天使はいつだって憧れの君を見てる (ぶーちゃん☆)
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第一部【友達との遭遇編】
とつかわいい①





はじめましての方ははじめまして!


やってしまいました。まさかの戸塚ストーリーです。
勢いで思わずやってしまったお話ですので、続くかどうかは分かりませんっ!


 

 

 

「あ!せんぱーいっ!これどうぞぉ!」

 

 

ジャージの袖で汗を拭っていると、後輩の女子部員がタオルとドリンクを渡してきてくれた。

 

 

「うんっ!ありがとっ!」

 

 

その親切心がとっても嬉しかったから、心からの感謝を込めてお礼を言ったら顔を真っ赤にして……

 

「い、いえ!とんでもないですぅ………ああ、可愛いっ……」

 

…………?

なんだか最後にぽしょっと可愛いとかって聞こえた気がするんだけど、んー、気のせいかな?

 

 

ぼく戸塚彩加は、総武高校テニス部に所属する二年生の男の子。今は放課後の部活動中なんだっ!

大好きなテニスでちょっとでも身体を鍛えて、強い男の子になるのが目標なんだよね。

 

 

よくみんなからは女の子みたい!とか、男なの!?嘘でしょ!?

とかって言われちゃうことが多いんだけど、ぼくってそんなに女の子みたいに見えるのかなぁ……。

ぼく、強くてかっこいい男の子になりたいんだけどな……。

 

 

そんなぼくには、ずっと気になってる人がいるんだ!とってもかっこよくて、ぼくの憧れの人。

同じクラスの比企谷八幡くん!

 

 

あ!変な意味じゃないよ!?

た、ただ憧れてるだけって意味で、そういう意味なんかじゃ絶対ないんだから!

だって……ぼくは男の子だもん!

 

 

× × ×

 

 

比企谷くんとは一年生から同じクラスなんだけど、まだ一度もお話した事がないんだよね……。

というよりは、比企谷くんが誰かとお話しているところを見た事がないんだ。

 

比企谷くんは入学初日に交通事故にあって、しばらく学校に登校出来なかった。

ようやく登校出来るようになった時にはクラス内ではほとんどグループが出来上がっちゃってて、彼には居場所が無くなっちゃってた……。

 

 

いつも一人で居る比企谷くんに、ぼくは何度か声を掛けてみようと思ったんだけど、すっごく緊張しちゃって無理だった……。ぼくの意気地なしっ!

 

 

でもね、比企谷くんはそんな状況なのに、別に何でもないかのようにいつも平気な顔をしていたんだ……。

 

林間学校だって文化祭だって体育祭だって、ずっとずっとひとりぼっちだったのに、それなのにいつも平気そうにしてた。

むしろ自分から他人と関わらないようにしているようにさえ見えたんだ。

 

その姿がなんだかとても強くてかっこよくて、でもどこか寂しげで儚げで……。

 

だからぼくはそんな彼に、比企谷八幡くんに惹かれたんだと思う。

ぼくは女の子みたいで弱っちくて頼りないから、そんな比企谷くんに憧れた。

強くなりたい!ぼくも比企谷くんみたいに……。

 

 

そしてぼくは比企谷くんとお友達になりたい……。

誰とも関わろうとしない彼に、ぼくを……戸塚彩加という存在を関わらせてみたいと、ずっと願っていたんだ!

 

 

× × ×

 

 

そんなチャンスは二年生に上がってからようやくやってきた。しかも二つも!

ていうかそんなチャンスをただ待っていないで、頑張って自分から話し掛けてみれば良かっただけなのにね……。

ホントぼくって……。

 

と、とにかくチャンスなんだ!今度こそ絶対に比企谷くんに話し掛けるぞーっ!

 

 

そのチャンスとは……まずは一つ目。体育の選択授業で同じ種目になれたんだっ♪

一年の時だって何度か同じ種目になれた事はあったんだけど、今回は今までとはわけが違うんだから!

 

そうなんだ!ぼくの大好きなテニスなんだもんっ!

比企谷くんがテニスを選んだって知った時は嬉しくてつい飛び跳ねちゃった。

 

 

比企谷くんと一緒にテニス……。とっても楽しいんだろうな……!

 

 

でもね、神様はいじわるだよ……。

せっかくペアで誘ってみようと勇気を振り絞って近付いて行ったら、比企谷くんてば

 

「あの、俺あんま調子よくないんで壁打ちしてていいっすか。迷惑かけることになっちゃうと思うんで」

 

って、すぐさま壁打ち始めちゃうんだもの!

 

 

もうっ!神様のいじわるっ!

せっかく勇気を出して声を掛けようと思ったのに、なんで今日に限って比企谷くんの体調を悪くしちゃうの!?

…………比企谷くん、体調大丈夫なのかなぁ……。

 

 

結局他の子に誘われちゃったけど、こういうのって最初のペア分けで大体その後もそのまま決まっちゃうんだよね……。

次の授業でペアを替えちゃったらその人に悪いし。

 

ていうかそんな風にちょっとでも考えちゃってる時点で、せっかく誘ってくれたペアの子にすっごく失礼だよね……。

ぼくのばかぁっ!

 

 

ぼくは自己嫌悪に陥りながらもペアの子と打ち合いを始めた。

だけどやっぱりどうしても気になっちゃう!

一応ぼくは経験者だし、ペアの子は初めてみたいであんまり上手じゃなかったから、チラチラと比企谷くんの壁打ちを気にする余裕があった。

 

「比企谷くんって……テニス経験者なのかな……?すっごく綺麗なフォームで上手だし、なんだかとってもカッコいい……!」

 

ぼくはつい見惚れちゃって、打ち合いが疎かになってしまった。

 

「戸塚くーん!僕初心者だからってあんまり手を抜かないでよー……」

 

はっ!!ぼくはなんて失礼な事をしてしまったんだろう……!

こんなんじゃ大好きなテニスにも申し訳ないよっ!

 

「うん!ごめんね!次は集中するからー」

 

ぼくは比企谷くんの壁打ちの様子に後ろ髪を引かれながらも、ちゃんと自分の役割に集中しようと決意した。

 

 

「……ああ、比企谷くんの壁打ちもっと見たいなぁ……。ん!ダメダメ!集中しなきゃっ!」

 

 

× × ×

 

 

はぁ〜……結局せっかくのチャンスも生かす事が出来なかった……。

自分の意気地の無さがホントに嫌になる。

 

でも、こんなに弱い自分を変えたい為に憧れの比企谷くんと仲良くなってみたいのに、こんなに弱いから比企谷君に話し掛けられないって、それってもうダメダメなスパイラルに陥ってるって事だよね……。

 

 

ん……。こんなんじゃダメだ。

そんなネガティブなことばっかり考えてる暇があるなら、少しでも強くなれるように努力しなくっちゃ!

 

 

ぼくの所属するテニス部は、実のところとっても弱いんだ。

そのうえ受験勉強で三年生が抜けちゃったら、もう部活として立ちゆかなくなっちゃうかもしれない……。

 

だから最近、一・二年生のモチベーションを少しでも上げたいなって思って、ぼくはお昼休みに自主練を始めてみた!

ぼくなんかでも少しは上手くなれば部員のみんなもやる気出してくれるかも知れないし、ぼく自身が自分を鍛えたいって気持ちがあるから一石二鳥だよね!

 

 

そんな気持ちで自主練を始めてから、ぼくはとんでもない事に気付いたんだ。

 

そう。これが二つ目のチャンス。なんとお昼休みに比企谷くんがテニスコートの近くに居たんだ!

 

一年生の時から、お昼休みはいつもどこに行ってるんだろう?ってずっと思ってたら、まさかこんなに近くに居るだなんて!

 

 

だから自主練を始めた当初は、すっごく比企谷くんの視線を意識しちゃって緊張しまくってカッコ悪いとこ見られちゃったんだけど、ぼくっていう存在を認識してもらえるチャンスだ!って、出来る限り気にしないで練習してたんだ。

 

 

今日もやっぱり居る!

う〜……やっぱり緊張するなぁ……。

 

でも頑張るぞっ!少しでもいいとこ見せなくっちゃね。

 

 

× × ×

 

 

うんっ!よし!すっごくいい感じ!

今日は壁とのラリーが気持ち良く続いてるよっ。

 

 

比企谷くん見てくれてるかな……?とチラリと様子を伺うと…………えっ!?

比企谷くんが誰か女の子と喋ってる!

 

あれって……あ!由比ヶ浜さんだ!

今まで比企谷くんと由比ヶ浜さんがお話してる所なんて見たこと無いけど……って言うか比企谷くんがクラスメイトとお喋りしてるとこ自体ほとんど見たことないんだけど……。

 

でもなんだか由比ヶ浜さんとっても楽しそう……。

仲……良いのかな……?

 

 

これは……、今度こそ神様がくれたチャンスなのかも知れない……。

 

今までは一人でいる比企谷くんに声を掛ける事に勇気を出せずに逃げちゃってたけど、由比ヶ浜さんが居てくれるんならぼくにも出来るかも知れない。

 

 

由比ヶ浜さんはとってもいい娘だしぼくとも仲良いもん!

由比ヶ浜さんに話し掛けさえすれば、その流れで比企谷くんともお話できるよね。

 

なんであの二人が仲が良いのか……どういう関係なのか……、そこは確かに気になるんだけど、こんなチャンスはもうやってこないかも知れない!

あとで由比ヶ浜さんに、比企谷くんとは仲が良いの?なんて恥ずかしくて聞けないもん。

 

 

「よしっ!行くぞ……ぼく!」

 

 

ぼくは誰にも聞こえないくらいの小さな声で自分に気合いを入れた。

そして練習が終わったフリをして汗を拭きながらゆっくりと……ゆっくりと二人に近付いて行く……。

 

 

「おーい!さいちゃーん!」

 

 

……!!

先に由比ヶ浜さんがぼくに気付いて声を掛けてくれたっ!

 

よしっ!今だ!

ぼくは今気付いたフリをして二人のもとへと駆け寄って行く。

比企谷くんの視線がぼくに向けられている事に緊張しながらも、ようやく二人のもとへとたどり着いた……。

 

 

 

彼の事が気になってからもう少しで早一年。

この日、ついにぼくと比企谷くんは初めての会合を果たす事となる。

 

 

これは、そんなぼくと比企谷くんの友情を紡ぐ物語の、その始まりの始まりのお話。

 

 

 

 

 

続く………かも?




ありがとうございました!

前書きでも述べましたが、なんか書いてみたくなってしまいつい出来心で書いてしまったので、続くかどうかは分かりません!

チラ裏でも良かったかもしれませんね><


ところでコレって警告タグでBLって載せといた方がいいんでしょうか?

ただの友情ストーリーだし戸塚の性別は天使なので、悩んだ末に一応はずしておきました。



追記・・・

早速低評価を頂いてしまったので(理由は定かではありませんが)、念の為ボーイズラブタグを付けておきました。

もちろん今後続くとしても、そういう描写はありません。


追記②・・・

読者さまから、BL目当てで見に来てガッカリされてしまうかも……とのありがたいご指摘を頂いたので、やっぱりボーイズラブタグははずしておきます!

もしやはり気になる方がおられましたら、お申し出くださいませっ!


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とつかわいい②

 

 

 

『由比ヶ浜さんと比企谷くんはここで何してるの?』

 

 

これはぼくが、一年掛かってようやく初めて比企谷くんに話し掛けた言葉。

 

我ながら情けない……。

 

情けない……けど、でもおっきな一歩だ!

ここから仲良くなって、お友達になっていけばいいんだもんっ!

 

 

でも……比企谷くんてば酷いんだぁ。

だって、完全に初対面って顔してた。

 

誰?って顔して、ぼくの顔をまじまじと見てたっけ。

あまりにも見られたから、すっごく恥ずかしかったけど……。

 

『あ、あはは。やっぱりぼくの名前覚えてないよね……』

 

分かってた事だけど、さすがにちょっとショックで比企谷くんを涙目で見つめちゃったら、なんか顔を真っ赤にして慌ててこんな事を言いだしたんだよっ!

 

『俺あんまりクラスの女子と関わりとかないからね』

 

……………ぼく男の子だもんっ!

 

しかもそんな事言いながら、なんか由比ヶ浜さんとはすっごく仲良さそうなんだよ!?

目の前のぼくの事なんて忘れて二人の世界に入っちゃってたんだもん……。

ぼくなんて一年の時からクラスメイトだったのにさっ!

 

むーっ!なーんか面白くないっ!

 

 

『ぼく、男なんだけどなぁ……』

 

って言ったら、すっごくビックリしてた。

ちょっと悔しかったから、

『……証拠、見せてもいいよ?』

 

なんてハーフパンツに手を伸ばしちゃったりしたんだけど、その時比企谷くんすっごい真っ赤になっちゃって、ぼく何してんだろ!?って、頭が冷えて冷静になったら、もう恥ずかしくて死にたくなっちゃった……っ!

 

すっごく顔が熱くて、俯いて涙目だったから、比企谷くんに変な子って思われちゃったかも……。

もーっ!ホントぼくのばかぁっ!第一印象最悪だよぉっ……!

 

一年以上クラスメイトやってるのに、今日のお昼に第一印象って……。

 

 

× × ×

 

 

ぼくは今、今日のお昼についに訪れた比企谷くんとの初会合を思い出しながら、みのむしみたいにお布団から顔だけだしてゴロゴロと悶えていた。

 

 

「あー恥ずかしかったぁ……うー……ぼくやらかしちゃったかなぁ……?」

 

 

……いくら緊張してたからって、比企谷くんの前で急にハーフパンツを脱ごうとするなんてぇっ!

ばかばかばかぁっ!

 

 

でも……。そのあとはちょっとテニスのお話とかも出来て楽しかったし、まぁいっか!

 

 

せっかくぼくという存在を認識してもらえたんだもん!明日からもちょっとでもチャンスがあったらガンガン話し掛けて絶対仲良くなるぞー!おーっ!

 

 

ぼくはそう決意し、今日という恥ずかしくもあり有意義でもあった記念日を胸に抱きながら眠りにつくのだった。

 

 

いい夢見れるといーなっ……おやす……み……なさ……………。

 

 

× × ×

 

 

それから数日後の選択体育、なんと比企谷くんとテニスが出来るチャンスがめぐってきたのだ!

今日はどうやらペアの子がお休みみたいなんだ。

 

ぼくはペアの子の体調も気になったんだけど、それよりも比企谷くんをどう誘えばいいかで頭を悩ませていた。

ゴメンね……?田中くん……。

 

 

よしっ!比企谷くんが一人になって後ろを向いてるっ!今だぁっ!

 

はぁ〜………ドキドキするぅ……ぼくは比企谷くんの肩をちょんちょんとつついてみた。

すると比企谷くんが振り向き、頬っぺたがぼくの指にぷすっと刺さった☆

 

「あはっ、ひっかかった」

いたずらにひっかかった比企谷くんのビックリした顔を見て、ぼくはなんだか自然と笑っちゃった!

 

「どした?」って聞いてきてくれたから、ペアの子がお休みって事情を説明して比企谷くんを誘ってみた……。

そしたら比企谷くんは二つ返事でオッケーしてくれた。

こんな事だったら、やっぱりテニスの授業が始まったその日に勇気を出して誘っとくべきだったよぉ……。

でも贅沢言っちゃだめだよねっ!

 

 

それにしても……と、とにかく、

 

「緊張したー」

 

ぼくはすっごく安心して、ただ自然と息を吐いただけのつもりだったんだけど、比企谷くんの驚いた顔を見て気がついた。

 

うわぁっ!今、緊張したーって声にでちゃってたんだ……!

 

もう!ぼく舞い上がりすぎだよっ……穴があったら入りたい……。

 

 

 

ようやく夢にまで見た……ホ、ホントに夢に出てきたわけじゃないよっ!?……たぶん……。

 

んんっ!ん!

と、とにかく!ついに比企谷くんとテニス出来る時が来たんだ!

 

うわ〜っ……やっぱり上手いなぁ……とても未経験者だなんて思えないよ〜……。

 

やっぱり上手だねっ!って褒めたら、比企谷くんたら『超壁打ってたからなー。テニスは極めた』……だって!

 

もーっ!比企谷くんてば。

それはスカッシュだよぉっって言って二人で笑ってた。

ホント比企谷くんは面白いなぁ!

 

 

でも、謙遜かなにか知らないけど、普通完璧な未経験者は、まずその壁打ちがうまく出来ないんだよっ?

だから比企谷くんはやっぱり上手いよ。ちゃんと練習すれば、ぼくなんてすぐに抜かれちゃう。

 

やっぱり……比企谷くんはすごい……!

 

 

ラリーを一旦やめて休憩した時、ぼくは思い切って比企谷くんをテニス部に誘ってみたんだ。単純に比企谷くんと一緒に部活動が出来たらとっても楽しいだろうし、テニス部も強くなると思う。

今テニス部は結構深刻な状態なんだよね……こうしてせっかく楽しいひとときを過ごせているのに、つい頭を過っちゃうくらいに……。

 

 

でもそれよりもなによりも……

 

「比企谷くんといっしょなら、ぼくも頑張れると思うし」

 

って、え!?ぼく、今声に出てた!?

ちちち違うんだよっ!?そそそそういう変な意味じゃなくってっ!

 

「ぼくも、テニス、強くなりたい、から」

 

慌てて出たその言葉に……

 

「お前は弱くてもいいよ。……俺が、守るから」

 

 

 

……………………………………………。

 

もーーーーーーーーぉっ!!

比企谷くんはイジワルだよーーーぉっ!

 

 

ぼ、ぼくは男の子なんだよっ!?

そ!そんな事言われたって、う、嬉しくなんかないもんーーーっ!

 

 

恥ずかしくって嬉しくっ……ちがうちがう!嬉しくなんてないっ……

とにかくっ!恥ずかしくって顔が赤くなっちゃうから、そういう冗談やめてよねっ!

 

むーっ!

 

 

 

結局そのあとはテニス部に入部の件は体よく断られちゃった……

それはそうだよね……上手なのと好きなのはまた別のお話だもんね……。

とっても良い考えだと思ったんだけどなぁ……。

 

 

でもでも!なんだかぼく気がついたら普通に比企谷くんとお話できてるっ!

 

ちょっぴり残念だったけどとっても嬉しかったから、プラマイで言えば大幅プラスだねっ☆

 

 

× × ×

 

 

放課後……。ぼくはちょっとだけ気が重くなってた。

 

比企谷くんに断られた事もあり、やっぱりテニス部の現状の事が本格的に頭から離れなくなってきた……。

 

どうしようかな……。

先輩達が次の大会で抜けて、弱すぎて部活としての体をなさなくなっちゃったら、みんなで一緒にやれる大好きなテニスが出来なくなっちゃうことだってありえるんだ……。

 

 

ぼくがあからさまに凹んで見えたのかな……?

由比ヶ浜さんが声を掛けてきてくれた。

 

「さいちゃんやっはろー!……どしたの?なんか元気ないみたいだけど……。あたしで良かったら相談とかのるしっ」

 

「あ!由比ヶ浜さんやっはろー!……うん。テニス部のことでちょっとだけ悩んでるんだよね……」

 

「マジでっ!?大丈夫!?……どしたの?」

 

 

ぼくはとっても心配してくれてる由比ヶ浜さんの優しい気持ちが嬉しくて、今のテニス部の現状を話してみた。

さすがに全然関係のない由比ヶ浜さんにこんな話をするのは申し訳なかったけど、さっきの比企谷くんに対してもそうなんだけど、少しでも悩みを人に聞いてもらえるとちょっとだけ楽になるんだって分かったから聞いてもらった。

 

「由比ヶ浜さん!ありがと!聞いてもらえただけでもちょっと楽になったよ!」

 

そしたら由比ヶ浜さんははっ!として意外な事を言いだした。

 

「だったらさ!あたしの部活に相談してみない!?うまくいくかどうか分かんないけど、もしかしたらテニス部を強くしてもらえるかもっ」

 

「え!?テ、テニス部を強くしてもらえるのっ!?どういう事かよく分からないけど、少しでも可能性あるんだったら相談してみたいっ!」

 

「うんっ!じゃあ行こっ?」

 

 

× × ×

 

 

こうしてぼくは、由比ヶ浜さんに連れられて普段あまり行くことのない特別棟へと通じる渡り廊下を歩いている。

 

 

あんまり詳しくは聞けなかったんだけど、どうやら由比ヶ浜さんの部活とは、あの超有名人の雪ノ下雪乃さんが部長を務める、生徒の悩みを解決してくれる何でも屋さんみたいな部活らしいんだ。

 

 

雪ノ下さんと聞いて、すっごく緊張してきた〜……。

 

だって!すっごく綺麗ですっごく優秀ですっごい有名人なんだもん!

そしてちょっと……恐い感じ……。

 

もちろんぼくなんかじゃ雪ノ下さんと関わった事なんてなくって、たまに廊下ですれ違うくらいなんだけど、とってもクール!って感じで、すごく近寄りがたい空気をまとってる感じなんだよね……。

 

 

恐くて恐くてしかたないよっ……。

でも!でも!……もしかしたらなんとかしてもらえるかもしれないんだから、ぼくが頑張らなきゃっ!

 

 

でもやっぱり不安で不安で、由比ヶ浜さんのブレザーの裾を摘んでしまう……。

ゴメンね由比ヶ浜さん!こんなに親切にしてくれるのにこんなに情けないぼくで……。

 

 

「さいちゃん着いたよっ!ここがあたしの部活、奉仕部っ」

 

 

特別棟の奥にあった、ひとつのある教室に辿り着くと、由比ヶ浜さんがじゃじゃんっと手を掲げる。

 

そしてぼくが少しでも安心するようにニコリと笑顔を向けてくれると、元気にその扉を開いた。

 

「やっはろー!」

 

 

ぼくは不安と緊張で顔をあげられないまま、由比ヶ浜さんのあとについてその扉をくぐった。

たぶんぼくは真っ青な顔してるんだろうな……。

 

 

なんてぼくは情けないんだろう……!ここまできて俯いたままだなんて……!

こんなんじゃダメだ!ぼくは勇気を振り絞って顔をあげた!

 

そしてそこには…………

 

 

「あ!………比企谷くんっ!」

 

 

比企谷くんの顔を見たら、さっきまでの不安も緊張もどっか行っちゃった!

血の気が引いて真っ青だったはずなのに、温かいなにかが一気に熱を持たせてくれた事を強く感じる……!

 

信じられない……!まさか……まさかこんなところで比企谷くんと繋がれるだなんて……!

 

 

 

 

 

 

ぼくと比企谷くんの友情物語は、まだ始まったばかりっ!

 

 

 

 

続く…………かも?







……………うーん。
作者の頭の中がお花畑でいっぱいです(テヘッ

あたま大丈夫でしょうか?私……。
そもそもサブタイトルからして頭おかしいですもんね(白目)
なんだよとつかわいい①②って……


と、とりあえず、今後続けていくとしたら方向性はこんな感じですかね〜?

原作沿いだと、どうしても八幡との会話がそのまま原作からの引用になっちゃうんで、どう続けるか悩んでたんですよね〜。
なので出来るだけ原作内の会話を引用しないで済むように、会話の中の一部だけを抜き取って引用し、あとはほぼ全編で戸塚の心の声(地の文)で会話を補完する形ですかね。


結構ムズいです!そして超乙女になっちゃいます!

