「あ!あんた今休みなんだからどうせ暇でしょ?丁度今日の17時から新規で入れるから、とうらぶやってみない…てかやれ。」
そんな理不尽なことを言われて、現在16時55分。
ほらほらと催促されてPCを立ち上げたはいいものの、まだ時間があるので新規解放まで遊び方を眺めることにした。
ルールは一般的なソシャゲーと同じ、と姉には言われたが、俺は取説を読むタイプなのだ。
ざっと説明すると、刀を新しく作る鍛刀、使い捨ての装備を作る刀装、体力を回復する手入、レベルではなく基礎ステータスが上がる錬結、あと課金アイテムとしては、破壊を防ぐお守りやら疲労を回復する団子があるようだ。
刀装と作った刀は、どちらもバラすことができるようだが、大した量にはならないらしい。
疲労度システムがあるので、気合い入れて周回する時には面倒そうだ。
説明を一通り読み、なるほどと思った頃には17時を過ぎていた。
慌ててスタートを押す。
最初の刀を選ぶらしい。特に火やら水やらの属性があるとかではなく、純粋にビジュアルの好みで選ぶようだ。…なんでこんな乙ゲーみたいなのやらされてるんだろ俺。
そんなことを思いながら、5人、いや5口と言うべきか…を一通り見る。
加州清光、うわー女受けしそうだなー…。赤のマニキュア…うわぁ…。
陸奥守吉行、何だコイツ刀の癖に”時代は拳銃”とか…ないわー。
蜂須賀虎徹、うわ金ぴか!?うざそう、凄く成金臭がする、しかも無駄にプライド高そう…却下。てかコイツ作品違くね??
山姥切国広、何コイツ暗い、却下。
歌仙兼定、…なんだよ僕は文系なのさって。刀に文系とかあるのか?意味不。戦うのは得意じゃないってことか?なら却下だな…。
どいつもこいつも選びたくない…
…まぁいいか、最初のコイツで。
そうして俺は、加州清光をクリックした。
「あー。川の下の子です。加州清光。扱いづらいけど、性能はいい感じってね。貴女が審神者、で良いんだよね…?」
そう口にしたのは俺だった。いや、当たり前だ。だって俺は加州清光、…!?
「そうだ。これからよろしく頼む。情報はある程度伝わっているとのことだが…?」
「ん。分かってる、歴史しゅーせー主義者を倒すんでしょ?…俺のこと、できたら着飾ってくれると嬉しいな♪」
「…考えておこう、下がって良いぞ。お前の部屋はこちらだ。」
そう言われて、部屋の一つに案内される。
「出陣の際には呼ぶので、それまで自由にしていてくれ。」
頭に軽く触れられて、笑みがこぼれた。去っていく後ろ姿をじっと見詰め、ため息を零す。
襖を閉め、俺はごろんと転がった。刀から人になったものの、あまり体に違和感はない…ってだから!俺はそもそも人…
そして俺は、自分の中の二つの記憶と対面した。
主、つまり沖田総司の刀として、修理不可となり廃棄されるまでの一生。
そしてPCの前でまさに刀剣乱舞を始めようとしていた俺。
多分、さっきは人間の俺だけなら言わなかったようなことを言ったし。
刀の俺だけなら、綺麗なままでいるから捨てないでとか、もっと色々言い募っただろう。
完全に解け合ってしまったため確証は持てないけれど、多分そうだ。
俺しかいない部屋で伸びをしながら考える。
さしあたって一番怖いのは、俺が合成、もしくは廃棄…資源にされることだ。
だが、彼女にとって俺は一番最初の刀であるし暫くは大丈夫な筈。
どこまでゲーム添いなのかは分からないが、リーダーの経験値に補正がかかるなら、レベル的にも暫くは優越できる筈だし…。
最悪遠征、つまり二軍落ちになるかもしれないが、殺されることはない…筈。
あとは、俺が戦闘でヘマをしなければロストにはならないだろう。
推測ばかりで嫌になる。
ごろんと横になると、鏡が見えた。
今着ているのは…あれ、あの歴史の教科書でよく見るやつ…あー…新選組の洋装?で良いのかな。
刀の自分に主が着ているその服がどういうものなのかわざわざ教えられる訳で無し、21世紀に生きていた自分も知識が乏しく、一体自分が何を着ているのかすら分からない。
そしてその名前も分からない服に、赤いマフラーをして赤い篭手をつけたのが今の自分だ。
「…ん?何だろこれ」
頭上に手を伸ばして、鏡にうつっている物に手を伸ばすが、つかめない。
首を後ろにそってみても、何も無い。しかし、鏡には確かに妙な金色のものがうつっている。
しょうがないので立ち上がってみるが、やはり畳の上には何も見当たらない。
鏡に向き直ると、頭上数センチ上に、例の物体が。
「…鍵?」
鍵だ。縦になれば分かる、どう見ても鍵マークだった。
…もしかして、これはロック的なやつだろうか。
つまり、間違えて合成してしまわないようにロックを掛けている…?
「俺、愛されてる。」
自然と、口から言葉が飛び出した。
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