電撃!!ペルソナ8 (三澤未命)
しおりを挟む

第1話「目覚めた愚者」

○イメージ映像

 宇宙空間。

 そこに浮かび上がる、深い霧に包まれた地球の姿。

 そして、日本全国に広がる災害の状景。

N「20××年、人類は絶望に支配されつつあった。度重なる自然災害、教訓虚しく再発する人為的災害、それらによって家族や大事な人を失った人間は、弥が上にも絶望の淵に立たされた。そして、絶望した人間を闇の世界へ引きずり込み、シャドウなる魔物に変化させてしまう恐るべき秘密組織・天之狭霧神団(アメノサギリ)が次々と絶望した人間をシャドウ化させていった。このままでは、人類は絶望から絶滅を生む道へと歩むことになる!」

 絶望した人々がシャドウになる。

 そして、アメノサギリが生み出した巨大なシャドウの邪悪な姿が映し出される。

N「その時! 絶望の淵に立たされた人類を救う若き戦士たちが

現れた!!」

 順次現れるペルソナ戦士たち!

ペルソナ戦士たち「電撃!! ペルソナ8!!!!!!」

 

○オープニング曲

 

○サブタイトル

『第1話 目覚めた愚者』

 

○異空間(黄泉の世界)

 赤いマフラーをなびかせた銀色の戦士。

 頭部は蛙のような造型で、手首・足首辺りのの迷彩柄が眩しいジライヤが、パンチや熱線で人型の黒い影(シャドウ)たちを蹴散らしていく。

ジライヤ「イヨッ! ……っしゃ!!」

 そしてもう一人、長い黒髪をなびかせる黄色い戦士。

 女性ながらマッチョな体型に尖ったフルフェイスマスク、腰回りには鎧パーツを纏ったトモエは鋭い蹴り技でシャドウたちをなぎ倒す。

トモエ「トリャー!! ハッ! ハッ!」

 シャドウたちが次々と地面にうずくまっていく。

ジライヤ「……よし! 里中、大体片付いたな」

トモエ「うん! ……はっ! 花村、出たわよ!!」

 トモエの言葉に天空を上げるジライヤ。

 そこには、巨大な球体のシャドウ・アブルリーがフワリと浮いていた。

ジライヤ「アイツが親玉か」

 ジライヤとトモエが蹴散らした人型のシャドウたちは、絶望を感じた人間がこの黄泉の世界という異空間に引きずり込まれて変化した姿。

 そして、その人々を引きずり込んだのが、この親玉と呼ばれる巨大なシャドウであり、アメノサギリが生み出した『親玉シャドウ』なのだ。

トモエ「いっくわよ~!!」

 トモエが、薙刀状の武器・チャリオット・ソードをアブルリーに向かって振り下ろす!

 しかし、不規則な動きで空中を泳ぎながらこれを避けるアブルリー。

トモエ「ニャロウ……」

ジライヤ「……任せろ!」

 ジライヤ、掌についた手裏剣型の武器・マジシャン・ナイフを次々と発射させる!

 これも不気味な動きで避けるアブルリー。

 しかし、ジライヤのマジシャン・ナイフは誘導飛行型だ。

 ジライヤの指の動きに合わせて、空中で軌道を変えるマジシャン・ナイフ。

ジライヤ「オラオラ、そっちだ!」

 ジライヤのコントロールにより、マジシャン・ナイフが斜め背後からアブルリーの胴を切り裂く!

アブルリー「グギャーーーーッ!!」

 と、苦しみながらも大きな舌を突き出して、アブルリーがトモエをベロリと舐め上げる!

トモエ「ひ、ひいいぃぃぃぃ!!」

 全身の力が抜けてへたり込むトモエ。

ジライヤ「さ、里中ーーーっ!!」

 アブルリーに向かって走るジライヤ。

 そして走りながら、なおもマジシャン・ナイフを放つ。

 しかし、もはやその習性を把握したアブルリー、巨大な舌をグルッと旋回させると泡状のバリアを張る。

 ジュワ! ジュワーーーッ!

