プロジェクトR! (ヒナヒナ)
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読まなくてもいい前書き

『プロジェクトR』

 

 

・狂気の開発者集団であるTeam R-TYPEでの開発風景を短編連載化したものです

・鬱設定の多いR-TYPEの世界を出来るだけ能天気に、思いついたネタを文章にする方針です

・プロットなんてありません

 

 

○注意

 

 ・このssはarcadiaで連載している同名タイトルを編集・改稿したものとなっています

 ・少し黒歴史が入っているので、改稿によってarcadia版とは別の話になる可能性があります

 ・R-TYPEの二次小説です

 ・完全なるネタです

 ・基本ギャグ話ですが、たまに思いついたようにシリアスになる話もあります

 ・設定はR-TYPE FINAL準拠です。しかし、設定のないところに捏造を加えたり、

  R-TYPE TACTICSなどの設定を借りてきたりする場合があります

 ・元ss? 知らない子ですね

 

 

○R-TYPEとは?

 

 超簡単に書くと…

人類が宇宙進出を果たした後、生物・無機物を汚染してゾンビっぽくしてしまう謎の生命体バイドが来襲した。

バイドに対抗するために地球文明圏は対バイド兵器を開発することとした。

開発集団Team R-TYPEは、波動砲を主武装とする異相次元戦闘機R機と、

R機に装着するバイドを利用した兵器フォースを作り出しバイドに対抗する。

しかし、実はバイドの原型を作り出したのは遥か未来26世紀の地球であり、

彼らが暴走したその兵器を異次元に投棄した所為であった。

ソレは進化しながら過去(R-TYPEの時代)に流れてきてたのだった。

 

複数回に及ぶバイドの侵略に対し、その都度人類はR機での敵陣単機突入作戦を実施。

何度打ち破っても復活してくるバイドを滅ぼすために、軍は単機突入作戦“Op.Last Dance”を決行。

その裏では究極のR機を開発する計画"Project R"がTeam R-TYPEによって発動されていた。

 

 

○ハーメルンさんでの改稿投稿について

 

この度、二重投稿、所謂マルチと呼ばれる事を始めた訳ですが、

簡単に言えば他所の人にも読んでもらいたいからです。

 

もともと、別の場所でも晒して意見などを貰いたい。という自己顕示欲のようなものがあったのですが、

今まで特段行動に移すことはありませんでした。

しかし、ハーメルンさんを含め、二次投稿サイトは基本的に管理人さんのご好意によって成り立っています。

もと連載していたarcadiaさんが不安定になりつつあり別所にも

作品を置いておきたいという事に端を発しハーメルンさんにもお邪魔させていただきました。

 

 

 



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Rの系譜

○Rの系譜

 

 

R機101機の系譜図です。R-9から始まるR機の樹形図になっています。

Rの系譜って横から見た翼みたいで結構好きです(先端がアレですが)。

ご視聴のブラウザによってズレた場合はもうしょうがない物として諦めてください。

投稿初期は虫食い状に書いていますが、後半はこの図に沿って投稿します。

 

 

 

―R-9A ┬ R-9A2 ┬ R-9A3 ┬ R-9A4

    |     |     ├ R-9AF

    |     |     └ R-9AD ─ R-9AD2 ─ R-9AD3

   |     ├ R-9C  ┬ R-9K

   |       |     └ R-9S ─ R-9/0 ─ R-9/02

    |     └ R-9AX - R-9AX2 ┬ R-9Leo ─ R-9Leo2

     ├ R-9B  ┬ R-9B2       ├ R-9Sk ―R-9Sk2

    |     └ R-9B3       └ R-9W  ┬ R-9WB ─ R-9WF

    ├ R-9D  ┬ R-9D2             └ R-9WZ

    |     └ R-9DH ┬ R-9DH2─ R-9DH3

    |           └ R-9DV ┬ R-9DV2

    |                └ R-9DP  ─ R-9DP2 ─ R-9DP3

    ├ R-9E  ┬ R-9E2  ─ R-9E3

    |     └ R-9ER  ─ R-9ER2

     ├ R-9F  ─ RX-10 ┬ R-11A  ─ R-11B ─ R-11S  ─ R-11S2

    |          ├TX-T   ┬ OF-1  ─ OFX-2 ─ OF-3 ─ OFX-4─ OF-5

    └ R-99        |     ├  TW-1 ┬ TW-2

      |         |     |      └ TP-1 ─ TP-2  ┬ TP-2H  ─ TP-3

     R-100         |    └ TL-T ┬ TL-1S       ├ TP-2S

      |          |          ├ TL-1B      └ TP-2M

     R-101        |          ├ TL-2A ─TL-2A2

                |           └ TL-2B ─ TL-2C

                └ RX-12  ┬ R-13T ─ R-13A ─ R-13A2 ─ R-13B

                      └ BX-T ┬ B-1A  ─ B-1A2 ─ B-1A3

                           ├ B-1B  ─ B-1B2 ─ B-1B3

                           ├ B-1C  ─ B-1C2 ─ B-1C3

                            ├ B-1D  ─ B-1D2 ─ B-1D3

                             └ BX-2  ┬ B-3A  ─ B-3A2

                                ├ B-3B  ─ B-3B2

                                ├ B-3C  ─ B-3C2

                                └ BX-4  ┬ B-5A

                                     ├ B-5B

                                     ├ B-5C

                                     └ B-5D

 

 

R-9A : ARROW-HEAD

R-9A2 : DELTA

R-9A3 : LADYLOVE

R-9A4 : WAVE MASTER

R-9AF : MORNING GLORY

R-9AD : ESCORT TIME

R-9AD2 : PRINCEDOM

R-9AD3 : KING'S MIND

R-9C : WAR-HEAD

R-9K : SUNDAY STRIKE

R-9S : STRIKE BOMER

R-9/0 : RAGNAROK

R-9/02 : RAGNAROK II

R-9AX : DELICATESSEN

R-9AX2 : DINNER BELL

R-9Leo : LEO

R-9Leo2: LEO II

R-9Sk : PRINCIPALITIES

R-9Sk2 : DOMINIONS

R-9W : WISE MAN

R-9WB : HAPPY DAYS

R-9WF : SWEET MEMORIES

R-9WZ : DISASTER REPORT

R-9B : STRIDER

R-9B2 : STAYER

R-9B3 : SLEIPNIR

R-9D : SHOOTING STAR

R-9D2 : MORNING STAR

R-9DH : GRACE NOTE

R-9DH2 : HOT CONDUCTOR

R-9DH3 : CONCERTMASTER

R-9DV : TEARS SHOWER

R-9DV2 : NORTHERN LIGHTS

R-9DP : HAKUSAN

R-9DP2 : ASANO-GAWA

R-9DP3 : KENROKU-EN

R-9E : MIDNIGHT EYE

R-9E2 : OWL-LIGHT

R-9E3 : SWEET LUNA

R-9ER : POWERED SILENCE

R-9ER2 : UNCHAINED SILENCE

R-9F : ANDROMALIUS

RX-10 : ALBATROSS

R-11A : FUTURE WORLD

R-11B : PEACE MAKER

R-11S : TROPICAL ANGEL

R-11S2 : NO CHASER

TX-T : ECLIPSE

OF-1 : DAEDALUS

OFX-2 : VALKYRIE

OF-3 : GARUDA

OFX-4 : SONGOKUU

OF-5 : KAGUYA

TW-1 : DUCKBILL

TW-2 : KIWI BERRY

TP-1 : SCOPE DUCK

TP-2 : POW ARMOR

TP-2H : POW ARMOR II

TP-3 : Mr.HELI

TP-2S : CYBER NOVA

TP-2M : FROGMAN

TL-T : CHIRON

TL-1A : IASON

TL-1B : ASKLEPIOS

TL-2A : ACHILLEUS

TL-2A2 : NEOPTOLEMOS

TL-2B : HERAKLES

TL-2B2 : HYLLOS

RX-12 : CROSS THE RUBICON

R-13T : ECHIDNA

R-13A : CERBEROS

R-13A2 : HADES

R-13B : CHARON

BX-T : DANTALION

B-1A : DIGITALIUS

B-1A2 : DIGITALIUS II

B-1A3 : DIGITALIUS III

B-1B : MAD FOREST

B-1B2 : MAD FOREST II

B-1B3 : MAD FOREST III

B-1C : AMPHIBIAN

B-1C2 : AMPHIBIAN II

B-1C3 : AMPHIBIAN III

B-1D : BYDO SYSTEMα

B-1D2 : BYDO SYSTEMβ

B-1D3 : BYDO SYSTEMγ

BX-2 : PLATONIC LOVE

B-3A : MISTY LADY

B-3A2 : MISTY LADY II

B-3B : METALLIC DAWN

B-3B2 : METALLIC DAWN II

B-3C : SEXY DYNAMITE

B-3C2 : SEXY DYNAMITE II

BX-4 : ARVANCHE

B-5A : CLAW CLAW

B-5B : GOLDEN SELECTION

B-5C : PLATINUM HEART

B-5D : DIAMOND WEDDING

R-99 : LAST DANCER

R-100 : CURTAIN CALL

R-101 : GRAND FINALE

 

 

※この他、R-9以前の機体(RX-T1~RX-8)、

R-TYPE TACTICSシリーズのみ出演の機体(ナルキッソス、パトロクロス、へクトール、グランビアFなど)がありますが、おそらく書きません。

R機も大概ですが、スペシャルウエポンは輪を掛けてトンでもなので、これもおそらく書かないでしょう。

 

 



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TL-T “CHIRON”

・TL-T “CHIRON”

 

 

 

散乱するメモリーチップ、所狭しと置かれた端末、大型の機器類、脱ぎ散らかした白衣。

完全に汚部屋であるが、そこここに散らばるアイテムが研究施設ですと主張していた。

その部屋の隅で、端末のキードードを叩く、気だるそうで無精ひげを生やした中肉中背の男と、

床に座り込みながら機器の調整をする、眼鏡を掛けた細身の男がいた。

首から下げたセキュリティカードにはそれぞれ、メイロー、フェオと書いてあった。

両方とも肩書は研究員……つまり下っ端だ。

彼らが無心に何かに没頭していると、突然扉が開き、白衣を着た血色の悪い男が入ってきた。

 

 

「やばい、皆聞いてくれ」

「うっ、班長。顔青い上に酒臭いぞ」

「どうしたー。二日酔いで、重要書類にゲロぶっ掛けたか?」

 

 

メイローが鼻を摘まみながら嫌な顔をすると、フェオもはやし立てる。

この3人がこの研究室の主である。

 

 

「いや、昨日の会議の後、軍部のお偉いさんと飲む事になったんだけど、

そこで昔のアニメーションについて、意気投合しちゃって…

そっから記憶無いんだが、さっき気が付いたら、この構想書もって、床で寝てた」

「ん~。人型R機構想書。人型ってお前いつの時代の……うわ、これ決済印付いてるぞ!」

「メイローそれ貸して。……マジだ、ありえねぇ。決済印ついたら仕様書だけでも作らなきゃやばいだろ」

「酔った勢いで、上に構想書出すとか班長やるな。それで意見が通るなら俺も次から決済は酒の席で取る」

 

 

ふざけたメイローとフェオが口々に言うと、リーダーであるブエノがひとしきり黙ったあと、二人に静かに問いかけた。

 

 

「俺……やっぱ人型の仕様書作らなきゃダメか?」

「そらだって決済印ついてるじゃん。引き戻しとか許されないだろ。

処理済だから、引き戻すなら相当上の人に頼まないと無理じゃね」

「……」

 

 

フェオが良い笑顔で止めを刺すと、二日酔いで青くなっている研究班長ブエノは沈み込むように倒れた。

 

 

***

 

 

「と、言うことで人型R機の検討会を行います」

 

リーダーブエノが3時間ほど放置されたあと勝手に復活し、唐突に二人に話しかけ始めた。

 

「唐突じゃない。なんで、ホワイトボード持ってきてんのさ」

「良い事に気がついたなフェオ。班長である俺が決済取ったので、この件は自動的にウチの班の連帯責任になります」

「ふざけんな、俺たち巻き込むな」

「聞こえんなぁ。大体お前ら俺すべてを押し付けて、面倒な会議欠席しやがったろ。その報いだ」

「酔った勢いで変な書類作って、挙句にゴーサインまで貰ってきたのは自分のミスだろー」

「だべっていても始まらん。さあ、方向性を決めるぞ。ブレインストーミングだ!

人型兵器といって想像するものを言え。メイローから交互に!」

 

 

強引に話を進める班長。とりあえず何でも良いから案を出させる事にしたようだ。

 

 

「無駄に足がある」

「機動兵器なのに超近接武装」

「センサー類は頭部につける」

「コックピットは胸部」

「精神論でリミッターが外れる」

「変形する」

「宇宙でチャンバラ」

「恥ずかしい二つ名がつく」

 

 

フェオとメイローは完全に適当に思いついたことを並べ立てていく。

そのいい加減差にブエノがまずキレる。

 

 

「誰がダメだしをしろと言った!しかもそれほとんど昔のアニメーションの事じゃねーか!」

「人型兵器なんて真面目に議論する馬鹿は居ないから。発想が偏るのは仕方が無い」

「お、じゃあ真面目に議論するの、俺ら世界初じゃね」

「もういいや、仕様書だして突っ返されれば終わるだろう。

とりあえず、議論だけ詰めるぞ。人型兵器を想像して。はいもう一回メイローから」

 

 

完全に彼らの頭は、もろもろの常識を考えて実現されないであろう案を上げて、

却下を食らってこの話をなかったことにする方向で定まっていた。

が、もちろんそんなことではやる気なんて出るわけがなく。

 

 

「軍人より素人のほうが操縦が上手い」

「軍人の方は後で訓練施設送りだな。何故か量産機より試作機の方が強い」

「むしろ本当の試作機は不具合の数が尋常じゃないんだがな。最後は愛でどうにかなる」

「ちょ…バイドに愛を説くのかよ。さすがメイロー。あ、設計者は父」

「フェオ…俺ら子供いないから無理だろ。家族…特に兄弟は裏切る」

「甘い。裏切るが、終盤に古巣に戻ってくる」

「裏切って戻ったら普通死刑だろ。むしろ固定武装を使わず殴る」

「一発でマニュピレータがイカレそうだな。無駄に感情的なAI」

「ギャルゲーの仮想人格インストールしとけ。必殺技が音声認証式」

「おい、波動砲撃つたびに叫ぶのかよ。物量には根性で勝つ」

 

 

「おまえら、これまとめて提出するんだぞ!少しは使えるのをだせ!」

「誰の所為だ!」

「班長も意見だせよー」

 

***

 

 

 

1時間後ぐったりとした三人。

ホワイトボードは文字で真っ黒になり、所々に丸や×がついている。

 

 

「なぁフェオ、俺たち一日かけてなにやってんだ」

「言うなよメイロー、班長、俺達帰って良い?」

「仕様書の確定まで帰さん。この案の中から怒られない程度で、実現不能と思われるものをチョイスする。そうすれば課長に書類を突っ返されて終りだ」

「もういいから、とっととやろうぜ」

「じゃあこれとか」

「これ無理過ぎて良いんじゃない」

「さすがにそれは開発課長に怒られるだろう」

「どうせマトモなのないだろ」

「あ、これ使える」

 

 

 

***

 

 

 

“課長 レホス”と書かれた研究室の執務机の前には、ブエノ班長が立っていた。

その対面の席には30代くらいの男。仕立てのいいシャツ、折り目正しいスラックス、ブランド物の靴下。

そしてその上から汚れた白衣を着て、履き潰したサンダルを履いている。

課長席に座っているから彼がレホスだろう。

レホスは仕様書と書かれた書類を見ている。

 

Team R-TYPE研究施設内では常に仕事がしやすいように、空調が作動しているはずであるが、

ブエノは汗をだらだらかいて、青い顔をしていた。

 

 

「ふうーん、で?これが仕様書?‘局所戦闘用人型R機について’ねぇ。」

「は、はい。その…これは…」

「可変機、背面スラスター、武装はビームサーベル・鞭・背負い式波動砲…」

「………」

「音声認証式コマンドってなんのため」

「え?あー、えーと、それは、あれです。今のR機のように全てパネル選択式にすると、手が足りなくなります。音声認証式にすれば、操作の簡略化に繋がります。」

「ふーん…」

「…(やばい)」

「この外付け集中センサードームっていうのは何さ?」

「今のシステムですと、センサー類に不備が生じた際に、

機体を分解してそれぞれのセンサーを取り出す必要があります。そこですげ替えが簡単な外部ユニットとして取り付けます(誰だよ頭付けろって言った奴)」

「これは何?」

「これはアレです。えーと…」

「こっちはどうすんの?」

「あー、あそこの技術を引っ張ってきて…」

「何これ?」

「うーあー…」

 

 

***

 

 

 

自分達の研究室で、寛いでいたメイローとフェオ。

そこに、息も絶え絶え帰ってきたのは彼らの班長だった。

 

 

「やっと終わった…」

「お、班長帰ってきたのか」

「班長、ドアの前に寝られると邪魔なんだけど。踏むよ」

「ふっふっふ…レホス課長の質問地獄に耐えたぞ」

「……これはもうダメだな。おいフェオ、班長はほっといて飲みに行こうぜ」

「えー、俺外嫌いだし。外でなくても、精製水に炭酸ガスを注入した奴で、エタノールを割ればいだろ」

「何だその不味そうな酒は。アルコールを摂取すればいいってものじゃないぞ」

「体に入れば同じ」

「ほう、ではそんなフェオ君にエタノールを直接注射してやろう」

「ちょ…ばか、注射器でかい。99%エタなんて死ぬから」

「大丈夫だって、実験用の特級試薬だから、変な不純物ないから」

「ホントに血管注射は洒落にならん。メイロー迫ってくんな」

 

 

平和なじゃれあいをした後、フェオとメイローは復活する気配の無い班長を残して帰って行った。

 

 

***

 

 

翌週。再び課長室。

課長のレホスと班長が再び向かい合っていた。

 

 

 

「あのレホス課長。なんですか?これ?」

「ん?命令書」

「…なんのです?」

「この前、君が持ってきた仕様書あったでしょ。ちゃんと上に上げといたから」

「……」

「顔が青いけど、どうしたのかなぁ。まさか課長である僕の頭越しに意見書を通した挙句に、できないとか言わないよねぇ?」

「い、いえ、そのもちろんです!」

「あ、君の班は人型R機開発班ということで専属にしたから。あの仕様書盛りだくさんだからねぇ。

一機じゃ盛り込めないだろう。系統化することになったから。計画書よろしく」

 

 

***

 

 

「スミマセン」

「こんのアホ班長っ!頭悪いぞ」

「人型R機開発班…うわぁ、マジかよ。俺らがやんのこれ」

 

 

班長が課長の部屋から戻ってきて10分後、

土下座する班長と、怒り狂うメイロー、ドン引きするフェオの姿があった。

その6ヵ月後…

人型可変機体のプロトタイプ

TL-T ケイロンが完成した。

 




前に別のssを書いている時に突発的にギャグが書きたくなって書いたものです。
今見るとかなりはっちゃけていますね。
もともと、見切り発車で書いていたので初期の方は順番がバラバラです。
後半はゲームシステム上の開発順に書いています。


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R-9DV“TEARS SHOWER”

・R-9DV“TEARS SHOWER”

 

 

「なあ、羨ましいよな。俺もあんな開発したかったさぁ。なんでうちはこんなところで作業ばかりなんだ。そう思わないか、トレン」

「目的語がないから分からん」

「人型兵器だよ。ヒ・ト・ガ・タ。機械が好きでここに来たんだけど、やっぱり戦闘機タイプじゃ燃えないよな。

ちゃんと二足歩行して、手にはビームサーベルかライフルを持ってさ」

「ああ、ブエノ班のやつらのことか」

「ブエノ班じゃなくて、名前も人型兵器開発班に変わったんだぜ。いいよな、憧れるさぁ。特命っぽい名前付きだし、研究室も広くなってるし」

「精密作業中だぞ、黙って作業できないのか。エル」

「あいつらがキャッキャウフフと人型の図面と戯れて、新型機を開発しているのに、

俺たちは、防護服着てバイド種子にエネルギーを食わせる作業なんて……研究者として間違ってる!」

「真面目にやれ。手元狂ったらバイド汚染だぞ」

 

 

そこは部外者立ち入り禁止と書かれたエリアで、

(そもそも、この研究区画自体、部外者が入れないので無意味な張り紙である)

フォースの元となる‘バイドの切れ端’からバイド種子を培養する施設だ。

様々な形をしたコントロールロッドがそこかしこに置いてあり、中には薄気味悪い色の溶液に漬けられているものもある。

フォースの元“バイド種子”と結びつく、シナプスツリーの原基を育てているのだ。

外部装甲が取り付けられていないコントロールロッドはなかなかにグロテスクだ。

 

 

そんな、一般人は頼まれたって立入りたくないエリアに居るのは、

防護服を着込んだ2人組だった。

まだ、直径1mくらいのバイド種子にエネルギーを注入しているのだ。

防護服ではっきりした体形や顔は分からないが、背の低い方がさっきからしゃべり倒している。

 

 

「くっそ、なんで、こんなことをやっているんだ俺は。ラヴィダは何処へ行ったんだ」

「班長は、班長会議に出ている。……このフォースで終りだ」

「おしトレン。こんな暑苦しい防護服を脱いで、空調の効いた研究室に行こうぜ」

「内部空調ついているから暑くないだろ」

「気持ちの問題だ!」

 

 

***

 

 

洗浄室でバイド汚染物質を取り除き、作業服を脱いできたエルとトレンの二人の研究員は、

自分たちの所属する研究室に入ると、すでに先客がいることに気がついた。

 

 

「あー、なんだラヴィダいるじゃんよ。なんだよ、サボりか? 班長会議はどうした」

「お疲れ、エル。バイド漏れ事故起きたんで途中で中止になった」

「バイド漏れ? ラヴィダ班長それは?」

「お、トレンもお疲れ様。新型機のフォースを開発していた班がやらかしたらしい。

まったく、誰も5番ドックには居ないからよいものを」

「5番にフォースなんてあったっけ? 特殊研究班の機体が調整中じゃなかったん?」

「そうなのか? でも大事は無いって言ってたから大丈夫じゃないかな」

 

 

二人より先に研究室にいたのは、白衣よりはラガーシャツが似合いそうな男だった。

肩幅があり、胸板も厚い、服で見えないが腹筋も6パックになっているのが容易に想像できる。

どうみてもアメフト選手といった外見で、タックルだけでここの研究員を制圧できそうだ。

ともすると徹夜上等の不健康な研究生活を送る者が多いTeam R-TYPEでは異色である。

 

 

彼、ラヴィダは学生時代はスポーツ一筋で、大学ではスカウトも来たほどだった。

しかし、在学中にバイド襲撃に遭い、人生が変わる。

試合中にバイドが来襲したのだ。

どんなに体を鍛えていてもバイドに侵蝕されれば肉塊になるだけ。

スタジアムを出て、キャンパス内を逃げ惑っていたところを、市警のR-11Bに助けられたのだ。

建物を縫うように現れてバイドを一気に消滅させた白い機体は、眩しかった。

 

 

消防士に救われた子供が憧れるように、大病が完治した患者が医者に憧れるように、

彼はR機に憧れ、猛勉強した。脳筋な部活にいた彼だが、猛勉強の末に望みを叶える。

なぜか、研究職としてTeam R-TYPEに入ったのだ。

友人達は明らかに入る場所を間違えていると感じ『何故パイロットにならなかった』と言ったが、

本人は天職であると考えていた。

実際、真面目な性格で、仕事が丁寧なので基礎研究には適性がある。

ちなみに彼のチームメイトは士官学校に行ったらしいが、こっちが正しい道だろう。

 

 

そんな筋肉ダルマにタメ口で話しかけるのは、この研究室で一番小さいエルだった。

 

 

「そうそう、ラヴィダ、人型開発班来てたん? 今、新型やってんだよね? アスク…アスクレなんとか」

「アスクレピオス」

「そうそう、それ。トレンよく知ってるな。さすが雑学マニア、でもインプットだけじゃなくアウトプットもしないと本当に無駄になるぞ。…で、ラヴィダどうなん?」

「来てたけど、なんか人型開発班の班長、げっそりして血色悪かったぞ。鬼気迫るというか話しかけられる雰囲気じゃなかったな」

「くぅぅ、俺も人型やりたいな。そうだラヴィダ。俺らも人型の企画立ち上げよう。ラヴィダも好きだろ、そういうの」

「んーまあ、個人とすれば確かに心に来るものはあるが、趣味で機体を開発するのはな。それに同じコンセプトで2系統開発しても意味無いだろう」

「たしかに二番煎じはカッコ悪けど。いや、でも人型のコンセプトを変えて……」

 

 

諦めきれない人型機への希望を言い募るエルに、ラヴィダは班長としてばっさり切る。

トレンはあまり会話に参加せずにコーヒーを淹れている。

 

 

「諦めろ。そういえば、種子0143の調子は?」

「あー元気元気。今日もエネルギーガブ飲みだったさぁ」

「よし、そろそろこの試験も終りだな。エル、トレンそろそろ昼だ食事に行こう」

 

 

ラヴィダはそう言うと、食堂に向かう。エルとトレンも後に続いた。

 

 

***

 

 

肉体労働者向けの量の多い料理に挑戦するには、研究者の基礎代謝ではつらい。

山盛りのポテトの乗ったバーガープレートを前にエルとトレンがゲンナリしてつついている。

がたいのいいラヴィダはすでにプレートの大半を胃の中に収めている。

 

「ラヴィダ。なんでそんなに食べれるんだよ。俺このポテトの山だけでお腹いっぱい。

フレンチフライを腹いっぱいに食べるのが、子供の頃の夢だったけどコレは無い」

「夢…叶ってよかったな」

「嫌味かトレン」

「エル、食べきれないならせめてバーガーとサラダを食べろ。ポテトだけじゃ栄養が偏るぞ」

 

 

マッチョ体形のラヴィダは軽々とバーガープレートを平らげていく。

普通、白衣は大きめに作られているのだが、パッツンパッツンだ。

190cm超の身長に、ぴっちりサイズになっている白衣。

捲られた袖から見える筋の波打つ腕。首も太い。

明らかに異様だ。

 

 

「トレン、バーガーあげる」

「押し付けるな」

「なんで、わざわざチーズバーガーなんだよ」

「エルは小食すぎる。トレンもだ」

「ラヴィダがおかしい。なんであの量食べられるんだよ。肉体労働万歳の軍人用サイズだろ」

 

 

ゲイルロズの食堂のうちの一つで食事を取る3人。

ここのTeam R-TYPEはゲイルロズに間借りしているため、

食堂、購買などの施設は一般軍人と共有のものを利用している。

しかし、3人は座っている席の周囲は微妙に空席だ。

別に食堂が空いているわけじゃない。

なぜか?

 

 

答えは彼らが白衣だからだ。

ゲイルロズで白衣を着るのは軍医か、研究員だ。

お世話になることの多い医師は、みな顔を覚えているし、大概彼らの白衣はきれいだ。

医務室で見たことなくて、汚れた白衣を着ている連中は、Team R-TYPE。

平和を愛する基地要員にとって絶対に関わってはならない要注意人物達なのだ。

 

 

曰く、Team R-TYPEでは試作機でバイドの群の中に叩き込まれる。

曰く、Team R-TYPEでは犯罪者や浮浪者が輸送されている。

曰く、Team R-TYPEの研究員と目が合ったら、異動命令が来た。

曰く、Team R-TYPE研究区画の近くの通路を一人で歩いてはいけない。

曰く、Team R-TYPE行きは拷問代わり…

など…

 

 

だいたいは都市伝説の様な噂話なのだが、総括すると「狂科学者集団」というのが一般的な評価だ。

何をおいても白衣に近づくべからず。ゲイルロズの不問律だ。

奇妙なぴっちり白衣マッチョが目の前に居れば尚更だ。

 

 

………

 

 

しかし、Team R-TYPEの研究員という人種は、基本空気を読まない。

警戒心を伴った無関心が漂う食堂で、彼らは今日も食事を取っている。

 

 

_______________________________________________________________________________

 

 

昼食を終えると研究室に戻り、備え付けの席について班会議を始める3人。

ホワイトボードが引っ張り出される。

 

 

「今回のテーマはなんだラヴィダ班長」

「トレン、やる気あるな。俺はもう気持ち悪くてダメ…」

「エル、だからフレンチフライだけじゃなくサラダを食べろと…

まあ、フォースの評価試験は直に終わるから、次の研究課題を選定する」

「マジで!次は基礎研究じゃなくてちゃんと開発しようぜ。俺がんばるから」

「エル、現金だな」

 

 

膨れた腹を抱えて、机に伏していたエルが突然元気になると、

トレンとラヴィダは呆れる。

 

 

「ただし、人型はNG。すでに研究班が立ち上がっているからな」

「けち、それを取ったら何も残らないだろう」

「けちで結構。すでにメイン系列機には専属開発班がつけられているから、

開発なら独自案を提出するのが望ましい。もしくはフォース、波動砲の技術検証などとなるな」

「エルじゃないが、フォース、波動砲の研究は別班の範疇だろう。我々は開発を行うべきだと思う」

 

 

ふて腐れたエルに、ラヴィダとトレンは慣れたもので、二人で研究計画を進めていく。

しばらく話をつめた後、ラヴィダが大筋を切り出す。そこになんとか意見を挟みこみたいエルが起きだす。

 

 

「方針を決定しよう。現在のR機に無いもの、欠点はなんだ」

 

 

「浪漫に決まって……」

「却下」

「じゃあ変形機構を」

「目的を先に述べろ」

「大型バイド殲滅のために必殺技を」

「なんのための波動砲だ」

「サーベルを……」

「単純にバイド切っても増えるだけだろ」

「あとは……」

 

 

エルが意見を出してラヴィダが切る。切る。切る。

5分ほど続けた後、今まで黙っていたトレンが発言する。

 

 

「対小型バイド用の攻撃方法が少ないことが問題ではないだろうか」

 

 

真面目な意見にラヴィダがエルを放って、議論を開始する。

 

 

「それは必要か? 基本的に小型バイドは固定武装のレールガンで十分撃破できるだろ」

「トレンの意見は聞くのかよ」

「突入戦では、四方から狙われる」

「ああ、確かに小型機に波動砲を使用するのは効率が悪いし、実際小型機の群に飲まれるパイロットも多いな」

「固定武装はレールガンだけだからな。数で押されたらそらー飲まれるさー。オプションも通常はミサイル、フォースくらいだしー。ビットはエース専用だろー」

「フォースシュート中、R機の武装は非常に限られる。レーザーはフォースなしに撃てないし、

ビットは予算上ほとんどの場合つけられない。ミサイルは発射スピードが遅いから手数が明らかに足りない」

「人型ー、ビームサーベルー、可変機ー…」

 

 

二人の会話の合間合間にエルが言葉を挟むが、見事に無視される。

 

 

「だから、波動砲をバルカン式にするのはどうだろう」

「波動砲をあえてばらすか。面白い案だなトレン。バイドの群を突破するための支援機として有用かもしれんな」

「どうせ、僕はオリジナリティの無い2流研究者ですよー…」

「障害物の少ない宇宙空間の支援ではR-9D系列の長距離精密射撃機が有用だが、突入作戦時に閉所で使うには取り回しにくいと思う」

「威力は無くとも手数を増やす方針か。もっと詰めればアリだろうな」

「ラヴィダもトレンも無視しやがって、それでも仲間か」

「火線を集中すれば、大型バイドにも対抗できるように調整してはどうだろう」

「よし、それでレホス課長に上げよう」

 

 

会話を終えた二人は、それぞれの分担を割り振っていく。

机の上に「の」の字を書いてふてくされるエルを置いて、ラヴィダとトレンが書類を片手に部屋を出ていった。

 

 

***

 

 

 

【課長室】

 

 

「ふーん、バルカン式波動砲ねぇ」

「はい、閉所突入支援に特化したR機です」

 

 

ラヴィダが課長席に企画書を提出して説明している。

課長のレホスは、清潔感のあるワイシャツに、落ち着いた色のスラックスと靴下。

そして全てをぶち壊す汚い白衣と、かかとの潰れたサンダルを履いて席に座っている。

何時も通りだ。

 

 

「どっかの誰かさんみたく、遊んでるのかと思ったけど意外と真面目な内容だねぇ」

「どっかの誰か? …はい、実地検証はまだですが、支援機があれば突入時の事故も減少するかと」

「裏づけ資料もある…と、そうだね。ここの所データも取れないうちにR機を壊してくれるお馬鹿軍人さんが多いからねぇ」

 

 

書類から目を上げずに、資料を読み続けるレホス。

口調はふざけているが、書類を読んでいる表情は真面目だ。

 

 

「現在開発されている波動砲は特殊化、高威力化が進みチャージ時間も増加しています。

データを見るともっとも事故率が高いのは波動砲発射後で、発射後に迎撃態勢が取れずに、

バイドに落とされる例が多いのです。この新型を支援機として用いれば突入の際の突破率も上がると考えています」

「大型バイドに対する効果は?」

「火線を集中することで、スタンダード型の波動砲に匹敵する威力はでます。

ただ、一発一発の威力は大きく無いので、貫通能力には乏しいですが」

「よろしい。では上に上げておくから、詳しく説明できるようにしておいてねぇ」

「わかりました」

「あ、でも、この内容なら支援機じゃもったいないから、一応単独運用も視野に入れてね」

「はい」

 

 

レホスは書類の入った記憶媒体から、データを携帯型端末に移すと、開発許可処理を行って開発Goサインを出した。

 

 

________________________________________________________________________________

 

 

カチカチカチカチ

 

 

一人残された研究室。すねたエルが机に突っ伏して、

手元にあるノック式のボールペンを弄くりながら、呟いている。

 

 

「くっそー。ラヴィダもバルカン機なんて企画とって来て、浪漫って物が…」

 

 

カチカチカチカチカチカチカチカチカチ

 

 

「トレンの奴も、言ったもん勝ちってか? 俺も次のために考えておけばいいのか」

 

 

カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ

 

 

「人型は2番煎じだからダメだし、波動砲は粗方改良されたし…熱い企画は…」

 

 

カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ

 

 

「でもしょうがないのかなー。俺、器用貧乏だからなーオリジナリティ無いし」

 

 

カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ

 

 

「んー…ん?」

 

 

カチ。

 

 

「これって…」

 

 

カチリ。

 

 

「ふふふふ…。熱い企画あるじゃないさぁ」

 

 

椅子を倒して立ち上がり、不気味に笑うエル。

そのまま、ボールペンを掲げて叫ぶ。

 

 

「パァーイルッバンカァァァーーーー!!! これに決めた!」

 

 

***

 

 

3ヵ月後

光子バルカン装備型R機 

R-9DV ティアーズ・シャワー完成

 

 

派生系統機、帯電式パイルバンカーテスト機の開発がひそかに始まる。

 




個人的に結構黒歴史感が強い話。
当時の文を見ると地の文を書かずに会話でのごり押しが目立ちます。
多少改稿していますが、やっぱりごり押し。


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R-9WF“SWEET MEMORIES”

R-9WF“SWEET MEMORIES”

 

 

 

Q.R-9W系統機についてどう思いますか?

 

 

A.

 ・パイロット殺し

 ・悪夢の試験管

 ・人間の生物学的スペックを無視している

 ・パイロットは部品

 ・パイロットは充電池

 ・精神クラッシャー

 ・もう高性能AIを開発しろ

 ・バイドに殺される確率<機体に殺される確率

etc.

 

 

「……ですって。ワイズマンのイメージ最悪ですね」

「ほとんど、ハッピーデイズは無かった事になってるじゃない」

「なんでこんなアンケートが」

 

 

白衣の3人が居るのはWシリーズ開発室。

中肉中背の男は影が薄いと評判のランド。一番年少でまだ勤めだして2年だが、

存在を忘れられて実験室に閉じ込められ、何回かフォースの明りで夜を明かすという経験をしている。

 

紅一点のセフィエは30代でジーパンにタンクトップで痛んだ金髪を結い上げている。

白衣を着ていなかったら仕事をしているとは思えない格好だ。

 

太り気味の男はジョー、眼鏡をかけて、サスペンダーでズボンを吊っており、

外見は完全にとっつぁん坊やである。一応班長となっている。

 

 

彼らが覗き込んでいるのは、パイロットに行ったアンケート結果である。

皮肉の効いた抗議文として、パイロットの有志達から送付されたそれは、

R機各機への意見を図ったアンケートだ。

今見ている項はR-9W系統の代名詞ワイズマンなど…所謂‘試験管機’を問うたものだ。

 

 

試験管機R-9Wワイズマンは、搭乗パイロットに精神面での大きな負担を与える機体として有名だ。

試験的に実装したナノマシン波動砲(誘導式)を装備しているが、

この武装はパイロットの意識で軌道を変えられるが、代償にパイロットに多大な精神負担を強いる。

トレードマークである試験管型のキャノピーは脱着可能になっており、

消耗の激しく自力で機体を降りることができないパイロットの乗り換えを簡単にするため、

パイロットをキャノピーごと入れ換えるためだ。

試験管の中で、動けないまでに消耗した同僚が、部品のように換装される様子は、

多くのパイロットに恐怖心を植え付けた。

しかし、R-9Wワイズマンの挙げた戦果は大きく、戦力の一端を担うまでになっている。

 

 

そんな機体を生み出したのはこのWシリーズ開発班だが、

ワイズマン開発当初のメンバーの内2人はすでに入れ替わっており、

現在残っているのは、当時一番下っ端だったジョーのみだ。 

Wシリーズは、もともと特殊な波動砲をテストするために開発されている。

ワイズマンの誘導式波動砲やハッピーデイズの分裂波動砲だ。

誘導式波動砲の有用性が確認されながらも、独自の系統機に派生しない当たり、

試験管機が軍部で問題視されているのが分かる。

まあ、テスト機にはピッタリなのでワイズマン以降のWシリーズにも引き継がれている。

 

 

 

***

 

 

「なんで、私達のワイズマンばっかりこんな言われなきゃならないの。

何よ精神クラッシャーって。このくらいの精神衰弱、一日寝てれば復活するわよ。

大体ワイズマンが精神クラッシャーなら、ピースメイカーは肉体クラッシャーでしょ!?

なんで、あっちは人気で、こっちはぼろ糞に言われなきゃならないの」

「落ち着いてください。セフィ。気にしちゃだめですって」

「ピースメイカーは市民の味方だからな。’Police’って堂々とマーキングしてあるし、軍用のもパイロットにも人気がある」

「中の人間の死亡率で言ったら、ピースメイカーの方が高いのよ。そもそも、マイクロマシン波動砲ほど有用な……」

 

 

ジョーとランドは顔を合わせ、また始まったという顔をする。

セフィエは自分の関与するR機への愛情が尋常でないのだ。

長続きすることの無いボーイフレンドの10倍以上の愛を注いでいるだろう。

もっとも。セフィエはハッピーデイズからの参加で、ワイズマンを開発したわけではないが、

研究班の担当として、追研究をおこなっているため、『自分のR機』と認識している。

自分の機体が馬鹿にされれば、いらだつ。そして周囲にまき散らす。

まあ、Team R-TYPEの研究員は、これくらいのヒステリーは可愛いと思えるほどの個性の持ち主が多いので、問題にもならない。

言いたい事を言ったら収まるので、仕事の片手間に適当に話を聞けばいい。

 

 

 

 

***

 

 

「さて、何時ものがおさまった所で、新規機体開発案を検討しようか」

 

 

セフィエのヒスが収まったのを見計らって班長のジョーが切り出す。

すぐにセフィエが食いつく。

 

 

「今のトレンドは高出力機だったかしら?」

「主機の改良が足踏み状態だからな、波動砲をいかに効率よく撃てるかだろう」

「では、僕らもその路線で行きますか?」

「いや、それならWシリーズで無くとも良い。我々に求められるのは技術革だ」

「ブースター機能は無いかしら?波動砲を何らかの手段で増幅するの」

 

ランドが毒にも薬にもならない言葉を話しながら、会話に混ざる。

 

「増幅ですか…出来ます?」

「ランド、出来る出来ないじゃない。試すか試さないかだ。ふむ、方向性としてはあり…だな」

「さすがジョー、あなた大好き」

「R機に人生を捧げている君に言われてもね。他に案が無いならこの方針で行こうと思うけど。ランドは何かあるかい?」

「いえ、それでいいと思います」

「じゃあ、明日までに波動砲ブースター機能の構想案を上げくること。検討するから。解散」

 

 

先ほどとはうって変わって機嫌が良くなったセフィエと、無視されても常に平常心のランドが部屋から出て行く。

 

 

***

 

 

波動砲の基礎部分の設計を立てているセフィエとそれを見やるジョー。

波動砲中にナノマシンの一種を散布し、特殊な効果を得ることができるが、

彼女は脳の感情を司る部位に同調するように調整を掛けていた。

 

「これで決定かな。…感情制御によるナノマシン活性の誘発と、それによる波動砲のブースト」

「そう、精神論に近いけれど、ナノマシンの可能性を追求する案よ。感情によるナノマシンの異常活性を逆に利用するの」

「ランドは?」

「僕の波動砲螺旋収束案より、想定最大威力が高いですし、そちらの案で良いと思います」

 

 

ランドが役に立っていないが問題ない。

彼の神髄は、淡々と、ひたすら淡々とそれが可能になるまで、ひたすらと試行錯誤を続けることだ。

どちらかというと研究というより、技術に偏っている。

 

 

「それでは、R機自体はハッピーデイズからのマイナーチェンジで問題ないな」

「ナノマシンと波動砲の同調機能はワイズマンのものを、箱だけ再利用しましょう」

「問題は、ブースター機能と、パイロットインターフェイスの改良ね」

「じゃあランドは、ナノマシンによる波動砲ブースターの開発、

セフィエはインターフェイスプログラムの作成草案を頼む。私は問題の洗い出しと上への書類作成だ」

 

 

 

***

 

 

 

【課長室】

 

 

今日のレホス課長のシャツはワインレッドのストライプで、全体に暖色系で揃えている。

白衣の袖も赤インクで塗装してあるのはご愛敬だ。

 

 

「…というわけで、ナノマシンブースト機能を持った幻影波動砲と、その機体を提唱します」

「ふむ、少々イロモノ感が否めないが、Wシリーズならばそれもありかねぇ。波動砲の威力向上に陰りが見えたのも事実だし」

「パイロットには嫌がられますが、やはり試験管コックピットです。パイロットの育成も同時に行います。テストパイロットを下さい」

「ああ、先週来た検体から好きなの見つくろって良いよ。

派閥争いでこっちに来た軍人だからパイロット適正が低いけど」

「まあ、ある意味問題は感情の起伏なので、それでも構いません」

「神経接続は従来性のものを使うの?」

「接続機器は従来性を使いますが、新しくプログラムを起こそうかと」

「…へぇ。じゃあプログラムも実装前に提出してね」

 

 

ニマリと笑顔になるレホスと、その笑みに引くジョー。

 

 

「レホス課長、なんか仕込……いやなんでもないです」

「さすがジョー。僕の事分かっているね」

 

 

***

 

 

【二ヶ月後_実験検証室】

 

 

R機は幻影波動砲ですべて撃ち落とした後、沈黙している。

生命反応はあるが、脳波の特定領域がフラットになっている…ようは「落ちている」状態だ。

幻影波動砲の威力は素晴らしく、デコイの周囲の岩礁ごとえぐり取っていた。

 

ディスプレイを通してその様子をジョーと課長のレホスが並んで見ている。

壊れかけのサンダルは部屋の中だけにしてほしいなと思いながら、ジョーはレホスを見やる。その目は半眼になっている。

 

 

「で…レホス課長。うちの機体に何を仕組んだんです?」

「なにかなぁ、証拠も無いのにそんなこと言って良いワケ?」

「たしかにあのシステムは体力を取る設計になっていますが、コネクタによる精神汚染は設計していないのですが」

「だからなんで僕だと…、でもまあ生命エネルギーを使っているんだから、精神衛生なんか瑣末なことだよね?」

「何年あなたと付き合っていると思っているんです?

課長しか居ないじゃないですか、R機のプログラム仕様書とか隅から隅まで読む人。

パイロット達の神経接続デバイスに変なプログラムが書き加えられてあったんですよ。

相当巧妙に書かれていて、専門で無い限り分からないでしょう」

 

 

目の端であんまりな試験結果に喚くセフィエと、彼女をなだめようとして殴られるランドを横目で見ながら話す2人。

 

 

「ちょっとねー。人間の空想ってさ、意外と一定の枠を出ないんだね。

夢っていうのも記憶を反復する作業でさぁ、脳の入力作業の余波みたいなものだし、起きた瞬間に忘れちゃうくらい印象薄い。

でもさ、悪夢だけは非常に強い精神活動を伴うんだよね。感情は強く現れるし、肉体活動も誘発する」

「…で、ナノマシンでその強い精神活動を行う悪夢を誘発させたと」

「そう。プログラムに手を加えて、‘恐怖’の刷り込みを行ったんだよ。

脳接続器具内に常駐して、恐怖を感じたときに特定の刷り込みを行う様にしたり、睡眠中に、そのイメージを開放して、刷り込みを強固にしたりね」

「それで、毎日悪夢を見るようになったパイロットが多かったのですね。……でも、あれだけで落ちるとなると、改良が必要ですね」

「まあ、作戦継続中は落ちないようにしてね。POWや工作機で機体回収ってさすがに面倒だし、未帰還率が高まるからデータ取れない」

 

 

ところで、と言いながらジョーがディスプレイに繋がっているキーボードを操作する。

ディスプレイはパイロットが気絶する前に撃った幻影波動砲の場面をリピート再生し始めた。

試験管付の戦闘機から発射されたそれは、最初はただの衝撃波動砲の様な挙動をしているが、

一定距離に達すると、空間振動を撒き散らしながら取り留めのない映像を送り出してくる。

完全に戦闘機であるとか、宇宙空間、武装であることなど無視したシュールなラインナップだ。

 

 

「ところで、…なんなんです?あのパルテノン神殿や五重塔は?」

「んー。特に意味はないけど僕の端末の壁紙集だよ。あまりありふれているものに恐怖を持たせると、

日常生活に支障をきたすからね。普段あまり見ないものにしてみたよ」

「つまり選ぶのが面倒だったんですね。土星に恐怖を抱くパイロットが多くて困るんですけど……どうするんですかあれ」

 

 

ここはゲイルロズ、木星―土星圏に浮かぶ軍事基地だ。

 

 

 

「これでまた、Wシリーズは悪評を抱えるわけですね」

「今更だから。というかR-9Wのときに試験管式コックピットを考案したのはジョー、君だろう」

「あれは当時の先輩達からプッシュされたんです。

ワイズマンは次期主力機になるから、どうにかしてパイロットの乗換え問題を解決しろって、

冗談であのコックピットユニット構想を考案したら、採用されてしまったんですよ」

 

 

昔のことを懐かしそうに話すジョーにレホスが面白そうに話しかける。

 

 

「常識人ぶっているけど、冗談であの発想が出る辺り、君も狂ってるよね」

「なんですかそれ、ほめ言葉ですか?」

 

 

***

 

 

R-9WF スイートメモリーズ試作機完成。

 



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B-1A “DIGITALIUS”

B-1A “DIGITALIUS”

 

 

 

「おい、エント。おもしろい論文見つけた。これ見ろ。すんげーぞ」

「んん。『低汚染状況下でのバイド素子の利用法について』。また基礎研究班の奴らか。アホな論文を上げて……」

 

 

オガールと呼ばれた栗毛天然パーマが液晶端末に入った論文を持ってきて、エントと呼ばれた男の机に乗せる。

読んでいた報告書の上に端末を載せられたエントは、一瞬ムッとした顔をするが、一応それに目を向ける。

しかし、題名を一瞥して鼻で笑うとそのまま、脇にある袖机に追いやろうとした。

バイド素子は開放すればすぐに周囲の物質を汚染して取り込む。

低汚染状態といってもそんな危険物質が蔓延している状況は異常で、実際にあったら周囲ともども確実に封鎖されている。

そんな論文、「実験したら汚染されました終わり」と書いてあるのは想像に難くない。

 

 

「あ、おい題名だけで捨てるなよ。中身はすげーんだって。あ、ラミちゃんもちょっと」

「なーに、オガールくん。またエントくんに絡んでるのー?」

 

 

オガールは自分の端末が、袖机のゴミと一緒に床に落とされる前に机に乗せ直して、

そのままの体勢で、開いたままのドアから、廊下を通りかかった女性を呼び止める。

現れたのはロングスカートに白いブラウスを着た、いかにもお嬢様な格好をした女性だ。

もちろん、それらの服は地球連合の宇宙用服飾の規格に沿ったものだが、明らかに質が良い。

ゆったりとした口調だが、首から提げたセキュリティカードには班長と書いてある。

女性を見た男二人組の態度は明らかに変わった。

 

 

「ラミ班長か。問題ないオガールに絡まれているだけだ」

「ラミちゃん、良いもん仕入れてきたんだ。これ読んでよ」

「『低汚染でのバイド素子の利用法について』? 文章は硬いけどずいぶん挑戦的な内容ねぇ。あら……これ」

 

 

端末に指を滑らせながら論文を手にとって眺めていたラミが、呟いて小首をかしげる。

論文名の下で指が止まっている。論文著者名のラストネームの辺りだ。

 

 

「さっすがラミちゃん。気付いたな! そうこの論文発表者こそ基礎研究班のやつだけど、

連名がすごいんだ。レホス開発課長に、バイレシート開発部長がいるんだぜ」

「え? お、おいこれ他の連名も主任クラスばっかりじゃないか! なんでこんな論文が今まで埋もれてたんだ」

 

 

ラミに釣られるように論文を見るエントだったが、言われてみればアホっぽい題名に反して、

連名はTeam R-TYPEのそうそうたるメンバーだった。

そうして見るとファーストネームの地味な名前の奴はむしろ偽名っぽい。

そもそも、バイド関連の研究でこれだけの人員を動かせる人物ならば、自分たちも知っていないとおかしいのだ。

だとすれば、これは何らかの意図を持って流された情報であると考えることができる。

何故そんな回りくどいことをするのか分からないが。

 

 

「……これ第一種機密指定が解けたってこと?」

「ああ、なんでか会議なんかで持ち上がらず、シレッと第二種機密指定データベースに降りていたんだ」

「意図はわからないけどー、きっと早い者勝ちってことね。私たちの班でもらっちゃいましょ?」

「そうそう、始めに開発を始めた班が、新技術一番乗りの栄誉を手に入れるって寸法だ」

「俺たちは今開発計画がひと段落してフリーだ。これはチャンスだな」

 

 

無言で顔を見合わせる3人。

 

 

「エントくん、オガールくん。明日の昼までにこの論文の情報の精査を行って、内容を読み取るわ。

それから機体開発計画の発案をするわ。みんなやるわよぅ」

 

 

ラミの笑顔が深くなり、エントもオガールもそれに釣られて笑う。

 

 

***

 

 

周囲では……

 

 

「あそこの部屋また3人で篭ってんのか」

「本当に仲いいな、あそこの班は」

「仲がいいというより、お嬢様とその付き人だろ」

「違いない」

 

 

という会話があったが、論文をむさぼり読んでいる3人には聞こえなかったし、

聞こえたとしても三人三様で満更でもないので、軽く流しただろう。

 

 

 

***

 

 

「では、この論文についての、調査発表を行います。じゃーまずはオガールくんからねー」

 

 

35時間ぶっ通しでの調査の後であるが、ラミには疲労の色は見えない。

機嫌がよさそうで、いつもよりさらにニコニコしている。

対する二人は少しクマが出来ているが、目は少しギラついていて意識はハッキリしているようだった。

ラミに指名を受けたオガールが記憶媒体からデータを取り出して二人に配りながら話す。

 

 

「オレはこの背景にあるレホス課長のプロジェクトについて調査した。レホス課長に資料を貰うのは大変だったよ」

「レホス課長に頼みごとをすると、後が大変だぞ」

「そうなんだよな。まあバイド素子添加プロジェクト試作機BX-T‘ダンタリオン’の開発計画だったんだが、

開発部長も巻き込んだ一大計画だったんだが、結構な内容でヒラ研究員のオレらには伏せられていたらしい。

内容は論文に在るとおりバイド体を機体の装甲に用いた機体を作ることだ。結果からいうとこの研究は成功している」

 

オガールはデータを示すと、ダンタリオンの画像を出して二人に見せる。

シルエットだけみればなんとかR機に見えなくもない機体だ。

それを見てラミとエントがコメントをつぶやく。

 

「ダンタリオンねえ。ソロモンの悪魔の一柱ね。たしか知識を司る悪魔でー、

その手には全ての生き物の過去、現在、未来にわたる思考が書かれた本を持っているのだったかしら」

「しかし、バイド素子を装甲に、か。……制御が難しいだうろうに」

「この研究の特筆すべき点はもう一つある。サラリと書いてあったのだが、ダンタリオンに付属するのはライフフォース。これだ」

 

 

複製禁止と書かれたデータを見せる。

 

 

「! コントロールロッドが無い……どうやって制御しているんだ」

「これ……制御しているのではなくて、機体とフォースが同調しているの……?」

「ああ、このプロジェクトはR機のブレイクスルーだ。実際に機体番号もRシリーズではなく、BX-Tになっている。

この機体はテスト機だから、ここから新たなR機の新系統が始まるということだろ」

 

 

オガールがデータを見ながらいう。

予想以上の情報に、ラミはオガールに対して華が咲いたような笑みで、褒める。

この仕草はラミがよくするもので、まあ単純な男二人に人参を与えるのも班長の仕事と言うことだ。

 

 

「ありがとう、オガールくん。次はエントくんね」

「ああ、俺はこの論文技術を実機に適用させるための問題点の洗い出しだ」

 

 

エントは咳払いをすると、データを持ち出して説明を始めた。

 

 

「まず、これを見て欲しい。ダンタリオン稼動実験のときの各実測値だ」

「実験一発目で成功かよ。レポス課長パネェな」

「あら、これは酷いわね。パイロットのバイタルイエロー入ってるわぁ。2回目では一瞬レッドまでいってる」

「そう、機体にバイド由来物質を用いると、パイロットが物質的に隔離しても精神侵蝕を受ける。

それを緩和するためにこの実験では、パイロットの選定と、深層精神障壁の形成、投薬処理を行っているところがミソなんだ。

関連論文みたら、処理なしでやるとだいたい15分くらいで発狂するそうだ」

「えげつねぇ」

「うーん。その処理時間が掛かるし、パイロットを選ぶなんて、テスト機ならともかく量産機では許されないわね」

 

ラミは少し思案顔でデータを見つめる。

論文中にも結構エグイ画像が埋め込まれているが、それくらいで気分が悪くなるようではTeam R-TYPEはつとまらない。

ひとしきり感想をいったあと、ラミはエントに次の課題を促す。

 

 

「次だな、知ってのとおり素子を純粋培養するとフォース原基になる。

不純物がはいるとバイド化してしまうのだが、機体に用いるには不純物を加えて物質化しつつ、急激なバイド化を抑える必要がある。

この不純物=誘導体の種類と環境によって、物質化が異なり、条件によっては著しい不活性を示す……R機の装甲に使えるほどにな」

 

 

「つまりー、誘導体の選択とノウハウの蓄積が必要になるのね」

「素子研究か……。フォース実験とかいって素子を貰って、実験できるな」

「楽しそうな実験ね。でもー、セキュリティの高い実験区画の申請が必要ね」

「この論文ではテストが目的だから比較的安定するゲル状を選択したと言っている。だが、数値をみるに装甲としては今一だな」

「なにが装甲に適するか。調査実験か……グッドだ!」

「装甲適性だけでなく、活性値と生産性もみないとねー」

 

 

新しいおもちゃを手に入れたような、楽しそうな雰囲気。

徹夜上がりとは思えない。

 

 

「いいわ、これで行きましょう。エントは誘導体選定実験計画の策定。できたら言って、実験は手数で勝負よ。

オガールはパイロット処理の最適化を調べて、私は実験申請と材料の確保をするわ」

 

 

ラミは立ち上がり手を胸の前で組んで、お願いのポーズをしながら、男どもに奮起を促す。

女王様も楽ではないのだ。

 

 

***

 

 

クマが増えた三人が居た。ラミも化粧で隠し切れないクマが見え隠れしている。

一週間の睡眠時間が3人合計で24時間を切っているためだ。

 

 

「どうかしらー。誘導体実験の結果がでた?」

「量がすごいな。エント根性出したな」

「俺、反復実験で死ぬかと思ったぞ」

 

 

一番憔悴しているエントは良く分からない栄養剤を啜りながら答える。

 

 

「とりあえず、使えそうなのをピックアップしてみた。選定条件は硬度、コスト、安全性と俺の勘だ」

「……疲れてるな」

「じゃあ、検討しましょうか。ダメだったやつのデータは後でまとめて論文にでもすればいいわ」

 

 

全員発言が緩慢で、動きも怪しいところがある。

しかし、目だけぎらぎらさせてデータを見る姿は、

正にパイロット達の恐れるTeam R-TYPEの姿だった。

 

 

「硬度は機械系が成績いいが、コストに難が在る……、正直どれも一長一短なんだが、総合的に取り回しやすい一押しはこれだ」

「なに、植物細胞を誘導体にしたの?」

「植物はさっき誘導体として没って書いてなかったか」

「実際には、植物体のDNAを切り取った物を与えた。そのままやるとただの植物性バイドになる」

「いいわねこれ。可愛いわ。胞子状の波動砲なんて素敵ね!」

「……」

「……」

 

 

オガールとエントが顔を見合わせる。

また始まった。と、趣味が分からない。というアイコンタクトだ。

二人ともラミのことを尊敬しているし、女性としても足を舐めても良いくらいには魅力的と思っているが、

未だに趣味やツボが分からないでいた。

 

 

「まあ、その、俺が勧めたし、気に入ってくれたようで何よりだ」

「初期機は安定性こそ命だな」

「やったー。じゃあ誘導体はこれで決まりね」

 

 

無理やりまとめる二人、と喜ぶ一人。

オガールとエントはとりあえず喜んでいるから良いと考えて、藪はつつかないようにした。

 

 

「さて、オガールくんは?」

「目処、たったぞ。とりあえず、深層精神障壁処理は時間とコストがやたら掛かる上に、

結果が安定しないからオミット、その代わりに投薬処理をふやすことにした」

「5回か。多いな」

「無茶言うな。これで4割減だ。試行錯誤でちょうどよいバランスを探したんだから。

見ろ、オレの芸術的な投薬メニューを!」

「……綱渡り的なバランスねー。でもいいわ。これで本申請上げましょう。明日、課長がきたら上げるわー」

「あとは実際やってみての試行錯誤か」

「とりあえずこれで寝れるな……」

 

 

目だけギラギラさせたラミは、データを集めて自分のデスクに向かってゆっくり歩いていった。

それを見送った男二人は、そのまま机に突っ伏して何日かぶりのまとまった睡眠に突入した。

 

 

 

***

 

 

周囲では……

 

 

「あそこの部屋まだ明りついてるよー」

「明りつけたまま寝てるのかと思ったら、たまにうめき声とか聞こえるんだぜ」

「一週間徹夜か。チームゾンビだな」

「あそこの班、なんか怖え」

 

 

という会話があったが、死んだように椅子で寝ている2人には聞こえなかった。

 

 

***

 

 

【課長室】

 

 

今日も今日とて、完璧な服装を汚い白衣と履き潰したサンダルで粉砕している部屋の主。

ラミはデータを渡しながら部屋の主に微笑みかける。自分の容姿に自身のあるものだけができる顔だ。

 

 

「あら、レホス課長。今日のタイピン素敵ですねー。注射器ですか?」

「もらい物だ。で、君が一番手とはねぇ。外見に似合わずガッツクのだね」

「あらいやだー。私じゃないですよ。オガールくんが見つけてきてくれたんですよ」

「でも10日で資料をまとめて、新型の企画書を持ってきたんだから、敏腕リーダーってところかなぁ」

 

 

レホスはデスクに座って端末を見つめる。

 

 

「ところでレホス課長。なんであの論文を会議で話さずに適当に研究員が触れる場所に放置したんですか?」

「君は何でだと思う?」

「釣り針……かしら?」

「言いえて妙だけど、正確には試薬だねぇ。研究者はどんなときでも貪欲でなければならない。

なぜなら我らはTeam R-TYPEだから。我々の前には倫理も、理屈も、法だって意味を成さない。

そういうトビキリな研究者を選定するための試薬だからねぇ」

「あら、それは光栄ですわ。私はそのトビキリの研究員として合格ですか?」

「これだけのものを10日でまとめる熱意と狂気を認めて、実験と開発のGOサインを出そうか」

 

 

そういうと端末にカードキーを通して、承認と予算をつける。

それを見たラミは満面の笑顔になって、礼を言う。

 

 

「さて、一番乗りに敬意を表して、この機体はB-Aシリーズとしようか」

「わあ、A番をもらえるんですか!」

「そう、で、君のB-1Aになんて名前をつけるんだい?」

「それはですねー……」

 

 

***

 

 

B-1A ジギタリウス完成。

 




改稿したらラミが黒くなった。

この当時、何故か研究班を毎話入れ替えるという、
意味の分からない縛りをしていました。


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B-1A2 “DIGITALIUSⅡ”

B-1A2 “DIGITALIUSⅡ”

 

 

 

「みんな、集まってー」

 

 

様々な記録媒体が床に落ち、栄養ドリンクの空き瓶が散らばる汚い研究部屋に似合わない声が響く。

女性特有の高い声によって、機器類や雑貨の隙間で丸まっていた男二人がもぞもぞと起き上がる。

オガールとエントだ。

 

 

「ラミちゃんなにさー、ジギタリウスが完成したから、とりあえずは基礎研究に戻るんじゃないの?」

「やっと、バイド素子誘導体の論文があがったのに……眠い」

 

 

二人は眠そうに目をこすりながら寝ぼけた声を出す。

 

 

「実はジギタリウスに問題が見つかってねー。対策を練らなきゃならないのー」

 

 

さすがに研究員だけあって、自分たちの研究成果に問題があると聞いて、

エントは急に姿勢を正して、オガールはラミにその意味を聞き出す。

 

 

「ラミちゃん、問題って?」

「ほら、あの機体ってバイド装甲維持のために保存液に漬けて保管するでしょう。

その保存液が人体に猛毒である事が分かったのよー。神経系に作用するんだってー」

「なぜそこが問題になるんだ?保存液なんて素手で触んないし、ましてや飲まないし、

体内に入る要素ないだろう」

 

 

植物性の誘導体を使ったせいか、ジギタリウスのバイド性装甲は一部植物に似た性質を取る。

通常植物は根から栄養・水分を取り光合成するが、Team R-TYPE謹製のこの装甲には根が無い。

その装甲を生かすために、駐機中は保存液に漬け、栄養分と水分を吸収させる。

保存液自体には、バイド素子は使われていないはずだが、どうやらその保存液に問題が見つかったらしい。

 

 

「それがー、現場の作業員とかパイロットは軽装備だから、結構保存液の扱いが雑らしいのよね」

「戦闘で機体性能が足りなかったらどの道死ぬんだから、問題ないだろ。それより波動砲を……」

「そうそう、パイロットは消耗品。機体返してくれればいいよ」

「それがねー。軍のお偉いさんからの苦情らしくて、開発部長から直々に言われちゃって、改良しないと予算凍結するってー」

「「それは問題だ!」」

 

 

研究の存続に関わる事態に一気に身を乗り出して叫ぶ二人。

そして、ラミはホワイトボードを引っ張り出して、会議仕様に部屋を変える。

その前に男二人が椅子を持ってきて座った。

 

 

「うーん、通常毒性ならば、要はパイロットと作業員が保存液に触れなければいいんだろ?」

「しかしなー微量だけどパイロットスーツを透過する上に、アレ乗ったやつって自力で出てこれないやつ多いだろ?

そうすると、作業員の安全性も結構考慮する必要もあるな」

「そうねー、さすがに作業員全員に特殊防護スーツを貸与するわけにもいかないし、そもそも費用も手間も現実的では無いわ」

 

 

ちなみに今日はこれをどうにかするまで寝れません。とラミが良い笑顔で言い切ると、

全員が唸り思い思いの格好で思索し始めた。

 

 

***

 

 

周囲では……

 

 

「ああ、またこの班が何かやりだしたな」

「バイド機作った班だったか?」

「ああ、なんか狂ったように研究している時期あったろ?そのとき開発してたらしい」

「……ここではこれが、普通なのかな?俺来たばかりだけど自信無くしてきた」

 

 

***

 

 

3人はたまに話したり、自分のデスクと往復しながら結局1日中保存液の問題について考え続けていた。

そのうちエントが疲れたように二人につぶやく。

 

 

「なあ、俺達一晩かけて案を出してきた訳なんだが、現実的な改良案は浮かばなかった」

「エント、疲労感を増やすような事を言うな」

「エントくん、何か思いついたのー?」

 

 

「発想の転換だ。問題点は二つ、保存液の処理とパイロットの保護だ。

今までの実験から保存液無しでは機体を維持できない。だから、パイロットの保護になるわけだが……」

「だーかーらー、その話も現実的に運用できるような案はでなかっただろー」

「オガールくん、混ぜっ返さないの」

「いや、ラミ班長、オガールの言うとおりだ。パイロットが頻繁に搭乗する関係上、現実的な案は無い。

ここで逆転の発想だ。パイロットが乗り降りしなけりゃいいんじゃないか?」

「は?」

「無人機ってことかしら?」

 

 

明らかに何言ってんだって顔をするオガールとラミ。

R機は有人でこそ意味のある、対バイド兵器だからだ。

そしてオガールの顔がかわいそうな者を見る目になる。

 

 

「エント、論文で疲れてたんだよな。とりあえず寝ろ」

「病人あつかいすんな。俺は正常だ」

「でも、無人機化は無理じゃないかしら」

「無人機化じゃない。要は一度乗ったら次のメンテナンスまで降ろさなきゃいいんだ。

そうすれば保存液で汚染される心配もない。とりあえず栄養補給とか生命維持関係は、

パイプで外と繋いでおいて、保存液で補完できるようにすればいい。

作業もアームで生命維持パイプ繋いで、保存液にボチャンだ」

「なんという、暴論……」

「エキセントリックな案だけど……一考に値するわね」

 

 

ラミは面白いものを見つけた顔をし、

それを見た男二人は今日も寝られない事を悟った。

 

 

「さあ、じゃあ今晩はこの案を検討しましょう」

 

 

***

 

 

周囲では……

 

 

「またか、チームゾンビ」

「ここのやつの生態は72時間単位なんじゃないだろうか」

「このむちゃくちゃな生活で結果を出せるのが不思議だ」

「俺、ここの班に配属じゃなくて良かったって心から思うぞ」

 

 

そろそろ、奇人認定が板についてきていた。

 

 

***

 

 

「検討した結果をまとめましょう」

 

 

「まず、結論としてパイロット封入案は実現可能であることが分かったわ。運用上も艦艇やドック設備にもっとも負担が少ないし、従来の器具で対応可能だわ」

「ただなぁ」

「そうだよなぁ。これどうみても改良って段階じゃないぞ」

「なら、後続機にすればいいわ。装甲の硬度・軽量化もさらに研究進んでいるでしょう?

その成果も盛り込んで、次の機体にしちゃえばいいのよー」

「もー、それでいいか」

 

 

「じゃあ、また検討して、来週には新しい計画案を提出するわよ」

「研究に殺される……」

「過労死って戦死になるかな?」

 

 

***

 

 

【課長室】

 

 

「いつもの」格好をした課長のレホスが座っている。

アポを取っていたラミが資料を提出に入ってくる。

 

 

「で、出来たぁ?」

「はい、レホス課長。こちらが計画書になります。改良案ではなく改良を盛り込んだ後続機の設計です」

「あー真面目にやってたんだねぇ。こんなの適当でよかったのに。

どうせお偉いさんになんて設計わからないし、現場の監督不十分って言い張れば流せたんじゃない?」

「それでも、開発をしらない現場の人間に欠陥機なんて言われるのはプライドが許しません。

やるなら、外部の有象無象にとやかくと言われない位に徹底的に、です」

「君、いつも思うけど、結構マッドだよねぇ」

「あら嬉しい」

「まぁ、良いでしょう。現場の声に対応したという事実が必要なんだ。

改良型という事で開発すればいいやぁ。はい、案件通したよ」

 

 

***

 

 

ジギタリウス2開発。

 

 




ジギタリウスの時に「劇薬溶液」のエピソードを盛り忘れたので、補足的な話しになっています。
1話目にも書きましたが、序盤は好き勝手な順番で書いているので、
ジギタリウスシリーズはこれで一時中断です。3はまだ書いていません。


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B-1B “MAD FOREST”

B-1B “MAD FOREST”

 

 

 

 

「皆聞いているな。そう、ラミ班の上げたB-1Aの話だ」

 

 

そう机に両手をついて話し出したのはクアンドと言う名の白衣の男だった。

黙っていれば二枚目なのに、その言動とうっとおしいジェスチャーから明らかにダークサイドの三枚目に落ちている。

良く言っても中堅幹部職といった微妙な小物臭がする。

 

 

「ああ、そうだね」

「うちの班もフリーだったから、気付くのが早ければレースに参加できたのに」

 

 

クアンドの投げかけに対してお菓子を食べながら、適当に返事をしたのは男女2名。

根暗な感じのする伏せ目がちな、地味な男性と、

10代後半くらいの、まだ子供らしい顔を残した女性。

班員のECとフローレスカだ。

 

 

「で、班長。それがどうしたの。まさか最近の話題でお茶会しようってんじゃないんでしょ」

「僕、デスクに戻っていいですか? 趣味のモデリングしたいんですけど」

「ふん、これだから先走りは困る」

 

 

非常に偉そうな態度であったが、ECにとって自分を苛めない良い上司だったし、

フローレスカにとっては、誇大妄想的だけど常識に囚われない面白い友達だったので、

二人は彼の言動のほとんどを受け流して、話が進むのを待った。

面倒だが人の三倍話さないと話が進まない男なのだ。

 

 

「分からなければこの私が説明してやろう。これはバイド機を開発するチャンスと言うことだ」

「どこが? すでに2班が開発競争に参加しているし、レースに乗り遅れてるんじゃない?」

「正式に許可が下りたのはまだラミ班だけですけど、もうじきクールダウンじゃないですか?」

 

 

フローレスカもECも、先週ラミ班が新機軸のR機であるバイド機の開発に乗り出したのを知っている。

 

Team R-TYPEにとって開発とは戦争であることは内部的には意識共有されおり、

彼らは日夜新しい技術と発想を競い、より強い、より早い、より効率の良いR機の開発に取組んでいる。

……たまに電波が混じるが。

だからこそ後追いではどうしようない。

 

 

そんな世界なので、革新的な技術やブレイクスルーが起きると、

一斉にその技術を用いた機体を開発する傾向にある。ボトルネックが開放されることで、一気に開発が進むのだ。

一斉に開発されるので、新技術機は審査も厳しくなるし、強制的に一定数集まるとクールダウンと称して、

新技術で作られた第一世代機が運用・データが取れるまで、その技術の機体の開発に待ったが掛けられることがある。

バイド機はかなり大きく魅力的な技術であるので、無策で見切り発車すれば確実にその波に飲まれるだろう。

 

 

「私が調査したところクールダウンまでの枠は4系統だそうだ。実際に開発に入ったのはラミ班のみ。まだいける」

「いや、だから、もう出遅れてるでしょ。ラミ班の誘導体論文見て、みんな新しい誘導体の研究に着手しているじゃない。今からムリムリ」

「フローレスカ、君は試しもしないで諦めるのか。開発は挑戦だ。そうだろうEC」

「開発が挑戦であることは認めますが、現実的に無理な物は無理です」

 

 

「フローレスカもECも、始まる前から諦めおって。しかし、私の天才的な頭脳がひらめいたのだ。

論文データで詳細が乗っている項から引っ張ってくれば基礎研究を大幅に短縮できる。……具体的には植物性バイドだ!」

 

 

沈黙が落ちる。

どう考えてもラミ班の方針と被っている。というか被せている。

 

 

 

「…クアンド、それって二番煎じっていうんじゃ」

「二番煎じ? それがどうかしたのか。私はバイド機を作りたいんだ!」

「さすがに同じ開発テーマでは許可が下りないと思います」

 

さすがにそれはまずかろうと言うことで、フローレスカが止めに入る。ECも一緒だ。

しかし、その反論はさすがに見越していたのかクアンドは自己弁護を始めた。

 

「同じなどでは無い! ラミ班の構想は植物的性質のバイド化装甲を使ったR機の開発だ。

しかし、私は以前バイド素子で遊んでいて発見したのだが、植物性バイドのBI因子を操作してやれば、

無機骨格に添って巻きつき、装甲化することが可能だ。バイド化装甲をR機に取り付けるのではなく、

R機の装甲をバイド化させるんだ! これにより攻撃性能が格段に上がるしフォースとの相性の向上が見込める!」

 

 

ECとフローレスカが目を合わせる。構想を考えていたのか。という驚きと、

なぜ、それをまともな方向に発揮できないのか。という諦めが二人の間で交換される。

普段から所作が演技くさい男なので、どこまでが理論で、どこからがアドリブなのか分かりづらい。

しかし、二人とも自分たちの班長が冗談で言っているわけでないのは感じ取れた。

 

 

「さて、二人とも意見はあるか。その他の開発方針が無いならこのまま行くぞ」

「そこまで、方針が固まっているならそれでいいわ。というか他の案採用するつもりあるの?」

「ない! 私の案に敵うわけ無いだろう」

「ああ、じゃあ、もうとりあえず、それで」

 

 

クアンドが当然と言った風で、まとめに入る。

 

 

「では決定だ。午前中に試験スケジュールをまとめるから、午後は実験準備。実験は明日からだ」

 

 

簡単に見積もっても、そんなに早くことが進むはずは無い。

おそらく、クアンドは裏技の類を駆使して、研究開始までに必要な様々な手続きをスルーする気だろう。

高笑いしながら部屋をでていくクアンドを見送り、どちらともなく話す。

 

 

「クアンド、発想は良いし、才能あるのになんで明後日の方向にむかってっちゃうんだろ?」

「あれで、性格普通だったらきっと凄く付き合い難い人ですよ。僕はこのままでいいです」

 

 

***

 

 

【第一種バイド実験設備】

 

 

ここにはバイド実験槽と書かれたシリンダーが横たわっており、実験区画と実験体を仕分けている。

Team R-TYPEだけが入ることができる実験施設であるが、そもそも通常の神経をしていれば入りたいとも思わないだろう。

シリンダーの中にあるのは、R機のフレーム……だったもの。

メインフレームが巨大な蔦に絞め殺されるようにひしゃげていて、コックピットもヒビだらけだ。

よく見ると蔦とフレームの癒合部に血管のような物が浮き出ていて非常に気色悪い。

 

 

「さて、なにか意見を言ってくれたまえ」

「なんで、誘導体の実験もなしに行き成り実機で試験なの? どう考えても失敗するでしょう」

「ふん、失敗を恐れるとはなんたる小者」

「あんた、食事にバイド素子仕込むわよ」

 

 

クアンドの尊大な態度に慣れていてもムカつくことはムカつくと、フローレスカが半眼になって睨む。

そうすると、横で我関せずとデータを眺めていたECが二人に注意を促す。

 

 

「…クアンド。バイドが過剰反応を示してる。 無機物であるフレームもバイド体の一部と思わせれば潰されない」

「……たしかにバイドの侵食はすでにバイド化していれば、あまり起こらなくなるな。

それでは、バイド素子をフレームにまぶしてみるか。さあ、もう一度実験を」

 

 

アームが操作されて、新たなR機のフレームと、植物体を誘導体として投与したバイド種子が運び込まれる。

そしてエネルギーを与えると、オレンジ色の光だったバイド種子がどす黒い色に染まり、蠢動し始める。

R機フレームとの間仕切りを外すと、バイド体からは棘の生えた黒い蔦状の物が伸びる。

フレームに巻きついたそれは、接触部で即座に癒合すると見る見る太くなり、フレームを覆い隠していく。

しかし、先ほどまでの実験とは違い、破砕音は聞こえず順調にフレームを包み込んでいく。

ECだけでなく、クアンドもフローレスカもデータ画面を覗き込む。

見た目の変化が止まった後、R機はその姿を変貌させつつもなんとか、最小限の形を保っていた。

 

 

「おお、成功か!ECもやるではないか」

「そうだね」

「いいわねこれ! て、あれまた蔦が伸びてない? どこまで広がるのよ。なにか不味くない?」

「あ……」

 

 

口々に褒められて無表情ながら少し照れたようなECを尻目に、フローレスカが実験槽を指差す。

そこにはR機のフレームを覆いつくした状態で一時停止していた蔦が、さらに伸びてシリンダーいっぱいに成長している。

そこには限界を超えてなお大きくなろうとしている狂った植物があった。

中身のR機は無事だが、それを囲む実験用シリンダーがミシミシと嫌な音を立て始めた。

 

 

「これは…バイドが暴走している?」

「そんなことよりっ! 緊急廃棄!」

「わかった」

 

 

ECがコンソールにある赤いスイッチを押し込むと、大きなブザーが鳴り始める。

シリンダーの一端に設置された、固定式の波動砲ユニットが稼動し、

シリンダー自体が発光するように波動砲が発射された。

内部にあるバイド化したR機ごと全てを消し飛ばして、平静が戻る。

 

 

無言の三人。一様に顔が青白い。

 

 

「……まあなんだ、無事で何よりだ」

「あれは、R機に付着させたバイド素子が多すぎて、バイド係数が一気に上がりすぎた。

たぶん、もっと量を少なくすればいいと思う」

「おお、そうだよなEC。失敗にめげずに前に進むことが必要だな」

「クアンド。適当にバイド素子を振りかけたんだから、あんたも反省しなさいよ」

 

 

***

 

 

 

 

「よし、なかなか有意義な実験だったな」

「実験区画を汚染しかけたことを除けばね」

 

 

3人が座って実験結果を読んでいる。

 

 

「何を言っている。研究の基本はトライ&エラーだ」

「それじゃただの行き当たりばったりよ。サーチをいれなさい」

 

 

まだ若干顔が引きつっているクアンドとフローレスカがじゃれていると、

ECがデータを提出用にまとめ終えて、二人に配った。

 

 

「はいこれ。でもこの実験で面白い性質が分かったよ」

「そうだな。特に装甲の異常成長性能を基にした自己修復能力はまだ実戦に堪える内容ではないが、

長期保管中の修繕と言う点ではいいかもしれん」

「波動砲もユニットが内部に取り込まれているせいか、なんか変質しているわね。

波動砲がこちらの意図とは別方向に変わってしまった件に関しては、反省点に挙げておきましょう」

「でも、この波動砲はなかなか面白いな。蔦状のエネルギー体によるパイルバンカーだな。

すでにスタンダード波動砲の面影は無いし……この新しい波動砲の名前はどうするか?」

「地獄づ…」

「アイビーロッドはどうでしょう?」

 

 

フローレスカの声にかぶせるように、ECが発言する。

 

 

「それでいいか。では早急に計画書を課長に提出してくる」

 

 

***

 

 

 

【課長室】

 

 

「レホス課長は何時もながら素晴らしいセンスですね」

「それはどうも、テストパイロットに志願しに来たのかい?」

 

 

声の調子が非常にうざったく、悪意は無いのだが明らかにケンカを売っているように見えるクアンドに、

にこやかに対応するレホス。しかし、言葉に少し棘が混じる。

 

 

「いえいえ、レホス課長の汚い白衣は研究者の証としてぴったりだと……」

「その件に関してはその通りだけど。君、絶対研究者以外の職にはつけないよねぇ。

ナチュラルにケンカ吹っかけて歩いてるとか。とりあえず、何しに来たの?」

「もちろん計画書を提出に」

 

 

ふざけた用件だったらどうなるか分かってるのかと、目線で聞くレホスに、

クアンドは胸ポケットから記録媒体を出して渡した。

レホスが端末に挿入してデータを読み出すと、そこにはバイド装甲機仮称”Mad Forest”という文字が映し出される。

基礎データ、実験概要、研究方針など中身を確認しながら、レホスは目の前の男に尋ねた。

 

 

「なんで後発組の君の班が2番手なの。基礎実験は……ふうん、ブッツケ本番したんだぁ……」

「ええ、基礎理論があるならば、あとは実験で試行錯誤した方が早いですので」

「あまり場当たり的にやると実験費カットするよ。実験は確認手段だからね。分かってる?」

「少々急いでいた物で」

 

 

ここにきて、思い当たる節があるのか、クアンドが目を逸らす。

レホスは、きっとバイド機開発レースに乗っかろうと、無理矢理急いで開発計画を立ち上げたのだろうと、

あたりをつけて、バツが悪そうにしているクアンドに釘を刺す。

 

 

「このレースも少し加熱しているね。クールダウンを早めるかねぇ」

「えっ、」

「余り第一世代機から系統ばかり増えてもねぇ」

「いえいえいえ、問題ありません。このプランはラミ班のB-1Aとは違い、

BI性質と装甲の自己修復能力の開発研究を目的としています」

 

 

さすがに、研究停止は怖かったのか、あせったように研究について話し出すクアンド。

意欲が無いよりは、フライング気味くらいがちょうど良いと、レホスは開発許可を頭の中で出しながら続ける。

 

 

「その方針自体は結構だけど、外部向け資料に研究が目的とか書かないようにね。

最近、軍部が五月蝿くて五月蝿くて。 これだってOp.Last Danceに必要な研究なんだがねぇ」

「ラストダンス作戦? あれは軍部主導の対バイド作戦ではないのですか?」

「世の中には、君らの知らないことがいっぱいあるんだよ。はい、決済。

くれぐれも、計画を立ててから動くように。あまり適当なことすると、本当にテストパイロットにするよ?」

 

 

トドメの一刺しに、さすがに青くなったクアンドが部屋を出て行く。

しかし、まんざらでもなさそうなレホスは通信端末を手に取り、どこかに連絡を取る。

 

 

「もしもし、レホスです。ええバイド機の開発はすこぶる順調です。

ここまで研究が過熱すれば、軍部の横槍が入る前に大方の開発を終えられるでしょう」

 

 

手にもつ情報端末には”Op.Last Dance”と”Project R”掛かれたデータがある。

 

 

「ええ分かってますよ。もう趣味だけで研究を追っかけるようなバカはしませんよ。

そうでしょう? Team R-TYPEとしての、バイド機の開発目的は技術集積ですからねぇ」

 

 

***

 

 

B-1B マッドフォレスト完成。

 

 




色々ネタにされることの多いマッドフォレストでした。
TACTICSではバイド陣営の亜空間戦法でお世話になりました。


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B-1D “BYDO SYSTEM α”

B-1D “BYDO SYSTEM α”

 

 

 

【南半球第一宇宙基地Team R-TYPE開発部長室】

 

 

Team R-TYPEとは思えないほど綺麗に整頓されていて、明るい室内。

窓の外には青い空が広がっており、この南半球第一宇宙基地の地上部を一望できる。

この地球連合軍の本部ともいえるこの基地に部屋を持っていることが権力の強さを物語る。

Team R-TYPE本部にある開発部長室にいるのは男女二人。

 

 

「地球まで出張ご苦労様。その辺に座って」

「これくらい問題はありませんよ。バイド機の開発は一般研究員の手に渡りましたから。

僕がいないと課長決済が滞るだけで」

 

 

部屋の中の応接セットにはTeam R-TYPEの開発部長バイレシートと開発課長のレホスがいた。

Team R-TYPEの研究員の筆頭であるレホスと、研究よりは政治よりになりつつがる部長のバイレシートだ。

バイレシートはショートカットの髪にスカートスーツをきめており、キャリアウーマンである。

レホスもいつもの草臥れた白衣にサンダルではなく、スーツを着ている。

もともと体形はいいので、きちんとした格好をしていると意外と見られるようになっている。

無駄が嫌いな二人は挨拶もそこそこに仕事の話を始める。

 

 

「さて、いい時期だからね。これを一般研究員にも公開しようと思ってね。レホス君に任せようかと」

「バイド機? いや違いますねぇ、バイド汚染されたR機ですか」

 

 

映像データはケロイド状に見える肉塊と、その合間からのぞくスラスターなどの機械部品。

それだけならただのバイドであるが、肉塊の前部にはキャノピーらしきものが見えていた。

キャノピーの中は肉塊が蠢いているが、一部R機のコックピットシステムらしきものがあった。

 

 

「そう。ここの基地守備隊が鹵獲した機体よ」

「ああ、ダンタリオンの技術の元データですね。このOp.Last Danceの最初の突入時に地上に現れたバイド体でしたっけ」

「ええ、最初の突入機であるR-9Aアローヘッドが突入作戦を開始した直後に、これがコロニー跡から出現。

当初小型バイドと思われたこれを撃墜するために、R-9Aの突入支援を行っていた試作機が大量に投入されたわ。

結構な量のR機が投入されたけど、パイロットがへぼかったのか撃墜できなかったの」

「ああ、覚えています。あの研究所からも試作機が投入されましたよね」

「この小型バイドは始めこそ逃げるばかりだったけど、しだいに凶暴性を増していったの。

で、手に負えなくなった守備隊が試験的にフルチューンしたR-9Aと、

前大戦からのエースパイロットを投入して止めようとしたわ。

結果的には守備隊のR-9Aは撃墜されたけど、敵フォースを引き剥がし、バイド体にもダメージを与えたわ。

その後この機体が海上をふらついて居たところを、水上艦とR-11Sで攻撃。撃墜機を回収したってわけ」

 

 

一気に話したバイレシートはコーヒーを口に運ぶ。

レホスはデータを食い入るように読んでいる。

 

 

「色々突っ込みどころがありますけど、どうやってフォースを奪ったんです?」

「……R-9Aが足止めしている間に、地上カタパルトに予備のフォースロッドを用意させて射出。

敵のフォースに打ち込んで無理やりフォース化したわ。うちで昔研究していたBBSの技術が役に立ったわ」

「それ、最後にはフォースロッドシステムが破綻してバイド化しませんか?」

「したわよ。まあ、軍人の思考は、その時どう対応するかだからね。鹵獲はできたから問題ない」

 

 

そこまで話した時点でレホスがやっとディスプレイから顔を上げた。

 

 

「面白いですね。で ?部長、肝心なことをしゃべっていませんよねぇ?」

 

 

コレの中身です。とニヤリと笑うレホスに、同じ笑みで返すバイレシート。

 

 

「あらあら、さすがに分かるかしら?」

「そりゃ、僕も部長に鍛えられましたから」

「コレの中身は想像のとおりR-9Aよ。この‘Op.Last Dance’作戦当初に飛立ったR-9Aね」

「同一機体であるという確認は取れたのですか?」

「ええ、機体番号も同じだったし、中にお土産も入っていたし」

 

 

少しの間、真面目な顔をして黙考したあと、レホスが笑みを浮かべる。

 

 

「バイドが送り返してきたと言うわけですか」

「そう、大規模なものも、一機単位での時間跳躍もバイドに先を越されたわね」

「でも、この技術は有用ですね。そういえばそのR-9Aの中身はどうなったんです?」

「中身なんてもうなかったわよ」

「ああ、機体周囲の生体組織材料になったんですね」

 

 

データを見始めるレホスと、コーヒーを口に運ぶバイレシート。

暫く、沈黙が降りる。

 

 

「ふむ、分かりました。まぁダンタリオンの時点でこの機体の話は知っていましたけど、で、今、コレを出してきてどうするんです?」

「言ったでしょう。一般研究員に公開するって。これが出ればさらにバイド装甲機の開発は加速するわ。

これを見て研究意欲を刺激されない子はTeam R-TYPEには要らないわ。

だから、あなたが秘密プロジェクトで開発したことにして、バイド装甲機として公開する。

型番は適当に決めなさい。あ、ちなみに解析班での愛称はバイドシステムよ」

「開発レースをさらに加速させる起爆剤っていうわけですね。確かに起爆剤として良い研究材料ですねぇ」

 

 

***

 

 

【開発課長室】

 

 

「今はバイド装甲機は2系統かぁ、起爆剤として良いタイミングは一系統発案されてからだね。

じゃあバイドシステムαはバイド装甲機の4系統目として僕が開発した事にして……」

 

 

固定端末で開発書類を偽造しながら、ブツブツと呟くレホス。

端末のキーを打つ音と呟きだけが部屋に響く。

 

 

「バイレシート部長は起爆剤って言ってたけど、こんな面白そうな機体、

継続機を開発しちゃいけないなんて事は無いよねぇ」

 

 

しばらく、課長室から高笑いが響きわたる。

B-1Cの開発案をもってきた班長が、ドアの前でその様子に気づき、

出直したのはまた別の話。

 

 

 

***

 

 

一週間後。

B-1D バイドシステムα情報公開

 

 

 




シリアス気味だったので短い話になっています。


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BX-2“PLATONIC LOVE”

BX-2 “PLATONIC LOVE”

 

 

 

【課長室】

 

 

 

課長レホスに唐突に課長室に呼び出された研究班班長のフィエスタは、いきなり愚痴を聞いていた。

なんでも軍からTeam R-TYPEへのクレームが来たらしい。

門前払いされずに、Team R-TYPE内での議題として上がるとは結構な圧力だったのだろうか。

ちなみに内容は、第一世代のバイド機の外見がパイロットの精神に悪影響を及ぼすとして、軍部からクレームが来た。

つまり「グロテスク過ぎるんだよ!乗る方の事を考えろ、ボケ!」と怒られたのだ。

 

「ってわけで、また頭の固い軍人さん達から訳の分からない文句がきてさー。見た目を改善しろってさぁ。

君の班って全員女性だったよね。一人くらいデザインできそうだからやってくれない?

後継機は認めない単発機だけど、第二世代Bシリーズの枠一つあげるから」

「はい、やります」

 

 

フィエスタは突然降って沸いた幸運に、何も聞かずに二つ返事で引き受ける。

レホスはこれ幸いと、資料を積んで渡してくる。

 

 

「じゃあよろしく。機体素材については此方で用意したの使ってよ。

今、ちょっとゾイドとかゲルとかあーゆー柔らか系のバイドの研究を進めたくてさぁ。

ということで、今回君たちの班にやってもらう機体コンセプトは柔軟素材実験機」

 

 

新規枠に釣られたフィエスタは、技術はもとより最優先任務がデザインと聞いて、

少し不安になったが、今更あとにもひけず、とりあえず資料を持って研究室に帰っていった。

 

 

***

 

 

フィエスタがレホスに半ば押し付けられた新規バイド装甲機の研究開発に着手して2週間。

すでに、機体の技術的な開発は終わりつつあり、微調整中である。

BX-2の型番を振られる事になっているこの機はレホスの方針により、バイド装甲を柔らかい素材で作ることになっている。

このためバイド装甲培養のための誘導体の選定、装甲素材による機体の技術的特性の付与、デザイン案などを同時進行している。

ちなみにバイド装甲機は波動砲、レーザーが装甲素材の影響を強く受けるため、現状では偶然性に任せている状況である。

まだ、バイド装甲機自体が分野として若いので波動砲、レーザーについては技術蓄積を行い、

各種専門にしている班が改良していくことになる。

 

 

話をフィエスタ班に戻して、BX-2はデザイン以外はほぼ確定している。

各種試験により柔軟な組織を形成させる誘導体はいくつか選定できた。

この中でBX-2に使えると判断したのは、反発力に優れるグミ状の装甲材と、さらに軟らかく流動性に優れる装甲材の二種である。

グミ状のものを芯部にして、その周囲を流動性のあるゲル状の装甲材で覆うことで、

敵の攻撃を取り込み、装甲自体を流動させて衝撃を逃がすことがデータ上は可能となった。

問題はその所為で、デザインに制約が掛かってしまったことだ。

なぜか、柔軟装甲材は半透明のピンク色だったのだ。

 

 

悩んだフィエスタは、半日考えた後に自分で考えても答えが出ないことを悟り、

2人の班員セリアとレベッカにすべてを任せることにした。そうすれば自分は趣味の妄想に没頭できる。

おそらく二人とも個性的で頭が少し残念な女性なので何とかなるだろうと、自分のことを棚にあげて思っていた。

下請けの下請けというあんまりな仕事を振り分けて、安心していたのもつかの間、

問題がでてきた。レベッカの美的センスは別格だったのだ。

今日も、いろいろな意味で美的センスの卓越したレベッカがデッサン案を持ってきた。

 

 

「レベッカ、あなたがどちらかと言えばフィーリングを大事にしていることは知っているけど、これはどうかと思うの」

 

 

そう言ったのはまだまともな方であるセリエだ。彼女は彼女であまりまともでもないが、

苦労人といった風が似合うのと、美的センスはまあ通常の範囲に収まる。

第二世代目バイド機のデザイン案と書かれた書類を提出してきたのは、美的感覚がまともでない方のレベッカ

そこに書かれているのはビビッドな色で彩色された機体の外形案。

お題の色のピンクをメインに、コックピットブロックやスラスターに紫、グリーンといった色がふんだんに使われている。

 

 

それらをまとめて置いたのは会議机の上、班長のフィエスタと班員のセリア、レベッカが卓を囲んでいた。

机の上には溢れんばかりのデザイン草案がばら撒かれている。

イラストとしては非常に上手いのだが、どう贔屓目にみてもTシャツのデザインにしか見えない。

 

 

鏡面仕上げの正八面体だったり、星型であったり、何のためにあるか分からない翼っぽいものがあったり…

 

 

「これは何。なんで私マンガイラストの原稿みてるの?」

「可愛いじゃない。それにセリア、案を出さずに否定しちゃだめよ」

 

 

ため息とともにセリエがそう毒を吐くので、妄想を一時打ち切って宥める。

個性は個性。引き出しきれば何かになるというのがフィエスタの信条である。

レベッカはコミュニケーションが圧倒的に間違っているが、裏表はあまり無く額面どおりに言葉を取る。

こういう相手は褒めるに限る。フィエスタはニコニコしながらレベッカを撫でる。

こうしておけば彼女はフィエスタの邪魔をしないでご機嫌でいてくれる。

 

 

「フィエスタが可愛いって言ってくれた。今度結婚してあげる」

「あらあら、嬉しい」

「もう何、この人達……」

 

 

無表情のレベッカとニコニコしているフィエスタを見て、ため息をつくセリアだった。

 

 

セリアは二人を無視して原稿を手に取っている。

とりあえず、最低限任務に支障の無い形状のものを選定してゆく。

一時選定が終わった辺りで、レベッカとフィエスタが此方の世界に戻ってくる。

フィエスタが一つの原稿に目を止める。

 

 

「あら、これ……」

「げ…何そのハート型」

「これが良いわ。これにしましょう」

「はい? 班長何言ってるんですか? ハート型のR機とか」

「それは私の自信作」

 

 

フィエスタが握り締めているのは、ピンクの機体で、上からみるとハート型をしている素案だ。

しかも濃いラインが機体上を走り回り、ひび割れているようだ。

セリアの感性からするとすごく、趣味が悪い。

が、それを見たフィエスタの感性に火がついてしまったようだ。

 

 

「これにのってプロポーズを」とか、「愛を感じたバイドが…」とか、

フィエスタの口からはおかしな単語が出てくる。

完全に自分の世界に入っているフィエスタと、無表情ながら(たぶん)満足げなレベッカ。

このなかでは、異端は自分なのだと思い知り、セリアはため息をついた。

 

 

________________________________________

 

 

 

【課長室】

 

 

デスクに座る男は、ストライプのワイシャツにブラックのスラックス。

しかし、白衣はそろそろ裾がほつれかけているし、サンダルは底が擦り切れてしまっている。

 

 

 

「失礼します。レホス課長」

「ああ、君か。BX-2の事?」

「はい、書類が出来たのでもってきました。」

 

 

レホスはデータの入った記録媒体を端末に読ませると、

出てきた文章とデータの羅列を読み進めていく。

意外と几帳面で隅から隅まで目をと通し始める。

黙って書類を読むレホスに対して、フィエスタがしゃべり出す。

 

 

「この形状のモチーフは愛です。この機体は戦場に愛を伝道しようと彷徨うのです。その途中で彼女は、先に出征し戦場で心を磨耗していたR-9に出会います。彼女は擦り切れそうなR-9について献身的に面倒を見ます。R-9は彼女の純粋さがまぶし過ぎて、自分が汚れているように見えるので邪険にしますが、それでもかまってくれる彼女に次第に心を引かれていきます。しかしそこは戦場、出撃毎に味方がどんどん減っていき、ついに二人っきりになってしまいます。R-9はこう思います。彼女を失うのは耐えられない、と。それならばと、R-9は彼女に黙って次の単独突入任務に志願してしまいます。当日にそのことを知った彼女はR-9を見送ることしか出来ません。悲嘆にくれる彼女ですが基地の人を守るのはもう自分しかいないと、気丈にも立ち直ります。それから暫くして彼女にも単独突入の命令が下るのです。その命令を聞いた彼女は先に発ったR-9が失敗したと悟り、失意の中で彼女は単機バイドの巣に乗り込みます。彼女はバイドを蹴散らしながら進みますが、一体の小型バイドがどうしても振り切れません。遮二無二追従して来るバイドを討つために、バイドの巣の最奥で戦うことにします。肉欲を我慢できず彼女に向ってくるバイド。しかし、彼女は愛を忘れた哀れなバイドに純粋な愛を教えようと、正面から挑みます。敵の猛攻をフォースで弾きながら、彼女はラヴサイン波動砲でそのバイドのコアを撃ち抜きます。バイドは、最後に戦った相手が彼女であることに気付き、止めてくれた事に感謝しながら爆発します。彼女は最後の瞬間爆風の中にあのR-9の姿を見つけて…」

 

 

「資料読み終わったけど、そちらの話は終わった?」

「はい、これから第二部に続くところです」

「その話、支離滅裂だけど、機密も含まれてるから他所でしないようにね」

「大丈夫です。私は基本研究区画からでませんので」

 

 

大体を聞き流していたレホスが、ちょうどフィエスタの妄想話が終わったタイミングで顔を上げる。

そのまま、すべてをスルーしつつ質問に移る。

 

 

「で、技術的な話なんだけど、この波動砲は性能としてどうなのさぁ?」

「広域を制圧できる攻撃として、有効です」

「この軌道でぇ?」

「意外と役に立つと思います」

 

 

とても個性的なR機は、波動砲もとても個性的だった。

今回特筆すべき点でないので、それについてレホスは軽く流す。

そして、研究肝心の柔軟バイド素材装甲についての質問を投げかけた。

 

 

「装甲は? スペック上はデブリなんかの衝突に耐えられるようになっているけど」

「それに関しては今までとそれほど代わりませんね。

どの道コックピットブロックは剛体ですから、一定以上の力が掛かれば潰れます。

装甲の厚みに制限がある以上耐久度はそれほどは変わりません。中に伝わる衝撃は和らぎます」

「なんだぁ、低質量物体の衝突振動がカットされるだけか」

「でも低速時ならば、通常機体より衝撃に強いです」

「ふーん、まあ此方の要望はだいたい盛り込んであるから良いか」

 

 

そういいながら、レホスは製造許可をサインしてこの話を終わりにした。

 

 

BX-2プラトニックラヴ完成

 

 

***

 

 

【後日】

 

 

「ああ、フィエスタ君かぁ。はいこれBX-2の軍部からの評価書」

「あ、レホス課長。運用データもう来たんですか?今回はやけに早いですね」

「運用データというより、一緒に来た意見書を此方に回したかったんだろうねぇ」

 

 

はい、といって渡される意見書。フィエスタが読むとこんな事が書かれていた。

 

 

第二世代のバイド装甲テスト機についてTeam R-TYPEとして対応を行ったことについては考慮するが、

現場の意見としてBX-2の外見及び武装は、搭乗パイロット及びその寮機パイロットの戦意を甚だ低下させるという結論が出ている。

これらのことから鑑みて、地球軍としてはR機の外見の正常化を求める。

ここでいう正常な外見とはR-9及びその派生機のうちR-13BまでのR機を指す。

機体の特性上、確実にそれが不可能であるならば、第一世代バイド装甲機に類似した外見もやむを得ないものとする。

なお……

 

 

その意見書には要約すると、

「俺たちが悪かった。第一世代のバイド装甲機のデザインでいいからアレはやめてくれ」

であった。

フィエスタが「可愛いのになんで!?」などと言って、憤然とした表情になったが、

それはそれで妄想が膨らむので、それ以上それに突っ込むことは無かった。

 

 

「さて、軍部もこれで少しは黙るだろうし、横槍を入れられずに開発に励めるねぇ」

 

 

レホスは二マリと笑って、そう嘯いた。

 

 



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B-3A“MISTY LADY”

B-3A“MISTY LADY”

 

 

時刻は地球標準時で昼下がり。と言っても研究施設内部は常に一定の明かりが点っている。

太陽がほど遠いこの研究施設では、施設は常に太陽方向を向いているので、月日の管理はデータ上のものだ。

それでも、一般的には地球標準時に合わせて、仕事の真っ最中にあたる時間ではあるが、

この研究室では紅茶が供され、和やかなティータイムとなっていた。

抽出粉末やティーバッグではなく、宇宙では見なくなって久しいティーポットの中に茶葉が踊っている。

砂時計が落ちきると、暖められたカップに紅茶が注ぎ込まれ、男ばかりの茶会が始まった。

 

 

「また、上が新しい発想を?」

「バイド装甲機だったか。あれは装甲性能だけではないということか?」

「そう、第三世代機にはそれが求められている」

 

 

発言順にデステム、プエブロ、ドンである。

平均年齢は50後半で、開発班の中では最も高齢のグループだ。

特にひらめきを重んじる風潮の強い、バイド機の開発に挑戦する班のなか断突だ。

実際、現在のTeam R-TYPEの中でも古老と言ってよい面子だが、

出世はいらないから現場に、と拘って今でも末端の研究班に籍を置いている面々だ。

彼らも彼らで変人なので、例えかつての部下や後輩に命令される立場になろうと、

研究さえできれば全ては問題ないと言い切っていた。

 

 

デステムは頭の薄くなった長身の男で、低い声と鷲鼻が特徴的。

プエブロは、しわがれ声の老教授といった風情をした白髪初老の研究者だ。

班長のドンは痩身中背の男で、白髪交じりの茶髪。ちなみに本名は誰も知らない。

 

 

紅茶を飲みながら静かに話す三人。

研究室の外からは喧騒―たまに破壊音―が聞こえるが、室内は静かだ。

ドンは開発方針を詰めることから始める。

 

 

「若者の役割はその溢れんばかりの活力で、開発を進めることだが、我々にはちとキツイ。

レホス課長の意図がどこにあるか。それこそが我々が考え開発すべきものだ。

お前はどう思う?レホスの教師だったプエブロ」

「ふむ。アレは学生の時分から自分の趣味や興味を優先するところがあったが、それを直して出世した。

少なくとも今更興味だけで、このお祭り騒ぎを助長しているとは思えんな」

「興味だけではない。バイド機の開発によって何か得る物があると?」

 

 

少し前から新たな発想の機体、バイド機、バイド装甲機、Bシリーズなどと呼ばれる機体群の開発が急ピッチで進められている。

それこそ、若者―3人は40歳以下をそう呼んでいる―達の間で、開発枠の争奪戦になるほどだ。

今まで、三人の老博士達はこの研究班では静観してきたが、話題としては知っていた。

 

 

「レホスの出したレポートにヒントがあるのではないかな。

あのB-1Dは恐らくレホスの作ったものではないだろう。遊びが多すぎる。アレの趣味ではないのだから」

 

 

プエブロのかつてレホスを教えた記憶からすると、彼はギリギリ手が届くものを見いだすプロなのだ。

その時の技術で「絶対に無理」と言われていたものも、レホスができると言って手を出せば、実際にできてしまう。

若手の頃は、R機の事ならなんでも作り上げる天才研究員として名を成したが、

プエブロはそれが、できるかどうか彼なりの嗅覚で、できると判断したからこそやったことであるし、

できないと判断したらおそらく手をださなかっただろうと知っている。

そうした嗅覚をもって、バランスが崩壊しないギリギリまで攻めたものを作り上げるのだ。

もっとも、それを天才というのかもしれないが。

 

 

「プエブロが言うならばそうなのだろうが、レホス課長ならば喜んでおかしな機能を付けそうだが……」

「いや、デステム、それだけで課長職にはなれんさ。

レホス課長が今まで関わった機体を見ると、一応発想こそ奇抜だが、洗練すれば発展可能な技術だ。

課長は根っからの研究者のようなので、改良は余り重きを置いていて居ないが」

「B-1Dが彼の作ったものではないなら、どこかから手に入れたものだろうな。

おそらく、‘バイド機’ではなく、‘バイド’なのだろうが、

所内で出所すら明かせないほどのものを公開してくるとは。本気だな」

 

 

三人の目の前のディスプレイにはレホスの書いたB-1Dの設計企画書が映っている。

その横には膨大なバイドのデータ。

ドンはそれを全て消して、新たな文面を呼び出す。

表紙には「バイド素子添加プロジェクト」と銘打たれている。

それを見ながら、ドンが独り言のように言う。

 

 

「今、若者たちは自分の思いついたアイデアを開発することにご執心だが、我々はそうじゃない。

我々の年老いた者の役目はそれで何が出来るかを示すことだ。最強の機体を作ることじゃない」

「若者はオモチャを与えられれば、直ぐに飛びつきたがるからの」

「若いものが手数で勝負するなら、我々は少し頭を捻って考えるか。

確かに上層部の者たちの考えは、若者には読めんな。我々の考えるのはそこだろう。ドン?」

「若い者達は、反応の鋭敏性、防御性能、攻撃性など、所謂バイドらしさに拘っているようだが、そこは余技だろう」

「バイド素子はどのような可能性を秘めていて、どのように技術として転化できるか。だな。

レホスも大人になった。おそらく参加したい気持ちもあるのだろうが、抑えて起爆剤の投下に留めておる」

 

 

雑談のような会話を続けながら、開発の方針を次第に固めていく三人。

データを次々に立ち上げながら、プロジェクトの構想に添って計画を立てていく。

昼過ぎから続いた打合せは、夕刻に差し掛かった時点で一時休止となった。

そして、彼らは仕事の話を切り上げて、食堂に向っていった。

が、周囲から見た彼らは終了時間中に長々とティータイムを楽しんだ挙句に、

そのまま食事に向かうと言う、完全無欠のサボりに見えるのだった。

 

 

***

 

 

午前の始業時間開始とともに、三人が研究室に入り、打合せを始める。

多くのTeam R-TYPEの面々は、基地内に設定された就業時間など守らない―主に超過勤務という意味で―のだが、

この研究室では奇跡的に機能しているようだった。外から見ると他の研究室と同様であるが。

 

 

「今日の打合せを始める。ではまず昨日の夜の確認から。バイド装甲と通常装甲の相違点は?プエブロ、デステム」

「常に活動している点かの」

「常時発現型の機能として有用なもの…それは攻撃には向かず、防御機能になる」

「ああ、しかし、バリアはフォースとビット以上に有用な物はつくれん。

ここまでが、昨日の内容だが、私が考えたのはサポート機能を付与することだ」

「しかしドン、単機突入機にそれは必要か?」

「デステム、必要かどうかではない。出来るかできないかだ」

「班長の言うと居りだの。

このプロジェクトの真の目的は最強や有用な機体を作ることではないようだから、

出来うる技術を余さず実現することに意義があるのではないかな」

「プエブロのいうとおりだ、だから私はこれを提案する」

 

 

ドンが草稿をプエブロとデステムの端末に送信する。

すでに打ち合わせはすべて終わったとばかりに、淡々と端末を操作して草案を見る二人。

草案が出来上がれば概要を流し読みして、確認を行う。

そして、すぐに面白そうに目が細めて、直ぐに関連技術の論文を検索し始める。

しばらく無言の時間が続いた後、代表したようにデステムがそれを読み上げた。

 

 

「霧状防護膜実験機。そうか、装甲そのものではなく代謝物に目を向けるということか」

「これはこれは、班長も面白い物を考えるの。物理防御性能ではなく、煙幕のような物で被弾率を下げると」

「第二世代実験機は柔軟な装甲を追求したもの。しかし、性能は今ひとつだ。

では装甲そのものの物理耐性ではなく、装甲の意義を変える機体を考えてみた」

「ふむ、そもそもあのプラトニックラヴの発想もレホスの息が掛かっていそうだの」

 

 

一見、穏やかに談笑しているようで、会話自体は非常に物騒だった。

バイドの能力を如何に制御できる形で引きずり出すか。そんなことを笑いながら話し合う。

明らかに外見と会話の内容が合致していないが、Team R-TYPEとしては正常だった。

 

 

「そう、ただ他の技術で代用が効くものを作っても意味が無い。

いかにバイド由来の特殊性能を引き出せるかが、このプロジェクトのミソだ」

「では、我々の午後の仕事は考えうる特殊性能と、その材質を探ることか。……誘導体についてプエブロ何か案は?」

「我々は今までバイド機には携わっていないから、今すぐには出んの。

しかし、我々に情報提供を申し出ている者がおる。しかも、彼らは自分が宝を我々に進呈しているのに気がついていない様子だ」

 

 

プエブロが皮肉気な笑みを浮かべながら、関連論文を引っ張ってくる。

他の研究班―彼らの言葉で言うと若者―がまとめた、素子培養の失敗実験をあげた論文である。

それを見て、三人は共犯者の笑みを浮かべる。

 

 

「プエブロの言うとおりだ。情報提供者はいっぱいいるらしいな。なんとももったいない、若者達はこの宝の山には興味が無いらしいぞ」

「彼らの開発思想と我々の開発思想は多少違うからな。同じ見方をするなら我々がいる意味が無い」

「せっかく、パーティーの準備をしてもらったのだから、招待を受けるのが紳士というものだの」

 

 

デステムが大仰に肩をすくめて、演技がかった口調で言うと、ドンとプエブロが苦笑しながら、続けて皮肉を言う。

他の開発班が失敗と判断したデータから、候補を拾い上げてゆく。

物理耐性が低くても、特異な反応を見せるものが集められる。

やがて、三人の老研究者達はそれぞれの実験の用意を始めた。

 

 

***

 

 

【第一種バイド実験設備】

 

 

実験区画では、バイド機の研究を行う研究者用に、特別区画が設けられている。

‘バイド性廃棄物処理にについて、緊急用の固定式波動砲の使用を禁止します―施設課’

と書かれた張り紙が入り口にはしてある。

バイド機開発ブームもあって、区画は全て埋まっており、活気がある。

その中の1つの区画に、防護服に身を包んだ3人の老博士達がいた。

防護服は分厚いが、間接部にサポートモーターが付いているので、力の弱いものにも動かせる。

 

 

「これはどうだろう。ドン」

「霧状防護膜試作No.26か。これはなかなか拾い物かも知れんな」

「ああ、物理耐性は皆無だが、この情報遮断する性質はいい」

 

 

正面のシリンダーの中にはR機のコックピットブロックに装着されたバイド装甲があるはずだが、

真っ白に煙っていて何も見えない。

ついでに、その煙幕はレーダーやその他の実験機器の探査をことごとく無効化しているので、

三人は旧式の赤外線探知型のサーモグラフィーを引っ張り出して観察している。

が、画像が荒く、データ精度にも難があるため、実験は難しいものとなっている。

 

 

「煙幕の発生濃度も比較的良好だの。あと波動砲との親和性もある」

「それは重要だな。何せ波動砲を撃つたびに丸裸になっては意味が無い」

「ただ、余りにも波動砲が非力だ」

「そうだな、ドン。装甲維持にエネルギーが必要だから波動砲が非力だが、もし威力がたりないならば補えば良い」

「もしかしてデステム。あの失敗作の酸性ガスを添加するとな?」

「ふむ、単体では役立たずだが、ありだな。やってみよう」

 

 

________________________________________

 

 

【課長室】

 

 

デスクには清潔感のあるワイシャツにグレーのスラックスをはいた部屋の主。

しかし、足元はサンダル―とうとう寿命が来てガムテープで補強されている―で、

メーカーものの上着の変わりに、数々のシミの付いた白衣を着ている。

 

 

「プエブロ教授の班のドン班長ですか。珍しいお客さんですねぇ」

「別に先週あったじゃないですか。レホス課長」

「まあ、定例会議があるから顔は合わせるけど、課長室にわざわざくるなんてねぇ」

「最近基礎研究が多かったですからね。企画書を提出しに着ました」

「企画書? 今は新しいR系統機は出してなかった気がしたけど……ん? B系統機?」

 

 

ドンの持ってきた記録媒体から企画書データを呼び起こしてみると、レホスが驚いた顔をした。

 

今までバイド素子添加プロジェクトには全くアクションを起こしてこなかったのだ。

目の前の男の班は、昔ながらのR機の開発に多く関わっており、レホスは所謂頭の固くなった老人かと思っていた。

その班から第三世代バイド装甲機とかかれた資料を見せられるとは思わなかったのだ。

 

 

「珍しいこともあったものですね。あなた方がバイド機の開発に参加するとは」

「なに、若者のやり方を見ていたら、ちいと助言したくなりましてな」

「助言?」

「上の意図を読んで開発するということですな」

「口で伝えればいいのでは?」

「それでは若者のためになりますまい」

「それで態度で示すために、これを?」

「ええ、もちろん中身は詰めてありますよ」

年上の相手だろうと、ほとんど態度を変えないレホスだが、

流石に自分の子供の頃からR機を開発している、目の前の科学者には、

最低限の敬意を払っており、無意識の内に口調が微妙に改まっている。

 

 

「このレーザーの仕様は?」

「指向性の問題ですな。機体形状から上方へ向けることは出来ません」

「もしかして波動砲もぉ?」

「波動エネルギーをスプレーに載せているので、どうしても指向性が付きますな」

「このジャミング性能は見所があるけれど、視界最悪では?」

「滅多なことでは姿をさらけ出さないのが淑女というものです。

眼球状肉腫を改良したレーダーを神経に直接接続しますので、そこまで問題ないでしょう」

 

 

何時もなら、機体性能を口実に追い返すが、相手が此方の手の内を読んでくるので対応に困るレホス。

少なくとも目の前にいる老人は、バイド機に戦闘能力が求められていないことを知っている。

 

 

「なんてパイロットに優しくない機体」

「あなたに言われたくは無いです。そもそもバイド機で勝つつもりは無いでしょう?」

「そこは、余り他所で言って欲しくないですねぇ」

「その辺りは心得ています」

「まぁ、集団戦法に向いた機体の研究と思えばぁ…何とかなるのか?」

「どうでしょう。実証するのは外の人間でしょう?」

「確かに。…まあ、技術革新は行っているから許可します。明日書類を上げるので正式開発はそれからにしてください」

 

 

ドンが後ろ向きのまま一言呟いた。

 

 

「そうそう、管理職はどっしり構えて指導するのが仕事です。説明が面倒だからと言って、

餌で釣って、部下を操縦しようと言うのはいけませんな。それでは」

 

 

ドンがTeam R-TYPEに似合わない挨拶をして部屋から出て行くと、

余裕のある表情をしていたレホスが、ため息をつく。

 

 

「……これだから、じいさん達の相手は苦手なんだ」

 

 

***

 

 

【試験格納庫内】

 

 

「AIによる仮想性能テストをみたかね?」

「ああ、あの劣化AI試験か。私は見ていないのだが」

「とうとう、あの試験でR-13系統を破ることが出来たようだの」

「まあ、あの試験は余技だし、AIもバイドを模したらしくて頭悪いからな」

 

 

今、ここで行われているのは新規機体の指標の一つとして行われる試験で、AIを搭載してR機同士の演習を行わせるのだ。

その昔、バイドが鹵獲できないころに考案された試験だが、バイドが培養可能になった今では、正直時代遅れの実験だ。

それでも続けられるのは、対外的にはバイドの培養が伏せられているので、一般に落とせるデータが必要だからだ。

 

 

今までの結果ではR-13ケルベロスの系統が最強系統となっていた。

これはひとえに誘導性の高いライトニング波動砲のおかげだ。

これは頭の悪いAIの思考ルーチンの影響が強く、本来性能を表さないとしてTeam R-TYPEから嫌われている。

 

 

「最強が最良とは限らないな」

 

 

ドンが紅茶を飲みながら、呟く。

 

 

「昔、戯れに話していたものだの。実用面における最良とは飛びぬけた性能ではなく、最高の汎用性だと」

「最良の機体か。是非に作ってみたいものだ」

「それは我々の仕事ではない。我々老人は筋道をつけるだけ。あとは若者の仕事だ」

「違いない」

 

 

その日、三人の紳士に一機の淑女を加えて、試験格納庫でお茶会が開かれた。

 

 

B-3A ミスティ・レディ開発完了。

 



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B-3C“SEXY DYNAMITE”

B-3C“SEXY DYNAMITE”

 

 

 

Team R-TYPEの誇るバイド実験施設。

分厚い強化アクリル製のシリンダーが林立しており、その幾つかには中身が入っている。

そのうち一つの培養槽の中に湛えられているのは、流動性の低い高分子が結合した液体のようだった。

特定の可視光を反射するため、人間の目には鮮やかなピンク色に見える。

 

実験棟の明かりで照らされる様子は、前衛的なオブジェのようだ。

シリンダーを通して向こう側を見ていると、それがゆっくりと収縮したりシリンダーいっぱいに広がったりと、

揺らぎがみえることから、中の流体が蠢動していることが伺える。

 

 

培養槽に防護服を着た若い男が近づき、横に備えつけられた操作ボードを弄る。

短い警告音を発して、培養槽に備えつけられた排出バルブが開いた。

ビチャリという形容し難い音を立てて、排出バルブから滴る高粘度の液体。

液体が滴る先には、底の浅い容器が用意してあり、トロトロと容器の形に添って液体が溜まっていく。

 

 

その様子を見ているのは三人の防護服の男達。

 

 

「これは……」

「いや、材料はともかく」

「粘度といい、滑りといい、間違いなくローションだな」

 

 

三人のある意味健康的な研究者たちはゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

***

 

 

「………ふぅ」

「おい、男の吐息とか聞きたくないからやめろ。レクエルド班長」

「精神的抑圧から身体を開放した後に発する感嘆詞だ」

 

 

そろそろ青年という言い方が間違いになる年齢の男が、ベルトを締めながら個室から出てくる。

それを聞いたジェガールが刺々しい小言を投げつける。

そして、横で端末を叩いている同僚のテラーに同意を求めるが、こちらも空振りだった。

 

 

「精神的? 肉欲的の間違いだとおもうのだが、どう思う? テラー」

「どうでもいいよ」

「ジェガール。テラーも賢者モードだから、何を聞いても無駄だとおもうぞ」

「変態どもめ」

「いや、お前も魔法使い候補だろ」

 

 

白衣のそろそろ30才前後の三人の男達。

研究室に集まって妙にけだるい雰囲気を出している。

なんともいえない雰囲気が支配していたが、班長のレクエルドが仕切り始める。

 

 

「さあ、みんな研究を始めよう。古くからインスピレーションは性欲と密接に関わっているというからな」

「まあ、いつまでもこうしているわけにも行かないよな。やろうか。テラーもほら」

「ああ」

 

 

未だ、此方に帰って来られないテラーをほおって話を始めるレクエルド班長とジェガール。

端末にデータを呼び出し、ホワイトボードに字を書き連ねる。

『新型バイド装甲の可能性について』

すべてが面倒になっている精神状態なので、字も乱雑だ。

 

 

「さて、今回失敗と思えたバイド素子培養実験だが、俺としてはアレもありじゃないかと思う」

「流石に液体状では使えないだろう」

「いや、さっきわかったのだが、あのゲルは外部からの衝撃で固化するようだ」

「ダイラタンシーかい?」

「うわっ、テラー復活したのか」

 

 

ジェガールとレクエルドが勝手に打ち合わせを始めていると、唐突にテラーが復活した。

ちなみにダイラタンシーとは片栗粉などの粒子と液体を混ぜたときによくできる現象で、

小さな力を加えたときは液体のように振舞い、大きな力を加えると固体のように振舞う。

 

 

「それに近い性質だ」

「ふうん、装甲表面に個体相をもってこられれば装甲化は一応可能だな」

「……ところで、レクエルド班長。なんでそんな事を知っている? さっきの液体は実験する暇なんてなかったろ」

「……」

 

 

テラーの素朴な疑問に、目を逸らすレクエルド。

それを見て不審に思ったジェガールが更に突っ込む。

 

 

「レクエルド? 何をしたんだ。怒らないから言ってみろ」

「実はちょっと、どんな感触なのかとか、こう、ムラムラ来てさ」

「………感触? お前まさか…!」

「ちッ違う! 流石にバイドの中に直接なんかじゃない。ちゃんと防護したさ!」

「そういう問題じゃない!」

「分かるだろう。そういう時の男がいかに頭が悪くなるか!」

 

 

ジェガールが少し椅子を引き、引きつった顔でレクエルドの股間あたりを気味悪そうに眺める。

簡易バイド測定器の数字を確認し、自分たちの班長がバイド化していないのを確認した後、尋ねる。

 

 

「で、どうだった?」

「一応特殊フィルムごしだからな。まあ、初めは暖かくて良かったが、いざ圧力を加えたら固くなって折れそうになった」

「………病気だな」

「Team R-TYPEだからな。全員病気だよ」

 

 

冷たい空気が流れる中、今まであまり会話に参加していなかったテラーが元も子もない発言をした。

目の泳いでいたレクエルドと、ジト目のジェガールも理性を取り戻す。

 

 

「で、どうするの?」

「ん、ああ、面白い性質だし研究してみよう。もしかしたらもしかするかもしれない」

「そうだな、目処が立ったら新型バイド装甲機に上げてみよう」

「とりあえず、計画を立てようか」

 

 

***

 

 

一週間後、研究室には実験結果を睨む男達。

端末には多くのグラフや数値が浮かび、処理結果を吐き出し続けている。

モニタには実験のスローモーション映像。

 

 

「なんというか、意外と高性能だな。コレ」

「低速のデブリくらいなら、衝突面を固化させれば良いし、

小型レールガンクラスの銃弾までくらっても、液化させれば装甲は再生可能だ」

「ああ、エネルギーを疑似質量変換して、切り離す事もできる」

 

 

バイドゲルは意外と高性能で、三人の本能に根ざした冗談で始めた研究は、

いつの間にかメインの研究テーマとなり、本気でBシリーズへの登用を考え始めていた。

三人はこの特殊な性質のバイド物質にBJ(Bydo Jerry)物質という名称をつけた。

 

 

「これ波動砲に応用できないかな」

「?」

「波動エネルギーをバイドゲルで疑似質量変換するのか?」

「そう、あの相対速度で疑似的とはいえ、相当量の質量をもった物体と衝突させれば、かなりの破壊力を期待できる」

「…有り、だな。」

「見た目がきっとアレな事になるが、いいんじゃないか?」

 

 

試しに、このバイド素材を利用した機体から発射した波動砲はなんともいえない

ゲル状の何かだった。こんな攻撃では絶対に死にたくない。

 

 

「あと問題はあれだな」

「……ああ、あったな致命的なのが」

 

 

三人は半眼になって、テラーが端末を操作すると、画面に実験映像が再生される。

画像を面倒臭そうに覗き込むレクエルドとジェガール。

 

 

R機のコックピットブロック内部のカメラで撮影された画像。

グチャリという衝撃音や、振動が見て取れる。

簡易テストでの装甲耐久実験の映像だ。

しばらく、単調な画面が続くが、ある時を境に異変が起こる。

コックピットブロックのパッキンの隙間からBJ物質が侵入してきているのだ。

そのまま、じわじわと内部に侵入してくるBJ物質。

15分経過したころにはコックピットは半分以上がピンク色のゲルに侵蝕されていた。

そこで、ブツリと映像が切れる。

 

 

「コックピットでパイロットのローション漬けが出来上がるな」

「気持よさそうだな。きっとそのまま本当に昇天できるだろうさ」

「死ねるのか。それ?」

 

 

レクエルド、ジェガール、テラーがそれぞれ適当な意見を言う。

三人の中でこのバイドゲルを素材とした気体を作ることはすでに決まったようなものなのだが、

このままでは、どのようにしてもコックピットに侵入してくるBJ物質の所為で欠陥装甲となってしまう。

 

 

「とりあえず開閉部を溶接して物理的にBJ物質とコックピットを切り離そう」

「当面はその方法しかないな」

「もったいないな、せっかくの神経伝達触媒物質なのに利用できないなんて」

「無茶言うなよテラー。非接触でも反応速度の向上がみられる。これから研究すればいいさ」

 

 

***

 

 

【課長室】

 

 

デスクに座っているのは、汚い白衣ときっちりとキメたワイシャツ、スラックスを装備した、開発課長のレホス。

サンダルはとうとう寿命を全うしたらしく、真新しい便所サンダルに新調されている。

何故か普通の靴は履きたくないようだ。

 

 

「誰かと思ったらー、レクエルド君かぁ。ん、R機案ね」

「はい。Bシリーズの案を持ってきました」

「みんなしてバイド機、バイド機ってバイドは逃げないよー」

「Bシリーズの開発枠は逃げるじゃないですか」

 

 

資料を手渡すレクエルド。レホスは記憶カードを端末に差し込むと、データを精査していく。

ふーん。とか独り言を言いながらデータを眺めているが、気になる事があると突然質問が飛んだり、ダメ出しが入るので、

ヒラ研究員にとっては緊張する瞬間である。

 

 

「さてとぉ」

「課長、ゼリー状フレーム機はどうでしょう?」

「うーん、これでふざけたデータだったら、実験のままに君たちにBJ物質漬けになってもらおうかと思ってたんだけどー。

意外に行けそうだから許可だそうかぁ」

「ありがとうございます。でもローション漬けは勘弁して下さい」

「君の所感にも書いてあるけど、まだまだ伸びる可能性があるからBJ物質の研究は続けてね」

「はい!では細かい仕様を詰めてきます」

 

 

意外にも、BJ物質とそれを装甲に利用したバイド機はレホスに気に入られたらしく、

幾つかの質問と、確認があったが驚くほどあっさりと開発許可がでた。

意気揚々と課長室を出てゆくレクエルド。

30近くの男が、今にも鼻歌を歌いだしそうな調子でいるのは、傍から見て気味が悪い。

課長室の扉が閉まったあと、レホスは端末を弄り動画を呼び出す。

画素数の足りないその画像は、どうやら監視カメラで撮影されたものらしい。

BJ物質の培養槽の前で怪しい動きをする人影が映っている。

 

 

「ふふん、レクエルド君はバイド実験室に監視カメラがある事分かってなかったのかなー。

まぁ、何にせよこれで僕のオモチャが一人増えたなぁ。これで無茶振りをしても良く働いてくれそうだなぁ」

 

 

端末には30前童貞男の悲しい生理現象を証明する映像が再生されていた。

 

 

***

 

 

B-3C セクシーダイナマイト完成。

 

 

 




セクシーダイナマイト2はどうしようか思案中。
どうしてもエロ方向に話が向いてしまう。


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B-5B “GOLDEN SELECTION”

B-5B “GOLDEN SELECTION”

 

 

 

電子音が響く実験施設内に、金属スクラップに肉塊付いてるような何かが浮いているシリンダー。

金属部分にまで血管の様な筋が浮き立ち、腫瘍の様なできものが一つ二つと出現する。

その時突然、シリンダーの中で溶液がブクブクと泡立ち、一気に体積を増していく。

 

 

「バイド係数、目標値を越えています。なお上昇します」

「っち、また失敗か」

「教授、波動砲でフッ飛ばしましょう」

 

 

シリンダー型の培養槽の中で、膨張するように蠢いていた金属片が、青白い光に消し飛ばされる。

内部には何も残らない。

シリンダー内部は自動的に冷却が行われ、操作盤の計器がレッドランプからグリーンランプに変わる。

アームが伸びてきて、金属片がシリンダーの中央に固定され、

続いて、霧状の物体が塗布される……バイド素子だ。

 

 

「次は設定264だな。まったく、毎回毎回吹き飛ばすのも面倒だな」

「それにしても何kg分の金を宇宙の塵にしたのでしょうね?」

「この実験では50gのシートをつかっているから、単純計算で13kgだな。あくまでこの実験では」

「インゴットですね。指輪が何個作れたかしら」

「これだから女は。アレだけの有用性がある元素をただの装身具にするとは」

「まあでも、稀少価値のある元素を、身近な形で保持しておくことに意味はありますよね」

「ふむ、いざと言うときの為の資金源としてならまだ分かる」

「ええ、月収3ヶ月分の指輪って、きっと離婚したときのための生活費のために在るんだと私思うんです」

「ふむ、なるほど収入が半減する元配偶者に対する福利厚生か。君はなかなか鋭い」

「ありがとうございます」

 

 

ずれた会話をしているのは、このBシリーズ第五世代機の開発を割り振られた教授と助手だった。

本来ならばTeam R-TYPE開発班から意見を募り、開発が任されるのだが、

今回はTeam R-TYPE研究顧問となっている男に開発が任された。

バイド装甲機のバリエーションとして第5世代機はレアメタルを装甲にすることが決定したのだが、

レアメタルが多量に使用されるという特殊性のため、外部の目が厳しくならざるを得なかった。

さしものTeam R-TYPEも異様な額の見積書(基礎研究段階)から、地球連合政府の目をそらすことは出来なかった。

なので、Team R-TYPE上層部は、この開発に外部でも知名度のある「教授」をあてがうこととした。

 

 

「教授」は50代の白髪のいかにもな博士スタイルで、人好きのする顔をしている。

助手は女性で、20代後半の可も不可もないあまり目立たない顔をしている。

一見すると、普通の大学の研究室の光景であるが、

ここではバイドを培養し、純金シートを始めとした資材だけで普通の人間の年収以上の材料を1日で消費している。

まともな神経では勤まらない研究だ。

 

 

「ふむこれで終りかな。助手くん、有用な設定をピックアップしておきなさい」

「いい加減に名前を覚えてください教授」

 

 

***

 

 

「ふむ、つまり鋳造中からバイド素子を混ぜ込むのが、もっとも適切かね」

「ええ、他の段階だとムラが出来て、低バイド係数に収まらないんです」

「専用の溶鉱炉を作らないといけないな」

「耐バイド素子仕様の溶鉱炉ですね。金は融点低いから炉の性能は低くても大丈夫ですね」

「ただし、温度の設定をコンマ2桁で出来るようにしないとならないから、最新の物を使用する」

「小型溶鉱炉から、作らなきゃですねー。採算合うのかしら?」

「合わなくていいのだよ。ところでテスト機は何機製造予定だったかな」

「テスト用に3機です」

「まぁ、その3機以外に作ることもあるまい」

「いいですねー。Team R-TYPEの直轄はお金があって」

「まったく研究には金がかかるからな」

 

 

そういいながら、食堂で一番値段の安いラーメンをすする二人。

昼下がりの食堂はすでに人もまばらで、ほとんどはコーヒーを啜りながら、

シフトを終えて、午後の談笑をしている様な人員だ。

食堂職員も混雑する時間が終わり片付けにはいっている。

 

 

教授と助手の胸にはTeam R-TYPEの文字。

その名札は軍部限定で、人を寄せ付けないお守りの様な効果を発揮する。

今もお守りはその効力を発して、彼らの半径5mに近づく猛者はいない。

周囲にはポッカリ穴が開いて異様な空気だが、

二人は何も気にせずラーメンのスープを飲み干す。

 

 

Team R-TYPEの関係者には、何事にも動じない精神力が必要不可欠なのだ。

 

 

***

 

 

教授と助手はあくる日もそのまた次の日もバイド関連施設に篭もりきり、

Team R-TYPEの豊富な研究施設環境を利用しつくさんと、実験に次ぐ実験を繰り広げていた。

彼らはバイド装甲機における誘導体の研究をクリアし、会計課の悲鳴を聞きながら試験機の製作を行っていた。

 

 

「教授ー。重すぎて設備のアームが折れそうです」

「なんたって金だからね。装甲を薄くしよう」

 

 

「教授ー。装甲が柔らかすぎて用を成しません」

「いや、実際の戦闘では当たったらほぼアウトだし、いっそ極限まで薄くしよう」

 

 

「教授ー。装甲を薄くしすぎてザイオング慣性制御システムを切ると機体が崩壊します」

「バイドの力を持ってしても装甲5mmは難しかったか。よし内部のスリムアップを図ろう」

 

 

「教授ー。内部を軽量化したら、打撃力がダメダメ。本末転倒です」

「ふむ、この系統は多彩な攻撃が肝だからな。装甲とのバランスをとろう」

 

 

「教授ー。会計課からこれ以上特殊予算使うなら首くくるしかないって言われました」

「勿体無い。検体として貢献するべきだ。彼にすぐにここに来るように伝えなさい」

 

 

「教授ー」

 ・

 ・

 ・

 

 

________________________________________________________________________________

 

 

「教授―。試作機のロールアウト日が決まりました」

「お疲れ様。いやー長い仕事だったね」

「そうですね。主に溶鉱炉が出来るのを待つのが」

「それはそうだ。使い捨て設備とはいえ、バイド関連なら手を抜くわけにはいかないからね」

「でも、その無駄な時間のお陰でフォースも力作になりましたし、塞翁が馬というやつですね」

「ゴールドフォースかね。費用は掛かったがなかなか面白い物になったね」

「セクシーダイナマイトの疑似質量変換の応用でフォースの性質があそこまで変わるとは発見ですね」

「じゃあ助手くん。全部資料をまとめておいてね」

 

 

教授は役目が終わったとばかりに資料を投げ出して、新しい研究テーマを考え始め、

助手は満更でもなさそうな顔をして、毒づきながらも資料をまとめ上げた。

Team R-TYPE上層部はBシリーズの最終系統の第一作が順調に進んでいることに喜び、

末端研究員は、面白そうな研究に自分達が関われなかったことを悔しがっている。

 

 

そして、査察官は半分以上が機密保持のため黒塗になった書類の山を見せられて顔を引きつらせ、

会計課は実験資材の請求書の額を見て、自分の乱視を心配したり、頭を心配したり、

タイプミスであることを期待したりしながら書類を精査し、矛盾が無いことを確かめると、

胃を抑えながら事務を行い、その日は早退していった。

 

 

フォースなどの作成に一部の人間の暴走があったが、

さまざまな人を巻き込みながら順調に形作られていく。

 

 

***

 

 

「完成だね。助手くん」

「ええ。博士」

 

 

出来上がったのはB-5Bゴールデンセレクション。

後日、政府の予算修正会議で、膨れ上がった使途不明金や機密費の多さに、怒号が飛び交った。

 



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B-5C “PLATINUM HEART”

B-5C “PLATINUM HEART”

 

 

 

かつて、人類はその進歩と宇宙への進出の証として、スペースコロニーを建造した。

研究用、商業用、軍事用そして居住用の仮の大地として。

宇宙は大いに賑わい、地球周辺宙域には多くのシリンダーが浮かべられた。

しかし、バイドの襲撃とともに一変した。

防衛力に欠け、なおかつ機械に統制されたソレは、簡単にバイドに侵蝕されたのだ。

遠方にあったコロニーは破棄され、地球近辺の物は、防衛の効率の面から、

特定の軌道や宙域に集められた。

そして、悲劇が起こる。

 

 

22世紀後半、バイドの攻撃によってコロニー“エバーグリーン”が地球に落とされる。

もちろん、駐留艦隊も応戦はしたが、多くの住民がエバーグリーンと運命をともにした。

大陸沿岸の海洋に落下したコロニーは、今なお墓標のようにその構造を海上に晒している。

この事件はバイドの恐怖を軍人だけでなく、民間人に知らしめ、人々に記憶される。

 

 

***

 

 

「で? そんなこと子供でも知っていますけど、何です突然」

「人が語っているときに話の腰を折るのではないよ。レクエルド」

「ていうか、そんなこと嬉しそうに語るなよ。バチあたりが」

「死んだ人間に何が出来るっていうのだね?」

「いえ、怖いのは生きている人間だから、部外者に知られたらまた、Team R-TYPEの常識が疑われる」

「そんなもの捨ててしまえ」

「はいはい、クアンド君もレクエルド君も、予算の話に戻ってきてー」

 

 

ここはレアメタル二号機の開発打合せをしている会議室で、

部屋に集まっているのは、各Bシリーズ開発班のリーダー達。

ラミ、クアンド、フィエスタ、ドン、レクエルドだ。

もう、ごちゃごちゃ話していて誰が何を話しているか分からない上に、

誰も他人の発言をあまり気にしていなかった。

前回、ゴールデンセレクションの開発を、外部の研究者に取られたのが悔しくて、

班長級の特別チームを組んだのだった。すでに大変面倒なことになっている。

 

 

第五世代バイド機のテーマはレアメタル。その元素としての特色を出す研究となっている。

すでにバイド装甲の素材はPt、つまりプラチナに決定しているため、開発の方向性を検討していた。

その議論の中で最大の問題となったのは、技術でも、リーダーシップでもない。

 

 

それは予算である。

 

 

「さて、若人たち。今年度予算は裏道を含めて使いきり、来年度の予算会議は終わっているので特別補正を勝ち取らなければならない」

「ドン、その話だけれど、なんで末端の私達が予算について悩まなきゃならないのかしら?」

「フィエスタちゃん、もちろん、レホス課長が私たちに面倒な予算関係を丸投げしたからよー」

「ともかく、名目を立てないとならないのではないかな」

「しかしクアンド、難しいぞ。バイド装甲機を開発しているとはいえないし、レアメタル機の存在もまだ公表していない」

「しかも前回ので、一部議員が過剰反応しているから。B-5Bの制作費を見て政府の腰が引けたしいわ」

「いや、俺だって、あの額はびびるぞ。そういえば会計担当が胃潰瘍になったとかなんとか」

 

 

教授らがゴールデンセレクションでやりすぎた所為で、

地球連合議会はTeam R-TYPEの予算枠の拡大に慎重になっている。

今までは比較的好意的であった議員すらも弁護は不可能と言っているらしい。

そこに長い髪をかき上げながらラミが提案を出す。控えめだがはねつけられるとは考えていない自信が見える。

 

 

「一つ、手がないわけじゃないんだけどー」

「マジか!」

「なんだラミ君。もったいぶらずに言いたまえ」

「レクエルド君も、クアンド君も、落ち着いてー。この企画を利用したらどうかと思うのー」

「“エバーグリーン追悼記念碑事業”? 記念碑を適当に作って予算を掠め取るのか?」

「危険すぎるだろうそれは」

 

 

現在地球の海上にその屍を晒しているスペースコロニー“エバーグリーン”

その犠牲者を悼んで、地球連合政府は一大追悼イベントを打ち出した。

連合政府がいまだに続くバイドとの戦争による厭戦感情を払拭するために計画したものだ。

正直、戦争を倦んだからといってバイドが、手打ちにしてくれることなどありえないのだが、

世論は正義や論理だけで動いているわけではないという事だろう。

その計画には記念公園の整備や式典、そして記念碑など、目くらましのためかなりの額の予算が付いている。

 

 

「うん、だからー記念碑自体を飛ばしちゃえばいいのよー。バイド関連だから名目も立つしー」

「「「それはない」」」

 

 

ラミはレクエルド、フィエスタ、クアンドからうん臭い目で見られる。

しかし、最年長のドンが助け舟をだす。

 

 

「いやいや、建設的な意見を否定するものではないよ。他にいい意見がないなら検討してみたらどうかね」

 

 

そういってはいるが、少々投げやりなまとめ方だった。

 

 

***

 

 

その日の昼。

 

 

「地球連合政府会議場前広場?」

「そんな所に置きっぱなしにしたらR機としては使えない、どうする」

「いや、Ptならば腐食は気にしなくて済む。露天は問題じゃないのではないかな」

「そんな所ではおいそれと整備もできない。本当に飾り物になるぞ。てかバイド汚染」

「ふっふっふ。君は忘れているようだが、2ブロック先にTeam R-TYPEの関連施設がある。

地下を開発して作業用の設備を作ろう」

「さすがクアンド君、盗難防止ということにして人が近づけないようにしましょー? 

