寿命かと思ったら別世界に飛ばされた件 (スティレット)
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1話

 初めての人は初めまして。前作から来られた方はこんにちは。この度気分転換にネギま!の二次創作を執筆してみることにしました。拙い作品ですが読んでくれれば幸いです。


 眠るような感覚・・・・・・はて、俺は誰だったか。

 

 最後に妻達に別れの挨拶をして、それから感覚がなくなったのか。

 

 そうなると、俺は死んだのか。

 

 まあ、納得の行く死に方だった。妻に、子供に、孫に、ひ孫に囲まれ往生したのだから。

 

 もはや俺は一国の王ではなく、各国を血でまとめた偉大なる連合の王ではなく、ただの一存在だ。

 

 不思議と不安は無い。行くべきところに行くだけなのだろう。そう思い流れに任せていた。

 

 

 

 -精神干渉、レジスト失敗-

 

 -精神干渉、レジスト失敗-

 

 -精神干渉、レジスト失敗-

 

 ー認識阻害に類するレジストに成功しましたー

 

 

「は?」

 

 俺が立っていたのは森の中。身体は軽く、いつも着ていた王族の装束ではなく、昔着ていたコートを着ている。

 

 ただし、全ての武器があるわけではなく幾度と無く亜人狩りや内紛などを共にしたデルフリンガーと地下水が無い。まがい物は作れるが、今はまだそんな気分じゃない。

 

 とにかくここはどこか誰かに尋ねよう。さしあたって森から出るのが優先事項だ。

 

「そこの者!何をしている!」

 

 森の闇に目が慣れている俺にははっきりと声の主の姿を捉えた。色黒でスーツを着ている。どこかで見たことがあるような・・・・・・。

 

「申し訳ないです。ここはどこですか?」

 

「何をしていると聞いている!」

 

「ああ、いえね。死んだかと思ったら見知らぬ森に立っていたんですよ。混乱して立ち尽くしていたらあなたが来てくれたと言う事です。いや、本当に助かった」

 

「迷い込んだ一般人か?しかし、そうするとその内に秘めている魔力は・・・・・・?」

 

「魔力?魔力って言い方だとここは地球ですか?」

 

「あ、ああ。そうだ。地球のS県にある麻帆良と言う都市だ」

 

「まほら・・・・・・麻帆良。そうか、神め。俺に何をさせたいんだ」

 

「何をぶつぶつ言っている?」

 

「あ、ああ、すみません。武装を解除するので両手を頭の上で組んで後ろを向けばいいですか?」

 

「ずいぶんと協力的だな。まあいい。そのほうが助かる」

 

 あの色黒のスーツの人から(シスターシャークティですか?侵入者と思わしき人物を捕獲しました)とか流れてきてるけど、これは言わないほうがいいな。

 

 それにしても死ぬ寸前までガンダールヴのルーンで無理やり動いてたから、無くなって身体が軽くなり違和感が凄い。というかガンダールヴのルーンがなじみすぎて無くても問題が無くなっている。ゲームに例えるとマスタリーを取ってしまったので熟練度が100%だからこれ以上使っても経験値が入らないような状態だ。流石にまったく新しい武器に慣れろと言われたら時間がかかるだろうけど、今まで使ってきた武器なら問題は無い。

 

 そんな考えにふけっているうちにあちらも相談が終わったようだ。

 

「武装は解除しなくもいい。ただし、私の前を歩け。両手は頭の上に、方向はこちらが指示する」

 

「分かりました」

 

 こうしておそらく「魔法先生ネギま!」の世界と思われる地球に迷い込んだのであった。

 

 

 

 俺はシスターシャークティと思われるスカートの短い修道服を着ている魔法先生?と合流した際に武装を全て没収された。その際にグローブも脱いだが、ルーンは見当たらず、俺はルイズ達とは離れ離れになってしまったんだなと今更ながらに思った。

 

 みんな70以上まで生きていたが、俺が逝くのが一番早かったか。まあ、戦場を鎮めるために多少の無茶も何度かしてたから、体にガタが来ていたんだろう。それを身体強化とルーンの力でいつも通り振舞っていただけだ。

 

 コートの暗器などが多かったので今の俺はYシャツ、ベストにスラックス姿だ。コートや暗器はガンドルフィーニと言う先生?に預けている。

 

「君が報告にあった侵入者じゃな?」

 

 目の前に居るのはぬらりひょん・・・・・・ではなく麻帆良学園の学園長、近衛近右衛門だ。

 

「侵入者と言うより迷子ですかね?」

 

「そこのところ詳しく説明してもらってもええかの?」

 

「はい。実のところ、俺は一回死んでいます」

 

 これには周囲もざわつく。

 

「して、霊視しても幽霊ではないお主は何故生きておる?」

 

「それが不明でして、本来ならこんな青二才な年齢ではなく、近衛老、あなたはいくつか知りませんが、私は70をいくつか過ぎた辺りで寿命で逝きました。それが気がつけばここの森に立っている有様でして、特に抵抗する理由も無かったので事情の説明も兼ねて着いてきました」

 

「見た目青年で中身が一致しないことなんぞこの業界じゃいくらでもあるからの。そこは誤差の範囲内じゃ。しかしそうなるとお主に行くあてはあるのかの?」

 

「ありません。というか俺の世界に麻帆良なんて地域はありませんでしたし、戸籍なんて無いでしょう。どこぞの裏業界で駆け出しとして働くのが関の山かと」

 

「ありていに言うとここから出て行くとも聞こえるんじゃが?」

 

「ええ、皆さんに迷惑をかけたくありませんし」

 

「ふむ・・・・・・」

 

 関西に行けば働き口も見つかるだろう。なんなら海外でも良い。そう思っていると返答が来た。

 

「お主、生前・・・・・・と言う言い方は少しおかしいかもしれんが、何をやっていたのかの?」

 

「高校を卒業してからはもっぱらハルケギニアと言う別世界で領主をしてました。爵位は伯爵。政務、亜人の鎮圧、社交界への顔出しが主でしたね。それからは国の女王に見初められて王に」

 

「王とはずいぶんじゃな。まだ何かあるんじゃろ?」

 

「ええ、まあ。ここからはお恥ずかしい惚気話にもなるんでしょうが、恋人と言うか妻が5人居たんですよ。しかもそれぞれが国では重要なポストに居まして、同盟や連合を組むのに一役買わせてもらいました」

 

「凄まじいのう」

 

 俺の何かを近右衛門は読んでいるようだが、特に嘘を着いていないので無視する。

 

「ならば、別世界から来たと言う証を見せてくれんかの?そうすれば働き口を考えてやらんでもない」

 

「学園長、それは!」

 

「ガンドルフィーニ君、この者が言ったことに嘘偽りは無いようじゃ。となると麻帆良から出すよりは何かの役職に着いて貰ったほうがシフトも組みやすくなるじゃろう。場合によっては高畑君の穴埋めになるかもしれんしの」

 

「あんまりな言い様ですね。こちらも隠し事は無いほうが好ましいのですが。そうですね。では、等価交換に喧嘩を売る方向から行きましょうか。いらないものは何かありますか?」

 

 そういうと、ガンドルフィーニが拳銃から弾丸を一発排莢してこちらに渡してきた。

 

「錬金」

 

 その弾丸から魔術でハルケギニア魔法をエミュレートしたものによりマスケット銃を作成。火打石の代わりに雷管に撃鉄が落ちるようにしてある。クリエイトゴーレムに比べればまだまだ楽な類だ。

 

「と、こんな感じです。ええと、ガンドルフィーニ先生?撃ってみます?」

 

 銃把をガンドルフィーニに向け、手渡した。

 

「ええよ、ガンドルフィーニ君。障壁を張るから撃ってみたまえ」

 

「ですが・・・・・・いえ、分かりました。いきます」

 

 学園長の前になにやら力場的なものが張られたかと思うと、躊躇無くガンドルフィーニは学園長に向かってマスケット銃を撃った。パァン!と言う音と共に弾丸が放たれる。

 

「ふむ、本物のようじゃの。確かに幻覚を見せる類ではなく、等価交換に喧嘩を売っておる。発動体も使ってなかったようだしの。認めよう。お主は別世界からの魔法使いじゃ」

 

「それで、俺の処遇は?」

 

「お主の肉体年齢は何歳くらいじゃ?」

 

「17か18くらいだと思いますが」

 

「だったらもう一度学校での生活を送ってみるのもアリだと思うがどうかの?夜にちと危険なアルバイトを頼むと思うが、出来ればそのまま麻帆良の教員になってくれるとありがたいのう」

 

「いいんですか?こんな怪しい人物を」

 

「自分で言ってる奴は怪しくないわい」

 

「学園長!」

 

「ああ、ガンドルフィーニ君も周りも納得しきれんところがあるようじゃが、半世紀を貴族として、王として暮らしていた人物を敵に回すのは厄介での。味方に回ってくれれば言う事は無いわい。何しろ討伐で軍を率いてた経験もあると言う事だからの。そういうわけで、儂は君を歓迎するぞい」

 

「まあ、そう言う事なら遠慮なく頼らせてもらいます」

 

 特に恩とは思ってないけど。

 

「幸い4月まで半年はある。編入までに猛勉強すればなんとかなるじゃろ。見た目はともかく中身はええ歳してるから一人で出来るじゃろ?」

 

「そう言われたらやるしかないですね」

 

「なら、話は決まりじゃ。今のお主はまだここの常識を身に着けていない。よって、一人部屋を手配させよう。少しかかるが戸籍と預金通帳なども用意させるから、それまではこれでゆっくり昼間散策でもしておいてくれい」

 

 そう言って封筒が渡される。

 

「中身を確認しても?」

 

「もちろんじゃ」

 

 万札が10枚程入っていた。

 

「それまで時間はかからんと思うけど念のためじゃよ。少なくとも儂の方が年上だから、目上の意見は聞いておいたほうがいいぞい?」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 なんか釈然としないが、こうしてネギま!世界での新生活が始まった。




 今回はイレギュラー転移。デルフも無い。地下水も無い。装備はいつも身につけていたものと若かりし頃の格好のみ。それでもあんまり心配する必要が感じないのは気のせいでしょうか。


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2話

 例によって早朝投稿です。10時ごろにしようかと思ったのですが、7時ごろから読んでくれている方もいらっしゃるようなのでこの時間にあげました。


 あれから5ヶ月。4月までの1ヶ月は編入に使うのでその5ヶ月が勝負だった。

 

 ひたすら参考書と格闘する日々。むしろ夜間戦闘が憂さ晴らしになっていた。

 

 今は199X年。原作の6年ほど前だ。このまま留年せずに行けば原作開始には教師になる計算か。それか1年教育実習を行い、どこかに回されるか。あのクラスは面倒だなぁ。これも全部ぬらりひょんのせいなんだ。

 

 しかしこの学園は本当に非常識だ。絶えずレジストが行われているし、レジスト自体にも耐性を強化してきたからそれも除々になくなってきているが、中学生がエーススプリンターも真っ青な速度で走るのだ。たまに多脚戦車がどこぞの大学から暴走しているのを見たことがあるし。

 

 一番の非常識は「神木」蟠桃。でかいってレベルじゃねーぞ。これの落ち葉だけでポーションが作れるレベルである。地味にストックしてあるが。

 

 どうもこちらの魔法使いはジェネリックと言う言葉はあまりなじみが無いようだ。いや、頭が固いとも言うべきか。いやいや、俺だけレジストしているから認識阻害で「こうでなければいけない」と言う固定観念が根付いてしまっているのだろうか。でなければただの落ち葉である蟠桃の葉を腐葉土にするより有効活用するだろう。あいつらはこう考えているんじゃないだろうか?「蟠桃には危害を加えてはならない。よって、蟠桃の一部である落ち葉も触れてはならない」と。

 

 しかし俺がこの点を指摘し、落ち葉なんだからいいだろう的なことを言ったらあっさり黙った。どうなっているんだ?

 

 そういえばエヴァンジェリンにも会ったよ。茶々丸はまだ生まれておらず、一人のようだった。一度シフトで一緒になったが取り付く島も無いとはあのことか。俺の使う魔術は興味深そうに見ていたが。

 

 あ、そうそう。世界樹の魔力回復ポーションによる試飲は引き受けてくれたよ。言ってみたらはっとした表情でこちらを見ていた。大なり小なりエヴァンジェリンにも認識阻害が効いていると言う事か?

 

 流石に後は先生くらいしか原作メンバーに会えなかった。高畑先生は相変わらず忙しく飛び回っているし、脱げ女はまだ小学生。残るのはヒゲグラ先生と新田先生くらいで、両方とも参考書選びに大変貴重になるアドバイスをくれた。うん、教育熱心なのはいいことだよ。瀬流彦先生と弐集院先生にはまだ会ってない。前者はまだ学生だろうし、弐集院先生は何故かラジオやってるんだけどな。

 

 そして3月。編入試験の日はやってきた。

 

「それでは始めてください」

 

 がらんとした教室で一人、鉛筆を走らせる俺。試験官は知らない先生だ。

 

 ただ黙々とやる。シャーペンより鉛筆の方が書きやすい。念のため2Bを5本、キャップ付きで持ってきた。

 

 これを全科目、これまで勉強してきた全てをぶつける。こちとら冬期講習にまで顔を出してたんだ。ここで潰れてもらっては困る。

 

 一瞬、「夜のバイトでも十分食っていけるから別によくね?」とも考えたが、最低でも大学を卒業するまでは麻帆良に居なきゃいけないのでその考えを捨てる。せっかく戸籍用意してもらったし。不都合になったら関西か海外に逃げるけど。

 

 そうこうしながら全科目を終える。後は結果を待つのみだ。

 

 

 

 結果だけ言えば合格した。俺は県外の麻帆良と繋がりのある高校からの編入生として受け入れられることになった。

 

 それからは精神年齢が合わなさ過ぎるため、本音を隠しての登校生活だ。なにしろこちとら70そこら。ハルケギニアでは結婚のサイクルが早かったけど、こちらですら孫ほど離れている。それでも上辺は社交界で嫌と言うほど取り繕うことを覚えたため、知人の獲得には成功していた。

 

「才人~飯食いに行こうぜ」

 

「悪いな鈴木。俺の弁当一人用なんだ」

 

「スネオかよ。なら焼きそばパン買ってくるから待っててくれるくらいの友達甲斐はあるよな?」

 

「5分な」

 

「ちょ!」

 

「ほれ、いーち、にー」

 

「ああもう!」

 

 ダッシュで買いに行った。あいつはいじると面白い奴だ。今回もリアクションが面白かったから10分は待っていてやろう。

 

 そんな感じで学園生活を送っていた。

 

 

 

 一方魔法の習得は難航していた。独学と言うものもあるが、俺の魔力が少ないのだ。俺自身が高効率低燃費型なので、体内の小源(オド)だけではなく大源(マナ)を併用していることにも起因している。

 

「んー、誰かに教えてもらわないといけないかな。まあ、近接戦なら魔術で十分なんだけど。というか無詠唱ってなんだよ。魔術ですら脳内のイメージ補正が無ければ起動しないんだぞ」

 

 ぶつくさ言いながら魔法の参考書を図書館島から手に入れたので部屋で眺めている。つかラテン語必須ってなんだよ。やっぱ関西行きたいわ。

 

「平賀、飯の時間だず」

 

「内藤か。その時代を先取りしすぎたしゃべり方なんとかしたほうがいいと思うぞ」

 

「俺様修正されないね」

 

 ノックの後に扉越しに声がかけられた。コイツはエース三人衆と合わせて変人四天王と呼ばれている内藤。竜さんと餡刻は槍術部の部将と副部将、海燕は剣道部の部将だからエースなのは分かるとして、何故コイツまでカウントされてるのか分からん。こいつらの仲間はなんかこんなしゃべり方が多いし。あ、竜さんは別ね。あの人は紳士なのに何故かぼっちだから変人扱いされているだけで。

 

「まあいいや。俺も勉強に行き詰ってたし、飯食って気分転換するか」

 

「今日は肉、肉と肉を食いまくるぜー」

 

「あーはいはい、通風と墨樽はもう向かってるのか?」

 

「ああ!」

 

 ちなみに通風も墨樽もあだ名だ。○ルティマオンラインでDQNプレイばかりしてたらそう呼ばれ始めたらしい。俺がDQNって呼んだら何故か定着した。最初墨樽は糞樽だったが、食事中に聞きたくないと言う理由から墨樽になった。

 

「で? お前今日臼姫に呼び出し喰らってなかった? またブレインシェイカー喰らうぞ」

 

「大丈夫だ、問題ない!」

 

 いつも根拠不明な自信を持って言っている。根拠が無いためガールフレンドの臼姫に折檻されているが。

 

 毎度毎度見てて死にそうな攻撃を喰らいながらも笑顔を絶やさないこいつらに半ば呆れながら、俺は飯を食いに寮から出た。

 

 

 

 今の時代超包子は無いので適当な近所の屋台で済ませる。自炊の日もあるが、まちまちだ。

 

「肉うまー」

 

「内藤、約束すっぽかしたわね?」

 

「そんなことないよ、マイハニー」

 

「問答無用」

 

 内藤が臼姫に折檻を喰らっている。臼は回復せず攻撃ばかりするヒーラーの蔑称でもある。

 

「今日も平和だなぁ」

 

「あれみて平和って言えるお前がすげーよ」

 

「違いねーな」

 

 通風と墨樽がそういうが、日常風景だしあの中にたまにお前らも含まれるじゃん。

 

「深いことは気にするな」

 

 そう言ってラーメンを食べ終えた後、ギョーザの攻略に移った。

 

 

 

 今日のシフトはエヴァンジェリンか。夜のシフトのせいで放課後どこかで寝て、それから活動する癖がついてきたな。

 

「よう、エヴァンジェリン。こないだのポーションの効きはどうだった?」

 

「悪くは無かった。が、まだまだだな」

 

「そこはこれから学んでいくから要修練だ」

 

 俺は魔力回復の名目でエヴァンジェリンにポーションを試飲してもらっている。まだまだ下級だが、俺のハルケギニアで鍛えたポーション製造技術があればいずれはエヴァの封印を解くのにも役に立つだろう。と、そそのかしてみた。それ以来退屈しのぎに付き合いが続いている。

 

「じゃあいつも通り俺が前衛でエヴァンジェリンが後衛でいいか?」

 

「誰にものを言っている」

 

「最弱状態で幼女と化している吸血鬼」

 

「ぐっ!」

 

「まあまあ、今夜の分のポーション渡しておくから、後で感想を聞かせてくれ」

 

「しかたあるまい。お前には暇つぶしも兼ねて世話になっている。なんなら後で別荘で鍛えてやってもいいぞ?」

 

「そのときはデルフリンガー(レプリカ)を使うが構わんか?」

 

「あの厄介な魔剣か。まあいいだろう」

 

 最初は袖にされたが、なんだかんだで暇な上、認識阻害をレジストしてエヴァのことを忘れない俺のことを気にかけてくれているらしい。

 

「では魔術師(・・・)、迎撃の時間だ」

 

「了解」

 

 俺は近右衛門に用意してもらった太刀と木に鉄を巻きつけてあるこしらえの鞘を持って、関西弁をしゃべる妖怪どもに突っ込んでいった。

 

「なんや兄ちゃん。遊んでくれるんかいな?」

 

「そうだ、よ!」

 

 まずは抜刀一閃。あえて渦中に入ることにより、戦場をかき回す。

 

「三郎がやられたで! 本気でかかれや!」

 

「メガトンパンチ」

 

「ぐわー!」

 

 何かわめいている鬼に身体強化を全力で行ったパンチを繰り出す。

 

「もうそいつは無視せい! とにかく乗り込むんや!」

 

「クリエイトゴーレム」

 

 俺は過去、友だった奴の得意な魔法を魔術によってエミュレートしたものを唱える。槍、剣、斧を持ったマネキンのような人形が3体手を着いた地面から生えてくる。

 

「行け」

 

 俺の命令により、ゴーレム達はこちらに背を向ける妖怪たちに容赦なく得物を突き刺し、振り抜き、叩き付ける。

 

「ギイイ!」

 

「ぎゃああ!」

 

「うぐぇ!」

 

 程ほどの間引きは済んでいるな。一度退避だ。ここで消耗品は使いたくない。

 

「ふん、いいところに誘導したな。離れていろ。リク・ラク ラ・ラック ライラック 来れ氷精 爆ぜよ風精 弾けよ凍れる息吹 氷爆!」

 

 うん、これ聞いてると遠距離砲台でも無い限り習得する気がしない。せめて魔法の射手くらいは覚えたいと思うんだけど。

 

 そんな俺の考えはさておき、エヴァンジェリンによる魔法で敵の大部分が壊滅した。

 

「引け! 撤退や!」

 

「思ったより今日は早かったな」

 

「気を抜くなよ。と、言ってもお前には釈迦に説法のようなものか」

 

「まあね」

 

 残心の心は忘れない。敵意の感知も常時働いている。

 

「それじゃ、寝ない程度に警戒しておきますか。あ、暇なら魔法の射手でも教えてくれよ」

 

「貴様、初心者の域は脱したのか?」

 

「ああ、プラクテ・ビギ・ナル・アールデスカット」

 

 俺には杖が必要無いので指先から火を灯す。

 

「ふん、魔法薬では世話になっているし、たまの憂さ晴らしも付き合ってもらっている。それくらいはいいだろう」

 

 結論。エヴァの教え方はスパルタなものの、独学よりずっと覚えやすかった。

 

 シフトも終了し、寮へ帰る時間になった。定時って訳じゃないけど、敵が粗方引いたらお呼びがかかる。

 

「じゃあな。夜道には気をつけろよ」

 

「私をなんだと思っている!」

 

「傍目から見るととても可愛い女の子」

 

「馬鹿にするな!」

 

 馬鹿にしたつもりは無いんだけどな。可愛いのは事実だし。

 

「まあ、この時間変態が出ても残りの魔法薬と体術で何とかなるだろうし、言うほど心配はしてないよ」

 

「ふん!」

 

 ありゃ、ご機嫌を損ねてしまったようだ。今度お詫びに何か茶菓子でも持っていってあげよう。

 

 そろそろ空が白み始めそうだ。帰って仮眠を取ろう。そう思い帰路に着くのであった。




 日常と戦闘回。エヴァちゃんとの掛け合いはいつもこんな感じです。


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3話

 おはようございます。台風で休みになったので執筆しました。


 学園生活も落ち着き、街を散策していたらロボ研のロボトリケラが暴走していた。

 

「相変わらず非常識な街だなぁ」

 

 俺の進路方向には来ないのでこの際無視。誰か広域指導員が止めるだろうと考えてのことだ。一学生が悪目立ちとかしたくない。

 

 だが、俺のうかつな一言を聞いているものが居たのであった。

 

 

 

「あの、この街が非常識だって本当に思いますか?」

 

 俺にそんな話を持ちかけているのは小学低学年くらいの女の子。

 

「うん、そうだけど。君のお名前は何かな? 俺の名前は平賀才人って言うんだけど」

 

「あ、ごめんなさい。私の名前は長谷川千雨です」

 

「うん、千雨ちゃんか。よろしくね」

 

「は、はい。よろしくお願いします・・・・・・」

 

「とにかく、立ち話もなんだしお茶でも飲もうか。コーヒー飲める? それとも紅茶がいいかな?」

 

「ミルクと砂糖入りならコーヒーも飲めます」

 

「ならスタブにでも行こうか」

 

 

 

 そしてスタブで幼女の相談事を聞いている。

 

「私、実は周りから変って言われてて・・・・・・どう見てもオリンピックの人たちよりこっちの人たちの方が早いのにみんなはオリンピックの人たちを見て話題にしてるし、大きすぎる木があるし、わけが分かりません!」

 

「千雨ちゃん、気持ちは分かるけどもうちょっと声を小さくね」

 

 しーっと言うジェスチャーをする。

 

「あ、すみません」

 

「うん、それじゃ、その答えを言おうか。気を強く持ってね」

 

 俺は周囲に「ここには居たくない」と言う呪を飛ばす。オープンテラスだからそこまで違和感は無いはずだ。

 

「うっ」

 

「この力は呪い、裏返せば祝福や加護って力になるものかな。周りが変なのは、認識阻害って言う魔法をかけられているせいなんだ」

 

「え、ええ!?」

 

「まあ、いきなりこんな突拍子も無い話をしても仕方がないよね。でも事実なんだ。この世界には魔法使いが居る。そして魔法使いがここを隠れ蓑にするために認識阻害って言う「周りが違和感を持たない」魔法を使っているんだよ」

 

「そんな・・・・・・」

 

「でも悪いことばかりじゃない。外では非常識として扱われる人間がここでは受け入れられる。そういう土地なんだよ。ここは」

 

「でも、私はこんな土地じゃなくて普通の土地に住みたかった!」

 

「まあ、そうだろうね。君みたいな異常を異常として認識しちゃう子には難しいだろうね。だから、一つ解消する手段をあげる」

 

「え?」

 

「不満が溜まったら俺に愚痴をこぼしに来るといい。異常に遭遇したらなんとかするために、ここでは中国拳法などの気というものが使えるらしいんだ。だから、何か運動系の部に入って身体を鍛えてたら土地柄、自然と身につくと思う。そうすればあんなロボットに轢かれるようなことも無いだろうし」

 

 幼女には優しく。紳士足る勤めだ。

 

「それで、それでなんとかなるんですか? 友達から仲間はずれにされないんですか?」

 

「少なくとも君が異常を異常として認識して、その上で見過ごせるんだったら大丈夫だと思うよ。最低でも知人は出来る」

 

「ふ、ふえぇ、おにいざん」

 

 心細かったのだろう。だが、今しばらくの間は大丈夫だと思う。千雨ちゃんの頭を撫でながらそう思った。

 

 

 

 それから数日、以前から飲んでいた蟠桃製ポーションが魔力の最大値を上げることに気が付き、中級魔法にでも手を出そうかと思っていた。ちなみに俺の得意系統は何故か全部で、苦手なものが無い。これも元の世界でニュートラルな属性を維持していた結果なのかもしれない。

 

 そういうことで、中級魔法の本をトレジャーハンティングしようと図書館島に向かっていた。俺に取って致死性の低い罠はむしろ小遣いになるんだぜ。

 

 ちなみに俺は図書館探検部の幽霊部員だ。好きに行き、理不尽に休む。図書館探検部と言ったらゆえ吉に遭遇するかと思ったらあの子中学からの編入だっけ? 遭遇しなかった。

 

「あれー? 珍しい奴が居る」

 

「羽田か」

 

 こいつの名前は羽田。やかましい女子だ。

 

「せっかく企画してるんだから、もっと顔出しなさいよー」

 

「悪いな。俺は目的のものを手に入れるために入ったんだ」

 

「怪盗風に言ってもだめよー」

 

「とにかく、今日も目的のものは見つけた。あばよ」

 

「まてー」

 

 適当に撒いた。

 

 

 

「えーと、集え氷の精霊 槍もて迅雨となりて 敵を貫け・・・・・・か」

 

 現在俺は氷属性の魔法を集中して覚えている。光だと可視光の時点でまぶしいだろうし、火は燃え移るので論外だ。残るは水、氷、闇、風、雷、土くらいだったので、攻撃力が高そうで汎用性も高そうな氷から着手していた。

 

「次は復習しておくか。氷結 武装解除」

 

 標的にした雑巾もどきになっているTシャツが氷の破片となってばらばらになる。うん、こういう小手先の技は俺好きだ。

 

「最後に、弾薬を増やしておくか」

 

 俺はガンドルフィーニ先生のツテで弾薬の母型を手に入れることに成功していた。薬莢は繰り返し固定化をエミュレートした魔術をかけているので大丈夫だが、.454カスールと20ミリの弾頭、それにシングルベース火薬は暇を見て毎日貯めている。

 

 今俺が持っているのはXフレームに.454カスール弾を6連装にし、ロッド二点保持で頑丈に作ったリボルバーと中折れ式単発20ミリ砲、カルバリンだ。他には学園長から貰った刀とデルフリンガー(レプリカ)投げナイフなどの暗器。鉄靴など。これくらいだ。

 

 ああ、忘れてた。ミカンとのリンクがどうも切れていないようだ。外に出て呼んでみよう。

 

「我が名は平賀才人。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ」

 

 ハルケギニアにある魔法は俺の生前にほぼエミュレートは終わっている。格差はほぼ無く、貴族だけの地位にしがみつこうとした愚か者は平民の手によって引きずり降ろされた。それでも貴族足らんとするものだけが残ったのだ。

 

『マスター!』

 

 そこには15メイル・・・・・・いや、15メートルを超す立派な竜。それが思い切り突っ込んできた。

 

「うおあっ!」

 

 それをスルー。流石に轢かれるのは勘弁して欲しい。

 

『ああっひどいですマスター! マスターとミカンとの感動の抱擁が!』

 

「その図体で突っ込まれたら死ぬわ」

 

 ともかく思いつきだが、召喚してしまった。どうしようか。

 

 俺は携帯を取り出し、学園長に電話をかけた。

 

「ああ、すみません夜分遅く。平賀です。実は前の世界で飼っていた竜を召喚してしまいまして」

 

 

 

 俺のせいで緊急会議を開くことになった。

 

「この度は集まってもらって感謝する。題目は平賀君がうっかり召喚してしまった飼い竜についてじゃ」

 

「学園長! その竜は危なくないんですか?」

 

『失礼ですね。マスターに危害を加えない限り危ないことなんて無いです!』

 

「これは、念話か?」

 

『マスターに教えてもらいました♪』

 

 自慢するように強調するミカン。人間じゃなくてもそのドヤ顔は分かるぞ。

 

「思ったより理性的ですが、この巨体はどこに隠しておけば・・・・・・」

 

「図書館島には先客が居るしのぅ」

 

「なんのお話ですか?」

 

「いいや、なんでもないぞい」

 

「学園長」

 

 ここで俺が手を挙げた。

 

「どうしたのかの? 平賀君」

 

「確かここの幻術って質量をもごまかせるんでしたよね。うちに新種のトカゲとして小さくして置いておいてもよろしいでしょうか?」

 

「うむ、それだったらなんとかなるじゃろ。幻術は2ヶ月間のうちに覚えること。それまではこちらで薬を支給しておこうかの。なんじゃい、思ったより丸く済んだの。皆のもの、お騒がせしたぞい。解散じゃ」

 

 この言葉に納得はいかないもののと言った具合で撤収していく魔法生徒や魔法先生たち。その中でエヴァが面白そうな顔でこちらを見ていた。

 

『平賀、その竜の血液をよこせ。その竜からは凄まじい魔力を感じる。もしかしたら封印を解く鍵になるかもしれん』

 

『きゅいい!? マスター! ミカンはろくに知らない吸血鬼に噛まれたくないです!』

 

『注射器を用意するからそれで勘弁してくれ』

 

『注射も嫌~!』

 

 エヴァの念話はともかく、ミカンの念話は漏れていたのでそれでまたひと悶着あった。




 ミカン召喚の回。エミュレートした魔術はハルケギニア魔法より汎用性を高めています。ベルカ式とミッド式みたいなものです。


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4話

 本日2度目の投稿です。やはり私に守りの姿勢は似合いませんね。


「斉藤君ったら酷いんですよ! いくら私が避けられるようになったとは言えシャイニングウィザードは無いです!」

 