 泡のバリアに溶けてしまうマジシャン・ナイフ。

ジライヤ「ち、ちっくしょう……」

 再びトモエの方を見遣り、舌を突き出すアブルリー。

ジライヤ「クッ……、里中ーーーーっ!!」

 叫ぶジライヤ。

 と、その瞬間、アブルリーの身体を鋭い鉾が貫通した!

ジライヤ「何ィ!?」

 ブルブルと全身を震わせ、その場で四散するアブルリー。

 

 アブルリーの消滅とともに、失神していた数体のシャドウが人間に戻り、スゥーッとその姿を消して人間界へと戻っていった。

 そして、大きな鉾をブンと振り下ろしながら、アブルリーを四散させた一つの黒い影がその姿を露にした。

 それは、黒い学ランを羽織ったような造型、目つきの鋭い尖ったイメージの戦士だった。

ジライヤ「お……、お前もしかして……、ペルソナ戦士か?」

 ジライヤの問いに、黒い戦士・イザナギは既に変身が解かれている里中千枝を抱き起こしながら呟く。

イザナギ「……そう。俺はペルソナブラック・イザナギだ」

ジライヤ「イザナギ! ……てことは、愚者のアルカナか!?」

イザナギ「そうだ」

ジライヤ「クーーーッ! 待ってたぜ、お前を!! ようやく目覚めたんだな」

 そう言いながら、変身を解いてジライヤが花村陽介へと変化する。

イザナギ「目覚めた? どういうことだ。……俺はただ、この世界を彷徨っているに過ぎない。邪魔なシャドウを切り裂くために」

陽介「いや、お前は選ばれたペルソナ戦士なんだ。俺は花村陽介。魔術師のアルカナを持つ、ペルソナオレンジ・ジライヤだ。で、ソイツは戦車のアルカナを持つペルソナイエロー・トモエに変身できる里中千枝。……おい里中! 愚者がついに目覚めたぞ!!」

 陽介の言葉にうっすらと目を開ける千枝。

千枝「……う、ううん……」

 千枝が意識を取り戻したことを確認し、イザナギはゆっくりと千枝から離れて立ち上がる。

 そして、踵を返して歩き出す。

陽介「おい! どこ行くんだよ!」

 陽介の言葉を無視するように、そのまま霧の中へと消えていくイザナギ。

陽介「……ったく、まだ覚醒したばっかでよく分かってねーのかな」

千枝「な……、何? さっきの人」

陽介「イザナギだ。愚者がついに目覚めたんだ!」

 高揚した様子で千枝に説明する陽介。

千枝「え!? ホント!? ……で、なんでどっか行っちゃうわけ?」

陽介「まだ自分が何者なのか分かんねーんだろーな。……ま、いいや。俺の力があれば、すぐ仲間にしてやるさ!」

千枝「……だーいじょうーぶぅ?」

 千枝がかがみながらニヤニヤと陽介の顔を覗き込む。

陽介「ったりめーだろーが! 俺に任しとけーっつーの!」

 胸を張る陽介。

 