大丈夫よ巨大だから遠目でも目立つわ。これだけ目立つ機体は今までに無いでしょうねー」

 

 

適当にホワイトボードに書きなぐった完成予想図には、

巨大な台座に鎮座したPOWアーマーを人々が取り囲み

まるで巨大な偶像を礼拝するような図が描かれていた。

完全に悪ふざけの類である。全員頭が膿んでいたのだろう。

 

 

***

 

 

翌日

彼らはまだ話し合っていた。そして誰も追悼イベント乗っ取り計画に異を唱えないばかりか、

それなりにやる気になってきてしまっている。

 

 

「R機型にしたら議員とかの良識派に殺されません?」

「良識派って、相対的に我々Team R-TYPEが悪みたいだな」

「まあ、民間のイメージとしては正しいのでは?」

「まあそんなに遠くはなわねー。で、形状だけどーPOW型にしてはどう?」

「ハァ? POW型? サイバーノヴァとかか、あの形状はどうなんだ?」

「いいわね、POWは支援機で、一般的にも知名度が高いから」

 

 

POWアーマーはR-9並に知名度の高い機体の一つだ。

R機のイメージアップを図るために、軍の広報部が癒し系イメージキャラクタとして起用し、

映画を作ったり、試乗会(機密部は取り外したので箱だけ)を開いたりとキャンペーンを張ったためだ。

軍の映像処理技術や、ひっそりと実際の戦闘映像を織り交ぜた映画は子供達に受けが良かった。

ついでに大きなお友達にはもっと受けが良かった。

結果として、民間受けも悪くなかったが、

副次的効果として軍内部にディープなファンを形成することとなった。

 

 

その一方で、現場のパイロット達からは、『嫌死系』だの『対R機用自律兵器』などと言われていた。

無人機のPOWアーマーは補給機、敵地使い捨て様アイテムキャリアーとして運用されていたが、

初期型に搭載されていたAIの思考ルーチンから、あたかも自機の進路を妨害するような機動を行い、

R機との衝突事故が相次いでいたためだ。

 

 

***

 

 

翌々日

 

 

「まあ、活躍する必要なんて無いんだよ。我々としては作りたいだけで」

「レクエルド、本音過ぎる。口に出すな」

「それが、真理だの。我々は作る。軍が使う」

「そうだな、ただ基本的にバイド討伐に使用することはないな」

「空飛ぶ慰霊碑…なんか素敵ねー。戦死者名簿を載せてバイド討伐とかかしらー」

「…遺族からクレームくるぞ。でも、いっそ突き抜けた方がいいか」

「そうだね…もういっそ、やるところまでやって、反論できない所まで突っ切ろうか」

 

 

本気で馬鹿をやり始めた研究者達を誰も止めるものはいない。

開発部長バイレシートや、課長のレホスやTeam R-TYPE上層部は

すでに究極互換機についての方針整備で忙しかったし、下の研究員はほとんど悪乗りしている。

外部からは機密のベールで覆い隠されていた。

そして、悲劇は喜劇となる。

 

 

***

 

 

とある議会答弁

 

 

「“エバーグリーン追悼記念碑事業”について意見があります」

「軍務大臣。答弁を」

「はい、これにつきましては、一大事業としあの悲劇を二度と忘れることの無い様にするといった。

コンセプトのもと軍部主催で企画検討を行いました。

えー、なお、慰霊碑の建造には一部軍の特殊技術が用いられているため、くわしくはお答えできません」

 

 

「なぜ、平和を願う慰霊碑が戦闘機の格好をしているのですか」

「バイドとの決別を表すためです。あとPOWは支援機です。戦闘機ではありません」

 

「内部に推進機構らしきものが備えられているのは何故でしょう?」

「バイドの脅威が去った後、犠牲者達の名簿を再び宇宙に還すためです」

 

「なぜ、プラチナ製ということにしたのですか。アルミや他の合金ではいけないのですか?」

「軍事機密のため答えられません」

 

「なぜ、それに特別会計の1/3が必要なのかね。そもそも、補助費になぜ軍事費が。」

「ぐ、軍事機密のため答えられません。」

 

「Team R-TYPEの関与が噂されているが、真偽の程は?」

「その、軍事機密のため答えられません」

 

「バイド検知機が反応したという話の真偽はどうなのです?」

「軍事機密のため答えられません。……私の個人的見解では、Team R-TYPEの研究施設が近くにあるのでそのせいではないかと」

 

「住民の目撃情報で、除幕式の前日に慰霊碑が空を飛んでいたという通報が寄せられているのだが?」

「………。軍事機密のため答えられません」

 

 

 

 

 

 

軍務大臣のクビとともに、B-5Cが飛立つ。

 

 

 




経緯はともかくこれがマジ設定と言うことが怖い


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B-5D“DIAMOND WEDDING”

B-5D “DIAMOND WEDDING”

 

 

 

プラチナハートの件は、政府を巻き込み、黒歴史として封印された。

(機体はTeam R-TYPE施設に封印され、慰霊碑としてはレプリカが展示されている)

しかし、その日Team R-TYPEの上層部は沸き立っていた。

待ちに待ったバイド装甲機シリーズの最終機の開発開始が発表されたのだ。

 

 

「レアメタル機って下っ端から見ると、武装を派手にするくらいしかやることないよね」

「上級職は楽しそうだな。色々実験を遣っているらしいぞ。俺達もやりたいなぁ」

「仕方ない。機密を持ち出されると俺達は触れられないからな。しかし、どんなことをやってるんだ?」

「なんでもー。バイド装甲の強度や特性を持たしたまま、バイド係数を極限まで下げているらしいわー」

「ラミは何故知っている?」

「それは“お願い”に弱そうな人に定期的にお話を聞きにいっているからよ」

 

 

班長クラスではまだ正確な情報が回っておらず、テンションが低いままだった。

 

 

***

 

 

一般研究員が使う培養槽に比べるとかなり大きなものが、実験室の真ん中に置かれている。

ここは特に危険なバイド系実験や、機密度の高い実験に使われる施設である。

規模こそ小さめだが、機材は遜色の無いものが揃っており実験に支障は無い。

その研究室に防護服を着た作業員が幾人も忙しそうに歩きまわり、作業をしている。

そして、白衣を着た研究者達は分厚い特殊防護アクリル壁の向こうから、マイクで指示を出している。

実験オペレータの声と研究者の指示が響く。

 

 

「バイド装甲最大強度を確認。条件を固定します」

「バイド素子吸着剤を投入しろ。数値読み上げ!」

「最高値23.43Bydo、係数下ります。23.13…23.01…22.96…」

「先ほどは急に下げすぎて失敗した。もう少し吸着剤投入量を下げろ」

「了解です」

 

 

培養槽に入れられた握りこぶし大の透明な結晶には、血管のようなものが纏わりついている。

作業員が培養槽の脇にある投入口に青紫の液体をセットして、安全装置を外してレバーを引く。

培養槽が薄い青紫に染まったかと思うと、浮き出ていた血管のようなものが、激しく脈動する。

そのうち結晶の輝きが失われる。表面に黒い膜が張っているのだ。

そして、ゆっくりと結晶の表面の黒い膜が剥離し始める。

ぼろぼろと黒い何かは培養槽の下部に堆積する。

暫くすると、先ほどの結晶より一回り小さい結晶が培養槽に浮かんでいた。

それはバイド素子を埋め込み更に低バイド係数に固定されたダイヤの塊だった。

 

 

「バイド係数0.36Bydo。安定状態です!」

「これで、低バイド係数装甲の完成だ」

「あとは、R機大のダイヤの結晶を精製するだけですね」

 

 

ウワッと沸き立つ実験指示室。

脇で見ていたレホス開発課長と開発部長は小声で話す。

 

 

「ここまでくれば、バイド係数を計測上は0にできるもの時間の問題ですねぇ」

「Bシリーズ開発で蓄積したバイド技術を用いてバイドの性質を取り込み、

レアメタル機で発展させたバイド係数を制御機構を用いるわ」

「これぞ、バイドによるバイドの制圧。ですね」

「バイドを制することができるのはバイドだけ、

これでProject R完遂に必要な素材は揃ったわ、その過程でOp.Last Danceも達成できるでしょう」

 

 

***

 

 

Team R-TYPEの研究員用のラウンジでは、多くの白衣達が好き好きに話している。

本来、軍の他の部署と共用で使っていたのだが、あまりにも研究員が部外秘を口にするために隔離された。

色々な情報を交換できるこの場所は多くの研究員の憩いの場だ。

たとえ、そこで語られるのが、被検体がどうのとか、バイド汚染がという内容であっても。

 

 

「誰か、次の装甲素材知ってる?」

「Cだって」

「炭素? なんで金、プラチナときて…まさかTeam R-TYPEの開発費がそこを尽きたのか!」

「そんなことあるわけないだろ。我々の財布は四次元ポ○ットで連合政府の財布と繋がっているようなものだからな」

「まあ、たしかにレアメタル素材とはいえ、たかが2機を開発しただけで政府が転覆するはずないだろう」

 

 

わいわいと集まって楽しそうに談笑する末端研究員達。

R機の巨大シリーズの総まとめが開発されると知って浮き足立っている。

今まで開発に関われなかった準研究員なども興奮している。

 

 

「通称はダイヤモンドウェディングだってよ」

「結婚式かよ。まあ、既存のR機とバイド装甲機の結婚といえなくもないが」

「ダイヤといえばアレだ。―バイドより人類に永遠の愛を―みたいな」

「いいなそれ、結婚式の指輪交換でR機型のダイヤを贈るとか。流行らそうぜ」

「その計画の根本的な問題は、我々Team R-TYPEでは結婚できる者がいないことだな」

 

 

その話を横で聞いていたのはフィエスタだった。

ラウンジで寛ぎながら、新しい機体の武装案を考えていた所だ。

飲み物を調達しにきた人型機開発班長のブエノも合流していた。

班長達ががやがやと新型機について話していると、同じく班長のラミがやってきた。

 

 

「みんな、ダイヤモンドウェディングについて新しい情報を持ってきたわよー。

なんでも、ダイヤモンドを使ったバイド装甲機なんだけど、低バイド係数に抑えて開発するらしいわー」

「ほー、それで? 正直そこまではみんな想像の範疇だろ」

「うん、それで色々面倒な性質があるらしくて、それを詰めて機体の形にするのが、私たちに降ってくる仕事らしいわー」

 

 

突然上から降ってきた面白そうな仕事に、研究員たちは喜び勇み、歓声が上がる。

研究ラウンジから少し離れた場所にある軍人達のラウンジでは、

遠くから響いてくるTeam R-TYPEの狂人達が挙げる声を聞いて、

またあいつ等が何かしたのか、という雰囲気がラウンジに充満し、微妙な雰囲気が充満する。

 

 

双方のラウンジでは憶測が飛び交うが、その方向性はまったく逆方向のものだった。

 

 

***

 

 

それからしばらくして、正式にR機研究各班に研究命令が降りてきた。

ラミが言っていたとおり、ダイヤモンド製のバイド装甲を使い、低バイド係数の機体を作ること。

 

 

「どうせだから武装もド派手にしようぜ!」

「レクエルド君、テンション下るんじゃなかったのか?」

「それとこれは別。実際新しい機体を開発できるとなればテンションが上がる。それが俺達だろ」

「まぁ、嬉しいけど」

「波動砲をキラッキラにして、プリズムリズム砲とかどうよ。」

「レーザーも壮麗な物にしましょう。結婚式の特殊効果とかであるやつ」

「フォースも形状を改良して、ダイヤっぽくしよう」

 

 

班長会議の場で、フライング気味に武装を研究を行っていた班長らが話している。

そこに、装甲素材について詳しい性質を調査していたドンから報告が入る。

いつも淡々と研究しているが、深刻そうな面持ちで周囲もなにかと向き直る。

 

 

「実は調査研究の結果、少々面倒な性質が分かった」

「え……それは開発計画の変更が必要になることか? 武装関係とかフライングしてたのだが」

「君たちクアンド班の武装は問題ないと思うのだが、装甲というかフレームが問題だ」

「具体的には?」

 

 

フライングスタートに定評のあるレクエルドがやや引き気味に聞く。

 

 

「実はな、ダイヤモンドをバイド装甲化した場合に限った性質のようなのだが、

ある程度の大きさの塊でないと低バイド係数にならない様だ」

「それってどういうわけ?」

「装甲材にバイド素子が入り込む事でバイドの性質が備わる訳だが、

低バイド係数の場合、ある一定の法則にバイド則り素子を入れ込むのだが、

それを実現するのにある程度の大きさが必要なわけだな」

 

 

低バイド係数にするというのは、極少ないバイド素子を効果的に配置するということなのだが、

素材に効果的にバイド素子が入れ込むための法則について、

まさに魔術的というべき法則性が成り立っていることはTeam R-TYPEでも班長クラスまでの秘密事項とされた。

そして、ドンが言うにはその魔法陣というべきバイド素子の構造を再現するのに、

一定の大きさが必要であるとの事だった。

 

 

「そうねー、ドン班長の説明だと、今までのR機フレームにバイド素子を付属させて、

フレーム自体もバイド装甲化させるっていう手法が取り辛いわねー」

「どうする? 我々武装班はこのまま派手さを求めた方針で行こうかと思うが、肝心の機体ができないとな」

 

 

ラミが問題提起を引き継ぐと、クアンドが少し不安げな様子で聞き返す。

おそらく自分たちの波動砲研究を無駄にしたくないためだ。

ドンがこれからの開発方針案を提案する。

 

 

「仕方ない。形状を工夫しよう」

「それが大きさの縛りの性で無理なのでは?」

「いや、R機の装甲形状を弄る。今まではどうせ低バイド係数だからと思って、

装甲材をパーツ分けして、ステレオタイプとも呼べるR機型にしようと思っていたが、

装甲を一枚板で作れるように形状を変更する」

 

 

R機の形状にこだわるのは主に現場の軍人らであるので、

Team R-TYPEだらけのこの会議の場では特に問題とならず、ドンの案が可決された。

そして、そのまま開発は進んでいった。

 

 

***

 

 

結局、大暴走した下っ端達の武装の魔改造と、迷走したダイヤモンド装甲を合わせて、

B-5D ダイヤモンドウェディングは完成した。

形状は当初ノーマルなR機型になる予定であったが、装甲材の大きさの関係で、

透明な装甲材がコックピットや各補助翼を飲み込むような形状になっており、

それは硬質な素材ながら、軟質なバイドに飲み込まれたR機を思わせる。

まさに、バイドとR機の融合の合言葉通り、バイド素材を使ってR機を作ったのだ。

 

 

バイド装甲機の最後を飾るこの機体の開発・製作費用を見て、

病院から退院したばかりの会計担当は、再び手術で残った胃がよじれるのを感じた。

書類にはR-9Kの720倍もの額が示されていたのだ。

R機大のダイヤモンドを作るため、Cを加熱圧縮するのに使われたり、

その研究段階で天然のダイヤが使われたためと書類に書いてあるが、

そんなこと会計担当が知る由もない。

いい加減にキレた会計担当が、書類をそのまま政府に提出すると、

なにかの間違いかそのまま審査を通ってしまった。

会計監査があることを思い出し、会計担当は監査官に怯える日々をすごす羽目になった。

 

 




黒歴史が入っていた話なので、だいぶ改稿入っています。


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R-99“LAST DANCER”

R-99 “LAST DANCER”

 

 

宇宙基地に比べて地球の日差しは厳しくも柔らかい。

大気で減衰した光線が窓越しに届いている。

Team R-TYPEの本部である南半球第一宇宙基地にある研究部長室である。

そこで対話をしているのは部屋の主であるバイレシートと仕事で尋ねてきたレホスだった。

 

 

「……Bシリーズの総合評価としては、以上のようになっています」

「B-5D ダイヤモンドウェディングの成果も上がってきているわ」

「皆、価格に目を眩ませて、その他の部分に疑問を持たなかった様ですしねぇ」

「そうよ。そのために態々、ダイヤで装甲を作るなんて馬鹿な真似をしたのだから。

ダイヤなんて工業的には稀少でもない物なのに、装飾品企業のブランド戦術に惑わされるなんてね」

「そうですよねぇ。いくらダイヤが主原料だからって、R-9Kの720倍の価格なんてなるわけないのに、

こうも簡単に騙されてくれるとは、連合議員も人がよろしいようで」

「そうね。でもこの資金はちゃんとR-99の資材になってくれているから。

横領したわけでもないし、証拠だって挙がらないわ」

 

 

このBシリーズ(バイド装甲機)の第五世代、通称レアメタル機の開発過程で、

Team R-TYPEの会計担当や設備課主任をはじめにして、

前軍務大臣、エバーグリーン追悼事業に関わった人々が、

肉体的、精神的、社会的に次々に再起不能になっている。

今や政府や軍ではTeam R-TYPEの暴走を危惧し、その存在自体に疑問が投げかけられている。

いくら成果をあげるとはいえ、このままではTeam R-TYPEの存続に関わる事態だ。

 

 

それらを知ってなお楽しそうに笑うレホス。

対する開発部長も、余り深刻に考えてはいないようだ。

レホスの前に座る開発部長の手元には、バイド機成果についてと題されたレポート。

 

 

「この製作草案を提出します」

 

 

レホスが端末に呼び出したのは『機密』の赤字が表紙付いた文書。

常にセンサーに指紋を読ませていないと、

データにスクランブルのかかって読めなくなる最高機密文仕様のデータだ。

開発部長は左手の親指をセンサーに読ませるとレポート文が浮かび上がる。

 

 

『究極互換機R-99仕様書(案)』

 

 

「理論的には技実現可能ですが、技術面で少々手間取るかもしれません」

「いいわ。これを妥協するわけにもいかないし、Team R-TYPEの全力を出しなさい」

 

 

機密文を読み始めた技術部長に対して捕捉を入れるレホス。

いくつかの質疑応答があった後、開発部長が末端を手放す。

瞬間、文章にスクランブルが掛かり文字化けし、ロックがかかる。

 

 

「いいでしょう。少し詰めなければならない部分もあるけれど大筋はこれで行きましょう」

「ではいよいよ。究極互換機の開発ですね」

「ええ。Project Rも大詰めよ」

 

 

***

 

 

集団行動という概念があるかどうか怪しいTeam R-TYPEであるが、

この大会議室にはかなりの人数がひしめき合っている。

 

 

「課長に呼ばれて来たんだけど、お前何か聞いてる?」

「新機体の基礎研究のためって聞いたけど」

「レホス課長からオーダーでたぞ」

 

 

この会議室に集められているのは、Team R-TYPEの中でも下位に属するメンバーたちだ。

全員が集められることは余りないので、皆何があるのかと興味津々でざわめいていた。

そこに、書類一式をもって来た研究員が、会議室の全員に声を掛けた。

全員の視線がその研究員に集まる。

 

 

「えーと、R機に搭載可能な高出力主機の開発、及びそれに伴うラジエータの高性能化。

機体の高速化にともなうザイオング慣性制御システムの改良。機体制御系の強化…

その他仕様は資料を確認のこと。期限は4ヶ月とする、だってさ。全力のR機を開発するみたいだな」

 

 

その仕様に驚く研究員たち。

今までの研究開発はとても対バイド戦力として本気とは見えない、正に試験機体であったが、

この内容は、文面から“本気”が見え隠れしている。ただしその内容に順じて仕様は厳しいものだ。

 

研究員達は、喜びや期待を込めた目で我先にと仕様書に手を伸ばす。

すぐに皆読み始める。が、乾いた笑みを浮かべる者、見た事実を否定するかのように資料を閉じる者、

目蓋を揉んで目の前の文を疲れ目のせいにする者など反応は様々だった。

簡単に仕様書に目を通して、とりあえず全員が黙る。

 

 

「あの人、鬼か?」

「今更すぎる」

「主機のオーダーが、最低でカロンの1.8倍。しかも継続航行距離を見るに、燃費も向上させなきゃならない」

「しかも、“全長15m以下に収めるため、以下のサイズに収めること”……こんなサイズにできるのか?」

「問題は主機だけじゃないぞ。ザイオング慣性制御システムもどうにかしないと。

この条件だと、R-11S2ノーチェイサーの直角急制動かそれ以上の負荷が掛かるぞ」

「あの完成されたシステムを今更どう変えるっていうんだ…もうザイオング博士呼んで来い」

「ザイオング博士はとっくに死んでいるから、今出てきたらゾンビだな」

 

 

エンジンなどの内部機関を得意としている研究員たちがぼやく。

それだけでなく他の研究員たちも顔が引きつっている。

 

 

「ラジエータとサブ制御機構もタチ悪いぞ。何気に従来比2倍の効率を求められている」

「ラジエータ……いっそ液冷にするか?」

「デブリくずが吸気口に入っただけで、壊れるのでは」

「液の冷却効率を上げるために、機体全体が血管みたいな管に覆われてるんですね。分かります」

「ついでに、液冷だと重量制限に引っ掛ると思うぞ」

 

 

「これ、制御系どうすんだ。“汎用性強化のため高レベルの外科処置や現場への特殊機材の持込は禁止とする”」

「エンジェルパック禁止……と」

「特殊機材に入るか微妙だが、場合によっては試験管キャノピーの溶液も入る」

「そもそも試験管型って。精密制御性能は高いが、思考閾値の関係で即応性は微妙だぞ」

「ああ、でもセクシーダイナマイト2みたいなのは論外なんだろうな」

「手動はどう考えても無理だ。制御系‐脳での情報交換システムの根本的な技術革新が必要になる」

 

 

思いつく開発項目を挙げる若手達。

誰が合図するともなく沈黙が形成され、続いて、ハァというため息の大合唱が、会議室に響く。

皆、遠い目をしている。

長期にわたるデスマーチ(72時間働けますか?)が確定したためだ。

全員で見詰め合っても開発期限は待ってくれない。

無理やりまとめにはいる。

 

 

「とりあえず、最優先課題は主機の改良だ。3~4班体制でかかろう。

次に制御システムだが班分けにせずに、各班から人員をだそう。その方が多くの発想がでる。

冷却やその他の改良は2班ずつでいい。後は実験シミュレーションを行おう」

 

 

無言で肯定の意を示す研究員たち。

一応の体制が決定して、ゾンビを思わせる所作でのろのろと立ち上がる。

そのまま、各開発班の持ち部屋に吸い込まれていった。

 

 

***

 

 

究極互換機の開発令が発動して4ヶ月。

開発課長室では一人レホスの声が響いている。

ディスプレイには各班から持ち上がってきた研究報告が多数。

 

 

「もしもしー? 開発課長のレホスなんだけど。君の所の部長をお願いねぇ。

……あ、部長ですか。ええ、R-99の開発の件です。……順調です。

B-5Dの研究成果により装甲のバイド係数は0.02Bydo。すでに通常では検出不可能なレベルまで下りました。

……そうです。そのままでも使えますが、後のことを考えて更に係数制御を進めています。

他の内部機構については部下に研究させています。中間報告の様子からみるに、期限には間に合いそうです。

ええ……もちろん………そうですねぇ。それがなければ究極互換機になりませんから。

来月には武装の換装について研究に掛からせます。機体バランスの最終調整もありますから、

早く見積もっても、半年後ですね。え? 分かりました武装については一ヶ月繰り上げましょう。

はい。ではーおつかれさまです。」

 

 

受話器を戻すと、端末を叩くレホス。

複数あるディスプレイを交互に睨みながら。独り言をもらす。

 

 

「うん、どう見ても開発期間は縮まらないなぁ。どこか省ける箇所は…あ、ここでいいや」

 

 

受話器を再び持ち上げ、そのまま内線につなげると、まとめ役の部下の一人に命令を下す。

 

 

***

 

 

究極互換機が発令後定期的に開かれていた研究員会議の場。

再び会議室に集められた若手研究員達。

お茶の変わりに机に並べられているのはTeam R-TYPE印の栄養ドリンクだ。

一応、前回全ての開発案件が開発期限にすべり込んだのだが、

それを持ち込んだ次の日に、課長から新たな指令が下ったのだ。

 

 

「で? 課長から飛び込んできたオーダーはまた無茶振りなんだろう?」

 

 

4ヶ月間に渡って平均睡眠時間が2時間を切っていたため、

たった一日の休息で疲れが取れるわけもなく、全員が目の下にクマを作っている。

 

 

「そりゃあ…課長だからな」

「いままでのR機の武装を取り外し可能にしろって」

「外す? 波動砲コンダクタをか?」

「コンダクタだけじゃなくて、ミサイル、フォース、ビット全部を換装できるようにって」

「……念のため一応聞く。バイド装甲機のやつもか?」

「もちろん」

「ですよねー」

 

 

反論するだけ無駄だと思ったのか、みな反応が薄い。

あるいは、反応できるほど思考が回っていないのかもしれない。

 

 

「R-9DH系列の異常に巨大化したコンダクタと制御装置はどうする?」

「あれの開発は結構昔だから、今の技術で改良すれば小型化が見込める」

「TWやTPはコンダクタの形状が特殊なんだよな。あれも規格を統一しなきゃ」

「R-9/02のギガ波動砲はどうするの? あれは一種の完成形だから機体バランスとの調整が難しい」

「どうにかするしかない。それよりもBシリーズの波動砲どうするんだ?」

「とりあえず、バイド装甲を耐バイド素材で覆って直接接触しないようにして、ユニット換装できるようにするとか」

「簡単に言うなよ」

 

 

それでもなんとか方向性の筋道をつけると、ため息が続く。

 

 

「ミサイルはいいとして、ビットなんだが」

「バイド機の目玉ビットか? ダイダロスのシリーズのポットか?」

「いや、それは目処がたつんだけど……Leoのサイビットどうする?」

「波動エネルギーで活性化する自立砲台か。面倒な」

「たしかさあ、Leoシリーズってサイビットの制御機構が容積をとったから、

波動砲がスタンダードなんだろう。制御機構を小型化せにゃ」

「小型化、小型化、小型化……ああ、スモールラ○トが欲しい。」

「単純にスケールだけ小さくしたら、電子部品とかトンネル効果が起きて役立たずになるぞ」

 

 

フォース班の闇も深い。

 

 

「フォースって簡単に見えて、一番めんどうなのでは?」

「既存のフォースすべての互換性…。後期のフォースはバイド係数高すぎてなぁ」

「初期型のラウンドフォースとかも、逆にフォースロッドの機能が限定的過ぎて制御が難しい」

「Bシリーズのどうする? そもそもフォースロッドないぞ。アンカーフォースみたく有線にするか?」

「光学チェーンを何でもつけるのはやめろ、機体が汚染される。

……小型のフォースロッド射出機構をつけよう。無理やり言うことをきかせよう」

「暴走したら目も当てられないのだが」

「単独行動っていってもせいぜい一週間くらいだろ。その間持てばいいよ」

 

 

みな覇気がないが、意見交換だけはしっかり行う。

 

 

「あ、言い忘れたけど、今回は開発期限が1ヶ月早まって3ヶ月らしいよ」

「「「「「マジで!?」」」」」

 

 

悲鳴の大合唱が響き渡り、廊下に居た清掃員(被検体)までもびびらせた。

 

 

***

 

 

セキュリティレベルが高い試験室の奥にR機のシルエットがみえる。

対バイド拘束具もないので、ここ何年もかけて開発されてきたBシリーズではないようだ。

 

 

R機の進化は特化の歴史であった。

特殊化、専門化が繰り返されては、限界に突き当たり、

そのたびに画期的な技術革新とともに、基礎性能の向上を図り、新たなステージへと進む。

特化した機体は、形状を複雑に変化させ、場合によっては戦闘機という形状すらも破棄した。

そうして進化してきたRの系譜に反して、

その影は、流線型をしていて突起が少なく、より複雑に進化した後期のR期とは一線を画すものだった。

むしろ始まりのR機、R-9Aに近い。

そして、波動砲コンダクタが取り外されて、接続器だけが機体下部に見えている。

 

 

その部屋にいるのは二人、スーツ姿の中年女性と、薄汚れた白衣を着た長身の男。

開発部長のバイレシートと開発課長のレホスだった。

 

 

「完成ですね」

「完成ね。これでProject Rの完成がみえたわ」

「最強のR機を作る計画ですか。最強を求めた結果が最高の汎用性とは、中々な皮肉ですねぇ」

「R-99は最強足りえるのは、今までの98機があってこそよ」

「究極互換機R-99…ここにあるのはプロトタイプなのですが、各種試験は済ませてあります。

試験の後、軍がそれを寄越せと五月蝿くてですねぇ…実地はいつします?」

「一ヵ月後。Op.Last Danceに投入するわ」

「Op.Last Dance……R機の墓場ですね」

 

 

軍が威信を掛けて進めているラストダンス作戦であるが、

最初のR-9Aの突入以後、バイド中枢へ突入の成功例はない。

そのR-9Aすら、中枢破壊には至っておらず、公式にはロストとなっている。

 

 

「R-99の名前…どうしますぅ?」

「作戦名にあやかってR-99 “LAST DANCER”にしましょう」

「軍がよろこびそうですねぇ。……ラストになるといいのですが」

「Project Rとしてはまだ終わりにはできないわ」

 

 

薄く笑うレホスと真剣なまなざしのバイレシートは暫くその場に佇んでいた。

 

 

***

 

 

「報告が、終わった」

「うふふふふ。やっと寝れらるわ」

「これで、あの〆きり地獄から戻ってこれらたな」

 

 

死屍累々といった形容がぴったりと来る景色が会議室に出来上がっていた。

人数が少ないのは、ここにまで報告に来られずに、

成果をメールで送るだけしかできなかった者が、複数いたからだ。

なんとかここまで来れたものも、素人判断で分かるくらいには病人であった。

 

 

「入院は何人?」

「すでに復帰したのが3人、まだなのが4人。さっき倒れたのが2人」

「畜生。俺達が不眠で戦っているときに白衣の天使と遊んでいるとは、ケシカラン」

「いや、軍の病院だから白衣の天使(笑)しかいない。基本女医なんていないから」

「ざまぁ。まあ俺達も半病人だよな。途中から食事が面倒になって点滴で補ってたし」

 

 

たった今報告書を提出し仕事が終わった所であるが、

だれも打ち上げなどをしようと、いうものは居なかった。

そして、全員そのまま会議室の椅子や床で眠り始めてしまい。

件の清掃員が掃除に入り、死体かと思って悲鳴を上げるまで惰眠を貪っていた。

 

 

***

 

 

R-99 ラストダンサー完成。

 

 

その後、パイロットの習熟期間を経てOp.Last Danceに投入される。

一週間後、R-9Eミッドナイトアイの強行偵察によって目標巨大バイド反応の消失を確認。

更に1ヵ月後にR-99の残骸を発見。

残骸を回収して内部データを調査した結果、中枢の破壊に成功し作戦を完遂したことが確認される。

 

 

この成果を以って地球連合政府からOp.Last Dance終了が宣言される。




終わりません。
当時はR-99、R-100、R-101で終わらせる予定でしたが、
そのまま続くこととなりました。


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R-100“CURTAIN CALL”

R-100“CURTAIN CALL”

 

 

目にクマを作った研究員がゾンビの様に犇めき合っていた会議室。

今日はTeam R-TYPEの班長級までの研究員の集まっていた。

R-99の報告、後処理が終わってから暫く経って、

過労でダウンしていた研究員達も復活してきた頃合だ。

突然、班長の中でもお調子者で有名なクアンドが走りこんでくる。

 

 

「皆の物、祭りじゃ!」

 

 

そのテンションに対して、周囲は冷たい。

 

 

「R-99のせいで疲れたんだよな、な?」

「心の病気は恥ずかしいことじゃないぞ。さあ、病院に行こうか」

「脳波とってみるか?」

「とりあえず、もう一回寝ろ」

 

 

彼らは、レホス課長経由でまたも会議室に集められたため、

また無茶振りが飛んでくるのかとと戦々恐々として沙汰を待っている。

 

 

課長から伝言を受け取っていたクアンド(課長は事告げで足る会議はサボることが多い)が、

戻ってくるなり発した電波な言葉に、会議室の全員がまた面倒くさそうな顔をした。

最近は病人が多い。

 

 

しかし、彼に続いて会議室に入ってきたレホスに皆が驚く。

 

 

「はいはい。R-99の研究お疲れ様ぁ」

「レホス課長どうしたんです? 課長が来るなんて何かの天変地異の前触れですか!」

「なんかさぁ。R-99がOp.Last Danceに参加したのは聞いたと思うけど、どうやら成功したらしくくてねぇ」

 

 

不用意な発言をした研究員の名前を暗記したあと、

レホスはその研究員を無視して話を続ける。

 

 

「! それで軍部の方が騒いでいたんですか」

「そういえば、俺ら全員研究区画でダウンしてたから知らなかった……」

「俺なんて、2ヶ月くらい研究区画でてないぞ。研究室で寝てるからな」

「研究以外には情弱だな、俺ら」

「だって興味ないもん。重要な事だったら誰か教えてくれるし」

 

 

レホスの言葉に皆が驚く。研究漬けでだれもそんな事を知らなかったのだ。

レホスも人のことを言えないし、別に気にするべきことでもないので続ける。

 

 

「でぇ、バイドが居ないとなると、Team R-TYPEは要らない子って事になるんだけど」

「え……もしかして、解散ですか?」

 

 

 

先ほどの気だるい雰囲気は消えて、皆しょぼんとしている。

Team R-TYPEへは、彼らなりに青春や人生、睡眠時間、健康を捧げてきたのだ。

レホスは何時ものへらへらした態度を改め、少し低い声で話し出す。

普段のレホスの性格を知っているものからしたら少々怖いくらいの態度だ。

 

 

「そう、対バイド兵器の研究が我々の存在意義なら、それが達成されれば解散しなきゃならない。

さっき言った通り、これからは次第にバイドの脅威度は下って、そのうち政府から勝利宣言がでるだろう。

その結果、経済を立て直すために軍需から民需への移行が行われ、大規模な軍縮が行われる。

恐らく、我々も民間技術への移行か、解散を迫られる」

 

 

意外にも真面目に話し始めたレホスに研究員達はよれた襟を正して聞いている。

レホスはそこで少し声の調子を軽くする。

 

 

「でも、バイドの性質からして、将来復活する可能性がないわけでもない

そのときR機の開発技術が無いでは困る」

 

 

Team R-TYPEに限ったことでなく、研究開発には膨大な時間と金が掛かる。

それでも、軍や政府から予算が優先的に割り振られるのは、

一度、足を止めてしまえば、それを復活させるのに、それまでに倍する労力と時間が必要になるからだ。

一度ノウハウが失われれば、もう一度足跡をなぞりながら技術を再発見する必要すらある。

それは軍から柔軟性が失われるということでもある。

 

 

「だからTeam R-TYPEの技術を後世に残すために、我々の技術の粋を集めた究極のR機を作る。

……っていう名目で予算付けたよ。よかったねぇ?」

 

 

「は? 名目って。真面目な課長にちょっと感動したのに、俺の感動を返してください」

「いやぁ、Op.Last Dance が成功したってだけで、これからはバイド殲滅戦になるんだけど。

これに関してはR-99ラストダンサーを量産して当てる事になっているんだよねぇ。

R-99は軍の意向が色々入っていて、Team R-TYPE色出し切れなかったから……ねぇ?」

「ではやはり?」

「僕らはOp.Last Danceの立役者で、今はまだバイドの脅威は健在。だから」

「…新しい機体の予算が付くと?」

 

 

いきなりいつもの調子に戻るレホスに、聞き入っていた研究員たちも一気にだらけ、

そして、新しい研究の匂いに色めきだす。

さらに、レホスがダメ押しの一言をつぶやく。

 

 

「作りたいでしょ? 色々と自重しない機体」

 

 

この一言にTeam R-TYPEは沸き立ち、

軍部とは違ったベクトルでお祭り騒ぎとなった。

 

 

***

 

 

・Team R-TYPE R-100製作記録音声 抜粋1

 

 

『レコーダー、セットしたか?』

『大丈夫、これで音ははいってるはず』

『録音されてるって緊張するな』

『開発段階から一応、資料を残せって話だからしかたがない』

『音声である必要あるのか?』

『誰か、書記でもするか? これ機密だらけだから外部に委託できないぞ』

『面倒。それなら音声を残した方が面倒が無い』

『だよなー。あ、ここら辺まで編集で切っておいてね』

 

 

―無言30秒―

 

 

『あー、じゃあ、おr…私達の班はまず主機から見直そう。R-99からの問題点、改良案は?』

『はい、R-99は小型機という制約があったので、本来性能より主機の出力を絞ってあります。

容積が従来比20%増加しますが、出力はさらに10%程度の増加が見込めます』

『あれって、整備性どうにかしろって軍から突っ込まれたから、オミットした機構があるんだっけ?』

『しー!大きな声で言うな。

R-100のコンセプトは技術の伝達を目的としたワンオフ機なので、整備性の順位は低いはず』

『……行けるな』

『課長も自重しなくていいって言ってたし、最後だし』

 

 

―編集点らしき切断音―

 

 

『他の問題は?』

『主機の出力を上げるとなると、ラジエータの能力が足を引っ張ってな……まあ増強してもらえれば』

『ラジエータは空冷だからな、局地仕様の強制冷却システムはどうだろう』

『イオとかの駐留隊が付けている増設ユニットのやつ?』

『それ。ちょっとゴテゴテするけど、冷却能力は一番だ』

『あれは冷却性能の変わりに、作戦時間を削っているのでは……』

『緊急時のみ作動するようにすれば、かまわないさ』

『これ連続で波動砲を撃つと、廃熱が追いつかなくて、放熱板が赤熱するな』

『おおお、必殺技とか連続で放つと、廃熱板が光るとか、こう胸が熱くなるな!』

『廃熱版を後方にもって着て、こんなデザインに……』

『いいなそれ。カッコいいからその案盛り込もうぜ!』

『ちょ…おまえら』

『お前も…ちょっとレコーダー止めろ……ここをこうして』

『『かっけー!!』』

 

 

―録音終了―

 

 

________________________________________

 

 

・Team R-TYPE R-100製作記録音声 抜粋2

 

 

『レコーダーはいったわ』

『オホン。では波動砲コンダクタについてね』

『R-99では特に問題は無いと軍は言っているけれど、どうせ作るなら改良しない手は無いわね』

『そうね。…なんでこの班女ばっかりなの?』

『男にやらせたら、自分の好きな波動砲の話になって永久に終わらないから』

『男って…まあ、改良案としてはどの方向にする?』

『はいはーい。考えたんだけど小型化はどうかしらー』

『小型化ねぇ、R-99で結構小型化していると思うけど更に小型化するの?』

『うん、それ必要かも。だって絶対他の担当班大型化をしてると思うし』

『でさあ、R-99は究極互換機一号って事もあって、換装機構に少し余裕もたせているでしょう。

あれを最適化すればもっと小さくなるって』

『たしかに、改良型なのに同じ物を乗せる手は無いわ。ちょっと図面もってきて』

 

 

―走り回る足音と何かを広げる音―

 

 

『ココとココ無駄』

『その遊びがないと整備は大変そうね。整備ハッチ増やす?』

『整備ハッチつけると、耐久性が落ちちゃうわー。どうせ整備も専属になるんだから多少の整備性は関係ないわ』

『ああ、この機構オミットしちゃおうよ』

『これ取ると、波動砲の安全抑制効かなくなるよ。普通の波動砲チャージを4ループとかできちゃう』

『それは、操縦プログラムのほうで止めてもらいましょう。ほら、良くあるリミッター解除のやつ。

普段はリミッターかかっているけど、破れかぶれでリミッタープログラムを解除すると、強制過重ループができるの』

『それ、理論的にはループ制限がなくなるけど、大丈夫?

スタンダード波動砲のアタッチメントに、ギガ波動砲クラスのエネルギー入れたら高確率で自爆すると思うの』

『らしいわねー。これ秘密なんだけど、R-99がバイド中枢に乗り込んだじゃない、

バイド中枢に通常の波動砲が効かなかったんだけど…そうそう、そういうこと、

この機構が壊れちゃってて、何ループでも可能になっちゃっててね。……そう、もちろん。

それでバイド中枢を破壊したらしいのよ。もちろんR-99も壊れたらしいけど……

でも……あ、忘れてた、レコーダー止めてね。それでね………』

 

 

―録音終了―

 

 

***

 

 

・Team R-TYPE R-100製作記録音声 抜粋3

 

 

『フォースとビット……』

『正直…なあ』

『改良する場所なくね?』

 

 

―数十秒の沈黙―

 

 

『で、レーザー機構の出力UPでもねらうか?』

『理論値で5%も上がらないけど、容積は25%UPね』

『却下』

『デザインで勝負しようぜ』

『そうだな。でどうする』

『R-100の図面が出来上がらないと』

『じゃあ無理じゃん』

『やること無えー』

 

 

―5分間沈黙後、いびきらしき音声―

 

 

―2時間後、意味不明な寝ごと―

 

 

***

 

 

・Team R-TYPE R-100製作記録音声 抜粋4

 

 

『ふっふっふ、俺達の時代だ』

『そうだな。自重しないR機って俺達も何でもやっていいってことだよな』

『コックピット班に当たって良かったー!』

『R-99は軍から色々イチャモンつけられたからな』

『エンジェルパックはダメだとか、試験管はダメとか、BJ物質はだめだとか……』

『よし、とりあえず、案出そうぜ』

 

 

―ガラガラと何かを引いてくる音、続いて何かのキャップをとる音―

 

 

『エンジェルパックを改良したい』

『BJセンサーもいいな。もちろんパイロットは幼体固定な』

『試験管だろうやっぱり』

『お前らやりたいだけだろう。でも胸が熱くなるな』

『まず、現実的に可能か不可能かで考えよう。試験管は接合部が脆くなるが、一応可能。

エンジェルパックだが、これは可能だ。絶対他の班は機関を大型化してくるから、

メリットになる。幼体固定も同様だ。BJ物質は…究極互換機はバイド装甲機じゃないからな……』

『いや、R-99の装甲その他は一度バイド装甲化してからバイド素子を取り除いている。BJ物質も可能ではないか?』

 

 

―沈黙5秒―

 

 

『そんなにローションプレイが見たいのか?』

『見たい』

『俺も』

『正直だな。……実は俺も』

 

 

―椅子が倒れる音―

 

 

『だって最後かもしれないんだぞ。この夢を捨てろというのか!』

『そんな夢捨ててしまえ』

『だって、男の夢だろう。四肢切断された幼女が粘性のあるローションのなかに、

全裸で沈められて、神経接続の快感に身もだえながら……』

 

 

―検閲終了―

 

 

***

 

 

R-99がラストダンス作戦を成功させてから1年経った後。

 

 

Team R-TYPEの大半が研究用デッキの最奥に集まっていた。

デッキの手前の一般区画の方にはR-99ラストダンサーが並んでいる。

ここ最近は残党バイド討伐にラストダンサーが飛び回り、人類の版図を着実に取り戻している。

基地にいる軍人達も表情が明るい。

 

 

白衣の人々の視線の先には真新しいR機。

コックピットは硬質ながら、B-XダンタリオンやB-3C2 セクシーダイナマイト2に似ている。

機体後部には放熱板やアンテナが後方に向ってせり出しており、針山のようだ。

整備製や生産性を考慮したR-99とは違い、かなり派手なデザインだ。

 

 

今日は完成したR-100 カーテンコール―名称はの初飛行の日だ。

30分前からアイドリングしていたカーテンコールに、

改良型としてバイド素子を抜くことに成功したBJ様物質が充填される。

機体各部の動作テストが終了し、アナウンスが入る。

 

 

『発進まで10秒、9、8、7、6、5、4、3、2、1…Let’s Go!』

 

 

Team R-TYPEの夢を乗せたカーテンコールが宇宙に飛び出していった。



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R-101“GRAND FINALE”

R-101 “GRAND FINALE”

 

 

・Team R-TYPE部長室

 

 

「部長、R-100カーテンコールの報告書です」

「ご苦労様。これでR計画も完結ね」

「長かったですねぇ」

「人類の勝利の目処が立った所だし、惜しまれつつ、引くのが良いわね」

「そうですねぇ。これで後世への技術蓄積、研究開発マニュアルも出来ましたし」

 

 

内外から狂気典型として散々な言われ方をしてきたTeam R-TYPE。

内情を知っているレホスやバイレシートは、それも一面の事実と否定こそしないが、

自分たちの研究成果を自慢したい気持ちは当然にある。

幕引きとして最高潮の今組織を解散することは、Rの歴史に燦然と残る事だろう。

 

 

「ところでレホス課長? あなた、次は何処へ行くの?」

「僕は古巣のウォーレリック社に席を確保しました。他の人らはどうです?」

「部長級は軍事産業に全員天下り先を確保しているし、他の課長級も大体ね。

あなたの所の一般研究員は?」

「あの辺りは他の仕事したこと無いから、どうなんでしょうねぇ?

我々は怖がられていますからね。まだ、Team R-TYPEにいるつもりのようですが」

 

 

既に部長室もダンボールが積み上げられ、引越し準備に余念が無い。

Team R-TYPEの上級職は既に天下りの準備が終わっている。

ちなみに大量の機密書類は新設されるR機の博物館に、

半永久的に保管されることとなっている。

 

 

「まぁ、若いしどうにかするでしょう。では部長、またどこかで」

 

 

***

 

 

木星圏にあるTeam R-TYPEの研究施設では、ヒラ研究員や班長が数人集まって、

ラウンジで井戸端会議をしている。その顔にあるのは焦りだ。

 

 

「やばいよ。今日課長室行ったらなんかダンボールだらけだったんだけど」

「天下り? もうなの? 俺もうちょっと猶予があると思ってたのに」

「来年で解散ね。とか言われかねないぞ。早く再就職先見つけないと」

「でも俺達R機開発する以外に何が出来る?売り込める材料なんてないぞ」

 

 

顔を突き合わせて切実な噂話をしていた彼らは、顔を青くして沈黙する。

仕事はキツイがクビなどとは無縁の研究生活をしていたため、

一般でいう、リストラの恐怖やスキルアップという観念が無かったのだ。

正確にはクビになるべき人員は、そっとTeam R-TYPEの闇に消えていた。

 

 

「俺達のPRに役立つ成果を今から立ち上げるか」

「さすがに無理じゃないか?」

「俺達の技術力を一般企業にも示せるような物を開発するとか……!」

「Rの技術で……掘削機とかか?」

 

 

そこまで、黙っていた研究員が一言。

 

 

「いや、俺たちTeam R-TYPEだぞ。R機を作らなくってどうするんだ!」

 

 

がやがやとしていた雰囲気が一変、しんと静まり返る。

何か妙に確信的なその男の声に、周囲も飲まれてしまう。

焦った雰囲気すら一瞬でかき飛び、自信のようなものが満ち始める。

 

 

「そ、そうだよな。掘削機とか浮気している場合じゃないよな」

「R機でレース艇作ろうかとか考えてたけど、俺ら作れるのはやっぱりR機だよな」

「最後のR機。俺たちの好きにできる!」

 

 

わいわいと今度は何か希望に溢れた表情で盛り上がる白衣。

そのまま、色々な案が溢れてくる。

深夜テンションのようなそのままの発案が詰め込まれるR-101。

そのまま、話をまとめると、最高のR機をつくりそれを異次元に飛ばすといった内容になった。

ボイジャーのゴールデンレコードよろしく人類の歴史を込めたデータを載せ、

数々の観測機を仕込み、最高速で次元の歪みに突入させ、その挙動を観察する。

といったかつて人類が宇宙に憧憬を持っていた頃の探査機のようなものを作ろうとしていた。

 

 

「よっし、未来までぶっ飛びそうなR機作ろうぜ!」

 

 

バイドの殲滅を目前に、Team R-TYPEにも場違いな希望が満ち溢れていた。

予算に関してもB-5Dのときに余り気味であった隠し研究資金を使い切ることになった。

そして、この研究計画が企画された時点で、上位研究陣がすでに退職していたため、

研究に不案内な事務管理職が許可を出すことになる。

彼らはTeam R-TYPEじみた狂気がないことに安心していた。

その後の結果も知らずに。

 

 

***

 

 

基礎フレームに重要部品が取り付けられただけの状態のR機を囲んで白衣達が相談する。

従来のR機に比べ、後部スラスター付近が肥大しており、

コックピットも小さめでR機の特徴であるラウンド型ではあるが、

胴体に比べて小さく鉤鼻のような形状をしている。

 

 

「後ろがゴッツイな」

「次元の壁を突破するための速度を稼ぐために、カーテンコールに搭載した主機を串形にした。

操作性が犠牲になったがともかく速い。最高速がどれくらいでるのか未知数だ」

「なんだその曖昧な表現は」

「エンジンの試運転も満足に出来ていない」

 

 

すでにTeam R-TYPE専用の実験施設の多くは閉鎖されていたため、

残った小さなラボや実験機材(しかし、物自体は最新鋭機器)を使ってR-101を作り上げた。

R-99やR-100のように究極互換機であることを基本としているので、

武装やビット、フォース研究せず、彼らは淡々と何かに取り付かれたように、

自分たちの最後の機体であるR-101を組み上げていく。

ともかく機体性能を追求していたので、乏しい人員、設備でもギリギリ何とかなっていた。

 

 

「あと一応、戦闘機なので互換武装機能は取り付けている」

「武装って要るか? デッドウエイトになるのではないか」

「キャノピー形状も防弾性を犠牲にしてR-99より抵抗を減らしている」

「浅亜空間潜行能力も備えているので、次元の壁を突破する助けになれば良いが」

 

 

Team R-TYPE発の技術である小型機の浅亜空間潜行技術であるが、

犯罪に悪用される恐れがあったため、小型機関についてはブラックボックス化していたが、

重要施設への亜空間潜行対策壁の導入が進んだことを背景に民間に技術を渡すことが決定されている。

バイドとの生存戦争が下火になり、一部ではあるが星間移民やクルーズが計画されだしたため、

軍事技術の内、民間に転用しやすい技術から、徐々に公開し始めている。

 

 

「できた。今までの次元の歪みを利用した異相次元航行でなく、

自由に次元の壁を突破できる機体だ」

「かっこ悪りぃけど、昔の探査機みたいでこれはこれでありかな」

「なんというか、これ飛ばして、観測して、Team R-TYPEも本当に終わりなんだな」

 

 

ずんぐりむっくりな形状となっており、R機など兵器特有のある種の美しさが損なわれている。

主犯はもちろん串型エンジンとその冷却装置である。

なにか後夜祭の終わりのような、侘しいような泣きたいような雰囲気で、

Team R-TYPE最後の研究員たちはじっとたたずんでいた。

 

 

「そうだ、名前はどうする。最後の最後だ、かっこいい名前がいいな」

「めでたしめでたしで終わらせたいし、グランドフィナーレはどうだ?」

「いいねそれ」

 

 

***

 

 

観測機材などでコックピットブロックまで満載されたR-101。

それが、冥王星軌道上でエンジンを温めている。

次元の壁を突破して、新しい世界、バイドの居ない世界を覗く為に、

最後の安全装置が外されて飛び立っていく。

 

 

すぐに肉眼で見えない距離に飛び立つR-101。

R-101に満載された観測機器が送ってくるデータが順調なフライトを伝えてくる。

そして、戦闘機として積んでいたスタンダード波動砲をチャージし、

時空の壁を打ち破るために、最大チャージの波動砲を放った。

 

 

冥王星宙域の観測カメラからは空間全てが発光したかのような閃光の中が映り、

音声ログのないデータを見ていた彼らは、ガラスの砕けるような音を聞いた気がした。

 

 

CONGRATULATIONS!

 

 




前バージョンは調子に乗りすぎて黒歴史、
ほぼ書き下ろしになります。

なお、ここで一度中締めを挟んだ後、
次の機体はR-9Aアローヘッドとなります。


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R-9A“ARROW HEAD”

時系列がめちゃくちゃになってすみませんが、
アローヘッドということで時代が遡っています。
オペレーション・ラストダンス(R-TYPE FINAL)開始時点の話です。


R-9A“ARROW HEAD”

 

 

 

真夏の昼下がり、地球にある南半球第一宇宙基地では大型作戦に向けてちゃくちゃくと準備が進められていた。

地球連合の威信を掛けた一大作戦“Op. Last Dance”が今日始動するのだ。

今日をバイド打倒の記念日にするため、軍人と始めとしてみなが張り切っている。

 

 

「小官も明日決行されるラストダンス作戦の事は知っています。

バイド討伐作戦の先陣を切るのはパイロットとして、非常に名誉なことだと思っています」

 

 

R機隊の戦闘用スーツを着込んだパイロットが白衣の研究員と

フライトジャケットを羽織った上官らしき佐官と話をしていた。

場所はR機の発着デッキで、三人の周りでは整備員たちが忙しそうに行き来する。

良く見ればパイロットの胸にはエースを示すワッペンが取り付けられており、

彼が歴戦の強兵であることが見て取れる。

彼らは、この後予定されている作戦の関係者であり、この作戦のメインパイロットとなる中尉、

その上司で基地防衛部隊の第二R機隊隊長である少佐、そしてTeam R-TYPEの研究員である。

 

 

「で・す・が・し・か・し、なんで機体がアローヘッドなんです!  何十年前の機体ですか!」

「何が不満なんです? R-9は第一次バイドミッション以降マイナーチェンジもしていますし、

そもそも、あなたが搭乗する機体は先月に工廠を出たばかりの新品ですよ」

 

 

怒りを耐えきれず吼える中尉に対して、淡々と応じる白衣の男。

おそらく白衣の男は質問に対して正直に対応しているのだろうが、

傍目には完全に煽っているように見える。

その場を納めようとしているのか、中尉の上官であるフライトジャケットの少佐が述べる。

 

 

「中尉、君の言いたいことはとても、とても良く分かるが、これは決定事項なのだ。

これは上の決定であり、君の搭乗機体や日程などは全て決定済みとなっている。

最高の成果を求められる作戦であるが、私は君の腕ならばバイド中枢まで到達できると確信している」

 

 

いきり立つ中尉と無自覚に煽る研究員、そして、それを宥める少佐。

 

 

彼らの横にはトリコロールのカラーリングが美しい、R-9Aアローヘッドが整備を受けている。

機体デザインが優秀であるためか、まったく古さは感じられない。

が、戦力としてみると、第一次バイドミッションから今まで戦線を張ってきた機体だけあって、

信頼性はあるが正直、力不足は否めない。

その名機R-9Aアローヘッドを横目で見ながら中尉が続ける。

 

 

「隊長! 俺の言いたいのは機体性能の所為で死にたくないとか、そういうことではないのです。

自分もパイロットの腕には自信がありますし、何よりもR-9は良い機体です。

ですが、なんでフルチューンしたR-9Aがあるのに、従来型のR-9Aで出撃なのですか!」

 

 

デッキの奥には同じく整備を受けているR-9Aアローへッドが見えている。

ラストダンス作戦に投入されるR-9Aと同名の機体であるが、

見るものが見ればまったく別物であることがうかがえる。

 

 

まず主機は入れ替えられており、波動砲もスタンダード波動砲のそれではなく、

R-9/0ラグナロクのハイパードライブシステムを一部流用した連射の効くものに置き換わっている。

よく見るとミサイルサイロの部分にはよく分からない射出機構も増えていた。

何よりの変更点は耐久性だ。新しい層状装甲材を利用した重装甲となっていて、

バイド汚染部を剥離させながら戦闘できるため、多少の汚染はものともしない。

それをさらに発展させ、各機関のバックアップが各所にとりつけられており、

重要区画以外の被弾ならば戦闘が続けられるようになっている。

 

 

外見ことアローヘッドであるが、正直アローヘッドの皮を被った完全なる別物である。

 

 

「まあ、なんだ、その、私も中尉にアレを渡してやれればとは思うのだが、命令でな……」

「最新鋭の装備を施した機体を眠らせて、最終作戦に従来型を投入するなんて、

上の連中やTeam R-TYPEは何を考えているのです!」

 

 

パイロットである中尉の怒りを受けて、少佐は歯切れ悪く答える。

彼は部下の言葉をもっともだと思っており、需要な作戦ならばフルチューン機体を使うべきだろう。

しかし、上からの命令で基地に残るはずの少佐が、そのフルチューンR-9Aのパイロットに指名され、

ラストダンス作戦の主役としてバイド中枢に突っ込む中尉が従来型のR-9Aのパイロットに決まってしまった。

この作戦の技術サポートとして来たTeam R-TYPEの男は、

軍の命令書を持って彼と彼の部下の乗機を念押しに指定した。

軍人であるかぎり上からの命令は絶対だ。

 

 

いきり立つ中尉を他所に、整備員たちは興味津々で作業を続けている。

照り付ける夏の日差しこそ入っては来ないが、半開放系となっているデッキは結構な暑さだ。

立っているだけでじっとりと汗が出てくる。

今開放されている射出口からは潮の香りも漂ってくる。

上着を脱いで、開放部でごろりと横になれたら常夏気分だろう。

そんな長閑な昼下がりにこの現実では、少佐も現実逃避もしたくなる。

 

 

「ともかく、明日の出撃に備えて、今日はもう休め。中尉。

研究班長殿も彼を送り出すからには、整備と協力して調整を完璧にして欲しい。

彼は私の自慢の部下なんだ」

 

 

少佐が無理やりまとめて、この言い争いを終わらせようとする。

少佐自身も納得はしていなかったが、これ以上は有益ではないと考えているのだろう。

中尉も今までに散々繰り返された埒の明かない議論に徒労感を感じていた。

彼とて軍人となって長い、軍が時折理不尽な命令を出す組織であるとわかっている。

沸き上がる不満を抱えたまま、作戦に望みたくないので、誰かにぶつける結果となったのだ。

しかし、理不尽に対する怒りと現実の不条理さが釣りあったところで、

クールダウンし、この益のない話を終わらせる方向に進むことにした。

 

 

「しかたありません。小官も軍人です。命令であれば仕方がないが、あのR-9Aのスぺックさえあれば……」

「聞きたいですか? 聞きたいですか! あれのスペックはですね!」

「いや研究班長殿……」

 

 

なんだかんだで大人として不満を飲み込んで話を打ち切ろうとする中尉と

間を取り持とうとする少佐の努力を全く無視して、白衣の男が勝手にしゃべりだす。

Team R-TYPEが狂人揃いで、研究の事になると目の前が見えなくなるのは知っていたが、

空気が読めないこと甚だしい。

 

 

少佐と中尉の視線は自然と強くなり、白衣の男の眉間を射抜く。

しかし、現状Team R-TYPEから派遣されているこの男に楯突くのは如何にも拙い。

軍上層部や政府にとても大きな影響力を持つ組織がバックにいるのだ。

中尉は、“隊長には悪いが、嫌み程度は言わして貰う”とばかりに口を開いた。

一応、中尉は沸騰寸前の頭で考えつくギリギリの敬語で白衣の男にイヤミを吐く。

 

 

「ほう、研究班長殿。あのR-9Aがどれだけ素晴らしいのか

小官も後学のためにお聞きしたいものですな。なぜそれが作戦に用いられなかったのかを含めて」

「聞きたいですか!? 是非Team R-TYPEの技術の粋を聞いて下さい!

あれは試作機なので正式な名称はありませんが、R-9Aの耐久性を高めたタイプです」

 

 

怒りで語尾の震える中尉や、その場の空気をまったく読み取らず、

白衣の男が自らの研究成果を嬉々として語り出す。

周囲では整備員たちは中尉らの怒りを感じて、話が聞こえる範囲で距離をとっている。

 

 

「耐久性……私は基地防衛用と聞いているが」

「防衛戦では撃たれれば爆発するような機体では困りますからね。

この装甲は新式の層状になっていてバイド汚染すら……」

 

 

R機は絶大な機動性と攻撃力の代わりに、全くといっていいほど耐久性が無い。

さらに始末の悪いことに、単機突入作戦時や新型機は機密保持のため、

戦闘続行不能状態になるとレコーダー類を残して自爆装置が作動するようになっている。

旧世紀大戦時の航空機の渾名をとって、ワンショットライターならぬワンショットボムだ。

などとパイロットから皮肉られる始末だ。

そのR機の弱点の一つを克服したと白衣の男は語り続ける。

 

 

「……と言う訳なのですが、ただし、重量や燃費の問題で航続飛行距離が非常に短くなりまして、

単機突入なんてもってのほか、要撃にしか使えないのですよ」

「なんだその片手落ちは、そもそもR-9型にする意味あったのか?」

「その方が格好いいでしょ?」

「「……」」

 

 

中尉がボソッともらした突っ込みに対して、

趣味と言い切り、はっはっはといっそさわやかな笑い声を上げる研究者。

中尉と少佐は、夏の日差しも凍結する絶対零度の視線を目の前の白衣に投げかける。

研究者は全く意に介さず、そのまま自慢げにスペックを口から垂れ流す。

軍人二人は目の前の白衣の男を居ないものとして、無視し二人で話し出す。

せめてもの抵抗に、彼ら二人だけで深刻そうな空気を作り出して。

 

 

「隊長、俺はこの任務が決死任務のようなものであると思っています」

「……すまんな」

「いえ、パイロットになったときから、ある程度覚悟はしていました。

しかし正直に言って、作戦に成功しても生きて帰ってこられる可能性は低いでしょう」

「……」

「ひとつ、お願いがあるのです」

「家族のことか? 心配するな」

「いえ、小官は天涯孤独ですから問題ありません」

 

 

白衣の男がべらべらと機体スペックを垂れ流す傍らで、

シリアスな表情で言葉を交わす、上司と部下。

二つの空気が水と油の様に混じりあわずにその場にたまる。

整備員達は遠巻きに整備をする振りをしながら、聞き耳を立てている。

 

 

「ただ……」

「ただ?」

「後生ですので、後生ですので! 最後にあのクソ白衣を殴らせてください!」

「……私は何も聞いていないが、作戦前に拳を傷めるなよ」

「小官もパイロットですから、その辺のさじ加減は分かっています」

 

 

アイコンタクトをして分かれる二人。

パイロットの中尉は先ほどとは打って変って、非常にいい笑顔で研究者に近づいていった。

少佐はその凶笑を見ないようにしながら、整備員やその辺りにいた人員を引き連れて、

デッキ近くにあるミーティングルームに消えていった。

ミーティングルームは完全ではないが防音仕様であり、

今から起こる不幸な事故について何も聞かないで済むだろう。

 

 

少佐らの背後では中尉が指の骨をポキポキとならしながら、

未だに研究自慢を続けるTeam R-TYPE研究員に近づいていった。

 

 

***

 

 

『システムチェック完了、パイロットバイタル正常』

『駐留艦隊艦載R機部隊、進路上のバイドの80%を排除』

『1番カタパルト、ロック解除。発進可能』

『基地指令、R-9A射出準備完了しました。定刻になります』

『本時刻をもってオペレーション・ラストダンスの開始とする』

『R-9Aアローヘッド発進します』

『10、9、8、…』

 

 

今、この基地の関心を一身に集めているパイロット。その上司である少佐は

基地防衛隊の隊長として、スクランブルに備えて新しい愛機となったR-9Aの通信機から、

部下の出征の様子を聞いていた。

士気を高めるためか、司令部の音声もオープン回線で周囲に発信しているようだ。

恐らく他の部隊員達も自機でこのオープン通信を聞いているに違いない。

 

 

『3、2、1……Let’s Go!』

 

 

そのアナウンスとともに一機のアローヘッドが蒼穹の彼方に消えていった。

残された隊員達は潮の香りのする基地で彼を見送った。

 

 

***

 

 

英雄が旅立った後の基地のデッキには、

顔に白い布袋を被せられた巨大なテルテル坊主が、梁に腰から吊るされていた。

その布地には赤黒い染みが点々と飛んでおり、時折もぞもぞと動いていた。

 

 

その朝は雲ひとつ無い抜けるような晴天であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

『こちら南半球第一基地管制塔。強力な未確認バイドの接近を確認。基地防衛隊は全機出撃してください』

 



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RX-10“ALBATROSS”

前の話からさらに遡って、
サタニック・ラプソディー(R-TYPE⊿)発生前です。



RX-10“ALBATROSS”

 

 

・とあるオフィス

 

 

「みんな。やったぞ。わが社が新型コンペ枠を取れたぞっ!」

 

 

十数名の人間の作業するオフィスに、大声を上げて飛び込んできたのは、

スーツを着たこの部屋のボスだった。

いきなり駆け込んできた自分たちのボスのテンションに驚くが、

その言葉の意味を考え、一瞬の後、彼の声を聞いた部局員達は口々に歓喜の声を上げた。

 

 

「やったー。リストラが遠のいたぞ」

「これでうちの会社もまだ持つな」

「今年こそボーナスを!」

「ヘッドハンティング蹴って良かったー」

 

 

このオフィスを擁するのは航空機メーカー、マクガイヤー社の開発部局だ。

マクガイヤー社は最新技術を盛り込んだ航空機を作成することで有名で、

いままでも、何機種もの傑作飛行機を世に送り出し世界の空を席巻した。

戦闘機なども一部手がけているが、特に中~大型の旅客飛行機に定評があり、

“マクガイヤーが世界中に人を運ぶ”とまで言わしめた企業である。

 

 

航空機産業では最大手にはいるメーカーの一つであるが、近年は絶賛倒産の危機に直面していた。

マクガイヤー社が何に失敗したわけでもないのだが、時流に取り残された形だ。

宇宙進出が進んだこの時代では、移動には大気圏航行能力のある輸送コンテナ船が使用され、

民間航空機といったジャンル自体がほぼ無くなった。

軍用戦闘機に転向したが、それとほぼ同時にR機が取りざたされだし、

すぐに既存の航空力学に依った戦闘機は、過去のものとなりつつあった。

画期的な慣性制御機関であるザイオングシステムは一気に普及することとなり、

結局マクガイヤー社は後発組として数多の企業に埋もれる結果となった。

今まで企業が存続してきたのは、大企業だったが故に体力があり、

研究陣や営業、経営陣が一丸となって何とか下請け生産などで食らいついてきたからだった。

技術蓄積をした後、開発に乗り込む。というのが経営陣の描いた起死回生の一手だった。

 

 

バイドミッションが発動してからは、Team R-TYPEが軍用機の開発を取り仕切っており、

各航空機メーカーは、その下請けをして何とか生き残ることに成功していると言った塩梅で、

マクガイヤーがなんとか生き残っているのもR-9Fなどの試験機部品などを手がけているからだ。

今生き残っているだけでもかなりの幸運である。

 

 

「ただし、フォースを扱う必要もあるのでTeam R-TYPEと共同開発することになった。

軍としても、新型フォースとの組み合わせで、新型機を開発したい意向だそうだ」

 

 

が、ボスが続けた一言で、幸運も陰りが見えた。

 

 

ボスである開発部局長としても、独自開発を行いたかった。

今まで軍の下請けとしてR機の生産自体は行っていたので、R機生産技術自体はあるのだ

しかし、問題はフォースだった。

バイド素子を利用しているフォースは、基本Team R-TYPEでしか生産開発できない。

技術情報が機密として制限されているのだ。

なので、開発でも機体本体を担当するマクガイヤー社に、

フォース担当のTeam R-TYPEに分かれて行う事になるが、

力関係からしてTeam R-TYPEが本体設計に関わってくることは目に見えていた。

 

 

***

 

 

そのままマクガイヤー社では緊急開発会議が持たれた。

研究員らはもとより、社運を掛けたプロジェクトなので営業や経営上位陣も出席している。

開発部局長が今回の共同研究についての情報を聴衆に伝達する。

 

 

「さあ、みんな。わがマクガイヤー社の社運をかけたプロジェクトだ。意見をどんどん出してくれ」

 

 

「単機運用がメインであれば、主翼は大型化して、航続性能を求めましょう」

「やはり、我が社の機体ならば大空を行く翼は必要だと思います」

「波動砲ももっと使い勝手よく出来たらいいのですが」

「ならば、広域を攻撃できるようにしませんか?」

「機体が少し大きくなりますが、人間工学に基づいて、パイロットの負担を軽減しましょう」

 

 

倒産の危機から一転、希望に燃えた技術者達は貪欲に、経営・営業陣は目をぎらつかせて

それぞれ知恵を出し合って機体の素案を形にしていった。

 

 

***

 

 

所変わってTeam R-TYPEの研究施設のラウンジ。

研究員達が、それぞれの情報を持ち寄って意見を交わしていた。

そこに新しい燃料を投下するものが居た。

 

 

「さあ、みんな新しい仕事だ。今回はフォースのみになりそうだが、

上からテストフォースだから自重しなくていいと通達があったぞ!」

 

 

そんな、ことを張り切って言うのはマクガイヤー社と組んで研究することになった研究員だった。

未だ制式機体はR-9AアローヘッドやR-9Eミッドナイトアイなどしかなく、

特に主力戦闘機はアローヘッドのみである。そこにこんなにおいしい研究をぶら下げられたのだから堪らない。

 

 

「フォースアタックや弾幕だけじゃ物足りない」

「やっぱり、バイド係数を上げてみようぜ」

「ロッドも折角生体部品なんだからもっと凝った造形に……」

「触手型のコントロールロッドとかどうよ?」

「バイド係数が少しやばくなりそうだが、バイド素子を更に増やして、コントロールロッドも動くようにしようぜ」

 

 

Team R-TYPEでは同時にR-9Aアローヘッドの正統進化であるR-9A2デルタの研究をしている。

ならば、この一件は自由課題というか、棚から落ちてきた牡丹餅なのだ。もちろん手は抜かないが。

新しいオモチャを与えられた研究者達は、趣味を全面に出して、新規フォース案を詰めていった。

 

 

***

 

 

Team R-TYPEとの打ち合わせ後、それぞれ研究期間をとって、

Team R-TYPEとマクガイヤー社では現状データを交換し合っていた。

が、マクガイヤー社では悲鳴が上がっていた。

 

 

「なんだこのゲテモノフォースは!?」

 

 

Team R-TYPEとの打ち合わせ後、部局長が持ってきたデータを見て、

部下達が口々に不満を口にする。

そのフォースは上下に柔軟な腕が伸びて、妙に有機的に動いており、

硬質な感じのするラウンドフォースと比べて異様な存在感を誇っていた。

 

 

「部局長、俺あまりフォースには詳しくないのですが、これは余りにも攻撃的というか」

「まぁ、でも見方を変えればディフェンス面は強化されているのか」

「しかし、主力の赤レーザーの威力を集中させるのに防御を犠牲にする必要がありますね」

「青は目標追尾型か、使えるのかな?」

「この黄色レーザー……この形状はすでにレーザーじゃないでしょう。

触手レーザーとかTeam R-TYPEは何を考えているのですか!」

 

 

続いてレーザーに注目する部局員たち。

文句をいうが、一応技術力は認めているようだった。

趣味はまったく合わないが。

 

 

「部局長。このフォースは何ていうのですか?」

「Team R-TYPE曰く、テンタクルフォースだそうだ」

「触手ですか」

「中学生か!?」

「なんか、俺達の作ったアルバトロスが汚されるようで嫌です」

 

 

***

 

 

マクガイヤー社との打ち合わせ後、それぞれ研究期間をとって、

Team R-TYPEとマクガイヤー社では現状データを交換し合っていた。

が、Team R-TYPE側でも悲鳴が上がっていた。

 

 

「なんだこのR機の皮を被った航空機は!」

 

 

新型R機の素案を見た研究者の一人の声を聞いて、

Team R-TYPEの面々が集まりだした。

R機(やフォースやバイド研究)に異様な情熱を注ぐ彼らにとって、いい話のネタなのだ。

 

 

「宇宙戦闘や閉所での戦闘が見込まれるR機であれば、水平主翼は邪魔にならないんだが」

「衝撃波動砲か……雑魚掃討用だな。射程短いし大型バイド相手だと打撃力不足じゃないか?」

「機体の安定性って、民用機じゃないんだぞ」

「航続性能は、まあ、単機突入に寄与できる特徴ではあるが……」

 

 

Team R-TYPE班員がわいわい集まって好き勝手に批評する。

同じTeam R-TYPEですら容赦の無い研究者達なので、部外者にはもっと容赦なかった。

 

 

「班長。この機体は何ていうのですか?」

「マクガイヤー開発部局長曰く、アルバトロスだそうだ」

「アルバトロス…アホウドリですか」

「アホの子とか」

「なんだか、我々の作ったテンタクルフォースが活かしきれない気がして嫌ですね」

 

 

***

 

 

さらに研究が詰められていく段階でマクガイヤー社から怒りの声が上がる。

 

 

「何処が高性能化だ。フォース性能尖り過ぎだろう」

「更に動きがキモくなったな」

「こんなの、俺達のアルバトロスにつけられるか!」

 

 

***

 

 

Team R-TYPEでも、意見のすれ違いは通常運行だった。

 

 

「前回いった所直ってねー。それどころか変な所を詰め過ぎだろ」

「小回りは捨てたのか」

「こんなの、我々のテンタクルちゃんに見合わん!」

 

 

***

 

 

 

そんな、両者のかみ合わない意見を全力でぶつけ合うことによって機体が形になっていく。

マクガイヤー社は最後の勝負と、何が何でも食らいつく勢いと社名を賭けて全力だったし、

Team R-TYPEでもR-9Aの成功に続けとばかりに、研究者のプライドを賭けて研究していた。

両者は会議の度に怒鳴りあっていたが、途中からは見栄も何もなく本音のぶっつけ合いとなり、

急速に完成度を高めていった。

 

 

こうして、百の怒声と千の罵声の末に、アホウドリの名前を冠したRX-10が完成した。

紆余曲折はあったが、航空機メーカー・マクガイヤー社と

Team R-TYPEの共同開発(意地の張り合い)によって開発された機体は、

斬新なコンセプトを持ちながらも奇跡的なバランスでまとめられ、テストでも高評価を得た。

 

 

そして、この評価(主にフォース)に気をよくしたTeam R-TYPEは、

更にそのバイド素子への傾倒を深めてゆくことになる。

 



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R-13“CERBERUS”

前の話と同時期の話です。


R-13“CERBERUS”

 

 

 

・とあるオフィス

 

 

「みんな。わがウォーレリック社が新型コンペ枠を取ったぞ!」

 

 

20名強の人間の作業するオフィスに、自信に満ちた足取りで入ってきたのは、

社名の付いたジャケットを着たウォーレリック社の開発部長だった。

彼の姿を認めた部員達は口々に歓喜の声を上げる。

 

 

「本当ですか部長!」

「これでライバル企業を一歩リードできますね」

「R機本体の開発とは…燃えますね」

「WR社に移籍してよかった!」

 

 

宇宙関連企業が軒を連ねる月面都セレーネ近郊に広大な実験施設を持つ

軍事メーカー、ウォーレリック社の開発部だ。

軍事企業の中では比較的新しい企業ながら、人類の宇宙進出に合わせていち早く月に進出し、

そのフットワークの軽さから様々な兵器を開発提供してきた。

宇宙戦力の華、R機と大規模艦艇建造こそ守備範囲外であったが、

艦艇に関しては艤装を担当している部分も多く、特に携行用重火器や小型艦艇用火器はお手のものだった。

R機開発計画プロジェクトRが発令されたときもいち早く手を上げて、武装の開発に食い込んでいる。

今、勢いのある企業だ。

 

 

特にR-9Aに使われているバルカンは、連射性能に優れていて弾詰まりし難く信頼性が高いため、現場からも評価が高い。

艦艇艤装も艦首砲こそ造っていないが、自衛用バルカンから各種レーザーを担当している。

 

 

「ただ、我々はフォースについては素人なのでTeam R-TYPEと共同開発することになった」

「「「「え……」」」」

「軍としても、新型フォースと新型機を組み合わせてコンペしたいらしい。

まあ、軍はお得意様だし向こうの顔も立てておかなきゃならんしな」

 

 

開発部長としては、このコンペを機にR機の本体開発に食い込みたいというのが本心だ。

すでに軍との開発については十分な実績がある。

R機本体の生産技術についてはこれから勉強も必要であるが、

ヘッドハンティングなどで、他企業から多くの技術者を引き抜いているので、

ノウハウさえ取得できれば大きな問題ではない。

 

 

しかし、フォース研究は決定的に違う。

危険物質であるバイド素子を管理する関係上、フォースはTeam R-TYPEでしか開発環境がない。

これに関してはTeam R-TYPEに任せるしかないだろう。

R機丸ごとそのものの開発についてウォーレリック社は実績が無い。

フォースなどの美味しい部門をTeam R-TYPEに取られるのはやむを得ない。

むしろ、常に汚染の危険が付きまとうフォース開発を積極的に担当してもらおうと彼は考えていた。

 

 

***

 

 

特に開発に参加したいものを募ったところ、研究開発に携わってきた人間のほとんどが手を挙げた。

そのため、会議は打ち合わせ室ではなく、大きめの会議室で開催し、

ウォーレリック社きっての開発規模となっていた。

 

 

「さあ、みんな。わがウォーレリック社の新たな飛躍となるプロジェクトだ。

意見は惜しまずどんどん出して欲しい」

 

 

「本体については大筋R-9Aから改変しなくても良いのではないでしょうか」

「我々は本体構造に未熟です。開発期間を考えると大幅な改造は危険です」

「我々の得意分野である武装関連で勝負すべきです」

「アローヘッドの弱点は攻撃範囲の狭さです。フォース、レーザーが無い状態ですと、

機軸上の敵機しか攻撃できません。特に後方は致命的です」

「後方を攻撃できる能力……それは波動砲に持たせればいいか」

「波動砲は虚数空間に溜めた波動エネルギーに指向性を持たせて開放する兵器です。

細かな操作には向かないのでは?」

「電気はどうでしょう。敵を避雷針に見立てて波動エネルギーを電気エネルギーに変えて攻撃は出来ないでしょうか」

「そのまま、電流を流すのは兵器として問題があるが、発想はいいかもしれん」

「波動砲コンダクタにエネルギー変換機能もつけないといけませんね」

 

 

ついにR機をそのまま任されるとあって士気の高い開発陣は、

今まで暖めていた案をここぞとばかりに出し始め、会議室はヒートアップし、

結局朝から始めた会議は深夜まで続いた。

 

 

***

 

 

Team R-TYPEの研究施設でもこの件について検討が行われつつあった。

ただし、ここは同時進行しているRX-10アルバトロスの開発チームとは別の研究施設であった。

研究員達が、それぞれの情報を持ち寄って意見を交わしあっている。

 

 

「さあ、みんな新しい仕事だ。今回はフォースのみになりそうだが、

上はコンペ用だから有用なら自由にしていいと言っていた。RX-10やR-9A2に負けないものを作るぞ」

 

 

「やっぱりR機は防御より攻撃だよな」

「よし、とりあえずバイド係数を上げてみようぜ。制御機構は後で考えよう」

「ロッドもただの制御部品で無くて、相手を保持できるようにしよう」

「釣り針型? 鉤詰め型? それとも吸着という手段も……」

「バイド係数上げすぎ。コントロールロッドが壊れるし、制御どうするんだ」

「失敗を恐れてTeam R-TYPEが勤まるか! 何とかして打開策を見つけてやり遂げるぞ!」

 

 

新しいオモチャを与えられた腐れ研究者達は、やっぱり趣味を全面に出して、新規フォース案を詰めていった。

 

 

***

 

 

「なんか厳ついフォースだな」

 

 

Team R-TYPEとの打ち合わせ後部長のつぶやきは、ウォーレリック開発陣の意見を代表していた。

周囲の研究担当も持ってきたデータを見て目を丸くする。

そのフォースはラウンドフォースより少ない三本のコントロールロッドが付いているのだが、

鉤爪のようなアタッチメントが付属していおり、先端が動くようになっている。

フォースをぶつけるだけでなく、敵機を保持して自ら喰らい付くようだ。

それは非常に攻撃的な形状をしていた。

 

 

「部長、これは何というか攻撃的ですね」

「しかし、耐久力の高いA級バイドに対しては有効かもしれない」

「黄レーザー凄いな。スキも多いが実現できればかなりの武装になるぞ」

「しかし、このレーザーは完璧に単機突入を前提にしているな。編隊とかは組めないな」

「青は目標追尾型だが…うーん、攻撃力が微妙かな?」

「この赤色レーザーに関してはアローヘッドの二重螺旋の方が使いやすいような…」

 

 

フォースとレーザーに注目する部局員たち。

Team R-TYPEの技術力を再確認し、少々気後れしているようだった。

が、そこは研究者魂に火がつくところである。

ライバルが良いものを造っているのを見て奮起しない者は研究員ではないのだ。

 

 

「部長。このフォースは何ていうのですか?」

「仮称では、アンカーフォースだそうだ」

「アンカー…錨ですか」

「なんかカッコいいな」

「なんか、俺達の作るケルベロスが攻撃性において負けている気がする。面白くないな」

 

 

こうしてウォーレリック社内部で、Team R-TYPE打倒の思いが共有されたのだった。

 

 

***

 

 

Team R-TYPEでもウォーレリックの考えた本体案を検討していた。

 

 

「なんだか、中身は普通っぽいな」

 

 

新型R機の素案を見た研究者の一人の声を聞いて、

Team R-TYPEの面々が集まりだした。

R機(やフォースやバイド研究)に異様な情熱を注ぐ彼らにとって、

いい話のネタなのだ。

 

 

「中身はR-9Aの焼き直し版だな。よく言って改良程度だ」

「波動砲コンダクタの形状が変わっているな…ライトニング波動砲?

あれ、これ波動エネルギーを一度電力様エネルギーに変換しているな」

「本当だ。なんでわざわざ…。一応ほんの少し波動エネルギーが乗っているから、

物理的に破壊できていれば消滅させられるけど、打撃力不足じゃないか?」

「あ、コンセプトがあった。えーとなになに、波動砲に追従性を持たせ、

非フォース装備状態での攻撃力を上げ…ってフォースないのが前提かい」

「高出力機だが……燃費はどうなんだ?」

 

 

Team R-TYPE班員がわいわい集まって好き勝手に批評する。

容赦の無い批評で有名(うらまれている)研究者達なので、部外者には容赦なかったが、

発想が気に入ったのか、追撃の手は緩い。

 

 

「班長。この機体は何ていうのですか?」

「ウォーレリック社部局長曰く、ケルベロスだそうだ」

「ケルベロス…地獄の番犬ですか」

「ふっかけてくるな」

「なんだか、我々の作ったアンカーフォース無しでもやれるぜ。っていわれている気がする。

面白いじゃないかこの勝負受けて立とう」

 

 

***

 

 

両者の打ち合わせ後、研究期間が持たれたが、

お互いをライバル視し始めていたTeam R-TYPEとマクガイヤー社は、

相手に舐められてたまるかと、良く分からない何かと戦いながら研究を進めていた。

 

「コントロールロッドで制御しきれないから、機体側のフォースコンダクターを改良しろ? 冗談だろ。」

「切り離されているんだから、問題はフォースコンダクターでなくて、ロッド側の容量だろ」

「暴走して自機を襲ったりしないだろうな。これコントロールしきれるのか?」

「俺達のケルベロスに対する挑戦と見た!」

 

 

***

 

 

同時刻のTeam R-TYPEでは……

 

 

「うお、また主機の出力を上げてきやがった」

「ライトニング波動砲を強化するために大きな動力が必要になるらしい」

「あいつら今までの開発を知らない分、むちゃくちゃにぶっこんでくるな」

「フォースコンダクターのスペースも押されているな。フォースより波動砲を主眼にしているらしい」

「おのれウォーレリック。絶対に我々のアンカーたんの有用性を認めさせてやる!」

 

 

***

 

 

“第9回R-13開発打ち合わせ”とかかれた案内板がある会議室。

その会議室はなぜか軍の基地内部におかれていた。

両者が白熱しすぎたため、ジャッジが必要となり間を取り持つ形で軍が割って入ったのだ。

 

 

会議室は熱気、というよりは執念に満ち溢れていた。

長い会議卓を挟んでウォーレリック社とTeam R-TYPEの面々が顔を合わせている。

第7回打ち合わせでケンカにまで発展したため、両社を取り持つべく呼ばれた軍の開発局の人員は、

そっとため息をつくと、開会を宣言した。

 

 

「では、第9回次期R機開発打合せ会議を開催します。まずは開発報告から」

「はい、ウォーレリック社開発部リーダーです。資料の4ページからご覧ください。

前回からの改良点としまして、ライトニング波動砲における高機動時の追従性能の強化と、

自機発射ミサイルを波動砲システムが目標と認識するシステムバグの改良が行われ……」

「次はTeam R-TYPEからお願いします」

「はい。では資料は87ページです。まず、コントロールロッドの目標保持性の改良として

アームの脆弱性の是正を行いました。また、高ドース時の対応として……」

 

 

双方から研究成果が上げられ、質疑応答が終了する。

嫌な沈黙が流れる。理由は全員が分かっている。

フォースのコントロールについてだ。高ドース時にフォースが暴走する事故が相次いでいるのだ。

対応策も分かっている。フォースの拘束をきつくすればいいのだ。

問題はどうやってそれをクリアするかだった。

軍の開発局もこの話題に触れたくなかったのだが、

この問題が解消されない限り、R-13は欠陥機になってしまう。

 

 

「前回打ち合わせからの引継ぎ事項ですが、フォースの暴走回避について、意見は?」

「Team R-TYPEとしては、機体側のフォースコンダクター出力を増幅して、抑える方法を提案する」

「ウォーレリック社としては、コントロールロッドの性能強化による事態の収束を考えております」

「……」

「……」

 

 

互いに、自分の担当分野を100%生かす為に、

フォース暴走の処置について押し付けあうこととなっている。

 

 

「これ以上コントロールロッド強化は無理だって言っているだろ!」

「ふざけんな。要求されたフォースコンダクターだと機体重量の20%に及ぶんだぞ。そんなスペースあるか!」

「波動砲関連でスペース使いすぎだろ。だいたい、なんでライトニングだし!?」

「ああ゛!? フォースなんてオマケなんだよ。波動砲こそが正義だ!」

「ざけんな!フォースが無かったら単機突入型のR機なんて只の的なのだよ。フォース舐めんな!」

 

 

また始まった似たもの同士の痴話喧嘩に軍の開発局員は、盛大にため息をつく。

意固地になっている双方を解きほぐして、打ち合わせを生産的なものにするのは骨が折れるのだ。

暫く現実逃避しても、まだ両者はフォースのコントロール強化装置をどうするかで喧嘩している。

またこの話題かと開発局員は頭を抱えてボソリと呟く。

 

 

「もう、いっそ有線にしたらどうです?」

「「「「え?」」」」

「え?」

 

 

会議室内の視線を全て受けることとなった開発局員は、半身を引いてたじろぐ。

不用意な発言を謝罪しようとした次の瞬間、WR社、Team R-TYPEの両者がまくし立ててきた。

 

 

「それだ。それなら送信部が無くてもいいから、コンダクタを大型化しないで負荷を減らせる」

「そうだな、有線式なら暴走前に此方でドースをコントロールできる」

「Team R-TYPEの。有線式ならば協力できるぞ。うちの開発部が開発した試作兵器に、

光学鞭という物がある。威力がしょぼくてお蔵入りしたが、有線としての機能もつけられる」

「光学チェーンか…。それなら重量も無視できるし物理的な収納場所も取らない。

なにより対雑魚用の武装としても使える。やるなウォーレリックの」

 

 

突然喧嘩が終り、二人の開発チームのトップががっしりと握手した。

またため息をつく開発局員。

 

 

「何がどうなっているのか分からない。これだから研究者は……」

 

 

***

 

 

こうして、地獄の番犬の名前を冠したR-13“CERBERUS”が完成した。

紆余曲折はあったが、軍事企業ウォーレリック社とTeam R-TYPEの共同開発(意地の張り合い)

によって開発された機体は、

攻撃力の高さを全面に押し出したコンセプトが評価され、事前テストでも高評価を得た。

 

 

そして、R-9A2、RX-10とともに次期主力機を決定するコンペティションが開催されることとなり、

前線近くの基地に集められていった。

 

 



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R-9A2“DELTA”

・R-9A2“DELTA”

 

 

R-9A2デルタは制式配備されたR-9A後任を担うべく開発されたR機である。

R-9Aアローヘッドの全長16mに比べて、デルタは9m程度と異常なまでの小型化に成功し、

試験機でありながら、実戦―サタニック・ラプソディ―に投入され、

戦果を挙げた事態の収束に成果を挙げることとなる機体である。

フォースエネルギー放出による広域破壊武装、ニュークリアカタストロフィーを装備しており、

単機突入作戦に特化した機体だ。

 

 

この後、R-9Aの直系かつ、サタニック・ラプソディ事件の収束を担った機体として、

膨大な後続機が開発されることになる機体である。

 

 

***

 

 

バイドミッション前はTeam R-TYPEの全員がここに集まって意見交換を行った物だが、

今は、デルタ班、アルバトロス班、ケルベロス班の3班に分かれてしまったため、がらがらだ。

アルバトロス班と、ケルベロス班になった研究者が、それぞれ別の研究施設に移っているためだ。

現在この基地に居るのはデルタ班のメンバーであり、広くなったラウンジや共同スペースを自由に使っている。

壁には書き込みだらけのアローヘッドの設計図やら、気合の入った図面やらが張ってある。

 

 

デルタはバイドミッションを成功に導いた英雄機アローヘッドの正統後続機とあって、

軍からの期待もかなり大きかった。

要は現場から上げられた要望がデルタに一手に集まってきたのだ。

後年のTeam R-TYPEであれば無視できる程度の圧力だが、

現在のTeam R-TYPEの実績は英雄機とはいえ、ほとんどアローヘッドとPOWアーマーのみ。

軍からの要望を突っぱねるだけの発言力はまだ無かった。

 

 

しかも、次期主力機を決定するためにコンペティションを行うこととなってしまった。

Team R-TYPEが半政府関連組織とはいえ、主力兵器の開発を

Team R-TYPEに一手にまかせるのは危険と踏んだ一派がいたらしい。

もちろん、これを快く思わないTeam R-TYPE上層部はアローヘッドでの功績を武器に交渉し、

コンペに参加する3機のうち2機で民間企業との共同開発を行い、

アローヘッドの後続機であるR-9A2は純粋にTeam R-TYPEで開発することを認めさせた。

 

 

「で? 軍からの要望は?」

「波動砲はスタンダードなものであること。フォース性能R-9と同等またはそれ以上のものであること。

機動性、攻撃力がR-9に劣らないこと。航続距離はR-9の150%以上とすること…などなど」

「もう開発の方向性は決まったようなものじゃないか。自由は何処へいった?」

「独自色出したいのだけど」

「無理。それよりコンペで負けたら事だぞ」

「一応、上が掛け合って3機ともTeam R-TYPEの血は入れて在るから。いきなり捨てられることはないよ」

「いや、まかり間違ってRX-10やR-13が制式になれば、

Team R-TYPEはフォースだけ作っていろという事になりかねん」

「フォースも面白いけど、俺はやっぱりR機が作りたいよ」

「しかし、なんだこのハンデ付きレースは」

 

 

非常にテンションが低い開発室だった。

軍の横槍によって士気が大幅に下った状態になっていた。

もともとはバイドに対抗する兵器を作るという目的のもと、

アローヘッドの開発に邁進してきて、一種の完成形たるものを作り上げた。

Team R-TYPEには、R機は自分達が1から作り上げたといっていい自負があった。

しかし、バイドの脅威が去っていないこともあり、そうそうに後続機の開発が命令されたのだが、

なまじアローヘッドの性能が使いやすい機体であったため、

現場から、仕様変更するなという意見がもりもり出てきたのだ。

 

 

「…そうはいっても、そのまま各部の改良をしただけの機体を新型として出すのは、

開発者としての沽券に関わる。軍の出した条件の中でどれだけ盛り込めるかが勝負だ」

「一応、試案では大気圏での運用を考え、小型・軽量化を推進している」

「小型化か…そうだな。出力はそのままでコンパクト路線ならいけるな」

「しかし、影薄いよなあ」

「正統発展機だからな。仕方が無い部分もある」

「「「「……はぁ」」」」

 

 

この時の苦い経験が、Rの系譜に異常なまでのバリエーションを持たせる遠因となったことは、

まだ誰も知らなかった。

 

 

***

 

 

ある日、デルタ班がフォースについての打ち合わせをしてるが、

デルタ開発班に与えられた会議室は定員割れしていた。

30人ゆうに入れる会議室に白衣が6人。

居心地が悪いのか、部屋の隅のほうに固まって座っていた。

 

 

「……スタンダードフォース一択か」

「しょうがない。指定がはいったんだから」

「はぁ。せめてコンダクタだけでも小型化しよう」

 

 

デルタの9mという全長にあわせるためにコンダクタを改良することにした。

フォースコンダクタの回路図を眺めるメンバー。

 

 

「とりあえず、短縮回路を作ってみてシミュレーション上で走らせて問題を抽出しようか」

「そうだな、隣に演算用端末もあるし、もう会議室でやればいいか」

 

 

カタカタとそれぞれが端末を叩く音だけが響く。

割り振られた部位に新しい部品を適用し、形状の最適化をし、容積を減らしては、

隣室のシミュレータで問題を抽出する地味な作業が続く。

誰とも無くボソりと呟く。

 

 

「連絡文書見てると他の班の連中楽しそうですよね」

「RX-10はテンタクルフォース、R-13Aはアンカーフォースっていうのを作るらしいぞ」

「いいな。制限無しだろ」

「R機は監修くらいだから、実質、フォースに全力投球だしな」

「用事があって、バイド素子実験室にいったら皆楽しそうだったよ」

「いいなー」

 

 

カタカタカタカタ……

 

 

***

 

 

また、ある日は武装についての会議がもたれていた。

過疎なので基本全員出席である。

デルタ開発班に与えられたいつもの会議室。

心なしか、壁に貼ってあるR-9Aの設計図も傾いている気がする。

ホワイトボードにはフォースの絵が描いてあった

 

 

「今日はサブ武装の検討を行う」

「っていっても、フォースがアレじゃあレーザーだって変わらないだろう」

「ミサイル、ビットも変えるなっていわれているし」

「はぁ、また小型化する日々か」

 

 

すでに何も言わずに末端に向う6人。

 

 

ため息と入力音だけが響く会議室。

カタカタカタカタ…

 

 

***

 

 

そのまたある日、今度は波動砲の改良であるが、やっとまともに研究できそうな、

議題がでてきたので、研究員らの顔も幾分マシになっている。

デルタ開発班に与えられたミーティングルーム。

ホワイトボードには「DELTAのDはDown sizingのD」などと書かれている。

ヤケクソ度合いが上がっている。今までの研究でよほど鬱憤がたまっていたのだろう。

 

 

「さて、今日は波動砲の方針について決定しよう」

「何故会議を開いたし。すでに軍からの要求でスタンダード波動砲に決定なんだろう?」

「何時もどおり小型化か?」

 

 

そういっても今までのことから、士気は見事に最低ライン上を這いずっている。

期限を決められれば、やることはやるが、まったく効率が悪くなる。

彼らはアローヘッド開発の熱気のある現場を知っているだけに、この研究には不満だらけだ。

 

 

「なあ、こんな仕事ならココにいる意味が無いよな」

「言うなよ。毎回アローヘッドのときのように刺激的にはいかないさ」

「ぐだぐだ言っていてもしょうがない、それで、波動砲は裏技を使おうと思っているのだが」

「裏技?」

 

 

一人がいきなり振ってきた不穏な話題に残りの5人は怪訝な顔をする。

しかし、このところの刺激不足に陥っていた5人は、その話を聞くことにした。

こんな所に部外者がいるはずもないのだが、そこに居た白衣達は顔を寄せて、声をひそめる。

 

 

「波動エネルギーのループだ」

「以前、基礎技術班が発表していたやつか」

「そうだ。同じサーキットを利用して波動エネルギーを多重に圧縮すれば、

高威力の波動砲が撃てるってやつだ」

「それは知っている。たしかスタンダード波動砲だと威力と少し径が大きくなるのだったか」

「たしか今は2ループまでだけど、将来的にはもっと圧縮できる可能性があるんだったな」

 

 

案を出した男が席を立って、ホワイトボードを引っ張り出して、やる気の無い落書きを消す。

すぐにフリーハンドで簡略された波動砲の概念図を書き表した。

他の人員もやる気が出てきたようで、

それぞれ分担して良く知っているスタンダード波動砲の簡易図を手際よく書く。

 

 

「ここで、横道にそれるのだが、アローヘッドには間に合わなかったが、

拡散波動砲が開発されているのは知っているだろ。あの構造は少しの改造でスタンダードを打てるんだ」

 

 

男は、図の一部にぐりぐりと丸をつけ、その部分に赤ペンで少し修正を加える。

図の上ではたいした違いは無いのだが、開発班の人員は目に見えて興奮してきている。

 

 

「単ループではスタンダードを、2ループでは拡散波動砲を撃つようにするってことか」

「ああ、高エネルギー時だけ拡散波動砲の回路にエネルギーが流れるようにするんだ。

これによって一機で打ち分けが出来る」

「スタンダードと拡散波動砲なら破壊力はピカイチだ。

他の2機は威力より掃討能力を優先するらしいが」

「突破力が無ければRじゃない。…俺達がR機の見本を見せてやるのもいいかもな」

「面白そうだな。よしやろうか!」

 

 

今までと打って変わって研究者としての矜持を取り戻した彼らは、勢い良く動き出した。

明らかに自分達の研究物しか見えていない。

後に狂科学者、腐れ開発チームと呼ばれる彼らの鱗片であった。

 

 

***

 

 

そこにあったのは一見するとR-9Aアローヘッドであったが、

細部は更に洗練され、波動砲のコンダクタ周りが少々複雑になっている。

しかし、アローヘッドと比べると2/3のサイズになっており、相対的にフォースが大きく見える。

 

 

R-9A2“DELTA”は今、他の2機試作機とともにデッキに並んでいる。

名目上は試作機であるのだが、すでに実戦投入が決定している。

コンペの準備をしている間に軍から緊急の連絡があったのだ。

不測の事故が起きたため、試作機を全機、実戦投入する決定が為されたらしい。

軍は兵器の暴走事故といっていたが、上層部からの情報ではどうやらバイド関連らしい。

 

 

自分達が手がけた機体が英雄となるところを想像し、Team R-TYPEはほくそ笑んだ。

 



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TP-2“POW Armor”

⊿繋がりという事でパウアーマーです。



TP-2“POW Armor”

 

 

 

「諸君、我々Team R-TYPEの研究も実り、R-9の実戦投入は確実となった」

 

 

Team R-TYPEに与えられた会議室には白衣やら、ツナギやらを着たメンバーが揃っていた。

プロジェクトリーダーに代わってサブリーダーが進捗を報告する。

バイドミッションにあわせて、地球圏の技術の粋を結集して作った次元戦闘機R-9は、

不幸な事故など多くの試練を乗り越えて、無事に最終試験を潜り抜け、

対バイド戦の切り札として採用されることとなった。

その説明に今までの研究の成果が報われたと沸き立つTeam R-TYPE。

 

 

「今回皆にここに集まってもらったのは、この報告のためだけではない。研究4班議題を」

「はい。研究4班リーダーです。問題が上がりましたのはアイテムキャリアーです」

「アイテムキャリアーって、4斑が研究していた移動式コンテナか?」

「ええ、短期突入作戦ではR-9の武装やエネルギーを補給するための資材が必要になりますが、

速さが命の突入任務に補給部隊を従属させるわけにはいきません。

したがって、補給コンテナを配置することとなるのですが……」

「難航していると」

 

 

補給方法が確立しなくては、バイドミッションの成功は非常に難しくなる。

バイドに押される一方であった人類がやっと可能になったバイドを押し出せる作戦である、

これを成功させなければ地球圏に未来はない。そういう思いが研究員達の旨にはある。

Team R-TYPEは全員がこの欠点を補うべく、研究者が集まり色々な案が策定された。

 

 

***

 

 

・定点浮遊式

 

単純に補給物資を封入したコンテナをばら撒いて配置するだけのもの。

その場に浮いているだけで、特にアプローチをしない。

メリットとしては単価が安く、任務の邪魔にならないこと。

しかし、少しのルート変更で無用になるなど、只のコンテナと変わらないため却下。

 

 

・熱源誘導式

 

良くある追尾式のミサイルなどと同じように、R機を追尾する。

しかし、何らかの原因でこれらを破壊せずに無視すると、

ミサイルのようにアイテムキャリアーが後方から山と押し寄せ、

R機が追い立てられるような格好となったため失敗。

なお、複雑な行動ルーチンを組み込んだ物は、バイドを誘引してしまい、

バイド化の憂き目に遭った。

 

 

・有人式

 

比較的有望な案であったが、人間を搭乗させるとこれもバイドを強力に誘引し、

かなりの高確率でバイド化することと、敵地に送り込むことが困難なこと、

パイロットの回収がほぼ不可能であることから、見送られた。

 

 

これらの案を見た研究者達はうなり声を上げて、首を普ひねる。

 

 

「失敗、失敗、失敗…どうするんだこれ?」

「初めからフル装備っているのはダメか?」

「今までの調査からかなりの長距離ミッションになることが分かっている。

補助装備だってエネルギー喰うんだ。初めっから装備していたら肝心なときにガス欠になる」

「どこか中継基地を……」

「それを作るだけの時間も、維持する戦力もない。

木星圏要塞ゲイルロズも冥王星基地グリトニルも、

攻撃衛星アイギスもバイドの勢力圏だ」

「一定以上の複雑さを持ったデータは積極的にバイドを寄せ付けるからな」

 

 

こうして、最終的に採用されたのは徹底的に単純化された思考ルーチンに基づいて、

敵地に侵入し、回航するタイプの無人機だった。

 

 

閉所まで潜り込めるようにスラスターだけでなく脚部を取り付け、

内部の資材を保護するため、外圧に強い球体をベースにデザインする。

アイセンサー部分はR-9の武装で容易に壊れる様にする。

飛行経路は、プログラムを長くするとバイドを引きつけるため、

極限まで単純化し、基本的には一定距離進んだ後、回遊モードに入る程度となった。

最低限の武装した、名称はPOWER-UPアイテムのキャリアーということで、

POW Armorとなった。

 

 

このパウアーマーはバイドからの攻撃を避けるために、

バイド素子を低活性状態にしたものが封入されている。

もちろん補給物資が汚染されないように、厳重に他の構造に接触しないように隔離された。

これによって、低速で回航するだけであれば、バイドからの攻撃を受けることは無いのだ。

バイド由来兵器であるフォースが積極的にバイドの攻撃を受けない現象を

ヒントに考案された苦肉の策だった。

 

 

パウアーマーの外装にはR機の攻撃に反応して全体が破壊されるように、

爆発物質が含まれている。

これは戦場に置いて悠長に補給していられないR機のために、

即時に補給物資を展開しなければならないからだ。

また、バイド素子を利用しているためにその処理には厳重かつ単純な

安全システムが採用され、バイド素子が内部構造に接触すると、

POWの動力が暴走させ、爆散する用にプログラムすることとなった。

 

 

***

 

 

検証不足での実戦投入は、劣勢時特有の事象である。

押し寄せるバイドを、投入したてのR-9でなんとかしている状態であるので、

しょうが無い面もある。

そんな理由で、Team R-TYPEを出たパウアーマーは、多量に戦線に放流した。

 

 

「なんとか生産まで漕ぎ着けたな」

「ええ、ただ……仮想実験でR機との衝突事故が絶えません」

「バイド化しているのかね」

「いえ、思考ルーチンの問題のようです」

「すでにバイドミッションの期限は迫っているし、これ以上の改良は無理だろう。

あとは、最精鋭部隊R-9大隊のパイロット達の腕に賭けよう」

「はい」

 

 

無人アイテムキャリアーの捨て身の支援によって、一機のR-9がバイドミッションを完遂し、

バイドミッションの隠れた功労者として認められることとなった。

しかし、その影で多数のR-9がパウアーマーの手によって葬られていった事は、

色々な事情で伏せられた。

 

 

***

 

 

バイドミッションが成功に終わった後、Team R-TYPEでは今まで先送りにしてきた

開発兵器の総反省会が行われていた。

 

 

「これより、バイドミッション総反省会を行う」

 

 

未だに浮かれた状態のままの研究員達が格納庫に集まっている。

普段は会議室や研究室での話し合いが主だが、

今回は実機を前にしての反省会ということとなった。

格納庫にはR-9Aや策敵機のR-9E、パウアーマーがならんでいる。

会議で、この作戦で明らかになった問題点や現場からの要望書を読み上げては、

簡単な検討を行ってゆく。そしてパウアーマーの番になったとき。

 

 

「作戦前も懸念されたことですが、

パウアーマーによるものと思われる事故が多数発生しています」

「アレ……か」

「ええ、アレです」

 

 

もちろん、R-9Aとパウアーマーの衝突事故の事である。

一応事前に想定されていたが、パイロット任せの解決案で、

開発を通したのだが、実際に頻発していた。

 

 

「今回のバイドミッションに投入されたR-9大隊30機の内、

3機がパウアーマーとの接触で、作戦遂行不能に陥っています」

「1/10かなかなか撃墜率が高いな。パウは」

「いっそR機を大型化してコンテナを廃したほうがよくないか?」

「しかし、大型化すれば被弾率も高くなるし、他にも問題が……」

「やはり、回遊式コンテナはダメかな」

「POWは本当に必要か? 補給が心配なら戦艦なんかを母艦として、

突っ込ませた方がよくないか?」

「POWの造形はいいんだが、ちょっと受けを狙いすぎじゃない?

所詮R機の引き立て役だろう」

 

 

大きな声でワイワイ騒いでいたが、その反省をその後に活かすかと言えば、

そんなことはなかったという。

 

 

***

 

 

そんな、Team R-TYPEの研究員達が騒ぎ疲れてお開きになった後。

格納庫には明りが一つだけ灯っていた。

昼間からの騒がしさは何処へいったのか、今は小さな声でも良く響くほど静かだった。

R-9Aの台車に寄りかかって煙草をふかしている一人の老整備員と、

ワラワラと機体の影から出てくるツナギ姿の人影。

 

 

「親方。俺虚しいッス。俺達が魂を込めて整備したパウが馬鹿にされるなんて……」

「パウ達は身体を張って任務を果したのにあの言いようはないよな」

 

 

頭にバンダナを巻いた若い整備員が顔をくしゃくしゃにして言うと。

年かさの整備員が言葉を引き取る。

何処から沸いてきたのか、老整備員の周囲には、

いつの間にかツナギを着た整備員達が屯していた。

パウアーマーの整備を担当した整備員達である。

 

 

あの研究員達はパウの可愛さが分かっていないだの、

支援機あっての戦闘機だろうだの、

俺の整備したパウは全機帰ってこなかっただの、

今度は支援機じゃなくてR機の整備をやりたいだの……

 

 

整備員達は口々に愚痴を吐きはじめる。

その中で、黙って彼らの愚痴を聞いていた老整備員は、

煙草をもう一呑みすると、指先で火を揉消してから足元の空き缶に捨てる。

 

 

「お前らの仕事は愚痴ることじゃねぇだろ」

 

 

老整備員の声は決して大きくないが、煙で燻されて

ほど良くしわ枯れた声は不思議な存在感があった。

しかし、かっこよく決めていても、ツナギに縫い付けられた

パウのワッペンが色々と台無しにしている。

周囲の若い整備員達は少しバツの悪そうな顔をした後、そんな老整備員を仰ぐ。

そして、言われっぱなしで気がおさまらない整備員は、どうすればいいのか尋ねる。

老整備員は胸ポケットから新しい煙草を取り出すと、

火をつけ、肺深まで最初の煙を吸い込んでから話す。

 

 

「俺達の仕事は、作戦の成功率を少しでも上げるように整備をすることだろう」

「しかし、整備が出来ても、あいつらの決めたコンセプト以上の事はできません」

「普通の整備は機体の性能を100%引き出すことだ。

しかし、俺達はプロの整備だ。120%を引き出せる整備をしろ!」

「120%ですか?」

「前に言ったとおり、俺はこの作戦を最後に身を引くが、お前らは次もある」

 

 

老整備員は煙草を消すと、後は任せたと言って格納庫を出て行った。

残された若手らは名残惜しそうにその後姿を見送った後、

ポツリポツリと話始める。

 

 

「親方の言葉、パウの機体性能以上の事をできる様にしろってことだよな?」

「俺らのパウが性能以上にできる整備ってなんだ」

「とはいっても、あの条件下でできる最高の整備をしたぞ。これ以上何を?」

「前提条件に縛られているから120%にならないんじゃないか?」

「……なあ、パウアーマーの1号機はまだ残っていたよな」

「ああ、確か保管用……何かやるのか?」

 

 

年かさの整備員が誰とも無く質問をする。何かを思いついたようだった。

そしてボロボロになった仕様書を捲り、ある項を指し示す。

それを見ていた周囲の整備員は、彼が何をするかを察知した。

 

 

整備員達の目が暗がりで光り、工具を手に立ち上がる。

誰かが走って青写真を持ってくる。

イイ笑顔の男達が格納庫の奥に向っていく。

年かさの男が呟く。

 

 

「誰がパウでバイドを殲滅してはいけないと決めた?」

 

 

この夜以降、R-9の予備部品が消えたり、

一部の(POW教に入信させられた)Team R-TYPE研究員が、

怪しげなフォースや波動砲を作っていたりするのが目撃されている。

 

 

そして、一年後。

新規制式R機コンペティションが開かれるはずの基地では、

R-9A2、RX-10、R-13Aのカタパルトの後ろに隠れるようにもう一機……

 

 

後に整備員の反乱と呼ばれる事件であった。

 

 

 

 

 

 




時々、POWはこっちを見えていて
突っ込んで来ているんじゃないかと思うことがあります。


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RX-12“CROSS THE RUBICON”

⊿後の話です。
改稿前はパウアーマーの前になっていましたが、
読みやすさ優先で入れ替えました。


RX-12“CROSS THE RUBICON”

 

 

 

投下型局地殲滅ユニット・モリッツGの暴走から始まったサタニックラプソディ事件において、

R-9A2デルタとRX-10アルバトロスは任務達成後無事帰還、

R-13Aケルベロスは任務達成後に未還となった。

 

 

R-13Aケルベロスが未還機となったのは、その開発番号の所為だ。

そもそも「13」とは、西洋発祥の宗教において悪魔の数字であり忌み数であり、

地球連合軍が良く兵器の愛称に使用する北欧神話においても、13は最終戦争を連想させる数である。

一部の噂好きな人間の間ではそんな話がもてはやされていた。

事実、前世紀の兵器においても開発番号で13を付けるのを避けるために、

12に次ぐナンバーに、14や100を当てることも合ったらしいので、

もはや習慣として忌避感を持つ数なのかもしれない。

宇宙を行動半径としてからもなお、験を担ぐという事は、生死をかける軍人には重要な事柄のようだ。

 

 

実際の所、R-13Aケルベロスの未帰還の理由は、その波動砲の性質にあったとされている。

僚機デルタ、アルバトロスとともにバイド反応を追跡し、異相次元にまで乗り込んでの決戦の後、

フォースを喪失し、波動砲を電気エネルギーに変換していたケルベロスは、

波動砲だけでは異相次元の壁を打ち破れず、異相次元に取り残されたと推測されていた。

異相次元の壁を突破するのにはフォースか、強力な波動エネルギーが必要になるのだ。

 

 

この事件以来、R-13Aという機体番号は欠番になっていた。

 

 

その後もバイドの脅威は消えず、R-9シリーズは波動砲の改良をメインに順調にロールアウトしていたが、

この事件の余波として、高いバイド係数フォースを持った特殊機についての研究は足踏み状態であった。

R-13Aが欠番として存在を封印されたため、その成果たるフィードバックが得られなかった事と、

R-13Aの失敗にかこつけて、軍が高バイド係数フォースに関する研究を制止していたためだ。

 

 

***

 

 

サタニック・ラプソディの記憶が、人々の間で過去のことと処理され始めた頃。

Team R-TYPEで一つの開発プロジェクトが立ち上がった。

表向きはアルバトロスの特殊フォース運用機を改良したものとしてあったが、

実際にはR-13Aから研究が止っていた高バイド係数フォースの流れを汲んだ機体であった。

 

 

ケルベロス以後頓挫した、新たなフォース研究のために開発される機体だ。

Team R-TYPEの研究施設内でこっそりとこんな会話が持たれていた。

 

 

「さて、このプロジェクトは軍が圧力をかけて研究を妨害している高バイド係数でのフォース運用機についてだ」

「リーダー。R-13の流れを汲んだ機体開発は、軍から圧力掛かっているのに大丈夫なのですか?」

「書類上はアルバトロスの発展系としておくし、機体番号もR-13系ではなく、R-12系としておく。

まあ、若手にはあまり勧められん手段だが、こういう手段を学ぶのも研究者を続ける上では有用だ」

「何気にアルバトロスのテンタクルフォースも実用化されたなかではバイド係数が高めだからな」

 

 

リーダー格の中年男が、まだ若い長身の男に教え込むように言う。

それを補足するのはもう一人の中年太りの男だ。

どうやら、中年二人は若手の研究員に経験を積ませることも目的らしい。

 

 

「そういうことだ、アルバトロスはデルタと同じく英雄機だから軍部の覚えも目出度い」

「RX-12が晴れて結果を出せば、高バイド係数フォースの安全性も喧伝できて、

それに続く機体としてR-13系列の復活もありえるわけですね」

 

 

ここで顔を合わせて、黒い笑いを浮かべる3人の研究者達。

リーダーは企画書作成に端末を叩き、中年太りともう一人の若い研究員が開発準備を進める。

若手も作業自体はスムーズに行う。その少し汚れた白衣から完全な素人ではないことが分かる。

 

 

「では、そういう方針で計画書を策定して、案を上げようか」

 

 

***

 

 

会議机でまた例の3人が打合せをしている。

R機の設計は、基本構造がテンプレート化した事に合わせて、

少人数でのチーム編成を実施している。

リーダーと小太りの男は貫禄のある40~50代の男性だが、

もう一人の若手は少し汚れた白衣を着た20代なかばに見える若い男であるので、

どうみても、3人チームでなく、2人の研究者と助手といった感じだった。

若手がリーダーに質問をする。

 

 

「リーダー。フォースはアンカーでは無くテンタクルの発展系ですか?」

「ああ、いきなりケルベロスと同じアンカー型では軍が過敏に反応するだろうし、

テンタクルフォースのフォースロッドは防御に優れていて非常に優秀だ」

「あ、そうそう、名称だけはパイロットから不評であったから、別の名称を考えよう。

生物系の単語はバイドを連想させるから、避けるべきだろうな。若手君、何かいい案はあるか?」

 

 

若い白衣の男は少し考え、参考となるテンタクルフォースの図面を見ると、

幾らかの単語を口の中で呟き、そして、リーダーに回答した。

 

 

「特徴はアーム部分……フレキシブル、フレキシブルフォースでどうでしょう?」

「フレキシブルフォース。いいな、それでいこう。特徴を上手く捉えていて、嫌悪感も誘発しない」

 

 

そのまま、フォースの培養方法、通称「餌やり」方法の検討を続ける三人。

エネルギーやバイドルゲンの与え方で、バイド係数や性質の違うフォースが生まれるが、

今の所試行錯誤でしか、新しいフォースを生み出せないので、

ともかくトライ&エラーで実験を続けることとなった。

 

 

「ともかく、形状はテンタクルフォースに近くするが、アンカーフォースに近いバイド係数を目指す」

「これが成功すれば、アンカーフォースの再開発をするにも安全であると言いやすくなる。

若手君もやりたいだろう? 君も一部手がけたR-13系列を」

「そうですね、思い入れはあります。出来ることなら開発に関わったR-13Aにもう一度日の目を当てたいです」

「ウォーレリックの開発班も可哀想だな。あの一件だけで軍から干されるとは」

 

 

そのまま、あれこれと開発の内容を詰めていった。

フォースをそれなりに開発方針を決めて、一時休憩を挟んだ後、

そのまま同じ席に座ると今度は波動砲についての検討が始まった。

 

 

「圧縮炸裂波動砲?」

「そう、もちろんループ機構はつける」

「Team R-TYPEで開発していたものですか?」

「そうだな。軍からは堅実な機体ばかりもとめられていたので、実装できなかったが、

幸いにRX-12は実験機だからな」

「冒険をするならまとめて。ですね」

 

 

中年太りが若手に波動砲の案を説明する。

適宜、話題に反応してくる若手が面白いらしい。

ギラギラした目を見る限り研究的な野心もあるようである。

 

 

「この結果によっては他の機体につけてもいい。正直フォースとレーザーが期待通りであれば、

波動砲はそこまで性能は問わない。それに実験機だからな。最強の機体を作るわけじゃない」

「高バイドフォースのテストが受け入れられたら、次はR-13のライトニングの再実装に向けた研究なのでは?」

「一応ね。私としてはいいデータがでたなら、圧縮炸裂波動砲をこのまま使ってもいいさ」

「そういえば、辺境警備隊や警察がこの技術を使っていたような気が……実験段階だったか?

レスポンスが悪いから情報が伝わってこないな、あそこは」

「射程が短いから警察としては使い勝手がいいのでしょうか?」

 

 

***

 

 

研究班でフレキシブルフォースと波動砲、新たなR機の研究を続けていたある日。

 

 

「あ、サブリーダー、技術員がおかしなことを言っていると報告書が来ています。

技術員はフォースをずっと見ていると色盲症状がでると」

「色盲? どんなだね」

「イエロー以外の色覚が非常に弱まり、特にブルーは全く認識していません。

まるで周囲が黄昏時のように見えるとのことです」

「ふむ、サリンなどの神経毒を服用すると、瞳孔が窄まり黄昏時のようにも見えるというが」

「瞳孔収縮はみられません。そのた毒物や薬物判定も検出されていません。

リーダーの指示で再度バイド係数の精密調査を行っていますが」

 

 

その時扉が開いてリーダーが入ってくる。何故か防護服を着てヘルメットを手に持っている。

何事かと、若手と小太りが不審な顔をする。

 

 

「いやー参った参った。あの技術員フォース培養するときに防護服を着ないでやっていたらしい」

「まさか、バイド汚染ですか!?」

「まあ、簡易式で検出できないほど係数が低くて外部にも拡散してないみたいだけど、

ちょっと区画の除染を命令してきたよ。これ研究者の仕事じゃないよ」

「では、先ほど若手君から連絡のあった色盲もバイド素子が悪さしたせいかな」

「らしいな。何にせよ内部で処理できてよかった。

これで軍の連中に知れていたら、高バイド係数の実験なんてできなくなる所だった」

 

 

中年同士がそんな事件の顛末を語り合っていると、若手が質問をする。

 

 

「リーダー、その技術員はどうするのです」

「実験隔離区画に入れてあるけど、基礎技術班に渡して経過観察かな」

 

 

なんともいえない白々しい雰囲気が漂っていた。

確かに今件自体は誰も予想していなかった事態だが、起こったからには、

三人ともが人間のバイド化について見てみたいと思っていることは確実だった。

 

 

「事故だから仕方が無いですよね。経過観察も仕事ですし」

「危険性は説明していたし、防護服の着用も義務付けていた。軍も強くは言えないさ」

 

 

この事件の後、技術員は失踪したと事務処理された。

軍にも処理済事項としてやんわりと伝えられたが、

明らかに技術員の不手際が原因であるため強く言えず、闇から闇へと処理された。

実際にはR機の実験班ではなくバイド素子の性質の研究など、基礎研究を行う部署に回された。

これが前例となり、後々Team R-TYPEの常套手段となってゆくこととなる。

 

 

***

 

 

新たに実験デッキに配置された機体はRX-12。

アズキ色の機体色に、黄色いコックピット。自然界における警戒色の様だ。

後方のフォース置き場には、オレンジの明るい光を放つ直系5m球体に、

2本の細い鎖の物体が付随し、床にとぐろを巻いた状態で保管されている。

機体の毒々しいカラーリングがフォース置き場から漏れ出る琥珀色の光に照らされて、

なお一層不気味だった。

 

 

RX-12は“CROSS THE RUBICON”

「ルビコン川を渡る」という名を付けられた。

後戻りのできないような重大な決断をすることの例えとして、使われる慣用句だ。

整備員や技術員が作業する中、ルビコン川のギリギリこちら側で3人の研究者の話し声が聞こえる。

 

 

「これで、我々Team R-TYPEは高バイド係数でもコントロールできることを実証した」

「ああ、これでバイド自体の研究にも弾みがつく」

「それにR-13Aも、もう一度日の目を見ることがあるかもしれませんね」

 

 

フォースの光で白衣もオレンジに染まっている。

フォースと非常灯の照明のみの、暗い実験デッキで研究者がクスクスと笑う様子は、

どう見ても悪の組織の研究風景だった。

 

 

「しかし、君はなんでそんななれない敬語を使って話しているのか? 普通にしゃべったらどうだ?」

「ウォーレリックにいた頃から敬語だったか?」

 

 

リーダーと小太りは若手が前職場に居るときから知っているので、

Team R-TYPEにヘッドハンティングされて同僚となった今回から

妙にかしこまっているのが気になっていたらしい。

 

 

「いえ、Team R-TYPEでは新入りですし敬語を使っておこうかと。

あとウォーレリック社にいたころから、上司には敬語使っていましたよ。一応」

「似合わんな」

「似合わない」

「ですよねぇ」

 

 

二人の中年研究員は、研究さえできればTeam R-TYPEには敬意さえ不要であると豪語した。

 

 

「研究者に必要なのは失敗を恐れない勇気と探究心だ。それがあれば少なくとも開発班の中では敬語はいらんさ」

「そうそう、特に君はバイド…もといフォース研究がしたくてTeam R-TYPEに来たのだろう。

それだけの熱意があれば十分。我々の間では気遣いなんて無用だ」

「そうですかぁ、じゃあ今度からは地でしゃべることにします」

「そうそう、それでいい」

 

 

リーダーとサブリーダーに言われて口調を軟化させる若手。

研究の世界は完全に実力主義だ。

もちろん実力の中には政治力も含まれるが、年齢とは無縁の世界なのだ。

若手に遠慮があって、意見が出にくくなるのは全体の不利益になる。

というのが、彼らの考え方だ。要は役に立つならなんでもOKという微妙な懐の広さだ。

 

 

「あ、そうそう、君はウォーレリックでの実績もあるし、次のR-13系列の牽引をしてくれ」

「いいんですか。いきなり僕でぇ?」

「問題ない、RX-12は重要なテスト機だったから我々が当てられたけど、

今後は積極的に若手に開発班を組ませて開発することになるから。

それに君はウォーレリック社での開発経験もある」

「分かりましたぁ。バイド研究…もとい、R機開発なら人生をかけられますからねぇ」

 

 

ルビコン川の彼岸に何があるのかは分からないが、賽は投げられた。

Team R-TYPEはそこに新たな地平があることを望んで、対岸に一歩を踏み出した。

 



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R-13T“ECHIDNA”

エキドナといいつつ、ケルベロスとかルビコンの話題ばかりの回


R-13T“ECHIDNA”

 

 

※今回の話もシリアス話です。

 

 

 

「R-13Aは英雄に成りそびれたのかな、いや英雄から墜ちたんですかねぇ」

 

 

裾の汚れた白衣とサンダルを身に着けた男が大きな独り言を発していると、

暫く前に部下になったヒラ研究員が部屋に入ってきて、レホスに話しかけてくる。

 

 

「レホスリーダー、クロス・ザ・ルビコンがケルベロスのフライトレコーダーを回収したことによって、

ケルベロスのアンカーフォースやライトニング波動砲の実戦データが手に入りました」

「後は、エキドナでライトニング波動砲と有線式フォースの有用性が確認されれば、

軍もそうそう否定できないはずだからねぇ」

「ケルベロスの再配備も出来ますね」

「ええ、にしても面白いデータだねぇ。これを見られるだけでTeam R-TYPEに入った意味があるってものだ」

「レホスリーダーは、もともと機械工学の専門では?」

「生物も良いよ。ウォーレリックにいたころから色々大学に聴講しにいってたからねぇ。

特にバイドは生物と機械の中間にあるような存在だから、両方楽しめてお得だよ」

 

 

満面の笑顔で語る、エキドナ開発班のリーダーとなったレホス。

端末を覗き込むもう一人の白衣は、Team R-TYPEの若手でこのたびレホスの下についた研究者だ。

彼らは今、有線式フォース試験機……もとい、ケルベロスのダウングレード機であるエキドナの開発をしている。

ダウングレード機としたのは、ケルベロスで生じた軍内部での不信を払拭するために、

お試し版で安全を確認するためだった。

一応、ケルベロスの開発中に同名の試作機が存在したので、対外的にはそれの再検証となっている。

これが成功すれば晴れてR-13系列機の再研究が行われる予定だ。

つまり、エキドナでこけることはR-13系列が抹消されることであるので、

レホスとその部下は、ルビコンの持ち帰った情報を元に、さらに検証を行っているのだった。

 

 

***

 

 

端末にはクロス・ザ・ルビコンのガンカメラと、途中まで随行した索敵機ミッドナイトアイの外部カメラの映像が映っていた。

母艦たるヘイムダル級戦艦から発艦し、戦闘宙域を横切る形で廃棄された研究施設へ向うルビコン。

ルビコンの任務は高バイド係数フォース実験の他にバイド汚染施設の偵察も担っている。

そのため、データが取れなくなるといったことが無い様に、場合によっては退却も認められていた。

 

 

物質も疎らな宇宙空間といえども、戦闘宙域残骸などのデブリが多い。

その影に隠れて未だに太陽系に居残っている小型バイドも見かけられる。

まだ、人類の制宙域のはずだが、バイドの斥候のようなものだろうか。

突如後方から大出力レーザーが走り、小型バイドを消滅させる。

 

 

「なんですこれ、もしかして母艦の戦艦が撃ってきています?」

「どうやら、あの艦長さんはバイドの進出が気に入らないらしいですねぇ。

試験中だというのに。これだから軍人は……」

 

 

戦艦の射程から外れると、ルビコンは一路研究施設に進路を取った。

今回は高密度デブリ帯を抜けて、研究施設の入り口付近の調査を行う予定だった。

今研究中の異相次元に突入するためのエネルギーとして、旧実験設備を利用する案があったためだ。

ただし、事前に測定されたバイド係数からして、その廃棄された研究施設が、

パンドラの箱になっているのは疑いが無かったので、今回は内部には突入しない予定となっていた。

外部より調査を行い、突入路の候補を挙げることになっている。

 

 

「そろそろ研究施設付近に到着する所ですか。あと、15分くらいですか」

「一応早送りせずに見ましょう。しかし、ガンカメラの映像は見づらいですねぇ」

「さっき、ミッドナイトアイが被弾して撤退しましたからね。あの紙装甲が」

「別に良いんですよ紙だろうと。そもそも索敵機が護衛もつけずに最前線にいたり、

乱戦に巻き込まれたりしている事態は想定してないしぃ。運用の問題でしょう?」

「でもR-9Eて、試験で単機突入されられませんでしたっけ?」

「一応、機体データは必要し、当時は護衛戦力なかったし、

そもそも私はその頃Team R-TYPEではなかったしぃ」

 

 

スネイル(黄)レーザーは防御には最適だが、攻勢には弱いといった弱点がある。

これに対して、R-13Aに搭載された、ターミネイトレーザーは攻勢に強い。

レホスはエキドナの武装案を考えながら、やはりR-13系列のレーザーを実装するべきと考えていた。

 

 

論議をしている間に、ガンカメラの映像は、研究施設の誘導灯の光を捕らえた。

レホスと若手らは端末を見やる。ここからが本題だからだ。

研究施設自体が画面に捉えられる。スラスターの噴出が画面端に見えた。

ルビコンは調査を行うために速度を落とし始めている。

徐々に近づいてくる研究施設。外面はそれほど荒廃していないようだ。

ルビコンは十分に距離を保って、軽く周囲を一周している。

探知機がバイド係数を感知して警告音が流れる。バイド係数もたいした事がないが、

パイロットは悪魔が外部に漏れるのを防ぐために排除するようだ。

研究施設の周囲の衛星施設で巣食うバイドを発見し、戦闘が始まった。

 

 

ルビコンの圧縮炸裂波動砲は小型バイドに対しては圧倒的に有利で、雑魚を蹴散らしていたが、

機首方面にいるバイド以外には効率が悪いようだった。誘導性が無いため、施設内装もかなり被弾している。

この小型施設では強化外壁が採用されているようだが、通常構造物で使用すれば施設自体が潰れかねない。

レホスは端末を眺めながら、またもや武装案を思い描き、やはりライトニング波動砲を実装すべきと思った。

粗方バイドを倒し、ルビコンが衛星施設そのものを破壊しようと施設中枢に波動砲を打ち込む。

バランスを崩して自壊するはずの施設が、爆発的な光に包まれる。

 

 

「来た。問題の箇所です」

「この研究施設何があったんだかねぇ。

まぁ、メイン施設から隔離されるくらいだからヤバメの物でだろうけど」

「どう考えてもバイド関係ですよね。あ、この時刻、複数地点の観測機で次元振動を確認しています」

「虚数次元のエネルギー爆発。物理的な威力はないけど、

R機分の次元の穴を開けるには十分でしょう。図らずも次元の壁を突破だねぇ」

 

 

ガンカメラの映像はホワイトアウトしたあと、今度は真っ暗になる。

光量の調整が上手くいっていないらしい。

30秒ほどしてようやくまともな映像を映し出す。

 

 

『暗黒の……森?』

 

 

今まで、ほとんど声を発せず、試験飛行に徹してきたパイロットの声が録音されていた。

確かに何も知らされずに見れば森のようだった。

バイドの肉腫であろう構造が、植物の幹のような物が連なっていて、上下は大樹の根のようだ見える

その黒い世界は、鬱蒼とした夜の森を思わせた。

真っ暗な森に燐光のようなものが飛び交い、儚げに周囲を照らす。

なるほど、パイロットの言うとおり、暗黒の森という表現がぴったりだった。

しかし、見るものが見れば違う感想を引き出す。

 

 

「リーダー、これです。サタニック・ラプソディ事件のときにバイドコアの作った異相次元」

「えぇ、デルタやアルバトロスの持ち帰ったガンカメラの映像と同じだねぇ」

「バイドコアが吹き飛んだときに、一緒に消滅したのかと思っていました」

「ふぅん、バイドコアが吹き飛んだ後も異相次元自体は存続したんだ。

まぁ、新しいコアが出来たという事でなんでしょう」

 

 

ルビコンは暗がりを恐れるように、慎重に進む。

大量のバイドは現れず、大きな燐光のようなものが飛び出してきたり、

突然、幹のような構造が倒れてくる程度だ。

 

 

「以前確認された、あの鞭毛のようなもののついた小型バイドは現れませんね」

「データを見るにあれは、バイドコアの一部だったんでしょう。

それより、ここのバイドは攻撃性があまり顕著ではありませんねぇ」

「そういえば、攻撃されているというよりは元々こういう生態の場所にルビコンが飛び込んで行っている感じですね」

「コアが休眠しているからかもしれませんねぇ」

 

 

ルビコンは高いバイド反応に導かれるように一本の樹の元に辿り付いた。

『ケルベロス……?』

パイロットの呟きが録音されている。

R-13Aケルベロスとアンカーフォースがバイドの木の中に閉じ込められている様な光景が映っていた。

 

 

「ケルベロス、意外と変質していませんね。フォースも波動砲も健在のようです」

「いやぁ、外見はケルベロスですけれど中身はかなり違うね。

波動砲はライトニングの誘導性を失っているし、

フォースも暴走しているみたいにみえる」

「装甲キャノピーの中身は見たくないですね」

「そぅ? 僕は見てみたいんだけど」

「レホスリーダー容赦ないですね。自分が開発に関わった機体なのに」

 

 

馬鹿な話をしている内に、端末の映像は更に激しくなった。

狂ったように蠢くアンカーフォースと波動砲を連発してくるケルベロス。

対して、波動砲を回避しながら、ミサイルと波動砲をバイドの樹に叩き込むルビコン。

次第にバイドの樹も表面がボロボロになりケルベロス自体に損傷が及ぶ。

 

 

「R機といえども、バイド化が進むと耐久性も強化されるようねすねぇ」

「紙装甲のはずなのに」

「ふむ、ここらで新しい計画も出ることだし、バイド装甲というのも発想として面白そうだね」

「なんか汚染されそうな機体ですね。僕は聞かなかったことにします。

しかし、回避が優先される所為か、波動砲の命中率が悪いですね。ルビコン」

「ええ、波動砲の性質上、基本的に機首と同軸って決まっているからねぇ」

「ライトニング波動砲はやはり導入するべきですね」

「そうだねぇ、でも、他の原理で誘導性のある波動砲を

……いやいっそ分裂するというのも……」

「リーダー帰ってきてください」

「ああ、あとやっぱりフレキシブルフォースは防御性能に優れるけど、積極攻勢には向かないかぁ」

 

 

そんなことを話すうちに決着がついたようだった。

ルビコンの放った何十発目かの圧縮炸裂波動砲がバイドの木ごとケルベロスを砕いた。

機体に同調するようにフォースとケルベロスを結びつける光学チェーンが次々に弾け飛ぶ。

そして、アンカーフォースの光量が一気に上昇してゆき、再びガンカメラが真っ白になる。

重いものが倒れるような音が鳴り響き、最後に水滴が垂れるような音が録音された後、無音状態になった。

 

 

再び白い光に包まれ、映像が回復すると見覚えのある廃棄施設の外壁が映っていた。

パイロットが慌ててレーダーと機体状況をチェックする声が録音されている。

近くの友軍に交信する声も聞こえ、偵察を切り上げ、撤収することを命令する通信音声が聞き取れた。

そのとき、ルビコンの近くに漂っているデブリに気が付いたようだった。

パイロットは殆ど空になったミサイルサイロにそれを格納して、帰路に着いた。

 

 

「これが、今回の顛末ですね。ルビコンがケルベロスのブラックボックスを拾ってくれて助かりましたね。

でも、パイロットも剛毅ですよね。明らかにバイド素子の付着している物を回収するなんて」

「ああ、エキドナはR-13系列の将来を担った試作機だからねぇ。事故を起こすわけにはいかない。

だから、コックピット周りの対バイド処理がしっかりしているんだよねぇ」

「とりあえず、これを元にエキドナを?」

「ええ、だいたい方針は考えましたから、検証から入ろうか。

君も武装案を明日の午後までにまとめて来るように」

 

 

***

 

 

安全性を追求したエキドナの機体性能は、ケルベロスより一回り小さくまとめられた。

制式R機のコンペのために総力をつぎ込んだケルベロスはかなり余裕の無い作りとなっていた。

ワンオフ機体であったケルベロスとは違い、エキドナは量産もある程度睨んだ機体に仕上げることとなった。

 

 

フォースもケルベロスで採用されたアンカーではなく、同様の有線であるがバイド係数の低いチェーンフォース。

ライトニング波動砲も電気変換効率を意図的に落とし、波動エネルギー比率の高いものになっている。

異常に主機に負担をかけるレーザーも、ケルベロスのダウングレード版となった。

全力を出せない研究班は不満げであったが、レホスはR-13系列機の再研究のためと割り切り、推し進めた。

 

 

エキドナは軍の技術者やTeam R-TYPEの研究班、

さらにはウォーレリック社開発部門の派遣社員に見守られながら、試験飛行を終えた。

最先端ギリギリを作りたがる研究側に対して、信頼性を重視する現場から評価が高く、

この試験の成功を持って、地球連合軍はR-13系列開発の再推進を決定した。

 

 

ちなみに、本来はエキドナの試験直後にR-13Aの復活計画が立ち上げられる予定だったのだが、

予想外にも、再々度バイドの大規模来襲が発生し、別の計画が最優先となった。

いわゆる第三次バイドミッション、オペレーション・サードライトニングだった。

そのため、有線式フォースや電気式波動砲の実戦配備は優先順位の繰り下げを食らい、

ケルベロスの復活は、さらに数年待つはめになった。

 

 



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TW-1“DUCKBILL”

TW-1“DUCKBILL”

 

 

R-9開発段階で派生した、アイテムキャリアーの初期型機。

自走式コンテナとして開発された機体だが、あとから開発された、

汎用無人アイテムキャリアーであるPOW Armorに押されて、

今では全くの不要となっている。

唯一の利点は地上を走行するため、衝突事故が滅多に起きないことくらいだった。

POWが制式となってからはもっぱら倉庫の肥やしとなっている。

 

 

それに目を光らせる集団がいた。

POWを魔改造した整備班であった。

彼らは今、POWの素晴らしさをパイロットや開発者に説きながら、

仕事の間は、R-9などの整備作業に勤しんでいる。

その粘着質な愛情はTeam R-TYPEをして「狂信者」と言わしめたほどだった。

ただし、倫理というものを全く考慮しようとしないTeam R-TYPEと違い、

彼らの興味は機体だけであったため、周囲は人的実害を被ることはまず無かった。

軍もその活動を認識していながら、整備の士気があがるならと半ば黙認している状態である。

ちなみにパイロットからは腕はいいが変な拘りを持った一団と見られている。

開発者も整備員も、その職種自体がすでに変人の巣窟と思われているので、

本人達にしてみれば、大した違いは無かったのだった。

 

 

「整備班長、本日の整備は終わりました」

「POW No.3と26が脚部がいかれているようだったが、どうした?」

「3号は部品が寿命なので交換。26号は関節にデブリを噛んでいたようです」

「R-9AやR-9E他の整備班は終わっているな。よし、仕事終りだ」

「班長……今日もやります? エタノールは用意しました」

「ああ、何時もの場所で。今日はちゃんとした飲用酒もあるからな」

 

 

姦しい金属音の合間に、そんな受け答えが交わされていた。

 

 

R機研究施設を兼ねた大型の宇宙基地の格納庫で、

年かさの班長と、白髪の少し混じった男が言葉を交わし笑うと、

周囲にいる油まみれのツナギを着た整備員達もにやりと口元を歪ませる。

皆急いで工具をメンテナンスして片付けると、何処からとも無く、コップや氷、ツマミを搬入する。

そして、整備員達は整備用具入れの脇にある休憩室に飲み込まれていった。

 

 

***

 

 

「今日も安全に整備が終わった事に、乾杯!」

 

 

年かさの男が音頭を取ると、ワラワラと乾杯の声が響く。

暫く、今日一日の仕事を労う声が飛び交う。

高価ではないが、久々に飲用の酒を飲んで、話が弾む。

いつもは機器補充用のエタノール(精密機器の動作に影響があるので不純物はほぼない)

を、ジュースや水で割って酒盛りをしているのだが、今日は違う。

そのうちに全員アルコールが頭にまで回っていい気分になってきた。

 

 

「あいつも可哀想ですよね。ダックビル。自走コンテナは完全にお役御免ですからね」

「自走コンテナを使うと思われるのは戦車くらいだけど、

戦車が活躍するような所だと殆ど輸送車で事足りてしまうから意味無いんだよ」

「そういえば、なんで自走型のコンテナなんて作ったんですかね?」

「ああ、お前は最近入ったんだっけか。あれはPOW型キャリアーが無い頃の物だ。

第一次ミッション前はPOW無かったし、そもそも自動操縦システムが貧弱だったから、

狭所で三次元運送できなかったんだ。それでダックビルは地形の複雑な渓谷などで運用されたんだが、

POWの自動操縦機能が拡張されてから、完全にPOWに活躍の場を奪われた。

全状況型キャリアーPOWと低コストのローテク輸送車の間に挟まれて、

活躍の機会が殆どない。だからどっちつかずの“ダックビル”(カモノハシ)だ」

「なんか可哀想な奴ですね」

 

 

年長の整備員が10代の整備員に不遇の支援機の話をしているのを、

なんとなく周囲の人間が聞く。それを聞いた全員が、しんみりしてしまった。

実際POWの前に配備されていたダックビルは、どこの基地でも格納庫の奥で腐っていた。

場所によってはバラされて整備用車両の部品取りに回されている。

R機のような日の当たる世界でなくとも、なんとかしてやりたいという気分にさせられた。

 

 

「……なんとかしてやりたいですね」

「しかし、地上機というのがネックだ。限定的な不整地での活動ならともかく、他はPOWで事足りる」

「なんか腐るだけの機械ってなんだか、こう、不憫というか」

 

 

それをきいた整備員達は皆で、ダックビルの運用法を考え始めた。

はっきり言って整備員のすることではないが、

POWを有人戦闘機に仕上げたという自信がそれをさせていた。

だが、すぐに行き詰る。

タッグビル唯一の利点は重力下における不正地踏破性と

物資の積み下ろし用のマニュピレータが装備されている点だった。

このマニュピレータで前線に物資を下ろし、再び後方に戻る。

POWとは違い使い捨てではなく補給地と前線を往復する機体なのだ。

 

 

全員が首をかしげ、頭を捻って考えた結果。

整備用の汎用工作機として運用してみたらどうかという案だった。

防衛戦とあれば戦地で整備することも考えなくてはならない。

地上戦ではどこかの平地を臨時の集積地にして、整備や補給を行うことも考えられる。

その時にクレーンなど重機では作業効率が悪い。そこにマニュピレータを備えた汎用工作機があれば、

業効率が上がり、より早く戦場へR機を繰り出せる。と、いう状況を考えついた。

 

 

「整備がメインで使うなら、汎用性の高い通信代価手段を付けたいな。

通信機を持ってる相手だけでなく、光信号みたく生身の人間にも分かる奴」

「ああ、戦場で整備することもありえるもんな。

通信設備がイカれた時のために、後方の整備員に合図を送りたいな」

「拡声器はどうですか。どうせバイドに意味なんて分からないでしょう?」

「戦場が地球だけとは限らないだろう。一口に地上戦といっても火星でもエウロパ表面でも地上はある。

ついでに言うと大気がなけりゃ音は届かんぞ」

「それだと結局狼煙みたいなのが一番信頼性高いことになる」

「狼煙はともかく視覚に訴えるタイプですか。それなら人間でも分かりますね」

「閃光弾みたいなのか。あ、でも閃光は戦場で飛び交っていて判別できないか」

「それと火薬系は誘爆が怖いのだが……」

「うーん、ここにある材料で考えると限界があるな……よし、同士に相談してみるか」

「同士? ああ、彼らか。予算も潤沢だし何とかしてくれるかも知れないな」

 

 

年かさの男は今までの案をまとめながら、格納庫を出てゆく。

彼の向う先は居住区ではなく、逆方面。

Team R-TYPEラボと書いてあった。

 

 

***

 

 

「つまり、人間にも感知可能な連絡手段が欲しいのですね」

「ああ、そうだ。一応此方でも案を出したのだが、整備の手に余る物が多くてな」

 

 

Team R-TYPEのラボ近くにある相談スペース隅で、油まみれの整備員と白衣の研究者が語り合うのは、

なかなか見られない光景だった。

なお、普段Team R-TYPEの施設のそばに人が寄りつかないため誤解されがちであるが、

ここまでは軍事関係者ならば入ってこられる。

 

 

「ええ、視覚的に訴えるというのは有りですね。人間、情報の7~8割りは視覚から入りますから。

しかし、戦闘状態でも一見でそれと分かる合図。派手な色で注意を引くしかないですね」

「ああ、複雑な情報は必要ないんだ。撤退の合図だとかそのあたりだから」

「ならばともかく派手にしましょう。……いっそ花火を積んだらどうです?」

「爆薬は入れたくない。弾薬を積んでいる事も多いし、積荷を含めて誘爆したら事だ」

 

 

整備区画の側で大爆発するダックビルを想像して、顔を顰める整備員。

 

 

「波動砲のガラクタが転がっているのでそれを使いましょうか。

一般には流せないし処理に困っていたのです。ついでに自衛機能も持たせられます」

「波動砲って……主機は合うのか?」

「ダックビルの主機はPOWと同型でしょう。問題は無いです。

R-9などのは単機突入にあわせて、信頼性を高めてあるのであの出力を喰うのですが、

もともと波動砲を数回撃つだけなら余裕があるのですよ。

波動砲出力の安定性は必要ないですから。

安全回路と出力の安定化に結構出力を取られていますからね。

良くいうリミッター機構みたいなものです」

「随分出力を無駄にしている回路だと思ったが、そんなに余裕を持たせていたのか」

 

 

R機は波動砲とフォースを主力としていて、どちらが欠けても任務遂行は難しくなる。

なので、メイン武装である波動砲には焼きつきや暴発を防ぐためにリミッター機構が取り付けられていた。

物理衝撃に反応しチャージしていたエネルギーを自動的に拡散させる機能や、過重チャージを避ける回路だ。

大筋を決め、続いて細かい話を詰め切った二人は頷き合って分かれた。

 

 

「では、俺達は最前線で動くように、足回りとマニュピレータを弄くる」

「ええ、では我々は波動砲とその他の部分ですね」

「ああ、任せた同士」

「ええ、我々はPOWを世間に広める同士ですから」

 

 

***

 

 

「どうしてこうなった……」

 

 

年かさの整備員が呟いた言葉は全員の心の声を代弁していた。

そこには、数ヶ月前にTeam R-TYPEに預けたダックビル……だったものがあった。

装甲や足回りこそ従来のままだが、波動砲用の機構が取り付けられ、

さらにはフォースコンダクタと思しきものが取り付けられていて、

その先端から少し離れたところを立方体の光跡を浮かべるフォースがゆったりと浮かんでいる。

ダメ押しで、天井から垂らされたスクリーンには波動砲の試射映像が映っている。

 

 

「……たーまやーって感じですね」

「カーニバル波動砲って、どうみても花火だな」

「なんでフォースが付いているんです。あとビットまで」

 

 

唖然として、据わった目でスクリーンを眺める整備員達の横で白衣の男が軽快に笑う。

 

 

「はっはっは。ちょっとやりすぎましたね。

R機って軍部が色々イチャモン付けてくるから意外と自由にできないのですよ。

こっちは自由研究ですから色々考えていたら楽しくなってしまって」

「で、こうなったと」

「ええ、一応改良ということなので、主機とか装甲、足回りは手をつけていませんよ」

 

 

整備員達は思いだした。

自分達は決められたスペックの中で最高のパフォーマンスを出すことが仕事であるが、

Team R-TYPEはスペック自体を弄くる連中であると。

 

 

「こうなったら我々も前に進むしかないな」

「いっそ改造しまくりましょう」

「短期間なら飛べるようにしましょうよ」

「マニュピレータの感度ももっと上げて、人とかを摘みあげられるようにしてみよう」

 

 

諦めと、無理やりな前向き思考のもと、明らかに本来の目的にはそぐわない自走コンテナが出来上がっていった。

この後、暴走しすぎたため軍部にこっぴどく叱られた整備班であったが、

Team R-TYPEの一部などから(ネジの緩んだ)同士として受け入れられるようになる。

 

この騒ぎの中、Team R-TYPEの一人が「マニュピレータ何かに使えないかな」と呟いていたり、

叱りに来たはずの軍の開発局の人間が「戦車もありだな」だなどと発言したのは、また別の話。

 




次は最後の台詞の人の話


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TW-2 “KIWI BERRY”

TW-2 “KIWI BERRY”

 

 

 

「R機で戦車……ですか?」

 

 

地球連合軍の開発局の技術少尉は呆けたように聞き返す。

ここは南半球第一宇宙基地近郊にある連合軍の工廠。

統合作戦本部のあるメイン施設からは少しはなれたところにあるここでは、

軍直属の開発局とTeam R-TYPEの2つの組織が入っていて、日夜研究開発に勤しんでいる。

Team R-TYPEはR機とフォースを開発し、軍の開発局は主に艦艇の開発に携わっている。

本来なら、組織を一本化するべきという声が大きかったのだが、

Team R-TYPEの成り立ちの特異性から軍に組み込まれる事を嫌がったため、このような形となった。

ちなみに、特に危険を伴うフォースの研究施設は宇宙施設に隔離されている。

 

 

「そうだ、少尉。ダックビルという支援機をしっているな?」

「はい、少佐。整備支援機ですね。たしか元は最初期の自走コンテナであったように記憶していますが」

「ああ、はねっかえりの整備達が改造してしまったのだが、あれらの有用性は中々見所がある。

陸上機というコンセプトも有りではないかと思ってな」

「それで戦車ですか。しかし、R機はTeam RTYPEの開発ではないでしょうか?」

「こんな所で、縄張りを主張しあっても始まらんさ。

もともと、この区分けはフォースの取扱を限定したかった軍部と政府の意向だ」

「ああ、確かに軍にも技術自体はありますから、出来ないはずはないですね」

 

 

民間のノリの強いTeam R-TYPEと違い、開発局は完全に軍の影響下にあり、

指揮権はないが研究者にも階級もある。

技術職ではあるので、規律自体は五月蝿くないし、

格好も戦闘職のものとは細部の違う軍服を着ている。

 

 

「しかし、戦車とはどういうコンセプトでしょうか?」

「地上、特に施設防衛に特化させる。R機が出来てから陸軍の主力は旧式戦車だが、

なにしろ構造上、限界に突き当たっている。砲の口径もすでにこれ以上は大きくならない」

「ええ、あれは主砲がレールキャノンですので、R機だったら予備武装あつかいです。

あれじゃあ弾幕でも張らないと、小型バイドだって落としきれない性能ですものね」

「ああ、構造的に限界なら、主砲に波動砲を応用すればいい」

 

 

基本的に地球連合軍の対バイドドクトリンは時間稼ぎとR機による敵中枢の破壊だ。

宇宙基地・艦隊での遅滞戦術によってバイドの侵攻を遅らせている間に、R機で敵中枢を破壊する。

小規模侵攻では都市・基地等の拠点を防衛では、無人機や防衛隊によって時間稼ぎをする間に、

専用基地に集中配備されたR機や宇宙母艦を急行させて、バイドを殲滅する。

大規模都市では都市警備隊が常備されるが、その戦力の多くは時代遅れの砲台や戦車だ。

 

 

 

連合軍でも、辺境基地などにおいては未だにR機の配備が遅れていて、固定砲台による迎撃がメインだった。

R機の定数を満たしているのは統合作戦本部のある南半球第一宇宙基地くらいだ。

ちなみに、Team R-TYPEの実験機が多くを占めるので、この基地の防衛隊はR機博覧会の異名を取る。

ちなみに、極端に影が薄いが、一応、連合陸軍と海軍は存在する。

体質的に宇宙環境に適正がなかったり、何らかの原因でR機に乗れない者が配属される場所である。

 

 

「陸戦用の機体案を幾つか考えてみたのだが、やはり戦車型が良いだろうという結論に落ち着いた」

「しかし少佐。R機であれば戦車にしなくてもいいのではないでしょうか?」

「少なくとも運用するのは連合陸軍の将兵になるだろう。感覚的にも直ぐにはR機に対応できない。

それならば、いっそ戦車型の方がいい。拠点防衛用ならば必要以上の運動性は必要ない」

「陸軍保守的ですものね」

「いや、海軍よりはマシだろう」

 

 

設計資料を集めますと言って、少尉は少し崩れた敬礼をして資料室に走っていった。

それを見送った壮年の少佐がひとこと。

 

 

「Team R-TYPEにばかり美味しい所を取られてたまるか」

 

 

こうして、軍の開発局で戦車型R機の開発が始まった。

 

 

***

 

 

この少佐はどうやってか予算を引っ張ってきた後、部下の少尉を引き連れて設計室に篭る。

設計思想のすり合わせだ。

 

 

「少佐。無限軌道でしかもスラスターの性能オマケ程度です。何故飛ぶのです?」

「不正地障害物を迂回するより、飛んだほうが早い。戦闘機に張り合うつもりは無いが、

最低限の機動性は必要だ。このシミュレータを見ろ」

「物理演算シミュ? 戦車が飛んでる。なんというか……異様な光景ですね」

「ザイオング慣性制御システムのちょっとした応用だ」

「ああ、自重分の重力加速度を打ち消しているのですね。

しかし、なぜ地上機にザイオングシステムを?」

「戦車の制動はかなりパイロットに負担になるので、衝撃緩和のためにつけた。

どうせ付けたのなら利用しない手はないだろう」

「ええ、でも飛びっぱなしにすると直ぐに冷却系がイカレそうですね」

「それは仕方が無い。下方スラスターは緊急回避か障害を乗り越える程度だ。

そういえば無重力下では逆に上方スラスターで機体を押し付ける必要があるな」

 

 

映像を見ながら、仕様書の数値を簡単に検算する少尉。

その間に少佐は解説を続け、少尉が疑問をぶつけるといった具合で作業は進んでいった。

ちなみに、この開発局には複数の室があるが、陸戦兵器開発室は冷遇されているため、

設計者は二人しかいない。室長の少佐と見習いの少尉だけだ。

開発局の華である戦艦の開発室などは、第一から第三まで室が3つもある上に、各種分室を従えている。

少佐はそんなことは知らないとばかりに、ダックビルの本体を基本として、戦車型のR機の設計図を仕上げていった。

 

 

「主砲はどうしますか? 現状を見るとレールキャノンでは間に合いません」

「50口径は越えないと、メイン武装としては難しいな」

「戦車であれば実弾ですよね。反動が酷いことになりそうですが。

ザイオング慣性制御システムはイレギュラーな加速度に対する反応性は余り良くないです」

「衝撃緩和くらいはできるだろう。あと試作機段階で試射をしまくって反動データを蓄積、

実戦機では主砲発射とザイオングシステムを連動させよう」

「レールガンですか? 火薬式ですか?」

「一番効率がいいのは、波動エネルギーで砲弾を飛ばすことだな。

波動砲としては出力が足りなくても、砲弾を飛ばすエネルギーとしてだけなら問題ない」

 

 

そんな、屁理屈のような問答が繰り返され、何とか設計図が埋められていくのだった。

 

 

***

 

 

「形……にはなりましたね」

「ああ、これが戦車型R機の完成図だ」

 

 

大型ディスプレイに完成予想図が映し出されている。

戦車というよりは、旧世紀の戦艦主砲を思わせる大砲を背負ったバケモノだった。

波動機関や主機の大型化、足回りの強化を加えた結果、従来戦車の倍以上の大きさとなり、

ダックビルの胴体、R機のキャノピーで50超口径の大砲を持った機体は、

ずんぐりむっくりで一見愛らしさすら感じられた。

 

 

「名称はどうされます?」

「カッコいい名前をつけようと思っていたのだが……少尉、君はこれ見てどう思う?」

「正直に言わせていただくと、カッコいいというよりは可愛いという評価を付けざるを得ません」

「だな。開き直ろう。……キウィはどうだろう?」

「キウイフルーツですか? 確かに形状は似ていますね」

「いや、飛べない鳥のkiwiだよ。R機でありながら陸戦機だからな」

「あ、失礼しました。てっきり形状から命名されるのかと思いまして」

「いやいや、キウイフルーツもキウィから名前が取られているし、

ダブルミーニングでいいではないか。いや、フルーツならキウイ・ベリィだな」

「キウイフルーツはベリィではない気が……」

 

 

こんな適当でいいのだろうかと心配する見習い少尉であったが、

ご満悦そうな少佐を見て、比較的どうでも良い突っ込みを飲み込んだ。

これで陸軍の現状も改善されますかね。と問う少尉に、

バイド自体を太陽系から殲滅しないと。と言う少佐。

 

 

「本当は辺境警備隊に大戦力を置いて、太陽系内への侵入を拒めれば一番なのだが」

「今の所R機の定数を満たしているのは本部基地だけです。それも実験機込みの数です。

太陽系外縁戦力を拡充して、各艦隊を常備するには、平時でも10年以上掛かるのではないかと」

「そうだな。近場からコツコツと戦力をつけていくしかないな」

 

 

少佐は暫くディスプレイを眺めた後、データを持って上司の下へ行った。

 

 

***

 

 

開発局の小型兵器開発幹に開発案を渡す少佐と、その後ろで控えている少尉。

開発幹は眉間にしわを寄せながらデータを睨み、暫くするとため息をついた。

設計に大きな穴はなさそうだが、そもそもこの設計思想はどうなのか。と、

これまでで何度目かになる質問をする。

 

 

「陸軍が対バイド戦において苦境に立たされているのはご存知のはずです」

「予算付けることは承認されたし、陸が不味いのは分かっているが開発コストが高すぎる」

「開発コストについてはこれでも削減済みです。本体はTW-1のものを流用していますし、

R機の中では波動機関が小型で、フォース開発コストも掛かりません」

「しかしだね……」

「陸はバイドに対抗する兵器が必要なのです。

陸戦は確かにバイドに対して有効ではありませんが、

民間人保護の観点からも陸軍に戦力がなくてはならないはずです。

それなら彼らにもまっとうな装備を!」

「そうか、そこまで考えているのなら、上に通そう。

しかし、水上艦に衝角をつけようとして海軍開発室を追い出された君が現場を語るとは……」

「……若気の至りです」

「少佐、そんな事をしていたのですか?」

 

 

最後に堪えきれなくなった少尉は突っ込みを入れるが上司二人からは無視された。

こんなだから設計技術はあるのにこんな窓際に異動になるのだと思ったが、

自分自身がそんな部屋の配属であることは意識の外であった。

 

 

こうして戦車型R機、TW-2キウイ・ベリィが開発されることとなった。

 

 

***

 

 

操作性の違いからR機乗りからは非常に不評であったキウイ・ベリィであるが、

戦闘毎に壊滅するとまで揶揄されていた陸軍の拠点防衛部隊は泣いて喜んだ。

まともにバイドを破壊できる手段が手に入ったからだ。

陸軍の将兵は上層部に掛け合い、自分の基地へのキウイの配備を望んだ。

この副次的な効果として、陸の現場の将兵の士気向上と一部のファン層を作った。

こうして、キウイに対する両極端な評価ができた。

 

 

―発想を間違えたR機―

―陸戦の救世主―

 

 

Team R-TYPEがその発想は無かったと悔しがり、

開発局の技術少佐が勝ち誇っている。といった一幕もあった。

その後に、Team R-TYPEがいつも通りにフォース着用型のキウイを作ったり、

張り合った技術少佐が、クラン・ベリィやブルー・ベリィ、ダーク・ベリィ、ベリィ・ベリィ

といった上位機種シリーズを企画したが、クラン・ベリィの試作機が戦場に出た後、

さすがに正気に戻った上層部からの開発停止を食らい計画は立ち消えとなった。

 




DLCなんて無かった


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TP-1“SCOPE DUCK”

TP-1 “SCOPE DUCK”

 

 

南半球第一宇宙基地の近郊にあるTeam R-TYPEのオフィス。

といっても研究ではなくTeam R-TYPEの中でも事務方の中枢である。

昔は研究区もあったのだが、フォースの危険性から居住区などとは隔離されたため、

このオフィスではもっぱら予算計画や、研究方針の決定、軍部や政府との調整が行われている。

事務屋が多いのだが、Team R-TYPEの権力中枢でもあり、

Team R-TYPEが半独立組織として自由な裁量を振るう上で、必要不可欠な部門だった。

そのオフィスの一角で、スーツを着た男性と白衣を着た若い男が話し合っている。

 

 

「たしか僕は学会に寄ったのですが、なぜ呼び出しを?」

「ちょうどいい機会だったからな。研究屋は没頭すると連絡も取れなくなるし。

……見せたいのはこれらだ。軍の開発局の連中と整備が作った」

「R機……型戦車? こっちは自走式支援機? いったい開発局や整備はどうしたのです?

