関係性で紡ぐ世界。 (反受)
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主人公とハジマリの関係

話作りには慣れてなく、どうしようもない駄文ですが、宜しくお願いします。


『夜』。

 

 

 

 

 

昔ならば、ただ暗い闇の世界だったであろう、夜。

現在、現代の夜を見ると、それはただ明るい闇の世界になっていた。

 

その変化が好ましいものかどうかなど、考える者はいない。

その答えは『人夫々』に決まっているからである―――――

 

 

 

暗い闇の世界は、蟲や、悪なんかに好まれる。

明るい闇の世界を好むのは――落ちこぼれや中二病。つまり、人間くらいである。

 

進歩という平凡な変化が有ろうと、人間の心は、根本的に変わっていない。

 

今も何処かで、誰かが誰かを敬い。誰かが誰かを崇拝し。誰かが誰かを貶し。誰かが誰かを侮蔑し。誰かが自分を愛するのだろう―――――

 

「――めて」

 

「止めてください!」

 

誰かが叫んだ。

助けを求める、悲痛の叫びだった。

 

「いいじゃんよお嬢ちゃん!」

 

「そうそう、俺達と遊ぼうぜぇ!」

 

どの時代でも、小心的悪は絶えない。それは此処でも同じ事。

まるで、ドラマや小説のワンシーンの様な、極普通のチンピラは、極普通のテンプレ如く、一人の少女に歩み寄っていた。

 

「や、止めて……!」

 

体を触られそうになった少女は、反射的にその手を退け、そして反射的に、先程よりも小さな声を発した。

 

「チッ……おい」

 

「オーケイ。お譲ちゃん。楽しいこと、しようぜぇ!!」

 

今度はしっかりと、一人の男が少女の腕を無理矢理に掴む。

 

「や、やめっ……だ、誰か!」

 

叫びは届かない。路地裏だからではない。多くの通行人から見える位置に三人は居た。ただ、少女の掌を掴む様な、御人好しやヒーローは存在しない。此処は現実世界であり、此れは事実的現象なのだから。

少女も男も見て見ぬ振り――自分には、関係無いから。周囲を通る者取っては、テレビに映る、連続殺人事件と同等なのである。

 

少女と男の様子を見て、笑っている者も居た。

そういう者は恐らく、スリルを楽しんでいるのだ。苛めの傍観者ではなく、苛めの加担者。自分は悪くない。自分は関係ない。でも、其処に有る現象はしっかりと楽しむという――そんな感覚。

 

「誰か、助けて……」

 

だが、少女は助けを求める。力無き声は、少女の心の中の諦めを示している様に聞こえる。だが、諦めてはいない。身勝手に無遠慮に無関係な者を巻き込もうと、切磋琢磨している。

自分だけが、酷い目に遭うのは許せないから――だから、誰かを巻き込んで、間良くば誰かに押し付けてしまえば良い。

少女がそう感情で思っていなくても、心情の何処かには、そんな想いが有るのだろう。

だから、助けを求めるのだ。迷惑を振り撒くのだ。

 

そして、誰も、そんな心が有るから助けない。

無条件で誰かに手を貸し、無関係ながらHAPPYENDへと誘う―――――そんな主人公は、此処には存在しない。

 

非情な世界を嘆きながら、少女は助けてくれなかった、手を差し伸ばさなかった誰かを恨み、絶望するだろう―――――

 

 

 

「其処の御三方?」

 

何処からか、少女に取っての希望が聞こえた気がした。

 

「あぁ?何だテメェ!」

 

男A、チンピラA――どちらで表現しても良いが。其れが、招かれざる突然の介入者に怒号を飛ばす。

 

「いいや、その女の子さぁ」

 

遣って来た少年が、少女を指差す。

少女の眼に少しだけ光が見えた気がした。それは間違いなく。介入者である少年から助かる可能性を見出したからだろう。

 

「何だぁ?格好付けてヒーロー面か!?」

 

男Bも怒鳴り散らす。これがアニメや映画なら、後は少年が二人の男を理不尽な暴力で懲らしめて終了―――――

 

