ボーダーブレイク アナザー (胡狼)
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第1章
1
ご勘弁ください。
ゲームの方も、下手です。ご勘弁ください。
間違いの指摘や感想を楽しみにさせて頂きます。
いつものように仕事を終えて、ゲームセンターへと向かう。
いつものようにアーケードゲームの筐体に向かい、ICカードを挿す。
いつものように、イヤホンを挿し、コインを入れる。
ここまではいつもの通りだった。
購入するGPを選び、機体カスタマイズ画面を開き、セッティングを見直す。
全国対戦と書かれたパネルをタッチする。
ロビー画面と呼ばれる出撃メンバーが揃う画面を眺める。
そこには私一人だった。
時間も時間だ、人数が揃うのも遅れる事がある。
この日ばかりは違った。
画面上部に表示される待ち時間が2秒と短い。
これは、成り立たないか。
半ば諦めつつも、しつこく全国対戦のパネルを押そうとしたその瞬間である。
ゲーム中のキャラクターである『フィオナ』が、パネルを連打していた私の指を捕り、ゲームの筐体の中に引き入れようとしてきたのだ。
他の台には誰も居なかったのが悔やまれる。
私は激痛と共に意識を失った。
◆
ここは・・・
どうやら私は夢でも見ていたようだ。
ゲームの中に引き入れられるなど、たちの悪いSFもさもありなんと言ったところである。
きっと電車の中だろう。次の駅は何処だろうか?
ふと目を凝らすと、見慣れない計器類が、ある。
それとは別に親しみのある、レバーのようなグリップと、マウス。
正確にはLグリップとRグリップなのだが。
どうやら筐体の前で居眠りしてしまったらしい。歳は取りたくないものだ。
そして歳を取ると現実を認識するということと、自分の今までの常識に大きな相違がある場合、認めたくなくなるものだ。
都内某所のゲーセンではない。眼前に広がるのは、懐かしくもある、スカービ渓谷そのものだった。
◆
全くたちの悪いSFである。おおよそこういう出来事というものは何処かの二次創作物の中でしかありえない。
そしてこうなった以上私のこれからの行く先を思うと暗澹たる気分になる。
深く溜息をつくと、通信が飛んでくる。
嗄れた声だった。
ゲーム中では定型句しか共有出来ない筈なのだが。
「何をしている。さっさと動け。」
「申し訳ありません。自分の運命を呪っていたもので。」
私の声は、自身が設定しているアバターそのものだった。
よもやここまで同じとは。それはそれで、諦める事にした。
メインカメラから映されているであろう画像は、自機のやや後ろからをシミュレートしていた。試しにRグリップ・・・マウスを振ると視点が動く。
ボタンを操作して感度を最大にする。マウスに付いているボタンを押しながら武器を選択する。
他にも、操作としてはゲームと全く同じであった。
幸いにも使っている機体、武器はそのまま持ち越せているようだった。
なるほど、これが転生チートという事か・・・誰に願った訳でもないが、好都合だ。
「新入り! 惚けていると置いて行くぞ! 目標は敵CPUを抑えて、敵ベースのコアの破壊!」
「了解!!」
作戦が開始されたようだ。いかにもベテランな通信に了解ですわ、とだけ答えた。
◆
まず、私の機体は、おそらく新入りには支給されないフルヤクシャである。
役弐改弐、と、頭、胴、腕、脚、の順に表記される。
比類なき速度を誇るが装甲が薄い。どのくらい速いかというと時速にした場合100キロは超えるくらいに速い。分速28.40mのセッティングである。
ひとまず、私がこの世界に来てしまった理由や、これからの生活など様々と落ち着かない状況だが、目の前の敵を倒さねばならない。やられた時どうなるかぎ想像もつかない。死にたくは、なかった。
主武器。アサルトライフルであるSTAR-20。
単発火力が高い。反動もこの腕パーツだと斜めに跳ねることもあるが、連打するペースとしてはちょうどよく感じる。
副武器。41型強化手榴弾・改。
火力が高い。そして軽めの装備である。投げつけても起爆までの時間がやや速いため自爆には注意である。
補助武器。SP-ペネトレーター。
槍。所謂特殊攻撃で前に槍を突き出して滑走する。これは好みで積んでいる。
特殊装備。AC-ディスタンス。出力こそ並だが、長く起動出来て、回復も早い。
全体的に汎用性の高いカスタマイズである。手榴弾はおにぎりと呼ばれる。アサルトライフルは星と呼ばれ、ディスタンスはタンスと呼ばれ、ペネトレーターはペ槍と呼ばれる。
ひとまず私は箪笥を起動して、敵のクーガーと呼ばれる「ブラスト」に急接近し、側面から頭に星を連続で叩き込む。撃破。
リロードをあえてせずに味方が削った敵機に残りの弾を撃ち込む。撃破。
コアの破壊が作戦目標だったが、ここでの戦闘不能のペナルティを恐れ、撃破と回避のみに注力した。
私の予想が正しければ作戦時間は600秒の筈だ。
そうでなければ、プラントを押してコアの破壊に近づけるべきだろう。
そも、プラントというのは各マップに設置されている拠点である。味方がここを占拠する事により、そのプラントからの出撃が可能となる。
