不良八幡の学校生活 (雨雪 東吾)
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登校

ハーメルンの使い方がよくわからん


 二週間ぶりに総武高専用の制服に身を包む。入学式当日の事故により、入院していたためだ。

 制服を正し、鏡の前で髪をセットする。染められた金の髪は、ワックスによって形状を変えられていく。初めは面倒だと思っていたこの作業も、慣れればお手のもんだ。

 

「お兄ちゃん、おはよう」

 

「ああ、おはよう」

 

 眠そうな妹が目をこすりながら洗面所に現れる。欠伸をしたときにちらりと見える八重歯が可愛い。いや、ぶっちゃけすべてが可愛い。

 

「ご飯用意してあるから食べといてね」

 

「おう」

 

 手に残るワックスを水で洗い流し、小町に場所を譲り、ダイニングへと向かう。そこには小町が用意したトーストと目玉焼きがある。

 

「いただきます」

 

 バターやジャムを塗りたくり、頬張る。甘くていい感じだと、一人でうんうん頷いていると

 

「お兄ちゃん、塗り過ぎだっていつも言ってるでしょ。体壊すよ?」

 

「ばっか、五枚切りだぞ? こんだけ塗らなきゃ味しないだろ」

 

「はあ」

 

 溜息を吐かれる。なにこれ傷つく。

 

「・・・もう無茶しないでよね」

 

「・・・ああ」

 

 最後の一口を頬張ると牛乳でのみ下し、カバンを持つ。

 

「いってくる」

 

「早くない?」

 

「俺今日初登校だからな。クラスとかわかんねえし、色々説明とかあるだろうし早く行くだけだ」

 

「は~ん、いってらっしゃい」

 

「おう」

 

 持ち物の最終確認をし、自転車に跨る。総武高をめざし、ペダルを強く踏み込み、外行きのモードへと移行した。

 

~~

 

 職員室に行くと、女教師に進路指導室に通された。

 

「私は比企谷君のクラス、1-Cの担任の平塚だ。以後よろしく」

 

「はあ」

 

 白衣に身を包んだ美人の先生は俺に対し物怖じもせず自己紹介をした。

 

「授業は既に進んでいるが、頑張ればまだ間に合う。まあ、主席合格の君には言わずともわかっているかもしれんがな」

 

 自己採点満点だったので、主席合格は間違いないとは思ってたが、自分に代表の挨拶は回ってこなかった。つまり、最低あと一人満点のやつがいるということだ。

 

 ま、見た目不良な自分にやらせるくらいなら点数で劣っても他の奴にさせる可能性はあるが。

 

「そろそろホームルームの時間だ。ついてきなさい」

 

 平塚先生は立ちあがると背筋をピンと伸ばし、ツカツカと歩き出した。

 

 教室にむかって後をついていくとこの人が慕われていることがわかる。すれ違ったり、追い抜いていく生徒の大半が挨拶をしていくのだ。自分の中学では挨拶なんてごくわずかな生徒が行うのみで、そもそも先生のほとんどは嫌われていた。

 

 そして先生へのあいさつの後は後ろにいる俺へと目線を向けてくるが、たいていはおびえた表情を見せ、中には悲鳴を上げる者もいる。職員室でもこんな反応の先生はいたのだが、平塚先生には全く効かなかったな。

 

「君は目つきが悪いな」

 

「・・・仕方ないですよ」

 

 そう、仕方ない。仕方ないのだ。

 

「そうか。教室に着いたぞ」

 

 平塚先生が教室内に入るのに続き、俺も入る。するとクラス内の空気が凍る。

 

「さて、ホームルームを始めるぞ。今日は入学式から休んでいたクラスメイトを紹介する。比企谷、自己紹介しろ」

 

 自己紹介なんていらないのに。

 

「・・・比企谷八幡です」

 

 クラスのやつらは何の反応も示さない。恐らく示せないのだろう。金髪で目つきの悪いやつがいきなり来たのだから。

 

「・・・終わりかね。まあいい。君の席は窓側から2列目の一番後ろだ」

 

「うっす」

 

 自分の机につくとすぐさまつっぷす。何人かの視線がこちらを向くが、この分だと誰も話しかけてこないだろう。これでいい。俺は一人で誰とも話さず生きていくのだ。

 



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奉仕部

週一更新目標なのだが、忘れそう・・・


「比企谷、今から職員室に来なさい」

 

 帰りのホームルームの後に平塚先生から呼び出しをくらう。もう帰る準備は万端なのに。初日くらいさっさと帰らせてほしかったぜ。

 

 職員室に着くと、今朝と同じように進路指導室に連れていかれる。

 

「あの、何すか?」

 

「まあそこに座りたまえ」

 

 荷物をおろし、皮のソファに腰掛ける。平塚先生も体面に座り、顔の前で手を組む。

 

「いきなり来て早々悪いが、部活はどうする?」

 

「部活は入る気ないです」

 

 因みに俺は生まれてこの方部活というものに入ったことが無い。これからも入る気はない。

 

「ふむ・・・。登校初日から金髪に染めてくるあたり、君は所謂リア充的な存在かと思ったが、自己紹介も適当、部活にも入らないか」

 

 リア充とか今の時代先生も使っちゃうのかよ。教師は聖職とか呼ばれた時代が懐かしいな。いや、俺その時代知らないけど。

 

「まあ入りたい部がないならちょうどいい。君に是非入って欲しい部があるんだ」

 

 ・・・この人話聞いてた?

 

「あの、僕入るつもりないですけど」

 

「目つきも悪いし、二週間学校来れなかったからな。既にグループは形成されていて入りにくかろう。しかし君が今から入る部は今のところ一人しかいないから大丈夫だ」

 

「あの」

 

「ついてきなさい。案内してやろう」

 

 ホントこの人話聞かねえな・・・。まあでも俺は教師に逆らえない。見た目がこんなだからな。退学とか勘弁。

 

~~

 

 ガラリと勢いよくドアが開け放たれる。

 

「・・・平塚先生、ノックはしてくださいといつも」

 

「すまない。しかしお前も返事をしないからな」

 

「返事をする前に・・・はあ、もういいです」

 

「そうか。そうだ雪ノ下。今日は入部者をつれてきた」

 

「・・・どうも」

 

 入室し、挨拶をする。室内のその存在を認めた瞬間、ただ単純に美しいと感じた。しかし同時に面倒だとも感じた。何せこいつは恐らく・・・。

 

「・・・犯罪者更生施設ではないのですが」

 

 ・・・っれーおかしいな。俺犯罪者じゃないんだけど。まあそう見えても仕方ないような見た目はしているがな。つうかこいつも俺に恐怖抱いて無さそうなんだが。どうなってんの、この学校。

 

「安心しろ。こいつはまだ犯罪者じゃない」

 

 まだとか今後俺が罪を犯す前提?

 

「だからお前にこいつが犯罪を犯さないように指導してやってくれ」

 

「ここは犯罪者予備軍更生施設でもないのですが・・・まあ先生からの依頼ならば無碍にもできませんし、お引き受けします」

 

 俺に怯えて入部拒否してくれれば助かったかもしれんが、まあ恐怖なんてしないわな。むしろ興味を抱いて関わってくることも想定していたが、それはなさそうだ。よかった。

 

「そうか、それは助かる。それじゃああとはよろしく頼んだ」

 

 そう言い残し、平塚先生は去って行った。

 

「・・・はあ」

 

 俺はため息をつき、ドアから一番近い椅子に座る。俺がいても何ら興味を示さず、本を読みふけっている雪ノ下にじろりとした目を向ける。これでたいていの奴は震え上がるが、

 

「・・・何かしら。その下卑た視線を向けられると不快なのだけれど」

 

 ・・・八幡自信なくしちゃうな。

 

「お前・・・俺が怖くないのか?」

 

 雪ノ下は本をパタリと閉じ、顔をこちらに向けた。

 

「あなたのような小悪党を絵にかいたような存在、恐れるわけないでしょう? 例え襲われたとしても撃退する自信があるわ」

 

 こいつあれだな。やっぱ面倒くさいな。

 

「・・・お前友達いないだろ」

 

「まずは友達の定義から教えてもらおうかしら。どこからどこまでが・・・」

 

「ああもういい。その発言は友達いない奴の発言だ。・・・で、ここは何部なんだ?」

 

「・・・あなた何も聞かされてないのね。いいわ、少しゲームをしましょう」

 

「ゲーム?」

 

「ええ。この部は何部なのかを当てるゲームよ。ヒントは私が今こうしてることが既に部活動よ」

 

 今こうしてる? さっきまでは本を読んでいたが今は閉じられている。つまり本は関係ない。今やってることと言えば椅子に座り、俺と会話をしている・・・。

 

「・・・心理カウンセラー的なものか? 生憎俺はそんなものを必要としてないんだが」

 

「違うわ。まああなたに対しては似たような事かしら」

 

 雪ノ下は本を置き、夕日を背景に立ちあがる。

 

「餓えている者には食べ物の取り方を、冴えない男子には女子との会話を。依頼者の自立を促すことを目標とする奉仕部へようこそ、比企谷君。歓迎するわ」

 

 歓迎って言葉、こいつ本当に知ってるか? おもっくそ見下されてる気がするんだが。物理的にも精神的にも。

 

 ただ、悪くない理念だ。やる気のない人間は嫌いだからな。でも引っかかるところが一点。

 

「俺、お前に自分の名前言ったっけ?」

 

「・・・あなたのことは一年で噂になってるわ。二週間不登校だった不良が今日いきなり来たって」

 

「お前友達いないのに何でそんな情報知ってんだよ」

 

「あら、私に友達がいないって何で知ってるのかしら? もしかして、ストーカー?」

 

「ちげえよ。さっきの会話で類推してるくらいわかるだろ? もう忘れたか? 鳥頭なのか?」

 

「必要のない記憶は消去してるの。それに新入生代表の挨拶をした私に向かって鳥頭と言うなんておろかにもほどがあるわねまあ、不登校かつ友達もいないあなたには知り得ない情報かもしれないけれど」

 

 ああ、こいつだったか。まあ納得だな。

 

「そうですか。まあ今日はもう日も傾いてるし、帰っていいか?」

 

「ええ、そうね。お疲れ様。くれぐれも警察のお世話にならないように気を付けて帰ってね」

 

「心配のされ方がおかしいんだが。・・・じゃあな」

 

 返事を待たずに部屋を出る。・・・明日からはバッくれよう。



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クッキー作り 1

感想と評価してくれた方、ありがとうございます
お気に入り登録も感謝です

今回から予約投稿を試してみましたが大丈夫ですかね?
よければ毎週この時間に投稿します(予定)


 奉仕部から逃げようと帰りのホームルーム後にすぐさま教室から出る。目立たないように体を丸めながら、脇目も振らずに昇降口を目指す。しかし、いきなり首元が絞められる。何事かと振り帰ると、そこには俺の襟を突かんだ平塚先生がたっていた。

 

「どこに行くのかね?」

 

「・・・奉仕部部室のつもりですが?」

 

 まあ嘘なのだが、堂々と言う。これ嘘を言うときのまめな。相手の目をしっかりと見て、自信を持って言えば、たいていの人間は信じる。まあ俺の場合こうするだけで逃げていくやつが大半だが。

 

「部室の方向は違うぞ」

 

 平塚先生は相変わらずその例に漏れるようで、全く退いてくれない。

 

「道がわからなくて。ほら、俺って学校来てまだ二日目ですし」

 

 つうか、さっきから道行く生徒に見られまくってんだけど。確かこの人生活指導もやってたな。不良が何かやらかしたかと好奇の目を向けてくる奴が多い。今は先生の目の前だから自分の身の安全は大丈夫だしな。それでも俺が一睨みすれば逃げていくが。

 

「・・・君は誰彼かまわず敵意を振りまくのは止めた方がいい」

 

「・・・それで、俺はこの後どうすりゃいいんすか」

 

「はあ・・・仕方ない。私に嘘をついたことは今回は目をつぶってやろう。ついて来い、案内してやる」

 

 ・・・普通にばれてるし。マジ何もんだこの人。国語教師だからか? いや、俺の中学の頃のは大した奴じゃなかったんだがな。つうか今回はとか言っちゃう辺りが怖い。

 

 白衣を揺らし、ピンとした姿勢で前を歩く先生の背中を見ながら、俺はA級厄介人物へランク付けをした。

 

~~

 

「今日は来ないのかと思ってたわ」

 

 ドアを開けると昨日の如く雪ノ下は窓側の席で本を読んでいた。

 

「別に帰ってもやることとか大してないしな」

 

 まあ実際は逃げ出そうとしたところを見つかって捕まっただけだが。仕方ないし課題でもやっておこう。

 

「・・・あら、課題はしっかりやるのね」

 

「当たり前だ。俺みたいな見た目不良な奴は素行だけでも優良じゃないとな」

 

 じゃないとちょっとしたことで難癖つけられる可能性がある。それに友達もいないから勉強を誰かに聞くこともできない。先生だと面倒だし。勉強はできるに越したことはないしな。

 

「・・・そういやここって基本何やるんだ?」

 

「・・・そうね。依頼者が来ない限りは自由にしてくれて構わないわ」

 

「まじか・・・」

 

 予想以上に適当過ぎる。まあそっちの方が俺的には嬉しいし、こんなところに依頼に来るやつなんて・・・

 

 コンコンとノックが二回される。平塚先生か? いや、あの人はノックなんてしないはずだ。もしかして・・・

 

「どうぞ」

 

 雪ノ下の声にドアが開けられ、緊張した面持ちの女子が入ってきた。

 

「あ、あの。平塚先生から、ええっ!?」

 

 頭にお団子をのせた少女は俺の存在を認めると、大仰に仰け反る。いやまあ一般的な反応ですけどね?

 

「ヒッキー、何でここに!?」

 

 なにこれ。あんまし怖がってない感じ? つうかヒッキーってなに? 何で俺のこと知ってんの? 俺そんなに有名人? まあ金髪で目つき悪いやついたら噂にもなるか。昨日雪ノ下も言ってたし。

 

「へえ。あなた比企谷君のこと知ってるのね」

 

「え!? あ、いや~」

 

 曖昧な笑顔を見せる。これははっきり肯定したくない時だと俺は知っている。

 

「そ、それより! 依頼があってきたんだけど!」

 

 話変えるの下手か! まあいい、疑問は色々あるが関わる気はないし、さっさと話を進めさせてもらおう。

 

「で、何の用だ?」

 

「えっとそのクッキーの作り方わかんなくって。クッキーをつくって・・・渡したい人がいるから」

 

 ・・・典型的な恋愛脳か。まあ入学から二週間で髪染めるような奴なら納得だ。あ、俺もじゃん。てか何でこっち見て言うの? 俺じゃない男子高校生なら勘違いしてるぞ。

 

「・・・えっと由比ヶ浜さん。あなたの話を、要約するとクッキーの作り方を教示すればいいということかしら?」

 

「きょうじ・・・?」

 

 こいつわかってないな。頭にはてなが見える。

 

「教えるってことだよ」

 

「あ、なるほど! そうそう! てかあれ? 雪ノ下さんなんであたしの名前知ってるの?」

 

「全校生徒の名前覚えてんじゃねえか? 主席合格者様だしな」

 

 まあ俺にも当てはまるが。いや、俺は名前全く覚えてねえな。そもそも覚える気が無い。

 

「あ、新入生代表だったもんね。だからあたしも名前知ってるし」

 

「取りあえず詳しい話をしましょう。こちらに来ていただけるかしら」

 

 雪ノ下が自分の隣の椅子を引く。それに反応し、由比ヶ浜が動こうとしたところを俺が制止する。

 

「ちょっと待て」

 

 二人の視線が俺に集まる。

 

「何かしら? どうせお菓子作りとは無縁の世界を生きているでしょうし、無理に話に入ってこなくても構わないわよ」

 

 いや、クッキーくらい作ったことあるからね? 小町にねだられてケーキまで作ったこともある。やってみると段々楽しくって、月に一度くらい何かしらのお菓子は作っているが今はそんなことどうでもいい。

 

「由比ヶ浜に少し質問がある」

 

 ビクッと肩が跳ねる。

 

「な、何かな?」

 

「比企谷君、セクハラは止めなさい」

 

「いやしねえよ。どんだけ信用ねえんだよ、俺は」

 

 てか辛辣過ぎませんかね? 逆上した俺が襲い掛かること想定しないんすかね? あ、撃退できるっつってたな。いやまあしないけど。

 

「お前、クッキー作るのはいいが材料は何が必要かわかってるか?」

 

「えと・・・小麦粉とか? あとは・・・バニラエッセンス?」

 

「必要な器具は?」

 

「レンジと・・・んー? わかんない」

 

「・・・はあ。帰れ」

 

 由比ヶ浜の顔がすごく怯えている。恐らく俺はすごく冷めた目をしているのだろう。

 

「ちょっと比企谷君、クッキーづくりを教えてほしいと言うのが彼女の依頼よ? 知っていなくて当然じゃないかしら」

 

 若干雪ノ下ですら引いている。まあいい、これでこそ俺だ。

 

「別に作り方わからないのは仕方ないが、今の時代情報に溢れている。パソコンで検索かけりゃあいくらでもレシピは出るし、本屋にもレシピ本はある。なのにそいつは碌に調べもせず、全部奉仕部任せ。一度自分で作ってみて、失敗して、問題点を絞ってからならまだしもな。これは奉仕部の理念から外れるだろ」

 

 一歩も引かない俺に雪ノ下は押し黙る。雪ノ下は聡い。恐らく俺の言葉を理解してくれるだろう。対してそこの由比ヶ浜は・・・。

 

「・・・そうだよね。自分で努力もせずに全部頼ろうなんてダメだよね。・・・出直してくる」

 

 そう彼女は震え声で言い放ち、荷物をまとめて出ていった。

 

「・・・あなた、意外としっかりしてるのね」

 

「・・・まあな」

 

 恐らく由比ヶ浜はこの部室にもう来ないだろう。今のレシピはすごい。素人一人でもできるようになっているし、極めつけは俺の物言い。この人相にあんなにきつく言われればさすがに怖がって来なくなるだろう。できればこのままその噂が広まって誰も来ないようになればいいが・・・。



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クッキー作り 2

 由比ヶ浜の襲来から一週間がたった。音沙汰は無く、やはり俺の予想通りとなった。今では部室はただの自習室と化している。

 

 今日も課題を終わらすかとカバンに手を突っ込もうとしたとき、ドアが二回遠慮がちに音を鳴らす。

 

「どうぞ」

 

 雪ノ下の凛とした声に、引き戸が開けられる。すると、どこかで見た顔がひょこり。

 

「やっはろ~・・・」

 

 何その頭悪そうな挨拶。いや、そもそも挨拶なのか?

 

「由比ヶ浜さん・・・今日はどうしたの?」

 

「いや~その、クッキーづくりを教えてもらいたくて・・・」

 

 由比ヶ浜は頭の後ろと背中に手をやりながら、照れくさそうな笑みを浮かべている。まさか来るとは思ってなかったな。予想はずれたり。だが、あれだけ言われてまた来るってことは相当精神が強いか、もしくは真正のばかか。

 

「その、先週言われた日に本屋さん寄ってレシピ買ったんだけど、うまくできなくてさ」

 

 言われたことをすぐに実行できる素直さは認めよう。見知らぬ人間に言われたことを、例え正論だったとしても、受け入れることは結構難しかったりする。しかし・・・レシピあってできないってどういうことっすかねえ?

 

「ちゃんとレシピ通り作ったのか?」

 

 由比ヶ浜が地味にびくつく。しかし、目は合わせないながらも一歩も引かない。ここに来たことといい、どうやら根性はあるようだな。

 

「えっと、やっぱあたしが作るんだからアレンジはちょっと・・・」

 

「・・・はあ。料理できない奴の典型だな」

 

 俺の溜息に由比ヶ浜は身構えるも、前回ほどは怖がっていなかった。まあ努力する奴は嫌いじゃないからな。優しい目をしていたのだろう。俺の中では比較的にという条件は付くが。

 

「・・・雪ノ下、どうする?」

 

「何がかしら?」

 

「依頼を受けるかどうかだよ」

 

 雪ノ下の両目が大きく開かれる。俺の発言が意外だったのだろう。

 

「そうね。あなたに異論がないならば私は受けても構わないと思うわ」

 

「ほ、ホント!」

 

 由比ヶ浜の目が輝き、雪ノ下に駆け寄る。なんか犬みたいだな。尻尾と耳が見える。

 

「で、教えるにしたって場所はどうすんだ?」

 

「・・・そうね。私や由比ヶ浜さんの家を教えると餓えた獣が執拗に張り込む可能性があるからあなたの家でいいんじゃないかしら?」

 

 最初の理由要りますかね? こいつなぜか無駄に俺を貶してくるんだよな・・・。まあ、小学校や、中学校のやつらよりは大分ましだが。

 

「まあ一応器具は揃ってるが、嫌だ。何で俺の家にあげなきゃいかんのだ。別に学校の家庭科室でもいいだろうが」

 

「あなたバカ? 学校のものを私用で使う許可なんて出るわけないでしょ?」

 

「一応部活動という名目なら使えるかもしれねえだろ、考えなし」

 

 俺の視線と雪ノ下の視線がぶつかる。しばらく場の膠着状態が続いていたが、やがて雪ノ下は溜息を吐き、目を切った。

 

「わかったわ。じゃああなたが聞いてきなさい。もしそれで使えるようなら使えばいいし、使えないならあなたの家にいけばいい」

 

 何で当然のごとく俺の家が選択肢に入ってるんだよ・・・。

 

「俺が行く必要はないだろ。部長が行った方が何かと捗る」

 

 それに俺が行っても、絶対良いようには解釈されないだろう。

 

「これは賭けよ。あなたの意見と私の意見、どちらが正しいか。私はダメだという方に賭けたのに、行くわけないでしょ」

 

 まあ確かに、聞かずに帰ってきて、だめだったと報告することもできなくはないしな。

 

「・・・なんか、いいね。こういうの」

 

 由比ヶ浜がポツリともらす。

 

「いや、どこがだよ」

 

「こうやって何の遠慮もなしに好きなこと言い合えるってすごいいい関係だと思う」

 

「遠慮がないことは認めるけれど、この男と特別な関係に見られるのは単純に不快ね。そもそも遠慮が無いのはこんな男に遠慮なんてする必要がないからであって・・・」

 

「それでもすごいよ。あたしはさ、空気読んで周りに合わせてばっかだからさ。言いたいこと言えるって事や関係に憧れとかあるし。羨ましいなって」

 

 ・・・それは違う。空気を読むという行為は自衛の手段であるとともに相手を慮ってるから生まれることだ。俺や雪ノ下はそれが下手で、かつ周りのことをどうでもいいと思ってるから、他者から何と思われようと関係ないから言葉の暴力でノーガードで殴り合える。だから俺も雪ノ下も弾かれたのだろうけど。

 

「・・・俺、先生のとこ行ってくるから」

 

 俺は席を立ち、職員室を目指す。俺たちは由比ヶ浜が期待してるような間柄じゃない。別に由比ヶ浜のことは何とも思ってないが、やはり俺は他者の期待を裏切ることが嫌いだ。何度繰り返しても、罪悪感で心がざわつく。



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クッキー作り 3

 ガラリとドアを開ける。職員が一斉にこちらを向き、すぐさま目をそらす。まあ関わりたくないだろうし、仕方ないだろう。俺もその方が助かる。

 

「比企谷か。どうした?」

 

 何かの資料を抱えた平塚先生が目の前に立つ。そういやこの人いつも白衣来てるな。理科系等の教師でもないのに。

 

「少し家庭科室を使わせていただきたく」

 

「依頼か?」

 

「まあ・・・」

 

「わかった。家庭科の先生を呼んで来よう」

 

 白衣を翻し、平塚先生は一人の教師の元へと向かう。数回の押し問答の後、顔を曇らせた平塚先生が戻ってきた。

 

「比企谷・・・悪いが・・・」

 

 まあ予想はできた。家庭科教師が俺をちらちら見てたからな。だがここで引き下がるわけにはいかない。俺の家にあいつらをあげるなんて絶対・・・。

 

~~

 

「では、賭けは私の勝ちということで」

 

 嬉しそうな雪ノ下が勝ち誇った笑みを向けてくる。対して由比ヶ浜は苦笑いである。これじゃあ雪ノ下さんは友達できませんね。俺が言えることじゃねえけど。

 

「お前が行ってりゃ使わせてもらえたかもしんねえのに」

 

「そうね。まああなたに行かせたのは保険みたいなものね」

 

 こいつ、そこまで考えて俺に行かせたのかよ。

 

「それに、材料を買いに外に行けば、日も暮れてどうせ家庭科室なんて使えないわ」

 

「別に今日じゃなきゃいけねえってこともねえだろ。明日がバレンタインってわけでもねえし」

 

「あら、あなたがバレンタインという単語を知っているなんて驚きね。まあ、あなたの妄想の材料くらいにはなりそうね」

 

「ばかやろう。チョコもらって告白されたことぐらいあるわ。それを引き受けたら目の前でその女子が泣き、断ったら他の女子に何を調子に乗ってるのかと言われ、結局周りから非難されるという同じ大団円を迎えるのを毎年繰り返してたわ」

 

 ・・・あれ、二人とも引いてんだけど。

 

「まあ毎年はさすがに嘘だ」

 

 去年は無かったしな、うん。

 

「・・・まあどうでもいいのだけれど。取りあえずあなたの家に向かいましょうか。近くにスーパーかなにかあるかしら?」

 

 くっ、話題をそらせたかと思ったのに!

 

「あー、今日はだめだ。あれがある」

 

「抽象的過ぎるわね。さっさとあなたの家に案内しなさい」

 

 結局俺の家に来ちゃうのかよ。俺の断り文句が意味ねえな、無敗だったのに。・・・まあ誰にも使ったことはなかったがな。

 

「別に今日じゃなくてもいいよ。明日とか」

 

「休みの日がいいんじゃねえか? 放課後じゃあどうやったって帰宅は暗くなってからになるし」

 

「・・・あなたにしてはまともなことを言うのね」

 

 よし、乗ってきたな雪ノ下。このまま土曜日になれば俺はこいつらを案内できない。そしたらこいつらは俺の家にたどり着けない! 以下無限ループ。

 

「じゃあ今からあなたの家の住所を提出しなさい」

 

 ですよね~。雪ノ下はそんな甘くはねえよな。由比ヶ浜だけなら騙せたかもだが。しかし、ループの一回目すら入れなかったか・・・。

 

「あたし住所とか教えられてもいけないよ?」

 

「・・・そうね。私が行き方を調べておくから一緒に行きましょうか」

 

「つうかそもそも俺いらねえだろ。お前の口ぶりからしてクッキー作れるだろうし、由比ヶ浜にはお前がついてりゃいいだろ。そうすりゃお前の家でも・・・」

 

「だめよ。これは奉仕部としての活動なのだからあなたも参加は確定よ。それにこれはあなたの更生もかねているのだから」

 

 ・・・つうかまじでこのままだと俺の家になるな。

 

「ヒッキーはさ、あたしの依頼、受けたくないの?」

 

 由比ヶ浜が寂しそうに頭のお団子を右手で触る。

 

「・・・まあ休日潰してまでやりたいことじゃねえが、一応俺も部員だからな。やるよ」

 

「・・・そっか」

 

 納得したように頷きながら笑みを浮かべると、由比ヶ浜は雪ノ下の方を向いた。

 

「うちでやろうよ。ヒッキー、家だと嫌みたいだし」

 

「・・・由比ヶ浜さんがそういうなら」

 

 助かった。由比ヶ浜に感謝だな。少し言葉を和らげるように努力してみるか。



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クッキー作り 4

 土曜日になり、俺は雪ノ下との待ち合わせ場所に向かった。集合時間20分前に着いたにも関わらず、既に雪ノ下は駅前で人目を引いていた。

 

「はええな」

 

「あら、気づかなかったわ。どうやったらそんなに気配を消せるのかしら?」

 

 いきなり辛辣だな、こいつ。まあいい。

 

「いいからさっさと行くぞ。迷うかもしんねえし」

 

「そうね」

 

 行き方を調べてきた雪ノ下に連れられ、最寄り駅まで着いたまではよかった。

 

「・・・おい、ここさっきも通ったぞ」

 

「うるさいわね。わかってるわよ」

 

 絶対わかってねえだろ。そもそも四回右に曲がってる時点でおかしいのはわかれよ。フラグ回収してんじゃねえよ。

 

「あーもう、地図貸せ」

 

 グーグル先生の教えの乗った紙を雪ノ下からひったくる。大体の方向は合ってるな。若干右に逸れてるが。

 

「・・・あなたに教えられるなんて屈辱だわ」

 

「だったら地図ぐらい読めるようになっとけ。こっちだ」

 

 出発時間は早かったにもかかわらず、予定時間より20分ほど遅れて目的地に着いた。

 

「やっと着いたか」

 

 あとはインターホンを鳴らして、由比ヶ浜を待てばいいだけだ。表札も正しい。

 

 雪ノ下が押すと、ピンポンと音がして、ドアがガチャリと開く。

 

「ヒッキー、ゆきのん! 来てくれたんだ!」

 

 満面の笑みを浮かべ、普段着の由比ヶ浜が姿を現す。しかし今こいつ何か変なこと言わなかったか?

 

「ええ、当たり前でしょう。それで・・・ゆきのんというのは?」

 

「雪ノ下雪乃だからゆきのん! ・・・だめかな?」

 

 申し訳なさそうに顔を俯けつつも、上目づかいで雪ノ下を見る。何このビッチじみた仕草。こんなん大抵のやつ落ちるだろ。ただし美少女に限る!

 

 確かに由比ヶ浜は客観的に見ればかわいい。いや、主観的に見てもかわいいな。だが雪ノ下が早々籠絡されるなんて・・・

 

「べ、別にだめとは言ってないのだけれど」

 

「ホント!? やった!」

 

 籠絡されてたー! ゆきのんマジチョロイン!

 

「・・・何かしら比企谷君。不快な目でこちらを見ないでくれるかしら」

 

 ふぇぇ、ゆきのんこわいよぉ・・・、とか言ったらマジで殺されそうなので胸の内に留めつつ、俺は由比ヶ浜に目を向けた。

 

「はやくやろうぜ」

 

「あ、ゴメン。ささ、中に入って!」

 

 てってっとこちらに来ると、雪ノ下の腕を取り、家の中に引っ張っていく。雪ノ下も口ではぶつくさ言いながら顔は満更でもないですよ?

 

「今日夜まであたし一人だから、のびのびクッキー作れるよ!」

 

 それは助かる。俺みたいな人相のやつと鉢合わせすれば冗談じゃなく通報されかねん。

 

「それじゃあ早速作業に取り掛かるとしましょうか」

 

 並の家庭の台所など、三人もいれば身動きが取れなくなってしまう。なので由比ヶ浜と雪ノ下が台所に立ち、俺は隣接するダイニングで二人の様子を見ていた。いや、雪ノ下曰く見られていたと表現する方が正しいであろう。他人の家を荒らす可能性があるからだそうだ。

 

 取りあえず個々でクッキーを作っているのだが、雪ノ下はテキパキと完璧にこなしているのだが、由比ヶ浜は一つ一つの所作が雑だったり、不慣れだったりで、ついつい口を出してしまう。

 

「おま、卵もろくに割れないのかよ・・・」

 

「何で量らずに投入!? 何のための計量カップだよ。何のためのレシピだよ!」

 

「どうしてそこでコーヒーの粉!? レシピ通りなのか!?」

 

「もうヒッキーうるさい! あっち行ってて!」

 

 ええー・・・これ俺が悪いんすかね? これでも抑えた方だぞ。つうかやっぱしレシピどおりやってねえじゃねえか。

 

「おい雪ノ下。こいつに何とか言ってくれ。・・・雪ノ下?」

 

「比企谷君。今、集中しているから後にしてもらえるかしら」

 

 ・・・だめだこいつら早く何とかしないと。お前は教えに来たんじゃねえのかよ!

