プリヤ世界にアーチャーがいたら (アヴァランチ刹那)
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【0】夢の荒野


一話と二話は回想なので面倒そう、と思う方は三話まで飛ばしてもらってもオールオッケー




時折、ふと思い出すものがある。

 

私が忘れ去り、切り捨てたはずの戻りえない兆しだった。

 

ーーーーーーそれは、凄然の一言に尽きた。

 

打ち合わせた剣の火花。

圧し合う裂帛の気合。

何十合にも渡るであろう未熟な攻防。

 

剣舞とも呼べない、拙く、否定しあうだけの戦い。

 

そんなものがなぜ今頃、磨耗しきった嘗ての誓いを蘇らせたのか。

 

 

ーーーーそれは、ありえない剣戟だった。

 

 

斬りかかってくる体は、すでに無傷のところがないくらい傷だらけ。

 

指は折れ、手足は裂け、呼吸すらとうに停まっている。

踏み込む速度も遅く、閃く剣の一撃も凡庸に過ぎる。

 

私の経験を吸収し、やっと戦闘と呼べるものを行えるレベルまで上り詰めたというのに、その姿は元の普通の少年の剣《もの》に戻っている。

 

闇雲に振るわれる、見るに堪えない一閃。

 

 

しかしーーーーーー

 

 

その剣は、今までのどの攻撃よりも重かった。

 

正義の味方など、そんなものは都合のいい理想だ。

 

人とは、他人の不幸を踏みつけて生を謳歌する獣の名だ。

 

故に、お前の理想は偽物《フェイク》だと、誰よりもその理想を知り得た心で、彼の理想《こころ》を叩き潰した。

 

歪みきった心は、その負荷に耐え切れず自壊する。

 

アイツが、己が矛盾に押しつぶされるのは必然だと。

そう、思っていた。

 

だが、剣戟は止まない。

 

屈する気配など微塵もなく、倒れようとする肉体と、散らばりそうになる精神を抑えつけて剣を握る姿には、一片の偽りはなく。

 

鬩ぎ合い、ぶつけ合う剣の苛烈さは今までとは比べものにならないくらい此方を圧倒してくる。

 

少年はただがむしゃらに剣を振るう。

 

拮抗する二人の剣。

 

辺りは火花で満ち、踏み込むモノは一瞬に切り刻まれる。

それは、反発し合いながらも溶け合う、両者の心を表しているようだった。

 

叩きつけられる決死の一撃。

 

終わりを悟ったものがよく見せる、最後の命の炎。

 

少年は一撃振るうたびに息を切らし、倒れそうになる体を必死に繋ぎ止め、再び腕を振るう。

 

それを見て確信した。

 

アイツに余力など残ってはいない。

 

目の前の少年は、見た通りの死に体だ。

 

 

なのに。

 

 

何故、剣を振るうその手に際限なく力が宿るのか。

 

 

幻影をみた。

 

 

無駄と知りつつも剣を振るう姿に飽きたからだろう。

苛立ちが、かつて抱いていたあの衝動を呼び起こした。

 

 

ーーーーーー何を美しいと感じ、何を、尊いと信じたのか。

 

 

ヤツは言った。

 

意味もなく死にゆく人をもう見たくはないと。

もし救えるのなら、苦しみに喘ぐ人々を全て、この両手に掬うことは出来ないのかと。

 

論外だ。

 

それが偽善であり、意味のない独り善がりの幸福であることを私は知っている。

自分のことより他人のことの方が大事など、そんな理屈は、決して常人が抱くものではない。

 

それは自己の崩壊だ。

 

そんな者が、人を救うことなど出来はしない。

 

 

…………だが。

 

 

もし、本当に少年の言う通りに生きることができたのなら、それはどんなに尊いものだろうと、憧れたことはなかったか。

 

 

「…………………!」

 

 

最早少年が何を言っているかもわからない。

 

それほどに彼の声は弱く、しかし、その剣戟は強烈だった。

 

見れば、剣を握るその手は、とうに柄と一体化している。

血にまみれ、一歩下がるだけで前のめりに倒れ、屍となるのはわかっている。

 

 

だが、それがどうしてもできない。

 

ここで引けば、きっと、全てを失う気がする。

 

 

「…………………!」

 

 

言葉が聞き取れない。

 

瀕死の少年は、一心に目の前の障害へと立ち向かう。

少年が何に突き動かされているかなど、明白だ。

 

 

ーーーー悪い夢もいいところだ。

 

 

出来の悪い鏡を見せられているようで気分が悪い。

 

千切れそうになる腕で、私に届くまで振るい続ける。

 

あるのはただ、全力で絞り出す一声だけ。

 

 

「…………………………!」

 

 

嘗て。

 

 

助けられなかった人たちと、助けなかった己がいた。

 

謂れもなく無意味に消えていく、何の罪もない思い出を見て、二度とそんなことは繰り返させないと誓ったような気がする。

 

 

「…………………………!」

 

 

胸に刺さる一言。

 

彼が信じた心《もの》

 

彼が信じた信念《もの》

 

嘗て、何者にも譲らぬと誓った古き理想。

 

 

今も、何者にも譲りはしないと誓った、あのーーーーーー

 

 

そして。

 

 

繰り返される剣戟に終わりなどないと、私は知った。

 

コイツは止まらない。

 

決して自らその足を止めることなどない。

 

すでに少年の意識は私を捉えてなどない。

 

少年が斬り伏せて、追い抜こうとしているのは、あくまで自分を阻む己自身。

 

信じた理想、これからも信じていく理想の為に、少年はただ剣を振るう。

 

 

「ーーーーーーーーーッ」

 

 

それに気づいて、忌々しげに歯噛みした。

 

勝てぬと、意味がないと知りつつも、なお諦めず、前へ挑み続けるその姿こそ。

私が憎み、忘れたいと思い、消したいと願い、無意味だと否定した自身の過ちに他ならない。

 

忌むべきものだ。

 

見たくもない。

 

 

ーーーーーーしかし、それならば何故。

 

 

その眼は少年を直視し続けるのだ。

 

ギン、という音。

 

一撃は容易く弾かれる。

今までとはまったく違う。

 

私の渾身の一撃を、いとも当然のように弾き返した。

 

 

ーーーー鏡が砕けた。

 

 

強くはない。

 

決して強くなどない。

 

命を賭して足掻くその姿は醜く、無様にもほどがある。

 

だがその姿を。

 

 

私はどうしても笑い飛ばすことができなかった。

 

 

嘗ての自分と重なる。

 

胸に抱いた理想を信じ、前に走り続けたあの姿に。

 

 

「ーーーーーーーーーー」

 

 

息がつまる。

 

剣を弾き、一際大きく剣を構える少年の姿が見える。

 

最早それが最後だろう。

傷ついた身体、霞んでいく精神で、これ以上立ち続けることが出来るのだろうか。

 

答えるまでもない。

 

少年はその限界を幾度となく越えてきた。

ならばこの一撃を防いだところで、少年の歩みは止まりはしない。

 

 

「…………………………!」

 

 

崩れ落ちながら剣を振るう。

 

 

その眼は、やはり。

 

 

まっすぐに、自分、だけを……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー瞬間、とても、懐かしい夢をみた。

 

 

…………アレは誰が想い、誰が、受け継いだ理想《ゆめ》だったか。

 

 

「…………………………!」

 

 

ぽっかりと空いた空白の胸に、少年の声が響いた。

 

眼前に迫る一つの光景。

 

 

ーーーーーーなんて醜く、凝り固まった偽りの善意。

 

 

肯定して欲しくはなかった。

 

本当は否定して欲しかった。

 

俺がお前にいう、その言葉を。

 

そんな理想は間違っていると。

 

お前のソレはただの偽善だと。

 

繰り返しいう言葉を、俺は、だれでもない、アイツに否定して欲しかったのだ。

 

 

「…………………………!」

 

 

最後の一撃が届く。

 

見過ごせば自身の胸に突き刺さり、命を奪うであろうソレは、俺の目には映りはしなかった。

 

 

ーーーーその心が偽物でも、信じた理想《もの》の美しさだけは本物だと。

 

 

それだけは胸を張ることができる。

 

掠れた声で少年はただ訴える。

 

誰もが、幸福であってほしいと。

誰もが、泣かずにいてほしいと。

 

引き返す道など、初めから存在しないのだ。

 

 

何故なら、その夢は、決してーーーーー

 

 

この手は、血で汚れすぎている。

自身を憎み、自身を殺す以外償う手段など考えつかなかった。

 

罪に塗れた俺は、決して許されることはない。

 

だがたとえ、そうだったとしても。

 

 

ーーーーまっすぐなその視線。

 

 

過ちも。

 

偽りも。

 

胸を穿つ全ての想いを振り切って。

 

 

立ち止まることなく走り続けた、そのーーーーーー。

 

 

鋼が胸を貫く。

 

戦いは少年の勝利で終わった。

 

胸に響く剣《いたみ》は、贖罪にもなりえない。

自身を憎み続ける以上、俺に安らぎが訪れるときなど永遠に有りはしない。

 

ただ。

小さい答えを得た。

 

それを嘗ての自分に貰った、というのは癪だが、構うまい。

 

胸に去来するものはただ一つ。

 

後悔はある。

 

やり直しなど何度望んだかわからない/だがそれを間違いだと知っている。

この結末を、未来永劫、俺は呪い続けるだろう/それでも。

 

だが、それでも

 

 

それでも………

 

 

 

 

 

俺は………間違えてなどいなかったーーーーーー。

 

 

 

 

 

語るべきものだとなかった。

 

少年は残り、俺は去る。

 

記憶に残るものは、交わされた剣戟だけ。

 

道は遥かに。

遠い残響だけを頼りに、少年は荒野を目指すだろう。

 

それでも。

 

彼女に任せていたら、決して、俺と同じ運命は辿るまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

踏みしめる大地は、よく知るの荒野によく似ていた。

 

辺りには何もない。

 

 

ーーーー戦いは終わったのだ。

 

 

聖杯を巡る争いは幕を閉じ、彼の戦いもまた、ここで終わりを告げようとしていた。

 

妙に清々しい気分だ。

きっと、自己を縛り付けていた積念がないからだろう。

 

 

『アーチャー……!』

 

 

呼びかける声に視線を向ける。

 

走る体力もないだろうに、その少女は息を乱して駆けてくる。

 

 

『アーチャー………』

 

 

もう夜明けだ。

 

地平線には、あの騎士王と同じくらい眩しい黄金の日が昇っている。

 

少女は涙を眼に溜め、しかしジッと彼から視線を外さない。

 

言葉に詰まっているのだろう。

肝心な時はいつだってそうだった。

 

ここ一番、何よりも大切という時に、この少女は抜け落ちたように機転を失う。

 

それが、変わらず目の前にあって思わず笑いが漏れた。

 

それに少女はむっと眼力を強めた。

 

きっと怒っているだろう。

だが仕方ないだろう。

 

 

彼にとっては、少女のその不器用さが何よりも懐かしい思い出だから。

 

 

これからどんな地獄が待っていようと、この想いを抱いてなら耐えていける。

 

再び、理想が折れることもない。

 

『アーチャー。もう一度わたしと契約して』

 

容易に予想できた言葉。

 

それを彼は迷いなく断った。

 

彼を思ってのことだろう。

だが、一度決めた想いにはもう嘘はつかないと決めたばかりだ。

 

すぐ裏切ることはできない。

 

 

『けど!けど……それじゃあ………アンタはいつまでたってもーーーー』

 

 

『ーーーーまいったな。この世に未練はないがーーーー』

 

 

この少女に泣かれるのは、困る。

 

彼の知る少女はいつだって前向きで、現実主義者で、とことん甘くなくては張り合いがない。

 

いつだってその姿に励まされ、手を引かれてきた。

 

だから、この少女にはせめて自分が消えるまでは、いつも通りの少女でいてほしかった。

 

 

『ーーーーーーーーーー凛』

 

 

名前を呼ぶ。

 

少女はその声に答え、俯いていた顔を上げる。

 

そして、彼は少女に一つ、お願いをすることにした。

 

 

『私を頼む。知っての通り頼りないヤツだからな。

ーーーー君が、ささえてやってくれ』

 

 

それは、彼にとっての別れの言葉だった。

 

 

少女が衛宮士郎の隣にいてくれるのなら、エミヤという悲しい英雄は生まれないだろう。

 

そんな、淡い希望が込められた、遠い言葉。

 

 

『…………アー、チャー………』

 

 

言葉を受けた少女は、今にも泣きそうに目を震わせた。

 

自分と衛宮士郎は、もう別の存在だ。

 

そんなことは百も承知。

 

 

だが、それでもーーーーーー

 

 

そして少女は袖で涙をグイッと吹き、頷いた。

 

何もしてあげられなかった自分のパートナーに、最後に、満面の笑みを返してやる。

彼が初めて自分頼ったのだから、その信頼を裏切るわけにはいかないと。

 

 

精一杯、応えるように。

 

 

『うん、わかってる。わたし、頑張るから。アンタみたいに捻くれたヤツにならないよう、頑張るから。きっとアイツが自分を好きになれるように頑張るから………!

だから、アンタもーーーーーー』

 

 

ーーーーーーーーー今からでも、自分を許してあげなさい。

 

 

少女なら、そういうだろう。

 

彼は心の中で苦笑する。

幾年経とうとも、やはりこの少女は変わらない。

 

 

いつまでも、懐かしいあの頃のままだとーーーーーー。

 

 

彼は、誇らしげに少女の姿を記憶に留めたあと。

 

 

『答えは得た。大丈夫だよ遠坂。オレも、これから頑張っていくから』

 

 

様々な思いが混じり合った声で、笑いながらそう告げた。

 

存在が薄れていく。

そろそろ限界だろう。

 

暫く、このボロボロの体を休めよう。

 

そう思い、彼は走り続けたその足を、ようやく止めた。

 

 

そう、答えは得た。

 

 

何の心配もいらない。

 

 

少女なら、あの少年を正しく導ける道標となるだろうーーーー。

 

 

鋼が突き刺さる荒野で彼は、古い記憶に想いを馳せた。

 

 

 

 



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【1】嘗ての過ち

ポケモンにハマりすぎて辛い。


そろそろプリヤヘルツですね。楽しみにしてます!




 

 

嘗て、子どもの頃からずっと思い描いてきた理想を叶えた男がいた。

 

 

親から憧れ、彼が受け継いだ大切な(りそう)だった。

 

 

夢は夢であるからこそ、美しいのだと言ったのは誰だったか。

 

 

今ならばわかる。その言葉は正しかったと。

 

 

確かに彼は英雄になった。

 

 

子どもの頃、養父から受け継ぎ、成りたいと望んだ正義の味方とやらになった。

 

 

誰一人傷つけることなく、あらゆる人を平等に救うという、人ならざるナニカ。

 

 

それに、彼はなった。

 

 

だが、その正義の味方というものの正体は、彼が思っていたモノとはかけ離れていた。

 

 

確かに、彼は幾らかの人間を救ってきた。

 

 

自分に出来る範囲で多くの理想を叶えたし、俗にいう世界の危機というものを救ったこともあったらしい。

 

 

そう、確かに、彼は正義の味方になったのだ。

 

 

その実態が、どれほど理想とかけ離れていたとしてもーーーー。

 

 

理想を叶えた果てに彼が得たものは、抱えきれないほどの後悔だった。

 

 

ーーーー殺して。

 

 

ーーーー殺して。

 

 

ーーーー殺し尽くした。

 

 

己が理想のために、無関係な命を地獄から溢れるほど切り捨て、その数千倍の人々を救った。

 

 

ーーーーーーそんなことを何度繰り返したか。もう彼は覚えていない。

 

 

彼は求められれば幾らでも戦った。

 

 

対価は要求せず、人を救いたいという一心で命を賭して戦った。

 

 

何度も。

 

 

何度も。

 

 

何度も。

 

 

キリがなかった。

 

 

何を救おうと、何を切り捨てようと。

 

 

救えない人間というものはどうしても出てきてしまう。

 

 

何度戦いを収めようとも、人間は新しい戦いを生み出し続ける。

 

 

より多く救うまでに、一を殺した。

 

 

目に見えるものだけの救いを生かし、その陰で多くの願いを踏み潰してきた。

 

 

歯を食いしばりながら。

 

 

今度こそ、今度こそ、今度こそと。

 

 

これで終わりだと。

 

 

これで誰も悲しまないだろうと、つまらない意地を張り続けた。

 

 

残念ながら、彼は器用ではなかったのだ。

 

 

ーーーーだが。

 

 

その願いが聞き届けられることもなく。

 

 

死の連鎖が終わることもなかった。

 

 

彼が生きている限り、争いがないところなどどこにもなかった。

 

 

何も争いのない世界を夢見ていたわけではない。

 

 

ただ彼は、自分の目が届く範囲、知りうる限りの世界では、誰にも涙を流して欲しくなかっただけだというのにーーーー。

 

 

全ての人間を救うことはできない。

 

 

そんなことは百も承知だ。

 

 

だが、彼はその結末を良しとは決してしなかった。

 

 

幸福という椅子は、常に全体より多くなることはなく、むしろ少なく用意されている。

 

 

その場にいる全員を救うことなどはできない。

 

 

ーーーーーーわかっている。

 

 

結局、誰かを犠牲に全体を幸福にするしかない。

 

 

ーーーーーーわかっている。

 

 

被害を最小限に抑えるために、この手は幸福の堰からこぼれ落ちる人間を、速やかに切り落とさなければいけない。

 

 

ーーーーーーそんなことは、わかっている。

 

 

そんな思考の矛盾に心を摩耗させながら、彼は走り続けた。

 

 

嘆き、足掻き、苦しみ。

 

 

そして、彼は一つの道を選んだ。

 

 

"正義の味方が助けられるのは、所詮味方した人間だけなんだ"

 

 

"いいかい?正義の味方というのはとんでもないエゴイストなんだ"

 

 

その言葉が脳裏を過ぎり。

 

