俺とリリィの異世界アトランタル探検記 (タニグチ)
しおりを挟む

プロローグ

「おめでとう。君は彼らの――神々の賭けの対象者に選ばれた」

 

 男とも女とも区別がつかないその奇怪な声で、おれは目を覚ました。

 眠気眼をこすりながら、上半身をゆっくり起こす。何だか頭がガンガンするし、おまけに乗り物酔いした時のように視界がぐらついた。

 何とか目眩と吐き気を堪えながら声の聞こえた方へ顔を向けると、まばゆい光の中にかぼちゃが立っているのが見えた。

 

 いや、正確に言えばかぼちゃの被り物をかぶった人間だ。

 なんて言ったっけ。ハロウィンに出てくる人型のかぼちゃのお化け。

 そう、ジャックランタンだ。ジャックランタンに仮想した奇妙な奴が、おれを見下ろしていた。

 

「へえ、この格好は君達の世界ではジャックランタンと呼ぶのか。名前が無いのも後々不便だろうし、私のことはジャックと呼びたまえ」

 

 ジャックと名乗ったかぼちゃはマントを翻しながら言った。今、おれの考えを読まなかったか? ていうか、ここはどこで、何でおれはかぼちゃに仮装したやつに話しかけられてるんだ?

 周りを見渡す。白い壁に囲まれた、白一色の部屋だ。一面だけガラスになっていて、その先にある部屋では仰々しい格好をした爺さん連中が、おれのことをじっと見つめて何やら話をしていた。

 

「今度のコマは活きが良さそうじゃのう」

「いや、彼はあまりにも若すぎはしないか」

「竜神の趣味じゃろう。あのオヤジはいつも若い人間ばかり選びおる」

「いまいちぱっとせん顔じゃのう。召喚時に付与された固有能力(オリジナリティ)は悪くないが、ワシはパスじゃ。今回は三番目の女の子に一点張りにするかの」

 

 爺さん連中は、どうやらおれのことを批評しているような様子だった。

 ぱっとしない顔で悪かったな。ていうか、マジでこの状況は何だ?

 おれ、若い男の子が大好きなゲイの爺さん連中が集まるやばいクラブにでも迷いこんじまったのか?

 

「彼らは君達の世界で言うところの神様だよ。ゲイの爺さんではないさ」

「神様ぁ?」

 ジャックと名乗ったかぼちゃの言葉に、おれはすっとんきょうな声を出してしまう。

 ジャックは身体の後ろで手を組みながら、おれの方へ顔を向けた。

 

「時間が無いから、端的に言おう。君は彼ら――神様の賭けのコマとして選ばれた」

「賭け……?」

「舞台は君達のいる世界とは少し次元の異なる場所……そう、君達の世界の言葉で表すなら『異世界』だ。その世界では魔族と人間が争っていて、魔王と呼ばれる存在が一定の周期で現れては、人類を滅ぼし支配せんと大きな厄災を引き起こしている」

 

 ジャックは人差し指を立てて言った。意味がわからず呆然としているおれを余所に、ジャックは平然と話を続ける。

 

「君は今から、そんな魔族と人間が争っている異世界『アトランタル』に行ってもらう。この提案を断る事は出来ないし、途中で賭けから退場することも出来ない。賭けが終わるまで君は神様に召喚されたコマとして動いてもらう」

「あんた、さっきから何を言っているんだ? 頭大丈夫か?」

 

 異世界? 召喚? 神のコマ?

 何を言っているのか、さっぱり要領を得ない。おれは必死に現在の状況に至るまでの経緯を思い出そうと試みるが、突き刺すような鋭い頭痛が邪魔をして思考がうまく働かない。

 

「無駄だよ。しばらく頭は働かないだろうから、僕の説明を聞くことだけに集中してくれ」

 

 やれやれと肩をすぼめて、ジャックは呆れた様子でおれに言った。

 

「賭けのルールを伝えよう。基本ルールその一。僕や神様達は君に口出しすることは無い。しかし、アドバイスをすることも出来ない。ルールは神様達の気まぐれな会議と多数決によって変更されるけど、このルールだけは不変のものだ」

 物分かりの悪い生徒に噛み砕いて授業をするように、ジャックはゆっくりとした口調で喋った。

「基本ルールそのニ。君には異世界で戦い抜くための能力(オリジナリティ)が与えられる。どんな能力を得たのかは、説明するよりも実際に使ったほうが理解が早いだろう。申し訳ないが、自分で確かめてくれ」

 ジャックは投げやりに言って、話を続ける。

「とにかく『魔王討伐ブックメーカー』は第三回だっていうのにルール整備が追い付いていなくてね。申し訳ないが、かつてのブックメーカー同様、君達には基本ルールの他に『勝利条件』と『敗北条件』と『終了条件』だけを教えよう。後は現場で手なり足なり頭なりを使って頑張って欲しい」

 

 ジャックはククク、と小さく笑った。

 かぼちゃの口が小刻みに動く様は、出来の悪いホラー映画のワンシーンのようだった。

 

「では、肝心の『ゲームの勝敗の条件』について説明をしよう。勝利条件は『魔王の討伐』。敗北条件は『きみ自身が死亡すること』。そして終了条件は『人類の敗北、もしくはきみ以外のコマによる魔王討伐の完了』だ」

 

 おれはぼんやりとした頭で、ジャックの言葉を頭の中で反芻する。まったく理解出来ないが、ぼんやりとイメージだけは頭の中に浮かんでいた。

 異世界、魔王、ゲームの勝敗条件とルール。

 それらは、あまりにもロールプレイングゲームやテーブルトークRPGの設定として馴染みの深いものだったからだ。

 

「君が勝利した時には、何でも好きな褒美を与えよう。君が勝利条件を満たせずに終了条件を満たした場合は、安心したまえ、君は元の世界に戻ることが出来る。ご褒美は何もないけどね。しかし、注意してほしいのは君が敗北条件を満たした時、つまりアトランタル内で命を落とすケースだ」

 

 ジャックはおれに顔を近づける。かぼちゃの目の空洞部分の中から、怖気を掻き立てる得体のしれない視線がおれを捉えた。

 

「その時ばかりは、申し訳ないが君の魂は消滅する。つまり本当に死ぬということだ。」

「死ぬ……?」

「まあ、何を言っているのか理解出来ないだろう。君は不思議な夢を見ているのだと無理やり自分を納得させるだろう。今はそれでいい。ただし、この後、君は自分自身でこの夢が夢じゃないことを否応なく突きつけられることになる」

 

 ジャックはおれから顔を離すと、再びマントを翻し背を向けた。

 

「せっかくコマになったんだから、召喚直後に死んでしまったり、自殺したりしないでくれよ。神様達は退屈してるんだ。君達が刺激的なストーリーをみせてくれなきゃ、僕ら召使いが酷い目に合うんだ。だから、せいぜい足掻いてくれよ」

「待ってくれ、何を言ってるんだ? お前は一体誰なんだ?」

「僕は名も無き神の召使い。僕もまた創造主の創り出したコマのひとつに過ぎないよ」

「お、おい! 待ってくれ! 何がなんだか――」

 おれの言葉も待たずに、ジャックは光の中に消えていった。

 次の瞬間、おれの視界は暗転し、急速に意識が深い奈落の底に落ちていくのを感じた。

 おれは死ぬのだろうか。

 これは死ぬ直前に見る夢で、目が覚めたら天国か地獄に到着してるって話なのか?