 

「ふう、できたわね。あとは焼くだけ・・・何があったのかしら」

 

 雪ノ下が由比ヶ浜の惨状をとうとう目にする。つうか隣でやってて気づかないってすげえ集中力だな。

 

 雪ノ下の見た光景を端的に表すなら・・・まあ悲惨だな。正直渡されるやつが可哀想になるレベル。飛び散った卵の殻に、コーヒーの粉一袋がぶちまけられたボウル、俺。・・・俺も悲惨な光景の一部なのかよ。

 

 訳が分からないという風にこめかみを押さえる雪ノ下。

 

「取りあえず私の指示監督の元作り直しましょうか。これは捨ててもらって・・・」

 

「ええ!? もったいないじゃん! 焼こうよ!」

 

 誰が食べるんだよ! 誰が目に見えてる地雷踏むんだよ!

 

 俺の心の叫び虚しく、雪ノ下の整った生地と由比ヶ浜の・・・な生地がオーブンに入れられる。・・・既に何か変なにおいがするのだが。やっぱ俺も食べなきゃダメかな? ・・・だめだな、はあ。小町、先立つ不孝をお許しください・・・小町親じゃねえけど。




感想の返信は月曜の午前に一括でさせていただきます。

誤字脱字等あれば、指摘お願いします。

クッキー作ったことないのでおかしなところがあったらすいません


追記
返信は気づいたら返すことにしました。


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クッキー作り 5

 由比ヶ浜の荒らした台所を片し終えたところでオーブンが焼き上がりの合図を出した。そこで由比ヶ浜の提案により一旦休憩を挟むこととなった。

 

「おまちどうさま」

 

 雪ノ下が綺麗に皿に盛り付けてクッキーを持ってくる。由比ヶ浜と雪ノ下、それぞれのクッキーが山を形成しているが、どちらのものかは一目瞭然で、まず色からして違う。

 

 雪ノ下のはこんがりきつね色をしており、市販のものと変わらず、食欲を引き立てる。反対に由比ヶ浜のは、チョコクッキーかよ! ってくらい黒い。まあコーヒーの元のせいで生地からして黒かったんだがな。この苦い臭いも完全にそれのせいだよな。隠し味って言ってたが全然隠れてないんだが、どうすんのこれ。

 

「じゃあ食べ始めましょうか」

 

 いつのまにやら紅茶がいれられており、ユラユラと湯気を立てている。冷まる前に飲みたいし、さっさと食べるか。早く帰りたいし、雪ノ下がめっちゃ見てくるし。

 

 俺がクッキーの山に手を伸ばすと由比ヶ浜がピクンと反応する。雪ノ下の山に手を伸ばすと、ふくれた顔をしてくる。・・・どうでもいいが雪ノ下の山ってなんかエロくね? いや、やっぱエロくねえわ。だってゆきのん山ないし。

 

 仕方ないので由比ヶ浜のクッキーを食べることにする。俺が食べる所作を二人が一生懸命見ているため、居心地が悪い。つうか雪ノ下さん、完全に僕に毒見させてますよね? 僕の反応見て自分が食べるかどうか決めようとしてますよね?

 

 俺が動かないと周りは動きそうにないので、一先ず黒ずんだ歪な形のクッキーを手に取ってみる。近づけるときつくなった臭いが口に入れた瞬間さらに濃くなる。じゃりっとした感覚と共に口いっぱいに苦味が広がり、余すところなく蹂躙してくる。が・・・

 

「・・・・・・思ってたより不味くない」

 

「ホント!?」

 

 なんか目を輝かせていらっしゃいますがね、由比ヶ浜さん。別にあっしは褒めてるわけじゃあねえんですよ。貶してるまであると思ってたんだが・・・まあ本人が喜んでるのならいいか。

 

「じゃああたしも!」

 

 そう言って由比ヶ浜が手に取るのは雪ノ下作のクッキー。おい、流れ的に自分の食べる感じだろ。雪ノ下も自分の食べてるし。・・・え、まさかこの失敗作全部俺が食べろってんじゃないよな?

 

~~

 

 見た目どおり雪ノ下のクッキーはおいしかった。由比ヶ浜のクッキーの後だとなおさらなのは言うまでもない。雪ノ下の山は既に平らになってるが、由比ヶ浜の山は未だに形を残している。・・・いや、二度も同じネタは使うまい。

 

 さすがに全てを食べきるのは物理的にも精神的にも無理だったので、各自持ち帰ることになった。量的にはやはり俺が一番多くなっているが、雪ノ下も由比ヶ浜もちゃんと食べていた。雪ノ下はなぜだめだったのかを考察しながら、由比ヶ浜は普通に。苦味に顔をしかめながらも、

 

「なくは・・・ないかな?」

 

と、首を傾げながらではあるが。まあ確かに苦いのが好きな奴ならいいのかもしれんが、残念ながら俺は甘いのがすきなんだよな・・・。まあ俺に渡すわけじゃないだろうし、いいか。

 

「そういや、お前が渡したい奴の好みってわかるのか? 甘いのが好きとか、苦いのが好きとか。苦いのが好きなら最悪このまま渡しても」

 

「いいえ、だめよ」

 

 何でお前が答えるんだよ。とか突っ込む間もなく雪ノ下は続ける。

 

「一度依頼を引き受けた以上は完璧を目指してもらうわ」

 

「何でだよ。相手の好みに合わせられるならそっちのが良いに決まってんだろうが」

 

「それでも、これをもらって嬉しい人がいるかしら? もう少し形がよければ・・・」

 

「ああ、いるよ」

 

 二人の目が驚きに見開かれる。確かに見た目は酷い。臭いは苦いし、味も触感もよくはない。でもな・・・。

 

「男ってのはな、単純なんだよ。女子の一挙手一投足に一喜一憂し、話しかけられただけで好きになるような奴もいる。ましてや由比ヶ浜のようなやつにプレゼントなんてもらった日には惚れちまうだろうな。例え中身がこんなのでも、一生懸命作ったことが伝われば、な」

 

「・・・なるほど。私には想定しえない考えね」

 

「じゃ、じゃあ、ヒッキーも?」

 

 由比ヶ浜がもじもしと、頬を染めながら聞いてくる。

 

「いや、俺は・・・」

 

 ここで仕事を終わらすためには、由比ヶ浜に自信を持たせるために、肯定しておいた方がいいのだろう。でも、それでは自分を曲げることになる、嘘をつくことになる。俺の嫌いなまやかしを自分で体現なんざ、真っ平ごめんだ。

 

「まず疑ってかかるだろうな。そもそも知り合いがいないからな、この学校には。得体のしれない奴から得体のしれない物なんて受け取って何があるかわからねえし、どうしてもというなら貰って即座に見えないところで捨てるな」

 

「あなた・・・最低ね」

 

「自己防衛の一種だ。俺を守ってくれる奴なんざいないからな。自分で自分を守るしかない」

 

 そう、信じられるのは自分だけ。俺はそれを痛いほど理解している。理解させられた。

 

「もし・・・」

 

「あ?」

 

「もし、ヒッキーが知ってる人が、そうしたとしても、ヒッキーはそうするの?」

 

「そうだな・・・」

 

 仮定に意味はない。更に俺の知り合いなんざ碌な奴がいない。それでも。

 

「もしそいつが、信用できる奴なら、まあ贈られるのはやぶさかじゃあないだろうな」

 

 そんなん今のところ小町ぐらいしかいないけどな。ああ、あと忘れがちだが社畜の両親だな。

 

「ホント!?」

 

「嘘つくメリットがねえだろ」

 

 そっか、と笑顔を浮かべる由比ヶ浜は、さっき俺に押し付けた由比ヶ浜製クッキーの入った袋を奪うと、キッチンに戻って行った。

 

「なんだ、あいつ」

 

「さあ?」

 

 雪ノ下も訳が分からないという表情を見せている。

 

 やがて、彼女が戻ってくると、さっきのクッキーの袋にはかわいらしいリボンにシールが張られている。

 

「え、なに?」

 

 結局俺に押し付けるのかよ。解放されるかもしれないという一縷の望みを抱いたのだが。

 

「ありがとうって、伝えたくて」

 

「・・・俺は何もやった記憶がないが」

 

 こいつにやったことと言えば、初日の説教と、今日の説教・・・あれ、俺説教しかしてねえじゃん。もしかしてこいつドMなのん?

 

「入学式の日、私の犬を助けてくれたじゃん」

 

「!」

 

 俺の脳裏にフラッシュバックするのは黒い高級感の漂う車と茶色い犬。そうか、あの犬はこいつのだったのか・・・。

 

「そういや今日は見当たらないな」

 

「今日はお父さんとお母さんが連れてってるから」

 

「元気にやってるのか?」

 

「うん! そりゃもうピンピンしてるよ」

 

「そりゃよかった。・・・もうリード離すなよ」

 

「うん。わかってる」

 

「・・・ありがとな」

 

 由比ヶ浜の手からクッキーの袋を奪うと、いそいそとカバンにしまう振りして顔を下に向ける。なにこれすげえ恥ずかしいんだけど。まあ、俺を陥れるためじゃないってんならもらってやってもいいか。どうせ、俺が処理しなきゃいけなかったんだし、見てた限りでは変なものも入れていない。その点は信用できるしな。

 

「雪ノ下、依頼は完了したっぽいぞ。・・・雪ノ下?」

 

「え? あ、そうね。もう渡し終えたならもうクッキー作りを教える必要もないものね」

 

 何かこいつ覇気がねえな。どうしたんだ?

 

「えー!? あたしまだ納得いってないし、教えてよゆきのん!」

 

「・・・一応依頼はクッキーの作り方を教えるということだから、付き合うわ。それじゃあキッチンに行きましょうか」

 

「うん!」

 

 また悲しい食材を出すことになってしまうのか・・・。まあ、雪ノ下がついてるならそこまで酷いことにはなるまい。

 

「依頼が完了したなら俺帰るわ」

 

「ええっ!? ヒッキー帰っちゃうの?」

 

「だめよ比企谷君。あなたがいなかったら誰が由比ヶ浜さんのクッキーを食べるの?」

 

 なんか俺残飯処理係になってませんかねえ・・・。

 

「つまりお前じゃ由比ヶ浜にまともなクッキー作らせることはできないから俺に頼むってことか?」

 

 わざと挑発的な物言いをする。数日の付き合いだが、雪ノ下は負けず嫌いなようなことは既に知っている。俺との言い合いに超ムキになってくるからな、あいつ。

 

「・・・いいわ。月曜日に由比ヶ浜さんのクッキーを持っていくから楽しみにしてなさい」

 

「・・・あれ、あたしなんかバカにされてない?」

 

 雪ノ下の闘争心に火をつけられたのなら、由比ヶ浜がバカにされているのを自覚することなんざ些細なことに過ぎない。所謂コラテラルダメージというやつだ。

 

「期待しとく。じゃあな、お邪魔しました」

 

「あ、ヒッキーばいばい!」

 

「さようなら」

 

 俺は帰路に着き、ひとつだけ気がかりなことがあった。・・・雪ノ下は一人で家に帰れるだろうか。まあ俺には関係ないことだし、さっさと帰ろう。




今回でガハマさんの依頼は終了!

次回からは学校のイベントへと突入していくわけですが、基本は自分の母校のイベントで書いていこうと思います。

文化祭はさすがに合わせますがね。


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遠足班

 休みが終わってしまった。土曜日午前がクッキー作りに費やされたしまったから実質俺の休みは一日半。睡眠に丸一日使ったせいで、勉強とアニメを徹夜で消化しなけらばならなかった。そのせいで今ものすごく眠い。

 

 授業は既に主要科目は終わり、残すところ家庭科とLHRのみ。もう昼食を食べることすら面倒だ。ベストプレイスに移るのも億劫だし、もう今日は寝よう。

 

~~

 

「・・・谷君」

 

 何か高い声がする。ただ俺に人が、ましてや女が話しかけてくることはまずない。つまりこれは夢だ。

 

「・・・企谷君!」

 

 声が一段と大きくなる。はあ、未だに俺はこんな希望を持ってんのか。溜息をつきたくなるな。

 

「・・・比企谷くん!」

 

 グラリと体が揺れる。それと同時に甘い香りが鼻腔をくすぐる。なにこれ超いい匂い。妄想が具現化するとは俺の妄想力もここまで来たか・・・。

 

 パチリと目を開くとそこには二つの大きな目があった。ジャージ姿のそいつには若干の既視感があるが、思い出せない。

 

「・・・誰?」

 

「と、戸塚彩加です。一応同じクラスなんだけどな、あはは・・・」

 

 まあ妄想の具現化なんてありえねえわな。それでなんだ、かわいらしい顔で俺を陥れようってか? 高校じゃあなくそうと努力してきたんだがな。いやまだだ。まだ防げる。

 

「なんか用かよ」

 

 可能な限り戸塚を敵視するような視線を向ける。睡眠不足も相まってさぞかし怖かろう。

 

「あ、起こしちゃってごめんね。同じ班になったことを伝えとこうと思って」

 

 比企谷八幡のにらみつける! しかし戸塚彩加には効果が無かった。どんだけ俺弱者に見られてんだよ。初代のファイヤーじゃあるまいし・・・。

 

「何の班?」

 

「遠足。もう一週間後だよ」

 

 ああ、そうだった。親睦を深めようとかでこの時期にやるんだったな。俺に不要すぎる。まあ休むわけにもいかないし、適当にこいつの班の後を着いていけばいいだろう。いつもやっていることだ。今更御託を並べる必要もない。

 

「それと平塚先生が職員室に来いって。もう帰りのST終わって時間たってるから早く行った方がいんじゃない?」

 

 そういや今日班決めだったからあの人いたのか・・・。いつも通り自習のつもりだったのが失敗した。くっ、あの人が担任なことが悔やまれるぜ。他の奴なら軽くいなす自信があるが、平塚先生は一筋縄じゃあいかねんだよな。さすがAランクだぜ・・・。なに、平塚先生アイドルなの? 違うな。ファンは多そうだが。

 

「わかった。態々どうも」

 

 まあ感謝くらいはしとかないとな。俺みたいなの班に入れられて、起こすことまで頼まれてそうっぽいし。それよりさっさと行かないとあとで面倒そうだ。

 

 あ、どっかで見たことあったと思えば、テニスコートで昼休み中素振りしてるやつか。




由比ヶ浜の一人称は”あたし”らしいので直してきました。ですが、これからも間違えそうなので、注視していただけるとありがたいです。


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人付き合い

「それで何の用でしょうか?」

 

職員室に着くと、自席に座る白衣の教師が例のごとく俺を待ち構えていた。

 

「この私にそんなふてぶてしい態度をとるのは君ぐらいなもんだ。全く、退屈させてくれんな」

 

 この私に・・・って、何この人痛い。気分は大魔王気分ですか? まあラスボス的な存在ではあるか、俺的に。

 

「まあLHRで寝ていたことは不問にしておいてやろう。どうせ君みたいにクラスになじめない奴は余りの班に入れてもらうしかなさそうだからな」

 

「ご理解感謝します」

 

 なにこの人超いい先生じゃん。痛い人とか言って申し訳ございませんでした。言い方に棘があるのはこの際致し方ない。雪ノ下に比べればかわいいものだしな。

 

「だがまあ五限の国語の授業で寝るのはいかんな~」

 

「なっ!? 家庭科のはずじゃ!?」

 

「ふっ、残念だったな。トリックだよ」

 

 時間割変更・・・だと・・・!?

 

 ペラリと見せられた紙には家庭科と現文の入れ替えを記載されている。聞いてねえんだけど。

 

「昼休みに話したからな。確か君はそのとき寝ていたな」

 

 普通前日までに伝えるだろうが。

 

「緊急の出張が決まってな。仕方なく私が引き受けたのだよ」

 

 ・・・表情に不満が出てたか? 心読まれたかと一瞬思っちゃったよ。・・・本当に心読まれたわけじゃないよね? この人相手だと本当に不安になっちゃうから怖い。

 

「まあそう身構えるな。少しばかしの奉仕活動をしてもらうだけだ。私は授業を無視されて酷く傷ついたんだ」

 

 傷ついてるように見えないんだけど。逆に喜んでるようにしか見えないまである。

 

「着いて来たまえ」

 

 ツカツカと歩いていく平塚先生に俺はため息を吐きながら着いていくしかないのだった。

 

~~

 

「どうだ、奉仕部は」

 

「どうって・・・まだわかんないですよ。依頼もこの間の由比ヶ浜で一つ目ですし、第一僕が入って十日足らずですし」

 

「まあそうだろうな」

 

 はははと笑い、平塚先生は紙類の入ったダンボールを持ち上げる。俺もそれに倣い、ダンボールを持ち上げる。

 

「君は相変わらず目つきは厳しく、人との関わり合いを絶っている。でもな、比企谷。高校では否が応でも人付き合いはしなければいかんぞ。いや、社会に出てからもそうだ」

 

「・・・必要にかられれば最低限の会話くらいはしますよ」

 

「君は相変わらずだな・・・」

 

 若干呆れ顔の平塚先生は、資材置き場のドアを足で雑に開ける。仮にも女性の方がそんなことやっていいんすかね?

 

「まあいい。高校生活は長い。ゆっくりと答えを出せ」

 

 もう解ならとっくに出ている。他人と関わる必要があるなら、その必要が無いほどの能力を身に着ければいい。簡単な話だ。

 

 誰かはみんなで仲良くやりましょうなんて言うが、その実別の誰かが煮え湯を飲まされるのは目に見えている。平等なんてのたまうものは、臭いものには蓋をし、見えていない振りをしなければそんなことは言えない。

 

 この世は嘘に満ちている。欺瞞が、虚偽が溢れている。いや、それしかないのではないか。そう思ったとき、俺の中で何かが音を立てて崩れ去った。

 

 上辺だけの関係、慣れ合い、そんなものにどれだけの価値があるのだろうか。昨日の敵は今日の友なんて言葉もあるが、昨日の友は今日の敵になり得ることの方が日常茶飯的に起きているのではないだろうか。

 

 結局俺は他人を信じられない。どうせ利用され、裏切られ、捨てられるという未来を拭い去ることができない。ならば初めから・・・

 

「どうもご苦労。それでは今日も部活、頑張ってこい」

 

「・・・うす」

 

 今日読む本の内容はどんなのだったっけ。・・・まず部活頑張ってと言われて本の内容を思い出そうとすることがまずおかしいな。まあいい、奉仕部なんてそんなもんだろ。




一月ほど何も書いていなかったら書き溜めがとうとうつきてしまった・・・。

バイト、テスト週間、ポケモン、・・・。

ないと思いますが、もし投稿が滞ったら、夏休みで借金返済します。


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新部員

「うーっす」

 

「あら、生きてたのね。いつもより遅かったからどこかでのたれ死んでいたと思っていたわ」

 

 ドアを開けるなりいきなり全開ですね、雪ノ下さん。

 

「親に養って貰ってる間は死なねーよ」

 

「なぜそんなことを胸をはって言えるのかしら・・・」

 

 雪ノ下のやる気を削いだぜ! これは俺の勝ちということでいいんじゃないかな?

 

 いつもの席に陣取り、カバンから文庫本を取り出す。げっ、栞とれてんじゃねえか。確か半分は読んでたはずだから・・・。

 

「やっはろー! 友達と喋ってたら遅れちゃって!」

 

 突如ガラリとドアが開き、バカっぽい挨拶と共に由比ヶ浜が姿を現す。何でコイツ今回はノックしてないの? ばかだばかだとは思ってたけど、日に日に頭悪くなってるの? まあなんか雪ノ下と約束でもしてたんだろう。

 

「由比ヶ浜さんこんにちは。でもノックしてから入ってもらえるかしら」

 

「え、あ、ごめんね? 部員はノックしなくていいかと思って」

 

 ・・・? いつから部員になったんですかねえ、雪ノ下さん?

 

 目だけで問うてみるも、雪ノ下も首を傾げている。

 

「・・・由比ヶ浜さんは部員ではないのだけれど」

 

「え!?」

 

 逆にどうして部員になったと思ったんだよ。つうかこんな部活に入りたいなんていう酔狂なやつがいるとは思ってなかったな。

 

「入部届も貰ってないし、平塚先生からも何も言われてないもの」

 

「書くよ! 入部届くらいいくらでも書くよ!」

 

 由比ヶ浜は自分のカバンからプリントを取り出し、その裏に”にゅうぶとどけ”と丸っこい文字で書き始めた。つうか入部届くらい漢字で書けよ。

 

「これでいい?」

 

「ええ。一応平塚先生の許可は必要だけど、たぶん大丈夫だと思うわ」

 

「ありがと、ゆきのん!」

 

「え、あ、あの、由比ヶ浜さん?」

 

 ガバッと由比ヶ浜が抱き付く。あーあ、ぼっちの雪ノ下は慣れてねえからすげえテンパってるぞ。

 

「話は聞かせてもらった!」

 

 ガラリと再びドアが開く。白衣をはためかせ、決めポーズで現れた平塚先生はドヤ顔を向けてくる。

 

「平塚先生、ドアを開けるときはノックを。それと、仮にも教師、いえ、大人の女性なんですからもう少し節度を持った行動をお願いします」

 

 言い換えられちゃう辺り、平塚先生の残念さが窺えちゃう。つうか俺から見ても相当痛々しかったからな。由比ヶ浜でも引いてるし、雪ノ下なんて見てみろよ。すげえ冷たい眼差し向けてるぞ。教師に向ける目じゃねえよ。完全に汚物を見る目だよ。・・・俺も向けられたことあるけど。

 

 俺らの反応に我に返ったのか、平塚先生は咳払いをし、佇まいを正す。普通にしてりゃあ美人なだけに、普段の言動の残念さが目立つ。

 

「さすがの雪ノ下と言えど、比企谷の更生には手間取っているように思えてな」

 

「あの、俺更生する気ないんですけど」

 

「・・・そうですね。彼の腐り具合が想像を遙かに超えるものしたので」

 

「ヒッキーそんな依頼されてたんだ・・・」

 

 本人の意思は無視ですか? つうか更生する部分が無いまである。というかガハマさん引いてる? 俺何も悪くなくね?

 

「そこでだ。部員も三人に増えたことだし、バトルをしよう!」

 

 勢いよく拳を天に突き上げ、平塚先生は雄々しく叫んだ。何? 目と目が合ったらバトルしちゃう的な? そいで勝ったらカツアゲですね、わかります。いや、わかりたくない。

 

「何のバトルでしょうか?」

 

「ここは奉仕部、人の手助けをする部活だ。だから、どれだけ人を助けられるか、を競うのが筋じゃないのか?」

 

「そうですね。一理ありますね。ただ、バトルする理由が見当たりませんが?」

 

 確かにな。漫画やゲームの世界であれば、デュエルしかり、ポケモンバトルしかり、その結果が全てであるというのもありえるが、ここは違う。というかそんな世界になっても、あんまり関係ないな。だって俺、人と目合わせないし、合わされないし。でもあの世界の主人公普通に暴走族とかとバトルするんだよな・・・。

 

~~

 

 気が付けば、雪ノ下は平塚先生の安い挑発に当てられ、勝負を承諾していた。何でも勝者は敗者に一つ言うことを聞いてもらえるらしい。それに伴い、由比ヶ浜も勿論参戦。たのしそうだね!、と目を輝かせている。唯一俺が反論するも、当然のごとく棄却。まじで人権が無いんだが・・・。

 

 遠足、突然のバトルロワイヤル、そして雪ノ下の力をもってしても微量の改善しか見られない由比ヶ浜のクッキー。悩みの種が尽きない俺の高校人生を憂い、俺は大きくため息を吐き出すのであった。




前に頂いた感想で、八幡はスペックが高いだけで、特殊能力はつけないと返信しましたが、この場を借りて、訂正します。

特殊能力をつけるので、ご了承ください。登場はまだ先だと思いますが。

スペックも勿論高いです。


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遠足

 来てしまった。とうとうこの日が来てしまったか。

 

 空は快晴。体調も万全。周りには出来上がったばかりの息の合ってないグループが多数。そう、今日は遠足の日だ。トップカーストのやつらは待ちに待った、逆にクラスでぼっちな奴らには地獄のあの遠足だ。

 

 まあ来てしまったか、とは思いつつも、俺は別に気にしていない。並のぼっちならこの雰囲気で友達を作れるかも、と奮起するのだろうが、生憎と俺レベルのぼっちになると普段の学校とあまり変わらない。ただ非日常な日常だ。なにこれ我ながら言ってることかっこいい。

 

 未だに中二病の患いを感じつつも、俺は班員の集まるところに移動する。と言っても戸塚以外知り得ないのだが。

 

「あ、比企谷君。おはよう」

 

「・・・ああ」

 

 他の班員らしき二人との会話を止め、俺に挨拶をしてくる。まあ他の二人は怯えて挨拶なんてしてこないけどな。それが普通の反応のはずだ。戸塚がおかしい。そもそも俺と初めて話した時も自然な様子だったしな。

 

 班員は一クラス四人が十組で、男女別である。つまりこの間まで勘違いしていたが戸塚は男である。見た目はそこらの女子よりよっぽど女らしいのにな。今のジャージ姿とかまじで見分けがつかねえぞ。まあ俺には関係ないか。

 

 時間になり、先生の有難い話を終えバスに乗り込む。我らがC組は三号車だ。まあその我らに俺が入っているかは怪しいがな。

 

 後方で、班員の二人が戸塚に謝る様子が聞こえてくる。どうやら俺の隣に座るのを押し付けたことに対してらしい。小声で話してるみたいだが普通に聞こえてんだよな・・・。まあそれに対し何かアクションを起こすつもりはないが。

 

 戸塚は余り物の俺を入れてしまったことに対する罪悪感でも感じているのだろう。それか班長であることの責任感か。まあ特に関わる気もないし、寝てればいいだろう。

 

「比企谷君、隣失礼するね」

 

 話が終わったのか、戸塚が俺に隣に滑り込んでくる。その際、甘いにおいがふわりと充満する。何コイツ、まじで性別偽ってんじゃねえの? 戸塚はいろんな意味でおかしい。

 

 窓側に座ったので、適当に外を眺める。ボーっとしてれば勝手に眠れるだろう。添乗員さんの号令を皮切りにバスが発信し、車内が喧騒に包まれるが、イヤホンに音楽機器を持ってきた俺は無敵だ。

 

 カラオケ大会で、リア充どもがはっちゃける最中、俺はチョイスする歌を決めようと、ボタンを操る。

 

「比企谷君も何か歌うの?」

 

 戸塚が身を乗り出し、画面をのぞき込んでくる。おいやめろ。何かいけない気分になってきちゃうだろ。

 

「歌わない。寝る」

 

 体の向きを変え、戸塚に背を向ける。これで拒絶することは伝わるだろう。お前は隣に座ってる義務感から話さなきゃと思うだろうが、それは有難迷惑だ。それを伝えれば戸塚も無理に話そうとは思わないだろう。

 

「僕と話すの嫌なのかな・・・?」

 

 ・・・だからこの残念そうな声は幻聴に違いない。

 

 俺は音楽をスタートさせ、それを子守唄に眠りについた。




19時だと予約投稿面倒なので、0時投稿にしたいと思います。こっちのが数字綺麗だし。

話的に八幡が戸塚にでれるのは大分先になりそうなのでご了承を。


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遠足 2

 一時間と少しバスに揺られ、目的地である千葉シーサイドパークに到着した。ここには数々のアスレチックや、広場があり、外で十分に遊ぶことができ、更には少なくない量の魚や海洋生物を飼育している。勿論観賞できるようになっており、遊び疲れて休憩するときに丁度いいと評判である。まあ水族館に比べれば見劣りはするが、サイドメニューとしては十分すぎる。

 

 昔は家族でよく行ったものだ。俺が頼んでもだめなのに、小町が言うとその週末には行けるもんな。小町にはよくお菓子と引き換えにおねだりしてもらったものだ。まあそのせいでここには思い出はありつつも真新しさは全くない。アスレチックが改築されたわけでもないし、何か大きなイベントがあるわけでもない。でも、自然と子供のころを思い出してテンションが上がってしまうのは仕方ないことのように思える。まあリア充どものように遊びまわったりはしないが。

 

「僕初めて来たな。みんなはどう?」

 

 戸塚の問いに、班員二人が俺は来たことあるだの、俺も初めてだの話し始める。俺は特にやることもないので明後日の方を向き、ボーっとすることにする。

 

「比企谷君はどうかな?」

 

 急に名前を呼ばれ、思わず肩を震わす。止めろよ、友達でもないのにナチュラルに話しかけるの。友達かと思っちゃうだろ。

 

「・・・あるよ」

 

 他の二人は関わり合いになりたくなさそうなのにどうして空気読めないかな・・・俺の方が読めないけど。

 

「取り敢えず進路に沿って進んでみようか」

 

 誰も異論はないみたいで戸塚を先頭に進行していく。前の班に追いつき、追いつかれつつ進んでいく。俺も懐かしさを感じつつ、班員の後をついていくのだった。

 

~~

 

 ここのアスレチックの数は実に38個にのぼる。故に千葉最大の公園と言ってもいいだろう。難易度も子供用からハイレベルなものまである。道は一本道になっているが、勿論地面を通れるようになっており、すべてのアトラクションをスルーして終えることも可能だ。まあ俺は小学生の頃に全てクリアしているし、汗をかいてまでやる必要性を感じないので当然のごとくなにもやらない。俺以外にも班単位でやらないやつらもいるが、戸塚は今のところすべてに挑戦している。

 

 全くよくやるよな。他の二人は俺が下にいるからか、戸塚にひっぱられてるからか頑張っているが、既にいくつかをパスしている。まあ難易度的には大人がやっても難しそうなのもあるしな。それに俺みたいな余り物を加えるような班だ。カースト下位のやつらなのだろう。しかしそこで一つ引っかかる。なぜ戸塚のような社交性のあるやつがこの班に居るのだろうか。まあ大方あいつらが可哀想だったんだろう。・・・その中に俺も入っているのだろうが。

 

 戸塚はラスト2の子供用アスレチックを突破し、最後の最難関遊具に挑もうとしていた。




書き溜めが・・・尽きた・・・。


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遠足 3

「うっ・・・はあっ!」

 

 最難関の遊具に戸塚が挑むも、中々苦戦しているようだった。なぜならこれはここで唯一制限がかけられるほど高難度のものだからだ。まあ高難度とは謳っているものの、内容的にはただのアスレチックなのだが、体力、筋力が求められるため、年齢制限や「筋力に自信のある方」といった注意書きがあり、ケガをしても一切責任はとらないと記述してある。

 

 戸塚は今までのアスレチック全てに挑戦、撃破して疲れており、また、体力的にも筋力的にも高校生の平均からは下回っているように見える。

 

 他の班員は勿論やらない。俺から離れ、戸塚を応援している。

 

 時間がかかりそうだな・・・このまま見てるのもつまらないし、手伝ってやるか。観賞魚も久々にみたいしな。

 

 そう思い、カバンを下ろそうとすると、後ろから声が聞こえてくる。

 

「次はここ最難関の遊具っしょ? っべ~、まじっべ~わ~」

 

「戸部なら大丈夫だよ」

 

「隼人君ハードルあげないでよ~。隼人君は余裕だからいいかもだけど~」

 

 大きな声を発しながらトップカーストらしき奴らが現れる。一人は金髪で、もう一人は茶髪でチャラそうな印象を受ける。金髪を中心に二人は女子に囲まれ、そいつらの班員らしき男二人は女子の壁に阻まれ、二人で寂しく会話をしている模様。その二人の顔は悪くなく、髪を染め上げている様子から、トップカーストに属しているのだと見受けられるが、悲しきかなトップカースト内でも勿論格差はある。

 

「葉山君なら絶対大丈夫だよね!」

「うんうん!」

 

 女子からの声援を受ける金髪のやつの顔は、男の俺からしてもイケメンだと言わざるを得ない。いや~すごいね。俺が金髪に染めても怖がらせる要因にしかならなくても、イケメンがすれば魅力の一つだもんな。・・・あれ、でも俺もイケメンだよな? そういや俺もあいつも同じくキャーキャー黄色い声援受けてるな。やはり俺はイケメンだったのか。

 

 そんなことを考えていると、後ろのやつらもワイワイやってくる。女子は俺に気づくと、悲鳴を上げ、金髪の後ろに隠れる。茶髪のやつは、俺をまじまじと見てくる。止めろよ。ぼっちは他人の視線に慣れてないから。

 

「君もやるのかい?」

 

 金髪が話しかけてくる。俺みたいなやつにも話しかける俺KAKKEEEEEEEみたいな? それとも女子を前にかっこつけてるだけなのか。

 

「・・・やらん」

 

 これ以上話す気はないと、俺は背を向ける。後ろの方で、感じが悪いだとか、怖いだとか、女子が囁いているが、どうでもいい。

 

「それじゃあいっちょ挑戦しますか~!」

 

 お調子者らしい茶髪がわざとらしく伸びをすると、金髪と同じく最難関のアスレチックに手をかけ始める。

 

 戸塚は中間ポイントで休憩せざるを得ないみたく、肩で息をしているのが見て取れる。あっという間に二人に追いつかれ、先を譲っている。

 

「君、大丈夫かい? 大分息があがってるみたいだけど」

 

「少し、辛いかな。でもあと少しだから、頑張ってみるよ」

 

「そうか。じゃあ僕らは先に行っているよ」

 

 残された女子や班員も、当然のごとく俺からは離れ、遠巻きに葉山というやつを応援している。恐らく金髪のやつだろう。また、戸塚のことも知っているらしく、そちらにも若干応援の声がする。茶髪の応援は戸塚よりも少ないが、なくはない。・・・男からのものであるが。

 

 再び戸塚が先へ進んでいく。しかし、疲労が激しいのか、手を滑らせ、クライミングの部分から落ちそうになる。やばいと俺が思ううちに、後ろから悲鳴が上がり、瞬間、それが歓声に変わる。先に行ったはずの金髪が、戸塚の手を掴み、寸でのところで落下を阻止したのだ。

 

「大丈夫か?」

 

「うん、ありがとう」

 

 三人が下りてくるころには、葉山コールの嵐で、恐らくこの伝説は瞬く間に学年中に広まるだろう。

 

「比企谷君もありがとう」

 

 輪から離れた戸塚が俺の元へと寄ってくる。

 

「は? 俺は何もしてないだろ」

 

「でも僕がきつそうなとき助けに来ようとしてくれたし、落ちそうになったときも真っ先に動いてくれたでしょ?」

 

「・・・それは思い違いだ」

 

「いいよ、僕の自己満足だから。ありがとう」

 

 満面の笑みを咲かせる戸塚は、それだけ言うと他の班員の元へと駆け寄り、大丈夫だという旨のことを言っていた。

 

 ・・・戸塚彩加。こいつなら俺のことを本当に・・・なんて甘い考えはしない。一瞬やつの笑顔に心が揺れたが、それだけだ。顔が可愛いから、恐らく雄としての本能に過ぎないと結論付ける。いや、本当にそうだったら、俺の本能はぶっ壊れているが。ただ・・・彼のことはもっと知らなければならないと思った。知らないことは怖いから。何の対策も、できないから。

 

 俺を呼ぶ戸塚に、そちらに向かって歩くと言う動作で、俺は返事をした。




初めて投稿前日に書き終えたかも。
戸部の会話難しいんだが。少し原作読んで勉強してきます。
遅れましたが、千葉シーサイドパークとかいうやつは適当に作りました。


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遠足 4

「お腹もすいたし、ご飯にしようか」

 

 ここに到着してしてから既に三時間が経過し、時刻は午後十二時半を過ぎる頃。全く動いていない俺でも空腹感を感じているのに、あれほど動いた戸塚だ、それも一入だろう。

 

 ここには数々の食事処が並んでいる。潮風に混じった匂いに誘われ、入ったところはラーメン屋だった。近くの港でとれた新鮮な魚介を使ったスープが売りの様で、俺は迷わず魚介ラーメンを選んだ。班全員分を戸塚に頼んでもらい、待っている間、手持無沙汰になった俺は、スマホを取り出す。俺がいると他の奴らの肩身が狭いだろう? ぼっちは他人に迷惑をかけないものだ。存在を消せ!