 

ーーーーーー全てを救おうとして、全て失ってしまうなら、せめて。

 

 

一つを犠牲にして、より多くのモノを、助けることが正しい道だとーーーー。

 

 

その瞬間、彼は理想を叶え、同時に理想とは最も遠い場所に辿り着いた。

 

 

それからも彼は、理想を守るために理想に背を向け続けた。

 

 

だが、彼は終生の時に、世界と契約を交わした。

 

 

"契約しよう。我が死後を預ける。その報酬を、ここに貰い受けたい"

 

 

その後、彼は何かに取り憑かれたかのように様変わりして、本来救えるはずのない人々を助け出していた。

 

 

彼が救った命は、百にも届かないほど少なかった。

 

 

だが、彼らは間違いなく、世界に死の宣告を突きつけられた助けられるはずのない人々だった。

 

 

世界との契約の報酬。

 

 

つまりは、死ぬべき人々の救済を、報酬としたのだ。

 

 

"それで、誰も涙しないのならーーーー"

 

 

そんな想いを、胸に秘めて。

 

 

その対価は、死後も世界の抑止力となり、争いを治める体裁の良い奴隷のサイン。

 

 

だが、彼はそれでもいいと笑って受け入れた。

 

 

自身が死した後も人々を救えるのなら、それは願ってもない事だと。

 

 

生前の、人間であった頃の自分には救えなかったものが、世界の抑止力となりえればあらゆる悲劇を消し去れると。

 

 

そんな事を思って、彼は死後の安らぎを売り渡し、百人の命を救った。

 

 

これからは、もっと多くの人間を救えると信じて。

 

 

だが、それすら裏切られた。

 

 

失念していたのだ。

 

 

抑止力が呼ばれるということは、即ちそれは。

 

 

すでに救いようがない、死の匂いが充満する地獄だと。

 

 

人を誰よりも愛して、そのためになろうとして抑止力を受け入れた彼は、死んだ後も生前と同等、いやそれ以上に酷い人の醜悪さを見せ続けられたのだ。

 

 

そして。

 

 

ずっと色々なものに裏切られてきた彼は。

 

 

結局、受け継ぎ育んできた何物よりも尊いと信じた理想にすら、裏切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん」

 

 

部屋に簾から零れ落ちた、暖かい春の日差しが入ってくる。

 

 

それを感じて、オレ(・・)は鉛のように重い瞼を開く。

 

 

途端、淡い光が目に差し込んできて、思わず再度瞼を閉じようという欲求に駆られる。

 

 

時刻はすでに5時過ぎだ。

 

 

今起きなければ、日課に間に合わないだろう。

 

 

スゥ…、と深呼吸をする。

 

 

朝特有の、澄んだ空気が肺に流れ込み、今までの空気を邪魔だと言わんばかりに押しのける。

 

 

それと同時に脳が覚醒を果たす。

 

 

今まで緩く回っていた歯車が、ガチリと噛み合わさる音と共に、体を布団から起こした。

 

 

「ん………ふぅ」

 

 

淀んだ空気を吐き出して、体の凝り固まった筋肉を適当に解す。

 

 

最後に手のひらを開閉させ、連結(・・)に異常がないか確かめる。

 

 

………よし、いつも通りだ。

 

 

ハンガーに予め掛けてあったジャージをササッと着替えると、部屋を出た。

 

 

手始めに洗面所に行き、蛇口をひねり洗面器に水を貯める。

 

 

ふと、オレは水に映った自分の顔を見つめた。

 

 

守護者の時となんら変わりない浅黒い肌。

 

 

昔の赤銅色の髪は見る影もなく、全て灰色に近い白髪に成り代わっている。

 

 

そこにいたのは、本来ここにいるべき衛宮士郎ではなく、英霊と成り果てたエミヤシロウ。

 

 

第5次聖杯戦争に於いて、遠坂凛の相棒(サーヴァント)を努めたアーチャーその人だった。

 

 

あの頃となんら変色のない顔に、思わず皮肉めいたため息がでる。

 

 

今から約10年前のことだ。

 

 

この冬木市で原因不明の大規模火災があった。

 

 

当時、この冬木市に住んでいた士郎はこの火災に巻き込まれ、そして衛宮切嗣という男に拾われた。

 

 

それが、本来辿るべき衛宮士郎の道だ。

 

 

だが、その時その場所にはイレギュラーが混ざっていた。

 

 

10年前の火災の日。

 

 

燃え上がる死の炎と、それに当てられて舞い上がる屍の臭い。

 

 

地獄とも言えるあの場所に、何故かはわからないがこのオレーーーー英霊エミヤが守護者として現界したのだ。

 

 

あの聖杯戦争が終わってからすぐの出来事であり、その時のオレはまだどんな状況に自分が立たされているのか把握できなかった。

 

 

ただ。

 

 

目の前には、今にも死にそうな衛宮士郎になるべき男がいた。

 

 

光を失った虚ろな目。

 

 

伸ばすところがわからない救いを求めようとする手。

 

 

誰かを助けようとして、結局自分も死にかけている、無様な嘗ての自分。

 

 

困惑した。

 

 

なぜこんなところにオレは呼び出された。

 

 

あの剣戟で、自分は答えを得た。

 

 

もう過去の自分を殺そうなどという考えはない。

 

 

なら何故、オレはこんなところにいるーーーー。

 

 

思考の迷路でグチャグチャになった頭で、もう一度少年を見る。

 

 

そこで、一つの疑問が生まれた。

 

 

その少年は、今にも目を閉じそうなほど弱っていた。

 

 

周りにはあのヨレヨレのスーツを着た虚ろな目のあの男はいない。

 

 

このまま放っておけば、この少年の命はあと数分もせずに霧散するだろう。

 

 

なら、この世界の衛宮士郎はどうなる……?

 

 

消えるのか?

 

 

正義の味方という、苦痛の道しかない理想を、切継から貰わず、ここで死して果てるのか。

 

 

それもいいだろう。

 

 

いや、むしろその方が少年のためだ。

 

 

嘗ての自分も思ったことだ。

 

 

もし、ここで切嗣に助けられなければ、こんな苦痛を味わわずに済んだのではないか、と。

 

 

そんな考えが、少年の元に行こうとする自分の歩を緩めようとする。

 

 

ーーーーーーいや、それは違う。

 

 

しかし、歩を完全に止めることはなかった。

 

 

一歩、一歩ずつ、ゆっくりとだが少年の元へ向かう。

 

 

確かに、ここで死した方が少年にとっては楽だろう。

 

 

自分のように、滅びの道を歩まずに済むのかもしれない。

 

 

だが、それは結果論にすぎない。

 

 

ーーーーそうならないと、そういう道をオレは前に見せられたのではないか。

 

 

この衛宮士郎がどの道を歩むのかなどしらない。

 

 

ただ、間違った道を歩むのなら自身が正そう。

 

 

死の危険が訪れるのなら、自身が身を賭して守ろう。

 

 

『決して…間違いなんかじゃないんだから……!』

 

 

そうだ。

 

 

決して間違いなどではない。

 

 

それが、何物よりも尊いと思い守りきってきた、衛宮士郎のたった一つの道なのだから。

 

 

そして、オレは自身の魂、霊核をその少年に写した。

 

 

しかし、そこで一つの誤算が起きてしまった。

 

 

すでに死を受け入れてしまっていた少年は、新しく入ってきたエミヤシロウの魂に体の中心を譲り渡してしまったのだ。

 

 

結果、元の衛宮士郎の魂は深層意識の奥底に眠りへ着き、エミヤシロウの魂が意識の中心に座った。

 

 

それからは、かつての自分と同じ道を辿った。

 

 

切継に拾われ、衛宮の性を貰い、そして。

 

 

このただっ広い武家屋敷に住んでいる。

 

 

 

 




次回は今週中に投稿したい、と思いたいです。



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【2】彼女だけの

コンスタントに書いていく系作者


だけど全然前に進みませんね!なんででしょうね!(キレ気味


ちょっと説明多すぎですかね…?


まぁ、ライダー戦はまだまだ先になりそうですな


気長にお待ちください




洗面器に溜まった水を一掬いして、顔にバシャとかける。

 

キンと冷えた水に当てられ、脳が潤滑油を得た駆動系が如くフルスロットで動いていく。

水に濡れた顔を隣に置いてあるタオルで拭いて、玄関へ向かう。

 

そしてその途中、リビングを通った際にふとキッチンを見た。

 

 

『おはようごさいます、先輩』

 

 

何故か、そんな幻聴が耳にした気がした。

 

「………どうかしてるな、今日のオレは」

 

こめかみに手をやってかぶりを振る。

 

一体何を思ってあの少女を幻視したのだろうか。

そこにはいつも朝食を手伝ってくれた、紫髪の甲斐甲斐しい後輩はもういない。

 

あの懐かしい笑顔も。

 

桜柄のエプロンも。

 

姉から譲り受けた紅い髪留めも。

 

 

なにせこの身は弓道部にも入ってはいないし、喋ったことすらないのだ。

オレと彼女に接点など、欠片ほども存在はしない。

 

彼方はオレなんか露ほども知らないはずだ。

 

こんな幻を見る方がどうかしている。

 

自分がまだ衛宮士郎であったころ。

 

己の理想のために、殺した少女。

 

自分がどうなっていたとしても、どんな絶望の淵にいたとしても。

 

オレの前だけでは笑えた少女。

 

 

『よかった……。先輩にならーーーーいいです』

 

 

「……クッ」

 

 

ーーーー本当に、どうかしている。

 

いつまでも未練を拭えない自分の不甲斐なさにため息を吐いて、外へ出た。

 

未熟者にも程がある、いつまで後悔に身を囚われている。

自身の意志で殺したのだ。恨むことこそされ後悔するなど最早それは冒涜にすぎる。

 

…………いかんな、これでは。

 

気持ちを切り替えるように、深呼吸をしていつもと同じように、家の周りをグルリと一周するように走り始めた。

 

あの武家屋敷は、自身が切嗣から貰ったものだ。

 

 

拾われた当初、オレはてっきりあの無駄に広い武家屋敷に連れて行かれると思っていた。

 

しかし、実際に連れて行かれたのは想像していたのとは随分小さい、普通の一軒家。

 

 

『さぁ、今日からここが士郎の家だよ』

 

そんなことを言って切嗣は玄関の扉を開けた。

 

 

『おかえりなさいませ、旦那様』

 

 

玄関先には、白い頭巾とモノトーンのメイド服を着用した赤い目の女性がいて、スカートの裾を少し上げて礼をする。

 

衛宮士郎だったころ見たことがある。

 

確かイリヤに付いていたアインツベルンお抱えのホムンクルスのメイドだ。

 

そしてその後ろには、赤子を抱いた、白髪を長く伸ばした女性がいた。

 

淑やかさと中にどこか隠しきれない活発さが顔を出していて、どこか子供の心を残したまま大人になった人、という印象が湧いた。

 

だからだろうか。

白銀の女性を見たその刹那。

 

雪の少女をその影に見てしまったのは。

 

『おかえりなさい、切嗣』

 

『ただいま、アイリ』

 

そんな応答を、目の前の光景はさも当然のように済ませている。

 

そこで、一つの疑問が浮上した。

 

生前、あまり自分のことを話そうとしなかった切嗣から、自分には妻がいた《・・》と聞かされていた。

 

なぜ過去形なのかは、当時子供だったオレでも容易に理解できた。

 

死んだのではなかったのか?

 

それともあの世界とは別の運命なのか?

 

頭の中が掻き回されたように混乱していく。

 

そんなオレを尻目に、アイリと呼ばれた女性はにこやかに笑い

 

 

『これで2人目の子どもが出来るのね。私嬉しいわ』

 

 

その一言で。

 

後頭部にハンマーで殴られたような衝撃が走った。

 

体が硬直する。

 

意識が、思考が、頭が回らなくなる。

 

喉と唇が急速に水分を失い、干上がる。

 

『な、なぁ爺さん…。2人目って………どういう』

 

掠れた声で切嗣に問いかける。

 

嘘であって欲しいと。

 

そんな現実が存在するのかと。

 

少し様子がおかしいオレに首を傾げながら、切嗣はこう答えた。

 

『あぁ、そういえば士郎にはいってなかったね』

 

普段と変わらず、飄々とした態度で。

 

その言葉が、どれほどの重みを持っているかも知らず。

 

女性の腕に抱かれて眠る赤ん坊に目を向け、

 

 

『この娘が、士郎の妹になる女の子。イリヤだよ』

 

 

そう、心底幸せそうな顔で、答えた。

 

吐き気がする。

 

頭がガンガンして、意識が保てなくなる。

 

微熱が高熱になり、自然と息が早くなる。

 

手が、足が、体が震える。

 

こんな苦痛、初めてだ。

 

悪い夢を見てる。

 

ーーーーーー彼女が、生きている?

 

 

『……そう。結局、シロウはキリツグと同じ方法をとるんだ。顔も知らない誰かの為に、一番大事な人を切り捨てるのね』

 

愚直に理想を貫いた故の犠牲。

 

彼女の心を分かった上で、その思いを切り捨てた。

 

救えなかったものの為にも、これ以上、救われぬものを出してはならないと。

 

そう、心に言い聞かせて。

 

少女は悲しそうに目を伏せ、

 

 

『かわいそうなシロウ。そんな泣きそうな顔のまま、これからずっと、自分を騙して生きていくのね』

 

 

雪のように儚く、消え入りそうな笑顔で、自身が信じていたものに二度も裏切られた少女は静かに月下の公園を去った。

 

 

ーーーーーーイリヤが生きてる?

 

 

自分が見殺しにしたイリヤが?

 

それも、こんな幸せな家族に囲まれて?

 

 

なら。

 

 

『さよなら、シロウ』

 

 

ならば、あの死はなんだったのだ。

 

あの世界にも、こんな結末が。

 

こんな幸福があって良かったはずだ。

 

自分が家族を奪ってしまったあの少女。

 

 

あの、儚い笑顔は、何の為にーーーー。

 

 

腹の奥底から胃液がせり上がってくる。

 

胃が捩切れて今にも死にそうだ。

 

口元を手で押さえて切嗣を、メイドを、イリヤの母親を押しのけて、一直線にトイレに向かった。

 

そして、胸に溜まった全ての泥を出すように、便器に向かって吐き出した。

 

後ろで戸惑いの声が聞こえる。

 

 

ーーーーどうでもいい。

 

 

赤子の泣き声が耳を打つ。

 

 

ーーーーどうでもいい。

 

 

こんな幸福があるのなら、どうしてあの世界にあってくれなかった。

 

そうすれば、あの少女は幸せに生きられた。

 

たとえ寿命が極僅かでも、暖かい幸せを享受出来たはずだ。

 

 

ーーーーーー自分が、オレが殺してしまった、あの銀色の少女が。

 

 

それからしばらく、オレはその一軒家で過ごした。

 

切嗣とアイリスフィールは海外に出張という名目で家にいなかったが、メイドのセラとリーゼリットがいたお陰で生活には困らなかった。

 

 

ーーーーただ。

 

 

イリヤとだけは、オレが家を出るまでついぞマトモに喋ることすらなかった。

 

10年間そうだった。

 

あの銀髪とルビーのように紅い目を見ていると、どうにもあの少女と重ねてしまい罪悪感と自己嫌悪に苛まれる。

 

最初の一年間などそれはもう酷いものだった。

 

常時吐きそうな青褪めた顔で出歩き、ことあるごとに頭痛と眩暈がやってくる。

 

その頃の友人曰く、眉を顰めて如何にも機嫌が悪いです、と言わんばかりだったらしい。

 

自分のメンタル面にため息が出る。

 

だが2年も経つとだいぶ落ち着いては来るもので、最初に周りの状況を把握することから始めた。

 

やはりこの世界とあの世界はまったくの別物であり、ゼルレッチ卿が定義して行使していた第二魔法の根幹ーーーー数多ある合わせ鏡の一つなのだろう。

 

証拠に、イリヤを遠目から見ていた様子では、あの雪の少女のように成長が著しく阻害されているということはなく、むしろ極普通の小学生として育ってはいる。

 

性格も、あの天使と悪魔を足して2で掛けたような気難しいものではなく、まさに天真爛漫といった明るいもののようだった。

 

しかしそのイリヤでさえ、オレに自分から話しかけることもなかったし、此方から話すこともなかった。

 

思い返せば10年間同じ屋根の下だったというのに、簡単な挨拶ぐらいしか交わさなかった兄妹というのも珍しいだろう。

 

どこかイリヤを遠ざけているかのような振る舞いを見せていたオレと、そんな兄に苦手意識を持っているであろうイリヤ。

 

そして、そのギクシャクしていた関係に拍車を掛けていたのが、投影魔術の鍛錬による肌と髪の変質だろう。

 

我ながらなんとも融通の利かない性格だと思うが、最早習慣になってしまってるので鍛錬をやらないと落ち着いて眠れすらしないという、なかなかどうして困ったものだ。

 

徐々に肌と髪が変色していき、そこら辺の路地裏で屯している不良のようになりつつあったオレに、イリヤは益々苦手意識を持ったようで、ついぞ食卓以外では顔を合わせることすら少なくなった。

 

そして、高校生になり穂群原に入学が決定した時に一人暮らしをすると遠方への仕事から少しだけ帰ってきていた切嗣に呟いた。

 

当然止められたし、セラやリズ、挙句アイリスフィールは終始にこやかだったが目が1ミリたりとも笑ってはいなかった。

 

 

あれほど背中に怖気が走ったこともあるまい。

 

 

だがついには切嗣が根負けして、あの武家屋敷を当てがってくれた。

 

そして、オレは今ここにいる。

 

時々セラが一人暮らしはちゃんと出来ているか?などという名目で、料理の腕や掃除、整理整頓などをキチンと見にくるし。

 

リズはリズで時たま貯蔵庫から大量のお菓子を取り出して、我が物顔で食べていたりする。

 

きっと彼女らなりにオレを心配してくれているのであろう。

 

…………リズに限っては断言はできない。

…………そういえばセラも、オレの料理を食べてギリギリと歯噛みして恨めしげにこっちを見てたような…。

 

…………まぁ深くは考えなくていいだろう。

 

 

だが。

 

 

あの時からーーーーイリヤが生きているとわかった時から、心に誓ったことがある。

 

この日常は何人たりとも壊させない。

雪の少女が、生涯口にしなかった理想がここにあったんだ。

 

もう、彼女から何かを奪うような真似はさせない。

 

その結果、この体が砕け散ろうとも。

 

必ず。

 

オレだけは、最後まで彼女の味方でいよう。

 

 

ーーーー彼女だけの正義の味方になる。

 

 

世界にとって悪になろうとも、彼女を守れるのなら何度でもこの手を血で染めよう。

 

それが、何もかも奪い去ってしまったオレに出来る唯一の償いだ。

 

 

 

 

 

 

 



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番外編 アーチャーステータス

ネタバレ注意報

しばらく更新出来ません。詳細は活動報告にて




アーチャー(英霊エミヤ)

 

筋力:C+

耐久:B

敏捷:A+

魔力:EX

幸運:D

宝具:???

