初めての二人暮らしin101号室 (larme)
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第1章 初めての二人暮らし編
初めての出会い
自分の書きたいものが書けたという気もしませんが、ここから続けていけたら嬉しいです。
池崎恭華は不安と恐怖で押しつぶされそうになりながらうつむいていた。
新生活がスタートする、この春という季節の騒がしさも彼の耳には届かない。
ただ、暖かい風だけが彼の背中を優しく支えるのだった。
それが一層強く吹いた時、彼の背中を叩くようで、前を向いた。
顔を上げた恭華の目に映ったのは、ボロボロのアパート。どれだけボロいのかと聞かれても、とにかくボロいとしか言いようがない。外装から判断するとどう見ても廃墟。ポストは錆びだらけで数年、下手をすれば、数十年使われてないようにも見える。壁も所々が欠けている。
「ここが僕の新しい家か……」
「ここが私の新しい家か……」
彼はただただ、落胆するようなつぶやきを漏らした。
それは自分自身にここが新居であると言い聞かせるためのようなもこで……ってそんなこと今の彼にはどうでもいい。
恭華自身の声以外にもう一つ声が聞こえた。
「え?」
驚きで思わず漏れた声。彼の隣に1人の少女が立っていたのだ。
「ん〜?」
その反応は恭華の存在に驚いているのではなく、なぜ彼が驚いているのか不思議に思っているような反応だった。
驚いた理由なんて単純、急に隣に人がいたら誰だってびっくりするだろう。
別に驚いた理由なんてそれ以上のものはない。
ただ、恭華はその少女と目を合わせてしまったので、何か話さないと気まずい空気が流れ続けるのではないかと思った。
「え、えーと……。こ、ここに引っ越してきたんですか?」
多少流れかけていた気まずい空気と、先ほどの驚きのせいで多少詰まりながらも、恭華はなんでもない疑問を投げかけた。
「はい。私は、不和理菜と言いますぅ。今度から荒涼高校に通う一年生ですぅ。101号室に越してきました」
一つの投げかけに複数のボールを返してくれた。しかも、その声がとても脱力してしまいそうな優しい、柔らかい声で恭華の質問に答えた。
その喋り方や声、見た目に至ってもなんかこう、ふわりとしていて、大きく可愛らしい目はとろんと垂れていて、それがまた優しい雰囲気を強調している。
まさに名前の通り「ふわり」としているのだ。
そして、彼女の返答からわかったことがある。
まず、彼女は荒涼高校に通い始める、一年生だということ。恭華も全く同じ高校に通う同じ学年の生徒なので、『あ、一緒だ』とふと思った。
二つ目に、101号室に越してきたということ。
「……ん?」
恭華はポケットの中にあるあらかじめ渡されていた新居の鍵を取り出した。
……そこにはしっかり刻まれていた。
101と……。
「あ、一緒だ」
「一緒ですねぇ〜」
理菜は恭華の発言にかぶせて言う。理菜は手にこれまた101と書かれた鍵を持っていたし、恭華自身の鍵の番号も何度見ても101から変わることはない。
そんな状況に恭華が冷静になれるわけもなく……。
「て、一緒だじゃねぇだろコラァァァアアア!!」
そう怒鳴りながら彼が向かったのは101……ではなく201号室に向かった。
なぜ?ってそこに大家が住んでいるからって単純明快な理由だ。
そして、その大家は恭華の父親の妹、つまりおばさんなのだ。
そのため、父親から「.何かあったら201をたずねなさい」と言われていた。「まあ、何の役にも立たないだろうけど」なんてことも言っていたが。
恭華は階段をダッシュで駆け上る。その間、階段がギシギシギシギシと音を立てていたが、冷静さを欠いている恭華の耳に届くわけもなく。
階段を登り終えると201号室の前に立ち、玄関を蹴り開けた。
「おい!!鈴姉!!なんで、101号の住人が2人もいるんだよ!!」
アパートで二人暮らしなんて珍しくはないだろうが、ここは全室ワンルームなのでそこでの二人暮らしに関しては珍しいだろう。
恭華は自分のおば、旧姓池崎美鈴を怒鳴りつけた。
「うーん、なんだよ急に。うるさいなぁ」
なんでこんな奴が結婚できたんだよって感じの怠け者スタイルを繰り広げていた美鈴。
パジャマ姿で寝転びながら片手にお菓子、片手にテレビのリモコン。まだ、春が始まったばかりだというのにガンガンのクーラー。ザ、怠け者。
しかも、テレビの音がものすごくうるさくさ恭華の怒鳴り声が聞こえていたのか少し怖いくらいだった。
その光景に哀れみのようなものを感じながらも、怒りを殺しきることができない恭華。
「101号室の鍵が2本あるんだが」
それでも、最初の勢いはない。
「そりゃ、スペアくらいあってもいいだろ。ドラ●もんだってスペアポケット持ってるぞ」
もし、2本目の鍵がスペアだったらそりゃ納得する。
しかし、それを自分ではない他人が持っていたのだから話は別で。
それにしても、なんで例えがドラ●もんなんだろう?そんな疑問は後ろのテレビから流れてきた絵描き歌が解決してくれた。
既婚者が一人でだらだらドラ●もんなんか見てるのか……。
もう、美鈴のことが哀れでしかない恭華であった。
って、そんなことはどうでもいい。親戚のことだから割り切っていいものではないかもしれないが、今、現在起きている事件の方が先決だ。
「スペアのキーとかそうゆう話じゃなくて。不和さんって人も僕と同じ101号室の鍵を持ってて……」
「不和って私か?」
「違う!!……って、え?」
そう、美鈴の旧姓は池崎であるが、今は不和なのだ。
それは101号室のもう一人の住人と同じもので……
偶然かもしれないという可能性も恭華は考えたが、自分がここに引っ越してきた理由が大家が親戚だったからであるので、そのことを考えるともう一人の住人と大家は親戚であると考えるのは当然だろう。
そんなことを思っていると下の方からギシギシという音が響いてくる。
改めて聞くと今にも崩れそうなひどい音がする階段だなぁっと感じる恭華だった。こちらに誰かが向かってきている。もちろん誰なのかはいうまでもないだろう。
その人物は美鈴の顔を見ると一瞬考えてから言った。
「あ〜、美鈴おばさん」
「おう!久しぶりだな!」
ああ、やっぱりそうなのか……。
それから三人の会議が開かれた。この会議はボケとツッコミの応酬となり2時間弱にも及んだという……。
とりあえず、今日は恭華と理菜と一緒に同じ部屋に収まることにした。
二人は101号で今日確認することができた、数少ない情報を整理することにした。
「えーと、僕と理菜さんの関係は僕の父親の妹の夫の妹の娘さんってことだね」
「違いますぅ!私のママのお兄さんの妻のお兄さんの息子さんが恭華さんですぅ!」
「いや、それ一緒だから!」
「そんなことはどうでもいいですぅ!とりあえず、呼び方を理菜ちゃんにしちゃいましょう」
「なんでだよ!」
「理菜さんだと気持ち悪いです」
話が進まない。理菜はずっとこのペースというか、この感じで話をするのだ。
この感じで話を進める恭華とあのおばに、恭華一人のツッコミが間に合うわけもなく会議が2時間にも及んだのだが。
ちなみに恭華の理菜の呼び方なんだが、これも会議中の出来事だった。
最初は恭華は彼女のことを『不和さん』と呼んでいた。すると、文句を言ってきたのは美鈴。「私も不和だからややこしいだろ。いっそ名前で呼んでしまえ!」といってきたのだ。恭華は美鈴のことは鈴ねえと呼んでいるのでややこしいことなど何一つないのだが、理菜も「私もそう呼んでもらえると嬉しいですぅ」何て言い出したのだ。そこから何やかんやあってそのままいやいや『理菜さん』と呼ぶことに。
恭華自身、女性の名前を呼ぶことが稀なので緊張するのは当然だろう。恭華が女性のことを下の名前で呼んだのは“二人目”ある。
「それにしても、今使える部屋101しかないんだねぇー」
急にそう言いだした理菜。それも今日得られた情報の一つ。
このアパートには計4つ、部屋があるのだが、201は例の通り美鈴が住んでいる。
美鈴によると残りの2部屋は様々な事情で使えないとか……。
102は内装リフォーム中とか。101と201はもう、それが済んでいる。さらにこの部屋はリフォーム後、すぐ住む人が来るらしい。
そして、202に関してはそのリフォームも終わってない。
そもそもする気がないとか……。雨漏りがひどく、床下にはびっしり乾燥剤、ひだまり荘スタイルなのである。
ちなみにこの例えをみんなの前でした恭華は当然のごとく滑った。
「これからどうしましょうか?」
理菜は恭華に聞いた。
「そうだな。新しい家を探そうにも、もう来週から学校だしな」
「おお、奇遇ですね〜、私もですぅ」
「あ、ごめん。言ってなかったけど僕も荒涼高校に通うんだよ」
「え!一緒なんですね!嬉しいですぅ!」
そう言いながら微笑む、純粋なその表情はとても、ひかれるものだった。
それでも、話が脱線してしまったのは事実で……。
話を元に戻して恭華は理菜に共感を求めるように言う。
「今から引っ越そうにも親に説明するのも面倒だし」
というか、この状況を親に説明しても「美鈴はそういうやつだ」なんて言われそうだ。
「そうですよねぇ。どうやって母に池崎さんは良い人だって説明しましょう」
「おい、それは何の説明だ?」
普通、ここでは初めて会った相手の説明ではなく、今の状況とそのために新しい家を探して欲しいという説明をするものだろう。
「いや、だって池崎さんと一緒に暮らしていくんですよ。一緒に暮らして大丈夫だって説明しないと……」
この答えは意外だった。恭華は当然のごとく、理菜は自分と生活すること、それを拒んでるんだと思った。
「じゃあ、なんで『これからどうしましょう』なんて言ったんだ?何を問題にしてるんだ?」
「問題なんてなった一つじゃないですか」
理菜はきょとんとしながら言った。
「お風呂とおトイレです!」
「いや、絶対それだけじゃないだろ!」
このアパートには風呂、トイレ完備なんだがそれが一つしかなく、それを共有することを心配した発言なのだろうが……。
恭華にとってはそれだけじゃないようなきがした。
いや、それだけじゃないと考えるのが普通のことだと思った。
「え?何か他にありますか?」
「えっ……それは……」
恭華は答えられなかった。何が普通なのかわからなくなっていた。
「私、信頼してますから!恭華さんのこと」
この発言で恭華はわかった。自分は自分の罪のせいで誰かを信じることができなくなっていたのだ。
正確には自分の「裏切り」という罪のせいで他人に信頼してもらえないから、他人のことが信頼できない。
恭華はそんな自分が可哀想に思えて、また、少し蘇った罪の意識が彼をまた、恐怖で押しつぶし、うつむかせるのだった。
「ファミレスでも行きませんか?私、もうお腹ペコペコです」
理菜は空気が読めなくて、この発言をしたわけではない。むしろ、恭華の出している、寂しそうな空気を読み取ってあえて、こう発言したのだ。
その時の理菜の表情は優しいもので、恭華はその優しさに心を動かされた。
「わかった。ご飯食べに行こうか」
恭華は渋々ではなく、進んでこう望んだ。理菜と一緒にいることが何かしらの意味が自分にある気がしたから。
「今日は、恭くんのおごりでお願いしますね!」
外に出た途端、理菜は言いだした。
「は?そんなこと聞いてないぞ!」
「たった今私が決めました。決定事項ですぅ」
そんなことをニコニコしながら話す理菜。
恭華のことを恭くんと呼ぶ姿も、恭華の中であの子と重なって……。
その子が恭華が裏切ってしまったと思っているその人であった。
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初めての夜
前回までのあらすじを踏まえた登場人物の紹介をこの前がきに書かせて頂きます。
池崎恭華……荒涼高校の一年生。男。おばが大家をやっているボロアパートの101号室の住人。作者としてはこの子が主人公のつもりで書いてます。
不和理菜……荒涼高校の一年生。女。ボロアパートの101号室のもう一人の住人。作者としてはこの子をメインヒロインとして書いてますが、実はもう一人、メインヒロインを出す予定です。
不和美鈴……ボロアパートの大家。恭華のおばで、理菜のおじの妻。作者としてはこの人は話にこそよく出てきますが、メインキャラクターのつもりでは書いてないです。
以上がキャラクター紹介
では、第2話、楽しんでくれたら嬉しいです。
ファミレスからの帰り、二人は改めてこれからのことを話し合った。
「とりあえずは、101で2人で暮らす感じでいいのか?」
恭華は聞く。もちろん、乗り気ではないのだが、発言どおり、とりあえずはこうするしかないだろう。
「そうですねぇ、私の荷物、明日届くんで、さすがにあの部屋以外にいるのはいけませんですねぇ」
「あ、僕もそうだ。明日は、とりあえずか」
恭華はとりあえずを強調した。
「それなら、一つお願いがあります」
「ん?」
「押し入れで寝てください!」
まさか、ドラ●もんネタを美鈴から引き継ぎ、さらに引きずるなんて。あのボロアパートにドラ●もんブーム到来か?
まあ、住人は3人しかいないが……。
「男と一緒に寝るのが不安なのはわか……」
「あ、勘違いさせちゃいましたねぇ。違うんです。もし、恭くんが押し入れで寝なかったら、恭くん、死んじゃいます」
急な死の宣告。
「ちょ、どうゆうことなんだ」
「一緒に寝てみればわかりますけど、どうですかぁ?」
「いや、遠慮しておく」
なんとなく、いや、なんとなくじゃなくても嫌な予感がした恭華。
壁のないワンルームで女の子と寝るのだから、押し入れという壁を隔てて眠ることが出来るのは常識的に恭華としても嬉しい。
「で、お風呂とおトイレはどうするんですかぁ?」
「あ〜、それはすず姉にお願いしてみるよ。202の問題は雨漏りと部屋が汚いことだけらしいし、風呂とトイレだけでも使わせてもらえないか、聞いてみるよ」
「それじゃ、思い立ったがなんたらですぅ」
そう言ってケータイを取り出す理菜。なんでこんなときだけ行動力があるのだろうか?
「あれぇ?画面が真っ暗ですぅ。つかないですぅ。」
そういいながらケータイをバシバシ叩いている。
「何してるんだ?」
その行動を疑問に思った恭華が問う。
「昔、母に教わったんですぅ。電化製品は叩くと直るって」
「いつの時代のテレビだよ!」
恭華は思ったままのことをそのまま言った。
「えぇー!?直らないんですかぁ?」
とても、びっくりしたような表情を浮かべる理菜。
「まず、それ充電が切れてるだけだろ? 僕が代わりにかけるよ」
理菜は驚いた表情を浮かべ続けたまま固まってしまった。
そんな理菜をむしして恭華は慣れた手つきで美鈴に電話をかけた。
恭華は美鈴に事情を説明した。まあ、説明するまでもなかったとは思うが……。すると、意外なことに美鈴は風呂とトイレの使用にOKを出してくれたのだ。
「これで問題はオールOKですねぇ」
いつの間にか硬直が解けていた理菜が電話を盗み聞いてたらしく、そう言った。
「オールって言っても、お前にとって問題って一つじゃねぇの?」
「お前じゃないですぅ!理菜ちゃんですぅ!やっぱりオールOKじゃないですぅ」
理菜がプンスカしながらそういった。
まだ、名前の呼ばれ方にこだわってるのかよ。
恭華は飽き飽きしながら思っていると、ボロアパートに着いた。
「ほら、着いたぞ、り〜なちゃん」
「うん!これでオールOKですぅ」
そう呼んであげなければ理菜はずっと機嫌が悪いような気がした。
理菜は満足した表情で101に向かった。
恭華はその背中に向かって
「僕はこのまま202で風呂に入ってくるよ」
と言った。
「うん、わかったよぉ。じゃあ、9時までこの部屋に戻って来ちゃダメだよぉ」
そう言って理菜は玄関を閉めた。ケータイの時計を見ると19:30と書いてある。つまり、あと一時間半も時間があるということだ。
……何をしよう。
恭華の頭によぎったその言葉は案外意味を持っていた。
だって、自分の部屋ら101号室であるわけだし、風呂なんて30分もかからない。
まあ、考えても仕方ないのだろう。幸いにも出かけるときに持っていったリュックの中にパジャマが入っていたのでそう思いつつ、201に向かった。
201のチャイムを鳴らすとすぐに美鈴が出てきて、恭華に
「あんまり、水使いすぎるなよ」
と、言いながら202の鍵と石鹸とついでにタオルまで渡してくれた。
恭華は礼だけ言うと201のすぐ隣にある202の鍵を開け、中に入った。
ジメッとした不気味な雰囲気が漂い、とても人の住めるようには思えやい部屋だった。
それでも、なぜか風呂とトイレだけは綺麗で、その用事だけならほとんど苦がなかった。
シャワーを浴びながら、彼は1人、考えていた。
去年の今頃から、つい数時間前までずっと一人だった。もちろん、親がいないとかそのようなものではないが、今まで誰とも接しようとはしなかった。
それは自分が犯した罪のため、誰かに裏切り者だと非難されるのを恐れたためだった。だから、周りとの関わりは極力断ち、一人でいた。
それなのに、急に誰かと一緒に暮らすことになって……。
でも、その時間が恭華にとって楽しいものだった。ただ、それが申し訳ないものかもしれないとも思った。裏切ってしまったあの子に対して……。
恭華は風呂から上がってもしばらく101号室の前でそんなことを考えていた。外はパジャマ姿の彼にとってとても寒いものであるはずなのに、そんなこと気にならないくらい集中して考えていた。
「そんなところにいたら風邪ひきますよ」
声をかけられ、ハッと我に帰る。声の主はもちろん理菜。
時計を確認すると21:10と表示されていた。理菜は9時になっても戻ってこない恭華を心配して呼びに来たのだった。
「ごめん、すぐ戻るよ」
そう言って理菜について101に入る恭華。
2人で入るワンルームは改めて狭いものだと感じた。
この狭い101号室という空間をもう、恭華はすっかり気に入ってしまっていた。
「何じろじろ見てるんですかぁ?恭くん」
いつの間にか考えるのをやめていた恭華は無意識に理菜に見入っていた。
性的な意識などは全くない。ただ、もこもこのパジャマに身を包んだ、理菜の姿は純粋に可愛らしいものだった。
「いや、なんか……、可愛いなって思って……」
素直な感想をぽろっと述べた恭華。すると
「何ですかぁ?ナンパですかぁ?警察に通報しますよぉ」
なんて、頬を赤らめながら、電源の入っていないケータイを必死にカタカタカタカタ操作しようとする理菜。
その姿を見て思わず吹き出してしまう恭華。
一緒に笑い出す理菜。
「今日はもう疲れましたし、寝ちゃいましょう。さぁさぁ、押し入れへ〜」
何かを誤魔化すように必死に恭華の背中を押す理菜。
恭華は一度だけ振り向き、理菜と目を合わせ、笑みを交わしてから
「おやすみ」
と、一言だけ言って、押し入れに収まった。
「おやすみなさいですぅ」
と、返す理菜。
ーー幸せだ。
恭華のこの感情は恋愛感情とかそんなものではなく、ただただ素直に抱いた彼の本心だった。
今日は敷布団がなく、毛布しかないので床の冷たさが直接伝わる状態なのに、とてもぬくぬくしていた。
こんなにあたたかい気持ちで寝るのはどれくらいぶりだろうか。
今日はぐっすり眠れそうだ。と、そう思った矢先。
……ドコドコドコ、ガタガタ、ドンドン!ガッシャーン!!バン!バン!