○八十神高校・二年の教室

 片田舎の小さな高校・八十神高校。

 ここに陽介と千枝は通っている。

 二人は同じクラスの二年生であり、昨年の秋に都会から陽介が転校してきて以来、千枝とは何故かウマが合っていた。

 二人は同じクラス。

 そして今日、そのクラスに一人の転校生が入ってきた。

 猫背で出っ歯な担任の中年男性・諸岡(通称・モロキン)が転校生を紹介する。

諸岡「今日から我が校に入った転校生を紹介する。都会からこの片田舎へやって来た、まあ言わば落ち武者だ」

 嫌味たっぷりに転校生を紹介する諸岡。

 その横で、キリッとした表情の男子転校生が諸岡を睨み、一言呟く。

転校生「……誰が落ち武者だ」

諸岡「な……何だと!? ……貴様、貴様は腐ったミカンリストに早速加えてやる!」

 諸岡の興奮した言葉をよそに、転校生は黒板に振り返ってチョークで自分の名をデカデカと書く。

『鳴上悠』と。

 そして、悠はグルッと教室中を見渡す。

悠「(……気配は、ないな)」

諸岡「き……貴様!!」

 諸岡を無視するように、悠は勝手に空いている席へと歩き出す。

 と、陽介が立ち上がって叫ぶ。

陽介「転校生! ……いや、鳴上~ぃ! 俺の隣空いてっから、ここだぜ、お前の席!」

 陽介の言葉を受け、悠は黙って歩き出す。

 そして、陽介の隣の席に静かに座る。

陽介「俺、花村陽介! よろしくな!」

 陽介が笑顔で悠に話しかける。

悠「……ああ。よろしく」

 しかし、悠は陽介と目を合わせることなく、小さく呟いて教科書を開いた。

陽介「え……っと」

 所在無げな陽介。

 悠は、妙に孤立したオーラを発していた。

 

  * * * * *

 

 休み時間となり、千枝が悠のところへ近寄ってきた。

千枝「鳴上君……だったよね? 私、里中千枝! よろしくね!」

悠「ああ、よろしく」

 陽介の時と同様に愛想なく答える悠。

 千枝、構わず悠に話し続ける。

千枝「初日からモロキンに目ェつけられちゃったねぇ。……ああ、モロキンってのはあのうっとうしい担任ね。アイツに睨まれたら厄介なんだよね~。でもさ、気にしなくていいからね! この花村なんか、しょっちゅう怒られてるから」

陽介「うるせーよ里中!」

 傍にいた陽介が、キャッチボールのようにテンポ良く千枝と悪態をつき合う。

  と、その時、廊下から女子の悲鳴が聞こえた。

女生徒「キャーーーーッ!!」

 バタバタと廊下へ飛び出す生徒たち。

 先陣切って、陽介と千枝も走り出す。

 

○同・廊下

 女生徒が一人、蹲って震えている。

 そこへ駆け寄る陽介。

陽介「どうした! 何があった!?」

女生徒「……知子が、知子が急に真っ黒になっていって、そのまま消えちゃった……」

 パニック状態の女生徒。

 傍には、テストの答案用紙が落ちている。

 それを拾い上げる陽介。

陽介「「テストの点数……。こんなモンで、絶望しちまうのかよ」

千枝「人それぞれ、事情があるだろうからね……」

 陽介と千枝が、そう嘆きながらスクッと立ち上がる。

陽介「行くぞ里中!」

千枝「がってんだ!!」

 走り出す陽介と里中。

 そして、後方からその様子を見つめていた悠が、スッとその姿を消す。

 

○同・校舎の裏側

 校舎の裏側へと走り出てきた陽介と千枝。

 と、二人はポケットからそれぞれオレンジとイエローのフレーム部分だけの眼鏡型変身アイテム・ペルソナアイを取り出し、それを着眼する。

陽介・千枝「ペルソナ・チェンジ!!」

 掛け声とともに、二人の目から広がるようにその姿が変化していき、陽介がジライヤに、千枝がトモエに変身!

 二人は傍に出来ていた水溜りへと身体を飛び込ませた。

 ペルソナ戦士は、鏡やモニター、水面など反射するものへ飛び込むことで、黄泉の世界へと入れるのだ。

 

○黄泉の世界

 陽介や千枝がいつも戦っている闇の異空間、それは黄泉(ヨミ)と呼ばれる。

 この黄泉のどこかにアメノサギリ一味が拠点を構えており、ここで生まれた巨大なシャドウが絶望感を抱いた人間を引きずり込むのだ。

 その霧が立ち込める暗い空間に、先程消えた女生徒・知子が真っ黒な身体で蹲っている。

 周囲には、同時に引きずり込まれたであろう八十神高校の生徒たちが数人シャドウ化して佇む。

 と、そこに現れるジライヤとトモエ。

ジライヤ「……ったく、学校でやってくれんなっつーんだよ」

トモエ「全くね……。こんちきしょうーーー!!」

 二人に群がってくるシャドウ化した生徒たち。

 シャドウ化した人間は、それ以外の生物から生気を吸い取ろうとする習性がある。

 しかし、中身が人間だけに息の根を止めるわけにはいかない。

 ペルソナ戦士の役目は、シャドウ化した人間を元に戻すために、その親玉を退治することにある。

 群がるシャドウたちを蹴散らしていくジライヤとトモエ。

 と、後方からヌゥーッと親玉シャドウのトランスツインズが姿を現した。

 まるでゾンビが二体、テレビのアンテナでつながれたような、不気味なシャドウだ。

ジライヤ「出たな親玉めぇ~」

トモエ「うわっ! 気持ちわる~い!」

 ジライヤとトモエがシャドウ化した人間を蹴散らしながら、トランスツインズにジワジワと近付く。

 と、その後ろにもう一つの影が。

 悠だ!

