こんな、横島忠夫はどうでショー! (乱A)
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《短編集》
「夕陽が照らす部屋の中で」


 

ヨコシマクンがシンダ……

カレはもうドコニモイナイ……

カレへのオモイはもうトドカナイ……

 

そんなに強い魔族ではなかった……

ただ、狡猾だった……

劣勢と見るや人質を攻撃した……

人質は三人の子供……

横島クンはとっさに飛び出した……

止める隙もなかった……

二人を両手のサイキック・ソーサーで……

一人を自分が盾になって……

前の中級魔族との闘いで文珠を使い切っていたのが痛かった……

 

いや、それ以前に文珠に頼りすぎなければ……

彼はあの時から死を極端に恐れるようになった……

自分の死より他人の死を……

そして私達は結局彼の心も命も救えなかった……

頭に浮かぶのは後悔だけ……

笑顔ってなんだっけ……

あの時から私達の時間は止まったまま……

時々思い出したように冷たい涙が頬を流れるだけ……

 

 

ヨコシマクンがシンダ……

カレはもうドコニモイナイ……

カレへのオモイはもうトドカナイ……

 

 

 

 

-◇◆◇-

 

 

美神除霊事務所。

嘗ては賑やかだったその場所も、今ではそれが嘘だったかの様に静まりかえっている。

それは彼が居ないから、彼女達の中心に居た彼が、彼の笑顔が此処には無いから。

 

 

「ヨコシマの両親?」

「ええ、明日此処に来るそうよ」

「…先生の葬儀にも出ずに、なぜ今頃……」

 

それを聞いて怪訝な表情をするタマモとシロの二人におキヌと美神は語り掛ける。

 

「横島さんのお母さんは出産直前だったんだって」

「横島クンを驚かせようとして隠してたらしいんだけど突然の訃報で倒れたらしいわ。それが原因でかなり危ない出産だったんだって」

「そうでござったか…」

「一応、妙神山にも連絡したら小竜姫とヒャクメにパピリオ、そして老師も来るらしいわ」

「……なんて言えばいいんでしょうね?…」

 

おキヌの疑問に答えられる者はいなかった。

何も言えない、いや言う資格さえない、どんなに怒られようが、どんなに詰られようが、身を引き裂かれるような罵詈雑言さえも甘んじて受けるしかないのだから……

 

「私、お夕飯の買い物に行ってきます…」

「私も付き合うわ」

 

そう言いながらおキヌとタマモは部屋を後にする。

 

「…いってらっしゃい……」

 

美神も力無く送り出す。

こんな覇気も張り合いも無いのが今の彼女達の日常であった。

 

 

 

-◇◆◇-

 

 

「ほい、おキヌちゃん、大根2本で三百万円だ!なんてな、はははは…はは…」

 

八百屋で買い物をするおキヌ、そんな沈んだままの彼女を少しでも元気付けようとありふれたギャグをする店主。

しかし、おキヌやタマモに微かな笑顔すら浮かぶ事は無い。

 

「……なあおキヌちゃん、無責任な言い方かもしれねえが何時までも泣いてたって何にもならないしただ辛さが増すだけじゃないのかな?いきなり笑えとは言わねえが少しは前を向かねえと…」

「そうだよ、それに病は気からというしこのままじゃ本当に病気になっちゃうよ、そうなったらあのお兄ちゃんだって心配するよ?」

「 !! ……よ、横島さん?……」

「お、おい!かあちゃん、あの兄ちゃんの事は口にしちゃダメだって!」

「あ、ゴ、ゴメンね、おキヌちゃん?」

「ふ、ふええ…よこ、横島さん…ふええ、ふえええ~~~ん!」

 

横島の事に触れられ、何時か見た笑顔を思い出してしまったおキヌには流れ出した涙を止める事は出来ず、慰めてくれる夫婦の声も聞こえないまま暫くの間は泣き続けるのだった。

 

そして買い物を終え商店街から帰る途中、ふと空を見上げると真っ赤な夕陽が空を染めていた。

その赤い色を見ながらおキヌは以前に横島が教えてくれた言葉を思い出していた。

 

「…昼と夜の一瞬の隙間…短い間だから余計に綺麗……」

「それって、ルシオラって女性の?」

「ええ、横島さんが本気で愛したただ一人の女性…」

「……どんな(ひと)だったの?」

「最初は敵だった、横島さんを連れ去ってこき使ってたって。でも、だんだんとその優しさに魅かれて、あとは私達と同じ、何時の間にか好きになってたんだって」

「私は…別に……」

「日が暮れちゃう、急ぎましょう…」

「うん……」

 

そんな帰り道、曲がり角を回ると仕事帰りなのか唐巣神父とピートに鉢合わせした。

 

「あ、おキヌちゃんにタマモちゃん」

「…ピートさんに神父様……」

「横島くんのご両親が来られるらしいね、私達も行かせてもらうよ」

「それからワルキューレさんやジークさんも来ると連絡が来たよ、ぼくもタイガー達と一緒に行くから」

「…はい…」

 

 

 

事務所への帰り道、薄らいでいく夕焼けを横目で見ながらタマモは思いに更けていた。

 

 

何時からだろう?誰も笑わなくなったのは?

 

何時からだろう?涙が氷のように冷たくなったのは?

 

分かっている、きっとあの時から。

 

ヨコシマが消えたあの日から……

 

ヨコシマの傍は暖かかった。

 

ヨコシマの周りではみんなが笑っていた。

 

だから私も何時の間にか自然に笑っていた。

 

……そっか、そうなんだ。いつの間にかなんだ…

 

いつの間にかヨコシマを……

 

冷たい涙が頬を流れた。

 

 

 

 

-◇◆◇-

 

 

翌日、私達は事務所に集まっていた。

小竜姫様と老師様、ヒャクメ様、パピリオちゃん、ベスパさん

ワルキューレさん、ジークさん、

神父様、ピートさん、タイガーさん、雪之丞さん、

エミさん、冥子さん、魔鈴さん、

小鳩ちゃん、貧乏神さん、愛子ちゃん、

カオスさん、マリアさん、西条さん、

そして美神隊長にひのめちゃん、ひのめちゃんは隊長に抱かれて眠っている。

 

『美神オーナー、横島さんのご両親が見えられました』

「そう、ここにお通しして」

『了解しました、…どうぞそのまま、この部屋です』

 

ガチャッ

 

「 !! ・・・・・・」

 

横島さんのご両親が遂に来た、お母さんは女の子の赤ちゃんを抱いていた。

 

「この度は私達の力の無さで息子さんを…すみませんでした」

 

美神さんは一歩前に出て頭を下げながら謝罪をする、私達もそれに倣って頭を下げる。

本当はこんな事を、謝る資格すら無いのかもしれないけれど。

二人は険しい表情のままそんな私達を見つめている。

そしてお父さんが口を開いた。

 

「あいつの、忠夫の最後は……、最後はどうだったんですか?」

 

「はい、人質を取られて苦戦しましたが、何とか追い詰める事に成功しました。しかし相手は私達の隙を突いて人質の子供達を攻撃し、横島ク…息子さんは子供達を守ろうとして自分を盾に……」

 

「……そうですか、私達より先に死んで親不孝者と怒るべきなのか人質の子供達を救った事をよくやったと褒めるべきなのか、私達はどうすれば……」

「褒めてやって下され!」

「シロ!」

「……君は?」

「拙者は横島先生の一番弟子の犬塚シロと申します」

 

 

最初の出会いは空腹に耐えかねて先生の食事を狙った時。

その時に見た霊波刀は見事でござった。

すぐに先生に弟子入りをして父上の仇を取ろうとした。

その後犬飼に返り討ちにあい、大ケガをした拙者を美神殿と先生が霊波で治療してくれて目が覚めた時には超回復によって拙者の体は大人になっていたでござる。

その頃は先生の事は師匠でありどことなく兄上といった感じであった。

でも、だんだんと自分が女なんだと自覚してくるとその気持ちが変わって来たのがわかった。

 

ああ、拙者は先生が好きなんでござるな。

 

しばらくの間修行のため人狼の里から出れなくなった。

あのアシュタロスの事件の時も里に妖共が襲って来て里を守るので精いっぱいでござった。

先生の事は信じていたからあまり心配はしてなかったのでござるよ。

美神殿の所にタマモと居候する事になった時にも先生はいつもの通り元気であった。

いつも笑っていて……だから気付かなかったでござるよ………先生の傷に……

 

「シロ……」

 

 

シロは泣いていた。私もいつの間にか泣いていた。

超感覚で私にも分かったのだ、シロが何を感じているのか。

 

ヨコシマのバカ………。

私達をこんな気持ちにさせといて、自分はさっさと居なくなって………

 

 

「ふあ……」

「あっ、まずい。ひのめが目を覚ました!」

「まずいって、その子がどうかしたの?」

 

百合子が不思議そうに訊ねてきた。

 

「ひのめは横島君に、息子さんに一番懐いてまして、目を覚ますとすぐに横島君の姿を捜すんです。そしていないと分かると何時も大泣きして…」

 

そう言っているとひのめはいつも通りに横島の姿を探し始めた。

そして、百合子が抱いている赤ん坊を見つめると。

 

「だああ♪」

「 !! ひのめが笑った!?」

 

呆然としている皆をよそにひのめはその赤ん坊に手を伸ばして呼びかけた。

 

「にーに、にーに♪」

 

「……にーにって……もしかして…この赤ちゃんって…横島クンの……」

 

「ヒャクメッ!この赤ちゃんの霊視を」

「わかったの、やってみるの!」

 

赤ん坊の霊視をしていると、ヒャクメの目からぽろぽろと涙が零れてきた。

 

「よ、横島さん…横島さんなの!…この赤ちゃん、横島さんの生まれ変わりなの!」

 

どことなく虚ろだった皆の瞳にだんだんと光が戻ってきた。

 

「な、何だって!この子が……、この子が忠夫の生まれ変わりなんですか?」

「間違いないの、この子の霊波は横島さんのと全く一緒なの!!」

 

百合子は腕の中の赤ん坊を見つめながら…涙を流しながら語りかけた。

 

「そっか…忠夫、また私達の子供として帰って来てくれたんだね…」

「は、ははははは…忠夫はおかしいだろ。この子は女の子なんだから…」

 

大樹も泣きながらそう言った。

 

「ふあぁ~~…」

「あら、お姫様はお目覚めのようね」

 

百合子の腕の中で目を覚ました赤ん坊は令子達を一人一人見つめて、

 

「ふあっ♪」

 

そして微笑んだ。

 

 

「皆、抱いてみる?」

 

百合子はそう言ってまずは令子に抱かせた。

 

「横島クン…もうナンパは出来そうにないわね…」

 

次はおキヌに抱かせた。

 

「横島さん…今度は女の子だからお料理、教えてあげますね…」

 

次はシロに抱かせた。

 

「先生…今度は拙者が霊波刀を教えるでござるよ…」

 

次はタマモに抱かせた。

 

「ヨコシマ…もし、ヨコシマをいじめる奴がいたら今度は私が助けてあげるからね…」

 

それからは、小竜姫、老師、ヒャクメ、パピリオ、ベスパ、ワルキューレ、ジーク、唐巣、ピート、タイガー、雪之丞、エミ、冥子、魔鈴、小鳩、貧乏神、愛子、カオス、マリア、美智恵、と一人づつ抱いて声をかけて行って西条の番になりいざ、彼が抱こうとすると。

 

「ふあ~~あ…むにゃむにゃ…す~、す~」

 

と、美智恵の胸の中で再び眠りについてしまった。

そんな赤ん坊を見ながら西条が、

 

「よ、横島君、君ねぇ~」

 

と、抱こうと差し出したままの手をワナワナと震わしながら呟いた。

 

すると。

 

「ぷっ…」

「くくくくく」

「ははははははは、も、もうダメだ…はははははははっ」

「あははははははははははははははははは!!」

 

誰からともなく笑い出し、そして全員が笑い出した。

あの日から久しぶりの笑い声だった。ふと気がつくと事務所の周りには横島にゆかりのある石神や浮遊霊たちが集まっていた、生まれ変わって来た横島を祝福する様に。

 

「あはははははは…(そうか、笑うってこんなに簡単な事だったんだ。横島クンがいれば皆が笑える、横島クンがいてくれるだけで笑顔になれる)」

 

窓の外を見ると何時の間にか空は赤く染まっていて、部屋の中には夕陽が射しこんでいた。

 

 

そんな彼らをはるか空の上から見つめている存在があった。

 

『皆、笑っていますね』

『ああ、横っちの魂を逆行させ再びあの両親の子供として転生させる。かなり強引な方法やったけど苦労した甲斐(かい)があるな』

『しかし、ルシオラの魂も横島さんの中にあるままですからこれからどうなるか』

『まあ、今度は横っち自身が産む事になるさかいあまり問題はないやろ』

『そうですね。しかし私達に出来るのはここまで、後は横島さんが今度こそ健やかな人生を送れる事を祈りましょう』

『せやな』

 

 

そして彼ら二柱は光と共に天へと消えて行った。

 

 

 

「すう、すう、」

「くぅ~、くぅ~、」

 

 

百合子さんとママの腕の中で二人の赤ちゃんは寄り添うように眠っている。

 

 

 

横島クンは死んだ。

彼はもういない。

彼への想いはもう届かない。

 

でも、新しい命を持って帰って来た。

新しい命でこれからの人生を共に生きて行く。

例え隣を歩けなくても同じ世界で生きて行ける。

 

 

 

夕陽が照らす部屋の中に笑い声が響く。

 

夕陽が照らす部屋の中で私達は笑顔を思いだした。

 

夕陽が照らす部屋の中で私達の時間は再び動き出した。

 

 

~完~

 

 




(`・ω・)と言う訳で書いてしまった横島死亡後の話。実はこの話、僕が一番最初に思いついたGS美神のSSだったりする。
生まれ変わって来た彼女の名前は唯緒(ただお)です。
…解ってます、何のひねりもないという事は解っています。
頭の中にはネギま!とのクロスに持っていく予定。(あくまでも予定、書くかどうかは未定)
では、この辺で。


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「てぽてぽお使い唯緒ちゃん」

(`・ω・)一話完結と言いつつ、いきなり続いたでござるの巻。


 

「じゃあ唯緒(ただお)、お使いをお願いね」

「うん、いってくゆね。おかあさん」

 

てぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽ

 

唯緒は可愛い足音を鳴らせ、腰まで伸びた長く艶やかな黒髪を揺らしながら商店街の方へと走って行く。

 

百合子は付いて行きたい衝動に駆られるがぐっと我慢した。これは唯緒の初めてのお使いなのだ、もし付いて行ったのがばれると暫くは口を聞いてくれないだろう。

 

実際に以前怒らせてしまった時は一週間もの間口を聞いてくれなかった、その時は余りの寂しさで唯緒の方から話しかけて来てくれるまでかなり老け込んでいたらしい。

 

「それにあんまり心配する必要もないのよね」

 

そう呟き、唯緒が道の角を曲がるのを見届けると家の中へと入って行く。

 

てぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽ

 

「えへへ~~、おつかいおつかい、はじめてのおつかい♪」

 

横島唯緒、三歳。この少女は「魔神大戦」での英雄、横島忠夫が生まれ変わった姿である。

彼は魔族との闘いの際、不運の死を迎えたが最高指導者達の手によって少し時間をさかのぼっての転生で再び横島夫妻の子供として新たな生を受けた。

 

「おや、唯緒ちゃん。お出かけかい?」

 

八百屋のおじさんが話しかけて来た。

 

「うん!唯緒ね、はじめてのおつかいなの♪」

「そうかいそうかい、唯緒ちゃんはえらいねぇ~~」

「えへへ~~、唯緒、えやいの。えっへん!」

 

誉められたのが嬉しいらしく、唯緒はその小さな胸を張る。

 

「じゃあ唯緒ちゃん。ウチの野菜も買って行ってくれないかい?唯緒ちゃんに『食べてほしいよ~』って言ってるよ」

 

八百屋の親父はそう言いながら手に取った野菜を一つ唯緒に差し出す。……が。

 

「や~~!タマネギ、きやい~~~!」

 

唯緒はすぐに逃げ出した。

 

「はははは、タマネギが嫌いな所は変わらねえな」

 

走り去って行く唯緒を見つめながら親父は笑っていた。

 

その頃、町の上空に一つの影が漂っていた。

それは他の町で雑霊や低級霊を吸収して、今では下級魔族ほどの力を得た悪霊だった。その悪霊は力を求めていた、神にも匹敵するほどの力を得て世界に君臨したいと。

 

『足りない……まだ足りない。もっと、もっと力を……ん?』

 

そんな悪霊の視線の先には一人で歩いている唯緒がいた。

 

『あの小娘、かなりの力を持っているな。いいぞ、あの小娘に取り付けば生き返れる上にかなりのパワーアップが出来る。フフフフ、ハァーーハッハッハッハッ!グゥーーーッドタァイミィングゥゥゥーーーーーッ!』(cv・セルの中の人)

 

そして悪霊は唯緒に乗り移ろうと上空から舞い降りて来た。……が、

 

『浮幽霊・烈波ぁーーっ!』

『ぐはあっーー!』

 

突然襲いかかって来た浮幽霊による多段アッパーに悪霊は吹き飛ばされる。

 

『な、何だいきなり!?』

 

『浮幽霊・ギャロップ!』

『がはあっ!』

 

今度は上空からの激しい蹴りが襲いかかる。

 

地面に叩き付けられるかと思った瞬間、何者かに掴まれる。

 

『貴様、今唯緒ちゃんに何をしようとした?』

『は?』

 

厳つい親父の幽霊が凍りつきそうな視線で悪霊を睨みつける。

そして…

 

『自縛霊・ブリッジッ!』

 

肩の上に抱え込みギリギリと背骨を逆方向へと押し曲げていく。

 

『ぎゃあああああーーーーっ!』

 

放り投げられ解放されたかと思ったのもつかの間。

 

『次は俺だ』

 

別の幽霊に両腕を掴まれ、ふとももの所を両足で固定され、そのまま両腕をひねり上げられる。

 

『自縛霊・スペシャル!』

『があああああーーーーっ!』

 

『次は私に任せてもらおう』

 

老紳士の霊、彼の名は鷲五郎。孫の守護霊をしていたが余りの孫の粗忽さに愛想を尽かし今では自称唯緒の守護霊として彼女を影ながら護っている。

 

愛用のステッキを中段に構え、悪霊に向け一歩を踏み出す。

悪霊は見た。その刹那、ステッキが九本に分かたれたのを。

 

『九守護霊・龍閃』

 

剣術の基本である九つの斬撃が全てが一瞬にして悪霊を襲う。

 

『ぎゃあああーーーっ!』

 

『お次は私だ』

 

石神は悪霊を上空に放り投げるとマッスルな星の王家に伝わる三大奥義の一つを繰り出す。

 

『土地神・スパーク!』

『ぐぎゃあああーーーーっ!』

 

悪霊は何が何だか分からなかった。

自分は力を得ていたはずだ。少なくともそこら辺に居る浮幽霊如きでは自分に触れる事すら出来ない筈なのに。

だが実際には触れるどころかもはや逆に滅ぼされる寸前である。

 

そう、悪霊は知らなかった。助けられてばかりで助ける事が出来なかった彼女の前世、忠夫の為にも彼の生まれ変わりである唯緒を護ろうと街の住人だけでなく幽霊達も彼女を護っている事を。

 

其処に騒ぎを聞きつけたのか唯緒がやって来た。

 

「みんな、なにやってゆの?」

 

唯緒は可愛らしく小首を傾げながら聞いて来る。

彼女にとって彼等は自分と仲良くしてくれる友達であって、幽霊だからと言って怖がったりする事は無かった。

 

そんな唯緒を見て、幽霊達は途端にデレデレになる。

何の事は無い。前世がどうのこうのではなく、彼等はただ単に唯緒に萌え萌えなだけの様だ。

 

『何でもないよ。皆でプロレスごっこをしてたんだ』

「そうなんだ。唯緒はねぇ、はじめてのおつかいなんだよ♪」

『そうか~~、唯緒ちゃんはえらいんだねぇ~~』

 

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ

 

皆は顔を綻ばせながら拍手をし、悪霊も何故かつられて拍手していた。

 

「えへへ~~」

 

唯緒は照れながら後ろ頭を掻くのであった。

 

『さ、急がないと。お母さんに怒られるよ』

「うん、いってくゆね。ばいば~い」

 

唯緒はその小さな手を振ると、可愛らしい足音を鳴らして走り去っていく。

 

てぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽ

 

『ばいば~い』

 

幽霊達はデレデレの表情で手を振っていたが彼女が見えなくなると途端に冷たい表情になり、

 

『さてと、そろそろ終わりにするか』

 

そう言いながら巨漢の幽霊が悪霊を掴むと、遥か上空へと放り投げる。

 

『浮幽霊・スカウティング・ボンバー!』

 

『うわああああーーーーーーっ!』

 

『さあ、ジェームズ伝次郎。止めだよ』

『OK、レッツ・ミュージック!』

 

伝次郎はマイクを取ると、その歌声(ソリタリー・ウェーブ)を悪霊に叩きつける。

 

『ガ○ガ、ガン○、 ~略~ ○ガガ、ガーオ○ーイー○ー』

 

『ぐわあああああああああっ!』

 

悪霊の体は徐々にひび割れて行き、最後には

 

『ガー○ガー○ーガァーー!』

 

巨大な金色のロボットの幻影が現れ、巨大なハンマーを振り下ろして来た。

 

『嫌ァーーーーーーーッ!』

 

そして、悪霊はそのまま光になって消え去った。

 

『ちっくしょおおぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーっ!』

 

『イエーーーイッ、サイコォーーーだッズェ!』

『『『イエーーーーーーーーイッ!』』』

 

そう、百合子が安心して唯緒を送り出したのは彼等が唯緒を護っているからなのだ。

彼等の萌えパワーは上級神魔族にも匹敵する。

 

『これが勝利の鍵だ!』

 

 

 

―◇◆◇―

 

そして唯緒はようやく目的地の肉屋にたどり着き、店の中に入るとすぐに店の主人が出て来た。

 

「こんにちわーー、おつかいにきたよ」

「いらっしゃい、唯緒ちゃん。何が欲しいのかな?」

「あのね~、とりさん!!」

「ん~、ここはお肉屋さんでペット屋さんじゃないんだよ。鳥さんはいないかな~」

 

ちゃんと鶏肉を買いに来たという事は分かっているが少し意地悪気味に言ってみる。

すると案の定唯緒は少し困った顔になる。

 

「あのね、ちがうの。とりさんをかいにきたんじゃなくてね、え~と、え~と……そうだ、とりのおにくさん!!」

「そっか~、鶏肉だね。じゃあ、鶏肉をいくつ欲しいのかな?」

「え、いくちゅ?……え~と、ん~と。あ、そうだ!おかあさんにめもをかいてもらったんだった」

 

そう言うとポシェットからメモを取り出し内容を確認する。

 

「え~とね、しゃんまるまるこ」

 

そう言いながら小さな手で三本指を立てると笑顔で突き出し千円札を差し出す。

 

「鶏肉を300gだね。よく言えました」

「唯緒、えやい?」

「うん、偉い偉い」

 

そう、肉屋の親父は笑顔で唯緒の頭を撫でてやり、鶏肉の入った袋を持たせお釣りをポシェットに入れてやる。

 

「えへへ、じゃあしゃよなや」

 

笑顔で手を振りながら唯緒は店を出て行き、扉が閉まると親父は店の奥に隠れていた妻に声をかける。

 

「首尾はどうだ?」

「勿論、完璧だよ」

 

店の奥から出て来た妻のその手にはビデオカメラが握られており、さっそくその映像を確認すると二人の鼻からは赤い液体が零れて来た。

 

「ああ~~、唯緒たん。何て可愛いんだい」

「さあ、何時までも萌えている場合じゃない。さっそくダビングして百合子さんに渡さなきゃ。そうすれば見返りに唯緒たんのお昼寝の姿を録画したDVDが貰える事になってるんだからね。急ぐんだよ、アンタ」

「合点だ!」

 

何と言う事でしょう!百合子は家での唯緒の映像のDVDを取引に使い、各方面での色々な唯緒の映像を手に入れていたのです。

もっとも、公開できない(する気もない)秘蔵映像もあるのだが。(例えて言うならおねしょをして涙ぐんでいる唯緒の映像とか)

 

 

 

てぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽ

 

唯緒が家に向かって歩いていると公園の中に見知った人物を見つけた。

 

「あっ、タマモおねえちゃ~~ん!!」

「あら、唯緒じゃない。どうしたの、一人?」

 

九尾の狐の転生体タマモ。彼女も唯緒の前世である横島忠夫に想いを寄せていた一人であり当然、生まれ変わりである唯緒の事も可愛くて仕方がない。

 

てぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽ

 

「わ~~い♪」

 

ぽふっ

 

唯緒はタマモに駆け寄るとその足に抱きつく。

 

「ぐふっ!」

 

タマモは自分の足に抱きつき、頬をスリスリと擦りつけて来る唯緒に精神的な大ダメージを受ける。

 

「た、唯緒……?」

「タマモおねえちゃん、だっこ♪」

 

唯緒は満面の笑みで両手を差し出し抱っこをせがむ。

 

「ざぐれろっ!」

 

かいしんのいちげき、タマモに一億のダメージ。

もう止めて、私のライフはもうゼロよ。でも止めないで。

 

唯緒は両親以外ではタマモに一番懐いている。

もっともその理由は赤ん坊時代に彼女のナインテールをおもちゃ代わりにしていた為という事はタマモの為に内緒にしておこう。

 

「タマモおねえちゃん、どうしたの?」

「な、何でもないわよ。そうか、抱っこだったわね」

 

何とか“川岸”から還って来たタマモはゆっくりと唯緒を抱き抱える。

 

「それより今日はどうしたの、百合子さんは一緒じゃないの?」

「きょうはね唯緒、はじめてのおつかいなの。だからおかあさんはおうちでおるすばんなんだよ」

「そう、ちゃんとお使いが出来たんだね。じゃあご褒美にお姉ちゃんがアイスを御馳走してあげる」

「え、ほんと♪あ、でもみちくさたべたらおかあさんにおこられちゃう」

「大丈夫よ、ちゃんと百合子さんにはお姉ちゃんが言ってあげるから」

「わーーーいっ♪」

 

それから唯緒はタマモの膝に座ってソフトクリームを舐め、タマモは鼻歌を歌いながら唯緒の長い髪を自分と同じナインテールにまとめていく。

 

そんな二人をシロは草むらに隠れ、血の涙を流しながら撮影していた。

 

「くうう~~、あの時グーさえ出さなければ……」

 

実はこれも百合子の依頼、百合子は唯緒の撮影を二人にも頼んでいてその為、どちらが遊び相手になってどちらが撮影係になるかをジャンケンで決め、勝ったのがタマモだったのだ。

 

「おいしかった、タマモおねえちゃんありがとう♪」

 

アイスを食べ終えた唯緒はタマモに向き直りニッコリと笑顔を浮かべる。

 

「どういたしまして。さ、早く帰らないと百合子さんが心配するわよ」

「うん、じゃあ唯緒かえゆね」

 

そう言い、ベンチの上に立つとタマモの頬を両手で掴みタマモが何かを言う前にその唇に自分の唇を重ねる。

 

「ちゅう」

「!!!!!!!!」

「……えへへ、しゃよなやのちゅうだよ。じゃあ、タマモおねえちゃんまたね。ばいば~~い」

 

てぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽ

 

唯緒はベンチから飛び降りるとタマモに別れを告げて可愛い足音を鳴らして走り去って行く。

 

そんな中……

 

「こんのぉ~~女狐ぇ~~~っ!よくも先生の可憐な唇を奪いおったなぁーーーーーーっ!」

 

我慢の限界を超えたシロは隠れていた草むらから飛び出し、号泣しながらタマモに詰め寄って行く。

 

彼女だけは何故か先生という呼び方を変えようとはしなかった、彼女曰く『先生はたとえ生まれ変わっても先生に変わりはござらん。将来、拙者が霊波刀の師匠になったとしてもこの呼び方だけは変えるつもりはないでござるよ』との事だ。

 

「聞いておるのかタマモ!何とか言ったら………、タマモ?」

 

肩をゆすっても反応が無いのでシロはタマモの顔を覗き込んで見る。すると……

 

「…タ、タマモ……。お、お主は……そうであったのか」

 

タマモは何処かのボクサーの様に真っ白に萌え尽きて逝た。(誤字にあらず)

 

「タマモ、おぬしは…おぬしは漢であったよ…さらばでござる!!」

 

シロはそう言いながら滝の様な涙を流し萌え尽きて逝るタマモに敬礼をした。

そんな時、何処からともなくゴングの音が聞こえて来たそうな……

 

カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン……

 

 

 

―◇◆◇―

 

てぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽ

 

ふさふさふさふさふさふさふさふさふさふさふさふさふさ

 

 

唯緒が走るとその足音と同時にタマモに結わえられた黒髪のナインテールが揺れる。

 

「ぐはあっ」

「な、なんという破壊力」

「ハアハア、唯緒タン」

「いかん、コイツは危険だ。早く連れて逝け!」

 

そんな風に唯緒が家に向かって走っていると、ある一組の親娘が唯緒に話しかけて来た。

 

「あら、唯緒ちゃんじゃない。どうしたの?」

「にーにー♪わーい、にーにだ♪」

 

唯緒をにーにと呼びながら走り寄って来るこの少女は「美神ひのめ」。

美神美智恵の娘で唯緒より三カ月ほど年上である。(そう言う事にしといてください)

 

彼女は赤ん坊の時、忠夫が唯緒として生まれ変わって来た時、最初にそれに気付いた人物であり成長した今も唯緒の事をにーにと呼び続けている。

 

「あ、美智恵おばちゃんとひのちゃんだ」

「にーに、ひのとあそぼ♪」

「う~ん、いまはダメだよ。唯緒はおつかいのとちゅうだからはやくかえやないといけないの」

「やーー!ひの、にーにとあそぶの!」

 

「こらひのめ、我儘言ったら唯緒ちゃんが困るでしょ」

 

「やーー、やだーー!」

「じゃあ、ひのちゃんもうちにおいでよ。そしたらいっしょにあしょべゆよ」

「わーーい。ひの、にーにといっしょにいく」

「いいの、唯緒ちゃん?」

「うん、唯緒もひのちゃんとあしょびたいもん」

「にーに、はやくいこ♪」

「うん♪」

 

そうして二人は手を繋いで走って行く。

 

てぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽてぽ×2

 

「まったくひのめったら、唯緒ちゃんと仲がいいのは嬉しいんだけど……あの娘、まともな恋愛できるのかしら?」

 

美智恵のその心配は将来さらに深刻な物になるのであった。

 

そうして唯緒は無事に家まで帰りついた。

 

「ただいま~~」

「こんにちは~~」

 

「おかえりなさい、唯緒。あら、ひのめちゃんいらっしゃい」

「こんにちは、おばちゃん」

「おかあさんただいまっ!はい、とりのおにくさんかってきたよ」

「よく買って来てくれたわね。唯緒はお利口さんでいい子よ」

 

にこにこ笑いながら唯緒は買って来た鶏肉を百合子に渡し、百合子は唯緒を抱きしめて頬ずりをする。

 

「きゃあ~~、くすぐったいよおかあさん♪」

「にーに、はやくあそぼ」

「うん!おかあさん唯緒、ひのちゃんとあしょぶね」

「あ、分かったわ。ひのめちゃん、ゆっくりして行きなさいね」

「は~~い」

 

そうして二人は唯緒の部屋へと行き、暫くするときゃっきゃっと楽しそうな笑い声が聞こえて来た。

 

「こんにちは、百合子さん。ひのめがお邪魔してます」

「あらいらっしゃい美智恵さん。かまいませんよ、唯緒もひのめちゃんが来てくれて喜んでますし」

 

その後、帰って来た大樹と一緒にひのめと美智恵も横島家で夕食を食べ、ひのめはどうやら今夜は泊って行く事にしたようだ。

 

「ふう~~、満腹だ。唯緒が勝って来てくれた鶏肉はとっても美味しかったぞ」

「えへへ~~、おしょまちゅしゃまでした」

「ぐっ……ううう…ああーーっ、唯緒は本当に可愛いなぁ~~~!」

「や~~!おとうさん、おひげがいたいよ」

 

大樹は涙を吹き飛ばしながら唯緒を抱きしめて頬ずりをするが唯緒は頬に擦れる髭を痛がり、そして当然……

 

「何やっとるんじゃーーーっ!唯緒が痛がっとるやないか、この宿六が!」

「ぐぎゃああああーーーーーーーーーっ!」

 

モザイク処理が必要な物体になり下がったのであった。

 

「さ、あんなのは放っておいて二人でお風呂に入ってらっしゃい」

「「は~~い」」

 

「娘とのお風呂は父親の永遠の夢!」

「朝まで逝っとれ!」

「ぬあーーーーっ!」

 

 

かいしんのいちげき

タイジュをやっつけた(笑)

 

 

 

 

「すうすう…にーに♪…すうすう」

「くうくう…むにゃ…えへへ」

 

そしてひのめと唯緒は一つの布団の中で寄り添うように眠りについていた。

 

「まったく、ひのめったら。夢の中まで」

「ふふふ、唯緒はどんな夢を見てるのかしら」

 

娘達の穏やかな寝顔を見ながら母親達の顔もまた穏やかだった。

そんな唯緒の見る夢は………

 

 

―◇◆◇―

 

『おにいちゃ~~ん』

『お、来たな唯緒』

 

夕焼けに映える草原に横島忠夫は立っていて、走り寄り飛びついて来る唯緒を優しく抱きとめる。

 

『おにいちゃん!きょう唯緒ね、はじめてのおつかいがんばったんだよ』

『そっか~~、唯緒は偉いな』

『えへへ、おにいちゃんだいすき。もっとなでなでして』

 

唯緒は兄、忠夫に頭を撫でられながら忠夫の胸にじゃれ付いている。

 

何故此処に二人がいるのか?それは最高指導者達によって逆行転生した際に男ではなく女として転生した為かその体にはもう一つの意識が生まれていた。

その為、横島は新しい体をその意識に譲り、自分は守護霊といった立場で唯緒の意識下に引っ込んでいる事にしたのだ。

だから唯緒が眠りについた時などには、こうして意識下で会い、話し合う事などが出来るのであった。

 

『しょしてね、タマモおねえちゃんにアイスをごちそうしてもらってひのちゃんとあしょんでおふろもいっしょにはいったんだよ』

『良かったな、唯緒』

『うん♪』

 

膝の上に抱いた唯緒と遊びながら横島は彼女の事を考えていた。

 

《ルシオラの魂は何故か唯緒の方に入ってしまってるからな。唯緒も将来は人外の力を得るかもしれん、例えそんな事になったとしても俺が必ず護ってやるからな!!……しかし、可愛く成長した唯緒に悪い虫が着くと思うと……、許さん!! 唯緒と付き合うにはまず俺に勝ってからでないとな。フフフフフ》

 

何気に横島もシスコンの兄バカになっている様だ。

膝の上で無邪気に笑う唯緒を見て横島はただ、彼女の穏やかな幸せだけを願っていた。

 

《俺の、いや俺達の分まで幸せにならなくちゃな。なあ、唯緒》

 

 

~fin~

 

 

 




(`・ω・)という訳でとりあえずの終わり。
唯緒と忠夫は同一の存在であると同時に兄妹でもあるという設定です。
ですからネタバレな事を言うと唯緒が影法師(シャドウ)を出したとしたら横島が出て来るという裏設定もあったりします。

ではこの辺で。(^o^)ノシ


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「迷子の迷子の唯緒たん」

(`・ω・)リハビリ作品になります。
暇つぶしにでもなれば幸いです。




「え~~ん、え~~ん、うえぇ~~~ん」

 

 道の真ん中で泣いている幼い3才の女の子、彼女の名は横島唯緒。

 家族で旅行に来た際に、両親とはぐれて迷子になってしまったらしい。

 

 

「え~~ん、え~~ん、おかあさぁ~~ん。うえぇ~~ん」

「あらあら、お穣ちゃんどうしたの?」

「ふえ?」

 

 一人になった不安から泣いていた唯緒の前に一人の女性が腰を屈めて目線を唯緒と同じ高さにしながら問いかける。

 

「ほら、泣いてちゃ可愛いお顔が台無しよ。ほら、ちーーん」

「う、うん。ち~~ん」

 

 女性は唯緒の涙を拭き、ハンカチで鼻をかませる。

 

「で、お穣ちゃんのお名前は何て言うの?」

「あ、あのね、唯緒のなまえは横島唯緒(よこちまただお)でしゅ」

「そう、唯緒ちゃんって言うの。良いお名前ね」

「あ…えへへ」

 

 名前を誉められながら頭を撫でられた唯緒は照れくさそうに笑った。

 

「あのね、おねえちゃんのおなまえはなあに?」

「お、お姉ちゃん……」

 

 お姉ちゃんと呼ばれた女性はワナワナと震えながら目を伏せる。

 唯緒はそんな女性の顔を小首を傾げながら覗き込もうとする。

 すると……

 

「おねえちゃん?」

「あああ~~~っ!なんっっって可愛いのぉ~~~~っ!!」

「わぷっ」

「”お姉ちゃん”の名前は桃子、高町桃子よ~~~っ」

 

 桃子は唯緒を抱き抱え、頬擦りしながらぐるぐる回る。

 

「可愛いぃ~~♪可愛いぃ~~♪」

「あわわ~~!おめめがまわるよ~~」

 

「かーさん、何の騒ぎだ?」

 

 そう言いながら一人の青年が店の扉を開いて出て来る。

 手伝いをしていたのだろう、黒いシャツにエプロンが似合っていた。

 

「はっ!わ、私とした事が。大丈夫、お穣ちゃん?」

「はわわぁ~~~」

 

 呼び止められた事で桃子は漸く動きを止めるが、唯緒は彼女の腕の中ですっかり目を回していた。

 

「その子は?」

「あっ、そうだったわ。恭也、この子は迷子らしいの。家族が探しているだろうから探し出して連れて来てくれない」

「いいけどその娘の名前は?」

「そうね、よこちまただおって言ってたから苗字は横島でいいはずよ」

「了解。向こうも探しているんなら直ぐに見つかるだろう」

「お願いね。私は店で面倒を見ているから」

 

 エプロンを桃子に預けると恭也と呼ばれた青年は駆け出して行き、桃子は目を回している唯緒を抱き抱えたまま喫茶翠屋に入って行く。

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

「あわわ~、まだおめめがぐるんぐるんしてるよ~~」

「ごめんね、唯緒ちゃん」

「ううん。もうだいじょうぶだよ、おねえちゃん」

 

にぱぁっ♪

 

ドキューーンッ!

 

「ざくっ!!」

 

 桃子は唯緒のその笑顔に胸を打ち抜かれた。

 胸を押さえて蹲る桃子の肩を近くに居た男性が心配そうに抱える。

 

「はあ、はあ、はあ。な、何っっって破壊力」

「大丈夫か、桃子?」

「き、気をつけてねあなた。唯緒たんの笑顔、まさに最終兵器よ」

「たん?ま、まあいいか。唯緒ちゃんはシュークリームは好きかい?」

「だいすきーーっ♪」

「そうか。じゃあはい、食べていいよ」

 

 桃子の夫、士郎はそう言って唯緒の前にシュークリームを乗せた皿を置く。

 

「わあ。ありがとう、おじちゃん♪」

 

にぱあっ♪

 

ビギューーンッ!

 

「ぐふっ!!」

 

 かいしんのいちげき。

 こうかはばつぐんだ。

 

「だから言ったのに」

「ま、まさかこれ程とは…」

 

 

 

―◇◆◇―

 

「ああ~、唯緒はやっぱり可愛いわねぇ~~」

 

そんな唯緒の姿を電信柱の影からビデオ撮影している女性の姿があった。

誰あろう、彼女の母親、横島百合子であった。

つまりは迷子の件も唯緒の姿を撮影する為の正に《計画通り》なのであった。

 

「ちょっとアンタ、其処で何を…ぐっ!」

 

唯緒の親を探すのに彼女の写真を撮っておこうと戻って来た恭也だったが、電柱の影から店の中を覗き込んでいた女性、百合子の姿を見つけて話し掛けようとしたが突然後ろから首筋に手刀を当てられてしまい、その意識は容易く刈り取られてしまった。

ちなみにその相手は百合子の夫にして唯緒の父、大樹である。

 

(ば、馬鹿な。この俺が気配も感じずにこんなにあっけな…く)

 

バタリ

 

「誰だ、コイツは?」

「さあ?それよりもあなた。ほら、見て」

「ああ、可愛いなぁ~~、俺達の唯緒は」

 

もう、色々と駄目だ。この両親は。

ちなみに恭也はというと、邪魔にならない様にとダンボールに仕舞われて道の片隅に置かれている。

当然、仕舞われたのはニヤリと嗤うロゴマークがイカす、《konozama》のダンボールである。

 

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

もぐもぐ

 

カランカラーン

 

唯緒がシュークリームを美味しそうに食べていると、其処に一人の女性が入って来た。

 

「ただいま、お母さん」

「お帰り、美由希」

「あれ?お父さん、この子は誰?」

「迷子の女の子で名前は唯緒たん。今、恭也に家族を探しに行ってもらってる所だ」

「…たん?そ、そうなんだ。こんにちは、唯緒ちゃん。私の名前は高町美由希だよ」

「こんにちは、横島唯緒(よこちまただお)でしゅ」

「あれ。唯緒ちゃん、ほっぺにクリームがついてるよ」

 

美由希はごく自然に唯緒の頬についていたクリームをティッシュで拭う。

 

「ま、待ちなさい美由希!唯緒たんの顔を…」

「顔?」

 

見ちゃ駄目と言われる前に美由希は唯緒の輝く様な笑顔を見てしまう。

 

「ありがとう、みゆきおねえちゃん」

 

にぱあっ♪

 

ズキューーンッ!

 

「どむっ!」

 

美由希は叫びながら胸を押さえ、仰け反るように倒れて行く。

 

「…遅かったか」

 

 

 

 

カランカラーン

 

「お母さん、ただいまーー!」

「あら、お帰りなさい。なのは」

 

元気良く駆け込んで来たのは桃子の娘、高町なのはである。

その肩には白いフェレットが乗っていた。

 

「あれ?お姉ちゃん、その娘だあれ?」

 

なのはは、美由希の膝に乗ってショートケーキを食べている唯緒を見てそう尋ねた。

 

「ん、この娘?この娘は唯緒たんだよ。可愛いでしょ」

「…たん?わあ~~ほんとだ、可愛いね。始めまして唯緒ちゃん、なのはだよ」

「はじめまして、なのはおねえちゃん。横島唯緒(よこちまただお)でしゅ」

 

ぺこり

 

「まだちっちゃいのに、ちゃんとご挨拶出来るんだ。偉いね」

「うん。唯緒、えやいの。えっへん!」

 

唯緒は胸を張りながら”あの笑顔”を炸裂させる。

 

にぱあっ♪

 

バキューーンッ!

 

「ぎゃんっ!」

 

その笑顔の破壊力にはさすがのなのはも全力で全壊だ。

 

《な、なのはぁーーーーっ!》

 

崩れ落ちるなのはにユーノは彼女の名前を叫ぶ、勿論喋る訳にはいかないので念話である。

 

そしてゆらりと立ち上がったなのはは夢遊病患者の様に調理場に行くとパフェを持って帰って来て、唯緒と同じテーブルに付く。

 

「は~~い、唯緒たん。パフェをどうぞ、なのはの奢りだよ」

「わあ~~い♪」

 

なのはは満面の笑みでスプーンで掬ったパフェを唯緒に差し出す。

 

「あ~~ん」

「ありがとう、なのはおねえちゃん。あ~~ん、ぱくっ」

 

パフェを口に含んだ唯緒はほっぺが落ちない様にと両手で掴み、足をパタパタと揺らす。

 

「おいし~~い。唯緒、しあわせだよ」

「や~~ん、唯緒たん可愛い~~♪」

《なのは…、!こ、これは》

 

唯緒にデレデレのなのはを溜め息まじりで眺めているたユーノ、その時ジュエルシードが動き出した波動を感じた。

 

《なのは、ジュエルシードが動き出した!早く行かないと》

「は~い唯緒たん、あ~ん」

「あ~ん、ぱくっ。おいし~~い♪」

 

なのはに念話で事態を知らせるユーノだが、なのはは我関せずと唯緒にパフェを食べさせている。

 

《なのは!急がないとジュエルシードが…》

《もう、ユーノくんは五月蝿いの!あんなのフェイトちゃんに任せとけばいいの。なのはは唯緒たんを愛でるのに忙しいの!》

《あ、あんなのって…なのはぁ~~》

 

ユーノがなのはのあんまりな言い方に呆然としていると唯緒がユーノの前にスプーンでパフェを差し出して来た。

 

「はい、オコジョさん。おいしいよ」

《え?い、いや、僕はオコジョじゃないよ。それにそんなモノ食べてる暇は》

 

一刻も早くジュエルシードを取りに行きたいユーノは首を振って拒否をするが唯緒は構わずに食べてくれとスプーンを差し出す。

 

「ダメ、オコジョさんたべて」

《もう、ユーノくん!唯緒たんが食べてって言ってるでしょ!》

《で、でも、ジュエルシードが、早くしないと!それに僕はオコジョじゃないし…》

「オコジョさん…、唯緒のぱふぇ、たべてくえないの?ぐすっ…」

「あーーーっ!ユーノくんが唯緒たん泣かせたーーー!」

「ユーノ、てめぇ…」

「唯緒たんを泣かすなんて悪い子ね…」

「今夜のおかずはから揚げかしら?何が材料かとは言わないけれど…」

 

高町一家から発せられる殺気に逆らえる訳も無く、ユーノはしぶしぶ唯緒の差し出すパフェを食べるしかなかった。

 

《あ~~ん、ぱくっ。もぐもぐ》

「わあっ♪オコジョさん、おいしい?」

《う、うん。美味しいよ》

「えへへ、よかったね」

 

念話は通じない筈なのに何故か会話は成立し、そして唯緒の『あの笑顔』が炸裂する。

 

にぱあっ♪

 

ドゴーーンッ!!

 

《ぎゃんぎゃぎゃーーーんっ!》

 

唯緒の満面の笑みを受けたユーノは車田的に吹き飛び、クルクルと車田的に回転しながら車田的に頭から落ちる。

 

《ユ、ユーノくん、大丈夫?》

 

なのはは流石に心配したのかおずおずと問い掛けると、ユーノはゆっくりと起き上がる。

 

《なのは…》

《何、ユーノくん?》

《僕が間違っていたよ。唯緒たんのこの笑顔の為ならジュエルシードなんかどうでもいいよね》

《さっすがユーノくん。きっと解ってくれると信じてたの》

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

 

百合子と大樹の二人は、娘の可愛い映像を撮れた事に満足したのか唯緒を迎えに行く為に店の中へと入って行く。

 

カランカラーン

 

「あ、いらっしゃ「おかあさーーーん!」…え?」

「おがあじゃーーん、うええ~~~~ん!」

「ああ、唯緒ごめんね。寂しかったわよね」

「びええ~~~~ん!」

 

店の中に入って来た百合子を見た唯緒は涙腺を崩壊させ、その胸の中に飛び込んだ。

ちなみに大樹は百合子より先に店の中に入り、愛娘が抱き付いて来てくれるのを期待して両手を広げて待っていたのだが、唯緒はそれをスルーして百合子に抱き付いた。

 

「ばかぁ~~!唯緒、さみしかったのに~~!ひとりぼっち、こわかったのにぃ~~!うええ~~~ん」

「もう大丈夫よ、お母さんはもう何処にも行かないからね」

 

そんな感動の?再会を果たした母と娘の会話を背中で聞きながら両手を広げたままの格好で固まり、頬に一筋二筋と涙を流す大樹の肩に士郎は優しく手をかける。

同じ父親として何かを感じ取ったらしい。

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「すみません、私共の不手際でご迷惑をお掛けしました」

「いえ、いいんですよ。娘さんは良い子でしたから。良かったわね唯緒た…ちゃん、お母さんに会えて」

「うん!ありがとう、ももこまま」

 

にぱぁ

 

「じおんぐ!」

 

お世話になったからと”おばちゃん”ではなく”ももこまま”と呼ぶ唯緒の笑顔に再び陥落する桃子。

ちなみにこれは心の深層に居る横島からの助言だったりする。

まあ、士郎はおじちゃんのままだが。

 

「じゃあ、これ以上ご迷惑をお掛けするのも何ですのでおいとまさせてもらいましょうか」

「え~~、唯緒た…ちゃん帰っちゃうの?」

「なのは、我侭言っちゃだめよ。唯緒た…ちゃん達にも予定があるんだろうし」

「ぶ~、おねえちゃんだって唯緒た…ちゃんともっと一緒に居たいくせに」

 

そんな二人を呆れ顔で見ながらも、気持ちは分かると桃子は百合子に提案を持ちかける。

 

「二人共…、どうでしょう、今日の所は夕飯を一緒にという事に」

「宜しいんでしょうか?かえってご迷惑になるのでは」

「いいえ、むしろ娘達は喜びます。何しろ唯緒た…ちゃんとすっかり仲良くなったもので」

「おかあさん。唯緒、なのはおねえちゃんたちとごはんたべたい!」

「分かったわ。じゃあ桃子さん、お願いできますか」

「ええ、勿論」

 

今回の迷子騒動は娘の秘蔵映像を撮る為の物だったので遠慮しようとしたのだが、キラキラお目々でおねだりをする唯緒に百合子は折れる。

 

「わーーい」

「良かったね、お姉ちゃん」

「そうね、なのは」

「ミユキおねえちゃん、なのはおねえちゃん、あそぼ!」

「「やーーん!唯緒たん、可愛いーー♪」」

 

百合子と桃子が料理をしている間、子供達は仲睦まじく遊び、何かを感じあった父親コンビは肩を組み合って語り合っていたらしい。

 

そして二つの家族が美味しい料理に舌鼓を打っていた頃、すっかりと忘れ去られていた長男は何処かのメイドにダンボールごとお持ち帰りされ、屋敷の主人に美味しく頂かれたとさ。

 

~終われ~

 




(`・ω・)唯緒たんシリーズ三作目でした。
書き始めたは良いものの、途中でエタってしまいおよそ4年7ヶ月目にして漸く完成です。まあ、無理やり終わらせた感がありますが。


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「横島くんのメイドで行ってみよう!」

(`・ω・)脳がぶっ壊れていた時に書いた話で何気に一番のお気に入り。


 

「全く、アンタはとんでもないドジをかましてくれたわね!!」

「す、すんませ~~ん」

 

ある日、美神除霊事務所の面々はとある企業からの除霊依頼を受けていた。

そして横島のちょっとしたミスから危うく悪霊を逃がす所だったのである。

 

「罰として今後半年間給料無し!」

「そんな殺生なーーっ!」

「み、美神さん。それはいくら何でも」

「と、言いたい所なんだけど其処までするとママがうるさいから勘弁してあげる」

「た、助かったぁ~~」

「良かったですね、横島さん」

 

安堵の表情を浮かべる横島であったが、美神の目には怪しい光が灯っていた。

 

「安心するのはまだ早いわよ。横島クンには”こんな事もあろうかと”用意していたコレを着てもらうわ」

 

そう叫びながら美神が荷物から取り出したのは………、

一着の『メイド服』であった。

 

「み、美神さん?……」

おキヌが目を丸くしていると。

 

「み、美神さん……、アンタは一体どんな”こんな事”を想定していたんじゃーーーーーっ!」

 

 

     ―◇◆◇―

 

そして数日後……

 

「やあ、令子ちゃん。横島君がまたミスをしたんだって?」

オカルトGメンの西条は喜々とした表情で事務所に入って来た。

 

「そうなのよ、幸いに除霊はうまくいったけど危うく除霊失敗で違約金を支払うはめになる所だったのよ」

「全くしょうがないなあ横島君は」

 

そう言いながらも西条の顔は清々しいまでの笑顔に包まれている。よほどライバルである横島の失敗が嬉しい様だ。

 

「ところでその横島君は?」

「今、罰を与えている所よ。何をしてるの!お客様よ、早くお茶を持って来なさい、横島ちゃん」

「……ちゃん?」

 

そう呼ばれて、台所から現れたのは膝裏までもある長く艶やかな黒髪を真っ赤なリボンでツインテールに纏め、あろう事かメイド服にその身を包んだ美少女だった。

そう、文珠を使って女性の姿にさせられた横島だった。

どうやらこれが美神が横島に与えた罰らしい。

 

「いらっしゃ……何だ、西条か」

「な…な、な、な?よ、横島君なのかい?」

「こらっ!お客さまに対して何よその態度は。ちゃんと教えた通りにやりなさい!」

「で、でも美神さん。いくら何でも西条相手に…」

「一週間、罰を延長しましょうか?」

「わかりました……」

 

横島の顔は悔しさと恥ずかしさで真っ赤だった。

西条は西条で何が何やらと混乱していたが目の前の美少女から目が離せないでいた。

おキヌやシロタマもそんな西条を見て「あはは」と笑う事しか出来なかった。

 

「い、い、いらっしゃいm」

「違うでしょ、はい、もう一度」

「うう~~っ」

 

美神はパンパンと手を打ってダメ出しをする。

横島は俯き、目尻に涙を浮かべながら更に顔を赤くする。

 

「お、お帰りなさいませ…ご、ご主人様…」

「………………ごぼはぁっ!」

 

その、男心を刺激しまくる仕草を直視した西条は大量の鼻血を噴き出してぶっ倒れた。

 

「ああっ、西条さん!」

「やっぱり、ヨコシマのアレは破壊力が有り過ぎるわね」

「拙者も初めて食らった時は一昼夜生死の境を彷徨ったでござるよ」

「ほーーーっほほほほほほほほ!横島ちゃんの正体を知っている西条さんでさえこの有様なんだから美神除霊事務所の看板娘としては申し分ないわ。さあ、稼ぐわよ!」

 

どうやら、罰と言うよりそれが目的だったらしい。

 

「うう~~。何でワイがこんな目に…」

 

 

それからというもの、美神除霊事務所は美神の作戦通りに大繁盛した。

美少女メイド事務員がいるという事で依頼者が殺到したのである。

美神に逆らえない横島は泣きながらもメイドとして対応せざる他なかった。

 

とは言え……

 

「ママに似ているーーー!」

と、飛びかかって来るマザコンや、

 

「う、美しい…」

と、首筋に牙を突き立てようとするバンパイアハーフや、

 

「やあ、今日も綺麗だね横島ちゃん」

と、花束片手にやってくるエセ紳士や、

 

「横っち、俺と一緒に芸能界に入らんか?」

と、アイドルとしてデビューさせてあわよくばスター同士の結婚を企む幼馴染や、

 

「お…うへへへへ、オンナーーーーー!」

と、野生に還る薄い影の虎などは遠慮なしに半殺しの目に合わせられていた。

 

(特に、女性陣の手によって)

 

 

     ―◇◆◇―

 

「ああ~、今日は疲れた。汗で体中ベトベトっすよ」

「そう?ならシャワー貸して上げるから浴びなさい」

「そうさせてもらうっす」

 

そうしてシャワー室へと消える横島の後姿を眺めていた四人は、足音を立てない様に近づいて行く。

 

(ドキドキでござるな)

(静かにしなさいよ、このバカ犬!)

(犬ではござらん!狼で…)

(二人共静かにしなさい!横島ちゃんにばれるでしょ)

(す、すまぬでござる)

(ごめんなさい)

(でもいいんですか?横島さんがシャワーを浴びている所を覗くなんて)

(別に構わないわよ、私は散々覗かれてるんだから偶には意趣返ししなくちゃ。気が咎めるんならおキヌちゃんは止めてもいいのよ)

(そんな~、仲間はずれはズルイです)

 

そう、小声で話しながら横島にばれない様にシャワー室の扉を開いて行く。

 

(さて、横島先生はと…)

(こらシロ!私を差し置いて先に覗くんじゃない!)

 

美神の言葉を無視してシャワー室を覗き込むシロだが、肝心の横島の裸を目にした瞬間。

 

(…ぐはっ!)

 

鼻から赤い液体を噴き出して倒れ付した。

 

(シ、シロちゃん、どうしたの?)

(め…女神でござる。拙者、もはやこの世に思い残す事は何も無いでござるよ、ぐふっ!)

(ち、ちょっと、しっかりしなさい。傷は浅いわよ、シロ!)

(み、美神さん…)

(上等よ、…どれ程の物か見てやろうじゃないっ!」

 

赤い液体を流しながら倒れているシロを横目に、美神は覗きなどという姑息な真似は止めて、立ち上がりながら扉を勢い良く開く。

 

バターーンッ!!

 

「な、何だ?…って、美神さんにおキヌちゃん?タマモにシロも何してるんじゃ!?」

 

そう言いながら横島はシャワーを止めて振り返る。

その黒髪に付いている水滴は宝石の様に煌き、そのボディーラインは非の打ち所の無い見事な造形であった。

 

「「はうあっ!」」

 

美神、そしてシロを抱き抱えていたタマモはあまりの光景に一瞬固まり、二つの穴から赤い液体を噴出しながら倒れて行く。

 

「ちょっと美神さん、どうしたんですか?タマモも大丈夫か?」

 

突然倒れた二人を心配した横島は裸のまま駆け寄る。

当然、二人から流れる赤い液体はその激しさを増していたりする。

 

「よ、横島さん、とにかく体をかく…し、て……」

 

比較的冷静だったおキヌは美神達の様に醜態を晒す事は無かったが、まじまじと横島の裸体を見ると「パキンッ」と石の様に固まってしまった。

 

その、”ボンッ、キュッ、ボンッ、”のパーフェクト・ボディを。

 

「おキヌちゃんもどうしたの?」

「へ~~~~ん、横島さんのバカ~~~~ッ!裏切り者~~~~っ!」

 

おキヌはそう泣き叫びながら走り去るのであった。

 

「裏切り者って、何が?」

 

 

     ―◇◆◇―

 

そんなある日……

 

『美神オーナー、お客様です』

「お客?仕事の依頼者なの」

『い、いえ。横島さんの…』

「俺の何だ?」

 

人工幽霊が返事をする前に部屋の扉が開く、横島は条件反射で挨拶を………してしまった。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 

ペコリ

 

『……お母様です』

「…………何をしてるんだい?……忠夫…」

 

自分の母親、横島百合子(グレートマザー)に。

 

「へ………お、お袋ーーーーー!?」

「た、忠夫……お前は、お前は……」

 

百合子はメイドの姿をしている横島の全身を見ながらワナワナと震えていた。

 

「せ、先生の御母堂でござるか?拙者は横島先生の一番弟子のシロと…」

「このバカ犬!今はそんな事を言ってる時じゃないでしょ」

「犬ではござらん!それに初対面での挨拶は弟子として当たり前の事でござるよ!」

「よ、横島さんのお母さん。こ、これには深い訳が…」

「わ、私は止めたんですよ。でも横島クンがどうしてもやりたいと」

「アンタって人はーーーー!」

 

事務所のメンバーが混乱に陥っていると百合子はゆっくりと近づいてきて横島の肩をがっしりと掴む。

 

「忠夫、お前は…」

「堪忍やーーー、おかーーーん!これにはチョモランマより深い訳がーーー!」

 

横島は母親のお仕置きの名を借りた死刑執行に怯えていたが、百合子の反応は横島達の考えの遥か彼方の斜め上を行っていた。

 

「お前って子はなんっって、親孝行なんだい!」

 

「…へ?……」

「私達は娘が欲しかったんだよ、そんな私達の為にわざわざ娘になってくれるなんて……ああ、私はお前を誇りに思うよ」

「あの~~、もしもし…お母様?」

「こうしちゃいられない、さあ忠夫!買い物に行くよ。女の子には色々と買いそろえなければならないのがあるからね!」

「ちょっと、落ち着いてくれよ母さん!俺は別に本当に女になった訳じゃ…」

「こらっ!女の子がそんな乱暴な言葉使いをしちゃ駄目じゃないか!!」

「話を聞いてくれーーー!」

 

美神達が口を挟む暇もなく、横島は百合子によって連れられて行った。

 

「み、みみみ、美神さは~~ん!横島さんが」

「はっ!あまりの事に動けなかったでござる」

「どうするのよ美神!?」

「どうするって…どうすればいいのよーーー!」

 

 

閑話休題(それからどうした)

 

(どうしたもこうしたも、何で俺がこんな目に?)

「さあ唯緒(ただお)、次はこのドレスを着てごらん」

「だからな、母さん!俺は別に本当に女になった訳じゃなくて…」

「私」

「だから、今は文珠で女の姿になってるだけで、俺はもうすぐ元に…」

「わ・た・し」

 

チャキッと首筋に柳刃包丁が当てられる。

 

「わ…だ、だからね、私はもうすぐ元の男に戻る予定なんだから」

「その事なら心配はいらないよ。ちゃんと考えがあるからね」

「な、何の?」

「だからお母さんに任せておきなさい。あっ、このミニスカートも似合いそうね」

「うう、ワイは一体d」

 

チャキッ

 

「…私は一体どうなるの~~?」

 

 

     ―◇◆◇―

 

村枝商事において。

 

「ケンちゃん、お久しぶりね」

「おおっ!横島君、どうしたんだい?」

「実はある事情があって日本で暮らしたくなったんで専務を何処かにやってうちの旦那を本社勤務に戻してくれない?私会社に復職するから」

「コラーー横島っ!何勝手な事を!」

「う~~む、そうだな」

「社長!何を悩んでるんですか、私は反対ですよ!」

「社長、丁度タンザニア支社総務部係長のポストに空きが」

「クロサキ、てめえーーーー!」

 

 

某・異空間。

 

「と、言う訳で唯緒を本当の女の子に出来ないかしら?」

『そうやな~、どうやキーやん?』

『幸い、今は文珠を使っていて女性の姿ですからね。因果律を歪めて女性のまま性別を固定する事はそう難しくありません』

『ならやるか?』

『やりましょう!』

「ありがとう、お二人なら解ってくださると思ってましたわ」

『ええ、解りますとも』

『おもろくなって来たで』

「ほほほほほほほほほほ」

『『ははははははははははは』』

 

「『『わーーっはははははははははははははは!』』」

 

三柱…もとい、一人と二柱が笑っている後ろで百合子の送り迎えを担当していたジークはそのプレッシャーに耐えきれず、立ったまま気絶していた……泡を吹きながら……。

 

 

     ―◇◆◇―

 

それから暫くの時が立ち、横島忠夫改め、横島唯緒は完全な女性体になっていた。

言葉使いなども百合子の手によって変えられていた。

そして横島はというと何時も通りに事務所でメイドをしていたのだが。

 

「何でこんな事になっちゃったのよーー!」

 

彼女は今、全力で逃げていた。

何からと言うと……

 

「横島さーーん!僕は雪之丞達と違ってフリ―です。僕が貴女にルシオラさんを産ませてあげます!」

「そんな直接的な表現はやめてーー!」

 

「待ちたまえピート君、君はまだ高校生だろ。ここは社会人である僕が」

「アンタだけは何があっても絶対に死んでもイヤッ!」

 

「横っちーー!俺はずっと以前からお前の事をーーー!」

「それはずっとホモだったって事じゃないーーー!」

 

「横島ーー!弓とは別れて来たぞ。俺がお前をママにしてやるーーー!」

「何を考えてるのよ、このド外道ーー!」

 

「横島サーーン!ワッシはーーー!」

「獣姦はいやーーー!」

 

男達に連日追いかけ回されていた。

その裏で美神達はと言うと、

 

「ふふふふふふ。横島ちゃん、安心しなさい。貴女は私が」

「そうはいきません。横島さんの相手は私が」

「先生は誰にも譲らぬでござるよ」

「ヨコシマは私の物よ。この九尾の名に賭けて」

 

そんな彼女達の手には【男】と文字を刻まれた文珠が握られていた。

 

「ルシオラーーー、助けてーーー!」

 

―――ヨコシマ、早く私を産んでネ♪――――

 

「ルシオラーーーー!」

 

その叫び声は夕陽の空に何処までも響いたといふ。

 

《終わってあげよう》

 

 




(`・ω・)ちゃんちゃん!


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「ござる軍団、来襲!」

(`・ω・)今回は少しややこしいでござるの巻。
全部の話を知らないと分かり辛いかな?


 

チュンチュン……

 

今日も朝が来た、さわやかな朝だ。

だが、俺はそんな気にはなれない。何故ならば……

 

「せんせ~~!」

 

シロの奴、今日も来やがった。

朝になると俺の都合などこれっぽっちも考えずにシロは俺を散歩に誘いに来る。

普通の散歩なら別にかまわない。だが、それが数十キロにも及ぶ全力疾走となると話は別だ。

寝たふりでやり過ごそうとしたがシロは扉をドンドン叩き、俺を起こそうとする。

解っていた事だが、諦める気は無い様だ。

 

「先生!さあ、散歩に出かけるでござる。新しい朝が来たでござるよ、希望の朝でござる」

「それでは散歩ではなく体操になってしまうでござるよ」

 

ん?……こ、この声は。

 

「お、お主は楓殿。一体、先生に何の用事でござるか!」

「勿論、忠夫殿に勝負を挑みに来たでござるよ」

「何を言ってるでござる!先生はこれから拙者と散歩に行くんでござるよ!」

 

あいつ等は……

 

今、部屋の外でシロと言い争っているのは長瀬楓。

麻帆良学園都市にある女子中等部の三年生だ。

仕事がらみで知り合った女の子だが、俺の闘い方に思う事があったのか、それ以来何度も勝負を挑まれている。

麻帆良学園女子中等部、あそこは正に地獄だった。

通っている娘は皆、ナイスバディだが中学生、中学生なのにナイスバディ。

手を出せばロリペド一直線なのだ、よく耐えた、偉いぞ俺。

 

特にあのルチ将軍!

木乃香ちゃんの爺ちゃんは俺を木乃香ちゃんの婿にしようと躍起になってたからな。

 

「此処に来たのは楓殿だけでござるか?刹那殿や古菲殿は?」

「皆には内緒で来たでござるよ、今頃悔しがっている頃でござるな」

 

ともかくこれ以上騒がれてはたまらない、後で文句を言われるのは俺なのだ。

 

「おい、お前らいい加減にしろよ。少しは俺と近所の迷惑を考えろ!」

「先生、お早うでござる!」

「ようやく目覚められたでござるか。さあ、さっそく勝負でござる!」

 

そう言いながら二人は扉を開いた俺の所に駆け寄って来る。

 

「まあまあ、二人共。忠夫殿の迷惑も少しは考えるでござるよ、ニンニン」

「……そう言うお前は此処で何をしとる……」

「朝の挨拶のついでにでぇとの誘いに来たでござるよ」

 

この何時の間にか部屋の中で逆さまにぶら下がっている娘は川端綾女、乙女学院の生徒だ。

 

乙女学院、それはデタントのテストケースとして創立された神族、魔族、妖怪、そして人間が集められた学校の事で何故か女子校だ。

 

そして今、何故か俺はその乙女学院に交換留学生として通わされていてこの綾女という忍者オタクの少女はクラスメイトの一人である。

中々の美女ぞろいだが創立にキーやんとサっちゃんが絡んでいる事、学院長がノストラダマスというあからさまに怪しいぢぢいなのでもし女生徒に手を出したらどうなるか分からないのでナンパは控えている。

つまり、あの学校も俺には地獄に等しい。

後、乙女学院には神界からモビィ・モ・ラールと言う奴と魔界からヤクト・ヤン・キーと言う奴も通っている。

この二人、何故か妙に俺と気があう。

 

「おのれ綾女!何時の間に先生の部屋の中に?」

「勿論、何時の間にやらでござるよ」

「油断のならない女でござるな」

 

何か嫌な予感がするな。こいつ等が言い争っている間に逃げるか。

そうして、そ~と気付かれない様に歩いて行き、もう少しで道路に出ようとした時…

 

「師匠、其処に居るのは師匠ではござらぬか!」

 

この日本には居ない筈の女性が現れた。

 

「師匠ーー、会いたかったでござるよーー!びふてき、やっと師匠に会えたでござるよ」

『もー、もー♪』

 

この娘は千影流忍一族の二女でしのぶという名前だ。

“びふてき”とは彼女のペットというか友達で、二足歩行する小さな牛である。

以前、海上での除霊の際に俺一人だけ遭難した事があり、その後俺は藍蘭島という女性だけが住んでいる島に流れ着いた。

その島は12年前の“漢だらけの大船釣り大会”の大会中に起こった100年に一度級の大波に巻き込まれた為に男が一人もいない女性だけの島だった。

女性だけ……俺は今度こそ本物のハーレムじゃーー!……と浮かれていたんだが其処に居る女の子は殆んどが12歳未満の年齢対象外、こんなこったろーと思ったよ、チクショーーー!

 

たまに年齢的にOKだと思ったら想い人がいたり(その相手がペンギンだと知った時は思わず呪いをかけそうになったが)見るからに幼児体型だったり……

12年ぶりに現れた男と言う事で「こと」という婆さんには婿殿よばわりされるし女の子達には追いかけ回されるしで大変だった。

 

何しろ男に免疫がないせいか風呂に入っていても平気で裸で入って来るし、もし一人だけでも手を出したりしたらあの婆さんの事だ、島の女性全員と関係を持たされる事だったに違いない。

いや、それはともかくとして……

 

「何でお前が此処に居る?藍蘭島の周りには大渦が渦巻いていて外には出れない筈だが」

「師匠を捜して彷徨い歩いていたら何時の間にか此処にたどり着いていたでござるよ」

「何処の響良牙だお前は!……皆は元気だったか?」

「まあ、皆それなりに元気でやってるでござるよ。……すず殿は少し寂しそうでござったが」

「そっか……」

 

思えば彼女には可哀想な事をしたな、今度会いに行ってやるか。

 

「ところで忠夫殿、その女性は誰でござるかな?」

「ずいぶんと親しそうでござるな、ニンニン」

「先生?……師匠とは一体どういう事でござる?詳しい説明を求めるでござるよーー!」

 

しまった、こいつ等の事を忘れていた。

 

「拙者の名はしのぶと申すでござる。忠夫師匠の弟子でござるよ」

「何を申す!先生の弟子は拙者でござる!」

「ふ~む、この際拙者も忠夫殿に弟子入りするでござるかな?」

「それは“ないすあいであ”でござるな。ニンニン」

 

「こら其処っ!何物騒な相談をしとる!」

 

「先生!話をはぐらかさないでほしいでござる」

「師匠! 拙者は苦労して此処まで来たのでござるからご褒美になでなでしてほしいでござるよ」

「なでなで?何とも甘美な響きでござるな」

「忠夫殿、スクナとの闘いの時は拙者も頑張ったでござるよ」

 

 

ござるござるござるござるござるござるござるござるござるござるござる

 

 

「ええーーーいっ!ござるござるうるさいわーーーーーーっ!」

 

 

その後、横島忠夫は「ござるフェチ」と噂され、彼の周りの女性陣の間ではござるが流行したとかしなかったとか。

 

 

 

 

『ヨコチマ、一緒にゲームをするでござるでちゅ』

「横島さん、クッキーを作ったから食べてほしいでござるえ」

「忠夫クン、一緒に走ろうよ…でござる」

「忠夫様、この藁人形で一緒にあやねを呪わない?でござるわ」

 

 

「もう勘弁してくれーーーーー!」

 

 

終ってみよう。

 

 




(`・ω・)と、言う訳で思いついたまま書いたらこうなった。
何故か横島ってござるっ娘と相性がいいよね。
ネギま!にハイスクール・オブ・ブリッツ、さらに藍蘭島とごちゃまぜにしてかなりのカオスになってしまった。

(・ω・)ノシ <では、そういう事で。


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「横島と狐と茜雲」

人間なんかキライだ。

 

自分達の都合だけで山を荒らす。

私達の住処を奪う。

私の……

 

私の母さんを……

 

母さんを殺した。

 

人間なんかキライだ………

 

大っキライだ!………

 

 

 

―◇◆◇―

 

ある日、横島は美神から除霊の仕事を任されようとしていた。

それも単独での。

 

「俺一人での仕事ですか?」

「ええ、簡単な仕事だからあんた一人でも大丈夫でしょ」

 

横島は美神から渡された書類に目を通している。

地方からの依頼で森の中で怪異が起こるという物だが、人的被害はさほど無いとの事なので横島一人でも何とかなるとの判断らしい。

 

「拙者も先生と一緒に行きたいでござるよ」

「あんたは私の仕事の荷物持ちよ」

「そんな~、ひどいでござる…」

 

項垂れて涙ぐむシロを尻目にタマモは笑顔で横島の方に歩いて行く。

 

「頑張って来てねシロ。じゃあ私がヨコシマと…」

「あんたもこっち、私達は私達で厄介な仕事があるだからね。勿論、おキヌちゃんもよ」

「ちっ!」

「は~~い…」

 

美神が横島に任せた仕事は本来なら受けもしない様な低額なのだが美神は以前から母親の美智恵に横島の時給を上げろと説教をされていた。

なのでこの様な低額の仕事を任せて給料upの代わりにしようという訳だ。

まあ、結局は依頼料からピンハネをする事はするのだが…

 

そして美神達は自分たちの仕事場に、横島も自分の仕事場である山の中の小さな村へと行くのであった。

 

 

―◇◆◇―

 

横島視点~

 

「幻覚に惑わされる?」

「へえ、山の中に山菜や薬草などを採りに入っても色々な幻覚で道に迷ってしまって…酷い時など崖から落ちそうになった事もありやす」

 

俺は依頼主の村人達から今回の怪異の事を聞いていた。

それによると数ヵ月前から森の中に入ると様々な幻覚が起こり、道に迷わされた揚句に元の場所に戻されてしまうとの事だ。

 

普通の村人たちはそれだけで済むのだが、銃を持って森に入る猟友会の人間や密猟者達などは先ほど説明された様に崖に誘い出したりなどと命に関わる様な出来事が頻発していた。

そこで最後の手段としてGSへの依頼となった訳だ。

 

「う~ん、事情から察するに妖怪化した動物か動物霊の仕業みたいっスね」

「何とかなりやすでしょうか?」

「とりあえずこれから森の中に入って調べてみます」

「大丈夫でやすか?」

「まあ、これでもGSのはしくれですからね。任せておいて下さい」

 

俺は捜索の為に森の中に入ったが、その途端に村人達が言っていた様に幻覚に襲われてしまった。

「見鬼くん」で辺りを捜してみるが強い霊波によって「見鬼くん」は狂わされ、人形の部分はグルグル回るだけで役には立たなかった。

仕方無く、【捜】の文字を込めて発動させた文珠で霊波の出所を捜す事にした。

どうやらあちらこちらに動きまわっている様で中々居所を特定できないが、その事は同時に俺の考えた通りだった事がはっきりした。

 

「幻術を使うって事は妖狐か妖狸といった所だな。銃を持った人間に殺意を持っている所から家族を殺されてその恨みから妖怪化したって所か……。まったく、この山は禁猟区だっていうのに」

 

 

=横島はこんな時にはその考え方は大抵、(あやかし)寄りになる。

それはかつての猫又の親子、ミイとケイ、そして最近ではタマモとの事からも明らかである。

食べる為に動物を殺す、その事自体には何の疑問も持たないし割り切っても居る。

だが、楽しむ為の狩り、娯楽の為に動物を殺すという事にはどうしても納得はいかない。=

 

 

そうこうしている内に相手の動きが止まった、其処に妖怪を縛り付けている何かがある様だ。

 

「グウゥゥゥゥゥゥゥ~~~~」

 

叢の中から唸り声が聞こえ、草をかき分けて中を覗くと其処には殺されてから数ヵ月経っているのだろう、所々白骨化して腐臭を放っている狐の死骸があり、その前にはその死骸を守る様に子狐が牙を剥きながら俺を睨みつけていた。

思った通り、銃で殺されたらしく体には弾痕があった。

死骸がそのままという事はおそらく他の動物を狙った流れ弾にでも当たったのだろう。

 

「くそっ、何でこんな事を」

「ガアアアッ!」

「痛てっ」

 

せめて墓に埋めて供養してやろうと手を伸ばすが、子狐は叫びながら飛びかかって来た。

俺の腕に噛み付き、鋭い爪で引っ掻いても来る。

 

「ガウウウウッ!……ガウ?…」

「ゴメン、ゴメンな」

 

 

子狐視点~

 

随分前に手に入れた幻を見せる不思議な力、私はこの力で母さんの体を守っていた。

もう死んでいるのは解っているけどせめて体だけは守ってみせる。

人間なんかに母さんを渡しはしない。

この人間もきっと母さんを連れて行こうとしてるんだ、そう思って私は噛み付いたり引っ掻いたりしてるけどこの人間はされるがままになっている。

それだけじゃ無く、泣きながら謝って来る。

……何なの、この男?