 

「ラーメン、楽しみだね、比企谷君」

 

「・・・そうだな」

 

 ・・・おい、俺の折角の気づかいを不意にするつもりか! 他の二人を見てみろよ、凍り付いてるぞ。やっぱりこいつは要警戒だ。ある意味平塚先生以上に厄介だな。具体的に言うと二人きりじゃない時に普通に話しかけてくるあたり。迷うことなくAランク認定でいいだろう。・・・割とアイドルになってもAランクくらいならすんなりいきそうだが。

 

 ・・・しかし、ここ来てまだ一か月だぞ。既にA級厄介人物が二人とはどうなっているこの学校。B級の雪ノ下やC級の由比ヶ浜はまだいい。あいつらは人目を気にしてか、奉仕部での関わりしかないし、まあ割といなすことも可能だ。自虐ネタ使えば離れてくれるしな・・・え? 引いてるだけだって? 知ってた。平塚先生は先生だから、周りに生徒がいる状態で二人で話していても別に不自然じゃない。少々厄介ではあるものの、ネタも通じるし。しかしこいつは周りの雰囲気ぶち壊してでも俺に話しかけてくるからな。責任感もそこまで行くと称賛に値するな、全く。S級・・・はないな。ないない。まあ俺の悠々自適なぼっちライフを邪魔されないためにも、戸塚を理解し、対策を練らねば。

 

 戸塚の意識は既に他の班員の方へと向いており、戸塚と俺に対する席の彼らも、俺にびくつきながらも戸塚との話に花を咲かせている。

 

 取りあえずイヤホンしておけば話しかけては来ないだろう。話しかけられたとしても聞こえないふりをすればいい。スマホにウォークマン用のイヤホンをさし、モバマスを起動する。そして、戸塚を盗み見する。人間観察は得意なんだ。彼を知り己を知れば百戦殆うからず。・・・戸塚と目が合い、微笑みかけてくる。・・・見た目に騙されてはいけない。こいつは別に俺のことはただの班員にしか思っていない。中学の時どうだった? あの確信はなんだった? 感情を・・・殺せ。・・・ふぅ、落ち着いた。大丈夫、もう勘違いはしない。

 

 出てきたラーメンに舌鼓を打ちながら、俺は戸塚の観察を続けるのだった。




遅れながらの連絡。
前回、戸部と葉山の1年の時のクラスを一緒にしましたが、原作には書かれれていないと思うのでご了承を。


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遠足 5

 昼食を食べ終えたので、俺たちは簡易水族館の方へ移ることになった。編成的には一人と三人。言わずもがな一人は俺だ。何それ俺が一人でいるのは世界で共通認識なの?

 

 戸塚は時折後ろを振り返り、申し訳なさそうにこちらを見てくる。俺としては今の方がしっくりくるんだが。小・中とずっとこんなんだったからな。

 

 矢印にそって、大量の魚が渦巻いたり、スタッフが餌やりするところを見たりし、中盤に差し掛かったところで、戸塚がトイレに行くと言った。自ら班員の足を止めることは迷惑をかけると思い、俺は遠慮していたのだが、これ幸いにと俺も戸塚に続く。ラーメンのスープも全部飲み干したからな。それでこそラーメン好きよ。ただ店内に偶然いた平塚先生も最後に一気飲みしてたな・・・。やっぱりあの人は女としてはどっかずれてるのかもしれない。あの人の言動を見るといつも男らしいと感じずにはいられないからな。

 

 他の班員二人はトイレの前で待つらしく、着いては来なかった。まあ俺がいる時点でわかりきってたことだが。しかし・・・俺がいないと水を得た魚のように喋り出すな。しかも大声で。その大きさはリア充に匹敵するのではないだろうか? トイレ内でも余裕で聞こえてすごい迷惑なんですが。

 

「あの金髪野郎、不良ぶってるつもりかよ」

「だよな! 戸塚に話しかけられて調子乗ってるよな!」

「もしかしたら戸塚を狙ってるんじゃねえの? 戸塚かわいいしな」

「それ言えてる」

 

 二人でものすごい爆笑してるんだけど。よくそんなくだらない話で盛り上がって大笑いできるな。つうかそれ俺ホモじゃねえかよ。・・・まあ、戸塚がかわいらしいのは認めるが。

 

 用を足し終え、手を洗おうと洗面器に向かうと、鏡に浮かない表情の戸塚が映っていた。まあ今まで積極的に話しかけてきたのに、今そうしなかったからおかしいとは若干思ってたけど。

 

「・・・手、洗わないのか?」

 

 俺が洗い終えたのに、戸塚は未だ隣でボーっとしてたので声をかける。トイレでは話さない奴かと思ったんだが、違うみたいだな。

 

「え、あ、ごめん。考え事してて」

 

 一目で愛想笑いとわかる笑みを浮かべ、慌てて手を洗い出す。こういうところがコミュ強たる所以なんだろうな。たまに教室で目に入ると誰かしら人が近くにいるし。・・・それで目が合ってすっげえびびったこともあるが。

 

 壁に取り付けられたエアータオルで手を乾かし終えると、戸塚は自前のハンカチで手を拭いていた。

 

「あ、終わった? じゃ、行こっか」

 

 先ほどの取り繕うようなものではないが、どこかしら影を感じさせる笑顔で、戸塚はトイレを出て行く。大笑いしてた連中が一気に静かになり、目を反らす。また一対三になるのかなと思いきや、何故か戸塚が積極的に話しかけてくる。

 

「そう言えば比企谷君はどこの中学なの?」

 

 何だ、トイレで黙ってた反動か? 他の班員はお前がいないと萎縮しちゃって、二人の間ですら会話がないぞ。まあ、俺もああいうやつらは好きじゃないし、少しだけ付き合ってやるか。

 

~~

 

 ・・・まさかはぐれるとはな。水族館も終わりになったので、何気なく後ろを見てみると、そこにいるはずの班員がいなくなっていた! 何それコナン君いたら間違いなく事件になってる。

 

「どこいったんだろ・・・」

 

 じっちゃんの名にかけて! ここまでの道のりはほぼ一本道。つまり事件に巻き込まれたんじゃなければ、自主的に離れて行ったと考えるのが妥当だな。まじ俺名探偵。この謎はもはや吾輩の舌の上だ。

 

「まあ、トイレかなんかじゃねえの」

 

 それにしたって一言言うのが筋ってもんだが、それを言うのは酷だろう。何せあいつらは下位カーストの人間だ。一部を除き、トップカーストの人間でも俺に対し恐怖を抱くのに、ましてや彼らが割って入るのは難しいだろう。さっきのときも俺が行ったから行けなかっただろうしな。

 

「ここで待ってりゃそのうち来るだろ」

 

 総武生だけでなく、他校の生徒もいるみたいで、知らない制服やジャージの生徒も大量に通っていくが、ほぼ全員等しく、俺の方に目を向けないようにしてる。と、そこで見知った顔が俺を見る。髪をお団子にしているのが特徴的なビッチ代表・・・間違えた。コミュ強代表の由比ヶ浜結衣だ。

 

「あ、由比ヶ浜さん!」

 

 戸塚と目が合った由比ヶ浜は、周りを見渡し、逡巡の後、俺らに駆け寄ってきた。

 

「やっはろー、さいちゃん、ヒッキー」

 

「こんにちは。久しぶりだね」

「・・・おう」

 

「・・・」

 

 なぜか由比ヶ浜が俺を凝視してくる。何だこいつ。

 

「・・・何だよ」

 

「え、ああ。ヒッキーにもクラスに話す人いるんだなあと思って・・・。まあさいちゃんなら優しいし、納得」

 

 こいつは本当に無自覚に人の心を抉るような言葉を投げてくるよな。

 

「別に。遠足の班が同じだったからな」

 

「あはは・・・。それより由比ヶ浜さん、班員の人は? 一人のようだけど」

 

「ちょっと一人で見に来ようかなと・・・」

 

 へえ。こいつはずっと友達と一緒に騒ぐ典型的なリア充かと思ったけど違うのか? つうかまた俺のこと見てるけど、俺のことでも見に来たのかお前は。

 

「さいちゃんの班も少なくない? 班は四人一組だったと思ったけど」

 

「あー、ちょっとはぐれちゃってね。多分後ろにいるからここで待ってるんだ」

 

「そうなんだ。じゃああたしは自分の班のところ戻るね! また!」

 

「またね! 由比ヶ浜さん!」

 

 二人で手を振り交わして、さすがリア充。周りから見ればこいつらは同性の友達に見えるんだろうな・・・。しかし、由比ヶ浜の交流範囲には恐れ入るな。他クラスの男子とも話すのか。まあ戸塚は特別だろうな。葉山とかいうやつの取り巻きも知ってたし。

 

「比企谷君、由比ヶ浜さんと仲いいんだね」

 

「部活が同じだけだ。それにあいつは大抵の奴と話すだろ」

 

「そうだね。由比ヶ浜さん、人当たりいいもんね」

 

 不意に、俺らの前を通ったやつが、ごみを落としていく。総武生ではないが、ジャージ姿から、まあ高校生だろう。

 

 どこにでもこういうやつはいるんだよな。総武生も校内に捨てていくやつもいるし。

 

 文句の一つでも言ってやるか。今の見た目なら間違いなく逆切れはない。そう思い、ごみを拾おうと、手を伸ばす。しかしそこにはごみはなく、既に戸塚が拾っていた。

 

「・・・拾いたかった?」

 

 イタズラが成功したかのような笑顔で、立ちあがる。

 

 こういうのを、自然にできるからこそ、戸塚の周りには人が集まるのだろう。何の文句も言わずに、ごみを拾うなど、並大抵の人間にはできない。事実、俺が拾おうとしたのは酷く打算的な理由だ。それを思うと自分が歪んだ人間のように思える。でも、そのことに俺は目を向けようとは思わない。そうすれば俺は俺でなくなってしまうだろうから。

 

「・・・いや」

 

 出鼻を挫かれたし、文句を言うのは止めるか。戸塚に救われたな、ポイ捨て野郎。恐喝と間違われて警察沙汰も困るしな。そう考えると戸塚は俺を救ってくれたのかもしれない。まあそうなったらそうなったで俺は後悔はしないだろう。だって俺がやったことは間違いはないと俺は思うからだ。

 

「僕ってさ、男らしくないよね」

 

「・・・いきなり何の話だ」

 

「さっきのトイレで、聞こえてたでしょ? 僕は背も低いし、筋トレしてもなかなか筋肉は付かないし、顔もよくて中性的。酷い時なんて女の子に間違われちゃう」

 

 だからさっき浮かない表情してたのか。

 

「かわいいって言われることはあれど、かっこいいって言われることはない。周りからは子どもみたいって思われてて、それを望まれてて。でも友達だから僕はそれを裏切れない。・・・まあ普通に生活してるだけなんだけど」

 

 グシャリと袋が握られる。

 

「時たまそれが嫌になっちゃって。高校に来れば何か変わるかもって思ったけど、何も変わらなくて。・・・まあ僕が悪いんだけどね」

 

 ・・・リア充にはリア充なりの悩みがあるんだろう。由比ヶ浜も、似たような事言っていたな。

 

 俺は友達がいない。略せば『はがいない』。老人ホームのラノベかな? 何それ新しい。まあ、そういうわけで、いや、どういうわけかは知らねえが、俺には気を使う相手はいない。戸塚や由比ヶ浜の悩みはわからない。それでも、自分を押し殺すっていうのはすごく辛いのだろう。戸塚のトイレでの表情、そして今の表情を見ればわかる。

 

 その原因となるのは、戸塚の周りの反応だろう。きっと戸塚は男らしくあろうとしているのに、周囲の反応はかわいいというもの。今日のアスレチック踏破も、そいつらからしてみれば微笑ましいものだろう。小さい子供が頑張って遊んでいるような、そんな感覚。

 

 戸塚の頑張る方向性もまあ若干おかしいと思うが、それでもこいつは一生懸命だ。自分の理想の、かっこいい男になるために。

 

「・・・お前は十分かっこいいと思うけどな」

 

「え?」

 

「毎昼休み、誰が見てるわけでもないのに一人で素振りして。並大抵の情熱じゃねえだろ。一つのスポーツに対してそれだけ集中できるのは世辞なくすごいと思う。今だって、他人が捨てたごみ、嫌な顔せず拾ってるしな」

 

 俺には無理なことを戸塚はやっている。ただ単純に好きだと言うだけで、ひとつのスポーツを続ける。それも休みを返上してまで。俺には到底無理だ。

 

「・・・ありがとう。君にそう言われると、すごいうれしいな」

 

「・・・ただ普通に思ったことを言っただけだ」

 

 満面の笑み向けられてもこっちは困るだけなんだがな・・・。不意に来るとドキッとして心臓に悪いから止めて欲しいまである。しかし、俺に言われてもいいなんて、こいつ相当参ってたんだな。

 

「それでも・・・いや、だからいいんだ。・・・君は僕の憧れだから」

 

 ・・・いきなりこいつは何を言っているのだろう。

 

「最初に見たときはすごく怖かった。正直関わらないようにしようって思ってたんだ」

 

 まあだろうな。

 

「でも君は周りにおびえられてるのに、我関せずって感じで。次は少し頭がおかしい人なのかなって思った」

 

 随分な言われようだ。よく本人を前にそんなこと言えるな。まあ俺も戸塚は十分頭がおかしい部類に入ると評してたからお相子だが。

 

「それで次は昼休み。いきなり現れて、一人でパン食べてて。僕を見てるわけでもなく、ただボーっとテニスコートを見てて、スマホを弄って。クラスに友達がいないのは知ってたけど、校内にもいないんだなって、そこでわかった。でも全く哀れには思えなかった」

 

 余計なお世話だ。

 

「自然体だったんだよ。何にも縛られず、周りも何も気にしない。まるで一人でいるのが当たり前なように、君は毎日を過ごしてた」

 

 そりゃぼっちがデフォだったからな。いや、今もだが。

 

「不思議に思ったんだ。僕は絶対人には良く見られたかったし、だから自分の意見を飲み込んで、周りに合わせたりもしてた。だから、興味がわいた」

 

「昼休みも素振りしながら、それにクラスでも君を観察してたんだ。気づいてた?」

 

 やたら教室で目が合うと思ったらそういうことか。

 

「そこで君は、ごみを拾った」

 

「・・・見られてたのか」

 

「うん。誰の物とは知らないごみを、誰も見ていないのに比企谷君は拾った。それで僕は、君はいい人なんだろうなって、思った。今日こうやってたくさん話してみて、それは確信に変わった」

 

 屈託のない笑みで、戸塚は続ける。

 

「僕が今日これを拾ったのは君の影響なんだ。君に憧れて・・・」

 

 スッと一歩寄ってきて、俺と目を合わせる。

 

「・・・一つ聞きたいことがあるんだ」 

 

 戸塚は笑顔を引っ込め、真顔になる。身長差的に俺が見下ろす感じになるのだが、何故か俺は戸塚が同じ目線に立っているような感覚がした。

 

「ねえ、何で君は人を避けようとするの?」

 

「・・・周りが、避けてんだろ」

 

「・・・そっか。そうだよね。変なこと聞いてゴメン」

 

 そう言うと、戸塚は一歩下がった。

 

「だったらさ。僕と、友達になってよ。僕はもっと、比企谷君のことが知りたい」

 

 ・・・こいつは俺を嵌めようとしているのだろうか? だったら俺が戸塚をかっこいいと言ったところでネタばらしをしていいと思うのだが。正直その覚悟はしていた。まあ今の見た目で意味なく敵に回すとは思えないが。

 

 しかし、わからない。

 

 そもそも俺は戸塚ではないので仕方ないことではあるのだが。周りを窺っても、そもそもこいつの交友関係を知らない俺には判断のしようもない。こういうときは単独ではありえないからな。因みに他の班員は見当たらない。

 

 こいつは厄介人物だ。安穏な生活を脅かす存在だ。しかもそいつと・・・友達ねえ。

 

「言っておくが、俺はお前が憧れるような存在では決してない。それに・・・友達って何だ?」

 

「え?」

 

「お前の言う気を使わなきゃいけないようなものなら、俺はいらない」

 

「・・・」

 

 戸塚には酷なことを言うようだが、俺は自分を曲げないよ! あれって曲げないにゃ、の方がキャラ的にあってるような気がしないでもないが。まあかわいいからなんでもいいか。

 

「・・・そうだね。僕も最近友達ってよくわからなくてさ。だから、君の意見が欲しい。比企谷君なら遠慮もしてこないだろうし」

 

 本当こいつはこいつで折れないな・・・。

 

「だから、友達って何なのか、一緒に探そうよ! 君となら、見つけられる気がするんだ」

 

 何でこいつは俺のことをここまで? 殆ど話したこともないのに。目をキラキラさせて、何の疑いもないような目を向けてくる。

 

「・・・好きにしろ」

 

「やった! これからよろしくね!」

 

「・・・おう」

 

 はあ、仕方ない。これは俺がこいつを信じたとかじゃなく、ただ単にこいつとこれ以上話してても平行線の一途を辿るだろうからだ。本当に、面倒な奴に目を向けられたもんだ。

 

 これを好機と捕えて、近くでじっくりと観察してみるか。いつ壊れるかわからない繋がりだが、その時のために。ここで断って敵にされても、俺の望むところではないしな。

 

 もうしばらくして、俺らは班員と合流した。どうやら人ごみに紛れてはぐれた後に、先に出ていたようだ。バスに揺られて戸塚は爆睡。はしゃぎまぐってたカースト上位のやつらも軒並み撃沈。俺としてはかなりありがたかった。

 

 こうして今年の総武生の遠足は終わった。そしてやってくるのは高校初めての定期テスト。好成績を目指し、俺は最後の仕上げを家でするのだった。




前回短いとの感想をいただき、今回は遠足完結編なのも相まって前回の五倍の文量となりました。だからといって次週以降も文量が増えるとは限らないのであしからず。

・・・いや、だって読み返すの辛くなるじゃん?


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テスト週間前

投稿十五分前に書きあげていくスタイル。

かなり雑なので、誤字脱字の発見にご協力ください。


 遠足も終わり、気づけば高校最初のテスト週間に入ろうとしていた。

 

 中学までとは全く違う環境、そしてテスト範囲。並の生徒では頭を悩ませること必至だろう。しかし俺は違う! 春休みの頃から自分で勉強してきた俺は高校の授業にも難なくついていくことができ、いいスタートダッシュがきれること相違ないはず・・・と言いたいところだが、春休みの勉強を加えてやっと数学はついていける程度。まじか高校数学。中学数学も割と理解するまではしんどかった記憶があるが、レベルが違いすぎる。一瞬ゼミの漫画読んで、申込みかけちゃったぞ。

 

「あ、ヒッキー!」

 

 ひっきー? 何そのひきこもりの愛称みたいなの。時と場所と性別と相手によってはただのいじめですよ?

 

「・・・」

 

 一応振り返り、目だけで合図をし、再び前に歩き出す。周りに誰もいない棟で呼んでくれるほど、空気読めるのはさすが。戸塚も一応周りを気遣ってるけど、教室で話しかけるの止めようね。すごい注目されちゃうからね。

 

「何で待たないし!」

 

 横を向くと、お団子がひょこりと現れ出でて、下にはムッとした由比ヶ浜の表情があった。

 

「別に同じ教室行くのにわざわざ待つ必要ねえだろ。そこで会うわけだし」

 

 まあ会っても話は女子二人で盛り上がるわけで、俺は参加しないんですけどね。

 

「こうやって行く最中にも話をするのが普通じゃない?」

 

「お前の普通が他人にとっての、もっと言えば俺の普通と合致すると思うなよ」

 

「またそうやって自分は人と違うみたいなこと言う・・・」

 

 呆れ顔の由比ヶ浜は諦めたように溜息を吐く。何勝手に諦めてんだ。俺はやればできる子なんだぞ・・・多分。

 

「ヒッキーもたまには一緒に話そうよ! きっとゆきのんもそう・・・思ってないかもしれないけど」

 

「そこで否定しないのかよ・・・」

 

 思わず突っ込んじゃったよ。まあ雪ノ下なら否定できないどころかそれしかないまであるが。

 

「遠足! 遠足の話とか聞きたい!」

 

「お前も行ったところ一緒だろうが」

 

 ガラリと引き戸を開け、雪ノ下の鎮座する奉仕部部室へと入室する。

 

「うす」

「やっはろー!」

 

「こんにちは、由比ヶ浜さん・・・と比企谷君」

 

「おい今の間はなんだ」

 

「ごめんなさい。少しあなたに目を背けたくなって・・・でもいけないわね。一匹見たら百匹はいると言われるものね。臭いものに蓋をせず、しっかりと諸悪の根源を潰さないと」

 

「怖えよ。お前なら本当に俺くらいなら潰しそうだよ。ところで俺はゴキブリかなんかなのか?」

 

「あら、気づいていなかったのね。可哀想に」

 

「その憐れむような目、毎回向けるの止めてくれませんかね」

 

「ちょっとストーップ!」

 

「・・・いきなりなにかしら、由比ヶ浜さん」

 

「どうした? とうとう頭でも壊れたか?」

 

「壊れてないし! ちょっとヒッキーとゆきのん仲よすぎない?」

 

「は?」

 

「・・・由比ヶ浜さん。冗談にも言って悪いものと、悪いものがあるのよ?」

 

「悪いものしかねえじゃねえか」

 

 どんだけ俺のこと悪いものだと思ってんだよ。いや、奉仕部に入れるのも最初渋ってたけれども。

 

「由比ヶ浜。今のが仲のいいやり取りに見えるなら本格的に頭の病院に行った方がいいぞ」

 

「むー・・・」

 

 何この子。頬を膨らませて上目遣いとかビッチすぎる。俺じゃなかったら落ちてるぞ、マジで。

 

 取りあえずむくれる由比ヶ浜を放置して、自席に座り、今日配られたテスト範囲を見る。高校だと各教科ごとに出されるから何か失くしそう。でも見せてもらう友達いないからなくせない。

 

「ちょっとヒッキー! まだ話し終わってないんだけど!」

 

「そういや雪ノ下。テスト期間中の部活はどうするんだ?」

 

「平塚先生に確認はしてあるわ。さすがに禁止だそうよ」

 

「じゃあ今日で一先ず終わりか」

 

「え、終わっちゃうの!?」

 

「テスト勉強いいのかよ・・・」

 

「それは・・・まだいいし」

 

「由比ヶ浜さん。勉強というものは積み重ねが大事なの。一年生の最初のことができなければこの先のこともずっとできないのよ?」

 

「ゆきのん、先生みたい・・・」

 

 ああ、それわかるな。赤縁の眼鏡とか似合いそう。そんで放課後とかは鞭とか持ってそう。それから一部の生徒に人気で・・・

 

「比企谷君、何か不快な視線を感じたのだけれど」

 

「・・・気のせいじゃないっすかねえ」

 

「まあいいわ。とにかく、テスト期間中の部活動は禁止とします」

 

「あ、じゃあさっ! みんなで勉強しようよ!」

 

「皆で勉強?」

 

 何それおいしいの? 勉強って一人でするもんじゃないの?

 

「そうそう! みんなで集まって、喋りながら、わからないところを教え合って勉強するの!」

 

「私は特にわからないところが無いから必要ないわね・・・。それにわからないところは先生に聞けばいいと思うのだけれど」

 

 俺も特にないしな・・・。数学は、まあなんとかなるだろう。因数分解なんてパターン暗記みたいなもんだし、二次関数はこれからもっとも重要な単元だから死ぬ気で学習したしな。

 

「ゆきのん・・・だめ、かな?」

 

 あ、これ断れない奴ですわ。

 

「・・・まあ奉仕部のせいで成績が悪いと言われても困るわね。仕方ないので由比ヶ浜さんの勉強は私が見るわ」

 

 何それすごいこじつけ。普段の雪ノ下なら、勉強できないのは自分の性とか言って切り捨てそうなものだが。由比ヶ浜さんマジで対雪ノ下さん性能はんぱねえ。

 

「やった!」

 

「でもここは使えねえんじゃねえの? 部活は平塚先生から禁止されてるんだろ?」

 

 まあ誘われはしないだろうが、由比ヶ浜は予想外の動きをしてくることが多いからな。対策しとくに越したことはない。

 

「じゃあサイゼとか?」

 

 ・・・こいつ、いいやつだな。周りを観察していると、女にサイゼ提案した男は大抵バカにされるか苦笑交じりに断られるかしかなかったからな。サイゼの何が悪いんだ。安くておいしくて学生の味方じゃねえかよ・・・。

 

「サイゼリアね。じゃあ明日の放課後、そこに集合でいいかしら?」

 

「だから何で一緒に行くって発想が無いの!? ヒッキーもゆきのんもおかしいよ・・・」

 

「そこの男と一緒にされるのは非常に不愉快なのだけれど・・・」

 

「待つ時間が無駄だろ」

 

「そうね。誠に遺憾ながら、意見が一致してしまったようね」

 

「一々俺への暴言を挟まないとお前は碌に意見も言えないの?」

 

「まーた二人の世界に入るし・・・。と・に・か・く! 明日三人で校門前に集合ね!」

 

「いや、俺は明日あれあるし・・・」

 

「それゆきのんに抽象的とか言われて何も言えなくなってたやつだし! どうせ何もないんでしょ? 行こうよ!」

 

「その男を無理に誘うと私の負担が大きくなるでしょう? わざわざ行きたくない人を呼ぶ必要はないわ」

 

「そうそう。それに勉強は一人でやるもんだ。俺はパスでいい」

 

「えー!」

 

 一人ぶーたれる由比ヶ浜を雪ノ下が丸め込み、明日から俺は自由の身になった。そ~ら~を自由に、とっびたっいな~! はい、立体起動装置~。使うとGに負けて腰が砕けます。どこかしら砕けます。ここのGは言っとくがゴキブリじゃないぞ? 重力のGだからな。それともう一つ。俺はゴキブリじゃあありません。これも言っとかないとな! ・・・言っとかないとゴキブリと認識されちゃうのかよ、俺。




今日ポケモンダンジョンの予約に行ってきましたが、今からwktkが止まりません。ダンジョンシリーズは今まで外れないですが、大好きなツタージャ系統初登場とかテンションがやばい。ただ赤の思い出補正がやばいからな・・・。


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テスト週間

「お兄ちゃん、友達呼ぶから明日は夜まで帰ってこないで! お願い!」

 

 帰ってきていきなりそれ・・・? せめてお帰りと行っておくれよ小町さん。

 

「・・・お前、テスト週間なんじゃないのかよ」

 

 テストの時期は中学も高校も大体同じみたいだ。年間予定表を見てもそれはうかがえる。うちの妹はお世辞にも学力が高いとは言えない。しかし、先生からの評価はおおむね良好だったはずだ。俺が相当に酷かったために、その反動かもしれない。

 

「いやあ・・・友達と勉強会することになっちゃって。わからないところを教え合うんだよ!」

 

 何? 勉強会って普通のことなの? 俺には友達いないからわからないな・・・。

 

 ちなみに小町はただのリア充ではない。社交性があり、友達もいる。しかし、一人になりたいときは単独行動もできる、所謂次世代型ハイブリッドぼっちというやつだ。

 

「本当は友達の家でやりたかったんだけど、小町だけずっと家に友達呼んでなかったから目をつけられてしまって・・・」

 

「・・・まあ仕方ねえか。わかったよ」

 

 サイゼは使えないが、別に勉強する場所なんてたくさんある。図書館なら無料だしな。

 

「ありがと、お兄ちゃん! 愛してる! あ、今の小町的にポイント高い!」

 

「ああ、俺も愛してるぞ」

 

 小町の口癖が出てきたところでこの話は終了。さあて、荷物を置いてラノベの続きでも読もうか。

 

「それとお兄ちゃん。お帰り」

 

「・・・おう。ただいま」

 

 そんなやり取りがあったのは昨日のことだ。時は既にテスト週間一日目に突入している。放課後になってもサッカー部の掛け声も、野球部の金属音も聞こえては来ない。

 

 今日は部活もないので、早々に教室を飛び出し、どこにいこうかと思案する。多少うるさかろうが、ウォークマンがあればどうとでもなる。そうすると別のファミレスにするか。最悪スタバとかでもいいしな。

 

「あれ? ヒッキー?」

 

「あ?」

 

 自転車に乗ろうとしたところに、由比ヶ浜に声をかけられる。

 

「いや、そっちは家の方向じゃないんじゃないかなって・・・」

 

「・・・昨日あれだって言ったじゃん」

 

「・・・あなたに予定があるのがそもそもおかしいと由比ヶ浜さんは言っているのよ」

 

「そういうわけじゃないんだけど・・・」

 

 まあ当然雪ノ下もいるわな。ただ俺を罵るのをも当然にはしてほしくはないかな・・・。言ってることは合ってるけど。あれ、じゃあ罵倒じゃなくね?

