デジモンエタニティ ( aimia)
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序章─デジタルモンスターオンライン─
前編


tri.のことでデジモンが復活しつつあるので波に乗ってみました。
完全オリジナルストーリーで序章はあまりデジモンは出てきません。


“デジタルモンスターオンライン”

 社会現象にまでなろうとしている話題沸騰中の大人気スマートフォンアプリの名称だ。

 配信から約3ヶ月経った今、もはや他のアプリの追随を許さないかの如くランキングトップに居座り続けている。

 しかし、このゲームがそこまで面白いのかといわれても他と比べ評価するのなら中の上が妥当なところだ。

 ゲーム開始時に自分のパートナーとなるデジタルモンスター──通称、デジモン──を選び、育てて冒険して戦う。至って単純な育成RPGだ。

──ならば、何故こんなにも人気がでてしまったのか。

 答えから言ってしまえば製作会社がユーザーの心を掴むのにかなり長けているからだが、そんなこと言うまでもない。

 ただ、ゲームの質はかなり高いレベルといえる製作会社は元々電脳科学というジャンルを研究する施設だったらしくスマートフォンアプリの利点を活かしきる事なんて容易だったのだろう。

 例えば、デザインの良さ。

 詳しく言うならデジモンのデザイン性のことで、メインターゲットである若年男子層の心をガッチリ掴む恐竜や機械、昆虫を模したものに加え女子受けの良さそうな小動物や草植物をモチーフにしたりと多方面に行き渡ったデジモンが現在確認されているだけでも約300体以上。そんなデジモン達が決まった動きではなくまるで本当に生きていてそこにいるかのように活動していたらどうだろうか。次から次に現れるデジモン達にユーザーはどんどん心を奪われていくのは目に見えている。それを実行してしまったのだから製作陣の技術は間違いなく最先端といえるだろう。

 もちろんRPGらしいストーリーに冒険システムも飽きることなく楽しむことができる。

 これだけのスペックが揃っていれば目論見通り、いやそれ以上にユーザーを獲得してしまった。もはや老若男女楽しんでいることだろう。

 

 そして、学校から帰ってきてすぐに親から与えられたスマートフォンを少し大きさの足りない手で握っている少年、朝倉達基も例に漏れることなくそのゲームの虜の一人だ。

 しかし、何故だかゲームを起動させるとすぐにぎらぎらと燃えていた目は曇る。

 

『第1回デジモンチャンピオン決定!』

 

 達基の眺める画面にはでかでかとそんな文字が表示されている。先日まで行われていた初のPvPイベントの結果らしい。優勝、準優勝、3位…と続く画面に達基のユーザー名は見あたらない。それどころか名列順に並ぶベスト8の欄にすら載っていない。

 実を言うと達基はかなり初期の頃からのユーザーでPvPでは名の知れた人物だ。一部のユーザーからは今回の大会で上位入賞は確実だと言われるほどの強さも持っている。

 それが、本戦第1回戦で負けてしまうとは。

 もちろん第1回戦とはいえ本戦に出場できているというのは何万という 参加者を予選で勝ちぬき、少なくともトップ50には入っているという証拠だ。達基の強さを証明するには十分だろう。

 少しくらいは誇っても良いものだが期待していた者達からの反応は無情だった。メール画面を開けば無題がならんでいる。おそらくそのほとんどは大会に関するブーイングか気持ち程度の慰めだろう。

 

「どれもこれもこの優勝者のせいだっ!!」

 

 家に誰も居ないからとヤケになって一際目立つ色で書かれた優勝者の名前をにらみつつ大声で叫ぶ。

そう、1回戦で達基を負かした人物こそが優勝をもぎ取っていったダークホースだったのだ。

 Reaperと名乗るそのユーザーはパートナーがマタドゥルモン。達基は初めて戦うデジモンだった。

 しかし、小さい。デジモン情報をみた限り達基のパートナーのスカルグレイモンと同じ完全体ではあるが比にならないほど小さい。

 勝った。

 何の根拠もないが達基は画面の前で浮かれていた。そもそもReaperなんて名前ちっとも聞いたことないんだから運で勝ち上がった奴だろうと余裕まみれで戦いに臨んだ。

 結果、大敗。

 ちょこまかとその小柄を利用してスカルグレイモンを翻弄するマタドゥルモンのスピードはもちろんの事、技も一発が重い。

 達基も負けじと反撃をする。スカルグレイモンはパワー重視で育ててきたため当たれば一気に削ることもできるだろう。が、当たらない。じわじわいたぶるセコい戦法だと考えながらも徐々に焦りを感じる。それと同時に自分がいかに井の中の蛙だったかを思い知らされる。

 結局、まともにダメージを与えられないままにスカルグレイモンの体力は尽きてしまった。

 思い返してみればひどい試合だった。そりゃあこれだけ非難メールが来たっておかしくはない。

 律儀にもメール一件一件を確認し仲の良いユーザーには返信をしていくが達基のメンタルはじりじりと削られていく。中には心無いメールもあり小学生の達基には厳しすぎるもので思わず涙が溢れそうになる。

