力の消耗が激しいので滅多なことでは使いたくないのだ。

 だがネブラもジュエルシードを破壊して変な影響が出たら困る。それに、動けなくなるのは今後のことを考えると痛い。

 

「しかたがない……『ラティオ』でいくぞ!」

 

 ラティオ。ガオガイガーに出ていたあるキャラの名前で、作品においては重要なキーワードの一つ。何故、自分の変身する姿にそんな名前がついているかというと……アクアとしては、どうせ『エージェントX』辺りがつけたんだろうと推測している。というか、発動する能力の元ネタが明らかに『ラティオ』の能力だったからである。

 

「ぱくっ……グオ!?」

 

 新マニュアルにはプレトと合体していても発動可能な実がいくつか追加されており、これはその一つ。

 魔力光が黒に近い紫から緑色へと変わる。背中からは光り輝く翼がいくつも飛び出た。

 

「まずは、相手の動きを止める!」

 

 シードモンスターに飛び掛り、蹴りを入れる。右足を上方向から相手の頭を狙い下ろす。

 

『ガァ!?』

「まだまだ! ドリルニー!」

 

 次に、下げていた左足の膝に魔力刃を展開。高速回転させることでドリルを作り出し、シードモンスターの顎めがけて突き上げる。

 たまらず、シードモンスターは後ろへ吹き飛んででしまった。

 

「いまだ! ヘル・アンド・ヘヴン!」

 

 ガオガイガーの必殺技、『ヘル・アンド・ヘヴン』

 理論は攻撃エネルギーと防御エネルギーを反発させ、それにより得た莫大なエネルギーで相手に突撃するというものである。当然、負担はでかい。だが、それを差し引いてもこの技を再現するだけの利点があるのだ。

 アクアは両手を呪文と共に組み始める。

 

『ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ』

 

 技の完成のための呪文が同じな辺り、この技に到達することを『エージェントX』が見越していて、彼の手のひらで踊らされている気もするが、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 集中が途切れてしまえば、反発させているエネルギーのコントロールを失い自爆する可能性もあるのだ。

 アクアは組んだ両手をシードモンスターにむけ、エネルギーの一部を放射する。

 

『グォオオ?!』

 

 エネルギーフィールドに囚われ、シードモンスターは動けなくなる。

 

「ハァアアアアアア!!!」

 

 背中から一部のエネルギーを解放し、突撃する。同時に、感知力を全開。ジュエルシードと取り付かれた猫を確認。

 両手をシードモンスターに突き入れ、腹の中から猫とジュエルシードを取り出す。

 既に、核となっていたモノと分離してしまった虎は、轟音と共に爆発するだけだった。

 

「ぐ、がああああ!?」

 

 しまった……爆発のこと考えていなかった…………

 『ヘル・アンド・ヘヴン』のエネルギーも一部爆発することを頭の隅に追いやった自分のミスと、頭を抱えたい気分だったが、まずはやることがある。

 

「……クーラティオー・セネリタース・セクティオー・サルース・コクトゥーラ…………」

 

 複雑な魔法はラテン語詠唱だとある程度効果があることが判明し、同じくガオガイガーに出ていた浄解という力、詠唱がラテン語だったのでもしかしたらと前に試したことがあり、ラティオの姿だと効果が跳ね上がることも判明。

 つくづく誰かの手のひらで踊らされている気がするが、それについては放っておくことにしよう。そう思い、ジュエルシードの様子を確認する。

 今の呪文は本来、治療や浄化といった意味があるのだが、暴走状態だったジュエルシードの正常化にも効果があったようだ。

 

「……ふぅ、ナンバーは……16か」

「にゃーご?」

「まったく、だめだよ危ないことしちゃ。ほら、帰りな」

 

 猫を帰すと、一気に疲れが体に出たのかアクアはドテッと座り込んでしまった。

 

「一回だけでこんなに疲れるなんて……あークソッ」

 

 先は長い。というか思いやられる。というか主人公である高町なのはが覚醒した様子がない。ということは、どういうことだ?

 

「もしかして……なんかおかしなことになっている?」

 

 決め付けるには早いのだろうが……嫌な予感がする。

 アクアは空を見上げながらそう思うのだった。

 

「…………う、動けない」

 

 いまいちしまらないが。

 

 

~おまけ、もしくは彼女の今頃~

 

 母から言われた言葉。「ジュエルシードを集めてきなさい」

 私にはそれしかないから。

 

「フェイト~あの鬼婆の言うことばかり聞くんじゃなくてさ、たまには自分からも何か言ったほうがいいんじゃないかい?」

「アルフ、でも……ジュエルシードを集めてくればまた、昔の母さんに戻ってくれるよ」

「そうは思えないんだけどねぇ……」

 

 目の前で光が奔る。ジュエルシードが発動した。どうやら、スライム状の下級モンスターのようだ。あたりの悪意か、残留思念あたりを吸収したのだろうか?

 

「どっちにしても、やることは変わらない。いくよバルディッシュ」

 

 電撃を纏った閃光が翔ける。少女は瞬く間にジュエルシードを封印した。

 

「シリアル17、封印完了……近くにはもうないみたいだね」

「出来れば昼間に来たかったねぇ……少しぐらい泳いでも」

「だめだよアルフ。早く帰ろう」

 

 ここはプール、本来であれば高町なのはが封印するはずのジュエルシードがあった場所。

 ずれた世界においてはフェイトとその使い魔、アルフが封印した。

 

 

 

 そして、そんな彼女らを見ているものがいた。

 

「くっくっく、いよいよ前作の始まりか……楽しみだな」

 

 その顔は現在時空管理局に指名手配された男、数年前、ユーノを殺そうとした男だった。

 

「ベストなタイミングでオレが出て行けば……まずは様子を見て…………」

 

 悪意あるものは確実にすぐそこにいる。もっとも、彼も知らないのだろう。数年前の自分の行動が、自分にどのような形でかえってくるかなど。

 




今回の用語
『ヘル・アンド・ヘヴン』
右手の攻撃エネルギーと左手の防御エネルギーを反発させ、増大したエネルギーを利用する技。
ガオガイガーの必殺技だが、アクアはそれを魔法で再現。

右手に刻んだ攻撃用ルーンと左手の防御用ルーンに魔力を通し、起動。
それを合わせると共に呪文を唱え制御。
エネルギーの一部を放出し、相手を捕らえ、再び一部を解放して推進エネルギーにする。
そして、組んだ両手を相手に突き入れ、核となる物体などを取り出す。

使用後は無防備なのでリスクもでかいが、今回の話のようにジュエルシードと取り付かれた生物をそのまま取り出すことも可能。

かなりハイリスク、ハイリターンな技。

○○○
現在のジュエルシード所持数

アクア
一つ(16番)

ユーノ
二つ(13番、21番)

フェイト
一つ(17番)

残り17個、所在不明


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ボーイ・W・ミーツ

いよいよ二人が出会うとき!
さてさてサブタイがWって付いているのでユーノとアクアの視点を両方盛り込んで書いています。

本格始動は次回ですし、なのはさんなんてまだ魔法少女になっていません。


 時刻は丑三つ時。学校の校庭で一人の男が佇んでいた。目の前には光る宝石――ジュエルシードが浮いており、男の呟く言葉に合わせるように点滅していた。

 

「――フゥ、封印も楽じゃないな。まあ、保険は必要だし、あのフェレット野郎……こうなるとなのはと出会わないってのも考え物だな。見つけたらぶっ潰してやる」

 

 傲慢に、自分のことしか考えず、ただ己の欲望を吐き出すのみ。

 その顔は笑っていたが……見る者にはただただ、邪悪に見えるであろう歪んだ笑みだった。

 

 

 ◇◇◇

 

「さてと……ジュエルシードはまだ一つなんだよな…………えっと、次はどこだっけ?」

 

 なんでこう、記憶が消えるかな……街中を回ってパトロールするしかないんかね?

 どうやら今日は日曜日らしく、休日を満喫している人が多い。子供たちも外を駆けて遊んでいる。春の陽気が気持ちよく、サッカーのユニフォームを着た子供たちとすれ違ったりもした。なんか、監督の人をどっかで見たような気もするけど……気のせいだろう。

 俺の見た目って、バリバリ外国人。黒に近い褐色だし、かなり見られていたけど堂々と歩いていれば案外大丈夫なんだと経験で学んだ。

 

「あーもうっ歩くの疲れた……腹減った。おなかすいた。なんか食べたい」

 

 ちなみに、プレトが動いていると大騒ぎになる可能性が高いので(見た目でかいトカゲか甲虫だから)丸まってもらって手で持っています。

 ものすごく……重いです。

 

「……あー川の方に行って飲み水を調達するか」

 

 竹水筒は持ってきているし……

 

 しばらく歩くと、なんか声が聞こえてきた。ボールを蹴るような音も聞こえてきて少年達が元気そうにサッカーをやっているような。っていうか、やっているよね。

 そうか、さっきのサッカー少年達か。

 ベンチには何処かで見たような可愛らしい三人の少女がいる……あれ、どこで見たんだっけ?

 

『あ、危ない!!』

 

 俺が考え込んでいると、誰かがそんな声を出した。見ると、目の前には白と黒で彩られた球体が迫ってきていて――

 

「――はガッ!?」

 

 どうみても顔面にサッカーボールです。ありがとうございました。

 

「あれは痛いわね……」

 

 なんか、くぎみーな声がそんなことを言っていたけど……だめだ、意識が飛ぶ…………人間より強い肉体だったり、構造が少し違くても、脳震盪を起こすときは、起こす、んだ、よ――

 

 ◇◇◇

 

 僕は焦っていた。数日もこの街、海鳴市にいるけど見つけることの出来たジュエルシードは二つ。その二つだって、初日に僕の魔力に引き寄せられてきたであろう、暴走状態のものだ。

 

《マスター、少し休憩にしましょう。あちらに川があるのを確認しました》

「だけどレイジングハート……昨日の夜みたいな反応があったらどうするんだい?」

《たしかにアレは私の落ち度でした……ですがっ》

 

 昨日、ジュエルシードの反応を感知したのにも関わらず、レイジングハートは報告しなかった。僕の体に封印できるだけの魔力が回復していなかったことも、肉体も疲労が溜まり危険だったことも承知だ。それを心配したのもわかる。

 だけど、ジュエルシードの反応がすぐに消えてしまった。

 

「……間違いなく、僕以外の探索者がいる。願わくば、局員であって欲しいけどね」

《すいません、マスター》

「いいよ、レイジングハートの言うとおり、あそこで休んでおかなかったら数日フェレットモードを使用しないといけない可能性もあった。いや、絶対にそうなっていたよ。そうしたら、余計に対処できなくなっていた」

 

 冷静に考えれば、あの時点で休んでおいたことは正解だろう。ただし、ジュエルシードの被害を無視すればだが。

 他に回収している人間がいて助かったのはその一点だ。被害が少なくて助かった。

 

「だけど……あきらかに他にもジュエルシードが発動した形跡があるのに、残されている魔力痕はそれぞれ異なっている」

《私達のほかに、ジュエルシードを回収しているものは何人いるのでしょうか?》

「分からない……回収している奴らは全員仲間なのか、それともバラバラに動いているのか…………」

 

 一つだけでも強力なロストロギアだ、急いで回収しないと……まずはレイジングハートの提案に従い、水でも飲みに行こう。たしか、近くに川があったはずだ。

 

 ◇◇◇

 

 なんか、鼻の辺りが痛いんだが……眠っているわけにもなぁ…………

 自分でもいつから寝ていたのか分からないが、日が昇っているうちに眠るのもおかしいと思い、起き上がった。

 周りを見渡すと、川と、ゲーム中のサッカーコートと、なんか女の子が三人こっちをみていた。

 

「あっ、おとーさん目が覚めたよー」

「お、目が覚めたみたいだね」

「……?」

「覚えていないのかい? サッカーボールがぶつかって、君、倒れたんだよ。それとも言葉が通じないのかな……」

「いえ、言葉は大丈夫です……ああ、大丈夫、思い出しました」

 

 そうだそうだ、考え込んでいたらボールが顔にぶつかって倒れたんだっけ。なんか、当たり所が悪かったかな……あ、プレト大丈夫かな? 

 ……魔力的な反応が橋の下の草むらにある…………上手く隠れたようだ。

 

「本当に大丈夫かい?」

「ええ、お騒がせしました……」

 

 さてと……探索の続きをしないと。この人たちがいるから飲み水は別の場所で確保しようか……公園とか近くにあったかな?

 

「君、見ない顔だけど何処の子?」

「隣町です。ちょっと用事で近くに来ていただけなので、すぐに帰ります」

「よければ送っていくけど」

「いえ、何度も行き来しているので大丈夫です」

「そこまでいうのならいいけど……」

 

 この監督さん、なんか釈然としない顔だけど納得してもらえたようで何より。さてと……プレトを回収してから飲み水を手に入れないと……

 ちなみに、ウソは言っていない。研究所跡地はギリギリ隣町だから。何度も行き来しているのも本当だし。

 

 しばらくはあの人たち(監督と、なんか紫っぽいような髪の女の子)が見ていたようだが、すぐにサッカーの方に気を戻したのでダッシュでプレトを回収。

 プレトを回収した頃、サッカーの人たちは試合が終わったのか帰り支度を始めていた。

 少し待てば飲み水を用意できるな。あ、ついでに晩御飯用の水も用意するか。

 

 

 ◇◇◇

 

 川の近くに人が大勢いた(どうやらスポーツの試合をしていたらしい)ので、しばらくまってから川にいどうし、水筒に水を汲み始めた。

 この川の水は綺麗で助かる。少しだけしか調べていないが、この国には綺麗な水が流れている川が比較的多い方らしい。

 まあ、サバイバル用のろ過魔法で不純物を取り除こうと思ったけど、する必要がないくらいだ。ある意味恐ろしい。

 

《マスター、若干サバイバルフリークと化しています》

「スクライアの性だよ。まあ、役に立っているからいいじゃないか」

 

 さてと、食糧も探さないと……あれ? なんか近くに僕と似たようなことをしている人がいる……植物を切って作ったような水筒に水を入れている。

 民族衣装のようなものを着ているのもなんかデジャヴ。あ、僕がそうだったのか。

 ただ、あそこまで濃い色の肌は珍しい。この世界には結構多いらしいけど、この国にはあまりいないんじゃなかったっけ?

 

「……もう、この雑草でいいから食べようかな」

「いや、それはおかしい」

 

 なんか思わずツッコミを入れていまった。というか流石に雑草はやめたほうがいい。なかには毒のある野草もあるんだ。

 食べられる種類のものを事前に調べておくことが重要だ。

 

「…………しかたがない。ヘビイチゴでいいか」

「その手合いの野草はこの時期はまだ花だよ」

「マジでか」

「この、エンドウ系の豆なら食べられると思うよ」

「……あんまり美味しくないし、腹も膨れない」

「そういうものだよ」

 

 おかしい、なんで会話が弾んでいるんだ?

 ただ分かるのは……彼も同じ苦労(サバイバル生活)をしていることが何故か分かったことだけだ。

 

 と、初対面の彼と何故かサバイバル談義していたそのとき、僕達魔力を持つもののみに感じ取れる世界の揺れを感じた。

 近い……ジュエルシードが発動したようだ。それもかなり、最悪な形で。

 

「!? プレトは追いかけてくれ、俺は先に行く!」

 

 隣の彼が何かを叫び、口に何かを入れるのを見た。驚くべきことだが、その瞬間、彼の体の形が変わり始めた。背中からはコウモリを思わせる翼が生え、飛び上がったかと思うと、暴走体のほうへ向かったのだ。

 

《マスター!》

「分かってる! たぶん彼が探索者だ!」

 

 おそらく、複数感じた魔力のうちの一つ!

 僕も転移魔法を発動して暴走体のほうへ向かう。それと同時に、結界の準備もしておく。急がないと被害が大きくなってしまう。

 

 

 

――これが二人の出会いであり、新たな出会いと、本当の序章への幕開けだった

 




今回の用語
『海鳴市』

物語の舞台。高町家やバニングス家、月村家はここにある。
アクアは隣町だが、海鳴に面した森に住んでいる。

猫又やら超能力者やら幽霊、退魔師やクローン部隊みたいな人、アイドルやら拳法家に剣士とか。吸血鬼的な人や妖怪もけっこういるし、色々とカオスな街。
最終的には悪魔てき強さの魔法少女を産出してしまう。

冗談はおいておいて、本作品ではやはりカオスになっているが、カオスなメンバーは本編に出てこない予定。

海鳴軍団(仮)が結成されれば一晩でジュエルシードを集められそうだが、忙しい人も多いので無理だった。

ちっとやそっとのアクシデントや災害ではへこたれないであろう人々が住んでいる。


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サイコ・W・アレスター

原作ではなのはが決意を固めたところ。

なんていうかアクア君大丈夫だろうか……回を追うごとにアホの子になっていくような…………

今回はある意味急展開。


 最初のジュエルシード、スライム状のモンスターとして現れたそれは二つ。双方共にユーノ・スクライアの手によって封印される。シリアルは13と21。

 本来であれば神社にいた子犬が使用してしまうジュエルシードはアクア・プロトの手によって封印される。少し発動が早まったそれは、子猫が飛び掛ったときに発動し、虎の化け物になる。シリアルは16

 プールに存在したジュエルシード、フェイト・テスタロッサ、彼女の使い魔アルフの両名により封印される。シリアルは17である。

 そして、夜の学校で出現したジュエルシード、シリアル20は現在指名手配中の男の手により封印されてしまう。

 

 ◇◇◇

 

 アクアが使用したのは『ポンドゥス』の力。重力や引力を操る姿で、この世界ではHGS能力者の遺伝子を組み込まれたことにより再現されている。その影響か、能力使用時に背中から黒い翼が生えているのだ。

 その力で飛び上がり、ジュエルシードの力で出現した大樹のもとへ最大速度で突っ込む。

 

「まっにあええええええええええええええ!!!」

 

 右手をかざし、大樹の周囲にいくつかの重力球を出現させる。重力球に引き寄せられ、大樹の根が地面に突き刺さろうとしていたところ、間一髪間に合い、根は上に引き寄せられていく。

 

「グッ!? ま、魔力の消耗が……」

 

 アクアは知らないことだったが、辺りにはジュエルシードの影響により魔力素が充満している。それが強力な負荷をかけており、術式を用いず、感覚のみで魔力を使うアクアの消耗を加速しているのだ。

 

「このままじゃ……」

 

 アクアもなるべくなら被害は出したくない。しかし、この状況……市街地でネブラは危険だから避けていたが、やむを得ないか、そう思っていたときだった。

 

「クワッド・チェーンバインド! 封時結界展開!」

 

 諦めかけていた、だけども救いの手はあった。

 翠に輝く鎖、その数は四つ。それが大樹に絡みつき上に持ち上げる。

 

「足りない……パワードギア!」

 

 声にあわせて空中に歯車が現れ、鎖がその歯車にはまる。

 そして、何かが突き刺さるような音から後ろから聞こえてくる。思わずアクアは後ろを振り向いた。そこには金髪の民族衣装を着た少年が立っていた。

 

「えっと、さっきの人?」

「まあ、お互いどんな事情があるか分からないけどアレを封印するつもりはあるんだね」

「まぁ……そうだけど」

 

 なにやら真剣な表情の少年を見て、何故自分がジュエルシードを封印しようとしていたのか考えてしまうアクア。

 いや、そもそも……

 

(俺って、なんであの青い宝石を集めていたんだっけ?)

 

 アクアの体にはある異変が起こっていたのだが、この世界で『ある12人』以外には気がつくこともなく、体に悪影響があるわけでもないのでアクアは考えを放棄した。

 

「で、君は何の目的で……どうかしたの?」

「いや……そもそも、なんでアレを封印していたんだっけと思って…………」

 

 ユーノはアクアの様子を見て絶句、というか呆れていた。

 そりゃあ、ロストロギアの中でも危険なジュエルシードを封印していたのに、理由もなく、しかも自分でも分からないとか……なおかつウソをついている様子もなく、心のそこから不思議そうな顔をしているのが余計に脱力させる。

 

「知らないよ!」

「うん、そりゃそうだ――でも、さっさとアレを何とかして話はそこからにしよう」

「それ……こっちのセリフだよ」

 

 とりあえず少し落ち着こう……ユーノは呟き、魔法の術式を起動し始める。レイジングハートが平行して用意しておいた術式を展開しながらの作業だが、そこは手馴れたもの。大樹を取り囲むように封印術式が起動を始める。

 

「問題は……僕じゃ火力が足りなくて封印できるまでジュエルシードの出力を減らせないってことかな」

「んじゃ、そっちは俺がやるよ」

「……」

 

 ユーノは考え込む。初対面であるし、信頼していいのかどうか判別がつかない。ジュエルシードを目的として集めているわけではないとは思うのだが、信用できる材料が足りない。

 

「急がないと、あれ第二形態とかになりそうだぞ」

「え……ウソだろ?」

 

 大樹が徐々にだが形を変え始めている。枝はのび、所々関節のようなものが出来始める。

 

「あー人目につかなければ何とかなりそうなんだが……」

「え、結界張ってあるから僕達以外はいないはずだよ」

「……そういえばさっきから人の気配がしないと思ったら…………なんか便利だな」

 

 辺りを見回し、人がいないのを確認するアクア。どうなっているのか分からないがこれは便利だと思う。そして、これが異世界の人の魔法ってやつか! と思い至る。

 

「お前って異世界人?」

「そ、そうだけど……」

「ほー初めて見た」

 

 魔力を使った痕跡があるのに、僕のことを異世界人って……

 ユーノはアクアに違和感を感じた。管理外世界で魔法を知っているからてっきり、ミッドチルダ出身かと思ったのだが、違うのだろうか。

 

「まあ、とっとと止めますか。なんか人が入っているみたいだし」

「こっから肉眼で確認したの!?」

「目はいいからね……さて、ネブラの本格使用は初めてだけど、まあ何とかなるだろ!」

 

 アクアは『ネブラの実』を取り出し、口に含む。すでにポンドゥスの姿を解除しており、続けて別の実を使うのは負担が大きくなるが、流石にあの大樹を止める手札はネブラとフォルテ、ラティオしかない。

 アクアの実は製造中のため家においてきた。フォルテは一つしかない上に負担が大きいので使えず、ラティオも負担が大きすぎる。それにプレトがいないと対処が出来ない上、相手のサイズが大きすぎる。

 というかプレト何処行った?

 

「さっきのトカゲみたいなの? それならあそこで女の子に頭を撫でられて……」

 

 …………女の子?

 思わず、アクアとユーノの心が一致した瞬間だった。

 

 ◇◇◇

 

「わぁお利口なトカゲさんなのー」

《GYUA》

 

 高町なのは、聖祥小学校3年生の茶色の髪のツインテールの少女。見た目は可愛い方だが、おなじクラスのアリサ・バニングスや月村すずかと比べると普通な方である。

 本人も、ある程度自分は普通の女の子とか思っているが、彼女の家族が普通の範疇から大きく逸脱していたり、彼女自身普通とかけ離れた部分があるのだがそれには気がついていない。

 そんな彼女だが、今現在何をしているかというと……

 

「こんなにカチコチなトカゲさん見たことないのー」

《GYAGA?!》

 

 街中で父親が監督をしているサッカーチームの選手とマネージャーがバカッポーな雰囲気だったり、その二人を遠い目で見ていたら突然光ったり、これまた突然現れた大樹やら、その大樹から細い腕のようなものが沢山出てきて、関節沢山で気持ち悪いなぁと思ったり、

 

「でもーそんなのは全部夢なのー」

《NIGETE!NIGETE!!》

 

 思わずプレトが簡単な言語を発声出来るようになるほどの見事な現実逃避であった。

 

 ◇◇◇

 

 場面は戻ってユーノとアクアはというと、

 

「と、とにかく僕はあの子が被害にあわないようにするから、大樹の方をお願い!」

「おっおう!」

 

 少しパニックだったが、一応は役割分担しての作業。お互い素性が分からないような状況だが、目の前で不測の事態が起こったからか、そんなことは頭から吹っ飛んでいた。

 

「君! 大丈夫!?」

「にゃっ!? え、やっぱり夢じゃないの!?」

 

 なんかズレた発言をしているが気にしても仕方がない。

 

『グオオオオオオ!』

 

 アクアの魔力反応を感じ、振り向くとそこにはドラゴンのような姿の生物――アクアがネブラに変身した――がいた。

 

(変身魔法? いや、それにしては出力の上がり方が……レイジングハート、一応記録をお願い)

(OK、マスター)

(え、え、ドラゴン? これは夢、夢なの?)

 

 ユーノは流石と言うべきか、アクアの変身を冷静な観点で捉え、レイジングハートを使っての解析も行う。

 なのはは……魔法に目覚めていないからか混乱していた……

 

「大丈夫……絶対に君を傷つけさせないから(ジュエルシードの件で)」

「ふ、ふにゃっ!?(ドラゴンから守ってくれると解釈)」

《マスターは時々やらかします……》

 

 

 こうして、なにかがおかしなことになっているころ、アクアは少しばかり苦戦していた。

 

(この大樹……魔力の影響なのか固有振動数が計測できないッ)

 

 頭のムチを使い振動数を計測するも、部分ごとに違う上、数秒ごとに振動数が変化するのである。これではサイコヴォイスを使うことは出来ない。

 

(どうにかして中の人だけを傷つけずに……結界ってどの範囲まで力をだしていいのか判別つかない……さっきの金髪と話せれば)

 

 そこまで考えて、なにか打開の策がマニュアルにないか記憶を探り始める。

 何か何かないか、思い出すんだ。記憶を探れ。忘れたと思っていることからも引っ張り出すんだ……

 

(りみ……リミピッドチャンネル!)

 

 記憶に出てきたのは、ほとんど忘れかけていたある能力の名前。何処で聞いたのか、それも思い出せなくなってきたが、必死に記憶を引っ張り出す。

 

(よくわからないけど……たしか、意識の波とか、場に存在する意識や事象とかを読み取る能力だっけか?)

 

 おぼろげだが思い出した。いつから知っていたのか思い出せないが、研究所でも研究していた。ベターマン・プロジェクトにおいては全個体が標準搭載するってのも見た記憶がある。

 

(まだ使ったことはないけど……)

 

 辺りに意識を集中させる。結界の中だからか、周囲の人は5人。自分を除いて金髪の少年とさっきの少女、そしてあの宝石を発動させた男女1名ずつ。

 

(そうと分かれば……聞こえるか、さっきの)

(!? これは念話……とは違うみたいだけど、君は一体?)

(話は後、この結界って物を破壊しても大丈夫か?)

(うん、外界とは切り離してあるから被害はないよ)

(なら封印には発動者の周囲だけ無傷でも出来るか?)

(場合にもよるけど、半径2メートルぐらいなら何とかいけると思う)

(なら大丈夫だ。一気に破壊するから封印よろしく!)

 

 ユーノとの接続を切り、再び発動者に意識を向ける。リミピッドチャンネル。その力で発動者たちの周囲に攻撃が当たらないように正確な位置を把握する。

 この力は以前にも無意識に使っている。ヘル・アンド・ヘヴンを使用したときに用いていた感知能力。その正体がこれである。

 

(いくぞ……サイコヴォイス!)

 

 一瞬、辺りに音が消えた。ユーノとなのはがそう思った次の瞬間だった。

 

『Vッ――――――』

 

 ネブラの必殺技、サイコヴォイス。対象の物体の振動に合わせて高周波をぶつけ、対象以外の物体は無傷で破壊する。

 その威力は対象の物体にはまさに必殺。そのため、このような相手には向かないのだが、対象にしぼらない場合は無差別に破壊する。

 そこを逆手に取り、対象の周囲を破壊能力のない波長をぶつけ、それ以外は両手の電子レンジのような高周波を出す器官により破壊する。

 

 

「すごい……いや、急いで封印しないと再生する!」

 

 その様子を見ていたユーノだったが、自分の役割を思い出し中心部へ転移する。その際、プレトも同時に運んでいた。

 

「あ、ちょ、せめて名前だけでも――」

 

 飛ぶときに、少女が何かを言っていたが、このときの彼は目の前のことで頭がいっぱいで気にかけている余裕はなかった。

 

 

「まだ余力がある、でもこれくらいなら――広がれ 戒めの鎖 捕らえて固めろ 封鎖の檻! アレスターチェーン!」

 

 ユーノの現在使用できる最大火力、チェーンバインドから派生した攻撃と捕縛を兼ね備えた魔法。そこに、すでに待機状態だった封印魔法を起動させる。

 

「封印!」

 

 周囲の魔法陣が同時起動し、ジュエルシードを封印する。

 発動者のこともあるので、フローターフィールドでしっかりと受け止める。

 

「さすがに、魔力も回復させないと……とにかく、シリアル10は回収完了。で、話は出来るんだよね」

(ああ、俺の家に来てもらおう……人目につくとまずいから乗れ)

 

 相手の本拠地、敵か味方も分からないがとにかくついていこう。

 ユーノも情報を欲していた。

 だがしかし、アクアはと言うと……

 

(眠い……)

 

 負担が大きすぎて思考能力が一時的だが落ちていた。

 

 




今回の用語解説
『パワードギア』

ユーノが自作した本小説オリジナル魔法。
ベースは設置型バインド。歯車の形をしており、チェーンバインドなどと組み合わせることで捕縛性を高めたり、そのままでも硬いので射撃魔法などと組み合わせて弾丸に使ったり、盾として使ったり、近接の魔法刃として使うなどと応用の幅が広い。

他の魔法と組み合わせることを前提として作られている。



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ブックマーク・W・テラー

話が進まない。
一応、牛歩的には進んでいるのでしょうか?

デジアド買ったんで更新は遅くなる、とは限らない。ゆっくりと遊ぶ人ですから。

ユーノ君と組んでいる時のレイハさんは秘書チックなイメージです。


さてと、そろそろ脱ぎ女の出番も近づいてまいりました。
いまだ出ませんが。



 研究所跡地。

 アクアとユーノが降り立ち、ネブラの胸部分からアクアが飛び出る。その様子をユーノは驚きつつも、分析をしながら見ていた。

 

「細胞組織が一瞬で壊れている……いや、使い捨ての殻、脱皮みたいなものか」

「へぇ、見ただけで分かるんだ。まあ、とにかく入ってくれ」

 

 アクアに案内され、室内に入る。ユーノは適当なところに腰かけ、話を始めようと思い口を開こうとするも、アクアの様子がおかしいことに気がつく。

 

「すまん、会話は続けられるけど、体が限界みたいだ……」

「限界って……」

 

 困惑するユーノの目の前で、アクアは繭のような状態に変化していく。体を球状に覆い、その中でアクアは座るような体勢になった。

 

(会話は心の中に直接話しかけるようにする。君は口に出しながらでも大丈夫だから)

「念話とは違う……これは一体?」

(リミピッドチャンネル……簡単に言えば、周囲の意識の波を使って直接頭に話しかけているってところかな。使い方は他にも色々あるけどね)

 

 そうは言ったが、アクアには通常時には念話程度の使い方が限界である。変身している状態でないと運用は難しいのだ。

 

「たしかに、念話もにたような仕組みだけど……」

(そっちは人工的な波長を使った通話だろ。こっちのは自然界の波長を利用していると捉えてくれればいい。詳しい仕組みは俺も知らないし)

「答えられないなら仕方が無いか……興味深い話だけどね。

 それで、君は一体何者なんだい?」

(名前ならアクア・プロト。歳は9歳ぐらいかな? この研究所で生まれた生物兵器ってところ)

 

 生物兵器。ユーノは自分の世界の負の遺産、戦闘機人を思い出す。文献でしか見た事が無いが、生体融合した機械兵器というのがあったはずだ。

 

(もっとも、体の大部分は人間とさほど変わらない。内臓の形状が少し異なったりするぐらいだよ。遺伝子的にも変わらないけど、ちょっと手を加えられていてね。特殊な薬を用いてあんな変身が何種類かできるんだ)

「でも、それって……君はクローン体ってこと?」

(まあそうだろうね。一応、この世界にはそういったクローン技術が発展しているんだ。もちろん、一般の人は知らないよ)

 

 ということは魔法に頼らず、科学的な方式だけで……ユーノはそこまで考えるが、この少年には魔力があったはず。そこまで思い至り、彼が管理世界のテロリストの関係者ではないかと思った。

 テロリストが、管理外世界でクローン研究をしていた。そう思ったのである。

 

(いっておくけど、リミピッドチャンネルは思念を捉えられるから熟練した人がいるのなら、相手の心を読めるよ。俺は疑心とかがわかるくらいだけど)

「!? ……僕の心を読めたり出来るってことは億の考えていることは?」

(流石にそこまでは無理だよ。なんか、テレパス系の能力は使いづらくて。

 何を疑っているのか分からないけど、君たちの世界のことは良く知らないからね。こっちも知りたいことがあるんだ)

 

 アクアは問いかける。先日落ちてきた魔力のことを。

 

「…………あれは、僕が発掘したロストロギア、ジュエルシード」

 

 ユーノは語りだす。先日発掘し、輸送していた古代遺失物。テロリストに襲われこの世界に落ちた21個の宝石。

 自分もそのときに落ちてきて、今まで回収していたことを。

 

「結局、見つかったのはさっきを含めて3つだけどね」

(なんかキナ臭い……というか、そもそも魔力ってどういうものなんだ?)

「知らないの?」

(いや、培養液から出された後はどっかに転移させられたし、ここに戻ったらこの有様)

 

 ユーノは辺りを見回す。あちこちボロボロだし、魔力を用いた戦闘痕が残されている。

 

(なんか、研究員達が管理局がどうたらこうたら言っていたけど……)

「ちょっとまって、管理局の人がここに来て、で、君を作ったっていう人を捕まえたんだよね?」

(いや……なんか、遺言みたいな感じでお別れを言われた。一応、あの人らも悪い感じの人じゃなかったんだけどな……俺のことは実の子のように扱っていたし、ここに戻った後も日記とか見てそう思ったし)

「…………これは管理局の戦闘でつく痕じゃない」

(え? それって、どういう?)

「僕達の世界での魔法は、非殺傷っていって、相手の体にダメージを与えない攻撃が出来るんだ。なのに、この戦闘の痕……まるで口封じだ」

 

 違和感は多かった。この戦闘痕、一見して魔力ダメージのみを装っているが、痕の周りが不自然に綺麗だ。

 ある程度はすす汚れるのに……

 仮に、非殺傷ではない魔法でこの痕がついたのだとしたら……

 

「レイジングハート、解析できる?」

《すでに。結果は黒です》

「……」

(えっと、どういうこと?)

「……、この魔力痕に血が含まれている。痕は偽装のために残しておいたんだろうけど、逆に不自然すぎるんだ」

 

 管理局とは普通、そんな戦闘を行わないらしい。

 

(じゃ、じゃあ……ここで一体何が?)

「なんだ? この違和感は……この街に足を踏み入れたときからなんとなくだけどあったんだ……なんで今、この街は魔力が多いんだ?」

 

 少し調べたが、ユーノはこの世界と魔力結合の相性が悪い。

 そのはずだが……今現在問題なく動けている。

 

 ◇◇◇

 

 とにかく、腹ごしらえしたほうがいいだろうということで、ユーノは食事を始める。アクアも少し動けるようになたので、プレトに食べ物を持ってきてもらい食べていた。

 

「あ、あーあー。声は問題なく出るな。で、これがそのジュエルシードってやつか」

「シリアル16……何処で見つけたの!?」

「何日か前に子猫に取り付いたのを引っぺがした。自分でも良く覚えていないけど、けっこうヤバソウな感じだったから封印したんだ。そういえば、山田君が……あれ? 山本君だっけ? まあとにかく、銀髪の男の子が変なことブツブツ言いながら近づいていたんで止めようとしたんだけど、そこにトラ猫がきて……餌だか何かと勘違いしたんだか」

 

 で、虎になったとさ。そこまで説明してユーノは何かを考え始めた。

 

「ジュエルシードは使用者の願望をかなえる力があるんだ」

「願望ねぇ……あのトラ猫は強くなりたいとでも願ったのか?」

「いや、どっちかっていうと、狩りの本能に身を任せていたからそれが歪んだ形ででたんじゃないかな」

「願望をかなえるのに歪んだ形でかなえてどうするんだよ」

 

 ツッコミはもっともだ。このロストロギアは分からないことが多い。

 古代の文明の遺産。作られたものなら、作られた意味があるはずだ。

 

「こんな危険なモノを……何の目的も無く作るとは思えない」

「21個揃うと本当に願いをかなえるとか?」

「いや、それにしてはおかしいんだ。たしかに複数集まるとより強力になるんだけど……」

 

 厄介ごとが始まるとか何の冗談何だか……アクアはそろそろゲンナリしてきた。『不死者』について調べないといけないし、どうしたものかと思ったが……

 

「あ、なあ一つ教えてもらいたいことがあるんだが……礼にならないと思うけどこれも返すし」

「え、あ……ちょ、ジュエルシードをそんな簡単に渡してもいいの!?」

「いや、必要ないし」

「……はぁ、そういう性格なんだね。まあいいよ。何を知りたいの?」

「えっと、ユーノだったっけ? お前って、『不死者』ってやつをしっているか?」

 

 その話はユーノも良く知っている。『ミッシングリンク』の一人。詳しいことは管理局員でも、一部の上層部しか知らない。

 世に出回っている話はデマが多いが、共通して言えるのはベルカ時代から今まで生きている正真正銘の化け物。

 

「古代ベルカ……そういう時代が僕達の世界にあってね、その時代から生きているんだ。どうやって生きているかは知らないけど」

「それなら、仮説程度だけど知っているよ。俺の知り合い曰く……人の命を吸うんだと」

 

 あるいは吸血鬼、人の命を喰らい、自らの命を永らえる化け物。

 

「俺を作った研究者達って、全員がソイツにやられてね、命は助かったけど子供を作る機能を奪われたらしい。『不死者』は段階的に命を吸う。そのぐらいしか知らないけど」

 

 まずは生気をある程度喰らう。その次に、命を生み出す力を喰らい、命を繋ぐ意思を喰らい、最後には命そのものを喰らう。

 

「研究員のレポートだとそんな感じかな」

「……君はなんでそんなことを聞くの?」

「まあ、俺の生みの親達最後の願いだし、俺自身許せないんだよ……命を自分の都合で弄ぶやつが。それも、自分のためだけに。自分が生きながらえるために。

 命ってのは受け継がれるもの。俺はそう思うから」

 

 そう言った彼の顔を見て、ユーノは思い出す。

 姉の行動を。

 

「そっか……」

 

 自分もそうだ。答えは単純だ。彼が『不死者』に対して抱いた感情と、自分があの男に対して抱いた感情は似ているんだ。

 

「っていうか、異世界か……うーん、どうやって行けばいいのやら」

「管理局と連絡が取れればいいんだけどね」

「むしろ時間がかからないか?」

「いや、お役所仕事だけども……でも、ある程度信用できる人じゃないとその目的は達成できないね」

「あー……なんかキナ臭いしなその組織」

 

 全部が全部でないけども。今回のテロで、ユーノの中にも新たな疑問が湧いた。

 そして、彼の生まれ……この機材、管理局に気がつかれずにどうやって管理外世界にもちだしたんだ?

