Croce World―君に呼ばれて― (紅 奈々)
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プロローグ


初めまして、紅奈々です!
こちらでの作品投稿は初めてなので、至らない所も在ると思いますが、長い目で見てやって下さい!

誤字・脱字等は指摘して頂けたらありがたいです(極力、ないようには致します)!



淡々と過ぎていく毎日がつまらなかった。

目に映る全てのモノがしょうもなく感じていた。

人間の感情も、移ろう他人との関係も全てがどうでも良い。

 

所詮、人なんて直ぐに掌を返す。

そんな単純な人間が嫌いだった。

長いものに巻かれ、媚びる人間。

弱者をいたぶってそれを良しとする人間。

それらが堪らなく下らないと、そんな人間を何処か遠い場所で見下していた。

 

考え方の相違から、避けられていた。

訳が解らないまま避けられていた。

誰に理解される事もなく、独りぼっちで諦めて。

いつしか、思考は歪んでさ。

私の心を癒やしていたのはいつだって、二次元だった。

音楽だった。

だから、ヘッドフォンが手放せなかった。

 

 

 

きっと、あなたたちに出会わなければ私は、孤独(ひとり)で居られただろう。

孤独(ひとり)で夢を追って、そして、歳を取って、孤独(ひとり)で死ぬのだろう。

そう思っていた。

それも悪くないと。

賑やかよりも静かな方が私は好きだ。

五月蠅いなら、何も聞こえない方が良い。

 

 

でも、あなたたちは喧しくて五月蠅くて、静かな時って無いんじゃないかって思うくらい。

それがいつの間にか「悪くない」なんて。

もう会えないだろうけど、私はこの日々を忘れない。

あなたたちが忘れたとしても、私はこの日々を生涯忘れずに、墓場に持っていこう。

あなたたちと過ごした時間は夢なんかじゃない。

誰が何と言おうと、確かにそこにその日々はあったのだから。

 

 

マーモンが居て、ベルが居て、XANが居て、フランが居て、ルッス姐さんが居て、スクが居て、私が居て。

あの家に行くと、ルッス姐さんがご飯を作って私とフランとベルとマーモンの帰りを待ってて。

みんなでご飯を食べて、ゲームをして、遊んで。

まるで、違う世界に居るようだった。

 

 

過去に置き去りにした感情を戻してくれた。

消え失せた温もりをくれた。

死んでいた心を生き返らせてくれた。

 

感謝してもしきれない。

伝えたい事が沢山ある。

伝えきれてない事が沢山ある。

「ありがとう」って言いたかった。

「大好き」って言いたかった。

 

 

もう、私と彼らの世界が交わる事はない。

どんなに願っても。

どんなに望んでも。

 

 

大丈夫、これからは孤独(ひとり)じゃないから。

一人でも歩いて行けるから。

生きていけるから。

 

 

 

ありがとう、XAN。

ありがとう、スク。

ありがとう、ベル。

ありがとう、マーモン。

ありがとう、フラン。

ありがとう、ルッス姐さん。

 

 

そして、大好きだよ―――――――――――

 






まだまだ始まったばかり!!
さぁ、頑張って書いていこう!!

ちょっと質問なのですが、私は何話か書いて、一気に投稿していく書き方なんですが、一日1話更新くらいが良いのでしょうか?


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第1章 「始まり」
第1話 


始まりはいつだって、突飛なモノで。
その日々は突然、ノックしてきた。




清々しい空気を孕んで、紫がかった空が夜明けを告げる。

窓から吹き込んでくる風がベッドに眠る少女の頬を撫でると、少女は布団に顔を埋めた。

夏とは言え、明け方の風は少し冷えている。

 

 

《ゔぉぉぉぉい!!早く起きろぉ!!》

 

 

そんな清々しい早朝の空気をぶち壊すように、何処からかそんな大声が聞こえた。

外からではない。眠っている筈の少女しか居ない筈のこの部屋からだ。

その声は男性のモノで、何回か聞こえると少女は身じろぎをして、その声の元を手繰り寄せる。

それは、紫にカラーリングされた旧式の携帯だった。

そのケータイから、男性の声は聞こえていた。

どうやら、キャラクターボイスらしい。その声は知る人ぞ知るアニメのキャラの声だった。

少女は煩わしそうにそのケータイのサイドボタンを押す。

すると、音は止んだ。

 

 

「ん~、今、何時だと思ってんだよ・・・・・・」

 

 

自分がセットしたアラームに文句を言いながら、少女はケータイのディスプレイを見る。

もう少し寝かせろよ。

寝ぼけ眼でそう思いつつケータイのディスプレイを見て、少女は絶句するのだった。

 

 

「わぁぁぁぁぁぁぁああああ!?

バイト!今日からだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!?」

 

 

時間を見ると少女は飛び起きた。

少女は顔を洗って、髪を整える。

肩よりも少し長いくらいの茶髪を後ろで纏めて、黒いTシャツとズボンに着替える。

少女は今年高校に入学して、最近漸くバイトを見つけたのだ。

今日はそのバイトの初出勤だった。

少女は鞄を肩に掛けると、家を急いで出た。

 

少女の名前は、安藤琉歌(るか)。定時制高校の1年だ。

入学するのと同時に家を出て、1人暮らしを始めた。

趣味は音楽鑑賞、ネット徘徊、小説を書く、絵を描く事。

根っからの二次元オタクで、未だに学校には馴染めていない。

それでも良いと、琉歌は特に周りの人間を気にしていない。

琉歌にとって、他人は別に関わらなくても生きていけるようなどうでも良い存在なのだ。

だから、今までも誰とも関わろうとはしなかった。

 

そんな彼女は敵の方が遥かに多い。

高校に入って半年で直ぐに孤立してしまったのだ。

彼女はそれを特に気にしていなかった。

誰に何と言われようと、彼女は誰も受け入れなかったのだ。

 

 

バイト先に着いた琉歌は裏口から店に入って、店長に挨拶に行った。

店長からバイトの説明を受けると、制服を貰って更衣室で着替えた。

制服と言っても、コックが着るような白服と薄い茶色のエプロンと帽子だけ。

制服を着て厨房に入ると、一人の男性が居た。

 

 

「あぁ、君が今日から入ってくる安藤さん?」

 

 

男性は琉歌に気付くと声を掛けてきた。

優しそうな声。

年齢は少し上くらいだろうか。

と、言ってもマスクをしていて顔は見えないが。

琉歌は返事を返した。

 

 

「あ、はい。

安藤琉歌です。

よろしくお願いします。」

 

 

「俺は藤崎司ゆうねん。よろしくな」

 

 

ちょっと中途半端な大阪弁で藤崎司は名乗った。

彼に仕事を教えて貰いながら、雑談もする。

初めてのバイトは楽しいと思いながらバイトをしていたら、バイトは早く終わってしまった。

 





作中で琉歌が使っていたスクアーロのキャラボイス、実は作者も使ってましたw
いやぁ、スクのキャラボイスは目覚ましに丁度良いんだよね~ww


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第2話



うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!
カレーが腐ってるぅぅぅぅぅぅぅぅうう!!Σ( ̄口 ̄;)
もう、最悪なのだよ・・・・・・カレー腐らせるとかOrz
まぁ、そんなこんなで第2話お楽しみ下さい。




うぅ・・・・・・カレー・・・・・・Orz










バイトが終わって、家に帰る。

帰っても誰もいない家は、琉歌にとってはありがたかった。

バイトが楽しかったなんて思っていても、琉歌は体力がない。

だから、家に帰ってゆっくり休める事が堪らなく幸せだった。

家に居ればどうせ、あれせぇこれせぇで休める暇なんてなかっただろう。

ご飯?

あぁ、まだ朝ご飯食べてなかったな。でも、眠い・・・・・・。

食欲よりも眠気の方が先に行って、琉歌はそのまま、ベッドに倒れて眠った。

 

 

 

 

 

 

 

大きな川の辺に琉歌は立って居た。

そこは琉歌が下校する時に立ち寄る場所で、名前は蒼星川(あおほしがわ)

夏になると、その河川敷の反対側で夏祭りが開かれたり、普段はマウントになっていて、少年野球団が野球の練習に精を出したりしているところだ。

この町で一番大きな川で、海に繋がっている。

 

夜の川は月の光を水面に映して、綺麗に淡く反射している。

(さざなみ)に月の光が細かく煌めいて、まるで幻想的な世界に居るようだった。

琉歌1人がそこにいるのかと思えば、いきなり、月の光からプリズムを通したような淡く妖しい光が流れてきて、それが浅瀬に散る。

琉歌がそこに近付いて、手を伸ばした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《う゛ぉぉぉぉぉおおい!!早く起きろぉ!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、アラームが鳴り出した。

目が覚めて、琉歌は現実に引き戻される。

寝汗をかいているのか、窓から風が吹き込んでくるとすーっと涼しさを感じる。

夢か、と琉歌は起き上がってケータイのディスプレイを見るとアラームを止めた。

時刻は昼の12時を過ぎていて、琉歌は寝汗で気持ち悪い体を流すべく、風呂場に向かった。

それにしても、さっきの夢は何だったのだろうか?ぬるま湯を浴びながら、さっきのリアルな夢を思い出した。

抽象的で意味の解らない様な夢なら毎回見る。だけど、あんなにリアルではっきりした夢は初めて見た。

今まで見たことがない夢だ。

まぁ、唯の夢だろう。琉歌はこの夢を忘れることにした。

どうせ、バイトと学校に追いやられて溜まったストレスから見たような夢だろう。そうだ、今日はリボーンと進撃の発売日だ。

アイス買って学校で読む為に早く家を出よう。

琉歌は水道のコルクを閉めて、風呂から出て行く。

それと、野菜ジュースも買わないと。今日は一回も飲んでないじゃないか。

着替えながら、そんな事をぼんやりと考える。

琉歌の一日は野菜ジュースを飲まないと始まらないと言っても過言ではない。

野菜ジュースを飲まない日はないくらいで、飲まなかったら水を長いこと与えていない作物のように死んでいる。その為、親しい人間からは「究極の菜食主義者(ヴェジタリアン)」と呼ばれている。

まぁ、親しいと言っても、こっちが親しくしているわけではなく、教師が勝手に親しくしてくるだけなのだが。

そう言えば今日は国語があったな。授業前小テストが面倒くさい。

そんな事を考えながら、荷物を準備する。

と言っても、教科書やノートなどは学校に置いている為、鞄に入れるのは筆箱と財布とお菓子とケータイだけだ。

ヘッドフォンを耳に宛がってiPodをポケットに入れると、琉歌は家を出た。






野菜ジュース美味しいですよね!!
実は作者も野菜ジュースが凄い好きですww
まぁ、分かる人にしか解りませんが;;


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第3話




96猫さん、やっぱいいなぁ・・・・・・。
イケボ過ぎる。


琉歌はショッピングセンターに来ていた。

この街で一番大きなショッピングセンターで、スーパー、小さなカフェ、パン屋、本屋、ゲーセン等が出揃っているショッピングセンター。

駅から近く、琉歌はこうして電車待ちの間の暇つぶしに良く訪れる。

用事があるのは、本屋とスーパーの方だ。

3階の本屋に入ると、琉歌はお目当ての単行本を探す。

リボーンと進撃を探していると、一つの本が目に入った。

それは、赤い少年と青い少女が書かれている単行本だった。

その本は、琉歌が喉から手が出るほど欲しかった本だ。

普段死んでいる琉歌の目が輝いた。

 

 

「カ・・・・・・ッ、カゲロウデイズぅぅぅぅぅぅぅううう!!」

 

 

そう、それは知る人ぞ知る・・・・・・と言う事はないが、きっと、ボカロを知っている人の大方くらいが知って居るであろう、真夏の物語りの漫画が置いてあったのだ。

それが3巻まで売ってあったので、3巻を纏めて手に取り、それと進撃とリボーンを手にとって、レジへ持っていくと会計を済ませて、店を出た。

エスカレーターを降りて、1階へ行くとスーパーに寄った。

ふと、惣菜コーナーにサラダが置いてあったのが見えた。

よく考えてみれば、朝ご飯も昼ご飯も食べてない。

まぁ、元々朝は食べないが、昼は食べないと流石に気持ち悪い。

学校で食べよう。

琉歌はサラダを手に取って、アイスコーナーでアイスを取ると、それと野菜ジュースをレジに持っていく。

どんなチョイスだよ、と思うが、気にしないのが琉歌だ。

365日野菜で良いとか言っているほどだしな。

買った商品をレジ袋に詰めて、琉歌はケータイを開いた。

もう、良いくらいの時間になり、琉歌はアイスを袋から取り出すと備え付けのゴミ箱に入れてショッピングセンターを後にした。

 

 

 

 

 

駅の改札を通り、ホームに降りると電車を待つ。

あと5分程度で来る電車を待ちながら、先程買ってきたカゲロウデイズの封を開けて、カゲロウデイズを読む。

カゲロウプロジェクトと呼ばれる、じん(自然の敵P)と呼ばれるボカロPが手掛けた、8月15日を繰り返す世界の物語になっている楽曲がラノベ、漫画化されているのは知っていたが、何処に行っても売り切れで買えなかったのだ。

それが漸く手に入って、気分は上々だった。

カゲロウデイズを読んでいたら電車が来たので、カゲロウデイズを鞄に仕舞って、電車に乗り込んだ。

夕方の下り電車は殆ど空いていて、琉歌はボックス席に座って鞄に仕舞ったカゲロウデイズを取り出して読む。

これから、30分近く暇になるのだ。

丁度良い。

電車は琉歌の通う学校の最寄り駅へ進んでいく。

 







カゲロウデイズ、実は持ってません!!Orz
欲しいんですがね、漫画Orz
あぁ、買えないおOrz


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第4話




まだまだ琉歌のターン★←
早く、ヴァリアー出したいんだけどね;;
まだ出てきません!!




学校の最寄り駅へ着くと、改札を通って駅を出る。

学校への道のりは、下校中の生徒や小学生でごった返していた。

琉歌の通う学校は全日制の高校の校舎を借りて運営しており、その為、夕方になると部活をせずに帰る所謂帰宅部の生徒で道がごった返すのだ。

その生徒を上手く避けながら、琉歌は学校へ向かう。

学校の裏門が見えて、それを過ぎると、職員室前の下駄箱に行き、靴とスリッパを履き替える。

そして、職員室の隣に隣接されている食堂を過ぎると、その奥の補食室へ入って、長テーブルに荷物を置くと椅子に座った。

鞄から、ケータイの充電器とiPodの充電器を取り出して、テーブルの目の前に設置されているコンセントにそれぞれのプラグを差し込んで、ケータイの接続端子とiPodの接続端子に直結して、放置する。

本当は学校での充電は禁止されているが、琉歌は気にせずに使っている。

「バレなきゃ良いんだよ」的な考えで、実際にバレてないので、使っていた。

時計を見ると、あと20分位で授業が始まる。

これなら、余裕かな。

琉歌は、先程買ったサラダを袋から取り出して、蓋を開けると、ドレッシングを掛けて食べ始めた。

流石、サラダは美味い。

本日、アイスを除いて初めての食事に舌鼓を打ちつつ、騒がしくなっていく職員室の騒音に生徒が来たことを察した。

生徒が補食室に来る前に食べ終わりたい。

特に、さっきから頻りに聞こえる耳障りな甲高い雑音のような声は、彼奴だ。

彼奴がこっちに来たら、折角の美味しいサラダも不味くなる。

味を堪能したい反面、折角のサラダが不味くなるのは嫌だ。

琉歌はサラダを頬張る。

 

琉歌がサラダを完食したのと、そいつが職員室から補食室に繋がっている扉を開けたのは、正に同時だった。

ガラッと勢いよく開いた扉の向こうには、琉歌が一番、会いたくない人物が立っていた。

琉歌は、ヘッドフォンを耳に当てて、iPodの音量を上げる。

 

 

「あ、安藤さん、おはよう!

来てたんだねー」

 

 

耳を壊さない程度に上げた音量は、完璧にその女子の声を遮ってはくれなかった。

せめて、視界に入れないようにケータイに視線を落とす。

ぽっちゃりした体型のその女子は、琉歌の隣に座ると、うざったい程に話し掛けてくる。

それはただ、琉歌と話したいが目的ではない。

ただ、自分をより構ってくれるクラスのボス的な女子が居ないから、「普段1人のこの子に構ってあげてる私、やっさし~い」とか「1人じゃ寂しいから、コイツで良いや」的なゲスい思考から絡んでくるのだ。

勿論、そんな絡みは要らない琉歌は、ひたすらに無視を決め込む。

そのボス的な女子が居ると話し掛けてこないのに、そいつが居ないからって、暇つぶし的に話し掛けられても困る。

そういう、1人で居られない構ってちゃんタイプの女子が一番、嫌いなのだ。

見ていて、イラッと来る。

 

そんな琉歌をイラッとさせる事が得意なこの女子は、水田ゆきこ。

余談だが、彼女は琉歌の小学生の時のクラスメイトであり、中学では、一年間だけ部活が同じだっただけというだけの、特に仲が良かったわけではない関係だ。

中学2年の時に琉歌が転校してから疎遠になり、一度も会わなかった。

小学生の時に何度か遊んだこともあったが、少し都合が悪いと直ぐに泣いて帰って、「ママ~!!」なモンだから、中学生になった時に関わらないようにしていたのだ。

直ぐに親を頼るような人間が一番、嫌いな琉歌にとって、水田は相当ウザイ存在だった。

そう、切り刻んで豚の肥やしにしてやりたいくらいに。

 







ちなみに、余談。
作者が高校時代もこんな感じでしたw
どうでも良いけどww
琉歌の実家バージョン的なww


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第5話



この後くらいにヴァリアー出せそうな気がしないでもないな。
そろそろ出さなきゃ、いつまで話引っ張ってんねん!と読んでいる方も面白くないですよね;;


今日もまた、始業のチャイムは鳴る。

その時には既に、琉歌は教室に着いていて、最早定位置となっている廊下側の一番後ろの席に座っている。

教師が教室に入ってきて、授業を始めるが、琉歌は教科書の重要な所をノートに纏めているだけで黒板の説明をノートに書いてない。

ちなみに今は、社会の授業中だ。

黒板を見ると、何て書いてあるか解らないレベルに汚い字や酷すぎる絵が描かれている。

しかも、教師は自分の言った出来事や人物名をそのまま、黒板に書き込んでいるだけで、それに対しての説明文が書かれていない。

そう、琉歌は黒板を見ると書く事が必死になって、説明が疎かになるから、後でノートを見返した時に「何のこっちゃ?」と首を傾げることを防ぐ為、教師の黒板を後回しに教科書の要点を纏めているのだ。

それに気付いたのは、中間テストの前の事だった。

それで、中間テストは社会がずば抜けて最低だったのだ。

それが結構来ているから、黒板の内容は書かないようにしていた。

 

 

「安藤さん、リンカーンが独立宣言を出した時のセリフを答えて下さい」

 

 

「私がですか。

前のテストボロボロだった私が?」

 

 

教師にいきなり指名されて、あからさまに嫌だという表情を教師に向けて訴える。

そんな苦情も、教師は笑って流した。

 

 

「ボロボロだったのは、地理じゃないですか。

歴史は得意なんでしょ。

ほら、早く」

 

 

嫌な奴だぜ。

琉歌は舌打ちする。

ここで地理がクソだったのをバラさなくたって良いじゃないか。

しかも、何で歴史が得意なこと知ってるし。

琉歌は、脳天気に笑っている教師の蛍光灯を良く反射している、前髪が曾てはあったであろう場所のように、残りの希望も毟り取ってやりたくなった。

面倒くさいと思いつつ、琉歌は答える。

 

 

「government of the people, by the people, for the people, shall not perish from the earth.」

 

 

「なんだ、知ってるんじゃないですか。

しかも、発音が良いですね。

はい、今のを訳してもう一度、どうぞ」

 

 

誰もが一度は聞いたことがあるであろう、「人民の人民による人民の為の政治を~」という言葉を中学で教えられたとおりに答える、琉歌。

意味は一応解っているらしい、教師はにっこりと笑って、更に翻訳も求める。

今度こそ、ノートに纏める作業を再開したい琉歌は、こう答えた。

 

 

「俺様の俺様による俺様の為の政治だ、逆らう奴はカッ消す」

 

 

勿論、琉歌はちゃんと理解している。

琉歌の眉一つ動かさない回答に教師は苦笑した。

勿論、琉歌がこのセリフの翻訳を知っていることを教師は知っている。

テストに出していて、そこを埋めていたから。

それなのに、こんな巫山戯た回答をするのは、余程発表が嫌いと見た。

 

 

「はい、安藤さんを大統領にすると危ないと言う事が解ったので、皆さん、安藤さんが選挙に出てても、投票したらダメですよ」

 

 

教師が場を和ませるようにそんな事を言うが、そんな必要は最初からない。

琉歌の発表は、聞かれていないのだから。

その証拠に、生徒は無反応だ。

別の授業では喧しいクセに。

教師を放置して、琉歌はノートにシャーペンを走らせる。

そして、琉歌が本日の内容をノートに纏め終わったところで授業は終わった。

 





琉歌のプロフィール その1


名前:安藤 琉歌
年齢:15歳(現時点)
血液型:A型
誕生日:8月15日(自分の誕生日とカゲロウデイズの日が重なって、運命を感じたりとかしてる)
星座:獅子座
所属:市立松枝高等学校 1年


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第6話



風呂上がりの白熊うめぇ~。
あ、生き物じゃなくて、アイスの方ねww
昔、「白熊ってどんなアイスだろ~?
はっ!!Σ
ま、まさか、白熊がミンチにして入っているアイスなの!?」ってずっと勘違いしてたなぁww

そんなこんなで、第6話ですww


そんなこんなで、授業も終わり、琉歌は下駄箱でスリッパから靴に履き替える。

もう、下校時間だ。

定時制は全日制と違い、4時間で授業が終わる。

だから、21時手前には学校が終わるのだ。

それだけを聞くと楽そうだが、その代わり、4年間学校に通わなければならない。

昼間働いて、夜勉強。

その為の夜間定時制学校なのだ。

 

 

琉歌は、ちょうど来た電車に乗り込んで地元へ帰る。

車内はガラ空きで、ゆっくりと出来そうだ。

ボックス席に座り、ケータイを弄る。

大抵見ているサイトは、二次創作などの小説を取り扱っているサイトで、そこに琉歌も小説を投稿していた。

さて、今日のアクセス数はどうかな?

おぉっ、あの作品、更新されてる!

後で見なきゃ!

最早、琉歌は1人の世界へFry to the worldして(飛んで)いた。

電車の中で音楽聴きながら、小説を更新する。

聴いているのは、ボーカロイドと呼ばれる、某有名な音楽専門会社が開発した音声合成ソフトに素人が作った曲を歌わせている曲やアニメソング、声優の曲など、聴けば解る人にしか解らない曲ばかり聴いている。

それを聴きながら小説を更新すると言うのは、この退屈な日々の中で唯一の癒しだ。

 

小説を書くのは楽しい。

それを読んで、コメントや評価をして貰えたら、もっと楽しい。

この小説で評価を得られれば、小説家の道も検討してみよう、と琉歌は思っていた。

本命は声優であるが。

声優を逃した時は小説家にでもなってみようか、と言うのが琉歌の今の目標だ。

その二つなら、どっちでもなって良いな、と言うのは、中学生の時から考えていた。

人と上手く話せない琉歌にとって、普通の職に就こうなんて出来るはずもなく、なら、極力人と話さずに、障害があっても出来る様な職に就きたい。

それを考えた結果で、自分が好きで出来そうなことと言ったら、声優や作家と言った特殊な職業だった。

 

 

≪間もなく~総紗駅~。

総紗駅です。

お降りの際は、足下に段差がございます、ご注意下さい≫

 

 

車掌のやる気のない声が聞こえて、琉歌は窓の外を見る。

若干鳥目の為、良くは見えないが、ポツポツと見える街頭に照らされて見える景色は、琉歌の馴染んだ景色だった。

ケータイを仕舞い、電車が止まってから席を立つ。

ドアが開くと、琉歌は電車を降りた。

 

 

「安藤さ~ん!!」

 

 

電車を降りたタイミングで、水田が走り寄ってくる。

どうやら、同じ電車に乗っていたらしい。

琉歌の顔が微妙に引きつる。

水田はそれに気付いていないのか、琉歌の隣でペラペラ話し出す。

 

 

「もう、向こうの駅で声掛けたのに、気付かないんだもん、電車の中に乗っても、何処にいるのか解らなかったし。

置いていかないでよね~」

 

 

いつから、私とお前は一緒に帰る程の仲になったんですか。

そう思いながら、敢えて無視をする。

入学して半年。

同じ電車に琉歌が乗っていると知った水田は、琉歌と帰り道が途中まで同じな為、一緒に帰っていた。

いや、勝手に琉歌に水田がついて行っている、という表現の方が正しいだろうか。

琉歌から無視をされているにも拘わらず、水田は話し掛けてくる。

水田は、琉歌が「無口なだけでちゃんと私の話を黙って聞いてくれている優しい人」という認識をしているが、琉歌は水田の話なんか、これっぽっちも聞いていない。

そればかりか、目すら合わせていないのだ。

 

 

「でね、うちのお母さんが今日、連れてきたらいいじゃないって!

安藤さん、今日、家に来ない?」

 

 

半分話を聞き流そうとしていたが、その話で流そうとしていた耳にブレーキが掛かった。

当然、水田の家になんて行こうとは思わない。

コイツと話すのも面倒くさいが、無視を肯定と勘違いされては困る。

琉歌は溜息を吐いた。

 

 

「無理。

疲れてんだ、さっさと帰って風呂に入りたい」

 

 

それだけを言うと、琉歌はさっさと歩いて帰路に就いた。

正確には、さっさと帰る、じゃなくて、蒼星川に行きたいのだ。

そこの景色を眺めて、ゆっくりしたい。







琉歌のプロフィール2


性格:思考が歪んでいる。無気力。天の邪鬼。何気に外道。案外、優しい面もあるが、歪んでいる。他人と考え方がずれている。毒舌。
趣味:絵を描く、小説を書く、読む、漫画を読む、歌う、ネット
好き:専ら二次元、歌い手、踊り手
嫌い:男(二次元は別)、脳内快適系キャピキャピ女子、嫌いだと思ったモノ



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第7話



ついに!!彼奴らが来ますよ~!!
ふ~ぅ、長かった。
でも、最後まで気を抜かずに頑張りますよ~!!






「夏風がノックする 窓を開けてみると

何処からか迷い込んだ 鳥の声

読みかけの本を置き 「何処から来たんだい?」と笑う

目隠ししたままの 午後三時です」

 

 

満点の星が輝いて、満月が近くに見える大きな川の辺に琉歌は居た。

ここは、蒼星川。

よく、学校帰りに立ち寄る琉歌の癒やしスポットだ。

学校帰りにここに来ては、今度某動画サイトにアップする曲の練習をしている。

今度歌うのは、「空想フォレスト」という、じん(自然の敵P)氏による、カゲプロの第5話の楽曲だ。

この空想フォレストは、「目を合体さ(あわ)せる」能力を持ったメドゥーサと人間のハーフと人間の間に生まれたクォーターの少女の話になっている。

目を合わせると、目を合わせた人を石にしてしまう力の所為で、家から出ることが出来なかった少女が、突然訪ねてきた男の子と出会い、世界を知っていく話で、琉歌も一番、その曲が気に入っていた。

 

 

「目を合わせないで 固まった心

独りぼっちで諦めて 目に映った無機物(モノ)に安堵する日々は

物語の中でしか知らない世界に 少し憧れる事くらい 許してくれますか?」

 

 

誰も居ない広い川は、月明かりを反射して、キラキラと光る。

それを見ていると、たまらなく落ち着くのだ。

こうして、リラックスして声が出せる。

歌う事が好きな琉歌にとって、リラックスできる環境が何よりも大事だった。

歌以外でも、創作活動にしろ、リラックスしていないと良い案が浮かばない。

だから、琉歌には休める場所が必要だった。

 

 

「淡々と流れ出した 生まれてしまった理不尽でも

案外、人生なんで 私の中じゃ

ねぇねぇ 突飛な未來を想像して膨らむ世界は 今日か明日でもノックしてくれないですか」

 

 

そこまで歌い終わった時だった。

川に降り注ぐ月の光からプリズムを通したような淡く妖しい7色の光が流れてきて、それが浅瀬に散る。

突然の出来事に驚いて、琉歌は目を見張った。

これは、夢で見たのと同じ景色だった。

そして、その光は浅瀬に6つの人影を作る。

その光が消えると、琉歌は信じられない光景に目を見開いた。

 

 

「・・・・・・嘘・・・・・・」

 

 

1人は、銀色の長い髪に黒い服を纏った男性。

1人は、金髪の頭にティアラを付けた男性。

1人は、フードを被っていて、そのフードの隙間から藍色の髪が出ている人物。

1人は、黒い短髪の男性。

もう1人は、緑色のモヒカンに、金髪の坊主頭の男性。

そう、この6人は琉歌の知っている人物だった。

それも、ここに居る筈のない、存在し得ない人物だ。

琉歌は、暫く固まってしまった。






琉歌のプロフィール3


基本的には、訊かれたことに対してはちゃんと答える。
生返事の時は、脳内で妄想が膨らんでいる為、何を話しても聞いていない。
もっとも、二人の時だけに都合良くしつこく話し掛けてくる水田の話はこれっぽっちも聞いていない。
強いこだわり意識を持っており、少しでも物が移動していると気になるし、大切な物が常に視界に入っていないと落ち着かない為、風呂と寝る以外はヘッドフォンを着用している。
他人に自分の持ち物を触らせることに強い嫌悪感を感じるほど、潔癖な性格をしている。
根は素直で世話焼きな性格をしていたが、何処かから歪んでしまった。


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第2章 「夢渡り」
第1話




暑いな~。
今日は開いてる時間更新なので、1話だけの更新になります;;

さて、いよいよヴァリアーのメンツと漸くご対面です。


取り敢えず、誰も居ないとは言え、あのままあそこで放置しているわけにも行かず、琉歌は荷台を家から持ってきて、気絶しているらしい6人を家まで運んだ。

マンションがエレベーター付きで良かった。

じゃないと、どうやって6階まで運ぼうか悩んでいただろう。

 

 

「ふう。

ま、別に雑魚寝で良いでしょ」

 

 

琉歌は部屋に運び終わると、一息吐いた。

しかも、雑魚寝させているわけではなく、思いっきり畳に転がしているだけである。

一応、布団はあるが、出すのが面倒くさかったのだ。

倒れている人に向かって何とも杜撰な扱いだと思うが、琉歌の性格を考えると、マシな方である。

それにしても・・・・・・と、琉歌は考える。

この人らは、一体どうやって来たのだろうか。

姿を見た瞬間に、この6人が琉歌の知っている――――もとい、琉歌の大好きなキャラで間違いはなさそうだ。

全く信じられないが、レイヤーというわけでもなさそうだし。

証拠に、全員、髪は地毛である。

染めたとしても、髪が傷んではいないし、何より、日本人でこんなに肌が白い男性は見たことがない。

外国人のように顔の彫りだって羨ましいくらいに深いし。

何より、こんな時期に革のジャケットなんて暑苦しすぎる。

観光客だって、今の時期はタンクトップだ。

 

取り敢えず、色々疑問に思うことは沢山あるが、こっちも勉強をしなくては。

テストも近いし。

琉歌は、畳に転がした男性達がいつ起きても大丈夫なように、机を持ってきて、彼らに背を向けて勉強を始める。

明日はバイトが休みの為、今日は夜更かしだ。

コーラとポッキーをお供にノートにシャーペンを走らせた。

明日は数学と英語の小テストがあった筈だ。

数学はこの世で最も苦手な教科で、中学生の時に習った因数分解を、つい最近になってやっと理解した。

それは、琉歌が生まれ付き持っている障害の所為でもある。

自閉症スペクトラムとは、生まれた時から脳に何らかの障害があり、理解力や他人とのコミュニケーション能力、社会性的能力が平均よりも低く、周りと協調することが難しい障害だ。

好きなこと、興味のあることに関してはずば抜けた記憶力を発揮することもあり、琉歌としてはそこまで嫌な障害だとは思っていない。

むしろ、この障害のお陰で、興味のあることに関しては専門知識を豊富に取り込んでいる為、理科の天文学的な知識は学年で群を抜いている。

だから、理科や国語では絶対に点を落とさない自信がある。

 

 

「う゛ぉぉい、ここは何処だぁ・・・・・・」

 

 

勉強に集中していたら、不意に聞き慣れた声が聞こえた。

ケータイが鳴っているのかと思い、琉歌は手を止めてケータイを開く。

だが、ケータイには特に何もメールなどは来ていなかった。

そして、そう言えば、河川敷でヴァリアーのような奴を拾ったな、と思い出して振り向く。

振り向いた先には、先程、雑魚寝と言う名の放置をした銀髪の男性が上半身を起こしていた。

男性は頭がクラクラとする様で、頭を片手で抱えている。

起きているのは、その男性だけじゃなく、他の5人も順次に起きた。

 

 

「おい、ドカス。

説明しろ。

此処は何処だ」

 

 

黒い癖毛なのか、髪が跳ねている赤い三白眼の男性は、琉歌の姿を認めると鋭い目つきで睨んできた。

物凄く警戒しているのだろう。

恐らく自分も、目が覚めたら全く知らない場所に居た、なんて事が起これば、まずは警戒するだろう。

その前に、パニックになっているだろうが。

琉歌は、リアルに見るその人物に恐怖心を抱いた。





水田ゆきこのプロフィール1


名前:水田(みずた)ゆきこ
年齢:15歳(現時点)
誕生日:1月15日
血液型:B型
星座:山羊座
所属:市立松枝高等学校 1年


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第2話




畜生、虫が鬱陶しいぜ、コノヤロ―。
ゆっくりパスタも食べれないじゃないか;;

さて、そんなこんなでヴァリアーとの対話のようです!


「おい、ドカス。

説明しろ、此処は何処だ?」

 

 

「あっ・・・・・・えと・・・・・・あの・・・・・・」

 

 

鋭い目つきで睨まれ、怖じ気付く、琉歌。

漫画やアニメで見る分には、「格好いいな~」とか思ってはいたモノの実際に対面すると、怖い。

まるで、背筋に背骨の代わりにドライアイスを差し込まれたかのような恐怖がゾクゾクと背中を伝い、嫌な汗が出てくる。

最初から、何て言うのかをまずはシミュレーションしておくべきだった。

どの夢小説の逆トリップの話だって主人公は皆、難なく話してるのに。

そんな夢小説のようには行かないか。

琉歌は恐怖に戸惑いながら、魚のように口をパクパクさせるしかできなかった。

こんな事なら、あの河川敷に放置しておくべきだった。

今になって、しても遅い後悔をし始める。

 

 

「おい」

 

 

「ひっ!!」

 

 

いつまで経っても、何も言わない琉歌に痺れを切らせたのか、黒髪の男性は琉歌に詰め寄った。

喉の奥から絞り出したような情けない声が出てくる。

琉歌の心臓は、狂ったかのようにばくばくと脈打ち、息が苦しくなる。

まるで、50mを曾て無い速さで駆け抜けたかのような動悸が襲う。

目の前が眩んできて、今にも倒れそうだ。

 

 

「もう、ボスったらぁ!

そんなに詰め寄っちゃあ、その子が怖がってるでしょ~」

 

 

張り詰める緊張の中、それをぶち壊すかのような男の高い声が聞こえた。

ボス、と呼ばれたその男性は、その声に顔を逸らす。

琉歌は息をそっと吐く。

一気に詰められた緊張が多少はマシになった気がした。

 

 

「ごめんねぇ。

ボスったら、普通にしてても怖いから、許してあげてね。

あ、あたしはルッスーリアって言うの。

貴女の名前を教えて貰って良いかしら?」

 

 

ルッスーリア、と名乗ったオカマ口調の男性は、琉歌に謝罪する。

最初から、ルッスーリアが喋ってくれてれば良かったのに~!と、琉歌は泣きそうになりながらも、会釈をした。

 

 

「安藤琉歌です。

貴方たちは、蒼星川の辺に倒れていました。

丁度、下校中だった私は貴方たちを放っておけず、此処まで運んだ次第です。

此処は、私の家です」

 

 

何とか平静を取り戻した琉歌はそれだけを言うと、深呼吸をした。

深呼吸をすれば、張り詰めていた緊張も少しは楽になる。

 

 

「そう、貴女があたし達を介抱してくれたのね。

ありがとう。

お礼はまた後日するわ。

あたし達は急いでるから、これで失礼するわね」

 

 

ルッスーリアは立ち上がると、「またね」と言って、窓から部屋を出て行こうとする。

それに付いていくように、他の5人も立ち上がった。

 

 

「あ、あの、ちょっ、ちょっと待って下さい!!」

 

 

琉歌は、出て行こうとする彼らを必死に呼び止めた。

琉歌の声にルッスーリアは振り返って、困った様に薄い眉に皺を寄せる。

 

 

「あらあら、何かしら?

あたし達は急いでるって言うのに~」

 

 

唇を尖らせて、困った様な口調で言うルッスーリア。

彼としては、一刻も早くアジトに帰りたいのだろう。

彼らは暗殺部隊だ。

いつまでもこんな所で油を売っているわけには行かない。

だが、そんな希望を削ぐような言葉が、琉歌の口から発せられた。

 

 

「帰るって・・・・・・何処にですか?