 ようやくすべてを捌ききり自分のホームに行けたのは約30分後だった。

 ホームではすぐにスカルグレイモンが迎えてくれるがこいつも傷ついているパートナーを気にせずお腹すいたと訴えてくる。

 このゲームの凄いところはユーザーだけでなくデジモンともチャットが出来るのだがその返答は凡そAIとは思えない程に表情豊かだ。とはいってもスカルグレイモンの進化前、グレイモンはまだ表情に見分けがつき愛嬌も湧いたのだが進化してからどれだけ話しかけても返ってくるのは沈黙だった。その上表情が全く分からない。

 それでもたまにお腹すいただとか遊ぼうだなんて言ってくるのでどうしようもなく愛おしくて嫌いにはなれない。

 癒しをいただいてストーリークエストに励もうとしたがフレンドチャットでしきりに呼び出されていたのに気付く。

 

リョー:いくらなんでも遅すぎだよ!! 

たっきー:悪い。全く気づかなかった

リョー:気づかなかったって、さっき言っといただろ?来いよって

 

 随分とお怒りの様子のリョーとは達基のリア友で本名は久保良平。達基の誘いでこのゲームを始めたのだが達基以上に夢中になっている。

 達基は帰り道での会話を思い出そうと頭をひねる。確か、一緒にデジモンしようと誘われたのだがあいにく今日は母さんに留守番を任されていて断った。

 その別れ際だったか。試したいことがあるから集合な! とかいって走って帰る良平の姿がじわじわと思い起こされる。

 おそらくほんの30分前には覚えていたはずだ。だが、大会結果と大量のメールに悩まされていてすっかり忘れてしまっていた。

 

ヒーロ:まぁまぁリョーはちょっと落ち着きなよ。どうせたっきーのことだからイベントの結果に悩まされてたんじゃない?

 ヒーロの本名は佐久間英雄。達基とは同じマンションということもあり幼稚園の頃からの幼馴染だ。相手の状況を言い当てられる程には分かり合っているはずだ。

 三人は小学校の5年2組に在籍する親友だ。二年生のころ良平が転校してきて以来三人は学校生活のほとんどを共にしている。

 帰宅したらすぐデジモンで合流。外で遊ぶにしても公園に行ってスマホで遊ぶ。達基らだけに限らず今の時代は子供にとってこの流れが基本となっていた。公園で走り回っている姿なんてめっきり見かけなくなってしまった。

 

たっきー:で、なんだよ。試したい事って。

リョー:あぁ、たっきーはイベント三昧でお知らせとか見てないのか。実はな今日から、新しいシステムが配信されるんだよ!

 このゲームではシステム導入がかなり頻繁に行われる。人気を維持し続けられている理由の一つにはこの事も含まれるだろう。

 

ヒーロ:あ、もしかしてギルドシステムってやつ?

リョー:そうそう! なんかパーティの拡張版みたいなもんらしいけど楽しそうだし俺らで組んでみようぜって思ってさ。

たっきー:ギルドシステム?

 

 良平の言う通り達基はここ最近イベントのために尽力していたためにシステム導入のことをすっかり忘れていたようで聞き慣れない言葉に首を傾ける。

 

ヒーロ:パーティみたいに四人までって決まってなくて何人でも入団可能、あとはギルド専用クエストとかイベントとかもあるんじゃなかったっけ?

リョー:たしかそんな感じだったな。イベント大好きな達基クンなら乗ってくれるんじゃないの~?

 

 英雄の説明で何となく察しはついた。他のゲームで名前は違うが同じようなシステムを見かけたことがある。

 煽られはしているものの良平の言うことは達基にとって図星だった。イベントがあるなら参加せざるを得ない。

 達基の返事は迷うことなくイエスだった。

 

リョー:おっしゃ! じゃあ早速新規申請してきてくれよ、たっきー!

たっきー:え、え? 俺がすんの? リョーじゃなくて!?

リョー:いや、だって俺らん中で一番古株だし一番強いしリーダーになるならお前しかいなくね?

ヒーロ:うん。僕はそんなにログインしていられないし、リョーよりかは安心できるからね。

リョー:なんかいろいろ気に障る言い方だけどそういうこった! 頼む!

 

 なんだかんだ言ってもリーダーをやれるならやっておきたいのは確かだ。イベントによってはリーダーの采配でランキング上がることだってあるかもしれない。

たっきー:……まぁそこまで言うなら引き受けても良いけどさ。

 

 そんな発言をしてから達基は新しく追加されているアイコンをタップする。

 必要情報を入力してください。

それから始まる登録画面にはいくつかの記入欄があり、達基の目はその中の一つに吸い寄せられた。

 

たっきー:あのさ、ギルドって名前どうするの?