 嫌だ、死にたくない。おれはこの世でまだやり残したことがあるんだ。

 

「彼女いない歴=年齢のまま死んでたまるかよ、クソッタレ……!」

 

 おれは、女の子と付き合ったことがない。小学生の頃からずっと彼女がほしいと願い続けているのに、未だに彼女いない歴は更新中だ。

 せめて、女の子との恋愛をしてから――出来れば巨乳の美少女とイチャイチャしてから死にたい。神様だか何だか知らないが、男同士のむさくるしい思い出しか持たないまま死んでたまるか、バカ野郎。

 

 歯を食いしばり必死に意識をつなぎ止めようとしたが、有無を言わせない強大な引力によっておれの意識はぷっつりと途絶えた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1-1 助けた女の子が巨乳で良かった

 

 

 気付いたら、おれは森の中に立っていた。

 広がるように伸びた大樹の葉。その隙間から差し込んでくる陽の光が、おれの意識を少しずつクリアにしていく。

 

「ここ……どこだ?」

 

 おれはぽつんと呟いてみる。返ってきたのは鳥のさえずりと、風になびく葉のささやきだけだった。

 森だ。自然豊かな緑の大地だ。いや、それは分かっている。問題は、なぜおれが森の中に立っているのか、ということだった。

 

 目をつむり、前後の記憶を思い出す。

 確か、おれはコンビニでエロ本を読んだ後、女子高生に……何かしら呟かれて、スーパーに買い物に行って、そして家に帰る途中だったはずだ。その日の天候は雨で、靴が濡れて最悪な気分だったけれどブラが透けてる巨乳の女子高生を目撃できて一転して幸せな気分になった所まで覚えている。

 

「……で、おれは女子高生の透けブラを見ていただけなのに、なんで森の中にワープしてるんだ?」

 

 腕を組んで考えてみるが、何も思い浮かばない。

 ふと、妙な夢の記憶が頭をよぎった。かぼちゃの格好をした気持ちの悪いやつが、おれを賭けのコマにしただの、異世界に召喚するだの、よくわからないことを言っていたような気がする。

 

 しかし、所詮は夢なんて支離滅裂なものだ。特に参考材料にはならないだろう。

 

 腕を組んで、平凡な頭で考える。頭をひねくり回しても、拉致か誘拐か記憶障害くらいしか思いつかない。

 おれはエロに関しては想像力が無限大に広がるが、それ以外の分野での柔軟な発想というやつがとても苦手だ。

 おれは、なにかとルールに当てはめたがる。ルールを把握した上じゃないと物事が考えられないタイプなのだ。

 良く言えば論理的思考力があるとも捉えられなくはないが、悪く言えば頭が硬い。

 ――この融通の効かないクセがどうして生まれたのか、理由はあまりにもしょうもないので今は語らないでおこう。

 とにかく、こういう『急に謎の状況に置かれました』みたいなルールが不鮮明な状況が一番気持ち悪い。

 

「オーケー、落ち着けおれ。まずは五感をフルに使って状況を把握しよう」

 

 目の前にあるのは何だ?

 森だ。

 ここはどこだ?

 常識的に考えて日本であることには違いない。どうやってスーパー帰りに海外に行くんだよ。飛行機に乗った覚えはないぞ。

 

 結論。今の状態で状況を理解するには根拠が足りなさすぎる。ひとまず、ここにおれが立っている理由は置いておいて、家に帰ろう。

 

「スーパーの袋は……やっぱ無いか。くそっ、またスーパーに行って食い物を買わないといけないのか。そろそろ、お袋が腹すかせて起きてくる頃だってのに」

 

 元ボーイスカウトの経験(小四の夏休み二ヶ月間だけ)を活かし、太陽の位置から時間を推測する。たぶん、現在の時刻は昼の二時頃だろう。

 スーパーを出たのが夜八時ごろだったから、何かしらの理由でおれは一夜の記憶をふっ飛ばしてしまったようだった。

 

 そろそろスナックで働いているお袋が起きてきて飯をねだる時間だ。お袋を空腹にすると暴れるから、早く帰らないと部屋の障子がまだ破かれてしまう。

 

「あーもう、本当にここはどこなんだよ」

 

 ぶつぶつ言いながら歩を進めると、奥の方に開けた道が見えた。

 あそこで車を拾って、近くの駅まで届けてもらおう。

 理由は分からないが、とにかくおれはどこかの森の中に置いてきぼりにされたのだ。

 拉致られたのか、寝ぼけてここまで来たのかわからないが、なんにせよ家のある横浜から、そう遠くない場所だろう。

 

 そこで、ふと違和感を覚えた。視線の高さが普段より妙に高い。おれの身長は百七十五センチ。高校1年生の平均身長より少し高い程度だ。

 しかし、今のおれの視線の高さは明らかにそれよりも高い。脚立に登って作業している時くらいの視線の高さだ。恐らく二メートルはあるだろう。

 

 その違和感をきっかけに、身体の節々がちょっとおかしいことに気付いた。

 

 何だか足が長くなったような気がする。腕の感覚もちょっとおかしい。尻の部分も妙にむずむずする。

 自分の身体に目線を落とそうとしたその時だった。

 

「キャ――ッ!」

 

 女の子の甲高い悲鳴が森中に響き渡った。

 おれはとっさに声の方へ視線を向けた。木々に邪魔されて見えないが、その悲鳴は明らかに身の危険を知らせる切羽詰まった悲鳴だった。

 

「な、なにが起こったんだよ!? くそっ!」

 

 警察に電話、と思ったが、通報から到着まで平均10分以上かかるという警察密着二十四時で得た知識を思い出し、通報をしている暇はないと判断。

 周囲には当然人っ子一人おらず、悲鳴を聞きつけた人はいないようだ。おれを除いて。

 

「じゃあ、おれが行くしかないじゃないか! あーもうっ、全然状況が分からねえぞ!?」

 

 おれは悪態をつきながら、声のした方へ走りだした。

 地面を蹴り、飛ぶように森を駆け抜ける。いや、飛ぶように、ではなく実際に少し飛んでいるようだった。おれは自分自身の脚力に驚いた。いつからおれはこんなに身軽になった?