整備は元々そのケがあったとしても、開発局までイカれたのですか?」

 

 

写真やデータを見せてくる上役とデータを見比べて呆れ顔をする白衣の男。

白衣の男がデータの詳細を見ながら沈黙をしていると。

上役がこれらの機体について断片的に話し出した。

 

 

「流行っている……ですか?」

「これらの特徴は、R機であること、ローコスト、既存の機体からの改造であること、

そして重要なのが局地戦用であることだ」

「なるほど、TW-1ダックビルは整備が前線に出るような非正規戦を睨んでいるし、

TW-2キウイ・ベリィも陸戦用ですね」

「支援機で局地戦用。これが今のトレンドらしい」

「その様子ですと、我々も乗ってみるとか?」

「その通り。我々Team R-TYPEが軍の開発局や整備に負けるわけにはいかない」

 

 

そっとため息をつく白衣の男。自分に振られたこの件が回避不可能であると悟って、

自分の開発室に帰って案を検討します。とだけ返答し、その場を辞した。

 

 

***

 

 

「初めから作る予算は下りないな」

「ああ、ローコストが前提条件だからな。既存の機体を改造するということにしておこう。

まぁ、徹底したコスト削減に挑戦してみるのも一興だがな」

「既存の機体……。何かいいのあるか?」

「PT-1はどうです? POWの前案の策敵機ですが、企画だけで計画が倒れたので、

機体番号だけで実際には存在しません。これなら好き勝手に出来ます」

「それでいこう。いかにPT-1をローコスト機に仕上げるかの挑戦だ!」

 

 

コストを気にしない研究を続けてきたTeam R-TYPEでは目新しい条件に思えた。

彼らから見れば、ローコストという条件は、パズルのような感覚だったのだ。

しかも、欠番の機体とあって結構好き勝手にできるらしい。

 

 

ちなみにPT-1はダックビルから派生した策敵機として計画されたが、

策敵機としては同時期にR-9Aアローヘッドをベースに開発され、

早期警戒システムを装備したR-9Eミッドナイトアイが非常に優秀であったため、

計画倒れに終わり、幻の機体として機体番号だけが残っている。

PT-1を弄り倒して、趣味……もとい、技術開発のために開発するのだ。

その後のコンセプトを検討したところ、局地専用の安価な策敵機ということに落ち着いた。

 

 

ミッドナイトアイは本来管制機であり、その情報処理能力のために高価な機体である。

しかし、実際には強行偵察任務に出ることが多く、未帰還率が高い。

パイロットの間で紙装甲と呼ばれる原因はこのあたりにある。

実際にはR-9Aアローヘッドの系譜であるR-9系列機の耐久性などは大体同じなのだが、

ミッドナイトアイは武装の貧弱さからバイドに囲まれることが多く、良く撃墜されるはめになる。

(R-9系でも後年開発されることとなるR-9DP系列パイルバンカーシリーズなどは別格)

これは運用上の問題であるが、前線偵察に向いた廉価な機体が無いというのがそもそもの問題である。

と、そのようにTeam R-TYPEは理論展開し、開発枠を獲得した。

 

 

***

 

 

「ローコスト、ローコスト。大元はダックビルを使うしかないですね。R型フレームは高いし」

「ラウンドキャノピーも取っ払っちゃいましょうよ。旧式の操縦席で十分でしょう?」

「戦闘用マルチセンサーも要らないですね。使い潰す予定の現地索敵なら、

データ収集も光学、赤外線、バイドセンサーで十分でしょう。ターレット型でいいですよ」

 

 

既存の機体、既存の技術でどこまで、安価に新機体を作り出せるか。

このくらいの悪条件なら鼻で笑い飛ばして、喜ぶようなマゾっ気が無くてはTeam R-TYPEではない。

高価なラウンドキャノピーやコックピットを廃し、それに付属する計器類や操縦システムも切る。

そうなれば必然とローテクなカプセル型のキャノピーとなった。

 

 

「ミッドナイトアイとの差別化に二脚式にしませんか。やっぱり二脚メカも作ってみたいです。

牽引トレーラーであるゲイツは四脚ですが、あれの脚は局地向きです。

あの構造を参考にすれば開発も簡単ですしコストも浮きます」

「ゲイツってモリッツGを牽引していた奴だっけ? 」

 

 

端末にR-9A2デルタやR-13Aケルベロスと追いかけっこをしているゲイツの映像が映る。

アングルからしてRX-10アルバトロスのカメラの映像だろう。

他の末端には基礎設計図やらなんやらが映し出される。

白衣の開発者の一人が逆関節の脚部案をサラサラと書く。

 

 

そうして、Team R-TYPE本気のローテク機体は出来上がっていく。

 

 

***

 

 

「硝煙の匂いがしそうな機体ですね」

「どういう意味だ?」

「なんか前世紀的な感じを受けるので」

「ああ、ターレットスコープの所為だな。通常R機の外部センサーは小型だし、

マルチセンサー化しているからな。しかし、火薬式の武装は付いてないぞ」

 

 

コックピットの前部に取り付けられた回転式の外部センサーを指す。

ダックビルではR機型のラウンドキャノピーがあった場所は、

POWの様に球状に丸められており、むき出しのセンサーが円盤の上に3つ取り付けられている。

小さな駆動音がして三つのセンサーが切り替わるようになっていた。

 

 

「うーん、量産機っぽくなると思ったが、ローコストというよりはローテクって感じだな」

「キャノピーは開きっぱなしか?」

「いや、そもそも無人なんだ。有人タイプにしたければ、裏側に操縦席もつけるが」

「光学スコープって……必要か? 望遠レンズとか骨董品のような気がするぞ」

「要は余り部品で出来たやつだからな」

 

 

機体から骨組みも露わな逆関節の付いた2本の脚部が伸びており地上機として走行できることを示している。

ターレットという時代染みた代物は、資材庫の在庫一掃セールを利用したものだ。

また、POWアーマーやダックビルを思わせる球状の装甲を持っているが、

基本的には無人機を想定しているので、計測機器類に保護機構は無い。

最低限の機能のみを備えたPT-1は無骨な外見に収まった。

ただし、無駄が無いという意味ではなく、無駄の塊の様な機体なのであるが。

 

 

「なんか、デジャヴを感じる機体だな」

「ダックビルの装甲をそのまま流用だからじゃないですか?」

「いや、もっとなんか、こう面構えが何かに似ている」

「面構え? あのターレットスコープがゲイツの砲台にそっくりなのですかね」

「……そうかな。なんか違うような気がするが、まあどうでもいいや」

 

 

***

 

 

PT-1スコープダックが完成したが、あまりに特異な設計思想と、

そのあまりにもインパクトのある形状から話のネタとしてもてはやされたが、

歩行型の偵察機が活躍する場面など限られ、鉄くずと呼ばれる羽目になった。

やはり必要性ではなく、流行りという浮ついた根拠で始められた開発は、

Team R-TYPEでは驚異的な低価格を誇ったが、如何せん活躍の場がなく、

再び歴史の闇に葬り去られ、無かったことにされた。

 

 

 

 

 




あらゆる研究が暴走するTeam R-TYPE
ここはバイド戦役が産み落とした22世紀のアウシュビッツ
B-1Dの機体に染みついた波動の残り香に惹かれて、海鳥達が集まってくる。
次回「夕暮れ」
黄昏に飲む地球の水は苦い


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R-9C“WAR HEAD”

時間軸は、第二次バイドミッション(R-TYPEⅡ)前です


R-9C“WAR HEAD”

 

 

「新たなバイドの大群が確認された」

 

 

重苦しい空気のこの部屋は、地球連合政府本部にある会議室だ。

議場の地下にあるこの会議室には窓は無く、寒々しい壁面を補うように壁面を緞帳が覆っている。

部屋の中央の机にはスーツを着た連合議長やその他の政府閣僚、そして軍服姿の高級軍人などが並んでいる。

心なし、皆顔色が悪いように見える。

 

 

「バイドどもの進路は地球だ。奴らはまた地球を狙っているようだ」

 

 

押し黙っているメンバーに対して議長がもう一度確認するように話す。

そして、軍務大臣に対して現状を説明するように要求する。

軍務大臣は、立ち上がり会議の席で次のことを説明した。

今回の襲撃が第一次バイドミッション、サタニック・ラプソディ以上の戦力を持つ大規模襲撃だということ、

現状の対バイド戦力は、サタニック・ラプソディでの兵器暴走の影響もあり

稼動状態にあるR機はほぼ0であること。

宇宙艦艇での遅延作戦を実施するが、持って半年で地球にバイドが到達する恐れのあること。

現状ではR機によるバイド帝星と呼称する敵中枢の破壊がもっとも可能性のある作戦であるということ。

 

 

ため息の漏れる一同。絶望的な戦力差と現状を打破する戦力がないからだった。

先ごろ終結を見たサタニック・ラプソディ事件は、

バイド汚染された英雄機R-9Aが原因の一つとされていたので、

連合政府は対バイド戦に使用したR機の全機廃棄処分を命じていたのだ。

以前のバイドミッションで使用した単機突入型のR機、

R-9Aアローヘッド、R-9A2デルタ、RX-10アルバトロスは

すでにバイド汚染を懸念されて厳重に封印されている。

一部、性能の劣る予備機は存在するが、今から新たな単機突入型を一から作るには遅すぎる。

 

 

ふと、机や資料の上を彷徨っていた参加者達の目線が一人の人物に集中する。

この会議にオブザーバーとして参加している人物だ。

壮年の彼はこの会議の出席者の中では若く、その雰囲気からスーツ姿ではあるが浮いている。

そして、胸元にはTeam R-TYPEを示す徽章が光っている。

周囲からの視線を受けて彼はおもむろに口を開く。

 

 

こんな事もあろうかと――

 

 

***

 

 

「くぅぅぅ。俺も言ってみてぇ!」

 

 

Team R-TYPEのラボで一人の白衣男が大きな声を上げる。

白衣の研究員が入り乱れる中、一人の白衣が奇声を発しても周囲はまたかという顔をしてスルーする。

ここのところ徹夜が続き、まともに寝ていないので、定期的に壊れる人間がでるのだ。

なんでも無いのに急に笑い出して止らなくなったり、

フォースに向って説教をしていたり症状は様々だ。

そのたびに周囲の人間はこう言い捨てることになる。

 

 

「時間もないから働け」

 

 

傍らにはR-9Aアローヘッド(予備機)が外装を外されモスボール状態で佇んでいる。

今、Team R-TYPEは規模拡大と、それに付随して積極的な対バイド機の研究が課せられた。

二回目のバイドの大規模攻勢に備えての機体開発の真っ最中だ。

Team R-TYPEでは手始めに過去の戦役で活躍したR-9を元にカスタム機を作っている。

R-9Cという開発番号の単機突入機である。

 

 

「俺達が開発案を出さないと後が完全につっかえているんだ。たたき台でも出して検討しないと」

「R-9の機体に新波動砲と新レーザー、フォースも新調、あと脱出機構……死ねるな」

「お前が過労死して、地球圏の大勢の人間が救われるなら死ねばいいんじゃないか?」

「……R-9の時点で内部は結構ギチギチに詰まっているからな。

構成を変えるのならば、根本的に内部構造を考えないと」

 

 

波動砲、ミサイル、レーザー、フォース。

それぞれの担当が方々に散って思い思いの場所で打ち合わせ、改良案を出している。

床に図面を広げてその上に赤ペンでラインを重ねる研究者や、

目をつむってぶつぶつと構成を練る者、壁に構想を直接ペンで書き付ける者、

複数人で激論を交わすものなどそれぞれが忙しそうに作業を行っている。

 

 

***

 

 

アローヘッドの骨格から抜き出された波動砲を前に座り込んで端末を叩いて、

検討しているのは波動砲の担当班だ。

 

 

「波動砲はどうする? アロ-ヘッドの波動砲は威力不足が訴えられているぞ」

「今回の作戦では異相次元への突入が考えられる。少なくともライトニング波動砲は危険だ」

「ケルベロスは未帰還だからな。威力を求めるならアルバトロスの衝撃波動砲も不可だな」

「拡散波動砲にしよう。デルタの班が研究していた奴だ。

あれならチャージすれば広域攻撃可で、収束点では威力が倍増する」

「ああ、それがいい。只でさえ内部スペースが足りないからな。

デルタは全長9mと小型だから波動砲も場所をとらない構造になっている」

「では組み込み用に構造を弄ろう」

 

 

波動砲を研究しているチームは比較的早めに構想を決め、

更なる威力を求めてひたすら、研究を続けていった。

 

 

***

 

 

壁に直接カラーペンで複雑怪奇な模様を描いているのは、レーザー担当。

壁が、赤、青、黄、グレー、緑の線や図で溢れかえっていて、前衛芸術のようだ。

 

 

「対空、反射、対地はいいとして、まだ、増やすのか?」

「俺としてはショットガンレーザーをどうしても加えたい」

「必要かそれ?  容量としては大して問題にならないが、致命的に射程が短い。

コレじゃ波動砲のカス打ちと大して変わらん」

「正直、サーチレーザーもいらないなぁ。

ケルベロスの反射に近いよな、これ。ホーミング性能もなぁ」

「とりあえずは構想段階だからいいんだよ。

ショットガンレーザーは対空のを、サーチレーザーは反射の回路を利用する。

これなら回路を余分に取らないし、武装は多いほうが選択肢が広がるだろう」

「でも、レーザー回路に必要なエネルギーを得るのに、

レーザークリスタルが必要になるだろ。POWに積載できる物資には限りがあるぞ。

どこにどんなバイドがいるか分からないし、

どのクリスタルを持ったPOWといつ会うか分からないから、狙って仕込めないし」

「とりあえず、たたき台だから全部つけて置け。問題があるなら後で外せばいい」

 

 

そんなことを言いつつも、最低限必要なレーザーという議題を詰めないため、

もちろんレーザー全部盛りになるのだった。

 

 

***

 

 

円座を組んで机を占領しているのはフォース班。

フォースはアローヘッドのものと同じラウンドフォースの様だった。

フォースロッドの構造図が表示されている。

 

 

「フォースはマイナーチェンジで仕上げよう。

サタニック・ラプソディ時に採用されていたアンカーは事故が怖い」

「ケルベロスは戻れなかったし、アルバトロスもフォースを奪われている。デルタも奪われたが、

少なくともラウンドは前ミッション時にバイド中枢を破壊した実績がある」

「しかし、前ミッションで破壊したバイド中枢が復活するとは……。もしかしてフォースを食ったのか?」

「バイド中枢の観測データは、次元の揺らぎで途切れ途切れの上に精度がメチャクチャ悪いのだが、

何か反応があるんだよな。アローヘッドのSOS発信のようにも見えるんだ」

「波長が歪みまくってよく分からんな。しかし、アローヘッドのデータを持っているとすれば、

それは前ミッション時のマザー個体、もしくはその生き残りか?」

「同じ個体なら、同じフォースは不味い。免疫になっているかもしれん。

ラウンドフォースも多少は変えないと」

 

 

***

 

 

他の班が何やかんやと改良案に取り掛かっている頃、

アローヘッドの周囲を取り囲んで難しい顔をしているのはコックピットを受け持った班だった。

皆骨組みの内部を執拗に覗き込み、眉間にしわを寄せたり、首を振ったりしている。

 

 

「……無理ですね」

「はじめっから諦めるな。どんな技術だって最初は無理って言われていたんだ」

「ですが、正直このスペースに脱出機構を取り付けて、

反応速度をアローヘッドの1.5倍以上にするなんて」

「正直、これ以上の反応速度を求めるには脳波接続してもラグが出ますコレを無くさない限り厳しい」

「あと、速度自体も問題だ。ザイオング慣性制御システムを持ってさえ8G以上たたき出す。

体重60kgのものなら頻繁に480kgの過重に耐えることとなる」

「Gに関しては、高密度ゲルで衝撃を吸収してはどうです?」

「高密度液化衝撃吸収剤は対象の周囲を覆わないとならない。そんなスペースはない」

 

 

ゲルなどによる対衝撃資材はパイロットの体を保護するのに一定の厚みが無くてはならない。

衝撃緩衝資材があっても衝撃を吸収する前にカプセルなどの壁面に激突すれば、人間の身体なんて潰れてしまう。

スペースをとろうにも、各種新型武装によって容積が圧迫されており、キャノピーだけ巨大には出来ない。

 

 

「脱出機構ってどうするんだ。強制冬眠にしても完全に新陳代謝が止るわけじゃないんだぞ。

それに流石に冷えすぎると困るから保温もしないと、単独で100時間耐えるだけの脱出機構って……」

「分離式しかないな。しかし、分離式コックピットにするとさらに容積が減る……」

「これ、もう人間が入れない大きさしか残らないじゃないか」

 

 

端末上で適当にR-9の骨格モデルの上からにオーダーである脱出機構を配置して、

さらにコックピット内にザイオング慣性制御システムや新武装の制御系などを並べてみると、

どう最適化しても子供が膝を抱えて座るくらいのスペースしかない。

もちろん、こんなスペースではバラバラ死体ならともかく、生きているパイロットを納められない。

沈黙が落ちる。

 

 

「これは、どれか削るしかないな。これ以上は物理的に無理だ」

「武装、フォース、制御系、脱出機構、ザイオング……は削ったらマジ死ぬな。どれも削れないよ」

「しかし、機体を大型化するわけにはいかない」

 

 

眉間のシワを深くし、唸り始める研究者達。

パズルにしてもはじめっから枠を超えるピースを納めるのは土台無理だった。

収納を諦めどれを削るかで話し合い始めた頃、横から意見が入る。

 

 

「パイロット削っちゃえばいいじゃん」

 

 

R機にパイロットは必要だ。なぜなら、何故か高次のプログラミングはバイドの汚染に弱く、

高度なAIを乗せた無人機の類は非常に簡単にバイドに乗っ取られるのだ。

例外といえば、バイド素子を厳重に内蔵して、

かつ最低限のAIを積む事でバイドを騙しているPOWくらいだ。

 

 

ともかくも、研究員の一人が放った意味の分からない言葉に、

はぁ? と思った研究者達だが、発言者の様子を見ると、

明らかに過労で目の縁取りが真っ青になった研究員が床に寝そべっていた。

さすがに死にそうなので、もう寝ろコールが入る。

しかし、当の本人はハイになっているのか、調子っぱずれた声で意見を述べる。

 

 

「違うって。無人機じゃなくて、パイロットを物理的に削っちゃうの」

「はぁ? だからそれは無人だろ」

「イヤだからさ。脳さえあればいいんだって。どうせ反応速度的に直接接続なんでしょう?」

 

 

コックピット班の総意として、手動操作はすでに不可能であるという見解に達しており、

脳波を利用した操縦形式が提案されていた。脊髄に端子を接続する形式を想定されている。

過労死寸前の研究員は、どうやらすべての無駄を省けと言っているらしい。

よくよく考えてみれば、パイロットが必要なのはR機の頭脳としてであり、

そもそも生命が維持されていて、考えることさえできれば手足がある必要が無いのだ。

 

 

さすがにしり込みをする研究員も居るが、少数派のようだ。

それどころか、目を輝かして身を乗り出しているものも少なからずいた。

 

 

「脳と脳幹の缶詰か。技術的には可能だ。積み込み形式は考える必要があるが」

「……有り……だな。それなら脳髄の保存液を高粘度ゲルにすれば対G対策にもなる」

「反応性は十分です」

「脱出機構の強制冬眠も脳だけなら楽だし、酸素消費量も少なくて済む」

「真面目に考えるべき案件だな」

 

 

最初の驚きが過ぎてしまえば、八方塞でいい加減に思考が疲れている研究者たちには魅力的な案に思えた。

一般常識を保っていた者も「たたき台だから」と言われれば、検討しないわけにはいかない。

後にエンジェルパックと呼ばれるTeam R-TYPEの狂気が発案された。

 

 

***

 

 

この後、バイドの恐怖に怯えた連合政府は新型単機突入型R機の開発を急務であるとして、

開発過程における人体実験を黙認。それどころか情報の隠蔽に走る。

Team R-TYPEの良識派は実験に眉を顰めるが、緊急事態だとして見ない振りをし、

一部過激派はこれを機に一気に発言力を拡大することとなった。

 

 

こうして、第二次バイドミッションに合わせてR-9Cウォーヘッドが完成。

苛烈なバイドの歓迎の中を走り抜け任務を達成したウォーヘッドは、

その非常識なまでの強さから、後に「突き抜ける最強」などと呼ばれた。

しかし、公式には否定されている噂

“R-9Cのパイロットは四肢切断されてパック詰めされている”

という悪名高きエンジェルパックの導入機であることの方が有名となるのだった。

 

 

地球圏はこの第二次バイドミッションの完遂をもって、10年の平和を手に入れた。

R-9Cウォーヘッドの開発により、更なる発言力を手にしたTeam R-TYPEでは、

これを機に、狂気の対バイド研究に盲進してゆく事になる。

 



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R-9E“MIDNIGHT EYE”

今回はR-TYPE FINALの最初期の話です。


R-9E“MIDNIGHT EYE”

 

 

「この紙装甲が……」

「第一次バイドミッションから機体性能変わっていないからな」

 

 

Team R-TYPEのラボに運び込まれたのは大破したR-9Eミッドナイトアイだ。

コックピット脇に巨大な穴が開いていて、装甲は陥没して円く穴が開いている。

ラウンド型のコックピットカバーは砕け散り、縁に僅かに残っているばかりである。

中で破片が暴れたのか、パイロットシートは上半分が引きちぎられている。

光学兵器ではなく、恐らく実弾で攻撃されたのだろう。

内部の機器を巻き込みながら貫通したようで、機体正面の穴に比べて後部の被害は甚大だ。

ミッドナイトアイのトレードマークである、円盤―レドーム自体は無事であるが、支柱に亀裂が見える。

機体下部に取り付けられているデータタンクも折れているが、これは大破後に付いた傷らしい。

その他にも、至近弾で生じたらしい傷が幾重にも表面装甲に残っている。

誰が見ても廃棄にしようと言うだろう機体だった。

 

 

「これを単機突入支援機として改良しろと、軍の上のほうからのお達しだ」

「……無理ですよ。突っぱねられませんか?」

「うちの上の方も乗り気なんだ。前線の方がデータ集めやすいからな」

「そうは言っても、第一次バイドミッション時の機体を

第四次バイドミッションでも使うって事が間違っている気がします」

 

 

ちなみに第四次バイドミッションはオペレーション・ラストダンスの事である。

Team R-TYPEの一部門に降って湧いた依頼という名の命令。

“R-9Eミッドナイトアイを単機突入機の支援機として同伴できるように改良せよ”

先ほどぼやいていたTeam R-TYPEの第13研究班のリーダー、アルトマンと、

20台後半の冴えない風体のデーナーはこの命令を受けて現物の検討に来たのだ。

彼らはこれから、斑に戻り改良案を考案していかなければならない。

 

 

アローヘッドとともに最初期のR機であるミッドナイトアイは

早期警戒、管制などを目的とする支援機である。

R機パイロット達からはその形状から「皿付き」などと呼ばれる。

開発当初の開発コンセプトは単純明快、

求められたのはバイド計測機器としてレーダー類の充実と膨大なデータ保存量のみ。

アローヘッドと同時期に作られた機体ながらも未だに前線にある。

早期警戒任務はギリギリ勢力圏で行われることが多いので、殆ど問題は無いのだが、

偵察任務については、恐ろしいほどの功績と被害を同時に生み出している。

 

 

「ミッドナイトアイは名機ではあるのだが、いかんせん古い」

「アローヘッドは何度かマイナーチェンジしていますけど、ミッドナイトアイは

計測・管制機器類の更新だけですからね。機体性能の関係はいじられてないですし」

「機能としては足りているからな。元々は強行偵察が目的ではない」

「他の機体では出来ないから、無理やりやらされているけど、元々運用が間違っていますよね」

「でも、やらないとな」

「こんな被害機体だけ渡されてもですよね」

 

 

ぶつぶつと言いながらも、アルトマンとデーナーは班員の待つ会議室に入り打合せを始める。

そして、アルトマンが頭を抱えながら問題点を数え上げる。

 

 

「問題は3つあるな。1つ目は、ミッドナイトアイの装甲がバイドの攻撃に耐えられないこと。

2つ目は、そもそも戦闘の考慮されていない機体を戦闘宙域で運用すること。

3つ目は、戦闘宙域に出ざるを得ないミッドナイトアイが自衛武器しか装備してないこと」

 

 

これを検討すると言うことだろう。デーナーもそれについて検討をして、

他の研究員達もそれを見つめて考え意見をだしていく。

アルトマンはそれを黙って聞いている。

 

 

「まず、1つ目は論外ですね。根本的にR機に耐久性は求められていないですから」

「どっかの班の馬鹿が耐久性を追及しまくったR-9Aを作ったらしいじゃない?」

「なんだよ、そのゲテモノ。まあそれはほうっておくとして……」

「2つ目も、うちが言ってどうなるものでもない。軍の連中に言わせれば、

強行偵察に適したR機がないのが問題という事になるからな」

「アローヘッドその他、ガチ戦闘機は機体データ容量なんてまともにないですしね。

にしても酷い理論です。そもそも、それは改良の域じゃないですね。開発です」

「ミッドナイトアイが下手に使い勝手が良いのが問題だからなぁ。機能拡張しろってことなんだろう」

 

 

まず、問題点1と2について意見を述べると言うよりは、愚痴をこぼす。

アルトマンが半眼で睨んでいることに気がついたデーナーが、

何とか生産性のある流れにしようと、愚痴大会を打ち切る。

 

 

「3つ目……これなら何とかなりますね」

「ああ、というよりこれしかないな。もともとR機のコンセプトには耐久力なんて構想はないから」

「基本フォース頼みですからね。フォースを持たせるだけで相当撃墜率が下るのでは?」

「でもフォースつけると目立つんだよな、バイドにもすぐ検知されるし。

そもそも攻撃力を付与するとバイドの誘引性が格段に増すしなぁ」

「撃墜されている状況の殆どが、強行偵察ですから、そもそも自分からバイド群れに飛び込んでいますね」

 

 

基本、撃たれる前に撃ち、その機動性を活かして敵の攻撃から避ける。それがR機本来の戦術だ。

フォースがあれば、かなりの攻撃を無効化できるが、機体全面を覆えない以上、鎧ではなく盾にしかならない。

その火力こそが最大の防御力ということだ。

 

 

R機は波動砲とフォース、レーザー、レールガンと言った武装を基本装備としている。

しかし、ミッドナイトアイは戦闘を考慮されていないため、レールガンしか武装が無い。

フォースコンダクタや波動砲を乗せるスペースがあれば、観測・管制機器を積み込むからだ。

なので、ミッドナイトアイは自分で火の粉を振り払えないのだ。

 

 

そんな結論が出たあたりで、アルトマンが話を締める。彼も武装案に賛成らしく、

その方向で改良することに決定した。

 

 

***

 

 

数日後、ホワイトボードによく分からない回路図が書かれ、壁にはR機の武装図面が張られている。

数名の研究者が図面を睨んだり、意見を交換したりしている。

そこに平の研究員のひとりがアルトマンに意見を伺いに来た。

 

 

「リーダー。波動砲とレーザー、フォースを付けるってなかなかスペース的に難しいのですが」

「今までの、旧式のでかいスラスターやザイオングシステムを更新すれば余剰スペースはでるだろう」

「余剰分はフォースコンダクタとレーザー回路で消えます」

「波動砲なんて低威力の物はほとんど場所をとらないだろう」

「ええ、でも意外にも武装制御システムが場所をとるんですよ」

「武装制御システム? ……もしかして、付いていないのか?」

 

 

アルトマンが驚いたのは、R機の基本システムと言えるものが付属していないからだ。

R機は高速戦闘を行う。これはパイロット側の情報処理が問題になってくる。

その大部分はインターフェイスや判断訓練で何とかなるが、

思考的なラグを小さくして、直感的に行動できるシステムが必要になる。

たとえば敵が急接近してきたて、途中までチャージしていた波動砲での攻撃を破棄して、

急遽レールガンでの攻撃に切り替えるといった場面。

本来ならば、波動砲のチャージロックを解除し、

余った波動エネルギーを機体にダメージが及ばない方向に開放して(大体は前方から発射される)、

波動砲に接続されていたエネルギー回路をレールガンに回し、

レーザー回路をレールガンと連動させ、レールガンへ出力して、撃つ。

簡単に言っても、これだけの処理が必要になる。

しかし、これをパイロットがいちいちやっていると確実に間に合わない。

なので、パイロットが感覚的に操縦できるように、

煩雑な操作の簡略化のため武装制御システムが必要になるのだった。

 

 

ちなみにR機には武装制御システムが基礎装備として搭載されているのだが、

ミッドナイトアイはそもそも武装がレールガンしかなかったので、これが載せていなかった。

いらない物を乗せるなら観測機器を。ということで完全に戦闘は考慮されていない。

 

 

そんな設計上の穴を見つけてしまった研究員達は、

開発後随分と経った今では要らない装備やシステムを総ざらいで検証して、

無駄を省き、いらない機器を下ろして、そこに武装を載せる容量を確保しようとしていた。

 

 

「この隔壁じゃまだろ。取っちまえ」

「一応、パイロット保護のための隔壁なのですが……」

「いらない。どうせ被弾したら誘暴するんだから。誘暴したら隔壁なんて関係ないさ。

その隔壁はもともとTeam R-TYPEがいらないって言ったのに、

パイロットの最低限の安全性云とか言って軍部がゴリ押しで基礎設計に加えた物だ」

「役に立たないパイロット保護ですね」

「心理的なものもあるらしいが、あちらがもっと機能をと言っているんだ。

取ってもかまわんだろ。ついでに、余計な装甲も極限まで削って武装に置き換えろ。

どうせデブリ避け位にしか役に立たないんだ」

 

 

そんな議論を続ける内に、いつしか無駄を省くこと自体が目的と化していたのだった。

 

 

***

 

 

かくしてR-9Eミッドナイドアイのマイナーチェンジ版

(とTeam R-TYPEは言い張っている)が完成した。

そして、Team R-TYPEと軍部との間で報告会議が持たれることとなった。

本来は開発課長がでるべきなのだが、“他の機体の開発に忙しぃから”の一言で、

開発課長のレホスの代理として、リーダーのアルトマンが出席することとなった。

 

 

「……と、言うのが、今回の改造の内容です。

これによりR-9Eミッドナイトアイの生存性は5割程度上昇するもとと試算します」

 

 

説明を終えて、アルトマンが席に座ると軍部の方からどす黒い雰囲気を感じた。

仕様書を見て引きつった笑顔を浮かべている者もいる。

そして、軍部の代表となっている壮年の軍人がゆっくりとした調子で語りかけてきた。

 

 

「一ついいかな、課長代理?」

「なんでしょう?」

「我々は現場の意見として、生存性向上のため装甲の強化を依頼したはずなのだが、

何故、逆に装甲が薄くなっているのかね?」

「我々の中で原因から論議しなおした所、生存性に寄与するのは装甲の厚みではなく、

被弾率の問題……ひいては敵掃討のための武装の貧弱さが問題であるとの結論が出ました。

装甲を強化するより、武装を強化した方がパイロット生存率という意味で効果的です」

「……それにしたって、フォースの形状は何だね。カメラフォースとは」

「被弾率を劇的に低下させるためにフォースは必須ですので載せることになったのですが、

機体容量とバイド係数の関係から、既存のフォースでは登載不可能でした。

ならば、いっそ偵察任務に適したフォースを装備すべきという事で

新たにカメラフォースを開発することになりました」

 

 

カシャカシャと古めかしい音を立てるフォースの映像がディスプレイに流れ、沈黙が落ちる。

 

 

「……で、この索敵波動砲もかね?」

「ええ、情報解析システムと連動させまして簡易標準で捉えることで、

細密な敵情報の収集が行えます。高威力ではバイドが誘引されるので低威力に押さえてあります。

どちらかというと、従来型の情報システムに波動砲が付いたという感じでしょうか。

実際には情報を収集した後に目標を破壊処理するのに便利かと」

「……」

 

 

***

 

 

こうして、防御面を強化した減装甲機という謎の機体が完成した。

実際の運用で未帰還率が下ったため、軍部も文句が言えず強行偵察型として配備されていく事となった。

ちなみに、攻撃力の付与されたミッドナイトアイは更に

前線での強行偵察に駆り出されるようになり、

結局、未帰還率はもとの水準近くまで上がっていくのだった。

 

 

その後、Op.Last Danceのための情報収集として単機で強行偵察に出されることとなり、

その膨大な情報が記録されたデータタンクを残して未帰還となった。

このデータは後の作戦で、突入コース選択のために活用されることになる。

 



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R-9E2“OUL-LIGHT”

R-9E2“OUL-LIGHT”

 

 

 

Team R-TYPE開発課長室では、第13研究班が雁首揃えて、課長席に企画書を出していた。

課長のレホスは企画書を興味なさ気に流し読みすると、その意図を確認する。

課長席の前に並ぶのは、以前ミッドナイトアイの改造を行ったアルトマン達だった。

軍部からの面倒な仕事を無理やり振られただけあって、彼らはTeam R-TYPEの非主流派なのだ。

 

 

「でぇ、無理やり改造なミッドナイトアイの変わりに、後続機を開発したいってことー?」

「「「はい」」」

「何でまた支援機なのさ」

「戦闘機は他の班でも考えられております」

 

 

レホスは書類を読む振りをしながら考える。

 

 

Op.Last Danceの目的自体には偵察機は必要ない。

このミッションを完遂するにはあらゆる困難が待ち受けていて、R機も壁に当たることが予想される。

その壁を乗り越えるR機を開発し、R戦闘機の可能性を余さず取り込んでゆくことが、

Team R-TYPEとしてのこの作戦の意義だ。

しかし、発展性のない技術であると後代に伝える盲腸技術としてはいいのかもしれない。

 

 

そして、Op.Last Danceの前哨戦として行われたミッドナイトアイによる強行偵察。

それは未帰還が前提の作戦であり、実際に機体が帰ってくることはなかったが膨大なデータを残した。

そのデータを元に、Op.Last Danceの進攻ルートが検討されている。

情報には精度が求められる。バイド情勢というデータが定期的に欲しい。

Rの系譜としては役目を終えているが、軍事的には意味がある。

そして、今後のデータ取りが目的と割り切れば、これも有用な研究かもしれない。

レホスはそこまで考えて、もう一度目の前の冴えない三十路男アルトマンの言葉を聞くことにした。

 

 

「で、どういうのを作りたいのさぁ」

「これをご覧下さい」

「“小群バイドによる状況不明の背後浸透”……亜空間潜行だろう?技術的には珍しいことじゃないし、

小型バイドの大きさで自由にやってのけるのは脅威だけれど、基地建材の特殊化で対応したよねぇ」

「ええ、しかし現場……特に前線基地守備隊の間では、壁をすり抜けてくるバイドとして問題となっています。

今は小さい群れでしか確認されていませんが、これからもそうだと言う保障はありません」

「まぁいいか。とりあえず捉えたバイド体の生態標本預けるから、亜空間潜行対策機をやってみてよ」

「はい、わかりました」

 

 

ぞろぞろと帰っていく白衣たち。

レホスは何箇所かに連絡を入れて、標本の移動を命令した。

ディスプレイ表示にRの系譜を呼び出して眺める。

機体番号で出来たその樹形図は未だ低木程度の高さしかなく、枝葉が茂るのはこの先のようだ。

 

 

「Project Rの役には立たないかもしれないけど、軍のご機嫌取りには使えるかもしれないしぃ。

上手く当たれば盲腸技術じゃなくて、パラダイムシフトが起こるかもしれないしね」

 

 

***

 

 

課長室を尋ねた日から、アルトマンら第13研究班は方々に散って情報収集を行っていた。

現場のパイロットや基地管制員、宇宙艦隊、軍開発局まで訪ね歩き、話を聞いている。

こういう泥臭いことを是とする研究斑なので周囲から浮き、変わり者扱いされるのだが、

一般にはこのような行動こそ、職人の鑑とされているのが皮肉だ。

ここからもTeam R-TYPEがいかに捻くれているかわかる。

捻くれ過ぎていて、いっそ一週廻って清清しいくらいだった。

 

 

そんな事をしながら第13研究班の班員会議が開かれた。技術方針の決定だ。

 

 

「さて、今までの調査から研究方針を決定する。開発意見を」

「はい。基地からのデータですが、亜空間潜行はバイドにとっても負担の大きい技術のようです。

亜空間潜行を行うのは大体において小型バイドで、しかも小規模群に限られます。

また、特殊建材や高エネルギー体、基地動力炉やR機などは透過できないようです」

「私からも。艦隊からの情報ですが、どうやら亜空間での行動はそうとうエネルギーを喰うらしく、

亜空間から現れたバイドは直ぐに捕食のような行動を示し、通常バイドよりも航続距離が短い模様です。

また、亜空間にいるバイドとR機などが近座標に入ると亜空間からバイドがはじき出される現象も報告されています」

「軍開発局では、かつて亜空間武装の試験を行っていたようです。

といっても亜空間潜行バイドを射撃する物ではなく、通常爆薬を機雷のように亜空間に潜ませて、

通常空間のバイドらの進路において置く性質のものです」

「どうなったんだそれ?」

「亜空間に送り込むことは成功したらしいのですが、不安定な亜空間で流されたり、消滅したりする。

要は欠兵器だそうです」

 

 

その後も、報告が続き1時間ほど経った所で、アルトマンがまとめに入る。

 

 

「うーん。亜空間潜行の問題は知らない間に戦線を抜かれることだな。

小規模群でも挟みうちにされればそこから戦線が崩壊する」

「実際にいくつかのポイントで被害を出しています。R機は後方からの攻撃に弱いですからね」

「亜空間潜行するバイドとは嫌らしいですね。

R機でもカタパルトやブースターで亜空間潜行は出来ましたけど、任意の地点で自由自在にとなると、難しい」

「今までの報告から不意打ちさえ食らわなければ、対処方があるって事は分かった。

攻撃力はなくてもいいから、亜空間を探査できるセンサーが必要だ」

「今まではカンとか言っていましたね。なんとなくバイドの数が少なすぎるから身構えていたとか」

「カンじゃ困る。センサーで座標を特定しないと」

 

 

色々と案が出ては消えて行くといった事を繰り返し、30分くらい経過した頃。

 

 

「軍開発局でやっていた機雷みたいなのを利用して、亜空間でソナーみたいに出来ないか?」

「あー、亜空間で音波は伝わらないので何らかの別のエネルギーによる探査方式が必要になりますが」

「それだったら、低位エネルギーを発信する爆薬のような物を作りましょう」

 

 

軍の開発局に聞取りに行った男が説明をする。

軍で開発失敗した亜空間機雷は、通常爆薬を用いた物であったが、

その中で通常空間に微弱な影響をもたらす失敗作があったという情報だった。

それを応用して、亜空間の索敵が可能ではないかというのだ。

亜空間に低位エネルギーを発するソナーブイのようなものを設置し、通常空間でその余波を受け取る。

その情報を解析すれば、アクティブソナーのように亜空間にいるのかいないのかを探知できるのではないかと。

 

 

亜空間と通常空間はある面では密接に寄り添い、ある面では全く隔離されている。

通常空間で発射した通常実弾や波動砲、レーザーは浅亜空間に影響を及ぼさない。

ある種の電波は、通常空間から亜空間に一方的に流れていたりもする。

亜空間の方が順位の低く不安定な空間であるため、高位空間である通常空間から情報が流れるのだ。

しかし、逆に亜空間は不安定かつ低位なので、亜空間から通常空間はまず情報を手に入れられない。

入ってみるまではどうなっているのか分からないというのが常識だった。

開発局では失敗作扱いされたが、亜空間から通常空間に影響を及ぼすエネルギーがあるのなら、

亜空間の情報を通常空間に持ってくることが可能になるのだ。

 

 

Team R-TYPE第13開発斑の研究員達は喰いついた。

その場で直ぐにR-9E2(仮)は亜空間ソナー(仮)の搭載機として開発することになっていた。

といっても、まだ機体開発許可が降りていないので、まずはソナーの研究を始めることを決めた。

 

 

***

 

 

2週間後の課長室。部屋の内装は機能的であり、仕事場といった風で、

部屋の主の着る糊の利いたシャツやスラックスも合っている。

その分、レホス課長のくたくたで汚れの目立つ白衣と踵の潰れかけたサンダルが悪目立ちしている。

デスクの前に立っているのは、今日は13斑のリーダーアルトマンだ。

 

 

「でぇ、亜空間ソナーができたと。ソナーブイ形式じゃなくて、ソナー弾なんだね」

「はい。ソナーは初期爆発で亜空間入りし、次の爆発で亜空間内をエネルギーが駆け巡って、

その一部が通常空間に漏れ出ます。それを検知・情報処理することによって、

亜空間亜空間潜行している一定の大きさの物体であれば、探知可能であるとの結論が出ました」

「実験に付き合った、巡視艦隊からお叱りの意見書が入っているんだけど」

「……実験に失敗はつき物です」

 

 

目をそらすアルトマン。

亜空間ソナーの実験中に炸薬量を多く見積もりすぎ、

通常空間に響いた余波で巡視艦隊の人員を昏倒させたのだ。

亜空間から通常空間への情報は基本的に微弱なエネルギーであるが、

一部は音波の形を取り、範囲内にいる人間の耳に直接届く。

実験に協力してソナー弾を打ち上げた巡視艇では、至近でその影響を受け、

防ぎようの無い爆音によって前後不覚に陥る乗組員が続出したのだった。

 

 

「まあいいや、R-9E2として亜空間ソナー装備機として開発してねぇ」

「はい。実は、もう素案ができていまして……」

「我慢が出来ない子がいるなぁ。まあいいや。そっちの書類頂戴」

「これです。R-9Eの強行偵察型を基礎としています。武装の強化は余りしていませんが、

レドームを改良し、亜空間ソナーの情報の解析機能を持たせています。装甲は……フォースに頑張ってもらいます」

「ふーん。まあ、強行型ベースならあまり心配は無いか。名前は?」

「R-9E2アウルライトです」

 

 

***

 

 

アウルライトは亜空間潜行バイドに苦慮していた軍部によって早急に配備されたが、

その亜空間ソナー弾によって、アウルライトは爆音機として知れ渡るようになり、

味方機から、いなきゃ困るけど近づきたくないR機として知られることとなる。

 




印象が薄すぎてTACTICSネタに走りました。


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R-9E3“SWEET LUNA”

R-9E3“SWEET LUNA”

 

 

 

倒しても復活して襲っているバイド。

3度目の正直にしたいと、決行されたOp.Third Lightning(第三次バイドミッション)を

完遂したとはいえ、

今までの経緯を知る軍や、バイド研究機関としての側面を持つTeam R-TYPEは、

再びバイドが現れると警鐘を鳴らしていた。

 

 

第四次大規模侵攻が確認されたことによって、俄かに活気付いたTeam R-TYPEは、

ここに来て人類の生存を探るように、通常の戦闘機だけでなく様々な形状のR機に研究の手を伸ばした。

その中の一つが、Eシリーズだ。

R-9Eミッドナイトアイ、R-9E2アウルライトと続いてきたE系列機だが、

軍部での評価に対して、Team R-TYPE内での評価は決して高くなかった。

何故なら、R機本体の開発に新しい技術が用いられていないからだ。

 

 

それでも開発されるのは、一部開発斑の熱意と、軍部に対する餌など、

その他もろもろの思惑が混じった結果だった。

 

 

比較的、上手く動いていたE系列機アウルライトだが、新たな問題が持ち上がった。

整備性と耐久力に問題が出てきたのだった。

耐久力に問題があるのは、はじめっからだろうと思い、開発班がリサーチをかけてみると、

対バイド戦での耐久力ではなく、デブリによるダメージや機体劣化が大きいということだった。

ここに来て、またアルトマンら第13開発班は調査が乗り出した。

 

 

***

 

 

「で、原因は分かったか?」

「はい、R-9Eシリーズの劣化や故障はレドームに集中しています。

レドームの耐久性に問題があるのでしょう」

「レドーム自体は索敵能力を持つ上ではしょうがないだろう」

「ええ、そうなのですが、整備回数が多く前線の負担になっているようです」

「また運用上の問題か?」

「いいえ、ご存知の通り、ザイオング慣性制御システムはその効果が距離に反比例します。

機体中央付近に乗っているパイロットやその他の機器は殆どダメージを受けませんが、

機体から突出しているレドームと、それを支える支柱には無視できない負荷がかかります」

 

 

半壊したR-9E2アウルライトの前で会話するTeam R-TYPE第13班。

アウルライトの本体にはデブリが掠ったような跡はあるものの問題ない範囲の損傷だった。

しかし、上方に目線を移すと無残にもレドームの外殻が剥離し、それを支える支柱も若干曲がっている。

 

 

ザイオング慣性制御システムは高速での機動で、機体やパイロットを保護するためのシステムであり、

品質や出力は違うが全R機や艦艇についている。

ザイオング慣性制御システムが起動すると周囲に慣性制御圏が出来、

その中では擬似的に物理法則が書き換えられている。

一般には夢の万能システムとして余り知られていないが、

ザイオング慣性制御システムの慣性制御圏は絶対ではない。

余りに周囲の空間と物理法則を切り離してしまうと、空間そのものが不安定となり、

亜空間とはまた違う制御不能な空間によって弾かれる恐れがあるためだ。

この現象はザイオングシステムの実験段階で、

観測機器や被験者がその身を持って教えてくれた。

 

 

慣性制御圏はシステム中央からの距離が伸びるに従って減衰する。

つまり機体中央から遠い、機体の末端に負荷が集中するのだ。

特にE系列のレドームは精密に出来ていて、かつ重量もあるため非常に負荷がかかる。

これがレドームの寿命を縮めていると言うことだった。

 

 

話がそれるが、戦艦などの慣性制御には巨大な複数のザイオング慣性制御システムを同期させ、

艦体全体に制御圏を維持しながら加速度の無視、外部衝撃の緩和などを行い、

さらに内部では別の重力システムを起動させるといった膨大な処理をしている。

 

 

「……という訳だ」

「つまり、運用ではなく機体の方の問題であると」

「システム上の問題だな。今まではそもそも機体寿命が短かったのと、

戦闘機動そのものが少なかったので、表面化してこなかったのだろう」

 

 

班員会議の席でアルトマンが総括して原因をまとめた。

この問題が出てきたのは機体性能が上がったせいだともいえる。

ミッドナイトアイはその貧弱さからバイドと遭遇すると直ぐに落とされるか、

不利を悟った時点で、一目散に逃げ帰るのがセオリーだった。(そして大体撃墜される)

しかし、皮肉にも第13班が強化型のミッドナイトアイや、

後続機のアウルライトを開発した所為で、今までは即死か一路退却しかなかったE系列に

強制偵察という任務が課せられてしまったのだ。

こうして、E系列の思わぬ弱点が露呈することとなった。

 

 

「これは根本的な問題だ。改修だけじゃダメだな」

「もう一機枠取れるでしょうか?」

「俺たちが取れなくても、軍から依頼が飛ぶだろう」

 

 

こうして、新たな開発が始まった。

 

 

***

 

 

13班が間借りしている会議室では様々な原案が飛び交っている。

意図を説明しようとしたらしきスケッチが撒き散らされ、

ディスプレイにはデータ群が溢れていた。

連日開催されているこの会議は既に4日目に突入した。

 

 

「レホス課長、やるなら7日で構想だけでも持ってこいって……

あと3日しかないじゃないか」

「案を詰める必要があるから、方向性だけでも今日中にまとめませんと」

 

 

アルトマンが上司の無茶ぶりに頭を抱えていると、部下も泣きを入れてくる。

全員やつれていた。

原因は課長のレホスが出した条件。

詳細データはなくてもいいが、どういったものを作るのか7日で案を持って来いという命令だった。

レホスはTeam R-TYPEの益を考えているので、

軍からの要請や、既存機の改良についてはあまり乗り気では無い。その上での無茶ぶりであるが、

普段冷遇されていたミソっかすの第13班は、このE系列は自分達のものだと言って、

猛烈に動き始めたのだった。

 

 

***

 

 

しかし、ザイオング慣性制御システムとR機の根本に関わる問題であるので、

早々に暗礁に乗り上げた。

レドームがなければE系列で必要とされるレーダー性能は達成されないし、

ザイオング慣性制御システムは、現時点での最高のものを使用しても、目的を達成できない。

戦艦などの艦艇に使われるものは大出力を約束するが、

R機には積めないくらい大型で膨大なエネルギーを喰う代物なので利用は出来ない。

案を出しては検討し廃案にするという作業を繰り返してきた13班は段々疲れてきていた。

 

 

「艦艇用のザイオングの小型化は無理って話が出ただろう」

「無理ですかね。突き詰めれば……」

「それはきっとR機じゃなくてザイオングシステムにスラスターつけて飛ばすようなものになるぞ」

「廃案。他に案は?」

「小型を複数つけても同期するために大きな制御システムが別に必要になりますし」

「レーダーや管制、その他情報系の機器が積めなくなるな」

「レドームは捨てられないし」

「他の攻撃用の機器は研究が進んでいるから小型化が著しいが、情報機器は小型化しないからな」

「それでも機体本体容積は最適化して40%の余地ができた。これを利用できないか?」

「ダメだな。大型ザイオングを積むには小さすぎる」

 

 

大きなため息の合唱が起こり、額に手を当てたり、頭を抱えたり、天を仰いだり……

様々なボディランゲージで疲労や閉塞感を表す白衣たち。

休憩や仮眠を挟みながらも数日間R機について議論を続けるあたりが、一般から見たら狂気の一端であり、

彼らが弾かれ者ながらTeam R-TYPEの一員である証明であった。

 

 

「……もういっそザイオング制御圏の中心をレドームに持ってきたらいいのでは?」

「お前はパイロットをミンチにしたいのか?

パイロットが一番軟弱だから機体の中央部にザイオングが積んで、

そのすぐ前をパイロットシートにしてあるのだろう」

「ですよね」

 

 

ヤケクソ感の漂う声に何人かが否定の声を上げる。

言った方も否定されることが分かっていての発言らしく、大人しく意見を引っ込める。

人間はR機の中でもっとも特殊なパーツであるとは、Team R-TYPEの言である。

最も軟弱で、最もエラーを吐き、最も換装が効く、しかし絶対に必要なパーツ。

なので、パイロットシートは、距離に比例して減衰するザイオング慣性制御圏の中心に、

位置することが設計上のおきまりとなっている。

そんな共通認識を持っていた彼らだが、班員の一人であるデーナーがそれに対して疑問を覚えた。

 

 

「なんか引っ掛るのだが、何か見落としてないか?」

 

 

何だろう。などと呟きながらデーナーが頭を抱え始める。

その様子に周囲の班員も頭ごなしに否定したのは早計だったかなと思いなおし、

一緒に悩み始める。10分くらい、いい大人が揃って呻いているという、

異様な光景が展開された後、リーダーのアルトマンがポツリと言った。

 

 

「あ、前提がおかしいのではないか?」

「前提とは何ですか?」

「レドームが機体から半分離している構造。変えられないか?」

 

 

疑問符を浮かべる班員を尻目に、アルトマンは廃案が書かれた模造紙の裏にペンを走らせる。

模式図の外形が書かれたあたりで、皆ポカンとした表情になり疑問符が更に量産される。

基本的な構図が描かれるに至って、デーナーがまずアルトマンの構想を理解できた。

そして、周囲もアルトマンの意図を察していき、

いつの間にか静まりかえった会議室で誰かが唾を飲み込む音が聞こえる。

会議机に広げられた模造紙に視線が集中する。

思いつく限りの図を描いたアルトマンがペンを置き、言う。

 

 

「レドーム耐久度強化型機だ」

 

 

R-9Eミッドナイトアイが皿を被ったR機なら、その図は皿を飲み込んだR機だった。

データタンクなどにE系列の面影を残す機影だが、

その本体中央部がぽっこりと円盤状に膨らんでいる。

図には機体からはみ出した円盤外縁部には補強のための補強版が取り付けられ、

強度も考えられているようだ。

 

 

「これ、いけますかね?」

「ともかく、皆で検証しないと」

 

 

R-9E系列の弱点を克服できるかもしれない素案にデーナーを始めとした班員は

目を輝かして、素案を食い入るように眺めている。

皆、新たな技術に挑戦するという研究者の本分も一応満たされているし、

自分たちの手がけてきたR-9E系列が、新たな進化を遂げるのに希望を抱いている。

 

 

疲労状態から一瞬で復帰を果した13班は、異様な熱気を孕んだまま、

徹夜で検証を続け、細かい修正をしながら原案を描いていく。

時計の針が翌々日の始業時間を指したころ、図面が上がった。

 

 

***

 

 

数ヵ月後、カッコ良くないと一部不評があったものの、

効果はテキメンで機動が原因のレドーム損傷は起こらなくなった。

ついでにパイロットの乗っているコクピットと同じ中央にレドームがあるため、

回避計算がしやすくデブリなどによる損傷も減少した。

軍部からは評価され、第13班は軍部に近いTeam R-TYPEの良識派として軍人の間で記憶された。

 



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R-9ER“POWERED SILENCE”

R-9ER“POWERED SILENCE”

 

 

 

「対人戦を睨んで……ということですか?」

 

 

Team R-TYPEの開発課長室で課長レホスの前に立つのは

E系列機の開発を行っている第13班リーダー、アルトマンだった。

R-9E3スイートルナの最終調整後に課長室に呼び出しを受けたのだ。

アルトマンは呼び出される様なことをした記憶は無いし、

そもそもTeam R-TYPEの主流派では、E系列はあまり注目されていないはず。

そんな事を考ながら課長室に来たのだった。

 

 

「対人っていうのには少し語弊があるんだけどー、どちらかというと対R機ってことかな」

「対R機……治安維持ということですか?」

「通常の治安維持自体は各都市が行うからねぇ、通常外ってことで」

「公安関係ですか」

「そう、R機は高価な兵器だけど、これだけR機が普及すれば外に流れる機体だってあるからぁ、

それを使った重大犯罪だって起こりえるって事だよね」

 

 

もっともらしい理由であったが、本当の所は軍の考えだった。

軍でも大多数は強化され続けるR機を、人類の剣として頼もしく考えていたが、

一部では、R機が主流となれば何時の日か人類自身にその切っ先が向けられるのではないか。

バイドに取り込まれた機体だけでなく、バイドがいなくなれば人類同士で争い始めるかもしれない。

そんな危惧があった。

 

 

対バイド戦ということで、挙国一致体制が取られ市民の不満度も抑えられているが、

バイドという重石がなくなればクーデターだってありえる。それほど人類は消耗している。

その想像は有史以来の人類の歴史を考えれば、むしろ必然とさえ言える。

そう考える軍人や政治家のグループもいた。

 

 

彼らはそういった事態に備えて、

対バイド戦にはあまり必要ないともいえる情報撹乱戦法を作りたかった。

対人類戦では情報戦や搦め手といった手段が有効だからだ。

これ情報戦機を作っておけば、対人類戦という有事でも連合軍・政府は優位に立てる。

バイド戦の最中であり余力も殆ど無いのだが、こういったものは必要になってから作っても遅い。

なので、余力の許す程度、つまり既存機の改良開発と言う形が取られた。

 

 

「オーダーはE系列を基礎とした電子戦機ですか」

「ええ、対バイド戦の影響で殆ど陽の目を見ない研究ですから進んでいないのですよぉ」

「分かりました。とりあえず持ち帰って班で揉んで見ます」

 

 

***

 

 

「とうワケなんだが」

 

 

13班はR-9E3スイートルナの完成を持ってちょっと浮かれていたのだが、

リーダーからのいきなりの召集で白衣も着ないままに、集まっていた。

アルトマンは会議室を借り出して13班の班員に説明を行った。意見を募るためだ。

 

 

「いままでのは実益優先といった感じでしたが、今回はなんかドロドロしていますね」

「でも軍部から正式な依頼だから、ただやりませんって訳にも行かない。少なくとも明確な理由が必要だ。

でもうちの班は妙に軍部寄りになってしまっているから、そういう意味でも断り辛い」

「ですよね。軍の開発局とか行っても、なんかうちの班だけ身内みたいな扱いになっていますものね」

 

 

デーナーがアルトマンに開発方針を聞き、愚痴をこぼす。

第13斑は日陰者でも良いからと、今まで権力などから離れて研究してきたのが、

ここに来て突然陰謀渦巻く依頼が飛んできた。正直不安が大きい。

Team R-TYPEとしては自分達の利益になら無い開発要請を、

戦力外の13班に振っていたのであったが、

13斑はE系列機の改良を通して、現場や軍の開発局に出入りしていたため、

13班と軍の間に謎の連帯感が生まれていた。

Team R-TYPEの中では話が分かる(まともな会話が出来る)連中というわけだ。

こうなってしまえば話も断りづらい。

今回の話だってTeam R-TYPE上層部経由で話が来たが、

軍としては13班決めうちで話を持って来たに決まっている。

アルトマンは断れそうにないと、内心でため息を付くと、話を元に戻して意見を募った。

 

 

「どうだろう。電子戦機能の拡張が主題なのだが」

「本格的なAWACSを作りたいのですね」

「ミッドナイトアイ、アウルライト、スイートルナは情報収集にのみ特化されているから、

それに対して、情報撹乱などの支援機能の拡張を図る方向でしょう」

「そうなのだが、どうしたものかな」

「こういう技術ってイタチごっこですよね」

 

 

班員の言葉にため息を付くアルトマン。

電子戦では味方を有利に、敵を不利に、それぞれ手を加える必要がある。

無差別でいいのなら、通信その他の機能を妨害するジャミングブイでも浮かべれば事足りる。

しかし、それでは困る。

それでバイドの群れの統率は乱せるだろうが、そんな物を人類の制宙圏に大量に浮かべれば、

人類は自分達の宇宙を飛行することも困難になってしまう。

なので、敵味方を識別して選択的に効果を発揮する機能が求められる。

だが、選択的というのはすり抜ける手段が存在すると言うことに他ならない。

つまり、技術上のイタチごっこが始まるのだ。

 

 

「ふう。ため息ばかり付いていてもしかたない。具体的な方法を詰めよう」

「そうですね。この場合、仮想敵はE系列機ということでしょうか」

「そうだな、敵もR機で索敵している状態で、それを撹乱する状況がもっともありえるな。

あとは、基地レーダーや戦艦の索敵網も仮想的になるな」

「R機はある種の電波の反射波を捕らえます。これを無くすだけでもかなり良くなるのでは」

「ステルスか。衝突事故が増えそうだな」

「イタチごっこだし、これくらい軍部でもやるだろう。もっと根本的な案は?」

 

 

R機は衝突事故(主にPOWアーマーとの)が絶えないため、

故意にレーダーには映りやすくしてある。

バイドは同じく電波の反射を捉えるが、若干だが生体反応や敵意といった、

どうやって感知しているのかよく分からないものに反応する。

物量で壁のごとく押し寄せるバイドには、レーダーに対するステルス性というのは

あまり効果的とは言えない。

それくらいなら事故を減らしたり、救助の助けになるために

盛大レーダーに映るR機の方が都合がいい。

 

 

ステルス機は、レーダー波の反射を極力抑えるための材質塗料などを使用し、

レーダー波に捕まっても相手の方に反射しないように、角ばったデザインをとることが多い。

R機にそれなりの愛着を持つアルトマンとしては、

カクカクのデザインのR機は作りたくなかった。

それに、周囲の機体も覆い隠すのには自身だけがステルス機であっても意味が無い。

 

 

「ジャミングでレーダーを欺瞞するですかね」

「それって機体数は誤魔化せるかもしれませんが、そこに居るってことはバレバレになりますよ」

「センサー類さえ誤魔化せば、いないことに出来るんですが」

 

 

R機は高速戦闘を行うため、パイロットは肉眼確認ではなく、内部コンピュータで処理された模擬映像を見ている。

肉眼だと、処理が追いつかず直ぐに事故を起こす為、マルチセンサーで捉えた情報を、

視覚的に処理をしてディスプレイに(後には網膜や脳内視覚野に直接)投影するのだ。

機体側のセンサーさえ騙せれば、光学情報は殆ど気にしなくてもいいということになる。

 

 

「アクティブステルスですかね。逆位相の電波をぶつけて波を消すんです」

「チャフはどうでしょう」

「シンプルが一番対処しづらいです。妨害電波ですね」

 

 

ワイワイと案を上げる一同。

アクティブステルスは周波数、振幅、偏波、角度が同じで逆位相の電波を

打ち返すことにより反射波を相殺して、そこに居ないことにしてレーダーから隠れるもの。

しかし、ほぼ自機にのみ有効な手段で、僚機がいると非常に計算が煩雑になるため、却下された。

 

 

チャフはレーダー波を乱反射する物体を撒き散らしレーダーを撹乱するもの。

何処に居るのかは分からないが、その辺りに何かいる(いた)のは露見するため、

緊急時以外では使いにくいとして却下。

あと、地球上では直ぐに地表に落下し処理にも困らないチャフだが、

宇宙空間では無限に拡散していくため、自軍の勢力圏で播くのは非常に嫌がられる。

 

 

普通に妨害電波を発して、レーダーをノイズの海に沈めてしまう方法が採用された。

機体はあまりいじっていないほうが使いやすいと言うことで、

R-9E3スイートルナを基礎として用いることにした。

 

「形状ですがどうしましょう? レドームはそのままですか?」

「機器を積み込む必要があるのだが、どう考えても容積足りないから

レドーム内にもって行くしかないな」

「この機材だと円盤形じゃとても足りません。増槽みたいなのつけます?」

「ジャミングポットをぶら下げてという感じで」

 

 

***

 

 

13班のリーダーアルトマンは軍との最終打ち合わせに出ていた。

軍部の技官や高級士官から仕様について一問一答のようなものが行われている。

 

 

「電子保護された味方機は敵からどう映るのか?」

「ロックオンした自機周囲の味方機を電子ノイズに包むことで

外部からは索敵不可能領域として認識されます。つまりレーダー上では見えません」

「ノイズの中では味方機もレーダーが効かなくなり、目を奪われるのでは?」

「親となるこの機体R-9ERからデータを送信してもらい外部を見ることが出来ます。

ただしリアルタイムで膨大なデータをやり取りするので、その間R-9ERは行動が制限されます」

「具体的には?」

「背面スラスターのバックファイヤなどは他のセンサー類に観測されやすいので、

基本的にはザイオング慣性制御システムのみを使用して飛ぶことになります」

「隠密行動というわけか」

 

 

不穏な構想の機体とあって、軍のお偉方が主に性能について追求してくるが、

現場代表となっている尉官からも要望が付いた。

 

 

「形状として、現場からはこれ以上増槽のような機構を増やして欲しくないという意見が出ている」

「それについては問題を持ち帰り検討します」

 

 

***

 

 

「それで、形状についてダメだしされたわけですね」

「たしかにジャミングポットを4つもぶらさげたら邪魔そうですよね」

 

 

デーナーともう一人が胃を摩っているアルトマンを慰めるように言う。

冴えない風貌だが真面目に見えるアルトマンの説明により、

軍からは大筋OKがでたが、形状についてだけ駄目出しされたのだ。

苦し紛れに取り付けたジャミングポットをオミットしろという意見だった。

 

 

「いや只でさえバランスの悪いR-9E系列だから、これ以上弄りたくないのに」

 

 

アルトマンの泣きが入る。

R-9ER(案)はミッドナイトアイの側面と後部に銀色のタンクが計4つついている。

明らかに無理やり増やしましたといった体だった。

アルトマンがあれやこれやと考えていると、デーナーがそれに答える。

 

 

「容量が足りない。さすがにウォーヘッドみたいにエンジェルパックにするわけにはいかないし……」

「そもそもコックピット埋めても容積たりませんよ」

「いっそジャミング関係の機器をまとめてしまうのはどうでしょう?」

 

 

デーナーの意見に一瞬疑問符を浮かべる一同。

 

 

「どこにつけるんだ、それ?」

「もちろんレドームに……こんな感じ。ほら支柱もいらなくなったしいいじゃないですか」

 

 

ジャミング機材の容積を収めるために球状に膨れ上がったレドームが、

半ば機体にめり込むような感じで配置されている。

カタツムリみたいな形状になったR機が書かれていた。

しかし、アルトマンやデーナーはやけくそ気味で、他の班員も引き気味だ。

 

 

「なんかあれだけど……機体バランスは第一案よりいいし、これで掛けてみようか」

 

 

この第三次修正第二案は、なぜか軍部の審査と、開発課長レホスの審査を通ってしまい、

何故これが通ったのか? とアルトマンが頭を抱えながら開発する事になる。

 



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R-9ER2"UNCHAINED SILENCE"

R-9ER2"UNCHAINED SILENCE"

 

 

 

目の前には、球状レドームが押しつぶされ、その他の補助ポッドがもげた状態の

R-9ERパワードサイレンスが鎮座ましましていた。

外部装甲が剥がれたレドームからは内部の繊細な機器が飛び出しており、

顎と呼ばれるコックピット前方に備え付けられた、データ受信補助システムもなくなっている。

コックピット部分も派手にひび割れていた。

 

 

「これ、よくパイロットが生きていたな」

「ほら、対人戦を睨んでいるから、外にバイドは居なかったんですよ」

 

 

白衣の研究者二人が呆れ顔で呟く。

この機を開発した第13斑のデーナーともうひとり若手だった。

二人とも何度目かになる自分の作品が大破されて戻ってくる状況に呆れを隠せない。

 

 

ちなみに、対人戦といってもストライキを起した小さな採掘所で使用されたものだった。

この鉱山はR機や艦艇の素材となるソルモナジウムを産出するが前線近くにあるため、

R機やバイド接近に備えて、準軍事用レーダーを備えていた。

まさに、R-9ERパワードサイレンスのジャミング性能実地試験にうってつけであった。

 

 

それに目を付けたTeam R-TYPEの横槍で、そこまで重要施設でもないのに、

鎮圧のためにパワードサイレンスとアローヘッド中隊という過剰戦力が送り込まれていた。

小型の辺境基地なら制圧可能な戦力である。攻撃は流石にしなかったが。

 

 

「鉱山の連中びびっただろうな。スト起していたらいきなりR機一個中隊とか」

「まあ、R-9ERの弱点を洗い出すためのテストだからね。中隊単位で隠せないと意味が無いし」

「で、そのテストで盛大に事故を起したと」

 

 

もうなんだかな。と言いながらも分析に入る二人。

R機を研究室に運ばせて、独自に被害調査を始めようとしたときに、

事故対策会議に出ていた彼らの班のリーダー、アルトマンが帰ってきた。

 

 

「いやーまいったまいった。軍のお偉いさんに怒られたよ」

「あ、会議どうしたんです?」

「いや、状況的にどう考えてもアローヘッド機の過失ですと言ったら、キレられた」

 

 

アルトマンから見てそれは当然の原因だったのだが、それで揉めたのは、

簡単に言うと縄張り意識の問題であった。

パワードサイレンスは試作機であり能力評価中なので、所属はTeam R-TYPEに属するし、

パイロットも一応軍人としての身分は持っているが、Team R-TYPEより出向している。

しかし、今回の作戦に同行させられた(どちらが主でどちらが従かは意見の分かれるところであるが)

アローヘッド中隊は軍に所属しているR機隊であり、パイロットも正規部隊の軍人である。

この状態で事故が起これば互いに相手を責めること間違いなしであった。

 

 

「まあ、俺達はパイロット連中に嫌われていますからね」

「前線の連絡員は相当気を病むらしいですね。この事故どういうことだったのですか?」

 

 

班員の二人が不満げにアルトマンに尋ねる。自分の作品を馬鹿にされてうれしい者は居ない。

 

 

「ああ、なんでもジャミング中にアローヘッドがパワードサイレンスを牽引して、

戦闘機動していたら、アローヘッドと衝突したらしい」

「支援機と戦闘機を一緒考えるなよな……」

「で、進軍速度が低下するのを嫌ったアローヘッド中隊の隊長が、

機動力に劣るパワードサイレンスを牽引して進軍していて“普通に”停止したら

逆噴射が間に合わなかったパワードサイレンスが突っ込んだということだ」

「パワードサイレンスはジャミング中、ばれない様にスラスター類が最低限しか使えないから、

制動が利かなかったんですね」

 

 

パワードサイレンスはジャミング中非常に機動力が落ちる。

これは各種スラスター類がジャミング性能に影響を及ぼすためと、

機体制御に使うための容量を喰ってジャミング制御にも当てているためであるが、

もちろん、そんな理由は現場の人間に分らない。

仕様書もパイロット達が読むにしては、非常に煩雑に、分りにくく書かれている。

Team R-TYPEが詳しく説明しようにも、R機の事となると箍がはずれるこの狂科学者らが、

べらべらと話し出すのを好ましく思う軍人は居らず、結果としてこの仕様は現場に伝わらなかった。

 

 

で、パワードサイレンスを牽引したアローヘッドがR機としては

“普通”の戦闘機動を行い、ジャミング制御のため機体性能が落ちていた

パワードサイレンスが止まりきれず、衝突事故を起したと言うのがこの事故の顛末であった。

 

 

この程度の任務はアローヘッド一個小隊でも可能

(1機でもいけるかもしれない)なところに、

横槍で、無駄に一個中隊を投入することになったばかりか、

お荷物を連れて行かなければならなかったアローヘッド隊の隊員の

精神状態も考慮すべきであろう。

 

「機体の所為じゃないじゃないか!」

「どちらかというと運用とか、組織上の問題のような……」

「ごもっとも。俺たち第13斑は軍のお偉いさん達の威光もあって

存続していられるから逆らえない。改良しなきゃならないな」

 

 

***

 

 

宛がわれた研究室に入り、改良案を詰めることにした。

いつもの通り、カフェイン増量コーヒーを入れて席に座るが、

デーナーは不満気であるのが見て取れ、それに対してアルトマンが呆れて突っ込みを入れる。

 

 

「……機嫌直せよ。というか、お前らジャミング機の構想を持ってきたとき、あまり乗り気じゃなかったじゃないか」

「リーダー、それでも自分の作品を貶されるのは嫌なんです」

「まあ、愛着を持つのは良いことだよな。で、その可愛い子の改良のために、問題を抽出しよう」

 

 

よく分らない概念図が書かれたホワイトボードを引っ張り出してきて、

やいのやいのと、意見を挙げていく13斑。

多くの意見がでてホワイトボードが黒くなるが、更に時間をかけて内容を絞っていく。

数時間後にボードにまとめられた事項は。

 

 

・機体機動性能:ジャミング中にスラスター類は使用できない

・ジャミング性能:ジャミング可能空間が狭く、密集隊形が衝突に原因になる

・通信性能:周辺部隊とのコンタクトが悪い

・組織所の問題:Team R-TYPEと軍現場との交流の不備、機体データの周知(上層部に具申)

 

 

「どんなもんでしょうか?」

「組織の問題はどうにもならないから、上に挙げておくよ。

どうせパワードサイレンスだけの問題じゃないし」

「リーダー、機動性能は上げることはできても、

ジャミング中の機動性能はどうにもならないです。

近距離でのスラスター噴射はジャミングを阻害するから、

ザイオング慣性制御システムで動かないとですね」

 

 

バツ印で、ホワイトボードの項目を潰していく開発班。最後に残ったのは。

 

 

「結局、ジャミング性能とデータリンクの向上でお茶を濁すしかないか」

 

 

はあ、とため息とともに言うアルトマン。

 

 

「まあ、もともと問題あったしね。スペック上は大隊規模の隠蔽が出来ると言っても、

実践ではきっと半分以下だしな」

「あの狭いジャミング空間に30機がひしめいた状態で作戦行動をしたら、

絶対に接触事故を起しますよ。R機で玉突き事故とか笑えません」

 

 

大隊(R機30機程度)規模を隠せる性能はあるのだが、

作戦中に綺麗に隊伍を組んでいられるとも限らず、

実際の性能は中隊を隠すのがせいぜいだ。

今回の実験では中隊ですら事故を起した。

なので、空間的な余裕を作り運用しやすくすることになった。

 

 

「ジャミングレドームに収まらないが、外付けパーツを取っ付けよう」

「今回は純粋な改良過ぎてなんか……」

「衝突が起こると困るから周囲の機体が近付きすぎない様に相手のシステムを取れる様にしよう」

「強化通信システムを使ってデータリンクシステムの強化やればいい」

「レドームにそんな隙間ないし、外付けもあまりゴテゴテは困るぞ」

 

 

***

 

 

新しいジャミング機(後の正式名称では早期警戒球形レドーム装備武装強化型)は、棘の生えた蝸牛だった。

コックピットの後ろ機体中央部にめり込むように設置されたレドームは、旧来どおりであるが、

球状レドームから左右に突き出すような棘(実際にはジャミング波の増幅装置であるが)が、

付属して、独特の形状を更に奇形にするのに一役買っている。

 

また、コックピット先端の“顎”に丸い瘤と“メット”の様な覆いがついた形状も独特となった。

データリンクシステムの強化のために増設された通信、解析機器を取り付けたのだが、

場所が無くコックピット近くに取り付けられる場所を探したらこうなったのだ。

“角付きメット”で送受信したデータを、“顎”の解析機器に送り処理しているのだ。

一応、もともとパワードサイレンスにもその部分に補助機器が付いてきたのだが、

それらが肥大して、結構な存在感を放っている。

 

 

その試作機を見上げる白衣ら。

 

 

「さあ、完成だ。これで評価がよければ武装案も組み込もう」

「後は軍パイロットと一緒に演習をしてもらえばいいですね」

 

 

***

 

 

見通しの悪い宇宙空間。

この宙域は、ソルモナジウム鉱床を産する小規模天体が渦巻く場所であり、

採掘しやすい大き目の天体には鉱山が設置されている。

しかし、バイドの脅威から近いことや、労働環境が劣悪であることから

反乱一歩手前レベルの活動やストが横行していた。

なので、辺境警備隊(2線級の中古R機隊)が治安維持活動を行っている。

あまりに環境が酷くなれば上に直談判し、その結果派手にやり過ぎてはシメられ、

ある意味、ギリギリのラインで働いてきた鉱山労働者達。

 

 

……しかし、今日は勝手が違った。

 

 

『総員、配置に付いたか』

『αリーダー了解』

『βリーダー了解』

『λリーダー了解』

……

 

 

『此方、“セイレーン”ジャミングは良好。微速前進します』

『“セイレーン”、今回は大丈夫だろうな?』

『新型ですし物理的に接触しなければ問題ありません。

ジャミング性能試験とし採掘施設レーダーを周回した後、

作戦通り、作業エリア直近でジャミングを解除します』

 

 

そんなやり取りのあったのは、

R-9ER2のジャミング実地試験会場となった宇宙鉱山。

最近、労働者がちょっと調子に乗っていると言うことで、

潜入試験も兼ねてR機大隊規模で乗り込むことになったのだ。

 

 

『こちら“セイレーン”。エリア上空ですジャミング解除まであと10秒……』

 

 

小型採掘施設で待遇改善の抗議活動を行っていた100人程度の従業員は、

口を開けてポカンとしていた。

突然、接近警報もなく、R機の大隊が採掘所上空に現れたからだ。

 

 

***

 

 

この小鉱山で抗議活動を起した機械技師達らは全員、

さらに厳しい太陽系内の大型鉱山に送られて鉱山労働に従事することになる。

そして、技師らはこの日のトラウマを払拭するため、

R機どころか艦艇にも対抗できる武装(名目上は屈折式掘削レーザー)を持った

超大型掘削機を作り上げるのだが、それはまた別の話。

 




ミヒャエルさんに部隊を消し飛ばされたのは作者だけじゃないはず


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R-9A3“LADY LOVE”

※ここからこのssの2話目に投稿してある「Rの系譜」の順序に従って書いています。
 なお、時系列は前後しますので各話前書きでアナウンスします。

※この話はオペレーション・ラストダンス(R-TYPE FINAL)発動後、
 Bシリーズ開発前の時系列です。


R-9A3“LADY LOVE”

 

 

 

R機の代名詞ともいえるアローヘッドはOp.Last Dance時には、

すでに時代遅れになりつつあったが、現場では現役で使われている機体であった。

なぜなら、アローヘッドは初期のR機として伸代が十分にあり、内部構造も分りやすかった。

(当時はこれでも最新機能をこれでもかと詰め込んだ機体であった)

なので現場改造によって基礎性能を底上げしたり、

その素直な操作性から隊伍を組むことによる連携がしやすかった。

開発陣営で次期主力機があれこれ考えられる中、戦線を支える現場としては、

取り回しの効くアローヘッドこそがもっとも愛されていた。

 

 

が、さすがにすでに拡張性目いっぱいに改良されており、

これ以上は魔改造の域に踏み込むことになる。

そんな中でR-9直系後継機の開発が求められたのは言うまでもない話であった。

 

 

***

 

 

Team R-TYPEの課長室では課長のレホスと、研究班長の一人が面談していた。

二人とも向かい合って座っているのに、互いの顔を見ることはほとんどなく、

端末を覗き込み、画面に目を向けながら話をする。

普通なら失礼千万であるが、研究ジャンキーである彼らは礼儀など全く気にしない。

 

 

「これなんだけどぉ、君のところでお願いね。また軍部が難癖つけてきてさ。

ぶっちゃけアローヘッドの強化版、デルタの後継機を作ってということなんだけど、

まあ、君のやり方で良いよ。仕様書はそこのフォルダにあるのが全部だからぁ」

「機能はスタンダード一択、と。正直、あまり面白みの無い機体ですね」

「うん、面白みない分、実績を積むのに良いでしょ?」

 

 

レホスが上役とは思えないゆるい言葉で、適当に部下に仕事を振る。

彼は今、W系列機の機能調整で忙しく構っていられる暇が無かったのだ。

 

 

Team R-TYPEの行っている大規模計画”プロジェクトR”は、

とある目的のために、R機のあらゆる可能性を追求するのが目的なので、

このようなある意味保守的な改良はあまり興味が無いのだ。

しかし、人類が負けては元も子もないし、軍部との関係も維持したい。

現場の声に答える必要もあるだろう。という打算があった。

 

 

***

 

 

割り振られた研究室に戻り、軍からの要望書を読み込む班員達。

 

 

「つまり、アローヘッドをそのまま高性能にしろと」

「まあ、アローヘッドは基本設計が古い機体だし、

今の技術で新しい物を取り付けようとすれば、出来なくはないけれど……」

「既存技術の発展形ばかりで、つまらない機体だなぁ。ほとんどバランス調整しかやることないじゃないか」

 

 

けだるい空気が漂う午後。明らかにやる気の薄い白衣達はため息を付いた。

彼らは自分らの研究成果を機体に反映することに興奮を覚える変態的な人種なのだ。

更に後になると、研究のために機体を作るという本末転倒な暴挙が正当化される事からも、

Team R-TYPEの異常性がわかるだろう。

 

 

それに対して、現状で軍の求める物は……

・アローヘッドに共通した武装、またはその強化版

・既存システムを用いた操作性の上昇

・スタンダード波動砲の復活

・レーザーの強化

・万人に馴染みやすく、制式となるべき機体

 

 

「現場はデルタやウォーヘッドで我慢できなかったのかと」

「デルタの進化系がウォーヘッドだけれど結構仕様変更があったから、

デルタも実験的な要素が多くてアローヘッドの純粋な直系という感じでもないしなぁ」

「現場が欲しいのは、アローヘッドがそのまま新しくなったようなのだろう」

 

 

詰まらんなぁ、とぼやく研究員達。

単純なアッパーヴァージョンなので出来るには出来るのだ。

アローヘッドに慣れすぎたベテラン達は、操縦を体で覚えてしまっているため、

今更、違う機体への機種変更は困難である。

だが、ベテラン勢を総入れ替えすることもできないし、アローヘッドの現場改造も限度がある。

そのために、アローヘッドのアッパーバージョンとしてのR-9A3が求められているのだ。

 

 

Team R-TYPEも一応分っていたため、真面目にアローヘッドの強化版戦闘機を作り上げていった。

まあ、方向性は明白だし、仕様変更は出来ない。殆ど基礎設計は出来上がっているようなものだ。

あとは内部スペースと、量産性を元に武装などの調整を行うだけなので、

粛々と設計、開発が続けられた。

 

 

***

 

 

そこには外部装甲が無い機械部品むき出しの状態のR-9A3予定機があった。

すでに強力になったスタンダード波動砲のデバイスや、ビット、フォース、

少しだけ新しくなったレーザーシステム、パイロットシートが設置されている。

その前に佇む白衣3人。

 

 

ここまでの工程は最新式の機関をR機フレーム内に配置し、そのバランス調整を行うといった、

開発研究というよりはある意味作業であった。

だが完成寸前のここにきて、突然難題が持ち上がった。

研究員の一人がふとした一言が切欠だった。

 

 

「馴染みやすいって何だ?」

「そりゃあ、パイロットが一般的に好意を持ちやすい……って何だろう?」

 

 

何の気なしに、放たれた疑問であったが、その言葉はTeam R-TYPEの面々には重すぎた。

基本的に社会不適格者で構成されているこの研究開発機関において、

”一般”であるとか、”普通”であるとかいう言葉はとても難解で、

ある意味哲学的ともいえる議題だった。

彼らには普通が分らなかった。というよりは彼らの普通と一般人の普通が食い違いすぎている。

ある意味自分が普通でないと分っているだけでも御の字だろう。

 

 

「パイロットの支持を得やすい機体ってこと? 」

「うーん、POWが一部から人気なのは知っているけれど、そういうことじゃないだろうし……」

「じゃあアローヘッドみたいな?

アレだってロールアウト時は工作機みたいだと色々叩かれたらしいし、どういうことだ?」

 

 

割と本気で頭を悩ます各人。

機体性能的にはどうでもいい事なのだが、軍からの要望書では、下線を引いて強調してある。

無視するのは不味かろう。

 

 

Team R-TYPEは放っておくととんでもない物を作る。と、理解した軍からの抵抗だった。

強調しておけば、さすがに多少なりとも考慮した機体を作るだろうと。

しかし、0に何を掛けても0なのだ。彼らには常識がない。

うんうん、唸っていた班員であるが、班長が終止符を打った。

 

 

「よし、俺達では考えても分らない事が分った」

「知ってるよ。だからどうするかを考えているんだろう」

「うん、だから分るだろう人間に決めてもらおう」

「うん?」

 

 

そして、結論としてでてきたのは丸投げだった。

 

 

***

 

 

 

 

○緊急公募○

 

 

新規R型異相次元戦闘機のデザイン募集!

大賞受賞者の作品はTeam R-TYPEが3D化、実機配備されます。

その他副賞として、フォース模型をプレゼントするよ!

みんな、たくさん送ってね!

 

 

*応募条件

 ・内部フレームを元に正面、側面からの装甲形状、カラーリングが分るように書いてね!

 ・キャノピーはラウンド型

 ・スラスター、各コンダクターデバイスの変更は出来ないよ。

 ・大きさは……

 

 

***

 

 

後に「Rゆにっとぬり絵」と呼ばれた、この公募ポスターと応募チラシは、

各地の公的機関に置かれ、イベントで配布されることとなった。

軍の高官がそれを発見して、公共の場で罵詈雑言を撒き散らすほど激怒したが、

すでに方々から投稿があったことと、回収費用が組めなかったため、そのまま継続されることとなった。

 

 

Team R-TYPE上層部、軍広報担当などが中心となった会議で、受賞作品が選出された。

 

 

デルタに類似しており、R機の戦闘力を損なわない形状

R機らしく白をメインカラーに、赤いさし色

婦女子からも受けが良さそうな、桃色のコックピットカラー

アローヘッドを意識した、ハートに矢というマーキング

 

 

一般公募にあった“レディ・ラブ”と名付けられた機体案が大賞を受賞した。

後のインタビューで受賞者が歌手であることが判明し、

その芸名から「へ○る号」というあだ名を付けられることになる。

 

 

ちなみに、肝心のパイロットからの評価は、

機体性能は素直、癖が無くて使いやすいという意見以上に

「他人の目線が気になる」

「家族には見せられない」

「ぼくが悪かったですアローヘッドで我慢します」

 

 

といった泣き言が寄せられ、機体性能の割にイマイチ人気のない機体で終わることとなった。

 

 



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R-9A4“WAVE MASTER”

※時系列的にはB系列機が表に出る前、
かつ主だったR系列機がある程度出そろった頃です。


R-9A4“WAVE MASTER”

 

 

 

バイドとの闘争の中、異層次元戦闘機R機は爆発的に進化を続けていた。

R-9を起点として機体派生表はさながら系統樹のようになっていた。

もっとも兵器の種類が異様なスピードで増していくというのは、

戦闘中でも実験機を運用できるほど余裕があるか。

末期戦として一か八かの生き残りを掛けて、多様性を無理やりに求めているか。

どちらかである。

 

 

人類としては後者なのだが、Team R-TYPE的には多分に前者の成分が含まれていたというのは、

後の世の定説であった。

イロモノ機体はもう良いから、真面目に波動砲メインの機体を作れ!

という現場パイロットからの魂の叫びであった。

 

 

***

 

 

「という訳で、今回の開発は軍の開発局やオブザーバーの方を交えての会議になりました」

 

 

第一回波動砲主武装新規R機開発会議という長い名前の会議で、

そう説明するのはTeam R-TYPE開発班リーダーの一人であるジンジャーだ。

普通他所との折衝するような場面では課長級が表に立つものだが、

Team R-TYPEの開発課長でまとめ役にあるはずのレホスは、

開会の挨拶した直後に司会を部下であるジンジャーに押し付け、

自分は所用で抜けるという超難易度技を駆使して会議を脱出している。

意地でも関わらないつもりらしい。

 

 

レホス課長の傍若無人な振る舞いを目の当たりにして、

もともと底辺を彷徨っているTeam R-TYPEへの好意が、

奈落近くまで下がった状態で会議を無理やり引継された

一応常識派のジンジャーは引きつった顔で周囲を見回す。

 

 

オブザーバーとして参加しているパイロット上がりの技官は腕を組んで目を瞑っているし、

軍の開発局の課長は、ジンジャーのことを親の敵のように睨んでいる。

その他の軍側の人間も似たようなものだ。

対してTeam R-TYPE側はジンジャーと、基礎研究部門の変人研究員が一人だけ。

この会議をまとめるのは容易じゃない。と、ジンジャーは変な汗をかいた。

 

 

「ええと、今回の会議は新型R機の開発方針についての軍と我々Team R-TYPEの

意見のすり合わせの場として持たれた。……と聞いていますが、何かご意見は?」

「……開発局としては、フォースは確実性のある既存の物を望みます。

毎回毎回、違うものを出されて整備システムを見直すのは、た・い・へ・ん非効率的です」

「現場としては、高威力の対空レーザーと閉所で確実性のある反射、

対地レーザーについてはレディ・ラブから仕様を変更しないで欲しい。

現場では実戦を元に戦術を組む。仕様変更があれば血で購った戦術をまた一から立て直す必要がある。

いいかね。絶対に変えるな。手をつけるな」

「え、しかし、新規開発機なのだから新しい技術を……あ、いえ、なんでもないです」

 

 

ギロリ、と音さえ聞こえてきそうな鋭い眼光を受けて、口ごもるジンジャー。

Team R-TYPEにとって殺気を篭もった目線をシャットアウトすることなど容易いものだが、

ジンジャーはまだ良識と言ったものを捨て切れていない。

メインである波動砲や機体性能のオーダーを決める前に、釘を刺された格好となった。

開発方針を決定するための話し合いなのだが、今回の場ではかなり軍側が強く出てきている。

その態度には、そうとう鬱屈したものがある。

前回(レディ・ラブ)やその他の機体の経験から、Team R-TYPEに任せてはいけないと学習した訳だ。

 

 

「波動砲ですが、現場としてはスタンダード波動砲でお願いします」

「スタンダードだと決め手に弱いので、R-9Cの拡散波動砲やR-9Sのメガ波動砲も研究した……」

「スタンダードを強化して打撃力も向上させましょう。何より射程などの変更が無いのが重要です」

「しかし」

「開発局もスタンダードを押します」

 

 

気が弱いジンジャーは被せて言われると何も言い返せない。

外部とのコミュニケーション能力をまだ持ち合わせているとも言える。

そこを的確に付いた意見、もしくは脅しだった。

いつもTeam R-TYPEの威光を笠に現場の声をのらりくらりと無視し、機体を作り続ける研究者側だが、

その筆頭たるレホス課長が消えたので、若造(ジンジャー)に意見を押し込める気らしい。

ジンジャーとしても上司のレホスが行き成り無礼をして消えた手前、あまり無碍にも出来ない。

 

 

軍人はその官軍としての威光と実戦力を背景に発言力を増すが、

Team R-TYPEはその技術力と狂気を持って発言力とする。

未だ狂気に染まりきってないジンジャーに土台勝ち目は無かったのだ。

今回の力関係は軍側に軍配があがった。

 

 

***

 

 

ジンジャーが会議終了後、課長室を尋ねると、

緊急の所用で出張に出たはずのレホスが悠々と座っていた。

それどころか、先ほどまでの体格にぴったりの背広に黒の革靴のはずだったのが、

いつものくたくた白衣に、履き潰したサンダルという格好に変わっている。

もう、完全にリラックスムードのレホスの格好に脱力してジンジャーが言う。

 

 

「課長。酷いじゃないですか」

「あんな会議でたくないしぃ。そもそも軍から無理やり突っ込んできた会議でしょ?」

「それでも、居なくなるなら居なくなるで、一言いってくださいよ。あの後針のむしろだったのですよ」

「良い経験だったね。

ジンジャー君もそろそろTeam R-TYPEの流儀を身に着けないとここではやっていけないよぉ」

 

 

で、今回の要望書は? と手を差し出すレホスに、ジンジャーは記憶媒体を渡す。

レホスはそのカードを端末にセットしデータを呼び出すと、一気に読む。

 

 

「機体ベースはR-9A系列、武装はスタンダード波動砲強化型、レーザーシステムは従来強化型、

スタンダードフォース改装備。ミサイルは従来どおり追尾、誘導に爆雷。えらく具体的だね」

「ええ、相当品はダメだそうです」

「つまり全面的に軍の意向が通ったというわけだ」

「すみません」

 

 

頭を垂れるジンジャーだが、レホスは特に気にした風でもなく続ける。

 

 

「いや、良いんじゃない? これで軍というか、現場の気を抜けるし」

「例のR-9W系列に対する不満ですか?」

「いや、これから不満が溜まるだろうから今のうちにね」

 

 

悪名高き試験管機R-9Wワイズマンよりも不穏な機体を、企画中ということであろうか。

ジンジャーはそう考えて、また次回会議でバッシングを浴びるのかと憂鬱になる。

 

 

「それより、君が指揮とって、ちゃんとやってね」

「開発自体はスタンダード波動砲を改良することくらいので、簡単なのですが、

バランス調整は、あの調子ではちょっとやそっとでは納得してくれないかもしれません」

「君に一任するから、お願いねぇ」

「……ですよね」

 

 

とぼとぼと課長室を辞するジンジャーの後姿は煤けていた。

 

 

***

 

 

「ジンジャー班長。コックピットが違うようだが?」

「従来型のコックピットシステムはサイバーコネクトを採用した新式に全面的に切り替えられます」

「それは要望書と違うので戻してください」

「……わかりました」

 

 

「ジンジャー班長。波動砲はどうだね」

「はい、ループを重ねることでスタンダードⅡより威力をあげました。

副産物として波動砲の投射時間が多少延びましたが……」

「いや、チャージ時間は途中で打ち切れるから構わないが、投射時間はそのままで頼む」

「でも、コンダクターに負担が……いえ、なんでもないです、わかりました」

 

 

「ジンジャー班長。ビットだが、シャドウ、ラウンドに加えてR-9D系列のシールドタイプは付かないか?」

「今からつけるとなると、全部取り外して設計からもう一度することに」

「迎撃型で配備するとやはりシールド型の方が、生存率が上がって良いのだけれど……」

「……わかりました」

 

 

「ジンジャー班長。塗装だが……ピンクだけはやめてくれ」

「一応、公募だったのですが、アレ」

「いや、カラーリングだけはアローヘッドに倣ってくれ、士気に関わる。これは本気だ」

「はぁ、別に構いませんが」

 

 

「ジンジャー班長。愛称案だが」

「アローヘッドⅣ(まんま)、アローフェザー(捻りが無い)、バイドデストロイヤー(なにかの技名か?)、

ヴァリエイト・リル(たしかバーチャルアイドルの名前だ)……!」

「どうだね。現役パイロット案なのだが」

「……もう少し、広く募集しましょう。いえ、決定に関しては軍にも相談しますから」

 

 

「ジンジャー班長――」

 

 

***

 

 

結局名称は軍上層部に投げた。現場からの文句が付かないからだ。

ちなみに「波動を極めし者」という意味で、ウェーブマスターという名前が可決された。

R-9A4ウェーブマスターが完成、現場に配備されると、その素直な操作性、なじみのあるフォースにビット、

特性はそのままに威力のみ増したスタンダード波動砲Ⅲという武装が受けて、現場から絶賛された。

 

 

「終わった」

 

 

ジンジャーとしては「完成した」というよりは、正に「終わった」という感想だった。

Team R-TYPEと軍の両方に板ばさみになった開発班長。

神経をすり減らす開発環境は、また一人の研究員を狂気に染めていく。

 

 

「もう、こんな折衝ばかりの開発はごめんだ。次は絶対に作りたいものを作ってやる……!」

 

 

***

 

 

この後、Team R-TYPEの開発方針と軍の要望はことごとく食い違っていき、

B系列機の開発に至っては、両者の仲は危険なまでに冷えきる。

それでもTeam R-TYPEが存続したのは、戦時中という特殊事情と、

上からの圧力、技術力と開発能力があってこそのことだった。

 

 

軍側は汎用機としてそこそこ使える画一化された機体を欲し、

Team R-TYPE側は特殊用途や実験的なR機を作り、尖った性能の機体送り出していった。

なぜならTeam R-TYPEの、オペレーション・ラストダンスの目的は、

究極互換機の開発と、それによるバイドとの完全決着であり、

各種機能を取り込んだ完成形としての究極互換機を作るのに没頭していた為だ。

 

 

軍、Team R-TYPE両者とも、求めるところは「どこでもなんにでも対応できる機」だった。

今持てる汎用性と、完全なる互換性。

両者の求めるものは、そんなに違うものではなかったのだが。

 

 

Team R-TYPEと軍との関係が平常化するのは、R-99ラストダンサー完成後。

Team R-TYPEが解散する直前のことだった。

 



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R-9AD“ESCORT TIME”

R-9AD“ESCORT TIME”

 

 

 

R-9A4ウェーブマスター開発後、とある開発計画がひっそりとスタートした。

計画の名前は「デコイユニット装備機開発計画」。

本来のデコイユニット有人支援型のPOWなどに装備されているバルーンと簡易AIを搭載したものである。

しかし、R機にはそんな嵩の張るものを搭載する余地はない。

ならば、R機固有の武装である波動砲で作ってしまったのがこの系列機である。

 

 

後の世で「要らないR機」上位争いに常に食い込むこととなる機体群であった。

 

 

***

 

 

課長室にいるのは、この部屋の主であるレホスと、

頬がこけて見るからにローレル指数が足りて居なさそうな体形の男性研究員だった。

 

 

「ジンジャー君、キミ痩せたよね? ひと皮剥けたというか物理的にも軽くなった?」

「ええ、お蔭様で15kg減です。課長もどうですか、板ばさみダイエット。効果抜群ですよ」

「んー僕が、軍とTeam R-TYPEの間に入っても痩せないんだよね。

でも、なぜか代わりに双方の担当者が痩せていくんだよねぇ」

「私とかですね?」

「キミとかだね」

 

 

最近性格が変わったともっぱらの噂の班長ジンジャーと、常にマイペースの課長レホスは

向き合ったままで、しばし課長室に笑いを響かせていた。

しかし、片方はうつろな笑いであり、もう片方は他意はなく楽しげだった。

どちらとも無く笑い終えると、ジンジャーは記憶媒体を取り出してレホスに渡す。

レホスが内蔵データを呼び出すと、そこに新しいR機の武装案とその概要が書かれていた。

 

 

「デコイユニット装備試作機ねぇ? 良い感じに狂った感じだけど、

ジンジャー君らしからぬイロモノを持ってきたね。君こんな発案してたっけ?」

「ええ、前回のウェーブマスターは評価こそ良いのですが、もうあれはこりごりです。

いい加減普通とは違った物を作りたくなりまして」

「『作りたく』ねぇ……。班長になっても普通のままだったから、ここには向かないかと思っていたけれど、

キミもやっとTeam R-TYPEに馴染んできたねぇ」

 

 

ありがとうございます、と微笑み返すジンジャーだがこけた頬と目のクマの所為で非常に怖い。

この怪しい笑みには、前回の開発で面倒な部分を全振りして逃げたレホスに対する

根深い恨みつらみも混じっているのかもしれない。

しかし、そこはジンジャーも大人であり、直接的な報復ではなく、

R機の研究に昇華されたナニかにすることにしたようだった。

 

 

「ところで、キミの研究班なんだけど、この前突然辞表を提出してきたんだよね。全員。一身上の理由だって」

「集団退職?」

「キミは珍しく常識人“だった”からね。班員も自然と普通のが集まるわけさぁ。

普通の人の下が良いです、って。で、そこに来てあの開発環境だからね」

 

 

折衝が付かず、軍からの強い要望という仕様変更に追いまくられる現場に耐え切れなくなって逃走したのだ。

Team R-TYPEからの離職者は機密遵守の誓約書を書かされた上で、その後の職なども制限される。

それでも、今回辞めた職員は、ヒラ研究員過ぎて重要機密には触れていなかったため、

(研究内容も波動砲メインの真っ当な機体だった)離職が許可されたのだ。

もっと機密にのめり込んでいたりすると、辞められないどころか、消される場合もある。

Team R-TYPE内では、彼らは研究者から被験者にバトンタッチさせられているというジョークがある。

そんなブラックな話がジョークとして話されるのは、離職者は、R機研究を道半ばで離脱した根性無しとして、

部署内で侮蔑されているからである。

辞めた班員は落伍者、ギリギリR-TYPE側に来られたジンジャーは狂化したといえる訳だ。

そんな、ことをつらつらと考えながら、ジンジャーは呟く。

 

 

「退職って彼らは普通に退職できると思っているのでしょうか?」

「まあ、常識って怖いよね? ここで常識が通じるはず無いのに」

 

 

レホスは足を組んで、ジンジャーに笑いかけた。

その思考はすでに居なくなってしまった研究員ではなく、

手元の新規R機の計画書に向かっている。

 

 

「うん、本来なら正式書類でてからGOサイン出すんだけれど、

この機体コンセプトは全く新しいものだからねぇ、開発前提で進めて良いよ。

プロジェクトRの推進にも役に立つかも知れないしぃ」

「分りました」

「試験機だからねぇ。仕様書だけは君がまとめれば良いよ。書類が揃ったら活きの良さそうな人員を見繕うから」

「書類が揃ったら? ということは、これ、ひとりで?」

「そ、キミ、もう折衝は嫌だと言っていたし、他人を気にしなくても良いから楽でしょ?」

 

 

いやぁ、良いことしたなぁ。とレホスは自画自賛をする。

その顔はぜんぜん悪びれていない。

 

 

「レホス課長、冗談ですよね?」

「あー、もちろん、辞めてもいいんだよ?」

「いえ……、やります。期限は一ヵ月後でよろしいですね?」

「うん、一ヶ月半あげようと思っていたんだけどー、キミがそう言うなら一ヵ月後でいいよ」

「……はい」

 

 

空元気からの無駄気合によって自ら墓穴を掘り、要らない制限を掛けてしまった事に気づく。

肩を下げて課長室を出て行くジンジャーの背中は、やはり煤けて見えた。

 

 

***

 

 

その後、自らの研究室に篭もり自分で課した期限に間に合わせるため、

ジンジャーの研究室は暫く電気が消えることは無かった。

しかし、一人しかいないはずの室内から話し声が途切れることは無かった。

 

 

「前回は散々文句を言いやがって、現場パイロット共が。

フォースは癖が無いの、機動は素直に、波動砲も直線軌道じゃないと連携できない?

連携、連携、連携……そんなに連携したりしたいなら、一人で小隊を組めば良いんだ。

デコイで隊伍を組めるようにしてやるさ。基幹が自分なんだから文句は無いだろう。

一人小隊を可能にしてあげるんだからこれは現場の声に沿った開発に違いない!

前回あれだけ我侭を言っていたのだから、此方の我侭に付き合ってもらっても罰は当たらないはず。

むしろ、この新しい境地、デコイ機の素晴らしい世界にエスコートしてやればいいさ。

ん? エスコート? なかなか良い響きだな。シリーズ化前提だし一機目の試験機は

デコイ世界へのエスコート役に違いない。仮題でこれを開発名称にして置こう……。

そういえば、あいつら「R機といえばアローヘッドカラーだ」とか散々ほざいていたからな。

うん、現場の声は大切だ。装甲形状とカラーリングはアローヘッドを意識した、

ブルーコックピットでホワイト系、赤のさし色にしておこう。これで掴みはOK。

アローヘッドが一番とか言っていたし、パイロット連中にも受けが良いはず。

さて、肝心のデコイギミックだが、デコイ発生には波動砲のエネルギーサーキットを使おう。

サーキットループ時のエネルギーを外に出力して保持していけばいい。

コンダクターを改良して、虚数空間のエネルギーを複数個所で保持できるようにして、

R機型を取らせてデコイにして、解放時は波動エネルギーに戻して発射だ。

ついでに防御機構も兼ねられるように、半分実次元に顕現させてみよう。

でもこの出力だと精々2機分が限界か。まあ、試作機だし欲張ることは無い。

波動砲コンダクターの改良は、こうなって……」

 

 

ぶつぶつと呪文のように何かを呟きながら、ひたすら何時間も何日もひたすら動かずに

コンソールを叩くジンジャーはどこからどう見てもTeam R-TYPEの研究員だった。

 

 

こうして、W系列機やB系列機とは別の意味で、悪名高きデコイシリーズの一機目

R-9AD“エスコートタイム”が開発された。

 

 



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R-9AD2“PRINCEDOM”

R-9AD2“PRINCEDOM”

 

 

 

「ジンジャー班長、マジぱないわね」

「うーん、課長はもうアレだけど、班長級の人もやっぱり何処かおかしいんだな」

 

 

研究室の机に突っ伏して、ジンジャーの鬼気迫る折衝や、研究姿勢についてを評価しているのは、

エスコートタイムの開発研究時から、班長ジンジャーの研究室に新たに配属された

男女ひと組の若手、ダレスとライラであった。

課長レホスの「活きが良いほうが良いでしょ」という謎の配慮からだが、

一応、若いだけあって体力もあるのか、研究ラッシュになんとか付いてきていた。

 

 

「ライラ、俺、先輩たちからは、ジンジャー班長はまともな人だって聞いたんだけど」

「Team R-TYPEと外では『まとも』の意味が間逆だっていうのも良く聞く話よ」

 

 

そんなことを呟きながら、食べそこなった昼食の代わりに流動食を無理やり流し込んでいた二人は、

ドアの開く音に反応してダレスとライラは起き上がる。

部屋に入ってきたのは最近やっと吹っ切れたと噂の班長のジンジャーだ。

 

 

「さて、デコイ試験機エスコートタイムの調整も終わったことだし、実戦配備型の開発に移ろう。報告」

「はい、エスコートタイムの評価は辺境域でのテストの結果から出しました。手元の端末を見てください」

「戦果としてはまあまあし、試験機ということを考慮すれば、かなり良い線なんじゃないか?」

「うーん、でも班長、あの機体こんな評価がでるようには思えないのですが?」

「確かに何でだ?」

 

 

新人2人が首をひねる中、ジンジャーが説明を入れる。

 

 

***

 

 

エスコートタイムの評価にはカラクリがある。

試作機エスコートタイム用に開発された操縦システムが特殊すぎたため、

アローヘッドに慣れた既存のパイロット達は操縦が困難だったのだ。

なので、覚えの良い若手の下にそのすべてが配備(押し付けたとも言う)されたのだ。

それだけ見れば失敗フラグだが、それすらも乗り越えてエスコートタイムは愛用された。

なぜなら……

 

 

専用機  :他の先輩パイロットが乗りたがらないので実質的な意味で

少数試作機:さすがに試作機から大量生産するほど狂ってはいない

操縦が困難:W系列の反省から通常の操縦システムを使ったので、操作が複雑化した

特殊機  :誰がどう見ても変態的発想で作られた機体である

 

 

これらの単語が歳若いパイロットの心をくすぐったためだ。

英雄思考の高い若手パイロット達はこの中二心くすぐる専用機を、事のほか愛した。

中には整備員に混じって、愛機に雑巾がけまでする者まで出る始末だった。

 

 

寝る間を惜しんで訓練を続けるほど入れ込めば、上達も早いのも頷ける。

しかも、訓練で最も時間を取られ、熟練が必要とされるチームワークが必要ないのだ。

雑魚バイドを相手取るのには、まあ向いている機体なので、無双感も得られる。

積極的に戦場に飛び込む者が増え、戦果を押し上げる要因になった。

 

 

それだけなら、逸って死ぬのが常なのだが、先輩達が、裏方でフォローに回ったため生存率も良かった。

先輩も流石にこの変な機体を若いのに押し付けたという後ろめたさを持っていたので、放置はしにくかったのだ。

 

 

このような妙な連鎖反応もあって、エスコートタイムは開発段階で不当に高く評価されてしまった。

 

 

***

 

 

「というわけで、デコイ機は続投することになった」

「ジンジャー班長、詐欺くさいです」

 

 

ライラが言うが、吹っ切れたジンジャーは気にしない。完全にTeam R-TYPEの色に染まっていた。

しかし、そこは班員も慣れたもので、こんなものかと直ぐに頭を切り替える。

研究室のディスプレイには、僚機ガンカメラによるエスコートタイムの戦闘の様子が流れている。

ジンジャーはホワイトボードの前に移動すると、正式版改良案と書き殴った。

 

 

「さて、前回ダレスとライラは作業から入ってもらったが、“今回”は検討からだ。意見は忌憚なく」

「では、さすがにデコイ2機では打撃力不足です。これでは破壊判定のあるビットです」

「手数が勝負の機体なので、波動砲の威力よりも、数を上げた方が良いかと」

 

 

部下二人の言葉にジンジャーが言う。

 

 

「やっぱりか。でもこれ色々容量食うから、デコイの数を増やすと、他は据え置きなんだ」

「デコイ以外はレディ・ラブ仕様のままってことですね」

「標準仕様はウェーブマスターで極めましたし、その他に埋もれるよりは尖った方が良いのでは?」

「そうかな? ……そうだな」

 

 

自分と同じ方向性の意見が出る事に少し安心して方針を決定するジンジャー。

吹っ切れたのはたしかだが、根はまだ優柔不断らしい。

 

 

結果として、R-9AD2の仕様は、レディラブやエスコートタイムと同じく、

スタンダードフォース改に、各種ノーマルレーザー改良型、ミサイルは追尾、誘導と爆雷、

そして波動砲はスタンダード波動砲なのに3ループとなった。

これはデコイがエネルギーサーキットのループ時のエネルギーに由来するものなので、

デコイを増やすために、態々ループ数を増やしたことによるものである。

しかし、威力の向上には全く寄与していなどころか、実際にはデコイ生成に

エネルギーの一部が食われるため、個々の波動砲威力は低下しているというものだった。

 

 

仕様が固まった、ジンジャーの研究班は開発を進めることにした。

 

 

すでに課長レホスよりシリーズ化の約束は取れているので、

出張中で不在のレホスに確認メールだけ送って、そのままR-9AD2の開発に向かった。

 

 

***

 

 

「配備環境?」

「そう、アレ使いにくいって一部を除いて現場で嫌われていてさ」

 

 

R-9AD2の大方の形が決まったころ、レホスが出張から帰ってきた。

課長室に呼び出されて聞かされたのは、機体を配備する場所が決まっていないということだった。

 

 

「では、前回のR-9ADでテスト機を配備した現場はどうでしょう?」

「あそこもベテラン勢からは嫌われているからね」

「テスト機パイロットに任せましょう。彼らならプリンスダムを大事にしてくれそうです」

「なにもうR-9AD2の名前決めたの?」

「デコイが大量に集めて、大規模集団が作るのを想像しまして公国(プリンスダム)と」

「キングダムでないあたり謙虚なのか判断に迷うね。 そうだね、評価が偏りそうだけど、前回の現場と同じでいいか」

 

 

どうせ、僕の作品じゃないし、とレホスが小さな声で言う。

 

 

「ただし、パイロットが少ないから開発は少なめにね」

 

 

***

 

 

R-9ADエスコートタイム同じ基地に配備されていくR-9AD2プリンスダム。

前作エスコートタイムがアローヘッド系の配色だったのに比べて、

プリンスダムは真っ赤な機体に群青色のコックピットカラーという、

外見だけとっても、すでに現場への配慮をすっぱりと止めた機体だった。

 

 

もちろん、ベテラン勢や運用側からは蛇蝎のごとく嫌われ、前回デコイ機を使った新人に割り振られる。

しかし、妨害されれば妨害されるほど燃え上がる恋もある。

愛機の評価を上げようとデコイ機パイロット達はバイド狩りに精を出していき、

デコイ制御による一斉射撃はやはり雑魚バイドには相性が良く、機体数の割には大いに戦果をあげる。

 

 

パイロットの一途な愛もあって、戦果は底上げされていく。

そして新人パイロットと、ベテランパイロットとの連携を不足させていくこととなる。

 



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R-9AD3“KING'S MIND”

R-9AD3“KING'S MIND”

 

 

 

辺境の小型基地らしき構造物。

本来は暗幕に星々が煌く宇宙空間が背景だが、今は無数の小型バイドが覆っている。

そこではチカチカと忙しない発光が見える。

 

 

どうやら赤いR機がミサイルを撃ちながら小型バイドを牽制しているらしい。

機首方向に青白い収束光が認められることから波動砲をチャージしているのが分る。

それに伴い、薄く発光する似姿が、1機、また1機と赤い機体の陰から現れて周囲に展開する。

赤い機体が基地壁面や構造体を掠めるように機動すると、その似姿も互いの位置を調整する。

赤いR機の機動に追従して一定距離を保つようなフォーメーションを取るそれは、

攻撃こそしないが、小型バイド程度なら接触時に破壊できるようだ。

 

 

しかし、レーザーも打たずミサイルのみでバイドに挑む赤い機体は次第に追い詰められていく。

青白い似姿を従えて、単機駆けの要領で地形を利用して逃げていたR機だったが、

とうとう袋小路に追い詰められ、機はバイドの群れに向き直る。

波動砲のMAXチャージを示す鋭いエネルギー収束光が見えた。そのとき似姿は4体まで増えていた。

バイドが一気に迫ってきたとき、赤い機体が波動エネルギーを留める力場を解放するのにあわせて、

似姿は一気に崩壊し、波動エネルギーとなり、直前まで迫っていた小型バイドの群れを蒸発させた。

 

 

***

 

 

「これが、この前使ったデコイ機プリンスダムのPR用の動画だ」

「映画の予告編みたいですね」

 

 

Team R-TYPE開発班班長ジンジャーとその部下ライラの言葉だ。

続けてダレスとライラが感想を述べる。

 

 

「よく撮れていますね。戦場とは思えない画質です」

「このためにミッドナイトアイを投入したかいがあったわね」

 

 

1/500のスローモーションにしても滑らかな、場違いな映像。実はこれは裏がある。

撮影のために並々ならぬ仕込みを行ったのはジンジャーが指揮するこの研究班なのだ。

 

 

様々な特権やコネを動員して、情報を操作し、防衛体制に関与した。

態々、一時防衛ラインでゲインズやタブロックといった強力な個体を含む群れを撃破し、

小型バイドのみで攻勢された群れのみを選別して、防衛ラインを素通りさせたのだ。

さらに撮影場所となる辺境基地(デコイ機が投入された)を確実に襲うように、

事前に機密物資として基地内に大量のバイドルゲンを運び込み、バイドを誘引した。

その物資も不自然にならない様に“エンジンの不具合”で寄港した輸送艦が持っていった。

 

 

もちろん、整備計画に裏から干渉して、R-9AD2プリンスダムが全機出撃できるよう、

基地ベテランパイロットの乗る他のR機がなるべく出撃できないように調整した。

当日、Team R-TYPE所属の撮影用のミッドナイトアイ機が、基地近く単独で巡航しており、

バイド襲撃の際に辺境基地に避難しようとしていたのだって抜かりは無い。

残念ながら、目撃者として軍や政府の有力者を基地に滞在させることは出来なかったが、まあいい。

研究の合間にTeam R-TYPEの様々な事務も経験してきたジンジャーにとって不可能ではないことだった。

……なまじ真面目だったので、他の無軌道研究員達のしわ寄せがいっていたという意味でもあるが。

 

 

様々な演出をした甲斐もあって、R-9などの他のR機を差し置いて、

R-9AD2プリンスダムはたった4機で襲ってきたバイドのおよそ8割を撃破するという戦果を挙げた。

これと同じ事をするにはアローヘッドなら3小隊15機体制くらいは必要になる。

数字の上では。

実際にはアローヘッドでもレーザーでの掃討が可能な雑魚ばかりなので、かなり盛った数字である。

 

 

そんな裏事情を知っている彼らとしては、このPR動画は作品だったのだ。

少しやりすぎた感はあるが、その分いい映像になった。

ジンジャーは今までの様々な苦労が無駄ではなく、自分の作品に活かせたと感動していたし、

部下のライラとダレスも、Team R-TYPEの容赦ない開発競争を見て、やる気を出した。

今、ジンジャー班は妙な高揚感に包まれていた。

 

 

「さて、これを持って、デコイ機を軍部に売り込んだのだが、お偉いさんには中々好評だった」

「お偉いさんって数字は見るけど、現場は余り見ませんからね」

「数字だって嘘ではないわ」

 

 

共犯者じみた笑みを浮かべて笑う三人。ジンジャーが笑ったまま続ける。

 

 

「さて、今日審議の結果が来たのだが、後継機であるR-9AD3の一般採用がほぼ内定した。

デコイ機能を増加して、他の性能はそのままということだが、もともとそのつもりだから問題ない」

「では開発ですね!」

 

 

ハイタッチをするライラとダレス。

その後の開発方針はもう決まっていたので、すぐさま改良案が検討された。

フォース、レーザー、ミサイルは据え置き。

改良はもちろんデコイ波動砲だ。今までは3ループのデコイ4機であったが、

更に推し進めて4ループのデコイ6機体制にすることに決まった。

 

 

「デコイの盾で押しつぶす感じですね」

「高エネルギー弾は通すけどな」

「波動砲単体の威力は下がるが関係ないな」

 

 

そんな会話もあったが、事前準備もしていたこともあって着実に開発は進む。

 

 

***

 

 

宇宙に沈みこむような深い青の機体色と、煌々と輝くオレンジのコックピットカラーは、

前作プリンスダムよりさらに目を引く警戒色だった。

R-9AD3キングス・マインド。王の名前を冠したデコイ機の最新型機だ。

 

 

お偉いさんに一般配備を約束されたキングス・マインドは件の新人達を始めとして、

幾つかの基地に配備された。

 

 

ここは太陽系辺境基地。以前のデコイ機がここで挙げた戦果を表して、簡単な除幕式が行われる。

もっとも戦時中なので、この式が終わったらすぐに戦闘や訓練に使われる。

そのため展示されている一機を除いて他はすでに武装もされており火が入っている状態である。

ちなみに件の新人達はすでにデコイ機信者となっており、新しい愛機が来たのに舞い上がり、

「牙持つ影を操る狂王」と、通常の精神状態なら赤面するような名前を付けて呼んでいた。

 

 

茶番だらけの式も滞りなく進み、このあとは新人達による慣熟飛行訓練が行われる予定だった。

しかし、式の終わり、リボンカットの段階になって、けたたましいサイレンが響きわたる。

軍関係者は普段の訓練からそのすぐさま迎撃のために立ち上がり、持ち場に走り出す。

式の出席者のゲストだけが取り残された。

 

 

「あれ、バイド接近警報?」

「……班長。これも仕込みですか?」

「いや、関係ない。不味いな、大型バイド来たら事だぞ。アローヘッドの出撃を要請しよう」

 

 

そんな中、ダレスとライラがポカンとして、ジンジャーは苦い顔をした。

デコイ系列機が大型バイドとの相性が致命的に悪いのはシミュレーションを重ねた彼がもっとも知っている。

ジンジャーは基地司令の元に駆け込み、すぐさまアローヘッドの出撃を要請する。

 

 

「何を言っているのだね、ジンジャー班長。君らのゴリ押しで短期間に3機種が配備されたものだから、

もともとこの基地に配備されていたアローヘッドなどの機体は他の基地に持ってかれてしまったよ。

今あるのは新人達が乗ったキングス・マインドと。機種変更したばかりのベテランが乗るプリンスダムだけだ」

 

 

それを聞いて青ざめるジンジャー。

何かと面倒ごとを運んでくるTeam R-TYPEの疫病神との会話を打ち切った基地司令は、

邪魔するなとばかりに、指揮権に絡んでくるジンジャーを追い出し、迎撃体制を整えていく。

 

 

司令所を追い出されたジンジャーらは士官食堂で他の式典出席者とともに戦況を見守ることとなる。

そのでは基地の外部カメラで撮られた映像が投影されていた。

そこにはタブロックの大型ミサイルに翻弄されたところに、小型バイドにまとわりつかれたり、

ゲインズの凝縮波動砲でデコイごと打ちぬかれていく。

本来ならそれを防ぐためのチームワークであるのだが、単機になれすぎたパイロット達は

個別に応対し対処限界を超えて迫り来る物量に対応できない。

それをフォローすべきベテラン勢も慣れない機体。しかも、操作が煩雑でデコイを有用に使えない。

操作は煩雑で波動砲の性能は落ちているだけの機体では、どうにも対応できない。

ジンジャーらはデコイ機が撃墜されていく様子を、自分が呼んだお偉いさん達と見ることになった。

 

 

周辺基地からの応援が来た頃には、結局単機で前に出すぎたキングス・マインド各機は全滅。

ベテランの乗るプリンスダムもデコイ機能を捨てて善戦したが、

ロストかパイロットが無事でも機体は修繕不可能な状態だ。

戦闘後、この辺境基地に残っているのは式典用に展示されたキングス・マインドだけだった。

 

 

***

 

 

数日後、班長ジンジャーが査問会に召喚されている中、

研究室に戻っていたライラとダレスは、分析のために録画映像を見ていた。

二人とも脱力しきって活力はまったく感じられない。

なぜなら、デコイ機の弱点がこれでもかと露呈してしまったのだ。

これから手塩をかけて育てたこのデコイ機たちがどのように扱われるかは、火を見るより明らかだ。

 

 

「まるでハンプティダンプティね」

「マザーグースの童謡の? たしか卵のことだっけ?」

「王様のお馬を集めても、王様の家来を集めても、ハンプティを元には戻せない―。

俗説ではハンプティダンプティには“せむしの王様”って意味も有るらしいわよ」

 

 

最強の名はもう戻らない

 



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R-9D“SHOOTING STAR”

※時系列的にR-TYPE⊿後くらいです。


R-9D“SHOOTING STAR”

 

 

 

 

単機突入はRの華

 

 

後の世ではそんな言葉が存在する。

 

 

これは主にパイロットの間で交わされたジョークだが、その実半ば本気のセリフだ。

これは人類を勝利に導いた大規模作戦バイドミッションが一機だけ中枢に到達し、

任務達成したことに由来する。

もっとも第一次バイドミッション時はR-9大隊30機が作戦に参加したが、

機体の不備から大隊からは離れて単独で突入を行った機が結果的に

バイド中枢の一つを破壊したのであって、当初から単機突入というわけではなかった。

 

 

そして、第一次バイドミッション(初代R-TYPE)終了後、人類はバイドの脅威に打ち勝ったとして、

過ぎた英雄機R-9アローヘッドを封印した。

その一年後には、英雄機R-9暴走に端を発するサタニック・ラプソディー(R-TYPE⊿)が発生、

この作戦は複数機による同時侵攻作戦であるが、敵地への突入自体はすべて単機で行われた

更に一年後には再びバイドの大規模攻勢が始まった。

この第二次バイドミッション(R-TYPEⅡ)では、前作戦から時間的余裕が無く、

最強の一機であるR-9Cウォーヘッドを作り上げ、再び敵中枢への単機突入を行うこととなった。

その伝統はサードライトニング作戦(第三次バイドミッション=R-TYPEⅢ)でも継承され、

単機駆けを決行することになる。このころにはすでに集団運用が研究されてはいたが、

ここでは「ゲン担ぎ」といった意味合いも大きい。

 

 

全体を見渡すと決して、単独作戦が前提の兵器ではないのだが、

成果を出すのは単独での任務ばかりといった訳で、サタニック・ラプソディが終わった時点で、

すでにR機=単機突入というイメージが定着していたのだ。

 

 

Rの系譜の中には、突入作戦支援に向けた機体も存在する。

アローヘッドが極力戦闘を避けて侵攻するのに対し、その道中の敵を予め排除。

もしくはアローヘッドが打ちもらした敵を狙撃するする役目が宛がわれた。

 

 

「流石に突入機とアイテムキャリアだけで戦場を支えるわけにはいかない」

「敵将を討ち取るのは英雄でもいいが、戦線を支える砲が必要だ」

 

 

そんな流れで単機突入型の支援も行える機体の作成に着手した。

 

 

***

 

 

この案件を担当したのはR-9の開発にも参加した経歴を持つナンブ班長であった。

サタニック・ラプソディがなんとか決着したが、軍の保有するR機は一時0機になるという、危険な状態があった。

そんななか、なんとか戦力を取り戻したい軍部は、政府を通してTeam R-TYPEにR機の開発を命令し、

Team R-TYPEより研究員を招集したのだ。

 

 

「ナンブ研究員、陸戦兵器や基地など砲門だけでは時間稼ぎにしかならない、新しい機体が必要だ」

「バイドをかいくぐるのではなく、面で抑えるということですか?」

「現状で有効打を与えられるのは波動砲とフォースのみだが、

既存物質にバイド素子が付着したばかりの小型バイドならば既存兵器で対処可能だ」

「問題は大型バイドが迫ってきたときという事ですね」

「そうだ。大型バイドは確実に防がねばならない。そして、なるべくならば突入機の遠距離援護を行える機体を」

 

 

そんな会話があったあと、研究室に戻ってくるナンブ班長。

といっても一人病欠(精神)の彼の研究室には班長のナンブと班員のジェニファーだけだ。

ナンブは帰ってくるなり軍部からの依頼というか命令ジェニファーに伝えて、

新規のR機の開発方針を明確にしようとした。

 

 

「ここに書いてある通りの話し合いがあったわけだが、具体的にどうするかを考えたい」

「班長、狙撃兵器というのはやはり波動砲ですか?」

「もちろんだ。迎撃や推進剤の問題のあるミサイルや殲滅性に問題のあるレーザーはそもそも論外。

フォースはその特性からR機から長距離、長時間の分離はできないので、波動砲一択だ」

 

 

バイドを効率的に殲滅できるのは波動砲とフォースだけであるので、

ミサイルやレーザーでは不可能であるという前提がある。

もちろん例外もあって、波動エネルギーを付加した強力な攻撃では殲滅できることが確認されているが、

これをすぐに配備することは難しい。

その代わりをR機で担うのならやはり波動砲を使うことになる。

 

 

「さて、R-11の様に機能を限定して超高機動型にすることも考えられるが、同じ路線の機体は要らないだろう」

「確かに、機体性能を限定してでも波動砲に出力を回すべきですね」

「狙撃用波動砲がメインの機体で決まりだな。よし、その方向で話を詰めよう」

 

 

喧々囂々の論議が続く。

 

 

***

 

 

設計の前に基本研究(費用は班別に割り振られた予算から支出)から研究に

入ったナンブ班ではあるが、行き成り問題にぶち当たった。

肝心の波動砲の射程が伸び悩んでいるのだ。

浮かない顔のジェニファーが測定結果をナンブに報告する。

 

 

「計測結果でました。有効射程距離10万km。これで全力ですね」

「月~地球間くらいの狙撃性能がないと役立たずになる。この圧縮波動砲にはブレイクスルーが必要だ」

「超長距離狙撃に堪えるには、虚数次元で波動エネルギーを捕まえておく力場の安定化が必須です」

 

 

虚数次元にエネルギーをチャージして一気に解放するからこその波動砲であるのだが、

もちろんエネルギーが強大になればなるほど維持は難しい。

膨大な波動エネルギーを押さえ込み、力場の関係を崩してやることで指向性を持たせることになる。

近距離で前方にぶっ放すだけの波動砲ならば、比較的アバウトな照準でもいいが、

ここで要求されるのは地球から月まで狙撃可能な波動砲であるので、

R-9AアローヘッドやR-9A2デルタなどに組み込まれたものを単純に使うことは出来ない。

力場の計算された一点だけに精密に穴を開けて力に指向性を持たせて解放し、

外部へと一気に拡散したがる波動砲の圧に負けないように指向性を維持する。

圧縮波動砲という仮称が付いているそれには、そんな技術が必要なのだ。

 

 

「それはコンデンサの性能がもろに係って来る問題ですね」

「コンデンサと波動エネルギー充填の両方でエネルギー喰われるから、出力が恐ろしいことになる」

「とりあえず、軍部から最も大型コンデンサを持ってきて、安定化を図かろう」

「それ要塞兵器に使う様なやつですよ。てかそんな出力だしたら冷却機構が持ちません」

「とりあえず、何事もやってみてからだ」

 

 

班員の愚痴に律儀に答えるナンブ。ともかくトライ&エラーを繰りかえすナンブ班。

実験区画を何度も吹き飛ばしそうになりながら実験を続ける。

 

 

***

 

 

爆発の煤が生生しい実験区画でジェニファーがナンブに意見する。

明らかに疲労の色が濃く、休息が必要な顔だが、答えるナンブも大体同じようなものだった。

 

 

「ナンブ班長……私思うのですが、どう考えても狙撃距離と狙撃精度の両立は無理です」

「やってみればなんとか……」

「これで何回目の失敗ですか! 私は200を越えたあたりで数えていませんが!」

「データナンバーによれば311回目だな。泣きたくなってきた」

「波動エネルギーを高くすると、精密狙撃のための力場の維持に多量の出力を喰うし、

精度を高くすると波動エネルギーに回す出力が足りません!」

「そこをなんとか」

「ちなみに主機の出力は限界です。それ以前に冷却機構が壊れます。オーバーヒートです。

実験区画の防護壁は堪えられますけれど、コックピットブロックは影も形もなくなります」

「そうだな」

 

 

鬼気迫る迫力のジェニファーに、とうとう折れるナンブ。

彼なりに引き際を探っていたのかもしれない。

頭を変えたらしいナンブがジェニファーに妥協案を提示する。

 

 

「しかし、冷却機構の限界を考えると、波動砲射程か、狙撃精密性のどちらかをとることになる」

「狙撃性にしましょうよ」

「長距離狙撃用R機ならばやはり月まで届かなくても、射程を……」

「長距離狙撃って突入機の援護もする可能性があるのでしょう。うっかり味方打ち抜いたらどうするんです?」

「そもそも波動砲がその距離を駆けるタイムラグとR機の機動性を考えると余り意味が無い気が……」

「目標到達前に壁に当たるのは困りますよ」

 

 

終始ジェニファーのペースで方向性が決定していくナンブ班。

 

 

「さて、ではこのデータを持ってTeamと軍部に書類を挙げようか」

「班長、まだ挙げてなかったんですか!」

「いや、軍部から形になってから挙げろと……」

「先にTeamの中だけでも書類通して置いてください! Team内で没食らったらどうするんです!」

 

 

圧縮波動砲用の波動砲ユニットと主機、冷却ユニットだけのR機のお化けを見やって言う。

そんなナンブにジェニファーが追い討ちを掛ける。

 

 

「というか、これって作る気あるんですか? 予算も流動的だし、

基本設計だけで基礎実験しかさせてくれないなんて。どういうことです、ナンブ班長?」

「しかたないさ……2年前の総力戦と今回のR-9汚染機駆除、軍もTeamも資金がないのだろう。

でも、今回の作戦でとりあえず、機体を作っておかなければならないから」

「試作案だけ作る?」

「おそらく」

 

 

実験区画から逃げるように去っていくナンブを見るジェニファーの目は冷ややかだった。

 

 

***

 

 

一週間後。

 

 

「ナンブ班長聞きました!?」

「なんだ、慌てて?」

「今朝、軍部から発表があって、バイドの大規模攻勢が観測されたそうです」

「またか、三年連続大規模作戦とは……」

 

 

ナンブが額に手を当ててため息を付くと、ジェニファーは更にせき立てるように言う。

 

 

「班長そこじゃなくて、どうやらTeam R-TYPEも総力戦体制に移行して、R-9の後継機、

仮開発コードR-9C一本に絞るらしいのです」

「つまり開発リソースを喰われると?」

「ええ、どうやら主だった研究員は全員R-9Cの研究に組み入れられるようです」

「あと、資料を課長に提出するだけだったのに、開発はお預けだな」

「だから、先に書類を通しておけば良かったのに……」

 

 

ナンブ研究室が再開し、実際にR-9Dの開発が行われるのは、

R-9Cが作戦投入してバイドを打ち破ってからの事である。

ちなみに接近戦用兵器であるフォースがつけられるようになるのは更に先のことだった。

 

 

 




ナンブ班長は目の前にあった南部茶から名前をとったのですが、
当時、パイルバンカー系列まで名前を取っておけば良かったと思っていました。


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R-9D2“MORNING STAR”

※前話からの続きですが、時系列的にR-TYPEⅡの後くらいに飛んでいます。


R-9D2“MORNING STAR”

 

 

 

 

「班長、班長シューティングスター後継機の開発が始まったそうですよ」

「シューティングスター?」

「長距離精密射撃用ユニットR-9Dのことです。覚えていますか?」

「……ああ、あれね」

 

 

ジェニファーから報告を受けたナンブは一瞬何のことか分らなかったが、続く説明によって理解する。

ナンブが理解できなかったのは、開発研究から数年の月日が経っていたからだ。

ナンブもジェニファーもウォーヘッドの研究開発に取られてしまい、そちらの研究ばかりしていた。

 

 

「アレの評価見ました? “波動砲による狙撃能力は魅力的であるが安定性に欠き、威力の向上が必要”。

これって後継機を作れって事では?」

「そうだな。シューティングスターはもっとやれるだけの素地があるからな」

「やっちゃいます?」

「んーまあ、やってみるか」

 

 

***

 

 

研究室に集まったのは、班長ナンブと研究員のジェニファー、後から新しく班に加わったレイダーだった。

車座になった三人は、シューティングスターの設計データを引っ張り出してきて、

それぞれ赤いラインで多量の書き込みをしていた。

ナンブが設計図から目を上げ他の二人に問いかけた。

 

 

「新しい機体を作るに当たって、修正点を話し合おう。では先ずレイダーからだな」

「先ず、内部設計を一新するべきです。ウォーヘッド開発で周辺機器もかなり進みましたから」

「そうだな、全部は無理だが一部流用するだけで基礎能力の底上げ可能だ。だが、根本的な問題ではないな」

 

 

レイダーが述べたとおり、

図面も無い最新鋭機を半年で実用段階に引き上げろ(訓練も入るので実際には更に短い)

という鬼畜な要望を押し通した軍の所為で、

アローヘッドの中身を一新する勢いで最新R機の内部機構を開発した。

そして、開発リソースをつぎ込んだウォーヘッドは、結果的に見れば英雄機の仲間入りを果たし、

当代最強の座に着いたのだ……コストを考えなければ。

もちろん、その開発劇の中で諸所の機器も飛躍的にレベルアップしている

 

 

それを受けてジェニファーが発言する。

 

 

「ベースはシューティングスターの各部改良モデルで良いわね。肝心の狙撃だけど……」

「前回はグダグダした部分だな。結局技術的な問題から月~地球間狙撃はスペック上だけだったし、

今回こそは嘘偽り無く月~地球間の狙撃を実践で使用可能とすべきだな。

シューティングスターみたいに冷却が間に合わなくて、波動コンダクタ周辺が溶けるとか無しで」

 

 

班長のナンブが話を進めていると、ジェニファーは眉間に皺を寄せて黙っている。

 

 

「どうしたのです、ジェニファー先輩? 具合が悪いのですか?」

「いえ、ナンブ班長、狙撃性のことなのですけど、距離は据え置きで波動砲を長時間発射できませんか?」

「出来ませんかって言われれば、不可能を可能とするのがTeam R-TYPEなのだが……

距離を諦めたそれは、もはや狙撃機なのだろうか?」

「そうなのですが……ちょっと色々アイデアでそうなので考えて見ます」

 

 

歯切れの悪いジェニファーに後輩のレイダーが話しかける。

 

 

「あまり悩むと皺増えますよ……あ、すいません。え、レンチは勘弁してください!

