ナルガクルガ変異種~空迅竜~ (Acu)
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Act.1 迅竜ナルガクルガ

はじめまして、Acu(あきゅー)と申します。
自己満足の駄作ですが、生暖かく見守っていただけると幸いです。

誤字脱字、ここが変だなどと思われましたらご連絡くださいませ。
できる限り修正もしくは説明をさせていただきたいと思います。

それでは本文へどうぞ。


「うえええ……やっぱ不味いなぁ……」

 

 ぷち、ぷちゅ、と口の中の虫を噛み潰す。静電気のようにぱちぱちとしていて舌が痺れるし味も酷いものだが、ないよりはマシだ。

 次の虫を捕まえながら、私はこんな劣悪な生活に至った経緯を思い出していた。

 

 

 私は、数週間前までどこにでもいるような女子大生として生きていた。生物学者になるという夢だって持っていた。

 でも、それは数週間前までの話。

 いつものように大学に行こうとしてダンプカーに轢かれたと思ったら、何か硬いもの(後にあれは卵の殻だと判明した)を突き破り化け物の目の前に転がり出たのだ。何か黒くて猫に嘴がついたみたいな顔のドアップが目と鼻の先にある。

 当然、私はびびった。びびりすぎて声も出せず固まっていたのだが……。

 

「な、何この子!? あたしと色が違うじゃない!」

 

 突然ギャウウウウ!!と目の前の化け物が吠えた。

 食われる!そう思った私に、意味のある言葉としての副音声が頭に響く。は?日本語?

 

「こんなのあたしの子供じゃない!」

 

 意味分かんない……とか何とか色々ぶつぶつ呟いたかと思ったら、混乱しきって硬直したままの私の首根っこを乱暴にくわえられて、これまた乱暴に放り投げられた。

 

 あ。

 

 この化け物、モンハンのナルガクルガだ。

 

 

 そこで私の記憶は途絶えている。

 

「……はぁ、つまるところ私もナルガクルガなんだよねぇ……」

 

 そう。人間であった私は、現在ナルガクルガとして生きている。

 母親(とは思いたくないが)のナルガクルガは原種の黒色で、色が違うという言葉からは私って亜種なのかなぁなんてことも考えたけど、それも違う。

 緑色の亜種でもなく、白いんだか藍色なんだか微妙な希少種でもない。

 

「空色ナルガって誰得……少なくとも私得じゃない」

 

 捨てられたあの日から文字通り泥水を啜り、そこらへんの草やキノコを頬張り、虫さえも食べて生きてきた。意外とお腹を壊すこともなく、何とか生き永らえている。

 

 今の私の住処はケルビやガーグァが長閑に餌を食み、ジャギィやアオアシラがそれらを食らい、浅い川や人間の村の名残も残っている場所の木の上。この世界が本当にあのモンハンの世界なら、たぶんここは3rdの渓流じゃないかと思われる。まあ、3rdしかやったことがないから予想でしかないんだけど。

 でも、だとしたら他の肉食モンスターに見つからなかったのは本当に幸運だった。

 私は子供だとはいえ、一応ナルガクルガでケルビ並みの大きさはすでにある。ずっと前に野草と虫だけのご飯に嫌気がさして、ガーグァを襲うために木の上からゲームで見ていた飛び掛り攻撃の構えをとった瞬間、ドスジャギィが群れを率いて現れたときは心臓が止まるかと思ったものだ。

 

「お腹空いたなぁ……あ、ガーグァ……」

 

 私のいる木より少し遠くでガーグァが餌である虫をついばんでいる。虫だけで足りるなんてうらやましい。

 私の体色は空色のため、本当のナルガクルガのように周囲の環境に溶け込むことはかなり難しい……つまり狩りをするのも難しい。今は私も小さいから何とか食いつないでいるが、それもいつまでもつか……。野草と虫だけではすでに足りなくなってきている。そろそろケルビやガーグァを狩ることが必要になるのに、私にはその力がないのだ。

 