ものすごい騒音が聞こえてきた。
何の音だろうと思っていた恭華の頭にふと、理菜の言葉が浮かんだ。
「もし、恭くんが押し入れで寝なかったら恭くん、死んじゃいます』
この意味をようやく理解できた。
と、いうか理解せざるを得なかった。本当に押し入れで寝てよかった。
それにしても、どうして何もない部屋でこんなに多彩な音を出すことができるのだろうか。
そんな疑問が頭をぐるぐるして……いや、どう考えても騒音のせいで一睡もできなかった、初めて過ごした101号室での夜はそんな感じだった。
なんとなく急いで仕上げたので、出来が悪いかもしれなかったですが、最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回から話の主軸になるあるスポーツを取り入れます。
これがあの伏線にも絡んできて……。
できるだけ早く書き上がるようにしますね。
それでは、また次回まで
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初めての接点
恭華は何かしらのトラウマを持つ男の子。
理菜はそんな恭華と暮らす女の子。
この設定さえおさえておけば読めると思います。
少し雑になってるかもしれませんが、最後まで読んでいただけると幸いです。
それでは、お楽しみください
昨晩、あの騒音は夜中の1時ごろまで続いた。
つまり、その時間帯まで恭華は寝ることができなかったのだ。
いや、正確には押し入れに入る前のぬくぬくした気持ちはその頃には冷めきっていたため、眠りにつくのにもそこからしばらくかかった。
しかも、前日の出来事の疲れも重なり、朝の10時頃だろうか? ようやく恭華は目を覚ました。と、言ってもまだうとうとしている。
はっきりとしない意識の中、ガチャという音が遠くで聞こえた。誰かがこの101号室の中にはいってきたのだ。その人物の足音は真っ直ぐにこちらの方へ向かってきて、ガラガラと押入れの戸を開けた。
「恭くん、起きてますかぁ? あさごはんかってきたんですけどぉ」
その人物ーー理菜は上下ジャージ姿で首からタオルを下げ、手にはレジ袋を持っていた。
しかし、それより恭華が気になったのは彼女の後ろに積まれた段ボール。
「あれはなんだ?」
恭華は眠い目をこすりながら聞いた。
「ああ、あれはですねぇ……」
理菜は語り出した。
「一時間くらい前でしょうか。この家の呼び鈴が鳴ったんですぅ。私は急いで着替えましたぁ。その結果がこれですぅ!」
と、言って自分の服装を指差した。
いや、きになったのそこじゃないよという恭華の顔を気にする間も無く、理菜は話を続けた。
「で、出てみると恭くんの荷物が届いたとのことでしたぁ。そして、その荷物を届けてくれた人が印を要求してきたので、慌てて恭くんのカバンを漁って、印鑑を見つけだし、ペタンとしてあの箱たちを受け取ったのですぅ。それで、せっかくジャージに着替えたし、外を走ってこようと思ってぇ、そのついでに朝ごはんを買ってきたのですぅ」
「ああ、そうか、じゃあ、飯もらうわ」
頭がぼんやりしていたので『朝ごはんを買ってきた』という情報しかさばくことができず、それに対する返答しかできなかった。
とりあえず、理菜からおにぎりとお茶を受け取った恭華は押入れから出ておにぎりが包まれている1、2、3と書かれたビニールを剥がし出す。
全然、頭がすっきりしてこない。今、恭華が考えていることといえば、この1、2、3の番号の2と3って逆でも問題なくないか?ということだった
おにぎりの袋をノリを持って行かれてることなく綺麗に開け一口食べる。
咀嚼をしていくごとに頭がすっきりしていくのがわかる。
そして、すっきりしてきた頭であの荷物のことを考え始めた。
ーーQ.そこの荷物は誰のだっけ?……A.僕のだ
Q.なんでこにあるんだっけ?……A.理菜が受け取ったからだ
Q.なんで、僕じゃない、理菜がこの荷物を受け取れたんだっけ……
ここで恭華はやっと気付いた。
「おい!お前!!」
恭華は怒鳴る。
「お前じゃないですぅ。理菜ちゃんですぅ」
理菜は180度違った方向の返事をする。
「そんなことはどうでもいいんだよ!!」
怒鳴る恭華。
「どうでもよくありません!理菜ちゃんは理菜ちゃんでふぅ」
反論する理菜。
「人のカバンから印鑑を取るのはどう考えても犯罪だろ!」
そう言うと理菜はしゅんと固まってしまった。
「警察に通報するぞ!!」
と、言って携帯を取り出す恭華。
「あ!人のネタパクるなんてずるいですぅ。恭くんも窃盗罪ですぅ」
「うっさい!こっちは真剣だ!」
まだ、ボケるかこいつは、と恭華の怒りはピークを迎えつつあった。
その恭華怒鳴り声を聞き、怒りの表情を見た理菜は目をうるうるさせていた。
「ごめんなさい」
理菜はポケットから、恭華の印鑑を取り出し、頭を下げた。
「だって、昨日は私のせいで恭くんなかなか寝れなかっただろうし、起こしたらダメかなって思って……。こうしたほうが恭くんのためかなって勝手に判断しちゃ……ヒッ……しちゃったんだよぉ〜……うわあああああああん」
理菜はまるで子供のように泣き出した。
その姿を見ていると、恭華は自分も悪かったような気がしてきて、
「こっちこそ、ちょっと言いすぎた。ごめん。次からはこうゆうことがないようにしてくれ」
「うん」
涙を拭くように目をこすりながら答える理菜。
「じゃあ、一緒に荷物の整理手伝ってくれないか? 人に見られて嫌なものは多分入ってないし」
恭華は仲直りできるよう、一緒に何かをしようと提案した。
するとやはり、小さい子供のように
「うん!わかったよぉ」
と、けろっと元気になってふわっと笑って見せた。
「よし、じゃあ早速」
会話のうちにおにぎりを食べ終えていた恭華は3つ積まれている段ボールの一つのガムテープを剥がした。
そして、その中身を確認した恭華。
「え?」
恭華はありえないものを見たというような驚愕の表情を浮かべていた。
しかし、そんな表情、気にもせず、理菜は段ボールのなかからそのものをとりだした。
「あーーー!!バスケットボールじゃないですかぁ!!」
理菜は恭華の驚きとは別のベクトルで驚いた。恭華のそれが落胆であるなら、理菜のそれは歓喜だ。
「恭くんとバスケやってたんですねぇ!! 私もずっとやってたんですよぉ!!」.
そう言いながら、段ボールのなかから奪い取ったボールでハンドリングを始めた理菜。
しかし、恭華はうつむいていたために経験者であってもその判断ができなかった。
「えー、嬉しいなぁ。恭くん、ポジションはどこだったんですか?」
このニコニコした顔、明るい声だってあの子に重なってしまう。そして、恭華のなかで罪の意識が増していく。
「ねぇ、恭くん?」
恭くんと呼ばれるたびに背筋が凍る。昨日は理菜に恭くんと呼ばれても平気だったのに。
その恭くんと呼ぶ姿をあの子と同一化してしまい、あの子が恭華。攻めているように感じた。
『なんで、あの日、河川敷に来てくれなかったの?』
「うるさい!!!」
恭華はあの子の幻影を追い払うように大声で叫ぶ。
「僕はもうバスケをやめたんだ! その話はやめてくれ!」
そう言って恭華は101を飛び出した。
苦しかった。自分の罪で押しつぶされそうな気持ち、そして、関係のない理菜を傷つけてしまったかもしれないという恐れ。
彼はどうしていいのかわからず、走り続けた。そうしないと色々考えてしまい、罪に押しつぶされてしまうから……。
どれくらい走っただろう? 時間はもう夜の9時。
結局、彼はボロアパートに戻ってきた。101号室のドアノブに手をかける。が、鍵がかかっていて開かない。恭華はポケットから鍵を取り出し開ける。
101の中には誰もいなかった。一人でいる101は思いの外広く、寂しいものに感じられた。
恭華は真っ先に押し入れに向かった。戸を開けると中には丁寧に布団が敷いてあった。
そこに理菜の優しさを感じた。
ーーさっき、あれだけ怒鳴ったのに……。
恭華は押し入れに潜り込んだ。
それから20分か30分かしてからがちゃと玄関が開く音がした。
恭華は全然落ち着くことができず、眠ることができていなかった。
そして、その人物は一目散に押し入れに向かってきて戸を開けた。
「……ハァハァ……恭……ハァ……くん……」
とても、息づかいが荒く、そして、声が震えていて泣いているのがわかった。
僕に構わないでくれ、あっちに行ってくれ、と言わんばかりに背中を向け、嫌悪のオーラを出していた。
自分は罪を背負った人間だから優しくされる資格なんてないんだってずっと思ってたから。
でも、理菜がとった行動は意外だった。恭華の布団に潜り込んできて、背中を強く抱きしめたのだ。
「心配したんだよ。私、何かいけないことしちゃったかなって。恭くん急に飛び出して行っちゃうし。全然帰ってこないし。どこ探しても見つからないし」
理菜に強く抱きしめられているので、理菜の心臓の音が背中から恭華に直接伝わってくる。そこからも必死になって自分を探してくれていたんだって感じた。
恭華の胸でドクンとあたたかい何かが揺れた。
「勝手に出て行かないで、私たちは理由はどうであれ、一緒に暮らすことになった家族みたいなもの……ううん、もう家族なんだよ」
理菜の普段からは考えられない力強い口調は、恭華のことを大切に想う心は、どちらも恭華の中に優しさとして染み込んだ。
恭華はその温もりで安心しきって眠ってしまった。
そうとも気づかず話を続ける理菜。
「私ね、恭くんのことを初めて見たとき悲しい目をしてる人だなって思ったの。でも、ニコッと笑う優しい恭くんもいえ……。私そんな恭くんが好きなの。だから……」
ここで理菜は恭華が寝ていることに気づく。「もう」と呆れたように言いながら、自分の唇を恭華の頬に軽く当てた後、それを恭華の耳に持ってきて
「ずっと優しい恭くんでいてくださいね」
と、いつもの口調で囁いた。
そんな声が恭華に届いたわけもないが、恭華は寝言で理菜に聞いた。ずっと気になっていたことを。
「なんで、俺なんかに優しくするんだ」
寝てるときにでも聞いてしまうくらいずっと疑問に思っていたこと。
すると理菜はあっさりこう答えた。
「ただの一目惚れですぅ」
その声は眠っている恭華には届かなかった。
二人の間に初めて見つけたバスケという接点はそう嬉しいものでもなかった。
バスケは作者がずっとやってる唯一のスポーツです。
だから、書きやすいかなーって思ったんですけど……。
キャラクターが増えまくりそうですw
まず、恭華と理菜の通う高校のバスケ部のメンバーに、そのライバル校のメンバーにって考えるだけで頭がいたいです。
キャラクターの設定はある程度はできているのですが、名前が……。
でも、頑張って連載続けていきます!
それではまた次回まで
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初めての日課
ポイントガード……いわゆる司令塔です。
スモールフォワード……点取り屋。
簡単に言いましたがまあ、こんな感じだと把握していただけるだけで今回は大丈夫だと思います。
それではお楽しみください
あの日から、特に変わったこともなく、一週間が経った。
いや、慣れないことは確かに多かった。そりゃ、初対面の人と初めて暮らすのだから、理菜にとっても、恭華にとっても多少は不自由なものだった。
しかし、恭華にとってはこの生活が楽しくて仕方がない。
この一週間、二人の一日の流れはほとんど決まっていた。
まず、朝は6時に起床。理菜の大暴れのせいでなかなか眠れない恭華にとってはかなり早い朝なのだが、理菜の起床がその時間な上、押入れの戸を挟んでいるとはいえ、隣でガサゴソされると目が覚めてしまう。
そして、恭華は押入れのなかで着替えを始める。これはまあ一度起きてしまったからだ。いわゆるラッキースケベとか言う奴が……。それとついでにその時に理菜が顔を真っ赤にしながら「きょ、恭くんならいいですよぉ〜」なんて言ったことが恭華の罪悪感をさらに増すことになり、その結果、押入れで着替えるのを日課にしている。
その後、しばらくケータイをいじっていると理菜の「よぉし」という声が聞こえてくる。それが合図。恭華は押入れから出て行き、理菜と一緒に101から外に出てランニングを始める。
理菜はこのボロアパートに住む前からこの辺に住んでいたらしい。親の転勤の都合で急遽このアパートに来たらしいので、このあたりのことはものすごく詳しい。だから、恭華は理菜にいろいろなところを教えてもらった。
その中にバスケのリングやコートがある公園や河川敷、体育館が含まれていたのは偶然だったのだろうか?
しかし、そんな疑問よりも驚いたことが理菜の体力だった。
恭華は確かに一年前にバスケは捨てた。でも、体力づくりは続けていた。平均的な同学年よりも体力はあると思う。
そんな恭華と理菜は肩を並べて、しかも、たまに喋りながら走っているのだ。
一度、恭華は気になって聞いたことがあった
「おま……、理菜ちゃんはどこのポジションやってたんだ」
自分からバスケの話をするのは初めてだった。この一年間、誰ともバスケの話をしようとしたことがなかった。話したくなかった。
そんな恭華の感情より、理菜への興味の方がわずかに強かった。
「えぇ〜。教えませんよぉ〜。恭くんだって教えてくれなかったじゃないですかぁ」
この時の恭華らあっさり答えることができた。今朝はそんな気分だったから。
「おぉ、また一緒ですねぇ」
この一緒ですねぇをきくと、初めて会った時を思い出す。ついこの間のことなのにいろいろと濃すぎてとっくの昔のことのようにも感じる。
まあ、それはそうと、理菜の答えに少なからず、驚いた。これだけ体力があるのだから、バリバリ速攻に走るポジションなのだと考えていたからだ。
自分だったら理菜をスモールフォワードにおいて、他の誰かにボールを運ばせて。第一、こんなのんびりしたやつがゲームメイクをすることができるのか……。
「何考えてるんですかぁ?」
気がつけば、バスケのことを真剣に考える自分がいた。恭華の中で絶対に許されないと思っていたそれが、理菜の隣だとなぜか自然に許された。
まあ、その日はそんな会話、別の日は別な会話をして20〜30分ほど、走る。
そのあと、二人は一旦別れてそれぞれ風呂に入る。恭華は202で、理菜は101で。
そこから、2人が101で再会するのが、だいたい7時半ごろ。ランニング中に買った朝ごはんを食べ、テレビを見たり、ラジオを聴いたり、パソコンをいじったりして時間を潰してからコインランドリーに向かう。
そして、洗濯中に昼食を食べに行く。二人で初めて食事をしたファミレスになんだかんだでほぼ毎日通ってる。
ファミレスからの帰りに洗濯物を取りにコインランドリーによる。101に帰ったら理菜がそれを干して、恭華は夕飯の買い出し。なぜ、理菜が洗濯物を干す係りになったのかというと、それは初めて洗濯物を干す時に「恭くんに、私の洗濯物を見せるのは恥ずかしいですぅ」と言って、恭華を追い出したからだ。
ちなみにこの日はラッキースケベが起こった日と同じ日で恭華は思わず、
「朝は別にいいなんて言ってたじゃないか」
と、聞いてしまった。
すると、理菜は朝以上に顔を真っ赤にして
「わ、私、たまにエロっエロな下着履いてるんですぅ」
なんて、爆弾発言をして、場を凍りつかせた。という余談もある。
まあ、洗濯物は理菜が管理すると決まったので、何もすることがない恭華はランニング中に理菜に教えてもらった近所のスーパーで買い物をするのだ。
そして、そこから101に帰ったらまた時間つぶし。その間に理菜が料理を作るのだが、これがまた美味しいのだ。
料理なんてまったくやったことない恭華が適当に買ってきた食材をまともなものに仕上げてきて、その上美味しいのだ。本当に意外なところで才能を発揮するやつなのである。
さてさて、夕食を食べた後は一旦押入れに収まる恭華。これは理菜が洗濯物を取り込むためだ。丁寧にたたむところまでやってくれるので、文句を言わずに狭い押入れに入る。
しばらくすると戸が開く。これがお風呂に入りなさいという意味の理菜の行動。
いつも、20〜21時ごろが入浴タイムとなっている。その時間帯は101に入れない恭華。といっても、もう、そうゆうものなのだと割り切ってしまった恭華は素直に202に行く。
21時を回って部屋でゲームをする二人。UNOやら、トランプやらだ。ちなみに今のところ恭華の全戦全勝。そんな感じなので、理菜が悔しくなってか大変な事を言い出したこともあった。
「多分、緊張感が足りないんですぅ。決めました!私、一度負けるたびに一枚脱ぎます」
「おい、なんてこと言い出すんだ!」
「でも、こうゆうプレッシャーの中で強くなるお友達いますよぉ」
やはり、こいつが変なのでこいつの友人も変わり者なのかと納得した恭華だった。
で、ゲームが終わると就寝だ。二人の朝は少し早いので布団に入る時間も早い。まあ、恭華は例のことのせいで、1時ごろまで眠りにつくことはできないのだが……。
と、おおよそこんな感じで一日がループする。
さて、今日は朝の日課だけ済まし、二人は制服を着ていた。
いよいよ、はじまるのだ。新しい高校生活が。恭華が自分の罪から逃げるためにわざわざ家から遠いところを選んだ高校。バスケ部のないこの高校。
しかし、理菜となら、理菜と一緒であるのなら、もう一度バスケをしてみてもいいかもしれないなんて考えている自分がいることに恭華はうすうす気づいていた。
「よし、行くか」
「はいですぅ」
二人は次のステージへの一歩を踏み出した。
次回から高校の部活が始まっちゃいます。
つまり、キャラが増えちゃいます。
ついでにバスケ要素が増えてきますのでわかりにくい部分も増えてくるかもしれませんがその辺はご了承ください。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
それでは次回もお楽しみください。
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初めての登校
瑞希……爽やか系イケメンの女の子。
うん、こんな感じ!