こんなんでもよろしければ、ゆっくりと続けていけたらと思います☆
さすがにあざとくない件や相模SSのような更新速度はムリっす!


こんな極一部のマニア向けの作品にお目を通していただきありがとうございました!


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とつかわいい③

 

 

 

部活の悩みを少しでも好転できるようにと由比ヶ浜さんにとある部室へと連れられてきたぼくは、そこで比企谷くんと再び遭遇した。

 

ついさっきまで不安でいっぱいだったぼくだけど、比企谷くんを認識した途端にとててっと駆け寄って、思わず比企谷くんの制服の袖口をきゅっと握っちゃった。

ああ……すっごく安心する……!

やっぱり君はぼくの憧れのヒーローだね……

 

「比企谷くん、ここで何してるの?」

 

「いや、俺は部活だけど……」

 

……そっか……比企谷くんは、この奉仕部っていう部活に所属してるんだ……

比企谷くんが部活に入ってるなんて知らなかった。

ちょっと意外……!比企谷くんて、そういうの興味の無い人かと思ってたから。

じゃあテニス部に誘ったって、断られちゃうにきまってるよね。

 

 

「違うんだっ!?」

 

ぼくが比企谷くんに対する思考に陥っていると、なんだか衝撃的なやりとりが。

どうやら由比ヶ浜さんは、奉仕部の部員じゃなかったみたいだね。

ふふっ!由比ヶ浜さんて、ホントにおっちょこちょいだなぁっ。さっきはあたしの部活にようこそっ!みたいに言ってたのにっ。

でも今まさに部員として承認されたみたいだね!

 

でも、これでようやく比企谷くんと由比ヶ浜さんがなんで仲良しなのかが理解出来たよ。

えへへ……ちょっと安心っ……

 

 

って!そういうんじゃないからねっ!?

あわわわわ……ぼ、ぼくはただ、関係性が解明されたからスッキリした〜……っていう意味で言っただけだからねっ!?

 

 

× × ×

 

 

奉仕部への相談に対しての答えは、由比ヶ浜さんやぼくが思ってたのとはちょっと違うみたい。

強くしてくれるんじゃなくって、『自分で強くなりなさい、その為に協力してあげる』っていうスタンスみたいなんだ。

 

……そりゃそうだよねっ……ぼくは甘かった……

他人《ひと》に頼って強くしてもらおうだなんて、そんなのは本物の強さなんかじゃないもんねっ!

でもぼくが少しでもうまくなれるように一緒に協力してくれるってだけでも、とっても嬉しいし有り難いことだよねっ……!

 

 

で……でもね……?雪ノ下さんが……その……とっても恐いんだ……

なんていうかにっこり微笑んだ、そのとっても綺麗な笑顔が……うん。もうなんていうか恐いっ!

 

血の気が引いて小刻みに震えるぼくは、思わず心の声を呟いてしまう。

 

「ぼく、死んじゃうのかな……」

 

すると比企谷が……!比企谷くんがぁ……っ!

 

「大丈夫だ。お前は俺が守るから」

 

 

 

……………………………

 

 

 

もぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

 

 

またなの!?またぼくをそうやってからかうのぉっ!?

 

どうしよどうしよっ!顔がっ!顔が熱いよっ!

落ち着け!落ち着けぼくっ!

 

 

「比企谷くん……。本気で言ってくれてるの、かな?」

 

「や、ごめん、ちょっと言ってみたかっただけ」

 

 

…………ふぇぇぇぇんっ!比企谷くんの………ばかぁぁぁっ!

 

 

もーーーぉぉぉっ!比企谷くんにとっては軽い冗談でも、ぼくにとってはとっても大事なことなんだからねっ!比企谷くんのばかっ!もう比企谷くんなんてキライなんだからっ!

 

ぼくはため息をついて唇を尖らせる。……でも……

 

「比企谷くんはときどきわからないよね……。でも……」

 

 

……でも、不安で震えているぼくをリラックスさせてくれるためにあんなこと言ってくれたんだよね……!

やっぱり比企谷くんはとっても優しくてとっても格好いいっ……

 

 

クスッ……ちょっぴりイジワルだけどねっ……☆

 

 

× × ×

 

 

その翌日のお昼休みから、雪ノ下さんによるぼくのテニス特訓がはじまった!

 

ぼくはテニスコートに向かう途中で比企谷くんを見つけて、嬉しくて腕に飛び付いたり可愛いって言われて照れちゃったりともう大忙し!

 

ってアレ?……あはっ!テニス関係ないねっ!

 

そしてその際に比企谷くんのお友達とも出会う事になったんだけど、材木座くん……だっけ?

比企谷くんがお友達付き合いしてるくらいだから絶対にいい人だとは思うんだけど……

 

ごめんねっ!正直言ってる意味が良く分からなかったんだ……!

一応ぼくもお友達にはなったんだけど、本当に言ってる事が良く分からなかったから、ここでは材木座くんの事は割愛させて頂きますっ!ホントにごめんね!

 

たぶん今ぼくは目がバッテンになっちゃってるっ……

 

 

× × ×

 

 

その日からは毎日のように基礎のトレーニングを続けたんだけど、すっごくキツかった……

なんでぼくってこんなに筋肉が付きにくい身体なんだろ……

 

こんなんじゃホントに比企谷くんに守って貰わないと生きていけないよ……えへっ!なーんてねっ。

 

 

そして数日が経ち、ついにラケットとボールを使った本格的な練習に入った頃……事件は起きたんだ!

 

ぼくがいつまでもうまくならない上に怪我までしちゃったから、雪ノ下さんが呆れてコートから去ってしまって、それでもへこたれずに練習していた時……

 

「あ、テニスしてんじゃ、テニス!」

 

うちのクラスの三浦さんだった。

三浦さんはクラスの中心的な女子でとっても恐い……

雪ノ下さんとはまた違った恐さなのかな。

 

そういえばちょっと前に、教室で雪ノ下さんと三浦さんがちょっとやり合ってたって田中くんが震えながら言ってたっけ……

雨が降ってたけど体育館で素振り練習が出来るからぼくは居なかったけど。

 

「ね、戸塚ー。あーしらもここで遊んでていい?」

 

「三浦さん、ぼくは別に、遊んでるわけじゃ、なくて…練習を…」

 

「え?何?聞こえないんだけど」

 

 

………やっぱり恐いっ!

 

でもぼくは一生懸命練習してるんだもん!

ぼくは目をバッテンにして涙目になりながらも、なんとか練習だからと伝えた。

でも比企谷くんや由比ヶ浜さんも居るんだからと、自分たちも使っていいでしょ!?って……すっごい迫ってきた……

 

助けてっ!比企谷くんっ!

 

「あー、悪いんだけど、このコートは戸塚がお願いして使わしてもらってるもんだから、他の人は無理なんだ」

 

………ひ、比企谷くん……!

なんかぼくは素敵な王子様に助けられるお姫さ…………ってぼくのばかっ!

ぼくは男の子だってばぁっ!

 

 

結局比企谷くんの説明もあまり受け入れてもらえず、クラスのリーダー葉山くんまで参入して、なぜか部外者同士のテニス対決になってしまった。

練習するなら強いやつが教えた方がいいだろ?っていう葉山くんの申し出なんだけど……………正直面白くない……っ!

ぼくはお願いして比企谷くん達に助けてもらってるのに、なんでそういう事になっちゃうのかな……!

 

そんな理由でぼくの為に勝負になっちゃうなんて、ここのところずっと練習に付き合ってくれていた比企谷くん達に失礼だよ……

 

 

ぼくは葉山くんの場を収める能力はすごいなって感心しつつも、それでもそれは強者の理論だよね……って、納得いかなかった。

 

でも一番納得いかないのは、そう思っているのに恐くてそれを葉山くんや三浦さんに伝えられないぼく自身……

 

 

こんなんじゃ……比企谷くんのお友達なんかになれないよ……

 

 

テニス対決は男女混合ダブルスでやる事になったみたい。

ただ葉山くんと三浦さんが組みたいってだけで、比企谷くん側の意見とかは一切関係なく……ね。

 

どうせぼくはテニス部員だから、どっちにしても試合には出られないんだけど、あまりにも申し訳なくて比企谷くんに謝った。

 

「比企谷くん。ごめんね。ぼく、女の子だったらよかったんだけど……」

 

ホントは謝らなきゃいけないのはそれだけじゃないんだ……

ぼくがはっきりと三浦さん達に強く断る事が出来れば、こんな事には……!

 

悔しくて泣きそうに俯いているぼくを、比企谷くんはポンポンって優しく撫でてくれた。

 

「……気にすんな」

 

じわりと涙が滲む。

ごめんね、こんな弱いぼくの為に……

いつか絶対、キミの隣に並べるくらいに強くなってみせるからっ……!

 

× × ×

 

 

………すごいっ!

これはもううちのテニス部の誰よりも凄い試合だよ……!

 

三浦さんは中学の時に県選抜に選ばれた程のプレーヤーらしいんだ!

サーブ、リターン、ボレー。その全てが高レベルプレーヤーのそれだった……。

そして葉山くん。

確かにテニス自体は初心者との事だったけど、それを補って余りある運動神経……!

サッカー部次期主将と目されるその類い稀なセンスは、初心者なんていう枠から一歩も二歩もはみ出している。

 

 

……でも……なにより驚かされたのが、そんな二人を相手に善戦出来ている比企谷くん!

 

キミは本当に初心者なの?

 

無理を推して出てくれた由比ヶ浜さんは、それこそ初心者らしい動きでほとんどプレーに絡めていないのに、比企谷くんはほとんど一人でダブルス相手に戦っている!

 

ついにはほぼ一人で戦っている比企谷くんに勝てないと思ったのか、葉山・三浦ペアは由比ヶ浜さんを狙いはじめた。

勝負事だから仕方ないけど、ちょっと大人げ無い気がする……

 

 

悔しいっ!

ぼくがあそこに立てたなら!比企谷くんの隣に立てたなら!……絶対に負けないのにっ!

 

 

「由比ヶ浜さんっ……」

 

ついに由比ヶ浜さんは激しい集中攻撃に怪我をしてしまった……

本当にごめんなさい……

こんな事になってしまって……

比企谷くんにも由比ヶ浜さんにもここまで迷惑かけちゃって……

 

ぼくが二人にもう大丈夫だから…と声を掛けに行こうとしたら、由比ヶ浜さんがギャラリーを掻き分けてコートから出ていってしまった。

 

保健室に向かったんだろうか?

だったらぼくが付き添わなきゃっ!

でも!この場をそのままにしてぼくが行っちゃう訳にもいかない……

 

そうして戸惑っていたら、急にギャラリーがざわついた。

 

「この馬鹿騒ぎは何?」

 

モーゼの十戒の如く割れたギャラリーの間から現われたのは、スコート姿に身を固めた凍える程に冷たくも美しい、奉仕部部長雪ノ下さんだった……

 

 

 

× × ×

 

 

雪ノ下さんはぼくに呆れてコートを去った訳じゃ無かったんだ。

怪我をしたぼくの為に、保健室に行っていてくれたみたいなんだ!

この人は、恐いだけじゃない。不器用だけどとっても優しい人なんだなぁ……

ぼくの治療を由比ヶ浜さんに任せると、比企谷くんと共にコートへと向かった。

 

そしてその雪ノ下雪乃さん。

もう凄いという他なかった。

 

県選抜に選ばれた程の実力者だという三浦さんの一枚も二枚も上を行く超実力者……

葉山・三浦ペアがまったく歯が立たない。

 

 

あまりの実力差に、勝負はこのまま決するかと思われた。

でも……どうやら雪ノ下さんは……体力が無かったみたい……

 

今度は完全に足が止まってしまった雪ノ下を集中攻撃する三浦さんたち。

 

勝利を確信して騒ぎだした三浦さん達の様子に今度こそもうダメか……そう諦めかけたその刹那、雪ノ下さんが舌打ちをし、とっても不機嫌そうに口を開く。

 

「少し、黙ってもらえるかしら……この男が試合を決めるから、おとなしく敗北なさい」

 

この場の誰もが戸惑う。

比企谷くん本人でさえも。

 

でもそんな空気を嘲笑うかのような雪ノ下さんの一言で、みんなが静まり返った。

 

「知ってる?私、暴言も失言も吐くけれど、虚言だけは吐いたことがないの」

 

すごい!こんなに凄い雪ノ下さんは、こんなにも比企谷くんを信頼してるんだ……

 

確信ともいえる自信たっぷりのその表情にぼくも確信する。

比企谷くんは絶対にこの勝負を決めるって……

 

 

× × ×

 

 

「比企谷くん。……あの、ありがと」

 

 

比企谷くんは試合を決めた。あまりにも当たり前のように……

勝利者であるはずの比企谷くん達には、なんの歓声も賞賛も無かったけど……

 

でも……それでもぼくは、心の底から格好いいと思った!

やっぱりキミはぼくの憧れの人だねっ……!

 

「俺は別になんもしてないよ。礼ならあいつらに……」

 

 

 

比企谷くんはそう言いながら雪ノ下さん達を捜しに行ってしまった。

 

 

ううん!違うよ!

確かに由比ヶ浜さんが怪我をしてまで頑張ってくれなかったら負けてたかもしれない。

確かに雪ノ下さんの鬼神の如き活躍が無かったら勝てなかったかもしれない。

 

でも比企谷くん!キミが居なければ、キミがぼくを守ってくれなければ、そもそもスタート地点にさえ立ててはいなかったんだよっ!

 

 

やっぱりぼくは比企谷くんの隣に立ちたい!

キミに認めてもらえるくらい強くなりたい!

 

 

だから……もう少し待っててね。

絶対に、今度はキミに頼って貰えるくらいに強くなってみせるからっ!

 

 

 

ぼくと比企谷くんの友情物語は、ようやくスタートラインに辿り着いた……のかも……っ!

 

 

 

続く………かな?

 




くぅっ……こ、これは難しいです><

まさか戸塚SS(というかこの方向性)がこんなに難しいとはっ!
原作沿いって……難しいんですね……


このままではいつも同じ流れになってマンネリ化しちゃいますね〜><



という訳で………スミマセン!わたくし逃げ出しますっ!




そんなわけで、次回は原作沿いから一旦逃げ出して、原作で語られなかった期間の妄想劇でお茶を濁したいと思いますっ!

もしかしたら八幡と戸塚のデート……ゲフンゲフン
男友達同士、二人で遊んだりとかしちゃうかも!


あ……材木座は嫌いじゃないんですけど、いざ文章におこそうとするとウザイうえにウザくて、さらにウザイ事この上ないので、今後もカットの方向で(笑)
ただでさえ文字数増えてく一方なのに、材木座までまかないきれないですwww


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とつかわいい④

 

 

 

「ふぅ〜……今日も疲れたなぁ〜っ」

 

 

そんな言葉とは裏腹に、ぼくは今日の部活動も気持ち良く終えた。

 

「せんぱーいっ!あの、これどうぞっ!」

 

今日も後輩の女の子が親切心でドリンクとタオルを持ってきてくれた。

この子はホントにいい子だなぁ。いつもぼくに親切にしてくれる!

あんまり他の先輩達にタオルとか持っていくところは見たことないけど気のせいかな?

 

「いつもありがとねっ!」

 

今日も心からの感謝の気持ちを伝えると、両手を頬にあてて目をキラキラさせる。

 

「いえっ!そんなっ!どういたしましてっ!………やーん……可愛いっ……」

 

…………?

 

この子はホントにいい子なんだけど、ぼくがお礼を言うといつも最後にボソボソと一言なにかを付け加えるんだよなぁ……

なんて言ってるんだろう?

 

 

今日はお昼にテニス対決があって、それが噂になってたからかみんなの空気がいつもと違っていた気がした。

一年生のみんなもいつもよりキビキビ動いてたし……

 

うんっ!なんかちょっといい感じだぞっ!

ぼくもっと頑張るから、この調子でみんなもやる気を出してくれるといいなっ♪

 

 

× × ×

 

 

部活を終えたぼくは部室に置いておいた荷物をまとめて帰りの支度を済ませた。

 

そしていざ帰ろうと部室を出ると、駐輪場の方へと向かうとても見慣れた人影がっ……

 

 

……………っ!比企谷くんだっ!

 

ど!どうしよう!声、掛けようかなっ……

もうぼく達って友達……なんだよね……?

友達……なの……かな……

 

なんか自信無くなってきちゃったよぉ!

 

でも、今のぼくならこんななんでもない瞬間にだって、普通に声を掛けられるハズだよね……っ!

 

ホント言うと、今までだってこういう事あったんだ。

ちょうど帰りが同じ時間になったコト。

でも今までのぼくには声を掛けるなんて出来なかった。

でも、でも今なら!

 

幸い会話の取っ掛かりとしては今日のテニス対決の話題だってあるもん!

 

 

ぼくは覚悟を決めて比企谷くんに近付いていく。

 

でもその途中でぼくは……重大なことに気が付いたんだ……!

 

 

× × ×

 

 

ぼくはもう少しで比企谷くんに追い付きそうというところで、くんくんと自分の匂いを嗅いだ。

 

 

………ぼく!臭くないかなっ!?

 

 

部活上がりのぼくは、ついさっきまで汗でビチョビチョだったことを思い出したんだ……!

 

うぅ〜……ど、どうしようっ!

大丈夫かなっ!?ぼく臭わないかなっ!?

 

ちゃんと部室で制汗スプレーかけてきたけどっ、それでももしも比企谷くんに、『うわっ……なんか戸塚臭せぇな……』なんて思われちゃったら、恥ずかしくってぼく死んじゃうよぉ……

 

くんくんっ!くんくんくんっ!

 

大……丈夫……だよね……?

あぁ……早く声かけないと、比企谷くん行っちゃうかも知れないっ!

 

 

ぼくは清水の舞台から飛び降りるくらいの覚悟を決めたっ……

大丈夫!ぼくは行ける!逃げちゃダメだ!

 

「ひ、比企谷くんっ!お疲れさま!……い、今からおうちに帰るの……かな?」

 

すると比企谷くんはちょっとびっくりした顔でぼくを見る。

心なしか顔がちょっと赤い……ぼくも、赤いのかな……?

 

 

× × ×

 

 

「お、おう戸塚か。おっす」

 

なんだかちょっぴり照れくさそうに挨拶を返してくれた……!

『おっす』か……なんだかすごく友達っぽいかもっ……

 

ぼくもそれ返しちゃおっかなっ……!

ちょっと恥ずかしかったけど、頑張って返してみた。

 

「うんっ!……おっす……!」

 

わぁぁぁぁっ!すっごい恥ずかしいよぉぉぉっ!

ぼく、こんなの初めてだよぉっ。

ううっ……顔がっ……顔が熱いっ。部活上がりだから赤い顔を誤魔化せてるといいんだけどっ……

 

「ちょうど部活終わって今帰るとこだ。戸塚も部活終わったとこなのか?」

 

「うんっ。ぼくもちょうど終わって帰るとこなんだっ!えへへ、奇遇だねっ」

 

「お、おう……奇遇だな。……じ、じゃあせっかくだし、たまには一緒に帰りゅか……?」

 

あっ!比企谷くん噛んだぁっ!

えへっ!真っ赤になっちゃってる!いつもはクールで格好いいのに、なんか可愛いなっ!

 

 

 

…………………って!えぇぇぇっ!?ぼく、一緒に帰るか?って誘われちゃったっ……?

 

これは……比企谷くんともっと仲良くなれるチャンスかもっ!

ホントに出来ればなんだけど、ちょっとお願いしたいこともあるしっ……

 

 

「う、うんっ!……じゃあ、一緒に帰ろっ?」

 

そうしてぼく達は初めての放課後デ……下校をすることになったんだ。

 

大丈夫だよね……ぼく、臭くない……よね?

 

 

× × ×

 

 

比企谷くんは自転車を押しながら、ぼくはその比企谷くんのブレザーの袖をちょこんと摘みながら駅までの道のりを並んで歩く。

なんだか比企谷くんの袖を掴むのが癖になっちゃいそう。

 

それよりも早く聞かなきゃ!駅についちゃうっ!

でも、急にこんなお願いされたら引いちゃうかな……

 

でも……ちょっと聞くだけだもんね。

もし!もしもこのお願いを聞いてもらえたら、すっごくすっごく嬉しいし!

だから恥ずかしいけど頑張ろうっ。

 

 

「あの、比企谷くんって」

そこまで言ってふと思ったコトがある。

そういえば由比ヶ浜さんて比企谷くんをあだ名で呼んでるよね。……ヒッキー……かぁ……

ぼくも、呼んで……みたいな……

 

「ん?」

 

あ……余計な思考に支配されてたら、ヒッキ……比企谷くんを待たせちゃったみたいだ!

 

「あ……ヒッキー……は……」

 

「え?どうした戸塚。全然聞こえねぇんだけど」

 

「わーっ!ごめん!……そ、その……ひ、ヒッキーがやくんはっ!」

 

 

…………………………ぼくなに言ってんのぉぉぉ!?

ヒッキーがやくんてなんなのぉっ!?

 

「なんだよヒッキーがやくんて……ま、まぁ噛んだだけだよな」

 

「うん!ご、ごめんねっ!……その……比企谷……くんは、ゴールデンウィークって、なんか予定入ってたり……するの……かな……?」

 

 

ぼくはヒッキーって呼ぶのはひとまず保留にして、どうしても聞きたかった事を勇気を振り絞って聞いてみた。

 

「へ?ゴ、ゴールデンウィーク?……い、いや、別に予定は入ってねぇけど……」

 

「ほんとっ!?良かったぁ……あ!よ、良かったって言っても、まだぼくのお願いを聞いてもらえるってワケでもなんでもないのにっ!……えへへ……ごめんね。ぼく、舞い上がりすぎちゃった……」

 

うう……またやっちゃった……

なんだか比企谷くんと一緒にいると、ぼくおかしくなっちゃうなぁ……

 

「……いや、別に気にしてねぇから大丈夫だ。……それで、お願いって?」

 

比企谷くんはそんなぼくの暴走を気にしないでくれたから、ぼくは思い切ってお願いしてみたんだ……!

 

 

「比企谷くんさえ良かったらなんだけど……ぼくと……ぼくと一緒にテニスしてくれないかなっ……」

 

 

× × ×

 

 

とっても弱い我がテニス部は、ゴールデンウィーク中にも関わらず、ほんの数日しか練習がない。

ほかの運動部は一日も休まないところだってあるって聞いたのにっ!

 

そんな事を思い出してたら、ぼくは思わず頬っぺたを膨らませていた。

 

「戸塚……?」

 

急にテニスを一緒にして欲しいなんて言っといて、それなのに黙り込んでむーっとしていたぼくが心配になっちゃったみたいだっ!

ごめんね!比企谷くんっ!