ジライヤ「あ……、あれは!?」

トモエ「転校生! 鳴上君だよ~~~~っ!!」

 驚くジライヤとトモエをよそに、悠は無表情のままポケットから黒いペルソナアイを取り出して着眼!

悠「……ペルソナ・チェンジ!」

 悠の目元から黒い光が放たれ、その光が全身を包み込んでイザナギへと変化する!

 そしてイザナギは、巨大な鉾型武器・フール・スピアーでトランスツインズに突き攻撃!

トランスツインズ「グガガガガガ……!!」

 一対の身体の一方に貫通したフール・スピアー。

 すぐさまフール・スピアーを抜いてブルンと振り回し、もう一方の身体に狙いを定めるイザナギ。

 すると、トランスツインズの二体の身体をつないでいたアンテナがシュワシュワッと消滅していき、イザナギに突かれた方はその場に崩れ落ちた。

 そして、もう一方はピョンと跳ねて逃亡を図る。

イザナギ「逃がすか!」

 イザナギは跳ねたトランスをジャンプして追い、全身がビカッと光ったかと思うと電撃攻撃・ジオが発動してトランスに命中!

 と、一瞬動きが止まったかと思うと、フワリと地面に落ちていくトランス。

ジライヤ「……バ、バカな!? あのタイプのシャドウには電撃は無効なはずだぞ!?」

 イザナギの戦い方に驚きを隠せないジライヤ。

トモエ「何にしてもチャンスよ!」

 トモエが倒れ落ちたトランスに向かって走り寄る。

 と、イザナギがそれを制してトモエを睨む。

イザナギ「……手を出すな」

 トモエに冷たく言い放ったイザナギは、倒れたトランスにフール・スピアーをひと突き!

 激しく四散するトランス。

トモエ「な……、何よその言い方!!」

 激高するトモエをよそに、イザナギは先に蹲らせたもう一方のトランスにフール・スピアーを投げつける。

 トランスの頭部に見事に命中し、こちらも激しく四散!

 と、方々に倒れ込んでいたシャドウ化した生徒たちが人間に戻っていき、その姿を次々と消していった。

 

 ジライヤとトモエが変身解除し、陽介と千枝に戻る。

 すると、イザナギもスゥーッと悠の姿に戻り、無表情のまま立ち尽くす。

 千枝が悠に走り寄って叫ぶ。

千枝「ちょっと鳴上君! さっきのはどーいうつもりよ!?」

悠「どうもこうもない。あれは俺の獲物だ」

 千枝の方を向くことなく、抑揚なく呟く悠。

千枝「……な、何を……!?」

 悠に掴みかからん勢いの千枝を、陽介が止める。

陽介「里中、よせ」

 そして、陽介がまっすぐ悠の前に立つ。

陽介「……お前、とんでもない力を持ってるな」

悠「…………」

 無言の悠に、陽介はさらに語りかける。

陽介「お前は愚者だ。なんで、型にはまらねーやり方すんのは仕方ねぇ。でも、ペルソナ戦士になった以上は、俺たちと協力し合ってアメノサギリ殲滅に力を尽くしてほしい」

悠「アメノサギリ?」

 眉をゆがめる悠。

千枝「え!? 知らないの!? じゃ、アンタなんで戦ってるのよ?」

悠「理由などない。俺は俺のやりたいようにやる」

 そう言うと、悠は踵を返してその場を離れていった。

 それを所在無げに見送る陽介と千枝。

千枝「……ダメだよ花村、アイツ、仲間になんてなれっこない」

陽介「いや、アイツの力は必要だ。これからアメノサギリの力はますます強大になっていく。俺たち二人だけじゃどーしようもねー。アイツはペルソナ戦士として覚醒すると同時に、きっとアルカナの力を極限に近いところまで引き出せたんだ。稀にそういうヤツがいるって、マーガレットが言ってた」

