魔法少女リリカルなのは~転生者は静かに暮らしたい~ (レイブラスト)
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プロローグ

新連載です。至らないところがあるでしょうが、読んで頂けたら幸いです。


「という訳で、転生してくれんかの?」

 

「何がという訳だ。そんなギャグみたいな話信じるか」

 

ある日起きたら僕は真っ白な空間にいて、目の前の爺さんから「ちと家内と喧嘩してしもうて、互いに押し合い圧し合いしていたらどっちが先かはわからんが壁にぶつかってな。ワシの頭に金だらいが直撃したんじゃ。で、意識が朦朧として気がついたらお前さんの人生が書かれた紙を踏みつけて破いてしまってのぅ。それでお前さんは死んでしまったんじゃ」なんて抜かしやがった。んな話誰が信じるかって。第一真実だとしても、そんなド○フのコントみたいな流れで死んだなんて笑い話にもならねーぞ。

 

「それに関しては本当にすまんかった……」

 

「いや今更謝られても……って」

 

何で俺が考えたことが向こうに通じてるの? エスパー?

 

「一応神じゃから」

 

「そうか…ってまた読んだのか……てことは、認める他ないか?」

 

「まあ認めんでも認めなくても、とにかく続きを聞いてくれ」

 

はいはい……で、どんな展開が待ってるんですか?

 

「まず今回お前さんが死亡したのは完全な想定外じゃ。なので、特例として平行世界の1つに転生してもらうことになる」

 

「平行世界? 元の世界じゃダメ?」

 

「無理じゃ。言っとくが、これでもできる限り上と交渉したんじゃぞ」

 

最大限の譲歩ってことですか、そうですか。なら仕方ないか……

 

「んで、どこの世界に?」

 

「確か……『魔法少女リリカルなんたら』って世界だったの」

 

「マジかい!?」

 

よりによってリリなのかよ! あそこ戦闘多いし最終的に地球離れるし、あんま好きじゃないんだよね。何だかんだ言って地球が一番。たくさん映画見てて思ったもん。

 

「心配いらんよ。お前さんの他にも転生者が何人かいるから、介入が面倒なら彼らに任せればよい」

 

「あ、そうなの。ならいいか」

 

他に居るんなら、丸投げしといていいか。原作うろ覚えだし、戦いに積極的に関わりたくないし。

……ん? 待てよ? そんな世界に転生するんなら、大抵何らかの特典が貰えるんじゃ?

 

「中々察しがいいの。その通り。お前さんの願いを、最大6個まで特別に叶えてやろう。いくつでも言うがよい」

 

「へ? 6個もいいの? うーん、そんじゃあ……まず1つは、優しい家族のところに生まれたい。2つ、家族がずっと仲良くいられるように。3つ、コードギアスに出てくる心を読むギアスを。4つ、魔力はなくていい。5つ、デバイス……は無理だから、護身用のパワードスーツか何かが欲しい。最後は……別にいいや」

 

「ふむ……全部で5つか。よし、手配しておこう。あ、ギアスについては絶対暴走せず、ON・OFFが自由に切り替えられるようにしておくぞ」

 

「ありがとう」

 

正直なところ助かる。原作での所有者……マオだったか?は暴走した結果精神を病んでしまったからな。ああはなるまい。

 

「パワードスーツと言ったが、どんな外観や能力が良いか?」

 

「そうだな……スパロボのシュロウガでお願い」

 

あれ好きなんだよね。機体BGMといい、技といい、何かダークヒーローみたいな感じがして。悪堕ちしたマサキみたいな?

 

「わかった。では転生させるが……何か聞いておきたいことは?」

 

「ん? そうだな………転生者って、全部で何人いるの? 俺以外で」

 

「そうじゃな……確か、3人じゃった気がするの」

 

3人か……能力はわからんが、それだけわかれば十分だ。

 

「では、そろそろ転生させるぞ。ほれ」

 

爺さん……いや、神様はそう言うと左手で紐を引いた。

すると目の前の地面にぽっかりと穴が開く。?と思って覗き込むと、突如後ろから紐で宙吊りにされた丸太が迫って来て、振り向きかけた僕にドガッ!と直撃し僕を穴に叩き落とした。

 

「いやだから、ド○フのコントじゃねぇかぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!」

 

「頑張ってのぅ~、尾崎智哉君」

 

最後に神様の間延びした声を聞きながら、俺の意識はブラックアウトした。



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EP01

1話ですが、いきなり主要人物が2人登場します。


無事に転生してから、実に5年が経過した。いや、正確には記憶が戻った去年からだから、一年か。待てよ? 僕はそれ以前のものもうろ覚えながら持ってるからより正確には……まあいいや。めんどくさい。それに、思い出すと恥ずかしい。自分が離乳する前のことなんて……。

 

ああそれと、神様は願いをしっかりと叶えてくれた。僕の両親は穏やかで、ほんわかしている……けど、しっかりしていて頼もしい。ギアスも完璧で、試しに使ったら両親の心が流れてきた。心の中でも穏やかで、とても安心した。何より、お父さんはカッコイイしお母さんは美人。もう嬉しいなんてもんじゃない。近所の友達に自慢したいくらいだ。……さすがに他のお母さん達と比べているみたいで、やらないけど。ちなみに両親は研究者で、パワードスーツの製作に携わっているらしい。これは先が楽しみになってきた。

 

「ねぇ智くん。お母さん買い物に行くけど、一緒に行く?」

 

この人が僕のお母さんの、尾崎優美。黒髪のロングヘアで、大和撫子って言葉がぴったりくる。研究所の同僚や先輩、ご近所さんから「優ちゃん」って呼ばれてるのを見たことがある。ちなみにお父さんの名前は、尾崎隼也って言うんだ。

 

「うん。行く行く!」

 

そんな優しくて大好きなお母さんと一緒にいるのが、今の僕の大切な時間。……これってマザコンかな? でも、お父さんのことも大好きだから、単なる親好き? わからない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~。これだけあれば大丈夫ね」

 

その後、お母さんはマイバックに買ったものをたくさん入れて僕と一緒に道を歩いていた。割と近くに店があるから、車を使わなくてもいいから節約にもなる。

 

「……? あれ? あれあれ?」

 

「どうしたの?」

 

突然お母さんがバックをまさぐりながら困惑の声を上げた。何かあったんだろうか?

 

「どうしよう、智くん……牛乳買い忘れちゃった……」

 

「ありゃ……もっかい行く?」

 

「でも、智くん疲れてるんじゃ……」

 

「大丈夫、あそこの公園で待ってるから。お母さんは早く行って来て」

 

「智くん……ありがとう。急いで行ってくるねっ」

 

そう言うと、踵を返して小走りに来た道を戻って行く。早く戻って来てほしいな。

 

「さて……公園で遊んでようかな」

 

暇つぶしにはもってこいだ。でも、この時僕は気づいてなかった。公園に向かうことで、ある運命的な出会いをすることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Fly into rhe Sky、高く飛び立て~! 焼けつくように燃え……?」

 

歌を歌いながら公園を歩いて行くと、ベンチに1人の女の子が座っていて、泣いていた。それだけなら、僕は普通に声を掛けていたと思う。でも今回は無理だ。何せ相手は―――高町なのはだからだ。

 

(これここで声掛けたら絶対に友達フラグ立つよな……そうなると、今後の事件に大きく関わるかも……それは勘弁願いたい。でも見過ごす訳にもいかないし……ん?)

 

街灯に隠れて様子を見ながら困っていると、1人の男の子がなのはに近づいて行った。

 

(あの子……そうか、あの子が転生者なのか。こりゃラッキー! 彼女はあの子に任せておいて、僕は退散させて……あれ?)

 

2人に背を向けようと方向を変えた時、僕と同じように近くの街灯に隠れている小柄の女の子と目が合った。

 

(一体、何者なんだろう?)

 

ふと気になって、僕はギアスを発動させた。

 

(様子を伺ってる……じゃあ、あの子も転生者―――)

 

っ!? 途中で途切れた……ギアスの無効化? まさか……もう2人目を見つけるとは……しかも女の子なんて……

 

「君は……」

 

「っ!」

 

話しかけようとすると、逃げてしまった。いや、何で!?

 

「待って!」

 

大慌てで後を追いかける。後ろの男の子が、こっちに注目していたのに気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……アイツ、転生者か?)

 

彼、白崎誠一は立ち去った智哉の背を見ながらそう考えていた。

 

(いや、俺の勘違いかもしれん。それより今はこっちだ)

 

が、すぐに気持ちを切り替えると目の前の高町なのはに向け、ソレを発動した―――

 

 

 

 

「高町なのは。俺に対し全幅の信頼を寄せろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ま、待ってってば……!」

 

「はぁ、はぁ……し、しつこいよ……」

 

その後、すっかり疲れ果てた僕達は息も絶え絶えに膝に手を置いた。

 

「ねぇ……何で逃げたの? 君が、転生者だから?」

 

「っ!? どうし……!」

 

慌てて口を塞ぐがもう遅い。

 

「やっぱり……」

 

「うぅ……バレたくなかったのに……」

 

「ごめんね。僕、このこと誰にも言わないから。だから機嫌直して?」

 

「……本当?」

 

「ホントホント」

 

何度も頷いてみせる。これで信じてもらえるなら、万々歳だ。

 

「……わかった。でもその代わり、君のことを教えてくれない? 私も、話すから」

 

「もちろんいいとも」

 

所謂情報交換という形で話がついた。安いもんだ。

 

聞くところによると、この子の名前は上川彩愛と言って、前世では酷いいじめを受けていた上に殺害されてしまったらしい。それを不憫に思った神様(女性の神らしい)に転生させてもらったそうな。

 

「……何でそんなことができるの? こんな可愛らしい子が、どうして殺されなきゃ……!」

 

知らず知らずの内に、僕は拳を握りしめていた。容姿を変更するには願いの1つとして含めなければならない。つまり、上川さんは前世のままの姿だ。性格も第一印象は悪くないと思うのに……何で……!

 

「ふぇっ!? か、可愛い……?」

 

「え? あ、声出てた!? ご、ごめんね、変なこと言って」

 

「う、ううん。可愛いって言われたの初めてだから……嬉しい……」

 

顔を赤らめ笑顔になる上川さん。ヤバイ、結構恥ずかしい……さっきの怒りが吹っ飛んじゃった。ま、まあこれは置いといて、彼女の願い事は、優しい家族のところに生まれたい、みんなが仲良くしてほしい、ギアスキャンセラー(ギアス系以外に、通常の催眠術にも効果あり)、完全治癒能力(自他共に使用可能)、専用デバイス『フェアリー』(女性人格でネックレス型)の5つだそうだ。奇しくも僕と同じ数で、最初の2つは被ってた。

 

「この子がフェアリーだよ」

 

『よろしくお願いします、尾崎さん』

 

「こちらこそ。僕のことは智哉でいいよ」

 

「それって私も?」

 

「え? ……う、うん。そう、なるのかな? 僕ら、出会ってばかりだけど……友達になれそうだし……」

 

首を傾げながら言った上川さんに思わずドキッとしながら、答える。……何だ今の。何で僕、緊張してるんだ?

 

「なら、これから智哉君って呼ぶ。私のことも、名前で呼んでほしい」

 

「えと……それじゃあ、あ、彩愛…ちゃん……?」

 

「っ……!」

 

女の子を名前で呼ぶのはかなり恥ずかしく、勇気がいることだと今知った。か……彩愛ちゃんもこういうのは初めてなのか、顔を赤らめていた。

 

『マスターと智哉さんの心拍数と体温が上昇しています。風邪ですか?』

 

「な、何でもないよ! ちょっと緊張しただけ」

 

「そ、そうそう! 女の子の友達ができて、緊張しただけ……」

 

慌てて取り繕うが、本当に緊張しただけなのか甚だ疑問であった。

 

「あ、いたいた! ごめんね智くん、遅れちゃった」

 

その時、お母さんが僕を見つけて近づいて来た。無事に牛乳を買ったみたい。フェアリーはバレないように黙っている。

 

「智哉君のお母さん?」

 

「う、うん。そうだよ」

 

「あら? 貴女はお隣の上川さんとこの……」

 

「「へ……? き、君、隣だったの!?」」

 

互いに互いを見ながら揃って驚いてしまう。だって、今まで会ったこともなかったんだから、仕方ないじゃないか!

 

「あらあら……どうやら智くんに可愛い彼女さんができたみたいね」

 

「早いよお母さん! 彩愛ちゃんとはまだ友達だよ!」

 

「そ、そうです! そんな、彼女なんて、~~っ!」

 

再び僕らは顔を赤らめてしまう。てか、4、5歳の子供達がこんな話してるのっていいのかな?

 

「と、とにかく早く帰ろうよ! それ、腐っちゃうよ!」

 

「ふふ、そうね。なら、彩愛ちゃんも送ってあげましょうか」

 

「「へぇ!?」」

 

何度目だろう。驚いて素っ頓狂な声を出したのは。

 

「同じ方向に家があるんだから、いいんじゃない?」

 

「それは……確かに」

 

「じゃあ行こ? 私も彩愛ちゃんと親睦を深めたいし」

 

「は、はぁ……」

 

まさか公園に来たのがきっかけで転生者と出会うどころか、友達になるなんて……世の中何が起きるかわからんものだ。案外、これが運命の出会いだったり……はは、まさかね。




今回はここまでとなります。果たして白崎はなのはに何をしたのか? その謎は近々明らかになりますのでしばしお待ちを。


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EP02

「へぇ、そんなことが……智哉にガールフレンドがねぇ……」

 

「もう、その話は止めてって言ったじゃん……」

 

現在両親と晩ご飯を食べている途中……なんだけど、お母さんがお父さんにありのままを喋ったせいで色々からかわれることになってしまった。

 

「で、その……彩愛ちゃんだっけ。何て言ってた?」

 

「それがね、智哉君なら遊びに来てもいいですって」

 

「おお、そうか……フラグ立てたな~」

 

「何の話!?」

 

人生は恋愛ゲームじゃないんだから、立てたフラグだってすぐ折れることもあるんだよ! そりゃ、彩愛ちゃんのことは……嫌いじゃないけど……

 

「今日会ったばかりだってのに意気投合してたらしいし、父さん色々と楽しみだなぁ。孫の顔が……ってのは早すぎか?」

 

「さすがに早すぎるわ。でも、暖かく見守ることはしないと……ね?」

 

いや、そんな何かを期待する目で言われても……

 

「子供だからよくわかんないよ……」

 

とりあえず逃げた。だってこれ以上なんやかんや言われるのはお母さん達であっても嫌だし……でも、彩愛ちゃんのことを意識してるのは事実かな……何だろう、波長が合う気がするんだよね。何でかは知らないけど。

 

「ところでお父さん。今日は早かったね」

 

「ん? ああ、完成したパワードスーツの最終テストを部下がやってくれると言ってな」

 

「前に言ってた奴だよね?」

 

「俺と優美で研究してきたのが、やっとお披露目できるようになったんだ。と言っても、完成したのはほぼ偶然に近いけどな」

 

「ちゃんと解析すれば、その後も作ることができるわ。私も手伝うから、頑張ろ?」

 

「……そうだな。これからも頼むな、優美」

 

そう言ってお父さんはお母さんにキスをした。

 

「きゃん♪」

 

(見てるこっちが恥ずかしい……こういうの、バカップルって言うのかな?)

 

仲睦まじいのはいいことなんだけどね。でも、さすがにこういうのは……。僕もいつかこうなるのかな? でも彩愛ちゃんは恥ずかしいの嫌かも。

 

(って、何で彩愛ちゃん基準で考えてるんだ!?)

 

自分が無意識の内に彩愛ちゃんを基準にしていたことに驚きながらも恥ずかしくなった。ホント、今日会ったばっかだってのに……何でだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後。僕はお父さん達に連れられて、研究所に来ていた。完成したパワードスーツのお披露目を僕に見て欲しいからだそうだ。もちろん二つ返事でOKした。お母さんも来てるから安心なんだけど……

 

「何で彩愛ちゃんも?」

 

「気になるから……ダメ?」

 

「だ、ダメって訳じゃ……」

 

この3日間、僕は彩愛ちゃんの家に遊びに行きまくってる。彩愛ちゃんの両親ともすっかり仲良しになった。この前、僕なら彩愛ちゃんを任して云々って話を聞いたんだけど……何か先を知ってはいけない気がしたんで逃げた。

 

「チーフの息子さん、可愛い彼女さんを連れてますね」

 

ふと、研究員の1人がそう言った。

 

「まだ彼女じゃないぞ。でも、何れはそうなるかもな。俺達みたいになってくれればいいが」

 

「やんもう、あなたったら♪」

 

「あはは……ごちそうさまです、優ちゃん」

 

お父さん達は和気藹々と話し込んでいる。こっちの気も知らないで……

 

「ごめんね……ここの人達は、みんな凄くいい人なんだ。だから気を悪くしないで?」

 

「いいの。私、前世じゃ大切にされたことがなかったから、こういうの何か新鮮で」

 

「…………」

 

「……ごめん、暗いこと言って」

 

「別に彩愛ちゃんを責めてる訳じゃ……って、何か謝るのが逆になってる?」

 

「あ、本当だ……」

 

「……ふふっ」

 

「ふふ…あはは……!」

 

謝ってたつもりがいつの間にか謝られていたという事態におかしくなって2人揃って笑みが零れる。……やっぱり、女の子の笑顔っていいな

 

「どうしたの?」

 

「ん? 彩愛ちゃんは笑顔が可愛いなって……あ」

 

「あぅ……」

 

いかん、口が滑ってしまった。折角持ち直したってのに、また気まずくなっちゃったよ。

 

「うーん、妙だな……」

 

困り果てていた時、お父さんが悩んだ顔で近づいてきた。何があったのかは知らないけどナイスタイミングだ!

 

「どうしたのお父さん? 難しい顔して」

 

「智哉……実はな、今日予定していたパワードスーツのお披露目だが……中止になるかもしれん」

 

「えっ! 何で!?」

 

完成したって言ってたよね!?

 

「俺と優美が目標にしていたのはアニメや漫画に出てくるような、コンパクトな形から人型に一気に変形するタイプだ。何度も何度も失敗して、それでもやっと偶然だが試作機の完成に至った。でも、起動しないんだ」

 

「起動しない?」

 

「壊れたんですか?」

 

「いや、システム的には問題ない。待機形態兼コンソールのガントレットにスーツを量子分解して詰め込むことはできたし、自律状態での起動は毎回成功してる」

 

そっちの方が凄いと思うんですがそれは。

 

「問題は人が動かす時だ。スーツを着込もうとしても、起動どころか全く反応しないんだ。昨日の実験じゃ、部下が動かせたらしいんだけど……とにかく、実験は中止になる可能性が高いんだ」

 

「……残念です」

 

目に見えて落ち込む彩愛ちゃん。楽しみにしてたからな……待てよ? みんなには動かせなくても、僕なら動かせるんじゃないだろうか?

 

「お父さん、そのパワードスーツの名前は? 後、それってどこにあるの?」

 

「名前? 名前は……シュロウガって名付けたな。あっちの実験室にあるよ」

 

「実験室だね」

 

それを確認すると、僕は一目散に駆けだした。

 

「え、智哉!? どこ行くんだ!」

 

「智くん!? ダメだよ、中入って勝手に触っちゃ! 危ないよ!」

 

2人の警告を無視し、ガントレットをつける。すると何故か、使い方が頭に流れて来た。

 

「(やっぱりそうだ。これは僕の為に用意されたものなんだ。今日皆が使えなくなったのは、僕のものになるのを知ったからなんだ……なら、遠慮はいらない!)来い、シュロウガ!!」

 

叫ぶのと同時にガントレットのパネルを操作する。すると、そこから装甲がまるでゲッターロボの合体シーンみたく現れ全身を覆った。

 

『システム、オールグリーン。装着者登録完了。シュロウガ、起動確認』

 

「これが、シュロウガ……」

 

近くにあったガラスを見て呟く。デザインはまんまスパロボのシュロウガを縮小(と言っても、現物がどんなもんかは知らないが)した感じで、体によく馴染む。スーツを動かす感触は、自分の体を動かすのと何ら変わりないようだ。

 

「そんな……どうして、智くんが……」

 

「わからん……強いて言うなら、スーツが装着者を選んだとしか言えない。パイロット登録も済ませてしまったようだし……」

 

「あれがパワードスーツ……カッコイイ……」

 

実験室は締め切っていて本来は外にいる人達の声はスピーカーか何かを通さなければ聞こえない筈だが、高性能の集音センサーのお蔭で余裕で聞こえる。

 

(でも、ここからどうしたらいいんだろう)

 

起動させたのはいいけど、後始末が大変だと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、僕はシュロウガを解除した状態でお母さんとお父さんの前に座らされた。近くでは彩愛ちゃんが心配そうに見つめている。お父さんの表情はいつもと同じだけど、お母さんは怒っていた。

 

「智くん。お母さんが何で怒ってるか、わかる?」

 

「えっと、勝手にパワードスーツを動かしたこと?」

 

「違うよ。私が怒ってるのは、智くんが勝手に実験室に入ったことだよ」

 

あ、そっちでしたか。

 

「実験室は色んな実験をしているから、掃除してるとは言っても危険物がたくさんあるの。なのに智くんは実験した直後に勝手に入って、しかも実験物に手を触れて……今回は動いただけで何もなかったけど、もし智くんに何かあったら……!」

 

「お母さん……ごめん……」

 

そうか……僕は何て勝手なことをしたんだ。無事に動くと確信してるのは僕だけであって、他の皆は人の手で動いたことのない不安定なものと考えている。下手に触れて暴走でもしたら、ただでは済まない。そんな考えもあったんだろう。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

「もう無茶はしないで……智くんは、私達の宝物なんだから、ね?」

 

僕を優しく抱き締めながら、お母さんは微笑んでくれた。この時僕は再度確信した。この人のところに生まれて良かったって。

 

「そうだぞ。それに、智哉に何かあったら彩愛ちゃんも悲しむんじゃないか?」

 

「え? あの、私は……」

 

む、これは困ったぞ。彩愛ちゃんは転生者で、僕のことは色々話してあるから、シュロウガが何かは知らなくてもいつか僕が動かすことは知ってて特に心配もしていない。だけど、ここは謝っておいた方が良さそうだ。

 

「ごめんね、彩愛ちゃん」

 

「えっと……別に謝らなくてもいいよ。シュロウガ、結構カッコ良かったし」

 

どうやら話を合わせてくれたみたいだ。ナイス!

 

「まあ、本人がそう言うのなら俺は何も言わないが……少し、いやかなり問題が新たにできてしまった」

 

「新たな? 何なの?」

 

「シュロウガは装着者登録システムを搭載していて、一度起動させた者以外では起動できなくなるんだ。昨日はそれを切ってたんだが、何故かスイッチが入っていたらしくて智哉が登録されてしまったんだ」

 

「あなた、それって……」

 

「……実質的なデータ取りが、智哉の協力なしではできなくなるということだ。クソッ、こんなことになるなんて……!」

 

なるほど。僕が登録されたことで、僕以外が動かせなくなったから有人でのデータ収集が僕がいないとできなくなっちゃったんだ。なら……

 

「いいよ。僕も手伝う」

 

「智くん!?」

 

「智哉、わかってるのか? データ取りに協力するというのは、自ら実験体になるって言ってるようなものだぞ?」

 

「それでも。僕はお父さんとお母さんの研究成果を滅茶苦茶にしたばかりか、心配をかけちゃったから……だから!」

 

「……わかった。ただし、無理はしないようにな。もし何かあったら、遠慮なくドクターストップをかけるぞ」

 

「うん」

 

僕とお父さんが頷き合っていると、彩愛ちゃんが僕の手を握ってきた。

 

「彩愛ちゃん?」

 

「智哉君……」

 

彼女も彼女で僕のことを心配しているんだろう。

 

「大丈夫。お父さんが言ったように無理はしないし、友達を置いてどっかに行ったりはしないよ」

 

手を両手でぎゅっと握り、できる限りにかっと笑って言う。安心させたいんだ。

 

「うん……信じてる」

 

? 顔が赤い……信じてくれてるのは確かなんだろうけど、どうしてだろ?

