リミットラバーズ (ホワイト・ラム)
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リミットラバーズ特別短編集!~ある意味ここは無法地帯~
特別短編No1


さて、今回はUA2000突破記念の短編です。
一応本編でもリンクしているのでお楽しみください。


女々しくてナヨっとした男、口先だけの女、狡賢しいヤツ、後こんにゃく。

この世には俺にとって気に入らないモノが多い、まあ気に入らなくても基本的に無視すればいいだけなんだが……そうも言えない奴も偶には有る、たとえば……

 

「……坂宮 夕日です……よろしく……」

 

目の前のコイツみたいにな!

 

事の始まりは2日前、ゴールデンウィークを利用して日本の主要な温泉をまわるっていう、疲れを癒しにに行くにか溜めに行くのかわからん休暇の過ごし方してたんだが、俺のかーちゃんのケータイに着信が入ったみたいなんだ。

んで、次の日俺のかーちゃんが言ったんだよ。

「アンタに妹出来たよ」

先ず訳がわからなかったね、妹?昨日旅先で新しく製造したのかってね、いやー俺ももう小学生じゃねーし?無条件に兄弟ができることを喜んだりしねーのよ、つか今産んだら年齢差が有り過ぎるしな……

だがそうじゃ無かった、なんと大学時代の後輩の姪を預かるらしい。

我が母親ながら大胆というか、どっかおかしいというか……犬猫預かるんじゃねーんだぜ?ま、一回かーちゃんが決めたことはどーしょもねーんだがよ?とにかく旅先に呼んで落ち合う事になったんだよ。

 

電車から降りてきたヤツを一目見て思ったね「あ、コイツ気に入らねー」ってな、なんていうか「守られている」タイプの人間なんだよ、他人に助けられて生きているのが当たり前みたいなタイプ。

あ?いいじゃねーか、どっかの善人ぶった奴みたいに「誰とでも仲良く~」なんて言うつもりか?そんなんで仲良く出来たら戦争なんて起きねーんだよ!どうしても気に食わない奴ってのは絶対居るんだよ。

話を戻すぞ?そいつの第一印象は「人形みたいなヤツ」だった、見た目だけならそこそこ美人だからな、その見た目も相まってそう感じるのを後押ししてたみたいだな、けどなんか生きてる感じがしないっていうのか?無機質っていうのか?良くできた人形が人間のフリしている感が有るんだよ、それが俺にはとにかく不気味だった。

んで最悪なのはここからだ、俺はその不気味人形としばらく二人で街の中を散策することになったんだ。

明後日には家に付かなくちゃいけないんだが、かーちゃん曰く帰りのルートで買う土産物を調べているらしい、どーしてそんな事で時間食うかね?俺にはトンと理解できねー。

 

「おい、おまえ」

俺は不気味人形に話しかけた。

「……ん?」

今までどこ見ていたわからない、そいつの眼帯をしてない方の目が俺の方を向いた。

「聴いてのとおり、俺達二人でしばらく街中見て来いってよ、はぐれんなよ?」

「……ん……わかった」

不気味人形はそういって頷いた。

ぼそぼそしゃべって、しかも声が小さい、気に入らないポイントその1だな。

最初に二人で腹ごしらえすることにした、テキトーに街歩いてたらラーメン屋があった、いちいちどっかのレストランとか入るのもメンドイから、そこにした。

そこで俺はふと思ったんだ、この不気味人形はラーメンを食うのかってな?ラーメンやバーガーなんて食ったことないようなヒョロヒョロ体型、ひょっとしたらどっかの漫画みたいに「これ、どうやって食べるの?」って聞いてくるかもしれないって思ったんだ、いま思えば我ながら馬鹿だよな~

「いちいち探すのメンドイからここで良いよな?」

俺は不気味人形に話しかけた、相談じゃなくて決定したっていう報告だがな。

「……ん……わかった」

不気味人形は俺の後をついてラーメン屋に入った、ラーメン屋はガヤガヤしてゴチャゴチャして店員が「らしゃーせ!」っていい声であいさつしてきたし俺好みの内装だった、話少し変わるけど壁に貼ってあった「冷やし中華滅びました」はマジに爆笑しかけた。

カウンター席に座って、不気味人形に注文を聴く、俺は何処でも味噌チャーシューか豚骨の大盛りって決まってるからな。

「……しょうゆで」

店員は俺たちの注文を聞いたあと、厨房に戻っていった。

しかししょうゆか、塩みたいなシンプルさもないし、味噌みたいな深味もないし、豚骨程のインパクトもない、コイツラーメン音痴だな気に入らないポイントその2だな。

困ったことに注文を終えた俺にはコイツと話す話題が無かった、向こうも黙ってるまんまだし、そういうことは気にしない方がいいみたいだった。

 

手早く腹ごしらえを済ました俺たちは、そのまま適当にぶらつく事にした。

コンビニで立ち読みしたり、河原で水切りしたりしていた、全部俺しかやらなかったがな!

何をしていてもホントにそいつは表情一つ変えなかった、たぶん今までならどっかの誰かがその心情を察してなんかしてくれたんだろうが、俺にそいつを求めるのはお門違いだ、自分で主張しない奴はもともと好きじゃないし、周りが何とかしてくれるのを待ってるだけの奴はもっと気に食わない!

「お!今12回いかなかったか!?」

思わず自分の記録を塗り替えちまった!俺は確認のため不気味人形に聞いてみた。

「……見てなかった」

あー!使えねーな!

俺は次の一投に向けて新しい石を探し始めたが……

「……ちょっと行ってくる」

不気味人形が突然走り出した。

「あ!お前どこ行くんだよ!」

そいつは河原の端に居るやつの所に走って行った。

「おい!今日の金は?」

「さっき1000円だして……」

「足りるかよ!?休み中だろ?バイトして稼げや!」

「ぎゃはは!ゲームソフト売らせればどうだ?」

河原の端にはこれまた俺の嫌いなタイプのナヨットしたデブとキッタネー色に染めた髪の毛の二人組がいた、体格的には高校だなイジメか?あの歳でまだやってる事はガキだ。

何を考えたのか、不気味人形がその男の所に向かってるみたいだ。

「……やめなさい!」

不気味人形が男たちの間に入り込んだ、馬鹿が!喧嘩していい相手の判断も出来ねーのかよ!不気味人形の腕は一発蹴れば折れちまうような細腕、拳の握り方からして格闘技どころか喧嘩自体したことのねーのが一発で解る。

「なんだお前?なんか用かよ!?」

「ん~俺達になんか用ですか~」

完全に馬鹿にされてやがる……俺には関係ないからしばらく様子を見ていたがとうとうバカ高生どもにキレられたみたいで不気味人形が蹴られた、それでおとなしく帰った来ると思ったら様子が違う、不気味人形のヤツ何度蹴られてもバカ高生に向かっていきやがる。

もやしの癖によ、根性ありやがる。

そーゆー奴は俺嫌いじゃあねーんだわ!

「おい!バカども!そこまでにしろ!」

俺は夕日を庇うようにして、馬鹿高生の前に立った。

「あー、なんだよ、次から次へと?」

「おおー勇ましいね?」

近くで見たらわかるけどコイツら見てるとイラつく顔してやがる、特に二人目。

「あー、ハイハイそんなん良いから、チャチャッと来い!えっと……ウシとカエル!」

「「てぇんめ!よくも!」」

第一印象でニックネーム付けたがどうやらクリティカルで癪に障ったらしい、芸人張りのリアクション芸を見せてくれた、コイツら芸人になった方が金儲かるかもな。

なーんて事を考えてるうちに、ウシカエルは俺にぼっこぼっこに、のされていた。

コイツらなんちゃって不良だな、雑魚……

「こいつ!殺す!」

カエルの方が懐からバタフライナイフを取り出した。

一昔前の漫画みたいな武器だが危険な事には変わりない。

さーて、ドウすっかな?

そんな心配をよそに隣にいた夕日がケタケタ笑い出した。

「あはぁ!……ナイフだぁ……せーとーぼーえーせーりつぅー……!」

チキ……チキチキ……チキチキ!

夕日は自分のズボンのポケットからデカいカッターナイフを取り出した!

おいおいおい!アイツ今日一日ずっと持ってたのか!?

そん時俺はマジに「コイツはヤバイ!」って思った。

だってすんげー笑顔なんだぜ!?そんですんげー怖いんだ!

それ見たバカ高生どもは逃げてった、俺も逃げたかったけどよ……ちなみに最初に蹴られてたやつは5000円を黙って夕日に差し出してた、持ってたんだな。

 

いじめられたデブは置いといて俺は夕日に話しかけた。

「お前、なんであんなことしたんだ?喧嘩自体した事ねーだろ?」

「かわいそうだったから……」

夕日はさっきとは打って変わって最初みたいな静かな声で言った。

「かわいそうって……おまえ」

「……この前自分を犠牲にして私を助けたくれた人がいる……その人に酷いことをしたけど……その人は許してくれた……私はその人に強くなるって約束した……だからあれはその一歩目」

夕日はやたらはっきりした人間味のある表情でそれを言った。

「ふーん、そいつすげーな、けどあんまヤバイ事はすんなよ?正直見てらんねー、イザとなったら俺を呼べ、ちょっとだけ助けたやんよ……まあなんだ今日から姉妹なんだからな」

「……うん」

夕日ははっきりと頷いた。

「ま!いきなり姉貴って言わせんのはハードル高いよな、俺の事はハイネって呼んでくれ」

「……ハイネ?」

夕日がオウム返しする。

「そ!本名は天音(あまね)なんだが……なんかこっちの方がしっくりくるんだ、本名じゃねーがみんなそう呼ぶ」

余談だがあのカッター刃は前後ろ逆で正しい方向からは切れないらしい、「逆刃刀かよ!?」って突っ込んだら知らないらしい、マジかよ……二重の極みとか牙突とか練習したことないのかよ……

まあちょっとだけ、夕日の事が嫌いじゃなくなったオレでしたっと。

 

「そういえば夕日お前誕生日は何時だ?盛大に祝ってやるよ!!」

「……4月13」

「え!?」

俺の誕生日は9月9日つまり……

「……私の方が年上……姉貴って呼んでいいよ?」

「ゼッテー呼ばねー!」

やっぱりコイツは気に食わない!




ハイ!お楽しみいただけましたか?
本日ついに天峰の妹の名前が決定しました!
応募してくれた方ありがとうございます!


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特別短編No2

今回は木枯ちゃんの短編です!
どうぞお楽しみください!


一人の幼女がバタバタと自分の部屋を動き回っている。

「あれー?パチモンのソフト何処だっけ?」

幼女の名前は森林 木枯(もりばやし こがれ)

探しているのは大人気RPGの「パチットモンスター」(パクリじゃないよ?)である。

「うえーん!見つかんないよ~!」

明らかに無いであろう本棚の奥まで探し始める。

その時、本の一部が崩れ床に落ちた。

「あ!お兄ちゃんの部屋かも!」

そう言って木枯は自身の部屋から出て行った。

床に落ちた本がパラリと風でめくれる。

 

 

~木枯ちゃんのにっき!勝手に読んじゃダメだよ?~

 

A月Q日

今日から3年生!もうわたしもおねーちゃん!

エッヘン!えらいんだぞ!

うわぐつ持ってくの忘れた……明日は持ってかないとね!

 

A月W日

今日私のクラスに転校生が来た!

がいこくじんみたいだけどハーフって言ってた!

庭でそだててるミントの知り合いかな?

 

A月E日

どうやら転校生はミントは知らないみたい。

あんまりにてないしね!

 

A月R日

今日はまどかと遊んだ。

一人でさみしそうだったから!

「よけいなおせわです!」って怒られちゃった。

友達と遊ばないなんてもったいないな。

 

A月T日

うーん、今日は特になんもなし。

 

A月Y日

今日まどかが男の子のMくんとケンカしていた。

クラスで飼ってるハムスターをバカにしたんだって。

ハムスター好きのBちゃん泣いてた。

あれ?なんでBちゃんが泣いたらMくんが怒こるんだろう?

うーん、私がバカにされても誰も怒らないのに……

 

A月U日

今日もMくんとまどかはケンカしてるみたい。

仲直り出来ないのかな?

今日の給食はカレーだったおいしかった!

 

A月I日

今日は不思議な事が有った。

まどかのうわぐつが無くなったらしい。

使ったら元の場所に戻さないと。

まどかもバカだな~

 

A月O日

最近クラスが変な感じ……

何だろう?

 

A月P日

今日は休み時間にLちゃんと遊んだ。

Lちゃんは私ともよく遊んでくれるし、クラスで人気者なんだよ!

「あの子じゃまじゃない?一緒に無視しようよ」って言ってた

あの子って誰だろう?

よくわかんないや。

 

S月Q日

今日はまどかがお休みした。

先生は風邪って言ってたな~

かわいそうに。

先生がプリント持ってって言ったけど誰も手を上げない。

どうしたんだろう?

仕方ないから私が行くことになった。

プリンおいしかった。

 

S月W日

今日はLちゃんに怒られた。

「あの子と私達どっちに付くの?」だって。

何が言いたいんだろう?

今日もまどかは学校に来なかった。

やれやれ今日もプリント届けなきゃ。

今日はゼリーだった、おいしかった。

 

S月E日

イエーイ!まどかがついに復活!

クラスのみんなが揃ったよ!

どうしてみんな残念そうなんだろ?

 

S月R日

今日は特になし、平和な一日だった。

 

S月T日

あの日以来まどかと一緒に帰る事になった。

休み時間とかも良く話すよ!

 

S月Y日

またLちゃんが言ってきた。

こっちあっちってなんなの?

みんなこのクラスの仲間じゃないの?

 

S月U日

何だろう?

最近みんなが私に冷たい。

バカにされる事は前から有ったけど。

それども前よりやな感じ。

 

S月I日

今日、LちゃんやBくんMちゃんが朝一で私に謝ってきた三人して「無視したりいじめたりしてごめんなさい!」って言ってた!私いじめられてたの?知らなかった!

その後まどかが三人をドゲザ?させてた。

Mくんの頭に足とか乗せてすごいうれしそうだった。

楽しいのかな?

今度頼んでやらせてもらおう!

 

S月O日

今日はMくんのお兄ちゃんも一緒にまどかに踏まれてた。

まどかが「返り討ちにしてイヌが増えましたわ」って言ってた。

犬なんていたっけ?

Mくんが少しうれしそうだった。

足を乗せられるとうれしいのかな?

今度聞いてみよう!

 

S月P日

今日はまどかとお買い物をした。

危ないからってお兄ちゃんも一緒!

そしたらデパートでお兄ちゃんの友達の山重さんにあった。

この人暑苦しいし正直苦手……

まどかは好きみたいだけど……

 

D月Q日

もうまどかと会って3ヶ月か!

早いもんだなー。

 

D月W日

今日は特になし。

 

D月E日

今日まどかが山重さんと話してるのを見た。

まどかはオヤジ趣味カナ?

 

D月R日

今日は特になし

 

D月T日

今日まどかが言った、イギリスに帰るんだって。

なんでって聞いても教えてくれない。

私がバカだからかな?

 

D月Y日

明日でまどかと一緒に帰るのも最後かもしれない。

今日は一緒に帰れなかった。

まどかは私の事どう思ってるんだろ?

私はさみしいよ。

 

D月U日

明日でまどかともお別れ、中学生まで一緒に居られると思ったのに……

やだよ、もっと一緒に居たいよ。

 

D月I日

今日はまどかのお別れ会だった。

みんなでお別れ会をした。

やっぱりずっとはいられないんだね。

まどかはあっさり私の前からいなくなった。

 

D月O日

今日からまどかはいない、まどかの使ってた机だけが残ってた。

イギリスは遠いから、きっと私の足じゃいけないな。

それに日本より広いから、きっと見つけられないんだろうな……

 

D月P日

なんだか学校がつまらない、もっと面白かった気がする。

まどかがいないからかな?

おかーさんは「すぐに忘れるわ」って言ってたけど私はまどかの事忘れたくないよ……

 

F月Q日

まどか……今どうしてるのかな?

怒鳴り声でもいいから、またお話ししたい……

 

 

 

 

この日以降日記はもう、つけられていないようだ……

 

ドタドタと足音を立てながら木枯が部屋に入ってくる。

「うえーん!やっぱり無い!どこに入れたっけ?あ!思い出した!机の引き出しだ!」

自身の勉強机の引き出しを開ける。

「有った!有った!」

そう言って中ならゲームのソフトを取り出すと、今度はしっかりと机を閉め部屋から出て行った。

机の中は木枯にとっての宝箱、大切な物がそこにはしまってある。

先ほどの日記も数日前まで机の中にしまってあったが、今は代わりに手紙が一通入ってる。

その手紙の送り主は、木枯の親友。

 

木枯が玄関を開けると、家の目の前にリムジンが停車している。

「何をぐずぐずしてましたの!?」

金髪碧眼気の強そうな顔。

「えへへ~ごめんごめん、借りたソフト返そうと思って……」

木枯が笑いながらソフトを差し出す。

「そんな事より!山重お兄様は確かに{雷獄軒}に居るのですよね!?」

見た目にたがわぬキツイ感じで言う。

「もっちろん!さっきおにーちゃんから電話有ったもん!」

「さて!なら行きますわよ!乗りなさい!」

「うん!」

あの頃と同じように二人は今でも仲良し!

 

なお、木枯が道を間違えて。

「アナタ胸に脳みその中身吸われてるんじゃありませんの!?この出涸らし!」

と怒鳴られるのはもう少し先の話。

 




日記形式に挑戦してみましたが……いやー難しい。
まだまだ短編のリクエスト待ってます!


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特別短編No3

今回は藍雨編です。
時系列は2部が終わって少したった位だと思ってください。
それではお楽しみを。


「ふわ~あ……朝ですか……」

とある家の布団で一人の少女が目を覚ます。

そのまま自身の目覚まし時計を確認する。

6時25分、セットしていた時間よりも5分早く目が覚めた。

本日は日曜日、布団の中で二度寝をしても誰にも咎められる事は無いが、生活のサイクルは変えたくない。

自分の寝ていた布団をたたみ押し入れにかたし、パジャマを着替える。

「散歩に行ってきます」

「7時までには帰ってくるのよ?」

「解りました!」

台所で朝食を作っている母親に挨拶をし、散歩に出かけた。

「今日は曇りですか……お昼まで何とか持ちますかね?」

そう言って空を見上げる。

彼女の名前は晴塚 藍雨(はれつか あめ)志余束小学校に通う6年生!

「おはよう!藍雨ちゃん!」

「おじさん、おはようございます!」

すれ違った近所の男性に声を掛けられる。

朝の散歩は彼女の日課、そのため同じく散歩に来ている人とは顔見知りなのだ。

少し小走りで公園に向かう藍雨、公園を一周して家に帰るのがいつもの散歩コースだ。

 

 

「ただいま帰りました」

玄関を開けると味噌汁の良い香りがした。

「お帰りなさい、ごはん出来てるわよ?」

母親が出迎える。

「すぐに手を洗ってきます」

そう言って洗面所で歯を磨き手を洗う、人によって違うらしいが藍雨は朝食前に歯を磨く。

「おまたせしました」

藍雨が茶の間に入ってくるとすでに、ちゃぶ台の上に白米、味噌汁、厚焼きたまご、焼き鮭、ホウレンソウのお浸し、そしてきゅうりのヌカ漬けがすでに並んでいる。

「「いただきます」」

母親と二人で今日の予定を話しながら食事をする。

「藍雨、今日またお母さんお仕事だからお洗濯お願いしていい?」

「解りました、お仕事がんばってください」

母親の頼みに二つ返事で答える。

家の家事をするのは藍雨にとって珍しい事ではない、忙しい母親を助けるのは自分の当然の義務だと考えている。

 

「それじゃあよろしくね。5時少し過ぎには帰るから夕飯はお母さんがつくるわ」

「いってらっしゃい」

暫くし母親が母親が会社に向かうので藍雨は玄関まで見送りに行った。

「さーて!お掃除しましょうか!」

腕まくりをして家の掃除を始めようとして……

ハッとする。

「……の前に、忘れる所でした!」

台所の隅にかたしてある陶器の壺を開ける。

ジッと睨んだ後、壺に手を入れてかき混ぜる。

ニチッ……ネチィ……と水っぽい音が僅かにする。

「……」

藍雨はなおも無言で壺をかき混ぜ続ける。

「だいぶよさそうですね……」

藍雨は壺の中からきゅうりを取り出した。

コレは藍雨のマイ糠床で毎日ヌカ漬けを作っているのだ。

あまり他人には言っていないのだが、実は藍雨は漬物が大好物なのだ、様々なメーカーを試したが納得できるものは無く、最終的に自分で作る事にしたのだ。

しかし本人は年寄臭いと馬鹿にされると思っており、この事を知っているのは母親と天峰だけなのである。

「ふー……こんなもんですね」

糠床をかき混ぜ終わったら手早く家の家事を済ましていく。

朝食の食器を洗い、洗濯機を回し、家の中を掃除する、すべての作業が慣れており、藍雨自身の家事能力の高さを見せている。

余談だが家庭科の成績は良く本人はそれがひそかな自慢である。

家の掃除が終わった頃、洗濯機から服を取り出し庭に干す。

「うーん、雨が降りそうですね……大丈夫でしょうか?」

心配しながらも洗濯物を干し切った藍雨。

「次は久しぶりに道場も掃除しましょうか」

そう言って自身の家の庭にある道場に向かった。

藍雨の家は元は格闘家の父が始めた道場だった、当時はそれなりに門下生もおり藍雨の兄もそこにいた。

しかし現在その師範代の父と同じく道場で修行した兄はおらず、施設だけはまだ残っているのだ。

すっかり使われなくなった道場を開ける。

ブワッと埃が舞った。

「この前掃除したばかりだったんですけどね……」

使っていない施設はやはりそれだけ汚れるのが早いのか、なかなかの量の埃が蓄積されていた思わず咳き込んでしまう藍雨。

「せっかくですしきれいにしますか!」

腕まくりをして道場の掃除を始める、床を拭きながら嘗て自分の兄と父が此処に居た時の事を思い出す。

兄と父。

その二人は藍雨にとっては生まれながらにして存在したヒーローだった。

優しくも厳格な父親と柔和な笑顔が印象的だった兄、そんな二人が藍雨は大好きだった、ここに居るとそんな日々が思い出される。

「今頃二人ともどうしているんでしょう?」

尚も掃除を続けながらそう思った。

 

 

 

2時間後……

「やっと終わりましたね」

きれいになった道場を見て藍雨が微笑む、大変だったがやってしまえば達成感の方が強い。

そしてまたいつか、本来の目的でこの道場が使われる事を祈りながら藍雨はカギを閉めた。

「やることが有りません……」

自身の部屋の畳に座りながら藍雨がつぶやいた。

本日の目的はすべて終わってしまった、宿題も出ていないし夕飯の買い出しも必要ない洗濯物は小物は乾いていたので取り込んだ。

そのためやることが無くなり、急に手持ち無沙汰になってしまった。

現在の時刻は2時を少し回った程度まだまだ時間は余っている。

「そうだ!また駅前に遊びに行ってみましょう!」

今から少し前に天峰とそのクラスメイトと一緒に駅前で食事したことを思い出した。

思ってみれば昼もまだ食べていない、その事に気が付くと駅前のハンバーガーが急に食べたくなり財布をもって部屋を飛び出した。

 

「わぁ、すごい!」

駅前は自身の住んでいる商店街と違い、かなり栄えているイメージを持った。

前に天峰と来たときは夜も近かったので、ある程度人口は減っていたが今回は休日の昼、デートや買い物客でにぎわっていた。

駅前にほとんど来たことない藍雨にとって、すべてが新鮮に見えた。

「いけない、いけないご飯が先です!」

そう言ってハンバーガーショップに入っていた。

「お次のお客様。ご注文はお決まりでしょうか?」

店員がお決まりのセリフを言う。

「は、はい!」

そう言ってカウンターのメニューを覗き込む。

(はわわ!思った以上にたくさん種類が有ります……これみんなハンバーガーなんですか!?セット?ポテトにサラダに……飲み物までこんなに!)

此処でも初体験の為どれを頼むべきなのかわからず混乱する。

(どうしましょう!?後ろの人待ってますし……)

「あ!あの!」

「はい、どちらにいたしましょう?」

「ひ、日替わり定食で!」

咄嗟にメニューの端に有った日替わりセットを頼むが……

「お客様、申し訳ありませんが……そちらは平日限定になっております」

冷酷な店員の一言に、藍雨は完全にどうしたらいいのかわからなくなってしまった!

「え、えっと……その……」

「……とりあえず……基本セットにしたら?……サイドはコーラとポテトが一般的……」

後ろから声を掛けられる。

そこにいたのは……

「坂宮さん!」

「……こんにちは」

藍雨の知り合いの天峰の義理の妹、坂宮 夕日(さかみや ゆうか)だった。

 

 

「……ハンバーガー……一人で来るのは……初めて?」

夕日の助太刀により何とか無事に注文ができた藍雨が椅子に座る。

「そうですね、なんだか食べたくなってしまいまして……」

恥ずかしげにする藍雨の前に、夕日が座っている。

「坂宮さんもハンバーガーを?」

「……それはついで……ノートが切れたから……買いに来た」

そう言って自身の持つ紙袋を見せる。

「そうなんですか」

たわいもない会話をする。

不安なところで知り合いに会うというのは、予想以上に心が安らぐことを実感した藍雨だった。

「……そろそろ……帰る……雨が降りそうだから……」

そう言って夕日は立ち上がった。

「坂宮さんお気をつけて!」

「……ありがと……バス……今なら空いてるかな?」

そう言って夕日は帰って行った。

 

 

「私もそろそろ行きますかね」

ハンバーガーを完食した藍雨は店を出た。

辺りが暗くなり始めている。

「急がなきゃ……」

母親が帰ってくる時間まで余裕があるが、急な不安を感じ家路に急ぐが……

「あ!降ってきました!」

雨が降り始める。

「止みますかね?」

ずいぶん前に潰れたであろう店の軒下に入り込む。

駅から少し離れたせいか、閉店している店が目立つ。

少しずつ少しずつ周りが暗くなっていく……

それがなんだか自分がおいて行かれるようで無性に怖くなった。

暗い中での雨は怖い。

足音は雨音で消されるし、視界も格段に悪くなる。

いつの間にか自分の後ろに誰かが立っているのではないか……そんな不安が首をもたげ始める。

「早くしないと……」

母親との約束が脳裏にちらつく、携帯電話もないし時計もない、今が何時なのかわからない。

ネガティブな考えはさらにネガティブな思いを呼ぶ、よくない考えばかりで思考が堂々巡りを繰り返す。

 

「あれ?藍雨ちゃん?」

目の前を通り過ぎようとした男が話しかけてきた。

「天峰……先輩?」

その男は幻原 天峰(げんのばら てんみね)藍雨が通う学校の高等学校の先輩だった。

「どうしてここに?」

「夕日ちゃんこっちに来てるみたいなんだけど……傘忘れちゃったみたいでさ、届けに来たんだよ」

そう言って自身の持つ折り畳み傘を見せる。

「せ、先輩!」

急に安心し天峰に抱き着く藍雨。

「うわっ!どうしたの藍雨ちゃん!?」

「一人で、こっち来て、はじめてで、怖くて、雨降るし」

最早自分でも何が言いたいのかわからないくらい支離滅裂だが、天峰は最後までしっかり聞いてくれた。

「解った、解った。一人で不安だったんだね……よしよし」

そう言って頭を優しくなでてくれた。

「ねぇ藍雨ちゃん、夕日ちゃん見てない?」

「さっきバスで帰ったみたいです……ぐす」

「そっか……入れ違いかな?まあ、いいや」

そう言って天峰は藍雨を抱き上げた。

「え!せ、先輩!?」

「不安なんでしょ?家まで送ってくよ」

そう言って藍雨を背中に負ぶった。

「先輩私一人で……」

「歩けるって?いいのいいのこの辺治安ちょっと悪いし。俺がそうしたいんだからさ、あ!傘だけもってて」

そう言って雨の中を歩き出した。

「夕日ちゃん今日は何しに来たの?」

「私は……」

二人のたわいもない会話をしながら藍雨の家に向かう天峰。

嘗ての父親の様な力強さと兄の様な優しさを背中越しに感じる藍雨。

先ほどまで不安しかなかった雨が急にうれしくなる。

天峰は誰にでも優しい人だ。

きっとこの雨が続く限り自分を背負ってくれるだろう、藍雨は先ほどとは違いこの雨が止まないでほしいと思った。

この雨の傘の内だけならこの優しさとぬくもりが自分だけに向いてくれると解ったから。

 

 

 




最後のは病んでないよ?
藍雨ちゃんはこの作品中唯一の癒しだと思っています。
もうしばらくしたら人気投票とかしたいな。
なんてね!


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特別短編No4

ハイ!今回は本編ではなくまさかの短編!!
内容はしっかりリンクしてます。
さて、今回の主役はだーれかな?


熱い……痛い……じくじくと痛みが体に回ってゆく。

刺すような、炎の様な痛みはやがて深い、深い鈍痛に……

私は目の前で広がる男女の殺し合いを、まるで遠い世界の事の様に感じていた。

 

 

 

「意識が戻ったみたいだな」

次に私が目覚めたのは白い部屋のベットの上、見た事のある男がこちらを見下ろしていた。

「……おじさん」

私はゆっくり口を開く。

「霧崎だ、霧崎 登一(きりさき といち)今更ながら自己紹介だな」

その男、霧崎は白衣と首にかかっているネームプレートを指でつまんだ。

「……医者?」

私は疑問を述べた。

「そうだ、ここは俺が働く病院。お前たちをここに連れて来たのは俺だ」

(私”達”?)

その言葉で一気に私の頭がクリアになった。

「お母さんは?どこにいるの!?」

自分でも驚くような声が出た。

「落ち着け、今は合わせられない……」

霧崎が目を伏せる。

その態度に私は嫌な予感がした。

「……何か有ったの?」

相変わらず霧崎は目を合わせない。

「まだ、意識が戻らない……少し前まで集中治療室にいたんだが……」

その言葉で私は目の前が真っ暗になった。

「お……お母さ……」

体温が一気に下がった気がする、歯がガチガチ言ってまともに口を閉じていられない。

「落ち着け、しばらくの間はお前たちの面倒は俺が見る。今度こそ絶対に守ってやる!!心配すんな!!」

先生が私を抱きしめた。

その感覚があの男が近づいてくる感覚に似ていて……

「いや!!離して!!来ないで!!」

先生を全力で突き飛ばしてしまった。

一瞬霧崎は呆然としていたが……

「大丈夫だ、大丈夫なんだ」

私に諭すように話した。

しかし幾ら先生がそう言っても私には変わらなかった。

その日は見た事のない天井を見上げ、何度も見る事になる悪夢にうなされた。

 

 

 

翌日

「よう、よく眠れたか?」

朝一で霧崎が病室を訪ねてきた。

「………………」

私は何も答えれなかった。

「ほら、朝飯だ」

そう言ってトレイに乗せられた食事を渡された。

「食うモン食わなきゃ元気に成れねーよ」

そういて霧崎は出て行った。

そう言えば昨日から何も食べていない、しかしお腹が全く減らないのだ。

せめて牛乳だけでもとパックに手を伸ばすが……

ガチャン!!ポタポタ……足に生暖かい液体が零れる。

慌ててパジャマのズボンを見るとお茶が零れていた。

「……なんで?」

その時私は自分の視界に違和感を覚えた。

おそるおそる左目を手で覆う。

「あ……そんな……う、ううっ!」

目が見えない、正確には右目が全く見えない!

「ううぅ、あああ、ひっ、ひっ!」

恐ろしくなった私は食事も、着替えもしないでベットに潜った。

この現実が悪夢であることを願って……

 

 

 

しかしそんな願いは叶わなかった。

現実はとことん私を見放すらしい……

「……先生……私の……目が……」

「右目が見えないんだろ?解ってる、煙草のせいだな……」

酷く憐れんだ目で先生がこちらを見てくる。

「周りの視線が気になるなら、しばらくこれで隠しな」

そう言って医療用の眼帯をくれた。

「学校もしばらく休め、ここにいろ」

先生はそう言って部屋から出て行った。

学校、そう言えばずいぶん言ってない気がする……

「私は……もう普通に……生きられ……無いの?」

無人の病室に私の言葉に応えてくれる人はいない……

その日から私は……死体の様になった。

 

 

 

「ほら、ここを用意してやった。好きに使え。」

その日霧崎先生に連れていかれたのは、旧館の病室。

本来の病室以外に使える部屋が出来た。

「あの家から色々持ってきてやった。好きにコーディネートしな」

目の前にはダンボールが三つと、空っぽの小さな本棚。

「今のお前には心が安らぐ空間が必要だ、だけど病室はプライバシーなんて半分無いからな……医院長に掛け合って特別に使えるようにしてもらった」

にんまりと笑う霧崎。

気持ち悪い、ここを秘密基地だとでも思ってるのだろうか?

そんなお気楽な考えが気に入らない。

今度は何も言わずに部屋を出て行った。

自分でやれ、という事らしい。

ベットに腰かける。

その日は何もする気がせず。

何もせずにただ無為に時間だけが過ぎた。

「……まぶしい」

どれくらい時間が経っただろう?

真っ白だった部屋は夕焼けによって赤く染まっていた。

その光景が血が飛んだアノ部屋に少しだけ似ている気がした。

 

 

 

今日も旧館のアノ部屋に向かう。

静寂が支配する私の空間、時間が止まった私の部屋。

「……何か……だそう」

3つのダンボールに近づく。

「ひっ!!」

私は思わず声を上げていた。

箱の上にはカッターナイフ、アノ男がお母さんを傷つけるときに持っていたカッター。

その瞬間トラウマがフラッシュバックする。

「いやだ……いやだ……いやだ!!いやだ!!」

喉に何かがこみあげてくる。

私は必死に近くのトイレに走りこんだ。

「うえぇ……げぼぅ!!」

ぼとぼとと胃液と昼食が逆流する。

「はぁ、はぁ。はぁ……」

アノ男の影が頭をチラつく、アノ男の気持ち悪い顔が頭をよぎる。

今の私をあざ笑っている気がする。

「……ふざけないで……!!」

トイレの壁を思い切り殴る。

派手な音がするが此処はもう使われていない場所、かまう物か。

「あなた……なんかに……私の……邪魔はさせない」

ゆらゆらとまるで幽鬼の様に部屋に帰った。

 

 

 

「これからは……私が使う!!」

アノ男のカッターを手にし刃を必要以上にだす。

ブスリ!!

一つ目の箱にカッターを刺す。

一瞬の抵抗感の後にあっけなくダンボールは破れ、カッターの刃が埋没する。

「アハッ……」

無意識に小さく声が漏れていた。

「うふふ……!あはは!!」

二回目、三度目。同じく埋没するカッターの刃。

なぜか楽しくなってきた私は気が付くと、ダンボール箱を滅多刺しにしていた。

これが暴力、これが奪うという事。

なんて気分が良いんだろ?なんて体が高揚するんだろう?

気に食わないモノを攻撃し、自分の思うがままにする。

コレはダダの紙の箱だ、だけどこれを他人に強要出来たら?

思いったように他人を動かす力、それが暴力!!

アノ男とお母さんはこんな楽しい事をしていたのか!

こんなのやめられる訳がない!!

弱かった自分が悪いのだ、力を持たなかった自分が。

だが今は違う、このカッターを持ってそれが理解できた。

熱を持ち震える自分の身体を抱きしめる。

「あはッ!……ははッ……」

いまだに口は小刻みに興奮の声を漏らしている。

すでに自らの仕事を放棄したダンボールを見下ろす。

これが勝者の景色なのだろう。

 

 

 

その時不意に、壁にかかる鏡に自分の姿が写った。

「あ……」

その姿に絶句する。

パジャマの前のボタンが外れている。

興奮しすぎて気が付かなかった。

直そうとして手が止まる。

体に刻まれた傷痕が目に付いた。

「……ッ」

意を決しパジャマを脱いでいく。

「…………」

無数の傷が刻まれた体、火傷、引っ掻き傷、打撲による内出血。

そして二度と光を見れない右目。

傷の一つ一つに辛い記憶が有る。

ボロボロの体、壊れた体、次は心か?

カッターナイフを床に落とす。

「ああ……」

拾おうとして体をかがめると、同じくボロボロのダンボール。

「ひっ!!」

これをやったのは……私、自分の体の様にボロボロにしてしまった。

その事実を理解した私は怖くなった。

体の熱はすっかり引いている。

カッターを戸棚の奥にしまいこみ、二度と出さないと誓った。

 

 

 

数か月後……

「おっ!!だいぶ調子良くなったじゃねーの?」

霧崎が私の部屋を見に来た。

「……うん、気分いい」

私は他のダンボールの中に入っていた絵本を呼んでいた。

「そっか、なら良いんだ。入学式行かなくてよかったのか?」

私は数か月間の間に中学生になっていた、しかしまだ一度も学校へ行っていない。

当たり前だ、体はボロボロ、両親ももういない、病院に詭弁上入院という扱いで住んでいる。

わざわざ馬鹿にされに行くような物だった。

もう私は集団の中では生きていけない。

「……いいの」

この旧館の病室が私の世界、気に食わないモノは全部壊して、好きな物だけを並べる私の箱庭。

「そうだ、ちょっと遅れたが入学祝いだ」

そう言って、大きなクマのぬいぐるみと小さなケースを取り出す霧崎。

「ほら、女の子がいつまでも顔に傷が有ったらいけないだろ?」

ケースの中身は精巧に作られた義眼。

「スペアも一応作ったんだが……やっぱたけーな」

はははと笑い、私に義眼を着けてくれた。

「よしよし、なかなか美人だぜ」

霧崎が笑う。

「……先生ありがとう」

「おう、またな!!」

私はさっそく鏡で自分の姿を見る。

前よりだいぶマシになった気がする。

誰かに感想を聞きたい!

そうだ、霧崎先生がくれたクマのぬいぐるみが有る!

私は戸棚から有るモノを取り出しクマちゃんに聴く。

「ねぇ……今の……私どう?」

クマは返事をしない、当たり前だ。ただのぬいぐるみだ。

そう、それが常識、何も不思議な事は無い。

しかし。

私のいう事を聞かない……このクマは気に入らない。

気に入らないモノは壊せばいい!!

懐からカッターを抜く!

容赦なくクマを滅多刺しにする!!

「あはっ!!」

暴力の快感と高揚が私を高める、何時ももうやらないと思ってもすぐにまたやってしまう。

「くまちゃん今日の気分はどう?」

ボロボロのぬいぐるみを抱く。

当たり前だが返事は無い。

「……お返事しない……悪い子ね!!」

クマの腹の穴に指を突っ込み思い切り引っ張る。

ビリィとクマが音を立て破れる。

「あーあ……また壊れちゃった……新しいのさーがそ……」

笑ながらクマからカッターを引き抜く。

「……新しいおもちゃはないかなー」

病室を出ていく。

 

 

 

この少女はまだ知らない、今日自分の運命を変える男と出会う事を……

そしてその悲しみに終止符を打ってくれることを!!




はい、答え合わせです。
答えは夕日ちゃんでした。
実は本作、急きょ書く事になった話なんです。
実は……
久しぶりに読み返すか!→おおぅ……相変わらず駄文制作マシーンぶり……→夕日ちゃんの病みシーン淡泊じゃね?→なんだコレは!!ヤンデレとはただ包丁持たせて主人公殺せばいいんじゃねーよ!!理由が薄いいんだよ!!こんなモンただのキチ〇イじゃねーか!!→
修正が必要になった……
ガチャン!!すっ……タイムベント!!

という事で過去編になりました。


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特別短編No5

すさまじく遅く成った、リクエスト作品。
申訳ありません!!

今回は、すさまじく不遇なキャラクター卯月が主人公です。


とある大型量販店の一角に、短冊が飾ってある場所が有った。

『彼女が出来ますように』『新作ゲーム買ってもらえますように』『萌モン3期希望』『友達が破局しますように』『パパがお酒飲んでもママをぶちませんように』『神に成りたい』『その時不思議な事が起こりますように』『籠鳥高校合格しますように』『全人類が死滅しても自分だけ生き残れますように』『俺のギターで世界を揺らす!!』『芸能人と付き合いたい』『2次元に行きたい』様々な願いが笹に吊るされ、風を受け揺れる。

 

その笹を見て卯月 茉莉が不機な顔をする。

 

「願い事、ねぇ?願うだけでなんでも叶ったら人生、楽よね~」

何か願い事を書いた紙を、飾ろうとしてやめて歩き出す。

特に用事もない暇な、休日の午後。

卯月は近所のデパートに遊びに来ていた。

 

「さてと……来たはいいけど何処行こうかしら?」

そんな事を思案していると、空腹感を感じて適当なカフェを目指して歩き出す。

 

「ふん~ふ~ん♪」

 

「……………え!?」

今、通り過ぎた影を見て振り返る卯月!!

その姿は、彼女の思い人である、幻原 天峰だった!!

 

「天峰!!天峰!!」

 

「ん?お~卯月、よっすよっす!!」

卯月が呼び止めると何時もの様に、柔和な笑顔を向けて天峰が卯月に手を振る。

偶然天峰も、此処まで遊びに来ていた様だった。

 

「偶然ね!!なにか買い物?」

天峰を見た瞬間卯月のテンションが一段階高くなる。

天峰の下げるビニール袋を見て、卯月が疑問を呈す。

 

「コレか?コレは盗聴器のパー――」

 

「あ、もしもし?警察?じつは――」

 

「ストーップ!!ストップだ!!やめろ!!いや、むしろやめてください!!」

一瞬にして状況とその使い道を理解した、卯月は携帯電話で素早く110をプッシュ!!

目の前の幼い子供を毒牙にかけようとする変態を、国家権力に付きだそうとした!!

 

「なによ……近寄らないで変態!!その盗聴器で何をする気だったのよ!!」

天峰(変態)から距離を取りながら、携帯電話をかまえる。

 

「コレは、夕日ちゃんに頼まれたんだよ!!」

必死で天峰が弁明する。

『夕日』の名が出た瞬間上がっていた卯月のテンションが一気に下がる。

正直な気持ち『またか』というのが大きい。

ゴールデンウィークに一件以来天峰の家の居候(養子扱い?)の例の中学生だ。

天峰の好みのタイプなのか、彼女が来てから天峰の機嫌が非常に良い。

今目の前にある天峰の笑顔を作ったのが自身ではなく、あの何処かおかしい少女だと思うと卯月の心に嫉妬の炎が僅かに燃える。

 

「ふぅん、で?そのゆーかちゃんが何でそんな物、欲しがっているのよ?」

ジト目で天峰を睨む。

さて、このロリコンの口から一体どんな言い訳で出るのか。

 

「実はな?最近夕日ちゃんが工作にハマっているみたいで……前々から手先は器用だったんだぞ?切り絵とか、本当上手だったし……あ、話がそれたな。

まぁ、そんな事が有って電子工作っていうのか?簡単な時計とかモーター式の……ミニ四駆って解るか?そう言ったのに興味を持ったらしくてさ。

パソコンで簡単な、図面と作り方調べていろいろ作ってるんだよ」

しどろもどろながらも天峰が説明を始める。

 

「で?盗聴器は何処ででてくるの?」

 

「…………夕日ちゃんが作ってみたいって……」

 

「はぁ!?あの子何を考えて――」

 

「興味を持ったらしいから俺が勧めたんだよ!!『俺の部屋なら仕掛けてもいいよ』って言ったら大喜びで――――」

 

「待て待て待て待て!!なに!?同意の上なの!?同意の上でアンタ等そんな事してるの!?」

予想外の展開に卯月が驚きの声を上げる。

当の天峰は全く気にした様子もなく、

 

「いや、別に家族だし。っていうか、夕日ちゃんを呼ぶ時とかいちいち呼びに部屋まで行かなくてもいいから、便利だよ?」

理解不能!!圧倒的理解不能の事態に卯月が頭を抱える!!