 

「ご!ごめんっ!あの……あのねっ!?…………」

 

 

ぼくは事の成り行きを比企谷くんに説明した。

 

まずうちのテニス部は顧問からしてあんまりやる気がないこと。家族サービスがしたいから部活は休みにしたいんだって……

 

そして三年の先輩達はわざわざ休みを返上して練習しても、どうせ夏の大会は一回戦で負けて引退することになっちゃうんだし、だったら受験勉強がしたいとのこと……

 

顧問と三年生がそんなだから、残された一年生も二年生も遊びたい!って空気になっちゃって、自然の流れで長期休暇中の部活動が最低限の日数で抑えられてしまったことなどを説明した。

 

「ごめんね、比企谷くん……比企谷くんには全然関係のないことなのに、こんな風に部活の恥みたいなことを愚痴っちゃって……」

 

「いや、気にすんな。……そうか。なんつうか、その、大変そうだな……」

 

ちょっと落ち込み気味に俯くぼくの頭を、比企谷くんはポンポンって、優しく撫でてくれた。

うぅ……なんだかとっても安心するんだけど、なんだかとってもドキドキするよぉっ!

 

真っ赤になっているであろう顔をあげられずにいると、比企谷くんはぼくを心配してフォローしてくれる……

 

「ま、まぁアレだ。俺からすりゃ、わざわざ休みの日に部活の為に一日でも学校に行く連中の方が逆にすごいまである。……だからまぁ、別にそんなのは……部活の恥とかじゃねぇよ。気にすんな」

 

「えへっ……比企谷くんは……やっぱり優しいねっ」

 

「ば、バッカ!そんなんじゃねぇよ……」

 

見上げた比企谷くんの顔は、とっても照れくさそうに真っ赤に染まってた。

 

 

「そ、それでねっ?やっぱりぼくはちょっとでも練習したいから、顧問の先生に個人でコートを使わせてもらえないかってお願いしたら、一日だけならいいぞって言ってくれたんだっ!……だ、だからぼくはその日は一人で練習するつもりだったんだけど……」

 

そこまで言うと、ぼくは比企谷くんの目をまっすぐに見つめる……!

大丈夫かな……ウルウルしてるの気付かれちゃってないかな……?

 

「だから、もし比企谷くんさえ良かったら、その日二人っきりで練習に付き合って貰えない……かな……?…………今日のテニス対決見てたら比企谷くんやっぱりすごく上手いし、ぼくも比企谷くんと一緒に居られるなら、すっごく頑張れると思うんだっ…………」

 

 

あれ?ぼくなにか変なこと言っちゃってない……?

き、気のせいだよね!

 

「………ダ…メ……かな……?」

 

 

ぼく男の子なのにっ……頬を真っ赤にさせてウルウルと上目遣いで比企谷くんにお願いしちゃうなんてっ……!

うぅ……カッコ悪いな……

 

「お、おう。ま、別に暇だしな……俺なんかで良ければ全然大丈びゅっ……だ、大丈夫……だぞ」

 

「ホントにっ!?ありがとう比企谷くんっ!大すっ…………!!!」

 

 

あ……あぶなかったぁ……思わず嬉しすぎて抱きつきそうになっちゃった……!

ていうかその前にぼく凄いこと口走りそうにならなかった………!?

 

 

 

 

こうしてぼくは一日だけだけど、比企谷くんと二人でテニスの練習をする約束を取り付けられたっ!

 

ぼくと比企谷くんの友情物語は、ここからさらなる一歩を踏み出せる……のかもっ☆

 

 

 

 

続く

 






ありがとうございました!とつかわいい④でした!

とつかわいい④を全部ひらがなにした時の可愛さは異常。

とつかわいいよん♪

音符付けちゃってるし。



やばいです。戸塚が暴走気味です。
ただの友情物語のはずなのに、なんなの?この間違ったラブコメ臭は……!
こんなんで続けていけるのかしらん?


それではとつかわいいGO!でお会いしましょう。


………しかし非道いな……今回の後書き……


ところでアニメの出来がちょっと酷くないですかね……
なんか総集編見てる気分!

せっかく夢にまで見たいろはすとの運命の帰り道がっ!
せっかく楽しみすぎて座して待ったルミルミの賢者の贈り物がっ!
せっかく待ちに待ったデレのんの大活躍がっ!

ふぇぇ……みんなあんなに可愛いのに勿体なさすぎるよぉ……


スタッフさん……もっと大事に大切に作ってくださいよ……


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とつかたん①

 

 

 

こんなにもGWが楽しみだったのは一体いつ以来だろうか。

いや、もちろん長期休暇という観点から見ればとても嬉しいんですよ?泥のようにダラダラ過ごせるからね!

 

ただしそれはあくまで“休み”だからこその楽しみであって“GW”だから楽しみというわけでは決してない。

 

GWなど、リア充共が新生活にウェイウェイフゥーフゥーやる為の一年のスタートラインのようなものだ。

いや、スタートは花見という名のバカ騒ぎ飲み会か。

とにかくGWとぼっちは相反する存在と言える。

 

 

その俺が、まさかこんなにもそのGWのたった1日をここまで楽しみに待つ日が来ようとは……

そう!明日は天使との約束の日、楽園パラダイスなのだ!

興奮しすぎて同じこと二回言っちゃった☆

 

ま、それとてあくまでもその日が楽しみなだけであって、GWだから楽しみだというわけでもないんだがな。

 

× × ×

 

 

俺は長期休暇中だというのに、喜び勇んで自転車を学校へと進めている。

なに?「休日出勤は最高だぜ!」とでも言いながらMacブックを電車の中でカタカタ鳴らせばいいの?

 

そういう《意識の高い》ものに、わたしは、なりたい

 

いや無理ですごめんなさい。

 

そんなどうでもいい事を考えながら到着したのだが、GW中に学校なんか来たのは初めてだ。

今ここに居る連中は部活に青春を捧げているのだろう。俺とは無縁だな。

長期休暇中に部活に縛られるなど、とてもじゃないが考えられん。

なぜ休みに部活動を行わなくてはならないのか?そもそもそれ休みじゃないじゃん。

 

フンッ……馬鹿馬鹿しい。俺は長期休暇に部活に縛られたりなぞせんぞ!フハハハハ!そう、永遠にな!

 

 

なにこれフラグかなんかなのん?

夏休みとか奉仕活動させられないよね?

 

 

なぜか寒々しい未来の想像に思いを馳せながら、俺はまっすぐに天使の元へと向かった。

 

「比企谷くんっ!良かった!来てくれたんだっ!」

 

そこに天使は居た……

テニスコートに入った俺に駆け寄りシャツの裾をちょこんと摘み、なんの穢れもない眩しい笑顔を向けてくれる天使。

 

ああ……俺、このまま戸塚ルート突入でもいいや……

 

「戸塚、今からずっとその笑顔を俺だけに向けてくれ」

 

「ふぇっ?……ひっ比企谷くん!?それってどういう意味……なの!?」

 

「すまん冗談だ。戸塚の笑顔があまりにも可愛かったからな」

 

フォローになってませんよ。

 

「もうっ!比企谷くんは冗談ばっかりっ!……ドキドキしちゃうからやめてよねっ……」

 

最後の方はぽしょぽしょ過ぎて何言ってんのか良く分からなかったが、なんとか誤魔化せたようだ。

 

 

………………。

 

あっぶねぇぇっ!

あまりの可愛さに危うく心の声が出ちまったぜ!

 

そして俺のウィットに富んだジョーク(笑)に未だにぷんぷんと頬を膨らませて怒っている戸塚を抱き締めてしまわないようさらに心を引き締める。

 

ねぇねぇ、とつかたんって何で男の子なの?わけがわからないよ。

 

 

「……ぶぅ……ホント比企谷くんはイジワルだなぁっ…………でも……来てくれてありがとねっ!」

 

やめてっ!引き締めたばかりの心をゼロタイムでほどきにこないでっ!

 

「それじゃあ早速だけどやろっかっ?」

 

……なにをやるんでせう?と思いながら、俺は戸塚に手を繋がれ引かれていった……

 

 

神よ……我に祝福と理性あれ……

 

 

× × ×

 

 

まず俺達はストレッチから始めた。

激しい運動をする前は(意味深)、しっかりと身体をほぐさなくちゃダメですよね(意味深)。

 

 

そーいや戸塚とストレッチすんの初めてだな。

手を繋いで筋を伸ばしたり背中合わせで腕組んで背中に乗せたりしてるのだが、こいつマジで腕は細いし超軽い!

筋を伸ばしてる時、急に悩ましげな表情で「んんっ……」とか言うのマジでやめてもらえませんかね?

だってまだ●RECの準備出来てないんですから。

 

ねぇねぇ、とつかたんって何で男の子なの?わけがわからないよ。

 

 

そんなめくるめく夢のひとときを過ごしたあと、俺達は軽いラリーを始め、徐々に試合形式の打ち合いへと移行していく。

 

 

「……はっ!」

 

「……やっ!」

 

コート上にはボールを打つ際の掛け声と、放たれたボールの風きり音。そしてポーンポーンどころか、かなりの本気の打ち合いの音のみが響く。

 

ああみえても、戸塚はやっぱテニス部員なんだな。素人の俺ではついていくのが精一杯だ。

それでも俺の見る限りじゃ戸塚も結構本気でやってくれてるっぽいし、どうやら役に立ててはいるようで何よりだ。

 

最初の浮かれ気分などどこへやら、気がついたらかなりの長い時間の打ち合いをしていたらしい。

ふぅ……普段チャリ通で体力つけといて良かったぜ……

 

「ハァハァ……ひ、比企谷くーんっ……!き、休憩にしよっかっ……!?」

 

「お、おう……!そうだなー……!」

 

助かった……あんな細い身体のどこにあんな体力あんだよ……

 

戸塚は……やっぱ頑張ってんだな。

 

 

× × ×

 

 

たまらずコート脇のベンチに腰掛けると、輝く汗をタオルで拭いながらすぐ隣に腰掛ける戸塚。

 

いやいや近いっ!なんでゼロ距離なのん?

ベンチもっとスペース空いてるよね!?普通に太ももとかくっついてるからっ!

 

戸塚は用意してあったスポーツドリンクを飲みながら、上気して赤く染まった笑顔で話し掛けてきた。

 

「えへへっ……やっぱり比企谷くんは本当に上手いねっ!ぼく、ついていくのがやっとだったよっ!」

 

「いや、そんな事ねぇよ。俺の方こそ結構限界だったぞ。テニス部員にこんなこと言うのはとても失礼なんだが、戸塚は思ってたよりもずっと強いんだな」

 

すると戸塚は潤んだ上目遣いで俺を見上げる。

 

「ホントにっ……?嬉しいな……比企谷くんに強いだなんて言ってもらえるなんてっ……」

 

いやそんな赤い顔で潤まれたら勘違いしちゃうでしょ?

ああ……もういっそこのまま勘違いして告白して振られちゃおうかな……

振られちゃうのかよ。……いやそりゃ振られちゃうでしょ。

 

「ぼくが……ぼくが頑張れてるのは……ヒッキ……比企谷くんのおかげ……だよ……?」

 

ああもうダメっすわコレ。

神に祈った理性の願いは叶いそうもないです。

でも祝福の願いは叶いました。

 

「わわっ!ぼ、ぼくなに言ってんのかなっ!?……へ、変な意味とかじゃなくって、ただ比企谷くんが強かったからであって……そのっ……」

 

「だ、大丈夫だ。ギリギリ助かったわ」

 

「?……ギリギリ?」

 

目を潤ませ頬を染めながらもきょとんと首をかしげるとつかたん。

いやまじギリギリ。天元突破寸前。

なんならちょっと飛び出しかけてるまである。

 

思わず抱き締めかけた俺に、ようやく神の祝福(理性)が舞い降りた。

神様のばかやろうがっ!

 

 

一旦落ち着けようと、俺も用意してあったマッ缶に手をかける。

スポーツしたあとのマッ缶とか、素人さんには狂気の沙汰だから気を付けろよ?

俺クラスになるとスポーツしたあとの糖分補給はマッ缶しか受け付けないがな。

 

カシュっといい音を立ててひらかれた缶から、溢れ出る蜜の如き魅惑の液体を体内へと流し込む。

やだなんかエロい☆

 

すると隣で座っている戸塚が、クスクスと笑いながら俺を見つめていることに気が付いた。

 

え?脳内で繰り広げられていた妄想を読み取られちゃった!?

その妄想で思わずニヤついちゃってたりしてた!?

 

やめてくれ!戸塚に変態とか思われたら生きていけない!

 

「比企谷くんて……ソレ、すごい好きだよねっ!いつも飲んでるもんね」

 

びっくらこいた……そっちか。

ん?いつも……?

 

「あれ?俺戸塚の前でマッ缶とか飲んだことあったっけ?」

 

「だって、一年生の頃からいっつも飲んでたよっ?」

 

確かに一年の時からずっと飲んではいたが、見られてたのか……?

そういや戸塚とは一年の時から同じクラスだったんだよな。俺全然知らなかったけど。

 

俺自身、一年の時に他のクラスメイトに認識されてるって思ってなかったから、同じクラスだったって事よりも、俺をクラスメイトだったと認識していた事の方がびっくりしたっけな。

 

「そっか。なんか変なところ見られてたんだな。いつも見られてたのか」

 

すると戸塚はハッ!となり、カァァァァァっと真っ赤になった。

 

「べっ!別にいつも比企谷くんの事ばっかり見てたわけじゃないよっ!?……た、ただっ……そっ、その缶が目立つ色してるから自然と視界に入ってきちゃってたというかっ……!」

 

手と首をぶんぶん振って慌てて否定するとつかたん。なにこの可愛い生き物。

 

なんならいつも見ててくれても構わないぞ?と頭をポンポン撫でちゃいたい!

 

「そうか。これ目立つもんな」

 

「うんっ!」

 

 

くっそ……今日は神の祝福どころか悪魔の誘惑がキツすぎて心臓に悪いぜ……悪魔さん頑張ってください!

悪魔さん応援しちゃうのかよ。

 

 

「と、ところで、ソレって……美味しいの……?」

 

「戸塚は飲んだことないのか。これは千葉県民の魂の味と言っても過言ではないぞ」

 

「そ、そう……なんだ……。あの……ちょっとだけ貰っても……いい、かな?」

 

「へ?」

 

「やっぱり……ダメ……かな?」

 

「そっ!そんなことはないぞっ!?」

 

そんなにチワワみたいにウルウルと見つめないでっ!

なんだか八幡パニくって、飲みかけの缶を戸塚に渡しちゃったっ!

こんなサービス、滅多にしないんだからねっ☆

 

「……えへっ!ありがとっ!……えと、その……いただきま……す……」

 

コクッ、コクッ……と。

柔らかそうな唇をつけて、俺の飲みかけのマッ缶を両手で持ちながら飲む戸塚……

心なしか頬が赤い。

 

「ありがと……えへっ……コレ、すっごく甘いねっ……」

 

 

潤んだ上目遣いでマッ缶を返してくる戸塚から缶を受け取ると、「おう」と言いながらなんでもないかのように、その溢れ出る蜜のような魅惑の液体を体内に流し込む俺はこう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まったく、GWは最高だぜ!!

 

 

 

やはり俺と戸塚の友情物語はまちがっていない。

 

 

 

 

続く……の?

 




前回の感想で、読者さんから「たまには八幡視点で見たい」との有り難い?お言葉を頂いたのですが、正直その時はどうしようか迷いました。
なにせこのSSは戸塚視点がウリなのであって、他の読者さんはそれを楽しみにしているのではなかろうか……と。


しかし「よし!執筆するぞ!」といざ書こうと思った時、作者はとんでもない事に気付いてしまったのです。

“戸塚視点は、ちょっとお腹いっぱい気味である”

……と。

なので今回は敢えて八幡視点にしてみましたっ☆

結論から言うと、余計お腹いっぱいになりました。


いやもうこの作者、アタマ大丈夫なんですかね!?
大丈夫でしょうか!?こんなの書いてて(白目)
てかちょっとシリアス気味の相模SSを書き終わらせた直後に書いたのがコレって……人としてどうなんでしょうか?


あ、そういえば『とつかわいい』だと戸塚視点で『とつかたん』だと八幡視点です。
ちなみにこんな説明を真顔でしてる自分もキモくて大好きです。


それではまた次回があったらお会いしましょう!


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とつかわいい⑤

 

 

 

うぅ〜……すっごいドキドキしちゃったなぁ……

 

 

ぼくはベンチの隣に座る比企谷くんを横目でチラリと……正確には比企谷くんが持っている缶コーヒーを盗み見た。

 

 

 

かっ……間接キスだよぉ〜……

ぼくなんであんなに大胆に飲みかけのコーヒーをねだっちゃったんだろっ……

 

いやでもまてぼく!

お、男の子同士の回し飲みなんて、全然普通のことじゃないか!今までしたことないけど……

 

うん!そうだよ!

ぼくはなにを意識しちゃってるんだろっ。

だって……比企谷くんは全然なんでもないような顔して飲んで……るし……?

 

 

もう一度チラリと覗き込むと、比企谷くんはとっても緊張した面持ちでコーヒーに口をつけてた……

や、やっぱり普通じゃないのかな!?回し飲みって!

 

ど、どうしよう……本当はぼくが口をつけたやつなんて汚ないとか嫌だとかって思ってたら……

 

うぅ……想像しただけで涙出てきそうになっちゃった……

ぼくのばか……比企谷くんと楽しくテニスが出来たからって調子に乗っちゃったんだ……

 

 

でも……でももう一回だけチラリと盗み見てみた。

そしたら比企谷くん、飲み終わったあとに嫌悪感どころかとっても幸せそうな顔してた。なんだか心なしかほっぺも上気してるような……

 

………良かった……!少なくとも、ぼくとの間接キスに対して嫌な気持ちを持ったわけじゃなさそう……!

 

ほんのついさっきまで泣きそうになってたのに、今度は顔がとっても火照ってきた。

ぼくはすぐさま比企谷くんから目を逸らし、火照った顔を冷やすようにスポーツドリンクをごくごくのんだ。

 

 

そうだ!コーヒー分けてもらったんだから、ぼくのスポーツドリンクを分けてあげるのも普通の事だよね!

 

間接キス……

 

 

うわぁぁぁっ!ダメだぁぁ!

火照りを冷ますように飲んでるのに余計に熱くなってきちゃったよぉぉぉ!

 

 

……結局ぼくは比企谷くんにスポーツドリンクをあげるのを諦めた……ぼくのいくじなし……

 

 

× × ×

 

 

「比企谷くんっ!おつかれさまっ」

 

「ふぃ〜……おつかれ」

 

ちょこちょこ休憩を挟みながらも、夢中で練習してたら気付いたらお昼をとっくに回っていた。

まさかこんなに集中して練習出来るだなんて……やっぱり比企谷くんにお願いして良かったなっ♪

 

 

「とってもいい運動になったよね!えへへ、ぼく達びしょびしょだねっ!」

 

汗まみれの自分たちを見て、思わず笑っちゃったっ。

そしたら比企谷くんはなんだかびっくりした顔をして、なぜか赤くなっていた。

 

「お、おう。そうだな……いい運動になってビチョビチョだな……」

 

ん?どうしたんだろ?

なんだかちょっとニヤっとしてる。

ぼくなんか変なこと言っちゃったかな?

 

「んん!ん!……し、しかしホントに汗かいたな。うちの学校、シャワールームでもありゃいいのにな」

 

「そうだね!汗流したいよねっ」

 

 

比企谷くんと隣同士でシャワーかぁ……

なんか激しく運動したあとの男と男の友情!って感じで憧れちゃうなぁ……

 

……でも想像するとちょっとドキドキしちゃうのはなんでだろ?

うぅ……また熱くなってきちゃった……

 

「近くにお風呂屋さんでもあれば、一緒にお風呂入れるのにねっ」

「ぶっ!!」

 

「ど、どうしたの!?比企谷くんっ!」

 

「い、いや……決してなんでもないぞ……?そう、なんでもない。……いいな、一緒に風呂……」

 

 

たぶんぼくの顔は“ボッ!”って音を立てるくらいに真っ赤になっちゃったんじゃないだろうか!?

 

……ぼ!ぼくはなんて言い方しちゃったんだろ!?一緒にお風呂ってぇぇぇっ!

 

もっと他に言い方あるのに!

一緒に汗流せるね!とか一緒に洗いっこ出来るね!とか!

 

 

…………ってばかぁぁぁぁっ!!!

 

 

あ、洗いっこってなんだよぉ!ぼ、ぼくはいつからこんなに穢れちゃったんだろっ……

 

 

うぅ……比企谷くん、変な意味で受け取ってないといいな……

 

 

× × ×

 

 

シャワールームもなければ近くにお風呂屋さんもないので、結局ぼく達はそのまま帰路についた。

 

帰り道は比企谷くんが自転車を押しながら一緒に駅まで歩いてくれて、他愛のない雑談に花を咲かせていた。

でも……このままお別れはやっぱり寂しいな。GW明けまでは会えないし……

 

ちょっと……誘ってみようかな……

学校帰りに比企谷くんと寄り道してくなんて、ちょっと前のぼくにはまるで夢のような出来事のはずなのに、今のぼくにはもう夢じゃないんだから……!

 

「比企谷くん……あのさ」

 

「どうした?」

 

ぼくはゴクリと喉を鳴らした。

断られちゃったらとうしよう……でもでも!今日はぼくのお願いを聞いてわざわざ来てくれたんだもん!大丈夫っ!

 

「ちょっと……おなか空いてない……?もし比企谷くんさえよければ、……どっか、寄ってか…」

 

「よし行こう」

 

そ、即答!?ていうよりぼくまだ言い終わってなかったのに!?

 

でも良かったっ!そりゃ朝からお昼過ぎまでずっとテニスしてたんだから、比企谷くんだってお腹空いてるよねっ!

えへへ……心配して損しちゃった♪

 

「良かった!じゃあどこ行こっか?比企谷くんはなにが食べたい?」

 

「そうだな。俺はサイゼかラーメンてとこだな。でも戸塚が好きなところが一番いいから、戸塚の行きたいところでいいぞ」

 

「うんっ!じゃあサイゼにしよっか!」

 

比企谷くんもサイゼ好きなんだなぁ。

やっぱり学生の味方だもんね。

 

「戸塚はサイゼでいいのか?」

 

「うんっ!ぼくサイゼ好きだよ!」

 

ん?比企谷くん?

 

比企谷くんは唖然としてぼくを見つめてる……

もうっ!比企谷くんたら!……そんなに……見つめないでよ……

 

「戸塚。もう一回言ってくれるか……?」

 

へ?もう一回言うの……?

 

「ぼ、ぼく、サイゼ好きだよ?」

 

「後半の方をもう一回」

 

「……?サイゼ、好きだよ?」

 

「さらに後半の方をあと三回」

 

「……?す、好きだよ?……好きだよ!……好き、だよ?……はっ!?」

 

言っちゃったあとに、ぼくはまたも顔が熱くなってしまった……!

 

「も、もうっ!比企谷くんでば……いつもそんな風にぼくをからかって……ぼ、ぼく、恥ずかしいんだから!……ぶぅっ」

 

また遊ばれたっ!

もう!比企谷くんのばかっ!

あぁ!もう恥ずかしいよー!