 

「あらあら……」

 

「中々やるもんだな」

 

お父さん達が言ってたけど、何なんだろう。これがフラグって奴なのかな? うーん、わからん。

まあ兎にも角にも、僕は無事にシュロウガを入手することができた。




ついに登場シュロウガ! しかし入手に先走り過ぎてしまった模様。
ちなみに天獄篇でその謎が解明されるとのことなので、唯今絶賛プレイ中です。超銀河強いよ、超銀河。


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EP03

転生者達の最後の1人がついに現れる。


僕が彩愛ちゃんと出会い、シュロウガを貰ってから4ヶ月が過ぎた。彩愛ちゃんとは友達関係を継続させており、いつも仲良く遊んでいる。転生者云々の話はとっくにしなくなった。何か失礼だしね。でも相変わらず、彩愛ちゃんの両親は僕と彩愛ちゃんがくっつくことを願ってるらしく、お父さんとお母さんも一緒になって言っている。しかもフェアリーまでからかってくる始末だ。お蔭で小さなことでも意識しちゃって、彩愛ちゃんといる時はほとんどドキドキされっぱなしだ。……だけどそれは彩愛ちゃんも同じだし、何より彼女のことは嫌いじゃない。むしろ好きって方向に傾いてきている。向こうがどう思ってるのかは知らない。知るのも、ちょっと怖い。僕のこと嫌いじゃないよね? だ、大丈夫だよね!?

 

「っ! 智哉君、あれ!」

 

「えっ! どれ!?」

 

っと、回想に夢中でボーっとしていた。今は彩愛ちゃんと散歩してるんだった(デートとも言う)。彩愛ちゃんが指した方向を見る。

 

「ちょっと何するのよ! 離しなさいよ!」

 

「やめて! 離して!」

 

「うるせぇガキだな! 静かにしろ!!」

 

「…………」

 

えっと、状況を整理しよう。まず目の前に明るい茶髪の女の子と薄い黒髪の女の子がいて、何かスーツ着た男達に誘拐されようとしている。

 

誘拐されようとしている。大事なことなので(ry

 

「あの2人って、アリサ・バニングスと月村すずかだよね? どうしよう……助けた方がいいかな?」

 

「と言われても、シュロウガを使うには許可いるし、僕原作に関わるのは……でも放っておけないのは事実だし……」

 

そうこうしている内に2人は車に乗せられ、連れて行かれてしまった。

 

「仕方ない。原作に関わるリスクは承知の上で、助けるか」

 

その為にまずお父さん達に連絡を取ろうとし、彩愛ちゃんはフェアリーを起動しバリアジャケットを纏おうとした―――が。

 

『? マスター、前方に生命反応あり。人間、それもマスター達と同い年の子供のようです』

 

「え?」

 

「何だって?」

 

作業を中断し前を見ると、白髪に遠目なんでよくわかりにくいが、おそらく赤と青のオッドアイの少年がいた。

 

「「……転生者だな(ね)」」

 

それも典型的な踏み台の外見してるし。

 

「まあ彼が踏み台かどうか決めつけるのは早いから置いといて、彼がいるんなら僕らは必要ないね」

 

「そうかな?」

 

『そうですよ。折角のデートなんですから』

 

「いやそれは……そうだけど……」

 

フェアリーが余計なことを言うもんで、一緒に真っ赤になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆さん初めまして。俺は西神久数。訳あって踏み台という転生者をやってます。

ここに至るには色々あって、まず前世で俺はアニメオタク、それも俗に言うキモデブみたいな出で立ちと言動をしていたんです。一応、勉学に励みましたしボランティアもしたんですけどね。で、ある日。サークルの仲間と横断歩道を歩いてたらトラックが信号無視で突っ込んで来まして。咄嗟にみんなを庇って俺だけ轢かれて、そのままポックリいっちゃいまして……それで気がついたら、この体に魂が憑依していた、という訳なんですよ。自分でも信じられないんですけどね。

それで調べて行く内に、この世界が以前俺が見ていた『魔法少女リリカルなのは』という世界だということがわかりまして。しかも憑依した人物は、ルックスや所持していたデバイスの意見からして、俺と同じ重度オタクで踏み台転生者と呼ばれる人物だったようで。ちなみに俺の、性格には前の持ち主の特典ですが、全部で6つありまして。1つ目が容姿の変更。2つ目が王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)。3つ目がデバイス『セイバー』(Fateというゲームのキャラクターで、通常はアクセサリーの形をしてますが、自由に肉体つきで人間の姿になれます)。4つ目がニコポ。5つ目がナデポ。そして6つ目が魔力ランクSSS。

 

いやぁ、ここまで来るといっそ清々しいですね。それにしても、何故ニコポとナデポが別々なんでしょうか。あ、神様がケチったんですね、きっと。

ともかく、リリカルなのはの世界で生きてくことを強いられた俺ですが、折角ならいっそのこと踏み台として生きて散りましょうって考えたんです。だって、デブではないと言え、今の俺は白髪オッドアイ。どう見ても化け物でしょ。なら嫌われまくろうと考えた次第で。

そんでもって今は絶賛散歩中です。

 

『大変です、久数! 女の子が誘拐されようとしています!』

 

っ、セイバーさんが教えてくれたことに驚きながら見ると、アリサ・バニングスさんと月村すずかさんという少女が車に乗せられて連れていかれました。

 

「ついにこの日がやって来ましたか……セイバーさん、車の位置を察知できますか?」

 

『既にやってます。現在位置は、ここです』

 

「さすが仕事が早いですね。では、行きますよ!」

 

『はい!』

 

ここで上手く立ち回り、俺は踏み台として一歩歩み出すんです―――!

 

 

 

 

 

 

でも、踏み台って……どんなこと言えばいいんでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

『ここです、久数』

 

セイバーさんが指定した場所は、海辺の大型倉庫でした。なるほど、確かにここならうってつけですね。

 

「人数はわかりますか?」

 

『先ほどの女の子が2人に、成人男性が6人程います』

 

「ありがとうごさいます。すみません、何から何まで」

 

『そう畏まられると、私も困るのですが……』

 

そんなこと言われましても。特典さえなければ何の個性もない化け物ができることなんてたかが知れてますから。才色兼備なセイバーさんを敬わなくてどうすると言うんですか。

 

「とにかく行きますよ! セイバーさん、実体化を!」

 

『了解しました!』

 

途端に人の姿になるセイバーさん。思わず見とれてしまいます。俺なんかが失礼ですね……気を取り直し、俺もバリアジャケットを纏います。デザインは案外普通で安心しました。さて、武器を王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から取り出して……あら?

 

「何故に重火器ばかりなので?」

 

出てくるのは拳銃やロケットランチャー等、近代兵器ばかり。……これはあれですね。私がミリオタだからですかね。

 

「……さすがに殺人はまずいです」

 

ごもっともです、セイバーさん。

 

「ならこれで」

 

今度は手頃な近接武器(と言っても警棒ですけど)を取り出します。これならいいでしょう。

 

「では……突入!」

 

バゴッ! という音と共に、扉を壊して倉庫に入る。どれ、人数は……あれ? 男性が2人しかいない。奥にいるんですかね?

1人は驚いた様子でこっちを見ていて、もう1人は特に気にしてない様子で漫画……北○の拳を読んでます。何故に北○の拳? まあ俺もあれは大好きだったんですけどね。

 

「な、何者だお前等は!?」

 

「どうしたんすか、兄貴?」

 

「侵入者だ! 見てわかれ! とにかく、ここを知られたんだ。1人はガキだが、とっとと始末するぞ!」

 

「えー? 嫌ですよ。折角今、ラ○ウとの戦いのクライマックスなんですから。我が生涯に一片の悔いなし! の直前なんすよ」

 

「どうでもいいわんなもん! 第一俺その漫画よく知らねーんだよ!!」

 

「えっ!? 北○の拳知らないんですか!?」

 

あ、思わず口に出してしまいました。ん? 本を読んでた方がこちらを向きましたね。

 

「君、北○の拳読んだことあるの?」

 

「は、はい。全巻一気読みしました」

 

「マジで!? 凄いなぁ。ちなみにどの場面が好き?」

 

「そうですね……サ○ザー戦のクライマックスですかね」

 

「ああ! 彼が最後に『お師さん……』て言うとこだったね」

 

「あの場面がもう感動しちゃいまして! 読みながら泣いちゃいましたもん」

 

「わかる! 非常にわかるよ!!」

 

話は弾み、北○の拳における数々の名場面について語り始めようとした―――その時。

 

「いい加減にしろ! 何お前等仲良く北○の拳で意気投合してんの!? 敵だろソイツ!!」

 

「何言ってんすか。俺の中じゃこの子は仲間っすよ」

 

「うるせぇ! とにかく下がっとけ!!」

 

あまりの剣幕に「はいはい」と苦笑いしながら下がる。もう少し話していたかったのに……

 

「あの、久数」

 

「どうしたの、セイバーさん?」

 

「残りのメンバーがこちらに向かっています。先ほどの声を聞いたのでしょう」

 

あちゃあ、失敗しました。こうなるなら話してる間にセイバーさんに2人を助けるように言えばよかったですね。だって今の今まで唖然としてましたもん。無理もないですけど。

 

「どうしたんだ、さっきの声は!」

 

「何か北○の拳がどうのって」

 

「その話はいい! それより侵入者だ!! 数は2人だ、やっちまえ!」

 

「頑張ってくださいね~。俺は読書してますから」

 

「テメェも少しは手伝えよ!!」

 

何てことでしょう。6人中5人が俺達2人を襲おうとしています。しかも全員ナイフまたは拳銃持ち。ふむ……

 

「セイバーさん。申し訳ありませんが、3人程倒してくれませんか? 体格差から言って、今の俺では2人が限度なので」

 

「わかりました。では!」

 

言うが早いか、セイバーさんは不可視の剣を引き抜くと大地を蹴って相手の懐に飛び込み、柄の部分を使って素早く男性2人の鳩尾を突き、更に足払いをして地面に倒し頭を強打させ意識を刈り取り、残る1人を睨みます。

 

(さすがです。こちらも負けてられませんね……!)

 

流れるような戦闘に心を奪われた男性2人に、俺は一気に近づくと警棒で脛を思い切り殴りつける。悶絶してるところに、下顎へのダブルアッパーカットを決めダウンさせます。本を読んでた人は、逃げたのか帰ったのかいませんでした。

 

「こんなところですね。……セイバーさん、その人を見張っておいて下さい。俺は2人を助けますから」

 

そう伝え、月村さん達へと近づいていく。そこでわかったことですが、バニングスさんは今にも泣きそうな顔で、月村さんは泣いてました。余程怖かったんでしょう。

 

「大丈夫、安心してください。もう怖くありませんから」

 

できる限り優しく声を掛けたんですが……

 

「おい、お前……バニングスはともかく、ソイツを助けたところで何か価値があるっていうのか?」

 

「? どういうことです?」

 

「お前、ソイツがどんな化け物なのか知らねぇのか!?」

 

「化け物……?」

 

月村さんが? 何故?

 

「っ!? や、やめて! それ以上、言わないで!!」

 

「ソイツは『夜の一族』って言う吸血鬼……人外の家系に生まれた、化け物なんだよ!!」

 

「!! あぁ……」

 

「すずかが……!?」

 

月村さんが更に泣きじゃくり、バニングスさんが驚愕の視線を月村さんに向けます。……よくわかりませんが、気に入りませんね。

 

「それがどうかしたんですか?」

 

「「え?」」

 

ほぼ同時に、月村さんと男性が驚いた声を上げました。

 

「……セイバーさん。ソイツを気絶させて下さい」

 

「……はい」

 

素早く男性の後ろに回り込むと、セイバーさんは手刀をうなじに叩き込み、一瞬で気絶させました。それを確認すると、俺は縄を解いていきます。

 

「これでよしと。ケガはありませんか?」

 

「ええ……でもどうして、助けてくれたの?」

 

「そうだよ……私なんて、化け物なのに……怖くないの?」

 

そんなことを言われましても、返答に困るんですが……そうですねぇ。

 

「順番に話していきましょう。まず月村さんは、化け物なんかじゃありません。化け物なんてのは、俺のことを言うんです」

 

「え?」

 

「俺の髪と目、よく見てください。白髪に、左右の色が違うでしょう? 色素の低下と先祖返り、それに虹彩異色症が併発したんです。漫画ですよね。お蔭で俺は物心ついた時から、化け物と罵られてきたんですよ」

 

これは本当のことです。俺は今現在いじめられてるし、不自然さをなくす為に遺伝上の問題ということにしたそうなんです(セイバーさんから聞きました)。ちなみに、この世界は原作アニメでのオレンジや紫などの髪はギャップがあるので、ある程度自然な色に変化しています。月村さんなら黒、バニングスさんなら茶色といったように。なので、俺の白髪は本来銀髪だったのを神様が変えてくれたんでしょう。感謝感謝。

 

「それに比べたら、月村さんは恵まれてます。バニングスさんという友達がいますし、彼女は話を聞いた後でも貴女のことを侮蔑していませんよ」

 

「当たり前よ。すずかは大事な友達だもの。夜の一族なんて知ったこっちゃないわ」

 

「アリサちゃん……」

 

「ほらね? 俺や彼女からしてみれば、貴女は化け物ではありません。普通の人間なんです」

 

さて、ここからが本番。いよいよ踏み台としての真骨頂を見せる時です。

 

「それと、何故貴女達を助けたかという理由ですが、理由は単純。……貴女達のことが、好きだからです」

 

「「えぇ!?」」

 

驚いた表情になりました。まあ、そうですよね。

 

「2人は知らないかもしれませんが、俺は外出した際に貴女達の姿を何度か見かけているんです。名前も、2人の会話から偶然知りました」

 

これも本当です。家にいることが辛かった時は、気晴らしに色々なところへ散歩に出かけることがあります。それで何度か見かけたという訳です。

 

「何度か姿を見ている内に、俺は2人に惹かれていきました。……いつぐらいでしょうかね。明確に好きだとわかったのは…………滑稽でしょう? こんな化け物が、月村さんとバニングスさんを、同時に好きになるなんて……でも、俺にとっては本気だったんです。だから今、貴女達が捕まった前で良いところを見せれば、俺のことを好きになってくれるかなと……その為にセイバーさんにまで協力してもらって……そんなことで、好きになってくれる訳でもないのに」

 

知らず知らずの内に、俺は本音を口にしていました。踏み台ってこんなことを言いますかね……?

 

「すみません、長々と。ただ自分の気持ちを言いたかっただけなので……では、俺はこれで―――」

 

「待ちなさいよ」

 

立ち上がろうとしたら、バニングスさんに呼び止められました。はて?

 

「何ですか?」

 

「アンタは私達の名前を知ってるみたいだけど、私達はアンタの名前を知らないわ」

 

ああ、そういうことでしたか。

 

「俺は西神久数と言います」

 

「西神ね。なら西神。いきなり悪いけど、アンタはいくつか間違ってるわ。まず1つに、アンタは化け物じゃない」

 

え……

 

「アンタは、私達を助けてくれたばかりか、すずかを、友達を慰めてくれた。それも、ただ好きだからって理由で。こんな真っ直ぐな思いを持った人が、化け物な訳ないじゃない」

 

「……私、貴方が、西神君が慰めてくれた時……凄く嬉しかった。西神君に救われたようで……それに、髪の毛も瞳の色も、変じゃない。か、カッコイイと思う……」

 

そう言って月村さんは顔を赤らめ、バニングスさんも何度か見た後赤らめました。

 

「そ、それでだけど……私達、アンタのことをよく知らないから、いきなり恋人同士になるのはアレで……だからその、ま、まずは友達から、始めていかない?」

 

「え? それって……」

 

「い、一々聞き返さないでよ! アンタのことはき、嫌いじゃない。そういうことよ!」

 

「ですが……」

 

「大丈夫だよ。最初は不安かもしれないけど、それは私達も同じ。だから、一緒にがんばろ?」

 

「っ!!」

 

「それに、一夫多妻制を認めてる国もあるし……ね、アリサちゃん?」

 

「な、なな、何でその話が出てくるの!?」

 

「…………」

 

不思議なものです……踏み台として嫌われようと思ってたのに、逆に好かれるなんて……こんな化け物が……

 

「久数」

 

「セイバーさん……」

 

「貴方は化け物ではありません。心優しい、普通の人間です」

 

俺の心境を知ってか知らずか、セイバーさんは俺を真っ直ぐ見つめ、微笑んでくれた。

 

「っ! う…あぁぁ……!!」

 

気がついたら、俺は泣いてました。何度拭っても、涙が溢れて止まりません。

 

「こ、こんな俺でも、友達に、なって……くれるんですか…?」

 

「うん。これからよろしくね、久数君」

 

「だからもうそんな顔はしないでよ。……久数」

 

「は、い……すずかさん、アリサさん……!」

 

この瞬間、この世界で俺に初めて友達ができました。




人を見た目で判断してはいけない。今回出てきた転生者はそれをコンセプトにしました。


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設定

転生者達の設定を書き記します。誰がどんな能力を持っていてどんな性格なのか、それが少しでもわかればいいなと思います。


尾崎(おざき)智哉(ともや)

 

性別 男性

 

容姿 黒髪黒眼の至って普通な見た目。

 

デバイス・魔力 共になし

 

特典 1、優しい家族のところに生まれたい。2、家族がずっと仲良くいられるように。3、心を読むギアス。4、魔力なし。5、護身用のパワードスーツか何か。

 

備考 神様のコントみたいな理由で寝てる間に心臓発作で死亡してしまった転生者。生前は大学一年生だった。基本厄介ごとが嫌いで、原作介入はしない考えでいる。が、困ってる人物を放ってはおけない正義感の強い人物。他人のことは基本は名字で呼び、本人の希望があれば名前呼びにしたりする。転生後は上川彩愛と出会い、彼女を意識し始める。

 

 

 

シュロウガ

 

智哉の両親が開発したパワードスーツの試作機。世代を超えた技術が詰め込まれており、そのほとんどが偶発的に誕生したもの。なので全く同じものを作ろうとしても徹底的に解析しない限り作れず、その後の開発は当分行き詰まることになってしまった。装着者登録システムが搭載されているが、登録前なら自由にON・OFFが可能。また自律可動も問題なくできる。見た目や武装面はスパロボZのシュロウガそのままで、変形機構もある。智哉の大のお気に入りの機体。

 

 

 

 

 

 

上川(かみかわ)彩愛(あやめ)

 

性別 女性

 

容姿 黒髪ロングヘアに黒眼。

 

デバイス フェアリー

通常はネックレス型で、戦闘時にはウイングゼロカスタムみたいな翼になる。魔力を探知されない極小フィールドを常に張っている。

優しい女性の人格で、彩愛や智哉を見守っている他、時折2人の仲をからかっていることも。

 

魔力 B(リミッター有り) S(リミッター解除)

 

特典 1、優しい家族のところに生まれたい。2、みんなが仲良くしてほしい。3、ギアスキャンセラー(ギアス系以外に、通常の催眠術等にも使用できる。転生者にギアス保有者がいるのを知った為に追加)。4、完全治癒能力(自他共に使用可能)、5、専用デバイス『フェアリー』

 

備考 大人しい性格の女の子で、前世では男子から密かな人気があったがそれを妬んだ一部の人物達があることないこと噂し始めた為に、これまで受けていたDVの他にいじめを受け続けることに。しかし「どんな時でも、必ず明日はある」をモットーに前向きに生き続ける等、精神面がかなり強い。が、高校三年生の時に階段から突き落とされ死亡。18歳という短い人生を終え、転生した。

転生後は智哉と出会い、初対面ながらも意気投合。彼を意識し始める。また、智哉と同じく原作には介入しない方向でいる。特典の完全治癒能力は、フェアリーのサポートがあることでより完全な力を発揮することができる。

 

 

 

 

 

 

 

西神(にしがみ)久数(ひさかず)

 

性別 男性

 

容姿 白髪オッドアイ(本来は銀髪だったが、変更された)

 

デバイス セイバー

Fateのセイバーそのままの人格で、実体のある人間態になることも可能。以前の久数には拒絶反応を示していたが、現在の久数に対しては好意的な感情を持っている。

 

魔力 SSS

 

特典 1、容姿の変更。2、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)。3、デバイス『セイバー』。4、ニコポ。5、ナデポ。6、魔力ランクSSS

 

備考 トラックから友人を庇い死亡。その後魂が既に転生した人物の体と入れ替わった憑依式の転生者。西神久数という名前は本来の意識の名前で、『彼』の名前は別にあるのだが憑依した後に記憶から消えた。2人共前世ではアニメオタクという共通点があるが、『彼』は現実とアニメ・漫画の線引きがきちんとできており、体格も本人はキモデブと言うが実は単なるぽっちゃり系で、成績も良く機転が効く為、人間関係も良好であった。転生後の容姿を化け物と呼んで自虐しているが、すずかとアリサと会ったのをきっかけに考えを改める。王の財宝の中身は、『彼』がミリタリーオタクでもある為、質量兵器でいっぱいになっている。

本人は原作に適度に介入する気でおり、踏み台として活動するのが目標……だが、すずかとアリサに好意を抱かれているのでいきなり失敗している。

 

 

 

 

 

 

 

白崎(しらさき)誠一(せいいち)

 

性別 男性

 

容姿 黒髪黒眼

 

デバイス メサイア

女性の人格。過去に起きたことやこれから起きることの記録が全てデータとして入っている。戦闘時にはハルバード、ランス、サイト(鎌)の三形態に自在に変形する。

 

魔力 AA(リミッター有り) SSSオーバー(リミッター解除)

 

特典 1、身体能力上限なし(鍛えれば鍛える程無限に強くなる)。2、高性能デバイス『メサイア』。3、死者蘇生術。4、完全治癒能力。5、絶対遵守のギアス。

 

備考 転生者で、この世界のリリカルなのはにおけるオリ主。原作知識を持っており、死亡&退場キャラの救済以外は全てを(恋愛や結婚のタイミングまでも)原作通りに進めることを考えている。また、自分を含めた転生者は原作に関わる義務があると思っている。それに反する者は……

鈍感かつフラグ体質で、久数が外見に反して真面目な人物な為戸惑っている。

 

 

 

 

原作との相違点

 

原作アニメではカラフルだった髪の毛や瞳の色は、一部の例外を除いて自然に近い色に変更されている(銀髪が白髪になったのもそのせい)。例としてすずかの髪は紫から黒になり、他人物の瞳の色も見ていて違和感のないものになっている。

 



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EP04

どうもこんにちは、尾崎智哉です。

早いもんで、あれから3年が過ぎて聖祥小学校の3年生になった。学校は同じだが、クラスはなのは達とは別だ。巻き込まれるのは御免だからね。ま、彩愛ちゃんと同じクラスだからいいけど。

 

「智哉君。1組にフェレットがいるって」

 

「ん……とうとう始まったか」

 

彩愛ちゃんに言われ、背伸びをする。

 

「2人共行かないの? 可愛いらしいぞ?」

 

今話しかけているのは、桜木(さくらぎ)博人(ひろと)君。1年の時に出会い、友達になった男の子だ。信頼できる人物で、僕と彩愛ちゃんとよくつるんでいる。

 

「課題を片付けたいからいい。それに、わざわざ見にいくより彩愛ちゃんといた方がいい」

 

この学校は私立だけにレベル高いからな。しっかり勉強しておかないと。

 