「確かに女の子にすることじゃ無いな」

 

 あの邂逅から半年、千雨ちゃんはボクシングを習いだし、メキメキ頭角を伸ばしていた。違和感を見逃さない性質のせいか「目」がいいんだろうね。

 

 そんな千雨ちゃんは案の定ガキ大将に目を付けられ、返り討ちにしたと言う報告のついでに小学生特有のルール無用な残虐ファイトに愚痴をこぼしているところだ。

 

「まあ、そんな斉藤君もダッキングして叩き落としてやりましたけどね!」

 

「ラビットパンチとかしてないだろうね?」

 

「流石の私もそこまでのことはしません」

 

 ラビットパンチとは相手の後頭部に打つパンチのことだ。ジッサイキケンなので真似しないで欲しい。

 

「それで才人お兄さん、今日のトレーニングですが・・・・・・」

 

「うん、どうする? 軽くやっていく?」

 

「はい、私は拳しか使えないので懐にもぐりこむためのトレーニングをお願いします」

 

「分かった。プロテクターは持ってきてるね?」

 

「はい」

 

「ならいつもの場所に行こうか」

 

 俺と千雨ちゃんは都市部からやや離れた森へと移動した。

 

 

 

『ミカン、いつものように周囲の警戒を頼むな』

 

『分かりました! けど、そろそろマスターとのデートを所望します!』

 

『お前幻術で人間に化けてしゃべろうとするとなんか足りない子みたいになるからなぁ』

 

 今の時点で足りてない気がするけど。

 

『そんな、ひどい! ミカンはこんなに尽くしているのにマスターはご無体なことを!』

 

『あー、分かった分かった。なら明日連れて行ってやる』

 

『わーい』

 

「またミカンちゃんと話していたんですか?」

 

「そうぷくーってしないでくれないかな? それにペットに焼餅焼いても仕方ないだろうに」

 

「ペットの分際であんなボインボインになるからです」

 

 千雨ちゃんがじとーっとした目で俺を見てくる。それでも俺は妻が5人居た経験があるんだ。あいつ自身は積極的なつもりでも正直じゃれてるようにしか感じんよ。

 

 ミカンは半年前広域念話しか覚えていなかったため、指定した相手のみに対する念話を覚えさせた。知のルーンがあるから幻術を覚えさせるついででも簡単なことだが、どうしてあんな性格になったんだ。姉貴分がアホの子だったせいか。

 

 俺が懊悩してる間に千雨ちゃんも準備が完了したようだ。

 

「着け終わりました。いつでもいけます」

 

「分かった。まずは小手調べ。ワレ カミノタテ ナリ 闇の精霊 5柱 魔法の射手 連弾 闇の5矢」

 

 付属効果が比較的少なく、癖が無い闇の属性で魔法の射手を放つ。目くらましも目的なら光属性なんだが、今回はトレーニングなので殺傷能力が高い氷や土、服が濡れる水、焦げる火、痺れてトレーニングにならない雷、視認しにくい風などを消去した結果だ。

 

 この魔法の射手は身体強化なしのストレート一発分の破壊力を持ち、低学年の小学生なら一発で身体が浮き上がる。なのでプロテクター越しでも無いとこれですら危なくて使えない。

 

「ふっ、ふっ、ふっ!」

 

 正直魔法の射手の初速はエアガンよりも速い。それが5連発、不規則な軌道で襲ってくる。それを千雨ちゃんはダッキングとパリイングで避け、いなしながら俺に向かってくる。

 

 どうしてこんなことをしているのか? それは千雨ちゃんが言った言葉が原因だ。

 

『私、耐えるばかりなのはもう嫌なんです! 才人お兄さん、私を鍛えてください!』

 

 そんなことを言われたら紳士として応えないわけには行かない。「相当痛いけどいいのかい?」と言う前置きをして、それでもやりたがる千雨ちゃんを見て了解した。

 

 流石に最初の数ヶ月、肉体面はボクシングに専念してもらった。それから単発の魔法の射手から始め、除々に数を増やしてきたのだ。

 

 もちろん最初の数ヶ月何もしていないわけではない。その精神耐性の強化と、あえてかかる振りをするための仮想人格を構築した。即席ではなく千雨ちゃんの協力の下、完全に本人と差異の無い人格に仕上げたつもりだ。これが起動していても本人の人格は起きているので隙を見て行動する方針である。

 

 そして今、俺が引き撃ちをしながら千雨ちゃんは俺に一発当てることを条件にトレーニングをしている。

 

「ワレ カミノタテ ナリ 闇の精霊 14柱 魔法の射手 連弾 闇の14矢」

 

 普通、小学校低学年の子を身体強化無しとは言え本気で殴ったら大変なことになる。だがここは麻帆良。異常が普通になる土地なのだ。

 

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ!」

 

 その証拠にただ目が良いだけの子が半年鍛えただけで14発もの連撃を避ける。今日はここまでかな。

 

「しっ!」

 

 身長差から俺の腹部にストレートを放つ千雨ちゃんの拳を受け止める。

 

「今日はここまで。クールダウンはしっかり行うこと。いいね?」

 

「はぁ、はぁ、はい」

 

 ほぼ無呼吸運動で隙間を縫うように避けているのだ。面で避けられるなら呼吸する機会もあるのだが、千雨ちゃんの歩幅は狭い。こうでもしないと避けられない。

 

「よし、夕食に響かない程度なら何かおごってあげよう。何が良い?」

 

「アイスが食べたいです」

 

「分かった。でもその前に水分補給だ。ポカリをおごってあげよう」

 

 俺はミカンの分も含めて3本用意したポカリを出しながら言った。

 

 

 

 その後千雨ちゃんとミカンにアイスをおごった後仮眠を取り、夜の警備に当たっていた。

 

「今日はガンドルフィーニ先生ですか。よろしくお願いします」

 

「む、平賀君か。よろしく」

 

 最初の内は騒動を起こしてしまったが、今は落ち着いているし闇の福音(ダークエヴァンジェル)ことエヴァンジェリンの抑え役として活躍しているので取り立てて問題にされていない。

 

「では、いつものように平賀君がフロントを頼む。バックアップは任せてくれ」

 

「分かりました。では、そのように」

 

 俺は中級魔法を数発使うと魔力が底を尽きてしまうため、大源(マナ)を取り入れブーストしながら戦うのが主流だ。そのため近接戦闘がメインとなり、ハルケギニア魔法では大雑把な攻撃になりがちなので前に出るのが基本である。幸い蟠桃のおかげで大源(マナ)が豊富だ。それにこのまま続けて蟠桃製ポーションを飲み続ければ上級魔法も撃てるだろう。

 

 ただ待つだけでは芸が無いな。

 

「クリエイトゴーレム」

 

 俺はゴーレムを20体ほど作る。内5体は独立し、下位ゴーレムに命令を飛ばすためのガーゴイルだ。

 

「そろそろ来ます」

 

「分かった。健闘を祈る」

 

 今回は便利そうだから覚えた、影を使ったゲートは必要ないな。と思いつつ、こちらから迎え撃つべくゴーレムに突撃の命令を下すのだった。

 

 

 

「ふう」

 

 今日も疲れた。だが、ほぼ毎日シフトが入っていると昔の勘を取り戻すのも早い。

 

 そうでも考えないとスケジュールがハードでやってられないと思いながら、帰るためにゴーレムを土に戻す。

 

『平賀』

 

『ん? エヴァンジェリンか?』

 

 普段こちらから話しかけないと話題を振ってこないのに珍しいな。

 

『お前の竜の血液から作った「竜の血清」、吸血鬼である私とすこぶる相性がいいらしい。これの研究を続けられればいずれは自力で封印を解けるだろう』

 

『そうか。それは良かった』

 

『こう聞くのもなんだが、お前は人間で、私は吸血鬼と言う化け物なんだぞ? どうしてそうも親切にする?』

 

『何、仲良くしておけばいいことあるかなくらいの打算はあるさ。あとは俺は転生を2度経験している。昔の知人曰く「例外なるもの」らしい。ついでに言うとエヴァ、君が可愛いからかな』

 

『ばっ! 馬鹿者!!』

 

『そういう反応が可愛いんだ。つまり外見だけが可愛いとは言っていない。それに、エヴァンジェリン、君よりよっぽど化け物な奴を寿命で死ぬ前に見てきた』

 

 嫁の叔父さんとか嫁の母親とか。

 

『君が何人殺してきたのかは知らない。知ったかぶるつもりも無い。だけど俺も理由はどうあれ数多もの屍を築いてきた。いや、原型をとどめていれば良いものだってたくさんあった。そんな俺が言おう。まだまだ人生楽しいことはあるよ』

 

 実際3度目の人生だがそれなりにエンジョイしている。そう、人生エンジョイ&エキサイティングだ。

 

『・・・・・・馬鹿者・・・・・・』

 

『少なくとも死んだことが無い君に2度死んだ俺からの助言だ。ありきたりかもしれないけど、やり直せるし、頼れる奴は頼ったほうが良い』

 

『・・・・・・竜の血』

 

『うん?』

 

『そこまで言うのなら、竜の血、リットル単位で貰おうか。私自身が飲む用と、「竜の血清」研究用だ。まさか嫌とは言わんよな?』

 

『了解。3リットルほどでいいか?』

 

『・・・・・・まさか本気で了承するとは思わなかったぞ』

 

『少しミカンの機嫌を取るのが難しいだけだ。それくらいだったらあいつの生命力ならピンピンしている』

 

 何しろ魔力過多で地盤が浮き上がるハルケギニア製の竜だからな。

 

『だが頼ってくれてうれしいよ。どんな形であれ、な。俺も人だ。理不尽な別れがあるかもしれない。だけど、出会いまで否定する必要は無い。俺も妻達と寿命によって別れてしまったが、後悔は無い』

 

 あいつらなら今も国を元気に存続させているだろう。

 

『一世紀も生きていない若造が偉そうに語るか。まあ、それも今日は聞いておいてやる』

 

『一世紀は生きてるかな』

 

『何?』

 

『2度転生したって言っただろう? 合計するとそれくらいは生きているんだ』

 

『ふっ、これは一本取られたな』

 

『お褒めに預かり光栄だよ』

 

『竜の血は一週間待ってやる。搾り取ったらその足で持って来い。純粋な客としてもてなしてやる』

 

『それは嬉しいな。エヴァンジェリンの淹れる紅茶、美味いから好きなんだ』

 

『世辞はいい。茶請けはスコーンだが構わんな?』

 

『ああ、むしろそういったシンプルなものが良いな。紅茶も何も入れない状態で楽しみたいからね。まあ、ジャムが余ったらロシアンティーでもいいけど』

 

『貴様と話しているとどうも調子が狂う。話は以上だ』

 

『分かった。吸血鬼の君にはおやすみはふさわしくないか。なら、良い夜を』

 

『ああ、おやすみ、人間』

 

 気がついたらずいぶん長く話し込んでいたな。さて、ミカンをどうやって説得したものか。寝る前に考えておこう。




 地味に100年ほど生きている才人君。こんな人生観なので化け物に対しては独自の価値観があります。


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5話

 ミカンとのデート回。


 さて、今日はミカンとのデートの日だ。あいつは姉貴分と違って俺とペアルックするのが嬉しいらしく、鼻歌を歌いながらジーパンとTシャツを咥えて行った。

 

「ふん、ふん、ふふ~ん、今日はマスターとデート♪」

 

 ご機嫌なようだ。こりゃ血をくれって言うのは明日にしよう。

 

「じゃーん、どうですマスター? 似合います?」

 

 着替え終わったらしいミカンが風呂場から出てきた。ここで描写しておくと、160cmほどの身長にエメラルドグリーンな髪をストレートに伸ばしている。目も髪と同じ色で、細身だがボリュームのある胸と臀部をしている。どうもこいつの姉貴分の色違いのような印象を受けるが、言わぬが花だろう。

 

 服装は大雑把なサイズでも合うレディースのジーパンにへその辺りで縛ったTシャツ。シャツは俺のなのでぶかぶかなのだ。そのため肩口からスポーツブラが覗いている。

 

「ああ、似合う似合う。この間みたいにサンダル履き忘れて痛い思いしないようにな」

 

「もう、子供扱いして! ミカンは立派なレディなんですからね!」

 

 レディはもうちょっと慎み深いと思う。

 

「そんなこと言ってお前まだ50そこらじゃないか。竜は長生きだから世紀単位じゃないと精神に大きな違いが出ないだろう。まだまだ背伸びする子供と変わらんよ」

 

「むぅー!」

 

「ほれ、むくれてないで今日はお前の好きなの買ってやるぞ。まずは焼肉食べに行くか」

 

「お肉!」

 

「そうだ、食べ放題だぞ。その身体だといつもよりは入らないと思うけど思う存分肉が食えるぞ」

 

「早く行きましょうマスター!」

 

「引っ張るな。大体お前は店の場所も分からないだろう」

 

 最近はドッグフードとか味の薄そうなのばかりだったからな。ものすごい張り切ってる。

 

「お前は骨付きカルビでも骨は齧っていたな」

 

 店ではあんまり行儀の悪いことはしないで欲しいんだけどな。

 

 

 

「ほら、エプロン着けてやるから後ろ向け」

 

 俺は効率主義の無駄が嫌いな店主が営む焼肉屋JOJO苑に来ていた。

 

「ミカンのうなじを見て興奮してもいいんですよ?」

 

「誰がするか」

 

 確かに綺麗なうなじだが。

 

「あん♪ くすぐったいですマスター」

 

「あんまりくねくねするな。やれやれ、個室を取っておいて正解だったな。ほれ、もういいぞ」

 

「え~もうちょっとスキンシップをですねぇ」

 

「それは肉食い終わった後でもたくさん取れるだろう。今は肉の時間だ」

 

「それもそうですね。それにこっちの世界のお肉は柔らかくて顎が退化しそうなくらいに噛み千切りやすいからたくさん入ります」

 

 こいつの顎もそうだが、身体は当初肩に留まれる程度の大きさだった。それが歳を追うごとに大きくなり、普通の竜を大きく上回る成長速度を見せている。こいつは火と風の竜のハーフだが、何か魔法的なもので遺伝子をいじくられたのかもしれないな。あの世界には自力で脳移植を行った魔法使いも居たのだから。

 

 そんなこともあってこいつの歯はよく生え変わる。おかげで竜の牙がインフレ状態のようにぽろぽろと抜けるので、ストックして置いてあるのだ。サメの歯のようだと思った。

 

「鳥は火が通りにくいから端で焼いておいて、半生でも大丈夫な牛からいくぞ」

 

「はやく、はやく!」

 

 炭火の網の上に鳥肉と牛肉を置いていく。

 

「今の内にレバーでも注文するか」

 

「はい、ミカンがボタンを押したいです!」

 

「連打はするなよ」

 

 すると店主が「無駄ぁ!」とか言って飛び込んでくるからな。美味いんだがそれが玉に瑕だ。

 

「はーい」

 

 カチッとミカンがボタンを押す。間もなく店員がやって来た。

 

「ご注文をどうぞ」

 

「生レバーとユッケ2つずつ」

 

「かしこまりました」

 

「あ、ミカンこの石焼ビビンバって言うの食べたい!」

 

「石焼ビビンバ追加で」

 

「かしこまりました」

 

 店員が下がっていく。

 

「ミカン、ビビンバ食ったことあったか?」

 

「ううん。でもなんとなく美味しそうだったから」

 

「お前は生肉よりはどちらかというとカリカリに焼いたウェルダンが好きだからな」

 

 火竜の血が入っているせいかね?

 

「そろそろ牛は大丈夫だろう。ほれ、食え」

 

「わーい」

 

 ひょいひょいとミカンの皿に肉を拾って移す。それをミカンは何も付けずにパクパク食べる。あまり人間の食べ物に慣れさせない方針が生きたのか、薄味でも喜んで食べる。ほんと、あの時は苦労したよ。

 

 俺も何切れか拾い、たれを付けて食べる。やはり最初は塩だれだな。ステーキだったら塩コショウのみが好きだ。

 

 食べてる間にレバーとユッケが来た。規制が入る前だから今の内に食べておかないとな。

 

「ほら、レバーだぞ。たくさん食べて血を作っておけ」

 

「・・・・・・? 分かりました!」

 

 俺は生で、ミカンは火を通してレバーを食べる。その間にユッケを攻略する。

 

「よく噛むと頭に良いらしいからな。しっかり噛むんだぞ」

 

「あっちのお肉と比べると噛んでたらすぐに溶けてなくなっちゃいますよ」

 

「なら、次は骨付きでも頼むか」

 

「わーい、骨付きー!」

 

 流石のミカンでも人に化けている間は骨を噛み砕くのに時間がかかる。その間俺はゆっくり食っておこう。

 

「もっかいミカンが押したいです!」

 

「連打するなよ」

 

 俺達は炭水化物も野菜も摂らず、ただひたすら肉をメインに食うのであった。

 

 

 

「おなかいっぱいです」

 

「そうか、それは良かった」

 

 俺は糖尿を恐れて中年期から甘い炭酸を控え、砂糖の入っていないものしか飲んでいなかったせいで今も癖で買ってしまった砂糖抜き炭酸をミカンと飲みながら公園でまったりしていた。

 

「マスター、お肉たくさん食べたら眠くなってきました」

 

「食べてすぐ寝るとぶくぶく太るぞ。それなら少し歩きながら何か買い物でもするか」

 

「そうですね。そうしましょう」

 

「お前にはそうだな。アクセサリーとか見繕ってやろう。ついでに予備の服だな。耳飾りだったら竜に戻っても大丈夫だろう」

 

「えー、痛いの嫌ですよー」

 

「ピアス用の奴はそこまで痛くないから大丈夫だ。それに少し洒落っ気を出しても似合うと思うぞ」

 

「マスターがそう言うなら・・・・・・」

 

「決定だ。ならシンプルな奴がいいか。あんまり華奢な奴だと飛んだ時にどっかに行ってしまうからな」

 

「あ、どうせならマスターが作ってくださいよ。いつぞや奥さんに贈ってたじゃないですか。あれいいなー。でも痛いの嫌だなーって思ってたんで」

 

「分かった。それだったらアミュレットにしてもいいな。王になってからもっぱら贈られる側だったから作るのも久しぶりだ」

 

「マスターのならどんな形のでもいいです」

 

「そう言われたら気合を入れて作らないといけないな」

 

「ふふっ♪」

 

 竜の中ではなく、人間社会の中で過ごしてきたせいかこんなところばかり耳年増になってからに。成長が早いのを喜ぶべきか・・・・・・。

 

「なら、次は服だ」

 

「えー、いいですよ。マスターとお揃いですし」

 

「もうちょっと娘に着飾ってもらいたいと言う親心だ」

 

「女性として見てくださいよぅ」

 

「お前は卵の頃から見守ってきたんだ。そう易々と覆ると思うなよ」

 

「絶対に振り向かせてみせるんですから!」

 

 我ながら下種いが後でこれを利用させてもらおう。

 

「なら、今度の注射、我慢できたらちゅーしてやろう」

 

「えっ、マジで!?」

 

「ああ、本当だ」

 

「マスター! 歯磨きを教えてください!」

 

「残念ながら明日まで限定なんだ。頬で我慢しろ」

 

「ちぇー」

 

「どうしてもって言うなら歯ブラシを買ってやる。最初は教えてやるから後は自分で練習するんだな」

 

「しょうがないです。今回はそれで我慢します」

 

 かかった。明日エヴァンジェリンのところに血を持っていこう。

 

「よし、今度こそ服を買いに行くぞ」

 

「分かりましたー」

 

 ついでに靴も買ってやるか。

 

 

 

「うー、マスター、なんかヒラヒラして落ち着かないです」

 

「可愛いじゃないか」

 

 あれから数店舗歩き、今のジーパンに合うTシャツ数点とホットパンツ、サマードレスにスニーカーとサンダルを買ってやった。下着は完全に店員任せだ。

 

 それから店員の勧めと俺の希望でミカンはサマードレスを着ている。オプションに麦藁帽子を被って。

 

「うん、こういうレトロなのも悪くないな。むしろ下手に流行を追うより良いかも知れん」

 

「マスターはいいですよねー。私はあの人間の着せ替え人形にされて大変だったんですよ」

 

「いやいや、婦人服売り場で待っているのも結構な苦痛なんだぞ?」

 

 割とマジで。

 

「そういうことにしておいてあげます。そ・れ・よ・り、マスター。忘れているものはありませんか?」

 

「忘れてはいないがもうちょっとムードを気にするものだとばかり思っていたんだけどな」

 

「この際ムードは抜きです! あの(・・)マスターが少しとは言えその気になってくれたんですから、待ちきれません!」

 

「しょうがない奴め」

 

 俺はミカンをぐいっと抱き寄せた。

 

「あっ」

 

「心の準備はいいか?」

 

「ちょっと待・・・・・・いえ、いつでもどうぞ!」

 

「なら遠慮なく」

 

 その頬にチュッとしてやった。

 

「マ、マ、マスター・・・・・・」

 

「俺を振り向かせたかったら、種族すら超えて見せたかったらもっと良い女になれ」

 

「はい・・・・・・」

 

 それからのミカンはとてもしおらしく、残りのデートを手を引かれるまま過ごしていた。正直俺もにんにく入りのたれを食べた後は口臭が気になるんだよ。ミカンの奴はたれも何も付けてなかったが。




 才人君は前の世界でよく親しい人に接吻とかしてたので頬くらいはノーカンレベルです。半世紀以上異世界で暮らしてるとね。


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6話

 2千字ほど入力したところで一度PCの電源が落ちました。許すまじ。


『もうらめぇ』

 

「こんなもんか」

 

 俺はミカンを郊外の森で竜の姿へと戻し、血液を採取していた。ミカンは最初こそ平気だったものの、次第に溜まっていく己の血液を見て気分が悪くなったようだ。

 

「それじゃ、俺はこれを届けてくる。血液補給用にレバーを出しておくから後で気分がよくなったら食べるんだぞ」

 

『マスターはもうちょっとミカンのことを気に掛けてくれてもいいんですよ・・・・・・?』

 

「それくらい元気なら平気だな。行って来る」

 

『そんなーマスタ~』

 

 俺はミカンを置いてエヴァンジェリンの家へと向かった。

 

 

 

 コンコンコンコンと4度ドアノッカーを叩き、扉の前で待つ。現在俺が居るのはエヴァンジェリンの自宅であるログハウス前である。

 

 しばらく待っていたらドアからガチャリと言う音。入れと言う事か。

 

「お邪魔します」

 

 一応挨拶しておく。挨拶は大事だ。

 

「ようこそ、平賀才人。約束のものは持ってきているな?」

 

「こちらに」

 

「ふむ、よかろう」

 

 渡したらエヴァンジェリンは影のゲートにペットボトル2本分の竜の血を収納した。

 

「掛けて待っているが良い。茶を淹れて来る」

 

「分かった」

 

 ちなみに今のエヴァンジェリンはアダルトモードだ。部屋着なのか太ももがまぶしい。

 

「苦手なものは無かったな? 有っても食わせるが」

 

「無いよ」

 

 アレルギーとは無縁だ。

 

 そして待つこと数分、紅茶とスコーンを持ってエヴァンジェリンは出てきた。

 

「まずは余計な言葉はいらん。貴様は客なのだから遠慮なくもてなされろ」

 

「ああ、遠慮なくいただくよ。だが、どうしてそんな薄着なんだ?」

 

「ふふ、気になるか?」

 

「目のやりどころには困るな」

 

「ふふふ」

 

 エヴァンジェリンはご機嫌だ。

 

「ともかく、いただく」

 

「ああ、遠慮するな」

 

 それからは飲食に集中し、美味い紅茶とスコーンを堪能した。

 

 

 

 紅茶とスコーンで一息つき、俺達はくつろいでいた。

 

「なあ、エヴァンジェリン」

 

 ふと気になったので話を切り出す。

 

「なんだ?」

 

「不躾かもしれないが、君が一度「光」を受け入れようとしておっかなびっくりなのは昔何かあったか?」

 

「貴様に何が分かる・・・・・・!」

 

「分からん。君じゃないからな。だが、少なくとも君は「光の側」に対し抵抗感があるようだ」

 

「・・・・・・そうだな。貴様には話しても良いかも知れん」

 

「あれは何年前だったか・・・・・・とある一人の男が私を助けた。それだけではなく、食事を提供し、私の正体を知ってもなんら態度を変えることなく接してきた。私はその男が欲しくなったんだ。だから「私のモノになれ」と言った。だが、男は私をこの学園に封印し、卒業の時期になったら呪いを解いてやると行って去っていった。それが9年前だ」

 

「となるとその男は行方不明か」

 

「分からん。死んだとも聞いたが、私は信じていない。だが、4年目が経過し、また私は1学年に戻され、高校に進学した級友は私のことを忘れていった。そんなことが2度訪れ、私には「光に生きること」が枷となった」

 

「惰性で送る日々、一向に解けない呪い。何しろあの馬鹿が力任せに掛けた呪いだからな。複雑に絡まって相当厄介な代物と化している。だが、そこで貴様が現れた」

 

「そんな貴様は私のことを、悪を受容した。おまけに「自分は2度死んでいるから化け物程度がなんだ」とな。ここのぬるま湯に浸かった連中とは違う、血の匂い、明らかに戦場を知っている匂いだ。それも相当な修羅場を潜った。それが説得力を持たせた。そして貴様は私に「今からでも光の側に生きていても良い」と示した」

 

「もう一度言う、貴様はここの連中とは違う。貴様となら同じ道を歩んでいけるだろう。「私のモノになれ」」

 

「話は分かった。だが、俺も負けず嫌いでね。よってこうしよう。君が勝ったら俺は君のものとなる。だが、逆に俺が勝ったら、君は俺のものとなれ」

 

「ふ、ふふ、闇の福音(ダークエヴァンジェル)にそんな啖呵を切るとはな。よかろう。一時間待ってやる。準備が出来たら別荘に来い」

 

「分かった。一度外で準備をさせてもらう」

 

「分かった。先に待っているぞ」

 

 そうして一度俺とエヴァンジェリンは別れた。

 

 外に出た俺は自分の影から武具を一式取り出した。装備して身体を軽く温める。

 

 準備が出来たらダイオラマ魔法球、通称「別荘」の魔法陣の上に立つ。

 

「待ったか?」

 

「いいや、今一度己を見つめなおすことが出来た」

 

「それは良かった」

 

 戦闘前に軽口を叩き合う。

 

「貴様の準備は出来ているな?」

 

「ああ、でもどうせならこのコインが落ちるのを合図にしようか」

 

「いいだろう」

 

 俺とエヴァンジェリンの距離は20メートル程、だが、この距離も縮地を極めた俺にとっては一瞬の距離だ。逆に他の魔法生徒や魔法先生が使っている瞬動の方が使いにくそうだと思った。空中に足場も作れるからそれにも問題なく対応出来る。

 

 だが、エヴァンジェリンはダイオラマ魔法球である程度魔力が戻っているとは言え近接戦でも合気道の達人だ。うかつに近寄ると関節を極められ即座に終わる。

 

 俺はコインをトスした。

 

 1秒程でコインが乾いた音を立て地面に落ちる。

 

「リク・ラク ラ・ラック ライラック 闇の精霊 29柱!魔法の射手 連弾 闇の29矢!!」

 

「ラナ・デル・ウィンデ、エアハンマー!」

 

 俺はエヴァンジェリンの放った魔法の射手の直撃コースのど真ん中にハルケギニアで魔術にエミュレートしたエアハンマーを撃った。同時にリボルバーを引き抜き、十字を切るように右肩、胸、左肩、頭、下腹部に銀の弾丸を叩き込んだ。

 

「この程度で止まると思うな!」

 

 エアハンマーの余波と拳銃弾を障壁により防がれる。だが、それも読んでいた。俺はもう片方の手でカルバリンを保持し、障壁に一番ダメージを与えていると思われる胸にもう一度弾を叩き込む。

 

「がっ!?」

 

 流石に20ミリは効いたのか、吹き飛ぶエヴァンジェリン。だが、直前に飛んでダメージを逃がしていた上に相手は吸血鬼だ。これくらいで死んだりしないだろう。

 

 油断無く袋から竜の牙を一掴み取り出し、周囲に撒く。

 

 すると俺特製の竜牙兵が地面から姿を現した。

 

「錬金」

 

 全ての竜牙兵に銀の鏃の着いた矢筒、弓を錬金する。全金属で重量も張力も並みの人間では引けない代物だ。

 

「ユキビタス・デル・ウィンデ」

 

 さらに分身を4体作る。

 

『カッター・トルネード』

 

 全力も全力だ。分身を含め5人でエミュレートしたスクウェアスペルを惜しみなく放出し、瓦礫ごと粉にする勢いで真空を纏った竜巻を発生させる。

 

 竜巻が晴れると、そこには服をボロボロにしながらも笑みを浮かべるエヴァンジェリンの姿があった。

 

「射れ」

 

 竜牙兵に命じ、弓を一斉に射る。障壁でいなし、回避するエヴァンジェリン。

 

「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ、ウィンディ・アイシクル」

 

「ラグーズ・ウォータル・デル・ウィンデ、アイス・ストーム」

 

「ウル・カーノ・ジエーラ・ティール・ギョーフ」

 

「ライトニング・クラウド」

 

「ワレ カミノタテ ナリ 氷の精霊 17柱 集い来たりて 敵を切り裂け 魔法の射手 連弾 氷の17矢」

 

 それに追撃で分身にも魔法を撃たせながら、俺はこちらに来てから覚えた追尾性の高い魔法の射手を撃ちながらカルバリンの照準を合わせる。氷のつぶてによる集中砲火に視界を閉ざし、体温を低下させる氷の嵐、追加に対象を燃やし尽くす炎の蛇に、誘導性の高い雷、それを当てるための牽制に魔法の射手を撃っている。

 

 流石のエヴァンジェリンも開幕から出し惜しみ無しのトップスピードに攻めあぐねているようだ。本当はもう少し様子を見てから戦いたかったのだろう。いつも俺はそうしているからな。だが、相手が相手だ。手加減していたら負ける。

 

 障壁に穴を空けるために続けてカルバリンを打ち込み、動きを鈍らせる。第二次世界大戦の戦車だったら頭狙われたらこれで落ちてたと思うんだけどな。

 

 魔力回復ポーションを飲み干し、集中砲火が続く中、クリエイトゴーレムを唱える。

 

 もはや全魔力を持っていけ。そんな想いでゴーレムを錬成する。

 

 そうして出来たゴーレムは7メートルほど、背中に発電機と思われる巨大な装置を背負い、畳まれた巨大な砲身を持っていた。名前はハングドマンと言う。

 

「エヴァンジェリン! 次は戦術核だ! 流石に手加減出来んぞ!」

 

 伯爵時代さまざまな錬金を行っていたこの身に取って、核物質を錬金するなど造作も無いこと。問題は俺自身が被爆に耐えられるかどうかだが、全力でレジストすればなんとかなる。

 

「いくぞぉ!」

 

 ギューンと発電機が稼動し、砲身がスパークする。その間も絶えず途切れない集中砲火。

 

「こおるだいち!」

 

 あちらもなんらかの魔法を唱えていたらしい。だが完全ではなく竜牙兵の半分が氷漬けになるに留まった。

 