即ち戦闘ラインの形成に重要な役割を持つ。
このプラントは、ニュードを吸い上げているらしい。
ブラストを使い、円のような範囲に入っていれば占拠開始となる。
「プラントCを占拠!」
先ほどのベテランだろうか。彼もまたクーガーに乗り、このマップ・・・戦闘区域の中央にあたる部分を占拠していた。
この機体では本来向かない対応ではあるのだが、相手がコンピューターならば問題はない。
スカービ渓谷の全プラントをこちらのチームが独占し、私もコアへと向かった。
撃破された場合のことを考え、おにぎり・・・この場合は投擲のきせきが紫色であることから、紫おにぎりを敵コアへと3つ投げ込む。
投げ終わったら離脱し、リペアポッド、トイレと呼ばれている補給施設に籠る。
これを繰り返すうちに、作戦は終わっていた。
◆
「作戦は終了だ。ご苦労だった。」
「素晴らしい働きです!」
「ナイス!」
それぞれの傭兵・・・この世界でいうところのボーダーがねぎらいを送っている。
彼らもまたちゃんとした、人間なのか?
あるいはゲームが用意したキャラクターなのか?
まるで私は電脳の亡霊のようだ。
疑念は尽きぬまま私は棒立ちしていた。
「新入り。お前だけ機体も武装も違うようだが・・・この機体は?」
「えっ、そうですね。奮わぬ戦果をなんとかしようとして考えた結果立ち回りを変えてみようと思ってこれにしました。」
熱血っぽいボーダーに通信で話しかけられたので素直にそう答えた。
彼はそこまでの興味がなかったようで、そうか、とひとことだけ言って通信は切れた。
ひとまず作戦は終了である。
いつもならスコアが出て、クラスポイントの増減の画面があって、再戦するかどうか聞かれて終わりなので、この後がわからない。
コックピットからどうやって降りるのかもわからない。
ひとまず飲み会と飛行機だけは勘弁な、そう独りごちた。
メタリックピンクのフルヤクシャはただただ佇んでいた。
続
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2
スカービ渓谷で集団演習という作戦を全部で2試合ほど行い、解散となった。
私もそれに倣い、初めての体験になるが生身でスカービのEUST基地に入る。
基地は簡素で、殺風景。
如何にも軍事基地といったところだった。ところどころ有機LEDの照明が地面と天井を這っているあたりは、未来的とも言えるのだろうか。
チームメンバーは各々部屋に入ったり、作戦の話をしたりしている。
私は見つからないように、自分の名前というか番号の書かれた部屋に入る。
気づかなかったが名札らしきものが胸元に留まっていた。
部屋に入っていいのか悪いのかはわからなかったが、他のメンバーは堂々と入っていったので、咎められたらそれを言い訳にしようと思う。
こちら側に来て初日の夜を迎えた。
先ほどのチームメンバーは、ベテランを除き、私を含む9人全員が、新入りということだった。
なんでも最初は集団演習という形で徐々に慣らして行くらしい。
何を慣らしていくのかという説明には、機体の操縦と作戦に対する理解、とのことだった。
なるほど、ICカードを期待に胸膨らませながら買っただけでは、このゲームの本懐までは、そりゃ知らないというものだ。
そしてその本懐とやらも、現実の私はまだ至っていない。
女体化した自身の身体に戸惑いつつも汗を流して、備え付けのテレビらしきものの電源を入れる。
番組そのものは何故か日本語だったので、すんなりと視聴することが出来た。
持ち込んでいるスマホは、圏外で使い物にならず、当面は音楽とアラームだけを流すだけの機械となりそうだ。
作戦の終わり際にベテランの通信から、翌日も演習ということで、認められたものは、そこから対人戦に移行する運びである。そんなことをぼんやりと考えながらニュース番組に意識を戻す。
どうやら、ニュード装備の凶悪なスナイパー集団が現れているそうだ。
TLZとエクリプスを担ぐ時代はもう終わったというのに。
それらは、かつて猛威を奮った装備である。
本来の狙撃兵装とはかけ離れ、真正面からのプラント奪取を敢行し、制圧するだけの戦闘力、特殊兵装と補助装備は、つまるところ自動照準で熟練した操作も最低限で済む。
肩に装備する球体のような射撃装置、EUS-TLZは、TLZを無理やりたれぞうと読む。性能としては単発火力の高いニュード弾を、斜角それなりの距離まで、自動でエイムする。
エクリプスという火器も、ニュード属性で非常に単発の火力は高い。弾数は6発しかなく、再装填も時間がかかるのだが。当たってしまえば、場所によっては衝撃でよろめいてしまうほどだ。
それにブラストに搭載される、チップというソフトウェアで威力を増強したもの。それがたれぞうアセンと呼ばれる。
それらは往々として受け入れられ、しまいには大元からの修正を喰らい、今では希少な「スタイル」ということになっている。
と、ニュースに一瞬映ったその集団のアセンブルは、フルロージーだった。
流石に正規のブラストランナーではないのか、ロージーというブランドで最硬度を誇るEVEを装備してはいないようだ。
スナイパー空手?