 

「もう少し健全に生きた方がいいんじゃない?一応兄妹って言ってもプライバシー的な」

 

「大丈夫だって、俺は夕日ちゃんを信じてるから。

卯月は『あの時』のイメージが強いから、あんまりいい印象持ってないかもしれないけど、本当はすごくいい子なんだよ。

大切な物を集めてる最中なんだ、俺が見守ってあげないと――って言っても俺が驚かされる事も多いんだけどさ!!じゃ、なるべく早く帰りたいから。じゃあな」

そう言って再び、卯月の笑いかける。

手を振りながら、楽しみでしょうがないと言った様子で歩き出す。

 

「あ……」

その笑みは幼い頃、天峰が卯月に向けていた顔で……

今、その笑みは自身でなく夕日が独占している事を理解した。

嘗て自身に向けられた笑顔もやさしさも、今は彼女が独占している!!

その事を思うと、卯月は悲しみが込み上げてきた。

いや、事態はもっと悪い。

正真正銘の小学生の晴塚 藍雨は料理上手で気立ても良い、何より愛嬌が有る。

飛び級して現在天峰の先輩の立場に座っている、まどかは家が裕福であるし、本人にリーダーシップが強く人を引き付ける魅力がある、さらに実際その魅力に見合うだけの努力家で隙が無い。

その親友である、森林 木枯は無邪気さを誇り他人が躊躇する事すら簡単に行ってしまう。

 

ここ数ケ月でなぜか天峰の周りに、美幼女と言える人物が集まってきている。

まるで、引き合うかの様に……

 

「私は……もう……」

卯月の目の前で、天峰が遠ざかっていく。

それは実際にも。心的にも卯月から天峰が遠ざかっていくのを示唆している様で……

 

カサッ……

 

さっき願い事を書いた紙を、ポケットから落ちわずかに音を立てた。

足元で、紙が店内もエアコンの風に吹かれた揺れる。

ウジウジした、つまらない存在。

卯月はそれを拾い……

 

ビリィ!!

 

真っ二つに破り捨てた!!

 

「神ごときに頼らなくても……!!

私の願いは私で叶えるわよ!!願うだけ!?ふざけんじゃないわよ!!

恋する乙女舐めんな!!」

びりびりと何度も、紙を破り自身の頭の上に向かって投げ捨てる!!

紙吹雪と成った、願いが卯月に降り注ぐ!!

 

まるでそれがスタートの合図だった様に卯月が走り出す!!

目指すは、さっき自分を置いていった愚か者の所だ。

 

「天峰ェええええええ!!」

 

「う、卯月!?何――ぐえ!?」

走ったままの衝撃を持ったラリアットを天峰の面白半分に叩きこむ!!

突然のラリアットに天峰が目を白黒させる!!

 

「一体なんの積りだよ?」

 

「せっかくの日曜よ?学園の美少女が貴方に出会ってあげたのよ?コレはご機嫌取る為、遊ぶしかないでしょ?」

倒れる天峰を立たせながら卯月が、近くのカフェを指さす。

 

「ええぇ?なにその訳解らんルール……っていうか俺ささっと帰って夕日ちゃんに買った物を――」

 

「シャラーップ!!ロリコォン野郎!!こういった場合男はエスコートするもんでしょ!?そんな常識もしらないの?」

有無を言わせず、まくしたてる!!

 

「はぁ、解ったわかった。久しぶりに俺と遊びたいんだな?わかったよ、せっかくだし――」

尻もちをついた、尻を叩きながら天峰が立ち上がる。

 

「あ、おばさん?私、私卯月。そうそう、うーちゃん。

うん、今、偶然天峰と会ったから遊ぶって話になったの、で天峰夕飯いらないって。

そうそう、じゃ、はーい」

あっけにとられる天峰を無視して、卯月が電話を切った。

 

「おい、卯月?いま誰に電話したんだ?」

 

「誰って、アンタのお母さんよ。4人で外食するって」

圧倒的スピードで、外堀を埋める卯月!!

その時点で天峰は家のカギを持ってきていない為、家に入る事が出来ない!!

それどころか、夕飯自体自分の分が無い!!

 

「お、おいおい……俺、そんなに金持ってない……ぞ?」

 

「あら、そう?なら私が貸してあげるわ。利子は10日で10割ね?」

 

「トジュウ!?何それ!?どこぞの漫画か!?」

ブラックな金融企業も思わず真っ青に成ってしまう、利子率の天峰が抗議の声を上げるが卯月の暴走は全く止まらない!!

 

「さーて、デートよ!!私お昼まだなのよね~、ジャンボパフェ食べたいわ!!

こう、カロリーを気にしてダイエットしている女の子に正面から、中指立てる様なでっかいの!!」

そう言った近くの店に駆け足で入っていく卯月!!

家に帰るわけにもいかない天峰は、半場諦めの境地で付いていく!!

 

「あの……卯月?俺、こういった『女の子専用!!』って感じの店、肩身が狭いんだけど?」

周りのピンクな、壁紙を見ながら身をちぢこませる。

 

「あ”?男でしょ!?もっとちゃんとしなさいよ!!」

 

「は、っはい……!!」

卯月の迫力と店の空気の押され天峰が更に肩身を狭くする。

 

「あの~、カップルの方ですか?今キャンペーンで、お写真を撮らさせて頂くとドルチェセットが無料でご利用いただけるのですが……」

近寄って来た店員に卯月がいち早く反応し、天峰を首に手を回し顔を近づける!!

 

「はい!!もう10年カップルやってます!!いまだにラブラブで~す!!

ね!!ダーリン!!」

店員がその様子を見て、ほほ笑んでカメラを取りに戻っていく。

そのままのポーズで、天峰が抗議をする!!

 

「お、おい……さすがにウソは……」

 

「(黙りなさい。今の間だけは、カップルを演じなさい!!ほら、私の事はハニーって呼びなさい!!)」

ドスの聞いた声で、ぼそぼそと天峰に語り掛ける卯月!!

『はい』と答える以外、天峰に道は無かった!!

 

 

 

「はーい、お二人ともお写真をとりますよ?」

 

「は~い!!ダーリン、ダーリン!!」

卯月が上機嫌で手をCの様な形でこちらに向けて来る。

二人で手を合わせて、ハートマークを作りたい様だ。

 

「あ、卯月?」

その瞬間!!卯月の足がテーブルの下の天峰の足を踏みつける!!

 

「(ハニーでしょ?)」

小さく、声を出す。

 

「はい、ダ~リン?」

 

「は、はは……は、ハニー……」

天峰と卯月の手によってハートマークが出来上がる。

 

パシャ!!

 

フラッシュがたかれ、一瞬の出来事が永遠に残される。

写真には、幸せそうな卯月と引きつった顔の天峰が写っていた。




主人公補正か?卯月がヒロインをしている!?


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クリスマス短編1 夕日編

すいません遅刻しました!!
他のリクエストは、これからどんどん書いていく予定です。


『メリークリスマス!!』『ジングルベ~ル♪』『チキン完売でーす!!』『ケーキ残りわずか!!』『ねぇ、今日どうする?』『レストランを予約してあるんだ』

街中が騒がしくも幸せな喧騒に包まれる。

サンタをイメージした赤と白、ツリーの緑そして色とりどりのイルミネーション。

 

 

時は12月24日~25日。

世間で言うクリスマス。

人形の様な、と良く表現される少女。

坂宮 夕日は駅前を一人歩いていた。

 

夕日はクリスマスが嫌いだった。

いや、『だった』という表現は正しくない。

夕日は現在進行形でクリスマスが大嫌いだった。

 

「チッ……みんな……死ねばいい……」

 

彼女らしくない悪態をついて、自宅へと歩いて行く。

今日は金曜日、明日は学校も無く一日中家に居れるのだが、今日のうちにと夕日は必要な物を買いに駅前まで来ていた。

 

家に居てもテレビからやってくる情報はクリスマス一色に染まっている、かと言って家の外に出るのも得策とは言えなかった。

街中は先ほど言ったように、クリスマスに染まっているし、店の中に居てもクリスマスコーナー、店内に掛かる音楽もクリスマスソングと何処に居ても、何をしていてもクリスマスはやってくるのだ。

明日は土曜、これが休みを挟むのだ。

考えただけで頭が痛くなる。

 

着てきたコートの中から両手を出して、息を吹きかける。

 

ハー、ハー。

 

自身の体温が移ったのか、一瞬だけ両手が温かくなる。

 

「ねー、早く家に帰って食べようよ!!」

「こらこら、そんなに走るんじゃない……」

「もう、あの子ったら」

 

夕日の目の前を10歳くらいの男の子が走っていく。

そしてそれをゆっくり追いかける、両親。

 

突如甲高い声がしたと思ったら、両親が走り出す。

何事かと思い、視線の先を確認するとさっきの子供が転んでベソをかいていた。

しかし

そこに父親が駆け寄ると、すぐに子供は笑顔を取り戻した。

三人は仲良く喧騒の中へと姿を消した。

 

「チッ……みんな……死ねばいい……」

本日二度目の悪態を付き、自宅の傍に停車するバス停へ向かう。

「キャ!?」

何かに足を取られ転んでしまう、さらにタイミングが悪い事に財布の中身をぶちまけてしまった!!

「……待って……」

転がってゆく硬貨を立ち上がり追う、そしてすべての硬貨を集める頃には……

「あ……バス出ちゃった……」

乗ろうと思っていたバスが出発してしまった。

 

行き場のない怒りがあふれてくる!!

 

「……クリスマス……嫌い……」

怒り心頭でバス停に座るが……

「……冷た!!」

自分のおしりに伝わる冷たさで立ち上がる!!

何かのいたずらか、偶然か。

バス停の待合場所の椅子が濡れていた。

「……むぅ……」

このままバスに乗る訳にはいかないと判断し、冷たいズボンを抱えながら自分の家に向かって歩き出す。

 

 

 

やはりここでもクリスマスは続いていた。

イルミネーション、色合い、クリスマスソングetc……

それらすべてが夕日を馬鹿にしている様な気がした。

 

「ただいま……」

現在自分が世話になっているウチ、幻原家へ戻ってくる。

鍵も閉まっていた為、誰も居ないのが容易に想像できた。

「……着替えなきゃ……」

そうして自分の部屋で濡れたズボンとパンツを着替える。

一息ついた所で炬燵に入り電源を入れる。

「……あったかい……」

台所でココアを作り自分の部屋で飲む。

何時の間にか夕日はすっかり沈み、ただ真っ暗な寒空が広がっていた。

 

今日は幻原家もずいぶん静かだ。

両親はホテルに二人で食事に行っており、ハイネは友達と遅くまで騒ぐそうだ。

天峰は八家、卯月と集まって食事をするらしい。

数日前から卯月が張り切っていたのを覚えている。

家族全員に何らかの予定が有る様だ。

 

しかし、予定のない夕日は炬燵の暖かに、ゆっくりと船をこぎ始める……

その静寂を破る様に玄関から声が響く!!

 

「ただいまー!!&メリークリスマス!!」

何時もは嫌いではない天峰の声がこの時ばかりは鬱陶しくてたまらなかった!!

「……お帰り……」

若干不機嫌な感じで夕日が迎える。

「ただいまー!!夕日ちゃん!!ヘーイ!!メリクリ!!」

何時にもまして高いテンションで天峰が右手を上げる。

「……うるさい……」

露骨な態度で『クリスマスお断り』をアピールする。

「えっと……どうしたの夕日ちゃん?何かご機嫌ナナメ?せっかくのクリスマスだよ?」

天峰がしょっぱなから不機嫌顔の夕日に困惑する。

 

「……私……クリスマス……嫌い……」

「なんで?、俺夕日ちゃん位の時、メッチャ楽しみだったけど?」

「……幸せそう……なのが嫌……」

「え!?そうなの?」

夕日も天峰と同じく反リア充派の人間だと思ったのだが、その後に続いた言葉でそのイメージは変わった。

 

「自分と……違う……と思わせるから……」

天峰はその言葉ですべてをなんとなく理解した。

「みんなが……楽しそうに……してるのに!!私だけ一人で家に――」

「えいや!!」

そう言って天峰は夕日の頬を両手で挟み込んだ!!

強制的にひょっとこの様な不細工な顔になる。

 

「……何するの……?」

若干不機嫌な感情をこめて夕日が天峰を睨む。

「あのさ、そういうのもういいから。それは過去の話でしょ?」

「過去だからって……!!」

夕日の纏う気配に明らかな怒りが混ざる。

 

「夕日ちゃんはもう窓から幸せを見る側じゃないんだよ?幸せを受ける側なんだよ。辛かった事は知ってるつもりだよ、けどさいつまでも昔の事を引きずっても何の意味もないんだよ。

100年後の自分って考えた事有る?」

受け売りなんだけど、と頬をかく。

「……100年後?普通は……」

「そ、みんな死んでるよね。俺達の時間はあと100年もないんだよ。

ならさ、楽しまなきゃ損じゃない?羨ましがっても、勇気出しても今日は過ぎていくんだよ?じゃあさ、遠慮なんかしないで今日はたくさん思い出作ろうよ!!」

そう言うと天峰は立ち上がり、コートを隣の部屋から持って来た。

 

「よぅし!!二人だけみたいだし、豪華にチキンとか食べようか!!」

そう言いだすと、天峰は手早く携帯を持ち出し

何処かに電話をかけ始める。

「あ、ヤケー?俺、俺。悪いけどさ、今日の予定キャンセルしていい?いや、急にやる事が出来てさー、うん、うん。卯月にはよろしく言っといてー」

さらに財布をコートのポケットに入れたかと思えば。

自転車に乗って夜の街に出かけて行った。

決定してからわずか10分足らずの出来事。

あっという間の行動だった。

 

夕日は思う。

何故、幻原家の人間は何かを決めたら即座に行動できるのだろう?と。

ハイネも義母も義父もそうだ。

常に弾丸の様な天音、迷うという事を知らぬ義母、その義母を的確にカバーする義父。

それらすべてが夕日には明るく思えた。

そんな事を思っていると玄関を開く音がした。

 

「ただいまー!!夕日ちゃんおまたせ!!」

玄関に向かうと重装備の天峰が立っていた。

その手には様々な物を持っていた。

「ホイ、ローストチキンとコーンスープとケーキ、あ!!シャンメリーも有るよ?」

 

台所でチキンを温め、鍋でコーンスープを温める、余ってた食パンを焼けば簡単なディナーの完成だ。

 

「ほら、どうしたの夕日ちゃん?早く食べようよ?」

テーブルに天峰が夕日を誘う。

それは夕日が思い浮かべた、家族その物で……

「わかった、今いく!!」

笑顔を浮かべて席に着いた。

天峰の用意した簡単な夕食は、何故か今まで食べた何よりもおいしく感じた。

笑顔の絶えぬ食卓、これこそが最も素晴らしい幸福の形かもしれない……

 

 

 

暫くして夕食を食べ終り、ケーキを食べるまでの腹ごなしに一旦席を立ち部屋へ向かおうとする天峰だが、シャツの裾を夕日につかまれる。

「どうしたの夕日ちゃん?」

「……誰も……居ないから……一緒に居て?」

うつむいたままで表情は解らなかったが、耳が真っ赤になっているのに天峰は気が付いた。

「わかったよ、俺の部屋来る?」

その問いに夕日は黙ってうなずいた。

 

 

 

「待ってて、今暖房入れるから」

そう言って天峰は自分の部屋のヒーターを付ける。

「……天峰!!……雪!!」

「本当だ」

夕日がベランダを指さす。

その指に導かれ外に視線を向けると、確かにちらほらと白い物が音も無く振っていた。

「……きれい……」

夕日がそうつぶやくと同時に、ヒーターからけたたましい警告音が響いた。

 

「あちゃー……灯油切れか……入れなおして来ないとな、夕日ちゃん、一旦リビングに――」

「これが有る」

そう言って天峰のベットを指さした。

「へ?」

天峰は間抜けな声を漏らした。

 

 

 

「えっと……ホントにいいの?」

「……早くして……」

躊躇する天峰に対し夕日が急かすように言う。

それなら、と天峰が毛布を手にベランダの前に座る。

丁度胡坐をかくような姿勢になり、その上に夕日が座る。

そしてそのまま天峰が毛布を羽織り、夕日がその毛布の端を持つ。

イメージとしては2人羽織に近い。

そのまま、ベランダから降り積もる雪を眺める。

「……手をまわして……?」

 

その言葉に天峰が一瞬停止する。

唯でさえ密着状態で、自分の腰の上に夕日が座っているし、お互いの体温でしっとりと汗さえかき始めているのに、さらに夕日の腹に手を回せと言われたのだ。

その、なんだ、いろいろとヤバいのだ、理性的な意味でも身体的な意味でも……

「えっと……そろそろ暑くなってきたから――」

「私は寒い!!早く回して!!」

 

遠慮気味に話す天峰をバッサリと夕日が切り捨てる!!

「は、はい……」

 

そう言って遠慮気味に夕日の身体に毛布の中で手を回す。

当たり前だが服の上からでも、夕日の少し汗に濡れた肌の感触を感じる。

「あ、あの夕日ちゃん?少しばかり積極的すぎない?」

 

「……100年後……は居ないから……遠慮はしない……」

先ほど天峰が使った言葉で返事をする。

そう言われると天峰も黙るしかない。

そうして天峰に寄りかかり体を預ける。

「え、えっと夕日ちゃん?」

「……ねぇ?……私は……遠慮しない……よ?……天峰は……しちゃうの?」

そう言って猫なで声で、天峰の方に身体を向きなおさせる。

流石にそれはまずいと立ち上がろうとする天峰だが、今更ながら気が付く。

足の上に夕日が乗っているから、逃げる事が出来ない!!

「……逃がさないから……私を……幸せにして……ね?……お兄ちゃん」

そうして夕日の顔がゆっくりと近づいてくる!!

 

 

ガチャ!!

その時玄関が開く音がする。

「ただいまー!!兄貴ー、おっ!!夕日も帰ってるのか!!ケーキ一緒に食おうぜ!!」

玄関から天峰の実妹、天音の声がする。

どたどたと足音がするため、天峰達のいる2階にもすぐ来るだろう。

 

「……あーあ……残念……」

そう言って天峰から夕日が立ち上がる。

そして「今いくー」

と夕日が声をかけた。

その言葉に天峰は安心し、ため息を漏らす。

「……ハイネが……寝たら……また来るから……」

耳元でそうつぶやき夕日が一階に下りて行った。

 

今日は24日のクリスマス・イブ。

明日はクリスマスで土曜日……

2人のクリスマスはまだ終わらない。

 




今回の話は正史かどうかは、あえて未定とさせていただきます。
もともとキャラクター別のエンディングの予定なので、夕日ちゃんが好きな人はこれが正史だと思ってください。
あなたの中の真実が、この作品の正史になります。


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クリスマス短編2 パラレル編

注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!
本作はパラレルワールドの出来事です!
今回の話は本編に全く関係ありません!
設定の一部が本編と変化しています!
特別編3、4の世界感に近いです。
この話には幼女は出ません!
そのためロリコニュウムの摂取には向いていません!
本編中何か気分が悪くなったらすぐにブラウザバックしてください!
注意書きは以上です。


ここは私立出素都論大学(通称出素大)の第二食堂。

 

出素大が大きくなり増設された新しい食堂だが、大学内の奥まった場所に有りさらには第一の食堂がおしゃれなカフェ風にリフォームされた為そっちに客が集まり、使用する学生がガクンと減ってしまった寂しい場所である。

しかも現在は朝の10時42分、朝食の時間は過ぎているしお昼にも少し早い。

そのため使用している人間はまばらだ。

 

そんな第二食堂の更に奥まった席に、二人の学生が座っていた。

一人は髪の長い儚げな少女で、良い事でもあったのか非常にニコニコとしている。

もう一人は先ほどの少女とすべてが逆で、細いながらもしっかりした身体と短く切り揃えられた髪、快活そうな雰囲気を纏っているが、その表情は苦虫をかみつぶした様に苦々しげだ。

 

「ねぇ?ハイネ。コレ要らないの?」

「いや、欲しいけどよ……夕日……その……」

髪の長い夕日と呼ばれた少女が、目の前の机の上にある紙の束と数冊の本を指さす。

もてあそぶ様に、紙束を指でつつく。

その様子にもう一人のハイネと呼ばれた少女が歯噛みする。

「簡単な事じゃない?たった一言、たった数時間の事じゃないの?」

まるで囁く悪魔の様に誘う。

「そろそろ期限じゃない?もう明後日だっけ?」

更に夕日が追い打ちをかける。

『明後日』と言う言葉にハイネの表情が曇る!!

そして遂に……!!

 

「わかった……今年はクリスマス会をやろう……」

「やったー!!楽しみ~」

忌々しげに話すハイネに対し夕日はとても無邪気に喜んだ。

(すまない……天峰……!!)

それに対しハイネは心の中で自身の弟に謝罪した。

 

 

 

このテーブルに置かれているのは、実は大学のレポート課題!!

ハイネはあまりレポート課題が得意ではないのだが、進学の為頑張っている。

しかし!!今回は不幸な事故が起きた!!

それは資料の枯渇!!

通常参考資料などは図書館で入手するのだが、今回は他の学部の生徒たちも本を借りたため、参考資料が手に入らなかったのだ!!

更にハイネは締切日を間違えていたため、まさに半パニック状態!!

仕方なく夕日に泣きついたのだが、渡されたのはハイネ風に半場作られたレポートと参考になる数冊の本。

あまりに出来過ぎた待遇に戸惑うが、夕日がハイネに出した条件は卑劣な物だった!!

『ねぇ?ハイネ。もうすぐクリスマスよね?私、天峰クンと一緒に過ごしたいな~』

その言葉の意味を解りやすくするならこうだ。

『課題渡してほしけりゃお前の弟よこせ』

夕日は基本的に落ち着いた人間だが、実は少しばかり困った嗜好が存在する。

彼女はちいさな子供が(性的な意味で)大好きなのだ!!

そしてさらに困った事に、自分の親友 幻原 天音(通称ハイネ)の弟が非常に好みのタイプらしい!!

そのため幾度となくアプローチを続けているのだ!!

 

 

 

天音が夕日の策略に落ちて1週間後……

天音と天峰は一つのマンションの前にたたずんでいた。

 

「お姉ちゃん、ここホントに坂宮さんのお家?」

マンションと言う物を深く知らない天峰は不思議そうに見上げる。

「ああ、そうだぜ……なんでも珍しく格安で入れる部屋が有ったから借りたらしいぜ?」

気乗りしない天音は天峰の手を引いて、エレベーターに乗る。

1、2、3、4と階を上るたび、天音の気持ちは重くなる。

 

(はぁ~この先はアイツ(夕日)の住処……一体どんな仕掛けが有るのか……)

その心持ちはもはや、ダンジョンに挑む冒険者の様な心持!!

自分の弟を横目に何としても、天峰を守り抜こうと言う決意を新たにする。

 

チーン……

 

エレベーターが小さく音を鳴らして13階で停止する。

夕日の部屋はこの階の4号室と聴いている。

天峰の手を引いて、坂宮と表札の着いた部屋のインターホンを鳴らす。

『ハーイ、ハイネ来てくれたんだ。丁度()()も終わった所だし今鍵開けるねー』

やはり重い気持ちの天音に対して、何処までも楽しそうな夕日の声が響く。

 

「はぁい、二人ともいらっしゃーい」

「……マジか!?」

「わー!!坂宮さんすごーい!!」

扉から姿を見せた夕日を見て、天音は困惑気味に、天峰はうれしそうに声を上げる。

夕日の服は赤と白のワンピース、胸元にはベルあちこちには白いポンポンと俗にいうサンタのコスプレをしていたのだ!!

 

「お前それ買ったのか?……いや、似合ってはいるけど……」

「違う違う、良いのが無かったから自分で作ったの、どう?」

その場でくるんと回転する。

「すごいすごーい!!坂宮さんサンタさんみたい!!」

「さあ、今夜は楽しみましょうね~。あ、天峰クン?私は夕日お姉ちゃんってよんでね?」

そう話す夕日に天峰が興奮気味に頷く。

 

(気付け天峰!!それはサンタじゃない!!変態だ!!ガチなショタコンの危険な女だ!!)

天音の必死の願いむなしく、天峰はサンタ夕日に手を連れられ部屋の中に入って行った。

鮮やかな手口!!見知らぬ場所で気遅れする天峰を一瞬にして籠絡した!!

その手口はまさに子供の心理を知り尽くしたハンター!!

以前の八家の例を見る限り、夕日は自由自在に子供の心を操れるかもしれない!!

恐怖とトラウマ、憧れと信頼その相反する感情を巧みに操り子供を誘う魔性の女!!

それが現在の坂宮 夕日なのだ!!

 

夕日の部屋はクリスマス風の飾り付けがされていた。

テーブルの上には、料理が並んでおり。

夕日の話によると冷蔵庫の中には手作りのケーキが有る様だ。

 

「うわぁ!!すごいすご~い!!」

天峰がその場でピョンピョンと飛び跳ねる。

「今日は天峰クンの為におねーちゃん頑張ったんだよ?」

そう優しく微笑んで天峰の肩を抱く。

それに対して天峰がさらに表情を明るくした。

「ホント!?夕日お姉ちゃんありがとう!!」

「……天峰クンちょっとここで待っててくれる?」

そう言うと夕日は隣の部屋に姿を消した。

 

不審に思った天音が隣の部屋に付いて行く。

そして夕日の行動を見て絶句!!

「おい、何をし……てる……ん……だ?」

「ああ~!!もうすごいかわいい!!今すぐ監禁したい!!今すぐハイエースしたいぃ!!かわいい顔を涙でグチャグチャにしたいぃ~!!!!」

 

そう言ってベットの上でゴロゴロと転がっていた!!

(うわぁ……今更だけど、コイツ色々手遅れだな……)

天音がそう思う間、尚も夕日はおまわりさんに聞かせられない様な妄想を口走る!!

暫くして落ち着いたのか、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ああ、ハイネ。見てたの?」

実にそんな事どうでもいいと言った感じで、言葉を交わす。

「まあな……お前の頭の中一体どうなってるんだ?」

「頭の中?私の頭の中ではさっき天峰クンが私の手によって、小学生にしてお父さんに成った所だけ――」

「そう意味じゃねーよ!!ってゆうかお前ホント何考えてんだ!!頭完全に湧いてんだろ!!」

「少しばかりテンションが上がって、ます」

何を言ってもヌカに釘!!暖簾に腕押し!!夕日に対する皮肉も悪口も全く効果なし!!

これこそが変態の圧倒的防御力!!

 

「つうか、こんな事して大丈夫なのか?隣の部屋から壁ドンとか来るんじゃねーの?」

以前ネットで知った言葉を使ってみる天音。

しかしそれに対し夕日は悠然と答える。

「ああ、それは大丈夫。この部屋防音してるから、壁に張るだけで防音できるヤツが有るのよ」

そう言って、壁紙を指さす。

最近はこういうのが有るのかと一瞬安心しかけるが……

おかしな点に天音が気が付く。

「ちょっと待て。なんで日常的に防音が必要なんだ?」

「なんでって、泣いたりしたら隣にばれ――女の子だし不安じゃない?」

明らかに何かまずったという感じで途中で言い直す!!

しかし天音はそれを聞き逃しはしなかった!!

「ん、隣に?バレ?なんだって?」

責めるように、夕日に近づく!!

それに対し夕日は少し後退する。

 

「い、嫌ね。ハイネ、私が何か酷い事するとでも……」

 

ガチャン

 

その時夕日のポケットから何かが落ちた。

それを理解したのか夕日が笑顔のまま停止する。

そして錆びた機械の様にぎこちない動きで落ちた()()を拾い再びポケットに隠す。

「おい、今のなんだ?」

笑顔のまま夕日の腕を天音が掴む!!

「あ、あら。年頃の女の子の必須アイテムの()()()()()?」

そう言って取り出すのは手錠!!おもちゃか、本物か知らないがとにかく拘束用の道具!!

「それが必須なのは警察だけだ!!そしてお前は警察にお世話になる側だろ!?」

そう言って夕日から無理やり手錠を取りあげる!!

 

「お前これで何をしようとしたんだ?」

「ベットの足に付けて逃げられなくして、天峰クンを飼おうと――」

「没収な」

「ちょ!?返して!!」

そう言った手錠を自身のズボンにしまう天音。

夕日が慌てて、天音から手錠を取り返そうとして二人がもみ合う!!

そして不図した拍子に天音が胸のベルを掴んでしまう。

 

そしてそれを軽く引っ張ると……

 

「あ、いやん……」

 

夕日のサンタワンピースがほどけるようにバラバラになった。

「……おい……コレはなんだ?破れたんだが……」

もう十分と言ったように、天音が夕日に聞く。

正直言って心の中では、「もういい、もういいだろ!!」と悲痛な声を上げそうになっていた!!

どう考えても、マシな答えは帰ってこないと理解したが、それでも一応聞いてみる事にした。

 

「天峰クンでも、脱がしやすい様に作ったのよ?自信作――プギ!?」

 

無言で夕日の腹を殴る!!

「ちょ!?いきなり……ひぎぃ!?」

更に2発!!3発!!4発!!

 

「……一応お前に恩が有るから、天峰を帰らせはしない……さらに実際やった訳ではないから通報もしない、友達を警察に突き出すのは辛いからな……だがな?よくよくかんがえてくれ?お前のやろうとしてる事、ソレ犯罪、OK?お前の罪をかぞえろ?」

「愛することが罪とで――」

「もう数発要るか?」

殺気を目の前のショタ專痴女に飛ばす!!

「自重します!!」

 

 

 

その後すっかりおとなしくなった?夕日たちはクリスマスを楽しんだ。

途中、夕日は天峰のスープに怪しげなドリンクやを混ぜようとしたり、膝の上に乗せて必要に天峰の尻をなでたりしたがおおむね(天音の助けも有って)無事に終了した。

 

 

 

帰り道にて……

「夕日お姉ちゃんの家楽しかったね!!また行きたい!!」

楽しそうに笑う天峰を見て天音は……

「もう、二度とアイツの家にはいかせない!!」

「えー!!なんで!?」

「どうしてもだ!!」

 

夕日の部屋にて……

「うん。カメラはしっかり撮れてる」

極秘に仕掛けたカメラの映像をパソコンでチェックしていた!!

 

今年も平等にクリスマスの夜は過ぎてゆく……

 

 




久しぶりにパラレル作品(仮タイトル・リミットリバース)を書きました。
何故か一部の人に人気が有ります。
と言いつつ、自分でも書いてて楽しい作品です。


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クリスマス短編3 まどか&木枯編

くそう……いつの間にか正月終わってた……
今さらですがクリスマス編です……
遅刻してすいませんでした!!


「うをぉおおお!!なぜ俺はモテないんだ!?高身長、イケメン、爽やかさ!!モテる系の男が持つ全ての要素を兼ね備えているのに……!!」

木枯の兄の新芽が鏡の前で、両手で頭を押さえる!!

その瞳には涙が浮かんでいる!!

圧倒的負のオーラ!!

この世はまさにクリスマス!!恋人達は性夜……おっと失礼。聖夜を楽しむ!!

しかしそれは恋人がいる人間のみ!!

そうでない者は()()なるのだ!!

彼の姿は正にモテない男の僻みが形になった存在と言える!!

 

その様子を見ていた木枯に新芽が気が付く。

「木枯ぇ!!なぜ俺はモテないんだ!?見た目はこんなに麗しいと言うのにぃ!!」

木枯に近寄り肩を掴みガクガクと揺さぶる!!

 

「おにいちゃんがモテない理由は一つ!!……キモいからだよ。鏡よく見て見ろ、お前は不細工だ」

「おぉおぉ!!!」

クリティカルヒット!!

自身の妹から受けた容赦ない口撃!!

言の葉のナイフはキモナルシストの心を容赦なくえぐった!!

 

 

 

「うーん……今日はどうしようかな?」

そんな言葉をつぶやきながら街中を歩く。

残念ながらまどかは今日はパーティが有るとかで、昨日から居ない。

遊んでほしかったので、今朝がた天峰の携帯電話に連絡したのだが天峰の代わりに何故か夕日が出て。

『……ごめん……二人とも……寝不足……少し……寝てる……』

と言っていたため今日は遊べない様だ。

とりあえず『昨晩はお楽しみでしたね!!』と言っておいた。

何故かそう言わなくてはいけない気がした。

 

「うーん……みんな忙しいねー」

そう言って近所のぼろい漫画喫茶で適当に漫画を読み始める。

色々読みたいのが有ったし、何より家に居るとうるさいの(兄)が居る。

 

暫く読んでいたが、本から目を上げる。

大体読みたいモノや新刊は見終わった。

ドリンクバーに行き、昔の様に錬金術師の才能を見せようと思ったが、自身の携帯電話にいつも間にか膨大な着信が入っていたのに気が付いた。

全てまどかからだった。

慌ててその場でかけ直す。

「どーしたのー?」

「どーしたじゃありませんわ!!アナタが一人さみしくしてる様なのでワタシがひと肌脱いで上げたんですわ!!」

どうやらまどかはかなりご機嫌ナナメの様だ。

「良いですか!?今すぐ駅の近くのロータリーに来なさい!!……急用ですが、パーティしますわよ?」

その言葉にパッと木枯の表情が明るくなる!!

自分の事を思ってくれた居るのがうれしくなり、すぐに片付けを始めた。

 

「あーあ、せっかく作ったのに……」

木枯の手にはさっきドリンクバーで精製したドリンクが握られている。

流石に自信作のこれを捨てるのは忍びない。

仕方ないので、店の店員に上げた。

困惑した様子だが木枯は気にせず店の外に出て、駅のロータリーに向かった。

自身の親友の誘いだ、ためらう理由は無かった。

 

 

 

因みに……

「うまい!!なんてうまさなんだ!?的確な配合!!甘味と香料の絶妙なマッチング!!素晴らしい!!こんな物がウチのドリンクバーで作れるのか!?……いや、作るぞ……!!作って見せる!!これさえあればウチは繁盛間違いなしだ!!」

後日この店員が木枯のドリンクを完成させ、『エリクシール』と名付けぼろもうけしたのは別の話。

 

 

 

 

 

まどかサイド

「まどか様、こんな物しかご用意できず申し訳ありません」

佐々木が申し訳なさそうにテーブルに料理を並べる。

世間一般からすれば十分豪華と呼べる内容だが、クリスマスと言う特別な日に富裕層の人間がとる食事としてはやはり数段階ランクが落ちている。

 

「構いませんわ。ワタシ貴方の料理好きですもの、それにあの庶民がいつか言ってましたわ『中のいいみんなと食べれる食事が一番だ』と、此処には木枯も貴方も居ますわ特別な日と言ってもワタシにはこれで十分なのですわ」

そう言って佐々木に柔和に笑いかける。

感極まった佐々木がそれに対して涙を見せる。

 

「お、お嬢様……!! 何ともったいないお言葉」

「佐々木さーん!!このスープおいしい!!オカワリ有るー?」

「ただいま持ってまいります」

横からきた、木枯の言葉に反応し皿を受け取り厨房へ入っていく。

 

「えへへ……なんだか楽しーね!!」

「そうですわね……」

何時のも様に何も考えてない様な木枯の言葉に、まどかが笑いかける。

 

 

 

「あー!!雪だー!!」

食事の終了と同時に木枯が外を指さす。

その言葉の様に外にはチラホラと雪が降っていた。

 

「この様子ではあまり積りそうに有りませんわね、イザと言う時の為にアレをレンタルしたのですが、無駄に成りそうですわ」

「ねぇねぇ!!アレってなぁに?」

外の様子を見てつぶやいた、まどかの言葉に木枯が反応する。

その瞳にはキラキラと期待に満ちた様子がありありと読み取れる。

 

「人工降雪機ですわ!!」

「ナニソレ?ぢん……こう?」

「人工降雪機ですわ!!このおバカ!!」

自信ありげに話したまどかだが、木枯は良く知らないらしい。

言葉を所在な下げに繰り返すだけだ。

「良いですか?人口降雪機っていうのはスキー場などが雪が降らなかった時などの非常時に人工的に雪を降らせる機械ですわ。やはりクリスマスはホワイトクリスマスではないといけませんからね」

すらすらと説明をする。

今更だがなぜ個人がこんな物を所持しているかは、ご想像にお任せします。

 

「すっごーい!!これが有るなら夏でも雪山だね!!」

ようやく理解したのか、木枯がテンションを大幅に上げる!!

「ま、まぁ。ワタシほどの人間はみんな持ってますわよ?今回は自然に降ったのでその必要は……」

「ねね!!雪遊びしよ!!」

「は?」

 

 

 

一時間後まどかの家の庭にはそこそこの量の雪が積もっていた。

人工的な雪も混ざっている為、他の場所より明らかに量が多い。

そんな足跡一つない処女雪に、木枯が思いきり飛び込む!!

 

「あははっは!!さむーい!!あははは!!」

まるで何かに憑りつかれたように笑続ける木枯。

尚も雪の積もる地面に頭から突っ込んで、体を滅茶苦茶に動かしながら転げまわる!!

その姿はすっかり真っ白。

まるで雪だるまだ。

 

「笑事ではありませんわ!!……まったく……」

コートにマフラー、さらには手袋と寒さ対策をばっちりしたまどかに対し、木枯は自宅から着てきたカーディガンのみと言う軽装ではしゃいでいる。

「また風邪をひいても知りませんわよー!!」

マフラーを直しながら、木枯に叫ぶ。

しかしそんな事は気にせずただひたすら笑いいつ続ける木枯。

「冷た!!」

突如としてまどかの頭に雪の塊がぶつかる!!

何事かと思い、木枯を見るとせっせと雪玉を作っていた。

「ア・ナ・タ・ね!!ワタシに雪をぶつけるなんてどんな了見です――」

「必殺!!デストロイ雪ボール!!」

まどかの声を無視してさらに雪玉を投げつける!!

 

「冷たいって言ってるでしょ!?いい加減にしなさい!!」

遂に怒ったまどかが足元の雪をかき集め、木枯に投げる!!

その玉は容赦なく木枯に当たる、しかし当人は楽しそうに笑い転げるだけ。

 

「わ~い。雪合戦だ!!よろしい!!ならば戦争だ~」

「良いでしょう!!圧倒的な実力の差と言うのを身を以て教えて差し上げますわ!!」

 

 

 

お互いにせっせと雪玉を作りぶつけ合う。

そんな微笑まし様子を佐々木は屋敷の窓から、ジッと見ていた。

しかししばらくして……

「そろそろ、紅茶の準備をしましょうかね?」

ケーキが有るのを思い出し、紅茶の準備を始めた。

 

ああ、寒いだろうから暖房の温度も上げなくては……

 

楽しそうな二人を見て佐々木はそう考えていた。

 

 

 

暫くして二人は雪だらけで屋敷に帰って来た。

お互い、夢中で遊んだのだろう両手の指先がすっかり真っ赤になっている。

「おー?まどか指先真っ赤ー」

「アナタもですわ!!全くバカみたいハシャグから……」

そう言った瞬間木枯がまどかの手を握る。

「ちょ!?一体何を……」

「手をつなげば少しはあったかいでしょ?私賢ーい」

そう言って手をぶんぶんと振り回す。

 

「ああ、もう!!アナタの動きは全く予想できませんわ!!けど――」

 

「お嬢様、木枯様。紅茶の準備が出来てますよ」

横から佐々木が現れる。

その手には紅茶が乗っており、良い香りが漂ってくる。

「ケーキも有りますよ?」

「ケーキ!?わぁーい!!ケーキ!!ケーキ!!」

そう言ってピョンピョンとその場で跳ねる。

 

「ねね!!早く行こ!!」

そう言って木枯がまどかの手を引いて走り出す。

「ん?そう言えばさ!!さっきなんて言おうとしたの?」

「それはヒミツですわ」

思い出したように聴いてきた木枯の言葉を、イジワルな顔をして躱す。

「ぶー!!じゃあ、いいもん!!」

へそを曲げた木枯に尚も手を引かれながら、小さく口を動かす。

 

『アナタが手を引いてくれるのは嫌いじゃない』と

それは誰にも伝わらない言葉、しかし心はきっと木枯にも伝わっただろう。

彼女たちはそんな親友なのだから……




ふふふ……
何を隠そう私は小学生の頃ドリンクバーの錬金術師を自称した男!!
飲み物のミックスは得意なのだよ!!

父親に怒られましたけど……

更に言うとこの前、ファミレスに行ったら『ドリンクを混ぜてオリジナルフレーバーを
!!』と言うのがやってました。
時代がやっと私に追いついたのだな……


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リミットリバース1

注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!
本作はパラレルワールドの出来事です!
今回の話は本編に全く関係ありません!
設定の一部が本編と変化しています!
この話には幼女は出ません!
そのためロリコニュウムの摂取には向いていません!
本編中何か気分が悪くなったらすぐにブラウザバックしてください!
注意書きは以上です。


夕焼けで紅く染まる街中。五時を知らせるチャイムが鳴り遊んでいた少年たちが家路につく。

そんな少年がここにも2人……

「ヒャッハ―!いっけー!サイクロンシュータ―!」

ガチャガチャと自転車を立ち漕ぎしている。

「甘い!俺の8(エイト)・ビート・ヒートに追いつけるもんか!」

子供は遊びの天才!どこだろうが何らかの遊びを見つけ楽しんでいる。

そう、どこだろうと……

「オッシャー!ぶち抜いてやったぜ!」

角でもう一台の自転車を追い抜いた少年が勝利の雄たけびを上げる。

「オイ!天峰!前!前!」

追い抜かれた方の少年が突然あわてだす。

「へ?なんだ……って、ウオ!」

道の間から乗用車が飛び出してきた。

自動車と自転車双方がブレーキを掛けるもむなしく衝突した。

事故から数分後、救急車が一人の少年を病院に連れて行った。

 

とある病院の前、髪を短く切りそろえた女が不機嫌そうに腕を組みながら歩いてる。

「ったく!天峰のヤツ!バカな事しやがって!なんで俺がこんな事……」

彼女の名は幻原 天音(げんのばら あまね)近くの出素都論大学に通う女性だ。

「アレ?ハイネ?」

天音が後ろから声を掛けられる。

ハイネとは天音の愛称であり、この呼び方からある程度親しい間柄であることがわかる。

「あ?夕日じゃねーか!何してんだ?」

そこには髪を長く伸ばした女性が立ってた。

彼女の名は坂宮 夕日(さかみや ゆうか)天音と同じく出素都論大学の一年生だ。

「私は叔父さんにお弁当届けに来た。ハイネは?」

すっと右手に持ったカッターナイフ模様の風呂敷を見せる。

「なんかスゲー変なデザインだな……俺は弟がバカやらかして明日検査入院する事になったから、その様子見だ。母ちゃん弟にはあめーんだよな」

やれやれとした様子で言う。

「弟いたんだ?」

ぼそりとつぶやくように夕日が言う。

「暇ならこの後俺らもメシ行かねーか?うまいラーメン屋があんだよ!」

「うん、すぐに終わると思うから行こうか」

夕日はカウンターで受け付けに自身の弁当を渡すと、待合室の天音の所まで戻ってきた。

「ん、おまたせ。病室まで付き合う」

「おう、悪いな!」

二人は病室までたわいもないことを話しながら歩く。

「ん!ちょっと待て夕日!」

天音が病室の扉の前で、立ち止まる。

「ハイネ、どうしたの?」

不審に思い夕日が聞き返す。

猪突猛進を地で行く天音がこんなにも慎重になるのは珍しい。

「いやな予感がする……出直した方が得策か?」

その言葉に夕日は自身の耳を疑った!大学で初めて会った時の自己紹介で、「座右の銘は引かぬ!媚びぬ!顧みぬ!です!」と言い張った天音が出直すことを考えているのだ!これは緊急事態である。

「めんどくさい……何が有るの?」

しかし夕日はそんな事を気にせず扉をあけ放った。

 

病室の中では二人の少年がカードゲームに興じていた。

少年の二人が同時に夕日と天音に気が付く。

一人の少年が「あ!ねーちゃ」まで言いかけた時、夕日の隣を何かがすごいスピードで通り過ぎた。

夕日はその何かを見ようと背後を振り向いた。

「天峰のねーちゃんのおっぱ……」

「うるせぇ!寄るなエロガキ!」

そこには両手をワキワキさせながら天音に殴られる少年がいた。

「何?してるの?」

あっけにとられた夕日が思わず声を漏らす。

「気を付けろ夕日!コイツは弟の友達のエロガキだ!毎回俺の胸を狙ってくる猿だ!」

天音が少年の腕を掴みながら、夕日に話す。

「まあまあ、そう言わないで?まだ母親が恋しいんですよ?あ、僕野原 八家(のはら ひろや)ですよろしく」

腕を掴まれたままヤケに紳士ぶった口調で自己紹介する。

「夕日!騙されんなよ!コイツは紳士ぶってるだけの猿だ!」

尚も八家の腕を掴みながら天音が言う。

「男ならおっぱい大好きに決まってるでしょ!?ふわふわ最高ですよ!」

遂に本性が出たのか八家の目が血走ってる。

「さすがに病院ではやめたほうが……キャ!」

一瞬の隙を突き八家が逃げ出し、夕日の胸に顔をうずめる。

「おお!ふわふわ……してない?むしろ絶壁?」

説明しよう!夕日と天音には胸部の格差社会ができている!説明終了!