「もう遅い!」

 

 21もの風石によって再現された多薬室砲は魔力炉によって励起し、青白い光を放つ。

 

「錬金!」

 

 俺はとっさにシェルターを作り、発射体勢に備えた。

 

「発射!」

 

 一瞬音が消えた。直後、轟音。

 

 レジストしながらシェルターの外に出てみると瓦礫しか残っていなかった。

 

「ぐ、う」

 

「おお、生きてたか」

 

 エヴァンジェリンは四肢がどこかに行っていたがなんとか生きていた。

 

「余っていた竜の血だ。飲め」

 

 試験管を差し出すが、飲める気力が無いらしく、口の端からこぼす。

 

「しょうがないな」

 

 俺は竜の血を含み、口移しでエヴァンジェリンに飲ませる。

 

「んっ、んっ、んっ」

 

 なんとか飲み込んでくれたか。

 

 さて、転移陣が壊れてないといいんだが、ここで後1日近く過ごすのか。我ながらやりすぎたな。そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

「はっ!?」

 

「起きたか」

 

 俺は抽出で放射性廃棄物を集めて錬金で除染し、大雑把に錬金で城の建て直しを行っていた。

 

「なんだあの火力は!? 中級程度の魔力しか持っていない貴様が何故核兵器なんぞ作り出せる!?」

 

「普段は出し惜しみしていると言う事と、俺は周囲の大源(マナ)を取り込んで魔力に変える戦い方をするんだ。ゴーレムなら最大448体までは作り出せる」

 

「そんな奴が出し惜しみで前衛に甘んじているだと? 世も末だな」

 

「俺達は小源(オド)の量が少ないからな。工夫せざるをえなかったのさ」

 

「だが、負けは負けか」

 

「ああ、俺の勝ちだ」

 

「ならば潔く認めよう。今日からお前は私のマスターだ」

 

「名前で良い」

 

「何?」

 

「マスターだとうちのミカンと被るからな。俺もエヴァと呼ばせてもらう」

 

「わかったよ。才人」

 

「さて、大雑把に除染したがまだ心配だ。何度かここに来るぞ」

 

「お前もお前だ! 自重と言うものを知らんのか! 全く、核弾頭なんぞ使いおって」

 

「ここの吸血鬼は昼間でも平気で歩くからな。どこまで線引きすればいいのか分からなかったんだ」

 

「ま、まあ、あの飽和攻撃は見事だった」

 

「虎の子の竜牙兵まで使ったんだ。しかも即席ではなくきちんとした触媒を使った奴だぞ」

 

「次は私の従者を出す」

 

「戦いは決したんだが?」

 

「模擬戦だ!」

 

「なんにせよ、これからよろしく。エヴァ」

 

「あ、ああ・・・・・・・(よろしく才人)




 前作で教えていたハングドマン、もちろん才人君も作れます。あとはヴェンジェンスとか。ちなみに風石などはこちらには無い物質なので貴重品です。


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7話

 スランプなのでリハビリに会話回。暑さで脳が茹る。


「暇つぶしにゴーレムを作り貯めしたいと思います」

 

「なんだ、藪から棒に」

 

 エヴァとの勝敗が決してから一ヶ月、俺はガイガーカウンターを持ってエヴァの別荘にお邪魔していた。

 

「いや、これだけ広かったらいざ、呪いを解いて学園から出るにしても陽動が居た方が楽だろう」

 

「まあ、確かにそれは言えているな」

 

「それにこれは裏が取れていない情報なんだが、エヴァから聞いたナギ・スプリングフィールドには息子が居るらしい」

 

「何?」

 

「そうなるとメガロ・メセンブリアの意向で英雄を作ろうとするだろう。それにはその息子が適任だ。場合によってはこちらに流れてくる場合もあると思うが、そいつが今住んでいるところを離れた際、ナギ・スプリングフィールドの話を聞きにいくといいだろう」

 

「いいのか?」

 

「いいさ。昔の男とのケジメをつけることも大事だ」

 

「そうか・・・・・・」

 

「あ」

 

「どうした?」

 

「そういえば隠匿していると言う点で怪しい存在を図書館島で観測した」

 

「ほう?」

 

「どうも存在は精霊に近いな。後は、遠目に見たがワイヴァーンが居た」

 

「それは穏やかでは無いな」

 

「エヴァには心当たりは無いか? 図書館、本、精霊、この共通点で」

 

「それは・・・・・・奴か? いや、しかしこんな極東で、しかも私が封印されている土地で態々隠匿する理由が分からん」

 

「奴とは?」

 

「アルビレオ・イマだ」

 

「ふむ、だがそれを学園長に聞くのも面倒なことになりそうだな。俺が図書館探検部の活動の名目で下の階層まで降りて接触してみよう。収穫があったら話す」

 

「分かった」

 

「最近拾ったネタと言ったらこれくらいだな。汚染物質も反応しなくなったし、ゴーレムを作ろうと思うのだが、エヴァは何かリクエストはあるか?」

 

「そうだな。リクエストは無いが私も配下の人形を作っておこう。才人の錬金は便利だからな。材料をいちいち調達せんでいいのが非常に楽だ」

 

「俺もあれを見た当初は非常識だと思ってたが、慣れれば便利にしか思えないな」

 

「ああ、リクエストが出来た。武器の製作を頼む。人形に持たせる類のな」

 

「チャチャゼロが基準でいいのか?」

 

「ああ」

 

「分かった。ならば、ゴーレムより武器を先に作っておこう」

 

「いいのか? 自分の作業を優先しても構わんのだぞ?」

 

「分担作業だ。ナイフは全ての人形に支給するとして、基本は槍と盾だな。盾にはデルフリンガーのように魔法無効化でも付けておこう。単純な物理攻撃に対しては盾自身の防御力に依存することになるが、推測で言うとそれを壊せるのは本気の高畑先生くらいしか出来ないだろう。戦術的よりも戦略的に行こう。使わないに越したことは無いのだがな」

 

「だが、私が出て行くとなると「正義の魔法使い」共が黙ってはいまい」

 

「確率は低いがこの麻帆良にスプリングフィールドの息子が来ないとも限らんから、それ次第だな。最近はポーションや呪符の売れ行きが良くてね。魔力の最大値を上げるあの蟠桃製はエヴァにしか渡していないが、原材料を買って半分は錬金でまかなえるからそろそろ専用の設備が欲しいと思っているところだ」

 

「ならば、別荘(ここ)を使うか?」

 

「ああ、それなら呪符に魔力を貯めて、普段はガーゴイルに任せておけば大分楽になるな。ポーションと言えばミカンの血はどうなった?」

 

「ああ、竜の血清か。大分研究は進んでいる。あの図体で助走無しで飛ぶだけあって凄まじいな。味も極上だ。気をつけないとついつい飲みすぎてしまうよ」

 

「アレだけの量を頻繁に補給は出来ないから気をつけてくれよ。あいつの機嫌を取るのも一苦労なんだ」

 

「そも、あいつは卵生なのに才人、お前の子を生めると思っているのか?」

 

「それはアレだ。関西辺りの妖怪にでも人化の術を習わせに行けばいいだろう」

 

「お前は・・・・・・意見が斜めすぎて追いつけない部分があるな。だが、そうなるんだったら近右衛門とのパイプを強化しておけ。アレは元々関西の出身だ。襲撃してくる術者を拉致しても構わんが、ここの連中がぬるすぎて関西から的外れな抗議を受けた際、疑われるのは私達だ。今は研究に集中したい。よって、血清が出来るまでは拉致は禁止する」

 

「確かに。面倒ごとは可能な限り避けるべきだ。そういうのはここを出る時の一度くらいでいい」

 

「謝らんぞ」

 

「何を言っている。嫌ならお前を眷属にはしない。つまり、俺の好きでやっていることだ。と、言うかあの勝利を拾えたのもお前がまだ子猫(キティ)の皮を被っていたからだ。山猫(リンクス)くらいになっていたらお互い収拾が着かないくらいの被害が出ていただろうな」

 

「名前でいじられるのは嫌いだ」

 

「それもこれもお前が可愛いのが悪い」

 

「む、うう」

 

「エヴァ、どうもお前は数百年生き、老成した部分と成長しない肉体年齢に精神が引っ張られ相反するところがあるな。その手の奴には散々からかわれたんじゃないか?」

 

「何故分かる!?」

 

「わからいでか。あちらには監督責任の名目だが、ぶっちゃけエヴァの反応が見たくてここに居るんだ。それくらい分かる」

 

「あの竜の世話はいいのか?」

 

「あいつはあいつで好き勝手やっているよ。特に幻術を覚えてからな。それに、寝る時に甘え癖が抜けないのかどうしても薬を飲んで枕元で寝ている。気にすることは無い」

 

「気に食わんな」

 

「何がだ?」

 

「せめてここに居る間は他の女の話をするな。例えそれがペットだろうが」

 

「何だ、妬いているのか?」

 

「ふんっ」

 

「だったらそんなことを考えられないようにしてやろう」

 

「待て、抱き上げるな! どこへ連れて行く!」

 

「寝室」

 

「やめろー!」

 

 攻めるは好きで攻められるのは苦手か。誰かを思い出すな。




 この後メチャクチャ錬金(意味深)した。


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8話

 本日2度目の投稿。ペース?そんなもの知りません(ドヤァ


「他の女の匂いがします」

 

 最近構ってあげられなかった千雨ちゃんとお茶を飲んでいたら唐突にそう切り出された。

 

「そりゃあれだよ。最近勝負をしてね。その子とどっちが上司と部下になるか切った張ったのやり取りをしたんだ。それでじゃないかな」

 

「それだけだとミカンちゃんの獣臭さに混じって女の子の体臭がするのが納得できません」

 

「スキンシップが激しいんだよ」

 

「むぅぅ」

 

 どうもこの子はクラスメイトとは線引きをしているようだ。魔法の秘匿もそうだが、「自分はお前達とは違う」と言う考えを持ち始めているみたいだな。

 

「千雨ちゃん、君は本来クラスメイトと一緒に遊んだりしていてもおかしくない歳だ。こんな歳の離れたのよりその方が良いと俺は思うんだ」

 

「私は才人お兄さんが居なかったら今も一人ぼっちだったんです。だから、クラスメイトと才人お兄さんのどちらかを選ぶなら才人お兄さんを取ります」

 

 千雨ちゃんは静かに、だが断固とした口調で言った。

 

「気持ちは嬉しいけど、俺達はこうしてお茶したりトレーニングする以外は特に遊びに行ったりしないじゃないか。年代が違うから話題も合わないと思うんだけど」

 

「なら、才人お兄さんのお部屋に遊びに行きます」

 

「えっ」

 

「明日、お兄さんのお部屋に遊びに行くので寮の人に許可を取っておいてください」

 

「マジで?」

 

「マジです」

 

「はぁ、まあしょうがないな」

 

 こうして俺の部屋に千雨ちゃんが遊びに来ることが決まった。

 

 

 

 俺の部屋に小学生が遊びに来ると言う話題は瞬く間に広がり、あの変人共にも伝わっていた。

 

「小学生が遊びに来ると聞いてやってきますた」

 

『きますた』

 

「    」

 

「みんな、落ち着きたまえ」

 

「平賀殿も大変でござるな」

 

「帰れ」

 

 俺の扉の前には内藤、通風、墨樽に影が薄すぎていまいち何を言っているのかすら分からない餡刻、常識人枠の竜さんと海燕が居た。

 

「すまん平賀、餡刻の影が薄すぎて捉え切れなかった」

 

「ああ、いや、竜さんを責めているわけじゃないんだ。ただ、余計なのが沸きすぎてるなと思ってね」

 

「                                 」

 

「いや、平賀の客だから。餡刻は小学生には会えないから」

 

「そうでござるよ。YesロリータNoタッチでござる。平賀殿も以前そう言ってたではござらんか」

 

「     」

 

 何故かこの二人には餡刻が何を言っているのか明確に分かるらしい。これがエースの絆か。

 

「やだやだい! 俺様は小学生をペロペロするんだい!」

 

「ペロペロはしないがハスハスはしたい」

 

「きんめー! あ、ミスティックアーク」

 

「内藤はそれ普通に犯罪だから。通風は小学生と同じ空気を吸いたいってことか? それと墨樽。お前さっきそこの二人と餡刻に混じってたじゃねーか」

 

「相変わらず平賀殿は的確にボケを拾うでござるな」

 

「こいつらの場合本当にボケてるのかいまいち怪しいから警告しとかないといけないんだ」

 

「否定出来ないのが悲しいところだ」

 

 竜さんが同意してくれる。

 

「とにかく、明日千雨ちゃんが来るけど、お前らが居ると怯えるから散れ。特に餡刻。兄さんとローザに伝えてもいいんだな?」

 

「          !」

 

「何言ってるのか分からんが止めて欲しかったらお前も止めろ」

 

「       」

 

「変わり身が早いでござる」

 

 餡刻の兄は寮監をやっているからあんまり馬鹿なことをするとペットの黒蛇に締め付けられる。やられたことはないが、アナコンダクラスなので加減されなかったら骨がやばいらしい。そんな黒蛇もミカンとは仲が良いんだが。

 

「そういうわけだ。諦めろ」

 

『えー』

 

「臼姫に言いつけるぞ?」

 

『止めます!』

 

「よろしい」

 

「邪魔したな、平賀」

 

「穏便にすんでよかったでござるよ」

 

 こうして馬鹿共とその保護者達は帰っていった。多分明日は大丈夫だろう。だがカメラを仕掛けられていないとも限らないのでダウジングくらいはしておこう。夜のシフトの前にそう思うのだった。

 

 

 

「待ったかい?」

 

「いえ、今来たところです」

 

 そんなベタなやり取りも千雨ちゃんにとっては楽しいらしい。と言うかわずかに息を弾ませていた。

 

「さあ才人お兄さん。時間は有限です。行きましょう。すぐ行きましょう」

 

「あ、ああ」

 

 そうだ、ここは麻帆良だった。小学生が年上のお兄さんと遊んでいる。しかも部屋にまで上がるとなると、どこから嗅ぎつけられるか分かったものじゃない。俺は現に嗅ぎつけられて阿呆共が寄ってきた。

 

 俺達はそそくさと寮に向かった。

 

「そういえば千雨ちゃんはどんなのが好きなんだい?」

 

「え、ええと漫画とか」

 

「漫画か。確かにあれはいいね。○ラゴンボールのフリーザ編とかは特に面白かったよ」

 

「才人お兄さんもド○ゴンボール読むんですか。私も好きです。でも、あのピッコロ大魔王より強そうなナメック星人がたくさん居るナメック星も宇宙規模だとそんなに強くないって言うのが印象的でした」

 

「うん、何しろ猟銃を持った地球人の戦闘力が5だからね。諸行無常を感じさせられるよ」

 

「私達はいくつになるんでしょうね。でも、銃弾はまだ避ける自信が無いから私5以下かも」

 

「スカウターは武器込みで測定しているのかはちょっと分からないけどね」

 

 そういえばこんな話は千雨ちゃんとはした事が無いな。と思いながら歩くのだった。

 

 

 

「到着」

 

 寮へは特に何事も無く到着した。だが千雨ちゃんが挙動不審だ。

 

「私早く才人お兄さんのお部屋見たいです。行きましょう!」

 

「分かった分かった」

 

 千雨ちゃんはそれはもう積極的だ。

 

「おかえり、平賀。その子だな? 報告していた小学生と言うのは」

 

「ただいま戻りましたゴルさん。こちら千雨ちゃん。敢えて関係を挙げるとしたら、師弟の仲です」

 

「そうか。やましいことが無ければそれでいい。あの馬鹿共も締め上げておいた。文字通りな。しばらくは復活しないと思うから、ゆっくりするといい」

 

「分かりました。行こうか。千雨ちゃん」

 

「は、はい。お邪魔します!」

 

 千雨ちゃんが緊張するのも無理は無い。寮監のゴルベーザさんは筋肉モリモリマッチョマンだから威圧感があるんだ。紳士だけど。

 

「私が居ては落ち着けなさそうだな。何かあれば呼ぶが良い」

 

「はい。では」

 

 千雨ちゃんを伴って部屋へ向かうことにした。

 

「ここが俺の部屋だ」

 

 ミカンは昼寝中だ。ベッドの上で丸くなっている。

 

「シンプルなお部屋ですね。あれは試験管とフラスコ?」

 

「ああ、ハーブからエキスを抽出することもあってね。今度よそ行きの香水とか作ってあげようか?」

 

「い、いいえ! 今の私には勿体無いです!」

 

「そう、欲しくなったら言ってね」

 

「はい・・・・・・」

 

 なんか緊張してるみたいだな。

 

「お茶でも淹れようか。それとも冷たいのが良い?」

 

「で、では冷たいので」

 

「うん、分かった」

 

 いつもエヴァの紅茶の淹れ方を見ているので、それを真似て淹れてみた。

 

「わぁ、本格的ですね」

 

「茶葉は安物で悪いけどね」

 

「そんなことないです。良い匂いです」

 

 氷で冷まし、二人分置く。

 

「はい、どうぞ」

 

「いただきます」

 

 念のため来客用のガムシロップを買っておいてよかったな。もうすっかりストレートで飲む習慣が身についている。

 

「ふう、美味しい」

 

「それは良かった」

 

 緊張も解けたようだ。

 

「それじゃ、ゲームでもしようか。それとも何か読む?」

 

「才人お兄さんのお勧めとかありますか?」

 

「そうだなぁ。あまり難しいのもなんだし、中古で買ってきたスレイ○ーズとかかな?」

 

「お兄さんそういうのも読むんですね」

 

「基本雑食かな」

 

「なら、今度C○ANPって言う作者の書いた漫画が面白かったので持ってきますね」

 

「ああ、そういうのは大歓迎だよ」

 

 こうしてミカンが起きるまで和やかなムードで俺達は過ごした。

 

 

 

「今日はお部屋に入れてくれてありがとうございます!」

 

「あれくらい構わないよ」

 

 門限が近くなってきたので千雨ちゃんを送迎している。

 

「お礼が言いたいのでちょっとお顔をこっちに」

 

「なんだい?」

 

 ちゅっと頬にキスされた。

 

「えへへ、マーキングです」

 

「ちょっとそういうのは早いんじゃないかな」

 

「だって、才人お兄さんを取られちゃうのは嫌なんだもん」

 

「俺は誰のものにもならないよ。俺は俺のものだよ」

 

「それでもです」

 

 まあいいか。

 

「なら、千雨ちゃんが18になっても俺の事を好きだったら考えるよ」

 

「約束ですからね!」

 

 こういうのは俺のキャラじゃないんだけどな。そう考えながら千雨ちゃんを送り届けた。




 エヴァンジェリンは合法ロリだけど千雨ちゃんはアウトですから。それでもエヴァに外ではきちんと弁えてもらってます。しつけって大事だと思うの。


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9話

 色々動きました。

 追記

 挙がっていた矛盾点について修正しました。


「ついに・・・・・・出来たぞ!」

 

 俺がポーション作り用ガーゴイルの調整と完成品の受け渡し、ついでにトレーニングをしてたら奥からエヴァの興奮を押し殺した声が聴こえてきた。

 

「才人、才人ー!」

 

「なんだー?」

 

「血清が、ついに竜の血清が完成した!」

 

「やったじゃん」

 

「苦節9年・・・・・・これで忌まわしいこの呪いから開放される!」

 

 エヴァは腰に手を当て試験管の中身を煽ろうとした。

 

「あ、エヴァ」

 

「なんだ、この大事な瞬間に」

 

 心なしか不機嫌だ。

 

「封印を解くのは構わないけど、そのテンションに任せて外に出ないでくれよ。一応偽装薬作っておいてあるから、封印を解いてしばらくしたらそれ飲んでくれ。対で作ってある解除薬で偽装も解けるから」

 

「む、そうだったな。ナギの息子が来るまでは我慢だった。私としたことがつい勢いに身を任せてしまうところだったよ」

 

「ならばよし。急がば回れだ。一応大雑把な位置情報は掴んでいるんだが、こちとら闇の福音(ダークエヴァンジェル)だ。戦いは避けられないだろう。それよりは蜘蛛のように網を張っていた方が確実と言うもの。説得の根回しも行っている。学園長個人と高畑先生は大丈夫なんだが後は残りの「正義の魔法使い」がな」

 

「考えてみれば確かにそうだ。私の期限は6年前に切れている。ずるずると引き延ばすのが「正義の魔法使い」か・・・・・・くくっ」

 

 その線で高畑先生から説得して学園長を経由したんだけどね。

 

「他にはエヴァの任意で解ける封印も今研究している。エヴァに別口でかかっている封印に関係するものだが、拘束制御術式「クロムウェル」って奴だ。一応あちらも納得させるために0号の封印を解くには俺の承認を必要とする条件を盛り込んだ」

 

「0号と言うと何号まであるのだ?」

 

「4号までだな。0が100%だとすると4号が20%だ。それでも並の魔法使いには十分なんだが」

 

「それでも80%までは解けるのか。直前に聞けて良かったよ。飲んだ後だと印象が変わっていただろう」

 

「念のため、学園の精霊を騙す魔法陣を書くぞ。その上で飲んでくれ」

 

「分かった」

 

 俺はカカッと魔法陣を書き上げ、エヴァに偽装薬を持たせた。

 

「では、いくぞ」

 

「ああ」

 

 竜の血清を一息で煽るエヴァ。これで外に出ても開放されているだろう。

 

「ふ、ふははははは! これだ! 素晴らしい!」

 

「エヴァ、エヴァ! 魔法陣がもたん! 偽装薬を飲むんだ!」

 

「む、そうだな。ナギの情報を得るまでは我慢しなければ」

 

 続けて偽装薬を飲むエヴァ。

 

「ふう、後は学園結界を使った封印を解くだけだな」

 

 9年間押さえつけられてたからな。暴走しなくて良かった。

 

「ひとまず礼を言うぞ才人。後は魔力を戻すだけなのだが、交渉材料はあるか?」

 

「ああ、さっき学園長と高畑先生は説得済みだと言っただろう? 正義だろうが悪だろうが契約は契約だ。守らない奴は外道だからそこを突けばいい」

 

「それもそうか」

 

 それじゃ、いつあいつらの説得に行こうかな。

 

「才人、煩わしいのは好きではない。今夜奴等と話し合い(・・・・)に行くぞ」

 

「了解。学園長に報告しておくよ」

 

 警備の前の方が楽になるかな。そう思ってまずは仮眠を取ることにした。

 

 

 

 そして現在は夜、世界樹広場前。

 

「学園長」

 

「ああ、わかっとるわい。やれやれ、気が重いのう」

 

「仕方が無いでしょう。本来は6年前にすでに履行済みの契約です」

 

「それもそうなんじゃがな。では発表しよう」

 

「学園長、発表とは?」

 

闇の福音(ダークエヴァンジェル)こと、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの事じゃ」

 

『!!』

 

 一同に衝撃走る。

 

「実はナギの奴は6年前に呪いを解く予定だったのだがの。この業界では有名だと思うがナギ・スプリングフィールドは死亡しておる。そこをうやむやにしてエヴァンジェリンをシフトに組み込んでいたわけじゃ」

 

「で、ですがそれも仕方が無いことかと!」

 

「ナギの呪いを解けなかった。否。解く努力を儂らは怠った。そこを新参故に平賀君が見咎めていたわけじゃ。「義務と権利」じゃよ。儂らはエヴァンジェリンを保護し、光の道へと歩ませる「義務」と共に、共に戦わせる「権利」を得ていた。だが、6年前にそれは履行を終え、ただ、闇の福音(ダークエヴァンジェル)の封印と言う事実のみが残った。当人達の意思を置き去りにしての」

 

「皆さん、裏では伝説となっているエヴァンジェリンですが、あの子は一度とて自ら攻めた事はありません。迎撃のみです。むしろ吸血鬼にされた女の子を寄ってたかって「悪」と断じ滅するのが「正義」ですか? それでは暗黒時代の十字軍と変わりません。正義の名の下に略奪や虐殺を散々行い、聖地の奪還を行おうとした十字教の黒歴史と」

 

 俺が周囲の良心を刺激するよう言霊を飛ばしながら説得していた。無意識の魔力開放なんぞ普通にやっているこの麻帆良、大丈夫大丈夫。後シスターシャークティが苦い顔をしているがこの時代、調べれば割と簡単に黒歴史なんぞ出てくる。

 

「だ、だが闇の福音(ダークエヴァンジェル)は・・・・・・!」

 

「これだけ言っても分かりませんか?」

 

 こっちが礼儀正しい大人の対応してたらつけ上がりやがって。マジでかなぐりすてンぞ?

 

「私はエヴァと勝負し、主従の契約を結んでいます。エヴァ本人に任せると喧嘩腰になるのでここに居ますが、善意で実力行使ではなく話し合い(・・・・)で済ませようとしているのですよ?」

 

「うっ・・・・・・!」

 

「私は構いませんよ? それでも。嫌なら止めてもいいんですよ?」

 

 挑発的に煽る。あっちから手を出してきたら正当防衛だ。

 

「あまりいじめないでくれるかな」

 

「おや、高畑先生」

 

 これまで沈黙していた高畑先生が出てきた。

 

「周囲のみんなはエヴァに怯えているだけなんだ。小さい頃から伝わっている悪評にね」

 

「聞いていますよ。貴方はエヴァの友人でしょう? 友人のためになんとかしようと思わなかったんですか?」

 

「僕では力不足でね」

 

 肩をすくめて答えられる。魔法詠唱が出来ないのは知っているけど、スパゲッティコードの解析くらい図書館島に潜んでいる奴にでも出来るだろうに。

 

「まあいいです。そう言う事にしておきます。それで良いと思うか? エヴァ」

 

「ああ、構わん。どうせ力無き者共の戯言だ。捨て置け」

 

 俺の影からエヴァが姿を現す。

 

『!!』

 

「エヴァはとある方法である程度の魔力を取り戻しています。その戦闘経験から、普通の魔法先生レベルの魔力量でも十分に戦いづらい相手でしょう」

 

「なんと言う事を・・・・・・」

 

 魔法使いの一人が呻く。

 

「さて、どうしますか? 学園結界の封印、これを解いてもらうのも契約の内です」

 

 とどめと行こうか。

 

『ミカン、来られるか?』

 

『いつでも行けます。マスター』

 

 世界樹広場にバッサバッサとミカンが降りてくる。

 

「クルルルァァァァアアア!」

 

 咆哮。幼生とは言え、規格外の速度で育っているミカンの迫力は満点だ。

 

『マスターと敵対しますか? ならばこのミカンが殲滅してみせましょう』

 

「さて、どうします?」

 

「平賀君! 君に正義は無いのかね!?」

 

「正義の対義語もまた正義です」

 

「双方静まれい!」

 

「学園長・・・・・・」

 

「平賀君の言うとおり、契約は既に済んでおる。これ以上引き伸ばすのはこちらの義に反するのじゃ。ならば迷う必要はあるまい」

 

「ですが!」

 

「くどい!」

 

 学園長の一喝。

 

「若いのが失礼した。改めて平賀君、エヴァンジェリン、力を貸してくれまいか?」

 

「そちらがどうしてもと言うなら考えてやっても良い」

 

「エヴァ、茶化すな。了承しました。受けましょう」

 

「皆のもの! この世に絶対の悪と言うものは無い。今日はそのことも考えて行動してくれい」

 

 この場での空気は決した。後は流れを作っていくだけだ。

 

 こちらを敵対的な視線で睨むものも多い中、俺達はそれをむしろ心地よさげに受け流すのであった。




 とうとう解けたエヴァンジェリンの封印。さて、今後どうなることやら。


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10話

 結構忘れている部分が多いのでネギま!の原作を引っ張り出そうか検討中です。


 あれから数日。「正義の魔法使い」達は無言の抗議活動を始めた。

 

 まず、俺製ポーションや呪符の不買運動。正直これはどうでもいい。辛うじてインターネットと携帯があるから麻帆良の外にも客がいる。

 

 次、監視。どこもかしこもなんか自主的に俺に張り付いていやがる。エヴァも同様だ。

 

 エヴァは有象無象なんぞ捨て置けって状態だし、俺もこの程度の視線、王になった当初に散々浴びたせいで慣れたわ。毎日盗聴器などを探す毎日だけど、進歩が無いな。

 

 なのでちょっとおちょくってみることにした。

 

「あー、あー、ゴミ虫共、聞こえるー? 君らがこうやってこつこつ無駄遣いした分の盗聴器は連日レポートを書いて学園長宛に届けていまーす。そろそろ危ないんじゃないかな? 以上、平賀からのご忠告でした」

 

 向こうで何かが動く反応があるな。阿呆共が。

 

 そう思い俺はコンセント型盗聴器の電源を抜いた。

 

 

 

「ひ、平賀君、ちょっといいかな?」

 

 なんか話しかけてきた。モブ魔法使い。名前も覚えていないのでその程度の扱いである。

 

「なんですかー?」

 

「ここではちょっと・・・・・・」

 

「いえ、盗聴器仕掛けてきた本人達がスタンバイしてるのに行くわけ無いじゃないですか。人払いでもなんでもかけてここでどうぞ」

 

 俺が呪いを張ればいい? 敵意を持った相手にそこまで親切にする必要を感じないな。

 

 俺がだらっとしていると物陰から数人の魔法使いが出てきた。ボイスレコーダーON。

 

「平賀君、今からでも遅くは無い。闇の福音(ダークエヴァンジェル)の再封印をするんだ!」

 

「何言っているんですか? 封印の解除は契約の履行に含まれているでしょう? 「正義の魔法使い」は平気で約束破るんですか?」

 

「だが、いつ気まぐれを起こして闇の福音(ダークエヴァンジェル)が暴走するか分からないじゃないか!」

 

「それは力のベクトルがどこを向いているかによるだけの話です。エヴァには誇りがあります。少なくとも小悪党ような騙し討ちはしません」

 

「何を根拠に!」

 

「あくまでたとえ話ですがね。あの封印、普通なら魔法の素養の高い子供を数人攫って来て生贄に使いますよ? それくらい性質の悪い封印を掛けられているんですから」

 

「! ・・・・・・平賀君、やはり君は危険だ」

 

「藪を突いて蛇を出すあなた方も十分危険だと思いますけどね」

 

「このことは報告させてもらう!」

 

「ああ、このことはしっかりと記録してありますから。どんなに脚色しようともう遅いです」

 

「ぐっ、それをよこせ!」

 

「おっと」

 

 俺は常に行っている身体強化により、余裕を持って掴みかかってくる阿呆を回避する。

 

「無駄です。それと、今の行動を敵対行動として認識します」

 

『ッ!?』

 

 3人居るが、どれも平均的な魔法使いだ。いくつかの無詠唱を使えればいいと言う程度。おまけに後衛しか居ない。

 

「エヴァ、これを学園長に」

 

 自分の影にボイスレコーダーを落とす。影から手が出てそれをキャッチした。

 

「正面から叩き潰せばいいものを」

 

「王たるもの愚民にもある程度は慈悲をくれてやるものだ。まあ、ここで引かぬなら何月かは固形物が食えない身体にでもしてやろう」

 

「ふん、手伝わんからな」

 

「このような瑣事、臣下にやらせるまでもない」

 