だが。これは現実である。

 

 

 

「俺も混ぜてくれよ」

 

「「「ハァ!?」」」

 

男達だけではなく、少女もこれには声を出してしまう。三人の反応を見て、少年は小さく失笑してから眼前に掌を翳して、気取ったポーズで語り出す。

 

「だからさ。楽しそうな事遣ってるじゃないか?俺も、其れに、関らせてくれないか?なぁんて」

 

「……ふざけてんのか?」

 

「ふざけるなんて有るわけが無い」

 

「……嘗めてんのかぁ?」

 

「そんな事俺の様な小心者にはとても」

 

どの口が、何の戯言を言うのだろう。

少年の態度は、完全にふざけ、完全に相手を嘗めた、完全なる最底辺のモノだった。

 

「あんま……嘗めんじゃねぇぞ!!」

 

男Aが、最近の切れた若者の平凡通り――拳を振りかざして、少年へ向ける。

少年はそんな状況でも、ヘラヘラと笑っていた。

 

「オラァ!」

 

男Aは、容赦無く、拳を少年へと当てる。

 

そう、拳は容赦無く、恐らく余り強くは無いの力で、少年へと当たった。余りにも呆気無く、少年はスローモーションで弧を描く様に、綺麗に倒れた。

 

「な、何だ……弱ぇじゃねぇか」

 

男達、少女も含めて少年の余りの貧弱さに溜息を漏らしそうになる。

 

「おい、こいつどうする?」

 

男Bが男Aに戸惑いながらも質問する。

 

「ほっとけよ。こんなの」

 

男Aは、拍子抜けを嘆いているのか、ぶっきら棒に返答する。

 

「ほっとくなんて酷い。泣くぜ?」

 

「―――――!?」

 

誰一人残らず、驚いた。

少年がいつの間にか立ち上がっていた事に驚いたのではない。

少年の言動が、どうしようもなく軽いものだった事に驚いたのではない。

少年の体が、信じられない程に血塗れになっていた事に驚いたのではない。

それにも確かに『ある程度』の反応は有った。だが、そんなモノより何より――

 

 

 

少年が先程の事なんてどうでもいいと言うように、ヘラヘラと笑っていたことに、驚愕した。

 

その笑みは、優しさなんて緩い感情も、嬉しさなんてぬるい感情も一切感じさせない。

 

「あーあ。服が汚れちまったよ」

 

血塗れの体を見て、まるでインクでも付いたという様にのんびりとした発言をする少年。

 

「まぁ、いいや」

 

少年は視線を服から三人に戻して、優しく微笑む。

 

「嫌われたか?まぁ仕方ない。俺が居ても雰囲気が悪くなるだけだろうから、俺はもう行くことにするよ。元々俺は関係無いしね」

 

少年の突然の発言に、三人は安堵した。

男も、絡まれていた、助けを求めていた筈の少女でさえ――心の底から、安堵した。

夜の闇すら呑み込みそうな、少年の心から逃れる事が出来る――そんな感覚を錯覚したのかも知れない。

 

 

 

「それじゃあ、ごゆっくり!」

 

少年は、わざとらしく舌を出して、三人に手を振って走っていった。

 

 

立ち去った少年に、全てがこう思った。

男二人も、少女も。

小さな蟲も、其処を行く猫も。

路地裏に健気に咲く花も、其の全てを包み込む空気も。

 

 

 

 

 

『気持ち悪い』。

 

 

 

 

 

負を抱いた。

 

少年は誰かに取っての希望には成れず、誰もに取っての絶望として、完成していたのだ。

 

「あれ?続きしないの?」

 

「ハァ!?」

 

男Aが大きな声を上げる。

先程、立ち去った筈の少年が、其処には居た。其処と、具体的に言うと―――――

 

「ほぉれ」

 

「ひゃっ!」

 

少女の後ろに。

少年は躊躇い無く、表情を崩さず、後ろから少女の胸を揉む。

 

「これは中々御立派で!」

 