いえ、そうじゃなくて、それだったら起案してみたらどうですって言いたかったんです」

「ジェニファーなら能力的に班長になれるだろうし、自分の企画として課長に上げてみたらどうだろう?」

 

 

備品のレンチをレイダーの座っていた椅子に振り下ろすジェニファーを見ながら、班長のナンブが助け舟をだす。

 

 

Team R-TYPEは徒弟性ではなく、完全なる能力主義だ。

若者であろうと、定年を超えていようと、人格が破綻していようと上に上れる。

しかも、必死に勉強して努力で才能を補う者と奇想天外な発想やインスピレーションを理論で追う者、

どちらが革新的な機体を作れるかというと、やっぱり後者であることが多いため、

Team R-TYPEのある基準以上の研究者は、一般的に狂人といわれることが多い。

 

 

「でも、ここD系列機の研究班ですし、抜け駆けする様で……」

「今すぐ居なくなられるのは困るけど、先に仕込んでおくのは良いのでは?

ほら、シューティングスターの時、先に起案と通しておけって言ったのは君だろう?」

「分りました。では先ほどの案は派生系列とし別途起案します」

「では、R-9D2は狙撃距離、精度を高める方向で良いか?」

 

 

こうしてD系列開発の傍ら、DH系列開発の種が播かれた。

 

 

***

 

 

R-9Dシューティングスターは白色の装甲を剥かれて、整備台に乗っている。

コックピット下部から異様に伸びる波動砲コンダクタが異彩を放っている。

それを見上げる様にして今回初参加のレイダーが発言する。

 

 

「シューティングスターって結構中がスカスカなのですね?」

「冷却機構が出力不足だったから、波動コンダクタと冷却機周辺が異常加熱する。

で、空間を開けることで無理やり何とかしているんだ」

「古い機体だから各機関の小型化もされていないからっていうのもあるわね」

 

 

ナンブとジェニファーが懐かしそうに話す。

実際、シューティングスターの用途は、究極的には波動砲による砲台なのだ。

開発は譲歩しなかったが、限られた予算で数を揃えるために、

アローヘッドの部品を多量に流用し、高価な部品は極力使っていない。

塗装すらアローヘッドの基本色と同じにした。冷却機と波動コンダクタなど例外はあるが。

 

 

「単純な試算では内容量は85%くらい小型化できそうですね」

「それだけあれば3ループか4ループ位の圧縮回路は組めそうだな」

「冷却機が大型化するのと、精密射撃用の機材を詰めるので、3ループが限界ですね」

 

 

そんなことを良いながら、端末の中に青写真をくみ上げていく三人。

第二次バイドミッションも終了し、急な開発に追われていないため、

なんとも、ゆったり和気藹々としたものだった。

 

 

***

 

 

数時間して、意見が出尽くしたころ、班長のナンブは新しい機体案を

データ上でくみ上げて見ることにした。

 

 

「全長よりコンダクタが長いってどういうことだ」

「それより、後ろのバーニアがなんかアレですね」

「うーん、波動砲って実砲身が無いのが特徴ですけど、これって最早砲身ですよね」

 

 

圧縮波動砲Ⅱの狙撃性を高めるために加えられた色々な仕様。

コックピットより突き出した波動コンダクタ

狙撃時の姿勢制御のため、後部に増設された4つのリアアームバーニア

シューティングスターより継承した、シールドの様な照準用のディスク・レドーム

 

 

対して、機体性能そのものは据え置き。

もっとも、内部部品は新たな物に改められているが、それによって生じた余裕は、

すべて狙撃用の機能に吸い上げられ、機体性能はシューティングスターから全く変わっていない。

 

 

「うーん、尖りすぎたか。予算が多めに出るなら内部ももっと弄って高性能にしてみるか」

「でも特殊用途機ですし尖って何ぼです。それに予算は取り合いですから最初に盛っておかないとでませんよ」

「狙撃砲にR機が付いた感じですか?」

 

 

ナンブ、ジェニファー、レイダーが微妙な感想を述べる。

慌てたように、ナンブが自分の作品を擁護する

 

 

「いや、だってほら、月-地球間距離で連続狙撃が可能だし、

高機動が向かないって言っても、巡行速はアローヘッドと同じだし、

それでも接近された時のためにR-9Dと同じディフェンシヴフォースもつけるし」

「ディフェンシヴフォースって……」

 

 

ディフェンシヴフォースはTeam R-TYPE基礎研究班のフォース改良計画によって生み出されたフォースで、

その名の通り、防御に秀でているフォース……という事になっている。

何らかの理由でミサイル、波動砲が使えない自体を想定し、

接近されても機体を守れるだけの性能を持ったフォースを目指したのだが、

実際には、接近戦を考慮しすぎたため、最高火力を出すには密着状態が必要という

バランスの悪いフォースになっている。

 

 

もっとも、利点としてはバイド係数が低めで、安定しているため、

廉価で、利用しやすいといったメリットもある。

デメリットの方が大きいため、今のところシューティングスターのD系列しか用いられていないが。

 

 

「ま、まあ、課長に出してみるか」

「じゃあ、OKがでるまでの間、私は新規案をまとめています。レイダーも手伝って」

「あ、はい」

 

 

***

 

 

D系列研究班の研究室には二通の開発書類が並んでいる。

一つは超射程機R-9D2“モーニングスター”

もう一つは、持続式波動砲のR-9DH(仮)

 

 

「ええと、私もまさか班長の計画と私の計画が同時にGOサインがでるなんて思わなくてですね」

「分かってるさ、計画書を書いておけっていったの俺だし。でに、これR-9DHの方が予算多いって……!

俺の狙撃機が……D系列が開発打ち切りってどういうこと? どうしてこうなった?」

 

 

そんな会話もあったがR-9D2モーニングスターの試作が着手され、

その後にR-9DH開発班が発足する運びとなった。

班長のナンブは事あるごとに「開発中止なんて気にしていない、全然気にしてない!」と

言い続けていたが、明らかに意気消沈していた。

 

 

ちなみにR-9D2は、結局、波動砲以外の機体性能は据え置きだった。

 



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R-9DH“GRACE NOTE”

R-9DH“GRACE NOTE”

 

 

 

新しい研究室。新たに班長となったジェニファーの住処となる場所だ。

真新しい第一歩だ。と、勢い込んで踏み入れたのもつかの間、その光景に幻滅する。

 

 

型落ちした端末、机の裏のケーブル類はぐしゃぐしゃ、椅子は黒ずみ、

壁には落としきれなかった落書きだか何かのコードだか分らないもの。

とんだ中古物件だった。

ジェニファーは新任班長なんてこんなもんだと、自分を宥めながら部屋に踏み込む。

 

 

「えーと、ともかくナンブ班長に無理言って独立させてもらったのだから、頑張らないと。

ところで、私の班に配属になった人達どこよ!?」

「はい、ここです」

 

 

短く悲鳴を上げるジェニファーだが、その足元にあるダンボールの山がもぞもぞと動く。

その隙間から腕が出てきて、周囲のダンボールを退かすと、痩せて小汚い中年白衣の男が出てきた。

長さがバラバラの長髪にぼうぼうの髭、いつ洗ったか分らない白衣、明らかに垢の浮いた肌、そんな男だ。

 

 

「おはようございます。貴方が新しい班長のジェニファーさんですね? 僕は実験屋のスコッターです」

「ジェニファーよ……、なんというか、ゾンビ風? なかなか斬新な登場方法よね?

というか実験屋はともかく、不法定住者(スコッター)て何よ」

 

 

スコッターと握手した手を白衣の裾で拭きながら、ジェニファーが言う。

語尾が震えているのは怒りの所為だろうか。そんな事を気にせず中年男は言う。

 

 

「僕は実験処理とか研究で実際に操作するのが、それはそれは好きなのですが、

ずっとこの研究室で暮している所為か不法定住者(スコッター)と呼ばれていまして」

「ずっと?」

「ずっとです。ここ10年くらい研究所の外に出ていませんね」

「……もう良いわ。もうひとり、研究員が来るはずなのだけれど?」

 

 

フケだらけの頭を掻きながらスコッターが言う。

ジェニファーは眉間に皺を寄せて、落ちるフケを見ないようにしながら「もう一人の研究員は?」と問う。

 

 

「もう一人は前のプロジェクトが遅れているらしくて直ぐには来られないので、

今回は隣の研究室から人を借りることになっています」

「分ったわ。とりあえず私は研究室を整えるから、貴方はまずお風呂に入ってきなさい。今、すぐ。

でないと、フォース部品洗浄漕に叩き込むわよ!」

 

 

ジェニファーはギリギリ笑顔だったが、声は怒りを押し殺した震え声だった。

 

 

***

 

 

結局、まともな話し合いが出来たのは翌日の昼過ぎだった。

 

 

「スコッターだよ」

「ピンチヒッターとて隣の研究室から貸し出されたラヴィダです」

「班長になったジェニファーよ」

 

 

無精者のスコッターだが、その長髪を一束に結い、無理やり髭を剃らせると、少しだけ見れる顔になった。

浮浪者からヒッピーに位は格上げできる。

ラヴィダは人数が足りず研究がひと段落着いた隣の研究室から来た助っ人で、

ガチムチ体型だが常識人の様だった。ちなみに、この研究の目処が立てば、元の巣に戻る予定だ。

若く始めての班長を経験するジェニファーを補佐する予備要員という役割だろう。

 

 

「さて、行き成りだけどすでに作る物は決まっているわ。すでに書類は通してある。これよ。

機体性能その他はR-9Dシューティングスターで出来ているわ。コレを実現する方法が欲しいの」

 

 

ジェニファーが端末に映し出したのは、R機の仕様書だった。

端的に表すと、機能は最低限ただし波動砲は特殊。波動砲の継続時間が秒単位なのだ。

尾を引いているので、長く見えるが通常はエネルギーが弾頭状になるので精々ミリ秒くらいだ。

これに答えたのはピンチヒッターのラヴィダと、それに答えるスコッター。

 

 

「圧は力だから、発射というか照射時間伸ばすと威力は下がるでしょう」

「それに波動エネルギーの濃度分配も心配だね。実験すると分るんだけど、

波動砲は先頭部分が一番濃くて、末端は尻すぼみで薄くなる。だから貫通力もでる。

照射時間が長くなると威力を安定させる機構が必要になるね」

 

 

問題点や課題を洗い出す班員二人、この中で最も若いのはジェニファーで、

ラヴィダは熟練研究員、スコッターに至っては冴えないが実験研究のスペシャリストだ。

二人が問題点を挙げるたびにホワイトボードに書き込まれ、字で埋め尽くされるのもすぐだった。

 

 

喧々囂々打ち合わせ会議が続き、どうにか形になって来た頃、

スコッターが電卓を叩きながら呟いた。

 

 

「波動砲コンダクタなんだけど、この条件だと、R-9Dより更に加熱される」

「冷却装置は間に合うはずでは?」

「いや、コックピットの骨格が不味いんじゃないかな? 

計算上は連続発射しつづけるとコックピット下部の外部装甲が溶けるよ」

 

 

R機の波動砲コンダクタは胴体部下部から前方に伸びており、

コックピット下部にその先端がくる形状になっている。

スコッターの説明では、コンダクタ周辺が異常加熱してその直上にあるコックピットを炙るというのだ。

ジェニファーが思いつきで、改良案を出す。

 

 

「R-9D2モーニングスターみたいに、各所を最新機器に置き換えて隙間を空けて、

空いた空間に大型冷却装置を置くのはだめかしら?」

「加熱するのはコンダクタから放射を浴びる所為だし、コックピット部はフレームが下部にしかないから、

そこを直に炙られるのはちょっと構造的に厳しい。最悪機動時にコックピットがもげる」

 

 

 

予想される熱量の計算式をホワイトボードに書きこむスコッター。

ジェニファーは唸りながら更に案を出すが、これはラヴィダが否定する。

 

 

「コックピット周辺だけ断熱構造にはできないかしら?」

「断熱素材とか、耐熱塗料とかですか? それを突き詰めて研究すれば出来るかもしれないですが、

別に僕らはコックピットを丈夫にしたいのではなくて、新型波動砲を付けたいのだから、

楽な逃げ道があるなら其方がいいのではないでしょうか」

 

 

大型冷却機案、もっと下方に付ける案。分離案、など色々意見がでたが現実的ではない。

ジェニファーがヤケクソ気味に発言する。

 

 

「ええ、もう、だから背負えば良くない?」

「うーん、コックピットは少し下向きだから多少でも被放射量も少なくなるかな」

「でも上部なら、異常加熱したときはコンダクタを上向きに上げて冷却を待つことも出来るかも」

 

 

ジェニファーにとっては苦し紛れの一言だったが、

意外にも、そうだそうだと、男二人が盛り上がって話が進んでいく。

 

 

話が煮詰まったと見るや、スコッターがホワイトボードに図面を書いていく。

そのラインは職人芸のように狂いが無い。

基礎フレーム、コックピット、ザイオングシステム、各種スラスター、レーザー機器、ミサイル。

R機の‘背中’に砲塔が出来上がり、そこから細い棒状の砲身ができあがる。波動砲コンダクタだ。

わぁ、とため息を漏らしながら見ているのはジェニファーだ。

するすると図面が出来上がるのを見ながら、コレならいけるわねと呟く。

 

 

「さて、今のところの案は、こんな形ですが如何ですか、班長?」

「凄いわね。貴方のこと唯の浮浪者かと思っていたけど見直したわ」

「いや、研究室に住んでいるうちに、アパートの家賃を払い忘れたら追い出されましたから

住所不定といっても過言ではないのですが」

 

 

微妙にずれた和やかな雰囲気が出来上がっていた。

即席研究班ではあるが、チームとしてはまとまってきたようだった。

今回が班長初仕事となるジェニファーは特に、興奮しているようだ。

 

 

ジェニファーが「貴方最高ね」と、右手を差し出す。信頼の握手を要求しているのだ。

スコッターは少し照れたように頭を掻いてから手を出す。

ジェニファーとスコッターが世代を超えた友情を育んでいるときに、それは起きた。

 

 

スコッターの腕から何かが跳ねてジェニファーの腕に乗ったのだ。

ジェニファーが不思議そうに左手でそれを摘んでみるとそれは虱だった。

 

 

「……」

「あ、悪いね。全部洗い落としたと思ったけど、新しい卵が孵化してしまったかな」

「スコッター、あなた坊主とDDTどっちがいい?」

 

 

ジェニファーの声は怒りで震えていた。

 

 

***

 

 

持続式圧縮波動砲のコンダクタを背負った白いR機R-9DHが最終調整を終えて、お目見えの時を迎えていた。

 

 

剃りあげられて頭髪が無くなったスコッターとジェニファーは新たに出来上がった機体を見ている。

ラヴィダが居ないのは、開発の仕事が一段落した頃に、「新たなR機を閃いた」

などと言って、もとの班に戻っていったからだ。

ジェニファーはこの機体R-9DHの名付け親にスコッターを選び、

(不潔さは信じられないが、実験段階でも彼の能力は非常に有用だった)

彼は、R-9DHをグレースノート(装飾音)と名づけた。

 

 

「グレースノートとは君の事だ」と言われたジェニファーは無邪気に喜んでいたが、

スコッターが意図したのは、ジェニファーが怒った時の震え声が装飾音のようだから、

などという事は露も知らなかった。

 

 



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R-9DH2“HOT CONDUCTOR”

前回の話は予約投稿の時間を間違えました。


R-9DH2“HOT CONDUCTOR”

 

 

「ジェニファー班長? グレースノートのアンケート分析終わりましたよ」

 

 

ダンボールと毛布が積み重なったスコッターの“巣”が撤去され、

多少こなれた感のある研究室に現れたのは比較的若い男だった。

前の仕事が長引いたため、遅れてジェニファーの研究室にやってきたワイドだ。

班長のジェニファーと、若手のワイド、ベテランのスコッターがこのDH研究班のメンバーである。

 

 

R-DHグレースノートが順調にロールアウトして、実績を積んだ今、後続機の計画が持ち上がっているのだ。

ワイドの持ち込んだデータを素早く呼び出して、ディスプレイに表示すると、研究開発会議の始まりだ。

 

 

「さて、データを見ると……比較的好意的に評価されているようね」

「ええ、これなら大筋は変える必要はなさそうだね。」

 

 

特出すべき問題は無かったことに、ジェニファーと

坊主を脱出しショートカット程度に髪が伸びてきたスコッターは安堵する。

そこにワイドが質問を上げた。

 

 

「となると……威力を上げるように要請がありますけど、これを実施するとなると

R-9Dシューティングスターの系統と性能が被ってきますよね?」

「私が企画したDH系列のコンセプトはなぎ払いビームが撃てるR機よ。威力は次点だわ」

 

 

ジェニファーは地が出てきたのか、笑顔で己の欲望を臆面も無く吐き出した。

 

 

如何に現場の意見を取り入れようと、そこに個人のエッセンスを仕込む。

「好きな物を形にしたい」という開発欲こそがTeam R-TYPEの原動力の一つだ。

 

 

「まあ、D系列との差別化を含めて、DH2の方針は波動砲照射時間の延長ってことになるかな」

「なぎ払いには最低ラインで2倍の照射時間が欲しいわね」

 

 

ともあれ、スコッターが言う通り、すでに方針は決まったような物だ。

あれよあれよという間に、機体の基礎性能は据え置きに決定し、

増強された主機と冷却機の能力は、波動砲に注ぎ込まれるのだ。

もはや波動砲が本体といったR機だ。

 

 

こうして、時間は過ぎていく。

 

 

***

 

 

「あ、これもしかして、冷却装置のラインが持たないんじゃない?」

「ええと、また異常加熱ですか?」

「どれどれ」

 

 

いつも通り電卓を叩いていたスコッターが疑問を投げかけると、

ワイドとジェニファーが検討する。

 

 

「ほら、DH系ってコンダクタ部が突出していて機体側にある冷却装置で直接冷やせないから、

コンダクタまでラインを引いているんだけど、この出力の波動砲だと、コレじゃ持たないよ」

「もっと、太く? 支柱内部を通すのはダメかしら?」

「稼動部が多くて、砲身も大きくなるから強度も必要。支柱に手を入れるのは危ないのでは?」

 

 

通常のR機は波動砲コンダクタを冷却するのに、

コンダクタ基部と冷却装置が機体内で隣接するように配置されているので問題にならなかったのだが、

DH系列は外付け背負い式波動砲コンダクタであるので、冷却装置から遠い。

グレースノートは波動砲の出力が弱く、ラインも細いので何とか支柱に這わせる形で収まったのだが、

照射時間を2倍(予定)に伸ばすR-9DH2ではそうも行かない。

 

 

「このコンダクタに供給する冷却システムの増強が必要だ」

「でも、俺が思うに機体側との接続面が狭いからラインが通る隙間が無いですよ?」

「他と干渉しないように、空間的余裕まで考えると最低でも……100mm径は必要だね」

「支柱にそんな穴あけたら強度不足で、機動時に折れますね」

 

 

R機はザイオング慣性制御システムによって慣性の法則を無視するので、

急加減速や急制動による機体へのダメージは無いように思われがちだ。

しかし、ザイオングシステムはそこまで万能ではないので、完全に0には出来ない。

機体中心部では特に強く働くが、機体外部ほど本来の慣性を受けやすい。

すでにR機の制動能力が常軌を逸しつつあるR-11シリーズなどで顕著だ。

高機動機、大型機などで問題があり、大型化した波動砲コンダクタが機体中央から離れて配置されている

R-9DHもその問題に引っかかり、コンダクタを支える支柱の強度を増すことで無理矢理解決している。

 

 

考え込むジェニファーを余所に電卓を叩きつつスコッターとワイドが話し込む。

 

 

「波動砲の威力1.5倍程度に抑えれば、コンダクタも軽いし、ラインも中を通せるんだけどね」

「それはダメ。じゃあもう、後ろからライン繋げば良いわ!」

 

 

スコッターの妥協案にジェニファーが不満げに言う。

そのままつかつかと模式図が描かれたホワイトボードの前に歩み寄ると、

支柱側にあったラインを消して、無造作にコンダクタ後方から外部に露出した細いラインを書き込む。

 

 

「班長、それって俺が思うにラインの強度が不味いのでは?」

「クッション剤を充填したチューブに通せば良いわ」

 

 

ワイドの意見に、ジェニファーは自分の描いたラインに上書きするように書き込む。

まるで掃除機のチューブの様なパイプが出現した。

 

 

「試算では……出来なくはないね。ただし冷却システムが外部に晒される分、外部衝撃には弱くなるよ」

「D系列には劣るにしても、長距離狙撃機であるDHシリーズに肉薄されるようでは、作戦自体がダメなのよ。

DもDHも砲よ。遠距離から一方的に攻撃できるから砲なのよ。運用の問題だわ」

 

 

班長ジェニファーの強い押しもあって、結局、この案で決定した。

 

 

***

 

 

こうして、従来の2倍の照射時間を誇る持続式圧縮波動砲Ⅱを持ったR-9DH2が製造過程に入った。

背負い式の波動砲コンダクタと、そのコンダクタを強化するための外装のため、

まるで大きな銃器を備え付けたようにも見えて、物々しい。

その砲身の後ろと機体後部を、掃除機のチューブのような巨大な冷却システムのラインが繋いでいる。

 

 

通常R機よりも大きい、そのずんぐりむっくりな機体形状とその物々しい砲身の取り合わせに、

愛嬌さえも感じるのは、研究班がR機に毒されている証拠だろう。

 

 

「私のDH、私のDH2、私の照射時間延長型~」

 

 

特殊工廠とはいえ、Team R-TYPE以外の工員が出入りする製造現場で、

変な節を付けて即興の歌を歌うのは研究班班長のジェニファーだ。

見渡しの良い足場の上に陣取って、手すりから身を乗り出さんばかりだ。

周囲の工員が明らかに避けて通っているのは彼女のTeam R-TYPEの身分証とテンションの所為だろう。

ちなみにスコッターはまだ実験したいと、実験棟に篭っており、一緒に居るのは若いワイドだけだ。

 

 

「班長、ご機嫌ですね」

「ええ、やっと波動砲の威力的にもD系列に並んで、嬉しいのよ」

「Dは余りにも尖りすぎていましたからね」

 

 

D系列は地球から月まで狙撃できる精度と射程を前面に押し出した機体群だが、

R-9D2モーニングスターを最後に開発中止になっている。

 

 

「そういえば、ナンブ班長はどうしたのかしら? D系列の開発中止を聞いて落ち込んでいたけど」

 

 

ジェニファーが独り言を言うと、ワイドが拾う。

 

 

「ナンブ班長ってジェニファー班長の前の研究室の人ですよね。

あの人、R機研究を辞めたらしいですよ。なんでも「ここに作りたい物はない」って」

「えっ!? ナンブ班長Team R-TYPE辞めちゃったの? というかワイドが何で知っているの?」

 

 

ワイドの首根っこを掴んでグラグラと揺するジェニファーに、

うっかり足場から突き落とされては大変と、ワイドが慌てて答える

 

 

「ちょこっと前に噂になりましたからね。何でも軍の研究開発に行ったらしいですよ!」

「そうかぁ、ナンブ班長辞めちゃったんだ。詰めが甘かったけど悪い人じゃなかったのに……

でもなんで、軍の研究開発なのかしら。あそこ大型艦艇とか施設がメインじゃない」

「さあ? そこまでは」

 

 

テンションがだだ下がりのジェニファーはワイドの首元から手を離すと、

手すりに頬杖をついてため息をついた。

 

 

「はあ、気分が盛り下がっちゃった。ワイドあなたが名前決めて良いわよ」

「意味が分りません」

「R-9DH2の現物見て命名しようと思ってたけど、テンション下がっちゃったから貴方に任せるわ」

「そんな、適当な……」

 

 

思ったより気分屋なジェニファーに呆れるワイド。

流石にテンションを理由に命名を他人に任せるのはどうだろう?

でも、これ以上仮称で通すわけにも行かないし、一度言ったらこの班長は聞かないし。

と、ワイドは考えを巡らせて、諦めた。

 

 

「あとで文句言わないでくださいよ。……そうですね。“ホットコンダクター”なんてどうでしょう?」

「ホットコンダクター?

装飾音(グレースノート)もだけれど、熱演する指揮者(ホットコンダクター)って随分と気取った名前ね。

でも系統で命名基準が統一されているし良いかもしれないわね。それで行きましょう!」

「え……? ああ、まあ、それでもいいです」

 

 

急に元気になったジェニファーを見て、ワイドは余計なことを言うのをやめた。

ワイドは“異常加熱ギリギリの(波動砲)コンダクター”の意味だと語ることは無く、心の中にしまい込んだ。

 

 

 



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R-9DH3“CONCERT MASTER”

R-9DH3“CONCERT MASTER”

 

 

 

「もっと、もっと照射時間を!」

 

 

お昼時のDH班研究室。

ジェニファーが拳を振り下ろした衝撃で、机の上の機器類や食器が耳障りな音を立てて震える。

口元にミートソースを付けた班長のジェニファーが唐突に吼えた。

 

 

「汚いなぁ。食べ終わってから喋って下さいよ」

 

 

突然の奇行に驚きもせずに苦言を呈する当たり、最も若年のワイドも慣れたものだろう。

ワイドは嫌そうな顔をしながら机を拭き、ボンゴレを口に運ぶ。

 

 

ちなみに同じく班員のスコッターは、昼休みに入るなり流動食を10秒で胃に流し込み、

さらに1分後には椅子を3つ並べて、その上に器用に寝ていた。

 

 

巷で恐れられるTeam R-TYPEの研究室は、意外と俗っぽく駄目な研究室だった。

 

 

***

 

 

寝癖が付くほどには髪が伸びたスコッターを叩き起こして、ワイドが食器類を片付けると、

先ほどまでの食卓は小さな会議スペースに早変わりした。

別の部屋からジェニファーがホワイトボード2枚ほどを引っ張ってくると、会議開始だ。

 

 

「さて、私の方針は唯一つ。“R-9D2モーニングスターに追いつき、追い越せ”よ」

 

 

「もっと照射時間が延ばせるはず」だの「DHの潜在能力はまだまだ」などと、

ジェニファーがいつも呟くのを聞いていれば、改めて言われなくても分っていることだ。

そして、この班長が言い出したら聞かないことを知っている班員二人は黙って聞く。

 

 

「今日の検討議題は最長の照射時間、予定ではDHの3倍、6秒を狙うわ。

それを得るにはどうするか。さあ二人とも意見をどうぞ」

「そうだね。威力を据え置きにして、チャージループを増やせば可能だと思うけれど、

今までの実験からいくつかの問題点が出ているね」

 

 

スコッターが一つ一つ項目を挙げていくと、ワイドがホワイトボードに書き取る。

 

 

「冷却装置の出力、主機出力の上昇、波動コンダクタの大型化。

あと、これらによる機体の大型化。こんなところですか」

「あと、現場からはフォースとレーザーの改良を求める声がありますが」

「フォースとか照射時間に関係ないから却下!」

 

 

スコッターに続いて、ワイドが一応注意するがジェニファーはにべも無く現場の声を拒否する。

決め手に欠けるディフェンシヴフォースと、それに対応したレーザーは余り好かれていないのだが、

最早、なぎ払いビームこそが正義と信奉しているジェニファーには雑音に過ぎなかった。

 

 

「これくらいかしら? じゃあ一つずつ検討しましょう。先ずは冷却装置……って

これは単純に機器の効率を上げるしかないかしら?」

「そうですね。スコッター先輩と俺とで調べた結果、6秒のオーダーを実現するには、

最低で、このくらいの冷却装置が必要です。体積的には3割増で」

「まあ、これはどうしようもないから良いわ」

 

 

何も書いていない方のホワイトボードに冷却装置の図が書き加えられる。

 

 

「次は主機の出力だけど、これも最新型載せるしかないわね。保留して次。

波動砲コンダクタの大型化。どのくらいになるかしら?」

「機体全長は優に超すね。あと径も大きくなるからコンダクタの重量は2倍じゃ済まない」

「これを後方の支柱だけで支えるのはちょっと」

 

 

ホワイトボードの模式図にはコックピットより大分突出したコンダクタが描かれた。

ご丁寧にも“so heavy!!”の字が書き足される。

ワイズがスコッターに意見を求めながら、模式図に冷却装置から伸びるラインを書き込むと、

スラスターよりも後部に張り出してしまった。

 

 

「そうね。あと、ラインの引き方も考えなきゃね。で、どれくらい機体は大きくなったの?」

「機体全体重量で当社比1.8倍です」

「流石にそのままは無理ね。案が通らないわ」

 

 

ホワイトボードにはもはやR機の成分が薄れて、砲塔に機体がめり込んだ様な形になってしまっている。

流石に機動出来ないまでになっているのは不味かろう。

 

 

「……。一番の問題は波動砲周りね」

「そうですね。というか改良点はそこくらいですからね」

「波動砲の重量とコンダクタの長さはもうどうにもならないよ。実験研究で散々やったしね。

コンダクタが重すぎて、後方の支柱で支えきれないのをどうするかだね」

「冷却装置もこの大きさはないですよ」

 

 

実際に模式図はR機ではなく波動砲のお化けである。

 

 

「じゃあ、コンダクタを装甲で覆ってしまえば良いのよ。外骨格として使って支えにするの」

「それなら、支えになるかな。こんな感じで」

 

 

スコッターは波動砲コンダクタ覆う様な立方体の筒をホワイトボードに書き込む。

彼の描写スキルもあって、巨大な砲塔を積んでいるように見える。

それをみたワイドがコメントを投げる。

 

 

「でも覆いなんてしたら、唯でさえギリギリの冷却が追いつかないですよ」

「冷却は……冷却剤かなんかを装甲の内部から噴きつけるような型にして強制冷却!」

「それ冷却材の補充が必要になりませんか?」

「燃料よりは少ないわ。補充が容易なように設計すれば、燃料補給時にいけるわ」

 

 

明らかに思いつきで話すジェニファーに食い下がるワイド。

二人が揉めていると、実際データを取るスコッターが意見を出す。

 

 

「実験をしてみないと何ともいえないけど、試してみる価値はあるね。

冷却装置が小型化するだけでも、主機出力も余裕が出るし機体重量を削減できるからね」

「出来るかしら?」

「実験してみないと何とも? でも計算上は無理じゃないね」

 

 

スコッターは模式図を書き換え、冷却装置を小型化して波動砲コンダクタへ繋がる、

冷却ノズルを複数書き加えた。

 

 

***

 

 

ここは戦略的に価値の余りない宇宙空間。

周囲では機雷を模した標的がそこら中に浮いていて、その一つ一つに赤い警告灯が点っている。

それを遠くから眺めるR機が一機。試作機のためか塗装も白一色の試作R機が宇宙空間に浮かぶ。

機体側面には大きくR-9DH3と書かれている。

 

 

輸送艦からの指示にしたがって、テストを行っていたのだ。

今のところ、機動試験でも砲がもげる事は無く順調だ。

 

 

『試験機、300秒後より波動砲連続発射試験を行う。異常を感じたら報告をせよ』

 

 

“異常を感じたら発射を中止”でないあたり、不穏である。

Team R-TYPEでの試験では、テストパイロットとは熟練者の名誉ある仕事ではなく、

うっかりすれば消費財として非常に軽く考えられている節がある。

 

 

しかも、元となるDシリーズは初期実験でコックピット(無人)を溶かしかけた前科持ちだ。

そんな情報を知らないわけではないだろうが、パイロットは命令どおり実験を開始する。

 

 

パイロットが波動砲のトリガーを引き絞るとカチリと音を立ててトリガーが途中で止まる。

甲高い音とともに波動砲チャージメーターが溜まり、視界の上部に光が灯る。

メーターが溜まりきると独特の音が響く。聴覚に直接伝えられたチャージ完了音である。

パイロットがトリガーを引きっぱなしにしていると、1テンポ置いてチャージメーターが再び動き出す。

チャージ音もその度に高くなっていく。

2ループ、3ループ……4ループ。

波動砲コンダクタの回路にエネルギーが満ち、完全チャージ状態になる。

 

 

『試験機、圧縮持続波動砲Ⅲを発射せよ』

 

 

パイロットが波動砲のトリガーを最後まで引ききると、機体を揺さぶる様な低音とともに、

コックピット上部の砲身から光の束が生まれる。

光柱は肉眼では見ることすらままならない遠方にある機雷標的を消しとばし、

そのまま機軸をずらすと、周囲に展開している標的を幾つも巻き込んでいく。

標的を軽く10は破壊した後、重低音が除々に収まり、同時に光の束も消えていく。

直ぐに、波動コンダクタの冷却が始まり、コンダクタの外部装甲から冷却液が吹き付けられる。

 

 

機体内部にはヤカンから蒸気が噴出す様な音が伝わってくる。

パイロットの目の前には、即座に波動砲発射可能状態を示す“WC Ready”の文字が浮かぶ。

 

 

『試験機、連続試射開始』

 

 

パイロットは言われた通りに、再びトリガーを引き絞った。

そんな試験を繰り返し、POWアーマーによる補給を挟みながら、100射を無事終えた。

試作成功作のテストパイロットは、

自分の前任者が70射目にして煮えてしまったことを知らなかった。

 

 

***

 

 

その試験を輸送艦で見守っていた白詰襟の軍の関係者はこの結果に満足げに頷き、

開発研究責任者として同席していたジェニファーに賛辞を送る。

 

 

「すばらしい。このR-9DH3は非常に強力な支援機になるだろう」

「ありがとうございます。私もDHシリーズを開発した甲斐がありましたわ」

 

 

白衣のジェニファーは普段はしない様な口調と、余所行きの笑顔で受け答えをする。

 

 

「ところで、この機体の愛称はなんというのだね?」

「ええと、決めていなかったのですが……DH系列は音楽関係で命名していますから、

そうですね、楽団を仕切るコンサートマスターなんてどうでしょう」

「R-9DH3コンサートマスターか。軍としても、直ぐにでも配備をお願いしたい。

生産ラインが動き出し次第ぜひ連絡を」

「うふふ、わかりましたわ。あ、実験後のコンサートマスターを見たいので、失礼しますわね」

 

 

笑いが漏れる口元を隠しながら、艦橋を辞するジェニファー。

艦橋を出るなり走り出し、ハンガーに駆け込む。

そして、大声で勝鬨を上げる。

 

 

「やったわ! これで現場の心はキャッチしたわね! 私のDHシリーズは名実共にD系列に勝ったのよ!」

 

 

突然現れるなり大声で叫び、高笑いを続ける白衣の研究者を遠巻きに見た整備員達により、

「まともそうに見えてもやっぱりTeam R-TYPEは狂人の集まりだった」と噂されることになる。

 

 

***

 

 

同時期

軍主導のとあるプロジェクトがスタートしていた。

海王星の向こう、カイパーベルト帯に浮かぶ、まだ中空の円柱しか出来ていないソレである。

太陽周辺域から数百枚の巨大ミラーと、数十箇所の中継地点を用いて、

太陽光を凝縮しながら砲塔にエネルギーを集め、指向性を持たせて一気に放出する。

その圧倒的な熱量は、バイド汚染された物質を根こそぎ破壊する。

巨大光学兵器ウートガルザ・ロキの完成であった。

 

 

「はっはっは、狙撃砲がR機に積めないなら、いっそ超巨大にしてしまえば良いではないか!

これなら、月-地球どころか、海王星-地球間の狙撃だって狙えるぞ! 私の勝ちだDHシリーズ!」

 

 

完成後、

高笑いしながら、とある対バイド巨大兵器開発プロジェクトの主任設計者は、試射実験をしたらしい。



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R-9DV2“NORTHEN LIGHTS”

R-9DV2“NORTHEN LIGHTS”

 

 

 

 

「ティアーズシャワーの問題点……か」

 

 

バルカン機であるR-9DVティアーズシャワーを開発したDV班では、

軍部より回されてきたよく分らないアンケートだか意見書だかを眺めていた。

 

 

もともと、大本となるD系列からして機体性能はそのままに、

狙撃系波動砲の改良のみを追って進化してきた系列である。

正直、重量等の関係で機体性能自体は最新リニューアル版の量産型アローヘッドの方が良いくらいだ。

そんな現場の声に答えてティアーズシャワーではフォース、レーザーに改良を加えたのだが、

それが微妙に評判悪い。

 

 

「一人で悩んでいても効率が悪い。誰かに聞くべきだな」

 

 

白衣を着ていなかったら、軍人と間違えられそうなくらいの体型の男、

DV開発班の班長であるラヴィダが呟いた。

 

 

***

 

 

会議机には班員エルとトレン、班長のラヴィダが雁首をそろえて座っている。

 

 

「さて、今日のR-9DV2(仮)に向けた検討会を行う」

 

 

ラヴィダが前作ティアーズシャワーからでてきた意見をまとめる。

 

 

雑魚掃討用という波動砲コンセプトと実際性能の乖離

機体の扱いづらさ

ディフェンシヴフォース改に対する現場の不信感

“残忍”であること

 

 

机の上に足を乗せて不真面目に話を聞いていたエルと、腕を組んでいたトレンが感想を述べる。

 

 

「つまりは波動砲が原因ってことかな」

「エル、すべてがそうとは言い切れないのでは?」

「まあ、確かに波動砲を活かし切れなかったのが痛かったしなー」

 

 

当閉所突入支援として開発され、ともかく弾をばら撒いて敵を掃討するのが

R-9DVティアーズシャワーのコンセプトだった。

R-9DH系列の持続式圧縮波動砲、所謂“なぎ払いビーム”をバルカンで行えば、

雑魚を効率的に蹴散らせるのではないか?

そんな発想があったからバルカン機はDH系列から派生し、D番を付けることになったのだ。

 

 

しかし、ケチが付いたのは機体性能だ。

支援機ということでD系列は基本的に動きが鈍重だ。

それでも重いコンダクタさえ何とかなれば、機動性に期待がもてる。

そんなこんなで出来たのがR-9DVで、実際のカタログスペックも優秀だった。

 

 

「そうだよな。まさか機体に振り回されて、弾をばらけさせるための微調整が出来ないとは……」

「そりゃあ、スポーツカーのエンジンを軽自動車に載せたら街乗りには適さんよな」

 

 

エルの軽口にトレンが乗っかる。

そう、馬鹿でかくて重いR-9DHシリーズ用の主機や操作系統は、

その重さから解放された瞬間非常に扱いづらいものになっていた。

Team R-TYPEのむちゃぶりに慣れたテストパイロットならともかく、

一般パイロットでは機体のアンバランスさに付いていけない者が多数だった。

本来なら機軸を微調整しながらバルカン状の波動性光子弾をばら撒くはずだったR-9DVだが、

波動砲を撃っている途中にそんな機動をしようものなら事故必死で、

単純に前方にだけ波動粒子を集弾させる結果になった。

 

 

“掃討戦用”の売り文句に対して、全く反対の“デカ物専門”となってしまった訳だ。

 

 

ラヴィダが、バルカンについての意見を述べる。

 

 

「思ったのだが、コレを今から本来の雑魚掃討用に戻すのはどうかと思う。

それより、大型バイドに対する適正は非常に高いというデータもあるので、そこを伸ばしたい」

「じゃあ、機動性は捨てるの? 無いわぁ」

「そういうなエル、その代わりにDH系統のしたように発射時間と発射数を増加させる。

コレによってさらに大型バイドに対して強力な武器になるし、波動コンダクタの重量が増すから、

重量増でアンバランスは解消されるだろう。」

「班長の言うとおりだな。幸いバルカン型のコンダクタの径は増すが、長さはそれほどではないし、

なにより形状から冷却が容易だ。DH系列みたく背負う必要は無い」

 

 

最後は余り発言が無いトレンの意見だ。

意見が粗方出たと見たラヴィダが纏めに入る。

 

 

「よし、ではR-9DV2は光子バルカン装備強化型として、対大型バイド機として企画書を上げてみる。

もしダメだったら、フレームから考え直しとしようか」

 

 

***

 

 

課長室にノックしてから入るラヴィダ。

肩幅の広く体が大きい彼が部屋に入ると、妙に圧迫感がある。

それを迎えるのは細身でビジネスマンと前衛主義の入り混じった様な格好をしたレホスだ。

 

 

「以前から意見のあったR-9DV2ですが、光子バルカンはそのまま、ただし対大型バイド機

として開発したいと思っています」

「これが企画書ねぇ。……で、わざわざ期待外れだったDVシリーズを続ける理由は?」

「此方です。ティアーズシャワーの時点で下手な波動砲より強力ですが、

後継機のR-9DV2ノーザンライツでは2倍の発射数と発射時間を目指します」

「R-9DV2ノーザンライツ……オーロラねぇ。コレはコレでありかなぁ?

棚ぼたって奴? まあいいさぁ、これも尖らせた方が面白そうだし研究に入って良いよ」

 

 

データと企画書とを見比べながらレホスは気の無い返事を返すが、

いつもの事なので、ラヴィダはそんなに気にしない。

目の前の課長は責任を取るのは嫌いだが、有用な物は見逃さない研究者としての嗅覚に

優れていることを知っているのだ。

 

 

一礼して、課長室を出ようとしたラヴィダにレホスが声を投げかける。

 

 

「実は、ティアーズシャワーのあの話が漏れちゃって、上層部からどうにかしろって言われてさぁ。

面倒だけど、それっぽい言い訳を流してみたんだけどー。

誤魔化すのって結構疲れるからぁ、今回は“あーゆーの”は無しにしてね」

 

 

***

 

 

とある基地での怪談話

 

 

R-9DV系列機の話って聞いたことあるかって?

そりゃお前有名な話だろう

なんだ、お前は聞いたこと無いのか?

ああ、知らない顔だし最近この基地に来たんだろ?

当りか! まあ、退屈はさせないから聞いていけよ

 

 

ほら「R-9DVやR-9DV2の光子バルカンは残忍である」と言われているじゃん?

そうそう、それだよ。ティアーズシャワーとかノーザンライツとかいうR機

それってさ、みんなに「何で残忍なんだ?」って聞くと、何か納得できない顔して

「多量の弾によって形状を留めないほどに破壊されるのは、バイドであっても残忍な殺し方である」

ってのが理由だって答えるじゃん?

そう、なんだ、やっぱりお前も聞いたことあるんじゃねぇか

 

 

いや、それが実は違うんだよ。

 

 

俺の知り合いが友人に聞いた話だと、何でも、実験段階で事故があったって話なんだ。

そう、この基地に併設された開発施設でだ

それはもう悲惨な事故でさ。いや、バイド汚染じゃないよ

“R-9DVの光子バルカンの発射実験中に、ザイオング慣性制御システムがダウンし、

その連続的かつ激しい振動によって、テストパイロットが口に出すのも無残な形状で発見されたから”

ってことらしいぜ。

ほら連続波動砲発射テストって、ともかく規定回数撃ち終わるまでは、

緊急停止コードを入れないと止まらないらしくってさ。

死んだパイロットは試験官が異変に気づいて止めるまで、ずっとその振動でシェイクされていたらしい

それを見ちまった整備員はゲロ吐いて一週間寝込んだそうだ

で、「バルカン機は残忍だ」って話になったって

 

 

え? R機の事故なんてそんな物だろうって?

いやいや、なんでも死体じゃなくて、最早液体だったらしい

それが振動でシェイクされてブクブクに泡立ってコックピット中に赤い泡が広がっていたんだってさ

知り合いが言うには、ノーザンライツのコックピットカバーが赤いのはその所為だって

……いや、流石にそれは眉唾って言うか、俺を怖がらせようとして言ったんだと思うが

まあ、そんな噂があるんだよ

始めに話した一般的な噂ってのはTeam R-TYPEの奴らが、その失敗を隠そうとして、

ワザと流したカバーストーリーだって言うことだ

あいつらならやりかねんよな

 

 

それより、この話の一番怖いのはこれからだぜ?

 

 

実はな、この話を聞いた奴には、3日以内にTeam R-TYPEが訪ねてくるって話だ

そいつらに、バルカン機の話を聞かれて、普通に言われている方の話をすれば問題ない

でも、今、話した本当の話の方を聞いたことを言っちまうと……もう分るだろう?

俺にこの話をしてくれた知り合いの友人は、挨拶も無く突然いなくなっちまったってよ

知り合いの方は俺以外には話していないらしいから、生きているけどな

さあ? ここは実験施設があるから、実験体としてTeam R-TYPEに連れてかれるんじゃね?

 

 

じゃあ、お前さんも気をつけろよ

白衣の奴らに呼び止められないようにな

え? まだ話をしたいって? いやあ、モテル男は辛いね!

俺は予備パイロットだから、このシミュレーターあたりにいつも居るさ

この話は、ここの整備の一人が話してくれたんだ

 

 

そういえば、お前どこの所属なんだ?



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R-9DP“HAKUSAN”

火薬式なのに、なぜ2ループも必要なのか?
言い訳を考えると、公式設定でご丁寧にも逃げ道を塞がれている徹底っぷり。



R-9DP“HAKUSAN”

 

 

 

宇宙に進出すると言うことは非常に資源を消費する。

水、酸素は言うに及ばず、食料などの有機物や服飾、生活用品もプラントで作らねばらない。

住居も外壁はもれなく強化鉄骨を芯とした気密仕様だ。

 

 

そして戦争が行われているとなれば、

戦闘艦艇、輸送船、個人武装、R機。作る物には事欠かない。

鉱物資源は最重要資源の一つなのだ。

資源の詰まった小さな岩石塊であれば、資源採掘船で取り込み、資源基地に持ち込むが、

比較的大きい小惑星サイズの場合には、先ず採掘基地を建設してから、

用途に合わせた大型採掘機を用いて、鉱床をくり貫いていく。

 

 

さて、ここは開発途上の資源小惑星だ。

艦艇や基地外壁に使用するために、採掘体制が整い次第、鉱石が採掘される予定である。

基地建設のため、あちらこちらで重機が動いている。

まだ、簡易基地しか存在しないため、ここで活動するには宇宙服が必要となっている。

この建設現場の様な場所で、宇宙服の人間が3人蠢いていた。

 

 

『ふむ、掘削用屈折レーザーはちょっと慎みが足りないな』

『慎みというか、あれは浪漫が足りない。さて、ドリル系も有りだろ思うが、どうか?』

『ありなしで言えば有りだが、こう、もっと一瞬に賭ける男気が欲しい』

 

 

短距離通信を使って訳の分からない会話をする三人。

その目線は、淡々と作業を続ける重機に注がれていた。

安全第一である工事現場用の装甲付き宇宙服の動きにくさに四苦八苦して、

もがく様に移動する様子は、とても無様で工事関係者とは思えない。

 

 

『岩石切断用の高周波ブレードもあるようだが、アレは泥臭さが足りないな』

『あれはあれで良いものだが、人型にくれてやれば良い』

『そうすると、やはり当初の目的である、“アレ”だな』

 

 

宇宙服の一人が指し示すのは、基地建築を進める一つの重機だ。

四脚を駆使して、デコボコした地面に取り付き、狙いを定める。

自ら生み出すパワーに負けないように、各脚から周囲にアンカーを打ち込まれる。

重機の中央には長い特殊合金製の杭が一つ。

小惑星の埃にまみれた杭は、ゆっくりと接地面から持ち上げられていく、

それとともに、細かな振動が発生し、杭を駆動させる動力部が唸りを上げる。

杭が頂点に達した次の瞬間、僅かな一瞬の発光とともに鉄杭は超高速で振り下ろされ、

その質量と速度を持って、岩石を物理的に撃ち抜いた。

 

 

宇宙服の男らからは相当離れているが、まさにその振動が伝わってくるようだ。

思わずグッと手を握り締め、歓声を上げる三人。

 

 

『やはり、あれは見れば見る程浪漫の塊だな!』

『パイルバンカーとは、良いものだ』

『それには異論は無い』

 

 

ハイタッチをする三人を余所に、小惑星では基地建設が淡々と進んでいた。

 

 

***

 

 

記憶媒体が積み上げられた、埃っぽい一室。ここは資料室という名の倉庫だ。

Team R-TYPEの各研究班より吐き出された、

役に立つのか役に立たないのか分らない、玉石混合のデータの山だ。

もっとも、役に立つデータは大体機密指定の部屋にあるので、ここには石ばかりだが。

 

 

記憶媒体の治められた収納ボックスに腰掛ける3人。

目の前には重機のミニチュア、というか玩具がある。

“はたらく機械シリーズvol.86”の無重力対応自走式杭打ち機や衝撃緩和型ドリルなどだ。

 

 

「いやあ、有意義な視察だった。不正地対応シャトルを動かした甲斐があった」

「やっぱり、エルの言うとおりパイルバンカーが熱いな!」

 

 

スキンヘッドの中年男とひょろ長い栄養状態の悪そうな男が言う。

白衣の二人が喋りかけるのはDV系列研究班に居た研究員のエルだった。

足を向けて寝られないなと、二人がエルに言うと、エルは笑う。

 

 

「やめてくださいよ。お二人とも先輩じゃないですか。しかもスレッド研究員なんて班長格だし」

「いやいや、熱さを求める事に年齢や役職なんて関係ないぞ。同士よ。

あと、俺のことはスレッドじゃなくて、ビルと呼べ」

「ああ、名前呼びがいいですね。エルくんも僕のことはルーニーでいいよ」

 

 

スキンヘッドのビルと、モヤシのルーニーは若年のエルとガッシリと手を握る。

彼らは「R機に熱さを求める会」という同好会のメンバーであった。

 

 

そのまま、二時間ほど重機について語り合った後、

エルが二人の持つ端末にデータを送信しつつ切り出す。

 

 

「コレなんですけれど、どう思います?」

「パイルバンカー? 意見は面白いのですが、コレ敵に届かないんじゃ……」

「いや、そう決め付けるのは早計だ」

「コレを課長に提出したいと思うのですが、どうにも僕では力不足でして」

 

 

ルーニーが首を捻り、ビルが目を輝かす。

エルが送ってきたデータの名称は“パイルバンカー装備型R機について”

過激な意見を言うエルに、まずビルが乗った。

 

 

「いやはや、面白いじゃないか。Team R-TYPEに入った日の興奮を思い出すよ。

班長になっても、開発するのが普通の機体なのだったら、

いっそ俺はコレに夢を賭けても良いね」

「技術的な問題が凄いけど……、もしコレが開発できたらカッコいいよね?

よし、僕もフォース実験よりは機体側を触りたいし、乗った!」

「じゃあ……」

 

 

続いてルーニーも話に乗り、ここにパイルバンカー機開発班が発足した。

 

 

「さあ、エル。君が方針を決めるのだ」

「いや、僕よりビルの方が経験あるし、何より班長として適任ですよ」

「熱さに年齢は関係ないぞ。同士よ」

「でも、ビル、事務処理能力や課長レクを考えたら、やっぱりビルが班長に適任だよ」

「そう言われては仕方が無い。パイル機開発の論拠とするデータ集め、

技術実証の方向性、外部関係者との繋ぎ……やることは山ほどあるぞ」

 

 

***

 

 

Team R-TYPEが持っている倉庫の一部を借りて、様々な材質・大きさの鉄柱が置かれていた。

小型の物は人くらいの大きさだが、長さ20m、径1mにも及ぶデカ物まである。

それを上から眺めるのは、大急ぎで実験起案を上に挙げ、研究費を取り付けた三人。

 

 

「やっぱり太くて、長くて、硬いは男の浪漫だよな!」

「大きさよりも、むしろ収納が問題ですね」

 

 

ハゲ頭のビルが下ネタを大声で言うが、ルーニーは完全に無視した。

 

 

「データを検討した結果、杭の全長は最低でも15mは必要だけど、

そんな物をつけたまま戦闘なんてもってのほかですしね」

「どうする、エル? 折りたたみ式か? 」

「折りたたみは強度的に、稼動部で折れそうですね」

「それ以前に、折りたたみ式だと、一回パイルを一度機体外部に晒して延長した後、

打ち出す必要がある。それは流石に隙がありすぎるだろう」

「内部繰り出し式はどうだ?」

 

 

エルとビルが会話を続けると、ルーニーが横から案を出す。

手にはブリック飲料に付属していた伸縮式の所謂“延びるストロー”があった。

つまり、ストローの様に中空の杭の内部に一回り径の小さい杭が収まっており、

打ち出しと同時に飛び出して、延長される機構を示した。

 

 

「うーん、“かえし”をつけて置けば、押されて戻っては来ないはずだけど、

強度的にどうなんですか、ルーニー?」

「超高硬度金属に関する研究が軍部から上がっているよ。

要塞などの重要部隔壁に使われる奴だね。これなら強度も十分だよ」

「そうですね硬くしておかないと打ち出しにも堪えられないし……

そういえば、打ち出し機構はどうするんです?」

「ここはやっぱり瞬発力に優れる火薬で」

 

 

エルとルーニーが発射機構について、全く考えていなかったことに気がつく。

そして、エルがぼそりと呟く。

 

 

「波動砲じゃないと、開発許可下りないんじゃ……」

「エル、心配することはないぞ。火薬の起爆に波動エネルギーを使えば良いさ」

「ビル、それはもはや波動砲じゃ無い気が……」

「心配なら、対バイドの観点からパイルに少しは波動エネルギーを纏わせればいい。

波動砲の定義なんて新しく拡張すれば良いじゃないか。

波動エネルギーを用いた攻撃は全部波動砲だ」

「うわぁ……」

 

 

エルの不安にビルが強引に決着を付け、実験に持ち込むことになった。

 

 

***

 

 

軍の実験施設の一つ。戦艦装甲や巨大兵器の実験を行う為の施設を

Team R-TYPEで一時的に借りている。

巨大なチャンバーの内部には、片方に内部機構むき出しの杭が固定されており、

もう片方には駆逐艦の装甲が立て付けられている。

別の場所には艦橋が完全に破壊された駆逐艦なども係留されていた。

 

 

実験開始の放送とともに、実験区画にいる人員に退避する様、音声アナウンスが流れる。

R機に使われる主機の低い唸り声とともに、波動砲コンダクタの一部が発光する。

その波動砲コンダクタが接続される先は、巨大な杭“パイルバンカー”

波動エネルギーは極一部がパイルに付与されるとともに、

薬室に充填された火薬を極限まで圧縮する役目を持つ。

火薬の威力を余さずにパイルに伝えるためだ。

音は徐々に高くなっていき最高点に達したときに、一気にパイルバンカーに注がれ、

波動の光や爆炎とともにパイルバンカーが発射される。

予想される衝撃に実験を行っている者は皆本能的に目を瞑った。

 

 

防音壁の向こう側まで轟音が響き、実験管制室にいた研究者達が目を開けると、

駆逐艦の装甲板をパイルバンカーが貫通しており、

その威力に負けたように裂けていた。

歓声を上げる三人。

 

 

「まてまて、喜ぶのはまだ早い。発射だけならいいが、まだ不具合が見つかるかもしれんぞ」

「ええ、D系列の様に連射したらコックピット溶けたじゃ笑い話ですしね」

「そうだね。反復と、条件を変えての実験を行いましょう」

 

 

慎重なビルに、エルとルーニーが答える。

3人はそのまま、廃棄された駆逐艦を貫き、岩を破砕し、

出力を増減させて5時間ほど実験を繰り返した。

 

 

***

 

 

「で、結局これか」

 

 

軍の実験施設を借りた一週間後、3人が研究室でため息を付く。

目の前の端末には、実験データが映し出されている。

 

 

「高出力だと伸縮式パイルが保たなかったね」

「2ループが限界ですね」

 

 

ルーニーの愚痴にエルが付き合う。

火薬の威力を波動エネルギーで圧縮して使用すると、

衝突の衝撃に超高硬度パイルが持たないのだ。

試しに中空ではなく、中身が詰まったパイルをつかった条件で計算しても同じだった。

超高速で打ち出される固体を別の固体にぶつければ、結果は言わずもがな。

実験結果は研究者達に物理攻撃の限界を感じさせた。

もっとも、2ループまでの波動エネルギーに堪えられる素材を作った

軍開発部の偉業は称えられるべきだ。

 

 

「これはむしろ物理攻撃が可能であることを確認できただけでもよしとしよう。

発射エネルギーの増強に関しては今後の課題とすべきだな。それより、これも問題だな」

 

 

ビルが示すのは、一枚の画像。ズタズタに破壊された冷却機だった。

 

 

「ああ、これですね。機械系の装甲ならいいのですけど、岩石とかにパイルを打ち込むと、

バラバラに飛び散って、吸気ダクトを直撃するみたいですね」

「打ち出し速度がアレだから、弾けとんだ欠片も凄いエネルギーを持っているからな。

普通のR機は機体周辺に飛び込んできた細デブリをザイオング慣性制御システムで捉えて、

無効化するけど、勢いが付きすぎて無理だな」

 

 

どうする? と互いの顔を見る三人。

暫くの沈黙の後、エルがぼそりと言った。

 

 

「もうさ、盾状の装甲で吸気ダクトの正面を覆えば良いんじゃない?」

 

 

また、暫くの沈黙の後、それで行こうか。とビルとルーニーが言った。

 

 

***

 

 

果たして出来たのはR機とはとても言えないゴツイR機だった。

強化型コックピットの下部には、伸縮式にしてなお隠せないほど大型の超高硬度パイル。波動砲コンダクタはおまけの様に付いている。

吸気ダクトがある両サイドには、盾の様なダクトシールド。

脅威のパイルバンカー装備機第一号、R-9DP“HAKUSAN”の姿だった

 



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R-9DP2“ASANO-GAWA”

R-9DP2“ASANO-GAWA”

 

 

 

「え? R-9DP2の開発許可下りたんですか!?」

 

 

資料室の一部を改装した狭っくるしい研究室にエルの大声が響いた。

 

 

R-9DPは“近接戦専用戦闘機”という謎機体である。

戦闘機における格闘戦や近接戦は、ドッグファイトと呼ばれる。

旧世紀の有視界戦に端を発した概念で、互いに後ろを取ろうと目まぐるしく動き回る戦闘だ。

R機においては、レールガンやミサイルを使っての1対1もしくは、1対少数の戦闘のことを指す。

しかし、物量で押してくる対雑魚バイド戦において、格闘戦を挑むなど愚行だ。

それこそ、短期突入であっても雑魚は無視して進むことが前提とされている。

 

 

しかも、その武装の一つであり長射程・大威力の波動砲を捨ててパイルバンカーという、

ほぼ密着しないと敵に届かないような武装(皆これを波動砲とは呼びたがらない)を持った

R-9DPハクサンはあまり生産されていないのだが、駄作として知名度だけは高かった。

 

 

しかし、基本的には“駄作”の一言だが、一部においてはファン層が形成されつつあった。

それはごく一部であったが、“浪漫”というあまり現実的ではない要素に魅せられてしまった人々だ。

現場の大多数にとって不幸なことは、その一部に高級軍人が名を連ねてしまった事だ。

もっとも一部の高官が無理やりねじ込んだ予算なので、許される開発費は非常に少ないが。

 

 

「ああ、軍にもこのパイルバンカーの素晴らしさが分る人間が居ましたか!」

「マイノリティというものは、その反動として非常に高く評価される傾向にありますからね」

「障害が多いほど燃え上がるっていうやつだな!」

 

 

発言順にルーニー、エル、ビルのDP研究班の三馬鹿だ。

ひとしきり歓声を上げると、ビルが一応釘を刺す。

 

 

「まあ、そうは言っても開発資金は最低クラスだし、開発期間も長くは取れないがな」

「そんなことは関係ない!  僕らのパイルが俺のパイルがもう一機作れる!」

「ヒャア、我慢できねぇ。反対する奴は杭打ちだー!」

 

 

ある意味、自分達の妄想の産物である浪漫機が世に送り出せただけで、満足しつつあったのだが、

後続機開発の希望が見出せたことで、異常なテンションとなりつつあった。

普通ならリーダーであるビルか、聞き役に回ることの多いルーニーが押し留めるのだが、

二人とも冷静なのは口先だけで、自身も興奮状態にあるため、制止役にはならない。

結局、そのまま後続機の開発会議となってしまった。

 

 

***

 

 

「R-9DPハクサンの問題点はパイルバンカーの威力です!」

 

 

力強く言ったのはエルだ。

実際には射程だったり、波動砲の不在であったり、硬度であったり、

色々足りない上に、そもそもからしてコンセプトがおかしかったりするのだが、

そんな事は最早、彼らにとって問題ですらないのだ。

 

 

「あれ以上はやはり超高硬度金属では無理だったからな。新しい案を考えないと」

 

 

三人の方針はパイルバンカーの強化だ。

すでにバランスという言葉からは遠い機体であるので、徹底的に尖らすことになったのだ。

ルーニーや、エルが思いつきを言葉に出していく。

 

 

Team R-TYPEで更なる高硬度物質を開発する?

開発経費が絶対的に足りない

 

 

打ち出し速度を抑えて、他の威力向上手段を考えるか?

それは粋ではない

 

 

条件によっては火薬量を増やしても可能なのでパイロットの技量にかける?

それは研究者としての沽券に関わる

 

 

……

 

 

議論が何時までたっても煮詰まらない現状を打破しようと、一度頭を冷やすことになった。

そして、エルが問題点の解析データを呼び出して、確認のため説明を始めた。

 

 

「問題はパイルに使っている超高硬度金属がほぼ理想的な剛体ということです。

超高速での接触時に先端が耐え切れずに崩壊を起こすのです」

「どうしたものですかね……」

 

 

実験施設でのデータを見ながら、

冷えたコーヒーを飲んで、喉を湿していたルーニーがぼやいた。

そのまま、ため息の連鎖が広がるが、数分の沈黙を挟んでビルが突然大声を出した。

 

 

「前回のアレだ。パイルの表面に波動エネルギーの幕を張れば良い。

パイル先端が固体に打ち付けられる直前に波動エネルギーで、

相手の装甲に小さな穴を開け、そこをパイル本体で押し広げ、破壊する!」

「ちょ、ちょっと待ってください。

チャージ回路の外で波動エネルギーを滞留させるなんて、一つ間違えば大惨事です」

 

 

エルが慌てるのも無理は無い。

波動エネルギーは拡散しやすいが、高密度時には接触した物体の殆どを解体してしまう。

それが波動エネルギーを扱う研究者の中での常識であるからだ。

だから、波動砲では虚数次元という隔離された空間でエネルギーを扱うのだ。

 

 

「実はな、基礎研究部から面白い情報を手に入れたのだ。

エバーグリーンの残骸跡で発見されたバイド群生体“Xelf-16”を元に開発された液体金属なのだが、

実は波動エネルギーを内部に溜め込んで保持できる性質があるらしい。

しかも外部刺激によって、液体から固体まで硬度が自由になるのだ。

研究部の連中は、その鹵獲体が何とかと言っていたが……」

 

 

ビルの勢いに感染したのか、ルーニーはすでに興味深そうな顔で発言しだし、

この研究班ではブレーキ役になりつつあるエルも乗ってきたようだ。

 

 

「ビルの情報が本当なら、波動を纏わせることだけじゃなくて、収納性も解決できるな」

「そうですね、射程も改善できるかもしれません」

「そうだろう。この物質は強い物理刺激で特に硬化するらしいので、火薬も併用していこう」

 

 

三人は確信犯の笑みを浮かべた。

 

 

「しかし、ビル。回路の外での波動エネルギーを滞留の件はどうします?

Team R-TYPEの内部にはともかく、軍にそのまま話すのは不味いですよ」

「適当に誤魔化して火薬を増やしたためと言っておこう。

どうせ、漏れ出た波動エネルギーはスパークするように見えるだけだからな」

「ビル。それなら摩擦で静電気を帯びていることにしたら良いです。帯電式とかいって」

「良いですねルーニー。それなら何とかなる気がしてきた。じゃあ、帯電式パイルというわけですね」

 

 

こうして、方針の固まったR-9DP2は前回よりも幾分慎ましい実験を繰り返し、

ひっそりと形作られていった。

 

 

***

 

 

「……そろそろR機の形状ではなくなってきましたね」

 

 

新しく試験機として出来上がったパイルバンカー系列2番機は、

リーダーのビルによってアサノガワという名前を与えられた。

試験機ということで白い機体色に、更に大型化したダクトシールド、

波動エネルギーを操作するために、大型化した波動コンダクタが付け加わっている。

シールドが主張しすぎて、正直戦闘機の形状ではなくなってきている。

 

 

「これが帯電式パイルバンカー試験機、R-9DP2アサノガワだ!」

 

 

高笑いするビルを見ながらルーニーがエルに尋ねる。

 

 

「ねえ、エル君。ハクサンのときも思ったのだが、アサノガワってなに?」

「さあ、噛みそうな名前だけど……なんかこう、ジャパニメーション風のネーミングですよね」

「ジャパニメーションって、独特のデフォルメが特徴のアニメ手法の一つだっけ」

「所謂、ロボット物とか熱血物と言われるアニメは大体ジャパニメーションで、

もともとは蔑称? だった気が……たしか北半球の何処かの国が発祥だったよ」

 

 

もはや、自分の趣味分野以外は覚える気がない二人は首を捻ったが、

ビルが熱烈な旧世紀のアニメーション愛好家であり、趣味的懐古主義者であったことは知っていた。

ついでに言うと、オリジナリティを求めたビルは、軍艦や戦闘機などの著名な名称を避け、

北半球のジャパニメーション発祥地のたまたま目に付いた半島にあった名称を利用したのだ。

 

 

「ま、まあ、何にせよ次回の課題は完全波動エネルギー化だね」

「次回……あるか心配ですね」

 

 

ルーニーは満足顔、対してエルは心配顔で呟いた。

 



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R-9DP3“KENROKU-EN”

R-9DP3“KENROKU-EN”

 

 

 

 

「だから、なんでR-9DP3の開発許可が下りるのです?」

 

 

資料室の一部を改装したやっぱり狭っくるしい研究室にエルの呆れ声が響いた。

 

 

試作機とはしたが、アサノガワはどう考えても、使いやすい機体ではないのだ。

アサノガワは帯電式パイルバンカー試験機として、とりあえず実験機として数機が生産された。

ハクサンより格段に威力が向上したアサノガワは、何とか使えるかといった機体になったが、

試験機として特筆すべき結果が出せず、パイル機ファンであった軍高官の権力をもってしても、

パイル機の開発は凍結されることになると思われた。

にも関わらず、このパイルバンカーシリーズの開発許可が下りた。

正直、意味が分らない。と思ったのはエルだけではないだろう。

 

 

ことの原因はというと、やっぱりTeam R-TYPEだった。

Team R-TYPEの上層部は、パイルバンカー機アサノガワ(表向きは超高硬度パイル装備)を、

“バイド”から得られた技術である流体金属についての活用事例として評価し、

秘密裏に後続機の開発が決定されたのだ。

 

 

***

 

 

「帯電式パイルバンカー改良型……どうします?」

 

一発屋で終わると思っていたパイル機なだけに、先の展望などもともと無かったのだ。

パイルでバイドが打ち抜かれたら、爽快だ。そう思っただけなのに。

エルが心の中で呟いていると、ビルが答える。

 

 

「攻撃力を極めるしかないだろう!」

「極めるって、えらく抽象的な表現ですが」

「射程も、使い勝手も、需要も知らん! ただただ破壊力を!」

 

 

アジテートするかのように叫ぶビル。

当初はまだ常識を繕うことは少ししていたビルだが、最近は完全に向こう側の人になっている。

しかし残念なことに彼の周囲には同じ班員のエルとルーニーしかいない。

すでに十分過ぎるほど染まっているので、止める者も居ない。

 

 

「攻撃力って、アサノガワの時点で中級バイドまでならほぼ一撃ですよ?」

「そこまで来たら次は大型バイド……いや、A級バイドさえも一撃で葬れる威力だ!」

「んな無茶な……」

 

 

恐る恐るといった体で聞いてみたエルは、ビルの答えに顔を引きつらせる。

ドプケラトプスなどA級バイドを倒すには、弱点に波動砲で波状攻撃するか、

フォースロッドの破損覚悟でフォースをめり込ませるしか手が無いのが現状なのだ。

それを一撃破壊など……

 

 

「狂気の沙汰です」

「なに、波動砲でのワンショットキルなら、とある班が研究しているらしいと噂で聞いた。

なんでもチャージに時間がかかり過ぎて、とても現実的とはいえないらしいが」

「……近接攻撃ですよ?」

「パイルには可能性が詰まっているから問題ない」

 

 

撃沈されたエルに変わってルーニーが攻めてみるが、ビルの方針は変わらないらしい。

エルとルーニーは顔を見合わせる。

 

 

「ルーニー、吹っ切れました。

こうなったらいくとこまで行ってみましょう。やるなら楽しまなきゃ損です!」

「エル君……そうだね。ここまできたら当初の通り突き進まなきゃ。

趣味に賭けて、Team R-TYPEに入ったんだから、全力で趣味に走ろう」

 

 

そんな事を良いながら、エルとルーニーは手を握り合う。

そして、それはパイル班にブレーキが無くなった瞬間だった。

 

 

***

 

 

打って変わって、積極的な雰囲気になったパイル班の作戦会議はサクサク進む。

欲望や期待を実現するために、技術や常識に無理をさせる気満々なのだ。

目をぎらつかせたエルが意見する。

 

 

「ビル、このパイルの発射機構ですが、いっそ完全波動砲式にしましょう」

「前回みたく、表向きは帯電式と誤魔化すとして、瞬発力はどうする?」

「火薬を充填していた薬莢の代わりに、エネルギーカプセルを内部に装填し、発射時はそれを解放します。

Eカプセルは指向性に難があるので波動砲自体には使えない技術ですが、パイルの形成には使えます」

 

 

表向きと真実が乖離しはじめ、すでに公式スペックには本当の事を書く気はさらさら無い。

Team R-TYPEとしても、技術成果さえ蓄積できれば問題ないと考える者が大勢である。

そんな、エルの意見にルーニーは注意するどころか、新しい案を付け加える。

 

 

「なるほど、使い捨てEカプセルでパイル形成をして、波動砲出力はすべて打ち出しに回すということか。

エル、Eカプセルは薬莢より小さくて、容量が開くからそこに、液体金属漕を増設しよう。

Eカプセルの出力があれば、これだけ長さ延長できるから、射程も延ばせる」

「ルーニー、射程はともかく威力は大丈夫ですか?」

「Eカプセルのエネルギーをすべて液体金属の硬化に回すなら全然問題ない。

それに、廃棄されるEカプセルを薬莢って言っておけば、表向き火薬ですって通るかも」

 

 

模式図にはR-9DP3(仮称)そのものより2倍以上突き出した杭が描かれた。

ルーニーがパイルの根元にある波動砲コンダクタの側に数式を書き込む。

 

 

「うーん、試算では波動砲のチャージは4ループくらい見ておきたいな」

「むしろ、4ループで済むのが意外です」

「普通の波動砲は波動エネルギーの一部だけを物理的破壊力に回しているから、

A級のコア部まで食い込めないんだ。で、バイドは再生するから何度も何度も打ち込むことになる。

パイルは物理的衝撃をもって直接抉りこむから、消費エネルギーは少なめになるよ」

「パイロットな熟練じゃないといけませんけどね」

 

 

ルーニーとエルが更に書き加える。

 

 

「試算だと、打ち込み速度が上がるから、攻撃後に飛び散る破片も危険度が増すね」

「シールドを増強しましょう。ダクトだけでは無くて機体全面を覆うように、こう……」

「エル君、これコックピットに破片が直撃しない?」

「うーん、コックピットが邪魔なので、突撃時には後方に動かしましょう。

あとは対物理性を強化すれば良いでしょう」

「うん、レーザーなんかには無力そうだけど、単純な物理破壊は免れそうだね」

 

 

シールドが更に拡大され、もはやシールドの隙間からコックピットが少しだけ覗いている状態だ。

すでに、R機としての形はコックピットの形状でしか判断できない。

エルがふと思い出したように、ビルに聞いた。

 

 

「ビル、忘れていたのですが、フォースとビット、あとレーザーはどうします?」

「どうでもいい些事だ。むしろ主機と冷却系とスラスターを大型化するのに邪魔だから、

取ってしまっても良いくらいなのだが……」

「いやいや、エル君もビルも何言っているの? 流石に許可が下りなくなるので一応つけよう」

「仕方ない。つけるにはつけるが従来型で十分だな」

「従来型というか、うちの班パイル以外の研究なんてしていないから、DH系列の

ディフェンシヴフォース改とレーザー一式をそのまま流用しているんじゃ……」

 

 

ビルは、パイル機のフォースについて、弾除け以外の用途を見出していなかった。

しかし、流石にフォース無しのR機というのは認められなかったため、

パイル機DPシリーズの原型となったDH、DVシリーズの武装を踏襲しているのだ。

 

 

こうして、開発方針が詰められていく。主にパイル周りが。

主機や冷却系、スラスターの改良にしても、

A級バイドを破砕できるエネルギーをパイルに送るにはコレだけの出力が必要とか、

それでオーバーヒートしないようにするには、コレだけの冷却能力が求められるとか、

大型化したR-9DP3を機動させ、パイル打ち出しに負けないようにするには、とか……

パイルを中心に研究が回っていた。

整備性やエネルギーカプセルの弾数については端から議論されなかった。

 

 

会議の終わりにビルが怪しい笑い声をもらす。

またかと諦観したエルとルーニーがビルの“発作”が終わるまで待っていると、

突然、拳を突き上げて大声で叫んだ。

 

 

「よし、究極パイル機ケンロクエンを作り上げるぞ!」

「え? もう名前決まっているんですか?」

 

 

こうして、R-9DP3ケンロクエンの開発がスタートする。

 

 

***

 

 

パイル機に関わる諸問題を、熱意だけで押し通して1年以上。

とうとう、R-9DP3ケンロクエンのデビューの可否が決定する実験なのだ。

すでに塗装意外は完全装備されている。

 

 

「さぁて、R-9DP3の破壊力とやらが、ちゃんと発揮できるかどうか見ものだねぇ」

 

 

開発課長のレホスがビルに話しかける。

実験指示を行う実験指令区画にいるのは、レホスなどTeam R-TYPEでも一部の人員だ。

今回、実験を行うのは、以前アサノガワをテストした軍の実験区画ではなく、

Team R-TYPE所有のとある巨大研究施設であるためだ。

 

 

「今回はA級バイドを一撃で粉砕できるかテストするから、研究体であるアレをだしたけどぉ」

 

 

レホスは、一度言葉を止めてビルの反応を確認してからゆっくり実験区画の物を指し示す。

何重もの装甲で囲まれたその区画の中央に据えられているのはひとつの筒。

その中には胎児のような異形が沈められている。

 

 

奇形乳幼児のような長い頭部のような器官を頂点に、湾曲した背骨状の骨格が繋がっている。

背骨から続く、本来なら二本の尾となるべき器官は未発達のようだ。

腹部に当る部分からはもう一つの奇妙な“顔”が飛び出している。

特徴だけ拾うならば、それは生ける悪魔として、恐れられているドプケラトプスだ。

ただし、実験区画の筒の中に居るのはR機数機分程度の小型のものだった。

 

「ドプケラトプス幼体の実験体。

あれ自体は失敗作とは言え、安いモノじゃないからぁ、絶対に結果を出してね」

「もちろんです! 私の作ったケンロクエンに打ち抜けないモノ等ありません」

 

 

Team R-TYPEの狂気の実験の結果として、ドプケラトプスの幼体を発生させることは

出来たのだが、それ以上の成長ができない上に、培養液で満たされた筒から出した瞬間、

周囲を巻き込んで内部崩壊する失敗作であった。

現在、諸問題によって実験は凍結中であるが、施設や実験素材は維持されている。

培養液内でしか存在できなくても、その硬さは本家ドプケラトプス並みということで、

その内の一体が実験に使われることとなった。

正直、A級バイドを培養しようとしているだけで、

外に漏れたら関係者の首が飛ぶほどの問題なのだが、

Team R-TYPEでは些細な事だった。

 

 

レホスはビルやエル、ルーニーの顔を見渡して、A級バイドについて

情報を漏らすものならどうなるかを確認したあと、実験のゴーサインをだした。

 

 

筒に拘束されたバイド体の前で、ケンロクエンが打ち出し準備に入る。

テストパイロットがトリガーを引くと、波動砲コンダクタが低い唸り声を上げて出力を上げる。

チャージメーターが上がり始めた。

一段階目に入ると、液体金属に波動エネルギーが流され、パイルの先端だけ生成される。

同時にコックピットブロックが後方に下げられ、ガシャリとEカプセルの装填音が聞こえる。

続く、2ループ目ではパイルの先端に漏れ出た波動エネルギーが集まり、帯電しているように見え始める。

3ループ目バチバチとスパークが起こりだすと、

テストパイロットはパイルバンカーの打ち出しアプローチの為に突撃コースを取る。

最終、4ループ目が溜まると同時に、一気に加速する。

Eカプセルからのエネルギーが液体金属を、超高硬度のパイルに変え、長大な光の杭を作り出し、

インパクトの瞬間にチャージされた波動エネルギーが解放される。

 

 

巨大な研究所自体を微震させるような衝撃の後。

実験区画中央に据えられていたドプケラトプス幼生は跡形も無くなっており、

周囲の隔壁には機械部品であった破片がめり込んでいる。

 

 

静かになった実験区画には、空になり排出されたEカプセルだけが転がっていた。

 

 

***

 

 

とにかく目立つようにと、赤く塗装された制式版のR-9DP3がロールアウトしてくる。

試験機の枠を出ず、小数生産のみだったハクサン、アサノガワと違い、現場に配備される分だ。

 

 

操縦が難しく難のある機体ではあるが、扱うことも出来るパイロットに当れば大きな武器となった。

討伐に艦隊が必要とされていたA級バイドを一撃で破壊できることに、価値を見出したらしい。

 

 

精々、十数発しか装填できないエネルギーカプセルの補充問題も、

大物狙いが推奨されるケンロクエンに置いては制限要因にはなりえなかった。

作戦が長引くようならPOWから補給を受ければ良いし、

A級バイド対策としての短期ミッションに投入されることが多いためだ。

 

 

整備の問題であるが……

何故か煩雑のはずのケンロクエンの整備が他のR機に先がけて終わるという謎現象が見られた。

それを聞いたビルは「整備にも分る人間が居るようだ」と高笑いをしていたという。

 



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R-9K“SUNDAY STRIKE”

※先にR-9C“WAR HEAD”の読了をおすすめします
また、独自設定(エンジェルパックに関する解釈)が入ってくるので注意してください



R-9K“SUNDAY STRIKE”

 

 

 

R機の開発史は軍とTeam R-TYPEの闘争の歴史でもある。

軍、Team R-TYPEともに、より強力な機体を求めてきたのには変わりないが、

軍が生産性を重視し、現状を打破できる即戦力を求めたのに対し、

Team R-TYPEはより技術的な高みを目指し邁進した。しかも趣味成分も多分に混じって。

 

 

変態研究者集団がR機の魔改造に精を出している頃、

軍の開発部ではコスト性を前面に押し出した、R機の開発を急いでいた。

 

 

「量産機ですか?」

 

 

地球連合軍の開発局の技術大尉は呆けたように聞き返す。

ここは南半球第一宇宙基地(所謂本部)の近くにある軍の工廠である。

開発局は主に艦艇の開発がメインである軍開発関係者の中で、

技術大尉の所属は異色のR機関係所属だ。

流石にフォースの研究はTeam R-TYPEのお家芸であるので、「触らぬ神に」の精神で専門外だが。

 

 

その技術大尉の目の前にいるのは、開発幹という役職にある老齢の将官だ。

 

 

「ああ、君に任せたいのはR-9Cウォーヘッドをベースにした量産機の開発だ」

「英雄機からの開発ともなれば、それは開発者冥利に尽きるのですが……なぜ私に?」

「それを説明する前に、Team R-TYPEの開発レクリエーションの資料は読んだかね?」

「はい、名機といえど、未だに旧式R-9Aアローヘッドが主力機としている現状を踏まえて、

次期主力機をアローヘッドと入れ替えで一気に普及させ、戦力の底上げを図るとありました」

「その次期主力機が問題なのだ!

やつら、あの“パイロット潰し”を次期主力機に持ってくる気だぞ!?」

 

 

開発幹が唾を飛ばしながら罵っている“パイロット潰し”とは、R-9Wワイズマンの事だ。

色々悪名高い機体で、新型インターフェイスを採用した副次効果として、

パイロットに過剰な精神的負担がかかり、適性の無いパイロットが

搭乗後しばらく自発的活動不可能になるという機体だ。

“試験管機”の通称の方が通りがいいかもしれない。

 

 

技術大尉は試験管機が次期主力機に押されているとは知らなかったが、

確かにスペックは良いなと技術大尉は思った。

が、感心してばかりも居られないので、開発方針の確認を図る。

 

 

「ウォーヘッドは軍の開発局の意向が濃い機体ですし、改良開発自体は可能ですが、

フォースはどうしますか? Cタイプのままという事ですと些か打撃力が心もとないかと」

「流石にフォースはやつらに任せるしかあるまい。ただしちゃんと企画書段階で関わって、

まともなフォースを装備させること。私はテンタクルフォースなぞ認めん!」

 

 

目の前の老将官はTeam R-TYPE関連で何か嫌なことが会ったらしい。

人員を臨時で派遣するから、期日までに仕上げるようにと、開発幹に言われ、

技術大尉は、その命令を受けて自分のデスクに帰っていった。

 

 

***

 

 

「さて、どうしたものかな?」

 

 

技術大尉のデスクの周囲は現在騒がしい。

臨時派遣される人員のデスクが続々運び込まれているのだ。

もともと、閑職のこの部屋は技術大尉と数名の補助要員のみが在籍している。

今回の仕事は大事になるので、人員が強化されたのだが、

どの道、技術大尉が音頭を取らねばならないので、仕事的には全然楽にはならない。

そのことにため息を付き、メモを取りながら脳内会議をすることにした。

 

 

〇求められる性能

 ・波動砲は拡散以上の威力

 ・量産性

 ・低コスト

 ・万人が運用できる汎用性

 ※フォース、ビットはTeam R-TYPEに相談

 

 

R-9Cウォーヘッドはある意味完成された機体だ。第二次バイドミッションの単機突入実績もあり、

対多数も対大型もこなし、亜空間戦闘もOKという何でもござれの万能機だ。

ただし、実はこれは下駄を履かせている状態だ。

単機突入という特殊作戦用に盛大に改造され、無理やり採算度外視の装備が付けられた。

整備性も少々どころでなく難がある。実績は輝かしいが、普段使いには向かない。

その性能をそのまま、量産機を作れというのだ。

 

 

「まずは……波動砲か。拡散波動砲はパイロットからの評価も高いしそのままで良いか。

Team R-TYPEみたいに新しい方式をやたらと取り入れて不評を買うような事はしたくない」

 

 

独り言を呟きながら“波動砲は拡散”とメモに書き赤丸をつける。

その間も、サイズダウンを……などとぶつぶつ言っている。

 

 

「量産性と低コストは構造を単純にすることである程度は可能なはず。

当時の冷却機と主機を最新版にするとさらに出力が上げられる……

いやいや、夢は見ないで現行版に当てはめると……ああ、2割は堆積減らせるな。

よし、無理やり詰め込んで立体パズル状態になっていた構造を組みなおして、ブロック化、と。

これで生産ラインへの負担が軽くなるから量産が容易だし、量をだせばコストが下がる。

ついでに部品交換や整備が楽だから、現場にも易しいだろう」

 

 

もはやメモ用紙と会話しているような技術大尉。

メモには機体フレームと内部の様子がざっくりと書き取られており、

スラスターや冷却機のだいだいの位置が書き取られているが、全くの手付かずの部分もある。

フォース関連部位や、コックピット周りだ。

なぜならR-9Cウォーヘッドは悪名高き、エンジェルパック装備機なのだ。

 

 

「特別機はしょうがないと思うけど、流石に汎用機に乗るパイロットを四肢切断にするのは、

倫理的にも、機密保持的にも、コストの面からも無理だな。

当時はどうしてエンジェルパックなんかにしたんだ?」

 

 

人間を四肢切断して溶液水槽に詰めるというエンジェルパックは、

(初代機は脳髄だけ、その他初期ロットは四肢切断で搭乗可能)

あまりに倫理面で問題があるとして軍事機密として否定されているが、

人の噂というのは侮れないもので、すでに公然の秘密になっている。

 

 

「まいいか、どうせTeam R-TYPEにも意見を聞かなければならないし、

フォース開発を向こうに投げるついでに、コックピット周りについても聞いておこう」

 

 

技術大尉はそう自分に向けて言うと、事務処理をしていた下士官に外に出てくることを告げると、

Team R-TYPEの巣に向かった。

 

 

***

 

 

南半球第一基地にあるTeam R-TYPE本部オフィスに乗り込んだ技術大尉だが、

もちろんアポ無しなので、当時のウォーヘッド開発関係者などいる筈も無かった。

そもそも、Team R-TYPEの主戦場は、気兼ねなく実験研究が出来る宇宙基地である。

ここはTeam R-TYPEの情報統括兼権力的中枢であり、研究員自体はあまりいないのだ。

そうは言っても誰かいるだろうと窓口で粘る技術大尉に、

とうとう研究報告で来ていた研究員が対応に出てきた。

 

 

「という訳でスタンダードCの上位フォースをお願いしたいのですが」

「今研究中のKはどうです?

突破力はCに劣りますが、単機突入はないでしょうし、コスト面で秀でています。

あと、Kに対応させたレーザーは基本的に散弾としています」

「スペックはスタンダード系列で、散弾というはスプレッドレーザーというこれですか」

「ええ、廉価……コスト性ならKが一番ですね」

「分りました。これで、上げてみましょう。参考になりました」

 

 

そもそも量産期ということであまりフォースには力を入れていないので、

技術大尉は早めに話題を簡潔させて、次の話題に移る。

エンジェルパックについてだ。

技術大尉としてはコストや倫理、汎用性に問題のでるエンジェルパックなので、

特別な理由でもない限り取り外して、通常コックピットにしたい。その検討にきたのだ。

 

 

「ところで、R-9Cのエンジェルパックなのですが、通常コックピットにしなかった理由は何なのでしょう?」

 

 

フォースについて話が終わり、腰を浮かし帰りかけていた研究員が座りなおす。

 

 

「エンジェルパックの導入理由ですか」

「ええ、あれは(パイロットから)余り評価が高くないと思うのですが」

「そうですか? (当時最新技術の開発としてTeam R-TYPE内では)高評価だったと思いますが」

「え?」

「え?」

 

 

互いの反応に対して疑問符を浮かべる二人。

それでも会話は続く。

 

 

「えーと、あと(四肢切断という事が)倫理的な問題と聞いていますが……」

「あれは(パイロット容積を削っても脱出装置を取り付けたという意味で)倫理的に最適化した結果ですが」

「倫理的……ですか?」

「倫理的……ですよ」

 

 

見事にかみ合わないが、それでも技術大尉の会話するための努力は続く。

 

 

「まあ、倫理はある意味主観的な問題でしょう。

エンジェルパックは(四肢切断手術や、その後の復帰など)危険ではないのでしょうか?」

「いいえ、(ザイオング慣性制御システムで緩和しきれないGから人体を保護できるので)

むしろ通常コックピットより安全なくらいです」

「……そうですか」

「そうですよ」

 

 

二人とも相当訝しげな顔になっている。

自分達は真面目に話しているのに、相手の反応がおかしいのだ。

技術大尉は「これがTeam R-TYPEか」と内心ため息を付きながら

これ以上の会話は無駄かと締めに係る。

 

 

「でも、今回量産型でエンジェルパック取り外しても(安全面、機能面で)問題ありませんよね?」

「ええ(Team R-TYPEの成果機ではないので、我々にとって)問題ありません」

 

 

一度仕事に取り掛かると自分の世界に没頭し、最近まともに他人と会話していない技術大尉と、

基本的に同類同士で固まり、他人に理解を求めることが少ないTeam R-TYPE研究者。

そんなコミュ障同士の会話であった。

 

 

***

 

 

テストを経た後、R-9Kサンデーストライクの名前を与えられた量産型R機は大量生産される。

コスト対策としてロット数を稼ぐためだ。

そのため一時的に前線各所で見られたが、

いまいち現場の反応が悪く次期主力機の座も取り逃し、次第に廃れていくこととなった。

スタンダード・フォースKとレーザーが非常に使いにくかったのも理由の一つだろう。

この後、スタンダード・フォースKがメインに据えられる機体が開発されることは無かった。

 

 

ただし、まったくの役立たずという訳ではない。

あまり癖の無い操作性が評価され、現役引退機が後方でニコイチされて練習機になったり、

内部各部がブロック単位に分けられ換装が容易なため、

新機体の開発初期に取りあえず新型波動砲を搭載してテストするため

使い捨て用途の開発ベースとしての役割を振られていった。

 

 

この後、技術大尉が「発想が突き抜ききれなかったのが敗因か」と呟いたとか何とか。

ちなみに彼は後々、陸戦兵器開発室という僻地に異動することになる。

 




公式のR-9Cの設定ではパイロットは「四肢切断(軍は否定)」とされており、
脳髄とまでは言及されていません。


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R-9S“STRIKE BOMBER”

※第三次バイドミッション(R-TYPEⅢ)前の話です。


R-9S“STRIKE BOMBER”

 

 

 

 

R-9Cウォーヘッドが地球圏を救ってから幾年。

人類は二度目の勝利宣言を行い、バイドからの復興景気に沸いていた。

第一次バイドミッション、サタニックラプソディ、第二次バイドミッションと

毎年のように人類の生存を賭けた乾坤一擲の勝負を続けていたのだ。

その圧力が無くなって色々と問題はあれど、みな明るい表情を見せ凄まじい勢いで復興が進んでいた。

未だに小惑星などから小型バイドが発見され、その都度R機隊が駆り出されるが、

地球圏はバイドが根絶されないまでも小康状態にあった。

 

 

だが最近、一部では不穏な空気が流れている。

 

 

 

***

 

「つまりはぁ、第三次バイドミッションがありえるって事ですか?」

「ええ、最近のバイド出現消長はバイドの大規模攻勢の前触れとする解析があるの」

 

 

白で統一された内装のTeam R-TYPEの会議室だ。

語尾を間延びさせて楽しそうに話すレホス、それに答えるのはスーツ姿の中年女性だった。

レホスは本局勤務を終えてR機第1開発班の班長に戻ってきた出世頭であり、

対する女性は強面の軍人とすら遣り合うやり手開発課長、次期部長補佐の呼び声も高い。

一見ただの与太話でもTeam R-TYPE開発部の中枢での会話となれば、その信頼度は飛躍する。

 

 

「それで、開発方針はどんなです?」

「今までの通り強力な波動砲とフォースを備えた単機突入機の予定よ」

「結局それですか。そういう機体は技術的なブレイクスルーにはなるけどワンオフ機ばかりではねぇ」

「誰でも操縦できる、単機突入機並みに高性能で、全状況に対処できて、

量産体制が完璧な機があれば、物量が武器のバイドでも面で征することもできるけど」

 

 

究極の機体は目指すべき理想ではあるが、

差し迫って第二次バイドミッション並みの大攻勢があるとなれば、

二人とも迫りつつある脅威を無視して、理想にかまけるつもりは無い。

それをアイコンタクトで確認した後、会話を続ける。

 

 

「つまり、第三次バイドミッションを睨んだ機体、単機突入機のための実験武装機を作って

突入作戦に間に合うようにデータを収集するのが今回の仕事って訳ですねぇ」

「そうね。あと、第三次バイドミッションでは外部に漏れたときにインパクトが大きすぎるから、

バイド来襲が確定するまではバイドミッションではなく、サードライトニング作戦と呼称する事になる。

なので、今回の機体開発はサードライトニング作戦の事前準備としてスタートするわ」

「なるほど、今回の開発は第三次バイドミッション機の実験機、

もといポスト・サードライトニング機の開発というわけですね」

「そうよ。バイド来襲はまだ確定情報ではないから、決して外には漏らさないように」

 

 

共犯者の笑みを浮かべる二人はそれぞれの仕事場へと戻っていった。

 

 

***

 

 

「単機突入機で事前にテストしておきたいのは、まず波動砲だよねぇ。

メイン武装である波動砲は二種類打ち分けたいよね。

R-9A2デルタでやった、通常と拡散は波動砲のチャージ回路が似ているから簡単だったけど、

あれだけだと面制圧が不安だからなぁ。拡散と、面制圧できる新規波動砲がいいかなぁ?

それをつけるには波動砲のチャージ回路の容量が問題だからぁ、低ループ高威力波動砲として、

どれくらい威力を出せるのか実験しないとね。ループは精々2~3ループくらいかなぁ?」

 

 

疑問文だらけの発言ではあるが、部屋にはレホスは一人だ。

なにせ、絶対外には漏らしてはならない検討事項を他人と相談することはできない。

開発方針の決定はレホス一人で行い、部下に流すのだ。

キーボードを叩き仕様書を端末に書き込んでいく。

 

 

「あとは……高出力スラスターとかのバランスを見ておきたいなぁ。

まあ、スラスターや主機はすぐに新しいものが開発されるから予備的なものでいいか」

 

 

班員の割り振りも考えながら一人会議を進めるレホス。

実質的には次期単機突入機を作るための試験機なのだ。

 

 

「フォースはいくつか案は在るけど……どの道、期限内には出来上がらないから、

バイ……サードライトニング作戦本番で使うフォース開発に時間と予算を回そうかなぁ。

現場はみんなスタンダードフォース大好きだし、今回はノーマルをつけておけば良いさぁ

ビットも間に合わないから、今回は普通のだね。」

 

 

黎明期にフォース暴発事故を経験したTeam R-TYPEでは、流石にフォースの開発には慎重を期している。

時間がかかるため、機体毎に簡単に仕上げるわけにはいかないのだ。

効率的なバイド素子の扱いを習得しフォース研究が飛躍的に進むには、B系列機の誕生を待つことになる。

 

 

また、R-13系列のような例外を除いて、フォースの制御はコントロールロッドの性能によるところが大きく、

機体側に載せるフォースコンダクターは、殆どコントロールロッドとの連絡装置のような物である。

それぞれのフォース(のコントロールロッド)に対応したコンダクターを組み込むだけなのが通例だ。

レーザー機構などにも関わってくるので、もちろん簡単に載せ変えはできないが、

機体との根本的なミスマッチはまず起こらないので、機体に装備しての事前テストは余り重要ではない。

 

 

「コックピットは……前回のエンジェルパックのときは現場がうるさかったからなー。

通常範囲のサイバーコネクトにして、本番に向けてパイロット適性の調査でもしようかな」

 

 

ディスプレイには大方の企画書が出来上がっており、

レホスの頭の中には更に詳細な完成予想図が組みあがりつつあった。

あとは自分の班の部下達に説明して、実際に開発に向かうだけだった。

 

 

***

 

 

レホスとその部下の前にはR-9Aアローヘッドに似たR機があった。

R-9Cの後継機ということで、フレーム自体はコスト重視量産機R-9Kサンデーストライクのを流用している。

 

 

「で、これがR-9Sと。僕はメガ波動砲と出力系以外は関わってないけど」

「そうですね。大変でしたよ軍との折衝は……」

 

 

レホスはおいしい所以外は殆ど部下に丸投げしていた。

何故ならサードライトニング本番のためのフォースと、面制圧用の新機軸波動砲の研究にかまけていたからだ。

ただし、メガ波動砲は本番単機突入機に載せる予定のため、開発を行っていた。

 

 

「チャージ時間を圧縮した割には異常に高威力だから軍から文句は来ないさぁ」

「ええ、あれだけの波動砲が2ループで収まるとは思いませんでした。

ただ研究時の暴発事故が多くて総務課から文句を言われましたが」

「ああ、メガ波動砲研究のせいでR-9Kを10機くらい潰したからね。まあアレはそういう機体だからいいよ。

それより追尾ミサイルを積むサイロが無くなったけど、ミサイルは補助武装だしあまり重要じゃないよねー」

 

 

基本的に、波動砲以外はR-9Aと余り変わらない構成で、主機やスラスターなどを最新式にしてある形だ。

スタンダードフォースに、R-9Aアローヘッドと同じレーザーとパイロットからすると非常に分りやすく、

そのため、スタンダードな構成を好む現場から配備の要請が多い。

 

 

「派手に試射実験をしていた所為か、軍からの配備の問い合わせが来ていますがどうしますか?」

「外縁部の部隊に集中配備してもらうよ。まとめて実践テストしたいしね」

「圧力かけて特別部隊を編成するのですか? さすがに嫌がられる気が……」

「大丈夫、そんな長い事じゃないよ。たぶんねー」

「?」

 

 

確信じみた反応をするレホスに疑問符を浮かべる部下達。

レホスには、バイドの発生消長パターンから、第三次バイドミッションもとい、

サードライトニング作戦の発動が、時間の問題になったことが知らされていたのだ。

恐らく、ここ数ヶ月でバイドの先触れが地球圏に到達する可能性が高いことが予想されていた。

 

 

そして、2ヵ月後

25機のR-9Sストライクボマーがロールアウトし、現場に集中配備されることになる。

R-9Sだけが配備された太陽系外縁部防衛部隊R-9S大隊が

バイドの大規模攻勢を防ぐために投入されることとなったのは、その更に3ヶ月後のことだった。

 

 

***

 

 

R-9S大隊の壊滅とバイド大量発生を受けて、民間でも二度目のバイド復活が報じられるようになった。

軍部が表立って立てた方針は、戦時体制への移行によるR機や艦隊の増強とバイド防衛線の確立であったが、

その先触れから、第一次、第二次バイドミッションをも凌ぐバイドの物量が予測され、

関係者間ではすでに、敵中枢への単機突入作戦である

第三次バイドミッションが発動することは確実視されていた。

しかし、民間への動揺を抑えるためとしてバイドミッションの名は伏せられ、

当面は、サードライトニング作戦の名がそのまま継続されることとなった。

 

 

「レホス班長、報告を聞こうかしら」

「今回の“試験”では、大型バイドを多数含む艦隊規模の群れにR-9S大隊25機をぶつけてみました。

作戦目標は冥王星基地グリトニルの防衛として、基本増援はなし。結果はR-9S大隊は壊滅ですね。

まあ、この結果自体は当初から予想されていましたが、機体性能は予想以上ですよ。

こちらの全滅予想時間より1.8倍の時間を稼ぎましたし、

一部機については敵陣を突破して後方からの撹乱に成功していますね。

現場判断として勝手に出撃した艦隊が援軍に来るまで、グリトニル防衛に成功しています。

彼らに与えられた作戦内容からすれば、全滅はしましたが作戦成功といっていいでしょう」

 

 

レホスが上機嫌で答える。口調もハキハキしていて何時もの彼ではないようだ。

それに対して彼の上司は淡々と評価する。

 

 

「機体性能は予想より上、それよりこの波動砲は使えるわね。予備としてはもったいないくらい」

「これをメインに、これから開発する予定の面制圧の新式波動砲をつければ

サードライトニング作戦も捗りそうですねぇ」

「フォースの試験はしなかったようだけど、新型フォースはサードライトニング作戦に間に合うかしら?」

「2つの方向性で試験を続けていますよ。

片方はすでに形になっていますけど、もう片方が難航しているんですよねぇ」

 

 

レホスが示すディスプレイには、緑色のフォースと、未だ形にならない青いフォースがあった。

それから、暫く質疑応答が続いたが、検討事項を決めてサードライトニング作戦への検討事項が纏まる。

さてデータを検討しないと、と嬉しそうに呟き課長室を辞そうとするレホス。

レホスが扉に手をかけた時、後ろから声がかかる。

 

 

「そういえば、このストライクボマーって、どういう意味でつけたの」

「メガ波動砲の試作段階でフレームに使ったサンデーストライクを爆破しまくりましたからねぇ、

サンデーストライクを爆破するって意味でつけました」

 



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R-9/0“RAGNAROK”

※時間軸としてはR-TYPEⅢ開始前です。
R-9SをFINAL設定で書いたのにもかかわらず、R-9/0はⅢ設定が濃い目です。



R-9/0“RAGNAROK”

 

 

 

地球近郊の基地は開発最前線である。

ことに過疎地域に立っている火星基地の比較的広い大会議室には白衣の集団が集まっていた。

対バイド兵器開発集団Team R-TYPEである。

ワインレッドのスーツを着た女性、

バイレシート開発課長が壇上に上がると間を空けずに発言する。

 

 

「さて、今日政府の発表にあったとおり、サードライトニング作戦が発動された。

これは各地で観測されたバイドの発生が、今後大攻勢につながると見られたためだ。

これに伴いTeam R-TYPEでも戦時体制に移行する」

 

 

女性は一度言葉を止めて周囲を見渡す。

ここに居るのが軍人なら、覚悟を決めた顔や、恐怖、怒りなどが表に出るのだろうが、

研究員達は笑っていた。目が爛々と輝き、期待に満ちた顔をしている。

「戦時体制」という予算と権限が降ってくる魔法の言葉を聞いた所為だろう。

知的好奇心の赴くままに研究をするTeam R-TYPEに科せられた制限が緩むのを期待しているのだろう。

なんとも罪深いことだ。と女性課長は内心呟き、説明を続ける。

 

 

「Team R-TYPEでは総力を結集して、その支援にあたることになる。

具体的には新たなる単機突入機の開発と、それに伴う、波動砲、フォース、その他技術の開発。

また、Bランク以下のR機研究は計画が一時凍結される。

現在、宇宙艦隊とR機部隊がバイドの戦線を維持しているが、今後バイドの構成は一層苛烈になる。

そのため、サードライトニング作戦の核として単機突入作戦が決行されることになるはずだ。

実質的には第三次バイドミッションが我々の戦場だ……レホス班長開発状況の説明を」

 

 

珍しくまともなスーツに、それをすべて無にする汚い白衣を着込んだ男、

R機第1開発班班長のレホスが壇上に立ち説明を引継ぐ。

 

 

「どうも、レホスです。これから単機突入機の開発がすべてにおいて優先されるわけだけれど、

一応、内示で僕が単機突入機R-9/0の研究開発の現場まとめとなる事になったから宜しくー。

じゃあ、研究枠を割り振るからぁ、呼ばれたら返事をしてねぇ」

 

 

どうやら、会議室にいるのは身内とあって、初めから真面目を取り繕う気はさらさらない様だ。

学校の出席確認の様な異様な光景のなか、人類の未来を賭けるR機の開発チームが結成されていった。

 

 

***

 

 

「で、どうなったの?」

「シャドウフォースは完成していますが、高バイド指数型の方が中々安定しませんね」

 

 

唐突に現れたレホスに、ため息を付きながら答えるのはフォース班に割り振られた研究員達だ。

大型フォース培養漕には一つのフォースが固定されている。

妖しい緑色の光を放つフォースに、それぞれ逆向きに取り付けられた二本のロッド。

既存のフォースとは違う淡い緑の光は、心なし柔らかい様な気がした。

 

 

「このシャドウはバイド素子をまったく使わない人工フォースですが、バイド由来の攻撃性が無い分、

攻撃力は心もとないですが安定しています。フォースというよりビットから進化した形ですね。

取っ掛かりが無くて厳しかったですが、一度、ヒントを掴めば楽なものです。比べて高バイド指数型は……」

 

 

その横には巨大な培養漕が青く光っており、内部はエネルギー体ではなく、流動的な何かがうごめいている。

それはぶよぶよとして歪んだ球形をしているが、まるでアメーバのように蠢き、

バイドとしての特質なのか、他の物質を取り込もうと手を伸ばそうとしているように見える。

フォースとして昇華しきれないバイドエネルギー体の塊だった。

 

 

「ご覧の通りです。

この高バイド指数型フォースは、今までにない高いバイド係数が徒となって、

球状エネルギー体として安定しないのです。ご覧の通り不定形のゲル状ならば安定しますが、

培養漕から取り出してコントロールロッドを接続しようとしても拒絶されます」

「うーん。今までにない面倒なフォースだねぇ。

そうは言ってもコントロールロッドが無いと、制御も出来ないから、

ここはもう補助制御機関を使うとか裏技も考えてみてよ。

ほら、アンカーフォースとかが有線にしてたみたいにー。

じゃ、次の会議で進捗報告よろしくー」

 

 

量産機ならば安定性に秀でるシャドウやスタンダードフォースが喜ばれるのだろうが、単機突入機は違う。

場合によっては多少安定性に難があろうと、攻撃力や突破力を優先することが必要なのだ。

是非とも高バイド指数フォースを完成させたい。それがレホスもといTeam R-TYPEの方針だった。

そうは言っても、R-9/0開発を総括すべきレホスがフォースだけに関わっている訳にはいかない。

研究方針だけを示して、後は丸ごと投げつけになる。

レホスはそのまま次の研究室に向かった。

 

 

***

 

 

「新型波動砲はどう?」

「メガ波動砲についてはR-9Sでの実験の甲斐あって問題ありません。一つのコンダクタ、チャージ回路で

複数の波動砲を撃ち分ける事についてはR-9A2デルタの実例がありますし、多少の改良で何とかなるでしょう。

問題はハイパー波動砲のオーバーヒートですよ。連続発射すると直ぐに冷却系が根を上げますからね」

「冷却系については、もともと分っていたことだから言い訳にならないんじゃない?」

 

 

研究室を渡り歩いているレホスが次にきたのは、波動砲の開発担当のところだった。

レホスと研究員が見つめる画像は、波動砲コンダクタと接続された前方がとろけたフレームはR-9Sのものだ。

 

 

「そうですね。現在改良中ですが波動砲単発の威力は下げて、連射性を向上させることを考えています。

絶え間なく弾幕を張ることこそが、この新型波動砲の正義ですから」

「いいね、その発想嫌いじゃないよ。ただし回数制限と付けるのは認めないからそのつもりでねぇ」

「1回こっきりの奥の手って言うのも良い響きなのですが?」

「1回も10回もダメ。実弾でもないのに始めっから回数をつけた兵器なんて欠陥も良いところだからねぇ」

 

 

問題があると言いつつ、何処か楽しそうな研究員達。

それもそうだろうフォースと並んで波動砲はR機開発の花形なのだ。

そんな研究員達からデータを受け取りながらレホスは研究室を出た。

 

 

***

 

 

“エンジン命!”と張り紙された研究室にレホスが入ろうとすると中から奇声が聞こえてきた。

 

 

「推進コアジェネレーターは従来比200%を目指してぶん回すぞ!」

「「「ウッス!」」」

 

 

「超加速なんか楽勝で出せる出力だ!!」

「「「ウッス!!」」」

 

 

「波動砲チャージがエネルギーを喰うらしいから同時並行でハイパードライブジェネレーターも作るぞ!!」

「「「ウッス!!」」」

 

 

「よし形が出来たら小型化だ! 試作型の70%が目標だ!!」

「「「ウッス!!」」」

 

 

「班長、この熱量だと冷却系が間に合いません!」

「それは冷却機班の仕事だ! 奴らの尻を叩け!!」

「「「ウッス!!」」」

 

 

各研究員の研究意欲を優先的に考慮して班を割り振ったのだが、

体育会系ばかりが固まってしまったのは間違いだったかと、レホスは廊下で僅かに反省した。

完成品が企画通りの機能を持っていて、品質さえよければ自分が困ることは無いと考え直した。

 

 

「今は面倒くさそうだしー、後で中間報告書を貰えば良いや。最悪エンジン二台を繋げば良いしね」

 

 

そういうと、踵を返して次の研究室に向かった。

 

 

***

 

 

「こっちはどう?」

「ああ、レホス第一班長ですか、聞いてくださいよ。主機と波動砲コンダクタの熱量でか過ぎて冷却能力が……」

「主機班も波動砲班も冷却機に期待しているらしいからよろしくー。性能はこのまま容積は半分以下にね」

「死ねるっ!」

 

 

冷却機はR機の中で最も酷使される機関の一つだが、他が自重しない分、皺寄せが行くことが多い。

冷却機性能と波動砲性能は競り合う運命なのだ。

 

 

「レホス第一班長……どうしましょう? どんなに緻密に作りこんでも要求の75%性能が関の山です。

よしんば要求をクリアできたとしても、現在の波動砲の性能では確実にオーバーヒートします」

「オーバーヒートについては波動砲班と調整しなくちゃだけど、

使える者は何でも使って良いから、君らは自分の受持ちを100%にしてねぇ」

「……」

 

 

特に今回は波動砲で弾幕を張るという恐ろしく冷却系に負担のかかる事をするので、要求が高い。

その結果、こうして絶望的な顔をした研究員達が出来上がるというわけだ。

しかし、その絶望の中にさえ悦が見え隠れしている。Team R-TYPEの業は深い。

レホスはR-9/0の完成のためにはフォローが必要かと考えながら、部屋を出た。

 

 

***

 

 

「レーザーは問題なさそうだね」

 

 

レホスが言うのはすでに対空、反射、対地というレーザーの基本3種がすでに完成しており、

他の案にまで取り掛かっている姿を確認したからだ。

 

 

「リバースにオールレンジ、ガイド。面白いレーザーが出来ましたからね!」

「なかなか癖の強いレーザーだねぇ。他にも色々やっているようだけど?」

「ええ、コレだけじゃ詰まりませんから、それは色々と……」

 

 

へっへっへ。と壊れた笑いを浮かべている研究員。

レーザーに関しては特に問題が無く、癖を覚えるのが大変そうだが、

使いこなすのはパイロットの責任の内なので特に気にすることは無いと判断し、

レホスは自室に戻っていった。

 

 

***

 

 

 

何回かの研究指導や相談を繰り返し、粗方の仕様が決定する中間報告に漕ぎ着けたTeam R-TYPE、

ここからは最終的に齟齬が起きないように、調整をしていく作業になる。

隔離された研究室では、レホスが大きな一人ごとを言いながら、調整作業をしていた。

 

 

「最初に上がったのはレーザーか、新型はスルー、スプラッシュ、カプセルねぇ、

まぁ、威力的にもコレが本命だろうからこの三種で話を進めていいかな」

 

 

カタカタと仕様を打ち込む。

 

 

「次は冷却系か、波動砲班からの要望でハードルが上がったから、当初予定の130%になったんだよねー。

そうそう、結局冷却機だけじゃ用が足りないから装甲に放熱機構を装着することで120%まで引き上げたんだっけ。

装甲に稼動部をつけるなら装甲を補強しなきゃ。折角モノコック構造にして内部容積を取ったのになぁ。

まあ、R機の装甲なんて小型デブリ用だし、波動砲発射とか、高速機動とかで自壊しなきゃ良いよね。

ザイオングシステムで干渉できないような大型のデブリは問題外とー」

 

 

レホスはディスプレイの中の設計図に補強材を加え、フレームをセミモノコック構造に変更し、

「R-9Sのデータそのままじゃないからまた実験しなきゃ」と呟く。

 

 

「新式波動砲はハイパー波動砲試作型だけど、冷却システムの機能不足で発射後の強制冷却が必要と……

これ以上の威力の弱体化は避けたいから、強制冷却込みのシステムにするかなぁ、まあ回数制限はないし。

まあ、メガ波動砲もあるし隙を見せたくないときはメガ、一撃必殺でハイパーかなぁ

単機突入機はこれでいくけど、技術開発に試作型を残すわけにはいかないから、

後で低威力のオーバーヒート無しのものを上げなきゃねー。波動砲班は作戦後も居残り決定と」

 

 

ディスプレイの波動砲欄の書き込みを終えると、画面上でフォースを選択する。

でてきたのは画像は大型で二つの随伴エネルギーが付属した青いフォース。

とてもぶよぶよとした質感に見える。

 

 

「フォースも未完か。試作型サイクロンフォース。有線式じゃなくて制御コアを投入して無理やりだね。

ゲル状で実体があるからフォースシュート時の破壊力は魅力的だし、暴走しないならいいか。

むしろ暴走しても敵目標が射程内なら良いか。シャドウは予備としてとって置こうかな。」

 

 

各班からの報告を纏め、R-9/0の全容が見えたのに満足して、大きく伸びをするレホス。

あとは微調整を行って、各班に最終調整を行わせることと、実際に組み上げて各種試験に出すことになる。

そして、最後に残った区画であるコックピットブロックをクリックする。

コックピットブロックはレホスの担当なのだ。

 

 

「コックピットはエンジェルパックより生身の方が火事場の馬鹿力が期待できるからそのままでぇ。

R-9Sのデータからは、女性の特に若年の方が素体としては適性があるけど、

この作戦でパイロット経験が足りないのは致命的な問題だし、軍部も認めないしなぁ」

 

 

「どうしよーかなー」とやる気が全く感じられない声を上げていると、ノックの音が聞こえた。

一応最高機密なので、ディスプレイを一時的に消してから、誰何するとレホスの部下の一人だった。

実験結果を持ってきた部下の研究員にレホスが問いかける。

 

 

「あー君か。君なら良いや。これどう思う?」

「一番良いのは10代前半の体にエースパイロットの脳を載せることだと思いますが、

どちらを取るべきだか私には判断が付きません」

「R-9/0は妥協無しで行きたいから、両方取りたいんだけどそこを切り抜ける方法はないものかなぁ」

「では女性成人パイロットの脳を、肉体的に優れた十代の被験体にでも移植しますか?」

「外から脳を移植すると免疫抑制剤と移植のショックでサイバーコネクタの反応が格段に悪くなるから無理」

「では十代の被験体にサイバーコネクトを流用して、学習で無理やり10年分のシミュレートを脳に焼き付けるとか」

「そりゃ、残念ながらシミュレート訓練と実践で育てたパイロットでは、能力が雲泥の差だからねぇ。

パイロットの言う現場の空気って奴がデータ化仕切れないからね。でも、その考え方は何か引っかかるものがある」

 

 

うーん、と唸りながら考え込むこと15分。報告に来た研究員が帰ろうかどうか悩み始めた頃。

レホスが突然声を発した。

 

 

「別人の脳を外から持ってくるからダメなんだ。脳に焼き付ければ良いんじゃない?」

「いえ、だからシミュレートによる焼付けは役に立たないのでは?」

「いやいや、実戦配備されたパイロットの記憶、というか体験を十代被検体の脳に上書きするのさ。

記憶・体験を成人パイロットの脳から取り出すとき、高出力精密走査で移植元の脳が破壊されるし、

移植先の被検体の脳も上書きで完全に不可逆的になるけど、これなら諸問題をクリアできるよねー。

人間二人分を食いつぶすことになるから、今までは資源を無駄にする技術として無視されていたけど、

こういう採算度外視、倫理無用の作戦なら可能だよね」

 

 

良いことを考え付いたと一人頷くレホスに研究員が疑問を投げかける。

 

 

「で、そのパイロットはどうなるのです?」

「もちろん10代の方の人格は抹消。記憶の元になっている成人パイロットの人格には

肉体のみ10代として固定したと信じ込ませるべきだね。

別人の体と知ったときのショックでサイバーコネクトが不安定になるのは避けたいからね。

あと投薬は最小限にしたいなぁ」

 

 

若返りは女性の夢って言うし僕って優しい。とのたまうレホス。

 

 

「わかりました。条件に当てはまる10代の被験体と女性エースパイロットを10件ずつピックアップします」

「よろしくぅ」

 

 

***

 

 

こうして、採算度外視、研究者が脳みそを絞り技術の粋を結集した機体が完成する。

未完の部分もあるがTeam R-TYPEとして現段階で最高の作品であり、新規技術を惜しみなく搭載した機となった。

倫理などは無視した仕様ではあるが、サードライトニング作戦(第三次バイドミッション)発動前には、

軍民問わずにバイド侵攻に対する危機感が蔓延しており、多少の無茶には目を瞑る態勢となっていた。

人類に三度襲い掛かったバイドを完全に消し去るため、R-9/0は最終戦争“ラグナロック”の名を与えられた。

 

 

人々の未来を託す願いと、Team R-TYPEの自負を載せて、

R-9/0ラグナロックは銀河系中心部に向け、単機旅立った。

 



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R-9/02“RAGNAROKⅡ”

※R-TYPEⅢ時点から、かなり時間が経過してFINAL時点での話です。


・R-9/02“RAGNAROKⅡ”

 

 

 

 

ラグナロック開発当時、波動砲班を担当していたアークルは、Team R-TYPEの課長室でレホスと話をしていた。

 

 

「ラグナロックを更に改良ですか、レホス課長?」

「そうそう、あの英雄機は現場からの要求が高くてねぇ」

「実戦配備型ラグナロックではダメなのですか?」

「あれじゃ、物足りないってさ」

「私、実戦配備型のハイパー波動砲をあげるために、死ぬほど残業したのですが……」

 

 

***

 

 

サードライトニング作戦(実質、第三次バイドミッション)において、

地球連合軍はR-9/0ラグナロックによる、敵中枢の単機突入を決行し、

銀河系中央に巣食っていたバイドマザーの撃破に成功した。

が、流石に3度復活したバイドに対する油断は自らの滅亡に繋がると判断し、

緩やかながらR機開発の技術維持と、既存機のマイナーチェンジを図ることとした。

実際、バイドは復活することになるのだが。

 

 

その一環として組み込まれたのが、ギリギリの運用を行ったラグナロックの改良と、実戦配備型の開発であった。

具体的には1連射ごとにオーバーヒートする試作型ハイパー波動砲の完成と、不安定なフォースの改良だった。

波動砲は冷却機能とすり合わせながら単発の威力を大幅に落として連射性を確保することになり、

大型バイド撃破のためではなく、広域殲滅用途の弾幕という役割となった。

また、採算性からメガ波動砲はオミットされた。

フォースについても、サイクロンフォースは完成したが、

結局ゲル状でコアを投入した状態が最も安定するとして、コアとコントロールロッドの性能を改良することになったが、

サイクロンフォースはその形状(ゲル)から通常フォースロッカーでの保管が非常に困難として、

安定性と安全性が高い人工フォースであるシャドウフォースが制式とされた。

こうして、サードライトニング作戦に投入されたオリジナルラグナロックとは

ほぼ別物と言って良いほど弱体化する事となった。

結局、ラグナロックは時代を先読みしすぎた機体だったのだ。

 

 

***

 

 

「まぁ、オリジナルラグナロックを想像した後、実戦配備型のあの性能ではガッカリしますよね」

「そうなんだよね。バイドが居ない時期はあれでも良かったんだけど、ほらラストダンス作戦が発動したから、

パイロット連中がもっと高性能機をって息巻いちゃってさぁ、でも僕としては一度開発済みの機体なんて、

多少中身変えて再度作っても意味ないから、作りたくないんだよね」

「それでは、いっそ後続機を開発してしまえ。ということですか?」

 

 

Team R-TYPEは独自会計となっているなど軍関連団体としては、かなり自由度の高い組織であるが、

やはり現場とは無縁ではいられないので、現場の声とか上からの圧力といった形で研究にノイズが入る。

軍は、ともすれば狂気の世界に没頭し、前衛的な研究に走るTeam R-TYPEの手綱を握りたいし、

Team R-TYPEは最終目標達成のため、余計な茶々を排してプロジェクトRを遂行したい。

そんな関係だった。

 

 

「そうそう、分ってるね。フォースとかはサイクロンを通常運用できるようにすれば使っても良いよ。

ただ波動砲はハイパーじゃ意味ないから新規で作ってね。軍の要望は“最強”だってさ。

あと、名前と型番は決まっていて、R-9/02“RAGNAROKⅡ”になるから宜しくぅ」

「ラグナロック2……なんてやる気の無い名前」

「だよねー。でもその名前にして置けば中身別物でも良いから」

「分りました」

 

 

***

 

 

「と、いうことでラグナロックの後続機ラグナロック2を開発します。班員のカッツとリョウ意見よろ」

「その説明はおかしい」

「アークル班長、本当になにやってもいいの? 予算は?」

 

 

Team R-TYPEは上下関係が余り厳しくない。

というか常識からドロップアウトした者が大半なので、そんな事を考えることを期待してはいけない。

彼らにとってR機やバイドの研究開発以外の事柄は等しくゴミなのだから。

もっとも課長であるレホスや、その上の部長クラスとなると、楯突く事で実被害が出るので流石に弁えるが。

 

 

「コンセプトは“最強”だから。意見は? カッツ」

「そうは言っても、オリジナルラグナロックの性能自体、未だにほぼ最強だと思うぞ」

「フォースは、現状アレ以上は無理だから、開発なら波動砲一択だよね」

「うん実は、波動砲をメインでやれって言われているんだ。すべての研究費をそこに突っ込む方向でいいか?」

 

 

カッツとリョウの意見は現最強武装であるサイクロンフォースにレーザー、主機、冷却系に、

更に改良した最強の波動砲を積めば、最強のR機になるだろうという巨砲主義な意見だった。

果たして最強の波動砲を作るための男達の研究が始まった。

 

 

***

 

 

10台近くはあるディスプレイにはTeam R-TYPEで行われた数々の実験の記録動画が再生されている。

それを食い入るように見る男三人。

どこかのディスプレイで波動砲が発射される度に、口を開けた三人の顔が照らされる。

カッツがその中の一つをさして述べる。

 

 

「高威力波動砲としては、やはりハイパー波動砲だろうか」

「いや、広域への攻撃性能としてみればライトニングや衝撃波動砲の系統も有望じゃないかな」

 

 

アークルが別の画面を指しながら言う。

隅の方のディスプレイを指しながらリョウが意見を述べる。

 

 

「それなら俺はこれだ! バリア波動h……」

「だ・ま・れ」

「ひどい! バリアを張りながら突撃できれば強いかもしれないのに!」

 

 

やいのやいのと騒ぎながら話を詰めていくアークル班。

2~3時間脱線しながら騒いでいた彼らであったが、次第に話がまとまり始める。

点いているディスプレイは唯一つ、メガ波動砲の試験記録だ。

画面を見ながらアークル、カッツ、リョウが話す。

 

 

「結局、メガ波動砲からの進化系となるか」

「貫通能力が決め手だな」

「ハイパーも良いけれど、意外と貫通性能がないのが辛いからね」

 

 

アークルがディスプレイの一つに端末を繋げ、キーボードを叩き開発予定をたて始めた。

 

 

***

 

 

Team R-TYPEが所有する大型実験施設では、波動砲の実験がおこなわれていた。

外装も無く剥き出しのまま固定された波動砲コンダクタに青白い光が灯り、

虚数空間に大量の波動エネルギーが集められ凝縮されていく。

実験機から遠く離れた、実験管制室の制御板ではチャージ回路が3ループ目から4ループ目に入る……

そのとき、チャージ回路が不安定に点滅し、ディスプレイが白くなったかと思うと、

次の瞬間ブラックアウトし、何も映さなくなった。

 

 

「うん、今回も明らかに過チャージでの暴発だったな。カッツも同意見だろ」

「班長、そんなことは分っているから、問題はあれを回避する方策だ」

「あーあ、さよなら実験用フレーム第18号……」

 

 

爆破されているのは例によって試験用に回されたR-9Kのフレームだった。

 

 

アークル班の面々が会議室に場所を移し、検討を開始した。

アークルが実験データを呼び出し、分析を述べる。

 

 

「これ、チャージ回路が急速に増加するエネルギー負荷に堪えられないみたいだな」

「それは分っている。その負荷に対応させないと」

 

 

廉価と言っても決して安くは無いR機フレームを盛大に吹き飛ばして実験するアークル班。

何せ研究開発資金の殆どを波動砲に突っ込んでいるので、局所的に資金は潤沢なのだ。

その後も数回R-9Kフレームを爆破し、議論を詰めていった。

 

 

「うーん、何かつかめたか、リュウ」

「凄く抽象的で概念的な話だけどさ、ループって例えば長い織物をコンテナに詰めるようなものなんだよね」

「なんだその喩え」

「カッツは黙る」

 

 

アークルは口の前で指を立ててカッツを黙らせる。

 

 

「でさ、そのコンテナに仕舞える量は決まっているんだけど、キチンと畳まないと入らない。

畳まないでグチャグチャに入れたら入らなくなっちゃう。今回の暴発も同じ。

で、急速にチャージするものだから、チャージ回路に流しきれなかった波動エネルギーが溢れて、ドカン」

「……ああ、そういう考えもあるか。メガ波動砲は2ループで留めているからアレだけの急速チャージが可能なのか」

 

 

リョウのとても分りにくいあやふやな説明を聞いたアークルが暫くしてから納得した表情になる。

 

 

「ってことはあれか、チャージ速度が速すぎるから暴発する。もっとゆっくりチャージすれば暴発しないと?」

「オリジナルラグナロックではメガ波動砲とハイパー波動砲で回路の設定を分けていたけど、

それを一つの波動砲で使いきれば、究極の波動砲が出来るんじゃないか」

 

 

カッツが憮然とした表情で言うと、アークルが我意を得たりと答える。

こうして、暴発させないギリギリのスピードでチャージさせるという、

チャージ回路の限界を挑むチキンレースが始まった。

 

 

***

 

 

デブリ地帯での試射映像を見やる三人。

威力が高すぎてすでに閉鎖系の実験施設では試射すら出来ないのだ。

 

 

「7ループチャージか……最強じゃね?」

「いや、まだ理論値的にはもう1ループ可能なはず」

「リョウの言うとおりだ、妥協はいかんだろ」

 

 

カッツ、リョウ、アークルがそれぞれ換装をもらす。

すでに、膨大な波動エネルギーは実空間に顕現しきれず、虚数空間にまで散っており、

大多数のバイドに対してはオーバーキルであろう威力だ。

ふと、カッツが呟く。

 

 

「なあなあ、班長。これ貫通能力というか、輻射にしても妙に攻撃範囲が広くないか?」

「うーん、これ波動砲射撃軸からずれた箇所も、被弾しているな」

 

 

パチパチと端末を叩くアークル。

 

 

「……一瞬で発射するには波動エネルギーが膨大すぎて、虚数空間で渋滞起こしているな。

で、流れ切れないエネルギーが虚数空間軸を通って、無理やり通常空間に顕現している?」

「これさ、もうちょっと威力上げたら、更に多くのエネルギーが虚数空間を回ってから現れるから、

現実の地形関係なしで攻撃できるぞ。貫通性能が向上するのじゃないか?」

「ああ、レーダーに映る範囲を一掃できるな……これはアリだな」

「じゃあ班長、限界値の最大8ループに?」

「もちろん」

 

 

悪い顔をしたアークルとカッツが手を握り合う。

 

 

***

 

 

波動砲の限界に挑戦する研究は、幾度も壁にぶつかり、そのたびに研究員達の脳を絞りとり、

三人しかいない研究班は喧嘩まがいになりながらも一歩ずつ一歩ずつ進んでいった。

 

 

「メガの上はギガしかないだろ!」

「いや、メガ波動砲の1,000倍の出力は可能なのか、むしろ1,000倍で事足りるのか?」

「すごくどうでもいい。メガ波動砲だって、単純に出力が大きいってだけでメガなんだから」

 

 

とても、どうでも良い喧嘩をする大人三人。

 

 

「カッツもアークルも喧嘩しないで。で、ループ時の表示はアルティメットでいい?」

「アルティメット? ダサいから却下。もっと字数が少なくてやばそうな単語もってこい」

「やばそうな単語って……バイド?」

「バイド……」

「バイド……ありかな?」

 

 

研究が思うように進まず既に脳が疲れているのか、アークルが適当に「仮置きで」と、

8ループ時の警告表示を「BYDO」とOKを出してしまった。

この表示はその後、省みられることも無く正式採用されてしまう。

 

***

 

 

一年かけて研究を続け、

単純にチャージのしすぎで自爆したり、

波動コンダクタの制御が効かず、波動エネルギーが虚数空間上を後方に流れて自爆したりと、

発射余波で大破したり……多くのR-9Kフレームを消滅させながら、最強の波動砲の研究が続けられた。

 

 

「完成したな」

「ああ、できた」

 

 

カッツとリュウが感極まった様に目頭を熱くさせる。

彼らの目の前には黒い攻撃的なフォルムのR機、R-9/02ラグナロック2があった。

 

 

「サイクロンフォースに、ストラグルビット、レーザー各種。オリジナルラグナロックの雄姿を見ているようだ」

「ああ、波動砲に予算つぎ込みすぎて、他の開発予算が尽きたからな」

 

 

リュウの呟きに、アークルが同じく感動して泣きそうになりながら答える。

 

 

「これはRの開発史に残る偉業だな」

 

 

アークル班三人は自分達が作り上げた波動砲の完成に感動し、声を上げて泣いていた。

しかし、ラグナロック2はその馬鹿らしいまでの火力と、波動砲チャージ時間、

そして、オリジナルラグナロック並みの生産コストのため、封印されることとなる。

 



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R-9AX“DELICATESSEN”

※時間軸はR-TYPEⅡ~R-TYPEⅢの間くらい(R-9Kとかの前くらい)です


R-9AX“DELICATESSEN”

 

 

 

兵器開発は最新鋭の技術と、古くから蓄積された経験の両方が求められる混沌とした現場である。

そんな新旧が交じり合う場所では、よく分らない伝統が生まれる。

Xを機体番号に持つ機体は実験機もしくは実験的新技術を搭載した兵器だ。

と、いうのもその一つだろう。

もともと、Xというアルファベット自体に未知の物に対する仮称という意味があり、

旧世紀の大気圏内戦闘機などで、実験機にXを付ける命名基準があるのを継承した形だ。

 

 

R-9AXはR-9Aアローヘッドをベースとした試験機であった。

 

 

***

 

 

南半球第一宇宙基地にあるTeam R-TYPE開発部長室では、人工の物でない陽光が差し込んでいる。

地球をはじめとした一部の居住区域でしかできない贅沢だ。

この部屋の主であるスーツ姿の中年女性は、それを無造作にブラインドで遮る。

応接セットに待たせていた若い男の前に座ると、話を切り出す。

 

 

「レホス班長、プロジェクトRの件でとある開発方針が決まったわ」

「そうですか、バイレシート部長。でもあまりつまらない物だったら部下に回しても良いですか?」

「その時、貴方は被研究対象になるわね。少なくとも開発指揮は執りなさい。今回の案件はこれよ」

 

 

女性から機密文仕様の末端を受け取ると、レホスはセンサーに指紋を読み取らせて、

文章に掛かったスクランブルを解除し、開発方針の文書を読む。

暫く、黙って書類を読んでから、顔を上げるレホス。

 

 

「新しい武装の試験。その為の元となる機体ですか」

「そうよ、第一次バイドミッション、サタニック・ラプソディ、第二次バイドミッション。バイドは2回甦ったわ。地球連合政府の発表ではバイドは駆逐したとしているけど、

3回目もあるものとして準備を進めているの」

「バイド残渣の駆逐とか言ってR機を維持して、我々Team R-TYPEも規模を維持していますしねぇ。

飯のタネである次の単機突入機のための試作機ですか」

「それもあるけれど、追い詰められての単機突入型ではなく、多様性を持たせるための実験よ」

 

 

手元の文章には新たなマン-マシンインターフェイスの確立、新機軸波動砲の模索などが書かれている。

新しい技術に触りたくて、民間からTeam R-TYPEに転職したレホスは、

この0から始める新技術開発に関わることをこの場で決めた。

 

 

***

 

 

レホスの研究室に荷物が搬入されてきた。

新しい研究開発に使う資料や資材の一部だ。

ちなみにレホスの部下となる研究員とは今日が初顔合わせだ。

もしかしたら知っている顔もあるかもしれないのだが、人事書類を流し読みしたので覚えていない。

 

 

「さて、そろそろ班員が来るはずだけど……誰が来るんだっけ?」

 

 

上司への挨拶があったので、やり手ビジネスマンを思わせる格好をしていたレホスだが、

仕立ての良いジャケットを脱ぎその辺に掛け、革靴をロッカーに放り込むと、

荷物の中から皺だらけの小汚い白衣と履き潰したサンダルを取り出し、身に着けた。

残念な研究者スタイルの完成である。なまじ中身が身奇麗なだけにより残念だった。

いつもの格好になって満足したレホス。そこへ研究室の入り口から声がかかる。

 

 

「新しく配属されたドンとジェクトです。レホス班長はいらっしゃいますか?」

「ああ、入って良いよぉ。ええとドンと誰だって? キミ」

 

 

レホスが奇妙に間延びした調子で呼ぶと、二人の老若二人の男性が姿を現す。

中年で腹の出ている体形のドンは知っている。

年は食っているが確かな実績がある研究者だ。

若い方のジェクトはいまいち知らない。どこかで会ったことあるのだろうが。

 

 

「ジェクトです。よろしくお願いします」

 

 

Team R-TYPEに似合わず生真面目そうな男だったので、レホスは思わず笑ってしまった。

 

 

***

 

 

会議机に座るレホスは、目の前のドン、ジェクトに記憶媒体を渡し話しかける。

 

 

「さて、僕も他の仕事を掛け持ちしているから、簡単に終わらせるよぉ。

この企画書に合うものを作るから研究対象を絞るよ」

「“特殊武装テストベース”ですか。武装は……スタンダードフォースにスタンダード波動砲? レーザー欄が空欄ですが?」

「あ、でもドンさん。スタンダード波動砲“X”ってなっていますよ」

「本当だ。エックス?」

 

 

疑問符を浮かべるドンとジェクトにレホスが言う。

 

 

「Xっていうのはぶっちゃけ未定って意味だからぁ。

新しいネタを盛り込んだ波動砲を作って良いってことだね。

ただし、全くの新機軸とするって制約がつくけど」

「なんです? その投げっぱなしは」

「効率ばっかりだと、袋小路に行き詰るからねぇ。上も気にしているんじゃない?」

 

 

引き出しは多ければ多いほど良い。

もしかしたら、ある引き出しには勝利への約束手形があって、人類の未来へ繋がっているかもしれない。

バイドとの小競り合いの中で、押し返してきた所為で人類の力を過信しつつあるが、

バイドに対しては屁でもないのかもしれない。人類は絶賛、滅亡の危機にある。

もしかしたら精神安定のために無関心を装っているのかもしれないが。

何にせよバイドと戦うための武器が必要で、そのための一環なのだ。

まあ、そんな裏事情は、ヒラ研究員は知らなくても良いことだが。

 

 

「そんな訳だから、一つ面白い発想が出るようにみんなで考えようと思ってね」

「方向性もまっさらですか」

 

 

ジェクトがぼやくと、ドンが前向きに言う。

 

 

「まあ、どうせなら、普通に出したら蹴られるような案を出したいですね」

「そうだね。あと試験機だから先が見える様なものが良いねぇ。じゃあ発想を柔軟にして考えてね。

じゃあ、僕は詰まらない会議に出なくちゃいけないらしいから、これで行くけど案を考えておいてね」

 

 

言うだけ言って席を立つレホス。

無責任だと思う二人だが、レホスが忙しい原因の半分は自分達にあるため、強くは言えなかった。

Team R-TYPEの研究員は、基本研究以外の仕事はしない態度なので、

対外交渉ができる人材というのは貴重なのだ。

レホスは傍若無人の塊のような男だが、有能で政治的な駆け引きもできる。

周囲にとっては不幸なことだが、そういった事情で仕事がレホスに集まり多忙になる。

本人は研究畑が天職だと思っているし、才能もあるのだが、

政治的な駆け引き(脅迫を含む)ができる人員があまりにも少なすぎるため、

その他の仕事も出来る研究員=出世頭として周囲に認識され、外回りの仕事が多いのだ。

 

 

もっとも、レホス本人もその余計な仕事に付随する権力や影響力を利用して、

自分のやりたい研究を強力に推進しているため、単純に苦労人という訳ではない。

 

 

それはさておき、残されたドンとジェクトは有って無いような方針に従って計画をたて始めた。

 

 

「……先ず決まっていることは、新技術実験機であること、インターフェイスの一新あたりでしょうか」

「明確な課題であるインターフェイスから取り組もう」

 

 

年下のジェクトの呟きにドンが答える形で二人会議が始まった。

 

 

「インターフェイスといってもソフト面では既にできることはやりつくしている感じですね。

新しいプログラムだとかは第二次ミッション時に散々検討されましたし」

「結局、頭を開いて電極を直付けするっていう力技だったがね。あれは脳の個体差とかあるから、

機器のセッティングも一人ひとりオーダーメイド状態で、しかも、パイロットは機動を憶えるための訓練が必要だ。

あれをシステムといえるのかは疑問だね。万人とはいえなくても一定レベルのパイロットには使えるようにしたい」

「この時点でエンジェルパックはないですね。既存のタッチパネル、視線制御、音声認識、ボタン制御も」

 

 

既存の技術について話しながら、最新の研究データを探る二人。

暫く益の無い会話が続くが、ジェクトがふと顔を上げて、ドンに声を掛ける。

 

 

「ドン、これはどうですか?」

「……有りかもしれないな。計画に組み込んでもいいな」

 

 

“脳内情報の外部受信について、またそれによるナノマシン制御について”と表示されたディスプレイだった。

 

 

***

 

 

ドンとジェクトが何とか企画書をまとめて、多忙なリーダーであるレホスを捕まえられたのは、

当初の会議から優に2週間は経過してからだった。

 

 

「サイバーコネクタ式。とナノマシンによる波動砲操作ねぇ」

「どうでしょう?」

「ありかな。どの道既存インターフェイスは先が見えているし、ここらで冒険してみるのも手だね。

ナノマシン制御も新しくて良いよ。なんたって通常機で提案したら軍から文句言われること請け合いだからね」

 

 

露骨にほっとするドンとジェクト。ここでやり直しと言われる事だって十分にあったのだ。

これでやっと明確な武装について検討し、技術研究が始められる段階に入る。

 

 

「で、フォースとレーザーはどうしよっか、案ある?」

「いえ、まだそこまでは検討していません」

「僕としては高エネルギーの幾何学構造による効率的伝播っていうのを研究してみたいんだけど?」

 

 

レホスはそう言って幾つかの基礎研究論文を二人に送信する。

要約だけを斜め読みにしたドンが回答した。

 

 

「つまり、レーザーを直進ではなく幾何学的経路をとらせる事で、エネルギー拡散による減衰を防ぐと?」

「そうだね、おもしろそうじゃない?」

「レーザーがここまで新機軸という事は、フォースもそれに対応した新型になりますね。大丈夫ですか予算?」

 

 

心配そうに言うジェクトに悪い笑みを浮かべたレホスが返す。

 

 

「今回は結構予算つけて貰ったからねぇ。面倒な会議に出た意味があるってものさ」

 

 

こうして、費用対効果を完璧に無視した開発が始まった。

 

 

***

 

 

アローヘッドを素地とした簡素なフレームの機体に、赤と黒の警戒色の様に塗装されたR機。

その前方に付いたフォースはスタンダードフォースのロッドを基礎に、追加ロッド部品が取り付けられている。

六角形を並べた様な幾何学的経路で発射されるレーザーのために新たに開発されたスタンダードフォースHである。

 

 

軍人や他のTeam R-TYPE研究者を呼んで、始まったR-9AXの波動砲試射実験。

研究施設では何度も試射を重ねているので、実際には新型機のお披露目といった意味合いだ。

 

 

各レーザー射撃などウォーミングアップの後、的を射出しての波動砲射撃実験が開始された。

まずは静止目標相手に波動砲をチャージする。

試作とあり2ループという軽いチャージしかできないため、直ぐにチャージ完了音がする。

まっすぐに伸びる波動の光が的を打ち抜いて、行く筋かの燐光が宇宙空間に飛び散る。

観衆は黙ってそれをみているが不満げだ。アローヘッドのスタンダード波動砲を対して違わないように見えるためだ。

 

 

続いて、複数の移動目標が宇宙空間に射出された。

同じようにチャージし、同じように単目標を打ち抜くと思われていたが、

先頭の的を打ち抜いた四散した燐光が再び殺到し、残りの的を撃破した。

中にはほぼ180°に近いUターン軌道を描いて目標を撃墜した燐光もあった。

 

 

おお、と歓声が上がった。技術者や研究者の一群からだ。

軍人組はスタンダード波動砲とどこが変わるんだと言わんばかりの表情であったが、

この実験を見た他のTeam R-TYPEの研究者達は色めき立った。

何故なら、今までの常識であれば、波動砲に追尾性を持たせるには

そのエネルギーのほとんどを電気に変換しなければないとされてきたからだ。

 

 

外部来客が集められた会場に実験終了のアナウンスが流れ、解散となった。

 

 

発射時こそスタンダード波動砲と同様に、単純な波動エネルギーを投射しているように見えるが、

目標着弾時に貫通できずに拡散する余剰エネルギーを、ナノマシンで再び目標に向かって追従させる。限定的ながら波動エネルギーに追尾性を持たせた画期的な波動砲であった。

惜しむらくは、ナノマシンで制御できる波動エネルギーが小さいため、余剰エネルギーしかできない点だ。

試験的な波動砲という意味を込めてスタンダード波動砲Xの名を与えられ、

R-9AXはデリカテッセンという名前を与えられることになる。

 

 

***

 

 

研究者達や軍関係者の反応を会場の隅から観察していたドンとジェクトから報告を受けているのは、レホス。

またもや別の会議に出ていたのか、スーツや靴を脱ぎながら話を聞き流している。

 

 

「……ですので、軍はともかく内部的な話題には十分かと思います」

「まあ、どうせ実戦配備することはないから、反応はこの際どうでもよいよ。

でも、僕的に結構良い結果になったから次回も予算つけて実験できるでしょ」

 

 

研究室の会議机にパックに入った出来あい料理を並べて、昼食を取るレホス。

個々は美味しそうだが、ハンバーグに奈良漬け、サムゲタンに春巻きというなんとも酷い取り合わせだった。

 

 

「お惣菜って時間が無い研究者にうってつけだよねぇ。

そのまま食べても良いし、手を加えてもっとアレンジしてもいい。

まあ、先ずはそのままいただくって事にしようか。アレンジはこれからのお楽しみってことで」

 



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R-9AX2“DINNER BELL”

R-9AX2“DINNER BELL”

 

 

 

外部発表も行われない試験機ながら、Team R-TYPE内部の盛り上がりによって、

開発続行が約束された、R-9AXシリーズ。

新型インターフェイスであるサイバーコネクタも、当初こそ扱いづらいといったテストパイロットの声があったが、

次第に慣れたのか、バグ取りや改良が進んだのか、反応速度は順調に良くなってきている。

 

 

そんな、アフターサービス的な仕事に追われていたドンとジェクトだった。

 

 

「ドン、サイバーコネクタのバグがまた一つ見つかりました」

「これは小さい奴だな。ジェクトお前に任せた」

「何時までやるんですかね、こんなデバッガーみたいな作業」

 

 

サイバーコネクタ技術は単に脳から直接信号を取り出して機体を制御する機器ではない。

脳波を捕まえたり、脳波を返すセンサー類ももちろん技術の粋を集めたものだが、

むしろ、中に書き込まれている、脳波-マシン間を翻訳するシステムこそが重要なのだ。

しかも内容が特殊すぎるため、研究員が自らプログラムを書き修正する。

ほぼ全員がプログラムを書けるあたりTeam R-TYPEの研究員の特殊性が窺えるが、

当人達はプログラム作業やバグ取りだけでも外注できないものかと真剣に考えていた。

 

 

「新技術だから不具合が山のようにでるのはしょうがないにしても、

パイロットの意識ごと強制シャットダウンだから性質が悪いですよね。一回は精神ごと持ってかれましたし」

「それでも、初期稼動時の様にR機に乗ったまま暴走されるよりはマシだ」

「最弱武装のレールガンとかでも、格納庫内で撃たれて人間に命中したらバラバラどころか血煙になりますからね。

僕、人間って撃たれると塗料になるんだって初めて知りましたよ。レールガンはエアーブラシだったんですね」

「あの整備員は尊い犠牲になったのだ。まあ、うちの実験施設内でよかったよ。軍開発局の施設だったら一大事だ」

 

 

「ドンもジェクトも頑張ってるぅ?」

 

 

不穏な会話をしつつ、デスマーチ進行中に研究室に入ってきたのは、殆ど研究室に居ない班長のレホスだった。

 

 

「そろそろ死にます。レホス班長」

 

 

ドンが端的に答えたが、レホスはどこ吹く風で言いたいことを言い始める。

ジェクトはもう言葉を発する余裕が無い様だ。

 

 

「波動砲のナノマシン制御とか、サイバーコネクタとかの新技術の実証なんだけど、

まあ、本当にその技術が成り立つの? っていう感じだった訳さぁ、上としては。

「まあ、そのための実験機ですし」

「つまりR-9AXの意義は、実験前実験だった訳でー。それが通った今、本実験に入るって事だねー」

「それってつまり……」

 

 

嫌な予感に、今まで黙っていたジェクトが起きだす。既に顔が引きつっている。

レホスは懐から小さな記憶媒体を取り出し、ドンに握らせる。

そして、良い笑顔で止めをさした。

 

 

「はい、これー。R-9AX2の企画書」

「……つまるところ、早くこのデバッグ作業を終えてサイバーコネクタの完全版を作れということですか? レホス班長」

「まさかそれだけの為に、僕が来るわけないじゃない? という訳でー」

 

 

スタンダード波動砲Xの改良もよろしく。と言い放ってレホスは去っていった。

記憶媒体を持ったまま微動だにせず沈黙しているドンと、それを見て固まるジェクト。

二人の背中は煤けていた。

 

 

***

 

 

「げっつ、げっつ、かーすいっ、もく、きんきーん!」

「……ジェクト、余りふざけているとサイバーコネクタで試験されるほうに回すぞ」

「すみませんでしたまじめにやります」

 

 

もはや音階を合わせる気も無いほど調子っぱずれた歌を歌っていたジェクトに、

苛立つドンが怒りを抑えた声で注意する。

すでに平均睡眠時間2時間のデスマーチは3ヶ月に突入していた。

 

 

スタンダード波動砲XX(仮称)の研究にも手を付けたが、結局のところナノマシンによる追尾性を向上させるには、

ナノマシンの量や性能の改良による効果は微々たる物であり、そのナノマシンに命令を伝える操作側で

サイバーコネクトの改良がもっとも効果的であるという結論に達した。

 

 

その結果として、ドンとジェクトはひたすらプログラム言語と戦うことになった。

内部機材を新調してはバグを取り、

プログラムを改良してはバグを取り、

バグを取ってはそれによって新しく発生したバグを取り、

上から投げつけられた些細な仕様変更により発生したバグを取り

更にプログラムを最適化してはバグをとり、

……といった作業をひたすらひたすら繰り返すこととなった。

 

 

「ドン、最近、プログラム中にニュートが巣食っていて

正しいプログラムを侵食しているんじゃないかと思うようになってきたんですよ」

「通常ならバイドの精神汚染を疑うところだが、私もここ数日ディスプレイの奥にライオスが見える気がするんだ」

「それ、ファントムセルですよ」

 

 

軍の人間に聞かれたらその場で波動式焼却炉使って消し飛ばされそうなことを言っているドンとジェクトだが、

沈着して染み付いた目の下のクマと、伸び放題になった髭などを見れば、

慢性的な疲労によるものであることが分る。

そんなデスマーチ進行中に研究室に入ってきたのは、やっぱり研究室に居ない班長のレホスだった。

 

 

「ひっさしぶりー。三ヶ月前から死ぬ死ぬ言ってたけど、存外元気そうだよねぇ」

「また仕様変更ですか、またですか、また組みなおしですか、死んでしまいます。

ふりじゃないんです。本気です。ストレスと寝不足と精神負担でヒトは死ねるんです。

本当にやめてください。お願いします。振りじゃないんです」

 

 

無理と知りつつ泣きながら助けを求めるジェクトと、言い返すのも無駄と沈黙するドン。

それに朗らかに笑いながら答えるレホス。

 

 

「何言っているのさぁ? Team R-TYPEの研究施設では汚染防止のため、

各研究員の身体データは管理されているんだよ。

それによるとコレくらいのストレス指数なら人間の95%は死ななからダイジョーブ。

脳神経が永続的に変性してちょっと思考回路が組み変わって人格がおかしくなる程度だからねぇ」

 

 

施設管理システムの情報を手元に呼び出しながら、軽く告げるレホス。

通常、研究班長クラスのセキュリティ権限では施設管理システムなど触れられないはずなのだが、

なんでもないように、精神疲労度の数値などと読み上げる。

 

 

「でもって、これでベータテストも終わったし、R機に組み上げて良いよ。

それじゃあ、機体組み上げたら僕に書類上げてね。実機テストまで持ってくから」

 

 

言いたいことだけ言って、また去っていったレホス。

ドンとジェクトは暫く、彼の出て行ったドアを見ていたが、いきなり奇声を上げて抱き合

う。

立ち上がろうとしても、足腰がもうまともに動かないためもつれながら、ドアを出たあたりで倒れ込む。

無精ひげだらけ、皺だらけの男二人が抱き合うという非常に汚い絵面だが、本人達は幸せの絶頂にいた。

何せ、組み上げに入ってしまえば、久しぶりにまとまった睡眠時間を取れるのだ!