 

 血の臭いが鼻についた。あと三百メートル前方、そこで誰かが血を流している。臭いから距離感まで把握出来るなんて、犬になったみたいだ。

 違和感がいよいよ本格的に疑問へと変わってきたが、今はそのことを考えている暇はない。

 

 悲鳴の主が見えた。

 外人の女の子だ。ブロンド色の長い髪を、頭の上で二つ結びにしており、マントのようなものを羽織っている。彼女は肩を押さえながら地面に尻もちをついていて、その怯える視線の先には――怪物がいた。

 

 俺は思わず足を止めて呆けてしまう。普通、森のなかで女の子の悲鳴をきいたら、暴漢に襲われているとか、せいぜいクマやイノシシといった危険な野生動物に遭遇してしまった――そんな事態だと予想していた。

 

 しかし、それは明らかに、おれの想像の範疇を凌駕していた。

 

「なんだよ、これ……冗談だろ?」

 

 怪物。それは例えでも何でもなく、本当に怪物としか言いようのない生き物だった。体型的にはヒグマに近いだろう。二メートル近いがっしりとした巨体に、太い四肢を持ち、黒い体毛に覆われた巨大な生物がそこにいた。

 爪は人間の皮膚なら軽く剥ぎ取れてしまうくらいに鋭く尖っている。

 

 そこまではいい。熊やゴリラなど(日本に野生のゴリラはいないだろうが)森に生息する動物にはよくある特徴だ。

 

 おれがそいつを動物といわず怪物と例えた理由は頭部にあった。怪物の頭部には、潰れた人間の顔が張り付いていた。

 目玉は飛び出しており、紫色の泡を耐えず口から流している。

 まるで趣味の悪いゾンビマスクのような、しかし造り物というにはあまりにも生々しいものだった。

 

「あ……あ……」

 

 女の子は逃げようともがいているが、腰が抜けているのか、立つことが出来ないでいる。

 おれだって同じだ。あんなものが目の前に現れたら、足が震えて逃げるなんてとても出来ない。

 

「ウォオオオオ――――ッ!」

 

 怪物は雄叫びをあげて、怪物はその大きな足で一歩踏み出し、腕を振りかぶった。

 振り下ろされた瞬間、彼女は死ぬ。おれは目を見開いた。命を奪う一撃の予備動作。あんな鋭くて大きい爪で抉られたらひとたまりもない。女の子の首が跳ね飛ばされて、血しぶきが森に飛び散る光景が頭に浮かんだ。

 

 助けなきゃ。

 そう思うけれど、足が動かない。

 助けられるわけがない。

 逃げよう。

 巻き込まれたくない。

 

 臆病な理性と正義感がおれの中で葛藤を起こし、わずかな差で臆病さが勝ってしまった。

 例えこれが夢だとしても『女の子が襲われてるから』という理由だけであんな得体の知れない怪物に向かっていけるのは、勇者の生まれ変わりか頭のネジが三本ほど抜けた大馬鹿野郎くらいだろう。

 

 自分の命が一番大事、という合理的なルールがおれの足を縛って動けない。同時に

『困っている人がいたら助けてあげる。これが出来れば、いつかお前のことを好きと言ってくれる女の子が出てくるだろう』

 不意に、初めて失恋した時に、姉ちゃんに言われた言葉を思い出す。

 ――ああ、クソ! 言われなくても分かってるよ! 女の子が死ぬのを黙って見てる臆病者(チキンヤロウ)に彼女なんか出来るはずないってことくらい!

 姉の言葉で、足の指先くらいは動かせるくらいに勇気の炎が心に灯った。しかし、それでも非現実的な怪物相手に向かっていくには、まだ足りない。

 ――あと一つ、ほんのわずかでいい。理由が欲しい。彼女を助けに行く明確な理由(ルール)があれば、おれは足を縛っているクソッタレでビビリな合理的な理由(ルール)とやらを吹き飛ばせる。

 その刹那。

「~~~~ッ! あれはッ!」

 不意に女の子の姿勢がかわり、おっぱいの谷間が視界に入った。

 谷間。その魅惑的な世界が作られるということは、彼女は巨乳の持ち主。

 そして、おれは見てしまった。彼女のふくよかなおっぱいの存在を。服に隠されて入るが、最低でもFカップはあるだろう形のいいおっぱいを。

 ああ、ダメだ。見つけてしまった。おれが彼女を助けなければいけない明確な理由(ルール)が。

 目の前で、巨乳の女の子が醜い怪物に殺されかけている。小学生の頃から巨乳を一心に愛してきたおれが、命の危機に瀕した巨乳の女の子を見逃せるか? いや、見逃せない。

 おっぱいの大きさは愛の容量だ。美しい巨乳を持った女性は、愛しむべき高貴な存在だ。

 ――現実を無視した怪物が相手でも、そのルールだけは絶対に変わらない。

 ルールが明確になった。それは、おれの本能が下した判断。理性よりも早く、その電気信号はおれの身体を動かした。

 おっぱいを救え。ただ、それだけ。

 たったそれだけで、おれは世紀の大馬鹿野郎に変身した。得体の知れない怪物に素手で立ち向かうという、第三者から見れば自殺行為のような行動に打って出た。

 

「ちくしょう! その高貴な存在(おっぱい)に汚い手で触るんじゃねえ――ッ!」

 

 おれは女の子に襲いかかる怪物めがけて突進した。

 自分でもあり得ないと分かるほどの速度で、至近距離まで飛び込む。足腰をぐっと落とし、踏み込んだ右足の勢いを左足で止め、その速度と重さに腰の回転をくわえて全てを右拳に伝えて放つ。

 

 いつか女の子が暴漢に襲われている場面に遭遇した時のために通信講座で学んだ格闘術。

 結局、総額で八万円も使ったけれど一度も使う場面に出くわさず涙しながら捨てた通信講座の教材。まさか、今になって役立つとは思わなかった。

 

「ふっ飛べや怪物野郎ォ――ッ!」

 

 叫びながら、拳が当たるインパクトの瞬間にねじりを加える。拳に衝撃が走り、メキリ、という骨にヒビが入る音と共に、怪物の顔から血が飛び散った。そのまま怪物はよろける。

 

「グオォオオオッ!」

 

 しかし、すぐに体勢を立て直し、こちらに向かって爪を突き出してくる。

 動きは速いけど、動作も大きいし軌道も真っ直ぐだ。おれは最小限の動きで怪物の一撃を避け、サイドステップで怪物の右側に回り込んだ。そこから一歩踏み込んで下腹付近にレバーブローを打ち込む。怪物が顔を歪めて怯んだ。

 

 まるでプロボクサーのような俊敏な動き、完璧なコンビネーションだった。

 やべえ、おれ喧嘩なんてしたことなかったけど、こんなに強かったのか! ありがとう八万円の通信講座! 元は十分取れてるぜ!

 さっきまでの臆病さはどこ吹く風、いけると判断したおれは、立て続けに左アッパーを怪物の顎に打ち込み、完全にガードが空いたところにもう一度、渾身の右ストレートを打ち込んだ。

「グオォオオオ……ッ!」

 怪物が悲鳴をあげた。骨が砕ける鈍い音が鳴り響き、拳が怪物の顔面にめり込んでいく。

 今度こそ、完全に顔面を潰したようだ。

 

 ――ドシンッ!

 

 衝撃音と共に、怪物は地面に倒れ込んだ。

 おれは息を荒げながら「やった」と自分を安心させるように呟いた。

 信じられない。満身の力をこめた右ストレートとはいえ、あのヒグマみたいな巨体を持つ怪物をノックアウト出来た。いや、正確には顔面を砕いたといったほうが正しいか。

「はぁ、はぁ、おれ、強すぎ、だろ」

 肩で息をしながら自画自賛をしていると、ふと、怪物を淡い青色の燐光が包み込み、光の玉となって四散した。

 怪物が消えた? 死んだら光になって消えるって、おいおいおい、ゲームじゃあるまいしどうなってんだ?