 あの国々を引っ張っていくにはある程度自分で出来ることは自分でやらないと手が回らなかったからね。

 

 久しぶりの王様モードで気分がノって来た。

 

「さあ、敵は一人ぞ。貴様等が俺を悪と断じるならば、この首を獲るがいい」

 

 普段と口調が違う? 王様だったからこんなノリも必要だったんだ。

 

「相手は一人だ! 闇の福音(ダークエヴァンジェル)もあの竜も居ない! 叩くなら今だ!」

 

「平賀君、君がいけないのだよ!」

 

「あの吸血鬼は封印しなければいけない!」

 

 俺のことを過小評価しているな。まあしょうがないか。普段手を抜いているし。

 

「メガトンパンチ!」

 

「風花 風障壁!」

 

 10トン程度なら防げるらしい障壁で防がれる。だが、こちらの手も2本あるのだ。

 

「キャッチ!」

 

 左手で魔法使いAの胸倉を掴み、そいつを盾にして魔法使いBに突進する。

 

「卑怯な!」

 

「この程度で卑怯とは笑止!」

 

「放ぜぇ!」

 

 胸倉を掴まれて息が苦しそうな魔法使いAを望みどおり魔法使いCにリリースしてやる。ただし頭から全力で投げた。

 

「おおらぁ!」

 

「うわぁ!?」

 

「ひぃ!?」

 

 あちらでは亜人ともタメを張れる腕力を持ってぶん投げたため、障壁などで防げば魔法使いAの命は危ないだろう。少なくとも首からぽっきりだ。

 

「この距離ではバリアは張れまい」

 

「ゲボァ!」

 

 石畳が砕ける勢いで魔法使いBにリバーブローを放つ。距離がゼロなため、対応することも出来ないようだ。

 

 敵意が減っているため確認すると、戦闘そっちのけで魔法使いCは魔法使いAに回復魔法をかけていた。

 

「ん? 加減を間違えたか? それともうっかり障壁でも唱えてしまったか?」

 

 ニヤリと嗤い戦意の確認をする。

 

「さあ、まだ貴様は五体満足ではないか。味方など後回しにしろ! 敵に集中しろ! かかってこい! ハリー! ハリー! ハリー!」

 

「うう・・・・・・」

 

 明らかに逃げ腰だ。

 

「貴様は正義の魔法使いなのだろう? 悪を許さないのだろう? だがその体たらくはなんだ? 正義が聞いて呆れる」

 

 なんかもうあれだ。直接相手にするのも面倒になってきた。

 

「クリエイトゴーレム」

 

 地面から犬型ゴーレムの群れを作り出す。

 

「貴様は糞だ。犬に食われて糞になってしまえ」

 

「うわああああ!?」

 

 とうとう仲間を置いて逃げ出した。

 

「行け」

 

 犬型ゴーレム達は声帯が無いのでうなり声を上げないものの、本物さながらの動きで魔法使いCに追いすがり、噛み付き、振り回す。

 

 流石に本当に殺すことは無いよう加減しているが、大型犬サイズの群れに噛み付かれたら無事では済まない。

 

「集めろ」

 

 犬型ゴーレムに命じて乱雑に阿呆共を集めさせた。

 

「イル・ウォータル・デル」

 

 てきとーにポーションをふりかけ、ヒーリングと言うハルケギニア魔法をかける。これは本来水の秘薬と呼ばれるポーションと併用することによって大きな効果を現す魔法だが、それは水の精霊の一部が無いと作れないため、ポーションで代用する。

 

『敵に情けとは甘いな。才人』

 

『エヴァか。今回は敵にトラウマを与えることが重要なんだよ。それに治療してやれば学園長も文句は言えないんじゃないか?』

 

 王様モードは終了だ。いつもの調子に戻す。

 

『まあ、お前がそう言うのならばそれでいい』

 

 エヴァのちょっと呆れた様子が伝わってくる。

 

 「次は殺す」と書いた紙を魔法使いのポケットに突っ込み、ゴーレムを砂にしてその場を後にした。




 警告はしたので本気にしなければ人死にが出ます。


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11話

 お待たせしました。引っ張り出してきたものの、なくしてしまった刊もあったりして古本屋に行かねばなりません。

 ガンパレは現在ウォードレスカトラス縛りでプレイ中。リゴルテルロケット万歳。


 あの一件以来お灸が効いたのか、正義の魔法使いもおとなしくなった。いや、過激派が慎重になったと言うべきか。

 

 一方ポーションや呪符だが、関西の顧客が大口で買って行ったのにはビビッたわ。他にも首都圏の魔法部門や、裏のSPの人たちも買いに来てくれる。インターネット様々だ。

 

 もはや麻帆良に依存する必要が無い。でも約束なので一応大学出て教師にはなっておいてやろうと思う。エヴァの件もあるし。

 

 学園長は今回のことを機に意識改革に乗り出したようだ。だが、中途半端にするとメンタルの弱い魔法生徒達が小競り合いで怪我をするので難航しているみたいだ。まあ、そこら辺は知らないな。俺の管轄じゃない。

 

 俺はあの日以来シフトはエヴァと固定で組まされている。監視を一箇所にまとめると言う意味でもあるのだろう。それにしばらく信用の出来ない相手に背中を任せることも出来ないと言う事か。

 

 まあ、慎重になっているのはいいことだ。先走るよりは。

 

 それと千雨ちゃんだが、ゴーレムとガーゴイルの一個中隊を護衛につけてある。ロボットの茶々丸を平気でスルーする麻帆良。多少凝りさえすれば問題ないものが作れる。もちろん遠目からの護衛だ。疲れ知らずなので俺としても楽である。

 

 そんな千雨ちゃんも、俺と行動していれば遅かれ早かれエヴァと遭遇するのは目に見えているので引き合わせることにした。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 沈黙するロリ2人。

 

「紹介しよう。こっちがこの間勝負したって言うエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。そっちが一応師弟って事になるのかな? 長谷川千雨ちゃんだ」

 

「おい、才人、聞いていないぞ」

 

「だから今紹介したじゃん」

 

「あんたか。才人お兄さんを誑かす奴は」

 

「誑かすも何も私は才人のものだ。お嬢ちゃんにはまだ早いよ」

 

「むうう」

 

「こらこら、今日は喧嘩させるために会わせたわけじゃないよ。最近どうも魔法使い共の動きがきな臭くなってきてね。「正義の魔法使い」のくせに人質とか取りそうだから半端な位置に置いておくよりはってことで紹介したんだ」

 

 俺と頻繁に修行している千雨ちゃんになんらかの行動を取らないとも限らない。よって、先手を打つことにした。

 

「そうか。ところで、師弟と言う事は魔法を教えているのか?」

 

「いや、千雨ちゃんはあくまで護身だからな。防御と捌き方を中心に教えている。ついでに魔法の効果とかかな。魔法自体は教えていないよ。俺のはここの奴等のとは毛色が違うし」

 

「ならば、どの程度使える(・・・)?」

 

「あまり期待しても困る。ボクシングを始めてまだ半年くらいしか経たない。気の練り方も身についていないよ」

 

「そうか」

 

「あの、何の話ですか?」

 

「ああ、千雨ちゃんも戦力として数えられるかどうかエヴァは考えていたようだけど、結界のせいで辛い思いしていた千雨ちゃんに裏のことを教えたのは俺の責任だから気にしないでね」

 

「そうですか・・・・・・」

 

「そうか、こいつも・・・・・・」

 

 エヴァも被害者ではあったな。

 

「小娘。軽々しく魔法を教えることは出来んが、一定レベルに達したら稽古をつけてやっても良い」

 

「私と背丈あまり変わらないのになんでそんなに偉そうなんだよ!」

 

「私は数百年を生きた吸血鬼だ。何もかもが見た目通りだと思っていると痛い目を見るぞ?」

 

「こらこら、あまり脅かしてやるな」

 

 しかし小学生に吸血鬼なんて言っても分かるかね?

 

「どちらにせよ、敵対しない限り無害だから大丈夫だよ」

 

不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)を捕まえて無害とはずいぶんだな」

 

「でも女子供は襲わないだろう?」

 

「・・・・・・まあな」

 

 ばつが悪そうにそっぽを向くエヴァ。言質も取ったしこれでネギ坊主が来た時に学生を襲ったりしないだろう。いや、もう封印は有名無実なんだし襲う必要あるのか?

 

「こうやって繋がりが増えれば守るものも出てくるだろう。守る。それも光に生きると言う事だ。一つの義だからな。エヴァ、人は儚い。だけど繋がりは大事にしておけ。やがて人は子を成し死ぬが、繋がりがある限りそれは代々と受け継がれるんだよ」

 

「なんだ、今日はやけに説教臭いな」

 

「俺も一度地球から離されて使い魔にされたからな。それが気がつけば国の王様だ。おまけに60年近くやってたからな。説教臭くもなるさ」

 

「そういうものか」

 

「あの、どう言う事ですか?」

 

「俺は本当は70超えたおじいちゃんだって話だよ」

 

「またまたー」

 

 千雨ちゃんはご冗談をと言った感じで笑っている。正直認めたくない事柄でもあるのだろう。まあ、冗談と思わせておこう。いつか受け止めるだろうから。

 

「ま、そんなことは別にいいんだ。重要じゃない。それより今日はアミュレットを作ってきた。エヴァにもだ。エヴァの奴は障壁を増やすだけだが一層増えるだけでも時間がかせげるだろう。例えば無効化される瞬間とかにな」

 

 風と土の複合属性だから無効化されても塵や砂が残る。その分減衰するし、わずかに攻撃も遅くなるだろうと思ってのことだ。

 

「お前の魔剣で強固な一層だけだと間に合わん場合があることも学んだからな。ま、まあ主からの贈り物だ。受け取っておいてやる」

 

「わあ、ありがとうございます才人お兄さん! 大事にしますね」

 

「千雨ちゃんのは衝撃の瞬間に自身の質量をごまかして衝撃を逃がす作りになっているよ。何かに挟まれたら意味が無いから気をつけてね」

 

 レビテーションの応用だ。

 

「はい!」

 

 ツンデレなのも素直なのも可愛いな。嫁を思い出すわ。

 

「ッ、おい才人、今は私を見ろ」

 

 気取られてしまったか。

 

「はは、すまんすまん。だが思い出を作るのは悪くない。今現在もな」

 

 どうもしんみりしてしまったな。

 

「さあ、気を取り直していこうか。千雨ちゃんは俺とエヴァが模擬戦するところを見ておいてくれ。これも稽古だよ」

 

「はい、分かりました!」

 

「それじゃエヴァ、俺は対魔用銃弾を使うから割と本気で来てくれ。一応封印弾で封印しちゃっても解くけど、嫌だったら切り札を使ってくれよ」

 

「「これからこの武器を使います」と言われて対処しないわけが無いだろうが。切らせてみろ」

 

「それもそうだな」

 

 結局俺はエヴァに闇の魔法を使わせることが出来ず、エヴァもえいえんのひょうがを発動したが、迫ってきた寒波をデルフリンガー(レプリカ)で切り払い、千日手となった。ちなみに千雨ちゃんはあらかじめ張っておいた結界で事なきを得たが、気温は下がっていたので寒そうだったと言っておこう。




 何度読み直しても「?」と思ったりするところもあるので独自解釈のタグ入れておきます。


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12話

 最近脳が茹ってなかなか上手い話が思い浮かびません。困ったな。


 あれからまたしばらく。千雨ちゃんは認識阻害の効かない特異体質として学園長に報告し、記憶を消してもいたちごっこになるとのことでこちら預かりとなった。最初はあちらが引き取ろうとしていたが、もう俺達の派閥に組み込まれているのでそれは辞退してもらった。

 

 一方で千雨ちゃんには麻帆良の高校の主将クラスの模擬戦を見せて、無意識でも気を使っている人間での見取り稽古を行っている。自らの常識を守るためにはその常識をある程度壊して行くしか無いこの麻帆良、どんな感じで気を使っているのか俺と共に聞きに行ったりもした。

 

 結果、気と魔力が水と油だとすれば俺の使っている小源(オド)で点火した魔力は軽油くらい違うことが分かった。ネギま!式魔法は小源(オド)でまかなっているんだけどね。

 

 そして今、俺は咸卦法の練習をしている。元々、小源(オド)を混ぜ込んで自身の魔力として使っていたのでいけると思ってのことだ。手ごたえは感じられる。

 

 それとは別に気の鍛練も怠ってはいない。原作の明日菜が一般人の気の容量で(あれは一般人と言えるのか?)咸卦法を使っていた。しかし内容量を増やして継続時間を増やすことは良いことだと思ったので実践している。

 

「見よう見まね、斬岩剣」

 

 気の鍛練には気を消費したり瞑想したりするのでこう言ったお遊び要素も忘れない。でも斬岩剣を放つのなら普通のハイスラで十分なんだよな。俺が見たのは別の班の助っ人を頼まれた時にフロントが被ってた刀子先生の太刀筋をちょっと見ただけだからなぁ。

 

「見よう見まね、斬空閃」

 

 右手に気を這わせて左手に魔力を乗せた状態で魔法を撃つのはかなり面倒だからね。気なら気で対処しないとこんがらがりそうだ。

 

 錬金した鉄柱を切り払い、遠くに設置した的に斬空閃を当て、残心を取ってから鍛練を終了する。こういう時エヴァの別荘は便利だ。おじさんになる程使うつもりは無いけど。

 

 それからガーゴイルの作ったポーションを回収して、今はエヴァと茶を飲んでいる。エヴァとの模擬戦は既にやっていたし。

 

「しかしその魔剣は魔力を吸うから強化できないだろう? どうやって鉄柱を斬ったんだ?」

 

「本当は虚無の魔法って奴は吸わないで強化に使えたんだが・・・・・・俺には再現出来なかったから鉄柱の一番脆い箇所を読んで斬りつけたんだよ」

 

 どんな物質にも脆い箇所は存在する。それは人によって「目」とか言ったりするが、俺は培った経験で一番斬りやすそうな場所を斬っているだけだ。これ無しだったら斬岩剣で無理やり斬るのもアリなのかもしれない。

 

「で、咸卦法の方はどうだ? いけそうか?」

 

「ぼちぼちだな。一発成功とは行かないが、そもそも「混ぜながら」戦うのは普段からやっていたし、それが気と小源(オド)になっただけだ。後は遠距離攻撃の手段として咸卦法を崩さないまま魔法が撃てればいいんだけどな」

 

「大分無茶なことを言っているな・・・・・・」

 

 これは、気、魔力の消費量が一定なのにそれに別枠で魔力を消費しようとしているのだ。器用と言うレベルじゃないらしい。いけると思うんだけどなー。

 

「まあ、なんとかいけると思うからやってみるよ。まあ見てな」

 

 これで俺の鍛練は終了した。今度は千雨ちゃんのも見てあげないといけない。

 

 

 

 千雨ちゃんは気の扱いを学ばせてからというもの、瞑想が中心の鍛練を行っている。俺は体内で魔力やら精製してたからなんとなく勝手が分かってたけど、千雨ちゃんは一般人だからね。

 

「スゥゥゥ、フゥゥゥ」

 

 空手でもへその下の丹田と言うところで何かを練る稽古はある。それを応用しているのだ。

 

「スゥゥゥ、フゥゥゥ」

 

 鼻から息を吸い、限界まで吐ききる。これをすると自然と腹が引き締まる。ダイエットにもいい。

 

「よし、そこまで。次は横になって身体につま先から頭のてっぺんまで順番に電気を流すようなイメージでやってみよう」

 

 俺がよく身体の痛いツボを探す時に使う手段だ。有効かは分からないけどこれも採用してみた。

 

 千雨ちゃんはレジャーシートを広げてその上で横になった。ここは人目を避ける意味で森の中だから地面には普通に虫とか居るし。

 

 それでも周囲の危なさそうな虫は凍らせてまとめてあるので危ないと言う事は無い。

 

「はい、それじゃあリラックスして。力を抜いたら足の先からゆっくりゆっくり調べる感じでやるんだ」

 

「才人お兄さん。なんか足の裏がジンジンします」

 

 あら、足ツボの方がヒットしたか。

 

「じゃあサービスでマッサージしてあげよう。痛いかもしれないけどその分内臓とかが参っている証拠だから我慢してね」

 

「は、はい」

 

 千雨ちゃんの靴を脱がせて親指を重ねて押し当てる。

 

「ゆっくり力を入れていくから痛かったら言ってねー」

 

「はい・・・・・・痛い痛い!」

 

「こりゃ相当こってるね。もうちょっと弱くやるから我慢するんだよー」

 

「うう・・・・・・はい」

 

 鍛練から脱線してしまったが、まあこういうのもいいだろう。一番ヤバイのは千雨ちゃんが中2になってからだ。いや、中3だったかな? まあそれくらいだろう。それまでにあの騒動に巻き込まれない程度の実力を身につければいい。

 

 吸血鬼に効くかわからんが今度エヴァと、あとミカンにもやってやろう。後はそろそろ人化の術でも覚えさせるために関西からの刺客を一人拉致るかなぁ。それはもうちょっと正義の魔法使いが沈静化してからにするか。




 5時前くらいに起きられればいいんですけど、今の時間帯は暑い。


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13話

 お気に入りが1000件になったと言う事で、出来るだけ搾り出しました。ちょっと短いですが、この辺の話が終わったらまた元に戻ると思うのでもしよかったらお読みください。


 正義の魔法使いが沈静化してから3週間。学園長の意識改革が上手く行っているようだ。高畑先生もエヴァの友達だったし、封印解除後も問題を起こさずにいたのも大きいかな。それでもこちらを苦く思っている連中は居るようで、距離を取られている感覚はある。

 

 まあ、そんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。俺は学園長と西の長、確か詠春だったか? と、連絡を取って表向きは捕虜を一人取っても文句を言われないように工作中だった。

 

 なんでそんなまどろっこしいことをするのか? そろそろミカンが人化の術を覚えたいって言っているんだよ。それで捕虜とミカンを別荘に放り込んでさっさと覚えさせようと言う魂胆な訳だ。

 

「これでやっとミカンは人間になれる! るーるるー♪」

 

 ミカンが姉貴分がよく歌っていた歌を口ずさむ。嬉しいときはつい歌っているみたいだ。

 

「はしゃぐのもいいが、捕まえてきてからにしろ」

 

「はーい」

 

 そこにドタドタと言う音が。

 

「君達は包囲されている! おとなしくおにゃの子をこちらに渡すんだ!」

 

「・・・・・・ミカン、しばらく黙ってろよ」

 

「きゅー・・・・・・」

 

 また馬鹿内藤がミカンの声を拾って騒ぎ出した。どうしたものか・・・・・・。

 

 

 

 結局内藤は腕力で沈黙させ、てきとーに預けてきた。で、今はエヴァ邸に居る。

 

「ここは避難所じゃないんだぞ」

 

「どうせ最近暇だろ? エヴァ、スプリングフィールドの息子が動くのもお前が大学生になってからだし。やること無いじゃないか」

 

「むむむ」

 

「何がむむむだ」

 

 俺達は横山三国志みたいな掛け合いをしながら暇を潰していると、テーブルの上で菓子を貪っていたミカンが顔を上げる。

 

「マスター、こう、甘いものばかり食べたのでしょっぱいものが食べたいです」

 

「お前は食っちゃ寝してて最近太くなってきていないか?」

 

「ああ、幻術だと分かりにくいからな。元に戻ると悲惨なことになっているかも知れんな」

 

「がーん!」

 

 ミカンには基本味の薄いものをあげているのだが、たまにこうやって菓子などをやっているため味の濃いものが苦手と言う訳ではない。

 

「マスター! ダイエットに付き合ってください!」

 

 幻術で人間に化けてジョギングすればいいだけの話なんだが、そこまで考えていないだろうな。

 

「どんなダイエットをするんだ?」

 

「動きます! 模擬戦に付き合ってください!」

 

「死ぬよ」

 

「えっ」

 

「生半可にやろうとすると死ぬ」

 

「なにそれこわい」

 

「まあいいだろう。俺が魔術を撃つからお前は避けろ。お互い本気になると別荘が崩壊する」

 

「釈然としないけど分かりました」

 

 そう言ってミカンは子竜モードから本来の大きさになる。

 

「じゃあユキビタス・デル・ウィンデ」

 

「いきなり偏在ですか!?」

 

「何、俺だけ魔法を撃つから弾幕の倍率ドンだぞ」

 

「鬼畜ー!」

 

「どうでもいいが直したばかりなんだ。壊すなよ」

 

 エヴァは観戦するらしい。

 

「ほれ、行くぞ。ワレ カミノタテ ナリ 氷の精霊 17頭 集い来りて 敵を切り裂け 魔法の射手 連弾・氷の17矢」

 

「イル・ウィンデ」

 

「ラナ・デル・ウィンデ」

 

「フレイム・ボール」

 

「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース」

 

「ぎゃー! 本気で殺りに来てるじゃないですかー!」

 

 失敬な。本気で殺すつもりなら錬金でゴーレムと弓矢を出して当てるように誘導するわ。

 

 ミカンは悲鳴を上げながらもサーカスのように弾幕を躱す。

 

「意外と余裕そうだな。よし、次だ」

 

『ライトニング・クラウド』

 

「運ゲーじゃないですかやだー!」

 

 大丈夫だ。加減はしている。

 

 その後も精神力をガリガリ削る弾幕や、やぶれかぶれでこちらに突っ込んできたときにウォーター・ウィップを束ねて叩き落としたりと、制さ・・・・・・じゃなくてお仕置・・・・・・でもなくて、ミカンの運動に付き合ってやった。まあ、あれだ。最近食っちゃ寝ばかりで駄竜と化してたし。これくらいが丁度いいだろう。

 

 

 

「きゅいい・・・・・・」

 

 そこにはズタズタにされた幼竜の雑魚が居た。

 

「ほれ、治すから口開けろ」

 

「きゅう」

 

 ポーションを一瓶飲ませてやり、塗り薬用のポーションを振り掛ける。

 

「イル・ウォータル・デル」

 

 締めにヒーリングをかけてやれば完了だ。

 

「うう・・・・・・酷い目に遭いました」

 

「普段から食っちゃ寝しているお前が悪い」

 

 こいつはまだ半世紀くらいしか生きていないから自重と言うものが分からない。俺のプリン返せ。

 

「でも、これで大分運動になりましたよね?」

 

「お前これで終わりだと思っているのか? ダイエットって言うのは月単位で行うものだぞ」

 

「えっ、と言う事はまさか・・・・・・」

 

「お前がジョギングをしないというのなら的当てを続けるだけだぁ」

 

「走るます!」

 

「うむ、ジャージくらいは買ってやるから早起きして走るんだぞ」

 

「どうでもいいがお前らの茶番はここじゃなくても良かったんじゃないか?」

 

 エヴァがそう嘆息する。

 

「いや、ぶっちゃけ暇つぶしに来ただけだから」

 

「ふざけるなぁ!」

 

 この後俺とミカンは正座させられエヴァに説教された。




 どこぞで糖尿病は氷河期を生き残るためにあるものだと聞いたのですが、竜や恐竜は氷河期を経験していないもしくはそのときに死滅しているはずなので放っておいたら際限なく太ると思うんですよ。


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14話

 今日は涼しいので頭の回転が良く、比較的楽に書けました。


 ミカンのダイエット騒動からさほど時間は経たず。関西との話も着いたので、今夜襲撃してくる刺客を一人捕虜として捕まえる予定だ。そいつに妖怪を召喚させ、ミカンに人化の術を学ばせる。幻術なら完全に人間に化けられるが、人化の術だと尻尾とか残りそうで麻帆良以外だと魔法世界くらいでしか受け入れられなさそうだと思った。

 

 そのことを伝えたミカンはそのままエヴァの別荘へ直行させるため、エヴァ邸にて待機中だ。

 

「しかし甘い主だな。使い魔の為にそこまで骨を折ってやるとは」

 

 エヴァがため息をつきながら言う。まあ、甘いと言う自覚はあるよ。

 

「何、そっちの方が面白そうだと言うのもある。人生では重要だぞ? そういうの」

 

 人の不幸を甘露と感じて愉悦に浸ると言うのもあるが、ああいうリスキーなのはあまり好きじゃない。やっぱり人生ラブ&ピースだよ。前世では武力鎮圧とかもしてたけど。

 

「で? 刺客は誰を攫ってもいいのか?」

 

「いや、赤い前掛けが目印らしいから、そいつだけだ」

 

「そいつが童貞か処女だといいんだがな」

 

「吸うなよ?」

 

「ならば代わりに賃貸料をよこせ」

 

「ミカンの血でいいか?」

 

「いや、お前の血がいい」

 

 こいつ・・・・・・狙ってたな。

 

「しょうがないな。だが俺童貞じゃないんだが、グールになったりしないよな?」

 

「それは保障してやろう」

 

 こいつがそんな面白くないことなんぞしないか。

 

「首筋に噛み跡残すとまた連中がうるさいから腕からだぞ」

 

「・・・・・・仕方が無いな」

 

 エヴァは渋々と配置に着いて行った。

 

 

 

 鬼を切り裂き、烏族を撃ち落とし、河童を叩き潰す。

 

 戦闘を開始し、いつものように召喚された妖怪を滅する。

 

 本来鬼はもっと強く、十把一絡げにしていい存在じゃないと思うんだが本体ではなく分体だから弱いのか? とか考えつつも作業のように潰していく。

 

 今回講師となる術師も襲撃のドサクサに紛れて攫うと言う事で戦闘に参加しているため、こちらが力を示さねばこの話は無かったこととなるのだ。

 

 そういう訳で強引に前線を突破しながら術師を探している。

 

「あんさんが長はんの言ってはった人かえ」

 

 ふと、声がかかる。こいつが今回の講師か。

 

「確認するが、詠春殿からはなんと聞いている?」

 

「なんでも、西洋竜に一つものを教えて来い言うてたなあ。妖狐を一匹呼び出して付けておくだけでええとか」

 

「なら合っているな。こちらに同行願おうか」

 

「こうも言ってはったな。おとなしく捕まる必要も無い。と」

 

「まあ、そうなるな」

 

「そういうことや」

 

 木の陰から妖狐や烏族を中心とした機動力中心の妖怪が出てくる。狭い森の中図体のでかい鬼では不利と判断したか。

 

「仲間から札集めてきっちり百は呼べるようにした。後うちの護衛の前鬼と後鬼で百二や。全部ぶちのめしたら付いて行ったる」

 

 これ俺が全力でゴーレム召喚したら駄目な流れかな?

 

「こっちも使い魔を呼んで良いか?」

 

「ええで、それでなんとか出来るなら」

 

 あ、良いんだ。

 

「なら遠慮なく」

 

 俺はポーションを飲み干し、クリエイトゴーレムでまずは200ほど呼び出した。森の中では槍は取り回しづらいため、全て片手剣装備だ。

 

「これで数的不利は無い」

 

 お互い森の中での戦闘だ。しかも現在は夜。視界の中では10から上を数えられれば良い方で、お互いどれだけの数を呼び出しているのか分からない。あっちの自己申告では102くらいらしいが。

 

 しかしこちらは今回全ての面倒を見切れないので、5体に1体は統括するガーゴイルを作り出している。よって魔力に余裕は無い。咸卦法では10分が限界か。気のみで戦うしかない。

 

 念のためもう一本飲んでおこう。その隙が出来たら。

 

 これ以上余計なことをしたら開始の合図も無いまま突っ込んでくるだろう。ポーションは飲めない。

 

 デルフリンガーは切り札の為学園には秘匿しているので、いつもの打刀を構える。

 

「さあ、やろうか」

 

「ぬかせ若造が!」

 

 エヴァは戦線維持の為援護に来られない。目立つからミカンも呼べないとして、俺とゴーレムだけでなんとかしなければならない。

 

 俺と関西の術師が衝突した。

 

 

 

 あちらは基本的に烏族のヒット&アウェイと妖狐の狐火や幻術が戦法になるのだが、鬼のようにゴーレムを一撃で叩き潰せない上、元々ゴーレムの素材は土である。火に強い。おまけに生物ではないため、幻術が効かない。俺は俺で認識阻害を始めとしたそういった術式をレジストしている為意味が無いのだ。

 

 ついでにゴーレムは腕一本になろうとも全力で敵を握りつぶすよう命じてある。魔法生物のように核と言ったものも無い。パワーとタフネスはこちらに分があるのだ。

 

 しかしスピードは到底あちらに敵わない。どうしてもカウンターや、肉を切らせて骨を断つ形に持っていかなければならない。

 

 俺はそんなゴーレムや木を盾に敵を滅している。攻撃の瞬間足が止まるので背中を何かで守るのだ。一瞬の障害物になりさえすればいい。

 

 妖狐の狐火を切り散らし、烏族を銃で撃ち落とす。気も使用量は限られているので斬空閃ばかり使えない。だが弾も限られてる。悩ましい。

 

 烏族は可能な限り一直線に誘導し、カルバリンを撃つ。運が良ければ2、3体は巻き込めるのだ。

 

 後は可能な限り無駄を省いて作業するだけだ。当たらない攻撃をするのではなく、防御の上から削り殺す攻撃を心がける。

 

 だが完璧とはいかない。俺はTASさんではないのでどうしても攻撃は掠ってしまうし、それで僅かな切り傷や擦り傷が重なり出血が増える。今度試験管ではなく飴玉型の魔法薬を作ろう。戦闘中は噛み砕いて使用できる形を取れれば良い。

 

 身体のあちこちに傷を作りながら多方面からの攻撃を避ける。正直ゴーレムよりも竜牙兵の方が強いのだが、一度形成すると元に戻せないため使いたくないのだ。

 

 だが痛い思いをしながら敵を削り続けたおかげもあり、次第に目に見えて数が少なくなってきた。

 

 あちらは追加の札を持っていないらしく、10を下回る取り巻きと前鬼、後鬼のみである。

 

 こちらも大分数を削られた。それでもガーゴイルは結構残っているのでまだ有利だ。

 

 戦闘は続いている。語ることは無い。少なくとも終わるまでは。

 

 あちらもなにやらサンスクリット語のようなものを唱えているが、こちらへの直接攻撃ではなく支援をしているらしい。禍根を残すと面倒なためそれを無視して妖怪を叩き続ける。

 

 そしてそのまま前鬼と後鬼を除いて妖怪を全てすり潰した。

 

「やるなぁあんさん。ここまでいてこまされたのは久々や」

 

「どうも」

 

「なんや戦闘になると無口になるタイプかいな」

 

 別にそんなことはないが正す必要も無いだろう。

 

「それで、降参か?」

 

「冗談きついで。前鬼、後鬼、行けや!」

 

 その合図と共に2体の鬼が突っ込んできた。俺も負けじとゴーレムを出す。が、1体は叩き潰され、1体は上半身と下半身を泣き別れにされてしまった。

 

 その様子を見て無言で指示を送る。内容は「全軍、組み付け」だ。

 

 次々と鬼たちにのしかかるゴーレム達。鬼達も奮戦するが、その手は二対しかない。吹き飛ばしても上半身のみで鯖折りを試みるゴーレム達によってすぐに埋まってしまった。

 

「イル・アース・デル」

 

 その二つの小山を錬金で鉄に変える。鬼といえどもこの質量の前には動けまい。

 