まあ、たぶん、読んでいただければどのような性格かは一発だと……。
それではお楽しみください。
高校の入学式って案外、すぐ終わるんだな。恭華の正直な感想だった。中学の卒業式がものすごく退屈な上にとてつもなく長いものだったから、余計あっさりしたものに感じられた。
ホームルームに入っても、新鮮味がなんとなく足りない。
というか、恭華にとっては101での出来事が衝撃的すぎたので多少のことでは何も感じない、ある意味で強い心を持ってしまったのかもしれない。
しかし、予想以外の出来事は一度起こったら、次々起こるのだ。
「こんにちは!僕、瑞希っていうんだ。よろしくね!」
急にかなり大きなしかも元気な声で話しかけてこられて恭華は驚いた。
目の前にはかなり可愛らしい顔をしたイケメンが立っていた。イケメンなのに、なぜか女性ものの制服を見にまとっていた。
「なんで、女物の制服着てるんだ?」
恭華は自己紹介も忘れて、疑問に思ったことを聞いた。
「あはは、やだな。僕、女の子だよ。信じられないなら胸でも触ってみる?」
「は?」
恭華は少なからず、慌てた。初めて会った女の子にそんなこと言われたら誰だって焦るだろう。
「面白い顔をするんだね、君」
目の前のイケメンはしてやったと言わんばかりの顔をしていた。
「もちろん、冗談だよ。まさか、本気にしちゃった?」
「んなわけ」
「そんなことしないよ。だって、君、理菜っちと付き合ってるんでしょ?」
「はああああ!?」
思わず、大声を出してしまった。クラス中の注目を集めてしまった恭華。そんな恭華を構うことなく話を続ける瑞希。
「だって、君と理菜っち、毎日のようにファミレスでご飯食べてたじゃん。しかも、お互いのこと、恭くん、理菜ちなんって呼びあっちゃってさ」
ニヤニヤしながら楽しそうに話す瑞希。
「ちょ、それは……」
「またまた〜。僕、羨ましくなっちゃったよ、理菜っちに彼氏がいたなんてね」
反論も聞いてもらえない恭華。その恭華の頭の中はフル回転していた。まず、誤解を解かなくては。でも、理菜と同じ部屋で暮らしているのは知られちゃまずい。仕方ない。少し嘘も混ぜて言い訳を。
「えーと。実はだな、僕たち、ちょっとした親戚で、そうゆうつながりでおばの家に泊まってたんだよ。で、そのおばが適当な人でさ。小遣いやるからとかで飯食ってこいって。だから仕方なく、本当に本当に仕方なくファミレスで毎日食事をしてたんだよ」
かなり嘘だらけだが、本当のこともある。例えば、おばが適当であることとか……まあ、それだけだ。
そんな恭華の発言中、瑞希はずっと疑いの目を向けながら聞いていた。
「ふーん」
瑞希はしばらく何かを考えてるようなそぶりを見せると。
「わかった、そうゆうことにしといてあげるよ」
と言って、強引に恭華の腕を引っ張った。
「ちょ、何するんだよ?」
「いや、僕も理菜っちに用があったし、君も一緒にどうかなって思って」
「僕、別にあいつに用なんて……」
瑞希ら恭華の言葉を最後まで聞かないまま、その腕をさらに強く引っ張って教室から駆け出した。
なんでこんな変な女ばっかに絡まれるのだろうか。恭華の最近の悩みである。
「そういえば、何で僕と理菜が一緒にファミレスにいたこと知ってたんだ?」
走りながら聞く恭華。それにしても瑞希の走るスピードは恭華も全力に近いものを出さないと追いつけないもので驚いた。
「え?だってあそこ、僕の親が経営してる店だし」
あいつめ。なぜ、わざわざ、友人と出くわしてしまう確率が高い店を選んだのだ?それなら、恋人同士だと勘違いされねも仕方ないのかもしれない。
「お〜い!理菜っち〜!!」
どうやら、もう理菜のいる教室についたようだ。
「おお、みずぽんぽんに恭くんじゃないですかぁ」
みずぽんぽん……。本名の倍の文字数があるこのあだ名に何の意味があるのだろうか。
「どうしたんですかぁ。腕なんて組んじゃって〜。恋人さんですかぁ」
いや、瑞希の勘違いは仕方ないとしても、その捉え方はおかしいだろ。まず、腕を組んでなんかいない。一方的に引っ張られている。
否定しようとして口を動かそうとすると。
「そうなんだよ。僕たち付き合ってるんだ。僕の一目惚れでさ」
こいつは何を言いだすんだ!恭華の頭は混乱し始めた。
「知らなかったですぅ。恭くんがそんな女たらしなんておもいませんでしたぁ」
「は?たらしってなんだよ!」
「うっさいですぅ。恭くんは黙っててくださいですぅ」
誰か、僕はどうしたらいいのか教えてください。という恭華の思いは誰にも届かない。
理菜がプンプン顔、恭華が辛そうな顔をしていると急に瑞希が「あはは」と笑いだした。
「本当、理菜はからかい甲斐があって面白いな」
恭華は自分はちょっと苦しい思いをしたのに、こいつは楽しんでやがったのか、と考える怒りが湧いてきて、瑞希をギロリと睨みつけた。
「ごめんごめん、悪かったよ、恭華くん」
「えぇ、冗談だったんですかぁ。恭くんにたらしなんて言っちゃいましたぁ。すみませんですぅ」
恭華は理菜が誤解を解いてくれたことが嬉しい。
「恭くんは私だけのものですからねぇ」
しかし、一言多い。
「ん?それはどうゆうことかな?気になっちゃうな僕」
「えーと、それはまた今度で」
「あはは、それでいいよ。恭華くんも疲れてるみたいだしね」
なるほど、彼……じゃなくて彼女は一応、限度というものを理解しているようだ、と恭華は感心した。
「あれぇ。どうして、みずぽんぽんはここに来たんですかぁ?」
「あ、忘れてた。僕、理菜っちを誘いに来たんだよ。一緒にバスケ行こうって」
「おぉ。いいですねぇ。私、みんなを誘ってきますぅ」
そう言ってどこかへ走っていく理菜。
「瑞希……さん?」
「瑞希でいいよ」
「みんなって誰なんだ?」
「僕とか理菜っちの中学時代のバスケ部の仲間だよ。5人ともこの荒涼に進学したんだ」
「へぇー。ちなみに、瑞希はポジションどこだったんだ?」
疑問に思ったことはすぐに聞いてしまうのが、恭華の性格のようだ。
「あ、僕? 僕はスモールフォワードだよ」
恭華が理菜にふさわしいと考えていた、速攻に走るポジションの一つ。それがスモールフォワードだ。
「理菜はポイントガードにふさわしいと思うか?」
すると、予想外の答えが返ってきたのだった。
「僕たちのポイントガードは理菜っちしかありえないよ」
理菜はほんの数分で帰ってきた。
「みんなOKですぅ。一時に西公園集合ですぅ」
恭華は一度、この西公園のことを朝のランニングで理菜から紹介されていた。バスケのリングがあるのは当然なのだが、その周りの地面がコンクリートのようなもので固められていて、コートの半面分のラインが引かれている。恭華がバスケのしやすい環境が整えられた場所だなと感じた公園だった。
恭華はパッと時計を見た。時間は12時。
「おい、洗濯物はどうするんだ?」
「あ、考えてませんでしたぁ」
恭華は後悔した。この会話を交わしたことを。正確には瑞希の前でこの会話をしてしまったことを。
「洗濯物ってどうゆうことかな?僕気になっちゃうな」
「えーと、それはだな……」
「実は私と恭くんと一緒に……」
「わあああああ!!」
恭華は理菜の言葉を急いで遮り、彼女の口を塞いだ。
「どうしたの?恭華くん」
楽しんでやがる。こいつ絶対楽しんでやがる。
もう嫌だ。逃げたい。誰かこの場をしのげるうまい嘘を教えてくれよ。そんな思いも誰にも届かない。
「あはは。君達二人は本当に面白い顔をする」
恭華にとって、理菜と瑞希、その二人を同時に相手をするのは本当に疲れるものだと実感した今日だった。
恭華たちは待ち合わせを2時に変更してもらい、一旦家に帰って、いつも通りのコインランドリーからのファミレスのルートを辿ることにした。
もう、5話も投稿することができました。
かなり話も溜まってきたので、普通のラノベってどのくらいの文字数があるのだろうって調べてみたらもう驚き。
300ページのラノベで約12万字あるそうです。
12万って……
今まで書いた量の6倍以上書かないといけないんですね。
気が遠くなる量です。
まあ、趣味の範囲で書いている作品なので、ライトノベルより、ライトな小説として読んでいただければ幸いです。
また、次回まで。
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初めての再会
2週間も投稿できなくてすみませんでした
「やっぱり来たね、理菜っちと恭華くん!」
ファミレスにきてみて思い出した。ここには瑞希がいる。恭華は瑞希と理菜のコンビから逃げてきたのに、これでは本末転倒である。
「おお。みずぽんぽんじゃないですかぁ。また、会っちゃいましたねぇ」
と、たまたま再会したかのように言う理菜。ただ、この再会は偶然ではなく、必然だろう。ここに、瑞希がいるのはとうぜんなわけだし。
瑞希は一応店員らしく席に案内してみせた。そして、謎の言葉を吐いた。
「すみません。個室を用意することができなくて」
ニヤニヤした顔を見せる瑞希。まだ、こいつは勘違いしているのかとそれを見る恭華。
「それってどうゆうことですかぁ?」
素直に疑問に思ったことを口にする理菜。
「そりゃ、個室の方が2人でのんびりイチャイチャできるじゃん」
そうとしか考えられないでしょ?と言わんばかりの瑞希の顔。
「大丈夫ですぅ。家で毎日して……」
「ストオオオォォォッップ!!!」
何を言いだすんだこいつ。気持ちより先に口が動いた恭華。そのせいで店中の集めてしまった。ザ・デジャブ。
「お客様。そのような大声を出されては他のお客様のご迷惑になられます。これ以上、迷惑行為を繰り返されるのであれば、おかえりいただくこともありますので、お静かになさってください」
急に口調を変えて丁寧に話し出す瑞希。そんな瑞希に対する恭華の怒りはグングン増していく。正確には瑞希と理菜に対する怒りがだ。
「恭くん、顔を真っ赤にしてどうしたんですかぁ?初恋ですかぁ?」
恭華は自身の頭の中で何かがプチンと切れたのを感じた。顔が赤いのは間違いなくお前らのせいだ。なのに、おまえは……といった感じに怒りが収まらない恭華。
「カツ丼大盛り二つ。こいつにはお子様ランチを!」
腹が立ったら、腹を満たすと腹を決めた。ちなみに、理菜にお子様ランチを頼んだのは腹いせだ。
「私、お子様ランチじゃないですぅ。私もカツ丼がいいですぅ」
「あらあら、恋人同士、仲良く同じものを注文なさるんですね」
「お前、あとでゆっくり話がしたい」
瑞希を黙らせるためにはいったん理菜を外して二人でゆっくり話し合うしかないと考えた恭華。
「うん、それいいね!僕も久々に恭華くんとゆっくりお話ししたいよ」
そう言いながら、引っ込んで行く瑞希。その後ろ姿はとても楽しそうなものだった。
「恭くん、久々ってどうゆうことですかぁ?」
瑞希の後姿を眺めていた恭華の顔を横から見ていた理菜が聞く。
「さあな」
理菜の方に向き直ることもなくぼんやり答える恭華。その疑問は恭華も抱いていたもので、ずっと考えていたのだ。
だって、恭華の知っている人に“みずき"って名前の人は……。
食事を終えた後、理菜はいったん洗濯のために家に帰ることになった。そのため、恭華と瑞希の二人で公園に向かう。
恭華は食後ということもあったし、のんびり歩きながら行こうと考えていた。色々と聞きたいこともあるし。
それなのに、瑞希は恭華の気持ちを察するはずもなく強引に手を引く。
「ねぇ、恭華くん。こうやってしてると思い出さない?」
急にそんなことを聞く瑞希。でも、確かに恭華はあることを思い出していた。それは小学校の時の話なのだが。恭華のたどり着いた結論は彼にとってものすごく意外なものだった。
「まさか、みずき……くん?」
その人物は恭華をバスケットボールに誘った人物。
しかし……
「うん、そうだよ!」
その結論には腑に落ちない点があった。だって……
「瑞希くんって女の子だったの!?」
恭華をバスケに誘った人物は男の子だったはず。彼の頭の中は混乱し始めた。何一つとして頭の整理がつかない状態の恭華を無視して喋り出す瑞希。
「その顔は混乱してるね」
「そりゃするさ」
ずっと、男だと思っていた人物が実は女だったなんて知ったらな。
「じゃあ、何で僕のことを男の子だと思ったの?」
「そりゃ、一人称が僕だったし」
恭華は彼をバスケに誘った人物の姿を思い浮かべて頭を整理しながら答えていく。
しかし、その特徴は目の前の人物にも当てはまる。
「あと、髪が短かったし」
それも当てはまる。
「えーと、あとは……。僕の手を引いていろんな所に連れて行って……」
今、まさにその状態だ。恭華はあの時、男の子に手を引かれているのだと思って何も感じなかった。いや、そうやって彼の手を強く引く姿が男の子にしか見えなかったのかもしれない。
「あはは。そりゃ完全に恭華くんの勘違いだったわけだね。今時、ボクっ娘は珍しくないよ。ショートだって多いし。それに手を引っ張るのだってグイグイ行きたいじゃん。仲良し相手にはさ」
「えーと、ごめんな。僕は瑞希のことを忘れてたのに、瑞希は僕のことを覚えていて、しかも、昔みたいに仲良くしてくれようとして……」
恭華としては別に忘れてたわけではなく、ただ、瑞希の言うように勘違いしていただけなのだが、それでも申し訳ない気持ちが溢れてきた。
「あはは。やっぱむかしと変わらないね、恭華くん」
「え?」
「いや、その顔はリアルに謝ってるんだってわかるけどさ。冷静に考えてみてよ。小さい時はともかく、女の子が昔のように仲良くしたいからってグイグイ男の子の手を引っ張ると思う?」
「え、そりゃあ……」
だって、さっき瑞希が言ったし。恭華のその言葉は瑞希の真剣な眼差しによって抑え込まれた。
「僕ね、恭華くんと理菜っちが付き合ってないってわかったとき、すごく安心したんだ」
恭華はこの時点で瑞希の気持ちを汲み取ることができた。
「ね?恭華くんはキスしたことある?」
「……はぁ!?あ、あるわけないだろ!」
急に瑞希が女の子らしい仕草をさながら、そんなことを言うので動揺せずにはいられない恭華。
ちなみに、理菜が恭華のほっぺにキスをしたことがあるのだが、そのとき恭華は寝てたのでノーカウント。
「僕と……僕とキスしてみない?」
瑞希は唇に人差し指を当てながらそう言う。恭華の頭は再び混乱し始めた。
「僕ね、ずっと恭華くんのことが……」
「ごめん」
頭の中がまとまっていない状態のまま、恭華は瑞希の声を遮ってからなんとか言葉を紡ぎ出した。
「僕にはずっと思っている人がいるんだ。今は、僕がその人のことを裏切ってしまったから二度と会う資格なんてないのだけど、それでもその人のことが忘れられないから」
その言葉を聞く、瑞希の表情が徐々に怒りや悔しさに満ちたものに変わっていった。
「それって……由架ちゃんのことだよね」
さっきまでの瑞希からは全く考えられない、暗く低い声でそれだけを聞く。
「ああ」
恭華もそれ以上は何も言わない。何も言えない。
そうやって、二人の間にしばらく無言の時間が流れた。
後書き、ちょっと長いです
今回は約2週間ぶりの投稿でした。
実はクラナドというアニメを見て、AIRというゲームを少ししていたのですが、それをやった後なぜかなかなかペンが進まなくて。
Keyの素晴らしさ、圧倒的な何かを感じて、麻枝准さんの作品を目にしてしまうと自分の作品がダメダメなものだと感じられ、どうしても続きを書くことができなくなってました。
でも、自分の作品がダメだとしても、それを評価してくれた人がいて、そのことがとても嬉しかったこと、それを思い出すと、まだ書かなくちゃって気持ちになって。
今はこのレベルでいいんだって吹っ切れて書いてます。
もし、自分の作品を好きでいてくれる人がいたらその人に支えてもらって成長していければいいなと思います。
より、たくさんの人に読んでいただける作品にできるように頑張りたいです。
あ、あと、Key作品に圧倒されたといっても、感動系を考えているわけではなく、あくまでラブコメなので悪しからず。
それではまた次回まで
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初めての昔話 瑞希編
この話はこの先の展開で重要な話になると思うので、是非読んでください
今日は僕、川澄瑞希の昔話をしよう。
僕はお兄ちゃんが二人いて、その影響で小学1年の時からバスケを始めた。女バスが無かったことも影響してお兄ちゃんたちと同じコートで練習に参加していた。僕の一人称がこうなったのもお兄ちゃんの影響で、昔は僕はお兄ちゃんが大好きだった。今は口にしていうのが恥ずかしいだけで、もちろん今でもそうだ。
そんな僕がお兄ちゃんに影響されずに初めて抱いた感情。それが恋だった。といっても、小学生のそれだ。今、抱く恋という感覚とは思いっきり違う。気になるって言った方が正確なのかな? とりあえず、その恋という感覚を初めて抱いたのは小学3年生の時。
あ、今、「え?その時期に恋ww」って感じでバカにしたでしょ? バカにしないでよ。この時の気持ちは今でもずっと続いてるんだから。
その子は、僕らが体育館で練習してるのを真剣に覗いてたの。最初はなんだろうって思うだけだったんだけど、次の日も、そのまた次の日も練習がある日は毎日、体育館を覗いてた。
そんな、彼のことに少し興味が湧いてきた。だから、僕思い切って話しかけたの。
「こんにちは!僕、瑞希っていうんだ。よろしくね!」
その人こそ恭華くんだった。その時の恭華くんの急に声をかけられて戸惑った顔はとても可愛かったことが印象に残っている。
僕はなぜか恭華くんの腕を引っ張った。
「一緒にバスケしよう」
そうとだけ言って。
すると、彼は頷いてくれた。僕は嬉しかった。ちょっと気になってた人と一緒に好きなことをできるのだから。
それから、彼は僕の参加しているミニバスのクラブに入った。僕と彼はすぐに仲良くなった。クラブがない日は毎日、リングのある河川敷へ行ってずっと一対一をするくらいに。
そんな彼に毎日触れることで僕の中のなんとなく気になっていたという感覚がはっきりとした好きという感覚に変わっていった。
恭華くんはすごかった。始めてから数ヶ月で僕より高性能かつ綺麗なジャンプシュートをうてるようになった。僕は悔しかったけど、そんな彼に憧れてさらに思いが募ったりもした。まあ、彼は僕のことを男の子だと勘違いしてたみたいで、そんな気持ちは抱いてなかったみたいだが……。だが、距離感が続いてくれるんならそれでいい。
僕と彼の関係は毎日続いた。そして、ずっと続くんだと思っていた。
でも……。
いつものように河川敷で恭華くんとバスケをしてた時のことだった。僕らの姿を真剣に眺める一つの影があった。その子は僕らを羨ましく思うような、どこか寂しいようなとても、哀しい瞳をしていた。
心優しい恭華くんはその子をほっとけなかった。僕が恭華くんの手を引いたように、彼もその少女の手を引っ張った。僕はちょっと嫉妬した。
それから、僕と恭華くんとその子、由架ちゃんとでバスケをすることになった。
由架ちゃんだけ通ってる学校が違ったので、一緒にクラブに参加することできなかったが、河川敷ではいつも三人。悔しかった。二人が良かった。二人でずっと……。
しかも、その由架ちゃんは僕ができなかった、恭華くんのシュートを軽々真似してみせた。そんな由架ちゃんを恭華くんは構ってばかりで僕のことを見てくれなくなった。僕は毎晩泣いた。いつも、二人で一緒にいて、一緒にバスケして楽しい時間が毎日流れてたのに、それを由架ちゃんに奪われた。
だから、僕は由架ちゃんが嫌い。でも、表向きだけは繕った。たまに、一緒に遊びに行ったりもした。恭華くんと由架ちゃんと恭華くんと僕と、あと、恭華くんのおばさんが車を用意してくれて。いろんな所に行った。
僕は恭華くんを、由架ちゃんに取られちゃいけないって必死に恭華くんの腕を引っ張った。それが彼の腕を引っ張るようになったきっかけ。もともと、バスケに誘った時もそうやって誘ったけど。
それが小5の時くらいの話で……。
僕はそのちょっと後、小6の冬くらいに転校することになった。これで、恭華くんは由架ちゃんに取られる。僕は行動を起こすこともできずにただただ悔しい思いをした。
その後の彼らのことは僕は知らない。新しい学校に行ってからも新しい友達をすぐに作って、バスケ部に入ってそれはそれでとても楽しかった。
ただ、前の学校のことがどうしても気になってどうも落ち着かなかった。そんな中で中3の時に一通来たメール。由架ちゃんの私、嫌われちゃったかもってそんなメール。それを喜んでしまった僕は最低なのかもしれない。
そして、月日は流れて、僕と新しい学校でできた仲間たちは同じ高校に進学することになった。もう、向こうのことを心配することもなくなった僕は、そのことを素直に喜んで素直に楽しんだ。
で、僕が親の手伝いをしてる時、恭華くんと僕の新しい友達、理菜っちが来てるのを見かけた。久々にみた恭華くんは相変わらずかっこよかった。
ただ、まあ、その2人が一緒にいることは安心しきってた僕にとっては大事件だったわけで急いで事情を知ってそうな人を探した。理菜っちと恭華くんの繋がる部分、美鈴さんに電話をした。
僕は美鈴さんのことを知ってたし、それは恭華くんを通してでも、理菜っちを通してでもそうであった。
そこで僕は事情を知って、そして、昔できなかったアプローチを彼に仕掛けることにした。
それが今日の入学式の放課後だった。
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久しぶりの1on1
瑞希と恭華の間にしばらくの無言の時間が流れる。二人はある場所に向かっていた。正確には瑞希が。
その足がみんなの集まる目的地である西公園を向いていないことはわかった。この辺に住んで一週間しか経っていないとはいえ、毎日ランニングをこなしてる上、二日目に飛び出してあちらこちらを駆け回った。それなりに土地に強くなった自信がある。
さて、今、瑞希が向かっているであろう場所、恭華が全く心当たりがないのかといえば、そうでもない。
場所は違えど、僕らは毎日のように河原の風を受けながら練習をしていた。一対一を繰り返していた。
そこに行って瑞希が何をするつもりなのかは彼にはわからない。ただ、はっきりと言えることは瑞希は何も考えずに適当に歩いているのではないということ。瑞希は恭華に何かをうったえようと何かを伝えようとしているということ。それは恭華も瑞希の背中から感じ取れた。
瑞希は先ほど会話を交わしてからは一度も振り向くことなく、恭華の予想通り河川敷へと到着した。
何をするかなんて全く予想ができない。いや、ここにきたら僕らがすることなんて一つしかないだろう。
瑞希は河川敷の公園内にあるバスケットコートに転がっていたボールを拾い上げ、恭華に言い放った。
「ここで僕と一対一をして!」
瑞希の強い意志に断る理由もなかった。彼女は本気だ。本気には本気で返すしかない。
「わかった」
これからは真剣勝負。あの頃と同じ河川敷という場所なのに、あの頃のような和やかな雰囲気など、どこにもない。
「僕の先行から行くよ」
瑞希はそう告げ、ドリブルをつき始める。とても力強いそのドリブルは体育館でついたならよく響くだろう。現にここでも強さは伝わってくるのだから。