 色々と疑問は残ったままだが、興奮と疲れで麻痺した頭じゃ何も考えられなかった。

 とにかく脅威は去った。おれは安堵の溜息をついて女の子の方を見た。

 

「きみ、大丈夫?」

 

 おれが手を差し伸べると、女の子はその手を掴むことなく、自力で立ち上がり後ずさりをした。

 ちょっと傷つくぜ、その反応。けど、目の前であんな修羅場を見たら、誰だって怖くなるのが普通だよな。

 

「えっと、怖がらないで。おれは味方だよ。君と同じれっきとした人間。怪物はもうどこかに行っちゃったから、もう安全だよ」

 

 両手をあげて、自分に敵意がないことを示すと、女の子はようやく強張った肩を落とし、警戒心を解いたようだった。

 

「ありがとう。でも……どうして助けてくれたの?」

「どうしてって、そりゃ君のおっぱ――コホン。女の子があんな怪物に襲われてたら誰だってそうするだろ」

 

 おれは紳士的に答える。まさか君の巨乳に惚れて考えるより先に身体が動いたとは言えない。

 

「そうじゃなくてっ。だから、その、魔族なのに、なんで人間である私を助けたのかって――」

 

 女の子はふと何かに気付いたのか、顔を近づけてきて、おれの目をじっと見つめた。

 

 目の前に女の子の顔がある。澄んだ水の色のような、青い瞳が特徴的な、綺麗な女の子だ。見た目的に日本人ではないだろう。

 まるで造り物のように整った顔立ちに、新雪のような白い肌、絹糸のような美しい髪の毛は見るもの全てを感嘆させる魅力を放っていた。

 それでいて庇護欲をそそるような小柄で女の子らしい印象を持っている

 もしクラスに彼女が転校してきたら少なくとも十人以上はその日のうちに愛の告白をするだろうし、おれもそのうちの一人として参加するかもしれない。

 そして、その美しい顔の遥か下、上半身についている柔らかそうなおっぱいは、服の上からでも分かる、まさに非の打ち所がない形のいい巨乳だった。世界一巨乳の形にうるさい男と呼ばれたおれでも一発でSSランクをつけてしまうくらい、神おっぱいだった。

 

 おれは思わず目をそむけた。頬が熱くなるのを感じる。

 

「な、なに? おれの顔に何かついてる?」

「その赤い瞳……あなたは『チェンジャー』なの?」

「チェンジャー?」

 

 おれが首を傾げると、女の子は解せないといった表情を浮かべる。

 

「そうよ。チェンジャー。それとも、あなたは人語が喋れる魔族なの? でも、そんな高等魔族が守護のクリスタルで守られてる『神聖の森』に存在しているはずがないし、やっぱりあなた、チェンジャーよね。そっちの方がまだ筋が通ってるわ」

 

 魔族? 女の子が何を喋っているのか、さっぱり分からない。不意に、おれは夢の話を思い出した。

 

『ブックメーカーに選ばれた』

『異世界アトランタル』

『勝利条件は魔王を討伐すること』

 

 ジャックと名乗ったかぼちゃの声が反芻する。まさか、ここは異世界で、おれはあのかぼちゃに召喚された? ありえない。そんな非現実的なことがあるはずがない。確かに漫画や映画じゃ、異世界の存在なんてポピュラーな題材だけど、現実でそんなことがあるはずがない。

 

 しかし、先ほどの怪物が映画の特殊メイクではなく本物の怪物だったのだとしたら、全ての筋が通ってしまう。

 

 いや、これが夢だという可能性もある?

 そう思って、しかし、おれは拳の感覚から夢ではないと判断した。

 さっき怪物を殴った拳には、生々しい感触がまだ残っている。返り血だって拳についたままだ。

 

 おれは右拳を顔の前に持ってくる。その時になってはじめて、おれは自分の身体の異変に気付いた。

 

「な、なんだよ、これ……!」

 

 そこにあったのは、茶色の体毛で覆われた獣の腕だった。形は人間の腕に近いが、腕の太さも、長さも、すべて人間のそれとは異なるものだった。

 

 足を見る。こちらも同じく体毛に覆われており、その筋肉量は外見からでもわかるほど強大で、この足が先ほどの飛ぶように走った体感を生み出したのだのだと納得がいった。

 極めつけは、尻の違和感の正体。表現し難いが、第三の足のような感覚のそれを前に振ると、そこには尻から生えた長いしっぽが姿を表した。

 

 自分の身体が人間のものじゃなくなっている。

 こんなの、信じられるか? まともに受け入れられるか? おれは無理だ。世の中にはルールがある。常識がある。物理法則やら何やらお偉いさんが作った『これが現実で起こることの理由だよ』という裏付けがある。

 けれど、いくらなんでも、ある日突然こんな姿になるなんて事は御伽噺の中でしか許されない現実無視のルール違反だ。

 

「あなた、自分のチェンジフォームも分からないの?」

 

 女の子は呆れたような口調で言った。カバンから手鏡を取り出し、おれの面前に突きつける。

 そこに映っていたのは、毎朝顔を洗う時に嫌というほど見てきた横浜生まれ横浜育ちの高校一年生『神崎悠真(かんざき ゆうま)』の姿ではなかった。

 

 狼男。そう表現するしかない獣の顔が、小さな鏡の中で目を見開いていた。鼻は長く、口には鋭い牙が生えている。耳はまさしく獣の耳で、驚きに見開かれた瞳は間違いなくおれ自身の瞳だった。

 おいおい、いくらおれが人よりちょっとばかしエロへの興味が強いからって、狼男にすることはないだろう?

 なんて心の中で突っ込みをしつつ、おれはめまいと共に意識が遠のいていくのを感じた。

 

「冗談きついぜ、神様よ――……」

「ちょ、ちょっと、どうしたの!? 大丈夫!?」

 

 人間は信じがたい事実を目の当たりにすると、意識を失うという。

 おれはその定説通り、本日二度目の気絶をすることになった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1-2 初めてのファーストキスとラッキースケベ

 私立弓月学園の一年生には『エロの二大巨塔』と呼ばれる伝説のエロ男子が二人存在する。

 

 一人は通称『ロリコン変態貧乳派メガネ』こと高橋大輝(たかはし だいき)。

 

 こいつは自己紹介の時に

 

「俺は女子小学生が大好きです。女子小学生と付き合うのが俺の夢です。けれど、日本では法律が壁になって年の差恋愛は難しいので、政治家になって法律を改正して自由恋愛を広めていきたいです」

 

 というロリコン魂をぶっちゃけすぎた自己紹介をして、入学初日から一部の男子からは神と讃えられ、女子からは危険人物として蔑まれるようになった伝説の男である。

 

 貧乳の魅力について72時間は語れるという貧乳に対する愛と、恋愛対象が常に女子小学生(実際に手出しはせず遠くから見守る主義らしい)という、あまりにも個性が強烈過ぎる、もとい危険すぎる男だった。

 

 そしてもう一人の『エロの巨塔』は、このおれこと神埼悠真(かんざき ゆうま)である。

 

 小学生の時に巨乳専門のエロ本を拾ったことがきっかけで巨乳に目覚め、それからというもの、巨乳の女の子と付き合うことが人生最大の目標になっている男である。

 