 

「……少しばかり、恐怖を感じるよ」

 

 この街で何が起ころうとしているんだ? いや、姉の能力を考えると……

 

「あの人は、知っていたのかな」

 

 

 この街で何が起こるのか。『ミッシングリンク』と戦うことになる。そう予言していた姉だが……

 なにも、一人だけとは限らない。

 自分と同じく、『ミッシングリンク』を探す少年。

 ジュエルシードを狙ったテロ。

 集中してこの街の付近に落下したこと。

 そして、この世界では異常な魔力。

 

 戦うときは近いのかも知れない。

 




今回の用語
『魔法』
管理世界では、基本的にミッドチルダ式の魔法を意味する。
空気中の魔力素を自分のリンカーコアに取り込み、自身の魔力として扱い、それを術式にて形を決め使用することで効果を表す。

案外、謎な部分も多い器官であるリンカーコアを用いているので、詳しいメカニズムは不明な部分もある。

近接戦闘や特殊な能力が多い古代ベルカ式や、ミッドチルダ式をもとにベルカ式を再現した近代ベルカ式などもある。

これらはデバイスと呼ばれる機械的な道具で使用されるが、一部の者は単体での行使が可能。

なお、悪魔などの存在もおり、本当の意味でオカルトな魔法を使うものもいるが、きわめて少ない。

ルーン魔術なども存在し、共通して言えるのは、魔力という力に何かしらの意味や方向性をもたせることで具現化しているところである。


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ミーツ・W・ミーツ

後半、IQサプリ見ながら書いていたりする。

ついに、ついに彼女との邂逅だけど……どうしてこうなったんだろうね。
ある人物のキャラがおかしな方向へ進みはじめました。

活動報告にて、ネタは思いついたけど結局書くことが無かったネタをさらしています。お暇な人はどうぞ。



 どうしてこうなった

 

 それが今現在のユーノとアクアの内心を表す言葉であろう。

 ユーノの腕の中には、ちょっとお姫様願望をこじらせつつある現地民の少女がおり、アクアと対峙しているのは必死にジュエルシードを渡してと涙目で交渉する少女がいる。

 二人は知らないことだが、その様子を現在指名手配中の雷男が遠くから、むっちゃ遠くから頑張ってみている。

 これまた二人は知らないが、山本のぼるという痛い見た目の少年が、必死に草陰に隠れてこの場の全員に見つからないようにしている。しかも本当に見つかっていない奇跡。

 

 

 

 

 本当に、どうしてこうなった

 

 

 ◇◇◇

 

 事の発端は少し前までさかのぼる。

 結局、利害の一致というか、なりゆきというか、何故か一緒にジュエルシードを探すことになったユーノ・スクライアとアクア・プロト

 ユーノは『ミッシングリンク』やキナ臭い状況を考えて、実害が自分に来ないであろうアクアとの行動をしたほうがいいと考えている。彼ならばシードモンスターに対処できるようだし。

 アクアは、今後のことを考えて管理局と接点は必要と判断。ただし、信用の置ける人物でないといけないので、自分よりはその辺りの事情に詳しいユーノとの行動を望んだ。

 まずはジュエルシードを見つけないと始まらないし、他にも探索者がいるらしいのが厄介。ユーノが魔力探知をし、アクアはユーノから感知用の術式をいくつか教わり、リミピッドチャンネルの応用で、発動者となりうる意識を探していた。

 魔力を用いることで、ある程度リミピッドチャンネルの運用が可能になったが、負担は大きくアクアは休憩を始めた。

 

「中々見つからないもんだね~」

「まあ、襲撃のショックで少し封印がゆるくなっているけど、それでも一度は封印したからね。魔力反応が弱まっているんだよ」

「強制発動って方法もあるんだろ?」

「出来るけど……そんなことしたら被害がどんなものになるか…………」

「たしかに。流石にそれは出来ない……というか、そこまでする奴はどうかしているとしか思えない。もちろん、被害が分かった上での行動の場合だけど」

「分からない方がたち悪いと思うけど」

「そりゃそうだ」

 

 しばらく一緒に行動しているため、わりと打ち解けたというか、少し砕けた話し方になっている二人。

 と、そのときのことであった。

 

「!? 発動した!」

「うし、ラクシャーサ!」

 

 流石にそう何度も変身は使っていられないのでプレトを身にまとうアクア。役割分担としては、ユーノが結界と封印。アクアがシードモンスターを相手にし、魔力を封印できるレベルまで削る。

 ユーノだけでは火力が低く、削りきれない。アクアだけでは削れても、封印方法の負担が大きすぎる。

 結果的にだが、お互いの欠点を補ったコンビだった。

 

 ◇◇◇

 

「これは……どういうことだっちゃ?」

「何? その喋り方……まあ、ジュエルシードが正しく願いをかなえたんだと思うよ」

「これでか?」

「うん、これで」

 

 二人は、結構大きなお屋敷の庭に降り立ち、即座に結界を展開。魔力をもつ者のみを取り込んだので、シードモンスターと自分達二人だけがここにいる。

 少なくとも、今の時点では二人はそう思っていた。

 

「というか、でかいなぁ……」

「大きいよね」

 

 二人が見上げているもの、それは……

 

「にゃぁ」

 

 ゾウ並みに大きな子猫(ある意味言葉の矛盾)である。

 どうやら、ジュエルシードが子猫の「大きくなりたい」という願望を正しく叶えた結果というのがユーノの意見なのだが。

 ちなみに、戦闘しようにも出来ないのでプレトは外した。

 

「でも、大人になりたいとか、そういう意味じゃないのか?」

「子猫にそこまでの判断が出来ると思う? 今までの発動事例は、周囲の思念を無秩序に取り込んだスライム型、狩りの本能に身を任せた虎型、二人分の人間のこんがらがった思念を取り込んだ樹木型。それに比べたらちゃんと叶えている方だよ」

「たしかにな……今までに比べたら、この子猫も純粋な願いを願っているな」

「……純粋か」

「どうかしたのか?」

「願いをかなえるプロセスについて考えていたんだけど、この子猫はジュエルシードに触れる前から大きくなりたいと思っていたと仮定しよう。子猫だからこそ、大きくなりたいと素直に願っていた。だけど、今までの事例も願いを叶えようとした……というよりは、願いをジュエルシードが取り込んだ」

「まあ、そうなんだろうな。俺には良く分からんが」

「なんでこの子猫の願いはちゃんと叶ったんだろうね?」

「そりゃぁ……なんでだ?」

 

 ジュエルシードは願いを叶える力を持っている。でも、ちゃんと願いを叶えるどころか変な形で叶えていた。

 いや、叶える事は叶えている。ただ、実際にジュエルシードに願ったわけじゃない。

 だけどこの子猫は「大きくなりたい」と思っていた。思い続けていた。子猫だからもっと複雑に、大人になりたいとかじゃなくて、「大きくなりたい」っていう直接的過ぎる表現だっただけだ。

 いままでは、周囲の思念の場合、雑念とか色々取り込んだからスライム状。

 虎は……狩りの本能に影響されて、強くなりたいとかそこらへんかな。

 樹木は二人分、恋人同士のようにも見えたが、よく分からない。ただ、複雑に絡み合った結果、変な効果が出た。

 今回は大きくなりたい……

 

「今までは願いを叶える以前に、願いと言うより、表面に出ていた意識とか、そういうのを吸収して暴走していただけか?」

「そうなんだ。ジュエルシード自体に願いを叶える力はある」

「なんていうか、かなりデリケートみたいだけど」

「だよね……そこが問題なんだ」

 

 歪んだ形や、変な状態で願いを叶える物なんて誰が好き好んで作るんだって話だ。しかも一つで最悪の場合、星ひとつ破壊できるとか。願いを叶える目的で結果的にそこまでの力を持ったならわかる。星を破壊出来るような力が願いを叶える機能をもったっていうのは無いと思う。

 

「でも、21個だろ?」

「そう。流石に数が多すぎる。一つでも十分願いは叶っているのに……一体、どんな願いをかなえようとしたのか」

「全次元を自分の思い通りに書き換えるためとか?」

「まっさかー」

「だよなー」

「「あっはっはっはっは、はは、はぁ……」」

 

 そこまで笑って、案外シャレにならないと二人は暗くなる。

 

「で、ジュエルシードって結局どういう――」

「いい加減にするのぉぉぉぉぉおぉぉお!!」

 

 なんかものすごい叫び声が聞こえて二人は驚く。

 敵襲!? と思い、後ろを向くと何処かで見たことがある少女がいた。

 

「なんですずかちゃんの家に勝手に入っているの!?

 なんで大きな大きな子猫さん!?

 あと、この前のおうj……君は一体誰!?」

 

 いきなり質問攻めにする少女。というか、ユーノに対して顔を赤らめた気もするがどうしたものか……

 

「え、ええと……」

「さあ、はやく答えるの! ハーリーハーリー!!」

 

 何故、この少女はこんなにもテンションが高いのか。そしてなんか鼻息が荒い。

 とりあえず、巻き込むわけにも行かないし……というか子猫からどうやってジュエルシードをはがすか……

 

「ちょ、アクア助けて!」

「がんばれ」

 

 少女に迫られる状況。相手も可愛い方だし、まあ放っておいても問題はない……いや、巻き込むわけにはいかないのでユーノの手腕を期待しよう。

 さてと、ヘルアンドヘヴンを使うのはダメ。子猫にダメージがでかすぎる。

 プレトとの融合はダメ。物理的な威力が大きい。

 ポンドゥス。いや、無理。

 ラティオも負担が大きいし、今の状態じゃ意味がない。

 アクアの実……アポトーシスウイルスって殺す気じゃないから。

 ネブラは……この場所じゃなぁ…………後ろの少女もいるし、というか破壊じゃだめ。

 あ、トゥルバで呼吸できなくして気絶させるとか? やり過ぎはだめだけど、上手くいけば子猫にダメージを残さずにいける。

 ただ、後ろの女の子がね……

 

「アクア!」

「どうした!?」

「なんか、レイジングハートが……」

《彼女には素質を感じました。こう、立ちはだかるもの全てをなぎ倒すような》

「宝石が喋ったの!?」

 

 この子に? いや、結界の中にいるなら魔力を持っているんだろうけど……まあ、苦手だけど感知能力はつど…………おおおおおおおお!?

 アクアは感知した。感知してしまった。

 少女の魔力量に。なんかデカイ。

 ユーノと自分足してもまだ届かない膨大な魔力。威圧感。

 原石であるのに、この圧倒的な恐怖!

 

「……お、お許しください」

「なんでっ!?」

 

 少女を天敵と認定した瞬間だった。

 

「ちょ、しっかりしてよ!」

 

 ユーノが念話に切り替える。少女の魔力が大きいので、万が一にも伝わらないように方向性を念入りにしぼりアクアにのみ聞こえるように。

 

『魔力をこれだけ持っているってことは、シードモンスターの標的になるかもしれないんだよ!』

『そ、そうか……そういえば、魔力を持ったやつを優先的に襲いやすい性質があるんだっけ…………』

 

 その影響なのか、でかい子猫は少女にじゃれつこうとしている。いや、関係ないか。この屋敷にもとからいる猫らしいし、なんか「ちょ、やめるのー」「肉球でいやされるのー」っていうか暢気だなオイ。

 

『だけどな……だからってどうするんだよ』

『そうなんだよね』

 

 二人とも、この世界には存在しないハズというか、公式の立場が無い。

 今の状態だと、何処の誰だか分からない不法侵入者(笑)

 

「……魔力!」

「なに!?」

「え、え?」

 

 ユーノがシールドを発動し、少女の前に出る。すぐにこの区域から離脱できるように少女を抱きかかえた上で。

 きたのは電撃。おそらくは他にいるジュエルシードの探索者。

 アクアはとっさにプレトを装着し、プロテクトシェードで防ぐ。そして、防いだ電撃を回転させ、五芒星の形になり、電撃が放たれた方向へかえす。

 

「で、電撃……」

 

 それは、ユーノにとって因縁とも言うべき相手が使う能力。

 跳ね返した攻撃が着弾した部分の煙が消え、そこからは黒い衣装に身を包んだ金色の髪の少女がいた。歳は同じくらい。その目は何処か悲しそうな色を帯びていた。

 

「違う人か…………デバイスってことは僕と同じ管理世界の住人」

 

 今の電撃は魔力変換、ミッドチルダ式の魔道師。

 

「アクア、気をつけて……今の電撃、パッと見だけど錬度が高い。かなり高ランクの魔道師だよ」

「大丈夫大丈夫、シードモンスターに比べたらかなり軽い一撃だ。今のでもかなり余裕あったからな。よほどの攻撃じゃなけりゃ変身する必要も無い」

 

 そう言って、少女と対峙するアクア。

 少女の顔を覗き込むように見上げる。木の枝の上に立っている少女は見下ろすようにアクアを見ているわけだが……

 

「じゅ、じゅえるしーど、わ、わわ、わたしてくだっください……」

「な、なんで泣いてるの!?」

 

 アクアの顔を見ているうちに泣き出す少女。

 わけがわからないよ……なんかこっちが泣きたくなった。俺が何をしたと……

 

 

 

 ちなみに、少女の側から見たらトカゲ人間が自分を狙うように見ている風な光景に映る。

 それはかなり怖いことだった。

 

 

 この様子を見ていた指名手配中の男は、自分より先に金髪少女に出会った少年達に苛立ちを覚える以上にあまりにもシュールな光景で脱力していた。

 

 

 このほかに誰にも気がつかれない最弱の男が近くにいたわけだが、本当に誰にも気が疲れていない。彼はただ、なんとかして少女達に絡もうと思ったが、ガチの魔法を見てビビッていた。ただ、気がつかれていないのは本当に奇跡だった。

 




今回の用語
『プロテクトシェード』
もとはガオガイガーの防御技。
アクアは左手の部分にくっつくプレトの甲殻に『防御』『反射』などのルーンが刻んであり、相手の攻撃を防御するだけでなく、エネルギー系の攻撃を五芒星の形にし、相手に跳ね返す。その場合は左手前面にしか展開できない。
本人はいまだ気がついていないが、空間を湾曲させることで発動する防御技。
全身に張ることも可能だが、その場合は魔力消費が著しい。
対魔法には効果は絶大だが、物理特化に弱い。


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サンダーガール・X・リザードボーイ

フェイトさんとアクアの戦闘。
色々とカオスな時は、Xってつける所存。


 カオスな状況、いったいどうしたものかと悩んだ末にアクアはとりあえず交渉というか話し合いをするべきと思って口を開こうとした、そのときである。

 

「ま、魔力を持った人が三人……勝てるか分かりません。ですが、ジュエルシードを渡すわけにはいかないんです!」

 

 少女が暴走。というか、魔道師三人だと思われた。

 

『あー、ユーノ……あとは任せた』

『ちょっと!? 僕にどうしろと!?』

『あれだ、結界の中なら少しは暴れても大丈夫だろうし……その間に猫からジュエルシードを取り出しておいてくれ』

『まるなげ!?』

『だって向こうが臨戦体勢なんだよ!!』

 

 ちなみに、少女が暴走しているのは、アクアの外見が怪奇! トカゲ人間!! だからなのだが、悲しいことにそれには気がついていないのだった。

 とりあえず、プロテクトシェードを展開し、少女を弾き飛ばしてユーノたちから遠ざける。

 

「ぐっ……変わったシールド、でも前面にしか展開していない」

「さて、それはどうかな」

 

 全身防護に切り替え、後ろから飛んできた魔力弾を防ぐ。

 恐がってはいたが、少女はかなり強い。魔法に慣れていない自分が発射の直前まで気がつかないとは……いや、

 

「防いだのは見越してのこと、トラップやら、発射前の魔力弾があちこちに……」

「そこまで気がつかれた!?」

 

 少女は驚いているが、自分は人とは少し違うモノだ。可聴域だってずっと広い。魔力が集まる音というのが聞こえるのだ。電磁波の音とでもいうべきモノも聞こえるし、普通の人間相手では自分には勝てない。

 もっとも、少女が最初から人間相手の戦い方をしていないのも事実であり、アドバンテージはそんなにないなぁとも思っているのだが。自分、そんなに強くないので。能力がピーキーなだけで、こういう対人戦に適した能力はほとんどないのだ。

 

「私には、ジュエルシードが必要なんです」

「分からないな……あんな不安定なものを使ってかなえたい願いがあるのか?」

「貴方には関係のないことです」

「だからって、他人を巻き込んでもいいのかよ。それに君がやっているのは泥棒と同じだと思うけど」

「それでも、私はジュエルシードを集めなくてはいけないんです」

 

 平行線。そもそも少女にその目的自体を疑っている様子も無い。悲しそうな瞳ではあるが、ジュエルシードを集めることに疑問は持っていない。ただ、真っ直ぐに己の目的を阻む敵を映しているだけだった。

 

「結局、倒して事情を聞くしかないのかね」

「……フォトンランサー・フルオートファイア!」

 

 金色の魔力がいくつも飛んでくる。アクアはそれに対し左手をかざし防ぐ。威力が低い。次の攻撃への布石だとしてもコチラにだって考えがある。

 

「反射! からのプラズマホールド!」

「私と同じ魔力変換!?」

 

 少女が驚いたのは相手が自分と同じと思われる魔力を電気に変換する魔法を使ったと思ったから。

 実は、プロテクトシェードを攻撃と捕縛目的に転用した技で、使用するとしばらくプロテクトシェードを使えなくなるという、かなり使いどころを選ぶ技である。

 ちなみに、電機に見えるのは本当にプラズマ。普通は当たればヤバイのだが、アクアはその周りにシールドのような膜を張っており、これすらもフェイントであるが……

 

「高エネルギー反応っ、」

 

 少女の姿が一瞬で消える、いや、アクアの後ろへ瞬時に回りこんだのだ。

 ブリッツアクションと呼ばれる、移動魔法である。

 そして、手に持った鎌のようなデバイスをアクアに突きつけようと――

 

「それをまっていた!」

 

 その言葉と同時にアクアは右腕に溜めていた魔力を解放。

 高速で回転を始める右腕。

 

「ブロウクンマグナム!!」

 

 高濃度の魔力を纏った回転する右腕、それを少女のほうへ飛ばす。その光景はまさにロケットパンチ。その様子を茂みから観察していた山本のぼる(9歳)は目を輝かせてみていた。一方、上空の指名手配犯は「ね、ネタ過ぎる」と失礼なことを言っていた。

 実はバリアブレイクと高威力を兼ね備え、なおかつ回転により右腕部分の防御を担った上に自動追尾、自動帰還などを同時に実現、さらには魔力を圧縮することにより低燃費を実現した超高性能な一品だったりする。その辺りを分かるのが玄人という奴である。もっとも、ここにはいないが。

 

「狙うのは、「武器!」見抜かれるか……」

 

 技が凄くても戦術では圧倒的に負けている。奇策で翻弄しても決定打にはなりえない。

 アクアが対人戦で使えそうな技は、ほとんどない。ブロウクンマグナムとプロテクトシェード、プラズマホールドにドリルニー、それから肉弾戦くらい……しかも自分の飛行能力はかなり低い。正直、浮いた状態でプロテクトシェードで防いで跳ね返すか、ブロウクンマグナムで攻撃するかの二択なのである。

 

(どうする……まだまだ時間が必要だし…………仕方ない、ポンドゥスを使う)

 

 プレトを脱着。少女は身構えるが、アクアはまるで無防備。思わず問いかける。

 

「貴方は何を考えているんですか? 敵対者の前で武器を外すなんて」

「なーに、ちょっと本気を出すからな。あと、俺の名前はアクアだ。お前は?」

「…………フェイト。フェイト・テスタロッサ」

「いい名前だな」

 

 その言葉に、少女――フェイトは少しはにかむ。もっとも、親しい人では分からないレベルなのでアクアは気がつかなかったが。

 名乗りを上げたのは相手に対する礼儀。二人は無意識だろうが、両者共に少しバトルマニアなところがあった。ポンドゥスの実を食べ、魔力が膨れ上がる。重力や引力といった力を操る姿、ポンドゥスの姿では体に魔力を覆うので彼固有の魔力光である、黒に近い紫色の光が周囲を照らす。

 

「いくぞ!」

「ッ!!」

 

 ◇◇◇

 

 たしかに、アクアは人を超えたモノとして造られた存在だ。だからこそ、人には聞こえない音を聞くことが出来る。本来であれば、アクアの予想では重力球を精製する音なんて聞こえるはずが無いのだ。だが……

 

「なんでそう何度も避けられるんだ!?」

「そんなに大きな音がする攻撃、普通避けられます」

「だからなんで聞こえるんだよ!」

 

 そう、何故かフェイトは聞こえるのだ。重力球を作り出すときに出る空間の軋む音が。

 

「なら、連弾!!」

「当たりません!」

「スピード型とかやり難い……なら、ブレード!」

 

 手刀の形、それに延長するように纏わりつく魔力。ターゲットはフェイトの少し後ろの空間。発動まで、ゼロ!

 

「ディメンションスライサー!」

「大振りすぎる……これでは避けてとっガァ!?」

 

 ディメンションスライサー、アクアがポンドゥスの実を研究した際に発見した性質を基に作った技。空間を弱く圧縮した剣を作り、対象よりも後ろの空間を基点にゆがめ、空間が戻るときに発生するエネルギーを相手にぶつける。

 そのダメージには物理的威力は無く、ただ弾かれるだけという特異過ぎる現象が起こる。

 

「わけが分からない……空間をゆがめるなんて、そんな少しの魔力ではありえない」

「まあ、そういうことを出来るように生み出されているからな」

「?」

「分からなくて結構! ダブルブレード!」

「グッ……私の、最大の魔法で」

 

 フェイトが大技の準備に入ろうとしたそのときだった。

 

『アクア! 封印完了したよ!』

 

 目的は達成した。

 

「ってことで、破ぁ!」

「衝撃波!?」

 

 フェイトを吹き飛ばし、ユーノのもとへ戻る。

 

「ジュエルシード、シリアル14封印完了だよ」

「オッケー! とっとと逃げ――」

 

 油断した。さっきの少女とは違う魔力光――オレンジの光がアクアを吹き飛ばした。

 

「アクア!?」

「おおっと、これはいただくよ」

「なっ!?」

 

 犬耳の長身の女性。ジュエルシードを持ち、フェイトの方へ下がる。

 

「くそっ」

「アルフ!」

「悪いね、フェイト。遅くなっちまった」

 

 アルフと呼ばれた女性は彼らを一瞥した後、フェイトの方を向く。表情だけでしか分からないが、どうやら念話で会話しているようだ。

 会話が終わったのか、二人は何処かへ飛んでいった。

 

「どうやら、分が悪いと思ったみたいだね」

「スマン、油断した」

「ううん。僕も油断していたよ……向こうにも仲間がいる可能性を考えておくべきだった」

 

 仕方が無い。一旦帰ろうと思い、飛行魔法を使おうとしたその瞬間だった。

 

「逃がさないの」

 

 ガシッっという擬音が聞こえるくらい強い力で、ユーノの肩を掴む少女。

 

「えっと、離してくれるとうれしいなって」

「さっきのが何か教えてくれる? あ、私は高町なのはっていうの」

「えっと君、離し――」

「なのは」

「えっと」

「なのは」

「――」

「なのは」

「なのはさん」

「さんは要らないの。君の名前は?」

「ゆ、ユーノ・スクライアです」

 

 有無を言わせない迫力があった。思えば、最初から素質はあった。数年後、ユーノはそう語ったという。

 

「それで、ユーノ君。説明してくれるよね。君が誰で、大きなネコさんとかピカピカ光るあれとか、喋る宝石とか色々。ねえ?」

 

 どうする、どうすればいいんだ……そうだ、相談だ。自分ひとりで答えが出なければ人に聞くのは恥ではないって長老とかお姉ちゃんも言っていた。

 そこまで考えてアクアにヘルプするユーノ。

 

『助けて』

『いや、そういわれても……素直に言えばいいんじゃないか? 俺ら不法進入だし』

『無闇に魔法のことをバラすわけにはいかないよ! 一応、事故でこの世界にたどり着いたから特例で認められると思うけど……』

 

 いくつか特例で大丈夫な場合はあるが、さすがに巻き込みたくない。いくら少女に膨大な魔力があるとしても、なるべく関わらせたくないのだが……

 件のなのはは目が据わっている。関わる気満々だ。

 

『じゃ、あれだ。カッコよく「次にお会いした時にでも話しましょう。大丈夫、なのはが会いたいと思えば必ず会えます」とでも言え』

『ちょ、それは恥ずかしすぎるよ! それに騙すのも……』

『緊急事態だろ。というかお前一人の良心が痛むだけで少女は危険な世界から遠ざかるんだ。まあ、シードモンスターを全部狩り終えるまではちょくちょく安全かどうか確かめに来る必要があるけど』

『うう……綱渡り過ぎるけどしかたがない』

 

 結局、言われたとおりそのまんまではないが、大体同じようなことをなのはに言った、言ってしまったユーノ。

 やはりというか、顔を真っ赤にするなのは。

 混乱し始めたなのは。ただ一言、「絶対だよ」と。

 

 ◇◇◇

 

「アクア、結局帰ることは出来たんだろうけど……彼女とまた会う気がするんだ」

「奇遇だな。ぶっちゃけ俺もはやまった気がする……なんか、スマン」

「せめて、ジュエルシードが集まるまで彼女と出会わないことを祈るよ。そうすれば巻き込まないだろうし」

 

 だが、運命というのは面白い方向へ残酷なことを彼らが知るのは数日後のことだった。

 




今回の用語
『ベターマン・ポンドゥス』

アクアが頻繁に使用している姿。
体への負担も少なく、使用後の休眠時間も短い。
能力は基本的に重力を操ること。
この姿だと、飛行能力も上がる。

近距離、中距離、遠距離、超遠距離、広範囲、あらゆる状況下で対応できる技をもつまさに、ベターマンの面目躍如といった姿。

この世界においては、HGS能力者の遺伝子を使って再現されている。

原典では引力を操っているが、アクアが使用しているのはさらに発展したようなもの。引力を一点に集中させ、超小型ブラックホールのような使い方も出来るのだが、流石に制御しきれないのかアクアは使ったことが無い。


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キャラクター・X・スクリーンショット

今回は閑話というわけではないですが、色々な人の現在の一コマみたいな感じです。
新展開突入前の息抜きみたいな感じですね。

アイツの名前や、あの人の裏話とか、色々出てきます。
そして、今の今まで使わなかったアレも登場。

ドンドン書き進めていける気がする。


 今までに集めたジュエルシードは4つ。先日奪われてしまったシリアル14のジュエルシード。それについての対策会議(二人しかいないが)を始めることにしたアクアとユーノ。

 

「結局、探索者って何人いるんだ?」

「分からない。でも、彼女達のバックに誰か居る可能性も考えないと……」

 

 紫色の電撃。自分が乗っていた船を襲った雷撃は彼女の魔力光とは色が違う。だが、魔法の特徴が似ているのだ。魔法にもクセというのはある。個人の資質で変わってくるが……

 

「似ている……いや、もとを辿ると同じ魔法にたどり着く気がするんだ」

 

 多くの魔法は、基本となる術式が存在し、そこから派生していく。基本てきには射撃、防御、移動、物質化などの分類。

 あの電撃は物質化、いや……電撃へ変換するプロセスは変換資質を用いた天性的なものだと思うのだが……攻撃魔法を組む式がどうも同じな気がする。

 

「よくそこまで分かるな……」

「攻撃は苦手だからね。その分、相手の情報を見極めないと」

「なるほどねぇ……俺、そういうのは苦手だからなぁ。事象予知が使えれば楽なんだけど」

「魔法にも、そういうのはあるけど……個人の資質だし、脳の負担が大きすぎるよ」

「具体的にはどのくらい?」

「一人で、50台の車を動かしつつ、別々の動きをさせろって言われたら出来る?」

「……無理」

 

 ようはそのぐらいの処理能力が無いと使えないという話。さすがに楽な方法なんて無いのである。自分の得意なことを生かしていく方が堅実だ。

 

「さてと、この街にジュエルシードってあといくつ残っているのかね?」

「うーん……確認できただけで5個。他の人に盗られている事も考えると…………残りは13個くらい、いやもっと少ないかも知れないけど……」

「最後は争奪戦になるな」

「そうなんだよねぇ……一度、少し街から離れた場所を探そうか?」

「そうさねぇ……問題は俺ら無一文だから移動しても…………」

「野宿か」

 

 慣れてはいる。ただ、この研究所跡地みたいに都合のいい寝床がないとなぁ……ソンナコトを考える二人だった。

 

「…………なぁユーノ、いい加減に風呂入りたくないか?」

「君があのパンフレットを見せなければそう思うこともなかっただろうね」

 

 先日、温泉とか風呂とかのパンフレットを眺めているところ、ユーノに聞かれたので色々説明したアクア。その際、自分達の状況を思い出して鬱になったものである。

 だって、金無しな上、戸籍とか無いし子供だけで……無理です。

 

「商店街の福引で一発当てる」

「お金ないのにどうするの?」

「……あれだ、ユーノの結界で」

「犯罪するなよ」

「…………くっ、」

「それで終わりなの!?」

「俺は……無力だ」

 

 なんかもう台無し……いや、いい方法を思いついた。

 ユーノにも見えた。アクアの頭の上の豆電球が。

 

「とりあえず、このパンフの旅館の近くまで行ってみよう」

「なんで?」

「秘湯を探す」

「は?」

 

 ◇◇◇

 

「そんなに上手くいくのかなぁ」

 

 後日、二人が実行した計画。それは……まあ、ぶっちゃけ動物とかが入っている秘湯をさがします。

 

「まあ、デバイスの機能を使えば結構楽勝かもしれないし」

「ていうかデバイスあるならもっとはやく出してよ……」

「今まで忘れていたって言うか、薬の調合にしか使ってなかったし」

 

 そう、ミッドのデバイスを参考に造られた純地球産デバイスの『ハンドウ』である。構造が独特な上、いくつかの機能に特化させてある都合でユーノから教わった魔法はほとんど使えなかったが、それでも封印にはこれを使えばいいことが今頃判明したのでユーノは脱力しているのである。

 

「それに、今大事なのは探すことだろ」

「……ジュエルシードもそれを使えば早く見つかったかもね」

「頼む、凹むからいわないでくれ……それに、練習も兼ねているし」

「はいはい」

 

 現在、ハンドウのアクセプトモードで温泉を探している二人。これが上手くいけばジュエルシードを探す時にもサーチを応用できる。

 

「うーん、あるとは思うんだけどなぁ……やっぱ近くの旅館の反応が邪魔だな」

「その反応以外で検索できないの?」

「今まで使ったことが無いから慣れてないんだよ……ょし、設定変更終わり」

 

 改めてサーチを始めるアクア。

 

「お、おお、おおお。ちょっと距離あるけど見つけた」

「本当!?」

「ああ……ジュエルシードを」

「なんでそっちを見つけるんだよぉぉぉぉ!?」

 

 ユーノのシャウトが森を駆け抜けた。

 その後、シリアル12をアクアが封印し、再び温泉捜索に戻る二人だった。

 

 ◇◇◇

 

 二人が森の中でシャウトしたりしているころ。高町なのはは両親が経営する喫茶翠屋の社員旅行に来ていた。友人のアリサ・バニングスと月村すずかもいっしょである。

 

「まったく、失礼しちゃうわね」

「勘違いだったみたいだし、別にいいじゃないアリサちゃん」

「そうだけどぉ……」

「んー、なんか気になるの」

 

 先ほど、長身の女性に因縁をつけられそうになったのだが、なのはが慌てた様子を見て勘違いだったと言い、その女性は去っていった。

 

「んー、この前見た気がするけど……正直、あの人しか覚えていないの」

「はいはい、アンタの夢の話はもういいのよ」

 

 高町なのは。最近、夢見がちな女の子とまわりに思われてしまっているのである。

 

 ◇◇◇

 

「フェイトぉ……あの子ただ巻き込まれただけみたいだったよ」

「まあ、管理外世界でも魔力をもった人がいないわけじゃないし」

 

 どうやら、あの少女は結界に巻き込まれた一般人だったらしい。ということは、あの金髪の少年とトカゲ男……もとい、黒い少年の二人が相手ということか。

 

「他の探索者もいるらしいし、急いで見つけたほうがいいと思う」

「そう思うんだけどさぁ……体は綺麗にしておいた方がいいと思うよ」

「うん……」

「あと、いつまでそうしているのさ?」

「あ、あとちょっと」

 

 フェイト・テスタロッサ。マッサージ椅子の虜になってしまいました。

 

 ◇◇◇

 

「おめでとうございまーす! 温泉旅行プレゼントです!」

「……マジで?」

 

 車椅子に乗った少女はちょっと驚いていた。なんというか変な同居人を数人拾ってからしばらくイベントに困らんなぁ、って思っていたが、これはいよいよ……

 

「面白イベント続出の予感やな」

 

 だが残念、君はまだニアミスなのである。もっとも、少女を取り囲む環境はドンドンカオスになっていることを少女は……知っていながらも受け入れていた。まだ小さいのに肝っ玉母さんだった。

 

 ◇◇◇

 

「転生してはや9年……はぁ」

 

 少年、山本のぼるは縁側で茶をすすりながらため息をついた。

 

「あぁ……魔力はあるみたいだけど、あの状況で誰にも気がつかれないとか…………俺のバカ。なんで見た目だけに特典使うかな……」

 

 銀髪とか今考えると痛いだけだよね……主人公達と同い年になるのにも特典使っちゃったし……いや、地球に生まれて平穏……とは言えないけど、それなりに楽しく暮らせるだけでもありがたいのかなぁ…………

 

「にーちゃ、ごはんー」

「はいはい。みんな呼んできて。先生もすぐ帰ってくるからね」

 

 せめてこの孤児院は守らないとなぁ……難しく考えるからこの前みたいにジュエルシードを求めてしまう。子供たちの兄として、自分はしっかりしていないと……

 転生してからいまだ、現実をしっかりと認識できていないからとは自分でも気がついていなかった。

 ただ、目の前の小さい彼らだけは――そんな昼下がりだった。

 

 ◇◇◇

 

「覗き魔は退散だぁぁあああ!」

「う、ウワァァアアアアアアアアアア!?」

 

 次元犯罪者『オーガ・デルグラン』彼は温泉街に来ていたが、フェイトやアルフの姿を確認しようとして、覗き魔としてさらに罪状を重ねていた。

 

「俺はただ、人探しをしていただけだ!」

「それが覗きなんだと言っておろう!!」

 

 電撃に体を変化させても逃げ切れ無そうなくらいの集団。あれか? この女性達は百の貌なのか? そんなことを考える彼は、もうどうしようもなかった。

 なお、旅館に泊まろうと思ってお金を偽造しているのでさらに罪状は増えている。公文書偽造にも手を染め始めているとか。

 

 ◇◇◇

 

「やっと見つかったなぁ」

「もうすぐ夜だけどね」

「危なかった……夜は冷えるから」

 

 やっとのことで見つけた温泉に、ユーノとアクアは入っている。筋肉がほぐれるぅぅぅと気の緩んだ顔でアクアは呟いていた。

 

「これで手に入れたジュエルシードは5個……それで、さっきの話は本当?」

「ああ、たぶん近くにもう一個くらいジュエルシードはあるよ。あと、変な魔力反応もキャッチしたから探索者が他にもいると思うんだけど……」

「なんか、力尽きたみたいな反応が出たと?」

「……わけが分からない」

「僕もだよ」

 

 それが、ユーノにとっての因縁の相手が最強の女将さんにモップのフルスイングでぶっ飛ばされた反応だったとは、気がつくわけもなかった。

 




今回の用語
『アクセプトモード』

アクアのデバイス、ハンドウのモードの一つ。
探索や解析などに特化した形態。

大気中の成分や、魔力の解析なども出来る上、登録した反応を追跡できたりもする。
ジュエルシードを捜索するのに大いに役立つのに、アクアはすっかり忘れていたので今まで使わなかった。


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ガール・N・ミーツ

今回は遂にあの人の出番というか、メインな話。
パワーバランスがおかしい?
覚醒回はみんなそんなものです。

ちなみに、レイハさんの見た目は劇場版に近いってことで。
ディバインバスターはレイハさんに登録はされていたけど、ユーノには使いこなせなかったということで。

本日二度目の投稿です。
最近は投稿ラッシュ。無印部分だけでも速く終わらせたい。


 高町なのはがその少女を思い出したのは偶然だったのか、必然だったのか。最初に見たときは、友達であるすずかの家の庭だった。

 そのときは、自分を守っていた少年のことで頭がいっぱいだと思った。だが、一つだけ心の片隅に引っかかった。

 自分は、誰から守られていたのだ?

 

 ◇◇◇

 

「ねえ、この前あったよね」

「ひ、人違いではないでしょうか」

 

 温泉でバッタリ遭遇。仮にも自分を襲った相手なのだから(正確には違う)こう、どっしりかまえていて欲しいの。そんなことを考える小学3年生。父親の影響をかなり色濃く受けていた。

 

「私、疑問系じゃなくて確信して話しかけているの。だから、これは確認」

「えっと……」

「目を逸らさない」

 

 悲しい目……なんでこの子は悲しい目をするのか…………あと、怯えているのはなんでだろう?

 体中をよく見れば、細かい傷が沢山……いや、これは痣だ。兄や姉が剣の稽古をしていると出来る痣に似ている。なにか強い力で叩かれた後のような……

 

(そ、そうだ! この子は親から虐待されて心に大きな傷を……それで悲しい目をしていて、人に接するのが恐くて怯えていて――そうに違いないの!)

 

 おしい。虐待はあっているが、悲しい目の理由も少し違うだろうし、怯えているのは君が原因だ。

 

「私、高町なのは。あなたのお名前は?」

「……」

「あなたのお名前は?」

「……」

「いいから言うの」

「ふぇ、フェイト・テスタロッサです!」

「そう、いいお名前だね」

 

 その表情はまるで、妹を見守る姉のようだったが……フェイトからは魔王のように見えていた。名前を聞かれた……け、契約とか呪いとか怖いよ母さん!