リョー:全部たっきーに任せるよ。好きなように付けといて。

ヒーロ:相当変なのじゃなかったら別に何でも良いよ。

 ギルド登録の最初の項目、ギルドの名前。それはある意味一番重要な項目かもしれない。

 やるからにはランキングトップをとれるようなギルドにしたい。しかし、有名になったとき変な名前でバカにされるのなんて御免だ。なんて、イベントがどんなものになるのか未発表であるのにトップをとれたことばかりを考え、さらに危機感まで抱いてしまった。捕らぬ狸の皮算用とはまさにこのことである。

 そんな考えもあり二人に相談しようと思ったのに、ほぼ同時に返ってきた言葉は丸投げでしかなかった。

 達基は良平も英雄もこうなるとどう言ったって考えてくれる気がないのは数年のつきあいから分かっていたために余計頭を抱えたくなった。

 実のところ、達基にだって母親が貰ってきたいかにも高貴そうな子犬のシェルティにポチと名付けようとするほどのネーミングセンスしか持ち合わせていなかった。

 こういうときの名前ってのは自分たちの名前をもじったりするものだろうか。変にややこしいものをつけたら厨二病だとかでまず良平たちにからかわれるかもしれない。

 辞書や手近にあった小説なんかをめくりながら試行錯誤を重ねるがぴんとくる物はないようで、画面では二人の雑談だけが虚しく過ぎていく。

 しばらくして、やっぱり無理だと匙を投げキーボードに手を伸ばすが画面の、デスクトップに書かれた英単語。

 

たっきー:…じゃあ、“エタニティ”

 

 どうせ笑われるならばとちょっとかっこ良さげな言葉を投下してやろうと意味も知らないのに投げやりに送信ボタンを押した。

 しかし、返信はなかなか返ってこない。

 焦った達基は電子辞書で単語の意味を調べる。

 

“永遠”

 

 やってしまったと返信のない画面にだんだん血の気が引いていく。

 今はやりの厨二病入りだ。明日から学校に行けない。

 そう思うと、手は勝手に言い訳じみた言葉を打ち込んでいく。

 

たっきー:え-っと、これさ“永遠”っていう意味で…ま、まぁ永遠の友達だぜ!…みたいな

たっきー:…やっぱり別の考えよう! もっと良いのを三人で!

 

 良平も英雄も絶対画面の前で苦笑いでも浮かべて、返答に困っているのだろう。しかし、変にフォローされたら今度こそ立ち直れないからと自分から逃げ道を敷いておく。

 だが、反応は予想外のものだった。

 

リョー:いいじゃん! ギルド、エタニティ。すっげーかっこいいって!!

ヒデ:うんうん! ちょっと変なの期待してたけど普通にいいかんじ!

 

 想像以上に好評でそれがお世辞かもしれないという思考はせず達基は大きくガッツポーズをしていた。そんな達基に横で寝そべっていた件の飼い犬は怪訝な目を向けている。

 

たっきー:いやーよかった。厨二とか言われたらどうしようか冷や冷やしてたんだよ

 

 好評だったことに安心して別に言わなくてもいいようなことを口走ってしまう。だが達基は自分の案が通ったことで少し浮かれていた。

ヒデ:あ、ごめん。少しだけ思った。

リョー:実は俺もw

 

 そんな冷たい親友共の反応に今度はがっくりと肩を落とす。

 しかし、何はともあれ無事にギルド“エタニティ”は結成されたのだった。




感想、批評、誤字脱字等待ってます


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後編

序章の後編です。
次話から本編になります


 なんとか結成することのできたギルドエタニティ。ホーム画面の右上にアイコンが追加されておりなんとなく達基の気分は高揚していた。

 しかし、どんな機能があるのか確認するため並んだ項目を一つ一つ見ていくのだがいまいち達基の興味をひくものがなかった。というか現在できる主なことが寄付くらいなのである。寄付金を貯めたらギルドボーナスといったエンチャントをつけることができる。そんな程度だ。特に達基が一番気になっていたギルドクエストに関しては項目があるもののいまだ解放されていないらしく灰色の文字になって上から黄色の文字でcoming soon…なんて書いてある。

 なんだ中途半端だな。と心の中で呟きながら同時にある疑問が湧き二人に声をかけてみることにした。

たっきー:なぁ、ギルドクエストまだ解放されてないみたいなんだけどおかしくないか?

ヒーロ:なんで?

たっきー:だってさ、このゲーム今までシステム導入するならするで内容しっかりしてたんだぞ? ユーザー第一で飽きさせないようにかなり工夫されてた。

リョー:って言われても俺ら最近始めたからなあ。今までがどうだったかなんて知らないし

ヒーロ:うん…。まぁそんなこともあるさ程度に留めておけばいいんじゃない?

 確かに二人は最近始めたユーザーだし何より達基が色々と聞いてもいないのに教えてくれるからシステムに関して困ったことはない。ユーザーが爆発的に増えてしまったから処理に追われシステム導入も簡易なものになってしまったのかもしれない

 

リョー:そんなことよりギルドがだめならパーティでクエスト行こうぜ! 達基がいるんだから上級の簡単なやつやりたいんだよ!