 別の捕食者に見つかる危険性と生命維持に必要な食事の確保……どうしよう。まだ死にたくない。死にたくないのに、死の危険性が消えない。死と隣り合わせ。これが、この世界の理なのだと分かってはいる。分かってはいるが、死にたくない。

 まだ飛べないから、移動手段は地上と木の上のみ。もし獲物を狩れたとしても、この体格では持ち運べない。

 

「……その場で食べる、のは血の匂いで他のが来るな」

 

 考えなきゃ。

 ここはゲームじゃない。現実だ。食べなきゃ死ぬ。体はナルガクルガでも中身は人間だったんだから、頭を使うんだ。

 

「ジャギィに交渉を持ちかける? リスクが高すぎる、そもそも言葉が通じるかも分からない。 魚を取る? この体じゃ泳げないし、魚がいるのはジャギィの縄張りだ・・・どうしよう、一度には運べな……一度(・・)には?」

 

 じっ、とガーグァを見る。

 丸々と太っていて食べるところはたくさんありそうだ。でも一度に運べて、即効でエネルギーになるのは?なるべく骨が少なそうで、今の私が簡単に噛み千切れる部分は…お腹だろうか。

 

「……た、食べたくない……」

 

 生々しい想像をして、やっと気づいた。私は、あのガーグァを殺して食べるのか。あの柔らかそうな細い首に噛みついて、呼吸が途絶えたのを確認して、そうして。

 腹を裂いて、食べるのか。

 

「…………………………たべなきゃ、しぬんだ…………」

 

 その日、私は泣きながら血の滴る生肉や生暖かい内臓を食べた。

 美味しくなんて、なかった。

 

 

 美味しいだなんて感じてない、絶対に。

 

 




動物って色が違うだけでも育児放棄することがあるんですよね、悲しいことに。

一応浅い知識ではありますが実在する動物の生態を元に文章を書いていますので、モンスターの生態においてかなりの捏造が入っていく予定です。


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Act.2 出稼ぎメラルーの受難

 さっき狩ったばかりのケルビのお腹にかぶりつく。むせ返るような血の匂いに惹かれて、群れの下っ端のジャギィが数匹寄ってくるが、一声吠えるだけで逃げていくようになった。

 ・・・私が初めてガーグァを殺して食べた日から、すでに1ヶ月が経とうとしている。

 体格としてはドスジャギィと同格となり、アオアシラとはお互いに干渉しない日々を送っていた。

 

「虫歯になりそうだからハチミツなんかいらないんだけどなぁ」

 

 ファーストコンタクトで「ハチミツはあげないよ!」と威嚇されたのは記憶に新しい。

 すっかり渓流の暮らしに慣れた私だけど、人間(いや、まぁ竜だけど心は人間だからね)ひとつ欲が満たされるとまた次がほしくなるもので。

 

「はぁ……話し相手がほしい……」

 

 もう少し大きくなって力も強くなったら、おしゃべりくらいはできるだろうか。メラルーやアイルーには悲鳴をあげられて心が折れた。可愛いし、あわよくばもふもふしたかった……。

 毎日を生きるだけで必死だった頃は大して気にもしてなかったけど、やっぱり一人ぼっちは寂しい。太陽が昇る前に起きて、ガーグァやケルビを1日に1匹だけ狩って食べ、足りない分はキノコや草、虫でどうにか凌いで日暮れと共に眠りにつく。これじゃ、本当にただの獣だ。

 最近、いつも考える。体は竜でも心は人間の私は、どう生きるべきなのだろう。獣として生きていくのは楽だ。でもそれは私の人間の部分が悲鳴をあげる。人間として生きるのは私の体が許さない。

 

 ケルビを食べ終わり、最近の寝床に帰った。メラルーたちの住処に近い、大木の高いところにある大きな洞は木を登らなくちゃいけないけど、なかなか住み心地がいい。

 ごろりと体を横たえて赤く汚れた刃翼を綺麗にしながら、また悩む。

 いまだにガーグァとかを殺して食べるのには嫌悪感と罪悪感がある。だから1日に1匹だけと決めて食べているけど、これからもっと食べなきゃいけなくなる・・・私は、悩んでいた。

 

「私、生きてていいの「ニャーーーーーー!!!」うぉっ!?」

 