それを二人きりの班員(レホスは班員ではなくもはや課長級の上司)と分かち合うのに、躊躇いはなかった。

 

 

ちなみに、二人にはそんな考えはなかったが、完全に性別を超えた関係にしか見えず、

周囲から“汚ホモ達”の名を頂戴することになってしまった。

 

 

そんな研究員達の、男の矜持と、名誉と、健康を犠牲にしてR-9AX2ディナーベルが完成することとなった。

 



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R-9Leo“LEO”

R-9Leo“LEO”

 

 

 

Team R-TYPEでは、研究員達を少人数班に分けて研究内容を割り振っている。

各班はフォースなり、フレーム強化なり、レーザーなりの研究改良を受け持っている。

ただTeam R-TYPEの華である新機体開発を皆やりたがるため、通常研究の合間に新機体企画を書き上げ、

提出し、新機体開発専属として指定を貰う。そして一定の優遇措置を受けるのだ。

その力は絶大で「この機体の仕様にあうフォースを開発しろ」など他の班に対して一定の開発要求を通せたり、

予算配分も優遇されるし、出世にも繋がる(余り興味の無い研究員が多いが)。

そして一番重要なこととして、非常にやりがいのある仕事だった。

 

 

この様に班を分け競争を煽るのは研究の効率を上げ、バイド殲滅のための武器として多様性を高めるためである。

 

 

そんな中、ここはビット研究がメインのどちらかというと、というか、かなり影の薄い研究室だった。

 

 

「エリー、オットー、聞いたか? また新しい機体がロールアウトしたらしいぞ」

「いいなあ、私もたまにはビット以外も触りたいなあ」

「俺はビットを研究するためだけにTeam R-TYPEに入った訳じゃないんだぞ。ビット研究班だって開発がしたい!」

 

 

そう言ってぼやくのはビット班の班長レイトン、班員のエリーとオットーだった。

若手が主力のTeam R-TYPEにおいて、全員中年過ぎという高年齢班である。

 

 

「オットー、この裏切り者め! お前みたいな奴が逃げるから、うちの研究班は常に人不足ではないか!」

「でも、班長、オットーの言うこともおかしな事ではないでしょう、実際のところビットはオマケ扱いですよね。

ビットからのレーザー射撃にしたってフォースの余剰エネルギーを貰わないといけないし、盾扱いですし」

「エリー、なんて事を言うんだ。ビットは、R機の生存率を飛躍的に高める重要兵装だ!

しかもPOWでの持ち運びも出来、フォースみたいにバイド汚染の心配も無い」

 

 

レイトンがヒートアップするように、ビットは確かにR機の重要な兵装の一つだった。

ビットは人工フォースの研究過程で出来た武装で、バイド素子が用いられず純粋なエネルギー球となっている。

当然、バイド汚染や、フォースほどの危険性は無い。

反面、フォースまでの攻撃性能はもたず、研究中の最新型でもレーザー放出時の余剰エネルギーを、

ビットから打ち出す程度しか対応していない。

ビットは単体では安定せず、カバー状の制御体を取り付けないと行けなかったり、

どうしてもある程度の大きさ以上にはならないため、付属兵器としての面が大きい。

ただし、R機はデブリ避け以外考慮されていない紙装甲なので、低エネルギー弾などから守る盾としては機能している。

一般に、その程度の認識だ。

 

 

「可も不可もないがビットですから。あ、カメラビットだけは大ブーイングでしたかしら?」

「可も不可も? ふむ、オットー、エリー、では……」

 

 

あまりやる気の無いエリーとオットーを余所に、何か思いついたような表情でレイトンが言う。

 

 

「今まで、上からの仕事を淡々と請けて来たが、最強のビット。作りたくはないか?」

 

 

その言葉が始まりだった。

 

 

***

 

 

3日間に及ぶ資料との格闘と、技術検討結果、レイトンがある案を出した。

 

 

「ビット自体を体当たりさせるの?」

「だが、レイトン、それは可能か?」

 

 

班員二人の疑問にレイトンは自信ありげに答える。

 

 

「ビットの最大の弱点は飛び道具が無い、もしくは貧弱なことだ。これでは戦闘機の武装として主役にはなれない。

では、なぜビットには飛び道具がほぼないのか?

理由は簡単だ。フォースがエネルギーの吸収、増幅、収束、放出がすべて高水準で出来るのに対して、

ビットはエネルギーの収束放出が苦手からだ。エネルギーを吸収したあと、ゆっくり放出して逃がしている。

では、ビットで攻撃するには?」

「その結論が、ビットでの体当たり? でもそれって劣化フォースシュートになるのではないかしら?」

 

 

ビットは無理やり閉所にでも突入しない限りは、通常、R機の上下を一定の距離をとって浮遊している。

それはR機の盾として機能するのにもっとも都合の良い場所だからだ。

R機の武装は、諸所の理由から前方のみとなっている。フォースやミサイルでやっと前方以外の敵を攻撃できる。

そのため機体の上下左右は自機の武装が届かず、特に死角になりやすい上下部にビットは固定されている。

左右ではないのは、地面という二次元の上で生きてきた人間は左右より上下の注意を怠る傾向があるからだ。

もちろん、意識できないだけで、コックピット自体は360°擬似パノラマであり、全周が投影されている。

 

 

「うーん、だがレイトン。それでも放出が弱いからちょっと固いバイドだと通らないかもしれないぞ」

「それならば、放出補助用のデバイスを取り付けて、高エネルギー状態にしてシュートすればいい。

ついでに、射撃可能なように制御用殻を大型化して簡易レーザー機構を取り付けて、

機体側にビットコンダクターを設置すれば遠距離でも制御が効くはずだ」

 

 

制御用殻が小型で機体から離れすぎると、制御が利かなくなって何処かへ飛んでいってしまう

というオットーにレイトンが回答する。

レイトンの熱に影響されたのか、次第にやる気になり始めた班員二人。

企画書を立てて提出するまでに1週間はかからなかった。

 

 

***

 

 

「サイバーコネクタで受信した思考を、同調がたナノマシンに飛ばして操作する形にしてみた」

「レイトン、幾らサイバーコネクタでも、機体を制御しながらビットを操作するのは困難だ。

パイロットの負担が大きくなりすぎる。補助プログラムを組んで抽象的な思考で動くようにしよう」

「これ、ビットコンダクターの出力をもっと大きくしなくちゃ間に合わないわ」

 

 

思考を捉えて動く半自動兵装は、思念を捕らえるという意味で、サイビット(PSY bit)と名づけられた。

エネルギーを与えてシュートした後は半自動で目標を追尾、破壊して、再びビットとして復帰する。

レーザー発射機構も強力となり、各レーザーはサイビットからも放出できるようにしてある。

 

ただし、非常に使い勝手の良い性質とは裏腹に、巨大なビットコンダクターの搭載が必要であり、出力も非常に喰う。

すでに、“補助”兵装でなくなりつつあった。

 

 

Team R-TYPE研究室。何度目かのサイビット機の開発会議において、レイトンが難しい顔をして口を開いた。

 

 

「このサイビット搭載機には問題がある」

「何かしら? レーザーとの同期問題は何とかなったし、フォースも極力出力を喰わないものを試作してもらえたでしょ」

 

 

レイトンはエリーの疑問に答えず、データをディスプレイに表示する。

そこにはフレームだけのR機の設計図があった。内部にはコックピットやら何やらが配置されていた。

 

 

「……レイトン。この設計図だと波動砲がまともに動かないぞ」

「搭載スペースがビットコンダクターに取られた上に、出力も半分以上削られている。

冷却効率的にも不味いから、波動砲が載せられない」

「それは流石にR機ではなくなってしまうわ」

 

 

画面に赤表示された波動砲コンダクタは、設置に不適切なことを示していた。

R機は基本的に、主武装としてフォースと波動砲を備えている必要がある。

 

 

「フォースは盾として削れないし、主機もこれ以上は無理だ。その他無駄な物は無だろう」

 

 

オットーがそう言いながら、穴を見つけようと端末を叩く。

レイトンもエリーも思案顔だ。案をだしては検討するまでもなく却下されるといった事が数十分続いた。

暫くして、オットーが顔を上げた。

 

「これスタンダード波動砲だからいけないのではないか? 威力を削って、必要エネルギーや容積を確保しよう」

「スタンダードよりもっと削る?」

「それは良い案だオットー、波動砲のループ機構を取っ払って、単ループ波動砲として機能させよう。威力だって、サイビットという主武装が増えるから、スタンダードの半分以上なら良いだろう」

「決まりなら、波動砲の研究班にダウンサイジングを依頼してくるわ」

「ああ、じゃあ、上に書類変更を出してくる。オットーは組み込み案を作ってくれ」

「分った」

 

 

Team R-TYPEには珍しい、息の合ったチームワークでサイビット搭載機を作り上げていく3人。

結局、R-9より前の機体に搭載されていた試作型の波動砲を小型化して積み込むことになり、

無事、特殊武装サイビット搭載機、R-9Leo“レオ”が形になる運びとなる。

 

 

***

 

 

レイトン、エリー、オットーの三人が何とかサイビット搭載機を開発し、

その完成祝いで騒いでいる間。

地球南半球にあるTeam R-TYPE本部ではまた別の研究が行われていた。

 

 

格納庫にしては厳重な警備体制が引かれた一角。

Team R-TYPE研究員であろうとも、ここにたどり着くまでにはかなり高位のセキュリティーカードが必要になる。

そこには破損の激しいR機が一機置かれている。

しかし、そこはR機用のハンガーではなく調査機器が多量に詰め込まれた測定台だ。

それを見ているのは二人の男女だった。

Team R-TYPE開発班主席班長のレホスと、女性の方はその上司のバイレシート部長補佐だ。

 

 

「これの調査は?」

「もう終わったわ。技術としてみるべきところは記録済みよ。まあ、特段見るべきはサイビット搭載機ということだけれど、

既に“コチラ”でも開発済みよ、技術的な意味は無いわ。コレはこれで保管かしら」

「別次元からの贈り物ってやつですね。まー、バイドが次元を渡るのだからR機が来たって驚きませんけど」

 

 

そこにあったのは先ごろロールアウトしたばかりの、レオだった。

ただし、外部装甲など細部に違いがあり、また機体番号も“R-9Leo”ではない。

内部調査で分ったことは、各部品の製造番号もメチャクチャで、中には存在しないロット番号などもあった。

しかも、まだレオは先行試験機だけで実戦配備されていないはずなのに、大破している。

軍の管理する機体でも、Team R-TYPEの実験機でもないこれは、地球軌道上を巡る哨戒機が発見したもので、

軍を通してTeam R-TYPEに調査依頼が回って来た。

 

 

外見、内部構造はTeam R-TYPEで開発したばかりのR-9Leo“LEO”に似ているが、

Team R-TYPEでの結論は別次元からの何らかの異変でこちらの次元に転移してしまった物体と結論付けた。

 

 

「コックピットは壊れているけれど、本体のプログラムは生きていたから、断片的だけれど面白いことが分ったわ」

 

 

女性曰く、バイド検出プログラムがないうえに、フォースに関する記述が全く無い。

しかも、内部時間が2163年(第一次バイドミッション時)になっている。

そこから彼らが導き出した結論は、このLEOに似た機体は、

バイドの存在しない平行世界で開発されたLEOであるということだった。

 

 

「まあ結局、すでに別の技術経由でサイビットも完成してるのでー。見るべきは別世界の情報くらいですね」

「そうね、寧ろ驚くべきは、この機体は第一次バイドミッション時相当の機体ということかしら、

アローヘッドと同世代機として開発されたとすると、そういった意味では脅威ではあるわね。

にしても、これ二機連携専用にプログラムが書かれているのだけど、もう一機はどうしたのかしら?」

 

 

レホスと女性上司は話しながら隔離試験室を後にする。

隔壁をくぐりながら話を続ける二人。

 

 

「それにしても、バイドがいなくても人類はR機を作っていたのは何の因果かしら」

「しかも、あの機体のプログラムの最後見ましたぁ?」

「テキストになっていた様な気がしたけれど、特には印象に残らなかったわね。ではまた」

 

 

そんな会話の後、上司と別れるレホス。

レホスは単身宇宙港へと向かい、シャトルで移動中、遠くなっていく地球を見ながら独り言を呟く。

手元には異世界からやってきた方のレオのプログラムデータがある。

 

 

“アノホシヲ、コワスタメ。”

“PROF. LEIGHTON.F, ELLY.S, and OTTO.V”

 

 

「模造品とはいえ地球を壊す作戦ねぇ。僕らと彼ら。果たしてどっちがイカれているのかな?」

 

 

Team R-TYPEで行っている外には出せない研究の数々を思い出しながら笑った。

地球を自ら汚染し過ぎて、地球そのものをコピーし、人工知能に管理を任せたり、

それが暴走して、惑星破壊用にレオを作って“二機”突入作戦を決行するくらい追い詰められたりと、

コチラとは別の意味で刺激に満ちたステキな世界らしい。

 

 

「……それにしても、あの三人。別の次元だったら若くして名を残せたのにねぇ」

 



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R-9Leo2“LEOⅡ”

R-9Leo2“LEOⅡ”

 

 

 

「なんかひどい開発要望書が来た」

「どれどれ……これはひどい。Leoフォースだって、未だに結構強いのに、その改良型?」

 

 

げんなりした顔を見せるのはフォース改良班の二人だった。

開発要望書を持ってきたチームリーダーのフラット。文句を付けていたのが、班員ナリスだ。

彼らフォース開発班のBチームが仕事を受けることになった。

定員割れしているのは、つい先日チームの研究員が他の班に引き抜かれたせいだ。

 

 

「はぁ、ぼやいていても始まらない。とりあえず明日に使えそうな試案を持って会議だ」

「そうですね。仕事を選んでいると他のチームに蹴落とされますからね」

 

 

どうしてこんなことにと、Leo開発班班長のレイトンから送られてきた文面を見るフラット。

Leoは試作からして現場・Team R-TYPE双方からの評価が高かった名機なので、開発班長の発言力も高くなる。

未だに機体開発プロジェクトを任せられた経験の無いフォース開発班チームリーダーが楯突けるはずもない。

このあたりにTeam R-TYPEの開発偏重主義が窺えるのは何時ものことである。

 

 

「どうしようかなぁ、流石に専門研究分野の話だし、お茶を濁すのはプライドに触るし、でも……」

 

 

班員を解散した後ぶつぶつと文句を呟きながら、自身も退室するフラット。

その背中は煤けていた。

 

 

***

 

 

「フォースは攻守ともに使用できる兵器であるというのは皆が認めることであるが、

ある側面から見ると、攻撃に特化したエネルギー変換機関であるということも出来る。

質量をエネルギーに変換する技術といえば、核分裂、核融合などの技術が代表であるが、

結果だけみればフォースも同じようなことをしている。さらに効率的に。

バイドは質量(エネルギーも)を食らって莫大なエネルギーを取りいれ、それをバイド素子に変換する。

ただし、フォースはバイドとして成長しないように制御され、そのエネルギーの大部分を

バイド素子として作り変える前に、吐き出させられている。それが敵を破壊する攻撃力となるのだ」

 

 

白衣のフラットは後ろで手を組み、メガネを光らせながら只管ひたすら語る。

そして、言葉を区切ってバッと振り返ると、何かを掴むように片手を握りしめ大声を上げた。

 

 

「つまり、フォースこそは究極の補助ジェネレーターだったんだよ!」

「ええ、知っていました」

 

 

二たった一人の聴衆に、長い講釈を垂れていたフラットが決め台詞を放つが、当のナリスは非常に冷めた顔だ。

急きょ集まった会議開始からこんな茶番を聞かされたのだから、当然と言えば当然だ。

その冷たい反応に急に気恥しくなったフラットは、顔を僅かに赤面させ詰まらなそうな顔をして呟く。

 

 

「なんだよ。そこはワザとでも驚いて見せるところだろ」

「いいから、方針話してください」

「それはだな……」

 

 

***

 

 

Team R-TYPEの実験施設に集まる2人。

分厚く重そうなバイド作業用防護服を半分脱いで、汗を拭いながら、

クリーンエリアにある会議室で膨大なデータを参照して議論をしている。

ある程度すると、結論が固まったのかフラットが確認するようにナリスに言う。

 

 

「今日の基礎実験で確認してみたことのまとめだが、やはりフォースの反応速度はバイド係数とはほぼ独立している。

スタンダードフォースもアンカーフォースも純粋な実験値的にはほとんど変わらない」

「まあ、そうですよね。シャドウフォースだって擬似的に反応性がありますし。

質量投入量と出力を精密計測すると、スタンダードでもアンカーでも反応速度自体はほぼ同じ値ですからね。

高バイド係数フォースで反応が早く見えるのは、攻撃性が高くて入力されるエネルギーが多いからってことですね」

「簡単に言うが、実験条件を一定にするのが死ぬほど大変だったけどな」

 

 

フォース開発はバイド係数との戦いであった。

バイド係数が高いフォースほど、攻撃性が高く現れ、強力であるというのがフォースの常識であった。

係数が高いほどギミック付きのロッド(テンタクルやアンカーなど)のロッド反応が良いし、

フォースシュートの攻撃力が、バイド係数(攻撃性)に比例するように見えるためだ。

 

 

疲労の色が見え隠れするフラットが、まとめに入る。

 

 

「新たな仮説はこうだ。

“フォースはバイド素子を純粋培養したものという前提であったが、実は純度による等級が存在する”

“物質のエネルギー変換、またはエネルギーの吸収放出に係るフォース反応速度は、フォース純度に依存する”

“よって、フォースの純度を高められれば高い反応性が得られる”。……これでいってみようか」

 

 

うなずくナリス。

こうして、Leoフォースは純度を高めるという方向性で改良されていくこととなる。

 

 

***

 

 

オレンジ色の光が溢れるフォース培養漕。

それを見つめるのは4つの目。フォース培養漕の前に佇む二人は防護服にバイザーという完全装備だ。

防護服を着ると肉声では話ができなくなるので、会話はすべて通信だ。

ちなみにバイザーには簡易計測結果だけでなく、通信相手の名前などが表示される準軍事仕様のものだ。

 

 

『駄目だな。この試験区はすべて不純物が多い。このレベルはとても許容できん』

『第2試験区はすべて廃棄ですね。またバイド性廃棄物の量で施設課から文句を言われる……

まあ、次の試験区へ行きましょう』

『第3試験区は一応安定しているようだな』

『まあ、この区は明滅を繰り返すとか、バイド細胞化しかけていたりはしないですからね』

『第3~7までは見た目ほぼ変わらないな、実験結果を持ってクリーンルームに上がろう』

『そうですね。アシスト間接付きとはいえ、この重い防護服は疲れます』

 

 

二人はオレンジ一色の培養漕エリアから除染ルームを経てクリーンルームにまで戻ってきた。

 

 

「培養漕との行き来は体力を使うな」

「リーダー、マッチ棒体型だからですよ。防護服のアシスト機能でリーダーの手足の骨折られないか心配です」

「それ、心配の皮を被った悪口だよな。俺の聞いていないところで言えよ」

「無理です。うちのチーム二人だけですので」

「……」

 

 

沈黙する二人。

 

 

「ま、まあ、今回の結果では、培養出力は関係なさそうか。他の検討項目は培養時間、漕の大きさと……」

「検討項目だけが増えていきますね」

「とりあえず、培養漕は30ほど申請上げたから今月からはひたすら実験だ」

 

 

***

 

 

「三カ月経ちましたが全然進展しませんね」

「どういうことだ? そろそろ実験内容も困りだしたぞ。そもそも仮定が間違っていたとかか?」

「純度は培養方法でも多少変化しますが、皆頭打ちです」

「何でだ。これ第4区と12区、13区だけ純度が僅かに高くて、後は普通。この共通点はなんだ」

「リーダー。他のチームの実験データでも見てみましょう。考え付かなかった実験が思い浮かぶかも?」

 

 

成果は全くと言っていいほど出ておらず、ついでに補充メンバーも来ない。

頭を抱えて呻きだすフラット。

ナリスが空気を変えようと、息抜きを提唱する。

他の班のデータを呼び出す。

 

 

「あ、見てくださいリーダー。Aチームはファイヤーフォースの発展形を作っているらしいですね。」

「あんなイロモノ俺は知らん」

「まあ、そうですね。Cチームは……あ」

「あ?」

 

 

突然、キーボードを高速で叩き出すナリス。

情報が加工され、関連データが呼び出されていく。

 

 

「おいおい、それ他の班のデータだろ、勝手に加工しちゃ不味いだろ」

「実験終わったのに直ぐにデータ回収しない奴が悪いのです。ついでにバックアップは取ってあります。

でた。やっぱりそうです。Cチームの培養実験で純度が非常に高くなっていますよ。

これの培養法を検討すればいいんじゃないですか」

「へ?」

 

 

画面を指差すナリスと覗き込むフラット。

フラットの顔色が変わり、ナリスを押しのけてデータを漁りだす。

 

 

「検討項目は24項。相違点は……これだ!」

「種子提供元?」

「つまり“バイドの切れ端”から経代した代が若い種子を使うほど純度が高いんだ!」

「ああ、それで通常のフォースは純度が低いのですね」

「生産現場では通常“切れ端”から10代程度のものから培養されるからな。

試験で多少高くなるのはTeam R-TYPEで使用するバイド種子は“切れ端”から3~4代程度のものだからだ」

「では?」

「上に“バイドの切れ端”からの直接種子採取を申請しよう」

 

 

***

 

 

Team R-TYPEの中会議室には数名の研究者が集まっている。

フォース班Aチームから、リーダーのフラットとナリス。

Leo研究班から班長レイトンと、班員のエリー、オットーだ。

主にLeo班の所為で平均年齢がひきあがっている。

 

 

「依頼の件について、AチームではLeoフォース改(仮)を提唱します」

「フラットリーダー、バイド係数も高くないし、ロッドも特には変わっていないような、でも出力はけた違いだし……」

「オットー研究員、説明はナリスの方から行います」

 

 

仕様書に首を傾げるオットーに、説明をするナリス。

 

 

「……つまり、このフォースはLeoフォースを高純度で再現したもので、

バイド係数やロッドは余り変わりませんが、反応速度が段違いで出力が高くなっています」

「たしかに、異常に出力が高いですね。でもコストも異常に高く、量産体制は不可ですね」

「エリー研究員、これは“バイドの切れ端”採取に係る費用と作業の手間です。

それにこれが量産体制に乗るならば、それ相応の生産体制を整えれば費用も生産時間も短縮されます」

 

 

Leo班の疑問にナリスとフラットが答えていくと、ようやっと意見の合意に漕ぎつけたようだった。

まとめるように、レイトンがゆっくりと話し出す。

 

 

「これなら問題ないだろう。フォース関係で余計に機体側の容積をとることもないから、いままでの試験型から

スタンダード波動砲装備に変えることができるし、今まで出力の関係でオミットした

“おれがかんがえたさいきょうの”レーザーを付属することができる。

Leo開発班としては、LeoⅡ(仮)のフォースとしてLeoフォース改(仮)を採用する方向で上に報告を上げる」

 

 

その言葉を聞いてハイタッチを決めるフラットとナリス。

ついで、Leo班の面々とそれぞれ握手をして、和やかに会議は締めくくられた。

 

 

こうして、最強のR機の一角たるR-9Leo2“LEOⅡ”が作成されることになった。

 

 

***

 

 

「フラット班長、Leoフォース改ってなんで生産中止になったのです? あれこそ最強のフォースでしょう?

LeoⅡはフォースとサイビットをつけている事が前提の機体です。フォースがなくては辛いでしょう」

「問題ない。LeoⅡも生産中止だから」

「はぁ!? なんでですか! あれ軍部からも憧れの最強機って言われたくらいの機体じゃないですか」

「反応性が良すぎたんだ」

「はい?」

「反応性が良すぎて、長時間稼働状態にあるとフォースロッド自体を分解して暴走する」

「うわぁ……」

フォースロッドはフォースのバイド的性質を抑え込むように強固に作られている。

なので、Leoフォース改のロッドも試験過程では耐えきって実用化に至っている。

だが、単機突入の長時間極限状況は試験で再現されておらず、

実践中にフォースが暴走し機体を呑みこむという事故が起こった。ただ、事故現場が跳躍26次元であったので、

被害は観測用のR-9Eや無人型POWアーマーが数機消し飛ばされるだけで済んだ。

 

 

この事件があってから、Leoフォース改だけでなくLeoⅡも封印される事となった。

 



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R-9Sk“PRINCIPALITIES”

※設定が設定なので、この話では核融合であるとかメルトダウンといった話題を扱います。
 そういったものに不快感を覚える方は、申し訳ありませんがブラウザバックをお願いします。


R-9Sk“PRINCIPALITIES”

 

 

 

 

“対バイド戦における もっとも有効な攻撃、 それはバイドを以ってバイドを制することである”

 

 

これはかつてのバイド研究所所長がバイド対抗策を模索中に残したとされる言葉だ。

現在ではバイド兵器であるフォースを研究するTeam R-TYPEだけでなく、

軍人や民間でも良く知られるようになり、もはや常識となってさえいる。

 

 

だが、そんな中、常識に一石を投じる者が現れた。

 

 

「“バイドを以ってバイドを制す”か……しごく名言ではあるが、そろそろ他のアプローチがあっても良いのではないだろうか?」

 

 

そんなTeam R-TYPE研究者の一言から、うっかり変態機開発計画が始まってしまったのであった。

 

 

***

 

 

白衣の男が、別の白衣の男二人に詰問されていた。

 

 

「なんで勝手に良く分からない研究開発取ってきたのです?」

「おい、ヤザキ班長、俺たちの研究班の研究課題はなんだ?」

「そ、そのフェルナンド君も、ディキシー君もその睨むのやめてください。僕、一応上司なので」

「私の質問、答えて頂けます?」

「誰が上司だって、ああ!?」

「すみませんでした。ぼくが悪かったです。反省しているので怒らないでください。

その、僕の班の研究課題が波動砲の基礎流用課題であることは重々承知だったのですが、

今の“フォース最強”とか“波動砲は威力だぜ”みたいな風潮が嫌でさ。

で、気が付いたら新波動砲搭載機を作ってやるって言ってしまっていて……」

「で、それをお偉方に聞かれやがって、カッコつけて引っ込みがつかなくなった、と?」

「……はい」

 

 

外では調子がいいが、身内でのカーストが低いという割とどうしようもないヤザキ班長と、

慇懃無礼なフェルナンド、口の悪いディキシーといった班だった。

ヤザキも完全に無能ではないのだが、大言壮語が過ぎて身内の信用は0である。

脂汗を垂らしながら引き攣った笑いを浮かべるヤザキ班長に対し、

これ見よがしな溜息をついてフェルナンドが言う。

 

 

「これは、次の班長会議で当りさわりのない適当な案をだしましょう。

廃案になってもいいですし、やるとなったら潰しが効くように。わかりましたね?」

「わかりました」

 

 

ヤザキがまた余計な約束を取り付けてこないように、これでもかと念を押し、

フェルナンドとディキシーが差し障りのない案を検討し始めた。

 

 

***

 

 

リーダー会議の場、新規提案を図る議題を振られて、ヤザキ班長が立ち上がる。

 

 

「我が班提案としましては、新機軸波動砲の提案を押します。新技術……その、そう!

灼熱です。超高熱の波動砲を以ってバイドの殲滅を……」

 

 

大言壮語するヤザキ班長の手元には「ループ技術の改良による、省力化について」といった、

差し障りのない議案書が伏せられていた。

が、こういう場に出ると悪い虫が動き出すのか、

ヤザキの口から滑り落ちたのはまたしても、未検討の案件であった。

 

 

***

 

 

「あなたは本当に救いようのない人ですね」

「差し障りのない議案を上げろって、俺をフェルナンドで案まで作っただろうが……!」

「ははは……すみません」

 

 

小柄なヤザキ班長は、ディキシーに胸倉を掴まれてつま先立ちになっていた。

ヤザキに何を言っても無駄だと判断したフェルナンドがディキシーを諌める。

 

 

「まったく困った人です。フォース培養漕に投げ込みたいくらいに。

ディキシー、そうやっていても時間の無駄です。仕方ないですね、可能な案を考えましょう」

「できるか? 波動エネルギーを熱量に変換したとして熱ではバイド素子は消滅しないぞ」

「それはやりながら考えましょう。失敗したら責任を取る人もいますし」

 

 

チラリと班長に見やるフェルナンドであったが、その目線は完全に冷え切っていた。

 

 

「ははは、ごめんねー」

「波動砲ぶち込みてぇ」

 

 

その後、顔に青タンを作ったヤザキ班長とフェルナンド、ディキシーが会議室に座っていた。

 

 

「いや、本当にごめん。でも、全く口から出まかせではないんだよ。

ちょっと前に超小型トカマク型融合炉の技術論文を読んでさ。これだと思ったんだ」

「思い付きだけで、方針を決めるとかあなたは小学生ですか」

「いや、バイド素子って単独状態であると意外と小さい波動エネルギーで消滅するんだよ。

通常の波動砲の威力ってさ、バイド素子が何者かに付着した状態っていうのを考慮した破壊力なんだよね」

「熱で分子までバラバラにしてバイド素子を露出させ、最低限の波動エネルギーで破壊するということですか」

 

 

詰問調のフェルナンドが一応は不満ながら納得する。

それに続いてディキシーが疑問を投げかけてきた。

 

 

「でもそれって、波動エネルギーの大半を電気に変換していたケルベロスと同じ轍を踏むんじゃね?」

「そうですね。異相次元の壁を切り開くのには、最低限スタンダード波動砲クラスの波動エネルギーが必要です」

「そうだね。だからこれは迎撃用、特に生物バイド専門機となるだろう。と思うのだよ」

「思うのだよ。じゃねぇ。それしかできないんだろ!」

 

 

他にも罵声が上がったが、なんとか臨時審問会は終了し、

とりあえず作る方向で班員二人が不承不承納得することとなった。

 

 

***

 

 

試作型の灼熱波動砲が組み込まれたフレームだけのR機。

試射実験が行われだして10分。まだ通常ならばやっと機材が温まったくらいの時間だ。

しかし、波動砲コンダクタの周囲からは液漏れのように何かが滴っていた。

 

 

「おいヤザキ班長、これ、温めるを通り越して周辺機器が融解しているぞ」

「えっごめんごめん。でもおっかしいな。試算ではまだ余裕なはずなのに」

「トカマクの放射だけでなく、トカマク維持に使っている波動粒子が熱を持って周囲に拡散しているようですね」

 

 

良く見ると、方々が溶け出しかけている波動砲コンダクタの胴体接続部の奥赤熱した部分が見える。

磁気で核融合が起こる条件である高温高圧のプラズマを維持するのが、トカマク型核融合炉の骨子だ。

トカマクはドーナッツ状の高温高圧のプラズマを形成する。超小型のドーナッツが赤熱部の奥にあるのだ。

 

 

「おい、トカマク保護装甲が赤熱してるぞ! 色々飛び散る前に処分!」

「えっと、緊急廃棄ボタンは……と」

 

 

ヤザキ班長がコンソールにあるカバーが付いた赤いスイッチを押し込むと、

回転灯が回り大きなブザーが鳴る。

試験施設の一端に設置された固定式の波動砲ユニットが稼動し、

青白い正統的な波動エネルギーがきらめき始める。

実験部を中央に捉える用に波動砲が発射された。

消し飛ばされた物体は原子単位までバラバラにされ、

一か所に封入処理されて廃棄されていった。

 

 

***

 

 

前回の失敗を踏まえて、ヤザキが改良案を上に上げた日。

 

 

「いやあ、やっと形になりそうだよね。前回のメルトダウン騒ぎは機体の中心、一番熱のたまりやすい場所に、

トカマク場を置いたのが失敗だったんだね。トカマク保護シールドも強化すれば安心だよ。

あ、そうそう名前も決まったよ。プリンシパリティーズって言うんだカッコいいだろ。

型番は今検討中なんだけどね」

「そんなことどうでもいい、お前また大法螺吹いたそうじゃなか、ええ?」

「いや、法螺だなんて……ただちょっと早く完成しそうですって、会議で言っただけで。

嫌だな怒らないでよ。僕らの研究が実って実際早く完成するかもしれないだろ? ね?」

「“僕ら”ではなく“私とディキシーが”の間違いでしょう? 分かっています?

あと、私とディキシーが研究を急いでいるのはこの仕事を早く手放したいからです」

 

 

フェルナンドが平坦な声で言い渡し、ディキシーが改良思案書を引っ手繰ると、

ヤザキ班長は半笑いのまま「ダイジョブだって」と繰り返していた。

ディキシーとフェルナンドはそんな彼のことをゴミを見るような目で見据えていたが、

暫くすると、二人して部屋を後にし、隣の部屋へ並んで入って行った。

 

 

***

 

 

二人はコーヒーを用意して、向かい合わせで座る。

怒りを抑えるようにゆっくりと息を吐くとディキシーが切り出す。

 

 

「もう限界だろ。個人の問題でなく、あれは組織としても害悪にしかならんぞ」

「そうですね。

そこまでしてやる意義があるとは思えませんが、

一応灼熱波動砲搭載機については現状ならば可能な範囲です。

問題はアレです。これ以上ひどくならない内に、ここらで手を打っておく必要がありそうです」

「……俺たちが手を打つとしてだ。これがTeam R-TYPEとして尾を引くことはありそうか?」

「立ち回り次第ですが、私はそこまで問題にはならないと思いますね。

Team R-TYPEとしても惜しい人材じゃない。上に取入るのは得意ですがアレは能力も下の中といったところです。

上も、内部的な見せしめか、組織が自浄作用を発揮したという事で収めるでしょう」

「決行はいつに? できれば早い方がいい」

「フォース培養漕からバイド素子が遊離し、除染が行われる。よくある事故です。

研究者が単独でフォース培養漕の様子を見に行くことも、よくある事でしょう」

「わかった。俺は各人の防護服に“穴がないか”チェックをしておく」

「では私は、それとなく上に話をつけてきます」

 

 

アイコンタクトを交わした後、二人は別れた。

その一週間後、フェルナンドが班長代理として指名されることになる。

 

 

***

 

 

その日Team R-TYPE実験区画は賑わっていた。新機体の波動砲試射実験が始まる所為だ。

新しい物好きなTeam R-TYPEにとってはお祭り代わりになる。

白衣の二人の人物がこのお祭りの主催者らしい。

仕立てのいい背広を着た、明らかに権力の匂いのする中年男性が二人に近づく。

 

 

「さて、フェルナンド班長代理、先々月の“痛ましい事故”にも関わらず新機体が形になったようで何よりだ」

「ありがとうございます。ディキシー研究員の補佐もあり不肖私も班長代理としての職務を全うできそうです」

「それはよかった。しかし、前回実験では核融合炉が暴走寸前までいったそうだが、安全管理は万全か?」

「ええ、問題ありません。前回のあれはトカマクの周囲に他の熱源があり放熱が間に合わないことが原因です。

今回は、超小型トカマクを波動砲コンダクタの先端に固定しています。

波動砲の発射経路をトカマクの円の中心を通すことによって、より効果的に波動エネルギーに熱を載せられますし、

何より波動砲の軸をずらさずに済むので、余計な熱が発生しません。

排熱に関しては機体全体を放熱仕様にしてあります」

「それで、あの表面積をできるだけ増やした形状というわけか。

しかしトカマクだろう、そんなものがコックピットの直下にあってパイロットは平気なのか?」

「冷却機と直結してありますし、トカマク保護シールドが壊れなければ大丈夫です。理論値でも問題ありません」

「……まあいい、実績を以って、君が前任者とは違う有能な班長であることを証明したまえ」

 

 

そう言って離れていく中年男。Team R-TYPEでは珍しく政治対応に特化している上役だ。

口調を取り繕うのが嫌いなディキシーなどは煙たがっているが、フェルナンドにとっては良い後見人である。

 

 

「お偉方のお相手御苦労さん。そろそろ実験を始めるぜ」

「わかりました、ディキシー。機体形状やレーザーなどの一般武装については説明を任せて構いませんね?」

「ああ、波動砲だけはお偉方から質問もあるだろうから帰ってきてくれ」

 

 

そう言ってフェルナンドは後方の座席に座り、落ち着く。

ディキシーもつっけんどんながら実験説明をし、卒なく実験をこなしていく。

口調こそ荒いが、研究員としての腕は上々なのだ。

特に問題はなく、波動砲の試射実験までこぎつける。

 

 

この波動砲実験のために、Team R-TYPEの野次馬研究員たちが集まってきたのだ。

灼熱波動砲というコンセプト。

高熱を纏わせた波動砲で生物系バイド構成物質を焼き尽くし、バイドを丸裸にして殲滅する。

それは機械バイドにも効くのか。

生物系バイドでも、高熱に出力を回し過ぎて、極小になった波動エネルギーでバイドを殺せるのか。

研究員の疑問は尽きなかった。

 

 

そんな期待を一身に背負って波動砲の試射実験が始まった。

まず捕獲したリボーが固定された標的が設置され、灼熱波動砲がチャージされる。

安定状態にあったトカマクに新たなエネルギーが追加され、唸りを上げる。

今まで外に捨てていた排熱を波動コンダクタに集中すると、コンダクタの先端が赤熱しはじめる。

チャージ完了音が鳴り響くとともに、自動光量調節シェードのない状態では目がつぶれるレベルの光と、業火状になった波動砲が実験区画を通り抜けていく。

 

 

『目標消失、バイド反応0』

 

 

研究員達の屯する区画に合成音声によるアナウンスが流れる。

研究員達の反応は「ふーん」といった具合だ。リボー程度ならレールガンでも殲滅可能なくらいだから

 

ここからが本番である。新たな標的が設置される。巨大に膨れ上がった生物系バイドだ。

R機の3倍はありそうな大きさのドドメ色の細胞塊に顔の様な腫瘍が幾つも浮かび上がり、

叫ぶように口を開け閉めし、内臓の様な構造が露出している。

一般人なら卒倒する光景であるが、研究員たちといえば、

「生きのいい実験体だ」とか「スタンダード波動砲ではコアを狙わないと厳しい大きさだな」などと雑談をしている。

 

 

実験班長代理であるフェルナンドが無表情で試射開始を宣言すると、再度チャージが始まる。

巨大バイドは危険を察知したかのように、手の様な構造を作り研究者たちのいる実験管制室に向かって伸ばす。

怒っているかの様な顔が浮かび上がるが、灼熱波動砲のチャージが溜まるにつれ怯む様な顔に変わる。

チャージ完了音が鳴り響くと、まず白い光で焼き尽くされ、続いて試験空間に漂っていた物質が赤熱して、空間を赤く染める。

業火の後には何もなかった。

消し炭どころか、黒い霧の様な煤だけが残っている唯一の残滓だった。

 

 

『目標消失。バイド係数0。計測を終了します』のアナウンスが流れると、

研究者たちは「場合によっては灼熱波動砲もあり」だとか言いながら、実験は終了したとばかりにはけていく。

その中、人の流れとは逆に、管制室と実験区画を隔てる強化ガラスに向かう人影。

実験区画を眺めるフェルナンドにディキシーは近づいて行った。

 

 

「ふむ、灼熱波動砲でもバイドをちゃんと消滅させられるのですね。いい勉強になりました」

「誰に言っているんだ? フェルナンド?」

「一応上司でしたからね。報告だけでもしておこうかと思いまして」

「後悔しているのか、まさか」

「いいえ、全く、完全に、ありえません」

 

 

ディキシーが、フェルナンドが眺めていた方向をみると、

強化ガラスの向こう、消滅したバイド体を構成してたであろう煤が無重力空間に漂っていた。

 

 

***

 

 

数ヵ月後

R-9Sk“PRINCIPALITIES”がロールアウトした

 



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R-9Sk2“DOMINIONS”

R-9Sk2“DOMINIONS”

 

 

 

 

灼熱波動砲搭載機というイロモノR機、プリンシパリティズの完成から数年が経ったあと、

“代理”がとれて正式に班長になっていたフェルナンドは、唐突に課長室に呼び出されて、

課長のレホスから金輪際聞きたくない単語を聞かされた。

フェルナンドが渡された簡易ディスプレイに目を落とすと、そこには“灼熱波動砲搭載機改良計画”なる文字が躍っていた。

 

 

「……レホス課長、灼熱波動砲関連は終わったものと考えておりましたが?」

「一度付いた経歴っていうのは、消えないからねぇ」

 

 

どうやら、この計画を復活させようとする馬鹿がいるらしい。

こんな機体(R-9Sk)で自分の評価が落とされるのは業腹と、それなりに読めるレポートにまとめたのが悪かったのかもしれない。

または、その後努めて真面目に波動砲研究を行ってきたのが裏目にでたのか。

人づきあいが良い方ではないが、周囲から陥れられるほどの失点は犯していないはず。

もしくは、ヤザキ班長の呪いという奴だろうか?

そこまで考えて、フェルナンドは頭を振って妄想を追い払った。彼が信じるのは技術だけなのだ。

 

 

「なぜ今さらR-9Skなのでしょうか、レホス課長?」

「んー、この前小規模宇宙プラントがバイド汚染された事件があったでしょ?」

「? ええ聞いたことはあります。最終防衛ラインの内側で起きたという事で、軍の上層部が大慌てで火消しに走ったとか」

 

 

突然、レホスが良く分からない話題をふってくるが、

天才型やコミュニケーション不足者が多いTeam R-TYPEではよくある事なので、フェルナンドも相槌を打つ。

事件とは先月起きた火星衛星軌道を周回する食料生産プラント、CP2-32がどこからか紛れたバイドに汚染され、

生産中の食料植物と、職員32名を含むすべてがバイド化した事件である。

火星都市といった大規模居住区に近いため、軍によって早急に殲滅されたが、

一時は火星都市の武装警察隊が非常事態体制を取るほどの慌てようだったはずだ。

 

 

「そうそう、まあ食料プラントって中身が中身だから生物系、特に植物由来のバイドが増殖しちゃってさぁ、

まあ、例によって消しとばして無かったことにしたんだけど。で、そこの殲滅戦にでたのが……」

「プリンシパリティズ、と」

「そうそう、構成体が植物由来のバイドとあって、灼熱波動砲やファイヤフォースが効果的だったらしくて、

お偉方からアレを増産ってことになって、どうやら、昔、ヤザキ君からうまい話聞かされたらしくて妙に強気でさぁ。

で、今は製造しておりませんって言ったら、後続機作れとか言い出してねぇ。で君が担当だったこと思い出したから、ねぇ?」

 

 

レホスに任せたからと、過去の消し去りたい仕事の残滓を放り投げられたフェルナンドは、

とりあえず脳内で故ヤザキ班長を滅多刺しにすることで、怒鳴り散らすのを我慢することに成功した。

 

 

***

 

 

レホスとフェルナンドの会話の翌日。

フェルナンドは旧班員であるディキシーと、最若手のイライザに黙って資料を配る。

付き合いの長いディキシーは、普段は冷静な班長が癇癪を爆発させそうなであることを察して黙っていたようだが、

まだ十代後半で人生経験の浅い新人のイライザは空気を読み違えたようだ。

 

 

「わあっ、班長、これって機体開発の指名ですか! 波動砲でなくて機体を作れるなんてラッキーですね!」

「R-9Sk2……アレの後続機か」

「ディキシーにイライザ、私はこの機体の開発背景について説明したくない。詳しくは資料にまとめておいた。各自読むように」

 

 

顔を伏せ、怒りを押し殺した声を絞り出すフェルナンドと、

“R-9Sk2”という表題で事態を察して黙るディキシーと、浮足立って周りの見えないイライザ。

空気は最悪だった。

 

 

「新機体開発すごいです、灼熱波動砲とか中二心が擽られていいですよね。これ改造するとか燃えちゃうわー!」

「お、おいイライザ落ち着け……というかちょっと黙れ。な? な?」

「え、ああ、そうですよねTeam R-TYPEとしてはこんなことで興奮していちゃいけないですよね!

いやでもこれ、私にとって初R機デビューなんですよ。炎って主人公属性見たいでちょっとカッコいいですよね。

 熱血属性、燃え上がるんです。色もやっぱり赤が主人公色ですよね、フェルナンド班長!」

「……。明日、検討するので、各自、腹案を、作ってくるように」

 

 

両手を握ってはしゃぎだすイライザに、絞り出すような声で答えるフェルナンド。

流石に二十歳にも満たない子供に向かって怒鳴り散らすことは彼のプライドが許さなかった様だ。

 

 

***

 

 

翌日の検討会議でははしゃぐイライザに、寡黙を決め込むディキシーという対照的な面子と、班長のフェルナンド。

フェルナンドはなんとか持ち直したのか、先日の様な爆発しそうな威圧感はない。

 

 

「時間なので、検討会議を始める。

先に言っておくが、私はこのプロジェクトにあまり関わりたくない。

だが、一度受けた仕事を放棄するのは、研究者として恥ずべきことであると考えている。

なので、今回の後続機プロジェクトには真面目に取り組むが、終わった後は、それ以上の研究はないものと考えてほしい」

「遺恨が駄々漏れだな」

 

 

見苦しく予防線を張り、関わりたくないオーラを出して言い訳をするフェルナンドに、ディキシーがぼそりと呟く。

そこに紅一点若手空気読めない子ちゃんのイライザが意見する。

 

 

「班長、真面目にやるならやっぱり全力投球です。自分が作ったかわいいR機ですよ、

なあなあで作られて日陰者でいるよりは、一点豪華でも華々しく散っていって欲しいじゃないですか!」

「君は自分の子供に華々しく散って欲しいのかね?」

「兵器も人もいつか壊れるんです。それなら見せ場を作ってあげたいじゃないですか」

「そこだけ、とてもTeam R-TYPEらしい意見だったが、意気込みは分かった。では、意見を出したまえ」

 

 

フェルナンドが、気持ちだけが前のめりになったイライザに聞く。

能天気な調子でイライザが意見を述べると、ディキシーが掛け合う。

 

 

「灼熱波動砲が一番の目玉なのだから、それの改良が第一です」

「イライザ、お前、あれはあれ以上の用途が見いだせない上に、当時最新の冷却機の限界だったんだよ」

「あ、そうですね。R-9Skのボトルネックは冷却機構ですよね? ディキシー先輩。

じゃあ、今の冷却機構なら、更に大きな熱量に耐えられるってことですよね。やっぱり波動砲を研究するしかないですよ」

「そんなに火遊びが好きなのか?」

「はい、大好きです!」

 

 

良い笑顔で言い切るイライザに、フェルナンドは説得を諦めた。

なぜなら、適当な改修案を上げて、意味のない研究で時間を浪費するくらいなら、

やる気に満ちたイライザの案を採用して、やってみるのも価値があると判断したのだ。

 

 

会議後、ディキシーはフェルナンドのデスクブースを訪ねた。

フェルナンドが一度は無用兵装と判断した灼熱波動砲を(消極的ながら)更に改良する気になったのを、不審に思ったのだ。

 

 

「どうしたんだ、フェルナンド? R-9Skで懲りたはずだろ。何でやる気になったんだ?」

「私はこのR-9Sk2を技術の袋小路として知らしめる役割と考え、割り切ることにしました。

本気で灼熱波動砲の研究をしてこれ以上の発展がないなら、今後研究するに値しないという結論に至るでしょう。

トチ狂った誰かが誤って触れないように、この波動砲について研究し尽くして、レポートに残しておくべきです」

「波動エネルギーから他のエネルギーへの変換は効率が悪いからな。よほどでなければ割に合わない。

それを内部に教えるってわけか。実地で。」

「ええ、幸い灼熱波動砲はお偉いさんのお望み通りに改良することになるし、冷却機構が進化した分、伸び代もあります。

フォースはフォース班にでもふっておけば良いでしょう。妙なフォースを作るのを望んでいる変人も多いようですし」

「お前……丸くなったな」

 

 

疲れた様な、悟った様なフェルナンドの顔を見てディキシーが呟いた。

 

 

***

 

 

「飛び散る炎! 肌を焼く放射! これぞ灼熱波動砲Ⅱ!」

「イライザ、君がこんな性格だと知っていれば、他の班に押しつけたものを……」

「落ち着けイライザ。フェルナンドももうちょっとR機のことを心配してくれ」

 

 

そんなやり取りをしているのは、波動砲実験施設内でのことだ。

最新式の冷却機構を装備する事によって限界まで出力を上げたトカマク型融合炉は、波動の流れすら影響を与えていた。

唯でさえ蛇行してまっすぐとはいえない軌道を描いていた灼熱波動砲だが、

改良型は、蛇行どころか周囲に超高温を纏った波動エネルギーを撒き散らしている。

実験施設内の薄い空気に含まれる可燃物が燃やしつくされ、実験施設の壁は煤だらけだった。

 

 

「どうすんだよこれ。生物系バイド殲滅するための波動砲なのに、類焼が怖くて施設や惑星じゃ使い物にならんぞ」

「ディキシー先輩。逆転の発想です。飛び散る炎と波動でバイド素子を燃やし尽すんです。

ちょっと箱モノが溶かしちゃうのも愛嬌ですよ」

「愛嬌でコロニーがマグマの海になるのは御免こうむる。フェルナンドもなんとか言え!」

「これなら、後続機を作ろうとする人間を黙らせることができるかもしれませんね」

 

 

もはや、この研究を兵器開発とすら認識していない班長に対し、溜息しか出ないディキシー。

 

 

「もう、突っ込むのも疲れた……」

 

 

フェルナンドはそもそも止める気もなく、一番常識人であったディキシーが白旗を上げたことで、

若手故にブレーキが壊れているイライザを止める者が居なくなり、開発優先現場無視の暴走を開始した。

ある意味、Team R-TYPEの年中行事であった。

 

 

***

 

 

「フェルナンド班長、ディキシー先輩、カラーリングはどうしましょう?」

「もう君の好きな色で結構です。赤でも青でも好きにしなさい」

「とりあえずR機といったら白に青いキャノピー、赤のさし色だろ?」

 

 

フェルナンドとディキシーの「またか」というような返答に、明らかに異常なテンションで反論するイライザ。

 

 

「いえいえ、せっかくの強化版なんですよ。特別色に決まっているじゃないですか。

アローヘッドとかの白が許されるのはオンリーワンだからです。乱用すれば唯の汎用色です。

赤も二番手はだめです。青は添え物ですし、黄はカレーです!

キャノピーとの奇抜な配色で人目を引くなんて言語道断。何より、前と同色でいいなんて信じられません」

 

 

無自覚に今までのR機に喧嘩を売るイライザ。

「じゃあどうしたいんだよ」というディキシーの突っ込みに、彼女は何故か胸を張って堂々と言い切った。

 

 

「金色です! 金色しかありません。ここはメタル感を全面に押し出しましょう」

 

 

フェルナンドどころか、ディキシーまで疲れた顔をして、首を横に振った。

イライザは二人の「好きにしろ」のゼスチャーに喜び勇んで、完成図を端末上でいじくり倒した。

フェルナンドは黙って、“高反射率塗装による熱吸収の軽減”という題の論文を書き始めた。

 

 

***

 

 

こうして、約一名の欲望が集約されたR-9Sk2“DOMINIONS”がロールアウトすることになった。

 

 

熱交換効率を最優先に設計したため装甲をはぎ取られ、スケルトンの渾名を持ったR-9Skだったが、

金色に塗装されたため、異様な「金≒金星」という言葉遊び的な連想と、ドミニオンズ(天使の階級のひとつ)という名称から、

堕天使(ルシファー)という中二病的渾名を貰うことになった。(偶然ながらルシファーには炎を運ぶ者という意味もある)

 

 

その圧倒的な熱量によりオーバーヒートが最大の敵であったドミニオンズだが、

一応、過熱警告が装備されていたが、バイドが目の前にいるのに攻撃の手を止める事を躊躇うパイロットが多く、

メルトダウンを起こし、パイロットが冥府に誘い込まれていった。

自機すら溶かす炎。

このことが堕天使という渾名に寄与したことは疑い様がなかった。

 

 

ドミニオンズはいつしか、

 

 

“火山活動が活発な木星衛星イオでも問題なく稼働するのに、灼熱波動砲Ⅱを連射するだけでメルトダウン警告がでる”

 

“「出撃毎にあちこち融解するのでメンテナンスで死にそうです」という現場に対して、

Team R-TYPEが 「あれはマッチ(使い捨て)ですから」と嘯いた“

 

“密集隊形を組んで灼熱波動砲Ⅱをフルチャージで打つと、フォースを残して小隊自体が蒸発した”

 

 

などという嘘だか本当だか判断に困る逸話を残すネタ機となっていった。

 

 



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R-9W“WISE MAN”

※今回は少々グロめな表現があります。


R-9W“WISE MAN”

 

 

 

 

照明が落とされ薄暗い研究施設の中、R機のキャノピーを摸した実験台があった。

R機の前部のみを切り離して風防を取り払った様な形状のそれは、

キャノピーの下部にあたる整備用窓が開け放たれていて、多量のコード類やチューブが繋がれており、

それらは四方にある観測機器や何らかの出力機に接続されている。

よく見るとそのコードの奥にはパイロットスーツの様なものを身に付けた人間が見える。

多数の計測機器から単調ながら複数の電子音が響いており、その様子はまるで前衛音楽の様だ。

 

 

その光景を見渡せるガラスで覆われた実験管制室の中では、白衣の集団Team R-TYPEがいた。

ディスプレイの青白い光に照らされながら、小汚い白衣を着た男が実験の開始を宣言した。

 

 

「時間だね。実験開始するよぉ」

「サイバーコネクタ、インターフェイス感覚神経系を外部ナノマシンと接続します。……3、2、1、接続」

「ナノマシン活性上昇、通常時の220%です」

「仮想誘導試験開始します」

 

 

開始宣言を確認した研究者が、赤いスイッチをオン入れると、周囲の機械が低い音を立てて唸り出す。

コードだらけのパイロットがビクンと反応し、今まで単調だったグラフが大きく波打ち始める様子がディスプレイに映る。

研究者達は失敗続きだった実験の出だしが、今回は順調に行われた事に安堵しつつ、データを読み上げていく。

実験が新たな段階に入るたびに、試験パイロットはもがく様に身じろぎするが、

ベルトによって固定されているので、内部からは出られない仕様だ。

 

 

「実験開始から500秒、脳波乱れています。呼吸数毎分50、過呼吸気味です」

「バイタル低下。イエローに入ります」

「レホス技術課長、被検体死亡の危険がありますが実験継続でよろしいですか?」

「何時ものことだよ。実験しないことにはどこがボーダーかも分からないし、限界までやっていいよ」

 

 

研究者とレホスが場違いに和やかな応答をしていると、急に警告音が鳴り、ディスプレイの中のパイロットの体が飛び跳ねた。

筋肉の異常収縮から痙攣が始まったようで、拘束ベルトを千切らんばかりだ。

飛び跳ねる体に合わせてコードの束が踊り狂い、計測機も異常値を叩き出している。

 

 

「脳波計測不能、不整脈、いえ心室細動が発生しています」

「バイタルレッドです!」

「仕方ないなぁ、ここまで来て壊すのもアレだし実験中止で」

 

 

レホスがそう宣言すると、緊急停止コードが打ち込まれ、実験が中止される。

それとともに、パイロットの首筋に太い針が打ち込まれて液薬が注入され、痙攣が弱まり始める。

数分後、未だ異常な呼吸をしているパイロットだが、キャノピー型の実験台から引っ張り出され、

脱力したままストレッチャーで搬出されていった。

 

 

***

 

 

実験から数日後、Team R-TYPEの技術課長室ではレホスが、デスクに向かって報告書を打ち込んでいた。

そこに中年の研究者がやってきた。レホスのデスクの前まで来ると情報記録端末を手渡す。

 

 

「レホス課長、ナノマシン誘導実験のデータです。

死亡5、統合失調が9、PTSD程度で済んでいるのが2です。いずれ、強度の神経衰弱で入院ですが」

「ジョーもお疲れだね、ああ、その成功した2件のデータだけちょうだい」

 

 

データを流し読み、レホスが言った。

死亡者や精神崩壊を起こした被検体の写真があるページを飛ばして、測定データだけを呼び出す。

 

 

「これなら、誘導波動砲いけるかもしれないね」

「ナノマシンの微力場操作による波動砲の誘導……本気だったのですか?」

「高濃度ナノマシンを同期させて、一斉に微弱力場を展開できれば高エネルギー流の操作も可能っていうのは、

すでに論文に上がっている内容じゃない?」

「ですが、今回のナノマシンの操作実験では、被検体の殆どが死亡か使い物になりませんし、実用には耐えないのでは?」

「そんなことないさぁ」

 

 

疑問文に疑問系で答えたりするレホスだが、どうやら確固たる自信があるらしい。

一週間で被検体の1/3近くを死亡させるというハードな実験を行ったあとだが、

その考え方は以前より、確信に近くなっていた。

 

 

「人間って意外と柔軟でさぁ、自分の能力を超えている事でもちょっと無理してどうにかしちゃうんだよね。

負担を無理やり他の個所に肩代わりさせることで。もうほんと、格好の研究対象だよね。人間もバイドも」

「まあ、両方とも二重螺旋構造を基礎としていますし、突き詰めれば同質という言い方もできますからね」

 

 

唐突な話だが比較的レホスと付き合いの長いジョーは、適当に頷くとそのまま聞く事にした。

そのあと、3分ほど研究対象としての人間とバイドの共通性について語っていたレホスだが、

思い出したように、ナノマシンの話に戻ってきた。

 

 

「あ、そうそう、ナノマシン制御の話だけど、パイロットにナノマシン制御に対応する感覚を持たせればいいって事になるわけさぁ」

「ショック死やら発狂やらが続出で、今回の実験はとても成功したとは言えないのでは?」

「失敗は成功の父とかいうでしょ? データさえ生きていれば被検体は別にどうでも良いさぁ」

 

 

そう言ってレホスは、手元のディスプレイに失敗例と成功例の各種データを並べて表示する。

 

 

「初回のショック死した被検体1は、痛覚を司る部位にナノマシン制御インターフェイスが繋がったらしいね。

痛覚でも視覚、聴覚でも感覚器にナノマシン制御回路が繋がると、情報量が膨大すぎて死亡か発狂する様だねぇ」

「ああ、検体の一人が自身の目を抉り出していましたね。あれが視覚野につながったのですね」

「単純に情報処理を行う脳領域に繋がった検体は生きているみたいだし、この方針で行こうか?」

「分かりました。脳マップと連動させて適切な脳部位にナノマシン制御回路を構築する実験を検討します」

「任せるよ。じゃあ、僕は軍からのお偉いさんへの説明資料書かなきゃ。

誘導波動砲を使った新型機は軍から次期主力として目をかけられているらしくてね」

 

 

お人好しそうに見えるジョーと、レホスは和やかに人体実験の話をし終わると、ジョーは退室していった。

レホスは面倒そうな顔をしながら“ナノマシン制御による誘導式波動砲試験機の開発”という説明資料を書きだした。

 

 

***

 

 

地球にある南半球第一宇宙基地。

地球連合軍の本拠地であるが、外見は意外とスッキリしていて、周囲に広がる敷地は広場のようになっている。

流石に軍服の人間が多く、民間人は殆どいないが明るく、南国の観光地といった感じの開放的な雰囲気だ。

それもそのはず、この基地の主な構造物は地下にあるのだ。

バイドの侵攻やその他反政府勢力のテロを阻むため、この海岸地帯の地下に広く根を張っているのだ。

その規模は地上物が海岸から10数km離れているにも関わらず、海底港に直接接続しているくらいだ。

 

 

その地下の一室では軍の開発局、軍高官、そしてTeam R-TYPEを交えた会議が行われていた。

機能優先を旨として作られた会議室だが、Team R-TYPE施設にはない威圧感ともいえる重厚さがある。

その雰囲気に合わせてか、比較的真面目な言葉を選んで新型機開発計画の現状の説明をしているのは開発課長のレホスだった。

 

 

「……この様に波動砲自体はスタンダードと変わりませんが、

ナノマシン制御により誘導性を付属させることに成功しております。

レーザー、フォースはデリカテッセンで試験を行ったハニカム式のものを採用する予定です。

現在の開発状況としてはナノマシンの制御機構の構築を急いでいます」

 

 

レホスは大型スクリーンに投影された“R-9W(仮)”という図を示しながら説明する。

形状としては特筆すべき事もないような“R機らしい”ラウンド型のキャノピーを持った機体だった。

15分程度の説明が終わり、レホスが座ると出席者たちが意見を出し始める。

技術的な意見が出終わった頃、軍開発局の局長が首を捻りながら、意見ともいえない独り言を言う。

 

 

「ふむ、レーザー、ミサイル、フォース共に高水準にまとまっているが、その分燃費は悪い……

単機突入任務というよりはOp.Last Danceの間の地球圏の防衛任務に就く、迎撃機となるが?」

 

 

それに答えるように話しだしたのは背筋のピンと伸びた老齢の将官であった。

この軍人というよりは政治色の付き始めた軍務大臣が口を開く。

 

 

「構わん。

世論は長期渡るバイド根絶作戦を続ける政府への不満を表明し、

バイドからの防衛や退避を望む声も高まっている。

ここらで、今までとは誰の目から見ても明らかに違う、

防衛用の機体を作り、民心を宥める必要がある。

この誘導式波動砲は構造物などへの被害を避けてバイドだけを攻撃できるし、

航続飛行距離の問題も防衛用ならば問題ない。

R-9Wを次期主力機として据える事で、軍、政府は民間の安全を第一に考えているという意志を示す事ができる」

 

 

軍務大臣は一度言葉を区切り、周囲を睨むように見渡してからより張りのある声を出す。

反論を許さない威圧感さえ感じる視線が、この老人が政治家ではなくて軍人であった事を思い起こさせた。

 

 

「R-9Aアローヘッドに続く次期主力機にはR-9Wを据える。R-9Wは迎撃型のR機とし、

市街地での運用や、閉所で強力な攻撃力を付加させるため、誘導型の波動砲の搭載を絶対条件とする。

これは地球連合軍としての決定である」

 

 

軍政分野で軍務大臣の言葉に反論する人間はいるはずもなく、これが事実上の命令となった。

 

 

***

 

 

「これはいけるねぇ。あの大臣のおじさんには3日くらいは足向けて寝られないねぇ!」

 

 

南半球第一基地での会議後、数日経ったTeam R-TYPEの課長室。

子供のようにはしゃぐのは部屋の主たるレホスだったが、呼び出されてきた研究員のジョーが呆れて見ている。

ジョーに対して、レホスは一方的にまくし立てる。

 

 

「軍務大臣によるあの言葉は内部的には命令に等しいんだよ?

あのおじさんが万難を排してR-9Wを作るって言えば、僕らは好きに研究できるって訳さぁ。

何時ものように軍部に文句を言われることなくできる。ジョー、君も好きにやって良いよ!」

「はぁ、そうですか」

 

 

暫くハイのまま治まらなかったレホスだが、5分程度で通常のテンションに戻ってきたので、

ジョーが業務報告を行う。

 

 

「課長。誘導型ナノマシン波動砲なのですが、ナノマシン制御に使う脳部位の選定が終わりました。

Wp-3と名付けられている領域ですが、接続のショックが少ないため比較的平易にナノマシン制御領域を構築できます。

初回起動時にサイバーコネクタを通して脳内にナノマシン制御領域を確保……ダウンロードするようにしました。

初回こそ時間がかかりますが、二度目以降は早急に接続が可能です」

「Wp-3ねぇ。うん、このあたりなら生命維持に必要な領域はなかったはずだし、死ななければ良いんじゃない?」

「ええ、死にはしなくなったのですが」

 

 

世話話の様な調子で話してはいるが、ジョーから提示されたデータは非常にショッキングなものだった。

脳切開の写真、喉を掻き毟る様に発狂する動画、脳の電極を刺さった被験者の反応を窺う研究員達。

バイドとの戦闘を通して凄惨な体験に慣れている軍人であっても、Team R-TYPEで行われる人体実験には顔を顰める者も多い。

人間をも材料に研究を行い、楽しんでいる様に見えるのも、Team R-TYPEが嫌われる一因だろう。

 

 

しかし、彼らにとって外部評価は余り問題ではなく、今は開発を阻む要因こそが唯一の問題だった。

 

 

「レホス課長、これを見てください」

「一時的な重度統合失調状態が90%オーバーねぇ。一時的になら問題じゃないでしょ。

放っておくか、投薬で戻るみたいだし」

「ええ、被検体が精神崩壊して完全に潰れる事は無くなったのですが、その代わりに一時的統合失調と、

平衡感覚の喪失が起こるようになりました。要は搭乗後に感覚的な問題と精神疲労の両面で、

まったく動けなくなります。R機から降りる事すら困難です」

 

 

事故事例としてジョーが示したのは、ナノマシンその接続状態すら自力で切れずに、強制シャットダウンされる事例や、

コックピットの浅い装甲板を超えられず、もがく被験者。

一時的とはいえ、完全に思考機能、身体機能を失った準廃人達の動画だった。

レホスはジョーと二三受け答えをしたあと、笑い出した。

 

 

「簡単な話だよ。あの実験台のようにコックピットブロックを取り外せばいいじゃない?」

 

 

レホスの目線の先には、今回の実験が行われていた実験台の画像。

ナノマシン同期試験のために、R機から先端部分を無理矢理切り取った様な“頭だけのR機”があった。

 

 

「ご存じでしょう? R機のコックピットブロックは下部構造が装甲と一体となっています。

あれは実験用にコックピットブロックだけ切り取って設置していますが、実機では無理です」

「あの形状は確かに力学的な見地から有効な形状だけど、ラウンドキャノピーじゃなきゃいけないわけじゃないさぁ。

確かに、R-9A開発した頃には、選択肢のない唯一の解だったけど、今は違うさ。素材も進化したし、技術も進歩しぃ。

いっそコックピットの下部装甲取り払って、取り外しの効くキャノピーで全面を覆ってしまってもいいんじゃない?」

 

 

***

 

 

Team R-TYPEの研究施設らしき場所。

テロップによると、その施設で誘導型のナノマシン波動砲での実験が行われたと書いてある。

画面中央には、すでに大体の形になっているR-9Wが、観測機器などのコードに接続された状態で固定されている。

奇妙なのはそのシルエットで、コックピットブロックが見当たらない。

通常、R機はコックピットを覆うラウンド型のキャノピーを上部に開け放ち乗り降りする。

だが、このR-9Wにはキャノピーどころかコックピットが付属していなかった。

コックピットがあるべき場所には円形の接続部と宇宙空間に出るとしても厳重過ぎる何重にもなったパッキンがあるだけだった。

 

 

続いて、画面脇から現れたのは、直径1m以上はありそうな球底チューブ状の巨大な“試験管”。

紫色の半透明に着色されているそれは、どうやら中に液体とコックピットらしき機器が封入されている。

しかも、良く見れば、液量を図るためだろうか、目盛にも似たラインが入っている。

作業用アームで、そのまま“試験管”の開口部がコックピットのあるべき場所に接続される。

紫色の試験管はR-9Wに押し込まれると、機械音とともに何重にもロックが掛かり、固定されていく。

 

 

合成音声が流れると、試験管の内側を覆う全天型モニターが起動したらしく、試験管が瞬く。

全天型モニターの電圧変化の所為か不透明だった試験管が一瞬透明になり、再び不透明に戻った。

一瞬であろうとも、試験管の中にコックピットと人間が乗っていることは見て取れた。

 

 

画面が変わり、R-9Wを後方から移した画面となり、テロップでナノマシン波動砲試射開始と出てくる。

R-9Wの前方に複数のダミー標的が配置される。それらは同軸上にはなく通常なら反射レーザーを使って破壊する様な配置だ。

試験管の異様さに比べれば、なんら通常と変わらない波動砲コンダクタの先端に波動の光が輝きだす。

虚数空間から漏れ出た波動エネルギーの余波だが、特にスタンダード波動砲と変わったところはない。

チャージ完了を示す光が瞬くと発射の寸前にオレンジ色の発光が確認され、続いて波動砲が発射される。

画面が光で満たされ、瞬間的にダミーをすべて破壊しつくした。

 

 

再度、発射シーンだけが超スローで再生される。

発射後、すぐにオレンジ色の燐光が瞬き、何もないはずの空間が水面のように歪み波動砲の進路がねじ曲がる。

ダミーを二つほど消滅させた後、再びオレンジの光が現れ、波動砲が曲がる。

3回ほどそれを繰り返して、施設の壁面に到達すると、波動砲が閃光とともに霧散した。

そして、再実験とテロップが流れる。

 

 

「ただ今、ご覧にいれたのが、R-9Wに搭載予定のナノマシン波動砲になります。誘導性能はご覧の通りです。

パイロットについても特殊訓練は必要とせず、サイバーコネクタを通してナノマシン誘導に関わる領域を新設します。

脳内の未使用領域の検索とナノマシン同期領域のダウンロードがあるため、初回出撃時は多少時間を食いますが

従来の乗換訓練を考えれば、問題のない程度でしょう」

 

 

スクリーンに投影された動画を止めてから、レホスが補足を述べた。

この南半球第一宇宙基地地下会議室での会議とR-9Wの運用に関する担当レクを実施しているのだ。

今回は軍務大臣未満の高官たちと、軍開発局となどになっているが、

高官らは会議が終了した時点で、想定バイド撃破率とパイロット死亡率の比率が劇的に向上しているのを確認して

満足げに去って行った。

 

 

残ったのは実務を担う技術官らだ。

すでに軍務大臣によりR-9Wが次期主力として内定しているので、

配備やパイロットの選定などの実務的なことを検討しなければならない。

何人かの技術士官らが意見を述べる。

 

 

「レホス課長、このコックピットはラウンド型ではないのですか、

試験管(チューブ)形状で強度が落ちるのでは?」

「それもですが、このパイロットの充足数なのですが、なぜ機体数の5~6倍なのですか?

無理矢理24時間交代制でのシフトを考えても2~3倍では無いのですか?」

「それは、両方ともR-9Wの操縦によるものですね。見た方が早いのでこちらをご覧ください」

 

 

レホスは手元で操作して、先ほど上映した動画を、途中から続きを流す。

 

 

パイロット交換という少し不穏なテロップが流れる。

波動砲発射テスト後の様で、周囲の隔壁には煤が見える。

先ほどの動画を逆再生するように作業用アームがコックピットである試験管を掴むと、ロックの外れる音がする。

アームが試験管を掴んだまま、ゆっくり動くと試験管がR-9Wから外れ、アームにぶら下がる。

そのまま画面外に退場していくが、画面が切り替わり巨大な試験管立ての様なラックに掛けられると、

試験管の上部を塞いでいた簡易シールドが開く。内部は紫色の液体で満たされている。

小型のアームが試験管の内部を探り、試験管の中から何かを引っ張り出す。

どう見てもパイロットだ。その人間はスーツの胴体部に付いているベルトに全身を預けており、まったく生気がない。

アームがパイロットを床に下ろすと、そのまま殆ど動けないパイロットが搬出されていった。

 

 

そこまで、動画が進むと、軍の技官達が顔を真っ赤にしていた。

パイロットが吊りだされたあたりですでにざわついていたが、ついに怒号となった。

 

 

「一体どういうつもりだ! パイロットを使い潰す気か!」

「潰しては居ませんよ。これから動画でも説明が入りますが、一時的な精神衰弱状態になるだけです。

ただし、ご覧の通り自力での乗り降りができないため、要望にあった出撃時間の短縮に引っ掛かります。

ですので、コックピットごとパイロット換装することで、再出撃までの時間を短縮しました」

 

 

そのあんまりな説明を聞いた出席者達は再び一斉に怒鳴り出した。

基本的にTeam R-TYPEへの不信感と、人権に関するものだ。

説明が面倒臭くなったレホスはこの場を黙らせることにする。

 

 

「人間を何だと思っている? パイロットが哀れ?

何を言っているのか分かりませんね。我々はTeam R-TYPEですよ。

もてる知識を結集し研究を続ける、利用できるものはすべて利用して不可能を可能にする。

それが我々Team R-TYPEです」

 

 

そう嘯いたレホスは、未だ感情を優先する面倒な相手に、最後にトドメをさす事にする。

もはや、口調すらも繕う事をやめて、タメ口で嘲るように挑発する。

 

 

「言っておくけどさぁ、このR-9W開発計画は事実上の軍務大臣命令によるものなんだよね。

で、大臣と次官にはすでに説明とデータを渡してあるわけ。つまり、これはもう決定事項ってこと。

じゃあ僕はこの後も研究があるから、バイバイ」

 

 

この仕様が最終案であると述べて、思いつく限りの罵声が轟く会議室から退出していった。

 

 

***

 

 

R-9W“WISE MAN”はロールアウト後直ぐに各地に配備された。

黒を基調にして紫色の試験管コックピットというR機は、非常に人々の目を引いた。

ワイズマン(賢者)という皮肉な名前を付けられたR機は民衆にもっとも近い処に配備され、

R-9に続く主力機としての任についた。民間には詳細は伏せられたまま……

 

 

この試験管機の配備を止められなかった地球連合は、この後ずるずると正気を失い続け、

最終的にはB系列機という狂気の兵器の配備を許すこととなる。



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R-9WB“HAPPY DAYS”

R-9WB“HAPPY DAYS”

 

 

 

 

ジョーは困惑していた。

何故なら、一機種こっきりの奥の手であった試験管コックピットが、

なぜか後続機にも装備されることになったからだ。

本来、試験管コックピットはパイロットの神経と精神に多大な負担をかけるため、

R-9Wワイズマンのリスク回避的な裏技だったのだ。

だから、実験を担当していたジョーとしてはワイズマンの能力をそのままに

通常のラウンド型コックピットに落とし込むことが次の課題だと思っていた。

が、目の前の上司は違うと言う。

 

 

「じゃあジョー、任せたよ。

ナノマシン制御による新しい波動砲を装備した機体であることが条件だからぁ」

「試験管コックピットで、ですか?」

「そうだよ。軍ではワイズマンを次期主力機として運用することになった。

なので、各基地で試験管コックピットの対応改修を行っているからねぇ。

利用しないのはもったいないだろ?

君が通常コックピットでのナノマシン制御機構が考えられるなら別だけど」

「分かりました。班に戻り検討をしてから案を持ってきます」

 

 

部屋を出るころにはジョーの頭の中は、ナノマシン制御による新波動砲の事で一杯であった。

 

 

***

 

 

「という、訳でナノマシンを使った波動砲搭載機になってな……」

 

 

研究班に戻って事の次第を話すジョーに、二人の班員パイとイシダが検討に入る。

 

 

「ナノマシン制御という事はナノマシン波動砲の軌道に関するものということですね」

「いや、パイ、エネルギーのロスが課題だが、外部的な付与属性を与える研究があったはずだ」

「パイもイシダも基本的な方針としては、パイロット負荷の少ない波動砲を目指す事を念頭に置いてくれ、

レホス課長は気にしなくていいと言っていたのだが、実は現場からの文句の声が大きいらしくてね、

ワイズマンのアレが常態になるのは不健全ということらしい」

 

 

現場を担当する軍人達としては格納庫に試験管が並び、医務室に精神衰弱患者が溢れるといった光景は御免願いたかったのだ。

現在は試験管機ワイズマンの配備は防衛基地だけであるが、これが艦隊にまで広まるようでは悪夢である。

なので、できるだけ早急にナノマシンの通常運用化を進めたかったのだが、軍上層部やTeam R-TYPEはそうは思わないらしい。

 

 

「何はともあれ、新たなW系列機の方向性を決定しよう。ではイシダ、ワイズマンの技術的な問題点を挙げなさい」

「はい、ナノマシン制御型波動砲の精神負荷の一番の原因は二つ。

人間の脳がイメージする複雑な情報から、波動砲軌道を最適化、数値化するのと、

もう一つは誘導するナノマシンが膨大な量におよび、発射から数マイクロセカンドに及ぶための、長時間の演算処理です」

「うーん、脳内イメージのマシン言語化は、計算が煩雑だけど今の形式じゃないと汎用性がない。

人間側にマシン言語に直しやすいように思考するよう訓練すれば良いのかもしれないが、

結局パイロット育成期間が長期間かかるから現実的ではないな」

 

 

現状確認としてイシダが問題を提示してパイが意見を返した。

ジョーが仮決定として方向性を定めた。

 

 

「そうだな。ナノマシンの操作時間が長すぎる事が原因の一つだし、

搭載するナノマシンの量が限定されることもワイズマンの作戦時間を押し縮める一因でもある。

新しいW系列機はナノマシン制御を扱えば何でも良いとされている。

なので私としては、ワイズマンの弱点であるパイロットの異常消耗を緩和した機体を製作しようと思う。

ここはナノマシン制御負担の軽減に焦点を合わせて研究するとしよう」

 

 

***

 

 

所変わってTeam R-TYPEの研究室の一室。白い壁で囲まれたそこには、ホワイトボードが立てかけられている。

そして、議論をしていたのは班長のジョーと班員のイシダとパイだ。

議論の内容は、ナノマシン制御による脳負担の緩和方法についてだった。

 

 

「誘導式ではリアルタイム……といってもラグはありますが、この形式ではナノマシンとの同期が非常に負担になります。

なので、如何に短時間での誘導を掛けるかピンポイントでの誘導を掛けることが必要になります」

 

 

パイの説明に対し、イシダが挙手をして発言を求めた。

 

 

「パイ、君の意見では誘導の合計時間を図るとのことだが、そもそも誘導は負担がかかり過ぎないか?

むしろ操作の簡略化を図った方が、脳への負担が減ると思うのだが」

「しかし……」

 

 

暫く、イシダとパイの意見の応酬を眺めていたジョーだが、頃合いを見て二人を止めた。

 

 

「パイ案の制御時間の短縮と、イシダ案の制御機能の限定化、両方取り入れようと思う。

流石に軍の通常パイロット達が皆ワイズマンの鬼の様な負担に曝されるのを見るのは忍びない。

ワイズマンからの負担軽減を目的とした本機をR-9WA(仮)として開発計画を上げる」

 

 

ジョーがそう方向性を決定すると、パイとイシダは素直に了承して案を出し始める。

Team R-TYPE内においては、非常に扱い安く毒のない研究員達だが、

問題があるとすれば、真面目なだけに大本が狂っている事に気が付かない事だった。

 

 

***

 

 

一ヶ月後。

汚れたホワイトボードのある研究室で、小会議が始まった。

 

 

「さて、レホス課長に書類を上げたところ、制御時間短縮と制御機能の限定化の両面での強化案で通った訳だが、

イシダとパイの予備実験はどうなっている? まずはパイから報告を」

「はい、ナノマシンの制御時間の短縮、もといナノマシンの同期時間を短くする研究ですが、

基本的には成功しています。微弱力場を形成する時をピンポイントで狙って波動砲を誘導することで、

負担を軽減できる事が実証されました」

「問題は?」

「あります。まずナノマシンと常に同期している訳ではないので、誘導制度が非常に甘くなります。

ワイズマンの様に機動中の敵を波動砲で追尾させるような使い方はできません。

なので、現状では停止目標、または鈍速の目標以外には効果的な攻撃ができません」

「常に同期させると直ぐに被検体が根を上げるからな」

 

 

試験画像でもカクカクと曲がる波動砲といった感じで追尾性はほぼ見込めない様に見える。

パイはその他のデータを提示して説明を終える。

ジョーは続いてイシダを指名して説明を求めた。

 

 

「制御機能の限定化ですが、被検体による任意の力場の形成という機能を捨て、

此方から力場のパターンを構築したものを被検体にダウンロードさせて実験しました。

こちらのデータです。反射、正弦波、拡散など複数のパターンを試験した結果、成績が良かったのが、分裂パターンです」

 

 

指向性を持ったエネルギーが被検体の指定するポイントで弾け飛び、再び指向性に従って進む。

光がシャワー状になっている様子は非常に綺麗ではあった。

 

 

「一撃は薄いが弾幕状になるのか。パイ案の命中率の問題は解決されそうだが……此方も問題があるんだな?」

「はい、負担はワイズマンの25%程度ですが、被験者への負担がまだ大きく、投薬常態での使用がやっとです」

「まだ、汎用化はできないか」

「はい」

 

 

ふむ、と言ったきり、暫く考え込むジョー。両方とも帯に短し襷に長しといった案である。

しかも、いずれにしろナノマシンの微弱力場を利用する波動砲であるため、

サイバーコネクタに最適化された試験管コックピットの呪縛からは逃れられそうにはない。

色々な案を考えた結果、ジョーは方針を打ち出した。

 

 

「よし、長所を相取りしよう。ある程度の剛体に当たった時のみ、波動砲のナノマシン制御を行い分裂させよう。

これなら命中率の問題も解決できるし、ナノマシンと同期するのも短時間だからワイズマンより負担も減るだろう」

 

 

パイとイシダに共同で試作型の波動砲コンダクタを製作することを指示した。

 

 

***

 

 

「どうしてこうなった……」

 

 

ジョーの目線の先では、コックピットに接続された状態で失神する被験者。

泡を吹いて時折痙攣している様はとても無事とは思えない。

 

 

「まさか、多段分裂試験にこんな罠があるとは、分かりませんでした」

「分裂先でまた、分裂して分裂して、条件次第ですが一回の分裂で4~6に分裂します。

……この試験では分裂4段目の時点で制御点が1000を超えています。一回当たりの負荷は軽いといえ、

過負荷で脳内回路が焼き切れたようですね」

 

 

パイとイシダも溜息しかでない。

ディスプレイのリプレイ画像では、目標に見立てた隔壁に分裂波動砲を打ち込む試作機と、

分裂に分裂を繰り返してディスプレイを埋め尽くす波動の嵐が映る。

一回一回の分裂に係る負担は軽いが、ネズミ算的に増える分裂回数の所為で、波動エネルギーが拡散するまでに、

ワイズマンすら上回る負担が被験者の脳にかかる羽目になった。

 

 

「まさか、負担を減らそうと思ったら逆に負担が倍増するとは」

 

 

取り敢えず、ジョーの班では負担を減らす改善策を模索することとなったが、

しょげ返ったジョーが一応事の顛末をまとめて上に報告すると、意外な返事が返ってきた。

コンセプトと威力はそのままに、パイロットが戦闘中に意識を喪失しない様にと求めてきたのだ。

特に言われなかったが、手段は問わない、ということだろう。

 

 

ジョーからその報告を聞いたイシダが言った。

 

 

「どうします? 現行での負担軽減策は頭打ち、分裂回数を2~3回に制限を設けようかと思っていましたが」

「もう、なる様にしよう。とりあえずその他の負担軽減で単発なら負担に耐えるようになったのだったな、イシダ?」

「はい、でも一度打つと脳内のクールダウンのために5分待たけなければなりませんが、戦闘中にそれは不可能でしょう」

 

 

機体性能ではなく、人間の性能によって制限が係るなら、システムではなく人間の方をどうにかしようと考える

 

 

「……仕方ない、余りやりたくなかったが最終手段だ」

「え……最終手段ですか? 流石にパイロットを使い捨てにするのは、当初の目的から外れるのでは?」

「使い捨てにはしない。が、軍の現場の意見もあるが、上からの方針には逆らえないよ。

どうやら上は分裂波動砲のバイド殲滅能力を買っている様だ。なので、本計画でまずは火力を安定させた試作機を製作する。

負荷はかかるので確実に試験管コックピットになるな。後に後続機の開発計画を立て負担軽減機をつくろう.

コンセプトの変更に伴い機体番号をR-9WAからR-9WBへと変更する。で、新しいシステム変更点は……」

 

 

イシダとパイは後続機が製作されるのかと思ったが、機体さえきちんと完成すれば良いという、

非常にTeam R-TYPE的な考えに至り、ジョー班はR-9W系列の負担軽減から火力重視へ180°の方向転換を図った。

 

 

***

 

 

半年後。

軍とTeam R-TYPEを交えた新開発機体の説明の場。

ジョーは軍人相手にR-9WBハッピーデイズの説明を行っている。

 

 

必要以上のエネルギーを消費せずに、標的を捉えると次々に標的に襲いかかる分裂波動砲の

面的な火力を見た軍人からは称賛の声が上がる。

仕様書を見る限りナノマシンの消費も抑えられ遊撃などの任にも使えそうだ。

 

 

「この通り、面的火力を優先しており、誘導ナノマシン制御システムの改変により、

以前よりも戦闘時間を長くとれるため防衛以外にも使用できるようになっております」

 

 

「ワイズマンでは結局廃人となるパイロットが多いが、その為の方策はどうなっているのか?」

「はい、脳神経が過負荷で死ぬため、波動砲発射毎に脳内の別の部位にナノマシンを同期させるようにしました。

このシステムにより、作戦時間が資料の通り伸びました。

発射時の負荷で脳部位が局所的に可塑的変性を起こしますが、戦闘後安静状態を24時間保つ事で97%は回復可能です」

 

 

それから暫く質疑応答が続いた。

質問が切れて、軍の高官達は小声で何事か相談していたが、意見がまとまったか、

一人の将官が代表して発言した。

 

 

「よろしい。ではW系列設備を用いた新規機体として分裂波動砲試験機R-9WBハッピーデイズを採用する」

 

 

ハッピーデイズと嫌味たっぷりに命名された試験管機は、脳への負担のためパイロットが搭乗後丸一日寝込むという機体になった。

そして、じわじわと脳を侵食しパイロットは長年乗っていると、若年性痴呆症状を引き起こすという機体だったが、

波動砲を乱射する様な状況下ではR機パイロット、特に試験管機のパイロットの生存率は高くなく、

表立って関連性を追求できる者は居なかった。

 

 

後続機はそのコンセプトすら忘れたころに認証され、試験管とナノマシン以外は関連のない

全くの別計画となっていく。

 



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R-9WZ“DISASTER REPORT”

R-9WZ“DISASTER REPORT”

 

 

 

 

送信者:政府公安委員会

件名:治安維持に関わる技術的案件について

 

本文:

Op.Last Danceの作戦延長に伴い、遺憾ながら民衆からは連合政府への不満の声が上がっている。

特にバイドとの戦線が近く、独立性の高い外惑星周辺の主要都市では

諸々の反政府的運動が実施されている。

昨今の市民感情を鑑みて、政府では防衛能力の向上を図るため、

防衛用次期主力機として新型機R-9Wワイズマンを採用し、

民衆の不安を取り除くとともに、

民衆の不安を煽る扇動活動を静めるためのR機の開発を推進したい。

 

 

***

 

 

送信者:Team R-TYPE

件名:Re:治安維持に関わる技術的案件について

 

本文:

Team R-TYPEとしては、

暗殺用ステルス機、対人用広域殲滅機など想定されますが、

どのような機体がよろしいでしょうか。

 

 

***

 

 

送信者:政府公安委員会

件名:Re2: 治安維持に関わる技術的案件について

 

本文:

政府が対人用に対バイド兵器を用いることはないので

暗殺、殲滅などの言葉は不適切と考えざるを得ない。

政府は、活動家たちに扇動活動を自粛せざるを得ないと思わせる兵器情報を望む。

政府が求めているのは確実に事を成すための技術であり、成果物の形状は問わない。

なお、これは仮定の話である事を含み置くよう。

 

 

***

 

 

送信者:Team R-TYPE

件名:Re3:治安維持に関わる技術的案件について

 

本文:

Team R-TYPEで検討の結果、事前処理という前提条件において

反政府的活動集団の主要人物の暗殺が作業効率的に最適であり、

もし、不満分子までの処理が必要であれば、

反戦集団を殲滅した方が安全であると分析しましたが、

政府が直接的な手段を取るべきでないと考えるならば、

事故などその他の事象を引き起こすことによって

不満分子と主要人物を同時に処理するのが良いという結論に達しました。

ついてはケルベロス等のライトニング波動砲による処理を推奨します。

 

 

***

 

 

送信者:政府公安委員会

件名:Re4: 治安維持に関わる技術的案件について

 

本文:

R機は目立つため、先のTeam R-TYPE案は棄却する。

R機に限らず他案を要求する。

また、万が一、なんらかの事象により

政府が活動自粛を通達している活動家が死亡する事態になった場合、

既存の手段により殺害されたと邪推される事態を避けるべきである。

Team R-TYPEにはその技術的解決を求める。

 

 

***

 

 

送信者:Team R-TYPE

件名:Re5:治安維持に関わる技術的案件について

 

本文:

惑星上であれば、波動エネルギーを源としたナノマシンの微弱力場形成により、

大気、地殻を撹乱し、災害を誘発させる事が可能です。

また、宇宙空間でも同様に小型の岩石の運動量を変動させ、

任意の方向に移動させる事も可能ですが、

出力とのバランスがあるので現在研究中となっています。

 

 

***

 

 

送信者:政府公安委員会

件名:Re6: 治安維持に関わる技術的案件について

 

本文:

議案解決確度の検討のため技術資料の提出を求める。

 

 

***

 

 

送信者:Team R-TYPE

件名:Re7:治安維持に関わる技術的案件について

添付ファイル:[R-9WZ_wavecannon_internal_spec.trtp],[R-9WZ_internal_spec.txt]

 

本文:

返信が遅れてしまい申し訳ありません。

政府より請求のあった災害型波動砲および、

その搭載機R-9WZ試作機の開発が終了しました。

なお、R-9WZはその用途からディザスターレポートと仮称を付けました。

波動砲にナノマシン制御を用いることと、パイロットの素性を隠す必要から、

現場での乗降の必要のない試験管コックピットとしました。

災害型波動砲は落雷により要人暗殺、竜巻により集団の殲滅が可能となっており、

また、敵が地下施設等へ退避する事態を想定し、隕石の投下を実施できます。

その他の仕様については、ファイルを添付しました。ご覧下さい。

 

 

***

 

 

送信者:政府公安委員会

件名:災害型波動砲およびその搭載機について

 

本文:

資料を要求したのに、なぜ、実機を作ったのか。

この件に関しては技術資料の提供依頼であり、開発命令では無い。

なぜ、開発を強行したのか説明を求める。

また、本件に関しては些かも公にすべきではない。

災害型波動砲の開発とR機への搭載を即刻中止するよう要請する。

 

 

***

 

 

送信者:Team R-TYPE

件名:Re:災害型波動砲およびその搭載機について

 

本文:

公安委員会案について、開発部内で検討の結果、

本件コンセプトでの開発が可能であることが示されたため開発開始に至りました。

また、公開については通常予算を投入しているので、政府監査がありますが、

“対バイド兵器及び、R型異相次元戦闘機開発に関する法令”

の機密維持条項により、政府外に漏れる事はありません。

 

 

***

 

 

送信者:政府公安委員会

件名:Re2:災害型波動砲およびその搭載機について

 

本文:

政府のその他の部署に情報が漏れる事が問題であり、

テロ防止及び、機密維持上の観点からも些かも許容はできない。

即刻、本件についてのすべての事項について秘匿せよ。

 

 

***

 

 

送信者:Team R-TYPE

件名:Re3:災害型波動砲およびその搭載機について

 

本文:

公安委員長からの要請により当機は本日を以って通常機密から

A級機密扱いになったため、

詳細は防衛大臣および関連部署のみの閲覧となります。

なお、すでに削除しましたが研究課題として

災害型波動砲とR-9WZの名称は掲示済みとなっております。

 

 

***

 

 

送信者:政府公安委員会

件名:連合政府公聴会について

 

本文:

災害型波動砲およびその搭載機について政府人権委員会から突き上げが行われた。

当件に関し査問委員会及び公聴会が開催されることになり、当委員長が召喚される。

Team R-TYPEからも召喚されることになるので、

災害型波動砲に関しては、説明および差し障りのない資料の製作を求める。

 

なお、当メールおよび、今までの当委員会からの

問い合わせ関連資料については一切の破棄を要求する。

 

 

***

 

 

送信者:Team R-TYPE

件名:Re:連合政府公聴会について

添付ファイル:[R-9WZ_wavecannon_external_spec.trtp]

 

本文:

“対バイド兵器及び、R型異相次元戦闘機開発に関する法令”に基き、

Team R-TYPEは研究開発そのものについて、実質その責を負う事はありません。

よって当所から公聴会への参加は証言者としてのみの出席になります。

資料については添付のものをご利用ください。

 

 

***

 

 

送信者:政府公安委員会

件名:Re2:連合政府公聴会について

 

本文:

意味が分からない。

なぜ、軟着陸に足る資料を要求したら、より危険な資料が送られてくるのか

なぜ、波動砲で地震が起こる事になっているのか

なぜ?

 

 

***

 

 

送信者:Team R-TYPE

件名:Re3:連合政府公聴会について

 

本文:

まず、災害型波動砲で地震が起すことは理論上可能です。

ただし、チャージに戦艦クラスのエネルギーが必要であることと、

ナノマシンでの力場形成の演算により一瞬で被験者の脳細胞が焼き切れるなどの

欠陥が見られたため失敗作としてオミットしたものです。

今回は、ダミー案として棄却案を資料化しました。

これにより、R-9WZの災害型波動砲が

都市規模での大規模破壊兵器であることが提示でき、

人権委員会その他が疑っている要人暗殺といった用途には向かない機体であると、

一般にも理解できると思います。

では、明日からの公聴会でお会いしましょう。

 

 

***

 

 

送信者:政府公安委員会

件名:大規模破壊波動砲の使用禁止条約について

添付ファイル:[大規模破壊波動砲の使用禁止条約(案).txt]

 

本文:

先日、公聴会で君らが巻き起こした騒動で退場させられたあと、

災害型波動砲は惑星上において一切の使用を禁じるという条約が、

各都市間で結ばれることになった。

また、公聴会であった通り、

本委員会は連合議長らによる指導を受ける事になった。

当面独自裁量での行動が制限されることから、

これ以降のやり取りは無いものと思ってほしい。

 

 

***

 

 

送信者:Team R-TYPE

件名:Re:大規模破壊波動砲の使用禁止条約について

添付ファイル:[R’s MUSEUM案内パンフレット.pdfg]

 

本文:

承知しました。

地上での実戦データが取れなくなった件については誠に残念です。

災害型波動砲は宇宙空間においては、その威力が十全に発揮されず、

他の波動砲に劣ることから、その搭載機R-9WZディザスターリポートごと、

建設中のR博物館への展示物として貸し出されることになりました。

施設に関しては資料を添付しましたので、機会がありましたらご覧ください。

様々なインスピレーションを頂いた公安委員会の

組織整理は悲しむべき事ではありますが、

新生組織としての門出を蔭ながらお祝い申し上げます。

 

 

***

 

 

送信者:政府公安委員会

件名:意味が分からない

 

本文:

本当に意味が分からない

 



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R-9B“STRIDER”


※結構初期の話ですが、設定的に色々混じっています。


・R-9B“STRIDER”

 

 

 

 

後に発想の大元が迷走していたと言われているR機開発であるが、

当初は駄作といわれていたが、後のバージョンアップで大化けしたものもある。

その中の一つがR-9B系列、バリア機シリーズであった。

 

 

***

 

 

白衣蠢く、Team R-TYPEの拠点のひとつ。

そこで、呼び出しを食らった研究員が、自分の開発班の班長と話をしていた。

 

 

「巡航型のR機ですか?」

「単機突入戦でのPOWの消耗が激しすぎるので、POWの要らない巡航機の開発を、だってさ」

「で、なんで辞令が俺一人なのですか? 普通R機の研究開発ってチーム戦でしょう?」

 

 

そう、何故か班ではなく、スタークル研究員にだけ辞令が出たのだ。

しかも、もれなく月面基地への長期出張付きだった。

 

 

「なんでも、軍と軍事産業とかの横槍が激しいらしくて、共同開発をすることになったらしい」

「その結果がライトニング波動砲を装備したケルベロスでしょう。碌な結果にならないような」

「ケルベロスは脱出失敗したけど作戦自体は成功だし、民間成分が色濃く入っているアルバトロスや

軍の意向が強いデルタ、整備が暴走して作り上げた攻性POWアーマーがあれだけの結果を残したからね。

再び食い込みたいのだろう。なんにせよ辞令貰ったらどうにもならないから諦めて行け」

 

 

上司からありがたい言葉を貰ったスタークルは、多量の研究資料と僅かな私物の入ったトランクひとつだけで飛び立った。

 

 

***

 

 

所変わって、月面基地ルナベース2。

スタークルは二人の新しい同僚と顔合わせをしていた。

 

 

「軍開発局から出向してきた。アドマイヤー技術大尉だ」

「デ・ハミルトン社より参りました。開発部門技師バータレックです」

「Team R-TYPEからきました研究員スタークルです。よろしくお願いします」

 

 

濃い面々だった。

軍開発局のアドマイヤー大尉はTeam R-TYPEの独走を防ぐためのお目付け役だろうか。

とりあえずお堅そうだが、現場のパイロットなんかに比べれば、技術者ということでマシだろう。

ただし、妙な拘りや偏見をもっているパターンが多い気がする。

 

 

バータレック技師は、キチンとしたスーツを着用しており、

普通の30代サラリーマン風だが、デ・ハミルトンといえば精密機器などに強い民間企業だ。

ミッドナイトアイなどE系列のレドームにも、同社の機器が用いられているはずだ。

最近、周辺機器や補助武装などを取り扱い、軍事産業へと食い込んで来ている変態企業の一端だったはず。

そんな事を考えているスタークル自身だが、Team R-TYPEの彼は他の二人からもっとも危険視されていた。

 

 

なんとなく、他の二人の視線が自分に集まっているのを感じたスタークルが、先陣を切って話してみる。

 

 

「今回のR-9Bのコンセプトは巡航型のR機、無補給での地球-木星航行可ということですが……宜しいでしょうか?」

「軍としては、従来のR-9を用いた作戦ではPOWアーマーの設置が欠かせず、兵站の負担になっている。

なんとかしてこの負担を緩和したい。せめて補給基地間だけでも往復可能としたい」

「それでしたらわが社の巡航システムならば出力をコンピュータ調整で突き詰めて燃費15%ほど改善できます。

それ以上をお求めならば増漕としてエネルギーポッドをつける必要があるのではないでしょうか!」

「え、あ、はい、ありがとうございます」

 

 

ここぞと開発局のアドマイヤーとハミルトン社のバータレックが畳み掛けてくるのに、気圧されるスタークル。

基本的にTeam R-TYPEは同僚以外とのコミュニケーションが苦手なのだ。

コミュニケーションって何、とばかりに高圧的になったり、外部に毛ほども興味なかったり、

まごまごして普通に話せないなどのパターンがある。

スタークルは確実に普通に話せないパターンだった。

 

 

「えーと、その、まとめますと燃費効率15%上昇だとほとんど雀の涙というか、確実に増漕が必要ですが、

重量が増えるので主機出力も上げる必要がでますね。重量増と出力増強で小回りは全く効かなくなりますが」 

「小回りが必要ならアローヘッドがあるから良いのではないか?」

「専門性というか一点には秀でていないと売り込みに困りますからね」

 

 

完全に雰囲気に飲まれて自分の発言ができなくなるスタークル。

口では負けると察して、携帯型端末のキーボードを叩き、二人の案を組み込んだモデルを見せることにした。

黙って端末に向き合うこと3分、アローヘッドのフレームを大幅に超過しエネルギータンクが本体に見える

歪な機体が画面に表示される。

 

 

「コレは鈍重すぎて戦闘に向かなくなりそうですね」

「流石にこれで戦闘は自殺行為だが……。スタークル研究員、回避を無しで済む様に遠距離からの狙撃は不可能か?」

「D系列、他の研究班で研究していたようですが、冷却機や波動砲コンダクタに負担がかかるらしく

各部が大型化してしまって、最早R機の型に納まらないと思います」

 

 

よく分らない機械の塊のようになる3Dモデル。それはR機ではなくて機械系バイドの様だ。

色々な案を出しては内部で否決されていく。異業種混合開発班は、回り道しながらも、

日を跨いでR-9Bの形を組み立てていく。

 

 

「で、波動砲はどうします? 長距離狙撃は他の班とコンセプトが被るのでNGです」

「波動砲単体ではなく、R-9Bのコンセプトの中で話すべきでは?」

「長距離巡航機としての波動砲か。運動性なら速射性だし、防御面については……どうしようもないな」

「ん?」

 

 

装甲が紙なのはR機の宿命だが、装甲=防御ではないのではないか。

という、考えをスタークルは閃いた。

 

 

「バリア……はダメですか?」

「バリア? ビットやフォースはその長距離狙撃型の物を使いまわすということになったのでは?」

「いえ、バリアです。強いエネルギーは障壁として機能するのは周知の通りです。

形状は検討すべきと思いますが、それを導入するのはどうでしょう」

「試してみるのはアリかな」

 

 

そうして、検討事項にバリアの文字が並ぶことになる。

そして更に検討が続けられていく。

 

 

「防御は波動砲か実弾で考えるとして、攻撃面はどうするのだ? さすがにレールガンだけではな」

 

 

バリア波動砲の話が煮詰まってきたのを確認して、アドマイヤー大尉が別の話題を問いかける。

それに答えたのは、バータレック技師だった。

 

 

「攻撃性能、ミサイルは如何ですか?」

「そもそもR機にはミサイル標準搭載ですよ」

「いえ、アトミックミサイルです」

「原爆って、コストと破壊力を考えると余り意味の無い選択のような」

「純粋水爆ですよ。基本的に純粋水爆の臨界に必要な制御と計算を司るコンピュータが非常に大きく、

高価であるので機載が不可とされてきたのです。

オフレコでお願いしたいのですが、わが社では、これらを可能とする基盤とプログラムが研究されています。

軍の開発局とさえ連携できれば、これでR機に積める水爆ミサイルを作れます」

 

 

怪しい笑みを浮かべたバータレック技師がスタークルとアドマイヤー大尉に提案する。

アドマイヤー大尉は民間が軍に知られずに、強力な兵器技術を持っていることに目を細め、

スタークルはどこの秘密結社だよと、自分達のことを棚にあげてあきれていた。

 

 

こうして、第一回R-9B開発会議が幕を閉じた。

 

 

***

 

 

数ヵ月後、各所に戻って情報やら基礎実験やらを繰り返し、データを持ち寄った3人が居た。

 

 

「先ずは、軍開発局から説明させてもらう。巡航視察艇の高圧縮エネルギータンクを改造した。

これによりオーダー分のエネルギーをまかなうことが出来る。コレがデータだ。

デ・ハミルトン社との共同研究についてはバータレックに任せる」

 

 

アドマイヤー大尉が説明しながら示した書類にはR機の倍はあったエネルギータンク(増漕)が小型化されていた。

ギリギリR機として見られる程度の大きさに収まる。

他の二人は納得顔で頷く。

 

 

「では、次は私バータレックから報告します。わが社では軍と共同で小型水爆ミサイルの研究を進めました。

水爆ミサイル、“試作型バルムンク”は全長15mにまで縮小されました。

もう少しシェイプアップの可能と思いますし、現状でもギリギリ搭載可能な大きさでしょう。

その他航行関係のシステムチップの改良を行いまして、これは目標を達成しております」

 

 

今度はR機並みに巨大なミサイルが、表示される。

巨大すぎるが、今後の改良次第でもう少し小型化が見込めることが付け加えられている。

 

 

「Team R-TYPEスタークルです。機体フレーム、主機、推進系は改良が済みました。

ビット、フォースコンダクタは他機種のものを流用が可能なので、ディフェンシヴフォース搭載となります。

で、バリアについてはバリア波動砲として開発し……」

「「はぁ?」」

 

 

スタークルの発現に、他の二人からかなり強めの疑問符が投げかけられる。

R機の二大武装である波動砲とフォースのうち一つをバリアという消極的な兵器に回すのだ。

しかも、フォースにしてもデータを見る攻勢というよりは守勢に回るものに見える。

前代未聞のこの兵装に唖然とする、アドマイヤー大尉とバータレック技師。

そして、Team R-TYPE流のジョークだと思ったバータレック技師が半笑いのまま、スタークルに突っかかった。

 

 

「バリア波動砲とか、プッ、攻撃性能はどうするのです? まだ、実弾化したほうが使えるのでは? クスクス」

「……あ゛? 」

 

 

今度はスタークルが切れる番だった。

Team R-TYPEは研究者集団であり、すべからく自分の開発研究結果には自信を持っている。

それを嗤われるという事は、彼を怒らせるには十分で、普段、よく喋る二人にやり込められている分、

爆発も酷かった。

 

 

「基板屋は黙ってシステム構築だけしていろよ」

「基板屋? わが社のメインは基盤とシステム系ですが、それだけと思われては遺憾ですな」

 

 

その言葉を皮切りに、醜い罵りあいを開始するスタークルとバータレック技師。

暫く大人とは思えないような喧嘩が続くが、嫌気が差したアドマイヤー大尉が仲裁、というか評定にはいる。

 

 

「あーあーあー、二人ともそこまでだ。軍開発局としての意見だが、

長距離巡航機という当初の目的から見ればバリアが実弾化するのは、補給の観点から面白くない。

それなら波動砲として回数制限を取り払うべきだろう」

 

 

こういうときに私情を挟むと泥沼化することは目に見えているので、コンセプトを盾にとって、意見を述べる。

が、スタークルもバータレック技師もそんな気遣いを考慮する心の余裕は無かった。むしろ火種だった。

 

 

「おや、アドマイヤー大尉はTeam R-TYPEの肩を持たれるので?

しかし、その方針で行くならば、単発しか搭載できないバルムンクも無理ですなぁ。

アレはサイロが必要ですし、実弾です。まさかバルムンクも取り払うのですか?

生存性を高めたR機だとしても、決定力不足ではバイドに囲まれて鉄の棺桶になること請け合いです」

「いや、バルムンクは是非とも欲しいのだが……」

「ふん、基板屋さんは視野が狭い。

バリアの発現基部は非常にエネルギーが高い状態となるので、攻撃にも使えますよ」

 

 

勝手にヒートアップしていく二人を見やるアドマイヤー大尉。

ココで二人と無理やりでも仲裁しなかったことを彼は悔やむことになる。

 

 

後日、デ・ハミルトン社は当初の規約通り、基板や開発済みのシステムはR-9Bに搭載したが、

それ以上のかかわりは無用とばかりに、担当者も変わりその後の研究には超消極的参加となった。

 

 

***

 

 

R-9Bストライダー

バリア波動砲コンダクタ、通常型ミサイル、バルカン搭載。

フォースは防御性能優先のディフェンシヴフォースに決定した。

無補給での長距離巡航が可能。

だが、雑魚バイドを蹴散らすには小回りが利かず、

大型バイド相手には至近距離波動砲砲撃を行うという。

9ナンバーの皮を被った狂気の機体だった。

 

 

デ・ハミルトン社本社で、R-9B完成の報を聞いたバータレック技師は人事のように一言だけ述べたという。

 

 

「とんだ変態機ですな!」

 

 



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R-9B2“STAYER”

・R-9B2“STAYER”

 

 

 

 

バリア波動砲という防衛兵器を搭載したR-9Bストライダーであったが、

他の機体と隊伍を組んでの防衛戦には強いが、

単機での戦闘は“お察しください”と言わざるを得ない性能。

そんな中で長距離任務などまともにできるわけが無い。

長距離移動では他のR機が付いてこられないのだ。

長距離任務を達成するには飽和的にバリア波動砲を展開し、

そのままバリアと通常ミサイルで押しつぶすといった、

バリアやR機の本来の意義を疑う戦術を取ることになる。

 

 

そんなイロモノ機をどうにかするため、検討会議が開かれることになった。

一度でもR-9Bストライダーの現状を見れば全員が諦めろと言う所だが、

軍事関係者にとって未だ長距離巡航機は諦め難かった。

それだけ戦場にばら撒くPOWアーマーが負担だったのだ。

しかし、軍開発局代表とTeam R-TYPE代表という二者での話し合いのなかで

(デ・ハミルトン社は部品提供に留まりたいとして参加を辞退した)

まともに検討が進むはずが無かった。

 

 

「軍としては決定力を維持したまま長距離無補給運用が出来る機体を望んでいる」

「R-9Bストライダーはその条件をクリアしています。

POWアーマーの随伴なしでの航続距離は他のR機に比べて群を抜いており、仕様通りの性能です。

デフェンシヴフォースはレーザー発射時のエネルギー消費が少なくこの場合適切だと判断します。

生存性という意味では、波動砲による防御が可能で、

また攻撃面においてもバリア波動砲の瞬間最高威力は……」

「分った! ストライダーの話はもう良い。

これから開発する新規機体性能を改善する議論をするべきだ!」

 

 

実際の成績を重視する軍と技術を重視するTeam R-TYPEの溝は深かった。

なぜなら軍は実際の惨状を見て失敗と判断し、Team R-TYPEは新しい発見に成功と判断しているからだ。

噛みあわない議論の中、議論は横道にそれ続け、

何故か、武装関連はTeam R-TYPE、その他は軍(+一部デ・ハミルトン社)で開発して、

くっつけるという謎の事態となった。

 

 

「R-9Bの用途として、どのみち集中運用が決定事項なら、レーザー砲台として使えば良い。

その上で致命的な事項は、大気中での不安定さだ。

長距離鎮圧任務の多くは外縁惑星や宇宙基地戦での露払いだから、

大気中では機体性能が70%程度とあるのを、100%にするだけで、単純計算で1.5倍の戦力となる。

B系列の改良としては、バリアの強化と大気圏運用型とするのはどうか?」

 

 

会議にうんざりした誰かの発言したこの言葉は、

明らかに本来の問題を無視しており、偏った機体になるのが開発前から分るような発言だった。

 

 

***

 

 

会議から数週間後、

Team R-TYPEのスタークルと軍開発局のアドマイヤーの二人が月面基地で再開していた。

 

 

「アドマイヤー技術大尉。またよろしくお願いします」

「R-9B系列の開発担当とはあまり嬉しくないが、今度も頼む。スタークル研究員」

「あれ、バータレック技師は?」

「デ・ハミルトン社は今回、限定的技術供与に留まることになったからな」

 

 

Team R-TYPEのスタークルと軍開発局のアドマイヤーが再びチームを組んで、開発を行うこととなった。

ただし、今回は共同開発というよりはそれぞれの部門の改良という言葉が正しいような案件となったが。

が、バータレックが来なかったのはそれだけではないだろう。

 

 

「この性能要求書おかしくないですか? バリア波動砲改良型に大気圏任務遂行性能の付与って、

軍部はバリアを嫌っていたような……いえ、別に我々Team R-TYPEはいいんですけど」

「おかしい。私も掛け合ったが、上層部の判断で決まった事として突っぱねられた。

私も技術士官といえども軍人だから、上の決定には従うことにするさ」

「じゃあ、我々Team R-TYPEは武装だから波動砲の改良ですね」

「またバリアか……いや、開発局では機体フレームの改良を考える」

 

 

こうして、数々の議論の妥協と末端の暴走の末、R-9B2の開発が始まることとなった。

 

 

***

 

 

月面基地のTeam R-TYPE研究分室でスタークルが実験結果と睨めっこしていると、

アドマイヤーが訪ねてきた。

 

 

「波動砲の方向性なのだが、それで行くのか?」

「ええ、防御と攻撃を両立できる波動砲ですから」

「堅さもだが継続時間が長いほうが助かるのだが……」

「バリアの顕現時間は、攻撃力に関与しないので優先順位はかなり下ですね。

開発費や期間に余裕があるなら、といったところです」

 

 

こうして、R-9B2の開発が始まった。

バリアは出力の問題が殆どなので簡易に改良できる見込みが付いたのだが、

難問だったのが、大気圏運用型という項目だった。軍開発局員であるアドマイヤーの分担部であるが、

行き詰った感のあるアドマイヤーはTeam R-TYPEからスタークルを呼び、二人で検討をすることとした。

 

 

「惑星内航行能力に難があるのは、システムが宇宙空間に最適化されている所為ですね。

その他細かい部品も宇宙用で空気抵抗をあまり考えていません。ザイオング慣性制御システムの恩恵で、

惑星上でも重力は無視できるし、空気抵抗もかなり弱められますが、抵抗の完全無視はできませんから」

「機体に大気圏内用の整流ウイングを付けて安定させるか。機体重量が増えそうだな」

「宇宙空間においては完全なデッドウエイトですからね。それより、航行システムはどうします?

デ・ハミルトンで担当したところですよ。弄くっても良いならTeam R-TYPEでやっても良いですが」

 

 

アドマイヤーは少し考えて一つの決定を下した。

 

 

「これもアフターサービスの一環だ。バータレックを呼び出そう」

 

 

デ・ハミルトン社の所有する宇宙研究施設の一つで、別途軍部の支援を受けながら

未だに核ミサイルの研究を行っていたバータレック技師が呼び出されることになった。

前回R-9B開発では開発内容での意見の相違から、喧嘩別れに終わっただけに、

シャトルから降りて来たバータレックの顔は不機嫌そうに歪んでおり、

スタークルとアドマイヤーの顔を見るなり皮肉を吐いた。

 

 

「お久しぶりですね、お二人とも。R機開発に長けたTeam R-TYPEや開発局では、

我社の技術など必要にはなさらないとばかり思っていましたが?」

「……その節はお世話に」

「社交辞令は結構」

 

 

ミサイル兵器開発中に無理やり呼び出されたバータレックはかなりお冠の様で、

前回彼と喧嘩をしているスタークルは萎縮気味だ。

 

 

「R-9Bの航行システムに穴が見つかった。デ・ハミルトンとしてもアフターサービスは必要だろう?」

「システムに穴? 航行効率15%アップを達成していたのはあなた達も確認したでしょう」

「だが、宇宙空間特化のため大気中での安定性が非常に悪く、惑星上では燃費が悪くなる」

「少々、特殊ケース過ぎやしませんか」

 

 

強気に出るアドマイヤーに、軍という権力の看板は便利だとスタークルは感心していた。

二人の会話をぼーっと聞いていると、アドマイヤーが「お前も何とか言え」と目線で話しかけてきたので、

スタークルはおずおずと、フォローらしきものを口に出す。

 

 

「その、R機は全状況型の戦闘機ですからね。水中は制限がかかっても仕方ないですが、

Team R-TYPEでは大気中、ワープ空間中もほぼ同等の機動性が出るよう考慮します」

「……ほう、私の手落ちだとおっしゃる?」

「そこまでは」

 

 

気弱なスタークルは押され気味だが、技術者としてのプライドを刺激されて

バータレックが食いついたと見たアドマイヤーが餌をぶら下げる。

 

 

「バータレック技師。

知ってのとおり軍開発局のメインは艦艇開発なのだが、そちらには私の友人の技術士官がいるのだ」

「……それで?」

「純粋水爆ミサイル開発には資金がいるし、水爆ともなれば臨界前試験だって審査が厳しい。

だが、軍開発局のお墨付きがあれば、軍施設を使える上に起爆実験だって可能だ。

それに、ミサイル艦ならあの試作型のミサイル‘バルムンク’も運用できるのでは?」

「……いいでしょう。機体のデータをください。私がデータを持ち帰って航行システム改良します」

 

 

大人の会話を終えた二人が、にこやかな笑みを貼り付けた顔で握手していた。

 

 

***

 

 

アドマイヤー大尉が色々と伝手をたどって航空機メーカー、マクガイヤー社から

大気圏用ウイングにかんするデータを受け取り、色々試行錯誤をしては大気圏用に慣らした。

そのたびに「機体仕様が変えやがって、航行システムがまた作り直しだ」とバータレックが憤慨していたが、

軍開発局への口利きの威力は素晴らしく、文句を良いながらも素早い仕事をしてのけた。

 

 

バリア波動砲はチャージにさらに時間を掛けることで、燃費に影響を及ぼさない範囲で

威力の向上が可能になった。

バリアとなる擬似物理構造ブロックの最大発生数が増加しており、展開する前の、基部の攻撃力は更に上昇している。

 

 

こうして、R-9B2ステイヤーが完成した。

 

 

***

 

 

「そういえば、バータレック技師に言っていた件ですが。ミサイル艦に水爆ミサイルを積むのですか?」

「いや、現在就航しているニーズヘッグ級や、開発中のフレースベルグ級までは、

亜空間潜行してくるバイドに対抗する兵器を積み込むことになっている」

「え、それじゃあ、口利くって嘘じゃ……」

「駆逐艦は値段が安く、取り回しが良くて酷使されるから寿命も短い。必然的に新型の開発も早い。

あと10年もすれば新しい駆逐艦の開発も始まるさ。それにあのバルムンクが採用されるかはしらないが」

 

 

この後、アドマイヤーの仕組んだとおり、

‘バルムンク’を標準装備した新型ミサイル駆逐艦が少数配備されることになる。

 

 

 



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R-9B3“SLEIPNIR”

※R-TYPE TACTICSシリーズをプレイしていないと意味不明なネタがあるためちょっと補足


R-TYPE FINALにおいてR-9B系列はバリア波動砲を装備した航続距離延長型のR機として開発されたという設定です。
しかし、実際のゲームシステムでは長距離機設定による恩恵は殆ど無く、バリア波動砲も非常に使いづらいため、
一部の変態的技能を持ったプレイヤーを除いてネタ機と評価されてきました。

しかし、R-TYPE TACTICSシリーズにおいて爆撃機として再設定されると、
波動砲とフォースが無くなった代わりに、高性能迎撃型実弾兵装バリア弾と
単発高威力の水爆ミサイル‘バルムンク’が搭載され、主力級のR機となりました。
続くTAC2では、ちょっとした波動砲並みの威力のあったバルムンクが試作型として下方修正されますが、
相変わらず難易度を左右するほどのユニットとして活躍することになった。という経緯があります。
TAC界隈においてはR-9Bの存在意義=バルムンクと言われるほど、バルムンクのインパクトが強く、
一部プレイヤーの間で‘R-9Bバルムンク’と揶揄されることになります。
実際には互いに波動砲チャージが間に合わない初期接敵時に、優秀な盾としても機能します。
ただし、フォースに弱い。


・R-9B3“SLEIPNIR”

 

 

 

 

「今更、中距離型ですか?」

「らしいな。まったく上の考えることはよく分らん」

 

 

通信画面上で呆れた様な声を出すのは、

Team R-TYPEと軍開発局という垣根を越えていつの間にか良いコンビとなりつつある

スタークル研究員とアドマイヤー技術大尉だ。

両者を結びつけたのは間違いなくR-9B系列機であった。

 

 

「中距離なのはいい。ただ航続距離を絞って、はい中距離型ですとは出せないから、

何かしらオプションをつけないとならないな。波動砲はどうか?」

「難しいです。バリア波動砲はあれ以上の強度と展開時間を維持するのは現実的ではないですからね」

「バリア波動砲の限界ということか」

「まあ、ものは試です実験してみましょう」

 

 

スタークルがそう答えた。

簡単な打ち合わせをしたあと、互いの予備試験内容を確認し、

次回検討日と取り決めると、それぞれR-9B3の開発に向かって動き出した。

 

 

***

 

 

「結果から言うと、バリア波動砲Ⅲの開発はとても難しいでしょう」

「不可能を(常識、倫理その他すべてを捻じ曲げて)可能とするTeam R-TYPEの言葉とは思えないな」

「まあ、正確に言うなら“理論的には”可能でしたよ」

 

 

スタークルとアドマイヤーは月面基地ルナベース2で落ち合って、研究結果を持ち寄っていた。

半開放式の会議ブースだが、Team R-TYPE区画近くにあるため、周囲には白衣の人物が目立つ。

消音システムも完備されているので、大声を立てなければ聞かれることも無い。

スタークルは説明しながら、端末から画像データを取り出して投影しようとした。

 

 

ブースに備え付けられたディスプレイに大型の波動砲コンダクタを抱いたストライダーが映る。

バリア波動砲Ⅲβ版.試験機とテロップが入っている。まずは静止状態での発射実験のようだ。

 

 

ストライダーが黄色い光を放つ仮想ブロック構造体が波動の盾として宇宙空間上に並ぶ。

試験施設から投擲された大型通常ミサイルやR機程度の質量物の衝突にもビクともしない。

各種攻撃からストライダーを守りきり、展開からきっかり4秒後に、黄色い光のブロックが消失した。

 

 

「なんだ。出来ているじゃないか。コレではダメなのか」

「この実験動画には続きがあります」

 

 

アドマイヤーが喋っている間に、次の実験に映像は切り替わっていた。

下方に表示されているデータを見ると巡航速度で移動中の様だ。併走するR機からの映像だろう。

コンダクタに光が灯り、チャージ完了を示す閃光が瞬く。

次の瞬間、画面からストライダーが消えた。画面は何も無い宇宙空間を映したままだ。

 

 

「は?」

「ご覧の通りです」

「意味が分らん」

 

 

スタークルが映像を巻き戻し、今度は超スロー再生モードで映像をスタートした。

再び、チャージ完了と閃光。さっきより随分とゆっくりでじれったい。

そして、ストライダーが一分くらい掛けてバリア波動砲を発射すると、ゆっくりとバリアが展開してゆく。

そしてバリアが展開しきった瞬間、バリアが突如凄いスピードで後方に滑りストライダーに迫っていった。

直進するストライダーと、後方に流れるバリアの壁が接触すると、

そのままストライダーが縦に圧縮されて、バリアとともに画面後方に流れていった。

 

 

「……」

「このように硬度や展開時間はバリア波動砲Ⅱより延ばせるのですが、そうすると問題があるのです。

現行型のバリア波動砲及びそのⅡ型は、展開されたバリアと自機の距離を保つために、

空間座標ではなく、自機との距離にゆるく連動して展開されています。

まあ、相対距離が完全に決まっているわけではないので、バリアとの距離が常に一定というわけではありませんが。

で、これバリア波動砲Ⅱ以上の硬度や展開時間の延長を実現するためには、

絶対座標軸に固定しないとならなくなってしまうのです。そうすると……」

「バリア波動砲を撃った瞬間、自分で展開したバリアに突っ込んで自爆、と?」

「他の構造物と違って弾性が全くないですからね、見事に圧縮されます。

余りに圧縮率が高いので他の用途に利用できないか検討中です」

 

 

パイロットが乗ってなかったことを祈りながら、なんともいえない顔をして沈黙するアドマイヤー。

 

 

「よし、波動砲は諦めよう。他に改良点は……」

「フォースですかね。ディフェンシヴフォース改が候補ですが」

 

 

スタークルの提示した案に飛びつきかけたアドマイヤーだが、ふととある考えが頭を過ぎる。

かつて木星ラボで起きたフォース事故だ。半径3万mの空間を消滅させることもあるのだ。

フォース事故は巨大な実験施設が跡形も無く消え去るのだ。

厚さ数μmになってしまったテストパイロット一人で済む様な生ぬるい事故ではない。

 

 

「……事故はないだろうな」

「ディフェンシヴ改はD系列で実装済みですから大丈夫です」

 

 

アドマイヤーは「その実験で死人はでなかっただろうな」と聞かずにはいられなかった。

 

 

***

 

 

「結局、R-9B3の改良点はフォースと増漕外してシェイプアップしただけか」

「でも、軽量化で多少小回りは効くようになりましたし、レーザーの改良も出来ましたから」

「なんというか、開発者の端くれとして、コレを新型機として世に出すのは気が咎める」

「私としてはバリアの新しい利用法を考えられたので良いのですけれどね」

 

 

二人の前に佇むR-9B3スレイプニルは、ストライダー、ステイヤーからタンクを取り外し、

幾分すっきりとした形をしていた。

 

 

「POWアーマーから一回簡易補給を受ければ、木星まで航行可能ですし。

なんやかんやで要求と現実の機能の折り合いの付いたところではないですか?」

 

 

***

 

 

所変わってデ・ハミルトン社

バータレック技師は、R-9Bで喧嘩別れになり、

R-9B系列開発プロジェクトチームを外れた後も諦めてはいなかった。

軍とのコネを利用して、手に入れた試験用R-9BストライダーとR-9B2ステイヤー

(流石に民間企業への貸し出しのため、波動砲やフォース機構ははずされた)

を改造して、水爆ミサイル‘バルムンク’の搭載試験機を研究していたのだ。

試作型バルムンクを搭載したストライダーとステイヤーは、対バイド戦術の研究に使われた。

核兵器単体ではバイド素子を効果的に破壊することは難しいとされていたためだ。

 

 

数年の研究の後に研究は実ることとなる。

より強力になった「実戦配備型」のバルムンクを搭載したことにより、

バイドの依り代となる物質を周囲から完全に消し去ることに成功した。

そして、ミサイル起爆時に少量の波動エネルギーを放出する仕組みを取り付け、

丸裸となったバイド素子を消し去るという兵器になった。

 

 

POWアーマーと組み合わせて運用し、

水爆ミサイル‘バルムンク’を乱射する凶悪な機体に仕上がることになる。

水爆による飽和攻撃という前世紀の悪夢的な光景が見られるようになる。

しかし、元来の兵站の負担を減らすという構想に真っ向から喧嘩を売る仕様になったため、

バルムンク搭載型のR-9B系列機は、局所的なマイナーモデルに収束していった。

 



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R-9F“ANDROMALIUS”

R-9F“ANDROMALIUS”

 

 

 

R機の特徴といえば色々あるが、武装面では波動砲とフォースに集約される。

波動砲はその波動エネルギーの取りまわしやすさから、非常に多くの傍流を生みだした。

だが、フォースには暴走事故や、バイド汚染などの危険があるため、波動砲ほどには改良が早くはない。

何せ、一回の事故で基地が丸々吹き飛ぶのだ。完全に。

なので、フォース開発はバイド研究と機器開発のできるTeam R-TYPEの専門となるのだ。

政府や軍はTeam R-TYPEに技術を独占させておくのは危険だと思いつつも、任せるしかない。

予算などの首輪を付けて飼いならすしかないのだった。

 

 

「で、できたのがこのアンドロマリウスという訳ですね」

「ええ、そうだね。こんなナリだけどR機の歴史上重要な機体だよ」

「ええ、最初期のR機ですし、R’s MUSEUMで、特に前面に押し出すのにはちょうどいいでしょう。

でも、この仕様書の説明をそのまま文章化するわけにはいかないですね」

「そこは君達広報課の仕事だろう。そう言えば奥さんは元気かね?」

「……ええ、お陰様で身体の方もぼちぼちです」

「それは君が苦労かけすぎたからだろう。まあ、独身貴族である私には縁の無い話だがね」

 

 

白衣の壮年男性とチノパンにポロシャツという自由業的な格好をした男が話している。

ちなみに、両方ともTeam R-TYPEの職員ではある。

白衣の方は古株の研究員のリネット、暫定自由業の方はTeam R-TYPE広報課の担当者ロジェだ。

二人が話しているこの広大なフロアは、Team R-TYPE主催のレジャー施設であるR’s MUSEUMである。

と、言っても未だ建築中であるが。

 

 

「ところで、閉鎖的なウチ(Team R-TYPE)がよくこんな施設の建築を許しましたね。しかも発案は開発課からでしょう?」

「ロジェ、それについても誤解があると思うのだが、我々は閉鎖的なのではなくて、外に興味がないだけだよ」

「基本的にオタクの集まりですからね」

「オタクだけという訳ではないよ。権威主義者もいる事にはいるが、能力が伴っていないと消える。

つまり組織の自浄作用が働いた結果、能力があって秘密を守れる人間だけが残ったという事だ」

「それ、自浄作用って言わないです。というか現在進行形で人体実験している組織が言わないで下さい」

 

 

R機の研究は異様に深く広がっていて、この世界に足を踏み入れたら他の物は見えない。

そういう人物しか馴染めない組織なのだが、例外的に広報課や総務課などは研究者以外の事務職であるため、

Team R-TYPEの大多数を占める開発課とは、人種が隔絶しているのだ。

そんな考えに沈みかけていたロジェは考えを振り払う。

 

 

「おっと、いい加減広報課の仕事をしないと、人事部に次にどこ飛ばされるか分からないですね。

アンドロマリウスはこの展示エリアの顔として特に詳しい説明を入れますので、開発エピソードとかを聞かせてください」

「ふむ、始まりのR機アローヘッド以降、R機は幾重にも枝分かれして進化していったのだが、

フォースもスタンダード以外の道を探し始めた。で、その際にフォース実験機となったのがR-9Fアンドロマリウスだ」

「アンドロマリウス、ソロモンの悪魔ですね。R-9Fはフォース実験機専門として開発されたという事でよろしいですね」

「いやむしろ結果論だな。R-9の基礎フレームを使って、フォーステスト用に使いやすいように改良していたら、ああなったんだ」

「実験用機が格上げされたのですね。それで、工事中みたいな色なのですね」

 

 

ロジェはオレンジに白いラインという目立つ色を思い出して言った。非常に宇宙空間では目立つ色だ。

そして、メモを取りながら、「ほう」「なるほど」「それから?」など適度に相槌を打ってリネットの話を促す。

 

 

「では、あの特色のある腕は何時ごろ取りつけられたのですか? リネット研究員」

「コントロールアームかね。実験中のフォースというのはともかく暴走事故を引き起こしやすくてね。

小規模暴走でも基地を半壊させる。なので、フォースのコントロールロッドとは別に機体側に、

制御機構を取りつけようと言って付いたのがコントロールアームだ。つまり暴走抑制機構さ」

「R機に常設するという意見はなされなかったのですか?」

「ああ、テスト機専用だな。当初は暴走抑制だったのだが、次第に改良されていってな。

まず、研究の都合でフォースの付け変えに対応できるように前後への稼働が可能になった。

そして、次に色々遊……テストしているうちに、個別のフォースが作られてな」

「ロッドレスフォースですね。コントロールロッドを持たない特異なフォースでしたか」

 

 

広報課の男がちらりと資料を見ると、まんまるなフォースに杭を打ったようなシルエットをした奇妙なフォース。

ロジェは上から資料を持ち逃げしないと信用されているので、一部、機密度の低い資料を見られるのだ。

本人としては非常に不本意な事だが。

 

 

「ロッドレスというけど、ロッドがないのではなくて、埋め込み式の物があるし、大本は機体側についているだけだよ。

当時は新しいR機の可能性を見出そうと、皆躍起になっていてね。で、レーザー関連の機能をいっぱい付けようとしたんだ。

そうしたら、まあ、余裕で通常のコントロールロッドを容量オーバーしてね。それで、コントロールアームに分割する事なった。

で、その最中に誰かが言ったのさ。これならフォースはロッドなしでいけるんじゃないか。って」

 

 

昔に思いはせているのか、リネットは完全にここでは無い何処かをみて言った。

それがこの老研究員の青春だったのだろうか。とロジェは生温い笑顔を浮かべた。

若い時分やんちゃして暴れまわっていた自分とは偉い違いだ。そのお陰でこんなブラックな職に就くことになってしまった。

やたらと変な方向に向かう考えを振り棄てて、ロジェはリネットに次の質問を発する。

 

 

「それが本当なら、各種レーザーへのエネルギー受容体やエネルギー変換機構は機体側にあるのですよね?

機体側のアーム換装でいくらでもレーザーを変更できるということでは? 一般に普及しなかったのですか」

「いやいや、そうは問屋が卸さない。非接触型のアームではレーザー出力も小さくならざるを得ない、

この資料の通り、各種レーザーの出力は小さい。そして、何より暴走問題があったからね」

「? アームが暴走制御をするのでは?」

「君は各基地や艦隊でフォースがどうやって保管されているのか知らないのか?