 巨乳をこよなく愛し、服の上からでも胸のカップサイズが瞬時に判断できる能力は当然として、おっぱいの形状や肌の具合から食生活や生活習慣まで推測出来てしまうことから『巨乳の伝道師(プロフェッショナル)』と呼ばれている。

 

 男子からは畏怖と尊敬を向けられ、女子からは軽蔑と嫌悪を全力で浴びせられている弓月学園の有名人だ。

 

 高校一年生の最初のクラス会で女子のカップサイズを制服の上から当てるゲームを発案し、全問正解して女子全員ドン引きさせたのが、間違いのはじまりだった。

 

 前日にメンズ雑誌で『モテる男の自己紹介特集! 今の時代はちょいエロ男がモテる理由』というコラムを読んで、それを鵜呑みにしてしまったのだ。

 

 今になって冷静に考えてみれば、エロ男がモテるのにはイケメンであり女慣れしているという前提があって初めて成り立つものであって、中学時代からパッとしない平凡で女友達もいない、モテない男の代表格みたいなおれが実践したらどんな悲劇的な結末になるか、分かったはずなのだ。

 

 しかし「高校デビューをして巨乳で可愛い彼女を作ってやるぜ!」と意気込んでいたおれは、これから始まる新生活への興奮から、客観的に物事を考えられる状態ではなかったのだ。

 

 結果、爆死。クラスの女子を全員ドン引きさせるという結果に終わった。

 

 なんて愚かなんだ、おれ。タイムマシンがあるなら今すぐ始業式前日にタイムリープしてその雑誌を窓から投げ捨てたい。

 

 そんな訳で女子全員から『性欲まみれの気持ち悪いエロ男』という評価を無事頂き、そのわずか1週間後に女子更衣室を覗こうとしていた不審者を発見し捕まえようと格闘している内に、逆におれが女子更衣室を覗く形になってしまった『女子更衣室覗き魔誤解事件』により、女子一同のおれに対する扱いは決定的なものになってしまった。

 

 その後に真犯人が逮捕され誤解は解けたのだが、なぜか女子からの評判は一向に変わらず、入学からわずか一週間で学年全員の女子から嫌われるという偉業を成し遂げてしまった。

 

 それから、何かと男子からエロ方面で頼られるようになり、おれは開き直って三千本はあるであろうおれの巨乳動画コレクションを無料で配布したり、おっぱいに関する豆知識を披露して男子からの支持を集めた。

 

 その結果、女子からは嫌われ男子からは慕われるという嬉しくないポジションに固定化されてしまった。

 

 つまるところ、おれは『あのロリコン高橋に並ぶ伝説の存在』と化してしまい、高橋と仲が良かったことから女子からは『神埼と高橋は付き合いたくないキモ男ランキングin弓月学園トップⅡ』とペアで捉えられるようになり、もはや高校生活で彼女を作る事はほぼ不可能に近い状態になってしまったのである。

 

 ――と、まぁざっと説明したが、おれはそんなどこにでもいる悲しい彼女いない歴=年齢の平凡な高校一年生男子だ。涙無しには語れない。

 

 もうさ、あれだよね。地球爆発すればいいのに。グループラインとかツイッターとかでおれの噂(デマ)を拡散するやつは死ねばいいのに。

 

 そんな生い立ちはさておき、その日もおれは高橋と貧乳と巨乳どちらが素晴らしいか閉門の夕方六時まで談義をしたのち、学ランのままコンビニで新作の巨乳系エロ本を物色し近所の女子高生に「キモ……!」と呟かれながら、スーパーに立ち寄って夕飯の買い出しをして帰路についた次第だった。

 

 それは、いつもと変わらぬ日常だった。

 

 巨乳の彼女欲しいなー。高校入ったら彼女出来るって聞いたんだけどなー、でもそれって女子から嫌われていないことが前提のルールであっておれじゃもう無理だよなー、

 

 と心のなかで今さらどうにもならない過去を嘆きつつ、夜道を歩いていたそのときだった。

 

 おれは、前述した通りの不思議な夢を見て、あの世界に降り立ち、そして――。

 

(んぐぅっ!?)

 

 おれは、不意に猛烈な息苦しさを感じた。

 呼吸が出来ない。何かで口をふさがれているようだ。

 ちょっと待て、ダメだ、窒息死する――!

 

「ぷはっ!」

「きゃっ!」

 

 目を覚ますと、目の前に女の子の顔があった。

 女の子はぱっと慌てた様子で顔を離した。おれは起き上がって、頭を横に振る。昔の夢を見ていたようだ。おれは一体どうしたんだっけ?

 

「ここは……?」

「安心して。私の部屋よ」

 

 言われて、おれは周囲を見回す。キャンプ場のログハウスのような、簡素な部屋だ。木を素材に作られた家のようで、木枠の窓からは外の街並みが見える。窓の隣には大型の本棚が置かれており、そこには溢れんばかりの本がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

 

 思い出した。おれは、確かヒグマのような怪物から巨乳の女の子を守って、その後、気を失ったんだ。

 

「君が介抱してくれたの?」

「命の恩人を捨てておくほど薄情じゃないわ」

 

 彼女は腕を組んで、少し恥ずかしそうにそっぽを向いた。腕の間でおっぱいが窮屈そうに寄り合っている。いかん、眼福すぎて鼻血が出そうだ。冷静になれ、おれ。

 紳士的な表情を繕い、おれは興奮を抑えながらお礼を言った。

 

「世話をしてくれて、ありがとう。……って、何だか落ち着かない様子だけど、どうしたの?」

 

 そう聞くと、彼女はこほん、と咳払いをして、顔を赤くしてこちらに顔を向けた。

 

「わかってると思うけど、一応言っておくわ」

 

 一旦言葉を切って、大きく深呼吸。

 

「さっきの、その……アレは、変な意味じゃないから勘違いしないでね。マインドボトルも試したけど、やっぱり文献通り、チェンジャーはアレ以外での魔力供給が出来なくて、だから……仕方なく、口移しで魔力を分けてあげただけなんだからね」

「口移しって……えっ!?」

「そ、そんなに大声出さないでよ! 他意はないって言ってるでしょ!」

 

 おれは目が覚める直前に感じた息苦しさと、唇にかすかに残る暖かさを確認する。この子、おれにキスをしてたのか? 一体どうして?

 

「お、おれ、ファーストキス……」

「~~~~ッ! わ、私だって初めてだけど……じゃなくて! あれはキスじゃなくて、魔力を分ける口移しっ! キスじゃないからっ!」

 

 彼女は顔を真っ赤にしておれを睨みつけた。

 なんでおれ、名前も知らない女の子にファーストキスを奪われてるんだ? 彼女は確かに綺麗だ。おまけに俺好みの巨乳だ。

 別にキスをされたことに文句なんてつける気はない。むしろ、ありがとうございますとお礼を言いたいくらいだ。

 

 けど、おれみたいな平凡な男を相手にしなくとも、恋人候補には不自由しなさそうな美少女なのに、どうしておれにキスを?