帰る場所も無いのに・・・・・・」

 

 

彼らの間に言い表しようのない戦慄が走った。








水田のプロフィール2


性格:明るい。少女漫画の主人公並みに天然。人と合わせてしまう一面がある。
好き:アイドルとかジャニーズ、一緒に居て楽しい人、イケメン


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第3話




そう言えば、今日荷物が届く筈なんだけど、まだ郵便のおっちゃんが来てないな―。
いつ頃届くんだろう?




「どういう事かしら?」

 

 

ルッスーリアは、困ったというよりは、疑うような低い声で琉歌に説明を仰ぐ。

それもそうだ。

出会って間もない人間に「貴方は帰れませんよ」なんて言われたら、誰だって眉を顰めるだろう。

しかも、彼らは暗殺部隊の幹部だ。

アジトが襲われたとか、そう言う事が頭に過ぎったであろう。

ルッスーリアの態度の変化に琉歌は怯えながら、少しずつ言葉を紡いでいく。

 

 

「えと・・・・・・落ち着いて下さい。

あ・・・・・・何か食べます?

特にこれと言って何かあるわけじゃないですが・・・・・・お腹、空いてません?」

 

 

恐る恐る、殺気立っているルッスーリア達の表情を窺うように問う、琉歌。

拾ってから、結構時間が経っている。

空腹になっていてもおかしくはない。

空腹で人はイライラして殺気立っているなら、まともな会話は望めないだろう。

少しでも落ち着いてもらう為に、琉歌は何か作ろうと思い立ったのだ。

 

 

「今はそんな場合じゃないわ。

詳しい話を・・・・・・」

 

 

ルッスーリアが琉歌を問い詰めようとした、その時だった。

彼の言葉を遮るように、誰かのお腹の音が鳴った。

それは、割と大きな音で、どれだけ空腹なのかが窺える。

 

 

「そう言えば、朝食べてそれきりだったな」

 

 

「そうですねー。

ミーなんか、どっかの堕王子に卵焼きを取られましたから、朝から何も食べてない感じです―」

 

 

「僕なんか、今日の朝を食べ損ねたんだけど?」

 

 

お腹の音の原因は、三人の男性だった。

金髪の前髪で目を隠した少年とエメラルド色の髪と目に蛙の被り物を被った少年、フードを被った性別がいまいちよく分からない人物がそれぞれ、言った。

朝一食しか食べていないなら、お腹が空くのは当然である。

フードを被った人物なんか、朝から何も食べていないと言う事だ。

これはチャンスだ!と言わんばかりに琉歌は三人に言う。

 

 

「冷蔵庫の中にある物で適当な物作ってくるけど、特に好き嫌いとか無いですよね?」

 

 

好きな食べ物は知っているが、嫌いな食べ物がよく分からない。

もし、料理を出してそれが嫌いな食べ物だったら、心証を害すだろう。

今は取り敢えず、それを避けたい。

苛々している彼らは今、何をやらかすか、解ったものじゃないからだ。

まぁ、一応、武器のような物は持っていないようなので、少しは安心できそうだが、黒髪の男性やフードを被った人やルッスーリア、蛙帽子の少年なんかは武器が無くても憤怒の炎呼ばれる、死ぬ気の炎とはまた別に強大な破壊力を持った炎や、フードを被った人と蛙帽の少年は幻術が使えるし、ルッスーリアに至っては、元から肉弾戦だから、油断は出来ないのだ。

それは、REBORNのコミックを何回も読み直していた琉歌だから解る。

こいつらを怒らせると、The end of me(人生の終わり)だと。

 

 

「何、お前。

料理作れんの?」

 

 

感心したような声を真っ先に上げたのは、金髪の少年だった。

生で聞く少年の声に感動しながら、琉歌は頷いた。

 

 

「一応、1人暮らしなので。

家庭で作るような料理は一通り出来ますが・・・・・・今日は生憎、買い物をしていないので、冷蔵庫の中にある物で勘弁して下さいね」

 

 

「少し待ってて下さいね」と言い残すと、琉歌はキッチンへ向かった。

今更だが、大ファンのヴァリアーと実際に出会えてテンションは高くなっているのだ。

鼻歌交じりにキッチンへ行くと、琉歌は調理を始めた。





水田のプロフィール3


基本的に一人では居られない性格。
誰かと群れて、きゃあきゃあ言ってないと寂しい様で、いつも誰かと話している。
クラスのリーダー的な存在の人間に媚びていて、その理由が「一人になりたくないから」。
そんな理由で陰口に参加していたりする。
お節介で、至らないことまで口に出してくる。
外見は仕方ないが、これで媚びたりしない性格であれば、彼氏は居たであろう。


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第4話




最近、暑さが鬱陶しくなってきましたねぇ。
地震とかも結構・・・・・・。
でも、あまり揺れを感じないんですよね~。
旦那に言われて初めて、「えっ!?今、揺れた!?うっそぉん!?」ってなるという・・・・・・w

さぁ、そんな事より、第4話です。


「家畜共が集まって~ ピーギャーピーギャー騒いでる~」

 

 

歌を口ずさみながら、琉歌は料理を作っていた。

その歌は、知る人ぞ知る某妖怪先祖返りファンタジーに出てくる青鬼のキャラソンである。

どんな歌のチョイスやねん、と、知っている者は思うだろうが、その謎なチョイスは正に琉歌らしかった。

テンションが高い時は、大抵この曲だ。

 

 

「三角木*に浣*器~ 鞭に荒縄出揃った~

人生はSかM~ 始めよう~ 今だ 目覚めると~き~」

 

 

歌いながら作っている物は、ボロネーゼとビーフシチュー、それとサラダにフレンチトーストだ。

レタスを皿の上にレタスを敷いて、灰汁抜きしたタマネギとキャベツ、パプリカを合わせてレタスの上に盛りつけ、ミニトマトを皿の周りに飾り、クルトンを野菜の上から散りばめる。

ドレッシングは、キャーピーのイタリアンドレッシングを添えた。

すると、丁度パスタが茹で上がったので、ボロネーゼのパウチをパスタと敢えて完成。

それに合わせて、ビーフシチューが出来上がったので、皿に装って、フレンチトーストを別の皿に重ねる。

夜食にしては量が多いが、彼らは朝から食べていないと言う事だったので、余程空腹なのではないのか?という、琉歌なりの考慮だった。

あとはこれをヴァリアーに使わせている部屋に持っていくだけだ。

琉歌はその前に、机の上を片付けてなかったことを思い出して、料理を運ぶ前に一度、部屋に向かった。

 

 

「ご飯出来ました。

机の上を片付けるので、少し待って下さいね」

 

 

微笑みながら言うと、持ってきていた布巾と消毒用エタノールをお盆の上に置いて、ノートやら参考書やらをどかしていく。

まずはティッシュで消し滓とかを拭き取り、水にしめらせた布巾で机を拭いて、乾いた布巾で机を拭く。

その後にエタノールを拭きかけて、さっきの布巾とは別の布巾で机を拭いた。

その一部始終を不思議そうな顔で三人の少年が見ていた為、琉歌は「何か?」と首を傾げた。

 

 

「いや、何してんのかな~って」

 

 

金髪の少年が前髪の奥に隠れた目を逸らしながら言った。

どうやら、見たこともない光景だったらしい。

それは、フードを被った少年と蛙の被り物を被った少年も同様だったようで、じっと琉歌の手を見つめている。

 

 

「あぁ、これですか?

メイドさんとかがしているのを見たことがないんですね?

まず、机の上の埃や消し滓などのゴミをティッシュで軽く拭き取り、その次に濡れた布巾で机を拭いて、乾いた布巾で水滴を拭き取りました。

その後に、エタノールを吹き掛けて除菌して、乾いた布巾で水滴を拭き取っただけです。

さっきまで勉強をしていましたから、そのまま料理を乗せるなんて、論外ですので」

 

 

今までの動作を説明して、その動作の理由を淡々と述べる、琉歌。

料理をしている間に落ち着いた様で、すっかり元の淡々とした琉歌に戻っていた。

今の発言に彼らは同じ事を思った。

「まさか、コイツは潔癖症なのか・・・・・・?」と。

 

 

「それじゃあ、料理を持ってきますね。

あぁ、期待しないで下さい。

私は一般家庭の料理しか作れないので、貴方たちの口に合うか否かは解りません。

先に言っておきましたから、口に合わなくても暴れたりしないで下さいね?

ここ、一応防音とは言え、今は夜中ですから近所迷惑になってしまいます」

 

 

それだけを言うと、琉歌は机を部屋の真ん中に移動させて、キッチンへ引っ込んでいった。

軽く注意はしたモノの、彼らが聞いてくれるかは別の話だ。

まぁ、聞かなければ追い出すが。

そんな事を思いながら、順次に料理を運んでいった。






琉歌から見た水田


鬱陶しい、近寄るな、目障りだ、消えろ。


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第5話



サラダにマヨネーズを使うと、あっという間に無くなるんだよね~;;
しかも、マヨ足りなかったOrz
本当は、野菜中心で献立組みたいんだけど、旦那が肉食で;;
うわぁーん、私は菜食主義者(ベジタリアーノ)なのに~!!


はい、そんな事を思いながら、第5話です。


料理も運び終わり、男性達は琉歌の作った料理に舌鼓を打っていた。

初め、「そんなに期待しないで下さいね?」と念を押された彼らは、そんなに料理には期待していなかった。

だが、料理が運ばれてきた時、質素じゃない料理に関心を覚えたのだった。

とても質素な料理が出てくるのかと思えば、一般の家庭料理ってこんなモノなのか!?と言う様な料理が出てきたからである。

ある程度お腹が落ち着いたところで、沈黙を破ったのは、ルッスーリアだった。

 

 

「それで、どうして私たちは帰れないのかしら?」

 

 

空腹から解放されて、ある程度落ち着いたルッスーリアは琉歌に目を向けた。

食事をして落ち着いたお陰か、ルッスーリアは殺気立っていなく、さっきとは打って変わって冷静に琉歌に問う。

琉歌は何から話せば良いのか考えていなかった為、少し考える素振りを見せた。

 

 

「う~ん、何から話せば良いのか・・・・・・

私もよく、状況を理解していないので・・・・・・取り敢えず、今の現状をそのままお教えします。

質問は後で聞きますから、落ち着いて話を聞いて下さいね?」

 

 

琉歌がルッスーリア達を見回して確認を取ると、ルッスーリアは「解ったわ」と言って、琉歌の話を聞く体勢を取った。

それを見た全員が口を閉じる。

今、この場で彼女を怯えさせずに話が出来るのはルッスーリアしか居ない、と判断したのだろう。

琉歌は深呼吸すると、口を開いた。

 

 

「貴方たちは本来、この世界に二次元として現れている存在であり、此処は、貴方たちの知る並盛やイタリアのない世界です」

 

 

その説明に、ルッスーリア達は琉歌を凝視した。

それもそうだ。

いきなりそんな事を言われれば、誰だって呆然とするだろう。

そんな彼らに構わずに、琉歌は話を続けた。

 

 

「もっと簡単に言うと、貴方たちは現実(私の世界)次元トリップ(夢渡り)してきたと言うことです。

時空間や次元を超えて、ね」

 

 

琉歌の説明に一同は硬直(フリーズ)してしまう。

言葉の意味を理解した時は全員、冷や汗を流した。

それもそうだ。

次元を超えて別の時空間に行くなんて、そんなSFの映画や漫画じゃあるまいし。

琉歌は更に説明を重ねた。

 

 

「貴方方は、この世界では“家庭教師(カテキョー)ヒットマンREBORN!”という漫画の世界にしか存在しません。

それがどういうワケか、貴方方は次元トリップ(夢渡り)をして、この世界に実在してしまった。

時空に歪みが出来たのか何なのかは解りませんが・・・・・・貴方たちは確かに現在()、此処に在るのです。

貴方たちが存在し得ない、この現実(世界)にね」

 

 

信じられない、と言う様に彼らは目を見開いた。

それもそうだろう。

別の次元に飛ぶなんて、お伽噺じゃないか。

だが、ここに来てさっきの空腹感と言い、今の料理の味の味覚や食感と言い、到底夢だと思えない。

それに、手を触れている机の固い感触が夢ではないと物語っている。

それに、目の前の少女は何かを知っているようだ。

なら、聞いてみたいことがあった。

黒髪の男性は、琉歌を見据えて問う。

 

 

「さっき、俺たちは漫画の世界にしか存在しないと言ったな?

その漫画、お前は知っているのか?」

 

 

鋭い視線が琉歌を射貫く。

視線が鋭いだけで、殺気を感じないことに安堵して、琉歌は頷いた。

 

 

「知っていますよ。

だって、持ってますから。

更に言うと、貴方たちのことも知っています。

何なら、名前でも当てましょうか?」

 

 

「ほう、やってみろ。

できたら、お前の話を信用してやらんでもない」

 

 

琉歌が微笑んだのに対して、黒髪の男性も目を細めた。

それは、どちらかというと琉歌を嘲笑っているように見えて、琉歌は恐怖よりも何か腹が立つという感情に切り替わった。







ちなみに、水田から見た琉歌

大人しい。
誰よりも仲が良くて、自分のことを理解してくれている理解者。
もっと話したい。


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第6話



今回は大型更新~!!
特に意味はありません、はい。
そんなワケで、第6話です。


「まず、ボスのXANXUS。

で、その隣がスペルビ・スクアーロで、その隣がベルフェゴール。

そっちのフードがマーモンで、蛙の方がフラン。

ちなみに、二人とも術師でしょ。

で、さっき名乗ってもらった鋼鉄の膝(メタル・ニー)を持つ死体性愛者(ネクロフィリア)のルッスーリア。」

 

 

一人1人指を指しながら名前を挙げていく、琉歌。

たまに説明を交えながら、的確に名前を当てていく琉歌に、一同は夢渡りを認めざるを得ない状況となってしまった。

それを認めてしまえば今度は、別の不安が過ぎった。

ルッスーリアは、それを口にする。

 

 

「良いわ。

その夢渡りをしてしまったことは認めるけれど・・・・・・私たちは帰れるのかしら?」

 

 

そう、それは、元の世界に帰られるか、だ。

もし帰れなかったら、これから私たちはどうすればいいの?と心配するルッスーリア。

きっと、琉歌も同じ様な状況になったら間違いなく、それを真っ先に思うだろう。

琉歌はあまり、迂闊なことが言えなかった。

無責任に「きっと、帰れるよ」なんて何処かの漫画の主人公みたいな事を言って変に期待させては、万が一の時に責任を取ることは出来ない。

それに、無責任な言葉は一番嫌いなのだ。

根拠もない事を言える程、琉歌は楽観的な思考はしていないし、自分が同じ目に遭ったらきっと、そんな言葉なんか求めないだろう。

だが、ここで黙っていても仕方がないので、取り敢えず可能性の話を述べた。

 

 

「帰られる可能性は殆ど無いと思って下さい。

同じシチュエーションで帰られる方法はほぼ0です。

取り敢えずは此処の二部屋を貸しますので、戻られる日までこの世界を満喫しては如何でしょう?」

 

 

琉歌は微笑んだ。

琉歌の言葉に希望を殆ど打ち砕かれたが、“ほぼ0”というのは、帰られる可能性が全くないわけではない。

いつかそのチャンスが来ると言う事を、琉歌は暗示していた。

その日までを今か今かと神経を尖らせて待っているより、この別世界で色んな事を体験して気を紛らわせながら待っている方が精神環境上、良いだろう。

そう言う琉歌の配慮だった。

部屋も無償で貸してくれるというので、住む分には全く問題はない。

自分たちを助けてくれたのがいい人で良かった、と、一同は胸を撫で下ろした。

こんな何も解らない世界に投げ出されては、どうすればいいかも解らなかったであろう。

そこは、この少女に感謝しなければならない。

 

 

「ありがとうね、感謝するわ。

貴女の名前を教えてくれる?

これから一緒に生活するのに、名前も知らなかったらおかしいでしょう?」

 

 

そこまで言われて、琉歌は自分がまだ、名前を言ってなかったことに気付く。

琉歌は「あっ!」と声を上げて、直ぐさま、自己紹介した。

 

 

「安藤琉歌です。

あの、今日からよろしくお願いします!」

 

 

頭を下げると、笑い声が聞こえた。

それは、ひとつ、ふたつ・・・・・・と増えていく。

琉歌が顔を上げると、黒髪の男性―――XANXUS以外の人達が笑っていた。

 

 

「それ、俺らが言う言葉じゃん。

お前が言ってどうするんだよ」

 

 

「君、面白いね」

 

 

金髪の男性――ベルフェゴールと、フードを被った人物―――マーモンがそれぞれ言った。

それにつられて、琉歌も笑う。

 

 

「確かに、おかしかったかな、今のは。

あははっ」

 

 

こうして、琉歌と夢渡りしてきたヴァリアーのメンバーと、奇妙なルームシェアが始まったのでした。







ヴァリアーから見た琉歌

初対面なのに優しくしてくれてる良い奴。
何気に料理が美味い。


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第3章  「転入生」
第1話




はいはーい!!さぁさぁ、皆さーん!!
続きが出来上がりました~!!ww




「琉~歌っ!」

 

 

「ふぁ?」

 

 

いきなり後ろから声を掛けられて、琉歌は半分寝ぼけ眼で顔を上げる。

何で、ベルの声がするのだろう?

しかも、今、名前呼ばれた?

この家には、私1人の筈じゃ?

色んな考えが回らない脳味噌にグルグルと駆け巡る。

しかも、何か背中が温かい。

そう思って、琉歌は上半身をガバッ、と起き上がらせた。

窓から差し込む朝日が目に染みる。

うん、朝日?

あれ、自分は今日の小テストの為に勉強をしていた筈では?

そう思って、琉歌は部屋を見回した。

すると、目の前を見覚えのある顔が覗き込んできて、琉歌は目が一瞬にして、覚める。

 

 

「ベッ、ベルフェゴールぅぅっ!?」

 

 

何で、此処に!?と騒ぎそうになって、琉歌は昨夜の記憶がフラッシュバックする。

そうだ、昨日は学校帰りに蒼星川へ行ったら、ヴァリアーを見つけて、拾ったんだった。

琉歌はう゛ーっと唸ると、背伸びをして目をこする。

そして、「どうしたの~?」と舌足らずにベルに訊いた。

寝起きは大抵、舌足らずになっている琉歌は、このクセを早く直したいんだよ―と思っていた。

 

 

「昨日、俺らを此処に運んで来た時、俺らの武器を見なかったか?」

 

 

ベルの問いに琉歌は「え~、見てないよ?」と答える。

すると、ベルは顎に手を当て、考える仕草を見せた。

イケメンがやると決まるよね―、それ、とぼんやり思う、琉歌。

琉歌は、ベルに助言する。

 

 

「ここに来る前と来た後で減っているモノがあれば、増えているモノもあると思うから・・・・・・例えば、財布とか見てみて。

大抵、夢渡りしたのに理由があるんだったら、渡り先で使えそうなモノとか出てくる筈だよー。

例えば、戸籍とか、お金とか」

 

 

琉歌から助言されて、「そんな馬鹿な」と思いながら財布の中身を見ていると、札束がぎっしりと詰まっていた。

それは、夢渡りする前のおよそ倍くらいに増えていて、ベルは目を見開く。

そのタイミングで、フランとマーモンとXANXUSが部屋に入ってきた。

 

 

「琉歌ー、大変ですー。

ミーとマーモンさん、幻術が使えなくなってしまいましたー。

それと、ボスは憤怒の炎が使えなくてー。

キモオカマはメタル・ニーがなくなっているんですよー」

 

 

部屋に入って一番最初に口を開いたのは、フランだった。

間延びした話し方から、本当に大変だと思っているのか?と疑いたくなるくらいだが、表情で困っていることが何となく窺えた。

どうして、こいつらは一気に来ないんだよ?と思いながら、琉歌はベルに説明したことをもう一度話す。

そうしたら、一同、一斉に財布の中身を確認した。

 

 

ある程度落ち着いて、状況生理をする。

現在解っているのは、何故か夢渡りをして、別の世界に飛んでしまったと言う事。

武器や能力など、他人に被害が出るようなモノは一切、消えていること。

その代わり、夢渡りをする前よりも財布の中身の金額が増えていること。

それを踏まえると、琉歌の中で今まで小説を書いてきた想像力が解放され、一つの結論に至った。

 

 

「もしかしたら、誰かによって夢を渡らされたのかもね・・・・・・」

 

 

顎に人差し指を添えて、弾き出した結論を呟く。

これも、考える時の琉歌の仕草だった。

琉歌の口から呟かれた結論に、XANXUSは眉を動かした。

 

 

「どうして、そう思った?」

 

 

机に視線を落として考えている仕草をしている琉歌に、XANXUSは問う。

琉歌は顔を上げて、XANXUSを見た。

昨日よりは怖くないと、琉歌は感じた。

 

 

「憶測だけど・・・・・・武器が無くなっているのは、此処は法律で守られた国で、銃やナイフ、剣なんか持ち歩いていたら、銃刀法違反になるから。

幻術が使えないのは、ここは幻術なんて非科学的な能力は漫画の中だけだから。

財布にお金が増えているのは、一定期間だけ滞在するのに必要だから。

ここまで考えれば、夢渡りさせた人間が居るというのは、間違いなさそうだけどね?」

 

 

「それと・・・・・・」と言葉を紡いで、一旦切る。

琉歌の推測に全員、舌を巻いた。

そこまで考えつかなかったのだ。

言葉の続きを待って、琉歌に注目する、一同。

そして、琉歌は口を開いた。

 

 

「私がトリップモノの小説を書くとしたら、その世界にあった武器や能力を主人公に与えて、必要なモノは最初から持っているという設定にするから、その発想を逆転させれば、法律で守られたこの世界で武器や幻術なんか要らないし、逆に、法律で守られた国だから、お金や戸籍などの必要なモノは揃っている設定にしておく。

それと同じだと思う」

 

 

琉歌の推測に一同は妙に説得感の様なモノを感じた。

 







現在、解っていること1

ヴァリアーはトリップしてきた。
武器がない。
幻術が使えない。丸腰。
財布の中身が増えている。

琉歌の驚異的な頭の柔らかさ。


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第2話



琉歌が何気にハイスペックのような気がする・・・・・・。
あれ、ごく普通のJKの筈なのに(^p^)Oh......


そんな気持ちの第2話です。





「そう言えば、他に変わったモノとかないの?」

 

 

椅子に片足を立てて、膝に腕を置いてその手に顔を乗せながら、琉歌はいつの間に来ていたのか、スクアーロの財布を指した。

その言葉に全員、財布の中身を再び確認する。

すると、ベルが「あっ!!」と声を上げた。

その声に全員、ベルを見る。

 

 

「免許証が更新されてる」

 

 

ベルのその言葉に全員、免許証を確認する。

すると、全員の免許証の住所が変わっていた。

「見せてみ」と琉歌が手を差し出すと、一番近くにいたマーモンが免許証を見せた。

それを受け取ると、琉歌は免許証に軽く目を通す。

 

 

「何気に、此処に住むこと前提になってるけど・・・・・・まぁ、それは良くて、だ。

免許証の住所が変更されてるねぇ。

てことは、住民票も此処に在るというワケか。

夢渡りさせた奴、相当気が利いているじゃないか。

面倒な手続きは全て終わっていると思っても良いね。

あっ、もしかしたら!!」

 

 

琉歌は免許証をマーモンに返すと、机からケータイを取り上げ、電話帳を開いた。

「少し、静かにしてて」と言ったタイミングで、接続音が切れる。

すると、聞き慣れた声が琉歌の耳に流れ込んできた。

 

 

「あ、安藤ですけど。

今日の1時間目にある総合のことで少し訊きたいことが・・・・・・はい、はい、あー、そうですか。

あー、はい、行きますよ、解りました。

はい、はーい、じゃあ、また後ほど」

 

 

随分と軽い電話の受け答えのあと、琉歌は通話が切れたのを確認して、電話を切る。

「誰だったんだ?」とベルが口を開くと、琉歌は顔を上げた。

 

 

「今、学校の養護の教師に電話で問い合わせたんだけど・・・・・・今日は転入生が4人来るらしい。

1人は2年で、後の3人は1年だって」

 

 

琉歌の話に付いていけないのか全員、首を捻る。

そんな顔をされても困る、と琉歌は思ったが。今の説明は確かに解り辛かったか、と思った。

琉歌は、今度は解りやすく説明した。

 

 

「だから、ベルとフランとマーモンは・・・・・・転入生って事になってる。

名前もちゃんと確認した」

 

 

琉歌の言葉に辺りは静かになる。

現実逃避でもしているのか何なのかは解らないが、ベルとフランに至っては何かブツブツと呟いている。

軈て、ベルとフランは興味深そうに琉歌に詰め寄った。

 

 

「そこの学校って、お前居る?」

 

 

「勿論」

 

 

「何年ですかー?」

 

 

「1年だよ?」

 

 

「その学校って、行けばお金が貰える?」

 

 

「教科書なら貰えるよ、あと、パンと飲み物」

 

 

ベルとフランの質問に答えながら、何故か参加していたマーモンの質問にも答える。

琉歌の回答にマーモンは、「ちっ」と舌打ちをした。

金が入らないんじゃあ、行っても意味無いじゃないか。

逆に無駄に金を取られるなら、行きたくないね。

基本、守銭奴なマーモンはお金にならないことをしようとは思わない。

それは誰より、琉歌が知っている。

なので、琉歌はマーモンの顔を覗き込んだ。

 

 

「行きたくないなら行かなくて良いけど・・・・・・行かなかったらそれこそ、お金の無駄だよね~?

ここから通うんだったら勿論電車通学だし、定期のお金だって月々高いんだから。

その財布の中に青い定期カードが見えたような気がしたけど、気のせいだったかなぁ~?」

 

 

最後の言葉は勿論、鎌を掛けたのである。

守銭奴なマーモンはお金を無駄にすると言う事は論外の筈である。

なので、使わせる為にそんな事を言ったのだ。

マーモンの思考を理解している琉歌だから、言えたことだ。

一方のマーモンは、「ムムッ、そんなモノ入っている訳がないだろう・・・・・・」と、財布の中身を確認した。

すると、見慣れないカードが何枚か出てきて、マーモンは驚いていた。

その中に、青い定期カードも入っている。

 

 

「おぉ、定期入ってるし、銀行のキャッシュも入ってるねぇ。

これは用意周到だわ。

行くしかないようだね、マーモン?」

 

 

ニヤリ、と口元に笑みを浮かべる琉歌にマーモンは、「実はコイツが仕掛けたんじゃないのか」と疑ってしまいたくなる。

それもそうだろう。

琉歌は次々と財布の中身が変わっていることを示唆してきた。

これで何も知らないなんて、思えない。

マーモンは琉歌を凝視した。

 

 

「何かな、マーモン。

そんなに見られたら、幾ら私だって流石に照れるよ?」

 

 

この反応は、ただの天然なのか、それとも装っているのか。

マーモンは暫く、この“安藤琉歌”と言う人物について少しずつ観察してみようと思った。

それは、XANXUSやスクアーロも思っていた。







現在、解っていること2

ヴァリアーメンバーが元々持っていた免許証の住所が更新されている。
しかも、住所は何気に琉歌の家の住所になっている。
夢渡りさせた人間が居る?
転入生が4人で、そのうちの3人がベル、フラン、マーモン。
「お金が無駄になる」と言えば動くマーモン。これは使えそう。
いつの間にか、学校に通うメンツの財布の中に青い定期カードが入っている。

実は琉歌は天然を装っている?


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第3話



そう言えば今日、初めて1人で病院と役所に行ってきたんだけど、帰りに道に迷ってしまったという・・・・・・Orz
無事に帰ってこられて良かったー・・・・・・。


そんな思いで第3話です。




「ベル、マーモン、フラン!!

急いで!!」

 

 

只今、琉歌とベル、フラン、マーモンの3人は、駅に向かい全力疾走していた。

琉歌の走るペースよりもベルとフランとマーモンの走るペースが遅く感じられるのは、慣れない世界の慣れない空気の中を走っている為である。

この世界に“ヴァリアークォリティー”なるモノは当然、使えない。

そればかりか、何故か彼らの体力値は平均にまで下げられているのだ。

これもきっと、夢渡りをさせた人間の仕業だろう。

それ以外に考えられない。

 

 

「早くしないと、電車間に合わないよ!!

次の電車まで1時間近く待たないといけないとか、嫌だろ!

しかも、こんな暑い中で!!」

 

 

そう、琉歌達は学校へ行く為に駅へ向かって走っていたのだ。

話には載せていないが、先程まで彼らの生活に必要な生活用品や衣類などを買いに行っていたのである。

それで、物珍しそうにベルとフランとルッスーリアが色々と見て回っていた為に、こんなにギリギリになってしまったのだ。

次の電車でも十分に間に合うが、ベルとフランとマーモンの転入説明のことを考えると、早く行って損はない。

むしろ、この世界のことで彼らに助言が出来るのは琉歌だけである。

彼らでは、分からない事も教える必要があるだろう。

そう、例えば常識とか。

ここは、彼らの居た世界とは全く理等が違う。

だから、向こうの世界で通用していたことが此処の世界では通用しないことが多いのだ。

それをフォローする為に、一緒に転入の説明を聞こうと思ったのだ。

特に、フランやマーモンは基本的には別に心配はないが、ベルの場合、何かの拍子に問題が起こりそうで今でもかなり肝を冷やしている。

いつ襤褸を出してもおかしくないのだ。

 

 

「ベル!

家で言ったこと、ちゃんと守ってよ!?」

 

 

「解ってるって」

 

 

琉歌はベルに念を押す。

ベルは苦しい息の下で、辛うじて返事をした。

「家で言ったこと」とは、ベル達の素性を隠すことである。

幸い、学校で漫画とかに興味のある人間は居ないが、今日はベル達以外にも転入生が居るらしいので、そいつが万が一でもリボーンを知っていれば、リボーンのヴァリアーのメンバーにそっくりな・・・・・・いや、もろホンマモンの彼らを見れば、疑うだろう。

それで騒がれても面倒だ。

 

なので、「他人の空似」と言う事で、ベルはティアラを取って前髪を右側に流して、普段は見せない涼やかで優美な蒼い目を見せていた。

ベルは嫌がっていたが、「ここは、前の世界じゃないから出身なんて隠したって誰も解らない」という琉歌の言葉で渋々前髪を避けた。

「そもそも、外人は金髪碧眼だから!」と言われて、まぁ、それなら・・・・・・と、承諾したのだ。

フランは蛙の帽子を取って、目尻のタトゥーをファンデーションで消している。

本当は、カラコンにウィッグを被せたかったが、フランがドライアイだったのとウィッグは暑苦しいし、そもそも外見を変えたら、この小説の意味が無くなる為、それこそカラコンで染めたと言う事にしよう、という方が人体的なリスクも少ないので、そう言う方面に誤魔化すことにして、マーモンもフードを脱いで、同じように誤魔化すことにした。

その際、初めて見るマーモンの目に琉歌は物凄い感動を覚えたのだとか。

 

我ながら、凄いアイディアだと思った。

苦心ではあるが、それしかない。

それで正体を誤魔化すことにした。

幸い、彼らは留学生扱いだ。

彼らのような名前は外人ならあり得るであろう。

 

 





現在、解っていること3

ヴァリアーが居た世界と、琉歌の住む世界は空気が違う?
ベル、フラン、マーモンは慣れない空気の所為か思うように走れない。
ヴァリアークォリティーが使えない。
身体能力や体力が平均に落ちている。

3人は姿を可能な限り変えて全力疾走で登校中。


マーモン
染めて藍色の髪にしている。(と言う事にしている)
紫のカラコン着用。(と言う事にしている)
フードを外している。
服は琉歌にコーディネートしてもらった模様。
顔のマークはファンデで消している。


フラン
染めて緑にしている(と言う事にしている)。
緑のカラコン着用(と言う事にしている)。
蛙が頭に乗っていない。
顔のマークはマーモン同様、ファンデ。


ベル
「金髪碧眼の外人さん」で誤魔化せる為、ティアラを外しているのと、前髪を避けているくらいしか変化がない。
それだけでも解りにくいだろう。


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第4話



ヨーグルト美味しいなぁ~。
個人的にはブルガリアが好きですがww←

さて、今回から、麗々さんのキャラが登場してきます!
理由?
それは、頼まれたから・・・・・・ですかね。
まあ、一番最初にコメもしてくれたという誼でおkしました。

あー、キャラが違ってたりするかも知れませんが、そこは勘弁です!




 

それから、曾て無い程の全力疾走のお陰か、琉歌達は電車を乗り過ごすことなく、学校の最寄り駅に着いた。

慣れない世界での全力疾走にフランとベル、マーモンはくたばっているようだが、電車に間に合い、尚かつ予定道理の時間に最寄りの駅に来れたのだから、琉歌としては特に気にすることもなかった。

 

 

「あの・・・・・・」

 

 

不意に聞き慣れない女子の声が聞こえた。

背後から聞こえた声に振り返れば、琉歌と同い年くらいの少し小柄な女子が困った様な顔で琉歌を見上げていた。

まず、目に入ったのは学生服。

学生が自分に何の用だ?と疑問に思いつつ、彼女の言葉の続きを待った。

 

 

「松枝高校まで、どう行けば良いか解りますか?」

 

 

彼女の質問で、琉歌は何となく察した。

恐らく、彼女が4人目の転入生だろう。

土地に馴れていないのか、手には地図らしき物を持っている。

地図を見ても解りにくいのだろう、自分も初めはそうだったと、琉歌はぼんやり思った。

 

 

「へぇ、じゃあ、君が4人目ですね。

私たちもこれから、松高に行くところです。

良かったら、一緒に案内して上げましょう。

ついて来て下さい」

 

 

それだけを言うと、琉歌はさっさと歩き出した。

別に、転入生に興味を持っていない琉歌にとって、彼女は気にするほどの人間ではないが、この時間帯に学校に向かおうなんて生徒は琉歌のみで、彼女を放置していたらあと1時間くらいは彼女は学校に辿り着けないだろう。

そうなっては、後々面倒くさそうだ。

それに、ベル達を案内するついでだ。特に断る理由もない。

女子は、琉歌の言葉に「はい」と頷いて、琉歌の後に付いていく。

 

 

5分間を無言で歩いていたら、それなりに大きな建物が見えた。

その裏門と思われる門を入って、職員室前の下駄箱に靴を入れて、スリッパと履き替える。

ベル達転入生組は来客用のすりっぱと履き替えた。

ただ、学生服を着た女子はスリッパを持っていたようで、それに履き替えたが。

琉歌はノックすらせずに、職員室に入っていく。

職員室に入れば、冷房が効いているお陰で涼しい。

琉歌とベル達が職員室に入っていくと、割と歳の行った女性教師が笑みを浮かべて、琉歌を歓迎した。

 

 

「あらあら、安藤さん、今日は早いですね~、どうしたんですか?」

 

 

柔和な笑みを浮かべた教師は、今朝、琉歌が連絡を取っていた教師だ。

彼女個人の連絡先はつい最近手に入れた。

今日も白髪が目立っているな・・・・・・と思いながら、琉歌は本題を口にする。

 

 

「留学生3人と、ついでに駅で転入生を1人拾ってきました。

この4人の担当教師は居ますか」

 

 

淡々と告げて、琉歌は職員室を見回す。

女性教師は笑いながら、琉歌の肩を叩いた。

 

 

「拾ってきたって、猫じゃないんですから!

ちょっと待ってて、今呼んでくるから、食堂で待っててもらって」

 

 

そう言うと、女性教師は職員室の奥に消えた。

それを確認すると、琉歌は職員室を出るように促す。

4人は、琉歌の後に続いて職員室を出た。






麗奈のプロフィール1

名前:本田麗奈
年齢:15(現時点)
血液型:B型
星座: 獅子座
所属:市立松枝高等学校 1年



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第5話



やっぱ、他人のキャラを使うのはかなり難しいですね~。
いや、相棒のキャラはキャラを熟知していたり、相棒の考えてる事が解ったりするので、どういうキャラなのか、とか打ち合わせしなくても解るんですが、こちらでお気に入りして貰って居る人・・・・・・それも、殆ど話したこともない人のキャラを出すのは、本当に難しい!!
アニメの脚本家さんは本当、その点凄いですよねぇ。

という思いの第5話です。


職員室を出て隣の教室の扉を開けると、椅子とテーブルが並んであって、壁には自販機が並んでいる部屋に入った。

暫く密室だったその部屋は、もわっと熱気が漂っていて、それに気にすることなく、琉歌はその部屋に入った。

奥には、学食でも売っているのか、窓が付いていて、その隣に弁当のメニューなどが書いてある。

此処は、食堂。

大抵の生徒は此処で補食を食べたり、放課後を寛いだりする。

なお、重要な手続き等の話なども、ここで普通にしている。

琉歌は、4人に食堂へ入るように促すと、自販機の前に立った。

 

 

「そこ、座ってて。

飲み物は適当で良いね?」

 

 

自販機に一番近いテーブルに座るように促すと、琉歌は紙コップの飲み物が売ってある自販機の前に立った。

お金を入れて、一番無難なお茶を購入する。

すると、先程の女子が慌てて席を立って、琉歌が飲み物を買おうとするのを止めようとした。

 

 

「あ、飲み物なら、自分で・・・・・・」

 

 

「気にしないで下さい。

ただ、こんなサービスは滅多にしないので、今日は特別です」

 

 

女子の言葉を遮って、女子の前にお茶の入った紙コップを置く。

唯単に琉歌は、こんな暑い中に何も飲まないでいたら、脱水症状を起こしそうで、そうなれば面倒だと思ったから奢っただけなのだ。

授業態度は悪い琉歌だが、学校で決められた事は一応守っている。

だから、クーラーも教師が来て付けるまで付けないのだ。

教室では、他の生徒が勝手に付けているが、特に気にはしていないが。

琉歌の厚意に「ありがとうございます」と女子生徒は俯きながら言った。

ベルやフラン、マーモンにも同様にお茶を配って、自分はコーラを買うと、近くの椅子に腰掛けた。

 

 

「それにしても、遅いな。

何処で油売ってんだ?」

 

 

紙コップの縁を持って、紙コップを口に近づけながら言う、琉歌。

コーラを口に含めば、今まで乾いていた口の中が潤っていくのと同時に炭酸が口の中で弾けて、清涼感を誘う。

琉歌が教師に悪態を吐くのはいつもの事で、暑さも相俟って琉歌は苛々していた。

転入生を待たせるとか、どれだけ呑気なんだ?