 達基はつぶやきサイトで同じようなことを呟いている人が多数いるのを確認していたのだが良平がそんな提案をするので英雄の意見で無理やり納得してパーティクエストに参加することにした。

 達基のスカルグレイモンは現段階で進化させられる最高ランクの完全体。良平のライアモンと英雄のグルルモンは共に成熟期で完全体の一つ前の形態だ。

 だから二人は手の出し辛い上級、敵デジモンが完全体ばかりのクエストをするのは決まって達基がいるときだけだった。といっても二人とも達基の熱心な指導のおかげもあり成熟期といえども十分完全体に匹敵する力を持っているのは知っている。

 これはこのゲームの魅力の一つでもある。鍛えぬけば幼年期だろうと完全体に勝つことも不可能ではないらしい。コアなゲーマーにはそこに尽力する人もいる。

 今回受けたのは討伐クエスト。ストーリー的には森で暴れているブロッサモンやジュレイモンといったムシクサ系のデジモンを退治してほしいというものだ。

 クリア条件はブロッサモン三体、ジュレイモン二体。スカルグレイモンが炎を扱う技が多いため一匹でもクリアは簡単だが今回は二人を優先させるべきと判断し達基はサポートに徹することにした。

 少々時間はかかったものの三人で手こずるような内容ではない。それでも完全体五体というのはかなり経験値が稼げたので二人は大満足だったらしくそのまま解散してもよかったのだがいつものようにチャットへと縺れ込む。

リョー:やっぱりあんな強いデジモンと戦えると楽しいな!

ヒーロ:うんうん! 早く僕もグルルモン進化させたいなぁ

たっきー:もうかなり強くなったんだしそろそろ進化してもいい頃なんだろうけどな

ヒーロ:ま、僕らはなんだかんだ言ってもまだ初心者ユーザー扱いで、むしろ成熟期であることのほうがすごいんだろうけどね

 三人でクエストを終えた後はたいていデジモンのことや全く関係のないことを話して気付けば雑談だけで一時間は過ごしてしまう。今日もそうなるかと思ったがさすがにゲームのしすぎだと良平が母親に怒られたらしく今日のところはお開きとなった。

 ホームで一人になった達基はもう一つくらいクエストをしていた。最近進めていなかったストーリークエストで結構達基はこのシナリオが好きだった。メインストーリーは世界の救世主となるべく悪いデジモンたちを倒していくもの。ありきたりだが返ってそれが好感を持てた。

 それにカードバトルだとか同じことの繰り返しが多い最近のゲームと違ってストーリーはアニメを見ているかのような充実感がある。

 二つほどクリアしたところでさすがにやりすぎかと思いログアウトしようとする。そこで、良平がログアウト寸前にギルドの入団申請が来てないか確認しとけと言っていたのを思い出して確認する。

「えーっと、入団申請・・・お、二件もきてる! 承諾しちゃっていいよな。なになにソラさんとReaperさ・・・Reaper!!?」

 はじめは何かの見間違いかと目をこすってもう一度見るが間違いなくあの忌まわしい優勝者の名前がそこにはあった。もしかしたら名前が偶然同じになっただけなのかとユーザーページを覗くと業績の欄に第一回デジモンチャンピオンと書かれていたので信じるほかない。

 一応せっかく申請してくれたのだからと承諾はしておく。ちなみにもう一人のソラという人物は始めたばかりのようで幼年期のピョコモンがパートナーらしい。

 翌日、学校で良平と英雄にそのことを報告すると二人は当然驚いた後達基にどんな奴なのかを聞いてくる。達基だってトーナメントで一回戦っただけで詳しく知っているわけがないのだが、その戦いの様子を伝えるだけでも十分強さは伝わっただろう。

「しっかしまさかそんな有名人が俺らのギルドに入ってくれるとはなぁ」

 帰り道、思い出したかのように良平が口を開く。本当はそれに関して話したくてうずうずしていたことだろう。それは英雄も達基も思っていたことだ。

「達基のこと覚えてたんじゃないの? Reaper相手には一番善戦したんじゃないかって言われてるくらいだし」

「そんなことないだろ。俺が戦ったのなんて一回戦だし、所詮その善戦っていうのはあくまで一番粘ったってことだからな」

 達基は、自分が負けた後のReaperの戦いには一通り目を通していた。確かにあの強さにかなうものは誰一人としていなかった。皆達基と同じようにスピードで翻弄され倒されていく。デジモンのPvPには観戦機能がついており某動画サイト風にコメントをリアルタイムで流すことも可能だ。そこでもある程度一回戦について触れているコメントがあり達基の精神は相変わらず削られていくのだが、全部終わってみればReaperの強さが段違いだと認識されたためにブーイングは同情に変わっていた。

 とにかく、どれだけ推測しても他人の心の内を正確にわかるわけない。せっかくギルドという繋がりができたのだから本人に直接聞いてみることにした。

 ゲームにログインすればお馴染みの画面にギルドのアイコンが自己主張するように大小を繰り返している。新しい申請があったらしい。承諾するためにギルドを開くと昨日は灰色だったギルドクエストのアイコンが鮮やかになっている。

 これはギルドメンバーに話しかけるいい機会かもしれないと新しい申請、あくあ♪という明らかに女の子だろうと思えるユーザーに入団許可をだしギルドチャットで呼びかける。

たっきー:はじめまして! リーダーのたっきーです。せっかくですのでギルドクエストをやりたいと思うのですが皆さん何時ごろなら都合がつきますか?