バイド汚染の見地から、機体から引き離されて別途保管される。で、ロッドレスフォースの制御機構はどこにある?」

「……機体側です」

「そう、フォース側にあるのは機能のごく一部だからな。

分けて保存されて不安定になったロッドレスフォースは時限爆弾の様に暴走するっていう懸念……

そう懸念があったため、R-9Fとロッドレスフォースはテスト用以上の機体、フォースにはなりえなかったのさ」

 

 

確かに戦艦であろうと、腹の中でフォース事故を起こされたら助かるはずもない。

このフォーステスト機はTeam R-TYPE以外ではまともに動かないだろう。

 

 

「ええと、とりあえず紹介文では暴走だとかのところを省いて、フォース開発に貢献した事だけ書きましょう。

で、ですね例えで、どんな機体の発展にもっとも貢献したのか知りたいのですが」

「まあ、RX-10アルバトロスとテンタクルフォースだろうね。スネイルRAYの攻防一体の比較的強いレーザーだ。

フレキシブルフォースにも継承されているし、その大本になった触手レーザー試作タイプの功績は大きい」

「触手って……ここの施設は子供の入場も予定しているのですが。むしろ子供にR機の素晴らしき歴史を教える事が目的です」

「唯の明確な比喩として名称にしただけだ。君といい軍部の奴らといい、なぜ触手という単語にこだわるのか。

スネイルなんて名前に変更させられるし、触手なんて唯の無脊椎動物に付いている感覚器と手腕を兼ねた部位だろう。

君は腕とか目鼻なんて単語に欲情するのか!?」

「え、いえ、そのそうは感じませんが、その教育上あまりよろしくない単語は……」

「何がよろしくない単語だ。理科の教科書や解剖図には堂々と子宮や睾丸などの単語が乗っているぞ!」

「それはそうですけれど、そういう問題ではなく……」

 

 

グダグダと噛み合わない言葉のドッヂボールを続けた後、正式名称だからという研究者側の意見が通り、

“触手レーザー試作タイプ”の文字が堂々と武装欄に明示されることになった。

ロジェは開館後にこの機体の前で子供から、単語の意味を問われることになる哀れな父親を想像した。

自分で想像したその平和そうな光景にイラっとしてから、ロジェはインタビューを続ける。

その後も色々聞きだしていたが、締めに入る事にした。

 

 

「分かりました。ではこの聞き取りを元にデータ作成します……ことろで、これ、実践投入されていますか」

「いや、実験機と言っただろ」

「いえ、オフレコですから。昔、軍部の奴でこれが飛んでいるのを見たっていう噂があるのですよ」

「どこでそんな事……ああ、君はそういうのが得意だったな。まあいいだろう。実はな……」

 

 

男が語った事によると、

当所からフォース実験機としてTeam R-TYPEが運用していたR-9Fであるが、

やはりというか何というか、Team R-TYPEの必然として、武装化案が出たという。

時期的には第二次バイドミッションでバイドを打倒し、人類がつかの間の平和を手にした時代。

Team R-TYPEも余裕があったことから、何故かそんな無駄な案が秘密裏に実施されてしまった。

フォースにレーザーはともかく、調子に乗った彼らはミサイルサイロを増設し、あまつさえ波動砲さえ搭載した。

RX-10に積んでいた衝撃波動砲を無理矢理搭載したのだ。

そして、標的として廃棄寸前のPOWアーマーを放った異相次元で、R-9Fの試験運用が実施された……

 

 

「そのあと、どうしたのです?」

「まあ、その頃の地球圏にはバイドもいなかったし殆どのR-9Fが帰還したよ。ただ秘密作戦だからな。

戦艦や巡航艦なんて贅沢な迎えはない。普通の輸送艦に格納して、実験終了……になるはずだった」

「はずだった?」

「ああ、さっきも言っただろ。ロッドレスフォースは単体では制御が不完全だから、R-9Fからひきはなしてはいけないと」

「……フォースが暴走したのですか?」

「ああ、でもまあ中古輸送艦1隻とTeam R-TYPEで管理している試験機だからな。誤魔化しはいくらでもきいたがね」

「だから、ウチは周囲から危険物扱いされるのですよ」

 

 

ロジェは大いに呆れてそう言った。

政府機関に立ち入る際、警備に身分証明書を見せた途端、バイドを見る様な目をされる事など、日常茶飯事だ。

そういう対応には個人的に慣れているとは言え、これ以上事務に支障をきたしたくない。

 

 

「失敗は成功の父だ問題ない。しかし、ロジェ君。所属部署は違えど君はウチの職員だから言ってみたが、

外に漏らす様なことがあれば、君は実験室に人事異動だからね?」

「分かっていますよ。それに私がそんなことできない事はご承知でしょう?」

「ああ、分かっているなら良いんだよ」

 

 

***

 

 

Team R-TYPEには一部特殊な職員が居る。

犯罪者の内でも特に、経済犯罪やサイバー犯罪などで長期刑を宣告された受刑者、

いわゆるインテリ系犯罪者を職員として秘密裏に事務職採用しているのだ。

もちろん、業務に足る能力と向上心があり一定の弱点のあるものが選定されている。

彼らはTeam R-TYPEで勤務している内は身分が保障され、給料も支払われる。

だが、職業の自由は無く、Team R-TYPEに不利益を及ぼす行動を取れば即座に実験体として内部で処理される。

万が一、外に逃げられたとしても、犯罪者として登録してあるので、まともな人生はおくれない。

また、彼らの選定基準として、家族などの弱点を持ち、裏切れない性格の者が選ばれている。

かくして、Team R-TYPEは使い捨ての効き、守秘義務を守れるという矛盾する人材を確保していた。

 

 

だから、広報課の職員が過去に愉快犯的に軍のシステムにハッキングして機密情報を盗み見たり、

それがバレて終身刑を食らったりしていたとしても、

Team R-TYPEとしては、使い勝手の良い駒が手に入るだけで、比較的どうでもいいことだった。

 



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R-11A“FUTURE WORLD”


※第一次バイドミッション直後くらいの時間軸です。


R-11A“FUTURE WORLD”

 

 

 

 

未来世界というと、どういったものを思い浮かべるだろうか。

意外と世相に左右されるそれは、明るい世界だったり絶望的な世界だったりする。

バイドの侵攻を受けている現在、アンケートを取るならば、きっと、暗い未来予想図がメインになるだろう。

過去の時点、未来への希望が溢れていた時期には、滑稽無到ながら明るい未来を想像するものも多かった。

完全管理社会、温めると巨大化するピザ、自立型ロボット、チューリングテストをパスするAI……

 

 

しかし、圧倒的未来に生きるTeam R-TYPEの前には、未来世界など新機体の名称でしか無かった。

 

 

***

 

 

「辺境警備隊が何か寄こせって言っていますよ」

「ほっとけよ。俺たちはR-9を小型化するのに忙しいんだ」

「2人とも、手と頭を動かせ」

 

 

発言順にマチス、ターナー、エッシャーの三人だ。Team R-TYPEの研究員ではあるが、

メインの設計や研究には触れられない予備斑として、所属していた。

今の彼らのR-9の小型化とそのバリエーションモデルの構築。

これはR-9A2デルタの開発の余波であったが、彼らにはまだ知らされず、単に技術集積として研究している。

 

 

暫くして、一番年かさの班長エッシャーが小休止を提案すると、ターナーとマチスも賛同の意を示した。

そして、泥のように濃いコーヒーを飲みながらマチスが話す。

 

 

「なんか唯の技術集積のためにR機作るのも虚しいし、例の注文もあったから、

今研究している小型R機を辺境警備隊仕様として開発するのはどうだ?」

「えー、マチス先輩大丈夫ですか? 僕らR-9の開発時にも下受け的な作業しかしてないじゃないですか」

「馬鹿だなターナー。R-9は唯一の制式R機。つまりこれ以前に制式機開発に関わった奴は居ないんだよ」

「メインメンバーはR-8とかの頃から関わっているじゃないですか」

「あれは唯のテスト機だ。つまり、まだ、研究者層の厚くない今がチャンスなんだ」

 

 

マチスとターナーがそんな雑談をしているのをエッシャーが黙って聞いている。

班員2人が、口数の多くないリーダーが意外と行動派だと知るのは、翌日になってからだった。

 

 

***

 

 

味気ない研究室、最低限のものだけが置かれたそこには、エッシャーとマチス、ターナーが揃っていた。

 

 

「今日から我が斑で新R機の開発が始まることとなった。暫定的に9、10に続くR-11Aの開発番号が与えられるが、

先日の話にあったように、小型かつ旋回性に優れた機体であることを前提として、

信頼性を高めコストを下げるため、既存技術を使えるところは徹底的に使っていく。

また、武装警備隊でも使えるよう、武装は最低限とする。これによってコストも引き下げられる。

場合によっては新規制式R機の波動砲積み込みテストにも使用することがあるらしい」

 

 

いきなり、エッシャーから大事を告げられたマチスとターナーはポカンとしている。

今まで、日陰者扱いだったのが急に開発プロジェクトチームになったのだ。

 

 

「えっと、班長、俺の言ったこと、あれ、冗談半分だったんだけど……」

「私は他の研究者よりちょっと出遅れただけで、ここで終わるつもりはない。

マチスもターナーもやる気がないなら他の斑の奴に声かけるぞ」

「え、やりますやります」

「よろしい、では……」

 

 

方針を説明するエッシャーであったが、結局のところ小型化に集約されたため、

マチスとターナーはため息を付くことになった。

そして、意見が特にないことを確認したエッシャーはそのまま、武装案についての検討を開始した。

 

 

「波動砲は上の方がテスト用のを載せたいらしいから、こちらでは手をつけられないぞ。

フォースもだが、レーザーはこちらの言う物を搭載させてくれるらしい」

 

 

エッシャーがそう言うと、ターナーが意見を述べる。

 

 

「やっぱり、市街地戦用ってことで周囲に気遣った武装にしたいですよね。

というわけで、搭載するレーザーは細身にしましょうよ」

「それは良い考えだが、いざ面的な攻撃をかけなければならないとき大丈夫か?」

「マチス、心配は無用だ。

トリガーは増やすと操縦が煩雑になるから、速度スロットルか何かに連動すればいい」

 

 

こうして、武装案が詰まって行き、武装案が確定する。

速度によって変化するレーザーというコンセプトを打ちだし、

速度によって径の変わる対空レーザー、打ち出し角の変わる反射レーザーと対地レーザーが採用された。

誘導ミサイルなどを組み入れられるようにサイロも設置することにし、R-11Aの全容が決まっていく。

日陰者の研究者達は半年をかけて形を作っていく事になった。

 

 

***

 

 

「班長、ボルトクラスターってなんですか?」

「上曰く、複合電磁射撃らしい。大推力のR-11Aに目を付けた武装研究班が作り上げた武装システムだ。

低速時に有り余るエネルギーを変換して、汎用武装であるレールガンを複数並列で駆動・制御し、

実弾を高密度、高速で打ちだし弾幕を形成するらしい。自動制御により単装よりも多少面制圧が効く……だそうだ」

 

 

最年少のターナーは、純粋な疑問として班長のエッシャーに問うのだが、回答は心なし歯切れが悪い。

だが、それには気付かず言葉を重ねるが、途中でマチスに窘められる。

 

 

「実弾を高密度高速で? 非常に面倒な上に回りくどい武装システムですね、それ。

R-11Aは高機動が売りの戦闘機なのだから。低速でその武装システムを使うより、

高速で動き回りながらレールガンを叩き込む方が有用ですし、正直レールガンでも手数間に合っていますよね。

威力の話ならいっそミサイルがありますし、そもそも射程が……」

「おい、俺もそう思うけど、あまり言ってやるなよターナー。

武装研究班といえば、レールガン開発後、分離した波動砲、

フォース、ミサイル研究班に美味しい処を食われ、既存兵器の改良に精を出そうとしたら、

今度はなまじレールガンが完璧なデキだったからやることなくなったんだ。

おそらく、レールガン関係で色々考えていたら、元の目的忘れたんだろ」

 

 

マチスにとって、自分達余り者的な予備班に近い境遇の武装開発班は、他人事ではない。

そんな、下から数えた方が早い組の、妙な連帯感は余所にして、

上層部の取りあえず予備実験機に何でも付けてみて、まとめて評価してみればいい、

というのが新規制式R機のコンペを控えた上創部の方針だったが、R-11Aがその被害に合うこととなった。

 

 

***

 

 

結局、役に立つのか分からない複合電磁射撃システム、ボルトクラスターをR-11Aの胴体に積み込み、

機体重量のバランスをなんとか取り終えた後にそれはやってきた。

 

 

「これが、衝撃波動砲(初期型)……」

「これR-11のフレームに組み込むにはでかすぎませんか?」

「スピードが犠牲になるが、まあ、重量制限には引っかからないだろう」

「いえ、マチス先輩、そうではなくて、この巨大な波動砲コンダクターはどこにつけましょう?

さすがにこの大きさではコックピット下には無理ですし、サイドはボルトクラスターで埋まってます」

 

 

ターナーのつっこみに黙ってしまうマチス。そして、暫くしてエッシャーが回答する。

 

 

「……よし、波動砲は背負わせよう」

 

 

あんまりだが、どうしようもない回答に黙って従う2人。

そして、ターナーが小声でマチスに言う。

 

 

「マチス先輩、圧縮炸裂波動砲って広域殲滅用ですよね。で、R-11って警備隊に渡す予定じゃないですか。

これ市街地上空とかで使ったら被害でませんか」

「それは……ほら、おまえ、あれだよ。バイド警報出たら即非難が義務だし避難しているだろ。多分」

 

 

半ば諦めた様な表情で適当に言うマチス。被害がでることなどマチスも分かってはいたのだが、

上からの指示ということで、あえて気が付かない振りをしていたのだ。

 

 

結局、無意味武装ボルトクラスターと、上からの圧力で当初の開発目的を無視したちぐはぐな武装を装備した

R-11Aフューチャーワールドは、未だバイドが蔓延る辺境警備隊に預けられ、現地検討されることとなった。

 

 

***

 

 

圧縮炸裂波動砲で小型バイドを打ち破りし、辺境施設周囲に群がるバイドを駆逐していくR機。

バイドミッションが終わっても辺境に居残るバイドを駆逐する辺境警備隊だった。

自らの街を守るべく、バイド浸食が始まった外壁を吹き飛ばし浸食を食い止めたり、

いつの間にか侵入した小型のバイドを討ち滅ぼしたりと、

小型で小回りの効くフューチャーワールドは都市部で八面六臂の活躍をした。

広範囲を巻き込む、圧縮炸裂波動砲はバイドを逃がさず、周囲の障害物ごと消し飛ばしていく。

今までバイドの侵攻に軍が対応するのを、指を銜えて見ていた彼らにとって、まさしく気分は未来世界の英雄だった。

 

 

だが、辺境都市内部から見ると様相は一変する。

どう見ても、見慣れぬ紫色のR機が都市を攻撃しているようにしか見えないのだ。

軍の英雄機R-9アローヘッドは目の醒めるような白色に赤い差し色の戦闘機だったはずだ。

バイドが機械を浸食して取り込むこともあるという。ならば都市を攻撃するあれは敵ではないか?

そう考えた、人々は紫色のR機から逃げまどった。

この掃討戦が終わった後、辺境都市のビルは中腹から抉られ、倒壊しているものも多く、廃墟のような有様だった。

フューチャーワールドは破壊の限りを尽くすR機として恐れられていた。

 

 

***

 

 

「マチス、ターナー、R-11A系列は計画を一時凍結されるらしい。今ある分は工廠に戻されて武装改修を行うらしい」

「改修型は辺境警備隊で制式採用……その辺境警備で被害拡大したんだろ、いいのかよ」

「あの都市はバイド汚染の可能性を鑑みて廃棄処分となったから、そこでの活動は考慮されない。

それに既存技術が多いことから信頼度は高いし、ボルトクラスターと波動砲は除いて、基本性能はかなり優秀だ。

R-9では入れないところまで入れるし、軍でも低コストの随伴機としての運用が検討されている」

 

 

そんな会話を最後に、波動砲装備型のR-11Aは実質消え去った。

そして、武装がレーザーのみになり更に重量が軽くなったR-11Aの辺境警備隊仕様(2式)は、

スピードを制限された状態で辺境都市の周囲を飛び回ることとなった。

 

 

R-11Aは都市部での波動砲などの武装と、軍以外の都市警備のあり方に疑問を投げかけた。

その後11A系列は直系の後継機の開発を計画凍結され、系列の名称をR-11Bに変更し、

改めて都市部でのR機運用を目指す流れになる。

 

 

しかし、この時期から辺境からもバイドが駆逐され、バイドの侵攻はパッタリとやんだ。

R-11Aが次に日の目を見るのはサタニックラプソディ 事件の時だった。

 

 




投稿期間が開いていたのは、予約投稿分が切れているのに気が付いていなかったからです。


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R-11B“PEACE MAKER”

※GALLOP前夜的な話です。ただしGALLOPはやりません


R-11B“PEACE MAKER”

 

 

 

 

薄暗い一室、椅子に座って何らかの動画を見ている良い歳の大人達。

照明を落としていた一角に明りが戻り、映写装置が停止すると、

R機の紹介PVが消えてのっぺりした商業ブースの壁が現れる。

痩せぎすのスーツの男が進み出て、観客達に告げた。

 

 

「こちらがTeam R-TYPEで作成した警察用R機R-11Bピースメイカーです。

ご覧になられた映像は、試験的に仮想空間の都市での戦闘を映像化したものです」

 

 

観客席にはスーツが多いが、明らかにガタイが良く目つきの鋭い客がいる。

軍人でよくいる何事にも無感動だったり、攻撃的であるタイプではなく、

ひたすらコツコツと裏から地固めをしていく性質だろう。

彼らは警察の人間だった。

 

 

ここで行われているのは警備用品の商談会場であり、

通常、一般警察の用いる小火器や通信機器類が展示される。

しかし、今回は少々空気が違った。

会場のブース半分を貸しきってとある展示物が展示されているのだ。

大きすぎて通常の搬入口からは入れられず、

会場の天井パネルをはずして搬入したそれはどう見てもR機だった。

しかも展示品の周囲を警戒する警備員らしき人間は、明らかに軍で使う様な物々しい装備をしている。

展示パネルにはR-11B“PEACE MAKER”書かれており、武装警察向けの機体である事が示されている。

 

 

展示品のR-11Bを横目で見た警察関係者が挙手をして、ブースの担当に質問をする。

 

 

「あのR-11Bだが、どう見ても軍用に見えるのだが、武装が強力過ぎるのではないかね」

「武装については警察現場の意見を取り入れた結果です。

軍基地から出たジャンクを改造して、一部簡単な武装を復元する犯罪者もいるそうですから」

 

 

そういってブースの担当は、装備を映し出し説明を始めた。

 

 

「このR-11Bの武装は3種あります。一つ目はレールガン。

名称通り実弾を電磁的に加速させ打ち出す兵器です。

これはR機の武装として長い技術集積があり、もっとも信頼性が高い兵器です」

 

 

基礎武装のレールガンといえど、強化されていないビル位なら簡単に破壊できる威力を持つ。

画面で近距離撃から舗装道路や建築物を破壊するR-11Bを見て顔を顰める警察関係者。

その画像が終わると、画面が再び切り替わりミサイルサイロが映される。

 

 

「2つ目の武装はミサイルですが、市街地での運用を考えて誘導ミサイルを標準としています。

ただし、有事の際に殲滅力を上げるため誘爆ミサイルも搭載可能となっております」

 

 

確かに目標に向けて誘導はされているが、目標ごと周囲をなぎ倒すミサイルに、呆れ顔さえ見られる。

誘爆ミサイルでの試験映像に至っては「市街地を爆撃するのかよ」という呟きが聞こえた。

そんなことは日常茶飯事なので担当者は無視して言葉を続ける。

 

 

「最後ですが、一番の目玉であるロックオン波動砲です。

この波動砲は敵を機体コンピュータで自動的に補足、ロックオンしビーム状の波動砲を照射します。

基本的に外れる事はあり得ませんし、敵との間に非破壊障害物があれば自動的にロックオンが外されますので、 

市街地で、異動目標を撃墜するのに役立つはずです。ご覧の映像では軍用出力で射撃しておりますが、

リミッターを付ける事で、警察様に威力を下げることも可能です」

 

 

青い波動砲が敵の移動先を先読みして見越し射撃しながら撃ち落としていく芸当には、

今までかなり引き気味だった警察関係者がほう、と溜息を洩らした。

周囲の観客がこの機体に引き込まれた事を確認してブース担当は説明を終了する。

 

 

「以上が、Team R-TYPEプレゼンツ、警察用R機R-11Bピースメイカーの説明になります。

これ以降は質疑応答の時間とさせていただきます。ご質問があるかたは挙手をお願いします」

 

 

何のかんので、バラバラと上がる腕が警察関係者のR-11Bに対する興味の高さを示していた。

 

 

***

 

 

「市街地で使う武装にしては威力が高すぎる。波動砲のように他の武装も威力を制限できないか?」

「ミサイルにつきましては誘導性の高いモノを選択することで被害を限定することができます。

レールガンにつきましては、正直ダウングレードはお勧めしません。何故ならばこれは完全規格化された武装であり、

無理なダウングレードは技術集積による信頼性を損ねる恐れがあります」

「具体的には?」

「集弾性や精度の低下です」

「……わかりました」

 

 

若い男性が終わった後に挙手したのは目つきの鋭い男だ。

 

 

「R-11Aを導入した辺境警備隊では情報操作が為された形跡があったが、R-11シリーズには何か問題があるのではないか?」

「いいえ、R-11Aが問題を起こしたという事実はありません。ただ、初期型に搭載されていた圧縮炸裂波動砲について、

居住区の近くで使用すると事故を起こす可能性があるので、オミットされた経緯があります。

そのあたりの噂に尾ひれが付いたのでしょう。何れR-11A、R-11B共に小回り加速性能共に優秀です」

「……そうですか」

 

 

明らかにブース担当の発言を信じていないが、目つきの鋭い男は引き下がった。

正面からでは捜査できないTeam R-TYPEについて何かを調べている刑事は多くいる。

おそらく、質問者は権力に屈することを嫌っており、単独捜査を行う性質の男なのだろう。

痩せぎすの担当者は、刑事の質問を牽制しながら煙に巻く。

Team R-TYPE側が一応形だけでも情報を出した形になるので、これ以上追求できない刑事は悔しそうな顔をしていた。

そして、今度は明らかに高位に位置するであろう老齢の男性が勿体ぶって話す。

 

 

「しかし、R機というのはどう考えても軍事兵器を連想する。警察で使うには物々しすぎるのではなか」

「物々しいですか……では対外的には適当に名前を変えれば良いでしょう。

そうですね。警察ですし少し硬めにArmed Police Unit、武装警察機とでもすれば良いでしょう。

愛称が必要なら、課内ではパトロールスピナーなんて呼称されていましたよ」

 

 

質疑応答が続きながらも、段々とR-11Bの制式採用に向かって議論が進んでいく会場。

第一次バイドミッションの影響も未だ色濃く、武力行使権限の殆どを軍に握られている警察は独自の武器が欲しかったのだ。

少なくともデモ鎮圧や暴走族相手に軍の出動を乞うなど、警察関係者としては耐えられない事である。

そして、最悪バイドの様な外敵から市民を逃がす時間を稼ぐ力が必要だった。

 

 

結局、数ヵ月後には各所の警察組織では武装警察という部署が作られ、

R-11Bピースメイカーが、制式採用されることとなった。

 

 

***

 

 

夕時、帰路につく人々は突然の耳鳴りの様な音に、夕闇の空を見上げる。

足早に通りを歩いていた人々は、一瞬嫌な顔をして立ち止まると、またかという顔をして、そそくさと脇道に入っていった。

それは、都市用の公共交通システムの重力制御装置が、別のザイオングシステムと相互干渉する異音であった。

ビルの隙間を縫うように飛ぶ非合法機体が見えると、通りにいた人々が身をかがめて、耳を塞ぐ。吹き飛ばされないようにだ。

その真上を、作業艇を改造して宇宙用のスラスターを無理矢理付けた様な歪な乗り物が蛇行しながら飛び抜けていく。

 

 

都市内において一般人のザイオング慣性制御システム利用は禁じられており、破れば厳罰がくだるが、

低反動エアバイクや民間用作業艇に無理矢理、裏から流出したザイオングシステムを取り付けた機体で、

町を暴走するのが、今も昔も変わらない若者の間での流行だった。

 

 

少年達がジャンク品の部品を思い思いに組上げ、速度だけは一流のエアバイクを作る。

自分達の力を誇示するように街中で暴走させ、あまつさえ、犯罪まがいの事まで手をだす。

都市の住民も、今まで馬鹿にされてきた所轄警察もいい加減限界だった。

 

 

今日も、頭の悪そうな塗装を施したそれは安全性皆無で騒音をまき散らしている。

ねじ曲がった青春発露を嫌う都市の住民たちが、地元の警察に通報すると、

所轄署は、今までの恨みを晴らすべく、とある部署に一報をいれた。

凶悪犯を待ち草臥れていた彼らは直ぐにやって来た。

 

 

白に赤色パトライトの警察色は踏襲しつつも、今までの警察装備とは一線を画す10m弱の小型R機。

青いコックピットの下にはウイングが付いており、旋回性を高めてある事が窺える。

側面に大きく“POLICE”の文字がペイントされ、赤色回転灯が周囲を威嚇する機体。

武装警備隊のR-11Bピースメイカーだ。

パーツを寄せ集めた少年達の乗るエアバイクと違い、純正ザイオング慣性制御システムが静かな低い音を立てている。

一部軍事仕様を凌駕するその推力にはとてもジャンクエアバイクなどでは太刀打ちできない。

 

 

無法者を気取っている怖いもの知らずの少年たちでも、流石に軍用の機関を持ったR機に、

ジャンク品違法エアバイクで正面から立ち向かおうとは思わないのか、脱兎の如く逃げ出した。

ピースメイカーの搭乗員はそれを確認してすぐに、指揮車に通信を送る。

 

 

『こちらスピナー1号機から指揮車へ、都市隔壁を閉じてくれ、所定のエリアに追い込む』

『指揮車了解。ルート23~26、33~39までのバイド迎撃用隔壁を閉鎖した』

『スピナー1号機了解、再開発予定エリアに追い込む』

 

 

通信が終わらない内に、ピースメイカーは急加速しながら疾走し、先回りする。

目立つカラーリングと回転灯は威嚇効果抜群で、ピースメイカーを見ると暴走少年達は進路を変えて逃げる。

包囲網の外に出さない様に隔壁を利用しながら回り込み、誘導を掛ける。目指すは人口密度の低い再開発区予定地だ。

 

 

ネズミを袋に追い込むように大体の誘導を掛け終わったスピナー1号機は、ビル壁面にそって垂直上昇する。

ビル街の真上から見ると、都市とそれをつなぐ通路は碁盤の目の様に広がって見える。

そして、非行少年達の進路を限定するようにバイド対策として取りつけられた都市隔壁が閉鎖されていく。

逃げることを優先する少年達は誘導されているとも知らずに、開発区としてビルが取り壊された工事エリアに向かっていく。

秘匿回線などまったく考慮されていない違法バンドの通信帯からは非行少年達の声が漏れてきた。

 

 

『おい、このチンカス野郎が! 何が今日は大丈夫だ。どう考えてもあのポリ公ども張ってやがったぞ』

『だれがチンカスだ、早漏! ありゃ、ここいらの腰ぬけ警察じゃなくて、武装ポリだ』

『ええ、R機ってあれ軍用だろ。まずいってまずいって』

『お前らウルせぇ。潰すぞ! いいから地下潜んぞ、工事現場から地下鉄の路線に入れ!』

 

 

武装警察隊のスピナー1号機搭乗員はコックピット内でほくそ笑む。

綺麗に罠に嵌ってくれた頭の足りない少年達だが、恐喝や数に頼んでの暴走行為など所轄署の手を焼かせる厄介者だ。

所轄署が追いつめても、街中や繁華街など人通りが多い場所で撒く手口で逃げ回っている。

今回は広域行政に強制力を以って介入し、防災設備までを使っての大捕物だ。万が一にも失敗はできない。

そろそろ、少年達は隔壁に誘導されて人気の少ない工場エリアに到達しそうだ。

スピナー1号機搭乗員はピースメイカーを駆って高層ビルの陰から一気にダイブし、非行少年達の退路を塞ぐ。

威圧感をだすため波動砲をチャージしながら、外部スピーカーで呼び掛ける。

 

 

『こちら、武装警察隊だ。ただちに武装解除しエンジンを切って降りてこい。此方の指示に下がわない場合は……』

 

 

全く効果があるとは思っていなかったが、少年達は逃げるどころか破れかぶれで向かってくるものも出る始末だ。

ピースメイカーは突っかかってくる2台を高速旋回で軽く避けると、

脱出口を切り開こうと地下鉄の工事口に向かっていた2台に狙いを定める。

ロックオンが瞬時に完了したことを確認して、先ほどからチャージしていた波動砲のトリガーを押し込む。

 

 

青白い波動砲は寸分狂わず、2台のエアバイクの推進部に直撃し、小爆発を起こさせる。

少年達の乗るエアバイクは勢いもそのまま地面に車体を擦りつけた。

初めに突っかかってきた2台がようやっと、ブレーキを掛けて旋回しようとしていた。

後ろを向いたままミサイルや波動砲でも攻撃可能だが、街中でのミサイル使用は色々内部的に制限があるし、

態々今から波動砲を再チャージするのも面倒である。

ピースメイカーはそのまま宙返りするように後ろを向くと、機首を合わせてレールガンを叩き込んだ。

軍用出力のレールガンは、装甲とも呼べないジャンク品の鉄板を容易に貫通し穴だらけにする。

搭乗員は余りの柔らかさに、一瞬コックピットを潰したかと危惧したが、繋ぎの甘いエアバイクはコックピット部が外れ、

回転しながら地面に数回衝突した後、転がった。

 

 

そんな事をしている内に、所轄署の物らしきパトカーや装甲車が次々と到着し、現場を取り囲んでいる。

すでにエアバイクは破壊済みだが、小火器を持っている可能性を考慮しているのか、

警官達はシールドに防弾チョッキという重装備で出てきた。

コックピットから引きずり出された少年達は、銃を構えた警官隊に囲まれてホールドアップしている。

 

歯ごたえが無い事が残念だった。もっとこのピースメイカーの性能を引き出す様な事件は無いものだろうか。

スピナー1号車の搭乗員は警察官として危ない事を考えていたが、指揮車の上司に聞かれなければ問題は無い。

ガンカメラでの成果を確認しながら、遅れてきた所轄署の警官達が少年達に手錠を嵌めるのを見ていた。

その時。

 

 

「なんだありゃ!?」

 

 

パトカーのドアに身体を押しつかられながら、手錠を掛けられていた少年の一人が空を見上げて叫んだ。

警官達は捻り上げている少年の腕を掴んだまま、空を見上げる。

 

 

空には流星雨の様な光の雨が降ってくる光景。

 

 

幻想的な光景に警官も少年達も皆空を見上げている。

しかし、流星雨にしては途中で燃え尽きることなく、星屑の様なモノは地上に到達していく。

だが、無機物である隕石であるなら落ちている途中で軌道を変える事などあり得ないし、減速もしない。

なんらかの意図を持ったそれは都市の……地球上の様々な場所に墜ちていった。

 

 

不意に怒声が上がる。

空を見上げて呆然としていた警官の腕をふりほどいた少年がひとり逃げたのだ。

痩身の非行少年は地下鉄の工事口に細い体をねじ込んで逃げる。

警官がすぐさま追うがは完全装備が災いして隙間を潜れず、簡単に撒かれてしまう。

所轄署員は慌てて応援を要請していたが、武装警察隊はそれどころではない空気を察していた。

きっと、これからが本当の任務だと。

 

 

***

 

 

その夜、空からは悪魔のタネが落ちてきた。

武装都市警察の夜はまだ更けない。

 




つ づ か な い


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R-11S“TROPICAL ANGEL”

R-11S“TROPICAL ANGEL”

 

 

 

かつて、デモンシード・クライシスという事件があった。

投下型局地殲滅ユニット“モリッツG”が暴走に端を発したサタニック・ラプソディ事件の裏で、

地球上の各所で戦車や砲台といった大型兵器が暴走しだした事件である。

モリッツGの鎮圧に手いっぱいであった軍は初期対応に遅れ、広域でのバイド汚染を引き起こしていた。

それを鎮圧するために動き出したのは、軍ではなく各都市に配備されていた武装警察隊であった。

武装警察隊はパトロールスピナーという愛称で呼ばれる警察用R機R-11B“PEACE MAKER”を駆り、

各街の防衛にあたったR-11B各機は空から降ってきたバイドの中継コアである巨大バイドを各個撃破することに成功する。

中継コアを破壊された事で、地上に降り注いだバイドはその活動をしだいに鎮静化しだし、

バイド汚染初期という事もあり、局所的な消毒のみで都市部からバイドを掃討することに成功した。

 

 

この二つの事件を機に水面下で新たなR機開発を開始した軍では、R-11Bの高機動、限定破壊能力に目を付けた。

が、時期悪くバイドの大規模侵攻が再び観測され、第二次バイドミッションが開始されてしまい、

多くのR機開発計画とともに一時計画を凍結される。

第二次バイドミッション後数年経った頃、再び高機動機の開発計画が持ち上がることになる。

ただし今回は警察用機ではなく軍用機としてであった。

 

 

***

 

 

真っ白に塗装されたR機がテストチャンバーに浮いている。R-11Bピースメイカーだ。

チャンバーに取り付けられた青いスタートランプが点灯すると、

前方より突風、と言うには生ぬるい風が吹きつけていた。

チャンバー内では2000km/hの風が吹き荒れている。

秒速に直せば500m/s以上という地球上ではありえない暴風だ。

暴風に曝され、ザイオング慣性制御システムを使用しても尚、前後左右に揺さぶられるR-11B。

テストされているR-11Bにはザイオングシステムが最低限しか作用していないため、風にひどく翻弄される。

大気中での運用を前提としているこの機体の再試験として、かなり無茶な風洞実験を受けていた。

 

 

テストチャンバーの外部に取り付けられた、青いランプが消え、停止を示す黄色のランプが点灯すると、

やっとテストチャンバーには平穏が戻ってきた。

内部にあったR-11Bは形状こそ変化は無いが、

表面には大気分子によって鑢かけされた様になって塗装が剥げている。

それを見ていた白衣の研究員達の声が実験室内に響く。

 

 

「うーん、大気内運用が前提でもやっぱりそのまま全環境での運用は無理があるかな」

「いや、ノナカ。ザイオングシステムを最低にして海王星並みの暴風で実験する君の実験に無理があるのではないか」

「でもさ、ハキム、そうしないと流石に班長のオーダーをクリアできないだろ」

 

 

ノナカと呼ばれた中肉中背の男と、ハキムという名の髭面の男が何事か話している。

白衣であることと、胸に付けている身分証明書、何よりここがTeam R-TYPEの試験設備であることが彼らの所属を示している。

ハキムが適当に慰めると、溜息をついたノナカが心配そうに言う。

 

 

「だってさ、班長も言ってたろ。軍用としても使うから汎用化しろって。宇宙空間は問題ない。

ワープ空間も次元安定装置と多少の改良でいいんだけど、極限状態では運用が難しいんだ」

「……一応、イオの超高温環境も冷却装置全開で何とかなるし、

海王星の様な強風もザイオング慣性制御システムを姿勢維持に半分以上回せば、

推力は落ちるが宇宙空間と変わりなく機動できるのではないか」

「まあ仕方ないか。これで一応報告してみるか。班長に怒られそうだな。ハキム、お前も道連れだからな」

 

 

肩を落として歩いく二人は、研究棟へと戻っていった。

 

 

***

 

 

「ハキム、ノナカ、この実験結果によるとR-11Bは極限状態では余り役には立たないと?」

 

 

頭を短く刈り込んだ男が資料を眺めながら言う。

より高みを目指す傾向のある暑苦しい男が、新たなR-11系列開発班の班長のレイジだ。

今回も、“都市運用を前提とした旋回性の向上”という命令を、

“全状況下での機動性の確保”を読み替えて実験を行っている。

その前には実験を終えたノナカとハキムが立っており、自分達のボスが難しい顔をしているのを見ていた。

 

 

「レイジさん、もともと民間用に設計していますし、そのままでは流石に無理ですよ。

あれの活動域は都市用、人間の生存環境内であることが想定されていますから」

「あと、R-11Bの驚異的な加速性能は、小型化と武装の軽さでもありますから軍用には向きません」

 

 

ノナカとハキムが、班長のレイジに補足する。

彼らは警察用としてベストヒットを飛ばしたR-11Bピースメイカーを軍用にすべく設置された班だった。

 

 

「それに、R-11Bは航続距離はともかく、作戦時間が短いですから」

「聞いたかハキム。なんか、通常出動でも制限時間付きだって言ってたぞ。

燃料の補給もあるから全状況型の指揮車を常に傍に置いて、帰還できるようにする必要があるって」

「あれは指揮“車”というよりは、輸送艦だがな。ヨルムンガント級輸送艦とは輸送量を比べるべくもないが」

 

 

ノナカ、ハキムが愚痴を言い始めた。

 

 

彼らは、R-11Bを改修型として軍で運用できないかという班長レイジの想定のもと実験したが、結果は散々だった。

R-11Bは加速能力や旋回性能から軍でも用いられているが、燃費が悪く、とても艦隊では使えない。

R-11Bが配属されているのは、基地内部の守備部隊が殆どだった。狭い通路では使い勝手が良い。

そんな機体をせめて艦隊運用に耐えるようにするのは、もはや改修ではなく新しい機体が必要であった。

そんな中、R-11Sの開発計画が立ちあがってしまう。

 

 

班長のレイジが言った。

 

 

「よし、R-11系列の後継機をつくるぞ。方針としては燃費の向上、武装強化とフォース対応化、

あとは旋回性と、何よりもスピードだ」

「レイジ班長。今でも旋回性と加速性能はトップクラスなのですが更に上げるのですか?」

「レイジさん、フォースって、フォース班がR-11B用に作っていた、アレですか」

「ハキム、R-11の存在意義は、1にスピード、2にスピード、3、4が無くて、5に旋回性だ。

フォースも、ノナカの言うフォースではなくて、更に改良するようにフォース班に発破をかけろ!

波動砲は、出力はそのままで良いからロックオン機構の強化を行う。制御系を強化しよう」

 

 

力の入った宣言をするレイジの脇でノナカが呟く

 

 

「あれ、上からの命令って、都市用だったような……」

 

 

しかし、ノナカの一言は機動性信仰に燃える班長レイジには聞こえなかった。

 

 

***

 

 

1ヶ月後、ノナカとハキムがザイオング慣性制御システムの洗い出しをした結果を相談していた。

 

 

「とりあえず、最新式のザイオングシステムを搭載すれば、出力4割増で、重量は2割落とせる」

「でもノナカ、以前の実験結果をみると、イオとか海王星は無いとしても結構出力を機体制御に取られる。

出力1.4倍だとスピードは大して伸びない。班長が認めるとは思えない」

「うーん、重量増加には目を瞑って、ザイオングシステムを並列で設置するか? 無理かな?」

「無理だ。流石に小型機にザイオング2機は無理だ」

「否定ばっかりするなよ。ハキム」

 

 

ノナカがうんざりした顔で言うと、ハキムが暫く考え込んでから言った。

 

 

「通常型のザイオングは並列不可だが、小型のザイオングシステムを二機は可能ではないか?」

「ありかな? ええと出力調整はロックオン機構の強化で制御系を増設するから可能。いけるか?」

「とりあえず、実験しよう」

「そうだな、とりあえず迷ったら実験だ」

 

 

2人は簡単に言うが、小型といえど、最新型の軍事用のザイオング制御システムである。

値段も張るし、そもそもその辺に転がっているものではない。

ノナカがTeam R-TYPEの基礎研究班に連絡し、小型のザイオング制御システムの手配を付け、

ハキムが施設課に実験申請を出す。

とりあえず、実験の手配を終え、ノナカとハキムが次の話題に移る。

 

 

「ハキム、波動砲は?」

「レイジ班長はあまり乗り気でない様だ。

基本的に攻撃力は問われない波動砲ではあるし、本体に手を加えることは無いだろう」

「そうだな。次の案件は……」

 

 

机の上ある端末を叩き、検討事項を呼び出すと、そこには“Force”の文字。

 

 

「ハキム、フォースだけどどうする?」

「班長の話では元々、フォース班がR-11Aに載せるようにフォースを作っていたから、その改良型を載せるらしい」

「じゃあ、そっちは任せておけば良いな」

「ギャロップフォースとか言うフォースで、加速度によりエネルギー分配を変えられるらしい」

 

 

フォースについて丸投げする気満々で話を流す2人。

しかし、ノナカが何かに気が付く。

 

 

「ハキム。忘れてたんだけど、フォースコントロールユニットにも重量取られるな」

「ああ、今度の機にはフォース付けると班長が言っていたな。なんでも、R機と言ったらフォースとか」

「重量オーバーは出力でカバーできるが、容量が気になる。R-11系列は小型機だから結構ギチギチだぞ」

「そこまで気にしなくても大丈夫かもしれない。レーザー用に付けていたエネルギー変換回路の大部分を取り外せる」

「ああ、確かに」

 

 

ノナカとハキムが言っているのは、フォースは優秀なエネルギー変換機関であるということだ。

フォースは機体から貰いうけたエネルギーを変換し、レーザーとして出力できる。

と、いうよりは、もともとR機のレーザーはフォースの余剰能力の賜物であるのだ。

R-11Bは非軍事用であったため、一部特殊型を除きフォース装備機構をオミットされている。

なので、レーザーを打つために、態々レーザー用エネルギー変換機関を搭載していたのだ。

 

 

「あとは旋回性か。それは実験してからで良いよな」

「細かい調整が必要な個所だから、最後がいいだろう」

 

 

こうして、実験を繰り返しR-11後継機は次第に形をあらわにしてゆく。

 

 

***

 

 

数ヵ月後、なんとか形になったR-11後継機が居た。

ただし、まだ試作段階でありところどころ部品が丸出しだ。

機体を前にして、スピード狂のレイジが尋ねる。

 

 

「ノナカ、出力とスピードは?」

「完全です。小型のザイオング慣性制御システムminE-1を並列で使うことにより、R-11Bに比べ、

出力は1.9倍、スピードも1.3倍となっています」

「よろしい。ハキム、武装はどうなった」

「はい。ロックオン波動砲は制御系の強化により補足数が3から4目標に上がりました。

また、フォースユニットの設置によりギャロップフォース改の搭載が可能となり、

レーザーも出力が上がっています」

「なおよろしい。型番はR-11Sと決まったが、名前は何にするか今から楽しみだ!」

 

 

非の打ちどころのない回答に満足げな顔をするレイジ。

しかし、二人の班員の顔は決して明るくない。

その事に気が付いたレイジは疑問を呈する。

 

 

「どうした? なにか問題があるのか?」

「ええと」

「……実は」

 

 

目をそらしたノナカとハキムの目線の先はR機の機首部分。

R-11Sの特徴であるコックピット下に付属する回転式の旋回補助ブースターであった。

他のR機と違いR-11に付けられたこの補助ブースターは非常に強い旋回性を生む。

 

 

「旋回用ブースターがどうかしたのか?」

「そのですね、班長。色々欲張った結果重量がオーバーしまして、

それを補うために出力の多くを加速用に回したのですが……」

「旋回性を確保するために強化した旋回用ブースターによって安全性が担保できなくなりました」

 

 

ノナカが説明中に言い淀むと、ハキムが続きを述べた。

 

 

「二人とも具体的に言え」

「高速時に最大出力で旋回するとパイロットがつぶれます」

「ザイオングシステムはどうした?」

「出力が間に合いません。パイロット保護に回すとスピードが規定に達しません」

 

 

はっきりと言い張った2人に、しばし考え込むレイジ。

ハキムがレイジに向かって問いかけた。

 

 

「パイロット保護と、機体性能、どちらを選びますか?」

「もちろん機体性能だ。なに、高速旋回さえしなければ大丈夫だ」

 

 

***

 

 

こうして、R-11Sはトロピカルエンジェルと名付けられ、世に出される。

しかし、その華やかな名前とは裏腹に、最大出力で旋回を行うと、

もれなくパイロットがカクテルとなるため、その機能を最大限に使用することを禁止された。

もちろん、対バイド戦での極限状況ではそんなことは言っていられないため、

一か八かを賭けてバイドに取り込まれる前にカクテルになってしまうパイロットが続出したという。

 

 



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R-11S2“NO CHASER”

※前回の話がサードライトニング作戦(R-TYPEⅢ)とラストダンス作戦(R-TYPE FINAL)の間、
今回がラストダンス発動後になります。



R-11S2“NO CHASER”

 

 

 

 

第一次バイドミッション、サタニックラプソディ、デモンシードクライシス、第二次バイドミッション。

そして、サードライトニング作戦。

人類はバイドの侵略を受けてはそれを跳ね返してきた。

しかし、人類の天敵とも言えるバイドは、滅ぼされる度に更に強力となって復活してきた。

現在もサードライトニング計画完遂によって、バイドは完全に駆逐されたと政府は宣言しているが、

軍は戦力の回復に力を注ぎ、対バイド兵器開発機関であるTeam R-TYPEも裏で蠢動していた。

 

 

実際には、どこからともなく出現するバイドを早期に打倒すために秘密裏に軍が投入されていた。

政府はバイドが地球圏に存在することを秘匿しようとしていたが、時に都市部にすら出現する事があった。

バイドに触れたものはすべて汚染体として処理すべしとの命令が出ていたため、

被害の拡大を恐れる軍は、都市部にバイドが現れると周囲に厳戒態勢を引き、その処理にあたった。

バイドが居住区を破壊すれば、地方都市のシェルターごときでは歯が立たず潰される。

バイドが長時間都市部で暴れれば、バイド汚染体として多くの都市住民が“処理”される。

一分一秒を争う都市部バイド掃討戦において、その圧倒的な機動性から、R-11Sがその任についた。

 

 

そして、何度目かのバイドの来襲とともにオペレーション・ラストダンスが発動された。

 

 

***

 

 

「レイジさん、現場からR-11Sの文句が酷いです」

 

 

青年から中年に片足踏みこんだ様な白衣の男性が肩を落として部屋にはいってくる。

そして、研究室内で論文を検討していた坊主刈りの男に泣きついた。

 

 

「酷いって、ちゃんと簡易説明書にも最初のページに大きな文字で“最高出力で旋回するな”って注意しておいたのだが、

カクテルになった馬鹿どもは文字が読めなかったのか?」

軍は都市部での運用を念頭に置いていたようですから。障害物を避けようとしての事故みたいですね」

「ロックオン波動砲もあるのだからビルくらい破壊すれば良いのに、まったく」

 

 

R-11開発班、班長のレイジに報告するのは、うんざりした顔の班員ノナカだ。

 

 

R-11Sトロピカルエンジェルは高機動が売りで、他のR機を圧倒する加速性能と旋回性能を保持しているが、

残念ながらR機の最も脆弱部位はザイオング慣性制御システムのキャパシティを超えた超機動により、

原型を保てないため、リミッターを付けての運用を行っていた。

しかし、バイドから都市住民を守ろうとする、R機パイロットの決死の努力の結果

R-11Sは、R-11Bピースメイカーをもじって、“スープメイカー”と呼ばれることとなっていた。

 

 

「ビルからの避難が進んでなかったので、避けようとしたようですね」

「それで事故ったら本末転倒だろ。何を考えている。

まあ、外の雑事はどうでもいい。それよりノナカ、この新式ザイオングシステムの案はどう思う?」

「すごく、小さいです」

「だろう? これなら並列で積み込む事で、R-9/0だって引けを取らない最高速を叩きだせる」

 

 

レイジは新しく改良したザイオング慣性制御システムの企画書をノナカに見せる。

ノナカはその浮かれた様子に少し呆れながら、スピードに命を掛ける上司に、適当に相槌を打つ。

「これからこれが主流になる」とか「スピードが命だ」とか言っている上司に付き合っている内に

ノナカは「最近、あまりR機開発に関わっていないな」と考え、むなしくなってきた。

幾つかの班の様に、平均睡眠時間1時間のデスマーチを敢えて敢行する気は無いが、

そこまで自らを追い込んで何かに打ち込む同僚達を見ると、今の自分に虚しい感じがするのも確かなのだ。

ノナカは、ふと思いついた。

 

 

「レイジさん。新しい系列機作りませんか?」

「新しい機体? そりゃ他の研究室でラストダンス用に色々作っているし、俺達が作る必要はないだろ」

「ええと、あー、その、R-11系列に変な名前を付けられたままも嫌ですし」

「ハキムも他の研究班に取られてしまって、新人にザイオングシステムのイロハを教え込まないとならんのだが」

 

 

研究室のストッパーとして機能していた研究員のハキムは、万能さを買われて他のR機開発班に転属している。

現在、班長のレイジが新しく入った新人研究員を、自分の趣味―スピード狂―に染めている真っ最中だ。

ノナカは、班長を上手く乗せるにはこれを利用するしかないと考え、セールストークを放った。

 

 

「……じゃあ、そうですね。“最速”のR機。作りたくありませんか?」

「最速……んんん。その方針なら考えない事もないが、流石に上の方針を無視はできんよ。その辺の案はあるのか?」

「さっき言ってたじゃないですか。このラストダンス作戦の御陰で色々やっていますし、理由はどうとでもなるのでは?」

「……まあ、また市街地戦前提で話を進めるか」

 

 

こうして、R-11系列の新型R-11S2(仮)が新たなR機開発競争に紛れて開発を開始された。

 

 

***

 

 

宇宙空間のTeam R-TYPE開発施設。そのユニットそのものが立ち入り禁止区域に指定された研究施設では、

白衣を着た中年男性ノナカが、若い女性研究員と相談していた。

 

 

「ノナカ先輩。班長がおかしなことを言っているのを聞いたのですけれど?」

「ミリー、レイジさんがおかしいのは何時もの事だろ、で、なんだって?」

「何年か前に開発凍結になっていたR-11系列? それで新規開発を行うとかなんとか」

「ああ、それね。うんほらミリーもどうせならR機開発やりたいだろ?」

「もしかして、先輩が嗾けたのですか?」

「ミリーは知らないんだろうが、何年間ザイオングシステムだけ研究していると思ってる!?

新たなR機も作らないじゃ、これじゃ何のためにTeam R-TYPE入ったんだよ」

「気持は分かりますけど、嗾けるのはどうかと思いますよ」

「いいんだよ、速さを求めた機体ならレイジさんの趣味でもあるだろ。ともかく、俺はR機が作りたいんだ!」

「んー、でも新しい機体かぁ、やっぱり武装とかも作るのかしら……?」

 

 

腕を振り回してエキサイトするノナカと、ぼうっとあらぬ方向を見つめて呟く新人ミリー。

ミリーも満更でもなさそうということもあり、結局、R-11S2の研究を進めていくことになった。

 

 

***

 

 

翌週、ノナカ達の研究室に班長のレイジが意気揚々と入ってくる。

ザイオング慣性制御システムの試作模型が転がっているのを除けて、会議スペースを作る。

出席者はもちろん、中堅研究員のノナカと新人ミリーだ。

 

 

「さて、先週言っていたR-11S後継機開発計画として、R-11S2(仮)のGOサインが出た。

まあ、内容としてはR-11Sの純粋なバージョンアップと言ったところだな。

ただ、軍部と武装警察から念を押されたこととして、パイロットが潰れるのは困るとのことだ」

 

 

ちなみに、ここでいう“潰れる”とは比喩ではない。文字通りの意味だ。

簡単な企画書を確認しながら話すレイジに、勢い良く挙手したミリーが目をキラキラさせながら尋ねる。

 

 

「新しい機体ですか? 新しい機体ですね! 武装は? 波動砲とフォースはどうするのですか?」

「この機には破壊力は求められていない。だから波動砲もフォースも本来的におまけだ!

フォースは据え置き、まあ、波動砲はロックオン機構とループ回路を強化するけどな」

 

 

レイジがはっきりと言い切ると、ミリーは悔しそうな顔をする。どうやら新人は武装マニアだったらしい。

しかし、何よりもスピードを信奉する班長のレイジとしては、これ以上のデッドウエイトは許容できなかった。

ノナカも今回のコンセプト上は、武装関係はこれ以上要らないと思うので、班長レイジ寄りの立ち位置だ。

 

 

R-11Sの活躍する実際現場として、これ以上の火力は求められていない。いや、むしろ邪魔にさえなる。

フォースの強化は、基本的にバイド係数の上昇に結び付くので、これ以上の強化は求められない。

波動砲も都市部に下りてくる雑魚バイドを掃討するには、強力な一撃よりも、多数の弱攻撃の方が良い。

以前の事件の様にA級バイドなどが都市部に発生する様な事態なら、本来なら艦隊が出動する事になる。

R-11S2に求められるのは現場に急行できる足と、小回りが可能な制御能力。つまり火消しなのだ。

 

 

「ということで、ロックオン波動砲Ⅲに技術的な問題はない。ループ回路は既存の物だし、

ロックオン数の強化は、波動砲コンダクタでは無くて制御システム側の問題だからな」

「班長、ロックオン波動砲ってロックオン数が増えると、波動砲が分散されて、威力がさがりますし、

目標当たりの破壊力が落ちるという、致命的な弱点があります! なのでもっと火力を……」

「リボーや、キャンサー、または障害物を破壊できればいいのだ!」

 

 

その後、レイジは設計思想を説明すると、鼻歌を歌いながら研究室を出ていった。

おそらく、今回のR-11S2に載せるザイオングシステムの選定に行ったのだろう。

ムスっとするミリーに、ノナカはこのままでは不味いかなと、思った。

新人といえど貴重な戦力なのだ。この事を不満に思われて他の研究班に逃げられてはたまらない。

そこまで考えると、ノナカはミリー席の近くに座りフォローらしきものをしてみたが、

ミリーに面倒くさい人扱いされて終わった。

 

 

結局、R-11S2は武装を犠牲にして機動性をとることとなった。

 

 

***

 

 

「結局これですか?」

「うーん推力にザイオング慣性制御システムのエネルギーの大半をもっていかれるからなぁ」

「一時期酒舗にあった、トマトジュースを入れたカクテル“トロピカルエンジェル”ってこれが原因だったのですね」

 

 

ノナカ、レイジ、ミリーはそう言って、実験機のコックピットを覗き込む。

そこは一面赤黒く染め上げられており、パイロットスーツの切れ端とヘルメットだけが主張している。

風防を開けた際には床面に溜まったスープが、湯気を立てながら滴り落ちてきたほどだ。

スプラッターな光景であるが、彼らの顔を引き攣らせているのは、テストパイロットの悲惨な末路ではなく、

手を尽くしたのにも関わらず、全速加速時に急旋回をかけると、搭乗者生存率が0になるという事実だった。

 

 

うーんと、悩みながら検討する三人。

超加速と急旋回のダブルパンチによって、ザイオング慣性制御システムは酷使され、

どうしても、急激なベクトルの変更を緩和するのにラグがでるため、それを取り除くのが急務となっていた。

余力があれば、常時機体に働く慣性を強く管理しておけるのだが、

設計を切り詰めたR-11S2では、全く余裕がなく、ぎりぎりの慣性管理しかできない。

通常は誤差ともいえる慣性制御の揺らぎによって押しつぶされてしまうのだ。

 

 

三人はザイオングシステムの余力を絞りだそうと知恵を絞っていたが、どうも上手くいかない。

そこで、3日ほどクールダウンをして、その後三人それぞれ考えてきた案を検討することになった。

 

 

***

 

 

三人が再び研究室に集まる。

まずは班長のレイジが前に出て意見を述べる。

 

 

「では班長である俺からだな。こういうときは成るべくシンプルなアプローチの方がうまく行くんだ。

もっとも簡単な解決法の一つは、旋回用フロントブースターを取り外すことだ」

「はい?」

「ちょ、ちょっと、レイジさん、R-11S2を直線番長にする気ですか?」

 

 

ミリーとノナカが即座に突っ込みを入れる。

スピード狂であるレイジからスピード優先案が出ることは、二人とも想定していたが、

さすがに、完全に旋回性を捨てるとは予想外だった。

 

 

「だってもう中途半端にするくらいならそれ位勢いよく割りきった方がいいと思ってな」

「趣味だけに走らないでください。ほら、企画書見てください。市街地戦前提って書いてあるでしょ!」

「っち……しかし、そんな記述修正して、最速のR機を作ってみせる」

「そんなこと言ったら速度だけならグリトニルのワープ装置で飛ばせば最速になっちゃいますよ、

それはR機である必要ないじゃないですか。R機という制約内で作るのがTeam R-TYPEでしょう?」

「……わかった。だが他の案がなかったら実行するからな」

 

 

ノナカの必死の抵抗を受けて一度引き下がるレイジ。

ノナカとしてもさすがに駄作になるのが分かっているR機は作りたくないのだ。

万能でなくても、最強でなくても、キラリと光る何かを持ったR機を作りたいのだ。

 

 

「では、次はノナカだ」

「ええ、この案を見てください」

 

 

前に進み出た、ノナカは案をレイジとミリーの端末に転送する。

ノナカが出したのは、要は“トロピカルエンジェル”方式だった。

つまり機体制御に制限を付けるという案で、制御システムにリミッターを付けるのだった。

 

 

「なんだこれは、これならトロピカルエンジェルを改修してザイオングシステムを更新すればいいだけだろ」

「思考停止ですね」

 

 

一応、R-11Sとの差別化にいろいろオプションを付けてみたのだが、

どうも妥協している用に見えるため、却下され、レイジとミリーに罵倒され端に追いやられた。

ノナカを追いやる様に前に出てきたのはミリーだった。

ミリーは胸を張って資料を取り出すと、レイジとノナカに説明を始めた。

 

 

「パイロット達が潰れたのは大体緊急回避時のようです。

ならば、その一瞬だけザイオングシステムの姿勢制御を強めてパイロットを保護しましょう。

一瞬だけなら速度に制限を掛けることなく、パイロット保護が可能です」

「強めるっていっても推力に全部持ってかれるのにどうやって、姿勢制御用のエネルギーを持ってくる?」

「一瞬ですから、ループ回路を用いてザイオングシステムを120%位出せるはずです」

 

 

ミリーの言うのは、緊急回避の瞬間だけザイオングシステムをオーバードライブさせて、

余剰出力を捻出し、それを機体制御に回すことでパイロットが潰れないようにするのだ。

レイジがザイオングシステムの研究者として、一応の同意を示す。が、問題点も提示した。

 

 

「120%は出せるには出せるが、すぐに出力を100%に落とさないと爆発しかねないぞ。ずっと出しっぱなしにはできない。

事前に回避するタイミングが分かっていない限り、机上の空論になるぞ」

「うーん、基本的に最高速時に急旋回をするのは回避行動時ですよね。

で、基本的にサイバーコネクタって脳波によって出力しているのですよね?」

「ああ、初期型R機ならともかく現状では手で操縦していたら間に合わないからな。

サイバーコネクタが情報の受容器に直接電気信号として伝え、脳からの指令を機体側に伝える」

「ええ、そのときの動作に地味にラグというか人間として思考時間があるみたいなのです。

その間に、“やばい”っていう恐怖情報ならばもっとも早く脳から伝達されますが、

その電気信号を捉えて、ザイオングのオーバードライブのトリガーにすればいいです」

 

 

ノナカとレイジはしばらく考えた後、積極的に否定する材料がないことを認めた。

そして、ノナカは技術的な方針の確認をとる。

 

 

「ミリー、君の案が最も成功率が高そうだ。で、どうやって脳を観測して一番早く情報を取り出す?

サイバーコネクタが反応するより早く情報をキャッチしないと意味ないぞ」

「恐怖を生み出す元である扁桃体に端子を埋め込んで、恐怖の信号をキャッチしましょう」

「うーん、側頭部からコードを通せば直通回路にできそうだ。

ヘルメットの中を弄って、ヘッドセットに端子口を取り付ければいいか」

「そうですね、極細ニードル使って一度脳内回路を設置すれば、殆ど不便は感じませんよ」

 

 

何より速度を削らなくて良いという点について、レイジの賛同を得て、ノナカも同意したため、

ミリー案が通ることとなった。

 

 

***

 

 

出来上がったR-11S2は“ノーチェイサー”という名を付けられ、最速の称号をほしいままにした。

が、市街地戦用にも関わらず軍部以外では使われず、武装警察などへの配備は見送られた。

何故なら、軍では脳内に端子を突っ込んだりすることに対して、余り忌避感がなかったが、

(というよりは、R-9CやR-9/0、R-9Wなどの噂もあり、感覚がマヒしていた)

警察では流石に、職務のためとはいえ頭蓋骨に穴をあけて脳と機体を直結させるのはためらわれたのだった。

 

 



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TX-T“ECLIPSE”

※今回の話は第二次バイドミッション(R-TYPEⅡ)後になります。


可変機。

それは兵器やその他の一部趣味者の間で、絶大な人気を誇る機体コンセプトである。

刻々と変わる環境に対し、常にベストなコンディションでの機動、戦闘能力を確保する目的で作られる。

設計者の理想を詰め込み、小さなスペースに可変機構を組み込む一種芸術的とも思えるギミックと、

その反面、兵器としての合理性から、無駄を限界まで削ぎ落とし、整備性と信頼性を上げなければならない宿命。

その理想と矛盾の間の小さな一点にのみ成り立つ存在こそ可変機である。

 

 

その歴史は比較的浅く、20世紀大戦中の可変翼機に遡ることができる。

当時、まだ重力を克服できていなかった人類にとって、新たに生まれた戦闘機という兵器。

その兵器について可変という概念を適用しようとした。

(当時の戦闘機は宇宙空間航行能力を有せず、大気中を音速前後の速度で飛行する武装航空機である)

大気中では、離発着の低速時と戦闘時の高速時とで、航空力学的特性の変化が著しいために、

主翼を後退させることにより、常に理想の揚力と機動性を確保しようとしたのだ。

しかし、この試みは頓挫する。

重工業が発展途上であったため、理想に技術が追い付かなかったのだ。

その後も数々の試作機が持ち上がるが、ごく少数を除いて実用には至らず、

また、そのごく少数についてもリスクやコストに見合った成果を出せずに歴史に消えていった。

 

 

そして、現在……

 

 

***

 

 

「なんですか、この眠くなる朗読は?」

「我々、“可変R機を作る会”の概要の序文だ」

「……」

 

 

大きな電気表示板に“可変R機を作る会”と示してある比較的大きなホール。

壇上では会長である壮年の研究員がマイクを握って、可変機についての序文を朗々と読み上げるなか、

観客席の後方の座席では、二人の白衣の男性がこそこそと話していた。

若手研究員のブッチーと、彼をこの会に誘った先輩研究員だ。

 

 

「ブッチー、君も可変機に興味がある様子だったから誘ってみたんだ」

「先輩にはいろいろ感謝しています。可変機は興味というか構想の一部に必要というか。

しかしなんで、こんな訳のわからない会に大勢いるのですか?

可変とかクレイジーなコンセプトに対して、どう考えてもこの人数は多すぎます」

 

 

会場には結構な人数が集まっている。

20~30人はいるだろうか。予定の調整がつかなかったり、

研究に圧殺されている人員を思えばもっと多くなるだろう。

それが広い会場のあちらこちらに数個のグループを作って固まっている。

 

 

「ああ、実のところ“可変R機を作る会”は一枚岩ではなくてね。多数の派閥の複合体なんだ

壇上と最正面にいるのが、ともかく可変機のギミックにほれ込んだ、通称“原理主義者”」

 

 

そう言って人々の後頭部に指をさした。

なるほど、ブッチーでも知っているTeam R-TYPE内でも偏屈で有名な人物が何人か見える。

あの辺はどんな変な研究を持ち出しても不思議ではない。

そんなことをブッチーが考えていると、先輩が「続いて」と人差し指を折りたたみ、

親指を自らに向けた。

 

 

「R機開発技術の更なる発展形として可変機を見ている“技術至上主義者”」

 

 

君もここだね。と、言われる。

会議室後方に広く点々と拡がっている人々。

少し外側に立って冷めた目で見つめているような雰囲気であった。

人数こそ多いが、他に比べて統一感がなくバラバラであった。

 

 

「けどもっとも強力な推進派は“アニメオタクチーム”だな」

「オタクチーム……盛り上がっているあの辺ですね」

 

 

勝手に盛り上がっている辺りを見ると、すでに壇上の説明を無視して何かを語っている。

先輩の説明によると、アニメオタクチ-ムはさらに、

ヒト型機派、合体ロボット派、硬派SF派などのニッチな需要に分けられ、

それぞれが時にタッグを組み、時にいがみ合いながらも、ゆるく結び付いている。

全体として異質な集団だが、真面目に可変機について考えていることだけが共通であり、

“可変R機を作る会”自体がそんな感じに全体的にふわふわした集まりであった。

 

 

ブッチーはR機の機能の一つとして、可変機体の可能性を追求している。

それにご託は必要なく、研究理由など新たな技術の確立というものだけで十分だと思っている。

そんなブッチーが暇を持て余して新たなR機の構想を考え始めたその時、

スピーカーからわざとらしい咳払いが聞こえてきた。

どうやら、壇上で長々と講釈をしていた“原理主義者”が、

さすがに話しすぎであると気がついたようであった。

 

 

「オホン、議論が白熱していて仕事熱心なことであるが、今回は私の話を聞いてほしい。

第二次バイドミッションの顛末を加味して、上から全く新しいR機の開発が指示されている。

今回、私の権限を駆使して、可変機開発枠を一つ確保した!

ここにいる同士で可変機TX-Tの開発を……」

 

 

会長が言葉を言い切る前に、熱狂的な歓声が上がりかき消された。

今まで好き勝手に行動していた人間とは思えない一体っぷりだった。

それは、みな待ち望んだ可変機の開発の時だ。

 

 

自分の話を聞けとばかりに声を張り上げる会長を余所に、

好き勝手に開発コンセプトが討議されるが、

やはりというか何というか「俺が俺が」で全く意見が纏まらなかった。

会場の予約時間を超過して総務の係員が追い出しに掛かったあたりで、

場所を移してようやっと議論の方向性が固まってくる有様だった。

 

 

テスト機ということもあって、可変の基礎である速度調節型のR機を製作することに決定した。

 

 

***

 

 

抽選に漏れたブッチーは参加を見送ることになり、また、直接開発に携わるのは8名ほどだが、

一部技術の提供という形でブッチー他30名程度が名を連ねている。

分業制で各分野を受け持ち各研究室で騒ぐ様子は、バイドミッション時のような華やかさであった。

そして、皆こぞって“ぼくのがんえたさいきょうのかへんき”案を出してきた。

5機合体や、分離変形式、といった現実性のない案を省いた後、研究班では会議を開くことになった

                                       

 

「可変機は1にギミック、2にギミック、3、4がなくて5にギミックだ!」

 

 

そんなアホな言葉もあったが、目標さえ決まればなんとか前に進み出した。

まず、各案の検討から入るが、選考漏れする案の多いこと多いこと。

そもそも実際に作る気があるのか、これで会議を通過できるのか考えてない案が多すぎた。

 

 

「どうしようか。

良くアニメ的表現であるような、各部を折りたたむのは流石に試験機でやることじゃないよな」

「ここら辺の案は変形後にミサイルサイロが使えなくなるからアウトだ」

「なんで、接地前提の変形が多いんだ?」

「アニメマニア派の所為だろ」

 

 

数多の案を捨てて行って、たどり着いた先は。

 

 

「どうやら、変形翼機の延長線上になりそうだ」

 

 

速度優先の、通常―高速巡航モードの切り替え案だった。

原案の精度が高く、何よりも地に足がついた開発案が会長ら原理主義者達の目にかなったのだ。

変形は細かく単純であるが、機体特性の変化があり、

何より足回りの変化だけであるので、可変テスト機には持ってこいだった。

 

 

そもそもR機はザイオング慣性制御システムを主動力源にしているため、

何もせずとも常に一定量の燃料を消費している。そしてこの動力は出力調整が難しいのだ。

出力は常に9数%で固定しており、停止時などには不要な出力は捨てている。

また、進行時には指向性を持たせスラスターを通して放出するが、

一部は機体制御や内部保護に割り振っている。

機体が持っている有限の出力を各機能で食い合っているのだ。

側面スラスターなど姿勢制御系をほぼ推進として振り向け、旋回性などを犠牲にすることで、

速度変換効率をより高めるといった、変形機構が採用されることになった。

メイン研究員達は設計書を睨みながら検討を続ける。

 

 

「変形時にスラスターノズルを拡大して、大推力を得られるようにして、

あとは側面の制御系を後方移動すると……」

「最低限の側面制御系は残せよ。事故のもとだ」

「この変形地味過ぎるだろ」

「ここで事故起こしたら完全可変機の可能性が確実に遠のくからな。堅実に行くべきだ」

 

 

姿勢制御翼がすべて後方にまとめられ、ある意味、20世紀に逆戻りした様な可変翼機になった。

しかし、技術の粋を集めた変形機構は、

加速中にスラスターノズルそのものの構造を変形させるという荒業を可能とした。

しかし、同時に問題も持ち上がった。

 

 

「これ、変形後は姿勢制御がままならないから、狙撃されたら一発で落とされるな」

「回避性能は考えるな。スーパークルーズモードは戦闘を考えてはいけないんだ。

そもそも、TX-Tは戦闘形態と巡航形態とを使い分けられる事に意味があるんだから」

 

 

TX-Tは通常モードと呼ばれ、通常のR機と同等の性能を持つ戦闘形態と、

スーパークルーズモードと呼ばれる巡航形態の2形態を持つ変形機となった。

使用方法を明確にする事で、それぞれに特化したわけだが、

その副産物として巡航形態での回避率は格段に下がった。

スラスターノズルも変形され、細やかな機動は望むべくも無い状態となっている上に、

制御系が殆ど推進系の補助として振り分けられるので、

うっかり通常モード時のように旋回しようとすると制御が不可能になる。

その対策として、操縦桿及びサイバーコネクト上の機体反応性を鈍くして、

機体が制御不能になるのを防ぐことになった。

 

 

「会長、スーパークルーズモードでのパイロットへ影響はどうしましょう?」

「データ的には問題ない。そうだな。機体開発目的に加速時影響調査を入れておけばいいだろう」

 

 

***

 

 

メイン研究員らが可変ギミックについて喧々囂々の議論をしている間、武装面での議論も続けられていた。

基本的には、冒険はせずに変形で影響を受けないものという選択基準だった。

 

 

「武装どうしよう?」

「テスト機だしスタンダードにしておくか?」

「パンチが弱すぎる。対雑魚という目で見れば、アルバトロスの衝撃波動砲が使いやすいだろうな」

「同じ対雑魚用でもライトニングは怖いしな。

たしかに衝撃波動砲は実績があって省スペース、使いやすいの三拍子そろっている」

「そうは言っても、まんま既存の波動砲では武装班の立つ瀬がない。

メイン班に聞いて、余裕があるならループ数あげるなり強化をしていこう」

 

 

そして、話はフォース班に及んだ。

 

 

「そういえば、フォースはどうする?」

「一人で改良するには時間が掛かるからな。

あと下手に新規フォースを乗せるとバイド係数とか不安がある。

他のフォース担当を呼び込むにも基本的に変形しても微調整で済んでしまうから、

面白味無いって言われたし。一応、必要ならアルバトロスに乗せた

テンタクルフォースを乗せても良いって許可はもらってきた」

「フォースか。そうは言ってもレーザーには必要だからな」

「波動法もアルバトロスで一緒に乗せていた衝撃波動法だから、マッチングも問題ない。

どうせ、どちらも容積変わらないし、レーザーのみ搭載型と、フォース搭載型を提案してみよう」

 

 

分業制のためか一気に開発が進み、まとめ役の会長が押し寄せる書類を前に悲鳴を上げることになるが、

瑣末なことだった。

 

 

***

 

 

見晴らしのいい宇宙空間。太陽系内惑星軌道付近に存在するR機用テスト宙域だ。

R-9Eのカメラを通してTeam R-TYPEや軍人らが見守る中。

エクリプス(蝕)と名付けられたTX-Tの最終テストが開始される。

 

 

画面には通常モードである戦闘形態をしているTX-T。

現在は波動砲と武装のテストを繰り返している。

波動砲コンダクタに光が灯ると、虚数空間から漏れ出た光はループの度に膨張と収束を繰り返した。

アルバトロスに搭載されたものより更に強化された衝撃波動砲は、3回のループに耐え、

より広範囲に破壊を撒き散らし、標的ブイを破裂させた。

 

 

フォースとレーザーは完全にアルバトロスのものと同様であったので、注目はされなかったが、

攻防に使用できる使い勝手の良いフォースと安定感のあるレーザーがテストされると、

軍部からは信頼性があるとして評価する声が聞かれた。

 

 

そして、TX-T最大の特徴である可変機構のテストとなると、軍部だけでなくTeam R-TYPEも固唾を飲んで見守っていた。

宇宙空間を飛行するTX-Tが、並走するミッドナイトアイのカメラを通して映し出される。

解析データによると対基地相対速度はアローヘッドとたいして変わることのない値だった。

 

 

カウントダウンが始まり、0の合図共にスラスター類が後方に倒れて一気に加速していき、

加速についていけなかったミッドナイトアイのカメラからフレームアウトしていった。

歓声が上がったが、通常速度では肝心の可変機構をしっかり確認できたものはいない。

 

 

続いてスロー再生が画面に映し出されると、皆齧りつくように覗き込む。

先ず、カウントダウン後、スラスターからの噴射光が途切れると、

機体後部に4つ備えられた円錐形のスラスターノズルが4つに割れて即座に組み換わり、ノズルが拡大される。

同時に噴射光――ザイオングシステムによる推進力に影響された微粒子の発光現象――を避けるため、整流ウイングの間隔が開く。

続いて、通常モードでは機体安定と旋回性向上のために用いられていた側面スラスター類が、

機体に沿うように後方に寝て、ノズルが後方に向けられる。

そして、先ほどより一段と明るい噴射光が機体後方から溢れ、一気にミッドナイトアイを引き離し、

星空の彼方に消えていった。

 

 

映像が終わると、二度目の喝采が巻き起こる。

こうしてTX-Tエクリプスは技術実証機として完成したことが告げられた。

 

 

テスト飛行中、変形して一気に加速、飛び去っていく機体の映像を見て喜ぶTeam R-TYPEと、

何故か変形シーンを見てむせび泣いている軍部の一部の人間達。

垣根を越えて同士を発見した研究員たちと軍人たちは、この後夜を徹して語り合った。

 

 

エクリプスはテスト機ゆえに、まだまだ伸び代はあるもののこれ以上の強化は不要とされた。

なぜなら上の求めるものは、新規技術の開拓であり、エクリプスはすでに目標を達成していたのだ。

しかし、開発に携わった研究員やその他の人員は、可変機を開発するという欲望を達して満更でもなかった。

 

 

この後、軍部の趣味者などを交えた可変機の会議兼、集会が定期開催されることになる。

その数回目の会議と集会にて、まさかのヒト型機の開発計画が見切り発車することになるが、

それはまた別の話。

 




2年ばかりリアル研究員になっていて鬱になっていましたが、
異動で事務屋にクラスチェンジしました。
リアル研究員はしんどかったです。
ずいぶんご無沙汰していましたが、ちょとずつ改稿作業は続けていこうと思います。


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OF-1“DAEDALUS”

※R正史上、ルナティックウォー(イメージファイト本編)の明確な時期は確定されていません。
 よって、このssではR-TYPEⅡ~R-TYPEⅢの間の出来事と仮定し書いています。
 また、この話ではイメージファイト本編に反する設定がありますので、ご注意ください。


人類は冥王星宙域まで進出したが、未だ人間という種の限界として、生存圏とできたのは大気中のみだった。

その結果、宇宙都市では都市全体をシールドで覆うこととなるのは当然の帰結だった。宇宙進出初期にはエバーグリーン型コロニーが地球近郊に浮び、その後、各惑星、衛星には大規模な基地や都市ができあがっていった。

 

 

人類の多くが地球以外に飛び出すとその兵器群も宇宙に対応し始めた。中でもR機は汎用性を求められ、強酸の海から真空、ブラックホール至近、果ては異層次元までの運用性能が持たされた。しかし、運用が可能なことと、本来性能を発揮できることとは違うため、どうにも得手不得手ができる。

 

 

その中の最も大きいファクターが大気圏航行能力だ。宇宙空間では縦横無尽に疾駆できるR機だが、大気圏内では少々の不自由があった。無人惑星ならいざ知らず、大気内で全速力を出すと、広域への被害が起きる。人類が音速を超えたころから付いて回る問題であるが、相対速度が桁違いであるため尚重要な問題だった。

場当たり的な回避策として、R機の大気内速度の上限が定められることになる。緊急時においても艦隊の大気圏航行速度を守らせたことから、連合政府が如何に重く見たか分かるだろう。

 

 

***

 

 

「軌道戦闘機?」

「はい、宇宙空間と大気圏内をボーダレスに行き来できるR機です」

「……R機は基本的に汎用機だけれど、その機体に意味があるの?」

「地球連合は宇宙艦隊及びR機が主戦力ですが、バイドが地球に降下した際、現状では追跡が困難です。

大気圏突入中は戦闘を中止して、大気圏突入後再度戦力を展開する必要があります。逆もまたしかり」

「大気圏突入、突破時もバイドと戦闘できるようにということね」

「ええ、無理すれば現行機でも可能ですが、機体性能の40%も出せません。専用機が欲しいですね」

 

 

開発課長席に座るスーツ姿の女性上司に、白衣の女マリコが記憶媒体を渡す。慣れた手つきで、上司はデータを呼び出し、一つの企画書を立ち上げる。

 

 

「軌道戦闘機開発計画“ダイダロス”……ね」

 

 

企画を流し読みする上司に、マリコは補足説明を行う。上司は視線を端末のディスプレイに固定しながら、相槌を打っていたが、デスクの引き出しを探りながら、上司は説明を途中で遮って、マリコに声をかける。

 

 

「まあ、全く益がないわけじゃないとは認めましょう。でも、これだけでは許可は出せないわね」

「これだけでは? つまり何か付け加えることで実施可能だということですか?」

 

 

女上司は赤いマニキュアの付いた手で、一つの文書を手渡してきた。

“仮想練習機計画”

薄い電子回覧板の上にはそう書いてあった。

 

 

***

 

 

マリコは研究班の仲間とともにその計画の概要を眺めていた。

簡単にいえば、現行のものより更にリアルにした仮想演習の実施と、その専用機の開発だった。

その結果を優男のシンジが穏やかな様子で聞いてくる。

 

 

「で、女課長殿は何だって?」

「……簡単にいえば、今回はお預け」

「開発不可ではなくお預け? 今後は作れるってことかい?」

「仮想空間での練習機を作成して、そのデータやシステムがうまくいけば、リアルで作って良いって」

 

 

シンジと同じく班員のナンシーが顔を近づけて大声で言う。

 

 

「何それ、体よく練習用プログラムの製作を押しつけられたんじゃん」

「そうとも言うわ」

「仕方ないよナンシー。

当初はデータ上だけの機体だけど、足場は手に入れたから、実機製作にも踏み込めるかもしれないし」

 

 

シンジが場を納めると、マリコは自らのR機のための計画を立て始めた。

彼女が物事に没頭するときに邪魔を嫌うのを知っていたシンジとナンシーはそっと席を外す。

やがて、考えがまとまり始めると、ナンシーとシンジを呼んで計画を説明しだす。

 

 

***

 

 

仮想訓練計画なるものが、今頃騒ぎ出してきた理由。

これには背景がある。

 

 

軍はとある課題に直面していた。

たび重なるバイドの侵攻と、それによる熟練パイロットの喪失である。パイロットの充足数を満たすために操作系を簡略化し、脳へ直接詰め込み学習をさせても見たが、やはり、実戦の空気というものが再現できず、実戦で揉まれた兵と、仮想空間で訓練した兵とでは、その戦闘能力は雲泥の差となって表れていた。

 

 

そうはいっても、熟練パイロットを全て教官としても、新兵達の技能を底上げするには足りず、軍は自前のシミュレーションシステムだけでなく、Team R-TYPEへの技術協力を依頼した。

 

 

新機体開発と同時に、Team R-TYPE上層部から命令を受けたマリコは、こう分析した。実戦の空気というものの一端は、パイロット当人の認識によるところが大きいのではないかと。であれば、実戦であると思いこませれば技能上昇効率は飛躍的に高まるのではないかと。

 

 

しかし、機体の開発には異様なほどの熱意を見せるTeam R-TYPEだが、ソフト面ではそこそこだった。特に練習機などオマケ程度にしか考えていない。流石に、軍が敗退すればTeam R-TYPEの研究もできなくなる。上層部はそう思って、新型機OF-1の開発を認める代わりに、練習システムの開発をやらせることにした。

 

 

振れられた方も、新型機の開発が餌だとわかっている。しかし、何物にも代えがたいこのチャンスを逃すことなど到底できず、結局真面目に練習システムの構築を行うマリコだった。初めは、たかがシミュレーションに手を加える程度と考えていたマリコだが、実際、実験してみると意外とうまくいかない。機体開発の片手間ではなく、一次R機開発を棚上げしてこの難題に取り組むことになった。

 

 

マリコの分析ではこのバーチャル練習機にはパイロットを騙すほどのリアリティが必要だった。シミュレーションだと高をくくっている脳を威圧し、戦慄させるほどのリアリティだ。マリコは一計を案じ、組み込む練習プログラムに小細工を加えることとした。

 

 

導入部にはシミュレーションを強く意識させる説明。その途中では、練習ステージと補修システムという非常に作為的な事象。そして、脳を疲れさせた後に現れる実戦配備。前半のシミュレーション部が非常に訓練システムとして分かりやすいため、正常な状態なら判断が付くかもしれないが、脳疲労が一定に達していない訓練生には、システム側が難癖をつけ、異常な難易度の補修が科せられることで、強制的に判断能力を低下させられる。そうして、脳が正常な判断を下せなくなったところで、より深い暗示をかける。

 

 

“今までのお遊びとは違う実戦である”と。

 

 

いきなり実戦に投入された(と思い込んだ)パイロットたちは、死ぬ物狂いで足掻いて見せるはずだ。それこそ、一発で脳に記憶が染み付くほどに。

 

 

それがマリコの作戦だった。班員の二人に話したマリコだが、ナンシーやシンジから改善点が述べられた。

 

 

「ねえねえ、マリコ。どうせならストーリーを付けた方がいいよ。単調な作業は疑問を呈しやすいから、脳を誤魔化すためにも、いきなり実戦に叩き込まれたってのを補足する話を用意しないと」

「軌道戦闘機を作るのだから地球から宇宙、または宇宙から地球に急行しなければならない様な話ね」

「そうそう、月面基地ら辺が最近危ないって聞くし、ムーンベースが消失急行するって辺りでストーリー書いてみる」

「ナンシー、お願いね」

 

 

ナンシーが任せてと言いつつ、筋書きを練り始める。続いてシンジが意見を発する。

 

 

「マリコ、これ現実とシミュレーションの区切りをあやふやにする必要があるだろ?」

「そうね。途中から現実と混同させるから」

「じゃあ、それを補強するために、最低一機は実機を作る必要があるね。最悪外側だけでも」

「んん?」

「だから、パイロット達に実際に飛ぶところを見せないとリアリティがないだろ?

……って話にして、それを出しにして最初の一機だけ研究をスタートするんだよ。どう?」

「ああ、なるほど、機体の外見と、内部の開発を先にスタートしておいても良いのね」

 

 

こうして、悪夢の訓練用プログラムと、軌道戦闘機OF-1ダイダロスの開発が開始された。

 

 

***

 

 

ダイダロスはビットに似たポッド呼ばれる追従兵器を装備している。その他、各種レーザーと簡易版の波動砲を装備し、フォースコンダクター用のスペースも空けてある。現在フォース関連機器が収まるべきスペースは、シミュレーション用の機器が占領しているが。

 

 

内部は未だ改良段階ではあるが、外装は既に固まっている。可変戦闘機エクリプスの技術を用いて、大気圏―宇宙空間を自由に飛べる形状となっており、自動制御で翼形の変化させることにより、大気圏突破時や突入時の機動を容易にしている。

 

 

すでに、正式開発許可が下りれば直ぐに開発可能な具合だ。しかし、このOF-1ダイダロスは先行試作機数機のみの開発だった。シミュレーションでの状況次第で、実機の開発状況が変わる。仮想訓練がうまく行かなければ、確実に開発凍結となるだろう。そして、実際の訓練生を用いた試験が行われる。

 

 

結果から言うと、成功と失敗半々だったといえる。成功例は、実戦投入時の判断速度と気後れが、有意な差をもって改善されていた。逆に失敗例もいる。悪夢の補修授業を受けたものは、恐怖感を植え付けられ実戦さながらの後半ステージでも、その能力を振るうことができなかった。なまじ本格的すぎる脳への刷り込みが逆に働いた形だった。

 

 

肝心の訓練効果の方だが、やはり、熟練パイロットと比べると見劣りするが、初実戦での判断速度などはある程度改善され、今までのシミュレーターよりマシというまずまずな評価を拝借することになった。マリコはこれ幸いと、実戦機の開発の方に手をまわしOF系列の祖であるOF-1のひな型を作り上げる。この後、マリコの粘りにより、数機であるがダイダロスは実戦に配備されることになった。シミュレーターの代わりにフォースユニットを搭載し、実戦投入されたOF-1。ビットと違い、ポッドは専用のハンガーが必要であり、場所を食うお邪魔虫として嫌がられたが、この機体で練習してきた新兵からは、高評価を得ていた。

 




マリコ、シンジ、ナンシーは元ネタであるイメージファイトのボスの名前です。
ミヒャエルさんばっかり有名なのも……ねぇ


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OFX-2“VALKYRIE”

OFX-2“VALKYRIE”

 

 

 

後にシリーズ化されるOF系列の特徴といえば、攻撃支援ユニット“ポッド”の存在である。

これはビットと同様の役目を持って開発されたものであるが、一つの特徴として攻撃性能に特化していた。

ビットは人工フォースとして、敵からの防御を主体にしているのに対し、ポッドは積極的に敵を攻撃する。ビットが局所的バリアならば、ポッドは砲塔と言える。球形の高エネルギー体であることは同様であるが、ポッドは銃口を備え、より攻撃的なフォルムになっているのが特長だ。

必定、研究者達の興味は、無理やり捩じ込まれた練習用プログラムより、ポッドの話に終始した。

 

 

「マリコ、ポッドにAI付けてみないか? どうも新人パイロット達は機体制御だけでポッドを上手く使えていないようだ」

「いいわね、シンジ。ポッドにAI付けるなら単純掃射やバリアだけでない働きも期待できるわ」

「ダイダロスのはデータだけだからね。テスト機を作る際に一緒に作ってしまおう」

「今度のOFX-2も結局テスト機だからワンオフになりそうだけれどね」

 

 

***

 

 

そんなこんなで取りつけられたのがレッドポッドであった。

レッドポッドは砲塔の角度が取れることと、そのシュート時の攻撃性能が特筆すべき兵器だった。

カタログ上はダイダロスにも付帯しているのだが、ダイダロスはどちらかというと訓練機としての役割がメインだったので、データだけの存在であった。

後続機開発のためのテスト機といった名目であるOFX-2の開発にかこつけて作り上げられた。

 

 

そんな、レッドポッドの実験を見ていたマリコが言った。

 

 

「何か気持ちの悪い動きね。プログラムに不備は?」

「プログラムというか、自己学習させましたからね。条件付けに問題があるのかもしれません。

敵撃墜率をスコアとして、もっとも高い値を取るデータを抽出して、学習させました」

「この、無意味にグルグル砲塔が回るのが妙に有機的ね」

「左右の砲塔が個別に動く方が、スコアが高いと判断したようですね」

「まあ、良いわ。これで実地試験して良いようなら決定。ダメならAIを消去の上、学習のし直しよ」

 

 

ポッドの本体は赤色の光に包まれたエネルギー対で、それだけ見ればビットの様だが、AIにより機体の機動に合わせてぐりぐりと砲塔が回る様子は、妙に生生しくて気持ちが悪いと、もっぱらの評判であった。AIによる動きはポッド側で判断し、攻撃方法を思考する単純なものであったが、切り離し(フォースシュート)と呼び戻ししか受け付けないフォースに比べ、自由度は格段に上だった。

 

 

こうして補助攻撃ユニットであるポッドが完成した。前身であるダイダロスにも形だけ装備されていたが、実機として適応されたのだ。続く全てのOF系列機に取りつけられ、OF系列の特徴ともなっていった。後々、Leoシリーズのサイビットサイファと同じように見られる事が多かったが、攻勢ビットと思考を捉えて動く半自動兵装であるサイビットに比べて、思考をコンピュータが肩代わりしてくれる分

新人向けとなっていた。

 

 

しかし、話はここで変な方向へ向かう。班員のナンシーがこう言い出したのだ。

ミサイルもAI制御ならどうか? と。

 

 

***

 

 

R機は高速戦闘を行う。もちろん搭載される武装類もそれに対応したものとなっている。が、単純に前方に打ち出す、通称バルカン砲や、波動砲、機体に追従するフォースやビットと違い、ミサイルは、重要武装であるのだが、どこか中途半端な武装だった。小型弾頭化によりサイロにはかなりの弾数が詰め込めるが、無為にばら撒くには勿体なく、誘導性には信頼が置けない兵装というのが一般的な評価であった。ただし、信用性を何より信仰する将兵の間では、枯れた技術を使用した兵器であると言うことが有用視されていた。

 

 

有効性については仕方のない面もある。ミサイル自体が高速戦闘には余り適さないのだ。後に開発される核弾頭ミサイル“バルムンク”くらい性能を尖らせれば主兵装たる威力であるし、遠距離からの投射とあって推進剤による軌道修正が効いてくる(しかし、バルムンクの命中率も大概だった)のだが、弾着まで時間の無い高速戦闘では、推進剤により軌道修正する余地が少なく、命中コースに乗せるのが難しい。ここぞと言うときにしか使えない補助兵器となっていた。

 

 

その兵器をマリコ達は遊び半分で改造してみた。

 

 

「何したかったのか分かるけど、これはない」

 

 

試験映像を見たシンジの評価は散々だった。マリコは無言だ。

しかし、ナンシーも自作のAI搭載ミサイルについて説明を付ける。

 

 

「でも、ほら、命中率も上がったし撹乱効果もあるし……何よりカッコいいでしょ?」

「糸引くミサイルが?」

 

 

ナンシーは命中率向上のため、ミサイルの誘導AIをより高性能なものとした。各種データから予測した目標の未来位置に向かって誘導されるのだが、一度機体から離れるように噴射してから、敵に向かう事でAIが誘導する時間的余裕を作った事と、推進剤を強化し、機動が効くようになった事が主な変更点だ。その結果が、シンジの言う糸引くミサイルだった。

 

 

敵の予想進路に向けて初期誘導されたあと、微調整として最終誘導されるだけだったのが既存ミサイル。しかし、ナンシー謹製の新式ミサイルは、その誘導性を活かすために機体から大きく離れる。そして、突入態勢を整えるために噴射を繰り返し、他のミサイルと干渉し合わない様に突入経路を変えながら、殺到する。AI特有の角々とした動きと、推進剤を強化したためミサイルの軌跡が明確に残る様子、そして、ダイナミックな動きをするそれらが絡み合う様子が、アジアとある国にルーツを持つシンジには“臭いあれ”を想像させたのだ。

 

 

このミサイルについては、ナンシーの様にカッコいい派と、シンジの様に動きがキモい派に分かれたが、

班長マリコの「どちらでも良い」という、ばっさりした言葉で切られた。

 

 

***

 

 

「マリコ班長、思いついたことがあります」

「何?」

 

 

OFX-2の構想も煮詰まり、大体の方向性を持って設計が詰められていた。互いに背を向けて情報端末を叩いていた、班員シンジが班長のマリコに声をかけた。シンジの真面目腐った声に比べて、マリコの声は物憂げだ。

 

 

「ポッド使えば、全周囲防御可能ではないですか?」

「全周囲防御って、ポッドシュートじゃだめなの? ポッドを数珠繋ぎにでもするの?」

 

 

シンジの提案に、割り込んできたのはナンシーだ。おそらく、面白そうな話のタネを発見したのだろう。が、シンジは気にせず話を続ける。

 

 

「いえ、元々が攻勢防御ですからね。周囲を囲わなくても大丈夫ですよ。ほらシミュでもそういう統計になっている。

そうではなくて、僕が言いたいのは後方ですよ」

 

 

シンジはそう言って半身をずらし、自分のディスプレイの画像をマリコとナンシーに見せた。赤いR戦闘機が鉄骨建材を避けながら進軍する様子であった。後方からの意地の悪い追撃を避けるOF-1。何故か攻撃判定が加えられたバックファイアで迎撃する様子が見て取れる。ナンシーが身を乗り出して大げさに評価し、それにマリコが意見を付ける。

 

 

「すごーい、何これシミュ結果? 大気突破用に調節したバックファイアの攻撃判定を利用しているの? 器用ね」

「ああ、他のR機は無理だけど、ダイダロスをはじめとするOF系列機ならいけるかも知れないね」

 

 

一応、地上から宇宙での自由な行き来を前提としたOF系列では、ザイオング慣性制御システムによる推進だけでなく、推進剤を利用した一時的な急加速が可能となっている。その無駄に強力なバックファイアを使って後方から接近してきた敵を焼き払う荒業をしていたテストパイロットがいたのだ。しかし、ナンシーが突っ込む。

 

 

「うーん、でも戦術とするには確実性のない曲芸よね?」

「ですよね。でも一芸としては捨てるには勿体なくて」

「じゃあ、こうしようか……」

 

 

しょげるシンジにマリコが出した答えは……

 

 

「なんです。裏技って」

「ゲームであるだろう。説明にはないけれどとても有用な技よ」

「……それはバグというのでは?」

「仕様よ。まあそれはともかく、実機でやるのは怖いからシミュレーション上でだけ可能な技としてアナウンスしましょう。

実際できないことはないけれど、実機でやらせるには危険すぎるわ。データ取る前に機体を壊されるのは困るの」

 

 

こうして、完成版レッドポットと、微妙に改造されたフォースとミサイル、裏技バックファイアを携えて、OFX-2ワルキュリアはOF-1ダイダロスのマイナーチェンジ版としてひっそりと完成した。ちなみに、新式ミサイルは、実験機OFX-2に採用されたが、所詮はサブウエポンと、コスト重視の実機に採用はされなかった。

 



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OF-3“GARUDA”

OF-3“GARUDA”

 

 

 

.                                 連火駐第2843号

.                                  ××年10月28日

 

.     新規配属R機の返却と旧機種の再配備ついて(依頼)

 

Team R-TYPE 開発主任殿

.                          地球連合軍火星基地チューリン司令

 

表題の件に関しまして、基地司令部の運用の都合上不適合との判断となりました。

下記の通り、基地に配属されました新型R機OF-3“GARUDA”につきまして、

以下の事項についてご依頼申し上げます。

 

.                   記

 

1.OF-3“GARUDA”の次期主力機指定解除

2.OF-3“GARUDA”の回収

3.新規次期主力機の決定と配備(ただし、OF系列機以外が望ましい)

 ※資料別添

 

.                                       以上

 

 

 

***

 

 

――資料1

 

.           OF-3配備に関する戦術的考察

 

 

先日、本基地に納入された軌道戦闘機OF-3“GARUDA”について、機体の回収と代

用機の用意を請求します。

OF-1“GARUDA”は○月○日の機種交換時に、火星基地チューリンの主力機として納

入されたR型戦闘機です。ガルーダには以下の通り問題が多く、主力機としての役

目を担うに足りない機体となっています。

 

 

問題点

 

 

1.

 一つ目の問題としまして、熟練搭乗者、いわゆるエースパイロット用機体として

配置されましたが、操縦性が著しく悪くポッド、レーザーの一般的な対空、反射、

対地レーザーの特性が全くなくなっており万能性に欠けます。特にバリアに至って

は機動戦におけるバリア不要論があるなか、フォースを装備した上で更にレーザー

として防壁機能を持たせる意図が不明です。また、プラズマフレイムもレーザーと

しては射程が足りず近距離戦を強いられるため、エースパイロット専用機体ではな

く、エースのみが使用に足る戦闘機では基地配備機としては不向きであると判断し

ます。

 

 

2. 

OF系列機の動力となっている小型核融合炉による整備性の低下が問題となっていま

す。機体の小型化のため主機を小型化したとのことですが、地方基地の設備では小型

炉の展開が難しく、防御壁完備整備室が必要となり整備性に問題があります。

 

 

3.

3つめは追加武装としてのフォースの変更による管理体制の複雑化です。フォース

自体の性能からみても以前のOFフォース、OFフォースⅡと変化が無く機体の戦力

として貢献していませんが、互換性がありません。前述の通りレーザーも有用とは

いえず、不要なバージョンアップと言わざるをえません。

 

 

4.

最大の懸念としまして機体性能のミスマッチが挙げられます。OF系列機は軌道戦闘

機として大気突破・突入機能を有しますが、火星の重力は地球の約1/3、基礎大気は

1%以下となっています。この条件下ではR-9AやPOWアーマーでも大気圏離脱が

容易であり、軌道戦闘機であるメリットが極めて小さくなります。さらに主戦場で

ある宇宙空間にいたってはどちらも不要な機能となっており、現場では次期主力と

しては不適切であるとの結論に達しました。高重力・高大気圧下にある木星型惑星

での活動には有用かもしれませんが、局地戦闘機の域をでず、一般配備には不要と

の結論に達しました。

 

 

 

ついては機種変更の要望を申請します。

 

 

火星基地チューリン整備部

 

 

***

 

――資料2

 

 

.        OF系列機の現場導入拒否に関する署名

 

我々、火星基地チューリン将兵一同は新規配備されたOF-3“GARUDA”に対して、

配備の撤回を求め、次期主力機候補の再度検討を強く願う。署名一覧は別紙の表の通りとする。

 

 

 

 

――別紙

 

 

署名一覧(順不同、敬称略)

 

 

所属                  階級     氏名

火星基地チューリン兵站部     大尉    ネイ・ロール

火星基地チューリン兵站部     少尉    ミューズ・ヤン

火星基地チューリン兵站部     少尉    イスガルド・シュワルツスキー

火星基地チューリン駐屯R機隊   大尉    バンネット・ロイズ

火星基地チューリン整備部     技術中尉  ジェシカ・ハイム

火星基地チューリン整備部     軍曹    ベネット・タナカ

……

……

……

……

火星基地チューリン司令部     大佐    ゴードン・スミス

火星基地チューリン司令部     少将    ハイドリヒ・アルトマン

火星基地チューリン基地司令    中将    ドミニク・マイヤー

……

 

 

以上132名の署名を持って、OF-3“GARUDA”の現場配備の撤回を求める。

 

 

***

 

 

    .                            TRT第39971号

.                                 ××年11月12日

 

.      新規配属R機の返却と旧機種の再配備ついて(回答)

 

 

地球連合軍火星基地チューリン司令殿

.                              Team R-TYPE開発部

 

 

極冠極大期の侯、皆様におかれましてはますますご清栄のことと存じます。

さて、貴基地に配属されました新型R機OF-3“GARUDA”返却につきまして、

以下の通り回答します。

 

.                     記

 

1.OF-3“GARUDA”の次期主力機指定解除の拒否

2.新規次期主力機の決定と配備予定に付いて

 ※資料別添

 

.                                       以上

 

 

 

***

 

 

――資料1

 

 

.           OF-3配備に関する戦術的考察

 

 

Team R-TYPEで開発され、先日、貴基地に配属となった軌道戦闘機OF-3

“GARUDA”機について、その運用方針の助けとするため技術的な回答を用

意しました。

お役立ていただければと思います。

 

 

1.熟練搭乗者専用機との意図について。

対バイド戦略としてのR機の開発現場におきまして、技術革新は常に起こり、また、これを取りこむ事がTeam R-TYPEの、ひいては地球人類の利益になります。この基本理念の基、OF系列機OF-1ダイダロスやOFX-2ワルキュリアに様々な性能を付与したものがOF-3ガルーダとなっています。また、レーザーにつきましては、OF系列機に付与できる複数のレーザー案の内、Team R-TYPEの技術発展に供するものを3点ほど選択しました。バリアについてはエネルギーの膜状維持の研究成果であり、プラズマフレイムも小型核融合炉の熱エネルギーを、フォースを通して圧縮し武装として用いるための実験的武装となっています。本機の操縦に熟練されるまではワイプレーザーの使用をお勧めします。本機は熟練搭乗者とされていますが、基本的に求められる技能は今後のR機戦において有用視されている技能であり、一般搭乗者にも、訓練メニューなどを組み搭乗可能とする事を求めます。

 

 

2.小型核融合炉について

本件について、整備性を問題に挙げられていましたが、先月末に軍本部を通して出した技術改善勧告により整備体制の強化を導入している前提となっています。これにつきましては軍施設課の方にお問い合わせください。また、融合炉分解作業中にばく露する放射線、中性子線についての危険性ですが、宇宙用装備無しで長時間宇宙空間を漂う事に比べると危険性は極微小で、直ちに問題のないレベルとなっています。

 

 

3.フォース仕様について

OFフォースⅢについての仕様ですが、本機はそのレーザーの特性に合わせてフォースを調整しており、OF-3の機体性能を十全に引き出すためのデバイスとなっています。また、その仕様変更に伴い、フォースロッドの形状、対応エネルギー順位が変更となりました。レーザー性能、ロッド形状、フォース保管機構以外の仕様は共通となっています。

 

 

4.機体性能について

大気圏突入・突破性能についてですが、これはR機開発においての局地性能テストベースとしての研究成果となっています。第一次バイドミッションにて、バイド帝星への突入が取られたことから、今後何らかの原因で大気を含む惑星への突入が取られることも想定し、これらの行程を機体に不可なく行える事を実証するための機能となっています。

 

 

これらの理由から機種変更の要望を拒否します。

 

 

Team R-TYPE 開発部

 



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OFX-4“SONGOKUU”

OFX-4“SONGOKUU”

 

 

 

 

荒れた室内には、記録媒体やら、端末やらが山積みになっていた。

床にはエンジン模型やら、装甲片やらが雑然と置かれ、通行不能地帯を形成している。

これが戦闘艦艇内部ならば、ザイオングシステムが拾いきれない外部衝撃を受けた瞬間に大惨事になる。

しかし、ここは後方ともいえる地帯にあるTeam R-TYPEの研究施設であるので、

部屋の主たちはほぼ唯一の居住空間である椅子の上に胡坐をかいて、のんきに会話をしていた。

 

 

「OF系列はやっぱりポッドとレーザーかな」

「マリコ、軌道戦闘機って路線忘れていませんか?」

「でもー、もう軌道戦闘機って路線はナンセンスよねー」

 

 

相も変わらずOF系列開発班に名を連ねているマリコ、シンジ、ナンシーだった。

新型機の話をしていたのだが、軌道戦闘機というコンセプトがネックとなって、なかなか良い案が出ないでいた。

だれた雰囲気の中、面倒になったナンシーが言い放つ。

 

 

「どうせ、“軌道戦闘機”なんて開発枠確保のためのお題目だったんだしー、無視しても良くない?」

「いや、でも……まずくないか?」

 

 

シンジは口先では止めるが、無意識に頷いている辺り、ナンシー案に賛成したいのは明らかだった。

そして、マリコが考えをまとめながら意見を出す。

 

 

「うーん、ナンシーの言葉も一理ある。もともとの軌道戦闘機って構想はダイダロスでやりきったし、

OF-3の反応を見ても、この開発方針ではこれ以上進展がないのは明らか。

ならば、この設定は無かったものとして他の改良に力を注いだ方が、このままだらだらするより断然良い。

試したいレーザー案もまだあるし、何よりポッドはまだまだ進化できる!」

 

 

男らしく言い切るマリコ。

すでに彼女の興味は攻勢デバイス“ポッド”とレーザーの研究にシフトしていた。

完全に開き直り、前提を全く無視して自分の興味の向くままの開発に舵を切る。

こうして、軌道戦闘(もできる新型レーザー&ポッド武装)テスト機OFX-4の開発がスタートした。

 

 

***

 

 

強固な防護壁を持つ実験施設。

溌剌と赤く輝く光球と静かに青白い光を放つ光球。それぞれ一対ずつが中空に浮いている。

それらは完全な球体ではなく、砲身が取り付けられていた。

OF系列機の独自武装であるポッド。その既存バージョンであるレッドポッドとブルーポッドだ。

 

現状OF系列に装備されているのはレッドとブルーの二つ。

その性質に合わせてエネルギー対の色を変えてある。

ブルーポッドは初心者用として開発したもので、砲身が機首方向に固定されており、

多少の軸調整機能は付いているが、前方への火力集中が基本となっている。

反面、レッドポッドは砲身の稼働域が非常に広く、機体の挙動に合わせてグルグルと砲身が廻る。

各方への攻撃が可能で、多彩な攻撃ができる半面、パイロットには空間把握能力が要求され、

操作性の煩雑さと相まってかなり使いづらい。

OF系列機は熟練が必要とされたのも頷ける。

 

 

それらを見ているのは、OF開発班のうち二人、シンジとナンシーだ。

 

 

「ナンシー、会議ではああ言っていたけど、案はあるのかい?」

「もちノープラン!」

 

 

赤と青の砲身は、事前に組み込まれたテスト動作を繰り返し、激しく動き回っている。

ひとしきり射撃動作を終えた後、一瞬間をおいてポッドが飛び出していく。

互いに干渉し合いながら、目標地点に向けて飛び出していくエネルギー対。

その動きを横目で見ながら思いついた案を検討する二人。

 

 

「ポッドの正義は攻撃力だから、射撃系を充実させたいがどうにもうまくいかないんだよな」

「そうねー。砲身部分に挙動制御関係も乗せているから、余剰機能は乗らないしー、どうしよう?」

「どうできるというより、まずどうしたい?」

「射撃ばかりでなくて、武闘派装備も作ってみたいわー」

「……ひょっとしてパイルバンカーみたいな?」

「パイルにする意味さえないわ、もともとポッドはエネルギーの塊なんだからー……て、え?」

 

 

そこまで話して、ふと話をやめて見つめ合う二人。

沈黙とともに天使が通り過ぎたあと、笑顔を浮かべるナンシーとシンジ。

 

 

「そうよ、ぶつけるだけでいいんだわー、だってポッドはエネルギーの塊なんですもの」

「だけど今までのポッドシュートに代わる目玉をつけないと」

「ポッドの利点は思念的な操作でなく、機械的な操作を受け付ける事よ。

そして“戻り”が早い事もフォースシュートにない利点だわ。よし、そのままにシュート能力を最大限まで上げるわよー」

「射撃に回すエネルギーとの配分がネックになるね」

「射撃なんていらないし、物理全振りで作ってみるわ。制御系は任せて!」

「まあ、その辺は君の専門だね、じゃあ、ナンシーよろしく。

僕はマリコのところに行ってくるよ。たぶんレーザー関連弄っているだろう」

 

 

何か妙な方向に走り出してしまったが、あとで全体調整を掛ければいいだろう。

調整役になりつつあるシンジは、ポッドの当面の研究方針と進捗伺いに、レーザー出力棟に向かった。

 

 

***

 

 

光学兵器であるレーザーは貫通性に問題があったり、大気中での運用に問題のあるものが多いが、

そのエネルギーをそのまま敵に伝えるため、単位時間あたりの破壊力が高い。

フォースという万能エネルギー変換器を通すことで、直進しかできないという性質は克服され、

機首軸に固定されたレールガンよりも強力である。

しかも、フォース側の性能や設定などにより千変万化、多種多様なレーザーが撃てる。

 

 

レーザー研究棟は減衰壁を標準装備した施である。

下手に施設の壁を一般的な強化壁にしたりすると、反射レーザー等を撃った場合大惨事ともなりかねないからだ。

霧状の減衰剤を混ぜたエアカーテンと、それに覆われた減衰壁がないとテストもまともにできない。

減衰剤は吸い込むと肺炎のリスクを増大させるので、一応管理区画側でも対ガス装備が必須となっている。

 

 

そんな建物の中をシンジはガスマスクを装備してから研究棟に入った。

研究者のいる制御系統には減衰剤は撒かれないが、一応規定なので装着する生真面目なシンジ。

呼気が耳障りな音を立てるなか、受け付けでリーダーのマリコの所在を聞き出し、マリコの元に向かった。

もう少しで、マリコのいる第三コンパートメントに到達するというそのとき、爆音が轟いた。

振動自体はたいしたことないので、シンジに実害はないが、レーザー研究棟で爆音がすること自体異常事態だった

シンジは今までの付き合いからマリコが犯人であると確信して、コンパートメントまで走る。

ガスマスクが息苦しい。

 

 

「何事ですっ!」

「大声を出さないで、さっきから一射ごとに煩い!」

 

 

扉を開けるなり、大声を出すシンジ。

ガスマスクにはマイクが装備されており、相手の受信機にそのままの音量で襲いかかる。

室内に立っていたマリコはガスマスクは外していたが、イヤホンは入れっぱなしだったらしい。

耳部分を押さえて眉間に皺を寄せていた。どうみても不機嫌そうであった。

 

 

マリコは相手がシンジである事を確認すると、「なんだシンジか」と言った後、コンパートメントに呼び込んだ。

当然と言えば当然だが、研究用機器の並ぶコンパートメントは全く影響を受けていない。

ただし、コンパートメントから見える実験設備の壁は煤けていた。

 

 

「マリコ、ここレーザー実験棟ですけれども、実弾でも撃ったのですか?」

「施設課からの内線でも散々そう言われたが、もちろんレーザー試験だ」

「普通、レーザーを発射しただけじゃ爆音なんて起こりませんけど」

「見た方が早いな」

 

 

マリコはそう言って手元のコンソールを操作すると、警告灯が灯り試作型レーザーにエネルギーが送られる。

フォースの代わりに施設電源からエネルギーを充填したレーザー発射機構は淡い光を放い、何かを放出する。

そして一瞬後、激しい爆音と振動がコンパートメント内部まで、伝わってくる。

シンジは胡乱気な目をマリコに向ける。

 

 

「どうだ、シンジ。これはエネルギーで擬似隔壁を作り着弾時に内部圧が高まり、一気に解放される。

重力光弾によるグラビティボムと、追尾式のサーチミサイル、地形依存型のグランドミサイルができた」

「レーザーって何でしたっけ?」

「これがやりたかったのだが、流石に実戦機に付ける訳にも行かなくてな。テスト機ならいいだろう」

 

 

シンジの疑問など歯牙にもかけないマリコ。

シンジは「好きにしてください」と言い残して黙る。

マリコはハイになっているのか、なんやかんやと言いながら、

続けざまにレーザーという名のミサイルもどきを発射する。

OF-3ガルーダの悪評価で、マリコにはストレスが溜まっていたらしい。

なぜかミサイル型になったサーチミサイルやグランドミサイルを景気よく発射させている。

 

 

半ばマリコのストレス解消装置となった発射ボタンをさらに押したとき、

サイレンが鳴り響き、回転灯が光る。

 

 

『警告、警告、ガス漏れ警報。減衰剤がレーザー実験施設より漏れ出しました。一般研究棟の研究員はガスマスクを装着し……』

 

 

「あ」

「あ……」

 

 

口をあけ、合成音声を吐き続ける天井のスピーカーを見つめる二人。

 

 

「レーザー研究棟の壁、耐えられなかったみたいですね。……どうしますマリコ?」

「……」

「とりあえず、ガスマスクして下さい」

「はい……」

 

 

マリコは首にぶら下げていたマスクを装着し直すと「始末書かな?」と呟いた。

非常事態を現す赤い回転灯に照らされながら、気まずそうに二人は佇んでいた。

ガス漏れを告げる合成音声と、シュコーシュコーという自分達の呼吸音だけが響いていた。

 

 

後日、マリコは始末書と設計書と同時に提出することになったのだった。

 

 

***

 

 

OF系列の特徴である小豆色のボディーに群青色の風防。

前身であるOF-3ガルーダとの違いは、後方に設置されたウイングの形状。

そして、これから機体の横に添えられる黄色いエネルギー対。

 

 

射撃機能を廃止して、エネルギーの保持量を上げた特殊型。

デバイスによる体当たりを前提とするそれは、小型のフォースシュートといってもいい。

淡い黄色に輝くイエローポッドはその砲身を光らせていた。

新たにロールアウトしたOFX-4“SONGOKUU”を見ながら、シンジはふと疑問に思った事を聞く。

 

 

「ところでナンシー。体当たり主体なのになんで砲身が付いているのです?」

「制御機構が此処に入っているからね。後は……ノリ?」

 

 

このパイロットのことを全く考えていないテスト機は、

その糞さと名称からから”monkey”と蔑称されることになる。

テスト機であって量産されないことだけが救いとまで呼ばれたのだった。




西遊記の孫悟空ってとある英訳版では”Monkey”ってなってるらしいですね。


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OF-5“KAGUYA”

OF-5“KAGUYA”

 

 

 

「不味いことになった」

 

 

開口一番そう告げるのはOF開発班のリーダー、マリコだ。

OFX-4ソンゴクウのデータをまとめていたナンシーとシンジは

それを聞いて、マリコの持っている端末のディスプレイを代わる代わる覗き込み、、言った。

 

 

「あー、そもそも、OFシリーズは名目と実態が別々だからしかたないわー」

「不味いのは、始めっからです」

 

 

今、彼らOF開発班が検討しているのはテスト機であるOFX-4と、その後続機についてだ。

これまで、軌道戦闘機という微妙な皮を被り無茶な研究開発を続けてきたが、

その結果がマリコが頭を抱えている電子文書――「軌道戦闘機開発の打ち切りについて」だった。

結論から言うと軍からの不興を買いすぎたため、Team R-TYPEの壁を突き抜けて現場の意見が通ったのだ。

更に言うと、既にポッドやOF系フォースに付随する特殊レーザーの研究は、これ以上の発展が期待できず、

(そもそも内部的には“軌道戦闘機”というコンセプト自体がお飾りであると認識されている)

Team R-TYPE内でもこれ以上の研究リソースを使うメリットが無いと判断されたのだ。

内部と外部、両方から突き上げられての実質的な計画中止通告だった。

 

 

未だ、通告文からのダメージから立ち直れないマリコが、呻くように言う。

 

 

「まだ……、まだ終わってないぞ、この書類が正式に下りてくるのは来週だから、

それまでに研究方針をまとめて、上に受理されれば機密指定を楯にとって、軍からの横槍は防げる」

「マリコ、幾らなんでも欲張りすぎですよ。OF系列機も4機ですからそろそろ潮時です」

「私は、許可下りるなら開発やってもいいかなー。どちらにせよ。上を納得させられないと完全に流れるわよー?」

「では今から、緊急開発会議だ。ナンシーは乗るとして、シンジはどうする?」

「ここで降りる選択肢は無いでしょう?」

「では、30分後に会議を開始する」

 

 

こうして、突貫で五機目のOF機体開発計画がスタートした。

 

 

***

 

 

開発会議が終わって、資料の散乱した机に突っ伏すマリコ。

 

 

「前回のとおりポッドはナンシー、シンジは機体バランス取りまとめ、私はレーザー、フォースはF研に投げる。

時間が無いのは知ってのとおりだ。とりあえず、今週中に基礎データだけだして、研究開発費を引きだすぞ」

「マリコ、前々から私とマリコの役割が逆だと思うのですが。普通リーダーが機体バランス見るでしょう?」

「私は私のやりたい研究に邁進したいから、軌道戦闘機開発なんて皮を被ってきたんだ。最後なら羽を伸ばす。私はレーザーがやりたいんだ」

 

 

どうせ最終機だからと盛り込んだ会議は、研究者の希望のみを盛り込んだ内容だ。

レーザーでは、生存性を高めるためのバリア、戦闘機のロマンである弾幕、次いで爆発物が作られる方針となり、

フォースもレーザーに合わせてマイナーチェンジされる。

ポッドは現状でできる最優秀のものという、何とも漠然とした目標を言い渡された。

バランスはともかく破たんしなければ良いという、完全に使う側でなく、研究側を向いた計画となった。

 

 

いち早く会議の熱が引いたシンジが、改めて企画書案を見て顔をひきつらせる。

 

 

「マリコ。これ、また現場から怒られませんか?」

「最終機だから、そのころには我々は解散している。問題ない」

「マリコじゃないけどー。底の見えてしまった技術と発展させるべき技術。

それが色分けされるだけでも上的には価値があるん無いんじゃない? 今後の研究リソース節約のためよ。

特にレーザーはこれだけ色々やれば、研究の礎になるのは確かだからー」

「それって平時の基礎研究でやるべきなのでは……」

「あら、シンジ。まだ焦るような時間じゃないわー」

「……」

「では、私はこれをもとに書類を起こして上に掛けあってくる。シンジとナンシーは準備を頼む」

 

 

マリコは会議前とは打って変わって、妙に張り切って研究室を出て行った。

シンジとナンシーは手元の書類――テスト機であるOFX-4から取られたデータを元に改修案として出すはずだった書類を、OF-5案として書き直す作業に入った。

 

 

***

 

 

何故か通ってしまった企画書案に沿って研究がスタートしたOF開発班。

ナンシーの言っていた“上に利益があれば通る”という言葉が通った形だ。

 

 

「まずは……ナンシーのポッドか。案が適当過ぎると思うけど、ナンシーはフリーハンドの方が得意だからな」

 

 

シンジは、例によってぶつぶつ言いながら、ポッドの試作品をテストしているナンシーの元へ向かう。

機体バランスが破たんしないように各部署との調整を行うのがシンジが振られた仕事なのだが、

研究開発のおいしいところをマリコとナンシーに取られて、貧乏くじを引いたとも言える。

 

 

シンジがナンシーのいると思しき辺りに向かうと、砲塔と一体型のポッド制御部品が転がっている。

機体に付随していると大した大きさには見えないが、人間スケールで改めて見ると結構大きい。

エネルギー球体を覆っている半球状のカバーから砲塔が突きだしているものだが、

連装砲になっているものや、球体が2つ連なって“ピーナッツの殻”の様になったもの、

反射板の様な構造を持ったもの……

 

 

良く分からないものを含めれば、見えただけで数十はある。

どうやらナンシーは時間が無いため、試作品を山と作って片っ端から試験をする総当りを行っているらしい。

シンジの美的センス的には余り美しくない方法であるが、何が何でも結果を出さねばらならい場合においては

結構有望な手段となりうる。

 

 

「ナンシー、流石にこのガラクタの山はやりすぎじゃないかい?」

「でも、最初の方向性を決めるのには必要だわ。初期値を絞って局所解を得るだなんて笑えないもの」

「ちなみに君の一次試験を突破したのはどれ?」

「これとこれ、あとは22番。あっちの35番は保留ね」

 

 

ナンシーが提示した物は、特色が薄く優等生的なポッドだ。

どれも単純にエネルギー変換率の向上により威力を引きだすタイプだ。

形状も既存のレッドポッドやブルーポッドと殆ど変わらない。

シンジの研究者としての直感として、こういうときはあまり良いものは出来ない、というのがあった。

 

 

「ねぇ、ナンシー。この試作品達は横並びすぎる。精度を高めるだけなら他の工廠でもできる。我々がやる必要が無いよ」

「うーん、実は私もこの子たちを採用する気になれないのよねー」

「そっちの保留っていうのは?」

 

 

ナンシーは未確定タグを付けた電子資料を呼び出すと、端末ごとシンジに渡し、

ガラクタの山から少し外れたところにあるポッド砲塔を台の上に乗せた。

 

「一つがだめなら二つで?」

「この35番のコンセプトは“前から後ろから”よー。エネルギー弾を前後方向に打ち出すの」

「そのコンセプトはともかく、これだけ保留なのはなんでかな」

「試験中に不安定で挙動が怪しかったからよー。軸が不安定で機体の方向にまで攻撃が打ち出されたの。

まあ、でも威力はピカイチだったわ。あ、これが実験動画ね」

 

 

呼び出された実験映像はR機型の試験用機材と、前後に砲塔とつけた緑色の発光体。

ポッドは機体側面に沿うようにゆっくり浮遊しながら前後方向に射撃を繰り返している。

しばらくして、ポッドシュートの試験が行われ、仮想敵に向かって淡々とポッドが繰り出される。

再び射撃に戻ったあと、ポッドの挙動がおかしくなる。

ポッド砲塔の軸が安定せず、ぐらぐらと揺らいでいる。射撃を繰り返すたびにその揺れは激しくなり、

ついにはポッドの軸が回転し始め、乱射を始める。赤い警告灯が灯り試験が強制中止されるが、

試験区画の壁は元より、R機型の試験機材も穴だらけだった。

 

 

「つまり、自機を撃つ暴走ポッドと」

「うーん、ポッドシュートや長時間の射撃なんかで、軸が重心からずれるのが原因みたいだけど」

「砲身が独立しているからバランスが崩れるのか。でもこれ、他の十把一絡の優等生ポッドより良いな。

完成すれば強力だし、何より面白いよ。エネルギー球体本体を砲塔が貫通する様にして、一つの部品にはならないかな。

それなら軸は安定すると思うのだけど」

「串刺しスタイルね。そう後押しされるとこの子で行っても、どうにかなるような気がしてきたわー

ありがとう、シンジ。35番を改良する方向で、再調整してみるわー」

 

 

「頼んだよ」と言いながら、他のデータをチェックして次の研究施設に向かう姿は完全にヒラ班員ではなかった。

マリコから無茶振りされた調整役の所為で、リーダーみたいな言動が染み付いてきてしまったシンジだった。

 

 

***

 

 

所変わって、レーザー研究棟。

本来の班長であるマリコが籠って、レーザー研究に精を出している場所だ。

シンジはガスマスクだけでなく防護服を着込んで施設内に足を踏み入れる。前回のMonkey事件と呼ばれる爆発性レーザーによる施設破壊事件のことが頭をよぎったのだ。動きにくい恰好でマリコの実験コンパートメントまで歩くが、やたらと遠く感じる。

おそらくMonkey事件で時に目を付けられ、万が一の時に被害が限定される端を割り振られたのだろう。

やっと着いた部屋にノックをしてから入る。

 

 

「ん、ああ、シンジか。他の部署はどうだった?」

「機体自体は問題ありません。ナンシーも方向性が決まったので時間の問題でしょう。フォースはマリコ待ちです。

……これって班員がやる事じゃなくて、リーダー業務ですよね?」

「そろそろお前もリーダーになるかもしれないから、私がその前に鍛えてやってるんだ」

「人はそれを押しつけと言います」

 

 

マリコの人事面での適当っぷりをなじってみるも、暖簾に腕押し状態と知り、諦めるシンジ。

その諦めの良さが、仕事を盛られる原因になっているとは知らない。

 

 

「まあいいです。レーザーの開発はどうですか? 方針とか」

「方針は作る前から決まっている。後は実戦レベルに高めるだけだ」

 

 

R機のレーザーはフォースロッド性能との兼ね合いの為、3種類である。

通常はR-9アローヘッドに倣って対空、反射、対地の特性を持ったレーザーが充てられる。

が、自由過ぎるTeam R-TYPEの面々にとっては、基本とは破壊するもの、常識とは破るもの、というのが常識だ。

基本を破りすぎて最早跡かたも無かったり、常識を疑った結果新たな価値観の境地に辿り着く者が後を絶たない。

 

 

もちろん、マリコも例外でなく、そもそもレーザーという概念に縛られない研究開発を行っていた。

 

 

「まず対空兵装としてスピードキャノン。2連装エネルギー弾を打ち出すのだが、連射性と貫通性を選択できる。

次に、反射はしないが広域制圧用の5WAYバルカン。弾幕を張る事にかけては右に出るものはない!

最後がバリアだ。これは広域制圧地帯を抜けるときの為の武装だ」

 

 

一気に説明を行ったマリコは、まだ聞いてもいないのに実験設備に命令を送り、実演付きで見せ始めた。

バリアこそ地味だが、非常に派手な攻撃だった。

 

 

「マリコ。これレーザーでやる必要ありました? 5WAYバルカンはまだ良いとして、

スピードキャノンって言うなら補助武装を取り付ければいいでしょう。あとバリアってなんです? 本当にやるとは」

「レーザーでなければ、スピードキャノンのあの速射性から貫通性への滑らかで美しい移行が実現できんだろうが。

バリアは弾幕合戦になった時に必要な装備だ。が、そんなことはどうでもいい、見ろこの素晴らしい版幕を!」

 

 

OF-5のレーザーの一種であるはずの5WAYバルカンはメイン武装に代わっていたらしい。

OF-5と仮置きされたレッドポッドからは5つもの射線が引かれ周囲に嵐のようなレーザー弾幕をまきちらす。

一射一射は短いが、連射されるとまるで光の雨の中にいるようだ。

 

 

「そういえば、マリコ。ナンシーは前後方向に2つの砲身を持ったポッドを作る方針らしいですよ」

「それでは+2で7WAYバルカン……これはぜひナンシーに掛けあって仕上げて貰わなければ!」

「まだ試作段階ですけれど」

「そこは調整役であるシンジの責任の内だろう」

「いや、もうそれでいいですけれど……」

 

 

何かを幻視するようにレーザーバルカンの試射を見つめるマリコ。

きっと彼女の脳裏では7WAYバルカンが荒れ狂っているのだろう。

どこか熱で浮かされた様な目のままマリコが呟く。

 

 

「7WAYであれば、広域制圧が可能だ。現状で稼働しているR機の中で広域制圧ができるものはない。

今巷では水爆ミサイルなどを遠距離から打ち込み制圧するのが流行っているらしいが、それは美しくない。

基本武装の中で収めるからこその制圧機だ」

「……一応、OF系列は軌道“戦闘機”ですからね?」

「もちろん知っている。しかし、だれが戦闘機で制圧してはならないと決めた?」

 

 

***

 

 

赤い機体色はOF系列機であることを示している。

上下に浮遊しているのはOF系列機の特色であるポッド。

グリーンポッドは緑色のエネルギー球を貫通する様に細長い砲身が一対、前後を向いて付いている。

フォースは代わり映えこそしないが、主にレーザー変換機能が一新された新式である。

完成したのはOF-5“KAGUYA”。軌道戦闘機の最終機だった。

 

 

名称の由来はグリーンポッドの緑と、その光に照らされる砲身が光る竹を想像させるためだろう。

そして、後光を纏う様に7WAYバルカンを発射する様は正にOF系列機の締括りにふさわしい機体だった。

 

 




この系列機を5機も作る必要あったんですかね(半ギレ)


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TP-2H“POW ARMOR Ⅱ”

TP-2H“POW ARMOR Ⅱ”

 

 

 

人類は初めてバイドという天敵に襲われた時、

バイドミッションと呼ばれる単機突入作戦を決行した。

これはR-9アローヘッドとフォースによるバイド中枢破壊作戦だった。

 

 

それから時は流れ、数度のバイド来襲とバイドミッションの後、

人類最大の危機と逆転に転ずるための一大計画

“オペレーション・ラストダンス”が決行された。

表向きにはR機によるバイド本体への単機突入ミッション、

その裏では対バイド戦闘を根本的に変えるための戦略構想。軍は焦っていたのだ。

無秩序ともいえる開発計画にGOサインをだし、

兵站や運用の限界さえ超えてR機の乱開発が行われた。

 

 

が、しかし、

Team R-TYPEは、そのあまりに自由な研究環境と裁量に、

むしろ嬉々としてR機の研究開発を行っていた。

 

 

***

 

 

“パウアーマー”

それはもっとも毀誉褒貶の激しいR機の一つだ。

R機乗りからは、必須ながらもその事故率の高さから、

可愛さ余って憎さ百倍と、憎しみを一身に受け、

整備員からは、その機構の単純さと、自己献身的な補給によりアイドルとされ、

Team R-TYPE研究員らからは、拡張性と自由度の高い研究対象(オモチャ)として、

民間からは、軍のマスコットとして愛される。

 

 

しかし、パウアーマーはただの無人輸送機というだけではなかった。

変態整備員達の改造と研究員らの悪ふざけにより、

操縦席とR機にも劣らぬ武装を取り付けられ、

何時しか、戦う輸送機としての地位を確立していた。

そして、ラストダンス作戦も中盤に差し掛かったある日、

とある会合で改造計画が持ち上がった。

 

 

「それがこれだ!」

 

 

長ったらしい口上を述べた後に一つの改良原案を示すのは、

油で汚れた作業着を身に付けた整備員だった。

改良原案も、整備用のPOW図面に赤や青のラインで直書きされた、未だ叩き台状態のものだ。

場所もR機ハンガーの片隅、資材保管庫に近い整備員ご用達スペースで、お世辞にも綺麗ではない。

しかし、周囲で盛り上がっているなかには整備員だけではなく、白衣や士官服を着た者もいる。

階級なども超越したこの集団の中、地声の大きな整備員は自らラインを引いた資料を手に熱く語る。

 

 

「このパウアーマー改は有人パウの後続機になる。

輸送性はそのままに加速性能や運動性を向上させる。

正に前線で戦うためのパウだ!」

 

 

そう、ここは“POWを愛でる会”の定期集会の場だった。

戦闘機仕様パウアーマーの開発――通称、整備員の反乱事件の後、

パウの魅力にとり憑かれた人々がその無駄に熱いリビドーを発散していたのだ。

整備員達が主導したこともあり、代々の会長は整備員と決まっているが、

Team R-RTPE研究員や、軍の技術士官、一部高官、広報官なども所属する。

情報管理に煩い地球連合軍としては、異様に横の連携が強い組織となっていた。

 

 

そこに改造案などぶち込むとどうなるか?

 

 

「おお、やっぱり時代は高機動機だよな。

R機と同等、少なくともR-9アローヘッドと同じくらいには動きたい。

新式のR機用のスラスター類乗らないかな?」

「POWの完成したフォルムをこのままの路線で超える事は不可能だ。

ここはPOWらしさを踏襲しながらも、力学的、能力的、マスコット的に

優れる外部装甲案を作らねば!」

「時代はハンドメイドフォースだろ。前回のニードルフォースは予算の都合上、

休日返上の上、手作業に成らざるを得なかったが、

今回はちゃんと申請を通して最高の機材を使っての職人芸を見せてやる」

「フォース班がそこまで男気を見せるなら。レーザー担当としても従来通りとは行かないな。

よし、レーザーも美しさと力強さを兼ね備えた新式を開発してやる」

「軍での配備に関しては任せてくれ! 事務職の力で書類作成なら完璧だ」

「テストはPOW好き変わり者パイロットを多数噛ませてみよう。

奴らならきっと最高の評価を叩きだしてくれるはずだ」

 

 

俺も俺もと、次々にノリで理性が残っているなら止めるべき発案が飛び出てくる。

全員が全員、前のめりで止める者のいない現場。

雰囲気だけで、パウアーマー改の開発は、ほぼ決定事項として取り扱われた。

軍としては非常に残念なことに、この集まりには有能な変わり者が多すぎたために、

その暴走は実現に向かって動き出す事になってしまったのだった。

 

 

***

 

 

とある会議室には、作業着とスーツ、白衣に軍服などまったく統一感のない一団が占拠していた。

パウを愛でる会である。

 

 

「さて、今回はパウアーマー改開発プロジェクトの中間報告である。

まずはTeam R-TYPEより開発のタザキ班長頼む」

 

 

会長である整備員の指名を受けて白衣の男が立ち上がる。

 

 

「はい、我々Team R-TYPEでは“軍部の依頼を受けた”形で

PT-2H“POW ARMORⅡ”の開発を開始しました。

私が班長として、この会の意見を集約し盛り込み、

開発については外部協力を得る形で進めていきます」

「これで他のR機と同様に“名目上は”Team R-TYPEからの開発となりますな。

POWの時の様に、新型R機のコンペティションに無理やり捩じ込むなんて

ウルトラCをしなくて済みますな」

 

 

タザキ班長の言葉を受けて小声を漏らすのはスーツ組の一人で、事務方の男だった。

R機の開発と登録にかかる事務手続きに精通した男は、

開発・運用にかかる事務的な手間を減らすために、

軍の現場が必要性から開発陳情を上に出し、上がその発案を承認して

Team R-TYPEに依頼を出すという一般的な機体開発の形を取らせた。

これだけで面倒な手続きが非常に減り、POW改配備への障壁が低くなるのだ。

もちろん全ての行程で、POWを愛でる会のシンパが噛んでいるのだが。

 

 

事務方の男は満足げに頷くと、話を止めた事を謝罪し、続きを促した。

咳払いしてタザキ班長が続きを述べる。

 

 

「現在、レーザー、フォースの方向性が決定し、主機などの選定中です。

レーザー、フォースについては担当者より報告があります」

「はいレーザー担当です。現在は主力の貫通性レーザーで超短波レーザー、

広域殲滅に分裂反射するレーザー、バウンドレーザーの発展形の

地形対応レーザーを開発中です。

パウを愛するパイロットがそのまま機種変更できるように、

基本的にはパウの物を踏襲しつつ、新たな発展を盛り込んだものとなっています」

 

 

心電図の様な直進レーザーと、反射時に七色に分裂するレーザー、

ランダムに弾むように動き回るレーザー、三種類の試射映像が端末から再生され、

会議室内の巨大モニターに投影されている。

 

 

「続きまして、Team R-TYPEフォース班です。

パウ改に乗せるのはニードルフォース改になります。

前回は残念ながら正式な依頼で無かったため、

止むなく正規機材を使えずハンドメイドになりました。

しかし、逆にそれが限界近くまでフォースの攻撃性能を引き出すことにもつながったのです!

ならば、今回我々がする事は唯一つ。

ニードル型ロッドを打ち込むコツを掴み、職人の域に達する事。

現在、ニードルフォース改の性能を100%引き出せるように修行中です」

 

 

画面に映るのは巨大な棘をフォースに打ち込む作業用アーム。

スティックを微調整しながら、防護服を着た研究員がアームを動かしている。

周囲には、失敗作と思われるフォースが複数、ハンガーに固定されている。

フォース班の話も、流れる映像もとてもシュールなものであったのだが

、会議室の誰もが真剣に聞いていた。

突っ込み不在の中、会議は進んでいく、次に会長が指名したのは軍部の技術士官だった。

 

 

「よろしい。ではエンジン回りは軍部の受け持ちだったな。ベント技術大尉」

「はい、主機はコンペに落選したものを使いました。燃費が悪いのですが小型で強力です。

パウは燃料漕が大きいですから、多少の燃費の増加は許容範囲です。

これ以上は乗せようと思えばもっと大きいものも可能なのですが

輸送漕の容量を圧迫しますので逆に方向転換用のスラスターは小型化しました。

パウは脚部が可動式の為、多少ならば融通が効きます」

 

 

いくつか質問が飛びながらも、そつなく答える技術大尉。

時間を見計らって会長にアイコンタクトをとり、続きを促す。

 

 

「エンジン回りはどちらかと言うと、冒険はしない方針だな。

あと波動砲は今回既存のものとする。

これは上層部が“バイド砲とは何事か”とうるさくてな。そのまま現状維持になる。

続いて……輸送漕と装甲案は整備からの発案になるな。

実際に開発するのはTeam R-TYPEと組んでになる」

 

 

そう言いながら、整備員の一人に話を向ける。

比較的若い瓶底眼鏡の男が話を引き取った。

 

 

「輸送漕ですが、みなさんからの改良案を加味した結果、

従来のパウの85%程度となりそうです。

ですが、整備や補給係員が内々に検討していたエネルギー輸送漕を乗せる事を提案します。

これは高圧で圧縮状態のエネルギーを保管、補給可能にする装置です。

これにより容量を小さくしても輸送エネルギー量をパウと同等することができます。

もっとも弾薬は圧縮できませんので、実質的にはパウと輸送量はかわりませんが」

 

眼鏡のブリッジを人差し指で持ち上げる様が、余りにも奇妙だがだれも指摘しない。

完全に自分の世界に入り込んでしまっているが、

ここに集まった誰もがそんな熱に浮かされているので、ツッコミは入らない。

その流れをいつまでも続ける訳にもいかないので、

整備員である会長が締め役として声を掛ける。

 

 

「これで、案件は出揃ったかな。

では最後に外面である装甲案と外形について私から説明する。

装甲案だが、大前提としてパウの全体バランスを崩すようなものは無い。断じて無い」

 

 

一般的な認識としてパウを構成する要素とは、貨物コンテナを収めた球体ボディに、

操縦機関部一体型の巨大なアイセンサー、スラスターを組み込んだ逆間接脚。

サタニック・ラプソディ時期に行われたパウの有人化計画でも一切手をつけなかったほどだ。

 

 

会長は新たな改造図案を示した。

手元のカメラで写したのは、まだ3Dモデルでもない、手書きのデッサンだった。

周囲の反応は賛否両論の微妙なもの、

期待に満ちた目を向ける者もいれば、不満げなものもいる。

他のR機が(一部を除いて)アローヘッドとの形状的な類似点を色濃く残しているのに比べて、

これは確かに球体っぽいし戦闘機でもないが、はっきりパウと言えるかどうか微妙なところだ。

会長はそんな空気を全く気にせずに話し始める。

 

 

「まず、衝突防止対策として視認性を高めるために白色であった装甲を暗灰色にする。

これは、対人戦を睨んでの改良案だ。

今まで時間を掛ければ要塞メインコンピュータさえ落とせるだけの

マシンを積んでいるのに、まったく意味をなしていなかった。

これなら敵陣に切り込んでの破壊活動ができる」

「……会長、あなたは何と戦っているのですか?」

「浪漫を解さない軍の上層部と味方に対してだ!

敵陣に単機切り込んで要塞奪取とか熱いだろう?」

「それは……確かに!

でもメインコンピュータの書換えは中央制御室じゃないと無理です。

必然パウ単機で、敵陣中央に乗り込むことになりますが?」

「問題ない」

「私もパウなら大丈夫なような気がしてきましたっ」

 

 

そんな常軌を逸した会話を繰り広げながら、ツッコミ不在の会議は続く。

 

 

「形状に関しては整流ウイングを後方に流して、

球体故のバランスの悪さを是正する効果を見込んでいる。

これにより速度なども増すはずだ。後方スラスタ周辺も増強されている。

あとは前回剥き出しだった波動コンダクタを装甲で補強する。

脚部ももちろん強化するとして、全体像はこんなだな」

 

 

今まで紙の設計図の上で話を進めていたが、

ここでいきなり実寸大の模型を画面に呼び出す。

パウといえばパウだが、今までとは違う球形機体。

クルクルと模型の周囲をカメラが巡ってきたが、

整流ウイングの装甲部でズームアップした。

 

 

「そして! これは何があろうと絶対に外せないのだが、このペインティングだ!」

 

 

会長が端末を操作して投影していた画像を消すと、席を立ち天井付近を眺める。

全員の目線がそれにつられて、天井に向くと、

そこには何故か天井付近に掛かっていた掛け軸の様なものが。

会長が引棒を使ってそれを引っ張ると、するすると紙が解かれる。

そこには一字『改』の文字が……

 

 

「俺が魂を込めて書いた一字だ。他の案としては“炎”“無”“鬼”も書いたが、やはりここは“改”しかない!

パウアーマーⅡなんて味気ない名前にされてたまるか、これだけは誰が何を言おうと外せない!」

 

 

そう力を込めて言い放つ会長は、やっぱり日系人種だった。

 

 

***

 

 

その後、バイドに汚染された要塞で、

内部を駆ける黒いパウアーマーの姿が見られる様になったらしい。

 




パウだからね。ぶっ飛んだものになるのも仕方ないね


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TP-3“Mr. HELI”

TP-3“Mr. HELI”

 

 

 

異層次元探査艇フォアランナはある種の資源探査艇であった。

人類未踏の地平線の向こうを覗き、拡大と充実を手に入れようとした。

しかし、本来の目的とは異なり、人類の夢と希望を乗せて旅立った探査艇は

バイドとのファーストコンタクトを飾ることとなった。

 

 

しかし、現在は絶賛バイド来襲中。夢も希望もへったくれもない。

その中、資源探査用の機体が必要になるというのは、長引くバイドとの戦いの中で、

ある種の資源供給体制が苦しくなり始めていたからだ。

R機は通常資材と呼ばれるチタンや強化プラスチックだけではとても作れない。

R機はそれらの通常資材に、高エネルギー結晶体である特殊資材を混ぜ合わせることで作られる。

 

 

主に装甲などの強化に使用され、R機や艦艇の建造には必須となっている青い鉱石、ソルモナジウム。

フォースなどバイド兵器の原料で、バイド素子を含む化合物である赤い鉱石、バイドルゲン。

そして、エンジンなどのエネルギー効率の向上に必須となっている緑の鉱石、エーテリウムだ。

 

 

これらの内、もっとも需要のあるソルモナジウムは、太陽系や系内の小天体で採掘可能であり、

太陽系内に無数にある鉱山さえ順調に稼働していれば、在庫切れする事はまず無い。

バイドルゲンはバイド体から抽出したり、バイドに浸食された地帯で良く結晶化している。

バイドルゲンを採取するのは危険が伴うが幸か不幸か地球圏外縁部ではそういった施設には事欠かず、

バイド来襲の多いため、これも多くは無いがR機に合わせてフォースを生産する程度にはある。

問題は、ワープ空間に偏在するエーテリウム鉱石である。

エーテリウムは通常空間では非常に不安定でありまず結晶化しない。

通常空間に持ってくると、エネルギーを放出しながら次元の向こう側に消えたり、

戻ったりを繰り返す性質があるため、結晶の封入や保管もひと手間である。

もっとも、この資材の特異性であり、

この不安定で、特定条件下でエネルギーを放出・吸収再結晶する性質に意味があるのだが。

 

 

最近軍ではR機や艦艇の改修の為、エーテリウムの需要が増している。

しかし、ワープ空間はバイドの巣となりつつあるし、

通常空間から近い場所にある既存のエーテリウム鉱床は採取済みであり、これ以上の増産は見込めない。

そこで、次元の不安定な宙域に存在する小惑星系にエーテリウム鉱床が発達する事がある事に着目した。

 

 

***

 

 

「資源探査用のR機が欲しい」

 

 

軍需管理部署より来た補給参謀がそんな事をTeam R-TYPEに依頼した。

これは前述の事情の所為で、エーテリウム不足に悩む軍の意見であるが、

態々、自前の工廠もあるなか、補給を担っている参謀がこれをTeam R-TYPEに持ってきたのは

“Team R-TYPEが無節操にR機を開発して、

軍がその運用に追われている為にエーテリウム不足になっている”

という軍側の認識があるためである。

もっとも、R-9Aアローヘッドやヘイムダル級戦艦といった軍の主力が旧式化しつつあり、

軍備を新調しなければならないのは事実であり、Team R-TYPEの所為だけではない。

そんな、背景を余所に、参謀殿はTeam R-TYPEとの会議で要望資料を渡し、こう言った。

 

 

「要望としては此処に書いてある通りですが、最低限の自衛性能と燃費を追求してほしい」

 

 

しかし、要望を取り入れたうえで、無茶をするのがTeam R-TYPEだ。

軍需管理部署は後にこんな言葉を吐いたたことを、後悔する羽目となるのだった。

 

 

***

 

 

Team R-TYPEにおいて要請はクリアするものではなく、

クリアした上で更にいじくりまわすものであった。

 

 

この会議には小惑星探査R機開発班と割り振られた研究員達が詰めて第一回の会議が行われていた。

班員達が資料を読み込んだ事を確認したリーダーのパンが、まず口火を切った。

 

 

「軍からの要請は資料に書いてある通りだが、

これについて予算が下りてウチの班が担当する事になった。ついては意見を求めたい」

「うーん。当然だけどセンサー類を詰め込んだ唯の資源探査機にはしたくないよね。当然R機だし」

「調査機能に特化した戦闘機か。ありだな、形状は中に積むもので決まるから内部を詰めようよ」

 

 

発言した二人は、冴えない男のゲーリーとクアンドだった。

取りあえず案を出すためにブツブツを会話に成りきれない独り言を始める。

 

 

「そもそもエーテリウム検知装置って馬鹿でかかったような……」

「いや、ゲーリー、エーテリウム鉱床を感知するには直接感知より、

間接的に次元が不安定な場所を検知する方が楽だよ」

「ウォーヘッドとかに積んでいる空間異常測定機を積むかな。

そのままじゃ感知能力が低いから改造しよう。どうかな二人とも?」

「リーダーの言うとおり、それが楽だね。ところで浅異相次元航行装置は付けるの?」

「それは要件の低燃費に引っかかるんじゃないか、クアンド?」

 

 

パンがホワイトボードに“空間異常測定装置”と書いて大きく丸を付ける。

ゲーリーとクアンドが案を出し、リーダーのパンがそれを組上げる方式で、会議を進める。

次に議題に挙がったのは燃費についてだった。

 

 

「では話が出たところで、燃費についてだ。二人とも案はあるか? クアンドから」

「R戦闘機は何のかんので艦艇には叶わないんだよね。燃費。

だからフォアランナ以降、探査機と言えば、艦艇型だ」

「単独ミッションですら、R機はパウからの補給に頼って、

燃費低減の為にフォース・ビットは出発時に装備しないし」

「うーん、では逆に言うと艦艇型の燃費改善策でR機でも取り入れられるものは?」

「バッテリーとエンジンの併用かな。ちょっと容量食うけど。ゲーリーは他に案ある?」

「無いかな。でもバッテリーではR機のスラスターなんてまともに動かないぞ」

 

 

再び袋小路に迷い込む議論。

 

 

「うーん、二人の意見ももっともだが、此処は戦闘機の常識を捨てて考えてみてくれないか?」

 

 

パンが一応会議をリードすると、「戦闘機じゃない案、戦闘機じゃない案……」と

呟いていたゲーリーが、しばらくして顔をあげてぼそっと呟いた。

 

 

「そういえば、推進系ってスラスターじゃなくてもいいんじゃないか?」

「スラスター無し? ザイオング慣性制御システムだけじゃまともに進まないぞ」

「いや、プロペラ機」

 

 

リーダーのパンとクアンドは「はあ?」と疑問符を付けて発案者のゲーリーに意味を問う。

ちなみに二人の頭の中ではその昔第二次大戦型のイメージが回っている。

 

 

「あれを実体翼でなくて、半実体のエネルギーブレードをプロペラとして推進する」

「そうか、プロペラの重量が限りなく0に見せかける事ができるから、

星間物質でも推進できるし、既存のスラスターより燃費は格段に低い! 