 

 

比企谷くんはそんな恥ずかしがって膨れっ面のぼくを、満足そうに幸せそうに見つめていた。

 

 

 

………………ばかっ

 

 

× × ×

 

 

しばらく歩くとぼく達はサイゼに到着した。

えへへっ!比企谷くんとの初めてのお食事だ!

 

店員さんに席に案内されると比企谷くんはすぐさま注文した。

 

「俺はミラドリとドリンクバーで」

 

まだメニューも見てないのにっ!?

お、男らしい……格好良い……

 

「えっと……じゃあぼくは……うーんと、小エビのカクテルサラダとドリンクバーで」

 

 

料理が運ばれてくるまでの間にドリンクを取ってくると、比企谷くんは持ってきたコーヒーに大量のミルクとガムシロップを入れていた。

 

「比企谷くんは、ホントに甘いコーヒーが好きなんだね〜……」

 

「まぁな。練乳が用意されてないのは残念だけどな」

 

練乳かぁ……ぼ、ぼくも今度から練乳入りコーヒーに挑戦してみようかなぁ。

そしたら、比企谷くんみたいに、強くなれるかな……?

 

料理が届き、ぼく達は今日のことやあの日のテニス対決のことなど、楽しくおしゃべりしながらの素敵な時間を過ごした。

 

「しかし戸塚はサラダだけで足りるのか?あんなに動いたのに」

 

「うん。ぼく少食の方だしね。それにコレ結構ボリュームあるし美味しくて好きなんだっ!」

 

「……え?なんだって?……さ、最後の方が良く聞こえなかったから、もう一回言ってくれるか?」

 

ん?最後の方……?

 

「結構ボリュームあるし美味しくて…………………はっ!もーっ!またそうやってぼくをからかうの!?比企谷くんのばかぁっ!」

 

ホントに比企谷くんてばぁ……

こうやって怒ってむくれてるぼくを見て楽しむんだから!

 

「おう、すまんすまん。あまりにも戸塚が可愛くてな」

 

うぅ……またそうやってぇ……

 

「だから……ぼく男の子なんだよ……?そ、そんなに可愛い可愛い言われると、その……ちょっと困っちゃうよ……」

 

ホントに比企谷くんてばいじめっ子なんだからっ……もうっ!恥ずかしい……っ

 

 

でも、こんな風に笑ったり怒ったり恥ずかしがったりし合えてる今が、とっても楽しくてとっても幸せ……!

 

 

× × ×

 

 

「比企谷くんっ!今日は本当にありがとねっ!とっても楽しかった」

 

「俺も楽しかったぞ。俺なんかでも戸塚の役に立てたのなら幸いだ」

 

「そんなっ!役に立つだなんて!……ぼくは……そういうんじゃなくって……もっと、比企谷くんと……対等な関係になれたらなって思ってるよ」

 

「そっか……スマン。言い方悪かったな……その、二人で一緒に楽しめて……うん。今日は良かった」

 

「…………うんっ!」

 

 

ぼく達はサイゼでの食事を終えて、もうお別れの挨拶をしている。

なんだか名残惜しいな……次に会えるのはGW明けかぁ……

 

 

 

こんな風にお話が出来るようになってまだたった半月くらいだけど、本当に毎日が充実してたなぁ。

思えば、一年の間ずっとお話してみたい、お友達になりたいと願ってた比企谷くんと、こうして休みの日に一緒に大好きなテニスをして、一緒に道草して、そして一緒に別れを惜しむ貴重な体験が出来るだなんて夢にも思ってなかった。

 

 

初めてお話出来たお昼のテニスコート脇でのやりとりも、由比ヶ浜さんに連れられていった奉仕部という部室での奇跡の再開も、その日から毎日のように付き合ってくれたテニス特訓も、あの葉山くんや三浦さんを相手にぼくの為に戦ってくれたテニス対決も、そして今日の素敵なひとときも、全部全部ぼくの宝物……!

 

こんな素敵な宝物が、これからもたくさん増えていってくれるのかな……

 

 

「……ねぇ、比企谷……くん……」

 

「ん?どうした?」

 

「……あの……その……GWが明けてからも……またぼくとこうして……いっぱいいっぱいお話してもらえる……かな……」

 

 

ぼくは今、どんな顔をして比企谷くんを見つめてるんだろう?

 

 

期待するような顔?

嬉しそうな顔?

不安でいっぱいの顔?

…………泣きそうな顔?

 

 

どんな顔を向けているのか自分では全然分からないけど、そんなぼくの顔を見て、比企谷くんは真っ赤な顔してニカっと素敵な笑顔を浮かべて即答してくれた。

 

 

「おう、あたりまえだろ」

 

 

 

…………良かった

…………比企谷くんとお友達になれて…………

 

 

 

こうしてぼくと比企谷くんは、たくさんの出来事を経験し色んな事がありながらも、とっても素敵な遭遇を迎えられたんだ。

まだまだ君と本当の意味での対等には程遠いかもしれない。

まだまだ君と肩を並べて、君の隣に胸を張って立ててるってわけではないのかもしれない。

でも……でも君とのこんなに素晴らしい日々がこれからもずっと続いていけるのだとしたら…………いつか、きっと……!

 

 

 

ぼくと比企谷くんの友情物語は………………まだまだ始まったばかりだっ!

 

 

 

 

 

第一部【友達との遭遇編】……おわり☆

 







ありがとうございました!

急に【第一部・完】みたいになってビックリしましたか!?
作者もビックリしました(笑)



一応キリのいいトコまで書けたんで、一旦区切ろうかなぁ……と。

というのも、発売日が伸びたとはいえ11巻発売が目の前に迫ってるので、それを穴が開くまで読んだり、11巻関連の物語も書かなきゃいけなくなるかもなので、どっちにしろ更新開いちゃいそうなんですよね(汗)

なので中途半端なとこで開いちゃうくらいなら、キリのいい今回で一旦区切ろうかなと。


でも大丈夫です!戸塚SSはこのまま消えたりはしません!(たぶん)

天使トツカエルを求める熱狂的読者さまが居る限り、なるべく早く帰ってきますっ!(たぶん)


それではまたお会いしましょう!(たぶん)


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第二部【友達との夏休み編】
とつかわいい⑥





全国津々浦々のトツラーの皆様、お待たせ致しました!

恥ずかしながら帰ってまいりましたw




 

 

 

「せーんぱいっ!タオルどーぞぉ!あとこれ、家で作ってきたハチミツレモンですっ」

 

午前の練習を終え、休憩の為にコートから出ると、後輩の女子部員がタオルとわざわざ作ってきてくれたというハチミツレモンをタッパーごと差し出してきてくれた。

 

ありがとうと受け取ろうとすると、その女の子はレモンをフォークに刺して、口元まで運んでくれた。

 

「私特製なんで、疲れなんて一気に吹っ飛んじゃいますよぉ?はいアーン」

 

少し恥ずかしかったけど、いつも良くしてくれる女子部員がわざわざ作ってきてくれたというのに無下になんて出来ないよね。

 

「……あ、あーん」

 

そのままレモンを口にすると、口内いっぱいにハチミツの甘さとレモンの爽やかさが広がって、とっても美味しかった。

 

「ん〜……美味ひい……」

 

ちゃんと味わうように、目を瞑り両手で両頬を押さえて感想を言うと、その子がぽしょりと一言声を発した。

 

「……や〜んっ……可愛いっ……」

 

え?この子、また可愛いって言った!?

もうっ!いつもいつも、年下の女の子の癖に、年上の男の子のぼくを可愛いだなんてっ!ホント失礼しちゃうよっ……!

 

ぷくっと頬っぺたを膨らませたぼくをまた可愛いとからかってくる子に「めっ」と叱ってから、ぼくは午後の練習に向けて身体を休ませることにした。

ぼく、ちゃんと叱ったのに、なんだか叱ってる最中もずっと嬉しそうにしてたのが気になったけど……

 

 

 

ぼく戸塚彩加は、千葉県にある総武高校に通う高校二年生。

今は夏休み中で、所属しているテニス部の夏期練習に来ている所なんだっ。

 

ぼくの所属するこのテニス部は、正直言ってかなり弱い。

弱くたって、同じテニス好きな子たちと毎日楽しくテニスが出来れば満足なんだけど、1学期の前半はあんまりにも弱すぎて部員のモチベーションがなかなか上がらず、部として存続していけるのかどうかも疑問なほどだった。

 

でも、ある人たちの力を借りてぼく自身がちょっとずつ強くなって、徐々にではあるけどテニス部内の士気が上がってきて、今ではこうして毎日のように夏休みの部活動にもみんな参加してくれるようになっていた。

 

大好きなテニスを、テニスが大好きなみんなと楽しみながらも一生懸命に取り組めるこの夏休み。ぼくはとてもとても有意義に満喫している……………………つもりだった。

 

でも、ホントは……ちょっとだけ、ホントにちょっとだけだけど物足りなく感じていた。

心におっきな穴が開いてしまったんじゃないかというくらいの喪失感。

 

だって…………夏休みに入ってから……大好きな友達と、一度も会えていないから……

 

 

× × ×

 

 

家に帰ってくると、汗でベタベタになった身体を洗い流す為にお風呂に入った。

口元まで湯船に浸かりながらぶくぶくすると、ぽしょりと独り言を言ってみる。

 

「八幡……」

 

 

お風呂から上がって自室で髪を拭いていると、ふと勉強机の上に飾られた写真立てが目に入り、その写真立てを手に取ってベッドの上に仰向けで倒れこむ。

 

その写真立てに飾られた写真は酷く解像度が悪く、落書きもしてあるような酷い酷い写真だ。

だってそれは、写真として撮ったモノじゃなくて、大好きな友達と一緒に撮ったプリクラを携帯で撮影してから現像したものだから。

 

でも2人で写ってる写真てこれだけだから、どうしても部屋に飾っておきたくて無理矢理写真立てサイズに引き伸ばしたんだよね。

 

ごろんと横になりながら写真を眺める。

その写真の中の大切なお友達のちょっと恥ずかしそうな顔にクスリと笑いがこぼれた。

でも、笑いがこぼれた次の瞬間には大きなため息がこぼれ落ちた。

 

「八幡…………今ごろなにしてるのかな」

 

 

ぼくの大切で大好きなお友達、比企谷八幡くん。

一年生の頃からのクラスメイトなんだけど、なんと初めてお話したのは二年生になってから!

 

ぼくはいつも強くていつも格好良い八幡とずっと友達になりたかったんだけど、二年生の春、ようやくお友達になれたんだ!

 

1学期は、八幡とホントに色んなことがあったなぁ……

夢にまで見た初めての会話の後は、一緒にテニスしたり職場見学に行ったり、映画を観たりゲームセンターでプリクラ撮ったり♪

 

 

そういえば、始めはずっと比企谷くんって呼んでたっけな。

あれはそう。職場見学のお話をしてる時だった。

 

 

× × ×

 

 

職場見学かぁ〜。

今、ぼくのクラスでは、明後日のLHRで行われる職場見学のグループ分けの話題で持ちきりだ。

 

仲のいいお友達と好きな職場見学に行ってもいいというこのグループ分けは、ぼく達学生にとっては一大事だもんね。

 

ぼくは……うん。一緒に行きたいと思えるお友達は、彼しか居ないよね……?

でも、彼はぼくと一緒に行きたいって、果たして思ってくれているだろうか……?

 

んーん?そんなこと考えたってしょうがないよねっ!

ぼくはGWのあの日決めたんだ。ずっと隣に立っていようって。

だから……職場見学に一緒に行くお友達は、比企谷くんに決めた!

 

そしてぼくはうとうとしながらクラスメイトを眺めている比企谷くんに声をかけた。

 

「おはよ」

 

うとうとしかけていた比企谷くんの目が、ぼくの姿を確認するとパッチリ開いた。

 

「……毎朝、俺の味噌汁を作ってくれ」

 

「え……ええっ!?ど、どういう……」

 

「あ、いやなんでもない。寝ぼけてただけだ」

 

 

………………あぁぁぁっ!ビックリしたぁ……!寝ぼけてただけかぁ……

きゅ、急に毎朝味噌汁だなんて、プ、プロポーズされたのかと思っちゃったじゃないかぁぁ……!

もうっ!ぼ、ぼく男の子なんだからねっ!?嬉しいけど、比企谷くんのプロポーズを受けるわけにはいかないんだからっ!

 

はっ!う、嬉しくなんてあるわけないじゃないかぁ……ぼくのばかっ……

 

 

その後はちょっとした雑談を挟みつつ、比企谷くんの職場見学の予定なんかを聞いてみたんだけど、どうやら誰かと一緒に行く予定は無いみたい。

由比ヶ浜さんと一緒に行くのかも?とかってちょっと不安だったんだけど、違うみたいでちょっと安心しちゃった。

 

「お前は誰と行くか決めたの?」

 

比企谷くんが急にぼくの予定を聞いてきたから、ちょっとビックリしちゃった!

 

「ぼ、ぼく?……ぼくは、もう、決めてる、よ」

 

ぼくは顔がすっごく熱くなりながらも頑張って答えた。

ちょっと目を伏せちゃったけど、ちらっと窺ってみたら、なんだか残念そうな顔をしていた。

あ、あれ?ぼくの答え方がおかしかったのかな……?

 

「よく考えたら、というかよく考えなくても俺って男子の友達、いないんだな」

 

むー!比企谷くんたら!

 

「あ、あの……比企谷くん……。ぼく、男の子、だけど……」

 

むー!とは思ったけど、ぼくの口から出た言葉はとってもちっちゃかった。

ぼ、ぼくって……比企谷くんから男の子って見られて無いのかな……?

そ、それとも…………友達って、思われて、ない……のかな……

 

 

もし……友達と思われて無いのだとしたら……友達だと思ってるのがぼくだけなんだとしたら……っ。

そんなネガティブ思考で頭がぐるぐるしている時、その事件は起きたんだ。

 

「彩加」

 

……………………………………………へ?

い、今、比企谷くん、ぼくのこと名前で呼んでくれた、の……?

 

ぼくは思わず固まってしまった。

だ、だって……ついさっきまで、もしかしたらぼくは友達って思われて無いのかも……なんて落ち込んでたのに、まさかいきなり名前呼びしてくれるだなんてっ……!

 

「ああ、悪い、今のは……」

 

「……嬉しい、な。初めて名前で呼んでくれたね」

 

「なん……だと……」

 

うぅ……どうしよう……嬉しすぎて涙が滲んじゃうよぉ……!

てもぼくは涙が零れるのを我慢して、にっこりと微笑んだんだっ……

 

「そ、それじゃあ……ぼ、ぼくも……、ヒッキーって呼んでいい?」

 

「それはやだ」

 

 

……ガ、ガーンっ!

即答で断られちゃったよ……

うぅっ……由比ヶ浜さんには呼ばせてるくせに〜……

じ、じゃあ……

 

ぼくはちょっと残念そうにしながらも再チャレンジした。

正直、ヒッキーって呼ぶよりちょっと恥ずかしいけど、んんっと咳払いしてから思い切って言ってみた。

 

「じゃあ……、八幡?」

 

「も、もう三回呼んで!」

 

えっと……すっごい即答でOKが出ちゃった。

で、でも三回ってどういうことだろ?

ぼくはちょっとだけ困ったけど、えへへ……比企谷くんが八幡て呼んでいいって言うのなら、ちょっと恥ずかしいけど頑張ってみようかなっ。

 

「……八幡」

 

とりあえず良く分からないから、反応を窺うように。

うー!すっごく恥ずかしいよぉ!

 

「八幡?」

 

反応が無かったから、首を傾げてきょとんと言ってみた。

 

「八幡!聞いてるの!?」

 

八幡が呼べって言うから呼んでるのに、なんで無視するの!?

ぼくは頬っぺたを膨らませてちょっとだけ拗ねてみた。

 

でも、そんなぼくを見て八幡はとっても幸せそうな表情を浮かべていた。

 

 

「………………?」

 

 

× × ×

 

 

そう。ぼくはあの時から八幡を八幡って呼ぶようになったんだっ。

もう!八幡てばすぐにああやってぼくをからかうんだからっ!

 

 

 

 

………………はぁ……………

 

そんな楽しい思い出ばかりを心の引き出しから取り出していると、なんだか無性に八幡に会いたくなってきちゃった……

 

うぅぅぅ……ぼく、なんで八幡の携帯番号聞いとかなかったんだろ……

せっかくお友達になれたんだから、普通は聞いておくもんだよね?

ちゃんと聞いとけば、この夏休み、もしかしたら八幡と二人でどこかお出掛け出来たかも知れないのにっ……ぶぅ〜……

 

 

八幡には……夏休みが終わるまでは会えないのかぁ……

ぼくはベッドでふて寝しながら、片手に写真立てを抱いて、もう片方には携帯を持って、恨めしげにその携帯を見つめていた。

 

 

その時、急に携帯が鳴った。

急に鳴ったものだから、ぼくはビックリして携帯を落としそうになっちゃったんだけど、なんとか落とさずにしっかりと押さえ、覗きこんだディスプレイに表示された発信者の名前を見て驚いた。

なんで夏休みに電話なんてかけてきたんだろう……?

 

ぼくはもう一度その名前をしっかりと確認してから携帯の着信ボタンを押すのだった。

 

 

 

[発信 平塚静]

 

 

 

 

続く、のかな……?

 






トツラーの皆様お久しぶりでございます!
まさかの復活ですw



とはいえ再三申し上げたように、正直この戸塚SSは精神的に書くのが一番大変な作品なので、次回以降の更新はマジで気が向いたら、気が乗ったらになってしまうと思います><

でもちゃんとこの夏休み編は終わらせますのでご安心くださいませっ☆


それではまた次回お会いしましょう!



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とつかわいい⑦



夏休み編第二話となります!


トツラーの皆様っ、なかなか筆が進みませんでゴメンナサイ><


 

 

 

「もしもし戸塚です」

 

携帯のディスプレイに映し出された名前に戸惑いながらもぼくはすぐに電話に出た。

なんだか、なんとなくだけど、とても良い予感がしたから。

 

『やあ、戸塚。突然すまないな。どうだね?良い夏休みを過ごしているかね?まぁもっとも君はかなりの頻度でテニス部の方に顔を出しているのだろうがね』

 

電話の向こうから、うちの学年の現国教師、平塚静先生が相変わらずとっても格好良い物腰で語り掛けてきた。

ホント平塚先生って格好良いよね!ぼくの中では八幡の次くらいに格好良い人だって思ってるんだっ。

 

「お久しぶりです先生。はい!充実した夏休みを過ごしてます!」

 

ホントは……ちょっとだけ物足りないんだけど……それは内緒にしておこう。

 

『ふふふ、それは良かった』

 

「はい!……ところで先生、今日はどういったご用件なんですか?」

 

『ふむ。ちょっと人手が不足していてね、戸塚にお願いしたいこと…………というかお誘いしたい事案があってね。まぁ毎日部活で忙しいだろうが、充実した夏休みがさらに充実すること請け合いだぞ?』

 

お、お誘いしたい事案?なんだろう?

でもぼくは、なんのことなのか全く分からない先生からのその『さらに充実すること』という誘い文句に、漠然とだけどなんとなく幸せな予感をすっごく感じて、なんだか胸の高鳴りを抑える事ができなかった。

 

× × ×

 

 

「えっと……つまり平塚先生のお手伝いで、小学生の林間学校のボランティアに参加……という事、ですよね?それも二泊三日で……」

 

『ああ、そういう事だ。まぁもちろん無理にとは言わんぞ?戸塚はテニスで大変だろうしな。ふふふっ、聞いているぞ?戸塚をテニス部新部長に……との話も持ち上がっているそうではないか』

 

「わっ……ご存知だったんですか!?」

 

そうなんだ!まだ決まったわけじゃないんだけど、秋くらいから部長をやってみないか?って、顧問の先生から打診が来てるんだっ。

ぼくなんてまだまだ弱くて分不相応だって思うんだけど、頑張りを認めて貰えたみたいでスゴく嬉しいっ!

 

 

それもこれも、あの日奉仕部での出会いがあったから。全部比企谷君達のおかげなんだ……っ!

 

『ああ。次期主将として今こそが頑張り時とも言えるな。だから今回のお誘いはあくまでも自主的に決めてくれたまえ。私は仲間達とテニスに打ち込む青春も、または仲間達とボランティア活動をして汗をかく青春も、どちらも君の糧になると思っている。まだ出発まで三日あるし今すぐ即答でなくとも問題無いぞ?』

 

確かに今が頑張り時なんだよね。もしもホントにぼくなんかが次の主将になるんなら、この夏での部員達と共有する時間っていうのはとっても大事だと思う。

でも、このポッカリと穴が空いてしまった気持ちのままでいたずらに過ごすだけの共有時間というのは、本当にぼくにとっての糧となるんだろうか……?

 

たった三日間のボランティア活動で、もしもそのポッカリと空いた穴が埋まるのならば……

しっかりと穴が埋まった心でその後の部活動に集中して打ち込めるのならば……

 

そっちの方が、断然いい気がする……!

 

 

だからぼくは、平塚先生になによりも一番重要な事を聞く。

さっきまでは漠然とした幸せの予感だったんだけど、でも……『平塚先生』『ボランティア活動』『仲間達』。この三つのワードから導きだされるであろう答えは、ぼくの予感を漠然から確信へと変えてくれていた。

だって……平塚先生って言えばっ……

 

「あの……先生?」

 

『ん?なにかね?』

 

「えっと……その……ボランティアに参加するのって、ひ……他にもメンバーが居るんですよね……?」

 

『ひ?……ああもちろんだ。すでに君以外は決まっている。あと一人には当日までは伝えないが、そいつは強制だから参加は決定事項だしなっ』

 

電話越しだけど、最後の一言を付け加えている時の平塚先生の、ちょっと悪戯な笑顔が容易に想像できた。

そして先生のその笑顔に、ぼくの胸は期待と喜びに高鳴ってる……!

 

「そっ、その参加メンバーって!?」

 

『決まっているだろう?奉仕部メンバーだよ』

 

 

その瞬間、ぼくの夏休みに新しい一ページが書き加えられる事が決定したんだ!

 

 

× × ×

 

 

あれから三日。今日は待ちに待った千葉村へと出発をする日。

 

ぼくは早めに起きて、今日着ていく服、明日着替える服を部屋中に広げてウンウンと唸っていた。

うーん。ちょっと語弊があったかな?早めに起きたんじゃなくって、早く目が覚めちゃったんだよね。

ちなみに昨夜は今日の為に早くベッドに入ったんだけど全然寝付けなかった。

 

 

 

だって…………だってだって!八幡と会うの二週間ぶりなんだよ!?

えへへ〜っ!八幡元気にしてるかな〜?八幡のことだから毎日不規則な生活してるんだろうけどねっ。

 

あ!だったら夏休みの間にテニス誘っちゃおうかな?

ああ!だったら今度こそ八幡の連絡先をゲットしなくっちゃ!

うわ〜!夢が膨らむよぉ!早く待ち合わせ時間になればいいのにっ!

 

はっ!その前に今日着ていく服選ばなきゃ!どれ着てこうかな〜?

む〜……八幡ってばいつもぼくを女の子扱いしてからかうんだもんなぁ……

だったら今日はボーイッシュなスタイルで行こうかな?