千枝「確かに、愚者は絶対こっち側に必要だけど……」

陽介「そう。22のアルカナの内、何人がペルソナ戦士として覚醒するか。マーガレットに見出された俺たち以外に、果たして何人が仲間としてアメノサギリに立ち向かえるか、それが問題なんだ!」

 陽介が力強く語る。

陽介「アイツはぜってー仲間にする! 同じクラスってことは、チャンスもいくらでもあるってことだぜ! ……待ってろよ、鳴上悠ーーーっ!!」

 陽介は右拳を高々と天に突き上げ、悠獲得を改めて誓うのであった……。

 

○エンディング曲

 

○ベルベットルーム

 黄泉とは別の次元に存在する青い異空間。

 そこで美しい女性・マーガレットが大きな水晶玉を見つめている。

マーガレット「愚者が……目覚めましたね。アメノサギリ殲滅のためには、彼は絶対に必要な人材……。そして、彼を動かせるのは『全ての起源』である魔術師のアルカナのみ。花村陽介、あなたにあのトリックスターを従わさせることが出来るかしら?」

 そう言うと、僅かに口元を上げたマーガレット。

 タロットカードを机上でサッとひと回り混ぜ、そこから一枚をめくり上げる。

 そのカードを見て、一言呟く。

マーガレット「女教皇……」

 

○第1話・完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話『籠の中の鳥』

<Aパート>

 

○イメージ映像

 宇宙空間。

 そこに浮かび上がる、深い霧に包まれた地球の姿。

 そして、日本全国に広がる災害の状景。

N「20XX年、人類は絶望に支配されつつあった。度重なる自然災害、教訓虚しく再発する人為的災害、それらによって家族や大事な人を失った人間は、弥が上にも絶望の淵に立たされた。そして、絶望した人間を闇の世界へ引きずり込み、シャドウなる魔物に変化させてしまう恐るべき秘密組織・天之狭霧神団(アメノサギリ)が次々と絶望した人間をシャドウ化させていった。このままでは、人類は絶望から絶滅を生む道へと歩むことになる!」

 絶望した人々がシャドウになる、そしてアメノサギリが生み出した巨大なシャドウの邪悪な姿が映し出される。

N「その時! 絶望の淵に立たされた人類を救う戦士たちが現れた!!」

 順次現れるペルソナ戦士たち!

ペルソナ戦士たち「電撃!! ペルソナ8!!!!!!」

 

○オープニング曲

 

○サブタイトル

『第2話 籠の中の鳥』

 

○八十神高校・2年の教室

 千枝が教室に入ってくる。

千枝「おっはよー!」

 周囲のクラスメイトに挨拶しながら、自分の席へと歩いていく千枝。

 と、既に座っていた悠と目が合う。

千枝「……あ、え……っと……」

 悠から目そ逸らして自分の席に座る千枝。

 何故かムスッとした表情。

 悠は何事もなかったかのように正面に向き直る。

 そこへ陽介が登校してくる。

陽介「いやあ、参った参った!」

 陽介が頭を掻きながら千枝と悠の間へ割って入る。

陽介「よう鳴上! おはよ!」

 陽介の挨拶にも、悠は何も応えない。

 しかし、陽介は臆することなくそのまま千枝と話し続ける。

陽介「また転んじまったぜ。これで今月5度目! ヘヘッ……」

千枝「……花村!」

陽介「え?」

 千枝、陽介の身体を引き寄せて小声で話す。

千枝「アンタ、なんで平然とアイツに挨拶できんのよ!」

陽介「なんで? アイツは俺たちに必要な奴だぜ?」

 明るい表情の陽介。

 一方、訝しげな千枝。

千枝「だって……」

 陽介、そんな千枝に構わず再度悠に話しかける。

陽介「鳴上ィ~、古典の宿題やってきた? わりーけどさあ、ちょっと見せてくんない~?」

 黙って古典のノートを陽介に差し出す悠。

陽介「おお! サンキュー!!」

千枝「……はあ」

 溜め息をつきながら机にへたり込む千枝。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 放課後、チャイムとともに陽介が鞄を持って立ち上がる。