 

「珍しいな。由比ヶ浜の方が先に来ているなんて」

 

「・・・少し予定があったのよ」

 

 嘆息をもらす雪ノ下は、少し気だるそうだ。

 

「そうか。じゃあ、俺は行くところがあるから」

 

「そう。ならさっさと行くといいわ」

 

「え、ちょっとゆきのん!?」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

 由比ヶ浜がわーわー騒いでるようだったが、無視してペダルを漕ぐ。周りから注目もされていたし、早々にどっか行った方がよかっただろう。

 

 さてと、どこに行こうかな。




え、短いって? iPhoneでもデレステ始まっちゃったからな・・・。

よければ招待コード使ってください。(使ってくださいお願いします)
874507715

あー蘭子ほしかった! 杏でもよかった!

そして評価コメントのほうにあったのですが、日間ランキングに載ったらしいです。前回お気に入り数と評価数が跳ね上がったのはそのせいでしょうか?(評価数はなぜか増えて今は減っていますが)


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テスト勉強

わっほい、完全に忘れてました・・・。


 駅までの里程を自転車で突破し、駐輪場で徒歩へと移動手段を切り替える。駅に人は多かれど、周りの人間は俺を見ると蛇蝎を避けるが如く引いていく。

 

 さてと、どこに入ろうか。俺の愛するサイゼは使えない。この時期はどの店も中高生で活況を呈している。テスト期間が被るせいで面倒な。中学の奴らに会うのは面倒だし、かといって居なさそうなところは俺の財布、畢竟、高校生には少々お高い店になるわけだ。

 

 仕方がないので俺は小径に入り、閑散としたカフェのようなところに入った。カランと心地よい音が鳴り、瀟洒な店の内装が目に入ってくる。中にはマスターしかおらず、暗澹とした感じが俺好みなのだが、ちゃんとやっていけているのだろうか。結構な回数足を運んでいるはずだが、俺以外の客を殆ど見たことが無い。

 

「・・・いらっしゃい」

 

 マスターの声に軽く会釈し、隅の四人席に座る。ここに来るときは決まってコーヒー牛乳を頼む。そのままでも常人には十分甘いのだが、俺はそこに備え付けのミルクと砂糖をさらにぶち込む。MAXコーヒーはおいしいが、やはり店の商品はそれとは違ったおいしさを感じる。

 

 少頃、ここで屯在していれば小町からメールが来るだろう。ここならどれだけいても何も言われないし、そもそも回転率気にしなくてよさそうだしな。

 

 阿吽の呼吸のごとく、マスターが俺の席へと熱いコーヒー牛乳を持ってくる。注文しなくとも持ってきてくれるようになったのはいつ頃だったか・・・。

 

 俺好みの味に仕立て上げてから一口。くーっ、美味い! そんな言うほど飲んでないが。だって熱いもの。まあ冷ましつつ飲むのが一番だな。温いのは不味いからダメだ。コーヒー牛乳は熱いものか冷たいものに限る。

 

 歓待にあずかった俺はチャートを開き、ノートも広げる。ウォークマンはつけない。朴訥なマスターとは基本言葉を交わさないし、このゆったりとした店内の音楽は嫌いじゃない。

 

 因数分解と集合は大丈夫なので、取りあえず二次関数を仕上げよう。何々・・・範囲内のグラフの最大最少を求めるのか・・・。

 

~~

 

 一段落がついたので、ぐっと伸びをし、コーヒー牛乳のおかわりと腹ごしらえ用のサンドイッチを注文する。と、カランと音が鳴り、人が入ってくる。珍しいな。何気なくそちらの方を見ると、何やら見慣れた二人が・・・。

 

「あれ、ヒッキー!?」

 

 なんだこいつら。お前らがサイゼ行かないから俺はこっちに来たのに。

 

「こんにちわ。ここに来るのも数年ぶりかしら」

 

「・・・いらっしゃいませ。お久しぶりです」

 

「ええ。こちらこそ」

 

 え、何。雪ノ下もここの常連だったの? あー、まあでもありえなくはないか。由比ヶ浜とかはこんなところには来なさそうだしな。

 

「あっちに座りましょうか」

 

「え、ヒッキーのとこでいいじゃん」

 

「・・・はー。まあ仕方ないわね。一応彼も奉仕部部員なのだし」

 

 いや、来なくていいんだが。雪ノ下さんもう少し頑張ってくださいよ。

 

「紅茶とサンドイッチをもらえるかしら。由比ヶ浜さんは?」

 

「えっと・・・」

 

近くにあったメニューを慌ててとり、由比ヶ浜はむむむと唸りながら、

 

「じゃあフルーツサンドと紅茶で」

 

「・・・かしこまりました」

 

 注文を終えると、二人は荷物を抱えながら、俺の体面に座った。

 

「こんなところで会うなんて思わなかったよね! すごい偶然!」

 

 由比ヶ浜は同意を求めるかのように雪ノ下に笑顔を向ける。

 

「・・・まあ偶然でもないんじゃねえの?」

 

「え?」

 

 この世の全ては必然だ。なるべくしてこの世は成り立っている。既に生まれたときからこの先の生き方は決まっているし、もっと言えば生まれる前の地球が誕生する前から決まっているのだろう。それに踊らされていることにも気づかず生きていく人間はなんと愚かなことか!

 

 ・・・んー、俺もう高校生何だがな。まあ先生にも中二病・・・いや、あれはまだ心は小学生気分なんじゃ? あれに比べればまだましだし、人間だれしも中二病なる一面は持っているに違いない。俺がそうなんだからきっとみんなそうだ! あ、でもこれは自分が普通の人じゃないと通用しないな。俺じゃだめじゃん。

 

「無駄話をしている余裕があなたにあるの?」

 

 雪ノ下の怜悧な物言いに由比ヶ浜はたじろぎ、渋々カバンからチャートを取り出す。

 

「じゃあまず数学からやろう! ヒッキーもやってるし」

 

「そうね。私も数学からやろうかしら」

 

 まあ俺も続けるつもりだったからいいが・・・。この状況じゃ、イヤホンさしてた方が得策かな?

 

 カバンからウォークマンを取り出すと、雪ノ下も丁度音楽プレイヤーを机上に出したところだった。

 

「ちょっと何で音楽プレイヤー出すし!」

 

「は? こうでもしないと周りがうるさいだろ。特にお前が」

 

「皆で喋りながらやるんでしょ!?」

 

「それに、この音楽が気にならなくなってきたら、それが集中してることだってわかりやすいしな」

 

「それには同意ね。それでは一時間ほど各自でやって、その後、由比ヶ浜さんの質問タイムを設けましょうか」

 

「え、ええ~。ゆきのんまで・・・」

 

「お待たせしました」

 

 マスターがサンドイッチと各種飲み物を持ってきてくれた。

 

「わあ~、おいしそう! 取りあえず休憩にしようよ!」

 

「休憩ってのは今まで努力してきたやつがするもんだろうが」

 

「ここまで頑張って歩いてきたし!」

 

 赤ちゃんなら褒められるんだろうけどな・・・。

 

「ごゆっくりお楽しみくださいませ」

 

「ええ。ありがとう」

 

「そういやお前らサイゼ行ったんじゃねえのかよ」

 

「混んでたのよ。それに、うるさいところは嫌いなの」

 

「私も今日サイゼはちょっと・・・」

 

 じゃあ何で昨日提案したんだよ・・・。まあ俺もちらっと見た感じ混んでたからな。部活が無く、テスト週間一日目とか遊ぶためにあると思ってるやつが大半だろう。だって由比ヶ浜がそうなんだもん。由比ヶ浜が普通だからこそ生きるこの考え。

 

「私としては比企谷君がこんなところにいるのが驚きだったわ」

 

「そうそう! こんなおしゃれな店知ってるなんて意外!」

 

 まあ俺なんて見た目ヤンキーかもしれないけど中身ただの根暗なキモオタだからね。顔が多少良くて勉強できるただの人間だからね。・・・正直人間扱いされた記憶が少ないが。

 

「あー、まあ昔色々あったんだよ」

 

 ・・・本当に色々あったなあ。思い出したくないことや、黒歴史や、大失敗。いや、ほんと、消したくなるような人生しか歩んでねえな、俺。

 

 サンドイッチおいしいなあ・・・。




旅行行ってきてたので、時間が狂ってましたねえ・・・。

次回以降気を付けます。


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数学

「そう言えばヒッキーは頭いいの?」

 

 サンドイッチを頬張り、紅茶を飲みつつ由比ヶ浜は唐突に切り出す。

 

「恐らくお前の頭いいってのは勉強ができるかどうかってことだよな?」

 

「そうそう。ヒッキー真面目に勉強してるし、きっと頭いいんだろうけど」

 

「・・・」

 

「まあ、目を見ればおおよそ見当はつくけれどね」

 

「お前は何もんなんだ一体・・・。ま、でも由比ヶ浜よりは確実にいいな。お前はばかだからな」

 

「な! バカじゃないし!」

 

「普通ならば総武高校に入学した時点である程度の才能を感じるはずなのだけれど、由比ヶ浜さんには全く感じない物ね・・・。裏口入学かしら?」

 

「うわー! ゆきのんまで酷い! ちゃんと筆記試験で入ったし!」

 

「では内申がよかったのかしら」

 

「あー、それはあるかも。私45だったし」

 

 内申か。そういや俺は教師連中の評価も軒並み低かったし、内申も酷いもんだったな。道理で雪ノ下がトップ合格だったわけだ。

 

「それでもテストで最低八割は必要よね・・・。やはり裏口・・・?」

 

「もうその辺にしといてやれよ。由比ヶ浜涙目になってんぞ。まあ普段一緒にいてもとんちんかんなことは話すし、ものも知らないけど、そこまで言うことじゃないだろ。俺も筆記で入学したとは思えないけど」

 

「ヒッキーの方がひどいからね!?」

 

 やんややんややりつつ、勉強を開始する。由比ヶ浜がごねるため、イヤホンはつけていないが、由比ヶ浜の唸り声がまじでうるさい。溜息を一息つくと、少しさまったコーヒー牛乳に口をつけ、再び溜息をつく。

 

 既に雪ノ下は集中しきっている様子で、淀みなくペンを走らせている。由比ヶ浜は相変わらず一つの問題にてこずっている。マスターは並べてある瓶の手入れをしている。

 

 由比ヶ浜に気を取られているのは集中しきっていない証拠だ。もう一度問題に向きなおり、思考を没入させる。この問題は平方完成して・・・。

 

~~

 

「一時間経ったわね。それじゃあ由比ヶ浜さんはどれだけできているかしら」

 

 ん、もうそんな時間か。意外とこいつらいても集中できてたな。しかし由比ヶ浜の出来の悪さに雪ノ下が頭痛をこらえてんだが。こめかみに指当ててんだが。

 

「・・・まともに授業聞いていたとは思えない出来ね」

 

 ・・・あー、これは俺でも引くレベルでできてないな。何で中学レベルの因数分解しかできてないんだよ。

 

「いや~・・・あはは」

 

 そこから懇切丁寧に雪ノ下が教えるも、由比ヶ浜が完全に理解できるには至らなかった。由比ヶ浜が当然悪いのだが、教える雪ノ下もある程度の問題があるだろう。こいつの説明はわかるやつには新たな視点での見方に繋がるのかもしれないが、由比ヶ浜のようなやつには無理だろう。

 

 俺がさすがに助け舟を出そうかと思ったら、小町からのメールが来る。よし帰ろう。すぐに帰ろう。まあ由比ヶ浜のために何かしてやる義理もないしな。

 

「んじゃ、俺帰るわ」

 

「ああ、そう」

 

「えっ! ヒッキーもう帰っちゃうの?」

 

「ああ」

 

 カバンを背に、お勘定を済ませてからドアを開ける。カランと入った時と同じ音がし、マスターの一声。

 

「またのお越しを」



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テスト終わり

 テストが終わった。テスト週間中は家で勉強しており、特に特筆すべきこともない。今日から奉仕部が再開だと思うと若干憂鬱になるが、行ってしまえば割とどうでもよくなるので、まあいいか。本当なんだろうね、あのバイトとか行く前にすごく嫌になるの。行ったらやることに集中するから何ともないんだけど。まあ俺は何日かするとバイト行かなくなるんだが。

 

 勉強のかいあって俺は学年一位の称号を得ることに成功した。国語や英語、社会などの文系科目は非常に良い出来で、特に平塚先生教える現代文は満点だった。数学は最後の難問以外は解けていたし、物理基礎や生物基礎なども平均は余裕で超えていた。

 

 雪ノ下に勝てたのかと驚いたが、由比ヶ浜につきっきりだったこと、そして俺は春休みから先取りして勉強を進めていたことを考慮すると、妥当だと言えるだろう。ま、負けず嫌いな彼女がこのまま引き下がるとは思えないので、次はこうはいかないはずだ。そもそも俺は雪ノ下のような天才でもないし。

 

 ガラリと奉仕部部室のドアを開けると、本を開かず、勉強をしている雪ノ下が目に入る。ほらな。思った通りだ。

 

「うす」

 

「こんにちは。由比ヶ浜さんはまだのようね」

 

「お前が由比ヶ浜のことを気にかけるのは珍しいな」

 

「・・・私が首位を取りのがしてまで教えたのだから、それなりに取ってもらわないと困るのよ」

 

「ああ、そう」

 

 さてと。ぞれじゃあ俺は本を読みますかね。ペラペラとページを繰るとがらりとドアが開く。

 

「やっはろー!」

 

「おう」

「こんにちわ。由比ヶ浜さん」

 

「って、ゆきのんテスト週間終わったばかりなのにもう勉強してるの!?」

 

「一応土日挟んでるから終わったばかりというのも違うと思うのだけれど。それに、私はテスト週間関係なく勉強してるわ」

 

「まあ普段勉強してるやつはテスト週間にテスト勉強しないしな」

 

「え!? どういうこと!?」

 

「普段の勉強がテスト勉強になっているからテスト週間も普段のルーティンを崩さなくてもいいってことよ。まあ、今回はそれで失敗したのだけれど・・・」

 

「ゆきのんテスト悪かったの!? ふふーん、じゃあ私雪のんに勝っ」

 

「それはないわ」

 

「そんなこと! ・・・そんなこと、ないよね~、あはは」

 

「それで、由比ヶ浜さんはどれくらいだったのかしら? 成績表を見せてもらえるかしら?」

 

「え、あ、はい」

 

「・・・まあ、こんなものかしら。数学が両方平均以下なのは気になるところだけど」

 

「いや~、あたし友達にめっちゃ驚かれてたよ! 絶対下から数えた方が早いって思われてたって!」

 

 雪ノ下が勉強見てなかったから確実になってたろうけどな。あと由比ヶ浜めっちゃバカにされてるな。本人気にしてなさそうだからいいけど。でも普段のこいつ見てたらそうなるのも必然か。

 

「そういやヒッキーはどうだったの?」

 

「あ? 俺はいいよ」

 

「あ! もしかしてあたしより低いから見せられないんでしょ!」

 

 何かイラッとするな・・・。まあ雪ノ下の対抗心煽るのも面倒だし、見せないけど。

 

「お前よりは上だっての。どうせ三桁だろ?」

 

「う・・・そうなんだけど」

 

「まあ本人が言いたくないなら放置しておきましょう。何ならずっと放置しておきましょう」

 

 おいそれただの無視じゃねえか。自晦してんのにいじめられるとかなにこれ人生ハードモード過ぎない? そもそも教室でも存在ほぼ無視されてるから才能ひけらかす場所すらないんですけどね!

 

 大体人の順位とかどうでもいいだろ。必要なのは偏差値だけで十分。なのに周りのリア充どもは友達(笑)と天才だのばかだのと。俺からしてみれば総じてあほだ。べ、別に羨ましくなんかないんだからね!

 

 ・・・自分のツンデレって驚くほどかわいくないな。いや、そう思ったら思ったで相当やばいやつだとは思うが。

 

「やあ諸君、久しぶりの部活はどうかな?」

 

 引き戸が音を立てて引かれ、白衣を纏いし愛煙家が現れた。ほんとびっくりするからノックしてくれませんかねえ? まあしないだろうけどさ。

 

「先生。いい加減ノックをしてください」

 

 雪ノ下の声は苛立ちを含んでいるも、平塚先生は何とも思ってない様子。常人なら震え上がって反射的に土下座かますんじゃあねえかってレベルなんだけどな・・・。パワポケの投手なら間違いなく威圧感ついてる。

 

「まあまあいいではないか。奉仕部二人でワンツー決めて、私は気分がいい」

 

 ・・・この人すごい勢いで地雷踏まなかった?

 

「・・・一つお伺いしたいのですが」

 

「何かね?」

 

「まさか中間テストの首位はそこの・・・比企谷君なんですか?」

 

「なんだ、聞いていなかったのかね。そうだ。特に現国は満点だぞ! 教師冥利に尽きるというものだ」

 

 俺の個人情報とは・・・。俺が折角明言を避けてきたというのに。

 

 その瞬間、室内の温度がぐっと下がった気がした。その原因は言わずもがな氷の女王、雪ノ下雪乃の発する気だ。隣の由比ヶ浜とか身震いしてる。いや、気がするだけの話のはずなんだがな。きっと雪ノ下はファンタジー世界からやってきたに違いない。冷気を操る魔法少女、雪ノ下雪乃。必殺技はアブソリュート・ゼロ、相手は死ぬ。

 

「久しぶりだから様子を見に来たがいつも通りのようだな。それでは私は職務に戻るとするよ。色々な雑務が溜まっていてな。・・・若手は押し付けられるものだ。うん、私は若手」

 

 白衣を翻すと、平塚先生はそのまま出て行った。爆弾だけ落として帰っていきやがったよあの教師。

 

「・・・え、えーっと・・・ヒッキーおめでとう?」

 

 おい空気読め。話題を転換しろよ! いっつも訳のわからん話の飛躍するくせにこういうときは普通なのかよ。しかもその賛辞の仕方は嬉しくない! 何で疑問形? 雪ノ下に気を遣うんならしない方がよかったよ!

 

「・・・私からもおめでとうと言っておくわ」

 

 ・・・こええよ。もう顔がね、目がね、本当に怖い。氷漬けにされそう。ダイ大のレオナ姫みたいに。でも一つ違うのは、俺には助けに来る仲間がいないのでそのまま死ぬことですね。

 

 今日の部活は最悪なり。誰だよ、行ったらどうでもよくなるとか言ったやつ。本もまともに読めないよ! やっぱり部活ってクソだと思いました。ついでにバイトも。




バイトある日に書き始め、バイトある日に書き終わったら、こんな風になりました。

原作読んだのは半年くらい前で、その後にSS読み漁ってたので、どうしても内容が混同したり、記憶の新しい他作者様のSSの方に作品やキャラが引っ張られる可能性があります。ご了承を。


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種目決め

 中間テストが終わり、一区切りついたということで、体育の種目が変わることになった。今までは柔道とダンスの選択で、俺は柔道をしていたが、今日からはソフトボールと硬式テニス、そしてバレーボールとソフトボールから一つ選択となっている。これは二学期半ばまでとなっており、その後はバドミントン、軟式テニス、バスケットボール、サッカーから選択となっており、前期にテニス、バドミントン選択者は後期は同じものを選べないようになっている。

 

 六月下旬の期末テストが終わった後、七月に入ると夏の球技大会があるため、それらの種目であるソフトボールやバレーボール選択者が多いように思える。因みにこれは男子の種目であり、女子は夏冬通して球技大会はバレーボールとバスケットボールになっている。男子の場合、冬の球技大会はバスケットボールとサッカーに変わる。

 

 友達と話し合いが必要だと、教師陣が時間を与えてくるが、そもそも俺にはそんな友達いないので関係なかった・・・。と思ってたら、体操服を引っ張られる。

 

「比企谷君、テニスやろうよ!」

 

 戸塚だった。意識しないと忘れてしまうが、こいつは一応男に分類されているらしい。

 

「ん、わかった」

 

 よくわからん関係ではあるが、誘われた手前断ることも憚られる。特にやりたいスポーツもないし、応じるとしよう。それにテニスは個人技で、ある程度気が楽だしな。

 

 そうして種目別に場所が決められ、並ぶように指定される。しかし、戸塚は他クラスの友達らしき人物にバレーボールへと誘われている様子。同じクラスの奴は最近事情を把握しているのか、俺が関わりそうなときは関与してこない。ただ、戸塚と普通に接している様子なので一安心だ。

 

 戸塚の性格上はっきり断るのは無理そうだ。弱く言っても相手には通じない。故にこちらに助けを求めるように目を向けてくるが、俺は行って来いと合図をする。俺は既にテニスのとこに座っちゃってるからちかたないね。

 

 戸塚は申し訳なさそうにバレーボールの方へと行き、俺は一人最後尾でぽつねんとしている。

 

 そこから人数調整に入った。ソフトボールとバドミントンは丁度らしいが、バレーボールの人数を少しテニスの方へと割かなければいけないらしい。まあ俺が来た瞬間増加がピタリと止んだからな。

 

 そこで大じゃんけん大会が開かれ、数人死地に赴くような顔でこちらにやってくる。その中には初夏にもかかわらず汗ダラダラの小太りの眼鏡をかけたやつがいた。絶対にお近づきになりたくない。しかも何で指ぬきグローブしてるんだ。暑いならとれよ。

 

 そんなこんなで体育の種目決めは幕を閉じた。あとで戸塚が謝ってきたのがかわいかった。・・・暑さで頭やられたかなあ・・・。




体育は原作と大分変えています。

理由としては恐らく間違えるからどうせなら最初から変えておこうということです。


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テニス 1

 種目が変わって体育一時間目の今日、外は快晴、風も殆どなく絶好のテニス日和と言えよう。まあ俺の心中にテニス日和なんて存在しないが。

 

 テニスは中学でやって以来だった。割と制球も緩急もつくし、スピードもまずまず出せていた・・・はず。どうせ今日は初めてだし大したことはやらないだろう。そう思って先生の話を聞いていたところに爆弾が落とされる。

 

「じゃあ二人組を作れ。そいつとこれからラリーをしてもらう」

 

 な、何い!? ふ、二人組だとーっ!? と、戸塚がいれば・・・いや、いてもどうせ他の奴と組んでいただろう。淡い期待、ましてや本人がいないのに考えても意味はない。取りあえず待っとけば俺以外の奴が決まって余りの奴、もしくは先生とやれるだろう。いつものことだ。

 

 と、余ったやつが先生に連れられてくるが・・・あ、こいつこの間の。

 

「お前も余りだろ。こいつと組んでやってくれ」

 

 余りとか言うなよ。割と惨めになっちゃうだろ。己の立ち位置再確認しちゃうだろ! 

 

 まあそれはともかくとして・・・こいつだったか・・・。指ぬきグローブしている時点で変な奴だとは確信していたが・・・。前と変わらず汗まみれだし。暑いならとれっての。

 

「それじゃあペアができたみたいだし、各自コートに移ってラリーをしろ」

 

 先生の解散を合図に生徒が一目散にラケットやボールの周りに集まり、そしてコートへと移っていく。俺は面倒なので人の波が引くまで静観している。まあ俺が行くと引いていくだろうけど。やべえ、俺海割って海底進んでいけるんじゃね? 神の一柱になれるんじゃね?

 

 ペアになった隣の奴を見ると、挙動不審に辺りをキョロキョロと見回し、不自然なまでの汗をかいている。もうこれ暑さだけの話じゃなさそうだな。

 

 群がる生徒がいなくなったのを見て、ボールとラケットを取りに行く。やっておかないと先生に注意されるからな。

 

「おい」

 

「ひっ!」

 

 お、おう。ここまで怯えられたのは久々な気がする。最近来るやつ来るやつみんな俺見ても平然としてたからな。

 

「取り敢えず適当に打つぞ」

 

「ぶ、ぶたないでください」

 

 誰もそんなこと言ってないだろうが・・・。

 

「先生こっち見てるから。はやく」

 

「は、はい」

 

 やりにくいことこの上ないな・・・。

 

「お前テニスはできる方か?」

 

「わ、我、僕は、やったこと、な、ないでしゅ」

 

「ん。わかった。じゃあゆっくりやるな」

 

 そういってコートの端と端に別れる。サーブは下から打ってやろう。せーの。

  

 ポーンと相手コート前方に落ち、丁度奴の前にいく。しかし、空ぶる。もう一度。空振り。もう一度。空振り・・・もうボールないんだが。

 

「おい、もうボールないから今のやつとってきてくれ」

 

「は、ひゃい!」

 

 もうこれ壁打ちの方が楽しいんじゃねえの? 全く返ってくる気配が無いんだが。向こうは下からのサーブすらうまくできないようだし。

 

「おい」

 

「ひいっ! ごめんなしゃい!」

 

「謝らなくていいから・・・。取りあえずさっき先生が言ってた持ち方に直せ。それからしっかりボール見ろ。ラケットも地面と水平になってちゃ当たる訳ないだろ」

 

 こいつをまともに打たせるようにしないと俺がさぼりに見えてしまう。それは困るので当面の目的はこいつのレベルアップだな。

 

「そうそう。その持ち方でいい。んで、下からサーブを返す時は下から上に撫でるようにボールをうて。そうするとスピンがかかって相手のコート内に入りやすくなるから。わかったか?」

 

「は、はい」

 

 幾分か緊張はほぐれてきたようだな。それじゃあ取りあえず名前でも聞いとくか。いつまでもおいとか呼んでたら怖がられそうだし。

 

「そういやお前の名前は何だ?」

 

「・・・人に名を尋ねるときは自分から言うものだぞ」

 

「は?」

 

「ごめんなさい、材木座義輝です。許してください」

 

 こいつ・・・グローブしてるから薄々感じていたが、やはり中二病だったか。決め顔で言うもんだからついイラッときてすごんじまっちゃったじゃないか。反省反省。

 

「わかった。俺は比企谷、比企谷八幡だ。材木座、これからよろしく」

 

 他人と一緒にいて挙動不審になるさまが。他人に話しかけられて怯える姿が。誰かに似ていたから。

 

 恐らくこいつは体育中俺と組むことになるだろう。だから、こんなことを言うのは至極当然だ。

 

 俺はお前のこと好きにはなれないだろうけど、嫌いにもなれないだろう。例え嘘を吐かれようとも、裏切られようとも。その心境を俺は理解してしまうだろうから。

 

「ひ、比企谷・・・さん」

 

「比企谷でいいぞ」

 

「!」

 

 何か思案顔になり、材木座は俯きがちになり、顎に手を当てる。やるよな、わざわざ大袈裟に考える格好するやつ。俺じゃん。

 

 そして、材木座は顔を振り上げ、

 

「この剣豪将軍材木座義輝様と同盟を組みたいと言うのだな! よかろう! この我のものとなれ、八幡よ!」

 

「は?」

 

「ごめんなさい、これからよろしくお願いします」

 

 何だこいつは・・・。

 

「まあ遠慮はしなくていいから。俺もぼっちだしな。だが」

 

 それでも、こいつは間違っている。

 

「ぼっちであることに誇りを持て。他人にどう思われようと、自分は正しいと思え。少なくとも俺はそう思ってる」

 

 俺は自分が間違っているとは全く思わない。俺は一人でいることが好きだし、だから学校でも一人でいる。他人に笑われようとも、親に間違っていると言われようとも、俺は正しいことをしていると胸を張って答えられる。

 

 他人の評価をもろともしないぼっちは最強。これは世界の心理であり、絶対だ。異論は認めない。

 

「・・・」

 

 俺が材木座に背を向け、自分のコートに戻ろうとすると、ガシッと腕を掴まれる。何だと振り返るとそこには・・・

 

「し、師匠と呼ばせてください!」

 

 ・・・何、こいつばかなの?

 

「嫌だ。そして離せ」

 

「師匠、いいではありませんか!?」

 

 あーもううっとおしい!

 

「わかった。わかったから離せ」

 

「あ、ありがとうございます師匠。これでようやく我もぼっちから・・・うう」

 

 やはり現実の青春ラブコメなんて存在しない。あったとしても俺ではなく、葉山みたいなやつに降りかかるのだろう。ラノベを読んでいても魅力のある主人公しかハーレムは築けていない。由比ヶ浜? 雪ノ下? 俺の現状を顧みてみろよ。戸塚といい材木座といい、俺の周りの女どもよりよっぽどヒロインしてるよ? 戸塚に至っては見た目すら上回ってるよ? ・・・うん、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。




~完~

とかしてもいいんですけどね。原作のタイトル回収したし。でもまあ書きたいことの十分の一も描けていないのでまだまだ続きます。テニス編もまだまだ続きます。


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テニス 2

  俺の教えたおかげか、三時間もすれば材木座は来た球をコート内に打ち返すことは概ねできるようになった。だが・・・

  

「翔天御剣流抜刀術・天飛龍閃!」

 

 材木座は腰にラケットを添え、勢いよく振り上げる。所謂抜刀術のようなことをやっている。元ネタもそうなってるしな。でも足が逆なんだよなあ・・・。それと、誰がボール取りに行くと思ってんだ。

 

「トップスピンかけろって言ったじゃん? 何でこんなことすんの?」

 

「あ、い、いや。師匠に近づこうと・・・」

 

「俺がいつそんなふざけた打ち方したんだ・・・」

 

 それに俺は比古さんほどすごくねえっつの。

 

「取りあえずやるにしても基礎できるまでやんな。取りに行くのが面倒だ」

 

「わかりました」

 

 しかし聞き分けいいな。既に怖がってる様子は見られないが、ただの同級生だぞ。普通に日常でも話しかけてくるしな・・・。師匠と呼ばれて奇異の目に晒される俺の身にもなってみろ。・・・まあ普段から見られてるが。

 

 しかし、材木座という存在がさらにそれを強めてることは否めない。それに加え、こいつ面倒だからあんま関わりたくないんだよな。

 

「取りあえず散らしていくから俺に正確に返して来い」

 

「了解しかまつった!」

 

 こいつは喋り方がおかしい。それは何故かと言うと、所謂中二病というやつだからだ。自分を剣豪将軍? かなんかだという設定らしい。詳しいことは俺もしらない。知りたくもない。

 

 取りあえず今までは材木座が打ちやすいところに打っていたため、返すこと自体は容易だろう。回転も素直なものにしている。それでもネットにかけたり、ホームランはなくならない。仕方のないことでもあるが。俺も最初はそうだった。家での度重なる壁打ちのおかげで俺はある程度打てるようになったのだ。

 

 いや~、壁は強かった。どんだけ打っても打ち返してくるからね。意思もない機械的な相手だが、俺は一度も勝ったことはない。そもそも壁に勝つと言うのもおかしな話だが、俺のシミュレートする壁君は恐ろしく強かった。あの一時間にわたるラリーの応酬があるから今の俺があるんだよな・・・。何か涙出てきた。これはあれだからな! 別に悲しくてとか寂しくてとかじゃあなくて、過去を懐かしんでのことだからな!

 

 などと無駄に思考を展開している間に既に材木座はミスりまくっている。少し打ちにくいとこ打っただけでこれかよ。先が思いやられるな・・・。ま、トップスピンかけることは丁寧に教えたからホームランは少なくてまだましか。




この間大学のバドミントンの授業でぼっちだったので俺ガイル読んでたら先生に話しかけられた上に、友達と打ってきなよ! と言われました。しかし、俺は比企谷の教え通り壁打ちしてやったぜ(話しかけられなかったとかそういうんじゃありません、断じて。真剣と書いてマジで)

今回1000文字ちょっとというギリギリですが、書きたいとこの繋ぎ回ってモチベ上がんないんですよね・・・。文字数少ない時は、「あ、こいつの書きたいとこじゃないないな」って思ってください。

そして、今回書いたシミュレーションなんですが、”シュミレーション〟と間違いやすいので気を付けましょう。シミュレートもそうです。


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テニス 3

トゥルーライズが死ぬほど見たかったんだ。もう半年もまともに映画見てねえやってられっか! って状況で映画見てたら普通に遅れました。すいません。


「そろそろ基礎練習もつまらなくなってきただろう? 今回からダブルスの試合を行う!」

 

 ペアとのラリーやバックハンドなどの練習を一通り終え、とうとう試合をすることとなった。まあ一部は勝手に試合やっていたところもあるが。

 

「それじゃあ俺が指示するところにペアと入れ」

 

 ペアの方は今まで通りということらしい。そっちの方が楽ではあるが、面倒でもあるかも知れん。何せ材木座は面倒くさい。存在そのものがうっとおしい。俺もこんな感じに言われたことあるけど、これよりましだと思いたい。・・・ましだよな?