 少女の冥福を祈る。

 

「ねえ、私とお話しよ?」

「……あ、あなたと話すことなんかない」

「むぅ、そんなこと無いと思うけど」

「平和な世界に生きて、何も知らないあなたに……私が話すことはなにも無い」

 

 それだけ言うとフェイトは立ち上がり、脱衣所へ向かう。

 

「むぅ……何も知らないか…………なら、知ればいいの」

 

 あの少年に会うべき理由が増えた。

 高町なのは、運動オンチだがかなり武闘派の性格だった。

 

 ◇◇◇

 

「こ、恐かったぁぁ……」

 

 ジュエルシードの捜索前に一度、温泉に浸かろうと思ったのが運のつきだったのか。

 

「ううん、まだ大丈夫。母さんのためにもジュエルシードを集めないと……早く終わらせればあの子とも会うことは無いだろうし」

 

 だが、現実は非常だった。

 

 ◇◇◇

 

 深夜、ジュエルシードが発動する。その瞬間、近くにいたアクア、ユーノのコンビとフェイト、その使い魔アルフ……彼らがジュエルシードを感知し、現場に向かった。

 このとき、次元犯罪者オーガは昼間の覗きの件でパトカーとカーチェイス中である。盗んだバイクで走り出してしまったのでさらに罪状が増えた。

 

 だが、そんなことは今は関係ない。今日、この日は彼女が戦いの場へ足を踏み入れた日。

 魔法を使うことは無かった……それでも彼女は大きな力に引き寄せられるように歩みを進める。

 

「まっててね、フェイトちゃん……そして、ユーノ君」

 

 無意識にだが、彼女の周りには魔力が渦巻いていた。その膨大な魔力の圧力だけで風を起こし、薄くだが光を放つ。

 

「こっち、こっちなの」

 

 ◇◇◇

 

 再びの対戦。アクアとユーノは劣勢だった。個々の能力では互角。だが、相手のコンビネーションが自分達の数歩先を歩んでいる。

 

「くっそぉ……フルパワーが出せればな…………」

「万事休す、かな」

「さあ、あんたらの持っているジュエルシードを渡しな。そうしたら命だけは助けてやるよ!」

「ぐぅ……本気を出せば一ひねりなんだけど、出すわけにもいかないし」

 

 ネブラの実を取り出し、食べようと思ったが……マズイ。

 ユーノも奥の手を使うべきか考えたが、流石に制御に不安が残る。

 お互いにまだ本気ではない。自分達もそうだが、フェイトもそうである。

 使い魔として生を受けてから数年しかたっていないアルフは精神的にまだ未熟な部分もあるので現在使える手は全て使っているだろう。それに、そういう駆け引きは苦手なタイプだ。

 

「問題は、俺らの魔力量がどんくらい残っているかってことだな」

「うん、正直厳しいね……ほんと、彼女の魔力量はどれだけって話だよ」

「仕方ない……相手を吹っ飛ばしてデバイスを取る」

「そうだね、目的はジュエルシードだ……勝つ必要は無い」

 

 ジュエルシードを取り戻す。ズルイかも知れないが、それが第一優先だ。

 

「瞬動!」

 

 魔力を足の裏に圧縮。そして解放の工程を一瞬で行い、フェイトに肉薄するアクア。

 

「速いっ!?」

「貰った!」

 

 そして、狙い通りデバイスを弾き飛ばす。黒い鎌は持ち主の手を離れmフェイトの後方へ吹き飛んだ。

 

「バルディッシュ!?」

「いただきっ」

「さ、させません!」

 

 瞬動は直線的にしか動けないが、かなり速い移動方である。それを、フェイトは喰らい付いた……いや、追い抜いた。

 

「デバイス無しでも加速できるのか……ユーノに比べたら荒らすぎるんだろうけど、予測が外れたか」

 

 ユーノ曰く、フェイトの持っていたデバイスはインテリジェントデバイス。高度な人工知能が搭載されており、使用者の魔力を使えば単独で魔法を使える代物。

 高価だが、自分で構成を練るのが苦手な魔道師も使うことが多く、高速戦闘に使用しているということはいくつかの魔法はデバイス頼りの可能性がある。

 だが、そうでない場合は……

 

「こりゃ、戦闘慣れしているほうか」

 

 自分の死角を任せたり、相棒という立ち位置の場合。それは高ランク魔道師。互いに信頼しているからこそ、人と機械の垣根を越えてお互いの力を最大限引き出せる。

 しかも、デバイスとの相性は最高値。

 

「ユーノとレイジングハートじゃこうはいかないか……」

 

 信頼関係はあっても、適合できていない。二人ともそれがもどかしいと言っていた。

 原因はいくつかあるのだろう。ユーノの処理能力が人を大きく上回り、デバイスの助けを必要としないレベルであること。

 そもそも、砲撃などに向かないユーノの資質。

 いくらでも原因は浮かんでくる。

 

「せめて、もう一人魔法を使える人がいればな……」

「こんどは、私が足止めを成功させましたね」

「なっ――」

 

 振り向くと、ユーノが弾き飛ばされ……宙を舞うレイジングハート。

 

「しまった!?」

「アルフ!」

「おうよ! ジュエルシード、いただ――」

 

 アルフがレイジングハートを掴もうと動き始めたそのとき、彼女より先に赤い宝石を掴んだ人がいた。その少女は、髪をツインテールにした9歳ほどの年齢の――そう、高町なのはだった。

 

「で、そうすればいいのかな?」

 

 いや、どうもしなくて良いと思う。奇しくも敵味方全員の心が一致した瞬間だった。

 

「いいからそいつをよこしな!」

 

 我に返り、アルフはなのはを狙う。

 だけどもそれを主は制した。

 

「だめだよアルフ! その子は一般人だよ!」

「ぐっ、でもさフェイト!」

 

 その隙にアクアとユーノはなのはのいる場所まで跳ぶ。

 着地し、ユーノはなのはにレイジングハートを返すように言うが……

 

「嫌」

「やっぱり……」

 

 これはもう、どうしたらいいのか……

 

「どうすればいいの?」

「巻き込みたくなかったのに……」

「私はもう巻き込まれているし、ユーノ君が逃げてもまた追いかけるよ。何度でも」

 

 その言葉にはやけに現実味があった。何故だか次元の果てまで逃げてもダメな気がしてきた……

 

「ユーノ、責任をとったほうがいいんじゃないか?」

「アクアが提案したセリフだろ」

「結界張ったのに進入許した方が悪い」

「……それを言われると否定できない」

 

 自分の本職は結界だというのをユーノも自覚している。それを言われたら……

 

「仕方が無い。ここにいると危険だしね。自衛のためにも教えるよ……僕の言葉に続けて復唱してね。言い終わったら自分の身を守る服と、杖の形を思い浮かべるんだ」

「うん、全部打ち抜くから安心してね」

「えっと、僕の話聞いていた?」

「いいから、早くするの」

「……我、使命を受けし者なり」

「我、使命を受けし者なり」

 

 詠唱が始まった。その隙を逃さず、アルフは突撃してくる。フェイトがオロオロしているところを見ると、独断のようだ。

 

「おおっと、邪魔はさせないよ」

「あんたらこそ、フェイトの邪魔をするなぁぁ!!」

「人のものネコババしてるのはオマエらだろ!」

「アタシは猫でもババアでもない。オオカミだ!」

「そういう意味じゃねえよ!」

 

 

「契約のもと、その力を解き放て」

「契約のもと、その力を解き放て!」

「風は空に」

「風は空に」

 

 詠唱を進めるたびに、なのはの周りから高濃度の魔力が吹き荒れる。

 その様子を危険と感じたフェイトは一気に加速するが、ブロウクンマグナムで牽制される。そして、新たに非殺傷術式を組み込んだプラズマホールドで拘束される。

 

 

「星は天に!」

 

 魔力が吹き荒れるため、音では伝わりにくいと判断したユーノが念話に切り替える。周りからはなのはだけが詠唱しているように聞こえるが、その様子がなにかの誕生にも似た恐ろしさをかもし出す。

 

「不屈の魂は! この胸に!! レイジングハートッ、セーットアーップ!!!」

 

 その言葉と同時に、絶望的なまでの魔力が広がった。

 

 ◇◇◇

 

 レイジングハートは己の姿をなのはにとって最適な形に組みかえる。

 なのはが纏ったバリアジャケットは学校の制服をもとに、ドレスのような意匠を施したもの。だが、所々戦闘のために防護能力を高めているような印象を受ける。

 

「レイジングハートだったよね、打ち抜ける?」

《当然です。マスター》

「いくよ……」

《変形します。カノンモード、準備完了》

「えっと、そっかそう読むんだね……うん、いけるよ」

《ターゲット、ロックオン》

 

 スコープが出てフェイト、アルフ、ジュエルシードの三つをロックする。

 

《封印弾も同時装填。いつでもいけます》

「ディバインッバスタァァァァ!!」

 

 桃色の光が、対象を打ち抜いた。

 

 ◇◇◇

 

 結局、フェイトたちには逃げられたがジュエルシードは手に入れた。

 代償は一人の少女が何かに目覚めてしまったことと、ユーノの受難である。

 シリアル18の代償は大きいものになってしまった。

 




今回の用語
「翠屋」

なのはの実家の喫茶店。シュークリームが評判で、テレビでも紹介されたことがある。
母親の桃子は色々とぶっ飛んだ経歴のパティシエール。

バイトの店員も色々と凄い。出番は無かったが、社員旅行にはついてきている。

店のポップなどはなのは製作。

そして、マスターのコーヒーを飲みに来る常連客も色々と凄い経歴なのだろう。


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マジカル・W・ストーリー

今回、色々とぶっ飛んだ内容なのでご注意ください。
ジュエルシードも気前がいいというか、なにかが起こり始めているそんな状況。

ちなみに、ベターマンって姿にもよりますが基本的にどこぞの起動戦士よりは小さいのです。

時々は活動報告のネタさらしもどうぞ。


 結局、高町なのはは魔法少女デビューを果たしてしまった。魔法について、ユーノから詳しい説明を受けることになったのだが……

 

「な、なのぉ?」

「えっと、大丈夫?」

 

 致命的に文系が苦手なため理屈で覚えるのはだめだったようだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 翌日、神社の裏手にて魔法のレクチャーを始めることになった。理由としては、このまま放置しても、なのはは自分の膨大な魔力のせいで体に異常をきたす可能性があるからである。案外、覚醒させてよかったのかも知れない。

 アクアもこの機会に一度おさらいしておこうと思いついてきているが、なのはにジト目で睨まれた。いつか泣かそうと思った。

 

「つまり、この胸の部分にリンカーコアっていう器官があって、そこに大気中の魔力素をとりこんでいるんだ。で、取り込んだ魔力素から魔力を生成して、それをプログラムに走らせて使うのがボク達の魔法」

「もっと、ファンタジーなのかなって思ってたの」

「あるにはあるんだろうけど……」

 

 ユーノもオカルトな魔法はまだ見た事が無い。あるところにはあるのだが、使い手は古代ベルカ式の使い手よりも少ないと言われている。

 その後ろでアクアは延々と魔力を手のひらに集中させている。フェイトの使っていた電撃の対抗策を考えているのだ。なんとなく、魔力が水のように変質してきているのを無意識にだが感じ取り、手探りながらも行動しているのである。

 

「うーん、一個ぐらいファンタジーみたいな魔法ないの?」

 

 こうなったら最後まで付き合うしかないか、ユーノはそう思いある術式を起動する。

 ユーノの足元に広がる魔法陣。それは彼の姿を変化させた。

 

「どう? 変身の魔法なんだけど」

「……か、」

「か?」

「かぁいいいい!」

 

 フェレットに変身したユーノ。なのはの何かのツボに入ったのか首根っこ引っつかんで頬ずりを始める。

 

「う、わわわわあ!?」

 

 その後ろでひたすら魔力を練り始めるアクア。そろそろ泡を魔力で作れるようになってきた。上達スピードは流石と言うぐらいに速かった。

 と、そこまでやっておいて誰かが接近してくるのを感じていた。

 

「ん~……ゴリラ?」

 

 そう、ゴリラが森からやってきた。というかどこから現れたんだこのゴリラ。

 

「あ、そういえば動物園へ輸送していたゴリラが事故でどっかに行っちゃったってこの前ニュースでやっていたの」

「なんて冗談?」

 

 大人しそうではある。だが、これどうしたらいいのだろう……

 

「そうだ! アリサちゃんに連絡しよう。困ったときのアリサちゃんだよ!」

「いや、誰?」

「というかこの状況を説明したら――」

「あ、もしもしアリサちゃん?」

「――あ、俺の話はやっぱりスルーなのか……絶対にいつか泣かす」

 

 お互い、相容れない相手というのはいるものだった。

 とりあえず隅っこでいじけるアクア。その頭をゴリラが撫でていた。

 

『なんかよう? 徹ゲーで眠いんだけど……』

「不健康は美容に大敵だってモンタさんが言っていたよ」

『相変わらずね……で、なんか用?』

「えっとね、この前テレビでやっていたゴリラさんがいるの」

『……動物園にでもいるの?』

「ううん、近くの神社」

『………………それって、この前やっていた事故の?』

「うん。そうなの」

『――――え、エライコッチャァァァァ!?』

 

 アリサ、魂の叫びであった。

 

『鮫島! 至急総員配置に付けって言っておいて!』

 

 不吉な叫びが聞こえたかと思ったら切れた。

 

「……なのは、最悪ゴリラさんが不幸なことになっちゃうよ。犬とかじゃないんだからそんなあっさり友達に言うとかよく考えたら…………え、えらいこっちゃぁぁぁ!?」

 

 ユーノは地球の風習とかにまだ慣れていないので、ゴリラに危機感を覚えなかったが、よく考えたらここにいるべき動物ではなかった。

 どうする? どうするんだ!?

 

「なあ、ゴリ吉が向こうに走って行ったけど?」

「「ゴリ吉ぃぃいぃ!?」」

 

 いつの間にか名前(リミピッドチャンネルによって会話可能だった)を聞きだしていたアクア。とりあえずツッコミ所が多すぎる。

 

 ◇◇◇

 

「なんでこうなるんだろう……ジュエルシードも探さないといけないのに」

「みんな逃げ惑っているの」

「そりゃゴリラが街中を走っていればな」

 

 警察とか自衛隊とかの出動前に大人しくさせたいけど、むしろ自分達が近づいたらダメな気も……そう考えるものの、なのはが魔法少女としての仕事なの。そう決意しちゃったのでそれを追いかけている男二人。

 というか、先ほどユーノがなのはの魔法適性を調べたが……空間把握能力と高い飛行能力はまだいい。だが、そのほかの適性が堅牢な防御力強化、周囲の魔力を集める集束、そして、極めつけはとんでもなく高い、いや、全次元を探し回ってもおそらくトップに君臨するほどの砲撃適性。

 こんなに単独戦闘に向いた砲撃魔道師の才能を持った人は可能性適に考えて、なのは一人いたのが奇跡だよとはユーノの弁。つまりはバリバリの戦闘職向きの能力である。

 

「まつのー」

「なのはレイジングハート振り回しちゃダメェェ!」

「……テレビにみつかったら厄介だとは思っていた。だけどな、それ以上にマズイのが見つかった」

「あ、アクア?」

「ハンドウでのサーチに引っかかった。ジュエルシードが、ゴリ吉の前方約100メートルにある」

「ノォォォォォォ!!」

 

 ユーノは地面に突っ伏した。いや、まだだ。この少女は身体強化からの加速魔法でこのぐらいの距離、直線ならなんとかなる!

 

「なのは!」

「うん!」

「ジュエルシードをお願い!」

「分かったの!」

 

 いざ、役に立つ時が着たとばかりになのはは加速し、ジュエルシードを封印しようとするが……

 

「がぺっ」

 

 何も無いところで転んでしまった。高町なのは、運動は恐ろしく苦手である。

 

「お、終わったぁぁぁぁ!?」

「プレト! ……あ、メンテナンス中だった」

 

 これはいよいよ詰んだ。そう思った三人だった。ちなみに、ユーノはなのはに魔法を教えるために見本として色々使ったので、あとは非常時の結界を作る余力しかなかった。封印に必要な分は無い。

 

「ウッホ……ホ?」

 

 そして、ゴリラがジュエルシードを触ってしまう。

 

 ◇◇◇

 

 その日、月村すずかはわけがわからないよ、そう言いたい日だった。友達のなのはは「運命に出あったの」と言って時々連絡が取れなくなるし、もう一人の友達のアリサは昨日から徹ゲー。

 もう一度アリサに電話したら「今から全面戦争よ。なのはは私達が助けるの」とか言い出したので思わず電話を切ってしまった。

 

「まったく、いったいどうしたのかな……」

 

 とりあえず、暇だしテレビをつけてみると……

 

『見てください、突然海鳴市に現れたこのキングコングを! これは作り物ではありません。実際の映像です。 推定10メートルくらいはあります。あ、大きなトカゲのような生き物が突然現れました。コチラは5メートルぐらいで、線も細いですし随分と小柄な……あ、お互いが組み合っています!

 な、殴り合い!? 海岸へ跳んでいきました!? あ、クロスカウンター!?』

 

 なんだこれは……そう思い、やらせなのかなと考えたところで気がついた。キングコングの右手には女の子みたいな金髪の男の子。左手には、「運命をみつけたの」とか言っていた友達が掴まれていて……

 

「あ、もしもしアリサちゃん? 全面戦争の準備を終わらせたからすぐに海岸に行こう」

 

 ◇◇◇

 

 すまんユーノに高町。加減がやりにくいんだ。

 現在、アクアとシードモンスターは海岸で殴り合っている。ネブラにキッチリ変身したが、誰にも変身シーンを見られていないことを祈るばかりだ。

 ゴリ吉は、温和な性格なのだが、一度思いっきり体を動かしたいらしく、それはもう映画のような動きをしたかったらしい。今度移る予定だった動物園に行く前はよく映画を見ていたそうな。

 で、その映画の印象に引きずられて今の姿になったのである。

 

(うまく意識で会話できているからいいけど……とっとと封印しないとやばいな)

 

 とくに、とばっちりを受けている二人は。高町を泣かすのは思わず叶ったから助けるとするかと考え、ゴリ吉を足で掴み、空へ飛び上がる。

 目指すのは本来ゴリ吉が送られるハズだった動物園。

 今回はラティオの実を持っていて助かった。

 到着と同時に変身をとき(最近分かったが、抜け殻は放っておくと砂になる)、ラティオで封印してうやむやにする。まあ、ネブラの姿が悪役扱いになるのを祈ろう。それはそれで嫌だが。

 

 ◇◇◇

 

「なんじゃぁ!?」

 

 空から怪物たちが降りてきよった!?

 今年、60を向かえ、そろそろ引退の時だと思い、最後の仕事にゴリ吉をこの動物園に迎えようと考えていた動物園の園長。

 先の事故ですっかり滅入っていたが、これ以上何が起こるというのか……

 

「な、なにが……」

 

 目の前で怪物が突然砂(アクアがサイコヴォイスの応用で一気に砂にした抜け殻)になってしまい、その中に小さな光が浮かび上がったと思ったら次の瞬間突風が吹き荒れた。

 

「うぐ、一体……む、お、お前は!?」

 

 光は消えていた。大きなゴリラの怪物もいたような気がしたが、砂が吹き荒れたらいなくなっていた。

 だが、そこにはゴリラが一匹いたのだ。

 

「お前はゴリ吉!?」

「ホ?」

「ぶ、無事じゃったのかぁ!!」

 

 その後、園長はあの怪物をまさに光の戦士と語ったという。あのゴリラの怪物をもとの優しいゴリ吉に戻してくれたのだと。

 

 

 後にこれが海鳴に現れた光の戦士の都市伝説の始まりとなることはまだ誰も知らない。

 




今回の用語
『ゴリ吉』

海鳴市近くの動物園のマスコット。の予定で移転してきたのだが数日前に事故で行方不明。
園長とは昔からの知り合い。園長は大層落ち込んでいたが、無事帰ってきた。

帰ってきてからは奇跡の生還とか色々と話題になったり、子供たちのアイドルだったりと忙しくも楽しい日々。
映画鑑賞が趣味で好きな映画は踊る大捜査以下略。


現在のジュエルシードの所持状況

ユーノ、アクア、なのはチーム6個

フェイト、アルフチーム2個

オーガ2個

計10個が出現、いまだ11個行方不明。


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ロスト・F・マイハート

今回は行間みたいな感じで、間の話ですな。
ちょっと閲覧注意です。




 高町なのはは困っていた。

 

「なのは! ほんとうに大丈夫なんでしょうね!?」

「なのはちゃん洗脳されてない? 食欲はある?」

「だ、大丈夫だから、別に怪我とかもないのっ」

 

 友達のアリサと、すずかに詰め寄られているからである。

 どうやら、先ほどのキングなお猿さん事件をテレビで見てしまったようで、ものすごく心配されている。されてらっしゃる。

 

「そうだ! 鮫島のツボ押しテクニックで」

「何をするつもりなのアリサちゃん!?」

「だめだよアリサちゃん!」

「そ、そうなの。すずかちゃんからも言って――」

「ファリンとお姉ちゃんに頼んで脳内スキャニングを」

「考えうる限りで最悪の状況なのぉぉぉ!?」

 

 膨大な魔力を持ち、その気になれば海鳴を焦土に変えることの出来るだろう才能を持つ彼女も、根は優しい少女。

 そして、相対するは親友達。彼女にはただ、言葉を使って二人を落ち着かせることしか出来なかった。たとえ、身の危険を感じても。

 

 ◇◇◇

 

「ジュエルシード、シリアル01……回収完了ッと」

 

 ユーノは研究所跡地にて、今までのジュエルシードを確認していた。それと平行して、レイジングハートとハンドウのメンテナンスをしている。

 レイジングハートは元々、ユーノの持ち物であるし、長年一緒にいたので整備はお手の物だ。ハンドウにしても、基本はストレージの技術をもとにしているので、整備が難しいわけじゃない。

 

「うーん、でもなんか……これってどういうことだろう?」

 

 ハンドウと呼ばれる、地球産デバイス。どうも、パーツが足りない……というより未完成な気がするのだ。むしろ最低限度の機能に+αしただけに思える。

 本来の性能はもっと高いのではないのだろうか……それに、この機構ならより効率のいい形も可能なのにあえて余剰パーツが出ているようにも思える。

 後付で付け足すことも出来る気がするし……

 

「もしかして、本当は別の目的があるのか?」

 

 ミッシングリンク、ベターマン、ジュエルシード、テロリスト達に、金色の少女。そして、異常な魔力濃度のこの街。

 

「嫌な予感がする……」

 

 いまはただ、自分に出来ることをするだけ。

 そう自分に言い聞かせ、ユーノは作業に戻った。

 

 ◇◇◇

 

 アクアは困っていた。

 

「女の子がな、こないな時間に薄着するもんやないで」

「えっと、俺、男――」

「だまらっしゃい。エキゾチックな魅惑の容姿をしておいて男なわけがないやろ!」

 

 理不尽なことを車椅子の少女に言われているのである。

 関西弁(普通にしていれば、京都弁とかおしとやかそうなイメージで通りそうなのに、アグレッシブな大阪の雰囲気も同時にはなっていた)で泣きたくなるようなことを言われてアクアはホントに涙目だ。

 

「えっと、そろそろ帰っていいかな」

「シャラップや!」

 

 今日の飲み水を公園に確保しに来たのが運のつきだったのかな……でも、水を確保するにはこれが一番いい方法だったんです。

 理不尽な説教はまだ続きそうだった。

 

 ◇◇◇

 

 そして、そんなことが起こっているちょうどその頃。時刻は既に遅く、日も沈み始めている。そんな時だった。

 

「で、降参か?」

「まだ、です」

 

 金色の髪をなびかせた少女、フェイトが体に包帯を巻きつけた男と対峙していた。

 男の名は、オーガ。

 

「まさかプレシア・テスタロッサにまで顔が知られているとは光栄だよ」

「母さんの名前を、気安く口にするな」

「おおコワイコワイ。で、どうするんだい?」

 

 フェイトがこの男と戦っている理由は単純明快。

 

「そのジュエルシード、渡してもらいます」

「そんなことが言える立場かい?」

 

 強制発動させようとしたシリアル14、それをこの男に止められた上に、奪われたのだ。ジュエルシードを奪い返そうとフェイトとアルフが挑むも……

 

「アルフ……」

「安心しな、殺しちゃいない。もっとも、しばらくは動けないだろうけど」

 

 アルフは徒手空拳で挑むも、オーガの体が電気になったかと思った次の瞬間、吹き飛ばされてしまったのだ。

 

「ミッシングリンク、これほどとは……」

「管理局とかだとそう呼んでいるんだっけ? まあ、これで俺のジュエルシードは3つ。強制発動とかされて管理局に気がつかれるわけにはいかないし……

 プレシアも俺のこと警戒しているみたいだしなぁ」

「あなた、自分が何をしているのか分かっているのですか?」

「なに? ああ……あれのことか」

 

 オーガの言う、「アレ」は地面に転がる肉塊のことだ。

 肌色の肉に、赤い血が飛び散ってその有様はひどい。

 

「ジュエルシードを封印するのに、そんなことを……」

「君だって強制発動させたでしょ? 一歩間違えばここら一帯の人たちは皆殺し。君にはその覚悟はないの?」

「ッ……」

「その程度で、俺に勝てると思わないことだよ……」

 

 オーガの右手に雷が集まる。

 大気を震わせ、鈍く輝いている。

 

「さて、なるべくなら穏便に済ませたいけど……イレギュラーも多いし、俺のタイムテーブルが狂ったらヤダだからね……しばらく眠ってろ」

「ぐっ、」

 

 雷が自分を襲う。その動きはまるでムチのようで――

 

「かあ、さん?」

 

 ――わけが分からなかった。あの動きは、自分にムチ打つ母の姿ソックリだった。

 いや、彼のほうが何倍も邪悪だ。まて、なんで自分は彼と母を重ねた。自分の大好きな母だぞ?

 ノイズが奔る。それを否定する自分と、母を信じる自分がせめぎ合う。

 

 反応が間に合わな――

 

「フェイト!」

 

 ――相棒の声が聞こえた。

 眼前に迫るムチ。回避、出来ない。

 なら方法は一つ。自分は苦手だが、これ以外に方法はない。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 辺りに爆風が吹き荒れる。爆発の術式を同時にこめることで、もともとの能力は格段に上がっている。

 

「やりすぎていないといいな……火傷とかシャレにならない、まあ、顔が無事ならそれでいいのか、体のほうはどうせあのババアがムチで色々やったんだろうし」

 

 その表情は癇癪を起こした子供そのものだ。いや、それに邪悪さが加わったそれはただ醜悪なだけである。

 ジュエルシードを封印するのに通行人を使う必要なんてなかった。ただ、自分の魔力を使うのが億劫だという、ただそれだけの理由なのに何故彼女はあんなに嫌悪した目で自分を見るのだろう。

 

「まったく、わけが分からない」

 

 歪みすぎたその心は、酷く不安定で、いびつで、人では無かった。

 

 ◇◇◇

 

「フェイト、フェイト……」

「大丈夫、アルフ……ちょっと疲れただけ」

 

 フェイトは無事だった。だが、魔力もほとんど使い果たした。今はアルフに魔力をまわしている。この状況なら、まだ体が動くアルフに力を与えたほうが拠点へ速く戻れる。

 

「でもロストロギアがアイツの手にあるんだよ?」

「今まで集めた分を奪われなかっただけいいよ。それより、母さんにどう報告しようか……」

「フェイトぉ、もう逃げようよ……もう、みたくない、こんな、こんな……キズだらけに」

「大丈夫、一日休めばまた動けるよ」

 

 母は言っていた。ミッシングリンクには気をつけろと。それでも、自分のやることに変わりは無い。出来るだけ多くのジュエルシードを回収しなくてはいけないのだ。

 人を傷つけようとも――嫌だ、人を傷つけたくは無い。

 他人のものを盗もうとも――本当はいけないことだって分かっている。

 たとえ、自分にウソをついても――母の笑顔を取り戻すためならば。

 

 そう、あの笑顔のためならば

 あの丘で自分に見せた笑顔のためならば、自分は――

 




今回の用語
『ロストロギア』

管理世界の中で、高度に発達した世界が滅んだ時に、次元世界に流れてしまった古代遺失物のこと。
危険度が低いものがほとんどで取引されている場合も多い。
だが、時には非常に危険なモノもある。

有名なのは「闇の書」、「聖王の遺産」など古代ベルカにまつわるものが多い。

また、御伽噺レベルだが「アルハザード」と呼ばれる伝説の世界には、現存されているロストロギアを上回る何かがあるとも言われている。
「アルハザード」の古代遺失物は今のところ見つかっていない。


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ソロモン・W・ネガワールド

ちょっとキンクリしたと思わせて急展開?
いえ、以前から決めていたことです。
用語解説コーナーに伏線を張らないと思っていたのかい?
そんな事は無い。

あ、アクア君の容姿について感想で言われたので、
現在は某起動戦士の∀の主人公みたいなイメージです。身長とかは9歳なので相応に低く思っていただければ。
声のイメージも同様。
ベターマンのチャンディーそのままでもいいのですが、あちらは目が死んでいるのがデフォなので、それは無いなーと思ったのでこうなりました。




「シリアル07封印完了っと」

 

 夜の公園、ユーノとアクアになのはの三人はジュエルシードを封印していた。

 今回は動く樹木の化け物になり、シールドも使用してきたので多少手強かったが、なんとか封印できたため一息ついていた。

 

「まあ対した被害もなかったし、妨害もなくてよかったな」

「そうだね、これで7個か……」

「うーん、フェイトちゃんとお話したかったんだけどなぁ」

 

 なのはだけはフェイトに会えなかったので残念そうではあるが、とりあえず帰路につこうとしている。

 

「さてと、夕飯を探しに行くか」

「そうだね」

「あ、それなら家に食べに来れば――」

「「却下」」

「なんで!? アクア君ならまだしもユーノ君まで!?」

 

 まだしもってなんだよ……そうアクアは一人ぼやく。ユーノも苦笑しているが、とりあえず説明はするかと、口を開いた。

 

「あのね、なのは。僕達は出来るだけ人に見つからないようにした方がいいんだよ。というか素性の分からない外国人な見た目の子供を二人も家に連れて帰るなんて……」

「ウチのお父さんもお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんもやるとおもうの」

「どんだけ!?」

 

 さすがにユーノもツッコミを入れずにはいられなかった。

 アクアは後ろの漫才は無視して、今日のメニュー(狩りの対象)を考えていた。

 

「うーん、イノシシには警戒されているし……やっぱ熊か? いっそのこと蛇でも探すか」

 

 考えがグロくなっていき、そろそろR指定てきに危なくなりそうなところで何かに気がついた。

 

「……ユーノ、気がついたか?」

「ああ、この嫌な魔力……」

「え、なに? なんなの?」

 

 なのはだけは異様な魔力に気がつかなかったが、ねっとりとした、嫌な魔力が近づいているのだ。

 

「……だれだ、そこにいるのは?」

 

 アクアが茂みの方へ問いかける。数秒の後、茂みが動き、黒いスーツを着た男性が出てきた。メガネをかけ、髪型は七三分け。

 一昔前の営業マンといった体だ。

 

「おやおや、子供と侮っていましたが中々……先ほど膨大な魔力を感じましたので近づいてみた次第です。そちらの女の子はともかく、あなた方は死の匂いが分かるのですね」

 

 声はたしかに男の口から出ている、だが……ナゼダ、ナゼチョクセツミミニカタリカケラレテイルヨウニキコエル?

 

「はうぅ」

「なのは?!」

「おや、話すだけでも無理とは……魔王レベルの素質はありそうですが、まだ未熟ですね」

 

 目の前の男が話すだけで力が奪われるような気になる……アクアとユーノは息が荒くなっていく自分に気がついた。

 それに、なのはが倒れたことで思考が途切れたが、先ほどの自分は、何かがおかしくなっていくような気がした。

 

「……ハンドウ、リリース。プレト、ラクシャーサ」

 

 ハンドウを封印魔法を起動するために展開していたので、解除してプレトと融合しようとする。だが、

 

「プレト?」

 

 反応はなく、コチラも気絶したように動かなくなっていた。

 

「プレトも動けなくなるなんて……」

「貴方はいったい?」

 

 

 そこで、男はもうしおくれましたと言い、自己紹介を始める。

 

 

「ワタクシ、ラウムと申す者で悪魔をやらせてもらっています、ハイ」

 

 ◇◇◇

 

 悪魔、次元世界にも確認はされているが、詳しく知る者はほとんどいない未知の存在。

 下級程度なら使役する魔女も知られているが、ユーノもここまで知能が高い存在は知らない。

 アクアも、半信半疑だが、相手の威圧感のようなものが、自分の無意識下でそれを認めさせようとする。

 

「さきほど、膨大な魔力を感じたのできてみたのですが……先ほどの宝石がそのようですね、あいにく私とは相性の悪い魔力ですので見るだけ見て帰ろうと思っていたのですが…………なるほど、あなたたち、実に興味をそそる」

 

 値踏みするような視線。何かを見透かされるような、そんな気持ちの悪い視線だ。

 

「なるほど、『害虫』はそろそろ動き始めますか。害のない方もいるようですが、『1番目』は確実に潰したいですね」

 

 動けない。はやく、コイツを何とかしないと、うしろには倒れたなのはがいる。それが二人を焦らせる。

 

「む、心外ですね。いくら私でも無闇に殺しはしませんよ。ただ、貴方達『益虫』の未来を見ていただけです」

「未来、だと?」

「ええ。私は召喚されれば未来、過去、現在の情報を教えると言い伝えられていますからね、時々は自分の都合で『見て』教えることもあるのですよ。最近はめっきり呼ばれませんから、こうして趣味のようになってしまいましたけど」

 

 いかにも怪しいが、ユーノは何か考え込んでいた。

 アクアも未来を見る能力は存在すると聞いたのを思い出し、ありえない話ではないのか? と考える。

 

「というか、人を虫呼ばわり……」

「まあ、通称のようなものですよ。『害虫』の方は『ミッシングリンク』でしたっけ? 貴方達はそう呼ぶみたいですが」

 

 なら、『益虫』……つまり、ミッシングリンクである『不死者』と戦うために生み出された自分なら当てはまる。

 

「彼らは私達にとっても危険な存在でしてね、まあ厄介な上、私達では勝てないのですよ……一部だけですがね。それでも一番強い『彼』には困っている次第でして…………ですが、ここにうってつけの人材が要るではないですか!」

 

 そう言うと、ラウムは人の姿からカラスへと変貌する。

 黒い羽が舞い、辺りに降り注ぐ。

 

「ガハッ!?」

「ユーノッ!? お前、何をした!」

「なんてことはないです。ただ、私の魔力を少し解放しただけですよ……そちらのお嬢さんも平気なところを見ると、貴方とお嬢さんは素質があるようですね。もっとも、現段階ではお嬢さんは無理ですか。半年ほど待ってみるのが得策でしょうか?」

「さっきからわけのわからない……とにかく、お前は何がしたいんだよ!」

「…………ふむ、そうですね……出あったのは偶然ですが、やることは……そうだ、なるほどなるほど……未来の助言です。あなた方はこのままでは近いうちに死にますよ」

「な、に?」

 

 この男はなんと言った? 死ぬ、そう言ったのか?

 

「で、出鱈目を言うな!」

「まあ信じる信じないはあなた方次第ですし……ヒントを一つ、一人では無理なこと

成し遂げる時、二人いれば出来るのは当たり前。ですが、それを体一つでやらなければならない時はどうすればいいか?」

 

 わけが分からない。どうすればいいんだ? というより、この謎賭けはいったい?

 後ろを見ると、ユーノは気絶していないようで話を聞いていたらしい。表情から考えているのが分かる。だが、ユーノも答えは出ないようだ。

 

「さて、回答をドウゾ! 正解すれば豪華景品をプレゼント。間違えれば地獄行きです」

「え、ちょ!? あ、えーっと……合体すればいい!」

「……アクア」

 

 自分でもバカやった……思わず、心の底でなんか魂が叫ぶようにその言葉が出たのだ。

 曰く、『合体は男のロマン』だとか。

 

「――見事、正解です!」

「ええ!?」

「悪魔の中には合体できるものもいますから」

「そ、そりゃいそうだけども! 人間には無理だよ!」

 

 ユーノも思わずツッコむ。

 というか、悪魔ってこんなにおチャラけているのか?

 

「果たしてそうでしょうか?」

 

 突然、そこで真面目な口調になるラウム。

 見た目もカラスから人になる。

 

「あなた方は知っているはずですよ、それが出来る方法があることを」

 

 ねっとりと粘りつくような視線から、何かを期待するような目に変わる。

 彼は一体、何を伝えようとしているのだ?

 

「まあ、気がつくことを期待していますよ……それでは、これが豪華景品です!」

「あぼおぉ!?」

「あ、アクア!?」

 

 アクアになにかボールのようなものが投げつけられる。

 それが直撃してアクアは吹っ飛んでしまい、目を回している。

 

「どのような結果をもたらすのか、楽しみですね……さて、貴方にも一つ言っておきましょう。貴方はまだ自分が何者なのか分かっていない。ですが、その答えはすぐに分かるでしょう……そのときに貴方が正しい答えを出すこと、それが未来へ繋がる鍵です」

 

 そういい残し、ラウムは消えた。

 後にのこったのは静寂だけだった。

 

 ◇◇◇

 

 そのときの事はレイジングハートの記録には残っておらず、原因不明のノイズがしばらく続いていて自分でも何が起こっていたのかわからなかったという。

 多くの疑問と、謎が増え、アクアも何かを入れられた。

 

 分かったのは、ジュエルシードよりもマズイ何かが存在していることだった。

 

 それ以上に恐ろしいのは、その恐ろしい存在さえ警戒する『不死者』のような『ミッシングリンク』がジュエルシードを狙っているかも知れない上に、敵の数も未知数。

 いや、あの悪魔の話を信じるなら、きっと近いうちに戦うことになるのだ。そして、戦う理由は今集めているジュエルシードが関わってくる。

 そして、自分達が死ぬかも知れない。

 

 分かったのはそれだけだった。

 




今回の用語
『ラウム』
召喚者の前にはカラスの姿で現れると言い伝えられており、人の姿をとることもある。

危険度はそれなりに高いが、過去、現在、未来の情報を教えてくれたり、敵と和解させる能力も持つ。

この作品では、昔のサラリーマンみたいな格好で出てくる。
能力の関係で「見た」相手の過去や未来を見ることが出来る。



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ブースト・A・ワールド

アクアの話です。
今回は残酷というより、ある人物の発言が気持ち悪いので気をつけてください。

実は、原作ではすでに管理局は到着しているハズの時間軸。
次元震が起きていないのでこうなるべきなのか、それとも……


 謎の悪魔が襲来してから早五日。

 アクアの体には不思議と異常は無く、結局ジュエルシードを捜す日々が続く。

 このごろは手分けして捜すことも多く、フェイトとなのはが戦うこともあり、技量の差で負けてしまいシリアル8、9と続けてフェイトにもっていかれてしまっている。

 

 そのため、今日はユーノと特訓をするつもりらしく、アクアは一人で街中を見てまわっていた。

 

「ったく、時空管理局ってのも全然くる気配が無いし……遭難者の救出に時間かかりすぎだな。このままだと一ヶ月経つぞ」

 

 ユーノが地球に遭難していることぐらい気がついていそうなものだが……いや、ユーノが説明していた時言いよどんでいたことがあった。

 考えたくはないが……

 

「管理局も知らないのか?」

 

 ユーノは管理局員に伝えたはずだが、もしもその伝えられた相手もジュエルシードを狙っていた連中の仲間なら……

 

「なんか面倒なことになってきたな……ハァ」

 

 フェイトに来る気配の無い管理局。それに悪魔。ミッシングリンクのこともあるし、敵対勢力はいくつあるのか……

 憂鬱な気分になり、アクアは思わずため息をついてしまう。

 今日はこれ以上探してもジュエルシードは見つからない気もしてきた。とりあえず、懐に入れておいた木の実を食べようと、手ごろなベンチを捜す。

 

「竹水筒もよういして……ん?」

 

 ふと、視界に気になるものが入った。金色の髪に、黒い服。隣にはオレンジ色の狼……

 明らかに自分達と敵対している少女だった。

 

「んー……あとつけるか」

 

 とりあえず、尾行することにしてジュエルシードの捜索を打ち切った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 後ろをつけて分かったのは、どうやら今日はケーキを買いに来たということだ。

 というか、お金を持っていることに対してこっちは涙を流しそうだった。

 無一文でサバイバル生活の自分達に比べて……

 

「ヤバ、マジで泣きそう」

 

 ホントに涙が出てきた……ちょっと体育座りに適した角がないか思わず捜してしまう。

 と、そこで彼女らが店から出てきた。店の店員が高町に似ていた気がしたが気のせいだろう。

 ただ、そのときのフェイトの顔が心に残った。

 

 

「なんか、幸せそうに笑っちゃって……そういう顔が出来るのになんでこんなことをやっているのかね」

 

 

 スニーキングミッションを再開するため、ダンボールをかぶる。これはこの前木の実をとっていたときにサバイバルに詳しいダンディな方から教えてももらった方法だ。

 なんでも、敵に見つからない最高のカモフラージュアイテムなのだそうだ。

 

「じゃ、レッツゴー」

 

 ぬるぬる動き、相手の後をついていく。傍目から見ればホラーな光景のはずが、本当に誰にも気がつかれていない。

 まさか、マジだったのか……暇だったから冗談のつもりで使ったのに本当に効果があるとは思わなかった。というか、フェイトが天然なだけか?