 

世界からのバックアップを受けて、全ステータスが第5次より軒並み1、ないしは2ランクほど上がっている。

 

 

その中でも魔力は規格外とも言える量であり、キャスタークラス最高のステータスを誇る王女メディアすらも圧倒してしまえる。

 

 

世界からの供給によりほぼ制限なしに使えるが、アーチャーの許容量を超えてしまうと自分の体に負担がかかってしまうので注意が必要。

 

 

というかこのステータスはどう見ても弓兵(アーチャー)じゃなくて魔術師(キャスター)ではないのか(真顔

 

 

紅いキャス茶ーとでも名乗るがよい。

 

 

後の細かな設定は型月wikiへどうぞ。

 

 

保有スキル

 

心眼(真):B

千里眼:C

対魔力:A

単独行動:B

魔術:C-

 

 

スキルはまだ増えてはいないが、対魔力は保有魔力が激増したことによりAクラスまで上がっている。

 

 

宝具

 

無限の剣製(アンリミテッドブレードワークス)

 

ランク:E〜A++

 

レンジ:???

 

最大補足:???

 

詳しい説明はwikiでどうぞ。こちらでは改変要素だけ示しておきます。

 

 

アーチャーの起源は『剣』だが、この世界の衛宮士郎の起源は少し異なり、『武具』というものになっている。

 

 

このため『無限の剣製』内では剣以外でも通常必要魔力に少し上乗せするだけで槍や斧、盾などを剣と同等の再現度で投影することが可能である。

 

 

そして、世界の記憶を限定的に覗けるため、記録されている神器、宝具を例え見たことがなくても投影が可能となっている。

 

 

果てには上記の通り神器も投影可能で、約束された勝利の剣(エクスカリバー)も創れる(かもしれない)

 

 

投影宝具一覧

 

干将(かんしょう)莫耶(ばくや):C-

オーバーエッジ時にはA

 

→黒白の中華剣。黒の剣には亀甲模様が描かれており、こちらが陽剣干将。白の剣には水波模様が描かれていて、こちらが陰剣莫耶となっている。

装備することで対魔力と対物理が上昇し、投影のコストが低いためアーチャー愛用の武器となっている。

アーチャーの趣味嗜好からかは不明だが、刀身には漢詩が彫られている。

 

『鶴翼不欠落

心技至泰山

心技渡黄河

唯名納別天

両雄倶別命

両雄、共命別』

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ):A

 

→本来はケルトの大英雄であるフェルグス・マック・ロイの愛剣。稲妻を意味するこの剣はエクスカリバーの原形ともされ、遠距離から丘の頭を三つ切り裂いたという逸話を持ち、凄まじいリーチを表している。

この剣はそれをアーチャー自身が、自分の能力に合うように魔改造を施したものである。

ドリルような刀身を持ち、矢にして放つときは剣が縦方向に伸びる。

真名開放状態で放つと、絶大な威力を誇る徹甲弾と化す。

 

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス):B+

 

→アーチャーが誇る最強の盾の一つ。

真名開放で展開すると七つの花弁を咲かせて、その花弁一枚一枚が城壁並みの強度を誇るとされている。逸話に記されているようにトロイヤ戦争で大英雄の投擲を防ぎきった盾であり、投擲武器に関しては無類の防御力を発揮する。

この作品ではextra仕様であり、第5次のときに防げなかった刺しボルクも一応防げる。

 

 

赤原猟犬(フルンディング):B+

 

→古来ベオウルフが振るったとされる剣。

一度狙った相手を逃さない追尾機能を持っている。

 

勝利すべき黄金の剣(カリバーン):???

 

全て◼︎◼︎理◼︎◼︎(???):EX

 

幻■■剣・■魔■墜

 

紅蓮■■■

 

射■す百頭

 

転■■る■利■■

 

方天■■

 

我が■■こ■に■■て

 

■然と■■王■

 

など様々な宝具が投影可能(全部わかったら強い

 

 

残りの説明は次回

 

 

 



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【4】魔力の残滓

まずは一言目に謝罪をば。


まっことに!申し訳ありませんでした!!!!!!更新サボって!!!!!!

いやいくらテスト期間中でも一回ぐらい更新できるかな、と淡い希望を持ってたんですが、本当に淡い希望でした。アルコール一滴を1/100000000ぐらい希釈したぐらいには薄っぺらい希望でした。

本当に申し訳ありません。なぜこうなったかの詳しい事情はここでは省きます。また少し後に活動記録を更新しておきますのでそれをご覧ください。

申し開きも何もございませんが、とりあえず本編へどうぞ。




日課のランニングを終えて、サッと朝食を食べてから家を出る。

 

今では懐かしい黄土色の制服。

 

昔ではこの制服の色もすっかり忘れていたのに、今では生前の記憶が手に取るように思い出せる。

 

守護者となり、殺し屋紛いのことをやり過ぎて摩耗した記憶がここ最近どんどんと内から湧いて出るように蘇ってきている。

 

それはきっと、あの激動の数日が近づいているからだろうか。

 

高校二年生の2月。

 

正月を過ぎて間もないころに、あの戦争は起こった。

 

戦争といっても、大人数で殺しあうわけじゃない。参加した人間の数は両の手で数えられるほどだった。

 

だが、あれは間違いなく戦争だった。

 

―――その杯を手にした者は、あらゆる願いを実現させる。

 

聖杯戦争。

 

最高位の聖遺物、聖杯を実現させるための大儀式。

 

儀式への参加条件は二つ。

 

魔術師であることと、聖杯に選ばれた寄り代である事。

 

選ばれるマスターは七人、与えられるサーヴァントも七クラス。

 

聖杯は一つきり。

 

奇跡を欲するのなら、汝。

 

自らの力を以って、最強を証明せよ。

 

 

 

人外とも呼べる過去の英雄を使い魔として現界させて殺しあう戦争。

 

その勝者には、あらゆる願いを叶えるという万能の願望機が与えられた。

 

参加するサーヴァントのクラスは7つに分けられて、使役される。

 

剣の英霊(セイバー)

 

槍の英霊(ランサー)

 

弓の英霊(アーチャー)

 

騎の英霊(ライダー)

 

魔の英霊(キャスター)

 

殺の英霊(アサシン)

 

狂の英霊

 

そして、そのクラスを使役するマスターも、クセはあるがどれもこれも強者揃い。

 

過去最強ランクの英霊が呼び出された戦争。

 

それが、第5次聖杯戦争だった。

 

オレはマスターの一人であり、剣の英霊を使役した。

 

といっても、その頃のオレは未熟の一言に尽きていて、きっと彼女が自分のサーヴァントではなかったら早々に脱落していただろう。

 

今でも、懐かしんで思い出すことがある。

 

たとえこの身が地獄に堕ちようとも、あの光景だけは、あの音だけは決して忘れないと誓った。

 

 

 

 

しゃらん、という流麗な音が暗い土蔵の中に響く。

 

自分にとって、あの戦争の始まりを告げた鈴の音。

 

目前に鳴り響いた音は、真実鉄よりも重く。

 

華やかさとは無縁であり、纏った銀の無骨さは凍てついた氷のようだ。

 

だが、銀色の無骨な鎧でさえ何物よりも美しく魅せた、彼女の姿を。

 

オレは一生忘れはしない。

 

 

『ーーーー問おう。貴方が、私のマスターか』

 

 

言葉は青空のように鮮明で。

 

他の記憶が薄れていく中、心へしかと刻んだ声。

 

死を彷彿させる闇を切り裂いた、透き通った声だった。

 

肌を柔らかく撫でる風がある。その不可視の風は、彼女の持つ一振りの剣から発せられていた。

 

 

『召喚に従い参上した。これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。

ーーーーーーここに、契約は完了した』

 

 

彼女はそう、あの頃と何も変わらない無表情で言葉を放った。

 

そう、契約は完了した。

 

彼女がオレを主と誓ったように。

 

オレもまた、彼女の助けになると誓ったのだ。

 

月光はなお冴え冴えと闇を照らし。

 

薄暗い土蔵は凜とした蒼の騎士に倣うかのように、シンと静けさを取り戻す。

 

時間が止まっていたかのような錯覚に陥る。

 

オレを真っ直ぐと見つめる、穏やかな翡翠の瞳。

 

時間は永遠で、彼女を象徴する蒼い衣が風に揺れる。

 

今は遥か昔の遠い蒼光の下。

 

金砂のような髪が、月の光に濡れていた。

 

今でも、時おり彼女の名を声に乗せて読んでいる。

 

 

 

 

「ーーーーセイバー」

 

 

見上げた空は、あの時とは違い太陽が出ている。

 

だが、オレにはそれがあの日の白々とした月に見えた。

 

いつかの月下の夜。

 

一点の曇りも無い夜空に輝く星と同じ輝きを放つ彼女を。

 

オレはいつ追い抜けるのだろうか。

 

「……まぁ当分先か」

 

まだまだ未熟者だ。最優の英霊である彼女に勝つなど、今は星を掴むほどの夢物語だろう。

 

でもいつかーーーー。

 

憧れを自信に変えて挑めたのなら。

 

人はそれを奇跡と呼ぶだろう。

 

(かのじょ)に伸ばした手を握る。

 

今も心に残る、あの星を掴むようにーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり空港。

 

滑走路から新たな便が離陸しようとする中、彼女は先ほど到着したロンドン発日本行きの便から下りて、オートウォークを歩いていた。

 

後ろ手には赤いキャリーケースを引き摺っていて、眼にサングラスを掛けているからパッと見ると何処かのモデルのように見える。

 

だがそれも仕方のないことだ。

 

彼女はどこからどう見ても超が付くほどの美少女なのだ。

 

しかしその本質を底意地の悪い、猫かぶりのうっかり残念美少女だと誰が気付こうか。

 

赤い服と黒のミニスカートに身を包んだ彼女は、傍目から見ても不機嫌だとわかるほど、眉を顰めて誰に聞かせることもなく呟いた。

 

「ハァ、まさかたった一年でこっちに帰ってくる羽目になるとは思わなかったわ」

 

重苦しいため息は、今の彼女の心境をありありと表現している。

 

そしてそのため息を身近で聞いていたものが一つ(・・)

 

『久しぶりの帰郷ですよー?いきなりため息はないんじゃないですかねー』

 

その声は彼女が持つキャリーケースの中から聞こえた。

 

周りに誰もいないことをコレ幸いにと、言葉を続ける。

 

『ほら懐かしの自国ですよ?もっと感動的なことはないんですか、彼氏がお出迎えとかー』

 

「へぇ、殺されたいのかしら?ルビー」

 

気づけば彼女の額にはうっすらと青筋が。

 

ルビー、と呼ばれたモノはキャリーケースの中で、そんなにキレなくともいいじゃないですか。キレやすい十代はこれだから……などど好き勝手毒づいている。

 

かなり幅広い領域に地雷があってこれだけ怒りやすいというのに、猫かぶりも大変だろう。だからポロッとボロを出したり、肝心なところで致命的なうっかりをかますのだこのあくまは。

 

「それにね、ほんとになんとも思ってないのよ。別にこっちに思い入れがあるわけでもないしね」

 

『そんなものですかねー?』

 

ルビーの言葉にそういうものよ、と返答しようとした瞬間

 

「湿っぽくて雑多な国ですこと……。優雅さ(エレガンス)の欠片もない貴女にはお似合いですわね」

 

赤の少女の後ろから盛大なジャパンdisが野次のように飛んできた。

 

少女は額に青筋を浮かべて、自身の背後に目をやって

 

「そう思うならさっさと帰れば?師父からの依頼はぜーんぶ私がやっておくから貴女は大人しく

『実力不足でちたー、弟子入りはやめまちゅわー』

とかいって尻尾巻いて逃げかえりなさい金ドリル!」

 

青い金髪の少女にそう吐いて捨てた。勿論嘲りと侮蔑と苛立ちを瞳に浮かべて、口端は三日月のように釣りあがっている。

 

「なんですって!?こうなったのも元はと言えば貴女が…………!」

 

「自分のこと棚に上げてよく言うわこの縦ロール!」

 

騒動を聞きつけ、周りにチラホラと湧いてきた野次馬そっちのけで取っ組み合いを始める2人。

 

思わず青の少女が持っていたトランクケースから、2人に対して制止の声がかかった。

 

『公衆の場での喧嘩はおやめくださいマスター』

 

2人はそれに反応することなく、その代わりに赤の少女のトランクケースから先ほどの声がソレに返答した。

 

『恥ずかしい人たちですねー。サファイアちゃんはあんな子になっちゃだめですよー?』

 

ひっそりと、宝石爺から受け渡されたランクA相当の魔術礼装は2つ同時にためいきをついた。

 

『ほんとわかってるんですかねーこの2人は。早く2人掛かりで任務に徹しないと、敵がどんどん強力になっちゃいますのにー』

 

赤い少女が持つ礼装がやれやれと言わんばかりに、肩をすくめるような動作をする。

 

しかし同時に堪え切れない笑いを漏らして、

 

『まぁ、これはこれで面白いからいいですけどねー。うぷぷっ』

 

目の前で丁度ゴングが鳴った赤金武術大会の観戦に徹した。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

「よし、一成。修理終わったぞ」

 

オレは半田ごてを自身の工具箱に直して、生徒会室の外で律儀に自分を待っている義理深い友人に声をかけた。

 

「いつもながら悪いな、衛宮。頼んでいるのは此方なのに任せっきりにして、すまぬ」

 

そういって頭を下げながら教室に入ってくるのは、柳堂一成。

 

穂群原学園生徒会の会長を努める、自分の一年からの友人である。

 

「そんなに気にするな。こっちが好きにやっていることだからな。で、これで全部か?」

 

工具箱を手に、自分の横に置いてある修理したてのストーブを軽く叩いた。

 

この穂群原学園の部活予算の編成は少しおかしく、運動部がかなり予算を独り占めしている。

 

そのため文化部は、かなりカツカツな財政を行なっており壊れた備品を素直に買い換える、などという贅沢なことはあまりできない。だから時折修理のために、この生徒会のドンに頼まれて備品などを修繕したりしているのだ。

 

だが修理部分を特定するために解析の魔術をかけることがあるので、神秘秘匿のため一成には修理までの時間は外に待機してもらっていたのだ。

 

「あぁ、それで全部だ。衛宮、工具箱を直してくるといい。俺はこのストーブを文芸部の部室に持っていく。それが終わったら帰ろう、もう日も暮れているのでな」

 

「そうか、もうそんな時間だったか」

 

窓から外を覗くと、日はすっかり水平線に落ちていて代わりに宵闇と月が出ていた。

 

一つ一つの修理自体は早く終わるのだが、何分数が多かった。こんな時間になるのも無理はないだろう。

 

椅子に載せていた腰を上げて、工具箱片手に自分の教室へと向かう。

 

そしてロッカーの扉を開いて工具箱を奥に押し込んだ後、学ランに袖を通しカバンを手に昇降口へと足を向けた。

 

昇降口に着くとすでに一成は出口の前で暇そうに待っていた。

 

「悪い、待たせたか?」

 

「いや大丈夫だ。さ、急ぐぞ衛宮」

 

手に持った正門横の非常口の扉をチラつかせながら学内を出る。

 

いくら春とはいえまだ肌寒い空気が残るグラウンドはもうすっかり闇に飲まれており、学園内には全くと言っていいほど人気がしなかった。

 

おそらくは自分たちが最後なのだろうと思っていると、

 

「ーーーーーーーッ」

 

一瞬、言い知れない違和感を感じて足を止めた。

 

とっさに後ろを振り向いてみるが何もなく、怪訝に思い眉をしかめた。気のせいか、と断じようとしたが踏み止まる。

 

生前から自分のこういう勘は割と当たる、それも考えうる限り最悪の方向に。

 

そう思い、いつまでも足を止めているオレに訝しんだのか一成は、

 

「どうした?何か気になることでもあったのか?」

 

と聞いてきた。

 

だが、少し考えを張り巡らせてすぐに杞憂だろうと切って捨てた。

 

流石に思い違いだろう。何せ彼女がここにいるはずがない。

 

第5次聖杯戦争、間桐桜のサーヴァントを努めたゴルゴン三姉妹の末女

 

ライダーのサーヴァント"メドゥーサ"の魔力をここで感じた、などそんな馬鹿げた話あるわけがないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当は凛とルヴィアの空中戦まで書きたかったんですが、これ以上作品を楽しみに待っていただいている方をお待たせするのは大変心苦しかったので、予定を変更して投稿させていただきました。


楽しんでいただけたら幸いです。



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【5】始まり


もう、ボク、言い訳、しない。


ええ白状しますとも。旅行の疲れでベットから動けなかったり模試があったりとしましたんです投稿できずに申し訳ございませんでした!!!!!