 さすがにいきなりタメ口というのはネット社会としてよくない風潮だと認識している達基はできるだけ慣れないながらも敬語で参加を促す。

 偶然にも、ギルドメンバー全員が現在ログインしているらしく次々と返事が返ってくる。

あくあ♪:初めまして! 私は少し用事があるのであと一時間くらいなら大丈夫です(#^^#)

ヒーロ:どうもはじめまして。僕はいつでも構いませんよ

ソラ:はじめまして、よろしくお願いします。僕もいつでも構わないのですが初心者なので皆さんの足を引っ張ってしまうかもしれません・・・

リョー:どーも。それよりメンバーがどんな奴か把握したいから自己紹介しないか?

 みんな、きっちりした人達らしく返事が丁寧なところを見ると仲良くやっていけそうだと安心する。しかしまあ良平は知り合いが二人いるという余裕から発言したのだろうが他の人たちに少々不躾だと受け取られないか心配ではある。

 そしてとうとう奴が現れた。そして奴は、良平以上に酷かった。

Reaper:自分もいつでもいい。ただ馴れ合うつもりはない。

 予想通りというか、なんというかまぁ強い人ってそういうの多いよな。なんてアニメキャラにいそうな発言をするReaperに苦笑してしまう。

あくあ♪:Reaperさんって、確かこの前のイベントの優勝者ですよね! 同じギルドに入れてうれしいです!

 正直、怖い人かもしれないという恐れのあるReaperに対してあくあさんはぐいぐい話しかける。それを皮切りにそんな感じでいいのかと皆がどんどん会話を進めていく。和気藹々としていてクエストのことをすっかり忘れチャットに専念してしまう。

Reaper:馴れ合いはしないと言った。さっさとクエストするのかしないのか決めろ。

 

 なかなか良い空気だったのをぶち壊したのはやはり奴だった。さすがに皆ビビってしまったのか絶え間なく動いていたチャットは少し硬直する。

たっきー:す、すみません。では皆さんいけるみたいなので始めましょうか

 やはりReaperの発言があったからか、控えめにわかりました。や了解です。と送られてくる。これきりの関係ではないから自己紹介等は追々でいいだろう。

 達基はギルドクエストにどんなものがあるのか確認する。昨日の今日だがすでに10個程度のクエストが入っていて中でも一番下の、目を引く異質さがある『件名:タスケテ』というクエストに決めた。

 難易度や詳細は書かれていないが面白そうだからと皆に報告し確定。受諾して次に表示されたメンバー募集の画面に全員の名前が入ったことを確認しスタートを押す。いったいどんな敵がいるのだろうか。それ以上に知らない人と繋がりを作って共闘というところにこれまで感じたことのないほどの興奮を感じる。

 

「うわっ!!」

 刹那、スマートフォンから強い光が放たれる。

 眩しくて目を瞑るとそのまま達基の意識はそこで途切れてしまった。

 

「達基ー? 母さんちょっと出かけてくるわねー。って、あら外に遊びに行ったのかしら」

――母親が覗いた部屋には達基とスマートフォンの姿はなくなっていた。




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本編
第1話 謎の世界 デジタルワールド


今回から本編スタートです!
話の都合上デジモンたちの進化に関してはデジタマ→幼年期→成長期・・・となっていて幼年期にⅠ、Ⅱの概念はありません。


 森の中を猛スピードで駆け抜けていく一つの卵。完全な球ではないので蛇行しながら森の土の部分を進んでいく。ブレーキをかけることは出来ないのか、急いでいるからか坂道はさらに速く勢いよく転がり落ちていく。だが、不思議なことに全く傷はついていない。甚だ異常な光景だ。

 しばらくそのまま転がっていくと突然ある場所でピタリと止まる。

 停留所のような雰囲気の場所。長く、もしくは一度も使われていないのか周りは雑草だらけで周囲の木から伸びる蔦は屋根を覆っている。

 卵は、まるで目があるかのようにその停留所に置かれたベンチの方を向く。

 木で出来たそのベンチには座って寝ている少年が一人居た。それをとらえた卵は勢いよく彼の膝めがけて、跳ねた。

 

「いっ!ててて……ってうわぁぁぁぁぁ!!」

 

 鳩尾に飛び込んだ衝撃に少年、達基は目を覚ます。そしてその目に飛び込んできた光景は寝起きの脳により驚きと困惑の対象と処理され、それを叫ぶという行動で示すことになった。そりゃあ自分の頭ほどもある卵が知らぬ間に膝にありその上動いていたら誰でも驚くだろう。