 

「こんな風に大事な家族を殺されて悔しいだろうな」

 

そう言いながら男は不思議な力を放つ珠を取り出すと母さんの体に当てる。

何をする気だと再び襲いかかろうとするがその珠は突然光り出し母さんの体を包む。

すると、母さんの体の鼻が曲がりそうな臭いが嘘の様に消え去って行った。

 

 

=この時横島が使ったのは【浄】の文珠、これにより死骸の腐敗は止まり、腐臭も浄化され消え去ったのだ。=

 

 

ひょっとして母さんの体を綺麗にしてくれたの?

母さんの体、持ってったりしないの?

母さんの体、守ってくれるの?

だったら……

 

噛んじゃって、ごめんなさい。

 

「解ってくれたのか、ありがとな」

「キュ~~ン」

 

 

=子狐が噛み付いていた口を離し、離れて行くと横島はその頭を軽く撫でてやり、地面に穴を掘って行く。

そして母狐の死骸を穴の中に横たえ埋め戻し、粗末ながらも墓を作ってやると再び【浄】の文珠で辺りを浄化する。

子狐はその墓に手を合わせて黙祷していた横島に近づくと傷だらけの腕や頬を舐め始める。

すると妖孤になった事でタマモやシロ同様にヒーリングの効果がある様でたちまち傷は癒えて行った。

舐め終わると子狐は甘える様に横島に頬を擦り寄せる、どうやらすっかり懐いてしまった様だ。=

 

 

「さてと、お前をどうするかだが……、連れて帰ったら美神さんは怒るやろな~」

「コン?……、キュ~~ン、キュ~~ン!」

 

えっ?私の事、置いて行くの?嫌だ、嫌だ、一人ぼっちになるのは嫌だ!もう悪い事はしないから連れて行ってよ。

 

「な、何だ?どうしたんだよお前?」

 

 

=その言葉から此処において行かれると思ったのか子狐は横島にしがみ付き、離れようとしなかった。=

 

 

「もう人を襲う心配は無いだろうけどこのまま此処において行くと他のGSに退治されそうだしな。……仕方ない、一緒に来るか?」

「コーーーーンッ♪」

 

行く、行く、一緒に行く!

嬉しい、もう一人にならなくて良いんだ。

もう、一人ぼっちじゃないんだ。

良いよね、母さん。

この人は母さんを、私を助けてくれた良い人だから。

 

 

―◇◆◇―

 

横島視点~

 

「で、その子狐が怪異の原因だと」

「はい。密猟者に母親を殺された憎しみから妖怪化し、山に入って来る人間から母狐の遺体を護る為に幻覚で道に迷わせていたようです」

「何故そいつを退治しないんだ!?」

 

散々幻覚に翻弄されたらしい村人は妖孤を退治せずに連れて来た事に腹を立てているらしく怒鳴りながら聞いて来る。

まあ、当然っちゃー当然だな。

 

「もう反省して大人しくなってますし、もし此処で退治したりしたら更なる怨念で祟り神になってしまう虞がありますから」

 

祟り神になる。そう言われた村長は顔を青ざめて慌てふためく。

まあ、これも当然だ。

 

「た、祟り神!? それは困りますだ」

「安心して下さい。こいつは俺が責任を持って保護妖怪として面倒を見ますから」

「この山において行く訳じゃねえんですな?」

「はい、俺が連れて帰ります。ほら、散々迷惑かけたんだからな。お前も謝るんだ」

「キュウ~~、コン」

 

俺がそう言うと子狐も素直に謝り、そんな様子を見ると村人達も何も言えなくなった様だ。

幸いに死傷者も無く、これからは怪異も無くなるという事でこれで良しとする事にしたらしい。

 

その後、俺は依頼料を受け取り東京に戻る為に山道を歩きながら下っている。

子狐は俺の頭に乗っかり、甘える様にじゃれ付いている。

そんな俺たちの頭上には空一面に夕焼けが広がっていて、ふと気付くと子狐もまた見惚れる様に夕焼けの空を見上げていた。

 

「お前も夕焼けが好きなのか?」

「コンコン♪」

「そっか」

 

そして再び空を見上げると、其処には紅く染まった茜雲が流れている。

 

「茜雲…茜…あかね…そうだ!アカネなんてどうだ?」

「コン?」

「お前の名前だよ。今日からお前の名前はアカネだ」

「コン……コーーーンッ♪」

 

子狐…、アカネはかなり気に入ったらしく頭から肩に降りると顔に抱きついて来て、頬をペロペロと舐めている。

 

「後は……美神さん、給料上げてくれないだろーな…」

 

 

 

―◇◆◇―

 

そして翌日……

 

「横島クン…?」

「どうしたんです、その子狐は?」

「これは一体どういう事よヨコシマ、この浮気者ーーーっ!」

「女狐が…女狐が増えたでござる」

 

仕事を終え、事務所に帰って来た美神達が見たのはバツの悪そうな顔で笑っている横島と彼の膝の上でお揚げを食べているアカネであった。

 

美神にしばかれ、タマモに燃やされた後、横島は事情を説明した。

 

「つまり、妖怪化したその狐を助ける為に保護妖怪として連れ帰って来たって訳ね」

「はい。その辺の処理は昨日帰ってから隊長に頼んで済ませてるっス」

「タマモちゃんの時といい、横島さんらしいですね」

 

美神はようやく事情を理解し、おキヌは改めて横島の優しさを再確認していた。

 

タマモとシロはと言うと……

 

「う~~~~~」

「がるるるる~~~~」

「グウゥゥゥゥ~~~~~」

 

横島の膝に抱かれているアカネと睨み合っていた。

 

「う~~~~、ねえヨコシマ。私のお揚げは~?」

「…悪い、タマモの分も買ってたんだが全部食われちまった」

「そんな~、うう~~、私のお揚げぇ~~。私のお揚げ、返せぇーーー!」

 

タマモがアカネに飛びかかろうとしたその瞬間、アカネの体から霊波が放たれ、そして。

 

「なっ!?」

「えっ!?」

「うっ!?」

「そ、そんな…アンタ…」

「そー言えば、一応妖孤だったんだよなお前」

 

横島の膝の上には人間形態に変化したアカネが居た。

セーラー服を基調としたワンピースを身に付け、その長い金髪はポニーテールと言うか、フォクシーテールに纏められていた。

 

「改めて初めまして、私の名前はアカネ」

「アカネ…ちゃんですか?」

「そうよ、ご主人様が付けてくれたの。いい名前でしょ♪」

 

 

「「「「………ご、ご、ご主人様ぁーーーーーーっ!?」」」」

 

「なっ、お、お前何ちゅー呼び方を…」

「えー?だって私は保護妖怪なんでしょ?だったら私を保護する貴方は私のご主人様じゃない」

「理屈はそうだろうけど、さすがにご主人様はヤバいと言うか何と言うか」

 

アカネは上目遣いで見上げながら横島の胸にのの字を書きながら迫り、横島は慌てふためきながらも何とか撤回させようとする。何しろ見た目中学生のアカネにご主人様と呼ばれるのはあらゆる意味で危険すぎる。

 

「よ、横島クン、アンタ…」

「横島さん…」

 

「嫌ァーーーーーっ!そんな目で見んといてーーーーっ!ワイはロリやない、ロリやないんやぁーーーーーーっ!」

 

「拙者は認めぬでござるよっ!やり直しを要求するでござる!」

「ヨコシマに助けられたのは私も同じよ、だったら私もヨコシマをご、ご、ご主人様って…」

「これ以上状況をややこしくするなーーーーーっ!」

 

 

「この馬鹿丁稚が…」

「横島さんの馬鹿…」

 

こうして美神除霊事務所に新たなる騒動の種が加わる事となったのである。

 

(人間はまだ苦手だけど、まだ嫌いだけど、でもご主人様だけは…)

「ご主人様、だぁーーい好き♪」

 

 

後に、11人(匹)増える事になるがそれはまた別の物語である。

 

 

終わりとしましょう。

 

 




(`・ω・)と、言う訳でアカネのモデルは「天使のしっぽ」の狐のあかねでした。
守護天使にすると横島の過去の話が絡んで来るので読みきりでは難しかったのでこう言う設定にしてみました。
こうなると他の娘達の話も描いてみたくなったり。まあ、無理でしょうが。


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「横島くんの逆行で行ってみよう!・唐巣神父編」

 

 

『天寿を全うした横っちやけど過激派のアホ共は相変わらず横っちの魂を狙うとるようやな』

『はい、こうなっては予定どうりに横島さんを逆行転生させましょう。転移先の時代の私達にも記憶と事情を送っておけば横島さんは安全でしょう』

『そうやな、転生後の再会を楽しみにしとる奴らには悪いけどこれも横っちの為や。悪う思わんといてや』

『では、横島さん。今度は穏やかな人生を送れますように』

 

そうして横島の魂は時を遡って行った。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「神よ、今日も恵まれない子羊を無事救う事が出来た事を感謝いたします。アーメン」

 

そう祈りを捧げた唐巣神父の腹からグググ~~~ウと大きな音が鳴る。

彼は除霊の代金が払えない人達の為に無料で除霊をしたり、あるいは払えてもあえて受け取らないといった生活をしている為に何時も赤貧に甘んじているのだった。

 

「ははは、大丈夫大丈夫。たしかまだ食パンが一枚残っていた筈、それだけあれば後五日ぐらいは…」

 

やつれた顔で一人笑う彼の耳に、何か聞こえて来た。

 

「ほぎゃあ、ほぎゃあ、ほぎゃあ」

 

「こ、これは赤ん坊の声。何故こんな所に?」

 

教会の外に出てみると大事そうに布に包まれた赤ん坊が泣いていた。

 

「可哀想に。何を考えてるんだ、こんなに小さな赤ん坊を」

 

泣いている赤ん坊を抱き抱えると唐巣はぎょっとした。

何故ならばその赤ん坊を包んでいる布からは今まで感じた事が無い様な聖なる波動を感じたのだから。

 

「な、何だこれは?此処まで清らかな波動は感じた事が無い。この赤ん坊は一体…?」

 

唐巣は赤ん坊を見ると何時の間にか泣きやんでいた。

赤ん坊は唐巣の顔を見るときゃっきゃっと笑いながら手を伸ばして来る。

 

 

ニヘラ

 

 

その屈託のない笑顔に彼は陥落した。

 

「判りました神よ!貴方は私のこの子を立派に育て上げると、そう仰るのですね。ならば私は全身全霊を持ってこの子を立派に育て上げて見せます。おお神よ、我等親子に祝福を」

 

唐巣はマリア像の前に跪き、祈りをささげた。

その姿には何処からともなく光が射していたそうな。

 

 

 

 

『キーやん、あんな事言うとるけどホンマにあの神父の所でよかったんか?』

『……少し、不安になりました』

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

唐巣は次の除霊から料金を受け取る事にした。

それでも他のGSよりは安く、何より彼の所にいる赤ん坊が話題を呼び食事などの差し入れをしてくれる人もあり、彼の生活は安定し、後退し始めていた髪も元通りふさふさに戻っていた。

 

そんなある日、「彼女」は子供と共にやって来た。

 

「今度の依頼はかなり厄介だからね。まあ、先生なら引き受けてくれるでしょう、タダ同然で」

 

その女性とは美神美智恵であった。

 

「先生、唐巣先生。いらっしゃいますか?美神美智恵です」

 

教会に入り、そう呼ぶと忠夫を抱いた唐巣がやって来た。

 

「やあ、久しぶりだね美智恵君。今日はどうしたんだい?」

 

その以前より若返った姿(特に髪)と彼が抱いている赤ん坊を見て美智恵は固まった。

 

「せ、先生?そ、その赤ちゃんは…まさか…」

「ああ、この子は此処に捨てられた子でね、神より預けられた子供として私が育てる事にしたんだ」

「そうなんですか?こんなに可愛い子供を捨てるなんて…」

「あかちゃん?みせて、みせて、れーこにもみせて」

 

子供の令子は美智恵の隣でぴょんぴょん飛び跳ねながらねだる。

 

「ああいいよ。ほら忠夫君、令子お姉ちゃんだよ」

「あかちゃん、かやい~。よしよし」

 

唐巣はしゃがみこみ、令子に忠夫を見せると、令子は忠夫の頭を撫でる。

忠夫も気持ちいいのか、きゃっきゃっと笑っている。

 

 

「じゃあ令子ちゃん、忠夫君を見ていてくれるかい?私はお母さんとお話があるからね」

「うん!れーこ、あかちゃんをみてう!」

 

唐巣は忠夫を揺りかごに寝かすと令子はゆっくりと揺らしながら忠夫をあやす。

 

「頼んだよ、令子ちゃん。さあ美智恵君、本題に入ろうか。除霊の依頼なんだろう?」

「は、はい。これが資料です」

 

唐巣は受け取った資料を真剣な目で読んで行く。

 

「なるほど、これは厄介だね。分かった、私も協力をしよう」

「有り難うございます先生」

 

美智恵は唐巣に頭を下げるが、唐巣が発した言葉に一瞬呆然とする。

 

「では、私の取り分は1000万という事で」

「……はい?」

「これだけ厄介な霊症だ、依頼料もかなりの高額なのだろう?」

「は、はい。それはそうですが……いつもの先生でしたら」

「忠夫君の将来の事を考えると金はいくらあっても足りないからね。貧しい人達からは高額な依頼料は取れないけど余裕のある人からは貰える物は貰わないと」

「そ、そうですね……(ちっ、予定がくるったけど依頼料は5000万。その位なら仕方ないか)」

「と、言う訳で1500万だね」

「先生!上がってます、金額が上がってます!!」

「気のせいだ」

「で、でも……」

「キノセイダ」

「は、はあ……」

 

慌てふためいている美智恵をよそに、唐巣は忠夫を抱きあげてあやしている。

 

「忠夫君、お父さんは仕事に行って来るからね。何しろ2000万の仕事だ、頑張るぞ!」

「キャッ、キャッ♪」

(だ、駄目だ……何かを言うたびに金額が上がって行く。妥協するしかないのね)

 

 

美智恵はもはや諦めて、除霊後に言われた通りの金額を唐巣に支払った。

 

しかし、彼女の悪夢は此処から始まったのであった。

彼女が高額の依頼を受けると何故か何処からともなく唐巣が嗅ぎつけて来て強引に共同での依頼にし、依頼料を持って行った。

その割合は徐々に増えて行き、今では8対2にまで膨れ上がっていた。(勿論、唐巣が8)

 

そして令子が中学生になったある日、美智恵は来るべきアシュタロスとの闘いの為に姿をくらませる事にした。いや、理由はそれだけではなく……

 

(これ以上此処に居てはどんな依頼を受けても唐巣先生に儲けの殆んどを持って行かれる)

 

正直、唐巣の相手をするのが苦痛になって来たのが本音らしい。

美智恵は令子が眠りに付いているであろう自宅を見ながら小さな声で呟く。

 

「令子、ゴメンなさい。貴女を一人にするお母さんを許してね。でも貴女の傍には忠夫君も居るし寂しくないわよね、お母さんも頑張るから貴女も頑張ってね」

 

空には雷雲が近付いて来て、雷のエネルギーで時間移動をしようとしたその時、突如暗闇の中から手が伸びて来て美智恵の肩を“ポンッ”と叩いた。

 

「何処に行くんだい、美智恵君?」

「ヒイッ!」

 

その手も持ち主は唐巣神父であり、もちろん近づいて来る時の気配などは美智恵に微塵も感じさせなかった。

 

「か、唐巣先生……な、何か?」

「忠夫君には霊能力の才能があってね、将来GSとして独立させてやりたいんだ。その為には事務所設立などの諸経費が必要だからね」

 

そう言い、唐巣はニッコリと微笑んだ。

 

 

みちえはにげだした。

しかし、まわりこまれてしまった。

 

 

「しかし私には令子の為にやらなければならない事が……」

「大丈夫、令子君は忠夫君が守ってくれるよ。だから……」

 

美智恵はガタガタと震え、泣きながら首をぶんぶんと振っている。

しかし、唐巣はそんな美智恵を眩い限りの笑顔で見つめながら語りかける。

 

「さあ、お仕事のOHANASIをしようか?」

「嫌ぁーーーー、誰か助けてーーーー!」

 

その、心からの魂の叫びは雷鳴に掻き消されて誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

それから数年後のアシュタロスとの闘いは、共に競い合いながら成長した令子と忠夫と仲間達のおかげで何とか勝利を勝ち取る事が出来た。

 

「父さん!勝った、勝ったよ!」

「ああ、よくやったぞ忠夫」

 

忠夫は義父の唐巣に駆け寄る。

唐巣のその姿は正史とは明らかに違い、若いままであった。

 

「ママ、見てた?私達勝ったわよ!」

「ええ、見てたわよ令子」

 

令子も美智恵に駆け寄った。その姿も正史とは違い、かなり老け込んでいたとさ。

 

「本当にアシュ様に勝つなんて、さすがねカラス」

「カラスーー、無事で良かったでちゅーー!」

「アシュ様を……、父さんを“救って”くれて感謝してるよポチ、いや唐巣」

 

 

“唐巣”忠夫に寄り添うように近づいて来たのはルシオラ・ベスパ・パピリオの三姉妹。

 

アシュタロス陣営のスパイの為に魔族側に投降した際に知り合った、アシュタロスに創られた人工造魔の少女達である。

その哀しい運命から救い出す為に忠夫はアシュタロスを倒す決意を更に高め、彼女達もそんな忠夫に徐々に惹かれて行った。

何しろ、弟弟子のピートからしてバンパイアハーフなので、魔族や妖怪などと言った括りは彼にはあまり関係無かったらしい。

 

「ちょっと、何なれなれしくしてるのよ!忠夫と私は前世からの恋人なのよ、横から入り込んで来ないでよ!」

「前世はしょせん前世でしょ。そんなモノを理由に正妻面しないでよ」

「そうでちゅ、カラスはパピのおムコさんでちゅ!」

「パピリオ、勝手な事を言うな!唐巣は私と…」

 

「「其処の二人、抜け駆け禁止!!」」

 

 

もしかしたら、有り得たかもしれない“未来で過去”のお話。

 

 

めでたしめでたし?

 




(`・ω・)と、言うわけで逆行した横島が唐巣神父の下で成長したら?
そんな設定でのお話でした。
ちなみに此処では横島忠夫ではなく唐巣忠夫ですからルシオラ達の呼び方もそれに合わせて変わっています。


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「魔法少女?タダオキュート」

破壊神ビルス様は言いました、宇宙は12個あると。
これはたぶん、5番目くらいの宇宙の物語かもしれない。

とりあえず、「GS美神」と「おと×まほ」のクロスでごぜえます。


 

時間は深夜、誰もが眠りに就いているであろう時間帯。

今、人知れず一つの闘いが行われていた。

 

ガオオオーーーーンッ!

 

「くっ……このおーーーっ!」

 

異形の姿をした巨鳥の攻撃を少女は何とか、躱わして行く。

 

ガオオオオーーーッ!

 

再び襲いかかる巨鳥の爪に少女のコスチュームの一部が切り裂かれ、その肌が少し晒される。

少女は照れからなのか、顔を赤くしながら巨鳥から距離を置く。

 

「わっ、わわわ……な、何をするんだよーーー」

 

ゲッゲゲゲゲゲゲゲ

 

巨鳥はその姿を見ていやらしそうに笑う。

 

「よっしゃーーっ!ナイスだノイズ、もう一声!」

 

そんな少女と巨鳥の闘いを屋根の上からビデオカメラで撮影している小さな動物がいた。

 

「こらーーーっラル!何してるんだよーーっ!」

「いやーー、せっかくだがら記録映像を」

「そんな物撮るなーー!」

 

彼の名はラル、オコジョの姿をした少女のパートナーである。

 

「そんな事より早くトドメを」

「分かってるよ、行っけーー、グローリー・フェザー!"紅い羽根乱舞"」

 

少女の持っている杖(オリジン・キー)、グローリー・フェザーに付いている片翼が羽ばたく様に開くと、幾重もの紅い羽根が巨鳥に襲いかかる。

 

ギョワワアアアーーーーーーーー!!

 

巨鳥は断末魔の悲鳴と共に光となって砕け散る。

 

「ふう、やっと終わった」

 

少女は安堵のため息を吐くが、ラルはそんな少女の姿をローアングルで撮影していた。

 

「うひひひひ、今日もいい絵が撮れた。さあ、早く帰って編集を…ふぎゃっ!」

 

少女はラルを思いっきり踏みつけ、ビデオカメラを取り上げる。

 

「没収!」

「そ、そんな…酷いよタダたん」

「酷くない、それからタダたんって呼ぶな!それに大体……」

 

少女?はビデオカメラからDVDを取り出し其処に書かれていたタイトルを確認する。

 

「何なんだよ、この恥ずかしいタイトルは!?」

「何って?…見た通り『魔法少女・タダオk…ぶげらっ!」

 

少女?はラルの頭を力一杯に踏みつける。

 

「少女じゃないっ!ボクは、ボクは……」

 

「ボクは男だーー!」

 

少年の心からの叫びは夜空へと消えて行く。

彼の名は横島忠緒、いわゆる世間一般で言う『男の娘』である。

 

 

 

 

      「魔法少女?タダオキュート」

 

 

 

カーーン、カーーン、カーーン!

 

「タダたん、朝だよ。早く起きないと遅刻するよ」

 

ラルは料理帽を被り、フライパンとお玉を打ちならして忠緒を起こす。

 

「うう~、まだ眠いよ~」

「ダメダメ。さあ、朝食の用意は済んでるから早く来てね」

「解ったよ、起きればいいんだろ」

 

部屋を出て行くラルを見つめつつ、忠緒は着替えを始める。

勿論ラルが出て行く時にこっそりと少しだけ開いて行った扉を閉めるのは忘れない。

 

チッ

 

廊下から舌打ちが聞こえたがとりあえず後で一発殴っておこうと思う。

 

 

 

横島忠緒。

彼の身長は145㎝ほどで長い黒髪は膝裏まで伸びており、家訓という事で切らせてはもらえない。

 

母親と父親は海外出張で今は母親の妹である横島百合花と暮らしていたが、百合花は友人と「世界各国ぶらり旅」に出てしまい今はラルと二人暮らしである。

 

その際に百合花は魔法少女、"チューナー"の役目を忠緒に押し付けて行ったのだった。

聞けばその友人の子供も魔法少女を押しつけられたらしい。

(接触がない為、その子供もまた男の娘だという事を忠緒は知らない)

 

 

―◇◆◇―

 

その後、学校に登校して机に突っ伏していると後ろから声が掛けられて来た。

 

「よう、どうしたんだ忠緒。えらく疲れてるみたいじゃねえか」

「あ、雪之丞。おはよ」

 

コイツの名前は伊達雪之丞、一応ボクの親友だ。

 

まあ、出会いは何と言うか最悪だった。

何しろ入学式の時に、いきなり「ママに似ているーー!」と叫びながら飛びかかって来たんだから。

それからは何となく気があって、今では親友と呼んでもいい位の関係にはなっている。

……それでも時々思い出したかのように「ママーっ!」と飛びかかって来るのだが。

 

「よぉ!忠緒、雪之丞、お早う」

「お早うメガネくん」

「何だ、やけに機嫌がいいなメガネ」

 

彼もまた、僕のクラスメイト。

名前はサトシと言うらしいが(cv・千葉繁)皆は当然の様にメガネと呼ぶ。

 

「いや~~、昨夜良い物を見ちまってな。驚くなよ、魔法少女だよ、魔法少女」

「ぶっ!」

 

ガツンッ

 

メガネが言った言葉に、脱力した忠緒は机に頭をぶつけて小気味の良い音が立つ。

 

「どうしたんだ忠緒?」

「い、いや別に……」

「ならいいんだが、それにしても魔法少女だと?。メガネ、お前頭大丈夫か」

「ふっ、何とでも言うがいい。俺は今猛烈に感激している、凄いぞ、時空管理局は本当にあったんだ!」

(うう、見られてたなんて…ん?)

 

忠緒が頭を抱えていると机の横に吊るしてある鞄がもぞもぞと動いているのに気がついた。

 

(ひょっとしてラル?)

 

ボクは鞄を掴むと廊下へと駆け出した。

 

「おい、何処に行くんだ忠緒」

「ち、ちょっとね」

 

鞄を抱えたまま廊下の角を曲がると、其処にはよく知っている顔があった。

 

「忠緒じゃない、どうしたのよ?」

「あ、令子先輩」

 

この人は家の近所に住む美神令子さん。

子供の頃からの知り合いでお姉さんぶっている、普段は優しいんだけどその分怒るとものすごく怖い。

ちなみに、学校では先輩と呼ばせてるけどふだんはお姉ちゃんと呼ばないと怒る。

 

「鞄なんか抱えて…、もしかしてサボるつもりじゃ」

「ないないない、ありません!」

「そう、ならいいんだけど」

「え~~と、令子先輩がいるって事は…」

「勿論いるわよ」

 

令子先輩はそう言いながらボクの後ろを指さす。

 

「えへへ~~、タダちゃん~見~つけた♪」

「うわっ!」

 

後ろからボクを抱きしめてくるのは六道冥子さん。

近所にある大きなお屋敷に住んでいるいわゆるお嬢様。

一人っ子な分ボクを弟として可愛がってくれる、それはいいんだけど若干行き過ぎな感じもする。

 

「冥子先輩、離してください」

「ぶ~~、先輩なんて~他人行儀な~呼び方したら~いや~~。お姉ちゃんって~呼んで~」

「ちょっと急いでるんですよ、離してよ…お姉ちゃん」

「うん、えへへ~~」

 

お姉ちゃんと呼ばれて気分を直したのか、素直に離してくれる。

 

「何かあったの?」

「うん、ちょっとね」

「…無理やり聞こうとはしないけど話せる事は話しなさいよ。アンタの事は百合花さんに頼まれてるんだからね」

「うん、ありがとう令子お姉ちゃん」

 

ニッコリ

 

笑顔でそう言うと令子お姉ちゃんは顔を真っ赤にして、うろたえながら怒る。

う~~ん、何で令子お姉ちゃんは何時も笑っただけで顔を赤くするのかな?

 

「ば、馬鹿!学校では先輩と呼びなさい」

「は、はい。令子先輩」

「ホントは~お姉ちゃんて~呼ばれたい~くせに~」

 

ボクはその場を離れるとトイレの個室に駆け込み、鞄の中に隠れていたラルを掴み出した。

 

「何やってるんだよラル」

「い、いや。タダたんがかなり疲れているみたい何で心配になって」

「本音は?」

「学校ならではのお宝映像を」

 

ギュ~~~~~ッ

 

「ご、ゴメンなさい!絞らないで、中身とか色々と出ちゃう…」

「そんな事より、どう言う事なんだよ!ボクの姿見られちゃってるじゃないか、認識障害の魔法がかかってるんじゃないの!?」

「あのねタダたん。認識障害の魔法はね、姿が見えなくなるんじゃ無くて本人と認識出来なくなる魔法なんだ。つまり知り合いに見られたとしても正体がタダたんとばれないんだよ」

「そんな話聞いてな…っ」

 

チリッ…チリッ…

 

その時、耳の奥を突っつく様な"雑音"が聞こえて来た。

 

「ラル、これって」

「どうやら出たみたいだね。"ノイズ"が」

 

忠緒は慌てて廊下に出る。

 

ザザザザザザザ…

 

"雑音"は更に大きくなり、黒い影が徐々に異形な姿をとって来た。

 

「タダたん、魔法少女の出番だよ」

「で、でも、ここは学校だよ。皆に見られちゃう」

「でも闘わないと皆が傷ついちゃうよ。令子ちゃんとか冥子ちゃんとか」

「……分かった…」

「さあ、タダたん!"意味在る言葉"を」

「まったくもう!《グローリー・フェザー!》」

 

忠緒がオリジン・キーの名を呼ぶとグローリー・フェザーは呼びかけに応じて手の中に現れる。

そして変身のキーワードである"意味在る言葉"を叫ぶ。

 

「昼と夜とを紡ぐ(あか)!」

 

その言葉と共に忠緒の足元には光の魔法陣が描かれ、其処から光の粒が螺旋状に舞い上がり、忠緒の服は光になって消えて行く。

 

「むほぉーーーーっ!さあ、いよいよ始まりました!」

 

ラルは興奮しながらビデオカメラで撮影を開始すると…

 

「少しは懲りろーー!」

 

忠緒はグローリー・フェザーを振りかぶって、ラルのビデオカメラを粉砕する。

 

「あーーっ!僕の3万9千8百円が!」

「ふんっ、いい気味」

 

そして、服がほぼ消え去った時…

 

「何の騒ぎ?」

 

廊下の角から令子が現れた。

 

「れ、令子お姉ちゃん!?」

「ひゃっ!な、何これ?…って、何をやってるのよ忠緒!?」

「ラルーーー!認識障害はどうしたんだよ。ボクって解らないんじゃないの?」

「いや、さすがに変身前に見られちゃ認識障害は関係ないよ」

「見ちゃダメーー!見ないで令子お姉ちゃん!」

 

忠緒は瞳を涙でうるませながら両手で下半身を隠し後ろを向く。

しかし、彼は男ゆえに胸は無く、ささやかながらの(涙)男性としての象徴はあるがそれ以外は女性の様な完璧なまでのプロポーションを持っていた。

だからこそ、

 

「そ、そんな事言ったって」

 

令子は目を反らせずにその光景を見つめている。

 

「そうだよね、こんな素晴らしい光景から目を反らすことなんてできないよね」

「へ……ラルが喋ってるーーーー!?」

 

そうこう言ってるうちに忠緒の服は完全に消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        さあ野郎共!覚悟はいいか?

           ここからが本番だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

光の粒は螺旋を描く様に空へと昇り、長い黒髪も巻き上がる。

そして光の粒が体を包むと白スクみたいなボディースーツに変わる。

ボディースーツの上にはメイド風味の入ったセーラー服に際どいミニスカ。

足を包んだ光はハイソックスに膝まであるブーツに変わる。(つまりは絶対領域!!)

両手首には赤いリボン、長い黒髪は右側8と左側2のアンバランスなツインテール。(だが、それがいい)

 

 

 

魔法少女タダオキュート、変身完了!

 

 

 

 

「うう~~、れ、令子お姉ちゃん…見た?」

 

忠緒は顔を真っ赤に染め、瞳を潤ませながら令子に聞く。

 

「ひゃ、ひゃひゃほ…あんひゃいっひゃい……」

 

令子もまた、真っ赤な顔で鼻を押さえながらそう応える。

 

(令子お姉ちゃんの手の隙間から零れてくる赤い何かは気のせいだと思いたい)

 

忠緒が赤い顔で俯いていると。

 

「タダたん、早くノイズをやっつけないと」

「……そうだよね…みぃーーんなあのノイズが悪いんだよね…フフフフフ」

 

体から黒い何かを噴き出す忠緒を見てラルは少し後ずさる。

 

「こ、これは…これが噂の病化」

 

その後、ノイズは無事退治されたがそのやられっぷりはラルが涙を流しながら同情するほどの物だったといふ。

 

 

―◇◆◇―

 

「なるほど、そう言う訳だったのね」

 

放課後、学校帰りの公園で知られた以上隠しきれないと忠緒とラルは令子に全てを説明した。

 

「うん、黙っててごめんね、令子お姉ちゃん」

「仕方ないわよ、事情が事情だし。それよりそうね……よし、決めたわ!」

「何を?」

「私があなたのサポートをしてあげる」

「そんな、ダメだよ。令子お姉ちゃんを危ない目に合わせたくないよ」

「それは私も同じよ。忠緒がこんな危ない目に合ってるって解かった以上は知らんぷりなんて出来ないわよ」

「ラル~~」

「令子ちゃんが一度決めた事を変えないって事は知ってるだろ、諦めるしかないよ」

「そう言う事。大丈夫よ、お姉ちゃんが守ってあげるから♪」

 

こうして、魔法少女タダオキュートの闘いは新たなるパートナー、美神令子を加え新たなる局面を迎える事になった。

 

「ところでさラル、忠緒の魔法少女としての写真とか無い?」

「任せときな(あね)さん!姐さんには特別に俺っちのお宝映像集を分けてやるぜ!」

「あら、話せるわね」

 

二人が怪しい笑いをしていると忠緒が食ってかかる。

 

「令子お姉ちゃん何してるのさ!? ラルも何か憑いちゃいけない物(アルベール・カモミール)が憑いてるよ!」

 

「ほら、これなんか」

「ぶはっ!こ、これだけでご飯は三杯は食べられるわ」

「お姉ちゃんのバカーーーー!」

 

これはまた、遠い遠い何処か別の世界の物語。

 

 

無理やり終わる。

 




(`・ω・)……、何故にオイラはこんな話を思いついちゃったんだろう?
それは永遠の謎である。
ちなみに横島の名前が忠夫じゃなくて忠緒なのは男の娘なのでそれっぽくした為でしゅ。


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「石を探しただけなのに」

 

 

 

「…こんちわ~~っス!」

 

横島忠夫は何時もよりもかなり腰の低さで事務所に入って来た。

 

「いらっしゃい、横島さん」

 

何時も通りに笑顔で横島を出迎えるおキヌと違い、美神は何やらしかめっ面で横島を睨みつける。

 

「……横島クン、何やら妙な妖気を感じるんだけど…、そのバックの中に隠してるのは一体何かしら?」

「こ、これっスか?は、はははははは……じ、実は」

 

横島は冷や汗を垂らしながらバックを抱えたまま後ずさって行く、そんな横島にシロとタマモは鼻をクンクンを鳴らしながら近づいて行く。

 

「くんくん…何やら狐臭いでござるな」

「と言うよりこの霊波の匂い、何だか馴染みがあり過ぎるんだけれども……」

 

二人がバックの匂いを嗅いでいるといると突然、バックの中で何かが動き始める。

どうやらバッグの中に何やら妖気の元となる動物がいるらしい。

横島は慌てて抑え込もうとするが一瞬早く、その動物がバックから顔を出した。

 

ヒョコッ

 

「「「「なっ!」」」」

 

その場に居た横島以外、全員の驚いた声が重なる。

それもその筈、それは一匹の子供の妖狐だったのだから。

 

「よ、妖狐?」

 

顔を覗かせた妖狐は辺りをキョロキョロ見回し上を見上げ、横島の顔を確認すると「こ~~ん♪」と嬉しそうな声を上げバックから飛び出し横島の顔に飛びついてその顔を舐めまわす。

 

「「「「なーーーーっ!」」」」

 

再び全員の叫び声が重なる。

何故ならばその子狐にはタマモ同様九本の尻尾が生えていたのだから。

 

 

ぽむっ

 

 

「「「「なぁーーーーーーーーーっ!?」」」」

 

 

横島にしがみ付いていた妖孤は突然変化をし、その姿に皆は三度驚き同時に声を上げた。

その姿はまるで小さなタマモで、黒髪のナインテールの根元を、赤いリボンでまとめていた。

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

「で、納得のいく説明をしてもらえるんでしょうね」

 

仁王立ちした美神は腕を組み、目の前に正座させた横島を突き刺すような視線で睨みつける。

 

横島の後ろのソファーにはおキヌとシロ、そして小さなタマモ(子タマ)を膝に載せたタマモが座っている。

子タマはいわば分身ともいえるタマモ相手には暴れる事無く大人しくしている。

 

おキヌが抱こうとしたが嫌がり、シロ相手ではお互いに威嚇し合っていた。

 

「は、はぁ……実は…」

 

そして横島はしぶしぶと説明を始めた。

 

生活費が尽き、明日からの食費が無くなり途方にくれている時、TVのある鑑定番組で、そこら辺で拾ったような石に驚くほど高い鑑定額がついてた事を思い出し、ならば自分も珍しい石を見つけて金を稼ごうと思った。

 

そしてあちらこちらを捜しまわった結果、未発見の殺生石の欠片を捜し当ててしまったという訳だ。

そんな彼を一体誰が責められるというのだろうか?

 

「私が責めるに決まってるでしょうがーーーっ!何を考えてるのよアンタはーーーーっ!?」

「ぎゃーーーーーっ!ゴメンなさいゴメンなさい、堪忍やーーーっ!みんな貧乏が悪いんやーーーっ!」

 

そして殺生石を手にした瞬間、石に横島の霊力が流れ込み、タマモとは別の妖狐として復活してしまい人外キラースキルの発動+インプリンティングで懐かれてしまったという訳らしい。

 

「それでこれからどうするつもり?言っとくけどウチじゃ面倒は見ないわよ」

「それなんスけど俺から離れようとしないし、俺が面倒をみるしか…。と言う訳で給料の値上げを」

「却下!」

「うう~~、あんまりや~」

「よ、横島さん。私がお食事を作りに行きますから」

 

涙目の横島におキヌが慰める様にそう言い、何気にポイントアップを狙う。

そんな時シロが辺りを見回すと、何時の間にかタマモの姿が消えていた。

 

「ところでタマモは何処に行ったんでござるか?それに子タマの姿も見えないようでござるが」

「なぬ?」

「そう言えばさっきからやけに静かね」

「お部屋でお昼寝でもしてるんでしょうか。ちょっと見て来ますね」

 

そう言っておキヌは屋根裏部屋に上がるが、すぐに不思議そうな顔をして戻って来た。

 

「おかしいですね、何処にもいませんよ?」

「何処に行ったんじゃ?…何か嫌な予感がするな…」

「アンタの嫌な予感っていうのは結構当たるからね。まあ、私に迷惑がかかるんじゃないなら別にいいけど」

「……………」

「どうしたの、シロちゃん?」

 

何か考え事をしている様なシロにおキヌが聞くとシロは青い顔に冷や汗を流しながら立ち上がる。

 

「シ、シロちゃん?」

「ま、まさか…まさかあの女狐……。子タマを先生との子供だと偽って良からぬ噂を流すつもりなのでは……」

「え゛……、何じゃとぉーーーーーーっ!」

 

 

 

 

 

大正解(笑)

 

 

 

「(笑)じゃねえーーーーーっ!冗談じゃないわーーーいっ!」

 

横島は雄叫びを上げながら走り出し事務所の外に駆け出すと其処には満面の笑みを浮かべた西条が立っていた。

 

「やあ、横島君。可愛い子供じゃないか、お め で と う。(ゲス顔)彼女を幸せにしてやるんぞふっ!」

 

横島はその顔面を手加減無しの手甲型のハンズオブグローリーで殴り飛ばした。

 

「タマモーーッ!とんでもない事をしおってーーーっ!」

 

そう叫びながら横島は走り去って行く。

 

「ふ、ふふふふふ、これで令子ちゃんは僕のもごふっ!」

 

「タマモちゃん…あなたってヒトハ……ウフフフフ」

「おのれ、タマモーーーッ!抜け駆けは許さぬぞーーーーっ!」

「まったく、とんでもない事ばかりして」

 

倒れ伏していた西条だが、後から駆け出して来たおキヌ、シロ、美神に次々に踏み付けられて逝く。

 

……西条終了。

 

 

 

―◇◆◇―

 

タマモを捜して走っていると横島の前に一人に涙ぐんでいる一人の少女がいた。

 

「よ、横島さん……ぐすっ」

「こ、小鳩ちゃん?」

「横島さん、小鳩は、小鳩は…お幸せに……。うわあああーーーーんっ」

「小鳩ちゃーーーん」

『小僧っ!一度は小鳩と結婚しておきながら。この薄情モン!小鳩ーー、待つんやーーー』

「……イカン、早い所タマモを止めんと」

 

そう言いながら再び走って行くが行く先々で……

 

「おお、小僧。タマモ嬢ちゃんと仲良くするんじゃぞ」

「横島さん・マリア・悲しい・でも・諦めません」

「な、何を?」

 

 

 

 

 

「横島君。いや、何も言うまい。主は何時でも君を見ているからね、タマモ君を幸せにするんだよ」

「横島さん、僕は…僕は…ううう」

「ちょっと待て、ピート。何故そこでお前が泣く?」

 

 

 

 

 

 

「まさかオタクがタマモを選ぶとはね。まあ、令子の悔しがる顔が見物なワケ」

「やっぱり横島サンはそっちじゃったんじゃノー」

「ちがーーうっ!ワイはロリじゃないーーーっ!」

 

 

 

 

 

「横島君~~、酷いの~~、冥子、冥子、悲しいの~~、ふえええ~~~ん」

『ギャオオオオーーーーーーンッ!』×12

「ぎゃあああああーーーーーーーーっ!」

 

 

 

 

 

「横島さん、今まで食べた食事の代金、払って下さいね」

『しめて合計、15万円になるニャン』

「何でですかーー!? あれは驕りって言ってたじゃないっスかーーーっ!?」

 

 

 

 

 

『仏罰ーーーーっ!』

「何でーーーっ!?」

『パピという者がいながら浮気とはいい度胸でちゅね!』

「だからワイはロリやないと言っとるやないかーーーーーっ!」

 

 

 

 

 

 

「横島君、令子を…ひのめを裏切るのね」

「ちょっと待って下さい隊長、美神さんはともかく何故にひのめちゃんまで?」

「に~に…びええ~~~~ん!」

「あ、青白い炎が…ぎゃああああ~~~~~~~っ!」

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでようやく諸悪の根源の所にたどり着いた。

タマモは公園のベンチで子タマを抱き、子タマもタマモにじゃれ付いていた。

 

「はあ、はあ、タ、タマモ……お、お前なぁ~~」

「うふふふふ。ほらコダマ、パパが来たわよ」

「あっ、ぱぱぁ~♪」

「誰がパパじゃいーーーー!」

 

横島はタマモに食って掛かろうとしたが其処にまるで地獄の底から響いて来るような声が聞こえて来た。

 

「誰って、お前の事じゃないのかい?忠夫」

「………………はい?」

 

ギギギィ~~~、と恐怖に震えながら振り向くと其処には何時日本に帰って来たのかGMが御降臨なされていた。

 

「お、お袋?」

「はぁ~~。お前はあの宿六の息子だからね、ある程度は覚悟してたけれどまさかこんなにも早くお婆ちゃんになるとは思って無かったよ」

「いや、だから、この子タマは俺の子供じゃなくてだな」

「忠夫!」

「は、はひっ!」

「言い訳は男らしくないよ。男なら男らしく取るべき責任は取りなさい!」

「まあまあ、お義母さん。あんまり強く言わなくてもヨコシマならちゃんと責任を取ってくれるわよ。それより少しコダマの相手をよろしくお願いするわ」

「ばばぁ~♪」

 

何時の間に懐いたのか、子タマ改めコダマは百合子に手を伸ばし抱っこをせがむ。

 

「はいはい、いらっしゃいコダマちゃん。お婆ちゃんとあしょびまちょうね~~♪」

 

初孫(誤解だが)、しかも女の子のコダマが可愛くて仕方ないのか百合子はコダマを抱きしめてデレデレになる。

 

そこに駆け付けて来た女性陣だが百合子がコダマを抱きしめてあやしている所を見ると、もはやどうしようもない事を悟ったのだった。

そして横島も。

 

「うふふ、これでもう逃げ場は何処にも無いわよ。ヨ・コ・シ・マ♪」

「ううう~~~、ワ、ワイの青春が~~~」

 

その後、結局逃げる事が出来なかった横島は百合子の手によってタマモと強制的に結婚させられる羽目となった。

 

まあ、それから成長したタマモは傾国の美女の名にふさわしい姿になり彼女との間にも本当の子供が生まれ、結構幸せに暮らしたのであった。

 

めでたしめでたし?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談。

 

 

「こらーーっコダマ!貴女はもう16歳なのよ。いい加減ヨコシマの布団に潜り込むのは止めなさい。それから蛍!貴女もよ」

「大丈夫。パパと私は血の繋がりはないんだから何の問題も無し!それに私もママと同じ九尾の転生体よ。狙った獲物は逃がさないわ」

「私だって前世の記憶が蘇った以上ヨコシマを諦めるつもりはないわ。血の繋がり?そんなモノ愛の前では何の意味もないわ」

「ふふふふふ、そう、そう言う事。いい度胸じゃない、ヨコシマは私の物よ。例え貴女達でも渡すつもりはないわよ」

「「上等!力ずくで奪って見せるわ!」」

 

 

 

 

 

「そう言う事なら拙者も参戦するでござるよ!」

「私も負けません、今度こそ横島さんを!」

「小鳩だって負けません!」

「ドクターカオスに改良してもらって子供を産めるようになりました、マリアも負けない」

「冥子も~、諦めてないの~~」

「私だって!そして横島さんに愛の手料理を」

『武神の名に賭けて今度こそ横島さんを手に入れて見せます!』

『ルシオラちゃんには悪いけどヨコシマはパピの物にしてみます』

「そうはいかないわ、にーには私の物よ。誰にも渡さない!」

「わ、私…私だって!(この機会を逃したら…エミにだけは負けられないわ!)」

『略奪愛。これも青春ね』

「主よ、僕に神の御加護を!」

 

 

第二ラウンド開始……

 

 

 

 

「だから何でピートが其処におるんじゃーーーーっ!」

 

 

終われ

 



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「とある前夜の…」

※今回、横島の出番はありません。回想の中でちょっとセリフがあるだけです、あしからず。


 

時間は[23:00]を過ぎた深夜、とあるホテルのバーのカウンターにある二人が並んで酒を飲んでいた。

そのうちの一人、美神令子はグラスに注がれていたウイスキーを一息で飲み込むとゆっくりと語り出した。

 

 

「でさー、ヒャクメに調べてもらって思い出したんだけどさ。私、子供の時に赤ちゃんだった横島クンに会ってるんだよね。ほんぎゃ、ほんぎゃって泣きじゃくっていて可愛かったな~。頭を撫でてあげて、ほっぺにチュってキスしてあげたら泣きやんだのよ、あれが私のファーストキスだったのね」

 

「は、はあ…」

 

「あの後すぐにママに連れられて未来に飛んだのよ。其処に居たのは未来の私とまだ幽霊だったおキヌちゃん、そして霊能が目覚めたばかりの横島クン。まあ、面白くて優しいお兄ちゃんって感じでまだ初恋って程じゃなかったけど」

 

「そ、そうなんだ」

 

「初恋って言えばあの時よね。子供の頃、探検気分で洞窟に入った事があるの。その時ちょっとしたミスで地面に開いた亀裂に落ちそうになったのよ」

 

「ええっ!そ、それで?」

 

「必死にしがみ付いてたんだけど、だんだんと岩肌を掴んでいた指からも力が抜けていってもう駄目だと思った時歌声が聞こえて来たの。助けてって叫ぶとすぐに助け出してくれたわ。そしてその時の男の子の笑顔を見た瞬間、一発で心を奪われたわ。それっきり会えないでいたんだけど、8年後にある事件でその洞窟に行く事があったの。その時に解ったんだけど」

 

「な、何が?」

 

「その初恋の男の子……、横島クンだったのよね~~♪」

 

「げ」

 

「そして事務所を開こうとアルバイト募集のチラシを貼っていた時に横島クンが飛び掛って来たのよ。『一生ついて行きます、おねーーさまッ!!』って。あの時は”もう何なのよ、このセクハラ小僧は”としか思えなかったわ」

 

「そのまま放り出しておけば…」

 

「でも運命ってのは解らないモノよね。あれがあったからこそ今があるんだから」

 

「そ、そうナンダ」

 

「そして小竜姫さまに竜気をバンダナに与えられて霊能力に目覚めた横島クン。正直、あのキスを見てムカっと来たのよね。思えばあの時、既に横島クンは私の心の中に住んでたのね」

 

「は、はははは……」

 

「バイパーに子供にされた時だって普段の扱いを考えれば見捨てられてもおかしくなかったけど、結局私を見捨てようとはしなかったし。私も素直に甘えられたのよね。絵本を読んでくれたり、添い寝もしてくれたわ。出来ればもう一度子供になって甘えてみたいな。何てね♪」

 

「へ、へぇ~~」

 

「香港での元始風水盤事件の時も、新しい霊能『ハンズオブグローリー』に目覚めたし、勘九郎に止めをさしたのは雪之丞だけどその前に鏡の中の異空間に潜んでいた奴にダメージを与えたのも横島クンだったわ」

 

「そうだったんだ」

 

「魔族が本格的に私の事を狙って来た時、横島クンは妙神山で最高難度の修行を受けて最強級の霊能力、『文珠』を手に入れた。でも、あの修行って私を護る為の物だったのよね。もう、横島クンったら~~♪」

 

「くっ…ううぅ~~」

 

「そしてママの作戦でスパイとしてアシュタロスの陣営に乗り込んで帰って来た時、横島クンは…、何て言うか『男の顔』って言うの?凄くカッコいい笑顔だった。あれも全部、ルシオラの為だったのが悔しかったな」

 

「ああ、確かにあの時の彼は男の顔をしていた」

 

「それからも色んな事件があったけど、横島クンがいなかったらどうなっていたか」

 

「そうだね…」

 

「そして明日、とうとう私も横島令子かぁ~~。遂に、と言うかやっぱりやっとよね。そう、千年前からの想いがやっと叶うんだ」

 

「あ、あのね、令子ちゃん。実は…」

 

「それでね、それでね、横島クンったら普段はパンツ一枚で「美神さーーん、俺と一発ーーっ!」って飛び掛って来るくせに、あの運命の日……

 

『み、美神しゃ…さん!お、おりぇ、じゃない、僕、美神さんをしあわしぇ…、絶対に美神さんを幸せにしますかりゃ…、しますからぼきゅと……、ええいっくそっ!美神さん、俺と結婚して下さい!!』

 

ってさ、ガッテガチの噛み噛みでプロポーズして来たのよ。ん~~~っもう、それが可愛くて可愛くてさ~~、我慢出来なくて逆に私が押し倒しちゃったわよ。や~~~~だ、何言わせるのよ!も~~~、エッチ~~~~ッ!!」

 

パーーーーンッ

 

「ぐはぁっ!」

 

「いけない、もうこんな時間。明日の準備もあるしもう帰らなきゃ。じゃあ西条さん…ううん、お兄ちゃん。私、横島クンと…彼と一緒に幸せになるから。お休みなさい」

 

 

 

―◇◆◇―

 

令子が去り、一緒に酒を飲んでいた男、西条輝彦はカウンター席に一人残されたまま呆然としていた。

そんな彼の前に一つのカクテルが差し出された。

 

「…これは?」

 

「私の奢りでございます」

 

老バーテンダーは背中を向けながらそっと呟いた。

正面を向かないのは彼の瞳から流れる涙を見ない為の彼なりの心遣いだったのだろう。

西条はその心遣いに感謝しながら一気に飲み干した。

 

「う、うう。何故だ、何故なんだ令子ちゃん!僕の方が何倍もいい男だし収入だって!何で横島クンなんかとっ!」

 

カウンターに覆いかぶさって泣き出した彼のポケットからは”あわよくば”と予約しておいた最高ランクのスイートルームの鍵が、カチャリと小さく音を鳴らせた。

 

「うおおお~~~~~んっ!れ、令子ちゃぁ~~~~ん、令子ちゃああぁぁ~~~~~~~~~~んっ!!」

 

その泣き声を聞きながら、老バーテンダーはこの男に最高の幸せが訪れる事を心の底から願うのであった。

 

 

 

 

 

無駄と知りつつも…………

 

 

終わる

 

 

 




( ;ω;)西条ェ……

(`・ω・)と言う訳で、美神の結婚前夜のお話でした。
後、美神の初恋の設定は小説版・水迷宮の少女!! から持って来ました。


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「横っちinシャイナダルク・書き逃げ体験版」

もはや時を数える事も出来ない遥かなる昔…

とある魔王が世界を滅ぼさんとその凶悪で巨大な姿を現した。

だが、六人の英雄と一人の勇者によってその巨悪は倒された。

 

世界に光は戻り、人々には笑顔が戻った。

愛した存在を失った勇者はそれからの世を精一杯に生きた。

それが愛した彼女との約束だったから。

 

そして時は流れ、勇者は人としての生を生き抜き、天寿を全うした。

そんな彼を待っていたのは魔王としての誘い。

 

魔の一柱を失ったままの世界のバランスを守る為に滅びた魔王の因子の一部をその魂に宿す勇者に魔王の後継者としての白羽の矢が立ったのだ。

勇者はその要望を受け入れ、勇者は新たなる魔王となった。

全ては愛した彼女が守ろうとした世界を守る為に……

 

人界の最大の英雄である勇者が魔王となって天に昇る。

ある者は感嘆し、ある者は畏怖し、ある者はただその運命に涙した。

だが、ある人々……、人界を正しく導くべき筈の人々。

いわゆる組織や国を統べるべき連中は……

最も愚かな判断を下した。

 

魔王となった勇者の功績を自らの物とし、人界も神界や魔界に並ぶべきであると。

あろう事か神界・魔界と並び立とうとしたのである。

 

これに対し、神魔の最高指導者達が下した決断は……

人類を見放す事であった。

もはや彼らは守るに値しない存在だと。

 

まず、神族が別の次元へと移り、魔族もまたこの世界を捨てる様に移って行った。

神魔の保護を失った人界は緩やかに、そして確実に衰退を始めた。

 

だが、一柱だけ滅び行く世界に残ろうとした魔王がいた。

それが”アシュタロス”の代わりに魔王の座に付いた”横島忠夫”であった。

 

彼にとってこの世界は愛した少女が、ルシオラが守ろうとした世界なのだ。

たとえ神々が見放したとしても彼だけはそれが出来なかった。

 

シロやタマモ達、人外の力を持つ者達は横島に半ば騙される形で世界を渡って行った。

だが、ピートとカオスにマリアは横島と共にこの世界に残る事を選んだ。

ピートは嘗ての世界を守る為に”魂の牢獄”に囚われ、そして今また滅び行く世界を護る為に一人残ろうとする友を守る為に。

カオスは孫の様にも思っていた友を一人にさせない為に。

マリアは彼等と共にある為に。

 

そして神魔達が去った人間界は滅びを始めた。

大地は砕け、天と海は荒れ狂い、横島が残らなければ世界は一つの命も残さずに完全に滅んでいただろう。

 

滅びの刻は終りを告げ、世界はゆっくりと再生を始めた。

人々の文明はかなりの後退を見せたがそれでも彼等は懸命に生きようと歩み始める。

 

それより後、幾千・幾万もの時は流れ……

 

 

 

 

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

「魔王様、何処へ行かれるのですか?」

「い、いや~~。ほら、いい天気だから釣りでもしようかな…と」

「それは宜しいんですがまずは仕事を終えてからにして下さい。サボってばかりですから書類は山の様に溜まってるんですよ」

「そう?なら………。ピート君、キミに決めた!行け、書類整理だ!」

「ふざけないで下さい、横島さん!今日という今日は仕事をしてもらいます!」

「嫌ーーーっ!さんさんと照り付ける太陽がワイを呼んどるんやーーっ!武士の情け、武士の情けやーーーーっ!」

「貴方は武士では無く、魔王でしょう!」

「ならばお前はワイの執事じゃろうが!魔王の仕事の補佐をせんかいっ!」

「補佐はしますよ、補・佐・は!だから補佐をする為の仕事をして下さいと言ってるんです!」

「ええ~~い、ああ言えばこう言う」

「それは横島さんでしょう!」

 

ギャーー、ギャーー!

 

横島は魔王となり、ピートは彼の補佐をする執事となっていた。

そして彼等が住む城には……

 

「はぁ~、魔王様達は今日も相変わらずですね~~。さて、ハニワ兵の皆さん、絶好の魔王日和、今日も頑張って行きまっしょい!」

『ぽ~~~~~~~~~~~!』

 

彼女はカオスが創り上げたマリアの後期発展型アンドロイド。

”V1046-R MAHORO”横島からはまほろさんと呼ばれている。

 

当のカオスはマリアと共に地下に潜り、今日もダンジョンを広げている。

 

「わはははは~~~~~!マリアよ、此処には落とし穴と見せかけて吊り天井を仕掛けるぞ!」

「了解です・ドクターカオス」

 

そして、「魔王」へと「生け贄」として送り込まれた三人の姫達。

 

ヴァンサーブル帝国第四皇女、リアス。

 

「魔王!少しは真面目にやりなさい!」

 

エストグロリア王国第十三王位継承者、トウカ。

 

「魔王様、私もお手伝いしますから」

 

何処から送り込まれたのかは謎の幼女、ウシオ。

 

「まお~~。早く釣りに行こ~~」

「おお、そうだな。早く行こう…」

 

「「「仕事が終わるまで外出禁止です!」」」

 

「そんなご無体な~~~!」

「ぶ~~~」

 

 

 

 

嘗て、東京と呼ばれていた場所。

日本で唯一残された場所。

 

其処は今や魔王が住まう島として恐れられている。

 

その島の名は………

 

 

『シャイナ・ダルク』

 

 

 




(`・ω・)という訳で、思い付いただけの話でした。

GSとシャイナ・ダルクのクロスですね。
キャラクターを色々と入れ替えてみました。

魔王、エクソダ・セロ・クラウを横島に。
ちなみに魔王としての名前は、ヨコシマ・タダオ・アシュタロス。
安直ですね……

執事であるヴィンセントにはやはりピート。
夜の支配者、不死者の王子と呼ばれてるからぴったり。

メイドのノエルにはまほろさんにやってもらいました。
彼女しか居ないでしょう!
何しろアンドロイドで薄いむ…―( ゚д゚)→トスッ! ネッ

伝説のダンジョン職人・デズモントはドクターカオス。
あのダンジョンの仕掛けのいやらしさ。
カオスらしくていいよネ。

ヴァンサーブルの皇女、ガレットはリアス。
ハイスクールD×Dのリアス・グレモリーです。

エストグロリアの姫、クリスティナはトウカ。
真・恋姫†無双の桃香。
彼女が一番しっくり来たので。

謎の幼女、マープルはウシオ。
クラナド・アフターストーリーの岡崎 汐。
オイラは別にロリコンじゃ無いぞ!

ちなみに地下ダンジョンの宝物庫に居るドラゴンはゾリティアではなく、赤龍帝ドライグだったりします。
思い付いてるのは此処まで。
後はゆっくり、じっくりと話を作って逝くしかないですね。

それではまた。(・ω・)ノシ



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「ちょっとした、出来心なクロスネタ」

(`・ω・)数年前に書いたエイプリルフールネタで、まどか☆マギカとタダオキュートのクロスでしゅ。


 

……不思議な夢を見た。

 

壊れた街の中でとても怖い“何か”とたった一人で闘っている女の人。

助けてあげたい!何とかしてあげたい!でも、私には……

 

そんな風に悩んでいると何処からか声が聞こえた。

 

「君には力がある、とてもすごい力が。その力があればなんだって出来る」

 

そうなの?こんな私にも誰かの為に何かが出来るのかな?

 

「勿論さ!!だからさ…僕と契約して魔法少女になってよ」

 

 

 

其処で夢から覚めた。何だったんだろうあの夢は?そしてあの女の子は?何処かで会った事がある様な気がする。

 

さやかちゃん達と学校に行く途中に不思議な女の子に出会った、横島忠雄ちゃん。

とても変なの、だって自分の事男の子だって言うんだよ。あんなに綺麗なのに男の子の筈ないよ。

 

と言ってたら本当に男の子だった………自信、無くなっちゃった。

隣でさやかちゃんもへこんでいる…。orz

 

学校に行くと転校生が来た。

とっても驚いたの、だって夢の中で闘っていた女の子だったから。

 

 

 

「貴女は誰?繰り返して来た歴史の中に貴女は居なかった」

「ボクはこの世界の人間じゃないんだ。偶然、この世界に迷い込んでしまったんだ」

「貴女も魔法少女なの?」

「うん、一応……」

「一応?」

「君達とは違う力で魔法少女にされちゃったんだ。それにボクは男だし」

「嘘よっ!!」

「そんなに必死に否定しなくたって……」(涙)

 

 

 

キュウべえ……

アイツを見てると頭の中で雑音が鳴り響く。まるで“ノイズ”の様に。

アイツは危険だ、アイツをまどかちゃんに近づけちゃいけない。

だからボクも闘う事にした、魔法少女として、ほむらちゃん達と一緒にまどかちゃんを護る為に。

 

 

 

新しい仲間が出来た。

私達とは違う世界の魔法少女、それなのに私と一緒に闘ってくれる。

心強い、仲間が居るって、友達が居るってなんて心強いんだろう。

もう何も怖くない。

 

でも……あんなに可愛いのに男の子だなんて反則よ。

 

 

 

あたしってほんとバカ。

暁美ほむらが、忠雄があんなに忠告してくれてたのに……

キュウべえなんかに…簡単に騙されて。

でも、彼女達はこんなバカなわたしを護ってくれる。

暁美ほむらも、マミさんもキュウべえに騙されて魔法少女にされたっていうのに。

だからわたしも闘う。

キュウべえなんかの思い通りになんかさせてやるもんか!!

そしてこんなわたしを仲間と思ってくれる皆の為にも。

 

 

 

あり得ねえだろ、ぜってぇあり得ねえだろ!!

アイツが男だぁ?何の冗談だ!!

アイツが男だってぇんならあたしは何なんだ!?

くそっ、自分で言ってて悲しいぜ。それに何だ、キュウべえがあたし達を騙してる。

OK、いいぜ。そいつなら信じてやる、忠雄が男だなんて冗談よりよっぽど真実味があるぜ。

 

 

 

今までの歴史ではまどか以外は信じてくれなかった。

でも今回は皆が一緒に闘ってくれる、まどかを護る為に。

貴女のおかげなの忠雄?

今度こそ護って見せる、私の一番大事な…大好きなお友達。

キュウべえ、お前なんかに渡さない。

大丈夫、絶対勝てる。忠雄たちが、皆が居るから。

 

 

 

 

ワルプルギスの夜、最強の魔女。

 

皆が闘っている、でも私は何もできない、ただ護られているだけ。

見ているだけなのかな、何も出来ないのかな?

 

「そんな事は無いよ」

 

キュウべえ?

 

「君なら最強の魔法少女になれる、皆を助けられるよ」

 

本当?本当に?

 

「本当さ。さあ、僕と…」

 

「ダメーーッ!!まどかぁーーーーーっ!!」

 

ほむらちゃん、何で?なんでダメなの?

 

「鹿目さん、私達を信じて。絶対に護ってあげるから」

 

マミさん、でも私も皆の力になりたいよ。

 

「ダメだまどか!!わたしみたいにならないで!!」

 

さやかちゃん、さやかちゃんは私の大事な友達だよ。なんでわたしみたいなんて言い方するの?

 

「おいっ!!皆の声が聞こえねぇのか!?それ以上キュウべえに近づくな!!」

 

聞こえてるよ、だから皆を助けたいの。

 

「やめて、まどかちゃん。そいつの雑音(ノイズ)に惑わされないで!!」

 

何で?キュウべえに魔法少女にしてもらえれば皆と一緒に闘えるんだよ?

 

 

「だったら僕が魔法少女にしてあげるよ」

 

え?誰?

 

「ラル!?」

「やあ、タダたんお久しぶり。捜したよ」

「…君は誰だい?」

「僕は魔法少女・タダオキュートのパートナー、ラルさ。さあ、まどかちゃん。この契約書の魔法陣に親指を押し当てれば君もタダたんと同じ魔法少女になれるよ。大丈夫、魂を抜きとられる様な事は無いよ」

 

「忠雄、アイツの言ってる事は本当なの?」

「うん、魔法少女側から契約を破らない限りは問題は無いよ」

 

「だったら私なる!!魔法少女になるっ!!」

「そ、そんな!!それじゃ僕の計画が」

「さあ、まどかちゃん。”意味在る言葉”を」

 

 

「”明日へ羽ばたけ、夢の翼”」

 

 

 

 

此処に六人の魔法少女達の闘いの物語が始まる。

 

 

 

「魔法少女まどか☆マギカ&タダオキュート ~夢ある明日へ羽ばたこう~」

 

 

2016年春・連載開始

 




(`・ω・)する訳無い。



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「特別妄想劇場版」横島×ルシオラの『君の名は。』

(`・ω・)「君の名は。」と銘打ってますが、このHANASIでは入れ替わりはありません。
あらかじめご容赦をお願いしましゅ。

(;ω;)うpする場所を間違えた為、こちら側に再うpでしゅ。
ご迷惑をおかけしました。


 

 

『ヨコシマ、少し頑張りすぎよ』

 

来るべき決戦に向け、横島は都庁地下にある霊動シミュレーターで修行しており、一時(ひととき)の休憩をしている所に心配をしたルシオラがやって来た。

 

『でもなルシオラ、あのアシュタロスが相手なんだぞ。何時ものおちゃらけで倒せるとは思えないし、頑張りすぎる程度じゃ不安なんだよ…』

『馬鹿…、でもありがとう』

 

壁に背を預ける横島に顔を寄せるルシオラ、そして何時もの煩悩を見せる事無く横島はスッと目を閉じその唇を受け止める。

 

『ルシオラ…お前は俺が守る』

『うん、ヨコシマ』

 

決戦前のささやかな日常の一コマだった。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「ふああぁ~~~あっ…と」

 

眠りから覚めた横島は一際大きなあくびをしながら起き上がる。

 

「…また夢か。くっそ~ぉ、せっかく綺麗なねーちゃんと良い雰囲気になったっちゅーに何で夢の中の俺はあそこで押し倒さんのじゃ!」

 

此処はGS世界では無く、オカルトや霊能力などが無い別の世界でこの少年もまたこの世界での横島忠夫である。

 

「でもあの娘、会った事なんか無い女の子なのに妙にリアルな夢なんだよな。今だって顔や声もはっきり思い出せるのに……何故かな?名前だけが思い出せない。いや、現実には会った事の無い娘だから当たり前なんだけど」

 

頭を掻きながら何とかその名前を思い出そうと頭の中で夢を再生するが、その名前を呼ぶ所だけがノイズが走る様に聞き取れないでいた。

 

「はあ~~、……学校行くか。ふあ~~ぁ」

 

そして再びあくびをしながら着替えるのであった。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「でねでね、ソイツが熱ぅ~いキスをした後に言う訳よ!『お前は俺が守る』って。きゃあ~~~♪」

「あはは…。ねえ、そろそろ砂糖吐いていい?」

 

場面は変わり、此処は横島が通うのとは別の学校。

この世界ではルシオラは人間としてごく普通の生活を営んでおり、彼女はクラスメイトの女子に昨夜見た夢をデレデレの表情で語っていた。

 

「で、その愛しの彼の名前は思い出せたの?」

「全然……、何でかなぁ~~。夢の中じゃ確かに呼んでいたのよ、なのに朝起きたら名前だけが思い出せないのよ」

 

横島とルシオラ、この世界では蛍と呼ばれているが何故かこの二人だけがGS世界での出来事を夢で見ていたが、学区が違う事からか未だに二人は出会う事が無かった。

 

「何でなのかなぁ?顔も声も、唇の感触もはっきりと思い出せるのに…って、いやぁ~~ん♪」

「ゴメン、ちょっと自販機でブラックコーヒー飲んで来るね…」

 

 

 

―◇◆◇―

 

場所は変わって此処は横島が通う学校。

彼はこの世界でもクラスメイトであったピートとタイガーに夢の話を語っていた。

 

「へえ~~、横島さんの夢の中じゃ僕は吸血鬼なんですか」

「まあ、悪い奴じゃ無かったぞ。ただ、父親の頭の中が中世で脳を腐っていたけどな」

「はははは……。イヤすぎますね、ソレ」

「しかし、夢とは言え壮大な物語ジャノー。横島サン、夢の中じゃワッシはどうだったんジャー?」

「えっと、タイガーか?えっと、その、たしかいるにはいたんだが…」

「影が薄かったんジャノ~~」

 

あわれタイガー。どうやらこの世界でも影の薄さは変わらないらしい。

 

 

 

―◇◆◇―

 

そして彼等は最後の決戦時の夢を見る。

 

『ルシオラ!俺は…俺は!』

『もういいのよ、ヨコシマ。お前は十分すぎるほど頑張ったんだから。私は満足してるわ』

『何が満足だよ!俺は…、俺は約束したのに。お前を助けるって約束したのに!』

『ヨコシマ、私達は何も無くしてはいないわ。恋は実らなかったけど何時か、何処かできっとまた巡り合える。その時こそきっと…』

『まってくれ、ルシオラ!俺はまだお前と…』

『ありがとうヨコシマ。…さようなら』

『ルシオラァーーーーーッ!』

 

 

―◇◆◇―

 

「何なんだよこのオチは」

 

夢から覚めた彼の気分は最悪であった。

世界を救うには彼女の犠牲が必要だった。

彼女を選ぼうにも彼女自身がそれを拒んだ。

結果、世界は救われたが彼女との恋は悲恋で幕を閉じた。

 

 

―◇◆◇―

 

「はあ、サイアク」

 

着替えながらそう呟く少女、(ルシオラ)もまた同じ夢を見て落ち込んでいた。

 

「本当にそれで良かったのかなぁ、夢の私は?」

 

夢の中の自分は満足だと言っていたが、本当にそうだったのか?

あの魔王も約束は守っただろうし、世界を捨ててでも彼と幸せになれるのだったらそれを選んでも良かったんじゃないのか?