そう思いながら、琉歌はコーラを飲み干した。

 

 

「ベルセンパーイ、琉歌が怖いです―」

 

 

それまで黙っていたフランが不意に、ベルに声を掛けた。

今まで買い物していた時の琉歌から一転して、不機嫌な琉歌が少し怖くなったのだろう。

それは、ベルやマーモンも同じだった。

この性格の違いは何だ、とマーモンは思った。

 

 

「君、さっきとキャラが違わないかい?」

 

 

「別に。

逆に、今のがデフォルトだよ」

 

 

マーモンの問いを冷たく返す、琉歌。

そう、好きな時にはしゃぐのが人間だ。

特に、琉歌は気分の浮き沈みが激しい。

ただ、それだけだ。

マーモンと琉歌の会話を聞いていた女子は、不思議そうに2人を見た。

 

 

「2人は仲が良いんですか?」

 

 

突然訊かれた質問に、琉歌はあっさりと返す。

 

 

「この3人とは、ルームシェアをしていましてね。

まぁ、そこそこだと思いますよ」

 

 

「そうなんですか!」

 

 

 

琉歌の回答に納得したのか、女子は凄いですね―、と呟いた。





麗奈のプロフィール2

性格:明るいが嫌いな人には冷たい。
趣味:漫画、アニメ
好き:アニメ。特にリボーン
嫌い:媚びを売る人



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第6話


昨日、更新しようと思っていたけど、謎の停電により出来なかった件・・・・・・Orz




「いやぁ、遅くなりましたね、すみません」

 

 

教師を待つこと10分。

いい加減、待つことに飽きていた琉歌はケータイを弄っていた。

本日分の小説の更新がまだだったからである。

そうすると、いきなり食堂のドアから、男性の声が聞こえた。

琉歌がドアに目を向ければ、白髪でスポーツ刈りの所為で殆どスキンヘッドになっている丸々とした男性教師が食堂に入ってきた。

「いやぁ~、暑いですねぇ~」と言いながら、額から流れる汗をハンカチで拭き取る様は、その教師の体脂肪率がどれだけ多いかを示しているようだ。

 

 

「遅いですよ、先生。

転入生達が待ちぼうけて死にそうじゃないですか」

 

 

琉歌が口を尖らせて言うと、教師は苦笑いで返した。

 

 

「すみませんね、こんなに早いとは思わなかったんですよ」

 

 

「それはアレですか?

私がいつもギリギリで教室に入ってるから言ってるんですか?

それとも、大体は遅刻するから言ってるんですか?」

 

 

教師の言葉に琉歌は口を尖らせて詰め寄る勢いで問い詰める。

詰め寄る勢い、と言うだけで詰め寄らないのは、琉歌は極端に男を嫌っているからである。

ただし本人曰く、「二次元は別」との事。

目つきの悪い琉歌に睨まれてるような気がして、教師は苦笑を返した。

実際は睨んではいない。

ただ、見ているだけである。

目つきが悪いので、睨まれているようにしか見えず、今までそれが軋轢を生んでいた。

更に、この性格である。誤解されても仕方がない。

 

 

「えーと、転入生はみんな揃ってますね?」

 

 

話を切り替える様に、教師はベル達を見回す。

人数が揃っているのを確認して頷くと、話を始めた。

 

 

「それじゃあ、まず・・・・・・」

 

 

 

それから、30分くらいで説明は終わり、琉歌とベル、マーモンとフランと女子生徒は、教室へ向かっていた。

ついでに、琉歌は転入生の世話係にされてしまい、「さっさと逃げておくべきだった・・・・・・」と後悔していた。

 

 

「この奥が1年の教室ね。

で、奥から1年、2年、3年で、階段を挟んで、4年の教室になる。

大体、集会とかは4年の教室であるから、それだけは頭に入れといて。

今日の1時間目はこの4年の教室に集合だって。

原則5分前には着いておくように・・・・・・らしいから、そこはちゃんと守って。

で、後は授業の度に説明するけど、マーモンは学年が違うから、先輩から教えてもらって」

 

 

階段を上りきって、向かいから右手を指しながら、順番に説明していく、琉歌。

大体、こんなもんで良いだろう、と琉歌は説明を切り上げた。

そして、右手の廊下を歩いて、教室へ向かう。

 

 

「それじゃあ、マーモン。

後でね」

 

 

1年の教室は奥なので、途中でマーモンと別れて、マーモンは2年の教室へ入る。

琉歌とベル、フランと女子生徒は1年の教室の扉を開いて、教室に入った。

 

教室に入ると、クーラーが利いているらしく、教室の中が涼しくなっている。

よく見てみれば、水田がもう、教室に着いていた。

水田は琉歌の姿を認めると、笑顔で寄ってくる。

 

 

「あ、安藤さん、おはよ~う!!」

 

 

登校からハイテンションな彼女を無視して、ベルとフラン、女子生徒に目を向けると、一言だけ口にした。

 

 

「ここ、席とか決まってないから、好きなところに座ればいいよ」

 

 

最早、水田は視界に入っていない様子。

そんな琉歌を気にすることもなく、ベルは「お、おう」と返事をした。

今、声を掛けられて、普通に無視を決め込んだよな?と、ベルは内心、思った。

すると、水田はベルとフランと女子に目敏く気付くと、琉歌に話し掛けた。

 

 

「ねぇねぇ、この人達は?

転入生?」

 

 

甲高い声で問うてくる水田を無視して、琉歌は定位置の廊下側の一番後ろの席に座る。

そんなん、見たら解るだろうが。

何も答えない琉歌に水田は「疲れているのかな」と思って、ベル達に目を向けた。

 

 

 

「うち、水田こゆきって言うんだ!

3人は何て言うの?」

 

 

いきなり自己紹介してきた水田に若干、「何こいつ」と思いながら、ベルとフランは顔を見合わせる。

すると、初めに口を開いたのは、女子生徒だった。

 

 

「私は本田麗奈です、よろしくね、水田さん!」

 

 

女子生徒は笑顔で自己紹介をした。

それに続いて、ベルとフランが口を開く。

一応、名前を訊かれたら答えろ、と琉歌に言われていたのだ。

 

 

「俺は、ベル」

 

 

「ミーはフランと言います―。

一応、よろしくくらいは言っておきますかねー」

 

 

それぞれが自己紹介すると、2人は琉歌の席の左隣と、前に着席した。

左はベル、前はフランだ。

すると、後を追うように、麗奈と水田も寄ってくる。

琉歌はそれに目もくれず、ケータイを弄っている。

 

 

「琉歌―。

そう言えば、アンタだけ自己紹介してないように見えましたけど、したんですか―?」

 

 

フランが琉歌の方に椅子を向けて、話し掛けてくる。

それを見た水田が、これまた目敏く反応した。

 

 

「安藤さんとフラン君って、知り合いなの~?」

 

 

水田の目敏さに鬱陶しさを覚えつつ、水田を無視して琉歌は顔を上げると、麗奈の方を見た。

 

 

「安藤琉歌。

好きに呼んで下さい」

 

 

それだけを言うと、琉歌はまた、ケータイに視線を落とす。

 

 

「安藤さんって、絡みにくいでしょ?

初めは誰にもそうなんだよ。

私に馴れるのも時間掛かってさ。

ちょっと、緊張しているみたいだけど、馴れたらいい人だから!

少し、大人しいだけなんだよね」

 

 

水田が解ったような口調で琉歌のことを説明する。

そのことに苛つくと、琉歌はヘッドフォンを耳に当てて、音楽を聴き始めた。

知ったような顔で自分のことをとやかく言われるのは、虫酸が走る。

ケータイのディスプレイを見ると、琉歌は立ち上がった。





麗奈のプロフィール3


明るく気さくな転入生。
アニメや漫画が好きで、転入先に「悪ノ歌姫」を名乗る生放送のパーソナリティであり、歌い手である琉歌が居た為、仲良くなりたいと思う気持ちから、琉歌に絡もうとする。
目標は、親友になれればいいな、だそう。


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第7話




うわぁ、こんな感じのキャラで良いのだろうか、麗奈って。
わっかんねぇ――――っ!!




1時間目が始まり、全校集会がある為、琉歌達1年の生徒は4年の教室に移動していた。

後から、人がどんどん集まってくる。

生徒全員が教室に入ってきた頃、教卓に校長が立っていた。

全員、長ったらしい校長の話を半分聞き流しながら、ひそひそと話を始める。

内容は、教室の隅に立っている転入生についての話題だ。

「あの人、格好いいねー」とか、「あの子、可愛くない?」とか、そんな有り触れた会話をしている。

特に騒がしかったのは、その転入生が在籍している学年だ。

要するに、1年と2年、特に1年が五月蠅い。

ピーキャーピーキャー五月蠅い雑音に眉を顰めつつ、琉歌は睨むように前を見ていた。

いや、正確には睨んでいない。ただ、睨んでいるよう(・・・・・・・)に見えているだけで、実際は普通に目を向けているだけだった。

 

 

「それじゃあ、全校集会を始める前に、1年と2年に留学生と転入生が来たので、紹介したいと思います」

 

 

司会進行役の生徒会長が特に抑揚のない声で先に進めていく。

それと共に、待ってました―!!と言わんばかりに教室が騒がしくなった。

「留学生と転入生ごときによく騒ぐ」と、琉歌は騒ぐ生徒を宥める教師を我関せずと言う様に横目で見やる。

何で、「転入生」と言うだけで騒げるのだろうか。

単純すぎる人間の脳細胞に疑問を抱きたくなる。

そんな事を思っていたら、転入生が教卓の前に整列していた。

視線を教卓に移すと、丁度真ん中にいたマーモンと目が合った。

「五月蠅いだろ、この学校?」と、琉歌は肩を竦めて苦笑してみた。

それが通じるかは解らないが。

すると、苦笑が返ってきて、小さくマーモンが頷いた。

どうやら、何となく意味が解ったようだ。

 

ベル、フラン、マーモン、麗奈の順に自己紹介をすると、4人の転入生は教師に指定された席に着く。

全校集会の時は出席番号順に席に着くようになっている。

4人が着席したのを見計らって、生徒会長が先に続けた。

 

 

 

集会が終わると、琉歌は真っ先に教室を出て行く。

ベル達を待つことはない。

どうせ、ベル達は転入生と言う事もあって生徒達に囲まれているだろう。

そんな人間を待っていられるほど、こちらは暇でもなければ、群れることが好きなわけでもない。

むしろ、集会中はずっと、噎せ返っていた程だ。

後ろから、主に女子の声が聞こえている。

まあ、3人はあの外見だ。

女子が寄って来ないことはまず無いだろうとは思っていた。

だからこそ、さっさと教室を出たのだ。

 

 

「あ、琉歌、待ってくださーい!!」

 

 

不意に一段と大きな声が聞こえて、琉歌は思わず立ち止まる。

フランの声だ。

琉歌は頭を抱えたくなる。

フランのお陰で、注目の的になってしまった。

視線が集中してきて気持ち悪い。

振り返れば、フランとベル、マーモンが寄ってきていた。

辺りは更にざわついて、五月蠅くなる。

主に、女子からの疑惑の声だ。

 

 

「ちょ、あの子、確か1年の安藤琉歌よ!」

 

 

「フラン君達とどういう関係なのかしら?」

 

 

女子は好奇や妬みなどの混沌と化した視線を琉歌に送ってくる。

うわぁ、今、この場から飛び降りたい。

琉歌は思わず、飛び降りたい衝撃に駆られた。

そんな琉歌の思いに気付かず、フランはさらりと言った。

 

 

「ミーとベルセン・・・・・・サンとマーモンさんは、琉歌の家でお世話になっているんですー」

 

 

あっさりとフランが打ち明けると、女子からギロッと睨まれた気がした、琉歌。

あンの馬鹿野郎・・・・・・帰ったら、G(ジャイアント・)P(パンダ・)D(デスロック)食らわせてやる。

琉歌は恨めしそうにフランを密かに睨んだ。

 

 

「え、どういう事!?

一緒に住んでるの!?」

 

 

きゃーっ!!と、女子から甲高い悲鳴のような声が上がる。

そこまで騒ぐことでもないだろう、と思いながら、琉歌はその場を離れようとした。

だが、それはベルに腕を掴まれた事によって阻止された。

 

 

「置いていくなよ、琉歌」

 

 

慌てたように掴まれた腕は、何気に力が入っていて、痛い。

だが、それどころではない琉歌は、ベルの手を振り解こうとする。

 

 

「離せ、私に待って貰いたいんだったら、その群れをどうにかしろよ!

私は群れの中に居ると気持ち悪くなるんだよ!!」

 

 

つい、きつい口調になってしまう、琉歌。

気持ち悪さに耐えきれず、思わずキツく言ってしまったのだ。

しーんと辺りは静寂に包まれ、次第にひそひそと琉歌を非難する声が上がっていくが、琉歌はそれに構わずにさっさと走り出した。

冷静になって考えてみれば、ベルが自分を呼び止めるのは当たり前じゃないか。

ベル達は馴れない環境で頼りに出来るのは琉歌しか居ない。

少し、言葉がきつ過ぎたな、と琉歌は教室に戻って、席について、冷静になったところで我に返った。

それに、ベル達は自分が人間嫌いだと言う事を知らない。

教えても居ない。そんな彼らに突然、あんな事を言っても、いきなりでは対処できないだろう。

改めて、自分が彼らに我が儘をぶつけたのだと思い、自己嫌悪に陥る。

折角、仲良くなれると思ったのに。これでは、嫌われてしまいそうだ。

折角、一緒に住んでいるのに。

グルグルと、琉歌の頭を後悔と嫌悪感が巡っていた。






琉歌から見た麗奈


変な奴


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第4章 「温もり」
第1話




随分お久しぶりの投稿・・・・・・;;
それで更に申し訳ないのですが、旦那の転勤が決まり、引っ越す事になったので、暫くバタついて更に更新ができなくなる恐れが・・・・・・m(_ _)mホントモウ、スマヌ
ある程度は話の再構築に目処が立ってきたと言うとこで、これだもんな。
本当、評価とかコメとかお気に入りしてくれてる人には申し訳ないm(_ _)m



それから、授業もまともに受けられず、琉歌は学校にいる間の3時間を無駄に過ごした。

ベル達は水田に絡まれていて、ろくに琉歌と話が出来ずに、時間が過ぎていっただけである。

それを横目に気にしながら、琉歌はベル達も水田側(あっち)か・・・・・・とぼんやり考えた。

それならそれで良いだろう。いや、むしろ、ベル達は水田側(あっち)に居た方が良いのかも知れない。

自分と居れば、孤立するし、良い事は全くないじゃないか。

そこまで考えていた時だった。

麗奈がこっちへ向かって、声を掛けてきた。

 

 

「安藤さん!」

 

 

元気な声に琉歌は顔を上げると、仏頂面を作る。

コイツも、向こうに行くようにした方が良いな。

本能でそう思った。

別に、人助けとは言わない・・・・・・自分が学校全体で何て言われているかは解っている。

その為、麗奈が近くに居ると、麗奈まで誤解されかねない。

人は必ず、こう言う奴と一緒に居るんだから、コイツもこうだろう、と、固定観念を抱く。

それで、転入生が学校に馴染めなかったら、こっちは後味が悪い。

それは、ベル達にも言えるようなことだ。

 

 

「何?」

 

 

敢えて、抑揚のない沈んだ声で答える。

まず、これで大抵の人は避けるだろう。

更に、集会の後のあの騒ぎだ。

それで避けようとしない人間は居ないはずである。

 

 

「安藤さんは、何処住みなんですか?」

 

 

有り触れた質問に琉歌は「総紗」と、短く答えた。

一応、訊かれたことにはちゃんと受け答えする常識は持ち合わせている。水田は例外だが。

すると、麗奈はパァァァと、見て解る様に顔を明るくした。

麗奈が言う前に、琉歌は言葉を挟む。

 

 

「だけど、一緒に帰らないよ。

その顔は何を期待しているか知らないけど・・・・・・総紗なら、水田(アイツ)も同じだから、一緒に帰ればいい」

 

 

琉歌は、水田を指しながら言った。

下校の時間は、琉歌が唯一楽になれる時間だ。それを邪魔されるのは嫌だ。

だが、琉歌の思いとは裏腹に、麗奈は首を振るった。

 

 

「私、安藤さんともっと話してみたいんだ!

実は安藤さんなんでしょ?

「悪ノ歌姫」って歌い手!!

声聞いて、解っちゃった!」

 

 

そう、琉歌は趣味で「歌ってみた」や生放送やラジオ番組などを動画サイトでアップしていた。

どうやら、麗奈は琉歌がその生放送のパーソナリティだと、解っていたようだ。

で、彼女曰く、毎回、楽しみに動画を見せて貰っています、との事。

そこで、折角一緒の学校に通えることが出来たので、仲良くなりたいと思ったこと等、麗奈は言った。

そこまで聞いて、考えが変わる―――――ような琉歌ではなく。

琉歌は、水田やベル達の群れの中心にいる1人の女子生徒を指指した。

 

 

「彼奴は、竹内美香。

この学年で猿山のボス猿みたいな立ち位置に居る奴だ。

まぁ、弱い人間は群れを作って、自分を大きく見せようとする。

どこでもそれは一緒で、彼奴は自分より弱い奴を仲間にして、朱に染まれない人間を省く。

目を付けられたら、君まで孤立するよ。私のようにね」

 

 

茶髪のショートヘアーにシャツにジャージという、動きやすそうな服装をしている女子生徒―――――竹内美香は、取り巻きと楽しそうに話して、笑っている。

それを横目で見ながら、琉歌は説明した。

そう、琉歌は何故か竹内に目を付けられて、孤立してしまっていたのだ。

何故かは知らないが、琉歌の悪口などを琉歌に聞こえるように言ったりしている。

それに便乗しているのが、水田である。

その所為で、琉歌は学校全体の生徒に悪い印象を持たれて、孤立していたのだ。

ただ、教師だけは琉歌と変わらずに接しているが。

 

 

「解ったら、私とは関わらない方が賢明でしょう。

私も、誰とも関わる気は無いので。

それでも、関わろうなんて思っているなら、どうぞお好きな様に。

過度に関わらないようなら、返事くらいは返しますから」

 

 

それだけを言うと、琉歌は席を立って鞄を持ち上げ、教室を出た。

教室を出て、下駄箱に着くと、不意に後ろから声が掛かった。

 

 

「ちょっと、安藤さん」

 

 

掛けられた声に無言で振り返ってみれば、そこには2年の女子生徒が立っていた。

その女子生徒は琉歌を睨むように見ている。

「何ですか」と琉歌は抑揚のない声で女子生徒に用件を聞く。

こっちはさっさと帰りたいんだ、こんな所で絡んでくるなよ・・・・・・。

琉歌は面倒くさそうに手に持っていた靴を落とした。

 

 

「マーモン君と一緒に暮らしてるって本当なの?」

 

 

「本当ですよ」

 

 

女子生徒の質問に即答する、琉歌。

こればっかりは嘘を吐いても仕方のないことだ。

琉歌の回答が気に食わなかったのか、女子生徒は顔を歪めた。

その表情を琉歌は怪訝に思いながら、じっと見つめる。

琉歌にとっては、何故マーモンの事で自分が絡まれた挙げ句に睨まれなきゃならんのか、と頭を抱えたくなる。

 

 

「用がないなら、帰りたいんですが?

私、暇じゃないんです。

頭良くて暇な人達と違って、私は頭悪いので、人一倍勉強しないと追い付けないんですよ」

 

 

琉歌はその言葉に皮肉をたっぷりと含んで、言った。

こう言う人達は自分が一歩下がって、少し上げてやらないと面倒くさい。

実際に、琉歌は頭は良くないが、今までの水面下の努力のお陰で成績上位をキープできている。

それを知らない女子生徒は、琉歌を見下した目で見てきた。

 

 

「なら、マーモン君と暮らしている余裕もないんじゃない?

それに加えて、あの二人でしょ?

一人くらい、こっちに回してきても良いのよ?」

 

 

琉歌を見下しながら上から目線の言葉に、琉歌の腸が煮えてくる。

こう言うタイプの人間が一番嫌いだ。

「後輩の負担を減らそうとしてあげてるアタクシ、マジ天使」とでも思っているのだろうか。そんな気もない癖に。

琉歌は「余計なお世話です」と切り捨てた。

 

 

「彼らは私の知人ですから。

他人たる貴方にお世話になるなんて、以ての外です。

まぁ、一番は彼に直接聞くのが一番だと思いますが?」

 

 

「マーモン」と、琉歌は続けて曲がり角の壁に声を投げかけた。

女子は驚いた様に振り返る。

すると、女子が立っていた壁の後ろから、マーモンが出てきた。

 

 

「よく解ったね、琉歌?」

 

 

無機質な声からは窺えないが、マーモンの顔は少しだけ目を見開いて、驚いている様だった。

 

 

「ただの当てずっぽうだよ。

カマを掛けたつもりが、本当に居たなんて思わなかった。

いつから居たの?」

 

 

琉歌は薄ら笑いを浮かべて、マーモンに問う。

「さっきから居たよ」とマーモンは返した。

正直、この修羅場と言うべきかは解らないが、この現場を目撃して、出て行こうか立ち去ろうか考えていた所に、琉歌から呼ばれたのだ。

琉歌は「カマを掛けただけ」と薄く笑っているが、今朝の件もあり、本当かどうか怪しい。

まぁ、声を掛けられたお陰で、盗み聞きなんて悪趣味な事をしなくて良くなったのは、良い事であるが。

 

 

「そう。なら、話はもう解ってるね?

マーモンはどうする?」

 

 

「どうって・・・・・・琉歌の家に居たらダメかい?」

 

 

琉歌の問いにマーモンは少し考える素振りを見せた後に、小首を傾げて、琉歌を見る。

マーモンが琉歌の家に居たいのは唯単に、琉歌の観察をしたいが為である。それと、琉歌の料理。

今日は何を作ってくれるかなー、とマーモンは授業中、そんな事しか考えていなかった。

それはともかく、琉歌はマーモンが首を傾げてそんな事を言うから、思い切りノックアウトされた。

自分よりは高いが、男子の平均よりも身長の低いマーモンがそんな仕草をすると、ショタを連想してしまう。

基本、男は受け付けないが、二次元ならば男はショタから青年まで、幅広い守備範囲を持っている。

特に琉歌は、ショタ・天然専攻の為、今のマーモンはドストライクだった。

まぁ尤も、これが周りに誰も居なければ、発狂しながらアンコール連発して、写メを撮りまくっていたのだろうが、今は外野が居るので、冷静な外見とは裏腹に内心は悶えている、というカオスな修羅場だ。

 

 

「私は全然問題無いよ?

知っての通り、ウチは1人で暮らすには広いし」

 

 

しれっと言っている琉歌だが、内心は修羅場だ。

そんな事も知らないマーモンは、「問題無いなら、琉歌の家に居る方が良い」とキッパリ断言した。

 

 

「と、言うわけなんで先輩、折角の申し出は有り難いのですが、ありがた迷惑なのでお断りします。では。」

 

 

それだけを言うと、琉歌は女子の話も聞かずにその場をさっさと離れた。

マーモンも、その女子に目をくれる事はなく、琉歌の後に付いていく。

そして、2人で駅へと向かった。



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第2話


やっとPC繋がったー!!
何か一昨日、やっと届いた某柔らかい銀行のプロバイダーをセッティングしたら、昨日、ネットに中々繋がらなくて;;
昨日は更新を断念していたんですよねぇ。
もーっ、何で柔らかい銀行は回線が悪いのよー!!みたいなww
で、よくよく思い出してみたら、そう言えば、ケータイを契約して、ついでにプロバイダーを進められて、契約した時に「何日かネットに繋がらない事がありますが~~~」みたいな事を言っていた様な気がした←
まぁ、それは置いておいて、第二話をお楽しみ下さいww


琉歌とマーモンは結局、さっきの女子生徒に絡まれていた所為もあり電車に間に合わず、駅で最終電車を待っていた。

途中で心配していたらしいベルとフランからメールが来ていたので、先に帰ってて、と返信した為、ベルとフランは今頃、帰路についている事であろう。

さっきから、マーモンも琉歌も無言で、お互いに何を言う様な雰囲気でもない。

重くなく、琉歌にとってはこの沈黙が心地好い時間に思えた。

 

 

「さっきの子・・・・・・」

 

 

不意に突然、マーモンが沈黙を破った。

琉歌はそれでも、驚きもせずただ、マーモンの話に耳を傾けていた。

 

 

「集会の後から物凄く絡んでくるんだ。

色々と教えてくれるのは有り難いんだけど、少し干渉が過ぎてね。

さっき、何もされてない?」

 

 

マーモンに言われて、さっきの微妙な修羅場を思い出す。

特に何を言われたわけではなく、鬱陶しさは感じたものの、これと言って害はなさそうなので、琉歌は「大丈夫だ」と言った。

そんな琉歌にマーモンはらしくもなく、安堵する。

 

 

「それよりも、ベルやフランにも言うけど・・・・・・注意しないといけない事があるんだよね」

 

 

「何だい?」と琉歌の言葉にマーモンは首を傾げた。

そして、琉歌は説明する。

入学以来、自分は学校に馴染めていない事。

それはおろか、人と馴れ合えない性格が災いして周りからは避けられたり、忌み嫌われている事。

自分と居たら、マーモン達も同じ様な白い目で見られると言う事。

どうして、こんな事になったのかという経緯は自分でも見当が付かないが、同級生を中心にある事無い事悪い噂を流されたりしている事など、今思いつく限りの学校の様子を洗いざらい説明した。

マーモンは言葉を挟まず、一字一句、聞き逃さない様に真剣に琉歌の話を聞いている様だった。

 

 

「それで、学校では私とどう接するか、マーモンには考えていてもらいたい。

無干渉ならそれでも良いし、変わらずに接するでも良い。

ただ、私と関わると、クラスメートとの円満な関係は望めない事を頭に入れておいて」

 

 

琉歌の言葉にマーモンは考える素振りもなく、首を傾げた。

 

 

「クラスの人間と関わる事で、何かメリットでもあるかい?」

 

 

マーモンは真剣に悩んでいる様な素振りで言った。

マーモンに言わせれば、クラスメイトとの円満な関係なんて、どうでも良いようなことなのだ。

ただ、琉歌と居る事ができればそれで良い、と何故か思っている所がある。

それは唯、琉歌への興味本位から来る感情だけである、とマーモンは自己完結している。

 

 

「僕は、君に興味があるんだ。

君以外の人間なんて、別にどうでも良いね。

だから、此処でも関わっていたい。

勿論、君が迷惑じゃなければ、だけど・・・・・・」

 

 

言っていく内に、琉歌が顔を紅く染めている事に気付いて、マーモンは何か失言したのだと思って慌てて、言葉を探す。

今まで殆ど無表情だった琉歌がいきなり表情を変えるから、マーモンは対応に困った。

でも、確かに今の言葉はなかったかもしれない。

取り様によっては、告白みたいじゃないか。そんなつもりは勿論、ない。

それに気が付いたマーモンは、「あー、え、だから、つまり・・・・・・」と言葉を濁す。

そこからの言葉は出てこない。

煮え切らないマーモンを見兼ねたのか、琉歌は話題を変えるように「来たよ」とケータイを見ながら言った。

そのタイミングで、駅の(しわが)れた老人のアナウンスが夜の静かな駅に響く。

ホームの何の為に引いてあるかも解らない白線を通り過ぎて停車した三両編成の黄色いワンマンに乗り込んで、琉歌とマーモンは直ぐ近くのボックス席に向かい合って座った。

車内アナウンスの後、電車はゆっくりと発進して、闇夜に吸い込まれるように、或いは、飛び込む様に風を切って加速し、夜の道を駆ける。

田舎の最終電車はガラ空きで、今その場には、琉歌とマーモンの2人しか乗車していない。

一見、クールの様にも感じられるが、実は明るい事を今日一日、琉歌を見て解った。

クールが素なのか、それとも、あの買い物の時に見せた顔が素なのか。まだ、見当が付かない。

どちらにしろ、それも含めて琉歌の事を知りたい、とマーモンは呆然と考えた。

 

 

「琉歌・・・・・・」

 

 

何の気なしにマーモンが琉歌に声を掛けると、琉歌は疲れているのか寝息を静かに立てて、眠っていた。

余程、疲れていたのか何なのかは解らないが、思い返せば昨日、自分たちを保護した後にご飯を作ってくれて、その後に話をして「勉強しないといけないから」と部屋に閉じ籠もってしまっていた様な気がする。それから、そんなに寝ていなかったのだろうか。

気を遣わせてしまった様な気がした。

眠っている琉歌の手からケータイが落ちそうになっていたので、マーモンは琉歌の手からケータイをそっと引き抜いて、閉じると琉歌の鞄の外ポケットに押し込んだ。

その時、初めて琉歌の顔を近くで見た。

決して美人とは言い難いが、悪くもなく整っている顔。

日本人にしては、少し高い鼻、彫りは深くもなく、浅くもない。

睫も濃すぎず、薄すぎ無くて、少し長い。

唇も、ある程度はふっくらしていて、色も綺麗な紅。

素顔でこれなら、ある程度はモテているんじゃないか、とかそんなどうでも良い事が頭を掠めた。

起きている時の冷めている様な表情と年相応くらいの寝顔とのギャップに、正直、驚く。

琉歌を見ていると、相反する相対的なモノを連想させられた。

白い羽根を持った烏。

悪魔の様な天使。

絶対零度の太陽。

そんなイメージだ。

 

 

「君は何故か、悲しそうだよね・・・・・・」

 

 

口に入り込みそうだった長い前髪を避けながら、マーモンは思わず呟いた。

最寄り駅まで後二駅。

電車は線路を走る音を立て、ゆっくり揺れながら、最寄りの駅を目指して走っていた。



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第3話

う~ん、中々話が進まない・・・・・・;;
脳内では内容量がパンパンになるくらい、色んな話が出てくるのにねぇ。
しかも、何故か最終回の話をエンドレスでww
こんな堕作者でスマソ(--;)


ちょっと、書き直しました。
「ベルがフランを宥める」と誤解をしてしまった人が居たみたいなので;;
文才が無くて、本当に申し訳ない;;
こんな作者に付き合ってくれている人達にはホントに感謝です(;∀;`)



「琉歌、着いたよ」

 

 

「うん~~~?」

 

 

マーモンに起こされて、琉歌は寝ぼけた目を擦りながらまだ、開ききらない目で周りを見渡す。

電車は止まっていて、ホームから車内に人が乗り込んで来ていた。

どうやら、爆睡していたらしい。

「ほら、立って」と言うマーモンに腕を引かれて、琉歌は立ち上がると、電車からホームに出た。

ホームに出て階段を上がり、改札を抜けると、改札の傍の椅子にベルとフランが座っていた。

どうやら、待ってくれていたらしい。

琉歌とマーモンが改札を出たのに気が付くと、ベルとフランが立ち上がって、声を掛けてきた。

 

 

「おっせーよ、何やってたんだよ、二人して?」

 

 

ベルが白い歯を剥き出しにニヤリと笑って、マーモンを小突く。

対するマーモンは「別に」とドライに返していた。

その二人を余所に、フランは琉歌にコソッと声を潜めて、言った。

 

 

「琉歌、その・・・・・・学校で良くない話を延々と聞かされたんですがー」

 

 

「あの、水田って奴に」と続いたフランの言葉に、琉歌は特に何も感じていない様に「ふーん」と返した。

近くに居る筈のベルはマーモンをからかっていて話を聞いていない様で、マーモンも特にフランとの会話に耳を傾けている様子はない。

フランは琉歌のドライな返答に琉歌が不快な思いをしているのだと思ったのだろう、「あ、その、でも」と、何か言葉を取り繕おうとしていた。

取り繕おうとしていたフランを余所に、琉歌は「ねぇ」と三人に声を掛ける。

突然に声を掛けられたベルとマーモン、フランは琉歌に注目する。

 

 

「ちょっとさ、寄り道したいんだけど。

付き合ってくれない?」

 

 

琉歌の申し出に三人は頷く以外の選択はしなかった。

 

 

 

それから、琉歌とマーモン、フラン、ベルは、駅の近くのコンビニに寄って、飲み物と軽くお菓子を買って、蒼星川に来ていた。

川の辺の石でできた椅子にマーモン、ベル、フランは腰を下ろす。

琉歌が座らないのを見て、マーモンは「座らないのかい?」と声を掛けたが、琉歌は野外に設置されている椅子に座れない、と話した。

そう、琉歌は駅の椅子もそうだが、野外に設置されている椅子には座ろうとはしない。

理由は服が汚れるし、誰が座ったのかも解らない椅子になんて、座りたくもない、との事。

それを聞いた三人は、「やはり琉歌って・・・・・・」と琉歌が潔癖症ではないのかと思わされた。

 

 

「まぁ、それはどうでも良いとして。

さっき、マーモンにも話したんだけど」

 

 

椅子に座っている三人を見ながら、琉歌は話を切り替えた。

早く話して、早く帰ろう。じゃないと、家の方が心配だ。

琉歌は、先程学校の帰りにマーモンに話した事を説明しだした。

 

 

「フランもベルも今日一日で散々聞かされただろうけど、私は1年を中心に悪い様な噂ばかりされている」

 

 

曰く、不良行動が目立つ。

曰く、教師とできている。

曰く、問題行動多々あり。

曰く、警察の厄介になる様な事もしている。

曰く、捨て子。その他多数。

上げていけば、全く信憑性のない作り話の様な噂が多いが、中には否定出来ない話もある為、何処までが本当で嘘かは解らない。

それも踏まえて、琉歌はマーモンにした様な話をベルとフランにも話した。

そして、これから、自分とどう関わっていくのかを考えて欲しい、とも話す。

ベルとフランは少し、考える様な素振りを見せる。

そして、ベルは笑った。

 

 

「よーするにそれって、あの水田とか言う豚と竹内とか言う奴が琉歌に嫉妬してそんな話をしてんだろ」

 

 

ベルの言葉に琉歌はキョトン、とベルを見る。

そんな風に聞き取れたのか、と琉歌は呆気にとられた。

すると、フランも「珍しく、センパイと意見が合いますねー」とベルの言葉に同調した。

琉歌は二人をポカンと口を開けて、見つめてしまった。

 

 

「琉歌の行動が不良行動なら、まだ可愛い方だって。

お前、俺らの事知ってんだろ?特に、フランなんか、なぁ?」

 

 

「兄貴をゴキブリと間違えて殺してるセンパイには言われたくありませーん」

 

 

ベルの言葉に、フランはズバッと返す。

そんなフランの首を絞めようと、フランの首にベルは腕を回した。

「苦しいですー」と困り顔のフランは、ベルの腕から逃れようと暴れる。

言われてみれば確かに、不良集団のヴァリアーに比べれば、琉歌の不良行動なんかミジンコ並みに可愛く思えるだろう。

琉歌の不良行動なんて、精々、授業中の態度が悪いくらいなモノだ。

それを考えれば、別に大したことではない。

 

 

「俺はあんな奴より、お前と居る方が断然楽しそうだし、関わらない選択肢とかねーから、心配すんな!」

 

 

「うわっ!!」

 

 

ベルは立ち上がったかと思うと、琉歌の頭をくしゃっと撫でた。

突然の事に琉歌は吃驚して、声を上げる。

誰も、何も心配していないんだが・・・・・・と言おうとも思ったが、見上げたベルの顔が笑っていたから、何も言う気がなくなった。

そんなベルと琉歌の様子を見て、フランまでもが琉歌の肩を叩く。

 

 

「あんたは気にし過ぎなんですよー。

少しは肩の力を抜いたらどうです?」

 

 

そんな事を言われるとは思いもしなかった琉歌は、フランの顔をマジマジと見上げた。

見上げたフランの顔は、月明かりに照らされて白く浮かび上がっている。

月明かりを反射して翠の目が光っている様に見えた。

 

 

「何見てんですかー、変態」

 

 

「なっ、誰が変態だ、馬鹿!」

 

 

琉歌の視線に気付いたフランは、琉歌の肩を軽く突き放しながら言った。

改めて見た琉歌の顔は月明かりの所為か、相当美化された様に見えて照れ隠しのつもりでフランは琉歌を突き放したのだ。

その突然の衝撃で、琉歌はベルに凭れ掛かりながらも、フランに食って掛かる。

そんな琉歌をベルが宥める・・・・・・という、珍しい光景が出来上がった。

ベルが他人を宥めるなんて珍しく、と言うか、彼の性格を色んな意味で熟知している琉歌と、マーモンから言わせれば、ベルが誰かを宥めるなんて、有り得ない、と思わず琉歌とマーモンは目を見合わせた。

そして、琉歌とベル、マーモンとフランはそろそろ帰らないと、ルッスーリアが心配しそうだ、と言う事で、帰路に就いた。



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第4話


最近、PSO2にハマってしまったww←
いや、その所為で更新が滞っているわけじゃないんですよ!?
基本、PC更新なので;;
だって、iPhoneは文字打ちが面倒くs((じゃなくて、三点リーダとか打ちにくいんですもの、しかも、全角になるし;;
決して、文字打ちがメンドイわけじゃないですから!ww

さぁ、そんなこんなで第4話ですww←


「お帰りなさい~、琉歌ちゃんと+三人」

 

 

帰って来るなり、玄関先にいたオカマに琉歌、マーモン、フラン、ベルは絡まれた。

「何で俺達は纏められてんだよ」とベルが小声でツッコミを入れる。

フランはと言うと、「うわー、キモさ10割増しですー」とルッスーリアのフリルエプロンを見て、死んだ目で呟いていた。

実はルッスーリアは、昨日の食事や今日の買い物の一件で琉歌を甚く気に入った様で、琉歌とルッスーリアは昨日知り合ったばかりとは思えない程に打ち解けていた。

それはさておき、ルッスーリアの言葉に唯一まともな反応を示したのは、琉歌だけだった。

 

 

「ただいま~。

今日一日、どうだった?」

 

 

玄関で靴を脱いできちんと揃えながら、琉歌はルッスーリアに話を振る。

マーモン達も、琉歌に倣う様に靴を揃えて、家に入った。

琉歌の話にルッスーリアは何か良い事でもあったのか、上機嫌に頷いた。

 

 

「それがねぇ~、今日、団地の女の子達とお話ししてたんだけど~、もう、意気投合とかしちゃって!