 そして、反射的に立ち上がる。もちろん卵は膝から落ちていく。

 割れる。そう達基が考えたときにはすでに卵は地面に接触していた。両腕で顔を覆い、飛び散ると思われた飛沫に備える。

 しかし、卵は割れることなくそのまま地面を転がり、さらにあり得ないことに垂直に立った。

 そこでようやく奇特さを感じた達基は自分の座っていたベンチを振り返り、そのままあたりを見渡し絶句する。

 あたり一面木々が生い茂っている。言わずとも森だとわかる。そう認識してしまうと血の気が引いていくのが言葉通りにはっきりわかる。生粋の都会っ子の達基にとって森なんて物はどこかファンタジー世界なんかの空想に存在するものだと感じていたから余計だ。

 混乱に混乱を重ねたこの状況に至るまでに何があったのかパニックになりながらもゆっくり記憶を遡る。

 最後の記憶は白だった。その前には何かにわくわくしている自分。そうだ、ゲームをしていた。スマホで、デジモンをしていたんだ。その前は?

 そこまで遡ってハッと顔を上げ再び森を見回す。この森に既視感を覚えたのである。それもかなり最近。だが、見たといっても生でじゃない。

 画面越しに、だ。

 驚くことにこの森は昨日良平と英雄とでこなしたクエストの舞台と酷似しているのだ。

 そうやってこの異常な状況の把握を進めていた達基の耳に初めて音が届いた。混乱の中で外界の音を断ち切っていたのかもしれない。その音は台所で聞いたことのあるような、しかしそれよりとはっきりしていて長い。

 音の出所を探して達基の目は一点に吸い寄せられた。この状況で一番異常とも言えるあの卵にひびが入っている。

 息すら忘れたように卵だけをただ見つめる。ひびが一周して上の殻が草むらに転がって達基の足元で霧散した。中では黒い何かがごそごそと動いている。

 目が合った。

 黄色のつぶらとも何とも言えないおそらく目と。

 そのまま両者は固まる。達基は相変わらず困惑顔のまま。黒い生物は顔らしき物に黄色が張り付いているだけなので表情を読みとることは出来ない。

 先に動いたのは黒い生物だった。先程の卵と同じように達基の胸めがけて跳んできたのである。咄嗟にそれをキャッチした達基はそいつの柔らかさに思わず小さい頃友達の家で出会ったハムスターを思い出す。可愛い見た目だと好感を持っていたのだが手に乗せた途端に気持ち悪い動きをする不気味な生き物に変貌を遂げたあの瞬間の感覚。

 つい落としてしまいそうになったがはたとあの黄色と目があった。達基はそこで思い出した。こいつはボタモンというデジモンだということに。そして自分のパートナー、スカルグレイモンの昔の姿であることに。

 ボタモンの第一印象ははっきり言って怖いの一言だった。それに、モンスターとつくだけにもっとかっこいいのが生まれると思ったのだがやけに弱々しい。ゲームを始めた当初はハズレとさえ思ってしまった。もちろんそんな感情は触れ合っていくうちに掠れ、いつしか消えていたのだが。

 それが今、自分の手のひらにいる。達基の感触を確かめるようにすり寄ってくる。嬉しそうに黄色の目を細めて達基に笑いかける。なんて可愛いんだ。

 それと同時に、これはゲームの中なのだと判断し、なんてリアリティのあるゲームだと考えることにした。再現された世界に立つことが出来るだけでなく五感に働きかけるものが揃っている。科学はここまで発達していたのか。

 ゲームの中ならば安心だと達基はベンチに座りボタモンとじゃれあうことにした。頬をつつけば目を細めて嬉しそうにする。耳のようなものを触れば嫌がっているのか目をつり上げる。

 しばらくボタモンの観察のような遊びを続けていると聞き慣れた機械音が自分のズボンから聞こえてくる。存在を忘れていたスマホだった。一応、元凶となった物質だ。

 そもそもこの状況はあのゲームの創り出した仮想空間。管理人からの説明だろうと急いで取り出して確認するとゲームへの通知ではなくメールが届いていた。開けていいのか少しためらったのだが圏外だから少なくとも変なサイトに飛ばされたりはしないだろうと開く。

 

『件名:Re:Re:タスケテ

本文:ヨウコソ、デジタルワールドヘ!

来テクレテアリガトウ!

詳シイ事ハ案内役ヲ派遣シテオイタカラ、ハジマリノ街デキイテネ』

 

 カタカナと漢字だけの何とも読みにくい文章だったがおそらくクエストの依頼人と同じなのだろう。

 読み終えてホーム画面に戻った直後、スマホの画面から目映い光があふれ出す。またホワイトアウトするのかと身構えていると本体がどんどん熱くなる。耐えきれなくなった達基は手放して足元に落とす。