そうやって考えてはみるが……

 

「でもそれじゃ幸せにはなれなかったんだろうな」

 

世界の全てを、仲間達を見捨てての選択では例え二人きりで暮らせてもやはり後悔の中で生きて行かなくてはならなくなる。

 

「やっぱり、あそこで逃がすんじゃ無く無理やりにでも押し倒しておけばって…いやん、私ったら」

 

 

―◇◆◇―

 

「もっと頑張りようがあったんじゃないのか、夢の俺」

 

学校へと進む雨の中、言っても仕方が無い事だと分かっていてもつい呟いてしまう横島。

もっとも、平凡な日常が続くこの世界で生きている自分と違い、夢の中の自分は漫画やアニメでしかあり得ない様な戦いを潜り抜けた結果があの結末なのだ。

 

「とは言っても俺が文句をつける事じゃないか」

 

夢とはいえ、見ていただけの自分が文句をつける資格は無い。

溜息を吐きながらも学校へと足を進めるのであった。

 

 

―◇◆◇―

 

翌日、休みだった事もあり横島は気晴らしがてらに少し足を伸ばして別の街へと散歩に来た。

 

「今日は良い天気になって良かったな」

 

横島の表情は昨日とはうって変わり明るい笑顔であった。

見知らぬ街で気分が変わった事もあるが、彼には何かの予感があったのだ。

今日、此処で何かが変わる、そんな予感が。

 

 

そして街を一回り歩いた夕暮れ時、ふと空を見上げると沈み行く太陽が空を紅く染めていた。

 

「夕焼けか……、昼と夜との一瞬の隙間…だから」

 

「だから、余計に綺麗」

 

 

「「えっ!?」」

 

夕陽に見惚れて気付かなかったが、すぐ傍に居た誰かが同じ言葉を呟いた事に二人は驚き、お互いの顔を見合うとその瞬間……

 

時間が止まった。

 

 

しばらくそうして見つめ合っていたが、ふと横島が歩き出して蛍の横を通り過ぎる。

はっとした蛍もすぐさま振り返りその背中に声をかける。

 

 

「あ、あのっ!…。変な事聞く様だけど…」

 

横島も頭を二、三回掻くと振り向いて答える。

 

「俺も…ナンパだと思われたくねーーんだけど…」

 

 

「「君の名は?」」

 

 

 

それは出会いであり、そして再会。

二人は歩み寄り、お互いの両手をごく自然に掴みあう。

 

「「やっと会えた」」

 

 

あの世界で悲恋に終わった物語はこの世界で再び新たに始まる。

 

 

「これからもずーーっと一緒に見ようね、あの夕陽を」

 

 

~おしまい~

 

 



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「横島くんとポセイドン」

(`・ω・)海の聖域、海底神殿に迷い込んだ横島くんと迷い込まれたポセイドンのお話。



 

「痛つつ…。あ~、死ぬかと思った」

 

横島はとある場所で目を覚ました。

六道女学園の生徒達が合宿に参加する美神の荷物の中にこっそりと隠れたつもりだったのだが、あっさりと見破られて鞄ごと鎖で雁字搦めに縛られて海へと投棄された。

そして横島はそのまま海の底へと沈み、海王ポセイドンの海底神殿に辿り着いてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

「くそ~~、美神さんも無茶するな~。所で此処は何処だ?」

 

そう言って横島は空を見上げる。

否、其処には空は無く、海がまるで空の様に浮かんでいる。

横島の足元には砕け散った鞄の破片が散らばっていて、落下の衝撃の凄まじさを物語っていた。

 

「しっかし、なんちゅーか図鑑で見たギリシャ神殿みたいな場所だな」

 

まあ、当然であろう。

何しろ此処は海神ポセイドンの聖域、海底神殿なのだから。

誰か居ないか探す為に歩き回る横島だが、ポセイドンは未だアテナの壷の中に封印されており、海闘士(マリーナ)達もまた復活はしておらず、海底神殿には誰も居ない。

 

暫く歩き続けた横島の眼前に一際盛観な神殿が現れ、神殿の向こう側には天である海を支える様に巨大な柱もあった。

 

「此処なら誰か居るかな?」

 

カツーン、カツーン、カツーン

 

横島はポセイドン神殿へと入り足音を響かせながら暫く進んで行くと広間に出て、其処にはポセイドンと七つの海将軍(ジェネラル)鱗衣(スケイル)が安置されていた。

ポセイドン鱗衣の下に置かれた黄金の壷こそアテナの壷であり、その中に封印されたポセイドンの魂が眠りに付いているのであった。

 

「…何か高そうな壷。もって帰っちゃ駄目かな?厄珍なら高く買ってくれそうなんだが」

 

金欠な横島の頭の中では既にアテナの壷を売り払った際の金勘定が始まっている様だ。

 

「誰も居ないようだし…バレないよな」

 

そう言いながらそ~~と、アテナの壷に触れると既に効力を失っていた封印の札は粉々になって砕け散り、閉じ込められていたポセイドンの魂は解き放たれてポセイドン鱗衣(スケイル)へと宿る。

 

《誰だ、余の眠りを妨げる者は?》

 

「うおっ!? 何処からとも無く声が!」

 

《誰だと聞いておる》

 

「お、俺は横島忠夫だ。お前こそ誰や?」

 

《ふふふ、余を前にしてその不遜な態度、良い度胸だと誉めておこう。まあ良い、余は海王ポセイドンである》

 

「ポセイドン?」

 

ポセイドンと聞き、横島は辺りを窺いながら何かを探し回る。

 

《何を探しておる?》

 

「ロデムは?ロプロスは?巨大コンピューターは?」

 

《そのポセイドンでは無いっ!第一、此処は海の底で砂の嵐には隠れておらぬ!》

 

そう叫びながらポセイドン鱗衣は裏拳でツッコミを入れる。

ちなみに何故、バ○ル二世を知っていたのは永遠の謎である。

 

「おお、そうか。ならあの……」

 

横島は何かを思い出したかのようにポンと手を叩く。

 

《そうだ、余はあの…》

 

そんなポセイドンの言葉を無視するかのように横島は小さな霊波刀を作るとそれを握り閉め、頭上に高々と上げて叫ぶ。

 

「お・り・は・る・こーーーーーんっ!」

 

《違うと言っておろうがっ!》

 

どんな原理なのか、ポセイドン鱗衣のマスクには#マークが浮かび、裏拳でのツッコミもさっきよりも激しい。

ちなみに何故、海の…以下略。

 

「兄弟のネプチューンと喧嘩して、巻き添えくった小魚が魔族化したり」

 

《しとらんっ!》

 

「待てよ、そう言えばたしか……」

 

《ふふふ、ようやく気付いたか。そうだ、余は…》

 

「妹のデメテルに手を出して妊娠させた」

 

《うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!》

 

「違うのか?ならばっ…え~と、他には…と」

 

《無理やりネタを探さんでもよい!》

 

「何を言う!? ネタに走らんで何が関西人や!」

 

《余は関西人では無いっ!》

 

「細かい事を気にするな、血圧が上がるぞ」

 

《誰のせいだ!もう良い、帰れっ!》

 

「何や、つれないな。せっかく来たのに。そうだ、ポセイドンと言うからには海の王様なんだろ。此処は一つ、綺麗所の人魚のねーーちゃんでも呼んでぱーーっと大宴会を!」

 

《帰れと言っている!!》

 

「のわわぁ~~~~~~~~っ!」

 

ポセイドンの怒りの波動を受け、横島は海上へと強制送還される。

 

《はぁ、はぁ、はぁ。こ、これで漸く静かに眠れる》

 

そしてポセイドンの魂はアテナの壷に戻り、再び眠りに付いた。

その後、横島は海辺に流れ着いた所をシロとタマモに発見されるのだがこの海底神殿での出来事の記憶は消されたらしく覚えてはいなかった。

 

 

 

 

 

しかし、それから数時間後……

 

 

カツーン、カツーン、カツーン。

 

 

誰も居なくなった筈の海底神殿に足音が響く。

黄金の三又の鉾を持つ男がポセイドン神殿に足を踏み入れる。

 

「こ、これは!噂に聞くポセイドンと海将軍の鱗衣か」

 

この男こそ、兄である黄金聖闘士(ゴールドセイント)双子座(ジェミニ)のサガにスニオン岬の岩牢に閉じ込められていたはずのカノンであった。

 

「ふふふふふ、全ての運に見放されたと思ったがどうやらそうでもなかったらしい。この状況を利用し、海界のみならず地上界すらこの手に治め、このカノンが唯一絶対の神として君臨してくれる。サガよ、その時になって後悔するがいい。ウワーーッハハハハハハハハハ!」

 

そしてカノンはシードラゴンの鱗衣に目をやり、今後はシードラゴンを名乗る事に決め、アテナの壷を開きポセイドンの魂を開放……

してしまった。

 

 

《・・・・・・・・》

 

「ポセイドン様、お目覚めの時です。私はシードラゴンのカノ…」

 

《帰れっ!》

 

「のわわぁ~~~~~~~~っ!」

 

ポセイドンの怒りの波動を受け、カノンは岩牢へと強制送還される。

 

 

 

―◇◆◇―

 

こうして地上は何時の間にやら横島の功績によってカノンの野望から救われたのであった。

だが、人々はその事を知らない。

もっともこの様な救われ方をしたなどと、知りたくも無いだろうが。

 

そして今日もスニオン岬にはカノンの雄叫びが木霊するのであった。

 

 

「だぜーーーーーっ!」

 

 

 




(・ω・)<ちゃんちゃん♪

(`・ω・)とまあ、そんな事があったんじゃないかとオイラの捏造です。
ちなみにポセイドン鱗衣(スケイル)のオブジェ形態はあのツッコミの形のまま固まってしまったらしく、未来永劫あのままです。(#マーク付きで)
ちなみにナレーションは田中秀幸さんで脳内変換をお願いいたします。


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「聖闘士星矢~最終聖戦の乱入者達?~その1」

劇場版・最終聖戦の戦士達に横っちと雪之丞が乱入します。
シリアス?そんなモノ、ヨコシマンが関わった時点で存在しない。


此処はギリシャ聖域(サンクチュアリ)

そして、空からアテナ神殿へと続く十二宮の外れに二つの流星が落ちた。

 

「此処は…、おい横島。此処は一体何処なんだ?」

「俺が知るか!奴らから逃げ出すのにせーいっぱいで転移先の設定なんかしとる時間は無かったからな」

「てめえっ!そんな無茶をしやがったのか。だから逃げ出さずに返り討ちにすればよかったんだ」

「しゃーないやんかー!怖かったんやーー!」

 

二人の声の主は横島忠夫に伊達雪之丞。

アシュタロスとの戦いの後、神族と魔族の間はデタントによって直接的な争いは無くなった。

だが、それを良しとしない両陣営の過激派はデタントの象徴である横島を付け狙う様になっていた。

 

そして遂に横島抹殺へと動き出し、無差別攻撃という暴挙に出た所を横島に食事をたかろうとしていた雪之丞が巻き込まれていた。

雪之丞は嬉々として迎え撃とうとしたが横島は「冗談じゃないわーーい、戦術的撤退!」と【転】【移】の文珠で逃げ出そうとしたが、攻撃の影響を受けて次元を越えたこの世界へと飛ばされてしまったのだ。

 

「しかし、えらくボロボロな場所だな。誰も居ないのか?」

「おい、横島。あの建物はけっこう立派だぞ。あそこなら誰か居るかもしれないな。よし、行くぞ」

「待たんかい、雪之丞!」

 

言うや否や、雪之丞は駆け出し、横島もその後を追い駆けて行く。

聖域十二宮、第一の宮である白羊宮へと。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

カツーン、カツーン、カツーン

 

白羊宮へと足を踏み入れた二人ではあるが、足音が響くだけで誰も見当たらないでいた。

 

「誰も居らんじゃないか」

「その様だ……、いや、微かに人の気配がある。こっちだ!」

「ホンマかいな」

 

そう首を傾げながらも横島は雪之丞の後を着いて行き、暫く走ると金色の鎧を身に着けた男が倒れているのを見つけた。

白羊宮の黄金聖闘士、牡羊座(アリエス)のムウである。

 

「居たぞ!…酷い怪我だな。おい、横島」

「解った解った。ほれ、【癒】っと」

 

横島が(いやし)の文字が刻まれた文珠をムウの体に当てると、文珠は薄緑色の光を放ちながらムウの傷を癒し、驚いた事に黄金聖衣の傷も塞がっていく。

これは聖衣自体が命を持ち、生きているからなのだろう。

 

「う、うう。な、何だ、体の傷が消えている。しかも聖衣までもが完全に修復されている。これは一体?」

「おい、大丈夫か。此処で何があったんだ?」

「とゆーか、此処は一体何処なんじゃ!? ワイは早く帰りたいんじゃ!」

「あ、貴方達は誰ですか?どうやってこの白羊宮に……。い、いけない!アテナ神殿からアテナの小宇宙と奴等の小宇宙が感じられる。アテナが危ない!早く行かなければ!」

 

ムウはすぐさま立ち上がりアテナ神殿へと走り出そうとするが…

 

「ちょっと待たんかい」

「ぶげっ!」

 

横島が出した足に引っ掛けられ、顔面から地面に倒れ付した。

横島が関わるとシリアスな場面もギャグへとあっさりとすり変わってしまう。

考えてみれば恐ろしい男である。

 

「な、何をするんですかっ!」

「やかましいっ!それより貴様、今アテナとか言ったな?アテナってまさかあのオリンポス十二神の女神アテナか?アテナの事かぁーーーーーっ!?」

 

横島はムウの襟首を掴んで前後に揺さ振りながら問いただす。

 

「や、やめなさい!第一、それ以外にどんなアテナが居ると言うんですか。早く行かないとアテナに危機が「ちょっと待て!」うわぁっ!」

「危機とはどういう事だ!? 戦いか?強い奴等が居ると言うのか!?」

「そんな事よりアテナは美人なのか?どーなんじゃ!?」

 

"危機が"と口にすると次は雪之丞に襟首を掴まれ、同じ様に前後に揺さ振られながら問いただされる。

そのあまりの迫力にムウは素直に答える事しか出来なかった。

 

「は、はい。いくら四人がかりだったとはいえ、黄金聖闘士の私を一瞬で倒した相手なのですからかなりの強敵です。それにアテナは美しいお方です、この地上において最も美しいと言っても過言ではありません」

 

ムウが其処まで言うと二人はニヤリと笑い……

 

「「それを早く言わんかいーーーーーっ!」」

「ぶげらぁっ!」

 

そう叫ぶとムウを突き飛ばし、全速力で十二宮の階段を駆け上がって行く。

ちなみに突き飛ばされたムウは、両手足を広げた形で壁に上下逆さでめり込んでいた。(昔懐かしのうる星やつら風)

 

「わははははーーーーーっ!ねーちゃん、ねーちゃん、美人のねーちゃん!美しき女神のアテナ様ーーーっ!今この横島忠夫が参りますーーーーーっ!わははははーーーーーーっ!」

「わははははーーーーーっ!強い奴、強い奴、手強い強敵!倒しがいのある強い敵ーーーっ!今この雪之丞様が行ってやるぜーーーーーっ!わははははーーーーーーっ!」

 

横島と雪之丞は併走しながら十二宮を駆け上がって行く。

具体的に言うならルパンと次元走りで。

 

 

今、この十二宮において、誰もが想像しえなかった…というよりしたくも無かった暑苦しい戦いの火蓋が切って落とされたのであった。

 

 

続く

 





(`・ω・)と言う訳で、劇場版~最終聖戦の戦士達~に横っち達が乱入しました。
でもあの話、よくよく考えると聖魔天使に倒されたムウ達って、あのラストシーンからして見ると治療もされないままほっとかれたんだよね、星矢達はちゃんと病院に入院していたのに。
なのに沙織はそんな黄金聖闘士達を無視してアテナ像の首がチョンパされてた事で泣いていた。

ヒデェ…


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「聖闘士星矢~最終聖戦の乱入者達?~その2」

(`・ω・)タイトルに名前が付いても主役じゃない星矢と主役でもタイトルに名前が付かないリンク。
いや、だからどーしたと言われても困るんだけどね。


 

白羊宮を飛び出して石段を駆け上がって行く横島と雪之丞。

 

「おっ?何かさっきと同じ様な建物が見えて来たぞ。あそこにアテナちゃんが居るのか?」

「いや、まだまだ先にも同じ様な建物が見える。おそらくこの階段を上りきった所に居るんだろう。当然、強い奴も其処にな。ふふふふふ、はーはっはっはっはっは!」

「「わーはっはっはっはっは!」」

 

二人は高笑いをしながら第二の宮、金牛宮へと走って行く。

 

 

 

その頃、ムウはと言うと。

 

「な、何故私がこの様な目に……」

 

ようやくめり込んだ壁からの脱出を果たしていた。

 

「いや、そんな事より先を急がなくては」

 

気を取り直し、ムウはアテナ神殿へと続く十二宮の階段を走り始める。

そして金牛宮へと辿り着くと此処の守護者である牡牛座(タウラス)の黄金聖闘士、アルデバランの姿を探す。

 

「アルデバラン!アルデバランは居ないのですか」

 

呼んでも返事が無い事から自分の様に彼等に治療を受けて先に進んだのかもしれない。

そう思い、自分も先を急ごうとすると視線の先に倒れているアルデバランを見つけた。

 

「アルデバラン!」

 

その姿はさっきまでの自分同様に謎の敵に倒され、傷付いたままであった。

 

「酷い傷だ、まったく何という人達ですか。こんな傷を負ったアルデバランを見捨てて行くなんて」

 

流石はアテナの聖闘士、傷だらけの自分達を見捨てていったアテナの事は棚の上に置いたらしい。

ムウはアルデバランを治療をしようと近付くと足元にあった何やらビー玉の様な小さな珠を蹴飛ばした。

 

「ん?何だこの珠は」

 

よく見て見ると、珠の中には【癒】という文字が浮かんでいて、コロコロと転がるその珠がアルデバランの体に触れると緑色の光を放ちながらたちまちアルデバランの傷を聖衣ごと治していった。

 

「むぅ!こ、これは。そうか、私の傷を治したのもあの珠だったのか。しかしあの珠から発せられていた小宇宙にも似た力は一体?」

 

そうして体と聖衣の傷が消えるとアルデバランは意識を取り戻して行く。

 

「う、うう。俺は…生きているのか」

「アルデバラン、気が付きましたか!」

「ムウ、そうか、お前が俺を助けてくれたのか」

「いいえ、貴方の傷を治したのは私ではありません」

「何?では誰が」

「その事は走りながら話します。今は一刻も早くアテナの元へ」

「うむ、そうだな。では急ごう!」

 

 

 

―◇◆◇―

 

双児宮、巨蟹宮を抜け、獅子宮へと進みながらムウは今までの事をアルデバランへと話す。

傷付き倒れていた自分の傷を治し、アテナが美人だと知り、そして強い相手が居ると知るとアテナ神殿へと走り出した謎の二人組の事を。

 

「なるほど。しかし、もしやその二人もアテナを狙う敵ではないのか」

「いえ、それは無いでしょう。もしそうだとしたら私を助ける理由がありません。特に邪悪な小宇宙も感じませんでしたし」

 

とは言え、(よこしま)な感じはした事は伏せておいた。

横島だけに…

 

そして獅子宮の辿り着くと、其処ではやはり獅子座(レオ)の黄金聖闘士アイオリアが倒れていた。

その傍にはさっきと同様に【癒】の文字が浮かんでいる珠が置かれていた。

 

「まったく、いくら急いでいるとは言え治して行くぐらいの事はしてくれても良いでしょうに」

 

ムウはぶつぶつと呟きながら文珠を拾うとアイオリアの体へと当て、彼の体と聖衣を治していく。

 

「こ、これは…!ムウよ、何だその珠は?」

「私にも解りません。しかし、瀕死の状態だった我等の傷を一瞬で癒し、また聖衣すらも修復してしまうのです。本当に彼等は一体?」

「う、うう…」

「気が付きましたかアイオリア」

「ムウ、アルデバラン。お前達は無事だったのか!しかしこれはどうした事だ?奴等にあれ程までにやられた傷が…、それに聖衣まで元通りに修復されているとは」

「その事は後で、今はアテナ神殿に急ぎましょう」

「うむ、そうだな。急ごう」

 

アイオリアが立ち上がると三人は次なる宮、処女宮へと走り出す。

そしてその道すがら、ムウはアイオリアにも事の次第を話した。

 

「その二人、敵では無いと考えて良いのか?」

「ええ、私達の傷を治すあの不思議な珠を置いて行ってくれている事からそう考えても良いでしょう」

「二人共、処女宮が見えて来たぞ。シャカは無事か?」

 

アイオリアへの説明が一通り終わる頃、三人は第六の宮である処女宮に辿り着いた。

其処で彼らが見た物は……

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

「ひ、酷い…」

「何と惨い事を…」

「シャカ…」

 

其処には傷付き、仰向けに倒れたままの乙女座(バルゴ)の黄金聖闘士、シャカ。

傍らには【癒】の文珠が置かれてはいるが、その姿の余りの悲惨さにムウ達は呆然としていた。

 

横島が走り抜けて行った後であろう、シャカのその顔面には……

靴の足跡がくっきりと刻まれていた。

 

「と、兎に角シャカの治療をしましょう」

 

ムウは文珠を拾うとシャカの体に当てる。

文珠が光を放ち、アルデバラン達と同様に傷と聖衣を修復して行く。

 

そして傷が治るとシャカは無言で立ち上がる。

 

「シ、シャカ…」

「とりあえず、無事で何よりだ」

「さあ、先に急ごう」

 

だが、シャカは彼等の言葉には答えず、

 

「 くくくくく 」

 

と、俯きながら嗤うのであった。

 

「 くくくく、あの男、あろう事かこの私の顔を土足で踏み躙って行くとは…。許せん! 」

 

そしてその顔を上げると其処には。

 

「「「シ、シャカの目が開いた!!!」」」

 

凄まじい殺気と小宇宙を発するシャカがいた。

 

「三人共、何をしてるんですか?早く行きますよ」

 

シャカは振り向きながら真顔でそう言うが、ムウ達は。

 

「「「ぷっ!!!」」」

 

つい、噴き出してしまった。

何故なら体の傷と聖衣は治ったものの、その顔に付いた足跡だけは何かの呪いの様に残ったままだったのだから。

 

「何が可笑しいんですか?」

「「「い、いえ、すみません。何も可笑しい事はありません!」」」

「ならば急ぎますよ。あの男には少しHA・NA・SU事がありますから」

「「「わ、解った」」」

 

走り出したシャカの後を追いながらムウはあの男がオシャカにされない事をちょっとだけ祈った。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「なるほど」

 

走りながらムウはようやく正気に返ったシャカにも詳しい説明をしておいた。

何者かは解らない二人組が先を進みながら【癒】という文字が刻まれた珠を置いていってる事。

その珠は体の傷だけで無く、聖衣までもを一瞬で修復している事も。

 

「おそらくその珠は『文珠』と呼ばれる物に間違いは無いであろう」

「文珠?」

「シャカ、その文珠とは一体何なのだ?」

「この私も話でしか聞いた事は無い。霊力と呼ばれる力を極限まで凝縮させ、言霊を込めた文字を刻み込む事でそれらの事象を具現化させる神具だという事だ。この地上界には存在せず、神々の手にしか無い筈だがそれが何故、今此処に」

「その様な神具を持っているとは、彼等は一体…」

「もしかすると他の神に仕える闘士なのでは」

「それもこれも彼等にHA・NA・SIを聞いてからです」

「…その言い回しは止めぬか、シャカ」

 

 

 

―◇◆◇―

 

天秤宮を抜け、天蠍宮に辿り着くと案の定この宮の守護者である黄金聖闘士、蠍座(スコーピオン)のミロは傷付き倒れたままで、傍には【癒】の文珠が転がっていた。

そして……

 

「これが文珠か。なるほどな、伝説の神具と言われる事だけはある」

 

シャカは文珠を拾うとそれを調べながらも、その秘められた力に感心していた。

 

「シャカよ、詳しく調べたいのは解るがそれより早くミロを」

「うむ、そうであったな」

 

そう言いながら、ミロに文珠を使おうとするが……

 

「「「「ぷっ!!!!」」」」

 

倒れているミロの横顔にはやはり横島が踏みつけて行ったのであろう、足跡がくっきりと刻み付いていた。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「おのれぇーーーっ!あの男ーーーーーっ!」

 

ミロは怒りの形相で十二宮の階段を駆け上がっている。

勿論、シャカも同様だ。

二人の顔には未だに足跡が消えないまま残っており、その事を考えれば当然なのだろう。

 

「しかし、何故あの二人だけ顔を踏まれて行ったのだろうな?」

 

アイオリアがそんな疑問を口にすると、ムウが答える。

 

「おそらくは"顔"でしょうね」

「顔?」

「ええ、おそらく彼はいわゆる美形と呼ばれる男性にあまり良い感情を持ってないのでしょうね」

「そうなのか?なら…」

 

アイオリアは『俺達は』と続けようとしたのだが…

 

「言っておきますが私も彼等には酷い仕打ちを受けましたよ。そう、ちょうど貴鬼がよく読んでいる日本のマンガに出て来る様な飛ばされ方を…」

 

ムウは心底辛そうに、溜息を吐きながら呟いた。

つまり横島に"何もされてない"のはアルデバランとアイオリアの二人だけなのだ。

アイオリアがその事実に愕然としていると肩を叩かれ、振り向いて見ると。

 

Σd(゚∀゚ )

 

アルデバランがとてもイイ笑顔でサムズアップしていた。

アイオリアは声を出さずに泣いた。

 

 

続いてみよう。

 

 




(`・ω・)今回は黄金聖闘士達の合流がメインの為、横島達の出番はちょっとだけ。
シャカが文珠の事を知っているのは仏教系だからという設定。
神々がいるこの世界なら文珠があってもさほど不思議じゃない筈。

アイオリアは横島的にはギリギリセーフだったらしい。
黄金魂(ソウル・オブ・ゴールド)編じゃなくてよかったネ。


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「聖闘士星矢~最終聖戦の乱入者達?~完結編」

アテナ神殿へと向かい先を進む横島達を追い駆け、十二宮を進むムウ達。
急げ、アテナの黄金聖闘士達よ!

(`・ω・)とは言うものの、原作はもはや影も形もありません。
それでもいいヨ、と言って下さる方のみお読み下さい。


 

双魚宮を抜け、教皇の間へと進む最後の階段を駆け上がるムウ達。

魚座(ピスケス)のアフロディーテは居ない為、此処にはデモンローズは敷き詰められてはいなかった。

 

そして遂にムウ達の視界に二人の男、横島と雪乃丞が入った。

 

「居ました、彼等です!」

「「ふふふふふふ、遂に追い詰めたぞーーーーーっ!」」

 

シャカとミロは横島達に追いつくと、二人を挟み込むように並走する。

それはそれで良いのだが、手足の動きは四人とも全く同じな為、見た目はまるっきりギャグマンガである。

 

「遂に追いつきましたよ!」

「お?お前らか、ちゃんと治ったんだな。良かった良かった」

「貴様!何が良かっただ、俺達の顔を踏み躙って行ったくせに!」

「それの何処が悪い!イケメンは人類の敵やーーっ!お前らみたいな奴等が居るから俺達の様な迷子達が泣くはめになるんやーーっ!」

「何の事だ?」

 

(((やはり、そう言う事か)))

 

ソッチ方面では無関心というか無頓着なシャカには解らない事ではあったが、その他の連中には解ったらしい。

もっとも雪之丞は…

 

(何でこいつは気付いてないんだろうな?)

 

と、数多くの女性から想いを寄せられている事に気が付いていない横島の事を不思議に思っていた。

 

「それはともかく。奴等と戦ったのでしょう、星矢達の小宇宙が弱まっています。早く行かなければアテナが危ない!」

「そうだぞシャカ!今はアテナをお救いする事が先決だ」

「くくくく、ようやく強い奴と戦えるんだな。急ぐぞ横島!」

「わーとるわい!待っててね、アテナちゃーーんっ!」

「まあいい。横島とか言ったな、HA・NA・SIは後だ!」

 

そして教皇の間を抜けた七人はアテナ像前の広場へと駆け上がって行く。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「ルシファー、どうあってもこの地上を?」

「くどいぞアテナ、地上を救いたいと言うのであれば大人しく我が生け贄となるがよい」

 

星矢、氷河、瞬の三人は既に倒され、アテナ・沙織の眼前には四人の聖魔天使、そして悪魔王・堕天使ルシファーが立ちはだかっている。

もはや成す術は無いと思っていた沙織だが、其処に思いもよらなかった彼等、黄金聖闘士が駆け付けて来た。

 

「アテナ、ご無事ですか!?」

「あ、貴方達は?」

「ば、馬鹿な!何故倒したはずの黄金聖闘士達が!?」

 

聖魔天使達は突然の事態に驚愕する。

何しろ、既に息絶えていたであろう黄金聖闘士達が無傷の状態で現れたのだから。

 

「ムウ、貴方達はどうやって?」

「詳しい説明は後でしますがこの横島と言う男、彼の持つ不思議な力によって我等黄金聖闘士は復活する事が出来ました」

「な、何と言う事だ!神話の時代より世界の平和を見続けていたアテナ像が」

「おのれ、何と言う罰当たりな事を!」

 

アテナの元に駆け付けたアイオリア達はルシファーによって首を落とされたアテナ像を目の当たりにして怒りに震えている。

 

「ハハハハハッ、もはや地上にその様な物は必要無い!これから地上支配の象徴となるのはあの伏魔殿にあるルシファー様のサタン像だ!」

 

ベルゼバブは聖域より遥か先の峰にある伏魔殿を指差し、ムウ達を嘲笑う。

そんな時、横島は。

 

「おい、其処の牛」

「う、牛?俺は牛ではない!俺は牡牛座のゴ「そんな細かい事はどーーでもいい」…細かい事…」

「それよりもあの女の子がアテナなのか?」

「そうだ、あのお方が我等聖闘士の女神、アテナ様だ」

 

牛呼ばわりされ、いじけているアルデバランの代わりにアイオロスが答える。

そして横島はと言うと。

 

(な、何じゃ、女神と言うからどんなにええねーちゃんかと思ったらまだ子供じゃないか。たしかに可愛いし、ええ乳はしとるがさすがの俺も子供には手は出せんぞ)

 

そんな事を考えながら沙織を見ているとお互いに目が合い、沙織の頬に涙の跡があることに気付く。

 

「どうしたんだアテナちゃん、何泣いてたんだ?」

「ア、アテナちゃん?…い、いえ、アテナ像が壊されたもので」

「アテナ像?あ~、こりゃまた酷い事するな。まあ、大丈夫大丈夫。後で俺が直してやるから」

「直せる…のですか?」

「勿論!お兄ーーさんに任せなさい。だから女の子は笑っていな、泣いてちゃせっかくの可愛い顔が台無しだぞ」

「あ…」

 

横島はそう言いながら笑顔で沙織の頭を撫でてやる。

いくらスタイルが良いとしても相手はやはり年下の子供、横島の守備範囲外である為に煩悩が沸く事は無い。

 

沙織は沙織で幼い頃より財閥の令嬢として甘やかされ放題で育ち、また祖父の木戸光政の死後はグラード財団の総帥として、そして今は女神アテナとして聖闘士達を導かなければならない立場にいる。

今まで彼女の回りに居る者達は自分より下の立場であり、星矢達も自分の事を大事に思ってくれてはいるが、それはやはり木戸沙織という一人の少女としてよりも女神アテナとしての方が大きい。

 

しかし、今目の前に居る男は自分の事を女神アテナと知りつつも一人の女の子として扱い、可愛いといって優しく撫でてくれる。

これは沙織にとって生まれて初めての事であり、そして彼は人外キラースキルの持ち主。

 

つまり何が言いたいのかというと……。

 

 

(*゚ー゚*)ポッ

 

と、言う訳だ。

そして雪之丞は…

 

(…コイツは……。とにかく無事に帰れたら美神の旦那に報告だな)

 

事の次第を美神にチクる事にした。

 

「戯言は其処までだ!貴様等が何者かは知らぬが邪魔をすると言うのならば消えてもらうぞ」

 

そう叫びながら聖魔天使の内の一人、エリゴルが横島に襲いかかって来る。

長く伸びた両手の爪を刃に変え、横島に斬りかかって行くが、横島はそれを両手のサイキック・ソーサーで必死になって防御して行く。

 

「のわああああーーーーーっ!待て待て待て待て、暴力反対ーーーーっ!」

 

それを見ている黄金聖闘士達はと言うと……

 

「何と!小宇宙を使って盾を作り出すとは!」

「しかも、完全に相手の動きを見切っているぞ!」

「俺のライトニング・プラズマでも彼には通じるかどうか」

「まだまだ荒削りだが見事な動きだ」

「ふっ!俺のスカーレツト・ニードルならばあの程度の盾なぞ貫いてみせる」

 

などと、沙織の事をガードしながらちゃっかりと観戦していた。

 

「こらーーっ!おのれ等は何しとるんじゃ、傍観しとらんと援護をせんかーーいっ!」

「何を言う、我等はアテナの聖闘士。アテナの御身をお守りするのが何よりも優先される。君も戦士ならば力ある限り闘いたまえ」

「そーー言うじゃろうと思ったよチクショーー!雪之丞は何をしとるんじゃーーーっ!」

 

エリゴルの攻撃を必死に捌きながら横島は雪之丞を探す。

 

「はははははーーーーーっ!思った通り手強い相手だ、闘いがいがあるぜーーーっ!」

 

その雪之丞はと言うと魔装術で、座天使・スローンのモアと闘っていた。

 

「むぅ。あの男、自らの小宇宙で聖衣を作り出すとは。ぜひ、調べてみたい」

 

ムウは雪之丞の魔装術の霊体鎧を聖衣と思っているらしい。

 

「このままでは埒が明かぬ。受けてみるがいい、黄金(ゴールド)の蟷螂、力天使・ヴァーテューのエリゴル必殺の拳 『聖魔蟷螂拳』 。シャアアアーーーーーッ!」

 

鋭さを増したエリゴルの拳はもはやソーサーでは防ぎきれず、横島は両手にハンズ・オブ・グローリーを展開してその霊波の篭手で爪を掴み、何とか防ぎきった。

 

「ぜーは、ぜーは、あ、危なかったーー!」

「おのれ小賢しい、離せ!」

「アホゆーーな!離したら即座に死んでまうやないか!」

「いいぞ、エリゴル!そのまま押さえていろ、私が止めを刺してやる」

 

横島が動けないと睨んだベルゼバブは飛び上がり、必殺技の構えに入る。

 

「受けるがいい、貴様を死へと(いざな)う聖なる空の翼 、『ガルーダ・ヘルウイング』 」

 

「危ない、横島さん!」

 

沙織の叫びにムウはすぐさま反応し、横島を助ける為に駆け出す。

 

「行きますよ、アイオリア!」

「解った!ライトニング・…」

 

アイオリアが必殺技を放とうとしている中、横島の頭の中はもういっぱいいっぱいであった。

 

(ああーーーっ!逃げようにも逃げられない!何か目の前に刃があるこの状況、前にも一度あった様な…、あん時はどーやって乗り切ったんやったかなー?えーーと、確か、確か……)

 

「プラズ…」

 

そして、アイオリアが必殺の光速拳を放とうとするその瞬間……。

 

「のっぴょっぴょーーーーんっ!!」

 

あのGS試験の喜劇が再現された。

 

「「だああああーーーーっ!」」

 

駆け出していたムウとアイオリアは躓いて顔面から地面に突っ込み、

 

パキィンッ!

 

「しまった!私の爪が!」

 

脱力したエリゴルの爪は小宇宙が消えた事であっさりと折れてしまい、エリゴルは悔しそうに二、三歩後退する。

そして其処に……

 

「「ぼげらっ!!」」

 

同じく脱力し、失速した上に目測を誤ったベルゼバブの……

ガルーダ・ヘルウイングが直撃した。

 

辺りには何とも言えない空気が流れ、地面から生えていた二つの犬神家は"ボシュン"と煙になって消えた。

 

「あ~~、何と言うかその…。うん、取り合えずゴメン」

 

横島は一応謝っておいた。

 

「おのれ!よくも二人を…、喰らえ!双頭の白蛇王、智天使・ケルビムのアシタロテ最大の拳『キラー・ファングド・コブラ』」

 

横島に襲い掛かろうとしたアシタロテだが、その前をアルデバランが立ちふさがる。

 

「其処を退け、タウラス!また地べたに這い蹲りたいのか!」

「貴様の技は既に見させてもらった。聖闘士に同じ技は二度と通用しない、地べたへと這い蹲るのは貴様の方だ。食らえ! 『グレート・ホーン』 」

「ぐわあぁぁっ!」

 

アルデバランの光速の居合いの拳、グレート・ホーンを受けたアシタロテはそのまま吹き飛び、その体は煙となって魔界へと還っていった。

 

「ふっ、所詮は相手の不意を付かねば闘えぬ輩。まともに闘えばこのアルデバランの敵では無いわ」

 

 

―◇◆◇―

 

「オラオラ、どうした?残っているのは手前だけだぞ!」

「ふふふ、それで勝ったつもりですか?この魂の狩人、座天使・スローンのモアが残り全員を倒せば良いだけの事。受けてみなさい、 『デモン・ファンタジア』 」

 

雪之丞の周りを霧が蔽ったかと思うと一面の花畑へと変わる。

そして花の一輪が一人の女性へと姿を変える、その女性は……。

 

『あれ?』

「……マ、マ…マ?」

 

一つの姿に留まる事無く次々と変わって行く。

彼の、雪之丞の口癖にこんなのがある、「ママに似ている」と。

幼い頃に死別した為に母親の顔を明確に覚えてはいないらしく、マザコンでありながら色んな女性を母親と錯覚してしまうのである。

 

しかし、これはモアにとっては大誤算である。

何しろこれでは相手の心の中の最も大事な記憶を盾に弱みに付け込む事が出来ないのだから。

そして、さっさと技を解かなかった事が更なる超誤算であった。

 

「ママーーーッ!」

「ごふっ!」

 

雪之丞は 「ママに似ている女性"達"」 の幻影に抱き付き、全力で抱きしめる。

 

「ママー、ママー、会いたかったよママー!」

「ち、違います…、私は…貴方のママでは……」

 

モアの言葉は暴走した雪之丞には聞こえず、暴走故に抱きしめる力は留まる事を知らずに高まり続ける。

 

そして……

 

ぼきんっ!

 

「へぶんっ!」

 

背骨を砕かれ、折れ曲がったモアはそのまま煙になって魔界へと還って逝く。

 

「あれ?ママ、何処に行ったんだ?ママー」

 

正気に返った雪之丞は母親の姿を探すが当然何処にも見えない。

何とも言えない空気が辺りを支配する中、活動を再開したのは乗り込んで来た敵の中で一人だけ残されたルシファーであった。

 

『こ、これは…。何故こうなった?』

 

あまりの展開に呆然としているルシファーだが、横島はそんな事はおかまい無しと追い詰める。

 

「さてと、残ったのはお前だけだな。それじゃ全員でフルボッコタイムと行こうか」

『な、何?』

「待って下さい!いくら相手が相手とはいえ、全員総掛かりというのは聖闘士の矜持に…」

「そーー言ってやられとったのは何処のどいつやろな?」

「「「「「くっ!」」」」」

 

聖闘士の闘いは正々堂々を旨とする物、それを誇りにしていた彼等だが何も出来ずにやられていたと言うのもまた事実。

しかし、三位一体の技「アテナ・エクスクラメィション」ですら外道の技と言われ、使えば永遠に卑怯者の烙印を押されてしまう。

 

そんな彼等だからこそ幾らルシファーが相手とは言え全員で掛かるとは言うのは躊躇われる。

 

「しかし、やはりその様な卑怯な…」

「卑怯で結構、メリケン粉!それで大事な誰かが護れるんなら何を躊躇う必要がある?」

 

「「「「「 !! 」」」」」

 

何気ない一言ではあるが、横島のその言葉は言霊となってムウ達の心を直撃する。

 

「それにな、よく言うだろう? 『勝てば官軍』 とな」

 

そして"にやり"と美神流に嗤う横島の言霊は別の意味でムウ達の心に木霊した。

 

「そう言われればそうですね」

とムウ。

 

「いくら矜持を守ったとて、負けてしまえば何の意味も無い」

とアルデバラン。

 

「これが卑怯と言うのであればその悪名、あえてこの身に受けよう」

とアイオリア。

 

「そう、それもまた我等聖闘士の務め」

とシャカ。

 

「これも因果応報と受け取ってもらおうか」

とミロ。

 

『な、何だ、何をするつもりだ?』

 

何時の間にかルシファーは周りをムウ達に取り囲まれていた。

 

『ちょっと待て黄金聖闘士よ、お前達はそれで良いのか?あの男の口車に踊らされているだけなのではないか?』

 

しかしムウ達はその言葉を無視して、其々の必殺技の構えに入る。

 

「観念しなさいルシファー」

「「「「「全てはこの地上の永遠の平和と愛と正義の為!!」」」」」

 

『ちょ、まっ・・・・』

 

そして炸裂するは三位一体を超える五位一体の合体技。

 

「「「「「ゴールデン・クラメィション!」」」」」

 

『ぬあーーーーーーーーーーっ!』

 

 

結局、ルシファーは何も出来ずに魔界へと強制送還され、復活の約束を反故にされたアベル・ポセイドン・エリスらに延々と愚痴を言われ続ける事になったのであった。

 

YOKOSIMAに関わった悪役の末路などこんな物である。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「見て下さい、主を失った伏魔殿が崩壊していきます」

 

ムウの指差す先では新築したばかりの伏魔殿が崩れ去っていた。

此処にルシファーとの聖戦は終結したのであった。

 

「横島さん、私達はルシファーの野望を打ち砕く事が出来ました。しかし、この地上に平和を取り戻す事が出来たのは貴方達と黄金聖闘士の熱き小宇宙があればこそです。そして私はこれからもアテナとして闘い続けます、アテナの聖闘士達と共に(そして貴方と共に)」

 

此処はスター・ヒル。

黄金聖闘士達は聖衣を脱ぎ、各々の私服に着替え、そして皆、晴れやかな笑顔で海に沈んでいく夕陽を眺めている。

 

横島もまた、感慨深げに夕陽を眺め、沙織は彼に寄り添い、横島はそんな沙織の頭を優しく撫でる。

 

 

 

 

=完=

 

 

 

 

……その頃、アテナ像の前では………

 

 

 

「さ、沙織さぁん…」

「俺達は一体何をしに此処へ…」

「兄さん、来てくれなかったんだね…」

 

 

終わってあげましょう。

 

 




(`・ω・)と、言う訳で、VS聖魔天使戦は全部ギャグですませました。
えっ、アルデバラン?
牛が強敵を一撃で倒すと何故かギャグに見えてしまう不思議。
「THE LOST CANVAS 冥王神話」の牡牛座はあんなに輝いていたのにね。

では、また今度。
(・ω・)ノ<へう


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「横っちinめだかボックス・書き逃げ体験版1」

(`・ω・)あくまでも書き逃げ作品なので尻切れトンボで終わります。
それにしてもめだかボックスはルビ付けが面倒ですな。


試しの一箱「謹んで拝命せよ」

 

箱庭学園生徒会長、黒神めだか。

 

彼女は生徒会室の自分の席で書類の整理に没頭している。

幼馴染である人吉善吉もまた、庶務として彼女の仕事を手伝っている。

 

其処に一人の男が扉を開いて入って来た。

彼の名は箱庭学園二年四組、横島忠夫。

 

「めだかちゃん、頼まれていた窓枠の修理終わったよ」

「うむ、御苦労。何時もながら横島二年生は仕事が早いな」

「と、ゆーか俺は生徒会役員じゃないのに何で生徒会の仕事を手伝わされとるんじゃ?」

「諦めて下さい、横島先輩。めだかちゃんにその無駄に凄い器用さを知られたのが運の尽きっス」

 

人吉善吉は心から同情した表情で横島の肩に手をやる。

 

「しかし、この所こういった雑用ばかり押し付けられて疲れきったこの体はその見事なまでの胸の中で休ませてもらうしか」

「ちょ、横島先輩何を!?」

「ん?そんな事でいいのなら私は別にかまわんが」

「それじゃ遠慮なく、めだかちゃ~~んっ!」

「駄目ですってば、横島先輩!」

 

横島は善吉の制止を振り切りめだかへのルパンダイブを決行する。……が。

 

「横島ぁ!貴様、めだかさんに何をするーーっ!」

「ぐぼはぁっ!」

 

其処に突如その場に現れた阿久根高貴に殴り飛ばされる。

 

「ふっ、汚い手でめだかさんに触れようとするからだ」

 

その後、柔道技のオンパレードによってズタボロにされ、肉塊とでも表現するような姿になった横島を見下しながらそう言う。

 

「?? 善吉、阿久根書記は何をあんなに怒っておるのだ?」

「…めだかちゃんはもっと女としての危機感を持った方がいいと思うぜ」

 

善吉が溜息を付きながらそう呟いていると、

 

「あ~~、死ぬかと思った」

 

横島はあっさりと復活するのであった。

そんな横島を見ながら阿久根は不思議そうな顔をしながら話しかける。

 

「何でお前の様な異常性(アブノーマル)な奴が一三組に入れられなかったんだろうな?」

「俺が知るか。と、ゆーより俺は異常性(アブノーマル)じゃない」

 

【そうだな、横島は異常性(アブノーマル)過負荷(マイナス)じゃなく、どっちかと言うと否普通(アンチ・ノーマル)にカテゴライズされると思うぜ】

「お姉様」

 

黒神めだかに姉と呼ばれた女性は名瀬夭歌(なぜようか)

実はめだかの姉で、黒神くじらと言う名前だ。

 

「夭歌、何じゃその否普通とゆーのは?俺はれっきとした普通の一般人だぞ」

【てめえ、俺様が古賀ちゃんを改造して使える様になった再生能力を生まれつき持っているくせに普通(ノーマル)面しやがるとはふてえ奴だな。ところで横島】

「何じゃい?」

【俺様に改造(いじくりまわ)される覚悟は出来たか?】

「出来る訳ないじゃろーが!」

【ちっ!我儘な野郎だな】

「全くだよ。名瀬ちゃんがせっかく改造してくれると言ってるのに」

 

夭歌の後ろから彼女を抱きしめ、頬を膨らませながらそう言うのは古賀(こが)いたみ。

元々は普通(ノーマル)であったが夭歌の改造を受けて異常性(アブノーマル)に覚醒、十三組の十三人(サーティーン・パーティ)の一員となった少女である。

 

改造(いじくりまわ)されるのを嫌がる事を我儘とは言わん」

 

横島が名瀬や古賀と言い合っていると書類の整理が終わったのか、めだかが書類を持って立ち上がる。

 

「良し、出来たぞ」

「めだかさん、何ですかその書類は?」

「ふっふっふっ、聞いて驚くがよい。生徒会の新役職の申請書だ」

「新役職?」

 

めだかは扇子を横島に向け、高らかに語りかける。

 

「喜べ、横島二年生。貴様の為に新たなる役職を作ったぞ、これで貴様も晴れて生徒会の一員だ」

「……何や、嫌~~~~な予感しかせんが何じゃその役職とは?」

「うむっ。横島二年生の新役職はズバリ『丁稚』だ。謹んで拝命せよ」

 

 

凜っ!!

 

 

「《凜っ!!》じゃねぇーーーーっ!嫌に決まっとろうがーーーーっ!」

「むう、我儘な奴だな」

「あーーー、もうーーーー!この姉妹はーーーーーっ!」

「ならば、喜界島(きかいじま)会計の様に日給を払うとしよう。255円でどうだ?」

「何なんやーー、そのピンポイントな金額は!」

「決定だな」

「諦めましょう、横島先輩」

「くそーーーっ、何でワイはこの手の女に逆らえんのじゃーーーっ!?」

 

 

答え・横島だからです。

 

とりあえず終わる。

 




(`・ω・)名瀬夭歌のセリフの括弧が【 】なのは原作での吹き出しをイメージしました


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「横っちinめだかボックス・書き逃げ体験版2」

( ゚∀゚)o彡°<二箱目、行ってみよーーー!


試しの二箱「『男の娘』という人種」

 

 

 

「実は目安箱にこの様な演劇部からの投書があったのだが」

 

箱庭学園生徒会長の黒神めだかは相談事が書かれている便箋を読みながらそう呟く。

 

「どんな相談なの?」

 

そう聞き返したのは人吉善吉の母親、人吉瞳である。

 

「はい、何でも劇に登場する人物に相応しい人材を探してほしいとの事です」

「どんな登場人物なんだよ、めだかちゃん?」

「うむ、ある富豪に仕えるメイドらしい。部員の中にはそのイメージに相応しい人材が居ないとの事だ」

「それはおかしいわね、演劇部には美少女が揃っている筈なのにメイド役に相応しい子が居ないだなんて」

 

善吉の疑問にめだかは答え、瞳がさらに疑問を投げかける。

 

「それなんですが、何でもそのメイドとやらは『男の娘』という人種らしくて捜しているのは女装が似合う男との事です。ところで横島丁稚は何処へ行くのだ?」

 

()と言う(くだり)の辺りから横島はめだかに気付かれない様にソロソロと逃げようとしていたが生憎とめだかの視界からは逃げられなかった様だ。

 

「ああ、そうだ!忠夫くんが居たじゃない」

「ひ、瞳さん。横島がどうかしたんですか?まさか横島に女装をさせるつもりでは……」

「そのつもりだけど?」

 

 

 

 

 

 

よこしまはにげだした。

しかし、とびらがひらかない。

 

 

 

 

 

 

 

「ああーーーっ!鍵が、鍵が、扉が開かないーーーっ!」

「よくは解らぬがどうやら貴様の出番の様だな、横島丁稚」

 

ほくそ笑むめだかの手は机の下に隠されているスイッチを押している。

どうやら扉の開閉ボタンらしい。

 

「ちょっと待って下さいめだかさん。いくら何でも横島に女装は無理があり過ぎるでしょう。横島にやらせる位ならまだ善吉くんの方が」

「ちょっとっ!阿久根先輩、何を」

「う~~ん、それはそれで魅力的な提案なんだけど」

「お母さんまで何を!?」

「忠夫くんには実績があるんだよね」

 

瞳はそう言いながら笑顔で十数枚の写真を取り出す。

その写真には可愛らしい三才位の美少女が写っていた。(例えて言うなら、てぽてぽ唯緒ちゃん)

 

「わー、可愛い」

「本当だ、見て名瀬ちゃん」

【確かにこの可愛さにはさすがの俺様も心踊らされるな】

 

喜界島、古賀、名瀬の三人は写真の女の子を見て頬を赤らめているが逆に横島の顔は青ざめて行く。

 

「な、何で瞳さんがその写真を……」

「だってこの写真は私が撮ってあげたんだし」

「え゛……も、もしかして瞳さんはウチのおかんと…」

「うん。百合子さんとは心の友と書いて“心友(しんゆう)”だよ」

「お、お母さんが撮った写真で横島先輩が此処まで慌てるという事は……」

「もしや、この愛らしい少女は横島丁稚なのですか?」

「ピンポーン、大当た「わー、わー、わー、わー!!」」

「五月蠅いぞ横島丁稚【平伏せ。】」

「ぶべらっ!!」

 

慌てて瞳の発言の邪魔をしていた横島だが、めだかの『言葉の重み』によって地面にめり込む勢いで平伏せられた。

 

「では、話を戻しましょう。この件は横島丁稚を出向させるという事で」

「そ、それじゃ横島先輩があんまりにも……」

「う~~ん、じゃあ善吉くんがやる?お母さんとしてはそっちの方が」

「横島先輩で行きましょう!」

「善吉くん、君って奴は……」

 

「嫌じゃーーーーっ!」

 

「あっ、横島が逃げた」

 

横島は飛び起きて窓から逃げ出そうと駆け出し、古賀がそれを咎める。

だが、すでに横島の前には瞳が待ち構えており彼女は背中のランドセルから数枚の布と化粧道具を取り出すと頭上に放り投げ、その手には裁縫道具が握られていた。

 

「んふふ~~。逃げられないよ、忠夫くん」

 

瞳はほくそ笑むと超スピードで横島とすれ違う。

 

 

 

 

『お母さんのたしなみ』

 

『華麗なる創造神!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、いい仕事をした。皆、どうかな?」

 

手の甲で額の汗を拭き撮りながら瞳はそう呟き、その手には横島が身に着けていた制服があり、めだかや善吉達も横島のその変わり様に唖然としていた。

 

「なっ!? こ、これは……。横島丁稚、貴様……」

「ば、馬鹿な!横島がここまで可憐な美少女に」

「よ、横島先輩?」

 

唖然としていたのは横島も同然で何時の間にか着替えさせられていた自分の格好を見てワナワナと赤い顔をして震えていた。

 

「な、名瀬ちゃん」

【す、凄ぇ……『舞い上げた布でメイド服を創りつつ、横島の服を剥ぎ取りつつ、マッサージなどで体の体形や骨格を整えつつ、創ったメイド服を着せつつ、化粧をしつつ、横島を完璧な美少女に創り変えたがった』まさに、華麗なる創造神。そ、尊敬するぜ】

 

 

 

 

 

………、そして其処に来てはならない(変態)黒神真黒(くろかみまぐろ)が現れた。

 

「なんだか賑やかだけど何の騒ぎだい?……、こ、これは……」

「お、お兄様……」

【あ、兄貴……】

 

めだかと夭歌の姉妹は来てしまった兄に戦慄を覚えながらも僅かばかりの理性に期待していた。

 

……無駄と知りつつも。

 

 

「そうか……、解ったよ忠夫ちゃん」

「な、何をじゃ?」

 

真黒は一呼吸すると満面の笑みを浮かべ、両手を広げて叫ぶ。

 

「忠夫ちゃん、君の気持は解った!今日から君も(変態)の妹だ。さあ、変態(お兄ちゃん)の胸に飛び込んでおいで!」

 

そんな真黒の胸に飛び込んで来たのは………

 

「怨敵退散!」

「ぼごはぁっ!」

 

乱神モードで真黒を殴り飛ばすめだかと、

 

【凍って燃えろ!】

「ぎゃぎはぁっ!」

 

見た事のない能力(スキル)で真黒を凍らせて燃やす夭歌であった。

 

「な、名瀬ちゃん…、その力は?」

 

【兄貴への身も凍る様な拒絶感から生まれたこの過負荷(マイナス)を、兄貴への燃え盛る様な怒りから生まれたこの過負荷(マイナス)を、俺は『凍る火柱(アイスファイア)』と命名する】

 

何と言う事でしょう!?

 

名瀬夭歌は兄、黒髪真黒への拒絶感と怒りから過負荷(マイナス)を覚醒してしまいました。

 

皆が唖然とする中。

 

 

 

「では行くぞ、横島丁稚」

「へ?なっ!い、嫌じゃーーーーっ!放してくれめだかちゃん。後生だから勘弁してくれ~~~!」

 

めだかは未だに呆然としている横島の首根っこを掴んで引きずって行き、気がついた横島が暴れるがすでに後の祭りであった。

 

「安心するがいい、貴様が横島丁稚という事は秘密にしてやる。だがこれ以上抵抗するというのであれば……、解っているであろう?」

「ううう、何で俺ばっかりこんな目に……」

 

 

 

 

 

 

 

答え「横島だからです」

 

 

 

 

後日談……

 

演劇部の舞台は大盛況の内に終了し、入部希望者も増えたという。

 

生徒会には演劇部から謎の美少女(年)の正体は誰か、是非正式部員にとの問い合わせがあったがめだかは本人との約束だから秘密だとはぐらかしており、生徒達からは謎の美少女へのファンレターやラブレターなどが大量に送られてきたがすべて横島の手によって焼却処分されていた。

 

そして、瞳から送られて来た写真を見た百合子が大急ぎで帰国の準備をしている事を横島はまだ知らない。

 

 

終わってください。

 

 




(`・ω・)脈絡の無さは試し書きと言う事で御勘弁下さい。時系列的には生徒会戦挙編の前と言う所です。


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「横っちinめだかボックス・書き逃げ体験版3」

(`・ω・)三箱目、行っきまぁーす!
なんの脈絡も無く、いきなり生徒会戦挙編。



試しの三箱「“言霊”って知ってるか?」

 

 

 

 

球磨川禊(くまがわみそぎ)の策略によって始まった「生徒会戦挙」。

 

庶務戦は球磨川と善吉の引き分けと言う形で幕を下ろした。

だがそれは球磨川は例え死んでも生き返るという自分の死をも「無かった事にする」という過負荷(マイナス)大嘘憑き(オールフィクション)』の最悪さを再確認するという事でもあった。

 

さらに、庶務戦の最中に凶化合宿中の阿久根と喜界島、そして黒神真黒と前生徒会長日乃影空洞はマイナス十三組の強襲に会い、書記戦以降のバトルをリタイアするしかなかった。

 

そして新生徒会書記の志布志飛沫(しぶししぶき)との確執から現生徒会からは名瀬夭歌が書記代理として参戦する事になった。

 

そして、八月一日生徒会戦挙二日目――

会場となるのは多目的運動施設「箱庭ドーム」である。

 

「では、時間も押してまいりましたので書記戦の試合形式を決めたいと思います。挑戦者である新生徒会の志布志さま、十三枚のカードの中からお好きな一枚をお選びください」

 

「ふーん、そうだな。ど・れ・に・し・よ・う・か・なっと……」

 

選挙管理委員会副委員長、長者原融通(ちょうじゃばるとけみち)の宣言で生徒会戦挙書記戦が始まろうとしていた。

ちなみに我等が横島忠夫は凶化合宿に強制参加させられていたが例の如く既に復活しており、この場に強制召集されていた。

 

そして志布志が選んだカードは。

 

「そーだな、『巳』は怖いから『卯』にしとこうかな。と言う訳で私は卯のカードを選ぶぜ」

「『卯』でございますね。相、分かりました。その慎重さ、このわたくしめ、ただただ敬服するばかりでございます。さて、書記戦の形式は『二兎を追う因幡の白兎』と相成りました」

「……それはどの様なルールで行われるのだ?長者春二年生」

「では説明させていただきます。ルールといたしましては候補者の他に各陣営より一人づつサブパートナーとして競技に参加していただく事になります。形式としてはタッグ戦と言う事になるのでしょうか」

「サブパートナー?それって誰でも構わないの?」

「はい、既に試合の終わった候補者でもかまいませんよ」

「『ん~』『じゃーまー僕でしょ』『面倒だけど、一応リーダーだし』『仕方ないなあー』」

 

球磨川は学生服も着ずにだらけきった表情で欠伸をしながら参戦を宣言する。

 

【じゃあ、こっちは横島を出すぜ】

「ちょっ!?夭歌、何を勝手に?」

【五月蠅えっ!庶務戦じゃ人吉があれだけ男を魅せたんだ、それにてめぇの“あの能力(スキル)”があれば球磨川先輩相手でも上手く渡り合えるだろ】

「『…へえ』『それは聞き捨てならないね』『なら僕もちょっと本気になろうかな』」

 

名瀬の言葉に興味をそそられたのか、球磨川の緩んでいた目が鋭さを増し、学生服を着こむとやる気を取り戻した。

 

「ほら見ろーーっ!お前が余計な事言うから本気になったやないかーーっ!」

【それでいいんだよ、この機会にてめぇのスキルも丸裸にしてもらうぜ】

「いややーーーっ!せめて志布志ちゃんと」

【馬鹿かてめぇは、アイツは俺様の相手だ。安心しな、てめぇが死んでも俺様が勝てば書記戦はこっちの勝ちだ】

「横島先輩、いくら言っても無駄っス。名瀬師匠には逆らっても勝てないですよ」

 

泣き喚き、善吉に肩を叩かれ慰められる横島を志布志は冷ややかに見ている。

 

「なっさけねー男だな。球磨川さんが出るまでも無く私だけで十分勝てるぜ」

「『そうかい?』『僕は逆にちょっとだけ興味が湧いて来たよ』『それに忠夫ちゃんは志布志ちゃんの異常性(アブノーマル)でやっつけた筈なのにピンピンしてるんだろ?』」

「そうなんだよな。ちゃんと血の海に沈めて来た筈なのに」

 

 

―◇◆◇―

 

「では双方準備は宜しいでしょうか?それでは会計戦の厳密なルールを説明させていただきます。参加されるサブパートナーは横島さまと球磨川さまでございますね。それだはお二方にはこのシールを服の内側、素肌にお貼り下さい」

「何じゃこれは、…兎のシール?」

「はい。そして候補者の方々には各相手側のサブパートナーの服を剥ぎ、そのシールを入手する事が勝利条件となります」

「へ~。なあ、その際勢い余ってシールを相手の皮ごと剥ぐのは有りなのか?」

「勿論有りで御座います。黒箱塾時代にはまさに相手の皮を剥ぐ事が勝利条件で御座いましたから」

【成程、だから「因幡の白兎」か】

 

志布志の質問に長者春は淡々と答える。だが、黒神めだかは慌てて異を唱える。

 

「皮を剥ぐ事を黙認するだと?ちょっと待て、長者春二年生!そんな事をすれば下手をすれば死んでしまうではないか」

「そうは申されても黒神さま、元々この生徒会戦挙に黒箱塾時代のルールを持ち出して来たのは貴女さまで御座います。ならば多少過酷だとは言え口出しされるのはどうかと」

「くっ…」

「『そうそう』『自分の発言には責任を持たないとね』」

 

球磨川の言葉にめだかが言い淀んでいると数名の足音が聞こえて来た。

 

「どうやら間にあった様だね」

 

そこに入り口から数名が歩いて来る。

やって来たのは黒神真黒、日之影空洞(ひのかげくうどう)、喜界島もがな、そして日之影に支えられた阿久根高貴である。

 

 

「『あれ?』『真黒くん達は入院してたんじゃなかったっけ?』」

「馬鹿なっ!? あれだけ古傷を開いたのにこんなに早く動けるようになるわけが」

 

「お兄様?」

「真黒君!? どうして貴方達が此処に?まだ到底動ける傷じゃ無かった筈なのに」

「それなら忠夫君に治してもらったんだよ」

【ああ。あれは見事だったぜ、是非今度解剖し(いじくりまわさ)ないとな】

「ぶっそーな事言うんじゃねぇーーっ!」

 

人吉瞳は横島があの傷を治療したと聞いて驚いていた。

横島の事は良く知っていたが自分や名瀬ですら完治させる事の出来なかった真黒達の傷をこんな短期間で治す事が出来る様な治療技術を持っているとは聞いてなかったのだから。

 

「た、忠夫君。何時の間にそんな治療技術を?」

「いえ、人吉先生。忠夫くんは僕達を治療してませんよ。ただ、『治』してもらったんですよ。“文字通り”にね」

「“文字通り”?まあ、それはそれとして何故阿久根書記だけ傷ついたままなのだ?」

「横島ぁっ!貴様何故僕だけ『治』さなかった!? 本来ならこの書記戦は僕が出る筈なんだぞ」

「俺に言うな。文句なら夭歌に言え、夭歌に」

【当然だろ。高貴君を『治』したら俺様が代理として出れねえじゃねえか】

 

そう言いながら名瀬は志布志を睨みつけるが志布志はそんな名瀬の射すような視線を受けながらもニヤニヤと笑うだけだった。

 

「さて、競技に参加される四名様は舞台となる競技場にお入り下さい。それ以外の方々は観客席へと移動をお願いいたします。くれぐれも申しておきますがいくらチームメイトが窮地に立たされたとしても決して助けにはお入りにならない様に。その場合は助けられたチームの敗北となりますので」

 

名瀬に横島、志布志と球磨川が戦いの舞台になる競技場に入り、めだか達が観客席に入る。

 

「それでは書記戦『二兎を追う因幡の白兎』スター…」

 

長者春がスタートを宣言しようとしたその瞬間、名瀬と横島の体から切り裂かれた様な傷が走り、二人共血まみれになって倒れる。

 

「きゃあぁっ!名瀬ちゃん!」

「あれだ、あの正体不明の攻撃に俺達も為すすべなくやられちまったんだ!」

「ああ、あの攻撃の正体は僕の「解析(アナリスト)」でも解析不能なんだ」

 

「どうしたんだい名瀬先輩に横島先輩?まさか行儀良く試合開始のゴングを待ってたって言うんじゃないんだろーな?生憎死合場に入った瞬間に…いや、凶日(きょう)という日が始まった時からバトルは始まってるんだぜ」

 

志布志は倒れ伏している名瀬の頭を踏みしめ、笑いながらそう言う。

 

「な、何だ?名瀬師匠と横島先輩の体から血が吹き出した!?」

「『あれ?不思議かい?』『そりゃそうだろうね』『よーし、出血大サービスだ』『飛沫ちゃん、忠夫ちゃん達の出血の原因わけを教えて上げなよ』」

「ああ、別にかまわまいぜ。別に隠すほどの事じゃなねえしな。他人の古傷を開く、それがあたしの過負荷(マイナス)致死武器(スカーデット)』だ

 

【古傷を開くか……どうりで治したばかりの右手の傷が開いている訳だ】

 

名瀬が右手の手袋を取ると、携帯を握り潰した時に出来た傷があの時のそのまま開いていた。

そしてその視線を横島に向けると横島の頭を思い切り何度も蹴りまくる。

 

【てめぇ、何時まで死んだ振りしてやがる。さっさと俺様も治しやがれ!】

「痛、痛、分かった分かった。くそー、こんなんばっかりや」

 

何時もの様にひょっこりと立ち上がると名瀬に近寄り言葉を紡ぐ。

 

「『治』す」

 

そう呟くと彼の右手の中から光が零れ、その手の中に薄緑色のビー玉サイズの珠が現れ、その中央付近には『治』の文字が刻まれていた。

 

「ほれ」

 

その珠を名瀬に投げつけると彼女の傷はまるで逆再生されるかのように消えていく。

 

「『……』『へえ~~』」

「な、何だよそれ?まるで球磨川先輩の『大嘘吐き(オールフィクション)』じゃねえか」

 

「横島丁稚!貴様一体何をした!?」

「俺達の時と同じだ」

「日之影先輩、横島先輩は何を?」

「あの光る珠の様な物を使って俺達の体を瞬時に治したんだ。今の名瀬の様にな」

 

【おい、横島。てめーもその能力(スキル)を説明してやれよ。正直俺様達も知りてぇんでな】

 

名瀬が体に付いた埃を振り払いながら立ち上がると横島にそう言う。

 

「仕方ねえな。おい、球磨川」

「『何だい、忠夫ちゃん』」

「“言霊”って知ってるか?」

「言霊?何だよそりゃ?」

「『こと-だま【言霊】《名》古代日本で、ことばに宿ると信じられていた神秘的な霊力。』『「‐の幸さきわう国(=ことばの霊力が幸福をもたらす国。日本のこと)」(au内蔵、明鏡国語辞典より)だね』

「それがどうしたって言うんだよ?」

【…なるほどな、そー言う事だったのか】

 

「なるほどね、ようやく理解出来たよ」

「どう言う事っスか、真黒さん?」

「珠磨川が言っていたであろう。『ことばに宿ると信じられていた神秘的な霊力』と。つまり、横島丁稚の能力(スキル)はその神秘的な霊力とやらを自在に使う事が出来るという訳だ」

 

めだかの説明を受けて、善吉が横島を見ると横島は「そー言う事」とでも言う様に二ヤッと笑っていた。

 

「言霊に宿る力、それを文字の珠にして、その力を開放し言霊を具現化する。つまり、“文字の力が宿る珠”これが俺の霊能力(スキル)、『文珠(もんじゅ)』だ」

 

すると球磨川が溜息交じりに言って来る。

 

「『まったく』『いい加減にしてほしいよね』『週間少年ジャンプの主人公じゃあるまいし』『そんなとんでも超能力を使って来るなんてさ』」

「お前が言う事じゃ無いじゃろが!それに、どっちかと言うと『週刊少年サンデー』の主人公って感じだろう」

 

終わろう。

 

 




(`・ω・)書き逃げだと言っただろう?なのでとりあえずここで一時終了。
続きは一応頭の中にはあるのでいずれ書いてみようと思いまふ。


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「キーやんとサっちゃんの横島探索日記1・D.C.Ⅱ」

キーやんとサっちゃんが救出の為の探索と言う名目で様々な世界の横島を覗き見していくと言うお話です。
元々その世界に居る横島も居れば別の世界から転移して来た横島も居ます。


 

『キーやん!大変やキーやん!』

『サっちゃんではないですか。どうしました?』

『どうやら過激派の馬鹿共が転移魔方陣を使って横っちを何処か別の世界へ追放してしもうたようなんや』

『何ですってっ!』

『どないする?』

『どうするもこうするも探すしかないでしょう』

『やっぱり?』

『当然です!横島さんの事ですから別の世界に飛ばされたとしてもきっと色んなToLOVEるに巻き込まれるに決まっています。うかうかしていたら』

『せやな、うかうかしてたら』

 

『『面白イベントを見逃してしまう!!』』

 

そして二柱は横島の探索を始めた。

彼を救う事は二の次、彼が巻き込まれる事になるであろう「女性絡み」のイベントを見逃さない為に。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

『おっ!横っちがおったで』

『どれどれ』

 

 

其処はとある小さな島。

一年中桜が咲き誇り、心の底に秘めていた願いが叶う島。

 

その島の少しばかり時代を感じさせる家。

其処から二柱が探している彼の声が聞こえて来る。

 

「音姉ぇーーっ!ち、ちょっとタンマやっ!」

「どうしたの弟君?お部屋の掃除をしてあげるって言ってるだけじゃない」

「い、いや…。音姉の手を煩わせるまでもない、部屋の掃除は俺がする!」

「今までもそう言って、結局何時までも散らかったままじゃない。今日と言う今日は綺麗にします」

「大丈夫!今から掃除するから!音姉は居間でテレビでも見ててくれ!」

「……何をそんなに慌ててるの?怪しいな~」

 

彼、横島忠夫が音姉と呼ぶ女性、朝倉音姫は横島が通せんぼをしている部屋の中を覗こうとするが横島は冷や汗を流しながらも何とかして入らせまいとする。

 

「怪しくない、怪しくない、怪しい本なんか何処にも無い!」

「…怪しい本?」

「ああ、しまったぁーーーーーっ!」

「弟君、其処を退きなさい」

「そ、そうだ!今日の晩飯は音姉の大好きなカレーにしよう。やったねパパ、明日はホ 「退きなさい」 嫌ぁーーーーっ!」

 

そんな横島の嘆きの叫びを無視して、音姫は無理やり部屋の中へ入って行き、そのまま一直線にベッドに向かうと直ぐにしゃがんでその下へと手を差し込む。

 

そして取り出したのは横島のお宝の数々。

所謂、大人の参考書。

【エッチな本】である。

 

「弟君ーー!! 何なのこの本はーー!!」

「堪忍やーー!! しょうがないんや、男のロマンなんやーー!!」

「し、しかも胸が大きな女の人の本ばかり」

「そ、それは……」

「うう~~、どうせお姉ちゃんは……」

 

横島の前で音姫は自分の胸に手をやりながら瞳を潤ませていて、横島はというとギザギザな板の上で正座をさせられ、膝の上には石の板が何枚も乗せられている。

 

そんな横島の後ろでは音姫の妹、朝倉由夢がお宝写真集を縛り上げている。

その度に横島は『ああ~~!』と声を上げるが、その度に音姫から発せられるプレッシャーは高まって行く。

 

「弟君!何処を見てるの!」

「うう~~。ああっ!ナターシャ、エリザベス、ジャーネット!」

 

由夢によって運び出されて逝くお宝を見ながら横島は相棒達の名前を叫ぶ。

 

「弟君!!」

「うおお~~~んっ!」

 

 

 

「あれ?こんな所にも隠してあるよ」

 

クローゼットを捜していた由夢は数冊の本を取り出した。

 

「なぬ?其処に隠した覚えは」

「…由夢ちゃん、どんな本?」

「こんな本だよ」

 

由夢から受け取った本を見て音姫は絶句した。

 

「 『初めては妹と』『妹と留守番』『妹と禁断の…』『お兄ちゃん大好き』 」

 

本のタイトルを読み上げながら音姫はワナワナと震えていた。

 

「な、何じゃそれはーー!! そんな本を買った覚えは無いぞ!!」

「兄さん、言い訳は男らしくないですよ♪」(計画通り)

「お、お、弟君……」

「違うんやーー!! ワイは無実やーー!!」

「どうしてお姉ちゃんモノがないのーー!?」

「兄さんは妹萌えなんですね。困っちゃうなーー♪」

「弟君のバカーーーーッ!!」

「あんぎゃぁーーーーっ!!」

 

 

 

 

 

『どうやらこの横島さんは元からこの世界の住人のようですね』

『そのようやな』

『じゃあ堪能した事ですし次に行きますか』

『行きまひょか』

 

 

斯して彼等二柱による横島探索の旅は始まったのであった。

 

まる

 

 



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「キーやんとサっちゃんの横島探索日記2・灼眼のシャナ」

キーやんとサっちゃんが救出の為の探索と言う名目で様々な世界の横島を覗き見していくと言うお話です。
元々その世界に居る横島も居れば別の世界から転移して来た横島も居ます。


 

『横っち、発見や』

『さて、この世界の横島さんはどうでしょう?』

『どうやろな?』

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

とあるビルの屋上、横島はその端に座って赤い夕陽を眺めている。

その隣には一人の少女が寄り添うように座り、横島の横顔を見つめている。

夕陽が照らしているからなのか、その頬は少し赤らんでいる様にも見える。

横島はその少女の視線には気付かないのか、そっと呟く。

 

「美神さんやおキヌちゃん達…。皆は元気にしてるかな?」

「む~~~、ぷいっ!」

 

その呟きを耳にした少女は先程までの見惚れてる様な表情とは一転し、頬を膨らませてそっぽを向く。

 

「ん、どうしたんだシャナ?」

「うるさいわね、何でもないわよ」

「そんな顔をして何でもないって事はないだろう」

「何でもないったら何でもない!」

「おい、シャ・・「帰りたいんでしょ!さっさと帰りなさいよっ!」

 

そう叫びながら顔を上げたシャナの瞳には涙が光っていた。

 

「シャナ、俺は」

「うるさい、うるさい、うるさーい!」

 

シャナは聞く耳を持たないと言うかのように叫びまくる。

もっとも、横島の横に座ったままで何処かに逃げ出そうともしないのだが。

 

そんな時、横島の額に巻いているバンダナに眼が開き、シャナに話しかけて来た。

それは、あの戦いの後に横島の内なる力を制御する為に小竜姫によって再び与えられた心眼であった。

 

 

・・・・・・・・・

 

『あちゃー。心眼がおるっちゅー事はこの横っちは別人やな』

『その様ですね。まあ、それはそれとして続きを見ましょう』

『せやな』

 

・・・・・・・・・

 

 

『心配はせずとも、この男は今更そなたを見捨てて帰るような真似はせぬぞ』

「し、心配なんかしてないわよ。別に忠夫が帰ったって私は構わないもん」

 

そう言い捨てるシャナだが、今度は彼女の首に掛けられていたペンダントの宝玉(コキュートス)から声が聞こえて来る。

 

『シャナよ、そう言わずにもう少し横島忠夫を信じてみても良いのではないか?』

「何よ、アラストールまで」

『付き合いはまだ浅いが信用は出来る。心眼の言う通りお前を見捨てる様な真似はすまい』

「そ、それは……、解ってるけど……」

 

シャナは頬を紅く染め、俯きながらそっと呟いて横目で横島を見る。

何だかんだと言いながらも、横島の事は誰よりも信頼しているのであった。

そんなシャナを横島は……

 

「あーーっ!もう、かーーいーーなーーっ!」

「ひゃわっ!?」

 

シャナを抱き上げて自分の膝の上に乗せ、左手で抱き締めて右手で頭を撫で回す。

 

「こいつめ!可愛い、可愛い」

「うにゃぁ~~~~!」

 

かいぐり、かいぐりと撫で回され暴れるが、横島の膝の上からは逃げ出そうとしないシャナであった。

その後、しばらくじゃれ合っていた二人だが、横島は手を止めるとそのままシャナを背中から抱き締める。

 

「た、忠夫?」

「約束する、俺はお前を置いて何処にも行かない」

「忠夫……」

 

シャナは自分を抱き締める横島の両手を掴み、その顔を見上げる。

横島もまた、シャナのその顔を見下ろす。

二人の間にはもはや言葉は必要無く、シャナは潤んだ瞳をそっと閉じ、横島も瞳を閉じながらシャナの頬に手を触れる。

 

「ん……」

 

そして、二人の唇は夕陽の紅の中でゆっくりと重なり合う。

 

暫くして、同じだけの時間をかけてゆっくりと離れる唇。

シャナはそのまま横島の胸の中に顔を埋めてそっと呟く。

 

「忠夫……、好き」

 

横島はそんなシャナをそっと抱き締め、頭を優しく撫でていく。

 

これからも苦しい戦いは続くだろう。

これからも辛い戦いがあるのだろう。

だが、二人が一緒ならどんな戦いでも乗り越えて行ける。

今度こそ、約束を守る為に。

 

そう、決意を新たにする横島であった。

 

 

 

『ザーーーーーーッ!』

『ザーーーーーーッ!』

 

キーやんとサっちゃんはそれぞれ、グラニュー糖と黒糖を口から滝の様に吐き出すのであった。

 

まる

 

 




( ;ω;)<ザーーッ!(和三盆)


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「キーやんとサっちゃんの横島探索日記3・ドラゴンボールZ]

キーやんとサっちゃんが救出の為の探索と言う名目で様々な世界の横島を覗き見していくと言うお話です。
元々その世界に居る横島も居れば別の世界から転移して来た横島も居ます。


 

ピコーン、ピコーン、

 

『何ですか、それは?』

『横っちレーダーや。おっ、反応あったで!』

『どれどれ。…此処は大界王星じゃないですか』

『ワイらの所の横っちは別に死んだ訳やあらへんから此処の横っちも別人やな』

『その様で。何やら武術会が始まるようですよ、折角だから観戦しましょう。はい、ポップコーンとコーラです』

『お、サンキューやキーやん』

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

ワアァァーーーーーーーーッ!!

 

「さあ、第二回あの世一武道会もいよいよ決勝戦!最後の戦いになりました。まずは赤コーナー、北銀河の地球出身、孫悟空選手!対する青コーナーは西銀河の地球出身、横島忠夫選手です!」

 

ワアアアアアアアアアーーーーーッ!!