 

うーん……これとこれ……いやいやこっちも捨てがたいなぁ……あっ!でもこの組み合わせも可愛いかもっ♪

へへぇっ、これなら八幡に可愛いって思って貰えるかな……

 

ってダメだよ!ぼくダメダメだよっ!!

女の子扱いでからかわれないようにする為にボーイッシュスタイルコーデを考えてるのに、なんでぼく可愛いって思われる服を選んでんのさっ!?

 

もうっ!最初っからやり直し!

んー……やっぱりこれとこれかなぁ?いやいやでもこっちの組み合わせも捨てがたいぞ?

あ!これとこれ組み合わせたら可愛いかも…………ってまた!?

うーっ……ぼくのばかっ……

 

 

そんなこんなであれこれ悩んでたら、いつのまにか家を出ようと思ってた時間を過ぎてしまっていた……

一番に待ち合わせ場所に到着して、八幡を待ってようと思ってたのにぃっ!!

 

 

× × ×

 

 

いつまでも出発の用意に悩んでしまっていた為、諦めていた夏休みに八幡と会えるという貴重な一分一秒をかなり無駄にしてしまった。

ぼく、どれだけ八幡に会いたいんだよっ。

 

 

家から走ってようやく最寄り駅に到着したんだけど、タッチの差で電車が出発してしまった……

あうぅ……次の電車まで10分もあるよ……たったの10分がもどかしいっ……

 

もどかしい10分後に到着した電車に勢い良く駆け込む。ふふっ、別に急いで駆け込んだって電車の出発が早くなるわけでも無いのにねっ。

出発した電車の中でもぼくはずーっとソワソワしてる。あぁ、早く待ち合わせの駅に着かないかなぁ!

 

 

そしてついに待ち合わせの駅へと電車が到着し、ドアが開いた瞬間ぼくは弾かれたように車内から飛び出すと、勢いよく改札を抜けて駅の階段を駆け降りる。

……確か、待ち合わせ場所はこっちだったはず!

 

 

階段を下りて待ち合わせ場所の方へ歩きながらきょろきょろしていると、不意にこっちだぞと言わんばかりに手が挙げられた。

ぼくの視界一杯に飛び込んできたのは、二週間ぶりに見た八幡の笑顔とちょっと恥ずかしそうに挙げられた手だった。

 

真夏の太陽は暑いけど、電車に乗ってるとき以外は家からほとんど走ってばっかりだったから息は切れてるけど、その幸せのカタチが待ってくれている場所へとぼくは駆けていく。

 

「八幡っ!」

 

二週間ぶりの八幡は、いつもと変わらずにぼくに笑顔を向けてくれた。

だからぼくもいつも通りに笑顔を向けた。

やっと……やっと会えたぁぁ……

 

「戸塚さん、やっはろー!」

 

すると八幡の横にいた小町ちゃんが元気に挨拶してくれたからぼくも元気に挨拶を返す。

 

「うん。やっはろー」

 

小町ちゃんに挨拶を返しながらもチラリと八幡に視線を向けると、なんだかすっごい幸せそうな顔してぼくを見ていた。

あれ?ぼくがやっはろーって挨拶するの、なんか変だったのかな?

そんな幸せそうな笑顔のまま、八幡が放った第一声は……

 

 

「戸塚も呼ばれてたのか」

 

え……?八幡は、今日ぼくも参加するって知らなかったんだ……

ぼくはこの三日間、ばかみたいに一人で勝手に舞い上がってたけど、そんな八幡のセリフに言いようのない不安が押し寄せてきた……

ぼく、お邪魔虫だと思われてたらどうしようっ……!

 

奉仕部のみんなと小町ちゃんとで楽しもうと思ってたところに、急にぼくなんかが交ざっちゃったら……お邪魔って……思われちゃう……かも……

 

だからぼくは不安に押し殺されそうになる気持ちに負けないように、ちょっとビクビクだったけど八幡に訊ねてみた。

 

「うん、人手が足りないからって。でも……ぼく、行っていいのかな?」

 

不安げな上目遣いで訊ねるぼくに、八幡はなんの迷いもなく、ぼくの質問に被せるくらいの勢いで力強くこう断言してくれた。

 

「いいに決まってるだろ!」

 

 

 

えへへっ!良かった……♪

やっぱり八幡はぼくの大好きで大切なお友達だよっ?

 

 

夏休みが始まってから二週間弱の今日、ぼくはそのたった二週間でポッカリと穴が空いてしまったこの心を、あっという間にに埋めてくれた大好きな友達の大好きな笑顔を真っ直ぐに見つめていた。

この三日間が、ぼくにとっても八幡にとっても、素敵で素晴らしい三日間になりますようにって、たっぷりの想いを込めてっ……!

 

 

 

続く

 






ありがとうございました!

よ、ようやく出発ですよ……orz
二話も使ってようやく出発前って……


そして次回から苦手な原作沿いになっちゃうんで、より苦戦しそうな悪寒(白目)
なんとか極力原作を沿わないカタチでサクサク進めていけたらなぁ……とか思っております!


はっ!そういえば次回からルミルミが出るのか!?
だったらちょっと頑張らなくっちゃ☆



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とつかわいい⑧




すみません。今回ついにBLタグ付けちゃいました。


べべべ別に今までと流れや内容は一切変わってないんだからねっ!?
ただ、評価が下がる一方というトコロを見ると、そろそろ苦情とか来ちゃいそうでっ(汗)


もし「こんな内容でBLタグなんて要んねぇだろ」というご意見ありましたら教えて下さいねっ><


ではどぞ!




 

 

 

「わぁ……、本当に山だなぁ」

 

やっぱり自然は気持ち良いなぁ!

 

ぼくは今、平塚先生の車から降りて、視界いっぱいに広がる木漏れ日に輝いている緑と胸いっぱいに広がる高原の空気を楽しんでいる。

 

普段都会の忙しない風景と空気の中にさらされていると、こういう場所に立ってるだけでワクワクするよね!

ん?ぼく達が住んでる千葉って都会だよね?

 

 

でもぼくは今ちょっと後悔してるんだ……

だって、せっかく二週間ぶりに八幡に会えて、初めてのドライブを楽しめるハズだったのに、昨夜の寝不足がたたって思いっきり寝ちゃってたんだもんっ……

まぁ車に乗り込む時点で八幡は平塚先生に取られちゃったし、隣に座った小町ちゃんに夏休みに入ってからの八幡の近況を教えて貰えたから良かったんだけどねっ。

ふふっ、やっぱり八幡は不摂生な生活を送ってるみたいだね。やっぱりテニスに誘わなくっちゃ!

 

 

 

そして車から荷物とかを下ろしてると、ぼく達の他にもお手伝いで呼ばれた葉山君グループ達がやってきた。

葉山君グループには、例のテニス対決以来ちょっと苦手意識を持っちゃってたんだけど、あの対決以来なんとなく三浦さんの態度が柔らかくなってきて、今では普通に接しられるようになってきたんだ。

 

でも、男の子はぼくと八幡の二人だけかと思ってたからちょっと残念っ……

夜はバンガローで二人っきりでたっぷりお話出来ると思ってたんだけどなぁ……

で、そのままお話しながら気付いたら二人して寝ちゃってたりするんだよねっ!

……そして朝目覚めたら八幡の腕まく…………

 

 

 

 

 

 

 

んん!男の子四人でお泊まりってとっても楽しそうでいいよねっ!

 

 

× × ×

 

 

駐車場から本館へと移動して荷物を置き、そこからしばらく歩いていると、ぼく達は集いの広場という場所に到着した。

そこは今回の主役の100人近い小学生達で溢れかえっていた。

 

「うわー……凄いねー……」

 

ぼくは隣に居た小町ちゃんに正直な感想を漏らした。

 

「ですねー……なんか若さのパワーって言うんですかね。小町圧倒されちゃいますよー」

 

あはは……小町ちゃんもまだ中学生の若さなんだよ……?

でも小町ちゃんがそう言いたくなる気持ちも分かるくらい、小学生がたくさん集まったパワーっていうのはホントに凄い!

ぼく達は、この二泊三日でこの子達が林間学校を安全に楽しめるようにサポートするのかぁ……なんかちょっと不安だなぁ……

 

 

ずっと騒いでいた子達が静かになるのを待ってから、本日の予定のオリエンテーリング開催が発表された。

 

「オリエンテーリングかぁ。えへへ、懐かしいな。ぼくも小学生の頃にやったっけなぁ。八幡はっ!?」

 

「ああ、俺もやらされたわ。俺のグループはアホぞろいだった上に、唯一クイズの正解が分かる俺がぼっちだった為に、意見が採用されるワケも無く散々な結果だったわ」

 

「あはははは……」

 

「はぁ……今なら戸塚と二人っきりでグループ組んで、永遠に道に迷っていたいまであるのにな……」

 

「は、八幡!?もう!またすぐにそうやってぼくをからかうんだからぁ!」

 

ぼ、ぼくだって八幡とだったら、山の中でずっと道に迷ったって大丈夫なんだからね!?

 

 

そんなお話に夢中になってる間にオリエンテーリングはスタートしていた。

なんか途中でぼく達スタッフの事が紹介されて、葉山くん?だったのかな?が代表で挨拶してたみたいだったけど、八幡の声しか聞いてなかったから全然聞いてなかったよ。

 

…………ぼくって不真面目だなぁ……

 

 

× × ×

 

 

小学生達の各グループがオリエンテーリングに出発しているのを眺めていると、戸部君も小学生のパワーに圧倒されちゃったのか、感嘆の声を漏らした。

 

「いやー、小学生マジ若いわー。俺ら高校生とかもうおっさんじゃね」

 

「ちょっと、戸部やめてくんない?あーしがババァみたいじゃん」

 

こ、恐いっ……そんな戸部君の言葉に三浦さんがすぐに噛み付いた……

うー……柔らかくなったといっても、やっぱり三浦さんはちょっと恐いっ……!

 

「いや、マジ言ってねーから!ちげーから!」

 

戸部君もやっぱり恐いのか、必死で釈明してる。

うーん。戸部君って、三浦さんのこと好きなのかと思ってたんだけど違うのかな?

 

ぼくはそんな戸部君をフォローするってワケでは無いんだけど、思った事を口にしてみた。

 

「でも、ぼくが小学生くらいの頃って高校生は凄く大人に見えたなぁ」

 

ホント不思議だよね。あの頃は高校生なんて違う世界の住人なのかな?って思っちゃうくらいに雲の上の存在だったのに、こうして高校生になってみるとあの頃と大して思考回路って変わってないんだもんね。

でも、このサポートメンバーの中で唯一の年下の小町ちゃんだけは、ぼく達とは意見が違うみたい。

 

「小町から見ても高校生って大人って感じしますよ?兄を除いて」

 

あはは!八幡だけ除外されちゃった!

でもぼくにとっての八幡は……

 

「おうちじゃあまり見えないかもしれないけど、学校での八幡は大人っぽいよ。クールだし、落ち着いてるし。ね?」

 

あととっても格好良い!

そんな憧れの眼差しで八幡を見つめるととっても嬉しそうだった。えへへ〜!

すぐに雪ノ下さんに笑われちゃったけどねっ。

 

 

そのあと八幡と雪ノ下さんの攻防が続いていると、不意に葉山君が呟いた。

 

「──ああ、そうか。その子、ヒキタニくんの妹だったのか。戸塚の妹にしては似てないなと思ってたんだ」

 

そっか。葉山君は、小町ちゃんはぼくの妹だと思ってたのかぁ。

確かに似てはいないけど、ぼくも小町ちゃんみたいな可愛い妹が居たらいいのにな!って思う。

 

でも、義理の妹になら!もしぼくが八幡とけっ……………………………………

 

 

 

 

さてと、どうやらぼく達の最初のお仕事は小学生達がオリエンテーリングを終えるまでに、あの子達の昼食の準備を済ませておく事らしいから、早く行かなくっちゃね!

 

 

× × ×

 

 

小学生のお昼ご飯の準備をする為にオリエンテーリングのゴールへと向かう道すがら、ぼく達は少し心配な光景に出くわした。

 

鶴見留美ちゃんというとても可愛い女の子。

ちょっと周りの子たちよりも大人びた雰囲気のその子は、五人グループの中で他の子達から距離を置かれていたんだ……

 

葉山君がその事を察知して、その子をグループの中心へと引き入れていた。

やっぱり葉山君はすごいんだなぁ!って、その光景を見て素直にそう思ったんだけど、どうやらそう簡単な問題でも無いみたいなんだよね。

 

「やっぱりね……」

 

「小学生でもああいうの、あるもんなんだな」

 

なぜなら八幡と雪ノ下さんが、その光景を心配そうな目で見つめながら、そんな事を口にしていたから。

 

なにがダメなんだろう……?

ぼくにはすぐに理解出来なかったんだけど、一度中心へと引き入れられていた留美ちゃんが、自然とまたグループの子たちから距離を置かれてしまい、またトボトボと一人で最後方を歩きながら去って行ったのを見てようやく理解出来た。

 

その子が木陰に消えていくのを溜め息を吐きながら眺めていた八幡の姿を見て、ぼくはちょっと胸がザワリとしたんだ。

なんだか、また八幡が辛い目に合ってしまいそうな予感がして……

 

 

そんな想いを抱えながらも、ゴール地点に到着したぼく達は小学生がゴールしちゃうまでの間に、急いでお昼の準備を済ませるのだった。

 

 

× × ×

 

 

「は、八幡はどこに座りたい?」

 

キャンプと言えばカレー!

緑溢れる自然の中にカレーの香りが漂うと、俄然テンションあがるよねっ!

 

夕飯のカレーを小学生達と一緒に作り、作業が終わってようやく食事の時間がやってきた。

みんなが適当に好きな席に着き始める中、ぼくは席ではなくて真っ先に八幡の所に行った。

 

「まぁ、適当に座ろうぜ……戸塚はどこに座る?」

 

「八幡の隣ならどこでもいいよ」

 

ん?

特になにも考えずに思った事を口にしたら、八幡がビックリしたみたいに口をあんぐりと開けてぼくを見つめる。

八幡てばどうしたんだろう?ぼくは自分が口にした意味を改めて考え直してみた。

 

「……っ!?」

 

はわわわっ!僕は恥ずかしくなって口元を手で押さえた。……な、なんかそれじゃ、八幡と一緒に居たいから、八幡が傍に居てくれるんなら、どこだって構わないよ?って言ってるみたいなものじゃないかっ……!

違うんだよ!?八幡っ!そ、そういう事じゃ無くってね!?

 

「な、なんか変な言い方になっちゃったね。その、お昼は準備とか小学生の相手とか忙しくてあんまり話せなかったから……」

 

なんとか釈明してみたけど、結局言ってる事っておんなじような……

 

「まぁ、なんでもいいさ。座ろうぜ」

 

なんか八幡も恥ずかしくなっちゃったのか、ぼくの目を見ずに急かすように背中を押してきた。

わーっ!は、八幡に背中触られちゃったっ……

 

「じゃあ、ぼくここに座るね」

 

なんだか気恥ずかしいなか席を決めると、ぼくは八幡だけに見えるようにテーブルの下で手をちょいちょいて手招きをした。心の中で『早く早くっ』って八幡に話し掛けながら。

 

八幡は、そんなぼくを見て、あくびのフリして口に片手を充てながら隣に座ってくれたけど、えへへっ!ちゃんと見えちゃったんだからね?

手を充てる前に口元が緩んじゃってるトコロっ……

 

隣に座ってからも少し恥ずかしそうにしている八幡の横顔をずぅっと見つめながら、ぼくはクスクスと微笑んでいた。

 

 

× × ×

 

 

食事を終えて、就寝時間を迎えた小学生達が撤退するのを見送ったあと、ぼく達の話題は先ほどの出来事……鶴見留美ちゃんの話題となった。

どうしたら留美ちゃんを救えるのかって。

 

ぼくもみんなとカレーの準備をしながら、八幡達が留美ちゃんとお話してるのをチラチラ見てたんだけど、遠目から見ても分かるくらい芳しくない雰囲気でとっても心配だったんだよね……

でも話はまとまらなかった。想いと想い、主張と主張がぶつかりあって、結局どうしたらいいのかなんて答えは出せないままに会議は終了してしまった。

ぼく達みたいな高校生でさえこれなんだから、より感情で動いてしまう小学生の問題なんて、早々答えなんて出るものじゃないよね……

 

 

 

ぼくは色んな思いで頭の中がこんがらがっていた。

先ほどの会議での皆の意見が頭をよぎる。

 

『可能な範囲でなんとかしてあげたいと思います』

 

これは葉山君の談。

とても優しくてとても頼りになる葉山君なら、もしかしたらなにかしてあげられるのかも知れない。

でも……可能な範囲ってなんだろう?ぼく達高校生レベルでの可能な範囲で、一人の女の子を救えるのだろうか?

それって、可能な範囲を超えてたから救えなかったって言い訳にも出来る言葉にも感じてしまった。

でももしも、言い訳なんかにしたくない八幡だったら、傷付いてでもその可能な範囲を飛び越えてしまうんだろう……

 

『彼女が助けを求めるなら、あらゆる手段を持って解決に努めます』

 

雪ノ下さんの談は、やっぱり彼女らしくとても強い。

可能な範囲を決めないその言葉には迷いがなかった。

でも、だからこそ逆に不安に駆り立てられる。

あらゆる手段……その言葉を聞いた瞬間にぼくの頭に浮かんだのは八幡だったから。

 

『話し掛けたくても仲良くしたくても、そうできない環境ってあるんだよ。凄い恥ずかしい話なんだけどさ。やっぱ周りの人が誰も話しかけないのに話しかけるのってかなり勇気いるんだよね』

 

由比ヶ浜さんは、誰のことを言っていたのかな……

もしもぼくが思い浮かべた人と同じなのだとしたら、その気持ちはぼくだって誰よりも強い。

話しかけられるまで一年掛かったんだから。

あの辛さと不甲斐なさを痛いほど知ってるからこそ、果たして留美ちゃんに話しかけてくれるような勇気のある小学生なんて居るんだろうか?って不安になる。

 

 

わぁ〜!もう頭の中がぐちゃぐちゃだよーっ!

ぼくなんかが一人で悩んでたって、どうすることも出来やしないのに……

でも…………なんにしても八幡が辛い思いをしないといいなぁ……

 

 

× × ×

 

 

とりあえず一人で悶々としてたってどうしようもないよねっ。

よしっ。お風呂に入って気持ちも身体もさっぱりしてこよう!

 

お風呂は通常ならビジターハウスの大浴場に入る予定だったらしいんだけど、さっきまでの作戦会議が長くなってしまって、入浴していいのは管理人棟にある内風呂になっちゃったみたい。

 

内風呂は一般家庭のお風呂と大差ないくらいの狭さらしくて、一人ずつ入る事になっちゃった。

あ〜あ……八幡と裸の付き合いが出来ると思って楽しみにしてたんだけどなぁ……お、男同士の裸の付き合いのことだよっ!??

 

で、でもやっぱりちょっと恥ずかしいなっ……あ、あはは……ひ、一人ずつで良かったかも……!

 

 

でも大事件が起きたのは、そうやって一人で変な想像をしちゃって、ドキドキして顔を熱くしながら内風呂の扉を開けた時だった。

 

 

「あ、はち……」

 

「 」

 

 

 

………………………………………………………………。

 

 

 

そこには……一糸纏わぬ姿の八幡が……い、今まさにっ……そ、そのっ……ぱ、ぱんつっ……を履こうとしている所だったっ……!

 

「わ、わわわわっ!ご、ごめん!」

 

ぼぼぼぼぼくは八幡から目を逸らしたんだけだけだけどっ!

でっ、でも裸の八幡にそそ遭遇しちゃった瞬間にちょっと固まってしまいっ!…………お、思いっきり見てしまった……!ぼっ、ぼくのよりずっと大………………っ!!!!

 

「お、おおおう!お、俺もなんかごめん!」

 

ぼくが一方的にいけないのに、なぜだか八幡に謝られてしまった……

ぼくはすぐさま回れ右して扉をすごい勢いで閉めた!

 

は、はははははは八幡のっ!八幡のぉぉぉっ!

 

 

どどどどうしようどうしよう!

扉の前で両手で顔を覆い、あの光景を脳内から排除しようとブンブン頭を左右に振っていると、しばらくしてから「もういいぞ」って声が掛かった。

 

「ご、ごめん。もう上がってると思ってて……」

 

扉を開けるなり頭を下げて謝ったんだけど、顔を上げた時に八幡とばっちり目が合ってしまった。

 

ははは八幡……っ!八幡の裸が……は、八幡のゴニョゴニョ……がっ!脳内を駆け巡る……っ!

 

ぼくはボンっと音がしそうなくらいに真っ赤になって目を逸らしながら、誤魔化すように一言。

 

「じゃ、じゃあぼくお風呂入るから」

 

「あ、ああ」

 

もう完全にパニック状態だよぉ!

は、八幡の……八幡のぉぉっ!

目がぐるぐるになりながらも、震える手でTシャツを捲り上げようとしていると……八幡がまだ居て、ぼくが服を脱ごうとするのをジッと見ていた。

 

「あの……服、脱ぐから……」

 

男の子が男の子の前で服を脱ぐのなんて普通の事なのに、あまりにも恥ずかしくて、ぼくは泣きそうな上目遣いで八幡を見上げる。

 

「ずっと見られてると、……ちょっと困る」

 

ぼくは八幡の裸をばっちり見ちゃったけど、やっぱり……その…………脱ぐトコとか見られちゃうのは……とっても恥ずかしいよっ……

 

「あ、そうか。わりわりもう行くわ」

 

そう言って扉を閉める八幡の背中を見送ってから、ぼくは深い深い息を吐いた……

 

「はぁぁぁぁぁぁ〜…………」

 

脱いだ服を畳んでカゴに入れて、ふと自分のを見てみた……

は、八幡の……凄かったな……

 

 

浴室に入ってから、火照った顔と頭を冷やすようにザーザーと頭からシャワーを浴びる。

それでもあの光景が頭から離れてくれないよーっ!

 

 

「どうしようっ……!今夜は八幡の隣なのに……眠れるのかな……」

 

 

 

湯船に浸かり、顔を半分までお湯につけてぶくぶくしていたぼくは、はっ!となってまた真っ赤に火照ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

「さ、さっきまで……八幡が浸かってたお湯だった……」

 

 

 

つ、続くっ……

 

 







よし!綺麗にまとまった事だし、これで最終回でもよくね?

という事で今回もありがとうございました。


なかなか筆が進まず更新が遅くてスミマセン><
途中までは書いてたんですけど、やっぱり原作沿いはあまりにも難しくて止まっちゃってました(白目)



ではでは続きがあったらまた会いましょうw
……………てかもうダメだろコレ……とつかたんがイケない方向に行っちゃってんよ……(・ω・;)




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とつかわいい⑨




よし!まだセーフ!
まだ男同士の友情物語でイケるッ……!