「けったいな術使いおってからに。手駒が居なくなってもうたやないか」

 

「降参か?」

 

「ああ、降参や降参。またあの薬飲まれて人形出されたら堪ったもんやないわ」

 

 良かった。降参してくれなかったら峰打ちにして動けなくしたところを魔法先生や魔法生徒達に見られずに引きずる羽目になっていた。

 

「ならば来てもらおう。近衛近右衛門に会わせよう」

 

「いや、ええ。そのまま西洋竜のところに連れていき。裏切りもんの顔まで見たない」

 

「分かった。所で名は?」

 

「石角火呼や」

 

「了解した。石角」

 

 この後俺はエヴァに連絡し、ミカンに別荘で引き合わせるためにエヴァ邸へと向かった。

 

「ああそうそう。教室は1時間が1日になる場所だから早めに教え終わらんとおばさんになるぞ」

 

「なんやて!」

 

 そのリアクションは結構秀逸だった。




 ネギま!における魔力の設定が外界から取り入れるマナも標準的に使っている設定だと、魔力が枯渇しつつある魔法世界では減衰するのではないか?旧世界と比べて威力が小さくなるのでは?と考えつつも、原作ではそんな描写は見られなかったため、個人が保有する魔力量は外界とは関係無しの方向で行こうと思います。


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15話

 約一ヶ月ぶりです。急に書けなくなったので参ってました。


「こちらが講師を呼び出す石角先生だ」

 

「よろしくー」

 

 俺は学園長に携帯で一報入れ、石角をエヴァの別荘に案内した。ここへ来た頃は防衛が終わったら反省会をしていたが、エヴァの一件以来周りが面倒なためそのまま解散するようになった。

 

「よろしゅうに。おぼこい嬢ちゃん」

 

 現在のミカンは人間に化けている。最近あいつは「れでぃは殿方の前で裸になるのは恥ずかしいことです!」とか言って竜の状態でも何か着るものを要求しだしているのだ。なんかペットに服着せるの好きじゃないんだけどね。サイズ補正がかかる鎧でも作ろうかな。質量はごまかせないから子竜の時に床をぶち抜くかもしれないけど。

 

「それじゃあこの竜の嬢ちゃんに一匹付けときゃええわけやな」

 

「ああ、後は適当に過ごしてくれ。結果さえ出れば問題ない」

 

 ここでの一日は外での一時間の為、一日ちょいあれば三十日分は勉強出来る。高畑先生は中年と化してたけど、ここで何年頑張ったのかね。

 

「ミカンが華麗に変身した姿を期待しててくださいね!」

 

「おー頑張れー」

 

 尻尾どうするんだろうな。と、漠然と考えながら俺は寝室に向かうのであった。

 

 

 

 睡眠を取ったところでリフレッシュした俺は、今回の事を反省し、色々と作ろうかなと思い立った。

 

「取り出したるはト○ロっぽい像」

 

 俺は一室を祭壇に見立て、飾りつけを行っていく。

 

「そして生贄にミカンにやる予定だった牛一頭分」

 

 〆た牛を像の前にデンと置く。

 

「ウガア=クトゥン=ユフ! クトゥア トゥル グプ ルフブ=グスグ ルフ トク! グル=ヤ、ツァトゥグァ! イクン、ツァトゥグァ! 来たれ! 敬愛する主ツァトゥグァよ、夜の父よ! イア! イア! グノス=ユタッガ=ハ! イア イア ツァトゥグァ!」

 

 周りに誰もいないことを確認し、呪文を唱える。すると黒い染みのようなものが徐々ににじみ出し、前足の代わりに蝙蝠の翼が生え、頭部に蛇のような触覚を生やしたヒキガエルが出てきた。

 

「ズヴィルポグアさんじゃないですか。お父さんのところに帰省中だったんですか? あ、そういうのはいい? あ、はい。今回の生贄を用意しました。なのでお父さんの住居に生えているキノコください」

 

 常人だと一時的発狂待ったなしの正気度喪失に耐え、交渉する。ヒキガエルのようなものは触覚に牛を巻き付けると、自分のところへ引きつけ消えていき、気が付くと素人目には何なのか判別しにくいキノコが置かれていた。

 

 このまま神殿と化している部屋に放っておくと面倒なことになるので素早く影に放り込み、実験室へと向かうことにする。

 

「才人! 尋常じゃない気配が漂ってきたが何があった!?」

 

 酷く焦った様子でエヴァが走ってくる。どう言い訳しよう。

 

「ちょっと邪神を召喚した」

 

 面倒になったのでストレートに白状した。

 

「あのような気配そこら辺の鬼神より上だぞ。何を召喚した!?」

 

「ツァトゥグア。実際来たのはズヴィルポグアだけど」

 

「ツァトゥ・・・・・・? 聞かんな」

 

 どうやらこっちの世界には居ないらしい。並行世界だか次元だかの壁を越えて来たのか。

 

「まあ、割と温厚な邪神だよ。扱い間違えると内臓喰われたりするが」

 

 土星に行きたいと相談すると警告をくれたりする。後腹が減ってないときは生贄を拒否られたりもする。

 

「次召喚する時は絶対に私に一言言え。いいな。絶対だぞ」

 

「構わんけど召喚する時は一人じゃないと駄目だからな。立ち会えないからな」

 

「それでもだ」

 

 この後散々念を押されたので、今後は麻帆良じゃない別の場所で呼ぼう。

 

 

 

 飴玉型の回復薬を作ると言う事で普段より強力な材料を仕入れた俺はキノコを煮て成分を抽出し、煮汁を煮詰めていた。

 

「マスター、おなかすきましたー!」

 

「お、なんかええ匂いやなぁ」

 

 そう、このキノコ、とても美味そうな匂いがするのだ。

 

「おー、とても美味いキノコが手に入ったぞ。雑炊にすると絶品なんだ」

 

「茸雑炊か。ええなあ。ほな、それ頂戴」

 

「すまん、来月まで待って」

 

 匂いは良いんだが、食べられるようにするには1ヶ月水を替えながら加熱し続けなければならない。煮汁だけでもそのままだと毒である。

 

「がーんだなー。出鼻をくじかれたー」

 

「1ヶ月かかるキノコってなんなん・・・・・・?」

 

 ちなみにエヴァはキノコの出所を知っているのでつまみとワインを持って引っ込んでしまった。

 

「今日のメニューはタケノコだ」

 

「うち完全に舌がキノコになってんのやけど」

 

 何を言う、タケノコは成長したらえぐみが出てくるから素人には採取の難易度が高いんだぞ。地面から突き出ている奴はもうアウトらしい。

 

「駄目だ、今日はタケノコだ」

 

「ミカンもキノコが食べたいです!」

 

 ハイパーボリア産のキノコに惑わされるとはしょうがない奴等だ。

 

「どうしてもと言うなら明日キノコにしてやる。だから今日はタケノコだ」

 

 今あるキノコはそのまま食ったら死ぬキノコだけだ。

 

「まあ、しょうがないわな。我慢するわ。嬢ちゃんも聞き分けぇ」

 

「うー」

 

「ほら、牛一頭出してやるから機嫌治せ。石角にはタケノコの刺身でいいか?」

 

「明日は絶対キノコですからね!」

 

「酒も頼むわ。熱燗な」

 

 明日のキノコは何にするか。しいたけでいいか。




 リハビリ回。久々だとキレが無いかな。


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16話

 一度書いたのですが納得いかなくて書き直しました。安直に新しいネタを入れるより、これまで経験してきたことを書いたほうがスラスラ執筆できました。


 現在夏休み。石角はミカンに外の時間で3日程付いてた後、京都へ帰って行った。ミカンは人化の術を覚えたものの、俺のリアクションがあまりにも薄かった為むくれて引きこもっている。

 

 俺は最近、このままダラダラと原作開始まで成り行きのままに任せていいのだろうか。と疑問に思っていた。だってそうだろう? こちらの世界で魔法世界のゴタゴタに巻き込まれるまで待つ必要は無い。俺はこの歳で今更正義の味方にも英雄にもなる気はないので、自分と目に見える範囲が平和ならどうでもいいのだ。本当、昔は若かったよ。

 

 なので何とかするべく、ポーションをがぶ飲みしながら延々と錬金を唱えていた。

 

「イル・アース・デル」

 

 現在作っているのは「スキルニル」と言うゴーレムの一種だ。よく嫁の叔父さんがチェス代わりに俺と対戦する為にくれたものである。

 

 これは小さな人形で血を垂らす事によって発動し、その人物そっくりになるだけでは無く、技や人格までコピーすると言うチートアイテムだ。ただし、魔法は使えず、平民のコピーに留まっていたが、嫁の叔父さんも王様だったので、と言うか政治を片手間に片付けて遊びに全力になる人間だったので俺との戦争ごっこの為に開発を重ね、メイジによる発動を可能としていた。奴さんは不定期にこの人形を俺に「人材を探すところから開始だ」と言う手紙と共に送りつけ、様々なフィールドで戦った。あの国は色々とおかしかったな。「ヨルムンガント」とか言う対メイジ兵器作ったし。そうだ、今の俺は精霊魔法を覚え、やろうと思えばあの世界のエルフに似た魔法を使える。エヴァに耐久テストをしてもらいながら量産しておこう。

 

 話が逸れた。このスキルニルは影武者にも使えるが、今回の目的はそうじゃない。図書館島で失敬してきたホムンクルスの本をベースに俺のかつての配下を作り出そうと思っている。だが本人では無く、あくまで俺の記憶に残っている人格を再現するだけだ。肉体をデザインしたら仮想人格にて処理を行えばいい。

 

 こういう時別荘は便利だ。ただし中年にならない程度に使用を控えなければならないか? いや、自分のクローンを作っておいて予備パーツの確保か意識をクローンに移植する研究でもすればいいだろう。まだ中世程度の医療技術、頼りは魔法のみで自分の脳をミノタウロスに移植するよりはるかに難易度が低いだろう。

 

 出来上がったスキルニルは裏で活躍している俺の記憶に近い人物をピックアップし、そいつらから血液を買い取った。使うのは外見のデザインだけなので、後は属性の適正が近く、見た目が似ていれば後は仮想人格を植えつけて調整すれば良いと考えている。

 

 現在別荘には培養層が設置されており、血を垂らしたスキルニルをホムンクルス技術による調整、後は順次出来上がったら培養層から出して最終調整だ。

 

「G、M、R、調子はどうだ?」

 

 指揮官クラスは既に培養層から出ている。現在スキルニルで製作しているのは末端クラスだ。

 

「良好だ」

 

 答えたのはMだ。こいつは本来最低クラスのメイジだったのだが、ドMが己を鍛える喜びに嵌り、かなりストイックな性格になってしまった。

 

「あの恐れていたエルフをも凌駕するかも知れない魔法が使えるとなると全盛期を超えるかもしれないね。何よりこちらの女の子が僕を待っている」

 

 Gはトレードマークの造花を掲げ、自分に酔っていた。

 

「それで、国王、俺達はどうすればいい?」

 

 Rが促す。元々こいつは参謀的な位置に収まっていた。

 

「魔法世界に通じるゲートに細工し、完全に交通が不可能な状態にしてくれ。作戦開始まで時間があるから、各自追記した記録に違反しないようにしてくれ。戦力が整い次第作戦開始だ」

 

 一応現時点でやれることはやった。あいつ等は俺と恩師によって近代化した国に居たから、まあ、大丈夫だろう。Gのナンパ癖さえ出なければな。

 

 

 

 一応エヴァにもスキルニルは渡してみた。しかし、血を垂らしたら100%の魔力量で発動するらしく人形の方がもたなかった。もっと丈夫なのを作っておこう。

 

 千雨ちゃんにはスキルニルでは無く、身代わりの呪符を渡しておいた。スキルニルを使うにはせめて気を使えるようになってからじゃないとね。だが、魔力はともかく気は使えるか疑問だ。対策を練らねば。

 

 完全なる世界対策は一旦置いておいて、超対策をしよう。

 

 まずは物量。ヴェンジェンスやハングドマンでは維持するだけで魔力を食われる。ヨルムンガンドに風石の代わりに風属性か重力属性の刻印を刻み魔力炉を積んで、鬼神兵対策に神格を弱体もしくは吸収する魔剣などの武器を持たせておこう。高畑先生が確か拳で鎮圧した気もするからHEATハンマーとか持たせても良い。

 

 次は歩兵だが、今培養層から降りてきた土属性に適正のある者がひたすらゴーレムとガーゴイルを作っている。ゴーレムの腕力で重機関銃に対魔弾頭等の特殊弾頭にて牽制し、本命をぶち当てればいい。別荘に資材と設備を準備しておいたので、スキルニルでコピーしたガンスミスに量産させれば良い。スキルニルはバージョンによって命令を聞くだけの人形でもあるし。

 

 今やれることはこれくらいか。後は残りの兵士級が出来てから考えよう。確か超が編入してくるのは中学1年生。タイムスリップしてくる前にゲートが全部破壊されてないといいね。




 最近は肩が痛いのでお風呂上りの数時間が勝負ですねー。


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17話

 肩こりと頭痛がはり治療によって大分軽減されたので、執筆しました。今回は少し毛色が違います。


 現在やる事は配下のゴーレムに丸投げして、エヴァと人間形態のミカンとで茶を啜っていた。

 

「あ」

 

「なんだ?」

 

「どうしました?」

 

「思い出した」

 

 そうだよ。ネギの居場所は高畑先生が知っているんだった。すっかり忘れてたぜ。

 

「高畑先生だ。ナギ・スプリングフィールドの息子の居場所を知っているはずだ」

 

「何ぃ!?」

 

 エヴァは驚きの声を上げるが、ミカンはのほほんとクッキーを齧っている。まあ奴にはどうでもいいんだろうよ。

 

 しかし参ったな。何年前かは忘れたが、ネギが小さい頃にナギ・スプリングフィールドと接触している。現段階で原作開始の6年前を切っている。悪魔襲撃のどさくさに紛れて接触する事はもはや叶うまい。

 

「今の状態のエヴァなら登校地獄の呪いを無効化しているから、高畑先生さえ説得すればスプリングフィールドのせがれに会えるだろう。もちろん闇の福音(ダークエヴァンジェル)の名前は大きいから身代わりを用意しなければならない。まあ、エヴァなら人形遣いだし、夏休みの間だけ時間を稼ぐ身代わり(人形)を作ることくらいなんとかなるだろう?」

 

 現段階のスキルニルではエヴァの魔力をコピーし切る事が出来ず破裂してしまうが、本職のエヴァに任せればなんとかなるだろう。俺の分ならまだスキルニルがコピー出来る。気は使えないけど。ついでに言えば、ミカンは本来の姿だと秘匿性が皆無な為、戦闘には参加していない。普段から放し飼いにしているのでちょっと姿を見せなくなったくらいでは問題無い。

 

「こうしてはおれん! すぐにタカミチを探すぞ! 準備しろ、才人!」

 

 エヴァは瞬時に着替えると、こないだ俺が作ってやったマントを翻し、玄関へ向かった。

 

「えー、ミカンはやです。こないだちょっと脅かしてやろうと思って喧嘩売ったら殴られましたし」

 

「お前何やってんの」

 

「ミカンはこの辺りのボスなんですよ。マスター達以外に縄張りに入られるのは気に入りませんから」

 

 まあ、麻帆良は熊とか出るからね。

 

「臆病者は放っておけ! 行くぞ!」

 

 なんか、こう、すごい既視感がする。伝説のスーパーサイヤ人にでも遭遇するのかな?

 

「あれだ。学園長にばれると説明が面倒だから人形を使えばいいだろう。魔力を辿ってもいいし、エヴァの人形は喋れるだろう? 近くの公衆電話からかけさせてもいい」

 

 夏休みに入って日にちが経っているから、捕まらない可能性もあるし、その場合の徒労感は味わいたくない。

 

「う、むう・・・・・・分かった」

 

「俺は出かける準備でもしておくよ。後、千雨ちゃんにもしばらく麻帆良から出るかもって言っておかないと」

 

 あの子は修行以外はラジオ体操くらいしか外に出てこない。夏休みだし。

 

「とにかく、焦らないこと。出張している可能性が高いから、その時はおとなしく待つように」

 

 高畑先生が居なかったら千雨ちゃんに修行させるよ。手駒の生産は別荘内で勝手に行われているから、逆に俺は動かないことでアリバイをアピールする必要がある。

 

「致し方あるまい。ただし、タカミチが見つかったらすぐに戻って来い!」

 

 その声に俺は手をヒラヒラさせながら後にした。

 

 

 

「そんな・・・・・・才人お兄さん、どこか行っちゃうんですか?」

 

 絶望的な声がチサメの喉から絞り出る。その胸は平坦であった。

 

「夏休みだからね。ちょっと旅行に出るかもってだけだよ」

 

 サイトの様子はいつもと変わりない。マホウツカイ蠢くマッポーめいたウェールズの山奥だろうと、その声は変わらないだろう。

 

「才人お兄さん。そうだ、私、気弾を撃てるようになったんです。もうちょっとでモノになりそうなんですけど・・・・・・本当は才人お兄さんをびっくりさせたかったんですけど、修行を付けてください」

 

 たどたどしい言葉で行って欲しくない。と、言外に告げている。その声は必死であった。

 

「分かったよ。なら、森まで行こう」

 

 ヒラガサイトはコーヒーを飲み干し、言った。少女を森に連れ込むと聞こえたが、ワイザツな様子は一切無い。

 

「はい!」

 

 対するチサメは、瞳の奥底に密かな決意と期待をする。おお・・・・・・ブッダよ、寝ているのですか! 年端も行かぬ少女がこのような思いを抱くとは!

 

 サイトとチサメは連れ立って公園から歩いて行った。その様子は歳の離れた兄妹に見える。だが、そのニューロンの方向性は反対であった。

 

 

 

「イヤーッ!」

 

 チサメの声が森に響く。拳から発射された光弾は用意された的に突き刺さり、激しく吹き飛ばした。

 

「よし、威力は十分なようだね。次はこれの相手をしてもらう」

 

 サイトは錬金の呪文を唱えると、ゴーレムが一体現れた。

 

「ザッケンナコラー!」

 

 黒のスーツ、サングラス、角刈り。一般的なモータルが見たら即座に道を譲るであろう。まごう事なきヤクザであった。

 

「・・・・・・」

 

 しかしチサメは動じない。サイトからのインストラクション、加えて様々な経験をしてきたチサメは、この程度の恫喝では怯まない心を得ていた。

 

「スッゾコラー!」

 

 ゴーレムヤクザは懐から拳銃を取り出し、発砲、発砲、発砲。それをチサメが軽やかなフットワークでかわし、無理なものは気を集中した両腕で弾く。

 

「イヤーッ!」

 

 速やかに射程圏内にゴーレムヤクザを収めたチサメは、気弾を放った。

 

「グワーッ!」

 

 気弾を受けたゴーレムヤクザは損傷。拳銃を取り落とす。

 

 即座にドス・ダガーを抜いたゴーレムヤクザはチサメに突きを放つ。

 

 チサメは余裕を持ってそれを躱す。銃弾より遅い突きがチサメに当たる道理が無い。

 

「イヤーッ!」

 

 チサメは突きによって腕の伸びきったゴーレムヤクザの懐に入ると、輝く拳でゴーレムヤクザのわき腹を殴りつけた。

 

「グワーッ!」

 

 ゴーレムヤクザは爆発四散。このような威力でモータルを殴ったら大惨事となったであろう。

 

「ふーっ」

 

 チサメは残心し、もうゴーレムヤクザが向かってこないことを確認し、構えを解いた。

 

「素晴らしい」

 

 サイトは拍手をし、チサメを称賛する。しかし、当然の結果だった。時には野生生物の群れにすら立ち向かったのだ。恋とは盲目である。

 

「後は気の量を増やすか、ペース配分で効率を高くすればいいと思うよ。少なくとも、並の魔法使い一人だったら十分かな」

 

 複数のマホウツカイ相手はちょっと難しいとサイトは言葉を続けた。

 

「後の話は・・・・・・ここに近付いてくる相手を何とかしてから続けよう」

 

 サイトは手で顔を覆い、錬金を唱える。顔が「忍殺」と言う禍々しい文字の彫られたメンポに覆われる。

 

 次に、影から赤い忍装束を取り出し、ばさりと上着を脱ぐと、次の瞬間には忍装束に身を包んでいた。エヴァンジェリン監修によるハヤキガエ=ジツである。

 

「Wasshoi!」

 

 完璧な偽装に身を包んだサイトは木々の間を跳びまわって行った。

 

 

 

 カエデは困惑していた。今まで感じられた気配が一つ途絶え、代わりにその方向から猛烈に嫌な気配が漂っているのだ。

 

 逃げよう。そう思ったときには遅かった。

 

「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」

 

 さらに困惑する。自分の正体は建前上ばらす事は出来ないが、明らかに目の前の人物は自分の事を忍者と認識している。中忍になってから編入しようと学園の下見に来ただけなのだが、どうしてこうなった。

 

「長瀬楓でござる」

 

 対応を間違えれば即、死に繋がる。直感がそう囁く。好奇心は猫を殺す。今更後悔していた。

 

「貴様レッサーニンジャだな。だが、関係ない。ニンジャは殺す」

 

 急激に剣呑な空気が漂う。次の瞬間、錬金によってサイトの両手には所持して投げられる限界量のスリケンが挟まれていた。

 

「イヤーッ!」

 

 多分袖に隠し持っていたのだろう。そう考えながらもカエデは逃走する。ニンジャであればあれだけの速度でスリケンを消費していればいずれ尽きる。その隙に逃げればいいのだ。

 

 中学生になったら通う為に、修行スポットの探索に来たのだが、興味が惹かれる物を見つけてふらふらと近寄ったのが運の尽きであった。4人までは分身出来るので、3人を足止め、とにかく逃げに徹する。

 

 そこでゾッとした。明らかにニンジャスレイヤーの投げるスリケンの数が増えている。トラウマを植えつけるには十分であった。

 

 それでも全力を逃げることに費やしたカエデはなんとか逃げ切った。せめて最低レベルでも中忍、それ以上になってからじゃないと麻帆良では生きていけないと間違った認識を抱えながら。

 

 これ以降、この森では稀に謎の人物が現れる。それは、ニンジャだったり、一切姿を見せないスナイパーだったり、いつの間にか獣の群れの縄張りに誘導されていたり。幸い肉体的には深刻な怪我は無いが、全員口を揃えて、あの森には二度と行きたくないと言った。




 この世界にニンジャソウルに取り憑かれた奴は居ないので、本気で殺そうとは考えていません。ただし、楓ちゃんには少なからずのトラウマを与えてしまったかもしれません。


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18話

 遅れて申し訳ありません。身内の不幸で葬儀などに手間取っておりました。みんな、人間フラグとか関係なくぽっくり逝くから仲直りとかは死ぬ前にしておいたほうがいいぞ!


 結局高畑先生が居なかったので、次善策として図書館島に来ている。人形部隊を動かすついでにチャチャゼロもチューニングしたらしく、今回あいつもお供としてエヴァに付いて来ている。

 

「ところで才人、その格好はなんだ?」

 

「ともだちのところに遊びに行くんでしょ? だからともだちの格好をしないと」

 

 俺の格好は人差し指を上に指した手に目のマークが付いたマスク、それにスーツだ。こないだYA○ARA! 見てて思い出した。

 

「コンナフザケタ野郎ナノニ刃ガ通ラネエッテドウイウコトダヨ」

 

 剣筋見てから素手でパリィ余裕でした。単純な接近戦だったら咸卦法で防御力底上げするだけで良いし。

 

 あ、そうそう、デルフの魔力が溜まってきたけど使い道に困ったのと、咸卦法を使いながら自分が魔法とか使うのは面倒になったから、新しく地下水と言うナイフを作った。オリジナルと違って魔力供給がデルフリンガーからってのと、デルフリンガーが近くに無いと装備している人間から魔力を吸う。コンシールドキャリーとか考えず、大振りで肉厚なものに仕上げた。脇差みたいなもんだ。

 

「マスター、底が見えてきましたよ」

 

 現在隠蔽の魔法をかけてミカンに乗って図書館島内部に降下している。以前見た、ワイヴァーンが守っている場所からお邪魔しようと言う魂胆だ。

 

「Grrrrrr・・・・・・」

 

 図書館島の下層にはワイヴァーンが居た。まあ分かってたけどね。

 

 俺は地面に着地すると一言。

 

「ミカン、遊んでやれ」

 

「クルルルァァァァァ!」

 

「GYAOOOOON!」

 

 体格的には圧倒的にミカン有利、種族的にもミカンが有利。放っておいても問題ないな。

 

「じゃー行くかー」

 

「奴の居場所は分かっているのか?」

 

「大体分かる」

 

「ヨシ、アノ変態本精霊ノ所マデ乗リコメー!」

 

「おー!」

 

 なんか後ろで大怪獣決戦みたいなのをやっているけど、無視して進むことにした。

 

 

 

「この辺りだな」

 

 精霊の反応が近いのでそうこぼした。

 

「アルビレオ・イマ! 出て来い!」

 

「イーマー君、遊びましょー」

 

 そうしてしばらくすると、渋々優男が出てきた。

 

「話は聞きますから、キティ、表の竜を止めてきてくれませんか? 門番の子が大変なことになりそうなんで・・・・・・」

 

「その願いは聞いてやってもいいが、質問をはぐらかさないように。それなら止めて来てやる」

 

「しょうがないですね。分かりました。ところであなたは?」

 

「ともだちだよー」

 

「分かりました。ともだちですか。エヴァも随分と変わったご友人をお持ちで・・・・・・」

 

「おい、才人! そろそろその覆面を取れ! 話がややこしくなるだろうが!」

 

「しょうがないな」

 

 俺は渋々マスクを取った。

 

「改めまして、平賀才人です。ドーモ、ヨロシク」

 

「アルビレオ・イマです。そろそろ別の名前を考えておいても良いかもしれませんね」

 

「ヨウ、アルビレオ」

 

「おや、チャチャゼロもいらっしゃい。それで今回はどのような用事で?」

 

 その一言にエヴァが切り出した。

 

「色々な情報を洗ったらナギに息子が居ることが判明した。タカミチは出張中で居ないし、まずはお前を説得してタカミチと近右衛門と話を付けたほうが良いと判断したまでだ」

 

「あ、俺は精霊になりかけの本とか無い? ロボ作るのに使いたいから出来れば編集出来やすそうな奴がいい・・・・・・っと、止めないといけないんだったな。『ミカン、そろそろいいぞ』」

 

『ようやく終わりですか。ちょっと前から降参されちゃったので暇してました。そっちに行ってもいいですか?』

 

『いや、お前はそこで二度と逆らわないようにしとけ』

 

『はーい』

 

「あっちは大丈夫だ」

 

「分かりました。ここではなんですので、奥へどうぞ」

 

 

 

「それで、ナギの息子の話とは?」

 

「分かっているだろう? タカミチが何度か様子を見に行っているはずだ。何、悪いようにはしない。ナギの話を聞きにいくだけだ」

 

 半分鎌カケである。

 

「まあ、ここの場所もばれてしまいましたしね。それに、最近不幸な出来事(・・・・・・)もあったみたいですし、話し相手が増えるのも良いかもしれません」

 

 もう遅かったらしい。

 

「やはり、噂程度にしか聞いていなかったけど、悪魔の襲撃が?」

 

「そうです、平賀君。最も、私はここから動けないので、助けに行きたくても行けませんでした」

 

 その言葉にエヴァは複雑な表情をしている。

 

「それじゃ、あのお二方に話を通してもらえますか? それとも、何かナギ・スプリングフィールドから言伝とか預かってません?」

 

「・・・・・・それは今言うべきでは無いですね。せめてネギ君が一緒の時に話します」

 

 エヴァは相変わらず微妙な表情だ。

 

 後でバジリスクでも召喚して血清でも作るか。後は金の針が有効だったか? 針に血清を垂らせばいいかね?

 

 ネギ少年が歪まないように早期治療の方法を考える。

 

「色々有意義な話だった。さらばだ」

 

「私としてはもう少しここに居てもらってもいいんですよ。キティ」

 

「何時までも同じだと思うなよ。それとお前のその悪癖をなんとかしたら来てやらんでもない」

 

「おやおや」

 

「では、さらばだ。才人、チャチャゼロ。行くぞ」

 

「お邪魔しました」

 

「オレ今回ホトンド空気ダッタジャネーカ」

 

 この後何冊か本を貰い、高畑先生が帰ってくるまでの間編集作業でもしていようと思った。




 短めですが、キリがいいのでここまで。前回はちょっとやりすぎたかな。


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19話

 肩の調子も良く、早朝に起きれたので清々しい気分で執筆。


「と、言う事で、石化した人達と無事だった人達の為にウェールズに飛ぶ許可を下さい」

 

 現在、学園長に直訴中。俺達はあくまで「人助け」の為に行くと言う建前を全力で推している。

 

「むう、しかしじゃな」

 

「石化に対する回復手段なら既に用意済みです。それに、生存した人達も、目の前で知人友人が石から元に戻ることが出来れば復讐などの後ろ暗いものより治癒術を修めようとも考えてくれるでしょうしね」

 

 こっちが本題だ。ネギは今から誰か、師を付けておけばあの才能だ。攻撃よりも治癒に目を向けさせれば世界有数の治癒術師になるだろう。もちろんアルビレオ辺りに頼んで戦闘の訓練も付けて貰うが。

 

「いくら石になっている間は意識が無く、体感時間も感覚が無いと言っても浦島状態は可能な限り軽くしなければなりません。それに、人を助けるのに理由は必要ですか?」

 

 まあ、ようは気まぐれとかそこら辺のレベルなんだけどね。後、ネギのついで。

 

「なんなら、エヴァ」

 

「なんだ?」

 

「少しナギの息子に稽古をつけてやってくれよ。まあ幼児が耐えられるレベルの奴な。お前がナギの知人って聞いたら多分せがまれるだろうし・・・・・・(それに好みの男に育てても一向に構わんぞ?)

 

「な!?」

 

 オレは別にエヴァを束縛したいわけじゃないからな。一応俺のものだけど、別の男を見ると言うなら俺もそれまでの男だったと言うだけの事よ。

 

「面倒になったらアルビレオにでもやらせればいい。深く考える必要も無い」

 

 エヴァはその言葉に思案し――。

 

「ふむ、実際会ってから考えるか」

 

 とりあえず選択を未来に投げることにした。

 

「そんなわけで、シフトに休みを下さい。早急に解決したほうが良さそうな案件もありますし」

 

「フォッ・・・・・・筋は通っているし、夏休みに海外に遊びに行くくらいは他の学生もするしの。あい解った。行ってきなさい。タカミチ君にも後で説明しておく」

 

 早速アルビレオの根回しが効いたか。そして高畑先生は出張中である。

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 そして俺達は空港に居る。ん? ミカンで飛んでいかないのかって? 長時間の飛行に加えて、いかに魔力で戦車並みの装甲が有っても先々で戦闘機やミサイルに追い掛け回される趣味は無いからな。エヴァのチャチャゼロは影の中だ。幻術だと探知機に引っかかりそうだし、次からは人化の術でも覚えるんだな。

 

「久しぶりの外だぁ~」

 

 吸血鬼が日差しの中、思い切り伸びをして外の空気を満喫している。お前、それでいいのか?