 

キノコ顔のレポーターの紹介を受け、武舞台に上がる梧空と横島。

ワクワクした顔の梧空とは逆に横島はビビリまくっている。

 

「悟空ーー、がんばるんじゃぞーー!忠夫なんぞちゃっちゃっとやっつけて大界王様に稽古を付けてもらうんじゃーー!」

「何をぬかすか、北の界王!優勝して大界王様に稽古を付けてもらうのは忠夫じゃ」

「お前の方こそ戯言を言うな、西の界王!宇宙最強の超サイヤ人、孫悟空に勝てるとでも思っとるのか!」

「ふんっ、超サイヤ人がなんぼのもんじゃ!忠夫は魔王の一柱、アシュタロスを倒して宇宙を救っただけでは無く、簡易DBとでも言うべき文珠があるんじゃ。さあ忠夫、悟空なんかケチョンケチョンにしてやりなさい!」

「忠夫、貴様は我が西銀河の代表なのだからな。負ける事は許さんぞ!」

 

そんな界王達や、パイクーハンの声援?が飛び交う中、武舞台の上では悟空と忠夫が向かい合っていた。

 

「忠夫、やっとおめえと闘えるな。一度おめえと本気で闘いたかったんだ。オラ、ワクワクすっぞ!」

「ワイは全然ワクワクせんわーーいっ!こんな事やったら序盤でさっさと負けとくんやったーー!」

 

横島は涙を流しながら喚き散らすがもはや後の祭りであった。

 

「じゃあ悟空ちゃんに忠夫ちゃん。お互いに頑張って頂戴」

 

そして、大界王が打ち鳴らす銅鑼の合図と共に試合は始まった。

 

「まずはオラから行くぞ!か、め、は、め、波ーー!!」

 

悟空の手から放たれたかめはめ波は一直線に横島に向かうが、

 

「どわーー!サ、サイキック・シールド!」

 

大界王星での修行で強化されたサイキック・ソーサーは全身を隠すほどの大きさになり、なおかつかめはめ波の直撃を受けてもビクともしなかった。

 

「い、いきなり何すんじゃーーいっ、死ぬかと思ったやないかーー!」

「さすがだな、忠夫。じゃあ、本気で行くぞ。はあぁーーーーー!」

 

悟空の全身から噴き出したオーラは金色に輝きだした。

髪も逆立ち、筋肉も膨れ上がりその体は一回り大きくなる。目つきは鋭くなり、黒目も緑色になる。

そして黒髪も金色になり悟空は超サイヤ人への変身を遂げる。

 

「さあ、始めるぞ忠夫!」

「始めんでいいわーーいっ!」

 

その瞬間、悟空の体は消えた。いや、あまりの超スピードの為消えたように見えるのだ。

 

「やられてたまるかい。文珠ーー!」

 

横島は文珠を即座に三つ作り出して【超】【加】【速】と込める。

 

韋駄天の技であるこの超加速は、周りの時間を遅くさせる事によって超スピードを得るのである。

だが……

 

「おっ?忠夫、おめえも結構早く動けるんだな」

「何で遅くなった時間の中で普通に動いとるんじゃおのれはーーー!」

 

元から超スピードで動く悟空にはあまり関係がなかったらしい。

 

・・・・・・・・

 

『此処の横っちは随分と戦闘に特化しとる様やな』

『ちょっと待って下さい。あの観客席に居るのはこの世界の私達みたいですよ』

『何やて?』

 

・・・・・・・・

 

観客席の中では……

 

『横島さん、頑張ってください!』

『横っち、負けるんやないで。ワイらは横っちが勝つ方に賭とるんやからな!』

 

と、この世界の二柱はビールとスルメを手にちゃっかりと観戦していた。

その声を聞いた横島は文珠を使って、悟空を【模】倣した。

 

「なっ!?オラになるなんてずっけえぞ、忠夫!」

「はあああああーーーーー!」

 

梧空を【模】倣した横島はすぐさま超サイヤ人になると気を高め出した。

 

「か、め、は、め、波ーーー!」

 

横島が撃ち出したかめはめ波は一直線に悟空………

 

……の横をすり抜けて、観客席の二柱に飛んでいく。

 

『『あれ?』』

 

 

ドゴオオオーーーーンッ!

 

 

『『ギャアアアアーーーーーー!!』』

 

「おーーとっ、悟空選手がかわしたかめはめ波の流れ弾に不幸な観客が巻き込まれてしまいました。皆さまもどうかご注意ください」

 

・・・・・・・・

 

『……あれは狙いが外れたんじゃなくきっちりとこの世界の私達に狙いを定めてましたね……』

『その様やな……あれ?……なあ、キーやん』

『何ですか?』

『あの横っち、こっちを見とるみたいなんやけど……』

『ははは、まさ……か。…目が合ってしまいました』

『げっ!』

 

・・・・・・・

 

「はああああーーーーーーー!」

 

横島はさらに気を高め、超サイヤ人3への変身を遂げる。

 

「なっ!?おめえ、超サイヤ人3にもなれるんか!」

 

そして横島は上空に向かって全力のかめはめ波を撃つ。

 

 

 

・・・・・・・

 

『ああ、エネルギー波がこっちに来るなぁ…』

『来ますねぇ…』

 

 

ドゴオオオオオオーーーーーーンッ!

 

 

『『ギャアアアアーーーーーー!』』

 

・・・・・・・

 

 

場所は変わり、此処はGS世界の神魔界。

 

『『あ~~、死ぬかと思った』』

 

ドラゴンワールドでかめはめ波の直撃を受けて消滅した二柱ではあるが、魂の牢獄に囚われている為、この場所で復活を遂げる。

 

 

 

『死ねば良かったのに』

 

遊び歩いている上司に仕事を押し付けられている部下達は人知れず、そっと呟いた。

 

まる

 



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「キーやんとサっちゃんの横島探索日記番外編・聖闘士星矢」

 

 

 

此処はギリシャ聖域のアテナ神殿。

 

首を落とされたアテナ像の前で今世のアテナ、木戸沙織は泣き崩れていた。

 

『久しぶりだなアテナよ』

 

其処に現れたのは黄金聖闘士をいとも簡単に倒した聖魔天使と名のる四人の男達。そして……

 

「!! 貴方は……ルシファー!!」

「何だって!! 氷河、ルシファーと言えば」

「ああ、かつては神に仕える大天使でありながら神以上の存在になろうとして魔界に堕とされた堕天使ルシファー、またの名を悪魔王サタン」

 

星矢、氷河、瞬はルシファー達に対して構えを取るが聖魔天使達は相手にする価値もないという様に一瞥しただけだった。

 

「貴方の目的は何なのですか、ルシファー」

「当然この地上とアテナ、貴女の命だ」

「そんな事はさせるかっ!! くらえ、ペガサス流星け…」

「この、無礼者!!」

 

ルシファーに攻撃を仕掛ける星矢達だったが聖魔天使達に一瞬のうちに倒されてしまう。

 

「星矢!氷河……瞬」

 

沙織は倒れた星矢に駆け寄る。

 

「愚か者めが。俺達が何の苦もなく倒した黄金聖闘士、それより劣る最下級の青銅の貴様達に一体何が出来るというのだ」

「く、くそうっ!!」

 

ルシファーはそんな星矢達を一瞥すると沙織に語りかける。

 

「アテナよ、これで分かっただろう。もはやこの地上に貴女を守る聖闘士は居ない、無駄なあがきはせずに大人しく我が軍門に降るがいい」

「何を…俺達はまだ戦えるぜ」

「そうとも!」

「アテナを、この地上を守る為に僕達が諦める訳にはいかない!!」

 

そう言いながら星矢達は小宇宙を高めながら立ちあがる。

 

「フッ、ならば今にも消えそうなその命の灯、今度こそ跡形もなく消し飛ばしてくれる!!」

「止めなさい、星矢!氷河!瞬!その体では…」

 

星矢達と聖魔天使達がぶつかり合うその瞬間、辺りを強大な小宇宙がおおった。

 

「な、何だこの強大な小宇宙は!?」

「邪悪な感じはしないけど」

 

 

「ルシファー様、この小宇宙は一体?」

「この小宇宙……まさか…」

 

 

そして、其処に小宇宙の主が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こんな所で何をしてるんですか?サっちゃん』

 

『何や、やっぱりキーやんやないけ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、辺り一帯の時間は凍りついた。

 

 

 

『横島さんの居場所が幾つか特定できました。さあ、行きますよ』

『そうか、今度こそ見つかるとええな。あ、ちょっと待ってや』

 

ルシ……もとい、サっちゃんは沙織達の所に来ると話しかける。

 

『アテちゃん、つー訳で用事が出来たから今回の聖戦は此処でお開きにさせてもらうで。ハーちゃんにもあんじょうよろしゅうに言っといてや。ほなさいなら』

 

 

そう言い残し、サっちゃんはキーやんと共に何所かへと消えて行った。

後に残されたのは事情をまったく理解できずに呆然とする沙織と星矢達、そしてあまりの出来事に石化している聖魔天使達だけだった………

 

まる

 



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「キーやんとサっちゃんの横島探査日記4・魔法騎士レイアース(アニメ版)」

キーやんとサっちゃんが救出の為の探索と言う名目で様々な世界の横島を覗き見していくと言うお話です。
元々その世界に居る横島も居れば別の世界から転移して来た横島も居ます。


 

『前回は酷い目に遭いましたね』

『まったくや。ちょっとしたおちゃめやったっちゅーに』

『さてと、横島さんが見つかりましたよ』

『どれどれ』

 

 

 

・・・・・・・

 

その世界は暗雲に囲まれ雷鳴が轟いていた。

三つの塔で出来ているクリスタルの城の中で横島と三人の少女は向かい合って話をしていた。

その内の赤い髪で長いお下げをしている少女は横島に泣きながら抱きついた。

 

「嫌だ!そんなの嫌だよ、忠夫!」

「光……」

 

横島は抱きついて来た少女、光を優しく抱き止めその頭を撫でる。

 

「酷いよ、こんなのってないよーーーっ!……何で、何で忠夫が柱なんだよ、私は嫌だよーー!」

「そうよ、何で横島さんが柱なんかにならなきゃいけないのよ!」

「私も納得できませんわ、何で横島さんばかりがこの様な目に……」

「海、風……」

 

まるで自分の事の様に怒りを露にする海と風。

そして胸の中で泣きじゃくる光の頭を撫でながら横島は語りかける。

 

「心配するな、何とかなる!」

「何とかなるって……どうするつもりなんですか?」

「忘れたのか、俺は不可能を可能にする男!ワイルドジョーカーなんだぞ。セフィーロの一つや二つ、柱なんかにならずに救ってやるさ。そして……」

 

泣きながら見上げて来る光に優しく微笑むと話しかける。

 

「光達と一緒に地球に帰るって約束したしな」

「うんっ!約束したよね。忠夫は約束した事はきちんと守ってくれるもん」

 

ようやく笑顔になった光は横島の胸にじゃれつく様に頬を擦りつける。

 

「そうよね、横島さんなら何とかしてくれるわよね」

「ええ、その為にもまずはデボネアを倒さなくては」

 

海と風の瞳からも涙は消え、輝きが戻って来た。

 

「それに…」

「それに、何?忠夫」

 

横島の呟きに光は小首を傾げる。

 

「地球には美神さんやおキヌちゃん、冥子ちゃんに魔鈴さん。小竜姫さま、エミさん、ワルキューレ、刹那ちゃんに小鳩ちゃん達が待ってるんじゃーーー!帰らずにいられるかーーーー!」

 

だああああああああーーーーーーーっ!!

 

それまでのシリアスを吹き飛ばす横島のセリフを聞いた海と風、そして立ち聞きしていたクレフ達も全員ずっこけていた。

 

「よ、横島さん、あなたねーー!」

「ま、まあ、これでこそ横島さんと言うべきなのでしょうが……」

 

 

 

(まったく、あの男は)

(はははは、まあ、風の言うとおりあれでこそ横島さ。俺達は横島と光達、マジックナイトを信じるまでさ)

(そうですね)

 

通路の影から覗き見…見守っていたクレフ、フェリオ、プレセアであった。

 

 

そんな中、光は……

 

「ぶ~~~~~!」

 

涙目で頬を膨らませ、顔を真っ赤にしていた。

 

「お、おい……光?」

 

嫌な予感がした横島が光から離れようとしたが、

 

「忠夫のバカーーーーー!」

 

光が一瞬早く横島の足を思いっきり踏みつけていた。

 

「いでぇーーーーーーーーー!」

「あはははは、罰が当たったわね横島さん」

「浮気はいけませんわよ」

「ぷうぷう♪」

「浮気って何やーーー!」

 

 

・・・・・・・

 

『世界の要である存在を失い、消滅寸前の世界の様ですね』

『そして新しい要として横っちが選ばれたっちゅー訳か』

『でもまあ』

『せやな』

『『横島さん(横っち)なら何とかするでしょう(やろな)』』

『それに、聞き慣れん女の子の名前があったから、この横っちも別人やな』

『せめて、何かの手助けになる様に僅かながら加護を与えておきましょう』

『あっ、一柱だけズルイでキーやん。ワイもや』

『頑張って下さい、横島さん』

『横っち、頑張りーや』

 

まる

 





(`・ω・)ちなみに、光だけでは無く、海と風も落ちてます。
刹那ちゃんは誰かと言うまでもありませんね。



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「キーやんとサっちゃんの横島探索日記5・フタコイ-オルタナティブ-+1」

『横っち発見や!』

『ですがこの横島さんは少しばかり成長してますね。今回も別人の様です』

『さよか。じゃあ早速見守(覗き見す)るとしましょか』

『今日のおみやは《まるごとバナナ》です』

『おおっ!ワイの大好物や!』

 

 

・・・・・・・

 

 

「忠夫!何時までもだらしない格好してないで着替えて来なさいよ。今日は久しぶりの依頼者が来る日なんだからね!」

「分かったよ」

「はい忠夫、着替えだよ」

 

俺は横島忠夫21歳、GSだ。

ようやく美神さんから独立して今は自分の事務所を持っている。

そんな俺の元に助手として押しかけて来たのが白鐘沙羅と白鐘双樹の双子の姉妹。

俺なんかの何処がいいのか住み込みで俺の世話をしてくれている。

 

「さあ早く着替えて。て、手伝ってあげるから」

「あ~~!双樹、何抜け駆けしてるのよ!どきなさい、着替えの手伝いは私がするから」

「ず、ずるいよ沙羅ちゃん。双樹がするの」

「お、おい、二人とも…」

 

二人とも着替えをさせる立場を取り合っているがこの狭い場所でもみ合うと…

 

「うわっ!」

「きゃっ!」

「どわっ!」

 

言わんこっちゃない。もみ合いになって三人まとめて倒れ込んだ。

そして其処に。

 

「お早う御座います!GS協会から参りました秋月と申します。今日は文珠使いである横島先生に是非ともお受けしていただきたい依頼が……はあぁっ!?」

 

いきなりノックも無しにドアを開けて入って来た秋月という男は俺達を見て唖然としていた。それはそうだろう、絡み合っている今の俺達を第三者の目から見たら……

 

「こ、之は男一人、女二人による多人数プレイ!いわゆる『3P』!」

 

           3P

 

「あ、ああ、何という事だ、何という事だ、重要な依頼を受けてもらおうとした男がまさかこんな異常性癖の持ち主だったとは。中学生相手に信じられん。俺なら断然巨乳の女、映画女優でいうならイ○ベル・ア○ャー○がいいのに。しかし、この男以外にあの霊症を解決できないのもまたたしか。俺はあえて社会道徳をかなぐり捨てて見て見ぬふりをしなければ………ゴクンッ」

 

(心象風景)《(あけて~、あけてよ~)夜中、電話ボックスの中で泣きながら開かないドアを叩く秋月少年》

 

沙羅と双樹は秋月がブツブツと独り言を言っている間に横島から離れてその横に座っていた。

 

「そう、之は『超法規的措置』!」

 

         超法規的措置

 

「俺は霊症事件の解決の為に不幸な二人の少女の人生をあえて、あえて見て見ぬふりをするのだ。ああ~、最低だ最低だ。俺はなんて最低なGS協会職員だ。故郷の母親よ、別れた女房よ、先祖返りだろう綺麗な金髪を持って生まれた愛しき愛娘よ、この秋月郁の魂の選択を笑わば笑え…………見なかった事にしよう。(ワハハハハハハハハハハハハハハハハハッ)と、いう事で横島先生」

 

さっきまでの苦悩もなんのその、笑顔で話を続ける秋月。

 

「…大丈夫かコイツ?」

「さあ?」

「え、と……続き、する?」

「何のだ!」

 

 

・・・・・・・

 

『美神さんから独立した横島さんの様ですね』

『そんでもって中学生の美少女二人をかこっとるとは。やはり横っちはロリの才能があるな』

『まあ、横島さんですからね』

 

まる

 

 




(`・ω・)秋月郁、奴は何処にでも居る!
ちなみにまるごとバナナは最近のオイラのマイブームでしゅ。


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「横島、ダイ爆発!」(前編)

更新が途絶えてかなり経つので過去にエタらせた作品を晒しておきます。

ドラゴンクエスト~ダイの大冒険~とGS美神極楽大作戦!!のクロス。

ダイが横島に転生したらという謎設定。


 

 

太陽の光で魔界を照らし出す為に地上を消し去ろうとした大魔王バーンであったが、彼は勇者ダイによって倒され、そして世界に再び平和が舞い戻った。

仲間達は歓喜の雄たけびを上げ、勇者の凱旋を心の底から喜び、祝い、そしてこれから過ごす事の出来る平穏な日々を思い浮かべながら大声で笑いあう。

 

そう、長い闘いは終わりを告げ、これからは平和な日常を過ごせる……

 

     ……筈だった。

 

 

 

使い魔ピロロとしてその正体を偽っていた真のキルバーンは勝利の余韻に浸っていたダイ達の前に現れ、キルバーン・ドールの顔面に仕込んでいた黒の核晶を起動させたのだ。

 

真のキルバーン、ピロロはアバンやマァム達の手で倒されたが、キルバーン・ドールはダイとポップによって上空へと運ばれる。

爆発直前の黒の核晶と共に……

 

 

 

――けっ…結局こうなっちまったか……

  だが…もう手放している時間はねぇ!!

 …お前となら……悪かねぇけどな、ダイ…

 

――……ごめん…

  ポップ…!!!

 

――えっ!?

 

 

 

ダイはポップを巻き込まない為に彼の体を蹴り飛ばしてキルバーン・ドールから離れさせ、余りに突然のダイの行動に呆然としていたポップはゆっくりと地上へと落ちて行く。

その逆にダイはキルバーン・ドールを抱えたまま遥か上空へと昇って行く。

ポップを置き去りにして……

 

 

 

――なっ……、

  何故なんだよォォッ

  ダイィーーーーーーッ!?

 

 

 

ポップの、仲間達の、愛しき者達のダイを呼ぶ声も虚しく勇者ダイは………

 

  まるで太陽の様な………

 

    眩い閃光の彼方へと………

 

      消えて行った………

 

 

 

そしてその青空には

 

――バッカヤロオォォォーーーーッ!!!!

 

 

ポップの叫びが木霊していた。

 

 

そして時は流れ……

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

大魔王バーンとの闘いが終わって百有余年、此処パプニカの岬にかつて勇者ダイと共にバーンと闘った仲間達が集まっていた。

 

クロコダイン・チウ・ヒム・ロン=ベルク・そして……

 

「よう、ヒュンケル」

「久しぶりだな皆。元気そうで何よりだ」

 

ヒュンケルと呼ばれた男、それはかつて竜騎衆としてバラン、ダイの二人の(ドラゴン)の騎士に仕えた陸戦騎・ラーハルトであった。

 

ヒュンケルは結局子を残さなかった。

そして最後まで旅を共にし、その最期を看取ったラーハルトがヒュンケルの名を受け継いだのだった。

何時か帰って来るであろうダイの為に。

 

「ダイ様…」

 

ヒュンケル(ラーハルト)は岬の突端に立つダイの剣の前に片膝をつき主の名を呼んだ。

剣の宝玉にはもはや光は灯っておらず、勇者ダイの名は伝説となっていた。

 

「ダイ、世界は平和だぞ。お前が守った平和は未だ続いている、いや、これからも続くだろう」

「ダイ君、ボクは今デルムリン島で暮らしているんだ。獣王としてモンスター達はボクが守っているよ。ブラスさんは死んじゃったけど朝日が一番綺麗に見える岬で眠っているからね」

「信じられるかダイ。デルムリン島は今、モンスターと人間が共存してるんだぞ」

 

クロコダインはロモスの森で暮らし、チウとヒムはデルムリン島で暮らしている。

チウも今では獣王の名に相応しいほどの巨体に成長していたが、ダイへと語り掛けるその言葉は嘗てまだ小さかった頃の口調に戻っている。

 

「ダイよ、見てくれ。俺の腕も完治してこれでようやくノヴァが完成させてくれた星皇剣を振るう事が出来る。出来ればお前と模擬戦がしたかったんだがな」

「ダイ様、私はまだ諦めてはいません。たとえ生まれ変わりであろうとも、もう一度貴方様に仕える日が来る事を」

 

完成した星皇剣を掲げるロン、ダイを主と仰ぎ続けるヒュンケル、彼らの瞳からも希望の光は失われてはいない。

 

 

 

「これはこれは、皆さんおそろいで」

「ポップ!」

 

其処にやって来た一人の少年、彼はダイの無二の親友ポップの子孫であり、その受け継いだ名前の通りに見た目もかつてのポップと瓜二つである。

彼は剣の前に立つと何やら懐かしそうに剣を見ながら語り始める。

 

「俺ってさ、勇者ダイと一緒に闘った魔法使いにそっくりなんだよな」

「ああ、見た目も口調も、その類まれな才能もな」

 

そう、ポップは子供の頃より魔法の才能に長け、攻撃呪文だけではなく治癒呪文をも操っていた。

極大消滅呪文(メドローア)はさすがに使えないでいたが、今ではほとんどの呪文を使いこなしている。

 

「たまに夢に見るんだ、ツンツン頭のクセっ毛のチビと世界中を冒険する夢を。泣いて笑って、時たま喧嘩して、ドンドン強くなるアイツの背中を追いかける夢をさ。そしてまるで太陽の様な光の中に消えて行く姿を見送るところで目が覚めるんだ」

 

皆は空を見上げながら話を聞いていた。

それはまさにあの時の出来事。地上を、仲間を、ポップを守る為に黒の核晶を上空へと運び一人閃光の彼方へと消えた勇者の姿。

そして確信した。この男は間違いなくポップの生まれ変わりであると。

 

「そういえば夢の中じゃチウのおっさんはこーーんなにチビだったな」

 

ポップは腰のあたりに手をやりケラケラ笑いながらそう言った。

 

「なんだと!ポップの方こそドジでスケベでどうしようもないお調子者だったぞ!」

「……やるか?」

「少しもんでやろう。獣王直々の稽古だ、有り難く思え」

 

チウは指をボキボキ鳴らしながら歩いて来る。

 

「へっ上等だ、相手してやるぜ!」

 

ポップは手の中に徐々に大きくなる光の玉を作り出しながら迎え撃つ。

 

「窮鼠、怒豪拳!」

 

チウもまた、闘気を込めた拳を振り下ろす。

ポップはそれをかわし、反撃に出る。

 

「甘い甘い!喰らえ、圧縮三段爆発呪文(イオズ)!」

 

 

『イオズ』、それはポップのオリジナル呪文。

イオを三段階に重ねて圧縮し、有爆による相乗効果で威力をはね上げたのだ。

もっとも成功したのは「イオ」だけで、『メラ』や『ヒャド』、『ギラ』などは大きくなるだけで重ねる事は出来なかった。

 

「オーラバリアー!」

 

それに対しチウは気合を込めて体を強化し、オーラを最大限に放出することで体に受ける衝撃を弱めていた。

だが、そんな二人の乱闘に耐えかねたクロコダインが声を荒げて止めに入る。

 

「二人ともいいかげんにせんか!岬がボロボロになるぞ!」

「す、すまん、クロコダインさん」

「わりい。少し調子にのっちまった」

「そんな事だからお調子者とからかわれるんだ」

「けっ、悪かったな!」

 

クロコダインに叱られ、ヒュンケルに窘められてふてくされるポップを見て、皆は笑っていた。

 

 

その頃、ある世界では………

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

辺り一帯に轟く爆発音。

此処、妙神山において闘いが繰り広げられていた。

 

『ヒャアーハハハハハハハハハハハ!どうしたどうした、もうお終いか?』

『遊ぶのもいいかげんにしろベルゼブル!貴様が邪魔で攻撃できん。止めを刺すなら早くしろ』

『いいじゃねえか、どうせこいつ等を殺す事に変わりはねえんだ。もっと遊ばせろ!』

「チッ、なめるんじゃねえーーっ!」

 

美神を狙い、妙神山を襲撃して来た魔族「ベルゼブル」と「デミアン」を雪之丞と美神は猿神との修行で進化した魔装術とパワーアップした「神通鞭」で闘っている。

しかし、横島は確かに霊力は増しているがこれと言ったパワーアップは見られなかった。

 

『姉上、大丈夫ですか?』

『バカ者!私なんかに構う暇があるなら奴らを倒す事だけに集中しろ!』

『り、了解っ!』

 

元からの怪我に加え、デミアンの攻撃で更に深手を負ったワルキューレを心配するジークだが、彼女はそんな弟を叱責する。

そして小竜姫達神族はいくら妙神山での出来事とはいえ、行われているのは魔族同士の争いの為に手出しが出来ずにいた。

 

『老師、横島さんは目立ったパワーアップが無いようですが大丈夫でしょうか?』

『心配はいらん、大人しく見ておれ』

『は、はい』

《しかし驚いたわい。あの小僧にあのような前世があるとはな》

 

 

「くそおー!何で俺だけパワーアップしてないんだ!」

「老師との修行を終えて生きてるって事はパワーアップはしてる筈だ。この闘いの中で目覚めさせるしかねえぞ!」

「二人共!無駄口叩いてる暇があったら手を動かしなさい!」

 

『一頻り遊んだ事だしそろそろトドメと行くか。どけ、ベルゼブル!』

 

デミアンは体の一部を砲身に変化させると、美神に向かって巨大な魔力砲を撃った。

 

「ち、ちょっと、ウソでしょ」

「美神のダンナ!」

「美神さーーん!」

 

二人は美神の前に出て盾になろうとしたがどう見ても半端な威力ではなく守れ切れないのは歴然だった。

 

『横島さん、美神さん!』

《何をボヤボヤしておる小僧。早く力を覚醒させんか!》

『くっ、こんな傷さえ負って無ければ…』

『横島くん!』

 

 

 

「くそっ!此処までなのか…」

「人生、諦めが肝心かもね…」

(ダメなのか?守れないのか?…)

 

眼前に迫った魔力砲を見ながら諦めかけたその時、横島の脳裏に見た筈のない映像がフラッシュバックして来た。

 

 

優しげな笑顔で見下ろして来る一人の男。

 

《修行で得た力というのはやはり人の為に使うものだと私は思います》

 

そして爆発の中に消えていくその姿。

 

《―バ―先生ーーー!》

 

(…何だ今のは?)

 

 

顔を涙と鼻水でグシャグシャにしながらも笑顔で語り掛けて来る男。

 

《俺がくたばる所を見てもまだそんなとぼけた顔をしてたら…恨むぜ。……あばよ―イ、お前と旅が出来て楽しかった。でも、俺の冒険は此処までだ》

 

彼もまた、爆発の中に消えていく。

 

《ごめんよポ――、俺のせいでお前を…ごめん、ごめんよポッ―っ、――プーー!》

 

(何なんだ、この胸の痛みは?)

 

 

瞳からは既に光は消え失せ、倒れ付している男。

 

《ダ―、とてもいい名だ。だが、私達が付けたディ――という名も覚えておいてくれ。強き竜、―――ノという名を》

 

ボロボロの体で腕の中で息を引きとる男。

 

《と―さん……、――さぁーーーんっ!》

 

 

(駄目だこんなのは。こんなのはもう見たくない、諦めてたまるか!!)

 

横島は体の中に今まで感じた事のない力が湧き上がって来るのを感じ、そしてその瞬間、彼の額に眩い光が輝いた。

 

「ウオオオオオオオオーーーーーーーッ!」

 

 

『横島さーーん!美神さーーん!雪之丞さーーん!』

 

小竜姫の叫びの中、三人は爆発の中に飲み込まれていった。

 

『ハハハハハハハッ!ようやく片付いたか、後は美神の魂を持って行くだけだな』

『チッ、物足りねえな』

 

その時、爆煙を凄まじい光の闘気が吹き飛ばした。

それを成したのは…

 

 

『ふっ、小僧め。ようやく目覚めたか』

『ろ、老師…。何故横島さんの体から竜気が?』

『よ、横島?』

『姉上、これは一体?』

 

その光景を呆然としながら見つめる小竜姫達。

 

『な、何なんだこの威圧感は…!?』

『デミアン、何なんだこりゃ?』

 

デミアンとベルゼブルも横島から感じる得体の知れない力に唖然としている。

 

「よ、横島クン?」

「へへへ、面白れえじゃねえか。見せてみろ横島、お前の力を!」

「奪われてたまるか、誰も傷つけさせない、俺が守るんだーー!」

 

横島のその叫びと共に額の光は紋章を形作る…

 

それは正に…『(ドラゴン)の紋章』

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

再びパプニカの岬。

 

ポップが用意していた食事を皆が食べ、食事が出来ないヒムが一人岬を眺めている時、当然「ソレ」は起こった。

 

「お、おい皆、あれを見ろーーー!」

 

ヒムの叫びにポップ達がその指さす方を見てみると、其処にはダイの剣の宝玉が眩い光を放っていた。

 

「何だと!おい、ロン!あ、あれは…」

「ダイの剣の宝玉に…光が灯っている…」

「ダイ様…ダイ様なのか…?」

「宝玉に光が……、ダ…、ダ……イ?」

 

徐々に強くなっていく宝玉の光を見つめながらポップの瞳からは涙が零れてくる。

そして彼の脳裏にはかつての冒険の日々が、前世での“ポップ”としての記憶が蘇って来た。

 

「はは…ははは…、ダ…イ、ダイなんだな?…ダイ、ダーーーイ!」

 

その叫びに応えたのか、眩いばかりの光を放ちダイの剣は空へ飛び立ち、記念碑に納められていた鞘もその後を追う様に空へと消えて行った。

 

「ロン、これは」

「ああ、おそらくダイの魂を受け継ぐ者が闘っているのだろう。ダイの剣はその魂に応え、新たなる主の元へと飛んで行ったに違いない」

「ダイ様、私も必ず私も馳せ参じて見せます。必ずや!」

「俺もだ、ダイ!何があろうとも絶対にな!」

 

仲間達は新たなる目標に向かって立ち上がる。

 

 

―◇◆◇―

 

『くそっ、小賢しい真似をしやがって!』

『待て!ベルゼブル』

 

迫って来る無数のベルゼブル・クローンに横島は右手をかざし呪文を唱えた。

 

「ベギラマ!」

『ギャアアアアーーーッ!』

 

その呪文の閃熱はクローン達の約半数を焼き尽くす。

 

「な、何なのよ横島クン、この力は!?」

「何が何だか良く分からないけど闘い方が頭の中に浮かんでくるんですよ」

「はははは、面白れえじゃねえか横島!後でたっぷりと相手をしてもらうぜ」

「ええい、うっとおしいわこのバトルジャンキーが!」

 

その時、空の一点が光ったと思ったら其処から一振りの剣が飛来し、横島の足元に突き刺さった。

 

「この剣は……。そうか、来てくれたんだな」

『くっ次から次へと…一体何なんだ!』

 

横島はその剣を手に取ると、剣先をデミアン達に向け、その姿を猿神達は見守っていた。

 

『さあ、横島よ見せてみよ!"竜の騎士"とやらの力をな』

『竜の…騎士?』

 

横島はダイの剣を構えると、デミアンに向かって走り出した。

 

「久しぶりに行こうか、『相棒!』」

 

 

後編に続く

 

 




(`・ω・)ポップならともかくダイの生まれ変わりがこんなに煩悩まみれな筈が無い!
そう言う方もいるでしょう。しかし、ダイの魂の力は《純粋》
そう、父親である大樹の影響を"純粋"に受けて育ったのが横島なのです。


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「横島、ダイ爆発!」(後編)

(`・ω・)後編でしゅ。


 

 

「久しぶりに行こうか『相棒!!』」

 

横島はダイの剣をデミアンに向けて一閃する。

そして、その剣から放たれる衝撃波はデミアンに襲い掛かり、切り裂かれた体は崩れ去って行く。

 

『な、何だと!? 私の体が』

 

デミアンは崩れて行く体を見ながらその威力に驚愕するが、すぐさま気持ちを落ち着かせて体を再生させて行く。

 

『す、すごい!横島さんがここまで強くなるなんて』

 

小竜姫が横島の力に感心していると残りのベルゼブル・クローンが一斉に横島へと襲い掛かる。

 

『何を手間取ってやがる。退けデミアン!俺がひと思いに…』

『バカ者!迂闊に近づくな!』

 

「ヒャド!」

 

襲い掛かって来たベルゼブル・クローンだが、横島は焦ることなく剣にヒャドをかけて魔法剣にすると、そのまま横薙ぎに一閃する。

 

「くらえ、氷結海波斬!」

 

『な?ギャアアアアアッ!』

 

海波斬の海をも切り裂く衝撃波はヒャドの凍気を撒き散らしながらクローン達を一瞬で凍りつかせて切り裂き、その体は次々と砕け散って日の光を受けて煌めかせ、その光景をデミアンは呆然としながら見つめていた。

 

『な、何故だ!? 人間など我ら魔族からすれば取るに取らない存在の筈。なのに…、何故此処まで我等が追いつめられる!?』

 

「そうやって見下してばかりだから私達の成長に気付かないのよ」

「そう言うこった!」

 

美神の神通鞭の連撃、雪之丞の連続霊波砲を受けデミアンの体はボロボロになるがすぐに再生してくる。

 

「まったく、しつっこいわね!いいかげんくたばったらどうなのよ!」

『図に乗るな!たかが人間が少しばかり力を付けた程度で私を倒せるとでも思っているのか!』

 

思っても見なかった反撃に憤るデミアンは体から無数の触手を繰り出し襲いかかって来た。

 

「くっ気持ち悪りい」

「何だこんなもの。バギマ!」

 

横島が放つバギマの真空の刃は触手と少年の姿をしたデミアンを切り裂いた。

その際にデミアンのポケットの中からカプセルの様なものが零れ落ち、そしてワルキューレはそれを見逃さなかった。

 

『ジーク、あれを見ろ!』

 

ワルキューレが指差したカプセルの中には親指ほどの胎児の様な魔物が居た。

 

『ギイイ』

 

『そうか!あれがデミアンの本体。あの巨体は奴が念力で動かしている肉の塊に過ぎなかったんだ』

「道理でいくら攻撃してもダメージを受けないわけよ」

『コイツさえ潰してしまえば』

 

ジークはカプセルを奪おうと飛びかかるが、デミアンはそれを易々と許しはしなかった。

 

『おのれ!私に触れるな!』

『グワァッ!』

 

デミアンが放った触手はカプセルを手に入れかけたジークを弾き飛ばし、その隙にデミアンは本体が入っているカプセルを掴み取るとそれを飲み込んだ。

 

『ハハハハハハ、こうすればお前達は私の本体を感知出来まい。私の勝ちだ!』

「そいつはどうかな?」

『何だと!?』

「横島クン?」

「何か勝算があるのか」

「まあな。(空の技が使えれば一発なんだがな、さすがに今の俺じゃ無理か)本体を直接狙えないなら貴様を丸ごと吹き飛ばせば良いだけの話だ!!』

 

『愚か者!そんな事が出来るわけがない』

「だったら受けてみろ!竜闘気(ドラゴニックオーラ)全開っ!」

 

横島の体から溢れる竜闘気は空に掲げるダイの剣に伝わって行く。

 

『こ、こんな事って。ここまで凄まじい竜気は今まで感じた事が有りません。ろ、老師、これは一体…』

『後で説明してやる。黙って見ておれ』

『は、はい』

 

「何処まで強くなりやがったんだこの野郎」

「もう、何が何だか…」

「こいつはオマケだ、ライデイーーン!」

 

雷鳴が轟き、稲妻のエネルギーが剣に加わる。

 

『馬鹿な!雷まで操るだと!?』

「ストラッシュは不完全版だがお前程度なら丁度いい」

 

横島はそう言いながら剣を逆手に持ちかえアバンストラッシュの構えをとる。

 

『程度…?私程度だと……。ふ、ふざけるなーーー!』

 

デミアンは怒りで目を赤く染め、横島に襲い掛かるが既に横島は剣を振り抜いていた。

 

「これで終わりだ。ライデインストラーーッシュ!」

 

空の技が使えない為に言葉通りの不完全版とはいえ、竜闘気とライデインを加えた必殺剣(ストラッシュ)はデミアンの体を消し去るには十分すぎ、デミアンの体はカプセルの中の本体ごとボロボロに崩れ去って行く。

 

『グワアアァァァーーーーッ!こ、こんな…私が……』

 

そんなデミアンの耳に美神の呟きが聞こえて来た。

 

「驚いたわね、時給255円の丁稚がここまで使える奴になるなんて」

『にっ、にひゃくご……。こ、コイツが?……、時給255円の丁稚にこの私が。な…納得いかーーんっ!』

 

最後の絶叫を残してデミアンは消え去った。

 

「ざまあ見なさい。あー、すっきりした。ほーほほほほほほほほほほ」

「ひ、ひでえ…」

 

最後のトドメの一言に流石の雪之丞もデミアンには同情するしかなかった。

そんな時、再び空から飛来して来る物があった。

 

「何だ?また何か来たぞ」

 

飛んで来たのはロン=ベルクが作ったダイの剣専用の鞘。

大地に突き刺さった鞘を抜き、ダイの剣を納めて背中に背負った横島に猿神や小竜姫達が駆け寄って来た。

 

『横島さん、大丈夫ですか?』

「あ、小竜姫様…だいj……」

『横島さん!』

 

大丈夫と応えようとすると横島の額から竜の紋章は消え、同時に力尽きたのか腰から崩れ落ちた横島を小竜姫がその体を支えた。

 

「横島!」

「ちょっと、あんたホントに大丈夫?」

「はい、大丈夫っス。力を使い果たしただけですから」

『良かった…』

「しょ、しょしょしょしょうりゅうきさま?」

『あらいやだ、私ったら』

 

安堵し、横島に抱きついた小竜姫は自分の行動に照れながら横を向くが横島の服の袖を掴んだ手は離さなかった。

 

「こ、これはやはり神と人の禁断の関係を……。いや、これじゃあまるでポップじゃ…。ポップ?…えっと、誰だっけ?」

 

横島は何時も通りに小竜姫へのセクハラをしようする。

しかし、ふと頭に浮かんだ懐かしさを感じる顔を思い浮かんだが、今はまだ前世の記憶と上手くリンク出来ないのか、それが誰なのかを思い出せないでいた。

 

それより、先ほどから殺気を感じる方に顔を向けると。

 

「横島クン」

「な、何スか?」

「アンタ、時給240円」

「な、何でですかーー!? 強くなったじゃないですかーー!?」

「うるさい!黙れ!」

 

言い争う美神達を見ながら猿神は呟いた。

 

『どうやらまだ完全には記憶は蘇っては無いようじゃな。まあ、蘇った所で横島は横島のままじゃろうがな』

『老師、申し訳ありませんが姉上の治療の為に一度魔界に帰りたいのですが』

 

ジークは重傷を負ったワルキューレを魔界へと連れ帰る為の許しを頼んでいた。

 

『いいじゃろ、事情が事情じゃからな。一時帰郷を許可する』

『ありがとうございます。さあ、姉上帰りましょう』

『ちょっと待て、…よ、横島』

 

ワルキューレは失いそうになる意識を必死に留めて横島に話しかける。

 

「どうした?」

『…あの時は……、お前を侮辱するような事を言ってすまなかった。お前の覚悟と闘志、確かに見せてもらった。…また会おう、戦士よ』

「…ああ。またなワルキューレ、それからジークもな」

『横島くん、僕達は人間と魔族だ。しかし…』

「そんなの関係無いって。もう仲間だろ、俺達」

『あ、ありがとう』

 

そう言いながら横島が差し出した拳にジークもまた笑顔で自分の拳をコツンとぶつける。

そしてジーク達は魔界に帰って行った。

 

『さて横島よ、一休みしたら修行の再開じゃぞ』

「へ?」

『今の闘いは前世での力が一時的に戻ったにすぎん。これから本格的に自分の物にする為の修行をせねばな』

『剣術は私に任せて下さい。みっちり教えて差し上げます♪』

「そう言う事なら俺も混ぜてもらうぜ」

『かまわぬぞ。何、加速空間で半年ぐらいかければ何とかなるじゃろ』

『頑張りましょうね、横島さん♪』

「ち、ちょっと、何を勝手に…」

 

 

「じゃあ、私は帰るから」

 

美神はいつの間にか着替えを済ませてカオスフライヤー2号に跨っていた。

 

「美神さーーん!何一人で帰ろうとしてるんスか!?」

「だって修行の邪魔しちゃ悪いし」

「仕事はどーするんですか?俺が居なくちゃ」

「半年と言っても加速空間での話でしょ。大丈夫よ二日ばかり休みをあげるから。当然、その分給料は減らすけど」

「な、な、な…」

 

ボーゼンとしている横島を小竜姫と雪乃丞はそれぞれ片手を持って引きずっていく。

 

『さあ、話も付いた事だしさっそく修行場に行きましょう』

「くっくっくっくっ、腕が鳴るぜ」

「そんな、俺も帰るーー!美神さーーん!」

 

引きずられていく横島を見ながら美神は気を引き締める。

 

(強くなりなさい横島クン、おそらくまだまだ強い敵が出て来るわ。どんな相手でも負けないように)

 

そんな思いを残して美神は妙神山を後にした。

 

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

その頃、ダイの剣が飛び去った後のパプニカの岬では。

 

「ダイの剣は何処に飛んで行ったか解らないのか?」

「ふっ、俺を誰だと思ってる?自分の作った武器の在り処を特定する位訳は無い。だが、其処にどうやって行くかはまた別の問題だ」

 

クロコダインやロン達はダイの剣が飛び去った先にどうやって行くかを検討していた。

 

「ルーラでいける所なら問題ないんだがな」

「それだ、ルーラだ」

 

そうヒムが言うと、名案が浮かんだのかポップが叫んだ。

 

「だからルーラで行ける所じゃないと…」

「だから仲間と合流する為の呪文、リリルーラだよ。ダイの魂を受け継いでるのなら上手くいけばリリルーラが使えるんじゃないか?」

「…そうか、その手があった!」

「ああ、場所を特定した後でリリルーラを使い、駄目ならリリルーラは発動しないが成功すれば移動する。ダメ元でやってみる価値はあるんじゃないのか?」

「よし、その作戦で行こう。さっそく俺はダイの剣の場所を特定する」

「いいぞ!希望が見えて来た」

「だが、楽観はできんぞ。ダイの剣が飛んで行ったという事はダイ様の魂を受け継いでいる方は今、闘っているという事だ」

 

ヒュンケルの言葉を聞いた皆は顔を引き締める。

 

「分かっているさ、だからこそ急がんとな」

「待っていろよ、今はもうダイじゃないかもしれないけどダイの魂を受け継いでいるなら間違いなく俺達の仲間だ」

 

仲間達はそんなポップの言葉に頷きながら空へと目を向ける。

時と世界を越えた勇者との再会に想いを馳せつつ……。

 

 

後編・完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

………此処は魔界の奥深く、冥王竜ヴェルザーが封印されている場所。

だが、其処には封印され石柱となっていたヴェルザーはいなかった。

其処にあるのは粉々に砕かれ、辺り一面に散らばっているかつてヴェルザーだった欠片。

そして其処には一人の男が立ち、周りには膝を付いて平伏している数人の魔族。

 

「フハハハハハハ!いいぞ、この体はオレの魂によく馴染む。我が新たなる本体に相応しい。ハハハハハハハハハ!」

「おめでとうございますヴェルザー様」

「ウム。まさか神々共もオレの封印にこの様な抜け道があったとは夢にも思ってないだろう」

「ではヴェルザー様、これから如何なさいます?やはりまずは地上の制圧ですか?」

 

ヴェルザーは服を整えマントを(ひるがえ)しながら答えた。

 

「いや、まず何よりも為さねばならぬのは竜の騎士の抹殺だ」

「竜の騎士?しかし奴はキルに持たせた黒の核晶で消し飛んだ筈では」

「オレには感じる、奴は今異世界にいる。竜の騎士を倒し、奴との因縁を断ち切らぬ限り世界制覇など夢のまた夢だ」

「しかしどうやって異世界に?」

 

ヴェルザーは振り向き拳を握りしめながら答えた。

 

「心配はいらん。『この体』での超魔力をもってすれば次元を超える事など造作もない事よ」

「「「「ハハーーー!」」」」

 

ヴェルザーは雷鳴轟く魔界に広がる漆黒の大地を眺めながら叫ぶ。

 

「竜の騎士よ待っていろ!今度こそ貴様が地に平伏す番だ。このオレの、『魔竜人』の力でな。ハーーハハハハハハハハハハ!」

 

 

 

新たなる激戦が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

ドラゴンクエストGS~蘇る邪竜と復活の竜の騎士~

 

 

=冒険の書の記録に失敗すますた=

 

 

 

 

予定している横島のスペック

ちなみに横島は紋章を額と右手に自由に移動できる。

 

《紋章なし》

 

<霊波刀・ハンズオブグローリー・サイキックソーサー>

共に出力アップ。(およそ150マイト)

 

<文珠>

この物語では文珠の力には目覚めてないので使用不能。

 

《紋章あり》

 

<竜波刀>

竜闘気で作った霊波刀。色は金色で竜燐の模様あり。

 

<ドラゴニック・グローリー>

竜闘気で作った栄光の手、形は竜魔人の腕にそっくりで実体化している。

両手を合わせることで劣化版とはいえドルオーラ使用可能。(威力は本家のおよそ三分の一)

 

<紋章剣>

竜の紋章を右手に移し、霊波刀の様に剣の形にする。威力はダイの剣を上回るが無尽蔵に力を使う為に使用時間は10分が限界。

 

<バランの紋章>

ダイの紋章同様に受け継いではいるが、今現在横島が使えるのはダイの紋章だけでバランの紋章は未だ封印されている。

 

 

とりあえずはこんな所です。

 

 

 




(`・ω・)なんじゃこりゃと思いつつ、勇者ダイが転生した横島の話でございます。
猿神との修行で目覚めたのが文珠ではなく、竜の紋章だったら?何故かそんな妄想が頭の隅を横切ったのが始めです。
後、続きっぽく終わってるけど続かない罠。

(・ω・)ノシ<でわ、いずれまた。


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「とりあえず、一話目だけ」

(`・ω・)リアルで色んな事があってテンションだだ下がり、執筆活動が出来ないでいる乱でしゅ。
と言う訳で、同じくエタらしたままの「横島ダイ爆発!」本編の一話目をうpっておきましゅ。


 

 

妙神山修行場。

猿神の造り出した加速空間において横島達の修行は続いていた。

 

『そらそら、どうした横島よ!』

 

横島は巨大猿の姿になった老師の攻撃をかわしつつ攻撃の隙をうかがう。

 

 

 

横島は前世での記憶を頼りにダイの時には未契約だった呪文を幾つか新たに契約していた。

攻撃呪文ではイオ系を契約し、それぞれ中級呪文まで使えるようになっていた。

 

魔法剣も幾つかの組み合わせを完成させていて、特にストラッシュの軌跡で飛んでくるイオナズンは凶悪その物だった。

 

剣術においてもアバン流刀殺法も空裂斬以外は完全に体得していた。

それだけではなく、竜闘気と霊力を組み合わせた竜波刀(ドラゴニックブレード)をも作り出していた。

 

「ドラゴニックブレード!」

 

横島は竜波刀・ドラゴニックブレードで斬りかかるが老師は如意棒で防御する。

 

『そんな見え見えの攻撃が通用すると思っておるのか!』

「おわっと!トベルーラ!」

 

攻撃を弾き返し、振り下ろされて来る如意棒を横島はトベルーラで空に飛び上がる。

 

「コイツならどうだ!ライデイン!」

 

だが猿神はあせる事無く、地面に突き刺した如意棒を避雷針にして雷撃をかわす。

 

『タイミングは良かったがまだまだじゃな』

《もっとも、ワシが本気を出しておるからこその力の差なのじゃがな。中級魔族が相手ならもはや敵無しじゃな》

 

 

 

 

そんな横島の闘いを雪之丞と小竜姫の二人は見ていた。

 

「横島の奴、竜の紋章の力を随分と使いこなせるようになって来たじゃねえか」

『そうですね、剣術の方ももう私が教える事もありませんし』

 

小竜姫は少し寂しそうにそう呟く。

横島は猿神達との修行によって竜の騎士の力をほぼ完全に使いこなせるようになっており、そしてそれは横島の修行の終わりを意味していたのだから。

 

「俺も魔装体に翼を加える事が出来て空中戦も出来る様になったしな、これでようやく下界に帰れるぜ」

『そうですね……』

「……横島が帰るのがそんなに寂しいのか?」

『なっ!何の事ですか!?』

 

小竜姫は突然確信をついた雪之丞の言葉に顔を真っ赤に染めながらも反論しようとした。

 

「……まさか、気付かれて無いとでも思っていたのか?気付いてないのは横島本人くらいのもんだぞ」

『そ、そそそそそうなんですか?』

「食事の時だって横島のおかずだけ何気に一品多いし、飯は何時も大盛り、茶を出すタイミングだって長年連れ添った女房みたいだと猿の師匠も感心してたぞ」

「は、はあ…」

 

ようやく修行が終わったのか、大の字に寝転んで休んでいる横島を小竜姫は耳まで赤くしながら見つめていた。

 

『私はおかしいんでしょうか?』

「はぁ、何が?」

『だって私は神族で横島さんは人間なんですよ、神族が人間を好きになるなんて』

「それはあれか?人間なんかを好きになるのは変だという上から目線か」

『違います、私は貴方達を見下してなんかいません!』

「だったら好きなら好きで良いじゃねえか。モタモタしてたら他の誰かに取られちまうぞ。俺達は明日にでも下山するんだからな」

『…そうでしたね……』

 

加速空間の中ではすでに半年が経過しており、横島達も十分に力を付けたという事で下山する事は決まっていた。

 

『寂しくなります…』

 

辛そうな小竜姫の顔を見ながら雪之丞は横島の方に目をやると、

 

「何で気付かねえんだあの馬鹿は」

 

そう呟いた。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

翌日、加速空間から出た横島と雪之丞は小竜姫と猿神に別れを告げていた。

 

「小竜姫様、別れるのは辛いです。小竜姫様の手料理、美味しゅうございました。また何時か食べに来たいです」

 

横島は小竜姫の両手を握りしめて語りかける。

 

『そ、そうですか。また何時でも来て下さい!ま、待ってますから』

「は、はい?で、ではまたいずれ」

 

また来たいという横島の言葉を聞いた小竜姫は満面の笑みで答えるが、仏罰という名のお仕置きを覚悟していた横島は何処か拍子抜けだった。

 

 

そんな横島を

 

『「だから、何でお前は…」』

 

雪之丞と猿神は呆れた顔で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『右の……ワシ等の出番は?』

『何も言うな左の。…虚しくなるだけじゃ』

 

 

 

 

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

横島と雪之丞が帰った夜、小竜姫は一人で庭に立っていた。

 

『昨日まであんなに賑やかだったのに…やはり貴方がいないと寂しいです。横島さん』

 

そう呟いていると何処からともなく人の気配がして来た。

 

『誰ですか、其処に居るのは!?』

 

小竜姫は神剣を構えながら振り返り叫ぶと、青白い光と共に人の影が現れて来た。

その影の正体は……

 

『そういきり立つな竜の姫よ。私は敵ではない、私の名はバラン』

 

その男は真の竜の騎士にしてダイの父、バランであった。

そしてその額には竜の紋章が光っていた。

 

『そ、それは竜の紋章!? 何故貴方に』

『私が真の、そして最後の竜の騎士だからだ。私と人間の女性ソアラとの間に生まれたのが我が息子ディーノ…いや、ダイ。そしてダイの生まれ変わりがお前の知っている男、タダオだ』

『なら、今の貴方は?』

『竜の紋章に宿っていた残留思念の様なものだ』

『残留思念…、その貴方が何故此処に?』

『お前に聞きたい事があるからだ』

『聞きたい事?』

『お前はタダオの事をどう想っている?』

『な、何をいきなり…』

 

いきなりの質問に戸惑いながらもその顔は赤くなっていた。

 

『悪いが真面目な話だ。真剣に答えてくれ』

 

小竜姫はその気迫に押されながらも答えた。

 

『私は…横島さんが好きです。愛しています!』

『そうか…だが、その想いは叶わぬかもしれん』

『なっ…何故ですか!? 神族と人間だからですか?』

 

バランは睨みつけてくるその瞳を見据えながら語りかける。

 

『竜の騎士は…愛した女を幸せには出来ない…。私が愛した女性ソアラも、ダイが愛した女性、パプニカの姫も幸せにはなれなかった』

『えっ……?』

『ソアラはアルキードと言う国の王女だった。冥竜王ヴェルザーとの闘いで傷ついた私と彼女は出会い、そして何時しか愛し合う様になった。二人で国を離れ、ダイも生まれ、一時は幸せな日々が続いた。だが、そんな日々は突然終わりを迎えた…』

『それは一体どのような?……』

『私は王女を奪った魔物としてアルキードの王に追われ、遂には隠れ住んでいた住処に王国の軍隊が押し寄せて来た』

『そんな……』

『私はソアラとダイの無事を条件に投降した。そして処刑される所だった私をソアラが盾となって殺された…、あろう事か自分の城の兵士にな……。父親でもある国王はそんな娘にこう言ったよ…『恥知らず』と…』

『……』

 

小竜姫は言葉が出てこなかった。

 

『そして、ダイにも愛し愛される女性がいた。ダイは世界を滅ぼさんとする大魔王と闘い、そして仲間達と協力しあい遂に大魔王をも倒した。だが、最後の最後に「黒の核晶(コア)」と呼ばれる超爆弾を持ち出した敵がいた。ダイは地上を守る為に黒の核晶を上空へと運び……そして消え去った。レオナと呼ばれたその女性はダイと添い遂げる事すら出来なかった』

『何が…言いたいんですか?』

『竜の騎士として紋章の力に目覚めたタダオにも同じ宿命が付きまとうかもしれない。お前の想いは届かぬかもしれぬし、例え叶ったとしても我等の様に死に別れるかもしれない。竜の姫よ、お前の覚悟はどうだ?』

『私は……』

 

小竜姫は自分を見据えるバランの目を見つめ返し答えた。

 

『私はそれでも横島さんの傍に居たい。共に歩きたい!』

『ならばお前に我が力を貸そう 』

 

その瞳にはっきりとした力を感じたバランは優しく微笑み、背に背負っていた一振りの剣を少竜姫に差し出す。

 

『そ、その剣は?』

『これこそ竜の騎士の正統なる武器、「真魔剛竜剣」。竜の力を持つお前ならば使いこなせるであろう』

『真魔剛竜剣……』

 

小竜姫が剣に触れると柄にある竜の瞳が光り、力が流れ込んでくる様に感じられた。

 

『す、凄い。これなら、これなら横島さんと…』

 

小竜姫は剣を受け取り喜んだ、これで横島の力になれると。

 

『だがくれぐれも忘れるなよ。我等の宿命を…』

『ええ、忘れません。そしてそんな哀しい宿命なんか断ち切って見せます!』

 

使命を終え、ゆっくりと消えていくバランを見据えて小竜姫は宣言した。

 

『信じよう、その瞳に宿る光を…これでようやく休む事が出来る。さらばだ、竜の姫よ』

 

そう言うとバランの体は光の粒となって空へと消えていった。

 

『そうです、断ち切って見せます。そんな哀しい宿命なんて』

 

いつの間にか夜が明け、昇って来る朝日を見ながら小竜姫は誓った。

 

 

 

 

『じゃがその宿命はたやすく断ち切れるのもではないぞ、小竜姫よ…』

 

そんな小竜姫を木陰に隠れて見ていた猿神は小さな声で呟いた。

 

 

今ここに、新たな物語は始まろうとしていた。

 

 

 

ドラゴンクエストGS~蘇る邪竜と復活の竜の騎士~

Level1「継承される(つるぎ)

 

 

=冒険の書の記録に失敗しました=

 

 





(`・ω・)という訳で横島は半年間の修行で竜の紋章をほぼ使いこなせるようになり、雪之丞も魔装術を進化させて空中戦が出来るようにしました。(空戦騎フラグ)

(・ω・)最終回の構想だけは出来ているんですが其処に行き着くまでの物語が中々書けなひ。


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「横島、ダイ爆発!」に「ネギま」をぶっこんでみた。

(`・ω・)横島の設定を少しいじっているし、思い付いたプロットを書き殴っただけなので書く予定は今の所無し。


少し昔、魔法世界でアスナを伴って旅をする「紅い翼」のメンバー達。

そのメンバーの中には若き日の横島…もとい、紅井百合子が居た。

 

彼等は巧妙に隠されていたMM元老院直轄のある研究施設を強襲していた。

其処に捕えられていたのはこの世界とは全く違う魔法形態を持つ一人の少年。

 

 

「私はアスナ、あなたは?」

「僕?…名前は分からない。昔はあった気がするけどもう忘れた」

 

 

少年はその能力ゆえに攫われ、実験動物として扱われていた為かつてのアスナの様に感情に乏しかったが「紅い翼」のメンバー達との交流で徐々に感情を取り戻して行った。

 

 

「アンタの名前は忠夫や。私の子供になり」

「……うん」

 

 

そして魔法世界での闘いは終わり、アスナはタカミチに忠夫は百合子に引き取られてそれぞれの地で過ごす事になる。

 

それから暫しの時が流れ、GSとして闘っていた横島は妙神山での猿神との修行で前世の、勇者ダイとしての記憶をおぼろげながら思い出し、その後ある依頼を受けて麻帆良学園にやって来た。

 

其処での様々な出会い。

イケメン予備軍だが、何処となく弟の様で憎めないネギに修行を付けてやる横島。

 

 

「どうしたネギ、そんな事じゃ修行にならんぞ。全力でかかって来い!」

「はい!『ラス・テルマ・スキルマギステル、来たれ雷精…』」

「『ライデイン』」

「んきゃーーーっ!」

 

ネギが呪文を詠唱し切る前に横島は無詠唱でライデインを撃つ。

いや、そもそも呪文の名前自体が詠唱代わりになっているのだが。

 

「ズルイよ、タダオーーっ!」

「そんな事を言ってもだな、呪文形態自体が違うんだから仕方ないだろ」

 

 

そして、魔法世界において同じように囚われの身で「紅い翼」に救い出され、今はその記憶を封印されている者同士、横島と明日菜のそれと気付かぬままの再会。

 

「横島さん。私達会った事あったっけ?」

「どうだったかな?会った事ある様な無い様な」

 

 

横島と幼い頃に出会っていて、再会をきっかけに仲直りを果たした木乃香と刹那。

 

刹那は横島にアバン流刀殺法を教わっていた。

 

「アバン流刀殺法・海波斬!」

「いいぞ、さすが刹那ちゃんは筋がいいな」

「さすがせっちゃんや~」

「あ、ありがとうございます!」

 

 

エヴァンジェリンとの闘いとその中での和解。

 

「貴様はそれだけの力を持ちながら私を滅ぼそうとはしないのか?貴様はGSなのであろう?」

「別に吸血鬼だから滅ぼさなきゃいけないって事は無いだろう。現に俺の友達にはバンパイヤハーフや九十九神だっているしな」

 

 

 

 

 

京都でのフェイト一味、そして復活したスクナとの闘い。

 

「くらえ、デカブツ!!アバンストラッシュ・B(ブレイク)!」

 

アバンストラッシュの一撃で真っ二つになって崩れ落ちるスクナ。

(巨大な敵は真っ二つになるのがダイ大のお約束)

 

 

 

そしてそれぞれ横島との仮契約でアーティファクトを手に入れる仲間達。

 

 

神楽坂明日菜

「見て見て、私のアーティファクト凄いわよ。『鎧化(アムド)!』」

 

明日菜のA・F『破魔の魔鎧』(追装備・パプニカのナイフ)

 

ハマノツルギに鞘があり、『鎧化』のキーワードで魔法効果を打ち消す鎧になる。

鎧の魔剣の様なフルアーマーではなく魔槍の様なプロテクタ―タイプで、鎧には剣同様に魔法効果を打ち消す力がある。

絵柄は魔鎧を装着し、剣を構えている所。そして左腕にパプニカのナイフを装備している。

 

 

桜咲刹那

「私のアーティファクトも負けていません」

 

刹那のA・F『真魔剛竜剣』

 

この剣にはその強さだけではなく、竜族を使役する力もある。

ただしそれには持ち主の技量が関係し、自身のレベルアップによってより強い竜族を従える事が出来る様になる。

絵柄は翼を出し剣を構えている所。

 

 

近衛木乃香

「ウチのも凄いで~」

 

木乃香のA・F『破邪の秘法』

五芒星によって魔法の威力を増大させる「ゴールドフェザー」

魔法力を蓄積させており、魔力を回復させる事の出来る「シルバーフェザー」

回復系・補助系魔法が込められている「プラチナフェザー」

絵柄は木乃香の周りにそれぞれの(フェザー)が舞っている所。

 

 

古菲

「これは凄いアル。見た事も聞いた事も無い武術が頭の中に流れ込んで来るネ」

 

古菲のA・F『武神流武術道着』(追装備・ホイミ)

マアムとほぼ同じデザインの道着。

武神流の全ての技を使う事が出来るが、あくまでも使い方を知っているだけであり、極める為には修行が必要。

まあ、古菲にとっては「そっちの方が修行のやりがいがアルネ」との事だ。

追装備のホイミは「閃華裂光拳」に必要な為。

絵柄は道着に身を包み、片足で構えをとっている所。

 

 

綾瀬夕映

「こ、これは凄いです。この本には素晴らしい知識が泉の様に蓄えられています」

 

夕映のA・F『アバンの書・和訳版』(追装備・アバンの疑似人格映像)

アバンが書いた「アバンの書」の和訳版。

内容は本物と同じでありこれを使って仲間達も魔法や剣術・武術などの修行に役立てているがネギだけはやはり元々使っている魔法の方が肌に合うらしく回復系魔法以外は自分の魔法を使っている。

追装備のアバンの疑似人格映像はきちんと自分を疑似人格と認識しているが性格は本人そのまま。軽い性格と優しさ、そして時折見せる厳しさを持ち合わせていて仲間達からはアバン先生と呼ばれ慕われている。

絵柄はアバンの書を胸に抱く夕映、その後ろには他の仮契約カードの様な魔法陣ではなく大きなアバンのマークが描かれていて、そのマークの後ろからアバンがひょっこりと顔を出しピースサインをしている。

 

 

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

「はーはっはっはっはっは!これは何とも私に相応しいA・Fではないか!」

 

エヴァのA・F『白銀の親衛騎団』

「ハドラー親衛騎団」と同じチェスの五つの駒から成り、同様にエヴァをキングと仰ぐオリハルコンの戦士達、その性格も本物とほぼ同じ。

エヴァはブロックの肩に乗っての移動がお気に入りで茶々丸は少し寂しがってる様子。

絵柄はエヴァが左手を腰に当て、付き出した右手の手の平に五つの駒を載せ、その後ろに親衛騎団のシルエットが立っている。

 

「行けい、ブロックよ!」

『ま゛』

 

 

 

長瀬楓

「ちょ、ちょっと待つでござるよ!拙者の、拙者のA・Fは?」

 

だって楓に合いそうなアイテムは「ダイの大冒険」には出て来ないもん。

あっ、そう言えばダイ大のアイテムと言えばこれがあった。

 

 

明石裕奈

「この銃は凄いね、通常の弾丸だけじゃ無く、このかのフェザーも撃つ事が出来るよ」

 

裕奈のA・F『魔弾銃・改』

かつてマアムが使っていた「魔弾銃」より、よりシンプルなデザインの二丁拳銃。

本来は「魔弾銃」その物のデザインだったが夕映のA・Fの一部でもあるアバンの疑似人格映像によって改造された。

アバンの疑似人格映像自体がA・Fの一部の為同じA・Fの「魔弾銃」に干渉出来たらしい。その為、破邪の秘法のフェザーも打ち出せるように改造されている。

絵柄は二丁の拳銃を正面に向かって構えている所。

 

 

 

横島忠夫

「ちょっと反則っぽいけど約束通りまた会えたな、ゴメちゃん」

「ピッピィーー♪」

 

横島のA・F『神の涙(ゴメちゃん)』(追装備・パプニカのナイフ)

本物の「神の涙」ほどの力は無いが大抵の事は実現出来るまさに生きていて意思のある文珠。

アバンの疑似人格同様に本物ではないがゴメちゃんの記憶を持っている。

絵柄はゴメちゃんが横島の周りを飛び回っている所でパプニカのナイフは腰に装備されている。

 

 

「所で何で横島の旦那とアスナの姐さんの二人にパプニカのナイフがあるんすか?」

 

 

それは此処では明日菜が時空を超えて転生したレオナという設定だから。

ほら、明日菜って何処かレオナっぽいでしょ。

 

 

 

 

 

そして物語はヴェルザー編ではなく魔法世界編へと移り、ドラクエ世界からかつてのダイパーティー達がやって来る。

 

 

 

来たれ(アデアット)千の顔を(ホ・ヘーロース・メタ・)持つ英雄(キーリオーン・プロソーポーン)

「唸れ、爆音!」

 

ぶつかり合うラカンのA・Fとクロコダインの武器、グレイトアックス。

 

「はははははははっ、こいつは良いぜ!俺様とまともに闘りあえるとはな。気にいったぜ鰐公!」

「それはこっちも同じ事よ。さあ、続きをやろうか」

「応ともよ!」

 

 

 

 

 

「さあ貴様も来い、ヒム2号よ!」

「誰が2号だ、誰がーーっ!?」

 

横島に付き合って魔法世界に来たエヴァに捕まってしまったヒム。

彼女のA・Fにはすでにヒムが居る為、彼はエヴァに2号と呼ばれていた。

 

「アルビナス、あんたも何とか言ってくれ!」

「何とかも何も私達はエヴァンジェリン様の忠実な部下。エヴァンジェリン様の言われる事が全てです」

「俺はハドラー親衛騎団だ!」

 

逃げ出そうとするヒム2号の前に立ちはだかるヒム1号。

 

「ならば俺達はエヴァンジェリン親衛騎団だ」

「さあ、エヴァンジェリン様のご命令だ、行くぞ」

「急ぐぞ、エヴァンジェリン様がワシ等をお待ちだ」

 

両腕をヒム1号とシグマに掴まれて引きずられて行くヒム2号。その後ろをフェンブレンが付いて行く。

 

「ブロックーー、助けてくれぇーーー!」

「ダイジョウブダ、オレタチハナカマダ。トモニエヴァンジェリンサマヲマモッテイコウ」

「やけに饒舌じゃないか、ちくしょおーーーーっ!」

「ケケケ、オレサマノキョウイクガイイカラナ」

「助けて隊長ぉーーーっ!」

 

ヒムの叫びはチウには届かず、ブロックの頭の上でほくそ笑んでいるチャチャゼロであった。

 

 

「忠夫様、この陸戦騎ラーハルト、貴方様の忠実な部下として絶対の忠誠を誓います」

 

今世の竜の騎士である横島に忠誠を誓うラーハルト。

その姿はまるで木乃香に従う刹那の様だと周りから暖かい目で見られている。

 

「わ、私はあんな感じなのか…」

「まあ、自分で自分は見れねえからな」

 

千雨は呆然とラーハルトを見つめる刹那の肩を優しく叩いてやる。

 

「忠夫様、何でもこの世界には仮契約と言う従者の儀式があるとか。ぜひ私と仮契約を!いえ、どうせなら本契約とやらを!」

「冗談じゃないわ、ボケェーーーーーーッ!」

「そんな事を言わずに!」

 

本契約を迫って来るラーハルトから必死の形相で逃げ纏う横島。

そんな横島を庇うように両手を広げてラーハルトの前に立ち塞がる刹那。

 

「止めないか、横島さんがこんなに嫌がってるじゃないか!」

「邪魔をするな小娘!」

「邪魔をしてるのは貴様だ!! それに横島さんと本契約するのは私だ!」

「え゛……?」

「せっちゃんズルイで、ウチが横島さんと本契約したいのに」

 

 




…いかん、書けば書くほどカオスになって行く。
取りあえずこれは思いついただけのネタ、連載の予定はありません。

(・ω・)ノシ<と言う訳で新年一発目の小ネタ劇場でした。


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「G×T~海鳴の空に羽根は舞う~」
「プロローグ」


(`・ω・)活動報告にも書いたけど、更新が途絶えたままなのでエタったまま凍結している過去作品、「GS美神」と「とらいあんぐるハート3」のコラボを八話ほど一日一話で晒しておきます。

ドラクエや他の作品もちまちまと修正したり書いたりしているんですけど中々投稿できるまでには至りません。

(;ω;)モチベさん、一体何処まで行ったの?もしかして異世界で無双とかしているの?


『ようこそ、横島さん』

『あんじょうよろしゅーにな』

『アンタ達はこの世界でもそのキャラなのね…』

『まあ、世界は変わってもワイらはワイらやからな』

『そう言う事です』

『はぁ…』

 

辺り一面真っ白な空間、其処には神魔の最高指導者の二柱と神魔人形態の横島が居る。

二柱はニコニコした笑顔だが、横島は何とも複雑そうな表情だ。

それもその筈、今横島の目の前に居る二柱は彼(?)の知っている二柱では無く別次元、つまりは平行世界の二柱なのだから。

そして、そんな二柱と相対している横島は何時も通りの男の姿では無く、女性の姿に翼を持つ一見すればまるで女神の様な姿であった。

 

 

―◇◆◇―

 

アシュタロスとの戦いが終わってから数ヶ月、平穏な日々を送っていた彼等だがある日突然そんな日常は終わりを告げた。

横島がルシオラから受け継いだ霊気構造に含まれていた魔族因子、その因子が突然暴走を始めたのだった。

 

このままでは横島の人族因子は暴走した魔族因子に飲み込まれて彼はまったく別の魔族に造り変わってしまう。

そんな自体を打破する為に小竜姫の神族因子を横島に注入し、神・魔・人それぞれの因子でバランスをとる事によって彼は自我意識を失う事は無くなった。

 

しかし、その事によってルシオラの魂は横島の魂と擬似的な融合をしてしまい、如何なる手段をもってしても今生での転生は不可能となってしまった。

深く傷つき、悲しみに暮れる彼ではあったが母や仲間達の叱咤や応援などによって自分を取り戻す事が出来た。

 

その後、並外れた力を封印する法具を作ってもらい、人間として暮らしていたのだが、横島の存在を良しとしない愚かな勢力が存在した。

それがデタントを覆そうとする反勢力の過激派組織であった。

 

反デタントの過激派はデタントの象徴でもある横島を狙っていて、最初は隠れながら彼が一人の所を狙っていたのだが、徐々に手段を選ばなくなって来た。

 

無関係な人達が巻き込まれるのを恐れた横島は一旦この世界を離れる事にした。

自分が居てもあまり影響のなさそうな世界を最高指導者達に捜してもらい、事態が収拾されるまでそこに隠れていようとしたのだ。

最高指導者はその提案を受け入れ、デタントが既に達成されているこの「とらは世界」を横島に紹介しこの世界の自分達に後を託したのだった。

 

こうして横島は次元を隔てた平行世界であるこの場所に居るのである。

 

『兎も角、貴女の事は向こうの私達に頼まれてますから心配しないでください』

『今、どさくさに紛れて女の方の『貴女』って言ったでしょ』

『細かい事は気にせずに』

『細かくないわよ!』

『まあまあ。とりあえず横っちの戸籍はワイらの力で確保してるさかいにこの住所の所に行ってんか』

『……分かったわよ』

 

封印具によって普段は人間の男性の姿だが、封印している魔力を開放している今は女性の姿をしているのである。

口調や性格などは姿に引っ張られてなのか幾分女性寄りになるが記憶事態は男のままなので女性扱いは流石に嫌らしい。

 

そして横島はサっちゃんからメモを受け取ると傍らに置いてあった鞄を手に取った。

 

『じゃあ、行って来るわね』

 

そう言いながら横島は翼をはためかせその場から飛び去った。

 

 

 

 

『行きましたね…』

『行ったな…』

 

二柱は飛び去っていく横島を見ながら薄笑いを浮かべた。

 

『しっかしキーやんも人が悪いな。住む場所なんか他にもいくらでもあったのにワザワザあそこを選ぶんやからな』

『そんな事を言う貴方だって笑いながらも止めなかったじゃありませんか』

『当然やろ、こんな面白そうな事をやめるバカがおるかい』

『そういう事です』

 

そしてその場には、暫く笑い声が響いていたとか……

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

 

二柱と謁見する為の異界空間から抜け出し、現世の空に出た横島はサっちゃんから受け取ったメモを見ながらその場所を捜した。

 

『え~と、海鳴市…「さざなみ寮」と……』

 

 

 

(`・ω・)と、いう訳で今回は説明会でごぜえます。

 

 



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第一話「やって来たあの人は優しそうなお兄ちゃんなの」

(`・ω・)しばらくの間、お付き合い下さい。それと、話のベースはゲームではなく小説版です。


 

海沿いの町、海鳴市。

人気の無い場所に降り立った横島は左手にある封印具のブレスレットに【封】の文珠をはめ込んで男の姿に戻り、念の為に姿を隠す為に使っていた【隠】の文珠の効果を解く。

 

「さてと、この地図じゃよく解らないな。とりあえずあそこに行って街を見渡すか」

 

横島は辺りを見回すと山の中腹の辺りに神社があったので先ずは其処を目指す事にし、手にした鞄を勢いよく担ぎなおした。

すると……

 

『キャン!』

 

鞄の中から何やら動物の泣き声が聞こえて来た、具体的に言えば狐の様な。

 

 

「……ちょっと待て…」

 

横島は鞄を下ろし、中を覗いてみると、

 

『乱暴にしないでよ、痛いじゃない!』

 

そこには狐形態のタマモが居た。

 

「…こんな所で何をしとるんじゃ?タマモ」

「ヨコシマのバカーーーッ!」

 

タマモは鞄から飛び出し人間形態になると、横島にしがみついた。

 

「何で私達に黙って居なくなろうとしたのよ!」

 

横島はタマモの肩をつかんで離そうとしたが、その肩が小刻みに震えているのに気付き、逆に優しく抱いた。

 

「アンタが今、あの世界に居場所がないのは分かってるわよ。でもね、あの世界に疎まれているのは私も同じなのよ。私一人だけ残されて、どうしろって言うのよ…」

「…一人じゃないだろ。おキヌちゃんだっているし、美神さんや…シロだって…」

「ヨコシマがいないじゃない!ヨコシマがいなけりゃ……居ない世界なんて一人と同じよ…」

 

タマモは泣きじゃくりながらもしがみ付いた手を緩めようとしなかった。

 

「別にずっと居なくなる訳じゃないんだぞ。反デタントの過激派が居なくなれば直ぐにでも帰るつもりなんだから」

「それでもよ!」

 

何があっても引きそうにないタマモに横島は根負けした。

 

「悪かったよ」

 

そしてポンポンと軽く頭を叩いて優しく撫でた。

 

「分かればいいのよ…」

 

ようやく嗚咽は止まったが代わりにその顔は耳まで真っ赤だった。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

その後、何とか落ち着いたタマモは横島に話しかける。

 

「それでこれからどうするの?」

「とりあえず、あの神社まで行って町を見渡そうと思ってる」

 

そう言いながら、山にある神社を指さす。

 

「へぇ、気持ち良さそうでいい山ね。私、先に行って待ってるわ」

 

言うや否やタマモは走り去っていった。

 

「やれやれ」

 

横島は溜息を吐きながらも《八束神社》へと歩を進めていく。

 

 

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

その頃、八束神社へと続く石段に、三人の人影と一匹の子狐がいた。

巫女の格好をした女性の足元に子狐が隠れていてそれを小学生位の女の子が瞳をキラキラさせながら眺めていた。

女の子の傍には少しぶっきら棒だが、それでも優しそうな目で女の子の頭を撫でている男がいた。

 

女性の名は神咲那美。

女の子の名前は高町なのは。

男の名はなのはの兄で高町恭也。

 

「少し怖がられてるようだな、なのは」

「初めて会うんだもんね。仕方ないかな…」

 

なのはと呼ばれた少女はそれでも諦められないというように子狐を眺めていた。

 

「ふわ~~、やっぱり可愛いよ~~♪」

「ごめんね、なのはちゃん。久遠は凄く人見知りなの」

「あ、いいんです。いきなり来ちゃったのは私なんですから」

「すみません神咲さん。いきなりは迷惑だぞと言ったんですがどうしても子狐が見たいと聞かなくって」

「ごめんなさい…」

「謝らなくてもいいのよ。高町さんもあまり気にしないで下さい」

「あの、このサンドイッチ、狐さんに…くおんちゃんにあげようと思って作って来たんで後で食べさせてあげて下さい」

 

そう言いなのはは那美にサンドイッチの入ったバッグを渡そうとすると其処に横島がやって来た。

横島は那美を見るなり、ナンパに走ろうとするがその巫女服姿を見たとたんに動きが止まる。

何も言わずに別れて来たおキヌの顔が頭に浮かんだ為だ。

 

「あ…こ、こんちは」

「は、はい。こんにちは」

 

横島は慌てて那美に挨拶をして那美も笑顔で答える。

 

「こ、こんにちは」

「うん、こんにちは」

(コイツは一体何者だ?唯者じゃない事だけは確かだが…)

 

なのはも笑顔で横島に挨拶をするが恭也の横島を見る目は鋭かった。

幾多の闘いを潜り抜けて来た彼だからこそ、隠している横島の人ならざる力に気付いている様だ。

しかし横島は恭也より那美の足元に居る久遠に気を取られていた。

 

(あの子狐も妖狐か。だが力は封じられている様だな)

(あの人は誰だろ?何か強い霊力を感じるけど)

 

那美もまた横島の力に気付いていた。すると足元から久遠の気配が消えた。

驚いた事に久遠は自分から横島に近づいて行ったのだ。

 

「久遠?…え、嘘……」

「く~~ん」

 

横島の足元まで近づいた久遠は横島を見上げて一鳴きした。

 

「ん?どうした」

「……くーーん♪」

 

横島に抱き抱えられた久遠はそのまま横島にじゃれ付いた。

 

「…えっと。人見知りなんじゃ……」

 

恭也は横島に抱かれている久遠を指さしながら那美に聞く。

 

「そ、その筈なんですけど。…久遠が初めて会った人に自分から近づいて行くなんて…しかもあんなに懐くなんて初めてです」

 

那美は呆然とその光景を見ている。

そしてなのはは。

 

「いいな、いいな。私もくおんちゃんと仲良くしたい」

「仲良くすれば?」

「でも怖がって触らせてくれなかったの…」

「そうなんだ」

 

横島は残念そうに目を伏せるなのはを見ると軽く笑い久遠を抱いたまましゃがんでなのはと顔の高さを同じにする。

 

「お嬢ちゃんの名前は?」

「あ、なのはです。高町なのは」

「そっか、俺は横島忠夫。よろしくな」

 

横島は優しく笑いながらなのはの頭を撫でる。

 

「は、はいっ!よ、よろしくお願いします!私の事はなのはと呼んで下さい。え、えっと…忠夫お兄ちゃん」

 

なのはは真っ赤になりながら答えた。

そんななのはを見て恭也は……

 

(コイツは…敵だ!)