 ……び、びびったぁ……尻尾ぶわってなってるよ……。

 えーと、今のは真下からだ。ひょこりと顔を出して覗き見してみる。

 

「いやニャーー!! ボクなんか食べても美味しくないのニャー!!」

 

「うるせぃ! オレたちゃメシがとれねぃんじゃオヤビンに怒られるんだよぉ!」

 

「だからオマィがメシになるか、メシをオレたちによこすか選びなぁ!」

 

 私の住処の大木を背に1匹のメラルーがジャギィたちに追い詰められていた。……メラルー追いかけるより、ケルビ追いかけるほうが効率いいと思うんだけどなぁ?

 

「ギニャーァアア!! だぁかぁらぁ! ボクは食べるところないし! あんたらもケルビ追っかけたほうがいいのニャ!」

 

「「な、何だってぃ!?」」

 

 あ、やっぱりそう思うよね。

 

 

*****

 

 

 ああああもう!ヤバイのニャ、ごっつヤバイのニャ!

 せっかく故郷の砂原から渓流のメラルー村へ出稼ぎにきてたのに……センパイたちとはぐれちゃうなんてー!

 こっちのジャギィ怖すぎニャー!

 

「……ケルビとメラルー……どっちがオトクってオヤビン言ってたっけぃ?」

 

「ばっか、オマィ……そりゃあ目の前にいるのといないのとじゃ、いるほうがオトク?に決まってんだろぉ! ……たぶん」

 

「……あんたら……バカすぎるのニャ」

 

「「ぬぁんだってぃ!!?」」

 

「ギニャー! おかぁさん、おとぉさーん!! 先立つ不幸をお許しくださぁぁい!!」

 

 まだ可愛いおヨメさんももらってないのに、ボク死んじゃうのニャ……。

 

「グルルルルルル……ここで何してんの……?」

 

「!? こっこの声はっ」

 

「あいつじゃねぃか!? あの空色の!」

 

「まじでか! だったらさっさとトンズラしちまおうぜぃ!」

 

 えっえっ、な、何なのニャ?急にジャギィたちが逃げちゃったのニャ……。

 

「……大丈夫?」

 

「あっ、さっきの声の……た、助けてくれたのニャ? 誰なのニャ?」

 

「あー……ま、まあそんなことはいいから「よくないのニャ! 恩は100倍にして返せって家訓なのニャー!」……びっくりしない? 逃げない?」

 

「びびらないし、逃げないニャ!」

 

 むんっと胸を張って答えると、謎の声さんは黙り込んでしまったのニャ。

 うーん、でも本当にどこにいるのかニャ?ジャギィたちが逃げたんだから、強いんだろうけど……人間かニャア?アオアシラは……ないない、いつもボクたちとハチミツの取り合いしてて仲悪いからありえないニャ。

 

 誰なのかニャー、お礼は何がいいのかニャーと考えていると、ふっとボクの周りが暗くなった。

 

「ニャァアア!? ふ、吹っ飛んじゃうのニャー!」

 

 背中側にあった大きな木にしがみついて風圧に耐えながら、降ってきた大きな空色を観察する。

 その大きさのわりにたすっなんていう軽い音で着地し……着地したってコレ、生き物だったのニャ!?……そぉっと右を見ると長いムチのような尻尾。ボクたちと似ている後ろ足。ま、まさかニャ……。

 空色はゆっくりと振り向く。鋭い刃物みたいな翼、次に鋭くて青い爪が見え始め、最後に。

 ボクたちが嘴をつけたみたいな顔が。

 

「………………じ、迅竜ナルガクルガニャーーーーーー!!!!」

 




は、話が進まない・・・(´A`;)


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Act.3 「ご飯って美味しくて、感謝するものなのニャ!」

ちょっと長くなりました。
そして今回、私の考えをつらつらと書き連ねましたが……あくまでも私個人の意見であり、不快感を感じられた方はこういう意見もあるのだとご容認くださいませ。


「……ニャ、ニャ……ニャ? ここは……?」

 