 

「帰りにどこか寄るか?」

 

「京都がいい」

 

「なら、学園長に一報入れておいて貰うか」

 

「もう少し気楽に外を回りたいものだがな」

 

「仕方ないだろう」

 

「それもそうだな」

 

 俺達がまったりとロビーでくつろいでいると、荷物を抱えたミカンが帰ってきた。

 

「お土産たくさん買ってきたから食べましょう!」

 

「お土産ってそういうのじゃねーから」

 

「まあまあ、待っている間暇ですし、良いじゃないですか」

 

 しょうがないので俺達は土産を開けた。とりあえずひよこから攻略していくか。

 

「これ可愛いですね、マスター。ってあー! なんで頭から食べるんですか! 可哀想じゃないですか!」

 

「いや、これはこういうもんだし」

 

 こいつはピータン・・・・・・じゃなかった。孵化寸前の卵とか普通に食べるんだけどな。なんなのかもうわかんねえな。

 

「才人、茶を買ってきたぞ」

 

「おお、ありがたい」

 

 茶にうるさいエヴァも、流石に空港のロビーで淹れるわけにも行かない。適当な奴を買ってきてくれた。

 

 こうして3人で土産をぱくついていると、飛行機到着の時間になった。そろそろ片付けないといけないな。

 

 

 

 飛行機が墜落中でも単独で脱出可能故に早々とイヤホンとアイマスクで熟睡の姿勢を取った俺は、ミカンのことはエヴァに任せてさっさと寝た。

 

 後は特に記すことも無く、ロンドンまではトイレで席を立ったり機内食を食べたりする程度であった。

 

 

 

 何の問題もなくロンドンに到着。ここでまず一泊して、それからウェールズの山奥に向かう予定である。荷物も影にしまって置けるから最低限で済む。覚えてよかった。

 

「ここも大分様変わりしているな。以前来たのは何時だったか・・・・・・」

 

 ナギが各地を放浪している間にここに寄らなかったと仮定したら、下手したら世紀単位でヨーロッパには近付いていないんじゃないか?

 

「ここから本格的に麻帆良の常識が通じなくなるから、特にミカン。おとなしくしていろよ」

 

「もー、分かってますよ。マスターは心配性なんだからー」

 

「ならいいや。じゃ、行こうか」

 

「才人、イギリス料理は・・・・・・」

 

「あー、無難な所を選んだから多分大丈夫だ」

 

「そうか」

 

 エヴァはあからさまにほっとしている。ハギスとかそんなに不味いのかね?

 

「イギリス観光は用事が終わって余裕があったらな。京都は・・・・・・冬にするか。とにかく行くぞ」

 

「おー」

 

「分かった」

 

 ひとまず一泊するためのホテルに向かうことにした。

 

 

 

 ホテルにチェックインした後、飛行機疲れで飯と風呂以外はおとなしく就寝。起床したら3人で列車とバスでウェールズに向かうことに。

 

 ウェールズに到着後、バス停の前で一組の男女が俺達を待っていた。

 

「サイト・ヒラガ様にエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル様、使い魔のミカンさんですね? ウェールズの魔法協会の者です」

 

「これは、どうもご丁寧に。サイト・ヒラガです。エヴァンジェリンの情報は行っていると思うのですが、いかほどに?」

 

「ヒラガ様がマクダウェル様を下し、使い魔にしたとか」

 

「概ねその通りです。手を出さない限り無害なので、思うところはあると思いますが、客の一人として扱ってもらえると幸いです」

 

「確約は出来ますか?」

 

「ちょっと子供っぽいところもあるので挑発などはしないようお願いします」

 

「・・・・・・かしこまりました」

 

 なまはげ扱いだから怖がるのも無理は無いがね。

 

「では、長に挨拶した後、悪魔襲撃の被害者の元へ案内してもらえますか? 石化解除の手段を持ってきました」

 

「おお、それは素晴らしい」

 

「その際無事だった方も一緒だった方がいいでしょう。呼んでもらえますか?」

 

「そちらは長へお願いします」

 

 ひとまずウェールズの学園長のところへ案内される事となった。

 

 

 

「それにしてもあの石化の治療を行うとは・・・・・・どのような手立てをお持ちなのですか?」

 

「召喚したバジリスクの目を潰し、密封した箱の中にレジスト処理を施した手袋を突っ込んで採血した後血清を作りました。流石に一匹だけだと足りないのでコカトリスの養殖に切り替えようかとも思いましたけどね」

 

「あの魔獣はそんな容易に屠殺することなんて出来ないのですが・・・・・・流石闇の福音(ダークエヴァンジェル)を下しただけありますね」

 

「あまり連呼しないでやってください」

 

「これは失礼しました・・・・・・ここです」

 

 案内員のうち一人がドアをノックする。

 

「入りたまえ」

 

 そこには白髪を後ろに流し、豊かな髭を蓄えた老人が居た。確かネギの祖父だっけ?

 

「初めまして、サイト・ヒラガです。こちらは現在私の使い魔をやっているエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルとミカン。よろしくお願いします」

 

「うむ、よろしくお願いする。儂はこの魔法学校の長などをやっておるものじゃよ。と、言ってもそこまでの力は無いがの」

 

 悪魔襲撃が結構堪えているようだ。

 

「今回はこちらのエヴァンジェリンがネギ君に話を聞きたいと言う事で、その対価に村人達の治療にとやってきました。もちろん話を聞くだけなので、心配されるような事はありません」

 

「確かに、そこら辺は近右衛門からも聞いておるし、元はナギの馬鹿者が呪いを解かないまま放置していたからの」

 

「まあ、そこら辺は追々。では、被害者のご家族の方を集めてもらえますか? それと被害者の方々の所へ案内をお願いします。治療を行います」

 

「あい分かった。手配するとしよう。君、案内を頼もうかの」

 

「かしこまりました」

 

 そうして俺達は石化した村人達が「保管」されている区画に連れて来られた。

 

「では、ご家族の方が来るまで時間があるので簡単に説明致します。通常であれば回復魔法などで石化の治療を行うのですが、今回石化させた犯人は悪魔との事。なので魔界から召喚したバジリスクの血で作った血清を、術処理した金の針で効果を強くして使います。当然、金の針は柔らかいので一人に対して一つの使い捨てになるでしょう。まあ、溶かせば再利用可能なのでそこは気にする必要は無いです。何か質問はございますか?」

 

 辺りを見回すが、特に質問は無いようだ。

 

「無いようですね。では、道具の準備に入ります」

 

 俺は影からいくつかのケースを取り出す。ケースの中の血清は空気で劣化しないようアンプルに入れられ、金の針は一本一本干渉し合って折れないよう包んである。

 

「特に待つ理由も思いつかないので治療を開始したいと思います。ご家族への説明はあなた方からお願いします。エヴァ、石化を解いたら倒れると思うから人形を出して支えてくれ。ミカンは俺の補助」

 

「ああ」

 

「分かりました」

 

 一本のアンプルを手に取ると、パキッと口を折り、石化した患者の頭からかけていく。エヴァの人形が患者を支えたら、頭頂部、肺、心臓辺りを金の針で軽く突く。

 

 ふむ、服も無事だったか。これなら面倒が少なくて済むな。

 

「わ、私は一体・・・・・・」

 

「おはようございます。あなたは石になっていたので治療しました。このまま他の人にも治療を施すので、休んでいてください」

 

「ありがとうございます・・・・・・」

 

 軽く衰弱しているようだ。治療した人々は魔法学院の職員の手によって運び出される。

 

 何人目になった頃か。この治療はそれ自体が単純だが、血清の浸透などで時間がかかるため、どうしても長くなる。そうしてゆっくり続けていると、こちらに向かって走り寄ってくる足音がいくつか。

 

「スタンおじいちゃん!」

 

「こら、ネギ! 今治してる途中なんだから邪魔するんじゃないの!」

 

「アーニャちゃんの言うとおりよ。落ち着いて、ね? ネギ」

 

 どうやらネギ少年達が来たようだ。村から無事に逃げ延びたのってこの3人くらいだったんだっけ?

 

「君がネギ君か。今、村の人達を治しているからね。スタンおじいちゃんもちゃんと治療するから待っていてくれるかな?」

 

「うん、ありがとうお兄さん!」

 

「そちらのアーニャちゃんと・・・・・・」

 

「ネカネです」

 

「ネカネさんも、ちょっと数が多いから少し時間がかかるけど、1日あれば全員分行き渡るから辛抱してね。3人とも、後でお話を聞かせてくれるかな?」

 

「うん!」

 

「わかりました!」

 

「私なんかの話でよければ、いくらでも」

 

「なら、続きと行こうか」

 

 再びルーチンワークに戻る。血清が浸透しにくいところを金の針で、循環器系や呼吸器系を重点的に見て針で突く。極論で言うとてきとーに針で突いても問題は無いが、顔から石化を解除して呼吸が出来ないとパニックになったりするかもしれないのでこう言う事をしているのだ。

 

 こうして全員分の治療を終え、足元には数え切れないほどのアンプルが、金の針は潰す度に別の容器に入れてあるので問題は無いが、片付けが大変だなと思った。まあ、自前の手札で足りないのならよそから持ってくればいいのは魔術師における基本だよ。

 

 今日は疲れた。今頃ネギ君たちは感動の再会をしているだろう。話を聞くのは明日でいいや。




 やっぱり4千字くらいから調子が出てくるようです。これまでしばらくスランプ気味だったので2千字くらいでお茶を濁してたのが辛い。


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20話

 涼しくなると執筆速度が上がるみたいです。


 石化治療は夜間まで続き、終わる頃には夜も更けていたので一旦宿を手配してもらい、話を聞くのは明日にした。

 

「才人、あれは爵位級の悪魔の仕業だったぞ。と、言う事は・・・・・・村を襲ったのは最高爵位級、しかも魔法使いの村だ。1体や2体では無いと言う事だな?」

 

「斬リ甲斐ガアリソウジャネーカ。最近ノ話ダロ? 勿体ネー」

 

 エヴァの言葉に殺戮人形のチャチャゼロが返す。最近安全だからね。

 

「最悪公爵級はいたかもしれないね。最も、仮にナギ・スプリングフィールドが出張っていたらそういう目立つのから叩いてただろうけど」

 

「悪魔の公爵って強いんですか?」

 

 きょとんとした顔でミカンが聞いてくる。

 

「血を絞るのに使ったバジリスクをペットにする程度には強いと思うよ」

 

 虎を飼う富豪みたいなノリで。

 

「じゃあ、やはりナギはここに来ていた・・・・・・?」

 

「それを確かめるために話を聞くんだろう? まあ、急く気持ちは分かるが、明日聞けるから落ち着け」

 

 今にも飛び出しそうなエヴァをなだめつつ、寝る支度をする。患者には仕込みはすでに行っている。もし、メガロメセンブリアの手先が口封じをしようとしても大丈夫なようにだ。

 

「さて、何事も起きなければそれでよし。起きたら魔法協会に貸し2つ(・・)だ」

 

 既に石化の件で1つ貸している。

 

「チャチャゼロ、こっちに来い。夜襲に備えて点検してやる」

 

「アイヨー」

 

 備え付けのワインをラッパ飲みしていたチャチャゼロをメンテするらしい。てか飲んだものってどうなるんだ?

 

「じゃあエヴァ、先に寝てるからな」

 

「ならミカンが右腕で枕貰いますー」

 

「お前ら両方とも腕枕すると抜けられなくなるから今日は駄目だ」

 

「ぶー」

 

「私も・・・・・・駄目か?」

 

「今日は駄目だ」

 

「駄目かー・・・・・・」

 

「モテル男ハ辛イナー」

 

 チャチャゼロも好きか嫌いかで言えば好きだがな。

 

 その言葉を生暖かい視線にして送ってみた。

 

「ソノ目ヤメロ」

 

「才人、そのアルビレオみたいな視線はなんだ」

 

「気にするな」

 

 冷ややかな言葉を背に横になった。別にフェティシズムとかそんなんじゃないから。

 

 

 

 特に襲撃とかも無く、結界にも玄関とベランダに設置した指向性地雷(クレイモア)にも反応は無かった。

 

「結局暇ダッタナー」

 

 酒瓶が転がっている。つまみは全部食い尽くしたらしい。

 

「平和が一番だ。どうしてもって言うなら中東辺りでも行ってみるか?」

 

 魔法世界は嫌でござる。造物主に目を付けられたくないでござる。メガロメセンブリアの元老院辺りには地球から牽制する方向で。

 

「何を言っているんだ。めんどくさい」

 

 魔力の供給元はエヴァだからね。流石に国を跨ぐ距離となると供給が途絶えるから付いていかなきゃいけないのか。

 

「ミカンも鉛で攪拌したミンチとか食べたくないです」

 

 せやな。

 

「本気にするな。お前らは先に話を聞きに行っていいぞ。俺は患者の様子を念の為見てくる」

 

 万が一症状が残っていたら大変だ。

 

「爺から先に話を付けてくれば良いんだな?」

 

「ああ、昨日粗方終わらせてあるから一言断れば良い」

 

「分かった」

 

 俺だけ結界と地雷を撤去して石になっていた人々の様子を見に行くことにした。

 

 

 

「ありがとうございます。本当に、本当に助かりました・・・・・・」

 

「いえ、回復して良かったです」

 

「何かお礼出来る事はありませんか?」

 

「そうですね・・・・・・では、ネギ君とアーニャちゃん、ネカネちゃんの事でも聞かせてくれませんか? 今回の件でトラウマになっていれば、何かしらのケアが必要だと思いまして」

 

「そんな・・・・・・そこまで私達に親身になってくれるなんて・・・・・・」

 

「いえ、お気になさらず。あなたは数ヶ月も石になっていました。今は自分達の事をお考え下さい」

 

 こんな胡散臭い会話を何度も繰り返している。しかも笑顔で。これも、なんの根拠も無く「ネギは幼い頃からたまに来る従姉妹と父の影を追って一人で暮らしていた」とは言えないからだ。それと、先ほどアーニャ・・・・・・もといアンナ・ココロウァちゃんとそのご両親にも会った。なんかキラキラした目を向けられたけど王様スマイルで適当に乗り切った。

 

「ネギはよくナギの事を言っていました。私達もナギに助けられた身で、あの人柄に惚れて村に移住してきた者もたくさん居ます。よくアーニャちゃんが遊びに誘っていたみたいですが、基本的に一人暮らしで・・・・・・従姉妹のネカネちゃんが魔法学院に通っているのでたまにしか会えないんですよ」

 

 村人は特に疑問に思わず、ナギ・スプリングフィールドを誇らしげに思い出しながら語る。

 

「ふむ、幼少時・・・・・・今もか。大人が傍に居ないと言うのは不安ですね」

 

 ここであまり積極的に責めるような姿勢を見せてはいけない。

 

「ネギの面倒は村全体で見ているようなもので、よく悪さをしてネカネちゃんを心配させていましたよ」

 

「そうですか」

 

 ネカネちゃんくらいしか(・・・・・・・・・・・)心配していなかったのか(・・・・・・・・・・・)

 

「それでスタンじいさんに雷を落とされていましてね。そこまで言わんでもと思っていましたよ」

 

「解りました。ありがとうございます」

 

 概ねこんな感じだ。

 

 処置なしなのは、「露ほどにもその環境に疑問を挟んでいない」と言う事だ。村人はナギ・スプリングフィールドの面影をネギ君を通して見る事しかしない。例外はネカネちゃんと同年代のアーニャちゃんくらいか。後スタン氏。ネギ君の祖父は分からない。だが、近右衛門を見ていると、魔法学院の長と言うものはなかなか忙しいようだ。近右衛門は別ベクトルで孫を遠ざけていたが。

 

 アーニャちゃんのご両親に伺った際に同じ質問をしてみたが、その時「ネギ君にはご両親が居ませんがナギさんは少なくともお父様がいらっしゃったのでは?」と聞いてみた。子を持つ親だけあって何か思うところがあったようだ。薄くだが全体の思考誘導をしている最中である。

 

 こうして回診と聞き取りを行った。石化の後遺症も特に無く、村全体の意識調査も完了した。

 

「さて」

 

 エヴァ達に連絡を取ってみよう。

 

(エヴァ、今どこに居る?)

 

(なんだここの連中は!)

 

 ああ、やっぱりね。

 

(どうした?)

 

(どうしたもこうしたもあるか! 私は不幸な境遇の奴は面白いと思うが、率先して作り出してやろうとは思わん! しかも・・・・・・しかも、あいつらは無自覚だ!!)

 

(患者を診るついでに聞いた。ここの連中はナギの影を追うことしかしていない。例外も居るが)

 

(私もここに来るまではナギの足がかりにしか思っていなかったが、こんな奴等にナギの息子を任せられるか!)

 

(OK分かった。まあ、心配している奴はいるんだ。どうにかしてみるさ)

 

(・・・・・・任せた。私では感情的になってお前ほど上手く運べん)

 

 あの様子では光源氏はしなさそうだな。次はミカンにでも繋いでみるか。

 

(ミカン、今どうしている?)

 

(あ、マスター。今ネギ君に変身して欲しいってせがまれているんですが、どうしましょう?)

 

(周りに許可取ってからな)

 

(わっかりました!)

 

 まあ、大丈夫だろう。ネギの祖父の説得にでも行くか。

 

 

 

「村人を救ってくださり、本当に感謝しています」

 

「私からも、ありがとうございました」

 

 俺は今、昼食を取りながらネカネちゃんとその爺さんに感謝されている。本当は俺も爺なんだが。

 

「いえ、お力になれたのなら幸いです。ところでネカネさん。あなたは大丈夫ですか? 件についてトラウマなどを患っていなければいいのですが・・・・・・」

 

 眉をハの字にしながら尋ねる。

 

「いえ、私よりネギが心配でして。最近は夜にこっそり居なくなることも多いらしくて・・・・・・」

 

 完全に信頼されている。そして、俺の治癒の腕に憧れを抱いていると聞いた。

 

「ネギ君が?」

 

 確かにあれだけの量の薬を惜しみなく使えば、人の根を善とする正義の魔法使いは信頼するだろう。尊敬するだろう。

 

「どうもあの襲撃は自分のせいだと思っているみたいなんです。ピンチになれば・・・・・・ナギさんが助けに来てくれると教えられていて、今回の件はナギさん(父さん)に逢いたいと願ったから、と」

 

 誰かは覚えていないが言っていた。憧れは理解とは正反対の感情だと。

 

「つまり、ネギ君は自責の念で最近何かしている、と。長、ご存知でしたか?」

 

 知らないはずが無いと思うが。

 

「うむ・・・・・・禁呪書庫に出入りしているらしい」

 

「おじいさま! どうして注意しなかったんですか!」

 

「ナギもああいう所があったからの・・・・・・事にならぬよう一応見守っていたのだが」

 

 そりゃ子供が「千の雷」とか使えるようになったりとか危険過ぎてヤバイ。いや、中級魔法だけでも十分ヤバイ。初級の魔法の矢だけでロボットを破壊出来るのだ。一般人が頭部に受けたら言わずもがな。

 

「長。それは信頼とは違う感情です」

 

 良く言って放任? 悪く言ってネグレクト?

 

「そうです! もしネギが危ない魔法を覚えたら・・・・・・」

 

 ネカネちゃんがくらっと来たようで、隣の長に支えられている。

 

「ふむ」

 

 内心したりと言った感じで頷く。

 

「ネギ君は保護者の監督が必要です。ネカネさん、あなたは無理そうですか?」

 

「私とネギは現在別々に暮らしていまして・・・・・・私は学院の寮暮らしなんです」

 

「長、あなたはもう少しネギ君に時間を割けませんか? それと叱るべきところはキチンと叱ってもらいませんと」

 

「む、むう」

 

 禁呪書庫に出入りしていたことを黙認している限り、これは無理そうだ。

 

「せめてネカネさん。あなたはネギ君と一緒に暮らせませんか?」

 

「寮が男子禁制なんです・・・・・・」

 

「ではこうしましょう」

 

 ピッと人差し指を伸ばし、提案する。

 

「麻帆良の地でネギ君と共に暮らせる家を提供します。今のネギ君の状態は良くない。とても良くない。このまま見過ごすわけにも参りませんし、長も知っている土地です。私達もサポート出来ますし、村の人達に話を聞いてみたのですが、まともに叱る大人がスタン氏くらいしか居ない。せめて叱って褒める大人が居ないと駄目です」

 

 どっちにせよ9歳に放り出す予定の時点でここは駄目だ。

 

「むう、しかし」

 

「少なくとも今回のような事件は起こらないでしょう。ネギ君のせいでもありませんし(・・・・・・・・・・・・・・)親類のネカネさんと共に暮らせば少しずつ落ち着くと思います」

 

「おじいさま。せっかくのヒラガさんのご好意です。受けましょう」

 

「・・・・・・分かった。ネギとネカネをよろしく頼む」

 

 メガロメセンブリアと家族では、家族に秤が傾いたらしい。

 

 

 

「ミカン、大丈夫か?」

 

「あ、お兄さんとお姉ちゃん!」

 

「こんにちは、ネカネお姉ちゃん。ヒラガさん!」

 

「きゅいー・・・・・・」

 

「やあ、元気そうだね」

 

 俺はミカンで遊んでいるネギ君達に声をかけた。

 

「どうだった? 才人」

 

「ああ、問題ない」

 

 エヴァとチャチャゼロが監督していたらしい。

 

「最初の内はここの連中が突っかかってきたんだがな。私の事情を知っている奴が居てな・・・・・・うん、まあ大丈夫だった。大丈夫だ。大丈夫・・・・・・」

 

「お、おう」

 

 封印されていたいきさつでもばれたのだろうか?

 

「えー、大事なお知らせがあります」

 

「なーに、お兄さん」

 

「なになに?」

 

 やだ、この子達可愛い。

 

「多分アーニャちゃんはネギ君の事を駄目な事は駄目って言っているんだろうけど、もっと大人の人が駄目って言わないから、ちゃんと駄目って言えるネカネさんと一緒に暮らす為に引っ越すことになりました」

 

『えー!?』

 

 驚愕する。

 

「アーニャちゃんはネギ君の事を見ててくれていたと思うけど、最近危ないことをしていないかい? 例えばどこかに内緒で入ったり」

 

『えうっ!』

 

「でも、スタンおじいさんほどしっかり怒る人は居なかったんじゃないかい?」

 

「はい・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 本当だったらしい。

 

「で、ネカネさんはとっても心配なんだ。またネギ君が危ない事をしないかって」

 

「しないよ! 僕もう危ないことなんてしない!」

 

「内緒の場所は危なくないかい?」

 

「うっ・・・・・・」

 

 禁呪書庫って名前からしてやばい。

 

「だからネカネさんが一緒に暮らせるよう、引っ越す事になったんだ」

 

「お願いがあります」

 

「ネギッ!?」

 

 何かを決心したようだ。

 

「もう危ないことはしません。父さんみたいに強くなりたいです!」

 

「うん、ネギ君の気持ちは分かった。アーニャちゃん。君はお母さん達と会えただろう? だからネギ君とも会えるよ。いつでも」

 

「でも・・・・・・っ」

 

「引越し先はネギ君のお爺さんが知っている。お母さん達と一緒に飛行機に乗っておいで。ネギ君もネカネさんがお休みになったら来られるから」

 

「アーニャちゃん」

 

 ネカネちゃんが何か言いたいらしい。

 

「大丈夫。ヒラガさんは村のみんなを治してくれた方だもの。悪いようにはならないわ」

 

「うっ」

 

「う?」

 

「うわーん!」

 

 アーニャ は にげだした。

 

「追って捕まえるのも酷ですし、今はご両親が居ます。そっとしておきましょう」

 

 エヴァ以上に幼女なのだ。いきなり友達が引っ越すと言われたらびっくりするだろう。

 

「そうですね」

 

(才人!)

 

(なんだ?)

 

 エヴァが急に念話を繋げて来た。

 

(この娘も付いて来るのか?)

 

(保護者は必要だろうに)

 

(それはそうだが・・・・・・)

 

(後はエヴァ、予定通りネギを鍛えてやれ。そうだな、俺が回復魔法中心に育ててみよう。攻撃なんて最悪魔法の矢があれば十分だ)

 

(私はその程度では満足せんぞ)

 

(まあ、最悪その程度でも敵は倒せる。百発の手裏剣で倒せなければ千発投げればいい。偉大なるニンジャの言葉だ)

 

(聞いた事が無いぞ)

 

(一応この姉と一緒に教える。ネギが攻撃に偏向してたらそれもまた良し。修行の比率を上げてやれ)

 

(・・・・・・はぁ、仕方が無いな)

 

(ここを襲った奴はネギを英雄にしたいらしい。だから、必要によっては現実(・・)を教える)

 

(今の小僧では耐え切れんぞ)

 

(まあ、後々な)

 

(お前は残酷だな。才人)

 

(なぁに、土台はつくってやるさ)

 

 表情には出さないものの、真意を見抜いたのかチャチャゼロが嗤った。




只<歓迎の準備をしていたのだが・・・・・・。


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21話

 オバロの方が楽しすぎてうっかりこっちの更新忘れてました。申し訳ない。


 俺達一行はネギ姉弟の住居手続きと編入届けの書類を作らないといけなくなった為、急遽麻帆良に戻ることとなった。

 

「才人、今回手続きで観光が出来なかったからな。夏休みもまだ余っているし手続きが終わったら京都に行くぞ」

 

「分かった。でもなんで京都なんだ? 鎌倉じゃダメなのか?」

 

「ちょっと詠春に話を通しにな。アイツとアルビレオから言われればタカミチも迂闊な真似はせんだろう」

 

「そう言う事か」

 

 隠匿してるのと前線から身を引き子供に魔法の事を秘密にしてる奴とかだとタカミチでも分が悪いか。

 

「そうと決まればこんな書類さっさと書き終えて近右衛門(ジジイ)のところへ直接送りつけてやるわ」

 

「おー」

 

 俺はエヴァの書き終えた書類にサインと判子押すだけだからまだ楽なんだけどね。俺の分は既に終えた。闇の福音(ダークエヴァンジェル)の名前のせいで書類マシマシなのだ。

 

 

 

 その間も高畑先生は麻帆良には帰って来なかった。あの人長期休暇に入るたびに大規模な組織潰しに行っているらしいんだよな。正義の味方は忙しくて大変だね。

 

 手続きを終えた俺達はイギリスからはとんぼ返りだったため京都へ。尚、なんかメガロメセンブリアから「偉大なる魔法使い」認定の為に審査を行うから本国に来いとか通知が来てたがめんどいのでバックれた。どう考えても罠です。本当にありがとうございました。

 

「そんなわけで俺達は新幹線に乗って京都を目指しているのだ」

 

「誰に言っているんだ?」

 

 こう、お約束ってこういうのあっただろ?

 

「お弁当おいしー」

 

 駄竜(ミカン)駄竜(ミカン)でさっきから延々と駅弁をパクついている。エンゲル係数を上げているダントツ一位はこいつだ。

 

「で、今回はエヴァが日程決めているんだろ? どう行動するんだ?」

 

「そうだな。ジジイ経由で連絡は送ったから、まずは近衛の実家とやらに挨拶だ。そこに詠春が居るはずだからネギの話をして、後は適当に散策だな。私は一括りにされたくは無いんだが、関東の魔法使いって事で刺客が来るかもしれない。悪名もあることだしな。一応準備はしておけ」

 

「分かった」

 

 まあ、おたおたする必要も無いだろう。

 

 

 

 駅に着いたら一人の女が迷い無く俺達の方へ向かってきた。

 

「平賀のご一行様やな?」

 

「石角か」

 

「せや。顔見知りって事でうちが借り出されたんやえ。ほんま堪忍して欲しいわぁ」

 

 いつぞやミカンに人化の術を教えるために麻帆良に来た陰陽師の女だった。実際修行つけたのはこいつが召喚した妖怪だったけど。

 

「嬢ちゃんはどうや? 化けててなんか不都合無いか?」

 

「鱗がなくなるからこの姿だと縄張りの巡回がめんどくさくなります。葉っぱ程度で切り傷できますし」

 

「完全人化だとせやろなー。ま、その程度ならよかったわ」

 

 ミカンは頑張れば人間大の大きさでドラゴニュートモードになれるらしい。部分変化と違って顔も竜になるのに体つきは人間に近いから美的感覚的にやりたくないらしいけど。

 

「ほな、長はんが厄介ごと押し付けたそうにしながら待っとったわ。ちゃっちゃと行こか」

 

 エヴァを囲っているって事はメリットだけではない。こういう時デメリットが発生するわけだ。それに加え今回はお願いしに行く立場だからな・・・・・・めんどくせぇ。

 

「顔に出てるで。けどこれ以上面倒な事になるからおとなしくしといてや」

 

「分かっている」

 

 原作はフェイト一派が居なかったらイージーモードだったからね。普段はそんなもんだろう。

 

 

 

 特に問題は無く総本山前までは通された。前まではな。

 

「おにーさんが長はんの言ってはった人?」

 

「なあエヴァ、目の前に刃物持った幼女が居るんだが。おまけに石角が居なくなった途端にこれだよ」

 

「多分神鳴流の門下生だろ」

 

「幼女に声をかけられる事案とかそういうのは別にいいんだが」

 

「なーなー」

 

 空気が読めない幼女だ。年齢的に読めないのも無理は無いかもしれないけど。

 

「ウチ、大人の人にお願いして妖怪退治に連れて行ってもらったんや。せやけど、妖怪って斬ってもあんまりしっくり来なくて・・・・・・つい、大人の人を斬っちゃってな。こないだまでお外に出してもらえんかってん。でもなー。これからここに来る人(・・・・・・・・・・)は斬っても大丈夫って言われてんねや。多分それおにーさんの事やろ?」

 

「ああ、そう言う事か」

 

 合点が言った。

 

「やる事がせこいな」

 

 これにはエヴァも思わず失笑。

 

「~♪」

 

 そして待ち時間が長かったせいかまどろんでいるミカン。

 

 つまりこの子供は鉄砲玉だが、傷つけたら傷つけたで難癖付けられるわけだ。大人の人って言っても誰と言及されなきゃ反関東派にとってはどうでもいいことで。

 

「よーし、お兄さんが相手しちゃうぞ。俺もなんか持ったほうがいいかな?」

 

「なんも抵抗してくれへん相手は斬っても面白ないんよ。でも、せやなー。剣がええな。剣で斬られそうって感じながら斬るのがええんよ」

 

 ・・・・・・君小学校低学年くらいだよね? なんでメスの顔してんの? エヴァじゃないんだから。見た目通りの年齢でそんな顔されると流石の俺も引くわ。

 

「まあいいか」

 

 影から刀を一本出す。

 

「相手してあげるけどその前に一つ言っておく。抜かせてみろ」

 

 鞘に入れたまま刀を地面に立て、咸卦法を使う。

 

「あはー」

 

 顔を紅潮させながら白目と黒目を反転させ、刀を振りかぶり跳びかかってくる幼女。

 

 そして俺はそれをそのまま見ていた(・・・・・・・・)

 

「!?」

 

 岩をも叩き斬る神鳴流の剣士が気が使えない普通の剣士の如く、剣で岩を叩いたかのように硬質な音が響き渡る。幼女の刀は俺の目の前で障壁によって阻まれた。だが、それも1つや2つでは無い。鱗が何層も重なったかのような障壁が剣で叩く度に浮き上がる。

 

「これはね。服の糸一本一本全部が元は呪符なんだよ。その呪符をよじって糸にして、編んで作ったのが俺の着ている服だ。つまり、これを抜かない限り俺を斬る事は出来ない」

 

 子供に言い聞かせるようにネタをばらす。まあ、相手は子供なんだが。

 

「っ! このっ!」

 

 幼女はムキになって刀を振るう。だが無駄だ。汎用性を高めるために使える属性は全て使った障壁だ。一枚一枚の属性がそれぞれ違い、叩きつける度に熱され、冷やされ、削られたりする。つまり――。

 

「あ・・・・・・」

 

 折れる。いかに気を用いた斬撃だろうと、刀自体が耐えられる道理が無いのだ。

 

「さて」

 

 障壁ごしにギチギチ言う刀身の根元を掴み、そこら辺に放る。

 

「お仕置きの時間だ」

 

 影に俺の刀をしまい、障壁を全て解除し、幼女を小脇に抱え――。

 

 尻を叩く。

 

「ぴい!?」

 

 叩く。

 

「びゃあ!」

 

 叩く。

 

「痛い!」

 

 子供を叱る時、怒りに身を任せてはいけない。あくまで子供の為を想い、叱るのだ。故に、怒りを持ってもいい。だが、慈悲の心を忘れてはいけない。子供が本当に反省しているかも見極め、無慈悲にもならなければならない。

 

「う、うぅ・・・・・・」

 

 この辺で良いか。

 

「普通の人は斬られると痛い。そして痛いのは嫌だ。お前は斬り斬られといきたいらしいけど。どうだ、反省したか?」

 

「ごべんな゛ざい゛ぃぃ」

 

「よし」

 

 地面に下ろしてやる。

 

「自分の家まで帰れるかな?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 気まずそうにしている。

 

「どうした?」

 

「あの、ウチ、大人の人斬ってから縁を切られてん・・・・・・だから、おうちには帰れんかってん」

 

「つまり謹慎明けにそのまま刀を持って俺のところまで来た。と」

 

「きんしんあけ・・・・・・? 多分そうや」

 

 何と言う事だ。

 

「まあいいや。じゃあちょっと長に会いに行くから一緒に付いて来なさい」

 

「え、でも・・・・・・」

 

「長には多分怒られないよ。むしろ長は怒られる立場だと思うよ。それで、歩けるかな?」

 

「お尻が痛くて無理や・・・・・・」

 

「はぁ、まあ、うん。しょうがない」

 

 結局抱きかかえていくことにした。

 

 

 

「申し訳ない」

 

 いの一番に近衛詠春――つまり長に頭を下げられた。あの子は別室で待機だ。

 

「手綱を取るのも一苦労だな。詠春」

 

 くくく・・・・・・とエヴァが笑っている。いかに殺人鬼の素養を秘めていても、あの程度で俺がどうにかなるわけでも無いし、この茶番でいかに弄ってやろうかと言う感情が見て取れる。

 

「改めて・・・・・・申し訳ない」

 

 詠春の頭は下がったままだ。面倒なので率直に尋ねることにした。

 

「あの子供は?」

 

「あの子は・・・・・・理由はあの子自身から聞いていると思いますが、才溢れ、あの歳で既に初陣は済ませたのですが、その際に味方の者を斬りつけまして・・・・・・」

 

「処理をこちらに求めたわけだ」

 

 エヴァは笑ったままだ。

 

「エヴァ、話が進まん。舐めた真似してくれたのは確かだが」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 関西の長は頭を下げたままだ。武闘派で政がからっきしでも・・・・・・ああ、原作からこんなんだったっけ?