瑞希は右に鋭いドライブを決め込もうとする。が、恭華はそれを読んでコースに入る。瑞希はそれにひるむことなく、左足を軸にロールターンを決め、恭華を抜き去る。その鋭さは男子でも軽々抜けるレベルのものだろうと現に抜かれている恭華が言うのだから間違いない。まあ、負け惜しみかもしれないが。
まあ、バスケは相手を抜けばかちというスポーツではない。1on1において抜かれるということは致命的なことなのだが、それでも恭華は諦めなかった。身長差というアドバンテージを使って、レイアップの姿勢に入っていた瑞希のボールがのった右手に恭華の右手を覆い被せる。
彼女はそれを避けるようにタブルクラッチを決めようとするのだが、ジャンプ力が足りず失敗に終わる。
転がったボールを拾った恭華はそのままオフェンスの準備を始める。いったんボールを瑞希にあずけ、それがかえってきたら攻撃開始の合図。
当初、恭華は直接ジャンプシュートを狙うつもりだった。だが、当然のようにそれを警戒して間を思い切り詰めてくる瑞希。
間を詰める利点はジャンプシュートをうたれないこと。それ以上の欠点が抜かれやすくなること。それは恭華も瑞希もわかっていることだ。恭華は右へドライブの姿勢に入る。それを読んでいたかのようにコースに入る瑞希。恭華は先ほど瑞希にやられたのと同じようにそれをロールターンでかわそうとする。しかし、それもあっさり瑞希に読まれてしまう。
それならと、恭華は後ろにステップを踏む。ドリブルをやめボールを持ちシュート体制に入る。これも瑞希はよんでいた。だが、ここでも身長のアドバンテージが出る。二人の距離は数メートルしかないだろう。しかし、二人には決定的な身長差があるためにもう、シュートモーションに入っていた恭華のボールに届くわけもなく……。
そのシュートは皮肉なほど綺麗な放物線を描いた。その軌跡をただ見つめるしかない瑞希。あの頃と同じ。自分では描けない。とても綺麗な弧。そして、瑞希は実感する。これは恭華と由架をつなげ、そして、瑞希を除外したものではないと。
「やっぱ、届かないんだね……」
これは憧れだった。自分も描きたいのに描けなかった。でも、描けない理由なんて知っていた。自分より後にバスケを始めた恭華に習うのはプライドが許さなかっただけ。そして、由架は恭華の言うことを必死に聞いて必死に練習していた。それを見てたのに、僕は……。
「最低だね、僕って」
涙が溢れ出して止まらなかった。自分勝手なのは十分わかっていた。泣いたって何も始まらないのもわかっていた。なのに、涙が止まらない。
「恭華くん、僕ってなんで泣いてるのかな」
恭華は静かにそこにいることしかできなかった。でも、瑞希にとってはそれが優しかった。リングをくぐった恭華のシュートが跳ねる音が遠くで聞こえる。二人で一対一をするこの時間は大好きだった。宝物だった。それは恭華がいないとダメで恭華じゃなきゃダメで。
「僕ね、ずっと恭華くんが好きだった。大好きだった。ずっと一緒にいたかった。でも、できなかった。恭華くんが由架ちゃんに取られちゃうんじゃないかってずっと不安だった。自分は何もしないくせに、一生懸命頑張ってる由架ちゃんを必死に恨んで、妬んで。去年、由架ちゃんからメールが来た時、僕、喜んじゃったんだよ。最低だよ。僕知ってたのに、大好きな人が苦しいって知ってたのに、喜んじゃったんだよ」
恭華はただただ、黙ってそれを聞く。それが正しい気がしたから。
「ね、恭華くん。こんな最低な、嫌われても仕方ないような僕のお願い聞いてくれないかな」
「……ああ」
「高校にいる間だけでいいから僕と一緒にバスケをして。一緒にバスケ部に入って、一緒に試合をして、一緒に頑張りたい」
「……わかった。約束する」
「……ありがとう……嬉しいよ、僕……」
救われた。もちろん許してもらったなんて思ってない。それでも、やっぱり恭華は優しかった。そんな恭華が好きだった。
涙はとめどなく落ちる。自分ってこんなに泣き虫だっけ。瑞希は我を忘れ、泣けるだけ泣いてやった。
そんな時間も永遠に続くわけではなく。
「あれぇ?恭くんにみずぽんぽんじゃないですかぁ?」
そこにいたのは理菜だった。理菜はのんきにかけてくる。空気を読めないのが理菜の長所であり、短所だ。
「恭くん。実はさっきケンタッキーが届いてしまって……」
本当にKYだ。しかし、昼飯食った後なのによく食う人だな。と、瑞希は思った。
「あ、間違えましたぁ。洗濯機ですぅ。センタッキーフライドチキンですぅ」
「何が届いんだよ、一体」
思わずツッコミを入れてしまう恭華。
「いやぁ、洗濯機を設置するのが難しくて、ぜひ帰ってきて欲しいんですよぉ」
どうやら、洗濯機が届いてフライドチキンは関係ないようだ。
恭華はチラッと瑞希の方を見る。瑞希は泣きながら、背中で言っていいよって言ってる気がした。いや、多分言った。そうじゃなきゃ、恭華は勝手に逃げ出したダメ男になる。
「わかった行くよ」
恭華と瑞希はボロアパートに向かって歩き出した。
二人の姿が見えなくなってから瑞希はボールを手に取り、シュートを構える。
えいっ、とうったシュートはリングさえくぐったものの納得いくものでは到底ない。あの軌跡とは似ても似つかないものだった。
「やっぱ、届かないんだね……」
瑞希はボソッとつぶやいた。
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初めての入部届け
書き始めたあの頃は8話くらいで大きな波を迎える予定だったのに、書き続けてみれば案外すんなりはいかないものですね。
しかし、ここからヒートアップさせていきたいです。って前回の話も結構大きな波のつもりでしたが……。
瑞希と恭華が河川敷で一対一をした次の日。今日はこの先のことを考えても恭華にとって大きなイベントが起こる。
とは言っても昨日のことがあのまますんだかといったらそうではなくて……。
昨日、あの後、恭華は理菜に連れられ家に帰ったらそこには洗濯機が届いていた。どうやら、理菜の親が子供のために送ってくれたものらしいのだが、それをどう設置すればわからなかったらしい。仕方なく、恭華は詳しくはわかっていないながらもなんとなく勘で作業を始めた。
その間、2人はなんでもない会話をしていた。
「理菜はあのファミレスが瑞希の実家だって知ってたのか?」
「もちろんですぅ。みずぽんぽんが恭くんのことを……ってなんでもないですぅ。あと、ちゃんを忘れないでください!」
なんで、最後だけ力強く言うんだ。
「そう考えると、私はとんでもない人に一目惚れしてしまったんですねぇ」
小声でそうゆう理菜。もちろん、恭華の耳にそれは届いていない。
「そうか、知っててわざわざ連れて行ってくれてたんだな。僕も瑞希のことをもっと理解してあげていれば……」
単なる後悔。小学生だった自分には仕方がないのかもしれないと思っても、いろいろわかる今なら彼女の辛さがわかってやれる気がして、自分が悪いように感じてしまう。いや、実際自分が悪いのだ。
「たぶん、みずぽんぽんには恭くんの優しさや思いやりがしっかり伝わってると思うですぅ。そんな落ち込んでると明日、学校で気まずいですよぉ」
「そうだな……でも……」
「もう、そんな暗い顔しないでくださいよぉ。ほら、明日は部活見学ですよぉ。しかも、うちの学校って明日からいきなり入部届けを提出できるんですぅ。便利なシステムですよねぇ。で、恭くんは部活どうするんですか?って、みずぽんぽんとあんな約束をしてたら必然的に決定してますねぇ」
「ん?最後の部分が聞き取れなかったんだが」
「あ、気にしないほうが身のためですよぉ。あと、みずぽんぽんの性格は恭くんが一番わかってると思うんで、今更忠告の必要もないかと」
「?」
正直よくわからないままの恭華であった。
「はい、これが入部届けです。クラス、出席番号、名前と住所、電話番号を記入して、顧問、もしくは部長にこれを提出した時点で入部完了です。わからないことがあったら先生に聞きに来てください」
入部届けに対する丁寧な説明。担任の先生は親切そうで優しそうな20代後半くらいの若い先生だった。長い黒い髪が艶やかで美しく大人らしい雰囲気を醸し出している一方で、顔は童顔でそのギャップが何人もの生徒を魅了してきたとか。
喋り方は品のある感じで、声質もおとなしい。確かに普通に惚れてしまいそうな先生。それなのに、未だ独身と聞くと、今のご時世がどれだけ結婚に向いてないのかが実感できた。
さて、それはともかくとして、恭華の手の中には今、入部届けがある。
昨日、久々にしたバスケ。しかし、バスケ部男子がこの学校にないのはリサーチ済みでもう、バスケとは関わる必要はなさそうだ。
強制ではないにしろ、何かしらの部活に入ってるっていうステータスは欲しいな。なんて、考えていた恭華は軽く、文化部の見学をしようと席を立った。
そんな恭華の行く手を阻む人物。瑞希が目の前に立っているのだった。
「ちょっと、恭華くん、どこ行くのかな?」
どこに行こうと僕の勝手だろ。
「文化部を見て回るんだ」
ありのままを話す恭華。別に、瑞希に止める理由もないだろう、なんて考えは甘かった。
「え?何言ってるの? 僕と一緒にバスケするんでしょ?」
あ、そんな約束したな昨日。
「だから、恭華くん、3年間、女バスマネージャーね。はい決定。じゃあ、行こう! 体育館へ」
昨日の今日でこんなにケロっとしてる瑞希が恐ろしい。そして、昨日の約束をすんなり利用するなんて……。なんというか、女の涙は恐ろしい。
恭華は瑞希と一緒に(渋々)体育館へ向かっていると、途中で理菜と謎の少女AとBに出会った。
二人の女の子のうち、一方は背がめちゃくちゃ高い。恭華は男子でも平均よりちょい上くらいの身長なのだが、ゆうにそれを超えていた。ポニーテールとメガネと丸顔が印象的。目はキリッとしてるというわけでもないのに、ものすごい目力を感じた。
そして、もう一方の方なんだが、僕が現れた瞬間にそのでかい奴の背中に隠れてしまって顔がよく見えない。
瑞希曰く、彼女は超恥ずかしやなので許してください、だそうだ。
ここにお前がいると邪魔だからどっか行けと無理やりのけ者にされて、なおかつ、体育館にいなかったら殺すと脅された。
恭華は1人、寂しく体育館への道を歩き始めた。よく考えてみれば、中学の三年の時はいつも一人だったのに、この一週間、誰かと触れ合っていない瞬間はほとんどなかった。そして、今、中学の時はなんとも感じていなかった孤独を寂しいものだと感じた。
体育館への道を歩いていると、横を同じように歩く女の子がいた。この子も体育館へ向かっているのだろうか? その子は右手に文庫本を持ち、それを読みながら歩いていた。見た目は背は小さく、髪も短い。眼鏡をかけていて、クールな印象を感じた。
退屈というのもあってちょっと横を歩く女の子に声をかけてみることにした。
「あの、体育館に向かっているのですか?」
……無視だ。まあ、急に知らない人に声をかけられたら無視してしまうのも仕方ないかもしれない。まずは自己紹介から始めてみよう。
「あ、僕は池崎恭華といいます。あなたは?」
……また無視。かと思いきや、
「私は体育館へ向かっている。目的はバスケ部の入部届けを部長に差し出すこと」
やけに早口に、早口なのに、しっかり頭に残る声でそういう謎の少女C。てか、今更そっちに答えるの?って思った矢先に
「よろしく、池崎さん。ところで私もあなたと同じクラスにいるはずだけど。もっと言わせてもらえれば、昨日はよく約束をすっぽかしたわね」
なになに?よくわからん。いや、声は通るし言葉が聞き取れないとかではない。
まず、同じクラスだということ。こんな子いたか?仮にいたとしてもこんなにクールな雰囲気を、言い方を悪くすると地味な雰囲気を纏ってる人には見向きもしないのかもしれない。
そして、約束をすっぽかしたとは?
すると、突然、その少女がパタンと本を閉じ、口を開いた。
「あなたは私の友達の友達になるわ。瑞希、もしくは理菜が共通の友達といったところね。それで、私たちは昨日、西公園でバスケをすると間接的にではあるけれども、約束していたはずよ。なのに、あなたと瑞希はそれをすっぽかした。私はあなたに謝罪を求めるわ」
急に饒舌になったなこの女。
しかし、名前もわからない。恭華としては認識したのも初めての女の子に謝罪を求められても……。
女の子は恭華の謝罪を待つことなく再び本に目を移していた。
変わった人だなという印象はもちろんあったが、この人が瑞希や理菜と友達になれたというのが意外で仕方がなかった。
すると、再び本を閉じた、少女。急に回れ右をした。
「おい、体育館に行くんじゃないのか?」
恭華は思わず聞いてしまった。
突然の質問に驚いたのか、顔だけ振り返って文庫本で顔を抑えながら顔を真っ赤にして
「ト、トイレよ……」
と、だけ少女はいった。
その表情はなんとも可愛いものであった。
さて、また孤独。それにしても、今日初めて会った人の名前を一人も聞いてないなと感じた恭華。
体育館についた恭華。体育館シューズに履き替え中に入るが誰もいない。おかしいなと思い、あちこちを探すと、体育倉庫の扉に「ぶちょーしつ」と大きく書かれた紙が貼ってあった。イタズラとも思えないし、もしかしたら目的の人物がいるかもしれないのでその戸を開けた。
中に入ると跳び箱とか平均台とかが醸し出す、体育館独特の匂いがした。そして、その跳び箱の上に一人の女の先輩が寝転んでいた。
その人は三年生と書かれたハチマキと本日のぶちょーと書かれたたすきをかけていた。なんだこいつ。そんなコメントしか浮かんでこない。
その本日のぶちょーさんは面倒くさそうに顔を上げ、こちらを見ていった。
「ここは女バスの部長しかいないよ。坊ちゃんは女じゃないっしょ?」
「あのー、マネージャーという席は空いてないでしょうか?」
正直、普段の恭華なら迷いなく、「はい。そうですか」といってここを抜け出す。だが、瑞希に脅されているのでそれはできない。
部長さんはしばらく考え込んでから恭華にいった。
「マネージャーは無理だね……」
「やっぱりそうですか……」
「ね?どうしても、女バスに入りたい?」
「如何してもってわけじゃ……」
瑞希の顔が浮かぶ。
「はい!どうしてもです!」
「わかった。君、我がバスケ部に監督として受け入れるよ。じゃあ、入部届けだけ受け取ってやる。じゃあね」
……恭華はバスケから縁を切るためにこの高校に入ったはずなのに、選手でも、マネージャーでもなく、晴れて監督に就任した。
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初めての自己紹介
でも、ここから2、3話くらいはキャラクターの説明的な会が続きそう……。
まあ、ここで新キャラが数人登場します!
楽しみにしてください。
まあ、新キャラといっても前回の話で軽く顔出し?的なことはしてましたが……。
では、どうぞ!
体育倉庫から放り出された恭華はしばらく待つと、理菜と瑞希と謎の少女A&Bそして、Cまで一緒に来た。そういえば、前に理菜が同じ中学から5人上がってきたみたいなことを言ってたっけ?
「部長さんってどこにいるんですかぁ?」と、理菜。
「知らなーい」と、瑞希。
「別に探す必要もないんじゃないのか? どうせ、ここで部活をやるのだからここで待っていようぜ」と、長身の謎の少女A
「……」一言も声に出さずに謎の少女Aの影に隠れる謎の少女B。
…………。
そこから少し間が空いて
「ここに部長室と書いてある。きっとここにいるのだろう」謎の少女Cが言う。
そして、5人は体育倉庫の中へ入っていった。
なんか、この部活のメンバーは濃いなという印象。もともと、理菜と瑞希のことは知ってはいるがなかなか個性が強い印象があった。
謎の少女Aはまあ、まともな人だと思うよ。まだね。ただ、背が高いんだよ、マジで。
謎の少女Cはクール系の人物かと思ったらあのトイレの件の時だけキャラが崩れたような気がした。この子に関してもよくわからない。
でも、最もよくわからないのは謎の少女Bだ。恭華は顔はともかく、声さえも聞いたことがない。まさに謎。
このメンバーのキャラの強さ、つまり濃さを恭華は実感していた。
その5人は1分もせずに体育倉庫から出てきた。部長も一緒でてきていて、いやー、ヒッキーなのに珍しいと考えると同時に先輩に対してかなり失礼な第一印象を抱いていたのだなっと反省した。
さてさて、ここからは自己紹介コーナーだ。といっても、五人は知り合い同士。そこに恭華が入り込んだような形なので、実質、恭華はこの5人のために、5人は恭華のために自己紹介をするのだ。
確か、こんな言葉があったな。one for all,all for one。なんて、美しい言葉なのだ。恭華はしみじみそう思った。
「ふぁああ。じゃあ、まずは監督さんから自己紹介、お願いね」
面倒くさそうに言う部長さん。
「あ、はい。僕は池崎恭華です。バスケの経験は中学の頃までありました。当初はバスケを続ける予定はなかったんですが、まあ、なんやかんやありまして、今監督やることになりました。よろしくお願いします」
とりあえず、第一印象だけはよくしておこう。理菜や瑞希とこっちへ来てから初めてあったときはどちらも慌てた雰囲気だったから落ち着いて挨拶できるのは恭華にとってありがたかった。
「さて、次はだれ行きますかぁ?」
「私は最後で。監督が順番決めてあげなよ」
部長のくせに何もしないやつ。恭華の部長に対する評価は音を立てて悪くなる一方だ。
「えーと、じゃあ、中学時代のユニフォームの番号順で頼んでもいいかな? ポジションと名前、あと目標くらいかな?」
恭華が監督をする上で必要な情報はこれだけだと考えた。いや、臨時すぎたのでとりあえずポジションだけ把握してあとの必要な情報は必要な時に聞こうと思った。まあ、目標とかはおまけだ。
すると、突然理菜が謎の少女Cに耳打ちし始めた。部活の仲間なので、謎でもなんでもなくなったような気もするが、やはり行動には謎が多かったりする。
しかし、なぜ耳打ちを?
疑問を解決させてくれる間も無く、理菜が自己紹介をはじめた。
「私は不和理菜ですぅ。ポジションはポイントガードですぅ。目標は高校卒業までにナイスバディになることですぅ。よろしくですぅ」
ぱちぱちぱち……。
「……っておい待て」
「あれ?恭くんはナイスバディじゃわかりませんかぁ?じゃあ、悩殺ボディになることですぅ」
「……もういい」
何を言ってもわかってくれないだろう。目標はそんなことを聞きたいんじゃなかったのに。
「じゃあ、次は僕だね。僕は知っての通り瑞希。ポジションはスモールフォワード。目標は……そうだなぁ。両親の家の仕事の繁盛かな? よろしくね」
「お、おい」
「あれなんか違った?」
なんで、こんなにみんな目標の意味を取り違えるのだ? いや、バスケ部に入部して目標を聞かせてくださいと言われているのになんだこれは!?
「私の番だな。私は平井まりか。センターをやっている。目標は3ミリ縮むことだ」
「なんで、縮むの!?」
勝手に自己紹介を始められるし、なんかまたよくわからない目標を言い出すし。
「なぜって? 身長高いキャラはその身長の高さにコンプレックスを持ってるものだろう。知らないのか?そして、私も例外ではない。それだけのこと。あと、3ミリ縮めば174センチ代なのに……」
もう、何? この部活はみんなしてバカなの?
「はぁ……。こんなにバカばかりですまない。私は佐藤伶。ポジションはパワーフォワード。夏までにとあるシリーズを読みきることを目標にしている」
「わかったよ。次」
めんどくさい。恭華はそう思った。なぜって、みんな、目標がそれにそれまくって、バカばかりですまないというセリフからやっと現れた味方かって少し期待したらこの結果だ。
そして、すぐに次にふったのだが……。
なかなか謎の少女Bは平井まりかの後ろから出てこようとしない。
仕方なく、恭華はまりかの後ろに回りこんでその少女の肩をガシッと掴んだ。掴んでしまった。
すると、謎の少女Cは顔を紅潮させるような青ざめたような複雑な顔色になって……。
「ひぃいいいいい」
力ない悲鳴をあげてその場に倒れこんでしまった。
その子が目を覚ますまでにそれほど時間はかからなかった。が、その間に恭華は瑞希からその子の説明を受けた。
まず、名前は神保ののか。ポジションはシューティングガード。性格は極度の恥ずかしがり屋らしい。
「シューティングガードって結構プレッシャーかかるだろ? シュート打つ時とか」
「まあ、そうだけど、あの子の強いところはそこなんだよ」
「?」
恥ずかしがり屋のののかがさらにプレッシャーなんかかけられて大丈夫なのか?と疑問に思った恭華。それに対しての答えがなんとも意外で。
「あれぇ?恭くんに、前私話しましたよぉ、ののかっちゃのこと」
ごめん。全く記憶にない。というか、理菜のニックネームのセンスはどうにかならないものかな?
ののかのすごいところ見せてやるからと言った瑞希は目を覚ましたばかりの瑞希にバスケットボールを持たせ、コートのスリーポイントラインの外に立たせた。
そこでシュートを構えるののか。足が震えていて、恭華に見られている今の状態じゃとてもシュートどころじゃなかった。
しかし、瑞希がののかに魔法の言葉をかけた途端、ののかは顔を真っ赤にし、「ひぃー」と短く叫んでボールを投げた。すると、そのシュートはまっすぐリングをめがけて飛んでいき、綺麗にリングの中に収まった。
え?その魔法の言葉がなんなのかって?それは
「このシュートを決めなかったら、恭華くんの前で服を全部脱がすよ」だ。
もちろん、そんなことはさせないのだが、ののかがシュート決めた後に軽くこちらにドヤ顔を見せたことから、彼女は本気にしたのだろう。そして、それでプレッシャーを感じ。それを感じつつもしっかりとシュートを決めた。
この時、何日か前に理菜とトランプをした時の会話を思い出した。
「多分、緊張感が足りないんですぅ。決めました! 私、一度負けるたびに一枚脱ぎます」
「おい、なんてこと言い出すんだ!」
「でも、こうゆうプレッシャーの中で強くなるお友達いますよぉ」
そのお友達がこの子のことだったんだろう。確かにこのののかの姿を見るとプレッシャーの中で強くなるというのは納得。ただ、プレッシャーのかけ方に恭華を使う必要があったのかと腑に落ちない部分もあった。
めんどくさいとか、不安とかそんな感情もあった。だが、楽しみとか、この5人と一緒にバスケがしたいとかそんな感情が大きく膨らんで、恭華の中のバスケを遠ざける感情が消え失せてしまっていた。そして、あの子に対する謝罪の気持ちさえ……。
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初めての伶
書いてる自分もじれったくなってきます!
それなのに、今回は伶の話。
前回は軽く、ののかの性格に触れたので今回が終われば、次回はきっとまりかの話になるでしょう
いや、ならないかもしれませんが……。
伶に関しての設定はそれなりに固まっているのですが、まりかは背が高いくらいの設定しかなくてw
もしかしたら、まりかの話はないかもしれませんね(笑)
まあ、この子は自分が書いてる中で固めていけたらいいかなって思います
で、今回は伶の話です。伶はちょっとおかしな行動をとってますよね。前々回でも、前回でも。それは何故なのか?