「あ、起きた? ここは私の寝床で、泡吹いて気絶しちゃったから連れてきた「ニャニャニャニャルガクルガニャー!! たたたた食べても美味しくないニャ! 助けてくださいなのニャアアアアア!!」ん……だけど……」

 

 ……うん。分かってた、分かってたけどこの反応は……。

 

「折れた折れたよポッキリ折れた心が折れた何これ泣いていい?」

 

「食べないでー!! …………って、何で泣いてるニャ? ……ハッ、竜のナミダは高く売れるのニャ!」

 

「…………意外と図太いよね、きみ……」

 

 

*****

 

 

「――――……だから、子供だけど1匹で暮らしてるんだ」

 

「えっ、それじゃあお母さんに捨てられちゃったのニャア……? 今までよく生きていられたニャア……すっごくがんばったのニャ、えらいえらいなのニャ!」

 

「あ、ありがとう……でも、何か子供扱いしてない?」

 

「そりゃそうなのニャ。 だってあんたの話からすると、あんたってまだ1歳にもなってないニャ? だったらボク2歳だし、ボクのほうが年上なのニャ! つまりお兄ちゃんなのニャ!」

 

 ボクの言葉にショックを受けるナルガクルガ。

 自分よりちっちゃいからって甘く見るなってことニャ!……ボクとしてはこんなに大きいのが年下だなんて信じたくないのニャ……でも、ボクだってもっとおっきくなれるハズ……。

 

「……にしても、何であんまり血の匂いがしないのニャ? ナルガクルガって肉食なんじゃないのニャ?」

 

「………………私もガーグァとか食べるけど……」

 

 うん?どういうことニャ?

 ボクより何倍も大きいナルガクルガは、何だか言いづらそうにモゴモゴと口篭り、それに加えて耳がしょんぼり垂れてしまっている。

 

「普段はキノコとか虫とか食べてて……ガーグァとかは1日1匹だけって決めてて……」

 

「ニャニャ? 何でそんなこと決めてるのニャ? きちんと食べないとおっきくなれないのニャ」

 

「だ、だって……私が食べるのってことはつまり……殺すってことなんだよ?」

 

「…………ニャ? 意味分かんないニャ」

 

「え……? ええと、こ、殺すっていうのはさ……」

 

 いやいや、言葉の意味くらい分かるのニャ。ボクが言いたいのは、

 

「いやいやいや、何アタリマエ(・・・・・)のことを言ってるのニャ」

 

 ぽかーんと間抜けに口を開けたまま、ナルガクルガは固まってしまった。

 でもボクは空気の読めるKYメラルーなので、ここはグッっとガマンする。

 

「……ニャブフォッ!」

 

「………………」

 

「ニャッフフフ……あっ…………」

 

 …………そ、そんな冷たい目をしないでほしいのニャ……。

 

「……ゴ、ゴホンッ! マジメな話、ボクたちはベジタリアンなわけじゃないんだから、殺さずに食べるなんて無理に決まってるのニャ」

 

「で、でも……」

 

「それとも何かニャ? 命には価値があって、虫とガーグァじゃ命の価値が違うっていうのかニャ?」

 

 少しギモンに思ったことを尋ねると「え」と、か細い声を漏らした。

 ボクにはよく分からないニャ。どうして虫を殺して食べるのはいいのに、ガーグァを殺して食べるのはダメなのか。ボクたちメラルーだって魚や肉を食べるし、大きい獲物を狙えないワケアリの竜に襲われたりすることもある。

 

「そっ、そんなことは……っ命の価値なんか皆同じだってことは分かってる! でも、でもっ! 言葉が通じるんだよっ!? それでも殺せるの!!?」

 

「……………………はぁ…………だったら野垂れ死ね(・・・・・)ばいいニャ」

 

「…………は?」

 

 ほんとに変なナルガクルガだニャー……。

 

「確かに食べるわけでもなく、何かを守るためでもなく殺すのは最悪だニャ。 そもそも、殺された側からしてみれば罪悪感なんか持たれたって迷惑ニャ。 だって謝ってもらったって死んだヤツは生き返らないし、謝るくらいなら最初っから殺すなって話なのニャ。 それに、生きるためにお互い必死で逃げたり襲ったりするのはアタリマエで、みぃんな納得してることだニャ」