 

 

 

お風呂上がり。

滴り落ちる水滴と汗をバスタオルで優しく拭き取る。

タオルでごしごしと拭いちゃうと肌に良くないんだよねっ。

ぼくは肌がちょっと弱いから、身体を拭く時はいつも優しくポンポンと叩くように拭いてるんだ。

 

身体中の水滴を隅々まで拭き取ったあとは、下着を履いてパジャマ代わりのTシャツとハーフパンツに身を包み、まだ濡れたままの髪にバスタオルをあてながらバンガローへと歩きだす。

 

さっきは脱衣場で八幡と鉢合わせしちゃってビックリしたけど、湯船に浸かって今日の疲れを癒していたら、ようやく気持ちも落ち着いてきた。

ふぅ〜。やっぱりお風呂っていいなっ♪

 

 

バンガローに到着し、扉を開けると男子はみんな揃っていた。

 

「ふぅ……、お風呂上がったよ」

 

ふと見ると、八幡だけはもうお布団を敷いていて寝る準備もバッチリみたいだ。

ふふっ、八幡ったら!お風呂から上がったらすぐにお布団敷いてごろごろしてたのかなっ?

 

ぼくは八幡のすぐ横を通って、バッグからドライヤーを取り出し髪を乾かし始める。

夏だと自然乾燥でも充分乾くからって、そのまま放置するのは髪が傷んじゃうからダメなんだからね?

シャンプー後の、水分をたっぷりと含んだ髪はキューティクルが開いたままだから、とっても傷付き易い状態なんだ。

優しく温風をあてて髪を根元から毛先へと丁寧に乾かして、きちんとキューティクルを閉じさせてあげると髪にツヤが出るんだ〜。

えへへっ、ツヤツヤな髪に仕上がるととっても気分がいいよねっ?

 

丁寧に髪を乾かしていると、どうやらみんなはぼく待ちになっちゃってたみたい。

 

「ぼく、もう大丈夫だけど……」

 

「じゃあそろそろ寝るか」

 

葉山君がそう言うと、すでに寝床の準備を済ませている八幡以外がお布団の用意を始める。

 

「よいしょっ、よいしょっ」

 

ぼくは運んできたお布団を八幡のお布団の隣にピタリと合わせるように敷いた。

 

「ここ、いい……よね?」

なんかぼく、当たり前のように八幡の隣を占拠しちゃったけど……だ、大丈夫、だよね……?

先にちゃんと確認もしないで敷いちゃった事をちょっと後悔しながらも、ちらりと八幡を覗き込んでそう訊ねてみた。

 

「……ああ」

 

よ、良かったぁ……

──うっ……でも改めて八幡と顔を向き合わせると、さっきのお風呂場での大事件が頭を過る……

 

は、八幡の身体って、結構引き締まってたんだよなぁ……そ、それにっ……それにっ……

 

わぁぁっ!ダメだぁ!

八幡を真正面から見てると裸に見えてきちゃうよぉ……!

ぼくは恥ずかしくて熱く燃え上がっちゃいそうな顔を八幡に見られちゃわないように、ごろんとお布団に転がり込んだ。

 

「電気消すぞ」

 

するとタイミング良く葉山君が灯りを消してくれた。

良かったぁ!こんな近くで真っ赤な顔見られたら、ぼく八幡に変な誤解をされちゃうとこだったよっ……!

部屋が暗くなったから、安心して八幡の方に顔を向けられた。

 

うっ……ちょ、ちょっと近すぎたかも……

こ、これって寝返りしちゃったら……キ、キスしちゃうくらいの近さじゃない……?

は、八幡て寝相はいい方かな……。一応八幡の方を向いて寝ようかな……

だ!だって八幡の寝相があんまり良くなかったら、すぐに避けられるようにしなくっちゃね!た、他意は無いんだよ……?

 

 

今日は色々あったしみんな疲れてるからすぐ寝るんだろうなって思ってたら、戸部君が「なんか修学旅行みたいだ」って興奮しだして、正に修学旅行のノリみたいな話題を提供してきた。

 

「……好きな人の話しようぜ」

 

「嫌だよ」

 

急に好きな人の話とか言いだすからドキッとしたんだけど、意外にも葉山君が即答で拒絶した。

葉山君て人気者で女の子にもすっごくモテるのに、そういうお話って全然聞かないよね。

 

でもぼくもそういう話題にはちょっぴり弱いから、葉山君の拒絶に乗る事にした。

 

「あはは……、ちょっと、恥ずかしいよね」

 

そう苦笑いしながらチラリと八幡に視線を向けた。

うー……部屋が暗くて良かったぁ……

 

 

──結局戸部君は葉山君の意見を無視して勝手に話し始めちゃったんだけど、どうやら戸部君が急にその話題を出したのは、単純に自分の好きな人を誰かに話したかっただけみたい。

そしてその好きな人って、まさかの海老名さんだって言うんだ!

 

これには正直ビックリした。

ちょっと恐がる様子を見せながらも、なんだかんだ言ってやっぱり三浦さんが好きなんだろうなって思ってたから。

確かに海老名さんもすっごく可愛い女の子だもんね。ちょっとだけ変わってるけどっ。

 

でもぼくって男の子の友達あんまり居ないから、こうやって好きな人のお話をするのってちょっと新鮮!

は、八幡はどうなのかな……?

 

すると戸部君は自分の好きな人を発表出来た事に満足したのか、ただ聞いてるだけのぼく達に話を振ってきた。

 

「お前らどうなんだよー」

 

その無茶な振りに、ぼくの心臓が飛び跳ねた。

ぼぼぼぼくの好きな人っ!?

 

「好きな女の子ってこと?……女の子、かぁ。うん。特にいないかなぁ」

 

……うん。ホントに特に居ないんだよね。

ていうか普通にそう返しちゃったけど、今のお話の流れの中で「好きな女の子ってこと?……女の子、かぁ」って返しって我ながらちょっとおかしくないかな!?

これじゃまるで女の子“は”居ないけど……って言ってるように聞こえちゃわない!?

 

カァッと顔が熱を帯びる……

確かに戸部君に「好きな人」って言われた時に真っ先に浮かんだのは……その…………ごにょごにょ、だけどっ……

で!でもそれは友達としての好きであって、け、決してLOVEというワケでは無いんだよっ……?

 

そう自分に言い訳しながら、暗いのを良い事に、片手を口元に添えながら八幡に涙目になった視線を向けてみた。

 

お布団の上にペタンと女の子座りをして、真っ赤な顔ですぐ隣の男の子に涙目の眼差しを向けてるぼくって、傍から見たらなんだかちょっと女の子みたいだよね。

まぁぼくはれっきとした男の子だから関係ないけどね!

 

その後は戸部君が葉山君の好きな女の子の名前を聞こうとして孤軍奮闘してたみたいなんだけど、正直ぼくにはどうでもいい内容だったからあんまり聞いてなかった。

なんだかイニシャルはYとか言ってた気がしたんだけど……ま、いっか!

 

 

お話もそこそこに、今夜は八幡と一緒に寝られるんだなぁ……って暗がりの八幡の顔を見ていたら、なんだか安心して……眠たく…………なって…………………きちゃっ…………

 

 

おやす……みっ……はちまん……♪

 

 

× × ×

 

 

「……んっ」

 

普段とは違う心地の良い空気感に目を覚ます。

室内ではあるけど、いつもよりずっと多い小鳥のさえずりと優しい木漏れ日で、ぼくは今、高原に来てるんだっけな……って、記憶が呼び起こされる。

 

徐々に意識と視界がはっきりしてくると、ぼくの目の前に広がる光景は……

 

「わっ……!」

 

すっごいアップの八幡の顔だった。

わ、わわわっ……お互いにお互いの方向を向いてたみたいで、少し動いただけでぼくの唇と八幡の唇が触れちゃいそうな程に近いっ……!って……えっ!?

 

「〜〜〜っ!!」

 

あまりのアップに一瞬で脳が覚醒すると、今の状況の情報が一気に頭に流れ込んできた!

 

ぼ、ぼく、八幡のお布団に入って、八幡を抱き枕みたいにしてギュッと抱きついる〜っ……!

はわわっ!ななななんでぇ!?

 

ぼくはガバッとお布団から飛び出すと自分のお布団の上に慌てて戻り、八幡とは逆方向に女の子座りでペタンと座り込んで、髪を撫でたり乱れた服を直したりと居住まいを正す。

 

 

「はっ!?」

 

思い出したかのように周りを見渡すと、葉山君も戸部君もまだスヤスヤと寝息をたてていた。

はぁぁぁ〜〜〜〜……良かったぁぁぁ………だ、誰にも見られて無い……よねっ……!?

 

心臓が、壊れちゃうくらいに激しく鳴り響く。顔が茹でたてみたいに熱い。

頭も目もぐるぐるになりながらも、なんでこんな状況になっていたのかを考えてみた。

 

「……あ、……そ、そういえば……」

 

──ゆうべ、ぼくが目を覚ますと八幡が居なかったんだ。

夢うつつの中『……はれ〜……?』っとぼーっとしていると、どうやら外出していたらしい八幡が戻ってきたんだよね。

 

八幡はすぐに寝息をたて始めたんだけど、確かぼくはそんな八幡を確認してから寝呆けまなこでトイレに行ったんだ……

 

じ、じゃあぼくはっ……トイレから帰ってきたあと、間違えて八幡のお布団に入っちゃって一晩中抱きついてたのっ……!?

 

うぅ……ぼくはなんてことをっ……!全然記憶にないなんて勿体な………………………って違ーーーうぅっ!

 

 

× × ×

 

 

「あんれ〜?ヒキタニ君まだ寝てるん?」

 

「あ、うん。何度か起こしたんだけど全然起きなくて。……な、なんかゆうべ眠れなくって、夜お散歩してたみたいだから、寝るのが遅かったのかも……」

 

「じゃあ無理やり起こすか。もうそろそろ朝食の時間だしな」

 

「それな!」

 

葉山君と戸部君が八幡を無理に起こそうと近寄ってきたんだけど、ぼくは慌ててそれを止めた。

 

「わわっ……あ、あんまり無理に起こしちゃうのも可哀想だよっ。ぼく、もうちょっと待ってるから、葉山君達は先にビジターハウスに行っててもいいよ」

 

「そうか。じゃあよろしくな、戸塚」

 

「うんっ」

 

「ちょりーっす!」

 

葉山君はともかく、戸部君の起こし方はちょっと雑そうだもんね。

せっかくの高原の朝なのに、気持ち良く起きれないなんて可哀想だもんね。

葉山君達がバンガローを出ていくのを確認してから、ぼくはもう一度八幡に向き直って優しく揺する。

 

「八幡、はちまーん。起きて〜」

 

でもやっぱりいくら揺すっても中々起きそうもない。

 

「ねぇ、はちまんってばぁ」

 

今度は可愛い寝顔の八幡の頬っぺたをつんつんしてみた。

 

つんつんつんつん。

 

えへへっ……八幡可愛いなぁ!んー、でも起きないなぁ……

 

ぼくはキョロキョロと周りを確認してから……そっと八幡の耳に口を寄せてささやいた。

 

「……はちまーん?早く起きないと……頬っぺにちゅーしちゃうよ……?」

 

「……んー」

 

わっ!きゅ、急に起きそうになったからビックリしちゃった!

うん。これならあとちょっと揺すれば起きてくれそうっ。ちょっと残念っ!……………………ってなにがっ!?

 

 

「八幡、朝だよ。起きないと……」

 

ようやく目を開けた八幡にぼくは微笑みかけた。

 

「やっと起きた……。おはよ、八幡」

 

「…………おお」

 

「早くしないと朝ご飯に間に合わないよ」

 

「あとの連中は?」

 

「葉山君と戸部君には先に行ってもらったんだ。八幡、起きそうになかったし……」

 

「悪い……」

 

すると八幡はちょっと申し訳なさそうに頭を掻いた。

これは……この旅行?が決まってから計画していた作戦を実行するチャンスかも……!

 

「八幡はさ、夏休み不規則な生活してるでしょ?運動とか全然してないでしょ」

 

ぼくはちょっと怒ったフリをして八幡に訊ねた。

えへへ、ぷくっとしてる方が、このあと提案しやすいよねっ?

 

「あー、そうな。特になんかしようとは思わないしな。暑いし」

 

「身体によくないよ?何か運動を──あ、そうだ。今度テニスしようよ」

 

「おお、やるか。そのうち適当に連絡くれ」

 

やった!八幡が提案に乗ってきてくれたっ!

でもでも!その為には聞いとかなくっちゃならないことがあるんだよね♪

 

「うん、わかった!絶対連絡するよ!……あ、あの、ぼく、八幡のアドレス、知らない……」

 

 

そして遂に!遂にぼくは八幡のアドレスを手に入れたんだ!

八幡の教えてくれたアドレスを、機械が苦手なぼくは悪戦苦闘しながらもようやく登録し終え、試しに送ってみるからって言って、八幡に初メールを送ることにした。

 

んー……なんて書こうかな……?

───よし!やっぱり初めてのメールだもん!シンプルなのが一番だよね。

 

 

 

 

君に届け!ぼくから八幡への初めてのお便りっ!

 

 

[題名:彩加だよ。

 

本文:八幡、おはよ。初めてのメール、です。これからもよろしくね!]

 

 

 

続く

 






お待たせしてしまってスミマセン><
ようやく最新話の更新です!


ふぅ……なんとかまだ書けたぜっ(吐血)
そしてまだギリギリセーフ(・ω・)


もしまだ続くようなら、また次回会いましょう!全国津々浦々のトツラーの皆さまっ☆彡





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とつかわいい⑩




放置しちゃってて本当にスミマセン〜><





 

 

 

「これでよしっと!」

 

記念すべき八幡への初メールをしっかりと保存したぼくは、八幡に背中を押されて一緒にビジターハウスの食堂へと向かう。

へへ〜、八幡からの初メールも保存するの楽しみだなぁ。

 

食堂に到着して八幡と一緒に座り、みんなと朝の挨拶をしていると、小町ちゃんが八幡とぼくの分の朝食を用意してくれた。

ふふっ、小町ちゃんてホントにいい子だよね。八幡が小町ちゃんを大好きな理由がよく分かるよ

 

「あ、ありがとう。じゃあ、いただきます」

 

両手を合わせていただきますをすると、隣の八幡も一緒に手を合わせていただきますをする。

えへへ、小町ちゃんも一緒だし、なんだか家族みたいだよねっ。も、もちろんぼくと八幡は兄弟とかそういう設定だからね!?

 

 

ごはんも食べおわり、みんなで昨日のお話や今日の予定を話してると、ずっと新聞を読んでいた平塚先生が話し始める

 

「さて、朝食も終わったようだし、今日の予定について話しておこう」

 

 

平塚先生の話では、今日の小学生たちの予定は、夜の肝試しとキャンプファイヤーまでは自由行動みたいで、ぼくたちは夜の準備が任されるとの事。

 

食器を片付けてから目的地に移動すると、男の子グループは早速キャンプファイヤーの準備を始める。

女子はキャンプファイヤーを中心にフォークダンスのラインを引いてるんだけど、もちろんぼくは男の子だから力仕事だよっ?

ぼくと戸部君で薪を割ったり運んだりして、八幡と葉山君はその薪を積み上げている。

 

ホントは八幡とお喋りしながら同じ作業がしたかったんだけど、こういう分担になっちゃったんだからしょうがないよね。

 

「いんやー、キャンプファイヤーとかフォークダンスとかなんか懐かしくね?」

 

「そうだね〜。フォークダンスって中学くらいまではやってたけど、ちょっと恥ずかしかったよね」

 

「そっか?好きな子と手ぇ繋げるとか超アガんべ!」

 

好きな子と手を繋いでフォークダンスかぁ……でもぼくは男の子だから、八幡と一緒には踊れないんだよね。

べべべ別に八幡と手を繋いで踊りたいとかそういうわけじゃないんだよ!?

 

「そーいや夜のキャンプファイヤーとフォークダンスって、俺らも参加できねぇんかな!?海老名さんと手ぇ繋いで踊れっとか激アツっしょ!」

 

「ふふっ、戸部君はホントに海老名さんが好きなんだねっ。でもさすがに小学生のキャンプファイヤーに交ぜて貰うのは無理だよ」

 

「っかぁ〜!だよなぁ……テンションだだ下がりだわぁ……」

 

 

そんな会話をしながらお仕事を進めていると、いつの間にかぼくたちの担当分のお仕事は終わっていた。

えっと、あとは八幡と葉山君のキャンプファイヤー組み上げ作業だけか。それじゃあぼくも組み上げ手伝って、八幡と一緒に戻ろっかな?

 

そんなことを考えながら八幡達の方へ向かおうと思っていた時だった。

 

「戸塚さーん」

 

「さいちゃーん」

 

不意に後ろから声を掛けられ振り向くと、作業を終えた小町ちゃんと由比ヶ浜さんがこっちに歩いてきた。

 

「あ、お疲れさま〜。女子の方も作業終わったのかな?」

 

「はい!それでこれから女子一同は川へ水遊びに行こうかって話になったんですけど、戸塚さん達もどうですかー?」

 

「さいちゃんも行こうよー。超暑くない?」

 

水遊びかぁ!そういえば平塚先生に言われて水着持ってきたんだった。

 

「え!?マジ?……それって優美子とか海老名さんも行くん?」

 

わっ!戸部君がすっごい食い付いたよっ。

一応三浦さんの名前も出したけど、ホントは海老名さんと水遊びしたいんだろうな。

 

「うん。もちろん優美子も姫菜も行くから、先にバンガローに着替えに行ってるよー。……あ、とべっちも来るんだ」

 

由比ヶ浜さん酷いよ!?

戸部君への仕打ちに苦笑いしてたんだけど、当の戸部君は一切気にする様子もなく「キタわー!!アガりまくりんぐっしょ!」と嬉しそうに一人で盛り上がってる。

 

「戸塚さんも一緒に行きましょうよ!」

 

川遊びは今回楽しみにしてたイベントの一つだしもちろん行きたいんだけど……

 

「……あ、でもぼくはまだ作業が終わってない八幡のお手伝いをしてからにしようかな……」

 

「ヒ、ヒッキー!?あ、やー、ヒ、ヒッキーが来ちゃうと……その……ちょっと恥ずっ……キモいから連れて来なくてもいいんじゃないかなっ……うん!」

 

「え!?さ、さすがに八幡だけ連れてかないだなんてダメだよっ!」

 

───由比ヶ浜さんの言いたい事は確かに分かるよ?

そ、その……八幡に、水着姿を見られちゃうのが恥ずかしいんだよ……ね?

ぼくだってちょっと恥ずかしいから良く分かるけどっ……

 

「大丈夫ですよー、戸塚さん!葉山さんも一緒ですし、あとでたぶん一緒に来ますよー。大体担当分の仕事終わったのに手伝いに行っちゃったら、お兄ちゃんがだらけちゃうんで、お兄ちゃんの為にならないのです!」

 

「だべだべ。てか隼人くん来んなら俺もバンガローで待ってっから一緒に行きゃいいっしょ。先に着替えて待ってればいんじゃね?」

 

そっか。八幡の為にならないんじゃ仕方ないよね。それに戸部君がいつになく張り切ってるなぁ……髪を掻き上げてサムズアップしてる。

よっぽど海老名さんと川遊びしたいんだねっ。

 

「そう……だねっ。じゃあ先に行こっか」

 

ごめんね八幡っ!ホントは八幡を待っててあげたいけど、今は先に行くからねっ……

そ、それに水着に着替えてるトコロを八幡に見られちゃうのはやっぱり恥ずかしいしっ……!

 

 

× × ×

 

 

バンガローに戻って水着に着替えたぼくは、なんだかそれだけじゃ恥ずかしくって上にパーカーを羽織った。

ぼくは肌も弱いしねっ。

 

「おっ!戸塚も準備オッケーなカンジ?早く行くべっ!」

 

「え?戸部君は葉山君を待つんじゃないの!?」

 

「あー、隼人くんなー。正直もう待ちきれねーくらい昂ぶってるわー!先に行っちゃわね?」

 

「もう!どこに行ったか知らせなくちゃダメでしょ?……あ、じゃあぼく待ってるから、戸部君は先に行ってていーよ?」

 

「マジ!?おっしゃ!んじゃあ悪りぃけど先行ってっからっ」

 

すちゃっと手刀を切ってバンガローから飛び出そうかという所で、ちょうどドアが開いた。

 

「おっと!おい戸部、急に凄い勢いでドア開けるなよ…………って、ん?なんで海パンに着替えてんだ?」

 

 

どくんっ……!

突然の葉山君の登場にぼくの心臓が跳ね上がった。

上はパーカーを羽織ってるはずなのに、なぜか身体を隠すように両手で両腕を抱いて葉山君の後ろに視線を向けてキョロキョロするぼく。

 

「隼人くーん!遅いわー。なんか女子が川で遊ぶっつってっから、俺らも行くとこなんだわー」

 

「なんだ、そうなのか。てか戸部……もしかして俺を置いて先に行くつもりだったのか……?お前つれなさ過ぎだろ……すぐ着替えるからちょっと待っててくれよ」

 

あ……れ?

 

「海老名さんが水着姿で俺を待ってんだわー!早く行かなきゃ男が廃るっつうもんでしょー」

 

「別に姫菜は逃げやしないよ。なんだかお前一人だけ行かすのは危険だから取り敢えず待ってろ」

 

「そりゃないわ隼人くーん!」

 

苦笑いで戸部君を抑えてる葉山君だけど、なんだかその苦笑いの奥に危機感みたいなものを感じる。

あんまり戸部君と海老名さんの仲を進展させたくないのかな……?

 

っと、……そんなことよりも……

 

「えっと……葉山君。あの……八幡……は?」

 

そう。なぜだか八幡の姿が見えないんだ。

まだ一人で作業してるのかな……

 

「ん?ああ、ヒキタニくんも一緒に作業から上がったんだが、ちょっと寄る所があるらしくて途中で別れたんだよ」

 

「……え?そう……なんだ」

 

八幡、どこ行っちゃったんだろ……?

ホッとしたような残念なような……一緒に川遊びしたかったなぁ……

 

 

× × ×

 

 

「ないわーないわー」と激しく貧乏ゆすりをしたり立ち上がってウロウロしたりする戸部君をなんとか宥めながら葉山君の着替えを待ち、ようやく準備が完了した葉山君と三人で川へと向かう。

 

「キタコレ!これ来たっしょ!うおぉぉ!早く川行くべ川!」

 

「ははっ、戸部、少しは落ち着けよ」

 

「隼人くんのおかげでかなりお預け食らっちったんだから、こればっかりはしょうがないっしょー」

 

「かなりってお前……たかだか10分そこらだろ」

 

「水着すが……青春の10分は超貴重っしょ」

 

興奮しすぎの戸部君と、そんな戸部君にちょっと呆れ気味な葉山君が先に歩く中、ぼくは二人の後ろでとってもモヤモヤしていた。

───八幡、どこ行っちゃったんだろ……一緒に遊びたかったな。

 

うぅぅー……ぼくが水着姿を見られるのが恥ずかしいだなんて思ってたから……八幡を待たずに先に部屋に戻っちゃったから……バチが当たっちゃったのかなぁ……

 

しばらく森の中の道を歩いていると、次第に小川のせせらぎが聞こえてきた。

どうやらもう少しで川遊び出来るという場所に辿り着くみたいだ。

 

「おっ!もう女子達は先に川で遊んでるみてーだな。……………って、……うっおぉぉぉぉ……………え、海老名さんまさかのスクール水着かよっ……まじパないわー……!」

 

どうやら川遊びポイントでは、先に到着していたらしい女子がすでに遊び始めてるみたいだね。

お目当ての海老名さんを発見した戸部君は大興奮で、すぐにでも駆け寄りたいみたいなんだけど、まだ気持ちがバレちゃうわけにもいかないから、なんとか踏みとどまってるみたい。

 

「おー、川とかテンション上がるわー」

 

みんなと合流すると、戸部君が海老名さんにチラチラと視線を向けつつも、テンションをかなり抑えてテンション上がる発言。

すると葉山君が予想外の発言をする。

 

「お、ヒキタニくん、来てたんだ」

 

………………えっ!?えっ!?は、八幡来てるの!?