「……殺す」

ぼそりとつぶやき夕日が八家を捕まえる。

「え!?いや、あの、ちょっと?ごめんなさい!ああああ!ごめんなさあああい!」

そしてそのまま病室の外まで引きずって行った。

最後の方は悲鳴だったが気にしない。

 

五分後

「スッキリ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん……」

スッキリした夕日と壊れたテープのように「ごめんなさい」を連呼するように成った八家が帰ってきた。

「夕日ナニした?」

天音が夕日に聞いてくる。

「トラウマ植えただけ」

夕日がさらりと返す。

 

「っと!時間かかったな、ほらお前の着替えだ」

天音は自身の手に持ったカバンを、ベットに投げた。

「うわ!ちょっと!ねえさん!いきなり危ないよ!」

ベットの少年が抗議する。

「あれくらい取れない方がおかしいんだよ!」

全く取り合わない天音。

「ねえ、アマネ?アレがあなたの弟?」

夕日が天峰を見たまま固まる。

「ん?ああ、そうだ。いつもなんかナヨッとしてて気に食わねーんだけど俺の弟だ」

天音が夕日に自分の弟の事を説明する、その間も夕日は天峰をじっと見ていた。

「あ、始めまして。志雄束小6年の幻原 天峰(げんのばら たかみね)です」

ベットから降りてちょこんとあいさつした。

 

夕日がちょんちょんと天音の肩を叩く。

「なんだよ?」

チョイチョイと廊下の方を指さす。

一緒に部屋から出ろという事らしい。

「ワカッタ、ワカッタ」

全くしゃべらない事を不審に思いながらも天音は夕日の指示通りに病室の外に出る。

「どうしたんだよ?いきなり?」

天音が夕日に再び話しかける。

「ハイネ、落ち着いてきいてほしい」

「ん?なんだ?」

夕日がそう断って話し始めた。

「ちいさい男の子って良くない?」

一瞬にして天音の頭がショートした。

(ん?いま、コイツなんて言った?)

「ワリ、耳がおかしくなったみたいだ、もう一回行ってくれないか?」

自らが聞き間違いを起こしたと思いたくなりもう一度聞いてみることにした天音。

「だから、小学生位の男の子って萌えない?可愛がりたくならない?家に監禁したくならない?」

夕日の言葉を聞いて天音は理解した。

(あ、俺の耳が悪いんじゃねーや、コイツの頭がおかしいんだ)

そう思った瞬間目の前にもう夕日はいなかった。

その代わり病室から声がした。

 

「へー!自転車で怪我したんだ!泣かないなんて強いね?」

「うん!かさぶた程度です!」

そこのには親しそうに話す、夕日と天峰!

夕日による天峰の籠絡はもう始まっている!

「そっかぁ!退院したらおねーさんとごはん食べに行かない?天峰君はなにが好きかな?」

夕日が次の約束をさっそくつけ始める。

「ちょ!ちょちょっと待て夕日!」

それを天音が止めに入る。

「おまえ、天峰をどうする気だよ!」

自身の友人に対して口調が荒くなる。

「何って餌付け?」

夕日はかわいく自分の首をかしげた。

「おおぅ!?なんだお前!相手は小学生だぞ!?」

天音が理性的に成れと夕日に遠まわしに告げる。

「小学生だから良いんじゃない!未発達な体!これから中学入ると筋肉質に成っちゃうんだよ?声もソプラノボイスなんだよ!?そして何より!なんか怯えた感じの目がたまらないの!」

夕日が力強く話す。

夕日は本来は物静かなタイプ、そこが男子にも人気が有る。

しかし目の前の夕日は獲物を捕らえようとするハンターの目をしていた。

(やべーよ!夕日ってこんな趣味だったのか!?)

天音は自分の友人の豹変に心底驚いた。

「ねえ、義姐さん。天峰君ってどんなタイプが好きかな?」

夕日が瞳を輝かせながら聴く。

「おい!いま、ちゃっかり義姐さんって言ったか!?おまえ天峰をどうするつもりだよ!?」

天音がこれ以上もないくらいにあわてながら言う。

平然としているつもりだが、内心では無性に泣きたい気分である。

「何って。まず{おねーちゃん}呼びさせて、人前で手をつないだりキスさせたり、一緒にお風呂に入らせたり、一緒に寝たり、入籍させたり、子供で野球チーム作ったりかな?」

顎に手を伸ばしながら指折り数える。

「おま!人生設計させねーぞ!天峰はお前には一歩も指を触れさせねーぞ!」

突如として危険な本性を露わにした夕日!この物語は自身の親友から弟を守ろうとする女と周りの批判をはねのけ自身の愛を貫かんとする二人の物語である!




偶にはこういうのも書いてみたくなった!
悪いか!←開き直り
すみません!ごめんなさい!反省しますから!石を投げないで!
今度は本編かきますから!


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リミットリバース2

注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!注意!
本作はパラレルワールドの出来事です!
今回の話は本編に全く関係ありません!
設定の一部が本編と変化しています!
この話には幼女は出ません!
そのためロリコニュウムの摂取には向いていません!
本編中何か気分が悪くなったらすぐにブラウザバックしてください!
注意書きは以上です。


とある土曜の午後、時間は3時46分。

幻原 天音は自身の部屋で漫画を読んでいた。

「死亡大学」現在大人気のマッハで移動するイカを殺害する大学生たちの物語である。

「イカせんせーやべーな」

漫画を読みながら独り言をつぶやく。

バイトもなく実に平和な午後の一時。

しかしそんな時間も唐突に終わりを迎える!

「天音ー!悪いけど天峰を迎えに行ってくれない?」

2階から母親の声がする。

「チッ……今良いトコだってのに……」

舌打ちをして立ち上がる、正直言ってめんどくさいが後々母親と面倒な事になりそうなので返事する。

「解った、解った!今いく!」

本棚に漫画を片付け自身の部屋から出る。

 

今はすっかり使われなくなった父親のGT-R32のキーを指に引っ掛ける。

「さぁーてと!行ってくっか!」

エンジンをかけると同時にCDプレイヤーが作動しメタルなミュージックが車内にかかる。

「やっぱイイね!こうでなくちゃ!」

勢いよく車が発信する。

3速、4速とギアを上げる、そのたびに空けた窓から風が勢いよく入ってくる。

天音の運転する車はアッという間に天峰の居る病院に到着した。

 

「よー天峰!元気にしてたか?迎えに来てやったぜ?」

天峰の病室を開ける。

「あー天峰のネーチャ……」

「黙ってろ猿!」

胸を狙う八家に鉄拳制裁!

「いぎぃ……」

「さて、俺と帰るぞ?」

頭を押さえる八家を全く気にせずに自身の弟を見舞う。

「姉ちゃん!迎えに来てくれたのか!」

天峰が八家と同じように胸に飛び込む。

「お、おう……そんな喜ぶなよ……」

あまりの天峰の喜びぶりに少し引く天音。

天峰の背中をポンポンと叩く。

「さて、帰るぞ。忘れモンすんなよ?」

「う、うん!」

手早く天峰が自身の荷物を集めだす。

 

「用意できたな?」

「うん、これで全部だよ!」

天音の問いかけに元気に答える天峰。

「なら良し、じゃあ行くか」

病院の廊下を先に歩く天音と後に続く天峰。

「姉ちゃん、姉ちゃん」

後ろにいる天峰が天音の袖をクイクイと引っ張る。

「あ?なんだよ?」

「手つないで!」

天峰が上目づかいで言う。

「な、おま、しょうがねーな、今回だけだぞ?」

天音がそういって天峰の手を握る。

そうして二人は病院のロビーを抜け、駐車場に戻ってきた。

「さっさと乗れ!俺はかえって漫画読みてーんだ」

「わかった!助手席乗っても良い?」

「良いからさっさと乗れって!」

二人を乗せた車が発進した。

 

天峰がさっきまでいた病室。

八家がいまだに頭を押さえている。

「いてて……おねーさんは躊躇がないな……しかし痛みさえ快感になれば……こちらのもの」

かなりおかしな努力をする八家!

「ねえ、八家君。天峰君は何処かな?」

「ひいぃ!」

後ろから聞こえた声に急に怯える八家!

「ごめんなさいごねんなさいごごねんさいごさいめんねんさいごさい……」

振り向きもしないでごめんなさいを連呼!しかし!恐怖のあまり後編はまともに言えてない!

「ねえ?私は天峰君が何処に居るか聞いたんだよ?教えてくれないの?」

ねこなで声というのがふさわしいのだろうか?

甘い感覚を含んだ声なのだが八家は震えたまま尚も同じ言葉を連呼!

「三回目はないわよ?」

「はいい!おねえさんと一緒に帰りましたぁ!」

肩に手を置かれるとともにはじかれたように八家は振り向き、それだけを早口で言うと壁に向かい再びごめんなさいの連呼を始めた。

「へえ、そうなんだ。入れ違っちゃったのかな?」

そう言ったのは坂宮 夕日!

「ねえ、八家君?そんなに怯えなくてもいいのよ?私はイイコはお仕置きしないから?」

ニコニコしながら壁に向かう八家に向かう。

「本当ですか?」

恐る恐ると言った表情で振り返る八家。

「ホントよ?八家君はイイコよね?」

しゃがみこみ八家と同じ視線に立つ夕日。

「はい!僕はイイコです!夕日お姉ちゃん大好き夕日お姉ちゃん大好き夕日お姉ちゃん大好き夕日お姉ちゃん大好き夕日お姉ちゃん大好き夕日お姉ちゃん大好き……」

今度は壊れたように夕日お姉ちゃん大好きと繰り返す八家!

それを満足げに見て頷く夕日!

「あーホントいい子ね?よしよし」

夕日と目が死んだ少年!

「さてと、次は天峰くんにも言ってほしいな~」

捕食者の目をしながら、天峰に自分を好きと言わせる妄想を始める夕日!

この女!危険!

 

そんな事はつゆ知らず天峰は車の中!

「天峰!腹減ったからLFC寄るぞ?」

「うん!」

天音が車をフライドチキンが有名なファーストフード店の駐車場に止める。

「俺はチキン手羽サンドのセットとコーヒー、ブラックで、天峰はなんにする?」

店内で注文をしながら天峰に商品を聴く。

「僕これがいい」

天峰が指さしたのは天音と同じ商品。

「食えるのか?まあ、いいけどお前がそういうんなら」

 

暫くして注文した商品が到着する。

「「いただきます」」

二人ともサンドイッチにかぶりついた。

「あー、これだわ!チキンのジューシーさがたまんねー、他の奴らは太るからとか言って食わねーんだよな、運動する気ねーんだよな」

愚痴を言いつつもサンドイッチを食べ進める天音。

「天峰、悪いけどトイレ行ってくる、荷物見ててくれ」

そう言って席を立った。

天峰の前には天音が口を付けたコーヒーが残っている。

「お姉ちゃん……」

 

少し前

天峰と八家が病室でカードゲームに投じている。

「それにしても天峰の姐さんは良いな」

八家が自分のエースモンスターの召喚に成功する。

しみじみとつぶやくように八家が言った。

「うん、自慢の姉さんだよ。勉強できるしスポーツできるしカッコイイよね」

天峰もゲーム盤を見ながら答える。

「たとえヤケでも渡さないよ?」

天峰が除去カードを出しあっけなく八家の切り札が破壊される。

ジッと八家を見すえる。

「こえーな、やめてくれよ……」

八家が降参といったように両手を上げる。

「お姉ちゃんはすごいんだよ?勉強できるしスポーツできるし僕にもすごく優しいんだよ?あんなに素晴らしい人と姉弟になれて僕は世界一幸せだよ!ああ!早く来てくれないかな~もう半日近くあってないんだよ!?入院なんてしてらんないよ!」

はあはあと、天峰の呼吸が荒くなる。

(ホントにこえーよ……)

八家が一人心の中でつぶやく。

その時丁度病室の扉が空いた。

 

再び現在

天峰は迷わず天音のコーヒーを一口飲んだ。

ブラックなのに何処となく甘い気がして。

天峰はニヤリと笑った。

 

 




前回の特別短編3の続きの様な形になりました!
こちらの方がメンバーが全体的に病んでる気がするのはないしょだ!


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リミットリバース3

今回はスペシャル。
12000UA記念作品です。
リバース作品はなぜか人気の高い、バリエーションですね。


「ねーちゃん!!ねーちゃん!!今週の土曜って夜、暇?」

天峰が、天音の部屋にノックもせず入ってくる。

その瞳はきらきらと輝いているように見える。

 

「あ”?なんだよ……俺は忙しいんだが?」

露骨に不機嫌な態度で天峰を迎える天音。

先ほどの天峰とは対照的に目は充血しており、隈も出来ている。

極め付けに額に冷却シートが張り付ている。

彼女が向かう机の上には、ノートパソコンと数冊の本とプリント、そして最後に無数の栄養ドリンクの空き瓶。

 

幻原 天音。現在2徹中!!

なぜかレポートの提出期限が重なり、合計4つものレポート課題を彼女は抱えている。

昨日今日で何とか、3つまでは終わったのだが最後の一つに苦戦しているのだ。

 

「うっ……土曜日もダメ?」

不機嫌な天音を見て尚も天峰が、質問する。

手に持っていた紙を、胸の前で握りしめる。

 

「あー、一応話は聞いてやる」

 

「本当!?」

天音の言葉に、天峰の表情がぱぁっと明るくなる。

いそいそと手に持っている紙を広げ、天音に見せる。

紙の内容は簡単だった。今週の土曜日に河川敷の一部で養殖していたホタルを見る祭りが有るというチラシだった。

市がそこそこ力を入れているイベントで、当日には出店も多く出店するらしい。

 

「お祭り!!ホタルの!!」

 

「ホタルぅ?アンなの尻が光るゴキブリだ。俺はキョーミ無いね」

しかし今の天音にとっては睡眠時間の確保が優先だった。

天峰には悪いが、一人か友達と行ってもらう事になるだろう。

 

「えー。ホタル、ねーちゃんと見たいよー!」

珍しく天峰がごね始める。

寝不足の天音の脳に、その声はひどく耳障りに聞こえた。

 

「うるせー!!俺は忙しいんだよ!!えーと、ヤケだっけ?ソイツと行ってこい!!誘って来たのもソイツだろ?」

パソコンの画面に視線を戻しながら天音がそう言い放つ。

カタカタとキーボードをたたく音が、部屋に響き始める。

 

「ねーちゃん……わかった、坂宮さんと行ってくる」

瞬間、部屋に響いていたキーボードの音がぴたりと止まる。

ゆっくりと天音が天峰の方へと振り返る。

 

「おい、天峰……今、誰と行くって言った?」

 

「ん?さかみ――あ!『夕日おねーちゃん』って言わないとダメだった!!夕日おねーちゃんと行ってくる!!」

走って部屋から出ようとする天峰を、天音が手を取り捕まえる。

 

「天峰。2、3質問させてくれ。夕日をこれから誘うのか?それとも誘われたのか?」

天峰の目を見ながら、質問を始める。

アノ危険人物(夕日)が関わっているなら、事態は思ったより深刻になりそうだった。

 

「夕日おねーちゃんに誘われたんだよ。今日学校の帰りに会ったんだ」

 

「学校の帰り!?なんだ!?お前の通学路知ってんのか!?」

予想外の言葉に、慌てる天音。

更に天峰が衝撃の言葉を繰り出す!!

 

「夕日おねーちゃんには帰りに良く会うよ?今日もアイスおごってくれたー!!」

天峰が嬉しそうに話すが、天音の背中にさーっと冷たい物が走る気がした!!

 

「おいおいおい……アイツどこまで……他にはなんか有ったか?」

 

「うーん、と……『おねーちゃん』って呼んでって言われたり、声を携帯の着信に使うから録音させて欲しいって――」

 

「OK!!もうわかった、もう言わなくていい。天峰、悪いが俺少し用が出来たみたいだ。

安心しろ、祭りには俺が連れて行ってやるから」

 

「本当!?やったー!!」

天音の言葉に天峰が、両手を振りあげて喜びご機嫌で部屋から出て行った。

居なくなった天峰を見送ると、深いため息をついて携帯電話を取り出した。

友人のナンバーにかける。

言わずも名が、相手は夕日である。

 

トゥルルルルルルルルルン

トゥルルルルルルガチャ!!

 

「よう、夕日。なんで電話したかわかってるよな?」

なるべく怒りを堪えて、絞り出す様に言葉を紡ぐ。

一歩間違えば、八つ当たりで自身の携帯を叩き壊す事に成りかねないからだ。

 

「あ、あら~。ハイネ……み、未来の義妹に挨拶……かしら?」

 

「ほざくな!!このガチ小児性愛者!!お前ウチの弟に何してるんだ?っていうか祭りの会場で何する気だよ?」

受話器越しに相手の慌てる態度、がひしひしと伝わってくる!!

 

「な、別に何も?ただ一緒にホタルを見たいな~、なんて……?」

 

「ふぅん?夜の出店で餌付けしようとしたんじゃなくてか?」

探りを入れる様に、天音が言葉を並べる。

一瞬あとに、夕日が息を飲むのが聞こえる。

 

「馬鹿ね!!ハイネ!!餌付けはそこらのコンビニでも出来るでしょ!!

此処で重要なのはシチュエーションよ!!

『二人で夜にホタルを見た』ってのが重要なのよ!!思い出は心に残り記憶になるわ!そしてその中にある、私が天峰君を染めていくのよ!!

まぁ?もちろん周囲に人気のない茂みが有る事は事前の調査で確認済みなのよね!!て天峰君が、大人の階段を私と一緒に――」

 

「あ、言い忘れてたけど、この会話録音してるからな?」

ブラフ込みで、通話口をUSBでコンと叩いた。

 

「いい!?」

さっきまでのテンションは一変!!

饒舌に話していた夕日がぴたりと言葉を止める。

 

「おい、どうした?急に静かになったみたいだが?」

 

「べ……別に?もともと私物静かなタイプだし……」

夕日が沈黙したのを確認して、再び天音が口を開いた。

 

「お前が家の弟を気に入ったのなら、俺は別に文句は言わない」

 

「流石、義姉さん!!話が――」

 

「黙ってろ!!祭りは今週の土曜だな?お前と天峰を二人にすると何をするかわからんから、俺も行く。いいよな?」

 

「えー?せっかくの二人のデートなのに?」

 

「録音した音声持って警察行こうか?」

再び通話口をUSBで叩く。

 

「待ってください。やめてください。逮捕されてしまいます」

ヤケに丁寧な口調で、夕日が謝り始める。

 

「よし、録音した天峰の声も消してもらおうか?」

 

「ッ!?それは……」

先ほどとは違い明確に夕日が拒絶する。

 

「警察行くか?」

 

「………………」

 

「おい、どうした?」

せかす様に、黙りこくった夕日に天音が声をかける。

 

「ハイネ!!あなたはわかっていないのよ!!ショタの音声の貴重さが!!良い事!!このボイスはこの世の至高のお宝よ!!それを壊すなんて出来ないわ!!」

急に大きく成る声のボリュームに、驚き耳から携帯を離す。

 

「それはお宝じゃねー!!」

その後約30分以上二人の電話口での言い争いが続いた。

 

 

 

 

 

時は飛び、その週の土曜……

祭り囃子が、夜の闇に響いていく。

その人込みを幻原姉弟の二人が歩いていく。

「金魚すくいだー」

 

「ほら、後にしろ!!」

出店に目を輝かせる天峰と、眠気に必死に耐える天音約束の場所まで歩いていく。

待ち合わせ場所に付くと、もうすでに夕日が待っていた。

 

「おう、夕日。来てやったぞ」

 

「あら~、ハイネも来たの?家で寝てて良かったのに」

天峰を見た瞬間目の色を変えた、夕日をけん制気味に天音が挨拶をする。

 

「うわー!!夕日おねーちゃんキレイー!!」

天峰が夕日の浴衣を見て、声を上げる。

夕日は濃い紺色の紫陽花をあしらった浴衣を着ていた。

夏の風物詩ともいえる姿で、夕日本人の姿と相まって非常に艶やかである。

 

「ありがと、天ちゃん」

しゃがむようにして、夕日が天峰の頭を撫でる。

嬉しそうに天峰が目を細める。

 

「ハイネは浴衣着てきてないの?」

不思議そうに夕日が尋ねる。

それに対して、天音が平然と答えた。

 

「あ?俺はその服苦手なんだよ。咄嗟に足が上がらないし、下駄は足の重点を掛けるのがうまくいかないからな……」

 

「ハイネ……一体何と戦ってるの?女の子はもう少しおしゃれすべきじゃない?」

そういう、天音の服はズボンに、シャツという非常にボーイッシュな姿だった。

正直言うと洒落っ気とは無縁といえる。

 

「別にいいんだよ。さて、ホタルだっけか?見に行くんだろ?」

先頭を切る様に、天音が歩き出す。

その後は天峰、夕日が付ていく。

 

「天ちゃん。はぐれるといけないから手をつなぎましょ?」

 

「うん!!」

夕日が天峰の手を取り、二人で歩幅を合わせて歩き出す。

歩幅の小さい天峰と、浴衣のせいで歩幅が小さくならざる得ない夕日。

にぎやかな祭りの空気を受けながら、ゆっくり歩いていく。

 

「あれ?おねーちゃんは?」

目の前にいたハズの天音が見えなくなり、少し天峰が不安そうにする。

人込みが急に恐ろしい物に見えてくるのだった。

 

「大丈夫よ。私がいるわ」

天峰の不安を感じ取ったのか、夕日が天峰の手を引き抱き寄せる。

ポンポンと安心させる様に、背中を撫でる。

 

「おかしいわね……天ちゃんを放っておいて何処に行ったのかしら?」

天峰を抱き寄せながら、夕日が辺りを見回す。

別にこのまま見つからずに、二人で歩いても良いのだが後々天音と合流した時、本人からいろいろ言われてうるさいだろうから我慢した。

 

(あーあ、惜しいなー。少し姿を消して一人で不安そうな顔をした天ちゃんを見てみたかったなー。

それどころか「おねーちゃん一人で、行っちゃったね。わがまま言った天ちゃんを嫌いになったのかな?」とか言って不安にさせて私に依存さてもいいんだけど……たぶん、ハイネはすぐ戻ってくるのよね。

何だかんだ言っても、天ちゃんが好きなんだから……)

夕日が一人恐ろしい事を考えているが、無垢な天峰は気が付かない。

ちなみに夕日に紺色の浴衣は、夜闇に身を隠すステルス性がある。

夕日がこの浴衣を選んだ理由の最たるものの一つである。

 

「あ、天ちゃん見て。ホタルが飛んでるよ」

夕日が、天峰の顔を横に向けさせながら河の方を指さす。

対岸には木で作られた遊歩道があり、そこから河に生息するホタルを見ることが出来る仕掛けに成っている様だった。

 

「ホタル……?」

目を凝らしながら天峰が対岸の小さな光を見る。

 

「ねぇ、天ちゃん。ホタルがどうして光るか知ってる?」

 

「お尻に電球が付いてるの?」

 

「あはは、違うよ。ホタルが光るのはそういう成分があるから、「どうして」っていうのは「なんの為に」って事。

何のためにホタルは光ると思う?」

天峰を撫でながら夕日が、天峰に再度聞く。

 

「前が暗いから?」

 

「ううん、アレはね、仲間を探してるの。

いや、仲間ってのは違うかな?

ホタルは自分のお嫁さんを探しているんだよ?」

 

「お嫁さん?」

天峰がオウム返しする。

さっきまで天音を探していたのをすっかり忘れている様だった。

 

「自分の好きな人に見つけて貰いたくて、ホタルたちは頑張って光ってるんだよ。

ねぇ、天峰君。じゃ、なんで私達人間はお尻が光らないと思う?」

 

「……わかんない……」

 

「そっかぁ」

天峰の答えに少し残念そうな顔と声色を使いながら、夕日がつぶやいた。

 

「私達には、そんなのいらないから。

出会う人ってのはね?人生で必ず出会う事に成ってるの。

たとえどんなに、時代が変わっても、それこそ世界が変わっても出会う人とは出会えるの、だからね?」

 

心配しないで――その言葉を出そうとして夕日は口を止めた。

 

人込みをかき分け、出会うべき人間がこちらに走って来たからだった。

天音が息を散らしながら、話しかける。

 

「おい!!二人ともこんな所で何してんだよ!!早くホタル見に行かないのか?」

 

「ねーちゃーん!!」

天峰が夕日の元を離れ、天音に抱きついた。

衝撃に、一瞬天音が姿勢を崩す。

 

「おっとおっと、どうした?一体?

ハッ!?まさか夕日お前、天峰に――」

戦慄きながら、殺意のこもった目で夕日を睨みつけた!!

 

「ちょっと、何もしてないってば!ハイネが見つけるまで待ってたの」

疑われた夕日が同じく眉を釣りあげながら、指を振るう。

 

「まってた?それはこっちも同じだよ、橋を越えて向こう岸までいって、ホタルの並び口でお前たちが来てないのに気がついて、射的で時間つぶしてたらこっち側にお前らが見えたから急いで戻って来たんだぜ?」

今まで何をしていたか、天音が説明する。

さらっと言っているが、橋からこっちを往復するにしても、向こう岸から二人を見つけるのも驚異的な身体能力である。

 

「あのね……天ちゃんがそんな早く移動できる訳ないでしょ?」

 

「え……あ!!」

夕日に指摘されて、ようやく天音は自分が悪かった事に気が付いた様だった。

浴衣と小学生が、天音の歩くスピードについて来れる訳ないのだ。

 

「あー、すまねぇ……ちょっと、気が利かなかった……」

バツが悪そうに、頭の後ろを掻く。

 

「ちゃんと弟はしっかり見てなきゃダメでしょ?攫われたりしても知らないわよ?」

 

「攫いそうな奴、筆頭が何言ってるんだ?」

夕日の言葉に天音が、ジロリと厳しい瞳を向ける。

 

「ねーちゃん!!お腹空いた!!」

そんな空気を読んでか、天峰が近くにあった焼きそばやを指さした。

 

「あー、そういえば夕飯まだだよな。待たせた詫びだ。好きなの買ってやる」

 

「ほんとう!?やったー!!」

 

「義姉さんごちそう様でーす」

天峰と夕日が同時に口を開いた。

 

「お前は自分で買えるだろ!?」

天音が夕日に指摘するが……

 

「えー?ハイネが居ない間私が面倒見たんだよ?ベビーシッター代は?私ー天峰君が食べたいなー」

 

「家の弟は非売品だ!!……まぁいい、待たせたのは本当だしな、焼きそば位なら奢ってやる」

そういって、天音が出店に向かって歩き出して、歩みを止める。

 

「おっと、今度ははぐれない様にな」

天音は天峰と手をつないだ。

 

「夕日おねーちゃんも!!」

そういって反対側の手を夕日に向ける。

 

「ありがと、天ちゃん」

三人は今度こそ同じ歩幅で歩き始めた。

 

 

 

「夕日おねーちゃんの手、少し濡れてる?」

 

「気にしないで!!少し興奮して手汗で濡れただけよ!!」

 

「……おまえ、もう帰れ……」




おねショタが書きてーなーで、始まったこの作品。
世界が変わっても、夕日と天峰はめぐり合う的なストーリーを目指したのですが……

夕日が……暴走気味に……
なぜだろう?


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リミットリバース4

リクエストにより、今回は七夕の特別篇!!
なぜか人気のあるリバース作品です、通常版の七夕はまた次回に。


大型ショッピングモールを不機嫌な顔で、天音が歩いていく。

本日は日曜なのだが、両親が出かけてしまったせいで夕食は天音が作る事に成っていた。

料理が出来ない訳ではないが、『めんどくさい』という気持ちが優先してしまう。

さらにそこに影が一つ。

 

「ねぇ、おねぇさん一人?俺とどっか遊びに――」

 

「あ”!?んだよ……うッせーぞ!!ナンパならどっか他所でヤレや!!」

 

「ひぃ!?」

上位クラス変態(夕日)すら退ける天音のドスの聞いた声にチャラい男が怯える。

がくがくと足までもが震えだし、まともに言葉を話す事すら困難になる!!

 

「はぁ……根性のカケラもねーな。まだ、アイツ(夕日)の方が根性有るぞ。

ま、今の男なんてこんなもんかもしれねーけどよ」

舌打ちをして、そのまま男に背を向けて歩いていく。

 

「お、おい……!!

お、お前、ちょっと美人だからって、ちょ、調子のってんじゃ……」

なけなしのプライドを振り絞ったのか、男が去りゆく天音の背中に声をぶつけた。

ピクリと一瞬、天音が反応しゆっくりと楽しそうに振り返る。

 

「へぇ?いいねぇ……少しは男、見せてくれるんだよな?」

好戦的な顔を見せ、男を挑発する。

周囲の人間は、騒ぎを嗅ぎ付けたのか小さな人込みが出来つつあった。

そんな中で、

手早く、そして静かに天音は周囲を確認する。

 

(警備員は周囲になし。警備員を呼んでくれるトクショウな奴は居ないっと……

相手はビビりが一人……か)

自身に助けが来ないと解ると、天音が交戦的な笑顔を張り付けたまま再び口を開いた。

 

「なぁ、お前のソレってピアスか?」

 

「だったらどうした?」

天音は男の耳にしてある飾りを見つけて質問した。

 

「いやぁ?ひょっとしたら『偶然』私がなんか掴んじまって、それを『間違えて』引っ張ったらスゲー痛そうだな~って思っただけ」

男の耳に向かって指を指す。男はもちろん、それ以外のピアスをしている周りの野次馬までもが、嫌そうな顔をする。

想像してしまったのだろう、自身の耳がちぎれる様を。

 

「い”……」

最もそのことをリアルに想像したのは目の前の男だった様だ。

自身の耳に手を当てる。

 

「さぁて……どうするよ?私的には見逃してくれると助かるんだけど?」

そう言って天音が腕をゆっくり振った。

『見逃してくれる』というという単語を使ったのはあえてだ。

周囲に野次馬が居ると、男も引くに引けない事を天音はわかっていた。

 

「し、しかたねーな……」

それだけ話すと、意外なほど男はあっさりと引いていった。

 

「おら、見世物じゃねーぞ!!散れ!!散れ!!」

シッシッ!!と腕で周囲の野次馬どもを追い払う。

邪魔が入ったが、買い物の続きをしなくてはいけない。

 

 

 

 

 

適当に夕食分の買い物を済ませショッピングモール内の笹の飾ってあるフードコートで、昼食をとる。

天音の弟の天峰は、朝から友達と遊んでいるらしく昼はいらないと言っていた。

今日の昼食はチャンポン麺にした。

からしをたっぷりかけ、一気に甘めの豚骨スープに溶かして食べる。

 

「あー!!ねーちゃーん!!」

 

「ごふっ!?げほっ!!」

突如聞いた事のある声に、天音が麺をのどに詰まらせる。

 

「ああ!!俺、今水持ってくるから!!」

そう言って、何処からかコップに入った水を持ってきてくれる。

慌てて、天音はその水を手に取る。

「げほ……ぐう……はぁ……はぁ……おい、天峰。なんでお前が此処に居るんだ?」

自身の嫌な予感を、拭い去ろうと半ば願う様な口調で尋ねる。

 

「ヤケと来たんだよ。ほら、ゲーセンのトライアングルの達人がやりたくて……

あと、今日はカードの新弾のパックが出るんだ!!」

楽しそうに、天峰が語る。

しかし、その言葉が本当なら八家が居るハズだ、一体何処に居るのだろうか?

 

「なぁ、天峰?八家のヤツは何処に行ったんだ?一緒に来たんだろ?」

 

「うん……けど、途中で帰っちゃったんだよ。お腹が痛くなる予定が有ったのを忘れてたんだって」

何の疑問も無く、天峰が話す。

考えなくても解る事だが……

 

「腹が痛くなる予定ってなんだ?明らかにおかしいだ――」

天音が有る人物を捉えて、残りの言葉を飲み込むと同時に、八家の帰った理由を理解する。

 

「天ちゃーん?勝手にどっか行っちゃだめでしょ?おねーちゃん心配したわ……よ?」

遅れて走って来た人物も、天音を視界にとらえると同時にパスタの載ったトレイを持ったまま、笑顔で固まる。

 

「よう……夕日……何してるんだ?こんな、所で?」

 

「は、はぁい……ハイネ……天ちゃんとデートしてただよ?」

 

「おかしいなぁ?ウチの弟からはそんな情報一切聞いてないんだが?」

怒りをにじませ、夕日に尋ねる天音。

 

「ば、ばかねぇ……これ位の年頃の子って、秘密の一つや二つある物よ?

姉離れよ、姉離れ!!弟の性徴――じゃなくて成長を応援してあげてね?」

 

「お前は人としての道から離れつつあるがな!!」

言い訳を続ける、夕日に向かって天音が箸を投げつける!!

箸はまるでダーツの矢のように、一直線に夕日に向かう!!

現在の夕日の両手にはパスタの皿。落とす訳にはいかずどう頑張っても片手では2本の箸は防げないのでは!?

 

「大丈夫、大丈夫。バレなきゃ犯罪じゃないのよ?」

笑顔を保ったまま、夕日はパスタの横に有ったフォークで箸を2本同時にガードしていた!!

天音の投げた箸をフォークの枝分かれした、金属部分に挟み空中でキャッチした。

 

「はい、お箸。返すわ」

ずいっと、フォークに挟まった箸をそのまま天音に返す。

 

「お前最近人間離れしてないか?」

箸を受け取りながら、天音が冷さ汗をかく。

さっき相手した、チャラい男よりずっと恐ろしい物が有った。

 

「そうかしら?あ!きっとあれよ!!

最近発見された、St波の影響よ」

 

「はぁ?St波?なんだソレ?」

聞きなれない単語に、天音が首をひねる。

 

「通称『ショタ波』ね。若い男の子から発される特殊な放出物で、一部の人間に影響を与え身体能力を向上させる――」

 

「そんな物質が有ってたまるか!!」

 

「えー?けど、化学雑誌ネイチョーに掲載されてるのよ?

発表者も、前に『ロリコニウムと平行世界の関連』で博士号を取った学者さんの――」

 

「ドイツもコイツも病気か!?一体どうしたんだ!?全体的におかしいだろ!?

なんだよ!!ロリコニウムって!!ショタ波ってなんだよ!!」

周囲にたくさんに人がいるのにも関わらず、天音が大声を出す。

それほどに夕日の言葉は理解できなかった。

 

「ねーちゃん……」

 

「気にしたいで、天ちゃん。おねーさんは少し疲れているだけなのよ。

少しの間、そうっとしておいてあげましょう?」

 

「うん……おねーちゃん早く元気に成ってね?」

悲しそうな顔をした天峰を、夕日が手を引き連れて行こうとする。

 

「お、おい!!まてまてまて!!」

去っていく、二人を天音が何とかして呼び止める。

流石にここで、天峰と夕日を二人にする訳にはいかなかった。

主に夕日が何をするか解らなかったからだ。

 

「ねーちゃん、大丈夫なの?」

 

「あ、ああ。俺は大丈夫だぜ?少しお前たちをからかっただけだ。

せっかくだから一緒に飯くおうぜ?座れよ、夕日」

無理して笑顔を作り、天峰を安心させる。

と同時に夕日を呼び止め、けん制も同時にする。

 

「えっと、私は遠慮――」

 

「夕日おねーちゃん、一緒に食べようよ!!」

脱出をしようとする夕日に、天峰の笑顔が投げかけられる。

この笑顔に逆らえる夕日ではなかった!!

 

「そうね!!一緒に食べましょ!」

途端にニコニコと笑顔になって、天音の横にトレイをおいて座る。

そして自身の横に天峰を座らせる。

 

「普通は正面なんじゃねーの?」

天音が夕日の性格から考えて、疑問を口に出す。

 

「そんなことないわ!!天ちゃんを私の膝の上に乗せてお互いに食べさせあって――」

 

「おい、天峰。こっちに来い、俺の隣な」

 

「うん!」

天音が天峰と夕日の間を区切る様に体を滑り込ませる。

油断も隙も有りはしない!!

 

「あ……まぁいいわ。天ちゃーん、おねーちゃんと一緒にご飯食べましょうねー」

ニヤニヤとしながら、夕日が天峰の正面に移動するなり早速パスタをフォークに巻いて差し出す。

 

「ありがと!!夕日おねーちゃん。あーん……うん!!おいしいよ」

パスタをもらった天峰が喜び、夕日に笑顔を見せる。

 

「いいわ……すごく、すごくいいわ」

まるで名画でも見た、画家の様な顔で夕日が感動を伝える。

五臓六腑に染み渡るという表情をしていた。

さらにトドメとばかりに、鼻から一筋の血が流れ始める。

 

「おい!!鼻血でてんぞ!!」

夕日の流血に、天音が慌てるが……

 

「おねーちゃん鼻血、鼻血!!これ使って!!」

天峰がポケットからハンカチを取り出し、夕日の鼻にやさしく当てる。

 

「あら、天ちゃんありがと、すーはー、すーはー、すはーすはーすはーすはーすはー」

受け取り鼻に付けるなり高速で夕日が深呼吸を始める。

 

「おまえな……もう少し理性を」

 

「私は理性的に、生きてるつもりよ?」

 

「尚更、質が悪いな!?……それにしても、どうしてお前らが二人で此処にいたんだ?」

そう言えばと、ずっと気に成っていた疑問を夕日と天峰も二人に投げかけた。

 

「お星さまー!!」

天峰が両手を広げ楽しそうに笑いかける。

それを補足する様に、夕日がカバンを漁りだす。

 

「もともと、プラネタリウムに行く予定だったのよ」

鼻血をぬぐいながら、夕日が一枚のパンフレットを取り出す。

それは、このショッピングモールの一角に設けられた物のチラシだった。

 

「へぇ、此処プラネタリウムなんて有ったのか。

けど、なんでいきなり?

あ!今日七夕か!!」

パンフレットを見ながら、その横の『七夕フェア』の文字に今日が7月の7日であることに気が付く天音。

その言葉に対して、夕日が恋する乙女の様に指折り話し始めた。

 

ここ(フードコート)にも笹飾ってあるじゃない。気が付かなかったの?

ロマンチックで良いでしょ?ごはん食べて――星をみて――その後遊んで、夜になって本物の天の川を見た後、大人なホテルで愛を語り合って――天ちゃんを私に依存させ――」

 

「待て待て待て当て!!お前途中から、いろいろやばい事言ってたぞ!!

あと、二人でその、あれだ、天峰は、小学生だし、大人なホテルとか行けないだろ?」

 

「大丈夫!!ちゃんと受付が無人の場所を探しておいたから!!」

天音の指摘に対して、親指を立てながら夕日が笑う!!

 

「ちげーよ!!そうじゃねーよ!!倫理だよ!!倫理!!それがお前に欠如してる大切な物なんだよ!!」

 

「愛する事が罪とでも?」

 

「お前の愛し方は少なくとも罪だよ!!小児性愛者!!」

しれっと受け流そうとする、夕日に天音が食って掛かる!!

 

「おねーちゃん!!そろそろ時間じゃない?」

天峰が壁に掛けてある、時計を見て二人の袖を引っ張る。

 

「あら、そうね。天ちゃん良く教えてくれたわね、じゃ行きましょうか?」

食べ終わった皿を片付け、その場から立ち上がる。

 

「おい、待て!!俺も行く!!」

買い物袋を持ちながら、天音も立ち上がった。

 

「ハイネが興味あるなんて、意外ね」

 

「ちげーよ。お前の毒牙からかわいい弟を守る為だよ。

お前と天峰を暗い中で一緒にしてられるか!!」

何をするかわからない、夕日に任せておけない!!

そんな気持ちが、天音のめんどくさがりな感情を吹き飛ばす!!

 

「えー……いいじゃない。義姉さん、若い二人にここは任せて――」

 

「年齢はそんなにかわらないだろ!?むしろお前の方が少し年上位だろ!?」

天音と夕日が言い争いを始める。

それをみて、天峰はフードコートの笹の有る場所まで走っていく。

 

 

 

 

「おねーさん、短冊ください!!!」

 

「はい、坊や。短冊、願いごと書けたらまたおねーさんに渡してね?」

笹の下にいた、職員から短冊を受け取るとペンでさらさらと願い事を書き始めた。

 

「なんて書いたのかな?」

 

「ずっとみんなと居られる様にって!!」

笑いながら短冊を職員に渡す。

 

「あ、あは……確かに、少しおねーちゃん達、仲悪そうだもんね……」

尚も言い争いをする、二人を視界に収め職員の人が苦笑いする。

 

「ちがうよ!!アレが、二人の普通なんだよ!!みんなとーっても仲良しなんだよ!!」

天峰が今日一番の笑顔を職員に見せた。



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リミットリバース5

さて、今回はリバース世界の夏休み!!
迫りくる、夕日の魔の手から天音は天峰を守り切る事は出来るのか!?