 

「師匠! とうとう我が軍の力を見せる時がきましたな!」

 

 軍っていっても二人だけどな。もっと言えば一人と一人まである。それ軍なのか?

 

「取りあえず全勝するぞ」

 

「ふえっ?」

 

 ・・・何でだろう。アニメとかの女の子が言うとすごくかわいいのに。字面だけでもかわいいのに。こいつの無駄にいい声とこの容姿で言われると背筋凍るな。いつぞやの雪ノ下のアブソリュート・ゼロ程度には。いや、そもそも性質が違うな。雪ノ下のは鋭く刺す感じで、材木座のは何か・・・ヌルッとしてる? 何それ生暖かそう。

 

「俺の言ったことちゃんとやったらあんなやつらに後れを取ることはないはず。しっかり走れよ」

 

「え、で、でも」

 

 おいなんだこいつの喋り方。ヒロインになれそう。でもどうせなら戸塚に・・・いや、なんでもない。仕方ないな・・・。

 

「・・・剣豪将軍ともあろうものが雑兵に怖気づくか?」

 

「! ゴラムゴラム! そんなはずあるまい! 我が刃に切れぬ敵はおらぬ!」

 

 刃って・・・ラケットじゃあ何も切れないだろ。ケーキくらいなら切れそうか? いや、潰すと言った方が正しいか。どっちにせよ材木座の妄想するようなことはできないだろう。現実にできなくてもいいのだろうけど。

 

 ここ数日材木座に関わられてきてわかったことはこいつは扱い方さえわかれば楽にあしらえる。自分の思うように動かすことも可能だ。ただ、残念なことは、そうすることで発生するメリットが毛ほどもないことだ。うっとおしさが若干減るくらい。

 

 対戦相手はカースト上位の人間と思われる。女子からの声援を受けているさまは、材木座の怒りをかったようだ。ふしゅるるると息巻いている。

 

 材木座は気持ち悪いが、この際やる気があるなら特に構わない。いやでも俺が前衛の時に後ろからあんな音が迫ってきたら裸足で逃げ出しちゃうな・・・。気をつけておかねば。

 

 先生の声で一斉に試合が始まる。さて、どう料理するか。

 

 じゃんけんによりこちらのサーブ権。打つのは俺。前の時間までの様子を見るに、大したことはなさそうだ。コースを定めて・・・真上から振り下ろす!

 

 相手に反撃を許さず一セットとり、材木座に称賛されるが、それは軽く流し、自陣で構える。

 

 初心者のサーブは下からなら入るが、上からとなると話は別だ。自分の前かつ低めで打つからネットにかかりやすい。フォルトを一回してしまえば、置きに行くか下から打つしかない。そこを狙えば・・・楽に点が取れる。

 

 次は材木座のレシーブだ。まだ若干どころかかなり不安は残るが俺が一撃必殺し続ければ負けることはない。体育故の二ゲーム先取だし。

 

 材木座は相手のサーブをレシーブし、相手も打ち返してくる。相手もトップカーストに近い存在だ。勿論運動能力は比較的高めなため、コースとスピードがよければ普通に返してくる。

 

 対して材木座は底辺も底辺に属している。女子との会話どころか、男子ともまともに会話できない。そもそも慣れているはずの俺とすらまともに会話できている気はしない。

 

 それでも奴は奴なりに体育を頑張ってきた。俺が頑張らせてきた。少しは見返してやれ。努力は、ある程度まで裏切らないからな。

 

 右手を大きく振り上げ、体を回転させる。その際左手を縮めていくことで回転を強化。インパクトの瞬間は下から上へ、ボールを撫でるように。

 

 パン、と材木座のラケットから力強く放たれたボールはトップスピンにより相手のコートに収まり、バウンドして後ろのフェンスに激突する。

 

「モハハハハ! どうだ!」

 

 唖然とする相手に材木座は高らかに笑う。女子の方へチラチラと視線を向けているが、きっと応援はしてくれないだろう。まあでも夢を見たり妄想するのは人の自由だからな。無慈悲な現実はまだ奴には早かろう。

 

 一戦目は圧勝するも、負けた相手が女子に慰められる様に材木座は涙していた。所謂、試合に勝って勝負に負けたという奴だろう。

 

 俺は誇らしいがな。俺らは恐らく社会一般からすれば負け組なのだろう。友達も碌におらず、恋人もいない。しかし、そんなやつらでも日の光を浴び続けている奴らに勝つことはできるのだ。日陰で努力するものは、日光に当たることに胡坐をかくナマケモノに一矢報いることもできるのだ。

 

 しかし、日陰者は所詮日陰者だ。つまり、僕は脇役(影)だ。主役(光)の影として主役を日本一にするしかない。黒子君最後の方自分輝いてたけど。むしろ自分に意識向かせることまでしてたけど。

 

 まあ当然テニスで日本一なんて無理なわけで。そもそも影二人じゃモブキャラもいいとこだろ。天衣無縫の極みとか絶対習得できないし、波動球辺りでふっとばされて棄権するのが落ちだ。

 

 まあ何が言いたいかというと、リア充爆発しろ。




急いで仕上げたので後半というか、落ちが適当になったので書き直すかもしれません。


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買い物 1

「うーっす」

 

「こんにちわ」

 

 部室のドアを開けると、雪ノ下一人。由比ヶ浜の姿は見当たらない。ついでにバカっぽい挨拶も返ってこない。

 

「由比ヶ浜は?」

 

「お友達と遊びに行くそうよ」

 

 若干不機嫌な様子なのは自分よりも他人を優先されたからですか? 少し独占欲強すぎませんかね。

 

 まあ俺としては二人と一人より一人と一人のがいいからな。どうぶつの森全否定かよ。

 

 今日も読書に勤しもうとページを開いたところで雪ノ下に声をかけられる。珍しいこともあるもんだ。

 

「何だ」

 

 少しためらいながらも、意を決したように息をすいこむと雪ノ下は一口に

 

「もうすぐ由比ヶ浜さんの誕生日だから買い物に行きたいのだけれど」

 

 ・・・うん? 行けばいいんじゃないのか?

 

「何で俺に言うんだよ・・・あ、俺にも買えってことか?」

 

 雪ノ下も回りくどいことすんだな。こいつなら買ってきなさい、部長命令よくらい言いそうだけど。

 

「違うわ。その・・・私の感性は一般の人と違うから、由比ヶ浜さんが喜びそうなものが分からないから、その」

 

「・・・俺に着いて来いと?」

 

「そう!」

 

「・・・俺の感性が一般の人と同じだと?」

 

「・・・そうとは全く思わないのだけれど」

 

 まあ仕方ないか。雪ノ下も今は由比ヶ浜という友達がいるかもしれんが、元はぼっちだし、そもそも人付き合いが下手過ぎる。拒絶している俺が言うのもおかしな話だが。

 

「・・・いつだ」

 

「え、あ、恐らく六月十八日だと思うわ」

 

 となると今週末に行かないと間に合わないな。

 

「土曜日でいいか? 場所はららぽでいいだろ」

 

 俺も由比ヶ浜のことが嫌いではないし、この話を聞いて買わなかったらただの嫌な奴だろう。

 

「いいの?」

 

「ああ。別に予定もないしな」

 

「それはわかっているのだけれど」

 

「・・・とにかく! 土曜な。それに、一般的かは知らんが、由比ヶ浜に合いそうな感性の奴なら当てがある」

 

「・・・脅迫は犯罪よ?」

 

「しねえよ」

 

「そうね。あなたにそんな度胸ないものね」

 

「うるせえ」

 

 紳士と呼べ紳士と。

 

~~

 

 時間きっちりに行くと、既に雪ノ下はベンチに腰かけ、本に目を落としていた。春の風に黒髪がたなびくさまが美しい。海藻みたいって言ったら怒られるかな?

 

「あら、来たのね。・・・そちらの方は?」

 

 俺の隣に視線を向け、雪ノ下は俺への警戒を強める。だから俺は清廉潔白だっての。

 

 隣で何故か固まってる妹をどつく。我に返った小町は、持ち前のコミュ力で一気に雪ノ下の傍まで這い寄り、目をキラキラさせながら自己紹介を始めた。

 

「初めまして! 比企谷八幡の妹、比企谷小町と申します! 以後お見知りおきを!」

 

 比企谷小町の先制攻撃。雪ノ下雪乃は気圧されている! 雪ノ下が目線で助けを求めてきたので、小町を引っ張って距離を取らせる。ぼっちはプライベートゾーンが広く、そこに入られると身動きが取れなくなってしまうから難儀だ。

 

「落ち着け」

 

「お兄ちゃんこんな美人さんどうしたの!?」

 

 おい大きい声出すな。周りの視線集めちゃうだろ。ただでさえ雪ノ下は人目を惹くんだし、お前だってかわいい。最早雪ノ下よりかわいいまである。

 

 雪ノ下は落ち着きを取り戻したのか、居住まいを正し、自己紹介を始める。

 

「初めまして。雪ノ下雪乃と言います。そこの・・・お兄さん? とは同じ部活に所属しております」

 

 何で今疑問符入った。確かに似てないけど。性格から容姿まで何一つ似てないけど。

 

 小町の質問攻めに、再び雪ノ下がSOSを出したため、小町を引きはがし、本題に入ることにする。

 

「一先ず行く場所決めるぞ。地図があるからそこで・・・」

 

「ぶっぶー! お兄ちゃん零点! こういうのは順々に見てくのがいいんじゃん!」

 

 お、おう。そうなのか。俺はいつも効率重視だからな。買うものと場所決めて、そこで買ったら即帰宅だからな。でも今回は何買えばいいのかもわからんし、見ながらってのはありだな。

 

「そうね。それでは私はこっちの方向から行くから、あなた方はそれぞれあっちとあっちからまわって、もう一度ここに戻ってきたときに情報を共有しましょう」

 

「それもだめですよ雪乃さん! 何のために一緒に来たんですか!?」

 

「そ、それもそうね」

 

 そうだよね。いきなり名前呼びされると面食らうよね。それと今のは俺も考えてしまっていた。これもだめなのか。確かに俺や雪ノ下の目に留まるものが由比ヶ浜に合う、つまり小町レーダーにかかるかどうかは怪しいのだ。

 

「一階から一緒に見て回っていきましょう!」

 

 鶴の一声の前に俺たちは成す術なく従う他なかった。




鶴の一声・・・大勢で議論しているときに、否応なしに従わせるような有力者・権威者の一言。

故事ことわざ辞典より引用。

http://kotowaza-allguide.com/tu/tsurunohitokoe.html


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買い物 2

「・・・パンさんに興味あんのか?」

 

 バッと目を逸らすも、あそこまで凝視されてて気づかれてないと思ってんのか。

 

 雪ノ下は今完全に店の前に陳列されているパンさんのぬいぐるみを見ていた。パンさんというのは東京ディスティニーランドの人気キャラの一つであり、むき出しの歯に血を滴らせる様が受けて人気があるのだが、如何せん俺には理解できない。あの凶暴な容姿に惹かれる感覚が普通だったら俺は普通じゃなくていい。

 

「見て来いよ。小町と待って・・・あれ?」

 

 辺りを見渡すと、小町の姿はない。

 

「そう言えば小町さんが見当たらないわね」

 

「あいつ何処いったんだよ・・・」

 

 仕方なくスマホで電話をかける。数コールで繋がり、場所を聞き出そうとするも・・・

 

「おい小町、今どこだ」

 

「今? 服屋さんだけど?」

 

「勝手に行くなよ。一緒に行けって言ったのお前だろ」

 

「二人で楽しんできなよ。信頼できる人なんでしょ?」

 

 信頼ってお前・・・大層な言葉使うな。

 

「・・・まあ嘘はつかねえとは思う」

 

 雪ノ下雪乃は常に正しい。故に虚言は吐かないのだ。それは今まで過ごしてきてわかっている。芯を貫き、自分の才能で道を切り開く。多少障害は多そうだが。

 

「大体お前がいないと、プレゼントが・・・」

 

「お兄ちゃんなら大丈夫でしょ。ギャルゲやってるし」

 

 いやいやいや。二次元と三次元は違うから。二次元では俺に優しく微笑んでくれる女子はいるけれども、三次元にはいないからね? 何それ悲しい。まあ実際違うしな・・・。俺は桂木桂馬君ほどやりこんでないし。

 

「安心しなよ。きっと悪いようにはされないって。そんなことできる人じゃない」

 

「そりゃあわかってんだが・・・」

 

 ・・・こうなったら小町は引き下がらないからな。

 

「了解。お前はお前で楽しんで来いよ」

 

「うん。先週はお兄ちゃんのせいで一人で出かけなきゃだったし」

 

 久しぶりにテニス魂が疼いちまってな、なんてバカなことを言っている間に通信は切れていた。わんにゃんショー行ってあげればよかったかな? しかし壁君は相変わらず強かった。

 

「電話は終わったのかしら?」

 

「ああ。見たいものがあるんだと」

 

「そう。休日に来てもらったんだもの。仕方ないわね」

 

 特段残念がる様子もなく、納得はしているようだ。確かに休日だもんな。それぞれ思い思いのことをしたいに決まっている。俺もできれば今すぐ家に帰って寝たい。

 

「時間は無駄にあるし、少し見てくか」

 

 雪ノ下が俺の電話中もパンさんと戯れていたのは目の端に映っていたので知っている。俺も少し見たい気もするしな。

 

「・・・ありがとう」

 

 聞き取りづらいがわからないことはない。俺はラノベ特有の難聴系主人公ではない。ま、聞き返すのも野暮ってもんだしな。しかし、何故パンさんが人気なのかさっぱりわからん。これ人肉とか食べてる人相ですやん。

 

「妹さんにはその鋭い目付きじゃないのね」

 

「・・・パンさんみたいな目だろ?」

 

「あなたと一緒にしないでくれるかしら」

 

 おうふ。ふざけてみたら地雷踏んだか。こいつパンさん好きすぎだろ。ぬいぐるみもふもふしまくってるし。

 

「意識してかせずかは知らないけれど、そうしているのは正解ね」

 

 その話続けるのかよ。パンさん見比べてるから途切れたかと思っちゃった。会話って難しい。

 

「俺もそう思う」

 

「あなた、妹さんに向ける目は死んだ魚のような・・・もとい、腐ったゾンビのような目ですもの」

 

「おい、言いなおした意味ないぞ」

 

 むしろ酷く・・・魚類から人型までなってるからまだましなのか・・・?

 

「そんな些事は置いておきましょう。由比ヶ浜さんのプレゼントを買う時間が無くなってしまうわ」

 

 俺の目の事情を些事だとぉ? まあ雪ノ下にとってはとるに足らないことだとは思うが。

 

 なんだかんだ言いつつぬいぐるみを買うあたり、こいつ本当にパンさんのこと好きなんだな。恐らくパンさんについて聞いたら、三時間くらい語れるレベルだろう。俺も好きなことならいくらでも語れる。そして引かれるわけだ。俺はあんなこと二度としない。

 

「何を買うべきかしら。やはり実用的なものがいいと思うのだけれど」

 

「俺もそう思う。いらない物もらっても置き場所に困るだろうしな」

 

 となると、渡すべきものは何だ? 日用品なんてものはいくらでも存在する。由比ヶ浜の趣味なんて知らねえしな・・・。

 

「ノートなんてどうかしら。やはり学生の本分は勉強なのだし」

 

「お前それもらって嬉しいのかよ・・・」

 

「そうね。最近はノートが足りなくなってるから嬉しいわね」

 

 そうだよ。こいつはそういうやつだよ。

 

「じゃあ由比ヶ浜がもらって喜びそうか?」

 

「・・・そうね。由比ヶ浜さんはあまり勉強好きではないし。それでも将来を見据えると」

 

 お前はお母さんか。確かに由比ヶ浜は子どもっぽいが。それに対し雪ノ下はかなり大人っぽく見える。時折負けず嫌いが発動して年相応な面も見せるが、それでも凛とした風采は相見ることなく人を魅了し、あえかなさまは他者を惹きつけよう。肌の白さも相まって、彼女は可憐な美少女だと錯覚するのも、無理はない。

 

 しかし、それは見た目だけであり、中身は恐ろしく、そして凄まじく強い。美麗で捷勁なじゃじゃ馬は乗りこなすのは難しいどころか一生乗り手がいないまである。

 

「・・・何かしら。見つめられると不快なのだけれど」

 

 こいつが乗り手の可能性すらあるな・・・。

 

 突き刺すような目に背筋を震わせながら明後日の方向を見る。新しい道に踏み出しそうになるのを思いとどまり、日用雑貨店へと入る。そこで一つの品物に目が留まる。

 

「そういやあいつ、最近料理やってるって・・・

「あれは料理ではないわ」

 

 食い気味に言うほど!? どんだけだよ。いや、クッキーの時点で色々おかしいとは思ってたが・・・。そもそも料理下手キャラって何で自分で味見というか、鬼食いしねえんだろうな。由比ヶ浜もそろそろ殺人未遂で捕まるかもしれん。

 

「取りあえず料理に類する何かをしているだろ?」

 

「ええ、まあそうね」

 

「じゃあここから選んだらいいんじゃねえの?」

 

 俺らが今いる場所は料理関連のところだ。一般的な調理につかうものは粗方そろってるし、由比ヶ浜に凝った料理は無理だ。ここら辺の安物で十分だろう。

 

「あなたにしては良い考えね」

 

 一応アドバイザーとして連れてこられたわけですからね。褒められてる気は不思議としないが。

 

 さてと、俺は俺で由比ヶ浜のプレゼントでも見ますかねえ・・・。

 

「比企谷君」

 

「・・・何だよ」

 

 俺の見る時間は取ってもらえるんですよねえ? 振り返るとそこには黒いエプロンを身に着けた雪ノ下がいた。機能性を重視したようで、装飾は一切なく、真ん中にポケットがついているだけだった。

 

「似合ってんじゃねえの?」

 

「・・・私にじゃなくて由比ヶ浜さんに、なのだけれど」

 

「え?」

 

 だったらお前が着る必要ねえだろ・・・。普通に考えて雪ノ下が自分で買うのかと思っちゃうじゃん。

 

「由比ヶ浜には違うだろうな。あいつは・・・もっとふわふわした、頭空っぽのやつがいいんじゃねえか?」

 

「酷い言いようだけれど、正鵠を射ているのが厄介ね」

 

 お前だって似たようなもんだろうが。俺に対しては酷い通り越して殺しにかかってるのかと思うほどなんだが。風呂場で雪ノ下の声真似をしているのだが、大抵俺への暴言しか浮かんでこないからな。俺に対しては罵詈雑言しかないし、その他の会話には混ざらないし、聞いてない。

 

 雪ノ下は俺の助言通り、浮華なエプロンを購入し、何故か先ほどの黒いエプロンも買っていた。俺はというと、二度と犬を逃がすなという意味合いを込めて、首輪を贈ることにした。折角助けたのに、命を散らしてもらっても困るしな。あれ? これ犬へのプレゼントになってない? まあいいか。




次は久々に書きたいところを書けるのでノリノリで書けそう!

これからは原作にあるところは概略だけにしてすっ飛ばしていこうと思うのでよろしくです。


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買い物 3

 やっとのことで無難なプレゼントを買い終えた俺たちは、雪ノ下が興味を示したゲーセンでぬいぐるみ(またパンさん)を取ったり、ホッケー対決をしたりしていた。ゲーム対決は勝ったり負けたりだったが、俺が勝てたのはやったことのあるものばかりで、初見では軒並み雪ノ下にやられていた。雪ノ下がこういうところに来るのはありえなさそうなので、恐らく向こうも初見だが、そこはさすがの雪ノ下といったところだ。

 

 何やかんやしていたら、気づけば十二時を過ぎていた。どおりでお腹がすくわけだ。ここからだと・・・やっぱサイゼ一択かな。まあ当然だな。安くてうまい。俺レベルのサイゼリヤンになると例え遠かろうとも行くまである。ただ人ごみが苦手な身としてはそこが少し難点だな。

 

「雪ノ下、俺は小町とサイゼリヤで飯食うが、お前はどうする? 一緒に食うか?」

 

 小町に絶対に誘えと強く念を押されたが、俺は嫌がる奴を無理やり連れて行く気はない。というか小町との食事を邪魔されたくない。強制じゃなければ雪ノ下は断るだろう。彼女も群れたりするのは嫌いなはずだ。俺だったらまず間違いなく断ってる。

 

「・・・そうね。小町さんにお礼も言いたいし、私も行こうかしら」

 

 あれれー? 来ると言うならまあいいけど、小町何にもしてなくね? というかその前にお礼言うべき人間が目の前にいますよ! 休日潰してまで付き合ってんのに、言われる言葉は暴言に罵倒に罵詈雑言の嵐。もう慣れましたがね。慣れたら次はいつ快感に変わるかだな。やべえ、それ相当危ない。気を付けねば。

 

 休日ということもあり、ららぽに人は超多い。これは知り合いに出会う確率が高まるな。残念ながら元々が低いどころかゼロだから意味ないけどな。ゼロに何かけようとも答えは・・・

 

「あれー? 雪乃ちゃんじゃん! それに・・・」

 

 隣を歩く雪ノ下の顔が強張る。俺の体も思わず挙動を止める。俺らは蛇ににらまれた蛙かよ。しかしその相手は蛇ではない。目の前に現るるは誰しもが見惚れる容姿を持ち、数多の人を率い、およそ並の人間が羨む全てを手中にしているかのような人間。

 

「もしかして・・・比企谷君?」

 

 半分は驚き、半分は心から楽しそうに笑うさまは見る人に幸福を、夢を見せる。しなやかな髪は乱れなく滑らかに動き、あまりの艶やかさに人目を奪う。大勢に囲まれ、その中でも一層輝く姿はまさに〝陽〟の名を持つに相応しい。俺と雪ノ下の前に現れたのは雪ノ下陽乃。雪ノ下の姉であり、俺にとっての・・・俺にとっての何だろうか?




あーうん。ノリノリで書いたよ? でも多いとは言ってn

いや~、中間テストだったりデレステだったりで忙しい()感じだったので、割と時間なかったでござる。次は、次こそたくさん書けたらいいなあ(願望)


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邂逅

ギリギリセーフ!(アウト)

バイトがあってだな・・・。


 息が苦しくなる。動悸が激しくなる。自然と背筋が伸びる。彼女を前にすると言いようもない恐怖に駆られるようになったのはいつからだろうか。

 

 彼女の才能は俺の知っているところでもかなりのものだ。特に社交性なんて、種類に差はあれど、我が妹の小町に匹敵する。差というか真逆と言っても差し支えないと思うレベルだが。

 

 小町は人懐っこく振る舞い、他者のプライベートゾーンに割り込み割り込ませていく〝領地共有型〟なのに対し、彼女は絶対に自分を侵させない。他者のバリケードを無視し、勝手に破壊して進んでくる。にもかかわらず、彼女自身の領地には一歩も踏み込ませない。言わば〝領地侵略型〟。それでも彼女は相手に嫌われない振る舞いができるし、その明るい外面は好意を抱かせる。並のぼっちには非常に厄介な性格してるよ、ホント。

 

 社交性だけでなく勉強、運動、リーダーシップなど、どれをとっても非の打ちどころがなく、間違いなくトップカーストのトップで、周りを牛耳っているはずだ。

 

 そんな生まれた時から勝ち組である彼女の放つ光は、俺のゾンビのような目にきついらしい。雪ノ下の言うこともあながち間違ってねえな。あいつはいつも正しい。でも俺は悲しい。

 

 さて、相手は俺の中で唯一のS級厄介人物だ。彼女の前には戸塚のあしらい辛さも材木座のうっとおしさもかわいいものだ。・・・いや、やっぱ材木座は可愛くねえわ。

 

 閑話休題。遁辞を考えるため、相手を恐れていては正常な思考はできない。だから感情を殺す。

 

 スーッと長い溜息を吐き、完全なる客観視を実現する。急務は現状の確認だ。小町を待たせるわけにはいかない。

 

 現在目の前には雪ノ下陽乃一人が駆け寄ってきている。後方には彼女の〝お友達〟が複数いるが、雪ノ下陽乃が静止させていたため、こちらに来ることはないだろう。一日二日の付き合いならまだしも、それ以上一緒にいれば、雪ノ下陽乃の不利益になることをすることがどういうことかを理解しているはずだ。

 

 俺の隣にいる雪ノ下は姉の姿を見て固まった後、俺と顔見知りであったことに驚いている様子。恐らく使えない。苦手意識を持っているのだと類推してみるも、そこで思考を閉ざす。今考えても詮無きことだし、時間は有限である。タイムリミットはすぐそこだ。

 

 雪ノ下陽乃が口を開く前に一歩出る。相手にペースを掴ませてはいけない。

 

「お久しぶりですね、陽乃さん」

 

 努めて平坦な声で挨拶する。ここから一気に畳みかけることが大切。

 

「申し訳ないのですが、僕はこれから妹とご飯を食べに行くのでここでお暇させていただきますね。姉妹水入らずでどうぞ」

 

 完璧な流れ! これは引かざるを得ない。このまま気配を消しつつフェードアウ・・・体が動かない。

 

「・・・私も一緒に行くと言わなかったかしら? それとも目だけでなく耳まで腐っているのかしら?」

 

 ・・・雪ノ下雪乃を生贄に捧げる案は失敗だったか。

 

「それに比企谷君もそんな理由で逃げられるとは思ってないよね?」

 

 前門の虎後門の狼より確実に恐ろしい事態に陥っている件。まあ雪ノ下は敵ではないと思うが、味方でもないことは確かだ。

 

 妹との食事をそんな理由と一蹴されたことに少し反応しかけるが、そこでアクションを起こしてはいけない。この人は俺が妹を好きであることを知っている。

 

 人の癇に障ることを言って相手のリアクションをもらうことは雪ノ下陽乃の得意手段だ。冷静に、何の情報も与えないことが肝要。

 

「とは言っても人を待たせるのはよくないと思いますが」

 

 遠方を見やることで彼女に待たせている存在を意識づけつつ、逃げを打つ。それでも魔王は動じない。

 

「少しくらい大丈夫だよ。比企谷君が最近道場に顔出さないから全然会えてなくて」

 

 グイッと肩を引き寄せられ、甘い匂いでまわりが満たされる。

 

「寂しかったんだよ~?」

 

 すぐ耳元で囁くように言われるも、何も感じない。からめられた右腕を払いのけ、俺は距離をとった。

 

「つれないな~。彼女の前じゃあやっぱ無理だよねえ」

 

「・・・別に付き合ってるわけではないわ」

 

 ようやく雪ノ下が口を開く。キッと雪ノ下陽乃を睨みつけながらも、声はそこまで激しくない。

 

「えー? デートじゃないの?」

 

「違いますよ」

 

 視線を俺に向けられたが、合わせることなく返事をする。雪ノ下陽乃はつまらなさげに「ふーん」と呟くと、大袈裟に溜息をつく。

 

「やっと雪乃ちゃんもいっちょまえの女の子になったかと思えば・・・」

 

「別に私がどう生きようが姉さんには関係ないわ」

 

「そういうこと言うんだ。雪乃ちゃんの一人暮らし後押ししたの誰だっけな~? お母さんまだ納得してないみたいよ?」

 

「っ!」

 

 弱み握られてんな・・・。優位な立場に立つことに置いて雪ノ下陽乃の右に出る者はそういない。それは雪ノ下雪乃相手と言えども変わらないようだ。

 

「それとも比企谷君が私を追って雪乃ちゃんに近づいたのかな?」

 

 相手を嘲弄するかのような不敵な笑みを浮かべながら、顔をぐっと近づけてくる。本来ならばその蠱惑的な仕草で懐柔されるのだろうが、生憎と今の俺には効かない。

 

「そんなわけないでしょう」

 

 一歩も引かずに返答すると、心底つまらなさそうな表情を浮かべる。

 

「ほんと、比企谷君は面白くなくなったよね。昔はすることすることに一々反応してくれたのにさ」

 

 でも、と彼女は続ける。

 

「その状態になるってことは少なくとも私を意識してくれてるってことの裏返しだよね?」

 

 言葉に窮することを相変わらずこの人は・・・。

 

「ま、今日は連れもいることだし、そろそろ行くね。また今度」

 

 最後にじっくりと諦観し、邂逅した嵐は過ぎ去った。まさかこんなところで会うとはな。また今度という言葉が酷く心に残る。そのうちひょっこり現れそう。

 

「じゃあ行くか」

 

 何気なく雪ノ下を見ると、彼女はビクッと肩を震わせ、後ずさる。

 

「どうした?」

 

「い、いえ。何でもないわ」

 

「そうか」

 

 雪ノ下さんもいなくなったことだし、さっさと移動しよう。さーて、小町とサイゼでご飯だ。




雪ノ下陽乃さんがとうとう登場しました。
八幡と知り合いという事実をしってから読み直すと新たな発見があるかも知れません(ダイマ)

今回のは書き直すかも・・・何か忘れてる気がする。


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食事

またまたバイトがあってだな・・・
来週は多分大丈夫かと


 人ごみを縫うようにしてサイゼに向かう。六月も既に中旬。人口密度も高く、それなりに暑いため気が滅入る。人ごみもうっとおしいし、雪ノ下も疲れている様子だ。まあ、それが暑さや人ごみのせいだけかと言われるとイエスとは言えないが。

 

 サイゼに到着するも、小町はまだ来ていない様子だ。携帯に連絡が来ていない。仕方ないので小町に返信をして、雪ノ下と席に着くことにする。

 

「・・・すごく安いのね。どうやったらこんなに安くできるのかしら。何か不正を働いたりとか・・・」

 

「ねえよ。一応全国チェーン店だぞ。んなことあったらとっくに問題になってるはずだ」

 

 しかし改めてメニューみるとすごく安いな。やっぱ学生の味方だわ。サイゼ万歳!