 

シスコンパワーを爆発させていた。

 

「えっと、くおん…久遠か。久遠、なのはちゃんはいい子だがら大丈夫だよ。だから安心しな」

「く~ん。…こんっ」

 

久遠は不安そうな顔をしていたがなのはを見て一鳴きする。

そしてなのははゆっくりと久遠の頭へと手を伸ばす。

 

「大丈夫かな?大丈夫かな?」

 

優しく久遠の頭に手を載せてゆっくり撫でていく。

久遠もそれを拒む事無く大人しく撫でられている。

 

「ふわあああ~~~~♪」

「くうう~~ん♪」

 

なのはは、久遠の頭を撫でながら幸せ一杯という感じで微笑み、久遠もなのはの手の暖かさから、なのはの優しさを感じ取っていた。

 

こうしてこの海鳴の地で横島とタマモの新しい物語は始まろうとしていた。

 

 

=続く=

 




(`・ω・)横タマは大好物です。


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第二話「横島とタマモとさざなみ寮なの」

(`・ω・)時系列では3ですけど、さざなみ寮のメンバーは2のメンバーだという独自設定でしゅ。



 

「まったく、ヨコシマは何処に行ったのよ」

 

神社の境内で横島を待っていたタマモだが、何時まで待っても来ないので石段を降りながら愚痴っていた。

「あっ、いた!ちょっとヨコ…シマ?」

 

其処で彼女は見た、見てしまった……

子狐を抱いて優しく微笑んでいる横島を。

 

ゾクリッ

 

とたんに辺り一面を凄まじい限りの殺気が支配した。

 

「な、何だ!この殺気は!?」

 

恭也はなのはを庇う様にして敵の襲撃に備える。

 

「ど、どうしたのお兄ちゃん?」

「動くな、なのは!」

「きょ、恭也さん……この気配は一体?……はっ、久遠、久遠!」

 

那美は久遠の名を呼ぶが、久遠は殺気に怯えて横島にしがみついて震えており、横島は横島でこの心当たりがありすぎる殺気に脂汗をだらだら流しながら「は、はは…はははは……」と引きつった笑いを浮かべる事しか出来ないでいた。

 

「よ、横島さん?」

「おい、どうした?」

「忠夫お兄ちゃん、大丈夫?」

「く~~ん」

 

そして其処に、殺気の元が現れた。

 

「ヨ、コ、シ、マ?私を待たせておいて浮気とはいい度胸ね」

「ま、待てタマモ。ワ、ワイはやな……」

 

横島達の目の前にはナインテールを放射線状に広げ、悪鬼の様な黒いオーラを放ちながら立っているタマモが居た。

 

(な、何なのこの威圧感は?まるであの時の久遠の様)

(くっ…勝てるのか俺はコイツに?いや、勝たなければ…せめてなのはだけでも。癪だがここはコイツになのはをまかせて…)

「おい、横島とか言ったな。ここは俺が食い止めるからなのはを…」

「ヨコシマ、先方を待たせちゃ悪いわ、早く行きましょ」

「あ、ああ……。じゃあ俺達は用事があるからこれで帰るね」

 

タマモはさっきまでの殺気を嘘の様に消すと笑顔で語りかける。

横島は久遠をなのはに預けるとタマモと一緒に石段を降りていく。

 

「お、おい」

 

恭也は横島を呼び止めると真剣な顔つきで聞く。

 

「逝くのか?」

「多分な……」

 

横島は虚ろな笑顔でそう答える。

 

「忠夫お兄ちゃーん、またねーー」

「く~~~ん」

 

 

 

 

そして、微かに響いて来た麻袋を引き裂くような悲鳴を恭也は聞こえなかった事にした。

 

 

―◇◆◇―

 

「酷い目に遭った…」

「自業自得でしょ」

 

それから暫く経った夕暮れ時、ようやく『復活』した横島とタマモは人に道を尋ねながらやっとさざなみ寮にたどり着いた。

 

「ようやく着いたか」

「早く入りましょ」

 

横島達が建物の中に入ろうとすると買い物帰りなのか、大量の荷物を持った男性が話しかけて来た。

 

「あの、此処に何か御用ですか?」

「あ、はい。このさざなみ寮の方ですか?」

「ええ、僕はこのさざなみ寮の管理人をしている槙原耕介という者です」

「(…なんか、こう爽やかで、何と言うかピートタイプのイケメンだな。いかんいかん、これから世話になる人なんだからな。呪うのはやめておこう。)初めまして、俺は今日からこのさざなみ寮でお世話になる横島忠夫です」

「…は?……あの、場所を間違えてませんか?このさざなみ寮は女子寮ですよ。確かに横島唯緒さんという女性の入寮予定はありますけど」

「へ?……でもこの紹介状には確かにここの住所が」

「ちょっと見せてもらえますか?」

 

横島は言われた通り、耕介にキーやんから預かった紹介状を渡した。

 

「木井ヤンさんと左津チャンさんからの紹介ですか、確かに本物の紹介状ですね。しかし、どうしましょう…」

「どうしましょうと言われても…」

「とりあえず中に入れてくれない?こんな所じゃ話し合いも出来ないわ」

 

横島と耕介が途方に暮れているとタマモがそう提案する。

 

「そうですね、とにかく紹介状は本物だし詳しい話は中でしましょうか」

 

二人は耕介に誘われるまま、寮の中に入って行った。

 

「あら、耕介さん。その方達は?」

「今日入寮予定だった横島さんなんですけど」

「え?でも横島さんは確か女性の筈では」

「ええ、しかし紹介状は本物なのでとりあえず話をしようと思って」

 

玄関に入るとかなりの美人が出迎えて来て、横島の何時ものナンパ癖が出る所だったがタマモに…

 

「分かってるわよね、ヨコシマ?」

 

と、威嚇されたので大人しくしておく事にした。

 

「槙原さん、その人は?」

「ああ、僕の妻でこの寮のオーナーでもある」

「槙原愛と申します。よろしく」

 

人妻だった事を確認すると、横島は危ない所だったと冷や汗をかきながら安心していた。

 

「俺は横島忠夫です。よろしく」

「私はタマモよ」

「お茶の用意をしますので中へどうぞ」

 

そして横島とタマモはリビングルームへと案内された。

其処には入居者だろう何人かが集まっていた。

 

「あれ、お兄ちゃん。その人達は?」

「ああ、知佳ちゃん。今日、入寮予定の人だったんだけど何か行き違いがあったみたいでね。これから詳しい話をしようと思って」

「そうなんだ。初めまして、仁村知佳です」

「私は知佳の姉の真雪だよ」

「あたしは陣内美緒だよ」

「うちは神咲薫です」

 

(神咲?さっきの娘と同じ名字だな。それにあの美緒って娘はたぶん猫又だな)

 

自己紹介をして来たので横島達も挨拶をする。

 

「どうも、横島忠夫です」

「私はタマモよ」

「え~と、タマモちゃんって横島さんの妹なの?」

「違うわよ、どっちかと言うと恋b…むぐっ」

「ははははは、い、妹の様な者です。(行き成り何を言おうとしとるんじゃお前は!)」

「むぐぅ~~~。(何よ、いいじゃないケチっ!)」

「住人はまだ他にもいるんですけど今は留守にしているんです。もうそろそろ後一人帰って来る頃なんですけど」

「ただいまー」

「あっ、帰って来ましたね」

 

とたとたと足音が聞こえてくるが。

 

(ん?確かこの妖気は……)

 

「ねえ、見慣れない靴があるけどお客さん?…あれ、あなたはさっきの」

 

扉を開けて入って来た女の子はやはり、さっき神社への石段の所で会ったあの娘だった。

すると、胸に抱いていた久遠が腕の中から飛び出して、

 

ぽんっ!!

 

「ただおっ♪」

 

人型に変化すると横島に飛びついて来た。

 

「おっと!」

「ああーっ!こら、なに勝手に抱きついてるのよ、離れなさい!」

「やーーっ!」

 

タマモは久遠を横島から引き離そうとするが久遠はしがみ付いて離れようとしない。

 

「ちょ、ちょっと久遠ちゃん!いきなり何を!?」

「何で久遠が行き成り変化を?」

「にゃーーっ!久遠が妖怪だとばれちゃうのだ!」

「て言うか、美緒ちゃん!耳、耳、しっぽも出てるよ」

 

皆は久遠がいきなり人前で変化したので慌てまくり、美緒もまた耳としっぽが飛び出てしまっている。

 

「……なあ、おい」

「真雪さん、何落ち着いてるんですか?久遠の事がばれちゃったんですよ?」

「いや、だからな。……アイツ、目の前で狐が人の姿になったのに平然としてるんだが」

「え?……そう言えば…」

 

そして、横島の方を見ると久遠とタマモに挟まれている横島に那美が話しかけている。

美緒は美緒で耳としっぽを隠そうともせずに横島を見ている。

 

「あ、あの~。たしか横島さんって言ってましたよね」

「君はたしか神咲……那美ちゃんだったっけ?」

「那美、そん人の事知っとるんか?」

「うん、さっき神社の石段の所で会ったの。それより横島さん、久遠の事変だと思わないんですか?」

「いや、変も何も妖狐が変化するのは別におかしくないだろ」

「えっ!?……久遠が妖狐だって知ってたんですか?」

「まあね。邪悪な気は感じなかったし、那美ちゃんに懐いているようだったから何も言わなかったけど」

「じゃあ、あたしはあたしは?あたしの事も分かってたの?」

「ああ、美緒ちゃんだったね。猫又には知り合いもいるし分かってたよ」

 

そう言いながら美緒の頭を撫でてやると顔を真っ赤にしながらも大人しく撫でられている。

 

「えへへ~」

「また出た。人外キラースキル」

「どうしたんですか、耕介さん?」

「…いえ……俺は美緒に懐いてもらうのに結構苦労したのに彼はあんなにあっさりと……」

その横では耕介が横島にあっさりと懐いた美緒を見つめながら項垂れていた。

 

=続く=

 




(`・ω・)ちなみにどんな悲鳴だったかと言うと「ぬわーーーっ!」でしゅ。

※木井ヤン=キーやん・左津チャン=サっちゃん


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第三話「さざなみ寮と翼を持つ少女なの」

 

美緒達は部屋の隅に移動してのの字を書きながらいじけている耕介を無視して横島達に注目している。

 

「はーなーれーなーさーいー!」

「やーー!やだー!」

「ねえ、那美おねえちゃん。久遠は何であんなに横島さんに懐いてるの?」

「私にも分からないの。初めて会った時にも怯えもせずに自分から近づいて行ったし」

「でも那美、あん人……」

「うん。お姉ちゃんも気付いた?横島さん、かなり強い霊力を感じる」

 

あいからわず久遠とタマモは横島を取り合っているが。

 

「いい加減にせんかタマモ」

「うう~~、でも~~」

「いいから、ほれ」

「はぁ~、仕方ないわね」

 

横島はそう言いながら自分の頭の上を指さすとタマモは溜息を吐きながら呟くき、狐の姿になって横島の頭の上に飛び乗る。

 

「なっ!?」

 

それを見て皆は、特に薫と那美は驚愕する、何しろ狐の姿に戻ったタマモは久遠とは違い九本の尾を持っているのだから。

狐になったタマモを見たとたん薫の目つきは鋭くなり、十六夜を抜くとタマモに切りかかるが…

 

キインッ

 

横島は霊波刀で十六夜を受け止め、薫と同じように目つきも鋭くなっていた。

 

「タマモに何をする!?」

「な、何……、光る剣?…貴様こそ何故その九尾を庇う?操られているのか!?」

「九尾だから何だって言うんだ?」

「何だって……(何やこん人の目、怒ってるような、辛そうな……何て哀しそうな目)」

「タマモがお前達に何かしたか?いきなり殺されなければならない様な事を何かしたか?」

「い、いや……だがしかし九尾と言えば…」

 

周りの皆はいきなりの事に呆然としているが二人から目は離せないでいた。

 

「ならこの久遠はどうだ、妖狐だから退治させろと言って来る奴がいたらどうぞと差し出すのか?」

「それは……」

 

横島の質問にうまく返せない薫だが、そこに真雪が話に入って来た。

 

「もうそこまでにしときな。薫、あんたの負けだよ」

「はい……」

 

薫は少し項垂れながら十六夜を鞘に戻し、横島も霊波刀を消した。

 

「さて、横島だったね。その狐やアンタのその力の事を含めて詳しい話をしてもらうよ」

「そうっスね。分かりました」

 

もうここまで来たら隠しきれないと横島は事情を説明する事にした。

もっとも、さすがに文珠の事など話せない事もあるが。

 

 

 

ー◇◆◇―

 

 

「はあ、平行世界……ですか」

「はい、そう言う訳で向こう側の事態が改善されるまでこの世界で暮らす事になった訳です」

「まあ、嘘を付いているようには見えないから信じるのはいいとして住む所はどうするつもりだい。いくら理由が理由でもさすがに男を入寮させる訳にはいかないよ」

 

真雪がそう言うと耕介達もすまなそうな顔で横島を見る。

 

「別に問題は無いんじゃない。あっちの姿になればいいだけだし」

「あっちの姿って?」

「やっぱりそれしかないか……」

 

タマモの言った事に知佳が聞くと横島は溜息を付きながらそう言った。

 

「まあ、妖狐と猫又は居るし幽霊…いや、刀に憑いている精霊が居てもあんまり問題がない所だから大丈夫だろうけど」

「よ、横島さん。十六夜の事が分かるんですか?」

「当然よね、ヨコシマは『能力だけは』一流のGSだから」

「言い方がとげとげしいな」

「フンだ!」

 

結局、膝の上を久遠に取られたままのタマモは横島の隣でふてくされていた。

 

「初めまして、私が十六夜です」

 

十六夜が姿を現すと横島は反応するがタマモの殺気によって飛びかかる事は出来なかった。

 

「じゃあ、次はヨコシマの番よ」

「そうだな」

 

横島はあらかじめポケットに入れておいた文珠(【開】の文字込め済)を取り出すとブレスレットにはめ込み神魔人の姿になる。

体は女性体になり、瞳は真紅に染まり、背中には薄緑色の一対の翼が現れる。

先に聞いていたとはいえ目の前で見るとさすがに驚きを隠せない。

顔を赤くして見とれていた耕介は愛に尻を抓られていたが………

 

「そ、その羽は本物なんですか?」

『うん、本物だよ』

「リアーフィンとは違うんやな」

『リアーフィン?』

 

 

HGS《高機能性遺伝子障害病》と呼ばれる数十万人に一人という割合で発症する先天疾患。

幼児死亡率が高い為その病気は近年までその存在は確認されて無かった。

HGSの患者は念動や精神感応などの特殊な能力を持ち、その放熱や能力制御を行うのが光の翼、リアーフィンである。

 

知佳は簡単な説明をするとその背中にリアーフィンを展開する。

知佳のリアーフィンは、まるで天使の様な白い翼の形をしていた。

 

「これがリアーフィン、私もそのHGSの患者なんです」

「知佳……」

『綺麗な翼ね』

「あんたなーっ!」

 

真雪は横島のその言葉が無神経に聞こえたのか憤るが。

 

「怒ったって無駄よ。横島は魔族や妖怪だって簡単に受け入れちゃうんだから、病気の影響だからって変に思うなんて事はしないわ。ただ、単純に綺麗だから綺麗っていっただけよ」

「そうなん…ですか?」

『まあね、それを言ったら見た通り私だって普通の人間じゃないし』

 

横島のその笑顔に知佳も安心したように笑顔を返す。

 

「でも横島さん、とても綺麗です。きっともてますよ」

『あはは…中身は男だからもてても嬉しくないけどね』

 

とりあえず横島はこの姿でさざなみ寮で暮らす事になったが、知佳がある疑問を口にする。

 

「ところで横島さん。翼は隠せるんですか?」

『うん、ちゃんと体の中に隠せるわよ』

 

そう言うと翼は薄い光を放つと吸い込まれるように背中に消えて行く。

 

「で、ヨコシマ。学校はどうするの?」

『え?』

「えって、学校には行くんでしょ?でも此処で暮らすんだったら学校にも女として行かなけりゃ不審に思われるわよ」

 

横島は思い出したように鞄の中を探るとこっちのキーやんが渡してくれた学校の資料を見る。

するとちゃっかりと転校届けなどの資料には女性として登録されていた。

 

『……………』

「あ、私と同じ学校。同級生ですね」

「ま、そう言う訳よ。頑張りなさい」

 

タマモは優しい目をして横島の肩を叩く。

 

「くーー」

「何だかよく分かんないけどがんばってね」

 

久遠と美緒もその背中を優しく叩く。

薫や真雪達は乾いた笑いで見守る事しか出来なかった。

 

横島はおもむろに立ちあがると何処からともなく二つの藁人形を取り出し、五寸釘を打ち込みだす。

 

『何考えてるのよ、あの最低指導者共はーーー!』

 

さざなみ寮の住人達はいきなりのその行動にただ、唖然とするしかなかった。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

その頃、ある異空間では……

 

『『ぎゃああああああああーーーーーーーっ!!』』

 

二柱はいきなり襲って来た苦しみにもだえ苦しんでいた。

 

『よ、横島さんが怒ってるようですね……』

『やっぱ、悪ふざけが過ぎたか……』

 

その苦しみはしばらく続いたらしい。

 

 

ともあれ、横島とタマモの新しい世界での新しい生活はこうして幕を開けたのであった。

 

 

=続く=

 

 

 

 

オマケ

 

此処は次元を隔てた横島が元居たGS世界。

 

そのある異空間……

 

 

『『ぎゃああああああああーーーーーーーっ!!』』

 

二柱はいきなり襲って来た苦しみにもだえ苦しんでいた。

 

『な、何やいきなりーーー!?』

『こ、これは横島さんの呪いの様です!!』

『向こうのワイらは横っちに一体何をしたんやーーーー!?』

 

ズズーー

 

『そんな事、考えるまでもなかろう』

 

苦しみ悶える二柱の傍で猿神は呑気にお茶を飲んでいたとさ。

 




(`・ω・)ちゃんちゃん


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第四話「新しい世界での初登校なの」

 

チュンチュン……

 

海鳴の地に横島とタマモが来て初めての朝、さざなみ女子寮管理人の槙原耕介は朝早くから住民達の朝食の準備をしていた。

 

「今日からは二人分多く作らなきゃいけないな」

 

そう鼻歌を歌いながら料理をしていると誰かが起きて来た。

 

「…おはようございまふ……」

「ああ、おはよ……ぞふっ!?」

 

目玉焼きをひっくり返そうと放り上げると目の前に飛び込んで来た光景に目を奪われ、目玉焼きはそのまま耕介の頭の上に落ちる。

 

起きて来たのは横島、……だが彼、もとい彼女の姿はランニングシャツにトランクスというラフな格好だった。

住民達が横島が本当は男であると言う事を知っているとはいえ、流石に女子寮の中では女子の姿を取らざるをえなかったからである。

 

横島からしてみれば何時もの眠る時の格好なのだが女性の姿でのソレは色々な意味で凶悪過ぎた。

 

「どうしたんですか、耕介さん?」

「ど、ど、どうしたって……あ、あの…その…」

 

横島は寝ぼけていて自分が女性の姿と言う事を忘れている為、実に無防備に耕介に近づいて行く。

当然、身長は耕介の方が上の為彼からは横島を見降ろす形になる。

 

何と言うか今の横島は今は懐かしの『だっちゅーの』状態の為、胸の谷間は丸見えであり其処に視線が釘付けになっている彼を誰が責められるであろう。

 

「……耕介さん?」

「ひいぃっ!!??」

「一体朝から何を見ているのかしら?」

「ご、誤解だ、これは誤解だ!」

 

……訂正、責める奥さんが居た様だ。

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

 

その後、朝食の時間になり皆が集まった訳だが、体中に包帯を巻いた耕介の事は見ない様にして淡々と食事を進める空気が読める住人達であった。

 

そして遂に登校の時間になり、それぞれの制服に着替えた皆は寮の前に集まり横島が出て来るのを待っている。

 

「お待たせ、皆。さあ、いい加減に諦めて出て来なさい」

「わかったわよ」

 

タマモに連れられた横島は頬を赤らめながら風芽丘学園の女子制服に身を包んで出て来た。

どうやら愛に捕まったらしく、薄く化粧をされ髪型も赤いリボンでツインテールにまとめられている。

 

「うわ~~」

「忠夫、綺麗なのだ」

「…自信、無くすなぁ~~」

 

知佳と美緒は制服姿の横島に見とれて、那美は何やら項垂れていた。何処とは言わないがふくよかな部分を見つめながら……

 

「ふふふ、女の子なんだからちゃんと綺麗にしなくっちゃ」

「だから私は本当は男なんですってば~~」

「ん?なあ横島。あんた、何か声が変わってないか」

 

真雪が疑問を口にすると他の皆も気付いたのか「おお、そう言えば」と言っている。

 

「ああ、これ?さすがにあのままじゃ変に思われるからちょっと裏技を使って声を変えてみたの。変かな?」

「そんな事無いです。とっても綺麗な声ですよ」

 

そう言って来たのはさざなみ女子寮の住人の一人、岡本みなみ。

横島が来た時はバスケ部の練習試合で留守にしてたが、帰って来てから詳しく説明されて案外すんなりと横島の事を受け入れた。

 

実際声を変えた方法は勿論【声】の文珠。

タマモは【女】の文珠で女性化した方が手っ取り早いんじゃないかと聞いたが横島曰く、

『文珠での女性化では女の子達の中で暴走しかねん。だが神魔人化すると頭の中は男のままでも精神は幾分女性よりになるので暴走してのセクハラなどの心配がいらないんだ』

との事である。さすがに少しは考えている様だ。

 

「さあ皆、早く行かないと遅刻するわよ」

「は~~い、行ってきます」

 

皆はそれぞれの学校へと走って行き、横島は那美の案内で風芽丘学園へと歩いて行く。

タマモはさすがに入学は無理だったようで久遠と一緒に寮に残り愛の手伝いをするようだ。

 

 

そして学園に着いた横島は周りからの視線に晒されていた。

 

『な、何だあの美女は?』『二年の神咲と一緒だぞ』『転校生なのか?』『是非、お友達に』『いや、それ以上の関係に』

 

 

「な、何だか動物園の中を歩くパンダの気分…」

「あはは。し、仕方ないですよ、横島さん綺麗ですから」

「う~~、どうせなら元の男の姿でこんなにモテてみたかった」

 

そう涙ぐみながら彼女(彼)は呟く。

知らない事は幸せなのか不幸なのか、GS世界では地味にモテてた事に気付いていない横島であった。

そんな横島の目に見覚えのある男が居た。神社に続く石段でなのはと一緒に居た高町恭也が美少女と仲睦ましげに会話しながら歩いていた。

 

「あの男は確かなのはちゃんと一緒に居た」

「あ、高町さんですね。なのはちゃんのお兄さんの高町恭也さんですよ。隣に居るのはお付き合いしている月村忍さんです」

「………」

「横島さん?」

「む~~~」

 

横島はその光景を頬を膨らませながら見つめている。

此処で説明しておくが神魔人状態の横島はその姿に引きずられる様に言葉などが女性仕様になっている。

それは言葉だけではなく、表面に現れる表情も同様で、つまり今の横島が恭也を見つめる表情はまるで仲良さげな二人に嫉妬しているかの様なのだ。

 

ザワザワザワザワ……

 

『な、何だあの子のあの表情は…』『ま、まさか高町の奴に…』『た、高町の奴……MOGUか?』

 

「よ、横島さん、何か変な雰囲気に」

「ねえ、那美ちゃん」

「は、はいっ」

「私はこんな格好で苦労してるっていうのにアイツだけ明るい男女交際をしてるっていうのは何か間違ってるよね」

「え、え~と…その…」

「マチガッテルヨネ?」

「はいっ!ま、間違って…ますです。はい…」

「うふっ、いい事考えた♪」

 

そう言ってクスリと笑うと横島はスキップしながら恭也の所へと歩いて行く。

 

「よ、恭也」

「ん?ああ、赤星か。お早う」

「お早う、赤星君」

 

恭也に声をかけて来たのは彼の数少ない友人の一人、草間一刀流剣道の遣い手で剣道部の主将・赤星勇吾。

 

「お早う、月村さん。今日も朝から仲が良いね」

「からかうのなら何処かに行ってくれ」

「何だよ、二人の語らいの時間を邪魔するなってか」

「そう言う事じゃなくってだな…」

「きょーおーやっ♪」

「ん?」

「なっ!」

「え……ええ~~っ!?」

 

恭也に近づいた横島は空いていた右腕に笑顔で抱きついた。

あまりにも咄嗟の事だったので恭也は反応が遅れ、逆に赤星と忍はその信じられない光景に目を丸くしていた。

 

「き、君は?」

「えへへ~~、今日転校して来たんだよ」

「え、え~~と」

「あ、職員室に行かなきゃいけないんだった。今日は何かと忙しいからまた今度ゆっくりとお話しようね。じゃあ、なのはちゃんにもよろしく。チュッ!」

 

そう言いながら横島は恭也に投げキッスをすると駆け足で那美の所へ駆けていく。

ふと、那美と目が合うが彼女は申し訳なさそうな顔で頭を下げると横島と一緒に校舎へと逃げるかの様に歩いて行く。

 

「…殺気!」

 

殺気を感じた恭也が振り向きざまにその場を離れると赤星が竹刀を振り抜いており、恭也の頬に一筋の切り傷が刻まれる。

 

「あ、赤星、何を?」

「恭也、俺は今初めてお前を憎いと思った。月村さんと言う美人の彼女が居ながらまたあんな美人を……。俺はきっと今ならお前を越えられる!」

 

そう言いながら涙する彼の後ろには見た事も無い誰かの影が見える様な気がしていた。

誰とは言わないが及川とか樹とかしっとマ○クとか。

 

赤星と対峙する恭也だがそんな彼を襲う更なる殺気があった。

 

「恭也…」

「し、忍?……」

「向こうでO・HA・NA・SIしましょう」

「ちょっ…ちょっと待ってくれ」

「いいからKI・NA・SA・I」

「落ち着いてくれ、俺はあんな子は知らないんだ。何かの間違いだ」

「落ち着くのは恭也よ、少し頭HI・YA・SO・U・KA」

 

そのまま引きずられて行く恭也を見た男達は先ほどまでの嫉妬心は何処かへと消え去り、敬礼をしてドナドナされて逝く恭也を見送っていた。

 

「あ~~、スッキリした」

「よ、横島さん。何気に酷いですね」

「何の事かしら?ほほほほほ」

 

こう言う所はさすが美神の弟子と言った所か。

 

 

=続く=

 

 



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第五話「まるで天使の様になの」

(`・ω・)今回は何度か視線変更があります。
地の文での説明ではおかしいかなと思ったもので。


 

その後、編入先のクラスでの自己紹介をする横島だが、女性の姿の為名前は忠夫ではなく唯緒と変えていた。

 

「転校してきた横島唯緒です。皆さんよろしくお願いします」

『うおおおおーーーーーーーーーーーーーっ!!』

 

横島の自己紹介にクラスの男子は一斉に雄叫びを上げ、女子は女子で見惚れている様だ。

溜息を付いている横島が目をやると真ん中の席辺りで那美が「あはは」と乾いた笑いを浮かべていた。

 

「丁度神咲の隣が空いてるな。横島、彼女の隣の席に座りなさい」

「はい」

 

 

 

横島視点~

 

その後は転校生恒例の質問責め。

何処に住んでいるのだの、恋人は居るのかだの、高町との関係はどうかなどと。

 

住んでいるのは神咲さんと同じさざなみ寮、高町との関係はちょっとからかっただけと言ったら男子生徒は安堵の溜息を吐いた。

いや、安心されても困るんだけど。いくら精神が女性寄りと言ってもさすがに男に惚れる様な事は間違っても無いから。

恋人は居ないけど好きな人は居た、…もう死んじゃったけどね。と言ったら好きですだの付き合って下さいだのと言って来る者は居なくなった。那美ちゃんは目を丸くしてたけど。

 

 

そしてその日の学校は無事に何事も無く終わった。

 

那美ちゃんはこの後神社に行くと言うので途中まで一緒に帰ろうと誘い、歩いていると横断歩道の所に目を奪われた。

其処に泣いている一人の女の子の自縛霊が居たから。

 

「那美ちゃん、ちょっと待っててね」

「横島さん?」

 

 

 

那美視点~

 

横島さんが駆けていく先には自縛霊の女の子が居た。

そう言えばこの道路は確か三日前に人身事故が起きた場所だった。

今朝通った時には何ともなかったのに、どうやら幽霊になりたての様だ。

私も横島さんが駆け寄らなかったら気付かないほどの弱々しい霊、私もまだ修行不足かな。

横島さんはしゃがみ込んで女の子の霊に話しかける。

 

 

《え~ん、え~ん》

「こんにちは、お穣ちゃん」

《え?…お姉ちゃん、私が分かるの?》

「うん、分かるよ。お穣ちゃんのお名前は?」

《私?私の名前は一美っていうの》

「じゃあ、一美ちゃん。ちょっとお話しようか」

《あのね、誰も私の事見てくれないの。いくら話しかけても聞いてくれないし、お母さん達もお花やお菓子を持って来てくれるんだけど泣いてばかりなの。お家に連れて帰ってって頼んでも連れて帰ってくれないし私もここから動けないの。ぐすっ…お、お家に帰りたいよ~~、え~ん、え~ん》

 

横島さんは泣きじゃくる女の子、一美ちゃんを優しく抱きよせながらその頭を撫でてあげている。

 

「そうね、帰りたいよね。でもね、一美ちゃん。可哀想だけど一美ちゃんはもう死んじゃってるのよ」

《え…?う、嘘だ嘘だ、お姉ちゃんのウソつきーーっ!何でそんなイジワル言うの!》

 

一美ちゃんは横島さんをポカポカと叩き離れようとするが、それでも横島さんは笑顔を絶やさず彼女の頭を撫で続ける。

 

「辛いのは分かるわ、信じたくないのも。でもね、それを理解しないと一美ちゃんは天国に行けなくるのよ」

《え?……》

 

横島さんがそう言うとポカポカと叩く一美ちゃんの手が止まる。

ふと周りを見ると歩いている人達は横島さんの事を怪訝な表情で見ている、おそらく独り言を言う変な女とでも思っているのだろう。

 

私はそんな横島さんを背中に隠し、薄笑いをしている女の人を睨みつけるとその人は慌てたように去って行く。

そんな間も横島さんは一美ちゃんの説得を続けている。

 

《でも、でも…》

「う~ん、そうだ。那美ちゃん」

「は、はい。何ですか?」

「ちょっと体をお願い」

「体…、ですか?」

 

私がそう尋ねると横島さんは一美ちゃんを抱き抱えたまま幽体離脱をして、翼を広げて空へと羽ばたいて行く。

当然周りからは見えないのだが翼を羽ばたかせるその姿はまるで天使の様だった。

 

 

 

 

 

横島視点~

 

《お、お姉ちゃんは天使さまだったの?》

「ううん、違うよ。少し不思議な力があるだけ。さあ一美ちゃん、良く周りを見て」

《うわあ~~~♪》

 

一美ちゃんは空の上から見る景色に目を輝かせている。

 

「ねえ、綺麗でしょ一美ちゃん」

《うん、とっても綺麗》

「あのままあそこに居たらこんな景色は見れないのよ、あの砂浜で遊ぶ事も出来ない。でもね、死んだ事を受け入れて天国に行けば何時かもう一度この世界に生まれて来る事が出来るの。だから成仏しよう、もう一度この世界に生まれて来る為に」

《………》

 

一美ちゃんは未だ踏ん切りがつかないのか押し黙ったままだ。

ふと下を見ると花を抱えた女性が近づいて来た、おそらくは一美ちゃんのお母さんだろう。

 

「一美ちゃん、あの人お母さんじゃない?」

《え?あっ、本当にお母さんだ。お母さーーん!》

 

一美ちゃんは母親に向かって手を振っている。

可哀想だけど二人を会わせてきちんと別れをさせてやらないと一美ちゃんは何時までも成仏できない。

 

「一美ちゃん、お母さんにお別れの挨拶できる?」

《…お母さんと…お別れしなきゃいけないの?》

「うん。でもね、そうしたらもう一度お母さんの子供に生まれて来る事が出来るかもしれないよ」

《ほんとっ!?》

「うん、神様にお願いしたらきっと叶えてくれるわ」

《……分かった。寂しいけどお母さんとお別れする》

 

一美ちゃんは少し考えた後、ようやくそう言って納得してくれた。

 

「じゃあ、お母さんにもう一度会わせてあげる。そしてお別れしよ」

《うん…》

 

 

 

 

那美視点~

 

「あ、あのう。此処で何かあったんですか?」

「え?」

 

しゃがみ込んだままの横島さんの体を支えていると後ろから花束を持った女性が声をかけて来て、誰かなと思っていると横島さんの体に幽体が戻って来た。

 

「ふう。あ、一美ちゃんのお母さんですか?」

「そ、そうですけど、何で一美の名前を?」

「まずは本人とお話して下さい」

「は、話を…?」

 

横島さんはそう言い、一美ちゃんに霊波を送り始めるとうっすらとしか見えなかった一美ちゃんがはっきりと見える様になって来た。

パサリと音がしたので振り向くと一美ちゃんのお母さんが花を落として呆然としていた。

どうやらこの人にも一美ちゃんが見える様になったようだ。

 

「一美?…一美なの?」

《お母さーーんっ!》

 

一美ちゃんは泣きながらお母さんに抱きついた、お母さんも駆け寄って来た一美ちゃんを優しく抱きとめる。

 

「一美…一美ぃ!」

《お母さぁん。うわあぁぁーーん》

「ごめんね一美。助けてあげられなくてごめんね」

《もういいの、母さんともう一度会えたからもういいの。う、うえぇ~~ん》

 

私はその姿を見て今はもう居ない両親の事を思い出す。久遠との事にもうわだかまりは無い、でもやはりもう一度会えたらと思う。

 

《お母さん、このお姉ちゃんがねお母さんに会わせてくれたんだよ。そして私、天国に行くの》

「貴女が一美を?一美が天国に行くというのは…」

「はい、本当です。ここで成仏すれば一美ちゃんは天国に行けて、そして再び転生の輪に入る事が出来ます」

《そしたらね、私もう一度生まれて来れるんだって。だから…お母さん、私もう一度お母さんの子供になってもいい?》

「…ええ、ええ、勿論よ。一美が帰って来るのをお母さん何時までも待っているわ」

《うん、約束。じゃあお姉ちゃん、私天国に行くね》

「なら一美ちゃんにこれをあげる。天国に送ってくれるお守りよ」

(そう言って手渡したのは【転】【生】と刻んだ二つの文殊。これで後はこの世界のキーやんが気をきかせて上手く一美ちゃんをあの夫婦の元に転生させてくれるだろう)

 

そして光に包まれた一美ちゃんはゆっくりと空へと昇りながら光の中に消えていく。

 

《お母さん、お姉ちゃん、ばいばい》

「一美、待ってるからね。お母さん、何時まででも待ってるからね」

 

手を振る一美ちゃんは笑顔で光の粒となり空へと昇って行き、その後ひとしきり泣いた一美ちゃんのお母さんは横島さんに何度もお礼を言って帰って行った。

 

「横島さん、一美ちゃん早く帰ってこれるといいですね」

「うん。まあ、それにはあの夫婦が今夜あたりから頑張らないとだけどね」

 

ケラケラと笑いながら言うその横島さんの言葉でさっきまでの感動がすべて吹き飛んだ。

 

…最後の最後で台無しです、横島さん。

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

 

「愛さ~ん、勘弁して下さ~い!」

「だ~め、大人しくしてなさい。可愛くしてあげるから♪」

「ふえ~~ん」

 

今日も今日とて横島さんは朝から愛さんに捕まり化粧と髪型のセッティングをされて今日は何とお団子頭だ。

似合っていて、とても可愛いのが少し悔しい。

 

それにしても、昨日のあの時の横島さんと今のこの横島さん。

どっちが本当の横島さんなんだろ?いや、男とか女とかは別にしても何故だかとても気になる。

 

 

 

「そうだ、ついでにリボンも着けちゃいましょ♪」

「い~~や~~~!」

 

=続く=

 




(`・ω・)横島と那美しか出て来なかったですね、横島も女の姿のままだったし。
まあ、この話では横島はさざなみ寮と学校では女性として過ごさないといけないので女性比率が高いです。その分オイラは楽しいですけど。
ちなみに愛が女性横島を愛でるのはオイラの独自解釈です。

でわっ(・ω・)ノシ


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第六話「対決!お兄ちゃん対お兄ちゃん・前編なの」

 

「アルバイト?」

「はい。学費や生活費は何とかなるんですけど、こづかいなどはやっぱり自分で稼がないと」

 

横島は耕介にバイト先の相談をしていた。

生活費などはキーやんとサっちゃんが肩代わりしているが(どうやって人間界の金を得ているのかは不明)自分自身が使うこづかいなどは自分で稼ごうという訳だ。

元来横島はそう言う所は結構気真面目だった。

 

ちなみに今はさざなみ寮の中なので女性の姿である。

 

 

「そう言えば翠屋がバイトを募集してたな」

「翠屋?」

「高町さんのお母さんが経営している喫茶店です。ケーキやシュークリームなどの洋菓子が大人気のお店です」

 

横島の隣に座っていた那美が耕介の代わりに答える。

 

「お揚げのお菓子は無いの?」

「!! コンコンッ!!」

「…ある訳ないでしょ」

「ぶ~~」

「コン……」

 

ソファーに横たわり横島の膝にじゃれ付いていたタマモはそう言いながらむくれ、横島の頭に乗っていた久遠も不満そうに項垂れていた。

どうやら厳密な話し合いの結果、膝と頭を交替で甘える事にした様だ。

 

「とにかく、翠屋は男手が少ないらしいから君には丁度いいんじゃないかな。男の姿で働ける訳だし」

「ありがとうございます、耕介さん!」

 

横島は滝の様な涙を流しながら耕介の手を握りしめる。

寮内と学校では必然的に女性の姿で過ごさなくてはならないので男として働けるのは願ったり叶ったりの様だ。

 

「じゃあ、私が案内しますね」

「うん、お願いね那美ちゃん」

 

そうして那美の案内で横島とオマケに付いて来るタマモと久遠は翠屋へと歩いて行く。

 

そこで起こる騒動を知る由も無く。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

「ここが翠屋です」

「へー、雰囲気のいい店だな」

 

男の姿に戻った横島は那美の案内で翠屋までやって来た。

タマモと久遠はと言うと…

 

「油揚げが無いなら別にどうでもいい」

「コン」

 

拘るなーと、苦笑いを浮かべながらも横島達は店の中に入って行く。

 

「こんにちはー」

「ちわっス」

「はーい。あら、那美ちゃんじゃない。いらっしゃい」

「こんにちは、桃子さん」

 

出迎えて来たのは翠屋のオーナー、高町桃子。

見た目も若く、美人なのだが体から溢れる様な母親オーラにさすがの横島も飛びかかる様な事はしなかった。

 

那美も恭也となのはには出会ったばかりだが、さざなみ寮の皆とよく食べに来ていて桃子とは顔見知りだった。

 

「あら那美ちゃん、その人は?…もしかして良い人?」

 

桃子はニヤニヤしながら那美に聞いて来る。

 

「ち、違いますよ。横島忠夫さん、最近知り合った人です。バイトを捜していると言うので案内して来たんです。たしか男手が欲しいと言ってましたよね」

「よろしく頼みます」

「う~ん」

 

桃子は値踏みをするように横島を見つめる。

 

「確かに男手は欲しいけど…、横島君だっけ、どんな事が出来る?」

「自分で言うのも何ですけど、手先は結構器用な方だから大抵の事は出来るつもりっス」

「ふ~ん。そっちの娘は?」

「私の名前はタマモ、ヨコシマの付き添いよ。まあ、簡単な手伝い位なら出来るけど」

「コン、コーン!」

 

自分も手伝いがしたいのか久遠はタマモの頭の上で鳴くがそれを見た桃子は申し訳なさそうに語りかける。

 

「ごめんね。タマモちゃんはいいけどさすがに動物をお店に出す訳には……」

「こ~~ん……」

 

そう言われ、久遠は残念そうに項垂れる。

人間形態にはなれるのだが、それは那美達に固く禁じられているので余計に残念そうだった。

 

そんな久遠の頭を優しく撫でてやると桃子は横島に向き直る。

 

「じゃあ、試しにこれらのデコレーションを真似して見てくれる?」

 

桃子は商品棚から取り出したエクレアやケーキを並べてその通りにやって見せてくれと言う。

 

「了解っス」

 

横島はそれらを色んな角度から観察してからエクレアやケーキにデコレートションを施して行く。

 

……それを桃子やアシスタントコックの松尾達は呆然としながら見つめている。

 

何しろ行き成りやらせたにも拘らず見事なまでの完成度の上、明らかに横島のやった方が美味しそうに見えるのだから。

 

「お、驚いたわね」

「凄いわ、横島君……」

「じゃあ、OKっスか?」

「そうね、此処まで出来るのなら逆にお願いしたいほどだわ」

 

そんな時、店の中に一人の女の子が元気そうに駆けこんで来た。

 

「お母さーーん、ただいまーー」

「あら、なのは。お帰りなさい」

 

駆けこんで来たのは学校帰りの高町なのは、桃子の娘である。

 

「あれ?確かなのはちゃんだっけ」

「こんにちはなのはちゃん」

「あ、那美お姉さんに…、忠夫お兄ちゃんだ」

 

横島と那美の姿を見たなのはは、笑顔で駆け寄って行く、

 

「く~~ん♪」

「あっ、くーちゃんも居たんだ」

 

久遠はタマモの頭の上からなのはの腕の中に飛び移り甘えている

 

「あら?なのはは横島くんと知り合いなの」

「うん、忠夫お兄ちゃんのおかげでくーちゃんと仲良しになれたんだよ」

 

実際にあれからなのはは何度も久遠に会いに八束神社に行き、今ではすっかり仲良しなのである。

 

「そうだったの。じゃあ、横島くんには何かお礼をしなくちゃね」

「お礼……、ですか?」

「ええ、私はお店が忙しいし、兄の恭也と姉の美由希も何かと用事があって中々なのはの相手が出来ないでいたの。この所なのはが嬉しそうにしていたのはこんな可愛いお友達が出来たからなのね」

 

桃子はそう言うと久遠の頭を優しく撫でた。

 

「うん、くーちゃんはとても素敵なお友達だよ♪」

「こーーん♪」

「だから横島くんにはとても感謝してるのよ。そうだ、今日お夕飯を御馳走してあげるというのはどうかしら?」

「ナイスアイデアだよ、お母さん。なのはもお手伝いするね」

「お願いね、なのは。那美ちゃんと…、タマモちゃんだったわね、貴女達もいらっしゃい」

「いいんですか?」

「お揚げはある?」

「こん、こーん」

「お前達はまた……」

 

横島は呆れかえる様に頭を掻くが桃子はそんなタマモと久遠を微笑ましそうに見つめる。

 

「じゃあ、お稲荷さんにお揚げを使ったお料理をたくさん作りましょうね」

「ほんと?ありがとう桃子♪」

「こーん、こーーん♪」

 

横島と那美はそんな二人を窘めようとするが肝心の桃子が何も気にしてない様なのであえて黙っていた。

 

そして横島達は夕食を高町家で御馳走になると寮に連絡し、桃子も店を早終いして横島達を連れて家へと帰った。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「このおさるーーーっ!」

「何だと、このカメがっ!」

 

高町家の中庭では二人の少女達が恒例の対決(大ゲンカ)をしていた。

 

城島晶と鳳蓮飛、通称レン。

自分を師匠と呼ぶ二人の対決を高町恭也は盆栽の世話をしながら眺めている。

盆栽が並んでいる棚には一つだけ隙間があり、恭也はその隙間を見ると「はぁ~~」と重い溜息を吐くのだった。

 

「…お師匠、また溜息吐いとるで」

「仕方ないだろ、師匠があれだけ楽しみにしていた松の盆栽が買えなくなったんだから」

 

楽しみにしていた松の盆栽、それは恭也が金を貯めてようやく買えるかと思ってた矢先に学校で見知らぬ女性に言い寄られた事で恋人の忍の怒りを買い、機嫌を直す為に彼女の趣味である機械関係の部品などを買わされた事で目当てだった盆栽が買えなくなったのだった。

 

「ただいまーーっ」

「お、なのちゃん帰って来たで」

「なら勝負は食後に持ち越しだな」

 

そして二人はなのはを出迎えに玄関に行くが其処にはなのはの他に、桃子と見知らぬ顔があった。

 

「桃子さん、今日は早いんですね」

「ええ、今日はお客さんを連れて来たから」

「お客って…、その人達?」

 

晶とレンの目線の先に居るのは横島と那美にタマモ、そして久遠。

 

「そうだよ、忠夫お兄ちゃんに那美お姉さん、タマモお姉ちゃん、そしてお友達のくーちゃん」

「ども、お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

「こんばんは」

「こーーん」

 

挨拶していく横島達だが、其処に恭也もやって来た。

 

「なのは、お客さんか?……お前は…」

 

恭也は横島を見ると途端に怪訝な表情になる。

そして傍にはあの殺気を放っていたタマモも居るのだから余計に怪しんでいる。

 

「何をしに来た?」

「もー、お兄ちゃん。そんな事言っちゃダメだよ」

「そうよ恭也。忠夫君のおかげでなのはにお友達が出来たんだからそのお礼に食事に招待したのよ」

 

そんな時、恭也を見ていたタマモが口を開いた。

 

「結構強そうだけどヨコシマ程じゃないわね」

「こらタマモ、余計な事は言うな」

「な、何だと!?」

「お師匠がこんなのほほんとした兄ちゃんより弱い言うんかい!」

「ええ、そうよ」

 

そう言われて黙っていられないのか、弟子の二人は攻める様に聞き返すがタマモはあっさりと言い返す。

 

「そいつは聞き捨てならないな。ならどれだけ強いのか試させてもらおうか」

「恭ちゃん、止めといた方が。ほら、なのはのお客さんだし…」

 

親指で道場の方を指差し、横島を挑発する恭也を美由希は止めさせようとする。

もっともこれは恭也を心配しての事では無く、なのはの客でもある横島に怪我をさせまいとしての事だ。

彼女も横島より恭也の方が強いと信じて疑って無い。

 

「ほら見ろ、コイツも妙にその気になってるやないか」

 

横島はそう言いながら勝負を無効にするように仕向けようとするが、恭也が放った言葉が逆に火を付けた。

 

「ふっ、まあ止めておこう。御神の剣は護る為にある剣だ。そんな逃げ腰の臆病者の相手をしても時間の無駄だからな」

 

ピクッ!

 

“逃げ腰の臆病者”

そう言われた横島の目に怒りの炎か灯った、だがそれだけならまだ我慢も出来た。確かにあの時まではそうだったのだから。

 

だが、次の言葉が起爆剤になった。

 

「そんな事じゃ誰も護る事なんか出来ないだろ」

 

横島はズカズカと歩き出し、恭也の前に出ると

 

「何処で闘(や)る?」

「面白い。ついて来い、こっちだ」

 

恭也を凍るような視線で射ぬき、恭也もまた同じような視線で見返す。

 

「あわわ、お兄ちゃんも忠夫お兄ちゃんもどうしちゃったの?二人とも何だか怖いよ」

 

場の雰囲気に怯えるなのはにタマモも凍りつく様な目で答える。

 

「あの恭也って奴はヨコシマの決して触れちゃいけない傷に触れちゃったのよ」

 

那美や美由希達はその目を見て何も言えずにいた。

 

「じゃあ私は食事の準備をするけど皆はどうする?」

 

桃子はそんな空気をどこ吹く風と言う様に吹き流し、自分は食事の準備をすると言って来た。

 

「うちはお師匠の勝負を見たいです」

「俺も」

「じゃあ、私がお手伝いするよ」

「うん、なのはお願いね。貴女達は恭也達の勝負を見学して来なさい」

「す、すみません。御馳走になるのにお手伝いしなけりゃいけない筈なんですけど、横島さんの闘い方に興味があって」

「いいのよ、誘ったのはこっちなんだから。じゃあなのは、行きましょう」

「うん」

 

桃子となのはが食事の準備の為に台所へと向かう一方で、横島と恭也はお互いに殺気を発しながら道場へと向かうのであった。

 

=続く=

 




(`・ω・)盛り上がってますが、ストックは次回の後編で切れてしまします。
その次からは同じくエタったままのネギまクロスを投稿しようかと思います。


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第七話「対決!お兄ちゃん対お兄ちゃん・後編なの」

 

台所に向かう二人を見送り、道場に行くと既に恭也と横島は勝負を始めていた。

横島は木刀で、恭也は二本の小太刀の木刀で、其々手加減無しといった感じで、美由希達は邪魔にならない様に道場の隅に座って勝負の行方を見守っていた。

 

そんな中、二人の心境は………

 

 

 

 

――気にいらない…気にいらない!

何だコイツは?何なんだ、コイツのこの何もかもを見通すような目は!?

貴様なんかに何が解る、俺がどんな思いで闘って来たか、何が解るっていうんだ!

父さんが殺されて、御神の剣を継ぐ為にどれだけの苦難の道を歩いて来たか…

なのにこんな目で俺を見やがって……

 

叩きのめしてやる!

 

 

 

――気にいらねえ…気にいらねえ!

何だコイツは?何なんだコイツの闇に囚われた暗い目は!?

あの時の俺と同じ目じゃねえか!

力のみに囚われた、力だけを求める…力だけを見ている目。

周りから注がれている想いに気付きもしねえ盲目の目。

丁度いい、コイツがあの時の俺と同じだっていうんなら……

 

叩き直してやる!

 

 

目標だった父を亡くした恭也、

恋人だったルシオラを亡くした横島、

 

だが、二人の強さの求め方には明確な違いがあった。

恭也の剣は自分が言った様に護る為の剣、だが逆に言えば周りを護る事しか考えては居らず、その”護る”対象には自身を含んではいない。

だが横島は知っている、護る為だけでは駄目だと。

たとえ自身を犠牲にして周りを護った所でそれは”救っただけ”で護った事にはならないと。

必要なのは自分ごと仲間達を護る事が出来る強さなのだと。

 

 

数十合打ち合った頃恭也は、そして周りの皆も気付き始めた。

受け身だった横島が徐々に恭也を圧倒し始めた事に。

 

「そろそろ頃合いかしらね」

 

タマモはそう呟くと道場の壁に掛けてある二本の小太刀の木刀を手に取ると横島に向けて放り投げる。

 

「ヨコシマ」

「おう」

 

横島は後ろを振り向く事無く手にしていた木刀をタマモに放り投げてから小太刀を受け取り、そしてそのまま恭也に切りかかる。

 

……御神流剣術で。

 

 

御神流で打ちかかって来る横島に対して恭也の怒りはさらに膨れ上がる。

それが横島の狙いだと気付く事無く。

 

「なっ!? ば、馬鹿にしやがって……。舐めるのもいい加減にしやがれ!」

「そいつは……どうかなっ!」

 

そしてさらに数合打ち合っていると逆に恭也が横島に討ち負かされ始めていた。

 

「う、嘘やろ……」

「お、お、お師匠が…押されとる」

 

晶とレンは信じられないといった表情でそれを見ている。

そしてそれ以上の驚愕の表情をしているのが美由希である。

当然であろう、何年も恭也にしごかれた自分よりも遥かに完成された御神の剣を今日初めて恭也と打ち合った横島が振るっているのだから。

 

横島はGS世界において、反デタントを掲げる過激派神魔族と何度も闘っていて、実戦経験や霊的戦闘力なら恭也を上回る。

だが、それ以外の純粋な剣術だけならば恭也の方が横島を遥かに上回り、ましてや御神の剣術のみなら横島が恭也に勝てる筈が無かった。

 

しかし恭也は初めから横島を舐めてかかり本気を出さずにいて、それ故に恭也は勝てる機会を自ら棒に振っていたのだった。

そして、自分の剣が上手くいなされた挙句に見よう見まねで身に付けた御神の剣を振るわれた事で怒りに我を忘れ実力を出し切れずにいた。

 

それに横島は妙神山での修行で小竜姫や猿神との修行を受けている。

その小竜姫達の動きに慣れている横島にしてみれば恭也の剣術から見とり稽古で御神の剣術を会得するのはそれほど難しい事では無かった。

 

「くっ!こうなれば……」

 

そして恭也は奥の手である神速を発動させ横島に斬りかかる。

 

「これで終わりだ!」

 

タマモ以外の誰の目にも神速で消え去った恭也が勝利を掴み取ると思っていた。

しかし、横島の頭と胴体を打ち抜こうと恭也が放った二本の小太刀は、まるで待ち構えていたかの様に其処に横島が構えていた小太刀に阻まれる。

 

「「「「なっ!?」」」」

 

美由希達はそれを信じられないかのように目を見張っていたがタマモはまるで当たり前の様に整然としていた。

 

「な、何故だ?……」

「いくら速く動いた所で狙った場所に殺気が集中していれば「今から其処に打ち込むぞ」と宣言しているみたいなもんだ。後は寸前にその場所を防御すればそちらから勝手に撃ち込んでくれるという訳だ」

 

そして横島は自分の奥の手であった「神速」での一撃を防がれ、呆然としている恭也の首筋に小太刀を宛がう。

絶対の急所である首に触れられた事でさすがの恭也も負けを認める他は無かった。

 

「……俺の…、負けだ………」

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

「何が敗因だったか解る?」

「敗因か……、横島の実力を侮っていた事だろうな」

 

タマモは項垂れたままの恭也に尋ね、恭也も自分の敗因をそう判断した。

 

「まず一つは侮っていたというより見下し過ぎていた所ね。言っとくけど最初から横島の事を認めて真剣に闘っていたら勝っていたのはアンタの方よ」

「そ、そうなのタマモちゃん?」

 

見下す事無く真剣に闘っていたら恭也が勝っていたと聞き、美由希は驚きながら聞き返す。

 

「もっとも、純粋な剣術のみでの話だけどね。ヨコシマも剣術はかなり使えるけど剣術だけならコイツの方が圧倒的に実力は上だったわ。だけどヨコシマの事を見下して本気を出さずにいたから勝つどころか逆に剣術を盗まれる事になった訳よ」

「……俺もまだまだ修行不足だった訳だ」

「そう言う事ね。ま、取り返しがつかなくなる前に気付く事が出来て良かったじゃない」

「はははは、まったくだ。(結局、俺は“あの時”から成長してないって事か)」

「そしてもう一つ、本当の敗因はヨコシマを本気で怒らせた事。触れてはいけない傷に触れてね」

「触れてはいけない傷?」

 

恭也はそう言われ、タマモを見てみるとその悲しみに満ちた瞳から目を離せないでいた。

 

「臭いから解るわ、アンタは何か大切な誰かを護れないでいたのね」

「……ああ…」

「でもそれはヨコシマも同じなのよ。ヨコシマも大切な人を護れなかった、私が言えるのは此処まで」

「なっ……」

 

恭也は愕然として横島に目をやると横島もその目を軽く笑いながら見返す。

そして何故此処まで横島に突っかかっていたのかようやく理解した。

 

“同族嫌悪”

 

何処となく同じ様な心を持っていた、同じような闇を持っていた相手が気にいらなかっただけなのだ。

 

お互いに……

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「じゃあ、勝負も終わった様だしそろそろ食事にしましょうか」

「お兄ちゃん達、おなかすいたでしょ?なのはも頑張って作ったからいっぱい食べてね」

 

其処に食事の用意を終えた桃子となのはがやって来た。

 

「す、すみません桃子さん」

「うちらも手伝わないけんかったのに」

「いいのよ、どうせ手伝ってても恭也の事が心配で手につかなかったでしょ」

 

桃子は笑いながらそう言うと晶とレンの二人は赤くなって俯いた。

 

「桃子さんは師匠が心配じゃ無かったんですか?」

「ん~~?別に」

「別にって…何で?」

「勝てば勝ったでいいし、負ければ負けたで何か得る物はあったでしょ。殺し合いをしてたわけでもないんだから」

 

桃子が恭也を見ながらそう言うと恭也も「ああ」と言いながら頷いた。

その表情は何処となく爽やかで晶達はその顔に見惚れていた。

 

「まあ、それはそれとして。ヨコシマ、これからお世話になるんだしあの事も教えといた方が良いんじゃない?」

「あ、それは私もそう思います。さざなみ寮や学校の事もどうせ隠し切れないんだし」

「ん~~、やっぱりそうか。仕方ねーなー」

「あの事って何?」

「何と言うか、ややっこしいけど俺にはもう一つ別の本当の姿があるんスよ」

「もう一つの別の本当の姿???」

 

桃子にそう答えると、横島はポケットの中で文珠に『開』と刻んで封印具のブレスレットにはめ込む。

 

そして横島は神魔人形態へとその姿を変える。

HGSの事がある為、翼は魔力を調整して隠したままにしておき、声も文珠を上手く隠しながら使って変えておく。

そうして横島は自分が別の世界から来た事を話し、霊波刀などを見せて霊能力などがある事、しばらくはこの世界で過ごす事などを説明した。

 

「と、まあ他にも色々話せない事もあるけど、さざなみ寮に居る時や学校に通う時はこっちの女の姿で過ごす事になるので改めてよろしく」

 

晶にレン、美由希になのは、そして桃子は女性の姿になった横島を見て唖然としていた。

何しろ、さっきまで男だったのに今は見惚れる様な美少女なのだから。

 

(余談ではあるが、その時桃子の口元がニヤリと軽く笑いを浮かべたのに気付いたのはタマモだけであった)

 

 

恭也はと言うと………

 

 

「は、ははは……ははハハハHAHAHAHA破破破………、き…」

「き、恭ちゃん?」

「貴様だったのかぁーーーーーっ!」

 

おもむろに立ち上がった恭也は横島を睨みつけながら叫び、何時の間にか手にしていた小太刀(真剣)で切りかかって行く。

当然であろう、忍を怒らせた原因の女が横島であったのだから。

 

「きゃああーーーっ!」

 

横島はそれをよけながら道場から逃げ出して中庭へと飛び出し、『封』の文珠で男の姿に戻る。

 

「行き成り何するんじゃ!」

「やかましい!貴様の…貴様のせいで、貴様のせいでぇーーーーーっ!」

 

問答無用と言わんばかりに恭也は横島に襲い掛かる。

 

「俺の盆栽を返せーーーーーっ!」

「何のこっちゃい!?」

 

二本の小太刀から繰り出される剣撃を横島は先ほどまでとはまるで違うオーバーアクションで次々にかわして行く。

 

「よ、は、た、と、何の、こりゃさと、ほい」

 

 

「な、何だあれ?」

「何であんな出鱈目な動きでお師匠の攻撃をかわせるんや?」

「忠夫お兄ちゃん、すごーい」

 

なのはは何故か、横島の方を応援している様だ。

 

「かわすんじゃねえーーーっ!大人しく切られろ」

「無茶言うな、死んでまうやないか!」

「殺すと言ってるんだ!」

「ヤバい、あの目は本気だ。こうなれば……」

 

横島は霊波刀を出して恭也へと駆け出す。

 

「蝶の様に舞いーーーーっ!」

「やっとその気になったか」

 

恭也は駆けて来る横島を迎え撃とうと小太刀を構えるが…

 

横島は恭也の直前で反転、勢いよく逃げ出す。

 

「ゴキブリの様に逃げーーーるっ!」

 

だああああーーーーーーーっ!!

 

恭也を含め、見物していたタマモ以外の全員はそれを見てずっこける。

 

「ふ、ふざけやがって……」

 

湧きあがる怒りを隠そうともしない恭也が立ちあがった瞬間。

 

「と、見せかけて蜂の様に刺ーーす!」

 

何時の間に回り込んだのか、横島が恭也の後ろ頭を霊波ハリセンで思いっきりはたく。

 

スパァーーーーンッ

 

「ぐはあっ!」

「そんでもって、ゴキブリの様に逃げーーる!」

「き、貴様ぁーーっ!」

「わははははははっ!正義は勝ぁーーつ!」

「何が正義だ、正々堂々真面目に闘え!」

「勝てば官軍負ければ賊軍、所詮負け犬の遠吠えじゃーー!」

「そのうっとしいダミ声、首を切り落として消してやる!」

 

そう言って小太刀を振り上げると。

 

「いやーん、恭也くん怖ーい」 

 

女の姿で地面に座り、瞳を潤ませながら恭也を見上げる横島。

頭では解っていても涙目の女の姿では一瞬恭也のその手が止まる。

 

「ぐっ…」

「隙あり!」

 

すぐさま男に戻り、霊波ハリセンでアッパーカット。そして、逃亡。

 

「よ、横島…許さぁーーーーん!」

「ほほほほほ、捕まえてごらーん♪」

 

逃げながら女の姿で挑発、もの凄い文珠の無駄使いである。

 

「き、恭ちゃぁ~~ん…」

 

憧れの兄のあまりにも崩れっぷりの闘いに、涙目の美由希であった。

そしてそれは、恭也の弟子の二人も同様である。

 

「な、何なんや、あの兄ちゃんは?」

「さっきまでのあの強さは何だったんだよ?」

 

その疑問に答えるのはタマモ。

 

「あ~、何と言うか…。“アレ”がヨコシマの本来の闘い方なのよ」

「「あれが!?」」

 

本来の闘い方、そう言われてもアレの何処が闘いなのか?

そう突っ込みたくてたまらない二人であった。

 

 

 

 

「サイキック猫だまし!」

「がはあっ!目がぁーー!」

 

スパーーンッ

 

道場裏から閃光が走り、ハリセンの音が鳴り響く。

 

「ねえ、タマモちゃん」

「何?」

「アレが横島さんの闘い方って言ったよね」

「そうだけど」

「じゃあ、もし恭ちゃんが最初から真面目に闘っていたら」

「当然ヨコシマもあの戦法を使ってたって事ね」

「つまり……」

「どの道アイツは負けてたでしょうね」

「恭ちゃぁ~~~ん」

 

美由希は不憫な兄に一人涙した。

 

 

 

 

 

数日後……

 

「いらっしゃいませー」

 

翠屋は新しく入ったアルバイト店員目当ての“男性客”で大繁盛していたとさ。

横島の女性形体を見た桃子はアルバイトの条件として女性の姿で接客をするように仕向けたらしい。

 

「うう~~、貴重な男でいられる時間が~~~」

 

 

そんな涙ぐむ姿を見て、

 

「ざまあ見やがれ」

 

そう、ほくそ笑む恭也がいたらしい。

 

 

=エタる=

 




(`・ω・)前半の闘い、横島が本気で怒ればこれくらいの闘いは見せるんじゃないかとオイラは思っています。
丁稚時代からも潜在能力や才能だけはありましたからね。
そして後半のギャグバージョン、やはりこの闘い方は外せない。
これでこそ僕達の横島忠夫。

(・ω・)と、言う訳で昭和ジャンプ風に第一部完!

「……完、じゃないの」
「え?」

突如、乱の四肢は光の輪によって空中に大の字で拘束される。

「な、何だこれは!一体何が起きた?」
「なのはの出番、全然無かったの。殆どタイトルコールだけのお仕事だったの」
「ひ、ひいっ!お前は……白い魔王!」
「こんな中途半端で終わるなんて。…初めてなの、なのはをここまで怒らせたお馬鹿さんは……全力で全壊なのっ!」
「や、やめて、たしゅけて。あ、あああ、ギャアアアアーーーーー!」
「汚い花火だったの」

お死まい


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「G×N ネギまとヨコシま!」
一時間目「別に結婚しろなんて言うてへん。まずは婚約や!by百合子」


(`・ω・)今回からはネギまとのクロスをお送りします。


それはある魔王の自殺劇。

邪悪である事を拒んだが為に邪悪に染まってしまった哀しき魔王の物語。

 

青年と女性は出会い、そして何時しか愛し合う。

青年は誓う、魔王を倒し女性達を救うと。

女性はその言葉を信じ彼を持つ。

運命の中のつかの間の幸せ、運命による再びの闘い。

 

青年は女性の為にその身を盾にする。

女性は青年の為にその命を捧げる。

 

二人はただ、愛し合っただけ。

愛し合ったが故の悲恋。

愛し合ったが故の別離。

そして物語は魔王の消滅で終劇となる、

 

一人の青年に消えぬ傷を植え付けたまま。

 

 

 

 

 

一時間目

「別に結婚しろなんて言うてへん。まずは婚約や!by百合子」

 

 

 

 

「「「「「お見合いーーーーーーー!?」」」」」

 

その日、美神除霊事務所に女性陣の叫び声が響いた。

横島忠夫の母親、横島百合子が横島に見合い話を持って来たのであった。

 

「な、何だよお袋、行き成り見合いだなんて?」

「母さんの知り合いのお孫さんでね、とてもいい娘だよ。向こうにもあんたの事は教えておいたけどけっこう乗り気だったわよ」

 

そう言い、百合子は横島に見合い写真を差し出し、その写真を見て横島は汗を一筋垂らした。

 

「あの~、お袋?」

「何だい」

「確かに可愛いのは可愛いんだけど」

「よかったじゃないか」

 

 

「…あ、あの…これって……」

「こ、これは…まさか…」

「まさかでござるな」

「…でもどう見ても…」

 

見合い写真を覗き見していた女性陣の感想も横島と同じだったらしい。

 

「……ちうがくせいって事はないよな…」

「中学生だよ」

 

百合子は当たり前のように答えた。

 

「待たんかーーーーい!」

「何だようるさいね」

「中学生ってどういう事じゃい!バインバインなお姉ーー様ならともかく中学生は色々とヤバイだろ!」

「何もいきなり結婚しろなんて言わないよ。まずは一度会ってきちんと向こう様の家族と話をして若い二人だけで色々話をしてそれから婚約しろと言ってるだけじゃないか」

「それがヤバイと言っとるんじゃーー!」

「……忠夫、あまり我侭ばかり言っとると本気で怒るで」

「我侭?無理やり中学生と婚約させられるのを嫌がるのが我侭やと言うんかオカン」

「ちょっと待ちなさいよ!いくら母親だからってそんな事を勝手に…」

 

そう令子が反論を始めると百合子は携帯を操作し、そして令子のパソコンにメールが届いた。

 

チャリンチャリーーン

(何処かの王国の国王も愛用している小銭の音の着信音)

 

「何よこんな時に」

 

そう言いながらメールを開くと其処には事務所の裏帳簿など令子の脱税の証拠となる書類が表示されていた。

 

「な、ななななななななななななななななななななななななななななななななななな、何よこれーーーーーーーー!!」

「あら?税務署に送ったと思ったのに間違えて此処に届いたのね」

 

百合子はしれっとそう言った。

 

「ヨ、ヨコシマクン・・・・・・・・・」

「な、何スか美神さん」

「お見合い、頑張ってきなさい」

「美神さはーーーん!」

 

美神の心の中

追徴金>嘆きの壁>横島の見合い

 

「さ、話もついた事だしさっそく準備に取り掛かるわよ。まずはその身なりから整えなきゃね」

「待ちなさい!まだ話は終わってないわよ」

「タマモの言う通りでござる!先生は誰にも渡さぬでござ……」

 

タマモとシロは百合子に詰め寄るが……

 

「何か文句でもあるの?」

「ヒイッ!」

「キャインキャイン!」

 

その、圧党的な迫力の前には逃げる事しか出来なかった。

動物はより強いものには本能的に逆らえない。

 

「時間がないんだから急ぐわよ」

「いやーー!ロリはいやーー!ロリは逝ややーーー!」

 

必死な叫びもむなしく横島は引きずられて逝った。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「美神さーーん!このままじゃ横島さんが」

「だ、大丈夫よ。よく考えてみなさい、こんな可愛い女の子があの横島くんと結婚したがるわけないじゃない。そうよ、横島くんと結婚したがる物好きなんて………」

「……結構いると思うんですけど……」

「いるわよね」

「いるでござる」

「あ……あ…」

「どーーするんですか!」

「仕方ないじゃない!あのままだったら莫大な追徴金を払わされる羽目になるところだったのよ。そんなのゴメンよ!」

「先生が見ず知らずのおなごに取られてもいいと言うのでござるか!」

「いいかげん素直になったらどうなのよ!」

「だってお金が大好きなんだもん!」

 

「…シメサバ丸……」

 

おキヌがそう呼ぶと台所からおキヌ愛用の元妖刀の現包丁が飛んで来ておキヌの手の中に収まった。

 

「あ、あれ?……お、おキヌちゃん?………」

「美神さん…私、怒ってるんですよ…」

「おキヌちゃん、ま、待って。私の話を…」

「美神さんのバカーーー!」

「いやーーーーーー!」

 

その光景を前にして、シロタマは部屋の隅で抱き合いながら震える事しか出来なかった。

 

 

 

六道邸・・・・・

 

「え~~~ん、お母様~~~~!」

 

冥子は泣きながら母親の部屋に駆け込んだ。

 

「お母様~~~、横島君が~~、お見合いするって~~、…お母様~?」

 

六道家当主、六道冥華はメイドのフミさんから受け取っていた報告書を見ながらブルブルと震えていた。

 

「フミさん~~、お母様は~~どうしたの~~?」

「その情報なら私共の方でも掴んでおりましたので奥様に報告した所でございます」

「そうなの~~、お母様~~どうしよう~~。横島君~~取られちゃう~~」

 

グシャッ

 

冥華は報告書を握りつぶしながらこの見合いを画策した相手に怒りを向けていた。

 

「あ~の~、ぬ~ら~り~ひょ~ん~!」

 

 

 

 

麻帆良学園都市、学園長室・・・・・

 

「…などど、唸っとる頃じゃろうな。六道さんや、悪いが横島君はウチの木乃香が貰うゾイ。フォフォフォフォフォフォ」

 

 

 

その頃、女子寮の明日菜達の部屋では。

 

「え~~!お見合いをする~~!?」

「うん。今度の日曜にな~」

「どんな人なんですか?」

「横島忠夫さんっていってな、GSなんやって」

「横島って、たしか以前魔族側についた人じゃない?」

「でもアスナさん、あれは魔族陣営の情報を得るためのスパイだったはずじゃ」

「大丈夫や。悪い人には見えへんし、それに何か気になるんよ」

「気になる?まあ、木乃香がいいんなら反対する理由もないけど」

「ウチにもよくわからんけど何か懐かしくて安心できるような気がするんや」

 

木乃香は昔の事を思い出すような感じでそう言った。

 

「と、とにかくお見合い、頑張って下さい」

「アンタ、わかってて言ってるの?」

「ごめんなさい。よくわかりません」

「あはは、ありがとネギ君。頑張って来るな」

 

そして部屋の外、木の影で。

 

「横島忠夫。もしお嬢様に相応しくない男だったら……でも…」

 

刹那は忠夫の写真を見ながら呟いた。

 

「何故だろう。この人……どこか懐かしい……」

 

 

続く

 




(;ω;)美神さんの声はあのお方の声を脳内再生してください。


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二時間目「結婚とかまだ早いやん、まずは友達になろ by木乃香」

 

「もういい加減に諦めたらどうだい」

 

見合い会場に向かうタクシーの中で横島は未だ膨れていた。

 

「ワイは、ワイは、ロリじゃ……」

「中学生といっても2年生だし、すぐに高校生になってお前の守備範囲に入るじゃないか」

「中学生と見合いをするというのが問題なんじゃ!!」

「とにかくあたしの顔を潰したらどうなるか解ってるよね?」

「…やればいーんじゃろが、やれば…」

「解ればいいんだよ」(堪忍な、忠夫。あんたの為なんや) 

 

 

 

 

「来た様じゃな」

 

近づいて来るタクシーを会場の窓から眺めていた近右衛門は傍に控えていた刹那に声をかけた。

 

「大丈夫とは思うが一応護衛は頼むゾイ」

「はっ。お任せください」

 

刹那はそう言い、姿を消した。

 

「刹那の……、あの娘の事も何とかしてくれるといいんじゃがな。のう、忠夫君や」

 

近右衛門はタクシーを降り、会場に入って来る横島を見ながら呟いた。

 

 

 

二時間目

「結婚とかまだ早いやん、まずは友達になろ by木乃香」

 

 

 

『こちらフォックス。目標は戦場に到着した模様』

『ウルフでござる。予定のポイントにたどり着いたでござる』

『ゴースト、潜入に成功しました』

『こちらリーダー了解。別命あるまで待機せよ』

『『『ラジャー!!』』』

 

 

 

美神除霊事務所の面々は、密かに横島を見張る為に見合い会場に潜入して居たのだった。

 

「あのオバハンめ!この私がそう簡単に引き下がると思ったら…」

 

♪ターラッタラタラッタラッタタッター、ターラタラッタラタッタッタッー、タラターラーラー♪

 

いきなり携帯が鳴り、着歴を見ると人工幽霊壱号からだった。

 

「何、どうしたのよ?急ぎの用事じゃなかったら後に…」

『大変です美神オーナー!隠し帳簿の一部のデーターが漏れています!』

「……何ですってーー!!」

『どういたしましょう?』

「すぐに戻るわ。あなたはそれ以上の流出を何とか食い止めて!!」

『了解しました』

「何だってこんな事に、冗談じゃないわよーー!!」

 

美神はおキヌ達の事は忘却の彼方へと追いやりコブラに乗り込むとすぐに走り去った。

 

 

 

 

パタン

 

百合子は携帯を折りたたむとニヤリとほくそ笑んだ。

 

「誰がオバハンよ、誰が」

「何か言ったか?」

「何でもないわよ。それよりいよいよよ、覚悟はいい?」

「もう出来とるわい」

「じゃあ行きましょう」

 

そして、木乃香達の待つ部屋へと入って行った。

 

『ああ…リーダー、リーダー!こちらゴースト、目標見合い会場に…リーダー?…美神さん、どうしたんですか?美神さーーん!!』

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「どうも遅くなりました。忠夫の母の横島百合子でございます。そしてこちらが息子の忠夫です」

「横島忠夫です」

 

席の向かい側に座っていた二人も立ち上がり挨拶をした。

 

「初めまして、ウチは近衛木乃香です」

「ワシは木乃香の祖父の近右衛門ですじゃ」

 

「・・・・・・・・・」

 

横島はその姿を見てボーゼンとしていた。

 

「どうしたんだい忠夫?」

「ワシの顔に何か付いておるのかの?」

(まあ、何時もの事なんじゃがな)

 

近右衛門はそうため息をついたが横島の反応はその斜め上をいっていた。

 

「ル…」

「ル?」

「ルチ将軍が何故此処に!?」

 

 

ドカン!!