 

 

*****

 

 

「……それとも、キミは生きたくないのニャ? ここまで言っても分からないなら、この先生きていけないニャ。 というか……他の竜とかに食べられちゃうより、今のうちに死んどいたほうが楽だと思うニャ」

 

 野垂れ死に。

 それはこの、私よりはるかに小さいメラルーから飛び出た言葉。

 そして、私の根底を揺るがす言葉でもあった。

 

 私は、死にたくない。人間ではなくなってしまったけど、生きていたい。

 だからこそ嫌だった食事(生き物を殺すこと)をしてまで生き永らえてきたのだ。それに、どうして忘れていたのだろう。確かに私は日本人で女の子ではあった。でも、それはもう過去の話で……今は迅竜ナルガクルガで。

 

「……うん、私、自分の好みで命の価値を決めてたのかもしれない。 虫もガーグァも生き物だしね。 この世界が、生きるために必死で足搔かなくちゃいけない世界だってこと……生きたいなら余計なことを考えちゃいけないってこと、何で忘れてたのかな……」

 

「……別に、その思いが悪いとは言わないニャ。 というかどうせなら、感謝してほしいのニャ! ちゃあんと感謝して美味しく食べるのニャー!」

 

 感謝……感謝かぁ……「ありがとう」なんてもう、ずっとずっと言ってないなぁ。

 思わず苦笑が零れる。

 

「メラルーくん」

 

「ニャ?」

 

「ありがとう」

 

「……ちゃあんと美味しく食べて、これからも生きてくニャ?」

 

「うん……ガーグァってジューシーで美味しいよね」

 

「どういたしましてなのニャ! ガーグァはジューシーだし、ケルビはさっぱりしててヨダレが出ちゃうニャア……ほーんと、渓流最高ニャ!」




話がなかなか進んでませんが、主人公の中身は一般的な現代日本人女性だということでの葛藤をどうにかするために必要なお話でした。
これ、どうにかしないと近いうちに主人公が飢え死にしちゃうので……(´ω`;)

……虫を殺すのは簡単にできますけど、鶏や豚を殺すのってすごく抵抗感や罪悪感があると思うんです。


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Act.4 いざ、メラルー村へ

 小鳥が歌い、獣たちが動き出す爽やかな朝。美味しそうに草を食む、ケルビの(つがい)をひたと見据える。

 

「……ぐるるるる……」

 

 野生の性なのか自然と鳴ってしまう喉を不思議に思うが、まずはご飯だ。

 どうやら木の上にいる私にはまだ気づいていないようで、のんびりと仲睦まじく過ごしているケルビたち。彼らの命をもらうのは未だに罪悪感を感じるが、私は約20年もの間「生き物を殺すのは罪」と教わって生きてきたのだ。もうこの考えは私の一部と化していてどうしようもないが、食べなければ私が死んでしまうから。だから。

 生きるために、私は彼らを殺そう。

 

 私は雌のケルビに狙いを定め、飛び出した。

 

「!? アナタ逃げ、イヤアアアアッ!!」

 

「な……っうわあああああ!!」

 

 いつも手入れを欠かさない刃翼で雌の体を引き裂く。雄はケルビステップで逃げようとしていた。ゲームの時はなかなか素早いと思ったものだったが、今ではもう遅すぎるくらいで。

 雌が力無く横たわっているのを確認し、もう一度足に力を込めて跳ぶ。うまい具合に雄の目の前に着地した私は、一切の容赦をせず自慢の尻尾を叩きつけた。ダァン!と大きな音をたてて尻尾は雄に直撃。尾棘に突き刺さった雄を軽く尻尾を振ることで地面に落とし、少し背伸びしてキョロキョロと周囲に危険がないか確認する。

 

「……ふぅ、大丈夫だよね。 おーい、メラルーくーん、終わったよー」

 

「おおう、見事なモンだニャア……あんた、ほんとにまだ子供なのかニャ? ボクすっごくギモンなのニャー」

 