その謎が解決できる回だと思います。
それでは、長い前書きでしたがどうぞお楽しみください
佐藤伶という人物は無口な文学少女。たまにおかしな言動があるがそうゆう人だ。恭華が一週間、部活で彼女と触れ合って感じた印象。あまり、第一印象と変わらない。5人の中で一番謎が多い人物だった。
恭華は伶のことをもっと知りたいと思っていた。それは異性としてとかそんなのではなく、チームメイトとして。仲間のことを知りたいと思うことは当然だろう。
監督業に就任して一週間も経った。あの5人は普段は抜けていたり、ちょっと変わっていたりと変人だなって感じだけど部活になると一生懸命に汗を流した。そんな彼女たちの姿を見ている恭華の指導にも手探りではあるものの熱が入っていた。
そして、練習後のモップがけは恭華がする。監督という仕事をしてるからあまり汗をかかないので、何もしていないような気がして、一生懸命練習をしている彼女らに少しでも貢献できるようモップがけをしているのだ。……監督としてはまだまだだから。
ちなみにその間、部長さんはずっと体育倉庫のベッドの上で居眠り。その間というのは練習が始まってから恭華がモップをかけ終わるまで。
顧問の顔も見たことがない。この部活が成立してるのが不思議でたまらなかった。
さて、今日もいつも通りモップをかけ終えた恭華。帰るかと軽く伸びをしたあと、ふと体育倉庫の方を見ると人がいるような気配がした。いつもなら部長だなっと流すのだが、今日はそれはない。なんか、部活は補習に引っかかったらしい。
恭華はお化けなんて非科学的なものは信じない人。ずんずん体育倉庫の方に歩みを進め、その戸を開ける。
中には……倉庫の棚の中本をあさる伶の姿があった。なんで、ここの体育倉庫には本があるのだ? いや、ここはあの部長の休憩室だから仕方ないだろ。自問自答で疑問が解決すると目の前にいた人物に自分の注目が移る。
「伶、こんなところでなにやってるんだ?」
「!?」
驚いた表情だけ見せる伶。そこから、5秒ほど間が空いて
「本を探していた。私の好きな本があるのかを」
そうとだけ答える。恭華が伶に対して抱いていた疑問、それはこの5秒の間。伶と話すときはいつも、時間は違えど必ず会話の間に間が生まれるのだ。それは初めて喋った時もそう。もちろん、とっさに答えるときもある。その時はののかのように顔を変色させながらだが。
間を空ける理由。今まで恭華はこれが聞けなかった。でも、今なら二人きりだから、思い切って聞いてみようと思った。
「なあ、伶。なんでいっつも会話するときに間を空けるんだ?」
あまりにも直球だったか?伶も
「あ、え……それは……」
かなり戸惑っている。しかし、彼女は今までの中で一番長く時間をとってしっかり答えてくれた。
「ちょっと長くなるが、いいか?」
「ああ」
伶との会話で待たされるのは慣れている。おそらく長く話されても同じだろう。
「結論から言えば、私は人を傷つけるのが怖いからこれだけ返答に時間がかかる。私は言葉で人を傷つけて取り返しのつかないことをしてしまったとか、そんなことはない。だが、私はたくさんの言葉で傷つけられてきた。いわゆるいじめというやつだ。しかも、私は何もしてないのに、急にそうゆうグループの人たちから罵倒を浴びせられた。言葉にはこんなにも人を傷つける力があるのだと、私は自分の身をもって実感した。
その一方で私は、人を励ましたり、勇気付けたりする言葉にも出会った。それが小説だ。小説はいい。言葉は厳選された、正しいものだけが使われている。人を傷つけることがあってもその言葉には意味が宿っている。私を傷つけた言葉とは違う。それは作者が選び抜いた言葉。そんな言葉を選び抜くために私は時間をかける。人を傷つけないために。そして、その人のためになるようにだ。
私は人を傷つけてしまう言葉が許せないんだよ」
伶は……優しい女の子だ。それが今の恭華が抱いている印象。普段本を読んでいるのは自分が発する語彙を増やすためなのだろう。そして、その言葉の海に自分を泳がすため。伶にとって言葉とは最も憎むものであり、最も愛すべきもの。それは紙一重ですぐにどっちにでも変わりうる。だから、慎重に選ぶ。それが彼女の優しさ。
しかし、それでも恭華は納得しない。納得できない。
「よくわかったよ。でも、それは本当にお前の本心なのか?」
伶の話す言葉は本の中から引用してきたもので、伶の言葉では決してない。伶は本の中で学んだ言葉でしか話すことができなくなっている。
「僕は伶の本当の気持ちが知りたい。本当に今みたいな考えて考えて言葉を発するこの生活が楽しいのか? 本当の気持ちを話して欲しい。僕らはチームメイトだろ?」
自分はあることがあってチームメイトを裏切ってしまった。チームメイトに恨まれることは辛かった。だから、恭華は伶のことを裏切ってしまえないくらいに信じた。彼女が辛い思いをしないため、恭華自身も傷つかないため。
恭華の質問に伶が答えたのはすぐのことだった。
「……私は……何も気にせず話せる友達が欲しい」
搾り出すこともなく、純粋に本心を言った伶。伶の本心を理解したのなら、今度はそれに答えてあげる。それが友達だ。恭華は伶の両肩をガシッと掴んだ。
「なあ、友達ってさ。絶対にお互いを傷つけ合わない関係なのか? 違うだろ?本心を晒しあって、お互いにわかり合って時には傷つけあって、それでも仲直りしてまた笑いあって。それが友達だ。人を傷つけることを恐れてたら友達なんか作れないぞ」
「でも……」
「伶は理菜とか、瑞希とか、ののかとか、まりかのことは信頼できないのか? そんなことないだろう? それでも、まだ怖いなら僕が全部受け止めてやる。恐ろしい言葉だって全部受け止めて笑ってやる。だから、僕を友達にしてくれないか。伶のことをもっと知りたいんだ」
伶の顔がかあっと赤くなった。のだが、暗い体育倉庫の中なので恭華には見えなかった。
「じゃ、じゃあ……先週の自己紹介の時の目標をふざけたこと、うんざりしなかった? 理菜に恭くんならいいんですよぉ、そうゆうこと言ってもなんて言われたから言ったけど……」
「なんだ? あれのどこを気にする必要があるんだ? あの流れはぼけて正解だろ。むしろ、僕としては嬉しかったよ」
ここで見落としていたことが2つ。一つはなんだかんだ言って伶が理菜のことを信頼しているということ。そして、もう一つは……理菜の頭の回転がむちゃくちゃ早いことだ。まあ、二つ目はどうでもいいが。
伶はいきなり恭華に抱きついた。そして、恭華の胸で泣き始めた。
「私、人にもらった言葉で幸せだって思ったことはなかった。美しい言葉なんて小説の中にしかないって思ってた。でも、なんでこんなに私の胸はあったかいんだろう? なんでこんなに嬉しいんだろう? ねぇ、恭華くん」
「さあな」
普段のクールさからは考えられないくらいわんわん泣く伶。たぶん、これが本当の伶なんだろう。
さてさて、ここで体育倉庫の戸が開く。部員たちが恭華と伶を迎えに来たようだ。
「あれぇ? お二人熱々なんですねぇ」
「恭華くん、僕はふったくせにそんなことを体育倉庫でしてるんだね」
「破廉恥だ」
「ひいいい」
好き好きに罵倒を浴びせられる。なんか、本当に言葉って人を傷つけるものだな。
「ちょっと何を勘違いして……」
「強姦されるぅぅ!にげろぉぉ」
なんちゅうことを大声で叫んでるんだ。外に聞こえたらどうするんだよ。
そんな恭華の心配をよそに走り逃げてく四人。再び、恭華と伶の二人きりになった。
伶はすぅーと深呼吸して恭華にきいた。
「恭華くんは好きな人いるの?」
今度は恭華が少し間を空けて
「ああ」
とだけ答えた。
伶はこの言葉で傷ついたわけではない。なのになんでこんなに胸が痛むのだろう。いじめられてた時は全然違う、甘い切ない痛み。それが青春だって今はまだ気づかない伶であった。
これを書き終えて思った。
伶でも過去話を書けそうだな!なんて。
しかし、それはしばらく後にしましょう。
次回はどうしよう? まあ、何かしらを書きますよ←適当
それではまた次回まで。
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初めての中間テスト
もっともっといろんな人に触れていただけるように頑張って書いていきます
入学して一ヶ月と半くらい。今はテスト期間中で部活は休み。恭華はテスト勉強に勤しもうとしていた。
恭華の成績は中1と中2の時は上の中、中3の時は下の下。恭華は賢い友達に勉強を教えてもらうことで成績を上げていた。そして、まわりに誰もいなくなった中3から必然的に成績が下がった。と、言ってもこんなに下がるなんて思っていなかったのだが……。
つまり、賢い誰かに教えてもらわない限り、成績が危うい。そこで探す。頼りになる友達を。
だが、色々と都合が悪いことがある。まず、恭華に男友達がほとんどいない。なぜなら、入学初日の放課後にいきなり、美少女(笑)に声をかけられ手を引っ張られで、まわりからしたらリア充死すべしみたいなオーラを出されていたみたいだ。しかも、女バスの監督に就任してしまったものだからさらに近寄りがたくなったらしい。
そして、賢いだろうと頼りにしていた伶が欠席なのだ。あの日から少しずつ普通にしゃべることがてきるようになってきたのだが、その伶が風邪で休み。
仕方ない、他のバスケ部のメンバーに頼るか……。
まず、同じクラスの瑞希だ。まあ、ほとんどあてにならないが……。
「なあ、瑞希。勉強って……できるか?」
「うーん。できるできないで言ったらできない方だよ。でも、いいじゃん、恭華くんの近くに賢い人がいるんだから」
「え?」
伶のことだろうか? 確かにこの間の席替えで伶と偶然隣同士になってそのために近くに賢い人がいるなんて言い出したのだろうか?
「ねぇ、そんなことより、今日、僕と河川敷行かない? 2週間もバスケができないと思うとウズウズしちゃうんだよ」
「しねぇよ。さすがにテスト前だし」
「えぇー、残念。じゃあ、一人で行ってくるね」
特に残念に思ってる様子も見せずにカバンを持って走り去る瑞希。まあ、予想通りっちゃあ予想通りだ。この日は誰も捕まえることができなかった。
家に帰ってみるとまだ19時だというのにもう理菜は寝ていた。恭華は作り置きしてあった料理を口にし押入れの中に入った。
翌日の放課後、頼りになるやつを探しに行く。まあ、特に目的もなくぶらぶらしていた感じなのだが、案外すんなり知っている人は見つかった。
「お、まりか」
「あれ?監督。こんなところで何してるんだ?」
「いや、ちょっと勉強を教えてくれる人を探してて……。まりかは勉強できるか?」
「うーん、まずまずだな。まあ、理系科目なら得意だぞ。ほら、今流行りのリケジョだ」
「まじか? じゃあ、教えてくれないか?」
「え? いや、私、あんまり教えるとか得意じゃないんだが」
「それでもいいんだ」
なぜかって教えるの上手い下手に関わらず、如何してか賢い人に教えてもらっただけで成績上がるのだ。
「まあ、監督にはいつもバスケのことで世話になってるし、ちょっとくらいなら教えてやるよ」
「ありがとう」
交渉成立。
恭華とまりかは図書室へ向かった。一年の教室から図書室まではあっという間。特にしゃべることもなく図書室に着いた。
なんと、その図書室に理菜がいた。
「ないですねぇ。ないですねぇ」
理菜は何かを探しているようだった。
「おい、何してるんだ?」
本を探してるんだなんて答えられたらそれまでだけど。
「昨日、恭くんを待ちきれずに寝てしまったんでぇ、起きてられるように本を読むことにしたんですぅ」
「テスト期間中だろ?今」
「あ、それは大丈夫ですぅ」
何が大丈夫なんだろう。そんなことを聞く前に違う声がした。
「理菜、恭華が帰ってくるのを待ちきれなかったってどうゆうことだ?」
「え?」
「あ!?」
しまった。迂闊すぎた。できるだけばれたくなかったこと。理菜と恭華が一緒に暮らしていること。
「いや、えーとだなー」
「あ、私たち一緒に暮らしてるんですぅ」
「おい」
「いいじゃないですかぁ。バスケ部の人なら信用できますよぉ」
そうゆうものか……。
「って、まりか、意外がってないな」
「そりゃ、知ってたからな」
「おい」
ぽかっと理菜の頭を小突いた恭華。
「痛いですぅ」
「すまない、条件反射だ」
もちろん、そんな条件反射は存在しない。
「むぅー。まあ、今日は寝ないように頑張りますねぇ」
と、言って本を一冊手にとって去っていく。
「なんなんだ、あいつは?」
「まあ、昔からあんなやつだ」
ちなみに恭華の中で今一番よくわからないのは今目の前にいるまりかだ。本当に背が高いくらいの情報しかない。一ヶ月も一緒にバスケをしてだ。
だが、今日、勉強を教えてもらってわかった。教科は限られてくるものの相当教えるのがうまい。得意じゃないって言っていたのは謙遜だろう。
この日も家に帰ったら理菜は寝ていた。全くテスト期間中なのに余裕なやつだ。
その次の日、今度はののかを捕まえた。伶の風邪が長引いてるみたいでそれも心配だが、自分の心配もしなければいけない。
「……ひぃ……か……監督な……なんかようで……すか?」
息が絶え絶えですごく苦しそうにしゃべるののか。さすがに申し訳なくなったので軽く用件を伝え、やっぱ無理だよなと断ってその場を去ろうとした。
すると服の腰の部分を軽くつまんで引っ張られた。
「……ちょ……ちょっと……だけなら……いいよ」
なんか、ものすごく苦しそうだし、顔も赤くなってるしでなんか、申し訳ない気持ちが膨らんできた。でも、好意に甘えないのもそれはそれで申し訳ない。ののかなりに勇気を振り絞ってくれたのならそれに答えなければ。
「じゃあ、ちょっとだけ、お願いできるか?」
「……う……ん」
恭華とののかは図書室にむかう。で、図書室で勉強を教えてもらったのだが……。今回の教科も理系科目。昨日と重複だったが復習になってよかった気がする。それにあの恥ずかしがり屋のののかが自分のために勇気を出して教えてくれたのが何より嬉しかった。
言うまでもないがこの日も理菜は寝ていた。
さて、次の日。テスト前の最後の金曜日。この日に望みの綱の伶がきた。なんという天使が降り立ったような気分だった。
「伶! 勉強を教えてくれ!」
速攻で隣の席の伶に駆け寄った放課後。
「……え?」
急すぎたのか顔が赤くして戸惑っている。
「あのー、私、テスト勉強を教えてと言われても教科書を全部覚えるだけなんだけど……」
こうして、最後の望みの綱は案外すんなりと断たれてしまった。
仕方なく一人で図書室で勉強してから帰ると理菜はゲームをしていた。
「今日は寝なかったんですよぉ。偉いでしょ?」
「はいはい、偉い偉い」
なんか、余裕があるよなこいつ。テストは本当に大丈夫なんだろうか。とりあえず、二人で夕食を済ませ押入れに入って少し復習をした。
次の日もその次の日もののかとまりかに教えてもらったことの復習ばかりを繰り返した。
さて、テストが終了して最初の月曜日。いきなり順位が発表された。荒涼高校では貼り出しなどはされず、一人一人に個票が渡されそこで順位を確認する。
恭華の順位は280人中150位と微妙な感じ。さて、部活にきたやつから順に聴いていこう。
最初に来たのは瑞希。こいつは僕より絶対にしただろうと恭華は完全に見下していた。なのに結果は146位。微妙に負けた。あの時の瑞希のドヤ顔がものすごく恭華をイライラさせた。
次に来たのはののか。いきなり恭華に話しかけられたののかは怯えながらも個票を手渡してきた。そこに書かれていた数字は42位。まあ、そのくらいの点数を取りそうな雰囲気はあったし、そんなものだろう。
その次はまりか。どんなもんだと自慢するように見せてきた順位は76位で、確かに恭華からすれば素晴らしい成績なのだが、42位を見せられた後だとな。という、微妙な表情を見せるとまりかはプイっとそっぽを向いてしまった。
そんでその後に現れたのは伶だった。伶は何も言わず個票を見せてくれた。そこには5位という堂々たる成績が刻まれていた。さすがだなと思うと同時にこの伶よりも上がいるのかと思うと恐ろしかった。
そして、最後は理菜。理菜はテスト期間中、ずっと寝ていたのでそこまで成績は高くないだろう。唯一恭華が勝てる相手かもしれない。バスケ部最下位はどうしても避けたかった。そんな思いから理菜の姿が現れた瞬間に恭華は聞いた。
「お前、何位だったんだ?」
「もう、その呼び方はやめてくださいですぅ。一位でしたぁ。今度からは理菜ちゃんでお願いしますぅ」
「は? 今なんて?」
「だからぁ、理菜ちゃんと呼んでくださいですぅって」
「そこじゃねぇよ!」
恭華は自分の耳を疑った。その意を察したのか、理菜はカバンの中から個票を引っ張り出してきた。そこに書かれている文字は間違いなく1。今度は目を疑った。だが、その目をこすっても細めてみても変わることはなく1。
戸惑ってる恭華に瑞希が近づいてきて
「だから、言ったじゃん。近くに賢い人がいるって」
なるほど、それは伶のことではなかったのか。恭華は自分がバスケ部最下位だった悔しさと目の前に学年一位がいる恐ろしさに震えていた。
そこに部長がやってきて
「聞いてくれ。私、過去最高の254位を取ったんだ」
こうして、恭華はバスケ部最下位という汚名をかぶせられずに済んだのだった。
理菜は実は頭がいい。
そして、部長はバカ。そんな感じの話でした。
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初めての公式戦
つまり、散々伏線を張ってきたあれをとうとう登場させようかなっという感じです。
まあ、どうなるかは正直、作者にもわかりません!
では、楽しんでくれたら幸いです。
中間テストからさらに一ヶ月。初めての大会がすぐそこまで迫っていた。恭華の目から見たら正直このチームは相当なレベルまで上がることができる。それほどバランスの良いものだった。
理菜は普段のふわふわとしたイメージとは対照的な頭の回転と体力を武器に見事にコート内でチームをまとめ上げている。
瑞希はとにかく速い。ドライブにしろ、シュートにしろ素早く動き、うちのチームの選手は誰もそれに追いつくことができない。
まりかは正直、本人がそれをコンプレックスと思っているのだったら悪いが、身長が何よりの武器だ。さらにそれに加えてゴール下で競り負けないパワーを持っている。
伶は瞬時の判断力がある。持ち前の賢さとあれだけ間を空けなければ話せないのが嘘のような正確な判断が司令塔の理菜を支えている。
ののかはスリーの決定率が高い。恭華としても参考にしたいくらいのシュート率で、ここぞという時にはチームの最大の得点源になる。
もし、このチームが負けるようなことがあればそれは……。
次の日が大会と迫った直前の金曜。理菜と恭華は明日のことを話し合っていた。
「明日の私の活躍をしっかりみといてくださいねぇ」
「本当にこんな感じのやつがガードなのかと思うとなんかびっくりだよな」
「それは褒めてるんですかぁ?貶してるんですかぁ?」
「どっちもだな」
「そうですかぁ。みんな一生懸命やってくれてますし、負けることなんてないですよねぇ」
「僕も信じてるよ、君たちを」
「ありがとうございますぅ」
みんなでここまで一緒に頑張ってきたんだ。負けたくない! 負けるわけがない。僕らが負けるということ、それは……。恭華自身の監督としてのスキルが及ばなかった時だけだ。そんなことを勝手に考えていた。
日が変わって次の日。全員、第一試合の始まる2時間前に集まった。一人を除いてみんな緊張した雰囲気が出ていない。まあ、一人、ものすごく青ざめて俯いている人物がいる。
「おい、あいつ大丈夫なのか?」
「中学の時からああでしたからぁ。大丈夫ですよぉ。やってくれますよぉ」
心配そうに恭華がののかのことを見ているのは完全にみんなが気付いていた。気付いてはいたが、大丈夫だとみんながそう言うのだ。まあ、信じてみよう。今まで自分たちが積み上げてきたものを。そして、ののかのことを。
「私たちの試合は9時からですねぇ。ユニフォームはもう下に着てきてますし、私たちの前に試合はないのでコートに入ってアップしていいんですかぁ?」
「ああ、部長がそう言ってたし」
部長からの指示をみんなに伝える。というか、理菜がしっかりしていたおかげで伝え忘れてたことを思い出した。
「それにしてもうちの顧問って誰なんだ?」
すると、本を読んでいた伶がパタンとそれを閉じ。
「うちの顧問は私たちの担任だ。知らなかったのか?」
知らなかった。ここ2ヶ月全く顔を出してこなかったから。
「じゃあ、荷物を置いて軽くストレッチをしてからシューティングでいいかな?」
「はい、それでいいと思いますぅ」
青ざめているののかが心配だけど、ずっとそれを気にしてるわけにもいかないし、次の行動の指示を与えた。
試合までの2時間なんてあっという間に過ぎた。アップも基本から練習でやってきたことの復習までしっかりできた。理菜のおかげでしまった練習になる。理菜が真面目で力強くみんなを引っ張っていってくれるから、恭華が安心してその背中を押すことができる。
「じゃあ、スタメンは……って言う必要はないか。いつも通りのプレーが出来れば勝てるから、気合い入れていこう」
「はいですぅ」と理菜
「わかったよ」と瑞希
「おう」とまりか
「了解」と伶
「ひぃ」とののか
やっぱり不安は残る。ののかのことが。
しかし、そのまま試合が始まった。
バスケの試合はジャンプボールから始まる。案外あっさりマイボールから始まった。それだけまりかの身長が高い。こんな風に本人に言ったら怒られるだろう。
ののかはまだガクガクしている。生まれたての子鹿状態だ。しかし、そんなののかに理菜がボールを投げながら
「これを決めなかったら恭くんの前で全裸の刑ですぅ」
と言った。ものすごい怯えてるののか。しかし、その表情はしっかりとリングを見据えていた。涙まで浮かべているそんな力ない表情で。
そして、ののかは
「ひぃいいいいいい」
ものすごい悲鳴をあげながらシュートを放った。ガクガクしていたののかのことなんかほっとけばいいと敵のチームの人は思ったのだろう。それは恭華も含めて思ったこと。そして、それのせいで完全に裏を突かれて、いきなりの3点シュート。
そこからは完全にこっちの流れ。理菜のゲームメイクが絶妙すぎて自分の存在意義さえ疑ってしまう恭華。それでも安定しているこの試合を見ているのは楽しかった。自分が監督としてベンチに座れたことが光栄だ。
この後の試合も順調に勝つことができ、本日の試合は全勝で終わった。そして、自分たちの本日最後の試合を見終わった後、次の試合が明日の相手の試合だということでそれを見ようということになった。
恭華たちはベンチを片付け、とりとめのないような会話をしながら荷物の置いてある観客席の方へ向かっていった。
ベンチから下がっていっていると次の試合、つまり明日の相手となりうるチームとすれ違った。別に普通のことだし会話をやめることもなくその場を去ろうとしたのだが……。
「恭……くん?」
その刹那、恭華の背中は凍った。2ヶ月も忘れていてしまった恐怖に襲われた。自分のことを恭くんと呼ぶ人なんて理菜とあと一人しかいない。そして、そのあと一人が僕の名前を呼んだ……。
恐ろしくて体が動かなかった恭華はその声に背を向けたまま、聞き返した。
「由架……なのか?」
もちろん、確信はあった。しかし、それでもそれしか言葉が出てこなかった。
「そうだよ」
なんで、せめてこないんだ。悪いのは全部、僕なのに。恭華は自分を責め続けた。過去の自分の罪とあとはその罪を忘れていた今の自分を責めた。だから、だからこそ罵倒して欲しかった。貶して欲しかった。それで未練がなくなるから。それなのに……
「明日、絶対試合をしようね。私たち絶対勝つから」
全く責めようとしない。それが逆に恭華の首を絞めてるようで苦しかった。
恭華たちはその後、次の試合の相手が決まる試合を見ていたのだが、全くもって集中することができなかった。この時の理菜の恭華を心配する表情も瑞希の悔しそうな苦しそうな表情も恭華は気づくことができなかった。
結局、由架は勝ち残った。つまり、明日の試合の相手は由架たちのチーム。そのことが恭華はさらに苦しくて……。
家に帰ってからも何も喉を通らず、一睡もできなかった恭華。体はクタクタなのに、今日の出来事を考えるだけで寒気がして全く眠りにつけない。
そんな状態のまま、翌日の朝を、由架たちと戦う朝を迎えた。
「恭くん、朝ですよぉ」
理菜に恭くんと呼ばれることも昨日の出来事を思い出してしまって怖い。
「ちょっと寒気がする。熱があるみたいだ。気分が悪い。先に行っててくれ」
言い訳のような仮病を並べて現状から逃げた。頭の切れる理菜がなんて言ってくるか不安だったが。
「逃げるのは1回だけですからねぇ」
そうとだけ言って部屋を出て行った。
恭華は理菜の言葉で自分が逃げているのだと実感することができた。全部、過去のせいにして。
そして、今のこの押入れで一人怯えている状態を虚しく感じた。
由架ちゃん登場yeah!!