なあ、パン、ゲーリー案は考慮に値すると思うぞ」

「ああそういう、確かにな。その方向はありだろう。

ではエネルギーブレード製のプロペラ機と仮定して問題は……形状だな」

 

 

ゲーリーはプロペラのブレードの大部分をエネルギー製の半実体で補うという案をだした。

リーダーのパンはホワイトボードにゲーリーの言う図を描きながらさらに説明を付け加える。

 

 

「エネルギーブレードで推進するためには結構な長さが必要だ。ハブに近い部分は実体部になるが、

不可視の半実体ブレードはこの2倍の長さになる。

これは形状変化可能だが、こちらの攻撃などの邪魔になる。

R機は形状的に機体の直ぐ下部に波動砲コンダクタがあるため、

機首にプロペラを付ける単発は難しい。

両翼にプロペラを付ける双発も、

コックピットが干渉されないために翼を無駄に延長しなければならず非効率的だ。

R機にはプロペラは装備しにくいとなる」

 

 

ここで、説明図に大きく×をつけるパン。

そして徐に別の絵を描き始める。

 

 

「……そこで提案なのだが、パウを基礎ボディとしてヘリ型にするのはどうだろう」

「ヘリ……地球上での遊覧用メインの航空機でしたよね。機体上部に翼のある機体だな」

「パウを基礎ボディとすることで、多くの観測機器を入れる容積を確保し、

プロペラ機というオーダーもクリアできる」

 

 

パンは次第に熱を帯びたように語るが、途中から星間資源探査機ではなく、

如何に宇宙航行用の“ヘリ”という変態機を作るかという事に議論がシフトしているが、

Team R-TYPEでは日常なので、誰も不審に思わず議論は続く。

ここTeam R-TYPEでは、目的と手段は入れ替わるものなのだ。

 

 

***

 

 

とある辺境の資源衛星基地で新たなR機のテストが行われていた。

現場にはオーダーを行った軍の補給を管轄する参謀殿もおり、このテストに参加していた。

現在はTeam R-TYPEから資源探査機としての簡単な性能説明が終わったところだ。

参謀的にはスペックは満足できるものであり、特に燃費効率は彼の想像以上だった。

それを思えば、この時代錯誤的な造形も無理やり納得しようという気持ちにもなるものだ。

Team R-TYPEに常識を求めてはいけない。

 

 

そこでTeam R-TYPEの担当リーダーであるパンという研究員が

更に聞き捨てならない事を言い始めた。

 

 

「さて、自衛用武装ですが、各種レーザーの他、クリスタル波動砲を装備しており、

またこのTP-3“Mr. HELI”専用フォースであるプロペラフォースを装備可能です」

「……パンリーダー。ちょっと意味がわからないのだが、

なぜバルカンではなく波動砲やレーザー、フォースを装備することになっているのですか?」

「もちろん、バルカンも標準装備していますよ。むしろこれが一番重い武装です」

 

 

そういう事を聞きたいのではないと、参謀殿が絶句していると、

パンリーダーが更に勝手に解説を続ける。

レーザーはまあいいが、波動砲はどう考えても過剰兵装だろう。

 

 

「このクリスタル波動砲ですが、燃費との兼ね合いで苦労しました。

何しろ通常波動砲は乗せられません。

なので、この機体に装備されている装置類を利用しようと考えました。そ

れがこのクリスタル波動砲です。

資源探査機なので積荷である資源サンプルの輸送用倉庫として擬似的に倉庫内の次元を歪ませ、

エーテリウム鉱石の安定化を図っているのですが、

ここに小惑星などで採取したケイ素系資材を貯め、波動砲として射出します」

 

 

研究員の説明中、メインスクリーンでは資源探査機であるはずのTP-3が、

機体の数倍もある結晶体を射出して、標的を粉々に打ち砕いていた。

参謀は砕け散るクリスタルが綺麗だなと、現実を認めることを拒否した感想を抱いていた。

しかし、パンリーダーの精神攻撃は続く。

 

 

「さらにこのフォース。ブレードをフォースにも付けることでフォース単体でも推進力を持ちます。

あ、もちろん攻撃性能は通常のフォース以上です。ビットもヘリ型にしてあります。さらには……」

 

 

スペックだけ見れば見事といえるR機開発事例だ。

これを不採用とすることは 参謀の感情だけでは不可能なレベルである。

だから、このミスターヘリとかいうふざけた名前のR機が世に出ることを防ぐことはできない。

参謀は姿も知らぬ辺境小惑星探査部隊の精神衛生が保たれることを祈るしかなかった。

 




パウ系屈指のネタ機ですが、そもそもR機の半数以上がネタであることを思い出したので
今日もTeam R-TYPEは通常運行だと思いました。(バイド並感)


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TP-2S“CYBER NOVA”

 

 

 

地球圏全体を巻き込んだ対バイド作戦である、オペレーション・ラストダンスも中盤。

多くのR機系統が揃い作戦は成功しないまでも、個々の戦闘力としては充実してきた頃。

Team R-TYPEの中では、倦んでいた人物がいた。

 

 

「うーん、アローヘッドの純粋後続機もだいたい先が見えたしぃ、

人型は勢いあるけど到達できるところは限られている。

パイルバンカー機もそろそろ打ち止めでぇ、

シューティングスターからの系統も固まったし、試験換機もアレくらい。

あとはケルベロス系統とかかなぁ、バイドシステムαの情報開示にはまだ早いし。

他の斬新な案は無いものかなぁ」

 

 

プレートに課長室とかかれた部屋。

大きな独り言を言い続けるのは、見栄えの良いパリッとしたスーツに

壊れかけのサンダルと小汚い白衣を着こんだ開発課長のレホスだった。

徐に端末からデータや要請案を探るが、目が滑るばかりで浮かない顔だ。

次から次へと提出された案件に目を通しては、ゴミ箱送り地にしていく。

 

 

「軍の要請では足の速い補給機かぁ。POWだなぁ

5班に振った案件だけど、これだけじゃあ何の面白味も無いなぁ。

フォース班もいつも通りだし。人型は……あの班に任せておけばいいや。

何かいい事案無いかなぁ」

 

 

グダグダと言いながらデスクに座ってデータをいじくりまわすレホス。

 

 

「やっぱりいいのが無いさぁ。僕はBX-Tの理論試験を進めないといけないしなぁ。

いっそ適当な班に畑違いの研究テーマを割り振るか。

もしかしたら棚から牡丹餅で何か面白いものができるかもしれないしぃ」

 

 

レホスはおもむろにガラクタだらけの引き出しからサイコロを2つ取りだすと、机の上に放り投げる。

4と5の目が出たサイコロを見ておもむろに頷くと、Team R-TYPE研究施設のフロア地図と見比べる。

 

 

「F4の5番目の部屋っと……11号室。

この部屋の現在の研究チョイスは、と……ああ、ちょうどいいや、

最低限の条件だけつけて放り投げようっと」

 

 

カタカタとキーボードを叩くレホスは11班の研究室から上がってきている雑多な研究案に

中身を流し読みして全てGOサインを出し、条件付きの予算を付ける。

そして、開発条件として注意書きを書きながら呟いた。

 

 

「何ができるのか……面白いものができるといいなぁ」

 

 

***

 

 

「POWの新型機の開発?

どういう経緯でこんなものがウチに来たのですか、リーダー」

 

 

Team R-TYPE施設に入っている食堂。そこで11班のリーダーと若手が話をしていた。

ちなみにこの食堂では時間にルーズな研究者や、やたらと根を詰める作業員が多いため、

特定の時間に人が集中することはない。

軍事施設の食堂でよくある、別の意味での戦場のような光景はみられないのだ。

 

 

「POWは最近のR機に比べて足が遅めだから、エンジンを新式に換装するってことだけど、

どうしてうちに来たかは分からない。ただ、以前の様に先行投入待ち伏せ型ではなく、

現場に飛んで行って補給できるようなのがお望みらしい」

「それこそなんで、うちに?

軍ご自慢の工廠で出来ると思うのですが。この前も火星工廠の技術者だかが、

大型艦を覆うステルスシステムを開発したとか吹いていたじゃないですか」

「軍の技術者連中は戦艦用兵装とか大物は得意だけど、何でもかんでも大きくするからな……

本当に今はいつの時代だって感じで、大艦巨砲主義が蔓延している」

 

 

リーダーの頭の中にあるのは巨大化し続けたために、大気圏内での運用に支障が出始めている戦艦群だ。

 

 

「まあ、我々としても研究室として目標ができるのは良いことだ。

ついでに予算確保と研究室存続のためにやろうか。実はさ、この案件蹴ろうかと思っていたのだが、

レホス課長から唐突にGOサインを出されたんだ。しかも怪しい条件つきで」

「レホス課長が? 珍しいですね。あの人が軍の案件を積極的に推進するなんて」

「まあ、なんか企みがあるんだろ。

研究がスタートすればまた寝られなくなるかもしれんし、班員への通達は明日にしよう」

 

 

けだるい食事を取り終えた二人はトレーを洗い場に戻して、11班の研究室に戻っていった。

 

 

***

 

 

翌日。

11班の研究室は多数の研究者がざわめき蠢く雑然とした大部屋だ。

波動砲関連で雑多な案件の多いので、一般の研究員としてはあまり好かれていない。

こういう大部屋で光るものを見せて自分の部屋を貰うのが研究員としてのステータスなのだ。

しかし、11班は無類の波動砲狂いなのでそんなことは気にしてはいない。

その研究室の入り口で、リーダーの男が仁王立ちになり大声を上げた。

 

 

「突然だが、波動砲バリエーションについての研究が今回の我々の研究ミッションだ!」

「知っています。いつもの事ですよね」

「だが、昨日レホス課長からの命令で、高機動型POWの新型を作ることになった」

 

 

そこで、ざわめきが広がる。

それもそのはず11班は別名波動砲研。いつだって新しい波動砲についてのみ、愛情を掛けているのだ。

波動砲についてのオーダーがあると先ずは彼らの班に持ってこられる。

それ以外でも他の班から“こう言った原理でこういう物を作りたい”という要請に

答えて、もしくは暴走して技術や案を提示することもある。

Team R-TYPE研究員としては肝心のR機の開発という、

おいしいところを持っていかれている状態だが、

彼らは波動砲が好きで三食を惜しんでも研究したくてたまらないという変態達なので気にしていない。

 

 

彼らの研究室である波動砲研は、通常の研究室より人員が多い。

なぜなら、他の研究室から勉強がてら派遣されて、そのまま居ついてしまったもの。

技師が勉強を続けた挙句、そのままツナギから白衣にそのまま、ジョブチェンジしてしまったもの。

そんな人間たちのたまり場で、全員が好き好きに話し出した。

 

 

「喜べ! 今回は我々波動砲研だけのミッションであり、完全フリーハンドだ。

基礎条件さえ合えば、波動砲のための機体を作れるっていうことだ!

これから方針を打ち合わせようと思う」

 

 

わぁっと、はしゃぎだす班員たち。

そして歓声の後には、怒濤のごとく自分の腹案を叫び始める。

 

 

「主砲なんだからパワーに決まっているだろ」

「ライトニング波動砲やナノマシン波動砲の様に、キラリと光るものが欲しいな」

「広域殲滅って言葉に憧れます」

「もっと、燃費よく連射できるのもありだな」

「どうせだから一機に二本載せようぜ!」

 

 

皆、自分のデスクの引き出しを開けて、ため込んだ波動砲研究案を持ち出す。

一見しただけでまともなものが少ないのがよくわかる。

そもそも、まともな案ならばすでに研究が取り上げられて現実化しているのだ。

 

 

「では最低限の方針だけ決定しよう。方針案はあるか?」

 

 

十人十色過ぎて意見が纏まらない班員達、

もっともそんな事はいつもの事なので班長は気にしない。

意見で揃い方針を決定しようとしている班長に、一斉に答える班員達。

 

 

「「「「派手なやつ!」」」」

 

 

こうして、新規波動砲の開発方針が非常に大雑把に決定した。

そして、それがほぼそのまま新POW機案として通る事になる。

 

 

***

 

 

時は少し流れ、波動砲研では試作案の検討に入っていた。

さすがに、すべての波動砲の試作を行ってコンペティションを行うわけにはいかなかったので、

やたらと物理演算エンジンに打ち込み、仮想空間上で試射を繰り返していた。

もっとも、このやたらと精密な物理演算エンジンを

起動させるマシンの使用コストだけでも、相当のものなのだが。

 

 

「一号案、発案者スタンリーいきます。

スタンダードで高性能な波動砲を目指しました。連射性はR-9Aと同様ですが、威力は理論値で……」

「地味すぎる、没」

 

 

「では二号案は私デイジーが発表します。

見ての通り波動エネルギーを変換して様々な色を出してみました。

紫色を出すのに波動エネルギーを超高力場で圧縮して……」

「おい、コンダクタのダメージがひどすぎて2発目で暴発しているぞ。

波動砲として破綻しすぎ。没」

 

 

「三号案、マクレイン。

俺はウートガルザロキの資料を見まして時代は大きさを求めていると確信しました!」

「これは要塞砲だろう? 没」

 

 

「四号案、ヨネダです。

今までの段幕には厚みが足りませんでした。

波動エネルギー弾を放射状に展開させる低速スプラッシュ砲を考えました」

「弾速が自機より遅いとかこれを機動中に撃ったら自爆用になりそうだ。

でもともかく派手なので保留!」

 

 

「五号案、チェレンコフスキヤ。バルムンクと波動砲を掛け合わせました。

目をつむると青色の美しい光が……」

「没。というか、コックピットブロックは99.99%放射線をカットするから!」

 

 

「六号案。パイル波動……」

「パイル班でやれ! 没」

 

 

「七号案……」

「うーん、保留」

 

 

***

 

 

数時間に及ぶ検討会の末、新型POWアーマーに乗せる波動砲が決定した。

多少疲れの色が見えるリーダーが、発表した。

 

 

「我が班が採用するのは、超新星波動砲だ!」

 

 

喜ぶ発案者とどよめき、そして悔しがる声が混ぜ合される。

 

 

「理由は次の通りだ。まず、スーパーノヴァという中二っぽい響きが堪らないこと。

次に通常範囲の砲長と、重量。

これによりエンジン班より引っ張ってきた大出量エンジンがそのまま乗せられる。

そして何より。この非常に派手な爆発!

隠密性など完全に無視した思い切り、超新星爆発級の威力を求めるその意気や良し!

最終的にはどこまで持って行けるかの勝負になるだろう。

現段階で威力はスタンダードレベルだが、2ループで派手さと威力をそろえたことは評価に値する!」

 

 

そう締めくくったリーダーは、周囲を見回して気合いを入れ直す。

 

 

「さあ、我々波動砲班が馬鹿にされないように、波動砲に見合った機体に仕上げるぞ!」

 

 

「エンジンは任せてください。エンジン班から詳細データを強請ってきます」

「前は機体制御系をやっていたんです。やらせてください!

POW型ならば前の班では馬鹿にされたうさ耳補助バーニアの設計書を持ち出してきます」

「では私はジェネレーターを見繕ってきます。各員は熱量データ下さい」

「波動砲改良はまかせろー」

 

 

そうして思い思いの方向に散っていった波動砲研のメンバー達。

それを見届けるとリーダーは満足げに頷いた。

破綻しかねない機体の調整をすることになるという事は頭から抜けていたのだった。

 

 

***

 

 

宇宙空間に浮かぶのは銀色に塗装された球形の物体。

オペレータの呼びかけとともに、規定の機動を始める

新規POWアーマー“CYBER NOVA”が宇宙空間を駆け出す。

POW型には大きい背中のスラスターに明かりが灯るとともに、

上部についている一対の独特の形状の補助スラスターが展開した。

更にはPOWアーマーなら脚部がある部分もスラスターになっている。

 

 

そして、POW型機には似つかわしくない加速度で一気に加速すると、

波動砲コンダクタに光が集まりだしていた。

2ループの波動砲は意外に直ぐに溜まり、

POW機サイバーノヴァは振り向きざま、標的に波動砲を打ち込む。

打ち込まれたカメラは横から捉えた。

 

 

標的に着弾すると一瞬光を発して衝撃波が走ったあと、直ぐに爆縮するような反応が見られた。

そしてエネルギーはすぐさま拡散し、残ったのはチリになった標的の残骸だけだった。

微妙な間を置いて、押し黙って映像を見ていた一群から質問が上がる。

 

 

「ひとつ質問があるのだが?」

「ええと確か参謀本部の……なんでしょう」

「我々の想定では、これは流動的な戦場において従来型のPOWによる支援が不可能な際に、

R機と共に前線を掛ける支援機としての役割なのだが。

なぜあのように無駄に派手な波動砲を積んでいるのか?」

「もちろん、前線における自衛のためです」

「最低限の自衛戦力が必要なことには賛同しよう。

しかし、波動砲の名称は君たちの資料に寄れば“超新星”波動砲となっているが、

あれは味方機を巻き込むのではないのかね?」

「それならば、問題ありません。あれは実質衝撃波動砲と同程度の威力となっています」

「……」

 

 

波動砲研のリーダーが軍人からの質問にキビキビと答える。

リーダーは胸を張って答えているが、

初老の軍人の方はどう考えても呆れと驚愕とを混ぜ合わせた様な表情をしていた。

 

 

「……なぜそんな物を作った?」

「だってカッコイイでしょう?」

 

 

スクリーンでは“CYBER NOVA”がうさ耳スラスターをピンと立ててカメラ画像から離脱していった。

 




グリトニル終盤戦で気が付いたんだ
占領コマンドが無いって


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TP-2M“FROGMAN”

TP-2M“FROGMAN”

 

 

 

重く静まりかえった室内。

壁際には地球連合軍を示す旗と、薄青地に金刺繍で錨がかいてある旗が掲げられている。

丁度の良い椅子に座っているのは、良く日に焼けており目つきの鋭い老人達で、

その深い皺と威圧感のある物腰は如何にも古強者といった体である。

入り口付近に座っている老将官が重々しく口を開いた。

 

 

「地球連合海軍本部、本年3回目の将官会議を開始する」

 

 

汎用機であるR機が全盛の今、連合に海軍などあったのかと疑いたくなるような話ではあるが、

一応、地球にのみ海軍が存在している。

知名度はほとんど無いため、地球以外基地を母港とする宇宙艦隊の人員や

宇宙生まれの軍人の中にはその存在すら知らない者はいる。

治安維持任務や基地防衛戦力、果ては人足といった側面がある陸軍より酷い状態だ。

海軍任務は、そのほとんどの場面でR機と通常の艦艇で代用が効くというのも大きい。

ちなみに海兵隊は宇宙軍設立時に宇宙艦隊の一部署として飲み込まれている。

 

 

そんな日陰部署なので、当然人員は削りに削られているし、

予算もつかないので遣り繰りは相当に苦しい。

特に人事面は顕著である。

海軍の若手将校・兵は致命的に宇宙戦闘の資質が無いとされた一部のものが

配属される“はずれ所属”となっている。

持病や怪我により宇宙での活動が不可能なもの、PTSDによって宇宙空間にいられないもの達だ。

 

 

対して、ここに座って現状を嘆いている老将たちは生粋の海軍軍人達である。

もっとも生え抜きと言えば聞こえが良いが、

長年海軍に所属しており今更配置転換が不可能な者ということでもあった。

 

 

そんな会議なので、開始時から既に澱んだ負のオーラが漂っていた。

 

 

「今回の懸案事項は海軍武装に関する議題です。現状説明を」

「エーギル級水上攻撃艦は定数とは言いがたいが、各艦隊に最低1隻は配備されております。

完全に時代遅れで対バイド打撃力はほとんどありませんがイージス艦などと組み合わせれば、

バイドの中規模集団が来ても応援が来るまでの時間稼ぎだけは可能ですな」

「来年には最新鋭の水上攻撃艦ラーン級ネームシップが進水することになるが、

本部を守る第一艦隊に配備。後続艦も、もう一隻の配備が関の山だろう。

其の後は地球上の艦隊よりも水系を持つ小天体への配備が優先されるだろう」

「まったく、政府のお偉方は海上防衛をなんと心得るか!」

 

 

憤慨しながら言う口調にも勢いがない。

一向に前に進まない会議に空気も澱んでくる。

もっともここ数十年ほど、海軍の空気が明るかったことなど、

エーギル級の進水式くらいなものだが。

ため息が降り積もって空気の重さが増すようだった。

 

 

「仕方なかろう。

現実を見れば、我々海軍の役割は地球地表部までバイドが到達した場合の捨て駒。

もしくは精々が脱出のための輸送手段といっただろう。どちらも命がけの任務になるがね」

 

 

もっとも年かさの老人の歯に衣着せぬ言い方に、沈黙が会議室を包む。

反論が起きないのは、全員それが真実であると分かっているからだ。

 

 

「それは我々とて重々承知です。

しかし、それが真実だとしても現状に甘んじることはできません。

せめて、建設的な議論をしましょう」

 

 

比較的若い――と言ってもすでに50は超えている――軍人が、顔を歪めながら言った。

それだけでも重苦しい雰囲気が多少緩和され、

口を閉ざしていた参加者の一人が案をあげ、議論が再開される。

 

 

「水上攻撃艦がだめならば、大型潜水艦の配備はどうだろうか?」

「実験中の潜水艇であるグランビアが、小回りも効く上、

武装試験も考え得る最高の成績を叩き出しました。

なにより一人乗りであることが大きい。グランビアのF型が程なく量産態勢に移るだろう」

「水上はR機で何とかなる。我々は海上護衛ではなく、海底海軍の道に踏み込むのか。

……旧ドイツ第三帝国だな」

 

 

数人からため息が漏れる。もう海底基地でも作るかと、だれかがブラックジョークを零す。

潜水空母や大型潜水艦の案が出されるものの、

考えれば考えるほど既存の兵器群で代えが効いてしまう。

 

 

「海中でレーザー関係は減衰が酷い上、高出力のものを放ったら斜線上にいる艦艇が全て沈む。

今の地球の海で航路でない場所なんて無い。それ以前にバイドは航路など考慮してくれん」

「武装としては推進系を持った実弾か……魚雷かミサイルになるか?」

「魚雷はグランビア、ミサイルはR機で間に合っている。

艦艇として有利な点は弾数を多く積めることだな」

「砲門、サイロの数が限られているから、一射あたり打撃力は頭打ちだな。

かといって動く水爆ミサイルであるバルムンクなどは乗せたくない」

「地球の海で水爆などを発射したくない。となれば結局母艦扱いになるだろうか」

「宇宙では大艦巨砲主義が持て囃され、肝心の海では精々ミサイル発射機構のついたR機母艦扱いとはな」

 

 

そう言って天井を仰ぐ男。

宇宙艦隊で広く使われている汎用戦艦ヘイムダル級は非常に性能が高く、

後継機種が開発され、すでに第一線を退くことが決定しているにも関わらず、愛用する艦隊が多い。

その強力無比な索敵能力と、艦載能力、そして艦首砲という三拍子そろった傑作だったためだ。

実際には海軍が思うほど、大艦巨砲主義に傾倒している訳では無かった。

だが、その後継機種であるテュール級やヨトゥンヘイム級、その後の開発計画を思うと、

大艦巨砲主義というのも笑えない事態になっている。

 

「水上艦の時代が過ぎたことは悔やんでも仕方ない。今我々に必要なのは、

昔の魚雷艇の様な小回りの効き、継戦能力の高い海中専用機だな。

それでいてグランビアの様に専用の海底基地が必要なく、

最低限現状のエーギル級を改装せずにR機用のハッチから投下可能な機体だ」

 

 

そんな結論に至るまで、2時間は掛かった。そこに言いにくそうな声が上がる。

 

 

「代案が無ければ起案しましょう。ですが……

軍の工廠は宇宙戦艦の建造に手一杯で海軍には手がまわらないでしょう。

なので、非常に、この上なく、危険ですがTeam R-TYPEに依頼することになるかと」

 

 

了承替わりのため息が聞こえてきた。

 

 

***

 

 

――ある日のTeam R-TYPE

 

 

「なになに海軍が要望書を出してきたって?」

「海軍なんてまだあったっけ?」

「ええっと、地球とかエウロパにいる奴らかな?」

「エウロパのは基地防衛部隊の一部門だぞ。

地球のあれも都市防衛部隊だと思っていたんだけどな。俺は」

 

 

そんな会話がされるR機開発課会議。

ちなみに課長のレホスは開会だけ宣言してすでにバッくれた後だ。

自由人しか居ない部署で、まとめ役のいない会議。まともに進むはずもなかった。

もっともTeam R-TYPE視点で重要な議題がないせいであるが。

 

 

「で、どうするこれ? 流石に放置は予算的に拙いよな」

「要は海中専用機で、グランビアより燃費が良くて、小回りが利いて、

ハッチから出る程度の自走ができる。と」

「まあ、その心は宇宙軍でなくて海軍の人員に動かせる機体ってことだな」

 

 

だらけながらも行間を読み込む研究員たち。

ちなみにこの議題にたどり着くまでに、

バイド性ゴミの廃棄日の徹底だとか、廊下での睡眠禁止であるとか、

非常にどうでもいい議題を経てきている。

 

 

「うーんと、海軍ってあれだろパイロットの適正審査とかにはねられた奴らばっかりだろ」

「うわー、あれ完全に落ちる奴いるのか。俺らだって10代だったら丙種合格くらいならいけるぞ」

「丙種って……まあ、パイロット適性ないならR機型は無理だろうな。せいぜいがPOW型か?」

「POWも球形だから安定取りにくいんだけど……って、

まあ地球上なら上下決まっているしそこまでじゃないか」

「武装は実弾系にすればどうとでもなる。問題は移動法だな」

「流石にキウイみたく無限軌道は無理だから、やっぱりスラスターか? それともスクリュー?」

「両方とも小回り効きにくいぞ。ここで俺が一案。足ひれ」

 

 

明らかにウケ狙いの一言に爆笑する一同。完全に休み時間のノリだ。

しかも、日頃の人権を無視した労働で頭のネジが飛んでいるらしく、周囲も囃し立てる。

 

 

「無いわー足ひれとか無いわー。でも結構ビジュアル的には可愛いな」

「うん見た目はありだな。ほら、POWだし、足付きだし」

「この路線でちょっと考えてみようぜ。

てか何これ見た目のインパクト凄い。マーメイド? マーマン?」

「最初はハッチから飛び降りるし、どっちかというと蛙じゃね?」

「海軍機フロッグマンか。よし乗った。どうせなら宇宙空間もOKなように設計しようぜ!」

 

 

完全にノリだけで進む論議。

こうしてTP-2M”FROGMAN”が作られることになる。

海軍が起死回生の願いを込めた機体が、

この様な設計過程を経て完成したことなど、海軍では知るよしもなかった。

しかし、人不足、物不足に悩む海軍ではフロッグマンは正式に採用され、

水中で小回りのきく小型機としてメインを張っていくことになるのだった。

 




TACの沈む夕日で出てくるエーギル級水上攻撃艦は
本拠地を守るための陽動として出ているという感じで
胸が熱くなったものです。


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TL-1A “IASON”

一周回って人型機に戻ってきました


TL-1A “IASON”

 

 

 

 

「前回の失敗は機体のインパクトだけで攻めようとしたことだと思う」

「班長、さっさと出して。あ、赤ならドロー2ね」

「おいフェオ、毎回毎回ドロー出しやがってこの早漏が。……班長の番だからさっさと引けよ」

「あの……話聞いてる? あ、丁度ドロー4だから」

「ドロー4返し、メイローもそろそろドロー引いただろ」

「……」

 

黙ってカードを8枚引くメイロー。

レトロカードゲームをしながら、と話をしているのは、ブエノ、フェオ、メイローの三人。

記録媒体や何かの部品、模型などがそこかしこに散乱する汚部屋――もとい、人型機班の研究室は、

元々はナンバリングされた部屋番号で研究班として呼ばれていたのだが、

今では前作である人型R機ケイロンの開発から人型機班だのロボット班だのと言われている。

人型機班は完全にイロモノ扱いである。

 

 

じきに、メイローだけがカードを抱え込んで負けると、

班長ブエノがカードを乱雑にどけて、唐突に、研究の話をし出す。

 

 

「扱い辛いとか運用に困るってどーゆーことだよ」

「分かってただろ。ロマン機体ってそーいうものだって」

 

 

フェオが突っ込みを入れるとブエノが逆上して、捲し立ててきた。

どうやら触ってはいけないところだったらしい。

一気に話し立てるブエノにカードゲームで負けて不機嫌なメイローが律儀に突っ込みを入れていく。

 

 

「ほら伝統的に人型って感覚的に扱えるようにってことじゃん?

なのに俺たちの人型機が扱いづらいってどういうことっ」

「感覚的に云々って、単に“アホな性能”って言葉を封じ込めるための屁理屈……」

「分かってない、分かってないな。大地に二本の足で立つっていうのが、格好いいんだろ!」

「宇宙での活動前提なのに何それ?

惑星上にしたって重力を支える機関としての足とかマジ無理。

あれらは僚機や内壁に軟接触しなきゃならんPOW型の補助装置だろ」

「ぐ……そ、その昔地球連合でも二脚戦車を作っていてな」

「姿勢制御系に無駄にリソース使った上に、

制御系がノーガードだったからバイドに浸食されて敵になったけどな!」

 

 

理由のことごとくを、メイローにK.O.され燃え尽きる班長ブエノ。完全に煤けている。

ちなみに最終的に班で開発した機体なので連帯責任制なのだが、

まったく班員二人は意に介していないというか、

そもそもTeam R-TYPEに製造物責任を問う方が間違っている。

彼らには製造物が自分の責任という考えが無い。あくまで研究成果物なのだった。

そんな班員二人にやり込められて意気消沈するブエノ。

しかしこれだけでへこたれる様ではTeam R-TYPEは勤まらない。

ブエノは机に伏せていたが、気味悪くゆらりと立ち上がり、

嫌な笑みを浮かべながら人型機への愛が足りない二人へ、投げやりな発言を放る。

 

 

「まあ、ここまで議論しておいてなんだけど、実は人型後継機開発は課長命令です。

ついでにバックには軍のお偉方がついていまーす。

だから君たちは強制的に後続機の開発してもらいまーす。

いやあ、夢のある研究に付き合ってくれる良い班員を持って幸せだなぁ」

「ハァ? そんなん最初から選択権ねぇだろ!」

「そんな面倒くさい奴らに目をつけられるとか馬鹿なの?」

 

 

罵倒はそれぞれメイローとフェオである。

班長のブエノがさらに挑発すると、メイローがどこか投げやり気味に言う。

 

 

「まあ、紐付き援助なので、俺たちは人型機開発を行うことが決まっています」

「っち、こんな研究室にいられるかっ。俺は帰るぞ」

「何その場違いなフラグ? ちなみに異動希望は却下します。さあさあ、会議はっじまるよー」

 

 

***

 

 

「はいっ、今日も新型人型機開発会議はじめまーす。まずは前回の反省から意見どーぞ」

 

 

無理矢理気味にテンションを上げたブエノが班員二人に意見を求める。

が、もちろんまともな議論になんてならない。

 

 

「反省点というか、反省しか無いというか……」

「なぜ作ったというところが、反省点だよねー」

「具体的に!」

 

 

前回同様、存在自体にダメ出しをする二人に、さすがにキレるブエノ。

だが、へこたれずメイローも強くなじる。

 

「じゃあ、言わせてもらうが、そもそも、試作機だからって

波動砲もフォースも乗せてないとはTeam R-TYPEとして怠慢だろ」

「う……あれは前回納期が迫っていまして」

「そんなの理由にならん」

「案段階で棄却してもらうために細部を詰めませんでした。すみません」

 

 

痛いところを突かれて、あっさりと謝るメイロー一応研究者としての矜持だけはあるらしい。

 

 

「メイローの言うことももっともだし、さらに言わせてもらえば、

人型といいつつ、何だよあの中途半端な変形機構。

手足みたいなのが四つあれば、なんでも人型ってわけじゃないって」

「……ほら。R-9Kベースだから」

「そんな言い訳はいらないでしょ! エクリプスみたく一部だけの変形の方がまだましだ」

「はい。まじめに変形機構も考えます。

でも今回も期限厳しいし、次回以降の改善になると思います。

許してください、オナシャス」

 

 

強気だったブエノが一転萎縮してしまい、そのまま反省大会に移行した。

 

 

***

 

 

「なあメイロー、最近リーダー見た?」

「ああ、ここ一週間研究室に来ないな。見るだけなら見たが」

「どこにいるの、あのサボリ魔」

「波動砲研に詰めてたり、フォース研究棟にいたりしたぞ。声かけてないけど」

 

 

背中合わせのデスクに座り、個別に論文(機密が多すぎるので、外部には発表できず部内向け)

を打ち込みながら、フェオとメイローが雑談を交わす。

反省大会から一週間。人型機研究室ではリーダーであるはずのブエノが準行方不明になっていた。

基本的に自由人ばかりなので、暇なときに2~3日の留守では誰も何も言わないが、

一週間となると、さすがに気にもなる。

今までにも、内部で処理されているが、

フォース作成作業中消えた研究員が残滓がバイド培養槽で発見されたり、

間違いで試験管コックピットに入ったまま5日間出られなくなったなどの事件が発生している。

 

 

「まあ、他の研究班にいたなら心配ないね。前回叩きすぎてちょっとめげたのかな?」

「あの責任感皆無のリーダーだぞ? ないだろ」

 

 

そんな会話をしていると、研究室の扉が開き大きな声が聞こえてきた。

 

 

「今帰った! メイロー、フェオちょっと集まれ!」

 

 

もちろん研究班リーダーのブエノだが、その目が異様に輝いているのを見て、

メイローとフェオがアイコンタクトを交わす。

意味は「リーダーがまた何か馬鹿をやらかすぞ」である。

目を爛々とさせるブエノに、アイコンタクト合戦に負けたフェオが声を掛ける。

 

 

「聞かないと始まらないから一応聞いてあげるよ。リーダー何やらかしたの?」

「聞いてくれフェオ、前作TL-Tケイロンの改善点を踏まえて次回構想を練ってきた!」

「いやな予感がするのだが」

「奇遇だねメイロー、僕もなんだ」

「二人とも、ごちゃごちゃ言ってないで奥のディスプレイ前に集合だ!」

 

 

いつもにも増してハイテンションなリーダーのブエノが研究室の奥に消えると、

フェオとメイローも面倒臭そうな顔をして後に続いた。

 

 

「まず、前回の改善点として波動砲を改善してみた。前回は試作機と言うことで、

枠だけ取って波動砲コンダクタ本体は積んでなかったのだが、今回は波動砲研に相談して、

人型機で搭載可能かつ、最もコンセプトにあった波動砲をチョイスしてきた! これだ!」

 

 

端末を操作し、ディスプレイに記憶媒体を読ませて映像を呼び出すブエノ。

そこには、実験用によく使われるR-9Kのフレームに、適当に波動砲コンダクタを換装した実験用R機。

画面端のタイマーが0になると波動砲のチャージ音とともに波動粒子の燐光が集まり、

鋭く特徴的なチャージ完了音が響く。そして実験機が波動砲を発射し……

 

 

「おい、リーダー。何がコンセプトにあった波動砲だ。ただの拡散波動砲だろ!」

 

 

まず気の短いメイローが怒りの声を上げるが、隣のフェオも明らかに不満顔だ。

 

 

「まあまあ、諸君。まだ先があるから黙って見てみたまえ」

「うぜぇ」

 

 

メイローの怒りの声にも取り合わず、ドヤ顔のブエノがそう言うと、

フェオがぼそりと不満を漏らす。

画面ではそのまま画像が流れ、実験機に接続された波動砲コンダクタが、

折りたたまれ、配線や回路の組換えが行われる。そして第二射。

 

 

「圧縮炸裂波動砲。コンダクタの形態変化で二種類の波動砲か。これがコンセプトって奴か」

「ふふん。どうだ形態変化で波動砲も変化する。人型機にふさわしいとは思わんかね?」

「ぐぬぬぬぬ……」

「メイローもリーダーも落ち着きなよ。でもこれコンダクタの変形機構いらなくない?

オリジナルのR-9/0みたく、一つのコンダクタに両方載せられるでしょ」

 

 

英雄機オリジナルラグナロクはコンダクタが一つであるが、

ハイパー波動砲とメガ波動砲を打ち分けられた。

それを行えないのかというのがフェオの突っ込みだ。

 

 

「だって、変形して波動砲変わる方が格好いいでしょ?」

「……まあ、どうせ浪漫機体だからいいか。で、フォースは?」

「おお、フォースも面白そうなの引っ張ってきたぞ、これ」

 

 

ディスプレイが切り替わり、フォース画像が現れる。

フォース本体の赤道上に配置されたリング状のフォースコンダクターには、

何か所かエネルギー集積端子が見てとれる。見た目は通常の範囲内だ。

何故か自信満々のブエノにメイローが尋ねる。

 

 

「一応聞いておこう。リーダー、このフォースはなんだ?」

「よくぞ聞いてくれた。これはシールドフォース。今までレーザーに回していたエネルギーを

小さな楯状に展開する事によって、正面防御性能をアップさせるというフォースなのだ!」

「そのスバラシイフォースが今まで採用されなかった訳だ。……で、欠点は?」

「実はエネルギーをシールドに回しすぎて、レーザーの射程が短くてな」

「具体的に言え」

「30mくらいかな。一番長いので」

「精々R機二機分。要するにバンザイアタック専用と」

「だからシールドなんだって、玄人向けと言って欲しいな」

 

 

ディスプレイに映し出された映像は、フォースからバーナーの火の様なレーザーが灯され、

フォースの回転と共にクルクルと回るというもの。

その様子はどこかかわいらしく、武装というよりは玩具を思い起こさせる。

呆れた様な顔をし始めたメイローとフェオに取り成すようにブエノが言う。

 

 

「ほら、浪漫機体だから。メイロー」

「浪漫……あるか、これ?」

「まあ、浪漫以外無いと思うけど。レーザーに頼らず、波動砲で突き進む雄姿は浪漫じゃないか?

因みにTL-Tケイロンにも付けられるようにした」

「まあ、案を提出してOKなら作ればいいよ。

なんか前回の流れを考えるとGOサインでそうで怖いけど」

 

 

リーダーのブエノとメイローの話をフェオが引き取ってまとめる。

そしてメイローとフェオはリーダーそっちのけで、話をする。

 

 

「いいのか、フェオ。リーダーの暴走を上げる事になるぞ」

「うーん。僕はどっちかと言うとこの件に噛んでるお偉方が、

どこまで突き進むかが見てみたいんだよね

それに僕的には、技術としての可変機って所は興味あるし」

「それにしたって人型である必要はないがな」

「目的は一部合致しているから、僕的にはOKだな」

 

 

人型機班内部でOKが出た事で、リーダーは意気込んで書類を作り始める事にしたようだ。

 

 

「よし! 明日までに今日の内容を入れ込んだ企画書を作るぞ!」

 

 

そして、二種類の波動砲とシールドフォースを持った

人型可変R機TL-1A“IASON”の開発が行われる事になった。

 




続きを書くことをまるっきり考えていなかった初回投稿時の自分を殴りたい
マジで


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TL-1B “ASKLEPIOS”

TL-1B “ASKLEPIOS”

 

 

 

Team R-TYPE開発部の課長室は変態揃いの研究陣営内においても、

最高峰の危険度を誇る領域となっている。

研究員の誰かがTeam R-TYPEという組織に瑕疵でも与えようものなら、

その研究員にとって課長室は社会的な処刑場となるのだ。

社会的死どころか、生命活動が終わることを宣告された者も多いともっぱらの噂だ。

もちろん、すぐには死ねずバイド素子関連の被験者としてデータを引き出された後で。

それだけ、開発課長というのは内部に影響力や命令権があり、また自由度が高い職であるのだ。

その中でも現課長のレホスは、頭が切れると評判である。ネジも飛んでいるが。

 

 

その課長室に、今日もまた生け贄の羊が一人やってきた。

人型R機というイロモノを開発している開発班班長のブエノである。

レホスの独創的な服装に突っ込みを入れる余裕は無かった。

 

 

「さて、ブエノ君。何故自分がここにいるか分かっているかな?」

「えー、あー、はい課長。もしかしなくても人型機関連ですよね?」

「むしろ何故即答しないのかな、他にも何かやらかしてるの?」

「いいえ、うちの班は人型一筋です!」

「ふーん、まあ、ちゃんと成果をあげてくれていれば別にいいけどさぁ」

 

 

墓穴を掘りそうになり慌てて言い繕うブエノだが、どう考えても隠せていない。

だが、レホスは本論では無いことで時間を消費するのはもったいないと考えたのか、

追求せずに質問をぶつけることにした。

 

 

「まあ、いいや。でそろそろ予備研究終えて、次の仕様書だしてね」

「え……この前TL-Aを作ったばかりで、早くないですか?」

「それ君の所為だよね?」

「へ?」

 

 

ブエノは本気で覚えが無いので、間の抜けた声を漏らす。

そして、自分が何かミスをやらかしたのでは無いかと記憶を呼び出し、

それでも覚えが無いので、班員であるフェオとメイローに罪をなすりつける算段を始めた。

 

 

その一連の百面相を見ていたレホスが答えを述べる。

 

 

「君らが前回のをお偉方にプレゼンするときに

『人型形態への変形機構については次回作以降調整予定です!』

とか話を盛っちゃうからさぁ、その話をお偉方が本気にしちゃったんだよねぇ」

「あー」

「って訳で、次の人型機の企画書を早めにね。

もちろん君がお約束した“『人型形態への変形機構”についてもよろしく」

「ああああぁぁ」

 

 

最後にはうめき声になるブエノだが、レホスはまったく気にせずに笑顔とともに追撃を送る。

“余り遊んでばかりだと、そろそろやばいかもしれないよ”と。

そして、きりっきりの提出期限をブエノに告げると、

頑張ってねと心にも無いことを告げるレホス。

 

 

ブエノの顔色がすうっと青くなる。

この課長は身内であろうと問答無用でバイド培養槽に叩き込む事だってやってのけるのだ。

最悪の未来予想図を回避する方策を考えながらブエノが課長室を辞した。

 

 

***

 

 

ブエノが出て行った後

部屋にはレホスが残り、独り言とも言えない大きさで話し始める。

むろん相づちを打つ相手はいない。

 

 

「僕らって何のかんので、やっぱり軍を最大のお得意様としてるわけだしぃ。

僕らとしても半分? うーん多少? やっぱり少しでいいかな?

まあ、それくらいは軍の意見も汲まなくちゃいけないよねぇ。

これから軍と良いお付きあいをするためにも、有力スポンサー完全無視より、

ブエノ君を差し出して見返りに研究を進める方が良いかなぁ。

って、ブエノ君は人型機の設計でいっぱいいっぱいで気がつかないよねー。

どのみち自分でまいた種だし最後まで自分で型を付けて貰おう」

 

 

レホスはそんなことを言いながら、予算を請求する電話をかけ始めた。

レホスは多少の苛つきと期待を同時に抱いていた。

 

 

苛つきの原因は、

一チームリーダーが正規ルートを通さず、軍の高官という権力を持って開発権を得たこと。

Team R-TYPEという組織の結束と、外部への影響力の双方にダメージを与える。

この組織をバラバラにして、骨抜きにしようとする輩は多いのだ。

期待は、

この人型機というコンセプトが非常に特殊なものであり、

この蓄積されるデータの中にもしかしたら有用なデータがあるかも知れないこと。

馬鹿馬鹿しくて誰もやらなかった研究の中にも光るものが眠っていないとは言い切れない。

 

 

レホスは究極の汎用機を作るという開発計画“Project R”と

その研究母体であるTeam R-TYPEを守るためなら、

開発課長という権力を使って内部粛正でも辞さぬ姿勢だった。

一時的に研究リソースが減るが、最終的にプラスになるならやらない理由がない。

究極の礎にならないものには意味はない。

少なくない研究リソースを消費して結果を残さないなら、それ相応の対価を支払って貰うのだ。

 

 

予算担当との電話を終わらせたレホスは、すぐに他の仕事に戻った。

 

 

***

 

 

「と、いうことで、我々はもう人型機専属班になりました」

「おい班長、上にもうちょっと自分の意見通して来いよ。それが班長職の仕事だろ」

「無理に決まってんだろ、相手はレホス課長だぞ! 職を失うだけならともかく実験台は嫌だ」

「……あー」

 

自分の研究室に戻ってきたブエノが、課長室での事を班員のフェオとメイローに話すと、

早速、気の短いメイローが噛みついた。が、やはりレホスを理由にされると反抗はできないらしい。

フェオもぐったりしながら意見述べる。

 

「レホス課長なら仕方が無い、レホス課長なら。でもさ、前回タマだし切っちゃっただろ、どうするのさ」

「小細工は抜いて、現状の最強案を出すしかないだろ」

「小細工って、今まで人型機ってコンセプトだからなぁ」

「そう、今まで“人型機に相応しい”武装やらオプションを考えてきたわけだが、今回はちょっと人型らしい、

ってのを抜きで、可変型4アーム式のR機として強力な武装を乗せる事を考える」

 

今までの、おちゃらけた雰囲気ではなく、何か切羽詰まったブエノの様子に、メイローが訝しんで訪ねる。

 

「どうしたんだ。班長?」

「……実は、ちょっと今回は拙い」

「どう拙いんだ?」

「どう拙いか分からないのが拙い。でも、とりあえずレホス課長はマジだった」

「oh……」

「だが、いきなり人型機が強力になると言うことも無いだろう。ということで、戦力増強にを行う。

形はとりあえずとして中身を変える。時間的にできるのはやっぱりフォースと波動砲だろう。

ここを重点的に改良して、少なくとも実用に堪える機体に仕上げるぞ」

 

真顔で具体案を挙げ始めるブエノ。ロマン機体の伝道師も尻に火が付いた事で、真面目になった様だ。

しかし、班員二人はそれを見て、気味の悪そうな顔をしていた。

 

「班長が、班長がまともな事を言ってる」

「それよりメイロー。班長でもやっぱり、人型機が使えないって分かってたんだね」

 

 

***

 

班長ブエノが真面目モードになってから、数週間。

人型機開発班では、ブエノを中心にして活発な議論が交わされていた。

 

「これでどうだろう。

フォースは疑似鏡面構造を展開してバイドの低出力弾を反射できるミラーフォースだ」

「これ、レーザーはどうなのさ?」

「鏡面維持のために出力を使っているので、レーザーに回す出力が足りない」

「しかし、班長。流石にレーザーなしって訳にはいかないぞ。それはR機ではないだろ。

それなら前回のシールドフォースをそのまま流用した方がマシだ」

「しかし、妥協は今回許されないだろ。俺らの研究者生命的に」

 

 

ブエノは課長室でレホスに釘を刺されたことを思い出して言った。

単なる脅しではない。あの課長なら遣りかねないと思っている。

 

 

「ねぇねぇ、これ前作のシールドフォースと同様のレーザー分なら

どこかからエネルギーを絞り出せない?」

「どういう意味だ、フェオ?」

「うん、メイローの言い分も班長の言い分ももっともでさ、

レーザーなしでも前回フォースの流用でも拙いから、

両方の特性併せてミラーシールドフォースって事でどう?」

 

 

フェオの提案に少し思案するブエノとメイロー。

 

 

「うーん、シールドフォースのレーザーも極低出力で出せるレーザーだし、行けるか?

いや、行こう! 俺たちの身の安全のためにも」

 

 

ブエノがそう決断すると、一気に回り出す。

ちゃんと班長が班長するだけで、確実に人型機班の実力はいつもより2倍3倍は発揮されていた。

 

 

「よし、俺は後でフォース班に持ち込んで、

どうにかエネルギーを引っ張ってこれる様にできないか聞いてくる」

「その件はメイローに任せた。

じゃあ次の問題だ。“ハイブリッド波動砲システム3(案)”の件だ」

「おう、フォースの件は任せろ。波動砲だがその路線は問題ないよな。

人型が問題にされるが、ハイブリッド波動砲自体は強いだろ」

「そうだねメイロー。

軍部に調査入れたら、戦場でも波動砲の方は評価高いよ。『他の機体に付けられたら』って」

「よし、フェオの調査でも、

ハイブリッド波動砲の進化形を乗せるのが上策なのは確定的明らかだ。

問題は何と何を載せるかだ。メイローとフェオはどう思う?」

 

 

ハイブリッド波動砲は人型機の唯一の良心と言われていた。

初代TL-Tケイロンに後から換装できる様にした二つの波動砲、

ハイブリッド波動砲は拡散波動砲試作型と衝撃波動砲を、

簡易な操作により使い分けられる。

機体そのものよりもこのシステムの評価が断然高いくらいだ。

 

 

続くTL-1Aイアソンに積んだ2型では、拡散波動砲と圧縮炸裂波動砲を放てる。

これを改良するわけだが、何を載せるかその選定について問題が持ち上がった。

 

 

「ハイパー波動砲は最強として外せないだろ」

「あのハイパーシステムは簡略化しても容積食うし、

そもそもあれは簡単にサイズダウンできる様な波動砲じゃないでしょ。

メイローの言うことも分かるけど、ここは何を載せられるかを議論すべきじゃないの?」

「いや妥協しすぎだろそれ、今回は妥協なしなんじゃ無いのか」

 

 

メイローとフェオがそう言って揉め始めると、今回はちゃんと班長業をしているブエノが割って入る。

 

 

「今回は使えるR機である人型機を作る必要がある。

だから、今回の視点は“どういう組み合わせが一番役に立つか”だ」

「うーんその考え方だと、雑魚散らしと対大型バイド用は持っておきたいかな」

「その二種類なら良いかな。

じゃあフェオにはその2種について調査をして欲しい。現場の意見の多いのを載せよう」

「分かったじゃあ、波動砲の調査をしてくる」

 

 

フェオはそう言って端末を叩き、メールを送りまくる。

 

 

「残り時間が少ない。

実現可能と言うことが分かれば、それで企画書を挙げるから、メイローもフェオも頼んだ」

 

 

そう言って、未だかつて無く輝いている班長ブエノが、突発検討会を締めくくった。

 

 

***

 

 

一年後、ミラーシールドフォースと、分裂波動砲/圧縮炸裂波動砲の両方を打ち分けられ、

もっとも使いやすい人型機と言われることになる人型機TL-1Bアスクレピオスが完成した。

が、

 

 

「もーぼくつかれちゃったー。つぎは“ぼくがかんがえたさいきょーのひとがたき”でいいよね?」

 

 

そう言いながら、ごろごろと汚い床を転がるブエノ。

企画書を挙げてから1年近く疾走し続けたためか、完全に燃え尽き症候群を発症していた。

 




元のssが短かったので加筆しました。ダーク風味の短編を挿入しています。


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TL-2A “ACHILLEUS”

人型機開発の時系列としては、
TL-T → TL-1A → TL-2A → TL-2B → TL-2A2 → TL-2B2
という感じを想定しています。
2Aと2Bは時間を前後しながら別の班で行う感じです。
ただし2B2ヒュロスは人型機班も噛みます。



TL-2A “ACHILLEUS”

 

 

 

 

Team R-TYPEの研究本部のある南半球第一宇宙基地付近にある研究施設には、

研究者用に施設区画内に居住区画が存在する。

敷地内に居住施設があるのは研究内容の秘匿性が高いため。というのが建前だが、

そうしないと、研究室に住み着く物臭や研究の虫が多すぎるためだ。

そんな施設課の健闘も空しく、個別の研究室を持っている研究員の多くは

研究室に寝袋や簡易ベッドを持ち込んでいる。

 

 

しかし、流石にTeam R-TYPEといえど、外用の多い課長クラスにもなると住み込みともいかず、

隣接した居住区画からの出勤となる。

自宅から職場ビルまでの道のりをインプットされた半自動運転の電気自動車の中で、

洒落たシャツと細身のスーツ、革靴を身につけ出勤する様子は、ベンチャー企業の社長といった体だ。

しかし、課長室に入るなり仕立ての良い上着をハンガーに吊し、靴を仕舞うと、

いつ洗濯したのか分からない様な白衣と、底の抜けたサンダルを取り出して課長席に座る。

ベンチャー企業社長から、Team R-TYPE研究員に早変わりした。

 

 

「今日の案件は、と。んんー、軍の現場からの人型R機回収要望についてと、

お偉方からの新型人型機の要望かぁ

現場の要望も正規ルート通してきているし、お偉方も無視できないし面倒だなぁ」

 

 

端末にパスワードを打ち込み電子書類を読むレホス。

レホス的には余り重要で無い案件であるのか、あまり乗り気では無いようだ。

独り言にしては大きな声で自分と会話しながらキーボードを叩く。

 

 

「うーん。この案件は独創性だけが取り柄だけど、

一班だけに任せ続けるのもマンネリ化になりそうだなぁ」

 

 

レホスはひとり喋りながらも指を滑らせ、担当の研究班のデータを呼び出す。

班長のブエノとメイロー、フェオのデータが出てくる。

その顔ぶれを眺めながら思案をする。

 

 

「このメンバーだけだと不安だなぁ。他のグループも噛ましてみようかなぁ。

まあ、その前にブエノ君にだめ押しで釘を刺しておこっと。内線番号は……」

 

 

そんなことを言いながら、レホスは内線でブエノを呼び出した。

 

 

***

 

 

人型機班のブエノが“至急”と呼び出されたTeam R-TYPEの危険地帯である開発課課長室。

シンプルながらも調度の良いデスクセットや応接セットがあるのだが、

主たる課長レホスと会話すると、その濃さに霞んで部屋の様子など記憶にも残らない。

 

 

「課長。毎度毎度その白衣とサンダルはどうなんですか」

「汚れた白衣は研究者の研究者の勲章だからね。

それに君はそんなこと言ってられなくなるから大丈夫じゃない?」

「非常に嫌な予感がしますが、何ですか?」

「人型機、好きだよね?」

 

 

まだ用件にも入っていないのに、もう青い顔をしているブエノ。完全に躾られている。

その彼にレホスは良い笑顔で命令を告げる。

 

 

「君らの班には人型機の再開発してもらいたいんだ」

「しかし、課長。TL-1Bは我ながら傑作だったと思うのですが……」

「うん。でもあれは現場としては傑作であってねぇ、

人型機というコンセプトとしてはこう日和った感じだからねぇ」

「うっ……」

 

 

TL-1Bは、人型機は全く戦力にならないという評価こそ覆したが、

未だ人型機自体があまりにも需要が少ない。

どちらかというと、趣味的な面が強く、レホスの考えとしては多様性の一環という感じだ。

 

 

「まあ、いいや。君たちへの開発命令は、

君たちが考える人型機を明確な形として作れって感じで」

「今までも我々の考える人型機だったのですが」

「今回、妥協は認めないからねぇ。まあ、案だけでも一ヶ月後に出してね」

「……はい」

 

 

泣きそうな顔をしたブエノがとぼとぼと帰って行った。

それを見送るとレホスは人型機班とは別の内線を呼び出し、連絡をした。

 

 

「ああ、レホスだけど、君らの会のボス居るぅ? ああ、可変機を作らせてあげようかと思ってね」

 

 

***

 

 

一ヶ月後、少しやつれたブエノがレホスの前に現れた。

期日ぎりぎりまで粘ったのだろう、目の下にクマが構えている。

 

 

「さぁて、君の班の案はどんな感じになったの?」

「TL-2A(仮)。これになります」

「ふぅん……あ、そこで寛いでていいよ」

「いえ、大丈夫です」

 

 

レホスが目線で促したのは、応接セットのソファで、

適度に弾力があって寝不足の者なら5分と経たずに夢の世界へと旅立てそうだった。

しかし、ブエノも流石にレホスの前で寝る度胸は無いのか、ドンヨリとした目のまま首を横に振った。

眠気をわずかに上回る程度には気が張っているようで、課長席の前で立っているブエノ。

手早くデータを呼び出したレホスが、資料を読みながら質問をぶつけてくる。

 

「でぇ? 何となく分かるけどコンセプトは?」

「TL-2Aは今までの人型機で先送りにしていた“人型であること”そのものがコンセプトです」

「その意義は?」

「浪漫です……い、いえいえ冗談です。無言で考査表開くのやめて下さいよ!

TL-2Aの意義は人型にしかできないギミック。

今までのR機では極力廃されていた関節機構を主軸に据えたことです」

 

 

眠気も覚めて一気に汗をかいているブエノは早口で言い繕う。

明らかに冗談を言う相手を間違えているあたり、やはり寝不足だったのだろう。

そんなブエノを試すようにレホスは質問を投げかける。

 

 

「一応、工作機なんかでもアーム部は自由関節になってるんだけどなぁ」

「攻撃に用いるほど強靱のあるアームはありませんし、可動部の技術革新は有用です。

今回は人間の腕に付随する機能である“道具を振るう”事をさせようと考えています。

可動部の延長に伴い、外部スラスター部をカウンターウエイトとして

安定しやすいように外に伸ばしています」

「この手足モドキねぇ。アームの有用性は認めるし、その方針は嫌いじゃ無いけど、

このビームサーベル(仮)っていうの? これ持って振るうのは流石に許可しないよ」

「え……」

「フォースが付くのにどうやって手でサーベル持つのさぁ?

どう考えても敵にサーベルが当たる前に、フォースにエネルギーを吸収されるだけじゃない?」

 

 

そこでハッとするブエノ。

彼は、レホスがビームサーベル自体は否定していないことに気がつき、

このままの路線を修正しながら行くことを決定する。

 

 

「レホス課長。TL-2Aにビームサーベルを持たせるのは流石にやり過ぎなようです。

でも、フォースについてはまだ議論詰めていませんでしたので、そちらを考えようかと思います」

「ふーん。また、イロモノになりそうだけど。それも君の班の存在意義だからねぇ」

「やっぱり、うちの班の存在意義ってイロモノ担当なんですね……」

 

 

部屋に入ったときより、幾らか眠気が飛んだような顔をしてブエノが退室していくのを見送るレホス。

 

 

「人型……ねぇ。運命論者じゃないけどバイドミッション時のバイド帝星中枢も胎児の様な形状。

バイド化が進んだサンプルも結構人型を残すのも多いし、

生態部品でも人間とかほ乳類由来っぽい部位があるしぃ、

人型に何らかの意味を見出せるかどうか試金石として……。もしくは生体自体に意味があるのかな?」

 

 

そう呟いて未だ伸び続けるR機の系統樹に、人型機の新たなるラインを書き加える。

その後、点線でR-12クロス・ザ・ルビコンの後にラインを引いては消してを繰り返した。

 

 

***

 

 

「課長、発表案を持ってきました」

 

 

そう言って、翌月に課長室に駆け込んできたのは、

ここのところ研究詰めで無精髭を濃くしたブエノだった。

対するレホスは、汚い白衣とサンダル姿で健康的な顔をしている。

 

 

「で、どうするの?」

「人型優先は変わりません。

ビームサーベルですが腕に装着するのではなく、フォースに接続しました。

ミラーフォースの反射機構に使っていたエネルギーをサーベルに回しまして、

射程と威力を確保しました」

「それ、人型である必要性がまたなくなってない?」

「いえ、急接近、緊急離脱を繰り返す必要があるため、

機体制御性能を上げるため機体末端である腕脚に増設スラスターを取りつけました」

「目的と手段が入れ換わってるけど、まあ、その方が都合は良いからいいけどね」

 

 

ブエノが一気に説明すると、レホスが小さな声でひとり呟く。

 

「波動砲は……流石にエネルギーをフォースの方に回しすぎたため

スタンダードと衝撃波動砲になっています。

まあ、あの、その軍部とかも散々普通の波動砲が良いとか言っていますし、

単純なグレードダウンという訳では……」

「まぁ、波動砲は期待してないから良いよ。

どちらかというとハイブリッド波動砲そのもののデータが必要なのであって、

組み合わせの有用性は考慮外だからぁ」

「ほっ……」

 

 

レホスはその後、多数の項目について突っ込みや駄目だしを入れ、

それをブエノが必死に修正をいれた案を見渡して言った。

 

 

「まあ、色々穴があるけどもともと穴だらけの計画だからいいかー。

じゃあ、正式にTL-2Aとして案通していいよ。で、名前は決めたの?」

「TL-2Aアキレウスにしようかと」

「なにギリシャ縛りなの?」

「こう、シリーズ物っぽくてカッコいいじゃないですか。

人型機はすべてギリシャ偉人縛りにしようかと思っています」

「あー、そうそう言い忘れてたけど、

人型機はもうひとつTL-2B系列を作ることにしたから。別の班で」

「え……? ウチの班が人型機班ですよね?」

「勝手に呼ばれてるだけでしょ?

って訳でぇ、名前に規則性を持たせたいなら別班と打ち合わせしてねぇ。

あ、僕はこれから中間報告のまとめを書かなきゃならないから、勝手にやってね。

予算は今つけたからぁ」

 

 

そう言って、強制的に締めくくると混乱するブエノを追い出すと、レホスは端末に向かい、

思いつくまま、散文的に文章を打ち始めた。

 

 

***

 

 

――Team R-TYPE第23期中間報告用メモ

 

R機開発において、第一次から第三次バイドミッションまでR-9/0などを頂点として、

オーソドックスといえるR機の強化系には、一定の成果と、開発の壁が観察された。

Team R-TYPEでは研究員を従軍させ、現場での集団運用も研究させたが、

決定的なブレイクスルーは果たせず、

オペレーション・ラストダンスの進行についても模索が続いている。

 

 

“対バイド戦におけるもっとも有効な攻撃、 それはバイド をもって、 バイドを制することである”

対バイド兵器、特にフォース開発における基本理念として有名すぎるほど有名な言葉であるが、

さらに、端的にバイドの進化、性質、特性といったものを兵器に組み込む事により、

新機軸の兵器となる可能性があると考えている。

バイドは戦闘機に近い形だけでなく人型などを取ることがあり、

今期計画では、その形状的な意義を複数のモデルを持って観察している最中である。

ただし、現状では未だ形状的な意義は見いだせていない。

今期の開発に区切りがつき次第、今後は性質、特性、生態などを順次研究課題として取り上げる。

 

 

次期にR機系統ついては――

 



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TL-2A2“NEOPTOLEMOS”

TL-2A2“NEOPTOLEMOS”

 

 

 

 

「みんな聞いてくれ!」

 

 

センサー式のドアが開ききる前に手でこじ開けながら入ってきたのは、

人型機斑班長であるブエノだった。

 

 

「やめろよ、それで一回ドアモーター壊してるだろ。メンテ口開けて修理するの面倒なんだぞ」

 

 

部品や模型の山を避けて、研究室の入口付近で書類をまとめていたメイローがブエノに言う。

続けて、少し奥にいたフェオがやってきて、何か用かと問いかけると、ブエノが勢い込んで話す。

 

 

「人型機班はこれで解散されるかもしれないんだ!」

「……いや、むしろ良く持った方だろ」

「やっと軍も正気に戻ったんじゃね?」

「いきなり解散では人型機班の名が泣くので、

TL-2Aの後続機をつく予算を取ってきた。それがこれだ!」

 

 

二人の班員の突っ込みも気にせず、

ブエノは態々大きなPC端末を持ち出してきて、映像資料を呼び出す。

無駄に凝ったフォントや、アニメーション付きでこう書かれていた。

 

 

『白兵戦用兵器装備強化型TL-2A2“NEOPTREMOS”』

 

 

効果音付きの新型機のネーミングを見た瞬間、研究室内では微妙に生ぬるい空気が流れたが、

メイローとフェオはさらに突っ込みを入れることを忘れていなかった。

 

 

「とうとう最終か。長いようで短かったな」

「今思うと良くこれだけ作ったよね。集大成って感じ?」

 

 

メイローとフェオが何故かほっとしたような顔で呟くと、ブエノがさらに突っ込みを入れる。

 

 

「いや、他の斑からの参入があったから人型機班“だけ”で作らなくなるだけで、人型機自体は健在だ。

しかも、面倒な可変機研のやつらがしゃしゃり出てきて、現在TL-2B“ヘラクレス”を開発中だ。

というか、うちのTL-2A2すぐ後にTL-2Bがロールアウトすることになるらしい」

「最終とか言いつつ新しい系統機作ってんじゃねーよ。詐欺だろ」

「“白兵戦用兵器装備”最終強化型だ。要は白兵戦無双だな」

「で、お仕事は?」

「もちろんいつもといっしょ。気が済むまで弄り倒そう」

 

 

メイローとブエノがコントを行うと、なんのかんので仲の良い人型機班は三人で打合せに入っていった。

 

 

***

 

 

「分かってないっ、分かってないな! 近接戦闘の華と言えば斧に決まってるんだ」

「考証的にもイメージ的にも、マニアックすぎるだろ」

「リアリティは置いておくとして、普通近接戦闘のイメージと言ったら剣じゃないか?」

 

いつもは茶化し役となるフェオが、TL-2A2の装備について持論を展開しだしたのだ。

班長ブエノがフェオの妙な熱意に疑問を持つ。

 

「何で斧なんだ。あれが近接武器だったのって日用品からの転用が容易だったからであって……

そもそも、あれの用途は重さで潰しながら押しつぶすって感じだから、

宇宙空間で振り回す物じゃ無いぞ」

「いや、あれ意外と対ザイオング慣性制御システムって意味で相性良いんだよ」

「対ザイオングって、なんで対R機戦闘が前提なんだよ!」

 

 

R機の基礎システムであり最需要機関の一つとしてザイオング慣性制御システムが挙げられる。

 

 

完成度・安全性が高く、さらにR機とともに地道な改良が続けられてきたこのシステムだが、

数少ないクリティカルな弱点として、イレギュラーな加速度変化に比較的弱い事が上げられる。

ザイオングシステムをフルに駆使しての高速戦闘中では、些細な衝撃が死につながる事になるのだ。

中に人間(の一部でも)が乗っている都合上、

慣性制御が行われない唐突な衝撃には耐えることができない。

簡単に言うと、パイロットがミンチを通り越した状態になる。

 

 

つまり、対R機戦に限っては、質量兵器も選択肢としては間違ってはいないことになる。

装甲部へのカス当たりでも、衝撃がザイオングシステムでキャンセルできる限界値を

超えさえすれば、中身を破壊できる。

ちなみに波動のハの字も付与されていない質量兵器では、

バイド相手の手段としては“お察し”レベルである。

 

 

「斧ねぇ。人型機に質量兵器って考えは良いけどなぁ。

相手がR機とか小型バイドとかだと当たるのか?」

「ソフト面で改良するとしても、当てるのがパイロットじゃないか」

 

 

パイロットを含む運用側からすると恐ろしいことを言い放つフェオとメイロー。

Team R-TYPEでは、配慮なんて言葉は完全に埒外となっている。

 

 

「考えられるものは研究する。可能性のあるものは作る。それがTeam R-TYPEってものでしょ!」

「……フェオがそこまで言うならいいんじゃないか、班長。まあ人型機に邪道も何もないよな」

「そうだな。斧装備で試作機を作ってみよう。最悪、新型ハイブリッド波動砲でごまかす手もある」

 

 

三人は頷き合うと、一気に案を詰めていく。

 

 

「まず、操縦系統の改善を……」

「それよりザイオングの限界について……」

「武装名は……」

 

 

珍しく見せたフェオの妙な熱意に絆されて、議論が妙な方向に流れていく。

人型開発斑の日常であった。

 

 

***

 

 

最終機の名目を盾に突き進んだ結果、

最終テストである公開試験会場にTL-2A2ネオプトレモスが立つことになった。

そこにあったのは何とも形容しがたい機体であった。

 

 

初代人型機ケイロンから見ると、関節の可動部が格段に増えたため見た目は人型と言って差し支えなく、

また、変形機構も当初より洗練されている。

陸戦兵器からの伝統による物か、宇宙では全く意味をなさない深緑色に染められている。

もはや人型機のお家芸となったハイブリッド波動砲やシールドフォース、

それに付随するレーザーは健在で、

今回装備されたハイブリッド波動砲の四式では、スタンダードⅡと衝撃波動砲を組み合わせてある。

ここまでは正直、人型機としては理解の範疇である。

 

 

一際異彩を放つのは、試作機が手に持つ質量兵器。

……誰がどう見ても斧だった。

 

 

“それどうするんだ?”

 

 

このお披露目の式に来た人間の共通の感想だった。

斧の用途なんて究極的には一つしか無いことは分かっているが、常識が理解を拒否する。

そんな聴衆の反応を余所にブエノは白兵戦テスト開始の合図をだし、現場宙域のパイロットに知らせる。

パイロット側から了解の合図とともに、標的であるデコイが宙域に射出された。

聴衆が、これから何があるのかと固唾をのんで見守る。

 

 

テストの見栄えを意識したのか、

デコイには必要は無いフェイントを挟みながら、一気にデコイに接近し、

TL-2A2はそのマニピュレータに持った赤熱した斧を振りかぶり、一気に叩き潰した。

巨大な質量同士がぶつかり合ったが、TL-2A2の強化された関節部はスムーズに動いている。

が、次の射出されたデコイに対しては、接近せず距離をとったまま側面に回り込む。

良く“訓練された”テストパイロットは事もあろう事か、手に持っていた斧状の武装、

もといヒートホークをデコイに投擲した挙げ句に、

スラスターをふかせてショルダータックルを仕掛けて見せた。

回避プログラムに従って最低限の回避行動をとるデコイに対して、高速戦闘でタックルを決める。

人型というバランスの取りにくい機体で、高速突進を決めるパイロットの練度も目を見張る物があるが、

それ以前にインパクトが強すぎて、ギャラリーは唖然としたまま、モニターを見ている。

それをテストルームから、何故か勝ち誇った顔をして眺めるフェオ。

ブエノは斑の代表として、説明を行うが……

 

 

「TL-2A2の白兵種武装である“ヒートホーク”は……」

「おい! デコイならば質量が小さくて相対速度もそれほどではないから良いが、

あんな曲芸を本番でやればパイロットが死ぬぞ!」

 

 

一目でパイロット上がりと見て取れる30代の士官が顔を真っ赤にして声を荒げていた。

その周りでは、追従する軍人達。その他の人は今の見た物を理解し切れていない様子だ。

それに対して、ブエノは人型機班で事前に打ち合わせた、想定問答集の通りに回答する。

 

 

「おそらく、あなたがおっしゃっているのはザイオング慣性制御システムの件だと思いますが、

おっしゃるとおり、ザイオングシステムは予期せぬ加速度変化に弱くはありますが、

質量兵器による白兵戦ができないわけではありません。我々はシステムを改良しました」

 

 

今までテスト宙域を映していたモニターが暗転して切り替わり、

デフォルメしたTL-2A2で描かれたにアニメーションへと変わった。

R機が氷塊と接触して大破したり、TL-2A2がR機にタックルを仕掛けて勝ち誇ったりしている。

 

 

「ザイオングシステムは近々の未来について予測演算を行うことで、

加速度の掛かり方を計算して制御しています。

ただし、未来予測は非常に計算コストが掛かるため、

ザイオングシステムは想定外の事態に弱いのです。

それでも多少の揺れ程度なら、計算リソースを優先的に傾けることで乗り切れるのですが、

衝撃強度が強いと、計算外の加速度が生まれてしまい、結果負荷に耐えきれず大破します」

 

 

そんな事をべらべらと喋りながら、アニメーションを動かして説明を行うブエノ。

しかし、聴衆も「そんなことは知っている」と苛立ち始めている。

が、ブエノもTeam R-TYPEの研究員であるので空気なんてまったく読まずに、長ったらしく説明を続ける。

 

「なので、今回TL-2A2を開発するに当たって、白兵戦に特化した計算モデルを導入しました。

これにより、今までパイロットの資質面に頼っていた質量兵器の運用がより簡易になると同時に、

タックルやキックといった機体そのものを武器とした攻撃も可能になりました。

あ、機体をぶつけると言っても、

データ取りのために散々対衝撃テストしてデータ蓄積を行いましたので、

能動的な機動による衝撃については安全となり……」

 

 

そこまでブエノが説明をしていると、聴衆から大きな声で質問が起こった。

 

 

「おい、ちょっと待て、君は今衝突テストと言ったな!?」

「あ、はい、衝突テストです。データ取りとしてシミュレーション一千万件、

テスト実機で20機分使いつぶしてデータを取りましたから、自信を持って送り出せます」

 

 

悲鳴の様などよめきがテスト会場を支配する。

バイド中枢にR機を五月雨式に投入したことで、バイドの進行が小康状態になっているとはいえ、

テスト機とはいえ20機分、大隊規模をスクラップにしたとあれば、泣きたくもなる。

 

 

聴衆の怒りと悲嘆と困惑を余所に、

モニターではTeam R-TYPEで行われた様々なクラッシュシーンが流れ出す。

衝突時の加速度を再現するために、

フレームだけではなく内部機関も積んだ、かなり精巧なテスト機だ。

少なくとも衝突試験に使い潰すような物ではない。

 

 

怒声があがる10秒前だった。

 

 

***

 

 

同時刻、Team R-TYPE区画にある人型機研究室。

やり遂げた感のあるフェオとメイローが異常に濃いコーヒーを飲みながら久方ぶりに寛いでいた。

 

 

「試作機を送り出したからやっと一息付ける。おい、フェオ、アレ通ると思うか?」

「班長の説明しだいじゃね? でもまああれだけ予算使った後だから、通すしかないよ」

「損切りしたいけど今まで掛けた費用を無駄にしたくない。サンクコストのジレンマだな」

「まあ、うちらだけでやるの最後だから、プールした資金から出しただけなんだけどね」

 

 

二人とも目の下のクマが濃いが、表情は活き活きしていてジョークを言い合う余裕すらある。

 

 

「後は可変機研が手を出したTL-2B……ええと、ヘラクレスだっけ? メイロー知ってる?」

「そうそう、ギリシャ神話系の名前で統一するらしい。

しかし、可変機研かぁ、一昔前は“可変R機を作る会”とかいう同好会だったのに」

「その同好会って班長も所属していたよね?

なんかケイロンの作るきっかけもそこだったような」

「ああ、その流れもあって可変機研と一緒になって、

TL系列をさらに進める計画を班長が立ててるらしいぞ」

「ふーん、まあ、班長が帰ってきたらその辺も話すでしょ……。

ところで今、死ぬほど眠いから、会話の、途中で、寝そう、なんだけど。

アラームでも起きなさそうだから、打ち上げの時間になったらメイロー起こしてくれる?」

「俺も眠いからたぶん無理……」

 

 

その後、班長ブエノがハイテンションを維持したまま、

打ち上げ会場となった酒保に乗り込んだが、

メイローとフェオが研究室で揃って寝落ちしていたのでお流れになった。

 

 

***

 

 

対バイド戦闘そもそもあまり考えらていないこの機体だが、

もちろん将兵の涙を糧に前線にも投入された。

現場パイロット達は与えられた兵器を用いて、最大限の抵抗を行ったが、

はやり多くがバイド素子を植えつけられて、元の形状さえわからない肉塊となっていった。

 

 

TL-2A2ネオプトレモスが戦場に配備された少し後に、

小型バイド最大の脅威であるゲインズにとある“進化”が

起こったとされる報告書がTeam R-TYPEで上がったが、

その報告書が外に出ることはなかった。

 




ゲインズに白兵戦用なんて意味のない進化はいらなかった。
TAC1の頃のように毎ターン撃てるだけでよかったんだ。


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TL-2B“HERAKLES”

TL-2B“HERAKLES”

 

 

 

 

ここはTeam R-TYPE研究施設内にある小さな会議室。

“可変R機を作る会”こと変形機研の中堅研究員ブッチー主任と、その部下数名が座っている。

TL-2B開発斑のリーダーと相成ったブッチーと、その手下のカッツ、新人のニシムラ。

その他にも居るがメインメンバーは彼ら3人であった。

男臭いことで有名な“可変機研”とあって当然のごとく全員男だ。

 

 

「今回、可変機研のリーダーとなったブッチーだ。

TL-2Bの開発は、人型機研から予算枠を奪い取る形で、開発斑の設置まで漕ぎ着けたが、

それだけ人型機について軍部――特に現場の不満もあるということだ。

なので、我々なりの新機軸を打ち立てないと、即降板もあり得る。

と言うことで我々で新規案を検討したい」

「カッツです。

我々の案を出すとすれば、変形によるメリットを前面に打ち立てた形が好ましいですな」

「そうだな、どうしてもカッツの方向性が前提にはなるな。これは基本すでに前提条件だな。

ちなみにニシムラ君は何か意見があるかな?」

「いえ、僕は新人ですのでできるかという観点では怪しいのかもしれませんが、

できるなら、変形からのミサイルカーニバルをやりたいです!」

「それは方向性というか運用だろう。ニシムラ君もロマン派だったか……」

 

 

ロマン派とはまるで美術や音楽に関連しそうな雅な名称であるが、

Team R-TYPE内では理想及び妄想によって開発を行う人間の総称である。

そして広義にはTeam R-TYPEの大多数がここに分類される。

もちろん偉そうなことを言っているブッチーも例外ではない。

 

 

「いえ、人型に拘りはありませんよ。

むしろ美しければケイロン的な単純な機構の方が好みです」

「いいのではないか、とりあえず若いウチは現実性だけでなく目標が具体的な方がわかりやすい。

それに完全な人型は無駄が多いし、外見の変化はさほど重要ではない。中身だ。

と言うことで変形することで機構的な変更点のある美しい機能性の機体を押したい」

「ニシムラ君はとにもかくにもミサイル押し、カッツは具体的に?」

「R機ならやはり波動砲ですな。

変形機とは運用面を柔軟に対応できるようにするという面がありますから、

波動砲の運用として今まで余り取り上げられなかった短チャージで広域を攻撃できる機体ですな。

短チャージは各機関に負担を掛けるから機体が大型化して、機動性に劣る。

それを変形による巡航体型で補う……というのはどうでしょう?」

「それはおもしろくないな、技術的にでは無く意義的に。

波動砲よりはもっと運用に華がある物を作りたい」

「……ええと、ブッチーリーダー。運用に華とは?

人型機間で連携できるようにするとかですか?」

「間違っていないが、人型機隊による連携はナンセンスだ。

もともと人型というのは単独での運用が前提だ」

 

 

可変機という旨味を活かした人型機という、

ざっくりした方向性で始まった会議はだらだらと続いた。

しばらく意見を出し合った後、ブッチーはまとめに入った。

 

 

「既存R機の巡航について行けて、止まっての撃ち合いができる機体これがTL-2Bの方向性だ」

 

 

ブッチーはTL-2Bの開発方針を概ね決定した。

 

 

***

 

 

Team R-TYPE特有の狂気を孕んだ喧噪とは別種の、

重い雰囲気を醸し出す課長室で、二人の男が向き合っていた。

部屋の主であるレホスと、課長レクをしにきた可変機研のブッチーである。

もちろん話の内容も新たに開発に向けて動き出している可変機についてだ。

 

 

「ふぅん、既存部隊との連携を前提とした機体ねぇ。

通常R機と既存人型R機のニッチを当て込む訳だ」

「はい。R機の進化は早いですからね、生存戦略は必要かと。

私はこのTL-2Bを思いつきの特機にする気はありません」

「それはまた痛烈な当てつけだねぇ。で、具体的は?」

 

 

レホスの探るような視線に、ブッチーは用意してきたプレゼン資料を用いて解説を始めた。

Team R-TYPE開発部の現場で最も影響力を持っているレホスを説得するという、

研究員にとっての大一番だ。自然とブッチーの言葉にも力が入る。

 

 

「TL-2Bヘラクレスは、ミサイルポット装備型の人型R機として研究を進めています。

その機能を最も引き出すために、現状でもっとも普及して居るであろう早期警戒機兼、

管制機であるR-9Eミッドナイトアイとの連携を想定しています。

TL-2Bには6WAY追尾ミサイルを搭載する予定ですが、

管制機が居れば集団でミサイル弾幕が張れます。

前世紀の水上艦艇の運用法を想定して頂ければと。

ミッドナイトアイをイージス艦に見立てた運用ですね」

「それはR-9Bシリーズ爆撃機タイプの運用と被るんじゃなぁい?」

「核ミサイルではなく通常弾頭です。流石にばら撒くのにバルムンクは大きすぎます。

防衛を基軸としたR-9Bシリーズとは違い、攻勢に向いた機体として運用すべきです」

 

 

レホスから致命的な反論が無いことを確認すると、ブッチーは説明の続きを語り始める。

 

 

「先ほどの説明で分かるとおり基本的にこれは防衛戦向けの機体になりそうです。

そうですね、宇宙要塞などの防衛機として配備することを想定しています。

施設設置型の固定ミサイル砲台などは接近されると手の打ちようがありませんが、

TL-2Bならば人型機用汎用フォースであるビームサーベルフォースを装備可能であるので、

接近戦も問題なくこなせます」

 

 

続く話を一気に言い切ったブッチーは、大きく息を吸いレホスの質問に備える。

レホスは目の前の男が持ち込んだデータをしばらく読み込んでいたが、疑問をブッチーに尋ねる。

 

 

「ぶっちゃけた話、人型機である必要性が薄いんだけど、このTL-2Bが人型機である理由は?」

「ありません。この際四足なら人型ということにしようかと。

もともと我々“可変R機を作る会”が作りたいのは人型でなくて、可変機ですからね」

「もっとも方向性が近くて利用できそうな系統が人型機。という訳だ」

「はい。レホス課長。それに人型が近接戦対応能力に秀でているのは事実ですから」

 

 

そもそも、人型機はR機である必要があるのかという根本的な疑問はスルーし、

レホス、ブッチーともに、それぞれの別の思惑を抱きながら課長レクは終了した。

 

 

***

 

 

リーダーのブッチーが課長レクを終えて、研究室に戻ると、

TL-2Bに積む波動砲の研究のため、

波動砲研に一時的に出向いて研究を行っていたカッツが居たため、声を掛ける。

 

 

「ハイブリッド波動砲の6式の方はどうなった、カッツ?」

「レホス課長へのレクはうまく終わったようですね。お疲れ様です。

取り扱いが難しいため今まで敬遠されてきたライトニング波動砲を採用しました。

もう一つはもちろんスタンダードです。癖のあるものを組み合わせる意味はありません」

「それは確かに成果だな。

ええと、たしか今までの経緯としてはライトニングの波動-電気変換回路が、

大きすぎて他に組み込めなかったはずだが、どうやったんだ?」

「回路の小型化に成功しました。

……と、言いたいところですが、実際にはオリジナルライトニング波動砲より、

変換容量が小さくなっているため、出力そのものも小さくなっています。

射程も狭まっているため、短ライトニング波動砲と言うのが正しいでしょう」

 

 

少し悔しげなカッツの言葉だが、ブッチーはそんなものだろうと了解の意を示す。

波動砲についてはあまり興味は無い。使えるものがあれば構わないのだ。

そこに、研究室の奥から、日に日に不健康になりつつあるニシムラがやって来たので、

ブッチーが、若手のニシムラに進展を尋ねる。

ニシムラは目の下に育ってきたクマと充血した目を擦りながら答える。

 

 

「人型形態の安定性はどうなった?」

「ええ、ミサイルサイロを設置するため、背部の厚みが増し大型化が進んでいます。

これだけの大きさだと機動による回避も難しいですので、

フォースによる防御を活かすため前方からの被弾面積を減らしました。

それによって、人型というよりは四足に近い形状に落ち着きそうです」

 

 

機体のデザイン案を見ながら話して言いるブッチーとニシムラだが、

波動砲データを弄っていたカッツが話に加わる。

 

 

「いやはや、ミサイルポッドを変形の前後ともに撃ち出せる様にするのに手間取りましたよ。

主に波動砲コンダクタとの容積の食い合いという面で」

「ああ、波動砲のコンダクターとかフォース関連の機関は場所を動かせない上に大きいからな。

あれを避けて別の大型サイロを取り付けようとすれば。ああなるな」

「まあ、私は人型機というより、変形によって機能性向上すれば言うことはありません」

「TL-2Bは人型形体の立体勢以外はかなり無理してみないと人型に見えないからな」

 

 

実際にTL-2Bの模擬戦闘データを見ると、人型というには少々難がある。

戦闘機時の大型背面スラスター類が、頭部であるコックピットの後ろに付いており、

微妙にカーブを描いているため腰の曲がった“せむし”の様に見える。

脚部は閉所での運用する場合には、人間のように壁や地面を蹴り付けることによって

機動力を高める効果があるが、通常、宇宙空間での運用時には

背面スラスターと揃えて後方に向けるため、足を後方に投げ出している様になる。

機体の大きさに対して防御手段がフォースのみなので、

被弾面積を小さくしフォースの陰に隠れられるように、

頭もといコックピットを前方に向けて寝そべった様な体勢を取ることとなる。

近接戦に備えて、アーム部も備えられているが、TL-2Bの場合は固定の近接武装が無いため、

補助的なものに過ぎず、通常は脚部とのバランスを考慮して、

小さく肘を曲げた形で機体前方に緩く付きだしている。

 

 

つまり、なまじ人型をしているだけに、

戦闘時はハイハイする幼児といった外見になってしまうのである。

移動時にはちょっと大きいR機という感じだが、

足を止めての撃ち合いではこの体勢に落ち着くのだ。

ブッチーは改めてTL-2B完成予想図を見て呟いた。

 

 

「人型機……といっていいのか? カッツ、ニシムラどう思う?」

「R機に夢は必要だが、機能性はもっと必要ですから問題ないですな。何より可変機です」

「僕はミサイルが五月雨式に撃てれば満足ですが」

 

 

結局は彼らもTeam R-TYPEであった。

 

 

***

 

 

対バイド戦線、最前線の一つである木星-金星ライン。

そこに浮かぶのは難攻不落の要塞ゲイルロズだ。

非公開ながらも地球周辺域に来襲しているバイド群が、

小規模なものに押さえられているのは、要塞ゲイルロズの貢献が大きい。

しかし、バイドの物量は強大であり防衛艦隊次第では、内部に押し込まれる場合もあった。

その要塞内に一つの実験部隊が配置されていた。

TL-2Bヘラクレス部隊である。

 

 

現地実証中であるこの部隊は、入口の隔壁を睨みながら待機している。

障害物に隠れて部隊の目であるR-9Eミッドナイトアイが配置され、

弾切れに備えて後方には工作機も完備されている。

先ほど外の戦況が思わしくなく、突破した小規模バイドが入口に押し寄せていると

R-9Eのパイロットが部隊に伝えてきたため、

TL-2Bヘラクレスは機体の出力を上げて待機している。

 

 

「ミッドナイトアイ1より各機へ、

現在守備艦隊の裏をかいたバイドの一群が要塞にアタックを掛けている。

そろそろ先頭集団が来そうだ。ヘラクレス隊、準備は万端か?」

 

 

部隊の中核であるR-9Eミッドナイトアイからの通信にヘラクレス隊各機から了解の返事が返る。

場所は要塞ゲイルロズの正面シャッターの内側である。

波動砲の直撃にさえ耐えられる正面シャッターが、バイドの侵食により脆くなって軋んでいる。

ついにはバイド粒子弾によって打ち破られるシャッター。

 

 

待ち受けるのはヘラクレス隊の放ったミサイルの弾幕。

ミッドナイトアイの強力な索敵能力と組み合わされた大量のミサイルは

一斉射で小型バイドの半数を処理した。

工作機によりミサイルの補充を受けるころには外で大型バイドを叩いていた艦隊が駆けつけ、

結果として、バイドの規模の割に、R機・要塞ともに被害は軽微で切り抜けることに成功した。

そして、彼らは要塞ゲイルロズの不落神話の一端を担うことになった。

 

 

TL-2Bヘラクレスはこの実験部隊の働きが大きく評価されることになり、

従来型の人型機とは異なる価値観をもって評価されることになる。

 




ビームサーベルってフォースに付いているのに、
何故手がある必要があるのか? 本当に謎です。


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TL-2B2“HYLLOS”

TL-2B2“HYLLOS”

 

 

報告書「人型R機の研究成果」

 

 

・TLシリーズ概要

 TLシリーズはTL-2B“HERAKLES”を除き、一貫して近接戦に特化してきたR機群であるが、そのリーチの短さや、攻撃手段の乏しさから、単機・単機種での運用には向かないという現場からのレポートが多数挙がっており、基本的には他のR機のバックアップが必須である。現場ではこれらを補うため混成部隊を作るなど対応しているが、その速度や航続距離などが問題となっている。これに関してはR-9E“MIDNIGHT EYE”を管制機とするTL-2B“HERAKLES”も同様である。

 

 

・TL-2B2“HYLLOS”の開発評価について

 TL-2B2“HYLLOS”では前述の欠点を補うため、中距離戦から近接戦までを一機でカヴァーできる性能を付与することが前提条件となった。TL-2B2“HYLLOS”の開発コンセプトとしては“エースパイロット専用機”として開発された。開発の方向性としては単機による近距離戦を可能とする機体である。これまでの人型機の発展系としての近接性能と武装を装備するとともに、TL-2B“HERAKLES”で開発された6WAYミサイルによる中距離での攻撃手段を加えた。また、補給頻度を減少させるためエネルギータンクおよび、ミサイルサイロを従来よりも大きく取った。このため、さらに大型化が進んだが、短期運用であるため、問題にはならないものと思われる。

 

 

・運用準備について

 特殊機体であるため、まずパイロット選定が問題となる。先行ロールアウトした2機のTL-2B2“HYLLOS”のために、TL系列機を触ったことのあるパイロットの中から、調査・選定を行い、精神的、肉体的テストを行い、既存の人型機での戦闘記録が良いものを2名挙げた。なお、当機体は非常に操縦性が特殊であるため、輸送パイロットも専用である必要がある。現実的には実戦配備時には輸送機などで移動することになる。なお、今回は輸送機が使用不能であったため、Team R-TYPE上層部から送られてきた薬物処理済みの人員を使用した。

 

 

・輸送時事故について

 今回の先行ロールアウト機2機は、前線部隊に届け選定したパイロットに運用試験、実地運用を行わせる予定であった。しかし、2機はそれぞれの経路で輸送中に、各別の小型バイド群に接触し戦闘に突入した。戦闘を行ったのは正規パイロットでは無く、輸送任務専門の仮パイロットが行った。TL-2B2“HYLLOS”は1機大破、1機損傷軽微となった。大破機からは戦闘データを回収、損傷軽微機については改修後正規パイロットに受け渡しを行った。大破機データは次期増産に備えて分析を行っている。

 

 

・現地運用について

 上記事故により現場に配備されるTL-2B2“HYLLOS”は一機となったが、正規パイロットの適性が高く、当初スペックを超える成果を上げている。配備3ヶ月でのデータで顕著なものは瞬間最高速112%、近接撃破率:172%、反応性148%である。(※これらは既存人型機データを基に試算したスペック値との比となっています)現場からのレポートでは特に待ちでの性能が高く、基地防衛隊を中心に要求が挙がっている。

 

 

 これらのデータを総合し、TL-2B2“HYLLOS”先行ロールアウト機の現場評価は高く、人型R機として成功であると思われる。また現場からの要請に応えるため、増産計画と、人型機開発研究の継続が必要である。

 

 

Team R-TYPE開発部開発課 主幹研究員  ブエノ・クラスマン

              主幹研究員 ブッチー・パンタナス

 

 

 

 

***

 

 

 

 

!警告!

 このデータファイルは第一級機密に分類されており、権限を持たないユーザーはこれを閲覧することはできません。機密保持のため、ネットワークに接続された端末では読み込みが不可能になっています。また、この警告を無視する事により、使用中の端末に致命的な結果をもたらすウイルスコンプレックスが挿入されることになります。ご注意下さい。

 

 

 

PASS:****************

 

ユーザーの権限レベル:ok

使用端末のスタンドアロン設定:ok

パスワード:ok

 

 

 

○人型R機に関する最終報告書

 

 

 かねてより行ってきた次元突破実験の余波や、まれに観察される事故により、“知的生物が生存し平行的に存在しうる異なる次元”(以下平行次元と称す)から当次元に現れた“漂流物”群を観察した結果、人型兵器の記述や部品が非常に多い。書物・データの一部はその自己矛盾したな内容から妄想や空想の類と観察されるが、稀に人型機の部品と思われる現物が漂流してきた事例が複数件ある。漂流してくる人型兵器についても、Team R-TYPEの技術では解析の難しい技術(試料不足による)が、多数見られる。

 

 

 これらはR機とは明らかに違った技術体系の元で作られたことが明白である。これについて身近な例を挙げると、平行次元の一つである“26世紀の地球”で作られたバイドに、魔道力学とでも呼ぶべき技術が利用されていることは研究員の間では良く知られている。漂流してくる人型機も同様に我々とは別の技術体系が用いられているが、その技術も平行世界毎にタイプが違う。

 

 

 異なる技術体系間で同じような機動兵器が作られる事についてが、この研究の発端である。これは収斂進化の一つとして見ることができる。つまり、“人型であることに何らかのメリットがあると考えられる。”Team R-TYPEでは、“機動兵器が人型である事でメリットがある”ことを仮定として研究を行うこととした。平行次元の文明にとって人型であることが、何らかの意義がある事を想定し、その知見を深めるためにTL系列の開発を実施した。

 

 

 “人型であることに何らかのメリットがある”という命題については別の推論もある。人類の敵であり、もっとも興味深い研究対象であるバイドである。一般的に知られている通り、小型、大型バイドの多くは肉塊や機械が一見デタラメに配置されることによって構成されている。しかし、特に強力に進化したバイドの一部個体については人型を取ることがあるという事実がある。バイドミッション時のバイド中枢は胎児の様な形状であったことが記録されている。このバイド中枢は侵蝕を受けた物では無く、完全にバイド素子が周囲元素を取り込んで成型したものと想像され、取り込んだ物質由来の形状ではありえない。また、一部に人間の物と思われる気管を持つバイドは多い。カルスや筋組織といった生物に普遍的な組織では無く、ほ乳類の内臓器や眼球、明らかに人間に類似する顔面や脳が分化することもある。バイド化して間もない場合には、バイド侵蝕を受ける前の形状を色濃く保っている場合もあるがこれは除外する。

 

 

 また、人類の人型機を基とした小型バイド“ゲインズ”があるが、現場から報告される接触頻度から考えて、鹵獲侵蝕されたものを直接使っているわけでは無くバイド化した物質から選択的に人型のゲインズとして“再生産”されている事が分かる。状況証拠ではあるが、バイドも明らかに人型であることで、何らかのメリットを得ていると想定される。

 

 

 「バイドが26世紀地球人類によって作られたので、人間の遺伝情報を持っていることは当然である」といった反論を政府の高官が述べた例があるが、人型のデータを持っていることと、それが表現系として出現する事は別の問題である。人型の形質が淘汰されずに、生成ミスとしての誤差範囲を超えて頻繁に発現するという事に意味がある。

 

 

 これらの仮定を検証するために人型機であるTL系列の開発を進めたが、スペック上での効果はほぼ認められなかった。ただし、パイロットが強い感情を発露した時に限り、スペック以上の戦果を記録する事例が散見された。他機でも感情の発露による一時的な反射神経の向上などが見られるが、この系列機では特にこの影響が強く表れている。ただし、感情的な要因によって引き出される能力は恒常性が無く、持久力に劣る。薬物、暗示などによって興奮状態を維持した被験体を使い、予備試験を行ったが、事故率、被験体の消耗率ともに高く、それに対して再現性が低い値を示したため廃案とした。

 

 

 これについて実機では結果が異なる可能性も考慮して、TL-2B2“HYLLOS”の配備前にも極秘にブラインドテストを行った。これはTL-2B2“HYLLOS”の輸送任務につけたパイロットに暗示処理と薬物処理を行い、バイド小規模群体の予想経路上を飛行させるというものである。ただし生産台数の都合から母数が2であるので、参考値以上のものではない。生産された2機のうち1機が、パイロットの過剰興奮によって判断を誤り、撃墜判定を受けた。もう1機はパイロットの興奮作用が良好に作用し予想値以上の成果を上げ、任務を達成した。

 

 

 この後、正式に該当部隊に配備されたTL-2B2“HYLLOS”だが、予想値を超える成果を上げ続けている。これは輸送任務中の逸話や、1機のみの特別機、特殊機体などというパイロット側の思い込みにより、自己暗示状態にかかり、自ら興奮状態を作り上げているためと思われる。ただし、その後行った追試でも再現性は取れていない。

 

 

 これらの研究から、人型R機のメリットや運用法が確立されたが、これらのメリットの多くは個人の資質に強く依存し、再現性に劣る。人型R機で挙げられる運用上のデメリットや構造上の限界を考慮すると、これ以後の開発方針としては、従来型の形状に一本化することとした。

 

 

 人型R機開発でのOp.Last Danceの成果としては、近接戦闘データの蓄積と、全状況運用を可能とする波動砲のテストケースとなりうる、多種多様なハイブリッド波動砲シリーズが挙げられる。Op.Last Danceの最終目標として、“最強の一機ではなく、究極の汎用機”というコンセプトがあり、様々なシリーズの施策検討を実施してきたが、人型機で吸収すべき事項は研究し尽くしたと判断したため、研究データをまとめた後に、人型R機TL系列機の開発を凍結する。

 

 

Team R-TYPE研究開発部開発課長レホス

 




ナルキッソスなんて無かった


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R-9AF“MORNING GLORY”

R-9AF“MORNING GLORY”

 

 

 

「良い波動砲って何かな?」

「何だ唐突に」

 

ここは要塞ゲイルロズの数ある食堂の一つC食堂である。

通常の兵員用であるのだが空いている。

理由は簡単。ここはTeam R-TYPE研究区画に隣接しているのだ。

将兵の間では、ここは研究員達が被検体を選ぶ際の狩り場である。

と、まことしやかに囁かれている。

いかに狂科学者集団といえども、理由もなく通常兵員を被検体として扱うことなど

殆どないのだが、今までの悪評から半ば真実のように言われていた。

そんな訳で、先の会話をしている兵士らも目立たずに長机の隅の方に座っている。

地球連合軍の白い軍服を着た30代くらいの男と、

作業服の上からジャケットを羽織った同じく年代の男で、

二人が態々人の少ないC食堂を選んだのは、

ゆっくりと食後の情報交換と言う名の世話話をするためだった。

 

 

「いや、俺さ防衛部隊R機付きの整備員じゃん?

結構色々パイロットの愚痴に付き合わされるのよ」

「ああ、それも仕事の内だろ。いつ終わるともしれない事務より健康的だ」

「まあ、それを機体コンディションの目安にもしてるしな。まあ、そういう話の中でさ。

波動砲についても結構色々宿題貰っててさ。結構悩んでるんのよ。これでも」

「なんでお前が悩む必要がある? 波動砲の基礎整備ならともかく、

波動砲なら……それはTeam R-TYPEの課題だろう?」

 

 

軍服を着ていた男は“Team R-TYPE”の部分を発するにするにあたって、

周囲を見回してから小声で言う。

事務屋の軍服の男は几帳面かつ生真面目な性格で、

Team R-TYPEに絡まれるのだけは避けたいのだ。

C調言葉を発して居た整備員の男も、ここがどこだか思い出して声のトーンを下げる。

 

 

「わりぃわりぃ。ここがC食堂だって忘れてたわ。

で、さっきの話。波動砲は奴らの持ち分てのは重々承知なんだけどさ、

パイロットが機体の事で悩んでたら、

一緒に悩んでどうにかするってのが整備の役割でもあるわけだ。

それに今居る第五防衛部隊は乙種合格の部隊だから、

整備とかに転向したり整備から転向したりがある部隊でな。

あんまり人ごとでもないんだ。で、第一部隊のエリート様達と違って腕も劣るし、

“波動砲とフォースを両方使うなんて頭がこんがらかる”とか言っている野聞くとなぁ。

“威力重視の波動砲より簡単な波動砲を積んだ機体が欲しい”

って言うのがパイロット達の共通認識なんだわ」

「お前のその仕事に向き合う姿勢と専門性は尊敬するが、

それは研究の範疇で畑違いではどうにもならないだろ」

「そう、なんだけどなぁ。

威力が劣っても火線が多かったり周囲のバランスが取れているだけで良いんだけどな」

 

 

アローヘッドではダメなのか?

しかし、仮にもR機を擁する部隊が最も普及しているR機に乗っていないとは考えにくい。

練度不足以前にR機操縦の資質に欠けるダメ部隊の戦力を底上げするために上が動くとは思えない。

事務方の男はそんな事を考えながら茶をすすっていた。

悩んでいた整備の男がため息をつきながら大きな声を出すと言った、なかなか難しいことをした。

 

 

「せめて、波動砲とフォースの操作が一緒になっていれば、その分他の補助機構をつけても、

第五防衛部隊のパイロットでもいけるんだけどなぁ!」

 

 

***

 

 

同時刻、同じくC食堂の中央部。

 

 

「良い波動砲とは何だろうな?」

「何ですか急に」

 

 

四人掛けの席に白衣のままだらけているのは、20代と40代の男二人である。

物腰からして“先生”と“生徒”といった具合だ。

出で立ちとしても、研究区画との地理的要因からしても、

彼らがTeam R-TYPEの研究員であることは明らかだった。

 

 

「基本的に波動砲は破壊力で全てまかなうスタイルが幅をきかせているからな。

力一辺倒では美しくない。発想力で勝負する波動砲があっても良いのではないか?」

「今はみんな“破壊力が正義”って感じですからね。発想力といえば、

R-9AD系列のデコイ波動砲とか、R-9Eのロックオン波動砲とかは

だいぶギミック凝っていますよね? あと、美しさで言えば

TW系列のカーニバル波動砲はすごくきれいだった覚えがあります」

 

 

自分の理想を語る“先生”に、イロモノ系波動砲を挙げる“生徒”。

そんな生徒に、先生はダメだしから入る。

 

 

「君キミ、研究者ならば見た目で“綺麗”と言ってはいけないよ。

研究成果の奥底から見えてくる洗練された技術や発想を、綺麗というのが正解だ」

「すみません、僕はまだまだ勉強不足でして」

「うむ、しかし、キミの挙げたデコイ波動砲は発想が自由でよろしい。

あれは私の流儀ではないが素敵な波動砲だ。ロックオン波動砲は、

発想自体は単純ながらフォースやビットと組み合わせた技の妙が光っているな。

私的にはこの路線が好みではある」

「しかし、今回の会議に掛ける案件はどうしましょう。

一件は案を挙げないと上から怒られますし、あまり長考もできませんよ。

開発会議で方針だけでも立てないと我々の研究室は解散になってしまいます。

ただでさえ二人の部屋なのですから」

「ふむ。しかし私もあまり意に染まないものを作りたくはないのだが。

機体性能は二の次としても、波動砲やフォースは新しい風を呼び込みたいものだ」

「そうは言いましても……」

 

 

そんな問答をしばらく続けていた二人だが、いよいよ手詰まりになり黙ってしまった。

人が少ないことも相まって、食堂全体に気怠い空気が醸造されている。

 

 

そこに長机の端の方にいた二人組の会話が漏れ聞こえてくる。

彼らは声のトーンを落としてはいたが、軍人というだけですでに目立っている。

そして問題はその内容だった。

 

 

“波動砲とフォースの操作が一緒になっていれば”……?

 

 

何か頭に閃光が走った気がした。インスピレーションが二人に降ってきたのだ。

この獲物を逃してなるものかと、

アイコンタクトで示し合わせた“先生”と“生徒”は、スッと立ち上がると、

座っている二人組の軍人の席へと向かい、おもむろに肩を叩く。

 

 

「ちょっとその話をお聞きしたいのですが、

ここでは何ですのでTeam R-TYPEの研究室に来て頂けますか?」

 

 

そんな、ヤクザなセリフを言われ、

白衣の二人組にロックオンされた軍人二人組は恐怖に固まっていた。

周囲にいた目撃者の証言では、まるで重犯罪でMPにしょっ引かれる犯人の顔の様だったと言う。

 

 

***

 

 

所変わってTeam R-TYPE研究区画にある研究室に、“先生”と“生徒”の二人組がいた。

 

 

「なかなか見所のある青年達だったな」

「そうですね。発想だけで理論的ではありませんでしたが、それを考えるのが僕たちですしね」

「波動砲をフォースと連動させる、だったか。一緒にするとはおもしろい考え方だ。

我々は波動エネルギーを用いる波動砲と、

相反するバイド由来のフォースとを無意識に区別していたようだな」

 

 

二人はインスタントコーヒーを飲みながら新しく取り入れた案を検討している。

ちなみに軍人二人組は案を聞き出された後、

興味をなくした二人によって保安部に預けられた。

罪状は許可無くTeam R-TYPE研究区画に立ち入った事についてだ。

無理矢理拉致されたといえる状況でほとんど言いがかりであるのだが、

目先の研究課題に釣られた二人にとって塵芥に近い事柄なので、

弁護はなく完全に忘れられていた。

 

 

軍人組二人から意見だけ吸い上げた研究組は、

しばらく色々意見を戦わせていたが、まとめに入った。

 

 

「これを考えるとなると中々難しいですね。フォース自体には完全性があるといっても、

コントロールロッドとの接触面に組み込んであるバイドニューロンを

波動エネルギーに晒したらアウトですよね?」

「だが少なくともな創造的な研究だ。実験的でもあるが。それはそれでおもしろい。

といっても、君の指摘はもっともだ。なので、今回は試験機として低出力のものから研究しよう」

 

 

そう言ってR-9AFモーニンググローリーの開発計画が始動した。

 

 

***

 

 

R機と言うにはずんぐりむっくりなシルエット。コックピット下から突き出たアーム。

それはフレームだけにされた工作機の用に見え、

そこに無理矢理波動砲コンダクタとその他機器が取り付けられている。

そして、スタンダードフォース改がその前面をゆっくり回転しながら浮遊していた。

それを観測機材の隙間から見やっているのは白衣の二人組。

 

 

「波動砲-フォースの連携構想だけでまさか半年かかるとはな」

「でも、その甲斐あってフォース波動砲完成しましたね。

一応威力もスタンダード並には出せるようになりましたよ」

「始めはフォースのコントロールロッドに波動砲射出機能を持たせようと

要らん努力をしていたからな。我ながら稚拙な考えで恥ずかしい」

「ええ、よくよく考えれば実体砲身の要らない波動砲ですからね。

でも安定性か威力を犠牲にすれば波動砲コンダクタが絶対必要ではないことが

分かったことが成果ですね」

 

 

波動砲は波動砲コンダクタで制御した波動エネルギーを虚数空間にチャージして、

前方に形成した力場から、ベクトルを付与してエネルギーを解放する兵器である。

この試作機R-9AFでは波動の開放座標を機体固定ではなく、

コントロールロッドの先端付近に合わせている。

 

 

この処理はフォース側ではなく機体側に依存しており、

コントロールロッドを機体内に収納したというのが研究成果である。

とはいえ、この処理を行うため新たな機関を積んだのだが、機体性能は大きく制限され、

試作機と言うこともあって、単純な機体性能はアローヘッドにも劣ることとなった。

その不備を補うため、アームなどが取り付けられ万能機としようとして、

どれも中途半端になる典型のような性能だった。

 

 

「R-9AF自体は非力なR機に過ぎないが、この研究成果は波動砲に汎用性をもたらす」

 

 

“先生”と“生徒”の二人は満足げに笑い合うと、

この後のお披露目の日程や報告書について検討し始めた。

しばらくたってから“生徒”が問いかける。

 

 

「でも、先生。このフレームどうしましょう。これ以上機関の小型化できないので、

空間余剰の大きい工作機フレームを使うことになっちゃいましたけど……これR機で通りますか?」

「そんなことは心配しなくてもよろしい。

波動砲があってフォースがあってレーザーもレールガンもある。

ザイオング慣性制御システムもあるので、戦闘機動だって可能だ。

むしろ、これのどこがR機じゃないのか?」

「……そういわれるとそんな気がしてきますね」

 

 

そんな投げっぱなしの会話の末に、R-9AF“MORNING GLORY”が完成した。

当初の構想にあった操作性の向上なんてどこ吹く風、

それどころか試作機とあって、戦力としても心許なく、形状もぱっとしないR機だった。

しかし、その成果の一部は最高の汎用機を作り上げるという“Op.Last Dance”の流れに乗り

組み込まれていくのだった。

 




arcadiaで投稿していた時、完全に忘れ去られていたR-9AF。
こちらではちゃんとした順番で投稿しなきゃと思っていたのですが、
エタっている間に完全にそのことを忘れていました。


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R-13A2“HADES”

R-13A2“HADES”

 

 

 

R機には英雄機と呼ばれる機体がある。

バイドとの長く熾烈な戦闘の中で、特出すべき成果を出した機体を呼ぶ。

初期型R-9Aアローヘッドや、R-9Cウォーヘッド、R-9/0ラグナロクなど、

大型反抗計画である各バイドミッションの達成機が特にそう呼ばれる。

これらの機体は、再調整された後に量産化され、現在もその多くが戦線を支えている。

その他作戦でもサタニック・ラプソディ事件やデモンシード・クライシスなどの機体も

含めるのが通例だが、長い間ほとんど顧みられなかった機体がある。

悲劇の英雄機R-13Aケルベロスである。

 

 

R-13Aケルベロスは、波動砲に初めて電気的特性や追尾性能を持たせたという

ライトニング波動砲や高バイド係数高威力であるアンカーフォースなどを装備した、

当時としては野心的かつ高性能な機体である。

しかし、開発当初の技術的な制限により、

R機の基本性能の一つである異相次元干渉機能の一部をトレードオフしており、

その所為で、オリジナル機が異相次元に取り残されバイドに取り込まれる事となった機体として、

一部では有名である。

 

 

この計画の成否は軍内でも大きく取りだたされたため、

風聞でもケルベロスが帰還できなかったことは有名で、

安定性や士気を重要視する軍内で、量産化の話が殆ど出なかった機体である。

 

 

時は流れ、Op.Last Danceも中頃、

Team R-TYPE内でR-13系列機に再開発の話が持ち上がった。

 

 

***

 

 

「正直R-13系列はこのまま終わらすには惜しい系統だと思う」

「ダウングレード兼、検証試験機であるR-13Tエキドナの再開発と、

小規模に改訂版のR-13Aケルベロスも生産されていたはずですが、どうなったのですかね?

あまりその後の話を聞かないのですが」

 

 

過去資料がおさめられているデータを漁りながら、話しているのは、

この研究室の開発斑リーダーのエイジと、班員のルルー、ジョナスだ。

ルルーは声帯に異常があるのでディスプレイ越しの筆談、

会話はほぼエイジとジョナスの二人で行われる。

 

 

「これどうだジョナスって……

げ、エキドナの再開発計画ってこれレホス課長がリーダーだった時じゃないか。しかも投げっぱなし」

「うーん。レホス課長は作るまではものすごいんだけど、データ取った後すぐに熱が冷めますからね」

「これは俺らが貰っていいかな。英雄機の後続機とあれば予算も付きやすいし、

R-13シリーズのシステムはまだまだ改良の余地がある。

おもしろいし、高バイド指数フォースも弄りたい。どうだい、ジョナスにルルー?」

「やってみようか」

「……」

 

 

ケルベロスの重い背景に反して、R-13系列の再開発は至極軽く始まった。

 

 

***

 

 

「まず、改良点から挙げようか」

 

 

リーダーエイジのその宣言とともに、ジョナスとルルーから改良案がでてくる。

フォース、波動砲、レーザー、コックピット、操作性……

比較的常識的な案を出すジョナスと、飛躍的な案を出すルルー、評定役のエイジという、

Team R-TYPEにあっては意外とバランスの取れた人員で

できたエイジ斑では、討議は順調に行われる。

その中で、最も強く押されたのが、半ばR機の存在意義である波動砲だった。

 

 

“ともかく波動砲。R機は1に波動砲、2にフォース、3,4がなくて5に波動砲”

という強弁がルルーによってホワイトボードに書かれた。何かの標語のようだ。

 

 

「フォースに浮気するなよ、ルルー。

でも確かにライトニング波動砲はまだまだ可能性のある波動砲ですね。

追尾性の向上、射線数の増大、威力の向上……あと忘れてならないのが、

ライトニング波動砲の波動的性質と電気的性質の高レベルでの両立です。

後忘れてならないのが、この計画は異相次元航行が前提になっていますから、

異相次元航行機能の予備としても使えるようにしなくては」

「ああ、それは絶対に必要だな。

オリジナルケルベロスの件があるから、それを放っておくと後続機を作る許可が下りない」

 

 

言葉の足りないルルーを補足するジョナスに、エイジが答えると、

ルルーがホワイトボードに書かれたWave cannonという文字を大きく○で括る。

そして、さらにその横に“威力向上と電気的特性の折り合い”

という文字を書き添え、問題提起する。

 

 

「そうだな。ルルーの言うとおりあの事故をクリアできる水準の波動砲を積まないとな。

どうせやるなら大きく出ないと」

 

 

そして、新型機の売りとして素直にライトニング波動砲に手を掛けることが決定した。

 

 

***

 

 

ここはTeam R-TYPEの研究中枢の一つである波動砲実験棟。

施設の端から端まで長いシリンダーが設置されている。

内部で波動砲を試射し、威力、性質その他を計測するための施設である。

 

 

シリンダーの一端には波動砲コンダクターを保持する担架が設置されており、

もう一端には減衰器が設置されており、施設の安全は確保されている。

シリンダー自体は、波動エネルギーに反発する性質を付与した建材でできている。

グリトニルやゲイルロズなどの要塞外壁などにも利用されている技術だが、

強化アクリルシリンダーに付与しているのはここくらいだろう。

 

 

「ライトニング改試作12号試射、3、2、1……これもダメですね」

「これならまだ試作3号の方がマシだ。五十歩百歩だけど」

 

 

ジョナスとエイジが話す中、ルルーは行程表の試作12号の項に斜線を引く。

これで試作ライトニング波動砲改型は全滅となった。

 

「うーん。比率を波動寄りにしたら、とたんに普通以下の波動砲になりましたね」

「電気的性質を除けば、圧も掛けないで拡散するに任せている状態だからな」

「電気に寄りすぎれば、ただの放電。波動に寄せれば、しまりの無いスカ波動砲。どうします?」

 

 

悩む三人。

もともとのライトニング波動砲がいかに絶妙なバランスの上に成り立っていたかを垣間見て、

当時の開発に関わった人員のレベルの高さというか、執念の様なものを感じていた。

 

 

「波動的性質の方はMAXチャージでバイド空間次元を打ち破れるってのがやはり一種の指標だが」

 

 

彼らは、このバランスを見直すことで、改良を施そうとしている。が、みごとに失敗ばかりだ。

ライトニング波動砲の主な特徴は、追尾性とそれに付随する拡散性で、これが電気的な性質を要求する。

既存のライトニング波動砲は簡易的に表すならば、波動:電気=1:9くらいの性質だ。

 

 

一応、Team R-TYPEには、明文化されていない内部規定的なものが幾つかある。

その一つが、波動砲性能で、リミッターを解除しての最大チャージ状態での発射によって、

次元の壁を歪ませることができること。である。

多量のバイドの居る空間は次元にムラができることが確認されているが、

これに穴をあけ、異相次元に侵入・脱出できる性能が求められた。

正規の異相次元航行手順ではないので、波動砲による異相次元突入は最終手段である。

もちろん、過去にオリジナル機をロストすることになった

R-13Aケルベロスの事故を元に作られた規定であり、

ケルベロスの後継機でライトニング波動砲を改良するならば、

他の規定はともかくこれだけはクリアしなくて許可が絶対に下りない。

 

 

どうやって、ライトニング波動砲の性質を維持しつつ、

波動エネルギーの比率を次元を歪ませるに足るだけ上げるのか。

波動-電気の加減について、悩ましい思いをしている二人だが、

突然、全く話さなかったルルーが慌てたそぶりで二人を呼び、ペンを壁に走らせる。

 

 

「“チャージの最大容量を上げる”?」

「んー。ああ、つまり波動エネルギーとしての比率を上げるのではなく、

波動-電気の比率は変えずに、最大値自体を上げることで、

波動砲一射あたりに射出される波動エネルギーを既定値以上にするってことか」

「でも、技術進歩でチャージ容量は増やせるが、

波動-電気比を変えずに規定値に達するのは難題ですよ。

当時より技術水準は格段に上がっていますが、

これ基礎出力で何割ではなくて、何倍っていうオーダーです。

実際ルルーの案は厳しいと思うのですが」

 

 

すぐにルルー案を試算したジョナスは、慌てて意見を上げる。

そしてリーダーエイジは、ルルーの案とジョナスの意見を秤に掛けるが、

すぐに“できるか”ではなくす“やる”のがTeam R-TYPEであると考え直す。

 

 

「よし、むちゃくちゃな解決策でも、道は道だ。やってみてダメだったら次の手を考えよう」

 

 

自分の案が採用されて満面の笑みを湛えたルルーと、仕方ないなと言う顔のジョナスがいた。

 

 

***

 

 

数度の研究打合せの後、レホス開発課長にも話を通し、R-13A2という開発番号も割り振られ、

本格的に研究がスタートしたある日。

どうかな。というような顔したルルーが二人の班員にデータを差し出す。

新しいライトニング波動砲の設計資料だった。

 

 

「これは……、チャージ圧もすごいし、電気的な意味でも色々なものがはじけ飛びそうだな

基地自体の電力を一時制限しないと発電炉が吹っ飛ぶな」

「うーん、これ実験も怖いレベルだぞ。実験シリンダーの耐久大丈夫かな」

 

 

明らかにやっちまった系の顔をしているエイジとジョナスに対して、

ルルーはしたり顔でキーボードを叩く。

“やってみれば分かる”、“もう試作は作った”、“試射施設に設置済み”というメッセージが

ディスプレイに矢継ぎ早に表示されると、エイジ、ジョナスは腹を括ったようだった。

 

 

「予備予算で勝手に波動砲の試作を作ったことはともかく、試射はしてみるべきだな」

「そうですね。撃ってみれば分かりますね」

 

 

そのまま、三人は波動砲実験棟に移動する。

と、そこにはすでにリーダーエイジの名で施設が押さえられ、

シリンダーの一基に波動砲が設置済みになっていた。

エイジとジョナスはジロリとルルーのことを睨むが、本人はどこ吹く風だ。

 

 

「……どういうことかは後で詳しく聞くとして、

ジョナスはデータからの期待値を検算、ルルー、試射メニューは?」

 

 

エイジが渡された試射メニューを見ると、意外と普通の実験計画だった。

通常型のライトニング波動砲出力から、試作型の理論限界値まで出力していくという案で、

エイジはジョナスの試算を待ってからOKサインを出す。

 

 

「リーダー、ライトニング波動砲試作型17号試射準備完了です。第一射、通常出力です」

「試射許可」

 

 

三人が視力保護用のバイザーを掛け、チャージを開始する。

通常出力とあって少しのタイムラグの後に金属的な音が鳴り響く。波動砲のチャージ完了音だ。

ルルーがエイジに確認してから、操作盤のスイッチ類を操作し鍵を回すと、

室内に地響きの様な轟音が響き、シリンダー内が発光する。

三人は一応確認のためにディスプレイでのスロー再生で見ると、

放電現象によく似た光がシリンダー内を端から端まで走り、

余韻として僅かに波動の燐光を残して消えた。

 

 

「うん。普通のライトニング波動砲だな。当たり前だけど」

「はい、データの方もライトニング波動砲相当です。当然ですけど」

 

 

当然普通のライトニング波動砲なので何の感慨もないエイジとジョナスに、

“次々!!”と壁に字を書いて、急かしてくるルルー。

 

 

「次、200%」

「試射許可」

「まあまあですね。でも次元が歪むまではまだまだです」

 

 

「はい、次は300%です」

「許可」

「うーん、200%とあまりかわらないイメージですね」

「まあ、総エネルギーがそのまま破壊力に変わるわけでもないですし」

 

 

「次400%ですね」

「撃っちゃってー」

 

 

“施設から怖い音がする”とルルーがスケッチブックに書き付ける。

 

 

「ああ、うん。施設付属のジェネレータが唸ってきたな」

「この施設もそろそろ古いですからね」

 

 

“そろそろ限界近いから刻んで”

 

「分かりました。ルルーの言うこともありますし、次450%行きましょう」

「500%限界でだとあまり刻んでないような気がするけど、まあ良いや。許可」

「……いい感じです。データでも次元歪曲も観測されました」

 

 

……

シリンダーの中では、紫電が溢れ帰りシリンダー内を反射しながら端の減衰器に集まる。

大量の鉄骨が折り重なって落ちてきたような音が反響し、

ジェネレータがある方からはパリパリと音がする。

波動の燐光は青く残り、シリンダーそのものが淡く発光しているようだ。

三人は耳を塞いでいた手を離して、話し出す。顔には一様に興奮の色が見える。

“見た、見た!? 射線がシリンダー内をバウンドしてたよ”

とルルーが書く手間を惜しみながら乱暴に書く。

 

 

「圧が上がったことで、波動砲の性質が変化していますね。

威力も格段に上がっているようです」

「これはありだな。ライトニング波動砲2とか、改って名前にしようとしていたけど、

新しい性質があるなら別の名前にしなくちゃな」

 

 

エイジが満足げに頷いていると、ルルーが“バウンドライトニング波動砲”という案を上げる。

 

 

「それはいいな」

「でもこれ、発射時の放射がきついから装甲面も強化しないとな。

弱いとは言えうっかりデブリとかに当たって一部帰ってきた波動砲にやられたらたまらん」

“ごっついR機も有り! 電気的な反射板を供えた追加装甲を載せればいい”

「それもそうだな。でもこれで500%全開かもっといけるんじゃないか?」

「現状で次元歪曲率もクリアしていますし、破壊力も新型として二重丸です。

でもまあ、波動コンダクターの自壊確率を考慮しなければ行けます」

 

 

すでに満足できる結果を得ているが、

Team R-TYPEに安全マージンという言葉は似つかわしくない。

すくなくともそれは、実機のときに取ればいいものであって、試験では必要ないものだ。

 

 

「600%行って見ます?」

「ここまできてやらないって選択肢はないだろう。発射許可するから、やろう」

 

 

ルルーが操作盤を介してチャージを開始すると、

ジェネレータ音が異様に高まりコンダクターの先端が光る。

いよいよ音と光が大きくなると、エイジの声とともに発射キーがまわされる。

すでに耳栓越しにも耳に突き刺さる轟音と施設の端から端までを貫く光の束。

三人は生理的に目を閉じてしまったが、恐々としかし期待を込めて目を開ける。

が、様子が変だった。

 

 

この施設の耐久性で一番に考えられているのは、波動砲つまり波動エネルギーに対するものである。

物理的な耐久性や磁気、熱に対しても耐久性は考えられているが、波動エネルギーほどではない。

今回の試射実験では、ライトニング波動砲からさらに出力が上げられ、

シリンダー内を流れる電流、電圧なども膨大なものになっている。

 

 

まず異常な反応を見せたのは減衰器で、一応は耐えたが、明らかに尋常でない火花が散っている。

そして古くなりつつあるジェネレータ方面からも異音がする。

三人は興奮状態から一転、蒼白になって逃げ出す。

 

 

「っ退避ー!」

「あ、リーダーも、ルルーも先逃げないでくださいっ!」

 

 

施設からは破壊音が連続して聞こえ、次いで警報が鳴り響いたが、

逃げ出した三人は、安全距離をとった後、それを外側から呆然と眺めていた。

 

 

***

 

 

後にR-13A2“HADES”の名で呼ばれることになるR機は冥府の王の名にふさわしく、

機体本体ができる前から、Team R-TYPE施設を地獄送りにした。

 

 

この後、シリンダーの耐久性や減衰器の能力について、エイジ斑から施設課に意見書が出され、

常に研究課から無茶振りされる施設課が、胃を代償にどうにか改装する運びとなった。

これが後々開発されるバイド機の波動砲でも汚染、破壊されないという最強の実験施設の礎となる。

が、ストレスで禿散らかした施設課員の知ったことではなかった。



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R-13B“CHARON”

R-13B“CHARON”

 

 

 

「次は、やはりアンカーフォースでしょうか」

 

マグカップでお茶をしばきながらジョナスがエイジに言う。横ではルルーがクッキー缶を抱えている。

エイジ斑は班員のジョナスとルルー、そしてリーダーのエイジからなる研究開発斑である。

前回作として、彼らはR-13A2ハデスを作り上げた実績がある。

ハデスは強力な波動砲を備えた機体で、波動砲特化型として成功を収めた。

不穏な噂が付くR-13系列機の常識に反して、現場では高評価で迎えられた。

高火力かつ広範囲のバイドを死滅させられるバウンドライトニング波動砲は便利だったのだ。

ということは後続機を作る余地があると言うことだ。

 

「そうだね。R-13系列のアンカーフォースは癖が強いフォースだけど、アレはアレで評価されているからね」

 

エイジの言葉にルルーが“レーザーも”とメッセージを飛ばしてくる。

レーザーはフォースを用いてエネルギーを増幅させ、効率的に用いることで敵を攻撃する。

なので、フォースの性質(正確にはフォースロッドの性能)を変えることで、レーザーも性質が変化する。

なので、フォース開発とレーザー開発は表裏の関係なのだ。

 

「アンカーフォースはフォースの中でも飛び切りピーキーですからね。レーザーも弄り甲斐がありそうです」

「うーん、じゃあ新型の目玉はフォースとして開発しよう。フォース斑と合同研究ってことでやって、

うちらはレーザーをメインで担当しよう。どうだ?」

「僕とルルーも賛成です」

「じゃあ、フォース斑に掛け合ってみる。まあ否はないだろう」

 

 

***

 

 

机の上にはアンカーフォースのコントロールロッドの設計図、その他いろいろな資料や書物が乱雑に乗っている。

3人はそれらを睨みながら、あーでもないこーでもないとぶつぶつ呟いていた。

ルルーも端末を利用して、意見を発信しているがあまり話は盛り上がっていないようだ。

 

「ロッドの資料を見る限り、すでにこの形式で考えられる最高バイド係数に達しているようですね

これ以上の強化は暴走事故を起こすようです。すでに過去実験済みですね」

“この際、威力の向上ではなくて、別の機能を持たせたのを考える?”