多くの学生が講義室で、鉛筆を走らせる。

そんな中、試験官と思わしき男が時計を見て時間が来たことを告げた。

 

「ふぅ……まぁ、いいか」

その中の一人、幻原 天音が鉛筆を置いて教授が回答用紙を回収していくのを横目で見る。

見てわかる通り、今は大学のテスト週間だ。

と言っても天音の取っている授業はコレで全て終わり、他のレポート課題を提出すればすべての苦労から解放される。

 

「さて、行くかな」

人もまばらに成った教室、天音が背伸びをして荷物をまとめる。

時間はちょうどお昼時だ、約束した訳ではないがいつもの様に自身の友人が居るであろう、第二食堂へと向かっていく。

僅かに眠い、テストに向けて昨日根を詰めすぎたみたいだ。

だが、明日からは夏休みだ。

天音はこの時間を利用して、大型バイクの免許を取ることを計画している。

もうすでに、買いたいバイクの目星は付けているし、免許を取るための資金も用意済みだ、ここ数か月バイトをこなした甲斐が有ったようだ。

 

 

「お、居た居た」

相変わらず人の少ない食堂の中、いつもの窓際の席にやせて、長い髪を垂らしている美少女を目にする。

 

「おーい、夕日!テスト終わった――か?」

此方を見た、夕日の顔をして天音がギョッとする。

その顔は、目の下にくっきりとクマが出来ており、髪の毛も何処か痛んでいる様に見えるし、肌も荒れている気がする。

 

「……て、……が……バ……もう……か……いあ……」

天音に気が付いてぼそぼそと何か話しだすが、やはりその眼には生気という物が宿っていない。

 

「おい!?どうした、しっかりしろよ!!」

パンパンと、数回夕日の頬を叩く天音。

酔っ払いを起こすような力で、気づ付けない様に気を付ける。

 

「ハイ……むい……コーヒー……ってき……」

 

「あ”?コーヒー?ちょっと待ってろ」

何とか聞き取れた部分を元に、食堂の端に有る紙コップの自販機に走る天音。

少し迷った末に、砂糖とミルク多めのカフェラテを手に戻ってくる。

 

「ほら、コーヒーだ。飲め!!」

 

差し出された、コーヒーに口に付けた夕日がゆっくりと覚醒する。

コクコクと、飲んでいく中で目に生気が戻ってくる。

 

「ふぅ……生き返ったわ……あー、ハイネありがとー。お金、今度返すね」

行儀悪く、紙コップを口に咥えて夕日が天音に礼をする。

 

「コーヒー一杯分位別にいい。

ってかそれより、なんでお前ぶっ倒れてたんだ?

テストの為に徹夜か?お前はそう言うのしないと思ってたんだが……」

天音の中では、夕日は生活の中では基本的に要領が良く、大体の事は簡単にこなしてしまうイメージがあった。

それだけに、此処まで切羽詰まった彼女を見るのは初めてだった。

 

「テストも有るけど……それ意外の要因が多いわね……」

 

「なんだ?監禁してる子供が家に帰りたいってぐずったか?」

冗談めかして、夕日をからかう天音。

自分から言ってなんだが、夕日の場合冗談でない可能性が有るのは悲しい事である。

 

「……ハイネの中で、私はそういう扱いなの?」

責める様な視線を、此方に向ける夕日。

その様子を見ながら悪い悪いと軽く謝る天音。

 

「私のお家に居る子がそんなワガママいうハズが無いじゃない!!

家に来れば、皆いい子に成るのよ?

『お姉ちゃんの事、どう思ってる?』って聞けば『おねーちゃんだいすきー』って言うのがお約束よ!?

子供たちは私が好きで、私は子供たちが好き。

これぞ完璧な、愛の無限ループシステムよね!!理想の世界よね!!」

 

「そっちかよ!?ってか、お前の世界は控えめに言ってビックリするほどディストピアだな!!」

さっきまで、力の無かった目に在ってはいけないタイプの危ない光が宿る!!

夕日は創作系でよくあるハイライトの消えた病んだ目に、狂気を光を宿したような目を偶にする。

勿論小さい男の子を目にする時も。

 

「愛する事が罪だとでも?」

 

「少なくともてめーの愛し方は罪だよ……」

キリッとした顔で話す夕日に対して、天音が力なく答えた。

 

「んで?その『意外の要因』ってのは?」

会話をずらす為に、半場無理やりこっちの会話に戻す。

これ以上この会話を続けていたら、夕日は間違いなく暴走するだろうし、天音は間違いなくストレスで胃が大変な事に成るだろう。

 

「バイトよ、バイト。

テスト勉強と、提出用のレポートがたまってたりと、厄介事が重なってたの……」

思い出した様に大きなあくびをすると、つまらなそうに夕日が話す。

そう言えば、少し前からバイトのシフトを多く入れる様にしていたと言っていたのを思い出した。

 

「バイトのせいで体、壊しちゃだダメだろ?

夏休みに向けて、なんか買いたいのか知んねーけど、学業が優先だからな?」

 

「あら、ハイネの口からそんな言葉が出るなんて、意外ね。

っていうか、この前までハイネも似たようなモンだったじゃない」

ふふふと、夕日が天音を笑った。

正直な話をすると、天音はあまり学業に熱心な学生とは言えない。

寧ろ遊びの方に力を手に入れている方が多いだろう。

結果として、夕日に泣きついて来た事も結構な回数ある。

意外という単語は、その事を暗に指摘していた。

 

「ぐっ……別にいいじゃねーか……単位さえ取れればいいんだよ!」

 

「はいはい、そうね。うふふふ」

天音の態度に夕日が、笑った。

 

「さてと、テストも終わったし、お前実家に帰るのか?

確か、学校から3時間位の所だよな?夏休み中、余裕が有ったら遊ぼうぜ」

天音の態度に、夕日がほほ笑んだ。

夕日は実家が学校から電車で3時間位のところにある。

通う事も不可能ではないが、6時間近く学校の行き帰りで消費するのはもったいなく、将来の生活の事も念頭に入れて夕日は一人暮らしをしている。

 

「そうね、適当に連絡し合って、遊びましょうか」

そう言って二人は別れた。

普通なら学校が始まるまでの長い別れ、そうなるハズ。

だった……

 

 

 

 

 

「あー、アッチィ……マジ死ねる……」

夏休みに入り、早2週間。

出掛けない事を理由に、ほぼ下着姿の天音が扇風機の目の前に陣取っている。

その時玄関の扉が開く音がした。

おそらく、小遣いを持たせてコンビニに走らせた天峰が帰って来たのだろう。

 

「ねーちゃん、ただいまー!!アイス買って来たー」

嬉しそうに駆けてくる天音の弟、天峰の手にはコンビニの袋が有った。

ニコニコと嬉しそうに、ビニール袋を掲げて見せる。

 

「おう、天峰サンキューな。適当なの一個選んだら冷蔵庫しまっといてくれ」

袋の中から、目当てのアイスを取り出し天峰の同じように一個のアイスを取り出す。

 

「ふぅ、夏はコレだなぁ……」

天音はお気に入りのレモン味のかき氷を、シャクシャクと音を立てながら食べる。

その横では、天峰が口の周りをベトベトにしながらコーンに入ったアイスを食べている。

 

「ねーちゃん、どっか遊びに行かないの?」

 

「ん?」

横目でジロリと天峰を見る。

一瞬だが天峰が怯えたような顔をするが、構わず再び口を開く。

 

「みんな、プールとか行ってるよ?」

 

「プールぅ?却下だ。めんどくせぇ上に、すっげー混んでる。

しかもナンパ男がうるせー、却下だ、却下」

ふりふりと手を振り、行くつもりが無い事を天峰に教える。

 

「ちぇー」

つまらなそうに天峰が唇を尖らせる。

 

「で、そんな事より宿題はやったのか?

夏休みの友、今年もあるだろ?八月の初めに終わらせろよ」

 

「終わらせたら連れてってくれる?」

 

「さぁな。けど、宿題を終わらせてないお前を、連れて行くプールはねぇ事は確かだ」

天音の言葉に、天峰が一喜一憂する。

 

「分かった!夏休みの友、明日はもっと教えてもらう!!」

 

「天峰!!ちょっとまて!!」

天峰が、自身の部屋へと向かっていこうとして天音に止められる。

自身の弟の言葉に非常に不穏な物を感じたのだ。

まるで音もなく進行している悪夢の残滓を見つけた様な……

 

「教えてもらうって、誰にだ?誰に宿題を教えてもらってるんだ?」

自身の予想が外れている事を祈りながら、天音が天峰に聞く。

そうだ、この予想は外れてるに決まってる。

アイツの家は県外だし、今は夏休みだ。

実家に帰ってるハズだし、きっと友達かそこらだ。

 

「えっとねー、夕日おねーちゃんにだよ!!」

元気いっぱいで天峰が答えた。

天音の口からは、自然と渇いた笑みが漏れだした。

 

「そっかぁ。あの、野郎は夏休みにも出て来るのかー

もう少しまともだろうと思ったんだけどなー

ははははははははははははははははははっははははは……」

予測していた最悪の結果。

夕日は、この町に潜伏していて天峰を狙っているらしい。

 

「ねーちゃん?」

 

「天峰?夕日は悪い奴じゃないんだ。むしろ子供好き――とも解釈できない事も無いい奴だ。だがな?

その、アイツは子供を見ると、自分を抑えきれなく成るんだよ……

変な事されなかったか?体を障られたり、物陰に連れ込まれたりしなかったか?無理やりキスされたり……

なんか有ったら、すぐに言うんだぞ?」

 

「大丈夫だよ。夕日おねーちゃんは優しい人だもん、そんなことしないよ」

夕日を全く疑うことの無い、純粋で屈託ない笑顔を向ける。

その笑顔はまさに夕日の大好物の笑顔だった。

 

「……そうだな、夕日は優しい奴だもんな……」

早々に天峰に警戒心を抱かせるのを諦め、天音が天峰を影から見守る事にした。

 

 

 

 

 

翌日

「夕日おねーちゃん、勉強教えてー」

駅前の図書館に、天峰の声が響く。

一瞬だけ、笑った夕日が自分の人差し指を天峰の唇に当てて、「静かに」とジェスチャーで伝える。

 

「天ちゃん?此処は図書館だから、少し静かにしてね?

お姉ちゃん怒られちゃうから、ね?」

そう言って優しく夕日が天峰を窘める。

 

「ごめんなさい、夕日おねーちゃん……」

 

「分かればいいのよ。ちゃんとごめんなさい出来る天ちゃんは良い子ね」

シュンとする天峰を夕日が抱き寄せて優しく頭を撫でる。

その光景はまさに仲の良い姉弟に見えた。

 

夕日の顔が盛大に歪んで、息を荒くさえいていなかったら……

 

「さ、お勉強をしましょうか?」

 

「うん、ねーちゃんお願いします」

 

「天ちゃん、違うでしょ?お勉強をする時はお姉ちゃんの事、なんて呼ぶんだっけ?」

何かを聞く様に、夕日が天峰に尋ねる。

その言葉に、天峰はハッとした。

 

「お願いします、夕日せんせー」

その瞬間、夕日が何とも言えない危ない表情をする。

体が小さく震え、恍惚の表情で唇を舌で濡らす。

 

「よく出来ましたぁ……さぁ、お勉強を始めましょうねぇ?」

尚も危険な笑みを浮かべたまま、勉強を始める。

夕日は天峰を自身の横に座らせ、ぴったりくっつく体勢で勉強を見ている。

しかしその視線は、天峰の宿題ではなく天峰本人に注がれて居た。

 

外で遊んでわずかに焼け始めた肌、幼くてもオトコノコ特有の逞しさが有る手足、そして夏の熱さでしっとりと汗ばむ体から零れる汗。

 

目の前20センチに有る天峰に、夕日の理性が刈り取られていく!!

夏休みとはいえ平日の図書館、人もまばらで周囲の目は無い!!

 

(これは、OKよね……天峰君が私を誘ってるのよね……よしんば誘ってないとしても、こんなかわい子は襲われても仕方ないわよね!?というかむしろ本人は、心の中では私が襲うのを待ってるに違いないわよね!?

興味無いフリで私を焦らしてるのよね……いけない子ね……お仕置きが必要よね……!!)

何というか、非常に犯罪者チックなロジックが夕日の脳内で繰り広げられていく。

しかし、所詮それは脳内での事。

実行していない夕日を捕まえる事は出来ないし、相手の脳内が読めない天峰は無邪気に宿題をこなしていく。

 

「夕日せんせー、ここわかんない」

 

「え、えっと……コレは、分数の割り算なんだけど、ちょっと特殊な場合なのよ」

天峰の声にはっとして、夕日がひっかけ問題を教えていく。

簡単の解いていくその姿を、天峰は憧れの視線で見る。

 

「はい、コレで解った?」

 

「夕日せんせーすごーい!!」

するすると解けた問題を見て、天峰が喜ぶ。

夕日はその姿をみて、小さく笑みをこぼした。

 

「天ちゃん、ちょっと汗かいてるね。それじゃ気持ち悪いでしょ?

せんせーが拭いてあげるわね」

そう言って、持って来たカバンからウエットティッシュを取り出す。

 

「あ、すーっとする奴だ。僕それ好き」

 

「ハイハイ、ちょっと待ってね」

ウエットティッシュを手にした夕日が、天峰の顔や腕を拭いていく。

拭かれた部分がすーっとして気持ちがいい。

 

「はぁい、中も拭きましょね~」

そう言って、夕日がウエットティッシュを持った手を天峰のシャツの中に入れる。

 

「はぁ、はぁ……痛かったら、言うのよ?」

息を荒くしながら、より激しく体をふき始める!!

 

「おねーちゃん、ちょっと、痛い……」

 

「はぁ、はぁ、はぁ……大丈夫よ!!すぐに気持ち良くなるから――」

 

「おい、何やってるんだ?楽しそうに」

遂に興奮のあまり華血を垂らし始めた夕日の方に、聞きなれた声と共に手を置かれる。

 

「あ――ハイネ……」

 

「よう、夕日。私の弟が世話に成ったな?」

 

「う、うん……下のお世話もしっかりこなすわよ?」

笑顔の天音、そして笑顔のまま固まった夕日。

二人の視線が交差する。

 

「あ、おねーちゃん!見て見て!!これこれ!!」

天峰が無邪気に、天音に気が付き先までやった宿題を見せて来る。

 

「おう、天峰。えらいぞ、私はちょーっとお前の先生とお話があるから自習してろよ?

さ、先生。家の弟の将来について『お話』しようか?」

 

「ハイネ?ばかねぇ、天ちゃんの将来なんて私の隣に永久就職に決まってるでしょ?」

 

「永久就職というよりむしろ、終身刑なんだよな……」

何か話しているが、気にせず夕日を図書館の物陰に連れ込んだ。

 

「ハイネ……私、気持ちは嬉しいけど、心に決めた子が……」

ごまかす様な、夕日の言葉を無視して天音が問い詰める。

 

「うっせー!!お前、何やってるんだよ!?ってか、ずっとここに居たのか!?」

 

「馬鹿ね、始発電車で来てるに決まってるじゃない。

天峰君の勉強を教える為にね!」

 

「その情熱、他の事に使えよ……

っていうか……そろそろお前捕まんないのか?

なんなら、私が通報するか?」

 

「ま、まって!!待つのよ!!これは、そう……そう、授業料よ!!

勉強を教えてあげる代わりに天峰君を堪能させてもらう、システムよ!!」

 

「家の弟は非売品です。言い残す事はそれだけか?」

そういって、携帯電話のボタンをプッシュしようとする。

 

「ふふふ、ふふふ……バレちゃ、しょうがないわね。

そうよ……私は小さい男の子が大好きなのよ……」

 

「いや、知ってるし」

 

「私を通報してもいいのかしら?天峰君が悲しむわよ?」

夕日が不敵な笑みを浮かべ、カバンの中から一冊の冊子を取り出した。

その冊子には、何処かのリゾートの宣伝が乗っていた。

 

「ん?ソレがなんなんだよ?」

嫌な予感を感じながら、注意深くそれを観察する。

夕日は再び不敵な笑みを浮かべ、2枚の航空チケットを取り出す。

 

「おいおい……まさか」

 

「うふふ、本当に神様って居るのよね。

偶然なの、本当偶然買い物してたら、キャンペーン中でね?一回だけ福引が出来たのよ、特賞は――」

 

「み、南の島!?」

 

「そう!その通り!!小さな観光地の無人島のプライベートコテージ貸し切り1泊2日!!追加料金を払えば、最長2泊3日!豪華料理追加可能!!」

バシバシと、旅行雑誌を手でたたく!!

 

「や、やめろぉ……」

珍しく、天音が気弱に成って自身の側頭部を押さえる。

しかし、夕日の口撃は止まらない。

 

「勿論頼んだわよ……テスト期間中だってのに、バイト入れまくって軍資金の調達したわよ!!もちろん二人分の料金をね!!」

 

「あ、ああ……」

 

「もう、遅いわ。もう、天峰君を誘っているのよ!!

ああ、天峰君、と~っても楽しみにしてたわねぇ?

南の島初めてって言ってたわね?」

勝ち誇った様に、夕日が目の前でひらひらと旅行雑誌を見せる。

ソコには「カップルに最適」だの、「二人っきりの島で、ちょっと大胆に♡」などのうたい文句が乗っている。

 

「勿論、天ちゃんの御両親にちゃんと許可は取ってるわよ?

さぁ、私と天ちゃんの一足早いハネムーンね」

絶望する、天音の前で夕日が勝ち誇って見せる。

 

天峰を無理に連れて行かせなければ、きっと天峰本人から一生ものの思いでをつぶされたとして恨まれるだろう。

結果として、天峰との間に隙が出来ればそのチャンスを決して夕日は逃さない。

彼女はそう言う女だ。

 

だが、逆に天峰を旅行に行かせた場合は、凶悪な肉食獣(坂宮 夕日)によって天峰はパクリと食べられてしまう事は目に見えている。

 

行くも地獄、引くも地獄。

今!!まさに、夕日による天峰の包囲網が完成しているのだ!!

 

「うふ、お土産、期待しててね?義姉さん?

ひょっとしたらぁ、甥っ子か姪っ子が生れるかも――」

うっとりとする、夕日から旅行券の冊子を奪い取る!!

そして、願いに願ったわずかな可能性にすがる!!

 

そして、ソレを遂に見つける!!

 

「へへへ……やった、やったぜ。マジに、今回バッカはマジにやばかった……」

 

「?」

天音は夕日に向けて、雑誌のある一文を指さした。

 

 

 

 

 

空港

 

アテンションプリーズ……アテンションプリーズ……

 

夕日と天峰の乗る飛行機の搭乗が始まった。

「お父さん、お母さん行ってきまーす!!」

 

天峰が空港に来た両親に対して手を振る。

両親は優しくほほ笑み、手を振り返してくれた。

夕日は深々とお辞儀をする。

 

「おねーちゃん、早く行こ!!」

 

「ええ、そうね。天ちゃん」

 

「おい、夕日。私を置いてくなよ」

そう言って、大きなキャリーバックを持って天音が付いてくる。

ひくッと、夕日の頬が引きつった。

 

あの日、天音が見つけたチケットの説明分はこうあった。

 

『プライベートコテージ、2名様無料。

追加料金により、一泊二日を二泊日に出来ます。

さらに、追加により()()()()()()()()()()()()()()

 

そう、このチケットはカップルと家族をターゲットにしたもの!!

カップルなら、完全に無料だが。

家族の場合も考慮して、結構な金額を払えば無料の二人と同じサービスを受けれるのだ!!

 

「おねーちゃん、楽しもうね!!」

 

「ああ、そうだな……バイクと免許の為の金を派手に使おうか……」

少しだけ、悲しそうに天音が笑った。

 

「?」

なぜ自身の姉が悲しそうな顔をしてるか、分からなかったが天峰はすぐに、青い海に心躍らせ始め、姉の事を忘れてしまった。

 




海外旅行行きたいなぁ……

あえて、観光地ではなく後進国的な場所で――
けど、いろいろ怖そうだなぁ……


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キャラクター紹介

此処ではリミットラバーズのキャラクター紹介をしていきます。

基本的にレギュラーのみなので一回でただけのキャラなどは紹介しません。

そのキャラクターは各自で、好きなあの子の名前で呼んだり、嫌いなアイツの名前で呼んであげてください。

どんどん追加していく予定です。



人物ナンバー①

 

『今を時めくナイスガイロリコン』

 

幻原 天峰(げんのばら たかみね)

 

言わずと知れた?本作品の主人公。

現在、私立『志余束高校』の1年B組の生徒

成績は中盤より少し下程度、見た目は悪くないのだがモテたりはしないタイプ。

友好関係は野原 八家と特に仲が良い。

自転車通学で、そこそこのスピードで自転車をこぐのが密かな特技。

ゴールデンウィーク前に骨折で入院したが、クラスの友達が八家以外お見舞いに来てくれなかった(家族含む)のが地味にショック。

良くも悪くも普通の高校生と言える。

 

表向きは……

現在彼はロリコンという不治の病を末期状態で患っており、(社会的な意味で)寿命が残り少ない。

本人曰く、水と日光と幼女から放出される未知の物質ロリコニウムが有れば、あと100年は生きれるらしい……本当だろうか?

彼の目指す幼女に出会えるのだろうか?

先に逮捕される気がしてならない。

 

好き 幼女 ラーメン 自転車

嫌い 熟女 うるさいおばさん パイナップルの入った酢豚

 

得意 見ただけで幼女の大体の年齢が解る、幼女に警戒心を抱かせにくい話術

 

趣味 幼女の観察

 

何時か使わせたいセリフ。

???「ここには馬鹿しかいないのか?」

天峰「ロリコンも居るぜ!!」

 

「夕日ちゃん……落ち着いて聞いてほしい……このパンツは俺が自分で買ったんだ、盗んだんじゃないんだ、信じてくれ!!」

 

 

 

登場人物ナンバー②

 

『良くキレる、病み気味なカッター幼女』

 

坂宮 夕日 (さかみや ゆうか)

 

私立『志余束中学』に通う13歳の幼女。

本作のメインヒロイン。

シングルマザーの母親の元に生まれ、家に知らない複数の『お父さん』が変わる変わる居た事のある幼女。

義理の父達とはもちろん、母親とも上手くいってはいなかった様だ。

相手の顔色をうかがう性格や、くぐもりがちなしゃべり方はそのせいで出来た様だ。

実は右目が義眼であり、煙草を押し付けられた事で失明している。

更に体には無数の虐待痕が有り、人前で肌をさらすのを極端に嫌がる。

 

精神的に不安定なところを、自身の叔父に保護され病院に入院という名目でかくまわれた居た。

一時的に天峰と恋仲になるも、自身から別れを告げている。

家に一人でインスタント食品ばかり食べていたためか、味覚が少しおかしい所が有る。

 

彼女がいつも手にしているカッターナイフは、元は義父のもので最初は恐怖の象徴だったが、天峰との出会いで恐怖→暴力→支配する力→約束の象徴へと変わっていった。

トラウマと宝物、両方の面が有る複雑な道具。

 

好き 天峰 ハイネ 新い家族 甘いのも 

嫌い 苦い物 辛い物 うるさい人 野原 八家

 

得意 手先が器用 特にカッターでの切り絵

 

趣味 読書(絵本などが特に)映画鑑賞 散歩

 

何時か使わせたいセリフ。

「……本気にして……いいの?……私……重いし……逃がさないよ?」

「……針串刺しの……刑!!」

 

 

 

登場人物ナンバー③

 

『はわわわ!!な、ホンワカ大人し幼女』

 

晴塚 藍雨 (はれつか あめ)

 

小学5年生

物語開始当初から、天峰と行動を共にしている少女。

年の割にしっかりしており誰にでも敬語で話し、何処か一歩引いた幼女。

奥ゆかしさ大人しささらには家事能力と、全体的にお嫁さんにしたい度の高い幼女。

彼女はかくしているが、漬物が好きで自分で漬けたりもする。

 

実は同学年からはモテるらしい。

というよりもモテ過ぎて、学校の先生に拉致された。

一時期はトラウマになりかけたが天峰によって救われている。

 

好き 漬物 運動 朝の占い番組

嫌い 大きな音 ピーマン 強引な人

 

得意 家事全般 暗算

 

趣味 押し花 公園めぐり 朝の散歩

 

何時か言わせたいセリフ。

「わ、私なんかで、い、良いんですか!?そ、その、こちらこそ、よ、よろしくお願いします……」

「ダメです!!まだそのきゅうりは漬かってません!!」

 

 

 

登場人物ナンバー④

 

『全方位カバー!!万能型超高性能変態生物』

 

野原 八家(のはら ひろや)

 

天峰と同じく志余束高校1年B組の生徒

彼は、天峰よりも背は低いが、どちらかというとかわいい顔をした男である。

モテそうなのだが、エロ本ばかり持っている為女子から毛嫌いされている。

逆に一部男子からは崇められているが……

名前の通り8男という異色の経歴を持つ男。

天峰とは中学時代からの親友。

脳内は常にピンクで染まっており、思考をエロに特化した人類。

常に大量のエロ本を落ちあるき、誰にでも貸し与える菩薩の様な男。

 

好き メスの生物全般

嫌い 自分に嘘をつく男

 

特技 相手を一目見ただけで、好みのジャンルが解る

 

趣味 知的好奇心を満たせる本の収集 自分を磨く事

 

何時か言わせたいセリフ。

「今のお前に興味は無い……スカートの似合う男の娘になって戻ってこい」

「ロリコニウムか……確かにその力は脅威だ、だが!!相反する物質を当て対消滅させる事は出来る!!喰らえ!!熟女線照射装置!!」

「むだだ!!俺は有りとあらゆるジャンルのエロをマスターした男!!『萎え』という感情とは無縁よ!!」

 

 

 

 

 

登場人物ナンバー⑤

 

『えっと誰だっけ?ほら、居たのは知ってるんだよ?』

 

卯月 茉莉 (うづき まつり)

 

この作品におけるメイン当て馬。

天峰たちと同じく志余束高校に通う1年A組の生徒。

プロポーション、性格、頭脳などすべてが高水準にまとまった高性能女子、 だがこの作品では全く意味をなさない。

天峰の小学生時代の幼馴染だが、途中で転校し高校入学と同時に戻ってきたヒロイン力あふれる少女、だがこの作品では全く意味をなさない。

もちろん、モテない訳でもなく良く手紙を男子から貰うが本人はつれない態度ばかり、きっと彼女の心には天峰が住んでいるのだろう、だがこの作品では全く意味をなさない。

因みにツンデレ、だがこの作品では全く意味をなさない。

 

好き 天峰 料理 クッキーだがこの作品では全く意味をなさない。

嫌い 八家 幼女にデレデレする天峰 ゴキブリだがこの作品では全く意味をなさない。 

 

特技 大体事はすぐに出来てしまうので、苦手は無いが特に得意な事も無い、だがこの作品では全く意味をなさない。

 

趣味 音楽を聞く事 動物の画像を見る事 自分を磨く事、だがこの作品では全く意味をなさない。

 

何時か言わせたいセリフ。

 

ラム「ぐわわー!!」

卯月「やったわ!!遂に作者を倒したわ!!これで次回からは私が活躍する話よ!!」

 

「ねぇ……今度の日曜映画でも……え?お腹が痛くなる予定が有るの?それじゃあ仕方ないわね……」

 

 

 

 

 

登場人物ナンバー⑥

 

『ちょいS!!ハーフお嬢様』

 

まどか・D(ディオール)・トレーディア

 

イギリスの有名宝石商『トレーディア』の会長の一人娘。

イギリス人の父と日本人のハーフ。金髪で気の強い性格をしている。

一時期日本に住んでいた頃、山重や木枯と仲良く成る、現在では木枯は唯一無二の親友。

基本的に勉強が得意で努力家、他人を見下すのが好き。

飛び級をしており11歳にして高校2年の肩書を持ち志余束高校に通っている。

まどかの漢字表記は「万土香」本人は好きではないらしい。

現在第二ボーノレブの主将らしい。滅多に参加しないが……

 

好き クラシック音楽 人を説き伏せる事 羨望の眼差し 森林 木枯

嫌い 騒音 コーヒー 馬鹿な人 子ども扱いされる事

 

特技 勉強 交渉

 

趣味 木枯をからかう事 他人を見下す事 高笑い

 

いつか言わせたいセリフ。

「バカンス?ええ、南の島なら温暖な島から南極の一部まで取り揃えてますわ」

 

「こ、光栄に思いなさい!!このワタシまどか・D・トレーディアの寵愛を受けたことを!!……これからよろしくお願いしますわ……あ、あなた……」

 

登場人物ナンバー⑦

 

『歩く危険人物!!禁断の果実の女』

 

森林 木枯(こがれ)

 

この作品屈指の巨乳幼女、頭のねじが外れた様な性格で非常におバカ。

しかし何気ない事で才能を発揮したりするから始末が悪い、天然ゆえの才能か……

夕日たちとは違う中学に通っており出番は、まどかとのセットになることが多い。

本人ははばからず「まどかが好き」を公言している。

トンデモナイ爆弾発言をすることがある。

天峰も彼女の制御は不可能、というより本人自身の制御不可能。

実は木枯はニックネームであり蔑称、本名は林古(りんこ)

しかし本人は自身の本名を半分忘れている。

 

好き まどか カレー その時のテンションで変わる。

嫌い ピーマン 昆虫 その時のテンションで変わる。

 

特技 集中力しかし長く続かないのが欠点 

 

趣味 ぼーっとする事、MAXで5時間ぼーっとしていた。

 

いつか言わせたいセリフ

「ん?んん!?すごい事思いついた!!!あのね!!…………あれ?なんだったっけ?」

「むむむ!!私こういう時、言うセリフ知ってる!!えっと『ご飯にする?アフロにする?それともタワシ』!!……え?違うの!?

まぁいいやー、今日からよろしくね!!」



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Twilight Eclipse~病弱娘って儚さがいいよね!~
我が心と行動に一点の曇りなし!


事故っていうのは突然やってくる、気分の良い時ほどそんな気がする。

それは俺、幻原 天峰(げんのばら たかみね)とて例外じゃないらしい。

 

「うおぅ!」

オンボロアパートの二階と一階をつなぐ階段で、一人の少年が足を滑らせた。

重力に従い体が落下を始める。

「キャー!先輩大丈夫ですか!」

訳あって一緒にいた後輩の晴塚 藍雨(はれつか あめ)が悲鳴を上げる。

「うう、リアルに痛い…」

痛みを堪え自分の状態を確認する。

 オカシイナ?僕の腕が肘以外の場所で曲がってるぞ?ふしぎふしぎー

「いってー!なにこれ!なにこれ!まじめに痛い!ヘルプ!ヘェルプミー!」

「わわわわ!先輩落ち着いてください!」

駆けつけた藍雨が天峰を落ち着かせようとする。

「うう、藍雨ちゃん、俺の腕なんかおかしくない?スゲー痛いんだけど」

「うわぁ、ぽっきりいってますね…足の方もいたそうですけど…」

「え…足?」

天峰が恐る恐る確認すると、右足首が80度位捻じれてた。

「え?捻挫?足首がウケ狙ってんの?」

「あ、今救急車呼びましたから」

気の毒そうな顔で藍雨がいう。

暫く天峰の悲鳴が市街地に聞こえたという。

 

「はい、腕は全治3週間、足は早ければ2週間位かな」

初老の白髪交じりのドクターが笑いながら言う。

天峰はあの後病院に搬送された、ドクターによれば入院3週間らしい。

世間はゴールデンウィーク直前ウキウキとした雰囲気が漂っている。

連日テレビでは、ゴールデンウィークに行きたい店や、新幹線のチケットがやれ満席だなどと報じてる。

幻原家も例外ではなく、母親が「温泉に行きたい!すごく行きたい!よし行こう!」と豪華な旅行計画を立てていた、しかし天峰の入院を聞くと「かわいそうに…お土産きたいしてね!」「兄貴、不幸だな!メシウマっていうんだっけ?」などと天峰を除いて旅行に行ってしまった。

天峰に残されたのは、学校が「今じゃー!」とばかりに出した大量の宿題。

「チクショーなんだってんだよー!」

折れてない右腕で数学を解きながら、天峰が愚痴る。

「ハイハイ、手を動かす!レッツ因数分解!」

天峰の隣に少女が座っている、親しみやすい表情に豊かな胸、抜群のプロポーションを誇る。

彼女の名は卯月 茉莉(うづき まつり)天峰の幼馴染である。

茉莉は俗にいう、美少女の部類なのだが天峰は興味が無い、なぜなら…

「せんぱーい!お見舞いに来ましたよ!」

「あ!藍雨ちゃーん!来てくれたのか!うれしいな!」

露骨に態度が変わる。

そんな天峰の様子を見て、やはり茉莉は面白くなさそうな顔をする。

「なによ!デレデレしちゃって!バカじゃないの?藍雨ちゃんは小学生よ!変態!ロリコン!恥ずかしくないの!?」

「俺はロリコンじゃねー!風評被害だ!名誉棄損だ!」

「えっと?後からの方がよかったですか?お見舞いおいてきますね」

藍雨が危険を察知したのかお見舞いの品だけおいて去っていく。

「はあ、もう、付き合ってらんないわ、私も帰る」

「ああ、藍雨ちゃん…おれのオアシス…」

汚物を見るような目で天峰を見ながら、茉莉も病室をでる。

「よー天峰、予想以上に荒れてたな!」

入れ違いで少し身長の低い男が入ってくる、くりくりした目をした小動物系の男子だった。

「よーヤケか、まあな」

少年の名は野原 八家(のはら ひろや)天峰とはクラスメイトである。

「ほら、例のブツだ」

八家が紙袋を天峰に渡すその中身は…

「放課後ロリータ」「ロースクールラバー」「魔法幼女触手攻め」「ムッチン!オネーさん」etc…

大量のエロ本!

八家は、クラスに一人はいるエロい系男子!ありとあらゆるエロ本を日夜蒐集し、友人に無償で貸し与えている。

そのことからクラスの一部の男子からは「歩くエロ本図鑑」「エロリス」「十万三千のエロ本」といった名で呼ばれている。

「せんきゅーヤケ」

天峰も受け取らぬ訳にはいかぬ、天峰も年頃の男子!こういった物は必要なのだ!

「あ、これはいらねー」

天峰が一冊本を取り出す。

「むむ!その「ムッチン!オネーさん」は名作だぞ!食わず嫌いは良くないぞ!」

八家が食って掛かる。

「年増にキョーミなし!我が心と行動に一点の曇りなし!すべてが幼女だ!」

天峰が力強く宣誓する。

「おま、いつか捕まるぞ…」

「幼女を愛することが罪なら俺が背負う!俺の通った道に、幼女とロリコンの新しい道が出来ることを祈る!」

天峰がヒートアップする。

 

 

少し離れた病室で…

「…くまちゃん今日の気分はどう?」

ぼろぼろのクマのぬいぐるみを抱いた少女が笑う。

「…お返事しない…悪い子ね!」

ビリィ!とクマが裂ける。

「あーあ、また壊れちゃった…新しいのさーがそ…」

ケタケタと笑いながらクマからカッターを引き抜く。

「…新しいおもちゃはないかなー」

少女が病室を出る。

 




いつもは、まじめな作品を作っているのですか、たまに恋愛ものも書きたくなったので、投稿しました。
もう一つの作品がメインになりますので、ゆっくり待っていただければ幸いです。



どうしてこうなった?


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成績というのは、DやCよりもAやAAの方が上なんだ

「ハーイ、熱測りますねー」

看護師の女性が、天峰の熱を測る。

人によっては非常に萌えるシチュエーションなのだが…

「はい、ありがとうございます」

まるで悟りを開いた聖人のような対応をしていた。

しかし心の中では…

幼女!幼女!幼女!!ヘイ!幼女!幼女!幼女!!ヘイ♪スク水!ランドセル♪

リコーダ!触手!触手!触手!

非常に煩悩に満ちていた。

「はい、測り終わりましたよ」

ニコリとする看護師

「ご迷惑おかけします」

天峰もニコリと返す。

仕事を終えた看護師が返っていく。

 

「うひょー!今の看護師若くて良いなー!いろんなトコ診察してもらいたい!天峰はどうだ?」

隣の八家が下品にいう。

「ん?ごめん、今幼女をイメージする物限定で空想ゲームしてた」

「何やってんだおまえ…」

ちなみに天峰のライフワークの一つである。

「さーてとぉ!妄想の中で幼女とパーリナイ!フゥホォウ!」

奇声をあげベットの下から大量のエロ本を取り出す!

「あーしみるわー、五臓六腑に幼女分がしみこむぅー!」

「温泉に浸かったみたいに言うなよ」

さすがの八家も呆れ気味である。

「だってよー、ここテレビ有料だし、卯月は俺に勉強ばっかさせんだぜ?」

「ちょ!マジか!病院で二人で個人レッスン!!?二人で大人の勉強か?」

八家がヒートアップする。

「俺も相当だがヤケも相当だよな…」

「男たるものエロに生きねばならん!スカートが有ればめくりたいし!巨乳が有ればもんでみたい!それが男ってもんだろ?」

熱く語る。

「お前、そのうちスケベ心で超能力が目覚めそうだな…」

 

その後も男二人の猥談ではなく、魂での語り合いが続き。

「でな?成績ってのは…うぉ!まぶし!ってあれ?もうこんな時間か?」

自分の顔に夕焼けが当たった。

「あーずいぶん話し込んだな、そろそろ帰るかな」

八家が鞄を背負う。

「また来るからな」

「ああ、頼むわ、なんもすることないんだわ」

「おう、じゃまた今度なっと!そうだ!今度お前の好きそうな本が出るから買っといてよるよ」

簡単なあいさつを残し八家が帰る。

「男同士の友情っていいな…」

正確には変態とロリコンの友情なのだが。

「さーてと、明日藍雨ちゃんが来るまで本で…も?」

ベットの下に手を伸ばした瞬間天峰が固まる。

「やばいぞ!明日もし藍雨ちゃんが来たとしたら…」

*以下妄想

「せんぱーい!今日も来ましたよ!アレ?ベットの下に本が……ヒッ!こ、これは」

「おや?藍雨ちゃん見つけてしまったのかい?君ははしたない娘だな?こういうのに興味があるなら、試してみないか?」

「いえ、やめてください、冗談抜きで気持ち悪いんで…もしもし?警察ですか?今ロリコンに襲われてるんです、はい」

窓パリーン!

「なんだ!いったい!」

「追跡、撲滅!いずれも~マッハ!おまわりさん!DEAHT!」

「いやだぁぁぁぁぁぁっぁ!」ダッシュ!

「トマーレ!逃がさないぞ?キケーン!な奴だな確保!」

「こんな人だったなんて、悲しいです」

携帯 ポチポチ→ネットにカクサーン!

BAD END!!!

 

「これはいけない!卯月ならまだしも…俺のオアシスにこんなものを見せてはならない!後卯月にも…取り上げられたくないしな、さてどこに隠かな?よし!あそこだ!」

この病院は半年前に閉鎖された、精神疾患を患った人用の病棟が存在する、天峰はそこに向かった。

「んー松葉杖って使いづらいな、足を引きずるよりはいいんだが…ってか今更だけどたぶん鍵かけてあるよな?」

カチッと小気味の良い音がして、旧館の扉が開いた。

「お!ラッキーどっかの病室に隠すかな?」

大量のエロ本を隠すため旧館に入っていく。

「お!ここに隠すか!ん?なんだこれ?」

エロ本を隠した天峰はおかしな所に気が付いた。

「きれいすぎる…埃があんまりない」

半年以上手入れが、されていないはずなのだが埃の積りが少ない。

「けど、こっちは結構積もってるどういうことだ?誰かが特定の場所を使ってる?」

おかしいと思いながらも、好奇心を止めることは出来なかった。

天峰は誘われるように、埃の量を見ながらふらふらと旧館の奥に足を踏み入れていく。

「ここまで、が比較的きれいな場所か…」

一つの突き当りの個人病室に行き当たった。

「ここまで来たら、開けないと、な」

思い切って病室を開ける。

「…だれ?いきなり」

本来白い病室は、西日が差しこみ赤く染まっている。その病室の中、一人の少女がいた。

真っ白いパジャマと腰まで伸ばした黒髪、ゆったりとした様子でベットに腰掛け本を読んでいた。

天峰はその一枚の絵から飛び出した様な姿をただ「きれいだ」と思い見ていた。

本来なら「ぐへへー!病弱系ロングへアー幼女来たー!抱きしめたら折れそうなボディ最高!」となっているハズ…

「…誰?」

固まった天峰を見て先ほどよりも若干不機嫌な声で問いかける。

「あ…ごめん夕日がまぶしくてさ、俺は幻原 天峰、旧館を散歩していたら偶然君がいたんだよ」

さすがに「エロ本隠しに来ましたー」とは言えなかった。

「…そう、偶然なの…」

興味を無くしたように本に目を向ける。

「えっと君は?どうしてこんな所にいるの?」

「…此処は私の場所だから…」

呟くように言った。

「あー!お気に入りの場所ってやつ?確かにここ夕日がきれいだね、静かだしゆっくり昼寝とかできそうだよね」

「…別に気に入ってる訳じゃない、ただ居るだけ」

天峰が明るく話しかけても、ただ少女は素っ気なく言葉を返すだけ。

「そういえば、名前は?もともとそれ聞いたつもりだったし」

「…私の?」

「そ!君の」

一瞬考えたような表情をして、ゆっくり名乗った。

「…私は、坂宮 夕日(さかみや ゆうか)夕日って書いてゆうかってよむ」

「夕日ちゃんかー小学生?」

「…ちゃんはやめて、私は13歳」

「ありゃ?中学生か、夕日ちゃん小さいから」

パチンと夕日の本が乱暴に閉じられる。

「小さいって私の胸の事?」

声自体は非常に穏やかだが、明らかに怒気を含んでいた。

 やばいぞ!地雷踏んだっぽい、気にしてたのか?そんなつもりじゃなかったのに…何とかして切り抜けないと…

「そんなことないよ、僕はそれくらいが好きだな?」

「ホントに?」

声から棘がなくなった。

 よし!効果あり!このまま逃げ切る!

「本当さ!成績っていうのは、DやCよりもAやAAの方が上なんだ!胸のサイズもそうだよ!」

天峰が力説する。

「…馬鹿にしてるの?」

夕日が手に持った本を、天峰の折れた右足に叩きつけた。

「ぎゃああお!ち、違うんだ!とにかく違うんだ!俺はスレンダーなボディが好きなん…」

「言い方を変えても無駄…許さない!」

ゆうかがベットのところに有った、空っぽの花瓶を手に取り、ゆっくり近づいてくる。

 やばい!完全に頭に血がのぼってる!まさか花瓶で腕か足を殴るつもりか?早く逃げないと!

天峰はその病室から逃げ出した。

 

「リベンジだ!絶対夕日ちゃんの心を開いて見せる!」

天峰は自分のロリコン魂に強く誓った。

 




ふう、今回何とかメインヒロインの名前を出せました。
UAがいつの間にか100超えで非常に驚きました。
皆様のおかげです、これからも努力をしていきますので。
最後まで宜しくお願いします。








今回はネタが少なかったな…


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うおー!めが!めがぁ!

「はぁい!天峰!寂しそうなあなたのために、私がクッキーを焼いてきてあげたわよ!」

卯月がウキウキとしながら天峰の病室に入る。

今の卯月の手にはクッキー!あらゆる男子のやる気を出させさらには胃袋をつかむ女子の最終兵器の一つが握られている!

「今回は、我ながら会心の出来なの!食べてみて…って藍雨ちゃん?」

しかし!その目論見はむなしく崩れ去った!

「あ!卯月先輩おはようございます!」

藍雨がニコリと笑う。

「天峰何食べてるの?」

「ん~?藍雨ちゃんのたくあん、卯月も食うか?」

ぼりぼりと食べながら一切れ差し出す。

「たくあん?」

あまりにも意外な藍雨のチョイスに、卯月は思わず声を上げる。

 なんでよりによってたくあんなの?これじゃ天峰にクッキー渡せないじゃない!