 

「まあ、このまま敵の本拠地に殴り込みできたら最高なんだけどな」

 

 そう上手くはいかないだろうけどとも思うが。

 と、あたりの空気が変わったことに気がついた。

 

「結界……いや、ちょっとちがう?」

 

 なんというか、この前の悪魔よりも粘っこくて気持ち悪い気配だ。その気配が周囲を包み込んでいる。

 

 

「そこにいるのは分かっています」

(バレたか!?)

「こんなことをしないで出てきてください!」

(やっぱりダンボールじゃダメか……)

 

 フェイトの叫びに、自分の存在が気がつかれたと思い、戦闘準備をする。右手にはすぐに変身できるようにポンドゥスの実を準備して、ダンボールの中で飛び出せる体勢をつくる。

 

「さあ、速く!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「へえ、流石に気がつくか」

「……当たり前です。さあ、はやくそのジュエルシードを」

「君だって溜め込んでいるんだろ?」

 

 アクアは混乱した。見たことのない男。いや、どこかで見たような気もする。

 というか、ここに来て別の勢力が現れるとは……

 

(本当にダンボール効果あったのか……まだ気がつかれていないとかスゲー)

 

「さて、そっちの君も出てきたらどうだい?」

(あ、やっぱだめすか?)

「アルフ」

 

 って、アルフかよ! 思わずツッコミをいれたくなった。

 アルフはいつの間にか物陰に隠れており、すぐに出てきた。

 

「あんた、やっぱり嫌なにおいがするよ……血の匂い、また誰かを封印のために使ったのか!」

「何度も言うけど、君たちがやっていることだってただの犯罪だろ」

「……それでも、貴方のような下種じゃないことだけは確かです」

「うーん、そんな目をして言われても説得力がねぇ……」

 

 粘っこく、人のことを物を見るかのような視線で見ている男。

 その顔に心当たりが無いか必死に探っていくアクア。

 そこで、前にユーノに見せてもらった顔写真を思い出した。

 

(……コイツ、次元犯罪者ってやつじゃないのか?)

 

 ユーノに見覚えが無いか一度だけ聞かれた男。

 そのときはまるで見覚えが無いから話はそこで終わったが……

 

(ユーノ! ジュエルシードを狙っている奴が他にもいた! 状況が状況だからこっちからの一方的なメッセージになるけど、第三勢力っぽい。前にお前が見せてくれた次元犯罪者の奴だ!)

 

 リミピッドチャンネルを使用して、メッセージを残す。

 そこで、男が動いた。

 

「さて、そんなケーキなんか意味無いと思うけど……」

 

 電撃を纏わせた蹴りを放つ。狙いはケーキの箱。

 フェイトもそれに気がついたのか高速で後ろに下がる。

 そのタイミングで、アルフが前に出る。

 

「フェイトに何するんだい!」

「邪魔だよ」

 

 指先から迸る電撃、それだけでアルフは弾き飛ばされた。

 

「フェイト……なんで、避けるかな」

「貴方なんかには関係ない! これは母さんに渡すものだから!」

「だから、意味なんかないよそんなことには……分からないなら力づくだ」

「狂ってる……」

「皮肉だな、君がその言葉を使うなんて……まあ、今は分からないだろうけど」

 

 男の瞳には最早生気はない。段々と、人としての色を失っていくようだった。

 

「そうだ、いっそのこと剥製にでもしたほうがいいかも知れないよねぇ」

「ヒ――ッ!?」

 

 その一言が、俺を怒らせるには十分すぎた。

 

 ◇◇◇

 

 男――オーガには何が起こったかわからなかった。突然、黒色のなにかが飛び出したかと思ったら、自分が弾き飛ばされていたのだ。

 一瞬、雷化ができなくなったような気もしたのだが……

 

「きのせい、か……で、お前誰だよ」

「ただの通りすがり……じゃ、納得しないよね」

 

 アクアは静かに怒っていた。オーガの剥製にするという発言。あれは本気だった。そして、本気で殺す気で力を放とうとしていた。

 

「な、なんで君が……」

「んー泣いている女の子を助けるのに理由は要らないんじゃないかな」

「――ッ」

「なんで睨むんだよ……」

 

 助けたのに、顔を紅くして睨まれるって理不尽。

 そんなに怒るようなことだろうか?

 

「そうか、あの邪魔な餓鬼か……ロケットパンチは見事だが、それだけじゃ俺には勝てねえ……いいぜ、見せてやるよ核の違いって――」

「あ、そういうのいいからハゲ」

「――アン?」

「だから、ハゲの前口上はいいから。この雑魚」

 

 オーガの米神がヒクヒクと動く。右足を後ろに下げ、先端が雷に変わる。

 その能力は全身を電気に変化させることの出来る力。ミッシングリンク、本来であれば通常の魔道師などには負けないであろう力だ。

 

 だが、オーガは知らなかった。アクアが何のために生み出された存在かを。

 

 

「死ねッ!」

「破アア!!」

 

 アクアは瞬間的に高めた魔力を纏い、雷撃の蹴りを弾き返した。

 もともと動きは素人のオーガである。今までだって能力に頼った戦い方をしていたのであっけなくバランスを崩して後ろに倒れてしまう。

 

「ゴフッ!?」

「やっぱ雑魚……」

 

 対するアクアは数年の間、サバイバル生活をしていた。生きるか死ぬかの命がけの日々。その中で熊やらの猛獣と戦うこともしばしば。今では素手で熊を殴り殺せるのだ。効率重視でプレトを使うことがほとんどだが。

 

「あ……ありえない。ミッシングリンクの攻撃を、魔力だけで弾き飛ばすなんて」

「んー、まあコイツがミッシングリンクって奴なら、そういうことも出来るのかね。俺の場合、コイツじゃないけどミッシングリンクと戦うために生まれてきたようなものだし」

 

 フェイトにはその言葉が理解できなかった。まるで、自分が愛されていない生まれ方をしたような言葉だったからだ。だが、彼の表情と声色はフェイトにその考えを否定させた。

 そんなことは微塵も思っていないからだ。

 

「なんだよ、なんなんだよお前は!」

「ただの通りすがりのベターマンさ」

 

 ◇◇◇

 

「結局、逃げられたか……」

 

 オーガは雷状態で飛んで逃げていった。自分の能力が通用しないのが効いたのだろう。

 フェイトたちも気がつくと姿が見えない。だが、近くにはいるようだ。

 

「……リミピッドチャンネル全開!」

 

 ここで逃げられるのはちょっと困る。本拠地に乗り込むチャンスを目の前にみすみす逃すつもりは無い。

 まだ、近くにいることも助かり、フェイトの時空移動前に捕捉。

 すぐに転移したが、リミピッドチャンネルの力で、居場所を特定。

 

「さてと……あ、あーユーノ、聞こえるか?」

『どこに行っているんだよ! こっちはジュエルシードとか出てきて大変だし、それよりアイツが出たって本当!?』

「念話なのに、鼓膜が……とりあえず、あの男には逃げられた。ジュエルシードを捜しているみたいだし、お前らも気をつけろよ。頭の中、かなりヤバイ奴だ」

『……知ってる。だけど、アクアは大丈夫なの?』

「相性よかったからこっちはノーダメージ。次はどうなるか分からないけどな。とりあえずフェイトの本拠地が分かったから乗り込んでくる」

『……ハァ!?』

「とりあえず、決着付けられたらいいけど、無理だったらなるべき時間稼ぐ」

『本当に大丈夫なの!? って、ああなのは!?』

「どうしたんだ?」

『封印作業中!』

「まあ、大体分かった。とにかく行ってくる……いざとなったら切り札で変身するから俺のことは気にするな。それより、地球の方が危ないかもしれないから」

『…………大丈夫、決着をつけるし、無理だとしてもなのはは必ず守る』

「お、なんかあった?」

『色々とね……それより、君のほうこそなんかあったの? 単独で本拠地に行くなんて』

「ああ……色々とな」

 

 頭に浮かんだのはフェイトのあの笑顔。

 

「杞憂ですめばいいんだけど……」

 

 どうにも嫌な予感がしていた。

 だが、前に進むしかない。

 

「さてと、次元転移……音波、重力、それとも……」

 

 取り出したのはアクアの実。海を渡る姿、海……

 

「まさか、次元の海も渡れるとは思わなかった……ユーノ解析ありがとう、な!」

 

 俺はその姿を変え、次元の海へ飛び出した。

 昔、この姿で高速飛行したのは、無意識のうちに体に魔力で水を纏い、次元の海を使ってショートカットしていたからだ。

 気になって、少し前にユーノに解析してもらっておいて助かった。

 

 

 そして、俺は敵の本拠地――のちに分かることだが、時の庭園という――へ突入した。




今回の用語
『ダンボール』

本来の用途は物を入れるため。
布団代わりに使う人もいれば、子供のおもちゃにもなる。

そして、高いステルス性を誇るアイテムでもあるとはどこかの蛇さんの言葉かもしれない。



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アンダー・Y・ヒストリー

長ったらしくやるつもりもないので、どんどん進むかも。
本日二話目。




 今日は別々に行動してジュエルシードを捜すことになった。

 だけど、あの悪魔の一件の後、なのははフェイトに二回ほど続けて負けてしまった。

 それが悔しいのか、特訓を頼まれたので僕はなのはに魔法のレクチャーをしている。

 

「ねえ、なのはは何でそんなに魔法に拘るの?」

「んー……」

「お家の手伝いをしたり、ケーキを作っているほうが似合っていると思うけどな」

 

 それに死の危険なんか無いから……そうつぶやいた言葉はなのはにも聞こえたのだろう。

 少し笑っていた顔が、無表情になる。

 

「魔法はなのはが思っているようなものじゃないよ。怪我だってするかもしれない、死ぬかも知れない。そんな危ないものなんだよ」

「そうだね、私もまだよく分からないかもだけど……それでも立ち止まるのはもっと嫌なの」

 

 なのははそういった後、僕にこんな話をした。

 

「あのね、ユーノ君――」

 

 昔、父親が危ない仕事――ボディーガードらしいが、本当は少し違うかも知れないそうだ――をしていた時、大怪我をしてしまい生死の境をさまよったそうだ。

 そのとき、家族が大変で……自分の相手をする暇は無かったらしい。

 でも、自分がいい子でいようとしたこと。いい子にするために、迷惑をかけないようにするために一人で公園で遊んでいたことなど……

 

「私に出来ることがあれば、もっと違ったと思うんだ。だから、危ないかもしれない、それでもあんな悲しい目をしたフェイトちゃんとお話がしたいの。もちろん、ユーノ君のことも助けたいってのもあるけど」

「でも、無理に戦う必要は無いと思う……なのはが戦うことなんて無いんだよ」

「む、そこまで言うと怒るよ」

 

 それに、と続けてなのはは言葉を出す。

 

「そんな感じで一人でいたときなの、スーツを着たお兄さんがこんなことを言ったの」

 

 

『君は、平穏に暮らすのと、戦うのと……どっちがいい?』

 

「あのときは何のことだか分からなかったけど、今は分かるよ。私はね、フェイトちゃんのことを忘れて翠屋を継ぐことになるのと、翠屋のことを必殺料理人のお姉ちゃんに任せることになったとしても、フェイトちゃんとお話できる方、そのほうが幸せだし、たとえ怪我しようがなんだろうが、そうやって立ち向かった方が絶対に幸せなの!」

「……プッ」

「ちょ、なんで笑うの!?」

「なんでもない、なんでもないよ……だめ、おなかいたい」

 

 なんで笑うのー!! そうやってなのはが怒るが何とかなだめる。

 

(そっか、そうだよね……なのはが幸せかなんて、なのは自身にしか決められないよね)

 

 自分が巻き込んでしまったと思ったが、この少女はきっとどんな形にせよ魔法に関わってくる。いや、魔法じゃなくてもなにかしらの戦いへと足を進めるのだろう。

 立ち止まっているより、立ち向かう方が幸せなのだから。

 

「さてと、じゃあ続きをやろう……魔法の意味を分からないまま使うのも危ないし、なのはの苦手な文系の考え方と、体力づくりね」

「ちょ、それは勘弁して欲しいなぁ……って、だめかな?」

「ダメ。さっき立ち向かった方が幸せって言ったよね」

「そ、そんなぁ……」

 

 そんなこんなで、しばらく特訓を続けていた時だった。

 

(ユーノ! ジュエルシードを狙っている奴が他にもいた! 状況が状況だからこっちからの一方的なメッセージになるけど、第三勢力っぽい。前にお前が見せてくれた次元犯罪者の奴だ!)

 

 突然、アクアから念話、いやリミピッドチャンネルというものを使ったメッセージが届いた。

 そして、その言葉はユーノにとって無視できないものだった。

 

「!?」

「ユーノ、君?」

 

 ユーノは走りだそうとした、だが、足が固定されていることに気がつかずバランスをくずして倒れそうになる。

 

「あ、足がぁああ!?」

「むぅ、どうしたの?」

「いやどうしたってなのはこそいきなり何するんだよ!」

 

 レストリクトロックなんていつの間に仕込んだのやら……

 

「ねえ、鏡見て……今のユーノ君、凄く怖いよ」

「あ……」

 

 そこで、姉の言葉がよぎる。優しいままの自分……今の自分はなんだ?

 冷静さを欠いている自分はだめだ。落ち着け。落ち着くんだ……

 

「ねえ、何があったの? 私のことも話したんだから……今度はユーノ君の番だよ」

「……長い話になるし、アクアのことも気になるから走りながらになるけど」

 

 

 ユーノは語る、数年前から始まった因縁。そして、その顛末と、姉の敵がこの街にいること……

 

「ねえ、ユーノ君、ユーノ君はどうしたいの?」

「僕?」

「うん。お姉さんが言ったからじゃなくて、ユーノ君はどうしたい?」

「……そうだ、僕は」

 

 今まで、姉の言葉で動いていた気がする。そうだ、ミッシングリンクと戦うことだけを考えていた。

 今の自分じゃ絶対に勝てない。なら、今の自分はどうしたい?

 もちろん罪を償わせたいが……

 

「ああ、そうだった……そうだったよね」

 

 ジュエルシードを探す中で、この街の人たちを見ていた……暖かい人でいっぱいだった。

 なぜか懐かしさを感じたこともある。

 魔力が不自然に多いとか、色々な悪い点を見てしまっていた。

 そうじゃない。自分が望むものは……

 

「もう、今度は力をもたないわけじゃない」

 

 守るための力はここにある。戦うための力はここにある。

 一人じゃ無理かも知れない。いや、一人じゃだめだろう。

 

 だったら、一緒に戦ってくれる人を守れる人に僕はなりたい。

 この地でできた友人二人を守れる人になりたいんだ。

 

 

 そのときだった。空から大きな影が落ちたかと思ったら、なにかが急降下した。

 

「ッ」

 

 それでも、慌てることなくユーノは障壁を張って鎖で縛る。

 シードモンスター。巨大な鳥だ。

 

「なのは、これから迷惑をかけることになるだろうけど……力を貸してくれる?」

「もちろんなの! いやだって言っても勝手についていくからね!」

 

 ◇◇◇

 

 結界をはり、人目につかなくしたが……そこで念話が届いた。

 オーガは逃げたそうだが、アクアが無事でよかった。

 その後にとんでもないことを実行しようとしているが、彼なら大丈夫だろう。

 

「なのは!?」

 

 問題は、魔法陣を見た瞬間に文系を考えてしまい目を回すなのはだった。

 

「まさか……ここまで文系と相性が悪いとは…………」

 

 しばらくかかって、ようやくジュエルシードを封印完了。

 というか、魔力を練りこんでシールバインドでユーノが封印した。

 

「ごめんなの……」

「ま、まあこんな日もあるよ!」

 

 とりあえず今日は終わりにして……そう思ったときだった。

 

「ストップだ! ここでの戦闘は……あれ、もう終わってるのか?」

 

 黒ずくめの少年が転移してきた。

 魔法陣から見てミッド式、ユーノは身構えるが、少年の着ている服がなんなのかに気がついた。

 

「時空管理局?」

「ユーノ・スクライアだな、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。君を保護しに来た」

 

 物語は動き始めた。だが、近くには先ほどまで戦闘していて、敗北してしまった犯罪者がいたことをユーノは忘れていた。

 いや、あまりの速度に気がつけなかったのだ。

 

「ガアアアアアアア!!」

「な、なんだ!?」

「なに、お、鬼?」

 

「オーガ……まだ近くにいたのか」

 

「ゆるさねぇ……アイツも、俺の人生を狂わせた何もかも、全てだ、時空管理局、あの餓鬼、それにお前もだぁぁああ!!」

 

 自分を見て、そう言ったオーガ、だけど……

 

「散々、人の人生を狂わせておいて、今度は……それに、その後ろの人たちは……」

「ヒッ……」

「なのは、下がっていて。出来れば目をつぶっていて。たぶん、見ていられないよ」

 

 ジュエルシードをあんなふうに使うなんて……オーガは手に持っていた死体を上に投げて、ジュエルシードを投げつける。

 

『ウゴアアアアアアアアアアアア!』

 

 シードモンスター……ゾンビが現れた瞬間だった。

 

「足止めしてろよ……俺は、行くところがあるからな……」

 

 そういうと、オーガは姿を消す。

 残されたのは、シードモンスター一体。だが、死者に取り付いたそれはひどく強暴だった。

 

「クロノ、だっけか? なのはを頼みます」

「ま、まて! 民間人の君が――」

「大丈夫、本気でいくから! 《チェンジ・ビースト》」

 

 動物への変身魔法を発展させた身体強化魔法、《チェンジ・ビースト》

 四肢を獣のように変え、体の形も少し変わる。

 より、しなやかなバネをもつように、筋力を上げる。視力が強化される、聴力も上がる。

 体中の感覚が強化され、肉体も数段強化される。

 

「グゥッ、まだ、負担は大きいか」

 

 両手の爪を使い、ゾンビを切り裂く。

 

「流石に、なのはには任せられないよね、これは……ゴメンナサイ、あなたを助けられなくて。でも、これ以上貴方の体をすきにはさせません」

 

 平行して練り上げていたシールバインド、その他数種類の魔法を一気に発動する。

 

「セット、シールバインド・トルネード!!」

 

 複数種類の魔法を組み合わせたシールバインドの発展系。

 回転するバインドはまるで竜巻のように放たれ、相手を絡めとった上で、一気に封印する。

 

「シリアル02、封印!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「何処だ、何処にいるぅぅ……」

 

 このときは誰も知らなかった。

 実は既に時空管理局は近くに来ており、ジュエルシードも2つを回収して、ようやくユーノを発見したのだ。ジュエルシードに対してすぐに対応していたのが彼の発見を遅らせたとはどういう皮肉だろうか。

 だが、残りはオーガが回収しており、全てのジュエルシードは封印されていたのだ。

 

「時の庭園は、どこだぁああああああああああああああ!!!」

 

 オーガはその座標を知らない。だが、その執念は彼を最悪な舞台へと導くだろう。

 

 

 決戦の刻は近づいている。

 




今回の用語
『チェンジ・ビースト』

本作オリジナル魔法
ユーノ製作の変身魔法の応用。

体の一部を、変身魔法をベースにした強化魔法で一時的に変化させる。
人と、獣の特徴を取り入れた戦闘形態。
だが、まだ未完成のため負担も大きい。
今のところは、骨格が少し変わり、耳が獣っぽくなるのと尻尾が生える。
両手両足が獣のそれに変わる。少し牙が伸びる。
などの変化が出る。


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デビル・A・クレイジー

無印ラスボス、プレシアさん登場。


「や、やっちまった…………」

 

 アクアは時の庭園に侵入し、開口一番のあとで手を地面につき、落ち込んでいた。

 何故こうなったかを語らなければいけないだろう。

 三行で。

 

「プレト置いて来ちまった……」

 

 一行ですむほどに単純だった。

 

 ◇◇◇

 

 その後、気を取り直して再び潜入ミッションの準備に取り掛かる。

 ダンボールは無いが、とりえずハンドウは持って来ていたのでアクティブモードで起動する。入り口を捜すのもいいが、見つかったらマズイ、だが……壁を壊しても見つかるだろうし、だったら壁を壊して一直線に進もう。

 

「実戦で使うのは初めてだけど……ブレイク・シンセサイズ!」

 

 対象となる物質(この場合は壁)の情報をもとに、大気中の物質を取り込む。

 取り込んだ物質を内部で対象の物質を溶かす成分へ合成。

 

「Gセット!」

 

 合成したものを弾丸として装填。

 ロックオンからのぉ……

 

「シナプス弾撃!!」

 

 発射!!

 

 

 ◇◇◇

 

 

「フェイト、母さんを悲しませないで頂戴……」

「――」

 

 プレシア・テスタロッサは目の前の少女――フェイトに向かってムチを打ち付ける。フェイトの使い魔であるアルフはプレシアの魔法によりその身を焼かれ、横たわっていた。

 幸い、アルフの息はあるが、フェイトにはこの状況が理解できなかった。

 母に喜んでもらいたいだけだった。

 笑って欲しかった。

 ケーキを一緒に食べたかった。

 頑張って、ジュエルシードを集めた。

 

「たった、4つ。4つよ。いくらミッシングリンクや、他の探索者がいたといえど少なすぎるわ。ジュエルシードの総数は21個。時空管理局もきたようだし……これでは、未回収のものは無いでしょうね」

 

 そう、母の望むものを、願いをかなえられなかったのだ。

 だったらこれは自分が受けるべき罰なのだろう。

 

 

 そして、またムチを打ち付けられる。

 痛い。でも、体より心が痛い。

 分からない。自分がわから無くなる。

 自分が死にそうになっても母は助けてくれないのだろうか?

 自分はあの時死ぬはずだったのだろうか?

 

 ――だが、生きている。

 そうだ、助けられたのだ。

 

 最初はただ怖い生き物だと思った。

 次はよく分からない人だとも思った。

 さっき会った時は、何で助けてくれたのか不思議だった。

 

 自分でもなぜ彼のことを思い出しているのかわからなかった。

 

 ただ、不思議と『同じ匂い』がしたのだけは覚えている。

 

 

 

 そうして、ムチが何度もフェイトの体に打ち付けられた。

 フェイト自身、何十、何百と数える気力も無い。

 どのくらい時間が経ったか分からない……だが、望んでいないはずの助けが来た時、フェイトには自分の感情が分からなかった。

 

 

「で、アンタを倒せばとりあえず、終わりってことだなプレシア・テスタロッサ」

「……子供が何の用かしら?」

 

 

 ――ああ、やっぱり来ると思った。

 フェイトは何故かそう思った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 時はアクアが時の庭園内部に侵入したところまでさかのぼる。

 アクアはシナプス弾撃で壁を壊しつつ中に入るも、内心ビクビクしていた。

 

「っていうか、内装趣味悪いな……完全に魔王の城じゃないか」

 

 いや、本当に魔王的な何かが出てきたらどうしようと思っているだけだが。

 

「ん……こっちからなんかお宝のにおいがする」

 

 そう言って、壁を壊して進む。弁償しろとか言われたらどうしようか、話し合いに持ち込めなくなるかもしれないけど、向こうもやっていることは泥棒だし、まあ何とかなるかの精神で突き進む。

 

「さてと、なんか資料室っぽい部屋に出たな」

 

 めぼしいのは無いかなぁ……そう思ったが、ミッド語で書かれているので読めない。

 いや、前にハンドウに翻訳魔法を入れてもらったのを思い出した。

 ユーノにはしばらく頭が上がらないかもしれない。

 

「さてと、なんていうか……俺を作った研究所の本に似ている。いや、ミッド語にしただけな気もするな……一部は写真とかも同じだぞ?」

 

 嫌な予感がする。いま思えば、フェイトを最初に一目見たときから他人の気もしなかったし、何故か最初に戦ったときもかなり話しかけていた。

 彼女との、嫌な共通点が出てきそうな気がする。

 アクアはまだ自覚していない。それがリミピッドチャンネルによる「場の記憶」を読み込むことによる、事象察知、つまり獣以上の直感であることを。いや、第六感と言ったほうが正しいだろう。

 

「……なんだよ、これ」

 

 そして、その第六感が指し示すもの……プレシア・テスタロッサの手記だった。

 あけるな。戻れなくなる。これを読むと戻れない。

 だが、アクアは進んだ。

 

「研究記録と、いや……日付はかなり前から続いている。テスタロッサってフェイトの母親なのか?」

 

 読んでいくと、どうやら一人娘のアリシアが死んだところから始まっているようだ。夫とはすでに別れているらしい。

 フェイトは再婚してから生まれた子供か? そう考えているが、なんか違う気がする。

 そこで、アリシアの写真と思わしきアルバムが近くにあるのを発見した。

 

「ウソ、だろ?」

 

 その写真はフェイトにそっくりの少女。アリシアが写っていた。

 

「なんだよ、なんだよこれ!?」

 

 これ以上進むべきではない。心ではそう言っている。だが、もしも自分が考えたとおりのことだったならば、自分自身の存在を持っプレシアに言わなくてはならないかもしれない。

 

「再婚、じゃないよな……いくらなんでもいき生き写しになるわけがない」

 

 プレシアも一緒に写っていることから、アリシアの髪の色は父親からの遺伝だろう。

 そうすると、フェイトは何故アリシアにソックリなのか。

 

「……やっぱり、そうなのか」

 

 一目見たとき、何かが心に引っかかっていた。初めて会ったのにもかかわらず、彼女には多くの言葉をかけていた。

 ユーノとはその場の成り行きで一緒に行動して打ち解けていった。

 高町は天敵と直感的に思ったからあまり会話していないが、それなりに信用はしている。

 だが、フェイトとはいきなり戦闘したのにかかわらず、かなり会話していた。

 非合理的だ。自分の手の内をさらすようなことだ。

 

「だけど……」

 

 フェイト・テスタロッサ、その正体は……

 

「使い魔を超える人造生命と不老不死の研究『プロジェクトF.A.T.E』、その試作体か」

 

 つまり、自分と同類。いや、元々の研究はおなじものだろう。

 

「そういえば、俺がまだ培養液の中にいた頃、主任が研究者達に異世界人には負けるなよって……そうか! フェイトが生み出された研究と根っこが同じならここの資料も、研究所と同じ物があっても不思議じゃない。いや、もとのクローン技術の出発点から考えると、人を超えた人を生み出すってのは同じ。

 なら、前にポンドゥスの重力球を作る音が聞こえたのは……」

 

 俺ほどじゃないにしろ、フェイトは人から少し外れている。いや、十分人間の範疇だが、

 

「手記の通り、プレシアがアリシアの蘇生を目的としているのならフェイトは……プレシアが望んだ命じゃない」

 

 そこまで言って、自分の中に、プレシアに対する怒りが生まれていることに気がついた。

 思い出すのは、自分を生み出した研究者達の顔。

 彼らは、禁忌を犯して生み出した自分を生態兵器ではなく息子としてみていた。

 

「……子供は生まれてくる場所を選べない。親も生み出す子供を選べない。心は育っていくなかで作られるんだよ。だけどだ、子供に生まれた責任はないけど、親は生み出した責任はあるんだよ!!」

 

 そのまま、横の壁を殴る。今はただ、何かにムカツク。

 

「だけど、この研究成果が正しいなら……フェイトのことを失敗作っていうのは間違いだぞプレシア」

 

 使い魔ってのはよく分からないが、もしそういう研究がもとになっているのならフェイトがアリシアの代わりになることなんてありえない。

 いや、死んだ人をそのままの形で生き返らせるなんて無理だ。

 

「……死者、せめて詳しい話を誰かに聞けたらな」

 

 そこで、頭の中で何かのスイッチが入った気がした。

 

「え?」

 

 いつの間にか目の前に、フェイトにソックリだが少し小さい少女と、猫耳と尻尾を生やした女性が立っていた。いや、浮いているほうが正しい。

 だけど、足が無い。

 

「……ああ、そうか」

 

 リミピッドチャンネルに流れ込んでくる声。

 アリシア・テスタロッサとプレシアの使い魔リニスの声。

 そして、あの悪魔が渡したものがなんなのか。

 

 ここで彼女達の言葉を語るのは違う。彼女達の言葉はプレシアに届けなくてはならない。

 何があったのか、彼女達はプレシアがフェイトを生み出すことになった出来事を教えてくれる。だが、それを頭の中で反芻する時間はない。

 自分は届けるのだ。

 

 リミピッドチャンネルにフェイトの声が届いた。

 

「今、いくから」

 

 この部屋はパンドラの匣だったのだろう。あけたことでフェイトにとっての絶望とも言える事実を見つけてしまった。彼女もすぐに知ってしまう。

 だけど、希望だって残っていた。

 プレシアにまた間違えさせるわけにはいかない。

 

 幸い、ジュエルシードは必要個数ではないのですぐには行動しないだろう。

 今ならまだ、止められる。

 

 ◇◇◇

 

 そしてアクアは、彼にしか見えない案内人によって連れられる。目の前には倒れるアルフと、鎖で宙ぶらりんになっているフェイト。

 体はムチで打たれたと思わしき傷がたくさんある。

 そして、プレシアの手の中のムチ、いやあれはデバイスか。

 

「……で、貴方みたいな子供が何のよう?」

「まあ、そこのお姫様を助けに来たってところかな」

「物好きねぇ……こんな子の何処がいいのか」

「んー俺にもよくわかんないけど、とりあえず同じ境遇だから、放っておけないんだよ」

 

 そこで、プレシアの表情が変わる。

 

「ベターマン、って言えば分かる?」

「……そう、完成していたのね」

「やっぱり知っているんだ」

「で、貴方はフェイトに同情したってわけ?」

「生まれ方は似たようなものだけど……親には恵まれていたからね、同情なんて感情を向けるべきじゃない。ただ、お前には文句を言いたいけど」

 

 そこでプレシアは狂ったように笑う。

 フェイトはまだ意識があるのか困惑した表情を浮かべるが、あの目はまだ母を信じている。いや、潜在意識に残っているアリシアの記憶を見ているのだ。

 

「……母さん?」

「貴女が私を母と呼ばないで頂戴」

 

 その言葉は、流石に見逃せなかった。

 ラティオの実を食べ、プレシアに肉薄する。

 

「ッ、随分なご挨拶ね……」

「俺を作った人たちは、少なくとも俺のことを自分の息子と思っていた! お前にはフェイトを生み出した責任があるんだぞ!!」

「――ホント、むかつくわね。こんな子のこと愛してなんかいない!」

 

 プレシアは激情に任せて言葉を続ける。

 フェイトには酷だ。だが、この言葉を引き出さないと彼女達の言葉も届けられないし、フェイトがアリシアのことを知らなければ、彼女は立ち上がれない。

 

「母さん、なんで、ねぇ」

「フェイト、貴女はね――」

 

 ◇◇◇

 

 語られたのはおおむね手記と同じ内容。

 自分がアリシアとして生み出したのがフェイト。

 だが、アリシアとは違う。だからその代わりの人形。

 だけども失敗作。アリシアじゃない。

 

「ホント、最低だな」

 

 プレシアの瞳には正気の色は宿っていない。

 饒舌に話してくれたからフェイトとアルフは助け出せた。

 

「なんで、助けたの? なんでこんなことを知らせたの? なんで、なんで……」

「よく見ておけ、今からプレシアの本音を引き出す」

「――え?」

 

 アリシアとリニスの言ったことが本当なら、プレシアは間違えているだけだ。

 

「アルフだっけか? 起きているんだろ」

「……なんだい、喋れても動けやしないよ」

「いや、意識が有るならそれでいいんだ。いいか、よく見ておけよ……もう二度と会えないだろうから」

 

 魔力を放出していく。あの悪魔が俺に渡したのは……悪魔を呼び出す力、いや、悪魔の力の一部を引き出すことの出来る何かの術だ。

 

「死者を呼び出し、回答を告げるもの、その御手を今ここに

 魂をここに、名はアリシア・テスタロッサ! 名は使い魔リニス!

 ささやくものムルムル! その力の一端をここに!」

 

 俺の魔力を用いてそこにあった魂が現世に形もって現れる。

 今の俺じゃあリミピッドチャンネルで捉えた霊を力の一端で具現化するぐらいが限界だけど、今はこれで十分だ。

 

「あ、あ……アリシア」

 

 

『そうだよ、ママ……ううん、このバカ親がぁああああ!!』

『フェイト……大きくなりましたね。それはそれとしてプレシアの大馬鹿者』

 

 なんか随分とぶっ飛んだ性格だし、コントロールできるわけじゃないからアリシアがプレシアを殴り飛ばしているが。

 

 




今回の用語
『ムルムル』
ソロモン72柱の1柱。
アクアは今のところ、力の一端を引き出しただけだが、本来なら死者を呼び出して強制的に回答させたり、召喚者に哲学などの知識を与えたりする。

アクアは死者に回答させる力のみを引き出して使用した。


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ソウル・F・ダイバー

構想は出来ているので、筆が進む進む。
フェイトさん、このままだとSLBを受けなくて済むかもしれません。


 目の前では不思議な光景が繰り広げられている。

 プレシアが、見た目5歳程度の幼女の幽霊――アリシアに怒られている。

 俺の後ろではリニスがフェイトの頭を撫でている。あ、アルフも撫でられているな。

 

「……いい感じにカオスだな」

『何処がですか。いい加減に収拾つけてください』

「そうは言うけど、どうやって収めようか」

 

 リニスがいろいろ知っているのは、彼女がフェイトに憑いていた霊だから。この時の庭園の中だけは自由に動けるから俺の近くにいたみたいだけど。

 アリシアはプレシアに憑いていて、今までの悪行と言うか、やっちゃったことを見てきたらしい。

 

「リニス、なんだよね?」

『はい。また話せてよかった。少し、大きくなりましたねフェイト』

 

 この会話に混ざるのは野暮ってものだろう。まだ諦めが悪い人もいるみたいだし、決着をつけるとするか。

 そう思ったけど、最後にフェイトはこんな質問をした。

 

「ねえ、あの子は誰なの?」

「……まあ、お前の姉でいいんじゃねぇのか」

 

 少なくとも、アリシアはそう思っているみたいだし。

 

 ◇◇◇

 

「で、目は覚めたのか?」

「……アリえない、あり得ない、ありえない、アリシアが生き返りたくないですって? ありえない、それはあってはならない」

「アリシアさん、何言ったの?」

『いやぁ……ちょっとやりすぎちゃって』

 

 この人、性格はフェイトと間逆だな。かなりアグレッシブだ。

 アッパーを12連激とかどうやるんだろう。

 プレシアに肉体言語(肉体無いけど)をするとか、あの人、見た感じ病人だぞ。

 

『まあ、殴ってもダメだし、やっぱり幽霊じゃダメなのかな』

「生き返りたくないとか、この人の前で言うのか……」

 

 ラティオの使用中はリミピッドチャンネルの力が強化されるから、この人の感情がダイレクトに伝わるんだぞ。

 娘が生き返らない悲しみ。

 娘に嫌われた悲しみ。

 娘を殺した奴らへの憎しみ。

 今までの黒い記憶。

 フェイトを生み出してからの記憶。

 そして、後悔。

 

 

 根底には、一つの記憶。

 野原に敷かれたシート。母と娘が一緒にピクニック。

 娘は、母に妹が欲しい。そう言っている。

 大事な娘との記憶。

 

 

 

「まだ、自分でも分かっていないのか」

「そうよ、ジュエルシードはアル。アリシアの幻を見せるあなたを倒して、そしてジュエルシードでいくのよ、伝説の地、アルハザードへ!!」

「アルハザード?」

 

 前に聞いたことがるような……ああ、ユーノに次元世界の説明をしてもらったときだっけ? いや、ロストロギアの説明だっけか?