葉山君と戸部君の後ろに隠れてたから分からなかったよぉ……!

 

「ん、ああ、たまたまな」

わっ!ホントに来てるんだ!

じゃ、じゃあもしかしたら八幡も水着で来てるのかな……っ!?

 

ゆうべはアクシデントで八幡の裸を見ちゃったけど、あの時はいきなりだったし全裸だったしで、あんまりちゃんと見れなかったんだよねっ。

 

っていうかちゃんと見るって……ぼくなに言ってるんだよぉぉぉぉっ……!

 

んん!ん!と、とりあえずぼくは一旦冷静になって、葉山君の後ろから八幡を覗いてみた。すると…………あれ?

 

「八幡は水着持ってきてないの?」

 

キャンプファイヤー準備の作業開始ぶりの再会なのに、第一声がコレって……ぼくっ!

 

「と、戸塚」

 

葉山君たちの影に隠れて分からなかったであろうぼくの存在にビックリしたのか、八幡はぼくを二度見三度見する。

ん?なんだかその視線はぼくの格好に釘付けになってるように見えるけど。

 

「どうしたの?」

 

「その、上着……」

 

どうやら羽織ってるパーカーが気になってたみたい。

そうだよね。これから川遊びするっていうのに、こんなの羽織ってたらおかしいよね。

 

「ああ、これ?ちょっと肌が弱いから。身体冷やしすぎるといけないし」

 

……えへっ……!ホントはそれだけじゃないんだけどねっ……なんか、恥ずかしいやっ……

 

「そ、そうか……風邪には気をつけて遊べよ」

 

ふふっ、八幡はやっぱり優しいなぁ……

そんなに頬を赤く染めてまでぼくの心配をしてくれるなんて。

 

「うん、ありがと!」

 

八幡が水着を着てなかった事はちょっと残念だったけど、八幡が来てくれた事に満足したぼくは、川の中へとぱしゃぱしゃ駆けて行くのだった。

 

 

あ、八幡が水着持ってきてるのかどうかの答えをちゃんと聞いてないやっ!

えへへ、早く着替えてくればいいのになっ♪

 

 

 

続く

 






かなーりほったらかしの戸塚でしたがありがとうございました!
マジで書くのが一番大変なんですぅ(涙)

今回はようやくマトモな彩ちゃんになりました(*´∀`*)ホッ
ここのところとつかたんの暴走が危険水域だったんで、今回みたいな原作裏話になるとホント安心しますw
てか今回は誰得戸部回だったような気がしないでもない……(`・д゙・')


次回からは物語はちょっと真面目モードに突入してそのままラストまで行きそうな気がするので、もうあんなヤバイとつかたんは書かなくて済みそうです☆
更新はいつになるか分かりませんけどね(苦笑)


ではではまた(いつになるか分からない)次回で!




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とつかわいい⑪




今回はあんまりとつかわいいを望めないかもっ><





 

 

 

川遊びを始めてからしばらく経つけど、八幡は川には入って来ないで木陰でのんびりと休んでいるみたいだ。

んー……やっぱり八幡は水着持ってきてないんだなぁ……八幡と水の掛け合いっこしたかったんだけどな……

 

八幡以外はと言えば、女の子達は水鉄砲まで持ち出して激しい掛け合いをしてるし、葉山君と戸部君は素手で魚を捕まえようとはしゃいでる。

ぼくは男の子だから葉山君たちと一緒に行動はしてるけど、なんだか心此処にあらずで、さっきからずっとチラッチラッ……と八幡の様子を眺めていた。

 

「あっ!……むーっ!」

 

もう!八幡てば!

さっきから女の子達の様子ばっかり見てるんだからっ……!

そりゃ八幡だって男の子だし、あんなに魅力的な女の子たちが水着ではしゃいでたら目がいっちゃうのも分かるけどさ……分かるけどぉ…………もう!八幡のえっち……!

 

「戸塚ー!今だ!魚そっち行った……って、あんれー?どしたん?戸塚。そんなに頬っぺた膨らましちゃって」

 

「え!?な、なんでもないよ?」

 

「?」

 

うわぁ……せっかくみんなで川遊びして楽しんでるのに、ぼくいつの間にか頬っぺた膨らませちゃってたのかぁ……

……もう!八幡がいけないんだからねっ!

 

 

× × ×

 

 

反省したぼくはしばらく八幡の事は忘れて、川遊びに集中していた。

どれくらい経ったのかな。

ふと気が付くと、八幡の隣には鶴見留美ちゃんがちょこんと座っていて、八幡とお話してる。

 

 

───どういうこと……?

確か今日のこの時間は小学生たちは自由時間だって言ってた……

なのに、なんであの子は一人ぼっちでこんなところに居るの……?

その異常事態に気が付いたのか、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんが川から上がり、二人の方へと歩いていった。

しばらくそのまま4人でお話してたみたいなんだけど、気が付いたら留美ちゃんは今にも泣き出しそうな顔で俯いていた。

 

……なんか……やだな、ああいうの……

ぼくには憶えがある……留美ちゃんのあの光景に……

 

少しだけ苦しくてチクッとする胸を押さえて見ていると、八幡が立ち上がり留美ちゃんにぼそりと一言を告げて去っていく。その顔は、なにかを決意したかのような表情だった。

……八幡は、やっぱり留美ちゃんも救うんだねっ……

 

ぼくは去っていく八幡の背中を見つめながら、もしも八幡が辛い思いをしてでも留美ちゃんを救うつもりなのだとしたら、その辛さを少しでも和らげてあげられるように全力でサポートしようと心に誓った。

 

 

× × ×

 

 

川遊びを切り上げたぼく達は、夜の肝試しに向けての準備を始めていた。

準備って言っても、コースを下見して、小学生が道に迷わないように危険なポイントをチェックして、そのポイントポイントにお化け役を配置しておこうかとかカラーコーンを立てておこうかとか打ち合わせをしながらの散策かな。

 

一通り確認作業が済んでから待機場所に戻ると、確認作業中ずっと黙っていた雪ノ下さんが重い口を開いた。

 

「それで、どうするの?」

 

その雪ノ下さんの質問にみんな黙ってしまう。

この質問が肝試しに対しての質問じゃなくて、留美ちゃんに対しての質問だって分かってるから……

 

チラリと八幡を見ると、難しい顔をして顎に手を当てていた。

 

 

 

『……ねぇ、八幡……さっき、川で留美ちゃんとお話してたよね……どうして自由時間なのに、留美ちゃんは一人で居たの……?なにかあったの……?』

 

『ん?……ああ。なんか自由時間だっていうから、朝メシ食って部屋に帰ったら、もう他の連中は誰も居なかったんだとさ』

 

『……そんなっ……そんなのって、酷いよ……』

 

『……だな。子供ってヤツは残酷だからな』

 

『…………八幡は、なにかするの?』

 

『まぁ、平塚先生にこの林間学校の手伝いは奉仕部の活動の一環って言われちまったからな。なら、依頼を受けた以上はなんかするだろうな』

 

『……依頼?』

 

『ああ。留美がな、惨めなのは嫌なんだとさ。だったら惨めに感じないようにしてやるのが奉仕部の仕事だ』

 

 

川遊びから帰ってきて、肝試しのコースチェックに向かう前に八幡とした会話。

あの時点ではまだなにをどうするかは思案中みたいだったけど、考えはまとまったのかな。

 

「留美ちゃんがみんなと話すしかない、のかもな。そういう場所をもうけてさ」

 

さっきの雪ノ下さんの投げ掛けた質問に、苦しんだ末に葉山がそう答えた。

……でも葉山君……それはちょっと……

 

「でも、それだと、たぶん留美ちゃんがみんなに責められちゃうよ……」

 

そう、由比ヶ浜さんの言う通り……。たぶん葉山君はそういう悪意に曝された事が無いから分かってない。

こういうのって、そんなに簡単じゃない。

 

「じゃあ、一人ずつ話し合えば」

 

だから、そういう問題じゃないんだよ……

由比ヶ浜さんに意見を否定された葉山君が食い下がるのをちょっと苦々しい気持ちで見ていると、とっても意外な人が口を開いた。

 

「同じだよ。その場ではいい顔しても、裏でまた始まる。女の子って隼人君が思ってるよりずっと怖いよ?」

 

……海老名さんが低い声で放ったその意見に、さすがの葉山君も言葉を詰まらせた。

 

そっか……海老名さんもそういう経験があるんだね。

でも、それは別に女の子だからってワケじゃないと思うよ?集団心理の中では、女の子でも男の子でも異端な存在はやっぱり異端だし、周りの子たちも男女関係なく排除しようとするんだ。

 

海老名さんの発言でみんなが押し黙る中、ついに八幡が口を開いた……!

 

「俺に考えがある」

 

「却下」

 

ゆ、雪ノ下さんっ……

ぼくだけじゃなくみんながそんな八幡と雪ノ下さんの夫婦漫才のようなやりとりに苦笑していると、八幡が『肝試しだからこその案だ』と説明を始めた。

 

八幡が言うには、肝試しと不良という恐怖心理を上手く利用するみたい。

 

「本当に怖いのは身近な人間だよ。中途半端に信頼しているから、裏切られるなんて思っちゃいない。予想外のところからくるから怖いのさ。あいつらで言うならそうだな、友達が一番怖い」

 

友達が一番怖い、かぁ……

でもたぶんだけど、そんなのは本物の友達なんかじゃないよね。

八幡もそれが分かってるから、こんな言い方をするんだろうな。

 

周りのみんなは、つまりどういう事なんだ?と表情で説明を求める。

すると八幡は「具体的に説明する」と前置きしてから語り始めた。

 

「人間、極限状態でこそ本性が出る。本当に怖い思いをしたら、何が何でも自分を守ろうとするだろ。人のことなんて考えていられない。周りの人間を犠牲にしてでも助かろうとしたがる。そうやって醜い部分を晒したらもう仲良くなんてしてられないはずだ。そうやって連中をばらばらにしてやればいい。……みんながぼっちになれば争いも揉め事も起きないだろ」

 

 

ここまで言うと八幡はニヤリとして、ここからが本題とばかりに具体的な説明を始めるのだった。

 

 

× × ×

 

 

「要は中途半端に信用しあってるあいつらに、不良に暴力を振るわれるかもという恐怖を与えて、お互いを裏切らせりゃいい。なにせあんなに薄っぺらい集まりだ。自分だけが助かる為なら、簡単に裏切るだろう」

 

「……つまり、自分が助かりたいのならば、他の誰かを生け贄に差し出せと選択を迫るというわけね」

 

「さすがに理解が早くて助かる。まぁそういうことだな」

 

「でも一体それをどうやって遂行するつもりなのかしら。あのグループだけにそんな選択を迫る手立てなんてあるの?」

 

「ああ、それはもう考えてある」

 

な、なんだか恐ろしい会話をしてる気がする……

八幡と雪ノ下さん以外は、ちょっと引きつった顔でそんな二人の様子をただ見守っている。

 

「ただこれには、葉山達に汚れ役をやってもらわなくちゃならない。やるかどうかはお前ら次第だけどな」

 

急に話を振られた葉山君達がギョッとした。

 

「……は?あーしらが汚れ役なん……?」

 

「……え、あ、やー……その……」

 

わわわっ……三浦さん恐いっ……!

さっきまでちょっと悪そうな顔で説明してた八幡も、これにはさすがに怯えちゃったみたい。

 

「優美子。とりあえず一旦ヒキタニ君の話を最後まで聞いてみよう」

 

「……まぁ、隼人がそう言うならぁ……」

 

葉山君が三浦さんを宥めたところで、ちょっとおっかなびっくりしながらも八幡の説明が再開した。

 

「……えっとだな……んん!…………あいつらはリア充グループ予備軍だ。そして見てりゃ分かると思うが、あいつらは葉山グループに将来の自分達を重ね合わせて憧れを抱いている。憧れと同時に同族に対する気安さもな。だからそこを突く」

 

「えっと、どゆこと?ヒッキー」

 

「いいか?肝試しはグループごとに分かれて行動する。昨日のオリエンテーリングみたいにな。だからあのグループだけを違う場所に上手く誘導するんだ」

 

「なるほど。それで先程の選択の件はクリアというわけね」

 

「ああ。そして誘導した先に葉山達を待機させておく。肝試しで暗がりの山道を不安な気持ちで歩いてきたあいつらが、憧れの葉山達を発見したらどういう行動を取ると思う?」

 

あっ……そのシチュエーションをぼくに重ね合わせたら分かっちゃった!

不安でいっぱいの時に目の前に八幡が現れたら……

 

「……すっごく安心して、抱きつく……?」

 

「え?あ、いや、抱きつきはしないと思うが……」

 

はわわ……ち、違っちゃった……は、恥ずかしいっ……

でもなぜか八幡も顔を赤くしてる……

 

「で、でもまぁ安心するって所はその通りだな。で、たぶん気安く話かけてくんだろ。場合によっては、調子こいた感じで接してくるかもな」

 

……うん。なんだかその姿は容易に想像できるかも。

みんなもその姿を想像して頷いてる。

 

「そこがポイントだ。そんなガキ共にこう言ってやるんだよ。『お前らなに調子乗ってんの?ムカつくからやっちまうか』ってな」

 

その一言で、みんながハッとした。

ぼくもだけど、八幡のその作戦に気が付いたんだ。

 

「つまり、そこで選択を迫る訳ね。何人かは助けてやるから、何人かは残れ……と」

 

「そういうことだ。まず最初の生け贄に留美が差し出されるだろう。だがそのあとはどうする?自分さえ助かりゃいいと考えるんなら、醜い部分を晒しまくってお前が残れお前が残れと言い争いになんだろ。4人と1人だったグループも、そこまで行きゃ5人の立派なぼっちの出来上がりだ。あんな薄ら寒い関係は一旦ぶっ壊しちまえばいい。そして留美も惨めじゃなくなる」

 

「はぁ?ちょっと待つし!んなことしたら大問題になっちゃうんじゃね!?親とか先生にチクられたら、あーしら退学とかになっちゃうんじゃないの!?」

 

「……それは大丈夫だ。その場で俺が「これはドッキリでしたー」とか言って出ていく。そうすれば非難が俺だけに集中してその場は収まるし、肝試し中ということもあり、あくまでもイベントの一環だったという事でカタが付く」

 

 

そこで八幡の説明は終了した。

みんな……思いっきり引いている。正直ぼくもそれでいいのかどうか良く分からない。

 

でも、ぼくは八幡を全力でサポートするって決めたんだ。だから、みんなは引いてるけど、ぼくだけは八幡を肯定するんだっ。

 

「八幡はよくいろんなこと思いつくね」

 

ぼくのその言葉に八幡は少しだけ驚いた顔をしたけど、ぼくが真っ直ぐな目で八幡を見つめてたら、八幡も少しだけ笑ってくれた。

 

 

 

結局そのあともみんな悩んんだり反対意見が出たりもしたけど、他に考えが浮かばないという事でその作戦で行く事に決定したのだった。

 

作戦決行まであと数時間。今夜は、ちょっと苦い肝試しになりそう……

 

 

 

 

でもぼくは一つだけ気になってたんだ。

八幡が最後に言ったセリフ。

 

 

『そうすれば非難が俺だけに集中してその場は収まる』

 

 

八幡は……やっぱりなにかを1人で背負い込むつもりなんだね。

だったらぼくは、八幡が1人で背負い込んだ荷物を少しでも軽く出来るように支えよう。

それが、薄っぺらい関係なんかじゃない、本物の友達だから……

 

 

 

続く






今回もありがとうございました!

いやぁ、今回はほとんど戸塚の暴走が無かったですねー。
でもあれだけ書き辛かった戸塚SSも、戸塚が真面目モードに入ってきたら途端に書きやすくなりました。
やっぱりそれは私の根が真面目なんだからでしょうね!
・゚(Д`(⊂≡ ボゴォッ!



ようやく次回かその次くらいには締められそうです!
なんとか今年中には締めるぞー☆おー!




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とつかわいい⑫




すみません……(汗)


クリスマス記念モノを書き貯めてたら、こんなに放置しちゃいました><;






 

 

 

パチパチと音を立てて、キャンプファイヤーが空高く燃え上がっている。

肝試しを終えて着替え終わったぼくは、その燃え盛る炎の周りを囲うようにフォークダンスをしていた小学生達が、ダンスを終えて解散していく様子をチラリと見ながら、雪ノ下さんと二人でお話している八幡を見つめていた。

 

今日の作戦は上手くは行ったらしい。

八幡の計画通り、留美ちゃん達の関係性を完全に破壊するほどの成果をあげられたみたい。

 

でも、意外なことにピンチに陥ったグループを救ったのは、他でもない留美ちゃん自身なんだって。

八幡の言うところの“生け贄”に真っ先に選ばれたというのに、不良役の葉山君達にカメラのフラッシュを浴びせて、その隙をついて他の子たちを逃がしたんだそうだ。

 

関係性を完全に破壊出来た上に、さらには留美ちゃんが仲間を気遣う所さえもその子たちに見せられた訳だから、作戦は予想以上に成功したんだろう。

 

 

それなのに、なんだかぼくはその作戦が上手くいったんだっていう実感が一切持てないでいた。

あんなに平気そうな顔をしてても、どこか物悲しげな八幡の横顔を見たから。

そんな八幡の横を、八幡に一切顔を向けないで通り過ぎた留美ちゃんの姿を見ちゃったから。

 

 

 

ぼくには……ぼくにはなにも出来ないのかな……

ぼくは、自ら進んで苦しい思いをしてしまう八幡の心の重荷を、少しでも軽くしてあげられたら……って思ってた。八幡は、ぼくの一番大切で大好きな友達だから。

 

それなのに、ぼくは結局なんにも出来なかった。

計画に参加出来るわけでもなく、計画中の八幡に寄り添ってあげられるワケでもなく。

 

ただ計画が実行されるのを聞かされて、そしてあの子たちをそこに向かわせただけ。

結果だって、由比ヶ浜さんから聞いただけだ。

 

ぼくは、結局は何一つ出来ない無力な男の子のままなんだな。

いつか、胸を張って八幡の隣に立ちたいだなんて思ってたけど、ぼくにそんな資格はあるのかな……

 

 

 

ぼくはもう一度八幡に目を向ける。

 

八幡はぼくと違って強い。本当に強い男の子。

強くて、でも本当は誰よりも優しい人。

そんな八幡が、ただ小学生たちを仲違いさせて、結局留美ちゃんを一人ぼっちのままで居させるこの結果に、胸を傷めてないはずが無いんだよね。

 

 

 

───ぼくはなにを考えてるんだ……!

無力な男の子のまま?隣に立つ資格が無い?

本当にぼくはなんにも成長してない。八幡と過ごせるようになったこの三ヶ月で、少しは成長出来たのかと思ってたのに……

 

無力?資格?……そんなの…………もうどうだっていい……!

そんなのは、ただの独り善がりじゃないか……!

 

ぼくが今したい事。それは、独り善がりに無力な自分を卒業したいわけでも、独り善がりに資格を得たいわけでも無いはずじゃないの?

ぼくが今したい事、それは、八幡の荷物を少しでも軽くしてあげる事。

そこには、ぼくの独り善がりな気持ちが入り込む余地なんて無いし、そして必要もない。

 

「……よしっ」

 

ぼくは誰にも聞こえないくらい小さな声でそうぽしょりと呟くと、今まさにぼくの横を一人通り過ぎようとしている女の子に、こう声をかけるのだった。

 

 

「留美ちゃん、だよね。急にごめんね?……あとで、ちょっとだけ時間もらえないかな……?」

 

 

× × ×

 

 

留美ちゃんに声を掛けたあと、何事もなかったかのようにみんなと花火を楽しんだぼくは、バンガローに戻ったあとにこっそりと部屋を抜け出して、留美ちゃんとの待ち合わせ場所であるビジターハウスの裏へと向かった。

留美ちゃん、上手く部屋を抜け出せたのかな?

 

昼間であればなんてことない森の中の道も、夜になると途端に怖くなる。

まるでこのままこの闇の中に飲み込まれちゃいそうなくらいに。

こんな夜の闇の中、小学生の女の子を1人で呼び出しちゃったなんて、ちょっと申し訳ないな……

 

 

 

待ち合わせ場所に到着すると、すでに留美ちゃんはビジターハウスの壁に寄り掛かって俯いて立っていた。

 

「ごめんね、留美ちゃん。こんな時間に急に呼び出しちゃったのに、1人で待たせちゃって」

 

そう声を掛けると、留美ちゃんはチラリとぼくを一瞥してから、そのまままた俯いた。

 

「……別に。で、話ってなんですか」

 

──そういえば、留美ちゃんとこうしてお話するのって初めてなんだ。

留美ちゃんはよく八幡とお話してたから、ぼくもすっかりお話した気になってたけど、この子からしたらぼくはちょっと見掛けたことがある程度の、高校生グループの中の1人って程度なんだよね。

 

今さらだけど、今日怖い目に合わされたばかりの高校生グループの中の1人でしかないぼくの呼び掛けに、どうしてこの子は1人で来てくれたんだろう……

 

「……あ、ごめんね。お話の前にまずは自己紹介。ぼくは戸塚彩加」

 

「……鶴見、留美」

 

「うん!ありがとう」

 

ふふっ、留美ちゃんはぶっきらぼうではあるけど、ちゃんといい子なんだよね。

こういうトコ、ちょっと八幡に似てるのかも。

 

「で、話ってなに」

 

「え、あ、うん。八ま……比企谷くんの事で……ちょっと留美ちゃんとお話したくって」

 

「八幡の?」

 

今までは俯いたままで、ほとんどぼくに視線を向ける事のなかった留美ちゃんが、八幡の名前を出した途端にぼくをしっかりと見てくれた。

ていうか、留美ちゃんて八幡のこと名前で呼び捨てなんだっ?