その代わり今回は少し文字数多いから許してちょんまげ。誠意が感じられないィ!?そこは脳内補完するんだよあくするんだよ。


け、決して黒猫のウィズやってたりグダグタオーダーまだかなー、なんてことはなかったんだからね!勘違いしないでよね、フン!!!!





 

 

「いや、今日は助かった。必ず礼はする、何かあったら遠慮なく言ってくれ」

 

「そうだな、何かあったら頼らせてくれ。まぁ、そんなことはないと思うが」

 

毎回律儀に礼を言ってくる親友の申し出を丁重に躱す。

別に礼や見返りが欲しいわけじゃない、ただの友達のよしみというやつだ。

 

「……ふむ、お前はちと人が良すぎる気がするぞ」

 

「ちゃんと相手は選んでるから大丈夫さ。オレもそんなに節操なしじゃない」

 

あの頃とは違いなりふり構わず、といった人助けはもうあまりしてはいない。最初はこの手伝いもは拒もうか、と考えたほどだった。

 

前にあの小僧にも言ったように、一人を救ってしまうとそこから視野は広がってしまう。

 

1人の次は10人、100人の次は1000人、その次はーーーーさて何人だったか。

 

そうやって加速度的に増えていく人々を、オレはついぞ守りきることが出来なかったのを知っている。

あの人を助けたから、今度はあの人も助けよう、ということがどれほど愚かなことか痛いほど理解している。

 

だからこそ、今では穂群原のブラウニーや偽用用務員、ばかスパナなどという大変不名誉な渾名も付けられてはいないし、手伝いをするのも本当に偶にだけだ。

というか本当に失礼な呼び名だな。

 

と、そう思っているのだがどうやらこの友人はオレのことを心配してくれているらしい。

 

そういうところも昔と変わってはいないんだな、と心の中で苦笑する。

 

「あんまり心配するようなことじゃないさ。それに自分のことは自分が一番よくわかってる」

 

「……そうか。衛宮がそう言うのならもう心配はしないでおこう」

 

「あぁ、そうするといい。それじゃまた明日」

 

「うむ、それではまた明日学校でな」

 

少し憑き物の取れたような顔をして一成は去っていった。

 

一成の家である柳堂寺は、この十字路からお山に向かわなければいけない。というわけで、帰り道は別々だ。

 

今一成と別れたこの十字路は、冬木市の主要な地区に繋がっている。

 

オフィスビルが建ち並ぶ新都にも繋がっているし、間桐の家がある西洋建築物が多い住宅街にも歩いていける。

 

無論オレが住む武家屋敷にも近いし店が立ち並ぶマウント深山にも気軽に行けるというなかなか便利な場所だ。

 

さてオレも帰ろうとして、ふと意識を住宅街の方に向けた。

 

目を向けた方にはポツポツと星のように光る家々の営みの光。

 

その中には当然、以前オレが住んでいた家もあるのだろう。

 

「………イリヤは、元気にしているだろうか…」

 

そんなことをボソリと呟いた。

 

最近イリヤとは滅多に顔を合わせなくなってしまった。前にも言った通り、オレはイリヤを避けているしイリヤも俺を避けている節がある。

 

帰る時刻をわざと遅らせたり、初等部の方を通らないようにするのもイリヤに余計な気苦労をかけさせたくないからしているものだ。

 

だが、それはイリヤのことを気にかけていないのではない。

 

これは今年のことだが、一成が生徒会室で昼食を食べているときに愚痴を漏らしたことがあった。

 

『これはこの前のことなんだがな、衛宮は知っているかはわからないが遠坂凛という古い馴染みが突然ロンドンに留学をすると言って日本を出て行ってしまったんだ。その為俺はこれから先生たちと書類整理だ、まったく何を考えているのやら………。あ、衛宮その唐揚げをくれないか?』

 

眉を寄せて如何にも不機嫌ですと言わんばかりの一成に聞くのも躊躇われたが、ロンドンへの留学と聞いて少しばかり思い当たるところがあったので、詳しい学校名を聞いてみたところ学校名が書かれた書類を見せられたが、

 

『あの女狐めがいくにはどうにも不自然な学校でな、まったく名前が心当たりがないのだ』

 

言うには『派手さと知名度が足りない』とのことだったので調べてみると、やはりと言ってはなんだが書類に書いてあるような学校など存在はしなかった。

 

魔術師最高峰の学問所、ロンドンの時計塔。

 

そこに留学したとみて間違いはないだろう。以前オレが遠坂に連れられていった時も偽の学校名をカモフラージュとして使った覚えがある。

 

そのときカモフラージュとして使った学校名が、書類に書かれているような名前だったのだ。

 

時計塔のことを思い出して、少しばかり真冬のテムズ川の寒さが肌を這う。

 

それはともかく、この冬木には土地管理人(セカンドオーナー)がいない状況にある為、暫くの間オレ自身が聖杯戦争の時のように見回りをすることになった。

 

今では腹黒シスターが代わりにその任をしてくれているらしいが。近いうちに近事報告でも聞きに行こうか。

 

セカンドオーナーの不在などで、少しばかり心配になったオレは、前に聖杯戦争を引き起こす元凶となっていた柳堂寺の裏手にある地下洞窟に存在する大聖杯の様子を見に行こうとしたことがあった。

 

だが、生前地下洞窟の入り口となっていた細い入り口は岩の崩落により塞がっており、結局中に入ることはできなかった。

 

十中八九、切嗣の仕業と見るのが妥当だろう。

 

だがもしも。

 

大聖杯が機能停止になっているだけであり、破壊されていないとしたらーーーー。

 

第5次聖杯戦争が、この冬木でまた起こるハメになる。

 

そうなればやっと夢にまで見た、当たり前の幸福を手に入れた少女がまた死ぬことになる。

 

それだけは阻止しなければならない。

 

 

ーーーーオレが奪ってしまった家族(しあわせ)を、今度こそ守るんだ。

 

 

例え、世界と天秤にかけたとしても。きっとーーーーーー。

 

 

瞬間、大気が大きく震えた。

 

「ーーーーーーッ!?」

 

思考の海に沈んでいた意識を急浮上させ、コンマ秒前の異常に向ける。

 

再三に渡り空気を揺らす衝撃波。常人には感じられないこのぶつかり合いは………魔力の衝突による振動だろうか?

 

だが今この町に魔術師などオレとあのシスターしかいない。ということはーーーー

 

「聖杯でも盗りにきたのか、魔術師(メイガス)

 

外来の魔術師以外ありえない。それも聖杯戦争の噂を嗅ぎつけてやってきたタチの悪いハイエナ共だろう。

 

普段日本のことを極東だの島国だの散々揶揄しておいてこういう時だけは、手のひらを返すのだから随分と都合のいい連中だと、憎々しげに毒を吐いて、衝突源を探知する。

 

「ーーーー河川敷、未遠川のあたりか」

 

未遠川とは、この冬木市を中央で深山町と新都に分割する細長い河の名称だ。

 

……ふむ、幸いにもここから河川敷まではあの海浜公園を通れば最短5分もかからない。

 

交渉で『この地の聖杯はもう機能していない』と言って帰ってもらえればそれに越したことないのだが、わざわざこんな遠い地にくるのであればそこまで物分りがいい、という希望的観測は捨て置いていた方がいいだろう。

 

最悪魔術戦になることもあるだろうが、その場合は話し合いよりもやりやすい。

 

敵を一矢の元に葬り去る。

 

()にはその自信がある。私は弓兵(アーチャー)だ。サーヴァントでない今にしても、遮蔽物のないところで目視さえ可能ならば射殺すことは児戯に等しい。

 

ーーーー本当に。こんな異国の地ですら手を取り合うことすらできない協調性のない人間だから魔術師などやっているのだろうな。

 

最早息をするように自然と成功した強化の魔術を足に叩き込んで、河川敷へと疾走した。

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

その頃、未遠川上空ーーーーーー。

 

 

いつもならば闇の中にポツリと浮かぶ月が静けさ漂わせる水面に映っている時間帯。

 

だが今日ばかりは勝手が違った。

 

静寂を保っていた水面は荒々しく波紋を残し、激震する空気に恐れ慄いている。

そして、普段白で彩られた星の緞帳は赤と青の光が入り乱れる非現実的な光景を写していた。

 

空を見上げると、赤と青の光がまるでダンスを踊っているかのように夜空を右へ左へ入り乱れている。

 

赤の光は右手にステッキを持ち、赤を基調とする奇怪な格好をした猫耳を生やした黒髪の少女。

対して青の光は、その格好を赤から青に染め直したような狐耳を生やした金髪の少女。

 

どちらも魔術の秘匿などいざ知らず、怒りで我を忘れて目を血走らせながら魔力弾をお互いに向けて発射していた。

 

その片方、遠坂凛は歯を憎々しげに食いしばりながら自身の怨敵とも言える相手に魔力弾を放っていた。

 

「だぁーーーーーーーッッッ!!!

なんで攻撃してくんのよコイツは!共同任務ってこと忘れてんじゃないの!?」

 

常に余裕を持って優雅たれ。

そんな遠坂家代々伝わる家訓が、音を立てて崩れ落ちるような絶叫を上げて空を飛び交う魔力弾をよけ回る。

 

その格好は、平行世界の凛が見たら噴死しかねないようなこっ恥ずかしいコスプレ衣装。

そんな格好をしながら、その手にある対象年齢5~10歳程度のプラスチック玩具に見えるステッキを振り回し魔力弾をうち放つ。

 

『まったく困ったチャンですねー、結構な本気弾ですよアレ』

 

「そう思うならどうにかしなさいよルビー!!」

 

ルビーと呼ばれたステッキはリングの縁についてある羽をヤレヤレ、と肩をすくめるように縮めさせると、ですがねと続けた。

 

『アレはもう完全にイっちゃってますよ。言うなればキメちゃってますね、アドレナリン出まくりですよ』

 

そう言ってカラカラと笑うルビーにそんなこと言ってる場合か!、とツッコミつつ前方に目を向けた。

 

「ホーーーーッホッホッホッホ!!

こんな任務私ひとりでどうとでもなりますわ!貴女さえいなくなれば全て丸く収まるんですのよ!」

 

視線の先には高笑いしながら凛に次々と魔力弾を放つ金髪縦ロールの少女がいた。

勿論こちらも類に漏れずコスプレしている、当の本人は凛とは違いそれを恥じてはいなさそうだが。

 

『マスターは所謂人でなしと評します』

 

「黙りなさいサファイア!」

 

その手に持つのは、ルビーと呼ばれたステッキと酷似したモノ。

違う点を列挙するならば、基調が青だったり縁に付属する羽が少し違ったりすることだろうか。

 

この少女、名をルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。魔術師の粋を集めた時計塔の今代主席候補の一人である。

もう一人は遠坂凛であり、その事からルヴィアは日頃から凛をライバル視している傾向がある。

 

しかし勝負する前からある数点では既に決着がついていることは今気にするべきことではないだろう。

 

「くっ、よくチョコマカと逃げ回りますわね、なら!」

 

自身の魔力弾が当たらないことに業を煮やしたのか、ルヴィアはサファイアと呼んだステッキを振り上げて魔力を充填させる。

 

不味い、と凛が危機感を覚えた瞬間にはもう遅かった。

魔力の充填は一瞬で終了し、既にルヴィアは発射態勢だ。

 

「私の輝かしい未来のためにーーーー」

 

そして、

 

「ここで散りなさい!遠坂凛!!」

 

極大の魔力砲を凛に向けて容赦なく解き放った。

 

「だーーーーッ!?!?ルビー!障壁張って障壁ーーー!?!?」

 

『常に張ってありますよー、けどーーーー』

 

ルビーに障壁を張れとステッキを振り回すが、帰ってきたのは無情の一言。

悪あがき程度に回避運動を取るも虚しく、避けた範囲ごと魔力の奔流が凛を飲み込んだ。

 

そして直撃の衝撃で発生した煙が晴れた先にはーーーー

 

『ここまで強力な魔力砲だと、ちょーと相殺しきれませんねー』

 

額に青筋を浮かべて憤怒を顔に貼り付けた凛がいた。

 

一応障壁が発動したのか、重症という怪我は負っていないようだが服はボロボロ、身体中煤と擦り傷、軽いやけどが見受けられる。

 

『まぁ治療促進(リジェネーション)もかけてあるので暫く放っときゃ傷もすぐ治りますよー』

 

「いや、治るとかそういう問題じゃなくて。

痛い。

とても痛い」

 

傍から見るとみすぼらしくも見える凛のその格好に、ルヴィアは笑いを堪え切れなくなり思わず嘲笑がこぼれた。

 

「まったく、害虫のようにしぶとい女ですこと…。とっとと消えてもらえませんこと?」

 

その一言で、凛のナニカがキレた。

 

プルプルと怒りで身体を震わせる凛。その手は胸のカードホルスターに伸ばされている。

 

「ーーーーそう、あんたの気持ちはよーーーーーくわかったわ。そっちがその気ならーーーー」

 

『あれ?凛さん?』

 

そんな凛の様子を怪訝に思ったのか、ルビーが己が主人に話しかけるも悲しいかな、その声は凛の耳には全く届いてはいなかった。

 

「ーーーーこの場で引導を渡してあげるわ!!!」

 

ホルスターに仕舞われていた一枚のカード(切り札)を抜き取った。

 

カードに描かれていたのは中世の騎士のような格好をし、弓に矢をつがえている男の姿。

その下には英語で『Archer(アーチャー)』と明記されている。

 

そのカードを見ると、ルヴィアは驚愕の声を漏らした。

 

「ーーーーッ!!クラスカードを抜きましたわね…!ならばこちらも………」

 

凛に対抗するようにルヴィアも懐からカードを取り出す。

 

此方はつば帽子を目深に被り、槍を持った男が描かれた『Lancer(ランサー)』と明記されている。

 

そして両者ともカードを互いのステッキに近づけ、

 

「手加減はしませんわよ!クラスカード『ランサー』!」

 

「こっちの台詞よ!クラスカード『アーチャー』!」

 

 

 

 

「「限定展開(インクルード)!!」」

 

 

 

 

 

なにも、起こらなかった。

 

「「………………………あれ?」」

 

一瞬、呆然とする二人。だがすぐに我にかえり、クラスカードと呼ばれたモノをステッキに叩きつけた。

 

「ちよっとルビー?インクルードよ!インクルード!なんで反応しないのよ!?」

 

「どうしましたのサファイア!?」

 

自身のステッキを糾弾する二人。

そんな二人を見るに見かねたようにルビーはやれやれ、とため息をついた。

 

『やれやれですねー、もうお二人には付き合いきれません』

 

「「ハァ!?」」

 

声を重ねて驚く二人を置き去りに、ルビーは言葉を進める。

 

『大師父がをお二人に貸し与えたのはケンカに使わせるためカレイドステッキ(わたしたち)ではなく、お二人が協力して師が下した任務を果たすためだったはずですよー?

だというのにこの魔法の力を私闘に使うなんて本末転倒もいいところですねー』

 

「ぐっ……!ベラベラと正論を…!」

 

『ルビー姉さんの言う通りです』

 

「サファイア!?」

 

貴女まで!?と言いたげなルヴィアの目線をあえて無視して、サファイアは話を続ける。

 

『大師父のご命令でルヴィア様が私のマスターとなってまだ数日ですが、任務を無視したその傍若無人な振る舞い。恐れながらルヴィア様はマスターには相応しくないと判断しました』

 

そこで一旦言葉を区切り、

 

『『ですので、誠に勝手ながら……暫くの間、お暇を取らせていただきます!』』

 

二つのステッキは、自分の主人(マスター)に見切りをつけるかのように握られていた手からするりと抜けだした。

 

「待てやコラァ!ステッキの分際で主人に逆らう気!?」

 

『もっと私たちに相応しいマスターを探してきますよー』

 

『失礼します"元"マスター』

 

ガーッ、と怒髪天付く勢いで顔を真っ赤にして怒る凛だが、生憎ルビーには哀れな負け犬の遠吠えとしか聞こえなかったようで飄々とした態度で受け流した。

サファイアに至ってはさりげなく元、などとつけている。

 

両者共ホトホト愛想が尽きた、といった様子だ。

 

ヒュー、とまるで風に乗るように飛んで行こうとするルビーが気付いたかのように、置いてけぼりにされている凛とルヴィアに声をかけた。

 

『あー、それと凛さんルヴィアさん。

 

 

もう転身も解いておきましたので、早くなんとかしないとそのまま落下しますよー』

 

「「………へ?」」

 

瞬間、強力な浮遊感が二人を襲った。

 

重力。

それは全人類、いや全物質が受ける共通の力であり、それは魔術師とて例外ではないのだ。

 

「だぁぁぁぁーーーッ!?落ちるーーーーーッ!?」

 

「おのれ許しませんわよサファイアーーーーッ!?」

 

『アハハー、それではこきげんよー』

 

真下の未遠川に落下する二人の断末魔をBGMに、二つのステッキは空に飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

そして、そんな一部始終を遠くから眺めていた者が一人。

 

言うまでもなく、エミヤシロウその人であった。

 

「……………何をしているんだあの二人は」

 

最早呆れて声も出ない、と言いたげにこめかみを抑えてため息をつく。

 

元からあの二人が絶望的に仲が悪いのは時計塔時代から知ってはいたが、この平行世界までその関係が続いていたとは……。

 

ハァ、と今日何度目になるかわからないため息。

 

とりあえず遠坂とルヴィアが来ている、ということがわかっただけでも今日はここに赴いた意味があっただろう。魔術師の闘争よりよっぽど良心的だ、と自身に言い聞かせてアーチャーは今度こそ帰路に着いた。

 

しかしこの男。いくら重力軽減魔術などがあるからといって、二人の心配を全くと言っていいほどしていないのは薄情ではないだろうか。

それともこれが慣れなのだろうか、判別が難しいところである。

 

「………………」

 

ステッキが飛び去った方向に目を向ける。

 

その先にあるのは住宅街。ちょうどイリヤの家がある周辺だ。

 

「…………嫌な予感がする」

 

そう呟いてから、その不安を掻き消すように頭を振って帰り道を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーこれが、すべての始まり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はいとりあえずこれで終わりです、いやー肩凝った。

次回はイリヤ視点からを予定しております。今後ともこの稚拙な文章にお付き合いくだされば幸いです。


p.s

ところで、皆さん今期アニメなに見ます?とりあえずプリヤヘルツは確定ですよね、見ないとかいう異教徒はいませんね?