これもまた、昨今のスタイルではないはずだが。
まさか、フルロージーのような超重量級、超重装甲で遠雷を装備し、芋虫のように静かに獲物を狙うものでもあるまい。
ニュースは危険性だけを告げ淡々と流れて行く。
マグメルによる食べ歩きコーナーというものが少し気になったが、そこで思考に耽る。
スナイパー空手というスタイルは、重装甲な機体を用い、光学迷彩で姿をだいたい消して、タックルや蹴りなどを食らわせ、ダウンした頃を狙撃銃で以って倒していく。
この光学迷彩は完全には消えないのだが、ブラストのFCSのロックオン機能から逃れることが出来る上に、相手が重装甲なこともあって非常に厄介なスタイルだ。
それらも格闘チップの修正、光学迷彩の使用時間の短縮により流行からは姿を消していったのだ。
我々新入りチームでは先ず不可能だろう。これは練度が必要なスタイルのはずである。
で、あれば、元々はオンラインゲームなのだから、私の他にも、いわば漂流者がいるのかもしれない。
それらから元の世界に戻る手掛かりでもあれば良いのだが、無駄な期待はするだけ損か。
ちなみに今の流行アセンは、ダッシュのなるたけ速い脚に、目一杯装甲を盛ったゴリラアセンと呼ばれるものだ。強襲兵装が主となり、積載には全く余裕が無い。余裕を作らずに組まれていると言うべきか。
機体のカスタマイズが出来るなら変更しておきたい。
最悪の事態を考えると、走行の差でそちらに分がある。
被撃破といえば、チームメンバー達はこともなく再出撃していたのだが、まじまじと見ている訳にもいかなかった為、再出撃にいたるまでの原理は不明である。
彼らに直接訊ねるのも一つの手だが、単純に話しかけにくい。
幼年期の子供のように、誰にでも話しかけていく気力はとうに無くしてしまった。
◆
翌日。
寝坊した。
大慌てで着替えて、基地の外に出ると丁度朝礼らしきものが始まるところだった。
私は一言詫び、ブリーフィングを受ける。
昇格試験らしい。これに受かれば対人戦に移る。それもこなせば本来の作戦行動に補充される形と言うことだ。
そこまでは昨日聞いていたので理解していたが、どうにも疑問が残る。
Dクラスに、昇格試験などないはずだ。少なくとも、ゲーム内のシステムでは。
私は内心で肩を竦めてため息を吐く。
ベテランが評価するのか?
質問があるか聞かれたので私は挙手し、試験内容を伺う。
ベテランから提示された試験はこうだった。
制限時間20分の間にメダル10枚集めろ!