 

 携帯が唐突に振動し、恐らく小町のメールだと開くとやはりそうだった。なになに・・・。

 

「・・・小町来ないってよ」

 

「・・・理由は?」

 

「何でも友達と偶然会ってそのままご飯に行くらしい」

 

 あいつ・・・これもわざとか? いらん知恵働かせやがって。これで雪ノ下来てなかったら一人で飯食うことになるんだぞ。何だ、いつものことじゃないか。

 

「そう。でも何も頼まず出るというのも不義理だと思うし、昼食はここで食べていくわ。あなたは?」

 

「ふっ、愚問だな雪ノ下。この俺をサイゼリヤンと知っての言葉か?」

 

「私はあなたのことなんか何も知らないし、知ろうとも思わないわ」

 

 俺から滲み出るサイゼリヤンオーラを理解できないとは・・・。全く、雪ノ下は残念なやつだ。

 

「もう注文決まったか? そうなら店員呼ぶが」

 

「いえ、もう少し待ってもらえるかしら」

 

 って言っても結構な時間見てると思うんだがな・・・。それも当然と言えば当然か。雪ノ下はここの安さを不正を疑う安さと言うくらいだから、ファミレスなんて入ったことないだろう。何せ実家はあの雪ノ下家だ。いつもいいもん食ってるに決まってる。

 

 雪ノ下が決めたのを確認してから、店員を呼ぶ。若干声は震えていたが、普通の対応してくれてるあたり、さすがサイゼだぜ。教育がしっかりしてる。

 

「ねえ」

 

 注文し終わると、雪ノ下が話しかけてきた。話題については見当がついている。恐らくさっきのことだろう。

 

「あなた、姉さんと知り合いだったのね」

 

「・・・まあな。合気道関係で少し」

 

 あれは確か俺が中学二年の時だったか。近くの道場で会ったんだっけ・・・。

 

「・・・それと、さっきの表情」

 

「ん?」

 

「いえ、なんでもないわ」

 

「ああそう」

 

 本人が言いたくないなら無理に聞く必要もないだろう。表情についてとかどうせ罵倒が飛んでくるに違いない。それでも彼女が許されるのは美人だからだ。全く、酷い話だ。

 

「ようやくあなたがあの店を知っていた理由がわかったわ。姉さんに聞いたのね」

 

 あの小道の店か。

 

「そうだよ。昔はあの人に引っ張られて色んなとこに連れてかれてたからな」

 

「よっぽど気に入られてるのね。珍しい」

 

「・・・どうだか」

 

 雪ノ下が本気で言っているかどうかは定かではないが、俺はただ遊ばれているだけだ。少しばかりの切っ掛けであそこまで関わられるとは思っていなかった。当時を思い出すと振り回されていた記憶しか残っていない。それでもその断片には楽しいと感じていた残滓が点在している。

 

 でもそれは二度と現れることはないだろう。俺は自ら手放した。安寧のために、自分の心の平穏のために。彼女には常に変化が付きまとう。それを彼女が望んでいるからだ。自由奔放でエゴイストで、でも自らの器量で周囲も楽しませ、納得させるその才能が、俺にはとてつもなく眩しかったから。だから俺は彼女の元を去った。雪ノ下陽乃の機嫌を損ねるという意味を知りながら。




なんだかんだ言って結局書き直さないなあ、俺。



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邂逅 2

今回は余裕で間に合いました。七日に上げていくスタイル。これをできれば続けたい。


 サイゼでの食事は無事終了した。雪ノ下には意外と好評で驚いたが、サイゼであれば当然か。

 

「じゃあ帰るか」

 

「そうね。特段することもないし早く帰りましょう」

 

 俺ら二人ならこうなるわな。

 

 特段話すでもないが、方向が同じ故に別れるのは憚られる微妙な状況。本当人間関係ってのは気苦労が絶えんな。一人と一人ってだけで幾分かましにはなるが。

 

「あ」

「え?」

「へ?」

 

 思わず声出してしまった。公衆の面前で間抜けな声出すとか恥か死ぬ。忸怩たる想いに苛まれながら、その原因となる人物を観察する。

 

 脱色された明るい茶髪をお団子にしているのが特徴的な奉仕部の一人、由比ヶ浜結衣。今日はとことん知り合いに会う日だなあ。何だ、こいつも友達と遊んでるのか。赤髪のは見たことあるな。由比ヶ浜と話してるとこ見かけて、うっとおしい話し方だったから覚えてる。

 

「由比ヶ浜さん・・・あの」

 

「あ、ちょっとさがみんたち先行っててもらっていい? 後で追いつくからさ」

 

 由比ヶ浜の笑顔に若干の違和感を覚えるも、特に口をはさむことなく彼女らが分かれるさまをボーっと眺める。中身のない会話を二言三言交わし、二手に分かれる。

 

 いつもなら由比ヶ浜が何かと問いただすのだが、どうやら今日は雰囲気がいつもと違う。雪ノ下は先ほどのタイミングを逸して話しかけるのに躊躇している。逆に知らない人間がいるときに話す方が勇気いると思うんだが。

 

「で、雪ノ下なんか話あるんじゃねえの」

 

 さすがにこの状況で帰る訳にはいくまい。それくらいの分別はあるし、逆に常識と言えば俺みたいなことある。自称だけどね! でも人間にとって自分こそが信じる道であるはずだ。自分の考えが一番正しいと感じるはずだ。頑固で偏屈というのは悪い意味で取られがちだが、しっかりとした自分を持っているという点は評価に値すると俺は思う。意固地になるのはいただけないが。

 

 その点俺は他者からの干渉により、アイデンティティクライシスを起こすことはない。確固たる信念を持ち、我が道を進む。それは雪ノ下も同じだろう。方向は違うが雪ノ下さんも同じはずだ。ただ彼女らと違うのはその道を進むうえで選択肢が俺だけ狭いことだ。

 

 雪ノ下姉妹はその才能により多方面において実力を発揮する。それはすなわち知識も多いということで、それにより視野も広く、多方面から物を見れる可能性を高める。

 

 彼女らは雪ノ下家の令嬢ということで社会というものもある程度知っているのだろう。所謂箱入り娘には全く見えないしな。つまり経験も人並み以上にあり、圧倒的な才能を有する彼女らにはそのわずかな経験だけで穿った見方を可能とするはずだ。二人には凡人と違った景色が見えているに違いない。

 

 ・・・それでも、俺の見ている景色だってある意味で真実だ。邪道かもしれんが俺なりの道を進み、自分の常識を培ってきた。人の影を見せられ続けた俺に当たる光は、恐らくまやかしだろう。彼女らの様に、日の当たる場所を歩くのはこの先も難しいと思われる。

 

 でも、俺にはそれくらいがちょうどいいのかもしれない、っと、何かいらんこと考えてたら終わってた件。相も変わらず奉仕部は二人と一人の模様です。話半分だが、聞いた内容を要約すると18日に由比ヶ浜に部室に来てほしいとのことだ。こいつのカースト考えれば誕生日祝い合うのは見えてるしな。妥当な判断だ。

 

 しかし誕生日が近いというのにあまり浮かない表情なのはなぜなのだろうか。自分の誕生日を忘れるはずはないだろう。誕生祝くらい推測できると思うが。それとも、騙されるとでも考えているのだろうか? あの光の部分しか知らなさそうな由比ヶ浜が? ノーテンキにしか見えない由比ヶ浜が? 詐欺師からしたらカモがネギ背負って歩いてるような由比ヶ浜が?

 

 一抹の不安と寂しさを感じるも、すぐにそれは掻き消える。

 

 だって俺には関係ない。




さて、今回は珍しく地の文ばっかですね。地の文多くすると物語が進まなくなるのであまり書きたくなかったのですが、セリフを省略することでその問題を解消。完璧すぐる・・・。(完璧とは言ってない)

穿った見方というのも誤用多いですね。僕も間違えてました。本来は"本質をついた見方"という意味です。


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非日常

テニス編もそろそろ書かなきゃとか思いつつ、予定詰まってるからなあ・・・。


 明日は由比ヶ浜の誕生日・・・らしい日だ。祝う旨は彼女には伝わっていない。俺が見た限りではあるが。雪ノ下が秘匿としておきたかったのか、それともそこまで気が回らなかったかというのは俺に知る由もない。

 

 今日も部活を頑張るかー。頑張るといっても本読むか、課題をこなすかの二択になる。今日は本でも読むか。ガラリとドアを開けると、いつもより落ち着かない様子の雪ノ下。俺を由比ヶ浜かと思ったのだろう。まあ何かしらの前日というのはテンションがあがったりするがな。久しぶりに彼女の人間臭い一面を見た気がする。常に悠揚せまらぬ態度をしているが、ごく稀にこういった側面を見せる。

 

「こんにちは、比企谷君」

 

「うす」

 

 だからといってどうということもないが。俺らはいつもと変わらず日常を過ごすのみ。昨日来なかった由比ヶ浜は今日は来るのだろうか。明日こればいいか。

 

 恵風に窓がガタガタ揺れ、陽はどんどん強まっていく。夏の大会に向けて野球部の練習が激化するこの時期、日本はどんどん気温を上げ、住みにくくなっていく。

 

 つまりは手に汗をかきやすくなり、本を読むときに気を付けなければ萎れてしまう。湿気が多くなるのもマイナス。今日は幸い雨が降っていないが、梅雨の時期というのは傘が手放せないのも面倒だし、本の管理にも気を使わなければならない。

 

 雨の日は本は持ってこない方がいいな。鞄に雨が染みたら最悪だ。それにもうすぐ期末テストが開始する。部活がなくなるため、本を読む時間と言えば、授業の合間を縫うか、つまらない授業を投げ捨てることになる。品行方正を目指す俺としては授業は真面目に受けなければなるまいが、温い先生というものは存在するものだ。

 

 万人に対して差別を行わないことに(俺の中で)定評のある俺だが、やはり区別というものはしてしまうし、した方が効率がいいと思うので、仕方ないと思います。

 

 斜陽がきつくなってきたところで雪ノ下がパタリと本を閉じる。定型化されたこの終焉を奏でる音も、今となっては無いと部活が終わった気がしない。順調に調教されてるみたいで怖い。

 

「じゃあな」

 

「ええ」

 

 いつもはこれで終わるところだが、今日は少し違う。それは恐らく明日が特別な日になるだろうから。

 

「その・・・この間はありがとう」

 

 太陽の光が影になっていて雪ノ下の表情は詳細にはわからない。それでも皮肉った言い方ではないのはわかる。

 

「・・・別に。大したことはやってねえ」

 

 俺がしたことと言えば、日用雑貨店に連れて行って、どんなものを買うかを指示した程度・・・殆ど俺決めてるじゃん。

 

「・・・そうね」

 

「おい。そこはお世辞言うとこだろ」

 

 クスリと雪ノ下が笑った。今まで彼女が笑ったところなど見たことはない。由比ヶ浜ですら引き出せていなかったのではないだろうか。だから何だと言う話だが。

 

「明日はプレゼントを忘れないように」

 

「わかってるよ」

 

「それではまた明日」

 

「・・・また明日」

 

 こりゃあ明日は雨かもしれんな・・・なんてさすがに酷いか。



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誕生会

「やっはろー・・・」

 

 放課後になってから既に半刻。ようやく由比ヶ浜が現れた。緊張した面持ちで、しきりに自分の髪を弄っている。部分は言わずもがなお団子だ。

 

「こんにちは」

「うす」

 

 普段通りのやり取りの中にも、少しいつもと違う様子が見て取れる辺り、今日が非日常だということを示している。

 

 雪ノ下はどこかそわそわと落ち着きがないし、由比ヶ浜もちらちらと俺や雪ノ下を見やっている。

 

 視線を雪ノ下に向けて、プレゼント渡しの開始を促すと、雪ノ下は目だけで返事をする。

 

 雪ノ下が深呼吸して話し出そうとしたとき、由比ヶ浜が口を開く。

 

「やっぱり、そういうことだったんだね・・・」

 

「・・・気づいていたのね」

 

「・・・うん」

 

 の割には嬉しくなさそうだな。泣きそうになっているとも見えるが、感動で? そこまであるか? まああの雪ノ下が友達にプレゼントを渡すようになったと聞いたら親とか喜ぶかもな。俺が親なら間違いなく熱計るか病院に連れていくかするが。

 

「・・・いつからなの?」

 

「・・・? 先々週くらいかしら。あなたとメールアドレスを交換したときに」

 

 恐らく雪ノ下が言っているのは自分でプレゼントを贈ろうと思った日を答えている。計画開始の時期なんて知ってどうするのか。そのときに知っていたならもっと盛大に祝えと由比ヶ浜が言うとは思えない。

 

「そっか・・・全然気づかなかったな・・・」

 

 何か元気なさそうだし、さっさと帰したほうがよさそうだな。

 

 カバンをがさごそと探り、煌びやかに包装された首輪を取り出す。

 

「誕生日おめでとう」

 

「え?」

「ちょっと比企谷君? 一緒に渡そうって・・・」

 

「こいつ体調悪そうだし、早く済ませた方がいいだろ」

 

「そうね。今日の由比ヶ浜さんはいつもよりうるさくないものね」

 

 こいつはいつでも辛辣なのな・・・。

 

「え、今日の話ってこれ?」

 

「・・・? あなた気づいていたのではないの?」

 

 あー・・・何か話かみ合わないなと思ったら、やっぱ誤解があったか・・・。まあどうでもいいか。

 

「い、いや・・・あはは!」

 

「なんか急に元気になったな。現金な奴だ」

 

「ち、違うし!」

 

「由比ヶ浜さん、私からも、その・・・おめでとう」

 

「ありがとうゆきのん!」

 

「ちょっと由比ヶ浜さん!?」

 

 由比ヶ浜の抱き付き攻撃に成す術なく雪ノ下は陥落。相変わらずゆるゆりしてやがる。いっそ部名もごらく部にするか。やること変わんねえだろうし。そしたら俺は場違いだから辞められるし。平塚先生バックに居る時点で絶対に無理だけど。

 

 プレゼントを開けて、エプロンはおろか首輪までつけるというお約束までやったところで俺が罵倒される。できれば俺への罵りはお約束にしてほしくない物だ。

 

 由比ヶ浜はこの後友達との食事会があるらしく、去って行った。由比ヶ浜も笑顔になってたし、成功と言えるのではないでしょうか? 雪ノ下も満足げだしな。



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テニス 4

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

・・・まあ投稿してんの年明け前ですが。


 材木座の動きもだいぶ板に付いてきた。偶にポカするが、俺のフォローもかなり減っている。問題点は体力で、一時間の授業すら持たないが、俺も人のことは言えないので仕方ない。前半カバーしなくてよくなった分後半に体力を回せるので、今では楽に勝ちを重ねられる。

 

 今のところ全勝で勝ち進んでいた俺たちだが、ここでとうとうテニス部と当たることになった。当然相手も全勝中だ。二人は双方とも同期の中ではうまい方らしい。情報源は言わずもがな戸塚だ。ただし、あまり練習熱心ではないとも言っていた。

 

「ククク。我々に挑もうなどとは・・・片腹痛いな。軽くのしてやるとするか。のう? 八幡」

 

 うわうざ。まああいつら目の敵にするのはわかるけどな。こいつのは異常だが。一挙手一投足に呪詛の言葉を吐かんでもいいだろうに。

 

 相手の名前は庭木戸と神庭。カースト上位に位置しており、下位カーストの人間を見下す傾向にある。友達や別グループながらカースト同等以上の人間に対しては相手も楽しめるようなテニスを行う。最終的に勝ちは掻っ攫うが。それでも相手も笑みを浮かべている辺り、楽しいテニスができているのだろう。しかし、相手を完全に下に見るや否や途端に厳しいコースに打ち込んでくる。球速もあがる。当たり前のように圧勝し、周りからは称賛の嵐。友達はそんなやつらと善戦できたと嬉しがるし、自分たちは周りに己の力を誇示できる。所謂WIN―WINの関係だ。

 

「あの、八幡? 八幡師匠?」

 

「ああ悪い。考え事してた」

 

 サーブ権は間違いなく取れる。あいつらはこちらを舐めきっている。いつも相手のサーブでゲームを開始する。相手が誰であろうと。

 

「次の対戦相手お前らだろ? サーブやっていいよ」

 

 ポーンとボールが跳ねてこちらに向かってくる。ほいじゃま、ありがたく頂戴しようかな・・・。

 

 俺がボールに手を伸ばしかけた瞬間、横の材木座が一歩前に進み出て、ラケットでその球を強襲する。

 

「雑魚の情けなどいらん」

 

 材木座的には決まったつもりなんだろうか? 彼なりに考えたかっこいいポーズを決めている。俺からすればくっそださい。まあ本人がよければいいか。

 

 早いボールを返され、当たりかけた神庭はかなり怒っているように思える。すっげえ睨んできてんだけど。材木座震え上がってんだけど。締まんねえなこいつ。

 

 無言で彼らはサーブポジションに着く。つまり勝つには彼らのサーブ中に最低一回はゲーム取らなければいけないわけで・・・一番の敵は味方だったか。これ負け確定かな。




皆さんお気づきの通りモチベかなり低いので安定の字数制限ギリギリ・・・。でも恐らく次は長いと思われる。試合を字のみで描写するのは難しそうなので頑張って脳内補完お願いします。


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テニス 5

無論わかってるとは思いますが、神庭と庭木戸はオリキャラです。タグも一応つけときました。


神庭       

          庭木戸

ネットーーーーーーーーーーー

材木座

          比企谷



試合開始はこんな感じ。サーブレシーブ書いてるからわかると思うけど、念のため。


 サーブを打つのは神庭。こちらは背が低く、前衛側の人間だ。ただ足が速く、コースに決めても球速がなければ追いつかれる。コースを丁寧についてくる代わりに、球は遅い。逆に庭木戸の身長は高く、コース関係なく鋭いストロークからの剛速球で押してくるタイプだ。

 

 ここで狙うのは勿論神庭。幸い怒っているからか彼からのサーブからだし、速い球に目を慣らしている時間はない。

 

 神庭がボールを高く上げ、体を大きく使い、滑らかな動作でボールを強打する。遅いが回転数は多い。つまり素直にこちらに向かってこないということだ。しかし考えればどちらに跳ねるかは容易に想像できる。素早くそちらに移動し、理想のフォームで打ち返す。

 

 ボールは神庭目掛けて一直線。理想は俺に返ってくることだが、恐らくそうなるだろう。理由は彼にバックハンドで打たせるようにしたからだ。

 

 神庭はテニス経験者と言えど所詮は中学生と変わらん。体格もよくないし、バックで引っ張る力もない。つまり俺のところに球がくる。ほら来た。

 

 もう一度同じところを狙って球を返す。俺だってテニスはやったことあるし、自主練だって壁相手に何度もやってきた。コースも球速も甘くはならんぜ。

 

 ここで気を付けるのは前衛の庭木戸に打たれることだ。彼らは両方右打ちだから神庭にバックで打たせようとすると必然庭木戸が手をだしやすくなる。それは困る。やられれば失点は確実だ。

 

 神庭もバカじゃない。ラリーの最中にじりじりと内に寄ってきている。そろそろ庭木戸の守備範囲に入る。フォアでも思いっきり打ったら追いつけないとは思うが、全力で打って完璧な制球ができるとは思えない。だったら・・・。

 

 神庭が打った瞬間庭木戸が一歩踏み出す。釣れたな。

 

 庭木戸方向の外側目掛けてラケットを振り抜く。逆方向に行っていた庭木戸も気を抜いていた神庭も動けない。つまり、こちらのポイントだ。

 

 さて、ここからが問題だ。これで奴らは俺を危険視するはずだ。この見た目の俺が相手でも態度を変えなかった奴らだ。肝は相当座ってるだろうし、これからは全力で打ってくるだろう。臆することを期待するのは間違いだ。

 

「師匠さすがですね!」

 

「ああ」

 

 材木座も相手もあっけらかんとしていたが、相手はすぐに臨戦態勢に入った。これで材木座が返すのはさらに難しくなった。前みたいに俺が一撃必殺を続ければ負けることはないが、相手が手練れじゃ厳しい。ラリー中に材木座を経由する可能性を考えると、レシーブで点とるのが理想ではあるが・・・。

 

「材木座。今のサーバーは回転かけてくるやつだ。対処の仕方は教えたな?」

 

「き、聞いてはいるが・・・」

 

「・・・回転を操ることもできんのか剣豪将軍よ。それでは我を超えることは不可能であろう」

 

「なっ・・・バカなことを。師とは弟子に超えられてこそ! そこで見ておくがいい!」

 

 ホント、扱いやすくて助かるわ。でもまあ・・・。

 

 高速回転するボールが材木座に向けて放たれる。やる気に満ちた材木座の表情は真剣そのもの。しっかりとした構えのままボールを待つ。

 

「見切った!」

 

 メガネがキラリと光り、一点目掛けて強いストローク。やり切った感のある材木座は空を仰いでいた。

 

「それで返せるかどうかは別問題なんだよな・・・」

 

 材木座の放ったボールはフレームに当たり、明後日の方向へ。低速高回転ボールは跳ねる方向を予測し、ボールをしっかり見て、それ以上の回転をかける技術が必要になる。たかだか数時間の学校の授業で何とかなるものではない。

 

 ただまあこの世にはサーブミスというものがある。どんな一流選手だってミスはするんだ。練習も真面目にやってないやつならミスって当然。よし、ネットにかかった。一回フォルトすれば置きにくる。

 

 しっかりと点とってこれで30-15。材木座の方でもフォルトしてくれればこのゲームとれる。

 

 と願いつつも試合はデュースになるまで平行線だった。厳しいコースを狙わないと点を取られると判断しているであろう俺にはギリギリを狙ってくるが、材木座に対しては回転さえしっかりかけておけば多少甘くなっても問題ない。つまり向こうに余裕がある。そうなるとミスの確率は極端に減る。でもアド取って、次はさすがに四回目だし、頼むぜ材木座。

 

 神庭も疲れてきたのか、サーブ時のボールの高さが低くなってきている。こういうときは得てして甘いボールがくるってものだ。

 

「はああああああっ!」

 

 材木座は叫ぶと強かにボールを打つ。トップスピンもしっかりとかかっており、相手の

コートにボールが跳ねる。

 

 このチャンス、ものにする! 材木座は真っ直ぐに返した。庭木戸のリーチでも届かないだろう。ならサーブ直後で後方にいる神庭が返してくる。そして狙うなら材木座だろ。神庭は既に疲れが出始めており、回転数も落ちてた。元々の力や球速もない。だったら前出て決められる。

 

 前に出てバックスピンでコートギリギリに落とす。ボールは奥に行かず、手前で2、3回跳ねて転がる。これで1ゲーム先取。

 

「ナイスレシーブ」

 

「! と、当然! 今まではゲームを面白くしようと手を抜いていただけの事!」

 

 いやホントよく返した。正直無理ゲーだと思ってた。でも受験明けじゃなかったら体力もあって筋力もまだましだろう。こんなことにはならなかったはずだ。練習はやっぱするもんだよ。この試合もらったかな?




テニス経験は学校の授業だけなので、ミスあるかもしれません。ご了承を。


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テニス 6

 サーブ権がこちらに移って俺のサーブから試合が始まる。

 

「お前やっぱサーブだめな」

「うるせえ庭木戸。雑魚相手ならいけると思ったんだよ」

 

 聞こえてんだが・・・。他の奴に聞こえたらお前のサーブで点とられたやつらがどう思うか。まあ俺には関係ないか。

 

「ま、俺も神庭のサーブに期待はしてなかったがな」

「うぜえ怪力デカブツ野郎が。次取らなきゃ負けんぞ」

「余裕だろ。てめえこそ疲れて死にかけじゃねえか」

「誰が! 見とけよカス、俺のレシーブからだ! 舐められたまま終われるかよ」

 

 こちらへの視線でわかる。向こうのサーブでセット取られてるのに未だに見下されている。何か秘策があるのか? しかし神庭は口わりいな。すっげえ睨んでくるし。とまれこうまれ、このセットも神庭狙っておけば問題ない。材木座には狙わせないが。変に狙わせると奴の場合ミスショットする可能性が高まる。

 

 こちらのアドでサーブ打てるのはでかい。ここで取らなければ庭木戸の高速サーブがくるのか・・・。

 

 一球目、俺のサーブ。ここが大事! 内側を狙うと材木座に返されたとき、差し込まれる。来た方向に返せるならいいのだが、バックでは難しいだろうし、右で打つと引っ張って次に神庭が打つときに材木座との打ち合いに持ち込まれる。俺がフォローに行ったら対角線に打たれて終わる。

 

 ここは俺がサイドギリ狙って打つ。材木座はあらかじめサイド寄りに待機させといて、神庭の球に備えさせておく。これなら打ち合いになるだろうが序盤は有利になるはず。ただ材木座に決めさせるのはさすがに荷が重いか。素人どうしの相手なら大分できるが、腐っても相手はテニス部だ。

 

 ・・・サービスエースか、少しでも材木座が有利になるように、全力で狙ってくか。せーの・・・。

 

 深く遠くを狙って全力で打つ。球速だけを大事に回転は気にしない。余裕で追いつく神庭だが、さすがに簡単に返せるような球は・・・。

 

「!?」

 

 俺に返してきた!? しかもさっきよりはやい!

 

「ぐっ!」

 

 ギリギリ真ん中に返せた。フォアなのにおもっきり差し込まれた。でも神庭もバックでは・・・庭木戸!? ヤバイ! バックで打つコースに返された!

 

 圧倒的なスピードについていけず、弾くのが精いっぱい。当然相手のコートにすら入らず点を取られる。

 

 ・・・神庭の球速が上がっているのは動いているボールをフォアで打ったからだ。サーブのように止まっている球を打つときは力を込めにくい。逆に速い球は打てばスピードが出る。

 

 ただ神庭が俺を強烈に意識しているのは嬉しい誤算だ。材木座を狙われないだけで生存率は格段にあがる。材木座には悪いがな。

 

 問題は庭木戸がレシーバーのときだ。素直に俺に返されても俺が返せない恐れがある。そこまではいかなくともコースに決めるのはかなり難しい。フォアでもそうなのに、バックではなおさら。

 

 ここから勝ちを拾うにはどうすればいい?

 

 サーブも簡単に返された。思ったよりも楽そうに。あいつらの才能が予想よりも上回っている。

 

 ジャンプサーブは? 勢いつく分威力は増すだろうが・・・返された場合こちらが動きにくい。態勢整えるのに一苦労だし、体力もかなり使う。

 

 ・・・これが俺の限界なのだろうか? 次のサーブも軽く返され、俺への集中砲火。段々とじり貧になり、最後は前に落とされる。

 

 俺に才能はない。今まで培ってきたものも少ない。努力しても天才には勝てないのは自然の理だ。でも・・・あいつらは天才なのだろうか?

 

 以前戸塚のランク付けにおいてSにしなかったのは、彼より面倒な人間がいたからだ。

 

 俺は知っている。誰も適わないような天才を。圧倒的才能を。神に愛された人間を。

 

 あれに比べたらこんなのは何でもない。俺が勝てない道理は・・・ない!

 

「師匠、大丈夫ですか?」

 

「・・・ああ」

 

「・・・? ・・・ひっ!」

 

 材木座の方向を見ると、大仰な仕草と共に顔を引きつらせる。もう俺の目付きにも慣れてきたと思ったんだがな。まあどうでもいいか。




次週テニス編完結・・・かな?
眠い


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テニス 7

今週からまた続けていこうと思います。よろしければお付き合いをお願いします。
今回に限って言えば前回の書き直しで、読む価値は殆どないです。なんなら前回の方がよかったかもしれませんが、消したのでもう見れません。
一部修正を行いましたが、話の大筋は変わりありませんので読み返す必要はありません。
長々と書きましたが、来週から再び宜しくお願いします。


 数度地面にボールを弾ませる。バウンドの感覚、投げる強さを確かめつつ、ボールをしっかり握る。神庭は俺を狙ってきていて庭木戸もそれに倣っている様子。つまり俺がしっかりしていれば負けることはない。しかし相手は腐ってもテニス部であり、更には二対一といって差支えない状況でもある。ではどうすればいいのか。正解は・・・一対一で勝つ。

 

 視界の色が変わった。実際に変わっている訳ではないが、目に映るものが今までとは違うので、その比喩だ。

 

 コース、速度をいくら高めても、俺のサーブでは彼らの虚をつくことはできなかった。だったら、回転とバウンドではどうだろうか。ここ数日は快晴でコートは十分に固い。特に神庭は背が低く、ボールを高く跳ねさせればさぞかし打ちにくかろう。

 

 ボールを高くあげ、サーブの態勢に移る。俺が狙うのは神庭の手前向かって左側。テニプリ最初期に使われてた・・・ツイストサーブ!

 

 可能な限りの球速、回転、コースを実現し、できるだけ跳ねるようにする。右打ちに対し、ツイストサーブは向かって来る球で、低身長の神庭にはかなり打ちにくい。何故なら自分の打ちたい場所で打てないからだ。

 

 まともに打てずにコート外でボールが転がる。あっけらかんとする彼らを前に、俺はただ場所を移った。

 

「材木座、今度は俺が左だぞ」

 

「ひゃい! す、すいませぬ」

 

 ボーっとしてるやつがこんなところにもいた。全部俺が打つつもりではあるからどうでもいいが。

 

 向こうからボールが投げられ、もう一度俺のサーブ。次はスライスサーブだ。神庭に比べ背の高い庭木戸には打ちにくくなるまでボールを上げにくい。確かにそれを差し引いても向かって来る球は打ちにくいが、ツイストは一度見せているため、向こうにしても心構えが可能だ。だからここはスライスサーブを打つ。スライスはツイストと逆回転で、右打ちに対して逃げていく。

 

 ツイストの時は跳ねるようにしたが、スライスは低い弾道にする。低い位置で打ち、球速を上げ、相手にツイストかスライスか攪乱できるかもしれない。打ち方でわかるかもしれないが、今見たツイストは頭に残っているだろう。

 

 それに、低い弾道と逃げていく球なので、庭木戸から球は遠くなる。力を込めて打たれるとこちらとしては困るため、背の高い庭木戸にはこちらが有効なはずだ。この場合相手が流し打ちする可能性が高いので、俺に返ってきやすい点もいい。

 

 30-30。俺の思惑通りにゲームを進んでいく。庭木戸には打ち返されるも、力は入っておらず前に出て打てばこちらのポイントだ。その次からは返されるも慣れてはいないのか、こちらに有利に進められるようなボールが返ってくる。広い視野で彼らの動きを観察し、次にどこに打つか、どう動くかを予測すれば俺であっても打ち返すことは可能。相手の動きをそのまま受け入れ、動く。感情を排し、情報をそのまま処理すれば行きつく境地は当に無我の境地と言ってもよいだろう。

 

 勝てる、勝てるよ。俺は勝たなければならない。考え、小手先で誤魔化す。今までもそうしてきた。ある程度の努力と思考を巡らし、的確な情報処理をすれば・・・俺の、勝利だ。

 

「・・・っと」

 

 気を抜くとすぐこれだ。疲れがどっと押し寄せる。アドレナリンの効果を実感しながらも形骸化した挨拶を交わす。

 

「お前強いな。どこ中だった?」

 

「・・・俺はテニス経験者じゃねえよ。体育でやったくらいだ。じゃあな」

 

「は?」

 

 庭木戸の問いに対する返答は余りにも衝撃的だったらしく、二人は顔を見合わせた。何やら考え込むような仕草の後、神庭は地面をけりつけ、次の試合のコートに移って行った。

 

「お疲れ。材木座、勝利報告に行くぞ」

 

「あ、師匠。お、お疲れ様です」

 

「・・・打たせてやれなくて悪かったな」

 

「あ、いや。それは別に構わんが・・・」

 

 おずおずとこちらを窺う材木座がうっとおしいので若干速めに俺は歩いた。




花粉症の季節となりました。マスクするだけでも大分変るので、マスクは偉大。


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期末テスト

 気が付けば期末テスト。五日間に分けて行い、今回は副教科もあるので、前回より勉強量が要る。俺には人付き合いやどこかに遊びに行ったり、食事に行くこともないので、時間には事欠かなかったが、それでもやはり雪ノ下には敵わなかった。

 

 前回は度重なる偶然と、運よく解ける問題ばかりが出題されたため勝てたに過ぎない。つまりは当然の結果である。俺とは違い、彼女は天才なのだから。

 

「うっす」

 

 普段通りに部室に行くと、普段通り読書をする雪ノ下の姿が。しかし、こちらに向いたその表情はどことなく嬉しそうだ。

 

「こんにちは、比企谷君」

 

 言葉にも嬉しさが滲み出ている。そんなに勝てて嬉しいですかね? 負けず嫌いだからというよりも、人より優位に立って、見下したいと思ってるんじゃないかという説はある。なんて性格の悪いやつだろうか。

 

「・・・比企谷君、いきなり薄ら笑いを浮かべて気色悪いわよ」

 

「お前が俺のことを気色悪いと思わなかった日はあるのか?」

 

「そうね・・・ないわね」

 

 断定しちゃうのかよ。だからこいつは友達いないんだろうな・・・。

 

「それより比企谷君。テストの結果はどうだったのかしら?」

 

 さらりと髪をかき上げる。口角が少々上がってますね。どれだけだよ。

 

「ほらよ」

 

 特に惜しげもなく俺は自分の結果を渡す。今更隠す必要もないだろう。

 

「・・・あとは現文だけね」

 

 おいやめろよ。現文まで負けたくはないぞ。しかし・・・あれだな。雪ノ下は何しても絵になるな。こうやって何かを一心に見ているだけでも・・・。

 

「やっはろー!」

 

 うおおっ! びっくりした。何かいけないことをしていたつもりはないが、あまり褒められたことでもないしな。俺の場合それが命取りだろうけど。

 

「こんにちは由比ヶ浜さん」

「うっす」

 

「何見てるのー?」

 

「比企谷君のテスト結果よ」

 

「うわ見たい! ・・・何か本当にできるんだねヒッキー」

 

 できて悪いかよ。見た目とのギャップはあるかもしれんが・・・。それを認めたくないのも経験からわかっているが、こいつも露骨に顔に出すよな・・・。

 

「あ、そうだゆきのん。球技大会はどっちの種目で出る?」

 

 そういや今日決めてたな。俺は確かバレーだったな。寝てたら勝手に決まってたが、どっちでもよかったし、まあいいか。

 

「私はバレーね」

 

「私も! ヒッキーは?」

 

「あ? 俺もバレーだよ」

 

「奉仕部全員お揃いじゃん!」

 

 こういう時大抵俺ははぶかれるもんだが、珍しいな。

 

「皆で特訓しようよ!」

 

「? 私は別に特訓しなくても勝てるのだけれど」

 

「大体三人でどうやってやるんだよ」

 

「えっと、あ、む~」

 

 由比ヶ浜が案を出しつつもそれを俺か雪ノ下が否定し、俺に暴言が投げかけられ部活が終了する。いつになればこの部のしっかりとした活動ができるのだろうか。しなくても俺は一向に構わないけどな。何ならしない方がいいまである。



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夏の球技大会
※夏の球技大会 1


 人気のない廊下を一人歩く。いつもの光景、いつもの時間。放課後に目指す場所は半強制的に入部させられた奉仕部部室である。初夏はとうに過ぎ、ジワジワとした暑さとセミの騒音が本格的な夏の到来を告げている。窓から外を見ると、木々は青々と茂り、風に煽られその枝葉を揺らす。その根元では男女が入り乱れて楽しそうに会話をし、部活とは名ばかりのお話しサークルが存在する。爆発しろ。

 

 その話題のタネというのはもっぱら球技大会なのだろう。俺の通う総武高校における球技大会というのは、男子はバレーかソフトを、女子はバレーかバスケを選択し、クラス対抗で頂点を決めるものだ。大体の高校では似たようなものだろうがな。

 

 戸塚もバレーであり、一緒に頑張ろうなどと言っていたが、どこまで本気なのだろうか? 特に気になるのは一緒にという点だ。一緒に頑張るというのは意味が分からない。

 

 努力は全て自分を高めるためのものだ。一緒にとリア充はのたまうが、結局差異はうまれ、才能の、意識の違いが如実に表れる。そこでやる気を失くす人間もいるわけで、一緒に努力するよりかは各々で努力した方がいい。別に俺にそんなやつがいないというわけではない。決して、マジで。本気と書いてマジで。

 

 いつもと変わらない思考力、我ながらほれぼれするぜ。

 

「うっす」

 

 いつもと同じようにガラリとドアを引くと、違和感。雪ノ下と・・・誰?