物凄く可愛い子と仲良くなっちゃったのよ~!」

 

 

上機嫌で話すルッスーリアに琉歌は笑いを零す。

流石、ヴァリアーの母、人付き合いが上手いなぁ~、と思った。

 

 

「ベルちゃん達はどうだった?

大変だったでしょう、あの子達、やんちゃだから」

 

 

ルッスーリアに話を振られて、琉歌は今日一日の事をルッスーリアに話した。

集会で大変な事になった、とか。

みんな、直ぐにクラスの人間に気に入られていた、とか。

そんな事を話していたら、ルッスーリアは安堵した様に息を吐いた。

どうやら、マーモンはともかく、ベルやフランの事が心配でならなかった様子だ。

 

 

「そうだ、夜食作ったんだけど、琉歌ちゃんは食べる?」

 

 

「明日、バイトがあるから早く寝ないと。

ごめんだけど、遠慮させて貰うね」

 

 

ルッスーリアの言葉に琉歌はやんわりと断りを入れた。

終電に乗らなかったら食べていただろうが、終電に乗った所為もあり、時間的に食べられない。

食べて直ぐに寝るのは、琉歌の中では御法度だった。

ルッスーリアは残念そうに俯いて、「そう」と呟く様に言った。

 

 

「あー、と・・・・・・私のバイト、火、水、木だから、木、金、土、日曜日だけ、用意してもらっていい?」

 

 

しゅん、と(しお)れたルッスーリアに琉歌は、提案した。

目の前で萎れられると自分が悪い事を言ってしまったのかと思ってしまう。腐っても一応、良心の欠片はまだあるつもりだ。

性格は歪んでしまってはいるが。

琉歌の提案にルッスーリアは不思議そうな顔を琉歌に向ける。

 

 

「琉歌ちゃんは普段、夜も食べないのかしら?」

 

 

少し、疑問に思った程度の事を琉歌に訊いてみる、ルッスーリア。

すると、琉歌は頷いた。

 

 

「平日の夜は補食で貰ったパンを食べているし、朝はバイトの関係で食べてる暇がない。

昼は学校に行く道のりで適当に買って、学校で食べてるね。

だから、まともに食べるのは休日くらいかな。

お陰で、最近はバイトを増やそうと思ってた所だよ」

 

 

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁめよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!?」

 

 

琉歌の生活リズムを聞くと、ルッスーリアは顔面を蒼白にして、琉歌に詰め寄った。

余程、驚いたのだろうが、ルッスーリアのあまりの剣幕に琉歌も驚いて、身を一歩引いた。

発狂にも似た叫び声だったので、後日、大家に文句言われないかと、琉歌は気が気じゃない。

唯でさえも、休日の昼だけという条件で歌い手の活動を許して貰っているのに、夜中のこの絶叫では、流石に追い出されても文句は言えないだろう。

そんな琉歌の気も知らないで、ルッスーリアは琉歌を捲し立てる。

 

 

「今時の女子高生がそんな不摂生!

百歩譲ってバイトは良いとしても、最低2食と睡眠はしっかり取らなきゃ!

じゃないと、お肌にも悪いんだからね!?」

 

 

「道理で痩せているワケよ~、顔色もあまり良くないし~」と、ルッスーリアは琉歌の両頬に手を添えて、グリグリと擦る。

摩擦で熱くなっていく頬に、「火傷しないだろうか」と、琉歌は困り顔を浮かべた。

 

 

「琉歌の顔が赤くなっていってるよ?」

 

 

まるで困った表情を浮かべて何も言わない琉歌の代わりに、マーモンが一言ルッスーリアに言ってくれた。

マーモンの言葉にルッスーリアは冷静さを取り戻したのか、琉歌の顔を見て、んまぁ!!と声を張り上げる。

琉歌の頬は、ルッスーリアが擦りまくった所為で色白というワケでもないが特に黒いわけでもない黄色みを帯びた皮膚が赤くなっている。

「あらあら、ごめんねぇ~、うっかりしてたわ」と、ルッスーリアは琉歌に詫びた。

琉歌は別段気にした様子も無く、苦笑いを浮かべているだけだ。

 

 

「とにかく、明日は早いから、さっさと寝るよ。

もう、眠たいしね・・・・・・」

 

 

くあ・・・・・・っ、と口に手を添えて欠伸をすると、琉歌は眠たそうな顔でルッスーリアに言った。

その後ろでマーモンが「さっき、電車の中でも寝てなかったっけ?」と突っ込んでくるが、眠たい為、無視。

眠くなると、普段の倍くらいに愛想が無くなるのはそんな性格なので、仕方がない。ピークを過ぎれば夜中のテンションだとかでテンションが異常に高くなるが。

「じゃあ、おやすみ~」と琉歌は自分の部屋に消えて行った。

その背中を見送って、ルッスーリアはベルとマーモンとフランに「貴方達はどうする~?」と訊く。

 

 

「俺は要らね。ガッコーからパン貰ってるしな、しししっ」

 

 

「僕も遠慮しとくよ、そこまでお腹減ってるワケじゃないし」

 

 

「ミーは食べますー」

 

 

ベル、マーモン、フランがそれぞれに反応した。

正直、ベルとマーモンは買い食いが原因でお腹は減っていない。

フランの言葉に「太るぞ、蛙」とベルが絡む。

鬱陶しそうにベルをあしらい、フランはダイニングへ行く。

ベルとマーモンはダイニングの目の前の部屋に入っていった。

ちなみに、琉歌の家は3DKで、琉歌の使っている部屋の隣がマーモン、ベル、フランが使っている部屋、廊下を挟んだ前にあるのがダイニングキッチン、その隣にXANXUS、スクアーロ、ルッスーリアの使っている部屋がある。

部屋割りは、あみだくじで決まったモノだ。

最初は不満げにしていたベルとフランだが、琉歌の「嫌なら君たちは屋上だ」の言葉に黙り込んだ、というエピソードがあったが、それはまた、どっかの機会に。

 

 

「今日、琉歌の様子見て思ったんだけどさ・・・・・・」

 

 

部屋に入ると突然、ベルがポツリと喋り始めた。

声の静かさにマーモンは口を挟まず、続きを促す。

 

 

「琉歌、自分から他人を避けている様な感じでもあったんだ。

転入生に話し掛けられても、突っぱねていたり、ウチのクラスにいる女子に話し掛けられてんのに無視してたり・・・・・・

まぁ、無視されても仕方ない奴だったんだけどさ、琉歌に話し掛けてたその女。

琉歌の悪口を散々聞かされてたからさ。

それは問題無いんだけど、全校集会のあの騒ぎがあった所為か、俺とフランの事も避けてる様な感じがするんだよね」

 

 

 

何気なく言ったであろう、ベルの言葉にマーモンは琉歌の言葉を思い出す。

性格の所為か、クラスに馴染めない、と言っていた琉歌。

琉歌の性格が悪くて馴染めないんだったら、自分はどうだろうか、とマーモンは思った。

自分が自覚している性格だけでも、自分に好かれる要素は無いし、今日近寄ってきていた女子についても、何故近寄られているのかが解らない。

嫌われはしても、好かれるようなことはないと思う。

反対に琉歌は、確かに馴染みにくい所はあるだろうが、根は優しそうだし、実際にいきなり来た自分たちに部屋を提供してくれたりしてくれている。

話してみれば、まったく人畜無害の様にも感じる。

そんな琉歌が嫌われているのは、琉歌の性格以外にも何か原因があるはずだ、とマーモンは思った。

琉歌が人間嫌いなのも何か原因があるのでは?それを前提にマーモンは、琉歌の事をより観察してみよう、と思う。

 

 

「水の中に夜が揺れてる 悲しい程静かに佇む・・・・・・」

 

 

マーモンとベルの間に流れた沈黙は、隣の部屋から聞こえてきた歌声に消された。

琉歌が歌っているのだと理解するのに時間は掛からなかった。

琉歌の部屋とベル達が使っている部屋は襖一枚で仕切られていて、隣の声は聞こえる。もっとも、琉歌は机や棚を襖の前に置いている為、襖を開けてもそこから琉歌の部屋には入れないのだが。

 

 

「翠成す岸辺 美しい夜明けを唯、待って居られたら

綺麗な心で・・・・・・」

 

 

マーモンとベルは、顔を見合わせながら、歌を聴いていた。

普段の彼女からは想像も出来ない様な、繊細な歌声。

決して上手いとは言い難いが、音痴だというわけでもない。至って普通の歌声だ。

その声は何処か哀しみの様な色も混ざっているかの様にマーモンは感じた。

普段、そんなに歌なんかを意識する様な性格はしていないが、意識しなくても、琉歌の歌声が何処となく悲しげなのはマーモンにも感じ取れた。

 

 

「・・・・・・僕は極力、琉歌と行動するよ」

 

 

暫くして、マーモンは今まで思っていた事を口に出す。

そうすれば、自分でも行動を起こせると思ったのだ。

マーモンの言葉の真意を理解して、ベルは頷いた。

 

 

「俺も」

 

 

この時のマーモンとベルの言葉には、琉歌と行動するイコール琉歌を守る、と言う意味が込められていた。

それから、二人は琉歌の歌を黙って聞いていた。





う~ん、この小説、何話で終わりにしようかとかずっと考えてるww←
あまり長いと、作者が更新をサボっちゃうんですよね・・・・・・←
一応、最終話までの粗方の話のあらすじは決まっているんですが、肝心の何話構成にするか、が決まってないという;;←纏めてから書けよ
と、言うか、ちゃんと完結するのか、これ?←
今年中には完結させたいけど・・・・・・無理なんだろうなぁOrz


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第5話

今回は文字数少なめ・・・・・・><
後の話を考えると、ここで切っておいた方がキリが良いかな、と;;


ヴァリアーが夢渡りしてきて1ヶ月が経ち、夏休みも近くなった頃。

琉歌はもう、この生活に馴染んでいた。

バイトのない日は朝、ルッスーリアに起こされて皆で朝ご飯を食べて、マーモンに勉強を教えて貰い、昼になれば皆で昼食、そして、マーモンとベル、フランと昼過ぎに出掛けて、学校へ行く。

夜は授業を受けた後に、四人で蒼星川に行き、一頻り駄弁った後で家に帰って、夜食・・・・・・と言う、生活サイクルがいつの間にかできてしまった。

中々、充実しているな、と琉歌は思う様になった。

今までの生活が嘘の様だ。

ただ、未だに学校には馴染めていなくて、悪い噂は絶えない。

そんなある日の事だった。

この日は、珍しく四人で早く学校に着いて、補食室で暇を持て余していた。

琉歌はマーモンに勉強を教えて貰い、ベルとフランはその隣で談笑している、と言うか、ベルがフランにちょっかいを掛けて、フランがそれを冷たくあしらっている。

すると、職員室に繋がっているドアが開いて、社会の教師が入ってきた。

それに気付くと、琉歌は「こんにちは」と短く挨拶をした。

教師は、「こんにちは」と笑って返す。

 

 

「最近、また一段と暑くなりましたね~」

 

 

教師が、痩せこけた前髪が後退している額に汗を浮かべながら、言った。

どうやら、ずっと職員室にいたわけではなさそうだ。

琉歌は蛍光灯の光を反射して光っている前髪が後退した額を見て、言った。

 

 

「そうですね、最近、とても暑くて。

もう、前髪が長いから授業中前髪が張り付いて、鬱陶しくて、掻き分けてるんですよね~、こんな風に」

 

 

これ見よがしに琉歌は前髪を掻き上げながら、ニヤリと笑みを浮かべて言った。

すると、隣で会話を聞いていたベルが噴き出して、フランは笑いを堪えているらしい、マーモンは苦笑していた。

教師はと言うと、「何ですって、安藤さん」と笑いながら詰め寄ってこようとしていた。

すかさず琉歌は、マーモンの背中に「キャータスケテー、コワーイ」と巫山戯た様子で縋る。

「自業自得じゃないか」と言うのは、マーモンの言葉だ。

 

 

「それはともかく、最近、どうですか?

学校には慣れましたか?」

 

 

教師の言葉は、四人に向けられた。

この言葉には四通りの回答が寄せられる。

 

 

「案外、悪くねぇな、授業はチョロいけど、しししっ」

 

 

「楽しくない事はないんですけどねー」

 

 

「悪くはないね」

 

 

「まぁ、ぼちぼちです」

 

 

ベル、フラン、マーモン、琉歌がそれぞれ、答える。

皆の回答に満足げにニコニコと笑って、「そうですか」と教師は返した。

 

 

「安藤さんなんか、最近良く笑う様になりましたよね、入学したての頃と比べると。

だんだん、表情が豊かになってきました」

 

 

「そうですか?」

 

 

教師の何気ない言葉に琉歌はあっさりと返すも、テーブルの下で左手首を握り締めているのがマーモンには見えた。

こっちに来て1ヶ月が過ぎて、段々暑さが増してきたにも関わらず、琉歌は未だに長袖のパーカーを着ていた。

本人は、日焼けしたくないだの、室内に入ると空調が効き過ぎて寒いだの言っているが、家に居る時でさえ、パーカーを脱ごうとはしない。薄手の生地だとか言われても、見ている分には暑いのだが。

きっと琉歌は、まだ何かを隠している様でもある。

そう言えば、琉歌から家族の話は一切聞いた事がない、と、マーモンはぼんやりと考えた。

琉歌の仕草と琉歌がパーカーを離さない事、琉歌が家族の話をしない事は何か関係しているのだろうか。

少なくとも、琉歌がパーカーを手放さない事と琉歌の仕草は関係がある気がする。

マーモンは、未だに有らんばかりの力で手首を握っている琉歌をじっと見つめた。

琉歌の顔は、無理に笑っている様にも、嘲笑している様にも見える。

 

 

「そんなに険悪な顔してたのか、こいつ?」

 

 

ベルが教師に訊く。

教師は、そう遠くない時間に浸る様に感慨深く頷いてみせた。

 

 

「えぇ、それはそれは立派な仏頂面でしたよ。

水田さんが居なければ・・・・・・」

 

 

水田、と教師が口にした瞬間、それを遮る様に琉歌はガタン、と音を立てて椅子から立ち上がった。

まるで、水田が琉歌の事を変えたかの様に言おうとした教師の言葉に不快を感じた琉歌だったが、その事を読み取れない教師は、何故琉歌が不機嫌になったのか解らずに豆鉄砲を喰らった鳩の様な顔で琉歌を見上げた。

その視線に苛立つ。

琉歌は鞄を取り上げると、補食室を出て行った。

 

 

「琉歌!!」

 

 

マーモンが琉歌の後を追う。

それに続いて、ベルも補食室を出た。

状況が解らずに教師は頭にクエスチョンマークを浮かべて、「ど、どうしたんですか?」と狼狽えている。

ベルを追い掛けようとしたフランが立ち止まって振り返った。

 

 

「琉歌がその水田に何て言われているか、アンタは解んないんですかー、鈍感教師!」

 

 

吐き捨てると、フランも補食室を出て行った。

補食室には、未だに現状が理解できていない教師がポツンと取り残されていた。






ちなみに、余談。
琉歌が教師に言った「そうですね、最近、とても暑くて。
もう、前髪が長いから授業中前髪が張り付いて、鬱陶しくて、掻き分けてるんですよね~、こんな風に」と言う台詞は、作者が高校時代に実際に教師に言った言葉ですww←
いやぁ、あン時は髪の毛が可哀相な教師を弄るのが作者の中でのブームだったんですよww
会う度に髪の毛ネタで弄っていました。
ちなみに、冬Vr.もあったりしますが、それはまた後ほどww←いらねぇよ!ペッ


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第6話

今日は珍しく2話連続更新できた・・・・・・!!
これは、後に更新停滞する予兆ですね、解りますww←


「琉歌!」

 

 

駅の改札を通った後でやっと琉歌に追い付いたマーモンは、琉歌の肩を掴んで引き留める。

琉歌はいきなり肩を掴まれて引き留められた事に驚いて、「離して!」と思わず叫んでいた。

どうやら、走る事に夢中になって周りが見えていない様だ。

マーモンはそんな琉歌に「落ち着いて、僕だよ」と冷静な声を掛けて、落ち着く様に促す。

その声に冷静さを取り戻した様で、琉歌はゆっくり振り向いた。

目の前には、未だに空気に馴染めずに息切れを起こし、肩を上下させて荒い息を繰り返しているマーモンの姿があった。

その顔は走った事によって血液の循環が良くなって、白い頬が紅く染まっていた。

 

 

琉歌とマーモンはそのまま、無言で今来たばかりの電車に乗り込んだ。

ベルとフランには、琉歌は無事に捕まえて、調子が悪いみたいだから帰る事をメールで伝え、それを教師に言う様に言った。

ついでにマーモンも病欠で、と言う事で、マーモンは後に来た苦情メールを無視して、琉歌に向き直った。

ボックス席で向かい合う様に座っていたマーモンは、不意に琉歌の隣に移動した。

琉歌は突然のマーモンの行動にも目を向けず、黙って俯いているだけだった。

夕方の帰宅ラッシュの前の車内は人がそれ程居なくて、電車のガタン、ゴトン、という音以外に何の騒音も聞こえない。

マーモンは不意に口を開いた。

 

 

「もう大丈夫だよ、琉歌」

 

 

不意に掛かった優しい声に、琉歌はやっと顔を上げた。

固く握り締めていた琉歌の手の上にマーモンがそっと手を添えると、琉歌はその力を緩めた。

何かを訊こうとするワケでもなく、咎めるワケでもなく、ただただ、傍に居てくれるマーモンに琉歌は安心した様に目を閉じた。

今はマーモンのその配慮が有り難い。

マーモンは幼子をあやす様に琉歌の頭を撫でた。

触れている手は温かく、何処までも琉歌を安心させた。

 

 

「私は、自分が笑っている顔が大嫌い」

 

 

不意にポツリと、琉歌は漏らした。

マーモンは言葉を挟まずに、琉歌の言葉を待つ。

琉歌は少しずつ話していった。

 

 

「感情の出し方も、抑え方も知らない。

笑うな、って言われた。

お前に感情なんかない、とも言われた。

言われた言葉が突き刺さって、その通りの人間になっていく。

感情のない人間になっていく」

 

 

琉歌の言葉にマーモンは衝撃を受けた。

無表情に語る彼女は、何を思ってこんな話をし出したのだろうか。

マーモンには、皆目見当も付かなかった。

ただ解ったのは、琉歌の話している事は、家族の事だろう、と言う事だ。

 

 

「両親は、私が小さい頃に離婚して、暫く母子家庭だった。

母親は、学校から帰ってくると居なくて、朝は寝顔だけ。

母親の存在を感知したのは、10歳くらいのことだった。

再婚相手と引っ越しを機に同居、そして、総紗に引っ越してきた時に再婚、それから毎日が地獄だった。

カウンセリングの数なんか、何回したのか解らない。

その果てに、私が自閉スペクトラム症を持っていた事が解って、余計に私に対する風当たりがきつくなった」

 

 

自閉スペクトラム症―――――またの名を広汎性発達障害というその障害は、脳に何らかの発達障害があり、社会適応能力に乏しく、協調性に欠けており、偏った分野では記憶力を発揮する事もある障害の事である。

簡単に言えば、軽い自閉症であるが、自閉症よりも認知度が低く、また、理解度も低い。

その障害がある事を言われた時は、琉歌は13歳。幼い頃から発覚していたのなら、学習訓練の様なモノである程度は矯正できていたかも知れないが、今となっては殆ど無意味である為、ずっと放置されていたのだ。

当然、そんな事をいきなり言われても、本人は勿論、誰も理解できる筈もなく、逆に現実逃避する様に琉歌への風当たりが強くなったのだ。

琉歌は自分の事を理解しようと、自分で調べていた。

知れば知る程、現実逃避したくなる現実に琉歌は全てから心を閉ざす様になった。

当然、そんな琉歌に両親は更に強く当たる様になる。

仕舞いには、虐待まがいの事までされていたと、琉歌は語った。

マーモンは淡々と語る琉歌の横顔を見た。

その目からは、涙の膜がうっすらと張っている様に見えて、マーモンは掛ける言葉を失う。

一体、僕から彼女に何を言えるだろうか。何も言えない。

琉歌からは、諦めた様な溜息が零れた。

 

 

「もう、良いんだ。

誰からも理解してもらおうとは思わない。

だから、水田の言葉もぜーーーーーんっぶ、聞こえないフリしてたのにな。

まさか、あのハゲには水田が私を変えたように見えていたとか、ほんっと、()ウケる。

彼奴、実は目に神経が通ってないんじゃないの?ふはっ」

 

 

嘲笑する様な琉歌の言葉に、マーモンは言葉を探す。

ちなみに、琉歌の言った()ウケる、とは、琉歌が始めに何処かのサイトで「鬼ウケる」というギャル語だか何だかを見て、「()ウケる」と誤解釈して、それ以来、全く笑えない状況だが、笑えてしまう(多くは嘲笑)状態の時に口走る様になった言葉だ。

用法が違う事は解っているが、誤解釈が定着してしまった為、「まぁ、造語って事でいいや」と気にせずに琉歌は使っている。

乾いた笑いを零すと、琉歌は立ち上がった。

話している内にいつの間にか、総紗に着いていたのだ。

琉歌とマーモンは電車を降りて階段を上がり、改札口を出た。

 

 

「なーんかムシャクシャするから、カラオケで発散するか。

マーモンも付き合ってよ」

 

 

伸びをしながら、琉歌はマーモンに言った。

マーモンは「仕方ないね、今日だけだよ」と頷いた。



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第5章 「孤独」
第1話




珍しく、連日更し((殴
はい、これが普通なんですよね、作者の更新速度が柔らかい銀行のネット回線並みに、いや、それ以上に遅いんですよね、さーません←

あと20話程度で終わりたいな、と思っているのですが、終われるのだろうか;;
先が不安過ぎる;;


琉歌は、河川敷で月の光が乱反射する水面(みなも)をずっと眺めていた。

あれから、何時間が経ったのだろう。

最初に辿り着いた時は夕方だった気がする。

それから、長い時間をここにずっと居たのだろう。

月は昇りきって、水面は月明かりと隣町の橋の上を通る車のテールライトに照らされて、黄金と淡い紅に染まっていた。

水面は暗く沈んで、何処までも抜ける所のない闇を連想させる。

その深淵を琉歌は飽きるまで眺めていた。

どうして、自分はここに居るんだっけ―――――?

つい、2時間かそこら前の記憶を琉歌は、手繰り寄せた。

 

 

 

 

事の発端は、つい2時間前の事だった。

 

マーモン、ベル、フランはそれぞれ、実習と教師の呼び出しにより、琉歌よりも一足早くに家を出て、学校に行っていた。

琉歌はいつも通りの時間に駅に向かい、ホームで電車が来るのを待っていた。

 

 

「安藤さん!」

 

 

電車がホームに入ってきて、琉歌が電車に乗り込むのと時を同じくして、水田が声を鋳掛けてきた。

琉歌はいつも通りにスルーしようとボックス席に乗り込む。水田も、琉歌の向かいの席に座った。

 

 

「ちょっと、話があるんだけど、良いかな」

 

 

改まった様な水田の口ぶりに、なんだ、と思いながら、琉歌はヘッドフォンを外した。

それを見届けた水田はほっと、胸を撫でおろして、琉歌が何かを言う前に口を開いた。

 

 

「いきなりだけどさ、安藤さん、美香から嫌われてる事知ってる?」

 

 

唐突に水田は、琉歌にそんな事を訊いてきた。

勿論、幾ら人間の感情に乏しい琉歌だろうが、自分に抱かれている他人の感情くらいは読み取れている。

自分がクラスメイトに良く思われていない事も当然、知っていた。

琉歌は「薄々、感付いてたけど?」と無機質な声で対応する。

すると、また、水田は質問を投げかけてきた。

 

 

「じゃあ、ベル君とフラン君とマーモン先輩の事、名前でしかも、呼び捨ててるでしょ?

あれ、やめて上げて。

特に、マーモン先輩、年上なのに呼び捨てるって、どうと思うんだけど。

三人とも、迷惑がってたよ?」

 

 

水田の言葉に、琉歌は思考が止まるのを感じた。

はぁ?と、目が点になる。

そんな事を他人の水田から聞いて、信じられる筈が無い。

琉歌は動揺を隠す様に、抑えた声で言った。

 

 

「三人は、何も言わなかったけど?」

 

 

「それは、三人とも優しいから、安藤さんに気を遣って言わないだけだよ。

本当は、迷惑してるって。最近、メッセージのやり取りしてて、そんな事呟いてたもん。

それと、安藤さんは男子苦手なんでしょ?

だから、三人とも気を利かせて、安藤さんには極力近寄らない様にしてたのに、安藤さんから近付いてどうするの?」

 

 

琉歌の言葉に納得のいかない回答をして、更に矢継ぎ早に責める様に言う、水田。

水田の話は、でっち上げであるというのは、三人の性格を考えれば直ぐに解る事だった。

だが、この時の琉歌の心境は、穏やかではなかった。

少しずつ信用していっていた居場所だったモノが、崩されている様な、そんな感覚が琉歌に襲いかかる。

信じている、とかそんな問題では最早、なくなってきた。

本当であろうが、嘘であろうが、琉歌には真相を訊かなければならないと言う、義務感の様なモノが込み上げてきた。

更に、畳み掛ける様に水田は言った。

 

 

「あの三人には、関わらないで」

 

 

水田の言葉が、琉歌の心に突き刺さった。

琉歌はその傷を悟られない様に、無表情を装って、淡々と反論する。

 

 

「要するに何?

“イケメンは私のモノにしたいけど、アンタが居ると私が却って引き立て役になっちゃうから、アンタは私の視界とあの三人の視界に入らない様にしてね。

そうすれば、あの三人は、私のモノ”って、脳内快適系理論?

めでたいね。まず、私に言うよりもその性格を修正して、ダイエットでも頑張ったら?

外見を着飾る前にね」

 

 

嫌みたっぷりの毒舌を吐くと、琉歌は立ち上がって、電車を降りた。

水田が引き留める様な声も聞こえたが、そんなモノは知った事じゃない。

琉歌が降り立ったのは、学校の最寄り駅の手前の閑散とした無人の駅だった。

駅には、改札がポツンとあり、それ以外は何も無い。

一度、改札を通って、琉歌はまた、改札を潜った。

上りの電車が来るまで、約1時間。

 

 

 

 

それから、水田に言われた言葉が呪いの様に頭を支配して、それからは何を思って蒼星川へ行ったのか、見当が付かなかった。

ただ、一人になりたかっただけなのだと、琉歌はぼんやりと推測する。

一人になりたい時は、蒼星川に足を良く運んでいた。

親と住んでいた、中学の時の事だ。

家には片方の親、どちらかが必ず居た為、一人になりたい時は自分が人気のない所に行くしかなかった。

その一つが蒼星川の河川敷である。

特に、川に浮かんでいる橋には誰も近付かない為、殆ど一人だ。

 

琉歌は膝に腕を組んで、その腕に顔を埋める。

今頃は、ベルもフランもマーモンも、自分を心配しているだろうか。それとも、何食わぬ顔で授業に出ているだろうか。

どちらを考えるにしても、琉歌は気分が沈んでいく。

水田にあんな事を言ったが、あんなの、ただの強がりに過ぎない。

言い返した後の動悸が、走った所為もあるのか、未だに収まらない。

まるで、苦痛にのたうち回るバケモノの様に心臓が暴れている。苦しい。

額から、背中から、嫌な汗が滲む。これだから、話したくもない人間と話すのは嫌なんだ。

自分の体質と、水田の無神経さに腹が立つ。

治まれ、治まれ、治まれ、治まれ・・・・・・。

念じる様に、左胸の近くの服を握る。

パニック発作と言う診断を受けて、薬も処方してもらってはいるモノの、生憎、薬も飲料水も家に置いてきてしまっていた。

そもそも、マーモン達が来てからは、不用意に持ち歩かない様にしていた。

それは、琉歌なりのマーモン達への配慮からだ。

サプリや鉄剤や頭痛薬などは別として、精神安定剤の持ち歩きや使用は、あまり良い印象は持たないだろう。却って気を遣わせてしまってはいけないと思っての事だった。

まぁ、それが今は裏目に出ているのだが。

今の所、琉歌の障害の事を知っているのはマーモンのみであった。

知っている、と言っても、マーモンが知っているのは、自閉症スペクトラムのみ。パニック発作や、対人恐怖症、不安障害などの障害がある事は、マーモンは勿論、誰も知らない。

尤も、対人恐怖の事は感付かれているかも知れないが。



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第2話

水田から衝撃的な事を言われた日から数日後には、琉歌はベル、マーモン、フランとは必要以上に関わりを持つ事が無くなった。

水田が言った事を真に受けているわけではないが、三人にどう話を切り出せばいいのかも解らないし、そもそも、訊く勇気なんぞ持ち合わせていなかった。

そうすると、自然的に距離ができてしまっていたのだ。

ポツンと、教室の隅で1人で居る。それが普通なのだと、琉歌は思った。

琉歌にとって、1人で居る事は特に何の意味も持たない。

ただ、ベルやマーモン、フランが入学してくる前までの学校生活に戻るだけ。

元々1人で居たのだから、今更1人になろうが、琉歌にとっては苦痛にもなり得なかった。

ただ、少し物足りなさを感じてきている事を除けば、何の問題もない。

そうして今日も琉歌は、教室の隅で1人で居るのだった。

 

 

「はい、もうすぐで夏休みですね。

夏休みが終わったら、体育祭と文化祭がありますから、今日は文化祭についての話し合いをしたいと思います」

 

 

教室に入ってくるなり、夏休みの話をぶっ飛ばして、担任は言った。

今は担任の持ち授業である理科の筈なのだが、授業を放って文化祭の話し合いだなんて。

担任の言葉に沸き上がる教室とは対照的に琉歌は陰鬱な表情を浮かべた。

琉歌にとって、協調性を必要とする様な行事は全く向いていない。寧ろ、苦痛でしかないのだ。

 

 

「安藤さん、何かやりたい出し物とか無いですかね?」

 

 

担任が人相の言い笑顔を浮かべて、琉歌に訊く。

話し合いの時は決まって、初めに琉歌の意見を訊こうとする担任。

それが意図的に訊いているのか、それとも訊きやすいから訊いているのかは解らないが、琉歌にとっては迷惑以外の何モノでもない。

別に、自分以外の意見なら何でも良いのだから、他の誰かに当たれよ。そう思って、琉歌は一番無難な意見を出した。

 

 

「個人が好きな作品を作って、展示すればいいと思います。

皆で纏まった作品を作る事は、恐らく難しい事を考慮して」

 

 

琉歌の中では、一番無難な意見だと思う。

纏まり感のないこのクラスで、纏まっている様に見える出し物を出したいなら、個人が好きなモノを出展すればいい。

そうすれば、纏まり感はなくても違和感はないであろう、という琉歌の考えだった。

担任は、琉歌の案を黒板に書いていく。

 

 

「面白そうじゃん!

俺、その案に賛成♪」

 

 

「ミーも良いと思いますよー。

これなら、コミュ力零な琉歌でも、できると思いますしー」

 

 

「私も賛成です、面白そうだし!」

 

 

ベル、フラン、麗奈が琉歌の案に賛成を示した。

フランの最後の一言が余計だったが、あえてスルーの方向で。

すると、不満を示す声が上げられた。

 

 

「文化祭って、協調性を育てる行事でしょ?

それで個人出展って、全く協調性がないじゃん。

それに、安藤さんの意見は自分が無理だから言ってるんでしょ」

 

 

1人の女子が、琉歌の意見を切った。竹内美香だ。

彼女は不満を隠そうともせずに、ばっさりと言った。

その意見に頷いたのは、水田だ。

 

 

「そうよな。

折角文化祭なんだからさ、皆で協力して作る方が良くない?」

 

 

「じゃあ、何をするか意見言いなよ」

 

 

水田の甲高い声に顔を顰めさせて、琉歌は言った。

自分の意見も言わずに、相手の意見を切る様な人間が一番嫌いだ。

水田は、「モザイクアートとかどう!?」と、竹内を振り返って言う。

竹内は頷いた。

 

 

「良いじゃん、何が良いかね?

何か、最近の流行で行きたいね」

 

 

「チョッパーとかは?」

 

 

「いいね、最近流行ってるし、絶対、皆喜ぶよ!」

 

 

最早、竹内と水田の話し合いと化してしまっている。

ベルとフラン以外の男子は居るには居るが、空気と同じ様な扱いだ。

特に意見を言うわけでもなく、ただ、傍観しているだけ。そして、決まった事をする。

男子のパターンはこれだ。

 

 

「それって、やる意味ある?」

 

 

「つーか、喜ぶのってアンタらだけですよね―。

自己満足?みたいな」

 

 

ベルとフランが如何にも不満そうな表情で、盛り上がっている水田と竹内に反論した。

反論された水田は不満そうにベルを見る。

 

 

「安藤さんの案よりはいいと思うけど」

 

 

「つーかさ、何にも意見言わないのに、反論だけしますっての、やめてくれない?

反論するなら、ちゃんと意見を言ってよね」

 

 

竹内は不快げにベルを見て言った。

ベルは、お前も意見言ってないじゃん!と思いながら、返す。

 

 

「さっき、言ったろ?個人出展。」

 

 

「だから、却下だって」

 

 

「じゃあ、そのモザイクアートも却下だし」

 

 

竹内は、ベルの意見を切り捨てた。

ベルも竹内の意見を切り捨てる。

ベルは何となく、竹内と水田が琉歌の意見を通さないようにしていることを感じ取っていた。

琉歌の意見は、別に難しい様な事じゃない。寧ろ、誰でも出来る様な事だ。

何をしたいのか自分たちで決めて、作成する。これは、個人的に作ろうがグループで作ろうが自由な事だし、水田と竹内でモザイクアートを作れば良いだけの話だ。

元々、協調性のないクラスで作品を展示するなら、これほど良い案は無いだろう。

ベルと竹内は険悪な雰囲気を醸し出して、お互いに譲る気は無い様だ。

すると、そこに妥協案が出された。

 

 

「じゃあもう、いっその事、自由出展で良いじゃないですかー。

大体、琉歌のやりたい事って、どうせ絵を描いて出展したいってだけでしょー。

絵もモザイクアートも分野は同じなんですから、纏めれば良いだけの話じゃないですかー」

 

 

抹茶ポッキーを食べながら、フランは言った。

フランの言葉に水田が反応する。

 

 

「それじゃあ、意味がないって言ってるの。

協調性が・・・・・・」

 

 

「「協調性」の意味って知ってますー?

多数派に群れて、それを通す事じゃないですよー?