 十秒か一分か、それ以上かはわからないがそれくらいして漸く光が収まる。

 恐る恐る熱さを確認するとすでに収まっているようなので拾い上げて何が起こったのか確認してみる。

 見るからに変わっているのが色と模様。黒一色だった本体は赤めの茶色に染まっていて見慣れたパイナップルのマークの下には“D-phone”と印字されている。

 画面をつけると見慣れた画面が広がっている。ただひとつデジタルモンスターオンラインのアプリだけが画面から消えていた。

 こうした機能も全部ゲーム上の演出だと思いこんでいる達基はとりあえず指示通りにはじまりの街とやらを目指すことを第一目標にして辺りを見渡す。

 しかし、初めての場所でいきなりどこそこへ向かえなどといわれても余計に迷ってしまうのではないかとまずは他に誰か居ないか探すことにした。少なくとも一緒にクエストを始めたギルドメンバーなら居るに違いない。

 ボタモンを抱えて停留所を後にし左右前後を確認しゆっくり歩を進める。

 やけに静かな場所だった。他のデジモン達も姿を現さない。風の音だけが木々の隙間を抜けていく。

 歩いても大丈夫なのかという不安が湧き出す。

 そんな静寂と不安を破ったのはやけに荒々しく掻き分けられた草むらの音だった。

 

「り、良平!」

「え、た、達基か!? 良かった、助かった!」

 

 何かデジモンの一匹でもでてくるのかと思い身構えていたのだが出てきたのはよく見知った人物、良平だった。

 その腕には黄色い猫のようなデジモン、ニャロモンが抱えられている。

 

「助かったってどうかしたのか?」

「いや、なんか知らないけどでかいデジモンに追いかけられてさ。撒いてきたけど、かなり怒ってた。まだ探してるかも」

 

 案外良平はこの状況に適応しているようだった。もしくはそんなこと考えている暇すらなかったのかも知れない。互いにこちらに来てからのことを報告しあう。

 良平はこちらに来てすぐ卵から生まれたニャロモンと出会い、やはり状況を把握するまもなくそのでかいデジモンに追いかけられていたらしい。おかげで達基の話を聞いてようやく事の異常に気づいたようだった。

 

「んで、こういうメールが来たから皆を探しに行こうと思ってたんだよ」

 

 達基も一通りこちらに来てからのことと考えていることを伝えると良平は腕を組みしばらく黙ったまま考え込む。達基も邪魔をするまいと黙っていると考えが纏まったのか話し出す。

 

「そうは言っても、俺たちはギルドメンバーの顔なんてしらねぇし、そのはじまりの街ってのが何処にあるのか全く見当もつかないのに無闇に動いていいのか?」

「あ…」

 

 良平にしては随分と真面目な意見だった。

 達基も良平も普段は猪突猛進で思いついたら即行動、という考えのもと動いている。もちろんその被害者は英雄だ。

 そんなことまでは全く考えていなかった達基は良平に其処まで言われてしまえばなんとなく惨めな気持ちになるが言っていることは正論そのもの。

 しかし、話し合いはそこでストップした。

 地響きがするほどの足音が響きわたったのだ。

 良平はその音に聞き覚えがあるようで音のする方と逆を向き達基に逃げることを促す。

 二人で顔を見合わせて一斉に駆け出す。しかし、足音が聞こえたのか追いかけてくるデジモンの足音も速くなる。二人はできる限りの早さで足を動かす。特にクラストップの瞬足を誇る良平はともかく後れをとらないようにと達基は平々凡々の割に今までを凌駕してしまいそうなほどのスピードがでていた。

 やがて二人は少し開けた広場のような所に出る。

 しかし、眼前にそびえ立つ崖。行き止まりだ。足音はすぐ後ろまで来ている。咄嗟に二人は向きを変え形だけの迎撃体制になるが人間がデジモンに適う訳がない。

 そのデジモンがとうとう姿を現した。

 紫色で鼻の辺りに鋭いドリルのついたモグラ、達基の記憶か正しければドリモゲモンとかいう名前。

 やけに怒っていて話を聞いてくれそうもない。じりじり詰め寄ってくるが同じように達基たちも後ろに引くから距離は変わらない。

 すると、二人に抱えられているボタモンとニャロモンが二人の腕から飛び出しドリモゲモンに向かっていく。

 

「ボタモン!」

「ニャロモン!」

 

 二人の声が重なる。それとほぼ同時に二匹はドリモゲモンに弾かれ足元に転がってくる。それでも二匹は再びドリモゲモンを見据え立ち向かう。また弾かれる。その繰り返し。

 達基と良平は止めなければいけないという意志はあるのに金縛りにあったかのように体が動かずそれを眺めることしかできない。

 何度目かの攻防の末とうとうボタモンとニャロモンが倒れて動かなくなる。

 二人はあわてて駆け寄って二匹を抱き寄せるがそうすると二匹はまだまだやれると見栄を張るように立ち向かおうと腕から抜けようとする。

 

「ボタモン、もうやめてくれ!」

 

 達基は叫びながら必死に抜けようとするボタモンを止める。それでもボタモンは聞かずにボロボロの体で立ち向かおうとする。ニャロモンも同じだった。

 そして二匹は同時に飛び出し、二人の叫びが重なった。

 

──それと共にスマホから光があふれ出す。

 