陽介「よっしゃ~! 今日は帰ってゲームすんぞ~」

 そこに近寄っていく千枝。

千枝「ねぇ花村ぁ、今日も来なかったね……、雪子」

陽介「え? あ、ああ……、そうだな。旅館、そんなに忙しいんかなあ」

 雪子というのは、千枝の幼馴染みで現在同級生の天城雪子のことである。

 天城屋という老舗旅館の一人娘で、家の手伝いで学校を休むこともしばしば。

千枝「今朝から何回かメールしてるんだけど、返事もないし……」

 と、千枝の手の中の携帯電話がブルッと震える。

千枝「えっ!? ……あ! 雪子! 雪子からだよ!?」

陽介「おお、良かったじゃん。なんて?」

千枝「……と、……ええっ!? は、花村ぁ~! コレちょっと!!」

陽介「何だあ!?」

 陽介が千枝の携帯電話を覗く。

 そこには、『さようなら』の一言が。

千枝「ちょ……、どういうことなの!?」

陽介「分かんねー。……とにかく行ってみよう!」

千枝「うん!」

 教室を飛び出していく陽介と千枝。

 そして、その二人を横目でジッと見ていた悠がゆっくりと立ち上がる。

 

○天城屋旅館・正面入口

 陽介と千枝が旅館の前まで辿り着く。

 と、入口で何やら仲居たちが騒いでいる。

千枝「あれ? ……何だろ。す、すみません!」

仲居の一人「……あ! 里中さん!! 雪ちゃん見なかった!? 学校には行ってない!?」

千枝「きょ……、今日は結局休んでました。……どうかしたんですか!?」

仲居の一人「今朝から雪ちゃんがいないのよ! 電話もつながらないし……」

千枝「ええっ!? ……花村ぁ」

 千枝が悲しげな目で陽介を見る。

陽介「ああ」

 真剣な表情の陽介。

 と、陽介の携帯電話が特殊な音を鳴らす。

陽介「……えっ!?」

 電話に出る陽介。

陽介「はいこちら花村! ……はい。……分かりました。直ちに向かいます!」

 電話を切る陽介が千枝に向き直る。

陽介「里中、シャドウが出た。……行くぞ」

千枝「ええっ!? こんな時に……」

陽介「俺たちは選ばれしペルソナ戦士だ。行かなければならない」

千枝「……うん」

 千枝、俯いていた顔を上げて、天城屋旅館の方を向く。

千枝「雪子、待ってて! すぐ戻ってくるからね!」

 陽介と千枝、目を合わせて頷き合い、その場を走り去る。

 

○裏通りの路地

 路地へと走り入る陽介と千枝。

 隅に止まっていた車の前で立ち止まり、変身アイテム・ペルソナアイを構える。

陽介・千枝「ペルソナ・チェンジ!」

 陽介と千枝がそれぞれのペルソナアイを着眼!

 ピカッ!と二人の目元が光り、陽介がジライヤに、千枝がトモエに変身!

 目の前の車のバックミラーに飛び込んでいくジライヤとトモエ!

 

<Bパート>

 

○黄泉

 霧が立ち込める黄泉の世界に入り込んだジライヤとトモエ。

 何かに絶望し、黒い塊となった人間体シャドウたちが襲いかかってくる!

ジライヤ「おいでなすった!」

トモエ「早く……、早く親玉を探さなきゃ!」

 手刀や蹴りでシャドウたちを次々と気絶させていくジライヤとトモエ。

 と、前方に二つの気配が!

ジライヤ「……ムッ! あっちか!?」

 霧の中、前方で稲妻が走る!

 ジライヤとトモエがその稲妻の方へと駆けていく。

 と、そこには巨大な鳥型シャドウと戦うイザナギの姿があった!

ジライヤ「……鳴上!」

 戦いながら、チラリとジライヤとトモエを見遣るイザナギ。

イザナギ「お前らか……! こいつは俺が倒すから、引っ込んでろ!」

ジライヤ「ヘッ! そう言われて素直に引き下がる俺たちじゃねーっての」

トモエ「……え?」

 トモエが鳥型シャドウをジッと見据える。

 すると、その胸の辺りに薄っすらと浮かぶ雪子の顔!