1.敵2機撃破でメダル2枚
2.プラント占拠でメダル1枚
なるほど。単純に敵を10体倒すか、中立ないし敵プラントを自軍のものに10回行えば良い。同時に行うのが効率が良いだろう。
周りがざわめいていた。無理もないだろう。
何故なら、これは本来Bクラスに上がるための試験なのだから。
「おいおい、マジかよ。無理言うぜおっさん。もう少し緩くしてくれよ!!頼むから!!」
「無理だ!試験内容はマグメルによるものだ。そう簡単に変えられん!」
「それは無理な注文です・・・」
ベテランと熱血がちょっとした言い合いになる側で、ナルシーっぽいボーダーが呟いていた。私は内心その存在感に圧倒されつつも、了解、とだけ答えた。
「チッ、やるしかねーか。元はこっちは同じチームだし、連携していきゃいいだろ?」
「素晴らしい働きです!」
「では、本日ヒトマルサンマルから始める。作戦はそちらの采配に任せる。」
ヒトマルサンマル? 1030スタートと言うことか。あと、一時間ほどあるな。
都合のいいことに私の左腕にある腕時計とこの世界の時間はほぼ狂いがない。
所謂チートの一つであろうか。
「一時解散!」
ベテランの号令に思わず慣れない敬礼をしつつ、皆その場を後にした。
◆
「ってもよ、どうする?コンピューターとはいえそう簡単には行かないだろ。」
「プラントを10回、占拠する方が安全じゃない?」
「クク・・・撃破撃破ァ!」
遠くで聞いているだけなのだが、彼らは軍隊として優秀な人材なのかも知れない。
ゲーム内でいえば私が先程言った・・・いや、思ったように占拠しながら爆発物だろうがなんだろうがで敵を倒せば良い。ちなみに、それには本来でもコンピューターも含まれている。
それに近い答えがすぐ出てくるあたりは、Dクラスに居てはならない、のかも知れない。普通ならブラストの操縦だけで手一杯の筈だ。
熱血、真面目そうな女子、ナルシー。
彼らの方を見る。
実際のところアバターと我々が勝手に呼んでいる、プレイヤーの分身たるキャラそのままだ。
ここには、実在していないアバターも居るが、
熱血、クール、ベテラン、ナルシー、少年、老練。こちらが男性アバターで、
真面目、お嬢様、インテリ、冷静、少女。こちらが女子のアバターだ。
それぞれ公式的な名前があったはずなのだが、一致しているかわからない上に、いわゆる番号がついただけの名札しかないため、そのまま呼ぶしかないのだ。
私はお嬢様タイプのアバターではある。
どうしてこれを選んだのかと言われてしまえば、メタフィクショナルな話になるが、ICカードを作ることを決意したはいいがキャラと名前が思い浮かばず、
二時間ほど考えた結果、アバターはくじ引きで。
名前はアイウエオ順に一文字ずつ書き、おみくじのような感じで友人に引いてもらい、それを良い感じに合わせた、という適当っぷりである。
あまりのこの懐かしさに、話から一人脱線して昔を思い出していると不意に声がかけられる。
ベテランだ。
「貴様にはわかるだろうと、マグメルの事務方から電子メールが来ている。読むか?」
「あっ、はい。」
どう受け取るのかわからないというと呆れた表情をしたベテランが教えてくれたので、そのまま見る。
SFではよく見るかと思うが、直接空間に文字が浮かび上がるものだ。
プライバシーもクソもないな。
とにかくそこにはこう書かれている。
《稼働初期の評価査定となっております。存分に励んでください。 フィオナ》
私はわなわなと震える。
「えっと。まるで意味がわかりません。ともすれば諧謔的とも取れましょうが、或いは全くの極悪非道で持って慈悲に訴えることもなく、残酷な現実を突きつけているのでしょうか?これは。」
「俺に聞くな。そして貴様が何を言っているのかもわからん。」
「よく言われます。」
それにしても差出人には触れてこないな。暗黙の了解なのだろうか。それとも単にそこまで見ていないのか。見て見ぬふりか。
流石に通信と、今のやりとりだけでしかベテランという人物を把握していないのでそこまでは読みきれなかった。
Dクラスに試験といい、何かが仕組まれている気がする。
本家ゲームでは今ひとつパッとしなかった、十把一からげの私ではあったが、
お達しの通り懸命に励んでみよう。
ため息を吐くのがすっかり習慣になってしまった。
カスタマイズで、ゴリラアセンに変えておこう。
なにがあるのか、わからない。
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3
先日のクラス昇格事件。
事件と呼ぶほどのものでもあるまいが、ゲーム内のシステムと変わり過ぎている。
それはそれで諦めて受け入れることにしたのだが、アセンを変えるべく、カスタマイズ画面を呼び出す。
どうやったのかと言うと、ブラストランナーに搭乗し、タッチパネルを押すだけである。
果たして整備やパーツ換装の為の技術的環境があるのかないのかを質され
てしまえば、そこはあまりにも不明瞭な点が多すぎるのもまた事実である。
確かに座りながらタッチパネルを押すだけなのでラクなのだが。
それもこれもニュードというものが悪い。
自機の大破の可能性を下げるべく、ゴリラアセンを組むと先日決めたのだが、それでは面白くないし試験に落ちても面倒なので近接武器アセンにすることにした。
スペクター3、ケーファー52、ジーシェンパイロン、エンフォーサーX。
近接強化チップと近接適正チップを搭載している鎧武者アセンである。
装甲はそれなりに硬い為にゴリラと言えないこともないが、ゴリラと呼ぶには脚が遅いか。
これにペネトレーターを合わせる。通常規格のブラストなら大抵は一発で、そうでなくても瀕死になる威力だ。
巷では魔剣たるティアダウナーが人気なのだが、個人的には重量と威力の対比を考えるとこちらを積んでしまう。
一般的には一番軽いものを選び積載を装甲や武器に回すべきであるとされる。
事実私も同様にロングスピアという軽い槍をメインとしている。
まあ、なんとかなるだろう。往々にして諦めが肝心で、孤独とは幸福なのだ。
槍一本で試験を突破する。そうでもなければこの先はやっていけないだろう。
試験開始15分前。
緊急時っぽいサイレンが鳴り響き、緊急時っぽい無線が飛び交う。
どういう演出なのだろうか? 緊急時っぽい、と評したのはそんな説明を受けていないからだ。
もしかしたら、お昼のサイレンなのかもしれない。
もう、今のこの世の中、そういう地域はないのだろうか?