 光は線となり二匹を染める。光に包まれた二匹はどんどん姿が変わっていく。腕、足、顔がはっきりわかる形になり変化が終わると二匹は体を震わせて光を払う。

 

「ボタモン進化! クロアグモン!」

「ニャロモン進化! レオルモン!」

 

 其処に立っていたのはゲームでそれぞれのパートナーだったレオルモンとアグモン。しかし、アグモンは黄色ではなく黒色で自らクロアグモンと言っていた。

 レオルモンとクロアグモンは顔を見合わせると勢いよくドリモゲモンに突っ込んでいく。先程までとは段違いに速く、飛び跳ねるだけだったのに対し足で地面を蹴る様子はとても安定している。

 ドリモゲモンはクロアグモンに爪を立てられレオルモンに噛みつかれ雄叫びをあげる。

 虚を突かれ攻撃をくらったもののドリモゲモンも負けじと腕を振り回し反撃する。

 しかしドリモゲモンに比べ小さな二匹は軽々とよけ、距離のあいたクロアグモンは口から火の玉を放つ。

 顔に直撃したドリモゲモンは逆上しさらに足も使って暴れ出す。その蹴りはレオルモンに直撃するがなんてこと無いようにすぐ反撃に移る。

 幼年期での戦いが嘘のようにドリモゲモンを圧倒する二匹に達基と良平は唖然と口を開いたまま見ることしかできなかった。

 

「待って!!」

 

 とうとう佳境といったところで戦いはある声でピタリと止まる。その場にいる誰の声でもない、少し高めの声。皆が声のした方向を見ると紫色をした犬のようなデジモンが立っていた。

 

「ド、ドルモン」

 

 焦ったようにドリモゲモンがぼそりと呟く。

 

「何があったのかは分からないけど暴れすぎだよ。森のデジモン達が怖がっている」

 

 ドルモンと呼ばれたデジモンは悠々とした足取りで戦いの間にはいるとドリモゲモン、クロアグモン、レオルモンと目を合わせ諫める。

 

「でも、コイツはオレのパートナーを困らせてたんだぜ? 追いかけ回してきてさ」

 

 臆しているドリモゲモンとは違いレオルモンはむすっとした表情でドルモンというデジモンに言い返す。それに対しドルモンが何かを言おうとしたがそれを制してドリモゲモンが口を開く。

 

「わ、悪いのはそっちだろ! おいらの縄張りに入ってきたじゃないか!」

 

 震えてはいるもののしっかりとした声量で主張する。

 なるほど、それで怒っていたのか。と達基は納得して言い争うデジモン達に近寄る。それに気づいたドリモゲモンは目をキッと細め睨み威嚇する。

 

「ドリモゲモン、それで怒ってたんなら謝るよ。でも、俺たちはそんなこと知らなかった。その事は分かってほしい」

 

 達基はドリモゲモンの前に立つと話しながら頭を下げる。

 そんな達基の様子と言葉にドリモゲモンは驚いた様子でそうだったの。と、つぶやき申し訳なさそうにしゅんとしてから達基と良平を見やって頭を擡げる。

 

「そういえば、おいらはどうしてあんなに怒ってたんだろう……。ごめんよ」

 

 ドリモゲモンは先程あんなに暴れていたのが嘘のように落ち着いて謝る。その声にはもう怒りは含まれていなかった。よかったと顔を見合わせ達基と良平は笑う。

 

「よし、仲直りが出来たんならドリモゲモンは住処に戻りなよ」

「うん、ありがとうドルモン。君たちもごめんね」

 

 ドルモンに促されドリモゲモンはそう言うともそもそと来た道を帰っていく。姿が見えなくなるとクロアグモンとレオルモンは流石に疲れたのかその場に座り込み深く息をついた。

 

「ありがとな、クロアグモン。助かったよ」

 

 達基はクロアグモンに寄り抱きしめるとクロアグモンは照れたように頭を掻く。

 

「そりゃあ、タツキはパートナーなんだから助けるに決まってるよ~」

 

 語尾が間延びしたその口調からは先ほどまでの頼もしさはなくどこかボタモンを彷彿させる。

 

「さて! それじゃはじまりの街に帰るよ!」

 

 ドルモンが嬉しそうに言う。その言葉に疑問を浮かべた達基と良平は今までつもり積もっていた疑問がどっと頭をよぎる。

 良平はとりあえず今のドルモンの言葉について言及することにした。

 

「え、っとドルモン…だっけ? それってどういう…」

「あぁ、ボクがここに来たのは君たちを迎えに来たんだよ。メール行ってない?」

「じゃあ、依頼主の言う派遣した案内役ってのが…」

「うん、ボクだよ」

 

 相変わらず愛くるしい笑顔で話し続けるドルモンにつられ達基と良平も笑顔になる。

 まずは、第一目標、達成できそうだ。

 

 




ようやく冒険が始まりました。
クロアグモンという表記についてですがブラックアグモンやアグモン(黒)の方がメジャーかとは思いますが、呼ぶのに長い(ややこしい)という自分勝手な理由でチャンピオンシップ準拠にしました。

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