あんた達の言っているのは、利己主義(エゴイズム)であって、協調性じゃないですよー?解ってます?」

 

 

水田の言葉を遮って、フランが言った。

個性が強すぎて纏まり感がないヴァリアーでは、ボス又は作戦隊長が最終的に部下の意見を纏めて、作戦の立案をしていた。

そこに切り捨てる意見も勿論あるが、纏められる意見は採用して、併用する事もある。

フランの言っている事は正にその事だ。

 

 

「それに、モザイクアートに執着してるのって、アンタら2人だけじゃないですかー。

個人出展は、ミーとベルサンと琉歌と本田で4人ですよ?

アンタらの言う「協調性」が「長いものに巻かれる事」なら、こっちの意見で決まりじゃないですかー」

 

 

フランの意見は尤もである。

モザイクアートの意見は、水田と竹内だけが賛成しており、対する個人出展は、琉歌、ベル、フラン、麗奈の4人。

後は意見を言わない男子が二人居るだけである。

これで、多数決を取ろうモノなら、4対2対不参加2で個人出展に決まるべきである。

それでも引き下がらないのは、暗に琉歌の意見に賛成したくないから。

それが露骨に感じ取れてしまうあたり、この学年には「協調性」なるモノは存在していないだろう。

在りもしない協調性を掲げようとするのは、何処の世界も一緒である。

 

「協調性」とは、違う個性を持ったモノ同士がその個性を認め合って、纏まりが無くても支え合いながら生きていく事ではないだろうか。

それをベルとフランは、命のやり取りを通じて知っている。

だから、纏まり感のないヴァリアーでも、安心して背中を預けられるのだ。

残念な事に、この学年はそれを知らない。

長いものに巻かれる事を協調性と呼んでいる。協調性の意味を履き違えているのだ。

 

結局、個人出展と言う扱いで、水田と竹内と男子二人がモザイクアート、琉歌とベル、フラン、麗奈が自由作品、と言う事で有耶無耶ながらも決着が付いた。



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第3話

とーーーーーーーーーっても久しぶりの更新です!w
いやぁ、Preghiera di duo〜月に祈りを 星に願いを〜が終わって、気が抜けててこの小説の存在を忘れてましたw←

└|・_└|ソノハナシハ |┘_・|┘コッチニオイトイテ
さて、第3話ですよーw


「おい琉歌、待てよ!」

 

 

駅を出て暫く歩くと、後から追っかけてきたらしいベルが琉歌の腕を掴んで呼び止めた。

ベルの後ろには、フランとマーモンが息を切らせて肩を上下させている。

「何?」と振り返った琉歌の目を見て、3人はギョッと目を見開く。

日本人にしては色素が薄い褐色の瞳は、光がなく、冷たく暗く沈んでいた。

いつもの琉歌と明らかに様子が違う。それはいつからだった?

いつの間にか変わってしまった琉歌の様子にベル、フラン、マーモンは愕然とその顔を見る事が精一杯だった。

それでも、ベルは声を絞り出した。

 

 

「なぁ、お前さ・・・・・・最近」

 

 

「あのさぁ」

 

 

ベルが何を言いたいのか何となく察した所で、琉歌はベルの言葉を遮った。

どうせベルが言いたいのは、「最近、俺達のことを避けてないか?」だろう。なら、早く言ってやった方が良いかもしれない。と、琉歌は思ったのだ。

 

 

「もう、外では私に関わらない方が良い・・・・・・関わるな」

 

 

琉歌の冷たく突き放すような言葉が、3人に刺さる。

それに比例して、琉歌に罪悪感が込み上げてきた。

良心の呵責なんぞ、私にはないんだ。知らない。

自分に言い聞かせる。

琉歌の言葉に驚愕したフランは、やっと喉から苦し紛れに言葉を吐き出す。

 

 

「何で・・・・・・ですかー。

ここ最近の琉歌は可笑しいですよ!?何で、ミー達を避けるんです!?

初めはあんなに優しかったのに!」

 

 

「『優しかった』・・・・・・?勝手に期待されても困る。

私は元からこんな人間。たった一月(ひとつき)ルームシェアをしてただけで、私の事を解ったように言わないでもらいたい。

ずっと、鬱陶しかったんだよ。何処に行くでもアンタ達が居て、私が1人で居る時間が殆どなかった。

私は群れるのが嫌いだ。それは今でも変わらない。

解ったらもうこれ以上、私の領域に踏み込んでくるな!!」

 

 

言いたいことだけ言って、琉歌はベル達の前から走り去っていった。

思っている事と反対のことを言ったのは、ベル達を遠ざける為。

近付いてくる人間をその身に纏う針で刺してしまうのは、自分に近付けない為。自分に近付くと傷付けてしまう。

本当は嬉しかったんだ。楽しかったんだ。

3人が居てくれて、何処に行っても「独りじゃない」と言う現実が嬉しかった。

それでも傷付けたのは、自分から彼らを遠ざけたかったから。

それは、彼らの為だ――――と、琉歌は思いたかった。

だが、よく考えればそれは琉歌の利己主義(エゴイズム)で、本当は自分がもう、これ以上傷付きたくなかったのだ。

それを彼らの為と建前を立てることで、自分を納得させる以外になかった。

 

 

「琉歌・・・・・・」

 

 

「フラン」

 

 

琉歌を追い掛けようとするフランを呼び止めて、マーモンは首を振った。

それを見ると、フランは視線を落として追い掛けるのは止めた。

マーモンは琉歌が去っていくほんの一瞬、琉歌の目から涙が零れていたことに気が付いたのだ。

さっき言っていたのは本心なんかじゃない。マーモンはそう直感した。

術師としての力は使えなくても、どうやら直感は衰えていなかったようだ。

 

 

「絶対、あの水田ですよー。

彼奴が琉歌に何か吹き込んだんだ、絶対」

 

 

「俺もお前に同感。

それ以外に考えられねーし」

 

 

フランがポツリと呟いて、それにベルが頷く。

2人が感情的になっていることは一目瞭然で、普段無表情のフランが微かにその顔を怒りに染めていることがマーモンには解った。

「落ち着きなよ」とマーモンが諭す。

 

 

「今ここで僕等が感情的になっても仕方ないだろう。

琉歌が「関わるな」って言ってきてるんだ。

だったら、今はそっとしておくしかないだろう?」

 

 

「これ以上、関係を拗れさせない為にもね」マーモンの言葉にベルとフランは黙るしかなかった。これ以上は何を言っても仕方がない。

自分達が騒いだところで、どうにもならないのだ。

だからと言って引き退るような事はしたくなく、ベル、フラン、マーモンはどうしたらいいのか最善策を模索するのであった。

 

 

 

「ほんっっっっっと最低だよな、私は……。」

 

 

ベル達を振り切った後、琉歌は蒼星川の畔の橋に膝を抱えて座っていた。勿論、レジャーシートを敷いたその上に、だが。

こんな時にも服が汚れることを気にしている余裕のある自分に嗤いがこみ上げるが、それよりも今は、先程の自分の振る舞いに嫌悪感が湧き出てきていた。

彼らを傷つけている事は重々承知している。だが、あんな形でしか自分は彼らを遠ざけることができない。

ふと、琉歌の中でいつかの記憶が蘇ってきた。そう、随分と前にも同じような事があったのだ。

それは、自分が中学2年の時だった。

転入したての頃、やはり浮いてしまった自分に声を掛けてくれた子がいた。自分と違って、本当の意味で優しく、暖かい子だった。

自分と彼女は直ぐに仲が良くなったがある日、自分に対する有る事無い事酷い噂が流された上に学年中から村八分状態にされた事があって、今回のマーモン達と同じ様にその子を自分から遠ざけようとしていたのだ。

だがそれは、彼女が何度も何度も手を伸ばして、傷付けてしまっても諦めずに傍に居たことにより、結局今までずっと、2人で一緒に居た。

今では良い思い出話となっている。

 

彼女と自分はそんな事があったが、今回はどうだろう。

ふと、琉歌は彼らの事を考えた。

まさか、自分から離れておいて訳が解らないが、彼らがこのまま関わってくることなどないのだと思い、少々寂しさの様なものが過ったのを感じた。

そんな馬鹿な。

今までの関係を壊したのは自分なのに?自業自得雨じゃないか。

まさか、彼らが自分に手を伸ばしてくることを何処かで期待しているのか?

彼らには、彼らを捨てた自分に手を差し出してくる様な理由などない。

傷付いてまで自分に関わってくる様な理由はないのだ。

 

 

「……っ、馬鹿じゃないの……」

 

 

呟くと、琉歌は気分を切り替える為に息を吸った。



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第4話

「”悲哀(かなしみ)”を教えて……」

 

 

琉歌は、心に溜めたものを吐き出す様に歌い始めた。

どうしようもない時に歌うと心なしか心が空っぽになって、楽になる様な気がした。

自分では気付いてはいないが、琉歌の歌声はいつもの歌声とは違って、悲しげに夜空に響く。

 

 

「瞳を閉じていれば哀しみも見えないと 温もり知らずに居れば傷つく事もないと

思い出せない優しい声も 弔う胸の海原ーーーー」

 

 

 

 

あれからマーモンは、ベル達が寄り道して帰ると言うのでじゃあ先に帰ってるよ、と別れた。

蒼星川に架かる、街と過疎地域を繋げる大橋を通った時に、微かに歌声が聴こえてきた。

その歌声は、時々聞こえていた上手くもなく下手でもない特徴的な琉歌の歌声。

その声は、割と近くで聞こえた。

声のする方へ目を向ければ蒼星川に架かる小さな橋に座り込み、水面を見詰めながら歌っている琉歌の姿が見えた。

 

 

「消え失せた過去から誰かが呼んでいるの」

 

「琉歌……」

 

 

マーモンは哀しげに歌う琉歌の歌声に耳を傾けながら、名前を呟いた。

何かを訴える様な歌声は、その内に募らせている悲しい感情をそのまま吐き出しているのだろうか。

以前、琉歌は「感情は歌で表現することしかできない」と言っていた。

それは本当の様で、日によって歌声に変化がある様に聞こえるのだ。

 

 

悲哀(かなしみ)をこの手に取り戻す時は何時と

二度とは来ない現在(いま) あなたの事しか見えない……」

 

 

「やっぱりさっきのは本心じゃなかったんだ」

 

 

呟くと、マーモンは河川敷に降りる為、橋を越えて土手に出て行った。

 

 

 

「遠くで静かに光る優しい船がひとつ

逆巻く嘆きを乗せて胸の波間に消える

知らない筈の温もりを何故 探して惑う海原ーーーー

 

漣揺らめいて命の船は行くよ

星ひとつ視えない 波間を越えて進むよ

暗闇の向こうにあなたの事しか見えない……」

 

 

「歌、上手いね」

 

 

琉歌は不意に聞こえた声に振り返る。

そこには、いつの間にいたのかマーモンが立っていた。

声を掛けるだけでなく、マーモンは琉歌に近づいて行く。

 

 

「でも、悲しそうなのは何故だい?」

 

 

マーモンは琉歌の心の奥を見透かす様な目で問う。

真っ直ぐにマーモンの目が見られない。

琉歌は目を逸らした。

 

 

「別に悲しくはない。

それよりも、私は関わるなと言ったはず。

ああまで言われて、それでもここへ来た理由を教えて」

 

 

「嘘だ」とマーモンは静かに言った。

 

 

「だって君、泣いているじゃないか」

 

 

「はぁ?私が泣いているわけ……」

 

 

「泣いているわけがないじゃないか」そう言おうとした琉歌は、目元に違和感を感じた。頬がスーッとする。

さっきまで歌うことに集中して気付かなかったが、視界がぼやけて、前が見えにくい。

自分の目元に触れれば、指先が濡れた。

琉歌の色素の薄い目からは、涙が頬を伝って零れ落ちていた。

次から次にへとそれは、地面に吸い込まれるように落ちていく。

 

 

「……っ、なんでっ……!」

 

 

琉歌は、目から止めどなく溢れでてくる涙を無闇矢鱈に手で拭う。だけれども、涙は止まることを知らないとでも言うように次から次にへと流れ、地面を濡らした。

 

 

「わた……しは、私は強いんだ……。

私は強い!強いんだ!

だから、泣くわけがない……泣くわけが……っ!

悲しくもない、辛くもない!どうとでもない!

だから……大丈夫、大丈夫だ……私は……っ!」

 

 

自分に言い聞かせるうように琉歌は涙を拭う。

拭いても拭いても止まらない涙に苛立ちながらそれでも強がっているのは、自分が弱いからだ。

それでも強がらなくては。私は弱い部分を他人に見せてはいけない。弱音を吐いてはいけない。

弱い部分を見せれば足元を掬われる。それなら、孤独でも強くありたい。

それが、人間嫌いの自分が他人とやっていける為の最善策だ。

 

 

「私は……私は……っ!」

 

 

「もういいよ、琉歌」

 

 

涙を止めようと必死の琉歌の手首を掴んで、マーモンは声を掛けた。その手を引き寄せて琉歌を抱きしめれば、琉歌は驚きに目を開く。

抱き締めた琉歌の体は細く、力の加減を誤ってしまえば壊れそうだった。

何がそこまで琉歌を縛り付けてきたのか解らない。琉歌のことだから、恐らく群れることを拒絶するプライドだろうか。

 

 

「弱くたって良いじゃないか。強がらなくて良いんだよ。

琉歌が気を許すならせめて、僕の前でだけでも本当の君を見せてくれないかい?

僕は琉歌がどんな人間なのか、とても興味がある。

どんな琉歌でも、君だろう?」

 

 

琉歌の中で、何かが崩れ落ちる様なそんな音が聞こえた。今まで張り続けてた虚勢が崩れていく。

どうして?涙が止まらない。

琉歌は自分を抱き締めているマーモンの服を握って、泣きじゃくった。

 

 

「みっ……水田っ、に……っ!彼奴に言われたんだ……っ!

本当はマーモンもベルもフランも……っ、迷惑してるって……だから、マーモン達には関わるなって……!」

 

 

いつの間にか琉歌はマーモンに、数日前の水田との出来事を話していた。

マーモンは口を挟もうとはせず、琉歌の話を真剣に聞く。

 

 

「初めはそんな話、信じてなかった!だって私は、マーモン達の事はあの学校にいる誰よりも知ってる!

だから、マーモン達に限って思っている事を言わないなんてあり得ないから、水田のでっち上げだって!

でも……でも、でっち上げって解ってても怖いんだよ、本当は!

群れるのが嫌いなのは、私は相手を傷つける事しか知らない、自分が傷付けられるのが怖いから!

人を気にしない様に自分は自分だって言っても、自分と仲が良いと思っている人間の感情にはとても敏感になってて、怖くて、怖くて……っ!

でも、訊けなくて、避けるしかなくて……っ!うぅ……」

 

 

ここまで息ひとつせずに、琉歌は今まで内に溜めていた思いを吐き出す。

途中から嗚咽も混じっていたが、マーモンは一字一句聞き漏らす事なく、すべてを聞いて受け入れる。

言い終えた琉歌の涙で震えている背中を撫でながら、マーモンは頷いた。

 

 

「馬鹿だね、君は。

ベル達は知らないけど、僕は琉歌の事を迷惑だなんて思った事は今までで1秒たりともないよ。

寧ろ、君には感謝してもし足りないと思ってる。

君が居てくれたから今こうして、こっちでも支障なく暮らせているんだ。

君と会えなかったら、今頃は何をしているのか解らなかったよ」

 

 

琉歌の頬に手を当て、マーモンは 琉歌の涙で濡れた茶色の目をじっと見つめた。

月明かりに映し出された琉歌の目はとても綺麗で、まるで宝石を連想させる。

そう見えるのは恐らく、涙と月明かりの所為だけではないのだと思うが、マーモンにはまだ、何故琉歌の目が綺麗に見えたのかは解らない。

それを知るのは、もう少し後の事だった。



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第6章 「兄妹」
第1話


随分と長らくお待たせ致しました。
実に四ヶ月とちょっと。
いやぁ、少しネタに詰まってしまいましてね。
それなのに、次から次にへと書きたいネタがわんさか出てくる・・・・・・。
Croce Worldもだけど、悲哀恋歌も次から次にへと書きたいネタがありすぎて、現在の話を忘れてしまう・・・・・・ww←おい

そんな第6章1話です。
ここからちょっと、琉歌の過去編へGO→

2話目は一時間後にうpされますので、乞うご期待?


それは、いつの話だっただろうか?始まりは遠過ぎて忘れた。

ただ、覚えているのはきっかけだけ。

ほんの些細な事がきっかけで、その子とは仲良くなった。

 

 

まだ琉歌が中二の頃だった。

琉歌は転入して間もなく、新しいクラスメイトと溶け込めずに五月を迎えた。

五月に入り、席替えが行われた。窓側から二列、前から二番目の席に変わり、班も変わった。

 

 

樹里(いつき)千鶴です、趣味は音楽鑑賞と読書です。宜しくお願いします」

 

 

自己紹介をすると会釈して着席する、女子。

その女子は艶のある真っ黒くて長い髪が特徴で、いつもその髪を両サイドの低い位置で結っていた。

明るく、気さくな雰囲気の可愛らしい女の子だと、琉歌は思った。

隣り合わせで机を合わせている真面目そうな男子に「次、安藤さんの番」と声を掛けられ、琉歌は立ち上がった。

 

 

「安藤琉歌です。趣味は読書、音楽鑑賞に創作を少々。髪は地毛なので突っ込まないでください」

 

 

琉歌はそれだけを言うと、着席した。

髪についてはいつも、突っ込まれる前に初めから説明しておく。でないと、後々面倒だからだ。

この頃の琉歌は、今よりもかなり髪の色素が薄かった。根元は焦げ茶なのだが、毛先に行くほど色素が薄くなって、毛先は殆ど金髪だった。そんな琉歌はいつも、染髪していると勘違いされてきた。

だから琉歌は、初めからそう説明することで少しでも質問されることを防いでいたのだ。

琉歌のあまりの素っ気なさにリーダーの男子は「お、おぅ……」と引き攣ったように笑う。

その時、千鶴は琉歌に惹かれていた、と一年後に琉歌に打ち明けるのだ。

琉歌の、針を纏って他人を遠ざけているような雰囲気に千鶴は何故か惹かれた。

その時から千鶴は琉歌と話してみたい、と思うようになる。

 

話を掛ける切っ掛けが出来たのは、その翌日だった。

琉歌の中学では、朝は三十分の読書タイムがあった。

琉歌がお気に入りの小説を机の中から取り出して、栞を挟んであるページを開いた時、するり、と栞が本の間から滑り落ちる。

あ、と小さく呟いた時には琉歌の席から二番目の机の下に滑り込んでいて、琉歌では取る事が出来なかった。

まずいな・・・・・・と、琉歌は思う。

栞は自分で作った物で、裏と表に絵が描いてあった。

別に自分がオタクだと思われるのは問題ない。事実だから。だがしかし、自分の描いた絵を見られるのは嫌だった。自分の描く絵が下手だからだ。

実際、その栞にはガン●ムSE●Dのス●ラとカ●リを描いていたのだが、髪型と服装を見て、何となく誰か解る様な画力だった。

琉歌はどうしよう・・・・・・と一つ先の机の下に落ちた栞が気になって、とても読書所ではなかった。

 

読書が終わり、朝の会が終わって机を正面に戻した琉歌は、栞を拾おうと、二番目の机に行こうとした。すると、一足先に千鶴が栞を拾ったようで、千鶴が栞を持ってきた。

The end of 私・・・・・・。琉歌は内心、項垂れた。

誰にも見られたくなかったのに・・・・・・。

そんな琉歌を余所に、千鶴は琉歌に話を掛けてきた。

 

 

「この栞、安藤さんの?」

 

 

「はい、そうです」

 

 

ニコリ、と微笑んで千鶴が栞を琉歌に差し出すと、琉歌は栞を受け取った。

これで終わりだと琉歌が思っていたら、千鶴は琉歌に更に話し掛けた。

 

 

「それ、自分で作ったの?趣味、創作って言ってたね。

ガン●ム・・・・・・好きなの?」

 

 

質問してくる千鶴に少し苦手意識が出てくる。

自分に関わってこようとする人間は(すべから)く自分を見下しているか、離れていく。

それなら、初めから誰とも関わらないで居た方が良い。

この時の琉歌は―今でもそうだが―人間関係が極端だった。

警戒しながらも、「そうですが・・・・・・?」と答える。

別に、訊かれたことに対して好きなモノは隠す必要は無い。

答えた琉歌に千鶴は顔を明るくした。

 

 

「本当!?実は、私もアニメとか好きで、ガン●ムって聞いたことはあるんだけど、キャラの名前とかしか知らなくて!

良かったら、色々と教えて!

他に好きなアニメとかは?」

 

 

アニメを見そうもない千鶴がアニメが好きだと言って、琉歌は少し驚いた。

話が合いそうだ、と琉歌は思う。

 

 

「他には・・・・・・リボーンとかですかね。

家庭教師(カテキョー)ヒットマンREBORN!。それと、マク●スFrontier。

あと、Fe●t/St●y Nightとか、蒼穹のファ●ナーですね。

えっと……」

 

 

「あ、私、樹里千鶴!

へぇ~、私もREBORN!好き!面白いよね。

マク●スは曲しか知らないな、面白いの?」

 

 

琉歌が名前を呼ぼうとして詰まると、千鶴は笑顔で自己紹介した。

琉歌は特に、人の顔を覚えるのが苦手だった。名前は解るけれども、顔が一致しない。

失礼だと思うが、琉歌はどうしてもこれだけは直せなかった。

この日から、琉歌と千鶴は連み始める。

ただ、琉歌はどうしても彼女に心を開くことは出来なかった。いつ、何処で千鶴が離れていくのか解らないからだ。

琉歌が千鶴を信用するのには、一年の時間を要したのだった――――。

 

 

その翌年でも、千鶴と琉歌は同じクラスだった。

嬉しそうな千鶴とは対照に琉歌は物思いに耽っていた。

この頃、琉歌への人当たりが冷たい。

決定的になったのは、部活の後輩が自分の姉と部室で話してた内容だった。

「安藤琉歌と関わっていたら、先輩から修学旅行のお土産が貰えない」と言うモノ。

その言葉は、琉歌と関わるな、という事を暗に伝えていた。安藤琉歌に関われば、先輩から省かれるぞ、と。

その言葉を聞いた後輩の殆どが琉歌から離れていった。

残ったのは、姉に忠告された後輩と、元から他の先輩と関わっていなかった後輩だけだった。

自分が学年で良く思われていないのは知っている。それでも、千鶴とは連んでいたかった。

だが、ここまで来たらもう、切り捨てないと千鶴が孤立してしまう。

自分と関わっていることで孤立します、なんて、琉歌にとっては後味が悪い。

 

琉歌は千鶴が風邪を引いて学校を休んだ時に連絡袋を届けるついでに様子を見に行こうと、千鶴の家に向かった。

信頼はしていないけれど、自分と関わっている人間が病気だと聞いたら一応、心配にはなる。

家のチャイムを鳴らせば、冷えピタを額に張り付けた千鶴が出迎えた。

 

 

「琉歌!」

 

 

「調子はどう?

それと、お見舞い」

 

 

嬉しそうな千鶴に琉歌は無機質に訊くと、紙袋を渡した。

「ありがとう」と、千鶴はそれを受け取る。

 

 

「もう、お母さんが大袈裟すぎるんだよ。ただの風邪なのに、重病人扱い」

 

 

「参っちゃうよ」と、千鶴は苦笑した。

「それだけ、大切にされてるって事だよ」と、琉歌は苦笑する千鶴に返す。

琉歌が風邪を引いても、両親は自分に見向きもしない、寧ろ熱があろうが家事をさせ、出来なければ罵倒される。

それを思えば、千鶴はまだ良い。琉歌は千鶴を羨ましく思った。

琉歌が風邪を引けば、義理の父親に罵倒され、詰られていた。そして、お構いなしに家事をさせられる。

千鶴みたいに心配してくれる人は居ないのだ。

 

 

「千鶴・・・・・・」

 

 

言いにくそうに琉歌は言葉を詰まらせる。

千鶴は「何?」と琉歌の言葉を待った。

何してるんだよ。関係を切るくらい、造作もないだろ?琉歌は、千鶴を切る為の言葉を何故か探していた。

どうやって、遠回しに傷付けずにそして、確実に伝えられるだろうか。

そんな事を探しても、見つからないクセに。

そして、漸く琉歌は口を開いた。

 

 

「これからは、私に関わらない方が良い―――関わるな」

 

 

「え―――?」

 

 

琉歌の言葉に、時間が止まったかのような感覚を感じた。

風に揺れた木の葉と葉か擦れる音が静寂の空間に広がる。

千鶴は、体の底から熱が這い出すような感覚を覚えた。それはきっと、風邪を引いて下がりきらない鬱陶しい熱の所為だけじゃないと思う。

また、独りに戻るのが怖い。千鶴は絶望にも似た感覚を覚えた。

そんな千鶴の口からは、言葉が零れていた。

 

 

「何で・・・・・・?」

 

 

「何でも。そろそろ、君が鬱陶しくなってきたんでね。

私も、群れるのは嫌いだし。まぁ、良い暇つぶしにはなったよ。

じゃあね」

 

 

それだけを言うと、琉歌は逃げるようにその場から離れた。

琉歌は、これで良いんだ、と言い聞かせる。

人を突き放すのは慣れていた筈だ。それなのに、どうして――この心は空虚なのだろうか。

今まで、人から離れていくことなんか造作もないことだったのに。

何ともない事だったのに。

虚しさだけが重くのし掛かって行くみたいだ。

そんな琉歌の心中を知らない千鶴は、琉歌が去った後を呆然と眺め、その場に(くずお)れた。



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第2話

お待たせしました!
今日はこれで更新終了です!
続きは未定・・・・・・←おい
いちおう、書いてはいるんですがね?
ストックがぁ・・・・・・orz


琉歌が千鶴を避けている理由を千鶴が知ったのは、それから、半月が経った頃だった。

その頃になると、琉歌と千鶴が仲が良い事を知っているクラスメイトたちは、琉歌と千鶴が連まなくなっているのを見て、色々と噂を立てていたのだ。

安藤と樹里(いつき)が喧嘩して、絶交している、とか、樹里が安藤を見限った、など、根も葉もない噂ばかりが立っていた。

それを琉歌は気にすらしていない。

そんな噂が流れていたから、担任や養護教諭が心配したのだろう。 養護教諭は、千鶴に琉歌と何かあったのか、と訊いたのだ。

千鶴が琉歌と最後に話した時の事を話すと、養護教諭は琉歌が千鶴を避けていた本当の理由を推測して、千鶴に話したのだった。

 

「琉歌」

 

家のチャイムが鳴り、誰かが玄関の扉を開けて来客に応じる声が聞こえたかと思うと、部屋の前に誰かが来て、声を掛けてきた。

部屋と外を隔てるものは襖の為、向こう側の声が聞こえる。

声からして、千鶴だ。

母親なら、こちらに構わずに襖を開けてズカズカと入り込んでくるから、すぐに解る。

 

「何の用ですか。 君と話す事は何もありませんよ。

先生に連絡袋は頼まれていない筈。 君がここに来る理由はないでしょう」

 

琉歌は機械的な感情の籠らない声色で、千鶴に応える。

琉歌が敬語で話しているという事は、琉歌は千鶴を赤の他人だと見做(みな)していると言う事だ。

それを知っている千鶴は悲しくなった。

もう、友達には戻れないのだろうか。そんな思いが胸を締め付ける。

沈黙が二人の間に流れる。

琉歌が襖に凭れて座ると、その襖越しに千鶴が同じ様に襖に凭れて座る気配がした。

 

「……琉歌は、どうして私を避けるの?

あんなに一緒だったのに……」

 

ポツリ、と沈黙を破ったのは、千鶴だった。

琉歌は細く溜息にも似た息を吐く。

 

「前にも言いました。

君が鬱陶しくなったからですよ。

それ以外の理由はありません」

 

「嘘……」

 

「君に嘘を吐く理由はありません。

仮にそれがあったとして、何の為に私が嘘など吐かないといけないんですか」

 

淡々とした琉歌の声に、千鶴は言葉を詰まらせる。

やっと出た言葉は、余計に自分を傷付けた。

確かに、琉歌が自分に嘘をつく理由はないのかもしれない。

だけど、それは本当なのだろうか。

そして、千鶴は養護教諭の話を思い出した。

 

「私を孤立させない為にわざと傷付くようなことを言って、突き放したんでしょ?」

 

「勝手な憶測はやめて貰いたい。 私がそんな良い人間に見えますか。

これだから、脳内快適系は──」

 

「じゃあ、どうして!」

 

千鶴の言葉を否定する琉歌を遮る様に千鶴は声を荒げた。

温厚な千鶴からは考えられない様な声の荒ぶり様に、琉歌は言葉を無くす。

千鶴は一呼吸置いて落ち着くと、また、声のトーンを戻し、言葉を紡いだ。

 

「・・・・・・どうして、ずっと辛そうだったの・・・・・・?」

 

「・・・・・・」

 

千鶴の言葉に琉歌は何も言えなくなる。

千鶴はこの半月、琉歌が時折辛そうな表情をしている事を知っていた。

琉歌が体が弱くて、時折、辛そうにしている所を見た事はあったが、その時に浮かべる表情ではなかった。

千鶴は続ける。

 

「苦痛なのを押し殺そうとしてるみたいだった。

今も、感情を抑えた様な声をしてる。

もうこれ以上、自分を傷付ける事はやめてよ・・・・・・」

 

言葉の最後の方が萎んでよくは聞こえなかったが、千鶴が何を言いたいのか、琉歌には手に取るように解った。

自分の感情を押し殺し、千鶴を傷付けて遠ざけた代償は、自分の心を擦り減らして傷付けて、自分を追い込んでいた。

千鶴にはそれが何となしに解っていたのだ。

感情移入しやすい千鶴は、琉歌の感情に共感して静かに涙を流した。

 

「私に“友達”って呼べる存在が居るとしたら、琉歌だけなんだよ。

私は元から、ずっと独りだったんだ。

私が孤立しないようにって言う琉歌の気遣いは最初から要らなかった。

私は、琉歌と居たいよ……ずっと。

・・・・・・友達で居たい」

 

「……」

 

千鶴の言葉に、琉歌は掛ける言葉もなく、ただ黙っているだけだった。

自分が本当に信じられるのは自分だけ。 そう思って生きてきた琉歌にとって、千鶴はただ、自分の事を理解し、信じているフリをして近付いて来ているただのクラスメイトという認識でしかなかった。

邪魔になればいつでも切り離すだけのただの暇潰しの相手。

話が合うから、絡むのには丁度良かった。 ただ、それだけの存在だった。

その筈なのに、千鶴を切った後、琉歌はずっと良心の呵責に苛まれていた。

無視されていると解っている筈なのに、千鶴は何も言わずに微妙な距離感で琉歌の傍に居続けた。

それを琉歌は知っている。

自分の友達は琉歌だけ。そう言った彼女をこれ以上、突っ()ねて良いものか。

あぁ、もう、こいつは。

琉歌は、降参する以外の選択肢を持ち合わせてはいなかった。

 

「降参だよ、千鶴。 悪かった」

 

「琉歌……!」

 

千鶴を隔てていた襖を開けて、琉歌は両手を挙げ、言った。

千鶴は久し振りに向き合った琉歌に安堵の涙を浮かべる。

ここまで自分を信じて、必要としてくれる人間はこれまで居ただろうか。

逆の人間なら、今までたくさん見てきた。

だから、人なんて信用するに値しない生き物だ、と琉歌は自分に言い聞かせていた。

彼女は信頼できる。 きっと、信用しても良いのだろう。

だって、彼女は私を信用してくれている。

それに応えないワケにはいかない。

出会って一年、琉歌は千鶴とこれまでよりも良好な交友関係を築いていた。

 

──あの日、までは……。

 

「っ!!」

 

 

琉歌は、目が覚めると飛び起きた。

荒く乱れた呼吸を整える為に肩を上下させ、息をする。

額には大量の寝汗が浮かんでおり、Tシャツをぐっしょりと濡らしていた。

 

また、あの夢か……。

落ち着いた琉歌は、膝を三角に折り、蹲る。

最近は見ていなかった、昔の夢。

恐らく原因は、マーモンとの昨日の出来事だろう、と琉歌は推測する。

決して今まで忘れた事のない、(かつ)ての友との遠くて近い日の記憶。

あの出来事がなければ、私は誰を信じようとも思わなかった。

だけど──。

 

琉歌は、ベッドから降りると、机の上に放置して充電を忘れていたケータイを開いた。

充電が切れているらしい、ケータイはブラックアウトしていて、何処のキーを押しても長押ししても、うんともすんとも言わない。

 

「チッ」

 

舌打ちすると、机の真上に付いている簡易本棚に置いてあるデジタル時計に目をやった。

時刻は午前10時。 寝すぎた。

琉歌はふーっ、と溜息を吐いてケータイに充電器を挿すと、部屋から出た。

遅めの朝ごはんでも食べようか。

食欲はないけど、シリアルくらいなら牛乳で流せるだろう。

食べなきゃ、ルッスーリアに詰め寄り顏で詰め寄られる。

それだけは勘弁だ。

 

台所の棚を漁っていると、隣の部屋からXANXUSが出てきた。

琉歌に気付いたXANXUSが、琉歌に話しかける。

 

「今起きたのか」

 

「おはよ。 まぁね。

昨日は寝付きが悪くてさ。 お陰で寝不足だよ」

 

「そうか」

 

琉歌の回答を聞いて短く頷くと、XANXUSはふと思い付いたかのように口を開いた。

 

「そう言えば最近、何かあったのか?」

 

「・・・・・・え、何もないけど、何で?」

 

唐突なXANXUSの質問に、琉歌は一拍遅れて答える。

何か様子がおかしい様に見えるのはおそらく、気の所為ではないのだろう。

どうやら、現実世界(こっち)に来ても超直感は消えていないらしい。

 

それを以前、琉歌に相談すれば琉歌は「それはおそらく、“直感が鋭い”と言う事で残されているのだろう」と答えた。

曰く、こっちの世界では霊能者などがその様な力を持っているらしい。

琉歌も、霊能者ではないが霊感があるらしく、度々、予知夢を見たりする事があるそうだ。

 

目の前でキョトンとした顔を向けて腑抜けた顔をしている彼女にそんな力があるとは到底思えない。

XANXUSは、キョトンとしている琉歌の頭をクシャッ、と撫でた。

 

「何でもないなら良い。

だが、何かあれば言え。 できる事はする」

 

「怖っ。 XANXUSが他人を気遣う所なんか、ジャンプや単行本、アニメですら見たこと無いよ」

 

「・・・・・・可愛くねぇ女」

 

「そりゃどうも。 私の事を“可愛い”だとか言う人間は皆、眼科か脳外科に逝った方が良い。

目か脳がイカレてる証拠だからね」

 

「じゃあ私、部屋に戻るから」そう言って琉歌は、シリアルと牛乳を入れた皿を持って、キッチンを出た。

キッチンに残されたXANXUSは、思わず撫でてしまった琉歌の髪の感触の残る手に視線を落とす。

癖毛の割には案外、柔らかかった気がする。

そんな事を思った頭を振って、マグカップを手に取った。

ちなみに、昼間からの飲酒は琉歌に禁止されているので、XANXUSは大抵珈琲を飲んでいたりする。

 

「今の、琉歌だろぉ?