 

 

近右衛門は前に倒れ、頭を思いっきり机にぶつけた。

 

「あはははははははははははっ!!た、確かにそうだ、言われてみればルチ将軍だ。あははははははははは!!」

 

百合子は腹を抱えて笑い転げていた。

 

「ルチ将軍って誰や?」

 

木乃香は頭の周りに?マークを浮かべながら首をかしげ、近右衛門は部屋の隅で

『ぬらりひょんや寿老人など色々言われてたがさすがにルチ将軍は初めてじゃ』

と、のの字を書きながらすねていた。

 

刹那はと言うと、反対側の部屋の隅で肩を震わせながら笑いを堪えていたそうな。

 

「まあ、それはともかく始めましょうか」

「ともかくで済ませてほしくないんじゃがな…」

 

そして四人はそれぞれの席に着いた。

 

 

『リーダー、リーダー、お見合いが始まっちゃいますよ、どうするんですか?……美神さん、美神さーーん!』

『おキヌちゃん!どうやらリー…、美神は帰ったみたいよ』

『そんなーー!何で?』

『私にもわからないわよ』

『どうしたらいいんでござるか、おキヌ殿?』

『私に言われたってーー!!』

『見張ってるしかないようね…』

『美神さん…帰ったラオシオキデス…』

『『・・・・・・・・・』』

 

 

 

「どうやらあいつ等は放っておいてもいいようだな」

 

刹那はおキヌ達を監視の必要なしと判断したようだ。しかし……

 

 

『横島さんのお見合い。覗かない手はないのね~』

 

神界のパパラッチと、

 

「木乃香のお見合い、こんなスクープ見逃せますか!!」

 

麻帆良のパパラッチには気付かなかったようだ。

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

見合いはと言うと、食事を済ませた後横島と木乃香は何かと話が弾んでいた。

 

「へ~、霊能力って色んな事が出来るんやな~」

「まあね、俺の場合はこんな風に」

 

そう言って、霊波刀を出して見せる。

 

「うわ~、綺麗なもんやな~」

「後は、サイキックソーサーと言って盾を出したりもできるよ」

「魔法みたいやな~」

 

木乃香は目をキラキラさせながら霊波刀やサイキックソーサーに見入っていた。

 

「随分と打ち解けた様じゃないか。少し二人で散歩でもしてきたらどうだい?」

「そうやな~。行こか、横島さん」

「うん、じゃあ行こう」

 

何だかんだと言いながらすっかり木乃香と和んでいる横島である。

そして、二人が出て行ったのを確認した近右衛門がスイッチを押すと天井からモニターが降りて来た。

どうやら覗く気まんまんのようだ。

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

海沿いの道を歩きながら二人は話をしていた。

 

「なあ、横島さん。GSって幽霊やおばけなんかみんな退治するん?」

「ううん。どうしようもない悪霊や妖怪なんかは退治するしかないけど無害な幽霊や妖怪とは仲良くしたいよ」

「えへへ、良かった」

「何が?」

「やっぱり横島さんはいい人や」

「……俺は…そんなにいい人じゃないよ…助けたいと思った女(ひと)を助ける事も出来なかったろくでなしだよ…」

「…横島さん?」

 

紅く染まり出した空を見ながら呟く横島を見ていると木乃香は何か胸に痛みを感じた。

 

「横島さん、ウチら結婚するんかな?」

「…俺にはそんな資格ないよ。女の子を好きになる資格なんか……」

 

横島はそう言いながら左手のブレスレットを握りしめる。

 

「…横島さん……」

「先生…」

「横島…まだ…」

『…やっぱりまだ乗り越えられてないのね~……』

(あの人は何故あれほどに辛そうな顔を?)

 

少女達はそれぞれの想いで二人を見ていた。

 

「愁いを帯びた男の横顔。いいね~」

 

……例外は居るが………

 

 

「そんな事はあらへん!!」

「木乃香ちゃん?」

「ウチにだって、横島さんがいい人か悪い人かぐらいの区別はつく!横島さんはいい人や、幸せになったらアカンやなんてそんな事はあらへん!!」

 

いきなりまくしたてる木乃香に呆然としながらも頬を赤くしながら見つめて来るその顔を見ながら横島は笑顔に戻る。

 

「それとも、やっぱりウチが相手やとアカンのかな?」

「へ?い、いや、木乃香ちゃんがダメというわけじゃ…」

「なんてな♪」

 

木乃香はペロッと舌を出しながら照れている。

 

「たしかにウチはまだ中学生やし結婚とかは早いと思うねん。…だからな」

 

右手を出しながら木乃香は言う。

 

「まずは、友達になろ。ほんでもって、ウチが大人になって横島さんの事がむっちゃ好きになって、横島さんもウチを好きになってくれたらそしたら結婚すればいいやん」

「木乃香ちゃん……ははっ、そうだね。じゃあ、友達からということで」

 

そして横島は木乃香と握手しながら微笑む。

 

「よろしく、木乃香ちゃん」

 

その心からの笑顔は夕陽の紅に染まっていた。

 

 

 

「よ、横島さん…」

「せ、せんせえ~…」

「ぐっ…何よ、あの笑顔は…」

 

その笑顔に魅せられたおキヌとシロタマ、三人の顔は真っ赤であった。

 

 

妙神山では…

 

『ヒャクメ!何をしてるんですか?さてはまた覗きですね。…ヒャクメ?どうしたんですか?』

 

小竜姫が肩をゆするとヒャクメはパタリと倒れ、ヒクヒクと痙攣している。

 

『ヒャクメ!大丈夫ですかヒャクメ!』

 

ヒャクメは真っ赤な顔で目を回していた。

遠距離の覗きの為とはいえ、心眼であの笑顔の直視はきつかった様だ。

 

朝倉は朝倉で、

 

「…すごく綺麗な笑顔…ヤバイ!心臓がドキドキしてる」

 

フラグが立ったらしい。

 

 

「ふわ~(な、何かどっかで見たような笑顔やな~)」

(あの笑顔、確かにどこかで…)

 

木乃香と刹那の二人は、顔を耳まで赤くしながらも何かを思いだそうとしていた。

 

「木乃香ちゃん?」

《そうや(だ)、あの時!!》

 

 

 

それはまだ二人が幼い頃、仲良く友達として遊んでいた時の事。

川辺で遊んでいると木乃香が足を滑らせ川に落ち、助けようとした刹那も溺れてしまった。

 

『ごぼっ…こ、このちゃん…このちゃーん!ごぼごぼ…』

『せっ…ごぼごぼ、せっちゃ~ん!ごぼっ…』

 

刹那は木乃香に近づこうとしても川の流れに翻弄され、どうしようもなかった。

その時、

 

『うおお~~!!』

 

バシャバシャッ

 

一人の男の子が泳いで来て、二人を助けた。

それは幼い頃の横島忠夫だった。

 

 

『もう大丈夫やで、しっかりするんや!』

『はあはあ、こ、このちゃんは?』

『安心し、ちゃんと助けたで』

『せっちゃ~ん』

『こ、このちゃん…ごめん、ごめんなさい』

『なんで謝るん?せっちゃんはウチを助けようとしてくれたやん』

『でも、でも……』

『あ~、もう!でもはなしや!』

 

そう言って二人の頭を乱暴に撫でる。

 

『ふわ、ふわっ』

『はわわ~~』

『みんな、助かったんや。それでええやんか、なっ!』

 

そしてニコッと笑う。

 

『う、うん』

『ありがとな~』

 

子供ながらにその笑顔に見とれて顔を赤くする。

 

 

其処に木乃香達が溺れたと知らせを受けた木乃香の父親の詠春、祖父の近右衛門、そして横島の母親の百合子が駆け付けて来た。

 

『木乃香~』

『木乃香や~』

『忠夫~』

 

『あ、お父さま~、お爺さま~』

『おかん』

 

『よかったよかった』

『このお兄ちゃんが助けてくれたんや』

『よーやったな忠夫』

『女の子を守るんは男の役目や』

『刹那も無事でよかったのう』

『…も、もうしわけありません』

『だから、無事やったんやからええじゃないか』

『で、でも…ううう、うわああ~~ん』

『せっちゃん、泣いたらアカン』

『忠夫!何女の子を泣かしとんねん!』

『いてっ!何で殴るんや、理不尽や~』

 

 

 

幼い日の出来事、

あの時から刹那は木乃香と距離を置き、護衛に徹するようになった。

 

《あの時の人やったんや(だったんだ)》

 

「どうしたんだい、木乃香ちゃん?」

「な、何でもないんや。さ、もう帰ろ」

「そうだね、そろそろ暗くなってきたからね」

 

歩き出した横島の手を木乃香は掴んだ。

 

「こ、木乃香ちゃん?」

「えへへ~」

 

苦笑しながらも横島はそのまま進む。

 

(そっか~、横島さん、ウチの初恋の人やったんや~)

(お嬢様の相手があの時の人…私の初恋の相手…)

 

 

 

 

 

「な、何だかいい雰囲気じゃない?ちょっとヤバイわよ」

「うう~、せんせえ~~」

「……二人とも、帰りますよ…」

「おキヌちゃん、いいの?」

「…美神さんとO・HA・NA・SIがありますから急ぎマスヨ?」

「「サーー!イエッサーー!!」」

 

病キヌに進化した彼女に逆らえないシロタマであった。

 

 

 

見合い会場では……

 

「いい感じの様じゃのう」

「ええ、では予定通りに事を進めると言う事で」

「では、お互いの書類にサインを」

「はい……。勝手な事をして堪忍な忠夫。でも今のお前には支えになる娘が必要なんよ、木乃香ちゃんならきっとお前を……」

「そして木乃香にも忠夫くんは必要なんじゃ、忠夫くんならきっと木乃香を守ってくれるじゃろう」

 

 

 

二人の知らない所で婚約は成立した。

 

 

続く。

 




オマケ


「ふう、何とかこれ以上の流出は止められたけど……大出費よーーー!!」

そう、美神が嘆いていると…

『み、みみみ、美神オーナー、お、おキヌさんがお帰りです!!』
「……え?…しまったぁーーー!忘れてたーー!!」

コツコツコツコツ…

「ど、どうしよう?」

オロオロしていると、台所から何かが飛んで来て美神の頭をかすめて階段の方に飛んで行くと小さな声で「卍解」と聞こえて来た。

「あわわわわ」

そしておキヌが姿を現すとその手には大太刀の姿になったシメサバ丸が握られていた。

「ご、ゴメンなさいおキヌちゃん!仕方なかったのよ、裏帳簿のデータ―が流出してて…」

おキヌは黙ったまま左手を顔の前に出すとそのまま横に動かす。

すると其処には黒い仮面が……

「いーーーーやーーーーー!!」


注・オマケはあくまでもオマケです。本編とは関係ありません。


たぶん…


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三時間目「まったく、吸血鬼なんて居る訳ないじゃない by明日菜」

 

はあっはあっはあっはあっ!

 

月明かりの中で一人の少女、佐々木まき絵は必死に逃げていた。

だが、追撃者はその手を止める事無く遂に獲物を捕らえる。

 

「きゃあっ」

 

まき絵は追いつめられ桜の木を背にしながら怯える事しか出来なかった。

 

「あ…いや……いやあぁ~~~ん」

 

そしてその叫びも誰にも届く事無く、夜の帳の中に消えて行った…

 

 

三時間目

「まったく、吸血鬼なんて居る訳ないじゃない by明日菜」

 

 

 

横島と木乃香の見合いから少しばかりの時が経ち、季節は春。

新学期を迎えた麻帆良学園女子中等部の3年A組には無事進級した面々が揃っていた。そんな中……

 

「ほえ~~」

 

出席番号3番、朝倉和美は携帯の画像に見入っていた。

そこに写っているのはあの見合いの時隠し撮りしていた横島の写真だった。

ガラでもない乙女モードに入っていたのが彼女にとっての一生の不覚だった。

 

「アイヤー、朝倉が男の写真を見て赤くなってるアルね」

 

古菲は朝倉の手から携帯を奪い取りながら叫んだ。

 

「「「「「何ぃーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

「あわわ…何するのよくーちゃん。返してよーー!!」

「どれどれ?」

「どうりでラブ臭がすると思ったのよ」

「「見たい見たーーい!!」」

「あらら、素敵な笑顔ね」

「うむ、なかなかでござるな」

「優しそうな笑顔アルなー」

「こ、これは…(夕陽の中で…綺麗なのです)」

「あー、横島さんや」

「「このかさん、知ってるの?」」

「うん。ウチのお見合いの相手や」

 

「「「「「………何だってーーーーーーーーーー!!」」」」」

 

「ひょっとして横恋慕?三角関係?略奪愛?」

「違ーーーう!!」

「なあなあ、和美ちゃん。この写真ウチの携帯に移してもええ?」

「「私達も欲しーーい!!」」

「ならば拙者も」

「ワタシも」

「私も欲しいです」

 

本人の許可を得る事無く、画像は次々と赤外線で写し取られて行き、朝倉は諦めの溜息を付きながら机にうな垂れる。

 

「もう、勝手にしてよ…」

 

そんな中、刹那は廊下へと出て行く。

木乃香は以前から他人行儀な幼馴染と話がしたいと語りかけるが…

 

「なあなあ、せっちゃん。せっちゃんも見てみいひん?」

「…すみません。用事がありますので」

 

そう言い扉を閉めて行く刹那の後姿を木乃香は寂しそうに見つめる。

 

「……せっちゃん…」

 

廊下に出た刹那はおもむろに携帯の画像データを開く。

すると其処には横島の笑顔があった、ちゃっかりとデータをかすめ取ってたらしい。

 

「横島さん……」

 

刹那は頬を染めながらその笑顔を見つめていた。

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

『3年ーーーA組ーーー!!』『ネギ先生ーーー!!』

 

「皆さんお早うございます。これからまた一年よろしくお願いします」

 

『はーーーい!こちらこそよろしくーーー!!』

 

ネギは新鮮な気持ちで生徒達を見回す。

 

(こうして見るとまだお話していない生徒さん達も一杯いるなあ。この一年で31人全員と仲良くなれるかなあ…)

 

そんな思いにふけっていると何か強い視線を感じる。

 

「ん?(何だこの強い視線は)」

 

視線を感じる方に目を向けると最後尾の席に金髪の少女がおり、ネギは出席簿を見てその人物を確認する。

 

(あの娘は出席番号26番エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさん。

 タカミチは困った時に相談しろって書いてるけど何で僕は睨まれてるんだろ?)

 

「ネギ先生、今日は身体測定なので準備をお願いします」

「あっ、そうでした。すみません、しずな先生。では皆さん、すぐに脱いで準備してください」

 

そこまで言うと皆は赤い顔をして叫んだ。

 

『ネギ先生のエッチーーー!!』

「うわ~~ん、すみませ~~ん」

 

ネギは真っ赤になって教室から飛び出した。

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「ネギ君からかうと面白いね~」

「この一年、楽しくなりそうね」

 

皆は着替えをしながら雑談に花をさかせていた。

 

「あれー?まきちゃんは?」

「そう言えば…」

「まき絵は今日身体測定アルからきっとずる休みネ」

「まき絵胸ぺったんこだからねーー」

「お姉ちゃん…虚しいです……」

「ねえねえ、ところで今寮で流行ってる…あのウワサ、どう思う?」

「何よ柿崎、それって何の話?」

「ああ、あの桜通りの吸血鬼ね」

「あーー、それウチ知っとるー。満月の夜に出てくる、まっ黒な布に包まれた血まみれの吸血鬼の事やろ?」

「おー、木乃香詳しいね」

「うん。ウチ心配になってな、横島さんに相談したんや。そしたら今度、調査に来てくれるって」

 

『『………えーーーーーーーー!! 横島さんって木乃香の見合い相手の!?』』

「う、うん…」

「それは楽しみでござるな」

「楽しみアルネ」

『楽しみだーー!!』

 

「まったく、吸血鬼なんて居る訳ないじゃない。(ん、でも魔法使いが居るんだから吸血鬼が居てもおかしくないわよね)」

「その通りだ、神楽坂明日菜よ。ウワサの吸血鬼はお前の様に元気でイキのいい女が好きらしいからな。せいぜい気を付ける事だ」

 

そう明日菜の呟きに笑みを浮かべて答えたのはエヴァンジェリンだった。

 

「は、はあ…」

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

(あれ?何だろ、この感じ)

 

その頃ネギは廊下で何かの気配を感じていた。その時。

 

「先生ーー、大変やーー、まき絵が…まき絵がーー!!」

 

保健委員の和泉亜子が血相を変えて駆けて来た。

 

「亜子さん、まき絵さんがどうかしたんですか!?」

「まき絵が…桜通りで倒れてて……」

 

『『え~~~~~~!! まき絵が~~~~~!?』』

「うわあっ!!」

 

亜子の言葉を聞いて皆は飛び出してきた。

 

……下着姿で………

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

慌ててネギ達が保健室に駆け込むとまき絵がベッドで眠っていた。

 

「しずな先生、まき絵さんは?」

「大丈夫よ、体には何の異常もないわ。唯の貧血でしょう」

「そうなんや~~、良かった~~」

 

クラスメイト達は安心するがネギはまき絵の体から微量の魔力を

感じ取っていた。

 

(どういう事なんだろう。僕達の他に魔法を使える人がいるのかな?でもタカミチからはそんなこと聞いてないし……)

「ネギ、ネギ」

(もしかしたら……)

「ネギったら!何を黙り込んでるのよ」

「わっ!す、すみませんアスナさん。

「まき絵は本当に大丈夫なの?」

「ええ、見た所外傷も見当たらないし、しずな先生の言うようにただの貧血でしょう」

「そうなんだ、良かった」

「それとアスナさん、僕今日は用事があるので晩ご飯はいりませんから」

「あ…そう…?」

「ネギくん、ご飯ええの?残念やな~」

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

そして日が暮れた月夜の中、宮崎のどかは一人寮へと向かっていた。

 

「あ…桜通り……だ、大丈夫だよね?き、吸血鬼なんて唯の噂だよ……ね」

 

そう言いながらも、少し急ぎ足になる。

 

「こ、こわくない~♪こわくなければ~♪こ、こわ…」

 

ざわっ…と風が騒ぎ、地面に影が射し、街頭を見上げてみると…

 

「…こ、こわ…こわいとき~~…」

 

其処には黒ずくめの人影が立っていた。

 

「出席番号27番宮崎のどかか…悪いがその血、少しばかり分けてもらうぞ」

 

そう言いその人影はのどかに襲いかかって来た。

 

「キャアアアアーーーーーーー!!」

「待てーーー!!」

 

そこにネギが駆けつけて来たが、のどかはその姿を見る事無く失神した。

 

「僕の生徒に何をするんですかーーー!!」

 

呪文を唱えながらネギは人影とのどかの間に立つ。

 

『ラス・テル・マ・スキル・マギステル』

『風の精霊11人、縛鎖となりて敵を捕まえろ』

『魔法の射手・戒めの風矢』

 

ネギの手より風は魔力の矢となり眼前の敵に向かって行くが、

 

「思ったより早かったな。『氷盾』」

 

人影は液体の入った小瓶を投げながらそう唱える。

すると、それは文字通り「氷の盾」となりネギの呪文を跳ね返す。

 

「そんな、僕の呪文を全て跳ね返した!?(やはり犯人は…魔法使い…!?)」

 

衝撃で生じた煙が晴れるとその人影が被っていた帽子は飛ばされていてその素顔も晒されていた。

そこに居たのは金髪で小柄な少女だった。

 

「驚いたぞ、凄まじい魔力だな…」

 

のどかを介抱しながらその顔を見たネギは驚いていた。

 

「キ、キミは…ウチのクラスの…エヴァンジェリンさん!?」

「フフ、新学期に入った事だし改めて自己紹介と行こうか先生。いや、ネギ・スプリングフィールド。10歳にしてこの力……さすが「奴」の息子なだけはある」

「(息子?)…あ、貴女は何者なんですか!?魔法使いが何故こんな事を?」

「何故だと?面白い事を聞くんだなネギ先生。魔法使いは悪い事をしないとでも思っていたのか。私は悪い魔法使いなんだよ」

 

エヴァンジェリンと呼ばれた少女は2種類の小瓶を放り投げると空中でぶつかり、中の液体が混ざり合い、魔法効果を作り出す。

 

『氷結武装解除!!』

 

「うわあっ」

 

ネギは辛うじて抵抗(レジスト)し、片袖のみが砕けるだけで済んだが、のどかの服はほとんどが砕け散った。

 

「フ、やはりレジストしたか」

「大丈夫ですかのどかさ…うわあっ!!」

 

半裸ののどかの姿に慌てるネギだがそこに女の子が二人近づいて来た。

 

「こっちから聞こえて来たわよね、今の悲鳴」

「うん」

 

ネギの事が心配で迎えに来たのであろう、明日菜と木乃香は目の前の光景を見て驚いた。

 

「ア、アンタ達、何をやってるのよーー!!」

「ネギくんが吸血鬼やったんかーー!?」

「違いますよ、誤解です!!」

 

騒ぎに乗じてエヴァンジェリンはその場を立ち去った。

 

「ま、待てーー!!アスナさん、このかさん、のどかさんをお願いします。僕は犯人を追いますのでのどかさんを連れて帰ってください」

 

のどかを二人に任せてネギは足に魔力を集中させ高速で駆け出した。

 

「ちょっと、ネギーーー!!」

「うわっ、ネギくん速いな~」

 

 

 

 

 

「悪い魔法使い?魔法使いが悪い事をするだって?そんな事……魔法はみんなを幸せにする為の物だろ。それが魔法使いの仕事じゃないか」

(それに奴の息子って、お父さんの事を知ってるみたいだったけど…)

 

ネギはそんな考えを頭から振り払い相手を追う事に集中させる。

 

「いたっ!!」

「早い、もう追いついて来るとは。…そう言えばぼうやは風が得意だったな」

 

エヴァンジェリンはマントをはためかせ空へと飛んだ。

 

「杖や箒もなしに空を飛ぶなんて。待てーー!!」

 

 

続く

 

 



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四時間目「何だこの血は!?まるで極上のワインの様じゃないか! byエヴァ」

ネギとエヴァの二人が追いかけっこをしてる時、麻帆良にある男がやって来た。

木乃香から吸血鬼が現われたらしいと相談を受けた横島であった。

 

「やっと着いたか。まったく、シロタマとおキヌちゃんを誤魔化すのには苦労したよ」

 

すぐに麻帆良に向かおうとした横島だが前記の三人はくっついて離れようとしなかったのだ。

一番肝心の筈の美神は”何故か”意気消沈で上の空での了承を貰ったので取りあえずは大丈夫であろう。

 

「その分、帰った時にどう説明するかだがな……」

 

とりあえず横島は詳しい話を聞く為にルチ将軍の所へ向かおうとしたが、

 

「待ちなさいエヴァンジェリンさん、何でこんな事をするんですか?先生は許しませんよーー!!」

 

「ん、何だ?」

 

突如、頭上から子供の声と争う音が聞こえて来た。

 

「はははは、なら私を捕まえてみろ。そしたら何でも話してやるさ。奴の事もな」

「なら、捕まえて見せます」

 

「な、何じゃ?子供が二人…男の方は魔法使いの様だが女の方は……あの魔力の波動はピートに似てるな。吸血鬼か…?」

 

ネギが精霊召喚による分身で追いつめるとエヴァンジェリンは魔法薬による障壁でそれを遮る、二人の闘いは終盤を迎えていた。

 

ネギの武装解除で蝙蝠のマントを吹き飛ばされたエヴァンジェリンは校舎の屋根に降り立ち、ネギもその後を追った。

 

 

 

「何かヤバそうだな」

 

横島は胸のポケットから『飛』の文字が書かれたカードの様な物を取り出し発動させると横島の体は空へと舞い上がり、ネギ達と同じ屋根の上に気付かれない様に降り立つ。

 

 

 

 

 

四時間目

「何だこの血は!?まるで極上のワインの様じゃないか! byエヴァ」

 

 

 

ネギとエヴァが降り立った屋根の上では二人が向かい合っていて、蝙蝠で作ったマントを失い下着姿になったエヴァンジェリンにネギは話しかける。

 

「…こ、これで僕の勝ちですね。約束どうり教えてもらいますよ、何でこんな事をしたのか。そして、父さんの事も」

「お前の父親、すなわち『サウザンドマスター』の事か?ふふふ…」

「(何故それを?)と、ともかく魔力も無く、マントも触媒も無くなった貴女に勝ち目はありませんよ。大人しく捕まって下さい!!」

 

エヴァンジェリンを追い詰めようとしたネギだが、その前に一人の女性が彼女を護る様に立ちはだかる。

 

「申し訳ありませんネギ先生。マスターに手出しをさせる訳にはまいりません」

「え…?君はウチのクラスの……」

「紹介しよう、彼女は3-A出席番号10番「絡繰 茶々丸」”魔法使いの従者(ミニステル・マギ)“、つまりは私のパートナーだ」

「えええええ~~~!!」

「形勢逆転だな。パートナーのいない坊やでは”私達”は倒せんぞ」

「そ、そんな事、やってみなくちゃ」

「なら、やってみるのだな」

「言われなくても、『風の精霊11…へぷっ!!」

 

呪文の詠唱途中に茶々丸がネギにデコピンで邪魔をする。

 

「何をするんですか!?呪文が唱えられないじゃないですか!!」

「……当たり前だろう。それが”魔法使いの従者”の役目なんだから」

「え……?」

「我々魔法使いは呪文の詠唱中は無防備だ。そこを剣と盾になって主を守るのが”魔法使いの従者”の役目、つまり”魔法使いの従者”がいない坊やにはどう転んでも勝ち目はないのさ」

「そんな~~!!」

「茶々丸」

「はい、マスター。申し訳ありませんネギ先生、マスターの命令ですので」

 

茶々丸はネギを捕まえ、体を拘束する。

 

「やめて下さい、何をする気ですか?」

「坊やの父親、”サウザンドマスター”に掛けられた呪いを解くには血族者である坊やの血が必要なんだよ」

「と、父さんに掛けられた呪い?」

「そうだ……、私はな、貴様の父サウザンドマスターに敗れて以来魔力を極限まで封印され、も~~15年間あの教室でノー天気な女生徒共と一緒に勉強させられているんだ」

「そ、それで僕の血を…?」

「そう言う事だ、目いっぱい吸わせてもらうからな。まあ、多分駄目だと思うが運が良ければ死なないで済むんじゃないかと思ったり思わなかったり、万が一の可能性にすがろうとしてもカルネアデスの船板は腐ってて浮かない様だしここは諦めるのも一興かと」

「結局死ぬって事じゃないですか~~!!」

「そうとも言う」

「い~~や~~だ~~!!」

「では、いただk…」

「はい、其処まで!!」

「何?」

 

ネギに噛み付こうとした瞬間、エヴァンジェリンはいきなり何者かに後ろから担ぎ上げられた。

 

それは、隠れながら事態を見守っていた横島忠夫であった。

 

「マスター!!」

「だ、誰だ!?」

「俺か、俺は横島忠夫だ」

 

横島はエヴァンジェリンを抱き抱えながら答えた。

 

「横島さんて言えば確か…このかさんのお見合いの相手の?」

「ま、まあな…」

「横島さんと言いましたか。マスターを放してください」

「ん?君はアンドロイ『ガイノイドです』…ガイノイドか。だったら君の方もその子供を放してくれないか」

「マスターの命令ですのでそれは出来ません」

「ならこっちもこの子を放せないな」

「う~~、このっ、放さんか!!」

「痛てっ!」

 

エヴァンジェリンは自分を抱えていた横島の手に噛み付きその血を吸った。

 

「!!な、何だこの血は…?」

 

エヴァンジェリンは横島の血の味に驚いて一旦は腕から口を放したが、もう一度血を飲む為に噛み付こうとする。

 

「そう何度も噛みつかれてたまるか」

 

すかさず、横島はエヴァンジェリンを放すが、エヴァンジェリンは横島の方に振り返り叫ぶ。

 

「おかわり!!」

「却下だ、却下。おかわり禁止!!」

「ケチケチするな。しかし何という血だ、甘く豊潤でそれでいて喉越しは爽やか。まるで極上のワインの様だ……さして濃厚な!!」

「血が美味いと言われてもあまり嬉しくないぞ」

「はははは、だがいくら逆らおうともお前はすでに私の下僕だ。さあ、こっちに来い」

「だが、断る!!」

「何だと!? 何故逆らえる、私は真祖の吸血鬼だぞ。確かに血を吸うと同時に魔力は送り込んでいたのに…」

「ああ、それはな、俺は以前ある事件で吸血鬼化された事があってな、その時俺を吸血鬼化させていた魔力の根源でもある真祖も別の吸血鬼に噛まれ支配秩序の崩壊で人間に戻ったんだ。つまり俺は吸血鬼化への耐性があるんだ」

「そ、そんな…」

「しかし困ったな。木乃香ちゃんに頼まれて調査に来たのはいいけど……まさか、噂の吸血鬼がこんなに可愛い女の子だったなんて」

 

横島はエヴァの頭を撫でながら優しく微笑む。

 

「なっ!! な、ななななな……」

 

とたんにエヴァの顔は真っ赤に染まる。

 

人外キラースキル&ニコポ発動。

 

「マスター?」

「茶、茶々丸……」

「はい」

「一旦引くぞーー!!」

「了解しました」

 

茶々丸はエヴァを抱えるとすぐさま飛び去って行く。

 

「ふう、引いてくれたか。大丈夫か坊主?」

「は、はひ…あじがとうごじゃいまふ……」

 

ネギの顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。

 

「まあ、改めて自己紹介だ。俺は横島忠夫、よろしく」

「は、はい。僕の名前はネギ=スプリングフィールドです」

 

 

 

かつての「魔神大戦」において、本人は決して望まないが英雄と呼ばれた男、横島忠夫と、サウザンドマスターと呼ばれた英雄、ナギ=スプリングフィールドの息子、ネギ=スプリングフィールドとの、これが初めての出会いだった。

 

続く

 

 




(`・ω・)横島が使った「カードの様な物」とはカードに霊力を貯めて作った文珠の簡易版みたいな物で文珠ほどの力は無く文字の書き換えも出来ないがその分、量産が効くという設定。、
まあ、ぶっちゃけ「陰陽大戦記」の「闘神符」です。


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五時間目「じゃあな、おねしょはするなよ by横島」

(`・ω・)…タイトル、どのセリフを選ぼうか迷ったら何故かこのセリフが選ばれてしまった。


 

 

「ううう、うええ~~ん」

「いい加減に泣きやまんかい!男だろうが」

 

ネギはエヴァとの戦いで腰を抜かしたらしく、横島におぶってもらいながらも未だその背中で泣きじゃくっていた。

 

「だ、だって、怖かったんだもん…もう少しで…こ、殺され…」

 

そんな風にネギがぐずっていると。

 

「こら~~~~!!」

 

ツインテールの女の子が怒鳴りながら走って来た。

 

「あ、あの声はアスナさん」

「知り合いか?」

「はい。僕のクラスの生徒です」

「…僕のクラスの?」

 

そう聞き返そうとすると。

 

「何、ネギを苛めてんのよーー!!」

 

横島の顔面にアスナのドロップキックが炸裂した。

 

「ぐぼはあっ!!」

「うわあっ!よ、横島さん!!」

 

ネギはその場に落ちたが横島は二メートルほど吹き飛んだという。

(予断ではあるがその後、明日菜が中学生だと聞いた後、脳内HDDに焼きついてしまった”縞々”を削除しようとして四苦八苦する横島が居たという。結局削除は出来なかったようだが…)

 

 

 

五時間目

「じゃあな、おねしょはするなよ by横島」

 

 

 

「本当にゴメンなさい!!」

「いや、分かってくれたならもういいよ」

 

ネギから詳細を聞いた明日菜は横島にひたすら謝っていた。

 

「とにかく坊主、迎えが来たんならもう此処でいいな。俺はもう行くぞ」

「は、はい。有り難うございます。それと僕の事はネギと呼んで下さい」

「そうか、なら俺の事も忠夫でいいぞネギ」

「うん、分かったよ横島さ…じゃなかったタダオ」

「私は神楽坂明日菜です。よろしく、横島さん…横島?……あ~~~~!!」

 

明日菜は横島を指さして大声を上げる。

 

「わっ!ど、どうしたの明日菜ちゃん?」

「よ、横島さんってもしかして木乃香のお見合いの相手の?」

「明日菜ちゃんは木乃香ちゃんを知ってるの?」

「は、はい。木乃香とは同じクラスでルームメイトです」

「じゃあ、木乃香ちゃんに俺が来た事伝えといてもらえる。吸血鬼の件で相談を受けてたんだ」

「分かりました、伝えておきます。さあネギ、帰るわよ」

「はい。じゃあ、ありがとねタダオ」

 

ネギは明日菜に手を引かれて帰っていく。

 

「…て、ちょっと待ていっ!!」

 

横島は二人を引きとめる。

 

「ど、どうしたんですか横島さん?」

「何故ネギが明日菜ちゃんと一緒に帰るんだ?」

「それはアスナさんとこのかさんの部屋に住まわせてもらってるから…」

「何じゃとーーー!!」

「学園長に頼まれたんですよ」

「ルチしょ…学園長に?…まあ、子供なら問題ないか」

 

そう言って横島は振り返って歩き出す。

 

「じゃあな、おねしょはするなよ」

「しないよ!!」

「お休みなさい、横島さん」

 

横島は「おうっ!」と応えて手を振りながら歩いて行く。

ちなみに部屋に帰った明日菜達は横島と会った事をを木乃香に話すと「何でウチを呼んでくれんかったん?」と一晩中愚痴られたそうな。

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

昨夜は時間的にも連絡が取れなかったらしく、横島は学園都市内にある宿に一泊し、改めて詳しい事情を聞く為に学園長室に向かっていると何処からかネギ達の声が聞こえて来た。

 

「ひえ~~ん。降ろして下さいよアスナさん、エヴァンジェリンさん達に会ったらど~~するんですか~~~っ?」

「学校で襲ってきたら教師権限で停学にしちゃえばいいじゃない」

「そんな簡単な問題じゃないんですよ~~っ!」

 

ネギは明日菜に簀巻きにされて抱えらたまま泣きながら抵抗していおり、その周りには木乃香と数人の女生徒が居た。

 

「よっ!木乃香ちゃん、お久しぶり。ネギに明日菜ちゃんもおはよーさん」

 

横島を見つけた木乃香はとたんに笑顔になって駆け寄って来る。

 

「横島さ~~ん、お久しぶりや~~」

 

横島もそんな木乃香の頭を笑いながら撫でてやる。

 

「えへへ~~」

 

木乃香も頬を染めながらも満更ではなさそうに微笑む。

 

「で、明日菜ちゃん。一体ネギはどうしたんだ?」

「え~~ん、タダオ~~、助けて~~」

「ネギの奴、昨日襲われた事で怖がっていてずる休みしようとしたから無理やり連れて来たんですよ」

「それはいかんな、学校は行ける時には行かなきゃ駄目だぞ。それはそうと何でスーツ姿なんだ、ネギの通う小学校は制服は無いのか?」

「それはな~、ネギくんはウチらのクラスの先生なんや~」

「……はい?」

 

くいくいっ

横島が説明を受けて唖然としていると、鳴滝風香と史伽の姉妹が横島の服を引っ張る。

 

「ん、何だい?」

「ねえ、あなたはこのかさんのお見合いの相手だよね?」

「そ、そうだけど?」

「やっぱりそうだーー!!」

「「ねえねえ、色々お話聞かせてーー!!」」

 

鳴滝姉妹は横島に話をせがむが、

 

「ゴメンね、俺は此処にはGSの仕事で来てるんだよ。忙しいからまた今度ね」

 

嫌な予感がした横島はそそくさと逃げようとする。

 

「じゃあ木乃香ちゃん、俺は学園長に詳しい話を聞きに行くから」

「うん、じゃあまた後でな」

「タダオ~、見捨てないでよ~」

「詳しい話はよく分からんがとりあえずお前は学校へ行け」

「だそうよ。さあ、みんなも早く行かないと遅刻するわよ」

「「ちぇ~、横島さーん。また後でねーー!」」

 

そうしてそれぞれの場所へと移動していった。

 

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「みんな、おはよーーっ!」

「うわ~~~ん、ま、まだ心の準備が~~」

 

明日菜は今だ泣き続けるネギを連れてクラスに入る。

 

「あ、ネギ君、アスナー」

「おはよー、ん?ネギ君どうしたの」

「あは、ちょっとね。それよりまきちゃんはもう平気なの?」

「うん、すっかり元気だよ」

「何も覚えてないらしい」

 

そんな中ネギは席の最後尾を見てエヴァがまだ来てない事を確認した。

 

「あ、エヴァンジェリンさんはいないんだ。……ホッ、よかった」

「いいえ、マスターは学校に来ています。いわゆるサボタージュです」

 

いつの間にか後にいた茶々丸が答える。

 

「うわぁっ!!」

「…お呼びしますか先生?」

「い、いや、いいですいいです、遠慮します!!」

(あうう、吸血鬼のエヴァンジェリンさんにパートナーの茶々丸さん。まざか自分のクラスにこんなすごい二人組がいたなんて…)

 

 

 

 

 

「えへへ~~」

 

木乃香は朝から横島に会えた事でご機嫌だった。

 

「おや?どうしたでござるか木乃香殿。ずいぶんとご機嫌でござるな」

「あのね、昨日話していた横島さんが来たんだよ。ねえ、お姉ちゃん」

「うん、木乃香さん頭撫でてもらってた」

 

一瞬、ざわめきは消え去りその後すぐに大声が上がった。

 

『ええ~~~~~~~~~っ!!』

「ほ、本当アルカ?鳴滝姉妹!?」

「こ、この人が来たですか」

 

夕映は携帯の画像を見ながら聞いた。

 

「今、何処に居られるでござるか?」

「吸血鬼の事件の事をじいちゃんに聞くゆうて学園長室に行ったで」

「それならば後で会えるでござるな」

「現役のGSがどれだけ強いか楽しみネ」

「でござるな。ニンニン」

 

そんな彼女たちの会話を聞きながらネギは思った。

 

(エヴァンジェリンさんには茶々丸さんというパートナーがいる。僕にもパートナーがいれば……)

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

その頃横島は学園長室で話をしていた。

 

「つまりあの娘は『登校地獄』という呪いで15年も学園に縛り付けられている吸血鬼で学園の警備員も兼ねているという訳か」

「まあ、そういう訳じゃの」

「なら、どうする訳にもいかんじゃないか。吸血鬼とはいえ、退治もする事も出来ん。俺は何をしに来たんだ?」

「すまぬな、ワシの知らぬ間に木乃香が横島君を呼ぶとは思わなかったんでな。とりあえず暫くは此処に留まって調査の振りでもしていてもらえぬかの。現役のGSが居ると分かればエヴァの奴も無茶な真似は出来ぬであろうし生徒達も安心できるじゃろうからの」

「仕方ないっスね」

「おお、引き受けてくれるか」

 

コンコン、

 

「学園長、失礼します」

 

そこに一人の教師が入って来た。

 

「高畑君、彼が以前から話をしておった横島忠夫君じゃ」

「よろしく、横島忠夫っス」

「ああよろしく、初めまして横島君。僕はタカミチ・T・高畑、気軽に高畑と呼んでくれていいよ。(この子があの魔神大戦の英雄。いや、英雄扱いは逆に失礼かもな)」

「学園の詳しい事は高畑君に聞いてくれ」

「了解っス」

「じゃあ行こうか横島君。学園の事は案内しながら説明するよ」

 

 

続く

 

 



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六時間目「何なのこのヘンな生き物は、魔法に関係あるの? by明日菜」

 

横島が高畑の案内で学園を周っている時、授業中の3‐Aでは和泉亜子が教科書を読んでいるのだがネギはボ-として考え事をしていた。

 

(は~~、新学期早々大問題が…。やっぱり、魔法使いにパートナーは必要なんだ。でも、パートナーなんてそう簡単に見つかる訳がないし……)

 

ネギはため息を吐きながらクラスの中を見回す。

 

(この中に僕のパートナーがいたらなあ……ハア、そんな訳ないか…)

 

 

 

六時間目

「何なのこのヘンな生き物は、魔法に関係あるの? by明日菜」

 

 

 

「センセー、読み終わりました」

「は、はい。ご苦労様です、和泉さん」

「どうしたんですかセンセ、何か悩みでもあるんですか?」

「い、いえ、悩んでるという訳じゃ……」

 

だがネギはここであえて聞いてみる事にした。

 

「あ、あの…和泉さんは10歳の子供がパートナーなんてやっぱり嫌ですか?」

「え…ええ~~~!!パ、パ、パートナーってま、ま、ま、まさか人生の?…ウ、ウチ困ります。まだ中3になったばっかやし…」

 

和泉は突然ふられた話にあたふたしており、その隣ではのどかがあわわと赤くなっている。

 

「で、でも、あの、その、今はそんな特定の男子はいないっていうか…」

「はあ……宮崎さんはどうですか?」

「ひっ、ひゃいっ!?…あ、あの…その…わ、私は……へぅぅ~~」

 

のどかはのどかで、真っ赤になりながらやはりしどろもどろになる。

 

(おお、のどかチャーンス!)

(言うのです「わたしはOKです」と)

 

ハルナと夕映は心の中で応援をする。

 

「わわ…たわしは…じゃなくて私はオオ…オオ…オk」

「ハイ、ネギ先生!!」

「はい、いいんちょさん」

「私は超OKでs「ネギ先生、ここで耳より情報♪ウチのクラスは特にノー天気なのばっかだからね」ネ、ネギセンセ、私と…わぷ「大体4/5位の奴は彼氏はいないと思うよ。まあ、私の調べだけどね」で、ですから私と…」

「は、はあ…何の話を?」

「まーたとぼけて、恋人が欲しいなら20人以上のお姉さんからより取り見取りだね♪」

「恋人?い、いや、別にそう言う訳では……」

 

キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り、授業の終わりを告げる。

 

「ハハハハ…すみません、授業と関係のない質問をしてしまって。忘れて下さい、何でもないので。では、今日はこの辺で」

 

そう言いながらもネギは暗く落ち込んだ表情で教室を出ていく。

 

「ちょっと、ネギ…」

「ねぇねぇ、ホントどうしたんだろ?」

「あんなに元気のないネギ君初めて見るよ」

「アスナさん、あなた何か御存じじゃなくて?」

 

ネギの後を追おうとした明日菜をあやかは呼びとめる。

 

「いや~、あ、あの、何かさ、パートナーっていうのを見つけられなくて困ってるみたいなのよ。見つけられないと何かヤバい事になるみたいで…じゃ、じゃあね」

 

そう言い、明日菜は立ち去っていく。

 

「パートナー?どういう意味なんだろ?」

「もしかしてネギ君、何処かの国の王子様だったりして…」

 

ザワッ

 

「そうか、先生というのは実は隠れ蓑で本当は結婚の相手を見つけに来たとか?」

『あり得る!!』

「そっかー、ネギ君王子様だったんだー。じゃあ私パートナーに立候補しようかな」

「ええっ!?」

「のどか、これはチャンスです。この機会にネギ先生に告白するです!!」

「ゆ、夕映~~」

「そうはまいりません!!ネギ先生のパートナーは私以外に考えられません!!」

「とはいってもネギ君の気持ちもあるしね」

「それなら私自信あるけどなー」

「な、なんですってーー!!」

「私がパートナーになってなぐさめてあげよっかな~~♪」

 

間違った情報でクラス中がわきかえっている頃、エヴァンジェリンは一人屋上で日向ぼっこをしていた。

 

「ふわ~~あ、(昼は眠い)」

 

その時、

 

パシンッ

 

何かが結界を越えて来た事を感じ取った。

 

「む、何かが学園都市の結界を越え入りこんで来た。…仕方ない、調べるか。まったく、厄介な呪いだ」

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

ネギはその頃中庭でたそがれていた。

 

(はあ、僕は一体どうしたらいいんだろ?一人じゃエヴァンジェリンさんと茶々丸さんには勝てそうにないし、パートナーといっても誰になってもらえばいいのか)

「兄貴、兄貴」

 

そんな時、ネギの足元から誰かの声が聞こえて来た。

 

(タダオ、結構強そうだったしパートナーになってくれないかな?)

「兄貴、兄貴ってば」

(ん、誰か呼んでるのかな?)

「兄貴ーー!聞こえないんすか!?」

「あ、あれ?ひょっとしてカモ君?」

「ふう、やっと気付いてくれやしたか。ネギの兄貴、アルベール・カモミール、兄貴に恩を返しに来たぜ」

 

ネギがカモと呼んだそれは一匹のオコジョだった。

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

 

「ネギーー!まったく、アイツったら何処に行ったのよ?」

 

明日菜がネギを捜しているとそこにエヴァと茶々丸の二人に出くわした。

 

「ほう、神楽坂明日菜か」

「どうも」

「…ひょっとしてあんた達、ネギを何処かに連れ去ったんじゃないでしょうね?」

「ん?知らんぞ」

「え?」

「安心しろ神楽坂明日菜、少なくとも次の満月まで私達が坊やを襲う事は無い」

「…どういう事よ?」

「今の私では満月を過ぎると魔力がガタ落ちになってただの人間と変わらなくなる。ホラ」

 

指で口の中を覗かせると牙は無く普通の歯と変わりはなかった。

 

「今、坊やを攫っても血を吸う事は出来ないという訳さ。坊やに伝えておけ、パートナーを得るなら今の内だとな。まあ、茶々丸に匹敵するパートナーがそうそうおるとは思えんが」

「な、何ですって~~」

「それよりお前、やけにあの坊やに肩入れするじゃないか。一緒の布団に寝て情でも移ったか?」

「か、関係ないでしょ。とにかくネギに手を出したらタダじゃおかないからね」

「フッまあいいさ。仕事があるから私達はここで失礼するよ」

「仕事?」

「お前には関係のない大人の仕事さ」

 

エヴァは手を振りながら去って行く。

 

「何さ、自分だっておこちゃまのくせに」

 

ブツブツ言いながらその場を離れようとすると何やら話声が聞こえて来た。

 

 

「こうなったら適当に強そうな奴を連れて来て仮契約を交わしちまいましょうよ」

「そ、そんなのダメだよ!無理やりなんて」

 

 

「ネギ?聞きなれない声だけど誰と話してるんだろ?」

 

 

「この女なんかいいんじゃないスか。何かこう、俺っちのセンサーにビビッと来るモンが有るんスよ」

 

カモはクラス名簿に載っているのどかの写真を指さして言う。

 

「のどかさんに?」

 

そうネギが首をかしげているとカモはオコジョ魔法を使い、地面に仮契約用の魔法陣を作る。

 

「ささっ!早くそののどかって嬢ちゃんを連れて来てこの魔法陣の上で一発ブチュ~~っと」

「ブチュ~~と何よ?」

「あれ?アスナさん」

「何なのこのヘンな生き物は、魔法に関係あるの?」

 

怪訝そうに自分を指さす明日菜を見てカモは、

 

「何だ、兄貴も隅に置けないっスね。もうパートナー候補を見つけてたんスか。じゃあ、さっそくブチュっと!!」

「だから何がブチュっとなのよ。さあネギ、帰るわよ」

「は、はい。あの~カモ君も連れて行っていいですか?」

「そうね、ネギの知り合いみたいだしまあ、いいか。そのかわり騒ぎにならない様にしっかり面倒見なさいよ」

「はいっ!よかったねカモ君」

「へいっ、恩にきやす姉さん」

 

そして、三人は寮へと帰って行く。“忘れ物”をしたまま…

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

 

「それにしても広い学園っスね~」

「ははは、学園「都市」の名は伊達じゃないよ」

 

横島は高畑に案内をしてもらいながら学園を周っていた。其処に…

 

「おや、高畑先生ではござらぬか」

「あ、ホントネ」

「お久しぶりです高畑先生」

 

と、現れたのはバカレンジャーの三人。

バカリーダー(ブラック)・綾瀬夕映

バカイエロー・古菲

バカブルー・長瀬楓

 

「やあ、久しぶり。皆元気そうだね」

「高畑さん、この子達は?」

「僕は彼女達の元担任なんだよ。そして今はネギ君が彼女達の担任なんだ」

「10歳の子供が中学の教師だわ、俺は255円の時給でこき使われたりするわ。……一体、この国の労働基準法はどうなってるんスかね」

「ははは……」

 

うなだれる横島の肩を高畑はポンポンと優しく叩く。

 

「ところで高畑先生、其処におられる御仁はもしかして」

「ああ、紹介しよう。吸血鬼の調査に来てもらった…」

「貴方が横島さんアルネ」

「な、何で俺の名前を知ってるの?」

「貴方が木乃香さんとお見合いをしたのはクラス中が知ってる事ですよ」

「……何ですとーーー!!」

「私は古菲ネ」

「私は綾瀬夕映というです」

「そして拙者は長瀬楓と申すでござる」

 

 

ピピピピピピピピピピッ

 

突然、高畑の携帯がなり、電話に出ると彼は何やら慌てだす。

 

「分かった、僕も調べてみよう。すまない横島君、急用が出来た。今日はこの辺でいいかな?」

「はい、かまわないっスよ」

「ありがとう、君達も遅くならない内に帰るんだよ」

「分かったです」

「了解ネ」

「承知してるでござるよ」

 

そして、高畑が立ち去ったのを確かめると楓と古菲は横島に対し構えを取る。

 

「な、何でそんな楽しそうな眼で俺を見るのかな?」

「強そうな相手と闘うのは楽しいネ」

「そんな訳で一つ相手をしてほしいでござるよ。中々に強そうで腕が鳴るでござるよ」

「その後は色々GSの事とか教えてほしいです」

 

そんな彼女達の勢いに押されながら横島は後ずさって行く。

 

(ヤ、ヤバイ…夕映ちゃんはともかく、この楓ちゃんと古菲ちゃんは“ヤツ”と同じバトルモンガーじゃ。一度でも闘えば絶え間なく相手をさせられるに違いない…何とか逃げなければ)

 

一歩二歩と下がっても、三歩四歩と迫って来る。

 

「逃がさないアルネ」

 

そこですかさず横島は禁断の裏技を使った。

 

「あーーーっ!あんな所に」

「そんな使い古された手は通用しないでござるよ」

 

 

 

『やっぱり来てくれたんだね、兄さん!!』

 

 

 

「何と!?」

「マジアルカ!?」

 

二人は横島が指をさした方に顔を向けるが当然其処には誰もいない。

 

「しまった!!」

「引っかかったアルネ!!」

 

すぐに横島に向き直すが当然横島は逃げ出した後だ。

 

『・・・・・・・・・』

「な、何でござるかリーダー、その目は…」

「や、やめるアル。そんな目で見ないでほしいネ!!」

 

そんな二人を残念そうな目で見つめていた夕映であった。

 

続く

 




(`・ω・)出会った場所がお好み焼き屋だったらたぶん、王子様が歌い出したのかもしれない。


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七時間目「受け入れて歩くべきだと思うよ、自分らしくさ by横島」

(`・ω・)数年前、正式連載中だった頃はモチベさんは絶好調だったので一話に一万文字くらいは平気で書いていたが、最近は二千文字ぐらいがやっと。


 

「ふう、何とか逃げられたか」

 

横島は中庭にたどり着くとようやく一息ついた。

 

「それと、いい加減出て来て話でもしないか?」

 

「なっ!?」

 

横島は後ろを振り向き話しかけると木の陰から怪訝な表情をした刹那が出てくる。

 

 

 

七時間目

「受け入れて歩くべきだと思うよ、自分らしくさ by横島」

 

 

 

「…気配は完全に断っていたと思ったのですが」

「まあ、仕事柄気配には敏感だからね。それに木乃香ちゃんとのお見合いの時も隠れていたろ」

「あ、あの時も気付かれてたんですか?」

「まあね、おそらく木乃香ちゃんの護衛だろうと気付かないふりをしてたけど」

「そうですか……さすがは現役のGSですね」

 

刹那は不謹慎と思いつつも気になっていた事を聞いた。

 

「横島さんはお嬢様との、そ、その…交際の事をどう思ってるんですか?」

 

横島は何時も通りに「ロリじゃないんやー」とふざけようとしたが刹那の目が真剣なのに気付いて真面目に答える事にした。

 

「そうだね、木乃香ちゃんはいい子だよ。俺なんかにはもったいないくらいにね。でも俺にその資格が有るのかは解らない」

 

そう、俯いて答えた。

 

「そ、そんな事は…お穣様は貴方との事を嬉しそうに話していました。資格は…有ると思います」

「だったら刹那ちゃんにも友達の資格は有ると思うよ」

「な、何で私の名前を?それにお嬢様との友達の資格って」

「ごめんね、刹那ちゃんの事はさっき学園長から聞いてたんだ。木乃香ちゃんと距離を置いている事も、その理由もね」

「そうですか…だったら解るでしょう、私は」

「木乃香ちゃんは刹那ちゃんと仲良くしたがってるんだろ、そして刹那ちゃんも。なら素直になればいいだけじゃないか」

「でもっ」

「あ~もう!でもはなしや!」

 

そう言って横島は刹那の頭を撫でる。

 

「……え…?」

 

刹那は不思議そうに見上げると横島は優しく微笑んでいた。

 

「あん時もそう言うたやろ」

「…よ、横島さん…覚えて」

「覚えてたと言うより思いだしたってとこかな。学園長の話を聞いていたらふとね」

 

横島は学園長とエヴァの話をする前に刹那の事を頼まれ、そしてその話から子供の時に木乃香と刹那に出会っていたのを思い出したのだった。

 

「人外の力を持ってる事だったら気にする事は無いよ」

「なっ!?」

 

刹那は自分が一番気にしている力の事を軽く言われ、カッときた。

 

「だったら分かるでしょう、こんな力を持った…こんなバケモノの私がどうやってお嬢様と仲良くできるんですか!?」

「そんな事を言われたら俺だってそうだよ。何しろ俺には今じゃ人間の部分は三分の一ぐらいしか残ってないんだから」

「……え…?…どういう事ですか?」

 

驚きを隠せない刹那に横島は話していく。

 

「前の闘いの時に俺は死にかけてね、今は霊気構造の殆んどが人外の物で補われてるんだ。色々あって生きている事に絶望しかかった事もあるけどある女(ひと)との約束もあって俺は俺として、俺らしく生きるって決めたんだ。君がどんな風に生きてきたかは大体想像出来る、だけど君が君を否定してはいけないよ。だってそれは君を友達だと思ってくれてる木乃香ちゃんの気持ちをも否定する事だから」

 

刹那はハッとして木乃香の事を想い浮かべる。幼いころ一緒に遊んだ事を、中学に入り再会した時からずっと話しかけてくれる事、そしてそっけない態度を取ると寂しそうな顔をする事を。

 

「…いいんでしょうか、お嬢様の傍にいて。お嬢様と…このちゃんと仲良くしても…」

「妖怪とのハーフとなんて仲良くしとうない、なんて木乃香ちゃんが言うと思う?」

「……くすっ、思いません」

「だろ、だったら後は刹那ちゃん次第さ。受け入れて歩くべきだと思うよ、自分らしくさ」

「はい、時間はかかると思いますが歩いて行こうと思います。自分らしく」

 

笑顔でそう言うと横島は笑いながら刹那の頭をポンポンと叩く。

 

「よし、頑張れ。じゃあ俺は今日の所は宿に帰るよ、しばらくは此処にいる事になりそうだからよろしくね」

 

そう言い背を向けて歩いて行く。

 

 

一歩

 

二歩

 

三歩

 

「あ、あの…横島さん」

 

刹那が呼び止め近づいて行く。

 

一歩

 

二歩

 

三歩

 

「もう少しお話をしたい…あっ」

「あぶない、刹那ちゃん。おっと」

 

足を滑らせ、倒れそうになった刹那を横島は支えようとするがよろけてしまい、一緒に「忘れ物」の中に倒れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけね、いけね。魔法陣を消しとくのをすっかり忘れてたぜ」

 

カモは消し忘れていた魔法陣を消す為に一人戻って来ていた。

すると、その魔法陣の中に倒れ込み唇が重なる寸前の刹那と横島を見つけた。

 

「こ、これは!! …誰だか知らねえが5万オコジョ$ゲットのチャーンス♪」

 

そして二人の唇が重なった瞬間、

 

仮契約(パクティオー)!!」

 

カモが魔法陣を発動させると眩い光が二人を包む。

だが、横島と刹那はあまりの出来事に呆然となりその光には気付かなかった。

 

そしてようやく今の状況に気がつく。

 

「「ぷはっ!!」」

 

ツウ~~~、プツンッ

 

 

慌てて離れる二人だったが、その唇からは銀色の糸が伸び、やがて自重によってプチリと切れる。

 

 

「あ、あ、あああ……よ、よこひまひゃん?」

 

刹那の顔は言うまでも無く真っ赤である。

 

「せ、せつなひゃん?」

 

横島が自分の名を口にすると、

 

バボンッ!!

 

刹那は体中から爆発したように湯気を出し、立ち上がるとそのまま逃げだす。

 

「す、す、すみませ~~~~~ん!!」

 

 

 

横島はと言うと、中学生との大人なキスという現実から逃れようとしているのか地面を転がりのた打ち回っていた。

 

「ちゃうんや~~~!ワイはロリやないんや~~~!口の中に何かが入って来て気持ちよかったなんて思ってないんや~~~!」

 

そんな横島を横目に見ながらカモは現れたカードを見る。

 

「ほ~、あの姉ちゃんは妖怪とのハーフか。しかし、コイツはかなり強力そうなアーティファクトだな」

 

カモはカードをどうしようか悩んでいると横島はゆっくりと立ち上がる。そしてその口は微妙に歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「フフフフフフ・・・・ダレダ、コンナグウゼンヲヨソヲッテオレヲロリニオトソウトシテイルヤツハ・・・・ユ・ル・サ・ン」

 

横島は病化して病島(やこしま)になっていた。

そんな横島を見ていたカモはガタガタ震えながら嫌な汗を流していた。

 

「な、何なんだあの兄さんは?や、やばい。俺っちが魔法陣を発動させたと知られたら……に、逃げよう」

 

カモは一目散に逃げ出した。

 

「ソウカ、コンナコトガデキルノハキーヤンニサッチャンダナ」

 

そう呟きながら空を見上げる病島のその顔は、可愛がっていた鯉を殺された何処かの高校の用務員の様であった。

 

 

 

『違います!!』

『濡れ衣や!!』

 

 

二柱はあまりのプレッシャーに抱き合ってガタガタ震えていたらしい。

 

 

 

その夜、寮の部屋では照れたり、赤くなったり、唇を押さえて笑ったりとか、挙動不審なルームメイトの刹那を真名は怪訝な表情で見ていたらしい。

 

続く

 

 

 

 

 

仮契約カード

 

絵柄・翼を出した刹那が二本の日本刀を構えている

従者・桜咲刹那

色調・黒

称号・翼を持ちし栄光の剣士

方位・北

星・太陽

徳性・正義

 

アーティファクト

 

栄光の剣(ソードオブグローリー)

直刃の日本刀で鍔にあたる部分に菱形の宝玉が有り、其処に文字を刻む事で魔法剣の力を得る。

文字は何度でも書き換える事が出来るが、その際には一旦文字を消してからではないとならない。

例・【火】→【無】→【雷】といった具合。

二本あり、宝玉の背同士を重ねる様に一本の剣にする事で二文字連結が可能になる。

その際はアーティファクトを解除しなければ文字は書きかえれない。

例・

【破/魔】で明日菜のハマノツルギと同じ能力を得る。

【分/身】だと同じ身体能力を持つ分身を作れる。(ただし頭の中身はちびせつなと同じ)

 

 




(`・ω・)最初にこのアーティファクトを思い付いた時、カッコいいのが出来たと浮かれていたが、「YAIBA!」の覇王剣じゃないかとツっこまれて落ち込んでいたあの日の思い出。


おまけ・一番最初に書いた時にダメ出しをくらって書き直した時の没シーン



一歩

二歩

三歩

「あ、あの…横島さん」

刹那が呼び止め近づいて行く。

一歩

二歩

三歩





『今や、キーやん!!』

悪魔が囁いた。

『任せて下さい!!』

「悪魔」が応えた。



「お聞きしたい事が…あっ」ツルッ


「偶然」足が滑り、

「あ、危ない。…お?」ヨロッ


「偶然」体がよろけ、

「きゃっ」「うわっ」


「偶然」重なり倒れた所に「忘れ物」があり、

「はむっ」「ふむっ」


「偶然」二人の唇が重なった。





『よっしゃーーー!! パクティオーーー!!』

悪魔の叫びと共に「忘れ物」から光が放たれる。


横島と刹那はあまりの出来事に呆然となりその光には気付かなかった。
そしてようやく今の状況に気がつく。

『ぷはっ!!』

ツウ~~~、プツンッ


「あ、あ、あああ……よ、よこひまひゃん?」

刹那の顔は言うまでも無く真っ赤である。

「せ、せつなひゃん?」

横島が自分の名を口にすると、

バボンッ!!

体中から爆発したように湯気を出し立ち上がるとそのまま逃げだす。

「す、す、すみませ~~~~~ん!!」


横島はというと、当然転げまわっていた。

「ちゃうんや~~~!ワイはロリやないんや~~~!口の中に何かが入って来て気持ちよかったなんて思ってないんや~~~!」

そんな横島の前に一枚のカードがひらひらと落ちて来た。

「な、何じゃこれは、刹那ちゃん?」

悪魔達の策略によって横島と刹那の仮契約は成立した。



『あのオコジョのおかげでうまくいったなキーやん』
『ええ、これで面白くなりそうです』
『次は夕映っち辺りがええと思うんやけど』
『しかし、あの楓という子や古菲という子も捨てがたいですよ』
『まあ、焦る事も無いやろ』
『そうですね、とりあえず5万オコジョ$が手に入った事ですしパーッと飲みに行きますか?』
『ええな、丁度新しいボトルを入れたいと思っとったんや』

悪魔達は笑いながら何処かへと去って行く。

此処までが没シーン。いきなり二柱が絡んで来るのは変だろうとツッこまれたので没になった訳です。


我ながら文才の無さに情けなくなりますね。
カモの登場やら刹那の仮契約やアーティファクトなど原作と違う所が有りますがそこは私のオリジナルという事でご容赦ください。


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八時間目「ひょっとして仮契約のチャンスかもしれねえな byカモ」

ピピピピピピピ

 

「ふあ~~あ、ねむ……。まだ早朝は寒いから厚手の下着にしとこって、あれ?あれあれ?何で?何で?」

 

携帯からアラームが鳴り、明日菜は朝の新聞配達の為に着替えようとするが下着が一枚もない事に気付き、慌てふためく。

 

「ん~~、どしたんアスナ?」

「私の下着が一枚も無くなってるのよ!」

「それは変やな……あや?ウチのも無くなっとる」

「はっ!も、もしかして…」

 

何か思いついたのか、明日菜はカモが寝ている押入れを開いてみる。

すると……

 

「おっ、姐さんおはようございます。いやー、コレぬくぬくっスっよー」

 

案の定、カモが明日菜と木乃香の下着に包まって寝ていた。

 

「断りもなく人の下着で何をやってるのよ、このエロガモーーッ!」

「ひーーー、勘弁っス姐さん!」

「まあまあ、アスナもそんなムキにならんと」

「何を呑気にしてるのよ。木乃香の下着もコイツに盗られてるのよ」

「でもどっかに持って行った訳でもないし、ちゃんと返してもろたらウチは別に」

「ああ、このかの姐さん。何て優しいんだ」

「甘いわよこのか。コイツはやらしい目的で私達の下着を盗んだに決まってるのよ。…そうね、例えば横島さん以外にそんな事されてこのかは平気なの?」

「えっ、そうなん?う~~ん、それはややなあ」

「と言う訳でこのエロオコジョにはお仕置きが必要なのよ」

「じゃあ、仕方あらへんな」

「そんなーーーーっ!!」

「自業自得よ。じゃあ、逝きましょうか」

「ぎゃーー、字が違うっス!!」

「違わないわよ」

「いーーーーやーーーーーっ!!」

 

 

そうして明日菜のお仕置きを受けたカモだが登校時間にはしっかりと復活していた。

こういった肉体の再生能力は横島同様、スケベの必須スキルなのだろうか?

 

 

八時間目

「ひょっとして仮契約のチャンスかもしれねえな byカモ」

 

 

 

あの後カモを連れて帰ったネギ達は木乃香にはただのペットで通すつもりだったが、カモが明日菜達の下着を漁った事であっさりと喋れる事がばれてしまい魔法の事は隠したまま喋れる不思議なオコジョと言う事にしておいた。

 

「まったく、下着ドロのエロオコジョなんてとんでもないペットが来たものね」

「もー、やったらあかんえ」

「今後はなるべくひかえやす」

「するなって言ってるのよ!」

 

登校途中、明日菜はカモの事を責め続けていて、そんな中ネギは肩の上に乗っているカモに話しかける。

 

(それよりカモ君、人前じゃ喋っちゃダメだよ)

(えーー、何でだよ兄貴)

(オコジョが喋ったら目立つだろ)

 

学校に着くとネギはあたりをキョロキョロと見回し出す。

 

「よう兄貴、さっきから何キョロキョロしてんだ?」

「いや、ちょっとね。……実はうちのクラスに問題児が」

「問題児が何だって?」

「え?……うひゃあっ!!」

 

いきなり声をかけて来たのは今噂をしていた相手、エヴァンジェリンとその従者のガイノイド、茶々丸であった。

 

「おはようネギ先生、今日もまったりとサボらせてもらうよ。ふふふ、ネギ先生が担任になってからいろいろと楽になった、感謝するよ」

「エ、エヴァンジェリンさん、茶々丸さん!?」

 

二人を目の前にしたネギは杖を抜き戦闘態勢を取ろうとするが、エヴァが差し出した手に動きを止められる。

 

「良いのかいネギ先生、こんな所で闘っても?それに勝ち目など無いのはこの前で良く解ってる筈だぞ」

「う、うう…」

「校内では大人しくしていた方がお互いの為だろ。それから言っておくがタカミチや学園長に助けを求めようとするなよ、生徒達が襲われるのは嫌だろ?」

 

そう言い残すとエヴァは去って行き、茶々丸もネギに一礼するとその後を追って行く。

残されたネギは言い返す事も出来ずに拳を握りしめ、泣きながら走り去って行く。

 

「うわああ~~~~ん!!」

「ち、ちょっと待ちなさいよネギ」

 

そんなネギを見ながら茶々丸はまるで気にしない様に歩くエヴァに話しかける。

 

「マスター、少し言い過ぎたのでは?」

「ふん。あの程度で闘えなくなるのならその程度だっただけだ。それこそ「坊や」ではなく「お子ちゃま」だな。(しかしあのオコジョ、少し厄介な事になるかもな)」

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「ちょっと待ちなさいってばネギ」

 

ようやく追いついた明日菜だがネギは項垂れたまま泣いていた。

 

「うわああ~~~~ん。な、何も言い返せないなんて…僕はやっぱりダメ教師だ~~」

「そうか、あの二人っスね!?あの二人が兄貴を困らせている問題児なんスねーーっ。許せねえ、舎弟の俺っちがとっちめて来てやりまさぁ!」

 

そう言いながら何処から取り出したのかカモは釘バットを振りかざして走り出そうとする。

 

が……

 

「あのエヴァンジェリンさん、真祖の吸血鬼なんだ」

「故郷に帰らせてもらいやす」

 

夜逃げスタイルで立ち去ろうとする。

だが、そのしっぽを明日菜が掴んで逃がさない。

 

「逃げるんじゃないわよ、このエロオコジョ」

「そして隣に居た茶々丸さんがパートナーで、僕はあの二人に惨敗してるんだ」

「し、真祖の吸血鬼って言えば最強クラスの魔物じゃねえか。兄貴も良く生き残れやしたね?」

「うん、僕一人だったら今頃血を吸い尽されて死んでたよ。でも、タダオが助けてくれたから」

「タダオ?誰ですかい、それは」

「横島忠夫、GSの横島忠夫さんだよ」

「横島……何処かで聞いた様な……はっ!!」

 

その時カモの脳裏に浮かんだのはあの悪鬼の様に黒いオーラに包まれた男の姿だった。

 

「ア、兄貴……その横島って男はGジャン姿で頭に赤いバンダナを着けてなかったですか?」

「タダオを知ってるのカモ君?」

「………やっぱり故郷に帰らしてもらいやすっ!」

「ちょっとカモ君、何処に行くんだよ?」

 

再び逃走しようとするカモだがネギと明日菜の二人がかりで止められる。

その後、ようやく落ち着いたカモを加え三人でこれからの事を話し合う。

 

「どうしたらいいかなカモ君?」

(お、ひょっとしてこれは仮契約のチャンスかもしれねえな)

「そう言えば今あの子は魔力が落ちているって言ってたわよ。たぶん、次の満月までは大人しくしてるんじゃない」

 

明日菜のその説明にカモの目がキラーンと光る。

 

「そうか、吸血鬼だから月の満ち欠けに魔力が影響を受ける訳だな。そーゆー事ならいい手があるぜ」

「えっ!? 何かあの二人に勝つ手があるの?」

 

ネギと明日菜は驚きながら聞き返すとカモは薄笑いを浮かべながら答える。

 

「相手の片方…あの茶々丸って奴を二人でボコっちまうんだよ」

「二人でって、それはちょっと卑怯なんじゃ」

「卑怯じゃねえよっ!! 兄貴だって二人がかりで襲われたんだろ?やられたらやり返す。常識だぜ!!」

 

気乗りしないネギをカモは(けしか)けるが其処に明日菜が疑問を投げかける。

 

「でもどうやって?あの茶々丸さんも結構強いんでしょ?」

「其処はアレだ。ネギの兄貴と姐さんがサクッと仮契約を交わしちまうんですよ」

「ぼ、僕とアスナさんが仮契約!?」

「仮契約?ネギ、仮契約って何よ?」

 

明日菜の疑問にカモは目を光らせながら答えていく。頭の中は5万オコジョ$で一杯の様だ。

 

「仮契約っていうのは「魔法使いの従者(ミニステル・マギ)」になる為の契約の事っス。「魔法使いの従者」はマスターの魔法使いを守り、助ける代わりにマスターから魔力をもらってパワーアップする事が出来るんス。オマケにアーティファクトという魔法具も付いて来る特典もあるんスよ」

「いいわね、それ。やってみようかしら」

「やってくれやすか。な~に、簡単な事っスよ。兄貴とこうブチュ~ッとするだけで」

 

カモはジェスチャーでキスをする素振りをするが明日菜はそれを見てとたんに赤くなる。

 

「じょ、じょ、冗談じゃないわよ。何で私がキスなんかしなくちゃいけないのよ!?」

「あれ?姐さんひょっとしてキスはした事が無いんですか?」

「なっ!!」

「初めてなんじゃしょーがないっスよね。まあ、無理強いはしないっスよ」

 

カモはそう言い、口笛を吹きながら横を向く。

そんな態度にカチンと来たのか明日菜は顔を赤くしながらもその提案を受け入れる。

 

「わ、分かったわよ、やってやろーじゃない!! 何よ、キスくらい!!」

「よっしゃ、じゃあ気が変わらない内に」

 

そしてカモはすぐさま地面に魔法陣を描き発動させ、二人は魔法陣から噴き出す光に包まれる。

 

「な、何よこの光?(何だかちょっと気持ちいい)」

「じゃあ、アスナさん。お、お願いします」

「しょ、しょうがないわね」

仮契約(パクティオーー)!!」

 

明日菜はそう言うと戸惑いながらネギの額にキスをする。

 

「姉さん、おでこはちょっと中途半端な…」

「う、うるさい!! キスには変わりないでしょ!!」

「えーーーいっとりあえず仮契約成立!!『神楽坂明日菜』」

 

その叫びと共にネギと明日菜は眩い光に包まれる。

 

続く

 




(`・ω・)ストックも残り後二話。その次は何を晒そうかな?
G×S!はちゃんと完成させたいので少しづつだけど加筆修正中。


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九時間目「随分と仲が良さそうじゃないか by高畑」

 

翌日、街中のオープンテラスで横島は脹れっ面でコーヒーを飲んでいた。

その頬には真っ赤な手形が付いており、どうやらナンパに失敗したようだ。

 

「くそー、せっかくの日曜日。新たな出会いのチャンスなのに何故誰も相手にしてくれんのじゃ」

 

「ほう、ならば私が相手をしてやろうか」

「へ?」

 

声がした方に顔を向けると其処には何時の間にかエヴァと茶々丸が席に座っていた。

 

 

 

九時間目

「随分と仲が良さそうじゃないか by高畑」

 

 

「エ、エヴァちゃん?」

「どうした?この私が相手をしてやると言っておるのだぞ。もう少し喜んだらどうだ」

「いや、バインバインのお姉ーー様ならともかく、ワイはロリじゃないし」

「き、貴様っ!! こう見えても私は…」

「でもちょーど良かった。エヴァちゃんには聞きたい事があったんだ」

「聞きたい事、何だそれは?」

「『登校地獄』の事だけどもし、この麻帆良から出たらどうなるんだ?」

 

横島のその言葉にエヴァは顔を曇らせ俯き、体も小刻みに震えている。

 

「エヴァちゃん?」

「お前は酷い奴だな、そんな事を興味本位で聞くとは。いいだろう、教えてやる。もし、この麻帆良の地を出たり、学校をズル休みしたりしたらとてつもない激痛が体を襲うんだ」

「とてつもない激痛?……それってまさか、『両手両足がボキッて折れて肋骨にひびが入り、苦しくて蹲った所に小錦がドスンと落ちて来…』」

「止めろーーーーっ!!お、思い出させるなぁーーーーーーっ!!」

「マ、マスター!大丈夫ですか!?」

 

かつて味わったであろう激痛を思い出したのかエヴァは冷や汗をかき、息も絶え絶えで茶々丸に肩を抱き抱えられていた。

 

「だ、だが横島よ。何故貴様がそんなにも具体的にあの苦しみを言葉に出来る?」

「いや~~、実は以前ある事件での後遺症でそーいった激痛を味わった事があるもんで。何しろ生傷が絶えない職場やからな」

「そ、そうか…貴様も気苦労が絶えないんだな。同情するぞ」

「はははは…」

 

エヴァは心の底からそう呟き、横島も乾いた笑いを返す。

 

「そーいえばエヴァちゃんにはプレゼントがあったんだった」

「わ、私に…だと?」

「ああ」

 

そう言いながら横島は懐からピンク色の紙に包まれた薄い板の様なものを取り出してエヴァに渡す。

 

「(何だこれは?形からするとハンカチみたいな物か。まあ、それはそれでいいか)開けてみてもいいか?」

「勿論いいぞ」

 

少し照れながらも包みを開き中身を取り出す。

 

(布じゃ無い…紙か?)