「もう……智哉君……」

 

「はいはい、仲睦まじいことで」

 

顔を赤らめる彩愛ちゃんと呆れたようにかぶりを振る博人君。いつも通りの光景だ。

 

「それで昼ご飯だけど、どこで食べる?」

 

「昨日はここだったから、屋上はどうだ?」

 

「私も、屋上がいい」

 

「なら屋上で決まりな。また昼休みにな」

 

そう言って博人君は去って行く。ちなみに言っておくが、博人君は転生者じゃない。れっきとしたこの世界の住人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんでもって昼休み。

 

「おや、またやってるね」

 

「うん」

 

「見てて羨ましい限りだ」

 

屋上の一角に腰を降ろしながら、ある人物達を見て評す。何が起こっているかと言うと―――

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。アリサさん、すずかさん」

 

「遅いわよ! ご飯冷めちゃうじゃない」

 

「折角久数君の分まで作ったんだから」

 

「すいません……俺なんかの為に」

 

「こ、これは別にアンタの為じゃなくて、久数に、料理の意見を聞いてほしいから……そ、それだけなんだから!」

 

「もうちょっと素直になろうよ、アリサちゃん」

 

「だから私は……」

 

「あの、冷めちゃいますよ?」

 

「わ、わかってるわよ!!」

 

……何だこのラブコメ劇は? そう言いたくなる。こんなのが毎日とは言わないが、何度か目の前で起きている。月村すずかとアリサ・バニングスと共にいるのは白髪オッドアイの、確か……西神久数と言う子だったな。典型的な踏み台かと思ったけど全然違ってて、ギアスで心を読んでも、特にやましいものは見つからなかった。

 

「それにしても、2人共ご飯がおいしいですね。将来、いいお嫁さんになれますよ」

 

「にゃぁ!? お、おおお嫁さんって、な、何言って……!」

 

「私が、久数君の……はぅぅ」

 

「え、あの……」

 

 

 

 

 

 

「……何あれ。何か腹立つんですけど」

 

博人君が言うのも最もだ。西神からすれば、踏み台としての発言をしたつもりなんだろうが、見事に2人を落としている。まあ、踏み台やって騒がしくなるのもごめんだけど。

 

「確かに、見方によっては……ん、おいしい。これ手作り?」

 

「うん。智哉君が喜んでくれると思ったから……お母さんに手伝ってもらったけど」

 

「そ、そうか。何か、嬉しいな……」

 

「人のこと言える立場じゃないだろ」

 

まあね………おや? 西神達に近づく人影が……アレは高町なのはに、白崎誠一って奴だったな。所謂オリ主って奴だ。是非頑張ってほしいんだが、心の中を読んでも目的がよくわからなかったんで、僕は首を傾げている。

 

「アリサちゃん、すずかちゃん……また西神君といるの?」

 

あ、高町が話しかけた。でもトーンが変だな。

 

「何よなのは。居たらいけないの?」

 

「だって噂になってるんだよ? 西神君は、すずかちゃんとアリサちゃんを嫁として傍に置いているって」

 

「えええええええ!? だ、誰が流したのよそんな噂!?」

 

「私達の知らないところで、そんな……」

 

「傍に置いているのは当たらずとも遠からずですけど、嫁として置いてはいません。友達として傍にいるんです」

 

「「………………」」

 

「えっと、そのホッとしたのと落胆したのを混ぜた微妙な目線は何なんですか?」

 

乙女心は複雑ということだな。まだ小3だけど。

 

「……念のために聞いておくが、無理矢理という訳ではないんだな?」

 

今度は白崎君。無理矢理なら多分反抗されるだろう。

 

「俺は女性に対して無理強いはしません。人権侵害になるじゃないですか。……そりゃ、少しは舞い上がる時だってありますけど」

 

「だろうな。美少女2人といつもいるんだ。舞い上がらん方がおかしいよ(コイツ、本当に踏み台としての役割を果たす気あるのか?)」

 

某ワンサマーのことですね、わかります。てか踏み台の役割って何? 仕事なの?

 

「む。誠一君は、私と居ても舞い上がらないの?」

 

「……え、何故に?(それに月村とバニングス……コイツに好意を抱いているのか? なら早急に手を打った方が……いや、もう少し様子を見るか)」

 

鈍感&本音だだ漏れですがな。それより手を打つって何よ?

 

「誠一君の鈍感……もういい」

 

「ちょ、なのは? どこ行くんだ?」

 

鈍感なのが災いしたな、これは。

 

「僕らもそろそろ行こうか」

 

「うん。そろそろ授業も始まる頃だし」

 

「そう言えば、次何だっけ?」

 

「国語だよ」

 

他愛もない話をしながら、僕達は屋上を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……疲れちゃった」

 

皆さんどうも。上川彩愛です。委員会の仕事で学校に残っていたので、少し遅れてしまいました。私、風紀委員としての一面もあるんです。

 

『その割に、智哉さんとラブラブしてますけど』

 

……それを言わないで、フェアリー。

 

『まあ半ば公認されてるんですし、後はマスター達が付き合うのを待つのみなんですよね。早く告白したらどうですか?』

 

「それは、そうだけど……でも、恥ずかしくて……」

 

いつも言おう言おうとしてるのに、いざとなると言えなくなる。ただ一言、「好き」って言うだけなのに……。煮え切らないことをしてるからかな? 学校で公認同然にされてるのって。

ところで智哉君達がどこにいるかというと、博人君の家に先に行ってる。一緒にゲームをやるんだって。いいなぁ。

 

『? マスター、この先に魔力反応を確認しました。数は2つです』

 

「っ……!」

 

フェアリーが告げた情報に身を硬くし、物陰に隠れる。慎重に様子を伺うと、フェイト・テスタロッサであろう女の子と、白崎君がいた。

 

(何をしているんだろう?)

 

何かを話しているのは違いないんだろうけど……

 

(感度を上げます。これで少しは聞こえやすくなります)

 

(ありがとう、フェアリー)

 

どんなことが聞こえてくるかな。

 

「あの、ジュエルシードを、渡してほしいんですが」

 

「うん……名前を教えてくれたし、いいよ」

 

「っ! 本当ですか!?」

 

「ああ。ただし―――」

 

っ! この感覚……ギアス!?

 

「―――俺に対して全幅の信頼を寄せてもらうぞ! フェイト・テスタロッサ!!」

 

「っ!!!!」

 

(な、何てことを……!)

 

彼が……絶対遵守のギアスを持っていて、フェイト・テスタロッサに対して使用するなんて……何が目的かは知らないけど、嫌な予感がする!!

 

(原作に関わらないにしても、智哉君には知らせないと!)

 

私は忍び足でその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(今誰か居たか? ……いや、気のせいか)

 

ギアスによる支配が完了した彼は、ふぅ、と一息ついた。



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EP05

前回からしばらく過ぎた。その間は……特に何も起きてない。少なくとも僕の周りでは。せいぜいシュロウガの機能テストを何度かしたくらいだ。原作介入しないとこうまで平和なんだな。

でも、白崎君がギアスを使って暗躍してるのは少し怖い。何をしようとしてるんだろうか? まあ、僕は原作に関わらないんで、僕や友達に危害が及ばない限りはどうもせんけどね。彩愛ちゃんにも手出し無用と言っておいたし。

 

 

 

そんでもって今日だけど、彩愛ちゃんと博人君と一緒にサッカーの試合を見に来ている。

お母さんが士郎さんの知り合いで、その縁で応援に来たらしい。

 

「士郎さんのチーム、負けそうだよ?」

 

「そうねぇ……」

 

「あ、白崎君が助っ人で入った」

 

「西神も入って……敵チームについたぞ!? 何故!?」

 

「きっと、ライバルと決着をつけたいのね。青春だわ~」

 

(単に踏み台になろうとしてるんじゃないだろうか?)

 

対決そのものは気になるけどな。さて、どうなることやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……凄かったな、あの試合」

 

「何て言うか、熱かったね」

 

「ていうか、ほぼ2人の独壇場だったな」

 

上から順に博人君、彩愛ちゃん、僕だ。

結果的にどうなったかと言うと、点を取っては取られての繰り返しで、しかもそのほとんどが白崎君と西神君によるもので最終的にPK戦に持ち込んだんだけど、何故か2人だけの直接対決になって、壮絶なシュートの蹴り合いをし続け、最後に西神君が外して相手チームが負けた。

でも誰も西神君を責めない。むしろ両者共いい対決だったと褒め称えた(その中には士郎さんもいた)。……試合後に西神君は月村とバニングスに、白崎君は高町に労われていて一部男性達の妬みの視線を受けていたが気にせず帰った。

 

「この後どうしよう?」

 

「うーん……近くのお店で食べていかない? 彩愛ちゃんと博人君も一緒に」

 

「いいんですか?」

 

「ええもちろん」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

外食も久しぶりだな。どこに行こうかな? 洋食もいいけど、和食も捨てがたいし……寿司屋にしようか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3時間後

 

「チッ、どうにかして人質を助けないと……!」

 

誠一、久数、なのは、そしてユーノ・スクライアはジュエルシードを取り込んだ樹と対峙していた。

 

「ジュエルシードはどこにあるの!?」

 

「その前に人質の救助をします! セイバーさん、申し訳ありませんがアシストをお願いします!」

 

「任せてください!」

 

久数が火炎放射器を構えながら突撃し、触手のように唸る木を焼いていく。打ち損じは、セイバーが切り裂いていく。

 

「着いた! 後はこれで……!」

 

接近に成功したところで素早くコンバットナイフに持ち替えると、樹を切っていき中にいる少年と少女を救出した。

 

「凄いな……救出したぞ(てかアレ、前も思ったけど質量兵器だよな? それに、踏み台らしい行動もしてないし)」

 

「(良かった、無事で……願わくば、2人が結ばれますように)よし、離脱しましょう!」

 

そう言った時、一本の木が久数に向かって振り下ろされた。

 

「!? しまっ……ぐぁぁぁぁああああああああああ!!(踏み台としては、これぐらいが上等でしょうか?)」

 

「マ、マスター!!」

 

「ああっ!」

 

「おい! 大丈夫か!?(いや、やっぱり踏み台だな、アイツは)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だありゃ……」

 

その頃、博人達は別の場所で暴走した樹を見ていた。

 

「突然変異の、化け物か?(ジュエルシードで暴走したな)」

 

「ど、どうしたら……(最悪逃げればいいよね)」

 

芝居も楽じゃないな、うん。お母さんが先に帰っていたのが幸いだった。

 

「うお!? 何かピンクの光と言うかレーザーが飛んでいったぞ!?」

 

ディバインバスターか。あんなでかいのか……テレビで見るのとは訳が違うな。まともに食らったらただじゃ済まないだろう。

 

「あ、消えていく……何だったんだ? とりあえず写メ撮ったけど」

 

ちゃっかりしてんね、博人君は。

 

「何ちゃら鑑定団に送ったらどう?」

 

「それいいな。よし、父さんに手伝ってもらおう」

 

別に写メの1つや2つでどうにかなったりしない……よな?

 

 

ちなみに後日、送った写真は落選したと博人君が言ってました。



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EP06

「は~るばるきったっぜ。海鳴温泉に!!」

 

「博人君、その歌何?」

 

「いや、テンション上がって……」

 

僕達は今、家族ぐるみで海鳴温泉に来ていた。正直楽しみだ。

 

「折角のゴールデンウィークに温泉に行くのも新鮮だね」

 

「そうだな……」

 

楽しそうにはにかむ彩愛ちゃん。それを見てるとこっちも楽しくなる。

僕達の後ろでは、両親達が楽しく会話をしている。

 

「いやぁ、久しぶりに家族で旅行にこれましたよ」

 

「ここのところ、仕事続きでしたからな」

 

「今日はゆっくりと羽を伸ばしましょうや」

 

こちらはお父さん達の会話。いつもいつもご苦労様です。

 

「優ちゃん、あの件だけどしっかり確認したわよね?」

 

「もちろん。年齢もギリギリセーフよ」

 

「博人に相手がいないのが残念だけど、これはこれで面白そうね」

 

こっはお母さん達。何を話してるんだろう? 心を読んでもいいけど、何か怖いから止めた。

 

「さ、みんな。受付を済まして早く入ろう」

 

お父さんに促され、僕らは施設に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………いや、何か喋ろうぜ」

 

温泉内にて黙りこくったままの僕達に、博人君がツッコミを入れる。

 

「「………………この状況で話せると思ってるの?」」

 

「息ぴったりだな君ら……」

 

そんなこと言われても、この状況をどうにかできると思えない。何せ―――彩愛ちゃんが、男子風呂に混浴してるからだ。

 

こうなったのは数分前。風呂の入り口に来た時、張り紙に「9歳以下なら混浴可」と書いてあったのに目がいった。んで気づいたら、お母さん達が混浴するように言ってきた。彩愛ちゃんを男子風呂に入れる方式で。必死に拒否してものれんに腕押しで、助け船をとお父さん達を見たら目を逸らされた。……もしかして、黙ってるだけで僕達の家って、かかあ天下?

 

そんなことがあり、僕は彩愛ちゃんと一緒に入っている。背中合わせで。

 

「それもそれで緊張するんじゃ?」

 

博人君が何か言ってるが、今回は思い切り無視る。

 

「……あの、智哉君」

 

「な、何かな?」

 

「ちょっと、いいかな?」

 

「へ?」

 

返事を待たずに、彩愛ちゃんは僕に後ろからくっついてきた。

 

「あ、彩愛ちゃん何を……」

 

「こうしていたいの。ダメ……かな?」

 

優しい声色で言われたら、断れる訳ないよ……彩愛ちゃんのものなら、尚更。

 

「ううん……僕も、彩愛ちゃんとくっついていたい……暖かいね」

 

「そうだね……智哉君も、暖かいよ」

 

「……ありがと」

 

「……何だろ、このピンク色な雰囲気は。甘ーい、と叫びたい気分だ」

 

「青春だね~」

 

「いっそ結婚させたらどうだ?」

 

「その話はとっくに持ち上がってるぞ」

 

…………今不穏な会話が聞こえたような!? お父様方は何を知ってらっしゃるんですか!?

 

「……智哉君……」

 

(……ま、彩愛ちゃんといられるなら、いいか)

 

深く考えないことにした。僕も彩愛ちゃんのこと……好きだし。

 

(でも……今はまだ友達同士だ。それ以上になるには、僕が勇気を出さないと。でも怖いなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、僕達は揃って風呂を上がった。

 

トンッ

 

「あてっ」

 

「あ、すいません」

 

出て行く時に男の子とぶつかってしまった。

 

「あれ? 君確か1組の……」

 

「そう言う貴方達は3組の……」

 

それも西神君だった。後ろにはバニングス達もいる。

 

「……君も、混浴しようと言われたの?」

 

「ということは貴方も……でなければ、女の子がここにいませんものね」

 

だろうな。僕だって真っ先にそういう考えに至る。

 

「上川だったわね。ここにいるってことは、アンタも……」

 

「バニングスさん達も、同じ考え? す、好きな人といれるからって」

 

「そ、そうなるかな……あれ? じゃあ上川さんも、好きな人が?」

 

「うん……」

 

小声で言ってるんで何言ってんのかさっぱりだが、とりあえず言いたい。何故今僕を見た?

 

「なるほど、彼が……頑張ってね」

 

「応援してるよ」

 

「ありがと。2人も、頑張って」

 

向こうは向こうで終わったらしいな。

 

「じゃあ、僕達はこれで」

 

「ええ。またいつか会いましょう」

 

できれば会いたくないんだけどなぁ。否応でも原作に関わりそうで。でも……嫌な奴じゃないから、いいか。

 

「……あ」

 

今ちらっと白崎君が見えた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴクッ、ゴクッ……ぷはぁ! 風呂上がりの牛乳は格別だな、智哉!」

 

「全くだね」

 

「私は、オレンジジュース派」

 

風呂から上がって浴衣に着替えた後、近くの自販機で飲み物を買って飲んだ。

 

「あ、白崎君達だ」

 

彩愛ちゃんの目線の先には、風呂から上がったばかりの白崎君と高町がいた。

 

(本当に変だ。本来なら、すずかとアリサは女風呂に入る筈なのに……何故踏み台と?)

 

こんな時まで原作ですか。僕が言えることじゃないけど、今はリラックスしようよ。それといい加減踏み台呼ばわりはやめたげようよ。彼、案外良い子だと思うぜ?

 

「なぁ、これからどうする? 父さん達は卓球場に行ったけど」

 

「私達も、どこかで遊ぶ?」

 

「ん……いや、部屋に戻ろう。丁度トランプを持って来てる」

 

「おっ! 用意がいいな。ババ抜きでもやるか?」

 

「七並べは?」

 

「まあまあ、意見は部屋に行ってからにしようよ」

 

2人を宥め、僕達は泊まっている部屋に向かった。

 

「あ、高町と白崎が酔っ払いに絡まれてるぞ」

 

「触らぬ神に祟りなし。放っておこう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで……上がりっと」

 

「私も」

 

「げっ! また負けたぁ~!!」

 

部屋でしばらくトランプを続けた結果、ほぼ博人君が負けていた。勝負事に弱いのかな?

 

「そろそろ遅いから、もう寝よう。お父さん達はとっくに寝てるし」

 

「勝つまでやりたいとこだが、眠気には勝てないからな……今度リベンジを果たさせてもらうぜ」

 

「ああ。待ってるよ」

 

そして、僕らは布団に入り眠りについた……のだけど。

 

「……布団の数からしておかしいとは思ったけど、これは予想外だ」

 

「……恥ずかしい……」

 

彩愛ちゃんの分の布団がなく、どうしたもんかと考えていたらお母さん達が「計画通り」と言わんばかりの顔で僕の布団で寝ることを提案した。……恋愛ゲームのイベントですか、これは。

 

((眠れない……))

 

嬉しかったのは事実だけど、しばらくの間寝付けなかった。

 

 

ちなみにこの時、廊下で何人かの足音が聞こえたけど無視した。下手に関わってシュロウガを使いたくないから。あれはあくまで降りかかる火の粉を払う為のものだからね。



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EP07

「……何か、バニングスと高町が大喧嘩してるんだが」

 

「数日したら仲直りするって」

 

温泉から数日後。高町達が絶賛喧嘩中になっている。

 

「それより、シュロウガのチェックをしとかないと」

 

カバンの中をまさぐってガントレットを出しながら言う。普段こうして持ち込んでいるのはリアルタイムでの計測ができるからだ(使用の有無に関係なく)。お父さん達が学校側に説明しているので、騒がれることは……あまりない。カッコイイと言われたことはあったし、手に装着されることはあったけど他人に起動はできないから意味ない。

 

「そういや、来月だっけ。コイツが本格的に動くのを見られるの」

 

「博人君は初めてだったね。あくまで自由に飛び回ればいいし計測するのもお父さんとお母さん以外に2人くらいだけだから、カッコよく動き回れるんだ」

 

「いいなぁ。2号機ができたら俺が装着したいな……あ、体を鍛えないとダメか」

 

「智哉君の体、年齢の割に引き締まってるよね」

 

「トレーニングを欠かさずやってるから」

 

あくまで目立たない程度にだが、僕は体を鍛え続けている。シュロウガは単なるパワードスーツでデバイスではない。動かすには僕自身の力も必要という訳なんだ。

 

「どうしよっか……俺この間、剣道場見つけて見学したんだけど入ろうか迷ってるんだよな」

 

「それってどこなの?」

 

「確か、し…しの……何だっけ、忘れちゃった」

 

「おいおい……」

 

「そこが肝心なのに」

 

ため息をつく僕達に、「ごめんごめん」と博人君は苦笑いする。

 

「だけど、僕の意見としては入った方がいいと思う。何事も経験だからね」

 

「できると思えば続けて、無理だと思えば止めればいい」

 

「そうか……そうだな」

 

にしても習い事か……早すぎるけど、将来のことも考えた方がいいな。大学まで行こうかな? それとも工業高校に行って高卒で就職しようか?

 

「てかさっきから廊下がうるさいな……まだ喧嘩してんの?」

 

「……いいや。間に白崎が入って仲裁してる」

 

「でも治めれてない」

 

「あ、静かになった。仲直りしたみたいだな」

 

「ふぅ、ようやく落ち着けるぜ」

 

喧嘩は戦いと同じでよくないからな。というより、喧嘩は戦いの縮図だと思う。……間違ってないよね?

 

「智哉。俺お前に頼まれてた録画したアニメのダビング終わったんだけど、いつ持ってけばいい?」

 

「もう終わったんだ。そうだな……ならべく早い内に、無理しない程度でお願い」

 

「わかった」

 

「? 何のアニメ?」

 

「「新ゲッ○ーロボ」」

 

「……わからない」

 

そうだろうな。女の子はロボット物見ないだろうし、アレにはグロい場面もあるしな。ま、それが面白いんだけど。合体変形のシーンとか。

 

「今度一緒に見ようか?」

 

「うん」

 

波長が合ってくれればいいんだけど……女の子だから無理かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と思っていたが4日後、見事にそれは覆された。

 

「吠えろ、竜の戦士よ~♪」

 

「気に入ったんだ」

 

「あの合体シーン、凄いカッコよかったもん。それに、主人公の1人が思い切り悪人顔ってのも面白くて」

 

僕の家でDVDを見た後、彩愛ちゃんはご機嫌だった。新ゲ隼○さんの良さがわかるとは、中々だ。……マイナーな作品だけに、ほとんど知ってる人いないから、正直凄い嬉しい。

原作漫画の続きが気になるけど、作者がゲッター線に導かれてしまったから永久に見られない。それが非常に残念だ。

……っと、そうだ。伝えなければいけないことがあるんだった。

 

「ねぇ、彩愛ちゃん」

 

「ん? 何?」

 

「その、今度のシュロウガのテストなんだけど……彩愛ちゃんと博人君も来るんだよね?」

 

「うん」

 

「そこでさ。テストが終わった後でいいんだけど、彩愛ちゃんに言いたいことがあるんだ」

 

「!!」

 

「いいかな?」

 

「……もちろん。だけど、どうしてその日?」

 

「何となく、本当に何となくだけど……その日なら言える気がするんだ。シュロウガを思い通りに動かせて、踏ん切りがつけられるというか、勇気がもらえるから…かな?」

 

「そっか……わかった。私、待ってるね」

 

そう言う彩愛ちゃんの顔は、赤くなっていた。この反応だと、きっと彼女も……なら、後は言うだけだ。

 

(ほうほう。ついに決心しましたか。頑張ってくださいね)

 

フェアリーがそんなことを考えていたとは、つゆにも思ってなかった。



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EP08

時は流れ、テストが行われる週末の金曜。海岸沿いにお父さん達がおり、僕はシュロウガを纏って空を飛んでいる。

 

「感度良好。機体バランスにも問題はないよ」

 

『そうか。ではしばらく自由に飛んでみてくれ。変形してもいいぞ』

 

「わかった」

 

通信越しにお父さんの声を聞き、シュロウガのスラスターを噴かして縦横無尽に動き回る。G緩和装置が働いてるようで速度を上げてもそこまで苦しくなく、高速巡航モードへの変形→真上に加速→再変形も案外楽にできた。

 

 

 

 

 

 

一方、地上では隼也と優美他2名が白衣を着て数台のノートパソコンを見ていた。その1つにはシュロウガが見ている映像をリアルタイムで映し出していた。

近くにいる博人と彩愛はシュロウガの動きとパソコンの映像を見比べていた。

 

「ひゃあ、すっげぇなぁ。あんな風に飛び回れるのか。これ、この前みたいに竜巻が出てたら危ないような……」

 

「ああ。だから、今日は快晴になってくれて大助かりなんだ」

 

「あの機動性、どうやって……?」

 

(永久機関を搭載していなければ、すぐに燃料切れになっていますね)

 

「うーん、自律状態やシミュレーションとは微妙に違うわ。こんなにきびきびと動けるなんて」

 

「智哉が羨ましいぜ。あの、量産に成功したら、俺にも作ってもらえませんか?」

 

データを見て驚く優美に博人が問いかける。

 

「いいけど、かなり年月がかかるわよ? 元々偶発的に完成したものだし、私達が目指していたコンセプトも、本来は作業用だから……」

 

「作業用? だ、大丈夫なんですか?」

 

博人が見る方向には、額からラスター・エッジを放ち、ディスキャリバーで素振りをするシュロウガがいる。

 

「基本的な部分がわかればいいから、特に問題ないわ」

 

「なるほど」

 

「ところで、いつ終わりますか?」

 

「そろそろだな。智哉、もう十分データは取れた。これからは好きに動かして構わないぞ」

 

『了解っと』

 

そう言うと、シュロウガは地上に降りて来た。

 

「好きにって、色々問題とかあるんじゃ?」

 

「大丈夫。政府諸々に許可貰ってるから」

 

「え!? そ、そっちの方が凄い……」

 

「どうしたんだ、2人共?」

 

そこへ、シュロウガを解除した智哉がやってきた。

 

 

 

 

「いや、何でもない」

 

「それより智哉君。私に話があるって?」

 

っとそうだ。今日はこっちがメインなんだ(俺の中で)。

 

「ああ。ちょっと、来てくれ」

 

彩愛ちゃんの手を握り、できるだけお父さん達から離れる。

 

(お、ついに決めるか)

 

(頑張って、智くん)

 

(ついにこの日がやってきたか……!)