 

「んん!?」

 

「こんにちは比企谷君。この人は依頼者の佐伯忠利君。1-Dに在籍しているわ」

 

 依頼者・・・ですか。また面倒なことが起きなきゃいいが。大抵ラノベや漫画だと前の由比ヶ浜みたく奉仕部に入ったりするんだろうが・・・こいつはアクが強いようには思えんな。恐らく大丈夫だろう。ただのリア充っぽい。どんな判断基準だよ。

 

「・・・どうも」

 

 相手が俺を見たまま硬直しているので、取りあえず軽い会釈をし、定位置に座る。さてと今日ははたまの続きを・・・。

 

「比企谷君。あなたも部員なのだから」

 

「由比ヶ浜が来てからの方が効率いいだろ?」

 

「・・・そうね。佐伯君も好きにしてていいわ」

 

「あ、はい」

 

 辛いよな、こういうの。自分の知らない世界で好きにしろってどうしようもないよな。リア充特有のおしゃべりも俺にはできないだろうし、雪ノ下には効かないしな。ざまあみろ。

 

 対人は俺と雪ノ下の唯一と言っていい弱点だ・・・陽乃さんは別として。効率云々を抜きにしても由比ヶ浜を待った方が賢い。彼も話しやすくなるだろうし。

 

「やっはろー!」

 

 そんなこんなで能天気な声に間抜けな挨拶が加わり、頭が最弱に見える。だが今回はその残念な頭に頼らざるを得ない。非常に悲しいが、俺に対人スキルを求めるのは間違っているので仕方ない。

 

「こんにちは由比ヶ浜さん」

「うっす」

 

「あれ、佐伯君じゃん。どうしたの?」

 

 由比ヶ浜知り合いかよ。クラス違うくない? どんだけ顔広いんだよ。由比ヶ浜に顔広いって言ったら顔がでかいと勘違いされて俺が怒られそう。さすがにバカにしすぎか。

 

「この人は依頼者よ」

 

 読んでいた本を閉じ、雪ノ下は説明を始める。

 

「何でも球技大会で目立たずに終わりたいそうよ」

 

「・・・?」

 

 俺も「?」だよ。こいつに全くシンパシー感じないもの。もろリア充ですよこいつ。目立ちたいの間違いじゃなく?

 

「目立ちたくないの?」

 

「ああ。俺は中学じゃバレーやってたけど、高校じゃやる気ないんだよ。だから勧誘がうっとおしくてな。未だに誘われるんだよ」

 

 なるほど。つまりは・・・

 

「今回目立たなければ大したことない選手だって思われて、勧誘は途切れると考えた訳だな?」

 

「そ、そうだ」

 

「そっか、佐伯君の中学ってバレー強かったもんね」

 

「ミスしまくればいいんじゃねえの?」

 

「ヒッキーバカ? それじゃあクラスに迷惑かかっちゃうじゃん」

 

 こいつにバカにされると無性に腹が立つが正論だから何も言えない。俺は他人の評価なんぞ顧みないからそんなこと考えられなかったぜ。

 

「それとできるだけ下手にも見られたくないんだ」

 

「それは何でかしら?」

 

「っと、は、恥ずかしいから、です」

 

 雪ノ下さんの威圧のせいで若干どもってるじゃん。俺も慣れた今ですら、どもる自信あるぞ。あいつやっぱ怖い。

 

「そう。だったら休めばいいんじゃないかしら」

 

「それはちょっと・・・」

 

「折角の球技大会だもんね。やっぱやりたいよね!」

 

「そうだよな!」

 

 水を得た魚かよ。由比ヶ浜相手には強いな、彼。んなことより結構難しくないかこれ。

 

 佐伯忠利。1-Dで身長180前後。リア充っぽく、由比ヶ浜とは割と仲がよさそう。現在は帰宅部。球技選択はクラスの期待の眼差しによりバレーで、当日休むことと、ミスを連発することは拒否。部活終わりまでに聞くことのできた情報はこんなもんだった。あとは殆ど由比ヶ浜と会話してた。

 

 さてと・・・目立たないっても周りはボールを回すだろうし、当然周りも活躍することを期待している。否が応にも目立つだろうな。

 

 これは球技大会どうのより、勧誘を断る方向にシフトしていった方がいいか。明日本人に聞いてみよう。



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夏の球技大会 2

「佐伯」

 

 運よく一人の時に、わざわざ人目のつかないところにて声をかける。別に俺とて話しかけることができないわけじゃない。話しかける理由がないからそうしないだけだ。

 

「な、なんでしょう」

 

 じりじりと後退すんなよ。俺がいじめてるみたいじゃないか。

 

「昨日の依頼について何だが、最終的には先輩の勧誘をなくせばいいってことだよな?」

 

「そういうわけじゃないんですが・・・」

 

 ん? どういう意味だ。

 

「次移動教室何で行っちゃいますね!」

 

 ・・・そりゃ逃げるわな。俺でも逃げるわこんな見た目の奴。仕方ねえが由比ヶ浜経由で話を聞いてもらおう。あまりしたくはないが。ただ、奉仕部として受けた依頼だから最善は尽くさなきゃな。

 

「やべえ俺も移動教室じゃなかったっけ」

 

「あ、比企谷君。急いで! もう時間ないよ!」

 

「お、おう」

 

 何であいつは律儀に待ってんだよ。鍵なんて俺に任せて先行ってればいいのに。・・・俺が閉めていかないとか、物取りしないかの見張りとかそういうのか!?

 

「比企谷君早く!」

 

 ・・・んなことは考えてなさそうだな。

 

~~

 

「そうね。それでいいと思うわ」

 

「ああ。だからそれでいいかの確認を由比ヶ浜に任せたいんだが」

 

「任せて任せて!」

 

 場所は変わって奉仕部部室。先ほど失敗した確認を由比ヶ浜にさせようとしているのだが・・・ものすごく不安だ。進め方的には雪ノ下のお墨付きだからいいとは思うが。

 

「お前、本当に理解してるか?」

 

「ばかにするなし! 球技大会で目立たないんじゃなくて、バレー部からの勧誘を失くすようにすればいいよねってことでしょ?」

 

「お、おお。合ってる」

 

「あなた・・・この程度のことはさすがに由比ヶ浜さんといえどもできるでしょう」

 

「そうだし!」

 

 由比ヶ浜よ・・・雪ノ下は決してお前を褒めている訳じゃないんだぞ。

 

「じゃあ行ってくるね!」

 

 嵐のような奴だな。由比ヶ浜が戻ってくるまで本でも読んでおくか。

 

「・・・やっぱり人助けには尽力するのね」

 

「は?」

 

「・・・由比ヶ浜さんのときもそうだったけれど、協力的よね。そんなに私たちに言うことを聞かせたいのかしら。いやらしい」

 

「お前らに任せると碌なことになりそうにないってのはあるな」

 

 由比ヶ浜なんぞどんなとんちんかんな命令下されるともわからんし、雪ノ下なんて・・・想像もつかんほど恐ろしいこと言われそうだ。何せ・・・。

 

「その不快な視線を向けるの、止めてもらえるかしら」

 

「はいはい。俺が悪かったよ」

 

 これから雪ノ下のことを見るのはよそう。俺がダメージ受けるだけだ。ふぇぇ、まだこっち睨んでれぅ。

 

 本を開いて数分、由比ヶ浜が現れる。その表情は何故か暗く、明るさだけが取り柄の由比ヶ浜には似つかわしくない。

 

「どうした?」

 

「何かね、断られちゃった」

 

「は?」

 

 どういうことだ? 元を断つことが目的ならこれでいいはずなんだが。よくよく考えてみれば、それを依頼しなかった理由がわからん。わざわざ球技大会を経由した理由があるはずだ。

 

「どういうことかしら。断ることは想定外だったのだけれど」

 

 考えろ。言葉の裏を読むのは俺の得意技だろ。

 

 ・・・とは言うものの、元手が少なくちゃわかるものもわからん。情報を集める必要があるな。



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夏の球技大会 3

 リア充とは、大抵が部活、特に運動部に所属し、ある程度の運動神経と強力なコミュ力を用いて楽しく、時には辛く放課後を過ごすものである。ここ総武高校でも大多数のリア充はそうして過ごし、業後の連絡事項が終ればクラスは殆どもぬけの殻だ。故にリア充でありながら帰宅部の人間というのは一人寂しく自宅へ向かうのが唯一の選択肢になることが多い。

 

「よう、奇遇だな」

 

「・・・」

 

「まあそんな警戒すんなよ。依頼についての話だ」

 

 奇遇と言っておきながら、用件があるというのも自ら昇降口で待ち伏せしてましたと言っているようなものだが、そんなことはこの際どうでもいい。球大まで時間がない今、やるべきことはやらなければならない。

 

「人間っていうのは、自分から嘘をつくことはあまり好きじゃない。一部例外は除かなきゃいかんが、大体はそんな感じだ」

 

 佐伯の表情に変化がみられる。当たりか?

 

「ただし必要に駆られればその限りではない。例えば誤解が蔓延していたり、とかな」

 

 ビンゴ。今完全に疚しいことのある人間の顔をした。具体的にどうとは言えんが、感覚でわかる。

 

「相手の誤解を肯定したり、若干の誇張をしたりするのは難しくない、というよりも楽しいか。自分にとって益になるならば」

 

「俺は・・・」

 

「お前の通っていた排律中学は公立ながらにしてバレーボールの名門で入部者も多いと聞く。残念ながら排律中学のやつはお前しかいないみたいだから、お前のかつての立ち位置なんて俺は知らんがな」

 

 口を開けるが、またすぐ閉じる。こいつとてプライドとかがあるのだろう。中学でどうだったかは知らんが、高校では立派にリア充している。これがばれたらハブられる可能性もある。子供の人間関係なんざそんなもんだ。信じるに値しないし、繋がりを持つ必要性も感じない。しかしこれは俺の主観だ。

 

 こいつは俺と違いコミュ力があり、自身で全てを成し遂げる気概や能力といったものがないのかもしれない。やや見下した言い方かもしれないが、人間というのはさぼれば際限なくさぼれる。周りの力を当てにして、手を抜いたことばかりやっていれば自然と能力というものは腐り落ちていく。

 

 そんな生き方をしたいと思うのは弱者の理論だ。恐らく雪ノ下なんて非難するだろう。彼女は自分でなんでもできるが故にできない人間の心情が理解できない。

 

 努力にも限界はあるのだ。やる気があっても周囲が、環境が、時間がそれを奪っていく。才能に絶望し、自分の限界を決めてしまう。でもそれが大半の人間というものであろう。

 

 彼がそれに当てはまる人間かどうかは知らないし、どうでもいい。こいつが依頼者で俺は請負人。俺にはこいつの望む形で依頼を成功させる義務がある。ある、が。

 

「佐伯、俺は部で依頼を受けた以上、お前のために動く。全部話してくれないか?」

 

 そして続ける。真摯に取り組まない依頼主にはその義務は発生しないと思うんだよな、俺は。お前はどうだ、佐伯、と。



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夏の球技大会 4

 昨日の一件により佐伯の状況は大体理解できた。バレー強豪校の排律中学出身かつバレー部所属だったことを最初の自己紹介で明かした結果らしい。否定する間もなく彼はレギュラーだかエースだか呼ばれるようになり、続けるつもりであったバレー部に入ることもできず、他にやることも見つからず帰宅部になっているらしい。

 

 しかし彼とて下手どころか上手い方だろう。排律中学は部員数は1年から3年まで合わせると毎年60名を超すという。彼はそこのベンチメンバーであり、交代出場も時たまあったらしいことから比較的優秀なのだろう。それでも劣等感というものは簡単に拭い去れるものではない。更には中学最後の大会、決勝戦のエースが総武高校に入り、既にレギュラーとして活躍しているらしい。入れば最後、強豪中学出身同士、比較されるのは目に見えている。

 

 誤解を解くこと事態は難しいことではない。彼のことを顧みないという条件さえ整えば。ま、それじゃあ依頼した意味がなくなる。

 

 ここからは俺が単独で動くか。雪ノ下に言うのは何となく地雷な気がするし、由比ヶ浜の場合はうっかり口を滑らせかねない。それに、人に頼るのは好きじゃない。

 

 情報を整理しよう。彼の依頼は当たり障りなく球技大会を終えたいというものだ。しかし、球技大会には出場したい。言葉の裏を読めば、彼はバレーに未練があるのだろう。バレー部に入りたかったと佐伯も言っていたし、しばらくしていない試合に出たいというものが根底にあるはずだ。

 

 奉仕部の基本理念は餓えているものには食べ物を与えるのではなく、食べ物の入手方法を教えること、つまり今回のケースで言えば理想は佐伯をバレー部にいれること。それにはどうすればいいのだろうか。

 

 まずは失った自信の回復。総武高校のバレー部はそこそこ強い。更には超高校級の選手が同年代にいる。比較される度に差は感じるだろうし、周りからの誤解のせいで非常に肝要。これをクリアしないことにはどうしようもない。

 

 二つ目に周りとの軋轢をどう生まないようにするか。彼には彼のコミュニティーがあり、そこから切り離すのは酷なものだ。騙されたと思わせてしまえば、否が応にも悪い印象を与えかねない。・・・ただ、本当に彼らが仲良く、真の友達であるならば、そんなことを考えなくてもいいのだろうけど。

 

 ただ、そんな関係など殆どの人間が築くことすらできず、常に当たり障りのない、自分の意見を押し込めた日常を送っていることだろう。俺は否定はしない。だから彼がそんな生活を望むのであれば、部外者である俺が壊していいはずがない。



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夏の球技大会 5

 ・・・やっぱあれしかねえか。

 

 昼休み、いつものごとく・・・ではなく久しぶりにベストプレイスでパンを貪る。ここ最近雨続きで外では食べられなかったため、非常に肩身が狭かった。便所飯は流石に抵抗あるしな。

 

 食べながら考えていたが、佐伯をバレーで活躍させれば周りから賞賛させつつ自信を回復させられるはずだ。しかし、俺は佐伯のクラスと当たる訳ではない。その代わり、一年生期待の星のいるクラスと当たった。名前は何だったか・・・。

 

「久しぶりだね、比企谷君!」

 

「あ、おう、戸塚」

 

 そういや、クラス内でも最近喋らなかったな。喋らないのが基本な俺からすれば当然のこと過ぎて気にも留めてなかったな。

 

「お前のおかげでうまく事が運びそうだ。助かった」

 

「あ、いいよいいよ! 僕も大したことしてないし」

 

 佐伯の情報を手に入れるために戸塚を頼った。結果的に佐伯と同じ中学の人間は総武高校いなかったが、戸塚の中学の人脈からたどり着いた。これがなければ佐伯の本音を聞き出すことはできなかっただろう。しかし・・・。

 

「いや、迷惑かけた。本来は俺がやらなきゃいけないんだが、俺の能力では・・・」

 

「僕はそう思わないけど」

 

「・・・は?」

 

「僕は比企谷君だからこそ手伝いたかった。つまりは君の能力も同然ってことだよ!」

 

 なんだその超理論は・・・。戸塚らしいな。

 

「そうだ! ちょっと待ってて!」

 

「?」

 

 いきなり戸塚はテニス部部室を目指し、駆けていく。そして戻ってきたその手にあるのはテニスラケットなどではなく、バレーボールだった。

 

「もうすぐ球技大会でしょ? バレーやらない?」

 

 そうだな、丁度俺もバレーをやりたかったところなんだ。佐伯の依頼を完遂するには俺が怪物相手に最低善戦しなきゃいけねえからな。

 

「やるか」

 

「さいちゃーん! ヒッキー!」

 

 俺が立ちあがろうとしたその時、気の抜けるような明るい声。由比ヶ浜結衣のご登場だった。

 

「何であたし誘わないし」

 

「偶発的に起こったことだからだ」

 

 そもそも俺の中に誰かを誘うという選択肢はない。

 

「ぐうはつ・・・てき?」

 

「たまたま起こったって意味だよ」

 

 戸塚は優しいな・・・。耳慣れない言葉だし仕方ないだろう。漢字を見れば意味の当たりくらいはつくだろうが・・・さすがにつくよな?

 

「じゃあこれからゆきのんも呼んでお昼休みにバレーしようよ! 特訓特訓!」

 

「面白そうだね、由比ヶ浜さん! それでゆきのんさんって・・・?」

 

「あ、そっか。さいちゃんはゆきのんのこと知らないもんね」

 

 まーた、俺は蚊帳の外かな? 何なら蚊帳どころか世界の外まである。

 

 雪ノ下が来ると途端にほんわかした雰囲気から一転真剣な練習になりそうだが、そこは望むところ。彼女に指導してもらえるならこれほど心強いことはなかろう。・・・承諾がもらえるかどうかが問題ではあるが。




遅れて申し訳ございませんでした!

色々忙しく、投稿が滞ってしまったのですが、これから学校始まるのに大丈夫なのかと、思われるでしょうが、たぶん定期投稿は無理ですね・・・。

今回のごとく遅れた分を取り戻すということも難しくなるでしょう。故に週一投稿のタグは外させていただきます。

千字ギリギリな上に頻度も下がったら読み応えが無くなるとお思いの方は一月に一度開いたり、一年に一度読んだりするなどの対策をすればよろしいかと思います。



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夏の球技大会 6

「・・・またその話? もう終わったことだと思っていたのだけれど」

 

 放課後、奉仕部部室にて由比ヶ浜は雪ノ下の説得を試みる。昼休みにバレーをどうしてもやりたいらしい。彼女の今いるグループではそういうのをあまり真剣にやらないからだ。

 

「折角高校入って球技大会があるんだからさ! 楽しまないと損だよ!」

 

 楽しむねえ。それは勝者だけなんじゃ? もしくは一部のリア充どもだろう。彼らのいう楽しむって言うのは、一体感(笑)を感じるだの、団結だの、お前らだけが盛り上がっていて、俺みたいなやつは全く楽しめないのに、それに混じらないとノリが悪い、空気読めとやっかいなことこの上ない。仲いい奴らだけでやれよ。それで十分だろ?

 

「楽しめるかどうかはその人の主観ではないかしら? でもまあ、由比ヶ浜さんの頼みなら・・・」

 

 そうだな、こいつら仲いいもんな。仲が良すぎて、俺のことが見えてないんじゃないかと思うときもあるぐらいだしな!

 

「え? なんか言った?」

 

 恥ずかしいのか、後半小さくなっていった声は由比ヶ浜に届かなかったようだ。こいつ、ハーレムラノベの主人公の特技難聴をやるとは・・・恐ろしい子!

 

「んん! 佐伯君の依頼もバレーをすることで何か見えてくるかもしれないし、私はやってもかまわないわ」

 

 わざとらしく咳払いをすると、雪ノ下はもっともらしいことを言って、一度は断った由比ヶ浜の頼みを聞き入れた。雪ノ下の言葉の裏を知る由もなく由比ヶ浜は脳天気に喜び、雪ノ下に抱きつく。ほうら俺のことなんざお構いなしにいちゃつきだす。そして暫くすると思い出したかのように・・・

 

「比企谷君、私たちをいやらしい目で見るのは止めなさい。あなたが女の子同士がその・・・仲いい様を見て良からぬ妄想をして楽しむといった気色の悪い性的嗜好を抱いているのは知っているのだけれど」

「ヒッキーきもい!」

 

これである。空気扱いからの罵倒。今日は厄日だわ!

 

「おい雪ノ下。人にあらぬ特性をつけるな」

 

 いや、別にゆりは嫌いじゃないけど。す、好きじゃないし!

 

「あら? 違ったのかしら? でもその伸びきった鼻の下を見れば誰もがそう思うのではないかしら」

 

「うわあ・・・ヒッキーきもい」

 

 嘘つけ伸びてねえだろ絶対! てか由比ヶ浜はさっきと同じこと繰り返すとか何なの? 深刻的な語彙不足なの? こわれたラジオなの? でも今回のマジトーンは普段以上に心にくるのでできればお止めいただきたい。即刻ゥ! そして永遠にな!

 

「でもヒッキー酷いよね。あたしが言ってもやってくれなかったのに、さいちゃんが言えばやるんだもん」

 

「お前それはだな・・・」

 

 っと、依頼の件はこいつらに言わないようにするんだった。

 

「何でもない。それより今日何でこっち来たんだ?」

 

「あ、それはヒッキーにバレーやろうってもう一回言おうと思って」

 

「由比ヶ浜さん、もしかしてお昼休みのバレーの特訓にはそこの男もいるのかしら?」

 

「俺がいちゃ悪いかよ」

 

「ヒッキーと、あとさいちゃんもいるよ!」

 

 一瞬ピクリと雪ノ下が顔を引きつらせる。彼女のようにコミュニケーション能力に乏しい人間からすれば、自分の見知らぬ人間がいるというだけで恐ろしいものなのだろう。よくわかるよ。理由は言わないけど。とても陽乃さんの妹とは思えない。俺も小町の兄とは思えない。

 

「今日も依頼なさそうだし、そろそろ終わりにしね?」

 

「そうね。ご苦労だったわ比企谷君。帰ってちょうだい」

 

 うーん、この言葉からにじみ出る俺への敵意。何がそこまで彼女を駆り立てるのかわからないが、何度も通った道だし、また素通りする以外に選択肢はあるまい。俺は雪ノ下に対して不快に思わせるようなことはした覚えないんだが・・・あ、見るだけでだめだったか。




追記

変なところできれていたうえに、所々おかしなところがあったので修正しました。


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夏の球技大会 7

「初めまして、戸塚彩加です。今日はよろしくね」

 

「初めまして、雪ノ下雪乃です」

 

 お互いのことを知らないのは戸塚と雪ノ下だけなので、彼女らの自己紹介だけをすます。そこにコミュ力の鬼由比ヶ浜が入り、そこはかとない百合の香りを感じる。うーん、戸塚は男のはずなんだがな・・・。

 

「じゃあ早速始めましょうか。まずは各自準備体操をして、軽く打ち合いから」

 

「堅い堅い堅い! ゆきのん堅すぎだよ! もっと緩く! 最初から適当に打とうよ!」

 

「・・・? あなたが楽しみたいと行っていたのだけれど。こういった催し事で楽しむと言ったら敵を倒すことによる優越感を感じるだけでしょう?」

 

 俺並みにひねくれた考え方のやつがいた。というか論理的にぼっちが考えればそうなるのは至極当然のことではあるが。由比ヶ浜の言うような楽しみ方はリア充特有のものなのだから。

 

「ある程度真剣にやることで見えてくるものもあるだろ。それにお前まともにトスあげられんのか?」

 

「バカにすんなし!」

 

 ヒョイと俺がボールを放ると、由比ヶ浜はすぐさま落下点に行き、そして勢いよく腕を振り上げた。当然基本動作から大きく外れるためボールは狙ったところには行かず、あさっての方向へ。

 

「あ、あれ?」

 

 てってっと戸塚がボールを拾いに行く。こういった、人が嫌がる仕事を率先して行うあたり、戸塚がリア充だなあと感心ながらに感じる。誰もに好かれる人間というのは得てしてこういうものなのだ。誰もにというのはあり得ないが。ならば大多数の人間に、か。

 

 こうして由比ヶ浜のだめさ加減を目の当たりにした雪ノ下がそこで放置しておくはずもなく、徹底指導が行われる。

 

「ボールをもっと引きつけて、押し出しなさい」

「違う。指や腕だけじゃなく体全体を使うのよ」

 

 うーん、指導力も流石すぎる。雪ノ下家の人間は全知全能なのかもしれない。

 

「比企谷君。気色の悪い視線をこちらに向けるくらいならばボールでも追っていなさい。ただ突っ立っているだけならカカシにもできるわよ。いえ、野菜を守る仕事がある分比企谷君よりよほど優秀ね」

 

 そしてこの視野である。罵倒も斟酌することなく、俺にダメージを蓄積させていく。いやまあそりゃ健全な男子高校生の近くで由比ヶ浜級の女が跳んだりはねたりしてたらそら見ますよ。見ますよね?

 

「やかましいわ。俺だってそこそこ優秀だっつの。戸塚、やるか」

 

「・・・いいの? あんなこと言われてるけど」

 

 ・・・あー、まあ最初は驚くよな。そういやこういったやりとり由比ヶ浜や平塚先生の前以外でやるのは初めてか。平塚先生なんざ一緒になって遠回しに貶してくるし、由比ヶ浜に至ってはすごく仲がいいだのとほざきだすし、戸塚と一緒にいると正常というものを再確認できる気がする。完全に俺は異常よりだけれども。

 

「いいんだよ。挨拶みたいなもんだから」

 

 特に俺にしてみれば小学校から散々言われてきたことだしな。これが挨拶なら俺超人気者じゃない? 挨拶しかされないけど。

 

 バレー練習1日目、男女に分かれて練習という何のために集まったのかわからないが、由比ヶ浜は確実に上達していた。雪ノ下の教えがいいのは確かだが、由比ヶ浜も流石リア充であり、運動神経は悪くないどころか、いい方だろう。飲み込みが早く、トスを上げる程度なら上も下も難なくこなせるようにはなっていた。当然緩いボールではあるが、球技大会のしかも女子であればそれで十分だろう。バレー部や、雪ノ下といった猛者などと会うことがなければ、ではあるが。

 

「そろそろお昼休み終わるし、教室戻ろうか」

 

「うん! 今日はごめんね? あたしのせいで・・・。明日からは皆で打とうね!」

 

「そうしよう! 由比ヶ浜さん大分上手くなってたもんね!」

 

 球技大会まであと一週間。俺は予定通り事を進めるため、尽力するだけだ。

 




週6バイトとかいう訳のわからない一週間を乗り切った作者。
昨日の土曜日に至っては9時間労働という社畜っぷりを発揮していた。
定期投稿を断念したため余裕はあるものの、今年の目標である一年生編完了を達成することはできるのだろうか?
次回、夏の球技大会 8
 ~激突! 比企谷vs雪ノ下!~
絶対見てくれよな!


・・・すまんな、最近忙しすぎて頭がおかしくなっているようだ。反省はしている後悔はしていない。次回はまだ書いてないのでサブタイ通りになるかもわからん。これからレポートを完遂させなければならないのでこの辺で。


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夏の球技大会 8

間あくと何が困るって以前書いた内容忘れることだと思う。


 昼休みバレー練習二日目。昼飯をさっと終わらせた俺と戸塚は早めにボールを打って遊んでいた。

 

「比企谷君バレーも上手いんだね!」

 

「そうでもないぞ」

 

 単に人より練習しているだけだろう。それが唯一の自己肯定手段だというだけだ。俺に才能はない。

 

 戸塚があげたトスに呼応するようにジャンプし、仮想コート横奥ギリギリを狙って右腕を振り下ろす。・・・つっても俺の慎重とジャンプ力じゃ、下手すりゃホームランだ。かといって角度が急すぎればネットにかかるし、全く難儀なスポーツだ。そこが魅力でもあるんだろうが。

 

「あら、早いのね。比企谷君はそんなに日の光に照らされて体は大丈夫なのかしら?」

 

 黒い髪をサラリと靡かせながら、絶対の雪ノ下が現れた。鬱陶しそうに髪を払う仕草もシャンプーか何かの宣伝かと見間違えるほど様になっている。

 

「そりゃ俺をゾンビか何かと勘違いしていないか?」

 

「遅くなってゴメーン!」

 

 校舎から駆けてくる由比ヶ浜が俺の声を遮る。俺には雪ノ下に弁明することすら許されないのだろうか? そういやこいつは友達とは練習しないのだろうか。リア充を筆頭にクラス内では同じ球技の練習をしているのが通例だ。友達が真剣で無いにしろ、クラス内でやる状況になったにも関わらず、先約があるからとこちらにこさせてしまうのは忍びない。

 

「そういやお前らクラスのやつらとはやらないのか?」

 

「あたしのところは大丈夫だよ! 放課後に集まってやるから! あ、だから今日から奉仕部は休むね!」

 

「僕もそんな感じ。比企谷君も来る?」

 

「いや、いい。そろそろやろうぜ」

 

 俺の言葉を皮切りに、二対二に別れ、打ち合う。勿論男女で別れている。戸塚は雪ノ下のことを気にかけていたが、事情を知っている俺や由比ヶ浜が動いたから戸塚も動かざるを得なかっただろう。彼も今の雪ノ下の立ち位置を知っているだろうし。

 

 雪ノ下は別に虐められたり、避けられている訳ではないが、彼女自身は神聖視されているのか、あまり話しかけられたりはしないようだ。告白は時たまされているようだが。こういう時の情報はどうやって広まっていくのだろうか? 由比ヶ浜の情報収集能力は目を見張るものがある。

 

 トントンとトスを上げては三回以内に相手コートに返すことを繰り返す。アンダーもオーバーも確認したし、そろそろ打ってくかと戸塚に目配せする。コクリと頷くとスッと頭上に高くボールが上がる。

 

 一球目は雪ノ下を狙って・・・打つ!

 

 流石雪ノ下、戸塚が動作に入った時には既にレシーブの構えをしていた。場の空気を読むことはできないが、スポーツでの対応力は並のそれではない。本気で打つつもりはなかったが、それでも力は込めた。しかし、落下ポイントに難なく入った彼女は事も無げに由比ヶ浜がトスしやすいようにボールをあげる。

 

 由比ヶ浜も高くトスを上げ、雪ノ下がスパイクの用意をする。雪ノ下の性格上戸塚には打たない。それはまさしく鳥が飛ぶかのように美しく、思わず目を奪われる。そして振り下ろされる腕は完璧にボールを捕らえ、手加減という単語など知らんとばかりに強烈なボールを発射する。女子だからという言葉は彼女には通用しなさそうだ。腕がしびれてやがる。でもまあ、上げること自体は何ら問題ないがな。

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、雪ノ下を挑発する。彼女ほどの負けず嫌いなら乗ってくれるはずだ。さあ来い、お前ならいい練習相手になる。・・・そんな顔を歪めるほど俺の笑顔は気持ち悪いか、雪ノ下さん。

 




生存報告と書く意思が残っていることを表明します!