最近、様子がおかしいよなぁ」

 

ひょこっ、とスクアーロが部屋から出てきて、琉歌が出ていった扉に目を向けると、心配している様に言った。

どうやら、スクアーロも琉歌の最近の様子は気になっていたらしい。

ちなみに、XANXUS達が使っている部屋はキッチンに面していて、会話が殆ど筒抜けである。

 

「あぁ・・・・・・彼奴らと何かあったのかもしれねぇ。

マーモンはともかく、ベルとフランとはよそよそしい・・・・・・いや、琉歌がベルとフランを避けている様にも思う」

 

「彼奴らかぁ・・・・・・。

彼奴らなら、何かやらかしそうだとは思っていたが・・・・・・」

 

「違うよ」

 

XANXUSとスクアーロが話していると、マーモンがキッチンに入ってきて会話に入ってくる。

そして、マーモンは続けた。

 

「ベルもフランも勿論僕も、彼女には何もしてないよ。

ただ・・・・・・そうだね、彼女の事を良く理解できていなかっただけで」

 

「どういう事だぁ?」

 

マーモンの話を聞いたスクアーロは、マーモンに訊く。

少し考えた後で、マーモンは口を開いた。

 

「琉歌は、人間が嫌いなんだって。

編入した時の全校集会で僕らが生徒に囲まれた時、さっさと教室に戻ろうとしてた琉歌を、ベルとフランが呼び止めたんだ。

大勢の中に居ると、気持ちが悪くなる、って怒って教室に行ってしまったんだけど・・・・・・

よく見たら琉歌、凄く真っ青になってたから、可哀相な事をしたな・・・・・・」

 

「・・・・・・それで、お前達を避けているような素振りなのか?」

 

「ううん、琉歌やベル達から話を聞いた限りだと、どうもそれが直接的な原因ではないみたいだ」

 

マーモンの話を黙って聞いていたXANXUSが、口を挟んだ。

 

「琉歌、学校じゃあ根も葉もない噂を流されたり、先輩に目を付けられたりしてるみたいで、同級生からも遠巻きに陰口を叩かれたりしてるみたいなんだ。

初日に琉歌は僕らに言ったんだ。

『孤立したくないなら、私に関わらない方が良い』って。

琉歌は多分、僕らを孤立させないように僕らを避けてる・・・・・・」




†作者の独り言

琉歌のCPはもう決まってるんですがねぇ。
これを書いた後で

「ハ・・・・・・ッ!
琉歌XANも美味しそう・・・・・・っ!
ロリコンになりそうだけど、でもこれって、XANXUSルートも悪くない・・・・・・ッ!!」

と言う、アホな事を考えた作者でした。←

tk、一応作者の夢小説にXANXUSとくっ付くツワモノな夢主はいるんだけど、キャラの設定だけで話自体は手付かずという・・・・・・orz


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第3話

更新しました〜!
次の更新は明日の15時30分ですw←
何故かって?
続きが気になる〜!と思いながら悶々と1日を過ごす姿を想像すると、面白いからですよ←

焦らして焦らして焦らしまくる・・・・・・これぞ、S!←おい、青⚫️院蜻蛉



マーモンの話を聞いたスクアーロとXANXUSは、何とも言えない表情を浮かべ、黙り込んだ。

琉歌から学校での話を一切合切聞かないのは、その所為だったのか。

ルッスーリアが訊いても、はぐらかす訳だ。

 

「琉歌の事、守ってあげたいとは思ってるんだ。

現状のままは良くないと思うからね。

琉歌はただ、自尊感情が低くて卑屈になってるだけで、本当は凄く優しい子なんだと思う。 だけど・・・・・・」

 

「お前達が関わってくる事を拒絶してるんだろぉ?」

 

「うん」

 

「そこがネックだな。

琉歌の方が心を開かないと、こっちは何もできねぇ」

 

「そうだなぁ。

俺達は学校の方はどうにもできねぇから、学校の方はお前らに任せるしかないが・・・・・・せめて、家だけは彼奴の居場所であって貰いたいが・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

XANXUSとスクアーロの言葉を聞いたマーモンが、怪訝そうな顔で2人を見ている。

スクアーロはそんなマーモンに気付くと、「どうしたぁ?」と声を掛けた。

少し間を開けて、マーモンは口を開く。

 

「・・・・・・自分と同等かそれ以上の力を持った人間にしか興味を示さないスクアーロはともかく、他人自体に興味を示さないボスが琉歌を気に掛けているのが怖すぎる、と思っただけだよ。

・・・・・・何か悪いモノでも食べたの、2人とも?」

 

信じられない、と言いたげな表情をフードの下の顔に浮かべて、マーモンは言った。

2人の本来の性格を知っているので、マーモンは尚更、引く。

すると、スクアーロが言った。

 

「う゛ぉぉい、お前も人の事言えねぇぞぉ、この守銭奴ぉ!」

 

「まぁ、それは否定しないけど」

 

「べ、別に俺は餌付けされたとかそんなんじゃないからな!」

 

「お前キャラ何処行ったぁぁぁあ!?」

 

 

3人が話しているのを、琉歌はダイニングに続くドアの前で聞いていた。

別に、聞きたくて聞いていたワケではなく、食べ終わった皿を下げようとキッチンに向かっていたら、聞こえたのだ。

 

琉歌は何を思うでもなく、しかし、今キッチンに入るのは気まずいので、琉歌は部屋に戻る事にした。

 

 

「馬鹿じゃない・・・・・・」

 

琉歌は部屋に戻った後、机に皿を置いて、ベッドに体を無造作に投げる。

ふかふかの布団に体が沈んだ時、ポツリと呟いて枕に顔を埋めた。

 

別に、気にする必要は無いじゃないか。 ルームシェアをしていると言っても、唯の他人だ。

それなのに、どうして気にする?

琉歌にはそれが理解できなかった。

 

ふと、自分の両親のことが頭を過ぎった。

 

『家族』だけで暮らしたいから、と、義理の父親に高校入学早々追い出されたのだ。

その『家族』に琉歌は含まれていない。

琉歌はあくまで『連れ子』であり、『邪魔』な存在でしかなかったのだった。

 

『せめて、あんたが男だったら・・・・・・』

 

出ていく直前、母親が言い放った言葉が蘇る。

どうして? あんたが今、腕に抱えている子供は女の子じゃないか。

私はダメで、その子は良いの? どうして・・・・・・。

 

琉歌の視界が歪んだ、その時──。

 

“・・・・・・歌”

“・・・・・・琉歌”

 

 

 

「琉歌、ねぇ、琉歌ってば」

 

「うぇ・・・・・・?」

 

誰かに起こされて、琉歌は薄く目を開ける。 瞼が重くて、濡れている感覚がある。

目の前には、心配そうなマーモンの顔があった。

マーモンがずっと呼びかけていたらしい。

琉歌は寝惚け眼で間抜けな声でマーモンに応える。

 

どうやらいつの間にか、眠っていたようだ。

 

「はれ・・・・・・? まぁもん?

ゔー・・・・・・っ。 いま、なんじ・・・・・・?」

 

「4時だよ。 君、ずっと起こしてたのに起きなかったんだ。

ベルとフランは先に行かせたから」

 

「4時ッ!?」

 

寝起きで舌が回らず、舌足らずに質問をする、琉歌。

マーモンの回答を聞くと一瞬で目が覚め、直ぐ様ケータイを机から取り上げると、画面を開いた。

 

そこには、大量の手紙を扇子のように持ってそれを振っている、頭がやたらとでかいブルーベリー色の歪な人形が画面を縦横無尽に歩き回っていた。 その吹き出しには「4時」と書かれており、ブルーベリーが時刻を告げているようだ。

 

琉歌は飛び起きた。

 

「うわぁぁあ、ごめん! 急いで準備する!

あと5分だけ待って!」

 

慌ててベッドから降りると、琉歌はバタバタと身形を整え、鞄を肩に掛けた。

 

「ごめん、ちょっと急ぐよ!」

 

「あ、うん、解った・・・・・・待って、琉歌」

 

マーモンの言葉に琉歌は歩き出そうとした足を止め、マーモンに振り返る。

「マーモン?」と首を傾げる琉歌の髪に手を伸ばして、マーモンは琉歌の髪を梳く様に撫でた。

 

「え・・・・・・っ、と、あ、あのー?」

 

目を見開いて驚いている琉歌の顔が次第に紅くなっていくのを見て、マーモンはハッと我に返る。

 

「あぁ・・・・・・ごめん、嫌だった?

髪、まだ寝癖が取れてなかったからさ。

もうちょっと待って」

 

驚いている琉歌とは対照に、マーモンは至って冷静に返す。

マーモンに髪を撫でられながら、琉歌は俯く。

 

(何だろ・・・・・・変なの。

なんか凄く擽ったい・・・・・・。

人間・・・・・・特に男なんか嫌いなのに、男に触れられるのは生理的に嫌悪感すら感じるのに・・・・・・。

マーモンに撫でられても、嫌な感じがしない・・・・・・寧ろ・・・・・・)

 

その時の琉歌にはまだ、その感情の答えが解らなかった。

それに気付いたのは、もっと先の話。

 

 

「はぁー・・・・・・ごめん、琉歌・・・・・・」

 

「ま、良いよ。よくある事だしね。

気にしない気にしない」

 

あれから、琉歌とマーモンは急ぎ駅に向かったが、二人でホームに入ったのと同じタイミングで電車が出て行ってしまったのだ。

息を切らせながら謝るマーモンに、琉歌は特に気にしていない様に手を振る。

 

「じゃあちょっと担任に遅刻連絡(ラブコール)でもしますかねー。

マーモンもちゃんと遅刻連絡(ラブコール)はしときねよ」

 

「あ、うん、解ってる」

 

電話を掛けながら、琉歌はマーモンに口早に言った。

暫くして琉歌が電話に向かって話しているのが聞こえて、マーモンも携帯を取り出すと電話を掛けようとした。

しかし、それは琉歌に阻止される。

暫くして、電話を切った琉歌は言った。

 

「担任がまだ来てなかったから、鈴原先生に私とマーモンの遅刻、教えといた。

だから、マーモンは連絡しなくて良いよ」

 

「そうか、ありがとう」

 

「ま、ついでだし?」

 

話題が無くなって沈黙する。

夏の風が閑散とした田舎の駅に流れる様に吹いた。

 

隣の琉歌を見ると、もうすっかり暑いというのに琉歌は黒い長袖のパーカーを着ている。

 

「琉歌っていつも長袖着てるけど・・・・・・暑くないの?」

 

話題がなくてつい、その話を持ってくる。

マーモンの言葉に少しだけ思案すると、琉歌は言った。

 

「メッシュの薄いパーカーだし、暑くないよ。

パーカーないと落ち着かなくてね」

 

「へぇ・・・・・・でも、見てるこっちはかなり暑苦しいよ。

何か、脱げない理由でもあるの?」

 

マーモンがそう言った時、琉歌は確かに表情を変えた。

それは、初めて会った時に見せていた、警戒の表情。

何か失言したかな?と考えたマーモンに、琉歌は言った。

 

「・・・・・・あまり、余計な詮索はやめて貰おうか。

私は、詮索するのもされるのも好きじゃなくてね」

 

明らかに警戒心を剥き出している、冷たい声。

マーモンは息を呑んだ。

クラスメイトや学校での先輩達に話し掛けられて受け答えする時の無機質で他人行儀な声とは明らかに異なった種類の冷たい声だ。

絶対零度の冷気すら感じる。

パーカーについてはこれ以上探らない方が良さそうだ。

 

「訳ありなのはお互い様でしょ?

マーモン達がどういう目的で夢渡りしてきたかなんて知らないし、詮索もしないけど・・・・・・それと同じ様に、必要以上に私の事を詮索するのはやめて貰いたい。

特に理由もない事だし、詮索されても困る」

 

「うん、解ったよ。

ごめん、もう何も訊かない」

 

「それが賢明だよ。

・・・・・・いつ帰るか解らないのに、深入りはしない方が良い。

それが、お互いの為だし・・・・・・余計な感情は時として正常な判断を鈍らせる・・・・・・」

 

《間もなく、普通・高倉行きの電車が参ります。

危険ですので、黄色い線の内側でお待ち下さい》

 

後半の言葉は、間もなく電車が来る事を知らせるアナウンスに掻き消されて、マーモンには届かなかった。

 

「ほら、電車が来たよ。

・・・・・・行こう?」

 

次の瞬間には、警戒心を剥き出していた顔に微笑を浮かべて、マーモンに電車に乗るように促す。

その顔には先程の警戒心は微塵も感じず、琉歌が浮かべた微笑に安堵を感じた。

 

「うん」

 

マーモンは頷くと、琉歌の後に続いて電車に乗り込んだ。

帰宅ラッシュ真っ只中の車内は何処にも座る所はなく、マーモンと琉歌はドアの傍の椅子に凭れ掛かるようにして立った。

ドアが閉まると、電車は黄昏に染まり始めた風景を置き去りにするように、目的地へと加速を始める。

琉歌は置き去りにされていく様に通り過ぎる黄昏の風景を横目に、ただ電車が目的地へ着くのを黙って待ちわびた。




現在、解っていること その4

*琉歌はパーカーのことについて触れられると、突然三重の壁を築き上げて、ウォー⚫️・シーナに閉じ篭もる。


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第4話

ふははは、待たせたな、Mdイガ栗⊂( ・∀・) 彡 =͟͟͞͞(✹)`Д´)

はい、大変長らくお待たせしました。
第4話です。
良い子の学生諸君!
学校お疲れ様ですのだよ!


学校も終わり、琉歌は一足先に総紗に戻っていた。

特にやることが無い。

さて、これからどうしたものか・・・・・・と、琉歌は駅を出て考える。

 

「安藤さん、一緒に帰ろ!」

 

後ろから、水田が声をかけてきた。

うげっ、そう言えばこいつも、途中まで同じ帰宅路だった。

琉歌はあからさまに嫌な顔を浮かべる。

しかし、周りは薄暗い為、水田にその顔は見られることはなかった。

 

「私は──」

 

──パッパー!

不意に、琉歌の言葉を遮る様に車のクラクションが鳴った。

音のした方を見れば、後ろに見たことのある黒い車が停まっている。

 

「琉歌ぁ!」

 

「スク・・・・・・? どうして?」

 

車から聞こえた声に、琉歌は目を丸くして、呟く。

車が移動してきて、琉歌の隣に停まった。

 

「何でスクが? 珍しいね。

明日は局地的に国際宇宙ステーションでも降るのかな?」

 

「涼しい顔で不吉なこと言ってんじゃねぇ。

近くで用があってなぁ。

この辺まで来たことだし、お前を拾って帰ろうと思っただけだ」

 

琉歌の言葉にスクアーロは肩を落とす。

琉歌の隣に居た水田は、未だに驚いている顔で固まっている。

軈て、水田は口を開いた。

 

「安藤さん、誰!?

このイケメンな外人さんは!?

安藤さんの彼氏!?」

 

水田は興奮している様だった。

琉歌もスクアーロもそれを見て、引く。

 

「な・・・・・・何だぁ、こいつは?

お前の友達か?」

 

「まさか。 背景(クラスメイト)

 

「お前の言葉に容赦のない意味が含まれているように思うのは俺だけか?」

 

「事実だもの」

 

琉歌の言葉にスクアーロは肩を竦めた。

琉歌に友達が居ない理由って、こう言う所も原因じゃねぇのか?とも思う。

 

「私、安藤さんの友達の水田こゆきって言うの!

安藤さんがお世話になってます!」

 

語尾に星を付けて言う、水田。

スクアーロは琉歌の肩を小突いた。

 

「友達言われてるぞぉ?」

 

「やめて。 背景(クラスメイト)背景(クラスメイト)だよ。

それ以上でもそれ以下でもな・・・・・・

・・・・・・以下だから」

 

「何故言い直した? そして、言い直した方が(ひで)ぇな、おい。

まぁ、良い。

少しドライブでもしてこうぜぇ。

どうせお前、帰っても暇だろぉ?」

 

「いや、私は・・・・・・」

 

「あ、じゃあ、琉歌の代わりに私が・・・・・・」

 

「俺は琉歌と話してるんだよ。

ちょっと黙ってろぉ」

 

琉歌とスクアーロの間に入ってこようとした水田に、スクアーロはあからさまに嫌悪感を剥き出して言った。

スクアーロは、水田の名前を聞いた時、思い出したのだ。

 

マーモンが言っていた。 琉歌をハブいている女子の一人であると言う事。

琉歌が水田の事を好いていない事は、琉歌の態度からも解る。

しかも、厚かましいと来た。

これは自分も嫌いなタイプである。

 

「お前に話があるんだよ。

いいから少し付き合え?

何なら、お前の好きな所に付き合ってやるよ」

 

スクアーロは琉歌に耳打ちをする。

しかし、琉歌はスッパリと言った。

 

「話なら、一緒に住んでるんだから家でも出来るでしょ。

今、物凄く気分悪いからさぁ、帰ってからにしてくれない?」

 

チラリと水田を横目に見ながら、琉歌は言った。

 

「えっ!? 一緒に住んでるってどういう事!?

だって、マーモン先輩やフラン君とベル君も一緒に住んでるんだよね!?」

 

「そうだけど?

このロン毛は、マーモンとベルとフランの兄貴なの、一応」

 

「誰がロン毛だぁ!

それより、良いから来いよ。

大切な話だ。 お前も彼奴らに聞かれるのは嫌だと思って、言ってるんだが?」

 

「・・・・・・」

 

琉歌は考えた。

スクの話って何だ?

チラリとスクアーロを見れば、物凄く真剣な顔をしていた。

 

「解ったよ、付いてくりゃあ良いんだろ。

ほら、助手席の鍵開けて。

ちゃっちゃと行って帰ろ。 疲れてんだから。

と言う訳で、私はもう帰るから。

一人で帰ってよね」

 

後半は水田に向けられた言葉だ。

水田が呆気に取られている間に琉歌はスクアーロに鍵を開けて貰い、車に乗り込んだ。

琉歌が車に乗り込んだのを確認すると、スクアーロは車を出した。

 

 

「で、話って何?

その為だけに態々(わざわざ)私を待ってたんでしょ」

 

「う゛ぉい、バレてんのかよ・・・・・・」

 

「まぁね。

スクには私の帰宅時間は教えてないし・・・・・・今日早く帰ったのも予定外だし。

と言う事は、スクは私の帰宅時間を知らないから、必然的に早い時間から駅で私を待っていないといけなくなる。

――どうせ、スクの話も今朝のどうでも良いような事でしょ」

 

「探偵か何かかよ。

つか、ホントに可愛くねぇな、おい。

こう言う場合はもう少し喜ぶとかだなぁ・・・・・・」

 

「普通の女ならキーキーキャピキャピ言いながら、猿の如く喜んでたかもね。

猿人系女子じゃなくてごめんなさい?」

 

「謝罪なのか嫌味なのかどっちかにしろぉ!?」

 

琉歌の嫌味たっぷりな謝罪を受けて、スクアーロは思わず突っ込んだ。

 

「で、話とやらをしてもらおうか。

明日はバイト休みだけど、ちょっと予定が入ってんのよね、朝から」

 

「そうかぁ、それは悪いことしたなぁ。

まぁ、ちょっと話したら帰るぞぉ」

 

話している内に、車は目的地へと着いた。

そこは、蒼星川(あおほしがわ)の河川敷だった。

車を停めたスクアーロは、琉歌に向き直る。

 

「最近、何かあったかぁ?

クソボスとか、気持ち悪ぃほど心配してたぞぉ」

 

「何も無いよ。

全く・・・・・・XANもスクも、ホント気持ち悪いって・・・・・・。

本当に明日、宇宙ステーションでも降ってくるんじゃないの?

自分と同等かそれ以上の実力を持ってる人間以外を気にしないスクはおろか、人間不信その物なXANまで、本当にどうしたのさ?」

 

「そんなモンが簡単に降って堪るか。

つーか、何だぁ?

お前の中じゃオレ達はどんな認識なんだよぉ?」

 

肩を竦めて言う琉歌に、スクアーロは首を傾げて訊く。

自分たちの事は知っているみたいだが、それを踏まえて琉歌が自分たちをどう思っているのかを少し知りたかったのだ。

琉歌は「んー」と顎に湯べを添えて考え込み、軈て口を開いた。

 

「XANは、人間不信の憤怒の塊、スクは傲慢な鮫、ルッス姐は変態死体愛好家(ネクロフィリア)、マーモンは守銭奴、ベルはサイコパスな殺人鬼、フランは毒舌蛙、んで、この場には居ないけど、レヴィ・ア・タンはタコスを擬人化したような顔のすっごく弱そうな三十路過ぎのボストーカー」

 

「何気に(ひで)ぇなぁ、おい。

つか、レヴィの事も知ってんだな」

 

「まぁね。

言ったじゃん、スク達は漫画の世界の住人で、私はその漫画が大好き。

二次創作だって書いてるよ」

 

「あぁ・・・・・そう言えば言ってたなぁ、そんな事」

 

琉歌の話に頷く、スクアーロ。

今の今まで普通に何事も無く過ごせていたので、スクアーロは自分たちが夢渡りをしてきたのだと忘れていたようだった。

 

「だから、まぁ・・・・・・皆ちょっと怖かったかな・・・・・・。

私の言い方にも誤解を生む所はあったにせよ、殺気駄々漏れで寄られると、ちょっとね」

 

「あン時かぁ。

俺たちもそれぞれの任務の帰りに突然飛ばされたモンだからよぉ、警戒しすぎちまってたんだよなぁ。

それは今でも悪かったと思ってるぞ」

 

「まぁ、普通は目が覚めれば見知らない所、なんて殺し屋じゃなくても警戒するわな」

 

琉歌の言葉の後に静寂が訪れる。

少しだけ静かにしていれば、スクアーロからポツリと切り出した。

 

「今は皆、お前に感謝してるんだぜぇ?

お前が居なけりゃ、俺たちは知らねぇ所で野たれ死にしてた所だ。

だから、まぁ・・・・・・俺たちもそうだが、ベルやフラン、マーモンがお前を避けたり疎う理由がねぇ。

学校で何があったかは訊かねぇが、もう少し彼奴らを信用してやっても良いんじゃねぇか?

お前が学校で疎まれてようが、彼奴らはそんな事を気にする様なヤワな奴らじゃねぇ。

それはお前も、解ってんだろぉ?」

 

「・・・・・・」

 

スクアーロの言葉に、琉歌は顔を俯けて黙り込む。

確かに、自分の心配は杞憂なのかもしれない。

でも、自分のせいであの三人が孤立するくらいなら──。

 

「彼奴らは思ってることは素直には言わねぇが、彼奴らなりにお前を気にかけてんだぜ?

それを無下にできるほど、お前は冷血か?」

 

「わた、しは・・・・・・」

 

琉歌は、それ以上何も語らなかった。

どうしたら良いのだろう。

スクアーロ伝いに聞いても、マーモン伝いに言われても、それはベルとフランの言ったことではないのでそれを信じる事は出来なかった。

 

社交辞令では? 腹の中では何を思ってる?

そのままを受け止めて良いものか?

ぐるぐるとそんな考えが琉歌の中で回り回る。

 

嫌な考え方だが、琉歌にとって人間と関わる事は、石橋を叩いて渡るよりも慎重にならないといけなかった。

軈て、琉歌は口を開く。

 

「もう少し、確信が欲しい・・・・・・。

信じても大丈夫だという確信。

私自身、彼らと仲良くしていきたいとは思ってるよ。 ルームシェアしてるし。

でも、やっぱり彼らの事を考えると、クラスメイトとの交流は絶対必要なワケで。

私なんかと関わっていたら、彼らは孤立してしまう。

それは、あの学校にいる上では良くない。

特に、私の学年はやたらと協調性を重視してくるから・・・・・・」

 

「一人をハブる事で得る協調性は、協調しているとは言わねぇぞ?」

 

スクアーロの言葉に、琉歌は顔を上げた。

スクアーロは続ける。

 

「協調性っつーのは、お互い妥協しながら歩み寄って行く事を言うんだぁ。

一人を省いて仲間意識を持ってるんならそれは、誰も何も妥協してねぇ。

そんな仲間意識は、その一人が居なくなりゃ直ぐに瓦解するぞ。

そんなヤワなグループにいるより、少人数でもちゃんと安定した関係を持てるグループにいる事を彼奴らは望むだろうなぁ」

 

「・・・・・・」

 

スクアーロの話を聞いて、琉歌は黙り込んだ。

確かにスクアーロの言うことも一理ある。

 

今のクラスは、特に女子は一人を標的にして均衡を保っている様に見える。

その証拠に、リーダーが居なけりゃ水田はこっちにすり寄ってくる。

それはつまり、何かを標的にしないと均衡が取れないと暗に言っていた。

 

「ま、時間はあるんだぁ。

まだ帰れる兆しもねぇし、ゆっくり考えれば良い。

彼奴らにも、琉歌については暫くそっとしておいてくれるだろうよ」

 

ポンッと琉歌の頭に手を乗せて、スクアーロは微笑んだ。

 

「・・・・・・うん・・・・・・」

 

不思議と嫌じゃない。

マーモンに髪を撫でられた時とはちょっと違う様な気がする。

少し擽ったい様な、でも、安心する。

 

スクアーロの左手は義手だから両手に手袋をしているので、体温的な暖かさは感じないが、不思議と胸のあたりがポカポカする。

小さい頃、たまにしか会えない兄に頭を撫でられた時と同じ感覚に近いかもしれない。

 

琉歌とスクアーロは暫く、月の光を反射してキラキラ光る水面を眺めて、帰路に就いた。




琉歌教カースト
親友<友人<クラスメイト<他人<背景(←水田ココ)

琉歌の好き嫌いや琉歌とどう関わっているかで左右されるカースト。

・背景
最早、クラスメイト・・・・・・いや、他人ですらない。
琉歌が大嫌いな人間が主に分類され、琉歌が気にすら止めない。
空気。

・他人
全く話したことのない、または必要以外話さない人。
そこ行く人間もとりあここ。
現時点では本田麗奈。

・クラスメイト
教室では話すが、それ以外では関わりのない人。
今の所、フランとベル。

・友人
教室でも話すが、外でもたまに会う人。
ここまで来るのは中々キビシイ。

・親友
教室でも話すし、暇さえあれば外で遊んだり、お互いの家を行き来する。
言いたい事もズバズバ言える間柄。
ここまで来た人間は、今の所、樹里(いつき)千鶴のみ。
その道のりは険しい。


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第5話

こんばんは~! 紅さん登じょ((殴打蹴刺射

はい、スミマセン、テンションが行方不明になってました。

さて、今回の話は新しいキャラが出てきますよ~!
さて、彼女は何者でしょう~?

な第5話ですw←


翌日、琉歌は駅の前で携帯を見ながら立っていた。

今日の琉歌はいつにも増してボーイッシュな服装をしている。

 

休日の午後というだけあり、駅前は子連れの家族やカップルなどが楽しげに行き交っている。

そんな人混みの中から、中性的な声が聞こえてきた。

 

「琉歌、お待たせ」

 

「ううん、全然待ってないから」

 

声の主は人混みを上手く躱し、琉歌の元へ駆け寄るとまるでカップルの様なやり取りをする。

琉歌よりも少しだけ背が高く、琉歌と似た様な風貌。

声からも姿からも性別が判断できない。

 

「それより、私と会って大丈夫?

今日の事、お父・・・・・・悠稀(ゆうき)さん、知らないんじゃない?

何も言わずに会って平気・・・・・・?」

 

「そんな事気にしてるの?

大丈夫だよ。 今ちょっと父さんと冷戦中だからさ。

それに、母さんには言ってるから! ついでに、口止めも兼ねて。

それよりさ!

月に一回のデートなんだから、楽しんでこうよ!」

 

カラカラと笑い、琉歌に似た人物は琉歌の腕を取って、歩き出す。

 

「そんな事、笑って言う事じゃ・・・・・・って、うわっ、ちょっ、引っ張らないでよ!

ってか、デートって何さ!?

待ってよ、琉稀(ルキ)っ!?」

 

少女──悠稀(ゆうき)琉稀(るき)に引っ張られ、琉歌は歩き出した。

 

 

「へぇ〜、じゃあ今、XANXUS達と暮らしてるって事!?」

 

「あー、うん、まぁ、ね」

 

「いいなぁ〜!」

 

琉歌と琉稀は、ショッピングセンターで雑談をしながらウインドウショッピングをしていた。

会う度に近況報告をすることが暗黙のルールとなっており、近況報告は包み隠さず話す、と言うのは鉄則だ。

 

琉歌は唯一、琉稀だけは小さな時から信頼している為、本当に何でも話す。

琉稀もまた、琉歌の事を信頼しているので何でも話していた。

そして、お互いの事については、知り得た情報は絶対に口外しない。

友達は勿論、両親にさえ話してはならない、という暗黙のルールがある。

だから、お互いの事については誰にも話さない事はお互いに解っていた。

だから、琉歌はXANXUS達がトリップして来た事を琉稀に話したのだ。

 

琉歌が「リボーンの世界から、レヴィ以外のヴァリアーが夢渡りしてきた」と言う事を話したら、琉稀は羨望の眼差しを琉歌に向けて、そんな事を言った。

琉稀もまた、リボーンが好きなのである。

 

「じゃあ、逆ハーじゃん!

琉歌、顔だけは悪くないから、毎日モテモテだね」

 

「冗談!

皆、私のことは良くて妹か何かだと思ってるよ。

悪くて背景じゃない?」

 

「えー、琉歌卑屈すぎだよ?

もっと自信持ってこ?」

 

「自信ゆーて、私は琉稀とは違って男顔ですし?」

 

「またまた〜。

琉歌を男顔とか言ったら、世界中の女の子皆男顔じゃないか」

 

あははー、と笑い合う、琉歌と琉稀。

二人で出掛けると、必ず服屋に入ってしまうのは最早、恒例である。

 

「あ、この服なんか、琉歌に似合うと思うよ?」

 

そう言って、琉稀は肩を出しているデザインの黒い服を琉歌に押し付けた。

 

「えー?

何かちょっとダブダブ・・・・・・」

 

「それがいいんじゃないか!

琉歌はぴっちりした様な服より、ゆったりとした服の方が似合うよ?」

 

「えー・・・・・・」

 

「琉歌も女の子なら、たまにはこう言う女の子らしい服も着てこうよ?

はい、こっちの短パンも付けて〜、あ、パーカーもこう、腰にグルっとね。

それで、黒のニーソと〜あと、このブーツ!

はいっ、試着室へゴー!」

 

服一式を手渡され、琉歌は試着室へ押し込まれた。

コーディネーターモードの琉稀は何も聞いてくれない為、琉歌は渋々手渡された服を着始める。

口は尖らせるものの、琉稀との買い物自体は嫌いではない為、琉歌はま、いっか、と諦めた。

 

服を着替えて鏡を見ると、いつもの自分とはちょっと違う自分が映っている。

しかし、髪の色といい、色素の薄い目といい、紛れもなく鏡の向こうにいるのは自分だった。

パーカーを羽織って、ふと鏡を見ると、パーカーの中に髪が入って、それが短く切った様に見えた。

 

短くするのも良いかも・・・・・・。

 

琉歌は、毛先を弄りながら、カーテンを開けた。

 

「あ、やっと着替えたね?

・・・・・・って、琉歌、違う。 パーカーは腰にグルっと巻く、で、髪もこうして・・・・・・うん、やっぱり!

なぁんだ、琉歌もそれっぽい格好をするとちゃんと可愛いじゃん」

 

更衣室から出て来た琉歌を見て、琉稀は顔を顰める。

そして、琉歌が着ていたパーカーを脱がせて、琉歌の腰に巻いた。

髪も、無造作に琉歌の側頭部の高い位置で纏めると、琉稀は頷く。

 

「もう、やめろって。

私は別にいつもの格好で良いよ」

 

「いやいや、恋する乙女になったであろう琉歌の為にだね・・・・・・」

 

「恋なんてしてないし、乙女ってガラでもないよ」

 

「もう着替えるよ」そう言って、琉歌はさっさと試着室に引き籠もってしまった。

 

「やれやれ、素直じゃないんだから。

あぁ、小さい時のあの素直で可愛かった琉歌は何処(いずこ)・・・・・・」

 

「素直じゃなくてスミマセンねぇ。

そんなのは夕焼けの中に吸いこまれて消えて行ったよ」

 

「六●年と一夜物語!」

 

「正解」

 

ジャッ!と、無造作にカーテンを引いて、琉歌が試着室から出てきた。

その顔は仏頂面だった。

 

「で、実際の所はどうなのさぁ~?」

 

「何が?」

 

先程試着したモノを元の所に戻し、琉歌と琉稀は再び、服を見ながら話し出す。

琉歌が短く問い返すと、琉稀はニマニマと笑いながら訊く。

 

「あら、(とぼ)けちゃって。

六人の男性――あぁ、ルッスーリアは論外として、五人のイケメンと同じ屋根の下に暮らしてるんだよ?

何も無いなんて言わないよねぇ?」

 

あぁ・・・・・・、と、琉歌は琉稀の言いたい事が解って、顔を顰める。

この手の話は苦手だ。

琉歌はスッパリと切り捨てた。

 

「何かある筈がない」

 

「だよねぇ~、当然・・・・・・って、えぇ?

何も無いの?」

 

「ないよ」

 

「逆ハーは?」

 

「ある筈がない」

 

「あんな事とかも?」

 

「あって堪るか」

 

「なーんだ」

 

琉歌の言葉に落胆しつつ、琉稀は何処か安心を覚えていた。

琉歌に何かあっては困る。

 

「それよりさ、今日は家に誰も居ないんだったよね?」

 

「え、うん、そうだけど?」

 

琉歌の突然の話に琉稀は素っ頓狂な声を出して反応する。

すると、琉歌は言った。

 

「じゃあ、琉稀の家に行きたい」

 

「え・・・・・・?」

 

琉歌の言葉に、琉稀はたっぷり5秒は静止する。

軈て、琉稀は有り得ないモノを見るような目で琉歌を見た。

 

「え、ほ・・・・・・本気・・・・・・?」

 

「何よ、問題ある?」

 

「いや、無いけどさ・・・・・・」

 

「じゃあ、良いじゃない。

頼みがあるのよ。 琉稀にしか頼めない事だからさ」

 

そう言って、琉歌は籠に入れた服を清算すると、琉稀を連れて店の外へ出た。

 

 

総紗の隣町、清水(しみず)へは電車で10分の所にある。

清水駅で降りて駅より徒歩5分、東へ向かって歩くと、如何にも和風な大きな家があった。

ここは、琉稀の家だ。

家に入って二階の階段の直ぐ傍の部屋、そこが琉稀の部屋である。

 

「なんだ、琉歌の頼みって、髪を切ってくれって事だったのね」

 

琉歌と琉稀は、琉稀の部屋に来ていた。

 

勉強机と教科書や参考書が詰まっているだけのブラウンの本棚、それとダブルサイズのベッドが置かれているだけの殺風景な部屋。

琉歌は久し振りに来た琉稀の部屋を見回す。

 

「まぁ、ね。

何だと思った?」

 

「そりゃあ、琉歌が私と――」

 

「あ、ごめん、何て言いたいか想像付いたからいいや」

 

「ひどっ! てか、冗談だからさ?

そんなに警戒しないで?」

 

琉歌の首にタオルを巻いて新聞の上に座らせると、琉歌に散髪用のケープを頭から被せて、肩で止める。

目の前には全身鏡が置かれて、散髪の準備をしていく琉稀を鏡越しに琉歌は見ていた。

 

そう、琉歌が琉稀の家に行きたがったのは、琉稀に髪を切ってもらう為だった。

琉歌は本人は認めてはいないが、誰がどう見ても潔癖症。

他人が――特に嫌悪感を持っている人間が――触ったモノを触った後は手を消毒する、自分の私物を他人に――特にやむなく嫌悪感を持つ人間に――貸してしまった場合はその物を消毒する、果ては他人――特に男に――触られるのが嫌な為、散髪は前髪だけなら自分、髪全体を切る時は琉稀に切って貰っている。

 

琉気は、躊躇無く髪を切っていく。 その手捌きはプロ宛らだった。

流石、長い間琉歌の髪を切っていただけはある。

 

「それにしても何かあったの?

髪を切りたいなんてさ」

 

「別にー?

ただの気分だよ」

 

「ホントかな~?」

 

「ちょ、ゴ●リの声真似やめて」

 

不意にされた声真似――しかも、微妙に似てない――に琉歌は思わず吹いた。

すると、琉稀に「動かないでー」と怒られる。

何故だ。 笑わしたのはそっちなのに。 解せぬ。

 

「いやぁ、何か琉歌ってば、また一段と可愛く見えるから?

ほら、恋をした女の子は可愛くなる、って言うじゃない?」

 

「知らないよ、そんな迷信」

 

「やだ、琉歌ってば超クール」

 

「琉稀はちょっとおばちゃんっぽい」

 

「ひどいっ! おねーさん泣いちゃう!」

 

「勝手に泣いてな。 あ、失敗しないでね」

 

「しくしくしく」

 

「うざっ」

 

他愛ない話をしていると直ぐに時間は過ぎて、琉歌の髪もセミロングからミディアムになった。

鏡を見た琉歌は、満足そうに頷く。

 

「さっすが、琉稀。

もう、イメージ通りだね」

 

「当然! 私だからね!」

 

「はいはい」

 

フフン、と薄い胸を張ってドヤ顔をする琉稀を一蹴すると、琉歌は散髪して散らかった部屋を片付けようとする。

しかし、時計を見た琉稀がそれを止めた。

 

「あぁ、部屋はそのままにしておいて良いよ。

どうせ今日も両親遅くなるしさ?

それより、琉歌はもう帰った方が良いね。 総紗まで送って行くよ」

 

「うん、解った。

ありがとう」

 

琉歌と琉稀は、家を出て清水駅へ向かった。

外は既に夕焼けが空を黄昏に染めていて、何処か空から烏の鳴き声が聞こえ始めていた。




琉稀のプロフィール その1


名前:悠稀(ゆうき) 琉稀(るき)
年齢:15歳(現時点)
血液型:O型
誕生日:8月15日(自分の誕生日とカゲロウデイズの日が重なって、運命を感じたりとかしてる)
星座:獅子座
所属:清水(しみず)芸能学校 演劇科


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第6話

お疲れ様~、今日の更新はここまで!