 

……とりあえずギアスは切った方がいいな。うん。

ある程度離れたところで、砂浜に2人揃って腰掛ける。

 

「……あのさ。僕、ムードとかよくわからないから……率直に言わせてもらっても、いいかな?」

 

「うん」

 

「僕は……僕はね……」

 

隣を向き、彩愛ちゃんの両肩を優しく掴んで自分と向き合わせる。け、結構恥ずかしいなこれは……

 

「僕は、初めて会った時から……君が、彩愛ちゃんのことが……」

 

さあ、今だ! 今こそ言う時だ!!

 

「ずっと好『マスター! 智哉さん! 魔力弾が接近しています!!』ああもう! うるさ―――」

 

ドガァァァン!

 

…………………………えーっと、整理させてくれ。何故俺の目の前にクレーターができているんだ? 何で俺と彩愛ちゃんは砂まみれになってるんだ? 何で若干遠くで戦いが起きてるんだ!?

 

「今日だったんだ……一騎打ち」

 

Oh,No……そういうことか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、戦いを繰り広げているなのはとフェイトの陣営は。

 

「この戦いで勝つのは、フェイトか? それとも……」

 

息を呑んだ様子で、アルフという女性が言う。

 

「わからない。ただ、全てを出し切った方の勝ちということだけは言える」

 

ユーノが同じく息を呑みながら言った。

 

「それより俺は、すずかさんとアリサさんをほったらかしにしたことが気になります。絶対怒られるんだろうなぁ……」

 

『元気だしてください、マスター。誠心誠意謝れば、きっと許してくれますよ』

 

デバイス形態のセイバーが久数を励ます。

 

「そうですね……ありがとうございます」

 

笑顔で礼を述べる久数。

 

『っ、い、いえ……それほどでも』

 

少々言葉に支えるセイバー。人間形態だったら、間違いなく顔を赤らめていたであろう。

 

(メサイア。2人の強さだが、原作と違いはないか?)

 

(はい。現時点での強さは、若干の誤差がありますが、原作通りになっています)

 

(そうか。ま、誤差は仕様がないな)

 

誠一は、メサイアと密かに話していた。

 

「フォトンランサー・ファランクスシフト! 打ち砕け…ファイアァァァァ!!」

 

フェイトの繰り出した攻撃は全て命中した。が、なのはは防御に成功し無傷だった。

 

「撃ったらバインド、解けちゃうんだね。今度は私の番……受けてみて! ディバイン・バスターのバリエーション」

 

先にフェイトをバインドで拘束しておき、身動きを取れないようにする。

 

「スターライト……ブレイカァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

スーパーロボット級の攻撃が、フェイトを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(うわ、えぐっ……)

 

原作を知っているとは言え、これは引く。あ、落下したテスタロッサを誠一君が抱きかかえた。顔が赤い……いいねぇ、青春を謳歌できて。

しかも暗雲立ちこめて雷まで鳴ってるし……

 

「おーい! 智哉、早く戻るんだ! 原因不明の雷雲が発生してるぞ!!」

 

「さっきまで晴れてたのになんで……って砂まみれじゃんか! しかもクレーターまで。こんな近くに落下したのか!?」

 

色々と誤解している博人君とお父さん達によって、僕達は無事家に帰ることができた。

でもね、僕は告白を寸止めされたんだ。せめてこれだけは言わせてもらいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これだから戦いは嫌なんだよぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、白崎達は時の庭園に乗り込むことになったのだが、どのような戦いを繰り広げたのか。ダイジェストで見ていこう。

 

まずは傀儡兵との戦い。なのはとフェイトが共闘しながら進むと、大量の傀儡兵が道を塞いでいた。

 

「さすがに数が多い……!」

 

「誠一君、フェイトちゃん! 一緒に行くよ!」

 

「うん!」

 

「任せ(ドガガガガガ!)ん?」

 

突然響いた射撃音に振り向くと……

 

「これで……どうですか!!」

 

M134を地面に設置し撃ちまくっている久数がいた。相手は対魔力に特化しているので、容易く蜂の巣になる。が、やがて弾切れになる。

 

「まだいますか。ならば!」

 

今度は手榴弾を2本同時にピンを抜き、放り投げ傀儡兵を葬った。

 

「粗方倒せましたか……?」

 

「というか、ほぼ消し飛びました」

 

あまりの威力に半ば呆れたようにセイバーが言う。

 

「……普通なら違反なんだろうけど、レアスキルで出してるからなんとも……」

 

後ろでは時空管理局のクロノ・ハラオウンが頭を抱えていた。

 

(マジかよ……これ、いずれ俺にも脅威になるんじゃないか? 魔導士に質量兵器は致命的だぞ)

 

誠一も危機感を覚えていた。

 

 

 

次に彼らはプレシアの捜索と動力部の破壊の二手に分かれた。動力部の破壊に行った久数達の方を見よう。

 

「ここが動力部ですね」

 

「ディバイン・バスターで一気に―――」

 

「すみません、危ないですから下がっててください」

 

「「「え?」」」

 

久数の言葉に訝しんで離れる。よく見れば、彼はRPG-29を構えており、直後に発射。

弾頭は動力部にクリーンヒットし、見事破壊に成功した。

 

「これでいいですかね?」

 

「いいけど……何か違う気がする」

 

「現代兵器って凄いんだね……」

 

「日本なら銃刀法違反ですけど……」

 

破壊には成功したが、微妙な空気になってしまった。

 

 

 

少し時間が飛び、アースラの医務室。ここには誠一が救出したプレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサがおり、既にプレシアは治癒されていた。

 

「では、これからアリシアを蘇生させるんで一旦退出してください」

 

「お願いするわ」

 

そして1人になったことで能力を発動。アリシアが目覚める。

 

「ううん……あれ、私……」

 

「目が覚めたか?」

 

「貴方、誰?」

 

「俺は白崎誠一。アリシア・テスタロッサ……いきなりで悪いが、俺に全幅の信頼を寄せてもらうぞ!」

 

すぐさま目を見てギアスを発動。その後、アリシアをプレシア達と合流させた。

 

(よし、どうにか無印編はいけたな。流れもほぼ原作通りだし、A's編もこの調子でいけば……)

 

不適な笑みを浮かべる誠一であった。




絶妙なタイミングで横やりが入るという罠。
そしてクライマックスシーンを敢えてダイジェストにしたのは、久数の無双と白崎による救出以外はほぼ原作そのままだったからです。


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EP09

「はぁ~あ……」

 

翌週の水曜。教室にて、僕は机に突っ伏していた。

 

「なぁ……元気だせよ。いくら何でも天気ばかりは仕様がないって」

 

「仕様がないもんか」

 

君は知らないだろうけどね。僕は原作通りとは言え、人的要素によって妨害されてるんだ。今回ばかりはへこむし、アイツ等が許せない。お門違いなのはわかってるけどさ。

 

「彩愛の奴も、最近は元気ないし……どうしたもんかなぁ」

 

「何々? どうしたの?」

 

顎に手を当てて博人君が考えていると、気になったクラスメイト達が近づいてきた。

 

「実は、これこれこういう訳で……」

 

1人では解決不能と考えたのか、博人君は事情を話し始めた。

 

「そんなことがあったのか」

 

「それにしても、空気が読めない天気ね」

 

「こればっかりはどうしようもなくてな」

 

「で、当の上川さんはどちらに?」

 

「ああ、今さっきトイレに行ったよ」

 

「じゃあ、戻って来るまでに何か考えようよ」

 

「え、考えるって……何を?」

 

思わず起き上がって尋ねる。

 

「決まってるでしょ。上川さんに告白する方法よ」

 

「!? い、いいの? 迷惑じゃ……」

 

「何が迷惑なもんか。俺達クラスメイトだろ? 困った時はお互い様だ」

 

「それに、他人の恋路って応援したくなるものよ」

 

「遠慮なく頼ってね」

 

「みんな……!」

 

いかん、感動しそうになる……。そんでもって涙が出そうになる!

 

「で、どんな告白にしたらいい?」

 

「何かきっかけがいるんなら、教室でサプライズ告白とかどうよ?」

 

「それいただきだ!」

 

パンッ、と手を叩いて博人君が声を上げる。

 

「サプライズ告白、これはかなりくるぞ……! 是非やろう!」

 

「でも、どんなサプライズにする?」

 

『『『う~ん……』』』

 

腕を考えるクラスメイト達。……って、いつの間にか全員が集まってるじゃん。

 

ガラッ!

 

「話は聞かせてもらったわ!!」

 

突然入ってきたのは担任の山崎先生。ノリが良い少し熱血な女性で、みんなに好かれている。ちなみに旦那さんと子供もいて円満だとか。てか、何その満を持しての登場は?

 

「尾崎君のサプライズ告白、微力ながら私も手伝わせてもらうわ!」

 

「え…本当ですか!?」

 

マジすか!? 正直微力どころか相当強力だよ!

 

「先生。どんなサプライズがいいでしょう?」

 

「まず肝心なのは不自然と思わせないこと。幸いにも今度これがあるから、利用するわ」

 

そう言うと、先生は1枚の紙を見せた。

 

「どれどれ……『聖祥小学校3年3組全員参加、プチのど自慢大会』? 何ですかこれ?」

 

「今度の授業に空きができるんで、折角だから何かやろうと思って企画しといたの。これで、尾崎君が告白ソングを歌いながら実際に告白する……なんてのはどうよ?」

 

「い……良いじゃないですか! 最高ですよ、先生!」

 

「さすがは山さんです!」

 

「ははは、褒める程でもないわ」

 

からからと笑う先生。……これは願ったり叶ったりの展開ではなかろうか? こんな大事になるとは思ってなかったけど、このチャンスを生かさない訳にはいかない!

 

「ようし、頑張るぞ!」

 

「その意気だ、智哉!」

 

親友の応援を受け、とりあえず少しして彩愛ちゃんが戻ってきたんで何事もなかったように授業を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。予定通り、視聴覚室でプチのど自慢大会が行われることになった。と言っても、実際にはCDプレーヤーを使ったただのカラオケなんだけど。

で、準備がいいことに小さめの花束が目立たぬように置かれている。あれを渡せと告げられてるのだが……誰が考えたんだろ?

 

「えー、ではでは。これから、プチのど自慢大会を始めるわ。事前に引いたくじに書かれた番号順に歌ってね」

 

『『『はーい!』』』

 

「楽しみだね、智哉君」

 

「そうだね」

 

唯一事の真相を知らない彩愛ちゃんだが、楽しそうにしてくれているので何よりだ。

 

「ようし、歌うぞ! 『Choo Choo TRAIN』!」

 

お、いきなりEX○LEか。いいねぇ。

 

この後しばらくSM○Pやあ○しにも○クロ、A○B等があったが、全部紹介していたら長くなってしまうので割愛する。

 

「あ、私の番だ」

 

番号が中盤に差し掛かった頃、彩愛ちゃんが立ち上がった。僕は……この次!? マジで……

 

「えと、『LOVEマシーン』です」

 

歌っている間に段取りを再確認する。曲をある程度歌い、途中で音楽が止まったらそこで花束を手に取り告白。手を繋いで再び歌う。……随分とキザじゃないかこれ?

 

「智哉君。次、智哉君の番だよ」

 

「! そうか……」

 

ついに来てしまった。覚悟を決めて、落ち着いていこう。素数を数えるんだ。2、3、5、7、11、13……この辺りでいいだろう。

……見れば、博人君や皆が「頑張れ」と目線で言っている。先生も頷いていた。

 

「では……『バンザイ~好きでよかった~』。歌います」

 

ウル○ルズの名曲を歌う。不思議なことに、歌い始めると段々落ち着いてくる。そして一番が終わって間奏に入った辺りで……歌が止まった。

 

(よし……!)

 

意を決して花束を持ち、彩愛ちゃんの前に歩いていく。

 

「?」

 

彼女は状況がよくわかっていない様子だったが、仕方ない。言ってないもの。

 

「……彩愛ちゃん」

 

「……智哉、君?」

 

「僕が前の金曜日に言おうとしていたこと。その気持ちの表れを、この歌に乗せた」

 

「! それって……」

 

何かを察したらしい彩愛ちゃんが、両手で口元を覆う。

 

「彩愛ちゃん。僕は、彩愛ちゃんのことが……好きです。ずっと、一緒に居てください」

 

思いの限りをぶつけ、花束を差し出す。受け取ってくれるだろうか……?

 

「……はい。喜んで……」

 

感極まり涙を流しながら、彩愛ちゃんは花束を受け取った。直後、クラスの皆が歓声を上げ、クラッカーまで飛んだ。

困惑する彩愛ちゃんの手を引き、再び前に立ってマイクを手に取り続きを歌う。

そして歌い終えたところで彩愛ちゃんが様々な気持ちが入り乱れた目線を向けた。

 

「えと、どういう、こと? 告白してくれたのは嬉しいけど……」

 

「俺達が提案したんだ。どうせ告白するならサプライズでやった方がいいってな」

 

得意気に言う博人君。それを聞いて、納得したように彩愛ちゃんは頷く。

 

「そうだったんだ……」

 

「ごめんね、黙ってて」

 

「ううん。こんな記憶に残る日にしてくれて、ありがとう」

 

「彩愛ちゃん……」

 

「2人共、良い雰囲気になるのはもう少し後だ。サプライズはまだあるんだ」

 

「「へ?」」

 

今度は揃って変な声を出してしまう。僕も知らない何かが、あるというのだろうか?

 

「ようやく俺の出番ですね」

 

視聴覚室に入ってきた人物を見て驚いた。右手にケーキの箱を持った西神君だったのだ。

 

「な、何で西神君が?」

 

「偶然サプライズを行うことを耳にしまして。俺にも何かできないかと考え、翠屋のケーキを買ってきました。よければ、召し上がってください。ちゃんとナイフとフォークにお皿もありますので」

 

そう言うと、笑顔で箱を渡してきた。……西神君。アンタ至れり尽くせりだな。

 

「ありがとう。早速食べるよ」

 

「うん」

 

「どういたしまして(本当はなのはさん達の見送りがあったんですが……断って正解でしたね)」

 

箱を開け、中のケーキを出して切り分けようとするが……

 

「あ、そうだ! 2人共、一緒にナイフを持ってケーキを切ってよ」

 

「「こう?」」

 

言われるがまま切る。……あれ? そう言えばこれ……

 

「ほう、やるねぇ。ケーキ入刀とは」

 

「やっぱり!? ていうかこれだと挙式じゃん!」

 

「ふぇ!? あ、あうあう……!」

 

多分冗談だとは思うけど、そのせいで彩愛ちゃんはパニック気味になってしまった。……まあ、これも思い出だと考えれば……いいかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、なのは達は。

 

「あれ、久数は?」

 

「今日は来ないって。なのはは理由聞いてる?」

 

「確かサプライズ告白がどうとか言ってたの(来なくてよかった)」

 

「サプライズか……(原作にそんなのあったか?)」

 

(いえ、ありません)

 

(だよな。だったら考えられるのは……転生者か抑止力か。どちらにせよ、原作に介入するだろう。それはいいとして、もし過度の介入によって俺の平穏が壊され、原作通りに行かなくなるなら……消すか)

 

(はい、マスター)

 

どうやら誠一はかなり危険な思想を持っていたようだ。




クラスぐるみで前回のリベンジを果たした智哉。2人の未来に幸あれ。
尚、白崎は他転生者による介入のし過ぎに懸念がある模様。


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EP10

今回よりA's編に入ります……が、やはり原作キャラは影が薄め。


あれから数日が経過した。

 

 

「なあ智哉。今度の全国統一テスト、どうする?」

 

昼休みに博人君にそう聞かれた。今日先生がテストの旨を言ってきたので、どうしようか迷っているんだろう。

 

「僕は受けるよ。期末になんとか間に合うし」

 

「私も受ける」

 

隣にいる彩愛ちゃんも同意する。告白してから彩愛ちゃんは僕にくっついており、学校でも似合いのカップルと密かに名が知れてしまった。これはいいのか悪いのか……

 

「久数はどうすんだ?」

 

「もちろん受けますよ」

 

博人君が今度は近くに立っている久数君に尋ねる。告白をサポートしてもらってから僕らと彼は仲良しになり、今では名前呼びになっている。それだけならいいけど、月村とバニングスとも自動的に仲良くなってしまったんだ。これは少しまずいかな?

 

「博人君は?」

 

「俺は遠慮しとくよ。両立が難しそうだし。で、目標の順位はどの辺?」

 

「そうですね……大きく10位以内を目指したいです」

 

「とりあえず、良い成績が取りたい」

 

「上位を目指す。それが一番の目標だ」

 

「そっか……ま、頑張ってな」

 

激励の言葉を貰い、その後は談笑をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。僕と彩愛ちゃんと博人君は図書館に来ていた。丁度読みたい本があるんだよね。見つからないけど。

 

「ここいらはめぼしいのがないなぁ……智哉達は何か見つけたか?」

 

「まだ何も」

 

「なら、あっちの方を探すか。智哉達はどうする?」

 

「僕はしばらくここで探してるよ」

 

「私も。智哉君と一緒がいい」

 

「なるほど。俺達子供だってのに、気分は大人でいいなぁ」

 

羨ましそうに言った博人君だが、そんなことはない。当の大人達は僕達が交際を始めたと知るや否や、パーティを開いて大騒ぎしたのだ。こんなんで研究者が務まるの? と本気で思ったね。

 

「……? 智哉君、あれ」

 

「どしたの?」

 

服の袖を軽く引っ張られ、彩愛ちゃんが指した方を見ると車椅子の女の子が高い位置にある本を取ろうと四苦八苦していた。

 

「……絶対、八神はやてだな」

 

「手助けした方がいいかな?」

 

「原作に関わるから止めた方がいいんだろうが……あんなの見て何もしないんじゃ、良心が痛む。僕が行って……おや?」

 

助けに行こうとしたが、死角になってた場所から別の男の子が歩いて来て本を取り、八神に渡してしまった。

 

「白崎君?」

 

「彼がここにいるのは……原作を進める為だろうな」

 

というか、それ以外に理由が見えない。

白崎君は八神と談笑をし始めると、やがて目を見つめた。すると一瞬、ほんの一瞬だけ、八神の様子がおかしくなったのに僕達は気づいた。

 

「っ! ……ギアスを使ったな」

 

「うん。内容は、前と同じ」

 

『一体、彼の目的は何なんでしょう?』

 

小声で尋ねてきたフェアリーに対し、揃って首を捻ると八神達からできるだけ離れた。どうしてかは知らないが、見つかったらまずい気がしたんだ。

 

「彼の目的ははっきりしないな……久数君は割とはっきりした目標があったけど」

 

「確か、「アリサさんとすずかさんの……好きな人達の傍に居続けることが、俺の目標です」って言ってたね」

 

「当の2人は顔真っ赤だったけどな」

 

しかも聞けば、「2人が俺を好きかどうかはわかりません」とのことだ。彼女達は好意を持ってるし彼も彼女達が好きだが、彼女達が中々伝えられずにいるというのが現状だな。事実、それ以降バニングス達が恋愛相談をしてくるようになったし。

 

「2人共、何か見つかったか?」

 

考えてた時、博人君が戻ってきた。

 

「いいや。そっちは?」

 

「読みたいものがほとんど借りられててさ。これくらいしかなかった」

 

そう言って見せてきたのは……何々……スターゲ○ト? うわ、前世で読みまくってた奴だ。すんごい面白いんだよね、これ。

 

「凄い面白そうだな、それ」

 

「お、本当か?」

 

「映画版を見たことがある。面白い話だった」

 

「ほう。ならこれを借りてみんなで読もうか」

 

「そうだね」

 

他に読みたいものもなかったので、僕達は帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………?」

 

一方誠一は、先ほどまで智哉達がいた場所をじっと見ていた。

 

(メサイア。今居たのはなのはの時にいた男女と、フェイトの時に居た女子に違いないか?)

 

(98%の確率で本人です)

 

(そうか……これではっきりした。彼と彼女は転生者かイレギュラーだ。なのに介入してこないのは何故だ? 転生者やイレギュラーは、原作に介入しなければならないというのに。こうなったら、多少強引にでも原作に関わらせるか? いや、下手なことをして悪印象を持たれたらまずい。ギアスを使えるのは1人につき一回までだからな。やはり、A's編が終わるまでは傍観しているか)

 

誠一は今後のことについてしばし考えていた。



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EP11

あれから何事もなく全国統一テストを受け、本日結果が帰ってきた。

 

「3人共、結果どうだった?」

 

興味津々に博人君が身を乗り出してくる。

 

「ちょい待ち。どれどれ…………あちゃぁ、2位だわ」

 

「む……3位ですか」

 

「5位……残念……」

 

「うん。君らがおかしいのがはっきりわかった」

 

信じられないようなものを見てくる博人君。ごめんね、僕達前世で大学通ってたから……あ、彩愛ちゃんは高校までだったか。

 

「ところで、栄えある1位は誰なんだ?」

 

「確か、アリサさんでしたよ」

 

原作通りだな。多分、僕とバニングスの点差はそんなに開いてないだろう。だって上位みんながそうなんだもん。

 

「何点だった?」

 

「満点まであと2点と言ってました」

 

「なるほど。丁度1点差という訳か」

 

少し悔しいな。もしかしたら同率で首位になってたかもしれないんだし。……ま、そんなこと考えても仕方ないけど。

 

「さて、全国テストが帰ってきたし、期末の日程も貰ったし、改めてテストに取り組んでいこう」

 

「でしたら、今度勉強会をやりませんか?」

 

「勉強会?」

 

「ええ。いけませんか?」

 

うーん、どうしよう。期末試験とA's本編に関わりはないから、参加しても問題は……ないかな?