少年は飽くまでわざとらしく、今までに無い程の驚きを表す。

少女は咄嗟に身を引き、絡まれている筈の、チンピラの背後に隠れる。

 

「ん?あ、御免!つい」

 

性的悪戯を『つい』で済ませた少年は、今度は『ついで』と言ったように、自分の腕を掴む。

 

「こんな悪い腕とは、直ぐに関係性を絶とう!」

 

そう叫んで、少年は腕を――グシャッ、と圧し折った。

 

無残にも、見る影が無くなった、血が染みたグロテスクな自分の腕を見て、少年は満足そうに。

 

「よし、完了!」

 

――言い放った。

 

「な、何だ……何なんだ、お前!?」

 

男Bが狂ったように叫ぶ。侮蔑や恐怖や何もかもを込めて。

 

「俺?お前等に名乗る名は無い!――なんちゃって。名乗らない道理が見付からないから、極平凡に答えよう。俺は『旅人関止(タビトカカシ)』――覚えなくて大丈夫だ。無関係の他人の名前を覚えるなんて、脳の容量がもったいない!」

 

少年は自己紹介を終えて、潰した方と逆の手を眼前に翳す。

 

「そういう事を聞いてんじゃねぇ!!」

 

男Bが怒り、恐れながら思い切り声を出す。

だが、少年――関止は心底不思議そうに。

 

「じゃあ、何だろうな?俺もう、心当たりとか、無いぜ?」

 

呟いた。

 

恍けている訳でも、馬鹿にしている訳でも、強がっている訳でもなく。

本当に分からない。解らない。という表情で、無邪気に微笑む。

 

「う、うわああああああ!!!!!」

 

男二人が、空気に耐え切れなくなったのか、化物染みた、異常的な人間から逃げて行く。

小心者でなくとも、この空気を耐える事は出来なかったであろう。あの二人は、極普通の正しい判断をした。

 

「やぁ!」

 

関止は元気良く、取り残された少女に声を掛ける。

 

「ひっ……!」

 

完全に怯えてしまった少女は、小さく悲鳴を上げて、ボロボロと涙を零す。

そんな少女の姿を見て、関止は困ったように。

 

「あれぇ?俺なんか悪いことした?」

 

少女へと問う。

しかしながら、その質問に回答が返って来る筈も無く、無意味な時だけが二人の間を過ぎる。

 

「無視か?慣れてるから平気だけどさ。気を付けな。いきなり泣いたりすると他人を困らせるから。ここに居たのが、俺で良かったな!」

 

泣かせた張本人が笑顔で警告する。

 

「ひっ……た、助けて……」

 

少女は関止に許しを請いながら、ゆっくりと崩れていく。

 

「助けて?随分と図々しい。俺は『あいつ』と違って弱者や敗北者全てに優しい訳じゃないんだぜ?」

 

関止は声を低くして言い放つ。

 

「だから俺は――お前を助けない」

 

絶望を言い放つ。

 

「!……」

 

少女はそれ以上言葉を発しなかった。否――発せなかった。恐怖でそんな余裕は持ち合わせていなかったのだ。

 

 

 

「――という訳で、それじゃあ、ごゆっくり!!!」

 

「……え?」

 

少女が前を向いた時――

 

既に其処に、異常者の姿は無かった。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「――俺は一言も、お前を襲う!とか言ってないんだがなぁ?」

 

関止は先程の理不尽に首を傾げる。

 

「まぁ、仕方が無い!俺、嫌われる系男子だから!」

 

余り聞かない属性を自分に付けて、勝手に納得した様子で微笑を浮べて人塵を歩いていく。

 

 

 

 

 

「『――あれ?関止ちゃん?』」

 

ふと、関止の背後から、声が聞こえた。

関止が振り向くと、そこには独りの少年。

 

少年の周囲は、関止と同じく暗い負が漂っている様に感じる。そんな括弧付けた少年。

少年は濁った眼を関止へと向けて笑顔になる。

 

「『やっぱり!奇遇だねぇ関止ちゃん!』」

 