 

「うん、比企……八幡のこと。…………今日の肝試しの事で、留美ちゃんが八幡のことを誤解してるようなら、ちゃんと誤解を解いておきたいなって思ったんだ」

 

 

──悔しいけど、ぼくに出来ることなんてこんなことくらい……

でも、八幡が嫌な思いまでしてあんなことをしたのは、留美ちゃんの為なんだよ?ってちゃんと伝えておきたい。

 

留美ちゃんに誤解されたままでいるのは、八幡が可哀想過ぎるから……

 

「誤解……?」

 

「……うん……えと、ね?……そもそもさっき肝試しであった出来事は、八幡の考えでぼく達が実行したんだって事は……分かってるの、かな……?」

 

「……うん」

 

八幡のやり方、八幡の考え方を尊重するのなら、本当はぼくのしてる事は間違ってるって分かってる。

八幡からしたら単なる余計なお世話でしかないってことも分かってる。

 

でもやっぱり……このままじゃ嫌だ……

こんな風に留美ちゃんとお話したことが八幡にバレて嫌われたのだとしても、それでもやっぱりぼくは……八幡が悪く思われたままでいるのは耐えられないっ……

 

「確かに今日のやり方は最悪だったかも知れないよね……小学生を恐がらせて仲を悪くさせるだなんて、留美ちゃんにとっては許せないことかも知れない…………でもね?それは八幡だけが悪いんじゃないんだ。ぼく達みんなで考えて、でも他になんにも考えが浮かばなくて…………結局、ぼく達はその考えに賛成しちゃった。……留美ちゃんが許せないっていうのなら、それはぼく達全員がいけないんだ」

 

「……」

 

「でもね?八幡は本当に真剣に留美ちゃんの事を考えてた。確かにいいやり方なんて言えないけど、でも八幡は……八幡は本当に真剣に考えて、自分だけが嫌な思いをするのも覚悟の上で、留美ちゃんの問題をなんとかしようって頑張ってた…………それに比べたら、そんな計画を立てざるを得なかった八幡だけに精神的な重荷を背負わせて、ただその計画に乗っかっただけのぼく達の方が、よっぽど無責任で……よっぽど悪いと思う……」

 

……確かにあの作戦を実行したのは葉山くん達だけど、でも……最終的に一番気持ちに負担が掛かるのは、やっぱり発案者である八幡なんだよね……

実行者は、言われたからやっただけ……って、心に逃げ場があるから。

でも発案者である八幡には、どこにも逃げ場が無い……

それこそが、八幡が1人で背負わなきゃいけない重荷。

 

ならせめて、留美ちゃんだけでもいいから本当の八幡の気持ちを知っていてもらいたい。

 

「だから留美ちゃんお願いっ……八幡のこと……悪く、思わないで……?」

 

そしてぼくは留美ちゃんに頭を下げた。

ぼくの心からのお願い、留美ちゃんに届くかな……

 

「……ねぇ」

 

「うん」

 

「戸塚……さんてさ、八幡のなんなの」

 

「……へ?な、なんなのって……?」

 

「だって、八幡の為にわざわざこんなトコに来てさ、いい大人のあんたが、小学生の私に頭まで下げて、なんで八幡の為にこんなことまですんの……?もしかして…」

 

すると留美ちゃんは…………なんていうか少し不満気な感じと言うかつまらなそうな感じというか、なんだかジトッとした目を向けて、ぼくにとんでもない言葉を放った……!

 

 

 

「もしかして戸塚さんて……八幡の……彼女かなんかなの……?」

 

 

 

 

続く

 








お久し振りでしたがありがとうございました!



次回、まさかの禁断の恋同士のバトル勃発か!?

というのは嘘ですけど、戸塚が八幡への想いを小学生の女の子に熱く語ります!
まぁ普通に真面目な感じで終われるはずですよ☆


そしてたぶん次回で終われると思います!



ではまた次回(^^)



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とつかわいい⑬





お待たせしました!


それではどうぞ☆


 

 

 

『もしかして戸塚さんて……八幡の……彼女かなんかなの……?』

 

突然の留美ちゃんの言葉に、ぼくは完全に固まってしまった。

 

──あ、あ……れ?

ぼくは留美ちゃんに八幡のことを悪く思わないであげて欲しいってお願いしてたはずなのに……なんで彼女なの?とかっていう質問をされてるんだろ、ぼく……?

 

というか……!かっ、かっ、彼女って!?

ぼぼぼぼぼくが八幡のっ!かっ、彼女ぉ!?

 

「ち、違うよっ!ぼ、ぼくは八幡の彼女じゃ無いからね!?」

 

「……なんでそんなに慌ててんの……?なんかやっぱり怪しいんだけど」

 

ちょっとだけパニックになりかけながらも、真っ赤になっているであろう顔をブンブン振っているぼくに、留美ちゃんは物凄いジトッとした眼差しでさらに追及してきた。

 

「ホントに違うからね!?」

 

「……じゃあ……なんで戸塚さんは、八幡の為にこんなことすんの……?」

 

「なんの為って……」

 

──ぼくはなんの為にこんなことしてるのかなんて、そんなのはっきりしてるよ。

 

 

「それは、八幡がぼくの友達だからだよ」

 

「……友達、か」

 

ぼくのなんの迷いもない答えに、留美ちゃんは顎に手を添えて思案中。

なにか変だったのかな?

 

すると留美ちゃんは、俯いていた顔をスッと上げた。

 

「……八幡に友達なんて居たんだ」

 

「居るよ!?」

 

留美ちゃんてば酷い!?

 

「ふーん…………まぁ、あの冷たい感じの美人と、あとは頭がお花畑そうなのも八幡と仲良さそうだったし……まぁ、居てもおかしく無いか……」

 

冷たい感じの美人、は雪ノ下さんだよね。

あ、頭がお花畑……は、申し訳ないけど……うん。

 

「でも、なんか美人の女ばっかりなんだけど。……あの人たちにしてもあんたにしても……ホントにただの友達なの?……八幡のこと狙ってんじゃないの?」

 

「狙っっっ……!?」

 

さ、最近の小学生って、こんなに進んでるのぉ!?

ぼくさっきから留美ちゃんに顔を熱くされっぱなしだよっ……

 

大体なんで留美ちゃんはこんなにこの件につっかかってくるんだろ?

元々ぼくが留美ちゃんにお話があったから来て貰ったのに、いつの間にかぼくの方が攻められっぱなしになっちゃってるし……

 

それに……ぼくはまだ一番重要なことをまだ言ってないんだ!

 

「ね、狙ってなんて……そのぉ…………ないし…………それにね?留美ちゃんはすっごい勘違いしてるからね!?」

 

「……なに?勘違いって。……大体あれだけ必死に八幡八幡って八幡のこと庇っといて、狙ってないとかなんか無理ない……?」

 

「だ、だってぼく……男の子……だもん」

 

激しい留美ちゃんからの追及に、ようやく言えた真実。

……ていうか……ぼくって、こんな小学生の女の子からも、そんなに女の子に見えるのかな……ちょっと凹む……

すると留美ちゃんはぼくの口から出た真実に、とっても冷めた言葉を切り返してきたのだった。

 

 

「は?なに言ってんの?そんなわけないじゃん。バカじゃないの」

 

…………ひ、酷いっ!

 

 

× × ×

 

 

結局、何度釈明しても「八幡を狙ってないって言い訳にしたって、いくらなんでもその言い訳はなくない?」と、しばらくのあいだ信じてもらえなくて、どうしたものかと頭を悩ませていた時に、ふと──そういえばぼくって、外出中はいつも生徒手帳を携帯してるんだった!──って事を思い出して、ポケットから取り出した生徒手帳を見せたらようやく信じてくれた。

 

「……ホントに男なんだ…………そ、その……さっきは失礼なこと言って……ごめんなさい……」

 

さっきまでは妙に攻撃的な態度だったけど、自分の間違いをちゃんと認めてペコリと頭を下げてくれた留美ちゃんは、やっぱりしっかりした子なんだなぁ。

 

「んーん?気にしなくてもいいよ?……あはは、よく間違えられるし、実は八幡と初めてお話した時も八幡信じてくれなかったしね」

 

苦笑しながらそう答えてあげると、ようやくペコリと下げた頭を上げてくれた。

 

「そっか……ありがと。……でもさ、じゃあなんで戸塚さんは、八幡の為にこんなことまですんの?……言いたいことは分かったけど、なんか……やっぱりただの友達とは思えないんだけど。普通こんなことの為に、高校生が小学生に頭下げんの……?」

 

「んー、普通の友達とは思えない……かぁ。……えへへ、それは確かにそうなのかも知れないね。ぼくは、八幡のことをただの友達とは思ってないもんっ……」

 

そう。八幡は、ただの友達なんかじゃ決して無いんだ。

うぅ……でもそれを口に出しちゃうのはちょっと恥ずかしかったかも……!

ぼくが思わず頬を染めちゃってたら、留美ちゃんが半歩だけ下がって声を漏らした。

 

「……え……」

 

「ち、違うからね!?そ、そういうんじゃ無いからね!?」

 

も、もう留美ちゃんたら……!

ホントに違うんだからね!?…………ち、違う……んだよ?

 

「あ、あのね!?ふ、普通の友達とは思ってないって言うのはね!?……んん!ん!…………八幡はぼくにとって……憧れの存在なんだ。ぼくも、あんな風になりたいなって、そんな存在」

 

……はぁ……まさか、さっき初めてお話したばっかりの留美ちゃんに、ぼくがずっと胸に秘めてきた気持ちを話すことになるだなんて思わなかったな……

……うん、違うか。そんな、ある意味無関係な存在である留美ちゃんにだからこそ話せるのかも知れない。

 

「……ちょっと長くなっちゃうけど……聞いてくれるかな?ぼくの気持ち」

 

 

そしてぼくは語りだす。

なんでぼくがこんなにまで八幡に憧れているのか。八幡と、ずっとお友達になりたかったのか。

今まで誰かに話してみたかったけど、でも決して誰にも言えなかった、ぼくの心の内を。

 

 

× × ×

 

 

えへへ……ぼくね?こんなんだからさ、男の子の友達が全然居ないんだ。

小学生の頃から、周りにはいつも女の子の友達ばっかりだった。

小さな頃からずっとそうだったから、それに別に疑問も持たなかったし、普通のことだって思ってた。

 

でもね、小学校の高学年くらいになった時に、これはそんなに普通な事なんかじゃないんだって気付き始めた。

ある日、ぼくは男の子達からハブられてるのかな?って感じ始めたんだ……

 

一度それに気付き始めたら、今まで目に見えないモノが……耳に聞こえなかった事が聞こえ始めた。

ぼくを見て笑う男の子たち。ぼくを女男って馬鹿にする子たち。

異端な存在だったぼくは、男の子グループから完全に排除されてた。

 

中学生になったら、そんな空気が明確に出ててね?……たぶん、思春期の男の子たちからしたら、ぼくは……気持ち悪い存在だったんだと思う……

 

それが結構辛くてね、じゃあ強くなれば異端な存在じゃ無くなるのかな?って。

仲間に入れて貰えるのかな?って。

だからぼくは苦手だったスポーツで心も体も鍛えようって思ってテニスを始めたんだ。

 

でもなんにも変わらないまま中学生も終わっちゃって、高校生になって今度こそ!って思ってる時に出会ったのが……八幡だった。

 

 

 

八幡はさ、高校の入学式の日に交通事故に遭っちゃって、ようやく怪我が治って登校してきた時には、もうグループも出来上がっちゃってて、どこにも入れなくて1人ぼっちだった。

ぼくはぼくで、小学校中学校の頃と同じで、女の子の友達した居なかったんだけどね。

 

だから、異端扱いされてるぼくはずっと気になってたんだ。

高校生活のスタートに居られないで、クラス内で異端扱いされてる彼は、これからどうやって高校生活を送っていくんだろう、どうやって友達を作っていくんだろうって。

 

 

でもね?彼は……八幡はなにもしなかった。

八幡は、そんな自分を受け入れたんだ。

 

林間学校も体育祭も、誰ともお話することもなくずっと1人だったんだけど、それが当然であるかのように、黙って毎日生活してた。

 

なんて強い人なんだろう……って思ったと同時に、元々そういう人なのかも、って思うこともあった。

言い方は悪いけど、全てに無関心な人なのかも……って。

 

 

でもね?毎日彼を観察するうちに、そういえばどうしても気になることがあったなぁって、ある日先生に聞いてみたんだ。比企谷くんは、どうして交通事故に遭ったんですか?って。

だって、それがなければ、八幡はは今みたいじゃ無かったかも知れないから。

 

 

そしたら先生は「恥ずかしいから言わないでくれって頼まれたから本当は内緒なんだけど戸塚なら大丈夫か。誰にも言うなよ?」って前置きをした上で教えてくれたんだ。

 

 

……八幡はね?車にひかれそうになった犬を助ける為に車に飛び込んで事故に遭っちゃったんだって。

自分の飼い犬でもなんでもない、たまたま目の前にいた犬を助ける為に。

 

ぼくはそれを聞いて、自分の考えが間違いだったって分かったんだ。

彼は、比企谷くんは全てに無関心な人なんかじゃ無いんだって。

犬を助ける為に車に飛び込んじゃうような人が、全てに無関心なわけがない。

ホントはとっても優しい人なんだって。

 

そんな……誰かを救う為なら身を挺しちゃうようなホントは優しい人が、クラスで異端扱いになって1人で居ることに心を傷めてないわけがない。

傷めてないわけがないのに……それでも1人で居る現実を受け入れて、なんてことないって平気な顔して毎日学校に来てる彼は、なんて強い人なんだろう!って、なんて格好良いんだろう!って、ぼくは心から憧れたんだ。

 

 

だからぼくは、そんな憧れの八幡といつか友達になりたいなって、いつか隣に立ちたいなって思って頑張ったんだっ。

もう、男の子たちから異端視されてることも、男の子の友達が居ないことも気にしないようにした。

そんなの、別に大したこと無いじゃないか!って。

 

 

そしたらね、ぼくはちょっとだけ強くなれた。

そしたら八幡と友達になれた。

八幡と友達になれたら、今度はもっと強くなれた。

えへへ、今じゃテニス部の次期部長候補なんだよ!ぼく。

 

 

八幡を見てきたから、八幡の隣に立ちたいって思えたから、だから今のぼくが居るんだ。

こうやっての八幡のおかげで少しだけ強くなれたぼくだけど、でも八幡と友達になれたのは、まだまだ弱かったぼくが八幡を頼っちゃったからなんだ。

だからぼくの次の目標は、もっと頑張ってもっともっと強くなって、今度は八幡に頼って貰えるような、そんな対等な友達になること。それが今のぼくの目標。

 

だからさ、ぼくにとっての八幡は友達ではあるんだけど、でもそれ以上に目標にしてる憧れの人。

それが、ぼくにとってただの友達じゃないんだよってことなんだっ!

 

 

× × ×

 

 

「……ふぅ〜」

 

興奮しすぎちゃったぼくは、たぶん高揚して頬が赤くなってると思う。

でも今おもいっきり吐いた息は、言いたい事を言い切れた、満足感いっぱいで吐いた幸せの息。

 

うぅ……でも興奮しすぎて熱くなりすぎちゃったかな……?

ぼくが話し終えてから、留美ちゃんは俯いたままずっと黙ってる。

や、やっちゃったかな……

 

で、でも、最後にもう一度これだけは言わなくちゃ!

 

「……だからね、留美ちゃん。不器用だから伝わり辛いかも知れないけど……八幡はそういう人なんだ。……だから、八幡のことを悪く思わないであげてくださいっ……」

 

そういってぼくはもう一度留美ちゃんに深く頭をさげた。

 

「あのさ」

 

ようやく口を開いた留美ちゃんだけど、その口から出てきた言葉は、ぼくの想像していた言葉とは全然違っていた。

 

「そもそもなんだけどさ、勘違いしないでもらえない?……私、八幡のこと、ひとつも悪く思ってなんてないんだけど」

 

 

…………………………………………………………へっ?

 

 

「……え、えっ!?そ、そうなの!!?……だ、だってっ……八幡と目を合わさないようにして横を通り過ぎてたから、ぼ、ぼくてっきり留美ちゃんは八幡のこと嫌いになっちゃったのかと…………っ!」

 

「やり方は酷かったから、ちょっとムッて思ってたのは確かだけど…………でも、私が惨めなのはもう嫌だって……その……泣いちゃったから…………だから八幡が私の為に考えてしてくれたことだって分かってるし、それに……私の為のあの酷い方法のせいで、あんまり表には出してないけど、八幡が辛い思いをして、八幡が辛い顔をしてたのだって分かってる」

 

「そうなの……?」

 

「……うん。……でも、ただ泣き付いちゃっただけの私が、私の為にしてくれた八幡の酷いやり方を、責めるのも、ありがとうってお礼を言うのも……なんか違う気がしたから……」

 

「……」

 

「……だから……私が八幡にありがとうって言うんだとしたら、まだ今じゃないかなって……もう、八幡にあんな顔させないくらいに、もう心配させないくらいになれてから、その時にちゃんと“ありがとう”って。“でもあの方法は無さすぎでしょ、バカ”って言いたかったから……だからさっきは無視したの……まぁ、もしまた会えたらだけどさ」

 

……びっくりした……本当にびっくりした。

留美ちゃんは……ぼくが思ってるなんかよりも、ずっとしっかりした考えを持ってたんだ。

…………八幡良かったねっ!こんな小さな女の子でも、ちゃんと八幡のことを見てくれる子だって居るんだね……!

 

でも……だとしたら……!

ぼくは我に返って顔が物凄く熱くなってきちゃった……

あんなに1人で熱く語っちゃってたのに、留美ちゃんにはちゃんと八幡が見えてたって事は、な、なんかぼく……馬鹿みたいだよぉぉ……!は、恥ずかしいっ……

 

「……そうなんだねっ!……あ、あはははは、なんかぼく、1人で長々と語っちゃって馬鹿みたいだね…」

 

「でもさ……なんていうか……戸塚さんの話聞けて良かった……かも。ハブられて辛かったけど頑張れたって話も聞けたし……自分の考えが間違いじゃないってことも分かったし、それに……八幡のこと知れたし」

 

そう言って頬を染めて俯く留美ちゃん。

なんかぼく、小学生の女の子に気を遣われてるみたいだ……うぅ……

 

 

でも…………そっか!

なんで留美ちゃんが、女の子だと勘違いしてたぼくにあんなに突っ掛かってきたのかと思ってたけど……ふふっ、もしかしたら、八幡は留美ちゃんの初恋だったりするのかなっ?

なんでお話したこともないぼくに呼ばれて、なんにも言わず来てくれたのかも分からなかったけど、留美ちゃんは、そのぉ……ぼ、ぼくが初恋の相手の……か、彼女なのかもって思ったから……どうしても気になっちゃって来てくれたのかもね。

うぅ〜……何度考えても……ぼ、ぼくが八幡の、かっ、彼女だって思われてただなんてっ……は、恥ずかしいな……っ。

 

 

 

 

「わざわざ来てくれてありがとうね、留美ちゃん。気を付けて帰ってね」

 

「うん。別に……なんてことない」

 

お話も終わって、ぼくと留美ちゃんは自分の居場所へと向かう。

ちょっと恥ずかしかったけど、でも……留美ちゃんとお話出来て良かった。

 

「あっ、……あのさ」

 

自分の部屋へと歩き始めた留美ちゃんの背中を見送っていると、留美ちゃんはなにかを思い出したかのようにぼくへと振り向いた。

 

「今日会ったことと私が話したこと、八幡には言わないで。……いつか、ちゃんと自分で言いたいから」

 

……あ、そっか……このこと、八幡には言えないのかぁ……

八幡には、留美ちゃんが本当は感謝してたよ?心配しなくてもいいよ?って言ってあげたかったな……

 

でも、それはぼくの役目じゃないんだよね。そんなことをぼくがするのは野暮だもんね。

 

「うん!もちろん」

 

だからぼくは留美ちゃんが心配しないように、笑顔で元気にそう応えたのだった。

 

 

ありがとうね!留美ちゃん。

八幡の事を真っ直ぐに見てくれる留美ちゃんみたいな子が居てくれて、ぼくは本当に嬉しい……!

いつか、その可愛らしい初恋が叶う日がくるといいね!

 

…………ついつい八幡と成長した留美ちゃんが結ばれた姿を想像しちゃったぼくは、なぜだか胸が苦しくってモヤモヤしちゃったんだけど…………うん。年の差カップルになっちゃう心配に対してだよねっ!

 

 

 

バンガローに戻ると葉山くんと戸部くんは思い思いに過ごしてたんだけど、八幡はどうやらお風呂に行ってるみたい。

 

……お、お風呂っ……

昨夜の記憶が頭の中を駆け巡るっ……!

 

わぁぁあぁぁぁあぁぁ!ダメダメぇ!

もう忘れて!ぼくのばかぁぁっ!

 

 

よ、よし!お布団お布団!

お布団の用意をして、もう寝る準備をしようそうしよう!

 

今日は本当に疲れちゃったもん。早く寝なくちゃね。

そうだ!八幡のお布団も敷いておいてあげよっと。

 

 

自分のと八幡のお布団を隣り合わせで敷いたぼくは、今日の色々な疲れがどっと押し寄せてきちゃったから、八幡が戻ってくるまで少しだけ横になることにした。

 

別に寝ちゃうわけじゃないんだっ……た、だ……ちょっとだけ…………よ、こ、に…………なる……だ……………………け……………

 

× × ×

 

 

ふと目を覚ますと、まだ薄暗くはあるものの、カーテンの隙間から少しだけ光が零れてきてる。

どうやらもうちょっとで夜明けみたいな、そんな仄かな光。

 

 

っ!!

どうやらぼくはあのまま寝ちゃったみたいだ……

ふと隣をみると、八幡が安らかな寝息をたてていた。

うぅ……もったいないなぁ……八幡とお泊まり出来る最後の夜なのに、いくら疲れ切っちゃってたからって、八幡が帰ってくるのも待たずに眠っちゃうだなんて……

 

「すー……すー……」

 

ふふっ、今日も良く眠ってるなぁ。

……八幡て普段はキリッとした格好良い目をしてるのに、こうやって安からに眠ってる顔は本当に可愛いっ……!

 

 

周りを見渡すと、葉山くんも戸部くんも、まだ深い夢の中にいるみたい。

 

 

ぼくはみんなが起きちゃわないようにそ〜っと起き上がると、八幡の隣にペタンと女の子座りをして、そして…………八幡の頭をそっと優しく撫でた。

 

 

 

───この林間学校は本当に色々あったね。

小学生のお手伝いしたりカレー作ったり、お風呂で鉢合わせたり川遊びしたり、そして…………肝試しで辛い思いしたり……

 

本当に色々あったけど、でも、はじめての一緒の夏休み楽しめたよね……?

 

 

でも、まだぼくたちの夏休みは始まったばかりだもん。

だから帰ってからも、一緒に映画行ったり一緒にランチしたり一緒にテニスしたりして、もっともっと一杯楽しもうねっ!

 

 

 

そしてぼくは昨日ちゃんと言えなかった一言をそっと言う。

八幡の頭を優しく撫でながら……

 

 

 

「……八幡、おつかれさまっ」

 

 

 

 

 

友達との夏休み編・終わり

 

 







ありがとうございました☆
なんとかギリギリ友達として終われました(笑)



本当は文化祭編、修学旅行編とかも考えてはいたんですけどもう私ダメポ(白目)


というわけで、とりあえずこちらのSSは一応の終了という形とさせて頂きますね〜(・ω<)



放置期間がかなり長かったりと色々あったSSではありましたが、長いあいだ最後まで本当にありがとうございましたっ♪



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