 

「いいよ。場所はどこ?」

 

「そうですね……相談してみないとわかりませんが、アリサさんかすずかさんの家でどうでしょう?」

 

「あそこって金持ちだよな? 入れるのか?」

 

「はい。よく俺も遊びに行ってますし」

 

「本当か! いいなぁ~……よし! 俺も行くぞ!」

 

「私も行こうかな」

 

「おいおい、まだ場所が決まったわけじゃないんだよ?」

 

「その通りです。今から聞いてきますから、少し待っていてください」

 

そう言うと久数君は1組に戻って行き、5分程で戻ってきた。

 

「どうだった?」

 

「アリサさんの家で、OKみたいです。ただ少し怒ってました……理由はわかってますが」

 

「後で埋め合わせとかしといた方がいいんじゃ?」

 

「良いお店探す?」

 

「……君らは相変わらずませてるなぁ」

 

いやいや、それを言うなら白崎君と高町だってそうだろう。ま、白崎君が凄く鈍感だから気づいてないけど。

 

「日程は?」

 

「みんながよければ今日でも良いそうです」

 

いきなり行ってもいいのか。気前がいいな。

 

「なら早速行こうか。今の内に苦手分野をなくしておきたいし」

 

正直なところ、苦手分野はないが自信のない科目がある。僕が習ってた頃とはいくらか微妙に違っているみたいだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。一度家に帰ってお母さんに出かける旨を伝えると、バニングスの家(というか屋敷)に向かった。

 

「こうして近くで見ると、かなり大きいね」

 

「さすがは金持ちだ……」

 

「でも、大きすぎて移動に疲れるかも」

 

「心配入りません。各部屋への最短ルートを頭に叩き込んでますから」

 

「凄いね、久数君って。だけどそうでもしないといけない家って……」

 

多分だけど僕の顔は引き攣ってるだろう。こんなお金持ちの家なんぞ、前世じゃ間近で見たこともない。それが普通なんだろうけどね。

 

「では、案内します。皆さんこちらへ」

 

久数の案内で僕らは門をくぐり、更に敷地内にいた執事さんに部屋まで案内された。初めて見たね、執事さんを。

 

「もう来たの。思ったより早かったわね」

 

「早く2人と会いたかったので」

 

おおう、ここでその台詞ですか。

 

「えへへ。私も、久数君に会いたかったよ」

 

「そ、それを言うなら私だって……」

 

「早く始めようよ。時間も限られてるんだし」

 

いい雰囲気になってるところを敢えて空気を読まずに割り込む。本当に時間がないんだから、仕方がない。

 

「わ、わかってるわよ」

 

「2人共、今日はよろしくね」

 

「うん。よろしくね」

 

「ようし、やるか!」

 

こうして、僕達はテスト勉強を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、ここは確かこうだった筈」

 

「アリサちゃん、この部分はどうやって解くんだっけ?」

 

「え? ちょっと見せて。……うーん、ここにこの式を当てはめるのよ。そうしたら……」

 

「あ、本当だ! ありがとう」

 

「……? アリサさん、ここ違ってる」

 

「あら本当。ありがと、彩愛」

 

「ん……」

 

女子は女子達で固まって楽しくやってるようだ。彩愛ちゃんもすっかり溶け込んでいる。

 

「智哉。鎌倉幕府開いたのって、源頼朝であってるっけ?」

 

「うん、それが正解。……ん? 久数君、回答欄1個だけずれてるよ」

 

「あ……いけないいけない。どうもすいません」

 

こんな感じで勉強会は進み、気がつけばあっという間に時間になった。原作の人物になるべく関わらないようにしたかったけど、こういうのもたまには悪くないかもと思った。



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EP12

前回から一週間が経過し、ついに期末テストの日となった。

この日の為にテスト勉強を何度もしてきたんだ。自信を持って挑みたい。

 

「お互い、頑張ろうな」

 

「ああ。中間のリベンジを果たしてやるぜ」

 

「欠点を取らないように……ベストを尽くして」

 

僕と博人君は互いにエールを送り、彩愛ちゃんは拳を胸の前で握っていた。……可愛いと思ったのは秘密だ。

 

「さて、それじゃあ問題を配るぞ」

 

担当の先生がテスト用紙を配る。全員に行き渡り、名前を書いた時点で「始め!」の合図があり僕達はすぐさま問題を解き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、止めて」

 

本日最後のテストが終了し、僕は思い切り背伸びする。

 

「何とか終わったな!」

 

「まだ初日だよ。気を抜かずに行こう」

 

「ふぅ……」

 

テストはまだ始まったばかり。全て終わって結果が戻ってくるまで、安心しちゃいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてテスト最終日。

 

「はい止め」

 

これで最後のテストが終了した。思ってたより疲れた……

 

「はぁ~、これでようやく終わりか。やっと一息つけるぜ」

 

「そうだね……ん~!」

 

「後は結果を待つだけだね」

 

テストが終わったことに安堵し、くつろぐ。果たして結果はどうなんだろうか? 満点だといいな。

 

「ところで智哉。この後、翠屋に行かないか?」

 

突然、博人君がそんなことを言った。

 

「翠屋?」

 

「昨日久数に誘われてな。悪い話じゃないから受けたんだが……2人はどうする?」

 

「えっと……」

 

これは……非常に困ったぞ……。翠屋には原作主人公の高町がいるし、白崎君も来るだろう。彼は最近、僕と彩愛ちゃんの秘密に感づいているようだから、会うのは危険だ。問いただされる可能性が大だ。

 

「あの、私……」

 

ぎゅっ、と彩愛ちゃんが不安げに僕の手を握って見つめてくる。僕も彩愛ちゃんを見つめ返す。博人君は、そんな僕らを見ていると納得したかのように何度も頷いた。

 

「はいはいなるほど……逢引するということか。それなら邪魔しちゃいけないな」

 

「え、博人君……」

 

「皆まで言うなって。俺だって空気は読めるんだ。頑張ってな、2人共」

 

……何かえらい誤解を与えたみたいだけど……まあ、いいか。

 

「じゃあ……彩愛ちゃんの家に行っていい?」

 

「……うん、いいよ。私も、智哉君と遊びたかったし」

 

! ヤバイ……胸がドキドキして収まらない……!

 

「見せつけちゃって。それじゃ、久数に伝えとくから」

 

そう言うと、ホームルームが終わると同時に博人君は去って行った。……そのまま伝えるのかな? だとすれば何か恥ずかしいけど……別にいいか。

 

「さて……帰ろうか」

 

「うん」

 

しっかりと手を繋いで道を歩いていく。少し恥ずかしいけど、僕と彩愛ちゃんが好き合ってるって自慢できるからそれくらいは我慢できる。

それに、高町との鉢合わせや白崎君に色々と言われるくらいなら、言っちゃ悪いが、安いもんだと思う。あ、手を繋ぐのは嬉しいけどね。

 

「家に帰るまで、デート気分でいられるね」

 

「そうだね。……ねぇ、智哉君」

 

「ん?」

 

「私達、今は子供だから一緒に遊ぶぐらいしかできないけど、大きくなったら化粧して、いっぱいデートしたいって思ってるの」

 

「……そうなんだ」

 

「それで、何だけど……」

 

ん? 何か顔がまた一段と赤くなったぞ。何を言うつもりなんだ? 心は敢えて読まんぞ。読んだら失礼極まりないからな。

 

「大人になったら、私を……智哉君の、お嫁さんにしてくれる……?」

 

「!!!!!!!!!」

 

よ……予想外のが来たぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!

え! ここでそれ来ちゃいますか!? 確かに僕ら精神年齢大人だけど! 心はR-18超えてるけど! い、いいんだよな? 受けてもいいんだよな!?

 

「えっと……はい、よろこんで」

 

「っ! 智哉君……大好き!!」

 

『ふふ、微笑ましいですね』

 

そして抱きつかれました。いや、流れ的に顔の温度が上がりまくるな……フェアリーも見てるし。でも、これで彩愛ちゃんは僕のお嫁さんに、なってくれるんだよね? ……嬉しいな。

 

ちなみに、この流れはお父さん達にどこからか見られてたらしく、帰ったら赤飯を炊かれた(本当にどこで見てたの?)。



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EP13

試験が終わり、3日が過ぎた頃。全てのテストが返ってきた。

あちこちで「今回は前よりよかった」とか「うわ、前回より落ちた」とか、色んな言葉が飛び交っている。高校でもよく言ってたな、それ。

 

「智哉は合計いくつだ? クラスでトップだって聞いたが」

 

「ああ、ちょっと待って」

 

テストの点を足していく。

 

「えっと、496だよ」

 

「うお、凄いな。ほぼ満点じゃないか」

 

「まあね」

 

前世の小学校でも満点取りまくってたからなぁ。たまにミスがあったけど。

 

「そう言う博人君こそ、クラスで2位じゃんか」

 

「確かにそうだけどさ、合計点が482だぞ? 10点以上も差があるなんて……俺もまだまだってことかな」

 

「そんなことはないと思うけど……(僕なんてほぼ反則なんだし)」

 

「ま、精進あるのみだ。今度はリベンジを果たさせてもらうぞ」

 

「いつでも受けて立つよ」

 

軽く拳を小突きながら、笑顔で話す。競い合うライバルが居るって、いいものだね。

 

「そう言えば、彩愛ちゃんは何点だった?」

 

「私?」

 

「合格ラインを超えるのが目的って言ってたな……どうだった?」

 

「えっとね……」

 

既に計算してあったのか、紙に書いてみせてくる。

 

「ふむ、458点か。中々良い点数じゃん」

 

「でも、智哉君と博人君には届かなかった……」

 

「いや、それは……」

 

下手に言ったら嫌味になってしまう……どうしたら?

 

「……ふふっ」

 

「?」

 

「冗談だよ。私、上位を目指してる訳じゃないもん」

 

何だ……びっくりしたなぁ。

 

「ったく、人を驚かせて……ま、そうだとは思ったけどさ」

 

「だね。……ところで、2人に相談があるんだけど」

 

「何だ?」

 

「何かあるの?」

 

「僕、夏休みに別荘に行くことになってて。友達も呼んでいいって言われてるから……一緒にどう?」

 

2人に提案する。これを聞いた時は僕が一番びっくりしたんだけど、2人とも来てくれるのだろうか?

 

「別荘か……一度行ってみたいと思ってたんだよな。是非行かせてもらうよ」

 

「私も、智哉君と一緒なら」

 

「わかった。じゃあお父さん達に伝えるから」

 

「お願いするよ」

 

今年の夏休みは、入学して以来一番楽しい夏になるかもしれないな。

でも、宿題はちゃんと終わらせないといけない。お盆休みを利用するんだし、時間に追われるのは嫌だ。そんなんで、夏休みの宿題は夏休みの初日ぐらいにはもう終わらせてしまった。……我ながらかなり早いな。いや、そうでもないかも。前世じゃ夏休み前に終わらせた奴もいたし。あれには結構驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は流れ、お盆休み初日。

 

「今日からしばらく、仕事を忘れてゆっくりできるな」

 

「ええ。智くん達と楽しく過ごせるわ」

 

両親は準備万端で、車に荷物を積み込んでいた。

 

「ついにこの日が来たな。いやー、どんな場所なのか今から楽しみだ」

 

「山かな? 海かな?」

 

「さあ? どうなんだろうね」

 

どこに向かうかは2人に伝えていない。着くまでのお楽しみという奴だ。

 

「うーん……真由里は、どう思う?」

 

「……海かな?」

 

……っと、言い忘れてた。夏休みの間に、新しい友達ができたんだ。名前は新藤(しんどう)真由里(まゆり)。僕らとは違う学校に通ってる子だ。

期末が終わったのをきっかけに、博人君は剣道を本格的に始めた。そこで同じ道場に通ってる彼女に出会って、意気投合したそうだ。度合いは見てる限りだと……まだ友達かな。

 

「それにしても、変な話だよな。俺の父さんと母さん、真由里ちゃんも行くと聞いた途端、「俺達も負けてられんな」って言うし……絶対、新婚気分で過ごすつもりだよ」

 

「……何が負けないんだろう?」

 

揃って首を傾げる博人君と真由里ちゃん。知らぬが仏ということわざがこの世にはあってだな……。

 

「みんな~、そろそろ行くわよ~!」

 

お母さんが呼んでいる。

 

「それじゃ、行こうか」

 

「うん」

 

「足下気をつけてな」

 

「……ありがとう」

 

さあ、楽しいお盆の始まりだ。



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EP14

最近、タイトルに「魔法少女リリカルなのは」入れなくてもいいんじゃね?って思えてきた。


「夏だ! 海だ! 砂浜だ!」

 

「どうしたんだいきなり」

 

「いや、叫びたくなってな……」

 

目的地である別荘に到着し、全員が水着に着替えて砂浜に向かったのだが、テンションが高くなっている博人君に若干驚く。まあ彼が叫んだ通り、目的地が海のすぐ近く、それも他に誰もいないのだからテンション上がるのも無理はない。

 

「な、何で誰もいないの?」

 

「……貸し切り?」

 

「大当たりだよ、真由里ちゃん。この一帯は、隼也さんの友達に頼んで貸し切ってもらったの」

 

ぽつりと口にした真由里ちゃんにお母さんが得意気に言う。ちょい待て。

 

「僕、単に海の見える別荘としか聞いてないんだけど? 初耳なんだけど」

 

そもそもお父さんの友人って何なんだ?

 

「あ、言ってなかったな。俺のダチの1人が、企業やってんだ。今でも仲良くて、その伝手で頼んだんだが……本当に貸し切りにしてくれるとは思ってなかったな」

 

「予想の斜め上行ってんですけど……」

 

「言ってなくてごめんな」

 

いや、言われないと気づかないでしょ。

 

「と、智哉の父さんは企業の方と友達だったのか……でも、智哉と関わりは無さそうだな」

 

「当たり前だよ! 会ったことすらないのに」

 

「とにかく、今はここで過ごす日々を楽みましょう。ね?」

 

微笑みながらお母さんが言う。……こうして見ると、美人だな。僕を生んだとは思えないプロポーションだし。

 

「むぅ……」

 

あれ? 彩愛ちゃんの機嫌が悪くなった? まさか、僕がお母さんに見とれてると思っている? なら誤解を解かないと!

 

「えと、彩愛ちゃんも……可愛いよ」

 

「ふぇ!? あぅ……」

 

あ、真っ赤になっちゃった。初心な子が嫉妬するとこうなるんですね、わかりました。ていうか……彩愛ちゃんの水着姿、本当に可愛いな。フリルの着いたワンピースタイプで、似合いまくってる。ちなみに僕と博人君は海パンで、真由里ちゃんは……学校指定のスクール水着?

 

「何故それに?」

 

「……他になかったから」

 

あ、さいですか。

 

「そうなのか。でも……中々可愛いと思うけどな。何かしっくり来るし」

 

「……ありがとう、博人君」

 

少し照れた様子の真由里ちゃん。お、これは博人君に脈ありかな? ……小学生なのに何言ってんだよという話だけど。

 

「そんじゃあみんな。今日からしばらく、楽しく遊ぼうか!」

 

「おう!」

 

「「うん!」」

 

声を上げ、僕らは海へと走って行く。僕らにとっての夏の思い出が、始まるのだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおお! 負けるかぁぁぁぁああああああああああああああ!!」

 

「それは! こっちの台詞だぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!」

 

海に飛び込み数分。僕と博人君はクロールでどちらが速く泳げるか競争していた。目的地は近くの岩場までだ。

 

「智哉君、頑張れ~!」

 

「……負けないで、博人君」

 

同じく海に入っている彩愛ちゃんと真由里ちゃんが応援してくれている(それも互いを)。なので負けられない!

 

「「いけぇぇぇえええええええええええええええええ!!」」

 

ついに岩場に辿り着いた!

 

「「どっちが先だ!?」」

 

確認するように彩愛ちゃん達に聞くが―――

 

「「えっと……同着だった」」

 

「「え、嘘!?」」

 

信じられないことに同着だったようだ。本当はタッチの差とかあるんだろうけど、彼女達からは見えなかったのかもしれない。仕方ないね。

 

「はぁ、引き分けか……次はどうする、智哉?」

 

「僕は彩愛ちゃんと遊んでるよ。博人君は真由里ちゃんと居たら? この中じゃ新参者だし、少し人見知りなところがあるし」

 

「確かに。んじゃ、そうするか」

 

よし、博人君と真由里ちゃんを2人きりにさせることに成功させたぞ。

 

「彩愛ちゃん、一緒に遊ぼうか」

 

「うん。何しようか?」

 

「んー……一緒に泳ぐとか? いつも歩いてる感じで」

 

「いいよ。楽しそうだし」

 

「ありがと」

 

『要するに海でのデートですね』

 

あの、フェアリーさん? そういうのは百も承知なんだから、言わないでくれる? てか、よく錆びないね。

 

『海水程度で私は錆びませんよ』

 

そうかい……

何はともあれ、僕と彩愛ちゃんは海を一緒に並んで泳いで行った。

 

「競争してた時は気づかなかったけど、結構気持ちいいね」

 

「かなり白熱してたもん。そんなに夢中になってた?」

 

「ああ。負けらんないって思ってたら早く着くことに集中しちゃって。結局同着だったけど」

 

「よく競い合ってるよね、智哉君と博人君て」

 

「友達でライバルだからな」

 

和気藹々と話しながら泳いでいく。が何故か、彩愛ちゃんが立ち止まった。

 

「ん? どしたの?」

 

「……智哉君。私、夏休みが始まる前に、智哉君と約束したよね? 私をお嫁さんにしてくれるって」

 

「あ、ああ……したけど」

 

今頃何か不満でもあったんだろうか?

 

「えっとね、あの時、言葉だけで約束したじゃない? 今になって思ったんだけど、ちゃんと形でわかるように約束してほしいなって」

 

「いいけど……それ、指切りとかなの?」

 

「あ、近いけど惜しい」

 

え、じゃあ何が……

 

「正解はこれだよ………チュッ」

 

「!?!?」

 

…………………………………………い、今、何された………………? き、キス……だよな? 僕、彩愛ちゃんと…………キスしちゃった!?

 

「あ、彩愛ちゃん……!?」

 

「改めて。大好きだよ、智哉君。私を、お嫁さんにしてね?」

 

「! ああ……約束する」

 

そう言うと、僕は彩愛ちゃんに再びキスをした。触れるだけの軽いキスだったけど、今の僕達にはこれだけで十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、久数は。

 

「久数~! 早くしないと、乗り遅れるわよ~!」

 

「セイバーさんも、早く!」

 

「ま、待ってください……2人共早いですよ……」

 

「こんな広いところを、よく迷わずに進めるものですね……」

 

アリサ、すずか、久数、セイバーは空港に訪れていた。お盆休みを利用して、バニングス家が所有している無人島に向かうことになったのだ。

 

「それにしても、無人島を持っているなんて、次元が違います……」

 

「一体いくらあれば買えるのでしょうか?」

 

「さあ……? っとセイバーさん、早く行きましょう。置いてかれそうです」

 

「折角彼女達が稽古のことも考えてくれたんです。行けなかったら申し訳がありません」

 

久数達は自分の荷物を持って小走りに移動する。

実はセイバーが言ったように久数は既に2人に魔法やデバイスのことを話しており、今回の旅行はその為の稽古も兼ねているのだ。

 

「これまでの戦闘データを見る限り、マスターはレアスキルにより召喚された質量兵器を主に使う傾向にあります。魔法の方ももっと鍛えないといけませんよ」

 

「……返す言葉もありません」

 

そう、久数は王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)で召喚した銃器等を主に使用しており、その度にクロノが色んな意味で冷や冷やしており、注意を受けたこともある。

 

「ミッドチルダに行くまでには、上達しているといいですが」

 

「ミッドチルダ……ですか。…………俺は、行きたくありませんけど(ボソッ」

 

セイバーに気付かれないように小声で呟くと、彼らはアリサの自家用ジェットへと乗り込んだ。



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EP15

別荘滞在・最終日。

 

「王様ゲーム! 始まるよ~!」

 

「「イェェェェェェェェェェェェェェェェェェーイ!!」」

 

「……イエ~イ」

 

突然ほろ酔い気味のお母さんが提案したことに博人君とお父さんは歓声を上げ、真由里ちゃんは控えめに手を上げる。が、僕らはゲームがゲームだけに唖然としている。

 

「何で……王様ゲーム?」

 

「楽しそうだから」

 

「でも優美さん。これ、下手をしたら……」

 

あらぬ事を想像したのか、彩愛ちゃんが赤面した。

 

「あらあら、彩愛ちゃんはおませさんね。大丈夫よ、そんな命令は出さないから」

 

「だから安心していてくれ」

 

「まあ、お父さん達が言うなら……」

 

今一つ不安が拭えないけど……

 

「……あの、王様ゲームって、どんなルール?」

 

その時、真由里ちゃんが質問してきた。

 

「王様ゲームはね、みんなでくじを引いて、王様になった人が、番号が書かれたくじを引いた人達から選んだ2人に1つだけ命令を言うの。そして、王様の命令は絶対なの」

 

お母さんが簡潔にルールを説明していく。なるほど、わかりやすい。

 

「……そうなんだ」

 

「とことん楽しもうな、真由里! それに智哉と彩愛も!」

 

「……うん」

 

「(こうなりゃ腹括るか)ああ」

 

「(覚悟を決めよう)うん」

 

博人君達なら変なことを言ったりはしないだろうけど。てかよく考えたら、僕の両親以外子供じゃん。なら安心だ。

 

「さて、それじゃあ皆くじを引いて」

 

指示に従って、一斉にくじを引く。

 

「せーの……」

 

「「「「「王様だ~れだ!」」」」」」

 

「……え? 今のは?」

 

「くじを引いた時は、こう言うのが決まってるんだ」

 

「……ふ~ん」

 

「最初の王様は誰かな?」

 

僕のくじは王様じゃない。誰が王様なんだろうか?

 

「あ、俺だ」

 

博人君だった。まずは一安心。さあ、どんな命令を出してくる?

 

「そんじゃあ……4番は2番を抱っこする」

 

「4番は私よ」

 

お母さんが4番か。えっと、僕は…………

 

「……2番?」

 

いきなり当たった!?

 

「智くんが2番なのね。さ、いらっしゃい」

 

「う、うん……」

 

さすがに恥ずかしいが、命令なので仕方なくお母さんに近づき、抱っこされる。

 

「ふふ。こうやるのって、何年ぶりかしら」

 

「不思議……こうしてると、何だか安心する……」

 

「そりゃそうだ。子供はみんな、親といると安心するものさ」

 

お父さんが腕を組みながら、自分にもこんなことがあったなと言わんばかりの顔をして頷いている。

 

「優美さん……羨ましい」

 

そこで対抗意識を燃やすのは何か間違ってると思うんだけど、彩愛ちゃん。

 

少しして僕とお母さんは離れると、再びくじを引いた。

 

「「「「「「王様だ~れだ!」」」」」」

 

「お。俺だ」

 

今度はお父さんか。無難なのだといいな。

 

「なら……3番が5番を膝枕するってのはどうだ?」

 

「あら、いいわね」

 

膝枕か。考えようによっては難儀ではないな。番号は……僕じゃないな。

 

「俺5番~!」

 

「……3番」

 

真由里ちゃんと博人君か。……面白くなってきたぞ。

 

「……膝枕って?」

 

「うーんと……俺が母さんに耳垢取って貰ってる時にやる奴だ」

 

「……わかった」

 

「そんじゃ、よろしく」

 

真由里ちゃんはその場に綺麗に正座をし、その膝に博人君が頭を乗せる。

 

「重くないか?」

 

「……ううん、平気」

 

「そっか。……それにしても、真由里って暖かいんだな」

 

「……ありがとう」

 

「ふむ……中々良い雰囲気だな」

 

「この子達も将来が楽しみね」

 

その様子を見て楽しんでるお父さん達。……これ、わざとやったんじゃあるまいな? 無理に近いけど。

 

そして、再びくじを引く

 

「今度は誰だ!?」

 

またもや僕は王様じゃない。

 

「私みたい」

 

彩愛ちゃんか。

 

「じゃあ、1番が王様と、おでこをくっつける」

 

! 僕1番じゃん……!