やっと出せました。まあ、ちょっとセリフがあっただけだけど……。
こうなってくると次回、もしくはその次くらいで第1章(仮)完結といけますでしょうか?
もうちょい加筆とか出来れば第1章までで文庫本くらいの文字数いけそうな気もするけど、まあ、それはそれで……。
このまま物語はクライマックスです!
是非次回も楽しんでください!
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初めての昔話 恭華編
いやー、もうクライマックスですねぇー。
って、かなり前からそれ言ってるじゃないですか!! もう、これはあれですね。クライマックス詐欺ですね。
私を訴えてみてください! 多分、裁判にすらなりません!
まあ、くだらないことはこれくらいにして……
自分の頭の中ではストーリーは完成しています!
そして、この第1章(仮)のあとの話も少しずつ完成してきてる感じです。
それはさておき、今回はいよいよ恭華の過去。バスケを遠ざけていた理由を書いてみようと思います!
最後までお楽しみいただけたら幸いです
あー、長くなる気がするー。長い戦いが始まるー。
理菜が家を出ていってしばらく経っても恭華は押入れから出ることができなかった。
理菜たちの試合も気になった。もう、試合の開始予定時間の5分前。恭華の手の中にある携帯はそう記していた。でも、それを気にすることさえ、正確には自分が何かしらの形でバスケに向き合うこと自体が罪であるように感じられた。
もともとの罪なんてそんなに大きなことではない。始まりはただの事故。しかし、それに嘘を重ねたり、自分を責め続けたことで、それは大きなものになって恭華を潰していた。
苦しい、辛い、そんな感情がバスケのことを考えるたび、由架のことを思うたび増幅してそれがまた罪の意識へとつながる。
悪い悪循環の中で恭華はもがいた。
監督として試合を見に行くべきだーーそれなのに足は動かない。
しっかりと由架にあの日のことを詫びるべきだーーそれなのに……。
本当は恭華は知っていた……。こんなに狭い押入れから一歩も踏み出せない理由を……。
しばらく眠っていたのだろうか? もう、時間は夕刻。試合なんてとうの昔に終わっている。
恭華のモヤモヤした気持ちとは裏腹に、皮肉なほど心地よい眠りにつけた。眠っている間に人は脳の整理をするなんて聞いたことがある。きっとそのおかげだろう。
しかし、その整理された脳がすぐ乱れるのもなんとなく予想がついた。
このままここにいても仕方がないと動き出そうとすると今朝とは比べ物にならないくらいすんなり足が動いてくれた。
やはり、少し脳が落ち着いているのだろう。軽く伸びをして戸を開けようとした瞬間。その戸は向こう側から開かれた。
「きょ……。起きてたんですねぇ。もう、ご飯できてますよぉ。一緒に食べましょう」
恭華は抵抗もせず、押入れから出て驚いた。そこに置かれていたのは恭華の好物。詳しく言うと唐揚げにオムライス。
恭華は無言でテーブルの前に座り、箸を進めた。腹が立った時は食うんだ。頭がすっきりした今ならわかる、なんで腹が立っているのかは。
理菜の料理は以前も言ったように絶品だ。唐揚げは当然、外はカリッと中はジューシーでしっかりとした味がつけ込まれている。それなのに脂っこいわけではなくグングン箸が進む。
オムライスの方のケチャップライスはなんと具は玉ねぎだけ。初めて恭華が見たときも驚いたものだ。それでも、パラパラとしたご飯が一粒一粒しっかりと味わうことができ、玉ねぎと米の本来の甘さに加え、ふんわりとした卵がそれを包み込み、舌に滑らかに絡みこむ。
と、食レポはこの辺にしておこう。美味しいものを食べていると悩みがふっと消えてしまう瞬間がある。そのタイミングで恭華は気になっていたことを聞いた。
「今日の試合、どうだったんだ」
すると、正面に座っていた理菜はピタッと箸を止め、恭華の目を見つめて言った。
「そんなことより、恭くん。私は今朝、逃げるのは一回だけと言ったよね。でも、何から逃げてたなんて私にはわからない。だから、私に話してくれない?」
普段の理菜の口調じゃない。この理菜の真剣な態度は初めてじゃない。あれは会って二日目のことだった。あの日もこんな感じだった。
恭華は俯いた。過去を話すことは自分の罪を更に深める気がして。
「恭くんは伶ちゃんの話を真剣に聞いてあげたんだよね?」
なんでそれを……。伶が話すとは思えない。
「伶ちゃん、恭くんと二人きりで体育倉庫にいた日から少し変わったんだよ。笑うことが増えた。怒ることが増えた。そう考えると恭くんが伶ちゃんを支えてくれたんだよね。受け止めてあげたんだよね」
さすが、理菜だ。どうやら全てお見通しということらしい。
「今度は私が恭くんのこと、受け止めるよ。だから、怖がらないで、話してくれないかな?」
理菜のその声は力強く優しかった。
「恭くん、初めて会ったときと同じ、悲しい顔をしてるよ」
本当にあの時と同じ、不安と恐怖を抱えている。でも、あの時のような暖かい風はない。ううん、違う。今、目の前にそれより強い力で背中を押してくれる人がいる。
だから、恭華は自分の罪を話す。理菜のことを信じて。
僕は小学生の時からバスケを始めて中学の春まで、それを続けた。
好きこそ物の上手なれなんてよく言ったものだ。僕はバスケが大好きでぐんぐん上手くなっていた。中学2年の頃に県の選抜にも選ばれた。もう、順風満帆って感じだ。
でも、そんな中でもたまには辛いこともあった。その時に支えてくれたのが由架。
由架との付き合いは小学生の頃から。瑞希と3人でよく遊んでたよ。最初に由架に話しかけたのは僕。瑞希と2人で河川敷でバスケをしていたら由架は悲しそうな瞳をこちらに向けていたよ。
よく考えてみると今の僕みたいな表情かな? そう考えると僕らは似ていたのかもしれない。だから、僕は由架に惹かれた。彼女は僕のシュートを真似してすぐに習得したんだ。自分と同じシュートが打てる人間、親近感がすごく湧いた。そこからも好きという感情が育った。
瑞希が転校してからもよく由架とはバスケをした。中学に入ってもそれは変わらなかったんだけど……。
僕、自分で言うのもなんだけど選抜に選ばれるような選手だったから、顧問も力入っちゃってさ。3年になってから中々河川敷に顔を出すことができなくなってきたんだ。
だから、僕は約束した。由架にこう言ったんだ。
「夏に県大会がすぐそこの市民体育館であるんだ。だから、それを見に来てくれないか。で、その大会が終わった後でこの河川敷に来てくれ。由架に伝えたいことがあるんだ」
伝えたいことなんて当然告白。僕は当然、県大会で優勝してかっこよく告白するつもりだった。ただ、この段階でもミスがあった。自分の通っている学校を教えていなかったこと。それが大きなミス。
夏の大会の前、5月の中旬ごろに同地区のチームだけが参加する小さな大会があった。その大会で僕は怪我をした。ただの骨折。全治3週間程度。
でも、その3週間で試合の勘が鈍ったらどうしようとか、もし、スタメンから外れたらどうしようとか変な気持ちが渦巻いちゃってね。その時はその時だけの気持ちでチームメイトに告げたんだ。夏の大会には……間に合わないって。
僕は逃げたんだ。不安から。それで僕らの中学は夏の県大会は地区予選敗退。もちろん、僕は試合になんか出ていない。チームにさえ参加していない。
そんな僕に由架と会う資格なんてないだろう? 僕は河川敷にも行けなかった。そして、学校では旧チームメイトに責められたよ。お前のせいで負けたんだって。どうやら、怪我がそんなにひどくないこともバレてたみたい。
それで、僕は独りになった。僕からバスケを取ったら何も残らなかったんだ。でも、何よりも辛かったことは由架を裏切ってしまったこと。そして、それが今でも僕を苦しめるんだ。
「それで、今も由架ちゃんから逃げてるってこと?」
理菜の口調はかわらない。全てを受け止めてくれた上で理菜はそう切り出した。
「僕は由架を裏切った。だから……」
「そうじゃない! なんで、由架ちゃんから距離を置き続けなきゃいけないの?」
「だって、僕は……最低な人間だから」
「……恭くんって馬鹿だよね……。自分が弱いだけってわかってるのに……認めないんだよね」
ストレートに言われて気づく。いや、本当は最初からわかっていた。僕は弱いんだって。弱いから言い訳を並べるんだ。弱いから逃げたんだ。なのに、それを認めない自分がいた。
「一人で勝手に背負いこんじゃってさ」
確かに責められた経験はある。でも、それは由架からじゃない。
「確かに恭くんは不安に押しつぶされそうになったかもしれない。それでも、心を支えてくれていた、大切な人から逃げる理由はこの話のどこにもなかったよ」
……うん、その通りだ。自分が勝手に罪だと思い込んで勝手に逃げて、そんな自分は……弱いんだ。
「恭くん。由架ちゃんに謝ろう。由架ちゃん言ってたよ。恭くんがこっちを見てくれなかったって。とうの本人目の前にして逃げるなんて、恭くんも酷いよ」
柔らかく諭すような声に恭華は救われた。弱いくせにずっと一人だった自分。弱いのに自分を支えてくれる人にもすがれなかった。そんな恭華の心はもう限界だった。涙が頬を伝っていることがわかった。
「……由架に会いたい。会って、しっかりごめんって言いたい。それで、僕の気持ちを伝えたい」
涙とともにボロボロとこぼれ落ちる本心。その一つ一つをしっかりと理菜はすくい上げてくれた。
「やっと、本心を見せてくれましたねぇ。じゃあ、思い立ったが吉日ですぅ」
といって携帯を取り出し、どこかにメールを送った。
「ちなみに、私たち、今日の試合負けたですぅ。由架ちゃんたちもその次の試合で負けちゃってぇ……。だから、私たち、明日暇なんですよぉ。だから、練習試合、もといリベンジマッチをすることにしたんですよぉ」
いつもの口調に戻った理菜。やっぱこっちの方がしっくりくるな。
「で、もうちょいわかりやすく言うと」
涙をぬぐって半分笑いながら恭華は聞いた。
「明日、由架ちゃんたちと一緒にバスケをするですぅ!」
「おう!」
恭華は理菜に昔の話をしてよかったと思った。ずっと一人だった恭華にとって理菜は自分支えてくれる掛け替えのない存在。家族のような……そんな存在。
初めての二人暮らしは恭華に理菜という大切な存在に巡り会わせてくれた。
タイトル回収です!!
いやー、この作品でまさかタイトル回収ができるとは……。
そして、長かった第1章もいよいよ終わりますよ。
そしてそして、第2章。サブタイトル(仮)はこんな感じです
「夏の合同合宿大作戦!」
さらに、これは読者のこれからの増え方にもよるんですが、由架ちゃんサイドの設定も考えてますので、スピンオフとして由架ちゃん主人公の話も書けたらなって思います!
それでは、また次回!
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初めて通い合ったココロ
日をまたいで次の日。僕とバスケ部のメンバーは荒涼高校に集まっていた。
恭華は昨日のことをみんなに謝った。もちろん、昨日、恭華が理菜に話したことも全部話した。みんなに何を言われるのか、ちょっと不安だったけど。
「やっぱ、僕の思った通りだったね」と瑞希
「そんなこと気にすんな」とまりか
「監督もそんなところあったんだ」と伶
「……」とののか
ののかはなにも言ってないじゃんって思われるかもしれないけど、でも、目を見てしっかりわかる。この子が何を言いたいかなんて。
そのあと、みんなで微笑みを交わし合った。みんなは恭華のことをしっかり理解してくれたらしい。そして、今日集まった意味も。
と、そこへ複数人の足音が聞こえてきた。
「おぉ、やっときましたねぇ」
そういう理菜が見つめる先には人が7〜8人くらい立っていた。
「あれ? 奏徳ってメンバー、ちょうど5人って言ってなかったっけ?」
恭華は疑問に思ったことを口に出した。ちなみに奏徳というのは、正確には私立奏徳女子高等学校で、由架の通ってる高校。実は中高一貫だったりとかする。
「あー、彼女たちのマネーシャーですぅ。なんか、生徒会がサポートしてくれてるらしいですぅ」
へぇ、変わった学校だな。そう思った。
「で、恭くん、心の準備はできてますかぁ?」
「ある程度は出来てるつもりだ」
奏徳のメンバーは8人であるてきて、まずは横一列に並んだ。
「本日はこのような練習試合を開いていただきありがとうございます」
そういったのは由架だった。いつも、一緒に練習していた時の由架と態度が違ったので少し驚いた。
しかし、その驚きから来た緊張も、理菜のところに歩いてきて、本当にありがとね。とボソッとつぶやいた様子を見たとき、スッと消えた。
そして、由架はその足で恭華の前に立った。恭華と由架はしばらく無言で見つめ合っていた。
恭華はこの時、緊張ももちろんしていたが、それよりも由架の可愛さにときめいていた。そりゃ、小学生の時から好きな人だったが、改めて見てみると綺麗になったなと感じる。
由架は緊張した表情を少し緩めニコッとして
「今日は楽しもうね」
その一言だけ告げた。そして、荷物を置くために引かれていたビニールシートまで向かっていった。
でも、恭華には言わなければならないことがある。それは当然、自分の罪のこと。いや、もう罪だなんて言わないけど。それでも、謝らなきゃいけない。
「由架!」
「恭くん!」
2人の声は重なった。パッと見ると由架はこちらを振り返っていた。
「ごめんなさい!……え?」
「ごめんなさい!……え?」
その謝罪の声も重なって、さらに驚きの声さえハモった。
「仲良しさんですねぇ」
理菜がいう。
「でも、なんで二人とも謝ってるんですかぁ?」
理菜の疑問はもっともだ。
「僕は……」
恭華はあのことを全部話した。そして、謝った理由は河川敷に来れなくてごめんなさいということだった。
で、由架はというと、謝った理由は恭華と同じ。河川敷に来れなかったことだ。
由架が言うには恭華との約束の後、たまたま通りかかった体育館で恭華たちの中学が試合をしているのを見つけたらしい。
その試合というのが、恭華が怪我したという試合。由架は怖くなったらしい。怪我をして痛がっている恭華を見て怖くなって辛くなって逃げたらしい。
それで勝手に私が試合見に来たせいで怪我をしたんだって思い込んで。だから、怖くて河川敷に行けなかったそうだ。
「え?それって別に由架ちゃん悪くないですぅ」
理菜がいう。
「てか、似た者同士だったんだな」
似た者同士。そうなのか。そうだったのか。
「二人とも勝手に自分を責めて勝手に落ち込んでたんですねぇ」
そうだな。正直言って、恭華の場合もお互いにとってはそれほどの影響のあることではなかったはずだ。それなのにお互いに背負い込んで。
「あはは、おかしなものだね」
由架は笑いながらそう言った。
「でも……ごめんね。それで、ありがと」
「こちらこそ」
恭華は一応答えたが、ありがとうと言われた理由がわからなかった。
その1時間後くらい試合の準備は整ったのだが。
「こっちメンバー一人足りないんだよ。審判とかは先輩たちにしてもらうけど」
「それなら、ぼ……」
名乗り出ようとした恭華の横からひょこっと理菜が現れて。
「私が入るですぅ。いない子ってちょうどポイントガードですよねぇ」
「うん、ありがと」
それで、チームもようやく決まって、すべての問題が解決した。
恭華はまだまだ理菜と話したいことがあった。だから、試合で全部伝えたいと考えた。
だから……!
試合が始まってすぐ恭華にボールが渡った。そこに対面したのは由架。完全に一対一の形。僕はすぐシュート体制に入った。恭華は由架に伝えたいことを全部シュート込めた。
由架も何本もシュートを撃ってきた。そのすべてに言いたい気持ちが込められてるのがわかった。
恭華にはいろいろ言いたいことがあった。
ーーあの日の約束を破ってごめんな
ーー一緒にバスケできなくてごめんな
ーーまた、一緒にバスケできて嬉しいよ
ーーまた、これからも一緒にバスケをしていたいよ
そして……
「由架、僕、お前のことが好きだ!!」
…………。
場に沈黙が流れる。え?今の声に出てた? 全部シュートに込めただけで声には出してないつもりだった。
由架は顔を真っ赤にして走って体育館から出て行った。
「……やっちゃったかな?」
やばい、嫌われたかな。そう恭華は思ってしまった。口には出さずに秘めて置くつもりだったのに。
「いや、そんなことないと思うですぅ。由架ちゃん、ちょっと嬉しそうでしたよぉ」
「そうか、良かったのか」
「そうですよぉ。由架ちゃん喜んでくれてると思いますよぉ」
告白なんて勢いに任せないとできないだろう。それなら今できてよかったのかもしれない。それで、、由架が喜んでくれたのならなおさら……。
「なんか、試合終わっちゃいましたねぇ。わざわざ誘ったのに恭くんが余計なことをしたせいですみません」
おい、僕のせいにしないでくれ! 恭華が言う前に奏徳のメンバーの一人が答えた。
「いいよ。私も4月からの付き合いだけど、あんなに魂動いた顔してた由架は初めて見たよ。私もあんな由架を見ることができて嬉しかった」
由架のチームメイトからも、客観的に見ても自分の行動に間違いがなかったと肯定してもらえた気がした。
結局、その日は由架と顔をあわせることはなかった。理菜と恭華は一緒に帰った。
「由架ちゃんって昔からあんな感じだったんですかぁ?」
「告白とかしたことないからわかんないよ」
「そうですよねぇ。まず、恭くんって告白とかする柄じゃないですよねぇ。今日はどうしたんですかぁ?」
「どうもしてないよ。ただ、気持ちが溢れちゃっただけだ」
「恭くんっていろんなことに真剣に向き合うんですねぇ。由架ちゃんのことも伶ちゃんのこともものすごく真剣に向き合ってましたねぇ」
「そうなのかな」
「そうですよぉ。で、由架ちゃん、恭くんとそっくりですからきっと由架ちゃんも恭くんのことを真剣に考えてくれてるはずですぅ」
「そうか……そうだな!」
理菜はしっかりと人を見てその人の態度とかで性格や悩みのようなものを一瞬で見抜いてしまう。そんな理菜が由架のことをそうゆう人物だというのであれば間違い無いのだろう。
アパートに着くと美鈴が待ち構えていた。
「お、そういえばお前らの隣の部屋のリフォームが終わってな。来週から新しいお隣さんが来るぞ」
らしい。恭華はトラウマを引きずったままここに越してきた。それは周りの環境を変えるためだ。でも、今は中身も変わった。そして、今度はまた新たな変化が訪れる。お隣さんのこともそうだし、由架のことだって……。
そんな、これからの新しい日々にわくわくせずにはいられない。
恭華はワクワクした気持ちのまま、飛び出した。
「ちょっと走ってくる!」
恭華は今まで過去にとらわれていた。そんな恭華が自らを解き放ちまるで未来にかけていくように走り出した。それは新たなステップの始まりだった。
うーん、まとまった気がしないですが。
第1章はこれにて完とさせていただきます。
続きまして第2章を始めていきたいのですが……。
ちょうど現実でも夏。それに合わせる形で夏の話をしていきたいです。
次回のタイトルはズバリ! 初めてのお隣さんでいきます!