「何を訳の分からん事を言っている! 緊急だ! 所属不明のブラストが攻めてきた!」
「所属不明!? 一体なんだってんだ。」
熱血がそう呟きながらもクーガーに乗り込む。
「敵コアの攻撃はワタクシにお任せを!」
ナルシーが良く分からない。が、ブラストのコアを叩くという事か?
「各自応戦せよ!援軍を待て!本部には連絡した!」
ベテランは既に事務的処理をしていたようだ。この場合の事務的というのは、イレギュラー連絡、援軍要請、現場維持。
その対処の早さに賞賛を送りつつも私も出撃する事にした。
何かセリフを言わねばならないのだろうか。適当にやろう。私はブラストを倉庫から飛び出させて、叫ぶ。
「あなたを、犯人です!」
◆
「敵影、確認。距離2472。それぞれ北に6体。」
ナルシーが報告する。
「距離ってメートルなのか?」
「貴方は軍事学校からやり直してください・・・メートルには、違いありませんが。」
ナルシーと熱血が言い合いながらも、距離を詰めていく。
クーガー1型よりも私の鎧武者アセンの方が、見た目のわりに速いのだが、時折屈伸をする事により歩調を合わせる。
屈伸運動キャンセルというテクニックである。
ゲーム的には、ダッシュ後に動作を停止、または少し歩く事によりブーストゲージが回復する。しゃがみ状態(ブラストは停止状態の扱い)を一瞬作る事により、ブーストゲージが回復する。
屈キャンすれば、歩行速度が遅かったり、またはいちいち棒立ちしなくてもブーストが回復する。アーケードでは基本になりつつあるが発見当初はバグ扱いだった。
屈伸運動に似ている事からそう呼ばれるようになった。
とある方の文献では推進剤を屈伸により活発化させる、など、様々な逸話がある。
熱血やナルシーも、私の屈伸には怪訝な通信が寄せられた。
「なんでいちいちしゃがむんだよ!?見ててカッコ悪いからやめろ!!」
「大丈夫大丈夫、今真後ろで屈伸してあげるから」
ガッショガッショと熱血の後ろで屈伸する。ブースト管理なので無駄にはならない。
「気味が悪い・・・」
「貴様ら、無駄話はそこまでだ。距離700メートル、会敵するぞ。」
「了解!」
ベテランはそう注意を促したのだが、私には何も見えない。
足並みを揃えつつも、自分と味方の距離を確認する。
次の瞬間、ナルシーの機体が吹き飛んだ。
◆
「ゆ、油断しましたね・・・」
そう言って受け身を取るナルシー。
吹っ飛んだ、という事は、ゲーム中でもある事だ。
大威力の攻撃、ギリギリ行動不能にならない程度の攻撃、インパクトボムで強制的に吹っ飛びダウン。
ダウン中にも、ゲーム的には無敵判定が無い為追撃でやられてしまう事がほとんどだが。
「狙撃だ! 遮蔽物に隠れろ!!」
そういえば、ここはスカービ渓谷だったな。こんなに長かっただろうか。
遮蔽物ってそんなになかった気がする。地面の起伏を遮蔽物として私とナルシーは身を隠す。目視できるところで熱血とベテランは岩肌に隠れている。
「支援室より情報が入った。奴らは今話題になっている狙撃集団らしい。情報によると奴らはロージーで集団行動しているそうだ。」
ベテランが冷静に無線を送る。敵にも傍受されてそうなパターンだが、かといって無線封鎖したところでどうにもならないだろう。
チャットウインドウを閉じる事は出来るが。
「チッ・・・どうしろってんだ!」
「落ち着け。奴らの弾とて無限では無いだろう。どのみちロージーの性能では近づかねばまともに当たらん。それまで待つ。」
ベテランが焦る熱血をそう制した。
実際ゲームなら近づきながらやらないと、隠れてたらそこで試合終了で、ポイントも獲得できない。当てやすい距離を取るだろう。
敵がスナイパー空手スタイルの可能性もある、と私はベテランに無線を送る。
ベテランも承知していたそうだが、そこまでの至近戦は行わないようにと指示を我々に送った。
私のアセンは近接武器中心なのだが、どうにもアテが外れた。
刹那、私の手前で爆風が起こる。なるほど炸薬狙撃銃か。
フルロジで、炸薬狙撃銃の上位系統の、炸薬狙撃銃・絶火をこのランク帯で使ってたらそりゃ話題にもなるだろうな。