今回、琉歌とマーモンの心情に変化が・・・・・・!?
フラグ!? フラグ作っちゃうッ!?
いいえ、折っていきます事よ←


「じゃあ、またね、琉歌」

 

「うん、また来月だね、琉稀」

 

総紗駅に着くと、駅の前まで琉稀は琉歌を見送った。

名残惜しげに振り返ると、琉稀が手を振っている。

琉歌も手を振り返した。

 

「琉歌ー」

 

「マーモン!?」

 

琉稀が駅へ入っていった後で、マーモンが呼ぶ声が聞こえて、振り返るとマーモンが居た。

琉歌は驚きに目を瞠る。

 

「どうしてここに?」

 

問えば、マーモンから返事が返ってきた。

 

「僕も今、総紗に戻ってきたばかりなんだ」

 

「へぇ。

今日は何処に行ってきたの?」

 

「隣の蒼敷(そうしき)までね」

 

「へぇ」

 

マーモンの言葉に納得する、琉歌。

最近、マーモンは休日には総紗市外によく出ている。

おそらく、地理を知る為だろう。

なので、特に琉歌は何も思わなかった。

 

「さっき一緒に居たのは、琉歌のお姉さんか何かかい?」

 

「え、何で?」

 

「似てたから」

 

「あー」

 

マーモンに言われて、琉歌はそう言えばまだ、マーモン達に自分の家族構成について離していなかったな、と思う。

 

「結構綺麗な人だったね?」

 

「ふはっ!」

 

マーモンの言葉に、琉歌は噴き出した。

突然噴き出した琉歌に訝しげに眉を顰める、マーモン。

琉歌は言った。

 

「あははっ・・・・・・マーモン。

()にそれは禁句だからね? 言ったら殺されるからね?」

 

「彼・・・・・・?

って、あの人、男? あれで?」

 

琉歌の言葉にマーモンは衝撃を禁じ得ない。

あれはどう見ても女だろっ!?

驚愕しているマーモンに琉歌は説明した。

 

「あの人は、悠稀(ゆうき)琉稀(るき)

私の双子の兄だよ。

まぁ、異母兄妹なんだけどね?」

 

「えぇっ!?」

 

マーモンは本日二連続の衝撃を受けた。

琉歌に兄が居た! しかも、双子!? 更に異母兄妹っ!?

まったく信じられなかった。

 

「そんなに意外?」

 

「琉歌は一人っ子だとばかり・・・・・・」

 

「まぁ、私にも色々あるんだよ。

私の家系は色々とややこしくて面倒くさいからね」

 

「そうなんだ・・・・・・」

 

琉歌の親子仲が悪いのは知っていたが、結構複雑そうだ。

マーモンは思った。

 

「まぁ、琉稀の家はこの辺では有名な役者の家系だからね。

「異性の役をも演じきってこそ役者」とか言うクソッタレな家訓があって、18歳まで異性として過ごすように教育される。

だから、琉稀は外では女の子で居るんだよね。

勿論、家の中でも女の子だけど」

 

「もしかして、琉歌も?」

 

「私は違う。

確かに、琉稀の父親は私の父親でもあるけど。

私はどうも、演技の才能がないみたいだからね。

それに、母親は再婚してるから、もう悠稀の人間じゃないし」

 

「そっか」

 

琉歌の話を聞いてマーモンが疑問を口にすると、琉歌は首を振った。

それに頷きながら、マーモンは心の何処かで安堵していることに気付く。

あれ、何で安心しているんだ?

マーモンは不意に感じた安心感に疑問を抱いた。

 

「さて、琉稀の話はおしまい!

あまり口外しないことが私と琉稀のルールだからね。

あまり喋り過ぎたら、琉稀に殺される」

 

カラカラと笑いながら、琉歌は話を締め括った。

笑う琉歌の横顔をチラリと盗み見ると、マーモンはある事に気付いた。

 

「・・・・・・あれ? 琉歌、髪切った?」

 

「うん、良い加減鬱陶しかったからね。

琉稀に切ってもらった」

 

「へぇ」

 

思わず、相槌を打った声が素っ気なくなった。

何故か、琉歌が琉稀とか言う男の話を嬉しげに話すのが面白くない。

自分で振っておいて身勝手だな、と自分に呆れてしまう。

マーモンが会話を終了させてしまった為に、沈黙が訪れた。

 

(何か、機嫌悪い?)

 

琉歌は、自分が何か失言をしてしまったのかと思い、マーモンの様子を窺うようにマーモンにそっと目を移す。

しかし、琉歌にはポーカーフェイスのマーモンの表情を読み解くアビリティなどがある筈もなく、そっと目を伏せた。

 

琉歌の方を一瞥すると、マーモンは琉歌が目を伏せている事に気付く。

もしかして、不機嫌になったと思われた?

ポーカーフェイスの様で微妙に表情が変わる琉歌の表情の変化を知っているマーモンは、琉歌が「自分の言ったことでマーモンを怒らせた」のだと思っているのだろう、と思った。

 

(悪い事したかな)

 

どうも最近は、琉歌の行動一つ一つに目がいく様になった。

こうして琉歌が困ったり何処か悲しそうな顔をすると、罪悪感の様なものを感じる時がある。

 

先ほども、琉歌が髪を切った事に気付いて、柄にもなく「可愛い」なんて思ってしまったりして、少しドキッと鼓動が甘く脈打った。

何なんだ、これ。

 

そんな事を思いながら、マーモンは琉歌の頭に手を乗せた。

 

「まぁ・・・・・・似合ってると思うよ」

 

ポンポン、と琉歌の頭を撫でながら、マーモンは言った。

 

「っ!

どうも・・・・・・」

 

たった一言言われただけで、琉歌は身体中の熱が顔の一点に集まったかの様に顔が熱くなるのを感じた。

「うれしい」と言う感情。 でも、今感じてるそれは、欲しかった物を買えた時のそれとはちょっと違う。

心が弾む様な、苦しくも甘さを孕んだ動悸がする。

 

嬉しい様でちょっと照れる様な言葉に、琉歌は俯き気味に小さく言った。

表情はクールを装いつつ、内心では天にも昇るような嬉しさを抑えきれない。

心臓が爆発しそうだ。

 

琉歌は、顔の火照りを隠すように顔を両手で覆った。

 

「琉歌、前見ないと危ないよ?」

 

「あぁ、うん、解ってる、解ってるから!」

 

顔を覗き込もうとしてくるマーモンから距離を取って、琉歌は言った。

その声は何処か焦っているようである。

今顔を見られたら、真っ赤なのがバレてしまう。

バレたからと言ってどうと言う事はないだろうが、こちらとしては少し恥ずかしいような気がする。

 

一体、どうしてしまったのか。

今まで、こんな事は一度たりともなかったのに。

 

初めて感じる感覚に、琉歌は戸惑いを覚えた。




琉稀のプロフィール2


性格:シスコン。天真爛漫で基本的に誰にでも優しいが、嫌いな人間には容赦がない。 気が抜けると女性的な部分が出てしまう事も屡々。
趣味:絵を描く、歌う、琉歌の動画を収集する、読書
好き:琉歌、二次元、戦闘機
嫌い:男、脳内快適系お花畑女子、琉歌に色目を使ってくる悪い虫


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第7章 「告白」
第1話


何か、今回は皆色々とおかしい。
キャラが迷子すぎてヤバイ。
ちょっとREBORN読み直した方がいい。
うん、ちょっとこれ、ヤバすぎ。

そんな第1話です。
次の話は一時間後に公開です。


「おかえりなさい、琉歌ちゃん。

って、あらぁ~! 髪切ったのねぇ~」

 

帰って一番に、ルッスーリアに捕まる。

ルッスーリアは琉歌の髪が短くなっている事に気付くと、それに反応した。

 

「ただいま、ルッス姐さん。

うん、鬱陶しかったからさ。

今日、兄に会ってきたから、ついでに切って貰った」

 

「そうなの~、似合ってるわぁ~。

って・・・・・・ん? あに・・・・・・?」

 

琉歌の口から思いも寄らない単語が出てきて、ルッスーリアはフリーズした。

それもそうだ。

ルッスーリアは――否、今この場では、琉歌に兄が居る事を知っているのは、マーモンだけだった。

マーモンが補足する。

 

「琉歌には、母親の違う同い年の兄が居るんだって。

さっき僕もそれを聞いてびっくりしたよ。

チラッと駅の方で見たけど、琉歌にそっくりで本当に驚いた」

 

「あらぁ! だったら、とびっきりの美人さんなんでしょうねぇ~!」

 

「ないから、普通の日本人特有の平たい醤油顔だから。

テル●エ・ロ●エで阿●寛に「平たい顔の一族」とか言われる程のエイフェイスだからね」

 

「何気に日本人(ジャッポネーゼ)の印象酷すぎるぞぉ、琉歌」

 

ルッスーリアと琉歌が話していたら、スクアーロが会話に介入してきた。

スクアーロは髪を上げて、鞄を肩から掛けている外出スタイルだ。

 

「あら、スク。 何処かに行くのぉ?」

 

「あぁ、まぁなぁ・・・・・・今日シフト入ってた奴がドタキャンしたとかで、さっき急に呼び出されてなぁ。

勘弁して欲しいぜぇ」

 

「わー、頑張れ社畜ー」

 

「何か苛つくぞぉ」

 

スクアーロが死んだ魚のような目でルッスーリアに答えると、琉歌がそれを茶化すように言った。

 

ちなみに、「働かざる者食うべからず」と言う事で、ルッスーリア以外は琉歌の知り合いが経営している工場で働いている。

知り合いには彼らがトリッパーである事は説明して、口止めも抜かりなくしている。

彼らの事を話した知り合いのテンションが奇行種過ぎた事はまた別の話だ。

ルッスーリアには家事全般をお願いしている。 ただし、「私の洗濯物には触るな」と、笑顔で脅迫(おねがい)して。

 

「じゃあ、ご飯はどうするのぉ?」

 

「帰って食う。

どーせ、3時間したら帰ってこれるだろ」

 

「解ったわ」

 

「うわ、何か新婚夫婦みたい」

 

「笑えねぇぞぉ!」

 

「やーっ、鮫がキレましたー、コワーイ、オタスケー」

 

ルッスーリアとスクアーロのやり取りを見ていた琉歌がポツリと漏らせば、スクアーロは顔を真っ赤にして怒った。

片言で言いつつ、琉歌はマーモンの背後に隠れる。

マーモンは肩を竦めて、呆れた調子で言った。

 

「子供の戯れ言で一々怒るなよ、大人げないなぁ。

琉歌も、安易にスクアーロをからかわない方が良いよ。 ・・・・・・何されるか解らないから」

 

「どぉ言う意味だぁっ!」

 

「まぁまぁ、スク。

行くなら早く行った方が良いわよ?」

 

「チッ、行ってくる!」

 

「行ってらっしゃぁ~い!」

 

「お土産はコーヒーゼリーで良いよー」

 

「うるせぇ!」

 

スクアーロは乱雑にドアを閉めて、家から出て行ってしまった。

 

「あ! ちょっと、ドア壊れたらどうするんだよっ!?

っていうか、近所迷惑だ、アホ鮫ぇぇええ!!」

 

「言うの遅いよ」

 

スクアーロが扉を閉めたタイミングで琉歌が怒ると、マーモンが呆れた様に肩を竦めて言った。

 

「まぁ、いいや。 コーヒーゼリー楽しみにしとこ。

さーって、私は部屋で収録でもしますかねー。

マーモンはどうする?」

 

「僕は・・・・・・やる事もないから、その収録を見てる事にするよ」

 

「やめてよ、恥ずかしいじゃん」

 

「じゃあ、アタシはご飯の準備をするわぁ~」

 

「今日のご飯何ー?」

 

「焼き魚と里芋の煮付けとだし巻き卵よ」

 

「わーい」

 

琉歌の質問に答えると、ルッスーリアはそそくさとキッチンへ引っ込んでいった。

その場に、マーモンと琉歌が残る。

 

「じゃあね、マーモン」

 

「だから、僕も行くって」

 

「だから、来なくて良いって」

 

「良いじゃないか、毎週見てるんだから。

視聴者として」

 

「!!?」

 

マーモンの口から衝撃的な事を激白されて、琉歌は顔のパーツが飛び出すかと思ったくらいの衝撃を受ける。

そして、マーモンに詰め寄った。

 

「はぁッ!?

マーモン、ニヨニヨ動画見てるのッ!?」

 

「琉歌が上げた動画だけね。

何なら、マイリストに入れてるよ?」

 

「うあぁぁぁ~、言うなぁ~!」

 

「あぁ、ちなみに、毎回コメントもしてるけど・・・・・・」

 

「もうやめてぇ~!」

 

マーモンの激白に琉歌は顔を覆って、その場に頽れる。

顔も知らない人に見られるのは問題ないが、身内に見られていると思うと、恥ずかしくなる。

琉歌の顔は、茹でたての(たこ)の様に真っ赤だった。

 

「恥ずかしがるような事じゃないと思うんだけど・・・・・・ダメ?」

 

「絶対ダメ!

何なら、マーモンが24(によ)動画開く事すら不許きゃ・・・・・・不許可だっ!」

 

「あ、今噛んだ」

 

「~~~っ、マーモンなんか大ッ嫌いだぁぁぁああ!」

 

マーモンを振り払うと、琉歌は自室へ引き籠もってしまった。

 

「あ、琉歌・・・・・・」

 

声を掛けるも虚しく、マーモンだけがその場に取り残されてしまった。

 

「しししっ、振られてやんの」

 

「・・・・・・ベル」

 

琉歌が部屋に籠もってしまった後で、その隣の部屋からベルが顔を出す。

その顔には、ニヒルな笑みが浮かんでいた。

マーモンは不快そうな顔を顰める。

 

「まさか、からかいに来ただけじゃないだろ?」

 

「マーモンにはお見通しか。 つまんね」

 

「見てたら解るさ。

琉歌の事だろ?

丁度僕も話したい事があるから、部屋で話そう。

フラン、居るよね?」

 

「あぁ、部屋で琉歌から借りた漫画読んでるぜ」

 

マーモンとベルは、自分達が使っている部屋へ戻って行った。

 

 

「琉歌の話の前に、君達の話を聞かせてもらうよ。

最近、学校はどうだい?」

 

「んー、つまんね」

 

「そう言う話じゃなくて・・・・・・」

 

ベルの回答を聞いたマーモンは頭を抱えた。

マーモンが聞きたいのは、クラスでの琉歌の様子だ。

ベルの話は今は心底どうでも良い。

 

「最近はミーもベル先輩も、水田にしつこいくらいに絡まれてます―。

ミー達は相手にしてないんですけどね? 向こうがかなり粘着質で。 ホント、殺したくなってきますー」

 

「ここは法治国家らしいからね。 あんなんでも殺せば監獄行きだって。

殺気を抑えようか、フラン」

 

「チッ、解りましたー。

それで琉歌と居られなくなったら、元も子もありませんもんねー」

 

フランは至極残念そうに舌打ちをする。

毒を吐きつつもフランはマーモンの言う事には従うので、彼の事は心配は要らなさそうだ。

問題はベルの方だ。

 

彼は、険悪の仲だった双子の兄を「ゴキブリと間違えたんだ」と言って殺したサイコパスな殺人鬼。

今はそれを抑えているようだが、いつその素顔が出てくるのか解らない。

現時点でXANXUSよりも危うい爆弾である。

 

「琉歌も、何であんなに頑なに拒絶してくるんだろうな。

この間から特にそれが酷くなってる」

 

「やっぱり、初めの集会の時のが失敗だったんですかねー?」

 

「「うーん」」

 

ベルとフランは頭を抱えて黙り込んでしまった。

何だ、これ。

まるで、逆転●判で中々口を割らない証人に口を割らせようとしている成歩●龍一の気持ちだ。

そう思うと、何処からか「しっかり、ナル●ド君!」と言う綾●真宵の声まで聞こえてきそうである。

 

暫く、黙っていたマーモンが口を開いた。

 

「僕やスクアーロも一応、少しずつ説得を試みていたりはするんだけど・・・・・・。

琉歌はまぁ、ボスをも凌駕する人間不信みたいだから、中々ね。

でも、突破口は何となく掴めた気がするよ」

 

「突破口・・・・・・? 何だよ?」

 

ベルは頭を傾げてマーモンの言葉を待つ。

 

「琉歌は、本人の言った言葉以外を信じないみたいだから、あとは君達が説得するしかないんじゃないかな?

この間、少し琉歌と話したんだ。

その時、琉歌は水田に言われたそうだよ? 琉歌が関わっていく事で僕らが迷惑だと思っているから、関わらないであげてくれ、みたいなこと。

その時は琉歌はそれを信じていなかったみたいだけどさ。

琉歌って、自尊感情が低くて卑屈だから、今までの僕らの態度は実は上辺だけなんじゃないか、と思っているみたいだ」

 

「あぁ・・・・・・なるほどな」

 

「上辺だけなんてある筈がないのに・・・・・・何だか、悲しいですねー」

 

ベルとフランがポツリと言葉を漏らした。

自尊感情が低い故の勘違いからくる擦れ違い。

もし、無理にでも琉歌と関わっていたなら、今頃はどうなっていただろう。

考えても仕方のないことが、頭をグルグルと回る。

 

静寂(しずけ)さと安寧(やすらぎ)が遠くで招くから

もう少し先にまで行けそうな気がする〕

 

そんな静寂の空間に、隣の部屋から琉歌の歌声が聞こえてきた。

その歌声を契機に、フランが時計を見る。

 

「あー、琉歌の収録始まってますねー。

ここは特等席ですー。

わざわざ画面を介さなくても生歌が聴けるのでー」

 

フランが沈黙を破った。

何気にフランも、琉歌の動画の視聴者だったりする。

 

「確かに同感だけど、言い方がムッツリっぽくね?」

 

「それは気のせいですー。

ミーは至って純情なのでー。

センパイこそ、琉歌の歌を聴いて鼻の下伸びてますよー?」

 

「はぁ? んなわけねーだろ、ボケガエル」

 

「ゲロッ。 痛いですー。

ナイフよりはマシですけど、マジで痛いので死んでくださーい」

 

「ムカつく蛙だぜ」

 

「ちょっと、静かにしてくれる?

君達は歌を静かに聞くことすらできないのかい?」

 

「イテッ」

 

「ゲロッ」

 

ベルとフランが口論をしていると、二人はマーモンから鉄拳を食らった。

殴られた脳天を押さえて、フランとベルはマーモンを不満そうに見る。

 

〔それは哀しみの語る物語 “恋”と呼ぶ事にまだ躊躇っている

凍てついた夜に 近くなる星は

君が()夢幻(ゆめ)を いつまで視せてくれるだろう・・・・・・〕

 

「琉歌・・・・・・歌の感じ、ちょっと変わりましたよねー」

 

「うん、そうだね。

何というか・・・・・・自分の為に歌っているような感じじゃなくなった」

 

フランの言葉に、マーモンが同意する。

マーモンの言うとおり、琉歌の歌は初めて聞いた時はただ、自分の感情任せに歌にぶつけるような歌だったが、今ではそれとは違って、誰かに届けるような歌い方をしている。

きっと、本人は無意識だろうが、聴いている側からするととても心地好く感じてくる。

 

 




琉稀のプロフィールその3

琉歌の双子の異母兄。
異母兄弟だがどの兄弟よりも仲が良く、また、母親が違うとは思えないほど似ている。
そして、かなりのシスコンでI Love 琉歌。
父親が100年続く有名な役者の家の当主であり、「異性の役まで演じ切ってこその真の役者」を家訓に掲げている為、幼少の頃から女性として過ごすよう教育されている。


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第2話

はい、始まりました、「キャラ崩壊祭り」〜!
あははのはー。
作者が病気、の案件だな、こりゃ。


そんな第2話です。

次の話は2時間後に投稿します←


「琉歌、誰か好きな人でも出来たんですかねー?」

 

不意にフランがそんな事を呟く。

その呟きに、マーモンとベルが反応した。

 

「「えっ!?」」

 

2人の声が重なる。

焦った様な声をスルーして、フランは言った。

 

「いや、ほら、言うじゃないですかー。

「どんな悲観論者(ペシミスト)も恋をして変わる」ーみたいなの?」

 

「歌の受け売りかよ・・・・・・つか、琉歌は人間嫌いだろ?

まず有り得ねぇって・・・・・・なぁ、マーモン?」

 

「何で動揺しながら僕に同意を求めようとするのさ?

知らないよ、僕は。

それより、その話はボスとスクアーロには秘密ね」

 

マーモンが口止めをするようにフランとベルに言う。

すると、2人は神妙に頷いた。

 

「あぁ・・・・・・ボスとスクアーロ・・・・・・特にボスが知ったら絶対、オレ達消される」

 

「ボスもロン毛隊長も、シスコンっぽさが段々と出てきてますからねー。

知られたら厄介ですよ」

 

「うん、今に「お兄さんは」――」

 

「「お兄さんは許しませんっ!!」」

 

ベルとフランの言葉に頷きながら、マーモンが何かを言おうとしたが、その言葉は突然開かれた(ふすま)とその向こうから聞こえてきた2人の声に掻き消された。

出入り口を見れば、XANXUSとスクアーロが物凄い形相で仁王立ちしている。

マーモンは頭を抱えた。

――聞かれてしまったか。

 

シスコンと化してしまったスクアーロの手には、コンビニ袋が下げられており、微かに珈琲と紅茶とコーヒーゼリーが透けて見えていた。

琉歌のリクエストだけでなく、琉歌が好きだと言っていた紅茶まで買っている辺り、スクアーロは真性のシスコンだろう。

 

「何でボスとスクが居んの?

仕事だったんだろ?」

 

突然の2人の登場に呆気に取られていたベルは我に返ると、2人に訊く。

すると、スクアーロが答えた。

 

「あぁ、俺が着いた頃にはボスが全部終わらせてやがったからなぁ。

トンボ返りだぜぇ」

 

「ふん、あんなのお前を呼ぶまでもねぇ」

 

辟易した様子で語るスクアーロに、XANXUSは鼻を鳴らして言った。

そして、「ところで」と、XANXUSの紅玉の眼がマーモン、フラン、ベルに向く。

3人は肩をビクッ!と揺らし、背中に冷や汗をダラダラと流す。

久々に浴びたXANXUSとスクアーロの殺気。

こっちの生活に馴染んでも、殺し屋としての能力は衰えてない訳だ。 流石、ボスとNo.2。 恐ろしすぎる・・・・・・。

 

「琉歌に好きな奴ができた、だと?

一体、何処の馬の骨だ。 消し炭にしてやらぁ・・・・・・」

 

背後に鬼神を出現させ、指の骨をボキボキと鳴らす、XANXUS。

そのオーラはドス黒く、何故か見えてしまう不思議現象が起こった。

あまりの剣幕に縮こまり、畏縮してしまった3人。

「まぁ、待てよ」とスクアーロがXANXUSの肩を叩く。

 

フラン、ベル、マーモンはホッと安堵の息を吐いた。

救世主だ――!

しかし、そんな事を思ったのも束の間。

それは、打ち砕かれるのだ。

 

「俺に卸させろぉ。

綺麗に三枚おろしにしてやらぁ」

 

獰猛な笑みを浮かべて、スクアーロが言った。 今にも包丁を持って来そうな勢いである。

三人は悟った。

ここにまともなヴァリアーは存在しねぇ、と。

元より異常な集団ではあったが、ここまで酷い集団だったとは。

 

「なぁ、マーモン。

俺、元の世界に戻れたらさ・・・・・・真っ当に生きようと思うんだ」

 

「死亡フラグ乙だね」

 

「ていうか、センパイが真っ当な人間になれるワケないじゃないですかー。

兄貴をゴキブリと見間違える時点で脳味噌イカれてるんで。

まぁ、良くてボンゴレに異動ですかねー」

 

XANXUSとスクアーロの壊れっぷりにベルが現実逃避を始めると、マーモンは溜息をつき、フランは正論を言い出す。

 

「で、一体、何処の馬の骨なんだぁ、そいつはぁ!?」

 

「言わねぇと、世界中の男全てカッ消す!」

 

「何かボスが無茶振り言ってきたーっ!?」

 

スクアーロとXANXUSの剣幕にベルは思わず叫んだ。

 

「あぁ、もう! うるっさい!」

 

そこで、救世主が現れた。

その救世主は颯爽と現れるなり、その場にいる全員の頭を丸めたノートで引っ叩く。

スパパパーン!と良い音が響いた。

 

「隣でピーキャーピーキャー発情期ですか、このヤロー。

XANスク、XANベル、ベルマモベル、ベルフラ、マモフラは俺得でありがたいけど、今は有難迷惑だわ、ダァホ!

隣で騒いだら、収録中なのにあんたらの声まで入るでしょうが!

折角良い感じでレコーディングできてたのに、また撮り直しじゃない!」

 

鬼の形相でベル達の部屋の前に仁王立ちをして捲し立てるが、琉歌の言っている事の前半が良く分からない、XANXUS、スクアーロ、マーモン、ベル、フラン。

琉歌はベル達の部屋に入って、XANXUSに詰め寄る。

 

「そもそも、何を騒いでるのさ? 物騒な言葉並べ立てて?」

 

眉根を寄せて詰め寄ってくる琉歌に、XANXUSは目をそらす。

しかし、それを逃す琉歌ではない。

琉歌は、その目を追って、目を合わせてきた。

怖い。 怒気を含んだ吸い込まれそうな薄茶色の瞳は、何気にある種のジャパニーズホラー的な怖さを孕んでいた。

XANXUSは言葉を詰まらせる。

 

「琉歌に好きな人が居るのか、って話だよ。

それを聞いたボスとスクアーロがシスコン発動させて、暴走してたのさ」

 

軈てマーモンが沈黙を破ると、琉歌はポカンと口を開けて呆気に取られた。

開いた口が塞がらない。

 

「・・・・・・は?

スキナヒト? 誰の?」

 

「琉歌の、好きな人」

 

「何でそんな話になったのさ?」

 

キョトンとした表情でマーモンを見て鸚鵡(おうむ)返しすれば、マーモンが短く答えた。

琉歌の言葉に、ベルが説明する。

 

「いや、マーモンが、琉歌の歌の感じが変わったって言ったらフランが、琉歌に好きな人でもできたんじゃないか、って・・・・・・違うの?」

 

「好きな・・・・・・ひと・・・・・・?」

 

琉歌は考えた。

“好きな人”と訊かれたら、沢山居る。

フランも好きだし、ベルも好き、マーモンもXANXUSもスクアーロも好きだし・・・・・・あぁ、リヴ●イ兵長も好きだし、ユ●リも好き、レイ●ンも好き・・・・・・と、上げていくとキリがない。

しかし、彼らが訊きたいのはそういう意味ではないだろう。

 

つまり、異性として意識している人間が居るのか、という事で・・・・・・。

琉歌はスッパリと答えた。

 

「私に好きな人? 居る筈がない。

私の人間嫌いを知ってるでしょ?」

 

明らかな不快の視線を五人に向ける、琉歌。

まぁ、ですよねー、とフランとベル、マーモンは納得した。

琉歌の言葉を聞いても、XANXUSとスクアーロは腑に落ちていない様子だ。

 

「本当か?」

 

「本当だよ」

 

「お前みたいな可愛い奴、放っておく奴は居るのか?」

 

「いやいや、社交辞令(リップサービス)やめて。

寧ろ、放って行く奴しかいないから」

 

XANXUSとスクアーロの質問に答えて行く、琉歌。

何でこんなにこいつらはシスコン拗らせてんの?

シスコンなのは、琉稀だけで十分だから。

琉歌はそんなことを思った。

 

「兎に角、有りもしない話で馬鹿騒ぎはやめてよね」

 

それだけを言うと、琉歌は自室へ戻って行った。

 

 

部屋に戻ると、琉歌はその場にへたり込んだ。

動悸がする。

私に好きな人って何さ? いやいや、ありえないから!?

琉歌は落ち着く為に机の上の紅茶に手を伸ばす。

 

「あー、もう、バッカみたい」

 

紅茶を口に含んで落ち着いた琉歌は、デスクトップの前に座る。

何となく、身体中が火が着いたように暑く感じるのはきっと、窓を閉め切っている所為だろう。

琉歌は窓へ手を伸ばして、鍵を開けると取っ手を引いた。

生暖かい夜風が部屋に流れ込んでくる。

 

好きな人ができたから、歌の感じが変わった?

琉歌は、先程録った歌を流してみる。

特に上手くもないが特徴的な歌声がPCから聞こえてきた。

 

《それは哀しみの語る物語 “恋”と呼ぶ事にまだ躊躇っている》

 

『マーモンが、琉歌の歌の感じが変わったって言ったらフランが、琉歌に好きな人でもできたんじゃないか、って・・・・・・』

 

琉歌は、ベルの言った言葉を思い出す。

別に好きな人ができたワケじゃない。

そもそも、自分はもう、決めた筈じゃないか。

“二度と恋はしない”──と。

男に弄ばれるくらいなら、一人で居る方が楽だ。

それに自分は──。

 

──コンコン。

 

思考の波に飲まれていた琉歌は、不意に聞こえたノックの音に意識を引き上げられた。

 

「はい?」

 

「琉歌ちゃん、ご飯よぉ〜」

 

「あ、はーい、今行くー」

 

ルッスーリアに呼ばれて、琉歌は考える事を放棄した。

それよりも、ルッス姐さんのご飯だ、うん。




琉稀から見た琉歌

可愛い! 天使! マジ天使!!
結婚しよ!!


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第3話

はい、投稿しゅーりょーう!

遂に、奴が動き出す!!

そんな第3話です。


「それじゃあ琉歌。

僕はちょっと先生に呼ばれてるから、先に帰ってて」

 

「うん、解った」

 

次の日の放課後。琉歌はマーモンと職員室前で別れた。

マーモンは琉歌が頷くのを確認すると、職員室に入っていき、それを見送った琉歌は職員室前の下駄箱から自分の靴を取り出して、その場に落とす。

 

靴を履いて歩き出したタイミングで職員室から誰かが出てきた。

耳を劈く様な喧しい声は、水田のモノだ。

甲高い金切り声で笑っている。

 

「今日の安藤さん、髪型見た?

あれ、座敷わらしだったよねぇ~! ないわぁ~!」

 

琉歌は、聞こえてきた会話の内容に目眩のする様な怒りを覚えた。

『可愛い琉歌がもっと可愛くなる様な髪型にしてあげるよ』と、琉稀に切ってもらった髪。

それを貶されたとなっては黙っていられない。

しかし、琉歌は彼女に食ってかかる事をグッと堪えた。

 

怒りでヒートアップしている今、彼女に食ってかかるならきっと、まず出てくるのは罵詈雑言だ。

それも、理路整然と並べる正論ではなく、感情をぶちまけるだけの汚い雑言。

それをぶち撒けてしまえば、悪者になるのはこっちだ。

理性で感情を無理やり抑える。

 

怒りで震えてその場から動けないでいると、不意に誰かに腕を引っ張られた。

そのまま、琉歌は引きずられる様に学校から出て行く。

 

「ベル!」

 

琉歌の腕を引いていたのは、ベルだった。

 

 

駅の裏側に着くと、琉歌とベルは走って息の上がった呼吸を整える。

ベルがまず、琉歌に話しかける。

 

「大丈夫か?」

 

「なん・・・・・・で・・・・・・」

 

全速で走った琉歌は、途切れ途切れに問う。

息を大きく吸ってゆっくりと息を吐くと、琉歌はベルを睨みあげた。

その目は氷よりも冷たく、鋭利な刃よりも鋭い。

しかし、その瑪瑙(めのう)の瞳には拒絶の色は感じられず、寧ろ寂しさと悲哀の色を──孤独感さえ──孕んでいるようだった。

 

「学校では関わるなと何度言えば・・・・・・」

 

「その事なんだけどさ」

 

琉歌の言葉をベルが遮る。

ベルは続けた。

 

「もう、やめにしない?

俺、そう言う器用な事は出来ないんだよね。

学校では他人のフリして家じゃ仲良しって」

 

「じゃあ、家でも学校でも他人のフリしてれば良いでしょう」

 

「そう言う事じゃなくて」

 

「私は構いません。

別に誰がどう関わってこようが、私には然程(さほど)関係のない事ですし」

 

「だからさぁ!」

 

突き放すような琉歌の言葉に、ベルは歯痒さと苛立ちを感じる。

何を言っても琉歌には届かない。

その苛立ちから、ベルは衝動的に琉歌の背後の壁を殴り付ける様に手をついた。

琉歌は依然と無表情でベルを見上げている。

 

「そうやって壁作るの、やめてくんない?

最初の頃、俺言わなかったっけ? お前と関わらない選択肢はねぇって。

俺は琉歌と・・・・・・一緒に居たいんだって・・・・・・」

 

最後の方は声が小さく、よくは聞こえなかったが、何となくベルの言いたい事が琉歌には解った。

何で、マーモンにしろ彼にしろ、こうして自分と進んで関わろうとしてくるのだろうか。

 

普通の人間ならば、自分が孤独(ひとり)になりたくないが為に、朱に染まれない人間を省いて長いものに巻かれるモノではないのだろうか。

孤独(ひとり)を恐れるから、長いものに巻かれる。

それが人間の心理なのでは?

ならば何故、彼らは省かれると知りながら自分と関わってこようとする?

 

琉歌はベルやマーモンの行動の意味が理解できない。

 

「――」

 

琉歌は、何かを言わなきゃと、言葉を必死に探す。

しかし、この場面で琉歌が言えるような適切な言葉が見つからない。

ただ、口を開けたり閉じたり、何か、何でも良いので何かを伝えようとするモーションをする事が精一杯だ。

 

琉歌が何かを言う前に、琉歌の体は程よく硬い腕に抱きすくめられた。

現状を理解できず、琉歌は眼を見開く。

そんな琉歌の耳元に、ベルの低い声が聞こえた。

 

「どう言っていいかとか、こんな事初めてだからよく解んないんだけどさ・・・・・・。

俺、琉歌が好きなんだよ。 だから、壁とか作られるとすげぇ・・・・・・辛くなる。

だからもう、壁作るのやめようぜ?

俺は別に、琉歌と居られるなら誰とも仲良くならなくて良いよ」

 

「ベ、ル・・・・・・」

 

ベルの突然の告白に、琉歌は頭が真っ白になり、何も考えられなくなった。

ただ、ベルの言った言葉が頭の中で乱反射して、ベルの名前を呟くのが精一杯だ。

 

身体中が熱く感じるのはきっと、この鬱陶しい夏の暑さの所為だ。

ベルは依然と琉歌の肩に顔を埋めている為、彼の顔を見ることができない。

しかし、伝わってくる体温が熱いので、恐らく彼の顔も真っ赤なのだろう。 ドクドクと速い彼の鼓動が伝わってくる。

琉歌は困惑した。

 

こんな事は初めてで、正直反応に困る。

彼の事は嫌いではない。

しかし、彼の言う「好き」と言うのとはちょっと違う気がする。

そもそも、彼の言ったことは本当に「好き」なのだろうか?

何かを聞き間違えたんじゃないのか。 それか、社交辞令というものか。

 

「わた、しは・・・・・・」

 

それ以上の言葉が見つからない。

 

こんなの、嘘だ。 有り得ない。

そうだ、きっと都合の良い夢でも見ているんだ。

じゃなきゃ放課後に金髪碧眼のイケメンが自分に告白してくるワケないじゃないか。

 

それか、ドッキリだ。

きっと、この後でフランとか竹内美香とかが陰から出てきて「実はドッキリでしたー」「あんたにベルが告白するわけないでしょー」的な虐めでも展開されるのだろうか。

 

そんなことをついつい考えてしまう。

生まれてこの方、他人から好意を寄せられたことがない。

寧ろ、蔑まれてきた。

挙げ句の果てに義理の父親からは「お前を好くような人間は居ない」とまで言われる始末。

その為か、こうして告白されてもその想いを信じることができないのだ。

 

不意にベルの体が離れて、ベルは琉歌の顔を覗き込んできた。

その蒼穹のような碧眼が自分を射抜いてくる。 ただ、真っ直ぐに自分だけを映している青碧の瞳。

それはとても綺麗な宝石の様で、研ぎ澄まされた刃の様でもあった。

その瞳は、タネも仕掛けもないのだと、偽りの心などないのだと真剣に訴えかけていた。

 

「ごめん、ベル・・・・・・」

 

漸く出てきた言葉は、それだった。

琉歌は、考えながら喋る。

 

「私は今まで・・・・・・他人に悪意しか向けられたことがない。

だから・・・・・・ベルのその言葉の意味を裏返しでしか受け取れなくて・・・・・・。

今までだって、マーモンやスクに「ベル達を信じろ」とか言われてたけど・・・・・・。

でも、私は第三者の言う言葉ほど信じられなくて・・・・・・」

 

ゆっくりと、頭の中で文を作成しながら琉歌は話す。

何を言いたいのか、何を伝えたいのかなんてもう、解らない。

ただ、壊れた様に出てくる言葉をそのまま紡いでいく。

 

「本人にどう言われても、「それは社交辞令なんじゃないのか」としか思えなくて・・・・・・。

ただ、他人を信用する事が怖くて、何を信じたら良いのか解らなくて、気が付いたら何も信じられなくなってた」

 

「今でも、か?」

 

ベルの問いに数拍置いて、琉歌は小さく頷く。

ベルはなんとも言えない気持ちになった。

琉歌が気難しいのは何となく解っていた。 だけど、これはそんな問題じゃない。

 

目に見えない鎖が琉歌を縛り付けて、苦しめている。 そんな感じだ。

暫くの沈黙の後、ベルは琉歌の頭に手をポン、と乗せてクシャっと撫でた。

 

「直ぐに信用しようとしなくて良いよ。 でも、さっき言ったことはホント。

だけど、琉歌の気が済むまで疑って悩んで、暗中模索すれば良いんじゃね?

琉歌が信じてくれるまで、さっきの告白の返事は要らないからさ」

 

言ったベルの目はチカチカと頼りなく夜道を照らす街灯の光の加減の所為か、とても淡く儚げに見えた。

琉歌はそれに、頷くことしかできない。

その後、ベルと琉歌は二人で一緒に帰路に着いたのだった。




琉歌から見た琉稀

いや、あの、とりま〜眼科逝ったら?
あー、それとも、脳外科?