楽しみにしててください
ではでは
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第2章 真夏の合宿編
初めてのお隣さん
ここからは夏休みの話。夏といえば?? そう!ポケモン!ってなんでやねん!
海、山、花火、祭り。いろいろ楽しい時期で皆さんもこれから迎える時期だと思います。
私としては受験勉強の合間に息抜きで書いてる小説でその夏を恭華くんや理菜ちゃんたちと楽しめたらいいなと思っています。
また、第1章では触れることのできなかったキャラクターを深掘りしてみたり、またまた新キャラを登場させたりして楽しい展開にできたらいいなと思います。
さて、第1章のような大きな筋もなく書いていくのでうまくいくのか……。
では、お楽しみください!
恭華と理菜は玄関の前でその時を今か今かと待っていた。
時は夏休み。そして、恭華のトラウマが消えてから一週間経った。
今日はこのボロアパートの一大イベントの日なのだ。2人にとっての初めてのお隣さんができる。しかも、JKでさらに同じ年齢だとか。通っている高校は違うけれどここから近いところにあるみたいだし、仲良くなれたらいいなぁっと二人とも思っていた。
そして、お隣さんが来ると聞かされた日、理菜が提案したのだった。
「せっかくの初めてのお隣さんですぅ。仲良くなりたいので、歓迎パーティーでもしちゃうですぅ」
「そうだな」
お隣さんと仲良くなりたいというのは2人の共通の意思。恭華も否定する理由が一つもなかったのですんなり頷いた。
「じゃあ、敷地の入り口のところを軽く飾り付けて『ボロアパートへようこそ』みたいな看板をたてるか?」
「チッチッチ。恭くんは甘いですねぇ」
かなり自信があった作戦だったのですぐさまバカにされてちょっと腹が立った恭華。しかし、理菜の頭の良さ、回転の速さを恭華はよく理解しているので、理菜の意見にはしっかり耳を傾ける。
「ここは落として上げる作戦ですぅ。初めての一人暮らしで怯えている中、自分が暮らすはずの家に行ってみれば、誰の雰囲気もしない廃れたアパートしかないですぅ。そして、自分が指定された部屋にあらかじめ渡されていた鍵を差し込むときぃぃと嫌な音を立てて開く玄関。今にも逃げ出したい気持ちをこらえ、一歩中に入ると……。みしぃぃと床が音を立てるのですぅ。それでも恐怖をぐっと噛み締め歩いて行くと足を踏み出すごとにミシリミシリ」
「おい、どこのホラーだよ」
そんな恭華のツッコミはことごとくスルーされ
「そして、人の気配などしていなかったはずなのにどこからかヒソヒソと喋っている声が……。怖くなって恐る恐る隣の101に挨拶用の品物を持って行くのですぅ。震える指で101のチャイムを鳴らすと……」
「おい、挨拶用の品物ってなんだよ」
恭華のツッコミはまたしてもスルー
「パァァァン。玄関が開いていきなり爆発音がするのですぅ。そして、中にいた知らない人物二人からボロアパートへようこそ!と歓迎されるのですぅ」
「いや、おかしいだろ」
「何がですかぁ? 怖さを増幅するためにこのアパートのことを酷く盛りすぎたことですかぁ?」
「それもそうだけど! てか、第一なんで怖さを増す必要があったの?」
「それは私の腕ですぅ」
「はぁ?」
わけわからないことをいう理菜。今はこいつが頭がいいことが信じられない。
「とにかくですねぇ。お隣さんには挨拶の品を持って挨拶に来るはずですぅ。言うならばその品物がパーティーの参加券ですぅ。それがないとこの部屋に入れないですぅ」
もう、理菜が自分の世界に入っちゃった。こうなったら、恭華は止めることができない。
「て、それは冗談ですよぉ。クラッカーでパァンと驚かせて中でパーティーって流れですぅ」
「うん、それだけならそれでいいと思う」
うん、それだけなら。それ以外のことで理菜が勝手に自分の世界に入り込んで実行しようとしたら全力で阻止するけど。
「わかったですぅ! じゃあ、料理は私に任せてくださいですぅ。あー、楽しみですねぇ」
ワクワクしたようにいう理菜。恭華も少しワクワクしていた。実は一人で理菜の相手をすることに少し疲れている自分もいたりした。
そして、冒頭に戻る。クラッカーを手に握りしめ、しゃがんで待機。来るのは昼間だという情報を信じて11:00頃からずっとこの体勢なのだが……。
「今何時ですかぁ?」
「4時だよ」
夕方の。つまり、5時間ここに居続けているのだ。
「帰りたいですぅ」
「安心しろ、ここは家だよ。もう帰ってるよ」
恭華の忍耐力は凄まじい。伊達に中学3年の一年間ぼっち生活を送ってたわけではない。そして、その忍耐力のおかげで冷静につっこめた。
「昼に来るって言ってたの誰ですかぁ?」
「鈴姉」
ここで出てくる叔母の名前。あの人は本当に信用しちゃダメだな。
「ねぇ、部屋の中に入って待ちませんかぁ?」
「お前が言い出したんだろ? 最後まで責任持てよ」
「えぇー」
泣きそうな声を上げる理菜。その気持ち、わからなくもない。待っても待っても全くこないのだ。
「もう、実は今日じゃなかったとかじゃないですかぁ?」
「そう……だな。そう信じてみようか」
恭華の忍耐でもここが限界。もう部屋に戻るのが一番だな。
スッと立ってみると足が痺れていた。はあ、それだけ長いことここに居たんだな。
さあと、部屋に向けて歩き出すと、ピンポーンとチャイムがなった。
「まさか、まさかのこのタイミングですかぁ!?!?」
理菜が驚きの声を響かせる。恭華も慌てて玄関を開ける。
「速いですぅ!!」
そう言いながら、急いでクラッカーに手をかける理菜。恭華も急いでクラッカーの紐を引いたのだが……。
……スカッ。
あの、大きな爆発音は響かなかった。変に紐だけがお隣さんの頭にかかって。
「なんで湿気ってるんですかぁ!!!」
さっきから理菜がおかしい。いつもは見せない怒涛のツッコミを見せている。
「そこじゃないだろ。まず、お隣さんに謝らないと……て、え!?」
「そうですね。すみませんでしたですぅ……て、わぉっですぅ」
クラッカーの紐が絡まったその人の姿を見て本当に驚いた恭華と理菜。
「理菜ちゃんと……恭……くん?」
そこに立っていた人物は……
「由架ちゃんですぅ」
由架と理菜と恭華はお互いに驚いた顔で見つめ合った。
テーブルの上に大量に並んだフライドチキン。これは理菜の提案でお祝い事と言ったらフライドチキンですぅと言っていたのだ。
「……というわけで、お母さんが知り合いの親戚がやってるアパートに住ませてくれるっていう話だったんだよ」
由架が恭華たちにここに引っ越してきた理由を話していた。
「その知り合いの親戚がまさか、美鈴さんだったなんて」
そう言いながらコップに注がれたオレンジジュースを飲む由架。
「まさか、お隣さんが由架ちゃんだったなんて驚きですぅ」
本当にその通りだ。
「それにしても、恭くんと理菜ちゃんって一緒に住んでるの?」
「鈴姉の手違いでな」
なかなか気まずくて話に入れなかった恭華がしれっと挟む。いや、気まずい理由なんてわかるでしょ? 由架と最後にあったのはあの日。うっかり告白した日だ。
「恭くん、サプライズ大作戦を考えた時はすごく乗り気だったのに、今全然ですねぇ」
「そりゃ……」
その瞬間、由架と目があって頬を赤くして目をそらしてしまう恭華。
「ははぁんですぅ」
理菜は何か悪い企みをしたかのような表情をした。いや、実際悪い企みをしたのだろう。
「そういえば、私、花火買ったんですぅ。一緒にどうですかぁ?」
皿の上のフライドチキンも軽く減ってきたので、腹ごなしにはちょうどいいタイミングだろう。
「うん、いいと思う」
「わかった」
そして、三人とも花火セットを持って外に出た。で、外に出ていざ花火って時に
「あ、線香花火部屋に忘れちゃったですぅ。あれ大好きだから忘れたのは痛いですぅ。取ってきますねぇ」
そう言って偶然? 由架と恭華の二人きりの状況を作り出した理菜。
少し、気まずい沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは由架の方だった。
「ねぇ、恭くんは理菜ちゃんのことどう思ってるの?」
そりゃ、男と女が一緒に暮らしているのだ。そこを聞きたいんだろう。
「安心しろ。一線は越えてないし、そんな感情もない」
「ふーん、しょうか」
ん?しょうか!? そのタイミングで床の頭がふらっとした。
「おい、大丈夫か??」
「ひょうくん、ひょうくぅーん。きしゅー」
そう言いながら恭華を押し倒した。コンクリートで頭をぶつけて思いの外痛い。
そして、その上に覆いかぶさるように倒れこんできた由架。
「おい、どうしたんだよ!」
「きっしゅー、きっしゅー」
そのあと、恭華の身には、まあ、いろんなことがあった。
部屋に戻った理菜はさっとテーブルの掃除を始めた。二人きりの時間を少しでも長く作ってやろうとしてのことだった。そして、三人が飲んでいた缶ジュースに違和感を覚える。
確かに理菜と恭華が飲んでいたものには100%しぼりたてオレンジジュースと書かれていたのだが、由架が飲んでいたものにはオレンジブロッサムと書かれていた。
「ブロッサムってなんですかねぇ?」
そんな呑気なことを言いながら、それのせいで恭華たちが大変なことになっているのにも気付かずにテーブルを片す理菜であった。
ちなみに、このパーティーの飲み物を用意してくれたのは美鈴である。
さて、これは由架のキャラ作りをしていく中でお酒に弱いって可愛いよなって感じで思いました。というか、告白の返事をあまり早い段階ではしないほうがいいのではないかと思い、お酒に弱い設定をつけた感もあります。
で、初めてのお隣さん、まさかまさかの由架ちゃんです。
いや、これは本当に2〜3話書いてる時からもう出来上がってた設定なんですよ。
どうですかね? 個人的には面白い展開だと思うんですけど……。
まあ、由架の引越し祝い、僕個人の第2章突入祝いのこの回でした。
楽しんでいただけたでしょうか?
また、読んでいただけたら幸いです。
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初めての夏祭り
今日は祭りを題材に。でも、次回も祭りの話続くんだよなぁ。
では、どうぞ!
「夏祭りに行くですぅ」
唐突にそう言いだしたのは理菜だった。今日は部活がオフで暇をしていた恭華と理菜。
「ちょうど今日、祭りがあるみたいですぅ。でも、みんな家族で行くとか家がちょっと遠いからとか言ってきてくれないんですぅ」
理菜は寂しそうにそういう。
「せっかくの祭りを逃すのももったいないので私達だけでも行きたいですぅ」
ちなみに恭華は夏祭りがあるという情報がまず初耳だった。というのも、以前も言ったように恭華には男友達がいない。
そうゆう情報を仕入れる場所がほとんどないのだ。いや、あるにはあるけど、女バスのメンバーだから理菜と情報源がかぶる。まして、理菜の方がメンバーと近い距離にいるのだからイベントの情報が入る順番は理菜のあと、理菜からそうゆう情報が入ることさえある。というか、今がそうだ。
夏祭り。夏の風物詩であるし、最近行ってない恭華にとってこの上なく行きたいものだった。
「行きたいけど、俺たち二人だけか?」
「由架ちゃんも誘ってみますぅ」
由架が行くならなおさら行きたい。由架と理菜と恭華と、三人なら周りの目も気にならないだろう。
「うん、じゃあ、行こうか」
こうして、夏祭り計画が始まった。
「とりあえず、由架ちゃんにメール送っておきますねぇ」
時は夕刻。理菜は部活のTシャツとバスパンを履いていた。浴衣とか着ないのかって聞いたらこれのほうが楽ですし、まず、浴衣なんて持ってませんしぃだそうだ。
チャイムが鳴って玄関に向かうとそこには由架がいた。由架も理菜と同じような服装できた。
「あ、恭くん、理菜ちゃんごめんね。服を選んでる時間なくて。って、あ、やっぱみんなラフな感じだよね」
まあ、由架が言う通り、恭華も同じようにバスケの練習着だ。
「まあ、ここで立ち話もなんですしぃ、とっとと行きましょうですぅ」
三人は祭の会場に向けて歩き出した。会場は河川敷の公園に屋台が出ている感じだ。しかも、今日は花火が上がるらしい。
花火大会並みのスケールがあるらしく、それもこの町の祭の見どころの一つらしい。でも、そこらへんの花火大会よりも屋台が多い。
「花火楽しみですぅ。この間、線香花火できなかったリベンジですぅ」
そう言った瞬間、恭華は顔を赤らめた。
あの日は大変だった。由架は酒に酔っ払ったような状態になり恭華を押し倒したあと、きっしゅーきっしゅーとフランス料理の名前を口に出しながら眠りについた。
と、言っても恭華は由架にのしかかられている状態になっていて、無理やり起こしてもいいんだが、そうしたらこの続きを由架が始めそうな気がして、でも、逃げようもないし、どうにもならない状態に恭華はおちいっていた。
というか、好きな人が上にいる状態でまともな判断なんかできるわけがない恭華。幸せオーラで気が動転して気絶しないよう意識を保つことで精一杯だった。
そこへ、理菜が現れて
「大変ですぅ。理菜ちゃんがオレンジブロッサムという謎の飲み物を飲んでたみたいですぅ」
あ、なるほど本当に酒を飲んでたんだなと理解した恭華。で、この状況をどうやって説明しよう。
ちなみに理菜が納得するようにこの状況を説明するためにまずはオレンジブロッサムの説明から始まって30分くらいかかった。
このことは由架には話してないし、本人も覚えていないよう。今もそういえば、どうして線香花火できなかったんだっけと首を傾げている。
本当に由架がこのことを覚えていないのが不幸中の幸いだ。というか、軽々あの日の話を掘り返さないでほしい。
花火大会の会場にはすぐ着いた。そこには人混みができていた。屋台の前には少なくても2〜3人、多ければ数10人が並んでいる。一度屋台群の中に入れば前に進むのも、後ろに下がるのもとても難しいくらい人がひしめいていた。
「予想以上に規模が大きいですねぇ」
「そうだな。迷子になりそうだな」
「みんな携帯持ってるよね? はぐれても大丈夫だよね」
「ああ。というか、はぐれるわけないだろう。子供じゃあるまいし」
そうして、みんなで軽く笑っていざ、人混みの中へ。
…………その数分後。恭華は二人とはぐれてしまった。はぐれてしまったが、断じて迷子ではない。とりあえず、携帯をと思い冷静にポケットから取り出したのだが、電源が付いてない。充電し忘れてたみたいだ。
仕方ないかとしばらく歩いていると、頭が一つ分くらいでてる女の子がいた。完全に見覚えがある顔。あらは間違いなくチームメイトの
「おい、まりか!」
「お、監督じゃないか!」
こうして、知り合いと巡り会うことができた恭華。
恭華はまりかに今に至った経緯を話した。するとまりかが急に笑い出して
「監督がみんなとはぐれるとはな」
そう言って笑うのをやめない。
「まあ、私も同じような状況だ。今日は両親ときていたのだが、はぐれてしまってな。どうだ? 一緒にそれぞれの目的の人を探さないか?」
「お、いいのか?ありがとう!」
恭華は素直に感謝を述べ、二人で歩き出した。
「それにしても、高校生にもなって両親ときてるのか?」
少しからかうように聞く恭華。
「まあ、うちの親が過保護なんだ。だから、いじめとかそうゆうのはまるで親に守られるような形でなかったんだ。でも、それのせいで深い友達が一人もできなかった。だから、バスケ部のみんなには感謝をしている。だが、それにも実は親は反対しているくらいだ。今日も本当は理菜たちと一緒に来たかったのだが……」
「そうだったのか。みんな色々あるんだな」
「すまないな、こんな話になってしまって。でも、私は監督にも感謝してるんだ。私はきっとあの親の元では普通に恋愛をできるとは思えない。だから、この時間は少し幸せだ。まるで、デートをしてるようで」
「そうか……」
少し、うつむいてしまう恭華。
「はは、気にしなくていいぞ。私は監督に恋をしたりはしない。私は親の決めた道を機械的に歩むだけだ。ただ、この道をそれてる時間の方が楽しいと感じる自分もいるのだ」
なるほど、まりかは自分の本心に正直になれないようだ。でも、まりかの本心と意思は違う。恭華はそのどちらも尊重したい。だから、考えた。
「そんなに真剣に私の話を聞いて考えてくれるんだな。理菜たちと一緒だ。だから、監督のことは信頼できる」
そのまりかの言葉に恭華は何も返すことができなかった。
少しの間無言の時間が流れる。
「あれぇ? まりかちゃんもいたんですかぁ?」
「おや、理菜じゃないか」
そうとだけ言って
「じゃあな、監督。少しの時間だったが楽しかった」
と耳打ちして去っていった。
「まりかちゃん、帰っちゃうんですかぁ?」
「ああ、すまないな。少しも遊べなくて」
まりかが去った後、理菜と恭華はベンチに座って少し喋った。
「恭くん、まりかちゃんと何を話してたの?」
「いや、まりかの両親のことを少し聞かせてもらった」
「お、聞いちゃったんですねぇ。どう思いましたかぁ?」
「まりかの親に従うという意思は固いと思った。でも、あいつの本心はそれじゃないってそうとも感じた。だから、どうにかしてあげたいけど、どうにもできないのも事実だ。伶とか、由架と違って家族の話だからなかなか踏み込めないし」
どうにもできないもどかしさで恭華はうつむいた。
「誰かのために必死に考えてあげられる恭くんはいい人だと思いますぅ。そして、恭くんが抱いてる気持ち、私たちも同じように抱いていますぅ。もしも、恭くんがまりかちゃんのために何かをしてあげたいと考えるなら私たちと一緒に考えてくださいですぅ」
「ありがとう」
「ふふ、そのタイミングで感謝を述べるところが恭くんらしいですぅ」
よくわからないけど、少しむずがゆくて頬をかいた。
「ところで、由架ちゃんがいないんですけど、どこですかねぇ?」
「それを先に言え!!」
一難去ってまた一難、もとい一難去る前にまた一難である。
でも、恭華の目的地は決まっていた。恭華はまっすぐ走る。由架のところへ。
まりかのこの事情が合宿への最大の支障に!?
的な展開にできるかなぁ(笑)
じゃあ、また次回まで!