ランクという言葉がどこまで通用するのかは、分からないが。
「このままじゃジリ貧だぜ!」
熱血は半身を岩肌から出してマシンガンをばら撒きすぐ隠れる。
ベテランは体を出さず銃だけを向けて撃つ。
なるほど、無線では何も報告がなかったがもうそういう距離まで来ているのか。
「命中!」
「とはいえ肉厚の装甲に高密度のNDEF・・・効果は期待出来ませんねぇ・・・」
ナルシーが私の知る限り珍しく零す。私はナルシーに尋ねた。
「距離はどれくらいなのです?」
「目視なので細かくは・・・ざっと200メートルくらいですかね?」
「数は?」
「一体です。これも、見た限りですが・・・」
「囮かもしれないですね。」
「というと?」
「脚が遅い機体の射程を狙撃銃でカバーし、地の利を得る。そんな雰囲気だったので、囮として行動しつつ、制圧。リロードが遅いからそこを狙う。」
「それは向こうも分かってそうですけどね・・・」
私はベテランに向けて無線を送る。
「とりあえず私が囮になります。場合によっては逃げますので、炙り出せたら集中砲火をお願いしたいのですが!そちらにとっても悪い話ではないと思いますが?」
「・・・わかった。ただその機体では脚が遅くは無いか?」
「その為の、フラ・・・フランドールです。」
「正確に答えろ」
「フラジールです。冗談です銃を向けないで。見た目以上にこの機体は早いので大丈夫かと」
私は槍を構え、マルチウェイXというアサルトチャージャーを使う。
シュゴーという音と共にその場を離れた。
このアサルトチャージャーは高出力だが、使用時間に難がある。
SPという特殊兵装のスタミナのようなものが、少ないのだ。
それを、ブーストゲージに肩代わりさせる剣慣性というテクニックもある。
それには補助武器の槍や剣の特殊攻撃のタイミングと同時に、アサルトチャージャーをオンにしてオフにする事が必要である。
言葉にすると訳が分からないが、要するに節約術という事だ。
「理想を抱いて溺死しろ!」
私は剣慣性を使い、ロージーに向かって行った。
シュゴーという独特な起動音とともに加速。加速しつつ槍を真っ直ぐに突き出す。これを繰り返しているだけなので的になる可能性がある。
その為タイミングなどはずらしながら、ロージーを視界に捉えた。
◆
ロージーは私を見ながら回避起動、というか後ろに下がる。
ブンブン丸には最適解だろう。
この相手が所属不明という事以外は知らされていない。
何故戦いになったのかは分からない。
ニュード資源がある基地を狙って進軍してきたのか?
単純に軍に私怨があるのか?
何も考えずに血肉を求めた?
あるいは、何かから逃げてきた?
様々な想いを込めて、ブーストを使い側面に回り込む。
敵はマーゲイというハンドガンに持ち替えていた。
マーゲイの銃弾は私を掠める。
ロージーが右を向くのに対して私は左に。
左に追従してきたら右に一度ステップ、左にステップ、左にステップ、屈伸、左にステップ、左にステップ・・・
ロージーの旋回行動が、ガクンと一瞬止まった。私は槍を構えて、バックステップから、マルチウェイXを起動し、ペネトレーターの特殊攻撃を繰り出した。
ほぼ密着距離まで来ていた。銃弾がモノを言う世界で近接など、と下に見られる言葉が多い。それは射程距離の関係だ。密着してしまえば。
避けられる筈が無い。
ロージーは後ろに吹き飛ぶ。装甲が非常に厚い為一発では沈まない。
ゲームでは通常攻撃とダッシュ中にのみ繰り出せる特殊攻撃がある。
ペネトレーターは、実のところ特殊攻撃の方がトータルの威力が低かったりする。
AC、アサルトチャージャーで急接近し槍を通常攻撃。
槍を突き出し、右から左に薙ぎ払う。
ガキン、ガキンと装甲にヒビが入り、薙ぎ払いでロージーの胴体と下半身部分が別居となった。
当ててしまえばあっけないものだな、それは相手も同じ事だが。
私は十秒間待って、相手がどうなるか。撃破されたらどうなるかを観察した。
不規則に、ステップを刻んで他の敵に的を絞らせないようにしながら反応を見る。
どうにもならなかった。
という事は機体は回収されるまで破棄だろう。
中身は、どうなった?