 

「もしかして、一目惚れ? それにしても、いきなりキスなんて、ちょっと早すぎじゃ……意外とおれって順序を大切にするタイプなんで」

「だ、だから、違うっ! バカッ! バカバカ、けだもの!」

「いてっ! ちょ、待って!」

 

 枕で殴られる。やばい、意外と枕って痛い!

 彼女は少し涙目になっていて、必死に恥ずかしさを堪えているようだった。

 しかし、彼女はふと我に返って、おれを叩くのをやめた。

 

「あ、ご、ごめんなさいっ」

「い、いや、こっちこそごめん。自惚れてましたスミマセン」

 

 どうやら、彼女はおれに一目惚れをして寝ている間にキスをしたという訳ではなさそうだ。

 うちのクラスで女子からの人気ナンバーワンであるイケメンリア充の日野上ならともかく、女子からの人気ワースト一位(ロリコン高橋と同票)であるおれがこんな美少女に一目惚れされるなんて、地球がひっくり返ってもありえないだろう。

 

「そうだよな、おれみたいなナスビをひしゃげたような面の男にキスするなんて、よほどの事情がなきゃおかしいもんな」

「そ、そこまでは言ってないし、そんなに顔立ちが悪いとは思わないけど……とにかく、あれはあなたの魔力を補充するために行った治療行為であって、恋愛のキスとは別物だからね」

 

 魔力を補充するため?

 意味が分からないが、これ以上、話を混ぜ返しても場が混乱するだけなので深く考えないでおこう。

 ふぅ、とお互いに一息つく。会話が途切れて、何となく沈黙が広がる。

 とりあえず、だ。

 

「……自己紹介をしようか。おれは神埼悠真。高校一年生の十六歳、日本人だ。よろしく」

「ユーマ? 変わった名前ね」

 女の子は首をかしげる。それからすぐに、にこっと笑って自分の名を名乗った。

「私はリリィ=ドラゴニカ。『炎のドラゴニカ家』十代目って聞いたことあるでしょう?」

「あー、うん、あれね、あの有名な――ごめん、聞いたことがない」

 

 ――シン。

 リリィはよほど意外だったのか、大きな目をぱちくりさせている。

 あれー、なんだろう。この知ってて当然でしょう? 知らないの? マジで? みたいな空気は。

 彼女は有名人なのか?

 なんだか申し訳なくなって、おれは頭を下げて謝った。

 

「し、知らなくてごめんなさい」

「……そっか、私のこと知らないんだ。うん、そうよね。あなた、チェンジャーですものね。有名といっても、王都の中の話だもの。私のことを知らなくても無理ないわ」

 

 気を悪くさせたのかと思ったが、存外、リリィの表情はむしろほっと胸を撫で下ろすような感じだった。

 なんだろう? もしかして有名な犯罪者とか――いやそれはないな。巨乳の美少女に悪人はいない。巨乳の女の子は天使だからだ。異論は認めない。

 

 おれはふと、思いついた疑問をぶつけてみた。

 

「さっきから気になってたんだけど、チェンジャーって何なんだ?」

 

 おれがそう聞くと、リリィはきょとんとした。

 ううっ、その「知ってて当然のことをなぜ聞くの?」みたいな視線はやめてくれ。なんだかおれ、物凄くバカみたいじゃないか。

 

「あなた、自分の属性も分からないの?」

「わからん。属性って? ゲームで言うところの火とか水とか、そういうやつ?」

「ゲームという物は分からないけど、あなたの言っている通り属性は火や水といった元素属性を代表とする魔導師の大事な構成要素(アイデンティティ)よ」

「すまん。そこんとこ、もうちょい詳しく教えてくれ」

 リリィは怪訝そうに眉をひそめる。ジトっとおれを見つめてくる顔も、普通の容姿なら苛立つだろうけれど、リリィの恐ろしく整った美しい顔立ちでやられると、ちょっとドキッとしてしまう。

 あと腕を寄せるのは目のやり場に困るのでやめて欲しい。豊かに育ったおっぱいが形を変えておれの煩悩を刺激するんだよなぁ。

 ……などと、不埒なことを考えていたら、リリィは小さくため息をついて口火を切った。

 

「私たち、魔導師の身体には生まれつき火や水といった属性のクリスタルが神から与えられるでしょう? けど、その中には元素属性みたいな一般的なものじゃない特殊なものがあって、あなたはその中でも珍しい特殊属性の一つ『変化』のクリスタルを持っているわ。そして、変身のクリスタルを持つ人を一般的にチェンジャーと呼んでいるの」

「なるほどね。変身するからチェンジャーか」

 

 おれは腕を組んで、うんうんと頷いた。実際、たいして理解出来ていないけど、とりあえず憶測で話をまとめてみる。

 どうやら、この世界では皆さん体内に属性のクリスタルというものを持っているらしい。推測するに、その体内のクリスタルの属性によって使える魔法が違うとか、そういうカテゴリー分けをされているのだろう。

 もしここが一般的なロールプレイングゲームのような世界なら、の話だが。

 で。

 おれは変身のクリスタルを神から与えられて、狼男になれる能力を手に入れたということだ。森でのおれの無双っぷりを考慮すると、そこそこ強い属性らしい。

 しかし……まるでゲームの登場人物になった気分だ。悪い夢だと思いたい。

 

「『属性の原則』を知らないなんて、あなた、今までどんな生活をしてきたの?」

「どんな生活って、普通に生きてきたとしか言いようがないけどさ」

 

 おれは頭をかいて、目を伏せた。

 いよいよ認めざるをえない。

 どうやら、おれは本当に異世界に来てしまったらしい。彼女の目を見れば分かる。

 この世界では誰もが知っている常識を知らないなんて、怪しすぎる――そんな意味合いが訝しげな視線から読み取れた。本気でおれを疑っているようだ。

 

「あー、だめだ。頭痛ぇ……話が通じなさすぎる……」

 

 おれは思わず頭を抱えた。これからどうするべきなのか、目の前の異世界人に対してどう立ちまわっておくべきなのか、対応策がさっぱり浮かばない。

 異世界に来たら、まず何をするべきか? なんて作家志望か厨二病の奴くらいしか考えたことは無いだろう。

 うんうん唸っていると、リリィは熱を測るようにおれの額に手をおいて言った。

 

「ユーマ、あなた、もしかして記憶が少し飛んじゃったんじゃない? 基礎魔術Ⅱの講義で『オーバーロード』が原因で記憶喪失になった例を聞いたことがあるわ」

「いや、記憶喪失って訳じゃないんだ。……わかった、オーケー。信じてもらえるかどうかは分からないけど、おれの話を聞いてくれ」

 

 リリィの手をおれの額から離し、おれは自分の世界のこと、異世界に召喚されてしまったことを話した。

 

 

 リリィは最初こそ真剣に聞いていたものの、おれの世界の話が中盤に差し掛かったところで眉をつりあげ、ジャックと名乗る神の使いのかぼちゃについて話し終えたところで、頭を抱えてしまった。

 

「ユーマ、ごめんなさい。あなたが何を言っているのか全然理解出来ないわ」

「まぁ、そうだよな……」

 

 期待はしていなかったけれど、ここまで手がかり無しだとは思っていなかった。

 