「どうでしょう。それはすでにアンカーフォースといえない気が」

 

それを聞いていたリーダーのエイジはうーん、とうなった後、

 

「アンカーの敵機を保持するという機能が、バイドの闘争本能に基づいているからな。

現状のまま、暴走を押さえつつ敵機に食いつくのは無理なようだね。光学チェーンの拘束は改良できるかな?」

「高バイド係数のため試作段階からかなりの件数の暴走未遂を引き起こしていますね。

現状、光学チェーンで繋いで、コントロールロッドに多量の制御情報を押しつけることで何とか処理しています」

 

アンカーフォースはその名の通り錨としてバイドに食い込み、バイドを破壊するまで食らいつくが、

フォースには盾としての機能があり、パイロット側の操作を受け付けなくなってしまうため、

対策として光学チェーンをコントロールロッドに付属させて、機体と結びつけている。

また高くなりすぎたバイド係数に比例して強まる攻撃性を抑え、暴走を抑制するためでもある。

 

「よし、とりあえず、現状でフォースがフォースとしての形状を取り得る最高のバイド係数まで上げてみよう。

たぶんそれから他の問題を対処した方が良い結果がでる気がする!」

 

そのエイジの投げっぱなしの一言で、R機で最大バイド係数(バイド機のものを除く)を持つフォースが作り上げられることになった。

 

 

***

 

 

フォース実験施設は暴走事故に備えて、他の基地や研究機関とは切り離された場所に存在する。

全てのフォースの始まりであり純粋なバイドであるバイドの切れ端は、意外に扱いやすく大人しい性質であるが、

それにコントロールロッドを付け、シナプスを接続すると、バイド係数が増加し性質も凶暴になる。

新規のコントロールロッドはデータ上でなんども接続シミュレーションを繰り返し、

やっとこの施設で接続することができるようになる。そうでないと周囲ごと原子にまで吹き飛ぶことになる。

 

「試作4号、シナプス接続、問題なし」

「ジョナス、バイド係数は?」

「安定して増加中。そろそろ開放状態では危険です。光学チェーンを繋ぎましょう」

「よろしい」

 

ジョナスとエイジが少し緊張しながら、新型アンカーフォースの実験を行っている。

今のところ、アンカーフォース特有のかぎ爪型のコントロールロッドはフォースを押さえ込むのに成功しており、

フォースのオレンジ色の光は安定していて、この光のものとでなら書類くらい読めそうだ。

 

話すことができないルルーは、体育座りをしながらその光景を先ほどからじっと眺めているが、不意におかしな事に気がついた。

ルルーはエイジの白衣の裾を引っ張り、携帯端末のディスプレイに文字を打つ。

 

“アンカーフォースが変。さっきから起動操作以外の動きが増えてる”

「えっ!」

 

アンカーフォースのコントロールロッドは、獲物をくわえ込むような動作を見せている。

それ自体はもともとロッドに組み込まれた動作なのだが、明らかにこちらのコントロール下にない動きをしている。

それは3人の見る間に増えていき、すぐに痙攣するかのような動きに変わる。

気がつくと光学チェーンの色も異様な色になっている。明らかに暴走一歩手前だ。

 

「これって暴走?」

「緊急廃棄!」

 

慌てたエイジが、救急廃棄ボタンに拳を叩き付ける。

波動の急速チャージ音が響き、燐光が収束していく。

フォースは穏当に消滅させることが現状不可能であるので、

暴走フォースの処理方法は、吹き飛ばして消滅しても何も問題のない宙域に移動させるのだ。

そこで、ジョナスが何かに気がついたように叫び声を上げる。

 

「班長、バイド係数が高すぎます! こんな状態でエネルギー食わせたら施設ごと爆発しますよ!」

 

備え付けの波動砲から発射音が聞こえる前に、シリンダー内が発光し、シリンダーに充填されていた液体が一気に蒸発する。

音からすると緊急廃棄用の波動砲が発射された様子がないが、目がくらんでしまい様子が分からない。

 

「……波動砲が発射される前にエネルギーを喰った?」

「あの量を? この警報は……バイド係数オーバー?」

 

緊急廃棄とは別種の警報が鳴った事で3人は身構える。この音がバイド係数警報であると思い当たったためだ。

みしり、という耳に触る音に振り返るルルー、そして青い顔をして、シリンダーを指さす。

二人が恐怖を貼り付けてシリンダーを見ると、二人も固まった。

 

フォースはその光の強度を増して白色に近い色になっている。

そして、アンカーフォースをつなぎ止める光学チェーンとシリンダーが3人の前で砕け散った。

 

 

***

 

 

課長室、

 

「ふぅん、フォースロッドより先に、光学チェーンがエネルギー過剰で耐えられなくなるんだ?」

 

汚い白衣を着たレホスが足を組みながらデータを見ている。

足を組むことでブランドものの靴下と、壊れかけのサンダルがとても目立つ。

先月起こったフォース実験施設の被害報告書には、原因を推察した文が連ねてある。

 

「まぁ、これはこれで有用なデータだし、フォースも暴走しなきゃかなり良い線いってるしねぇ」

 

エイジ斑が研究していたアンカーフォース改のデータ。

編集する者がいなくなったため、まだ生データであるが、レホスはそこから情報を読み取っていく。

攻撃性、バイド係数ともに最高値。なによりその特性として食い付いての攻撃に使用できるのは評価が高い。

特筆すべきはレーザーである。

対空、誘導レーザーであるシェードα+や、サーチβ+は相変わらず微妙であるが、

対地レーザーターミネイトγ+が非常に強力である。威力はそこそこながら死角のない掃射型であることが見て取れる。

遮蔽物さえない環境ならば小型バイドの掃討戦で引っ張りだこになるのが想像できる。

 

レホスがフォース事故の報告書に視線を戻す。

一般にフォース事故と言えば、臨界を超えたエネルギーを注ぎ込んだことにより、周囲を巻き込んで消滅するのだが、

今回の被害は限定的である。人的には研究員3名と不幸な作業員が2人。フォース研究施設の1/4がダメージを受けた。

 

どうやら、暴走したアンカーフォースは手近にいた研究員と緊急廃棄用波動砲をシリンダーごと喰らい、

その凶暴性が落ち着いたところで、再度光学チェーンを繋げ直して確保したとの事だ。

 

「可逆的な暴走なら、これを前提として利用したフォースって言うのもおもしろいよねぇ。

そうだね、うん自機と敵機の見分けくらいは付くようにしておこう。あとはそのままでぇ。

エイジ君達もそれなりにこのフォースの開発を楽しんだようだし、軍部もこのレーザーを見れば黙るだろうしぃ」

 

勝手な理由を付けて、レホスはアンカーフォース改の生産を承認した。

“ガワ”である装甲やコックピットはR-13A2ハデスからあまり変更がないため、ほぼそのまま流用することになる。

波動砲もハデスで開発したバウンドライトニング波動砲を取り付ける。

これに今許可したアンカーフォース改を付け、バランスを整えると……

 

「これでR-13B、えーとエイジ君達が考えていた命名案は……これがいいね死者の川の渡し守カロン。

うんR-13Bカロンはこれで完成でいいかなぁ」

 

レホスは満足げな表情で頷くと、書類を決裁していく。

一応、開発者はエイジ、ジョナス、ルルーの三名の名をトップとして配して書類を上に送った。

 

 

R-13B“CHARON”完成

 

 

***

 

 

英雄機であるケルベロスと、名機ハデスの後継機とあって、カロンは鳴り物入りで現場に迎えられた。

当初その物々しい姿と、強力なバウンドライトニング波動砲、アンカーフォース改のおかげで

強力なバイドを破壊する切り札としての役割を期待されていた。

しかし、もちろん事故が頻発する。アンカーフォースが自機の制御を離れて暴走状態になったからだ。

 

制御できないフォースなどバイドと同じであり、恐怖の対象でもある。

現場は慌てふためいて、Team R-TYPEに説明を求めたが、Team R-TYPEの回答は“仕様です”の一言だった。

 

 

「おい、R-13Bのフォースが暴走状態になる。こんな欠陥兵器を作った責任者を出せ!」

「はい、Team R-TYPE渉外担当です。お問い合わせの案件については、開発部より仕様であるとの回答がきています」

「暴走兵器が仕様とはどういうことだ!」

「仕様は仕様ですので」

「話にならん開発者を出せ!」

 

しばらくの間、そんな会話がそこら中の基地で聞かれたという。

のれんに腕押し状態の回答に怒り心頭の現場軍人達であったが、時間とともにその声は落ち着いてくる。

それが、制御できないが味方には危害を加えないことと、

それを補ってあまりある対地レーザーの強さのためだった。

スペックを最大限に発揮することができるのならば、最強の一角であると言われることになる。

こうして、R-13Bは強力無比であるが、絶対に自分では乗りたくない機体として有名になっていった。

 

ちなみに、“開発者”であるエイジらのレターボックスには、

その後も決して読まれることのない、現場将兵からの罵倒のメールや改善要求が貯まっていった。

 




これで通常機は終了です。悪夢のバイド機マラソンです。
でもその前に、arcadiaで放りっぱなしになっている
グリトニル戦記の方を先に書くと思います。


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BX-T “DANTALION“

単発投稿です。


BX-T “DANTALION“

 

 

Rの系譜上、特に重要な機体がある。各種ボトルネックとなっていた諸問題の解決策をもたらした機体である。始まりのR機アローヘッドと、各バイドミッションで活躍した英雄機達。技術的にはそれぞれ飛躍があり、他の開発の糧となってきた。BX-Tはその機体番号通り実験機であるが、後から見るとR機の約半数を占める一群、バイド装甲機の始祖であった。

 

 

Team R-TYPEは外部から見ると、思いつきで研究している様に見える(一部真実である)ため、統制が取れているのか取れていないのか分からない組織と言われるが、一応基幹研究に関しては上層部の意志というものが明確に存在していた。それは地球本部で幹部らが集まって行われる研究開発方針会議で検討されていた。

 

 

「第五期R機開発方針決定会議を始めます。司会は研究開発部から」

「現状と各期方針確認から行います。第一期R機のベース研究とR-9アローヘッドの開発です。第二期が波動砲の多極化とフォースの改良によるテスト機群の開発と、次期単機突入機R-9Cウォーヘッドの開発。第三期が各種系統機の研究とR-9/0ラグナロクの開発。現在は第四期――近日中に終了する予定ですが、各種系統機の発展と周辺技術集積です」

 

 

説明用のデータにはR-9アローヘッドから枝分かれした系統樹が示されている。様々な挑戦や思いつきで新設された系統の中には、遊びともとれる系統もあったが、それすら技術集積という意味では無駄では無い。全てがデータとしてこのTeam R-TYPEに集められている。それを元として新しい次元に押し上げてきたのだ。

 

 

Team R-TYPEは外部から「R機開発のためならばどのような非道な研究でもする狂人集団」という評価と、「研究員個人の趣味で研究を行い珍妙なR機をつくる変人集団」という評価がある。前者が主にバイドの淘汰圧が大きく人類生存レースに必死だった第三期までの時期の評価であり、後者が多少余裕の出てきた第四期の間の評価となっている。第一期~三期は非情に短かったが、その分苛烈で強権でなりふり構わずに研究を行ってきたためにTeam R-TYPEといえばこちらのイメージが強くなっている。初期から参加していた研究者である幹部らとしては、ぬるいとさえ感じる現状なのだが、最前線たる研究開発部の部長と課長の方針であり、究極のR機を開発するという大目標のため、現状は裾野を広げることが必要であるという意見を基にしている。その研究課長レホスが第五期の開発方針について発言する。

 

 

「第五期はかねてより研究課題に上っていた“バイド素子添加プロジェクト”になります」

「しかし、レホス課長。あの計画はまだ早いのでは? バイド素子の基礎研究は済んでいるとは言え、事故誘発率が高い」

「いえ、今が最適だと考えています。全体的にR機戦力が揃い、既存戦力でのバイド対応が可能です。さらにPOWシリーズや局地戦機など、一般将兵や民間に高評価な機体のおかげで、R機やフォースの忌避感が薄れていることがあり、かつてなくバイド研究に関するハードルが下がっています」

 

 

普段は巫山戯た態度でおかしな格好をしている男なのだが、必要な時には改める事はできる。目上ばかりの会議では洒落たシャツに皺一つ無いスーツを着込んでおり、言葉遣いさえまともだった。いつもの彼と会話することとなる軍の開発局担当者が見たら、別人と思うかも知れない。常に眉間に皺が寄っている総務部長からも、指摘が入る。

 

 

「背景は分かった。総務としては予算について聞いておかなくてはならないのだが」

「各期時点での端数予算については各所に振り分けて保管しています。また、関係機関やダミー企業名義での予算管理も行っていますので、共同研究という形や技術協力といった形を取りながら資金の引出しが可能です」

「下手なところから持ってこない様に、最近は政府も五月蠅くてな。抜き打ち監査自体は“対バイド兵器及び、R型異相次元戦闘機開発に関する法令”を盾に出来るが、乱発は危険だ」

「注意します」

 

 

そこに、付属機関であるバイド研究所の所長から意見がでる。場違いな妙に明るい声だった。

 

 

「バイド装甲機の研究に着手出来るのは喜ぶべき事だ。ようやくここまで来た。だから聞くのだが、どのような開発方針を行うのか聞いておきたい」

「まず、テスト機ではBX-Tは雛型として今可能な全ての技術を組み込みます。安全性の評価は行いますが、生産性や操作性といったものは考慮しません」

「うん、良い姿勢だね」

「このBX-Tは機密としますが、研究員にはデータ閲覧可能とします。現実性の高い開発案や将来性のある研究については個別に予算は付けることで、幅広い研究案を提示させて、データ収集を行います。これはコンペに近くなるでしょう」

「ふむ? 末端の研究員に任せるとなると個々の研究レベルは低下しないかね?」

「発想を抽出することや欠陥の発見が目的ですから」

 

 

Team R-TYPE上層部では唯一の女性である開発部長も発言を付け足す。

 

 

「そこからは私が説明を。始めに強大な戦闘力を持つバイド装甲機を作ると、バイド兵器脅威論を後押ししかねませんので、今回は基礎研究を徹底して研究する形になります」

「徐々に目を慣らしてより危険性の高い物への危機感を麻痺させるのか」

「軍関係者でもフォースを快く思わない人間も一定数いますので。開発研究自体も極力基礎研究に見せ掛けておこない、最終論文発表までは秘匿します」

「そういう研究ならばバイド研からも人員を派遣しても良いかな」

「分かりました。後ほど参加する研究者を募ることとします」

「それでは、第五期の研究体制について具体案を……」

 

 

総務などの部署代表は悩ましい顔をしているが、研究関係部署は皆妙に興奮した様相だった。そしてTeam R-TYPEではそういう人間が組織のほとんどを占めるのだった。流石に幹部クラスなので取り繕ってはいるが、皆かつては第一線に構えた狂研究者なのだ。今の研究員らよりも総じて狂った研究を行ってきた実績がある。一応自重はしているが、おそらく部下や弟子達をこの久しぶりに面白そうな研究に噛ませるためにカードを切ってくるだろう。調整が大変そうであるが、研究開発課長のレホスは自らが仕切るこの研究を誰かの手に委ねることは考えていなかった。

 

 

***

 

 

地球連合本部の高層階にあるTeam R-TYPEの研究開発部長室。そこには会議を終えた開発部長のバイレシートと課長のレホスが応接セットに座って会話をしていた。会議は午後早くから始まったが、終わってみれば外は夕暮れ。随分長い間窓も無い会議室に缶詰になっていたらしい。

 

 

「それで人員は絞れたの?」

「もー大変ですよぅ。みんな目の色変えちゃって手を上げてくるんですからぁ。でも一応主任研究より上はお断りしますが」

「自分が歴史の最先端に関わっているという、あの興奮は忘れられないもの」

「この計画は柔軟性や意外性を引き出すための撒き餌ですよ。頭の凝り固まった老害に参加して貰うわけにはいかないんですー。バイド研所長みたく部下を押してくるのはまだしも、自分が参加するって言った人見ました? あのおじさん達もうブレイクスルーを考えつくような若さじゃないでしょう?」

「脳内活性は肉体活性ほど顕著に老化しないからかしら。みな若いときの興奮を忘れられないし、無意識にまだそのときのままだと考えたいのよ」

「始めから無能なら問題ないんですー。むしろ昔有能だったから老害なんですよぉ」

 

 

直属の上司であるバイレシートだけしかいないとあって、いつもの調子でだらけた声をだすレホスだが、目だけは笑っていない。そして声を低くして言う。

 

 

「でもそういう意味では私はバイレシート部長の事を高く評価しているんです。だってあなたは部長になった途端、研究から一切身を引いて政治方面の仕事を引き受けて下さるんですから」

「あなたに誉められてもね」

「いえ、研究の邪魔をする奴はすべからく害悪ですからねぇ。“今の若い者は狂気が足りない”なんて言って、強引さと履き違えてるんですから。否定から入って発想を潰してるって気がついていないんですよ」

「あなたは違う? 自己反省も大事よ」

「一応、部下から上がってきた案はどれだけ杜撰な書類でも全部目を通すし、書類だけ下手くそという可能性を考慮して口頭質問はする様にしていますよぉ。でも、老害には成りたくないので目標とした究極互換機が完成したときがやめどきでしょうねぇ。頂点ですっぱりやめるのが研究者としての美学でしょう」

「まあ、考えは人それぞれね。それで肝心のBX-Tはどういう内容にするの?」

 

 

バイレシートの問いかけに、待ってましたとばかりにレホスは資料を取り出して説明を始める。

 

 

「まずはバイド装甲の指数限界の調査と、コックピット侵食防止機構の開発、生体ベースなら操縦系統も考え直す必要もあるかもしれないですね。武装も一新します。あと今まで組み込めなかったあれこれすべて詰め込みます」

 

 

機械系ではなくて生物系だとか、バイド機に適応するパイロットの選出とか。などと呟きながら鞄から資料を取り出すレホス。女部長はその鞄からこぼれ出た記録媒体を拾い上げると、そのラベルを読み上げる。

 

 

「なにこの資料“工業技術における魔術的処理について”?」

「ああ、これ面白いから入れても良いかと思いましてぇ。バイド研の若手で面白いのがいて、バイドに対する魔術的親和性の研究とかを隙をみてやっていたそうで」

「ああ、R-9開発の時そんな話もあったらしいわね。R-9では結局“おまじない”以上のものではなかったらしいけど」

「せっかくのテスト機なんですから、試すだけなら何でもありです。中身が伴わなくてもそれを見て何か新しい発想を思いつくかもしれないですしねぇ」

 

 

その後、今までのR機やら、バイド装甲機の扱いであるとか、もとめられる施設の話など色々な事をとりとめなく話していた二人だが、話が終わる頃にはすっかり日が落ちていた。レホスは研究の場を整えるためと閉鎖されていたベストラ研究所に向かった。

 

 

 

***

 

 

BX-T “DANTALION“武装についての技術報告書

 

 

○ライフフォースについて

一部バイドがフォース様高エネルギー球をモデルとして研究を開始した。目標としてはフォースロッドを適応しないフォースとした。この目標についてはR-9Fアンドロマリウスのロッドレスフォースと類似するが、先例がR機側にフォースロッドを取り付け非接触式での保持を可能にしているのに対して、BX-Tではフォースが単独で安定しており、フォースロッドという物理的弱点を取り払った。これはフォース内にナノマシンをコロイド状の安定化状態で封入することにより成り立っている。ナノマシンはフォースエネルギーの干渉を防ぐため疑似バイド体として存在している。これによりバイド装甲機に機械性パーツが必須でないことが確認された。

 

 

○バイド波動砲

波動砲について、物理学的手法による攻撃方法の探索については、R-9以降のR機で行われてきたが、既存の武装ではギガ波動砲やハイパー波動砲など、虚数次元の波動エネルギーをチャージする量と、効率的に通常次元に発射するためのシステムが最もバイド撃破性能に長ける。一部シールド波動砲やパイルバンカーなど一芸に秀でる武装もあるが、総合的な性能には劣っている。そのため、バイド装甲機シリーズでは超生物学な手法を用いることに決定した。そのテストとしてBX-Tでは科学と生物を融合させることを目的としたが、バイド素子と波動エネルギーが反発したため、仲立ちとして魔術的要素を取り入れることとした。これはオカルト分野で魔法陣と呼ばれるものだが、我々はこれを「特殊幾何学による超物理学的効果」として再定義した。この特殊幾何学をミクロ的、マクロ的に組み込むことにより「バイド的性質を伴った波動砲」という矛盾に満ちた兵器が開発可能となった。現状では、威力は特筆すべきものではないが、以降のバイド装甲機の武装の基礎となりえる。

 

 

○コックピットシステム

バイド由来の生体装甲を使用したため、コックピットブロックが侵食を受ける事例が研究段階で数例あり、その際、被検体には神経経由の精神侵食兆候がみられた。これは各部でバイド素子と機械部との融合を図った結果、純機械製コックピット部位でも融合圧が発生したとみられる。これに対処するため、コックピット表面をバイド状生体組織で覆うことで、バイド素子の走性をかく乱し、融合圧を最小限にとどめることに成功した。なお、被検体は……

 




と言うわけで、ダンタリオンの作成舞台裏でした。
Team R-TYPEがいよいよぶっ壊れ出すのはこの後です。
開発後半の巫山戯たラインナップを見ると、正直なめプしているとしか思えない。
ここからR-99 までまともな機体が一切無いですからね。


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B-1A3“ DIGITALIUS III”



時間軸がぶれますが、ジギタリウス3なのでバイド機も中盤くらいの話になります。
ちなみに連載初期に書いた1と2の続きとなります。






B-1A3“ DIGITALIUS III”

 

 

 

 

 

宇宙空間にある施設には本来昼夜の観念はないが、人間のバイオリズム維持のためや、タイムスケジュールの混乱を避けるため地球と同じ標準時を取ることが義務付けられており、施設内の照明などを上下させる。しかし、通年毎日煌々と明かりを発している施設もある。Team R-TYPEのバイド実験施設である。彼ら研究員は研究課題があれば3轍もざらであるし、一度寝ると2日くらい起きてこなくなるときもある。あまり人間らしいとは言いかねる生活環境で生きる人種だった。

 

 

今日も今日とて深夜に会議を開く研究班があった。女性班長ラミを中心とするB-1Aシリーズ研究班だった。彼女を女神と讃えるオガールとエントが班員であるが、全員頭のネジは取り外し済みである。

 

 

「今日のお題は、植物性バイド装甲の長期維持について、でーす」

「たしか、戦闘無しでジギタリウス2の装甲寿命が半年でしたっけ?」

「ぶっちゃけ、中のパイロットがその前に限界になる気がするけど、装甲寿命って問題になるの?」

 

 

B-1Aシリーズであるジギタリウス1,2はその植物性装甲を維持するために、装甲を定期的に薬液(劇薬)に浸して補充する必要がある。そのメンテナンスの解決策のためにパイロットが犠牲になったのだった。

 

 

「うーん、問題があるのは保管なのよ。あれって使っていなくても半年に一回装甲を取り替える必要があるから面倒らしいのよ」

「そういわれてもなぁ。まず何を改良するか検討しよう?」

「そうだな。おいオガール、データ取って」

 

 

研究室の明かりは一週間消えることはなかった。

 

 

***

 

 

一週間後、各自が資料を持ち寄り研究室の会議机に座っていた。オガールもエントも目の下に黒々とした熊を飼っており、ラミも普段より化粧が濃く見える。全員まともに寝てないのは明らかであり、この所為で、ラミ班は夜のない研究室であるとすら言われている。もっと効率的な時間配分ができると思われるのだが、彼らは問題や課題が見つかればそれを解決するまで、まともに他のことに手が付かなくなる質だった。そういう意味で似たもの同士なのだった。

 

 

エントがまず気怠げに資料データを読み上げる。

 

 

「まず、老化を加速させた条件で、薬液を切った場合の実験をおこなったんだけど、通常条件で換算すると半年くらいで萎れて装甲強度がだだ下がりになります。これは薬液の付け方、濃度を変えたんだけど有意なデータには成りませんでした。まあ、逆に言えば薬液さえ長期維持できれば何とでも成る」

「まあ、枯れたら組織の死滅が始まるから、強度が下がって当然よね?」

「しかも、完全に枯れるまで放置すると、細胞内部にあったバイド素子が解放されて飛び散るんだよ……というか飛び散った。活性が低いのでなんとか施設の洗浄は間に合ったんですけど」

 

 

エントが疲れた顔をしていたのはバイド汚染騒ぎを起こして、施設課から絞られた所為でもあった。広域汚染までいかなかった、ということで日常に埋もれていくのがここの常であるが。

 

 

「エント君のデータはまあ前提条件よね。じゃあ、オガール君次よろしく」

「ああ、俺のは装甲内での薬液の保持法についての研究だな。これなんだが、組織構造を微改変して1から50までのバージョンを作った。これを順次薬液の保持時間と装甲強度について調査したんだ」

「んで、結果は?」

「ああ、薬液保持時間はこのNo.33が飛び抜けて成績が良かった。形状から花状装甲と呼んでいるんだが、まあ、投入した植物DNAの花卉部分が異常発現した感じだな。この萼の部分に液だまりがあってそこに薬液を劣化させずに保持できるようだ。強度についてこのNo.33を含めた5つが良い値だが五十歩百歩だな」

 

 

データに出てきた花状装甲は今までのバイド装甲機にはない一種の美しさがあった。

 

 

「なんか、これ本当に花みたいでバイドじゃないみたいだな」

「そうねー。オガール君これ可愛くない?」

「論点はそこじゃないんだが。それにほらこれが裏側の画像な」

「うわあ……。なにこれ食虫植物とかにあるやつだろこれ」

 

 

薄桃色の花弁の裏側には、ハエトリソウを思わせるドドメ色の棘が叢生しており、獲物を逃がすまいとする何か意志の様なものを感じる。これをみてしまったエントは薬液の液溜まりは消化液なのではないだろうかと思った。どん引きしているエントを余所に、ラミは感極まった様に頬を染める。

 

 

「ああ、裏側も素敵。性能よし、見た目も良しでこれに決まりね!」

 

 

感嘆に対して、沈黙で返すエントとオガール、二人は目線で「また始まった」とコンタクトを取ると、どちらともなくため息をついた。これさえなければ良いリーダーなのに、と。長い付き合いの三人なので、すでに諦めが見えていた。立て直したのはオガールだった。

 

 

「あの、リーダー喜んでもらえてとても嬉しいんだけど、これ弱点があってさ。制御系に干渉するんだ」

「干渉? ノイズを混ぜるとかかしら」

「いや、植物性にしては比較的可動性のある素材でさ、これスラスターとか機械推進系の邪魔をするんだ。具体的には各部の抵抗性変えて進行方向をある程度勝手に動かす」

「装甲板が勝手に舵取るのか。それってバイドって言うんじゃね?」

「いや、コックピット内にバイド汚染はないし、装甲材も枯れなければ素子をばらまかない」

 

 

エントの疑問はもっともで、素直に聞いたらコックピットの外をバイド組織で覆っているのと変わらないという事になる。しかし、明後日の方向に舵を取ることに定評のあるラミはこれに素晴らしいと目を輝かせた。

 

 

「何を言っているの二人とも。これを自由に動かせればよりバイドらしい無駄のない制御系統を実現できるのよ。決めた! これを主軸に据えて装甲兼、操縦系統として研究しましょう」

 

 

こうして、Team R-TYPEの夜は更けていく。

 

 

***

 

 

Team R-TYPE研究開発のチェック器官として成り立っている課長室。ラミは事前研究を重ねた上で、データをもって訪ねた。もちろん前日はきちんと寝てクマを取り払っている。相対するのは課長のレホス。いつも通りの汚い白衣サンダルに、いつも違う柄の糊のきいたシャツ、ネクタイをしている。もはや突っ込む者もいない。

 

 

「レホス課長、B-1A系列の新型案をお持ちしました」

「出す前に聞いて置くんだけどさぁ、バイド装甲機の系統は長くても3機と考えているけど、引き延ばしじゃないよね?」

「ええ、もちろん完全無欠の見た目良し、性能良し、コスト良しです」

 

 

記憶媒体に入ったデータを差し出すと、レホスはそのデータを開きスペックと実験結果を見比べ、すごいスピードで読み始める。ラミは慣れているのでレホスがその状態でも会話出来ることを知っていたので、そのまま説明を続ける。

 

 

「薬液への依存性がジギタリウス1,2共通の課題ですが、この花状装甲に付属する液溜まりには薬液を劣化させずに保持する事ができます。これにより薬液の無駄がなくなりますし、定期メンテナンスで薬液補充する間が伸ばせます」

「ふーん、まあその辺はデータ通りだね。それだけじゃ許可はだせないなぁ」

「ええ、第二の特長として、これは可動式装甲です。装甲に操縦系を組み込んでいます」

「それは操作できるの?」

 

 

レホスの疑問に答えるため、ラミは添付資料を見る様に伝える。そこには何かのプログラムと出力にかんするデータが並んでいた。

 

 

「我々はこれをバイド論理演算と名付けました。入力に対してバイドがどのように出力するかを導き出しました。これは未完成でジギタリウスシリーズでのみ載せることの出来るものですが、もっと汎用性のある物が見つかれば、他のバイド装甲機にも導入できます」

「入力はサイバーコネクトから直接で、出力はこの場合は花状装甲の挙動となる訳だねぇ。この仲立ちをするシステムはたしかに我々にとって有用だけど、これを導入したメリットは?」

「はい、まず一つ目、これを導入することにより装甲の強度を一時的に高める事ができます。次に二つ目、今まで常に薬液を消費して強度を保っていた装甲の薬液消費量を調節することにより、薬液の使用量自体が減ります」

「まあ、このB-1Aシリーズは薬液との戦いだったからねぇ」

 

 

軍人らが聞いたら、薬液と戦わずにバイドと戦えと言いたくなるような事を述べるレホス。まんざらでもない感じの反応をするレホスに、気をよくしたラミは最後の利点を満面の笑みで押し出す。

 

 

「これは操縦系統としても利用できますので、よりバイドらしい制御が可能です!」

「そうだね、身を捻って敵弾を避けるというのはとてもバイドらしいよねー。でも植物性の所為であまり効果的には見えないけど」

 

 

レホスは動画を再生しているが今一分かりにくい。しかし研究データとしては有用だった。レホスはバイド機の研究として合格ラインに達したと判断しゴーサインを出すこととした。ラミはおっとりと喜んだ後、満面の笑みでレホスに告げた。

 

 

「ありがとうございます。ではこの子を実際に作れるんですね! さすがレホス課長は分かっていますね。この装甲の裏表の色合わせとか、花が咲く波動砲とか可愛いでしょう!」

「……Team R-TYPEには通常の感性は必要ないからねぇ」

 

 

さすがにレホスもラミの事は理解できず、否定も肯定もしない返事を寄越すのだった。

 

 

***

 

 

軍の担当官は当初、生物的であるがまだまともな外見をしたバイド装甲機B-1A3“DIGITALIUS III”を見て。まず、まともな「R」機を作れよと憤り、続いてナマモノでないだけまだいいかと自分を慰めた後、Team R-TYPEの担当からの説明に切れた。

 

 

まず、人間に毒性のある薬液の使用云々が全く改善されていないこと。そして「バイドらしい制御」とかいうサイバーコネクタを通してバイド装甲に繋げる可動させるという暴挙。まだ良いと評価された外見すら一皮めくると、毒性のある薬液が滴る棘とドドメ色の気色悪い表皮という有様。

 

 

もちろん、現場ではラミの感性は理解されず、百害あって一利無しと実戦配備はされなかった。

 



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B-1B2“MAD FORESTⅡ”


バイド機開発中盤、前話よりは前の時間軸です。ジギタリウスⅡができた頃です。









B-1B2“MAD FORESTⅡ”

 

 

 

 

 

ここのところすっかりTeam R-TYPEの研究中枢となりつつあるバイド実験施設では、蔦が絡まった様なバイド装甲機B-1Bマッドフォレストの追実験が行われていた。マッドフォレストに特異な要素であるBI物質の研究である。実はこの物質はまだ実験段階のものであり、その振る舞いについては解明し切れていない。それがマッドフォレストという(一応)公式機体に取り入れられたのは、その自己修復機能が有用であると判断されたためだった。実際、開発班のリーダー、クアンドの先走りであった感は否めない。

 

 

「実験No.41終了。で、班長、この追実験いつ終わるの?」

「ふっ、なんだねフローレスカ。もう体力の限界かね。そんなに予備脂肪はあるのに……」

「それ以上言ったら、バイド培養槽にぶち込むわよ」

「冗談も通じないとは……あ、待って、嘘だから!」

 

 

班長のクアンドと班員の一人であるフローレスカが、地獄のスケジュールで追実験を実施している。二人の目元には疲労の跡が感じられ、肉体的、精神的に酷使している様が見て取れる。このようなハードスケジュールを行っている原因は2週間前にあった。

 

 

***

 

 

――2週間前

 

 

「失礼します。クアンド主任研究員です」

 

 

Team R-TYPEの地獄殿こと開発課長室に、レホスに呼び出されたクアンドが来た。レホスは基本的に個々の研究員の自主的な研究を推奨しているので、課長からの呼び出しというのはしょっちゅうある訳ではない。よほど怠けていたり、大問題を起こした場合は呼び出されるのだが、それは呼び出された者が実験者から被験者にクラスチェンジすることを意味するので、課長室呼び出しはかなり恐れられている。しかし、クアンドは持ち前のポジティブさで堂々と入室した。おそらく先月ロールアウトしたB-1Bマッドフォレストに関する事であると予想が付いているので、そこまで恐れてはいなかった。

 

 

「ああ、クアンド君かぁ。このB-1BのBI物質の件なんだけどどう思う?」

「あれは特異で面白い物質です。いやーああいうのをポンと見つけてしまうとは、私の日頃の行いのおかげですなっ。実に研究し甲斐があるというものです!」

 

 

日頃から調子よく言葉を滑らせるクアンドに対して、レホスはB-1Bの成果と言えるBI物質に水を向ける。呼び出しの時点で不穏な空気が溢れているのだから少しは抑えれば良い物を、クアンドの口からは次々にどうでもいい言葉が出てくる。レホスはそれを前に少し目を細め、書類を手渡しながら告げる。

 

 

「ふーん……そうだねぇ。そんな仕事熱心なクアンド君にはこの実験計画をあげるよ」

「お任せを……え”、BI物質基礎実験行程一覧? え、ちょっとこれ項目が多いのでは?」

「君なら大丈夫さぁ」

「しかし、基礎研究73課題ってちょっとこれ今からですか!?」

 

 

クアンドが焦り出すが、レホスは課長席で悠然と足を組み直して告げる。

 

 

「研究というのは自由で柔らかな発想で行うものだと思っているから、挑戦的な研究でも意義があれば通すんだよ? でもそれは適当であるのとは別さぁ。基礎を固めないまま研究を続けて、もしそれが崩れたらその上にあるものは全て意味のないことになる。まさに砂上の楼閣さぁ。そんなのは科学とは言わない。僕は個々の発想を尊重するけど、そういう無駄は嫌いなんだ。というか一応僕は君らの発想自体は良いと思ったから開発自体は通したんだけどなぁ?」

 

 

無理とは言わないよね。と笑顔のままのレホスにすごまれれば、クアンドは引きつった顔のまま了承するしかなかった。口調や服装からだらけた人間の様に見えるが、レホスはTeam R-TYPEの研究を管轄する管理職なのだった。クアンドは真っ白になったままその工程表を持ち帰るしかなかった。

 

 

***

 

 

そんな事があって、班長のクアンドとその班員フローレスカとECは今まですっ飛ばしていた基礎研究行程に精を出しているのだった。クアンドとフローレスカがじゃれ合いながら課題をクリアしていると、別室で作業をしていたECがやってきた。

 

 

「あ、班長とフローレスカちょっと見て欲しいモノがあるんだけど」

「なにEC、あんたはBI物質添加素材の破壊テストしてたんだっけ?」

「そう、このデータ見て」

 

 

フローレスカがECの持ってきたデータを見ると、眉間に皺を寄せる。BI物質添加素材は破壊時に自己修復する機能を持つのだが、以前取ったデータより修復率が極端に大きいものがあったのだ。クアンドもそれを見て首をかしげる。奇妙なデータを見た三人は、その場で車座を組んでデータをソートしたり簡易統計などの処理を行ってみる。

 

 

「特異データでは、破壊部位が全て高いBI活性を示してる。破壊後は複数箇所にBI活性が分散する様ね」

「つまり、BI活性が最も高い部位を破壊すると、各所での再生能が上がるの?」

「そうみたい……ねぇこれはもうちょっと探ってみない?」

「あと基礎実験30課題残ってるんだけど」

「そちらはクアンドまかせるわ。実験計画まではできているし、リーダーだし、リーダーなんだもの。後はやるだけ、簡単でしょ?」

「も、もちろんだとも」

 

 

フローレスカとECの意見にクアンドが口を挟むが、フローレスカに一蹴される。クアンドが情けない顔になるが、フローレスカに発破を掛けられて安請負をする。

 

 

***

 

 

班長を丸め込んでフリーハンドを得た女性研究員二人だが、すぐに検証実験に取りかかった。マッドフォレストの特長である蔦状の植物質バイド。そのサンプルをシリンダーの中にセットすると、シリンダーの一端からアームが出てくる。極めて小型で低出力の波動砲コンダクタが光り始め、青白い光がサンプルの指定した箇所を焼いていく。データを取り、サンプルを変え、実験を繰り返した後二人は頭を付き合わせて見やすく加工されたデータを読み込んでいった。

 

 

「うーん、活性部位を切り取るとその活性が他所に移るけど、その際活性全量自体が上がってるわね」

「その状態は継続してる。活性減衰データから推測すると1ヶ月くらいは活性が上がる」

「もともとの活性には頂芽優勢が認められるけど、それを切れば他の「蔓」の先端に活性が移るみたい」

 

 

そんなことをぶつぶつと呟きながら検討を続ける二人。何日かそんな実験ばかりしているが煮詰まっていく。

 

 

「あーもう! これ活性が移るけどそれをコントロール出来ないんじゃ意味が無いじゃない」

「うーん、加害部から逃げる様に活性が移動するのね……」

 

 

ECも一緒に悩むが、何もなくなったシリンダーとアームを見てふと呟く。

 

 

「ねぇフローレスカ。BI活性高いって事はバイド素子の活性も高いわけだけど、それって波動素子嫌うから焼き切ると再生しないんじゃない?」

「ん、そうね。えーと」

「バイドには本来全能性があるんだから、波動砲で削らないで物理的な損傷だったらもっと明確に再生するのでは?」

「!」

 

 

フローレスカとECは黙ったまま、新たなサンプルを備え付ける。まずは先端の高活性部位を波動砲で焼き切る。BI活性が他の部位に広がったのを確認した後、レールガンを持ってきて物理的なダメージを与える。サンプルは周囲の物質を取り込みながら急激に再生する。その様は小さな蔦の塊がうごめいて、大きさ自体が一回り大きくなった様に見える。

 

 

「これよこれ! 超回復なんて素敵性能よね!」

「これで一撃で致命傷を貰わなければ、再生を続けるR機になるかしら」

 

 

そういって小躍りを続ける二人。班長であるクアンドを放って実機サイズの実験を始めるのだった。

一人基礎研究課題をこなしていたクアンドが彼女らの暴走に気がつくのは最終段階に入ってからのことだった。

 

 

***

 

 

Team R-TYPE研究開発課長室。部屋の主の前に汗だくのクアンドが立たされている。クアンドは何時もの調子はなく、完全に顔が引きつっている。レホスは彼の方を見ずに書類を読みながら口を開く。

 

 

「君らが勝手に倉庫にあった実機フレームを使ってくれたものだから、後付けで正式型番のB-1B2を当てる事になちゃったんだけどぉ。この意味クアンド君は分かってるのかなぁ」

「え、えーと私が入ったときにはすでに実験が進んでいまして……あ、すみません。笑顔にならないで下さい。監督不届きでした」

「ふーん。この件については後で色々やってもらうとして。まあ、君だけの所為って訳じゃないし、もう少し生産性のある話題をしようか。これの成果について」

「は、はい。BI素子の活性によって自己再生の度合いが変化するのですが、BI活性はバイド活性を伴いうため、波動エネルギーを嫌う性質があります。よって波動素子で極端な活性を持つ部位を潰す事により、まんべんなくBI活性を持たせ、同時に自己回復性を高めることに成功しました。バイド指数も高まるので副次的に攻撃力の増強にも繋がっています」

 

 

失敗を取り返そうと普段より早口なクアンドにレホスは目線で続きを促す。結果を全て言えと。

 

 

「その、高める事には成功したのですが、胴体部に物理的なダメージを負いますと、一気に増殖が始まってコックピットブロックを押しつぶす事が確認できました。パイロットにBI活性を付ければ自己回復するかとも思って培養組織で実験してみたのですが、人細胞では難しくてですね」

「つまりは、まったく機体としてはなりたたないと言うわけだねぇ」

「はい、そのとおりです……」

 

 

資料にはコックピットカバーを締め付けて破壊する蔦玉がある。レホスは満面の笑みでクアンドに語りかける。安心させると言うよりは、子供がオモチャを見つけた時の表情だ。

 

 

「ねぇ、クアンド君。君は研究者だよね」

「は、はひっ」

「じゃあ、研究の失敗は研究で取り返して欲しいんだけど、どうかなぁ」

「被検体以外なら、なんでもする所存です!」

「そう、じゃあBI素子の実験を続けてね。君の班は専属にするから。軍にはB-1B2は欠点が多すぎる試作機ということで言っておくからさぁ。いち研究者として実験を続けてくれると嬉しいなぁ」

 

 

今回の実験の顛末を欠陥機として処理し、更にその研究を続けるというこは……。クアンドは社会的に死ねと言われていると感じたが、ここで断るとおそらく生物学的に死ぬことになる。彼に答えは一つしかなかった。

 

 

「謹んでお受けします」

 

 

***

 

 

真っ白に燃え尽きたクアンドを研究室で迎えるのはフローレスカとECの二人。さすがに自分たちの独断専行で課長呼び出し案件となったので、二人も顔色が悪い。多少はクアンドを気遣ってみせるが、当人は完全に上の空で、彼の精神がまともになるまで少し待つことになった。1時間ほど立ってから研究の行方を二人に話した。

 

 

「今さっき、B-1Bシリーズは研究見送りって聞いたんだけど?」

「B-1B2で見つかった課題についてさらに追実験を行っているということにする。実験計画の段階ではBI素子の名前は出さないで基礎研究とする。基礎は大事だとレホス課長も言っていたし、そこから見つかる物もあるだろ」

「それ軍を敵に回すんじゃ」

「課長を敵に回すよりはマシ」

 

 

BI性質を用いた自己修復能力は、潰された部位によっては成長しすぎてコックピットを押しつぶすため、実戦での活用は期待できないと判断され、「これ以降の研究は見合わせる」と公式文書には書かれることになった。

 

 



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B-1B3“MAD FORESTⅢ”

今回も単発です


B-1B3“MAD FORESTⅢ”

 

 

 

 

B-1B3搭乗試験結果レポート

 

 

試験1

 試験機体:“試験機A02”通常強化タイプ

 被検体:No.12

 結果:失敗

 摘要:BI活性の強化が過ぎたため、バイド指数の増加が誘発され、

    装甲の攻撃性を抑制することに失敗。

    コックピットブロックの破壊により試験は強制終了。

    なお、被検体は圧死したがバイド化の兆候は見られず。

 メモ:BI活性は試験管内での試験と、機体上での試験とでは振る舞いが異なる。

    マクロ環境での規則性を読み解く必要あり。

 

 

試験2

 試験機体:“試験機A06”波動誘導強化型

 被検体:No.22(強化済み検体)

 結果:失敗

 摘要:BI活性措置と同時に波動粒子誘導を強化した。

    波動誘導が強力であったためBI活性が完全に失われ、植物性装甲は崩壊した。

    被検体は精神汚染チェックを行った後引き続き使用。

 メモ:BI素子と波動の活性バランスについて最適解を模索中

 

 

試験3

 試験機体:“試験機A23” 通常強化タイプ

 被検体:No.22

 結果: 失敗

 摘要:蔓が急成長し巨大化。実験チャンバーの容量に迫ったため、緊急廃棄処分。

    波動粒子誘導を休息に行いすぎたため、BI素子が反発し暴走した。

    試験機が残らなかったためデータは不完全であるため参考値に留める。

 メモ:疲労による調整ミス

 

 

***

 

 

試験7

 試験機体:“試験機B03”BI波動強化タイプ

 被検体:No.24

 結果:条件付き成功

 摘要:BI素子活性と波動粒子誘導のバランスは良好。

    波動粒子誘導により一定範囲でBI活性の制御に成功した。

    ただし、バイド活性にも同時に作用するため、

    波動粒子が付与されていないパーツである被検体がバイド化した。

 メモ:コックピットブロックの保全を検討事項に追加することになった

 

 

試験8

 試験機体:“試験機B04”BI波動強化タイプ

 被検体:No.25

 結果:失敗

 摘要:コックピット封鎖性を高めたが、前回同様バイド化。他の条件は前回と同様。

 メモ:コックピットブロック保全に失敗。

    活性状態にあるBI素子及びバイド素子の物理的遮断は不可能か

 

 

***

 

 

試験11

 試験機体:“試験機C11”エンジェルパック装備型

 被検体:No.12、No.13、No.14(ただし、脳髄摘出処理済み)

 結果:失敗

 摘要:コックピットブロック保全を考え、エンジェルパックシリンダー外部に

    波動粒子誘導体を覆った。パイロットのバイド化は起こらなかった。

    しかし、感覚を接続した状態で装甲修復時処理を行うと激しい拒絶反応を示し、

    ショック状態となった。生体感覚を完全に絶つとAパックの影響で

    精神崩壊による早期発狂を免れないため、不適と判断。

 メモ:エンジェルパック処理はコックピット容積削減や、

    搭乗手続きの煩雑性を取り除く案であったが、コスト面や、

    拒絶反応への対応から廃案とする。

 

 

***

 

 

試験21

 試験機体:“試験機D25”薬液代謝型

 被検体:No.28

 結果:成功

 摘要:BI素子と波動粒子の緩衝液として保存薬液を改良した。

    常に機体表面に薬液を代謝させることにより蔦状装甲の柔軟性と、

    自己修復性能の両立を確認。

 メモ:B-1B2の修復性能の200%を目標として強化を続ける。

    なお、薬液の毒性は高まったよう模様。

 

 

試験22

 試験機体:“試験機D27” 薬液代謝型改良版

 被検体:No.30

 結果:成功

 摘要:薬液保管タンクとして貯水器官を分化させた。

    これにより富栄養化により巨大化が進んだ。

 メモ:バイド装甲は培養に使う遺伝子提供元にかなりの部分で似る。

    特にこの蔦状植物を組み込んだものについて、各組織の分化法則については

    かなり解明されてきた。

    これを論文にまとめれば被検体にされるのは免れるだろうか。

 

 

試験23

 試験機体:“試験機D28” 分化テスト型

 被検体:No.31

 結果:条件付き成功

 摘要:組織分化についてテスト。

    一般的な組織についてはかなりの範囲で自由に分化させることが可能。

    花卉や種子など生殖器官については恒常的に発現させることは不可能。

    生殖器官はエネルギー体でのみ存在可能である。

 メモ:今回の被検体は降格組だった。

    あいつも余計な事に手を出さなければ研究員側でいられただろうに。

    くわばらくわばら

 

 

***

 

 

試験30

 試験機体:“試験機E02”波動誘導調整型

 被検体:No.13(廃棄者再利用)

 結果:条件付き成功

 摘要:バイド装甲中のBI素子活性を波動粒子でコントロールするシステムを開発。

    通常動作では問題なし。中度被弾時にエネルギー化した花卉部位が開花し、

    バイド素子を拡散する事故が発生。廃棄処分。植物体が死滅直前に開花・

    種子形成を促進する生体機構を発現しない様コントロールを行う。

 メモ:形は決まってきたが、各所の調整が難しい。

    そろそろ被験者を手配も厳しくなってきた。

    論文も出さずにやっているから予算が少ない。

 

 

試験31

 試験機体:“試験機E03”波動誘導調整型

 被検体:No.14(廃棄者再利用)

 結果:失敗

 摘要:破損時のバイド素子の拡散を抑えるため、波動粒子誘導を振り向けるが、

    BI素子とのバランスが崩壊し暴走。緊急廃棄処分。

 メモ:そろそろ結果を出さないと私達が被検体にされかねない。

    レホス課長ならマジでやる。

 

 

試験32

 試験機体:“試験機F01”最終調整型

 被検体:No.32

 結果:条件付き成功

 摘要:コントロール部位への被弾がバイド素子の拡散を助長するため、

    機首に薬液保存タンクを兼ねたシールドを配置。

    それに伴いBI素子活性と波動誘導のバランスを調整。

    通常動作~低度被弾まで暴走には至らず。

 メモ:巨大化しすぎていよいよR機といえるのか不安だが、

    波動砲が撃ててフォースを装備出来ればR機に違いない。

    そう愚痴ってたら総務課の奴に今更と言われた。

    よし、もうこれを基本に各所を整えよう。

 

 

試験33

 試験機体:“試験機F02”最終調整型

 被検体:No.33

 結果:成功

 摘要:BI素子活性と波動誘導のバランスを調整。

    通常動作~中度被弾まで暴走には至らず。

    コントロール部位への被弾の場合13%の確率で、

    事故修復時の暴走を引き起こすが、バイド素子の拡散は確認できなかった。

    低被弾時の総合事故率5%未満のためこの試作型をB-1B3とする。

 メモ:BI素子と波動粒子誘導のバランスがシビアで自己修復機能が若干破綻気味だが、

    薬液で押さえ込んでいる。攻撃を受けると修復暴走する可能性が13%あるが、そ

    もそもR機で被弾は御法度だし、それに自己修復でコックピットに肉塊が生成さ

    れるのも大丈夫。そもそもパイロットが死亡したらそれまでだし、肉塊化も結果

    論だし、コックピットブロックが蔦に飲み込まれていて機体からもバイド指数が

    検知されて、見た目バイドでも私には関係ない。自己修復性能と攻撃性は強化さ

    れているし、至上命題のBI素子の振る舞いについてのデータも取れたし私は大丈

    夫、平気、問題ない! ……え、レホス課長から呼び出し? え、何それ怖い。

    まって音声入力切るから……なんで私の両腕抱えてるの。え、まだデータ打ち込み

    終わってないから。まだ出来ることあるから! ちょっと放しt……

 

 

 

 




一応、補足

「被験者についての扱いは実験規約に基づいて行っており、
 同意誓約書に署名のない被験者を実験に供するなどという風聞は事実ではございません
 また、防ぎようがない事故を除いて、被験者の安全には細心の注意を払っています」
(公式発表)


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B-1C“AMPHIBIAN”

失踪してましたがゲリラ復帰しました。
というかグリトニル戦記の方を改訂しようとして書き直して、
追加の話を書いている途中で詰まって投げていました。


・B-1C“AMPHIBIAN”

 

 

 

 

「私、天然魚って見たことないんだけどこれ似ているのかな?」

「俺も食用培養ブロックしか見たことないけど、絶対違う」

 

 

女性研究者ミーガンと同じ班のフーフェイだった。

円形の防水扉にはバイオハザードマークが記されており、足場の下には配管がのたうっている。

そんな中、首まである防水作業着を着ながら二人はシリンジ状の培養槽をチェックしている。

太ももほどの太さのシリンジの中にはよく分からないぶよぶよとした細胞塊が浮いている。

鰭や鱗、目玉などがでたらめに配置されており、どう考えてもクリーチャーだ。

 

 

「うーん、レホス課長からの課題は、バイド自己修復因子の特定と利用だったけどうまくいかないな」

 

 

この原因は3ヶ月前に遡る。

 

 

***

 

 

Team R-TYPEの木星ラボの研究開発課長室にミーガンとフーフェイは呼び出されていた。

一研究員のデスクと違って高価そうな机と椅子に課長のレホスが腰掛けていた。

会議の後らしく何時もの汚い白衣とサンダルではなく背広なのが気になった。

レホスは引出から小型の記録媒体を拾い上げ、机の上に置いた。

 

 

「それでさぁ、君らに課題なんだけど、コレを研究してね」

「え、ええと、なぜ私達火星ラボの人間に言うのです? どちらかというと分析が専門ですが」

「分析も今回の仕事の内だからねぇ。ところでさっきまで僕は“バイド器官実用化会議”にでてたんだけど、これが議題にあがったんだよ。どう思う」

 

 

レホスが聞いてくるが、誰も答えない。

ミーガンは横目で同僚を見るが、フーフェイは完全に応対をミーガンに投げているようだ。

彼女は肉眼で記憶媒体のデータを読み取れる異常体質ではないので、別方面の感想を述べた。

 

 

「……酷い名前の会議ですね」

「そう、いー名前だと思うだけどなぁ。僕は外面を気にして物々しいだけの会議名とか大嫌いだしぃ」

「ええと、このチップには何が入っているのですか?」

「バイドの自己修復因子であるリボン体のデータさぁ」

「リボン体ってあれですか、生成構造体が微小帯状形態を取る以外分かってなかったバイド構造ですよね」

「そう、キミらとは別基礎研究チームがバイドDNAデータを割り出してさぁ、自己修復因子であることも特定したんだよ」

 

 

レホスはそう言うとメガネのブリッジを押し上げて続ける。

 

 

「君らへの研究課題はこの自己修復因子を組み込んだバイド機を開発すること。そしてその利用法を確立することだ」

 

 

ミーガンとフーフェイに「ノー」の返事はあり得なかった。

 

 

***

 

 

防護服を脱いで除染し、研究室に戻ってきたミーガンとフーフェイは今日の実験結果について検討を始める。ミーガンはコーヒーを飲みながら、今分かっていることをつらつらと述べる。

 

 

「バイドの基礎構造の一つであるリボン体はバイドDNAのRB1領域にあり、程度の差はあるけれどほぼ全てのバイド体で発現している。その役割は外部的損傷を受けた部位の修復」

「ここまではデータにあったところだよね」

「うん、」

「でもなんでこの自己修復因子が働くのかしら?」

「どういう意味? 生物だってもってるじゃないかDNAの損傷から免疫、一部組織の治癒。構造再生さえできる種もいる」

「それはDNAという設計図があるからじゃない? でもバイドってそこら辺適当だから決まった形なんてあまりないじゃない?」

「そうだな分化誘導がかからないと、カルス……というかただのバイド肉塊になるよな」

「周囲の組織から誘導も係るけど、大部分がもげていても環境次第では再生できるじゃない? そこも研究しないと」

 

 

ホワイトボードに研究項目が付け足され、“分化誘導と自己修復の関係性”と乱雑な文字が躍る。

 

 

「でも、一番の成果物である機体はどうする? 一応レホス課長からは研究レポートによっては継続研究もありって言われているけど」

「うーん。取り敢えずは利用できるかどうかの判断として、バイド培養時につかう素体との相性を見ましょう」

「そうだね。再生能力はバイドの特性の一つだからそれを強調しよう。ただし、侵食は抑えないと」

 

 

バイド装甲材単体では問題ない様に見える物でも、ラットを用いた小規模試験では生体に向けて侵食を起こすことが多々ある。やはり生体はバイドの本能と言うべきものを刺激するらしい。

 

 

「コックピットとかの侵食を抑制しやすくて、自己再生因子“リボン体”を強誘導した機体?」

「それでいいね。始めの課題はシンプルが一番だ」

「一応、今回の実験でどの」

 

 

有機物、単純無機物、機械素材。様々なバイド培養試料のデータを呼び出して二人でピックアップしはじめる。ちなみに先達達の基礎研究のおかげで、大体の傾向は調査済みとなっている。その中から有望そうなものをピックアップし、ミーガンとフーフェイはバイドの培養が許可されている実験室を予約した。

 

 

***

 

 

さらに2週間後。

素体を培養している実験室には、二人の姿があった。

腕の太さほどの小型シリンダー培養槽の束を引き上げると、おなじみのぶよぶよとしたバイド肉塊が入っている。

それらを一つ一つ検分していくミーガン。

数歩離れたところで別のシリンダーを確認していたフーフェイが声を上げる。

 

 

「修復度数B3、B2、C1……」

「ミーガンこれどうかな」

「B……もう、どこまでチェックしたか分からなくなっちゃったじゃない」

「そんな、どれも同じようなサンプルどうでもいいよ。それよりこれ、どう見ても実験前の状態まで再生しているよ」

 

 

ここでは色々な素材に自己修復因子を活性化させたバイド素子を付着させ培養し、その後シリンダーごと極低出力の波動放射に晒して破壊したサンプル群だった。

自己修復因子が働いていなければデタラメな再バイド化が起こりカルス化する。

上手く働いていれば損傷前の状態にキレイに再生する。バイドなりの機能を持った組織が回復する。

フーフェイが持っていたサンプルは、破壊部位の輪郭こそ分かるが、その内側を若い組織が埋めており、

外側も元の通り鱗状の表皮装甲が覆っている。機能回復に至ったのだ。

 

 

「それは魚類素材No39ね。あ、こっちにもある……素材は両生類素材No.332」

「うーん。内部組織は両生類素材、表皮装甲は魚類かな。組み合わせるのもありかな」

「あと、R機の装甲に使うなら生体侵食試験も必要ね」

「設備的にも、僕らの成果的にもマウスでスクリーニング試験をするしかないかな」

「人死にがでると、理由書が膨大になるからね。平研究員の辛いところよね」

 

 

Team R-TYPEで被験者を募っての実験が暗に許可されているとはいえ、最初から最後まで人を使っては被験者が足りなくなる。ラットならば多量に使えて増殖も便利だ。それに政府から強大な権限を得ているTeam R-TYPEといえど、被験者を多量に用意するのは難しい、人間を使う以上はそれに見合った成果が要求される。

 

 

***

 

 

バイド装甲素材の適正率試験を繰り返し、マウス試験を繰り返し二人はバイド装甲機の稼働試験を迎えた。

本人らも半ば忘れていたのだが、これはバイド“装甲機”の研究なので、成果物もR機となる。

もっとも彼ら二人は波動砲や操縦系は畑違いなので実質的には他の研究室と連携して丸投げすることになるが。

バイド装甲機において、装甲材はかなりの比重となる。

装甲材が装備などに干渉することによって千差万別の特色を持つため、ミーガンらが装甲の研究を終えないと武装系、操縦系が開発できないのだ。

つまり、彼ら二人の研究が押したため、武装・操縦系はまともに試験していない。

 

 

「ぶっちゃけ、ぶっつけ本番よね」

「ま、まあレホス課長からのオーダーも自己修復因子の研究であって戦力化じゃないから」

「どうせ軍もバイド機を通常戦力として使っているわけじゃないし」

「それにしても、保守整備が大変なバイド装甲機を小ロットで多種運用するって、軍人さんも可哀想ですよね」

 

 

二人の前を次々に実験機材が通過していく。

突然R機開発機関Team R-TYPEがまともなR機を開発せず、敵と見間違いそうなバイド装甲機ばかりを開発し始めた。上層部はともかく末端の前線に建つ将兵は当然切れたが、幾ら抗議文を送っても梨のつぶてである。最近は諦めの雰囲気を纏わせて、既存の名機を通常運用し、嫌がらせのように現場に送られてくるバイド機はワープ空間や跳躍次元での戦闘に回している。

 

 

「だからこその、自己修復因子試験機よ。これが正式配備されれば保守整備の手間も省けるわ」

「まあ、補給さえすれば勝手に修理されますからね。デッキが割とシュールな事になりそうですが」

「本当は相互干渉もあるから組み上げてコックピットを取り付けてから稼働実験したかったんだけど」

「時間……なかったですし、今回武装は飾りですから」

 

 

スクリーン上に現れたのは鱗の様な装甲とヒレの様な機関に覆われたバイド機B-1Cに、ミーガンとフーフェイは“アンフィビアン”とあだ名を付けた。

両生類という名前だが、装甲材の基礎である組織には魚類と両生類を複数合わせた細胞塊が使用されており、まあ間違いではない。しかしテラテラと光る分泌液や痙攣するように震えるヒレ状器官を見ると、腹部装甲が膨れて触腕の様な物が生えた淡水魚に近いナニカだ。ちなみにコックピットに人を入れて起動するのは今日が初めてとなる。

 

 

横目で準備が整ったのを確認したミーガンが宣言する。

 

 

「B-1C稼働実験始めます」

 

 

実験場のオペレーター達が様々な報告をアナウンスする。

テストパイロットによって基本機動は問題ないことが確認し、本命の“自己修復因子”試験にうつる。

実験ではまず機体機関部に物理損傷を与え(通常は大破判定となる)、その後に最低限の機動を行うことで、再生が行われているか審査される。

実験場は高速デブリを想定した岩石材を高速でぶつけて機関部を抉るための準備に追われていた。

 

 

『指標岩石材、射出準備完了』

「OK、胴体めがけて射出して」

 

 

ミーガンの号令後、採掘用の小型電磁砲で加速された岩がB-1Cに叩き付けられる。

およそ戦闘機に衝突したとは思えない、粘着質な音が聞こえた後ディスプレイ上のB-1Cは、コックピットの後ろの機関部が半ばまで破壊されていた。通常ならば大破判定を受けるだろう有様だ。

ミーガンらの成果が反映されるならば、ここからバイド装甲が自己修復を開始し中破~小破判定くらいになるという想定だ。

 

 

『第一射判定、大破。テスト機バイド係数微増確認しました』

 

 

「うーん、なんか修復率の伸びが悪くないか? 予備試験では目に見えて修復が始まったよな」

「そうは言ってもR機フレームに取り付けてのテストはこれが初めてだから……」

 

 

フーフェイとミーガンがこそこそと話す。

R機フレームが露出したB-1Cは、その断面に肉片を蠢かせて周囲の微細デブリなどを元にして修復を始める。保存された直前の状態まで修復する様に誘導分化されるはず。しかし、装甲組織ではなくもっと軟質の別の物体が傷口から作られつつあった。明らかに試験シリンダーで見せたような急速でバイド的な自己再生能力とは別物だ。

さすがにミーガンも眉根を寄せる。

 

 

「なんか別の物が誘導されてない?」

「カルスから分化して……バイドの捕食組織っぽいんだけど?」

 

 

赤黒い鰭状組織がコックピットに取り付いたあたりで周囲もその異様さにざわめく。ミーガンは側のマイクに飛びつくと大声でがなり立てた。

 

 

「テスト中止、テスト中止! バイド汚染が完了する前に波動砲用意して!」

「テストパイロットが入ったままです」

「たった今、コックピットが壊れたわ。推進系までバイド化しないうちに吹き飛ばすのよ」

 

 

実験オペレーターが反論するも、その直後にコックピットが圧に耐えきれずひしゃげた。腫瘍の様に一気にバイド化が進行し、それを合図に周囲で待機していたR機が波動砲を放つと、魚の出来損ないのようなB-1Cは消え去り静かな宇宙が戻ってきた。

 

 

***

 

 

後日、大型実験に失敗したミーガンとフーフェイが反省会を開き、実験時のあらゆるデータが集められた。

 

 

「予備実験との違いは?」

「相違点1、R機フレームへの組み立て状態での試験であること」

「フレーム材やその他部品ごととの培養試験は行ったし今回の結果とは異なる」

「相違点2、レーザーでの損傷ではなく、岩石材での試験であること」

「岩石材の付着は認められたが追試験で問題性はない。また無機物以外のコンタミネーションは無かった」

「相違点3点……」

 

 

フーフェイが質問し、ミーガンが答えていく。この辺は自分たちの試験系に落ちが無いか確認のための質問だ。

 

 

「じゃあこれが僕の本命の相違点だと思う項目。有人だった」

「……やっぱりそれよね。あの妙な誘導増殖の仕方は有機体……特に人間入りの機体や施設をバイド体が襲う時の活動と類似点が多いわ」

 

 

マウス試験では起こらなかった事態。ミーガンとフーフェイは再度の追試にて、B-1Cに用いたバイド装甲材では損傷時に自己修復機能としてもっとも手近な有機体を取り込もうとしているのではないかと言う結論になった。バイド素子がコックピットブロックに引きつけられて、ダメージ部位では、損傷が再生するほど自己修復因子が働いていない。結果としてB-1C装甲では自己修復自体が成り立たないことが分かった。

この結果が出た後、ミーガンは中身を飲み干した紙コップをくしゃりと握りつぶす。

 

 

「やはりマウス試験は駄目ね」

「そうだね。やっぱり条件を合わせた本試験(人体実験)が必要だった」

 

 

こうして二人はサイコパスへの第一歩を踏み出したのだった。

 

 




ふと考えました。
Dクラス職員みたいな人(被験者)って流石に平研究員が使い捨てにはできないですよね


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B-1C2“AMPHIBIANⅡ”

とりあえずⅢまでは投稿します。
そのあとはグリトニル戦記をこねくり回そうかと思案中です。


ミーガンとフーフェイはB-1C機動実験の事故の後、Team R-TYPEのお偉方から睨まれないか内心ドキマキしながら追試を続けていたが、特に処分は無かった。しかし逆に二人は不安な気持ちになっていた。なぜなら研究で致命的なヘマをした研究員が、すぐさま拉致され実験槽に沈められるという都市伝説はTeam R-TYPE中でまことしやかに囁かれているのだ。多少の違いはあれど二人とも、謎のエージェントが「やり過ぎましたね」といって自分たちを掠っていく夢を見たので、しばらくの間、お互いしか信じられなかった。

 

 

「自己修復因子の発現とか、リボン体の誘導体について論文まとめまくったのが良かったのかしら?」

「もう、自分の命がかかっているから真剣だよね。僕も一週間寝ずに論文を書いたのは院卒以来だよ」

「私も疲れたわ。でもそのおかげで被験者に身落ちしなくて済んだのかも」

 

 

目の下に立派なクマを付けた二人だが、周りの先輩方からは、これぞTeam R-TYPE、と生暖かい目で見られていた。そんな、周囲には気が付かず取りあえず開発課長のレホスから次の仕事で呼び出されて課長室に向かっていた。失敗の後レホスに呼び出されるのは心臓に悪い。しかし、もし見限られたとしたら、態々呼び出したりせずに書類一つで首を落とされているはずだと、二人はまだ自分たちが研究員として見られていることに安堵していた。

 

 

***

 

 

課長室から戻ってきてフーフェイが一言。

 

 

「で、自己修復因子再び、なんだね」

「あの因子とリボン体の所為で死ぬ思いをしたんだから、研究し尽くして取り返すわよ」

「ごもっとも、研究者はそうじゃなくちゃね」

 

 

寝不足で少々キマっている二人は、レホスから新たに与えられた研究課題を前に気炎を上げていた。レホスは二人が書いた論文を割と気に入ったようで、新たな実験機B-1C2の開発という名目で、自己修復因子の発現とリボン体の誘導について、もっと掘り下げて研究することを命令した。

 

 

とりあえず発想は水物とばかりに、猛然と実験項目をホワイトボードに書き出す。黒く埋め尽くされたボードに満足した二人は2日ばかり死んだ様に眠った後、自己修復因子を発現させたバイド装甲の培養実験を繰り返していった。

 

 

***

 

 

「次にやることは?」

「人体実験……もとい、有人起動試験」

「当然よね?」

「もちろん」

 

 

前回の自分たちを棚上げ――もとい、失敗を糧にしてミーガンとフーフェイは申請書を書き起こす。特殊資材使用申請書という名の書類は、試験概要と割り振り予算の書類を付けて提出するのだが、有用性が認められれば、どんな資材だろうと利用できる。最前線の基地施設だろうと、多量の金塊であろうと、木星基地に保管されているオリジナルのバイド種子であろうと、たとえ人間であろうと。

 

 

二人は失敗してなる物かと念の籠もった書類を提出し、そして受理された。

実験の中で、狂気の権化と思っていた先輩研究員らが自分たちと同じ普通の人であることが解り、倫理感というものは後からどうとでもなることを知った。

 

 

***

 

 

そうして人体実験に精を出して二人で検討を繰り返していた。

 

 

「分かったことは、自己修復因子が発現してリボン体が誘導されるときに、何故か人間に引きつけられることよ」

「マウスはだめ、犬や猫もだめ。猿も問題ないけど人間には誘引される。か」

「エンジェルパックも誘引してしまうね」

 

 

ふたりはリボン体が誘導される条件、つまり再生時に特異現象を起こす原因であるものを特定しようと躍起になっていた。

 

 

「人間に特異なもの……高次思考だろうが」

「でも脳死直後でも誘引したわよ」

「代謝のある人細胞はまたは、人間のDNA……かな?」

 

 

もうそれくらいしかとフーフェイが匙を投げる。

ミーガンも頭が煮え立つ寸前とばかりに、椅子よりかかって思考を放棄する。

しばらく無言に過ごした後。フーフェイがぽつりと零した。

 

 

「……そういえばさ。バイドは人間のいる所を襲撃するよね。彼らは人間のDNAかなにかを察知する何かを持っているのかもよ?」

 

 

***

 

 

対バイド用の防御装甲で囲われた実験区画。

まずは拘束衣を着させられた囚人がコックピットブロックに担ぎ込まれ、外から封鎖される。コックピットの機械式開口部分の上から、装甲が癒着するようにして閉じていく。外から見たB-1C2アンフィビアン2という名の実験機は、グロテスクさの中に中々のユーモラスさを備えている。魚類のような鰭が上下方向を覆い、鰓の様に見えるのはコックピットブロックへの開口部跡だ。さらにコックピット浸食を抑えるための物質をコックピットと動力部に循環させるために前方から後方に管が伸びている。

 

 

まあ、小中学生の魚の解剖実験において、解剖用の魚をストローなどで弄んだならば多少似たようなモノが知れない。戦闘機とは思えない生々しさと、冗談としか思えないような造形は、およそ兵器とはかけ離れているが、残念なことに地球連合軍やその周辺組織の人々は慣れてしまって最早疑問を覚えない。

 

 

「被検体収用しました」

「操作はすべて外部からお願い。用意が整ったら破壊試験を」

 

 

アンフィビアンシリーズとしては二回目となる破壊試験だが、今回は落ち着いている。何しろコックピットに入っているのは消耗が前提の被検体であり、前回の様に育成に費用のかかるテストパイロットではないのだ。そのためミーガンもオペレーター、技師達も淡々と作業を進める。そして、やはり前回と同じように岩石資材を用いて破壊試験を行う。ただし、今回は前回より小規模な破壊を予定していた。

 

 

「B-1C2中破、再生開始します」

 

 

身構えていたコックピットブロックへの侵食がまずは起こらなかったため、フーフェイは知らずに止めていた息を吐き出した。どうやら今回のために作り付けた回避案Hの効果があったらしい。

 

 

「ミーガン、効果あったじゃないか」

「そうね。人間の培養肉――とりあえず今回はHERA細胞塊をコックピットから動力部にまで流動させることでコックピットの人間反応を撹乱する作戦よ」

「おかげで外部配管みたいな無様な外見だけどね」

 

 

軽口を叩くふたり。管の中を人間由来の細胞を含んだ液体を循環させることで、バイドの自己修復因子とリボン体を誘引する物体であるパイロットを保護していた。このリボン体を含むバイド装甲は、人細胞流動液を管内で動かすことにより、ある程度、意図的な修復を促すことが出来た。

思考にふけているミーガンに対して、オペレーターの声がイヤホンから聞こえてくる。

 

 

『まもなく再生率8%です』

「続けて」

『しかし、すでに機体エネルギーの70%以上を消費していますが?』

 

 

外部で観測するB-1C2のエネルギー総量は明らかに減少が観察されていた。恐らく前回も起こっていた事象であるが大破してしまったため観測できなかったのだろう。それでも実験継続し結果が知りたかった。おそらく破滅的なことになるとは二人とも気がついているのだが。

 

 

「これも実験だしね」

『了解しました』

 

 

ミーガンがマイクに軽く実験続行を告げると、そのまま魚もどきがグロテスクに修復されていく。機体のエネルギー残量がほぼ0になると、鰭状組織がビクビクとうごめき始める。まるで陸上に釣り上げられた魚の様だ。すでに破壊部の再生は停止しており、装甲内部の軟組織がまだ見えている状態となっている。

 

 

『B-1C2完全に再生が停止しました。活性停滞、休眠状態にはいります』

 

 

アナウンスが無情に告げる。実験失敗とも見える事態だが、一皮剥けたミーガンとフーフェイにとってはこれも成果となる。

 

 

「この後は、再生率と消費エネルギー効率について追試ね」

「どうやら、破壊規模によっては再生が現実的ではないから、その辺も論文にまとめなくちゃね」

 

 

ミーガンとフーフェイは目線を合わせてにっこりと笑う。

知らない人間が見たら恋仲と思える甘い雰囲気だった。

 

 

「まだまだ調べたりないわ。実験をもっと沢山申請しなくちゃ」

「そうだね。論文には瑕疵があってもならないからね」

 




みなさんの学生時代の解剖実習は何でしたか?
割とカエルとフナが多いと思うのですが、
作者の学校では何故か牛の眼球(まつげ付き)でした。
周囲のお肉ごと切り取っているらしく割とグロかったですが、
ハサミを入れていくと水晶体がぷよぷよしていたりと面白かった記憶があります


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B-1C3“AMPHIBIANⅢ”

まだ失踪してません


・B-1C3“AMPHIBIANⅢ”

 

 

 

 

薄暗い部屋で前には大きな画面があり様々なデータが映っていく。座席は階段状になっていて大学の教室の様だ。前方の隅で発表を行っているのはミーガン、その補佐としてフーフェイもいる。次から次へと映る画像には培養された細胞塊やら、何かのグラフや表やら――チリンチリンとベルの音が彼女らの持ち時間の終わりを告げると、ミーガンは若干早口に最後の説明までを一気に述べる。

 

 

「……以上をもちまして、“リボン体誘導物質による自己修復の誘導”についての発表を終わります。ご静聴ありがとうございました」

「ありがとうございました。ご質問の方は挙手を」

 

 

司会が後を引継ぎ、質問と回答が繰り返されていく。興味深そうな顔をする者、不満げな顔をする者、うらやましそうな顔をする者。誰もが研究内容を理解しようとし、咀嚼して自分の実にしようというギラギラした意欲を持っている。あくびや寝ている者もいない。ここは大学などではない。Team R-TYPEの拠点のひとつであり、兵器研究において最先端を行く場である。ミーガンらには厳しい問いかけに耐えきり、解放される。

 

 

「私達の論文、食いつきは良かったよね?」

「そうだね。質問も活発だったし失望はさせてないと思うよ。まあ、興味ない我が道を行く人はそもそもここに来ないしね」

「でも、出席率も悪くないって司会担当のフェオ班長も言っていたから総合的に見て上々かしら」

「ミーガン。君は割と人の評価を気にするよね」

「私はまだ被験者にはなりたくないの」

 

 

 

***

 

 

R機の開発初期は一つの開発プロジェクトについてTeam R-TYPE全員で取りかかっていた。特に戦局を左右するような決戦用の機体がそうだった。それからR機の開発は武装や運用ごとに細分化されていく。R機開発が円熟(腐熟かもしれない)した今では基礎開発されたR機骨格に対して、どういった改良を加えるのか企画プレゼンテーションを行い、ゴーサインが出次第分業的に開発を行うという、細分化が起こっていた。ここ最近上層部はバイド装甲の企画についてご執心らしく、初期のTeam R-TYPE色を残すのは基礎研究班と武装研究班くらいだ。他のチームはバイド研究所研究員との境界も曖昧になってきていた。下手をするとR機そのものへの理解度は基礎研修の知識のみという研究員もいる。それだけ偏った研究を行っている。

 

 

「リボン体による自己修復性を最大限活かすためにはどうすればいいかな?」

「うーん。まず重要組織とか大質量物は再生できないから、そういうのは除くわ」

 

 

ホワイトボードに×をつけるミーガン。机に行儀悪く腰掛けるフーフェイは少し考えてから、続ける。

 

 

「次に、パイロットも再生しないから保護機構を厚くする」

「そうね。コックピット内修復の予備実験で、アレは人の形にもならなかったわね。DNAもこんがらかっていたし」

「そもそも、人間のDNAはバイドからしたら消化すべき異物だろうし、再生時に参照するDNAの場所が多いほど再生失敗するからね」

「装甲としてバイドの本能は押さえているから中の人間も機体の一部と出来れば修復出来ると思ったのだけれど。まあ、失敗は仕方ないわ、バイド基礎工学として次の論文に載せましょう」

 

 

ミーガンとフーフェイは基礎実験として健康な人間の細胞塊を含むアンフィビアン装甲片が再生するかどうかの試験も行っている。結果は二人の言うとおり、装甲片でも人細胞でもない謎の肉塊となった。恐らく培養を続けるとバイド肉塊へと成長するだろう。彼らは実験中のリボン体がどの部分で強く発現しているかの分析データを検討し始める。

 

 

「同時再生部位は1カ所。それ以上はリボン体が暴走する」

「うーん条件が厳しいわ」

「そうでもないよ。被弾する部位を選択出来れば良いんだ」

「それはパイロットスキルに依るのじゃない? それとも、構造的にどうにかなる問題かしら?」

「そうだね、どうにか考えてみよう」

 

 

こうして、Team R-TYPEではR機のために自己修復因子を役立てるのではなく、自己修復因子のためにR機を考えるという逆転現象がしばしば起こることになる。そしてこれはミーガンらも完全にこの道に進んでいた。

 

 

***

 

 

テスト23-1

肥大させた巨大な脂肪細胞で覆って被弾細胞を限定する方法

失敗。脂肪細胞は重量がかさみ、自己修復時の重量制限に引っかかって暴走を招いた。

前記方法で海綿状組織とする

失敗。防弾性能が皆無となり不適

 

 

テスト23-4

可能な限り機体を小さくした。

失敗。ほぼコックピットブロックがむき出しとなり被弾=パイロット損失となった。機体自体の自己修復は行われた。また、武装が皆無

 

 

テスト23-5

非常に柔らかい装甲

失敗。硬質物体が被弾した際はその部位だけ穴が空き自己修復したが、爆発物を被弾した際にすべて飛び散り修復不可能となった。

 

 

テスト12-11

非常に堅い装甲

限定的成功。硬質化した鱗細胞により外部ダメージは限定的となり、自己修復にて修復可能となった。しかし、修復部が硬化することにより可動部が固まり動作不良を起こした。最終的にコックピットに被弾

 

 

***

 

 

実験を繰り返したミーガンらが出した答えは、ひとことでいえば「エビ」だった。

 

 

被弾に弱く修復が効かないコックピットブロックは内側に抱き込む様に配置しており被弾率を下げている。次に被弾カ所を限定するために部分着脱可能ないくつかの硬質細胞板で表面を覆う。センサー部位などは機首部に集め、メイン武装である砲は尾端にまとめて、砲を進行方向に向けるため機体を真ん中で折り曲げる。こうして出来た機体を眺めてみればハサミや足のないエビというべき何かであった。しかも内部でリボン体による不定修復が起こるためか、時折ピクピクと震えるような動きをしている。

 

 

これから乗せられる被検体はすでに泣きそうな顔をしている。

 

 

「改めてみると何コレ」

「B-1C3アンフィビアン3試験機だろう」

「知っているけど、なんか更にナマ物に近くなったわね」

「両生類というか甲殻類だよね。効率を追求すると生物に近くなるなんて生命の神秘だね」

「……そうね」

 

 

フーフェイは至って真面目なのだが、色々と面倒になってきたミーガンは半眼になっている。

三回目にもなると実験オペレーターも慣れた物だ。淡々とチェックをこなしていく。

拘束具を着せられた泣き顔の男がつり上げられてコックピットブロックに搬入される。そしてベルトで縛り付けられていく。バイドにしか見えないナマモノの内部に入れられて実験に供されるとなれば、まともな反応かもしれない。

 

 

『準備完了しました、いつでも実験を開始できます』

「じゃあまずはいつもの機動確認からおねがい」

『了解、機動パターンAからEまで開始します』

 

 

実験宙域において、加速・減速から始まり、ある程度の急制動やターンなどを織り交ぜた機動パターンを無線誘導で行うエビ。ちなみに外部からの操縦なので、中に乗せた被験者は操縦せず拘束されたまま乗っているだけだ。このシリーズは操縦性能について特に問題はないためだ。エビが機動を繰り返して宇宙空間を飛び回る様子はなかなかシュールな光景だが、基礎機動で問題が起こることもなくしばらくして実験場の前まで戻ってくる。過去二回の状況から破壊が伴わない限りは安定性があるため閉鎖空間ではなく、解放系で基礎テストを行っていた。コックピットセンサー類のデータを見る限り被験者も無事なようだ。途中被験者の拘束を解いてコメントが求められたが「何かが吸い取られている。気力とか体力を吸われてるんだ」などと主観的な事項だけしか述べなかったため、記録だけのこして実験は続けられた。続いてB-1Cシリーズのバイド波動砲の試射。これも特に問題ない。自壊せずある程度の威力はある。ここからは対バイド用実験区画で行うため、室内に戻される。

 

 

「さあ、本番よ! 自己修復機能の性能評価」

「実験室ではリボン体の発現は十分だったけど実物で試さないと。大~中破では中途半端な修復しかできないから、まずは小破規模で実験だね」

 

 

固定されたB-1C3に小規模な衝突物をぶつけ修復具合を見るテストだ。このシリーズ機の根幹である自己修復性能を測るテストだが、B-1Cシリーズはこのテストであまり良い成績を残していない。今のところ実験としては良いが実用性はない。

 

 

「この実験に対して自己修復因子が強く発現するように組み込んだし、何より外部装甲部分が破壊された部分に強くリボン体が働くようにしたのよ。勿論コックピット周りでの発現は抑えてあるわ」

 

 

ミーガンが画面を睨みながらそう呟くと、画面内では小質量の物体がB-1C3にぶつかるとその部分の装甲表面にヒビが入り部分的に脱皮するように外側だけが外れる様子が見えた。その内部は赤茶けた組織でできており、衝突部位のみ赤黒くなっている。その組織は蠢動しながら徐々に膨れて変色硬化し外部装甲を再生していく。その映像を見ながらガッツポーズを決めるミーガンと淡々とデータ処理を行っている。

 

 

『バイド係数安定、エネルギー残量50%です』

「データは悪くないけど、どうかな」

「想定通りよ。やっぱり構造的に外部装甲部分だけが損傷する形が良かったのね。センサーデータは今のところ正常。エネルギーを消費して装甲を再生している」

 

 

実験オペレーターからの通信に二人はそう話す。

今のところテストは上手くいっているらしい。

小さな岩塊を投擲していたドライバーが停止し、近くにあった小型ミサイルサイロが開く。

オペレーターが次の実験開始を告げる。

 

 

『小規模爆発物の投擲を開始します』

 

 

ミーガンが了承の指示を出すと、通常ミサイルが撃ち込まれる。形だけはR機用の汎用ミサイルだが炸薬量をごく減らし、実験室からの誘導を受け付けるように改造してある。オペレーターがミサイルを誘導してB-1C3に直撃させる。

爆風が晴れるとそこにはセンサー部が抉れて蠢く肉塊だらけになったB-1C3の姿、コックピットの風防にも少しダメージが入っているがまあ、中身は無事だろう。エネルギーを過剰消費して修復を始めるのだが、被害部が大きすぎてすぐにエネルギー切れになり、実験終了が告げられる。

 

 

「まあ、あの規模の損傷では自己修復因子ではまともに修復できないって分かっていたことよね」

「そうだね でもあれだけ手を尽くしても実用に耐えないっていうのは堪えるね」

「自己修復因子を組み込むこと自体は成功。だけど割に合わないわね」

「自己修復できるとは言っても精々デブリ接触程度、爆発物になると問題外と」

 

 

係員や技師達が実験後の後始末を始めるが、二人はその場で反省会を開催する。しばらくその場に留まっていた二人だが急におし黙る。なんやかんや理由は付けているが、流石に失敗続きすぎて自分たちの将来が心配になってきたのだ。特に近い将来が。

 

 

「とりあえず……論文ね」

「そうだね。困ったら論文だね」

 

 

遠い目をした二人は損傷部位におけるリボン体の振る舞い方という名の論文を連日徹夜で仕上げた。もともと豊富なデータを持っており、データの取り方については丁寧だったため、短時間で論文に仕上げるのも不可能ではなかった。データ処理から打ち込みの間、二人は何かに追い立てられるように研究室に籠もっていた。その後はすぐに論文をTeam R-TYPEの研究学会に送りつけると、二人で倒れるように眠った。そのまま研究室に二人して籠もっていたが、翌週、論文がリジェクトされなかったことが分かると泣きながら喜んだ。

 

 

「ぐすっ、よかった、よかったぁ……私達は処分されないで済みそうね」

「論文で有用だと示す事が出来れば被検体にはならなそうだ」

 

 

最近、遊びが過ぎて研究する側からされる側に身を崩す人間が多かった。その最中にB-1Cアンフィビアンシリーズが出来損ないとして名を上げてしまった二人はバイド組織についての研究で成果を上げることで保身に走ったのだった。果たして二人は研究室に残る事が出来たようだった。

 

 

***

 

 

研究発表の後、フーフェイは開発課長のレホスがいたので声を掛けてみる。

 

 

「課長、あのどうして僕らは無事だったのでしょう?」

「どうしてって、もっと別の所行きがよかったぁ」

「いいえ、しかし現状僕らの開発実績だけを見ると生きては出られそうになかったので」

「一応、君らは遊んでいたわけじゃなかったしぃ」

 

 

Team R-TYPEにまことしやかに囁かれる噂

“バイド機で失敗すると被検体行き”

フーフェイの言葉を聞いたレホスはレホスが低く笑った。

 

 

「それに、このプロジェクトの真の成果はR機なんかじゃ無いからぁ」

 

 

それだけ言ってレホスは講堂を立ち去るが、人気の無くなった廊下で呟く。

 

 

「バイドそのものを解き明かす事はこそが、このプロジェクトの近道さぁ」

 




もし両生類さんで遊んでいたら被検体行きかもしれませんでした
倫理観的な意味では無くて、研究そっちのけで遊ぶなという意味で


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B-1D3”BYDO SYSTEM γ”

※開発してないです。ひたすらしゃべっています


 

 

『B-1D3バイドシステムγ第14起動テスト開始します』

 

 

実験オペレーターの声が実験室に響く。周囲には小型の波動砲コンダクタが担架された砲座が複数。かなり厳重な体制のなか、中央にあるのは爛れた肉塊に歪んだ涙滴形のシルエット。その湯気さえ立ちそうな生々しい肉の間からスラスターやコックピットブロックが垣間見える。常に内部が蠢くそれは誰が見ても典型的なバイドといえる姿だった。その肉塊は放っておけば地面で潰れそうだが、内部に設置されたザイオング慣性制御システムのおかげでシリンダー中央に留まっている。

 

 

誰もが異様な物体から眼を逸らして仕事を行っている中、防弾ガラスで囲われた室内では二人の男が談笑していた。糊のきいたワイシャツの上に汚い白衣を羽織った男と、無個性なシャツのうえに白衣を着た男。開発課長のレホスと今回の開発責任者となっているニードルスだ。ニードルスは研究者から研究行程管理などの分野に進んだ変わり種の職員であり、その職務内容から開発課長のレホスや部長などと打合せを行う事が多い。今回の様に試験現場に姿を現すことは少ない。しかし、緊張感に溢れた場で雑談を行っている姿勢が浮いており、彼がこの試験を担当している訳ではないようだ。

 

 

「課長、そろそろこのバイドシステムシリーズの意味を教えて下さいよ。長期行程も考えなければならないのですから。それに一応私が開発責任者なんでしょう?」

「うん、じゃーニードルス君に質問なんだけど、バイドって何?」

「純粋な悪意。というのが模範解答ですよね。はい、こういう答えを求めてないのは分かっていますよ」

「バイド研の言葉だねぇ。でも詩的でパフォーマンス的な答えであって、それは研究者の言葉でないなぁ」

 

 

会話自体は雑談だが、明らかに周りが引いている。Team R-TYPE特有の巻き込まれたらヤバそうな雰囲気を察知して周囲の人間は気配を消している。この室内には口が堅く好奇心を抑えられる人間だけが作業しており、そうで無い者はだいたい“異動”する羽目になっている。彼らは空気に徹しながら実験オペレーターの準備報告を告げる声に救われたように自分の仕事に戻っていった。

 

 

『汚染確認……グリーン、各種システム内部循環へ切り替えます』

 

 

「そもそも疑問だったのですが、バイドシステムって名前、どういうことですか」

「アレの意義を端的に表した良いネーミングだと思うんだけどねぇ」

「分析が目的ってことは分かりますが、仮にもR機の形でやるのが分からないんです。今までだってバイド研で散々培養分析してきたでしょう。今やあそこはドプケラトプスだって作れる」

「我々が制御出来る最小単位でありもっとも効率の良い形態がこのバイドシステムだからねぇ」

 

 

レホスは手元の携帯端末を弄ると、ドプケラトプスのデータが出てくる。上位アクセス権限が必要な情報まで付属している。レポート概要にはドプケラトプスの管理記録が複数並んでいた。

 

 

「バイド研はこのドプケラトプス培養体を自分たちの最高の成果品として言っているけど、僕に言わせたら言語道断だよねぇ。こいつらは維持出来ているといっても培養管を取り付けて維持しているし、制御だって完全とは言い難い。何より単独で自立していない。知ってるでしょ、こいつらは動けないんだよ」

「まあ、ギャルプⅡの原種も壁面にくっついていましたよね」

「自立させようとしたワープ空間での実験も上手くいかずに、制御すら不能になってるからねぇ。外部骨格にして自立させようとした制御装甲を備えたザプトム計画もあるけど今のところ試験体段階だし失敗続きだよ」

 

 

レホスは呼び出したデータを消して、実験エリア中央の台座にあるB-1D3を見る。それはドプケラトプスやコンバイラといった大型のA級バイドに比べると格段に小さい。通常R機より一回り大きい程度だ。バイド装甲機は基本的にR機のフレームをバイド由来の組織で覆っているため、あまり大きくはならない。独立しており現状でほとんどのバイド装甲機はコントロール下にある。今も操作に従って基本機動を行っている。バイド計数器も安定している。

 

 

「大は小を兼ねるなんて、この分野には当てはまらないしぃ、ただただ制御が難しくなるだけだし暴走ばかりでダメだね。ああいうのは性に合わないさぁ」

「うーん、でもなにか惜しいですよね。大型のバイド戦艦とか作ってみたくないですか」

「不要だよ。バイドが何であるかを研究するのに複雑化したものは必要ない。それに軍の運用する戦艦の意義は動く基地であることさぁ。あとはR機母艦かな。どちらにしてもバイド装甲である必要性は無いんじゃない?」

「バイドが大型化するということは何らかの意識のようなものが発生しますよね。あれもどういう構造か調べたいものです。私は生化学や物理性よりそういう分野の方に興味があります」

「いわゆる中身入りってやつねぇ。それを自軍艦でやる必要も無いし、僕らが艦艇にまで手を出したら軍の開発局が発狂するよ」

「ああ、そういえばフロッグマンとかキウィベリーとか作った時も、Team R-TYPEが海軍や陸軍にまで手を出したって拗らせていましたね」

「キウィベリーに関しては軍の開発も関係してるんだけどねぇ。まあ、R機の印象の問題だよね。ウチの広報課は軍開発局を煽ることに関しては天才的だから」

 

 

軍の開発局が聞いたら歯ぎしりしそうなことを言い放つレホス。こういう部分を隠さない所為でTeam R-TYPEは傍若無人と言われることになる。一応、当人達は住み分けを守っているため、無駄な縄張り争いは発生しないが軍開発局としては面白くない事は確かだ。そんな事を言いあいながらもテストは進む。ミサイル生成機関から目玉状の推進爆発物が生まれ出てデコイに向かって泳ぐように飛んでいく。デコイに当たった目玉が破裂し破壊する。悪夢のような光景だが、バイド装甲機では基本装備である。特に問題はない。数度繰り返した後、次はこのバイド機の波動砲たるバイドウェーブ砲。

 

 

「機械式の既存R機のままだったら、波動砲はきっともっと単純で詰まらないものだったはずさぁ。基本的に波動砲は威力偏重。電気的に変換したR-13Aケルベロスの失敗からしばらくの間は特にね」

「ケルベロスといえばウォーレリック社ですけど、課長が若い頃いたんでしたっけ」

「そ、サタニックラプソディの頃はまだ僕はいないけどね。僕自身はどちらかというとクロス・ザ・ルビコンの共同開発の印象が強いんだけどねぇ」

「そのままTeam R-TYPEに居着いたのでしたっけ。珍しいですよね、ウォーレリックはどちらかというと軍開発局よりかと思っていました」

「んーまあ、ケルベロスが未帰還になるまではR機開発をメインでやろうと思ってたらしいよ。その事件が原因で艦艇武装方面に舵をきったけど」

 

 

ウォーレリックとTeam R-TYPEの不仲は、ウォーレリック社に見切りを付けたレホスが、データを持ち出してTeam R-TYPEに転向したことも、原因の一つであるのだが、レホスは話さなかった。

機動データを確認しながら雑談をしていると、実験オペレータが波動砲テストの開始を伝えてきた。

 

 

B-1D3の後方が一瞬紫色に発光したかと思うと、エネルギーを付与されたバイド粒子がB-1D3の機体表面を沿うように吹き出し機首部で合流してうねりながら前方へと向かっていく。そのエネルギーの奔流の中でバイド粒子は徐々に消滅しエネルギーに変換されつつ吹き付ける。曲線軌道のため速度は遅いが威力は高い。すり潰されるように消滅するデコイ。

 

 

「どうかな。変化は無いけど威力は高まったと思うけど」

「バイド装甲機らしい砲ですね。そういえば、このB-1Dバイドシステムシリーズはバイド装甲機の中で基本形、もっともノーマルといって良いと思うのですが、主砲だけは特徴的ですよね」

「そうだねぇ。基本形というけどバイド装甲機の中で基本形だから、バイドの基本特性ってことだね」

「いつも思っていたのですが、バイドの天敵である波動エネルギーが付与された武装をバイド装甲機が撃てるってどうなのでしょう。ブラックボックス化……というより私のような門外漢には分析のしようがないのですが」

「ああ、あれね。波動エネルギーとバイド素子が喧嘩しないように特殊幾何学による超物理学的効果って奴で仲立ちしているんだよ」

「特殊幾何学による超物理学的効果……なんですかその怪しい言葉は?」

「ダンタリオンがその試験機として……まあ、色々あるからね。ところで端的に言ってB-1D3はどう思う?」

「感情的ですが嫌悪感を強く受けます」

 

 

へぇ、と面白そうな顔をして声を少し潜めるレホス。この研究のためなら周囲を顧みない開発課長が周りを気にするとはどういうことかとニードルスは少し眉根を寄せる。

 

 

「B-1Dシリーズはバイド装甲機としては中庸といって良い性能だと思うのですが、他に感想が浮かばないのです。操縦性も割と素直ですし、一部を除いてパイロットがどうなるわけでも無いですし」

「いやぁ、それでいいんだよ。B-1Dが目指すのは“バイドらしさ”だからぁ」

「“バイドらしさ”?」

 

 

ニードルスは試験を続けるB-1D3をじっと見つめる。なるほど確かに一般人が考えるバイドと言われる性質を備えている。他のバイド装甲機が培養素材の色を強く出しているのに対して、B-1D3はバイドそのものだ。生物の部品をめちゃくちゃにしたような肉々しいテクスチャ、攻撃性を感じる面構え、生体部分と機械が融合した不気味さ。バイドそのものといえる。100人いたら99人まではバイドだと断定するだろう。おそらく残りの一人はTeam R-TYPE関係者だ。

 

 

「そ、バイドはある意味完成されているのさぁ」

「完成されている? あまりそうは見えませんが」 

「単為自己増殖が可能でぇ、食生は生物から無機物まで完全雑食、生命維持温度は分子が構成出来る温度ならばほぼ無制限、波動以外に対しては高い耐性を持つ」

「文明はないのでは?」

「文明とか文化なんて自分たちの生存率を上げるために作るものだよ。人がまとまるのはそうやって外敵から身を守るため、服を着て武器を作るのは生存環境を適合させ外敵を排除するため、我々は完全じゃ無いから文明と文化を持つ。そもそもが完全なら一個体だけで構わないはずさぁ」

 

 

突然人文的なことを言い出すレホスに面食らうニードルス。このまま話続けると面倒が待っていると分かるのだが、彼も一応研究者の端くれであり好奇心には逆らえない。結局耳を傾ける事になる。

 

 

「バイドは完全ですか」

「我々人間よりは遙かに完全に近いけど、真の完全はありえない。そして完全と不完全の間には深い溝があり、バイドと我々は共にこちら側にいるのだから手が届かない訳が無い」

 

 

B-1D3の試験は問題なく終了し、汚染度チェックやパイロットの精神鑑定、身体計測が行われている。多数のバイド装甲機を開発してきた技術集積から、パイロットに係る負荷は格段に減少している。B-1DはR機汚染体、B-1D2では早すぎた高バイド係数機であったが、3機目にして通常のバイド装甲機となった。技術がバイドにようやっと追いついて来たのだろう。

それを横目で見ながらレホスはうそぶいた。

 

 

「我々Team R-TYPEはバイドを研究し、取り入れ、追い抜くために研究しているのさ。このB-1Dシリーズはバイドの雛型で、我々Team R-TYPEはこれを取り込みこれ以上のR機をつくらなければならない。今のところB-1AからCまであってもこれを越したとは言えないから、君たちの今後に期待しているよ」

 

 

いきなりのことに気の利いた回答が用意できないニードルスはぼんやりと言葉を漏らした。

 

 

「馬鹿な発想の機体の方が多いと思いますが」

「馬鹿でも結果を残した者が勝ちだからね」

 




ネタとしか思えない“バイドらしさ”を精一杯シリアスに寄せた結果がこれだよ


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B-3A2“MISTY LADY Ⅱ”

※Ⅰは昔書きましたので、その続きです。でもあまり話は続いていません。


バイド装甲機開発はB-3Aミスティレディから3世代目に入っている。

第一世代目はB-1Aジギタリウス、B-1Bマッドフォレスト、B-1Cアンフィビアン、B-1Dバイドシステムそれぞれのシリーズから構成されており、比較的分かりやすい全体コンセプト「バイド特性を備えた機体」というものである。簡単に言うならば装甲材をバイド化させコントロールすることが目的で、それぞれのシリーズは二次特性として装甲材の特色を押し出してきた。もっとかみ砕いて言うならば「できるからやってみた」というものになる。

 

 

第二世代機は技術実証試験機としてのB-2Xプラトニックラブ一機で、フレームにバイド装甲を被せるのではなく、コックピットをバイド素材の中に埋め込むという試みを行った。機体の形や名前に惑わされがちだが、色々な試作技術を詰め込み、硬質装甲ではなく軟質装甲という野心的な機体だった。そのコンセプトの中で評価された一部は第三世代に引き継がれることになる。

 

 

そして、第三世代の大目標は「バイド素子を制御する」ことである。

 

 

第3世代最初の機体であるB-3Aミスティレディは装甲が霧状物質を発生させるという意味不明なものであり、装甲の意味をなしていないともっぱらの評判である。

 

 

「バイドの巣に飛び込むのにステルス性とか馬鹿なの?」とか

「攻撃がすべて癖ありすぎる」とか

「乗る方の身にもなれ」とか

「兵器で哲学を実践するのはやめろ」とか

 

 

非常にもっともな意見が現場から出ている。

しかし、Team R-TYPEは反省しない。なぜならミスティレディは第三世代機の一機目なのだ、適当に開発した訳では無い。Team R-TYPEのすべきことはここから次の課題を抽出して、いかに活かすかなのだから。軍人とは反対に、ミスティレディは技術的な功績を認められて、その正当進化機としてB-3A2ミスティレディⅡが作られる事になっていた。

 

 

「ミスティレディはその最初の雛型である。……となってるけど、第3世代機の1番手としてはキレッキレよね」

「そうだよね。重鎮チームが開発したからみんな手堅い機体になるかと思っていたけれど、完成してみたらアレだから。装甲という概念そのものに喧嘩を売っているし、攻撃が全て何とも言えない性質だし」

「でも、あれはあれで上層部からの評価は割と良かったのよね。軍関係者は全員諦め顔だったけど」

 

 

ミスティレディⅡを開発する事になったのだが、Ⅰの開発チームは全員開発自体からは手を引いているということで、論文発表チームの名前で呼ばれるミーガンとフーフェイが引き継ぐことになった。開発課長レホスからアンフィビアンシリーズの開発姿勢を評価されたという面もある。そんな機体を前にミーガンとフーフェイはまず前回開発資料を当たって、分析に努めることにしたのだ。

 

 

まず調べて分かるのは、バイド装甲機版のステルス機であると言うことだ。攻撃性能もバイド組織の副産物を利用するという面で徹底されており、そのコンセプトを厳守する姿勢は抜きん出ている。それが現場に則していなくても。

 

 

「攻撃特性なんて二の次よ。武装をちょっとパワーアップしたの乗せておけば軍は通るから」

「それはちょっと……いやでも、そうかも。最近軍も諦めの感情が見え始めたからね」

「軍の上層部って絶対うちの組織の上とつるんでるわよね」

 

 

ミーガンとフーフェイはコンセプトに沿って研究することは得意であるが、あまり機体性能そのものを上げるのは得意ではない。まさに研究員なのだ。しかし、レホスが指名してきたと言うことは、別に攻撃力を上げることが目的ということではないだろう。彼らは自分たちのやり方に沿ってミスティレディⅡの開発方針を検討し始める。武装は出力を上げる程度で茶を濁す気満々である。

 

 

「まずはⅠの問題点から上げましょう……武装以外で」

「装甲部のステルス性能は問題ないけれど本体ともいえるコックピットブロックがどうしても足を引っ張るから、その部分をどうにかしないとね」

 

 

ミスティレディはその霧状物質を纏った構造から各種レーダー波を吸収し高いステルス性を誇っている。さらにミストフォースを装備することで性能は格段に上がる。しかし問題もあって人間が操縦するため、コックピットブロックは非バイド性・耐バイド性の素材である必要がある。そしてなにより人間が乗る。通常時は良いのだが、高速移動時や戦闘機動時には霧状物質が剥離し、この部分がどうしても一部レーダーに捉えられてしまうのだ。これはどうしようもない問題であるとしてミスティレディⅠでは解決を見送った。

 

 

「そうね。コックピットを霧状物質精製素材にするというのはどうかしら。パイロットに厳重な防護服

を着せれば解決じゃ無い?」

「さすがにR機の要件である汎用有人機って規則に引っかかるよ」

「そもそもR-9WやR-11の昔にパイロットの安全なんて目もくれて無いじゃない。でもまあバイド装甲機じゃコックピット自体には手を入れられないでしょう。高速機動時には霧状物質じゃあ覆い隠せないわよ。そこまで密度ないんだから」

「亜空間重力波計と高精度バイド係数機はごまかせないかもしれないけど、あれは戦艦かR-9Eシリーズくらいしか乗せてないから。それ以外をごまかせれば良いのでは?」

「単純過ぎるけど霧を濃くするとか?」

「試しだやってみようよ。初めっから諦めるなんて僕ららしくない。それでもダメだったらアンフィビアンみたく論文に逃げよう」

「そうね。やってみましょう」

 

 

どうあろうと論文は書くことになるのだが、技術論文の評価が高い二人は、それを盾に開発を突き進むことに決めた。

 

 

***

 

 

B-3Aの特長ともいえる霧は、装甲が分泌する特殊な溶液が微細な粒状になっているものだが、これにバイド素子が入り込んで、互いに緩やかに引き合うため霧を纏っている様に見える。また、攻撃時にもこの霧を用いる。しかし、他の機体よりバイド素子の結びつきが弱くどうしても攻撃力に欠け、結果として決定力不足となる。彼らはまずこの性質をどうにかしようとした。

 

 

「単純に霧状物質の精製量を増やすのはダメね。精製部分が大きくなってバレバレだわ」

「分泌組織を弄って霧の中に攪乱物質を混ぜ込もう」

「うーんそれ、攪乱物質が機体に追従しないわよ。ばらまくの?」

「いや霧の粒子の中にコロイド状にいれて、バイド素子を添加する」

 

 

ふたりは有用な霧を発生させるバイド装甲株を求めて、組織改良を続け実験を重ねる。その過程で、攪乱物質の重さで霧が動かなくなったり、その対策として霧の粒子を更に細かく多くしたりなど試行錯誤を続けた。このB-3A2の改良型の霧状物質は割と碌でもないことに、軽度バイド汚染を引き起こす汚染物質となるが、活動領域は地球周辺じゃないしと、対応を見送った。

 

 

「このバージョンはどうかしら、割といい追従性を持っていると思うのだけど」

「霧の粒子が小さくなって相対的にバイド素子の配分が大きくなったから、追従性は増したね。テストしてみよう」

 

 

そういう声が実験室に聞こえたのは、二人が研究室に籠もってから数ヶ月後の事だった。

 

 

***

 

 

実験は大変穏やかに見える。本来はここで飛び交うのは、禍々しいデビルウェーブ砲であるとか、気色の悪い蔦が絡み合うスパイクだとか、寄生花を植え付ける種である。ついでを言うならミサイルは目玉だしレーザーも大体が推して知るべしという感じになる。たまにハート型とかあるのが更に異様である。

 

 

その点ミスティレディⅡはひと味違う。

そこには疑似太陽光を収束させるレーザー日光や、やや前方に降り注ぎにわか雨を思わせるレーザー、霧状物質の静電気から発生する落雷。レーザーとは何ぞや、という哲学的な気分にさせてくれる。強硬派自然保護団体に向けて一般PRをしてみようなどという巫山戯た会話がされるが、こんな兵器でも一応の破壊力は備わっている。

 

 

とどめは山麓から吹き下ろす冷風の様な霧状バイド砲。機体から滑り落ちる様に下方に霧が流れて、水滴が実験室の高光度ライトの中きらめきながら分散して消えていく。その中でデコイが酸に巻かれて人知れず破壊されている。

そこは有終の美を感じさせる詩的な空間になっていた。落雷すら春の訪れの様なものを感じさせ、季節も無くイミテーションの植物しか存在しない宇宙実験施設にも関わらず春を感じる。ミーガンとフーフェイはこの宇宙コロニーの出身で実験施設勤めであるので、季節などほとんど感じることは無いが、この実験に詩情を感じていた。破壊力が多少上昇しているだとか、そんなことは小さな問題でどうにでもなる気がしてくる。妙な雰囲気を漂わせた武装実験だが、攻撃性能はお世辞にも良いとは言えず、お荷物武装になるのだった。

 

 

次の実験は高速戦闘時のステルス性のテストだ。流石に実験施設内では出来ないため、実験用に確保された宙域で行う事となっている。宇宙空間にふわりと飛び立つB-2A2ミスティレディⅡ、そのゆったりとした姿や霧の奥に本体を隠す姿は奥ゆかしくみえる。……ここにはバイド機に毒された人間しかいないのだ。

 

 

ミスティレディは緑がかった色であったが、コロイド状の攪乱物質を混ぜ込んだ霧はうっすらと紫色に見える。その中にR機がうっすら見えているが、霧状装甲がなければ解体修理中のR機にも見える。これでも従来のR機の形状をもっとも受け継ぐバイド装甲機なのだ。彼女はテストパイロットの操縦に身を任せて宙域を飛び回っていた。今までの所、大多数の計器からは観測されていないか、僅かな計測結果を残すだけだ。基地や戦艦、R-9Eシリーズに搭載される特殊なレーダーにのみ機影が観測されている。

 

 

「B-3A2試験機、もうちょっと派手な機動を試してくれる?」

『B-3A2了解』

 

 

暗礁宙域近くまで寄ったB-3A2は細かなターンを繰り返し、障害物を高速で避けていく。霧状物質はキッチリと機体に追従しており、ステルス性は損なわれていない。

 

 

『B-3A2試験機反応ロスト』 

「ええっ! なんで? デブリにぶつかった?」

『いえ、反応消失です。デブリとの衝突ならば観測できます』

「……もしかしてステルスの所為?」

 

 

その後15分ほどむちゃくちゃな機動で暗礁宙域を飛び回っていたテストパイロットだが、実験管制側の通信が無いことを不審に思い、通信を入れたことでようやく見つかった。ステルス性が高い霧状物質を振りまきながらテストを行っていたため実験施設周辺が大変レーダーが効きにくい環境になっており、通信・現在位置をロストしたという結論に達した。

 

 

こうして、バイド装甲製ステルス機という唯一無二の機体シリーズの改良型が完成した。おまけとして霧状物質濃度が上がったことで僅かに攻撃力も向上したが、現場パイロット達からの不評に変わりは無かった。

 

 

 

 

 




FINALでは大変使いにくいと評判のミスティレディさんですが、
TACTICSでは後半の難易度を左右する機体です。
ミストフォースでジャミングしたままミスティレディに付けられるのは
バグと聞きましたが、はたしてバグなのか仕様なのか


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B-3B“METALIC DAWN”

※開発して無い回 短いです


一番暗い時間が過ぎて朝が始まる払暁。

そろそろ海の中から朝日が昇ってくる時間だ。

艦艇勤務では一番辛い時間帯が終わると、皆が息を吐いて水平線を見つめており、

暑くなりすぎる前のさわやかな空気を吸い込もうとしていた。

 

 

エーギル級水上攻撃艦

それは縮小に縮小を重ねた海軍がほぼ唯一の独自兵器として保有している艦艇である。

旧世代、海の上しか移動出来なかった頃の巡洋艦の様に見えるが、

レーダー機能を目一杯に拡張させ、ミサイル誘導機能に特化した艦である。

垂直離陸が出来るR機の母艦としての機能もあるが、空母とは呼ばれない。

今や空母とは、R機50機以上の即時展開機構を備えた宇宙艦のみに用いられる用語だ。

海上監視能力とそこそこの即時対応性こそが、海軍に求められるものだ。

地球の大洋にはそういった艦が常に何隻も回遊しており、警備網を担っている。

 

 

地球連合軍では各クラスの艦艇でほぼ全ての環境で運用できるため、定期的に水上艦艇の廃止論すら起きている。

しかし、上層部は保険として水上艦艇の開発運用を細々と維持している。まあ中身のR機があれば戦力としては上等である。色々あるが最終的には枯れた技術がもっとも信用がおけるし、なにより一度失ったノウハウを復活させるのは大変な労力がかかる。そのための技術力の維持のためという側面もある。

 

 

今日も平和な艦上勤務が始まると皆が思っていたそのとき、

朝日が顔を出すより前に警報が鳴り響いた。

甲板にいた者達も部屋で寝ていた者達も急いで持ち場に向う

 

 

「艦長、E223エリアでバイド反応増大しています」

「精査をかけろ。警戒態勢。R機部隊に防衛出動を」

「R-9E発進準備中、R機隊も待機中です」

 

 

管制指令室がざわめきと緊張で支配された。

地球に配備されたエーギル級水上攻撃艦は海上での防衛のため、

主要都市近海と大洋上を巡回している。

ミサイル搭載艦であり武装は勿論持っているが、

どちらかというと警戒網兼海上R機発着基地としての役割が大きい。

ここエバーグリーン墜落跡地のような重要地点を巡回している。

 

 

地球連合軍は民衆感情をコントロールするため

公式には地球上にはバイドはいないとしているが、そんなことは無い。

海上に突き刺さる宇宙コロニーエバーグリーンの残骸周辺はバイド係数が高い

しかし、なぜか残骸の破壊作戦や討伐作戦は行われない。

海軍の船乗りの間では、中はTeam R-TYPEの実験場になっているなどと噂がある。

 

 

「エバーグリーン残骸から小型バイドがさまよい出てくるにしては妙ですね」

「ああ、エネルギー係数が大きすぎる」

「艦長、ワープアウト反応検知しました」

「敵味方識別は?」

「LD71味方機の信号を出していますが、高めのバイド係数検知をしています」

「バイド装甲機の可能性は?」

「ありますが、識別通信に応答しません」

「分かったバイドであることを前提に対応する。第一種戦闘配備。R機隊展開急がせろ。ミサイル戦準備」

「了解しました。……本部のTeam R-TYPEから通信が入っています」

 

 

舌打ちをして通信に出る艦長。

Team R-TYPEなどバイドもどきの機体を弄くり回している碌でもない集団だ

一応、部下達に聞こえないように声を小さくして通話している。

しばらくして受話器を乱暴に叩き付けると、周囲の人間はやはりという顔をする。

 

 

「……R機隊発進中止。アレは見送れとのことだ」

「未確認小型バイド、上空通過します」

 

 

苛立ちを隠さない艦長が吐き捨てると同時に、銀色が艦の上を通り過ぎていく。

一瞬見えた機影はR機の形状に見えた。

しかし、銀一色のそれは、既存の機体ではない。

どちらかというとディティールのあまいオモチャの様にも見える。

メルトクラフトと呼ばれる種類の小型バイドに似ているが、それらよりバイド係数が高い。

 

 

「人口密集地に向かうようなら命令違反でも撃墜する。ロックオン維持せよ」

「了解しました。味方機のコードということは突入失敗で汚染されたのでしょうか?」

「分からん。しかし通信を寄越したくらいだ、あの狂科学者どもが何か噛んでいるに違いない」

 

 

未確認機を示す光点が、指令室の戦術地図上を横切っていくのを見つめる要員達。

それは住宅地ではなく基地方面に向かっているらしい。

張り詰めた空気が少し緩む。

 

 

「本部の方角に向かっている様です。あと30秒で監視空域を抜けます」

「本部の防衛部隊にレーダー監視を引き継ぐ。Team R-TYPEの横槍の件もつけ足してな!」

「まったく碌でもない夜明けですな」

 



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B-3B2“METALIC DAWN Ⅱ”

今回は研究者に個性付ける努力さんが失踪しました。
なんか研究主任と助手で


「メタリックドーンって地味だよな」

「そうですね。これまでも何回か飛来する型だけど、いい鹵獲体がですね」

「でも鹵獲体は可塑性が著しく劣化していったらしい」

 

 

銀一色の機体を眺める。すでにその装甲は動きを止めて固体化しているが、綺麗というには不安感が募る。

この機体は本部上空で鹵獲された“小型バイド”だが、R機の開発ナンバーを与えられている。

B-3Bメタリックドーン。

金属の夜明けの名前は、この機体の見た目と明け方に出現したからである。

送り出した味方機が変質してバイドとして帰ってきた前例もあるため、

今回も海軍の哨戒網に引っかかった味方機反応を出していた機体を鹵獲、分析した。

 

 

「金属とバイド素子の融合というところが特異なんだけど地味なのよね。結構な成果と思わない」

「そうですね。素材を元にバイド素子を付与させるのではなく、原子一つ一つに組み合わせているのだから、もう少し見て欲しいのですが」

 

 

ナマモノや植物、魚介類と言った奇形だらけのバイド装甲機の中で、とても普通のR機の形状をしている機体。それがメタリックドーンだった。もっとも普通と言ってもシルエットだけで金属光沢を放ち疑似流動体によって形成される機体はやはり人間が乗る物には見えない。バイド機といえど一応コックピットの一部は露出しているのだが、メタリックドーンに至ってはカプセル状のコックピットに乗り込みその周囲を疑似流動装甲で覆う形になる。なぜR機の形をしているのかもはや分からない。意味不明だらけの機体である。

 

 

「この技術は素晴らしいと思うのですが。これはバイド特性を持っているお陰で固体から流体化、切り離しまで自由です。何故か鹵獲後失活している様だけれど」

「そうだな。このまま腐らせるのは惜しいし、もう少し踏み込みたい。売り込む方法を考えよう」

 

バイド装甲機の工程表を確認する。

 

 

「既存のバイド装甲は基材となる試料にバイド種子を植え付け、培養条件と餌を変えながら培養します」

「ああ、ただしバイドシステムαの1号機などは装甲を作っているわけでは無く、装甲にバイドが付着して良い具合にバイド化したものだろう」

「ああ、α1号は鹵獲機でしたっけ。まあ、それにしてもある程度の規模の基材を元にして、そこにバイド素子が食い込み侵蝕します。たまたま、上手くいくとああいうモノになるんですね」

「バイド汚染の典型だね。まあ、バイド装甲はコントロール下で機体を汚染させて、一番良い状態をどうにかこうにか維持しているようなものだからね」

「ええ、しかしミクロの世界で見ると割とまだらで、均質化していないのです。それがバイド装甲の不安定性の原因だと思っています」

「そりゃあね。特にジギタリウスなんて培養液で無理矢理押さえ込むほどには不安定だし」

「これが原因です」

 

 

そこに示したのはバイド装甲サンプルの顕微鏡写真だ。バイド素子は染色が簡単でとてもはっきりと汚染部位が映り込んでいる。それは元となる基材を絡め取るように編み目状に汚染している。これがバイド装甲機の大元である。元となる基材で多少変わるようだが、共通している構造となっている。バイド装甲を研究している者にとっての基本だった。動物、植物、機械部品などを汚染させても、同様にムラが出来る。特に不安定とされているB-1Aジギタリウスシリーズは特に顕著で拡大構造を見ても、植物細胞部位とバイド素子の汚染部分が反発しあっている。特殊な溶液を用いることでその反発を抑えて装甲として利用している。

 

 

「ふむ、バイド装甲機の見本の様な写真だな」

「混ざってないのが問題です。我々は材料を均質に混ぜて溶液を作らねばならないのに、これは土に水を注いで泥水を作っている様なものです」

 

 

助手は顕微鏡写真を閉じて、向き直る。

 

 

「バイド装甲機は戦力としては運用できるようにはなりました。これがバイド装甲機の第一世代の課題だと思っています」

「次は?」

「まあ、プラトニックラブが第二世代機ですけど……」

「そうだな、アレだもんな。第三世代機にいこう」

「原子一つ一つとバイド素子を綺麗にくっつけ、安定化した物質を作り出す。それがバイド装甲機の次の課題ですね。それができればメタリックドーンⅡこそが第三世代機の雛型となるでしょう」

「まずは、人工的にメタリックドーンの構造を模倣できるかどうかだな」

「やってみませんか。単なる模倣以上に楽しそうです」

 

 

***

 

 

「水銀でも上手くいきませんね」

 

 

片手サイズシリンダー――耐バイド素材用の培養器の中で、全体的に赤黒く変質したイガ栗のようなサンプル。他にも似たような培養体が押し込まれたシリンダーを多数調査している。

電子顕微鏡の映像には水銀の原子がバイド素子にまだらに覆われ、歪な結晶となっているものや、

バイドの攻撃性が発現してしまい、銀と紫色の組織が針状に襲いかかってくるサンプルなどがあふれかえっていた。

彼らが目指した均質で流動性とバイド特性を維持した構造は見られない。失敗も失敗である。

 

 

分子間にバイド素子入り込んで緩やかな仲立ちをしており、疑似流動体として動くB-3Bの様なしなやかさはない。二人はどうやったらB-3Bと同様のサンプルについて再現性をもって作れるのかのめり込んでいった。

 

 

培養しては廃棄し、条件を変えて培養しては廃棄しを何十回と繰り替えした。すでにサンプルナンバーは千を超えている。

今日も二人が憂鬱な顔をして失敗サンプルを廃棄槽に入れ込む中、廃棄用コンテナの底のシリンダーを見つけた。ふとそのサンプルを左右に振ると、中身もやや粘着質に流動した。疲れ目の所為かと再度乱暴に振ってみる。そのサンプルはやはり均質にどろりと流動した。

 

 

「こりゃ、疑似流動体だ」

「え、全てのサンプルはチェックしたはずですが、紛れていたのですか?」

「サンプルナンバーは……んん? これ前々回廃棄したはずのナンバーだぞ」

「え? コンテナの底に引っかかって廃棄槽に入らなかったんですかね、ラッキーですね」

「なあ、追試で考えがあるんだが」

 

 

廃棄漕もほっぽって、実験室にとって返した二人はサンプルを詳細に調査し、条件を微妙に変えたサンプルを新たに多量に仕込んでいった。

 

 

***

 

 

「これが1週間前に仕込んだサンプルになります」

「ああ、今までと同じ失敗サンプルだな」

「はい、こちらが同じ条件でさらに3週間経過したものになります」

 

 

なぜか机の下の棚から試料を取り出す。

それらのうちいくつかは疑似流動体として振る舞っている。

彼らが求めたB-3Bの様なしなやかさだ。

 

 

「答えは高バイド係数下での再培養だったんだな」

「ええ、試料のバイド装甲を、再度バイド培養条件下に起き続けると均質に変異するとは」

「で、中に金属粒子を封入したものがコレか」

 

 

主任と助手が試料を電子顕微鏡に掛けながら話し続ける。水銀原子とバイド素子が隣り合って並び、緩やかに結合している。今までのバイド装甲機の様な大雑把なバイド素子に覆われた試料ではなく、正しくバイド素子と既存分子との混合物である。このバイド合金ともいえる素材はバイド素子が自発的にその構造を変化させ続けており、これを利用できればリアルタイムでその構造を変化させることさえ夢ではない。

 

 

「よくよく考えればさ。始めからヒントはあったんだよ。だって前回鹵獲されたB-3Bの元は突入作戦に使われたジギタリウスだろ」

「データを見る限りそうみたいですね、それが超高バイド係数環境下で再バイド化すると」

「ちょうど良い塩梅で出てきた奴がB-3Bになった。……それ以外は取り込まれたかなんかだな。あとは疑似流動体として一番良い条件を見つけるだけだ」

 

 

***

 

 

結局、バイド中枢に匹敵するような高バイド係数環境は再現出来ないため、メタリックドーン再現計画は完全再現には至らなかった。得られたのは金属原子を取り込ませて銀色になったが、多少流動性の劣る機体。これをB-3B2メタリックドーンⅡと名付けた。

 

 

これの特色は武装にも現れている。装甲として取り込んでいる金属原子を薄く薄く引き延ばし、その中で波動エネルギーを溜める。バイドと反発する波動エネルギーを金属の風船の中に溜めて叩き付けるのだ。ものすごい体積の物体を放出している様に見えるが、その実中は中空なので周囲に原子がほとんどないボイド宙域を飛行しているのでなければその材料は徐々に補充出来る。

 

 

画期的なバイド装甲機に見えるが、やはり現場の反応は芳しくなかった。今までのバイド機でもあったことだが、この機もコックピットをカプセル状にしてこの疑似流動体の中に埋め込むことになる。完全に外部からは隔離されており、バイドに取り込まれるような錯覚を覚える。

 

 

結局今一評価されない機体であったメタリックドーンシリーズだが、基礎バイド工学分野での技術集積としては多大な貢献をしていた。バイド合金装甲の基礎とでもいうべきこの技術は既存のバイド装甲技術より格段に安定していた。それは今後開発されることになる貴金属機への基礎、そしてR-99ラストダンサーへの道標となるのだった。

 



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B-3C2"SEXY DYNAMITEⅡ"

お ま た せ
エタらせる気まんまんだったけど、帰ってきました。


『バイド機ってなんですか?』

 

スピーカーを通して聞こえてきた音声はクリアに耳に届いた。

Team R-TYPEの奇行に慣らされ過ぎて、R機本体からバイド係数が検知されることに誰も疑問に思わなくなってきた今日この頃。初心に立ち返ったような疑問はある種の哲学さえ感じさせるものだった。

 

「難しい質問だね。まずはR機の定義とバイド由来のフォースの関係性から……」

『あ、別にそういう事が聞きたい訳ではなくてですね。なんで、これの後続機を作ることになったんですか?』

 

研究員のクワドとテストパイロットのネアが試験をしながら会話をしている。

クワドの目の前のモニターには見慣れたバイド実験施設の実験区画と、ピンク色の良く分からないヌルヌルから機械部品がつき出したもの。

一般的なバイドのカルスじみた肉感とは別で、蕩ける様な、それでいてゆったりと流動して機体にまとわりつくBJ物質のゼリー状の装甲一体型フレーム。人間のままでいたいなら決して触ることはできないが、各種測定値から想像するに、人肌より少し温かく、表面には粘り気のある分泌物で薄く覆われており、力を入れると指が沈み込むような弾力を感じるが、ある程度からは内部に侵入させない透き通った素材。

バイドとは……という疑問を呈するにもっともだろう。

 

通常、装甲板などの素材を形成するのは均一性が課題になる。偏りがあると言うことはそれだけで強度の差ができるということで、良いことではない。強度差があると力は弱い部分に集中し、破壊されることになる。この形状では装甲が破壊されることは、そのままコックピットが破壊されることになるので、致命傷である。

 

『これを装甲として考えられないのですが』

「まあ、衝撃吸収剤でコックピットブロック覆っているような外見だしな。でもミスティレディよりマシだろ。あれ霧状装甲って意味分からないし」

『両方大概ですよ。霧中だからって裸になりますか? バスタブの中に身を沈めれば恥ずかしくないですか? 私は嫌です。人間の身体は固体によって外界と区別されるべきなんです』

「このB-3C2はよくみえないだけで、コックピットはあるんだけど。あと、お前の羞恥心に興味はないんだが」

 

 

クワドとネアはだらけた会話をしながら、テスト項目をチェックでつぶしていく。

妙に艶めかしいセクシーフォースの触腕を開いたり閉じたりと挙動テストが終わり、急制動のテストをしながらもゆるい話はつづく。

 

 

『だからなんでゼリー状の装甲を作っちゃったんです?』

「思いつき、フィーリング、インスピレーション。好きな言葉をどうぞ」

『クソが』

 

 

罵倒を残して通信がブツリと音を立てて切れる。

物理的なスイッチではなく、脊髄信号から直接操縦しているので、本来音を立てて通信が切れることは無いが、テストパイロットがワザと音を立てて怒りを示したのだろう。そもそもこのテストにおいて、コックピット内に充填されたBJ物質を通した神経接続を行っているのでパイロットは口を開いて会話はできない状態なのだ。神経系の接続部である頭部は綺麗に剃り上げられていて、ゴーグルや呼吸器補助具なども付けていない。まあ、神経接続から会話ソフトを経由して音声出力をしているため、体の負荷にも関わらずゆるゆる通信で感情を示したのだろう。

 

 

「めっちゃ慣れてんじゃん。上出来上出来」

 

 

R機の特性として基本的な慣性は無視できるので動作は軽快。そのファンシー過ぎる色からは考えられないほど、バイド係数の高いレーザーと波動砲。前作からマイナーチェンジといえる程度の改良なので、テストはすいすいと進む。だからこそ、パイロットからは愚痴と罵倒が吐き出されている訳だが。

 

 

『……ところでこのテストいつ終わるんですか。私暇じゃないんですけど』

「ははは、あと23項目テストした後、48時間の経過観察だ」

『私の休日……というより疲労なんて溜まってませんよ』

「いや、君の観察はBJ物質の効果測定」

『なんて?』

「とりあえず観察時間では研究区画で安静ね。ま、モニターコード大量につけるからそもそもまともに動けないけど」

『お前等、ほんとクソだな』

 

 

バイド機のテストパイロットを行っているだけあって、ネアはエリートパイロットというよりは脛に傷を持っているタイプの人員だった。今までの人生経験から権力を持った変態には自分の意見など聞いてもらえないことは把握しているので、自分に降りかかるだろう未来も他人事として考えていた。

クワドはクワドで、自分たちの研究に従順ないい拾い物をしたと思っている。

 

 

何時もはチームで開発を行い、テスト時にも多数のTeam R-TYPE研究員や技術員が詰めているのだが、今日の試験はクワドと技術員数名だけ。だからこそテストパイロットと呑気な会話が行われている。

実のところ、この試験は機体挙動を試験するためでは無く、搭乗者の挙動・容態を試験するための物だった。

今までバイド機といえど、装甲とコックピットは(一応)区別されてきた。前身である B-3C1でもBJ物質の走行の中に浮かんでいるコックピットは密封されており、装甲材とは別のバイド素子を除いた別のゼリー状物質で充填されていた。今回は違う。

 

 

前回失敗した事案として、コックピットがゼリー状物質に汚染された事件があったが、それならば初めからコックピット内をそれで充填しておけばいい。という逆転の発想により作成された。

「BJ物質の特質とバイト素子制御系によるバイド素子の偏在」が今回の研究開発のミソなのだ。推進系など機械系が必須の構造以外は装甲とパイロットがシームレスにつながっている。普通なら高過ぎるバイド係数を持つBJ物質に曝されれば1時間と待たずに人間の境界を越えてしまう。そういう結果はすでにでている。

パイロットの接触部位に限りバイド素子を含まない状態にできれば?

バイド機運用上の最大の問題。パイロットのバイド汚染が解決されるかもしれない。

それが、このB-3C2"SEXY DYNAMITEⅡ"の研究課題であった。

 

 

すべては究極汎用機のために。

 

 

バイド機を開発し始めたころから、追加されたミッションは上級研究員の間では共有されている。

「バイドの可能性を探り尽し、バイドの可能性を潰す」

基礎研究部門であるバイド研究所が早々に壊滅したため、応用の先端であるはずのTeam R-TYPEが基礎研究を吸収し、上から下まで手を出していることに端を発する捻れであった。末端の研究者達はバイドを機体そのものに流用することを覚えてしまってから、ともかく可能性の枝葉を広げる作業に勤しんでいる。いつの日か最終的にそのすべてを剪定し切り落とすために。

 

 

 




ギャグの書き方忘れました。というより書き方全般と設定全般を忘れました。
戻ってきた理由はFINAL2……ではなく、最近新しいR-TYPE二次が出来てたので、懐かしくなって戻ってきてみました。
リハビリなのでかなり短めです。


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B-1D2"BYDO SYSTEMβ"

自分の気力が保てるうちに次行くぜ
なお、システムβ君は作者に忘れられていたため終盤になりましたが、αとγはすでに書いてあります


 

時期はバイド機開発初期から中期に移ろうとしていた頃。

初期型のバイド機が出そろい、Team R-TYPEの研究員達は開発研究の新たな地平(バイド機地獄)を臨み沸き立ち、軍人達は「近年開発されたR機リスト」と言う名の新規バイドカタログに驚愕していた。

 

定例で開催されている軍と関連組織での兵器開発会議に軍の技術者の一人としてリュンターは出席していた。

会議では新規兵器開発計画が立ち上がったことなどの連絡があり、会議自体はつつがなく終わった。

 

こういった会議の後に開かれるのが、会議出席者達による情報交換である。大体において会議そのものよりも情報交換の方が重要となる。社交もあるのだが、会議で話される情報は確定情報か、ある程度の確度が保証された予測である。そのような情報は別ルートで伝わるので、生の情報こそ重要になるからだ。リュンターは会議出席者のTeam R-TYPEの課長を捕まえ、会議では話せない私的な戦況判断などの情報を話してみたが、この細身の上級研究者は新規R機の開発資料を見せてくれた。これは軍事機密であって話のネタに見せてはいけない物なのではないかな。と思いながら軍事担当者はそれを拝見した。それを読み進めたリュンターはIQが下がる様な奇妙な感覚*1を覚えて、コメントした。

 

 

「どうして頭のネジ投げ捨てちゃったの? 自重しよ?」

「研究開発において、自分で制限を掛けることほど馬鹿馬鹿しいことはないのですが」

「急に真面目にならなくていいから。ちゃんとネジ拾ってきて」

「それは今あなたに必要なのでは」

 

 

この研究者の指摘はおそらく第三者から見たら至極まっとうなのだろうが、原因である開発書の出所であるだけに少し腹が立つ。

要旨にバイドらしい見た目とか、邪悪さとか書いてあればだれでもそう思うだろう。先制攻撃が強すぎる。

リュンターはそれでも冷静になれと頭の中で何度も唱えて、情報を読み取ろうと努力をする。情報こそが前線の兵士達の命綱となるのだから。無理矢理方向修正をして、疑問点を質問する。正直、要旨以上に意味不明過ぎて地球の言語で書かれているのか不安になってきた。

いやが上にも目が止まるのは画像データだった。他の系統の様に何かに変じた生体組織のようなものではなく、正しくバイドといった形状だった。

 

 

「この装甲素材なのだが、私にはこれがバイドそのものに見えるのだが」

「昔の基準で言えばバイド組織でしょうね。これはバイド素子を制御下に置いた状態にありますので、現在のGBM基準ではバイド素材という扱いになります」

「しかし、高バイド係数素材を保管するリスクがあるだろう」

「そうですね。取り扱いに慎重は要しますが、フォースの時点でバイド素子を用いていますし、問題は無いかと思っています」

 

 

耐バイド素子作業服も用意しています。とにこやかに述べたこの研究者をリュンターは狂人認定した。ちなみにフォースの場合は、中心部のバイド素子に接触する前に周囲の高エネルギー場によって人間だろうがなんだろうが蒸発するし、要塞の隔壁などにぶつけても中心部はその斥力によってほぼ接触しないので、危険には変わりないが、バイド汚染の拡散という意味ではあまり問題にならない。

 

 

「装甲保管法も考えなければなりませんね」

「確かに運用上の問題点ですね。基地はともかく各艦隊に我々の研究設備と同じだけのセーフティを設けるわけにはいけませんから。しかし……」

「何か対策が?」

「いえ、このB-1D2ではありませんが、別の系統ではご心配も解消されるかも知れませんね」

「バイド汚染の心配の無い系統があるのならば、そちらに一本化するべきなのではないか?」

「いえ、バイド係数は同程度にあるのですが、なんとB-1B系統においては装甲を回復させることが実証されています。それを発展させれば予備装甲が必要なくなるかも知れませんね」

「勝手に回復ってそれはもうバイドそのものなのでは*2

「いえ、むしろバイドそのものを目指している系統こそ、このB-1D系統機なのです」

「……*3

 

 

理解できない理念への薄ら寒い恐怖がリュンターの背筋を撫でた後、全く理性的ではないのだが心の奥底から殺意がわき上がり、こいつを今射殺した方が人類のためなのではないだろうかと、思考がそれる。

手が腰のホルダーに伸びかけたところで、それを鉄の意志でねじ伏せる。

なお、理性と勇気を絞り出して、資料を読み進める。資料は完成予想図の全体スケッチだが、本来はスモークでみえないコックピット(らしきもの)に人影が書かれているが、どう考えてもパイロットが捕食されて内部にとらわれているようにしか見えない。一応コックピットブロックは既存R機のものを使用していると記載があるが、最早気にするべき部分はそれではない。

 

 

その造形だ。

前身であるB-1Dも大概であったが、噂ではあれは鹵獲機であると聞いているため、まだ分かる。……いや、やっぱりそれを再生産してパイロットを乗せるのは分からない。などと、自分の思考に突っ込みをいれながら、考える。それはバイドそのものであった。通常バイドはこれといった外見は無いが、肉感や機械など感覚的だが嫌悪感を抱く形状をしている。故意でないにしても配慮が必要なのではないだろうか。パイロットの精神衛生の上でもだが、これでは誤射されかねない。パイロット達は味方R機がバイド汚染された場合を想定して、バイド係数などの複数の条件が揃えばIFFが反応していても撃墜できるよう訓練されている。

思考がぐちゃぐちゃになりながらも研究者に質問をする。

 

 

「君ら開発最前線の事はあまり詳しくないが、この外見はバイド的過ぎないか」

「お解りになりますか!」

「なぜ嬉しそうなのか知りたくも無いが、これだとおそらく味方に撃墜されるのだが」

「実は今までもバイド装甲機ではそういった事例があるのです」

「だろうな」

「そこで! このB-1D2”BYDO SYSTEMβ”はバイドの持つ邪悪さを隠す方向ではなく、押し出す事となりました」

「……私では、君たちTeam R-TYPEの思考回路をシミュレートするには脳容量が足りないようだ*4

 

 

リュンターは気のせいでもなく、本格的に頭が痛くなってきた。

しかし、目の前の男は楽しそうに話し続け、機体後部から発射される主砲だとか、眼球状組織を用いたミサイルの様なナニカの話を怒涛の如く話し、いつの間にか消えていた。リュンターが我に返ったのは清掃担当の兵に声を掛けられてからだった。会議の復命書を作るのは明日にしようと、資料類を基地のロッカーに追いやり、リュンターは自宅に直帰した。

 

 

その日の夜は夢*5でうなされた。

 

 

*1
脳みそが、ちょっと変色した!

*2
こんなに装甲が自動回復されている。装甲が勝手に回復しますか?おかしいと思いませんか?あなた

*3
己の理解が及ばない深淵を覗いてしまったあなたはSANチェック。成功で1、失敗で1D6のSAN減少

*4
我らに瞳を授けたまえ

*5
カエルたちの笛や太鼓に合わせて回収中の不燃ゴミが吹き出してくる様は圧巻で、まるでコンピューター・グラフィックスなんだ、これが!総天然色の青春グラフィティや一億総プチブルを私が許さないことくらいオセアニアじゃあ常識なんだよ!




注釈は彼の心象風景です


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BX-4“ARVANCHE”

何時もアーヴァンクとアンフィビアン3が頭の中で混じります。鱗っぽいエビちゃんと生っぽいエビちゃんと覚えることにしました。


BX-4“ARVANCHE”

 

 

アーヴァンクは特殊なR機である。

バイド機を示すBナンバーと、試験機を意味するXナンバーを持ちながら枝番の無い機体。

それはバイド装甲機の正統進化、その第4世代たれとして開発された証拠である。

それまではバイド装甲機の祖ダンタリオンを始点として、バイドの知見を得るために様々な観点から研究・観測が進められていた。樹形図の様に広がったそれは、何かしらの形で次代に受け継がれ、このBX-4アーヴァンクで一つにまとまった形になる。

 

第一世代機のA系統ジギタリウスシリーズからは生体型バイド装甲の基礎を

B系統マッドフォレストシリーズからは植物性バイド装甲の自己修復機能を

C系統アンフィビアンシリーズからは動物性バイド装甲の整形理論と応用を

D系統バイドシステムシリーズは少し特殊であるが、バイドそのものの知見が取り込まれている。

 

第二世代機以降からもそれぞれ研究結果を持ち寄っている。

それによってできるものは……まあ、パイロットにとって地獄の一つだった。

 

 

***

 

 

ここはTeam R-TYPEの施設にあるテストパイロットのブリーフィング室。

テストパイロットが栄誉ある職であるのはかつての話。バイド装甲機が開発されて以降はいわゆる“R機”は開発がストップしており、敵であるはずのバイドの似姿にコックピットブロックをぶち込んだものをテスト機と呼んでいる。化け物を飼い慣らす仕事であるが、パイロットの技量に関係なく命が消費されていくパイロットの墓場であった。

 

もちろん、そんな部署にバリバリのエリートが宛がわれることはなく、部隊内で持て余された人員のくる場所、懲罰部隊的なものとなっている。しかも、懲罰部隊の走り強行偵察隊より人気が無い。横領、敵前逃亡、暴力事件など、様々な臑に傷のある人員が所属する。ちなみに強行偵察隊とは、バイド中枢へのルート構築のため、バイド勢力圏内にミッドナイトアイで単機突入し、定点まで進軍し情報を持ち帰るか、情報ポッドを味方回収部隊方面に射出するお仕事である。だいたい死ぬ。

 

リッチーは操縦は回避運動は部隊一であったが、大群のバイドから逃げまくっていた結果、敵前逃亡し味方に損害を与えたとして、ここに来ることになった。怪我だってしてたのにと思ったが、不名誉除隊ではなく、一度受けた身柄は最後まで活用しようという軍の方針により、このテストパイロットに異動を打診(強制)された。強行偵察隊ではないのは腕に怪我を負ってR機の操縦が少し難しくなったからだ。ちなみにここの同僚達は大体同じようなものである。現在Team R-TYPE開発機では神経系からの直接操縦がメインになっているため、頭がしっかりしていれば多少の怪我は問わないという福祉対応もバッチリだ。しかも寮完備である。バイド素子管理のため他者との接触を制限しているとも言う。

 

今日のブリーフィングでリッチーは新型のテスト機BX-4への搭乗を命令された。同僚達は不憫そうな顔をして慰めを掛け、早々に席を外した。どんな無法者でも明日は我が身なのだ。リッチーはブリーフィングルームに残されて、テストパイロット用の資料を渡された。端末に表示された資料を確認する。最初の訳の分からん概念的なことが書かれている場所は読み飛ばして操縦法から。

 

まず不穏なのが、操縦法に関する記述、脊髄接続による思考シミュレート操縦(接続端子埋め込み不要)とある。

通常は脊髄接続するのには、外科手術により脊髄に穴を開け神経直通の端子を取り付けるのだが、端子不要とあるのは怪しい。無接触で思考コントロールという筋も考えられるが、リッチーは信頼をもってそんなことしていないと断言できる。ユーザーフレンドリーにする余裕があったら性能に全部振りにするのが地球連合軍なのだ。要確認である。

 

次に武装面を確認する。

まだテストデータが採れていないので名称と簡易説明のみとなっているが、スケイルレーザー、スケイルミサイル、波動砲もだ。鱗(スケイル)状の何かをテーマに開発していたのは明らかだ。名称からは普通だなと安心したリッチーだが、よく考えると鱗を飛ばすとか無いし、スケイルレーザーに至っては最早概念状の何かかなという具合なので、やはり要確認であった。

 

次にフォースは、やはりというかスケイルフォースの文字。この機体の開発者は偏執狂に違いない。埋め込み画像にはフォースの周囲に張り付くようにある赤黒い鱗。リッチーの考えるフォースは、その高エネルギー体で敵を蒸発させながら磨り潰すものなのだが、これでは高エネルギー体が前方に露出していないのでフォースアタックがやりにくいのではないだろうか。そこまで考えて、要確認だなと結論した。

 

被弾率欄はブランク。これは自分のテスト結果により数字が入るのだろう。

読み飛ばした要旨は……、ウロコ状装甲テスト機。まあ、まだマシな気がする。

名称案はアーヴァンク。どっかの地域の水棲UMAだった気がする。おそらく、ワニか何かだろうかウロコ状装甲というところから取られたのだろう。まあ、アンフィビアン(両生類)とかミスティレディ(霧の淑女)や、セクシーダイナマイト(直球!)よりは兵器の名前として適当かもしれない。

リッチーはそのように評しながらデータを閉じる。

 

機密だらけのため余分なことを省かれた内容の薄い資料はすぐに読み終わり、端末からデータを削除する。分からないことだけ分かった。いつものことである。

 

「よし、碌でもない機体だな。いっそ安心する」

 

独り言を言った後、変態に変態に変態に変態を掛け合わせたら変態になるんだなぁ。と他人事の感想を持った。

 

 

***

 

 

テスト当日、リッチーはモニタリング端子だらけの薄いスーツを着込む肌が露出している部分が多いのが気になるが、どうせ抗議しても無駄なので、黙っていた。伝導を良くするためと首筋の毛を剃られた。これは絶対アレだなと思いながら準備を進める。

 

準備を整えて覚悟と諦めを持って、リッチーが搭乗室に進むと、タラップを昇らされコックピットらしきものにたどり着く。少し前から見えていたが、赤黒い鱗と、鞭のような尾をもったミミズか蛇か、海老の様な何かが、尾をしならせて動いている。ドラゴンというにはちょっとアレな何かが乗ってないのに動いている。

 

「バイドじゃないか」

『テストパイロットNo.72は直ちに試験機に搭乗しなさい』

 

言われなくとも分かるのは、タラップの先、バイド装甲機アーヴァンクの首裏にあたる部分にあるキャノピーが開くと液体に満たされた培養槽の様なものがあった。リッチーが呼吸補助器はと問うと、機体側で代わって行うから問題ないと返される。黙って入るリッチー。ここでは諦めが肝心なのだ。

 

肺が液体に満たされるが、首筋に何かが入ってくる様な感覚とともに、リッチーは話せるようになった。実際には話す様に言葉を出力できるようになった。便利な機能の割りに一般普及されないところを見ると、絶対駄目なバイド系の技術なんだろうなと見当を付ける。研究陣の指示の元、バイタルチェックを行い試運転を始める。慣れたR機の形状から大幅に外れているので手間取るかと思ったが、手足を動かすように動かせる。新しい関節や器官が増えたようで、神経と直結とはこういう事かと考える余裕もあった。

 

ミサイルとスケイル波動砲は事前テストで調整されていたのだろう。有用ともいえる性能で、ターゲットに接触するごとに分裂弾が発生しテストターゲットをなぎ払う。リッチーは心の中で優を付ける。噂で聞いていたバイド機の波動砲の使いにくさとは何だったのかと思った。

 

武装試験が進むと、満を持してフォースが運ばれてくる。本体とおそろいの赤黒い鱗で覆われた見た目、フォース特有の燐光が見えないほどに鱗だ。それがマウントから切り離され装着される。神経に見えない四肢が増えたかのような感覚があった。それを切り離す感覚も理解できてしまう。すでに自分がバイド化していないかとバイタルを見るが、一応まだ人間らしい。そんなことをしているうちに新しい標的が補充され、まずはレーザーのテストをするよう告げられる。まあ、レーザーは普通だった。形状こそ良くわからない鱗状であったが、軌道もミスティレディの様に霧状の訳のわからないものではなく、ちゃんと攻撃できた。

続いてフォースシュートで潰すよう命令された。見た目から物理ですり潰すのだろうかと思ったが、打ち出してみると、そこはちゃんとフォースのエネルギー場があるようで、蒸発するように標的が抉れる。

 

その他、いろいろなテストを告げられたが、研究者達のオーダーをクリアして試験終了となった。降りる際に自分の生身の感覚に切り替わるのに戸惑い、何度も蹴躓いたがバイタルチェックも許容範囲内らしい。そのまま除染室に突っ込まれて、薬を打たれて眠ることとなった。

 

次に意識が回復したのは出撃が決まった後だった。

 

 

***

 

 

試験後、機体性能よりも現在進行形でデータを取り続けている被検体のデータを見ながら研究者達は討論を行った。

バイド中枢へたどり着いても、R機をそのままバイド化させられて送り返される事例が多発している。それを克服するにはどうするか。もちろん、最終結論はもうじき開発計画が立ち上がる予定の究極汎用機を完成させ突っ込ませることだが、その前にデータを取るべき事項がある。バイドと同化されるのを防ぐためにはバイドをぶつければいいのではないだろうかという発案である。

その論の答えを知るためには、R機そのままではなくバイドの皮をかぶって突っ込めば良い。バイドの形状をそのままにバイド素子を可能な限り滅菌し、汚染性能を抑えた装甲をもったバイド装甲機という名の、人が乗れるバイドを。

 




次のクロークローで101機だよね? もう忘れてる子いないよね?


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B-5A"CLAW CLAW"

初心に還ってわちゃわちゃ会話回にしてみました。こういう和やかな開発風景を書いていると初期の頃を思い出して懐かしいなぁって感じます。


Team R-TYPE研究区画の会議室。白衣を着た研究者達が卓を囲んでいる。端末と資料を大量に持ち込み第5世代バイド装甲機の検討を行っていた。

そろそろ中年に差し掛かるくらいの不摂生そうな男性、ローランがおもむろに仁王立ちして話し出す。

 

「バイド中枢へたどり着いても、バイド化させられて送り返されるならば、バイドの皮をかぶって突っ込めば良いと言ったな。あれは嘘だ」

 

明らかに突っ込んで欲しそうな気配を感じて、他の研究者達は目配せする。ウザ絡みされそうで嫌だったが、視線での押し付け合いに負けた一人が、渋々突っ込みをいれる。

 

「バイド素子を持ったR機を誤認してくれないと、ラストダンス作戦を大幅修正しないといけないんだけど、理論間違ってました?」

「いや、正確には理論は間違っていないけど、手段が不足していた」

 

じゃあ、初めからそう言えと誰も口に出さなかったのは優しさではなく、面倒だからだ。この男は自分に酔うと絡み始める。まあ、好きなことに対して早口になりがちなのはほぼ全員自覚があったので、あまり強くは言えない。BX-4アーヴァンクの機体ではなく手段で失敗しているとは由々しき問題である。皆が目線でローランに続きを促す。

 

「突入作戦とあってBX-4の操縦系に適性が高いパイロットを選別したんだけどさ」

「いや、あれって一応バイド装甲機だけど汎用ではあるだろ。神経接続で過敏感反応落とす奴はいるけど。というかなんでパイロット選別してんの? 無選別で飛ばせよ、データ狂うだろ」

「データ取る上ではそうなんだけど、軍部から、突入作戦なのだから、試験成績の良い者だけ選りすぐれって、茶々を入れられてさ」

 

そう言ってアーヴァンクでの突入作戦を実施した際のデータ群を端末に表示させる。それぞれの端末で読み込む開発班。第4世代機であるBX-4アーヴァンクはその試験機的性質から、大量生産はされていない。というよりは目指すべき究極互換機の背が見えてきた今となっては他のすべてはデータ取得用となっていた。それを確認した全員がワイワイとデータを読みながら言い始める。

 

「なんか、突破率低くない?」

「大型バイドで撃破されてるのがちらほらと」

「そもそも、1機もバイド中枢に到達してないじゃないか」

「それなんだよ。実はさパイロットからすると武装がちょっと癖あるらしくて、被験者の性格が慎重というか臆病な方が、試験成績高く出るんだよね。で、それが採用されたから」

「ああ、スケイル波動砲で一々雑魚を一掃してから進軍するみたいなやり方ね」

「大型バイド相手やバイドが大量出現するエリアでは一点突破が戦術として有効なんだろうけど、性格的にここぞと言うときに乾坤一擲の勝負を選べない奴が多いらしくて」

 

全員が、あーあという顔をする。

突入作戦をテスト呼ばわりするTeam R-TYPEと、こんな生ものを従来通りの運用で飛ばす軍部、どちらが酷いかと言われると確実にTeam R-TYPEなのだが、そんな常識的なことはこの場では関係ない。

 

「BX-4の反省を踏まえて、この計画。はい、これ」

べしっと机の上に紙を叩き付ける。雑な手書きのメモには汚い字でB-5A“CLAW CLAW”と“ちょー攻撃的”とか書かれていた。もう筆跡からも名称からも落書きからも寝不足感がでていた。

 

「クロークローね」

「内容は全くわからないが、何がしたいかは解った」

 

男が開発方針データを全員の端末に送る。机の上の適当メモに対してある程度は作り込まれている。色々書いてあるが、要は一点、守勢に向いていたBX-4に対して攻勢に重点をこれでもかと置いたのが、このクロークローらしい。まあ、単機突入、一点突破はR機の華。まだまともな機体を開発していた頃からの伝統なので、軍部も受け入れやすいだろう。

 

「と、いうことでフォース、レーザー、波動砲、装甲全部総取っ替えしてB-5A"CLAW CLAW"開発します!」

 

 

***

 

 

「一か月ぶり5回目の中間開発会議を始める!」

 

ローランは更に不摂生が祟って血色が悪くなっているが、Team R-TYPEでは開発中は身体を壊すくらいでないと研究を極められ(楽しめ)ない、という悪しき風習があるので、誰も心配はしない。倒れたら別の研究者がお楽しみを継承するだけだ。今回はそれぞれの基礎研究を終えて形となりはじめて最初の会議だった。

 

「まず、装甲データ行きまーす。前々回問題視していたバイド組織の爪状器官はバイド素子の分布的に使いづらい上に強度がイマイチなので、色々試験した結果、牙状器官を利用することにシフトしましたー」

「クロー(牙)とは……」

「もうレーザークリスタルをクローって感じで調整始めちゃったんだけど、どうしてくれるの?」

「初手矛盾してくるのやめろや」

 

根本をひっくり返してきた装甲担当はあっけらかんと笑い、情報を提示してくる。突っ込みはあったものの、データを見れば全員仕方ないなと思える数字だった。クロークロー(牙状装甲)というすでに良く解らない、何となくフィーリングで解るものといった具合の開発に対して、ローランはあまり問題にしなかった。それくらいで無いとこんな魔窟で正気は保てない。

 

「はい、次は波動砲」

「現状としては、ガンガン撃てる、打ち出しきりタイプで調整中です。バイド装甲機はフォースと装甲のバイド係数との相互影響で波動砲も変化するから、とりあえずエネルギーカップ容量に余裕は持たせてる」

「分かった。他と連絡して進めてくれ。要望は火力だ」

 

データ以前に、開発できる前提条件が揃っていないので、簡単な報告だけとなる。問題は無いらしいので、すぐに次の担当者に話を振るローラン。

 

「フォースは」

「スケイルフォースは見た目性能が気に入らなかったから、フォースのエネルギーが見える形に成形した。もちろんバイド係数は盛ってるぞ」

「このかぎ爪のは装甲材と同じ?」

「そう、装甲担当から貰った(奪った)のをロッドにした。フォースの破壊力って、最も高効率なのは接触し続ける事だろ。で、その機能を足していった結果こうなった。機体と物理接続が必要なく、暴走もしないアンカーフォースと言えば分かりやすいだろう」

「これはありだな。レーザーが想像しづらいけど」

「はいじゃあ、このままレーザー担当から。うちは爪状の装甲だとおもってたから、コントロールロッドにエネルギーを添わせて、鷲掴みするのを考えてた」

「そのままでいいんじゃない? 無理に牙に合わせなくても。レーザーなんて一種類は遊ぶもんだろ」

 

フォース担当は順調だが、レーザー担当は微妙に装甲担当のあおりを受けている様だった。このアンカーフォースの発想に近いフォース案は皆に気に入られた。アンカーフォース系統といえば狂犬と評されるほどの攻撃性の高いフォースだ。それに似ているのは上々だった。

 

 

***

 

 

「ところで機体のディティールどうするの」

「実は問題があってさ」

 

 

他のバイド装甲機は分割したバイド装甲を這わせる、弾力性のある装甲で覆う、もしくはコックピットブロックを取り込ませる形を用いてきた。素子に誘導体を加えて装甲を培養していたので、ある程度自由がきいたのだが、今回はバイドからその部位を切り出す形になるので、形状が自由にならない。同様の手法を用いたアーヴァンクはウロコ状装甲を重ねるというものなので、まだ、なんとかなったのだが。

 

「牙状器官じゃなあ。しかもR機サイズの装甲材にするなら大型バイドなんだよな」

「培養実績のあるバイドだと……ドプケラドプス?」

「コア体の方にある牙状組織を持ってくるか」

「ないなら作ればいいじゃないか。誘導体を与えて培養体を変質させるのは我々の十八番だ」

「よし、ちょっとバイド研究所行ってくる!」

 

狂気のバイド研究所やら、他のバイド装甲培養が得意な研究チームやらを巻き込んで、B-5Aクロークローが形を得ていく。

 

 

***

 

 

象牙色の機体の全面には攻撃性を表すように鉤「爪」状の牙状装甲が飛び出し、風防で囲われたコックピットやミサイル担架、推進部以外のほとんどはシームレスに装甲で覆われている。その意匠を受け継いだフォースだが、姿だけでなく性能も併せ持った物となっている。その波動砲も機体形状を模した様なエネルギーが飛び出してくるというものであり、レーザーについては爪状のものとそうでないものに分けてバランスを維持している。

 

先行して一機作られたテスト機B-5A"CLAW CLAW"。

それを防護ガラスの向こうから眺めている研究チームの面々。耐バイド素子防護服を着こんでいるので誰が誰だかわかりにくいが、中央にいる男ローランが、べそべそと泣きながら独り言ちた。

 

「昔、バイド研に勤めてた頃の夢。バイドの有効利用が形になって、もうほんと感無量! 誰に何と言われようと俺のR機はクロークローだけだからああぁぁぁ」

 

B-5A"CLAW CLAW"はバイドらしい造形をした最後の機体となった。数多のバイド装甲機の成果は後の機体に吸収されたが、最終的にR-9A"ARROW HEAD"に先祖返りしていくこととなる。



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R’s museum

R’s museum ―ある日、雨上がり―

 

 

 

心地いい風が吹く、海を臨む丘の上。

遥か海の向こう側には南半球第一宇宙基地を遠景に見えており、景色も良い。

もはや住民が少なくなってしまったが、この周辺地域の家族連れの定番スポットとなっている。

海向こうの都市は、巨大な摩天楼が林立するかつての惑星首都とも言うべきもので、その衛星都市群は見渡す限り続く。対してこの周辺は軍事エリアだったこともあり、一見露出した構造物が少なく、逆に自然を憩うのに絶好であった。

今は月曜の昼下がり。それも雨上がりともあり人は少ないが、空気中の塵が洗い落とされ、雲の切れ間から漏れ出た陽光が葉の上の滴に反射してきらめいていた。誰がどう見ても平和な光景。

そんな風景を横目に、丘を巻く車道を進んでいくと、小高い丘の一つに建物が現れる。

 

芝生広場の広い庭園と、その先にある建物。ガラス覆われた玄関部を見れば博物館であることが分かる。

普段は人々が訪れるこの施設だが、施設の入り口には、本日休館日との表示があり、ガラス張りの向こうは薄暗い。

しかし、入り口の向こうのロビーでは、人々に最も良く知られたR機、R-9が展示されていた。デブリにも跳躍次元にも耐えられる塗装であるが、時間の流れには耐えられなかったのか、ちょうど人々が触る部分だけ塗装が剥げており地金が露出している様だった。武装についても展示用の形だけのものに変わっている。

 

開かない入口を眺めていてもしかたないと、回れ右して振り返ると、この施設の前庭である広い芝生広場。子供が遊ぶのかところどころは芝が剥げ、養生している個所もある。海鳥達が雨に打たれて濡れた羽を乾かすためか、柵にとまって日光を浴びている。長閑な光景だ。

そんな鳥達を横目に、潮風の中頑張って育とうとしている芝生を踏まないように避けて通ると、大理石製のタイルが地面に埋められており、そこが道となっているようだった。足元のタイルよく見るとR-9Aなどそれぞれ別々の刻印がされている。これ自体も博物館の展示物の様だ。

庭の真ん中まで来ると、そこには雨に濡れた銀色の記念碑が置かれていた。

それを見る。

 

 

そこに刻まれた栄光ある突入ミッション

そこに刻まれていない何千何万もの失敗

そして、かつての人とバイドとの生存競争の歴史が示されていた。

 

 

 

 

 

 

 

すべての機体の完成を以って地球文明圏は

R計画の終了を宣言。

これらの機体で勇敢にもバイドに立ち向かい、宇宙の

塵となっていったパイロット達の冥福を祈る。

 

 

 




もう、海鳥は飛ぶことはない



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ちょっとだけ読んでほしい後書き

拙作のご読了ありがとうございました。

R-9以前の機体や2やTacticsシリーズの機体、エイプリルフールの機体などもありますが、

これ以上は蛇足かと思いますので、FINAL機101機で完結とさせていただきます。

 

この作品、arcadiaでの最初の投稿が2011年なので12年かかって完結となりました。

何度、筆が止まったか分かりません。正直完結するとは思っていませんでした。

一話完結式だから、ここで止まっても良かろうと自分に言い訳しながら度々寝かせてきたのですが、ちょっと気の迷いもあって完結させてみようと思い。ここまで来ました。

休載期間が長かったため、作風が二転三転していますし、駄作も今となっては黒歴史も色々ありましたが、良い思い出になったと思います。あと個人的に小説の書き方の実験場としても使っていまして、こてこてのギャグから、シリアス、レポート風から、メール風、タグ芸にと一通りはやったと思います。

 

個人的にはアローヘッドは難産でしたが好きな話ですね。バイド機は公式がツッコミどころを用意してくれていて書きやすい機体も多かったですね。

ただし、苦行だった人型機地獄とFO系列機は絶対に許さない。

 

この作品の連載期間は本当に長く、この12年の間に二次小説の世界もずいぶん変わりました。

にじファンは消え、代わりに暁とハーメルンができ、数限りなくあった個人投稿サイトはそのほとんどがネットアーカイブの中だけに存在します。人入りは少なくなりましたがarcadiaはある意味当時のままですね。

それを思うとちょっと感無量です。

これでマイページの投稿小説欄から目をそらしながら、他作品を漁る日々から解放されます。心置きなく読み専に戻れます。

 

長い、長い間この作品を追いかけてくださった読者の皆様、お付き合いいただき、大変ありがとうございました。

皆様のR-TYPEライフに、少しでも何かを残せたのならば幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メヲ

 

トジ

 

ルト

 

ジユ

 

ウニ

 

ネン

 

ガタ

 

ツテ

 

イタ

 

ソレ

 

デモ

 

サイ

 

ゴマ

 

デヨ

 

ンデ

 

クレ

 

テア

 

リガ

 

トウ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、迂闊にもこの文章を見つけてしまった皆様へ

二次の世界は「読みたいから書く」の精神で成り立っています。

皆様ももっと自分の好きなジャンルの二次が増えたらいいのにと考えたことがあると思います。

二次が少ないというのは、生産者が不足している所為なのです。ですので……

 

 

これを読んだあなたは、二次小説を書かなければならない呪いにかかります。

ワ タ シ モ ヤ ッ タ ン ダ カ ラ サ

 

 

 



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