 

「まあ、死者を生き返らせるのは止めることにした。俺はそう決めた」

「子供の理屈ね。自分が正しいものを信じる……」

「あんたは親のエゴだろ。自分の子供を自分のために生き返らせたい、大きな子供の理屈だ」

 

 だけどな、プレシア・テスタロッサ。

 

「お前の子供はアリシアだけじゃないだろ」

「……あの人形のことを言っているの?」

「そうだよ。フェイト以外に誰がいる」

「くだらないわ。あんな人形に――」

 

 ホント、馬鹿で、一途で、鈍感な人だ。

 心の奥では気がついている。

 だけど表面だけを見て、本質を見ることを恐れている。

 認めてしまえば、自分がアリシアの死を受け入れてしまうから。

 得るものより、失ったものを選んでしまったが故の暴走。

 

「さっきから、フェイトのことを人形とか言っているけど、なんでフェイトの顔をみて言わないんだ?」

「――!?」

 

 そうなんだよ、この人は最初からおかしいんだ。

 アリシアじゃないなら殺せばいい。

 それでも人形扱いするなら、催眠術をかけるなりして、表面上はアリシアにすればいい。

 それで代わりの人形は出来上がる。

 なのに、フェイト。そう別の名前をつけた。

 

「なんで、アイツはアリシアじゃなくてフェイトって名前なんだ? プレシア」

「そ、それはプロジェクトの実験体として……」

「ならなんで最初からそういう風に生み出さなかった。研究資料は見たぞ。あれじゃあ、最初から俺みたいな生体兵器を生み出すのが普通なのに、フェイトは多少は人より優れた機能をもっているけど、人から外れていない」

「そんな、ウソよ、何が言いたいのよ」

「気がついているんだろ、プレシア・テスタロッサ」

 

 失うくらいなら最初から見なければいい。

 だからリニスに教育を任せた。

 自分の病気のこともある。だから焦っている。

 それゆえに自分の行動が飛躍している。

 

「アリシアさんに教えてもらったよ……妹が欲しいって言ったって」

「!?」

 

 一瞬だが、プレシアの瞳に色が戻る。

 だが、それもすぐに消えた。

 

「それが、どうしたのよ……フェイトは、アリシアじゃない」

(そうよ、アリシアではない。フェイトはフェイト)

 

 心が漏れ出す。はっきりとした言葉で。

 

「もう、遅いのよ(私はいつもおそい)、もう後には引けないし、(違う、まだ引き返せる!)煩い! 私は、私の目的を(本当に?)、かなえるのよぉぉぉ!!」

 

 結局、目を覚まさない。

 だけど、心の扉の鍵は開いた。あとはその重い扉を開けるだけだ。

 

「アリシアさん、殴ってでも分からせるけど、いいよね!!」

『うん、思いっきりやって!!』

 

 ◇◇◇

 

 フェイトは知ってしまった。自分が何者か。

 曰く、人造人間、アリシアというプレシアが生んだ娘のクローン。

 

「……ウソだ、ウソだ…………じゃあ、私は、私はなんなの?」

『フェイト……』

「な、なぁリニス、ウソだと言っておくれよ、リニス!!」

 

 自分はなんなのだ、いやそれどころか人間なのかすら怪しいではないか。

 自分は化け物なのか? 人形、コピー、そんな自分を揺るがす単語ばかりが頭に浮かぶ。

 

『フェイト、始めましてだよね』

「あ、りし、あ?」

『うん、貴女のお姉ちゃん、アリシア』

 

 自分よりも小さいはずの少女は、この時だけは自分より大きく見えた。

 いや、本当に大人の姿として、ここにいた。

 

『私達はもう此の世にはいないから、決まった形は無いの。さっきまでの娘としての私じゃなくて、貴女の姉としての私、それがこの姿』

「……でも、母さんは私のことを…………」

『大丈夫、あの人はね、少し間違えちゃっただけなの。ボタンを掛け違えたみたいに、だけど不器用だから外せなくて困っているんだ。でも、落ち着けばきっと大丈夫だよ。

 たとえ、あの人が最後まで認めなくても、貴女は私の大切な妹だよ。

 私、昔から妹が欲しかったの。でね、こうして――』

 

 そういいながら、アリシアはフェイトを包み込むように抱きしめた。

 体温なんか感じないはずなのに、とても暖かくて、フェイトの目からは熱い何かが零れ落ちた。

 

『――こうして、抱きしめる。フェイト、初めて泣いたね。今まで涙なんか流さなかったでしょ……悲しいときは泣いていいし、嬉しかったら笑えばいい。生まれがあれ、そんなの関係ないんだよ。貴女は私の妹。

 フェイト、生まれてきてくれてありがとう』

 

 そして、アリシアが離れると後ろからリニスがフェイトを抱きしめた。

 アルフも一緒だ。アルフも、泣いていた。

 

『二人とも、ご飯はちゃんと食べないし、世間知らずで、人の話を聞かなくて、教えることはまだ山ほどありますけど……それでも、私はあなた達と一緒に過ごせた時間がとても幸せでした。

 これから大変なことはたくさんあるでしょう。でも大丈夫。助けてくれる人は必ずいます。あなた達は一人じゃないです』

 

 嫌だ、なんで、そんなお別れみたいなことを言うの。

 分かっている。フェイトもアルフも、これで最後なのはわかっている。

 

『最後に、話せてよかった。もう心残りはないから……フェイト、元気でね』

『二人とも、私達はいつでもあなたたちを見守っています。さようなら、愛していますよ』

 

「まって、行かないで――」

 

 そして……光と共に二人は消えた。

 

 

 失った、そう思った。

 だけどもやはり、救いはあった。

 

 

「フェイト!!」

 

 同じ匂いを感じた少年。分からないところも多かったが、彼もきっと、自分のように造られた人なのだろう。

 同じ匂い。そうか、体に染み付いたこの匂いは……薬品。冷たい、暖かい母からではなく、冷たい薬品から生まれたから。

 そう思った。思ったが、彼はそれを否定した。

 プレシアと戦う彼は、フェイトにまだ語りかけていた。

 

「お前はどうしたんだ! 生まれはどうあれ、お前を愛した人はいた。その人たちに愛されたフェイト・テスタロッサはどうしたいんだ!! 俺と同じで、愛した人たちとは会えないと思っていたんだろう。だけど、その心に貰ったものはなんなんだ!!」

 

 そこで、自分の間違いに気がついた。

 同じ匂いだった。だけど、それは違うんだ。それは似た生まれってだけで、表面上のことだった。

 今までは自分の言葉を持たなかった。だけど、今から始めるんだ。フェイト・テスタロッサを、自分自身を。

 

「わたし、は……私は、母さんの娘、フェイトです。アリシアの妹で、リニスに育てられて、母さんが生んでくれた、母さんの娘です!!」

 

 答えは、すぐに出た

 

 

 ◇◇◇

 

「煩い、煩い、ウルサイのよ!!」

 

 プレシアの体に、浄化の力をぶつけて落ち着けさせようとしているのだが、上手くいかない。

 フェイトはもう大丈夫だ。

 プレシア自身、アリシアの願いは分かっている。だけど、自分では認めることが出来ない。それもそうだろう。今までフェイトにひどいことをしたのだ。

 今頃気がついてももう遅いと思っている。

 

「大丈夫だ、フェイトはまだあんたを母と思っているんだ。まだ、やり直せるよ」

「……無理なのよ、もう時間がないのよ…………もう、止まれないのよッ――」

 

 閃光が弾けた。

 

「ガハッ!?」

「うグッ」

「ガッ、なんだい、アレ?」

 

 4つのジュエルシード、それがプレシアの周りを回転している。

 マズイな……プレシアみたいに色々な感情が渦巻いている人間がアレを使うとマズイ。

 ジュエルシードは願いを叶える。今までは純粋な心を持っていたもの以外が使うと変な形で願いをかなえていた。いや、表面上の心を具現化したとでも言うべき現象なのだろう。

 だけど、こんなに混乱したプレシアの心を具現化するなら……

 

『あ、アアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 プレシアに吸い込まれ、プレシアはその姿を変えていく。

 中央は女神像のような形へと姿を変え、背中にあたる部分は黒い翼がいくつも生える。

 女神像を覆い、胸と両腕は竜のような、爬虫類と思しきものへと変わる。

 下半身にあたる部分はクモの様に、いくつもの足が生えた。

 そして、翼の一部が集まり、顔を形作る。その顔は能面のような、いや、面そのもの。

 

「まったく、これはちょーっとやばいよね」

 

 幸い、リミピッドチャンネルには彼女の心が届いている。

 ジュエルシードが4つあったのが幸いした。黒い感情は3つへ。残る、女神像がプレシアの母性とも言うべき感情を具現化したもの。

 

「まだ、助けられる」

「本当に?」

「ああ……でも、手札がなぁ」

 

 

 

 

 

『手札なら、あるよ』

 

 

 

 

「まってました、んじゃ、プレトを送ってくれユーノ」

『了解!』

 

 別に、一人で戦っていたわけではない。フェイトの隣にアルフがいたように、俺にはプレトがいるし、ユーノや高町っていう仲間も出来た。

 

「フェイト……今はどうしたいんだ?」

「母さんを、助けたい」

「……上等!!」

 

 今までのは前座に過ぎない。本当の戦いはこれから始まる。

 




今回の用語
『アリシア・テスタロッサ』
享年5歳。
プレシアが関わっていた実験による事故によって死亡。
その体はいまだにプレシアの手によって完全な状態で保管されている。

プレシアに霊体として憑いていた。
悪魔から渡された力により、アクアがその存在を捉え、自身の魔力で現世に姿をあらわす。

フェイトとは違い、陽気で明るい性格。
魔力資質もほとんどない。

フェイトに自分の思いを告げたことで現世からは完全に消えた。


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フォルテ・A・ベターマン

本日2話目!

なんか本当に筆が進む。
こんかいはグロイ描写や残酷描写を含むのでご注意ください。

あと、プレシア戦のためいつもより少し長いです。


 さてと、シードモンスターになっているプレシア。アレを剥がすにはちょっと、時間がかかる。そこでユーノにプレトを転送するまでの時間で、外側をまず剥がさないと、中のプレシアを助け出せない。

 

「いくらバカ魔力なプレシアでも長くはもたない。早期決着しかないな」

「なにか方法があるの?」

 

 アルフは行動不能なため、俺とフェイトしか戦えない。しかも、プレシア自身が次元震ってやつを発しているのでユーノと一緒に来た管理局も動けないらしい。

 っていうか、管理局ようやく来たのかよ。

 

「まあ、奥の手ならあるよ。出来れば使いたくなかったけど、ユーノたちがいるなら大丈夫だ。俺が動けなくなっても封印は任せられる」

 

 高町の魔力はかなりあるみたいだし、まあ、何とかなるだろ。

 ふとフェイトの方を向くと、うつむいていた。

 

「ごめんなさい。貴方を巻き込んでしまって……」

「うーん、元々の研究の根っこが同じだろうし、いつかはこういう風になる運命だと思うけど。まあ……そういう時はな、笑ってありがとうって言えばいいんだよ」

「え、えっと」

「折角可愛いのに勿体無い」

「かかか、かわっ!?」

「ま、軽口はこの辺にして……ついてこれるか、フェイト?」

 

 思わず、顔が笑う。

 俺の意図を分かってくれたのかフェイトも笑う。

 

「当然です。私は貴方より速いですから」

「そうだな……じゃあ、いくぞ!」

 

 懐から紅い、刺々しい物体を取り出す。

 今まで使っていない奥の手。フォルテの実。

 能力は高いが、負担の大きさと、コストパフォーマンスから使用していなかった力。

 

「グォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 体が炎に包まれる。いや、体が炎のように燃え、形を変える。

 腕は巨大に、硬く、体も大きくなる。

 シードモンスターの大きさが大体7メートルくらい。

 フォルテも、おおよそそのくらいまでの大きさになる。

 ネブラよりも重厚。飛行能力はないが、今までのどの姿よりも強い。

 

『これが、フォルテだ!』

 

 ベターマン・フォルテ、幸い念話は使える。

 この姿では、クランブルポイントと呼ばれる対象の、そこを突けば粉々に出来る一点を頭の角で突く「サイコグローリー」を使うのだが、流石にプレシアの身を考えるとその必殺技は使えない。

 なら、出来ることは一つ。

 

『オラァアア!!』

『ガァアア!?』

 

 己の拳による肉弾戦のみ!

 ムチのようにしなるシードモンスターの腕、左右から交互に自分の体へ叩きつけられる。

 だが、フォルテの前にはそんなチャチな攻撃は無意味!

 

『無駄だ、今度はこっちから行くぞ!』

 

 危険を感じたのか、その多脚でシードモンスターは後ろへ下がる。目線はこちらに向けたまま、なるほど、機動力は確かにある。

 だけども、一つ忘れている。怪物たちの戦いでは小さいもの。だが、この場においては大きな力を持つものだ。

 

「ライトニング、バインド!!」

 

 高い機動力を持ったフェイトが設置していた捕縛魔法。

 そう、コイツはシードモンスター防御を剥がすには魔力も必要だ。

 だが、そのままでは暴発の危険もある。4つのジュエルシードを無力化するには、まず物理的な防御を貫く。

 

『ガァアアアア!!!』

「あ、ああああああ!?」

 

 超音波により、フェイトは弾き飛ばされる。

 いや、弾き飛ばされるのではなく、フェイトの五感を狂わされたのだろう。

 

「ぐぅう……」

『フェイト、下がって最大火力の準備だ。足を狙ってくれ』

「足、ですか?」

『ああ、中の女神像にダメージを与えなければプレシア本人へのダメージもそこまでひどくはない』

 

 中核を担う女神像、外側はマイナスの心が具現化した部分なら、中身はプラス。マイナスなら負担は大きいだろう。

 だが、今までのジュエルシードの暴走をみても、プラスの状態はそこまで負担はなかったようにも思う。

 たとえばあの子猫やゴリ吉。彼らは、ジュエルシードを剥がした後も元気だった。

 

『中核がプラスで助かった。一応、他の部分とリンクしているから早期決着が望ましい。フェイト、準備が出来たら言ってくれ!』

「はい!」

 

 俺はバインドで身動きが取れなくなっているシードモンスターへ突っ込む。そのまま右腕を振り上げ、拳を相手の頭に叩き込む。

 

『オラァ!』

『ギュアア!?』

『まだまだぁ!!』

 

 右、左、右、左。左右の拳でラッシュ。

 時折ムチのように腕を叩きつけるがこの体にそんな攻撃は意味がない。

 超音波も使うが、フォルテの体はそういった攻撃を通さない。

 振動を外殻が無効化する構造なのだ。

 

『まずは、その翼からだ!』

 

 後ろに回りこみ、翼を掴む。

 両手に掴んだ翼を左手に持ち替え、右手で相手の背中を押す。

 

『オラアアアアアアアアアアアア!!』

『グギャグガアアアアアアアアアア!?』

 

 思ったとおり、こいつは大きく分けて4つのパーツから出来ている。

 翼部分、足部分、腕部分、そして核の女神像。

 翼を引きちぎろうとすると、濃密な魔力が漏れ出している。

 お互いを結合させている魔力だろう。

 フォルテでなければこの魔力に触れただけで弾け飛んでいた。

 

『いまだフェイト、足を狙え!』

「はい!」

 

 翼を離し、シードモンスターの両腕にエルボーを打つ。

 シードモンスターは今再び悲鳴を上げてもがく。

 だが、翼は動かず、両腕もだらしなくたれている。

 その間に俺は下がり、フェイトの魔法を待つ。

 

「ハァアアアア……サンダー、レイジィィィィ!!」

 

 電撃が、シードモンスターの足めがけて炸裂する。

 その数は数えるほども馬鹿らしい。

 撃ち終わると、バインドも外れたが……

 

『ぐぉ、おお……』

 

 既に機動力は無い。

 あとは余分な魔力をそぎ落として封印するだけ。

 フォルテももう限界。気がつくと変身はとけている。

 

「はぁ、ハァ、あと少し」

 

 だけど、予想は裏切られた。

 

『ごアアアアアアアア!!』

「ガグッ!?」

「アア!?」

 

 まだ、シードモンスターは動けたのだ。いや、機動力は無い。

 なら何故か?

 

『アアアアアアアアアア!!』

「音波を使った攻撃の時に気がつけばよかった……これ、電磁波」

 

 超音波に酷似した電磁波による攻撃。フェイトガ魔力を電気へ変換する能力の持ち主だったのを忘れていた。遺伝的にプレシアが同じ能力を持っていてもおかしくは無いのに、うかつだった。シードモンスターから迸る電気は紫色。前にユーノに聞いた、襲撃者の電気の色。

 

「そうか、ジュエルシードの輸送機を襲ったのはプレシアか」

 

 電磁波、いや、強力な静電気とも言うべき力は俺達の体の自由を奪う。

 どういった仕組みかは分からないが、体内の電気信号が上手く動かないらしい。

 魔力による現象だからか今のところ体が動かないだけだが、これ以上電磁波を浴びすぎると体が沸騰する可能性もある。

 

「電子レンジでチンなんて終わり方はいやだぞ!!」

 

 なにか、なにか方法は無いか……

 そう思っていたが、

 

「お待たせ、アクア」

「ったく、遅いぞコンチクショウ!」

 

 どうやら予想はいい方向へ裏切られたようだった。

 

「フェイトちゃん、遅くなってごめんね」

「なんで……」

「友達に、なりたいから」

 

 フェイトの方にも高町がシールドを張っている。

 俺の前にはユーノが立っていて、全力でプロテクションを使っている。

 

「で、状況は?」

「一応機動力と物理的な攻撃力は奪ったけどこの通り」

「電気による振動攻撃。かなり厄介だね」

 

 流石ユーノ、一目見ただけで分かるとか。

 ユーノは足をトントンと、何度か動かした後開口一番こういった。

 

「じゃあ、プレシア・テスタロッサを引っ張り出す方向でいこうか」

「簡単に言ってくれるよ」

「大丈夫、方法はある」

 

 そう言って、ユーノは俺になんかの機械を渡した。

 

「これは?」

「ハンドウを調べた時、なんか未完成な気がしたからそれを補うパーツ。急ごしらえだから長くは使えないけどね」

「ちょ、よくそんなことが分かったな!?」

「プレトも少し調べたけど、君の変身にも関わることだよ」

「なに?」

 

 マニュアルにも書いていなかったんだが、どうやってそれを知ったんだ?

 

「時空管理局でテスタロッサと紫色の電気とかで検索をしてもらって、プレシアが首謀者ってのは分かったんだけど……もしジュエルシードが暴走したらって思ってね。プレトも管理局員につれてかれそうになるし、スキャニングだけはかけられたんだけど……」

「それで、何かわかったってことか?」

「うん、プレトは鎧だけじゃなくて他の形態への変形が可能だったってこと」

 

 マジですか!?

 ちょ、初耳なんだけど。

 

「で、前に調べたデータと重ねたらわかったのは……ラティオの実の後でポンドゥスを使うことで発動する形態」

「二つ同時使用!?」

 

 そんなのあったのか……だけど、ユーノはそこで言いよどんだ。

 

「プレトの中に登録されていた魔法なんだけど、確かにプレシアを無傷で引っ張り出せるけど、君への負担が大きい。それでも」

「答えは決まっているよ。つうことで、時間を稼いでくれ」

「私に任せておくといいの」

「あ、高町くれぐれも穏便にな」

 

 凄く心配だが、大丈夫だろうか。

 だけども、シードモンスターは攻撃方法を変えてきた。そう、足が無くとも動けるのだとでも言わんばかりに転がってきたのだ。

 

「広がれ 戒めの鎖! 捕らえて固めろ 封鎖の檻! アレスターチェーン!!」

 

 だが、それにものともせずユーノはいくつもの鎖でシードモンスターを捕まえる。

 シードモンスターも抵抗するが、ビクともしない。

 

「なのは! お願い!!」

「うん、任せて……咎人達に、滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ。貫け!閃光! スターライト・ブレイカー!」

 

 感覚的にだが、周囲に霧散した魔力が高町の下へ集められていくのが分かった。

 この場には先ほどジュエルシードからもれた膨大な魔力が……って、詠唱つきの大魔法の予感がする。

 

「ちょ、それやりす――」

 

 言葉は続かなかった。ただ、無慈悲に振り下ろされた杖から破壊光線なんて目じゃない魔砲が打ち出された。

 

『ガアアアアアアアアアアアアアア!?』

 

「なのは、あれフェイトのお母さんが入っているんだから少しぐらい手加減しようよ」

「か、母さん!?」

「うっかりしてたのぉぉぉ!?」

 

 だけど、シードモンスターは純粋な魔力に対する防御力は高かったのか、まだ結構余力を残していた。もっとも、しばらくは動けないだろうが。

 ただ、仮になのはとフェイトがジュエルシードをかけて戦っていたらいつかアレを喰らうことになったであろう少女のことを考えると、涙が出てきそうだった。

 何でか知らないが、そこ光景がリアルに頭に浮かぶ。

 

「さ、さてと……いくぞ」

 

 ラティオを口に入れて変身。ハンドウは起動済み。ユーノから渡された機械を組み込む。そして、ポンドゥスを口に入れる。

 

「うぐぅ!? ガハッ!?」

 

 体が焼けるように熱い。だけど、分かる。どうすればいいのか。

 プレトが飛び込んでくる。いや、その形を変えてプレトはハンマーのようになった。

 

《モード・ミョルニル起動》

 

 有名な武器の名前の通り、ハンマーの形に変化し、俺の右腕に納まる。

 右腕はハンドウが形を変えて巨大な腕へと変化していた。

 そして、溢れる魔力も色を変える。

 普段は黒に近い紫、ラティオでは輝くようなグリーン。そしていまは……黄金。

 

「ウォオオオオオオオオオ」

 

《コード・ゴルディオンハンマー発動》

 

 ハンドウから出てくる単語。初めて聞くが、頭に使い方が浮かぶ。

 左手には輝く釘を、高町の攻撃でしばらくは動けないであろうシードモンスターに突っ込む。

 

『ユーノ! 高町! フェイト、封印の準備を頼む!』

 

 リミピッドチャンネルを全開ににしてプレシアの位置を特定する。

 時の庭園内部では管理局員と思しき人たちがいるのがわかる。どうやら、自動迎撃システムかなんかに足止めされているようだ。そのなかでユーノたちが進む道を切り開いてくれたのだろう。

 あとで、礼の一つも入れないとマズイな。だけど、今は目の前の敵を――

 

「ハンマー、ヘル!」

 

 釘をプレシアに打ちつける。刺さるわけではなく、中から出すために掴んだ形に近い。

 そして、ハンドウにくっついていたくぎ抜きのような部分で釘を固定。

 

「ハンマー、ヘヴン!!」

 

 一気に引き抜き、プレシアを引きずり出した。

 同時に、ジュエルシードも飛び出し、ユーノたちのほうへ投げる。

 

「ゴルディオンハンマー!!!」

 

 最後に、暴発しそうになっている魔力をハンマーで消し飛ばす。

 

 ◇◇◇

 

「母さん……」

「フェイト、なの」

 

 管理局員達も到達し、事件は終わった。

 状況や事情を説明した後、プレシアが目を覚ました。

 一応簡易的に検査はしたが、長くは無い。

 

「……ああ、私はいつも気がつくのが遅すぎる。大切なものがなんなのか」

「いいよ、もう喋らなくても」

 

 あの悪魔の力を使えば、病気を治療して延命は可能だ。管理局の医療術でも1年は大丈夫だろう。だけど、プレシアがやったことを考えればこれがフェイトとの最後の会話になる。

 プレシアはフェイトに罪がいかないように自分で全ての罪をかぶる気だ。

 

「ごめんね、ごめんねフェイト」

「母さん、」

 

 その後は、プレシアが知っていることを教えてもらった。

 どうやらジュエルシードについて教えてくれたのはスカリエッティという男らしい。

 人造魔道師計画の研究、つまりフェイトを生み出すきっかけも彼の研究が元らしい。

 つまり、俺の生まれもそこに起因する。

 

「ですが、アルハザードなんて……」

「スカリエッティはアルハザード人のクローン、間違いないわ。まあ、今ではいく方法は無いでしょうね」

 

 リンディさんという、管理局の艦長が話を聞いている。

 だけどもやはり御伽噺のような世界を信じられないのだろう。

 

「あら、証拠はあるわよ」

「そ、それはどこに?」

「貴方たちのお仲間にいるじゃない……その金髪のボウヤが正真正銘のアルハザード人よ」

 

 そのとき、周囲の気温は下がった。

 わけが分からなかった。もちろん、言われた本人もだ。

 

「スクライアの彼よ、前々からおかしいとは思っていたのよ。この年齢にしては頭はよすぎるし、出身は分からない。遺跡の中で拾われたという話も出てきたわ」

「た、たしかに僕は遺跡で拾われましたけど……で、でもレイジングハートはミッド式のデバイスです! 僕はそのときから身に着けていたらしいし」

「それも証拠の一つよ。スカリエッティのように、あちらからこちらへ技術が流れるように、こちらからあちらへ流れるものもあるの。ミッド式が向こうにあっても不思議じゃないし、結構昔からミッド式はあるのよ。

 むしろ、使用者のイメージに合わせて形を作ったり、高度な意思を有していたり、疑わしいことはたくさんある。むしろ、今まで誰も不思議に思わなかったのか、そっちのほうが信じられないわ」

 

 この話は一度ここで終わる。その後は撤収作業やジュエルシードの確認、結局まだ全部見つかっていないので回収は続く。

 オーガという犯罪者もまだ近くにいるから油断は出来ないそうだ。

 ユーノは衝撃的な言葉を聞いたからか、話しかけづらい。そこは、高町に任せてフェイトの方へ向かう。

 色々あった、それにこれから大変なことが彼女達を待ち受けるだろう。

 それでも一つの絆が切れなくてよかった。俺はそう思う。

 

 そして、プレシアがフェイトの頭を撫でようとしたそのときだった。

 

 世界は優しくもあれば、残酷でもあるのだ。

 

 

「かあ、さん?」

「――ぷ、プレシア!?」

「なんで、なんでアイツがここに!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャアアアアアアアアハハハハハ!! オイオイ、俺を忘れるなよ、それにこんな鬼婆が助かるわけが無いだろ、ちゃんと、ここで死ななきゃダメなんだよなぁコレがよぉ!!」

 

 

 次元犯罪者オーガ、彼の周囲に浮かぶ残りのジュエルシードと共にやってきた。

 まだ戦いは終わっていなかった。

 

 ハッピーエンドはいつだって、悪意あるものの手でぶち壊される。

 




今回の用語
『ゴルディオンハンマー』

元ネタは言わずと知れたガオガイガーの必殺技。
ハンドウ自体、ミスターXあたりが関わっているので、使うときが来るのを予見してあらかじめ用意されていた。

本来はミスターXと直接接触した後に解禁されるであろう力だが、ユーノがハンドウの機能を見抜いたことにより使えるようになった。

ハンマー形態のプレトを巨大な腕と化したハンドウでもつ。このときにラティオとポンドゥスの同時使用も条件になる。
ハンマーで叩きつける部分にチャージした重力エネルギーをぶつけることで、相手を光の粒子にまで分解する。
また、光の釘を使って対象を安全に引きずり出すこともできる。

本家ガオガイガーは機体への負担を減らすために作られたが、アクアの場合、余計に負担が大きい。ただし、対象を救い出すことは効率と安全性が増した。


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ジャック・W・デッド

やっとここまでたどり着いた。
この小説を書いていて書きたいシーンを思い浮かべて、ここまではたどり着くぞぉ!
ってことで、投稿。

無印終わったらサブタイトルの付け方を変える予定。

あとがきの今回の用語で、オーガについて説明しているのは本編で語る機会が今後無いから。



「母さん! 母さん!!」

 

 フェイトが必死に母を呼んでいる。

 プレシアから流れ出る血はその勢いを変えず、見ているだけでその命が失われているのを感じせた。

 

「プレシアは私が何とかします! クロノ、オーガ・デルグランをお願いします!」

「はいっ!」

 

 クロノと呼ばれた少年が飛び出し、魔法を放つ。

 その動きは今まで見た魔道師の中でも、圧倒的に洗練されていた。

 

「スティンガー――」

「遅い、遅いぞ、ヒヒッ」

「なっ!?」

 

 だけど、オーガは体を電気に変化させて一瞬でクロノの後ろに回りこんだ。

 いや、速いなんてレベルを超えている。あり得ない。

 俺の変身だって、魔力を用いているものの、一定の法則が存在する。

 だけど、あの男の動きはまるで違う。

 

「オラァ!!」

「ガァアアァああぁ亜!?」

 

 クロノは体を焼かれ、弾き飛ばされた。数人の局員が受け止めて衝撃を和らげたのと、咄嗟に防御したのか、見た目はそれほどひどい怪我じゃない。

 だけど、完全に戦闘不能のようだ。手に持っていたデバイスが煙を上げている。

 

「ハハハハハハ! 俺にデバイスを使った戦闘で勝てると思ったのか!? お笑い種だ、ああ、アホばかりだよ!!」

 

 その名のとおり、鬼だ。悪鬼、この男は人の目をしていなかった。

 だけど、この男の言うことが本当ならデバイスを使って戦う人は勝てない可能性が高い。

 

「さて、お前みたいなイレギュラーもいたな……目障りだ、消えろ!!」

「アクア!」

「逃げてェ!!」

 

 ユーノや、フェイト、高町や他の人たちも俺に逃げろといっていた。

 不思議と時間の感覚が遅くなる。周りがスローになる。

 オーガの手が電気へと変わり、俺の首を狙う。

 思い出されるのは生まれた時の記憶。

 培養液の中で始めてみたのは俺を作った人たちの顔。

 

 忘れていた記憶が戻る。

 

 カプセルの中の俺に文字を見せる人たち。

 笑う人、歌を教えてくれた。

 ベターマンの理論とかも見せてきていた。

 何故忘れていたのか、それが分からなくなったが、一つ言えることがある。

 

 ここで死んだら俺はとんだ親不孝ものだということだ。

 

「光に、なれェェェェェ!!!!」

「なっ!?」

 

 まだ、完全には変身は解除されていなかったのが幸いした。

 ゴルディオンハンマーは重力制御能力を発展させた力、超小型のブラックホールとでも表現すればいいのだろうか、いくら電気になっていようと、逃れることは出来ない。

 

「ぐぅううぅうぅう!?」

「ガハッ!?」

 

 オーガを弾き飛ばすことは出来た、だけど負担が大きすぎる。変身も解けたし、プレトも限界だった。ハンドウも煙を上げている。

 これ以上変身を使うのも、危険かもしれない……だけど、リミピッドチャンネルを使わなくても分かるんだ、コイツはここで倒さないと大変なことになる。

 

「何でだよ、俺はただ原作どおりに、歴史のシナリオにそうようにしようとしただけだ……それを、それを邪魔するなぁああ!!」

 

 アイツが何を言っているのか分からない。だけど、言葉と心が違う。あいつは自分の思い通りにならないことを許せないだけだ。

 子供の癇癪、いや、それ以下。

 だけど俺の体は動かない。

 

 まあ、俺一人で戦っているわけではない。

 

「チェーンバインド!!」

 

 ◇◇◇

 

 アイツが現れたとき、僕は目の前が真っ暗になった気分だった。

 また、失うのか。あいつのせいでまた失ってしまうのか。

 多くのジュエルシードを制御していることも信じられなかった。

 そこにあるのは純粋な狂気であるのにも関わらず、それなのにジュエルシードの魔力を供給することで実質、無限とも言うべき魔力量を実現している。

 

 そして、オーガの凶刃がアクアへ迫ったとき、絶望しそうになった。

 だけどもアクアは生きていた。オーガを弾き飛ばしたのだ。

 

 そうだ、諦めちゃだめだ。逃げてしまってはだめだ。

 何のために今まで戦う力をつけていたんだ。

 自分に出来ること、今やりたいこと、それはなんなのだ!

 

「チェーンバインド!!」

 

 気がついたら体が動いていた。

 だけど、これでいい。そうだ、行動しろ、立ち止まっていてはだめだ。

 

「なのは、フェイト達をつれて下がるんだ!」

「で、でも!」

 

 流石に、コイツとの戦いでなのはを巻き込めない。

 ジュエルシードも僕達が分断されても全部奪われないようにと僕が最初に回収したシリアル13以外は、なのはに預けてある。

 本当ならなのはにこの13番も預けた方がいい、だけど時間が無い。

 

「急いで、流石に僕もほかの人を守りながらアイツと戦うのは無理なんだ」

「……絶対、絶対に戻ってきてよ。翠屋の、お母さんのケーキ、一緒に食べよう」

「うん、約束する」

 

 そうして、なのははフェイトたちと、管理局員達と共に下がっていった。

 数名の管理局員も残ろうとしているけど、たぶん足手まといになる。

 

「さあ君たちも速く逃げて!」

「リンディさん、ごめんなさい。僕は引くことが出来ません」

「俺もユーノと同じく、ミッシングリンク相手なら俺に組み込まれたプログラムが必要になると思うし」

 

 どうやら、アクアの体に組み込まれていたものは、『不死者』以外のミッシングリンクにも効果があるらしい。

 あの日の決着に巻き込むことになりそうだけど、ここはあやまるんじゃなくて……

 

「ありがとう、アクア」

「まあ、ここまできたら最後まで付き合うよ。綺麗に終わりそうなところをぶち壊したアイツにはムカついているし」

「き、君たち! いいからはやく戻りなさい、ここは私達が」

「それじゃあダメなんですよ、リンディさん」

 

 アイツは、デバイス自体を使えなくしてしまう。おそらく、デバイスを使用しないリンディさん以外はオーガと戦うことすら出来ない。

 デバイスが無くても、ある程度の魔法は使えるだろう。だが、デバイス無しで本気の戦闘が出来る人じゃないとだめだ。ある程度ではダメなのだ。

 

「船には多くの人や、けが人がいます。リンディさんは皆を守らないと……」

「それに、次元震ってのがあるみたいだし……いざって時に地球を、俺の故郷を守ってくれる人がいないと困るんで。お願いします、俺達に任せてください」

 

 無茶を承知だってのは僕もアクアも分かっている。

 だけども、僕達は戦うことを選んだのだ。

 

「……分かりました、なら私からは一つ。絶対に死なないでください」

「もちろん」

「子供のうちに死ぬつもりなんてありませんよ」

 

 リンディさんはみんなを避難させたらすぐに戻ると言い残し、転移した。

 オーガも、バインドを引きちぢった。ジュエルシードを巡った最後の戦い。

 そして、僕達は動いた。

 

 ◇◇◇

 

 オーガは体を電気へと変換する。だけど、対抗するための力を持ったアクアが腕に集めた魔力で弾き飛ばす。

 アクアが今使える力は魔力と、悪魔に貰った力だけだ。ハンドウとプレトは使用不可の為、高町なのはに預けられている。

 

「ダブルギアバインド!!」

 

 そして、弾き飛ばされたオーガをパワードギアとチェーンバインドを組み合わせたダブルギアバインドで捕獲する。

 二つの歯車が回転し、チェーンを強く締め付ける。

 

「ガアアア!?」

「オラオラオラオラオラオラ!!」

 

 アクアも魔力のみで強化した拳でただ殴るだけ、だが対ミッシングリンク用アンチプログラムを組み込まれているアクアはそれだけでオーガにダメージを与えている。

 ユーノが捕まえ、アクアがダメージを与えていく。

 本来ならば着実にダメージを与えられるはずだった。

 

「ムダダァアアア!!!」

 

 だが、オーガはジュエルシードの力により膨大な魔力を用いてそのダメージを回復させていた。

 二人の攻撃力より、オーガの回復力の方が上回っているのだ。

 

「やっぱり、変身するしかないッ……」

 

 だが、フォルテはもう使えない。ネブラでは勝てるか分からない。アクアの実もこの場では意味がない。

 ポンドゥスやラティオはストックが切れていた。

 

「……ああ、これがあった」

 

 トゥルバ。まだこの力が残っていた。

 

「ユーノ、しばらく頼んだ!」

「うん!」

 

 ユーノはバインドを設置し、オーガの動きを制限する。

 電磁波か何かを読み取る力があるのか、オーガは不可視のバインドを感知する。

 それを逆手にとって、オーガの行動を自分の思い通りに動かす。

 

(オーガは本能に身を任せて戦っているようなもの、純粋な狂気だけだからジュエルシードも暴走していない。そんな嫌な純粋さとか吐き気がするけど、だからこそ頭では何もかんがえてはいない!)

 

 そして、右手に準備していた魔法を発動する。

 

「クラッシュ!!」

 

 バリア系魔法を自爆させる術式や、爆破魔法を組み合わせたオリジナルスペル。

 圧縮した爆弾を自分に突撃してきたオーガにぶつける。

 

「ガアアア!?」

「ぐうあ!?」

 

 自分にもダメージは来た。だけど時間は稼げた。

 ユーノは後ろを見て、アクアの変身が完了していたのに気がついた。

 トゥルバ、嵐の力を持つその姿は空気や気圧を操ることが出来る。

 

『ユーノ、一気に決着をつけるから下がってろ!』

「うん、お願い!!」

『喰らえ! サイコカーム!!』

 

 サイコカーム。真空波と圧縮酸素弾を交互に打ち込むことで、対象を破壊する必殺技。

 オーガに向かって叩きつけられたそれは絶大な威力を発揮した。

 

「やったの……?」

『いや、まだだ!?』

 

 だけど、一つ考えてみても欲しい。

 本来であればただじゃすまなかっただろう。だけども二つの要因が彼らの勝利をもたらさなかった。

 

「ご、あああああああああああああああああああああああ――ハッハ、はは、そうだ、俺は負けない。俺が、俺が負けるはずなんか無いんだ!!」

 

 一つはオーガが雷へとその体を変質させることで攻撃を無力化できること。本来なら、その時間は短いためそれだけでは意味がない。

 だが、二つ目の要因が絶望的だった。

 

「ははははは! ジュエルシード、完全に制御したぞ!!」

 

 オーガの手中にあるジュエルシード、正確な数は数えていないから分からないが8個か9個ぐらい……それだけの数を制御したのだ。

 その力で魔力を自由に扱えるだけでなく、彼の体に変化が生じた。

 無制限に体を電気へ変化させる力、見た目も肌が人の色ではなく漆黒へと変わる。電気の色もそれに合わせ、此の世のものとは思えない黒。光を通さない黒へと変わる。

 

「イレギュラーにユーノ・スクライア、やっぱりオマエタチは目障りなんだよ」

 

 その一閃が、彼らを――

 

 ◇◇◇

 

「いや、いやぁああああああああああ!?」

 

 通信がユーノたちに繋がったのはまさにその瞬間だった。

 絶望的な状況、アクアはトゥルバの姿でユーノを庇ったが、外殻が消し飛び、地面に倒れている。ユーノも、アクアが庇ったおかげで体の一部が消し飛んでいたりはしないがボロボロだった。

 血だまりが出来、なのはは泣き叫ぶ。

 フェイトも顔を真っ青にして画面を見ていた。

 リンディが、管理局員たち、クロノ、その場にいた全員が拳を握っていた。自分の無力さに、この次元船、アースラのオペレーターのエイミィが調べたのだ。いままでのオーガの事件を。

 その有様は悲惨だった。デバイスが通用しないことも裏付けた。

 だからこそ、デバイスに頼らない、いや、使わないことを前提とした彼ら以外にオーガと戦えるものがいないのだ。

 

「……お願い、私はまだ君にありがとうって言っていないんだ。だから」

 

 その中でも、フェイトは祈っていた。自分と母を繋いでくれた彼にまだ、ありがとうって言っていないのだ。だから、自分は祈るのだ。

 

「ユーノ君、約束したよね、一緒にケーキ食べようって……お願い」

 

 なのはも祈りを始めた。自分は今まで家族にいい子でいるように振る舞っていた。だけど、魔法と出会い、自分の意見を通せるようになっていく自分を感じた。こんどは家族にもちゃんと言えるようになっているから、だから。

 

 二人の少女をみて、周りの彼らも祈りを始める。ジュエルシードを取り込んだオーガはそこにいるだけで次元震を引き起こしている。自分達があそこへいくにはリンディが次元震をくい止めるしかない。だが、アイツと戦えるのもまた彼女だけ。

 今は周りに被害を出さないことが精一杯。

 自分達にはこれしか出来なかった。それでも奇跡を信じた。

 

 バッドエンドは、奇跡を信じる者達がいる限り打ち砕くことが出来る。

 

 ◇◇◇

 

「ああ、聞こえた……ちゃんと聞こえた」

「不思議だね、僕にも聞こえたよ、みんなの声」

 

 リミピッドチャンネルを使えないユーノにも聞こえた、自分達を信じている人たちの声が。だけど、戦う力は無い。

 情けない。自分達はここで終わるのか、もう、おしまいなのか。

 

 ふと、あの悪魔の言葉を思い出した。

 いずれは死ぬといわれた自分達。

 その会話のなかでヒントはあった。そうだ、さっきまでは自分達、片方ずつの力では効果は無かった。

 相手に攻撃を当てる際はどうしても片方のみの出力になる。お互い、足りないところを補い合って戦うことは出来ていたが、火力が足りない。

 体力も足りない。

 知恵も、能力も、足りていない。

 

「ユーノ、そういや持っているんだっけか……」

「ああ、僕が最初に封印したやつがね」

「そっか……願いを叶える心は」

「純粋に、奇跡を願えばいいと思う。いや、僕達の願いは!」

「一つだ!!」

 

 ジュエルシード・シリアル13が二人の間で輝いた。

 

 奇跡は信じるものたちに与えられる。

 




今回の用語
『オーガ・デルグラン』

ミッシングリンクと呼ばれている12人の転生者のうちの一人。
序列9位。
その性格はきわめて自己中心的。
最初はユーノがいたら登場人物が幸せになれないという自分勝手な思い込みで彼を殺そうとする。
だが、その際に転生者のスクライアの女性を殺害したことにより広域指名手配になる。

その後は、ユーノに人生を狂わされたと逆恨み。
各地で犯罪を重ねる。

地球にやってきた後は、幼少期のなのはに近づこうとするが高町家に撃退されたりしている。
フェイトをつけねらうものの、彼女に嫌悪の感情を向けられた辺りから本格的に狂い始める。
そして、ジュエルシードの封印に一般市民を使い、殺人を重ねる。

持っている能力は体の電気変換。
前の世界では暴風に巻き込まれたことにより死亡したことから圧倒的速さを求めた。転生時の願いもそれだが、死んだ際の思いと重複した結果、自然の驚異を自身のものとする、つまり電気変換を得た。


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チェンジ・W・フュージョン

本日2話目なので、前話を読んでいない方は前の話を。
無印最終回です!