 

折りたたまれていたそれを開き、そこに描かれていた物を確認するとエヴァの顔に青筋が立ちその手もブルブルと震えだす。

 

「横島…、何だこれは?」

「世界地図だけど?」

「……そう言えば貴様は別の真祖の支配下になった事があると言っていたな。…そいつの名は?」

「えっと、たしかブラドー伯しゃ…『この私をあんな化石脳味噌と一緒にするなーーーーーっ!!』どわーーーーっ!!」

 

地図を破り裂くと座っていた椅子を振り上げ横島に殴りかかる。ブラドー伯爵のボケ気味は何かと吸血鬼の間では有名らしい。

 

「何するんじゃーーっ!? エヴァちゃん!!」

「やかましいっ!! 大人しく殴られろ!!」

「嫌じゃーっ、痛いやないか」

「男ならその位我慢しろ!!」

 

そんな二人を茶々丸は静かに眺めていた。

 

(あんなに楽しそうなマスターは初めてです)

 

其処に、ネギ達はやって来てエヴァと話をしている横島を見つける。

 

「あれ、タダオ?エヴァンジェリンさんと何を話してるんだろう」

「何だか随分と仲が良さそうね」

 

ネギと明日菜はその光景を不思議そうに見つめるが、カモはと言うと……

 

「あ、あ、あ……あの兄さんは……、やっぱり俺っちは故郷に……」

「だから何でアンタはそんなに横島さんを怖がるのよ?」

「は、放してくだせぇーーーっ!!」

 

カモは涙顔で必死に逃げようとする。

あの病島(やこしま)はカモにとって結構トラウマだったらしい。

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

茶々丸は腕時計を見て時間を確認するとエヴァに話しかける。

 

「マスター、申し訳ありませんが用事がありますので少しお傍を離れてもよろしいですか?」

「ん、ああ構わんぞ。あまり遅くなる前に帰って来いよ」

「はい、ありがとうございます。マスター」

 

エヴァに一礼した茶々丸はそのまま何処かへと歩いて行く。

それを見送ったエヴァは横島に向き直り、ニヤリとほくそ笑み指を鳴らしながら近づいて行くが其処にタカミチがやって来た。

 

「おーい、エヴァ」

「ん、何だタカミチ。何の用だ?」

「学園長がお呼びだ。一人で来いだってさ」

「ちっ、仕方ないな。横島、話は今度だ。次は逃がさんからな」

 

エヴァは横島を指さし、そう言い残すと踵を返して高畑と一緒に歩いて行く。

 

 

 

 

「何だエヴァ。随分と横島君と仲が良さそうじゃないか」

「五月蠅い、貴様には関係ない」

 

タカミチと一緒に歩いて行くエヴァを見送った横島は「助かった」と呟くとすっかり冷めてしまったコーヒーを飲みほして何処かへと歩いて行く。

 

 

 

 

 

「チャンスだぜ兄貴、あの茶々丸って奴が一人になった。今の内にボコッちまおうぜ!!」

「ダメだよカモ君、此処じゃ人目があり過ぎるよ」

「な、何だか辻斬りみたいね。しかも相手はクラスメイトだし。でも、アンタやまきちゃんを襲った悪い奴なんだから何とかしないとね」

 

そうして茶々丸の後を付いて行くと、まずはコンビニで何かを買った様だ。

その後も、フーセンを木に引っかけて泣いている子供の為に取ってやったり、老人を抱えて歩道橋を渡ってやったり、子供達に懐かれていたりと悪い面は無く、むしろいい面ばかりが見えて来る。

 

とは言え、さすがにジェット噴射で空を飛び、ロボットだったと解った時には驚いたが。

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「お待たせしました。お食事ですよ」

 

茶々丸は教会の裏庭に辿り着くとおもむろにしゃがみ込み、コンビニの袋の中から猫缶を取り出すと何処からともなく数匹の猫が集まって来る。

 

「いい人だ~」

「ホントね」

 

ネギと明日菜はそんな茶々丸を見ていてホロホロと涙を流していた。

 

「何言ってんスか、アイツは敵なんスよ!それにネギの兄貴は命を狙われたんでしょ。しっかりしてくださいよ」

「で、でもカモ君…」

「デモもストもないっス!ここは心を鬼にして一丁バシーーッとお願いしやす」

「行きましょうネギ」

「ア、アスナさん」

「しょうがないわよ。このエロオコジョの言う通り、このままじゃやられるのを待つだけよ」

「…分かりました」

 

 

 

ゴーーン、ゴーーン、ゴーーン

 

教会の鐘が鳴り、食事を終えた猫達が帰って行くのを見届けた茶々丸だが後ろに二人の人影があるのに気がついた。

 

「…こんにちは、ネギ先生、神楽坂さん。油断しました、でもお相手はします」

「茶々丸さん、僕を狙うのはもう止めてもらえませんか?茶々丸さんの事見させてもらいましたがあんな優しそうな心があるのなら…」

 

ネギは最後通告とでも言う様にそう言うが茶々丸はやはり、それに応じようとはしなかった。

 

「申し訳ありませんが私にとってマスターの命令は絶対です。そのお願いには応えられません」

「そうですか…仕方ありませんね。(アスナさん、さっき言ったとおりにお願いします)」

「(上手くできるかどうか分からないわよ。まあ、全力は尽くすけど)」

 

人気のない教会の裏庭で二人は茶々丸と対峙する。

 

「じゃあ、茶々丸さん」

「…ごめんね」

 

「はい、神楽坂明日菜さん。…いいパートナーを見つけましたね、ネギ先生」

 

「…行きます!! 「契約執行10秒間!! ネギの従者『神楽坂明日菜』!! ラス・テルマ・スキル・マギステル」

 

ネギがそう叫ぶと明日菜の体にネギの魔力が流れ込んで来てその身体能力は大幅に活性化される。

 

(何これ?体が凄く軽い。まるで羽根が生えたみたい。これが魔力の効果なの?)

 

明日菜は茶々丸が繰り出して来る拳を打ち払い、攻撃を仕掛ける。

茶々丸も攻撃を受け止め、明日菜を倒そうとする。

 

「早い!? 素人とは思えない動きです」

 

 

 

 

「光の精霊11柱…集い来たりて……」

 

ネギは攻撃の為の呪文を唱えようとするがやはり、なかなか踏ん切りがつかない様だ。

そんな時、ネギの頭の中に先ほどカモの言われた言葉が浮かんで来る。

 

《兄貴、相手はロボなんだぜ。手加減なんかしたら兄貴がやられちまうっス!! 何度も言うようですが気持ちを切り替えて完膚なきまでにブチ倒さねえと》

 

「うう、ゴメンなさい茶々丸さん!!『魔法の射手・連弾・光の11矢!!』」

 

そして呪文は完成し、魔力で創られた幾つもの光の矢は茶々丸へと襲いかかる。

茶々丸は迫って来る魔法の矢に気付くがもはや避けきれず、自分が破壊される事を悟った。

 

「すいませんマスター。もし私が動かなくなってしまったらどうか猫のエサを…」

 

茶々丸が力無く呟いたその言葉はネギの耳に届いた。

 

「くっ…や、やっぱりダメだーーーっ!!『戻れ!!』」

 

ネギがそう叫ぶと魔法の矢は引き寄せられるようにネギに舞い戻る。

 

「んきゃーーーーーっ!!」

「ネ、ネギーーーっ!?」

「ア、兄貴ーーーっ!?」

 

「ネギ先生…何故…?」

 

茶々丸は自身を傷つけてまで魔法の矢を引き戻したネギを不思議そうに見つめるが、駆け付けて来る明日菜達に気付くとすぐさまその場を飛び去った。

 

「ああーー、逃げられた!?」

「ちょっとネギ!! アンタ一体何をしてんのよ!?」

「兄貴ーーー!! 何で矢を戻したりしたんだよ!? いくら魔法の盾で緩和出来るからって今のは無茶過ぎだぜ!!」

「魔法が思ったより強くて、それにやっぱり茶々丸さんは僕の生徒だし怪我をさせる訳には」

「甘いっ!! 兄貴は甘すぎるぜ!! いくら生徒だからって相手は兄貴を殺しかけた奴なんでしょう。生徒の前に敵っスよ、敵!!」

 

けたたましく責めて来るカモにネギは俯いているが其処に明日菜が話に割り込んで来る。

 

「でもさエロオコジョ、あの茶々丸さんやエヴァンジェリンも二年間私達のクラスメイトだったんだよ。本当に本気で命を狙って来るのかな?」

「甘いっ!! 姐さんも甘々っスよ!! さっき、まほネットでしらべておいたんスけどあのエヴァンジェリンって奴は15年前までは魔法界で600万$の懸賞金が懸けられていた元賞金首ですぜ。確かに女や子供を殺したっていう記録はねえが裏の世界でも未だに恐れられている極悪人だぜ!!」

「ちょっと、何でそんな奴がウチの学校に居るのよ!?」

「それは分かんねえけどよ、とにかく奴が本気で暴れ出したらどうなるか解ったもんじゃねえ。姐さんの友達にも危険が及ぶかもしれねえぜ?」

「マ、マジッ!? そんな事になるんなら仕方ないのかな?…ねえ、ネギ…」

 

明日菜はカモの言葉を聞いて申し訳なさそうにネギに向き直るが、

 

「そ、そんな事…そんな事言われたって……ぼ、僕…僕はどうすれば……うう、ぐすっ。…うわあああ~~~~~~んっ!!」

 

ネギは突如泣きだすと、杖に飛び乗り何処かへと飛び去った。

 

「ちょっとネギ、何処に行くのよーーーっ!!」

「兄貴ーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

そして、そんなネギの姿を少し離れた屋根の上で茶々丸は静かに見つめていた。

 

「ネギ先生……ネギ・スプリングフィールド。……貴方は一体……」

 

続く

 

 




(`・ω・)この時間軸ではまだ小錦は現役だという事で……


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十時間目「いいかネギ?後悔には二つある by横島」

良心の呵責から対決を放り出して逃げ去るネギを見つめる茶々丸。

そして飛び去って行くネギを見ていたもう一つの視線があった。

 

「ネギ?どうしたんだアイツ、こんな真昼間から」

 

 

 

十時間目

「いいかネギ?後悔には二つある by横島」

 

 

 

 

ネギはひたすら空を飛んでいた。いや、逃げていた。

 

(僕は、僕はどうすれば……僕のせいでみんなに迷惑が。もうこのまま何処かに行っちゃいたいな)

 

そんな風に考えていると前を良く見ていなかったのか、山の中に迷い込んでいた。

 

「でも何時までも逃げていたって…て、うわあっ!!お、落ちる~~~。ぶわっ!!」

 

気がついた時にはすでに遅く、ネギは木にぶつかった衝撃で杖から振り落とされ、そしてそのまま川の中へと落ちる。

川に落ちたネギは起き上がり、杖が何処に行ったのかと捜し回るが影も形も見つけられなかった。

 

「ぼ、僕の杖!何処にあるの?うう、そんなぁ~~。僕の大切な杖、あれが無いと帰れないし魔法だって使えない~~」

 

地面にへたり込んで涙ぐんでいると後ろの草むらからガサガサと草をかき分けて来る音が聞こえて来た。

 

「ひ、ひいい~~~!な、何?オオカミ?それとも熊?に、逃げなきゃ…あうっ」

 

ネギは其処から逃げようとするが慌てれば慌てるほどワタワタとうろたえ、顔から地面へと転んでしまう。そしてネギの耳に足音が聞こえて来る。

 

「僕なんか食べても美味しくないよ~~。た、助けて~~!!お姉ちゃ~~ん!!」

 

「…美味そうじゃないのは見れば分かる。それに…そうか、ネギには姉ちゃんが居るのか……美人か?」

 

「え、お姉ちゃん?お姉ちゃんは美人だけど…え…タダオ!?」

「よ!!」

 

ネギが振り返ると其処には何時の間にか横島が居て、右手を軽く上げて挨拶をしていた。

 

「何でタダオがここに?」

「いや~、ネギが飛んで行くのが見えたから着いて来たんだがお前、木にぶつかって落ちただろ」

「う、うん。考え事してたら前を良く見るのを忘れちゃって」

「何があったんだ?」

「そ、それは……」

「拙者も知りたいでござるな」

「うわあっ!!」

「どわあっ!!」

 

気配を殺して何時の間にか二人の後ろに居た楓であった。

 

「か、楓さん?」

「き、君は確か……(あの時のバトルモンガー予備軍)」

「ネギ坊主に横島殿ではござらぬか。奇遇でござるな」

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

その後、ネギは二人に問いただされるが横島だけならともかく楓が居るのでそのまま話す事は出来ずにただ、悩みがあるとだけ言っておいた。

 

「そうでござるか。まあ、悩める時に悩んでおくといいでござるよ。思いっきり悩んで悩み抜いて、それから出した答えなら間違いは無いでござろう。逆に悩まずに出した答えなら必ず何処かで間違えてしまう、拙者はそう思うでござるよ」

「そんな物でしょうか?」

「そ~ゆ~物だ。まあ、楓ちゃんの言う通り悩める内に悩んでおけ」

「それより二人共食事は済んだでござるか?」

 

楓がそう聞くと横島は腹に手を当てて空き具合を確かめる。ネギの腹からは思い出したようにグーと鳴る。

 

「そー言えばまだ昼飯を食って無かったな。ネギは?」

「僕もまだです」

「ならば今から一緒に岩魚でも獲って食べぬでござるか。丁度拙者も獲りに行く所でござるよ」

「そうするか。ネギ、お前も来い」

「え?は、はい」

 

ネギが答えるより早く楓は走り出し横島もその後を追う。

 

「ま、待ってくださーい!!」

 

楓は森の中、道なき道を飛び跳ねながら進んで行き、横島も女の子が通る所だからと別に気にせずに後を追っている。

ネギもまた置いて行かれない様に魔力を足に集中させてごく普通に後を追っている。

 

(ほほ~~。横島殿だけでなくネギ坊主もなかなかやる様でござるな。これは後が楽しみでござる。古菲には悪いでござるが横島殿とは一足先に拙者が手合わせをしてもらうでござるよ、ニンニン♪)

 

何気に楓の罠にはまっている横島であった。

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「さて、着いたでござるよ。此処なら岩魚は獲り放題でござる」

「うわー、魚が一杯居る」

「ほほー、中々だな」

 

楓が示す先にある川には沢山の魚が泳ぎ、ウエールズとはまた違う自然の姿にネギは目を輝かせている。

 

楓はクナイを使い魚を獲り、ネギはそれを真似しようとするが当然中々上手くいかない。

横島はそんな二人を後目にガチンコ漁(※禁止されています)で魚を獲って行くが楓に思いっきり殴られていた。

楓曰く、『それは邪道でござるよ』らしい。

 

山菜採りではネギがキノコを一つ二つと採って行く間に楓は16人に分身してあちらこちらで採って行き、横島も短時間でかなりの量を採っていた。

横島曰く、野草は薄給の彼にとって飢えから逃れる為の生命線らしい。

 

 

 

 

 

 

 

その後、三人は焚き火を囲み食事で腹を満たしていた。

 

 

 

「ふう~、美味しかった。お腹一杯です」

「満腹満腹、しかもタダなのがまたいい」

「あいあい♪ではそろそろ始めるでござるよ」

 

そう言うや否や、楓は横島に襲いかかる。

 

「どわあっ!か、楓ちゃん行き成り何を!?」

 

当然横島は避けるが楓の猛攻は続く、横島は攻撃を避け続け、楓が攻撃を繰り返す。

横島は猿神や小竜姫の指導を受けている為、霊波刀などを使わなくてもかなりの強さを秘めていた。

 

「思った通り中々の御仁でござったな」

「しまったぁーーーっ!!初めからこれが狙いやったんか、謀ったなーーーっ!!」

「何の事か解らぬでござるな、ニンニン♪」

 

そんな二人の闘い?をネギは眺めていた。

 

(二人共凄いなぁ。…僕もあんな風に強くなれれば、でも今の僕じゃ)

 

それから数時間、ようやく満足したのか楓は「いい汗を掻いたでござる」と言いながら額の汗を拭い、横島はうつ伏せに倒れて肩で息をしていた。

 

「さて、拙者は風呂の用意をして来るでござるから忠夫殿とネギ坊主は休んでいるでござる」

 

「あ、はい」

「言われんでも一歩も動けんわい」

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

そして空が夕闇始めた頃、ネギはドラム缶風呂に横島と一緒に入り夕焼けを眺めていた横島に話しかける。「男同士、積もる話もあるでござろう」と楓の粋な計らいらしい。

 

「ねえ、タダオ。僕は間違っていたのかな?」

「何が?」

「さっきは楓さんが居たから詳しく話さなかったけど僕は茶々丸さんをアスナさんと一緒に倒そうとしたんだ」

「……そうか…」

「確かに茶々丸さんはエヴァンジェリンさんと一緒に僕を襲って来たけどそれはマスターのエヴァンジェリンさんの命令だったんだし、逆らえなかったんだろうし…」

「お前は自分の意思で闘ったのか?」

「ううん。責任を擦り付ける気は無いけどカモ君っていう僕のペットというか使い魔というか、そのカモ君が最初に二人がかりで片方を倒した方がいいって」

「それで後悔してるって訳だな」

「……うん」

 

風呂の淵に寄りかかり項垂れているネギの頭に手をやり、横島は語りかける。

 

「いいかネギ?後悔には二つある」

「二つ?」

「そうだ。ああするしか無かったという後悔と、ああしなければ良かったという後悔だ」

 

哀しげな瞳で話を続ける横島をネギは見つめ、その話に耳を傾ける。

 

「ああするしか無かったという事は選択肢は一つしかないという事、もし他にもあったとしてもそれは絶対に選んではいけない物だ。そしてああしなければ良かったという事は他にも選ぶべき選択肢があったという事だ」

「……あっ!!」

「解った様だな」

 

(そうだ、行き成り闘いを嗾けなくてもまだ話し合いをする余地はあったんじゃないか?あんなにみんなに慕われてたし、猫の世話をする時だって…)

 

「そのカモとか言う奴の事はこの際どうでもいい。お前自身はどうなんだ?お前自身はどうしたいんだ?」

 

(僕のしたい事、僕は立派な魔法使いになりたくって…僕は、そうだ僕は!!)

 

ようやく迷いが晴れたのか、立ち上がったネギの目は晴れやかだった。

そして目を瞑り意識を集中させると頭の中に無くした杖が木に引っ掛かっている姿が浮かんだ。

 

(来い、僕の杖)

 

そう念じると杖は一直線にネギの手の中へと飛んで来た。

そしてネギは杖に跨り飛び立とうとするが…

 

「ありがとうタダオ!僕、頑張ってみるよ」

「頑張るのはいいが素っ裸で何処に行くつもりだ?」

「え?…うわあっ!!」

 

裸のまま飛び立とうとしたネギは慌てて服を着込むと改めて杖に跨って飛び去って行った。

 

「タダオー、楓さんによろしくーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

「何とか立ち直ったか」

「その様でござるな、しかし魔法使いとは本当に居たんでござるな」

「ばれると色々と面倒らしいから内緒にしてやってくれな」

「あいあい。では拙者も風呂をいただくでござる」

「ああ、丁度いい湯だぞ………へ?」

 

衣擦れの音が聞こえてきた所で横島はようやく誰と会話をしていたのかに気がついた。

そして、湯に浸かってる為とは違う嫌な汗が流れてきている事にも……

 

今すぐに振り返り、そのあられもない姿を見たい気持ちは山々だが相手は中学生という事実はさすがに彼の理性にストップをかける。

 

「ちょっと…か、楓ちゃん?」

「何でござるか?」

「今はワイが風呂に入っとるんじゃが」

「見れば分かるでござる」

「いや、分かってるんなら入ってきたらダメじゃろがっ!!」

「何故でござるか、これは拙者の風呂でござる」

「だからその風呂には男のワイが入っとるじゃないか、もっと恥じらいも持ちなさい!!」

「大丈夫でござるよ。ちゃんと水着は着てるでござる」

「そ、そうか。なら……ごぶはっ!!」

 

その言葉に安心して振り返るが彼は即座に後悔した。

なにしろ彼女は中学生には見えないプロポーションに際どい黒のビキニを着けただけの姿だったのだから。

 

 

 

「いやいやいやいやいやいやいやいや、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う、ドキドキしとらん、ドキドキしとらん、ドキドキしちゃダメだ、ドキドキしちゃダメだ、ドキドキしちゃダメだ、ワイはロリや無い、ワイはロリや無い、ワイはロリや無い、ロリはダメだ、ロリはダメだ、ロリはダメだ」

 

頭を抱え呪詛の様に呟く横島の肩に楓は手を置き耳元にそっと呟く。

 

「折角だから背中を流してあげるでござるよ。さあ、風呂から出て来るでござる」

「いやいや、いいからっ!! 女の子がそんな大胆な事をしちゃイカンッ!!」

「遠慮は無用でござる、さあ」

 

楓は慌てふためく横島の腕をとって引き寄せようとするがそうすると彼の腕は楓の胸に沈む事になる。

まさに横島にとっては地獄(ヘル)天国(ヘブン)でウィータである。

 

「ああ、腕に何やら温かくてやーらかいモンが。……嫌じゃ嫌じゃっ!!このままでは堕ちてはいけない所に堕ちてまう」

「何でござるか?コレがいいんでござるか、ほれほれ」

 

調子に乗った楓は横島の背中に自分の胸を擦りつけて行く。

 

「いーーーーーーーーーーやーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 

その横島の雄たけびは星が瞬き始めた空に虚しく木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、エヴァのログハウスでは。

 

「茶々丸、何かあったのか?少し様子が変だぞ」

「い、いえ、何もありませんマスター」

「そうか、ならいいんだがな。クチンッ!くそっ、始まったか。全く忌々しい」

「マスター、今日はもうお休み下さい」

「そうだな、そうさせてもらおう。クチンッ!!」

 

部屋に上がって行くエヴァを見送った茶々丸は窓から空を見上げネギの言葉を思い出していた。

 

『茶々丸さん、僕を狙うのはもう止めてもらえませんか?茶々丸さんの事見させてもらいましたがあんな優しそうな心があるのなら…』

 

 

「ネギ先生……私はガイノイド、私には心など……」

 

一人呟いたその言葉を聞く者は誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、美神除霊事務所では……

 

 

パキンッ

 

「ああっ!! 横島さんのお茶碗に罅が」

 

 

続く…かな?

 

 




(`・ω・)ネギが茶々丸を襲ったという告白ですが横島はあえてネギを責める様な事は言いませんでした。
ネギが心底後悔してる様でしたからね。もっとも実際に目にしていたら本気で怒ってただろうけど。

(・ω・)そして、尻切れトンボですがまたまたストックが切れてしまいました。
スクナとの戦いの場面では書いて見たい話があるので何とか続きを書こうと思いますので気長にお待ち下さい。
次回からは天地無用とのクロスを晒そうと思います。


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「真・天地無用!魎皇鬼 GS・Y!」
第一話「最終決戦!」


(`・ω・)何故、真なのか?それは元々の旧バージョンとは設定を大きく変えているからです。


『グヲヲヲヲーーーーーーッ!!』

「くそったれっ!厄介なバリヤーを貼りやがって!」

 

美神と同期合体した横島とピート達GSメンバーは究極魔体と同化したアシュタロスと戦っていたが、究極魔体の全身を覆っているバリヤーは彼等の攻撃を悉く無効化していた。

その《時空間バリヤー》は、受けた攻撃をそのまま別の宇宙へと受け流す事で無敵の防御力を持っていたのである。

 

『これじゃいくらやってもキリがないじゃない!せめてベスパの言っていた綻びが塞がってなけりゃ…』

 

霊力制御役として肩の宝玉の中でブツクサ言っている美神のぼやきも当然であろう。

ルシオラに変化したベスパの叱責に応えた横島は上級神魔族級のパワーを発揮して攻撃を続けるがそれでも究極魔体のバリヤーは揺らぎもしなかった。

本来であれば魔体の後ろ側に綻びがあった筈なのだが、魔体から放たれる想像以上のパワーはその穴を塞いでしまっていたのだ。

 

『グヲヲ。滅ビ、滅ビヲ、滅ビタィ……滅ビロォーーーーーーッ!!』

 

 

                第

                一

              最 話

              終 

              決

              戦

              !

 

 

―◇◆◇―

 

究極魔体の叫びと共にその砲身に光が集中し、遂に東京に向かって巨大霊波砲が放たれようとしていた。

その威力は一つの島を破壊してなお威力を落とさないほど絶大で、オカルトGメンが総力を挙げて張り巡らせた結界でも防ぎきれないのは明らかだった。

そして、今あの場所には飛行能力が無い為に待機している仲間達がいる。

 

「くそっ!」

「え?ち、ちょっと横島クン。アンタ、何を…」

『横島さん!何処に行くのねーーっ!?』

 

横島は最悪の場合を考え、美神を巻き込むまいと同期合体を解くと、【飛/翔】の双文珠で飛び出して行く。

重力に引かれて落ちる美神をヒャクメが支え、彼女も横島の名を呼ぶが横島はその声が聞こえないのか魔体を睨みつけたままその眼前に立ち塞がり、ありったけの力でサイキック・ソーサを作り出す。

何があろうともこの破滅の閃光を此処から先へは通さないと言う様に。

 

彼はルシオラを喪ったばかり、だからこそこれ以上誰かを奪われる訳にはいかなかった。

護りたい、失いたくない、その強い想いが彼の内にある秘められた力を呼び起こし、サイキック・ソーサーは光と共にその姿を変えていく。

 

遂に放たれた超霊波砲、その光の中に飲み込まれようとしていた横島を見て誰もが悲鳴を上げた。

 

「や、ら、せ、る、か……よぉーーーーーーーーーっ!」

 

しかしその凶悪なまでの破壊力を秘めた光の奔流は彼を飲み込む事は無かった。

横島の霊波盾(サイキックソーサー)…否、《光鷹翼》は眩い限りの光を放ち、超魔力砲を何の苦も無く受け止め、横島のその額には一筋の光がまるで紋章の様に輝いていた。

 

「これで終わりだ!くたばりやがれ、アシュタロスーーーーーーーッ!」

 

そう叫ぶと光鷹翼は光り輝く剣、《光鷹真剣》へと物質変換を成して横島の手に握られる。

そのまま振り下ろされた光鷹真剣に切り裂かれた超霊波砲はそのまま光の粒となって消えて行った。

 

『グヲヲヲヲヲーーーーーーーーーーッ!』

 

横島のその一閃は驚くべき事に超霊波砲だけでは無く、額のアシュタロスごと究極魔体を真っ二つに切り裂いていた。

その存在を世界の(ことわり)に縛り付けられた鎖と共に……

 

 

 

「「「「「「なっ!?」」」」」」

 

その光景を美神達は呆然としながら眺めていた。

特にヒャクメはまるであり得ない物を見たかの様に正に全身の眼を見開いている。

 

「ど、どうしたのよヒャクメ?」

『あ、ありえない……ありえないのねーーーーーっ!』

「な、何がよ?」

『横島さんの霊波刀、あの波動とあの力。私の眼で見てもその存在が確認出来ないのね。存在する筈の無い力、でも其処には確実に存在している、何が何なのか訳が解らないのねーーーーーっ!』

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

切り裂かれた究極魔体は光の粒となりながらゆっくりと消えていき、その額のアシュタロスは敗北したにも関わらずに笑顔を浮かべていた。

 

《これでやっと滅びる事が出来る。これでやっと終わる事が出来る。……すまなかったな小僧……いや、横島忠夫よ。本当に……ありが…とう…》

 

理性を捨てたはずのアシュタロスではあったが、今際の際に光鷹真剣の力によって世界に縛り付けられていた鎖から解き放たれた事を悟り、最後にそう呟いて横島に詫びていた。

 

「ありがとう……だと?ふ、ふざけるな…」

 

「ふざけるんじゃねえーーーーっ!バカ野郎ーーーーーーーっ!」

 

横島が怒りと悲しみの咆哮を上げると手にしていた光鷹真剣は、まるで役目を終えたかの様に消え去り、元の霊波刀へと戻っていった。

 

 

こうして、一つの闘いは終わりを告げた。

 

 

=続劇=

 




(`・ω・)と言う訳で改訂版の一話目でした。
本当は天地と同様に真・光鷹真剣を使わせようと思ったのですが文珠だけでなく完全版の光鷹真剣まで使えたら天地の影が薄くなる程度じゃ無くなるなと言う事で「異世界の~」の剣士の様に霊波刀をベースに光鷹真剣を発動したと言う形に変更、ゆえに横島が使える光鷹翼は今の所一枚だけです。
何故、横島に樹雷の力があるのかは次回に発覚。
後、アシュタロスの最後のセリフは神我人のマネをオイラなりに放り込んだ結果ああなりました。


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第二話「瀬戸と水穂と兼光と」

後に魔神大戦と呼ばれる戦いは人類側の勝利で終りを告げ、アシュタロスの宇宙改革装置(コスモプロセッサ)による次元宇宙転覆の危機は去った。

その一連の戦いを樹雷皇家第二世代艦「水鏡(みかがみ)」の中で見つめていた存在が居た。

樹雷最高評議会の一人でもあり、樹雷の裏の最高権力者と言われている「神木・瀬戸・樹雷」である。

 

 

 

             第

             二

           瀬 話

           戸

         水 と

         穂

       兼 と

       光

       と

 

 

 

 

「とりあえずこれであの次元宇宙の危機は去った様ですね」

「ええ、しかしその代償は決して軽い物では無いでしたが……」

 

そして彼女の後ろには神木家第七聖衛艦隊司令官で、「瀬戸の剣」と呼ばれる「平田兼光」と神木家第三艦隊司令官兼情報部副官で、「瀬戸の盾」と呼ばれる「柾木水穂」の二人がそう語る。

 

「そうね、忠夫ちゃんにも辛い思いをさせちゃったし百合子ちゃんも母親として辛かったでしょうね」

「我々が出向き、彼奴(きゃつ)めを倒せばあの様な悲劇を起こさずに済んだのでしょうが」

「ですが倒すだけでは世界の理に囚われている彼の者はすぐに復活してしまう。だからこそ、滅ぼす事が出来る忠夫殿に全てを託すしかなかった。それ故に瀬戸様もご息女の百合子様を人柱として彼の世界へと送られたのですから」

 

もし、アシュタロスによって宇宙変換がなされれば全ての平行宇宙がその影響を受けてしまう、その対抗策としてアシュタロスを倒し得る力を持つ横島を誕生させる人柱として瀬戸の実の娘である百合子をGS世界へと送った。

それ故に横島は樹雷の力を使えたのである。

 

兼光はGS世界を映し出すモニターから横島を何とも言えない様な表情で見つめながら思う、人柱となったのは百合子では無く彼ではなかったのかと。

確かに彼の世界は救われ、その他の平行世界の危機も取り除かれたがその結果、彼のみが悲しみと苦しみを背負う事となったのだから。

 

そう、ただの自己批判と分かっていながらも懺悔をしていると何処か楽観的な声が聞こえて来た。

 

「そうだ、いーー事考えた♪」

「「うえっ!」」

 

瀬戸のその声に兼光と水穂の二人は顔を顰める。

当然であろう、彼女の良い事とは間違いなく他人にとっては確実に迷惑な事なのだから。

 

「令子ちゃんが言っている様にルシオラちゃんは忠夫ちゃんの子供として生まれて来る筈だから折角だし私が産んであげましょう♪」

「は、はぁ?………」

「なっ、なななななななな、何を言っているんですか瀬戸様!」

 

兼光は呆れた感じで溜息を付き、水穂は慌てて責める様に言う。

 

「あら、どうしたの水穂ちゃん。何か問題でもある?」

「も、も、問題だらけです!」

「ふ~ん。だったら水穂ちゃんが産む?」

「ふえぇっ!」

 

そう返された水穂は顔を真っ赤にしてうろたえる。

何しろモニター越しとはいえ、子供の頃から長年見ていた相手であり、言うなれば美神やおキヌ達よりも横島の事を熟知している。

その煩悩は父親譲りで一言で言えばスケベで一見女の敵とも言える行動をとる事もあるがその本質は優しく、怖がりで痛がりでありながらも誰かの為に戦う事が出来る強さも持っている。

特に霊能力を得てからの彼の成長は凄まじく、トップクラスのGSにまで成長してアシュタロスとの戦いでも常にその中心に居た。

敵である魔族の女性と恋に落ち、その女性を救う為に魔王に戦いを挑む。

もし、御伽噺や英雄譚であればどんな少女でも一度は憧れを抱くであろうがあれは物語などでは無く紛れもない現実、別離の時の慟哭は瀬戸ですら涙を流す程であった。

そんな彼を見守る内に水穂は何時の間にかその胸の内に淡い想いを抱く様になっていたのである。

 

もっとも瀬戸はその事にはとっくの昔に気付いており、先程の発言も水穂を挑発する意味合いがあったのだ。

まあ、六割方は本気なのだろうが………

 

「兎に角、しばらくはそっとしておいてあげましょう」

「いや、しばらくなどと言わずにこのまま関わらないでおいた方が彼の為なのでは」

「だ、そうだけど水穂ちゃんはそれでいいの?」

「うう~~~」

 

水穂もその方が良いとは思ってはいるが、一刻も早く横島に会いたいというのも偽らざる本音である。

 

「まあ、会いに行くか迎え入れるかは追々考えるとして今日の所は樹雷に帰るとしましょう」

「了解しました」

「忠夫殿、何れお会いする日を待っています」

 

そうしてGS世界を見ていた次元モニターを閉じ、水鏡は樹雷星へと帰還していった。

 

 

 

 

だが、目を離していた隙にあの様な事が起きるとは流石の瀬戸にも気付く筈が無かったのである。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

一連の事件が過ぎ去って数ヶ月、横島もルシオラの事に一応の折り合いを付けて世界はゆっくりと元の日常を取り戻しつつあった。

 

そんなある日の事、横島忠夫は朝から焦っていた。

寝坊をしてしまった為に事務所への出勤時間に遅刻しそうなのだ。

 

『横島よ、早くせぬと遅刻だぞ』

「わーっとるわい!くそー、今日遅刻したらまた時給を下げられる!!」

『だから目覚ましの電池を変えておけと言っておいたであろう』

「その電池を買う金が無かったんやからしゃーないやんか!みんなビンボが悪いんやーーーっ!!」

 

そんな彼と会話しているのは頭に巻いてあるバンダナに宿っている“心眼”。

 

今現在、彼の体の中の『力』を制御する為に再び小竜姫に与えられた竜気で現界した存在である。

二代目ではあるが、横島の体の中に以前の心眼の竜気が僅かながら残っていた為に記憶などを受け継ぎ、基本的な人格は初代とほぼ変わりは無い。

そして美神達の待つ事務所へと行く為に部屋から一歩を踏み出したその瞬間…

 

「あれ?」

『どうした横島?』

 

何故か部屋の外へと踏み出した筈の横島の足元には雲海が広がっており、ニュートンが発見した万有引力が遥か彼方の地面から「おいでおいで」をしており、横島の体は物理法則に従って落下を始めたのであった。

 

「何や、それはぁ~~~~~~~~~~~~~っ!?だから物理は嫌いなんやーーーーーーっ!!」

 

横島は何処かのピンクなショックで聞いた様なセリフを叫びながら一直線に落ちて行く。

 

其処に居る、彼らへの元へと………

 

 

=続劇=

 

 




(`・ω・)と、ゆー訳で横島が樹雷の力を使えるのは樹雷皇家である瀬戸の孫だという本作独自の設定だからです。
しかし百合子が瀬戸の娘であるという無理やりな設定であるのに違和感を感じないのはオイラだけであろうか?

(・ω・)何故、瀬戸達がアシュタロスの企みを知りえたのか?
それはアシュタロスが「宇宙のタマゴ」を作り出した事による次元干渉が切欠です。


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第三話「横島来襲!?」

(`・ω・)パソコンがあぽんしてたので更新が遅れました。

おのれ、ゴルゴム!


 

カチカチカチ・・・・・・

 

時は少しだけ巻き戻り、此処は異空間にある鷲羽の研究室。

辺りには鷲羽の叩くキーボードの音だけが響いていた。

 

《白眉鷲羽》

見た目は10代の少女であるが実は2万歳を超える自称宇宙一の天才科学者。

五千年の間、かつての助手であった神我人(かがと)に封印されていたが、無事復活を果たし今では悠々自適の研究生活を送っている。

(研究対象とされる側にして見れば、はた迷惑な話だが)

 

「う~ん。ここがこうなってと…」

 

鷲羽がデーターの整理に集中していると、其処にアレがやって来た。

 

「鷲羽さ~ん、おやつ持って来ましたよ~、一緒に食べましょ~」

「うるさいわねーー、一人で食べて……って美星!?」 

 

処にやって来たのは九羅密美星。

GP(ギャラクシーポリス)の1級刑事で、現在は地球を活動の拠点としている。

様々なトラブルを持ち込む危険人物ではあるが、トラブルを解決する切っ掛けにもなる、役に立つのか迷惑でしかないのか良く分からない人物でもある。

 

「あれ~。これってなんですか~?」

 

そう言いながら美星は、ふと目に付いたボタンを押そうとする。

 

「アンタは触るんじゃないわよ!だいたい何でいつも何重にも掛けているプロテクトを突破して此処に来るのよ?」

 

 

答え・美星だからです。

 

 

「……誰の声よ、今のは?…と、それより早く此処から…」

「ポチっとな!」

 

出て行きなさいと言う前に美星の指は吸い込まれるように一つのボタンを押していた。

 

「あ、アンタって娘は……とことん酷い目に合わなけりゃ解らないようね……」

 

そう言って鷲羽は空間にパネルを呼び出しスイッチを入れる。

すると無数のマジックハンドが出てきて美星を拘束し、最後に出てきたハンドが美星のお尻を叩き始めた。

 

「あ~~れ~~!」

 

パーン!パーン!パーン!パーン!

 

「え~~ん、ごめんなさ~~い!!」

 

美星の悲鳴を聞きながら鷲羽はシステムのチェックを始めた。

 

「どうやら何も起こらなかったみたいね。まったく一時はどうなるかと」

 

 

 

 

 

 

しかし、鷲羽の考えは甘かった。

 

美星が鷲羽のメカをいじって……

 

何も起こらないはずがなかった!!

 

 

 

 

            第

            三

          横 話

          島

          来

          襲

          !?

 

 

―◇◆◇―

 

その頃、青空の下で一人の青年が爽やかな汗を流しながら鍬を振るっていた。

 

《柾木天地》

彼は数ヵ月前までは何処にでも居る様な普通の高校生だったのだが、柾木神社の近くにある祠の封印を興味本位で破ってからは押し寄せて来る様々なトラブルの為に慌ただしい日々を送っている。

 

現在は学校には通っておらず、最近では家の近くの人参畑を耕すのが日課となっている。

実は銀河連合でも最大規模を誇る“樹雷(じゅらい)”の四皇家の一つ、柾木家の直系。

 

「天地兄ちゃーん、お弁当持って来たよー!」

「ミャーン、ミャーン!」

「ふうっ。ありがとう砂沙美ちゃん」

 

笑顔を振りまきながら砂沙美と呼ばれた少女が駆けて来る。

 

《柾木・砂沙美・樹雷》

彼女は樹雷皇家、第二皇女で姉の阿重霞が行方不明になった兄の遙照を捜す為に樹雷星を飛び立とうとした際に彼女の船、《龍皇》に密航して着いて来たのである。

今では柾木家の家事全般を仕切る、まさに縁の下の力持ちであった。

そんな彼女の肩に乗っているのは魎皇鬼。

見た目は兎みたいな動物だが、実は宇宙船の生体コンピューターユニットでもあり、辺り一面に広がる人参畑は“彼女”の為の物なのである。

 

天地は汗を拭きながら砂沙美の所まで行くと腰を下ろした。

すると、其処に。

 

「ほら、天地~。美味そうだろ、ほらあ~~ん♪」

 

砂沙美が水筒から冷えた麦茶をコップに注いでいるとテレポートで現れた魎呼が天地の首に手をまわし、砂沙美が作って来たサンドイッチを食べさせようとしている。

 

《魎呼》

彼女こそが柾木神社の祠に封印されていた存在である。

白眉鷲羽によって創られた人工生命体で、鷲羽が封印されていた間は神我人に操られるままに海賊行為を重ねていた。

樹雷本星を襲った時に樹雷第一皇子の遙照と戦闘になり、その後地球での闘いで力の源である三つの宝玉を奪われ、この地に封印されたのである。

 

祠に封印されている間はアストラル体で外に出ていて、その際に少年時代の天地と出会っており(天地は知らないが)彼を見守っている間に強い恋心を抱く様になっていた。

 

「ちょっと魎呼さん。天地様に何なれなれしくしてるんです。それは私の役目です」

 

そして其処に、阿重霞が二人の間に割り込んでくる。

 

《柾木・阿重霞・樹雷》

樹雷の第一皇女で砂沙美の姉である。

700年前に樹雷を襲った魎呼を捕える為に行方知らずになった兄、遙照を捜し、地球に辿り着いたが、ようやく出会えた兄、遙照は既に地球人として暮らし老人となっていた。(その姿がカモフラージュである事には気付いていない)

そんな中でかつての兄への想いが憧れに過ぎなかった事に気付き、今では天地への想いが全てにおいて最優先されている。

 

「何だと!お前こそ引っ込んでな。天地はあたしに食べさせてもらいたいんだよ」

「そんな事はありません。天地様は私に食べさせてもらいたいにきまってます」

「ふっふっふっふっふっ」

「おほほほほほほほほほほ」

 

 

第一ラウンド開始!

 

 

そんな二人の小競り合いを眺めながら天地と砂沙美は軽く溜息を付く。

 

「はあ……。また始まったか」

「あはは、まったく相変わらずだね。お姉様達は」

「そうだね、仕方ないお姉ちゃん達だね」

「ミャンミャン」

 

そんな時、彼等の遥か頭上から何やら声の様なものが聞こえて来た。

 

 

 

「ぅゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 

 

「ん?ねえ、天地兄ちゃん。何か聞こえない?」

「そう言えば何か叫び声みたいなのが…」

 

 

 

「ぅゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 

「な、何か変だよ。お空の上から聞こえてくるよ」

「ああ、確かに」

 

 

 

その頃、天地達の遥か上空では……

 

 

 

 

 

 

「どわああああああああああああ、な、何が起こったんじゃーーーー!? 心眼、何か分からんか!?」

『いや、我にも何が何だか訳が分からん。部屋を出たと思ったら、いきなり空の上にいたのだからな』

 

我等が横島忠夫が目から涙、鼻から鼻水を撒き散らしながら地面へ向かって全速力で自由落下をしている最中であった。

そして、そんな二人が何故行き成りこの世界に、そして上空に放り出されたのか?

そう、説明する必要もなく美星が鷲羽のメカを弄った事が原因である。

恐るべきは『偶然の天才(天災?)』

 

「し、死ぬ。このままでは真っ赤なトマトになって死んでまう!!」

『落ち着かぬか、お前には文珠があるであろう』

「あ、そうやった」

 

そしてその頃地面では砂沙美と天地は上空から人が落ちて来ると言う事態に慌てふためいていた。

 

「天地兄ちゃん!やっぱり誰か落ちて来るよ!!」

「な、何とかしなきゃ。おい、魎呼…魎呼ってば!!」

 

この事態を何とかしようと魎呼を呼ぶものの……

 

「天地はあたしんだ!さっさと樹雷に帰れ!!」

「貴女こそ海賊らしく宇宙の旅にお出になりなさい!!」

 

その声は聞こえないらしく頭上で両手を合わせて力比べをしていた。

 

「お姉様、魎呼お姉ちゃん!二人ともケンカなんかしてる場合じゃないよ!!」

「早く、早く何とかしないと」

「ミャンミャーーン!!」

 

 

 

―◇◆◇―

 

『早くせぬか、地面はすぐそこだぞ!』

「よし、文珠が出たぞ。後は【柔】と書きこんで、地面に…」

 

投げつけようと体を下に向けると………

 

「あれ?……」

 

横島のすぐ目の前には地面があったそうな。

 

「そうなじゃねぇーーーーーっ!」

 

そして、地の文にツッコミを入れた横島はけたたましい轟音と共に地面へと激突し、そしてようやく魎呼と阿重霞は事態に気付いた様だ。

 

「な、何だ!?…なあ天地、何があったんだ?」

「天地様?」

「あ、あのなあ…二人とも……」

「てっ、てっ、天地兄ちゃん!」

「どうしたんだい、砂沙美ちゃん?」

「あ、あれ…穴の中で何か動いてるよ…」

 

土煙がおさまり、天地達が落下場所である人参畑に出来上がったクレータへとやって来て、砂沙美が指さす方に目を向けるとモコモコとクレーターの中の地面が蠢いて土が盛り上がったかと思うと。

 

ボコオッ

 

と、人影が現れ、

 

「あ~~、死ぬかと思った」

 

地面からはい出した横島が呟いた。

 

『何故生きてる!?』

 

そんな光景を見ていた全員の気持ちが一つになった瞬間であった。

 

 

=続劇=

 




(`・ω・)横島が無事だったのは落下の直前に発動した【柔】の文珠が地面を柔らかくしたからでしゅ。
まあ、原作のアレも無事だったのはマリアが護ってくれてたからだし。


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第四話「鷲羽ちゃんが見ている」

「ねえお兄ちゃん、ほんとに大丈夫なの?」

「心配してくれてありがとう。俺なら大丈夫だよ、慣れてるからね」

 

砂沙美は横島に麦茶を差し出しながら聞き、横島も麦茶を受け取りながら答えた。

 

「……慣れてるとかそういう問題じゃねえだろ。何者だコイツ?」

「さあ、悪い方には見えませんけど」

「ま、まあ、ともかく自己紹介をしようよ。俺の名前は柾木天地、君は?」

「俺は横島忠夫だ」

「私は砂沙美だよ。そしてこの子は魎皇鬼っていうの」

「ミャ~~ン、ミャ~~ン」

「な、何か泣いてるみたいだけど…」

「ああ、それは……」

 

天地は苦笑いしながら無残な姿になった畑を指差した。

其処には横島が落下した際に出来上がったクレーターがあり、辺り一面にはボロボロになった人参が散乱していた。

 

 

 

 

          第 

        鷲 四

        羽 話

        ち

      見 ゃ

      て ん

      い が

      る

 

 

 

 

「この畑は魎ちゃんの大好物の人参を育ててたの」

「ミャ~~ン、ミャアァ~~ン」

「そっか。俺が落ちて来たから畑がメチャクチャになった訳か」

「しかし、何でおめーは空から降って来たんだ?」

 

魎呼は宙に浮きながらそう聞くが、天地はその行動を諫める様に声を上げる。

 

「魎呼!一般人の前で人間離れした行動をとるなと何度言えばわかるんだ!!」

「うっせーな。いいじゃねーか、別に」

「いや~、こんな所でお嬢さんのような綺麗な方に出会えるとは今日はいい日だな~」

 

天地はうろたえながら横島を見るが当の横島は、毎度のごとくナンパをしかけていた。

 

「おっ!おめー中々見る目があるじゃねーか。忠夫とか言ったな。あたしは魎呼ってゆーんだ、よろしくな」

「あ、あれ?人が浮いてるのに驚かないのか?」

「別に驚く様な事じゃないだろ。俺の知り合いにだって…」

『しかし横島よ、この者は魔族でも神族でもないようだぞ』

「うわあっ!バ、バンダナから目が…。な、何なんだい忠夫君、そのバンダナは!?」

 

心眼は魎呼が魔族や神族で無いと見抜き、横島にそれを伝えるが突然バンダナに現れた瞳を見て天地は驚いて尻もちをついた様だ。

 

…と言うより、非日常に慣れているお前が驚いてどーする。

それとは逆に、阿重霞はごく普通に心眼を見つめている。

 

「見たこともない生命体ですね。それとも人工的に作られた物でしょうか?」

『我が名は心眼。作られた存在と言って過言ではない。まあ、横島の使い魔とでも見てくれて構わぬ』

「それなりに頼りになる相棒だよ。それより君は?」

「あっ。申し訳ありません、自己紹介が遅れましたね。私は砂沙美の姉で柾木・阿重霞・樹雷と申します。以後、お見知りおきを」

「僕は横島忠夫、こちらこそよろしくお美しいお嬢さん」

 

阿重霞が一礼を済ますと横島はとてもイイ笑顔でその手を掴み、自己紹介をする。

この男にとってナンパは美女への礼儀といって過言ではないのだから仕方ないと言えば仕方ない。

 

「まあそんな、美しいだなんて」

 

阿重霞は頬を赤く染めながらもごく普通に対応した。

天地という想い人が既にいる為、横島のニコポは発動しなかったらしい。

だが、そんな態度が気に入らないのが魎呼。

自分の事を綺麗と言っておきながら今度は阿重霞に美しいと言う横島に当然魎呼はいきり立つ。

 

「ちょっと待て!おめー、さっきはあたしの事を綺麗だっていってなかったか」

「あら、魎呼さん。貴女は社交辞令というものをご存じないようですね」

「何だとコイツ!!」

「やりますか?」

「やらいでか!!」

 

 

第二ラウンド開始!!

 

 

「お、俺のせいか?」

『他に誰の責任だと言うつもりだ』

「まあ、いつもの事なんだけどね……」

 

「ミャ~~ン……」

「ん?」

 

横島は魎皇鬼の鳴き声が聞こえて来た方に顔を向けてみると、魎皇鬼がクレータの端で今だ泣いており、砂沙美に慰められていた。

 

「ミャ~~ン、ミャァァ~~ン」

「魎ちゃん、諦めようよ。もう仕方ないじゃない」

 

横島はそんな砂沙美達の所まで行くと魎皇鬼の頭を撫でながら話しかけた。

 

「魎皇鬼…だったな。今すぐに元に戻してやるからもう泣くのはやめな」

「…ミャ~ン?」

『待て横島。お前まさか』

「こんなに泣いてるんだ、可哀想じゃないか。さてと、ちょっと待ってろよ」

「ミャン?」

「直すってどうやって?」

「こうやって」

 

そう言いながら文珠を二つ取り出し【修】【復】と刻み込むと、クレータの中に放り込んだ。

すると二つの文珠は凄まじいまでの光を放ち、辺り一面を覆う。

 

「ミ、ミャン?」

「な、何、この光は?」

 

そして、眩い光が収まると其処には元通りの人参畑があった。

 

「ミャアァァァーーーーン!♪」

「ほえ~~、す、……すごーーーい!忠夫兄ちゃん凄いよーー!!」

「こ、これって…。忠夫君、一体何をしたんだい?」

「ミャンミャンミャン♪」

 

魎皇鬼は、元に戻った人参畑を見ると大喜びではしゃぎ回り、横島の肩の上に駆け登ると頬ずりしながら甘えてくる。

砂沙美は驚きながらも感動し、天地はあり得ない出来事に愕然としていた。

だが心眼はそんな横島の迂闊な行動を諫める様に叱責する。

 

『どうするつもりだ。こんな所で文珠を見せてしまって』

「仕方ないだろ、やっちまったもんは」

「た、忠夫君。君って一体誰なんだ?」

 

 

 

―◇◆◇―

 

そして、その様子は異空間の鷲羽の研究室でモニターされており、横島が文珠を使っている場面を何度か再生しながら鷲羽は一人呟く。

 

「あの子が持っていた珠からは、かなりのエネルギーか感知されていたわ。そして珠には二つ合わせて『修復』と書かれていた、つまりはあの珠には刻み込まれた文字を事象として具現化する力があるという事ね。…ふふふふふふふふふふふふふふふ…面白くなってきたじゃない」

 

怪しい(わらい)声を上げる鷲羽のその顔には、浮かべてはいけない笑みが浮かんでいた。

 

 

 

ゾクウッ

 

 

 

『どうした横島?』

「い、いや…な、何か背筋に悪寒が走った感じがしたんだが……気のせいかな?」

 

(いや、それは間違いなく気のせいじゃない。…見ていたんだろうな、鷲羽ちゃん)

 

天地は無駄だと知りつつも苦笑いを浮かべながら横島の無事を祈った。

 

 

 

そしてその頃……

 

 

 

キュイイイイイイーーーーーン!

 

皇家の樹、船穂から幾重もの光が放たれていた。

 

「ん?船穂……何かいい事があったようじゃな」

 

キュイイイイイイイーーーーーーーーン!

(ヨウコソコノ次元ヘ、ヨコシマタダオ)

 

 

 

 

「いや、ようこそと言われても」

「ミャン!」

 

 

=続劇=

 

 

 

 

 

 

 

「へ~~ん、も~う~ゆ~る~し~て~~!」

 

美星へのお仕置きはまだ続いていた。

 




(`・ω・)天地側は時間的にOVA2期が始まる直前といった感じです。
美星レポートは提出済なので横島の存在はGPや樹雷(水鏡のクルー除く)にはまったくのイレギュラーです


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第五話「勝仁との語らい」

 

此処は高位次元空間にある訪希深(ときみ)謁見の間。

キーやんとサっちゃんの前には天地世界の次元管理者、D3が居た。

 

 

突如横島の存在が世界から消えた為、GS世界はまさに混乱の中にあった。

神魔正規軍は反デタント派が何かをしたのかと思い、反デタント派は神魔正規軍が横島を何処かに隠したと思い、睨み合いが続いていた。

 

ぶっちゃけハルマゲドン突入寸前だったのである。

 

そんな時、GS世界の次元管理者であるG5から最高指導者(ちゅうかんかんりしょく)の二柱に召喚命令が下りこの場所へとやって来た。

其処で聞かされたのは横島がとある事故で次元を隔てたD3の管轄である天地世界へと転移したという事であった。

 

『そうですか、横島さんはこの世界にいるんですか』

『何にせよ、居場所が解って何よりやわ』

『ええ、これでハルマゲドンは回避できますね』

『そうやな。なら、さっそく誰かを迎えに寄越しますわ』

 

『いや、それは少し待て』

 

『何ででっか、D3はん』

 

『彼の者は暫く我が次元に滞在させよとの訪希深様の仰せだ』

 

『訪希深様が…ですか?』

『ほらまた何で?』

 

『盟主様のお考えをお前達が知る必要はない』

 

『なっ!? それはあんまりやないか』

『…解りました。では横島さんの事、よろしくお願いします』

 

 

D3のぞんざいな言い方にサっちゃんは憤るが、キーやんはそんなサっちゃんの前に手をやり言葉を続ける。

 

 

『何で止めるんや、キーやん?』

『(ここは私に免じて大人しくしていてください)では我等はこれで失礼します』

 

『うむ』

 

そしてD3は謁見の間から消えて行き、後に残ったのはキーやんとサっちゃんの二柱だけである。

 

『おい、キーやん。何であっさり引き下がったんや!!』

『仕方ないでしょう、我々に訪希深様の意思に逆らう事は出来ません。それと、試しに横島さんが居る場所を覗いて見たんですがどうやら三神の内、二神があそこに居るようなんです。それに……』

『それに……?』

『訪希深様も女性神なんですよ』

『………まさか!? いくら横っちでも…』

『そのまさかをするのが横島さんでしょう』

『やなあ…』

『見ごたえがあると思いませんか?』

『見ごたえがあるな』

 

二柱は真剣な顔で向かい合うと横島が居る次元の方角を向いて呟いた。

 

『横島さん、応援してますよ』

『横っち、期待してるで』

 

 

其処には悪魔達(キーやんとサっちゃん)の薄ら笑いが何時までも響いていたといふ。

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

砂沙美が持って来た昼食を皆で分けて食べ、一息ついた所で天地は話を持ち出した。

 

「忠夫君、とりあえず俺のじっちゃんの所に行かないか?じっちゃんなら多分力になれると思うし」

「そうだね。お兄様なら大丈夫だと思うよ」

 

その言葉を聞き、横島は首をかしげた。

 

「砂沙美ちゃんのお兄さんで…」

『天地殿の祖父殿?』

 

「まあ、そこの所は本人が居る所で話をするよ」

 

そして、天地は横島を社務所へと連れて行った。

 

 

 

         第

         五

       勝 話

       仁

       と

     語 の

     ら

     い

 

 

 

長い階段を上り、社務所に着くと勝仁はすでにお茶の用意をして天地達が来るのを待っていた。

 

「遅いぞ天地、何をしておった」

「何だ、じっちゃんは気付いていたんだ」

「当たり前じゃ、ワシを誰だと思うておる」

「そうだよね…そういう人だよねじっちゃんは」

 

そんな会話をしていると天地の祖父、柾木勝仁は横島に向き合い語りかける。

 

「ワシは柾木勝仁。で、そなた達は如何なる次元から来られたのかな?」

「如何なる次元って……心眼」

『うむ、やはり此処は我等が居た次元とは異なる平行世界の様だな』

「平行世界?…忠夫君、平行世界ってどう言う事?」

 

天地が聞き返して来ると心眼が答える。

 

『この世界にGS(ゴーストスイーパー)という職業は在るか?』

「GSか…、言葉から察するに退魔士の様な者かの?この世界にはそのような職業は無いぞ」

「忠夫君、そのGSってどんな仕事なんだい?」

『文字通り、悪霊や妖怪、果ては魔族などといった人に災いをもたらすモノから人々を守る仕事だ』

 

横島の代わりに心眼が答える。

 

「それって、幽霊やオバケなんかもみんなやっつけるの?」

 

砂沙美は不安そうに横島に聞くが、横島はそんな砂沙美に優しく笑いながら答えてやる。

 

「いや、妖怪や幽霊、魔族にもいい奴等は一杯居るしね、むやみやたらに退治したりはしないよ。…どうしようもない悪い奴等は別だけどな」

「そうなんだ、忠夫兄ちゃんは優しいんだね」

「ミャーン、ミャーン」

「いや、俺は別に……」

「ところであの不思議な珠は何だったの?」

 

そう言いながら茶請けの煎餅に手を伸ばすと横から出て来た手に横取りされ、その手の持ち主である鷲羽は、煎餅を法張りながら聞く。

 

「どわっ!! な、何じゃいきなり!?」

『け、気配なぞまったく感じなかったぞ!?』

「初めまして、私は白眉鷲羽、宇宙一の天才科学者よ。私の事は「鷲羽ちゃん」って呼んでね♪」

「『は、はあ……』」

 

両頬に指を当て、“ニッコリ”と微笑みながら自己紹介をする鷲羽に驚きながらも横島と心眼は何とか答える。

 

そして天地は……

 

(ああ、やっぱり見られてたんだ…)

 

頭を抱えながら一人、横島の不運を嘆いていた。

 

「けっ!何が「鷲羽ちゃん」だ。2万歳のババアのくせに」

「だ~れがババアですって?」

 

魎呼はそう小声で悪態をつくが、何時の間にか後ろに居た鷲羽が悪魔の頬笑みを浮かべていた。

 

「ひいっ!い、いやだな~。ババロアが食べたいな~と言っただけだよ。何時までも若くて綺麗なママ(ニコリ)」

 

魎呼は引きつった笑い顔に冷や汗をかきながら言い訳をするが、もちろんそれを許す鷲羽ではない。

 

「まあいいわ。とりあえず魎呼ちゃんは後で研究室に来てね、親娘水入らずでゆっくりとO・HA・NA・SI・しましょ♪」

「とほほ~~」

 

じょ~と、目の幅涙を流しながら泣いている魎呼の事は横に置いた鷲羽は改めて横島に話しかける。

 

「とりあえず自己紹介からしてくれる」

「う、うん。俺は横島忠夫。そしてこのバンダナが相棒の心眼だ」

『我は竜神であられる小竜姫様の竜気によって生み出された存在だ。それより先ほど魎呼殿が言っていた2万歳というのは?』

「女に歳の事を聞くのは失礼よ。まあ、貴方達の世界はどうかは知らないけど此方では生体強化で寿命を延ばすのはどうという事でもないのよ。阿重霞殿達だって700歳を超えてるんだからね」

 

鷲羽はそう言うが、横島はどこ吹く風と言う様に、「ふ~~ん」と煎餅を法張りながら聞き流していた。

 

「あ、あんまり驚かないんだね」

「別に驚く事じゃないだろ。俺の知り合いには1000歳を超える錬金術師の爺さんが居るし、ピートの奴はバンパイア・ハーフで700歳を超えてると言ってたな。愛子は机が妖怪化した九十九神だし、…なあ心眼、小竜姫様は何歳なのかな?」

『さあな、竜神である小竜姫様には寿命などあってないようなものだし、神魔の最高指導者様達に至ってはまさに永遠の存在だしな』

 

そんな横島と心眼の会話を聞いていた天地はただ、唖然としていた。

 

「り、竜神に神魔の最高指導者って……忠夫君…君って本当に何者なの?」

『それはそうと、先ほどの勝仁殿が天地殿の祖父で砂沙美殿の兄上というのは』

「うむ、それはワシが地球で過ごした700年の間、阿重霞と砂沙美は時間凍結で時を止めておったからじゃ」

『なるほど、それで其々の間に時間の差異が出来たという訳か』

 

それから天地達と横島はお互いの情報を交換して行く。

 

阿重霞と砂沙美、勝仁が銀河でも最大規模を誇る樹雷星の皇族である事。

魎呼がかつて宇宙中を荒らし回った宇宙海賊である事。

神我人との死闘の事などを。

(もっとも神我人との戦闘の際に死にかけた事などは聞いてて気持ちのいいものではないだろうと秘密にしておいたが)

 

横島も自分の事を話して行く。

元々は何の力も無い平凡な一高校生で、時給255円で丁稚生活をしていた事。

その後、とある事情で霊能力に目覚めた事。

(横島もまた、ルシオラの事などもある為、魔神大戦や死にかけた事は秘密にしておいた)

 

そして天地は横島が孫悟空の弟子であるという事に頭を抱えていた。

 

 

=続劇=

 




(`・ω・)次元管理者のG5とはOVA三期の最終話で『次元振確認』とか言っていた何処か女性っぽいあの方です。


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第六話「近づく悪意」

(`・ω・)オリキャラじゃないよ、名前を変えただけだよ。


 

その頃、宇宙空間を疾走するGPの船があった。

その船の中で一人の女性が深い溜息を吐いていた。

 

「はあ~~~~」

 

『さっきから何を溜息を吐いているネ、阿知花殿。幸せが逃げて行くアルヨ』

「そんなモノ、とっくの昔に逃げてるじゃない。……大体溜息くらい吐きたくもなるわよ勘九朗!何で私が地球に行かなくちゃならないのよ。ち、地球にはアイツが…アイツが……美星が居るのよーーーー!!」

 

彼女の名は真備阿知花(まきびあちか)、美星がGP本部に所属していた時の元パートナーである。

その頃は美星が持ち込むアクシデントをすべてその身で受けていて誰が呼んだか「GPの不幸のブラックホール」(笑)

 

「(笑)じゃない!!」

 

地の文に突っ込まない様に。コホン

そして勘九朗、それは阿知花の船のサポートユニットである。

 

『その美星殿が居るからこそ阿知花殿に白羽の矢が立ったアルネ。誰も彼も「不幸のブラックホール」の名は継ぎたくナイネ』

「その名で呼ぶなーー!! せっかく、せっかく美星から離れられて幸せだったのにーーー!!」

『恨むならジグラードを恨むネ。奴が地球に向かったという情報が無ければ阿知花殿は幸せなままだったネ』

「其処よ!大体地球には樹雷皇家の人達や宇宙一の科学者白眉鷲羽が居るし、元宇宙海賊の魎呼まで居るんでしょ?銀河系そのモノを相手に戦争が出来る戦力が揃ってるのよ。何で私が行かなけりゃいけないの?」

『其処アルネ!仮にも樹雷皇家の方々が居る星にダルマー・ギルドのジグラードが攻め込むのにGPが見て見ぬ振りは出来ないというのが理由アルヨ。まあ、之も美星殿に関わった者の末路という事で諦めるネ』

「うわ~~~ん!!」

 

その泣き声はドップラー効果となって船は一路、地球の方角へとワープした。

 

 

 

 

         第

         五

       近 話

       づ

     悪 く

     意

 

 

 

 

 

そして地球では、横島達の所に美星が何処からともなく現れていた。

 

「あら~、見慣れない人ですね~。お客さんですか~?」

「なっ!?」

 

何食わぬ顔で現れた美星に鷲羽は驚いている。

研究室に拘束したままなの筈なので当然である。

 

「美星…アンタどうやって出て来たの?」

「もがいていたら何時の間にか外に出ていました~」

「ははは…美星さん、こちらは横島忠夫さんだよ」

「どうも~、初めまして~。九羅密美星と申します~」

「ど、どうも…横島忠夫です……」

 

天地に紹介され、笑顔で挨拶して来る美星に対して横島は何時もの様にナンパするでも無く、その笑顔は何処となく引きつりながら鷲羽に小声で話しかける。

 

「ね、ねえ鷲羽ちゃん。あの美星って娘…」

「美星殿がどうかしたの?」

「……悪気はこれっぽっちも全然全く無いんだけど、すぐに暴走をして周りに迷惑をかけたりする?」

「……何故分かるの?」

「いや…俺の知り合いにもそういう娘が居るもので……何と言うか…同じ様なオーラが…」

 

そう言いながら美星を見る横島の目には、彼女の後ろに同じ様な笑顔で微笑む六道冥子の幻影が浮かんでいた。

当然、心眼もその暴走に巻き込まれた経験がある為に虚ろな目をしながらその名を口にする。

 

『ああ…冥子殿か……』

「そう…あなたも苦労してるのね……」

 

「「『はあ……』」」

 

 

三人は同時に溜息を吐いた。

 

 

 

キイイイーーーーン……

 

 

「ん、何だ?」

『どうした横島?』

「いや、誰かに呼ばれてるような」

「誰かって誰だよ?」

「え~と、船穂って名のってるな」

 

魎呼の問いに横島はそう答え、その名を聞いた勝仁は船穂が呼んでいたのは横島であったと確証を得た。

 

「ほほ~う、船穂が呼んでおったのはやはり君か」

「忠夫お兄ちゃん、船穂の声が聞こえるの?」

「砂沙美ちゃん、その船穂って誰なの?」

「ふむ、では紹介しよう。ついて来なさい」

 

そう言って勝仁は皇家の樹、船穂の所に横島を案内する。

其処には池の中に一本の樹があり横島達が近付くとその葉から幾重もの光の乱舞が走る。

 

《ハジメマシテ、アイタカッタデス。ヨコシマタダオ》

「あ、どうも初めまして」

『我が名は心眼。暫しの間よろしく頼む』

 

皇家の樹と普通に会話をする横島に驚く天地だがもはや突っ込む気は失せている様だ。

対して勝仁はそんな横島を感心するように見つめていた。

 

(ふむ、皇家の樹という存在をごく普通に受け入れるとは中々の人物の様じゃ。それに我等にも匹敵する力も持っておる様じゃし退屈はしないで済みそうじゃな。後は……瀬戸様に目を付けられない様に祈るのみじゃな。……無理だとは思うが)

 

勝仁もまた、天地同様無駄と知りつつも横島の無事を祈った。

 

「この樹は皇家の樹といってな、我等樹雷皇族のパートナーなのじゃ」

「パートナー…スか?」

 

樹雷皇族には樹選びと呼ばれる儀式があり、樹に選ばれると第一世代か第二世代の樹と契約する事となり、選ばれない場合に第三世代の樹が与えられる事となる。

大抵は樹に選ばれる事無く第三世代の樹を与えられるが、第一世代の樹に選ばれれば皇位継承権を得て樹雷皇になる事さえ可能となる。

 

「ちなみにこの船穂は第一世代じゃ。もっとも地球の地に根付いた事でその力は失われておるがな」

「私の龍皇は第二世代で、今新たに成長をしている途中です」

 

「ところで何で船穂は俺の事知ってたんだ?此処と俺の居た世界は別の次元なんだろ」

「ん?言われてみればそうじゃのう。何故船穂はお前さんの事を知っておったのか」

 

《アナタノイタ次元ニハ五世代目ノ皇家ノ樹ガアリマス。アナタノコトハソノ樹カラ“イロイロ”トキイテイマス》

 

船穂が言うには五世代目以降の樹は各次元に根を下ろし、次元ネットワークによって意思疎通が可能場との事だ。

 

そして、そんな彼等が居る地球に、一つの動乱が近づいていた。

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「ジグラード様、じきに地球へと到着します」

「ふふふふふふ、そうか。今、地球に居る樹雷の姫、阿重霞姫か砂沙美姫のいずれかを手中に収めればその身柄と引き換えに皇家の樹の一本ぐらいは手に入るだろう。そうすればギルド内での俺の地位は盤石な物になるはずだ」

「そしていずれはジグラード様がギルドの長に……」

「そう言う訳だ。お前達も甘い蜜を吸いたければ気を抜くんじゃねえぞ」

 

「「「「おおおーーーーーーーーっ!!」」」」

 

ダルマー・ギルドの海賊、ジグラードという動乱が……

 

 

『阿知花殿、太陽系に突入したアルネ。もうじき懐かしの美星殿に再会できるのコトネ』

「したくないって言ってるでしょーーがーーーっ!!」

 

 

 

後、ついでに阿知花も。

 

 

 

=続劇=の予定

 




(`・ω・)本当はタラントを出す予定でしたがGXPとの関係でややこしくなるだろうという事で名前を変更しました。どうせヤラレキャラなので付け方は適当。
皇家の樹が各次元にあるというのは独自の勝手な設定なのできついツッコミは無しの方向でお願いします。

(・ω・)それと、阿知花ですが天地ファンなら説明不要でしょうが天地の母親の名前が清音になったので彼女の名前はねぎし版からお借りしました。
改訂版ではもうややこしいので彼女の登場は丸ごとカットする予定でしたがオリジナルサポートユニットの「勘九朗」を出したかったので登場となりました。
ほら、美星のサポートユニットが「雪之丞」だから……

阿知花「そんな理由で……」(号泣)

(・ω・)で、申し訳ありませんが天地クロスもここで一旦停止。
砂沙美(津名魅)と横島の話とか、カオスがマリアと共にやって来る話とか、書きたい話はあるので現在少しづつ書いているのでその内うpします。
さて、次回からは何を晒そうかな?