「まあ、私って物陰に隠れるの得意じゃないからねぇ……自然と速く動けるようになってたんだ」

 

「ふぅん……あの速さはそれだけじゃない気がしなくもないんだけどニャア?」

 

 まだぶつぶつとぼやいているメラルーくんを無視して私はケルビの雄を食べ始めた。もちろん「ありがとう、いただきます」と呟いてから。

 

「うーん、肉以外にも食べてたからかニャア……? うぅん……って、あああああもう食べてるのニャー!? ボクのぶんも残してニャ!」

 

「あーうん、ちゃんと残してるってばー。 というか、メラルー村へのお土産にするんでしょ? せっかく柔らかい雌のほう残してるんだから手ぇ出さないでよ?」

 

「ううー……分かってるのニャ。 センパイたちにご心配おかけしましたって言わなきゃニャア……家族みたいなヒトたちだから、きっと心配してくれてるのニャ……」

 

 ……うむ、今日もケルビがうまい。本当は最初から美味しかったけど、昨日までの私はそれを認めたくなかった。血と肉の味が美味しく感じることを認めてしまったら、本当にただの獣になってしまう気がしていたから。

 ただ殺すのではなく、生きるために命をいただく。そういう考え方の違いだけでこんなにも気持ちが軽くなるのだから、なかなか私も単純なものだ。

 

「……天気いいなぁ……あ、あの雲、魚に似てる…………ん、食べ終わった?」

 

「超ウマーだったニャー! ……よし、骨とか使える部分も持ったし、背中にケルビ乗っけるからちょっとしゃがむのニャ!」

 

「はいはい……うぇ、紐かこれ? ちょっときつい」

 

「ボクたちはヘビツタって呼んでる草ニャ。 きつくても落とさないためなんだからガマンガマン! さぁ、出発シンコーなのニャー!」

 

「うぇーい、ってメラルーくんも乗ってくのかよ! きみ元気なんだから歩け!」

 

「なーにを言ってるニャー……ボクとあんたとじゃ歩く速さが違いすぎるのニャ。 ほれ、ちゃっちゃと歩くニャ!」

 

「……何か腑に落ちない……」

 

 頭にメラルーを乗せてのしのし歩く私の姿は、さぞかしシュールだったんじゃないだろうか……ああ、私の尻尾よ棘を出しちゃ駄目だよ……。

 

 

*****

 

 

「ただいま戻りましたニャー!! メルル、生きてましたのニャー!!」

 

「……めっメルル!? オマエ、生きてたのってニギャアアアアアア!!!」

 

「チビッコ帰ってきたのかってニャゴオオオオオオオ!!!? ナルガクルガニャアアアアアア!!!?」

 

 ……こうなるんじゃないかと思ったよ……。

 もう太陽も真上に昇りきった頃、私たちはメラルー村に到着した。ゲームでは私が入れそうな入り口などはなかった気がして不安だったのだが、ガーグァ荷車などを出し入れする入り口が密かに作られており、私たちはそこからお邪魔させてもらったのだった。

 

「……というか、きみって名前あったんだ?」

 

「メスみたいな名前だからあんまり教えたくなかったのニャ……みんなー!! このナルガクルガはダイジョブなのニャー!!」

 

 メラルーくん改めメルルくんの一声によって、上から下への大騒ぎは一先ずの終わりを迎えた。とはいえ、物陰からこそこそと疑わしげに観察する視線やひそひそと相談しあう囁き声が聞こえてくる。正直いってナルガクルガの良すぎるくらいの耳はその囁き声を鋭敏に聞き取っているため、何だか気まずい。

 

「……メルルっ! 無事でよかったのニャッ!! 心配したぞバカヤローッ!!」

 

 何ともいえない雰囲気の中、1匹の赤いバンダナを首に巻いたメラルーが飛び出してきた。

 

「あっ、センパーイ!! うわああああん、はぐれちゃってゴメンナサイなのニャアアアアッ!!」

 

「バカ! ほんとにバカなのニャー!! でも、良かった、生きてた、おまえ無事だったんだニャ……」

 