後はなんでしょう。GATEもなかなか面白いですね、一話の掴みはOKのような気がします。

シャーロットもいいですね、一話はかなり面白かったと思います。皆さんはどうでしょう、お腹を抱えて残念ルルーシュワロタwwwとか笑いませんでした?え、笑ってない?そりゃ失敬。

あとはゴットイーターですかね、これは少し心配です。ufo得意の作画と戦闘描写が魅せれる作品と思ったのですが一話延期から妙な不安が流れますね、とても怖い。

そしてラスボスがっこうびより。これは見たほうがいいと思います。趣味嗜好はともかく一回見るとハマると思いますね、とんだOP詐欺だぜ!!!!
ニコ動で見る場合は米を消しましょう。


それではまた次回お会いしましょう。グッナイッ!



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【6】カレイドステッキマジカルルビー?



とりあえず明日終業式。あとはわかるな?




 

「コンパクトフルオープン!境界回廊最大展開!」

 

「魔法少女プリズマイリヤ!推参!!」

 

 

ーーーーーーーリリーーーー。

 

 

「悪いやつらと愚鈍な男は許さない!ルビー、行くよ!」

 

『OKマイマスター!魔力集積路二次開放!』

 

 

ーーーーリリリッーーーーー。

 

 

「一撃必殺!」

 

 

ーーーリリリリリッーーーー!

 

 

「カレイドストラーーへぶっ!?」

 

 

ーージリリリッーーーーー!

 

 

「あんたはわたしの………奴隷よッ!!」

 

「ひぃぃぃぃぃっ!?」

 

 

ジリリリリリリリリリリリッ…………!

 

 

目覚まし時計のアラームが今年一番であろう悪夢をかき消しながら鼓膜を震わせる。

 

開くことを拒否する瞼を、鉄の気合と鋼の意志でねじ伏せて強制開放。

 

そして寝起き開口一番、わたしは毒々しく呟いた。

 

 

「ーーーー今世紀稀に見る最悪の目覚め」

 

 

とりあえず未だうるさい騒音を打ち鳴らす置き時計を止める。

ふと今しがた眠りこけていたベットの傍をみると、そこには器用に鼻ちょうちんを出して寝ているどうみてもおもちゃにしか見えないステッキがあった。

 

…………まだ全然信じられないなぁ、こんなステッキが憧れの魔法少女になるキーアイテムなんて。

 

こんな誰かに言ったら間違いなく頭のおかしい子扱いされるであろうその言葉も、この時ばかりは本当である。

 

思わずため息が出た。まだ昨日の疲れが抜けきっていないのだろう、体の節々にダルさが垣間見られる。

 

さてなんで先ほどの夢を見るような結果になったのだろうか、すこし思い返してみよう。現実逃避の意味も兼ねて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色々ありすぎてショート寸前の頭を抱えながら、セラの問答を潜り抜けてパタン、と自室のドアを閉めた。

 

色んなぬいぐるみや、可愛らしいインテリアで統一した部屋は、わたしの自信作のひとつだ。

 

「どう?うまくごまかせた?」

 

声をかけてきた方に視線をずらすと、そこにはベットに腰掛けて寛いでいる黒髪の女性がいた。

 

ツーサイドアップ腰までの黒髪と、水晶のように透き通っている蒼の瞳。スラッとした長い足を強調する黒のニーソックスはミニスカートと合わさってよく映えている。

そして持ち合わせの端正な顔立ちは黙っていればそれだけで道端の男性は振り返るだろう。そう、黙っていれば。

 

「まぁ、なんとか…………言われた通り誰かの悪戯だろうってことにしたけど…」

 

「まぁそれが妥当か。けどあんたも災難ね、そんな奴に捕まっちゃうなんて」

 

女性は少々苛立ちの混じった声音でそう言ってわたしの後ろに目を向けた。

そこには、円環の中に星を象ったモノを埋め込み、縁に羽をつけてフヨフヨと浮遊している謎の物体が異様な雰囲気を放っていた。

 

「ほんとだよ………。空から降ってきたステッキに頭突きされたら魔法少女になってた、なんて………友達に言ったら頭おかしい人と思われちゃう」

 

『いやー手荒な契約で申し訳ないです。でも此方も凛さんに見つかったら早々にマスター権を戻されちゃうんで早めに他のマスターと契約しておきたかったんですよねー』

 

そう、聞いて驚くことなかれ。

わたしの後ろに浮遊するこの物体こそ、10代前半の少女が憧れてやまない魔法少女になるためのステッキなのだ!そう、プリキュ◯とかまどかマ◯カとかそういう類のもの。

 

…………といって信じてくれる人がどれほどいるだろうか。少なくともわたしの友達は誰一人信用しないと思う。

けど悲しきかな、現実なのだこれは。

 

事の発端は今日の夜中。

待ちに待ったアニメのBlu-rayディスクが届いたのでリズと一緒に一気見したあと、お風呂に入ったところまで時は遡る。

 

 

 

一気見でほんのりと赤く充血した目を擦りながら湯船に入っていた時のことだ。

 

ふと視界の端に光が見えたような気がしたので窓を開けて見てみると、夜空に赤と青の光がチカチカと点滅しているのが見てとれた。

 

怪訝に思って目を細めてみるも、先ほどまでテレビの光で慣らされてしまった眼球は遠くの光を捉えることを拒否してしまう。

 

さてどうしたものかと考えを巡らせたところ、浴場の電球を切って此方を暗くしてしまえばいいのだという結論に行き着いたので早速実行。

 

電源を落とした後、もう一度空を見上げてるともう既に夜空にはあの不思議な光は消えていて。

 

代わりにどうみても此方に向かってくる流れ星があった。

 

そしてその星に瞬く間に頭突きをかまされてしまい、気絶はしなかったものの額には赤いアザができ上がってしまった。

 

頭が割れそうなくらいの痛みに蹲っていると、突然真横からコミカルな声が聞こえたのだ。

 

 

『初めまして!わたしは愛と正義のマジカルステッキ、マジカルルビーちゃんです!』

 

 

鈍痛を堪えながら其方を見ると、そこには宙に浮く如何にも対象年齢10歳以下といったようなおもちゃチックなステッキが。

しかもどこから鳴らしているのかパンパカパーン、なんてどこかのRPGで聞いたファンファーレBGMを垂れ流す始末。

 

はっきりと言おう。

 

 

………………とても、うさんくさいです……。

 

 

しかもその不審物は、

 

『貴女は次なる魔法少女候補に選ばれました!

さぁを手に取ってください!力を合わせて(わたしにとっての)悪を倒すのです!!』

 

そう平気で宣った。

 

もうこれはうさんくさいとかいうレベルじゃない、最早詐欺レベルだ。

というかこんな科学がバリバリ発達した現代社会に魔法少女なんて存在するはずないだろう。

 

アニメの見過ぎで少し思考がおかしくなってしまったのだろう。

魔法少女になりたいか?と聞かれて一概にNOとは言えないが、こんなに胡散臭い話に乗るはずもない。ここは早急におかえりいただこう。

 

ほんの少し湧いた魔法少女への興味を鉄の意志でねじ伏せて、マジカルルビーと名乗るステッキと話をつけようと口を開こうとした瞬間。

 

『楽しいですよー魔法少女!羽エフェクトで空を飛んだり!必殺ビームで敵を殲滅したり!

 

 

恋の魔法でラブラブになったり!』

 

 

 

全身を電撃が走り抜けるような衝撃が私を襲った。

 

 

 

『あっ!今反応しましたね!?いるんですね意中の殿方!どの人です!?』

 

わたしの違和感を目ざとく察知して、ここぞとばかりに人の弱みを突いてくるルビー。

 

「い、いない!いないもん!好きな人なんていないもん!!」

 

言えるわけがない。こんな見るからに口が軽そうなステッキに言えるわけがなかった。

 

頬が自然と赤くなる。

きっと長風呂の所為だと思考を切り捨てて、擦り寄ってくるルビーを押し返す。

 

だがステッキは止まらない。

わたしの好きなものは人の恥ずかしい恋話です!と言わんばかりにズイズイ、と此方に攻め寄ってくる。

 

『ムキになるのがまた怪しいですねー!相手は誰ですか?ベタベタにクラスメイトの男子とか!?』

 

「ち、違うってば!ってかなんでわたしステッキに攻められてるわけ!?なにこの状況!!」

 

脳が、顔が、体が火照る。

脳裏に浮かび上がるのは、よく見知った白髪の人だった。

 

わたしが、この銀髪を誇れるキッカケになった人。

わたしを見るたびに辛そうな顔を浮かべて、まるで壊れ物を扱うかのように接したあの人。

 

でも、わたしが泣いているときはいつも助けてくれた。彼方は気づいてはいないと思っているようだが、ハタから見るとバレバレなのだ。

 

そう、あの人はいつだって不器用で、鈍感で、朴念仁で。

けど、誰よりもお人好しで、優しくて、いつもわたしのことを気にかけてくれた。

 

 

『大丈夫。君のその髪は親から貰ったものだろう?なら誇れ、絶対に嫌いになんかなっちゃダメだ』

 

『それは君が、彼らの娘だという証だろう?なら大事にするといい、周りの声なんか気にしないことだ』

 

『切嗣もアイリスフィールも、セラもリズも君のことが大好きなんだから』

 

『勿論、オレも含めてな』

 

 

カァッ、と顔が熱くなる。きっと今のわたしの顔はリンゴみたいに赤くなっているだろう。

 

その様子を見たルビーは、さらにニヤニヤと鼻息を荒げながら此方の地雷を踏みぬいた。

 

『あー!乙女の顔になってますねー!これはいますね、好きな人。それもだいぶ近くにいる人と見ました!』

 

この推理力は一体なんなのだろうか。しかも強ち当たっているというのがまた腹立たしい。

 

もうこれ以上喋っているとこっちが持たないと思い、話を切り上げようとステッキの柄を掴み、

 

 

「いないって言ってるでしょ!もういいから出てってよこのバカーーーーーーーーッッッ!!!!!」

 

 

空いている窓から外に投げ捨てようとした。

 

そう、投げようとしたのだ。

だが実際には投げられず、何故か逆に体の力がスーッと抜けていく感じがした。

 

『うふふふふー、想定以上にチョロかったですねー』

 

貴女みたいな人はああいう事で煽ると絶対乗ってくると思ってました、と言ってルビーは言葉を続ける。

 

『血液によるマスター認証。

接触による仕様の契約。

そして起動のキーとなる乙女のラヴパワー!!

全て滞りなる頂戴しました!』

 

「な、なにそれー!?ってから血液ってどこからとったの!?」

 

『さっき頭突きした時にチョチョイっと』

 

額に意識を向けると、確かに少し血が滲んでいた。

 

というかこのステッキ手癖悪ッ!?

 

『さぁ、最後の仕上げといきましょうか。貴女のお名前を教えてくださいまし』

 

「えっ………う、あ……」

 

言うものかと必死に抵抗するが、まるで自分の意思とは乖離しているかのように口はわたしの名前を発っしようとする。

きっとルビーが接触している手から強制力みたいなものをかけているのだろう、抗おうとするがとても抗えそうにない。

 

「イ、イリヤ……」

 

あぁ…もう自分は魔法少女になるしかないんだな、と頭の中で諦めると呆れるほどすんなり口から自分の名前が出た。

 

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン!!!」

 

 

 

ーーーーーーーこれが、この厄介ごとの始まりだった。

 

 

 

このあと魔法少女となったわたしは、ルビーを捕らえようとした人に出会った。

 

それがこのベットに座り、如何にも不機嫌そうな顔でこちらをみる彼女だった。

 

「えっと、それであのー………」

 

「あぁそうね、あんたにはいろいろ説明しなきゃ」

 

額に青筋を浮かべながらルビーにアイアンクローを決めているのを中断して、黒髪の彼女はさてどこから話したものかと髪をかきあげる。

 

それにしてもすごい握力だなぁ……ルビーがひしゃげてる。

 

「まず、わたしの名前は遠坂凛。魔術師よ。まぁ………あんた風にいうと魔法使いってことになるわね」

 

実際には違うんだけど、と付け加える凛さん。

 

まほーつかい………?ってことは。

 

「魔法少女ってこと?」

 

「全然違う!!」

 

脳天にチョップを叩き込まれた。とても、痛い。

 

というか魔法を使えて女の子なら魔法少女って言わないの?言わないか。

 

「ま、一般人に理解しろって言う方が無茶かな。これでも一応ロンドンの"時計塔"じゃ今期の主席候補なんだけどね」

 

「えーと、時計塔っていうのは?」

 

「分かりやすく言うと、魔術を研究する大学みたいなところね。表向きは留学って扱いで去年からそこに通ってたわけ」

 

へー、この歳で結構すごいんだなー凛さんって。

 

でもそうすると一つわからないことがある。

 

「それじゃなんで日本に帰ってきたの?」

 

「そう、ここからが本題ね」

 

凛さんはどこからか取り出したメガネをかけると、話の核心についての説明を始めた。

 

というか何故メガネ…?

 

「結論から言うとね。わたしたちはある特殊な力を持ったカードを回収するためにこの町に来たのよ、時計塔からの要請を受けてね」

 

言い切ると凛さんは懐から一枚のカードを取り出した。

 

わたしは差し出されたそれを恐る恐る手に取り、マジマジと見てみる。

 

中世風の絵で描かれた男性が、弓に矢をつがえていて下部には英語で"Archer"と書かれていた。

 

「……Archer(アーチャー)?ステータス表記もないんじゃゲームできないよ」

 

「そういうカードじゃない!どうにもあんたは思考に偏りがあるわね……」

 

裏返してみるも、そこには魔法陣に見える幾何学的な紋様が描かれているだけでとてもオモチャとは思えない。

どちらかというとカードゲームではなくタロットカードを彷彿させるモノだった。

 

「それはオモチャのカードじゃない、極めて高度な魔術理論で編み上げられた特別な力を持つカードなのよ。悪用すればそれこそ街一つを容易に滅せるくらいのね。

そんな危険物が、この冬木の町には眠っているのよ」

 

凛さんの言葉はかなり真剣味を帯びていたが、生憎とわたしにはそんな危険だという実感は沸かなかった。

 

こんなちっぽけなカードが街一つを消し炭にできるなんて信じられないけど、凛さんが言うんならきっと本当なんだろうと無理やり納得する。

 

「うーん、つまり……凛さんは町に仕掛けられた爆弾を秘密裏に解体していく闇の爆弾処理班みたいな人なんだね!?」

 

「やけに斬新な比喩だけど大体合ってるのが悔しいわね」

 

こんな子で大丈夫なのかしら、とボヤきながら説明を続ける。

 

「ま、そんな感じでその爆弾を処理するのに生身は少しばかりキツイから特別に貸し出されたのがーーーー」

 

一旦言葉を区切って、凛さんは宙空に浮いていたルビーの羽を掴んで手元に引き寄せた。

 

「このバカステッキってわけね」

 

『最高位の魔術礼装をバカステッキ呼ばわりとは失礼な人ですねー。そんなんだから反逆されるんですよーだ、わたしにだって(扱いやすい)マスターを選ぶ権利があります!』

 

ルビーは凛さんの横暴な物言いに反発するも虚しく、再びアイアンクローを決められ黙らされてしまう。

 

「…本当ならわたしも無関係な人間を巻き込みたくなんかないんだけどね。でもコイツはわたしの言うことなんか聞きゃしない」

 

そういって融通の利かないオモチャに呆れたようにルビーを私の方に放り投げて言葉を続ける。

 

「ってことで解放されたかったらそのバカを説得することね」

 

「……………出会って間もないけどそれがすごく困難な道のりだってことはわかるよ」

 

例えば金ぴか英雄王が慢心しなかったり、ランサーが自害しなかったりするレベルだきっと。確信。

 

「でしょうね。だからせめてその説得が済むまでの間は、わたしの代わりに戦ってもらうことになるから、覚悟しておくように!」

 

「はぁ、たたかって……………へ?」

 

一瞬我が耳を疑った。

 

え?この人は今なんて言った?

 

「だから、わたしの代わりに爆弾を処理してもらうの。まぁわたしの奴隷(サーヴァント)なんだから当然よね」

 

凛さんはあたかも当たり前のように言って、用があるからと去っていった。

 

そして残されたわたしといえば……。

 

「………………うそだドコドコドーン」

 

脳がショートしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は午後3時。

丁度6時限目の授業が終わり、放課後を知らせる涼やかなチャイムの音が学校中に響き渡る。

 

そんな中、イリヤは昇降口に通じる廊下を駆け足で進んでいた。

 

人目が少なくなったと同時に、彼女の白銀の髪に潜んでいたステッキがピョコッ、と顔を出す。

 

『よーやく放課後ですか。カバンの中は退屈でしたよー』

 

羽を上下に動かして不満を訴えるルビー。

授業中イリヤのカバンの中を漁って、恥ずかしいモノはないかと探っていた者の言うセリフではないと思うがそれについては主人に一切言う気はないらしい。

 

「待たせてごめんねルビー。早く帰って魔法の練習しよ!」

 

そんなルビーの蛮行もいざ知らず。イリヤは待ってましたとばかりに帰路を急ぐ。

 

『おーやる気ですね、イリヤさん!』

 

正直、ルビーとしてもイリヤがその気になってくれるのは嬉しい。

 

前マスターの傍若無人うっかり赤ゴリラよりも、愛らしくて扱いやすく弄りやすいこちらのマスターの方が自身の都合もいいからだ。

 

純粋に、ロリっ子魔法少女というのもルビー的にポイントが高いらしく気分は右肩上がりだった。

 

「うん!せっかくだから楽しもうと思ってさ」

 

何事もポジティブにいかなくちゃね、と続けて下駄箱を開けて靴を履き変えようとすると、靴とは別に何か違うものが入っていた。

 

ソレ(・・)はヒラヒラと宙を舞って、重力に従い足元に引いてある簀に落ちた。

 

その下駄箱の主であるイリヤは、とんと見覚えのないものに首を傾げてそれを拾う。

 

そして手に取ったモノをマジマジと見てみると、それはどうみても手紙だった。

封筒には入れられておらず、裸のまま。薄ピンクの紙には何か言い知れない雰囲気が漂っている。

 

「手紙………だね」

 

その時、ルビーの乙女センサーが勢いよく反応した。

 

『おおっ!もしやこれは………!?』

 

甘酸っぱい恋の匂い。愛と青春が入り乱れる若気の至り。

 

女子の下駄箱。遠慮がちに靴の上にひっそりと置かれた手紙。

 

これから導き出されるものは、最早一つしかないだろう。

 

『アレですね!ラヴレターですよ!ラヴレター!今時こんなピュアなことする子がいるんですねー!