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「再・恋姫†無双~紅色の向こう側~」
第一話「終わる物語。そして…」


(`・ω・)と言うわけで今回からは横っちin恋姫の「再・恋姫†無双~紅色の向こう側~」を投稿していきます。
最初は今は亡き、NTバージョンをうpろうと思ったけどあちらは完全に凍結したのでこちらにします。


 

「ご主人様!」

「お兄ちゃーーん!」

「ご主人様ぁー!」

 

「愛紗!鈴々!朱里!」

 

「一体何が起きたのでしょうか」

「これまた、面妖な」

「何なんだよ、これは?」

 

「紫苑!星!翠!」

 

「此処は一体何処なの?一刀」

「一刀、無事だったんだな!」

 

「華琳!蓮華!」

 

「…ご主人様」

「へぅ、ご主人様。御無事で安心しました」

「ちっ!生きてたんだ」

 

「恋!月!」

 

「ちょっと!私は?」

 

「舌打ちした仕返しだよ、詠」

 

 

 

 

正史と外史の狭間、幾多の世界を(のぞ)む混沌とした空間。

その場所で新たに創造された外史で、愛紗や仲間達との再会を喜んでいる一刀を見守っている二人の人物が居た。

その二人は外史と呼ばれる世界を水鏡を通して見ている。

 

「さすがご主人様と言うべきか、やっぱりご主人様と言うべきか」

「まさか、あの始まりの外史を起点にこれ程数多くの外史が生まれるとはな」

「出会った女の子達全員を選んだこの外史。そして愛紗ちゃんに鈴々ちゃんに朱里ちゃん、それぞれの娘を選んだ三つの外史。さらには新たな出会いを育む三つの真なる外史、そして一番厄介なのが……」

「そう、物語の途中で望まない終端を迎えなければならなかったあの始まりの外史。だからこそ北郷一刀の心の中にはあの想いが過った、”もう一度”と……」

「でも、それはやはり終端が約束された行きつく先の「印」が「無」い、まさに『無印』の外史」

 

貂蝉と卑弥呼は創造されて行く外史、そして再生されて行く外史を見つめながらこれからどうするかを考えていた。

 

「とりあえず私は全員を選んだこの外史に降りてご主人様をサポートするわ。卑弥呼、貴女はどうするの?」

「うむ、ならば儂はあの『無印』を引き継ぐ外史を引き受けよう。新たなるファクターを引き入れれば物語は今までとは別の道筋を歩み出す筈じゃ」

「大丈夫なの?」

「やってみなければ判らん、引き入れる人物にもよるがな。なあに心配するな、これでも人を見る目は確かなつもりじゃ」

「なら任せるわ。向こうのご主人様の事もよろしくね」

「うむ、任された」

 

そして貂蝉は一刀の元へと行く為にその空間から消え去った。

 

「さてと、誰を引き込むかじゃが」

 

 

 

その頃、とある世界では……

 

 

―◇◆◇―

 

 

「アシュタロスは高速接近中です、射程内に入るまでもう時間がありません!『出撃!!』」

『了解!…これが―――最終決戦(ファイナルバトル)よ!』

 

"魂の結晶"、そして"コスモプロセッサ"を破壊した事でアシュタロスの野望は消え去った。

 

だがそれはルシオラを復活させる事が出来る唯一の可能性を俺のこの手で……

 

打ち消した瞬間でもあった。

 

 

 

神魔界への霊界チャンネルを封じていた妨害霊波は止まり、後は力の大半を失ったアシュタロスを倒すだけだった。

だが野望が潰えた奴は世界そのものを破壊する為に隠していた究極魔体を繰り出して動き出した。

 

やらせるかよ!

そんな事をさせたらアイツは、ルシオラは何の為に…。

アイツの為にもこの世界は絶対に守ってみせる!

どんな事をしても……。

 

究極魔体が放つ弾幕を掻い潜り、一斉攻撃を仕掛けたが魔体にはかすりもしなかった。

どうやら魔体の周りに張り巡らされたバリヤーは別の次元に繋がっていて攻撃自体、魔体には届かないらしい。

逆に究極魔体からの攻撃を防御するのに全ての力を使い尽くしてしまった。

 

「どうすりゃいいのよ?これじゃ手の出しようがないじゃない!」

「落ち着いて~、令子ちゃん~。怒っちゃいや~」

「でも美神さんの言う通り、あのバリヤーがある限り私達からは何も出来ません」

「くそっ、バリヤーを"通り抜ける"事さえ出来れば」

 

"通り抜ける"?

ピートのその言葉が頭を掠める。

そしてその言葉は俺の頭の中で一つの作戦に至った。

今の奴は歩く砲台、その巨体もありったけの魔力を詰め込んだ火薬庫みたいな物だ。

ならばあのバリヤーを【通/過】して、あの巨体を【爆/裂】させれば……

 

その考えに至った以上、悩む必要など俺には無かった。

美神さんとの同期合体を解くと、二文字文珠に【飛/翔】と込めて飛び上がる。

 

「ちょ、ちょっと横島クン、何処に行こうって言うの。…何をするつもり?」

 

美神さんが呼び掛けて来る。

振り向いてその顔を見ると驚いている様な、怯えている様な、そんな顔だった。

 

「横島くん~」

「横島さん!」

「横島・さん」

「横島さん!」

「横島さん!」

 

冥子ちゃん、

ピート、

マリア、

ヒャクメ、

魔鈴さん、

 

皆も美神さんと同じ様な顔をしている。

俺がやろうとしている事が解っているみたいだ。

 

「アンタ一体何をするつもり?ちょっと降りて来なさい!」

 

美神さんは降りて来いと怒鳴りながらもその目からは涙を零していた。

冥子ちゃんやピート達も同じで、マリアの目も何処となく潤んでいる様にも見える。

 

ああ、俺なんかの為に泣いてくれる人が居たんだな。

 

「すみません美神さん。ほら、俺って馬鹿っスからこんな方法しか思い付かないんスよ」

「何言ってんのよ!普段から死にたくない死にたくない、死なないですむならウンコだって食べられるって公言してるのは何処の誰よ。いいから戻って来なさい、丁稚の分際でこの私の言う事が聞けないって言うの!」

「ダメ~~!横島クン~~、行っちゃダメ~~!」

「横島さん、止めてほしいのねーー!」

「そうです横島さん、止めて下さい!」

「行ったら・横島さん・死ぬ確率・100%・だから・行かないで」

「落ち着いて考えましょう横島さん。きっと、きっと何か他に方法が…」

「あったとしたってもう時間が無いだろ、ピート」

 

俺はそう言い残して究極魔体に向けて飛んで行く。

背中越しに俺を呼ぶ声が悲鳴の様に聞こえて来る。

 

 

 

 

何とか究極魔体までたどり着き、バリヤーを【通/過】して二文字文珠に【爆/裂】と込めて魔体に向けて投げ付ける。

その際に走馬灯って奴なのか、今までの色んな思い出が過ぎって来る。

 

美神さんと出会って、時給250円の薄給でこき使われて。

まあ、後で5円上がったけどな…。

これからはがめつさはなるべく控えて下さいね。

 

300年間幽霊のまま一人ぼっちだったおキヌちゃん。

人間として生き返って、友達も増えて、

もう一人ぼっちじゃないよな。

 

パピリオ、せっかく長生き出来る様になったんだ、皆と仲良くやれ。

俺が言う事じゃないけどベスパやルシオラの分も幸せになれよ。

 

冥子ちゃんもプッツン癖治して、エミさんももうすこし美神さんと仲良くして下さい。

 

小鳩ちゃん、仮の結婚式だったけど結構ドキドキしてたんだぜ。

貧、お前はもう福の神なんだから小鳩ちゃんをしっかり守ってやれよ。

 

マリアもボケ老人の世話は大変だろうけど頑張れ。

 

魔鈴さん、時々奢ってくれた料理、美味かったですよ。

 

小竜姫さま、貴女からもらった力で皆を護れそうです、有難うございます。

 

駄目神(ヒャクメ)、覗きは控えろ、経験者からの忠告だ。

まあ、世話になったな。

 

愛子、卑怯な言い方だけど俺の分も青春してくれ。

 

お袋、親父。親不孝してごめんな。

 

ピート、タイガー、がんばれよ。

 

雪之丞、結局勝負は俺の勝ち越しじゃ。ザマーミロ。

 

唐巣神父、髪を信じて。

 

カオス、長生きし……不老不死なんだったな。

これ以上老け様は無いんだろうが。

 

西条、美神さんを支えてやれよ、あ・く・ま・で・も・兄貴としてな。

美神さんに手を出したら呪っちゃる!

…後、ハゲろ。

 

なんてな。

まったく、俺らしくねーなこんなの。

本当なら『死ぬ前に一発ーー!!』ってな具合に美神さんに飛び掛って行くんだけどな。

だけどしょーがねーよな、このままじゃ世界そのものが無くなっちまうんだから。

 

そうそう、ここは開き直ろう!

俺は世界の美女・美少女の味方。

まだ見ぬ綺麗なねーちゃん達を救う為に戦うんじゃ!

ピートや雪之丞といった男連中?まあ、あいつらはついでだついで。

 

だから、無駄死にじゃないから。

せっかく貰った命だけど。

いいよな、ルシオラ。

 

 

 

 

【爆/裂】の文珠で究極魔体は吹き飛び、迫り来る爆炎の中で俺はルシオラの、彼女の懐かしい声を聞いた気がした。

 

 

昼と夜の間の一瞬の隙間。

 

    短い間しか見れないから……

 

            綺麗。

 

 

ああ、ルシオラ――

もう一度あの夕陽、一緒に見たかったな。

 

 

 

―◇◆◇―

 

美神の…

仲間達の願いも虚しく、横島忠夫の姿は吹き荒れる爆炎の中に飲み込まれ消え去って行った。

 

「よ、横島さん?……横島さぁーーーんっ!」

「「「嫌ぁーーーーっ!」」」

 

ピートの叫びは冥子達の叫びを呼び、

      ・

      ・

      ・

      ・

      ・

      ・

      ・

      ・

「そ、そんな…。嘘、嘘ですよね、横島さんが、そんな…」

「生憎じゃが、マリアに嘘を吐く機能は…無い」

 

マリアからの通信を受けたカオスは拳を握り締めながら事の真相を伝え、おキヌは涙を零しながら膝から崩れ落ちる。

 

「あの馬鹿、何一人だけでカッコつけてるワケ!?」

「嘘ジャーーッ!きっと何時もみたいに死ぬかと思ったと言いながら帰って来るんジャーーッ!そうに決まってるんジャーーッ!」

「横島君、結局君は"また"勝ち逃げをすると言う訳か。…卑怯者!」

「神は…いや、我々は彼を救えなかったんだな」

「ごめんなさい横島君。ごめんなさい…」

「横島…、あのくそったれが……。馬鹿野郎…」

 

「馬っ鹿野郎ぉぉぉーーーーっ!」

 

助ける事も、力になる事も出来なかった彼らはただ、泣く事しか出来ず。

 

「横島クン、横島クン、横…島……、横島クーーーーーンッ!」

 

意地っ張りだった彼女も、彼の名を呼びながら泣き叫ぶ事しか出来なかった。

 

 

―◇◆◇―

 

後の世で魔神大戦と呼ばれるこの戦いはこうして終わりを告げた。

一組の男女の悲恋、そしてその命と引き換えに。

 

魔体を焦がすその炎は夜空を紅く染める。

皮肉にも、燃え上がる炎が作り出した紅色(くれないいろ)は、まるで彼等が一番見たがっていた…

 

真っ赤な夕陽の様だった。

 

 

《続く》

 




(`・ω・)タイトルの再・恋姫†無双~紅色の向こう側~の「再」は再生された無印外史だからです。


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第二節「始まりと二度目の物語」

(`・ω・)今回、横島の出番はちょっとおあずけ。



「ふう、危ない所じゃったが何とか間に合ったか」

 

此処は外史の狭間にて卑弥呼は一人の青年、横島忠夫を抱きかかえながら一息を吐いた。

あの外史世界へと送り込む"ファクター"を探している最中、偶然にあの闘いの光景に出くわし、そして横島は吹き飛ぶ究極魔体の爆炎に飲み込まれる寸前、まさに間一髪で卑弥呼に助け出されたのであった。

 

「ふふふ、仲間を救う為には己の命すら(いと)わぬか。見事とは言えるが愚かとも言えるな」

 

それがあの闘いを見ていた卑弥呼の感想であった。

自らの命すら捨てて仲間を…世界を救う、たしかにそれは英雄とも呼べる素晴らしい行為かもしれない。

が、しかし残される者達から見ればどうなのだろう。

事実、今も彼の仲間達は彼を失った悲しみと救えなかった自責の念に苛まれている。

 

「しかし、あの状況ではやむを得ぬ選択であったのも(たが)わぬ事実か…。難しい所じゃな」

 

此処で卑弥呼は少しばかり思い悩む。

これからこの青年に課そうとするモノはあまりにも辛いモノではないのかと。

むしろあのまま死なせてやった方が良かったのではないかと。

一つの世界とはいえ所詮は『外史』、この青年に更なる苦しみを与えてまで救うモノなのかと。

だが……

 

「それでもお主ならば成し遂げてくれるやもしれん。そしてお主にとってもかけがいの無い世界へと成ってくれると今は信じよう。傲慢な考えかも知れぬがな」

 

そして卑弥呼は横島を右手で抱え直し、何処からか取り出した銅鏡を左手で握り締めて砕くと其処から発する眩い光の中に彼の体は飲み込まれ、光が消えると横島の姿もその場から消えていた。

 

「とりあえずはこれで良いか」

「その様ね」

 

横島が消えると同時に何処からとも無く一人の女性が歩き出て来る。

 

「何じゃ、お主もおったのか管輅」

「ええ。でも、彼のあの力を…文珠を封印したのは何故?」

 

そう、卑弥呼は横島を外史世界に送ると同時に彼の霊能力の一部、文珠を生成する力を記憶と共に封印していたのである。

 

「あの力は強力すぎる。確かに文珠を上手く使えば天下統一など簡単に出来よう。だが、それではあの外史の終端を速めるだけじゃ。あくまでも己達の力だけで成し遂げねば意味はなかろう」

「そうね…なら私はあの外史に降りて新しい占いを流しておくわ」

「うむ、頼んだぞ」

 

そして管輅と呼ばれた女性は霧の様に消えて行った。

 

「さて、これで準備は整った。後はあの外史がどの様に改革を遂げるか見守っていくか」

 

そう言い卑弥呼も霧の様に消えて行った。

 

 

そして、彼の地に一つの占いが大陸を駆け巡った。

 

『天より舞い降りる二つの流星あり。片や、眩く輝く白き衣を身に纏い、片や眩く輝く光の剣を持つ。それは乱世を正す為に来たりた天の御使いなり』

 

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

 

「急げ鈴々、置いて行くぞ」

「うにゃ~~、待つのだ愛紗!!」

 

黒く長い髪と赤く短い髪、二人の少女は流星が降りた方角へと走って行く。

そして……

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

一面の荒野の中、白い制服に身を包んだ一人の男が立っていた。

状況が良く飲み込めないのか辺りをキョロキョロを慌しく見回している。

 

「な、何だ?俺は何時の間にこんな場所に?」

 

何度確認しても変わる事の無い目の前に広がる荒野に茫然としていると突然後ろから何者かが声を掛けて来た。

 

「おうおう、兄ちゃん。大人しくその服と金目のモノ出してもらおうか。そうすりゃ命だけは見逃してやるからよ」

「へっへっへっ、どうだ、ウチのアニキは優しいだろう」

「か、感謝して言う事を聞くんだな」

 

突然、見知らぬ荒野に放り出された俺の前に現れた三人組。

何処のイベントのコスプレかと思ったが、どうやら彼等が持っている武器は本物らしい。

何でこんな事になったんだ?俺は確か及川と一緒に博物館に行って、三国志のコーナーを見ていた筈だが。

そして、飾ってあった銅鏡が光ったと思ったらいきなりこんな所に立っていた。

しかも、俺の手の中には部屋にしまってある筈の刀、「虎月(こげつ)」が握られていてもう、何が何だか訳が分からん。

 

だが、虎月(コイツ)があれば目の前にいる見るからに三下な相手に遅れをとる事は無い。

 

「お前ら如きの言う事を聞く必要はないな。お前達こそ何処かへ行け」

 

俺は虎月を抜くと、三人組に向けて言い放つ。

 

「このガキ!人が優しくしてりゃつけあがりやがって。もういい!さっさと殺っちまえ!」

「へいっ!へっへっへ、そういう事だ。悪く思うなよ」

「て、抵抗はしない方が楽に死ねるんだな」

 

「悪いがそれは死亡フラグだ」

 

俺はそう叫ぶと太っている男の首に峰打ちの一撃を喰らわせて気絶させる。

 

「デ、デクッ!」

「こ、この野郎」

 

「まだやるつもりなら今度は刃の方で相手をするよ」

 

「くそっ!チビ、引くぞ!」

「へ、へい、アニキ」

 

刃を(かえ)した一刀が放つ殺気に恐れをなしたのか、二人はデクと呼ばれた大男を引きずって逃げ出した。

そして一刀は虎月を鞘に戻しながら後ろを振り向き、岩影に隠れている二人に声を掛ける。

 

「見物は終わったかい?」

 

すると岩影からバツの悪そうな顔をした黒髪の女性と、ニコニコと笑顔を振り撒く小柄な女の子が出て来た。

 

「も、申し訳ありません!覗き見をするつもりは無かったのですが」

「ふえ~~、お兄ちゃん結構やるのだ」

「こらっ、鈴々!失礼な事を言うな」

「君達は?」

「失礼しました。我々は……」

 

それは初めての、そして二度目の出会い。

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

「俺がその天の御遣いだって言うのか?」

「はい、どうか苦しみに(あえ)ぐ民達の為にお力をお貸しください」

「鈴々からもお願いするのだ。一緒に戦ってほしいのだ!!」

 

俺は関羽と張飛と名のる女の子達から話を聞いていた。

彼女達の話を統合すると今自分がいるのは1800年前の三国志の時代だという事。

そして、管路の占いにあった天の御遣いの噂を聞きつけ舞い降りて来る流星を見つけて此処に来た事を。

 

「……俺はそんな大層な人間じゃ無い。泣きもするし、怖い事からは逃げたりもする」

「そんな……」

「じゃあ、お兄ちゃんは鈴々達とは一緒に闘ってくれないのか?」

 

二人は一刀のそんな言葉に落胆し、項垂れるが一刀は話を続けて行く。

 

「だからと言って泣いている人や苦しんでいる人達の事を見て見ぬふりをして逃げ出すほど恥知らずでもないつもりだ」

「で、では!!」

「一緒に戦ってくれるのか!?」

 

歓喜の表情で一刀を見上げる二人に微笑みながら彼は答える。

 

「ああ、俺でいいのならその神輿に乗ってやる。一緒に闘おう」

「あ、ありがとうございますご主人様!!」

「ご、ご主人様?」

「そうなのだ、今日からお兄ちゃんは鈴々達の主になるのだ!!」

 

うろたえる一刀に張飛が抱きついてくるが関羽はそんな張飛に怒りをあらわにする。

 

「こら鈴々!ご主人様に対して無礼だぞ、お兄ちゃんとは何だ!!」

「ぶ~、愛紗は怒りんぼなのだ」

 

「あのさ、さっきから呼びあってる鈴々とか愛紗とかって何?君達の名前は関羽と張飛だよね」

「鈴々ていうのは鈴々の真名なんだよ」

「真名?」

「はい、真名とは我等が持つ真実の名の事です。家族か、心を許した仲間のみが呼び合う事を許される聖なる名前です」

「無断で呼んだりしたら首を落っことされても文句は言えないのだ」

「え゛……俺、呼んじゃったよね…首、落とされるのか?」

 

一刀は青ざめて首に手をやりながら後ずさるが愛紗はそんな一刀に笑顔を向け、片膝を付き臣下の礼を取る。

 

「いえ、貴方様はすでに我等が主。我等の真名を呼ぶのに何の遠慮がありましょうか。では改めまして我が真名は愛紗。これからは愛紗とお呼びください」

「鈴々の事も真名で鈴々って呼んでねお兄ちゃん」

「だからその物言いは無礼だと何度言えば」

「痛いっ!痛いのだ!耳を引っ張らないでほしいのだーー!!」

「ははは、好きに呼んでくれてかまわないよ」

 

愛紗は「すみません」と言いながら鈴々の耳を放し、鈴々は「愛紗は意地悪なのだ」と涙目で耳をさすっている。

 

「さて、これからどうしようか?」

「この近くに街があります。まずは其処に行きましょう」

「賛成なのだ!! 鈴々はお腹がペコペコなのだ」

 

そして一刀達は目指す、『幽州琢郡琢県』を……

 

《続く》

 




(`・ω・)こうして横島は再生された無印外史へと渡りました。
後、卑弥呼が真面目すぎてらしくないとお思いの方がいるでしょうがまあ、管理者モードではあんな感じでしょう。
W主人公っぽい出だしですが一刀の出番はそれほど多くありません。
そしてこの外史の一刀は若干強化されています。
最初の一刀の「もう少し俺が強ければ」という想いが反映された影響ですね。
後、一刀と横島が外史にやって来る時間には少しばかり差異があります。

(`・ω・´)そして卑弥呼に姫だっこされていた事実は横島には絶対ナイショだよ。
キミ達とオイラの約束だ!


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第三節「邂逅、横島と劉備」

(`・ω・)桃香ってけっこう嫌われてるっぽいけどオイラは好きなキャラです。(蜀√限定)
後、名前と真名を使い分けるのは面倒なので地の文では真名を使っていきます。


 

「もしもーし。起きて下さーい」

 

桃色の髪に白い羽飾りを着けている女性は森の中で寝ている青年をつつきながら話し掛ける。

 

「こんな所で寝てると風邪を引きますよー」

 

「ルシ…オラ…」

 

其処に寝ていた青年、横島忠夫は愛しい彼女の名を呼びながら頬に一筋の涙を流し、傍に居た女性は横島の頬に流れた涙をその指でそっと拭う。

 

「泣いてるの?何だか…、とても悲しそうな涙」

「桃香様ーー、何処ですか桃香様ーー!」

「あっ、此処だよ、凪ちゃーん!」

 

桃香と呼ばれた女性は自分を探しに来た女性を呼び寄せ、凪と呼ばれた女性はその声を頼りに駆け付けて来る。

 

「こんな所に居たのですか、あまり心配させないで下さい。何処に賊が隠れているのか解らないのですから」

「そっか、心配かけちゃったんだね。ごめんなさい」

「いえ、解っていただけたのなら。…な、何者ですかその男は!?」

 

駆け付けて来た白髪で全身に傷跡を付けている女性、凪は桃香の傍に倒れている青年、横島を見据えると彼女を庇う様に背中に隠し、倒れたままの横島に手甲を着けた拳を構える。

 

「ちょ、ちょっと凪ちゃん!行き成り何するの?」

「何をも何も、この様な怪しげな格好をした者に迂闊に近づいては危険です!」

「大丈夫、大丈夫だよ」

「何を根拠にその様な事を?」

「だって…」

 

桃香は横島の頭を抱き抱えると、その頬を濡らしている涙をハンカチで拭き取りながらそっと膝に乗せた。

 

「と、桃香様?」

「悪い人だったらこんなに悲しそうな涙、流せないよ。きっとこの人も何か大切な誰かを失ったのかもしれないよ」

「そうなのでしょうか?」

「きっとそうだよ、私達と…おんなじに」

 

桃香はそう言って、涙を零し続ける横島の頭を優しく撫でる。

 

「凪ーー!」

「凪ちゃ~ん!」

「真桜、沙和」

 

其処に二人の女性が駆けて来る。

真桜と呼ばれた紫色の髪を両脇で束ね、腰に色々な工具を引っ掛けた巨乳でビキニの女性。

沙和と呼ばれた三つ編みをポニーテールにしたメガネの女性。

 

「桃香様は見つかったの~?」

「ありゃ?誰やその兄ちゃん?」

「あっ、ちょうど良かった。真桜ちゃん、沙和ちゃん、この人を邑まで運ぶの手伝って」

「運ぶって言われてもやな、知らん奴やけど…ええんか凪?」

「桃香様がこう仰られるんだ、仕方ないだろう。もしもの時は私が全力でお守りする」

「もー、凪ちゃんったら。大丈夫だって言ってるのにー」

「なら、さっさと運ぼか。沙和も手伝ってーな」

「この人の服の生地、見た事も触った事も無いの。後で調べさせてもらうのー」

 

運ばれて行く横島を見ながら桃香…、劉備玄徳はそっと呟いた。

 

「本当に来てくれた……私達の元にも天の御使い様が……」

 

 

―◇◆◇―

 

荊州のとある地にある名も無い小さな邑。

其処にいまだ気を失ったまま運ばれて来た横島の姿を見て、嫌悪感を隠そうともしない少女がいた。

 

姓を荀、名を彧、字は文若。

旅の途中に賊に襲われている所を義勇軍を結成したばかりの劉備達に救われ、その恩を返す為に仮軍師として彼女達にその知恵を貸している少女である。

過去にいかなる事情があったのか超弩級が付く程の男嫌いで、その勢いたるや男と言うだけで憎んでいるといってもいい程なのだ。

 

「ちょっと、李典に于禁!何なのよソレはっ!?」

「何や、荀彧はんやないか。何なの言われてもやな…まあ、桃香様の拾いモンや」

「森の中に落っこちてたの~」

「落っこちてたって…、あんのお馬鹿は~~!そんな汚らわしい物、さっさと捨てて来なさい!見るからに好色そうな男じゃない、一緒の空気吸っているだけで妊娠させられそうだわ」

「いや、それはさすがに…って、否定しきれなさそうなんは何でやろな?」

「沙和もなんだかそんな気がするの~」

「ほら、解ったのなら早く捨てていらっしゃい」

 

荀彧はシッシッと言いながら指を振る。

すると其処に後を追ってきた桃香と凪がやって来た。

 

「え~~、そんなのダメだよ荀彧ちゃん」

「ダメじゃない!ほら、早く!」

「ダメだってばあ~。お願い、荀彧ちゃん」

「う、うう~~」

「荀彧殿、男を嫌うのは貴女の自由だがそれを桃香様に押し付けるのは止めてもらえないだろうか」

 

桃香は手を合わせ、ウルウルとした目で懇願する様に荀彧を見る。

荀彧は荀彧で、一応の恩人である桃香にはあまり強く出られず、凪にも反論は出来ずにしぶしぶと諦める事にした。

 

「し、仕方ないわね。その代わり私はそんな男の世話は手伝わないからね!ふん、どうせ私は此処にはそんなに長くは居ないんだから少し我慢すればいいだけの話よ!」

 

そう言い放つと荀彧は(きびす)を返して去って行った。

 

「……荀彧ちゃん、やっぱり出て行くつもりなんだね」

「仕方ないでしょう。無理に押し留めた所でお互いの為にもなりませんし」

「ずっと居てくれないかなぁ~~」

「そうですね、性格はともかくとして彼女ほどの才の持ち主はそうざらには居ません。何か彼女を此処に留める良い方法があれば良いのですが」

 

義勇軍を立ち上げたはいいが、今現在軍師と呼べるのは彼女しか居なかった。

その彼女も、助けてもらった恩義だけで義勇軍に参加してるのであって、何れは出て行くというのを止める事は出来ないでいた。

もっとも、凪達も少し手伝えば直ぐに出て行くと思っていたのだが、

 

『貴女達はこの私を助けたのよ。その恩義をほんの少しだけ手助けしただけで返し切れる訳はないでしょう!もう少しだけ手伝ってやるわよ』

 

と、なんだかんだと数ヶ月の間、義勇軍に留まっていてくれたのだ。

さすがは某投稿サイトにてデレ桂花として人気を博しているだけの事はある。

それはそれとして、何度か正式に軍に加わってくれと頼んでは見たが彼女曰く。

 

『私には私の理想とする主の理想像があるのよ。はっきり言って劉備は私の理想とはかけ離れているわ』

 

そう言われ、断られていたのであった。

 

「はう~~、私ってそんなにダメダメさんかな?」

「そんな事はありません。彼女も言っていた様に理想像が違うだけなんです。それに桃香様が本当に駄目な人物であれば我らもとっくの昔に袂を分かって出て行っています。もう少し御自分に自信をお持ち下さい」

「う…うんっ!有難うね、凪ちゃん!」

 

 

―◇◆◇―

 

横島が運ばれて来てから数刻後…

あまり、立派とはいえない部屋の中で寝台に寝かされていた横島は夢を見ていた。

愛しい彼女との束の間の会話をする夢を。

 

 

 

 

 

 

ルシオラ!良かった、また逢えたんだな。

 

――ヨコシマ…、駄目よヨコシマ。

  今はまだ早いわ、還るのよ。

 

何故だ?何故早いんだ?何故還らなくちゃいけないんだ?

 

――お前はまだ生きなきゃいけないわ。

 

そんな事言わないでくれよ。せっかくこうしてまた逢えたんじゃないか。

 

――ヨコシマ、お前を死なせない。絶対に!

 

待ってくれ、ルシオラ。俺もお前と一緒に。

 

――駄目よ!たとえ今は辛くても生きてヨコシマ。

  きっと…、何時かきっと笑える時が来るから。

  だから今は還って。

 

ルシオラーッ!、俺は、俺は。

 

――ヨコシマ、私はお前が好きよ。

  だから、何時までも私の好きなお前のままで居て。

  何時までも。

 

――ヨコシマはヨコシマなんだから……

 

 

ルシ・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルシオ……ラ……」

 

寝台に寝かされていた横島がそう呟きながら手を伸ばすと、付き添っていた桃香はそっとその手を掴んだ。

 

「ル…、ルシオラッ!?」

「わっ!わわわ」

 

その感触に横島の意識は一気に覚醒し、飛び起きるとルシオラの名を叫びながらその手を握り締めた。

 

「…君は?」

「え、えっと…私はその、るし…おら?さんって人じゃ無いんです。ごめんなさい」

「い、いや…俺の方こそ行き成り手を掴んじゃったりしてごめんな」

「いいの、私は気にしませんから」

 

桃香の手を離した横島は辺りを見回して見た。

修繕は施されている様だがかなり粗末な、それでいて古臭い感じの部屋だった。

 

「あの、此処は一体何処なのかな?」

「此処は荊州にある小さな邑です。貴方は此処から少し離れた所の森の中で寝ていたんですよ、覚えてないんですか?」

「…森の中に?(どういう事だ?俺は東京湾でアシュタロスの魔体と相打ちになった筈じゃ…。それが何でこんな所に?それに荊州といえばたしか……)」

「失礼します桃香様、あの者は目を…。ああ、丁度目を覚ましている様ですね」

 

横島は魔体の爆発に巻き込まれ、その後ルシオラと束の間の会話をしたと思ったら其処で目を覚まし、目の前には見知らぬ女性がいた。

しかも此処は荊州という土地だと言う。

其処に三人の少女達が部屋へと入って来た。

 

「では早速ですが貴方が何者なのか教えて頂けますか?」

「え?あ…俺か。俺は横…」

 

凪は相変わらず横島をきつめの目線で睨むと、そう言い放つ。

だが、桃香はそんな凪を頬を膨らませながら窘める。

 

「もー、凪ちゃんったら駄目だよ、自己紹介するときはまず自分から名乗らなくちゃ」

「う…、そ、そうですね。申し訳ありませんでした」

「あはは♪凪ちゃん、怒られてるの~」

「あかんで凪、自己紹介はちゃんとせなな」

「くっ、お前達に言われる覚えは無い!」

「まあまあ。じゃあ、私から自己紹介するね。

 私は姓を劉、名を備、字は玄徳といいます。よろしくお願いします」

「……は?…えっ!? りゅ、劉備…玄徳?」

 

《続く》

 




(`・ω・)真のキャラが出て来るとはいえ、あくまでもこの外史の元となっているのは無印。
なのでこういう取り合わせも在りだと思います。

(`・ω・´)ちなみに某投稿サイトとはオイラが始めて二次小説の投稿を始めた場所でもありましゅ。


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第四節「天の御使い」

 

横島は彼女が名乗った三国志の英雄と同じ名前を聞き呆然とする。

その間に残りの三人も自己紹介をしていく。

 

「私は姓を楽、名を進、字を文謙と申します」

「ウチは姓を李、名を典、字は曼成や」

「私は姓を干、名を禁、字は文則と言うの」

「あ、後ここには居らんけど仮軍師として荀彧っちゅー奴も居るで」

 

(し、蜀の劉備に魏の楽進、李典、干禁、それに荀彧?ど、どーなってるんだ?)

 

「あの~、それで貴方の名前は?」

「あ、ああ。俺の名は横島忠夫だ、横島が姓で忠夫が名前。字という物は俺には無いよ」

「では横島様。もしかして貴方も天の御遣い様なのではないですか?」

「天の御遣い?何だい、それ?」

 

横島が彼女達に話しかけると劉備と名のった名のった女の子が答える。

 

「この荒れた大陸を平和へと導く人の事です」

「荒れた大陸?」

「はい、今この大陸は荒れ放題なんです。飢えた農民達は賊へとその身を落とし、さらに自分達より弱い人達を襲い食料やお金を奪っていく。……弱く、力の無い人達はただその暴力に怯え、耐え抜く事しか出来ない……」

「その上、朝廷のお偉いさん達はそんな苦しんでいる民の事なんか見向きもしないで自分達が裕福に暮らす事しか考えず、貧しい人達から重税を絞り取っていくんや!」

「我々の邑も賊達に襲われて……」

 

そう楽進と名乗った子が呟き、今までの事を語って行く。

 

「私達の邑はあまり裕福とは言えませんでしたがそれでも皆が助け合い、平和に暮らしていました。ある日、私達は邑の皆が作った籠を売る為に栄えていた街に巡業に出ていました」

「籠は無事に全部売る事が出来て食料などを買い込み、私達は邑に帰ったの。でも……」

「そこでウチらの目に飛び込んで来たのは……賊に荒らされた無残な邑の…なれの果てやったんや……」

 

そんな邑の惨状を思い出したのだろう、彼女達の目からは涙があふれていた。

 

「私達は同じ様に邑を滅ぼされた者達と手を組み義勇軍を作りました。そしてある村で桃香様と出会ったんです。桃香様は怯えている村人達を庇うように賊達に対峙していました」

「せやな、もっとも涙目で足腰ガタガタで構えとる剣もブルブル震えとったけどな」

「正直、全然かっこよくなかったの~」

「うう~、そんなにはっきり言わなくても……」

 

三人は涙をふき、話を続けていく。

 

「私達は賊共を倒した後、桃香様に聞きました。何故こんな無茶をしたのか、何故逃げなかったのかと」

「そしたらなんて答えたと思う?」

「『私なんかに皆を助ける事は出来ないと思った。でも逃げたくなかった、何もせずに逃げたら困ってる人達を助けられない、それは弱い人達を襲う悪い人達と同じ事だと思ったから』……桃香様はそう言い、その言葉は我々の胸を貫きました。そして私達は思ったんです、この人は弱い、武など持ち合わせてはいない、でもだからこそ誰よりも強いと」

「だから私達は桃香様に忠誠を誓ったの~」

「はうう~~、て、照れくさいよ」

 

そんな時に管輅と呼ばれる占い師が流した『天より舞い降りる二つの流星あり。片や、眩く輝く白き衣を身に纏い、片や眩く輝く光の剣を持つ。それは乱世を正す為に来たりた天の御使いなり』という占いが流れた。

 

そして二月(ふたつき)程前に幽州に流星が落ち、その後からこの大陸には天の身遣いの噂が流れる様になって来た。

 

その名は北郷一刀と言い、今は琢群琢県の県令として民を導いているとの事らしい。

 

(成る程、此処は三国志の時代でおよそ1800年前と言った所か。たぶんあの時空間バリヤーの一部がこの世界に繋がっていて其処に俺が偶然飛び込んだせいでこの世界に来てしまったと言う訳か)

 

「話はある程度解った。それで俺に何をしてほしいんだ?」

「横島はんには天の御遣いとしてウチらと一緒に闘うてほしいんや」

「闘う?」

「はい。民の皆はこの乱世の中で今一つの希望にすがっています。乱世を収め、大陸を平穏な世界へと導くという天の御遣いの存在に」

「先ほど言った通り、管輅の占いには天の御遣いは二人おり、流星と共に降りて来るとの(くだん)がありました。先程も申しましたが一つは二月前に幽州の方角に降りて行き、そして先日此処、荊州にも流星が降りて来ました。その場所に寝ていたのが」

「俺…と、いう訳か」

 

横島はおおよそだが今自分が置かれた事態を理解した。

もっとも、横島をこの外史へと送ったのは卑弥呼なのだがそれは彼の知らない事である。

しかし、劉備の期待を受け入れるには彼の心は疲れ切っていた。

 

「どうなんでしょうか?横島様」

「…期待を裏切って悪いけど俺はそんな大層な人間じゃない。たった一つの約束すら護れない…ただの役立たずだよ」

「横島様……」

「ごめんね、劉備ちゃ…さん」

「そう…ですか……」

 

俯き謝る横島に項垂れながら応える桃香を見て凪達は横島を責めようとするが、彼の表情から思い止まった。

”護れなかった”と言うのは、彼女達もまた同様なのだから。

 

「御遣いとやらにはなれないけど雑用位なら手伝えるからさ、何かあったら言ってくれていいよ」

「はい、その時はお願いします…」

 

話はそこで終わり、横島は散歩をして来ると外へ出て行った。

 

「…やっぱり、ダメだったみたい。私達には天の導きは無いのかなぁ」

「桃香様、気を落とさないで下さい。貴女には我々が付いています!」

「そやで、凪の言う通りや!」

「私達も頑張るから桃香様も頑張るの~~」

「ほほ~、つまり二人共これからはサボリなどせず、真剣に仕事に打ち込むと言う事なのだな」

「げっ、しもうた!」

「うう~~、薮蛇なの~~」

「ぷっ、あはははは。…これからもよろしくね、三人共」

「「「はい(なの~)」」」

「しかしあの兄ちゃん、ホンマに天の御遣い様かいな?光る服も着てひんし、光る剣も持ってないみたいやし」

「でも私はあの人は間違いなく御遣い様だと思う。何故かそう信じられるの」

「桃香様…、ともかく少し様子を見るとしましょう」

「そうだね」

 

 

―◇◆◇―

 

『わーーい、わーーい』

『こっちにおいでーーっ!!』

『待てーーっ!!』

 

そしてその頃横島は一人で歩きながら邑の中で遊んでいる子供達を見つめていた。

邑の中に建っているのは家と呼ぶには余りにも粗末な……、悪く言えば掘っ立て小屋の様な物が十数軒ほどあるだけの、此処は本当に小さな邑であったが、義勇軍が居る為か此処に暮らす人達は穏やかな表情をしている。

 

(俺が居た時代に比べると本当に質素な暮らしだ。……それでも皆は笑っている、そしてこんなささやかな幸せさえも奪い、踏み躙ろうとする奴等が居る……。でも俺に何が出来る、俺なんかに)

「天の、御遣いか…」

 

そんな事を考えている横島の所に一人の少女がやって来た。

 

「ねえねえ、おにいちゃん。おにいちゃんはだあれ?」

「え?……ああ、俺か?お兄ちゃんの名前は横島忠夫だよ」

「よこしまただお?よこがせいなの?」

「横が姓?ああ、横島が姓で忠夫が名だよ」

「ふ~ん。さやはねえ、さやかっていうの」

「さやか…、さやちゃんか。いい名前だね」

 

そう言い横島が頭を撫でてやるとその鞘花(さやか)という女の子は顔を赤くして照れている。

 

「えへへ、ありがと」

 

鞘花が照れていると、そこに他の子供達がやって来た。

 

「鞘花、何やってるんだ?」

「その人だれ?」

「えっとね、よこしまのおにいちゃんだって」

「ふ~~ん、あそんでくえゆの?」

 

子供達はいろんな視線で横島を見て来る。

遊んでほしいのかなとそう感じた横島が辺りを見回すと家の壁に数本の竹が立てかけてあるのを見つけると近くを通りかかった男に声を掛ける。

 

「おっちゃん。ここにある竹、少し貰っていいかな?」

「ん?ああ、別にかまわんよ」

「よし、待ってろよ。今からいい物を作ってやるからな」

 

そして横島はポケットからナイフを取り出すと竹を割って削っていく。

 

(そう言えば碌な遊び道具も無かったケイにもこうやって作ってやったっけ)

 

猫又の親子を思い出し、少し口元がゆるむ。

 

(確かあの親子も住む所を追い立てられてたんだったな。彼女達だってただ、静かに暮らしたかっただけだ。たったそれだけを望んでいたのに勝手な思惑で住んでいた所を追い出された)

 

「なあ、兄ちゃん。それ何だ?」

 

一番年上だろう、男の子が出来上がった竹トンボを指さし聞いて来る。

 

「これは竹トンボっていってな、こうやって遊ぶんだ。それっ」

 

横島が竹トンボを飛ばすと子供達は目の色を変えて驚いている。

 

「すげーーっ!飛んでるぞ!」

「とんでゆ、とんでゆ!」

「おにいちゃん、すごい!」

「ほしい、ほしい。ちょうだい!」

「あっ、ずるいぞ。オイラだって欲しいのに」

「こらこら。喧嘩しなくたってちゃんと皆に作ってやるよ」

「ほんと、やったーー!」

「兄ちゃん、早く、早く」

「分かった分かった、慌てるな」

 

横島はせかされながらも人数分の竹トンボを作っていき、子供達は作ってもらった竹トンボで遊び出す。

 

「わぁーー、すっげーーー!」

「オイラのが一番高く飛んだぞ」

「ちがわい、オイラのだ」

 

男の子達は其々竹とんぼを飛ばした高さを競い合い、高く飛ばす事が出来ない女の子達も楽しく遊んでいる。

そんな子供達を見ている横島の表情には、

 

「はははは、…あれ?俺、今……笑ってた?」

 

この世界に来て始めての笑みが浮かんでいた。

 

 

《続く》

 




(`・ω・)オイラが恋姫を書こうとする度に何故かやって来る女の子、それが鞘花です。
一刀の娘だったり、オリ主の義妹だったり。
ちなみに一刀と横島の間には時間軸に差異があり、一刀は魔神大戦の事は知りません。
あ、彼の家族と友人達は無事です。


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第五節「紅い茜雲」

 

横島が子供達と遊んでいる中、桃香達は横島を捜して邑の中を歩いていた。

 

「横島様、何処に居るのかな?」

「どっかに逃げたんとちゃうやろか?」

「そうかもしれないな」

「え~~、それはダメだよ。う~~、横島様ぁ~~」

 

 

 ……まさんが、こ~ろんだ」

 

「ん?」

「どしたん、凪?」

「いや、子供達の声が聞こえた様な」

「子供達の?」

 

桃香はそう言われ、辺りを見回していると邑の子供達と遊んでいる横島を見つけた。

 

「や~い、動いた動いた。また鞘花の負けだ」

「ぶう~~、おにいちゃん、もういっかいやろ」

「分かった、もう一回な」

 

――横島様…子供達と一緒に遊んでいる。皆、本当に楽しそう。

 

「だ~るまさんが、こ~ろんだ」

 

横島が子供達に教えたのは「だるまさんがころんだ」。

初めての遊びに子供達は一喜一憂し、夢中になって遊んでいる。

 

「さーわった!」

「ああ、触られた。俺の負けだな」

「わ~~い、やったぁ~~!」

 

――私達の知らない遊びだけど、どうやらさやちゃん達が勝ったみたい。横島様に抱きついてはしゃいでいる。

でも……

 

――でも何故かな?横島様、笑顔なのに……ちっとも笑っている様に見えない…

 

「あ、玄徳さまだ」

「げんとくさま~。いっしょにあそぼ~」

「え、ちょ、ちょっと待って。私にはまだお仕事が残って…」

 

――そんな抵抗も虚しく私は子供達に引っ張られて行く。……あぅ~、横島様が横目で見ている。うう~、恥ずかしいよ~~。

 

子供達に連れて行かれる桃香を凪達は少し諦めた様な表情で見ている。

 

「ああ、桃香様が連れて行かれてもうた」

「仕方が無い、残った仕事は我々で片付けるぞ」

「ええ~~」

「げえ~~」

「何だ、何か文句でもあるのか、二人共?」

「うっ!な、凪ちゃんの目が怖いの~~」

「しゃーないな。頑張りまひょか」

 

 

 

―◇◆◇―

 

その後も横島は子供達に歌を歌ってやったり、おとぎ話などを話してやったりして、それは夕暮れ時まで続いた。

 

「鞘花」

「あっ、かかさまだ」

 

――母親が迎えに来たらしく、さやちゃんは走って行く。……何だろう、あの中学生くらいの背丈と容姿、そして凶悪なまでのバストサイズは……いかん、ワイはロリやないロリやない。

 

「さあ鞘花、帰りましょう。玄徳様、ありがとうございます」

「いえ、いいんですよ。私も楽しかったし」

「かかさま、あのね、きょうはおにいちゃんがいろんなことしてあそんでくれたんだよ」

「そうなの、よかったわね。ありがとうございます」

「いや、俺の方こそ。こんなに楽しかったのは久しぶりでしたから」

「おにいちゃん、またあそんでね。ばいば~い」

 

母親に手をひかれて帰って行く子供達に横島は手を振ってやる。

鞘花も横島に手を振りながら帰って行き、そんな横島の隣に桃香がやって来て話かけて来る。

 

「あの、横島様…」

「いい子達だね」

「え?は、はいっ!とてもいい子達ですよ」

「そしてこの世界には自分達の欲望の為だけにあの笑顔を奪おうとする奴等が居る……か」

「そうなんです。……何故なんでしょう?皆、ただ普通に笑って居たいだけなのに。平凡な幸せが欲しい、…たったそれだけの事なのに……」

「普通の、平凡な幸せ…。(俺も欲しかった。彼女と、ただ笑い合ってるだけのそんな普通の幸せが。ルシオラと毎日あの夕陽を眺めていられれば…、それだけで良かった)」

 

横島はそんな事を思いながらこの世界での初めての夕陽を、空を流れる茜雲を見つめているがその夕陽には何処となく血の色が混じっている気がしていた。

 

暫く二人でそうしていると凪達三人が桃香を迎えに来た。

 

「桃香様、そろそろお戻りください」

「兄ちゃんもガキ共も相手で疲れたやろ」

「うん。ゴメンね、お仕事押し付けちゃったみたいで」

「何時もの事です。お気になさらずに」

「うえ~ん、ゴメンなさ~い」

「気にせんでええって桃香様。凪の言う通り、何時もの事なんやから」

「お前達が言うな!」

「はうっ、真桜ちゃんのせいで私まで怒られたの~」

「あはは……、一緒に怒られよう」

 

桃香達は笑いながら宿舎に帰ろうとするが、横島は夕陽を見たまま動こうとしない。

 

「横島様?」

 

そんな彼等を通りかかった桂花は見つけ、其処に居た横島をさっそく邑から追い出そうと怒鳴りつけようとするが……

 

「どうかしたんですか、横島様」

「……紅いな」

「え?」

「夕陽って…、茜雲ってこんなに紅かったっけ?」

「夕陽ですか?確かに赤いですけど…、横…島様?」

 

――横島様は泣いていた。

  とても澄んだ、でもとても哀しそうな涙を流しながら。

  この人は何を無くしたのだろう?

  この人は誰を亡くしたのだろう?

  何故だか心が疼く、何故こんなにも心が痛くなるのだろう?

 

――知りたい、もっとこの人の事を解りたい。

  御遣い様じゃ無いのかもしれない。

  でも、それでもと、信じたくなる何かがこの人にはある。

 

 

「違う、違う、違うっ!俺が見たいのは、あいつが見たがってたのは……」

「横島さ…」

「ルシオラと一緒に見たかったのはこんな夕陽じゃ無いっ!」

 

――横島様はそう叫ぶと蹲り、頭を抱えながら大きな声で泣き出した。

  気付いたら私も泣いていて、そっと横島様の頭を抱きかかえていた。

  知りたい、やっぱり知りたいこの人の事を。

  そして何時か一緒に笑いたい。

  凪ちゃん、真桜ちゃん、沙和ちゃん、荀彧ちゃん。 

  皆と一緒に笑顔で、大きな声で。

 

 

 

―◇◆◇―

 

そんな一部始終を家の影から桂花は覗いていた。

普段の彼女なら突然泣き出した横島を激しく罵倒しながら蹴り飛ばしたりしていただろう。

だが、大事な誰かを亡くしたからこそ流れるその涙の意味を彼女は解っていた。

だからこそ、今の横島にそんな事をする愚かさを彼女は理解していた。

 

「何よ、男の癖にあんなに大泣きしちゃってさ。情けないったらありゃしない、フンっだ」

 

そう呟きながら桂花は踵を返して今来た道を戻って行く。

横島の泣き声に、僅かな心の痛みを感じつつ……。

 

 

 

《続く》

 




(`・ω・)鞘花の母親、見た目はロリっぽいですけど実年齢は何と紫苑と左程変わりはありません。
つまり、熟j……おい、まテ、ヤメテェェェェェェェェェ!

ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!


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ありふれ職業に横っち投入・書き逃げ体験版

(`・ω・)更新が途絶えたままなので思いつきで書いた一話目っぽい何かでしゅ。
今回の横島はGS世界からネギま世界に転移して来た横島。
作中で説明文入れると無駄に長ったらしくなりそうだつたので此処に記しておきます。
(・ω・)え?適当すぎる。まあ、所詮は書き逃げですからね。あ、唯緒たんは短編集の三話目に移動しときました。


オルクス大迷宮最下層。

辛くもヒュドラを倒し、迷宮の試練を突破した「南雲ハジメ」と「ユエ」の二人は漸く反逆者の住処へと辿り着いた。

ヒュドラのと死闘でボロボロだった二人だが、寝所での休息と神水による回復で元気を取り戻し、この場所を詳しく調べるべく部屋の外へと出て行く。

 

そこはまるで外界に出たのかと錯覚するほどの景色が広がっていた。

滝から流れ落ちる水が川を作り、樹木も豊富に生えており、空には太陽の様な光源があり、そして、突如現われた魔法陣からは男と女の二人が落ちて来た。

 

「な、何だぁっ!?」

「何事?」

 

「ぐべはぁ!」

「ふん!」

「げぶっ!」

 

ジーパンとジージャンを着込み、赤いバンダナを頭に巻いた男「横島忠夫」が地面にめり込み、金髪の少女「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」はその背中の上に着地する。

 

「何処だ此処は?まったく、厄介な事になったな」

 

横島を踏みしめつつ、エヴァは呟く。

何故、横島とエヴァの二人がこんな場所に居るのか?

魔法世界での戦いは終息したものの、諦めの悪い「完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)」の残党の一部が攻撃を仕掛けて来たのである。

エヴァは反撃を試みたのだが、横島は【転】【移】の文珠で逃走しようとし、結果的には敵の攻撃+エヴァの反撃×横島の文珠の相乗効果によって謎の転移魔法陣が発動し、遠く離れた異世界「トータス」へと来てしまったのである。(お約束のご都合主義)

 

「まったく、訳の解らぬ世界に飛ばされてしまった様だな」

「何でワイがこんな目に……」

「貴・様・が・余・計・な・事・を・し・た・せ・い・だ・ろ・う・が!」

「痛ぇっ!ご、ゴメンなさいゴメンなさい、堪忍やーーーっ!」

 

エヴァは横島の背中を左足で踏みしめつつ、右足で頭を何度も蹴飛ばす。

そんな横島達を呆然と見つめていた二人だが漸く再起動を果たしたらしくハジメはイライラを隠す事無く声を荒げる。

 

「一体何なんだ貴様らは!敵だと言うんなら…殺すぞ!」

 

ドンナーを構えつつ殺気を飛ばすハジメだが、エヴァはその殺気を軽く受け流し、逆に殺気を込めてハジメに問い掛ける。

 

「初対面の相手に物を尋ねる時はまず、自己紹介をしてからだとママに教わらなかったのか坊や?」

「なっ!?」

 

その殺気に"敵"と認識したハジメだが、手にしたドンナーの引き金を引く事は出来なかった。

何故ならばエヴァだけではなく、横島からも殺気が飛んで来たからだ。

奈落に落とされてから何度も死線を越えて来たハジメのレベルは勇者達をも遥かに超え、現時点でもこの世界において上位に位置する。

 

だが、横島とエヴァの二人の実戦経験はハジメ達をも上回り、普段は怖がりで逃げ腰の横島だが、大事なパートナーの一人であるエヴァに危害を加えんとしたハジメに対する横島の殺気はハジメのそれよりも遥かに濃厚であった。

 

「くっ……」

「ハジメ!」

「ユ、ユエ」

 

ハジメが撃つ事が出来ず、かといって銃口を逸らす事も出来ないでいるとユエはその体を庇う様に両手を広げて二人の眼前に立つ。

 

「ほう…。其処までにしていてやれ忠夫。少しやりすぎだぞ」

「痛てっ!」

 

冷や汗を流しながらもハジメの前から動こうとしないユエに関心したのかエヴァは横島の頭を叩き、同時にその殺気も霧散する。

 

「さて、この状況はお互いに想定外の事の様だし、少しばかり話し合いといかないか?」

「分かった。その方が幾分建設的だな」

 

エヴァ達からの殺気も消失した事でハジメも漸く臨戦態勢を解く事が出来、ドンナーをホルスターに戻すと同時に緊張感が解けたユエは腰が抜け、ぐらりと倒れて尻餅をつく。

余談ではあるが、ユエはその際に裸ワイシャツだった為、捲れ上がった裾から見えてはいけない物が丸見えだったが、エヴァの光速の目潰しによってそれが横島に見られる事は無かった。

 

「ハジメとか言ったな。まずは落ち着ける場所は無いか?」

「い、いや、アイツの事はいいのか?」

「目が、目がぁ~~~~~~っ!」

 

目潰しを受け、激痛に転げ回る横島を指差しながらハジメは尋ねる。

 

「かまわん、ほっておけば勝手に治る。それに見られたら見られたで貴様に同じ目に遭わされたのだろう?」

「当然だ」

「ハジメったら(はぁと)」

「ユエ(はぁと)」

 

 

(乱)あれ?日常じゃなく職業とのクロスの筈だったよね?

 

 

ー◇◆◇ー

 

「成程、つまり貴様は学校のクラスごとこの「トータス」と呼ばれる世界に召還されたと言う訳か。そして迷宮の探索中にクラスメイトの一人に裏切られて最下層、本物の大迷宮に落とされてしまい、叔父の裏切りにあい迷宮の奥深くに封印されたユエを救い出し、迷宮のボスを倒して無事に此処に至る…と」

「無事とは言いがたいが、まあざっくばらんに言えばそう言う事だ」

 

エヴァとハジメは落ち着いて話をしているが、ユエは先程の横島の殺気に怯えているのかハジメの後ろに隠れており、横島は横島でその姿を見て大人気無くユエを怯えさてしまった事に落ち込んでいた。

 

 




(`・ω・)実際、オルクス大迷宮をクリアしたばかりのハジメと魔神大戦を体験した横島が本気で対決したら軍配は横島に傾くと思う訳ですよ。
それにハジメのパートナーが吸血鬼のユエなら横島のパートナーになる吸血鬼なら鉄板のエヴァかなと……。
(;ω;)例によって続きが中々書けない。

オマケ

ハーレム予定分布図

シア・彼女にとって横島達は予知には無かった完全なイレギュラーだが、ツン成分しかないハジメよりも優しくしてくれた上にかなりの強さを持つ横島に胸キュン。(横島)

ティオ・原作通りのケツバイルからの超M属性発動。
流石に憐れに思った横島による【完】【全】【治】【癒】の四文字連結を持ってしても治療不可能の業深き駄竜。(ハジメ)

香織・(●▲●)ナニ?ワタシガハジメクンイガイニナビクトデモオモッタノカナ?カナ?カナ?チョットオハナ死ガヒツヨウカナ?カナ・カナ?(ハジメ)

雫・横島の霊波刀に剣士としての矜持が擽られ、即効横島に弟子入り志願する。
最初は弟子として接していたが、横島の本質に触れていく事で次第にその思いが恋心に変わって行く。(横島)


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ありふれ職業in横っち・二話目っぽい何か

(`・ω・)一番最初に横×エヴァを書いたのは誰なのでしょう?
尊敬しています。
横×ユエで書いてみようとも思ったのですがどうもしっくり来なかったのであえなくボツ。



偶然に偶然(ありふれた設定)が重なり、別の異世界からやって来た横島とエヴァと邂逅したハジメとユエ。

ユエは未だ、横島に対して怯えと懸念があるらしく、ハジメの影に隠れたまま目を合わせようとはしない。

そんなユエに横島は…

 

「あ~、悪かったよ。だがな、状況がどうあれ先に殺気を飛ばして来たのはそっちの男だからな」

「忠夫は私を、わ・た・しを護ろうとしただけだ。お前も…ハジメとか言う名前だったな。忠夫からその男を護ろうとしただろう?そういう事だ」

「…ん、納得。一番悪いのはハジメ」

「ユエ!?」

 

横島が一応の謝罪をし、エヴァの説明もあってか、ユエはハジメの影から出て来た。

 

「次は私達の事の説明だな。まず最初に言うのは横島が住んでいたのはハジメ、お前達が住んでいたのとは違う世界の地球だ」

「は?」

「そして私が住んでいた更に別の世界の地球に横島が転移して来た訳だ」

「ち、ちょっと待て…。何だそれは?」

「いわゆる平行世界という奴だ。こうやってトータスという別の世界があるんだ、別の世界に別の地球があってもおかしくはあるまい」

「理屈で言えばそうだが」

「ならば難しく考えず、そういう事だと理解しろ」

「分かった分かった。それで?」

「ある戦いがあってな。まあ、それ自体は終息したんだが敗残の一部が不意打ちを仕掛けて来てそれを迎え撃とうとしたらこの”馬鹿”が余計な事をした結果、次元の穴が出来てしまい此処に来る羽目になった訳だ」

 

エヴァは横島の頭を蹴飛ばしながらそう説明する。

 

「安全策を取って逃げようとしただけやないか」

「あの程度の輩、敵ではなかっただろうが!言い訳をするな、言い訳を!」

「あんぎゃぁーーーーっ!」

 

そして蹴飛ばしていた横島の頭を床に叩き付けた上に踏み躙る。

 

「さてと、少し喉が渇いてきたな」

 

エヴァはそう呟きながら横島の右腕を持ち上げると袖を捲り上げて噛み付き、何時もの様に血を吸い始める。

 

「ちゅ~~~。うむ、甘露甘露」

「せめて一言断ってからにせんかい。俺はドリンクバーじゃねえんだぞ」

「ほとこがこみゃきゃいこちょにこじゃわるにゃ」

「吸うか喋るかどっちかにしろ!」

「じゅ~~~~~~~~~」

 

そんな二人をハジメ達は呆然と見ている。

 

「…その女も吸血鬼なのか?」

「…と、言う事はそっちもか?」

 

横島がハジメの問いにそう聞き返すとユエが舌なめずりをしながら後ろから抱きつき、その首筋に牙を突き立てる。

 

「ちゅ~~~。うん、何時も通り美味」

「見ての通りだ」

 

「「………」」

 

血を吸われ続ける二人は無言で突き出した拳をお互いに会わせる。

何かを分かり合った様だ。

 

「ふん、横島の血に比べれば大した味でもなかろう」

「ふっ、本当の美味という物を知らないなんて可哀想」

「ほ、ほう。横島の血はな、こうぎゅ~~~~っと濃縮されていて、これに比べたら最高級のワインなどごく普通の葡萄ジュースにすぎん」

「むう、ハジメの血は世界の至宝。味を比べる事すらおこがましい」

 

「「………」」

 

生憎、こちらの二人は分かり合えなかった様だ。

 

「「ふふふふふふふふふ」」

 

「「じゅーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」」

「「いい加減にせんかぁーーーーーーーーっ!!」」

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

その後、四人は三階建ての反逆者の住処という施設を調べまわる。

一階にある風呂やベッドルームなどは問題なく使えるようだが二階の工房や書棚などは何やら不思議な力で封印されているらしく、現時点では使用出来なかった。

三階に上がると其処には直径七、八メートル程の魔法陣があり、更にその奥には白骨化した遺体が豪華な椅子に俯いたまま座っていた。

 

「見るからに怪しい。ハジメ、どうする?」

「どうするも、外界に通じる出口も無いし俺の錬成も受け付けない書庫と工房の封印……、明らかにこの部屋がカギなのは間違いない。調べるしかないな」

「よし、頑張れ!俺が見守っていてやるぞ。ほれほれ」

 

横島はそう言いながらひょいひょいっとハジメを追い進める様な仕草をする。

 

「手前な…」

 

ハジメはそんな横島を睨み付けるが相手をするだけ無駄だと悟ったのか、溜息を一つ吐くと魔法陣へと歩き出す。

そして魔法陣の中心に立つと光が部屋を満たし、その光が治まると一人の青年が立っていた。

 

その姿は魔法で再現された映像らしく半透明でよく見れば椅子に座っている白骨が身に着けているのと同じローブを纏っている。

 

『試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?』

 

そこで語られたのは世界の真の歴史。

自らの愉悦の為に人々を駒に戦争を起こし、世界を救おうとした解放者達を捻じ曲げた神託で反逆者へと仕立て上げ護るべき人々自身の手で倒させた。

 

残された七人の解放者達は其々世界中に散らばり迷宮を創り上げた。

迷宮の試練を突破した者に自分達の神代魔法を授け、何時の日にか偽りの神を倒してくれる者が現われる事を信じて。

 

語り終えたオスカーの映像が消えるとハジメは頭を抱えながら蹲る。

この迷宮の突破者としてオスカーの神代魔法を直接頭脳へと刷り込まされたらしい。

その後、ユエも神代魔法を受け継いだ。

それは魔法を鉱物に付加する事で様々な効果を持つ、所謂アーティファクトを作る事が出来る生成魔法との事だ。

 

真実を知ったハジメがこれからどうするのかとユエに聞かれると…

 

「あ?どうもしやしねぇよ、この世界がどうなろうと知ったこっちゃねぇ。俺は外に出て元の世界に帰る方法を探すだけさ」

「…ハジメ」

「心配しなくても置いていきゃしねぇよ。一緒に連れてくって約束しただろ」

「うん、私の居場所は何処に行っても此処だけ」

 

ユエはそう言い、ハジメの胸の中へ飛び込む。

 

「で、そっちはどうすんだ?」

「どうすんだと聞かれてもな?世界がどうこうっていう事態は正直お腹いっぱいなんだがな」

 

抱きついて来たユエの頭を撫でながら聞くハジメにそう答えるしかない横島。

まあ、GS世界では魔神大戦、ネギま世界では魔法世界の存亡を懸けた戦い、そう思うのも当然であろう。

 

「まあ、とりあえずは外に出て世界の在り様を知ってからの話だな。行きがけの駄賃だ、私等もその神代魔法とやらを貰っておくか」

 

エヴァはユエの事を何やら羨ましそうに見ながら魔法陣へと歩み出す。

ちなみにその時、ユエはふっと鼻で笑い、エヴァはちっと舌打ちをした。

 

だが、何時まで待っても魔法陣は何の反応も見せなかった。

 

「当然だろうな。お前達は偶然此処に来ただけで突破して来た訳じゃないからな」

「あのヒュドラこそが迷宮の突破の鍵?」

「そう言う事だな」

「ヒュドラ?」

 

オルクス大迷宮の最奥、この反逆者の住処を守護していた所謂ラスボス。

そのヒュドラを倒さない限り神代魔法は手に入らない、そう説明を受けるエヴァ、そしてその足は逃げ出そうとしている横島の背中を踏みつけている。

 

「では行くぞ」

「嫌やーーっ、嫌やぁ~~~~~~!」

 

横島はエヴァに首根っこを捕まれて引きずられ、ハジメとユエもその後を付いて行く。

そして迷宮最深部へと出て来ると、地面に魔法陣が広がりヒュドラが其処から現われる。

 

「さてと、お手並み拝見といくか」

 

反逆者の住処への入り口に背中を預けるハジメ、ユエはその隣に腰掛けて横島達の戦いを見学するつもりだ。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

六本の首は、眼前の横島とエヴァを敵と見定め其々に雄叫びを上げる。

 

「もう逃げ場は無いぞ。いい加減覚悟を決めろ」

「へいへい、解りましたよ」

「(それと、文珠を使う時はばれない様に誤魔化しておけ)」

「(ん?よく解らんが解った)」

 

赤い紋様が刻まれた頭が口を開くと適当に考えた詠唱をそれっぽく唱えながら【縛】の文珠を発動させる。

 

『ロゲモ ロゲハ ウジョイサ 我が眼前、立ち塞ぎし者、愚かしき者、彼の者、その場にて立ち枯れよ』

 

文珠が放つ光と放電がヒュドラを拘束すると同時にエヴェは呪文の詠唱を始める。

 

『リク ラクラ ラック ライラック 契約に従い、我に従え氷の女王。来たれ、とこしえのやみ。えいえんのひょうが。全ての命ある者に等しき死を。其は安らぎ也』

 

『おわるせかい』

 

詠唱が終わると辺り一面は氷づけになり、氷像になったヒュドラはエヴァが指を鳴らすと同時にあっけなく砕け散ったのであった。

 

「さてと、ちゃっちゃと魔法貰うとするか」

「そうだな、…ん?」

 

部屋の中へ戻ろうとするとハジメとユエの二人はあんぐりと口を明けたまま呆然としていた。

 

「ひょっとしてお前達、あの程度の奴に苦戦したのか?」

 

ユエへの意趣返しなのか、鼻で笑いながらそう言うと二人は歯を食いしばりながら睨み返すが苦戦したのは事実なので反論はしなかった。

 

オスカーの部屋で横島とエヴァは神代魔法を会得したが、結果的に同じ映像を計四回見る羽目になったのは苦痛だった様だ。

 

その夜、部屋数は余っていた為別々の部屋で寝ていた横島が夜中に用足しした後ハジメの部屋の前を通りかかると……

 

『あ、あん、ハジメ……』

『ユエ』

『…今日のハジメ、ちょっと野獣』

『嫌か?』

『そんな…事な…ひゃうっ』

 

そんな声が聞こえて来て、流石にまずいと後ずさりをする。

 

トン

 

何かにぶつかったと横島が振り向くと其処には。

 

「そー言えば此処にはアスナも刹那も木乃香もその他の邪魔者は誰もいないんだったな」

 

そう言い舌なめずりをするエヴァが立っていた。

 

 

 

 

横島は逃げ出した。

 

 

 




(`・ω・)果たして横島は無事に逃げ切れたのであろうか?
その答えは永遠の謎である。

エヴァ「ごちそうさまでした」

(;ω;)折角上手く誤魔化したのに。
それはそうと果たして残念ウサギまで書く事は出来るのであろうか?
その答えは永遠の謎である。

(・ω・)ノシ と、いう訳でサラバだ。


※エヴァの『こおるせかい』では文珠を使うまでも無く砕け散ると指摘を受けたのでその部分を変更しました。


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ありふれ職業in横っち・三話目…みたいな?

(`・ω・)難産でしたが、何とか書けました。


翌朝、食事を取ろうとテラスへと集まる四人。

そんな中で妙にツヤツヤしているエヴァと逆にぐったりとしている横島を見てハジメとユエは状況を察する。

 

((ああ、喰われたんだな))

 

…と。

ちなみにハジメを喰ったユエは人の事は言えない。

 

「さて、書庫や工房の封印も解かれた様だし、私はこの世界の歴史などを調べるつもりだがハジメ、お前はどうする?」

「俺は此処で手に入れた生成魔法で義手や義眼、新しい武器などを作るつもりだ」

「ハジメ、私も手伝う」

「サンキュー、ユエ。横島、手前は?」

「俺は俺で考えてる事があるからな。少し、一人にならせてもらう」

 

そして食事を終えて横島は部屋へ、ハジメとユエは工房に、エヴァは書庫へと其々移動する。

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

書庫において資料を調べるエヴァだが、やはり考えるのは横島のこれからであった。

昨夜、神代魔法を会得した後、エヴァは横島に文珠の事は秘密にする様にと念押しする。

ヒュドラの拘束に使った【縛】の文珠はあの適当な詠唱で誤魔化せたらしく、ハジメは何も言ってはこなかったが、改めて考えてみてもやはりこの世界においても文珠は過剰すぎる力の様だ。

もし、その力が神を自称するエヒトなどに知れたら厄介な事になる程度ではすまない。

 

エヴァはこれ以上横島を傷付けたくはなかった、嘗て魔法で覗き見したGS世界での出来事、アシュタロスとの戦いとその結末。

激しく後悔し、涙ながらに謝ったが笑いながら許してくれた。

そしてネギま世界でも魔法世界の存続か消滅かという「完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)」との戦いに巻き込んでしまった。

 

ならば、やはり優先するべきは元の世界への帰還、出来る事ならば故郷であるGS世界へと。

勿論逃がすつもりは無い、その時は絶対に付(憑)いて行く。

此処でハジメ達と別行動を取らせるのも【転】【移】や【帰】【還】が出来るのかどうかを検証させる為である。

 

とは言うものの昨日、ハジメに問われた時も「世界ががどうこうっていう事態は正直お腹いっぱい」などと言ってはいたが、実際にそう言う事態に関われば横島は口では何のかんのと言いながら彼等を助けるのであろう。

それが彼という男なのだから。

 

「はぁ~、ナギといい忠夫といい、何故私はああいう男に捕まってしまうのだろうな」

 

ため息混じりにそう呟いてみるものの、その頬は赤らみ、口元も緩んでいる。

”昨夜”の事も色々と思い出しているらしくヘラヘラ、モジモジ、いやんいやん、と悶えていた。

そしてその姿は資料となる本を取りに来たユエに開いた扉から覗き込まれていた。

 

「……見なかった事にしといてあげよう」

 

ユエはそっと扉を閉めて去って行き、エヴァはそれに気付かず今だ悶え続けていた。

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「やっぱり無理か」

 

そう呟く横島の手の中では発動しなかった文珠が光の粒となって霧散して行く。

このトータスへとやって来たのはあくまでも事故であり、それ故に元の世界とのリンクは切れたままらしく、文珠を使って元の世界への帰還はやはり不可能であった。

う~むと唸っていると腹の虫がグ~と鳴る。

 

「あ~、腹減った。今日はこれぐらいにするか」

 

テラスには既にハジメが居り、その腕には取りあえずは形になった義手を装着しており、義眼に関してはもう少し研究が必要らしく設計図を睨みつけていた。

そしてエヴァとユエが運んで来た食事を食べるのだが、何やら精の付くメニューが多いのは気のせいだろうか?

 

「どうだ忠夫、帰れそうか?」

「うんにゃ、今のままじゃ無理だな」

「ならば鍵となるのはやはり神代魔法か」

 

そう言いエヴァは一冊の本をテーブルの上に放り出す。

 

「エヴァ、何だそれは?」

「この大迷宮を造ったオスカーとやらの手記の様だ」

 

ハジメの問いに手記を開きながらエヴァはそう答える。

 

「どうやら他の六つの迷宮も其々の試練とやらを攻略する事で最深部で神代魔法を会得出来るらしい」

 

このオルクス大迷宮で手に入れた生成魔法は魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法だが、これだけでは例え文珠の力を加えたとしても世界の壁を越える事は出来そうにはない。

ならば他の六つの迷宮を巡り、其処で手に入る神代魔法に賭けるしかない。

 

「召還魔法とやらがあるんだ。他の世界へと渡る魔法も何処かの迷宮にあっても可笑しくはない」

「ま、面倒くせぇが確かにそれが一番の近道か」

 

その他の資料を調べてはみたが確かな場所を示す物などは無く、まずはその存在が確認出来ている【グリューエン大砂漠の大火山】に【ハルツィナ樹海】、そして【ライセン大峡谷】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】にも可能性がある様だ。

そして暫くの間、四人は行動を共にする事にした。

見も知らぬ異世界でバラバラに探すよりその方が効率が良いと考えたからだ。

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

その後二ヶ月の間、この場を拠点として世界を巡る準備などをしていた。

ハジメの義手と義眼も練成の粋を極め、魔力を通す事で擬似的な触覚や視覚なども再現でき、もはやアーティファクトと呼べる程であった。

ハジメの腕と目を文珠で治療しなかったのは神水によって傷は塞がり”治療”自体は既にされている為であり、別に文珠の力を隠そうとした訳では無かった。

と、言うか共に旅をすると決めた時点で横島が文珠を使える事は話している。

後々の為にもこの力は隠蔽するべきだという考えはハジメとユエも同意し、四人だけの秘密とする。

 

武器に関してはドンナーの他にも破損したシュラーゲンを修復し、更に電磁加速式機関砲:メツェライ、リボルバー式電磁加速銃:シュラーク、ロケット&ミサイルランチャー:オルカン、移動手段としては魔力駆動式のバイク・シュタイフに魔力駆動四輪・ブリーゼを作り上げていた。

勿論、ハジメの趣味である。

 

横島は、ハジメの様に練成は使えないが此処で手に入れた生成魔法は相性が良かったらしく、元々の手先の器用さが手伝い、自身の霊能力を再現させ、更に霊力を増幅させる機能を持った篭手、”栄光を掴む篭手(グローリ・オブ・ギア)”を作った。

右手の赤い篭手は霊波刀など攻撃に、左手の白い篭手はサイキックソーサーなど防御に其々特化している。

もっとも、ワザワザ作らなくても仮契約カードで呼び出すアーティファクトも同じ物なのだが、霊能力同様にこの世界では異端となる力をエヒトから隠す為にも都合が良いと考えたからである。

 

そして横島が移動手段として作ったのはハジメのシュタイフとは違いサイドカータイプ、雨の日などはブリーゼに相乗りさせてもらう事にした様だ。

 

ともあれ、これで全ての準備は完了、外界に出て次の大迷宮を目指す事となる。

ちなみに作り上げた様々なアーティファクトの数々はオスカーが保管していた道具の中に”宝物庫”という指輪型アーティファクト、簡単に言えば出し入れが自在な勇者の袋で持ち運びが出き、幸いに人数分あったので有難く貰っておいた。

 

「さてと、これから外に出て各迷宮を回るわけだが俺達の装備や力は教会の奴等からは当然、異端に写り最悪…嫌、確実に敵になるだろう」

「ん」

「まあ、其処は間違いないだろうな」

「実際、私は向こうでは賞金首だったしな」

 

横島とエヴァは現実に襲われた経験がある為、その辺は最初から警戒している。

そしてハジメはユエの頭に手を置き、優しく撫でると自分を見つめる紅眼を見つめ返し語り掛ける。

 

「俺がユエを、ユエが俺を守る。それで俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう」

「んっ!」

 

そんなラブラブ結界を張った二人を見つめながらエヴァは肘で横島を小突く。

 

「私に何か言う事は無いのか?な・に・か」

「…何を今更」

「なっ!」

 

目を逸らしてそう言う横島にエヴァは真っ赤になって戸惑う。

まさかのカウンターパンチである。

 

「おい…、行かないのか?」

「ぷっ」

 

無意識に”結界”を作り出していた二人にハジメは魔法陣の中から呼び、ユエはそんな二人を見て笑う。

勿論、人の事は笑えないユエである。

 

こうして四人の旅は始まるのであった。

 

続く……かナア?

 




(`・ω・)栄光を掴む篭手、見た目はハイスクDDのアレその物です。
ちなみに、攻撃力と防御力を反発・増幅させた勇者王な技も使えたりします。
節操の無い馬鹿野郎と笑ってやって下さい。


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