 

「僕……です」

 

「それじゃあ………ん」

 

ゆっくりと、痛くならないように額をくっつける。

彩愛ちゃんの温度が伝わってくるし……顔が結構近い。

 

「近いね……」

 

「確かに……」

 

互いに顔が赤くなる。博人君は楽しそうに見ており、真由里ちゃんは興味深そうに見ており、お父さん達はニヤニヤしていた。……もう何も言うまい。特に最後。

 

そんなこんなで、王様ゲームは続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。無人島・バニングス家別荘

 

「えいっ、はっ……」

 

砂浜にて、久数が魔法の練習をしていた。と言っても本人は高度な魔法を使う気はないので、基本的なものを極めているのだが。

 

「こんなところでしょうか……」

 

「お疲れ様です、マスター」

 

練習を終えたところにセイバーがタオルを差し出す。近くにはアリサとすずかもいる。

 

「ここに来てから毎日特訓してて、大変だね」

 

「そうかしら? 私としては本気が感じられないけど。アンタの話にあったように、ミッドチルダってとこに行くんなら、魔法を鍛えないとダメなんじゃないの?」

 

「ええ。その筈なんですが……」

 

「……………………」

 

アリサとセイバーの疑念の目線に久数は無言で目を閉じると、ため息をついて彼女達に向き直った。

 

「…………正直に言います。俺は……ミッドチルダには、行きたくありません」

 

「!? な、何故ですか!?」

 

「ミッドチルダは、日本と比べて遥かに危険です。任務の途中で誰がいつ死んでもおかしくはありません。そうなったらと思うと……怖いんです」

 

「怖い……?」

 

アリサが発した一言に、久数はこくりと頷く。

 

「向こうは下手をしたら未成年でも死んでしまう場合がありますし、死んだら会えないじゃないですか……俺のことを、想ってくれてる人達に」

 

「っ! ……気づいていたのですか?」

 

「……確信はなかったんですけど」

 

驚いた様子のセイバーに久数は肯定する。アリサとすずかも、同様に驚いていた。

 

「俺は、俺の好きな人達を残して死にたくはない……ミッドに行くぐらいなら、地球で、セイバーさんと、アリサさんと、すずかさんと、平和に暮らしていたいんです……」

 

久数は自分の思っていることを全て吐き出した。それは邪なもののない、純粋な彼の願いであった。

そんな彼を、アリサ達は優しく微笑んで見ていた。

 

「そうだったの……まったく、そうならそうと早く言いなさいよ」

 

「私達、久数君が望むなら、ずっと傍に居る。ミッドチルダに行かなくていい。久数君の想いを受け止められるなら……」

 

「……2人も、私も、マスターのことを大切に想っているんです。マスターが自分で決めたことなら、異論はありません」

 

「っ!! セイバー、さん……みんな……ありがとう………」

 

直後、安心したのか久数は前のめりに倒れた。慌ててセイバーが抱き止めて表情を伺うが、すっかり寝ていた。

 

「疲れてたみたいね。ったく、久数は1人じゃ上手くいけそうにないんじゃない?」

 

「だね。私達で、ちゃんと支えてあげないといけないかも」

 

「そこでアンタは何故私を見る!? 別に私は、将来久数をつきっきりで支えてあげたいとか、思ってる訳じゃ……」

 

「ふふ。でしたら、私達も努力しないといけませんね」

 

「はい……!」

 

その後、アリサの執事である鮫島とすずかのメイドであるノエルが迎えに来て、久数を布団に運ぶのを手伝ってくれた。

 

こうして、それぞれの夏はあっという間に過ぎていった―――



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EP16

「はっくしょい! うぅ、寒……」

 

やあ諸君。季節が一気にすっ飛ぶが、今は12月の半ば頃。ここまで特に何もなかったんで割愛させてもらった。

 

「誠一。昼、一緒に食事しよう?」

 

「あ、ずるい! 誠一君は、私と食事するの!」

 

「違うよ。私とするんだよね、誠一?」

 

……訂正する。何カ所か変わったところがある。まず1つは、フェイト・テスタロッサとアリシア・テスタロッサが転校して来て、白崎君にベタベタし始めたこと。2つ目に、高町が彼を名前の呼び捨てにし出したこと。ちなみに当の本人は……

 

(俺何かしたか? 何で抱きつかれてるんだ?)

 

とのことだった。こりゃ頭ぶん殴らないとダメかもしれない。そして3つ目は、夏休み終了直後に久数君がバニングス達と交際し始めたのを知ったこと。本人達は友人である僕達だけの秘密にしてほしいそうで、勿論承った。

大体こんなところかな。

 

「大丈夫か? 最近ぐんと寒くなってきたから、風邪引かないようにしろよ」

 

「わかってるって。それより、今度のクリスマスパーティーだけど、予定被ったりしない?」

 

「大丈夫。少し前にやるみたいだから」

 

何を相談しているかと言うと、今度の25日……つまりクリスマスに僕の家でパーティーをすることになってるんだけど、博人君が通ってる剣道場でもクリスマスのパーティーをやると聞いたんで、日程が被らないか尋ねてた。

 

「それと、イブにはみんなでプレゼントを買いに行く予定なんだけど、その辺どう?」

 

「俺はいいんだけど、真由里はどうしても予定が合わなくて、前日の23日に買いに行くってさ」

 

「あれま残念」

 

予定が入ってるんじゃ仕方ない。3人だけで買いに行くとしよう。

 

(でも、何か忘れてる気がするんだよなぁ……)

 

「ねぇ智哉君。前々から思ってたんだけど、この日に出かけて大丈夫?」

 

「え?」

 

小声で彩愛ちゃんがそう聞いてきたので、思わず間抜けな返事をしてしまう。

 

「だって……A's編での最終決戦があるんだよ?」

 

「!? そ、そうだった……!」

 

僕としたことが、すっかり頭から抜けていた! 集合時間は……夕方!? まずい、鉢合わせどころか巻き込まれる可能性が!!

 

(ていうか、原作で巻き込まれた場所ってどこからどこまでの範囲なの? 僕達が行く場所も含まれてる訳? ……だとしたら終わった……)

 

今更予定変えることできんし……だが、まだだ! まだ終わらんよ! こうなれば鉢合わせた時のプランを山ほど考案してやる!!

 

(寝る間も惜しむ必要があるな……)

 

クソ、年末までに色々しなきゃいけないってのに、仕事が増えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後。運命のクリスマス・イブ。

 

「全員集まってるな? それじゃあ、行くとしますか!」

 

「仕切りまくってるね、今日の博人君は」

 

「当たり前さ! 俺のテンションはもうMAXだ!」

 

(僕のテンションは急降下墜落気味だけどね……)

 

この日の為に対抗プランを3桁考えてきたけど、不安が拭えない。原作に関わらないという自分の目標は何だったんだろ……

 

「ここまで来たら、腹を括るしかないよ?」

 

わかってるよ、彩愛ちゃん。少しネガティブな気持ちになっただけだ。というより、君の精神力も相当強いよね。ちょっとは僕に分けてほしいよ。

 

「どうした智哉? さっきから黙ったままで」

 

「ん? いや……何買おうかなって考えてて」

 

カバンの中にシュロウガ入ってるけど、使いたくないし。ああ、どうなるんだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後 病院・屋上

 

こちらでは既にA's本編におけるクライマックスに突入しており、ヴォルケンリッターと呼ばれる4人の存在が闇の書というデバイスに吸収され、はやてを取り込んで復活した管制人格がなのは達と対峙していた。

 

「まずいことになったな(原作通り、か。わかってはいたが、嫌な場面だ)」

 

「マスター、どうしますか? 相手は……」

 

「今は戦うしかないでしょう……彼女を救う手立ては、俺にはないんですから」

 

「どうして、こんなことに……」

 

「何とか助けないと!」

 

「……無駄だ」

 

管制人格は端的に言うと、右手を前に突き出し球体状に魔力を収束していく。

 

「デアボリック・エミッション」

 

呟くと同時に、圧縮された魔力が一気に解き放される。

 

「メサイア!」

 

『パーフェクトプロテクション』

 

「こんなもの! せえいっ!」

 

「助かります、セイバーさん」

 

誠一と久数は各々のデバイスによって周囲と自分を守り、ダメージを可能な限り防いだ。

その直後、広域結界が張られた。

 

(これでいい。後は、アリサとすずかが巻き込まれている筈だ)

 

周りを見渡しながら、誠一はそう考えていた。だが……

 

(マスター、緊急事態です。結界内にアリサ・バニングスと月村すずか以外に3名の人物がいます)

 

「何だと!?」

 

予想外のことに声を荒げ、近くにいた久数達がどうしたのかと彼を見る。

 

「……非常にまずいことになった。この結界の中に、5人の一般人が取り残されている」

 

「えぇぇ!?」

 

「5人!?(そんな、原作ではアリサさんとすずかさんだけの筈。一体誰が?)」

 

「悪いが、ここは任せたぞ。俺は彼らを安全な場所まで誘導しに行く(残りの3人が誰なのか、確かめなければ!)」

 

「俺も行きます。貴方1人では、5人は多いでしょうから(残りの3人は、まさか……)」

 

「わかりました。ここは私達に任せてください」

 

セイバー、なのは、フェイトを残し2人は戦線を離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、智哉の家では

 

「ふぅ、これで飾り付けは完了と……」

 

明日のパーティーに向け、家に飾り等を付けた隼也と優美が一息つく。

 

「明日が楽しみね」

 

「ああ。友達も来るって言ってたし、賑やかになりそうだ」

 

そう言って椅子に座り、ふとノートパソコンの画面を見た時、彼の笑顔が消えた。

 

「これは……どういうことだ……?」

 

「どうしたの?」

 

「……シュロウガの……智哉の反応が、消えてる……」

 

その言葉に優美は飾り付けの余りが入った箱を落としそうになった。

 

「智くんに……何か、あったの……?」

 

「それはわからない。が、シュロウガに搭載された発信電波は障害物を貫通する。途切れるのは予測できない事態が起きたか、あるいは……智哉が、死んだ時……」

 

「っ!! そんな、そんな筈ないわよね? 智くんが……し、死ぬ……なんて……」

 

「ああそうだ! だからどうにかして電波が受信できない原因を探る。……智哉が死ぬ訳が、あってたまるか……!!」

 

正確には結界によって電波が遮断されてしまったのだがそれを知る術はなく、両親は彼を探す為に、電波が途切れた原因をまず探り始めた。



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EP17

「…………なぁ智哉。俺達、ついさっきまで買い物してたよな?」

 

「うん」

 

「偶然アリサ達と出くわした時はびっくりしたけど、割と普通に会話してた……よな?」

 

「うん……」

 

「じゃあ何で―――――俺達以外誰もいない上に何かドンパチやってるような音が聞こえてくるんだ!?」

 

パニック気味に叫ぶ博人君。無理もない。闇の書の管制人格が発生させたと思われる広域結界に、見事に巻き込まれてしまったのだから。それも遠くにポツンと見えるが、絶賛戦闘中だし。

 

「智哉君、どうしよう……」

 

「どうしろと言われてもな」

 

他の人達から見れば単純に不安そうに見えるだろうけど違う。僕達はどうしたら原作に関わらずに済むのか不安でいっぱいなんだ。

 

「これが、結界?」

 

「久数君が言ってたのとは少し違うけど、多分そうだよ」

 

「何で2人はあんまり驚いてないんだ? それに久数って……」

 

そこまで驚いていないバニングスと月村に対し逆に驚いた博人君(僕達も内心驚いている)が尋ねる。

 

「それは……」

 

「アリサさん! すずかさん! 大丈夫ですか!?」

 

その時、上の方から声がした。全員がつられて上を見ると、久数君と白崎君がバリアジャケットらしきものを纏って浮いていた。

……一応驚いとくか。

 

「何で「ひ、人が空を飛んでるーーーーーー!?」うわぁっ!?」

 

突然博人君が隣で大声で叫んだ。

 

「どうしたんだよ!?」

 

「だって生身の人間が空飛んでるんだ! 普通驚くだろ!? 何で君は驚いてないの!?」

 

「驚いたよ! でも君の大声の方がもっと驚いたよ! お蔭で最初のインパクトがすっ飛んだんだ!!」

 

「耳がキーンってなった……」

 

「……ごめん……」

 

捲し立てる僕と耳を塞いだ彩愛ちゃんを見てさすがに悪いと思ったのか博人君は素直に謝った。

 

「あの、ケガとかありませんか?」

 

「ああうん―――って久数!? それに白崎まで……何で!?」

 

「やっぱり貴方達でしたか……」

 

「どういうことだ? 何で2人がそんな格好して…しかも、アリサとすずかは何か知ってたみたいだし」

 

「話せば長くなるんですが……アリサさん、すずかさん、申し訳ないんですが、説明を頼んでもよろしいですか?」

 

「いいわよ。よくわからないけど、アンタ達は何かと戦ってるみたいだし」

 

ふむ。どうやら、彼女達は魔法のことを(おそらく久数君経由で)知っているみたいだ。

 

「西神、時間がない。早く安全な場所まで誘導させるぞ(3人の内2人はやはり奴らか。もう1人は巻き込まれたと見える。それに…アリサ達は既に魔法のことを知ってるようだ。西神か? チッ、余計なことを……)」

 

「わかりました。では、こちらへ」

 

久数は被害が及ばないように僕達を誘導する。上手いな。

 

「さて、それでは俺達はもう行きます」

 

「急ぐぞ」

 

そして誠一と共に去って行った。

 

「一体何だったんだ……何が起きてるんだ?」

 

「何が起きてるかは私達にはわからないけど、久数達が何なのかは知っているわ。すずか、少し面倒だけど説明しましょう」

 

「うん。どのみち3人には話さないといけないって思ってたし」

 

バニングスと月村は、僕達に魔法に関することを順を追って説明し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…間に合いましたか!?」

 

「どうやらそうみたいだな」

 

久数達が戦線復帰した時には、セイバー達が押され気味でいた。

 

「3人がかりでも圧倒されるとは……」

 

「化け物級の強さだな」

 

改めて管制人格の強さに驚愕、感嘆した時管制人格が闇の書を開いた。そこにフェイトが斬りかかろうとする。

 

「(あの技は確か……!)ダメだぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」

 

「っ!?(あのバカ!!)」

 

フェイトが辿る結末を知っている久数は彼女を助けようと敢えて管制人格との間に立とうとするが、誠一に首を引っ張られ中途半端に妨害される。その結果、フェイト、久数、誠一が闇の書に取り込まれていった。

 

「白崎君……どうし、て……」

 

(よし、これで原作の流れは踏襲できた。西神のデバイスが邪魔しなければいいが……)

 

「ま、マスター!!」

 

「誠一!!」

 

様々な思惑を残し、3人は完全に取り込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔導士にデバイス、時空管理局か……聞いただけだと信じがたいな」

 

「私達だって最初はそうだったわよ」

 

「久数君が見せてくれなかったら、信じていたかどうか……」

 

「ともかく、その魔法ってのを使って、久数君達は何かと戦ってるんだな?(間違いなく闇の書だろうが)」

 

「大丈夫かな……?(ケガしないといいけど)」

 

目撃したり話を聞いたからって管理局と関わらないよな? 僕はともかく、彩愛ちゃんは巧妙に隠しているとはいえデバイス持ってるし……心配だ。

 

(そう言えば、そろそろ闇の書に取り込まれたテスタロッサが復活して大反撃に出る時間だ)

 

シュロウガ(待機)に付けられている画面には広範囲の情報がリアルタイムで入ってきており、アルフやシグナム、クロノ等のメンバーが続々と集まってるのが見てとれた。

 

(さて、どんな結末になるのやら)

 

白崎君は原作通りに進めるらしいが、ここに僕達が居ること以前にアリシアを助けていることで原作と異なっていることに気づいているのだろうか? 或いは、助けた上で原作通りに進めようとしているのか。どちらにせよ、何故原作通りに進めようとするのかがわからない。一度聞いてみたいけど、聞けないからもどかしい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方久数達は既に闇の書から脱出しており、智哉の予測通り闇の書の闇―――防衛プログラムに攻撃を加えようとしていた。

 

「これだけ的が大きければ……翔けよ、隼! シュツルムファルケン!!」

 

「轟天爆砕……ギガントシュラァァァァァァァク!! ぶっ飛べぇぇぇぇぇえええええええええええええええ!!」

 

最初にヴォルケンリッターであるシグナムとヴィータが必殺の魔法攻撃をぶつける。

 

「エターナルコフィン!!」

 

「これで……どう!?」

 

怯んだ隙に、クロノが凍結魔法で防衛プログラムを凍て付かせ、更にプレシアの雷撃魔法が直撃する。

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)! 皆さん、同時に行きますよ!!」

 

「「「うん!(何で彼の言うことを……)」」」

 

「全力全開! スターライト―――」

 

「雷光一閃! プラズマザンバー―――」

 

「響け終焉の笛! ラグナロク―――」

 

久数は様々な重火器を一度に全て出し、3人は本気の一撃を放とうとする。

 

「「「ブレイカァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!」」」

 

「全弾発射ァァァ!!!!」

 

3色の砲撃魔法と全ての重火器から放たれた弾丸が防衛プログラムを襲う。全てが直撃した防衛プログラムはボロボロだ。

 

「まだだ! 食らえぇぇぇ!!」

 

誠一は防衛プログラムの懐に飛び込むとハルバード形態になったメサイアの刃に魔力を込め、大きく振るうと同時にソレを魔力斬として飛ばし防衛プログラムを上空へ吹き飛ばす。

 

「セイバーさん! ダメ押しの一撃を!!」

 

「わかりました!」

 

その真下にセイバーが移動し、鞘からゆっくりと剣を引き抜く。

 

約束された(エクス)―――」

 

そして、一気に振り下ろす。

 

「―――勝利の剣(カリバー)!!」

 

強力な斬撃が飛び、防衛プログラムに直撃する。これで後は宇宙に転移させ、次元航行艦アースラの武装で消滅させる筈だが……

 

『や、闇の書の闇……反応、完全に消失しました……』

 

オペレーターのエイミィ・リミエッタの唖然とする声と共に、全員が「ん?」という表情になった。セイバーが放った一撃が、防衛プログラムを完全消滅させてしまったのだ。

 

「ど、どうしましょう、マスター……」

 

とんでもない事態におろおろとするセイバー。

 

「えと、結果オーライで、いいんじゃないでしょうか……?」

 

戸惑いながらも久数はそう言う。

 

「……終わったことだし、もういいんじゃないか?(アイツ等、最後まで余計なことを……! 決めた。はやてが通学してきたら、まずアリサとすずかにギアスを掛ける。その次に西神と奴のデバイスをまとめて消す。尾崎達を関わらせるのはその後だ。メサイア、力を貸してもらうぞ)」

 

(イエス・マイマスター)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お。景色が元に戻っていく……」

 

やっと戦闘が終わったのか。待ってる方としては、長いようで短いようだったな。

 

「さてみんな、帰ろうか」

 

「そうだな。色々驚いてるけど、とりあえず家でゆっくりしたい」

 

「忘れ物はない? ちゃんと持ってる?」

 

最後に買ったものをしっかり持って、僕達はそれぞれの家に帰った。

 

 

 

 

 

―――余談だが、僕が帰ったらお母さんとお父さんが泣きじゃくって抱き締めてきた。シュロウガの発信機が云々言ってたけど、結界のせいで一時的に行方不明扱いになってたかも。悪いことしちゃった……だけど、また元気になってくれたみたいでよかった。

 

 

そして翌日のクリスマスパーティーは、無事に過ごすことができた。



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EP18

―――クリスマスから、この世界でのA's編最終決戦から時が流れ、現在5月。僕達は4年生に進級し、4月から八神はやてが通学する等あったが、どうにか原作キャラとは別のクラスで平和に暮らしている。博人君と真由里ちゃんの仲も少しずつ進展して来てるし、良いことずくめだ。魔法のことは秘密になってるし、そんな話題にしないけど。

 

 

「……そう言えば、博人君が通ってる剣道場に行ったことがない」

 

ふと、教室で僕はそう呟いた。

 

「え、そうだっけ? 一回連れてったような記憶が……」

 

「多分それ気のせい。僕一回も行ってないし名前を聞いたこともない」

 

「あー、ごめん。今日予定ないからさ、道場の前まで一緒にどうだ?」

 

お詫びの印なのか、博人君が提案してきた。

 

「うん、僕の方も特に何もないからいいよ」

 

「なら決まりな」

 

「彩愛ちゃんはどうする? 行く?」

 

「ううん。私、今日の授業でわからなかった部分の調べごとをするから」

 

「そっか。じゃあ仕方ないか」

 

彩愛ちゃんも少し見たそうな顔してたけど、勉強も大切だ。ここは彼女の意志を尊重しよう。

 

「ところで、教えてくれる先生ってどんな人?」

 

「厳つい顔した人なんだけど、これが外見通り厳しくて。俺より4歳年下の門下生にも容赦無いんだ。しかも1人は自分の娘だし」

 

「本当? そんな厳しいんだ」

 

どこぞのサッカーコーチみたいな人だな。ドーハを知ってるかどうかはわからないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……。やっと帰れる」

 

放課後。ようやく私は調べごとを終え、帰路につく。予定より少し時間がかかったけど、全部終わらせることができてよかった。

 

「……あれ?」

 

人気のない通学路を歩いてる途中で、アリサさんとすずかさんに白崎君を見つけた。会話に耳を澄ますと、白崎君が2人に話があるみたいだった。それだけなら普通だけど、何故か嫌な予感がしてならなかった。

その後、白崎君は2人と共に細い道へと入って行った。聞かれたくないことでもあるのかな?

 

『どう考えても怪しいですね』

 

「うん。……内容を聞いた方がいいかも」

 

そう考えると、私はすぐに後をつけて彼らから見られないように物陰に隠れた。

 

(マスター、声の感度を上げました。それと、一応会話の録音もしています)

 

(何から何までありがとう)

 

フェアリーの多機能ぶりに感謝し、会話に聞き耳を立てる。

 

「それで、大事な話って何よ?」

 

「学校の連絡か何か?」

 

「まあ、そんなところだな」

 

嘘だ。私の直感がそう伝えている。

 

「じゃあ手短に、一度しか言わないから聞き逃さないでくれよ」

 

白崎君は注意を述べると、2人の目を見つめ―――

 

「アリサ・バニングス! そして月村すずか! お前達の中にある、西神久数に対する想いを全て失え!!」

 

「「!!」」

 

―――とんでもないことを、言ってのけた。

 

(そんな、どうして……どうしてこんな、惨いことを……!)

 

好きな人への想いを全て失う。それも無意識の内に。それがどれだけ辛く苦しいものなのか、彼はわかっているの?

 

「無事ギアスに掛かったようだな。なら、長居は無用だ!」

 

2人がギアスに掛かっていることを確認すると、白崎君は何処かと去って行った。

 

「っ、ギアスキャンセラー……!」

 

完全に姿が見えなくなったのを確認すると、私は2人に近づいてギアスキャンセラーを発動し掛けられたギアスを無効化させた。

 

「…………あれ? 私、何して……」

 

「確か、白崎君に大事な話があるって言われて……白崎君は、どこに?」

 

「大丈夫?」

 

「彩愛? 何でアンタがここに?」

 

「話せば長くなるけど、とりあえず私に着いてきて!」

 

そう言うと、私は2人の手を引っ張って小走りに移動し始めた。

 

「きゃっ! ちょ、どうしたのよ!? 白崎といいアンタといい、今日は何か変じゃない!?」

 

「そ、そんなに引っ張らなくても、私達着いていけるから……!」

 

(マスター。智哉さんの居場所をサーチしました。現在地はここです)

 

(ナイスよ、フェアリー)

 

開示された場所に向かう。こんなことが起きた以上、原作に関わらないなんて言ってる場合じゃない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まだ?」

 

「そろそろ着く頃だが……お、ここだ」

 

博人君に案内されて着いた場所には、随分と立派な道場が建てられていた。かなり年期が入ってると見た。

 

「で、何て名前の道場なんだ?」

 

「ちょい待ち。えーっと……」

 

名前を言おうとしているが、覚えきれてないのか中々言おうとしない。

 

「半年以上通ってるんでしょ? 言えないの?」

 

「いやだって、漢字が難しくて……確か……『し』で始まるのは覚えているんだが……」

 

「ふむ……。表札見せて」

 

僕は博人君を押しのけ、道場の表札を見た。

 

「読めるのか?」

 

「まあ大体は。この字は……しのの「と、智哉君!」うわっ!? って何だ彩愛ちゃんか……びっくりした」

 

突然大声で名前を呼ばれたことに博人君と同時に飛び上がり、その姿を見てホッとする。

 

「全く、心臓に悪いな……てか、何でアリサとすずかまで居るの?」

 

しかも手を引いてるし。何故?