「おぉ、(ミソギ)っち!こんな所で何してるんだ?」

 

関止が禊と呼んだ少年に駆け寄り、潰れてない方の腕で肩を叩き、質問する。

傍から見れば、ただの仲良しな友人に見えるかもしれない。

 

ただ、この二人を包む空気は、友人の其れの様な甘いモノでは無かった。

 

「『うん。実は――というか、どうしたの?その体』」

 

禊は、傷付いた関止の体を見て、首を傾げる。

 

「あぁ……転んだ♪」

 

関止は元気良く、息をする様に、極普通に嘘を吐いた。

 

「『ドジっ子だねぇ。関止ちゃんは!』」

 

どう考えても、転んだだけでこんな状態には成り得ないが、禊は全く気にした様子が無く納得する。

 

「面目無い!なぁ、治してくれよ。禊ちゃん」

 

「『うーん』『無かったことにするのは吝かでは無いけれど――』『僕じゃ治す(プラス)なんて出来ないぜ?』」

 

「あぁ、御免。語弊が有ったな。『無かった事にしてくれ』」

 

「『オッケー!』『It's』 『All Fiction!!』 」

 

禊が手を広げ、胡散臭い声を上げると同時に、関止の傷が、服に塗れた血が、全て消える。

それは正に二人の言った通り――無かったことになったようだった。

 

「サンキュー!禊っち」

 

「『いや別に――』『あ』『そんなことより、大変なんだよ!関止ちゃん!』」

 

あの大怪我を、そしてそれを一瞬で消したことを、『そんなこと』と言うのは、異常性の塊という存在だからなのだろうか。

 

「そりゃ大変だな!禊っち!」

 

禊は何も言っていないが、関止はなんとなく反応を示す。

そんな関止を無視する様に、禊は話を続ける。

 

「『実はさっきエロ本を買って来たんだけど――』」

 

「高校生で堂々とエロ本購入発言!相変わらずだなぁもう!」

 

思春期としては正しい気がしなくともない、会話を、二人は楽しそうな雰囲気で繰り広げていく。

 

「『これを見るんだ!』」

 

「なっ……こ、これは」

 

其処に在ったのは、ロリっぽい女性の一糸纏わぬ姿。

因みに当然ながら夜とは言え、此処は多くの人が歩いている街中である。繰り返すが、此処は街の中心地である。

 

「ひとみんにそっくりじゃないか!」

 

「『やはり……君もそう思うだろう?』」

 

二人が話している人物の本名は、恐らく(ヒトミ)というのだろう。そして、話し振りからはこの二人の知人で中々付き合いが深い人物の様だ。。

本人が居ない場で、本人そっくりのエロ本談義とは、高校生らしいと言えばらしいが、失礼極まりない。本人の前で遣っても駄目だが。

 

「な、なんたる奇跡(ミラクル)!ひとみんの裸体をこんな所で拝めるとは!」

 

「『おいおい。そこは』『ひとみん(にそっくりな人)』『って付け足せよ』」

 

禊が、どうでもいいところを指摘する。

 

「おい、禊っち。今宵はこのエロ本をつまみに杯を交わそうではないか!」

 

「『つまみより、おかずの方が表現的に良いんじゃない?』」

 

くだらない、歳相応にも思える少年達の会話は、実に平和的だが――

そんな少年達が本当に平和に生きているのかは――知る者など居ない。

 

 

 

 

 

これは『普通(ノーマル)』だったり、『特別(スペシャル)』だったり、『異常(アブノーマル)』だったり『過負荷(マイナス)』だったり―――――

 

 

 

 

そんな現実(フィクション)の物語。

どうしようも無かったり。

どうしようもしなかったり。

 

誰かに関係してそうで、結局皆他人事。

 

 

 

 

 

そんな当たり前の物語である。




冒頭が夜や闇から始まったからと言っても、この作品にそんなテーマは有りません。
この感じで、ボソボソと不定期更新を続けて行きます。
宜しければ、感想やご指摘。待ってます。それではまた次回。


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