「あなたのいた世界、ニホンだっけ? そこでは魔法が無くて、かわりにパソコンだのケータイだの、便利なキカイとやらが代わりを果たしていて、魔法はおとぎ話の中でしか存在しない――こんなの、信じられると思う?」

 

 信じるも信じないも、おれにとっては事実だ。しかし、どうやらリリィの側からすれば、それこそおれの世界の話はおとぎ話のようなものらしい。

 

「そして何より、神々の賭けで魔王討伐? あり得ないわ。あなたの話の中で、一番趣味の悪い設定よ。神はいつだって私達を守ってくれる神聖な存在なの。信仰深い人にそんな話をしたらぶっ飛ばされるわよ」

「けど、本当なんだ。そのかぼちゃが言うには、おれは賭けの対象者の一人だって――」

「とにかく、よく出来た設定だと思うわ。即席で考えたのだとしたら、あなたには小説を書く才能があるのかもね」

 

 リリィはもう十分、といわんばかりに勢いよく椅子から立ち上がり、おれに背を向けた。

 

「最低限、動けるだけの魔力は分けてあげたから、身体はもう大丈夫でしょ? 私も忙しい身だから、小説のお話はまた今度にして。もう帰って寝なさい」

 

 子供をあやすような態度で、リリィは部屋のドアを開けた。

 

「そこの大通りから飛行船が出てる空港までの馬車が出てるから、それを使うといいわ」

「ま、待ってくれ。おれは本当に日本から突然この世界に飛ばされて、何も分からないんだ」

「……最近、変な話を相手に聞かせてツボを押し売りする悪徳商人が増えていたのを思い出したわ。ユーマ、危ないところを助けてくれて、ありがとう。でも、お話にはもう少しリアリティを入れたほうがいいわ。それと神を侮辱するよりも讃える方向で設定を作ったほうが、信仰深い人にツボを買ってもらえるかもね。それじゃ」

「だから、おれはツボ売りじゃ――」

 

 その時、おれは慌てて立ち上がった成果、自分の足に躓いてしまった。

 

「うわっ!」

「きゃあ!」

 

 ドシンッ……!

 彼女に覆いかぶさるように、おれは倒れこんでしまう。最悪だ、おれ何やってんだ。

 

「ごめん、大丈夫――あぁっ!」

 

 おれの右手の五本指が、リリィのおっぱいに思い切り食い込んでいた。ぎゅうう、と握ってしまっている指に返ってくるふにふにとした柔らかさは、まさにおれが求めていた最高級のおっぱいの感触だった。

 

「~~~~ッ!」

 

 リリィは瞳を驚きと恥じらいの色でいっぱいにして、声にならない悲鳴をあげる。やばい、これは完全におれが悪い。

 けど、おっぱいの感触気持ちよすぎる……! この瞬間を味わえただけで、生きててよかったと心底思える……! ありがとう神様!

 

「い、いやぁぁぁ――ッ!」

 

 リリィは悲鳴をあげ「ムーブ!」と叫び、指を横に勢い良く振った。すると、おれの身体がふわりと浮いて、そのまま見えない力で家の外まで放り投げられた。

 

「うわっ!」

「この変態! けだもの! エロオオカミ! とっとと帰りなさい、バカァ!」

 

 バタン。無常にも家の扉は閉められてしまった。追い出されたおれはぽかんと家の前に座り込む。

 

「やっちまった……最悪だ、おれ」

 

 お金もないし、知り合いもいないし、手がかりもない。そんなナイナイ尽くしの状況なのに、唯一の情報源であるリリィのおっぱいを揉んで怒らせてしまった。

 

「あの様子じゃ、もう絶対口も聞いてくれないだろうなぁ」

 

 仕方ない。儚い一瞬だった。おれは右手に残る感触を胸に、考えを切り替えることにした。

 とりあえず所持品の確認だ。おれが持っているのは、どうやら学ランのみのようだ。携帯電話や財布はすべて無くなっている。この世界で使えるのかどうかも怪しいが、とにかく何も持たぬまま、放り出されてしまったようだ。ますます絶望的な状況じゃないか、くそったれ。

 

「金が無いっていうのが一番痛いなぁ。探索しようにも、動きようがねえじゃん」

 

 じ――……。

 何だかすごく視線を感じる。顔を上げると、リリィの家のドアが少しだけ開いていて、そこからリリィがおれの事をじとっと見つめている。

 

「ど、どうかした?」

「これ」

「え?」

 

 リリィはドアの隙間からそーっと手を伸ばし、小さな袋を手渡してきた。 

 

「なにこれ?」

「交通費と食事代。私は学生だからお金はあまり持ってないの。高価なツボは買ってあげられないけど、せっかく王都にきたんだから、何か暖かいものでも食べてから帰りなさい。じゃあ、気をつけてね」

「え、ちょ、ええ?」

 

 

 バタン。そして再び閉められる扉。

 もらった小さな袋をあけてみると、銀貨が何枚か入っていた。これ、もらっていいのか? タダで? おっぱい揉んでお金も貰えるなんて、彼女は天使なのだろうか。天使に違いない。

 やはり巨乳を持った女の子は天使だったのだ。

 

「どうだ貧乳派の高橋ぃ! 巨乳は神ということが証明されたぞ!」

 

 ぐぎゅるるるる。

 アホなことを叫んでいたら、盛大に腹の虫が鳴った。

 

「そういえば、何も食べてないな。くそっ、腹が減った……けど何も食うもの持ってねえ」

 

 このまま異世界で餓死なんて嫌すぎる。

 ――その時、不意に扉が開いて、リリィが顔を半分覗かせた。

 

「……お腹すいてるの?」

「あ、いや、そんなことは」

 

 ぐぎゅるるるる。

 言い切る前に、またもや盛大に腹が鳴る。

 リリィははぁー、と溜息をついて

 

「これを食べるといいわ。保存食、余ってたからあげる」

 

 そう言って、フレークのような食べ物の入ったボックスを渡される。

「言っておくけど、余り物を捨てるのがもったいないから、あなたにあげるんだからね。あと、家の前で餓死されても迷惑だし。つまり、えっと、別にあなたのために用意した食材じゃないから、勘違いしないで」

「あ、ありが――」

 

 バタン。間髪入れずにドアが閉まる。

 なんだろう、彼女、ものすごく冷たい風に装っていたけど、優しさが溢れ出ていて隠しきれていないんですが、これは突っ込まないほうがいいのだろうか。

 とりあえず施しは甘んじて受け入れよう。

 おれはフレークを一気に腹にかきこむ。うん、上手い。

 あっという間に無くなってしまった。

 ……ドアの向こうから、こちらの様子を伺っているような気配を感じる。

 もしかして、ずっとドアの前でおれの言葉に聞き耳を立てているのか?