私は内心パイロットがコクピットを開けて白旗でも振ってくれるのを祈った。
三十秒待っても、何もなかった。
「これ以上、長居は無用か。」
私は無線で聞こえるよう、わざとらしく言って、味方の方向に剣慣性を行いながら撤退した。
その間狙撃銃で撃たれていないのが不気味である。
「よくやったぞ!」
「素晴らしい働きです!」
後退し、熱血とナルシーに賞賛されながら、私はベテランに報告をする。
「支援舞台が来る。もう少しの辛抱だ。ところで」
「はい」
「見えていたのだが、さっきのはどういう事だ?」
見えていたなら援護くらいしてくれても・・・と、内心思ったのだが、見透かされたようだ。
「貴様に当てる訳にも行かんだろう。ロージーの旋回行動が読めていたのか?」
私は、とりあえず説明した。周りのブラストが、私の座っているコクピットの、マウスとグリップで操縦しているのかは分からないが。
ゲームの筐体をよく見ると、マウスの左右の、振り回せる幅の違いがわかると思う。
右には結構動かせるのに、左はそこまでの場所は無い。
ステップを刻んで右に一度降る。相手のマウス感度にもよるが普通は照準が間に合う。
そこから左に。
これもマウスの動かせる幅はまだある。ここまでは私も同じ事が言える。
屈伸を挟んだときにマウスの位置を、余裕を持って動かせるところに置き直したのだ。
今回のロージーは回避起動と旋回を同時に行っていたのか、動かせるマウスの幅がなくなってしまった。その為、相手はマウスが動かない!こちらはまだ動かせる!
という状況になるのだ。
それは隙になり、今回の結末を迎えたのだが・・・
「なるほど、分からん!」
言葉では通じぬものもあるという事だ。
「いや、お前の説明が下手なだけじゃないのか?」
私は熱血に言われぐうの音も出ない。
些か緊張感に欠けているのは、本部とやらからきたブラストランナーや輸送機が、押し寄せてきたからだろう。
ベテランがこの場を締めた。
「全員、撤退! 輸送トラックに乗り込め!」
用語説明などくどくて申し訳ありません
最後の方のマウスの位置を使った個人テクも分かりにくくてすみません
実際に使ってはいるのですが
私の拙い文では表現できてませんでしたね
申し訳ありません。
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4
支援部隊の到着である。
このタイミングはありがたいが、どうにも違和感があった。
支援部隊という響きからして支援兵装で構成されているかと思ったのだがそうではない。
部隊と呼ばれたもののそれは単騎だった。
クリムゾンレッドのシュライク。
それはどう見てもフルシュライクだった。
細身のシルエットに、ヴォルペ・スコーピオと41型強化手榴弾を装備していた。
ベテランが後退命令を出していたが私はそのシュライクに見惚れてしまっていた。
「何をしている! 早く下がれ!!」
「単騎!? いったいどうして!!」
「AE社お抱えのランカーだ。貴様の考えなどどうでも良い。」
「くっ」
私は、支援部隊の輸送機付近まで下がる。
それと同時に補給と修理が行われた。
このリペアユニットでピロピロするだけで装甲が戻っていく。
謎の技術であることは承知していたが、こうして目の当たりにするとえもいわれない感覚である。
残った狙撃集団のうち、数機が、お抱えのランカーとやらに殲滅されていた。
あの機動はこの訓練兵団のそれとは一線を画している。当然の結果である。
が。
狙撃集団はそもそも、我々をおびき出した。それはあながち間違いではないだろう。
しかし実のところ。
訓練兵団のようなもの相手にそのような罠を張ってまで、彼らが姿を見せるだろうか?
中身がAIだというなら話は別かもしれないが。
そして支援部隊そのものは何故か単騎で、我々に後退するように、我々の上官的な立ち位置のベテランは指示をした。
単騎で十分な実力があるという事なのかもしれない。
だが。
きな臭い。
ゲロ以下の匂いがプンプンするぜェェェェェ!!!
この場合はこちらの上官あたりになァァァァァァ!!