 

「智哉君……博人君……今から、大事な話があるの……」

 

「え? 今、表札の字を読んでる途中で……」

 

「ちょっと待って。私達訳もわからず走らされたけど、そんなに大事な話な訳?」

 

「うん。凄く大事な話なの」

 

物凄く真剣な眼差しと声色から、彩愛ちゃんが本気で言っていることがわかる。

 

「……仕方ないな。聞こうか」

 

「道場はまた今度見るとして、どんな内容なの?」

 

「ここだと話しにくいなら、私の家に行こうか?」

 

「迷惑じゃないなら、お願い」

 

若干の疑念を抱きつつ、僕達は月村の家に行くことになった。……ところで、読みかけてた文字だけど、どっかで見覚えがあったような無いような……。



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EP19

月村家・応接間

 

あの後、月村家の一室に移動した僕達は、彩愛ちゃんから事の発端を全て聞いた。僕は彼女の話を信じたけど、他の3人は信じられないようだった。しかし、彩愛ちゃんがフェアリーに録音していた音声記録を聞かせたところ、どうにか信じてもらえた。……ただし。

 

「まさか、彩愛まで魔導士だったなんてね」

 

「びっくりしちゃった……」

 

そう。彩愛ちゃんが魔導士であることが露見してしまった。証拠を見せるのに仕方がなかったとはいえ、取り繕うのはもう無理だ。

 

「俺にまで黙ってたなんて、水臭いなぁ」

 

「ごめんなさい……」

 

しゅんと俯き、素直に謝る。

 

「……よし、許そう!」

 

「「へ?」」

 

何故か博人君が即許してくれた。え、早くない?

 

「俺達に隠していたのは事実だけど、ちゃんと謝ってくれたから何も言うことはないさ」

 

「私はアンタみたいに割り切るのは難しいけど、今更どうこう言う気はないわ」

 

「もう隠し事はしないでね? 約束だよ。私達も、彩愛ちゃんが魔導士ってこと内緒にするって約束するから」

 

「う、うん……」

 

とどのつまり、みんなには許してもらえたようだ。結果オーライ……なのかな?

 

「で、話を戻すが、白崎の奴は何でアリサ達にそんな催眠術を掛けたんだ?」

 

「多分、久数君がいなくなった時の違和感をなくす為だと思う。彼は久数君を密かに邪魔者扱いしていたから」

 

「それって……殺すってことか?」

 

「……多分」

 

恐るべき事態に全員の顔面が蒼白になる。小4の子供が、殺人をしようなんて思いにもよらなかったんだろう。

 

「そう言えば……今日、久数君は?」

 

「確か、用事があるって学校に残るって言ってたよ。そろそろ帰って来るんじゃないかな?」

 

「っ、まずい……!」

 

すぐに立ち上がると、僕は彩愛ちゃんと共に部屋を出ようとする。

 

「お、おい! どこ行くんだ!? 何があった!?」

 

「久数君は今1人だ! 白崎君に狙われる可能性が大なんだ!!」

 

「博人君達はここに居て。彼は、私と智哉君が探すから!」

 

久数君を白崎君より先に見つける為、僕達は外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とは言ったものの、どうやって探す!?」

 

捜索範囲はかなり広い。シュロウガの探知システムを使っても時間はかかる。

 

「ここは二手に分かれた方が見つけやすい。私はこっちを探すから、智哉君はあっちを!」

 

「わかった。見つけたら互いに連絡し合おう!」

 

効率よく探す為、僕と彩愛ちゃんは別々の道へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……すっかり遅くなってしまいました」

 

『帰り際に翠屋で買い物するからですよ』

 

人気のない道を、久数が待機状態のセイバーと話しながら歩いていた。

 

「すいません……でも、あのケーキ早く買わないと売り切れそうだったので」

 

『人気商品でしたからね』

 

楽しく会話しながら歩いていた時、彼の前に人影が見えた。

 

「よっ、西神」

 

「あ、白崎君。こんな時間に、こんなところでどうしたんです?」

 

「何、ちょっとお前に用があってな」

 

「俺にですか? ……ひょっとして、このケーキですか? ダメですよ、ちゃんと自分で買ってください」

 

「いや、ケーキじゃないんだが」

 

「では一体?」

 

「それはだな……」

 

間を開けた瞬間、誠一は結界を張った。

 

(マスター。アースラの探知システムのハッキングに成功しました。一時間だけですが、結界を見つけることはできなくなりました)

 

(それだけあれば十分だ。でかしたぞ、メサイア)

 

『マスター。この一帯に結界が張られるのを確認しました』

 

「え? 誰が……まさか、白崎君? 何故結界を張るんです?」

 

「知る必要はない。何故なら……お前はここで―――死ぬんだからなぁ!!」

 

バリアジャケットを纏い、メサイアをサイト形態に変形させると、誠一は間合いを一気に詰めて斬りかかった。

 

「うわぁ!?」

 

慌てて久数もバリアジャケットを纏うと、攻撃を寸でのところで躱した。

 

『大丈夫ですか、マスター!?』

 

「ええ…。それより、いきなり何するんですか! 俺が何かしたんですか!?」

 

「ああしたさ。お前は原作を守らなかったんだよ」

 

「? どういう意味ですか?」

 

言葉の真意がわからず、久数は首を傾げる。

 

「原作ではForceの時点で、なのは、フェイト、はやて、更にアリサ、すずかは誰とも付き合ってないし結婚もしていない。わかるか?」

 

「それは……俺も読んでましたから、その辺は少しなら……」

 

「俺は原作での死亡及び退場キャラを救いつつ、大まかな流れを原作通りに進めたい。だが、お前はアリサとすずかと恋愛関係に発展し、魔法に関しても独断で先に教え、更に防衛プログラムもお前のデバイスで直接葬りやがった。アレは本来ならアルカンシェルで消滅させる筈だったのに……」

 

「そんなこと言われましても……」

 

正直あの時は無我夢中だったので、ダメージ配分を気にしてる暇がなかった。

 

「それにアリサ達は原作が終わるまで恋愛も結婚もしてはいけないのに……。大人しく踏み台をやってればまだ良かったが、お前という存在は原作を壊しかねない。だから死ね。ここで、今すぐに」

 

「ち、ちょっと待って下さい! そんな身勝手な理由で殺されなきゃいけないんですか!? どうして―――」

 

「問答無用っ!!」

 

「危ない!」

 

誠一が振り上げたサイトを、実体化したセイバーが剣で受け止める。

 

「セイバーさん!」

 

「覚悟を決めて下さい、マスター! 彼は間違いなく、マスターを殺そうとしています!!」

 

「っ……わかりました!」

 

こんなところで死ぬ訳にはいかないと、久数もハンドガン二丁を手に持つ。

 

「お前の質量兵器への対策は十分してきた。勝てると思うな!!」

 

メサイアをランスに変形させ、誠一は久数とセイバーを殺す為、戦いを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスター、結界の反応を探知。すぐ先です』

 

「結界? ……まさか!」

 

その頃、久数を探していた彩愛とフェアリーは結界を見つけ、智哉に連絡した。

 

「智哉君、結界を見つけた! 多分中に久数君が居ると思うから、座標を送る!」

 

『確認した。僕もすぐそっちに行く。それまで行動を見張っててくれないか?』

 

「いいよ」

 

通信を切ると、彩愛は結界の中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界のほぼ中心部に辿り着くと、そこでは久数、セイバーと誠一が戦いを繰り広げていた。

 

「どうした? お前等の力はそんなものか?」

 

切り傷を大量に作り、俯せに倒れた久数の背中を踏みつけながら誠一は言う。

 

「がっ、あ……!」

 

「マ、マスター……!」

 

セイバーも力が入らない様子で地面に突っ伏していた。

実はメサイアの力によってセイバーと久数の魔力リンクがほぼ遮断されてしまい、戦闘力が大幅に下がってしまったのだ。加えて久数は真っ先に喉を攻撃されており、これ以上武器を出すことが不可能になっていた。攻撃魔法が上手く使えないのも仇になっていた。

 

「どうして、マスターの武器が効かない……!?」

 

「簡単なことさ。これを見ろ」

 

誠一は服をめくり、身に纏っている迷彩柄の防弾チョッキを見せた。

 

「自衛隊から拝借したんだ。ギアスを使えば簡単だったぜ」

 

「そ、そんなことするなんて、犯罪ですよ……!」

 

「バレなきゃ犯罪じゃない―――どこぞの宇宙人もそう言ってたじゃないか。ていうかお前も、ロケットランチャーとか使えばいいのに」

 

「そんなことして、貴方が死んだらどうするんですか!!」

 

「だからお前は甘いんだ。何にせよここでお前等を殺しても、バレなければ俺が正義なんだよ!!」

 

更に踏みつける力を強める。

 

「ぐぁああああああああーっ!?」

 

痛みに耐えかね、久数は悲鳴を上げる。

 

「(何て酷いことを……!)やめて!!」

 

それを見ていた彩愛はとても見ては居られず、飛び出してしまった。

 

「ん?」

 

「あ……彩愛、さん……!?」

 

「貴女、巻き込まれたのですか……?」

 

「どうしてこんなことをするの!? 2人が何したって言うの!?」

 

「チッ、うるさい女だ……!」

 

久数を蹴飛ばすと、誠一は彩愛に向かって歩き出した。

 

「な、何を……?」

 

恐れる彩愛に肉迫すると、頭を両手で掴んで強引に自分の目と合わせた。

 

「上川彩愛! 今見たことは全て忘れろ!!」

 

ギアスを使って記憶を消去しようとする。しかし……

 

「いや! 離して!!」

 

「っ!? ギアスキャンセラーだと……!」

 

左目に反転した青いギアスの紋章が浮かび、自分のギアスを無効化したことに誠一はおろか、久数達も驚いていた。

 

「そうか……やはりお前も特典、しかもギアスキャンセラーを持っていたとはな……! だとすると敵対した以上俺の障害になるのは確実。よし―――殺すか」

 

「っ!? やめろぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

ランス形態のメサイアを振るい攻撃する誠一。

 

『無駄です』

 

「何っ!?」

 

しかしその攻撃は、彩愛の背中から生えている天使のような翼―――戦闘形態のフェアリーによって防御された。

 

「なるほど、その翼がお前のデバイスか。いいぜ……俺がこの手でもいでや「させるか!!」誰だ―――うおっ!?」

 

そこへ凄まじい風圧と共に、黒い影が現れた。そう、シュロウガだ。

 

「どうにか間に合ったな……無事だったか? 彩愛ちゃん、それに久数君達も」

 

「う、うん!」

 

「は、はい……しかし貴方は……」

 

「お前のその声、聞き覚えがあるぞ……そうか、尾崎か! お前も見てたのか! 大層なデバイスまで持って……味方になってくれたら心強かったかもしれないが、これはこれで殺し甲斐があるってもんだ!!」

 

「君は……!」

 

目撃者を全て殺すつもりでいる誠一にシュロウガは戦慄を覚えた。本当に彼がこの世界における主人公なのか? そうも思い始めた。

 

「フフ、まずは誰を「そうはさせません!」がっ!?」

 

右手のメサイアを構え直した時、久数が不意を突いて飛びついた。

 

「智哉君! 今のうちに、セイバーさんと彩愛さんを連れて逃げて下さい!!」

 

「マスター! 何を!?」

 

「正気か?」

 

「どうせ俺はこの傷では助かりません。ですがセイバーさんは貴方か彩愛さんと魔力をリンクさせれば助かります! ですから早く―――」

 

「黙れ! この死に損ないが!!」

 

「ぐあ!?」

 

どうにか久数を離そうともがくも、最後の足掻きと必死でしがみつく彼は離れなかった。

 

「……そうか。それが君の覚悟だと言うなら、僕はそれに応えよう」

 

「智哉君!?」

 

「ま、待って下さい! マスターが! マスターが!!」

 

2人の声を余所に、シュロウガは2人を抱えると全力で離脱して行った。

 

「良かった……」

 

「いい加減離れろ! 踏み台が!!」

 

「がっ!」

 

ついに久数は振り放されてしまった。

 

「どこまでも邪魔ばかりしやがって……死ねぇ!」

 

メサイアをハルバード形態にし、カートリッジを装填すると誠一は勢いよくソレを振るい斬撃を発生させた。

 

(申し訳ありません、すずかさん、アリサさん。俺は、ここまでみたいです……ケーキ、渡してあげられなくてごめんなさい……)

 

久数の姿は、爆炎に飲まれた。

 

「……死んだか?」

 

『生命反応なし。完全に死亡を確認しました。後、もう少しでハッキングが解けます』

 

「そうか。なら、撤退するとしよう(逃げた3人については放っておけばいいだろう。どうせ周りに知らせたところで証拠は無いし、いざとなれば上川を殺して他の奴らをギアスに掛ければ済む話だ)」

 

結界を解除すると、誠一はその場から立ち去った。




独善、ここに極まる。
ついに白崎は本性を剥き出しにし、邪魔者を排除せんと襲いかかりました。ちなみにギアスを使わなかったのは「あの程度の奴らに遅れを取る筈がない」と高をくくっていたからです。
そして何故あそこで智哉は撤退したのか? 久数は本当に死んでしまったのか? それらの謎は次回明らかとなります。


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EP20

今回の話を読んで疑問に思った方は同時連載中の「ISG~インフィニット・ストラトス・ガンダム~」の5th Episodeをご覧下さい。

智哉「宣伝効果という訳か。上手いこと考えたなぁ」


「う…うぅ……ここは……?」

 

目を覚ますと、彼は布団で寝ていた。

 

「気がついたみたいだね、久数君」

 

寝起きの彼―――久数を見下ろしているのは智哉だ。

 

「智哉君……貴方が、助けてくれ……っ…!」

 

「無理しない方がいい。全身ボロボロなんだから」

 

起き上がろうとして苦痛に顔を歪めた久数を再び寝かしつけると、智哉は助けた時の状況を説明した。

あの時、智哉は敢えて久数の言葉通りに動くことで誠一の目を欺き、2人を安全な場所まで避難させた上で高速巡航モードに変形し上空から接近。爆発に飲まれる瞬間に久数を助け出し、急速離脱して死亡したと思わせたのだ。そしてここまで運んだ後、彩愛ちゃんの能力で治療したのだ。もう少し遅れてたら、久数君は本当に死んでいたから肝を冷やした。

 

「敵を騙すには味方からって言うでしょ?」

 

「はは……これは一本取られました……」

 

「いや冗談言ってる場合じゃないよ。すぐそこまで危機が来てるぜ?」

 

「?」

 

何があるのかと聞き耳を立てると、誰かの足音が近づいているのがわかった。それも走っている。少しして、久数の居る部屋のドアが勢いよく開かれ、

 

「「久数(君)!!」」

 

「マスター!!」

 

アリサ、すずか、セイバーがベッドの隣まで急接近した。

 

「ど、どうしたんですか? みんな揃って険しい顔して……」

 

「どうしたもこうしたもない! 全部聞いたんだから! アンタ、自分を犠牲にしてセイバーさんを助けようとしたんでしょ!? どうしてそんな後先考えないことするのよ!!」

 

「今回は助かったからいいけど、もし久数君に何かあったら……私……!」

 

「マスター……貴方は、貴方自身が考えている以上に、慕われているのです。それに気づいてないのですか?」

 

「(……そうだ。こんなことに気づかないなんて、俺は大馬鹿者だ……!)申し訳ありません……」

 

そう言うと、久数は痛む体に鞭打ち、3人をそっと抱き寄せた。

 

「もう絶対あんな真似はしません。たとえ嫌われても、俺はずっと傍にいます」

 

彼の言葉に顔を赤くする3人。だが……

 

「あのさ……そういうのって、俺等の目が届かないところでやってくれない?」

 

「………………」

 

少し離れたところで博人が気まずそうに見ており、彩愛は顔が真っ赤になっており、智哉はどうしたらいいのかわからなくなっていた。

 

「えと、何かすいません……」

 

思わず謝ってしまう久数だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても彩愛さんも魔導士だったとは驚きです」

 

あの後、どうにか場を落ち着かせると久数はそう口にした。智哉のシュロウガについては密かに知っていたので驚きはしなかった。

 

「で、これからどうしましょう」

 

「いくつか考えがある。まず、バニングスさん達は学校では久数君のことに関しては少しの間は無関心な素振りでいること」

 

「私達が催眠術に完全に掛かっていると思わせる為ね」

 

「ああ。次に久数君だが、しばらくここに匿ってもらうといい。下手に出て行ってまた命を狙われたら大変だ」

 

「わかりました」

 

「彩愛ちゃんと僕は……単独だと狙われる可能性があるから、できる限り一緒に居た方がいいかな。帰りは彩愛ちゃんの転移なら安全だと思う」

 

「なるほど……それで、この後はどうするんだ?」

 

「ここからが大事だ。まず僕達は久数君が使っていた回線を使って管理局の人達を翠屋に呼び出す。もちろん白崎君もだ。そこで、高町に掛けられてるギアスの解除や収録した音声の公開等をして彼を追い詰める。逃げ場がないくらいに」

 

「それだけで上手くいくの?」

 

「細かいところはこれから決めるさ。何、二週間くらいあれば大丈夫だ」

 

こうして、白崎を追い詰める為の作戦が少しずつ決まっていくことになる。友達に手を出したんだ。もう戦いが嫌いだとか言ってられない! やられたことを倍返ししてやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。この日は休日で、僕は両親と昼食を取っていた。

 

「そう言えば智哉。実は決まったことがあってな」

 

その途中でお父さんが大事そうな話題を切り出した。

 

「何が決まったの?」

 

「聞いて驚け。俺達が進めていた研究の後継者が出たんだ。しかも、まだ高校を卒業したばかりの女性にだ」

 

「え……どんな人なの?」

 

「凄いぞ。俺と優美で構築してきた理論とシュロウガのデータを数日で解析して、更に独自に研究して先にまで進んだんだ。それも1人でだ」

 

「何そのオーバースペック」

 

何十年もかかってできた理論を数日で理解して尚且つ先に進むなんて、どう考えてもおかしい。

 

「世の中にはいるもんだなぁ。本当の天才が」

 

「そんなこと言ってる場合? ていうか、ホント誰なのその人?」

 

「詳しく知りたいなら会ってみるか? 今日うちに友達連れて遊びに来るって言ってたし」

 

「え、いつ?」

 

「確かもうそろそろだったわ……あらいけない。食器の片付けしないと」

 

「いやまだ食べてる途中なんだけど!?」

 

若干慌ただしかったが、どうにか来る前に片付けることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数分後。

 

ピンポーン

 

「あ、来たみたい……って彩愛ちゃん? どうして……あ、案内してきてくれたのね。ありがとう」

 

どうやら彩愛ちゃんが家まで案内してきたみたい。でも何だろう。彩愛ちゃんが滅茶苦茶びっくりしてる。

 

「どうしたの?」

 

「と、と、と、智哉君……あ、あ、あの人……!」

 

驚きのあまり何言ってるのかわからない。一体何が―――

 

「やっほ~! こんにちは、初めましてー! みんなのアイドル、―――さんだよ~!」

 

「「初っ端からそれかい!!」」

 

「………………」

 

変なウサ耳つけてる女性とそれにツッコミ入れてる女性と男性を見て僕は固まった。男性の方はそうでもないんだけど、2人の女性は…………どう考えてもアレだからだ。

更によく見れば、後ろに6歳程の男の子が2人と女の子が1人いた。

 

(あれ?)

 

何だろう。さっきの男性と男の子2人を見てると妙な感覚になる。彼らは……僕や彩愛ちゃんと同じ……? まずい、自分で考えてて訳がわかんなくなってきた。

 

「どうか弟達とも仲良くしてやってください」

 

「もちろんだとも」

 

向こうでは話がどんどん進んでる。あ、これ僕置いてかれたわ……とりあえず、仲良くはしておこう。

 

「初めまして、尾崎智哉です。よろしく」

 

「は、初めまして。―――です」

 

「―――です。よろしく!」

 

「―――です。よろしくお願いします」

 

…………うん、間違いない。白崎君の原作通りと言う思惑完全にぶっ壊れたわ。

てかこれ、後の人生に影響しないよね?



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EP21

予定としていた二週間が過ぎ、僕は久数君の通信コマンドを使用する。

 

『はい、こちら時空管理局……あれ? 貴方達……』

 

この人がリンディ・ハラオウンか。美人さんだな。

 

「こんにちは、尾崎智哉です。……わかりますか? 去年の12月24日に会ってると思うんですが」

 

『ああ、あの時の……でもどうして西神君の通信回路を?』

 

「彼に借りまして。……実は、大至急翠屋に集まってほしいんです。久数君が言ってた、前の2つの事件の関係者全員を含めて」

 

『? ええ、わかったわ(何かあったのかしら?)』

 

そこで通信を切った。よし、これでいい筈だ。

 

「んじゃ、僕達も行くとしますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喫茶店翠屋。

僕と彩愛ちゃん、バニングスに月村とセイバーが来た時には、既に原作メンバーが全員集まってた(リンディさんだけモニター越し)。

 

「いらっしゃい。君達が智哉君と彩愛ちゃんね? 話は聞いているわ。私は高町桃子。よろしくね」

 

高町家のお母さんが挨拶をしてくれた。……この人本当に三児の母か? 姉にしか見えないが。

 

「高町美由希です。よろしく♪」

 

「高町恭也だ。よろしくな」

 

「高町士郎だ。こう見えて一家の大黒柱をやっている」

 

……士郎さん……貴方も兄にしか見えません……。

 

「次は私ね。私はプレシア・テスタロッサ。フェイトとアリシアの母よ。この子は飼い猫のリニス」

 

いや、だから美人すぎますって! ええい、最近の主婦は化け物か!? てか、さり気なくリニスいるし。どうせ白崎君が復活させたんだろうね。

 

「アタシはアルフ。よろしく!」

 

「ユーノ・スクライアです。初めまして」

 

「クロノ・ハラオウンだ。よろしく頼む」

 

君随分大人びてるね。僕らと歳あんまり変わらないのに。

 

「シグナムだ。学校では、主が世話になっている」

 

世話になるどころか疎遠ですが!?

 

「ヴィータだ」

 

短っ。それに目つき鋭いね……まるで睨まれてるみたい。てか本当に睨んでるんじゃあるまいな?