 

「リリィ」

「なに?」

 

 即座にドアが開き、警戒した様子でリリィが顔を半分だけ出した。

 

「いや、ご飯ありがとう」

「どういたしまして。じゃあね」

 

 バタン。

 おれはおもむろにドアを開けてみた。

 

「きゃあ!」

 

 やっぱりドアに耳を押し当てていたのか、支えを失ったリリィはバランスを崩して転がった。

 

「なにするのよ、もうっ」

「いや、まさかそんな耳を押し当てるほど、おれを気にしてくれてるとは思わなくて……」

「別にあなたの様子を案じているわけじゃないわ。ただ、あんな神を咎めるような作り話をする人だから、何か悪さをしないか心配なだけよ」

 

 ふん、と唇を尖らせてリリィは言った。意地を張っているのが見え見えだ。根が素直な子なのだろう、とおれは思った。

 

「大丈夫、悪さなんてしないよ」

「そうよね。身を挺してまで、私を助けてくれたんだから、悪い人じゃないことは分かってるけど……って、えっと、そうじゃないから。あなたのことが心配で気になってるわけじゃないから」

 

 ぐぎゅるるるる。

 空気を読まずに、またおれの腹がなった。

 リリィは大きなため息を一つついて、

 

「入って」

 

 ドアを開けて、おれを家に招き入れた。

 

 

「う、美味い! こんなに美味い卵焼きトーストは初めてだ!」

「昨日の残り物よ。そんなに賛美するほどの物ではないわ」

 

 再びリリィの家に入ったおれは、リリィが出してくれたトーストをご馳走になっていた。

 こんがり焼いたトーストに卵焼きを乗せただけの料理だが、調味料が上手いこと配分されていて、信じられないくらい美味い。

 あまりの美味さに、おれは卵焼きトーストを一気に食べる。

 空腹だった胃は満たされ、おれは改めてリリィに礼を言った。

 

「ご飯までご馳走してもらって、本当にすまない。でも、ありがとう」

「あなたは私の命の恩人だから、食事をご馳走するくらいやぶさかではないわ」

 

 リリィはそっけなく答える。しかし、不意に頬を緩ませて可愛らしい笑顔を浮かべて

 

「そんなにがっつくほど美味しいんだ……ふふっ、嬉しい」

 

 そんな素直な感情を小さく漏らした。

 やばい、可愛い。なんていうか、意地を張ったあとに無意識に本音が漏れるのは天然なのか、計算なのか、とにかく死ぬほど可愛いぞ。

 

「今、なんか言った?」

「な、なんでもない。早く食べて。私、勉強をしなきゃいけないから」

 

 とぼけたふりをして聞くと、リリィは「早く早く」とフライパンに乗っていたもう一つのトーストをお皿に乗せて、おれを急かした。なんだか、この子の性格がわかってきた気がする。意地っ張りだけど、優しい子なんだ。

 おれは最後の卵焼きトーストを食べ終えると、一息ついた。

 

「さて」

「……」

 

 おれとリリィは無言で見つめ合う。

 

「どうしようか?」

 

 さりげなくぼやいたつもりだったのだが、リリィはとっさに立ち上がり杖を構えた。

 

「へ、変なことは考えないでよ。私、魔導師だからね。おおお、男の子なんて全然怖くないんだから」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。何の話だ?」

「……無理やり押し倒すつもりなんでしょ」

 

 おれは思わず咳き込んだ。

 

「そんなつもりはないよ! 深読みしすぎだって!」

「嘘! 家で二人きりでいる時に、ニヤニヤしながら『どうしようか?』って男が聞いてきた時は、押し倒す合図だってメリッサが言ってたわ」

「それ嘘だから! なにその限定的すぎる合図は!」

「さっきは、む、胸を揉んだくせに……」

「あれは本当にすまん! 事故だったんだ。謝る。申し訳なかった。もう転んで押し倒したりしないし、君に危害を加える気もない。誓って無い」

 

 おれは手をあげて、押し倒す気がないことをアピールする。

 リリィはハッと我に返り、おれにその気がないことを察したのか、杖を置いて椅子に座った。

 

「ごめんなさい。私、男の人を家に入れたのは初めてだったから……あと、ちょっと男の人が苦手で」

「いや、こっちこそ、いろいろ心配させてごめん。迷惑かけまくってるな、おれ」

 

 頭をかきながら、愛想笑いを浮かべるおれ。

 

「それに……む、胸を触られたのも、初めてだから」

「ごめんなさい、今すぐこの場で死んで詫びます」

「し、死ぬのはダメ! いいから、もう気にしてないから、ね?」

 

 リリィは慌てた様子でおれを止めた。うん、やはり天使だ。間違いない。

 そして気まずい沈黙が流れた。

 

 これ以上、リリィに甘える訳にはいかないよな、やっぱり。よくよく見ると、リリィはおれと同い年くらいの女の子だ。そして、察するに彼女は一人暮らしのようだ。

 

 年頃の女の子が一人で住んでいる家に男を招き入れるのがどれだけのプレッシャーなのか、いくら女の子に鈍感なおれでも想像できる。

 これ以上、迷惑をかけるのはダメだ。やっぱり出て行こう。

 

「今日……泊まってく?」

「ごほっ!」

 

 おれは再びむせた。不意打ちもいいところだ。

 

「そっちの方がむしろあれな感じだと思うんだけど」

「あ、ち、違っ! そういう意味じゃなくて、ああ、もう……!」

 

 リリィは顔を真っ赤にして、机に突っ伏してしまった。本当に男性とのやり取りに慣れていないようだった。なんかもう、混乱させて本当に申し訳ない。

 おれは潮時だな、と思い、そろそろおいとますることにした。

 お金も少しだけだが貰えたし、衣食住くらい自分で何とか出来るだろう。

 

「気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう、リリィ」

 

 そう言って、おれは立ち上がり、リリィの家から外に出た。

 

「待って! 帰り道は分かってるの?」

「ああ。何となく。本当に、いろいろとありがとう」

「ううん、私の方こそ、助けてくれてありがとう」

 

 リリィはそう言って天使のような微笑みをおれに向けた。

 おれはその笑顔だけで今日一日の疲れが吹っ飛んだような気がした。

 

「あ、一つだけ。あなたの身体のことだから言うまでもない思うけど、あなたにキ――く、口移しで分けた魔力は最低限の量だから、無理して寄り道したりしないでね。また『オーバーロード』を起こして倒れちゃうからね」

「わかった。もう『オーバーロード』なんてしないよ。それじゃ! また機会があれば、アディオス!」

 

 『オーバーロード』とか魔力云々の詳細が気になってけれど、これ以上、質問の嵐をぶつけて彼女に負担をかけるわけにもいかないので、おれはあえて知ったかぶりをした。

 

 手をあげて、おれは振り返ることなくリリィに背を向けて走りだす。

 

 これ以上だらだらしていたら、またリリィが何かお節介を焼いてしまう。そして、あの巨乳は巨乳大好きのおれにとってあまりにも刺激が強すぎだ。彼女の家に泊まったら、それこそ息子が大変なことになって眠れなくなるだろう……というのは建前で、要するにこれ以上彼女に甘えるわけにはいかないとカッコをつけたのだ。

 

 いろいろ情報が聞けるチャンスだったけれど、仕方ない。質問ばっかりする教えて君はモテないって雑誌にも書いてあったし、リリィは男の子が苦手みたいだから、無理に付き合わせるのは悪いからな。

 

「……ってかっこつけたのはいいけど、これからどうすりゃいいんだ」

 

 おれはリリィの家が見えなくなるくらいまで走ってから、ちょっとだけ後悔した。どこまでもダサい男です、おれってやつは。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。