 メルルくんとセンパイメラルーはがっちりと抱き合い、2匹ともわんわんと泣き出している。それにつられて他のメラルーたちもほろほろと涙を流していた。

 メルルくんは朝、「家族みたいなヒトたち」と言っていたけど……。

 

「……ほーんと、兄弟みたい。 家族っていいなぁ……」

 

 白髪が増え始めてきていたお父さんと、シワが増えたと嘆いていたお母さんに、彼女ができたと笑っていた弟。

 何だか、無性に家族に会いたくなった。




やっとメラルー村に到着しました。
何だかホームシックな主人公……前世の家族には会わせてあげられないんです、ごめんね。

それにしても、早く大型モンスターと戦わせたいですが……もうちょっと時間がかかります。


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Act.5 メラルー村にて

メリークルシミマス!
リア充が羨ましいAcuです……。

ちょっと希望が持てたと思ったら、すぐに叩き潰すことに定評のある私です(笑)


「メルル、無事だったのだにゃ……これ、おまえたち、そろそろ落ち着きにゃさい。 お客が困っとるじゃろ」

 

「あっ、長老サマ! ただいま帰りましたニャ!」

 

 自分の家族を思い出してしんみりしていたところに、また別の声がかかる。どうやらこのメラルーたちの長老であるらしく、少ししわがれたその声は妙に耳に馴染むものだった。

 

「ほっほっほっ、元気そうでにゃによりにゃ。 ……さて、お待たせいたしましたにゃ、迅竜殿」

 

「…………あ、はい……あっいや、大丈夫です、全然待ってません」

 

 何とも穏やかにゃ竜ですにゃあ、と笑う長老はガーグァの頭を模した杖をつきながら私に近づく。そして恐ろしいだろう私の顔をぺたぺたと触っては時折感心したように「ほぅ」とため息をこぼすものだから、だんだん気恥ずかしくなってくる。

 

「……ふむ、空色の迅竜とは……わしも初めて見ましたにゃ。 その鋭い目つき、これからもっと強くにゃられるのでしょうにゃあ」

 

「長老サマ、空色のナルガクルガってそんなに珍しいんですかニャ?」

 

「おお、メルルは砂原出身じゃから本物は初めてじゃったにゃあ……そうじゃの、原種は黒で亜種は緑色じゃ」

 

「へぇ~、あんたってそんなに珍しいヤツだったんだニャア? ……中身は変だけど」

 

「聞こえてるよ、失敬な。 ……まあ、私はたぶん突然変異だと思うし、私以外には空色のナルガクルガなんていないんじゃないかなぁ」

 

 突然変異という言葉の意味が分からなかったのだろうか。長老とメルルくんたちだけでなく、それまで黙って聞いていたセンパイさんや遠巻きに見ていたメラルーたちまで揃って首を傾げている。か、かわいい……。

 私が内心で悶えていると、そこに恐る恐る近寄ってくる1匹のメラルー。首に黄色のバンダナを巻いているその子は、かなりビクビクしながら私の目の前で足を止めた。

 

「あ、あのぅ……迅竜さま」

 

「あれ、コウハイ? どうしたのニャ」

 

「お帰りなのニャ、メルル……いや、さっき迅竜さまが言ってたことなんだけどニャ……」

 

 どうしたんだろう、もしかして突然変異について訊きにきたんだろうか。

 

「えーと、コウハイさん? 何か訊きたいことでもあるんですか?」

 

「ひぃっ! ……あああああのっ、ぼくっ……あなた以外に空色の迅竜(・・・・・)さまを見たことあるんですニャッ!」

 

「………………え」

 

 ……私は、空色であるが故に捨てられた。その空色が、私の家族(なかま)が他にもいるの?