ただ、夏休みはアイマスのSSを書きたかったりするんですよね・・・。こちらも頑張りますが。


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夏の球技大開 9

 白シャツに手をかけ、片手でちゃっちゃとボタンを外す。ここは家ではないため、帰宅部の俺が着替えるとしたら体操服しかないだろう。汚れ一つない体操着とクォーターパンツに着替え、水筒、タオルなどの準備をする。それらを一纏めに鞄にしまえば、用意は完璧。肩に担いで、廊下を抜け、白く光るグラウンドに踏み入る。涼しい冷房の効いた部屋から一転、照りつける日差しに晒される我が身は厳しい状態にある。帰宅部の性であるが、太陽光に耐性がないのだ。これが女子ならば日傘なり、麦わら帽子なりで対策できるのだろうが、男の俺には無理だ。男女差別だ! こんなことが罷り通る世の中で生きていられるか! 私は帰らせてもらう!

 

「・・・いつもより一層気色の悪い顔ね。その生気のない腐った目をどうにかしてくれないかしら?」

 

 タオルと帽子で日よけ対策万全な雪ノ下が現れた! リア充オーラを放っている。頑丈貫通して絶対零度で仕留めてきそうな特性ですね。こんなイケイケ()なファッションを雪ノ下に教えられるやつは一人しかいない!

 

「ヒッキー本当大丈夫!? 顔色悪いよ!?」

 

「いつもだほっとけ」

 

 しかし、雪ノ下が奉仕部以外で話しかけてくることは殆どない。なんなら俺が話しかけてもスルーまである。つまりは俺の顔は今相当酷いということだ。俺の思考ネガティブ過ぎない?

 

 しかしこう暑いと気が緩んでしまうのも致し方ないか。何せ今日の予想最高気温は37度、俺の平熱余裕で超えてる。かといって隙を見せるのは好きじゃないんですよね・・・なんて。

 

「そうね。あなたに太陽は弱点だものね。由比ヶ浜さん、もうこれ以上は止めておきましょう。彼はもう、その・・・死期が近いわ」

 

「近くねーよ。シキはシキでも開会式だろ、近いのは」

 

「そのしてやったりという顔、相手に異常なまでの不快感を与えるから即座に顔面を破壊することを推奨・・・いえ、命令するわ」

 

「待て、俺に決定権はないのか。日本は人権を大事にする国のはずだぞ」

 

「・・・? 人権は人間にしか適用されないはずなのだけれど」

 

 そっかー、俺人間じゃなかったか-。道理で中学の頃人としてみなされてなかったわけだよ-・・・で納得できるかっての。

 

「ヒ、ヒッキー、本当に具合悪くなったら保健室行くんだよ!」

 

「比企谷君に治療は逆効果じゃないかしら」

 

「・・・もう並びに行こうぜ」

 

 由比ヶ浜の心遣いに泣きそう。雪ノ下の言葉にも泣きそう。

 

「しかしお前らはしゃいでんな」

 

「だって球技大会だよ!? 勉強じゃないんだよ!? テンション上がるよ-!」

 

「ちょっと待って、由比ヶ浜さんと私を同列に語られるのはおかしいんじゃないかしら?」

 

「あれ!? ゆきのん!?」

 

「お前もタオルとか由比ヶ浜に巻いてもらって楽しそうだなって思ったんだが?」

 

「でしょでしょ? かわいくない?」

 

 んっふっふ→。ゆきのんこれは言い返せないっしょ→。悔しそうに歯がみするがいいさ。

 

「・・・じゃあ私はあっちだから」

 

「あ、あたしも! またね~」

 

「おう」

 

 俺氏完全勝利! はっはっはっ、雪ノ下もたいしたことないよのう。あーほんと、こんなアホなこと考えてないとやってらんね。なんでこんな暑い日に球技大会? 熱中症対策しろって、学校側が対処しろよ。もう少し涼しい時期にやるとか。そんなことお構いなしに校長なんかは絶好の運動日和とか言い出すんだろうな・・・。

 

「比企谷君、おはよう!」

 

「戸塚・・・おはよう」

 

 戸塚が動く度にフレッシュな匂いがするんだけど。柑橘系のいい匂いがするんだけどなにこれ? 本当、戸塚は生まれてくる性別間違ってない? 結婚を前提におつきあいを申し込んでもいい? ・・・こんなこと考えるのは夏の暑さの性にしよう。

 

 落ち着け八幡。戸塚なら優しそうだからもしかして付き合ってくれるんじゃないかと考えるのは止めるんだ。中学の頃それでどうだった? ・・・うん、大丈夫だ、俺は正気を保ててる。まず戸塚が男だと突っ込んでない時点で保ててない。

 

「でもこうも暑いと熱中症が怖いね。水分補給はこまめに取らないとだめだよ!」

 

 戸塚がこう言って回ればそれが一番の熱中症対策になる説を提唱したい。一校に一人戸塚的な。

 

「お前も気をつけろよ。もうすぐ大会だろ?」

 

「あー・・・うん」

 

「? どうしたんだ?」

 

「今ちょっと揉めててね」

 

「揉めてる?」

 

「うん。この間比企谷君が神庭君と庭木戸君のペア倒したでしょう? それから二人とも来なくなっちゃって。それで先輩達の顰蹙を買っちゃって・・・」

 

 一月くらい前だったか・・・そんなこともあったな。でもおかしいな。

 

「体育でまだテニスやってるが、日に日にあいつら上手くなってる気がしてたんだがな」

 

 素人目ではあるものの、庭木戸、特に神庭は目に見えて上達していた気がする。練習せずにそうなるとは考えにくいのだけれど。やべえ雪ノ下がうつった。

 

「そうなんだよ!」

 

 興奮した様子で戸塚がキラリと目を輝かせる。お、おう、そこまで上手くなってんのか?

 

「この間二人が来たとき、先輩達と戦ってたんだけど、もう完全勝利でさ! 二人は元から上手かったけど、弱小といえど、2年間のアドがある先輩方にはどうしても勝てなかったんだ! けど、この間の試合はもう完璧でね!」

 

 何この子すっごく嬉しそう。ねたみとかいう概念、こいつにはないのだろうか?

 

「でも、練習出てない上に、久しぶりに来たと思ったら先輩圧倒して、それで団体戦出せって言われたら先輩達も怒っちゃうよね・・・」

 

 うわーお、テンションの急転直下。感情顔に出すぎじゃないですかね? 俺には・・・環境の違いか。

 

「確かにわからんでもないが、普通は実力順じゃねえのか?」

 

「うん。でも練習不真面目だったし、最近は来てすらいなかったから、先輩や先生は絶対出したくないって」

 

 教師まで敵に回してんのかあいつら。庭木戸は世渡り上手そうだけど、神庭は酷いからなあいつ。庭木戸のフォローなかったら周囲敵に回してるまである。

 

「それでは静かにしてください」

 

「もう開会式だね。また後で、比企谷君!」

 

「おう」

 

 いらんことを考えてる暇はないな。依頼を遂行するための大事な大事な一日の始まりだ。

 




テニスの公式戦のは軟式テニスの子に聞いた限りでは、ダブルス出場全員、シングルスは大会側から呼ばれた人間だけ、団体はダブルス二組、シングルス三人だったかな?

よくわかりませんので、経験者の方教えてください。


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夏の球技大会 10

今日初めて誤字機能について理解する。
今まで修正してくれた方、ありがとうございました。そしてこれからもお願いします()


 暑い暑い暑い!

 

 本当に干からびる。比喩じゃなくてマジで。雪ノ下の言うことはいつだって正しかったじゃないか。だから俺は太陽に焼かれて死ぬ運命なのだろう。犯人は・・・ヤ、ス・・・かゆ うま。

 

 冗談はさておき、俺の出番はまだ先だ。俺は日陰者らしく、太陽を避けながらぼーっとしているとしよう。クーラーのついている教室を開放してくれるのが最善だが、それは望めないだろう。だからお天道様、この際日を遮ってくれるだけでも・・・。

 

「ししょおおおおおおお!」

 

 オーイェイェイェイェふざけんなこんなのありかよ。ただでさえ暑いってのに、お天道様ときたらこんな暑苦しい野郎よこしやがった。ピザのトッピングにカナディアンベーコン頼んだらジャーマンソーセージ乗っけてきたようなもんさ。詐欺だよ詐欺!

 

「もう嫌だ! 我はこんな祭事は早急に廃止すべきだと思いまする!」

 

「落ち着け。そして俺に近づくな」

 

 こんな呼び方をするのは材木座しかいない。相変わらずテニスでは一緒だが、こんなところでも一緒に行動するのは御免被りたい。

 

「お前のクラスのやつらはあそこに居るぞ。ほら、仲良くなるチャンスだ。あいつらもこっちを見ている」

 

「ま、真か!?」

 

 実際は俺と材木座の絡みが物珍しくて眺めているだけだろうが。一対一だと間違いなく俺を見ることはないが、集団だと怖いもんなしだからな、人間って。

 

「では行ってくる。朗報を待たれよ」

 

「ああ、健闘を祈る」

 

 さて、泣きつかれないうちにこの場を離れるとしよう。人気の無い場所はどこだろうか。

 

 渡り歩くこと数分、やっとこさ誰もおらず、日陰のできている場所についた。自転車置き場だ。リア充どもはクラスの仲間()の応援だろうし、間違ってもこんなところには来ないだろう。

 

 しかし離れてみると静かなもんだなあ。ここならゆっくりできそうだ。歩くだけであせびっしょりだし、タオルタオル・・・。

 

「ヒッキー」

 

「・・・お前、さっきから後つけてきてたけど、暇なの? 実は友達いないんじゃねえのか?」

 

「ち、違うし! たまたまだし!」

 

「何でもいいが、一人にしてくれ。お前もクラスの応援してこいよ」

 

「うん、すぐ戻るよ。あたし、ヒッキーの目を見に来ただけだし」

 

「・・・は?」

 

 目を見に来た? こいつは何言ってんだ。

 

「ヒッキーさ、最初会った時は睨んできて、すっごい怖かったけど、やっぱり優しいよね」

 

「それはお前の考え方次第だろ」

 

「そうかな? 私はヒッキーに助けられてるし、他にもそういう子は居ると思うけど」

 

 人の気なんかわからない俺にそんなことそうそうできるわけ・・・。

 

「やっぱり、そっちの方がいいよ」

 

「何がだ。主語を言え主語を」

 

「目。暗いし、どろっとしてるし、腐ってるかもしれないけど、睨んでるよりずっといいよ」

 

 酷い言われようだ。小町と同じ事を言ってきやがる。でもそれはおかしくないか?

 

「鋭い目つきはくら~いヒッキーには似合わないよって言いたかっただけ。じゃあ、あたしはクラスの応援に行ってくるから! またね!」

 

 嵐のように大きな爪痕を残しながら由比ヶ浜は去って行った。それは俺の根底を覆すような・・・。

 

「酷い面だな。さっきの女にでも振られたのか?」

 

 告白もせずに振られた経験は大いにあるが、それだったらどんなによかったか。

 

「まあいい。ちょっと用があるから付き合えよ」

 

 くいっとあごを敷地外テニスコートを指し示した彼は、ニヤリと口角を上げた。

 

「神庭・・・」

 

 ちょうどいい。今は何も考えたくない。テニスだろうが何だろうが付き合ってやろう。

 



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夏の球技大会 11

「あ~・・・負けたか」

 

「たりめえだ。そう何度も俺様が素人に負けてたまるかってんだ」

 

 ラケットを肩に乗せ、神庭は言い放つ。今が球技大会であることなど、彼には関係ないようだ。それに応じて一セットやってしまう自分も自分ではあるが。

 

「しかしまだまだだな、俺も。圧勝にはほど遠い」

 

 スコアは6-4。ブレイクを三度もしておいてよく言うが、かくいう自分も二度ブレイクしている。確かにあまり良いできとは言えまいか。

 

「部活で喧嘩してるらしいじゃねえか」

 

「あー、あれか。俺としては喧嘩するつもりなんざさらさらねえが、先公がそういうんなら仕方ねえだろ」

 

「もう少し賢く生きろよ」

 

「実力が物を言う世界で最後の部活動とかほざきやがる奴らが悪いね」

 

「だったらそういった高校行けばよかっただろ」

 

「・・・行けなかったんだよ」

 

「は?」

 

「あんのボンクラども! 実力見もせず俺様の背にばっかけちつけやがって! あんなところこっちから願い下げだ!」

 

「一応受けには行ったのか。でも総武入れるなら一般入試でも行けたろうに」

 

「俺様の家は裕福じゃねえからな。強豪私立は特待生でもねえと無理だ」

 

 それとプライドもあったんだろうな。

 

「しかしこうも短期間で上手くなるもんか? 戸塚も驚いてたぞ、部活さぼってたのにって」

 

「なるほどな。お前みたいなぼっちがどっから情報仕入れてたのか謎だったが、戸塚か。ま、凡人とは出来が違うっつうことだ」

 

 ・・・こいつよく自信保ってられんな。こんなキャラだったら間違いなく嫌われてたろうに。でもおそらくは庭木戸の存在だろうな。あいつ身長高いし、神庭といつもいたならいじめはねえか。さらにスポーツできて、勉強もできて顔までいいとくりゃあ難癖つけるところもありゃしない・・・性格以外は。それを神庭自体は悪いことだと思ってねえしな。

 

「それにお前のおかげでもある」

 

「俺の?」

 

「ああ、忌々しいが、授業でお前に負けたのは事実だし、打ってこられたところはご丁寧に俺らの苦手なところ。だからそこを練習しやあそりゃ上手くなんだろうが」

 

「・・・ほう」

 

「・・・お前、今日はよくしゃべるな」

 

「・・・球技大会でテンションでも上がってるんじゃねえの」

 

「お前はそんなキャラに見えんが、まあどうでもいい。整備して帰るぞ」

 

「・・・ああ」

 

 大分落ち着いたか。スポーツやってるときはそのことだけ考えておけばいいから楽で助かる。しかし・・・俺の目が腐っている、ね。

 

 俺は中学の時、他人に関して絶望したし、だからこそ髪染めOKな総武に入ってわざと不良のような格好をした。髪は金髪で、道行く人を睨み付け、威嚇すれば誰も近寄ることも無く、安定した学校生活を送れると思ったからだ。

 

 そもそも平塚先生の性で俺の予定は大崩れだ。それから雪ノ下と出会い、由比ヶ浜の依頼を受け、戸塚に話しかけられ、材木座に師匠と呼ばれ、神庭にテニスを申し込まれる。・・・こうして考えると俺の目論見って初日にすら成功していないのでは? あれ? 奉仕部に行けば雪ノ下の罵詈雑言は飛んでくるし、かと言って由比ヶ浜が来るようになると何かしら話しかけてくるし、行かないという選択肢を取ろうとすればどこからか平塚先生が現れて俺を引きずっていく。これは目だってしまった方が悪かったのでは? 逆に中学通り黒髪でおとなしくステルスヒッキーやっていればよかったんじゃ・・・。

 

「おい、もう終わるぞ」

 

「ん、ああ」

 

 今更過去を嘆いても仕方あるまい。所詮はたらればだしな。それに・・・。

 

「じゃあ俺はもう行くからな」

 

「おう」

 

「またな」

 

 ・・・またテニスやって弱点探しに協力しろってか? まあそんぐらいならいいか。

 

「自転車置き場に戻るか」

 

 水筒のお茶を一口含み、俺は校門を飛び越えた。

 




依頼?
・・・そんなものもあったね。


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夏の球技大会 12

ポケモン楽しすぎか!?


 どうあがいても勝ち目のない勝負かもしれない。それでも戦う意味はあるのだろうか?

 

 物語の主人公というものは常にギリギリの戦いを強いられるものだ。そうじゃないと面白くないからな。最近のラノベはその限りではないが・・・まあ、結局主人公は勝つのだ。勝ってしまうのだ。作者の意図通りの道筋を描いて。

 

 さて、夏の熱気に参ってはいたのだが、さらには神庭とテニスなんてものをしたばかりに俺の体は既に満身創痍。にもかかわらず時間というものは止まるということを知らずに刻一刻と針を進めるものだ。俺に体力を回復させる余裕を与える間もなく。そんな俺に勝利を得ることはできるのだろうか。否、何かの主人公でも無い限りは不可能だろう。そして俺は無駄な戦いをする意味はないと思う。よって最後の手段を行使しよう。そう対戦相手の弁当に下剤を・・・

 

「あ、おい! あいつなんとかしてくれ! 同じ部活だろ!?」

 

 なんてことを考えていると慌てた佐伯が前方に現れる。顔を真っ青にし、冷や汗を出している姿を見ると、いつぞやの自分を見ているようで懐かしさと涙がこみ上げてくる。

 

 こいつは何故こんなにも慌てているのだろうか。その由は彼の後方を見ずともわかっていた。俺と同じ奇特な部に籍を置く物など二人しかおらず、ましてやこいつが俺以上に恐れる人間などこの世に一人しか居ない。

 

「あら、どうして逃げるのかしら。あなたのためを思って私は行動しているのだけれど」

 

 そういえば依頼としては奉仕部で受けたんだった・・・。当然こいつや由比ヶ浜も佐伯を助けようと動くことは言うに及ぶまい。しかし何でこいつは怯えて・・・おい待てその手に持っているものは。

 

「早くこの下剤を飲みなさい。夏風邪とでも言っておけば本気を出せない理由としては上々でしょう?」

 

 同じ発想かよ! 俺と雪ノ下が違うところは対象と合意の上で飲ませるか飲ませないかではあるが。

 

「いややめてやれよ。学校でなんてものを・・・。下手してトイレから出られなくなったらあだ名が酷いことになっちまうぞ」

 

「その小学生的発想を瞬時に思いつくあたり、経験がありそうね」

 

 流石雪ノ下。他の人なら気づかないし、気づいても気を遣って言わないことも平気で言ってくれるぜ! さっきこらえた涙が出てきそうになるから止めて欲しい。

 

「流石に下剤は止めてやれよ」

 

「それでも休みたいと依頼したのは彼なのよ? 私たちにはそれを遂行する責務があるんじゃないかしら?」

 

「・・・お前は一つ勘違いしていないか? 依頼者の意向を蔑ろにしてまで果たすことじゃないだろ?」

 

「・・・じゃああなたは何か方法があるっていうの?」

 

「一応、な」

 

「ならその手腕、見せてもらおうかしら」

 

 危機を脱した佐伯ではあるが、おそるおそるこちらを見る。落ち着くとやっぱ俺の人相は怖いらしい。

 

「俺の試合、見に来いよ」

 

 あれほどの啖呵を切ったんだ、これで解決できなかったら雪ノ下になんて言われるか・・・、でもできるはずだ、多分、できればいいなあ。

 




ニコニコの方で色々やっていたらポケモン再燃してこんなに遅れてしまいました。

ポケモンのモチベ高すぎてデレステ投げ捨てるレベルです。

さらに学校の課題もしなければならないのです誰か助けて。


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夏の球技大会 13

お久しぶりです!

相変わらず字数制限(1000字)ギリギリ投稿ですが、今度こそ週一表明しておくぞ・・・。

サボると際限なくサボってしまうため、習慣化せねば・・・!


 周りより頭一つ抜けた身長。そこに洗練されたジャンプとフォームで打たれれば為す術がない。俺が相手にしようとしている奴はそういった人間だ。しかし、これは所詮球技大会で、お遊びみたいなものでしかない。

 

 球技大会のバレーボールなど、相手のコートに返すだけでも一苦労だからだ。運動神経もまばらな素人集団が多少練習したところでたかが知れている。やる気だって人による。

 

 こちらの戦力は戸塚以外知らないが、どちらも似たり寄ったりだろう。それに例え経験者がいたとしても、これほど弛みきった空気で、バンバンアタックかけられるやつはそうはいない。真剣な部活や大会などではないのだから。

 

 試合開始直前に戸塚に目配せをする。コクリと頷かれると同時に試合開始の笛が鳴った。

 

 相手の緩い素人サーブがこちらのコートに飛んで来る。誰かは知らないが、それを戸塚に弾き、それを合図に俺は軽めの助走を、戸塚は手をかまえる。

 

 これはお遊び、ただの球技大会。だから真面目にやるなんてばかげてるし、本気でやるやつなんて空気が読めない。

 

 結構結構。俺はもとよりそんな人間だ。だからこそ、俺がこの弛緩しきったこの空気をぶった切る!

 

 戸塚のトスは宙を舞い、俺もボール目掛けて跳ぶ。

 

 ボールの影と俺の影が重なり、放たれたスパイクは例のヤツ目掛けて向きを変える。そう、つまりはベクトル変換。俺は一方通行だ!

 

 無論そんな能力はなく、スピードも人外とまではいかない。が、経験者を驚かせる効力くらいはあるはずだ。

 

 自分にボールが向けられたと気づいたはいいが、時既に遅し。舐めて構えていなかったために、ボールは再び舞い上がることなく地を転々と這う。

 

 

 

「比企谷をぱっと見ただけなら喧嘩っ早い不良に見えるだろう」

 

「・・・? 先生、いきなり何をおっしゃるんですか。小物臭が滲み出るモブもいいところだと思いますが」

 

「雪ノ下は相変わらず辛辣だな。だがそれはお前が強者だからだろう。大半の者からしたらあいつは畏怖の対象だよ」

 

「で、でも! 優しいとこともあるんですよ!」

 

「ふっ、そうだな由比ヶ浜。彼を知るものは大抵そう言うだろう。君や私や雪ノ下はな」

 

「私は一言もそんなこと申しておりませんが」

 

「君こそわかっていると思うんだがね」

 

「・・・」

 

「まあいい。だが案外見た目通りなのかもしれんな」

 

「見た目・・・どおり? ヒッキーは怖いってことですか?」

 

「怖い・・・というのは少し違う。先ほど言った喧嘩っ早いというところだ」

 

「比企谷君が何か不祥事でも?」

 

「そう怪訝な顔をするな。いやなに、喧嘩と言ってもかわいいものだ。ルール無用の殴り合いでなく、こういった試合によるものなのだからな」

 

 

 

 素人ではない威力だ。わざわざお前を狙ったということはわかるよな?

 

 さあ、こいよ。お前の本気を引きずり出してからが本番だ!

 




お読み頂き感謝です!

やべえよ、ガイル読んだり見たりSS漁ったりしてたの何年前だよ。
キャラの口調がががが。

どっかおかしかったら遠慮無く言ってください、優しい言葉で!()


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夏の球技大会 14

一週間(三週間)投稿




 さて、格好良い啖呵を心の中で切ったはいいものの・・・何これすごく強い。雪ノ下は確かに強力なスパイクを放てるが、それは女子のなかではという注釈が入る。

 

 現在相対している奴との違う点を述べるとすれば、それは威力と制度。雪ノ下に比べ、彼は身長と筋力に任せ雑に狙ってくるようだ。それ故、コース外に出ることもしばしばあるが、一度ジャストミートすれば、素人の俺は弾くのが精一杯。上手く戸塚に返せず、セッター役である彼の負担が増加してしまう。それ即ち俺がスパイクを打ちづらくなるということだ。

 

 だが一先ずの目論見通り、挑発には乗ってくれたみたいだ。さっきから俺目掛けてバンバン強烈なスパイク打ってくることが証明している。

 

「・・・つっ!」

 

朱に染まった両腕に鈍い痛みがじんわりと広がる。俺ばかりが受け続けているわけだから、当たり前と言えば当たり前だが。

 

現状こちらはトス役の戸塚、レシーブ兼アタック役の俺。相手もトス役の経験者っぽいヤツとの二人体制だ。サーブは勿論交代するが、他の奴らはそれしかやらない、それしかできない。ただボールの移動を見ているだけだ。かといって俺がまともにやり合えてるという訳では決してない。段々と練習量の差が出てきているのか点差が開き始めた。

 

 勿論こんなことが球技大会で罷り通るのも1セットが限度だろう。次のセットは楽しくやってもらおう。ある程度のやりづらさ仕方ないが、こちらも望んでやっているわけでもないので許して欲しい。

 

戸塚にも無理を言って手伝ってもらっているからな。彼は、自分の実力が上がったから嬉しいと言っていたが、果たして・・・人を疑う悪い癖が出た。別にどうでもいいだろうに。

 

 というかそろそろ炎天下と激しい運動の連続で体力の限界を感じる。汗だってダラダラだ。雪ノ下の言うとおり、本当に干からびそう。一刻も早く試合を終了させ、日陰で休みたい。水筒空になっちまうかもな。テニスの後にも大分飲んだし、そもそも何もせずとものどは渇く。今だって大分・・・

 

「うおっ!?」

 

 ・・・みっともない。肩で息をして、フラフラになって、おまけにこけやがった。

 

「大丈夫!? 比企谷君!?」

 

「ああ・・・」

 

 こりゃまた笑いのタネにでもされそうだな、全く。

 

 今のでお相手マッチポイント。こちらがこのセットとるには連続5ポイントか・・・まず無理だな。しかもサーブは・・・例のヤツだ。参った、降参だよ。

 

 これで留めと言わんばかりに高く放り上げられたボール目掛け、最高のタイミングでジャンプサーブを決める。

 

 終わった、俺たちの夏は。なんて高校球児じみた事を考えながら、空を仰いだ。

 

 でも・・・俺の目的は勝つことじゃあないんだよな。

 




この間一話一話が短すぎるのではないかというご指摘を受けましたが、モチベ低下の著しい現状、今のやり方を変える予定はありません。

ご了承ください。

回転率はあげたい。


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夏の球技大会 15※

  第一セットの終焉は球技大会とは思えないほどの困惑と静寂に満ちていた。その大半は俺のせいだろうが、乗ってきた先方も少しは非はあるだろう。

 

 ビリビリと腕が痛むが、それ以上にのどが潤いを欲している。この炎天下の中スポーツをしていたのだから当たり前なのかもしれない。しかし考えてみても欲しい。俺は可能な限り日陰を歩く男だ。外にも極力出ない。つまり日光に対する免疫も人一倍少ないということだ。加えてこのセット、殆ど俺が拾い、スパイクを打ったために体力の消耗も著しい。頭がクラクラする。

 

「比企谷君、大丈夫?」

 

「おう。ただ次は出られないから戸塚に任せるわ」

 

「うん、任せて!」

 

 あいつにも結構無理をさせたと思うが、まだまだ元気そうだ。流石運動部所属といったところだろうか。

 

「本当に大丈夫? 何かフラフラしてるけど」

 

「ああ。今しんどいから一人にしてくれ。木陰で休んでくる」

 

「わ、わかった」

 

 由比ヶ浜には悪いが今は余裕がない。少々突っぱねる言い方だったが由比ヶ浜ならまあいいか・・・何がいいのだろうか。

 

 太陽の熱にやられて思考回路もショート寸前、水筒の中身は空になってしまったし、余裕が出来たらウォータークーラーにでも。ショウタイムはその後かな・・・。

 

「比企谷」

 

「あ?」

 

 ・・・佐伯か。律儀に見てくれたってことでいいか? まあ見ようが見まいがあまり関係なかったが、試合終了後に居てくれないとどうしようもないから助かった。

 

「俺、やっぱ球技大会出るわ」

 

「・・・は?」

 

「いや、お前らが真剣にやってんの見てたら俺もやりたくなってきちゃってさ」

 

「・・・」

 

「だから他の人たちにも伝えといてくれないか? 特に雪ノ下さんに・・・」

 

 おおう、今日の出来事が既に彼のトラウマに・・・じゃなくて!

 

「お前、周りはどうすんだよ。そら素人目にはわからんかもしれんが、上手いやつにはばれるぞ」

 

「・・・それで離れられちゃったら、また作ればいいかって。もう最近やることなくて暇で暇で。好きだったゲームやっててもどっか乗れなくて。やっぱ俺はバレーやりたいんだ。部にも入る。だからこの試合見ろって言ったんだろ?」

 

「・・・ああ」

 

 俺の目論見とは全く違うが、解決できたならいいか。なんかすげえ拍子抜けしたが。というかそんなこと予見できるわけないだろ・・・。

 

「だから比企谷、その・・・ありがと。見ず知らずの俺なんかに真剣になってくれて」

 

「別に。・・・誰かと打って来たらどうだ? 大分ブランクあるだろうし」

 

「そうだな。じゃあ」

 

「ん」

 

 ・・・よくあんな恥ずかしいセリフを言えるな、臆面もなくとはいかなかったが。聞かされるこっちが恥ずかしいっての。これが青春か? リア充と非リア充との違いなのか?

 

「あっつ・・・」

 

 この熱さは太陽のせいだ、絶対に・・・というか男の恥じらいとか誰得!? 腐女子かホモにしか需要ねえっつうの!

 

「大丈夫か比企谷」

 

「平塚先生・・・ええ、大分」

 

「その割には顔が赤いな」

 

「・・・太陽に焼けたんですよ」

 

 もういいから、止めてくれ。俺は褒められ慣れてないだけだから。そのせいで顔が赤いだけだから。

 

「それならいいが・・・そういえば依頼、解決できたみたいだな。佐伯の顔、憑きものが落ちたみたいだったぞ」

 

「そりゃようござんした。これからはそういった面倒事を持ち込まないでいただければよいのですが」

 

「私だって自分で解決したいが、如何せん教師としての仕事が大変でなあ」

 

 放置しておけという隠された意味を知ってか知らずか・・・まあ気づいた上でこういった返答を返しているんだろうが。そもそもこの人に生徒の悩みを見逃せと言っても聞かなさそう。それほどまでに自分の信念を貫いているようにみえる。というか強そう(小並感)。

 

「何だ比企谷」

 

「いえ、何も」

 

 相も変わらず恐ろしい。気を抜くと食われそうだ。しかし、この先生に人気が出るというのも頷ける。端正な顔立ち、自信に満ちた言動、背筋もピンと伸びており、白衣がよく似合っている。しかし国語教師だ。

 

「私はそちらの方が好きだな」

 

「はい?」

 

「目の話だ。鋭く睨みを効かせる目つきも嫌いではなかったが、今の君は他人を受け入れようという風に見える」

 

 ・・・どこかでも似たようなことを聞いたな、今日。

 

「そうですか。そらどうも」

 

「まあ、そう易々と他人を許容できんか。無理もない、君の目を見ればわかる」

 

「何ですかそれ」

 

「一度言ってみたかったんだ、この台詞」

 

この人はぶれねえな・・・。

 

「・・・比企谷」

 

「はい」

 

「痛みに慣れすぎるなよ」

 

「・・・運動には慣れませんね」

 

「中々に出来ていたとは思うが、あまり無理をして倒れられてはこちらが困る。今日のところはこれだけ話せれば大丈夫そうだがな。試合が終わる頃には戻ってこい。いいな」

 

「了解しました」

 

 彼女が釘をさしたのは中学のことだろうか。いや、あの程度のことが高校にまで広まっているとは考えにくい。耳にするならもっと・・・しかし、ドキリとさせられたのは事実だ。俺という共通の敵を作ることで佐伯と周りとの結束を強めようとしていたのだから。

 

 確かにこの方法は俺に精神的苦痛を与える。しかしこれはどうということはない、普段通りと言うことだ。腫れ物扱いされ、嫌悪され、何ら中学時代とは変わらない。痛みを感じるということも既になくなった、以前の俺ならまだしも今の俺には。

 

今回は幸か不幸かそうせず済んだが、いずれ使うときが来るのだろうか。まやかしの結束しか作れないが、高校三年くらいは持つだろう。事の後まで面倒みる気はないしな。

 

 超絶ネガティブな成長を感じたところで笛が鳴った。試合終了の合図だろう。水は・・・後でいいか。

 




これにて球技大会編終わりです。

前回更新から一月かあ・・・。


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