卯月が心の中で思う。

そう、言うまでもなくたくあんとクッキーの相性はよくない!たくあんクッキーなど誰も食べないし、紅茶と日本茶どちらのお茶受けにも成れない!そうしてもたもたしているうちに、卯月の今朝早起きして焼いたクッキーは刻一刻と冷めている!

なぜか幸せになれない女!それが卯月茉莉である!

しかし!しかし!

「お!この匂いクッキーか?焼いてきてくれたのか?」

天峰が匂いに気付く。

「えええ、あさ早起きしたんだからね?」

「サンキュー!これ久しぶりだなー、ありがとな」

天峰がにっこりと笑う。

 ああ天峰が喜んでくれたわ!アイツ昔からこのクッキー好きだったのよね。

「今日、午後から用事が入って来れなくなったのよ、その事いうのと病院食ばかりじゃ味気ないでしょ?だから持ってきたの、あ!勉強ちゃんとしなさいよ?宿題たまってるんでしょ?」

「あー、気が向いたらやる」

だるそうに天峰が答える。

天峰の脳内には「暇だから宿題をやる」という考えは存在しない!

「あ、先輩私も帰りますね、今日お母さんと買い物に行く約束してるんです」

卯月と藍雨が帰っていく。

「藍雨ちゃんまたたくあんよろしくね!」

「はい!」

うれしそうに藍雨が答え帰っていく。

 

 うっひょーこのたくあん最高だな!

 

天峰が藍雨の持ってきたたくあんをかじる。

 

このたくあん手作りって言ってたよな!ということはつまりだ!藍雨ちゃんの直接触ったものってことだよな!あーロリコニウムが補充されていく!

 

*1 「ロリコニウム」とは主に7歳から15歳の少女から発せられる未知の物質であり、ロリコニウムは一部の人間にのみ発生する、「Gロリコン酸」と体内で融合することで非常に強力なエネルギー物質である「ペドニウム」に変化する!ペドニウムは人体に作用すると過度の興奮状態、身体能力の向上、体温の上昇、幼女に対する恋慕の感情、そしてロリコニウムに対する強い依存性が現れる!天峰が新たに発見した新物質である。

*2 そんなような気がするだけで実際はそんな物質ありません、読者の皆さんは間違っても幼女にだきつながら「ロリコニウム!ロリコニウムをよこせ!」とは言ってはいけません、最悪の場合「ロリコンに産むから!」と言っているように勘違いされ逮捕されます。

 

「あ!今なら日朝キッズタイムやってるな、久しぶりに見るかな…」

天峰がテレビ(有料)をつける。

ちょうどCM中だったようで…

少年と少女が手を握りながら

「いただきバルス!」

と謎の呪文を唱えると

「うおー!めが!めがぁ!メガバーガー!発売中!メガチキンも大人気~」

と言って、謎の大佐が落ちて行った。

タランチャラ~ラ~♪

 

「あーCMってみると久しぶりにバーガー食いたくなったな、抜け出して買おうかな?ん!そうだよ!いいこと思いついたぞ!」

テレビを見終わった後、天峰はこっそりと病院を抜け出した。

 

切り札を手に入れ、旧館の昨日の病室に向かう。

「ヤッホー!夕日ちゃんいるー?」

あえて明るく病室のドアを開ける。

「ちゃんはやめて、そんなことよりまた来たの?何の用?」

昨日と同じく不機嫌な態度を示し、読んでいた本から目を離す。

 よしよし、いきなり花瓶バーンはこないな。

天峰は内心ホッとした。

「いやー同世代の人があんまりいなくてさーさびしいんだよ」

どこかふざけたように言う。

「同世代?私中1よ?あなた高校生でしょ?全然同世代じゃないじゃない」

やれやれといった様子で天峰が首を振る。

「いや、そんなことないって、後数年もすればすぐ高校だよ?だから同世代」

「むちゃくちゃな理由ね、馬鹿らしい」

夕日はくだらなそうに言った。

「まあ、とりあえず相手してよ。お駄賃あげるから」

そういって天峰は、右手に下げていた袋から切り札を取り出す。

 ふっふっふ…中1の女の子にアイスクリームが効かないわけがない!しかもこれはコンビニではめったに買えない高級アイス!(ハーゲンボーデン)これで夕日ちゃんもいちころだ!

「お駄賃ってアイス?私の貴重な時間をアイス1つであなたに売れと?」

少し夕日が機嫌を悪くする。

 売る?なんか変な方に話が進んでるぞ?大丈夫か?

「要するに私に援助交際しろと言ってるんでしょ?確かにここは人が来ない旧館、いくら呼んでも助けなんか、誰も来ないものね、いいわ好きにしなさい」

夕日は諦めたような顔をしてこてんとベットに横になった。

 




どうもみなさん!今回も何とかお届け出来ました。
なんだかこの作品、私の作品の中で一番人気があるようです。
これからもその期待に添えるように努力しますので何卒よろしくお願いします。










今回作品に出たGは、虫ではなくガチと呼んでください。


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この一瞬の奇跡を永遠に残す

突如として天峰の前に広がる非日常!

目の前には13歳の幼女!坂宮 夕日!

ベットに寝転がり、こちらを見ている!

これだけならただの寝起きの一コマ!

しかし!しかしだ!

「どうしたの?好きにしていいのよ?それともやっぱり私のような寸胴体系はお気に召さない?」

なんて言ってしまい、胸のパジャマのボタンに手をかけようとする。

明らかに画面の端に「この後めちゃくちゃS(ry」とかつきそうな展開!この作品はR18作品になってしまうのか!?

 

(おいおいおい、いったい何があったんだ?落ち着け俺!一旦状況を整理しよう、俺は幻原 天峰ナイスガイなロリコンお兄さんだ!目の前には幼女!よしレッツ合体!じゃない!落ち着け!俺はアイスを買ってきてプレゼントした、ここまでは良い理解完了!その後はなんで夕日ちゃんスタンバイOKな状況?)

「え、っと夕日ちゃん?別に俺はそんな目的が有った訳じゃないんですよ?」

天峰が何とか応える、心の中では「ヘタレが!」「据え膳食わぬはロリコンの恥じ!」「押し倒してヤっちまえ!」「ルパーンダーイブ!」「イェス!ロリータタッチゴー!」などなど煩悩まみれだが…

「そうなの?」

夕日がさも意外そうにする。

「そうそう、ただ二人でおしゃべりして友達になれたらなーって思っただけ」

「おしゃべり?私の躰が目的じゃないの?」

「当たり前だよ!夕日ちゃんそういうドラマとか同人誌とか読み過ぎ!」

思わず天峰が突っ込みにまわる。

「ドージンシ?なにそれ?」

「あ、いや、なんでもないよ(さすがにしらないか)と、とにかく!躰が目的とかじゃないから、あと夕日ちゃんにはちょっと早いんじゃない?」

天峰が諭すようにいう。

100メートルも離れていない位置に、大量のエロ本を隠しているのだが…

「…だって、それくらいしかすることないんだもん」

夕日がむくれる、珍しく年相応表情だった。

(やばいぞ!むくれ夕日ちゃん本気でかわいい!不機嫌じゃないだけでこんなにかわいいなんて!写真だ!この素晴らしい表情を撮らなくては!心だ!心のアルバムに強く!強く焼き付けるんだ!)

ブレない男天峰であった。

「じゃあこれ、いただくわ、いただきます」

夕日が天峰からアイスを受け取り食べ始める。

「うん!おいしい!」

夕日の頬がわずかに緩む。

(あっ!やばい!かわいすぎる!カメラを!カメラをくれ!この一瞬の奇跡を永遠に残すんだ!脳内に保存だ100年後も再生できるように!脳内に保存してやる!)

天峰が夕日の笑顔を脳内に保存している最中も、夕日はアイスを食べ続け。

「ごちそうさま」

夕日がぽんと両手を合わせる。

「…アイスを食べたから約束どうり、あなたと話してあげる、立ったままだと気になるから、その椅子使ったら?」

夕日がベットのそばの椅子を指さす。

(おお!ベットの隣の椅子だと!夕日ちゃんに急接近だ!)

天峰が椅子に座る。

「夕日ちゃんはここでいつも何してるの?」

天峰が前々から気にしていたことを聞く。

「…いつもは絵本を読んでるわ、物語が好きなの、興味が有ったら読んでもいいわよ?」

夕日が本棚を指さす。

「へー絵本か、懐かしいな…お!腹ペコワーム!珍魚が逃げたに、栗と蔵!ねないこ俺だもある!なつかしいなー!」

本棚には絵本を中心にいくつかの小説もあった。

あまりの懐かしさに天峰は、時間を忘れ読み進めていく。

会話はないが、その時確かに天峰と夕日は同じ時を過ごした。

「…そろそろ、もどりましょうか」

夕日の声で天峰は現実に戻された。

「今何時位?」

「…5時半位、ここ電気通ってないから、暗くなると本読めない」

いつの間にか病室は夕日に照らされていた。

「そっかぁ、じゃあまた明日ね」

天峰が本棚に絵本を戻す。

「…本、気に入ったなら持っていっていいわよ?」

「いや、いいや俺は本じゃなくて夕日ちゃんとの時間を楽しみたいんだ」

言ってしまって天峰はハッとする。

(やばい!思わず本音が!キモがられるか?)

戦々恐々とする天峰だが

「本当に?私といて楽しい?一緒に違う本読んでるだけなのに?私の事邪魔じゃないの?」

(あれ?意外と好印象だな…)

「うん、俺、夕日ちゃんの事嫌いじゃないよ?」

天峰の何となくいった言葉に夕日は強く反応した。

「本当に?仲良くしてくれる?」

「ああ、もちろんだよ」

(まさかロリに仲良くしてなんて言われる日が来るなんて…!すごい幸せだな!)

「…じゃあまた明日待ってるから」

夕日が病室を出る。

「また来てか…」

一人になった病室で天峰がつぶやく。

 

その夜

(いやーなんかいきなり夕日ちゃんの攻略順調!ひょっとしたら俺ゴールデンウィーク明けには彼女持ちになってるかも!むふふふ!)

天峰が妄想を膨らませながら眠りに落ちてゆく。

 

次の朝

「幻原さん起きてください!今日もいい天気ですよ?」

明るい声が天峰を起こす。

(んー誰だ?どこかで聞いた声だな?)

目をこすりながら天峰が目を開ける。

夕日が天峰の顔を笑顔で覗き込んでいた。

「ほら、朝食の前に散歩に行きましょうよ!気持ちいいですよ?」

夕日が笑いかける。

「えっと、夕日ちゃん?どうしたのそのキャラ?」

「せっかくの晴ですし!病院デートしましょうよ!」

元気にいう。

(病院デート?ずいぶん新しいジャンルだな…)

「わかったよ、いま着替えるから」

「はい!」

夕日は元気よく返事をした。

「あの、夕日ちゃん?着替えるから出て行ってくれない?」

その瞬間夕日が残念そうな顔をする。

「えー私幻原さんの着替え見たい!」

(な!何をおっしゃいます!?)

天峰がパニックを起こす。

「夕日ちゃん、さすがに恥ずかしいから…ね?」

場合によっては天峰が逮捕される。

「「ね?」じゃなーい!いいじゃない!見られても減るもんじゃないでしょ?」

*天峰の理性はどんどん減っています。

「あ!そーだ!私も一緒に着替えてあげるから!それならいいでしょ?」

オフェンシブすぎる夕日の言葉に天峰の理性がついに切れた。

「よし!わかった!夕日ちゃん!一緒に着替えよう!」

 

「何が!一緒に着替えようよ!このド変態!」

「ぐぶぅ!」

天峰の腹に激痛が走った。

「え?え?」

「ずいぶん楽しい夢を見ていたみたいね?」

卯月が青筋を立てながら立っていた。

 




まさかの2日連続!


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馬鹿にするな!俺を誰と心得る!!

今回夕日ちゃん出番なし!!
卯月回です!
年増のババアにキョーミなし!でも読んでください…


楽しい空間から強制送還された天峰!まだその状況が読み取れていない!

「え?あれ?夕日ちゃんは?」

辺りを見回す。

「あーはいはい、そういうのいいから、とりあえず私の気のすむまで殴らせてくれない?」

卯月からまさかのオファー!

「ま、まあまあ、落ち着いて卯月さん、男の見た夢は責められませんって」

隣にいた八家が止める。

彼の夢の中は常に18指定!公開不可能レベルだ!

「野原君は黙ってて!天峰、「ゆうかちゃん」ってだれ?まさかあんたついに小学生の恋人が出来たの?」

すさまじい形相!まさに浮気は許さないといった感覚!付き合ってもいないのに!

「いや、違う、違うんだ卯月!夢さ!夢に出てきた恋人さ!ほら、えっとフィクションさ!な?な?」

天峰が弁解する。

「本当に~?」

「ほ、ホントさ!小学生の恋人なんてありえないって、いないよ!」

(うん、大丈夫!夕日ちゃんは中学生!小学生じゃない!)

「おはようございます!天峰さん起きてますか?」

タイミング良く?藍雨が病室に入ってくる。

「あ!藍雨ちゃん!おはよー!」

天峰は卯月を振り切るため、あえて話をそらす。

「また、たくわん持ってきてくれたの?」

「あ、すみません浸かるまでもうちょっと時間かかるんです」

申し訳なさそうに藍雨がいう。

「そっかぁ、出来たらまたもってきてくれない?アレすごく好きなんだ」

天峰が笑顔できく。

「はい!楽しみにしててください!」

うれしそうに藍雨が答える。

「うん、楽しみにしてるよ」

同じく天峰もうれしそうに答える。

その笑みをみて。

(!?そんな…天峰がそこまで小学生に手なずけられているなんて…もう手遅れかも?)

卯月がショックを受ける。

「どうした卯月?そんなにたくわん食べたかったのか?」

乙女心?そんなん知らん!といった感じの天峰のことば!

「いえ、そんなことはないわ、それより今日は宿題を見てあげる、昨日は何処までやったの?」

その言葉に天峰はギクリと固まる。

「あんた、まさか…」

「う!実は…まったくやってません…」

天峰は申し訳なさそうに言った。

「まったく、しょうがないわね~私が特別に勉強教えてあげるわ」

藍雨は小学生、八家はあまり勉強好きではないため、ここで勉強を教える事が出来るのは卯月ただ一人!つまり「勉強を教える」という大義名分のもと、卯月は天峰と二人の時間を手にすることが出来るのだ!

「え~いいよ、自分でやるし~」

天峰が断らなければ…

「なにがいいのよ、今までやらなかったし、ゴールデンウィーク前から休んでたから授業も少し抜けているでしょ?学校戻ったとき苦労するわよ?」

卯月は引かない!媚びない!顧みない!

「出来るってんなら実際やって見せてよ?ほら、宿題のプリント」

机の上にプリントを出し、半ば強引に勉強をさせる。

「ったくいったいどうしたんだよ一体?なんか今日の卯月強引だぞ?」

釈然としないままプリントを始める。

「おお!ついに秘密の勉強会が!天峰!明日大人の階段を上ったときの事、詳しく教えてくれよな!」

八家がぐっとサムズアップ!

天峰も無言でサムズアップ!

言葉なくして伝わる男同士の友情!

そして八家の腹に無言でめり込む卯月の拳!

「うお、お…」

「卯月さん!?暴力はダメですよ!!」

藍雨が卯月を制止する。

「大丈夫よ!藍雨ちゃん、八家くんって自分の体を痛めつけるのが大好きなの、ほら笑っているでしょ?」

二発目の拳を八家に叩きこみつつ、いつか見たプロレスの技のかけ方を思い出しながら卯月が優しい声で諭すようにいう。

「ああ!ヤケがすごい幸せそうな顔してる!こんな幸せそうなヤケ初めてだ!こんなイキイキしたヤケを俺はまだ知らない!」

「天峰…聴いて…くれ…」

プロレスの固め技を受けながら、八家が天峰に話しかける。

「何だヤケ!」

「俺、遂に…自分の求…めていた…もの…を…手に入れ…たのかも…しれな…い…ずっと手に入れ…られない…って…諦め…てた…ものやっと…見つけ…た…悔いはない…桃色の天…国で待っ…てるぜ」

八家はやりきった顔で動かなくなった。

「ヤケェェェェーーー!!」

天峰の叫びが病院に響いた。

「こら!病院ではお静かに!」

通りすがりの看護師に叱られた。

「はいはい、茶番はいいから、さっさと勉強!邪魔しないなら野原君も宿題やる?」

今まで伸びていた八家が立ち上がり、直立不動で敬礼のポーズ!

「卯月さま!わたくしめはこれで失礼させて、いただきます!」

軍人の様な足取りで八家は病室から出て行った。

「あ、天峰先輩、私もそろそろ勉強の邪魔にならないよう、お暇しますね、あ私また道場いき始めたんです、先輩もたまには来てくださいね」

藍雨が病室からでる。

(ああ、藍雨ちゃんまた始めたんだ…良かった)

天峰が優しく藍雨を見送る。

「ほら、宿題始めるわよ?」

「へいへい」

天峰は仕方なく宿題を進める。

「どう?できた?」

卯月が天峰の手元を覗き込む。

「あ~正直言うと全然わからん、少し休んだだけの積りなんだが…」

「あー、ここはね、Xをただ入れるんじゃなくてX+2を…」

ここで再び状況を説明しよう!

天峰は今ベットにいる、卯月がその天峰の手元のプリントを覗き込んでいる!

そのため天峰の視線からは、卯月の控え目でない胸とさらに下着まで見えてしまうベストアングル!天峰はその事に一瞬にして気がついた!

(うほ!いい女!…な訳ないな、卯月め、俺を誘っているのか?馬鹿にするな!俺を誰と心得る!!俺は幻原 天峰!天下のロリコンだ!同い年の胸で興奮するわけなかろう!ここはビシッ!と言ってやらねばならんな!)

「卯月」

「何?天峰?」

「胸アンド下着見えてる、ちなみに水色」

ブチィ!!

何かが切れる音がした!

「こぉぉぉぉんのぉぉぉぉぉお!万年発情期男!!」

「へ!?ちょっと!?卯月さん!?」

*ここらしばらく音声のみでお送りいたします。

「ごめんって!許してあげて!」

「許すかあぁぁ!!!」

「ぎゃーああぁ!ちょっと!?そんなもので殴ったら!」

「しるかあぁぁぁ!」

「ひぎゃーぁぁ!お願い!!もう許して!もうしませんから!」

「ふふふふふ…後悔は地獄でしなさい!」

「ぎゃーぁぁ!!」

「あらあらあら?悲鳴のレパートリーが無くなってきたわね~ほぉらもっと愉快で、面白味のある悲鳴は出せないの?ほら、ほらほら。ほらぁ!!」

「あっ!ああっ!あああ!死ぬ!死ぬ!死ぬ!ナっ、ナースコール!ナースコールを!誰でもいい!誰か助けてお願い!!」

「無駄よ~私天峰の事、絶えぇぇぇぇ対に逃がさないから!!」

「うおぉぉおおぉぉん!卯月、お前別の趣味に目覚めてないか?」

「別にいいじゃない?ここ病院だし多少怪我しても、それに!!天峰が私に合わせてくれればいいじゃない?」

 

 

 

「という、わけでここの答えは72になるのよ?」

卯月が得意そうな顔で説明する。

あの後天峰は偶然通りすがりのナースに求出された。

(白衣の天使って、本当にいるんだな…何とか卯月様に許してもらえた…ん!?俺今なんて言った?ヤケと同じ状況になりつつあるのか!?気を付けよう…)

「天峰、一段落したから、休憩しましょうか?」

「はい!卯月様!」

 




最近忙しくて、なかなか更新できずすいません。
もう一つの作品が、なかなか描けない…もう少しお待ちください。


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戦う前から負けている気がする!だが!がんばれ!

やっぱり幼女だよなー
ロリコニウムの含有量が違うぜ!


「ふー、こんな物かしらね…」

卯月が教科書を閉じる。

「あー、なんかスゲー勉強した気がする…」

やれやれと言った感じで天峰が背伸びする。

「まだ、宿題終わりじゃないからね?私が帰ってもしっかりやること!」

「へいへーい、わかってまーす」

天峰が気の抜けた返事を返す。

「そういえば天峰、足の調子はどう?」

心配そうに卯月が聴く。

「ああ、だいぶ良くなったよ、もう松葉杖なくても歩くのは問題ナイっぽいぞ!毎日牛乳飲んでるおかげだな!」

「それならよかったわ、そういえば昔から天峰怪我の治りは早かったわね…ねえ、この後少し外に行かない?行ってみたい店あるのよ」

卯月は前々から用意していた計画を発動する!

「店?」

「そうなの!レストランなんだけど、ゴールデンウィーク中だけスイーツの食べ放題が有るのよ!行きましょうよ!病院って甘いものあんまりないでしょ?」

スイーツ(笑)!

「スイーツ(笑)って何が有るんだ?」

「なんか馬鹿にしてる?まあ、いいわケーキがメインみたいよ、どう?行く?」

「4時位には帰って来れるよな?」

(夕日ちゃんの所行きたいし…)

天峰の脳内では…

幼女(3次元)>頑張れば超えれる壁>幼女(2次元)>>>越えられない壁>>>卯月>>>ATフィールド>>>熟女

となっている!

戦う前から負けている気がする!だが!がんばれ!卯月!

「ええ、バスで往復20分くらいだし、余ったのは別料金だけど持ち帰れるそうよ」

「よし!そんなら!着替えて出発だー」

天峰が着替えを始める。

(やったわ!天峰とデートよ!二人きりでデートよ!)

(よし!夕日ちゃんにケーキを買ってプレゼントだ!)

見事にかみ合わない二人!思いはまさに一方通行!

 

「ほら、バス来たわよ?」

病院前のバス停で、卯月が天峰を引っ張る。

「悪いな…あんまり動いてないせいか、体がなまってるみたいだ…」

天峰が照れ隠しのように笑う。

「良いのよ、誘ったの私だしね、これ位気にしないで」

優しい笑顔で卯月が腕を引く。

「何とか杖なしで歩けるっぽいけど…腕がなー、まあ左腕だし何とかなるかな?」

「何なら、私が食べさせてあげましょうか?」

「いいや、大丈夫だ、自分で何とかする!」

「ホントに大丈夫~?」

二人がバスの中で談笑する。

卯月は忘れられがちだが美少女!バスの中の男性諸君は天峰に対し、嫉妬丸出し!

(チッ、リア充が!)(あの男の上にピンポイントで隕石ふらねーかな?)(憎しみの力で潰す!)(パルパルパルキア!)(ウホ!いい男!)

「なんか、視線が痛いぞ?」

「天峰大丈夫?」

二人は楽しい時間を過ごした。

 

キングクリムゾン!幼女の出ない時間を吹き飛ばす!!

 

「ほら、天峰病院ついたわよ」

卯月が天峰の手を引きながらバスから降りる。

「ふー今日は楽しかったぜ、卯月ありがとうな!」

「良いのよ、退院したらまたほかのところも、二人で行きましょ!」

「ああ!いいな!今度は藍雨ちゃんとヤケも誘おう!」

天峰の乙女心ブレイク!

卯月とバス停で別れた、天峰は自分の病室に帰ってきた。

「あれ?」

天峰は自分のベットが人型に膨らんでるのを見つけた。

(ん?どうしたんだ?誰か隠れてるのか?ヤケか?そうか!ヤケが今日の分のエロ本を人型にしてベットに隠したんだ!ベットは人が寝ている物という心理的盲点を見事に突いたんだな!前貸してもらったRodeo engaged(エロ本)とCrying Empress(エロ同人)は良かったなー!さてさて今回は~)

パサリと布団をめくる。

「…ん~何するの?まだ…ねむたいんだけど…」

布団の中にいたのは不機嫌顔の夕日だった!

見方によっては事後感ハンパない!

(え?なんで夕日ちゃんがここに?俺のベットから夕日ちゃんが出てきたよ?なんで?なんで?教えてエロい人!)

「夕日ちゃん!?どうしてここにいるの!?」

天峰が夕日を揺り起こす。

この時、天峰は冷静さを失っていた!本来なら寝返りによってチラチラと姿を変え!見え隠れする鎖骨を楽しんだり!お母さんから生まれた象徴のおへそを見たりすべきなのだが!そんなこともせずに夕日を起こした事から!天峰の混乱具合がよくわかるわかる!

「ん…ああ…今日来るかもって…待っててあげたのに…ちっとも来ないから…探しに来たのよ…そしたら病室は見つけたけど…いなかったから待つことにしたの…どうやら寝ちゃったみたいね」

夕日がベットから起き上がる。

(夕日ちゃんが寝た布団!夕日ちゃんが寝た布団!!夕日ちゃんが寝たふとぉおおおん!!!)

「気持ち悪い!」

「ゲブっ!」

夕日に腹を殴られた。

「来るって約束したから、待ってたのに来ないし、立ったままニヤニヤして、何がしたいのよ」

夕日が怒りをあらわにする。

「ごめんごめん、明日は一日中付き合ってあげるから。あ、ケーキ買ってきたけど食べる?」

夕日の機嫌を伺う。

最も天峰にとっては、幼女から受ける殴る蹴るの暴行はむしろご褒美なのだが…

「本当に?」

不機嫌な顔を向ける。

「本当だって」

天峰が真剣な顔で返事する。

「約束破ったら?」

無表情になり静かな声で聴いてくる。

「ハーゲンボーデン一年分でどう?」

さらにまじめな顔を天峰がする。

「…わかったわ、許してあげる」

そっと夕日が視線を外す。

「…今日は、もうかえるわ」

くるっと背を向ける。

「あ、夕日ちゃん送っていこうか?」

「ううん、いいそれより約束、忘れないでね」

夕日は、夕焼けで紅く染まりつつある病室に背を向けて、扉から出て行った。

 

 




今日はもう一度投稿したいけど…できるかな?
重要な部分が近いので、なるべく早く投降します。


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俺はガキの膨らんでねー胸にはキョーミはねーよ!

1日に2話だと!?これがロリコンの本気か!!
今回は少し重めの話になります。
上げて~上げて~一気に!落とす!ってな感じです。
一部修正しました。



夕日が天峰の病室を後にする。

「夕日ちゃんまた明日ね!」

去りゆく夕日の背中に、天峰の明るい声が届く。

「うん、また明日…」

夕日は自分でドアを閉め病室を後にした。

天峰の声はもう聞こえない。

 

夕日は病室の廊下をゆっくりと歩く。

白くて無機質な廊下。

ゆっくりゆっくりと歩き自分の病室に戻る。

当たり前だがさっきまでの声は聞こえない…

この病室は夕日にあてがわれた病室だが、夕日はここが好きではない。

ここにいると自分は何もないヌケガラのように感じてしまうからだ。

少なくとも此処よりは旧館の病室の方が夕日は、好きだった。

夕日はそっと自分のベットに横になる。

この病室は窓が東にしかなく、暗い。

旧館も、もうじき夕焼けが沈み暗くなる。

 

暗くて静かな部屋に一人でいると寂しくて、そのまま暗闇に溶けてしまうのではないかと怖くなる、しかし同時に「それでもいいかな」と落ち着いている自分がいる。

明らかな矛盾、矛盾した気持ちを持つと昔の事を思い出す。

つらくて、楽しくて、矛盾した日々を…

 

「夕日、新しいお父さんよ!」

女性ががっしりした、たくましい男を夕日に紹介する。

「さ、坂宮夕日です…」

夕日は自分の名前を言った後、母親の後ろに隠れた。

(まただ、また新しいお父さんが来た…これで何人目だろう?私には何人もお父さんがいる…)

「あらあら、この子ったら…」

母親が優しい声で言う。

「ははは、恥ずかしいのかな?これ位の年頃の子はこんなもんさ」

男の人が笑う。

(ううん、恥ずかしくないよ…違うの…叩かれたくないから、お父さんによってはちゃんとごあいさつ出来ないと、叩かれちゃうから…ほとんどのお父さんはお母さんの後ろなら私をぶったりしないから…)

それからその男は、夕日の家に来ることが多くなった。

少なくとも夕日の母親と男はうまくいっていた、夕日の母親と男は…

「夕日?今日もお母さん、お父さんとごはん食べてくるから、おとなしくお留守番しててね?」

「はーい」

お母さんは男の人と、一緒に出掛けることが多くなった、次の日のお昼近くまで帰ってこないことも珍しくない、その間私は家でカップラーメンや缶詰を食べてる。

お母さんが返ってくるまでの家の家事は私の仕事だ、やれと言われた訳じゃない、疲れて帰ってくるお母さんに少しでも長く休んでほしいから…

夕日がカップめんをすする。

「最近、お母さんのごはん食べてないな…」

誰もいない部屋に夕日の言葉が消えていく。

その時ガチャン!と音がして玄関の扉が開く。

(お母さんが帰ってきた!)

夕日が玄関まで走る、しかし…

「オイ!優奈!いるか!」

そこにいたのは知らない男だった。

(誰だろう?きっと昔の私のお父さんかな?)

夕日を見つけ怒こった様子で男が近づく。

「オイ!お前の母親は何処だ!?」

男が恐ろしくて、言葉が出なかった、夕日は知らないことを伝えるために首を横に振った。

「チッ!どっか行ってんのか?クソ!入れ違いかよ!」

男がイライラしているのは一目でわかった。

「おい、お前ケータイは持ってるか?」

夕日が首を横に振る。

「じゃあ、母親のケータイ番号はわかるか?」

「それなら…わかる…」

(たしか、お母さんがメモを残してくれてた…)

「よし!電話しろ!お前の母親をここに呼べ!間違っても俺の事は言うなよ?」

肩をつかまれたまま、電話の前まで連れていかれる。

すぐ後ろで男が電話の内容に聞き耳を立てる。

震える指で夕日はダイヤルを回す。

数回のコールのうちに、母親の電話につながった。

「もしもし?」

(お母さんだ!)

夕日はこんな状況にもかかわらず、母親の声に安堵を覚えた。

「お母さん!早く帰ってきて!お腹すいたよ!」

空腹については後ろの男が夕日に指示したものだった。

「え?そんな事で電話したの?悪いけど今忙しいの、明日にしか帰れないから戸棚にラーメンあるから、作ってたべなさい。じゃあもう切るから」

「あ!おかあさ…」

ブチンと電話は切れた。

一瞬とはいえ安堵した夕日に、先ほどと変わって恐怖が襲い掛かる

(どうしよう…お母さん呼べなかった…)

夕日は怯えながら、後ろの男を見る。

「ごめん…な…さい…お母さん…来れないって…」

自分でも声が震えているのがわかった。

絞り出すように何とか言った。

「ああ、すぐ後ろで聞いていたからな、言わなくてもわかるさ、お前もかわいそうだな、カップめんばっかか」

男はそう言って、夕日のワンピースのスカート部分をつかみ、一気に胸の上まで捲くり上げた。

「!!?」

突然の事に驚いて、夕日は自分の体を手で隠す。

「ああ?」

男が不機嫌そうに夕日を睨むが夕日も睨み返した。

その顔には恥ずかしさと怒りが滲んでいた。

「ああ、そうか、ワリィ、つい癖でな…俺はこんなナリしちゃいるが一応医者でな、患者の診察するときの癖でめくっちまった、悪い」

夕日はなおも男を睨んだいる。

「悪かったって、それに俺はガキの膨らんでねー胸にはキョーミはねーよ!」

「ちゃんと膨らんでるもん!!」

夕日は反射的に怒鳴ってしまった。

「怒る所そこかよ!!まあ、いいか…オイ!出かけるぞ!」

男が夕日の腕をつかむ。

「どこに?」

「優奈…お前のカーちゃん明日でもどんねーんだろ?なんか食いに行くぞ、さっき見たときお前ガリガリじゃねーか、このままだとお前栄養偏って死ぬぞ?」

男の車に乗せられ半強制的に近くのファミレスに来た。

「おら、好きなモン頼め!野菜はぜってーくえよ?俺は少し寝るから俺のもテキトーに注文しといてくれ、夜勤明けでねみーんだ」

そう言って男はソファーで寝入った。

男のぶっきらぼうな優しさに触れた。

(悪い…人じゃ…ないのかな?)

その日、夕日は久しぶりに誰かと満腹になるまで食事した。

「ん?腹は膨れたか?」

男の質問に夕日は首を縦にふる。

「よし、いくか」

男に連れられ、夕日は自分のアパートに帰った。

「また、くるからな?」

そう言ってその男は帰っていった。

夕日は自分が少しだけ楽しみにしている事に気が付いた。

 

翌日

「オーイいるか?」

昨日の男がまたやってきた。

夕日は笑顔でドアを開ける。

「ほう、今日もお前がお出迎えか…まあいい、半分はお前に会いに来てんだしな」

夕日がそっと男に近づく。

「悪いが今日はファミレスはなしだ、俺の薄給では無理だな…自炊しろ!ほら、材料買ってきてやった、カレー作るぞ?」

男がビニール袋を掲げる。

「まず米を洗うぞ、出来るか?…なんで洗剤持ってんだ!バカか!」

「ジャガイモの芽取れたか?中身えぐってんぞ!」

「お!肉を炒めるのは出来るみたいだな…胡椒多すぎないか?」

怒られてばかりだが、楽しい時間が過ぎた。

「おら。出来たぞ!さっさと食え!」

2人でカレーを食べた。

「じゃあな、俺はこれから仕事だが、母親に俺の事は言うなよ?」

そう言って男が帰って行った。

部屋が夕焼けで紅く染まる頃だった。

「お母さん喜んでくれるかな?」

夕日は母親に自分の作ったカレーを、食べてもらいたくてウズウズしていた。

 

「夕日!あの人は誰!言いなさい!」

帰ってくるなり母親が夕日に詰め寄る。

(あの人の事は言わない約束)

夕日は首を横に振った。

「言いなさい!」

母親がなおもしつこく聞く。

「たぶんどっかの子供保護する職員じゃないか~」

母親と一緒に帰ってきた男がいう。

「そんな!!」

母親があわてる。

「お前、職員の顔見たか?」

「見てないわよ!後姿だけ!」

「なら、だ~い丈夫だ、ここを出りゃいいだけの話だ、住むところは俺が用意してやる」

男が煙草をふかしながら言う。

もう、すっかり夕焼けは沈み、辺りには夜闇が迫っていた。

その日のうちに夕日と夕日の母親はその男の家に行くことになった。

男と母親は初めは仲良くしていたが、だんだんとその関係にずれが出始めた…

 

「なんだこの飯は!!わざわざ食材を生ゴミにしてんじゃねーよ!誰の金だと思ってる!」

男が夕日の母親の作った夕飯をひっくり返し、湯呑みを投げつけた。

「痛い!」

母親の額に当たり血が流れ出る。

「見ろよ!お前の娘を!こんな生ゴミみたいな飯でも黙って食ってやがる!エコな娘だよなー!がはは!」

そう言って母親に味噌汁をかける。

男の目の前に夕日が立ちふさがる。

「ああ?なんだ?」

「…お母さんをいじめるな!」

震えながら夕日は言い放った。

「いじめてねーよ!優しく教えてやってんだよ!」

男が倒れた夕日の母親に蹴りを入れる。

「ダメェ!」

夕日が男の足に飛びつく。

「邪魔だ!」

しかし足ごとふり払われ、夕日は頭をぶつけた。

「…痛い…」

「どうやら、母親だけでなく娘も躾が成ってないらしいな、俺が躾てやる!」

「あう!」

男の拳が夕日の頭をなぐる、それだけで夕日が大きくブレ、夕日ははまともに立てなくなる。

「おら!おら!いいか!お前は!ガキだ!ガキは!大人の!言うことを!黙って!聞いてれば!いいんだよ!」

まともに立てない夕日に対して、男は何度も蹴りつけた。

(お母さんごめんなさい…)

夕日は母親を守れなかったことを心の中で謝りながら、男の暴力が止むのを待った。

「おい!お前は娘の躾を俺だけにやらせる積りかよ?お前らが暮らせるのも、俺のおかげだろ!娘の躾位手伝え!」

涙を流しながら夕日の母親は首を横の振る。

「いやじゃねーよ!躾は母親の仕事だろ!!」

男は母親の腕を掴み無理やり立たす。

「ほら!サッサとしろ!」

夕日の母親はふらふらと立ち上がり動けない夕日に近づいた。

「ごめんね、夕日…」

朦朧とする夕日の中、母親の声と体に同時に体に痛みが走った。

なぜかこの日一番苦しくて痛かった。

その部屋から、夕焼けはもう見えない。

 




うーん、夕日ちゃんの病む理由にしては弱いかな…
もっと悲惨な過去を作りたかったけど…
これが私の限界です。
これからも精進します。


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当たってるよ!」「当ててるの…

前回のテンションは今回はありません。
いつもの天峰君の煩悩が帰ってきました!
*投稿ミスが有ったようです。
本作が正式な8話です。
ご迷惑おかけしました。


暗い病室で一人の少女がうなされている。

「!!はあ、はあはあ、また、あの夢?」

坂宮夕日がベットから飛び起きる。

まだ五月だというのに、全身にいやな汗をかいている。

また無意識に手を、自分の顔の右側に当てていた。

手探りで時計を探した。

(5時45分…起きるには…早い…あそこ(旧館)に行こう…)

夕日は自分の病室を抜け出し、旧館に向かう。

(今日は約束したから…来てくれるよね…)

何かにすがるような気持ちで夕日は旧館に向かう。

 

「ん~ふぁ~、朝か?よく寝たな~」

天峰がゆっくりと目を覚ます。

(さーてと!夕日ちゃんに会いに行きますか!卯月に会うと厄介だしな…早めに言って本でも(隠したエロ本!)よんで夕日ちゃんを待ちますか!)

もはや卯月は厄介者状態!あまりにひどすぎる天峰の脳内!

(いや待て!エロ本だと!?旧館には何が有る?そう!夕日ちゃんの使ったベットが有るではないか!そう!服の次に長く夕日ちゃんに触れた物質!その名もO・H・U・T・O・N!これは潜り込むしかない!そうと決まればダッシュだ!)

再び言おう!あまりにひどすぎる天峰の脳内!

*天峰君は度重なる、ロリコニウムの過剰摂取のため半暴走状態にあります、ロリコニウムを使用している全国の皆さんは過剰摂取にご注意ください。

 

「お!足が痛くない!ついに治ったか!」

スキップしながら旧館に向かう天峰。

「夕日ちゃーん!いるー?」

居ないことを期待して天峰が勢いよく扉を開ける。

「え!?」

「!!」

そこにはパジャマを着替える夕日が!

勢いよく夕日が脱ぎ掛けの服で自分の体を隠す。

「うわ!?ごめん夕日ちゃん!俺外行ってるから!」

天峰が扉を閉める。

(来ましたよ!ラノベやアニメのお約束!不自然に水着や裸が出る回!俺この作品の主人公でよかった~)

突然のメタ発言!

(見えたぞ!一瞬だが白い肌確かに見えました!柔肌イタダキマシタ!テンションフォルティッシモ!下着の確認と恥じらいの表情が見えなかったのが悔やまれるな…)

ロリコン大歓喜!

「ガラッ!」

天峰の興奮を余所に、扉が少しだけ開けられる。

扉の間から、夕日の手だけが現れチョイチョイと手招きする。

(お呼びがかかったみたいだな…とりあえず真剣に謝ろう…)

天峰は部屋に入った。

「見た?」

ただ一言ぼそりと夕日が言った。

(おおぅ、何時にもまして不機嫌顔…誤魔化すかな…)

「何も見てないよ?」

明後日の方角を見ながら天峰が誤魔化す。

「…うそ…見られた!…チョット大人なパンツも…スリーサイズも…ホクロの数も!」

夕日が感情を爆発させる。

「ちょ!ちょっと!あの一瞬でそこまでは無理だよ!」

天峰が反論する。

「「そこまでは」?」

夕日が言葉尻を取る。

「あ…いや、そこまでってのは言葉のアヤだよ!ホントは何も見てないんだ!」

「…本当に?」

「ホントに」

「…じゃあ、私の目を見て…」

夕日の二つの瞳が天峰の方をじっと見る。

(うう、幼女の視線が痛い…)

「ごめん夕日ちゃん!!実は少しだけ見ちゃいました!」

天峰はとっさに土下座のポーズをとった。

(本人かなり気にしているみたいだし…全力で謝ろう…)

謝罪を続ける天峰に、予想外の言葉が投げかけられた。

「どうだった?」

その言葉には怒りは感じられず、こちらの意見を知りたいという、問いかけだった。

(どうって…ここは紳士らしく…いや何ともなかったっていうのは、年ごろの子には失礼だ!素直に言おう!)

天峰はゆっくり頭をあげ。

「ちょっぴりテンション上がりました!ごめんネ!」

地雷を全力で踏み抜いた!

夕日がクルリと背を向けベットに近づく。

(あれ?ミスったか?花瓶来るか?)

天峰は夕日と初めて会った時の事を思い出し震えた。

しかし夕日は花瓶をスルーし、ベットの横の戸棚をあけた。

(お?セーフ?最悪のパターン花瓶は回避したぜ!)

チキ…チキ…チキチキ!

「ん?コレ何の音だ?」

「…ああ、これよ」

ヒョイっと夕日が取り出したのは大型のカッターナイフだった。

「えっと?夕日…さん?」

天峰は冷や汗をかく。

「私の体を見られた…だから…殺す!」

夕日がカッターを持って近づいてきた!

*因みにカッターの刃は横向き!肋骨に止められる事無く内臓を狙えるゾ☆!

「わー!ちょっと!ちょっと待って!!見たのは悪かったから!謝るから!」

天峰は逃げようとしたが、土下座のポーズをしていたのが祟り転んでしまった、奇しくも犬などの動物の降伏の様なポーズになる。

「許さない!」

夕日が凄まじい怒気を含んだ声で言った。

「ひいい!夕日ちゃん!当たってる!当たってるよ!」

「当ててるの…!」

カッターの刃を夕日の腕ごと止めながら、天峰が言う

このタイミングでなければ、男が女性に言われたいセリフが出てきたが、天峰は気が付いてはいない!

「ごめん!!なんでもするから!なんでもするから許して!」

「じゃあ…責任とって…死んで!」

なおも腕に力を込める。

「へ?責任?」

その言葉と天峰の煩悩と混乱し、まともな思考を失た天峰の脳がかなり間違った答えを導きだした!

「解った、夕日ちゃん!僕と付き合おう!」

「え?」

今度は夕日がおかしな声を上げる。

「いや、だからさ、付き合おうって言ったの」

天峰の真剣なまなざし。

「…付き合うって私と?」

「うん、もちろんさ!」

「…私の事好きなの?」

「世界で一番愛してるよ!」

それは

「ほんのり、ペタン、ちょこん、な体型でも?」

「俺にはそれがベストさ!」

天峰の

「こ、子供は何人欲しい?」

「野球チームが作れるくらい!」

生存本能が

「…嘘じゃない?」

「嘘なもんか!」

導き出した

「…ふつつか者ですが…よろしくお願いします…」

「一生大事にするよ!!」

答え(言葉)だった。

「…うれしい」

夕日が天峰に抱き着く。

(あれ?殺されないように答えてたら、付き合うことになったぞ?まあいいか!)

天峰のは何処か他人ごとのように感じていた。

(退院したら108chに「生き残ろうとしたら幼女が彼女になった件」とかでスレ立てよ…)

 



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唯一無二の空間を超えるエネルギー!

今回のまえがきは茶番です、興味のない方は本編へどうぞ!