 

「まあいいや。長よ。話が進まない。頭を上げられよ」

 

「申し訳ない」

 

 三度目の謝罪と共に頭を上げる近衛詠春。

 

「色々面倒になったので駆け引きとかは無しだ。ネカネ・スプリングフィールド及びネギ・スプリングフィールドを麻帆良の地に移住させるためにタカミチ・T・高畑の説得を願いたい」

 

「承りました。ですが・・・・・・一つだけ、いいですか?」

 

「なんでしょう?」

 

「あの子・・・・・・月詠の事をお願いしたい。辛うじて神鳴流で寝泊りしているのですが、親に縁を切られ、姓を剥奪されています。闇の福音(ダークエヴァンジェル)を下し、あの村の被害者を救ったあなたならばと思いまして」

 

「ただちょっと行き過ぎた子供でしょうに。そちらでなんとかなるのでは?」

 

「こちらとしてもそうしたいのですが・・・・・・同じ門下の子供達と一緒にするなと言う声を抑えきれないのです」

 

 さて、どうするか。あの衝動はエヴァに地獄の特訓をさせれば制御は出来そうだが。

 

「説得の件は襲われた事でチャラ。身元引き受けで一つ貸しと言う事でよろしい?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 こんなところで月詠を拾うことになるとは。世の中何があるか分からんね。

 

 

 

「お兄さま、ほな、よろしゅう頼んます」

 

 こんなところに泊まれる気分じゃないので、適当な旅館に行こうと言う話になり、長の下を後にしようとしていたら、月詠が居た。

 

「君はどこまで聞いている?」

 

「君だなんていけずやなぁ。月詠と呼んでください」

 

 距離が近いんだが?

 

「では、月詠、どこまで聞いている?」

 

「これからお兄さんはウチのお兄さまになるからよろしゅう言っといてって」

 

 投げっぱなしか。

 

「分かった。エヴァ」

 

「分かっている。才人」

 

「?」

 

 駄竜(ミカン)を除いた俺達は意見を確認し合う。

 

「よし、これから君は平賀月詠だ。なんか早い内から目覚めたみたいだけど、そんな事がどうでもよくなるくらいこのエヴァンジェリンさんが鍛えてくれるからな」

 

「泣いたり笑ったり出来なくしてやる」

 

「えっ」

 

「いやー、どんな風に成長するか楽しみだな」

 

「私の下で鍛えるからには生半可にはせんよ」

 

「えっ? えっ?」

 

「月詠ちゃん、今から言っておきますね。ご愁傷様です」

 

 なんだか分からないが空気だけ察したミカンが月詠に同情した。




 黒目反転はラブひな時代から神鳴流(青山)のお家芸だったと思うんですよ。


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22話

 交互に小説を執筆するとこんがらがって面倒なため、ある程度まとめて書こうと思いました。


 関西の総本山に寄った後、月詠も加えて、一応当初の予定通りに俺達は京都観光をするのだった。

 

「フハハハハハ!」

 

「エヴァ姉さま楽しそうやなぁ」

 

「エヴァは神社仏閣とか好きだからなぁ」

 

「マスター、そんなことより生八橋食べたいです」

 

 エヴァに付いて行くのが精一杯で、あちこちキョロキョロして足を引っ張るミカン。きつい。

 

 

 

 くたくたになりながらも旅館にチェックインし、月詠の事を麻帆良に伝える。詠春たっての頼みとなれば近右衛門も無碍にはできまい。

 

「ふう」

 

 それも終わり、風呂場で汗と疲れを流す。風呂はいいね。人類の生み出した文化の極みとはよく言ったものだ。古代ローマ人も好きだったらしいし。

 

 だけど女湯の様子とかそう言うお約束は無いから。すまんね。

 

 

 

 後は同じようなペースで2泊ほどしてから麻帆良へと戻った。

 

 

 

「あ゛~疲れた」

 

 凹凸がかみ合わない集団の中に居ると磨耗率が高くなる錯覚を覚えながら、月詠を引き取った為、寮を引き払う手続きをするために書類作成していたのだ。今は京都土産の菓子と茶で一息ついている。

 

 家はエヴァの家に住んでもいいのだが、家主が見た目幼女だからなぁ。ちと世間体が辛い。別荘でさらに1日過ごすし、歳を取って死ぬ危険があるため、俺は食事に別荘内で栽培している人間でも食べられるよう品種改良した肉や野菜を食べている。ゆでブレインイーターとかモルボルの漬物など。火星(魔法世界)産でも良かったんだが、あっちは30年しない内に全てをデータ化するらしいからね。調達可能な金星(魔界)産のものだよ。異界産だけあってガチで不老長寿になるらしい。耐えることができればだが。

 

 引越しは業者に頼むと魔法関係とか面倒な事になる為、最低限の偽装以外は影のゲートに突っ込んで移動した。

 

「おつかれさんどす~」

 

 月詠がお茶のお代わりを淹れてくれる。割と気配り出来る娘だ。ミカンは縄張りの巡回で出ている。

 

「おう、ありがとさん」

 

「ところでお兄さま。お願いがあんねんけど」

 

「なんだ?」

 

「まともに()ってくれへん? あの防御はなんかずるいわ」

 

「あー・・・・・・うん、ま、いいか」

 

 もっと理不尽な目に遭わせてみよう。神鳴流は銃は効かないって言うけど、散弾はどうかね? 後は衝撃信管の榴弾とか。

 

「やったー! お兄さま大好きや~」

 

 これで白目が反転してなきゃ可愛かったんだがな。

 

「お前はこれから大量に刀をダメにするだろうからしばらくは数打ちな。おまけに耐久重視の(なまくら)だけど」

 

 正確には俺が即席で作った奴だ。分厚く作りました。

 

「そこはしゃあないわ。今のお兄さまと打ち合っても斬れるイメージ浮かばへんし」

 

 でも斬りたいんよとか続けられる。そういや弐の太刀ってどこで習えばいいのかね? 刀子先生は習得しているだろうか? そもそも教えてもらえるかも怪しいな。見て盗むしか無いか?

 

 ま、いいか。その時考えよう。それまでは防御ごと潰せばいい。

 

「だけど()るからにはキチンと残さず食べるんだぞ。あれ食わないとすぐに年寄りになるからな」

 

「・・・・・・お兄さま。ぬか床で繁殖する植物は食べ物やない」

 

 確かに魔界産だからか、皿に盛っても動いているし。だけどちょっと活きがいいだけじゃないか。

 

「今度エヴァに修行つけてもらおうな。大丈夫。最初は森だから食べ物は豊富だ」

 

 初心者だからカレー粉の携帯を許してやろう。

 

「ウチ今更森程度でどうこうならへんよ?」

 

「24日間だと同じ狩場じゃ魚も蛇も取り尽くすだろうし、山菜だけだと遭遇戦の時力が出ないぞ?」

 

 1時間が24時間になるから丸一日使えば24日だ。

 

「えっ」

 

「喜べ、俺も一緒に同伴してやる。対戦相手として潜伏する」

 

「同伴の意味が分からへんけど、お兄さまも一緒なん?」

 

「俺は虫も平気だからお前よりはるかに楽に飯が食えるぞ」

 

 昔オーク食ったのを思い出すなぁ。人間の子供が好物なだけであまり豚と変わらなかったけど。

 

「それとも虫の選び方からやるか?」

 

 中まで火を通さないと寄生虫が怖い。

 

「嫌や! ウチは鹿とか猪でええ!」

 

「まあ、お前がそう言うならそれでいいけど」

 

 ここら辺はまだ子供か。だけど戦場に動物が近寄ると思っているのかね? 修羅になるには木の根を食んででも生き残る執念が足りてないなぁ。

 

 当日はわざと気配出してプレッシャーかけていこうと思った。

 

 

 

「で、どうだ? あの娘は」

 

「甘々だな。鬼に逢っては鬼を斬り、仏に逢っては仏を斬ると言うような感じの覚悟が足りてない。更生の余地は十分ある。悪堕ちするなら地獄で泥水すするくらいの意気込みが欲しいな」

 

 今はエヴァと別荘でお茶会だ。ここでの1日は外で1時間しか経たない為、雑談するには勿体無いくらいの場所である。

 

「お前はなんでも食うからな・・・・・・修行中なのに食って寝るだけだし」

 

「毎日風呂に入れるのは贅沢以外の何者でもない。宮本武蔵も似たようなことしていただろう」

 

「お前は本当に現代人なのか・・・・・・?」

 

「前世は遠征中血脂や死臭を浴びても風呂に入れなかった時もあった」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 エヴァはもはや何も言うまいと言う顔をしている。普通は前世の事なんて覚えていないし。大体俺が出張って逃げない盗賊や傭兵は俺本人ではなく近くの村人か弱そうな奴を狙うんだよ。村には風呂なんて無かった場所もあったし、兵で守らせると警備を薄くせざるを得ない場所が出てくるからな。そこまでの手練が出てくると、ゴーレムやガーゴイル程度、どうにでもなった。相手も魔術使えるのが一番辛かったな。

 

 大隆起を止めるための対処療法がまさか自分に仇となって返って来るとは思ってなかったとしみじみ感じる。俺が出ない時は対応が大雑把すぎだったんだよ。相手がゲリラ戦をしてくるなら木々や建造物ごとなぎ払う脳筋ばかりだった。1や2までなら許したけど、10や100になってきたら被害半端無いし、後から真似しだす馬鹿が出ないためにそういう奴等が沸いてきたら率先して潰さなければならなかったってのもあったっけ。

 

「ごほんっ! ・・・・・・あの娘の事だったな。私に何かして欲しいことはあるか?」

 

「別荘に森を追加しておいてくれ」

 

「分かった・・・・・・労働には対価が必要だと思うんだが」

 

 向かい合ってたエヴァがにじり寄ってくる。どうしたもんかな。

 

「ほれ、いい子いい子」

 

 頭を撫でてみる。

 

「足りん」

 

「足りんか。どうして欲しい?」

 

 無言でぽすんと俺の膝の上に乗ってきた。

 

「抱きしめろ」

 

「了解」

 

 腹と首元に手を回し、苦しくない程度に抱きしめる。

 

「ふふ・・・・・・」

 

「あだっ」

 

 エヴァの首元に回した腕に噛み付かれた。そのまま血を吸われる。

 

「しょうがない奴め」

 

 腹に回した腕を頭に乗せ、撫でる。なんとも緩い空気だ。

 

 こいつは保護者側になるんだけどな。見た目に精神が引っ張られている節があるからなぁ。新しい娘が来て、嫉妬でもしているのかね?

 

 保父にでもなった気分だ。どうしたもんかな。

 

 

 

 翌日、別荘に追加してもらった森で月詠と対峙していた。これから修行をつけるのだ。

 

「では修行を始める。才人には影のゲートで食料を持ち込ませないため、ここで荷物を出してもらう」

 

 エヴァが見届け人だ。一応俺の修行も兼ねているからな。

 

「ほれ」

 

 影から武器を出す。それと材料も出す。俺の錬金は自身の魔力消耗を抑えるため、一から作るのではなく、錬金する際に材料を出しているのである。鋼材、燃料、薬品・・・・・・総合した重さは大体、50トンちょいくらいか? ハングドマン1機組み上げると後は自力で生成しなければならなくなる。これでも足りない材料を現場で生成しているのだ。実際のアーマードコアはパーツによって重量が上下するためあまり気にする必要は無い。ハルケギニアのメイジがトライアングルで30メートルクラスのゴーレムを作ってもピンピンしているのがいかに規格外か分かる。あっちは土だが土故に再生可能ではあるし。

 

 影からせり出してくるので派手な土煙などは立たない。だけど木々が鋼材に押し出されて倒壊している。

 

「ひゃー」

 

 月詠の目が点になっている。「ウチこんなのと()るの?」と言った状態で。

 

「ここでナパームでも作られて焼かれたら修行にならんのでこれは没収だ」

 

 燃料が没収された。まあしょうがないか。鋼鉄のゴーレムは燃料じゃなくても動く。今回作らないけど。

 

「それと、弾薬に鉛は使うな。鉛害が面倒だ」

 

 大雑把に分けてある弾薬も持っていかれる。散弾とか作り直さないと。

 

「では、確認だ。ABC兵器の使用は禁止。後は火は使っても構わんが、積極的に火計は使うな。修行にならん。他にも色々あるが、判断は才人に任せる」

 

 様子を見て、大丈夫そうだったらUAVを飛ばして狙撃でもしてみるか。しかしやりすぎないようにしないといけない。俺の加虐心を満足させるためにここに居るのではなく、修行なのだ。ガーゴイルに弾と魔力を充填して数10キロメートル先から延々と攻撃し続けるわけには行かない。何より俺の修行にならない。

 

 こう考えると制約が多いな。迫撃砲も煙幕以外は止めておこう。

 

「ABCへいきってなんどすかー?」

 

 うん、まあ小学生がそんなこと知らんだろう。

 

「核兵器、生物兵器、化学兵器の略だ。以前私と戦った際に戦術核を使われてな・・・・・・再生する身体に放射性物質が混じって面倒だったのだ」

 

 エヴァが嘆息して説明する。

 

「正直やりすぎたと思っている。面倒だからもうやらない」

 

「破壊力だけなら魔法世界の方が上だし、私からこいつに言えることは無い」

 

 投げたな。

 

「では、今から1時間後に開始だ。それまで交戦は避けろ」

 

「はいなー」

 

「OK」

 

「では、24日後にな」

 

 その言葉を残し、エヴァは転移した。

 

「じゃあ月詠」

 

「なぁに、お兄さま?」

 

「1時間後にな」

 

 そう言って俺も影を使って転移した。瞬動と違って気配を追うのは難しいだろう。

 

 日の高い内に飯の準備もしないといけないからな。

 

 

 

 以下、ダイジェストでお送りします。

 

 

 

「お兄さま、わざと気配出しとるな」

 

 

 全ては、夜の闇の中から始まった。

 

 

「ああっお兄さまのせいで動物がみんな逃げてもうたー」

 

 

 人は生まれ、人は死ぬ。

 

 

「キノコはあかん・・・・・・せめて山菜探さな」

 

 

 天に軌道があれば、人には運命がある。

 

 

「おなか減ったわぁ・・・・・・眠いわぁ・・・・・・」

 

 

 才人に追われ、幻覚に導かれ、辿りゆく果ては何処。

 

 

「そんなじらさんといてぇ。奇襲する以外気配だけ感じさせてまともに戦ってないやんかぁ」

 

 

 だが、この命、求めるべきは何。

 

 

「うふふ、みぃつけた」

 

 

 目指すべきは何。

 

 

「そんな、武器を折るためにわざと・・・・・・?」

 

 

 打つべきは何。

 

 

「ひっ! ・・・・・・お、お兄さま?」

 

 

 そして、我は何。

 

 

「嫌やあ! もうウチおうちかえるぅ!」

 

 

 猜疑に歪んだ暗い瞳をせせら嗤う。

 

 

「せめて火ぃ通させてぇ・・・・・・」

 

 

 誰が仕組んだ地獄やら。

 

 

「ひもじぃ・・・・・・」

 

 

 お前も!

 

 

「ウチがこんなところで・・・・・・」

 

 

 お前も!

 

 

「まさか・・・・・・ウチ獣ごときにも狙われとるん・・・・・・?」

 

 

 お前も!

 

 

「あはは、はは、はははははは!」

 

 

 私の為に、死んで!

 

 

 

 24日経過。

 

 

 

「やあ」

 

「ひっ!」

 

 月詠は酷く怯えていた。頬はこけ、目の下はくぼみ、顔色は土気色に近く、折れた刀を手放せなかった。

 

「修行は終わりだ」

 

 エヴァの宣言。

 

「ウチ・・・・・・生きとるん?」

 

 どうにも信じられないようだ。

 

「うん、終わり。帰ってご飯を食べよう」

 

 幼子に言い聞かせるように、優しく迎え入れる。

 

「うそ・・・・・・うそ・・・・・・?」

 

「嘘じゃないって」

 

 まあ、こうしたのも俺なんだが(嗤)

 

「お兄さま、お兄さまぁ!」

 

 折れた刀を捨て、月詠がよろよろと近付いてくる。

 

「おーよしよし」

 

 だが――。

 

「死ねぇ!」

 

「甘い」

 

 それもフェイントだったらしい。

 

「はい、とん、と」

 

 一撃喰らわせ、気絶させる。やっぱ限界だったか。

 

「これはもうしばらく続けないと駄目かな」

 

「駄目そうだな」

 

 これを聴いていたら月詠は多分廃人になっていたかもしれない。

 

 だが、最後の一撃を喰らった時点で月詠の心は折れていたようだ。




 別荘はウドではありません。アストラギウス銀河でもありません。


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23話

 お久しぶりです。


「お、お兄さま。ふふ、ふひっ」

 

 目の前で月詠が怯えながら必死で笑顔を浮かべている。

 

「や、しばらくは修行しないから」

 

「しゅ、修行!?」

 

 ありゃ、こりゃ地雷になっているのか。

 

「嫌や! もう修行は嫌や!」

 

 がくがくと震えながら後ずさる月詠。

 

「落ち着け」

 

 流石にちょっとやりすぎたかな。

 

 とまあこんな感じで極限の恐怖を知った月詠は俺の気に障らない様に必死で笑顔を浮かべ、ちょっとした事で爆発するPTSD持ちになってしまったのだ。

 

 どうしたものかな。このままだとストックホルム症候群コースだし。

 

「エヴァ、どうすればいいと思う?」

 

「知らん、だがこいつはここで折れて良かったんじゃないか?」

 

 あのままだと行き着く果てが修羅の道だからな。

 

「しゃあない。とりあえず気長にやるか」

 

 カウンセリングとか専門外なんだけどな。

 

 

 

 上手い事矯正出来ればなと思っていたんだが、あの有様だったので千雨ちゃんとは会わせられそうにない。刃物を見ても怯えるので自傷行為に走ることも無いだろう。ちょっと冷却期間が必要だと思ったのでエヴァに任せることにした。あいつはさらなるトラウマで上書きしそうな気がするけど多分なんとかなるだろう・・・・・・うん、多分。

 

 今は千雨ちゃんの様子を見に待ち合わせ中だ。修行さぼっていないだろうか?

 

「すみません、平賀さんですか?」

 

 と、考え事をしながらスタブでコーヒーを飲んでいると童女に声をかけられた。

 

「君は?」

 

「葉加瀬聡美と言います。実は、この写真について聞きたいことがありまして・・・・・・」

 

 そう言って一枚の写真を取り出す童女。その写真には巨大な鬼に向かってグラインドブレードを突き出し、特攻するヴェンジェンスの姿が。

 

「ここではちょっと不味い。あっちに行こうか」

 

 千雨ちゃんにはメールでちょっと遅れると伝え、移動する事にした。この童女に絡まれているのに千雨ちゃんが来るとややこしくなるからね。

 

 

 

「ここなら大丈夫だろう」

 

 現在ゲームセンター内。ここなら騒音が酷いしこの写真もゲームの事だろうと周りも勝手に納得してくれるんじゃないかと思ってのことだ。動揺してとっさに呪を使えなかった。

 

「で、それで俺に聞きたい事とは何かな?」

 

 あの写真は以前警備中に大型の鬼が出て、俺が悪ノリしてヴェンジェンスを作ったのが原因だろう。作ったヴェンジェンスは麻帆良の森の奥にグラインドブレードを突き出した状態で放置していた。どうせ人なんて来ないだろうし、来るとしたら裏の事を知っている関係者とか忍者くらいだろうし、エヴァと反乱を起こす時に既に作ったゴーレムがあったほうが便利だろうと思って残していたのだ。

 

「わたしはこれでも裏の事を知っています。そして大学に研究室を持っています。なのでロボットは見慣れているのですが、この、この凄まじいまでに暴力を体言した機体! これについて聞きたいのです! これは有人操作なのですか? それとも無人? AI式ですか? だとすると人格などは設定されていますか? 人格は男性? 女性?」

 

「落ち着き給え」

 

 どうもこの子はこの手の事になると見境がつかなくなるようだ。

 

「まず、裏と言うのはどこまで知っているんだい?」

 

「この世界には魔法の存在が公にされていないと言うのは知っています」

 

「となると、それを他の人が知っていると言う事は?」

 

「うっ・・・・・・知りません」

 

「ふむ」

 

 どうやら魔法先生とかは知らないらしい。となるとこの写真も盗撮か何かか。まだ超に出会ってないだろうから、まだ単に頭のいい子供と言う扱いなんだろうか?

 

「君は裏の血生臭いところに立つ気はあるのか? それは勇気とかそんな類のものじゃないよ」

 

「知識の探求に犠牲は付き物です!」

 

「君自身が死んでも?」

 

「私は科学に魂を売りました。故に志半ばで亡き者にされても文句は言いません!」

 

「・・・・・・いいだろう」

 

 たまにこういうのが居るから面白い。ただルールに乗っかっているだけだとつまらないし、何よりルールとは弱者が守り弱者はルールに守られる為に存在するのだ。今の俺とエヴァは「付き合ってやっている」と言うのが正しい。

 

「君の熱意は分かった。質問に答えよう」

 

「ッ!!」

 

 唾を飲む音が聞こえる。

 

「結論を言うとあれはロボットではない。魔力も使って動いているゴーレムと言うものだ」

 

「ロボットじゃない・・・・・・? ゴーレム? それって石とかで出来ているアレですか? でもこれはかなりメカっぽいんですが・・・・・・」

 

「趣味だよ」

 

「趣味ですか」

 

 文句あっか?

 

「でもいい趣味だと思います! どうでしょう。ビデオにも写しているんですが、あの機動力! あの攻撃力! わたしに魔力を使わないロボットとして再現させてもらえませんか?」

 

 なんか話がややこしいことになってきたぞ。こいつが後に超と組むとしたらデメリットがでかいんだが・・・・・・。

 

「お願いします!」

 

 そうだ、UNACを作ってしまえばいい。

 

「いいだろう」

 

「ほんとにっ!?」

 

「ただし、俺も開発に携わらせてもらおうか。そうすれば色々と都合がいいだろう」

 

 もし田中さんみたいに麻帆良地下で大量生産されるのなら、それがそっくりそのまま俺の戦力となるわけだ。

 

「やったー! ありがとうございます平賀さん!」

 

「いやいや、礼には及ばないよ」

 

「あ、これ研究室の電話番号です! それと私の携帯番号も!」

 

「うん、都合がいい日に電話をかけるから。実は待ち合わせをしていたんだ。そろそろお暇させてもらうよ」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

 予想外の収穫があったな。これで超が魔法バレ事件を起こしても有利に進められる。悪いけど移民とか俺のシマじゃノーカンだから。

 

 

 

「遅いですー!」

 

「はは、ごめんごめん」

 

 スタブに戻ってきた。千雨ちゃんはやたら長い呪文のようなコーヒーを飲んでいる。

 

「ちょっと裏の事について聞かれたからそれの対処をしていたんだ」

 

「それならしょうがないですね・・・・・・」

 

 しょうがないと口では言いながらもどこか納得しきれていないようだ。まあそんなもんだろう。

 

「で、だ。修行の方はどうかな?」

 

「もちろん続けています! 気が使えるようになってから大人にも勝てるようになってきたんですよ!」

 

 千雨ちゃんの中ではそれが異常だと気がついていないらしい。麻帆良ではふつー(白目)

 

「なら成果を見せてもらおうかな」

 

「はい! どこでやりますか?」

 

「いつもの場所でいいと思うよ」

 

「分かりました! 行きましょう!」

 

 千雨ちゃんはコーヒーを一気に飲んで俺の手を引く。

 

「よーしお兄さん張り切っちゃうぞ」

 

 俺の空手はもはやカラテになっているが、実は素手でも戦える。いつでも武器が持てるとは限らない。備えよう。

 

「お兄さんに一撃入れられたら何かご褒美とかありませんか?」

 

「それなら冬に向けてマフラーでも編んであげよう」

 

「頑張ります!」

 

 俺の服と同じように呪符でも織り込もうかな。呪いの抵抗とか教えてないし。千雨ちゃんを「知らないうちに要塞化」計画でも立ててみよう。




 葉加瀬登場。ファンタズマビーイング?さて、どうでしょう?


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24話

 つかの間の幕間みたいなもん。


 現在俺は葉加瀬のラボにお邪魔して、ゴーレムをロボットにしようとプログラムを組んだり資材を錬金したりしている。

 

「なるほど、そのオーバードウェポンと言うのは元々規格外兵器だから通常装備もあるんですね」

 

 今作っているのは重二脚ブーストチャージ機体に逆関節撹乱用機体、それと四脚スナイパー機体、そして最後にタンクオートキャノン機体だ。

 

「プログラムはこちらで用意したチップの組み合わせで使うから、後は好きにコピーして追記してみるといい」

 

 UNACの行動足らしめるのはアルゴリズムを司るチップの存在だ。認識力が低ければ敵に一方的にアウトレンジから蜂の巣にされるし、逆に高すぎても壁越しで動けなくなったりもする。

 

「私としてはこの「ヒュージミサイル」が核なんで使えないのがシャクですが・・・・・・」

 

「何、「ヒュージキャノン」と違って加工済み核弾頭じゃないからまだ言い訳が通る。ばれなきゃ問題は無い」

 

「そういうもんでしょうか?」

 

「そういうもんだよ」

 

 現在VACとカテゴライズされるアーマードコアは、5~7メートルある。なのでパーツをばらして組み立ては研究所の外でやる予定だ。

 

 だが、そこまで公にすると葉加瀬と俺がつるんでいるのがばれてしまう。あらかじめ暗示をかけまくって事なきを得た。

 

「兵装は四脚にはUAVを積むからいいとして、逆関節にはマーカーとアンプを積んでおきましょう。タンクのミサイルと相互支援が成り立っていれば結構強いと思うんですよ」

 

「まあ、こういうのは最初は好きにすればいいんじゃないかな? 重二脚にはマスブレードを積むし」

 

 マスブレードはただの鉄骨にブースターを付けたものの為、俺じゃなくても比較的簡単に用意出来るのだ。

 

「そうですね。それでいきましょう。ああ、この鉄臭いロボット軍団が動くんですね・・・・・・複合燃料電池が平賀さんにしか作り出せないのが問題ですが・・・・・・私はいずれその問題も解決してみせます!」

 

 うん、若者はそうじゃないとね。可能性はまずぶち当たってから考えるべきだよ。

 

「では、ロボ研に手伝って運んでもらいましょう。あの人達なら喜んで運んでくれるはずです」

 

 ま、洗脳済みなんだけどね。

 

 

 

 で、その後エヴァ邸に帰ってきたんだが・・・・・・。

 

「お兄さま~寂しかったえ~!」

 

 まるでPTSDが無かったことになっている月詠の姿が!