さぁさぁ早く中身を!』

 

ルビーの様子でこの手紙の中身を察したのか、イリヤは頬を赤らめてルビーを制す。

 

「お、おおお落ちついてルビー!ここは冷静にいくべきよ、冷静に……冷静に…………」

 

呼吸が速くなり、心臓が早鐘を打つ。

逸る気持ちを抑えて折りたたまれた手紙をゆっくりと開いていく。

 

そこで脳裏を過ぎったのは、白髪の男の人。

 

「ーーーーーーーッ!!」

 

ブンブンと頭を左右に振ってその幻像をかき消す。

 

あの人がこんなことするはずがない。けどもしこれがーーーー。

 

それを考えた瞬間、動悸が乱れて自然と速くなる。

 

ドクンドクンと、心臓が最早過労働で逆に止まりそうなくらいポンプアップが激しくなる。

熱に浮かされた気持ちを必死に抑え、震える手で手紙をめくった。

 

そこにはーーーーーーッッッ!!!

 

 

 

 

『今夜0時、高等部の校庭まで来るべし。来なかったら帰ります(殺す)

遠坂凛』

 

 

 

 

「……………………」

 

『……………………』

 

えっ、え…………えーーーーーーーーー………………。

 

互い無言。静寂が辺りを制する。

 

なんてことはない、ラブレターと思っていた手紙はなんと脅迫状でした。

 

先ほどまでマグマのようにうずいていた心臓は、途端冷却水で冷やされたように平常を取り戻していた。

 

こうして、イリヤの魔法少女生活1日目の夜が幕を開ける。

 

 




次回!ライダー戦!乞うご期待!!!!

アーチャーの弓矢が火を噴くぜ!!!


p.s.

ポッ拳ついに始まりましたね、とりあえずルカリオサーの姫としてはルカリオ一択で始めています。
というかカスタム要素プレミアム登録しなきゃ使えないとか舐めてんのか任天堂ォ!!!

とりあえずルカリオのいいコンボがあったら教えてくださいなんでもry







黒猫のウィズ極めたい。


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【7】一筋の矢

こんにちわ、学生のみなさん夏休みをいかがお過ごしでしょう?
もしくは社会人の皆さんは、そろそろ迫った盆休みに心を踊らせているのでしょうか?



春時の夜、というのは寒暖差が激しい。

極端に寒い時もあればその逆、真夏の夜のように暑い時もあり温度差により風邪を引きやすい季節だ。

 

だがそればっかりというわけでもなく、ちゃんとどんなものにでも中間点というものは存在する。

 

 

初夏のように不快感を感じさせない風が校庭を吹き抜けた。

すでに校舎の灯りは完全に消えており、そこを照らすのは満天の星空ともうすぐ満月になるかと思われる澄んだ月明かりだけだ。

 

その月に照らされ校庭に佇んでいる少女が一人。

 

先日イリヤの家を強襲した、遠坂凛その人である。

 

凛は黒髪を靡かせ、七部袖のジャケットとスカートを身につけて仕切りに時計を見ている。

 

まるで待ち人を待つかのように。

 

 

そして時刻は、午前0時に差しかかろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、ちゃんと来たわね」

 

校庭内に、自分とは別の気配が現れるのを感じ取り、腕時計から視線をずらしそちらに向ける。

 

そこにはピンクを基調としたワンピース型の服とそれに取り付けられたマントに身を包んだ少女がいた。

 

端的に言うと、ステッキ片手に魔法少女に転身を果たしたイリヤだった。

 

「そりゃあんな脅迫状出されたら………ねぇ?」

 

「ん?なに?」

 

「いえなんでも…………」

 

脅迫状、と聞いても凛は眉ひとつ動かさない。

無自覚なのか或いはそういうのに慣れてしまっているのか、どちらにせよマトモとは言い難いだろう。

だが魔術師などにマトモを求めてはいけない、というのはある意味その世界では常識であるのだがイリヤがそれを知るはずもなかった。

 

先日自身の平和を風神のように荒らして帰った人のその様子を見て、凛に対する印象を理不尽な人から危なそうな人に変化させた。

 

「ってかなんでもう転身してるのよ。その格好で歩いてきたわけ?」

 

「うっ…………いや、それは」

 

『さっきまで色々練習してたんですよー。付け焼き刃でもないよりはマシかと』

 

今頃羞恥心を思い出して顔を紅潮させる主に変わって、ルビーが事情を説明する。

 

だが練習、という名目を差し引いてもどこからどう見てもコスプレにしか見えないこの衣装で小学生が夜の街を彷徨いていたら警察官による補導は確定だ。

それを考慮していない辺り、イリヤもこの非日常に毒されてきたということだろうか。

 

ルビーの言葉を聞いた凛は、意外そうな顔をした。

 

半強制的にこちらがわに連れ込まれたというのに、ちゃんとこの現実を受け止めていることに驚いたのか。それともそんな恥ずかしい格好を受け入れていることに驚いたのか。

凛が先ほどの言葉をどう取っているかはわからないが、どちらにせよイリヤが凛の脳内で言われようのない評価を受けていることに変わりはなかった。

 

「へぇ、その成果は?」

 

『とりあえず基本的な魔力弾射出くらいなら問題なく。あとの動作はまぁ………タイミングと気合いでどーにかなるでしょう』

 

「なんとも頼もしい言葉なこと……」

 

余りに適当なルビーの言葉に頬をひくつかせながら、凛はイリヤに目を合わせた。

 

「正直……かなり不安ではあるけど、今はあんたを頼るしか他にないわ。準備はいい?」

 

その言葉に、イリヤは凛の眼差しに対抗するようにしっかりと目を合わせて力強く頷いた。

 

その様子に納得するかのように凛は不敵に笑い、校庭の中央に歩を進める。

 

「カードの位置は特定済みよ。この校庭のほぼ中央……歪みはそこを中心に観測されてるわ」

 

人気のない校庭。

目を向ければ、クラブ員が片付けをサボったのかサッカーゴールとボードが置かれている。

 

しかし、それを除けばおかしなところは何もなくイリヤは首を傾げた。

 

「中心って………なにもないよ?」

 

ここにはないわ(・・・・・・・)。カードがあるのはこっちの世界じゃないのよ。ルビー!」

 

『はいはーい』

 

要領を得ない凛の言葉にさらに首を傾げるイリヤを放置して、ルビーは応じに答えて術式を発動した。

 

『それじゃいきますよー』

 

瞬間、小型の魔法陣がイリヤを中心として展開される。

そしてそれに驚く間もなく、今度は魔力の充填される音と共に陣が光を発し、闇夜に落ちた校庭を照らし始める。

 

『半径2メートルで反射路形成、境界回廊一部反転します!』

 

「えっ!?な、なにするの?」

 

カードのある世界(・・・・・・・・)に飛ぶのよ」

 

いきなりの出来事に言葉を失い、凛に問いかけると彼女はそう返した。

 

カードのある世界……?それじゃまるでこの世界じゃないみたいな言い方じゃーーーー。

 

脳内の疑問を感じ取ったのか、凛はさらに言葉を続ける。

 

「そうね。分かりやすく言うなら……無限に連なる合わせ鏡。この世界をその像の一つとするならば、カードのある世界は鏡面そのもの(・・・・・・)

 

魔法陣が臨界点に達したとばかりに、先ほどとは比にならない輝きを放出する。

 

 

 

ーーーーそして、それは突然イリヤに襲いかかった。

 

 

 

自分の肉体と精神が乖離するかのような言い知れない違和感(・・・)

 

先ほど凛は、この世界が数多ある内の像の一つと言い、これから移動する世界が鏡面そのものだと言った。

 

なるほど確かにその言葉は適切だ。

五感が、意識が、心がズレる。まるで別世界に投射されるように。

 

こことは別の場所に引き込まれる感覚。そんな得体の知れない感覚がようやく消えた時。

 

「鏡面界。そう呼ばれるこの世界にカードはあるわ」

 

イリヤはまったくの異世界に足をついていた。

 

「な、なに………ここ……」

 

突然のことで動揺が混じった声音でそう漏らした。

 

イリヤがいるのは、確かに先ほどまでと同じ場所だった。だがそれがあまりにも異質だった。

 

穂群原高等部の校庭。

片付けられてないサッカーゴール。

代わり映えしない、少しガタが来てそうな校舎。

固く閉じられた校門。

 

まったく同じ光景。

しかし漂う雰囲気は違う、最早別物に変化している。

 

1秒前まで吹いていた暖かく心地よい風はすっかり消え去り、身も凍えるようなモノに成り代わってしまっている。

 

空は碁盤のようなマス目が存在していて、背景には澄んだ夜空は無く、ただひたすらに黒がブチまけられたドロドロとした空が果てしなく広がっていた。

 

「ここが………鏡面界」

 

何もかもが異質で形取られている。そこにイリヤの知る風景など欠片たりとて存在しない。

 

だが目を見開いて呆然とするイリヤに対し、凛は極めて冷静であった。

 

「詳しく説明している暇はないわ。カードは校庭の中央!」

 

名前通り、凛とした声に現実に引き戻られる。

 

目を向けた校庭の中央には、黒い亀裂のようなモノが不気味な黒い霧を垂れ流しながら浮かんでいた。

 

まだ完全に我を取り戻しきっていない主を心配したのか、檄を入れるように手にもたれたステッキは、

 

『構えてくださいイリヤさん、来ますよ』

 

真剣な声音でそう言った。

 

1日と短い付き合いだが、普段おちゃらけたルビーがこんな真剣にモノを言うということは、きっとそういうことなのだろうと考え、ひとつ深呼吸を入れて意識を変えた。

 

その直後、黒い亀裂が一際多く霧を排出した。

同時に手が這い出る。そして腕、胴体、頭といった順に次々と全貌がはっきりと見えてくる。

 

 

 

ソレを見た瞬間、思わず後ずさりした。

 

 

 

ーーーーそれは異様な姿だった。

紫の長髪に、ピッタリと体に張り付いた闇のように黒いボディコン。

 

極め付けは、異質さが数段増す気味の悪い眼帯。それも両目をおおいかくすほどの大きさだ。

 

ソレ(・・)は明らかに人間ではないと、イリヤは直感的に感じ取った。

 

「報告通り実体化したわね………。来るわよ!!」

 

それが合図だと言わんばかりに、ソレは足に溜めていた力を解き放ち、こちらに低く跳躍してくる。

そして手に持った、先端に短剣のついた長い鎖をこちらに向けて一閃した。

 

『避けてくださいイリヤさん!』

 

咄嗟にルビーの言葉に従い、横に跳ぶ。

 

刹那、剣の当たった場所がズドンと体に響く異音を発して爆散した。

 

空に舞う土塊と砂埃。それが晴れた先にあったのは大きく抉れた1秒前まで自身が立っていた地面。

 

ショベルで掘られたように大きく陥没した地面を作り出した鎖剣を見て、イリヤは小さく悲鳴を漏らした。

 

その間にも、黒い影は地に埋もれた剣を引き抜き、次の一撃にて完全に敵の命を刈り取るーーーー!

 

Anfang(セット)ーーーーッ!」

 

そのコンマ秒前に、凛が先に動いた。

黒髪を空に靡かせる姿の手には、3つの赤い宝石がそれぞれ指の間に挟み込まれてその色と同じ輝きを発している。

 

「爆炎三連弾ーーーーッ!!」

 

放られた宝石。

その一つ一つが申し分のないほどの魔力を術者から受け取り、主の言葉を起爆剤とした。

 

赤い宝石は敵に着弾した瞬間、自身に込められた術を解放する。

 

弾ける炎と闇を照らす火花が空に咲く。

空気を媒介としてさらに燃え上がる三つの華は、ある程度離れていたイリヤの肌すら軽く炙るほどの火力。

 

倒せないはずがない。

 

 

 

ーーーーーーそう、普通ならば(・・・・・)

 

 

 

「ーーーーーーーーーーッ!?」

 

凛が息を飲む。見開かれた(まなこ)は驚愕に彩られ、信じられないようなモノを見たような表情だ。

 

そして、それはイリヤも同じだった。

 

突如風切り音が鳴り響く。

爆炎の奥に見える影は、手に持つ鎖剣を引き絞り、無音の気合と共に炎熱を切り裂いた。

 

「……………………」

 

一言で言い表すのなら"無傷"。

 

影を纏ったソレは、何事もなかったかのようにゆらりと幽鬼かごとく姿を現した。

 

服にも、肌にも、髪にすら焦げ跡は見当たらず、そればかりか煤の一つすら見受けられない。

 

効かなかった、どころのコトではない。

あれではまるで無力化されたかのように、ソレはただそこに在った(・・・)

 

ソレを見た凛は、ただ納得したかのように頷いて、

 

「ーーーーやっぱり魔術になると無効、か。高い宝石だったのに、アレ」

 

初めから分かっていたかのように気まずげに笑った。

 

そして一瞬イリヤの方を向き、

 

「じゃ後は任せた!わたしは建物の中に隠れてるから!!」

 

丸投げするかのごとくそう言い放ち、神速で校舎の影に避難した。

 

「って、えぇ!?丸投げ!?」

 

『イリヤさん!二撃目、来ます!!』

 

ルビーの声で咄嗟に横に回避。そして又しても真横スレスレで空を切る剣。

 

その非現実的な光景についぞイリヤは天に祈りそうになった。

 

「(なんでわたしがこんな目にーーー!?)」

 

『イリヤさん、接近戦は危険です!一旦距離を取ってください!』

 

「そうね!距離を取りましょう距離!!」

 

迫る第三撃。それを交わし、敵と交差するようにイリヤは全力ダッシュで敵から離れた。

普通の小学生にしてはズバ抜けている走力で、距離を取りながら空に慟哭のように叫ぶ。

 

「た、戦うってホントーに戦うんだねっ!冗談だと思ってたよどんなファンタジー、これ!?というかあの剣怖すぎ!!」

 

最早恐怖を通り越して笑いが出る。

人間、恐怖のピークが来ると失禁や絶叫をよくドラマでは上げているが本当に怖いときは笑う、ということをイリヤは深く理解した。

 

『落ち着いていきましょう、イリヤさん!とにかく距離を取りつつ魔力弾を打ち込むのが基本戦術です!チキンとか芋云々言われようとも勝ったもん勝ちなんです!とりあえず散弾をイメージしてください!」

 

「さ、散弾!?え、えーと、ショットガンみたいな?」

 

『乙女が銃器を想像するのは魔法少女的にどうかと思いますが、状況が状況なんで構いません!攻撃のイメージを込めてステッキを振ってください!』

 

「りょ、りょーかい!!」

 

ステッキ(ルビー)をグッと握り直し、後方から追ってくる影をチラリと見る。

 

想像するのは散弾。

砲弾のような一撃必殺ではなく、敵を捉えるための小さく無数に分かたれた絨毯攻撃。

 

「ーーーーーーいけるッ!!」

 

イメージを脳内で固め、それ維持してステッキを影に対して振り下ろした。

 

「極大のーーーーーーーー散弾ッ!!!」

 

「ーーーーーーーーガッ!?!?」

 

掠れた声だが、確かに声を聞いた気がした。

 

影から漏れた声が耳に届くとほぼ同時に、空中に現れた数えるのもバカらしい弾丸はイリヤの想像通りの軌道を描き、地に落ちる。

 

鼓膜が破れそうなほどの着弾音に、空に巻き上がる砂埃。

 

 

ーーーーーー確実に仕留めた、そう思い油断したのがいけなかった。

 

 

ここは戦場、敵の亡骸を見るまでは油断など言語道断だ。それをまだ幼い彼女は分かっていなかった。

 

緊張で張り詰めていた糸が切れる。恐怖で強張っていた体を弛緩させ、一息ついたその刹那。

 

『まだですイリヤさん!!敵はまだーーーー』

 

ルビーの悲痛な声と共に、埃の中から飛び出る鎖。

 

その先端の剣は間違いなくイリヤに向かっていて。

全身の緊張を解いたイリヤには避ける術がなく。

その剣がイリヤを貫くことは道理だった。

 

 

 

ーーーーーーしかし、それを()は許さなかった。

 

 

 

霧が濃く舞っている校庭を切り裂く一迅の風。

 

何かの泣き声にも聞こえる風切り音を鳴らし、それはイリヤの真横を後ろから通過した。

 

「ーーーーーーえ?」

 

響く金属音。

 

コンマ秒前までイリヤを貫こうと大気を切っていた剣は、後方から飛び出た一本の矢に弾かた。

 

地に落ちる剣。

イリヤを守った矢は剣を弾くと、役目は終えたとばかり蒼い燐光を散らし虚空に消える。

 

「ーーーー嘘」

 

校舎の影に隠れていた凛が、思わず声を漏らす。

 

矢が飛んできた方向。校舎の屋上に視線を合わせた彼女を待っていたのは。

 

 

 

「二人目の、英霊ーーーーーーーッ!?」

 

 

 

紅い外套を纏った白髪の男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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【8】ライダー

ぐだおiOS勢の人延期とかふざけてる(全キレ

泥はやれてるとか差めっちゃついてるなぁ……iOS始まった瞬間イベントとかレイドやったら運営にバットもって殴り込む確信がある。

ほんと型月は発売日守りませんね!!!!!知ってましたけど!!!!!!!