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第4話

お待たせしました〜!
今回は何と!
フランがちょっとキャラ崩壊します←
何だろうなー。
フランって漫画とか読ませたりゲームとかさせるとどっぷりと嵌っていきそうなキャラだなーと勝手に思っている今日この頃w
まぁ、一人ぐらいオタクになってもいいよね、うん!

そんな、第4話です。

次の話は1時間後に更新します。


ベルからの告白から2日が過ぎた。 今でも信じられない。

琉歌は部屋に置いてある鏡で自分の顔を見てみた。

決して色白とは言わないが、地黒とも呼べない黄色肌(イエローモンキャー)の顔に、色素の薄い髪と目。

決して高くはない鼻に、堀の浅い平たい醤油顔。

そして、東洋人特有の童顔。

 

昔、誰か有名な人間が言った。

有名人が言っていなくても、きっと誰かが言ったであろう。

“日本人は若返りの秘薬を飲んでいる”。

そう言われてもおかしくない程、童顔の多い人種。 それが、日本人(ジャッポネーゼ)

 

鏡の中の自分の顔は、誰がどう見ても平たい醤油顔の日本人(イエローモンキャー)だ。

とてもモテそうにない顔をしている。

目つきが悪くて、やる気のないメランコリックな顔。

 

「・・・・・・これの何処に惚れる要素があるんだか?」

 

琉歌は首を捻る。

おそらく、ベルの目には“美少女フィルター”か何か掛かっているのだろうか。

それか、ベルの頭の中で120%美化されているのか。

 

そうとしか思えない。

でなきゃこんな、凶悪顔の自分に惚れる筈がないじゃないか。

しかも、あちらさんは彫りが深くて鼻筋通ってて、金髪碧眼の色白な外人さん。

どう見ても不釣り合いである。

 

──コンコンッ。

うーん、と首を捻らせている琉歌の耳に、不意にノックが聞こえてきた。

琉歌は鏡を仕舞うとシャーペンを取って机に広げたノートに宛行い、「どうぞー」と襖に声を掛ける。

スッ、と襖が開いて、フランが部屋に入ってきた。

 

「どうした?

もう進●の巨人読み終わったん?

次、何が読みた──」

 

「琉歌、話があるんですがー」

 

琉歌の言葉は遮られ、琉歌はフランをキョトンとした目で見た。

 

「え・・・・・・あ・・・・・・はい」

 

その翡翠の双眼はいつになく真剣な色をしていて、琉歌は何も言えずにフランの言葉に頷いた。

 

* * *

太陽が傾いて、もうすぐで夕方になろうかと言う時間。

琉歌とフランは蒼星川の河川敷に来ていた。

欠けた白い月が少し早く顔を出している。

 

対岸のマウントでは少年野球団が元気よく終わりの挨拶をしている声が聞こえた。

河川敷でバーベキューを楽しんでいた家族やカップルなどがチラホラと帰って行っている光景を眺める。

 

何故、こんな所に居るのかと言えば、先ほどフランが部屋に来た所まで遡る。

あの後、フランは「ここじゃ何なので、準備ができたら蒼星川のいつもの場所に来てくださーい」と言って、先に出て行ってしまった。

 

なので、ここでフランを待って居るのだが・・・・・・。

おかしい。

フランの方が先に出て行った筈なのに、琉歌の方が先に着いてしまったではないか。

琉歌は腰掛け岩に小さいレジャーシートを敷くとその上に座って、夕日を反射してキラキラと黄金に輝く水面を見つめる。 綺麗な色だ。

 

「知・・・・・・らない 、知らない・・・・・・ 僕は何も知らない。

叱ら・・・・・・れた後の優・・・・・・しさも・・・・・・ 雨上・・・・・・がりの・・・・・・手の温もりも・・・・・・。

でも、本当は、本当は、本当に、寒いんだ・・・・・・」

 

気が付くと、ポツリ、ポツリと呟くように歌っている。

人混みから離れている川岸で歌うのは何ともない。 喧騒の中に琉歌の声は届かないから。

琉歌は小さな声で呟く様に続けた。

 

「吐き出す様な暴力と 蔑んだ目の毎日に

君はいつしか そこに立ってた

話し掛けちゃダメなのに 「君の名前が知りたいな」

ごめんね、名前も 舌もないんだ」

 

今の心境を吐き出す様な歌声。

しかし、琉歌の歌を聴いてもその時の琉歌の感情を知る者は居ない。

両親でさえ、「多分、その歌が好きなのだろう」と言う認識でしか見ていない。

 

「僕の居場所は何処にもないのに 「一緒に帰ろう」

手を引かれてさ」

 

いつの間にか琉歌は、呟く様な声から普通の大きさの声で歌っていた。

感情が入ってくると声の制御ができないのは、琉歌がその歌を無意識に歌っている為だ。

 

「知らない 知らない 僕は何も知らない

君はもう子供じゃない事も 慣れない他人(ヒト)の手の温もりは

ただ本当に本当に本当の事なんだ

やめない やめない 君は何でやめない?

見つかれば殺されちゃうクセに 雨上がりに忌み子が二人

夕焼けの中に吸い込まれて消えてった」

 

「やっぱり、生歌は最高ですねー」

 

「フッ、フランっ!

い、いつからそこに居て・・・・・・てか、遅いよ!

一体、どう言う道を通ったらこんなに遅くなるんだ?」

 

歌い終わったタイミングで突然後ろから声が掛けられ、琉歌は慌てて振り返る。

その後ろには、フランが澄まし顔で立っていた。

琉歌は顔を真っ赤にして、フランに捲し立てる。

フランは至って涼しげな顔で言った。

 

「琉歌が歌い始めた辺りからですよー?

あまりに楽しそうに歌っていたもんですから、こそっと見守る事に徹していましたー」

 

「見守らなくていいッ! 来たんなら話し掛けてよ、怖いなぁ、まったく」

 

「そんなに怒らないでくださいよー?

話が長くなるだろうと思ってミー、態々(わざわざ)コンビニ通って遠回りして来たんですからー」

 

文句を言う琉歌の手を取ってその手に午前の紅茶を手渡す、フラン。

だから遅くなったのか、と納得した琉歌は、そっぽを向いて礼を言う。

 

「あ、ありがと・・・・・・」

 

小声で呟かれたお礼は、フランの耳にちゃんと届いていた。

 

「で、話って何?

家に居たらできない話だから呼んだんでしょ?」

 

「はいー。

こんな事、家で言ったらボスとかアホのシスコン隊長に殺されますからねー。

人生終了の悲報(The end of ミー)ですよー」

 

「なんか言った?」

 

琉歌の問いに頷いたフランの後半の呟きは琉歌の耳には届かなかった様で、琉歌は小首を傾げて問い掛ける。

するとフランは「いいえー」と首を振った。

 

「琉歌ー」

 

「うわっ、フラン・・・・・・?」

 

フランは琉歌の隣に腰を下ろすと、琉歌の頭を胸に抱き寄せた。

突然の事に頭が停止する、琉歌。

何これ?どう言う状況? 私の身に一体ナニガオコッタノ?

 

「本当、琉歌って小さいですよねー」

 

「え・・・・・・?と?」

 

「凄く小柄で、少し力を入れただけで壊れそうですー」

 

「ちょっと、なに言って・・・・・・っ!?」

 

戸惑う琉歌を他所に、フランは琉歌の言葉を遮る様に琉歌の腰に手を回して、しっかりと抱き寄せた。

 

同じ年代の少女とは思えないくらい小柄だ。

手を回している腰だって、少し力加減を誤ったくらいでもすぐに折れそうな程細い。

琉歌の小ささは実際に触れてみないと解らない。 それほど、虚像の方が大きいのだ。

 

「こんな小さな体で、一体何を背負ってるんです?

琉歌、アンタのその傷だらけの心は、ミーには癒せませんか?」

 

「・・・・・・っ」

 

琉歌は、何も言わない。

その間にも、フランの抱き締める腕に力が入ってきて、少し苦しい。

 

正直、ズルイ。

普段はやる気なくて何考えてるか解らなくて、チャランポランな毒舌蛙のクセに。

不覚にも少しだけ、ときめいてしまった自分を殴りたい。

 

ほら、いつもの気だるげな調子で「冗談ですよー」と言って、離してよ。 そんな真剣な顔しないで。

真剣な目で見ないで。

 

それを願うもそれは届かず、琉歌はフランから顔を背けた。

 

「フラン・・・・・・離して。

そう言う偽善じみた言葉なんか、聞きたくない。 放っておいて」

 

冷たく、突き放すような言葉。 フランは息を飲む。

しかし、フランは琉歌を離さなかった。

 

「嫌です。

琉歌が人間不信からミー達の言葉を信じられないのは知ってます。

でも、ミーは琉歌が・・・・・・っ」

 

フランは言葉を止めた。

おそらく、ここでこれ以上の言葉を紡いでも、琉歌には届かない。

だから──。

フランは、琉歌の肩を押して、真っ直ぐに琉歌を見た。

 

「だから、ミーは琉歌がミーの事を信じてくれるまで、何度も琉歌に手を伸ばしますからー。

琉歌が辛い時だけでも良いので、ミーに凭れ掛かってきてくださいよ。

琉歌の事くらい、ちゃんと支えますからー」

 

ふわり、とフランは淡い笑みを浮かべて言った。

初めて見たフランの表情に、琉歌は不覚にも見入ってしまう。

 

何で自分にそんな表情を向けるのか。

琉歌は反応に困る。

 

一体これはどう言う事?

一昨日はベルに告白されて、今日はフランにまで。

一体、どう言う状況?

これ、どうすれば良いの?

 

ぐるぐる考えるが、答えなんて出てくる筈もなく。

経験値がないから、どう言う反応をすればいいのか解らない。

 

琉歌は暫く、フランと共に紫がかっていく景色を無言で眺めた。

対岸の向こうに微かに見える民家が次第に灯を灯し始めていた。




@現在、解っていること

フラン→琉歌←ベルの構図が出来上がってしまっている。
しかし、琉歌はフラグクラッシャー。
フラグ? バッキバーキにしーてやんよー♪
そんなので良いのか、ヒロインよ←


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第5話

お疲れ〜! 今日はこれで更新終わり!
今日はベルとフランと琉歌の学校でのOne dayを見ていきたいと思います!w
フランキャラ崩壊注意。

そして、このネタが解る人は果たして居るのだろうか・・・・・・←
多分、紅と同じ年代でギリギリ解るかな?
あぁ、年代がバレたな←

そんな第5話です。
今回はおまけ小説あります。


「──君ら、何してるのさ?」

 

夕方の補食室。

琉歌は今、補食室に来たクラゲとカエルにスライディング土下座されている。

二人の手には、今日の授業で提出しなければならないプリントとノートが抱えられていた。

 

「見ての通りですー。

昨日、やろうやろうと思ってたんですが、思いの外ヴェ●ペリアを進めてしまいましてー。

気がついたら寝落ちしてたんですよー」

 

「うん、フランに関しては今月の電気代は多く徴収させてもらうよ。

で、ベルの方はどうしたのさ?

珍しいじゃん、君が課題やり忘れるなんて」

 

「あぁ・・・・・・どっかのボケガエルが隣でピコピコしてたらさ?

気が散って課題が進まなかったとか、よくあるじゃん?」

 

「ミーのせいですかー」

 

「お前のせいだろ、どう見ても!」

 

「ゲロッ!!」

 

琉歌の尋問に答えるクラゲとカエル──又の名をベルとフランの背には、冷や汗が流れていた。

きっとこの汗は、暑さのせいで出ているモノだ、うん。

二人はそう言い聞かせる。

 

朝から寝不足だったらしい琉歌の機嫌は、今しがた二人に起こされたことにより最悪MAXだった。

琉歌の目付きがいつも以上に凶悪だ。 軽く100は殺ってそうである。

 

「暑苦しいから喧嘩しない!

んで、フランに関してはテスト終了までゲームは没収!

君達、テスト期間に遊んでると進級できなくなるよ。

特に期末は大切なんだから、一教科たりと落とせないんだよ?

勿論提出物も単位に含まれるから、ちゃんと出さないとその分引かれるし。

君らだけ来年ダブってもいいの?

定時制の在籍年数何年だと思ってんの?

4年だよ? あと3年もあるよ?

それが、ダブったらばまた3年いないといけなくなるよ?

5年も在籍してられる?」

 

機嫌が悪いせいなのか、いつもより饒舌に小言を言ってくる。

琉歌は、コーラを一気に飲み干すと「はぁーっ」と息を吐いた。

 

「まぁ、良いや。

時間の無駄だからとりま、歴史から始めるよ。

ほら、そこ適当に座って」

 

「ありがとうございますー」

 

この時ばかりはフランもベルも、琉歌を救世主だと思った。

 

* * *

「つか、何で二人とも課題が解らないんだ?

特にベル。 君天才じゃなかったっけ?」

 

二人に課題を教えている時、琉歌はふと疑問に思った。

そう言えばこいつら、腐っても独立暗殺部隊の幹部じゃねぇか。

それなのに勉強ができないってどう言うこと?

 

そんな琉歌の疑問にフランが答える。

 

「何か、ミー達の居た世界とここの世界とじゃ全く歴史が違うんですよー。

まず、あっちの世界にこの【切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)事件】なんてありませんでしたしー。

リンカーンも存在しなかったんですよー。

だから解らないことだらけなんですよー、この世界」

 

「なるほど、合点がいった。

それなのに、ロクに勉強せず(あまつさ)えゲームで時間を無駄に過ごして、挙句が寝落ちか。

良い度胸だ。この野郎」

 

琉歌は、フランの頬をシャーペンで突っつく。

それもそうだ。 つまりフランは致命的なハンデがあるにも拘らず遊んでいたのだ。

アホとしか言いようがない。

 

「いだっ、いだだっ!

だから、すみませんってー。

ミーも不本意だったんですよー。

まさかあそこで、エス●ルがパワーアップして襲ってくるなんて思わないじゃないですかー。

しかも、セーブできないしー。

アレ●セイ倒すの、本当に苦労したんですよー」

 

「お前は何中盤までちゃっかり行ってんだよ。

この間始めたばかりだったろーが、コラ」

 

「琉歌、1902年にイギリスと日本が結んだ同盟って日英同盟で合ってる?」

 

「正解。

これは、1902(日暮れに)日英同盟で覚えると良いよ」

 

フランを締めながら、琉歌はベルの質問に答える。

 

「じゃあ、その時に結ばれた不平等な条例を二つ答えよ」

 

「えーっと・・・・・・【治外法権を認める】、【関税自主権がない】・・・・・・だっけ?」

 

「そっ。

記憶力いいねー、流石王子だわ」

 

「しししっ、当然だろ?

だって俺、王子だもん」

 

「そのセリフ、すっげぇ久しぶりに聞いたよ。

やっぱり生声は違うねー」

 

「ちぇっ、堕王子の間違いですよー」

 

ベルと琉歌が和気藹々と話している横で、フランは腐っていた。

どうやら、ベルと琉歌が仲睦まじく話しているのは面白くないらしい。

 

「何、フラン嫉妬? カエルのクセに?

男の嫉妬は見苦しいぜ?」

 

「違いますー。

ミーがその気になれば琉歌くらい落とせますしー?

だから、堕王子に嫉妬する理由はないですねー」

 

「うわ、それどう言う意味だコラ。 見くびってると取っていいよね?」

 

「冗談ですよー、冗談ー。

だから、首締めないでくださ・・・・・・い・・・・・・」

 

「しししっ、バカじゃねーの、カエル?」

 

フランの首に腕を回して首を絞める琉歌を見て、ベルはフランを笑った。

 

「んで、君は何処まで進んだのかなー? フ・ラ・ン?」

 

フランの首をキメながら、琉歌はフランのノートを覗き込む。

ノートには、今ベルに説明した内容が書かれていた。

どうやらちゃんと聞いていたようである。

 

「なぁんだ、ちゃんと話聞いてんじゃん。

良かった良かった。

これで何も書いてなかったらどうしてくれようかと思ったよ」

 

「どうしてたんですかー?」

 

「とりま、家に帰ってリアル太鼓の●人。 フランが勿論太鼓」

 

「この人鬼畜すぎますー」

 

琉歌は「ふはっ」と空笑いをした。

何を今更。 寧ろ褒め言葉だ。

 

琉歌とベル、フランはもうすぐで授業が始まる為、教室に移動した。

 

* * *

三人で教室に入れば、既に授業が始まっていた。

社会の教師がハゲ散らかした前髪を光らせながら、苦笑して三人に言う。

 

「三人して、何で遅くなったんですか?

確か、ベル君とフラン君に関しては早い時間から来てましたよね?」

 

「三人で社会ボイコット計画立ててましたー」

 

フランの回答に教師は苦笑する。

琉歌は先にさっさと一人、いつもの定位置──廊下側の一番後ろの席に座った。

 

「おはよ、安藤さん」

 

「おはようございました」

 

席に着けばいつもの調子で本田が話しかけてくる。

琉歌は当たり障りなく返すと、鞄から教科書とノートと筆箱を取り出していつものように教科書の要点だけをノートに纏める。

 

「今日は遅かったんだね?」

 

「まぁ、私にも事情というものはありますから」

 

本田が話を振ってくるが、琉歌は詳しいことは言わない。

大体いつもこんな調子である。

 

「お前も飽きねーな?

毎日話振ってるけど、つまんなくねぇの?」

 

本田の隣に座ったベルが肩を竦めていう。

普通、会話を強制終了されると次からは話したくなくなるものではないのだろうか。

本田は微笑んで言った。

 

「だって、安藤さんの方が話が合いそうだから。

それに、二次元が好きな人に悪い人は居ないからね」

 

「はい、君たちはちょっと私語多いですよ」

 

「は〜い、すみません」

 

本田が喋っていると、教師が注意して来た。

本田はすぐ様謝る。

 

琉歌はノートを纏め終わったらしく、小さく寝息を立てて睡眠学習をしていた。

 

* * *

1時間目、2時間目が終わって補食室に行くと、琉歌とベル、フラン以外はまだ誰も居なかった。

強いて言えば養護教諭の鈴原先生が居るだけだ。

鈴原先生は三人の姿を認めると、上品な老婦人の様な笑みを作る。

 

「あら、三人とも早いですね。

パンならそこのテーブルにあるので、勝手に取って行ってください」

 

「こんばんはー。

今日の飲み物は何です?」

 

「今日はオニオンポタージュにしてみたわ。

はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

琉歌は、鈴原先生がカップに(よそ)った真っ白なポタージュを受け取る。

それに続いて、フランとベルがそれを受け取った。

 

「新しく発売されてたから買ったのですが、如何ですか?」

 

白い液体を見つめる琉歌に、鈴原先生は伺いを立てる。

琉歌はカップに口を付けた。

ツーンと酸っぱい匂いが鼻を取り抜ける。

 

オニオンポタージュと言ってたからな。 匂いはこんなものだろう。

知らない、知らない、僕は何も知らない。

匂いの時点で体が白い液体を体内に取り込むのを嫌がっていることは。

 

琉歌は、意を決してそれを口に含んだ。

 

「──っ!!」

 

──マズっ!!

鳥肌がゾワゾワと全身を駆け巡った。

何これ!! クッソまずい!! 超まずい!!

それが、琉歌の感想だった。

 

口の中にこの世のものと思えない酸味が広がり、一緒に入れられていた味噌の様な物と一緒に絶望のハーモニーを奏でている。

まるで、腐ったヨーグルトの様な酷い味だ。

この世にこれとド●ターペッパーしかないのなら、迷わず絶食して死ぬ覚悟を決めるだろう。

そのレベルで飲めたモンじゃない。

 

──しかし。

琉歌は白い液体を見詰める。 次に飲むのを躊躇う味だ。

脳味噌が必死で赤信号を点滅させ、警鐘まで鳴らしている。

“あっかーん! これは飲んだら死んでまう! あっかーーんん!!”と。

必死に飲むことを拒む。 飲むな、危険!と、身体中の筋肉に指令を下す。

 

だがしかし。 琉歌は“出された物はポイズンクッキングだろうが責任を持って食え”と教育されているため、これを飲まないわけにはいかない。

 

琉歌は意を決した。

意を決して──飲んだ。 一気飲みだ。

 

「はぁ・・・・・・。

あまりの美味しさに、脳漿(のうしょう)を揺さぶられ昇天するところでした。

ご馳走様」

 

琉歌は、カップを台所で洗うと、補食室を後にした。

 

──その後、琉歌の行方を知る者は誰も居なかった。




@その後

「琉歌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?」

補食室に行く途中の廊下で、頽れている琉歌を発見したマーモンは珍しく取り乱したとか、そうでないとか・・・・・・。

「あぁ・・・・・・マーモン・・・・・・。
見てー、向こうに美味しそうな水が流れてる川があるよ・・・・・・」

「それ絶対飲んじゃダメなヤツだよ!?」

「あー・・・・・・死んだ筈のじっちゃんが手ェ振ってるー・・・・・・。
会ったことないけど・・・・・・ははー・・・・・・。
じっちゃんが呼んでるー・・・・・・」

「戻っておいで、琉歌あぁぁぁあ! 行っちゃダメだー!」

瀕死の琉歌とマーモンのそんな会話が廊下の隅で展開されていたらしい・・・・・・。


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第8章「君が為」
第1話



お久し振りです。
いやぁ……本当に長い事放置してしまい、すみません。
何と言いますか、ネタが浮かんでこなかったのもあるんですが、現在、別の小説投稿サイトのイベントで小説を書いていまして。
その期限が来月までなんでここに来る暇がありませんでした、と。

その割に何か新しい小説書いてるけど、そこは言ってはダメなお約束。

さて、第8章第一話です。


「うぅ・・・・・・まだ口の中に味が残ってる・・・・・・」

 

放課後。

琉歌は、フランとベルとマーモンと一緒に駅前のコンビニに立ち寄って、口直しの飲み物を買って駅のホームで屯って話していた。

 

琉歌は紅茶を一気に飲んで死んだ目をしている。

 

「そんなに不味かったの? そのポタージュ」

 

「この世の(不味いもの)全てをそこに置いてきた!とでも言いたげな不味さだったよ。

あれ、ゲロマズ王にでもなれるよ。 てか、ギネス申請してこい、な不味さだったよ」

 

マーモンの問いに琉歌が答える。

実は琉歌が飲んだ後、琉歌の様子が可笑しかった為フランとベルはポタージュを一口飲んで飲むのをやめた。

 

それを見た鈴原先生が不審に思って味見をした結果、「これは飲めたものじゃない」とポタージュを別の物に作り直したのだ。 なので、マーモンはオニオンポタージュを飲んでいない。

 

「それでも一気に飲んで更に何事もなかったかの様に振る舞ったお前は確かにカッコ良かったよ」

 

「ホント、明らかに取り乱していたどっかの堕王子とは大違いですー」

 

「誰の事言ってんだ、コラ?」

 

「心当たりがあるなら、その人で間違い無いですよー、堕王子」

 

蛇足ではあるが、激マズポタージュを飲んだベルは、誰が見ても解るくらいに顔を真っ青にしてその場で噎せたと言う。

フランはギリギリのところで表情には出さなかったのだ。

 

「おい、フランてめぇ、帰ったら覚悟しろ」

 

「あれー、おかしいなー?

「帰ったら真っ当に生きる」とか言ってた人、誰でしたっけー?」

 

「もうやめなよ、二人とも。 暑いし五月蝿い。

・・・・・・はい、琉歌、半分あげる」

 

「どーも」

 

ベルとフランの口論をマーモンが諌める。

後者は琉歌にぺピコを半分あげながら言った言葉だ。

昼間よりは断然マシだが、夜は夜で暑い。

 

「マーモンが他人に物をあげるトコなんか、初めて見たんだけど。

こりゃ明日は台風時々隕石落下かな。

運がよけりゃ宇宙ステーション降ってくるんじゃね?」

 

「侮辱料取るよ、ベル。

琉歌がぺピコ買おうとしてたけど「二本も食べられない」って言ってたから、丁度僕も買おうと思ってたし「じゃあ、シェアしよう」って事になったんだよ。

まぁ、琉歌には編入する時に飲み物奢ってもらったワケだし、これで貸し借りなしだよ」

 

「そう言う事〜」

 

マーモンが説明すると、琉歌はニコリと笑ってピースサインする。

いつの間にそんなに仲良くなってんだよ、この守銭奴。

これは、ベルとフランの心の声である。

 

「あ、そうだ。

ちょっと三人とも、これ見て」

 

琉歌はぺピコを咥えると鞄からケータイを出して、その画面をマーモンたちに見せる。

画面には、メール画面が表示されていた。

送信者の欄には「琉稀」とある。 双子の兄からのメールらしい。

三人はメールを読んでいく。

そこには、こう書いてあった。

 

── ── ── ──

20XX/07/12

From:琉稀

Sub:Re:Re:Re:Re:Re:Re:琉歌ー!琉歌琉歌琉歌ー!僕のマイハニー!

── ── ── ──

再来週の日曜に会わない?

俺もヴァリアーに会ってみたい!

 

─ ─ end ─ ─

 

── ── ──

 

 

「何このテンション。 大丈夫か?」

 

「て言うか、琉歌ー。 この時間って授業中じゃないですかー。

授業中に何やってんですか、まったく」

 

「彼ってこんなテンションなの?」

 

メールを見たベル、フラン、マーモンの第一声である。

三人三様で琉稀にドン引きしていた。

琉歌は頭を抱える。

 

「あー、何かねー。 うちの兄貴ってシスコンなのよ。 あと、メールのテンションが一々ウザい。

だから、件名は気にしないで。

それより、本件の方。

琉稀には君達が来た事とか話したんだけど、そしたらめっちゃ興奮してね。

会いたい会いたい五月蝿いから、また今度ねって話したら「月一のデートだけは誰にも邪魔されたくない」とか言い出してさ?

あぁ、琉稀と私、兄妹だけど母親と実父が仲悪くてね。

私の母親も兄貴の事は嫌ってるし、私も兄貴の父親には嫌われてるみたいだから、堂々と会えないのよ。

デートってのは琉稀が勝手に言ってるだけね。

──で、じゃあ、諦めろ(アキラメロン)。って言ったら、そのメールが来たワケだけど・・・・・・どうする?

嫌なら断ってもいいよ」

 

琉歌の話を聞いた三人は、予想以上にドロドロだなぁ、と思った。

三人は考える。

 

琉歌の兄貴。 確かに興味はあるけど、このテンションで初っぱなから迫られるのだろうか。

それとも、琉歌みたくガチガチの警戒モードで小舅の様に色々言われるのだろうか。

そのどちらを想像しても嫌だ。

 

「どうすっかなぁ・・・・・・ちょっと興味はあるけどさ。

双子なんだろ? 琉歌の男バージョンって感じ?」

 

「いや?

まぁ、確かに双子だけど下手したら私よりも女の子然としてるよ。

そう言う教育されてるからね」

 

「琉歌を女の子然とさせた・・・・・・ちょっと気になりますねー」

 

「まぁ、考えといてよ。 嫌なら嫌でその様に伝えるし。

断ったからって、取って食ったりはしないしね」

 

「解りましたー」

 

琉歌の言葉にフランは頷く。

考えとく、と言いつつも、フランの中では答えは決まっていた。

 

「よし、んじゃあそろそろ駅に向かいますか。

もういい時間でしょ」

 

携帯を見た琉歌が、三人に帰宅を促す。

時刻は20時。もう直ぐで電車が来る時間だ。

琉歌の言葉に頷いた三人を見て、琉歌は駅へと向かっていった。

 

 

―― ――

「ちょっと、安藤さん。

話があるんだけど、良い?」

「嫌です。今日はこれから帰って彼らと勉強会なので、話している暇はありません」

 

駅に着くと、琉歌は4人の女子生徒に引き留められた。その内の一人は水田ともう一人は竹内で、彼女が琉歌に声を掛けてきたのだ。

突っぱねるような琉歌の言葉に水田は――否、水田と一緒に居た三人の女子もムッと顔を顰める。

 

「大体、群がらないと一人に対して何も言えないんです?

何か言いたいなら、無関係の人は何処かへやってくれませんかね。目障りです」

「ちょっと何、その態度?調子に乗りすぎじゃない?」

 

琉歌の言葉を聞いた竹内が突っかかってくる。琉歌はそれを無視することにした。

 

「で、私に用があるのは――君たち二人ですね。

後の二人は先輩なので関係ないでしょう。

それでもここに居るなら構いませんが……1対4なんてフェアじゃありませんからね。彼らも一緒で良いでしょう?」

 

水田と竹内を指すと、先程から離れる様子のないマーモン達の様子を見て琉歌は、そう提案した。

彼らもこの状態に何かあると何となく察したのだろう。

 

「安藤さんも群がらないと何も言えないんじゃない。人の事言えなくない?」

「何を言ってるんです?

マーモンは確かに無関係かもしれませんが、ベルとフランは大いに関係あるでしょう?クラスメイトですし」

 

琉歌の言葉に、竹内は言葉に詰まった。



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第2話

ちょっと眠たいから、ここで更新終了ー。
え、次回?未定ですよ。


結局、4対4で話し合うことになった、琉歌達。

話し合う、と言っても一方的に竹内が授業中でのことを責めてくるだけだった。

 

「あんたの授業態度、何?黒板に向かわず、ずーっと下向いてさ。

やる気ないなら学校に来ないでくれる?目障り」

「……」

「こっちが頑張って真面目に授業受けてるのに、隣で寝られてると邪魔なんだけど」

「……」

 

竹内が主に責め立てて、琉歌は(だんま)りを決め込んでいる。特に思うことはない。

言いたい奴には言わせておけ――ではないが、説教をしているつもりであろう人間に言い返すとどうなるのか。

それを知っている琉歌は言い返さなかった。

 

「何か言ったらどうなん?」

「……」

「そうやって黙ってると話し合いにならんやろ」

「……」

 

イライラしているのが態度で解る。しかし、琉歌は何も言わなかった。

 

「もういい。話してるのも時間の無駄。

ウチは帰るわ」

 

そう言って、竹内は帰って行ってしまった。

 

「あのなぁ、安藤さん。

美香も確かに言いすぎやと思うけどな、でも、安藤さんは授業中寝とるんやろ?

それだけでも謝った方が良いやないの?」

「……」

「なぁ」

 

水田が声を掛けてきても、琉歌は黙ったままだった。

すると、見かねたベルが声を掛けてくる。

 

「彼奴の話聞いて、おかしいと思わないワケ?」

「え?」

 

ベルの言葉に、水田は頭を傾げる。

どうやら、ベルが感じた違和感の事を水田は理解していないらしい。

ベルの言葉で、漠然と違和感を感じていたフラン、マーモンが「あっ」と声を上げた。違和感の正体が解ったのだ。

 

「何で彼奴が授業中、琉歌の様子が見れるんだよ?

琉歌の席、オレの隣の窓際だぜ?

しかも、授業中彼奴が前見てりゃ琉歌の姿なんか見れないだろ」

「でも、美香は見えてたって言っとるやん」

 

ベルの言葉を聞くも、納得していない様子の水田。

ベルでなく水田は、竹内の言葉を信じているのだった。

 

「百歩譲って見えてたとしても、琉歌は寝てなんかないぜ?」

「そうですよー、琉歌は勤勉な子ですからねー。

それって寝てるんじゃなくて、至近距離でノート見てるんじゃないですかー?

琉歌って、集中すると対物レンズみたいに物体に近寄りすぎる変な癖ありますしー」

「――」

 

ベルとフランが庇うように水田に反論していく。

余計なことを言うな、と言おうとした琉歌の言葉は言葉にならなかった。

それを言うのは憚られたのだ。

 

「何でベル君達はそんなに安藤さんを庇うん?

安藤さんが弁明なり何なりすればえええだけやん。それなのに、安藤さんは(なん)も言わんし。

何も言わんってことは、肯定しとるんやないん?」

「……」

 

水田に付いて来ていた女子にそこまで言われて、ベルは何も言えなくなってしまった。

確かに、さっき琉歌が反論していればよかっただけの話。それなのに琉歌は何も言わなかった。

それは、竹内の言葉を肯定していたのと同じだ。

 

「ほら、安藤さん。黙ってないで何か言ったらええやん。

言いたいことあるんやないん?」

「別に」

「ほんまに?

今でも、ウザいと思ってるんやないん?」

「別に」

 

女子の言葉に短く答える、琉歌。問いを重ねてくる彼女たちに対しては特に何も思っていない。

ただただ無表情に琉歌は日長石(サンストーン)の目を彼女に向けていた。

 

「いつも、この子らぁとつるんでる時は凄く楽しそうなのに今の貴女、人形みたいやん。

なぁ?今のこの子、人形みたいやない?」

「……」

 

ベルとフランを指して琉歌に言う、女子――長谷川。

後半の言葉は、ベル、フラン、マーモンに向けられた言葉だ。

たしかに、とは言えなかった。しかし、否定の言葉も出てこない。

今の琉歌は無表情でまるで感情のない人形の様であることは否定できなかったのだ。

 

「ねぇ、何も言わないけど本当は美香に誤解されて傷付いてるんじゃないの?

美香は捲し立てるだけ捲し立てて行ったけど、話は聞くよ?」

 

前言撤回。特に何も思っていなかったが、少し長谷川がウザく感じてきた、琉歌。

あんたは一体、何が言いたいんだ?その言葉を飲み込む。

質問してきてるのは相手の方だ。ここは相手の質問に大人しく答えるが正解だろう。

 

「傷付くなんて今更ですね。もう、傷付くところすらありませんよ」

 

嘲笑するような琉歌の言葉。その言葉を聞いたベル、フラン、マーモンは、心に何かがチクリと刺さってくるのを感じた。

 

琉歌の家庭環境は、決していいものではない。その話は聞かされた。

傷付くところすらない。その言葉の意味は考えなくても解る。

琉歌が人間嫌いな根本的な理由だ。

 

「私の事を誰がどう思おうが別にどうでも良いです。

他人に何を言っても無駄でしょう。だから、私は喋らなかった。それだけです」

 

「では、電車の時間なので」それを言うと、琉歌はホームへ歩き出した。ベルとフランが琉歌を追う。

琉歌を追って歩き出したマーモンが徐に足を止めて、振り向いた。

 

「彼女の事はもう放っておいてもらえるかな?さっきの通り、琉歌は他人を拒絶している。

これ以上、君たちが関わって来ようとしたら今度は僕が黙ってないよ」

「ッ!」

 

水田達を睨んで、マーモンはそれだけを言うと歩き出した。

 

「何で……!」

 

マーモンの背中に声が投げられる。水田は感情をぶつける様に言った。

 

「何で、マーモン先輩は安藤さんばかり庇うんですか!?

安藤さんが貴方達に何をしたっていうんです!?

全校集会の時にあんなに拒絶されたのに!その後も避けられていたのに!どうして!?」

 

水田の言葉にマーモンは歩みを止め、肩越しに振り返ると言った。

 

「全校集会の後、琉歌が僕らを避けだしたのは、君が彼女にない事ない事言ったからだろう。

だいたい、好きな女を庇うのは当然のことじゃないか」

 

水田を軽く睨んだ後で、マーモンは改札を通って行った。

 

―― ――

ホームに入れば今しがた電車が行った後だったようで、総紗行きのホームには人が居なかった――ただ一人を除いて。

 

「琉歌」

「あ……マーモン。話、終わった?」

 

琉歌は人の気配に気付き、振り向いてマーモンの姿を認めるとヘッドフォンを外した。

マーモンは、既に琉歌が帰っているものだと思っていた為に琉歌が居てくれた事が嬉しく思った。

 

「うん、終わったよ。

ごめん、先に行ってて良かったのに」

「いい。私が好きで待ってただけだし」

 

そう言った琉歌は微笑んでいたが、その微笑みは無理やり作られたモノのように見える、マーモン。

 

「琉歌。さっきのは気にしちゃ駄目だよ。

琉歌が頑張っていることは、僕やベルたちだけじゃなくて、ボスやスクアーロ達もちゃんと知ってるから」

 

マーモンは琉歌の頭を撫でて言った。

「うん」と頷いた琉歌の声は力がなく、やはりさっきの事を気にしているようだった。

 

「さっき、何でベルとフランは私を庇ったんだろう」

「……」

「竹内に便乗して、長谷川先輩に同調して、私を責める事もできたのに。私を無視する事だって、できた筈。

それなのに――」

「琉歌」

 

琉歌の話を黙って聞いていたマーモンは、突然琉歌の唇に自分の指を当て、物理的に琉歌の言葉を遮った。マーモンの顔が近い距離にあり、琉歌の血の気の薄い頬に赤みが差す。

 

「君、ベルとフランと何かあったのかい?」

「え……?」

「僕が気付かないとでも思ったのかい? 何だか君たちの距離が微妙に近すぎる気がするんだよね。

もしかして、二人に告白された、とか?」

「――ッ!」

 

琉歌はただでさえも赤い顔を更に赤くした。どうやら、図星の様だ。

 

「図星だね」

「うん」

「じゃあ、何でベルたちが君を庇ったのか解るんじゃないのかい?」

「……」

 

琉歌は黙り込んでしまった。



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