この後は短編的な話をやるつもりだったり、
ギャグやらちょっと脇道にそれそうな話だったので出すのを断念した話を書きます。




 ユーノが右に立ち、アクアが左に立つ。

 願いは一つ。

 シリアル13に届けられた思いはいま、形となった。

 

「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

「なんだ!? この光は!?」

 

 青く輝く宝石はその光を増し、オーガという闇を飲み込もうとしている。

 それだけでは足りない。だが、オーガの心に不安が溢れる。

 今誕生しようとしているものが怖いのだ。

 今、この場に現れるものが怖いのだ。

 

「ヤメロ、その光を消せェェ!!」

 

 だが、祈りは届けられた。オーガ一人ではその祈りを止めることなどできない。

 ジュエルシードを中心に、二人の姿が一つに重なる。

 辺りを照らすその輝きは、朝日のようであった。

 

 ◇◇◇

 

「これは、一体……」

「どうやらジュエルシードの力によるものと思われます」

 

 アースラでもこの現象を捉えていた。

 ジュエルシードの力が高まったと思ったら、二人が融合を始めた。

 それだけは分かったが、まるで暴走していないのだ。

 

「たぶん、正しくジュエルシードの力を使ったのだと……」

「ありえない、そんなことが」

 

 リンディ達はありえないとも思ったが、それに異を唱える少女が二人。

 

「ううん、私達が信じていたから、だから奇跡は起きたんだよ」

「信じているから、絶対に負けたりしないって」

 

 画面の向こうでは融合が完了し、一人の少年が立っていた。

 髪の色は金色がベースだが、前髪の部分が一部だけ銀色。

 服装は白いコートを基本とし、両腕を組んで仁王立ちしていた。

 雰囲気はもとが二人の少年とは思わせないほど、威風堂々。

 

 そして、少年は跳んだ。

 

 ◇◇◇

 

 わけが分からない。それがオーガの心だった。

 二人が融合し、まるで別人のような風格をもった少年が自分を蹴り飛ばし、そのまま着地した。

 いや、何故蹴り飛ばせているのだ。完全雷化を身に着けたのに、何故?

 

「何故だぁぁぁぁ!?」

「……うるさいぞ小悪党」

「何!?」

「だまれ小悪党。天が呼ぶ地が呼ぶ、悪を滅せよと自分を呼ぶ声が聞こえる。ならば答えよう! 名は融合者ユスアート! お前を倒すものだ!!」

「カッコつけやがって……黙りやがれェェ!!」

「ふむ、こういう時はこのセリフが似合うな……さあ、お前の罪を数えろ!」

 

 アクアとユーノが元であるとは思えないような性格。右手にはユーノの魔力光である翠、左手にはアクアの魔力光である紫の光をともし、拳を構えるユスアート。

 

「シネェェ!!!」

 

 オーガは瞬間的に最大出力を放つ。その威力は管理局に存在するどの記録をも上回っただろう。だが、それをユスアートは右手で止めた。

 いや、それでは語弊がある。右手の人差し指で止めたのだ。

 

「なん、だと?」

「あくびが出るな。まったく、攻撃とはこうやるものだ!!」

 

 左手に溜めた魔力、魔力で強化した拳、それだけをオーガにぶつける。

 先ほどまでなら意味は無かっただろう。

 だが、その拳はあろうことかオーガの骨を粉砕した。

 

「ガあぁアアアアあぁぁぁああ!?」

「何をわめいている……お前が殺した人たちはもっと痛かったんだぞ。お前が傷つけた人たちはもっと苦しんだんだぞ、それを分からないとは言わせないぞ」

「チクショウ、チクショウ、あり得ない、あってはいけない! 俺は生き残ったんだ! だからこの力を手に入れた。なのにこんな、こんなことはあってはいけないんだ!! お前らこそ人の命を奪う覚悟が無いのに戦いやがって、ふざけている!!」

「なにを言っているのか分からないが……人を殺した時点で、自分の最後が惨めなものであると、不殺(ころさず)の戦いがどれほどきびしく、尊いものか考えられぬのか……それにお前の言うそれは覚悟ではなく、現実を見ていないというのだ。殺す覚悟とはすなわち罪を背負っていく覚悟であり、自分の最後は惨めなものであるということを分かれということだ。最初から間違えているお前では、勝つことなど不可能!」

「ウルせェェェ!!!」

 

 オーガは最早言葉を出さない。ただ、叫び、単調な攻撃を繰り返す。

 いや、ただ速いだけで攻撃は最初から単調単純、まるで素人の動き。

 

「……お前に殺された人たち、その痛みを知れ! クラウ・ソラス!!」

 

 ユスアートの右手に、輝く光で作られた剣が現れた。そして、その切っ先をオーガの肩へと突き刺す。

 溢れる血液、オーガは右肩を押さえて絶叫する。

 

「がああぁあぁあぁあ!?」

「安心しろ、回復術式も同時に送り込んだ……痛みはあるが、ダメージは無い」

 

 その言葉通り、痛いが腕は動く。むしろ先ほどより調子がいいくらいだ。

 だが、思い通りに動かない。怖い、この子供が怖いのだ。

 

「さてと、来いティルヴィング」

 

 今度は左手に紫の光剣を出す。

 その輝きは禍々しさを感じさせ、オーガの足をすくませる。

 

「……では、始めよう。どうした? かかってこないのか?」

「チクショウ、チクショウ……ふざけるなぁぁああああああああああ!!」

 

 激昂。いや、逆恨みや逆ギレと言ったほうが正しい。魔力自体は無尽蔵だし、回復能力も高い。だけども時間が進むほど、ユスアートはそれを上回る。

 まるで、融合した二人がお互いを高めていくようだ。

 描くのは螺旋。時が進むほど渦は重なり、強くなっている。

 

「剣舞、開始!!」

 

 鬼の懐に飛び込んだ勇者は、両手の剣で鬼の四肢を何度も切りつける。回復と殺傷、その力が同時に叩き込まれることでオーガの体は先ほどよりも回復する。

 だが、その心は切り刻まれる。右のクラウ・ソラスで切られれば、自分を育ててくれた親の顔や、友人、温かかった思い出が頭の中に浮かび、

 左のティルヴィングで切られれば、自分が命を奪った人々の顔、その最後の表情。傷つけた人たち、遺族、今までの暗い過去が呼び起こされる。

 

「やめろ、やめろぉぉお!」

 

 それでも、オーガは止まれない。止まることが出来ない。

 最早その身は狂気に堕ちた。人の心は戻ることは無い。

 過ぎた力は、方向性を間違えたとき止まれなくなる。

 

「アアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 その身で体現した力は自然災害。雷そのもの。

 故にオーガはただの雷として、目の前のユスアートを殺すことしか考えられなくなった。

 

「罪悪感は感じても、いや感じることも出来なくなっていた。既に人ではなく、ケダモノに成り果てたからこそそれだけの数のジュエルシードを取り込めたわけか」

 

 もう、オーガという人間ではなく現象そのものだった。

 今までの意識は、粘着質な思念が現象に取り付いていただけ。

 ならば、その現象を止めればいい。

 

「まずは、その動きをとめる!」

 

 左手のティルヴィングが変形し、ブーメランのような形状になる。

 そのまま投げ飛ばし、複数に分裂した後、バインドのように空中へオーガを縫い付ける。

 

「いくぞ! 必殺!!」

 

 クラウ・ソラスを掲げる。いや、すでに形は変わっていた。螺旋を描く巨大な三角錐。そう、それは……ドリル。

 

「ギガドリルブレイク!!」

 

 オーガに突撃し、その身体を貫こうとする。

 膨大な魔力同士がぶつかり合うが、結果は目に見えていた。

 爆発が起こり、鬼は地面にひれ伏し、勇者は立っていた。

 ただ、それだけのことであった。

 

 ◇◇◇

 

「終わった、彼らの勝利です!!」

 

 アースラは歓声に包まれていた。

 次元震がおさまり次第救助できるように、包帯などの準備を始める。

 なのはは一息つき、フェイトは緊張の糸が切れたのかその場に倒れてしまう。

 

「さて、迎えにいきましょう」

 

 画面の向こうでは、融合が解けて二人の少年が魔力切れで倒れるところだった。

 早く行かないと、二人の少女が泣き出す。もっとも、脅威は去った。

 

 

 こうして、ジュエルシードを巡る戦いはひとまずの幕を下ろしたのだった。

 

 ◇◇◇

 

 一週間後、アースラ内の病室。

 次元震の影響でしばらくは動けないアースラは不可視状態で地球の近くにいた。

 

「母さん、いやだよ、母さん!!」

 

 いま、この場では一つの命が消えようとしていた。

 そう……プレシア・テスタロッサである。

 結局のところ、オーガという次元犯罪者も絡んだりしたために事件はどういう形で終息をつければいいか混乱していたが、フェイトの分の罪はプレシアが負うことになった。

 最後の、母としてできることとして。

 病気の身体にもかかわらず、プレシアは奇跡的にまだ息をしていた。だが、それももう続かない。

 

「フェイト、あなたは、泣き、虫ね……それじゃあ、心配、」

「もういいよ、もう喋らなくても……」

「……アクア、だったかしらね」

 

 そこでアクアの名前を呼び、アクアは近くに行く。

 

「…………フェイトをよろしく、お願い、しま、す――」

 

 そして、プレシア・テスタロッサは此の世から去った。

 アリシアの遺体とともにプレシアの身体は埋葬された。あの世では、せめて仲良く暮らせるように……

 

 ◇◇◇

 

 その後の話をしよう。

 

 オーガ・デルグランは殺人やロストロギアの強奪など、様々な罪により逮捕。最後に喰らった攻撃は、どうやら対ミッシングリンクの最終プログラムだったらしく、オーガのリンカーコアを永久封印しただけだったのだ。爆発は、そのときにオーガの身体から出た魔力。

 リンカーコアの魔力を空にしたうえで、完全封印されたオーガは二度と魔法を使うことは出来ない。

 

 プレシア・テスタロッサには罪が残されたが、過去にアリシアが死んだ事件を洗いなおした結果、彼女に様々な罪を擦り付けられていることが分かり、帳消しのようなものになった。プレシア自身はジュエルシードの強奪のみで、それもユーノが彼女ではなく、別のテロリストに襲われたと証言したことでフェイトへの追及も無かった。

 

 フェイトはしばらくの間アースラに引きとられる形となる。身よりも無くなり、今後どうするかはじっくりと考えることになった。

 使い魔のアルフとともに、少しづつだが生きる気力を取り戻している。

 

 高町なのはは一旦家に帰るも、無断で家から飛び出していたからか、初めての家族喧嘩をする。だけども、本音で語り合えたことで、今まで以上に仲がよくなったそうだ。

 魔法に関しては、まだ話さないでもう少し時間を置いてからにするつもりと述べている。

 

 アースラのクルーは5月末まで動けそうに無いので、点検作業や事後処理に終われるも、時折地球に下りて観光しているようだ。

 なお、リンディ艦長は翠屋のケーキを食べた際、本気で地球に移住できないか考えていたらしい。

 

 ユーノはアースラと共に一旦スクライアへ帰る予定だが、その間に約束の翠屋で一緒にケーキを食べるなどがあったが、色々と大変だったらしい。おもに、なのはの父や友人の関係で。

 決着をつけることは出来たが、残った謎、自分とアルハザードの関係について調べるつもりだ。

 

 アクアは管理局の人たちと共に再度、自分の生まれた研究所を調べた。

 やはりここを襲撃したのは管理局ではなかったらしい。

 謎もかなり残っているが、彼は今後次元世界へ渡るつもりだ。

 この戦いで自分にはまだ戦う力が全然無いことを思い知った。

 だけども、諦めることはない。

 

 

 こうして、1ヶ月に及ぶ戦いは幕を閉じる。

 ジュエルシード、完全回収。

 

 だけども彼らはこの戦いで生まれた小さな火種を忘れていた。

 少女の暴走はゴールデンウィーク、なのは達が休日なこともあり、魔法関係は伏せたままだが、新たな友人として紹介されるところから始まる。

 

 まさか、こんな火種があったとは、誰も思っていなかったが。

 

 




今回の用語
『ユスアート』

アクア・プロトとユーノ・スクライアが融合した姿。
性格が元々とは随分と違う。

技名などはアクアの心の奥底にある部分から引き出されたりする。
また、ユーノの知識に影響されているから神話ネタも多い。

右手に翠、左手に紫の魔力を宿して戦うのが基本スタイル。
お互いの能力が融合しただけでなく、足りない部分を補い合うどころか強化している。
魂とも言うべきものが螺旋状に融合していて、螺旋が増えていくほど強くなる。

「ギガドリルブレイク」は言わずと知れた天元突破のアレの必殺技だが、べつにもとの作品を覚えているわけではなく、本能的に再現しただけ。
ちなみに、ユーノの魔力制御、演算能力やバインド。
アクアの瞬間的な魔力放出量、破壊力、などなど、お互いの力が融合しているからこそ撃てた。
実は魔法で再現した場合、かなり高度な技だった。


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ゴールデンカオスウィーク
新たなる火種


しばらく用語解説はお休みします。
サブタイトルが雰囲気変わりましたが、心機一転新章突入ということで。

ちなみに、ガオガイガーネタはちゃんとやりますよ。


 あの戦いから決着もつき、小さいものだがプレシアとアリシアの葬儀が終わってから数日がたった。現在フェイトはアースラ内にて暮らしているのだが、プレシアを失ったことにより不安定だった。

 だが、今現在落ち着いてきたため、アースラのクルーたちとも会話ができるようになっていた。

 

 

 ……しかし、彼女が周りを見る余裕が出来たということは、とある火種を意識してしまうということなのである。

 これから始まるのは、乙女の戦いの記録。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「うわぁぁああああああああああああああああ!?」

 

 フェイトは自室にて叫んでいた。完全防音でなければ壁ドンされていたであろう絶叫っぷりで、現に隣で寝ていたアルフはその声量に気絶してしまっている。

 床を転げ周り、頭をかかえ、顔は真っ赤に染まっているフェイト。

 

「なんで思い出すのぉ!?」

 

 思い出すのは彼――アクア・プロト・ベターマン(管理局で名前を記録する際に追加した)のことだ。

 最初は怖いと思った。だけども……次々と思い出すのは彼が助けに来てから自分にかけてくれた言葉の数々。

 

『んー泣いている女の子を助けるのに理由は要らないんじゃないかな』

『笑ってありがとうって言えばいいんだよ』

『折角可愛いのに勿体無い』

 

 色々と恥ずかしいことを沢山言われた。

 っていうか、可愛いって!?

 

 フェイトは今まで男性というものに出会ったことが殆ど無い。というかアクアが初めてまともに会話した男性だった。

 あとはユーノやクロノ達アースラのクルー、あとは母の敵の憎きあの男ぐらいだ。

 そのため絶望的に男性への耐性が無かった。

 

「ああああああ忘れてた!?」

 

 色々なセリフが頭をよぎっていく中で、思い出したのは彼にありがとうって言うこと。

 じつはまだちゃんと言っていない。

 言うって決めていたのにとんだ失敗だ。嫌われたらどうしよう。そんな言葉が頭を駆け巡る。

 

「どうしよう、どうしよう……ねぇねぇアルフ、なんかいいアイデア出してよぉ!」

「――ビーフジャーキーで手を打つよ」

「寝てて」

 

 とりあえずこの食欲のカタマリの相棒は優しく寝かせてあげよう。寝言は寝て言うものだ。この話題で食欲をだされるのは何故か嫌だった。

 

「ったく、あ、アクアと昼一緒に食べる約束していたからアタシさきに食堂に――」

「ねえ、私はご主人様だよね、アルフ?」

「ハイ。ゴシュジンサマ」

 

 そのときのことアルフは後に某チビ狸にこう語っている。「あの目は本気だったね。あの時ほどフェイトにプレシアの血が流れていることを感じさせることは無かったよ。いや、アレが最初だったからこそだね」だ、そうだ。

 

「じゃあ、一緒にいこ♪」

 

 アルフは無言で頷くことしか出来なかった。

 逆らってはいけない。自分はただ頷くだけの使い魔だ。そんな暗示を自分にかけるほどである。

 

 ◇◇◇

 

「うぅ……この毎日のために今まで生きていたんだね」

「泣くほどかな……」

「アホか、今まで俺がどんな、どんな食生活だったか!」

「あー生まれてからずっとサバイバル生活だったっけ、そういえば」

「アクアだったか、なかなかにハードな生活だったようだな」

 

 現在、アースラの食堂ではアクアとユーノとクロノが昼を食べている。ちなみに、本当ならエイミィもいるはずだったのだが、書類編集作業に駆り出されている。

 クロノは今までオーガの尋問をしていたためしばらくは休みである。真面目な彼は、今まで動機とか色々聞きだすのに徹夜続きだった。

 

「あーでも砂漠地帯で長期発掘とかも結構きついよ。サソリが重要なタンパク源でね」

「焼くとそれなりにイケルけど、毒とか処理がね。俺は変身のための材料に使うから取りに行くこともあるけど」

「君ら、頼むから食欲がなくなるようなことを……というか、そんな会話しながらよく食べれるな」

「食べれる時には食べた方がいいよ。食べる?」

「そうだぞ、クロノ」

「いやいい……というか、何だそれは?」

 

 アクアとユーノが食べているのは……一言では言いにくいが、丸い生地に色々な具材をのせて、紅いソースや黄色い溶けた物質をかけた上で焼かれる食べ物だ。

 まあ、いわゆるピッツァである。

 ただ……

 

「なんで、赤い仮面にマントの男の絵柄に具材がのせてあるんだ!?」

 

 具材で表現された謎の男。クロノは頭をかかえてしまう。

 

「コックの趣味じゃね?」

「小さいこと気にしていたら大きくなれないよクロノ」

「余計なお世話だ!! あと僕は14歳だぞ! 年上にタメ口か!?」

「「……え、てっきり同じくらいか年下だと」」

「君たちなぁ!? 執務官が君たちよりも年下なわけがあるかぁぁぁぁ!!」

 

 クロノ・ハラオウン、真面目な性格がゆえに、力を抜いた生活ができない堅物な14歳であった。もっとも、師匠達や母親、エイミィのせいでツッコミ気質だが。

 

「まったく……ん、もう部屋をでても大丈夫なのか?」

「は、はい。ご心配をおかけしました」

 

 と、そのあたりでクロノはコチラに近づいていたフェイトに気がついた。隣にはアルフがいるが、顔が青くなっているのを見て風邪でも引いたのか? と、その程度に考えてしまう。

 もうすこし考えていればこの後の悲劇に巻き込まれないですんだものを。

 

「えっと、あの……」

「どうかしたのか?」

 

 フェイトはアクアに近づき、指先をもじもじし始める。その様子からユーノは漠然ながらも何かに気がつき、皿を片付けるという名目で席を立つ。

 アルフもそれに乗って一緒に離れる。

 残されたのはアクアにフェイト、そして真面目がゆえに、重要参考人であり、今回の事件の中心にいた二人を見ていたほうがいいなと考えてしまったクロノが残った。残ってしまった。

 

「ええと、ええと……あ、あり、あり」

「あり?」

「アリシア姉さんって料理上手だったのかなぁ! って……その、ハイ」

「享年5歳だし料理は出来ないだろ」

「そ、そうですよ、ね……はは」

「えっと、大丈夫かフェイト?」

「う、うん! もう全然ヘッチャラ!!フェイトちゃん元気いっぱい!!」

「ちょ、なんか本当に大丈夫か!? キャラがおかしいし、お前そんなテンション出すようなやつか!? それこそアリシアさんの領分……プレシアにお前のこと頼まれているし、なんか悩みがあるなら相談に乗るけど?」

「ふぇ?」

 

 そこで、フェイトは思い出す。母が、最後にアクアに言っていた言葉を。

 自分を頼むと、よろしくお願いしますと……つまり、これは、いわゆる一つの――

 

(親・公・認!!)

 

 違います

 

 プレシアはそういう意味で言ったわけではない。

 だが、フェイトの頭の中は今現在お花畑だった。

 

「ううん! な、悩みなんて無いよもうハートフルだよ!」

「いやホントか!?」

 

 アクアはフェイトが明後日の方向へ暴走していることは分かったが、原因までは分かっていない。いや、アクアだけでなくクロノも分かっていないようで、頭の上にハテナを浮かべている。

 ――クロノはここで帰った方が身のためだっただろうに。

 

「えっと、ありありありが、その……ご、ご飯貰ってくるね!」

「あ、うんいってらっさい」

 

 思わず変な口調になるアクア。クロノも何が起こっているのか理解していない。だが、そろそろ退席したほうが良さそうだということに気がついた。

 だけども、彼は遅かった。遅かったのである。

 

「さて、僕もそろそろいくか」

「あ、お疲れ」

「ああ……さて、ん…………あーフェイト・テスタロッサ?」

「どうかしたんですか、クロノさん?」

「その手に持っているのはなんだ?」

「えっと、リンディさん監修のお茶だって」

「そ、そうか……じゃあ僕は――」

「ああ、それハラオウン家秘伝らしいからクロノに渡しとけ。クロノ何も食べていないからそれぐらい飲んどいた方がいいだろ」

「――なぬ!?」

 

 リンディ茶。日本茶に大量の砂糖を打ち込んだ代物である。

 飲める人はただ一人。その甘さに幾人もの豪傑が沈んだ一品。

 アクアはプレシアの遺言を守るためフェイトがそれを飲まないようにしたのだ。クロノの尊い犠牲によって。

 

「ちょ、そ、それ」

「そうなんだ……じゃあハイ。クロノにあげるね」

 

 フェイト、いまだに社会というものに慣れていない彼女はものすごく天然だった。いや、むしろ天然な性格は地である。

 

「ほら、はやく飲めよー」

「き、君が飲んでみるか?」

「ああ、腹いっぱいだからいい。それにしばらくはプレトと栄養のやりとりするから食糧は摂取しない」

「……ぐ、タイミングの悪い」

 

 結局、少女の純粋なまなざしに勝てずに、医務室に送り込まれた執務官がいたという。だが、それは別の話で、語る機会は一生無い。

 

 ◇◇◇

 

「クロノさん、あんなにダッシュして……そんなに美味しかったのかな」

「ハラオウンの血筋の者以外があの茶を口にしてはいけない。それだけは覚えておいてくれ」

「う、うん」

 

 いずれ、再びリンディ茶に出会うときが来る。それまでに一般常識を身につけてもらおうと、アクアは決意した。

 

「えっと、そのトカゲ……」

「ああ、俺って人と少し構造が違うからこうやって栄養をプレトで調整しないとダメなんだよね。いまは魔力で長期間は動けるけど、定期的にプレトとこうやって栄養のやりとりしているんだ」

「そう、なんだ……悪いこと聞いたかな」

「んにゃ、別にいいよ。気にしてないし、それより俺のほうこそごめんな。お前だって普通に暮らしたかっただろうに……」

 

 アクアが言っているのは、自分がクローンであることを突きつける結果になったことだろう。だけども、自分のなかでその事に対する答えは出ている。

 

「いいよ。気にしていない。それに、いつかは知るときも来ただろうし……母さんとちゃんと話せたのは、『親子』になることが出来たのはアクアのおかげだよ。だからね、

 

 ありがとう。今の私は貴方のおかげでこうしていられる。だから、ありがとうアクア」

 

 そう言って、ニコリと笑うフェイト。その笑顔はあの日、ケーキを買っているときの顔にソックリで、その表情が自分に向けられたかと思うと……

 

「そ、そそそうか! まあ、こ、こちらこそ……」

 

 何故か顔が赤かくなる。身体もこころなしか熱くなってきてちょっと、このフワフワした空気がなんか、こう、言葉に言い表せない何かがアクアの心をくすぐる。

 それが嫌ではなく、むしろ心地いいのがわけが分からない。

 

「ふふ、やっと言えた」

「えっと、前に言っていたこと気にしてたのか?」

「うん。私、ちゃんと笑えていた?」

「あ、ああ……そりゃもう、ビックリするぐらいに」

 

 その後も、少し居心地が悪いような、いつまでもこうしていたい様な空気は続いたが、明日はなのはの家に行くことになっているので寝ることにした二人。

 フェイトは自室に戻った後、自分のやったことの恥ずかしさに悶えるも、今までに無い位安らいだ気持ちで寝れたという。

 

 ◇◇◇

 

 一方、アクアはというと……

 

「あああああああああああああ!? なんなんだコレェェ!?」

「アクア、うるさい」

 

 食堂に行く前のフェイトのように悶えていた。

 相部屋のユーノが防音結界を使って眠りだすほどだった。

 

 しかし、この時二人はジュエルシードとは関係ないところで出会ったある少女達によって更なる火種が発覚することを知らなかった。

 明日、翠屋にてそれが発覚するであろう。

 乙女の戦いは、すぐそこだった。

 




というわけで、フェイトさんニコポスペシャルでした。
主人公ではなく、ヒロインのニコポです。破壊力は段違いです。

フェイトさん、ものすごく暴走していますが、今までシリアスだった分ラブコメ成分がここで爆発しました。

そして不穏すぎるような気もする次回への引き。
実は本編では脇道にそれすぎると思ってやらなかったネタとか沢山残っています。
そこで、この「ゴールデンカオスウィーク編」では今までの補足事項とかやっていきます。

数日後とか言って、間を端折った部分に出会いというものはあるのです。
SAOみたいに本編の中で名前ぐらいは出せればよかったな。作者の技量不足です。


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翠屋で巻き起こる嵐

今回はちょっと短いです。
やっと完成したのに短くてスイマセン。最後のテストが昨日漸く終わったのです。

今回は長く続くであろうカオス序曲。
あと、短すぎて飛ばしていた出来事を入れてあります。


 フェイトが悶え、結局最後に悶えたのはアクアだった日の翌日、夜中に飛び出したなのはの状況を魔法的なことは隠した上で高町家の人に説明するのと、フェイトに同年代の子と触れ合ってもらおうということで翠屋にやってきた面々。

 アクア、ユーノ、フェイトにアルフ、管理局からはクロノとエイミィとリンディが代表してやってきていた。

 ちなみに、昨日のことでアクアは頭の中がカオスな状況のため、ものすごく変な表情だ。というかここに来るまで終始無言であった。

 

「えっと、アクア?」

「ABCABCABCABC」

「……なんでアルファベット羅列?」

 

 これは今日のところは役立たずだなと、ユーノはため息をしてしまう。

 上手い説明を考えなきゃいけないのに、これは大変だ。とりあえず、目の前の扉をくぐることにしよう。

 

「それでは、おじゃまします」

 

 リンディが扉を開け、中に入る。本日は数時間だが貸切となっており、お客さんの姿は無い。いや、なのは含め高町家総勢5人を除いてもう三人いる。なのはの友達のアリサとすずかである。もう一人はすずかの姉の忍だが、どちらかというと翠屋の店員側だ。彼女は高町家長男の恭也と恋人であるため(将来的には恭也が婿養子に行きそうだが)である。

「あ、きたみたいよなのは」

「ユーノくーん!」

 

 なのはがユーノの名前を読んだ際、なのはの父、高町士郎がものすごい殺気を放った。だが、瞬時に妻の桃子がわき腹をつねる。

 

(ハッ!? この感じ、戦闘民族!?)

 

 そして、この中ではもっとも動体視力が良いアクアだけがその様子を捉え、慄いている。というか、隠れバトルマニア的な一面がその光景によって彼を正気に戻した。

 

「へぇ、アンタがユーノ……あれ? アンタってこの前の」

「あ、」

「えっ、ど、どういうこと?」

「えーあー、うん。ほらこの前話したじゃない」

 

 アリサから語られるのは、数日前、ユーノと出会っていたということだった。

 

 ◇◇◇

 

「キャァァアアア!?」

 

 その時アリサはいつものクセで思わず、自分に向かって吼える犬に怒鳴ってしまった。通学中などにやってしまうが、彼女も犬好きのためそれほど本気でなかったのだが、今回はその犬がとても気性が荒く、アリサを追いかけてしまったのだ。

 

「なんで繋がれていないのよぉ!!」

 

 さらに不幸なことに、放し飼いに近い状態(首輪はついている。家の敷地からは出ていなかったようだが今回は飛び出してきた)だったので走っているのだ。

 

「なのはは最近付き合い悪いし、すずかはなんか最近図書館に入り浸りだし散々よ!!」

 

 なんだかんだで寂しがり屋の彼女。もっとも、それを表に出すことは無いが。

 愚痴りながらも足は止まらない。というか、止まれない。

 

「だ、誰か助けてェェ!!」

 

 彼女の祈りが届いたのか、助けはあった。

 突然上から何かが降ってきたのだ。

 

「キャウン!?」

「はいはい、大人しくしててね……よーしよし、お家に帰ろうね」

「ワウン……」

「うーん、ビックリしたのかな。まあ、落ち着いたみたいだし、もう大丈夫かな。それじゃあもう人は追いかけちゃだめだよ」

 

 博識なアリサも知らない民族衣装のような服。自分より明るい色の金髪の少年。不思議な感じがして、アリサはしばらく動けなかった。

 

「えっと、大丈夫?」

「……」

「大丈夫ですか?」

「……あ、私か!?」

 

 思わず変なシャウトをしてしまう。その様子を見て、目の前の少年は少し笑った。

 

「あ、う……」

「元気そうだね。それじゃあ、気をつけてね」

「あ、まって」

 

 だけども、その彼は急いでいたのか自分の声は届くことなく去っていった。

 

 ◇◇◇

 

「とまぁ、こんな感じで」

「え、え、え?」

 

 なのはは混乱していた。ユーノとアリサに面識があったのはまだ良い。だが、このアリサの表情はなんだ?

 なんで顔を赤らめているんだ? なんでチラチラとユーノの顔を見ている?

 

「えっと……」

「アリサよ。アリサ・バニングス」

「あ、僕はユーノ・スクライアです」

「まあなのはから聞いていたけど……この前はありがとう」

(あのアリサちゃんが素直にありがとう!?)

 

 この前の激戦なんか霞むほどの強敵が出現した瞬間だった。少なくとも、なのはにとってはだが。

 

 ◇◇◇

 

 さて、三人がラブコメやっているころ、残った9歳児(二名はクローンのため実年齢不明)もラブコメやっていた。

 

「アクア君。お久しぶり」

「ああ、すずか。そうか、そういえば知り合いだって」

「えっと、知り合い?」

「ああ、この前図書館に行っていたときに本探すの手伝ってもらった」

 

 アクアは悪魔に謎の力を渡された際、悪魔の名前だけでも調べておこうと図書館に行っていたのだ。その際、タイミングよくジュエルシードが発動していたのでなのはがフェイトに二連敗していたのだ。

 で、そのときのアクアはまずは悪魔ラウムについて調べようと捜していたのだが、図書館の使い方が分からない。

 で、それを助けてくれたのが偶然出会ったすずかということである。

 

 ◇◇◇

 

「むぅ……」

「えっと、どうかしたの?」

「探したい本が見つからない」

「何の本かな?」

「悪魔ラウムについて書かれたやつ」

「なんかマニアックだね……ソロモン72柱で探す人は多いのに単体でなんて」

「ソロモン?」

「そこから知らないんだ……えっと、何処の国の人?」

「日本生まれ。山奥で暮らしていたから世情には疎い」

 

 二人とも、なんとなくお互いが純粋な人間でないことが分かっており、妙な親近感が湧いて初対面にも関わらずスムーズに会話していた。

 その後、目当ての本が見つかったのだが思ったより量が多くなったので数日は通いつめることになり、すずかとも毎日顔を会わせていたのである。

 ちなみに、プレシアとの戦いで悪魔の力の一端を使えたのは図書館でソロモン72柱について調べておいたおかげである。結果、自分が得た力も大まかには理解することが出来た。

 

 ◇◇◇

 

「怪我しているみたいだけど大丈夫?」

「あ、うん。別にたいしたこと無いぞ」

 

 何でそんなに近づくの? え、なんでそんなに簡単に触れ合えるの!? 私なんて手を繋いだことすらないのに!!

 

 ゆらゆらと、フェイトの周りに魔力が漂い始める。フェイトの使い魔曰く、薄くもれ始めた魔力はバーサーカーなプレシアにソックリだった。

 

「あ、アクアのど渇いていない? 私水持って――」

「喫茶店ならコーヒーをブラックで飲む」

「お、まだ小さいのにわかるのかい?」

「ああ……前にブラジルにいたことがあってね。そのとき下宿させてもらった人に色々教わったんです」

 

 何故か士郎とコーヒー談義を始めるアクア。ちなみに、ブラジルにいたのは変身丸薬の材料を取るためにしばらく海を渡って暮らしていたのである。材料が多いため、わりと世界中を飛びまわっていた。比喩ではなく。

 だが、コーヒー談義のせいで一人の少女が地に手をつけているのは言うまでもない。

 ちなみにすずかは横で優雅に紅茶を飲んでいました。

 

 ◇◇◇

 

(エイミィ、これは一体どういう状況だ)

(いやぁみんな若いねぇ……)

(むぅ、なのはの兄としては相手の男の事を見極める必要があるが……何故だ、あのユーノからは俺と同じマスオさん属性を感じる。アクアというやつも見覚えがあるような……)

(すずかにも春がきたのかしらねぇ……まだ微妙ね。なのはちゃんのほうは……ライバル確定かな)

(な、なのはに先を越される……アリサちゃん頑張って!!)

 

 その様子を見ていた思春期の若者達(若干一名分かっていない)はそれぞれの気持ちで見守っていた。

 

 

「なのは、私は負けるつもり無いからね」

「にゃ!?」

「えっと、どういう状況だろう?」

 

「フェイトちゃん……うーん、まあ10年後くらいになったら考えようかな」

「お、大人の余裕!?」

「いや、一応同い年がなに言ってんだ?」

 

 少年少女達のカオスはまだ、始まったばかりだ!