あ^〜うまるちゃんみて癒されるんじゃ^〜




時間は、数分前に遡る。

 

 

アーチャーは今しがた校庭の中心で魔法陣を展開してどこかに消えた、イリヤと遠坂の影を睨んでいた。

 

さてどうしたものか、と壁に背中を預けて思案する。

 

そもそもアーチャーがこの校庭に来たのは、昨日より増大していたライダーの魔力源を調べに来たというのが主な理由だ。

 

そしてその途中、遠坂の姿を見受けて気配を隠し様子を窺っていたところに、ピンク色のコスプレ衣装を身にまとったイリヤがやってきて、魔法陣を展開し何処かへ行ってしまった、というところまでがアーチャーの見たモノだった。

 

未だイリヤのコスプレ衣装について、セラとリーゼリットに今からでも言及したい気持ちをグッと抑えて先の光景を思い出す。

 

今、アーチャーの思考はイリヤの持っていた得体の知れないステッキに集約されていた。

 

星を象ったものを円環に入れ込み、その縁には鳥をモチーフにした白い羽。

どこからどう見てもオモチャにしか見えないあのステッキを、アーチャーは生前の記憶から知っていた。

 

アレは生前、遠坂が持っていた謎のステッキだ。

 

時は聖杯戦争が終わってから数ヶ月後になるだろうか。

 

そのとき士郎は、凛に部屋の掃除をしてくれと頼まれて彼女の家に行ったのだ。

 

モノが散らかり、ゴチャゴチャとした家の一室。

そこで、まとめられていたゴミ袋の中に妙なモノを見つけた。

 

凛が持っているにしてはどうにも子供っぽいオモチャのようなステッキ。

怪訝に思い、手に取ろうとした瞬間、

 

「ダメ、衛宮くん!それに触っちゃーーーーーーッ!?」

 

という絶叫にも近い声のあと、突き飛ばされた士郎が目にしたのは。

 

「マジカルルビーちゃん!参上!!」

 

驚愕のあまり顎が外れかけたのを覚えている。

 

それはどこからどう見てもコスプレ衣装としか見えない格好をした遠坂凛その人だった。

 

唖然とする士郎を置いて、彼女は自身のテーマ曲だと言うアニメソングを何時間もぶっ続けで振り付けも合わせて歌い続け、士郎の耳を狂わせた。

 

「遠坂?しっかりしろ遠坂ーーーーッ!?」

 

「ダメよ士郎、アイドルに触っちゃっ」

 

「グボッ!?」

 

ーーーーーーーーーーー。

 

「……いかんな、思い出したら頭が痛くなってきた…」

 

ジワジワと広がってくる頭痛に頭を抱えた。

 

何にしてもあのステッキが一枚噛んでるとみて間違いないだろう、と思考を区切り再度校庭を見る。

 

未だ魔力が残るそこは、確かにライダーの気配が色濃く反映されていた。

 

「………………」

 

何かを思案した後、アーチャーは膝を折って土に手を触れさせた。

 

このまま放っておいても、凛が何か手を打つだろう。自分が介入するほどでもないということはわかっている。

 

 

 

ーーーーだがそれでも彼には、彼女らを助けないという選択肢はない。

 

 

 

先の魔法陣、あれは転移の気配がした。

ならばやれるはずだ。守護者は世界に介入するもの、アラヤのバックアップもあるならば成功しないわけがない。

 

「ーーーー」

 

イメージは魔力回路を流し込むような感覚。

固有結界を作るときのイメージとよく似ている。

 

固有結界が現実を侵食するのなら、これは自分を侵食する。やることは真逆だが方向性としては同じところを向いているはずだ。

 

あとは転移した魔力の気配をたどり、そこに意識を移すだけ。

 

 

瞬間。世界と自分が乖離するような感覚がアーチャーを襲う。

肉体と精神にズレが生じ、ドンドンと引き離されていく。

 

頭から酷い痛みが走る。

下手をうつと自分が無くなってしまうような、そんな直感がする。

 

それでもアーチャーは魔力を注ぐその手を緩めない。

 

ーーーー守ると誓った。ならば、ここで足踏みしている暇などあるはずがない。

 

そして、彼はイリヤと遠坂の後を追うように鏡面界に意識を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始めに感じたのは不快感だった。

 

肌を舐めるような怖気しか湧かない、形容しがたい黒い霧。

学園の裏にある雑木林とまったく同じ光景なのに、なにか決定的に違うと断定させるほどの違和感。

 

大気に含まれるオドも、周りから漂う気配も現実のソレとは一線を画している。

 

この世の物とは思えない光景。

 

 

 

ーーーーーーまるで、十年前のあの日のようではないか?

 

 

 

「ーーーークッ」

 

そんなことがあり得るはずがない、何を馬鹿げた話をと一笑に伏した後考えを消し去った。

 

聖杯の孔が開いているわけでもない、ただ今のは気のせいだと言わんばかりに頭を振って意識を変える。

 

取り敢えず辺りを散策して現状を把握しようと足を踏み出し、

 

「ん、おっと……」

 

突然力が抜けたようによろけてしまった。

 

咄嗟に木に手をついて体を支えるが、体にはまだ言い知れない違和感が残っている。

 

ふと何かを思いついたように、アーチャーは己の姿を確認した。

 

いつもとは少し違っている高い目線。ブレた重心に力の匙加減が、いつもとは微妙にズレている。

 

それを認識したアーチャーは、確認の意味も込めて鏡を投影してそれを覗き込んだ。

 

そして、今自分がどんな姿をしているのかを見て成る程と頷いた。

 

遺骨を焼いたような灰色に、業火で炙られたように焦げた色の肌。

瞳は鈍い鋼色で、眼光は猛禽類のように鋭く尖っている。

 

聖骸布で作られた紅の外套と黒いボディアーマーを纏い、剣呑な雰囲気を醸し出す目の前の姿は、正しく英霊エミヤの姿だった。

 

先ほど感じた重心のズレなどは、長い年月この体を動かしていなかったからだろう。

これは戦士としては致命的だ。狙撃には支障はないと思うが、近接戦闘はかなり厳しい。

 

元来、達人同士の戦いというものは詰将棋に近い。初撃で決することは滅多になく、何十何百合打ち合った末に決着するものだ。

 

少しとはいえ、体に異変がある状態で臨めば一瞬で勝負がついてしまう。言うなれば一つ駒の動かし方を忘れてしまったのと同じように。

 

儘ならない年月というものに頬をかいたその時、大気が爆発音と共に揺れた。

 

それを頭で捉えることにはアーチャーはすぐに音の出所が校舎の方だと断じ、弾かれたように駆け出した。

 

ヒヤリとした風が肌を撫でる。

それはまるで紅の疾風。神速で林を飛ぶ弾丸だ。

 

「ーーーーフッ」

 

林を抜けた先にある校舎の壁を視界に入れると、足に力を込めて跳躍。そして三回の窓枠に足を引っ掛けて再度飛び、フェンスに囲まれた屋上に着地した。

 

すぐに校庭側のフェンスに張り付き、下の様子を窺う。

 

「ーーーーやはりか」

 

イリヤが黒い影の攻撃を避けている戦闘の一コマを見て、半ば予想していたかのようにそう言葉を漏らした。

 

凡そ戦いには邪魔であろう長い紫の髪を揺らし、所々相違はあるにせよ印象に残る黒いポンテージ姿で短剣を振る彼女の姿は、間違いなくライダーのサーヴァント。

 

だがその姿は、かつての彼女とは似ても似つかないものだった。

 

理性の欠片もない太刀筋に振る舞い。普段知的な様子が窺える彼女からは程遠いものだ。

 

例えるならそう、まるで狂戦士(バーサーカー)のように変貌してしまっている。

 

この際なぜこんなところに、などという疑問は些細なことだろう。

今は目の前で行われている光景に意識を向けるべきだと判断する。

 

見てみると、戦いに参加しているのはイリヤだけで、凛は校舎の陰でその様子を見ているだけのようだ。

 

たしかライダーの対魔力はBクラスだったはずだから、なるほど凛の宝石魔術では手も足も出ないだろう。

ではイリヤはどうやって戦うのだろうかと思った瞬間、

 

「極大のーーーーーーーー散弾ッ!!」

 

校庭一面を覆うほどの分裂した魔力弾が、地に向かい盛大な砂埃を巻き上げたところで謎が解けた。

 

昔、遠坂が言っていたことをふと思い出した。

『対魔力は魔術は聞かないけど純粋な魔力の塊なら効果があるの。だからセイバーの対魔力Aだって破る手段はあるのよ』

 

アンタは対魔力低いから関係ないけどね、と続けて笑っていたのを余計なお世話だと眉を顰めた気がする。

 

確かにあのやり方なら対魔力が高い彼女も仕留められるだろう、だが。

 

「ーーーーーーだがそれでは足りん」

 

一呼吸のうちに黒い洋弓と一本の名もなき刀剣を投影し、番える。

 

あれほどの広範囲の散弾ならば一発ごとの威力が自然と低くなってしまう。

それは煙のなかにまだ変わらずある気配が何よりの生存の証拠だった。

 

何より、経緯はどうあれ彼女も名を馳せた英霊。ならばあの程度の攻撃で死する道理はない。

 

「ーーーーフッ!」

 

裂帛の気合いと共に、弓に番えた(つるぎ)を今煙を切って飛翔している短剣に合わせて射った。

 

弾ける矢と剣、響き渡る金属音。

 

フェンスを宛ら障子のように突き破ったソレは、今まさに命を奪おうとしていたイリヤを助けた後、役目は終わったと言いたそうに魔力に還る。

 

下で凛が驚愕の声を上げている間、関係ないとばかりにアーチャーは瞬時に二射目を投影、弓を構えた。

 

引き戻される鎖と煙から突き出る黒い影。それに狙いを定めて弦から指を離す。

 

先ほどと同じように風を切る黒い閃光。常人ならば視認すらできないであろうソレを、ライダーは体に当たる直前で、体を捻り矢を回避してみせた。

そして此方を最優先対象にしたのか、校舎に向かって恐るべき速度で突進してくる。

 

イリヤから意識をそらすことは出来た、と内心頷きつつ三射目を放つ。

 

急停止して躱せる速度はとうに超えている。それでもそれはライダーを貫くことは出来なかった。

 

手にした鎖剣を一閃。煌めく銀色の線と鳴り渡る甲高い衝突音。

弾かれた矢は宙空を舞い、地に刺さる前に消え失せた。

 

今度は二本の矢を投影し、同時に放つ。

 

一つは躱され、もう一方は弾かれる。

だがアーチャーは射撃の手を緩めない。

 

二の次は四。

四の次は八。

八の次は十六。

 

倍々に増えていく矢。それらをライダーは鎖剣で巧みに凌いでいくが、所詮は自我を失ったモノ。

考えより先に体が反応する。正しく本能というモノだが、それでは防げない領域がある。

 

均衡は、すぐに崩壊した。

 

まるで五月雨のように降り注ぐ鏃の雨。

 

奇怪な空一面を覆い尽くすほどの鉄のシャワーに、ライダーはその機動力の素である足を食い破られた。

 

「グッ………ガァ…………ッ!!」

 

声を漏らしながら立ち止まる。

雨はそれを好機と言わんばかりに我先にとライダー目掛けて突き進む。

 

響く衝突音と地響き。最早苦悶の音も聞こえず、これで勝負は終わりのはずだった。

 

 

だが何度も言うように、彼女は英霊だ。

 

 

英霊には、必死の状況を一瞬にして覆すほどの絶対無敵の武器が存在するーーーーーー!

 

 

「ーーーーなるほど。理性を失っても宝具は使えるということか」

 

呆れたかのようなアーチャーの声。

 

その視線は巻き起こした土煙の中、突然立ち上る赤い光に真っ直ぐ固定されていた。

 

それは、身体中を剣に貫かれて血を流しながらも尚立ち上がるライダーの眼前に展開する魔法陣の輝き。

 

 

それは。ライダーのサーヴァント、メドゥーサが持ちうる中で最強の宝具。

 

 

「ーーーーくるか、ライダー」

 

 

宝具開帳を目にしたアーチャーは、それに対抗すべく、彼もまた宝具を開帳した。

 

 

投影、開始(トレース オン)

 

 

右手に収束する膨大な魔力。大気を震撼させるほどの濃密な神秘の気配が辺りを圧殺する。

 

青い光と共に現れたソレは、剣とは到底形容しがたいものだった。

 

刃もなく、刺突剣のような捩れた刀身。斬るのではなく突くような造りになっている。

 

ソレを、紅の弓兵は番えて狙いを定めた。

 

弦が音を立てて軋む。

 

秒ごとに上昇していく両者の魔力。

そのボルテージが最大になった時、宝具の真名が放たれる。

 

 

「ーーーーーーーーーー騎英(ベルレ)

 

 

声と共に魔法陣の中心に紅の眼が顕現する。

ソレはしかと己が敵に狙いをつけて、自らの主人の呼び声に答えた。

 

 

(フォー)ーーーーーーーーーーッ!」

 

 

青白い光がライダーを包み込む。それは光速とも言える推進力の表れ。

当たれば粉微塵になる天馬の一撃。それを指揮する伝説の手綱。

 

だが、それを手に取るよりも早く。

 

弓兵は、騎乗兵が馬に乗る前にそれを殺す。

 

 

 

 

「ーーーーーーーー遅い。偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)

 

 

 

 

それは、一瞬だった。

 

 

弦から離れる螺旋の剣。

 

今までの鉄くずとは違う、英霊エミヤの切り札たる究極の一が黒い騎乗兵に向かって無慈悲に放たれた。

螺旋は紅い魔力をその身に纏い、見定めた敵へと進む。

 

衝突は瞬間。空間を根こそぎ食い散らす暴力の渦は、ライダーの体をも食い荒らし。

割れる魔法陣の音と、血飛沫をも蒸発させる神秘の爆発が空間全域に轟いた。

 

そして宝具の自壊をせずとも、宝具同士のぶつかり合いで螺旋剣は砕け散る。

 

焼け焦げる黒い影。

血色の魔法陣は散り散りになり、何を放つこともなく、狂った騎乗兵はこの世から刹那のうちに姿を消した。

 

爆心地のように抉れた地面と、爆炎が舐める大地。

 

当たらないように誘導したが、それでも爆風はあったらしく、イリヤは障壁を張って凛と一緒にそれを防いでいた。

 

今度こそライダーの気配が消えたこととイリヤの無事をアーチャーは確認して、凛たちに見つからないように去ろうとする。

 

だが、飛来した魔力弾によりそれは防がれた。

 

 

「ーーーークッ!」

 

 

その音を捉えたアーチャーは、瞬時のうちに投影した干将で弾いた。

 

飛来した方向を見ると、そこには別のステッキを持った黒髪の少女と何やら指示を出しているルヴィアの姿を視認する。

どうやらステッキは二本あったらしい。

 

「…ふむ、これでは退散できんな」

 

この世界から元のところに戻るには数秒間集中しての魔術行使が必要となる。

たとえそれほど威力がないとしても、命中すれば集中は途切れてしまう。

 

このまま無視するということはできなかった。

 

投影、開始(トレース オン)

 

再度投影をして、現れた一振りの剣を弓に番える。

 

ーーーーその鏃の名は赤原猟犬(フルンディング)

狙った獲物は必ず仕留める、必殺の宝具。

 

指先に魔力を込め、アーチャーはその剣を解き放った。

 

「ーーーー赤原を往け、緋の猟犬。赤原猟犬(フルンディング)!」

 

神速をもって放たれる、鍛え上げれた錬鉄の猟犬。

 

赤原を駆ける猛犬は、主の定めた獲物に牙を剥く。

 

猟犬が喰らったのは、魔力弾を生成していた謎のステッキ。

それに猟犬は噛み付き、そのまま主の後方へと飛び去った。

 

ステッキが後ろへ投げ出された後、黒髪の少女が着ていたコステュームが溶けるかのように消え失せた。

 

信じられない、と驚愕の表情を見せる少女と、目を見開くルヴィア。

 

下を見ると、凛が観察するかのように屋上を睨みつけているのが見てとれた。

イリヤははてなマークが出るほど首を傾げている。

 

「……やれやれ。厄介なことになったものだ」

 

そう言って肩をすくませ、アーチャーは長居は無用だと現実世界にその身を戻した。

 

元の世界に帰るのは、行きほど苦しくはなく、思ったよりすんなりと成功した。

 

体を見るともうそこには英霊エミヤは存在せず、ただの衛宮士郎に様変わりしている。

 

先ほどの出来事を思い出してハァ、と不覚にも軽くため息をついてしまう。

 

どうやらまたあの二人は厄介ごとを持ってきたらしい。

 

これでは時計塔にいた時と、なんらかわっていないではないかと肩を落とした。

 

「なんにせよ、明日は少し忙しくなるな」

 

 

 

黒い霧が消え、清涼な風に変わる頃。

 

 

 

見上げた空には、じき満月になろうとする月が、眩しいほどの明かりを地に降りつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライダーのクラスカード回収完了。

 

 

 

 

 

 

 

 




UMAじゃないよ!うまる!!!