こんにちはみなさん!!ホワイト・ラムです!
今回この作品のUSが1000を突破しました。
そのため今回は特別ゲストが来てくれています、どうぞ!
???「このロリコ…ではなかった、私はベアードだ
この作品がついに1000USを突破した、これも諸君の応援のおかげだ」
Wラム「読者の皆様には感謝しています」
ベアード「全体から見れば小さな一歩だが、この作品にとっては大きな快挙だ」
Wラム「これからも、応援よろしくお願いします!」
ベアード「この作者が記念に、何かおかしな計画を立てるらしい」
Wラム「よかったら活動報告を見て行ってください!」


病院に向かう3つの影…そう、天峰を狙う組織の怪人…ではなく卯月と藍雨と八家の三人組み。

「さて、天峰は宿題終わったかしら?」

「高校の勉強って難しそうです」

藍雨が卯月を見ながら言う。

「そんな事ないわよ?中学生までの内容にちょっとプラスしただけだから、要点さえつかめば簡単よ?」

さすが才女!一部の人間の悩みをさらっと煽る!

「マジで?俺驚くほどできないんだけど…」

クリティカルで煽られた一人!

三人の中で間違いなく脳をおかしな方向に使った男がいう。

たわいもない会話をしながら、平和な空間が流れる。

しかし!それも長くは続かなかった!

「オイ、何だアレ!?」

ソレを最初に発見したのは八家だった。

八家の声につられて、視線の先を見ると…!

 

「夕日ちゃ~ん!おっまたせ~」

凄まじい笑顔の天峰が、ベンチに座った女の子に近寄る。

「…そんなに待ってない…」

「けど、少しは待たせちゃったでしょ?はい、お詫びのジュース!」

天峰が「ユウカ」と呼ばれた女の子の頬にジュースの缶を当てる。

「!冷たい…」

「炭酸平気?」

「うん…好き…」

天峰に尋ねられ「ユウカ」が頬を少し染める。

「さてと、お腹も空いたし、ご飯にしようか?」

天峰が手に下げた、コンビニ袋からサンドイッチを取り出す。

付き合って間もない、初々しいカップルを想像させる二人の態度。

 

「ちょっと!何なのアレ!」

少し離れた所で卯月が言う。

その姿はまさに嫉妬に狂う年増!

若い頃はチヤホヤされ、男は選び放題!ワガママ放題!

メッシー、アッシー、ミツグクン!たくさん持ってる!(わからない人はお母さんに聞いてみよう!)

しかし!ブイブイ言わせていた過去に対し!

現在ではバイバイと言われる年増!

その片鱗を卯月はのぞかせていた!

「何って…もうあれはアレしかないでしょ?」

八家が小指を立てながら卯月に言い放つ。

「そんなの分かってるわよ!私が知りたいのは、どうしてああなったかよ!!」

「う、卯月さん落ち着いてください」

怯えながら藍雨が言う。

実際卯月はかなり大きな声を出していたので、周りに注目されている。

え?天峰と夕日?二人の世界に年増の雑音は届いていないよ?

「邪魔したら悪いので、出直しましょうかね?」

「いいえ!!ここは天峰とあの子の関係を突き止めるのよ!」

卯月が宣言する。

年増で出歯亀!!良い所無し!

「はあ、女子ってなんでこの手のヤツ好きなんだろ?」

やれやれと八家がつぶやく。

「で?結局どうすんの?具体的な手段は?」

「それはもちろんあの子たちの関係を探るのよ!!」

答えになってない!

「でも、どうやるんですか?」

藍雨が卯月に再び聞く。

「作戦は有るわ!まず藍雨ちゃんが偶然を装って二人に接触して、情報を手に入れるのよ!」

「え!?わたしですか!?」

突然の作戦に藍雨が驚く。

「さあ、藍雨ちゃんGOよ!GO!今すぐGOナウ!」

いろいろおかしな所は有ったが、卯月のあまりの迫力に押され、藍雨は駆けだした。

(うう、最近の卯月さんたまに怖いです…)

幼女にも容赦なし!

 

「天峰さん!…えっとおはようございます!」

藍雨は天峰に話しかけたが、話の内容を考えていなかったため、わざわざ挨拶をすることになった。

なんて不自然!しかしこれは奇跡の会話!

「あれ?藍雨ちゃんおはよう!今日もお見舞い?」

結果論だが、卯月はもっとも正しい選択をしていたことになる。

本来天峰は夕日と二人の空間にいたため、外部からのアクセスは受け付けない!幼女空間にいた!

しかし!その空間に唯一アクセスできる存在が幼女!

幼女こそが!唯一無二の空間を超えるエネルギー!

そしてそれが炸裂したのだ!

「あ、はい。天峰先輩が楽しみにしてるようなので…ところで隣の人は誰ですか?」

(わあ、とってもきれいな人です…お人形さんみたいです…)

「…はじめまして…坂宮 夕日です…」

「は、はじめまして!晴塚 藍雨です!つ、つかぬ事をお聴きききしますが、天峰さんとの関係は?」

(噛んじゃいました…)

(あ、藍雨ちゃん噛んだ、噛んだといえば…幼女に歯型付けられたい…)

「今噛んだ?」

夕日は素直にきいた。

「関係…」

夕日は少し考え込んだ。

「恋人?…」

(こ、恋人さんでしたー!天峰さんに恋人がー!)

「あ、間違った…」

(違いましたか~)

藍雨がホッと安堵した。

「未来の妻…」

「もっと深い仲でした!うう、お二人ともお幸せにー!!」

藍雨は走って逃げて行ってしまった。

(なんだったんだ?藍雨ちゃんって時々変な事するよな?)

「天峰さん!訳もなく全裸で踊りましょう!」

(とか言ってくれないかな?)

天峰は変な事を考えていた。

 

「で、天峰とあの子の関係は?」

ダッシュで逃げる藍雨を卯月が捕獲し話を聞く。

「う…う…お二人は未来の…夫婦だって…坂宮さんが言ってました…」

(未来の夫婦って天峰本気なの!?いいえ!!まだ決まった訳じゃないわ!ポジティブにいきましょう!)

ザ・自己満足!

「おーい、ただいまどうだ?なんか聞き出せたか?」

別行動をしていた八家が戻ってきた。

「あ、野原君、天峰は?」

「アイツなら病室行くって帰って行った」

「ってことはあいつ今病室ね?」

卯月の頭の中ではサーチ&デストロイの式が出来ていた。

「いいや、少なくとも天峰は病室にいない、アイツの病室って2階だろ?けど3階のそれも使ってない旧館の方に行ったんだよなぁ」

何というスネーク!!

「旧館?なんで旧館なんかに?」

「それは決まってるでしょ?誰も来ない部屋!ベット!そして年頃の男女!これはもうアレしかないでしょ!」

八家が興奮気味に言う。

超エキサイティング!!

「アレってなんですか?」

藍雨の幼さ(小5)ゆえの質問!!仲良し夫婦に困った質問!

「それはね~まず藍雨ちゃんの…ぐぼぉ!」

そこに漬け込む八家!

「子供に聞かせられないこと、言うんじゃないの!」

と!卯月の鉄拳!

「とにかく!天峰は旧館なのね?行くわよ!!」

「え~やめましょうって!リアルに愛し合い現場に会ったら、藍雨ちゃんトラウマになるって!」

かろうじて正気を取り戻した八家!

「大丈夫よ!あのへタレに、そんな度胸無いわ!」

卯月が言い切る!!

「あ、藍雨ちゃん悪いけど天峰が帰ってきたら、連絡できるように天峰の部屋で待機してくれない?」

旧館前で卯月が藍雨に言う。

「あ、はい、わかりました」

藍雨はうなずき天峰の病室に向かった。

「な~んだ、卯月さん結局あの可能性捨てられないんだ?」

八家がニヤニヤする。

「そ、そんなんじゃないわ!天峰との入れ違いを防ぐためよ!」

卯月が否定する。

「はいはい、じゃ行きますか?」

卯月と八家が改めて旧館に向かう。




茶番再び!読まない方がいいぞ!

ベアード「あの…ちゃんと言いましたよ?」
???「ああ、そうだな」
ベアード「それなら娘を…ベア子を…!」
???「解放しろと?」
ベアード「それが約束だろ!?」
???「俺は構わないが…他の仲間がうるさくてね、そいつらに頼んでくれよ?今頃仲良くしてるんじゃない?」
ベアード「この…ロリコンどもめ!!」
???「ゲェ~ド!ゲド!ゲド!!」
まさに外道!!
終われ!


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ちょっと!それ犯罪じゃない?アナタ何歳よ?

さて、今回はこの物語の転に当たる部分です、大きく物語が動きます。
皆様には最後まで楽しんでいただけたら、幸いです。
*特別企画進行中!詳しくは私の活動報告にて!


旧館の夕日が使っている病室、数日前まで夕日が一人で読書をし、一日を過ごしていたが、そこには現在二人の人がいた。

一人はこの病室の主(?)坂宮 夕日!

もう一人は通りすがりのガチロリコン!幻原 天峰!

二人は恋人同士!

 

夕日はベットに座り、天峰は近くの椅子に腰かけている。

「夕日ちゃん、本当にいいの?」

「うん…恋人が出来たら、ずっと…したいって思ってたから…」

夕日の言葉を聞くと、ゆっくりと天峰が頷きゆっくりと立ち上がり夕日のベットに体を乗せる。

二人の体重でわずかに軋むベット、そして天峰は夕日のもとに自分の体をゆっくり倒す、そして夕日は優しい表情で天峰の頭に手を乗せる。

 

「あった!ここだわ!鍵も開いてる!」

卯月と八家が旧館に続く扉に鍵がかかっていないのを見つけた。

そして旧館へ侵入!

卯月は周りは見えていないようだ!

「はあ~なんで俺こんなのに巻き込まれているんだろ?」

本日何度目かのため息を八家が漏らす!

「あら?ため息すると幸せ逃げるわよ?」

卯月が振り返りもせず言い放つ。

(いや、あんたのせいだよ!)

八家が心の中でツッコむ、ちなみに彼は肉体的にも突っ込みたかったがこれは余談!

「さ!3階からしらみつぶしよ!」

部屋を一つ一つ開けて廻る、この情熱!他の事に使え!

「!!この部屋、誰かいるわ…」

卯月が一つの扉の前で止まった。

曇りガラス越しに人影が見える、わずかだが声も聞こえる。

「野原君入るわよ?」

八家を手招きする、麻薬取締捜査官レベルの緊張が走る!

「えー!いやだって!なんか気まずい空気流れてたらどうすんの?どうしてもってなら卯月さん先にやってくださいよ!」

八家が嫌がる。

友人のアレなシーンを見たがる方が異常なのだが…

「ちょっと、私?」

「そうでしょ?卯月さんが言い出したんですから!」

「こういうのは、男の仕事でしょ!?」

どんな仕事だと突っ込んではいけない!

ここに来てまさかの仲間割れ!

もめる出歯亀年増とエロ本マイスター!

「あーもう!仕方ないわね~」

卯月が扉を開ける。

「え!?」

「あ?んだお前?」

そこにいたのは天峰ではなく30代前半の位のやたら目つきの悪い白衣の男。

「あ、いえ、ここ幻原さんの病室かと…思ったんですけど…間違えました?」

思いもよらない事態に誤魔化す!

「はあ?何言ってんだ?お前?ここはとっくに使われなくなった旧館だぞ?見舞いのはずが有るか!もっと上手いうそつきな!」

男が睨んでくる。

「えと…その」

あっさりとうそを見破られ卯月が言葉に詰まる。

「卯月さん?どうなったの?」

後ろからひょこっと八家が顔を出した。

「ああ、そういう事か…なんでお前ら学生ってのは、いつの時代も馬鹿なんだ?どこだろうと盛りやがる…」

心底呆れたように男がやれやれと肩をすくめる。

「ちょ!勘違いしないでよね!私と野原君がそんな関係の訳ないじゃない!」

「ぐはっ!」八家の心に大ダメージ!

「はあ!?人気のない所にこそこそやってきた男女が何言っても信憑性なんぞこれっぽっちもないな!ほら!サッサと家帰んな!」

「本当にそんなんじゃないんだから!」

「おおう…」八家の心にさらにダメージ!

「あ~あ~!ワカッタ、ワカッタ何でもいいからとっとと出てけ!ここは俺のサボリ部屋だ、言っとくが院長にチクんなよ?」

卯月と八家は結局追い出された。

「なんだったのアレ?」

卯月が廊下を歩きながら話す。

まだ家に帰ろうとしない辺りに彼女の図太さが表れている!

「どー見てもサボリでしょ?気づきました?後ろに灰皿と煙草ありましたよ?(あれ医者なのかな?顔だけ見たらどー見ても、ヤのつく自営業系のひとだよ…)」

「さてと…天峰を探すわよ?」

懲りずに卯月が八家に向き直る。

「え~俺そろそろバイトの時間なんで帰ります、んじゃ!(正直いって付き合えないし…)」

そう言って八家は走り出した。

「あ!ちょっと!野原君!」

八家は逃げ出した!

「あー、もう使えないわね!私一人で探すわよ!」

怒りながら旧館をさまよう!

夜に見たらトラウマ間違いなし!

(あら?この部屋…いま天峰の声がしたような…)

女の第六感が冴えわたる!

勢いよくドアを開ける!

 

「気分はどう?」

夕日が天峰に尋ねる。

「ああ、夕日ちゃん!すごくいいよ!今までで最高の気分だよ!」

うっとりとした表情で天峰が答える。

しかしその幸せもついに終了!

「天峰!?何してるの!」

勢いよくドアを開けて入ってきたのは怪人出歯亀年増!

出っ歯と亀と年増を合体させたゲルショッカーの怪人!

…ではなく卯月 茉莉その人!

「げ!?卯月!どうしてここに!?」

天峰は夕日に膝枕されて耳かきを受けていた!

非常にKENZEN!冒頭のシーンから「あれ?これやばいんじゃねーの?」と思ったキミ!心が汚れているから、幼女でも見て心をきれいにしよう!

「この子がだれかは、今はいいわ、けどなんでこの子にそんな事(耳かき)してるの?」

嫉妬に狂った鬼のような女!

今なら睨んだだけで人の寿命すら削れそう!

「いや、夕日ちゃんがやりたいって言うから…」

しどろもだろになりながら答える天峰。

「前から…恋人が出来たら…してあげたかったの…」

夕日がほんのり頬を染めながら言う。

「こ、恋人~!?天峰!?この子と付き合ってるの!?」

恋人という単語にひどく反応する。

29歳で30台が目前となり、学生時代の友人が子供を持ち、親には「あんたいい人おらんの?」と聞かれる。結婚に焦る女位反応した!

「ん…付き合ってます」

天峰がとどめを刺す!

「ちょっと!それ犯罪じゃない?アナタ何歳よ?」

卯月が夕日に聞く。

「今年で13…」

「ほらー!中1じゃない!私たち高校生よ?中学生の告白とか本気にしちゃダメでしょ?」

卯月が一気にまくしたてる。

あまりの卯月の言い草に天峰がカチンとなった。

「おい!卯月!さすがにそれは失礼じゃないか!夕日ちゃんに謝れよ!」

天峰は卯月に怒鳴った。

「な、何よ!!私は正論を言っただけじゃない!天峰なんかもう知らない!」

最後の支えを失って、卯月は病室から逃げ出した。

「あ!ちょっと待てよ!!卯月!」

天峰は夕日の膝から起き上がり、卯月を追おうとして。

「夕日ちゃん、悪いけどちょっと行ってくる!」

笑顔を無理に作り、卯月を追った。

 




はじめての修羅場!
上手にかけましたかね?不安です。


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いい加減認めたら?自分が価値のないゴミだって

そろそろ梅雨ですね?
みなさんいかがお過ごしでしょうか?
本作が梅雨の時期の暇つぶしになれれば幸いです。


「ハロー晴塚さん!」

八家が天峰の病室を開け、中にいた藍雨に笑顔で話しかける。

「あ、野原先輩」

おい!誰だ!?今、ボソッと「野獣と化した先輩」とか言ったの!

「天峰先輩は見つかりましたか?」

藍雨は八家に聞く。

「あーなんか変な医者は見つかったよ、なーんか卯月さん暴走気味だから別れて帰ってきたんだ。ま、そのうち何とかなるよ」

やれやれと言った様子で八家がいう。

「大丈夫ですかね?」

心配そうに藍雨が尋ねる。

「あはは、何か心配してるの?あの二人は今に始まった事じゃないから、心配無用だよ」

八家が藍雨に近寄りポンと頭に手を置く。

(そ、いつもそうなんだ、天峰が幼女に夢中になって卯月さんが暴走するだけ)

もはや日常となった繰り返しに、八家は一人心の中でつぶやいた。

「さ、暗くなる前に帰ろうか?」

「はい!そうですね!」

二人は天峰の病室を後にした。

 

「オイ!卯月!待てよ!クソ!骨折治ったばっかりなのに…」

旧館の廊下を卯月と天峰が走り抜ける。

「おい、待てって!」

天峰がついに卯月を捕まえたのは、もう病院の正門付近だった。

「離しなさいよ!」

卯月が天峰の腕を乱暴に払いのける。

「あの夕日とか言う子と仲良くしてれば良いじゃない!!」

まくしたてるように、悲しみを誤魔化すように言う。

「夕日ちゃんと仲良くしているのが、そんなに気に食わないのか?」

ここまで取り乱す卯月を天峰は初めて見た。

「当たり前じゃない!あんたはなんでそんな事平然と言えるのよ!」

卯月はそう言い放つと、病院から逃げ出した。

「卯月…」

卯月本人は気付いていたのかわからないが、涙を流していた。

天峰は久しぶりに誰かが泣くのを見た気がした。

 

時間はほんの少しだけ戻る。

「夕日ちゃん、悪いけどちょっと行ってくる」

天峰が笑顔を作り、卯月を追った。

夕日はここにいてほしかったが、その言葉すら言えなかった。

「…きれいな人…」

それが夕日の卯月に対する、第一印象の率直な感想だった。

{そうだね、あの人の方が私より好きなんじゃない?}

夕日の心の中で誰かが言ったような気がした。

(また…まただ…)

夕日の中で黒いモノが蠢くのがわかる。

暗い一人の部屋の中で、自分にいつの間にかすり寄ってくる何かが。

(大丈夫…すぐに…戻ってくる)

夕日は自分に言い聞かせる。

{あの人の方が私より魅力的なのに?}

黒いモノがあざ笑うように言う。

(約束…したから…)

{そんな口約束まだ信じてるの?}

(!それは…)

{いい加減認めたら?自分が価値のないゴミだって}

(私は…あの人に…いてほしい…)

{むりむり!誰も私なんて必要としないから!良く知ってるでしょ?}

夕日は多重人格ではない、黒いモノは夕日の中のネガティブなイメージその物、夕日自身の自己否定の現れである。

(いや!やめて!)

夕日は自身の声から逃げるように首を振る、しかし耳をふさいでも、布団の中に隠れてもその声を振り切ることは出来なかった。

しかし夕日は一つだけその声を止める方法を知っていた。

そしてソレを実行し、ベットに寝そべる。

「渡さないから…絶対に…」

黒いモノを黙らせる事に成功した夕日は、彼女らしくない顔でひとりつぶやいた。

 

「卯月…なんで…」

天峰は病室までとぼとぼと歩いていた、考えるのは先ほどの卯月の事ばかり。

天峰は卯月にも恋人が出来たことを話せば、彼女なりに祝福してくれると思っていたそのため天峰は、卯月の怒りと涙が理解できなかった。

重い足取りで夕日の待つ旧館に向かう。

 

「ただいまー夕日ちゃん」

天峰がドアを開け、夕日の病室に入る。

夕日は窓の方を向いて、ベットに横になっている。

(なんだ?あれ?)

天峰は夕日のふとんの一部赤いシミが出来ているのに気付いた。

そのシミは夕日の腕から流れ出ており…

「夕日ちゃん!何してるの!」

天峰があわててベットに駆け寄る。

「ああ、これ?」

夕日が自分の流血する左腕と、何時かのカッターナイフをみせる。

「訳もなく寂しくなることが有るの…そんな時{なんで私生きてるんだろう?}て思うの{消えてしまいたい}とも…そんな事思った時コレをするの…私の治っていく傷を見て、私の体はまだ死にたくないんだって思うと「まだ此処に居ていい」って言われているみたいで、少しうれしくなるの…」

ただ淡々と、自分にいい聞かせるように夕日が言う。

「夕日ちゃん…」

(夕日ちゃんのしている事は、肯定できない…けど否定することも出来ない…)

「とりあえず傷を何とかしよう?ガーゼとか包帯とか無い?」

天峰は答えを出すのを先送りにするしかなかった。

「それなら…そこ」

夕日がベットの正面の棚を指さす。

「ここだね?」

天峰は棚をあけた、そこで天峰はおかしなものを見つけた。

(なんだこれ?綿?バラバラになった…クマのぬいぐるみ?)

ぬいぐるみに気を取られた瞬間、ベットに寝ていた夕日が花瓶を手に取り、天峰の頭に振りおろした。

「ぐがぁ!」

頭に衝撃を受け天峰は薄れゆく意識の中で…

「アナタは誰にも渡さない…」

夕日の声を聴いた。

ゾッとするくらい冷たい声だった。

 

「ぐずっ!ん…ぐずん」

卯月は病院から戻って以来自分の部屋でずっと泣いていた。

天峰に恋人が出来た。

高校生になれば恋人がいること自体は珍しくない、しかし卯月は天峰の隣には自分が居たかったのだ、幼い独占心だという事がうっすらわかっていたが、そんな自分が嫌だった。

しかし今でも未練がましく、天峰との関係の修復を望んでいた。

その時卯月のケータイがメールを受信した。

(メール?夜宵ちゃんかしら?)

自分の知り合いを思い浮かべながら、メールの差出人を見る。

「天峰」その文字を見て急いでメールを開ける。

 

「ん…此処は?痛ッ!」

天峰は見慣れない病室で目を覚ました。

頭痛に苦しむ姿を、近くで夕日が天峰の様子を見ていた。

「ああ…目が覚めたの?」

嫌な嗤い顔で夕日が天峰に話しかけた。




今回はなかなか急な部分で区切っているので、近いうちに更新します。
終わりが近いので、お付き合いいただけたら幸いです。


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コレなんてエロ同人!?

歪んだ歯車は機械なら壊れて動かなくなる。
それならパーツを変えるか、新しく買えばいい。
けど歪んだ心は壊れても、止まることも新しく買うことも出来ない。
歪んだパーツを持った心はどう動くのだろう?


とある病院の一室で天峰が目を覚ます。

「ん……アレ?ここ何処だ……俺……確か……」

寝ぼけ眼で、夕焼けで紅く染まりつつある見慣れない天井をぼんやりと眺める。

「あ!そうだ!夕日ちゃん!!痛ッ!」

頭部の痛みと、夕日の事を思い出し、一気に意識が覚醒する。

起き上がろうとするが……

「あ、アレ?なんだこれ!?」

ベットには黒い革ベルトが有り、天峰をガッチリと拘束している。

「ああ…目が覚めたの……」

ベットの隣にいた夕日が、天峰が意識を取り戻した事に気が付く。

「夕日ちゃん!ここは何処なんだ?なんで俺縛られてるの?」

(まさか……ついにロリコンだとばれたのか!?『汚物は消毒じゃー!!』とばかりに俺を消毒する気か!?)

事の重大さにいまいち気付いていない天峰!

的外れな事ばかり考えている天峰に、夕日が優しい声で語りかける。

「……ここは旧館の……部屋の一つ……アナタを連れて来るのは……なかなか大変だった……けど……うふふ……」

夕日がクスクスと嗤う。

天峰はその顔が初めて見る夕日の笑いだが、不機嫌顔よりもずっと恐ろしい顔に見えた。

「此処じゃないと……拘束具付のベットってないから……」

その言葉に夕日が明らかにおかしい事に気が付く。

(おいおい……マジかよ……なんで夕日ちゃんこんな事してんだ!?)

天峰は何とか抜け出そうと腕や足を動かそうとするが、ガチャガチャと拘束具の金具がむなしく鳴るだけだった。

「夕日ちゃん!なんでこんな事を!!」

天峰が夕日に問いかける。

「ああ……それはアナタを逃がさない為……こんな事すれば……嫌われる事は知ってる……けど私は……アナタの気持ちなんてどうでもいいの……」

再び夕日が嗤う。

その顔で天峰は気絶する前に見たズタズタになったクマのぬいぐるみを思い出した。

(あのぬいぐるみと同じか……もの言わなくても傍に置いときたいって事か…)

「……私が誰からも好かれないのは……知ってる……『アノ時』は……しっかり見えなかっただろうから……しっかり見せてあげる」

夕日は自分のパジャマのズボンをストンと下ろし、自分のシャツのボタンに手を掛ける、少しずつ夕日の肌が露わになっていく。

「ちょっと!?夕日ちゃん!?なにしてるの!?」

思いがけない夕日の行動に天峰は声を上げる。

(え?ナニコレ!?なんで夕日ちゃん脱いでるの!?『逃がさない為』ってこういう事!?責任とって結婚!?コレなんてエロ同人!?)

そうしているうちにも夕日は、すべてのボタンを外し終わり天峰のベットに乗る。

「あ……」

近くで夕日の体を見て絶句した。

「ほら……見える?……私の身体……」

夕日の身体には打撲、切傷、火傷、多種多用のあらゆる傷痕が有った。

「夕日ちゃん……それ……」

あまりに痛々しい姿に、天峰はショックを受け絶句した。

「……これは私の何人目かの……お父さんと……お母さんが付けた傷なの……少し私の……事を話すね……」

夕日はゆっくりと自身の過去を語りだす。

「……私のお母さんは……いわゆるシングルマザーだったの……17歳の時私を妊娠して家、出同然で家を出たの……一人目のお父さんを頼って、けどそのお父さんは……私を産めるだけのお金をくれてアパートを借りてくれた……それが手切れ金なんだって、それからお母さんはいろんな人を連れてきた……いろんな人がお父さんになったわ、いろんな性格のお父さんが出来たわ、優しい、面白い、楽しい、不機嫌、無関心、怖い、酷い、恐ろしい…けどお母さんだけは優しいままだった……だけど最後のお父さんの時は別、お母さんもそのお父さんと一緒に、私をぶったり蹴ったりした……その傷がコレ、いつも優しかったお母さんが、なんでこんな事するかわからなかったけど……ある日気付いたの、お母さんは私よりお父さんが好きになったんだって……だからお父さんと一緒に私をぶつんだって、その時気が付いたの……私は誰からも好かれなんだって……」

夕日が一気に言葉のトーンを上げた。

「けど私にはあなたがいてくれたみたい……だからね?私はアナタにほかの人を見てほしくないの、私を邪魔するあの女には諦めてもらう事にしたの……そろそろ良い頃かしら?」

夕日がベットから降りて、そのまま病室から出てゆく。

(夕日ちゃん……そんな事が有ったんだ……けど夕日ちゃんは今、間違った事をしてる!俺が止めないと!)

夕日を追うべく立ち上がろうとするが。

ガチャン!

「って!俺縛られたままじゃん!夕日ちゃん!夕日ちゃん!コレ解いて!」

今しがた向かおうとした、夕日に向けて声を出す。

「ったく!うるせーぞ!誰だ!!」

開けたままの病室のドアから、痩せた目つきの悪い白衣の男が入ってきた。

「ん~なんだお前?一人SMか?」

男は困惑したように天峰を見る。

「違う!頭殴られて、気が付いたらこの状態だったんだ!」

「ああ?なんだそりゃ?はあ~最近の若い奴はバカしかいないのか?」

そう言って呆れながらも革ベルトを外してくれた。

「助かりました、はあ夕日ちゃん何がしたいんだ?諦めさせるって」

天峰がつぶやいたとき男が反応した。

「おい!お前今夕日といったか?お前夕日の知り合いか?」

詰め寄るように男が天峰の肩を掴む。

「はい、知り合いですけど?」

「あーチクショウ!大体読めてきたぞ、最悪かもな、おい!お前夕日を今すぐ探し出すぞ!」

男が一気にあわてる。

「いったいどうしたんですか?」

あまりの男の慌てぶりに天峰が疑問を持つ。

「あんま詳しく話せねーがアイツの親の話は知っているか?」

「はい両親に虐待されて、体の傷痕はそのせいだって……」

天峰は傷を思い出し気の毒に思う。

「それだけか?その後の二人がどうなったか知ってるか?」

天峰はその後から、今に続くピースが抜け落ちている事に気が付いた。

「いいえ、知りませんどうなったんですか?」

この時点で天峰は嫌な予感がしていた。

「父親……正確には夫婦ですらないんだがソイツは死亡、母親は意識不明の重体だ」

男の口からあまり聞きたくない言葉が出た。

「死亡に意識不明!?何が有ったんですか!?」

天峰が驚き、語気を荒げる。

「夕日がカッターナイフで二人を滅多刺しにしたんだ、虐待を理由に逮捕はされていないがな、あいつは今この病院の精神科に入院中だ、一回タガが外れたアイツは自分にとっての邪魔ものは徹底的に排除するぞ!」

「そんな……」

天峰はこの日、知ってはいけない事を知ってしまった。

 

一方卯月はメールで天峰に呼び出された、旧館に向かっていた。

そして病院のどこかにいる夕日の手には天峰のケータイが握られていた。




今回はコレなんてエロ同人!?というシーンが有ります。
ギリギリだ……大丈夫かな?
ま!そこを責めてこそリミットラバーズだよね!


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病院では静かにしなさい

Point of No return
もう元にはもどれない……


夕焼けが白い病院の廊下を赤く染めている。

本来ならば人がいない筈の旧館を、坂宮 夕日がカッターナイフを手に歩いている。

旧館の白い廊下は今は赤、夕焼けが沈めば黒く染まるだろう。

(……同じだ)

夕日は自分の世界と同じ色だと思った。

真っ白な空っぽの自分、生きていることを実感できる血の赤、そして自分を無価値だと囁くナニカの黒。

夕日の世界はその三色で構成されていた。

ついこの間までは……

自分しかいないはずの旧館にやってきた異物、幻原 天峰。

彼の登場により夕日の日常は一気に色付いた。

最初はうるさく、ズケズケと夕日の空間に侵入した天峰を排除しようとすら考えていたが、彼を見ていると不思議な気持ちになった、何時か彼を待ち、不意に彼の事を考え、彼に会うために彼の病室を探したりもした、夕日はいつの間にか彼との時間を楽しんでいる自分がいた。

夕日はすっかり自分の日常が変わったのを自覚した、1週間も満たない間に夕日の多くの部分が天峰に染められた。

しかし、天峰にはあの女がいた。

天峰と話す女、きっと自分の知らない天峰を彼女はたくさん知っているのだろう。

あの女は自分の言いたいことを言った後病室を飛び出した、天峰も同じく女を追って病室を飛び出した、夕日は天峰があの女を追うのを黙って見ているしかなかった。

夕日が声をかける暇もないアッという間の出来事だった。

天峰がいなくなった途端夕日の中に黒いナニカが蠢いた。

 

 

 

今、夕日は旧館の廊下を歩いている。

もうその顔は夕日のせいで伺い知れない。

 

 

 

 

 

「ったく埃っぽいわね、なんで天峰ったらこんな所に呼んだのかしら?」

卯月は今は使われてない旧館の一室に来ていた。

家で泣いていると天峰からメールで連絡が来たのだ。

文面は「さっきの事は、悪かった。しっかり謝りたいから旧館の一階の17号室に来てくれないか?」

シンプルだが天峰の気持ちはうれしかった。

あの夕日って子についても、話が聞きたかったので卯月はそれを了承した。

携帯を触っているとき不意に扉が開いた。

「天峰?」

そこに現れたのは天峰ではなかった、異様な姿の夕日だった。

上着はパジャマのみで前のボタンはすべて開けられ、ズボンははいておらず下着だけ。

しかしもっとも異様なのはその瞳だった。

左の瞳には睨みつけるような迫力があるが、右目は無機質で死者のように何の感情も読み取れない。

「ちょ、ちょっとなによその格好、天峰の趣味?えっと夕日ちゃんだっけ?出来ない事は出来ないって言わないとダメよ?ってゆうかあんなのと付き合うの辞めたら?」

卯月は自分の恐怖を誤魔化すためあえて無理をして話を振った、しかしそれが間違いだった。

「ふーん?あくまで私たちを別れさせるつもりなんだぁ?そんなにあの人の事好きなの?」

夕日がわらいながら聞く、見る者に恐怖を与えるようなドロリとした嗤いだった。

「な、なに言ってるのよ、別にあんな奴好きなんかじゃないわ、ただの幼馴染よ?」

恐怖を押さえた卯月の言葉。

「ただの幼馴染?ならもう私たちに近づいてこないで!」

夕日が一気に怒気を孕む。

「な、何よ!私がどこに居ようが私の勝手じゃない!」

怒気を孕む夕日に対抗するように卯月が答える。

幼馴染という事が卯月のプライドになっているのだ。

「違う!彼は私を選んだの!私もあの人が好き!ただの幼馴染のあなたに居場所はないの!私と彼の前から消えて!」

夕日はまくしたてるように言い放った。

「な!何言ってるのよ!いい?天峰があなたを好きになったのは天峰がロリコンだからよ!あなたがまだ小さいから好かれているだけよ、あんなロリコン野郎忘れなさい?きっともっとあなたにふさわしい人が現れるわよ?」

卯月が嫉妬を持ちながらも諭す。

「それで?あなたは……あの人を手に入れるのね?渡さない!絶対に渡さないから!あの人は私のもの!」

チキ……チキ……チキチキ!

夕日がパジャマからカッターナイフを取り出す。

「ちょ、ちょっと!?何考えてるのよ!」

突然の凶器の登場に卯月が恐怖する。

「あなたは邪魔なの……私たちは幸せにやっているの、あなたが隣からしゃしゃり出てくるから邪魔なのよ!私たちの幸せの!それが気に入らないんでしょ?許せないんでしょ?嫉妬してるんでしょ?素直に自分の気持ちも言えないクセに!私たちに構わないで!…………といってもおとなしく身は引いてくれないわよね?大丈夫、殺しはしないからただちょっとおとなしく成ってもらうだけだから……けど……あんまり抵抗されるともしかしたら?失敗しちゃうかもぉ?とりあえず……あなたはここで潰す!」

夕日がカッターを構え飛びかかってくる。

「いったいなんなのよ!?」

卯月は持っていたカバンを夕日に投げつけ、怯んだすきに隣のベットに上り夕日の隣をすり抜け、扉から逃げ出した。

「待て!逃げるな!」

後ろで夕日の叫ぶ声が聞こえ、同時に卯月がさっきまで手を掛けていたドアにカッターが投げつけられた。

 

(何よあの子!?危なすぎるわ!早く逃げないと本当に殺される!天峰は……天峰は無事なの!?)

むちゃくちゃに走りまわり何とか夕日を巻いた卯月、この時ばかりは体力差のおかげだろう。

先ほど夕日にカバンを投げつけたため殆ど荷物は無かったが、夕日に話しかけられる寸前まで触っていた携帯電話は卯月の手元に有った、卯月はこちらから天峰に連絡しようとした時、携帯が着信を表示した。

今しがた連絡しようとしていた天峰からだった。

「あ、天峰!無事?あの夕日って子おかしいわよ!?今どこ?今二階にいるから一緒に逃げましょ!」

卯月が手早く話すが……

「今二階ね?すぐ行くわ」

相手は夕日だった。

「ひ!」

卯月は思いもよらぬ事態に携帯を落とした、階段付近に居たのが災いして携帯電話はそのまま階段の踊り場まで落ちて行ってしまった。

(拾いに行かなくちゃ……)

携帯電話を拾おうとした時。

「アレ?卯月さん?」

「え?野原君?なんでここに?」

なぜか階段から八家が降りてきた。

「卯月さんこそ、まだこんなことしてたの?」

呆れ半分に八家が聴く。

「違うわ!天峰と一緒にいた夕日って子に呼び出されたの!野原君あの子危なすぎるわ!一緒に天峰とにげるわよ!」

恐怖を堪えて何とか言う。

「さっき天峰の病室行ってみたけどいなかったよ、たぶん天峰もこの旧館のどっかにいる」

「天峰もこの旧館に!?野原君!一緒に天峰を探して!にげるわ!」

天峰もこの事態に巻き込まれていると知り、恐怖は一気に吹き飛んだ。

「一階からしらみつぶしよ!野原君あの子カッター持ってるから、身を守る武器になりそうなもの探して!それからお互いばらけないようにまずはこの階だけを探しましょう!」

先ほどまでの震えが嘘のようにテキパキと指示を出す卯月。

「カ、カッター!?マジかよ!」(リアルヤンデレ来た!ああいうのは2次元だけにしてほしいな……)

卯月と八家はそれぞれ病室に入り、使えそうなものを探す。

しかし……

「くっそー何もないな~棚を片っ端から開けていくか」

ごそごそとベットの棚や下を探る。

「ねえ、何を探してるの?」

後ろから声がかかる。

「ん~身を守るために使えそうなものを探してるんだ」

なおも棚を漁りながら答える。

「じゃあ、これは?さっき給湯室から持って来たの」

ぬっと八家の顔のすぐ横を、銀色の刃物が通る。

今更になって八家が振り返る、そこには右手にカッター、左手に包丁を持った夕日が立っていた。

「あ!あ……なんてマニアック!」

こんな状態でも見るべきところは違うらしい。

「そおい!」

八家は棚の仕切りの板を外すと、夕日に投げつけた。

急いで病室から逃げ出す八家、廊下に出た瞬間一階すべてに届くような声で叫ぶ。

「あの子がいたぞ!卯月逃げろ!」

「病院では静かにしなさい」

すぐ後ろで夕日の声がする。

 

 

八家の声を聴いた卯月が病室から出る。

8メートルほど先で八家が叫んでいる、そしてすぐ後ろには夕日が包丁を構えている。

「八家君!後ろ!逃げて!」

卯月は咄嗟に叫ぶ。

 

 

「ん!今の声!ヤケだな!行って見るか!」

夕日を探し三階にいた天峰は階段を急いで降りる、二階にさし掛かった時今度は

「八家君!後ろ!逃げて!」

卯月の叫び声。

そしてついに一階たどり着いた天峰が見た物は。

悲鳴を上げる卯月と、八家の腹に何度も包丁を振り下ろす夕日だった。




今回を含め、後一話で終わりです。
後日談的な物は書くつもりなので場合によっては二話かな?
一緒にする可能性も有りです。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。


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無力な俺を許してくれ

歪んだ心もいつかは壊れる。
そのいつかが怖くて、気付かないふりで走り続ける。
歪んでいても傷ついても、自分に、他人に、世界のすべてにに自分の言葉を響かせろ!
自分はここにいると!
さあ!叫べ!力の限り!



「ヤケぇ!」

天峰が状況を理解すると同時に叫ぶ。

それぞれの立ち位置を説明すると、天峰の降りてきた階段の先に卯月がおり、さらにその先に夕日が立っている。

天峰の叫びの声で、卯月と夕日が同時に天峰の存在に気が付く。

夕日が包丁を投げ捨て、カッターを構えながら卯月の方に走る。

その姿を見た天峰は一気に走り出す、卯月とすれ違いその先でカッターを構える、夕日の方に向かう。

「(あー痛いんだろうな)けどやるしかないよな!」

天峰は自分自身に気合いを入れると……

「があぁ!」

自分の右手で夕日のカッターナイフを掴んだ!お互い走っていた事で勢いが強く、天峰の掌から赤い液体がポタポタと垂れる。

「何で……邪魔するの!」

怒りの形相で尚も手にしたカッターに力を入れる。

「こんな事、しちゃダメだろ!!」

自身の痛みに耐えながら、天峰は夕日をまっすぐ見据える。

「そんなに?そんなにこの女が大切なの!?」

夕日がさらにカッターに力を入れる。

「ああ!確かに卯月は大切な友達だよ!けど俺がこうしてるのは卯月が大切なだけだからじゃない!」

さらに強くカッターを握る。

「天峰止めなよ!!この子に何言っても無駄だって!それより逃げて!八家君みたいに……八家君みたいに殺されちゃうよ!」

最早悲鳴に近い声で卯月が叫ぶ、廊下に倒れている八家は苦痛の表情を浮かべたまま、ピクリとも動かない。

「そう!私はもう戻れない!だからあとはやりたい様にやるの!」

自暴自棄になった夕日の言葉を聞き天峰は……

「ダメだ!俺は夕日ちゃんから逃げない!夕日ちゃんを一人ぼっちにできない!夕日ちゃん!こんな事されたら辛いだろ!!痛いだろ!!夕日ちゃんはその事を誰より知っているじゃないか!!」

天峰は決死の覚悟で夕日を見据える。

「どいて!その人は邪魔なの!私たちの邪魔をする、あの人がいたら私……天峰に捨てられちゃう、また一人になる、誰からも……好かれなくなる!!だから……どいて……どいてよぅ」

夕日の声がだんだんと涙声になっていく。

夕日自身自分の行動と目的が矛盾しており、こんなことをしても天峰の心を繋ぎ止めることは出来ないのは理解している、しかし自分の中にある不安がどうしても拭い去ることが出来ないのだ。

しかし……

「そんな事は無い!俺は夕日ちゃんを絶対に裏切らない!たとえどんなことが有っても!」

いつかの様に天峰がまっすぐな気持ちを伝える。

「本当に?」

長い髪で右側は隠れているが、天峰は確かに夕日が涙を流すのを見た。

「ああ、やっと名前呼んでくれたね。もちろん本当さ嘘ついたらハーゲンボーデン一年分買ってあげるよ」

何処か冗談を言いながら力強く夕日の言葉にうなずく。

「本当に?本当に嘘じゃない?私こんな事したのに……」

「嘘なもんか!俺は正直がモットーなんだ」

あえて優しく天峰が微笑む。

「う、うう、ごめんなさい……けど……ありがと……」

夕日の手からカッターナイフが滑り落ちる。

血の付いたカッターに透明な液体がポタリと落ち一部の血を落とす。

「良いんだ……何が有っても俺は夕日ちゃんの味方だからね」

天峰が優しく話す。

「あーらら、やっぱり筋金入りのロリコンは違いますな~」

いつもののんきな感じで八家が立ち上がった。

「ヤケ!無事だったのか!」

天峰が歓喜の声を上げる。

「いや、正直言って全然無事じゃない……」

そう言って自分のシャツに手を突っ込む。

中から出てきたのは……

「見てくれよこれ!俺の買ったばっかのエロ本がズタズタだ!Over the RubiconやTied Day!後病院ものだから買ったMind Medical`sも!全部まだ読んでもいないのに~ううぅ!無力な俺を許してくれ~えええぇ!」

大量のエロ本!実写から2次元さらには同人誌まで、どれだけ隠してあったのか大量のエロ本が出てくる!

エロによって自分を救った男!野原 八家!