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、なのはが戦っていたこととかその他もろもろはリンディさんが頑張って話を考えて桃子さんに説明してくれていました。美味しいケーキで懐柔されそうでしたが、頑張りました。

 完全に餌付けされたので地球に移住することにはなりましたが。

 

「決定だからねクロノ」

「ちょ、僕にはなんの相談も無しですか!?」

「はっはっは、覚悟きめなよクロノ君」

 

 




というわけで、出来なかったのは

ユーノとアリサの出会い
アクア君始めての図書館
ブラジルにて出会った男

の三本です。考えていたんですけど、どれも短い上に連載していく状況だと蛇足過ぎるネタが殆どになるので出来ませんでした。
というわけで、キンクリの上でこのカオスにぶち込みました。

ちなみに、アリサとユーノは悪魔前に出会ったことになっています。


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嵐を放つもの

とりあえず、ゴールデンカオスウィーク、アクアたちはこれにて終了です。
まあ、ゴールデンカオスウィーク自体は終わりませんよ。

詳しくはあとがきという名の次回予告
先に謝っておく。悪ノリしすぎた。


 翠屋にカオス降臨などがあった翌日。結局カオス展開が続いただけでその日は少女達にとって、これといった進展は無かった。

 本日は魔力値や魔道師ランクの調査ということで模擬戦が予定されている。

 

「無理です。今回だけは謹んでお断りさせていただきます」

「そんなこと言わないでお願い、クロノ。模擬戦の相手をするだけでいいのよ」

「艦長の言葉でも聞き入れられません! むしろ模擬戦が嫌なんです!!」

 

 アースラ艦内、リンディとクロノが珍しく言い争っていた。というか、真面目なクロノがかたくなに模擬戦を断っていた。

 いつもの彼なら、進んでやるはずなのだが……

 

「だって、計測しただけでかなり危険なのに…………それをバトルロワイヤルってどういうことですか!?」

「一人ずつ相手するにも時間がかかるし、だからといって彼ら4人を二組に分けるのもねぇ……相手によっては手加減とかしちゃいそうだし、逆に本気でやり合いそうな二人もいるもの」

 

 ちなみに、本気でやり合うのはアクアとなのはである。どうもお互いに相手を天敵だと思っているようだ。

 

「だったらなんでバトルロワイヤルなんですか!?」

「クロノの乱戦トレーニングになるじゃない」

「……本音は?」

「その方が手早いし、クロノがいれば危険なことになっても止めてくれるって母さん信じてるわ」

「少しは本音を隠してください!!」

 

 結局、母の言うことに逆らうの? の一言で無理やり参加決定。

 ちなみに、脱走しようとしたがエイミィに捕縛されました。面白いことが絡んだ時のエイミィは瞬間的にクロノを超えます。

 

 ◇◇◇

 

 戦いが始まる前、アクアは床に魔法陣を展開していた。今までゆっくりしている時間も少なかったので、自分の使う魔法がどういったものかあまり確認していなかったのだ。

 ルーン魔術に関しては以前ほど上手く使えなくなっていた。どうやら悪魔に渡された力の影響か、ジュエルシードを取り込んだときの影響なのか、もしくは両方か、いずれにしても自身の魔力の質が少し変化しているのである。

 

「うーん、今までの技は使えるけど……なんか違和感があるな」

 

 床に展開した魔法陣も、見たことないものだ。ミッド式でもなく、アクアは知らないがベルカ式という管理世界に広まっているもう一つの体系とも違う。

 形は正五角形の中に五芒星が描かれたもの。回りの文字はラテン語表記と思われる。

 

「いかにもって感じだけど……大丈夫かな」

 

 模擬戦ではあるが、あの魔砲を見た限りじゃネブラに変身することも視野にいれようと思う。そんなことを考えながらアクアはとりあえず今までの魔法を試し打ちする。

 

「プレト、いけるか?」

《GUOO》

 

 物を壊すわけにはいかないので、プロテクトシェードを試してみる。

 アクアは左手を前に突き出し、魔力をルーンに流すが……

 

「あれ? 発動しない」

 

 何度も試すが、どうにも上手く発動しない。空間が少し歪んで見えるところを見ると、完全に発動しないわけではないようだが……これはマズイ。どうしたものかとアクアは頭をひねる。

 

「ハンドウはどうなんだ?」

 

 念のためハンドウを起動。ゴルディオンハンマーの負担も大きく、今まで修理していたのだが、本日の日程までには直ったようだ。

 みると、元々未完成だったので足りないパーツも加えられている。

 

「うーん、なんかモードが増えている……えっと、ディバイディングドライバーか」

 

 周囲の空間を湾曲させることで様々な用途に対応するツール。この場で使うには危険。

 流石に試すのは無理かと思い、待機状態に戻そうとするが、そこであることをひらめいた。

 

「いや、これってプロテクトシェードの発展系の力ってことなのか……なら」

 

 ディバイディングドライバーを発動状態にして力を流し込む。左手に接続された巨大なマイナスドライバー。先ほど安定しなかった力の流れを覚えるために、空間湾曲に必要な分の魔力の20分の1程度で起動。

 

「今までのやり方じゃだめだ……なら」

 

 自分が最後にまともに魔法を使ったのは、あの悪魔召喚モドキ。

 あれの発動した時を思い出して魔力をこめる……

 

 ◇◇◇

 

 そして、少し時間がたって戦いの火蓋が気って落とされた。

 結界により構築された戦闘フィールドにはアクア、ユーノ、なのは、フェイト、そして青い顔をしたクロノが飛んでいた。

 

「まだ上手くいくか分からないけど……」

 

 アクアは拳を握り、精神を集中させている。すでにプレトとは融合状態。ハンドウも起動し、アクティブモードでアクアの動きをサポートしている。

 以前とは違い、足にブースターのようなものが取り付けられ、高速空中戦も可能になった。

 

「よし、はじめるぞ!!」

 

 最初に飛び出したのはクロノ。出来るだけ早く決着をつけるためにまずは高火力のなのはを狙う。スターライトブレイカーという切り札の特性上、時間が立つほど彼女が有利になると判断したからだ。

 次に、フェイトも飛び出す。狙うのはユーノ。ジュエルシード争奪戦の中であの防御や捕縛には手を焼かされた。頭脳面でも危険と判断したのだろう。

 次にアクア。アクアはクロノを狙った。この中では一番戦闘経験を持つ彼だ。タイマンではまず勝てない。ならバトルロワイヤルという特性上、早期にダメージを与えるには越したことは無い。

 次に動いたのはユーノ。すでに構築が終わっていたバインドをアクアにめがけて放つ。しばらく行動を共にしていたからこそ、その能力の厄介さを知っている。それゆえの判断だった。

 そして、最後に動いたのは高町なのは。硬い防御を生かし攻撃を受け止めるとモニター越しにリンディは予想していた。もしくは、今まで負け越しているフェイトを狙うか。だが、誰も予想していなかった動きを見せた。

 

「ディバインシューター!!」

 

 誘導弾。それだけなら普通だろう。だが、瞬時に8つの誘導弾を作り出し、4人にそれぞれ二つずつぶつける。

 まさか全員同時に狙ってくるとは思わなくて、4人とも被弾する。

 威力自体はそれほど無い。だけども、彼らは背中が寒くなった。

 

(見た限りはそれほど戦闘出来る思考の持ち主とは思わなかった……だけども、この感じは……)

 

 クロノは信じられなかった。なのはは、普段は運動音痴で戦いを好まない人物だ。だが、一度戦いの思考にスイッチが切り替わることによってこのバトルロワイヤルに対応して見せたのだ。

 

「まだまだいくよ!」

《マスター、後ろから接近している反応を確認》

「シールドお願い!」

 

 奇襲。アクアがブロウクンマグナムでなのはを狙っていたようだが、簡単に防がれてしまう。

 

「おい!? バリア貫通効果があるはずなんだけど!?」

「そんな弱いパンチじゃ蚊がさすよりも軽いの!!」

「……上等だぞコラ」

 

 ピキッと嫌な音を立てるかのようにアクアは低い声を出す。

 その後ろではユーノとフェイトが高速戦闘をしていた。ユーノは既にチェンジビーストを使用している。改良が加えられているようで、若干及ばないものの、フェイトの機動力についていけていた。

 そして、クロノは距離をとって射撃魔法で殲滅する作戦に出たようで大量の魔法を準備している。

 だけども、戦わせてはいけない二人が回りにどんな被害をもたらすのか誰も知らなかった。

 

「嵐と雷を操るもの その御手を今ここに

 水よ荒れ狂え 嵐よ剣となりて我が敵を撃て!

 ソロモンの言葉と共に! フルフルよ、その力をここに!!」

 

 アクアの右手に集まった濃密な魔力。いや、小型の嵐そのもの。

 かなりの魔力を消費したようだが、その力を解放する。

 

 ◇◇◇

 

「うわぁ……えっと、アクア君って悪魔召喚型なのかな」

 

 アースラ艦内。モニタリングしているメンバーが集っているが、全員口をあんぐりさせていた。

 エイミィが声をだしたが、それに答えるものはいない。

 

「うーん、種別は儀式魔法かな……計測データだと、世にも珍しい儀式特化型」

「そ、それはまた……なのはさんは砲撃魔道師だしユーノ君は結界魔道師」

「色々と突き抜けていますねぇ……あ、あの大魔法ただの目くらましに使ったようですよ」

「あんなに膨大な魔力を使ったのに!? 何考えているんですかアクア君は!?」

「あぁ……変身しましたね」

「……軽々しく使わないで欲しいのだけど……」

「あ、クロノ君が嵐で吹き飛ばされた!?」

「急いで回収しないとッ」

「で、ですがこの魔力反応……なのはちゃんのスターライト――」

「――ブレイカー?」

 

 ◇◇◇

 

「さっきの嵐のおかげで一気に魔力が……これならいける!」

《クロノ執務官がリタイアしたおかげで、さらに倍プッシュ。マスターユーノとフェイトさんの使用した魔力もあるのでこれならアレが撃てます》

「よーし、発射シークエンススタンバイなの!!」

《了解しました。スターライトブレイカー発展型。スターストームブレイカー発射用意》

 

 その声を聞いたとき、ユーノは青ざめた。というか、自分に出来る最大防御をしなければならない。調子に乗って広域殲滅集束魔法なんか考えなければよかったと。

 

「フェイト! 急いで防御するかなのはの射程……から離脱は無理だからやっぱり防御!!」

「え、え?」

 

 フェイトはその叫びをすぐに理解できなかったが、分かった。分かってしまった。なのはがチャージしているあのピンクの球を。いや、より膨大でなおかつ乱回転している。

 嵐が来る。先ほどとは比べ物にならない嵐が。

 

「ばばばばバルディッシュ!!」

《落ち着いてください。サー、フェイト》

 

 とりあえず自分の限界を超えた防御を成功させた。もともと苦手な上、防護服も薄いが、今までに無い位に防御力重視の見た目に変わる。

 その姿、露出どころか着膨れするほどだ。

 

 

 

 

 

 ちなみに、アクアはレストリクトロックで捕縛されています。

 変身したはいいものの、なのはには見抜かれたのです。

 

 

「さあ、いくよ……スターライトブレイカーの進化系! スターストームブレイカー!!」

 

 それはまさに、流星を超えた、流星群だった。

 チャージされたピンクの球体がさらに乱回転し、魔力を解き放つ。

 一つの大きな砲撃が降り注ぐのではなく、破裂するかのように沢山の星が降り注ぐ。

 一発一発の魔力量はスターライトよりも少ないが、乱回転した分破壊力を増している。

 それがいくつも、いくつも……その光景はまさに世界の終末と言っていいほど。

 

「……やりすぎたの」

 

 さすがにマズイと思ったが、既に後の祭り。結界内の空間とはいえ、みんなにどれほどダメージを与えたのか煙で見えない。

 とりあえず、大きなトカゲだけはやっつけたと思った。だけども……

 

「流石にしぶといの」

『殺す気かッ!』

 

 アクアは無事だった。いや、既にボロボロでネブラも崩壊しつつある。

 というか、すぐにネブラの姿を保てなくなりもとの姿に戻った。

 すぐさまアクアの実を食べ、周囲の水を巻き上げてなのはに突撃をしかける。

 

『喰らえェェ!!』

「させるかなのぉぉぉ!!」

 

 集束魔法は負担はあっても自分の魔力はそれほど使わない。なのははディバインバスターで迎え撃とうとするが……

 

「ストップストップ!! これ以上の戦闘は危険です。アースラ艦長リンディ・ハラオウンの名においてこれ以上の戦闘は禁止します!」

 

 水面に浮いていたユーノやフェイト、そしてアースラのクルーは背中から魔力の羽をだし、中に飛んでいたリンディはまさにあの時、天使に見えた。後にそう語っている。

 

 結局、この模擬戦は不完全燃焼に近いが一応の終わりを迎えたのだった。

 

 ◇◇◇

 

 その後、データを検証した結果、

 高町なのは

 砲撃魔道師AAAランク

 ただし、最大破壊力はSSランクに匹敵

 砲撃魔道師なのに防御が固く、運用方法が戦車そのもの 

 

 フェイト・テスタロッサ

 高速戦闘型AAAランク

 電気の変換資質もち。万能で多くの種類の魔法を使える

 使い魔、アルフを従えている

 

 ユーノ・スクライア

 結界魔道師Aランク

 攻撃魔法の適性の低さのためランクは低い

 結界、防御、捕縛に関してはSランクに匹敵

 独自に魔法を作ったり、デバイスを使用しなかったり記載する項目が無い部分を加味するとAAランク以上にはなる

 

 アクア・プロト・ベターマン

 儀式魔道師Aランク

 4人の中では魔力量がもっとも少ない

 ただし、変身などの特殊技能によりSランク以上になる場合も確認されている

 能力がピーキーな上、後の調査で分かったソロモン式と呼ばれる地球古来の悪魔契約型魔法を用いていた(使い手自体は一度数百年前に途絶えた。アクア氏は悪魔に直接接触したことにより習得)

 彼が以前使用していたルーン魔術というものは事件後、リンカーコアの性質が少し変化したために適性値が下がった

 リンカーコアの適性が肉体強化と魔力操作、儀式魔法に特化している

 備考として、現在地球に魔法は公になっておらず隠れた使い手が居るのみと思われる。

 

 この記録を見て、リンディは一時間ほど頭を抱えたという。

 なお、ある執務官は魔力ダメージで数日ほど動けなくなってしまい、ある補佐官に看病されていたという噂がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにこの日、アルフは食べすぎで寝込んでいました。

 




君たちに最新情報を公開しよう

アクアが以前であった車椅子の少女
そしてその周りに集まりだす変人集団
突如、現れた謎の男
果たしてその目的とは?

リリカル・W・ボーイNEXT
「八神家の食卓」
次回もこのチャンネルにファイナルフュージョン承認!



これが勝利の鍵だ
「ボンバイア博士」


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八神家の食卓

前回の予告には一応沿っています。一応ね。一応。

いつの間にかお気に入り200件突破ありがとうございます。

今回主人公もユーノも他ヒロイン二人も出番無いですけどたまにはこういう回があってもいいじゃないか!




「ええかげんにしいやぁ!!」

 

 今日はそんな八神はやて8歳のシャウトから始まった一日をご覧ください。

 

 

 ◇◇◇

 

 海鳴市。幽霊や吸血鬼、霊能者から超能力者。暗殺者じみた剣士に近頃は悪魔や魔法使いまでもが出没するカオスじみた土地である。

 おそらくは、これ以外にも色々いるのだろうが、今回は足が動かない車椅子少女、八神はやての日常について語ろう。

 

「まったくもう、博士といいメルちゃんといいなんでそんなに仲が悪いんや!! わたしは悲しいで。まったくもって悲しいで!!」

「でもねはやてちゃん。このアフロ気持ち悪いのよ」

「それは我輩の存在全否定であるか?」

 

 車椅子を使っているとは思わせないほど力強いシャウトで、目の前の妖精のような美人と、白衣を着たアフロの二人を叱るはやて。

 先に答えた妖精のような美人。メルセデス・クオーツハート。

 その隣に居るのはマズダ・ボンバイア博士。白衣にアフロで色黒。出来ればお目にかかりたくない人種の人だ。

 ちなみにこの二人、ある事情によりそれぞれはやてが面倒見ている居候である。

 

「たしかに博士のアフロはキモイで。目に入れたくない。いや視界に入るなと言いたいけどな……でも、今話しているところはそこじゃないんや」

「八神君、君も大概ひどいのである……」

「シャラップや。メルちゃんには一つ言わなきゃならんことがあってな」

「な、なによ。私は権力には屈しないわ!」

「だけどな……仲が悪いし暴れだすし、博士見た目はアレやけど、ほんまなんでアフロなんか小一時間問い詰めたいんやけど、実害はないわけやし」

「だからひどいのである。そしてこのアフロは――」

 

 そこで、アフロの声をさえぎる為に一冊の本が博士の顔面に超エキサイティングした。

 まるでブレイクダンスを踊るかのように、博士の身体を縦横無尽に角を使って激突。また激突。もういっちょ激突。もう一つおまけに激突な有様である。

 

「痛い! 痛いのであるよ!?」

「ほら! なんか鎖が巻きつけてある呪いの本っぽいのもアフロが気持ち悪いのよ」

「うん、それはそれとして今はメルちゃんの話やで?」

「はい……」

「あ、呪いの本っぽいの。とりあえず博士が喋れなくなるまでよろしゅうな」

 

 あちょ、ラジャーじゃなくて、あ、そこはダメーなのである!?

 そんな断末魔をバックにはやてはメルセデスに説教を続ける。

 

「あんな、博士ももう20やしお金うちに入れてくれるんよ。グレアムおじさんの入れてくれるお金がある言うても収入源は必要なんやで。対面的にも。でや、あんた等二人はなるべく自分で生きてもらわなお母さん困るで。そりゃいつまでもうちに入てくれてもええんやけど、自律できなきゃあかんで? 博士見た目はアレやけど料理できて生活能力あって自分の発明で収入得ているんやで? そこんところ、メルちゃんはどうや? まず料理は殺人クラスやろ、で洗濯できんし一人でおつかいできんやろ。もう17やで? 本当なら花の女子高生やろ。というか芸能界にスカウトされそうな見た目のクセに引きこもりやっているんやないこのアホンダラァ!!」

「はやてちゃん落ち着いてください!」

「ええい、止めるなリィン! まずは教育的指導からや!!」

 

 現在はやてを止めに来たのはリインフォース・ツヴァイ。ある事情によりボンバイア博士がはやてのリンカーコアを基に作り上げたユニゾンデバイスである。

 ちなみに、ツヴァイという名のとおり姉にあたる存在が先ほどからボンバイア博士を吹き飛ばしている本の中にいる。一応会話はできるのだが現在ははやての魔力を大量に消耗するので滅多に喋らない。

 

「どうせ、どうせ私はプー子ですよ。無職ですよ。引きこもりですよニートですよ。私のとりえといったらこの美貌とあとはお茶目な性格」

「寝言は寝て言えなのである」

「……バカァ!!」

「ゴフッ!?」

「ほんま、アフロがなくてデリカシーさえあったら……勿体無い男やで。顔のパーツはいいのにアフロが邪魔や。このアフロ」

「お、おのれ……ところで八神君、例のものが完成したのである」

「……ついにか。長かった。あの褐色美少女に出会ってから、乳もんどきゃ良かったと思い悩む日々。だけどそれも今日までや!」

 

 博士が取り出したのは手袋のようなもの。青色でゴム質。見た目は普通だが、なんか近寄りがたいオーラを放っている。

 

「これぞ、『乳もんだるでぇ6号』なのである!!」

「おっしゃー! これではやてちゃんの大勝利間違い無しや!!」

「ああ、ツッコミが欲しいです……お姉ちゃん、出てきてください。というか一刻も早く」

 

 ◇◇◇

 

「ってことで頑張ったわ」

「シャッラプや。6号君の力を思いしれぇ!」

「え、ちょ、はやて――キャァ!?」

「おお、ええで。服の上からでも生のような感触が――ふふふ」

「う、あぅっ、あんっ――いい加減にしろぉ!!」

「ひでぶ!?」

「アンタも何作ってるのよ!?」

「いや、家主の言うことには逆らえないのである」

「ぐぬぬぬ……」

「ふふふ、この家ではわたしがルールや! あとでリィンも……くっ逃げられたか」

「まあ当然なのである」

「仕方ない。博士の雄っぱいを先に楽しむことにするわ」

「見境無しであるか!?」

 

 少女のクセに、乳が絡むとオッサン以上にアレなことになる残念美少女八神はやて。相変わらず車椅子関係ない力強さだった。

 

「おお、白衣を着ているから頭脳系と思いきや適度に引き締まった筋肉に包まれた男の――以下長いので略――これはいいものやで! メルちゃんゴメンな先に堪能させてもろうたで」

「なんで私に謝るのよ……というかアンタもなんでされるがままなの!?」

「いや、特に気にすることでもないのである」

「男からしたらソウカモだけど……でも」

「むふふーやっぱりアフロ以外の髪型もしてみたらどうや? 毎日が変わるで?」

「断固拒否なのである」

「ぐぬぬぬぬ……はやてちゃんも余計なことは言わなくていいの!!」

 

「ああ、まだカオスやっているです……それはそうとご飯は?」

 

 ◇◇◇

 

「さて、いただきます」

「いただくのである」

「いただきます」

「はやてちゃんの料理は美味しいですぅ」

 

 四人で囲む食事。いや、空中に漂う本も含めた家族はなんだかんだで楽しそうであった。傍目から見たらとんでもなくカオスだが。

 

「むぅ、今日のエビチリは隠し味が利いているのである」

「さすが博士やな。お見通しか」

「ごま油の使い方もよし。お見事であるな」

「はやてちゃんの料理がおいしすぎるのが悪いのよ。だから私の料理が上手にならないのよ」

「人のせいにしないのです……メルセデスさんの料理が下手なのは持病でしょうに」

「グハッ!? 何気ない一言が私の心にクリティカル!?」

「この焼売もいけるのである……日本人はお米がほしくなってくるのであるな」

「そうよねー……いや、春巻きとかあるからさすがに多くなりすぎるけど」

「その前にあんた等日本人やないやろ」

「これは一本盗られたのである」

「まあ私ら日本育ちだけどね。向こうには戻りたく無いし」

「仮にも国境関係ない軍隊の一員だった人物の言うことではないであるな」

「あんただって色々作っていたでしょう……リアル起動戦士とか笑えないのよ」

「色々違うのであるが……まあ知らない人から見たらどちらも人型ロボであるな。我輩はどちらかというとパイルバンカーを中心にナノマシン、戦闘機から洗濯機まで、あ、振り子時計なんかも作ったのである」

「雑多すぎるやろ!?」

「というかなんか危ない会話をここでしてもいいんですか……」

 

 ◇◇◇

 

 そしてその様子を見ていた二匹の猫。いや、魔導師の使い魔リーゼロッテとリーゼアリアは見ていた書類と博士、メルセデスの情報を照らし合わせて絶望した。

 

「なによ……この女の経歴は。あの子に手を出す隙さえないじゃない。というか返り討ちよ!?」

「あのアフロも……闇の書を少し解析するだけであの子に負担がかかっているのを見抜いて、しかもそこからユニゾンデバイスを設計できた上に作るとかあり得ない」

「どうするのよこれじゃあ計画が……」

「仕方ない。ひとまず撤退!」

「決して怖気づいたわけじゃないんだからね!!」

 

 そんなことがあったという。

 

 ◇◇◇

 

 次の日。山本のぼるは困っていた。小学校に入学した後はなのはたちとおなじクラスで浮かれていたが、流石に少し気持ち悪がられた。早すぎる中二病も手伝ってアレなことになっていた。

 今は落ち着いたために大丈夫だ。自分以外の転生者が居るみたいだし、自分には結局魔力の欠片もないのか力にも目覚めない。

 むしろ、命の危険があったことを考えると、うかつなことは出来ない。それに孤児院のみんなのことだってある。

 

「はぁ……まあまだ5月なのが救いかな」

 

 一応孤児である八神はやて。孤児院からチャリティーイベントの紹介などのプリントを届けなければいけなくなったので彼女と顔を合わせることになる。

 せめて、お手伝いさんがいてくれればいいのだが……

 覚悟してチャイムを押すと、でてきたのは一人の男性。普通なら間違えたかなと思うところだが……

 

「……アフロ?」

 

 白衣にアフロだった。意味がわからない。

 

「どったの?」

「どうしたんですかー?」

 

 次にやってきたのは凄く美人なダメ人間オーラ満載の女性。

 そして自分と同じくらいの少女。ただし、今現在居るのはおかしいはずの少女。

 

「……えっと、八神さんのお宅ですよね?」

 

 なんとか普通の対応が出来た自分を褒めてあげたくなった。

 というかこの二人は誰なんだツヴァイはなんで居るんだよとか色々言いたいことがある。

 

「はいはい。どちら様ですかー?」

「えっと、八神はやてさんですよね? 孤児院のチャリティーイベントなどの件でプリントを預かってきていますので」

「ああ、あそこの孤児院の子か~同い年くらいの男の子がいるって聞いていたんやけど、君がそうなん?」

「あ、はい。山本のぼるって言います」

「よろしくなぁ。わたしは八神はやてって、名前知っとったな。それじゃあ院長さんにもよろしくつたえてや」

 

 結局、そのまま帰ったが……あのアフロと美人は一体? 八神家父と母? いやそれはありえないか……転生者かとも思ったが、あの見た目はあり得ない。男で転がり込むならアフロは無い。というかなんでアフロだ。

 美人さんのほうも見て分かるほどの堕落オーラだ。なんていうかどこからつっこめばいいんだ?

 

「ん、おじさん何してるの?」

「ああ、知り合いが元気でやっているか見に来ていたんだが……心配なかったようでな」

「……」

 

 のぼるは混乱した。普通に話しかけたがなんかこのおじさんどこかで見たことあるぞ? っていうか某蛇さんじゃね?

 え、多重クロス?

 

「さて、俺は仕事があるから……じゃあな坊主」

「あ、うん……」

 

 この後、改めてニュースを見ることで世界のカオスさに頭を抱えるのぼるであった。

 

 結論。海鳴ではなく地球がカオスです。




今回、ある作品のキャラが出ていますが、今後出すわけじゃないです。
まあ以前に存在を仄めかす場面がありましたのでいいかなと。誰もツッコミ入れませんでしたが。

というわけで八神家むっちゃカオスでした。
だけども俺の思い描いていたカオスにはまだだ。一度に出しすぎるとアレなんで今回はこの二人だけ。


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みんなの食事事情

カオスウィーク最終話です。
最後がこんなのでスイマセン。


「ああ、涙が出てくるくらいに美味しい」

「君は黙って食べれないのか」

 

 ◇◇◇

 

 クロノがアクアにツッコミをいれ、そこから始まったのは今までの食事事情の話。

 母親ののむトンデモナイ甘さの液体を見ていたクロノは食に関して嫌な思い出が多い。

 だからこそ、アクアのように食べるだけで幸せそうな人物を見て思わずこう言ってしまったのだ。

 

「まったく、お前もあの生活をしてみれば分かる! 来る日も来る日もひもじい思いだった。野生動物とタイマンしてから裁いて焼いて食べることもあった。そもそもエンカウントするのって意外と少ないから腹を満たす肉なんて滅多に食べれない。たんぱく源? 虫に決まっているだろバカヤロー!!」

「分かった分かった……まったく、そんなに肉を食べたければ買えばいいのに」

「あぁん? クロノ……君の事は見損なったよ」

「ちょ、ユーノまでどうしたんだ!?」

「買いたくても買えないことだってあるんだ。というか戸籍が無いのにお金を稼ぐことは出来ないし、僕達子供だよ? 日本って国じゃ子供は働けないんだ。働けたとしてもろくなところは無いよ世界規模で」

「必然としてサバイバル生活だよ……いや、リアルにゴミ箱をあさった日もあったな。日本は賞味期限切れの弁当がそのままの状態で捨ててあることもあってさ……ふふ、涙が出てきたぜ」

 

 もはやそれはサバイバルではなくホームレスだろう……そんなツッコミという名の言葉のナイフを思わず突き立てそうになる、外見年齢小学生クロノ・ハラオウン実年齢14歳だったが、思いなおして優しい言葉をかけようとする。

 

「あれだ、まあ……生きていればいいことあるさ!」

「ぶっ飛べ!!」

 

 目が覚めたあと、クロノは対人スキルを磨こうと決意したという。

 

 ◇◇◇

 

「むふふ~フェイトちゃんも女の子だねぇ」

「ううぅ……からかわないでよ」

 

 ところ変わってアースラ艦内、エイミィの自室。簡易キッチンにてエイミィとフェイトがエプロンをつけていた。

 

「いやぁ、やっぱり自分の手料理って食べてもらいたいものだよね?」

「う、うん」

「あーもう、赤くなっちゃって可愛いなぁ……喜んでくれるといいよね、彼」

「べっ、別にアクアに食べてもらいたいとかそういうのじゃ――」

「誰も名前いっていないよ?」

「……エイミィのイジワル」

(おおう!? この上目使いは反則だよ!? こりゃあお姉さん久しぶりに燃えてきちゃったよ!!)

 

 内心では顔を赤らめて上目使いで自分を見るフェイトにより荒ぶっているエイミィ。自分が男なら押し倒していた。間違いなくそういいきれる。

 そして海鳴にいる車椅子の少女と彼女がであったとき、さらなる領域に足を突っ込みそうだ。

 エイミィとしては、この反応を引き出しているアクアを一回でいいから殴りたい。あの鈍感男には勿体無い。

 ちなみにリミピッドチャンネルのことはすっかり頭から抜け落ちていた。つまり、アクアは鈍感なわけでなくただこういう話に関しては極度にヘタレるだけである。

 

「で、なに作ろうか?」

「……えっと、地球で食べていたアレかな」

「どんな料理かな、麺とかパンとか」

「えっと、パンに近い。なんか四角くて、色々な味があって……」

 

 少しばかりエイミィさん困惑だよ。パンに近いのは分かったが、色々な味があるというのはどういうことか。

 ジャムパンみたいに中の具の種類が色々とあるのか、いや四角いって?

 

「黄色い箱のパッケージでそれだけでカロリーが」

「あ、うんフェイトちゃんそれ毎日食べていたの?」

「とっても美味しいんだよ」

 

 ちょっと涙が出てきたエイミィだった。

 というか、それは一般向けのレーションのようなものじゃ……

 一応軍に近い管理局員のため、思い描いたのは微妙に違うが、ニュアンス的にはあっている。つまり、普通の食事で食べるものじゃない。

 

「うん、フェイトちゃんそれはやめようね。お姉さんとの約束だよ」

「え、でも」

「いいから!」

 

 今のうちから矯正しないとマズイ。色々な意味で。そう思うエイミィであった。

 

 ◇◇◇

 

「……」

「どうしたのアクア?」

「いや、不穏なっていうか、向こうも向こうで色々とあったんだなぁ……と」

 

 場所は再びアースラ内食堂。クロノはいまだ目覚めないのでユーノが回復魔法を……かけずに放置している。なんでもフェレット形態や獣化型肉体強化魔法の資料を見たクロノが、フェレットもどきなる不名誉なあだ名を付けてくれやがったのでしばらく頭を冷やせと思っているらしい。

 

「なんか、つらいことでもあったの?」

「電波じゃないからな。いや、まあ……思念波だし似たような物か」

 

 最後のところは声がちいさくてユーノには聞こえなかったようだが、アクアのリミピッドチャンネルは感情の爆発など、大きな動きをする思念を無意識に拾ってしまう。

 たとえば、恐がりな人間がホラー映画をみてしまった時に、心の中で絶叫を上げるとするだろう。そうした場合、デパートほどのサイズの建物の中に恐怖を感じた人とアクアが居た場合、その感情が無意識のうちにアクアに伝わるのだ。

 というわけで、実はアクア……フェイトが赤面した時のその感情を拾ってしまったのである。

 いけないと分かりつつも、その後の会話もなんとなく聞いてしまった。

 とりあえずこれ以上は止めるべき(最初から聞かないほうがよかったが)なので、頑張ってリミピッドチャンネルを封じようとしている。

 

「ぐぅ……思いっきりなぐるな」

「あ、起きたか」

「そのまま永眠すればいいのに」

「なんかユーノは僕に恨みでも……あったなそういえば」

 

 半ば冗談で言ったつもりだったのだが、まさかここまで嫌がられるとは思っていなかったクロノ。本気で対人関係のスキルを磨いた方が良さそうだ。

 

「そういえば、二人に聞きたかったんだが融合はあの後、使えなくなったのか?」

 

 そう、ジュエルシードの影響で融合した二人。それが願いを叶えるジュエルシードの力によるものであるのは間違いない。だが、その場だけの力なのか、二人の身体に影響があるかをまだ聞いていなかったのだ。

 

「うーん、やってみない事にはわからないが……たぶん出来るな。ジュエルシードが俺達の願いをかなえたのは間違いないんだけど、あの融合自体はリンカーコアに式が残っているし」

「僕のほうも同じ意見だね……ただ、もしもう一度融合することになったとして、前回と同じ人格になるかといわれたらそれは違うと思う」

 

 リンカーコアには使われた魔法の式が残る。いまだ謎の多い器官だが、それでも分かっていることもある。

 そして、クロノはユーノの言ったことに疑問を持った。何故以前のアレがでてこないのか。

 

「いや、ベースは僕達二人だけど……あの時はジュエルシードも融合していたからね。願いを叶えたとは言っても、少しぐらい影響はでるよ」

「むしろ、そのときの状況や考えていたことで融合後の人格は決まるんじゃないか? あの時はアイツを倒したいって気持ちが大きかったし、比重が力に置かれていたからね」

「そうなのか……ところで、融合後の魔法は使えるのか?」

「無理だな。アレは融合状態なのが前提っぽい。理屈は分かっていても、俺達が単体で使うのは不可能だ。お互いの能力両方が必要な魔法ばっかりだよ。しかも、融合してお互いが補い合うだけじゃなくて増幅もしているし」

「あのドリルはかなりの威力があったのだが……なら、ほかの人なら?」

「それも無理だね。第一に魔力量が足りない。第二に、生身でデバイスどころか戦艦級の処理能力を使えないとダメなんだ」

「まて、戦艦級の処理能力だったのか、あの時」

「あーうん。増幅ってそういうことなんだよ。文字通り桁違いにね」

 

 なんともまぁ、規格外なことだ。だけども、融合するにしても魔力が足りないから現状じゃ無理だし、精神面もシンクロする必要があるから結局実現は無理そうだった。

 

「ただ、なんか次融合すると颯爽登場とか言い出しそうで怖いんだよな」

 

 なんか根拠とか無いし、よく分からないんだけど服装的にって心が叫んでいる……今度こそ、アクアが電波を拾った瞬間だった。

 

 ◇◇◇

 

 そして、結局電波扱いされて自室で落ち込んでいるアクア。

 部屋のスミスで一人寂しく体育座り~

 

「あはは、はは……はぁ」

 

 かなりつらい。かわいそうな人を見る目が自分に突き刺さり、ものすごくダメージが大きい。

 その後、食欲が湧かなくて今日を終えようとしていた。

 

「……あーもう寝よ」

 

 と、そこで部屋を小さくノックする音がした。

 こんこん、そんな柔らかい印象を受けるようなノック。自分の知り合いでそんなイメージがあるのは一人しかいない。

 

「フェイトー入っていいぞ」

「……おじゃまします」

 

 何故か顔を真っ赤にしたフェイトが入ってきた。

 と、そこで今までフェイトがやっていたであろうことを思い出す。

 

「あ、うん……紅茶ぐらいならだせるけど」

「えと、お構いなく……アクアはもう晩御飯食べた?」

「いや、今日はまだ食べてない」

「そっか……うん、よし」

 

 何がよしなんだとは聞かない。流石に野暮ってものだ。

 だけどもこの空気に体制が無くてアクアはなにか話題を変えたくなる。変えるわけにはいかないが。

 

「じゃ、じゃぁ……お弁当作ったから一緒に食べ……てくれる、かな」

「お、おう」

「ホント!?」

「そう言ってるだろ」

「うん!」

 

 結局、いまだ二人は微妙な距離にあったが、少しずつではあるがその絆の形を変えているのであろう。

 今の関係はこれと言った名称はない。だからこそ、形あるものへと変わっていく。

 

 ◇◇◇

 

 一方その頃、海鳴の地では一人の少女が特訓していた。

 

「まだまだね……これじゃあ合格とは程遠いわ」

「お母さんッ、次なの! こっちは自信作なの!!」

 

 先日、予想外のライバル出現に戸惑っていた高町なのは。だが、自分の家の職業を思い出し、跡を継がんばかりの勢いで母の技術を会得しようとしているのだ。

 その頭には既に魔法の力とかは吹き飛んでおり、そこにあるのは一人の乙女。

 

「及第点……かしらね」

「それじゃあダメなの……妥協はゆるさない。それが私なの! 常に全力全開!!」

「よく言ったわ! 美由希次の材料持ってきて!! あ、持ってくるだけで手を付けちゃだめよ」

「どうせ私は料理下手ですよ……」

 

 遂に自分の料理の腕を圧倒的に上回った妹の姿を見て、一人たそがれる少女の姿がそれからしばらく目撃されたという。

 




ということで、今回のオチはこの人でした。

本作のなのはさんのコンセプトは翠屋二代目と魔王の両立にあります。
どっちか片方に比重が置かれるのはありましたが、両方を実現する方はあまりいないので。

次回から新章突入ですが、ベターマン的なホラー要素を入れようと思うので一気にグロくなります。
あと、しばらくなのはさんの出番は無いかも。修行もあるし。


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ジャバウォックの声
暗闇から覗く瞳


新章、ジャバウォックの声編開始です。
今回から少しずつグロくなっていきますので、ご注意ください。

ベターマン要素も盛り込みたいのですが、最初ということでネタ多いかも。


 地球においての6月下旬、ミッドチルダでは謎の怪事件が世間を騒がせていた。

 

「また被害者が……」

「そう、これで13人目。まったく嫌になるわね」

 

 クイント・ナカジマは通称「吸血鬼事件」について調査していた。

 被害者は全員、首の辺りに牙で噛まれたような傷があり、そこから血を吸われたかのように全身の血か抜かれているのだ。

 遺体によっては、心臓を失っていたり、脳を吸いだされたかのようになっていたりと現職の局員でさえ直視できないほどのものがある。

 

「ロストロギアか、誰かが開発した凶悪な魔法なのか……少なくとも質量兵器では起きえない現象よね。手がかりもないし、どうしたものかしら……」

「今回は女性の方……どうやら、その」

「どうしたの? はっきりしないわね」

「それが……子宮を直接食い破られているようでして」

「ああ……ごめんなさい、たしかに言うのも憚られるわよね。でも、なんでこんなにひどいことができるのかしらね」

 

 過去に何度か起きているとも噂される吸血鬼事件。その全てが迷宮入りし、しばらくは起きなくなる。

 空は曇り、クイントの内心を表すかのようだった。

 

 ◇◇◇

 

「ふぅ……とりあえず合格したな」

「よかったねアクア」

 

 地球での滞在を終えて、アクアは管理局にて嘱託魔道師資格を取得していた。事情が事情だけにかなり速いスピードで資格を取得できたのは驚いている。

 なんでも、希少な上に管理世界にもない術式を使うのと、もともと存在自体が少ない儀式魔法に特化した魔道師が点数を上乗せしたらしい。

 技術を吸収できれば儲けものだし、それでなくとも希少な能力を持つものが自分達の組織に所属しているというのはメリットが大きいのだろう。色々と。

 もっとも、アクアの場合、管理局にはそれ以上に彼を必要とする理由があったのだ。

 

「にしても……まさかベターマンの技術が管理世界にまで広まっていたなんて」

 

 ベターマン、アクアはそのプロトタイプとして造られたのだが……なんと、セカンドタイプ、サードタイプと後継とも言うべき存在が幾人も生み出されているのである。

 流石に表立って広まっているわけではないが、その気になれば単体で国一つは滅ぼせてしまうベターマンだ。抑止力的な意味でもアクアの存在は欲しいのだろう。

 

「ユーノ、俺のほかにわかっているベターマンは?」

「赤頭巾を被った僕等と同い年くらいの女の子と、地球で言うお坊さんに似た格好の男の人。こっちは結構お爺さんみたい」

「うーん、俺が最初に造られたはずだからお爺さんってのがなんかなぁ」

「たぶん成人状態で生まれたんだろうけど、細胞の老化が激しくてこうなったんだと思うよ……君は大丈夫なの?」

「俺の場合、魔力を水に変換することもできるからな。どうもそういう細胞面はかなり安定しているみたいだ。その爺さんってもの見た目の老化は激しくても中身がやばいかもしれないしな」

 

 気になるのは、自分のようにプレトみたいな補助ユニットがないこと。試作体の自分とは違い、何かしらの対策を施されているのかも知れない。

 