 

「シャマルです。初めまして」

 

「ザフィーラだ」

 

「初めまして、リインフォースです。よろしくお願いします」

 

やっと挨拶が終わった……長かったし疲れた……(主に精神的に)。

 

「で、お前が俺達をここに呼んだ理由は? 様子からするとかなり重要みたいだが」

 

白崎君が言うが、随分と余裕綽々な態度だ。バニングスさん達にギアスを掛けて、久数君を亡き者にしたと思い込んでいるからだろう。加えて、僕達が明らかな証拠を持ってないと思っているのかもしれない。

 

「それなんだけど……」

 

丁度その時、打ち合わせ通りに彼が店に入って来た。

 

「すいません、遅れました!」

 

久数君だ。

 

「っ!?(西神!? バカな! アイツは俺が殺した筈! 何故ここに!?)」

 

先ほどまでの余裕はどこへやら、動揺しまくってるね。予想通りで実に面白い。でも、ここからが本題だ。しっかりしよう。

 

「では順を追って話します。まず僕が言いたいのは……彩愛ちゃんが魔導士だと言うことです」

 

「何だって!?」

 

全員の視線が彩愛ちゃんに注目する。何か怖い……

 

「でも彼女は管理局に入局はしないと言っています。久数君も、ミッドチルダという場所には行かないと述べてます」

 

「ミッドに行かないのか? いや、行く行かないは個人の自由だから別にとやかく言ったりはしないが……」

 

(そこは否定しろ! このKYが!!)

 

すげぇ。白崎君の怒りゲージ(?)がグングン上がってくのが肌でわかる。それも今の一言だけで。

 

「まあそれは置いといて、実は僕と彩愛ちゃんは、ある現場を目撃したんです。……そこに居る白崎君が、悪事を働いてる現場を」

 

『『『!!!!!????』』』

 

見事に全員が驚いている。そんなに信頼されてたんだ……むしろそっちがびっくりだ。

 

「ほ、本当なのかいそれは?」

 

「デタラメだ! 俺が悪事を働いた? 具体的に何をしたんだ! 証拠も言え!!」

 

「そうだよ! 誠一君が悪いことをする筈ないよ!!」

 

白崎君が反論し、高町、テスタロッサ姉妹、八神も乗っかる。

 

「そうですね。では……彩愛ちゃん、お願い」

 

「わかった」

 

頷くと、彩愛ちゃんはフェアリーを取り出した。

 

「私のデバイスには、録音機能が搭載されています。それで記録したことを今から、再生していきます。フェアリー」

 

『少々お待ちください』

 

よし……うまくいってくれよ。

 

『あの、ジュエルシードを、渡してほしいんですが』

 

きた!!

 

「フェイトの声だわ」

 

『うん……名前を教えてくれたし、いいよ』

 

「あ、誠一の声も聞こえる」

 

(こ、これはあの時の!? だとしたらまずい……まずいぞ!!)

 

今頃気づいても遅い。次からがお楽しみだ。

 

『ああ。ただし――――――俺に対して全幅の信頼を寄せてもらうぞ! フェイト・テスタロッサ!!』

 

「!!!!」

 

「……今のは、何? 命令?」

 

何事かとプレシアさんはびっくりしている。ちなみにこれは、フェアリーが偶然記録していたとのことだ。グッジョブだ。

 

「催眠術を掛けたんです。それもかなり強力な。しかも、これと同じことをアリシア・テスタロッサや八神はやて、そして高町なのはにも行っています」

 

「なっ……それは本当か!?」

 

「主達が、催眠術に!?」

 

「っ、どういうことだ! 白崎!?」

 

「そ、それは……」

 

問い詰められてかなり焦っている白崎君。うん、何かコードギアス本編を体現している気分になってきた。差し詰め僕はシュナイゼルだな。

 

「これだけではありません。彼はバニングスさん達にも催眠術を掛けていました。それがこれです」

 

彩愛ちゃんに指示を出し、再びスイッチを入れる。

 

『それで、大事な話って何よ?』

 

『学校の連絡か何か?』

 

『まあ、そんなところだな』

 

(やめろ……それ以上は、止めろ!!)

 

『アリサ・バニングス! そして月村すずか! お前達の中にある、西神久数に対する想いを全て失え!!』

 

『『『っ!!!!!!!』』』

 

再び驚いている皆様方。仕方がないとは言え、予想通り過ぎて逆に驚く。

 

「今のは……」

 

「事実です。バニングスさんと月村さんは催眠術に掛けられ、久数君へ抱いている感情を消去されました。最も、すぐにその催眠は解けましたが」

 

(何!? 一体誰が……まさか!!)

 

「解いた? 誰がやったんだ……まさか、レアスキル?」

 

「私です。私は、催眠術を無効化する力を持っています。それがレアスキルというなら、そうなんだと思います」

 

「とにかくその力によって、2人は催眠から解かれた。そうだね?」

 

「ええ。彩愛が解いてくれなかったら、私達は久数のことを忘れてしまっていたわ」

 

「今から考えると、とても恐ろしいです……好きな人のことを、忘れるなんて……」

 

「アリサちゃん! すずかちゃん! どうしてそんなこと言うの!? 何であんなのの肩を持つの!?」

 

「なのは!? 何を言ってるんだ!? 話を聞いてたのか!?」

 

一瞬どうしたかと思ったが、どうやらギアスの効果が悪い方向に出たな。これは使える!

 

「催眠術に掛かっているからです。今から解けば問題はありません。……彩愛ちゃん」

 

「うん。……はぁっ!」

 

「!? 何をする、やめろ!!」

 

白崎君が止めに入るが時既に遅し。ギアスキャンセラーはもう発動した。

 

「……あれ? 私、何して……」

 

「なのは! 大丈夫!?」

 

「母さん、私……どうしてあんなことを言ったの? 何であそこまで誠一を擁護したの?」

 

「覚えていないの?」

 

「私、どないしてしまったんやろ? 今まで夢を見ていたような気分や……」

 

「ええ、悪い夢を見ていたんです、主は……」

 

これで全ての催眠が一度に解けた。同時に白崎君への恋慕の情も消えたようだ。強制的に交わされた信頼関係の上にできたものだからか? よくわからないが、事態はこちらに良い方向に運んでるようだ……!

 

「これで僕が言ったことが真実だとわかりましたよね? そこでもう1つ伝えたいことが。……ここに居る久数君は、二週間前白崎君に、命を狙われました」

 

「ええっ!?」

 

「誠一が!? どうして!?」

 

『西神君、本当なの?』

 

「はい……彼にとって、俺とセイバーさんは邪魔だったようです」

 

さすがに原作云々は言えないので、理由は在り来たりのものを使った。これなら問題はない。

 

「で、僕としては彼をミッドチルダというところに連行してほしいんですが。さすがにこんなことをする人とは一緒に居られませんし」

 

『……そうね……クロノ執務官。現時刻を以って、白崎誠一を逮捕、連行しなさい』

 

「了解。……さあ誠一。一緒に来るんだ」

 

クロノは残念そうに右手を伸ばす。だがここで想定外のことが起きた。

 

「……くも……」

 

「誠一?」

 

「よくも俺の邪魔をしてくれたなぁぁぁぁあああああああああああああああああ!! 貴様だけは! ぶっ殺す!!」

 

「なっ、がっ!?」

 

「智哉君!?」

 

バリアジャケットとデバイスを展開した白崎君がブーストを全開にして僕に突撃してきた。

面食らっていたのでいきなり頭を掴まれると、壁をぶち破って外に飛び出した。僕自身はぶつかる直前でシュロウガを起動させたんでケガはないが、どうやらまだ終わらないようだ……。




暴かれた悪事に逆上する白崎。次回は智哉と彼のガチバトルになります。


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EP22

「ぐっ……いきなり何をするんだ!?」

 

翠屋から離れた場所でようやく手を放されると、どうにか着地して怒鳴るように尋ねる。理由は大体わかってるけどね。

 

「上川はギアスキャンセラーを持ってはいたが策略をめぐらす程頭が回るとは思えない。お前なんだろ!? 今日のことを考えたのは!」

 

「……そうだと言ったら、どうする?」

 

「決まってる! ここでお前と上川を消して、全員にギアスを掛けて今日の記憶を消す!!」

 

あー、やっぱり。そうくるかなって思ってたよ。……ていうかさ、今の君って口調がえらく別人になってるね? いつものクールなイメージとは真逆だ。

 

「メサイア! 奴のデバイスと魔力ランクを計測しろ!」

 

『既に行いました。ですがマスター、彼は魔力を持っていません。あの強化戦闘服も、デバイスではなく質量兵器です』

 

「何っ!? 質量兵器だと!?」

 

すんごいびっくりしてる。計測できる機会は一年以上あったって言うのに、確証がないからとかで計測しなかったのがいけない。ま、計測したところで僕が一般人という判断を下されたんだろうけど。

 

「チッ! まあいい。相手が何であれ、消すのに変わりはない! 行くぞ、メサイア!」

 

『イエス・マイマスター』

 

どでかい斧(ハルバード?)に変形させたデバイスを持って走ってくる白崎君。年齢に不釣り合いな程の速度だ。

 

「(それなら…)ラスター・エッジ!」

 

額から緑色のビームを放つ。あくまで牽制用だがノーモーションで発動できるので相手の不意を突くことは可能だ。事実、白崎君は一瞬動きが止まり、すぐに防御魔法を展開した。良い判断だ。対魔導士ならだけど……

 

「バカな!? うあっ!!」

 

ラスター・エッジは防御魔法をどこぞの研究所のバリアみたくパリンと破るとそのまま白崎君の頬を掠めた。

 

「く、くそ、油断したか……!」

 

「想定外の間違いだろ? 今度は僕から行かせてもらう……行け、トラジック・ジェノサイダー!!」

 

シュロウガの四箇所の発射口から黒く小さい鳥のようなものを放ち、白崎君に向かわせる。

 

「この程度、避けてみせる!」

 

最初の一撃は躱されたが、この武装は誘導武器。避けたところで再び追撃する。

 

『攻撃、尚も追尾して来ます!』

 

「追尾だと!? これしき―――がっ!?」

 

再度避けようとするも今度は回り込まれ、別方向からの体当たりを同時に食らって倒れ込む。別に死んだりはしないけど、体力はかなり持っていった筈だ。

 

「やっと追いついた!」

 

更に、翠屋にいた面々が続々と結界に突入してきた。……結界? そう言えばいつの間にか張ってあった。白崎君がやったんだろう。

 

「誠一君と戦ってるのは何!?」

 

「尾崎だ! アイツがデバイスを起動させたんだ!」

 

「!? いや違う! アレはデバイスではないし、そもそも本人から魔力の反応がしない。アレは質量兵器だ!!」

 

「何ですって!? あんな質量兵器が存在してると言うの!?」

 

みんな僕を指して騒いでいる。そんな言わなくても……あ、白崎君が立ち上がった。

 

「ぐ……おいお前! 質量兵器とは言えど、それだけの力を持ちながら、どうして原作に介入しようとしない!? どうして俺の邪魔をする!?」

 

「別にいいでしょ。介入するかしないかは本人の自由だし。後何で邪魔するかって、友達が殺されそうになったんだぞ? せめてこれまでは静観してようと思ってたけど、それで気が変わったんだ。邪魔の1つや2つくらいいいだろ?」

 

「ふざけるな!! 自分がしたことがわかってるのか!? 俺が積み上げて来たものを全て崩しやがって! ここでお前達を消さなきゃ、スカリエッティ一味はおろか、ゼストやクイント、メガーヌにティーダまで助けられなくなるんだぞ!?」

 

ここでそれを大声で言うか普通? 見ろ、みんな動揺しまくってるぞ。

 

「どうして……どうして彼が広域次元犯罪者の名前を知っているの!?」

 

「それだけじゃない! 彼はストライカー級魔導士の名前まで知っていた。どういうことだ!?」

 

これ、僕を確実に倒さないと取り返しがつかないんじゃない? 倒されるつもりなんて毛頭もないけど。

 

「そんなの知らないよ。それに、殺人をしようとした君が誰かを助けるなんて、堂々と言わないでくれる? この偽善者が」

 

「黙れぇぇぇぇえええええええええええええええええ!! 俺は、白崎誠一だぞっ!!」

 

僕に接近してデバイスを振り下ろしてくる。

 

「鬱陶しいな……ディスキャリバー!!」

 

右手に魔王剣・ディスキャリバーを召喚するとデバイスを十字を組むようにして受け止める。

……さっきも思ったけど、年齢に反して白崎君は筋力が高校生並に強い。多分身体強化の特典でも貰っているんだろう。

 

「ぐっ……押し切れない……!?」

 

でもシュロウガのパワーには負けるようだ。ま、元は成人が動かすように作ってあるから当然だろうけど。

 

「何もかも自分の思い通りに行くと思うな……せいっ!」

 

「がっ!?」

 

腹にキックをお見舞いしてやり、距離を離す。その直後に、ディスキャリバーの刀身を右手で握って切り傷を作り、血液のようなものを滴らせる。

 

「これで終わりだ。ランブリング・ディスキャリバー!!」

 

スラスターを全開にし、白崎君をディスキャリバーで切り刻む。始めの一撃でデバイスを弾き飛ばすと、何度も何度も切り刻んでいく。そして攻撃しながら血液で作っておいた魔方陣が完成すると離脱し、爆発させる。

 

「が……は……!」

 

死にはしなかったが大怪我を負ったようで、壁に持たれたまま動けないでいた。

彼を横目で見ると、僕は待機形態になっている彼のデバイスを拾い上げる。

 

「おいデバイス『私の名はメサイアです』…メサイア。一言言わせてくれ。何で君は白崎君を止めなかった? 主を止めるのも、デバイスとしての仕事じゃないのか?」

 

『私の思想はマスターの思想そのもの。何故止める必要が?』

 

「……そうか」

 

聞くだけ無駄だった。もうこのデバイスに用はない。僕はデバイスを持つ手に力を込める。

 

「お前を破壊する。これ以上彼に力を持たせない為に」

 

『あ……が……マ、マス…ター………!』

 

有無を言わさず、握りつぶした。

 

「メサイア!! お前……よくも―――ぐぁっ!?」

 

「白崎誠一。君を逮捕する……!」

 

そこへクロノが割り込み、白崎君を一発殴ると手際よく捉えた。中々良いタイミングで来るね。もうシュロウガを解除してもいいかな。

 

「気をつけて。彼は自分の目を見た者を催眠状態に置きます」

 

「目を? そうか……ありがとう」

 

今度は彼の目を布で巻き付けて塞ぐと、僕達と共に翠屋へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。間接的とはいえ、店を壊してしまって」

 

「いいのよ。応急修理くらいならできるから」

 

「いや、管理局の責任として僕達で修理させてもらう。それぐらいはいいですよね?」

 

『ええ、もちろん』

 

「あの、今後アースラチームはどうするんですか? 嘱託とはいえ、管理局員が起こした事件ですし……」

 

不安そうに久数君が尋ねる。

 

『誠一君を連行するのは確実として、今後は地球に一切干渉しないわ。局員の不祥事に関しては、ケジメをつけないといけないし』

 

「そうですか……」

 

久数君は少し残念そうで、どこか安心していた。もうミッドに行かなくても済むと思っているんだろう。

 

『クロノ。そろそろ彼を』

 

「了解。……誠一」

 

白崎君を促すが、彼は往生際が悪くジタバタともがいていた。

 

「おい誰か、拘束を解いてくれ! なのは! フェイト! 誰でもいい、早く! 俺はお前等の恩人だぞ!?」

 

「誠一君……私、残念だよ。誠一君の性根が、こんな風だなんて……」

 

「母さんとアリシアとリニスを助けてくれたのは嬉しかったし、感謝してる。でも、それとこれとは話が別」

 

「私もテスタロッサと同意見だ。主とリインフォースを救ってくれたことには恩を感じている。しかし、主達に催眠術を掛け、あまつさえ人の恋心を踏みにじろうとした貴様の行動は、決して許されるものではない」

 

「なっ……! テメェ等、どんだけ俺が助けてやったと思ってるんだ!? 俺が居なかったら、みんな死んでただろうが!」

 

「(どこまで卑屈なんだ、コイツは……)…………ん?」

 

呆れ果てていた時、シュロウガのモニターに何かが反応した。それを見て、僕は桃子さんに言った。

 

「すいません桃子さん。テレビ、つけてもいいですか?」

 

「え? ええ、いいけど……」

 

許可を貰い、リモコンを操作してテレビをつけてチャンネルを変える。次に白崎君の近くに行って小声で話す。

 

「これからやるテレビの内容をよく聞け。そして知るんだ。君が言う原作とは、もうかけ離れていることを」

 

「……?」

 

訳がわからないと言った様子で、彼は集中する。テレビでは臨時速報が始まっていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『り、臨時ニュースです! たった今、各国の軍事基地に配備されていた、ミ、ミサイル約二千発が、日本に向けて発射された模様です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!? この流れは……IS!?」

 

「さすがに知ってるか。そう、ここから先は『リリカルなのは』じゃない。『IS』の物語になるんだ。……最も、それさえも原作とは違うみたいだけど」

 

テレビには海上に佇む機体を映しているが、その姿は縮小したOガンダムそのものだった。もう既に何者か……多分あの時会った男性が介入しているのだろう。

 

「俺が知ってる原作は、壊れた訳か……は、はははは……あはははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!」

 

……狂ってしまったか。

 

「行こう、彩愛ちゃん」

 

「……うん……」

 

『これで、彼は終わりですね。何か清々しました』

 

未だ混乱している翠屋を後に、僕と彩愛ちゃんは帰路についた。




敗北。そして世界の変化。物語は移り変わり、彼らの運命も変わる。その先にあるのは……


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EPFINAL

今回が最終回となります。


「―――よし。記録終わりっと」

 

そう言うと、僕はパソコンから離れて背伸びした。

 

(今から10年前のことを記録するってのも、中々良いものだな)

 

僕が彩愛達と出会い、白崎の企みを暴いてから。その直後に起きた『Oガンダム事件』から実に10年が経過した。

僕達は現在20歳になっており、高卒で自動車関係の仕事に就いている。あの後、白崎君は管理局に連行され、管理局もリンディさんが言ってた通り地球から手を引いた(最も、地球に居ても厄介ごとに絡まれる可能性が物凄くあるが)。

なのはとユーノ、テスタロッサ一家に八神家は地球に残って魔法に関わらない生活を選ぶことにしたそうだ。そのせいか、僕達とは仲良しになっている。なのはは現在パティシエ関連の勉強を海外でしており、時折ビデオレターが届いていると聞く。……海外とパティシエと聞くと、どこぞのスキンヘッドな御方を思い出すのは何故だろうか? フェイトはデスクワーク系の仕事に就く予定で、アリシアは大工になるって言ってたな。アルフとリニスもアルバイトをしているとか。シグナムは博人が通っていた篠ノ之道場を継いで師匠になっており(保護プログラムが云々とか言ってた)、博人は続けて通っている。シャマルは医者として働いており、かなり人気があるようだ。はやての足はすっかり治り、就職の為に猛勉強をしているとか。

でも僕が就職する時はかなり辛かった。IS……インフィニット・ストラトスのせいで女尊男卑の風習が広まり、男性に限って就職氷河期に陥っていたからだ。それを解決してくれたのが、アリサとすずか。彼女達の口添えがあってお偉いさんを退けることができたのだ。彼女達は現在セイバーと共に久数と結婚しており、一所懸命に働いてる彼をサポートしているのだとか。

 

(こうして考えると、色々懐かしいなぁ)

 

僕達が大人になるのはあっという間に感じられた。でも今は違う。大人になってからの時間はゆっくりに感じられる。何故かって?

 

「どうしたの、あなた? もう夜の10時なのに」

 

ほら来た。僕の最愛の妻、彩愛だ。就職して少しした後に僕と結婚し、新しく買った家に一緒に住んでいる。

彼女のお腹には現在、小さな命が宿っている。僕との間にできた宝物だ。

 

「いや……君と会った日を思い出してさ」

 

「そう言えば今日で丁度10年目だったわね。何か、つい昨日のように感じられるね」

 

「そうだな」

 

原作に関わってなくて、本当に良かったと今でも思う。大好きな彼女と、大切な時間を過ごせるのだから。

 

「あ」

 

「どうしたの?」

 

「今、動いた」

 

「本当? どれどれ……」

 

お腹に耳を当て、鼓動を聞く。こうしているのも、幸せな時間の1つだ。

 

「相変わらず元気だな。やっぱり男の子か?」

 

「意外と女の子かもしれないよ」

 

『確かに、マスターみたいに元気一杯ですものね』

 

「「わひゃっ!?」」

 

突然フェアリーが話しかけてきたので揃って驚く。彼女は不意打ちで言ってくるから、少し心臓に悪いんだよね。

 

「いきなり話しかけないでよ、もう……」

 

『申し訳ありません。ですが、幸せそうな2人を見てると私まで幸せな気分になりまして。……もうすぐでしたよね? 予定日』

 

「ああ。絶対に、元気な子が生まれるさ」

 

ISの登場によって不安定な世界になってはいるが、僕達は僕達の人生を歩き続ける。『リリカルなのは』を通して僕達が経験した物語はとっくに終わった。しかし、『IS』の物語を紡ぐ道は別の人達の前に既にできている。ほら、丁度テレビでやっている。「世界で初めてISを動かした男子が現れた」と。

もう僕達の出る幕じゃない。出る必要もない。僕達はただ、今を生きていくだけだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 ミッドチルダ

 

「はぁ……はぁ……! クソッ、逃げないと……!」

 

智哉達に全てを暴かれ、管理局に逮捕された白崎誠一は捕まってから1年後に脱獄していた。彼は逃げた足でスカリエッティの研究所にどうにか辿り着き、デバイスもないままに彼らと接触。死亡キャラを救いつつ原作通りに事を進めようとした。しかし、ゼスト隊とティーダ・ランスターは逮捕前に名前を口走っていたことで「逮捕はされたが念のため」という理由で秘密裏に護衛されていた。結果、彼らに関する事件は何一つ起こらず、誠一が何もせずとも死亡者は出なかった。

これには大いに焦った。彼はゼスト隊が全滅する場面でキーマンではないクイントのみを救うつもりであったが、それが根本からねじ曲げられたのだ。更にレジアス・ゲイスとのパイプを作ることも不可能になった。そこで仕方なく、スカリエッティに方針の変更を申し出た。それ自体には成功したものの、スカリエッティは「プランを大幅に変えることには賛成だしこれからやる。だけど、君の言葉からは熱意どころか何も感じない。これ以上君と居ても無駄だから、もう出て行ってくれないかな?」と言われ、反論したら戦闘機人をけしかけられたので基地から逃げ出した。

 

そして現在。スカリエッティはテロを起こさず、敢えて真実を語ることで管理局上層部を一掃。管理局は一新され、スカリエッティや彼の娘達も周囲に受け入れられた。

 

「奴らが追って来る……! また捕まるのは嫌だ!!」

 

だが誠一だけは必死に逃げていた。管理局から、スカリエッティから。実は現時点で管理局は先の暴露事件で有耶無耶になっており、追跡は行われてなかった。スカリエッティも既に興味を失っており、完全に放置していた。それでも彼は、何者かから追われていると思い常に逃げ惑っている。手にはスカリエッティのところから逃げ出す時に退職金代わりに奪った剣型デバイスがあるが、とっくにボロボロになっていた。

 

「っ!? どこだ!? 居るのはわかってるんだぞ! 俺が返り討ちにしてやる!!」

 

そう言って壊れかけたデバイスを何度も振るう。彼の瞳には、何も映っていない。あるのはただ逃げることと、どうにか原作通りに進めること。しかしStrikerS以降の原作はもう壊れた。他でもない、自分の手で壊したのだ。

 

「俺は生きる……! 生きて、原作を守るんだ……!」

 

自分の中の歯車が狂っているのに気づかず、彼は歩き続ける。かつて彼が目指していた平穏を求めて、永久に―――




という訳で、この作品もこれで終わりとなりました。智哉と彩愛と久数達は幸せな人生を送ることができ、白崎は廃人となってミッドを彷徨う羽目になりました。
彼らの物語はここで幕引きですが、世界は動き続けます。新たな物語……「ISG~インフィニット・ストラトス・ガンダム~」を軸として。


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