 

「エヴァ、何をしたんだ?」

 

「なぁに、少し生きていることに感謝できるようにしただけだよ」

 

「月詠、何があった?」

 

「何モアリマセンデシタヨ? エヴァ様ニチョットオ稽古ヲ着ケテ貰ッタダケデス」

 

 あ、目が死んでる。大丈夫か? これ。

 

「まあなんにせよ、これで大丈夫だろう。何度か「矯正」が必要かも知れんが、何、肉体に支障が出ない範囲にしておいてやろう」

 

 瞳孔が開いてて小刻みに震えている幼女が居るんですがいいんですかねぇ・・・・・・? まあ、俺も似たようなことをしたんだが。

 

「お兄さま、美味しいものが食べたい」

 

 まあ、このまま辛い記憶は忘れて、修羅への道も忘れて、ちょっと剣術が強い女の子として生きていけばいいんじゃないかな? と思った。

 

「よーし、ピザとパスタの美味しい店に案内しちゃうぞ。デザートはアイスクリームだ」

 

 

 

 後はミカンと千雨ちゃんを呼んで、食事会と言う事になった。

 

「それで、こちらがこないだ俺の妹になった月詠だ。ほら挨拶」

 

「月詠と申します。お初に~」

 

「長谷川千雨だ。よろしく(相手は年下! 気にするな!)」

 

「そんなことよりイタ飯なんてデートっぽくておしゃれですねマスター!」

 

「あーそうだな」

 

「今の状態だと外で酒が飲めないのがアレだが、まあ良かろう。才人のおごりだ。堪能させてもらうぞ」

 

 まあ、エヴァは言うほど食わんだろう。

 

「分かってるよ」

 

 今回の事で色々と関係がこんがらがってきたから、それの整理も踏まえて葉加瀬以外の全員で食事会としゃれ込むことになった。

 

「お、才人。なかなか珍しいフルーツワインがあるぞ。帰ったら開けよう」

 

 この時代はまだ未成年が酒を買える時代だったのだ。

 

「いいけどあんまり公で言わないでくれよ」

 

「ふん」

 

「あそこやなー」

 

「あ、月詠ちゃん、待てー!」

 

 ほのぼのしてるな。

 

 ここで食い終わったら次はスプリングフィールド姉弟に施設の紹介だ。なんだか今日は忙しいな。

 

「ほら、才人、行くぞ」

 

「分かった。今行くよ」

 

 

 

 今日はスプリングフィールド姉弟が麻帆良に来る予定だ。夏休みの間にこちらに移住しようと言う計画だ。

 

「あ、お兄さーん!」

 

 ネギ少年が駆け寄ってくる。子犬のようだ。

 

「あらあら、ネギったらはしゃいじゃって・・・・・・平賀さん、今日はよろしくお願いします」

 

「はい、承りました」

 

 通常だったらここに高畑先生が付くんだけど、長期出張だからね。仕方ないね。

 

「一応何件か見繕っておきましたので、気に入るのがあればいいんですが」

 

「それは平賀さんなので大丈夫だと信頼しています」

 

 この姉弟、日本語で話しているんだぜ? 信じられないだろう?

 

「しかし本当に日本語がお上手になった」

 

「ふふっそれほどでもありません」

 

「お姉ちゃん、お兄さん、早くー!」

 

「はいはい、もうちょっとゆっくり行こうねー」

 

 迷子になられたら事だ。

 

 さて、どこから回ろうか・・・・・・。

 

 

 

 

 

 まずはエヴァの別荘の近く。自然も多く、田舎にかこまれていたウェールズ育ちにとってはなじみやすいだろうと配慮してのことだ。もちろんミカンの縄張り圏内だから魔法使いがこそこそやっていても即座に発見される。

 

「空港の後だと空気が美味しいですね」

 

「そう言って貰えると候補に選んだ甲斐もありますよ」

 

「お兄さん、見てみて、カブトムシ!」

 

「おー、もう見つけてきたのかい? 凄いねー」

 

「ふふふっ、ネギったら・・・・・・」

 

 

 

 次は俺の家に近い住宅地。

 

「最近月詠と言う子と兄妹の関係になりまして、それでこちらに移ってきたんですよ」

 

「まあ、以前はどちらに?」

 

「寮生活でしたね」

 

「お兄さん、あれ食べたい!」

 

「おーよしよし、ネカネさんも食べよう」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

 3人で並んでクレープを食べた。

 

 

 

 最後に学園に比較的近い場所だ。

 

「ここが一番交通の便が良いですね」

 

「そうですか。しかしちょっと人が雑多ですね」

 

「そこは仕方ないですよ。便利なところには人が集まりやすいですし」

 

「・・・・・・ここはちょっと候補から外させてもらいます」

 

「分かりました。どこが一番良いとかありますか?」

 

「平賀さんのご自宅が一番かなって・・・・・・てへっ」

 

「いいですよ」

 

「えっ」

 

「ですから構いませんよ。あなたはまだ学生だ。もうちょっと頼ってくれてもいいんですよ」

 

「ネカネ」

 

「えっ」

 

「ネカネって呼んでください。あの時村のみんなを・・・・・・スタンおじいさんを救ってくれたのはあなたでした。陳腐かもしれませんが、一目惚れってやつかもしれません。サイトさん・・・・・・貴方が好きです」

 

 うーむ、これは流石に想定の範囲外だ。

 

「俺はエヴァと決して綺麗とは言えない道を歩んでいこうと思っています。それでもいいのなら、一緒に来ますか?」

 

「それは正義の魔法使いでは無く・・・・・・?」

 

「はい、場合によっては悪を成し、それによって少数を救うかもしれません。いや、それすらも無いかもしれない。それでも貴女は私と一緒に来ますか?」

 

「・・・・・・はい! 私はサイトさんの治療を見て、こんな治療師になれたらと思っていました。だから、恋人とは言いません! 私の先生になって下さい!」

 

 ん、まあいいか。

 

「分かった。ならこれから君の事はネカネちゃんと呼ばせてもらうよ。いいかい?」

 

「はい!」

 

 なんか最近どんどん弟子とかが増える傾向にあるなー。どうなってるんだこりゃ?

 

 結局スプリングフィールド姉弟は俺の勧めでエヴァの家の近くに住む事となった。そこからなら魔法実験をしても目立たないだろうとの配慮だ。少しネカネちゃんが寂しそうな顔をしてたが、まあしょうがないだろう。




 ネギたちも引っ越してきたし、これから騒がしくなるかもしれませんね。


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25話

 昔の作品を見るとなんであそこまでハイペースだったんだろうな。と思ったりもします。


「これから月詠と千雨ちゃんで模擬戦闘をしてもらう」

 

 現在別荘の中で修行中だ。丁度同じくらいのレベルの相手が出来たからね。これを有効活用しない手は無い。

 

「いいんですけど、月詠ちゃんってまだ小さいんじゃ・・・・・・?」

 

「あの表情を見てもそう言えるかな?」

 

 そこには白目を反転させて竹刀を握る月詠の姿が。

 

「まともな戦闘なんて久しぶりやわぁ。いつもエヴァ様に嬲られて終わりやったから・・・・・・」

 

「うわぁ」

 

 これには思わず千雨ちゃんもドン引きである。しょうがないね。幼女が白目反転させながら欲情しているからね。

 

「真剣じゃないのが残念やけど・・・・・・神鳴流は得物を選ばんのやよ」

 

 そう、この世界は気や魔力を通せばたとえハリセンだろうが妖魔や妖怪と渡り合える世界なのだ。

 

「刃なんて無いから切り口はズタズタになってまうけど・・・・・・堪忍やで?」

 

「・・・・・・上等!」

 

 やはり千雨ちゃんも大人顔負けの力量になってきたのでどこかで飢えてたんだろう。引いた自分を奮い立たせるように拳を打ち鳴らした。この子パソコン買ってやってからというもの、ネットアイドルしているんだぜ? 信じられるか?

 

「よし、じゃあ開始はこのコインが落ちたら、降参か戦闘不能で勝敗が決定するけど、簡単に勝敗が着いても面白くないな。よし、勝者には何か一つ言う事を聞いてあげよう」

 

『マジで!?』

 

 何故ハモる。

 

「マジで。じゃあ早速始めようか」

 

 10円玉を親指に乗せる。

 

「(デート、デート、一日デート!)」

 

「(お兄さま、勝ったらうちのはじめてを貰ってもらうんや)」

 

 両者とも目がぐるぐるしている。何を考えているんだ?

 

「よし、Get set」

 

 うーん、バーチャロンやりたくなってきたな。もちろんライデンのバイナリー・ロータスで一撃で落ちるバイパーⅡを使いたい。え? サターン版はまだその名称じゃなかったって?

 

 コインが落ちる瞬間、両者は対照的な行動に出た。

 

「・・・・・・!」

 

 千雨ちゃんはダッキング。

 

「あははー!」

 

 月詠は初手でフルスイングで決めにかかった。神鳴流の気の通った本気の一撃だ。並みの人間が喰らったら一発でお陀仏だろう。え? 浦島某が斬岩剣喰らっても割りと平気だったって? あいつは実家が謎の古武術やってたからノーカン。

 

 剣道三倍段と言う言葉がある。素手で拳法三段相当と剣道の初段は同じくらいって意味だったっけ。それとも槍の三倍は剣の力量が要るんだっけ? まあそんなニュアンスの奴だ。

 

 それを千雨ちゃんはリーチの差を考えたのか、初手で様子見なのか、まずは下がってから一撃を凌ぐことにしたらしい。ボクシングのスピードは空手の比ではない。どちらに優劣があるかと言う訳ではなく、ベタ足でどっしり構える空手とかかとを上げて細かくステップを刻むボクシングの差だ。構えからして空手が迎撃に向いたものだとしたら、ボクシングは一旦完全に避けるか軽くパリイングしてから攻めにかかる。クロスカウンターは高等技術だ。同じ土俵でも決めるのが難しいのに、相手が長モノを持っていたら言わずもがな。

 

「ふっ!」

 

 いきなり顎を狙って決めにかかるのでは無く、振りぬいた肩を狙うことにしたらしい。たしかにそこなら無理に戻さないで筋肉の多い肩で防御しようと考えるな。

 

 パァン! と軽い音。気を纏った千雨ちゃんの拳が音速を超えたのだ。マッハで迫る拳を、いくら真剣より軽い竹刀とは言え、防御に使えるだけの時間は無い。月詠はむしろ自分から最高速になる前に当たりに行くように、ショルダータックルの姿勢で突貫した。

 

 ドンッ! と言う鈍い音。千雨ちゃんのやたら重いジャブが月詠の肩に直撃した。

 

「そのくらいじゃ止まらへんえ!」

 

 神鳴流は太刀使いのイメージが強いが、月詠は違う。原作でも小太刀と打刀の二刀流でネギ一行を圧倒したのだ。

 

「神鳴流・浮雲旋一閃!」

 

 しびれた利き腕をかばいながらも勢いをバネに投げ技を仕掛ける月詠。派手に三回転しながら千雨ちゃんを地面に叩き付ける。

 

「ぐ・・・・・・かはっ!」

 

 頭部と背部をしたたかに打ち付けた千雨ちゃんは空気を全て吐き出した。その身体は死に体だ。

 

「これで・・・・・・仕舞いや!」

 

 ここで月詠がダーティプレイ。痺れた腕で強引に竹刀を持ち上げると、ガッガッガッ! と柄を振り下ろし始めたのだ。

 

「ぐっうっぎっ」

 

 呼吸を全て吐き出し、死に体となった千雨ちゃんに抗う術は無かった。現実はゲームのように行かないものだ。一度勢いを持った者に勝利の女神は微笑む。

 

「うっ・・・・・・」

 

 千雨ちゃんが気絶した。まあ、一度実戦を経験した月詠に軍杯が上がるのは仕方が無い。ここまでだな。

 

「勝負あり!」

 

「やったー!」

 

 無邪気に見えるだろう? 敵を見たら欲情するんだぜ? この幼女。

 

「はいはい、ちょっと失礼、まずは千雨ちゃんを診ないとね」

 

「ぶー」

 

 ぶーたれてる月詠を放っておいて、まずは千雨ちゃんを診る。内出血で青タンだらけだな。

 

「イル・ウォータル・デル」

 

 まずは軽く治す。骨とかが折れていたらポーションを飲んでもらおう。

 

 続いて軽く触診。うん、気の防御が間に合ったのか、脳震盪程度で済んでいるな。魔法は脳出血にも対応出来るので気絶していびきをかいていても問題は無い。

 

「よし、次、月詠」

 

「はいなー」

 

 半袖にスパッツと言った格好の月詠の肩を診る。千雨ちゃんも似たようなものだ。いつでも一張羅じゃないのだ。修行でエヴァがアスナに着せていたゴスロリなんてものは俺の修行には無かった。

 

「ワレ カミノタテ ナリ・トゥイ・グラーティアー・ヨウイス・グラーティア・シット・クーラ」

 

「ほわぁ」

 

 こっちの魔法は詠唱が長いので好きでは無いんだが、使える手札は多い方がいい。忘れないように定期的に使っている。

 

「癒されるわぁ」

 

 疲労回復の効果なんてなかったはずだけどな。まあいいか。

 

「この子を寝室まで運んでくれ」

 

「畏まりました」

 

 エヴァの人形達にそう命令し、千雨ちゃんを運ばせる。勝負は非情だ。何かが懸かっているときに下手に慰めようとするものでもないだろう。

 

「さて、月詠。願いを聞こうか」

 

「えへへー、お兄さま、あんなぁ?」

 

 はにかみながら応答する月詠。こうしていると可愛いんだけどな。

 

「うちの寝室に今夜来ておくれやす」

 

「なんだ、そんなことか」

 

 大方添い寝か何かだろう。やっぱり親元を離れると元外道でも寂しいのかね?

 

「絶対や。絶対やからな!」

 

 なんでそんなに念を押されるんですかねぇ。

 

「ああ、分かった分かった」

 

 最近千雨ちゃんも天狗になっていたし、これはこれで実りのあるものだったかな。そう考えながら千雨ちゃんの今後のフォローを想定するのであった。

 

 

 

「ああ、もううちは昔に戻れへんのやな」

 

「何を藪から棒に」

 

 修行が終わって月詠と格ゲーをしていたら唐突にそう切り出された。

 

「うんとな、エヴァ様に「お稽古」付けてもろうてから互角の相手程度やと感じられなくなってん。絶望的な戦力差でようやく昔とおんなじ感じやえ。そう考えると千雨姉さまともあんまり楽しめなかってんねや」

 

「贅沢な悩みだな」

 

 俺が昔絶望的な戦力差で挑んだとかあれだぞ。101で7万相手にしたときとかだぞ。

 

 しかしこうして変な悩みを持つとはね。魔法世界に修行に行かせるか? 理想はネギが味方の状態でフェイト一派と渡りを付けること。うーん、リスキーだ。

 

「よし、今度中東の紛争に顔を出してみようか。泥沼の混戦でそんなこと言っていられない状態を味あわせてやる」

 

「お兄様太っ腹やわぁ!」

 

「ははは、こやつめ」

 

 笑顔の月詠が抱きついてくる。壊れた倫理感を治すにはどうすればいいのかね? わからん。

 

「・・・・・・今夜は寝かさへんえ。お兄さま」

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「何でもないどすー」

 

 こんなにもほのぼのしていたのにあんなことになるなんて、今の俺は思ってもみなかったのだ。




 まさかこの流れになるとは。このままだとR-18に書くことになりそうなんですけど、皆さん、需要あります?


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第26話

 前回のあらすじ

 幼女に喰われた。


 気が付いたら白髪の雑魚が白目向いて全裸で痙攣してた。べとべとで。

 

 落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない。

 

 最近読んだ漫画のとあるバスケットマンの言葉を思い浮かべ現実逃避したり―――、

 

 でぇじょうぶだ。ドラゴンボールが……ねぇよそんなもん!

 

 と、ひとしきり混乱した後深呼吸を数度行いなんとか冷静になった。

 

 ……まぁいい。良くはないが構わん。流石の俺も年齢一桁の幼女に逆レされるとは思わなかったが、あくまで「まさかそこまではしないだろう」と言う油断もあった。不幸中の幸いにして犯人は失神中だ。だがこんな男女の匂いが充満していて、尚且つ一晩ドッタンバッタンの大騒ぎ(意味深)だ。一応壁や床は籠城も想定した錬金により分厚く、防音性能があるがこの家にはネカネちゃんが一緒に住んでいる。まさかあの表情は何か感づいていた? 十分にあり得る話だ。……女性は匂いに敏感だ。まずはそこから何とかしよう。

 

 

「イル・アース・デル」

 

 錬金によって匂いを消し、そこら辺に飛び散っているものも全て隠滅する。月詠はどうするか。何故リアルポンキッキを思い出す。石角がダウンタウンとか好きだったのがいけないんだ。落ち着き給え。

 

 まあいい。まあいいと次に進まないと駄目だ。思考がループしている。兎に角、月詠も今は意識が朦朧としている。暗示でもかけておこう。内容はそうだな―――。

 

「お前はこの部屋で一晩平賀才人に添い寝して貰い、夜中に襲おうと思ったが返り討ちに遭い、失神していた。と言う建前か秘密と言う内容しか人前では言えない」

 

 まあ実際は成功していて一晩搾り取られていたみたいなんですけどね。エヴァはまだいいけどこの娘は人前でも正直に言いそうだからなぁ。これって俺が悪いのか? なんか伊藤さんちのまこと君の事を責められないんじゃないか? 逆に考えるんだ。どっちが上か教えてやれば良い。

 

 

 

 月詠の部屋から出て階下へ降りていくとネカネちゃんとネギ君が朝ごはんを取っていた。

 

「おはようございますヒラガさん」

 

「おはよーお兄ちゃん」

 

「おはようネカネちゃん」

 

 なんか刺々しい。なんか小さな息子が居るから事務的な話だけはしておこうみたいな空気を感じる。

 

「月詠ちゃんはまだ起きてきていないんですか?」

 

 内心ドキッとしたが、よく考えてみたら別に疚しい事?は無い。ネカネちゃんとの間に恋愛感情など無いのだから。まあ居心地は悪いけど。

 

「縛って転がしてあるよ。お仕置きが必要だから夜まで放っておいてあげてね」

 

 実際のところは施錠して錬金したマッサージ器具を取り付けた状態でベッドに縛って放置してある。ハルケギニア基準でスクウェアオーバーのロックと錬金、そして固定化だ。流石に部屋を異界化はしていないがそう易々と破れまい。

 

「そ、そうですか。でもそこまでしなくても……」

 

 想定よりかなりハードな内容にドン引きのネカネちゃん。ごめんね。でも実際のところどっちもどっちだったから仕方がないんだ。

 

「まあネギ君の前で話すような内容でも無いしね。裏稼業の人間は色々と過激なところもあるってだけ分かってくれればいいよ」

 

「はい……」

 

「ねーねー月詠お姉ちゃんどうしたの?」

 

 ここでネギ君が空気を読まずにキラーパス。幼児に空気読めとか酷すぎるが。

 

「月詠ちゃんは風邪移しちゃってね。今はお部屋で寝てるけど、ネギ君も移るといけないから元気になってから会おうね」

 

「おねーちゃんかわいそう。いつ治るの?」

 

「多分明日には治るよ。お兄さんが看病するから大丈夫さ!」

 

 欺瞞!

 

「おにーさんのまほーで治せないのぉ?」

 

「魔法は頼りすぎると良くないからね。魔法があるからうがいも手洗いもしなくなったらバッチィでしょ?」

 

「うん!」

 

「だから軽い病気は反省させるために頑張って自分で治してもらおう」

 

「そうだね!」

 

 なんとかごまかせたがネカネちゃんがとても複雑な表情をしている。悪いね。一緒に暮らすと言う事は悪い面も多く見る事になる。

 

「よし、二人ともごはんを食べて学校に行こう。ネカネちゃんも何か聞きたい事があったら夕方で良いかい?」

 

「いえ、大丈夫です!」

 

 このくらいの娘はデリケートだからなぁ。まあなるようになるだろう。

 

 その後洗顔と朝食を摂った後、ミカンを叩き起こして日課のジョギングに行く事にした。今日のメニューはネカネちゃん作の多めの野菜とベーコンのコンソメスープにトーストと目玉焼きだ。まとめて切って冷凍しておくと、まとめて何種類も使えるから忙しい朝でも楽だと聞いた。よく気が付く娘だよ。

 

 

 

「さくやはおたのしみでしたね」

 

 開口一番ミカンは抑揚のない声でのたまった。

 

「俺は一晩で完全回復するような宿屋に泊まった覚えは無いんだが」

 

「そんな事はどうでも良いんですよぉ!」

 

 ドラゴン が いきりたってしがみついてきた!!

 

「落ち着け」

 

 サイト は ヒラリとうけながした!!

 

「ぐぺっ」

 

 ドラゴン は ころんだ!!

 

「ううっ……吸血鬼はともかくあんなぽっと出に先を越されるなんて……」

 

「いや、うん、まあ、許せ」

 

「まずだぁひどいぃぃ」

 

 ガン泣きである。

 

「仕方がないとは言わないがまあ、俺も油断していた。ごめんな」

 

 抱き上げて落ち着くまであやしてやる事にした。言うまでも無いと思うが終始子竜形態である。

 

「他の奥方は良いんですぅ……ミカンはまだ子供でしたし、今も子供ですけど」

 

「うん」

 

「でもあの仔も子供じゃないですかぁ……ずるいですよぅ」

 

「うん、ごめんな」

 

「ミカンだって分かってるんです。竜と人間じゃあ子供は作れない事くらい」

 

「ん」

 

「だから頑張って人間になる魔法を覚えたけど……狐のお姉さんは竜はおとぎ話くらいでしか聞いた事無いって……」

 

「うん」

 

 相槌を打ちながら頭を撫でてやる。

 

「マスターがミカンの事子供って見てるのは分かるんです……。でも他の韻竜なんてお姉さまくらいしか見たこと無いし身体が大きくなってそこら辺のがちょっかいかけてきたり求愛してきたりしたんですけどなんか嫌で……」

 

「うん」

 

「お姉さまも種族が違うから気にしないで良いって言ってましたけど、そんな事言ったらマスターとも違いますし」

 

「うん」

 

「もうミカンどうしたらいいかわからないですぅ……」

 

「そっか」

 

「……教えてくださいマスター。ミカンどうしたらいいんですか?」

 

 こいつはここまで悩んでいたのか。それもそうだな。こいつから見たら火竜や風竜なんて人間と猿くらい違う認識みたいだし。

 

「……分かった。だけど俺も今すぐ答えは出せない。必ず答えるから時間を貰えるか?」

 

「ほんとぉですかぁ?」

 

 縋るような目で見てくる。

 

「ああ、本当だ」

 

「……」

 

「信じてくれるか?」

 

「……はい。約束ですよ?」

 

 子供子供と思っていたがまさかここまで成長しているとはな。竜だと思って油断していたか。俺って奴は……。昔自分の子供にも似たような事を言われたか。もう三度目の生で心まで若くなったつもりが内面まで退化しなくて良いんだよ、全く。

 

 自己嫌悪に陥っても顔には出さない。ミカンを不安にさせてしまう。少なくとも立ち直るまではこのままで居よう。

 

「ヒラガさーん、ミカンちゃーん? 遅れますよー」

 

 遅くなった俺を訝ってかネカネちゃんが階下から上がって来た。

 

「済まないミカン。学校に連絡入れてからすぐ戻ってくる」

 

「いえ、マスター。わがまま言ってごめんなさい。ミカンはもう大丈夫です」

 

 明らかに無理をしている。今日は休もう。

 

「少しだけ待っていてくれ」

 

「あっ……」

 

 俺はミカンを下ろして頭を撫で、部屋を後にした。

 

「ごめんネカネちゃん」

 

「いえ、ミカンちゃんはどうしたんですか?」

 

 まだ硬さが残るものの、ミカンを心配するネカネちゃん。

 

「焼きもち焼いているみたいだ。結構根が深いみたいだから今日は学校休むよ。放っておいている月詠も様子見ないといけないしね」

 

「ずるいなぁ」

 

 小さな声で聴きとれなかった。

 

「いえ、何でもないです。分かりました」

 

「ああ、なんか色々とごめんね」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 少し無理している感じはする。この娘に深入りするつもりは無いんだけどな。懐かれて悪い気はしないけど。こう、好感度とか稼がないで機嫌治してもらう方法が無いものだろうか。前は嫁同士で淑女協定があったし、私情で国を割るわけにもいかなかったしなぁ。まあそこは追々考えるとして学校に電話、後ミカン、ついでに月詠だな。

 

「じゃあ、私はネギを送っていきます」

 

「玄関まで送るよ」

 

 そうして玄関で待っているネギ君の元へ向かって行った。

 

「お姉ちゃんおそいー」

 

 スモックを着けたネギ君がむくれていた。

 

「ごめんねネギ。行ってきますヒラガさん」

 

「ああ、いってらっしゃい二人とも」

 

「行ってきまーす」

 

 ネカネちゃんは一度こちらに軽くお辞儀し、ネギ君は手をぶんぶん振って居たので軽く手を振り返して見送った。

 

「さて」

 

 玄関に戻り学校への電話番号を押す。

 

「おはようございます。ヒラガです」

 

『おはよう、ヒラガ君。朝からどうしたんだ?』

 

 電話の先は内の担任だ。たまたま取ったらしい。

 

「ちょっと真ん中の子が熱を出しちゃって、今日は休みます」

 

『そうか、まあなんか色々大変そうだが頑張れよ』

 

 一応それとなく学園側から月詠達の事を説明されているものの、ぼかしたものであるため家族の不幸で親戚の子を引き取ったと言った程度の情報しか無いはずだ。

 

「はい、ありがとうございます。それでは失礼致します」

 

『ああ』

 

 そうして電話をかけ終わったので再びミカンの様子を見に行く事に。

 

「きゅぷ~……きゅぴ~……」

 

 ミカンは泣き疲れて寝てしまったらしい。まあ、そうなるか。

 

 さて、まあ今日は一日こいつに付いてやるとして、添い寝する前に月詠の様子でも見に行っておくかな。気力も体力も同年代の子供はおろか普通の大人と比べても軽く凌駕している奴だがゴーレムと化している縄とロックは抜ける事自体が不可能だとは思うが、一応ね。

 

「月詠~起きてるかぁ?」

 

 ドア越しにノックする。ついでに聴覚の強化も忘れない。

 

「ふぐう! うぐぅ!」

 

 元気な様子で返事が返ってきた。

 

「流石に油断した俺も俺だけどお前はやり過ぎた。だから今日は反省してもらうからな」

 

「んぐぅ!」

 

 元気だな。

 

「じゃあ昼頃また様子を見に来るから反省するんだぞー」

 

 俺は返事を待たずにドアを離れると中からドタバタと暴れる音が聞こえてきたが、気にせずミカンと添い寝する事にした。

 

 これで反省してくれると良いんだがな。




 お久しぶりです。諸事情があって執筆から離れておりました。

 そのあたりは諸々を活動報告に記載します。ただし、とてもハードな内容なのでご希望の方だけどうぞ。


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27話

 お久しぶりです。

 短いですが生存報告も兼ねて投稿です。


「―――それで、子育てしてるのか調教してるのか分からなくなって逃げてきたのか」

 

 現在エヴァ宅別荘内、昨日の出来事で色々と心労が祟ったのでダラダラしに来たのだ。

 

「そりゃ嫁さんも大勢居たし、偉くなる途中で年端もいかない娘を紹介なんてよくあったけどね」

 

 嘆息しながらも思い返せば日本より永く住んでいたハルケギニア。いかに魔法が発達していようが魔法の使えない平民が圧倒的多数の世の中。勿論平均寿命も全体で見てこちらの中世と大して変わらなかった。貴族は水の秘薬で無理やり病魔を黙らせる事が出来ても、平民がそれを手にするには文字通り魔法の薬だった。

 

 それでも平民でもジェネリック品が手に入りやすいよう色々と手を施したがロマリアをジョゼフのおっさんがぶっ潰して三国……エルフはそもそも寿命が比較にならないし一々手を貸さないでも強く生きていたので割愛。こちらの貨幣で言うと諭吉さんが一人居ればそれが一本手に入ると言った具合だった。

 

 それまで下手したら薬で給金数か月吹っ飛ぶ事を考えれば十分だったと思うが、それでも平民は栄養ドリンクのような飲み方は出来なかったのだ。

 

 話が脱線した。寿命が短けりゃ嫁ぐ年齢も早い。ルイズくらいの年齢なら適齢期だったしあちらのロリコンは年齢一桁とかザラだった。ルイズとシャルロットを見たアホが俺の嗜好を深読みして6つにもなるか怪しい子供を嫁にどうだって式典の度に言われれば堪えるものもあったわけだ。

 

 いや待て、目の前に居るロリババア吸血鬼と言い俺はロリコンなのか……? いや、キュルケとテファのおっぱいは偉大だったし……。

 

「いやまてエヴァ……俺はロリコンなのかも知れない」

 

「お前は今更何を言っているんだ?」

 

 呆れ果てた目で俺を見る合法ロリ。

 

「いや、忘れてくれ。俺が好きになった女がたまたま幼い容姿をしてただけだ。そうに違いない」

 

 強引に結論付けて思考を打ち切る。中々動揺が収まらないらしい。

 

「どうやら相当堪えたようだな。で、どうだ? ペットのように娘のように思っていた奴に想いを寄せられる気分は?」

 

 エヴァが安酒の瓶を片手に揶揄ってくる。ああうん分かるよ。我ながら聞くに堪えない事をぐだぐだしてればまともに取り合うのもあほらしい。

 

「さてな。まだ整理が付かんな。ミカンについてはきちんと答えを出すさ。後月詠はもともとタガが外れていたようだし、求め方が分からんのだろうな」

 

 愛着障害と言う病がある。それは本来得られるはずだった親からの無償の愛が与えられなかった存在がかかる一生ものの持病だが、たしかあいつは孤児だったか。

 

 例えば、目の前の世紀単位で生きているエヴァのように膨大な時間があれば一度は全てを諦め風化させ、折り合いがついた後に理屈と照らし合わせながら色恋と言うものを学んでいくのかもしれない。

 

 だが月詠はまだ生まれて10年経つか経たないか。あいつ自身が孤児で正確な年齢が分からないにしても、本来は親の庇護下で安心を享受していたはず。そこに神鳴流で妖怪退治なんかを日常とすれば、ただひたすらに生き急いでいるのが普通になるのだろう。ハルケギニアの民とは似ているようで全く違う。

 

 未だ前世から覚えている数少ない漫画のシーンに幼い双子を殺し屋に仕立て上げ、常人どころか死にながら歩いているような街の住人にさえ理解を放棄するようなものがあった。

 

 三つ子の魂百まで。それまで培ってきたものはその倍の年月でようやく拭い去れる。遭って年すら明けていない関係が簡単に変えられる方がおかしいのだ。

 

「それで?」

 

 目の前のかつて孤児であり、永い年月を経てサウザントマスターと呼ばれた男から人の温もりを与えられるも置いてけぼりにされた存在が俺に問いかける。

 

「長い目で見るさ」

 

 殺し屋の双子に同情した海賊は己の無力さに涙した。そして、俺は違うとは言わない。言えない。

 

 それでも、今の月詠は気に食わない奴を蚊を潰すように殺すような心の在り様ではない。性に依存するだけ大分良い。なら目はある。

 

「そうか」

 

 ふん、と、鼻で笑いながらエヴァは漏らし、安酒をラッパ飲みする。

 

「すまんな、今度埋め合わせする」

 

 付き合ってくれた人生の先輩に謝罪とも感謝ともつかず腰を折る。

 

「いいさ……いや、一杯付き合え」

 

 その手に持った瓶を受け取り、一気に煽った。




 本来これは26話にくっつけて投稿するものだったのですが、話の短さの割に他とくっつけるとテンポが悪くなるので単話です。許してくださいなんでもしまむら!

 時間を置いたら案外するりと書けたので良かったです。次辺りはもっと書けるようにしたい。


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