トモエ「ゆ……雪子!!」

 そう叫ぶや、イザナギと鳥型シャドウの間に割って入るトモエ。

イザナギ「何をする!?」

トモエ「やめて! あれは雪子よ! 雪子なのよ!!」

ジライヤ「何だって~!?」

 トモエの言葉に、ジライヤも鳥型シャドウを凝視する。

イザナギ「何をバカなことを!」

 イザナギが鳥型シャドウに向かってフールスピアーを構える。

トモエ「ダメッ!!」

 トモエがイザナギの腕を掴んで攻撃を止める。

イザナギ「何をする!?」

トモエ「あれは私の友達の雪子よ!? 理由は分かんないけど、雪子がシャドウになっちゃってるんだわ!」

イザナギ「……フン。たとえそうだとしても、親玉を殺らねばシャドウが増え続けるぞ!?」

トモエ「できるわけないじゃん!! 雪子なんだよ!?」

 トモエ、そう言いながらイザナギを突き飛ばす。

 後方に転がるイザナギ。

イザナギ「……あいつ、正気か!?」

ジライヤ「里中……」

 

 トモエ、鳥型シャドウの正面に立ち、大きく両手を広げる。

トモエ「雪子! 雪子なんでしょ!? ……返事をして!!」

 鳥型シャドウが火炎弾を吐く!

 トモエの身体をかすめる火炎弾!

トモエ「……うっ!」

ジライヤ「里中!!」

トモエ「……だ、大丈夫。私が……、私が助けなきゃ。……雪子ーーーっ!!」

 トモエの叫びに、鳥型シャドウが一瞬動きを止める。

 そして、再びその胸元に雪子の顔が浮かび上がる。

鳥型シャドウの胸元に浮かんだ雪子「……ち……、千枝?」

トモエ「ゆ……、雪子!!」

ジライヤ「マジか!? あのシャドウ、マジで天城なのか……」

 たじろぐジライヤ。

 そして、イザナギは無言で立ち上がる。

トモエ「雪子! どうしたの!? 何があったの!?」

鳥型シャドウの胸元に浮かんだ雪子「……私は、私は籠の中の鳥。一生……、一生外へは出られないの。ろくに学校へも行けず、友達とも遊べず……、外の世界の事を知らないまま人生を終えていくんだわ」

トモエ「雪子……」

鳥型シャドウの胸元に浮かんだ雪子「そんな人生……、絶望以外の何だって言うの!?」

 涙ながらに叫ぶ雪子。

ジライヤ「そうか……、それで天城はここに引きずり込まれて……。しかし、親玉シャドウになっちまうなんて……」

イザナギ「それは、その女自身に強いペルソナ能力があった証しだ」

ジライヤ「何だって!?」

 イザナギ、再びフールスピアーを構える。

イザナギ「おい! 事情はどうあれもうそいつは親玉シャドウだ! そうなってしまったからには、もはや倒すしかない!!」

トモエ「そ……、そんなことない! 雪子がシャドウになんて……、そんな……、そんな!!」

鳥型シャドウの胸元に浮かんだ雪子「絶望……、絶望なのよ……」

 雪子の顔が消えかける。

トモエ「ダメ!! 雪子! 雪子はあたしの憧れなんだよ!? 家を継ぐことだって、簡単なことじゃない! 立派だよ!? 雪子は!!」

 トモエの声に、再び色濃くなる雪子の顔。

鳥型シャドウの胸元に浮かんだ雪子「千枝は籠の外にいるからそんなことが言えるのよ! ……そうよ。あなたは自由なのよ! 自由に空を飛べるのよ!!」

イザナギ「無駄だ! やれ!!」

トモエ「アンタは黙ってて!!」

 イザナギに言い返したトモエは、鳥型シャドウにググッと近付く。

トモエ「確かにあたしは雪子より自由かもしれない。……でもね、誰だって悩みはあるんだよ? 私にもある。……あのいけすかない転校生にだって、ほんのちょっとくらい悩みはあるかもしれない」