「あ、その対策が不十分だったから老化が激しかったのか……ってことは、赤頭巾のほうはまずいな。完成体とでも言うべき奴じゃん」

「まあ何もしないならそれでいいんだけど……」

「こうして被害でているからなぁ」

 

 ユーノとアクアが居るのはミッドチルダの西部、最近吸血鬼事件などがあった場所だ。

 時期は既に7月下旬。吸血鬼事件の被害者が出なくなってからもう1月も経っていた。

 

「なんていうか、大きな戦いの痕跡だよな」

「間違いなくそうだろうね……」

 

 アクアが今回の事件、「ベタービースト事件」に呼ばれたのはこの戦いの痕を残したのがベターマンである可能性が高いから。

 ユーノはジュエルシード事件のことも評価され、民間協力者として要請をうけたからだ。

 

「そういえば、フェイトも嘱託の資格取ったんだよね?」

「ああ……他にも似たような現場があるしそっちを見てもらっている。こっちほどグロくは無いし」

「たしかに……彼女には見せられないよね」

 

 戦いの痕だけでなく、そこらに散らばる死体の数々。肉は抉れ、血は流れ出ている。

 そして、まるで食われたかのような痕。

 

「ビーストとはよく言ったもので……まあ、これをやったのはベターマンじゃないだろうけど」

「どうしてそう言えるんだい?」

「ベターマンが生み出された理由だよ……『不死者』だな。貰った資料にも対『不死者』用生体兵器として生み出されているデータが沢山あった。俺はプロトタイプだから『不死者』の魔力を感知する力はないけど……」

「他のベターマンはそれを実装している可能性が高いってこと?」

「それだけじゃなくて、一時的に感情を消すような処置もとられているかもな。俺を生み出した人たちはそういうことはしないけど、他の誰かならやるかもな」

「まだ推測の域をでないことをこれ以上論じても仕方が無いよ。とりあえず報告してからもどろう」

「ああ……地球はこれから夏休みだし、顔を出しにいくのにこんなことになるなんてな」

「仕方が無いよ。それに遺体の傷跡からも吸血鬼事件の特徴が出ていた」

「俺達の管轄から外れそうだな……なら地球に行けるかもだけど、なんかスッキリしない」

「それは僕も同じさ。じゃあ僕は報告したら帰るけど、君は?」

「あーフェイトのところに顔を出すよ」

「お熱いことで」

「何の話だ?」

「……相変わらずだね君も」

 

 ◇◇◇

 

「結局、フェイトも担当外されたのか?」

「うん……流石に吸血鬼事件は子供が担当するには危険過ぎるって」

「俺もベターマンが絡んでいても、直接の犯人じゃなかったみたいだしな……」

 

 ここはミッドチルダ南部のアルトセイム地方。時の庭園が元々あったばしょで、現在は戻されている。フェイトやアルフもしばらくはここで寝泊りしていた。

 

「ただ、どうにも腑に落ちなくてな……遺体を調べたんだけど、ベターマンじゃないほうが血を吸っていたにしても、身体のパーツのいくつかがまるで食べられたかのようになっていたんだ」

「たべっ?!」

「これはまた、嫌な話だけどさ……」

「二人も注意しておいてくれよ。なんていうか、嫌な感じがするんだよ」

 

 現場をリミピッドチャンネルを用いて調べてみても、何も分からなかった。

 誰にも言わなかったけど、こんなことは二回目だ。

 

「まったく、何で厄介ごとが次々に」

 

 逮捕されたオーガのリンカーコアを調べて分かったのは、ミッシングリンクは独特なリンカーコアの形状をしていること。

 まるで、渦を巻いているような不安定な形。それでいてミッシングリンクは全員同じ形のようだ。

 以前聞いた、死亡したという一人と同じ形状。ただし、中央にローマ数字のようなものでナンバリングされていたらしい。

 オーガは9番、死んだという人は3番。そして、ユーノの姉代わりだった人のコアも記録が残っていて、12番。

 予言系の能力によると、全部で12人。ナンバリングの順番に理由があるとするなら、能力の強さ……ただ、予知と肉体の電気化って順番のつけようが…………

 

「あー3番目の能力も結局不明だし、無限書庫はカオス過ぎて使えないし……はぁ」

「えっと、ご飯作ったんだけど食べる?」

「うん」

「元気出して、私も力になるから」

「うん」

「……なのはが二代目の道を駆け上がっているんだよ」

「うん」

「今日一緒にお風呂に入ろう」

「うん……うん?」

「もう言質はとったからね」

「……え?」

 

 ◇◇◇

 

「どうしてこうなった」

「あ、あんまり見ないでよ」

「おかしい。俺はそっちを向いていないというか、この状況は一体? 超スピードとかそういう次元じゃない。お願いします。後生ですから。後生ですから!!」

「えっと、お背中流します」

「いや、無理しなくていいから。ホント、顔赤いだろ絶対!」

「ふ、ふつつかものですが――」

「ホント誰に教わった!?」

「えっと、なのはがこう言えばイチコロだって」

「高町覚えてろよぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 ◇◇◇

 

 疲れた……

 傍から見ればうらやましいことこの上ない状況においても、アクアはそう言い切った。

 魔王候補やアースラのお気楽オペレーターに色々吹き込まれたせいか、フェイトのそういう知識が変に偏っていて矯正するのも一苦労である。

 しかも、男を手中に収める方法とか誰に教わったんだよ……え、リンディさん? あの人も同類かい。

 

「さて、俺はそろそろいく……なんで俺の端を掴む?」

「……えっと、泊まって、くだ、さい……なんて」

「……」

「……」

「、……」

「……」

「――はぁ、わかったよ。泊まるよ。泊まっていけばいいんだろ」

「ホントっ?」

 

 目に見えて機嫌がよくなる。笑顔が輝いていますねぇ……なんて誤魔化したくなるが、一日、一日だけ俺が鋼の精神で頑張ればいいだけだ。

 クローン体としての脆さを補うためか、人造魔導師として強い肉体を得るためなのか、同年代より発育がいい気もするが、そんなことは関係ないのだ。気にしてはいけないのだ。

 だから、フェイト様お願いですから俺を抱き枕にするのはぁあああああああ!?

 

 ◇◇◇

 

 同時刻、ベルカ自治領。

 

「さてさて、こんな雑魚じゃ我をとめるのは無謀というもの。まったく度し難い……だが、ベターマンとはいささか趣味の悪い。それでは我がベストマンということか?」

「御託はいいのだよ。我々ソムニウムはお前、『不死者』を殺すためのみに生み出された」

「無駄な足掻きを……我が能力を知らないな。一つ、我は全次元世界でもっとも高い魔力を持っている」

 

 全てを言い切る前に、中世の騎士のような男は真っ黒いフードを被った男、『不死者』に鋭くのびた爪を突きたてた。

 だが、爪は不死者に届く前に腐敗し、粉々になる。

 

「なっ!?」

「ただの魔力圧でこうなるとは……ふん、弱すぎる。消えろ」

 

 その一言で、名も知らぬベターマンは消え去った。

 

 ◇◇◇

 

「ねえ、スズキ……まだアレとは戦わないの?」

「使命を果たすことも大切だがね。マーチ、我々はまず力を蓄えなければいけない。数多く生み出されたソムニウムも次々と数を減らしている」

「嫌になるわね、私ら完成体が手も足も出ないなんてさ」

 

 赤頭巾を被った少女と、仏教の僧のような老人。二人ともあまり似ていないが共通する部分が一つだけあった。

 

「しばらくはハンター……いや、プロトタイプに任せておけばいいだろう」

「えーアイツ嫌いなんだけどぉ! ペクトフォレースも使えない欠陥品に任せてもいいのぉ?」

「彼は欠陥品ではなく、我々とはコンセプトが違う。まあ、試作型だから色々難があるのも知っているがね」

「むぅ、だったらなんでよ」

「……彼の変身できる姿を知っているかね?」

「えーっと、いくつだっけ?」

「ネクストシリーズで生み出された姿以外はすべて変身可能だ」

「ちょ、それズルイ!!」

「しばらくは不死者も表舞台に出る気は無いだろう……コチラから刺激しない限りはな。まあ、我々の仲間……とは思いたくないが、あいつ等の相手を任せるなら適任だろう」

「そっか、そっちで勝手にやってもらっている間に、私達が強くなればいいんだね! あったまいいスズキ!」

「そういうことだよ、マーチ」

 

 二人の眼球は、血のように紅かった。

 

 




細かく伏線を入れて推理要素を出したいけど、作者の技量的に厳しいかな。


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不安の始まり

今回はあのキャラの登場です。
徐々にシリアスになりますぜ。


 アクアはフェイトに抱きつかれた状態で目が覚めた。

 流石に本能の暴走とかは年齢的にも無かった(実際、培養液から出て5年も経っていない)ので、そういう心配はないが、無かったが、色々と精神的にキツイのだ。

 密着することで、普段は封じているリミピッドチャンネルが無意識のうちに鋭利になってしまう。そうなるともう、あとはひたすら般若心経を唱えるしかない。

 とてつもなく強力な能力なのに、色々とデメリットも多いのだ。

 

「そうだよな……今回の事件、デメリットの方が多いよな」

 

 ベタービースト事件では、リミピッドチャンネルのデメリットばかりが目立つ。

 まず、無意識に感情を拾うこともあるためノイズのような情報が頭を駆け巡ることがある。これは時々あるのでそこまで問題じゃない。

 だけど……ミッシングリンクの思考が読めないのはキツイ。おまけに、ベターマンの思考も読めないのだ。

 ベターマンどうしなら、リミピッドチャンネルを介した思念通話が可能だが、一方的に心を読むことは出来ない。モラルの関係上、無意識の場合を除き普段は絶対にやらないが、事件などで人の命が関わった場合は躊躇無く使う。だが、今回はそれが出来ない。

 ミッシングリンクにいたっては感情の波のようなものさえ感じ取れない。

 事件現場に残された残留思念を調べたが、被害者の心しか分からなかった。

 いや、この場合はデメリットも多い。痛いのだ。死んだ時の感情が一気に流れ込んでくるこの感覚は、筆舌に尽くしがたい。

 

「さて、と……あーハンドウの新武装のチェックもしないとな」

 

 まだまだ謎の多いこのデバイス、どうやら色々な後付装備の設計図が保存されていたようで、管理局でも解析の後、試作しているようだ。

 装備の多くがハンドウにしか装備できなかったり、ベターマンの能力を用いることが前提のものだったりと中々に厳しいものがあるそうだ。

 だが、使えるものもあるし、そうでなくても技術転用できれば魔力値の低い局員の戦う手段が確立されるかもしれないとのことだ。

 

「えっと、ディメンションプライヤーにカーペンターズか」

 

 どうせまたミスターXだかエージェントXだか知らないが、ようはXさんが設計図描いたんですね。なんていうかもうパターンだよな。俺以外の誰かにも接触して無いだろうな……知り合いの誰かに聞いてみるか。まあ、どんくさそうな高町は違うか。

 後で高町にも聞いておけばよかったと落ち込むがそれはまた別の話し。

 

「あーカーペンターズってのが、独立したAIによる自動行動デバイスみたいなもので、それが6種類。量産され、破壊された市街地などの修復に当てられる。か……まだ試作段階だから大型次元船と本局に少数配備か。で、ディメンションプライヤーはカーペンターズの内の3機の合体による空間修復マシン。って、何処で使うんだよ……」

 

 いや、アルカンシェルの暴発とかそういうときの対処か? ディメンションプライヤーはハンドウに接続することで色々と強力な効果を発揮するのか。まあ、単体でも使えるみたいだけど。

 ちなみに、俺に支給されたのはハンドウやプレトに接続して使われるワンオフ物。プライヤーズと別扱いで呼称されるようだ。

 他の新武装もチェックしておくか。

 

「水中活動用装備……だから、使う予定ないって」

「んぅ……どうかしたの?」

「ああ、起こしちゃった? いや、局から新武装のデータが送られていてな。そのチェックだよ。この後とりに行くから」

「そう、……ふぇぇえええええ!? なんでアクアがここにいて一緒に寝てるの!?」

「お前がこの状況を作ったんだろう!?」

 

 自分で泊まらせておいて、少しばかり理不尽に感じた。

 

 ◇◇◇

 

 あの後、フェイトはすぐに自分で泊まらせたことを思い出して顔を真っ赤にし、ものすごい勢いで謝罪した。そのまま土下座になりそうだったからすぐに止めたけど。

 

「はぁ、疲れた」

 

 装備を取りに来たのはいいけど、高官の人の話の長いこと長いこと。

 管理局に協力しているベターマンは俺だけだし、色々と特殊な権限を与えられていることもあってか、こうした時に高官に顔を合わせると話しが長くて困る。

 権限を与えられるのは、そういうエサを与えることで俺を引き止めたいから。

 高官の話が長いのは自分の方が偉いと俺に思わせるため。

 実際、偉いのはわかるし、過去に色々と武勇伝もあるのも知っているけど、ホント長い。

 ソンナコトしなくても裏切ったりしないっての。むしろ長いのヤメテ。

 

「今日はまた、随分とお疲れだね……なんか変なロボット連れているし」

「あープライヤーズだよ。ユーノにはカーペンターズって言ったほうが分かりやすいか?」

「もう完成していたんだ……」

「あくまで、俺が使うワンオフの方だけね。量産には時間がかかるからオリジナルデータで修正の必要が無い俺の分だけ試作という形で貰った」

「そう……ところで、ベタービースト事件のほうだけど」

「なんか進展あった?」

「……」

「ユーノ?」

「むしろ、後退したかな」

「詳しく話してくれ」

「君のほうにもすぐに連絡がいくと思うけど――一ヶ月前と今回じゃ、犯人が違うかも知れない」

「なに?」

 

 不可解な点はいくつもあったらしい。不死者にしては、今回の被害は大きすぎること。不死者は現場に殆ど戦闘痕を残さない。

 死体だって、食い破らないし、中身を転移させたかのような状態の死体や、血や脳を吸われたような痕跡などが特徴だ。

 牙の形だって、似ていたけど二つの牙の間が不死者のものより長いのだ。

 そこまで聞いたとき、俺には嫌な予感が奔った。

 

「ちょっと待てよ……不死者と戦っていないしても、今回の事件はベターマンは関わっているのは間違いないぞ」

 

 被害者の残留思念を読み取るのは困難だったが、誰かが変身する様子は見えた。

 それに、ミッシングリンクとベターマンのみは思念を読み取れないことからもそれは……

 

「まさか、ベターマン同士の争いってことか?」

「ああ、その可能性が高い。だけど……いや、調べたり無いんだ」

「なら無限書庫を使ってくれ」

「で、でもあそこ使えるの!?」

「整理はされていないけど情報はある。それに、俺にある程度与えられた権限なら使用許可も下りる」

「……まったく、無茶するよ。で、そこまでする理由は?」

「…………被害者が泣いていたから。同じベターマンがあんなことをしたなら、俺はそれを止める。いや、止めたいんだ!」

「オーケー。まかせて」

 

 ◇◇◇

 

 ユーノにも話さなかったけど、俺はミッシングリンクの思念が読み取れないと気付いたのはオーガと戦っていたときだ。

 アイツとの戦闘中、リミピッドチャンネルの力は高まっていた。それなのにも関わらず、アイツの心は黒くて何も見えなかった。

 おかげで、攻撃も喰らいまくった。結局誰も気がついていなかったが。

 読み取れるのもあくまで表面上だし、高町との模擬戦では役に立たなかったが、オーガのように本能に身を任せたような攻撃をしているなら余裕で避けられる、そのはずだった。

 

「こりゃぁ……大変になるな」

「どうしたんだい? アクア君」

「なんでもないですよティーダさん」

 

 いま、一緒に行動しているのは執務官志望の局員、ティーダさん。

 ミッド地上にての任務なので、現地に詳しい人が必要だったのだ。そこで白羽の矢が立ったのがこの人だったというわけだ。

 まあ、ある程度機動力があって後衛が出来る人、頭脳面でも優秀な人物ということだったが。

 

「で、どうなんだい?」

「なにがです……犯人の痕跡ならなんとも。いくらベターマンっていっても変身中でも理性はあるはずなのに、こんな獣同然の戦い方おかしいですよ」

「根拠はあるのかな。出来れば聞きたいものだけど」

「まず第一に、ベターマンが変身して使う能力は基本的にどれも一撃必殺。周辺被害を出したり特殊な姿だってあるけど、こんな力任せなのはあり得ない」

 

 今、俺達がいるのは先の被害現場。

 大きな爪あとが残っていたり、ただ力任せに攻撃したようにしか思えない。

 せめて、もう片方のベターマンの痕跡があれば……

 

「ねえ、これはなんだと思う?」

「布、ですかね……なんていうか帯の切れ端みたいですけど」

「真っ白いし、僕もそう思ったんだけど、なんていうか、ぶよぶよしていて気持ち悪いというか」

「なら触る前にデバイスで確かめてくださいよ」

「いや、反応無しなんだよ。デバイスを介して見ると、まったく認識できないんだ」

「え?」

 

 そんな馬鹿なと思い、ハンドウのアクセプトモードで調べるが、ちゃんと表示される。

 ただ…………一切の思念を通さないかのようにリミピッドチャンネルはその物質に対して使えなかった。

 

「なんだよ、これ」

「こんなものがあったらすぐに見つかると思うけど、やっぱり現場じゃ魔力調査だけだったみたいだね。最近多くて困るよ、まずは目視が基本だろうに」

 

 ティーダさんの言葉は耳に入っていなかった。このぶよぶよしたもの、これを見ていると不思議と不安な気分になる。

 なんだ? 俺は何を忘れている?

 

「どうかしたのかい?」

「いえ、何でもないです」

 

 分からない、だからそう答えた。

 局に戻ってこの物質を解析したが結局わからない。魔力や思念を通さない特殊なものだというのは分かったが、何でできていて、生物の肉片なのか、新型の兵器の一部なのかさえ分からなかった。

 だけど一ついえるのはあの現場で見たときは不安になったのに、他の場所でこれを見ても平気だったということだ。

 

 




ティーダさんの口調が分からない。
とりあえずイメージで書いていますが、修正するべきなら教えてください。



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だいぶ、時間かかりましたが完成したので投稿します。
今回から、色々とグロくなりますのでご注意を。
タイトルは狙いすぎて分かりやすいですね。まあ、自分なりの展開と設定で描きますけど。


「結局、なんなのか分からないんだよなぁ」

「成分的には人間の膀胱に近いらしいけどね」

「ぼ、膀胱……」

 

 ミッドチルダ、地方屯所(大きい交番みたいなところ)の食堂にて、俺とユーノとフェイトは夜食を食べていた。

 話の内容は先日回収した遺留品。帯状の皮、ぶよぶよした布と思ったが、生物の一部ではないかというのが今のところの見解だ。

 というか、膀胱って……フェイトが顔赤くし、ますよね。そりゃ。

 ちなみに俺はというと、ものすごく微妙な表情をしています。あれだよ、しかも食事時にその話題はちょっときついものがあるよ。時間が無いのはわかるんだけどね。

 色々と無茶して調査に入れてもらったから夜勤があるんだよね、今回。

 

「魔力を通さないから調べるのに苦労したって。何で魔力と押さないのかは結局分からないままだけどね。構成成分の一部がかろうじて分かって、一番近いものが分かったって所だよ」

「だからって、被害者の一部とかじゃないよなアレ。見た感じ、帯状に切れた内臓じゃなくて、初めからああいう形みたいだぞ」

「私も同じ意見だよ……それに、なんだか凄く嫌な感じがする」

「最初は俺もものすごく嫌な感じがしたんだけど、今は違うんだよな……リミピッドチャンネルが通用しないのは不安だけど」

「とにかく、技術スタッフの腕に期待するしかないね……ここのスタッフは優秀だっていうし」

「できることなら、そのまま本局とかにやって欲しいんだけどね、地上部隊の仕事だけど。まあ、不死者とかベターマンがらみなら融通利くから空(時空管理局本局のこと)の人もこっちにこれると思うんだけどね」

 

 むしろ、怪物と戦った経験が多くて、高火力の魔道師は海(次元世界を渡る執務官とかのこと)の人間を沢山集めた上で、集中砲火するのがベスト、いやベターなんだけど。

 流石に人員が足りない。だからこそ、対ベターマンのために俺に色々な権限が渡されたんだよなぁ……

 

「ま、とりあえずきしめんでも食べるか」

「なんで地球の食べ物がここにあるのか聞きたいんだけど」

「ここ、ミッドだよね?」

「なんでも地球からの移民って多いらしいな。1000年ぐらい前の日本とか多いぞ。源義経とか」

「地球の歴史調べたけど、色々説あったなぁ……ってなんで君が知っているんだ!?」

「ウソかホントか分からないけど、子孫だっていう人にこの前会った」

「そ、それはまた……」

「あとは昭和の時に来た人も多いな。おかげで微妙に間違った文化とか伝わっているっぽいし。懐かしき番長ルックを見たときは衝撃が走った」

「はぁ……いいよ、もうつっこむの疲れた。大人しくカレーきしめん食べるから」

「お前もきしめんじゃないか」

「そうだよ、自分だってたのんでいるじゃない」

 

 そういうフェイトだが、自分も月見きしめんだった。

 

 ◇◇◇

 

「見回りの時間だよぉーっと……流石に、夜勤は疲れるなぁ」

「まあ、そう言うなって、コレ終われば交代だからよ」

 

 二人の局員、お互いに警備員のような服装に身を包んだ彼らは、手に懐中電灯をもって廊下を歩いていた。

 

「なんというか、子供に引継ぎというのもなぁ」

「アレでもSランクに匹敵する変換資質持ちと、総合Aランクの結界魔道師、それに噂のベターマンらしいぞ」

「マジかよ……最近の子供は規格外だねぇ」

「他にも、悪魔的な砲撃資質をもった子供が嘱託になったとかなんとか」

「弟97管理外世界ってなんていうか、凄いな」

「なんつーか、グレアムさんの出身ってだけじゃなくて、色々とあるらしいけど……」

「ま、俺らには関係ないか」

 

 その後も、ゆったりと歩く二人。ここで、少しばかり気を引き締めていたら結果は違ったものになっただろう。

 だが、流石に管理局の建物内だからと、油断してしまった。それだけのことだ。この結末はそれだけのことなのだ。

 

「なんか、物音しないか?」

「うーん、カサカサいってるな……虫か?」

 

 当たらずとも遠からず、ソレはすぐに現れた。

 

「お、おい……う、ウワァアアアアアアアア!?」

「あ、アアあああああアアアアアア!?」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「なんだ?」

「悲鳴?」

「……なんかあったのかもな、様子を――」

 

 ――バンッ

 

「キャ!?」

「停電?」

 

 そう、いきなり照明がすべて消え、辺りの光はなくなたのである。

 時間は既に深夜。色々な事情で彼らは歳の割には慣れているが、そうでないなら大人でも寝ているような時間帯。

 

「落ち着いて……手に魔力を集めてライト代わりにするんだ」

「そこらへんの制御は苦手なんだよな……いや、元々俺はこのぐらいの暗闇は平気だっって忘れてたわ」

「てっと、じゃあ……私は全身光らせてみる」

「ホタルイカか」

 

 ユーノは卓越した魔力操作で、瞬時に光源をつくり、アクアは元々必要なく、何故かフェイトは全身を光らせた。どうやら、魔力変換資質の応用らしい。

 

「まったく、何があったのか……あ、きしめんが伸びちまうな…………?」

「どうかしたの?」

「いや、きしめんが伸びると思ったんだけど、こんなに速く伸びるかな? なんか、量がめがっさ増えているように思えて……」

「そんなわけないだろ……たしかに、僕のも凄いことになっているね」

「私のも……なんか、固い?」

 

 これはどうしたことだろう。いったい、何があってこんな速度で伸びたのか。

 あるいは、これはきしめんと言う名の何かけったいな代物なのだろうか。

 

「けったいな代物って一体なん……な、の」

「どうかしたのかフェイト」

「みみみみみみみ」

「みじゃわかんない」

「み、視て!」

「だから……え?」

 

 アクアは見てしまった。フェイトのどんぶりの中のきしめんたちがダンスしている光景を。

 いや、ダンスとか言う生易しい言葉じゃダメだ。そんな言葉では足りない。

 まるで、鼻をヒクヒクと動かしように辺りを確認し、獲物を狙うかのような動き。

 

「ユーノ! 逃走経路!!」

「分かっている!!」

「え、なに?」

「フェイト、しっかり掴まっていろ!」

 

 フェイトを抱え、アクアは脚力に集中して魔力強化を行う。同時、ユーノも強化する。

 惜しむらくは、プレトがメンテでいないことだろう。丸薬もこの場合に対処できるポンドゥスとラティオは切らしている。

 

「使えるのは魔法オンリー……正直、俺にはきついんだけどね!」

 

 扉を蹴破り、飛び出す三人。それが、彼らの命運を分けた。

 その出自ゆえに、危機察知能力の高いアクアがいたことが幸運だった。

 すぐに三人のいた部屋はきしめん――否、蟲によって多い尽くされ、凄惨な光景が広がった。中のものは食われ、侵され、跡形もなくなる。

 

「――ッ!?」

「俺の危機察知にも直前まで引っかからないとか、ステルス性高すぎるだろオイ!」

「どうする? フェイトはこの状態だと、魔力コントロールは……」

「だ、大丈夫、私も頑張れる」

「無茶するなよ、あれは女の子にはきついだろ」

 

 蟲、蟲、蟲、とんでもない速度で追いかけてくる。

 その大群は津波のように押し寄せてきた。

 

「喰らえ、威力は低いけど!」

「私もッ」

 

 アクアとフェイトの魔力変換弾、水と電撃による相乗効果で少ない魔力での高火力を実現した。

 威力も申し分なく、効果範囲も広い強力な魔法だった。だが、意味は無い。

 蟲たちはものともしない。いや、表面は焼け焦げて倒れるが、物量が大きすぎる。

 そのときだった、目の前から数人、大人が駆けつけてきた。

 

「援軍、助かった」

「君たちは速く下がりなさい」

「は、はい!」

 

 全員、構え! その号令により複数人の局員がデバイスを構える。

 そして、放たれた射撃魔法。いや、高町なのはに比べると細いが、砲撃魔法だろう。廊下という狭い空間だからこそ、細くても十分にカバーできていた。

 

「な、効きません!?」

「なに!?」

 

 だが、無常にもこの攻撃は蟲にとってまったくの無意味。無傷の虫たちは勢いを失わず、局員達に届いた。届いてしまった。

 

「は、早くにげてぇ!!」

「フェイト、目つぶれ」

「ッ」

 

 アクアは咄嗟にフェイトの目をふさぎ、駆け出す。ユーノもそれに続いた。

 二人は分かってしまったのだ。無傷の蟲たちをみて。魔法が効かない、いや、魔力を通さないと言ったほうが正しいのか。

 今回の事件の犯人から仕掛けられたのだ。

 そう、ベタービースト事件の。

 そして、二人は見てしまう。蟲に飲み込まれる局員達を。

 

「グッ……クソッ!」

「悔やむのは後だよ。まずは状況を整理、そして迅速にこの事件を解決するんだ。じゃないと被害は出る一方だよ」

「わかってる!」

「でも、あの人たちは……」

「……」

「何も言うな、フェイト。言ったら、足が止まる。それだけはダメなんだ」

「――うん」

 

 突如として切り替わった世界。表の明るい時間は終わった。

 これから先は、裏の暗い時間である。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 彼らの様子をモニターしているものがいる。

 男だ。歳は暗くてよく分からないが、少なくともある程度歳を経た男性だ。その傍らには、まるで獣のような、小型の竜のような生き物が鎖につながれている。

 男は、モニターの様子をみて満足げに頷き、椅子から立ち上がった。

 モニターの隣にはコルクボードが置かれており、そこには複数の写真が貼られていた。

 

 そこに映っているのは男とその隣にいる綺麗な女性。

 他の写真には、アクアとフェイトが写っているものがあり、男はそれを見て、一言、高呟いたのだ。

 

 ――ベターマン、と




戦闘はアクアとフェイト、推理とか頭脳系はユーノ担当になりますねこのパーティー
なのはさんがいるとパワーバランス崩れそうですが。

目の前で人が死んだのに、取り乱していないのは緊急事態だからなのと、三人とも人の死を身近に感じたことがあるからです。


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魔滅の唄

大分おくれてしまいました。
色々と大変な時期に風邪を引いてしまい、執筆が思うように行きませんでした。それでも少しずつ書き進めてなんとか形にできましたので、お楽しみいただけたら幸いです。


 これは、局員が何人も死んだ凄惨な事件、いや……後に起こった出来事とあわせて一つの事件として扱われたが、あえて言うならば――蟲事件。

 それと同時刻に起こっていた小さな出来事。一人の研究員が偶然気がついた話だ。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「ん、これって……」

「どうかしたのか、新入り」

 

 検死を行っていた小さな部署。仮に検死課とでも呼称しよう。

 そこに配属されてからまだ一月の新人が、ベタービースト事件と呼ばれている案件での被害者の遺体を調べていたときだった、自分も半信半疑、気のせいだと思ったが、時には経験の浅いものの方が柔軟な思考で真実に気がつくこともある。これはその一例だった。

 

「いえ、リンカーコアがあったと思しき場所に異常が見られたので……まるで、無理やりにコアを引きちぎられたかのような」

「コアがか? コアを抜くっつう、闇の書の騎士だって吸い取るように吸収するっていうのに、引きちぎるってのはなんかおかしくないか?」

「ですが、ここ、ここをみてください」

 

 新人が指差したのは写真撮影された現場での死体だ。そのときの様子を鮮明に映し出している。

 

「赤黒くなっているんですよ。コレだけだと、ただの内出血だと思ったんですが、次に遺体のほうを見ていただきたいです」

「んー、たしかに違和感はあるな。赤黒いし、なんつーかでこぼこ? 骨が折れたかと思っていたんだが、それにしては質感もおかしいな」

「リンカーコアの検査機って今すぐもってこれますか?」

「おう、すぐに手配する」

 

 その後、レントゲンのように内部を撮ったり、スキャンしたり、何度も検査していった結果……リンカーコアに多量の血液が混ざり合い、硬質化していたこと、歪な形状をしており、死ぬ直前までに不安定な修復をしようとしていたこと、そして…………破壊されていた原因は、まるで身体をすり抜けるかのように内部のリンカーコアを直接抜き取ったとしか思えない方法で、コアを摘出されたことだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 舞台は戻って、アクアたちは今のところ安全と思われる区域まで避難してきていた。

 一匹一匹は小さな管状の蟲だが、その性質は厄介だ。

 

「まず、純粋魔力は効果が無いこと」

「私の電気変換は効いたよね」

「フェイトの電気変換で、物理的な威力になったからだと思うよ。アクアの水に変換する力は、圧力をかけて威力を上げるか、フェイトのサポートでしか効果は得られないと思う」

「だよなぁ……せめて一匹でも回収して分析できれば、サイコフルードで蟲だけを殲滅できるんだけど」

 

 ベターマン・アクアの能力、サイコフルード。対象の細胞を解析することで、アポトーシスウイルスを作り出し、対象のみを殲滅する力。

 強力ではあるが、その分前段階に準備が必要な技でもあるのだ。

 

「それはリスクが大きいね。たしかにリターンとして、全部殲滅できるのは魅力的だけど……範囲もどのくらいになるか分からないし、全部水浸しになるんじゃないの?」

「そうなんだよなぁ……あくまで死滅させるだけで死骸の山になるだろうし、色々と問題もあるけど背に腹は変えられないだろ」

「うう、死骸の山……」

 

 といっても、残りのアクアに使える手札は電磁波でレンジのように蟲を殺すか、真空か純粋酸素で殺すか、それぐらいしかないのだ。どれもこれも被害が大きすぎて使い物にならない。

 ユーノが用意できるものは、それこそフェレット形態になって外部と連絡を取るぐらいだ。あとは、考えること。それは彼にとっての最大の武器であるが、キーワードとなる情報もまだ揃っていない段階では、あまり意味がない。

 フェイトは電気変換で拮抗状態を作り出せるが、所詮ジリ貧だ。魔力にも限界はあるし、何より彼女にはこの蟲の大群はきつすぎる。

 

「まて、フェイト……アルフはどうした?」

「リンディさんと一緒に色々手続き。連絡もしているんだけど念話が繋がらなくて」

「あの蟲のせいかな……魔力が全然通る気配が無いし、もしかしてこの建物を取り囲んでいるのかな? こう、壁という壁に引っ付いて隙間も無い感じで」

「ユーノ、それグロすぎる」

 

 だが、アクアの考えもそれだった。というより、他の可能性を思いつかなかったというべきか。

 壁に引っ付いているじゃないにしても、自分達は囲まれていると考えた方がいいだろう。

 あとは……そう、蟲であるからには何かしらの習性――生物としての本能、行動原理――さえわかればいいのだ。そこから打開策、もしくは建物から逃げ出す隙を作れる。

 上手くいけば細胞を入手してサイコフルードで殲滅も出来る。

 

「そういえば、アクアの魔法でなんとかならないの?」

「簡単な魔力放出は意味がないし、召喚も無理だな……あの蟲達に妨害されているから召喚するための通路が開けない」

 

 アクアの魔法は儀式魔法が主体である。悪魔の力を借りているのも、儀式魔法により限定的な召喚として成立させている。

 召喚でもある以上、魔力のトンネルのようなものを展開しなくてはいけない。蟲たちはそれを妨害しているのだ。ハッキリ言って、儀式魔法には時間と魔力もかかるため現在の状況では使用できない。

 

「となると、どうにかして蟲の細胞を入手して、脱出。そしてアクアの能力でアポトーシス状態にするしかないわけだね」

「そうなるな……問題は、こっちにそれをやるだけの戦力が無いことだ。ここもいつまでもつか分からない以上、長居は出来ない」

 

 使用できる魔法に制限があり、魔力も無駄に出来ない。それに加え、装備も殆ど無いこの状況。打開策を導き出さないとこのまま言葉に表せない状態になってしまうかもしれないのだ。

 そもそも魔力で構成されたモノでは相性が悪すぎる。魔道師殺しの蟲たちの移動スピードは人間が走ったときよりは遅いのだが、それでも彼らには脅威だ。なにせ、9歳の身体ではどうしてもスピードが落ちる。魔法のサポートがあるからこそ平気だが、魔力を温存しなくてはならない今、頼れるのは自分の脚だけなのだ。

 

「はぁ……もっと簡単に、それこそ蟲の脳内をハッキングするみたいに騙せたらいいんだけどな」

「そんな簡単にはいかないよ……アルフ、今頃心配しているだろうなぁ」

「……ハッキング、アルフ…………いや、何とかなるかもしれない」

「ユーノ、何か思いついたのか?」

「うん。ちょっと賭けになるけど、もしかしたら上手くいくかもしれない」

 

 ◆◆◆

 

 彼らがその場にいた頃より、十数分が過ぎた。すでに蟲は三人がいた場所までやってきていた。何を目印にしてここまで来たのかは分からないが、蟲たちは先ほどまで三人が座っていた場所まで這いずってきた。そのチューブのような体をゆっくりと、ゆっくりと……

 

 

 

 だが、それもすぐに終わった。蟲はまるでナニカから逃げ出すように身を翻した。危険だ、ここは危険なのだと感じるように。

 その隙を逃さず、水と電気が襲い掛かった。

 

 

 ◆◆◆

 

「まさか、こんなにアッサリ上手くいくなんて」

「変身魔法の応用とかよく思いついたねユーノ」

 

 ユーノが思いついたのは変身魔法を応用した幻術魔法。変身魔法の術式の中には、変身後の生体情報を入力することが殆どだ。具体的には、大きさや骨格、匂いや発する電磁波などを変換するためのものだ。

 また、普段の自分の動きにあわせて対応した動きに変換するなど、様々な応用性もある。

 そこで、ユーノはそういったデータを多数用意したのだ。あるものの情報を多数引き出し、周囲のものを使って再現したのだ。

 そう……食虫植物を。

 

「自分でもビックリだよ。本当に上手くいってよかった」

「ユーノが魔法学校を卒業していて助かったな。ホント、色々なこと知ってる」

 

 今回は、ユーノ自身が変身魔法に詳しかったのと、魔法学校を卒業しており考古学だけでなくスクライアの民として色々な世界へ行く関係上、植物などの知識も豊富だったことが成功の理由である。

 食虫植物の中には特殊な匂いなどを放つものがある。蟲を使った生体兵器は古代より研究されていたのだが、その中の弱点の一つに食虫植物があった。古典的ではあるが、場合によっては蟲の命令系統に支障をきたすため、可能性として食虫植物を避ける可能性が高かった。下手に手を出して被害や証拠を残すと厄介だと思う、ユーノはそちらの可能性のほうが高いと読んだのだ。

 

「隠匿性が高い蟲、なら余計なものには手を出さないようにしていると思ってね」

「ってことで、この色々な食虫植物の幻影か……いや、ここまでくると幻覚だぞ。マジで感覚として捉えるって意味で」

「でも、ちょっと臭いね……」

「ま、まあそれは勘弁してよ。実際にはもっと凄いのを頑張って人には被害が無いようにしたんだから」

「これ以上なのかよ……まあ、とにかくサンプルも手に入ったし、物陰に隠れる必要も無さそうだし、一気に解析するぞ」

 

 蟲の死骸を手に持ち、空いている手でアクアの実を食べる。いきなり完全変身してはフェイトとユーノの二人に被害が出るため、少しずつ部分的に変身する。解析のために、喉の辺りにエラのような部位を先に作り、蟲を入れる。

 こうして細胞を調べ上げ、専用のアポトーシスウイルスを作るのだ。

 

「よし、解析完了。一気に脱出するから二人とも全力でバリア張っとけよ。あと、息は今のうちにな」

「う、うん」

「あんまりやり過ぎないようにしてよね、回りに被害が出たら元も子もないから」

「ああ……じゃあ、行くぞ!」

 

 ◆◆◆

 

 そのとき、外からこの光景を見ていたものはどれだけ驚いたことだろうか。突然、管理局の建物の一つから大量の水が噴き出したのだ。その中には、蟲、蟲、蟲。大量の蟲の死骸がまぎれていて、黒々とした点も空に噴き出した。

 そして、建物を割るようにやねから魚のような、竜のような、巨大なエイ型の影が飛び出した。近くには二つの光の球があり、それと共に少しはなれたところへと飛んでいった。その後、巨大な影は抜け殻のようになってから崩れ、近くには二人の少年と一人の少女が倒れていたという。

 ただ、そのときの水の音だけはとても綺麗で、まるで子守唄のようだった。

 




というわけで、段々とヤバ気になる蟲騒動に一区切りうちました。
コイツラ、色々と危ないのでようやく展開も進めやすくなりましたよ。

魔法の設定とかはツッコミ勘弁。



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