 そのナルガクルガも捨てられたんだろうか、私みたいに孤独に育ったんだろうか。それとも、親に受け入れられて育てられたんだろうか。いずれにしても、そのナルガクルガに会ってみたい。

 

「えーと……トツゼンヘンイが他にもいるってことニャ? というか、どこで見たのニャ?」

 

「トツゼンヘンイっていうのはよく分からないんですけど……霊峰と渓流の間の、ギリギリ渓流って言える辺りで見たんですニャ」

 

「ふむ、しばらく前に黒い迅竜が住み着いた辺りじゃにゃ……迅竜殿、にゃにか心当たりはありませんかの?」

 

「…………」

 

 原種のナルガクルガ。黒いナルガクルガ。

 喜んだのも束の間だった。心臓が、嫌な音をたてて鼓動を刻んでいる。思い出されるのは2ヶ月ほど前のこと……何が何だか分からないうちに捨てられ、そして泥水を啜ってまで生き延びた怒涛の2ヶ月間。元人間としての知恵とゲーム知識がなければ死んでいただろう2ヶ月間。

 その、ほとんどの元凶。

 

「……たぶん、私の母親じゃないかと」

 

「ニャニャッ!? それってあんたを捨てたっていう……?」

 

「にゃんじゃと!? 我が子を捨てるにゃんて信じられん……しかし、確かにそれにゃら辻褄は合いますにゃ。 おそらくじゃが、その迅竜がまた空色の子を産んだのかもしれませんにゃ」

 

 そんな……あの母親のことだ、とっくにその子を捨ててしまったに決まっている。私のように何かしらの知識がなければ、もう死んでいるかもしれない。

 地面が揺れた気がした。いや、正確には私がふらついたのだろう。メルルくんや長老たちが酷く驚いた顔をしている。

 

「だ、ダイジョブニャ!? まあ、あんたの親がまた捨ててるかもだし無理もないニャ……コウハイ、その竜はどんな様子だったか覚えてるのニャ?」

 

「ニャッ!? えっええと……なんか、周りにいたちっちゃい迅竜さま2匹にいじめられてたんですニャ。 あの時は親迅竜さまはいなかったみたいでしたけど……傷だらけでかわいそうでしたのニャ……」

 

 見捨ててしまったんですニャ……と俯いているコウハイさんを尻目に、私はホッと息を吐いた。良かった、まだ生きているかもしれない。今からでも間に合うだろうか、生きているなら助けたい。私の、家族(なかま)になってくれるかもしれないのだから。

 私はコウハイさんにお礼を言い、長老に件の場所への行き方を尋ねた。少しコウハイさんに対して適当になってしまったかもしれないけど、それは許してほしい。

 

「ううむ……教えるのはいいのですがにゃあ……」

 

「……? 何かあるんですか?」

 

「うむ、迅竜殿……あにゃたさまは空色で、それほど小さいわけでもにゃい……おそらく隠密に行動するのは無理でしょうにゃ。 それにいくら御母堂とはいえ、縄張りに侵入したのを許すとは思えませにゃんだ……下手したら死ぬやもしれませんにゃ」

 

「っでも……!」

 

「分かっとりますにゃ、心配にゃ気持ちは……。 迅竜殿、あにゃたさまは飛べますかにゃ? 戦わずにすぐ逃げられるにゃら大丈夫だと思いますにゃ」

 

 ……飛べない。私はまだ飛ぶ練習すらしておらず、私より格上の竜に出会ったら確実に死んでしまうだろう。長老の懸念ももっともだった。

 

「…………飛べないのニャ?」

 

「メルルくん……うん、飛べないんだ……」

 

「呼び捨てでいいニャ。 あんた、よくそれで助けようなんて思ったのニャア……」

 

「ううっ……メルル、どうしよう」

 

「はあ? どうもこうもないニャ! 今日は遅いから帰って寝るにしても、明日から飛ぶ練習するに決まってるのニャ!!」

 

「…………はい、そーですね……」

 

 メルルの正論に返す言葉もなく、挨拶もそこそこに私はメラルー村を後にした。外に出てみればメルルの言っていた通り薄暗く、ゆっくりと沈む太陽と共に私の気持ちも暗い水底に沈んでいくようで。

 

 巣に帰ってからも泣きたいような、怒りだしたいようなはっきりとしない気持ちのまま、結局一睡もできずに夜は更けていったのだった。




あの母親との再会はまだです。

まずは飛べるようにならないと、すぐにバッドエンドが待っているので主人公には頑張ってもらいます。


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