イザナギ「……大きなお世話だ」

トモエ「自分一人だけが苦しいなんて、そんなの独りよがりよ、雪子! あなたは甘えてるだけ! 甘いのよ!!」

鳥型シャドウの胸元に浮かんだ雪子「なんですって~!?」

 苛立つ雪子、その顔はさらに存在感を増し、首から胸の辺りもその色彩が浮かび上がってきた。

鳥型シャドウの胸元に浮かんだ雪子「千枝なんかに……、千枝なんかに私の気持ちは分からないわよ!!」

トモエ「そーね、分からないわ! そんな甘ちゃんの言うことなんて、分からないって言ってんのよ!!」

 痴話喧嘩のように言い合うトモエと雪子。

イザナギ「……アイツは助けたいのかそうでないのか、どっちなんだ?」

ジライヤ「助けようとしてるさ。里中と天城は小さい頃からの友達だからな。……友達だからこそ、思いっきり言い合えるってこともあるんだ」

 ジライヤが仮面越しに微笑む。

 

トモエ「……でもね、雪子。そのために友達がいるんだよ。……あたしは雪子のためなら、いつだってどこへだって飛んでいく。……あたしの翼は、そのためにあるんだから!!」

 トモエの言葉にズキンと衝撃を受ける雪子。

 そして、トモエが鳥型シャドウの胸元に飛び込み、両手を左右いっぱいに広げて抱き締める。

鳥型シャドウの胸元に浮かんだ雪子「うっ……!!」

 ブルブルと震え出す鳥型シャドウ。

 そして一つ大きな呻き声を上げたかと思うと、その全身が眩い光に包まれた!

ジライヤ「うわっ!」

 思わず目を覆うジライヤ、そしてイザナギ。 

 

 徐々に光が止んでいく。

 そして、トモエが抱き締めた鳥型シャドウは、桜を随所に散りばめた赤く気高い戦士に姿を変えた!

ジライヤ「あ……、あれは!!」

 トモエが抱き締め続けるその赤き戦士の頭上に、一枚のカードが舞い降りてくる。

 それは『女教皇』のアルカナ。

 そのカードが、赤き戦士の頭部に落ちるや、キラキラとした粒子となってその身体に溶け込んだ。

 

○ベルベットルーム

 水晶玉を眺めるマーガレット。

マーガレット「……ベルソナレッド・コノハナサクヤの誕生よ」

 

○黄泉

 ジライヤ、トモエ、そしてイザナギにも聞こえるマーガレットの声。

ジライヤ「ペ……、ペルソナ戦士……」

 と、気絶して倒れていたシャドウたちが次々と人間の姿へと戻り、スーッと消えていった。

 そして、トモエとコノハナサクヤがゆっくりと互いの身体を離して見つめ合う。

トモエ「雪子……」

コノハナサクヤ「千枝……」

 それを見て、満足そうに腕組みするジライヤ。

イザナギ「……フン」

 踵を返し、歩き出すイザナギ。

 

○高台

 黄泉の世界から戻った四人。

 それぞれ、元の人間体に戻っている。

 千枝と雪子が改めて抱き合い、友情を確認する。

千枝「雪子……! 一緒に頑張っていこうね!」

雪子「ありがとう千枝。ありがとう……」

 先程と同じように腕組みしながらそれを見ている陽介、その場から去ろうとしている悠に、振り向かずに話しかける。

陽介「いいもんだろ、友達ってのも」

悠「……俺には、縁のないものだ」

 悠、そう言って去っていく。

 陽介、悠の後ろ姿を笑顔で見つめる。

陽介「鳴上……、俺はぜってーお前を友達にしてみせるかんな!」

 

○エンディング曲

 

○ベルベットルーム

 マーガレットが、タロットカードを4枚、机上に並べる。

 魔術師と戦車のカードの横に、女教皇を位置させる。

 そして、少し離れたところに愚者が。

 と、水晶玉が怪しく光る。

マーガレット「……ん?」

 水晶玉の中に、ぼんやりと1枚のカードが浮かび上がる。

マーガレット「皇帝の……アルカナ……」

 

○第2話・完



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。