「なんだか一気に冷めたわ……」

どっと疲れたように卯月が言う。

「夕日!お前!何した!」

どこかで聞きつけたのか、天峰のベルトを解いてくれた医者が現れる。

「お前!いったい自分が何をしたか……」

医者が夕日に詰め寄ろうとする。

「夕日ちゃんは何もしてないよ?そうだよなヤケ?」

天峰が八家に声をかける、その瞬間泣いていた八家がぴたりと泣き止む。

「ああ、そうだね。何もしてなかったよ」

天峰に話を合わせる。

「なに言ってんだ?その手の傷!それから血の付いた夕日のカッター!それが証拠だろ!?」

医者は天峰のなおも血の出る右手を掴む。

「あー勘違いですよ、ほらあそこにエロ本あるでしょ?アレの袋とじ開けようとしたんです、夕日ちゃんにカッター借りて……若いから溜まってるんですよ、思わず興奮しちゃって怪我しただけです、ははは」

天峰がポタポタと血の滴る右手を振る。

「明らかにおかしいだろ?」

尚も医者は食い下がる。

「おおぅ、俺のエロ本たちが……」

「ほら、男の別れです、見送ってあげましょう?傷の手当お願いできます?」

天峰達はエロ本の前で涙する、一人の勇者を残し帰って行った。

 

 

2日後

「おーう、邪魔するぜ?」

あの時の医者が夕日を連れ、天峰の病室に入ってきた。

「夕日ちゃん!久しぶり!」

あの事件以来夕日と天峰は会っていなかった。

夕日は腰まであった髪をバッサリ切り、何時ものパジャマでなくタートルネックの服を着ていた。

「あれ?夕日ちゃんお出かけ?」

天峰が聴く。

「違う、退院だコイツの親代わりがやっと見つかったんだ」

男がぶっきらぼうに言う。

「ほら、言うんだろ?」

男が夕日の肩に手を置いてせかす。

「うん……天峰さんこの前はごめんなさい……私一人になるのが怖かったの……だけどたくさんの人を傷付けちゃった……ごめんなさい……」

夕日は目に見えて落ち込んでいる。

「夕日ちゃん……落ち込む事は無いよ実際怪我したのは俺だけだし、俺は幼女のすることは何でもウエルカムさ!」

にこやかに話す。

「まじか、それはそれで引くな」

医者が言った。

「夕日ちゃん、つらいならいいけどお父さんとお母さんの事聞いていい?」

天峰はずっと疑問だったことを聞いてみた。

「うん、天峰さんには知ってもらいたい……私はお父さんとはうまくいってなかった……あの日もそう、何時もみたいにお父さんに殴られて蹴られて……その日お父さん……お、お酒……」

夕日がだんだんと震えてくる。

「夕日ちゃんつらいなら…」

天峰がフォローに周るが……

「ううん……大丈夫聞いてほしい……こっち来いって呼ばれて言ったらタバコに火を付けて……私の目に押し当てた……」

「え!?でも夕日ちゃんその眼……」

衝撃の告白に天峰が驚く。

「この右目は霧崎先生が作ってくれた……女の子なのに顔に傷が有るのはよくないだろうって」

夕日は自分の右顔に手を当てる。

「へー、その霧崎って先生いい人なんだな~」

天峰が率直な感想を漏らす。

「まあな、この義眼かなり精巧にできてるから結構高いんだ、薄給の俺にはつらかったぜ」

隣の先生がつぶやく。

「へ?霧崎ってアンタの名前?」

「あ?知らなかったのか?」

「知らなかった、興味自体なかったし」

あっさりと天峰が言う。

「コノヤロー、霧崎、霧崎 登一(きりさき といち)だ!良く覚えとけ!」

「そんな事より夕日ちゃん話の続き」

天峰興味なし!

「それで、私が悲鳴あげたらお母さん飛んできて、もうアナタといられないって……包丁でお父さん刺したの……そしたらお父さんカッター出してきて……私怖くて震えてた……気が付いたら二人とも血だらけで……足元にカッターが落ちてた」

トラウマがえぐられたのか夕日は涙声だ。

「そこに俺が駆けつけて、救急車呼んだんだ」

霧崎が話す。

「ん?なんで先生が出てくんの?」

「こまけーことは気にすんな!」

わらいながら霧崎が誤魔化す。

「やっぱり夕日ちゃんが2人を殺したのって嘘だったんですね?」

天峰が霧崎を見る。

「当たり前だ、お前を夕日から引き離す口実さ、コイツは優しい自分よりも母親を優先していたんだからな……」

霧崎が夕日の頭に手を置く。

「それで……天峰……お願いが有る」

夕日が真剣な顔をする。

「私と別れて……きっと新しい家でも天峰に……甘えちゃう……だからその未練を断ちたい」

何処までも真剣なまなざしで話す。

「解った、別れよう夕日ちゃん、俺とはたった今から他人だ」

天峰が言う。

しかし……

「違う、元彼と元カノ……」

恥ずかしそうに話す。

「そうだね」

その言葉に天峰はゆっくりと頷く。

「これ、あげる……」

夕日は自分の顔に手を当て……

「はい……」

天峰の前に自分の義眼を差し出した。

夕日の手の上の目と天峰の目が合う。

当たり前だが瞬きなしで天峰を見つめている。

「ずうっっっっっっっっっっっとあなたの事見てる……」

夕日が今までにない笑顔で話す。

(冗談だよな?やっぱ夕日ちゃんって基本的に病んでるな……)

「ありがとう、大切にするよ……」

天峰はぎこちなく夕日の義眼を受け取った。

「じゃあ……そろそろ行く……さよなら……」

ポケットから取り出した眼帯を付けながら夕日が去っていく。

その背に天峰が声をかける。

「夕日ちゃん!今度会った時、コレ!夕日ちゃんに挿入てあげるよ!」

天峰が夕日の義眼を持って言った、夕日はコクリと恥ずかしそうにうなずいた。

 

 

廊下で霧崎と夕日が話す。

「ったく……なんで俺はこんなに不器用なのかね?アイツが家出した後足取り探すのも大変だったんだよな~」

霧崎がぼやく。

「たぶん兄妹だから似たんだと思う」

夕日が答える。

「でもよーはぁ……自分の姪の面倒ひとつ見れない自分を呪うぜ、責任転嫁みたいで悪いが新しい家でも頑張んな?おれの大学時代の先輩なんだが、いいヤツなんだ」

何処かさびしそうに霧崎が話す。

「うん……」

夕日が迎えのタクシーに乗る。

「いつでも帰ってこいよ!あの部屋は開けといてやる!」

霧崎が小さくなるタクシーを見送る。

 

天峰は自分の病室で小さくなっていくタクシーを見ていた。

 

さよなら……夕日ちゃん……またいつか……

 

霧崎の話によれば今県外にいる、自分の新しい家族に会いに行くらしい、おそらくだが2度と会う事は無いだろう、彼女との出会いは偶然が呼び寄せてくれた小さな奇跡なのだろう。

夕日もそのことがわかっていたに違いない、だから自身の身体の一部を託したのだろう。

夕日と最後にした約束がいつか果たせる事を祈りながら、天峰はゆっくりと眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談短いのでここに

 

 

 

 

 

「ちょっと!ナニコレ!宿題全然やってないじゃない!」

卯月が天峰の宿題を覗き込む。

「いや~右手がこんなんだからさ~字が全然かけないのよ」

包帯でぐるぐる巻きになった、右手を挙げる。

「とにかくゴールデンウィークは明日までなんだから!急いで!」

卯月ががせかす。

 

卯月は心の広い女だった、卯月と夕日はあの後俺の知らないところで和解したらしい、自分の事を殺そうとした奴と和解できるなんて、ひょっとしたら卯月は俺が知っているより大物なのかもしれない。

 

「まあ、落ち着けって、そうだ!いいもん見せてやるよ、ほら!」

天峰は指輪などをしまうケースを取り出した。

「きゃあああ!ちょっと!天峰!何それ!どうしたの!?」

卯月が悲鳴を上げる。

「昨日夕日ちゃんに貰ったんだ~最初は怖かったけど見てたらかわいくなってきてさ~」

天峰は笑いながら義眼を見ている。

(天峰……なんだか病んでる……あの子の影響かしら?)

結局その日の夜遅くに、答えを見ることで天峰の宿題は終わった。

 

「はあ~久しぶりの我が家だ!」

天峰はついに自分の家に帰ってきた。

家にはもうすでに温泉旅行から帰ってきた家族が一足先に戻ってきている。

「兄貴~なんか久しぶりだな~元気してたか?」

玄関で天峰の妹が出迎える。

「いや、入院してたから……」

「お~天峰!生きてたか!」

さらに奥から母親が顔をだす。

「ただいま母さん」

「おう、天峰!お前が病院で寝ている間に家族が増えたぞ、やったね!」

母親が煙草を吸いながら話す。

「はあ?どういうことだよ(まさか旅先で妹か弟を制作したのか?)」

天峰が呆れ半分に聞く。

「ああ、私の大学時代の後輩の、妹の子だってさ。旅先に電話かかってきてな、

頼りになりそうなやつ片っ端から連絡したらしい、でウチ部屋余ってるしイイよーって言っちゃった訳、ほら、あれだ!え~と義妹?天峰好きだろ?義妹もの机とかベットに隠してあんじゃん?」

母親がわらいながら言う。

「ちょっと!?かあさん!」

天峰があわてる。

「兄貴そうなのか?身の危険を感じるぜ……」

妹が体を震わせる。

(違う!違うんだ!俺は妹より年下の部分に惹かれたんだ!)

「あ、そうだ、あのこ家庭が複雑なんだ、そこん所考えてやってくれ、苗字は前のしばらく使うってよ!お~い!お前の兄貴が帰ってきたぞ!挨拶しろ!」

母親が二階に向けて声を上げる。

暫くして足音が聞こえてくる。

「は、はい!坂宮 夕日で……す?」

そこには天峰のよく知っている子がいた。

 

これはいろんな意味でギリギリな二人の物語。




はー!何とか書き終わりました!
あー!疲れた!ついに!ついに!書き終わりました!
応援してくれた皆さんには感謝しきれません!
けど夕日ちゃんと天峰君の話はまだまだ終わりませんよ!
詳しくは活動報告にて!


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Coal Tiara~ヒモって憧れるけど心は死にそう~
この気持ちは何処へ向かうのか!


第2部スタート!心機一転!がんばってやっていきます!


「ヌゥワハハハハ!我が偉大なる志余束(しよつか)高校の諸君!ゴールデンウィークは十分に楽しんだかな?早速だが連休明けの朝礼を始める!」

鳥のエンブレムの胸にある赤いランプが発光しながら、声を響かせる。

生徒たちが起立して、校長の話を聞いている。

(あー朝礼スゲーだりー……ふぅあ……)

その中で!あくびを噛み殺しながら朝礼を聴く生徒!彼こそがこの物語の主人公!

幻原 天峰(げんのばら たかみね)である!

(早く終わんないかなー……ふぅあ……)

二度目のあくびを噛み殺す!彼がこんなにも眠いのは訳が有る!

それは昨日の夜!

 

「トレーディア宝石商は本日イベントの準備として……」

夕食前の気怠い雰囲気、天峰と夕日は居間でテレビを見ていた、特に見たい番組が有るわけでもなく、二人の沈黙が重く感じた天峰が気晴らしに付けた物である。

部屋には三人夕日と天峰のほかに、天峰の妹(名前募集中)!が漫画を読んでいる。

「天峰……」

オズオズといった感じで夕日が声をかける。

「なに?夕日ちゃん?」

なるべく穏やかに答える天峰しかし……

(ああ、なんか気まずい……理由は言えないけどとにかく気まずい)

あんなに別れを演出したのに!まさかの速攻再開!そして一度は恋仲になった子が突然妹に!この気持ちは何処へ向かうのか!

「私……うまくやれるかな?」

不安そうな夕日の表情、彼女の過去からしたら仕方ない心配なのかもしれない。

「夕日ちゃん、うまくやろうって考えちゃダメだよ、家族ってのはそういうものじゃないんだ、それに……」

天峰が夕日に語りかけている途中で……

「よっしゃー!夕日がウチに来た祝いだ!派手にはしゃぐぞー!」

ドアから突然天峰の母が入ってくるなり騒ぎ出した!

「やりー!夕飯はステーキがいいぜー!ふぅほぉう!」

それに同調し勝手に盛り上がる天峰の妹(名前募集中)!

さらに父親まで騒ぎに参加!平穏その物だった居間は一瞬にしてカオスな空間となった!

「……何がしたいの?」

突然始まった謎の儀式?に今日からその家に住む事となった坂宮 夕日(さかみや ゆうか)が戸惑いを見せる。

夕日は複雑な理由があり最近まで病院にいたのだが、天峰の家族が引き取る事となりこの家に居るのだ。

「あー、たぶん夕日ちゃんの歓迎会の積りだと思う……」

天峰が固まった夕日に説明する。

「……歓迎?……会?……私の?」

思いも依らない言葉に夕日が目を丸くする。

「ん~なんだ?夕日?自分が来たばっかりだからって遠慮してるのか?気にすんなって!お前も今日からここの子供だろ?オレの事はアネキって呼んでくれよな!」

固まった夕日を天峰の妹(名前募集中)が背中を叩く。

「お~我が娘ながら良い事を言うではないか!夕日、その通りだ。お前は今日からこの家の家族だ!だから遠慮なんてするんじゃないぞ?」

天峰の母親も夕日の頭に手を乗せる。

「……うん」

小さくとだが、はっきりと夕日が頷いた。

「よし!まずは夕飯だな!豪勢にいくか!何食いたい!?」

天峰の母親が音頭を取る。

「ステーキ一択!」

「偶にはお寿司かな?」

「あ!俺中華がいいな!夕日ちゃんは?」

「……お肉」(なんだか楽しい……)

その日から夕日の笑顔の絶えない暮らしが始まった。

 

「はーい、みなさん乗りました?行きますよ?」

柔和な笑みを浮かべて、天峰の父親が車を発進させる。

「よっしゃー!ステーキだぜ!」

「終わったらカラオケな!?」

その日深夜の2時までカラオケ大会が続いたという…………

 

 

「よ!天峰!いつまでボケっとしてんだ?」

背の小さ目な男が天峰に話しかけてくる、この男は野原 八家(のはら ひろや)名前に8の字が付いている事からなんとなく予測できるが実は8男坊!

しかし!彼の説明に対してその情報はふさわしくない!

彼を現す単語は一つ!

「エロ」である!彼は古今東西ありとあらゆるエロ本を集めている!そのため彼には数々の異名が有る、曰く「エロの先駆者(コマンダーエロス)」「10万5000冊のエロ本(インデックス)」「乳の探究者(パイオニア)」

いずれも輝かしい栄光の呼び名の数々!

そんな男が天峰の友人である。

「あーそうだ、天峰お前部活どうした?」

志余束高校では特殊な理由が無い場合を除き、部活への入部が義務付けられている、基本的な部活をはじめ様々な部活があり学校生活に彩りをくわえている。

「あー、帰宅部って言いたいけどあそこ朝練とか厳しそうだしな……去年インターハイベスト8だったし……」

なぜか朝練やインターハイが有る帰宅部!

「とりあえず、総合ボール球技部にしといた」

天峰が自身の記憶を探る。

「ん?そんな部活有ったっけ?」

八家が疑問に思う。

「ん?二階の掲示板に部員募集って有ったぞ?スポーツ嫌いじゃないからな、とにかく放課後一旦顔出してみるよ」

「そうか、まあ頑張ってな」

八家が一応の応援を送る。

八家も同じくスポーツは嫌いではないが、体育の時間に急に活気付くスポーツ部員とその部員が出来ない奴を馬鹿にするのが嫌いなのだ!

因みに作者も同じタイプ!

「そういえばヤケは何部なんだ?」

天峰が今度は八家に質問する。

「ああ、点描画部さ」

「なんか……地味な部だな」

「そうか?ゆっくりちまちま作られていくのが好きなんだよ!お前も今度やってみ?」

思いもよらぬ八家の趣味!

 

そして放課後

 

「えーと……第2理科準備室っと……此処だな」

天峰は自分の部活の部室の前にいた。

「今更だけど……なんでスポーツタイプの部活の部室が理科室なんだ?」

疑問に思いながらも開けてみる。

 

パチッ!カコ!

「くっ!……読まれていたか……」

「消える魔球も、振らなければボール」

そこには野球盤をプレイする二人組の男がいた。

「あれ?間違えたかな?」

天峰が自身の持って来たメモを確認する。

「おお!よく来たな!新入部員か!」

野球盤をやっていた一人が立ち上がり、天峰の持っている紙を覗き込む。

「おお!それだそれだ!やはり新入部員だったか!ようこそ!我が総合ボーノレ王求技部へ!」

勢いよく天峰の手を握り握手する。

(総合ボーノレ王求技部!?なんだそれ!?)

聴いたことのない部活名に天峰は頭を抱えた。

 




UAが2000を超えました!最近、驚きばかりです。
これもみなさんの応援のお陰です。
これからも宜しくお願いします。
活動報告にて再び企画進行中です、興味が有ればそちらもお願いします。


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いや、もう終わりだけど?

本編再開!
最近暑さでやられかけてる作者です。
スーパーの「しおらーめん」が「しおらめぇ」に見えた……
もうだめかもしれない……


ボーノレの歴史は人の歴史!

人々の生活の影には常にボーノレあり!

今回は歴史の影で暗躍しその時々で歴史の節目となったボーノレについてご紹介しよう。

我々人間には社会というコミュニティが存在する。

そしてそのコミュニティには必ず上下関係が存在し、中でもそのトップは、「神」「王」「帝」などと呼ばれている。

一体いつから「王」たちは存在したのだろうか?

そして王になるための条件は?

権力者たちは自分がその様な存在になるため、日々修練を積んでいる。

最初はひっそりと伝えられていたが、それは時代を経てより多様に、より派手に進化した!

そしてそれは最終的に一つの競技となった、「王」決めるその競技の名はいつしかボーノレ王求技と呼ばれた。

自らを「王」と呼ぶものよ!

その力を世界に見せるのだ!

立ち上がれ!まだ見ぬ「王」よ!

 

EDテーマ

めざせ!ボーノレマスター

*長々と説明してきましたがボーノレは実在しない競技です、小学生の皆さんは夏休みの自由研究にしないように!大学でサークルに思いをはせている人は「ボーノレ」サークルを探すのはやめましょう。

最後になりましたが作者とボーノレで勝負したい人は……かかってこい!

 

「……というのが我がボーノレ王求技部の説明になるのだが、理解できたか?」

第2理科準備室で放送されていたビデオが停止する。

(どうしよう……まったく理解できないアンドしてはいけない世界だ……)

静かにビデオを見ていた男、天峰があまりの訳解らなさに冷や汗を流す。

「いやーしかし何度見ても最後の部分は泣けるなー」

初めに部室にいた二人のうち体系が良い方の男が涙を流す。

「感動だ……」

もう一人の優男風の男も目じりに輝く物が有った。

(ええー泣く所あったの!?)

二人のリアクションに天峰が驚く!

「あ、あの、先輩で良いんですよね?」

天峰がおずおずと涙を流す二人に尋ねる。

「ああ、自己紹介がまだだったな、俺がボーノレ王求技部主将!山重 万里(やましげ ばんり)だ!よろしくな?」

体型の良い方の男が天峰に手を差し出す。

「僕は森林 新芽(もりばやし あらた)よろしく」

こちらもにこやかな笑顔で握手を求める。

(この人ヤバイこの人ヤバイこの人ヤバイ……)

テンパった天峰は……

「あ、あざっす!」

とりあえずお辞儀をした。

お辞儀をしたのだ!

 

「変わった奴だな?」

「まあ、いいんじゃない?」

先輩二人組はにこやかに応答する。

「せっかくだし、ちょっと練習するか?初心者だしな……」

山重は自分のバックを漁りだし。

「これならできるだろう?」

オセロ版を取り出した!

「先輩?これオセロじゃ……」

「違う!これはボーノレ競技No169!ブラックアンドホワイトだ!」

いきなり大きな声で否定する。

「あー君ぃ?ダメだよ?ボーノレを他の競技と間違えたら?コレに命かけてる人いるからね?」

森林も優しく注意する。

(あかん、訳解らん……)

あまりの衝撃の連続に自分の口調を見失う天峰!

「まあいい、とにかくやってみよう」

山重がオセr……じゃなくボーノレNo169!ブラックアンドホワイトの準備をする。

これはボードゲームで、互いに白と黒のチームに分かれ、挟んだら相手の色をひっくり返し最終的にどちらが多くの色を持っているかという勝負になる。

オセロは禁句だ!

 

パチン!パタパタ……パチン!パタ

静かに部室の中でオセr……じゃなくボーノレNo169!ブラックアンドホワイトを進める二人。

最初は天峰の白が優勢だったが次第に押され始めた。

ボード版の戦局のように天峰の心はどんどん擦り減っていき……

(ああ、なんで俺はこんな不毛な遊びをしてるんだ?俺の青春コレ?違うだろ!もっと!もっと幼女を!幼女とスポーツしながらボディタッチ的なTOらぶる的な展開や、一緒に図書館とかで本好きな眼鏡幼女と恋愛小説読んだり{濡れ場の文字が読めなくて俺に読み聞いてくる展開希望!}したいじゃないか!)

遂に天峰の押さえていた部分が爆発した!

(こうしている間にも刻一刻と幼女は成長している!こんなところで俺のビックバンは止められない!俺はただ幼女と共に進むだけだ!)

天峰の頭の中で広がる謎理論!

「先輩!ここからが勝負です!」

天峰が勢いよくたち上がる。

「いや、もう終わりだけど?」

パチンパタパタパタ……

山重の一手で天峰の白はほぼなくなった!

決めた瞬間速攻終了!

「あ……」

天峰の何とも言えないつぶやきが部室に響いた。

 

「さてと、今日はここまでにしようか、幻原君一緒に食事でもどうかね?場所は駅前の中華の{雷獄軒}予定だけど?」

山重が天峰に言った。

「いえ、先輩すみませんがこの後知り合いと一緒に帰る約束なので……」

やんわり断る天峰。

しかし……

「そういわずに!何ならその人も一緒に呼んでいいから!全員分奢るから!」

なんだか情けない感じで尚も食い下がる。

(なんか断るの無理そうだな……)「解りました、一緒に帰る奴呼んできます」

天峰が教室を後にした。

 

此処で説明だが、私立志余束高校は小中高の一貫校、高等部には天峰 八家 卯月が中等部には夕日初等部には藍雨が在籍している。

「藍雨ちゃんごめん!遅くなったね」

肩で息をしながら天峰は校門付近で待ったいた藍雨に話しかける。

「大丈夫ですよ、さっきまで友達と話してましたから」

藍雨が笑顔を向ける。

(うおーこれだ!この笑顔こそ俺が明日を生きる希望!あーこの顔のためなら死んだった良い!)

天峰の不純な心!

「藍雨ちゃん、これから部活の先輩と一緒にご飯食べに行くんだけど、一緒に行かない?」

男三人!あまりに暑苦しいため天峰は自分のオアシス助けを求めた!

「先輩とごはんですか!行きたいです!」

ぱっと藍雨の顔が明るくなる。

「じゃ、行こうか?」

自然な感覚で藍雨の手を握る。

「……どこに行くの?」

振り向いた天峰の前には何時の間にか夕日が!

「おおぅ!びっくりした!夕日ちゃん何時からそこに?」

何気なく天峰が聴く。

「……学校終わってから……ずっと……」

楽しそうに言った。

「ずっと……ですか?」

優に2時間以上夕日は天峰の後ろにいたことになる。

「……私も一緒に行っていい?」

「うん、いいよーしかし夕日ちゃんどこ行くか知ってる?」

「……知ってる学園の裏の……誰も来ない茂みの中に……」

夕日が顔を赤く染める。

「いや!?行かないからね?」

天峰が突っ込む!

*この突っ込むが官能的にな意味に見えた人は暑さで頭がやられている可能性があります、病院に行きましょう。

「さ!坂宮先輩一緒に行きましょうか」

藍雨が夕日の手を取ってバス停に走り出す。

(なんか、女の子同士っていいな)

ほっこりする天峰!

「あ!そうだ!母さんに夕飯いらないこと連絡しないと!」

天峰が自身のケータイで自分の母親に連絡する。

「もしもし?こちら幻原探偵事務所ですが?」

「母さんうちはいつから探偵事務所になったんだ?」

天峰が半分呆れながら聴く。

「いや?ノリで言っただけだけど?そんな事よりどうした?ママの声が聴きたくなったのか?」

わらいながら言う。

「マザコンか!?違うよ。夕日ちゃんと一緒にご飯食べて来るから夕飯いらないってのと帰りが遅くなるって報告」

天峰は短く内容を伝え電話を切ろうとした。

「ふーん?ラブホか?我が息子にもついにこの日が来たか……」

感慨深そうに母親がつぶやく。

「違うから!そんな事しないからね!?」

天峰が全力で否定する。

「あー、いいよ。気にしないで、私が何と言おうと二時間後位にはきっと半裸の夕日がアンタに乗っかってるだろうから」

さらっととんでもない爆弾発言!

「違うって!とにかく夕飯いらないのと帰るの遅れるから!わかった?」

もう一度要件を話す。

「あーい!了解!いってらー!避妊は……」

天峰は通話を切った。

(はー母さんは何とかならないのかな?俺と夕日ちゃんがそんな事……)

ここで思い出すは数日前の事!

ベットに固定された自分!服を脱ぐ夕日!そして接近する夕日!

「あったわー!」

思い出して赤面する天峰!

何とも言えない気持ちを消すため、サイクロンシューター(自転車の名前)に乗り、がむしゃらに漕ぐ!




次の話でやっとこの部のヒロインが出せる予定です。
長かった……
あ!お気に入り登録が20人超えました!
本当にありがとうございます!


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こいつは邪道だ!

今回やっとヒロインの名前が出せました。
諸事情で次の更新は少しかかりそうです。
申し訳ありません。


「くっそ……見失った、先輩たち異様なスピードだぞ……」

天峰は愚痴りながら自転車(サイクロンシュータ―)をこいでいた。

夕日と藍雨をバスまで送った後、駐輪場で待ったいた先輩と合流した天峰はあっという間に二人に置いて行かれたのだ!

(ったくしょうがない!近道してみっかな!)

天峰はいつも使っている道を外れ、小道に自転車を向ける。

「お!いけるんじゃないか?コレ?」

あまり整備された居ない道のため非常にガタガタ揺れるが気にしない!

しかし!

「うおぅ!なんだコレ!」

角を曲がった先に有ったのは何と!

「リムジン!?」

天峰の目の前にはTVハリウッドや芸能人の大御所が乗る、およそ庶民には縁のない車が、鎮座していた。

下町の風景に似つかわしくない!

(なんでこんな所にリムジン?本物だよな?場違い感半端ねーな、傷一つ付けたらいくらかかるんだろ?)

壊すこと前提!

天峰がそのリムジンの隣を横切ろうとした時、リムジンのドアが開いた!

「あの~すいませーん、ここら辺のひとですかぁ?あ!ドア閉めなくちゃ!」

中からおっとりした口調の幼女が現れリムジンのドアを閉める。

その瞬間天峰に走る衝撃!

(あ、ああ!こ、この子は!)

天峰の視線が幼女の一部に釘付けになる!

(で、巨乳{でか}い!ぱっと見大体、年齢は中学生に入ったか入ってないか位!もし、もしもだ、この子が実際の見た目より大人び得て見えるタイプだったら、小学4,5年!こんな胸が有った良いのか!い、いや!落ち着け!幻原 天峰!前は誰だ!?ロリコンだろ!?胸はDやCよりもAやAA!成績と一緒だ!ロリ巨乳なんて認めていいのか!?そうだ、そうだよ!巨乳に目を奪われるなんてロリコンの風上にも置けないぜ!俺には夕日ちゃんや藍雨ちゃんのサイズがベスト!こいつは邪道だ!そうだろ?なんかの漫画で呼んだ事が有る、所詮胸なんて尻の代用品だと!そう!俺はあの悪魔の実(巨乳)になんか心奪われないぜ!)

天峰の心の中で行われる!壮大なバトル!

しかしそんな天峰を余所に巨乳幼女は言葉を続ける!

「ちょっと~お聞きしたいことが……あれぇ?まどか~何聴くんだっけ?」

くるっと後ろを振り返りリムジンの中に上半身を突っ込む。

(この子!おしりまで安産型か!)

再び天峰に衝撃が!

「おバカ!何三歩も歩いてないうちに忘れてるの!?アナタの頭はニワトリですの!?」

リムジンの中から鋭い声が聞こえた。

「えへへ~褒められちゃった」

怒鳴られた幼女がうれしそうに頭を掻く。

「ど・こ・を!!どうやったら今のを褒められたと思えるんですの!?」

再度中から怒鳴り声が聞こえる。

「もういいですわ!ワタシが直接聞きます!ドアを開けない!」

リムジンの中の人はかなりお怒りの様子だ。

「も~まどかったらドアも開けられないの~?オコチャマ~」

ケラケラと笑いながら幼女がリムジンのドアを開ける。

出てきたのは藍雨と同じくらいの背の金髪の幼女、気の強そうな深い青い瞳をしており、成長したらかなりの美人になるだろう。

二人の幼女が今!天峰の前に並び立つ!

胸部の格差!

(うんうん、やっぱり俺にはこのくらいがベストだな……)

天峰はしみじみと思う。

「はじめまして庶民?私のために道を教えなさい!光栄に思っていいわ!」

見た目にたがわず傲慢な口調で言い放つ!

(うーん、気の強い子は嫌いじゃないけどこの子は度が過ぎてるかな?)

天峰の冷静な判断!ちなみにここに天峰でなく八家がいたなら!

「教えてやってもいいが、その代わり……俺を踏んでもらおうか?」

と四つん這いになっていただろう!

「あ~まどかちゃんだっけ?人に物を頼むときはもうちょっと……」

天峰が言葉を話すが途中で……

「は~私がわざわざ出向いてアナタごと気に話しかけてあげたのにこの言い草、は~、なんで庶民ってバカしかいないのかしら?」

心底飽き飽きした様子でつぶやく。

「こら~まどか!バカって言った方がバカなんだぞ!」

もう一人の子が怒ったようにいう。

「ワタシ一回しか言ってませんけどアナタ2回言いましたよね?バカって?」

意に介さないといった感じで反論する。

「ええー!!じゃあ私の方がバカ!?」

おっとり幼女がショックを受ける。

「あら?また言いましたね?」

「あ!しまった……うわーん!どんどんバカになる!」

「あらあら、また言いましたよわ?」

無限ループ!

「さてと、庶民?ワタシ駅前の{雷獄軒}に行きたいのだけども、場所知ってます?」

(雷獄軒に行きたい?こんなお嬢様が何の用なんだ?まあ、いっか)

「知ってるよ?っていうか今から向かうとこだし」

「ホントですの!?」

まどかの表情がパッと明るくなる。

「ああ、自転車で向かうから付いて来てくれる?」

天峰が自身の自転車にまたがろうとする。

「ちょっと待ちなさい!まさかそのクズ鉄で行くつもりですの!?日が暮れますわ!」

再び一気に不機嫌になる。

「じゃあどうすんだよ?」

天峰が自転車から降りる。

「しょうがないですわね、ワタシの車に特別に乗せて差し上げますわ」

しぶしぶといった感じで提案する。

「わーい!仲間が増えた~!」

おっとりした子がぴょんぴょんはねて喜ぶ。

(おお!揺れる!禁断の果実が!)

二つの塊に目を奪われる天峰!

しょうがないじゃない?天峰だってオトコノコ!

「仲間じゃないですわ!ただの道案内ですの!!」

「テレッテレー!道案内さんが仲間になったー」

某ゲームの効果音を口ずさみながらその場でくるくる回る!

「俺の自転車は?どうするんだ?」

天峰が自分の自転車を指さす。

「そんなクズ鉄、誰も盗みませんわよ?」

つくづく酷いまどかの言葉!

「いや、でも帰れないじゃん?」

天峰の反論。

「ハイハイ、わかりましたわ、アナタとこの出涸らしを乗せた時点でゴミ二つにクズ鉄がオマケされたと考えましょうか?は~なんて心の広いワタシ!思わずうっとりしそう……」

本気でうっとりするまどか!

(なんなんだこの子?)

さすがの天峰も引き気味だ!

「へい!道案内さん!早く乗ってよ」

おっとりした子が天峰の手を引く。

(ああーこの子は良いな、なんか頭のネジがゆるいっぽいけど、おとなしくて良いな~卯月にも見習わせたいな)

「佐々木!クズ鉄をトランクに入れてあげなさい?私のリムジンに傷でも付けられたら、たまりませんから」

まどかが運転手に呼びかける。

「はい、かしこまりました、これで良いですかな?」

運転席から初老の男が出てきて天峰の自転車を丁寧な手つきでトランクにしまう。

「よっしゃ行くか!」

天峰は勢いよくリムジンに乗り込んだ。

 

 




一人分しか名前出せなかった……
なのでここで紹介!
禁断の果実の所有者の名前は木枯(こがれ)ちゃんです。
ヨロシクネ!


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デルタのためにプライドを捨てていいのか!?

どうもみなさん!帰ってまいりましたホワイト・ラムです。
帰ってきていきなりですが、UA3000突破しました。
たぶん夢じゃないと思う……
何はともあれ今回もアレやります!
詳しくは活動報告にて。


リムジン……その車は庶民の憧れ。

TVのスーパースター達が乗りまわし、庶民の我々にはまず乗る事、場合には見る事さえ叶わない高級車!

その高級車に!我らがロリコン 幻原 天峰が!乗り込む……

「おお!これがリムジンの中か!」

天峰がリムジンに乗り込むと同時に感嘆の声を漏らす、しかしそれも無理はない。

はじめて乗るリムジンの中はまさに「豪華」の一言!

埃一つない赤いじゅうたん、フカフカで巨大なソファー、小さくとも非常に細かいガラス細工のシャンデリアが幻想的な光を放ち、脇には小さな冷蔵庫も完備しされている、高そうなシャンパングラスも見える事からシャンパンなどが入っているのだろう。

「はあ、貧乏くさい上に面白味が一切ないセリフですわね」

ソファーに悠然と座りながらこちらに一瞥をよこしたまどかが言う。

「そうだよねーこんなの慣れたら、全然すごくないよ~」

先ほどの子が笑いながらソファーに寝転ぶ。

それを見てまどかがため息をこぼす。

「出涸らしにはこの素晴らしさが理解できないんですわね」

心底つまらなそうにまどかが言う。

「ぶー!私は出涸らしじゃ無いよー私は木枯(こがれ)だよ」

口をとがらせ話す。

「名前じゃありませんわ!アナタの存在自体が出涸らしという事ですわ!」

ビシッとまどかが木枯を指さす。

 

「慣れたらって、いや、だってさ……こんなの……」

豪華な雰囲気に気おされながらも天峰がソファーに座ろうとする。

しかし

「ちょっと!ナニ座ろうとしてるんですの!?アナタは床に座りなさいよ!!」

まどかが厳しく言う。

(ゆ、床ですか……なんかこの子スゲー性格悪いな……)

天峰はその剣呑な雰囲気にのまれオズオズと床に座り込んだ。

「そうそう、庶民のアナタにはそれがお似合いですわよ?うっかりソファーや窓を汚されたりしたらたまりませんもの」

そう言って足を組む、その瞬間!天峰に走る衝撃!

(あれ?今ここで俺土下座したら幸せになれるんじゃね?)

天峰がついに狂った!

という訳ではないから読者諸君は安心してほしい!

現在の状況を説明しよう!天峰の前には現在二人の幼女がいる!一人は金髪碧眼!もう一人はロリコンを魔道{巨乳}の道に引き込みかねない禁断の果実の所有者!

この二人はソファーに座り、逆に天峰は床に座っている!

勘のいい読者はもう気が付いているかもしれないが……非常にスカートの中が見えやすい位置に天峰は座っているのだ!

此処からなんらこの形で頭を下げれば……魅惑のデルタゾーンが現れる!その事に天峰は気が付いたのだ!

(どうする?何らかの形で土下座すればデルタが……しかしデルタのために土下座していいのか!?俺は幼女のデルタのためにプライドを捨てていいのか!?)

心の中で葛藤する天峰!他作品と比べても類を見ないくらい最低な葛藤!

そんな天峰の心に八家が話しかける。

 天峰……天峰……何をしている……戦え……戦え……自分の願いのために……最後の一人が……願いをかなえるのだ……

戦わなければ生き残れない!

(そうだ!俺は戦う!俺の願い{幼女のパンツ}のために!)

最低な決断!大丈夫かこの主人公!?

(くしゃみをして、窓を汚して土下座!このコンボだ!)

天峰が己の作戦をしようとわざとらしくくしゃみをしたふりをしようとすると……

「ちょっと!?出涸らし何をしていますの!?」

まどかが突然怒声を上げる、何事かと天峰が木枯の方を見る。

「んー?おやつタイム~」

木枯は何処から取り出したのか、ポテトチップ取り出しポリポリと食べている。

「ちょっと!?出涸らし!!やめなさい!」

辺り前だが食べるたびに、ポテチの破片が飛び高そうなソファーや床に落ちていく、さらには……

「あー駄菓子屋さんだー!」

木枯が窓の外に駄菓子屋を見つけて、窓に張り付く。

当然窓ガラスには両手の手形と顔の跡が付いている。

「いやー!アナタ!な、なんてことを!?汚れだらけじゃないですの!?」

当然のように木枯は全く気にした様子が無かった。

ガヤガヤと二人が話すうちに、リムジンは天峰の道案内により雷獄軒に到着した。

 

「やっと着きましたわ!……にしてもずいぶんみすぼらしい店ですのね」

リムジンから降りるなりまどかが雷獄軒を一瞥する。

「あー!思いでした!ここだここだ!」

その次に降りてきた木枯が話す。

「ありがとうございました」

天峰は運転手の佐々木さんにお礼とあいさつをした。

「どうぞごゆっくり」

にこやかに笑うと佐々木さんは静かにリムジンを発車させた。

天峰が振り返ると二人が店に入らずに立っていた。

「何してるの?入らないの?」

天峰が二人に後ろから話しかける。

「も、もちろん入りますわよ!ちょ、ちょっと緊張しているだけですわ!すぐに入って見せますわ!」

しかし一歩も前に踏み出す様子はない。

「じゃー私先に入っていい?」

木枯が店に入ろうとした時、まどかが木枯を抑える。

「出涸らしが私より先に、なんて認められませんわ!」

二人でずっとこの問答を続けてらしい。

「俺、腹減ってるから入るぞ?」

天峰が空気を読まずに店の扉を開けて、店内に入る。

「ちょっと!私の前を歩くんじゃないですわ!」

どこかの走屋みたいな事を言いながらまどかが天峰に続く。

 

「おー幻原!やっと来たか!待ってたぞ!」

山重が笑いながら出迎える。

「天峰先輩!待ってましたよ!」

「天峰……何かあったか……って心配した……」

藍雨と夕日もすでについていたようだ。

「スミマセン!遅れました、藍雨ちゃん夕日ちゃんおまたせ」

全員に挨拶して椅子に座ろうとする(もちろん夕日と藍雨の隣)。

「やっと見つけましたわ!」

天峰の後ろからうれしそうな明るい声が聞こえた。

(え?誰だ今の声?)

天峰が後ろを振り返ると……

「ああ!ずっと会いたかったですわ!」

まどかが走りながら山重に抱き着いた!

「もう離しませんわ!」

まどかが愛おしそうに山重のシャツに自分の顔を何度もこすり付ける。

全く自体が読めない天峰!

「えっと?山重先輩の知り合いですか?」

やっとの思いで天峰が山重に質問する。

「うーん?知らない……あ!まどかか!おお!こんなに大きくなって!」

山重がまどかを抱き締め返した。

「万里、どうやらみんな理解して無いっぽいよ?説明よろ」

森林が山重に説明を促す。

「おっとそうだな!まどか!説明してやれ!」

山重の言葉にまどかはさっきまでのツンツンしていた態度が嘘のように笑顔で答えた。

「はい!わかりましたわ!庶民の皆様良くお聞きなさい!ワタシの名前は円(まどか)・ディオール・トレーディア!!イギリス屈指の宝石商の娘にして偉大なる万里お兄様の婚約者ですわ!」

まどかは高らかに自分の名前を話す。

「「「婚約者!?」」」

日常では滅多に聞かないセリフに天峰、藍雨さらには夕日まで声を荒げる。

 




茶番劇!
ベアード「く……此処までか」
???「ずいぶん逃げたみたいだな?そんなにいやか?」
ベアード「当たり前だ!わしにもプライドが有る!」
???「ほう?ベア子がどうなってもいいのか?」
ベアード「くっ!この外道め!」
???「良いね!最高の褒め言葉だ!さぁ、言う事が有るんだろ?ほら、ベア子のためにもここは一気にさ?」
ベアード「く…くう!皆さんリミットラバーズ応援ありがとう!」ニコッ!
???「やればできるじゃないか?ゲ~ド!ゲドゲド!」


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残念ながら格下は相手にしませんの

熱い……最近暑さにやられかけている、作者です。
特別編はまだまだ募集中!皆さんのリクエストお待ちしています!
詳しくは活動報告にて!


「婚約者」一昔の恋愛作品で使い古された表現で実際耳にすることは現代では先ずない単語ある、しかしここで一人の幼女の口からその言葉が発せられた。

まどかの突然のセリフに雷獄軒の全員が凍りつく。

おそらく全員が持っているであろう疑問を天峰は山重に事の真相を聞いてみた。

「あのー山重先輩?まどかちゃんが言ってる事って……」

「もちろん!嘘だ!」

山重が良い笑顔できっぱりと言い切る。

それに対してまどかが露骨にショックを受けた顔をする。

「そんな……お兄様!ワタシに言ったことは嘘だったんですの!?ワタシは……お兄様のその言葉を心の支えにして生きてきたのに……!」

まどかが膝から崩れ落ちる。

「約束?そんなのした覚え無いな?」

山重が顎に手を当て首をひねる。

(うーん、どっちかが嘘をついてるのか?)

天峰は冷静に二人の言い分を分析する。

(しかし婚約者にお兄様呼びか……憧れるな!)

脱線する思考回路!さらに暴走!

(お嬢様的な子に{お兄様}って言われて抱き着かれたいな~、あえて舌足らずな感じで{おにいたま}も捨てがたい!これだとより幼い感じだな!そうだよな成長して{おにいたま}が{お兄様}になるんだよな!無邪気な子が成長して……{もう子供じゃないもん}とか言って抱き着かれたら!イカン!理性が崩壊寸前だ!うひひひひ!)

そこでハタと妄想世界に旅立った、天峰の精神が引き戻される。

「…………ハァ」

いつからか夕日がジッとこちらを見ていた、その瞳には「コイツまたかよ」という呆れが満ちていた。

「いや!夕日ちゃん!別になんか変な事考えていた訳じゃないよ?ホントだよ?」

天峰はあわてて夕日に取り繕う。

「……ふーん」

夕日はただ一言そういっただけだった。

 

「お兄様!ワタシ達一緒に言ったじゃありませんか!お兄様は山重重工を!私はトレーディア宝石商を世界一の会社にするって!一緒に誓ったじゃありませんの!」

まどかが山重に詰め寄る。

「ああ!あの時の約束か!思い出したぞ!ああ!小学生の頃の!ああ!あの約束か!」

山重が手を叩く。

「懐かしいな!そうだったよな!よし!久しぶりの再会だ!俺のおごりだ!たくさん食え!」

山重が笑いながら自分の注文していたチャーハンをまどかに差し出す。

差し出されたチャーハンを見て一瞬まどかの表情が曇る。

「いいえ、結構ですわ。ワタシ今お腹いっぱいですの」

「そうか、遠慮するなよ?今回はどれくらい日本に居るんだ?」

山重が豪快に笑いながら聴く。

「はい!ズーット日本に居るつもいですわ!」

まどかが今までにないくらいに笑顔を見せる。

「え!ホント!?ずっといられるの!?」

その言葉に木枯も喜んで飛び跳ねる!