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初めての告白
唐突だけど、恭華と由架は連絡先を一度も交換したことがない。仲が悪いとかそうゆうことは断じてなかったし、お互いに携帯は所持していた。
でも、アドレスを交換するという話には自然とお互いにならなかった。バスケをすることに集中していてそうゆう話にならなかったということかもしれない。しかし、それなら由架と瑞希はお互いにアドレスを知っていたことの説明にはならない。
では、なぜか? 答えは簡単である。2人が必ず会える場所があったから。その場所は……。
恭華は目指すべき場所を目指していた。迷子になった由架をさがして。
実は小学生の頃に一度、由架は迷子になっている。恭華の家に集合して、確か動物園に遊びに行くという話だった。で、そこで恭華は自分の家の場所を説明するためにお手製の地図を渡したのだが……。
その地図が思いの外わかりずらかったらしく、由架は集合時間になっても恭華の家にたどり着くことができなかった。
不安になった恭華は家を飛び出し、由架を探しにいった。なかなか見つけることができなかったが、ヘトヘトになった足で最後に向かった場所でやっと落ち合うことができた。
その頃にはすっかり陽は落ちていたので、恭華たちは動物園を諦めた。そして、彼らはそこでバスケをした。
「やっぱり、ここにいたか」
恭華は目的の場に着いた。そこはいうまでもなくバスケのコート。センターサークルの真ん中で屋台の方をぼんやり眺めている由架が立っていた。
「私も同じ。やっぱりここに来てくれたね」
にっこり笑って恭華に焦点を合わせる由架。コートは屋台群から外れていて、さっきまでの人混みが嘘のように誰もいない。そこには二人だけの時間が流れていた。
「そういえば、あの日も私、迷子になっちゃって、でも、河川敷のコートの上で会えたね」
恭華も全く同じ日のことを思い浮かべていたので、瞬時に頷いた。
「じゃあ、あの日と同じように、少しバスケをしていかない?」
そういう由架の表情は穏やかなものだった。河川敷で由架とバスケをする。いたって当たり前でいたって普通のことだったはずのその行為を今、再び味わうことができる。恭華としては嬉しくてたまらなかった。
「もちろんだ」
幸いボールはすぐそこに転がっていてバスケを始めるのには支障はなかった。
「じゃあ、昔みたいにシュート対決しよっ! スリーをどっちが連続で多く決められるかで勝負ね!」
由架はノリノリだ。迷子になったにもかかわらずこんなに楽しそうにしていられるのはきっと恭華のことを信じていたからだろう。そう考えるとますます嬉しくなる恭華。
そのシュート対決は恭華が負けた。どちらも9本連続までは決めたのだが、そこから恭華が外して由架が決めて決着。
でも、まあ、9本連続でスリーを決めるだけでも十二分にすごいプレイヤーだろう。
「へへ、私の勝ちだ」
また、嬉しそうにニコッと笑う由架。そんな由架に恭華の心は動かされた。
「由架、ちょっと話したいことがあ……」
ヒューーー、パァァァン。恭華の言葉を遮って花火が上がった。
不意に背後に上がった花火に恭華は由架に背を向け見入った。すると、由架が後ろから小走りで近づいてきて恭華の耳元で
「今日は私から言わせて」
と、言って恭華の正面まで走って恭華に向かい合うようにして止まった。その時、ちょうどヒューーーと二発目の花火が上がり始めていた。
そして、それが花開くのと同じタイミングでそれの音に負けないくらい大きな声で由架が叫んだ。
「私も恭くんのこと、好き!!」
その声は他の誰に聞こえなくても、恭華にだけはしっかり届いた。由架は花火の多色の綺麗な光に映えて恭華にとってはこれ以上なく美しいものに見えた。
嬉しくて恥ずかしくってどうしていいか戸惑った恭華はあたふたしていた。
そんな恭華のところに由架が近寄ってきて
「ここって以外と穴場だね。花火がよく見えるよ」
そう言って、まるで誤魔化すような態度をとる由架。
返事をしなきゃ、そうゆうことも考えたりするのだが、戸惑ってしまって行動に移すことができない。まず、恭華は片思いだと思ってたし。
何も出来ないでただただ、花火を見ていると理菜が遠くから走ってきた。
「やっぱりここにいたんですねぇ」
え? やっぱりって? 僕と由架はいつも河川敷でバスケをしていたからわかるけど……って顔をしていることに理菜は気付いたらしく
「恭くんの話とか聞いてたらここにいるってわかりますよぉ」
と、言って笑い出した。理菜は頭の回転が速いし、賢いしこれくらいの推理はなんてことはないのかもしれない。
それにしてもこうゆう迷子がこれ以上増えても困るな。
「由架、良かったらメールアドレスを交換しないか?」
「うん!」
と、言って携帯を取り出したのだが、案の定電源が入っていなかった。恭華と由架は目を合わせて笑いあった。
あ、幸せだ。恭華はそう思った。そして、その勢いで感謝を述べることにした。
「すごく嬉しかった。ありがとう」
すると、由架は急に顔を赤くして、え?聞こえてたの!? と目で訴えかけてきた。
あれだけの大声だったらって思ったりもしたが、もしかしたら僕であったからこそ聞き取れたのかもしれないと思う恭華もいた。
花火はまだ上がり続けている。夏は始まったばかりだ。この花火はまるでヨーイドンの合図。今日から本格的な夏が始まる気がした。
次の日。無事に理菜を通してメアドを交換することができた由架と恭華。
恭華はニヤニヤしながら携帯の画面を見つめていた。
「何ですかぁ? 気持ち悪いですぅ」
「あ? いいだろ別に」
「ははあん、昨日何かあったんですねぇ?」
急に鋭いところをつかれて顔を赤くする恭華。
「まあ、何があったか知りませんがぁ、隣に住んでるんですから会いに行けばいいじゃないですかぁ?」
すると、恭華は口を隠して
「だって、恥ずかしいじゃないか!」
照れを隠すようにそう大声で言った。
「ピュアな恋をしちゃってるんですねぇ」
そういう理菜を軽く睨む恭華。
「恭くん、睨まないでくださいですぅ。それにしても羨ましいですねぇ」
「……」
何も言い返せない恭華。
羨ましいという理菜はピュアな恋そのものにももちろんそう感じた。だが、叶わない恭華とのそうゆう関係にも軽く憧れを抱いてしまっていた。
のちにこの感情がややこしいことを起こしてしまうような気がして……。理菜はグッと気持ちを押し殺して2人を応援することにした。
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初めての妹
新キャラ登場! この章のキーパーソンにしたかったので色々と模索してました。
それではどうぞ!
事は3時間前にさかのぼる。それは突然届いた一通のメールからだった。
『突然だけど、今日そっちに行くから! パパもママも心配してるし、ちょっと見張っちゃうよ』
妹からのそのメール。これはピンチだ。どうゆう事情にしろ、現状だけ見れば女の子と一緒に住んでいるのだ。
この状態を妹に見られ、父や母に伝えられたりしたらどうなることやら……。
隣でゲラゲラですぅってテレビを見ながら笑ってる理菜を見て少し考えた。てか、なんだよ、その笑い方。
理菜は賢いし、察することができる人だ。事情を話せばわかってくれるはず……なのだが。少し恥ずかしいというか。
うーん。
ひらっ。財布から5千円札を取り出す恭華。
「これで好きなもの買ってきていいから夜まで帰ってこないで」
それを理菜に手渡す。
「ゲラゲラ……え!? 急にどうしたんですかぁ!? 2人集まれば諭吉に進化する樋口一葉じゃないですかぁ!! 悪いですよぉ」
驚きつつも申し訳なさそうな顔をする理菜だが、パッと恭華の顔を見ると何かを感じ取ったようで。
「お釣りはしっかり返すですぅ」
と、言って部屋から出て行った。
それから恭華は部屋にあった理菜のものをとりあえず押入れに突っ込んだ。
そして、掃除機やらなんならの掃除を一通り済ませて、軽くて料理も作った。
素直に言うと恭華は妹のことを大切に思っている。確かに中3の一年間孤独だった。その孤独の一番近くにいてくれたのが妹だった気がした。
空気を読んで喋りかけてくることは少なかったが、恭華のことをわかってくれる数少ない人のような気がしていた。
そして、その妹にはそれなりのもてなしをしたい。
ピンポーン。チャイムが鳴る。
計算通りのタイミングであった。家からここまでの時間、妹の歩く速度であればどれ程かかるかを正確かつスピーディーに計算し、逆算してここまでの計画を立てていた。
これは大切に思っているというレベルを超えて、溺愛してるな。
「はいはーい」
久々の妹との対面。少し緊張もしたが、玄関を開く手は戸惑うことをしなかった。
「にいちゃああん!」
突然抱きつかれた。まあ、あれだ。恭華の妹はブラコンだ。妹は抱きついた勢いそのままに背中の方にくるんと回り込んだ。
「と、冬華、苦しい。離してくれ」
恭華は必死にその手を解こうとした。その対応を見て恭華の妹、冬華は少し驚いたような顔を見せ、さらに力を強めた。
「ふへへ、にいちゃんの背中久々ぁ。このまま、部屋まで連れてってよ!」
やけに明るい声でそう言う冬華。ちなみに恭華の一つ下の冬華。体重に関しても平均よりも軽いかもしれない。が、冷静に考えてくれ。10kgの米から紐をくくりつけそれを首に吊るしたら相当苦しいだろう。それの何倍かはあるのだから苦しいのは察してほしい。
今にも途切れそうな意識をなんとか繋いで部屋まで運んでくることに成功した。
「くんくん、この匂いは冬華の大好きな肉じゃがの香り! にいちゃん、まさか……冬華のために!?」
ひどく喜んでくれている。軽く料理を作ったのもこのためだ。
「あれ? テレビついてる! あ!! レジスタじゃん!」
「レジスタ?」
「冬華のまわりで少し話題の冬華の好きなバンドなの。Resistanceっていうんだ!」
「ふーん」
特に興味もなかったので、反応にも困った。
「ちょっと、にいちゃん! いくらにいちゃんでもレジスタをバカにしたら許さないよ!」
バカにはしてないけど……。
「とりあえず、肉じゃが! レジスタが歌ってるうちに食べるの!」
複数のアーティストが出演してる音楽番組。今、歌ってる歌が終わるのはすぐだろう。
軽く、肉じゃがを温めなおしているとチャイムがなった。
「あれ? お客さん? にいちゃん、誰が来たの?」
「まあ、出てくるよ」
「あ、いいよ! 冬華出てくるよ!」
どうやら、レジスタとやらの曲は終わったらしい。
そう言ってドタドタと玄関に向かう冬華。
ガチャリ、玄関が開く音がした。
「恭くん、今日さ、お母さんがいっぱいジュースを……って、え!? 冬華ちゃん!?」
あら、玄関から驚いてる声がする。由架だったか。
「あ!! 由架さん! お久しぶりです!」
由架に部屋に上がってもらい3人で小さなテーブルを囲む。みんなの手には缶ジュース。テーブルのセンターには肉じゃがが堂々と湯気を立てていた。
「肉じゃがにオレンジジュースは合わないと思うんだけど、どうしてくれるの! にいちゃん!」
「いや、僕に言われても……。だって、ジュースを持ってきたのは由架だし」
「え? 私のせい!? お母さんが大量に送ってきたからおすそ分けして喜ばれると思ったのに……」
「これはにいちゃんが悪い! 由架さんも傷つけたからダブルで悪い!」
由架の母から大量に送られてきたというこのジュース。
一人暮らしは大変でしょうし、お金も毎月十分にあげられてないからよかったら足しにしてね、と届いた荷物の中に入ってたものがそれだという。
そこまで足しにならない上に量が多かったためにうちに分けてくれたのだとか。
まあ、嬉しいっちゃ嬉しいのだが。由架も変わった母を持って大変だな。
「うーん、意外に肉じゃがのホクホクにオレンジのさっぱりがマッチするね! 仕方ない! オレンジよ!そなたを冬華のフェイバリットドリンクにしてあげよう!」
何言ってんだか……。て、おい!肉じゃがもうほとんどなくなってるし!
「ふふ、冬華ちゃん、昔と全然変わらないね」
「いえいえ、昔より100倍元気です!」
そう言いながら、冬華は肉じゃが、最後の一口をパクっ。
「にいちゃんの肉じゃが最高! 冬華のナンバーワンフードだね!」
「お、そりゃどうも」
素直に嬉しい。
「それはそうと、冬華さ。由架さんの作ったクッキー食べたいなぁ。小さいときに一回食べたけど、いやぁ、美味しかったなぁ。あれを超える食べ物はないと思うよ!」
肉じゃががナンバーワンじゃないのかよ! ほら、由架も苦笑いしてるじゃないか!
「クッキーかぁ……。 今、家にお菓子作りの材料が全くなくて……。ごめんね」
「うぅ、冬華がっかり」
冬華の目からキラキラが消える。
「あ、クッキーの代わりと言ったらなんだけど、お母さんがジュースと一緒にチョコレートも送ってきてくれたんだ。一緒に食べよ」
冬華の目が再び輝き出す。
「はい!」
冬華は単純なやつである。すぐに喜怒哀楽が表に出る。
今だってすぐに表情が変わったし、昔もそうだった。僕が喜べば、冬華も喜ぶ。僕が悲しめば、冬華も……。
僕が孤独だった1年間だってきっと、冬華は悲しんでいたのだろう。
そして、怒りも表情だって当然はっきりと出るわけで……
ガチャリ、玄関が開く。でも、この玄関の開く勢い、足音、完全に由架のものじゃない。
「ただいまですぅ」
理菜が帰ってきやがった。
「「え?」」
理菜と冬華はしばらく顔を合わせ、お互いに顔を覗き込んでいたが……。冬華の表情がすぐに変わり始めた。
「にいちゃん、これってどうゆうことかなぁ?」
「さ、さあ?どうゆうことかなぁ……」
「説明しやがれ! この馬鹿にいちゃん!!」
「ひぃ!」
冬華は怒りの表情をはっきりと出す。そして、その怒りはこの上なく怖い。
そんな様子を玄関から覗き込んでいる、由架を発見した。
由架は恭華のSOS信号を発見すると、ぺこりと頭を下げて、ごめんなさいと言ってからその場を去った。
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初めてのお泊まり
やっぱり、初めて書いたこの作品のキャラクターが一番好きです。
理菜ちゃんも由架ちゃんも恭華くんも冬華ちゃんも。
もちろん、ほかのキャラクターだってそうです
やっぱりこの作品は書き終えるまで書き続けたいです
ほんとに気まぐれの投稿になると思いますが、読んでくれるという方がいるのであれば、嬉しいです
「美鈴おばさんを知ってますかぁ?」
理菜の冬華に対する説明はここから始まった。最も手っ取り早く、理解のしやすい説明であると、僕は感じた。
冬華は兄を失神寸前まで追い込んだ罪悪感からか少ししおらしくなっている。
「あ、私の叔母ですよね?」
そう、その認識で正しいよ。と、僕は発言したかったが、意識が朦朧としてるせいか全く口が動いてくれない。
「え? 恭くんの叔母ですよねぇ」
いや、それも一緒だよ。つっこみたいのに声に出ない。あいつ、僕の体に何しやがったんだ。
それにしても、なにか納得の言ってないような表情をする冬華。普通、鈴姉の名前を出されたら納得してそれなら仕方ないと言うものなのじゃないか? すると、冬華は急に口を開き始めた。
「初めは、冬華が……冬華がにいちゃんの一人暮らしを親に勧めたんです。にいちゃんが辛そうなのが、冬華も辛くて……。だから、にいちゃんに言ったんです。自分がこのまま変わることが難しいなら、環境を変えちゃえばいいんじゃない?って」
そういえば、そうだった。そもそも環境を変えるという発想に至ったのは冬華のこの発言だった。冬華に背中を押されてなかったら、今の僕はなかったのだろうか? そう考えると、冬華には感謝しないといけない。
「妹さんに励まされるなんて、ホントに恭くんは精神的にも肉体的にも弱いですねぇ」
それはどういう意味だ。と、声にならない声でつっこむ。まあ、どういう意味かなんて考えるまでもなく、単純明快なことだけど、と自己解決する。
しかし、なんで冬華はこんなに落ち込んでいるのだろうか?
「私のせいだ」
え? 何が?
「私があんなことを言わなければ、にいちゃんは………、にいちゃんはこんな変な女と一緒に暮らさなくてすんだんです!」
と、突然声を荒らげると、人差し指をピンと立てて理菜を指さした。
「そ、そんな言い方したら、由架ちゃんに失礼ですぅ」
「いや、お前だよ!」
やっと声が出た。さっきから心の中でつっこんでたからなんか、ムズムズしてたんだよねぇ。
というか、なんで、理菜を変な女と決めつけるんだ?
「私のどこが変なんですかぁ?」
「その語尾のちっちゃい文字! なにそれ? キモッ!」
「何のことですかぁ?」
どうやら、本人には自覚はないらしい。ちなみに僕はバリバリそれを感じてた。感じててあえて触れないというか……。そんなものだろうくらいで流してたものを。
「語尾を不自然に伸ばすキモ女ににいちゃんを任すことは不可能です」
なんでだよ。まさに、いや、その理屈はおかしいだよ。て、そんなことであんなにしゅんとしてたの!? 予想外過ぎて驚きが止まりません。
「冬華もレジスタの平井さんみたいに家をばっと抜け出してここで暮らしちゃおっかな! そうすれば、あなたをずっと監視することもできますしね!」
おい、監視ってなんだよ。って家出するつもりなのこの子!? 我が妹ながらおそろしい子だよ、全く。
というか、レジスタのメンバーに家出してバンドしてるやつなんているのか……。なんていうか、親不孝だな。素直にそう感じた。それにしてもだ。平井ってどこかで聞いた苗字だ。まあ、そう珍しくもないし、偶然どこかで目にしただけなのかもしれないが……。
「……レジスタは家出なんてものじゃないですぅ……」
「え?」
理菜はレジスタを知ってるのか? やっぱり、テレビ見てゲラゲラ笑ってるだけあって情報はいろいろ蓄えてはいるんだな。
「レジスタの彼の行動は、バンド名通り抵抗ですぅ……。彼の行動は愚かでありながらも勇気のある行動だと思いますぅ」
冬華の目がはてなになっているのがよく分かる。かくいう僕だって理菜が何を言い出したのかなんてわからない。ただ、一つわかるのは理菜はその人のことをよく理解している。なぜかはわからないが……。
「冬華ちゃん……ですよねぇ。明日、会いに行ってみますかぁ? レジスタの平井さんに」
「え!? 会えるんですか!?」
冬華の目が急に輝き出す。ホント、単純なやつだ。何が単純って、さっきまで怒ってた話を自然にすり替えられて冬華にとって嬉しい話にされてること。
理菜はホントに賢いな。
「はいですぅ。もともと会う約束をしてたんですぅ。あ、恭くんもどうですかぁ?」
いや、僕はいいよ。特に興味ないし、と断る声よりも先に理菜の言葉が続いた。
「まりかちゃんのためにも会っとくべきです」
「え?」
意外な名前が出てきた。まりか、彼女が何かを抱えているのはこの間の祭りでわかったこと。でも、それとバンドがどうつながるんだ? 分からないことだらけだが、チームメイトの名前を出されてものすごく興味がわいてしまった。
「わかった」
仕方なく、僕も行くことにした。彼女のために何が出来るのか、その答え、もしくはヒントがそこにはあるのだろうか。
あ、そういえば……。
「話変わるけど、理菜ちゃんはさっきまでどこに行ってたんだ?」
「え? にいちゃん、こんな恩人をちゃん付けで呼んでるの?」
「それはほっとけ。てか、おまえ、さっきまで理菜のこと変人呼ばわりしてただろ」
「えへへ。レジスタに会えるからいいの〜♪」
ホント、単純。
「兄妹仲いいですねぇ。あ、私はさっきまでみずぽんぽんのところに行ってたんですぅ。で、ですねぇ」
と言いながら、理菜は一枚のチラシを取り出した。
「じゃじゃーんですぅ。実は奏徳さんと合同合宿を企んでるですぅ」
合同合宿。なんか……青春って感じの響きだ。中学時代、3年までは真剣に部活をしていたものの、合宿なんてものは経験してない。
人生初の合宿。ワクワクしないわけがない。
「でも、お金はどうするんだ」
そこが一番の問題。少なくともこの時浮かんだ問題の中では。合宿となると食費に、宿泊施設代、体育館も借りなければいけないし、かなりの量のお金が必要になる。しかし、理菜は余裕の笑みを浮かべる。
「恭くんは甘いですねぇ。実はこのチラシに載ってる宿泊施設なら奏徳の部員の方の敷地なんだそうです」
「……え?」
宿泊施設を持っている……だと!?
「だから、宿泊施設代、体育館を借りるのもタダでOKだそうですぅ」
「マジか」
なんとなく、嬉しかった。お金の心配とかそうゆうのは気にせず、合宿の活動に取り組めるなんて……。
「いいなぁ、合宿。冬華も行きたいなぁ」
「いいですよぉ」
「おいおい、そんなに簡単に決めていいのかよ」
そんなつっこみなんて無視して、冬華はわいわいはしゃいでる。そんな妹の姿を見るとまあ、いいかと思わないでもない。
夜。僕は由架の部屋で寝ることになった。元々は冬華に由架の部屋で泊まってもらう予定だったのだが、冬華が突然、「理菜さん、冬華のヒーローだから一緒に寝る!」なんて言い出して、三人も寝れるスペースがないからという話になり、僕が仕方なく由架の部屋へ……
「ごめんね、こんなに散らかってて」
そう言って通してくれた部屋は綺麗に片付いてて、なんか女の子の匂いがした。
「ごめんな、突然来ちゃって」
「いや、いいの。恭くんだし」
と、いってえへへと苦笑い。僕が、由架の部屋に泊まることで緊張しているように彼女もかなり緊張しているに違いない。
「ま、まあさ、寝るだけなんだし、そんなに気兼ねなく……」
「そ、そうだね」
なんて、そんな会話を二人で交わして、さっさと別々の布団に潜り込む。何も考えるな、何も考えるな、何も考えるな。そう考えちゃうとまた、余計に眠れなくなって……。
今日は寝不足確定だな、なんて思いながら、そんな寝不足が少し嬉しかったりして。
さて、布団に入ってからどれくらい経っただろうか。急に家のチャイムがなったのだ。
僕と由架は瞬時に起き上がり(由架も寝れなかったんだな)スタスタと玄関に向かった。戸を開けるとそこには冬華が立っていた。よく見ると顔にあざがあるような……。
冬華は僕らの顔を見るとすぐに泣き出して。
「殺されるかと思ったぁ! うわぁぁぁん」
そこでようやく思い出した。理菜の寝相の悪さ。しばらく一緒に暮らしてたから慣れてたんだなぁ。
そして、冬華を由架に預け、僕が101へ戻った。
理菜の奏でる騒音のおかげで、僕はこのあとぐっすり眠れることが出来た。
この作品のキャラが好き、と前書きで言っておきながら、結構キャラ名忘れてるっていう……。
しかしまあ、半年前の自分が何を書きたがってたのか、なんとなく思い出してきました。
あ、あとひとつ、気づいたことがあります。この作品、読み返してみて誤字脱字、まじ多い。読みにくっ!!
まあ、そんな作品なんですけど……
読んでくれたら嬉しいなぁ…なんてね
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