チート使用。アセン変更。
E.D.G。
θββθ。
ブレイザーアグニマゲバリSHG先生耐久迷彩。狙撃に特化したアセンである。
超長距離から戦闘の様子を見て、おそらくこの支援部隊のランカーを撃破させる予定だろうと思うが、違ったらアレなので黙っている事も出来る日和見主義のそれに酷似した手法で以って状況を監視しようと思う。
紅いシュライクは目視による索敵を行っているのだろうか。シュライクの装甲は薄く、狙撃集団とは相性は良くないだろう。
数分が経過した頃、狙撃集団の残りが一斉に姿を現した。
シュライクも敵の狙撃のタイミングとリロード速度を見切って、敵の背後から各個撃破という戦法を取っており、それは着実に身を結んでいた。
私要らなくね?
だが1対9ではそう持つまい。
戦場とは、数である。いかに質の良い人が一人でも数の暴力はそれをやすやすと覆す。
ブレイザーアグニの、加圧されたニュードバレルから緑色の粒子が溢れ出てくる。
私は狙撃銃のチャージを解き放つ。
パァン。
やけにあっけない音とともに青い光条が一本、ロージーの頭に当たる。
フェイタルアタックがついていて、NDEFが削げていたならば即死である。
ロージーは上空に錐揉み回転しながら大破していった。
私はスコープを覗くのを止めて位置を移動する。
迷彩効果によって機体はやや認識しにくくなっているとのの発射位置から本体の位置を特定されてしまうと面倒だ。
移動しながらアグニをチャージする。
一発撃ったらリロードした後にチャージが必要なこの銃の扱いは難しい。
だが、チャージしてさえおけばあとは撃つだけで大抵の機体が瀕死か、即死である。
あの硬い狙撃集団に撃つのであれば、取り回しを犠牲にしてでも、これが最適であると思った。
しゃがんで、覗いて、チャージが大体終わって、レティクルが収束しきるくらいには発射タイミングである。そこからエイミングするのは間に合わないので、有視界戦にてある程度敵の位置の確認をする必要があった。
私は迷彩を駆使して隠れながら丁度良い位置につき、アグニを放つ。
フルHGスナイパーが、大破した。
それと同時にランカーが敵を二機落とした。
あと何機、敵はいるのだろうか?
3機目の私の敵を落としながら、索敵をどうするか考えていた。
「さあ、偵察を開始しますよ!」
ナルシーがラーク偵察機を飛ばした。全くいいタイミングである。
こちらの上官が頭数の不利を悟ったのか?
それとも私が忍んでいたのがばれたのか?
一先ず、今は現状を打破しよう。
そうしてミニマップに映った敵の数は。
少なく見積もっても両手の指では足りなかった。
敵の識別反応は赤で示される。
気付いた頃には、ロージーなどの重量級アセンが岩壁から、迷彩を解いて、あるいは地平線の向こうから、どんどん出てきていた。
「どうしたっていうのだ、この数は。戦争みたいだ。はは、戦争だったか。そう、戦争だな」
「何を今更言っているのです?ここは撤退かと。そちらにとっても悪い話ではないと思いますが?」
「足止めするのは構わないが、別にアレを倒してしまっても良いのだろう?」
「貴女の自信は何処からくるのですか?」
私の軽口をナルシーに適当に流され、私はアグニで牽制しつつも下がる。毎回当たれば良いのだが、そうもいかない。
ふと紅いシュライクを見ると、下がれ、とでも言うようにジェスチャーして見せた。
支援部隊に恩を売るのも悪くない話だと思いますが? とベテランに通信を送るも、責任問題でそれは不可能だという答えが返って来た。
正規軍でもないというのに、傭兵というのは律儀だね。
責任とは何処にあるのだろう?
なんの責任なのだろう?
腹芸に近い質疑応答は行われなかった。
そんな感じで我々訓練部隊がまごついていると、紅いシュライクは樽のようなものを取り出し、複数設置していた。
ラグビーのタッチダウンにも似た動作。
サテライトバンカーだ。私はハッとしてナルシーの機体を蹴り飛ばして後ろに下がらせる。
その次の瞬間にそれは起動した。
紫色の極光が天より落ちてくる。
激しい振動でカメラがブレてしまいアグニは一時的に使えなくなったが、杞憂だったようだ。
サテライトバンカー・・・衛星砲の一斉峰起。
ミニマップに映った敵の数は目に見えて、減っていた。
ここで慢心するのは、まだ早い。
私は気付いていた。倒した敵のアセンと、出てきた敵のアセンがおなじであることに。
この戦場の大前提は。
敵コアの破壊が作戦目標なのだから。
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