というわけで8話終わり。どうでもいいけど8話ってちくわに聞こえる。

最初から最後までこれ書く意味あったのかってほどの蛇足感が否めない。途中で力つきるほどの文だった(小並感

未だに三人称のコツがわからないから誰か教えろください(遥か高みから














「シロウ。すまほというものがほしいのです」

「はい?」

「ですから、すまほです。すまほ」

「いやそれは知ってるけどさ………なんで?」

「それはですね。近頃fate/Grand Orderというゲームがすまほで出たらしいのです」

「いわゆるアプリってやつか。それをやりたいのか?」

「はい!聞けば私ことアーサー王や不肖の息子やマーリンまで出るそうではないですか!」

なおランスロットは忘れ去られた模様。

「でもスマホもタダじゃないからなぁ……」

「……………お金、ですか」

「あぁ、遠坂がガンド数発分の宝石を出資してくれればなんとかなるけど」

「………世知辛い世の中ですね。わかりました、暫しそこで待っていてくださいシロウ」

「え?ちょっ、鎧着込んでどこ行くんだセイバー!?!?」

「いえちょっと教会に巣食う金ぴかを退治してきます」

「は、早まるなセイバー!!アヴァロンは持ったのか!?」

そこかよ。

「はい!!!もちろん!!!!!」







続く。



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【9】迷える子羊

GOまだ?あ、まだですか知ってた。

オープンキャンパスとかで忙しかったから更新遅れました弁明終わり!!!!!

今度からは更新遅れたりしません!!もし遅れたら木の下に埋めてもらってもいいよ!!!!





 

ーーーーーーー少し、懐かしい夢を見た。

 

 

 

久方ぶりにあの体を動かしたからだろうか。

それとも彼女に出会ったからだろうか。

 

かつて、彼女に問いかけられた言葉を思い出していた。

 

 

 

『ねぇ、アーチャー。………自分のしてきたことを、後悔したことってある?』

 

 

 

俯きがちにそう言葉を紡いだ彼女に、私は黙って次の言葉を待つ。

 

『私は、出来ればしたくない。でもそれってきっと難しいんでしょうね、きっと……私が考えている以上に』

 

自分のしてきたこと。

つまりは自身が辿った道のり。

 

それを後悔するか?と彼女に聞かれた時、私は何故それを問いかけられたのかがわかってしまった。

 

彼女はきっと見たのだ。

 

私の結末を。英霊エミヤの最後を。

無数の剣が突き立てられた紅い荒野で、理想を呪った一人の男の物語を。

 

今は断片的でも、いずれ全てを見てしまう時が来る。

 

その時、この問いかけは無意味と化すだろう。

 

何しろ最初から答えは出ているのだ。

今更問われることもない。

 

それをわかっていながら、私は意思に反して動く口を止めなかった。

 

 

『出来る者もいれば、出来ない者もいる。

とりわけ君は前者だ。その手の人間は、まず誤ちなど冒さないし自らの誤ちを考えることもない』

 

 

自身の行いを悔いる。

即ちそれは、自身の否定に他ならない。

 

自己否定とは、元を遡れば自分を形取る"芯"を否定するということになる。

 

それは心であり、信念であり、また理想でもある。

それをする人間というのは、誤ちを自覚しつつも冒す人間だ。

 

自己満足の正義のために人を殺し、願いを、思いを踏みにじってきた人生だった。

 

当然私はそれを後悔した。

 

当たり前だろう。人の笑顔を見たかったのに、結局人の泣き顔しか見ることができなかったのだ。

これの何処が私の望んだ理想だというのだ。

 

略すと簡単なことだ。

 

彼女は前者で、私は後者だった。

それだけのこと。

 

 

『鮮やかな人間というのは、人より眩しいモノを言うものだ。そういった手合いにはな、歯を食いしばる暇などないんだよ』

 

 

私の知る彼女は、いつだって輝いて見えた。

 

それは単に容姿が綺麗、というわけではない。

彼女の言動、振る舞い、信念。それら全てが、他人を惹きつけて止まなかった。

 

 

『そして君は、間違いなくそういう人間だ。

遠坂凛は、最後まであっさりと自分の道を信じられる』

 

 

そう、彼女が歯を食いしばり嘆いたことを私は見たことがない。

 

それは、自分に確固たる自信というものがあったからなのだろう。

私にはなかったものだ。

 

ーーーーいや、正確に言うと、失くしてしまったという方がいいだろう。

 

最初は信じていた。

自身の理想を、切嗣から受け継いだ正義の味方を。

 

だが、それは徐々に疑いに変わり、最後には後悔になった。

 

醜悪な正義の体現者。

その姿は、周りからはどう映っていたのだろうか。

 

 

『ーーーーーーーじゃあ、貴方は?最後まで、自分が正しいって信じられる?』

 

 

容易に予想できた問いかけ。

 

それを、私は当たり障りないよう躱すことが出来たはずだ。

 

だが、私は合わせていた視線を逸らし、彼女に背を向ける。

 

まるで、自分は君とは違うといったように。

 

 

『ーーーーいや、申し訳ないがその質問は無意味だな。忘れたのか』

 

 

最後まで自分を信じられる?と彼女は問うた。

 

なら、私の答えは一つだ。

 

 

 

『私の最後は、とうの昔に終わっている』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正午時。

 

あるものは挙って学食に特攻したり、またあるものは弁当ないしはコンビニで買ったパンなどで昼食を済ませている頃だろう。

 

それはここ、穂群原学園でも同じである。

 

 

春時にしては少し暖かい風が頬を撫でる。

 

三寒四温という言葉通り、昨日は気温が低かったから今日は暖かいのだろう。天気予報でも最高気温は昨日よりも2℃ほど高めだったのを覚えている。

 

今はお昼時。

いつもなら生徒会室で一成と一緒に食事をしている最中だが、生憎と今日は勝手が違っていた。

 

照りつける柔らかな陽射しの中、士郎は屋上に設置されてあるベンチに腰を下ろす。

 

そして後ろ目で、眼下に広がる校庭をチラリと視野に入れた。

 

「…………………」

 

思い出されるのは昨日の出来事。

 

突然帰ってきた凛とルヴィア。

サーヴァントの実体化。

謎の異世界。

 

 

そしてーーーー。

 

 

「イリヤ、か…………」

 

ポロリと口から懐かしい妹の名前が漏れた。

 

まさか久しぶりの再会があんな格好で叶うとは士郎も予想していなかったらしい。

 

一瞬コスプレ趣味に目覚めて深夜街を徘徊しているのか、と思い胃が痛くなったがどうやらそういうことではないらしい。

 

士郎は苛立たしげに腕を組み、背中をフェンスに預ける。

 

元凶はやはりあのステッキだ。

あれが鍵を握っている気がする。

 

だが直接凛たちに問いただすわけにもいかなかった。

 

何せ今彼女らが何処にいるかもわからない状態だ。

問いただすも何もまず居場所が割れないことには何も始まらない。

 

なにより、昨日の感触からすると、アーチャーは敵として扱われていると士郎は断じていた。

 

「グラウンドには、もう魔力は消えているらしいな…」

 

目下に広がる校庭には、昨日まで色濃く漂っていたメドゥーサの魔力は存在せず、いつも通りの姿を取り戻している。

 

そこには昨日の先頭の爪痕など欠片もなく、あれが本当に違う世界なのだということを改めて実感させられた。

 

「…………ふぅ」

 

肺に溜まった空気を吐き出し、気持ちを切り替えるように新鮮なものと入れ替えた。

 

これ以上考えても仕方がないだろう。情報が少なすぎる。

 

膝に置かれていた手を動かし、ポケットから携帯を取り出す。

 

そしてアナクロな凛とは違い、慣れた手つきで操作して、電話をかける。

 

いずれ近いうちに会う予定だったのだ、それが早まったところでどうとでもなるだろう。

 

「だが……会う人物が人物だからなぁ………」

 

これからまた胃の痛くなるような話になるな、と眉を顰めて電話に出た彼女に予定を聞く。

 

通話相手の名前欄には、カレン・オルテンシアと明記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなのよアレ(・・)は!!!」

 

 

同時刻。

あるものは昼食の準備、またあるものは昼寝やドラマを見ている時間帯の住宅街。

 

そこに建ち並ぶには場違いすぎる巨大な洋館に、窓ガラスを割るような大音量で怒声が響き渡った。

 

その声の主である遠坂凛は、まさに怒髪天つくといった様子で荒々しく革張りのソファに腰を下ろす。

 

そんな彼女の様子を見ていたルヴィアはかけていた眼鏡を外した後、ため息をついて

 

「私の邸宅であんまり大きな声を出さないでくれます?家の中にゴリラを飼っている、とでも思われたらマトモに外を歩けませんわ」

 

「アンタねぇ………!」

 

普段に比べてキレが一段と強い毒舌に、凛が額に青筋を立てる。

だがやはりルヴィアも少なからず頭にはきているようで、その質の一段と悪い言葉がソレを物語っていた。

 

「だったらアンタも何か対策を考えなさいよ。あの昨日現れた黒化英霊についての、ね」

 

「………それが出来てないからこうやって座っているのでしょう?」

 

「……………………」

 

書斎内に落ちる沈黙。

重い空気に支配される室内は、まるで彼女たちの心情を表しているかのようにも思える。

 

その時、ノックと共にガチャリと扉が開く。

 

視線を向けると、そこにはルヴィア御付きの執事であるオーギュストが盆に紅茶と茶請けを乗せて入ってくるところだった。

 

それらを机に並べると、この重苦しい雰囲気を察したのか、老執事は空気を読んで静かに退出していく。

 

今しがた置かれた淹れたての紅茶を一口含んで、鬱屈した気持ちを変えるように言葉を開いたのは、当然とも言うべきか凛であった。

 

「……もう一度、状況の確認から始めましょうか」

 

ルヴィアは無言を貫く。

沈黙を肯定と受け取ったのか、元から置いてあった、厳粛な書斎には少々合わないホワイトボードにペンで現在の状況を整理していく。

 

「まず第一に、回収できたクラスカードはアーチャー、ランサー、ライダーの三枚。でも今の所使える限定展開武装はランサーのみっと」

 

ホワイトボードに記入した後、凛はやれやれと肩をすくめる。

 

先のクラスカード回収の際、ルヴィアとの壮絶なジャンケン勝負の末、ライダーのカードを手にした凛であったが、それをイリヤに限定展開させると同時に天を仰いだ。

 

召喚されたのは、ライダーが振るっていた鎖剣。

英霊の持つものであるが故、神秘はある程度内包してはいたが宝具という定義には当てはまらない一品だった。

 

依頼人である宝石翁から受け取った二枚のクラスカード、アーチャーとランサーに関してはアーチャーは役立たずとすでにわかっている。

 

残るはランサーのクラスカード、アイルランドの光の御子であるクーフーリンが誇る呪いの槍『刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)』が、こちらの手札となるわけだがーーーー。

 

「……明らかに戦力不足。これで今日の黒化英霊を打倒できるか、と言われると正直首を傾げざるを得ませんわね」

 

ルヴィアが、今は自身が保護した名義上の義妹である美遊に預けてあるランサーのカードを脳裏に浮かべ、皮肉気に顔を歪ませた。

 

通常ならば並みの魔術師、それ以上の封印指定執行者ですら英霊の一撃を受けてマトモに生きてはいられないだろう。

 

だが彼女は相手にしているのは曲がりなりにも神話に記載された神秘を有する人外、英雄である。

英雄を打倒するのは同じ英雄であり、もし今日対峙する英霊がクーフーリンより格上の場合、刺し穿つ死棘の槍が受け切られる可能性もあるのだ。

 

それも加味するとなると、もう一つ宝具が必要となる。

だが使える手札は一枚。安易に切ることができない。

 

つまり、後手に回らざるを得ない。

しかしもし初手で刺し穿つ死棘の槍を使い、外した場合は?

英霊を殺す手段は、対魔力を貫通する魔力弾でも確かに事足りる。しかし、戦闘力とくに一撃の威力、突破力は格段に落ちる。

 

余裕がないということは、想像以上に重いことなのだ。

 

「第二に戦闘能力に若干の不安が残るということ。アンタのところの………美遊、だったっけ?あの子、飛べるようになったの?」

 

投げかけられた問いに、ルヴィアはゆっくりと首を横に振った。

 

即席の魔法少女。これがまた彼女らの足を引っ張り、重石となっている。

 

ルビーとサファイアという特級の魔術礼装が凛とルヴィアというマスターを裏切って、イリヤと美遊というマスターを見出したのがそもそもの原因だ。

 

素養は確かにある、それは彼女らの目から見ても間違いないだろう。

だが素養だけだ。せっかくのダイヤの原石も磨かなければ意味がないのと同じこと。

 

その研磨期間が足りない。

戦闘能力も、判断力も、知識も、何一つとして凛たちに勝るものはなかった。

 

昨日の戦闘。応用である空中浮遊さえ出来れば、跳躍以外に対空能力がなかったライダーをあっさりと仕留めれたはずだ。

 

終わった後何故かイリヤだけはあっさりと出来ていたが、美遊の方はそうもいかなかった。

 

人間が飛ぶ、というイメージが頭の中で思い描けなかったのだろう。魔法少女とはイメージだ、浮遊という明確で強いイメージを持たなければ飛ぶことはできない。

 

凛は思い出すと再燃してくる礼装達への怒りに、地団駄を踏んで紛らわす。

元々は彼女らが喧嘩さえしなければよかった話なのだが、そも礼装が意思を持つなどということが前代未聞だ。

 

こんな事態誰が予測できただろうか。割と予測できた、反語。

 

「そして最後……」

 

一旦言葉を区切った後、腸で煮えた怒りをぶちまけるようにホワイトボードを力任せにぶっ叩いた。

 

 

 

「昨日の黒化英霊のことッ!!!なんだってのよアイツ!」

 

 

 

怒りのあまり、手にしていたペンがバキリと音を立てて中央から折れる。

 

怒髪天といった凛の様子をみたルヴィアは、心底鬱陶しげに、

 

「だからあまり大きな声を出さないでくれます?ドラミングがしたいのなら動物園に行ってはいかが?」

 

「喧嘩したいならそう言えばいいじゃない」

 

すぐさま両者が互いの宝石を取り出し、臨戦態勢に入る。

こういう点がステッキに見限られたところではないのだろうか。

 

緊迫する空気。

だが意外にも先に矛を下ろしたのはルヴィアであった。

 

「……カレイドの能力を大きく上回る戦闘力、そしてライダーの宝具を正面から打ち破った力。何を取っても一品級の英霊ですわね。」

 

「そして自身で空間を移動できる能力を持っていて、尚且つその戦い方はアーチャーに酷似している………か」

 

「アーチャーのカードは今誰が?」

 

「イリヤに持たせてあるわ。限定展開をしてみたいって言ってたけど、正直なんの能力もない弓じゃ役に立たないのよね」

 

手詰まりと言わんばかりに腰をソファに落ち着ける。

その顔は苦虫を噛み潰したように苦渋に塗れていた。

 

「でも一つ疑問がありますわ。昨日のあの状況、あちらは間違いなく我々全員を抹殺できたはずですわ。それをしなかったのは……」

 

「出来なかったのか、それともすると不都合があってしたくなかったのか……」

 

昨日のあの状況。アレは彼女らにとって間違いなく死地であった。

 

美遊のカレイドステッキは後方に飛ばされ、実質イリヤとの一騎打ち。

そしてアーチャーには絶対的に有利なリーチで相手は陣取っていた。殺そうと思えば、一瞬のうちに凛たちの命は終わっていたはずだ。

 

だが生きている、正しく言えば生かされている。

 

「戦い方もそうだったけど、間違いなくアイツには理性がある。そうなると今回の任務で一番の障害はあのアーチャーよ」

 

前提として、黒化英霊というのは理性を失って本能で動いている。

だから魔術師でも、ステッキという礼装に頼れば勝てる見込みがでてくるのだ。

 

しかし、凛の脳裏に浮かぶのは昨日の戦い。

 

詰将棋のように、淡々とライダーの回避場所を狭めて、追い詰めていくスタイル。

アレは理性がないとできない戦闘だ。

 

「どうしますの?」

 

「どうするも何も、此方から打てる手なんてないんだからあっちから来てくれるのを待つしかないわ。今日にでも来てくれると手っ取り早いんだけどね」

 

凛はそう言った後、窓から空を見上げた。

 

 

 

ーーーーーーー太陽はじきに沈み、夜が来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日と真逆の、冬場のように冷たい風が肌に刺さる。

 

太陽は地平線の彼方へ沈み、代わりに月が出ている。夜の緞帳に覆われた空には、雲に覆われて今は見えないが、今日はきっと満月だろう。

 

凍える体を手でさすり、士郎は眼前にある建物に視線を向けた。

 

外からでもわかる荘厳なステンドガラス。

場に漂う聖なる雰囲気は、建物の頂点に飾られている十字架が力場の中央だ。

 

 

言峰教会改め、オルテンシア教会。

それが近年新しく改築されたこの教会の名前だ。

 

 

正直士郎は、ここにあまりいい思い出はなかった。

この世界に来てからはここに足を踏み入れたことは少ないが、生前ーーーー特に聖杯戦争の時は悪い意味で性悪神父にお世話になった覚えしか出てこない。

 

現在の教会の主は神父ではなくシスターなのだが、本性は寧ろ場合によっては神父の方がマシなのではないかというほど酷いものだった。

今から彼女に会いに行くと思うと、自然に足取りが重くなるのを感じる。

 

腕時計を見ると、短針は文字盤の十を指し示していた。

 

気持ちを切り替え、予め連絡しておいて開けていて貰った鉄格子の扉から、中に入る。

そしてよく手入れされた庭を通り抜け、木で出来た教会のドアをあけ開いた。

 

白で統一された懺悔の間。

夜ともなると参列の席には無人になり、普段なら人の気配がしないそこは、今日ばかりは勝手が違った。

 

燻んだ銀の髪を揺らし、黒のシスター服に身を包んだ女性は、その黄金の瞳でこちらを一瞥した後口を開いた。

 

 

 

「ようこそオルテンシア教会へ。待ってたわよ捻くれ凡人」

 

 

 

 

 

 

 

 







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