(おお!笑うとかわいい!そして入れる禁断の果実!)

天峰は幼女の笑顔を見逃さない!ちなみに夕日も天峰の幼女に対する視線を見逃さない!

「……どこを見てるの……?」

いつの間にか後ろに来ていた夕日が天峰の袖をつかんでいた。

「ヒイィ!」

夕日のビームが出そうな眼力に天峰が慄く。

「い、いや別に?どこも見てないよ?」

天峰が夕日と目を合わせないように答える。

 

「おにーちゃん!そのチャーシュー頂戴!」

木枯が森林にチャーシューをタカっていた。

「欲しいの?あげないよ?」

何処までもにこやかに森林が木枯の希望を一蹴する。

「うえーん!お兄ちゃんのイジワル!」

木枯が大げさに泣きまねをする。

実はこの二人は兄妹!兄の新芽と妹の木枯!

諦めたのか木枯が天峰の方に寄ってくる。

「ねえねえ、道案内さん!なんか私に奢って~」

木枯が天峰の腕に抱き着く!

さーて!ここでクエスチョン!天峰の腕のには今何が乗っかってるでしょうか?

*答え

(ウホッ!ナニコレ!圧倒的存在感が腕に!腕に!後少し手を動かせば揉める!いやサイズ的に掴める!?)

「よ!よし!おじさんがおごってあげよう!」

天峰は速攻で頷いていた。

だって仕方無いじゃない?あらがえない力の一種だよね?

「やった~い!おじさん!高いの上から三つね!」

笑顔で悪魔のような注文方法!

その日遅くまで天峰達は食事を楽しんだが、まどかは結局水一滴飲まなかった。

 

「佐々木?そろそろ帰りますから迎えに来なさい?」

まだかが携帯電話で自分の運転手を呼ぶ。

「お兄様?私の自宅に遊びに来ませんこと?今なら明日の朝に学校までお連れしますわよ?」

まだかが山重を誘うが……

「いや!俺はいつものアパートに帰る!宿題と予習をしたいからな!」

上級生の鏡のような模範解答!で断った!

この男!意外と真面目!

まどかがとても残念そうに言った。

「そうですの……ではせめて携帯電話の番号とアドレスを教えてくれませんか?」

自分のポケットから携帯電話を取り出す。

「おう!それならいくらでもいいぞ!」

山重は自分の形態を取り出しまどかに渡した。

「ねえねえ、まどかの新しいウチ私も行きたい!連れてって!連れてって!」

それまでぼーっとしていた木枯が反応した。

「しょ、しょうがないですわね!今回だけ連れてってあげますわ!」

まどかがうれしそうに言った。

「うん!じゃ!おにーちゃんまどかん家泊まるから、おかーさんによろしく~」

木枯が心底うれしそうに言う。

(この笑顔のためなら俺は死ねる!)

天峰がニヤ付く。

「ではお兄様とその他の皆様ごきげんよう!」

まどかは店の前の迎えに来たリムジンに乗り込んだ。

「ごきげんよう~」

まどかに続いて木枯がリムジンに乗り込んだ。

静かなエンジン音を響かせ、リムジンは夜の闇に消えて行った。

 

「さて!俺達も帰るか!」

山重のその一言で本日の食事は終了となった。

「いやー嵐の様な子だったなー」

天峰は先ほどの二人の事を思い出す。

(偶には振りまわされるのも悪くないな……)

天峰はしみじみと思った。

「あれ?俺の自転車……あー!思い出した!リムジンに乗せっぱなしだ!」

天峰は膝から崩れ落ちた!

「山重先輩!さっきまどかちゃんのアドレス教えてもらってましたよね!?」

天峰は望みをかけ山重に言い寄る!

「お!確かにさっき教えてもらったな!ほら!忘れ物したんだろ?」

気前よく自分の携帯を天峰に貸し与えた。

天峰はナンバーをプッシュし、電話する。

「ハイ!もしもし!ワタシに御用かしら?」

すぐに相手は応答しうれしそうな、まどかの声が聞こえる。

「あー俺、幻原 天峰だけど」

天峰が話す。

「どなた?幻原なんて知りませんわよ?」

露骨にがっかりした声が聞こえる。

(俺の名前覚えてなかったのかよ……)

「さっきの道案内だ!」

天峰がわずかに語気を荒げる。

「んん?ああ!あの時の貧乏くさい庶民の!どうしましたの?ワタシのあまりの美貌に惚れまして?ワタシ残念ながら格下は相手にしませんの。ごめんなさい?」

あまりに酷い言葉に天峰は一瞬言葉を失う!

「いや、リムジンの中に自転車を……」

「自転車?あのゴミがどうかしまして?」

(この子周りに喧嘩売って回ってるのか?)

「忘れて行ったから、戻ってきてほしいなーって思って」

天峰は自分の怒りを抑えながら優しい声で話す。

「はあ?アナタが忘れて行ったんでしょ?アナタが取に来なさい!」

当たり前といった口調で言い放つ。

ブチッ!

「それは俺の自転車だ!」

遂に天峰が切れた!

「はー、怒鳴れば思い通りになると思ってる人って馬鹿ね」

その一言と共に電話は切られた。

(なんだまどかちゃん?まさかさっきまで先輩の前だから本性隠してたのか?全然隠れてない!人をイラつかせるプロだな!)

天峰が珍しい事に幼女に対して怒りを持つ。

「天峰先輩?どうしたんですか!?」

「……とりあえず……落ち着いて……深呼吸」

藍雨と夕日が天峰を心配する。

(自転車はまた明日だとにかく帰ろう)

「ああごめん取り乱しちゃったみたいだね、今日は家まで歩いて帰るよ」

天峰が歩道の方に歩いていく。

「あ!わかりました!さようなら!」

「おう!また明日な!」

先輩と藍雨が天峰を見送る。

 

(あーあ、あの時奢らなかったら……バスで夕日ちゃんと帰れたのに)

自分の少し前の行動を事を後悔しながら、暗くなった駅前を一人歩く天峰。

しかし……

「天峰!」

後ろから声を掛けられる。

「あれ?夕日ちゃん?」

そこにはバスで帰ったはずの夕日がいた。

走ってきたのか少し息が荒い。

「……一緒に……歩いて帰ろう?……」

夕日がそう持ちかけ、自分の左手を差しだした。

その一言に天峰は心が熱くなった!

「うん!一緒に帰ろうか!」

その言葉と共に天峰は夕日の手を握る、

「……さっきの事……イロイロ聞きたいし……」

その一言で天峰の心は一気に重くなる。

手は握られ逃げれない、よくよく見ると夕日の右ポケットが膨らんでいるような……

自分の少し前の行動を事を後悔しながら、暗くなった駅前を二人歩く天峰。

尋問が始まる!

 




この前初めて日射病になりました!
いやー死ぬかとおもいましたよ!
皆さんもこまめな水分補給で自分を大切に!


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お前をそんな男に育てた覚えはないぞ!

本編再開!おまたせしました!
最近文字数が増えてる気がする……
減らした方良いですかね?


すっかり夜の帳が降りた駅前を天峰と夕日が二人で歩く。

お互いはぐれないように、寄り添って歩いている。

「夕日ちゃん今日の夕飯どうだった?」

二人の沈黙を破り、天峰が先に口を開く。

「ん?……おいしかった……また行きたい……」

夕日が天峰の質問に答える。

「そっかぁ、それは良かった!時間ができたらまたいこうね?」

天峰が夕日の言葉に安堵し、次の約束を取り付ける。

「天峰……」

「どうしたの?夕日ちゃん?」

夕日が急に力なく話しかけた。さっきとは明らかに様子が違う、具合でも悪いのかと夕日を心配する天峰。

「私……今幸せ……あったかいごはん食べれて……家族と仲良く出来て……すごく幸せ……」

夕日がそっとつぶやく。

夕日は少し複雑な家族関係を持っている、今日のように家族や友人とどこかに食事に出かけ談笑し過ごすといった事は少し前まで夕日にとって考えられないことだった、そのため夕日はこのような日常に多大な幸福感と少しの動揺を感じるのだ。

天峰はその事を読み取り、夕日の頭を撫でた。

「まだまだだよ夕日ちゃん、もっともっと夕日ちゃんは幸せになれるんだよ?今までつらかった分ももっともっと幸せになるんだ」

天峰がにっこりとほほ笑む。

「うん……うれしい……」

夕日が天峰の腕に抱き着いた。

「おおっと!」

急に夕日がくっ付いてきたので天峰はバランスを崩しそうになる。

「あったかい……手つないでいい?」

夕日がそう提案する。

「もちろんさ」

その言葉に理性が飛びそうになる天峰!

ギリギリで踏みとどまり!

自身の手を差し出す天峰

二人で手をつなぎながら歩く。

「……なんだか……安心する……切って持ち帰っていい……?」

思いも依らない夕日の言葉に天峰がギョッとする。

「夕日ちゃん!?それはやめて!夕日ちゃん偶に思いも依らないこと言うから俺すごいびっくりする!」

「うん……たぶん死後硬直して……固くなりそうだから……やめておくね……」

夕日がクスクスと笑う。

(ああ、何だろ?危ない事言ってるのはわかってるんだけど……すごいかわいい!あと今更だけど俺夕日ちゃんと手をつないでるぞ!これでテンション上がらない奴はいないよな!ああ!俺夕日ちゃんになら殺されてもいい!……今のフラグじゃないよな?何を言ってるんだ俺は!本当にいつか殺されるぞ!だがそれでもいい!と思ってしまう自分が居る!)

天峰はアンビバレンツな妄想を何とか振り切った!

「さてと、あんまり遅くなるといけないよね?ちょっといそごっか?」

「やだ……二人だけだから……もう少し一緒に居たい……」

その言葉に天峰はなにも言わずに頷いた。

その後二人はゆっくりと歩いて自分達の家に帰った。

会話は少なくともそこには言葉で伝わらない何かが有った。

 

「二人ともおかえり!」

家に入ると同時に母親に話しかけられた、ずっと待ってたようだ。

「ただいま母さん」

「……ただいま」

二人とも挨拶を交わす。

(どうしたんだろ母さん、玄関で待ってるなんて珍しいな?)

天峰が不振に思う。

「ところで夕日、初体験どうだった?明日の夕飯は赤飯だからな!」

ニッと笑い親指を立てる。

「ちょっと!?母さん!?何言ってるの!?」

それを聞き天峰が噴き出す、牛乳飲んでたら間違いなく大参事!

天峰の事は無視して母親は言葉を続ける。

「夕日が女になったお祝いをしようかなって思ってな!」

突き進む母!

「母さん!夕日ちゃんとは何もなかったって!」

止める息子!

「バッカヤロー!!天峰!おまえ!たとえ相手が自分の義妹だろうと自分のヤった事には責任持ちやがれ!!私はお前をそんな男に育てた覚えはないぞ!」

止まらない母!息子は無力!

「ああ!もう!誤解だって!夕日ちゃんからもなんか言ってよ!」

天峰は夕日に助けを求めた!

しかし!

「天峰に……幸せにしてもらった……」

夕日が頬を染める!

さらに加速する天峰のアウェイ!

(夕日ちゃーん!なんで今そんな誤解を招くような発言したの!?)

「な、なにぃ!兄貴夕日に手を出したのか!嫌がる夕日を無理やり押し倒して、無垢な体を自らの醜い欲望の結晶を叩きつけたのか!?」

さらに実妹!天音まで登場!さらっと事態を悪くする!

確実に狭まる天峰包囲網!

「みんな一回落ち着こうぜ?二人でごはん食べてきただけだからね?」

天峰が諭すように全員に言う。

「はー、なんで男ってのは自分のしたことを認めようとしないんだ?甲斐なくても産ませるだけは出来るんだよな~」

母親がいつの間にか煙草に火を付けている。

「だから違うからね?」

天峰が必死に弁明する。

そしてついに夕日が

「うん……ごはん食べてきただけ……」

真実を述べた。

「「なーんだ、つまんねーの」」

母親とその娘はつまらなそうに言って去って行った。

(もうやだこの家……)

天峰は一人そう思った。

 

 

翌日の放課後……

天峰は体操服に着替えてグランドに向かうように山重に言われた、今日のボーノレはグラウンドでやるらしい。

(あー、正直言うとすごい帰りたい……)

心の中でぼやきながら第二理科準備室で着替えをする。

え?更衣室は無いのかって?ここがそうだよ?

「お!天峰!今日はクラタナシュをやるぞ!」

天峰が着替えていると山重が入ってきた。

(あー、幼女成分が足りない!俺の青春には幼女が必要なんだ!)

むさくるしい空間で一人無い物ねだり!

幼女のないまま着替えを済ませ山重と二人で話ながらグラウンドに向かう。

「ん?なんだ?騒がしいな……」

「そうですね」

部活で放課後はいつもにぎわっているグラウンド!

しかしいつもと様子が違う!

天峰の天才的な第六感が有る者を発見した!

「山重先輩!アレ!」

天峰はグランドの中心に誰かいるのに気が付いた。

 

「そこの庶民!万里お兄様の部室を知らないかしら?」

「ねえねえ、知らない?」

高圧的な声とおっとりした声が聞こえる。

「まどか!何をしているんだ?」

まどかを発見した山重が、二人に駆け寄る。

「あ!お兄様!ワタシお兄様の勇士を見たくてはるばる駆けつけましたのよ」

まどかが笑いながら山重の胸に飛び込む。

(うーむ、ツンツンした子がデレるといいものだな……ツンデレが人気なのもうなずける……)

まどかの表情を見てニヤリとする天峰!

事案発生一歩前!

「というか、警備員は何してんだ?」

もちろん天峰の通う学校にも警備員はいる、部外者であるまどかと木枯が簡単に入って来れるハズは無いのだが……

「ん~とんね!まどかがばいしゅーしたって言ってた!」

木枯が天峰の疑問に笑いながら答えた。

「買収って……警備員それでいいのかよ……」

自身の学校の警備が不安になる天峰。

(テロリストが学校を占拠した時のイメトレは欠かさないでおこう……)

すごくどうでもいいことを決意した天峰!みんなもやったこと有るかな?

「はあ、来てしまった物はしょうがない!おとなしく見学してくれよ?」

結局は山重が折れた、この男まどかには意外と甘い!

「やりましたわ!ワタシの愛が通じましたのね!」

その場で大げさにリアクションするまどか。

「あ~まどかちゃん?悪いけど昨日持ってった俺の自転車返してくれないかな?」

タイミングを見計らって天峰が話しかける。

「あら、ごめんなさい?ワタシ忙しいので後にしてもらえます?正直邪魔ですわ」

昨日と同じく辛辣な言葉!

天峰はこの子がひと波乱起こすのではないかと嫌な予感がしていた。

 




茶番!
「ふはは!萌えろ萌えろ!もっと萌えるがいいさ!」
「おい小僧!派手にやるじゃねーか!」
「あ!ご、ごめんなさい!」
「かまう事ねェ!それよりもっとやろうじゃねーか」
「え、ええ!?」
「これから毎日ロリで萌やそうぜ?」
*別に更新速度は変わりません。


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変な動きしてるよ~なんかこわい!

今回はお知らせがあります!
先ずUA4000超えしました!
いつも通り短編書きますのでリクエストがある方は活動報告へGO!


「よし!今日は外でボーノレ部の活動だ!危険な競技だから注意しろよ!」

山重がグラウンドで準備を始める。

「天峰君、悪いけど一緒に運んでくれない?」

森林が運んできたのは平均台、どこにでもある普通の道具である。

「あ!はい!わかりました!」

森林が持っていない方の端を持ち、二人で平均台を運ぶ。

「よーし!準備できたみたいだな!今日はボーノレNO1822!ペインド舞ンを始める!」

山重が天峰のため説明を始める。

「ペインド舞ンは危険な競技だ!少しでもヤバくなったらすぐに言うんだぞ?」

 

 

「ねぇ~まどかぁ~お兄ちゃんたち何やってるのかなぁ?」

少し離れた場所で木枯がまどかに話しかける。

「うるさいですわ!出涸らし!今お兄様の雄姿を見ているんですのよ!?もっと静かになさい!!」

まどかはいつの間にか持ち込んでいた、テーブルとイスでくつろいでいる。

「でもさ~さっきからお話ししてばっかりだよ?」

木枯が三人の方を見るが準備体操すらしていない。

「これからきっと何かが起こるんですわ!だまってみていなさい!」

まどかが木枯にぴしゃりと言った。

しかし内心は不安感でいっぱいだ!

なぜなら!ボーノレ自体が非常に胡散臭い競技だからだ!

まどかも馬鹿ではない!事前に山重の好みのボーノレについて勉強していた!

だが!

調べてみてもイマイチ何がしたいのか全く分からない!

人によっては夢中になるらしいがまどかにとっては理解不能な世界!

その競技が!これだ!

 

「さて!まずは俺が手本を見せよう!」

山重が意気揚々と宣言した、そのまま平均台に近づく!

「範囲はこんな所か……」

真剣な表情で平均台の置いてある地面の一部に四角い枠を書きその中に入る。

そしてその枠の中で靴と靴下を脱ぎはだしになる。

「森林!宣言を頼む!」

手を挙げ森林に合図を送る山重!

森林は手にストップウォッチを持っている。

「スタート!」

森林の声を聴いた途端動き出す!

「ふんふんふ~ん!あぎぃ!」

歩くような体制を取った山重!しかし歩き出した瞬間!平均台に足の小指をぶつけた!

(うわぁ……痛そう!)

その様子を見てこちらまで痛くなる天峰!

山重がぶつけた足を上げる!両手を広げ全身でくねくねと踊りだした!

ボーノレNO1822!ペインド舞ンとは!

適当な場所に障害物を置き!

そこに事故に見せかけ自身の身体をぶつける!(足の小指がメジャー)

そしてその痛みを全身で表現する!

制限時間は一分!

ぶつける前から時間が測られ痛みが引き直立不動の体制になることでフィニッシュ!

わざとらしさを消し、よりリアルに!より周りの人間に痛みを感じさせることで高いポイントが得られる!

 

「ね、ねえまどか~変な動きしてるよ~なんかこわい!」

しかし!

他人から見ればどう見ても突然の奇行!

思わず木枯が怯える!

しかし!それも無理はない!自分の目の前で男が謎の怪しい動きをし!

それを他のメンバーがジッと観察している!

これだけでまともな集会でないことが容易に判断可能!

「ア、アナタ何言ってますの?アレはああいう踊りですわ!」

まどかが咄嗟に否定するがその頬は引きつっている!

(たぶん踊りじゃない……)

天峰は心の中でツッコんだ!

「ね、ねえ庶民?お兄様はなんて踊りをしていますの?」

ジッと見ていることがつらくなったまどかが天峰に話しかけた!

(え……いや、何かと言われましても……)

天峰も山重の奇行を何と言い表せば良いのかわからない!

さすがに答えにこまる天峰!

「アラ?ワタシを無視ですの?やってくれますわね?偉大なるワタシを無視するなんて庶民の癖に生意気ですわ!」

その態度がまどかのプライドに火を付けた!

 

 

「おい、あいつらまた変な部活やってるぜ?」

「え!?アレ部活なの?変人どもの集会じゃなくてか?」

「いや、部長が山重の事態で察しろよ?今年の入部人数1だってよ」

「なんだそれ?変人部決定だな!」

「「「「ワハハハハハハハハハ!!!」」」」

何人かの他の部活の人間がボーノレ部の活動を見て笑う。

わざと聞こえる音量の会話、その時点でこの部活に対する見方の低さがうかがえる。

山重と森林はジッと堪えている。

「キィィィイ!何よあの愚民ども!!一言言ってやらないと気がすみませんわ!」

まどかが山重と森林に反し激しく怒りをあらわにする!

椅子から立ち上がりボーノレをバカにした生徒たちに向かっていく。

「いい加減にしないか!」

その場に鋭い声が響いた!

 

その言葉にまどかが凍りつく。

「え、おに、お兄様?」

まどかの怒りは一瞬にして消失し怯える表情さえ見えた。

それに対し山重が一気に感情を露わにする!

「部活を見に来たというからそっとしておいたが!お前は雑談ばかり!しかも他者とトラブルを起こそうとは!何を考えてるんだ!部活に興味が無いのなら帰れ!」

今まで見た事のないような怒り!

山重を見たまどかはすっかり萎縮してしまった。

「そ、そんな……ワタシはちゃんとお兄様を見て……」

「それが間違いだと言っているんだ!俺個人ではない!部活自身をアイタァ!」

山重が自身の足を押さえ突然倒れる!

「あ……ああ、俺としたことが……」

山重はまどかをしかりつけるのに夢中で自身の足を平均台い激突させてしまったのだ!

競技ではなく完全に不意を突かれた平均台からの一撃でダウンしてしまったのだ!

(うわぁ痛そう……)

悶える山重を見下ろす天峰。

目の前には足を押さえて苦しむ男と、それを心配する幼女。

(なんだろう……すごく時間を無駄にしている気がする……そうだ、木枯ちゃんでも見よ)

菩薩の様な静かな心で天峰は木枯に視線を向けた。

「う~ん!ケーキおいしい!」

まどかの座っていた椅子に腰かけ、おそらくまどかが持って来たであろうチーズケーキを食べていた。

(うん。おいしそうにお菓子を食べる幼女は良いな~心が洗われる、なんか優しい気持ちになれる)

天峰は現実から逃げ出した!

 

ドン!

天峰に衝撃が走る!!

その場に居られなくなりまどかが走りだした様だ。

天峰にぶつかるも気にせず走り抜ける。

「あ!オイ待てよ!」

見過ごすことが出来ずに天峰はまどかの後を追った。

最初の反応が遅れたためなかなかまどかに追いつけない!

 

「待てって!」

リムジンに乗り込む瞬間についにまどかの腕を捕まえる天峰!

「離しなさい!訴えますわよ!!」

ヒステリックに言い放つまどか!

「はあ、はあ。まどかちょっと落ち着こうよ?」

まどかを追ってきたのかいつの間にか天峰の後ろにいた木枯が言う。

「ワタシは落ち着いてますわ!それより今日は用事がありますので先に帰らせていただきますわ!」

そう言って天峰の手を振りほどきリムジンに乗り込む。

「まどか~まってよ~私も……」

「用事があると言ったでしょ!?今日は一人で帰りますわ!佐々木!」

そう言ってリムジンは動き出した、その様子を木枯が呆然と見送る。

「あ……あーあ、まどか行っちゃった……私もかえろーっと……」

暫く呆然としていた木枯が、力なくそういって出口に向かって歩き出した。

 

 

「あ、幻原君?どうやら思った以上に重傷っぽいから先帰っていいよ?」

先輩たちのもとに帰って天峰は山重を介抱していた森林にそういわれた。

「解りました……」

天峰は部室で着替え、自転車が無いため徒歩で今日も帰る事にした。

バスでも帰れるのだが、考え事をしたくなったため今日は徒歩だ。

 




さて、ここからがこの第2部の転換点になります。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。


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誰か俺を殺してくれ!

デットヒート!バースト!
「さぁーて、どうなっても知らないぞぉ?」
今回は暴走気味です……



山重が負傷し、部活動は早めにお開きとなった。

「帰るか……」

トボトボと一人で歩いて帰る天峰。

(まどかちゃん大丈夫かな……山重先輩にすごく憧れが強かったからな……)

何処かつらそうな表情をしていたまどかを思い出し心配する。

「いやな天気だ……一雨来るかな?」

天峰の精神を現したような、曇天の空を眺めながら歩く。

「……み…!」

「雨といえば……藍雨ちゃん昨日誰と話したんだろ?」

昨日藍雨は校門で待っているとき、友達と話したと言っていたのを思い出す。

「ま……て!……峰!」

(まさか……男友達じゃないだろうな!?もうすぐ中学生になる男子はまさにケダモノ!何も知らない純真無垢な藍雨ちゃんにクラスメイトが集まって……R18な展開になるんじゃないか!?)

ずれ始めた天峰の思考!

「待……て!天峰……」

(イカン!このままでは藍雨ちゃんがケダモノ達の毒牙に!ゆ”る”さ”ん”!けど想像すると興奮しちゃう!ビクンビク……)

「天峰!」

「へ!?ぐぶぅ!?」

意識が現実世界に戻されると同時に鳩尾に衝撃が!

「や……やあ。夕日ちゃん……いま帰り?」

鳩尾を押さえながら天峰が目の前の夕日に話しかける。

「……私を無視しないで……」

夕日がしゃがんだ天峰を見下ろす。

と同時に蔑む視線!

「ごめんごめん。考え事しててね……」

無理やり笑顔を作る。

「天峰……何かあったの?」

夕日が心配そうに天峰の顔を覗き込む。

「いや、なんでもないよ、心配しないで」

夕日を心配させない為あえて笑顔を向ける。

「嘘……何か隠してる……」

「いや、隠してないって」

想像していたのはまどかのメンタルの心配と!

藍雨が襲われる妄想!

どちらも言える訳がない!

「ん……なら……実力行使……あー、あ~、あー」

突然発生練習を始める夕日!

天峰の頭の中に湧くはクエスチョンマーク!

「夕日ちゃん?いったい何して……」

不審に思う天峰!

その時夕日がほんの少し口角を上げる!

「お兄ちゃん、私の事どうする気なの?え!?うん、そうだよ……私実はお兄ちゃんの事が……す、好きなの……兄妹でこんなのって間違ってるけど、どうしても押さえられなくて……」

突然!

何時もの夕日からは聞く事が出来ないアニメキャラみたいな甘い声が響く!

しかも脈絡的には全く関係ない内容!

さらに混乱を極める天峰の精神!

「ちょ!?夕日ちゃんいったい何を……あ!ああああ!ちょ!?ちょっと夕日ちゃんやめて!そ、それ以上は!!」

天峰がとあることに気が付き夕日を必死に止める!

(なんで、なんで夕日ちゃんがそれを!)

天峰は先ほどの夕日の話したフレーズに覚えが有る!

(ま、間違いない!俺の部屋のエアコンの室外機の下に隠したエロラノベ!{ダンジョンで実の妹とナニをするのは間違っているだろうか}の一節だ!)

「ゆ、夕日ちゃん?いったいどこでそのフレーズを聞いたのかな?」

冷や汗だらだらで夕日に聴く。

この時点で先ほどの余裕のある笑顔はもうなかった!

そこにあるのはエロ本の隠し場所がばれた情けない男!

(神よ!どうか、どうか!バレてませんように!偶然本屋で読んだフレーズでありますように!)

神に祈る天峰!

神様もこんな願いには思わず苦笑い!

「天峰の……エアコンの室外機のした……」

死刑執行!

神は無慈悲にもロリコンを見殺した!

「おお……おおう、夕日ちゃんどうしてそれを知ってるの?」

探偵にトリックを見破られた犯人はこんな気分なのかもしれない……

崖に飛び降りるのは天峰だけだろうが!

「……ハイネと……お母さんが……『兄貴の性癖を知っておいた方がいいよな!ほらアイツが隠してる奴全般!』って……言って貸してくれた……」

衝撃の真実!

「うおおおおおお!誰か俺を殺してくれ!」

天峰は頭を抱え泣き出した!

「……本当にイチコロ……」

夕日が自身の力に驚く。

「夕日ちゃん……俺との約束だ……頼むからハイネと母さんのいう事は真に受けないでくれ……」

「……うん……解った」

暫く歩と少しずつ天峰の心の傷もふさがって行った。

「ねえ、夕日ちゃん」

「……なに?」

傷がふさがると新しい欲求が湧き出てくる!

(あの内容って、ある意味恥ずかし本を読ませるシチュエーションだよな!?ある意味男の夢の一つなんじゃやねーの?俺ある意味幸せなんじゃねーの?)

状況を理解し再構築!

不死鳥のように蘇る天峰!

汚すぎる不死鳥!

「天峰……顔が赤いし……呼吸が荒い……大丈夫?」

夕日が心配し顔を再び覗き込む。

「ああ、大丈夫さ夕日ちゃん、そんな事よりさっきの本の『おにいちゃん』の部分また行ってくれない?」

そう!天峰が気が付いたのはこの部分!

何時もは呼び捨ての夕日が天峰を『おにいちゃん』と呼んだのだ!

この言葉は!すべての妹萌え紳士の合言葉!

日夜こう呼ばれる事を夢見る紳士たちの夢!

それを捨てる事なんて出来ない!

「お兄ちゃん……天峰……妹萌え?」

キョトンとする夕日!

暴走する天峰!

「おぅふ!いいよ!そうだよ!夕日ちゃん!夕日ちゃんがかわいいから俺、妹萌えになっちゃったんだよ!はあはあ!」

もう止まらない天峰!

この作品の主人公にあるまじき醜態!

大丈夫か!?この作品!?

R18行待った無しか!?

「道の真ん中で何してるの!」

「おばぁ!」

天峰の後頭部に衝撃!

天峰が振り返る。

「……あ……卯月さん」

夕日が声をかけた。

「何すんだよ~」

天峰が相手に言う。

読者諸君はこの少女を覚えているだろうか?

彼女の名は卯月 茉莉(うづき まつり)!

天峰の幼馴染にしてクラスメイト!

男女両方から人気のでる顔に抜群のプロポーション!

性格もよく勉強も料理も得意!

まさに絵に描いたような完璧な美少女!

本来の作品ならメインヒロイン待った無しの卯月!

しかし!

この作品に限ってはそうでない!

この作品には年増は必要ないからだ!

「なんか今、すごい失礼な事言われた気がするわ……」

腕を組みそういった。

「な~んか知ってるシルエットの二人組が居るから来てみれば……天下の往来で良く堂々と変態行為できるわね?」

じろりと天峰を睨む。

「変態って……いくらなんでも言い過ぎだろ!?」

天峰が卯月に言葉に反抗する。

「正直私も……少し……引いた」

夕日が天峰を見ながらおずおずと手を上げる。

「夕日ちゃんまで!?(やばいな……ちよっとは自重しないとな……)」

「夕日ちゃん?天峰はあんなんだから何をするか解らないわ、だから嫌な事はイヤ出来ないことは出来ないってはっきりと言わなきゃだめよ?」

優しく卯月が夕日に語りかける。

(な!?卯月め!余計な事しやがって!夕日ちゃんに『おにいちゃん』って言ってもらえなくなったらどうするつもりだよ!?)

心の中で憤る天峰!

「うん……はっきり言う……お兄ちゃん私……〇〇〇までは良いけどさすがに☓☓☓☓は流石に辛い……けど◇◇◇◇して△△で☆☆☆なら大丈夫!」

夕日の口からとても表記出来ない言葉が飛び出した!

「ちょ、ちよっと天峰!?あんたまさか家出、幼気な夕日ちゃんにその☓☓……とかさせてるの!?」

すごい形相で天峰を睨みつける卯月!

(あれ?これ俺死んだんじゃね?)

天峰は死ぬならせめて夕日の『おにいちゃん』を胸に死にたいと思った。

 




夢っていうのはさ、呪いと一緒なんだ。
一度夢に破れた奴はずっと呪われたままなんだ……

夢ってさ、持つと時々すっごく辛くなるんだ。
けどさ、夢を持つと時々すっごく熱く成れるんだ。

お兄ちゃん萌えは男の夢だ!
お兄ちゃん萌えを俺が守ってやる!

何書いてるんだろ俺?


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理想の世界がここにある!

この作品をみて、後ろを振り返った時お前は……













萌える。


20XX年一人の男が逮捕された。

容疑は淫行、まだ13歳の少女に対し到底説明不可能な淫らな行為を働いたとして逮捕された。

裁判の場で彼は泣きながらも同意の上であったことを主張するも、その行為を良しとしない世間の風潮により彼はあっけなく終身刑となった。

この事件により世間の流れは大きく変わる。

「ロリコンは悪」それがスローガンとなりロリコンの撲滅が始まった。

諸君は信じられるだろうか?

男友達との猥談の席で「小さな女の子が好き」といった瞬間警察に通報され逮捕されるのだ、そしてまともに裁判自体行われず終身刑が決定する。

その様は中世に流行った魔女裁判を連想させ、一部ではロリコン裁判と呼ばれた。

この世界では小さな女の子はまさに触れてはいけないアンタッチャブルな存在と化したのだ!

しかしある日地下で潜伏していたロリコンたちが一斉に蜂起した!

声高らかに幼女との恋愛の自由を主張したのだ!

はじめは小さな波紋、しかしそれは次第に大きくなっていた。

そしてついに!

ロリコン裁判で初の無罪判決が現れた!

それは歴史が大きく動いた瞬間だった!

立て続けにロリコンたちが無罪になり、ロリと成人男性のカップルはTVにてセンセーショナルに報じられた!

そしてついに女性の結婚可能年齢が10歳に引き下げられた!

今まで身を隠していたロリコンたちは一斉に力を取り戻した。

当時ロシアの軍艦の船長にしてロリコンのロリスキー提督はこう語る。

「日本でその法律が認められたときは涙を流しました、ずっと作戦司令室で幼女と逢引していたんですがこれで太陽の下で彼女の肢体を見れるってね」

そして時は流れ……

当時13歳の少女に淫行して逮捕された少年が釈放された。

少年は公園で幼女と成人男性が指を絡ませながら歩く姿をみて涙したという。

「ずっと、望んでいた理想の世界がここにある!」

 

リミットラバース 完!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!?聞いてるの!?」

鋭い声で現実に戻される天峰!

「あれ?びっくりするほどユートピアは?」

自体が呑み込めない天峰!

「はぁい、つらーい現実にようこそ!」

迫る卯月の言葉!

「さてと、アンタが夕日ちゃんに逮捕待った無しのプレイをさせている事についてなんだけど……」

「誤解だ!夕日ちゃんが勝手に言った事だ!」

「知識としては知ってたわよね?」

痛いところを付かれる天峰。

「それは……天峰のベットの下とか……辞書のケースの中とかの……本に書いてあったから」

夕日の援護!

しかしそれは天峰のダメージにしかならない!

「お願い!夕日ちゃんやめて!それ以上はもう無理!」

泣きそうな天峰!

諸君も想像してほしい、女性二人から道端で自分の持つアブノーマル系のエロ本をネタに怒られるのを、少なくても作者は瞬間的に死にたくなる。

「……他にも……」

「やめてー!!!」

天峰が夕日の口を両手で押さえる!

見た目だけなら人さらいに見えるネ☆!

「さっきの本は俺のじゃないんだ!!ヤケがおいて行った奴なんだ!ごめん卯月!今日やる事有るから!」

そう叫ぶと天峰は夕日をそのまま連れて行く。

 

その後コンビニで買ったアイスで夕日を口止めして帰る二人。

「夕日ちゃん?外であんなこと言っちゃダメだよ?」

天峰は諭すように夕日に話す。

「……気まずいから?」

「……うん」

露骨に目をそらす天峰。

「……解った……もう言わない」

そう言って自身の家の扉を開ける。

「お!兄貴に夕日じゃねーか。2人一緒に下校か?何の話してたんだ?」

珍しく先に帰っていた天音が二人に声をかける。

「天峰と……天峰のエッチな本の……話」

悪夢再び!

「夕日ちゃん!?だからそういう話はしちゃダメだって!!」

「え?ここ……家だよ?」

きょとんとした顔で話す夕日。

「あ……あー、外でしちゃいけないって意味だと思ったのね」

度重なる精神への負荷で力尽きる天峰!真っ白に燃え尽きた!

しかし……

「あぁ!エロ本の話かよ!!アレだろ?兄貴の箪笥の下の引き出し外したところにしまってある奴だよな?ほら☓☓☓とかさせるヤツ!兄貴も意外と鬼畜だよな!」

死体に鞭打つ天音!

「ちょ!?なんでお前知ってんだよ!!」

「なんでって……隠された宝を探すのはトレジャーハンターの精神だろ?」

「おまえ、トレジャーハンターじゃねージャン!うわ~ん!僕もうお家帰る!」

天峰は幼児後退しながら自身の部屋に駆け込んでいった。

「は~兄貴は心が脆すぎるんだよな~」

ため息をつきながら天峰の部屋のドアを見る天音。

「そんな……事は無い……お兄ちゃんは……強い……」

夕日がそうフォローする。

「ふ~ん。ん?夕日お前!今兄貴の事{お兄ちゃん}って呼んだか?今まで呼び捨てだったのに!なんか兄貴と有ったな?言え!!」

「いやだ……秘密……」

「教えろよー!」

天峰の二人の妹の会話は続く。

 

結局天音の「お兄ちゃんって呼ぶとアイツ暴走するぞ?」の一言に対して。

「うん……心当たりが……ある」

とのことで夕日は天峰の居ない所でだけお兄ちゃんと呼ぶことにした。

 

翌朝

「また歩きか……いい加減いやになってきたな……」

3日めにもなるとさすがにげんなりする天峰。

そう言って通学路を歩く。

まどかのリムジンに自転車を忘れてから今日で三日目である。

時間をかけて登校する。

「はあ~」

「どうした天峰?元気がないぞ?」

八家がぐったりする天峰を心配する。

「ああ、ヤケ……いや、歩きで登校したんだけど、やっぱり疲れたわ……」

力なく返事する。

「歩きで登校?そういや昨日も歩いて帰ってたよな?二日連続か?」

「ああ、そうだ」

「それは辛い!自転車通学には夢が有るよな!!前から自転車漕いでくる女子の生足チラリズムとか、風にのって仄かに香る汗の香り!さらには猫背になった女子の下着のライン!!どれもたまんねーよな!!それが二日も無いなんて!なんてかわいそうなんだ!」

この男の脳内も天峰に負けない!

八家が本気で同情する!

「えっとヤケ?お前が俺の倍以上の距離を自転車で通ってるのって、まさかそれが理由か?」

若干引き気味な天峰!

「バカな事言うなよ、帰りにエロ本帰るメリットも忘れちゃいけないぜ?可愛そうなお前にはこれを貸してやろう、ほら」

八家がそういってカバンから取り出したのは人生における保健体育の教科書!

「週姦テラエロス最新号だ!今週はロリータ特集だぞぉ?」

そう言って幼い少女の掛かれた漫画雑誌を取り出す。

「ヤケ……ありがとな!」

自身を心配する親友に感謝しつつ固い握手をする二人!

友情!快楽!猥談!それが彼らの三本柱!

「朝から何してんのよ……」

いつの間にか卯月が立っていた。

「男同士の絆を確かめ合っていたんだ」

八家がきらりと歯を輝かせながら言う。

「エロ本が絆って……最低の絆ね……」

冷ややかな視線で二人を見る。

「そんな事よりどうした?卯月?俺らのクラスに来るなんて珍しいな?」

「辞書忘れちゃったのよ、天峰英和辞書無いかしら?」

「英和か~和英なら有るんだけど……そっちはあったかな?」

自身のロッカーを漁る天峰。

「俺ので良かったら貸しましょうか?」

八家が机から辞書を取り出す。

「なんか特定の単語に線引っ張ってありそう」

遠慮する卯月!

「ヤケの辞書は借りない方がいいぞ、全部中身エロ本だからな、お!あった」

ロッカーから辞書を取り出し卯月に渡す天峰。

「そんな事ないよ!?さすがにそれはない」

八家が弁明する。

「じゃあ、八家君の辞書みせて?」

卯月がそう話す。

「はいはーい」

カバンの中からは計5冊の辞書!

「なんでこんなに?」

「3冊はフェイク!中身はエロ本です!」

笑顔でサムズアップ!

「「やっぱりエロ本かーい!」」

この日人前で堂々とエロ本を出したり貸したりできる八家に少し尊敬を覚えた天峰だった。

 




一人一人、順番に順番に、この私のロリコン空間にばらまいてやる!


コンビニにアイスを買いに行って思いついたネタ。
ロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリコンでわりーか!
再起不能!


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ふふん!甘い甘い!!

もうすぐ9月ですね。
すっかり夏の暑さも消えていくのでしょう……
秋はなぜか物さみしく感じてしまう作者です。


愛するべき変態達との時間はあっという間に過ぎ!

そんなこんなで時は放課後。

天峰は今日も憂鬱な気持ちでボーノレに向かう。

心の中があまり晴れない理由は二つ。

一つは昨日のまどかの事、悲しそうに帰って行った彼女の事が気がかりなのだ。

(性格はちょっとキツイけど……やっぱりあれくらいの子には笑顔でいてほしいよな……)

天峰の素直な心情である。

(ツンツンしてる子が弱った所をつつかれて、コロッと態度が一変してデレてくれると最高だよな!)

もう一度言おう、天峰の素直な心情である。

そしてもう一つは……

(にしてもボーノレ部すっげーつまらねー)

そう!ボーノレ部が圧倒的つまらなさを誇るのだ!

(何度も言うけど俺の青春もっと使い時有るよな!?なんかこう、小さな子に頼られるシチュエーションとかさ!)

天峰の脳内では先輩呼びが今熱い!

そんなこんなで今日も!ロリコン妄そ……ではなく!自問自答を繰り返す!

 

そうしている間に部室の第二理科準備室に到着する。

部室には先に山重と森林が先に来ているようだった。

ガラッと扉を開け、部室にはいるといつもとは違う雰囲気。

昨日帰ったまどかが先に来ていたのだ。

「お兄様昨日はすいませんでした、今日は静かにしますのでまた見学させてください!」

プライドが高いまどかが頭を下げる。

「解った、今日は静かにするんだぞ?」

山重が依然厳しい目でまどかを見ながら言った。

「アナタも失礼な事してしまいすみませんわ、今日お時間有るかしら?ワタシの屋敷に自転車が有るのでお送りいたします、それから良ければ食事も家でとっていてください、せめてものお詫びですわ」

年不相応に丁寧な言葉で、同じく天峰にも話しかけた。

「ああ、解った。お邪魔させてもらうよ」

何とか天峰はそういったが、内心ではまどかの激変に戸惑っていた。

まるで昨日とは別人のように感じてしまうからだ。

「よし!今日は連絡事項が有るぞ!」

天峰の心配を余所に部活が開始される。

「来週の日曜日に、ボーノレの大会が有ることが分かった!運良く場所はこの街!我ら初めての参加になる!各々大会に向けて練習するように!」

大会。その言葉に天峰は驚いた。

「なんですって?先輩そんな事聞いてませんよ!いきなりなんて無茶です!」

まともな練習もしておらず大会など恥をかきに行くようなモノ、天峰はそう思っていた。

更に言うと全く競技というものが理解できていないのも心配なポイントだった。

「心配無用だよ、ボーノレの大会は基本的に開催一週間以内に場所が発表されるんだ、どのチームの万全ではないし、基本的に競技はチーム戦なんだ、僕たち二人が君の苦手なところをガードするから大丈夫さ」

新芽がそう言って天峰に話す。

要するに天峰の意見は聞き入れてもらえなかったのだ。

「そうと決まれば練習だ!今日から大会まで気を抜くなよ!」

「もちろん!」

あまりに真剣な二人の態度に若干引き気味の天峰、結局その日は夜遅くまで活動し、その間結局まどかは一言も話さなかった。

その様子が天峰にはどうしても気がかりだった。

 

「お疲れ様、ワタシの車に乗ってくださる?」

まどかが天峰を自身のリムジンまで案内する。

「さ、のってください」

まどかが自分で天峰のためにドアを開ける。

しかし!そこには意外な人物が!

「あれ?木枯ちゃん?」

天峰の前には、お菓子の食べカスを口につけて眠る木枯がいた。

しかし!天峰が注目したのそこではない!

(あ!スカートが!絶妙な位置にずれている!)

そう!

寝相が悪いのか木枯の制服のスカートがギリギリの部分までめくれてしまっている!

白い太ももがこんにちわ!

(おおぅ!やばいぞ!指でなぞりたい!お互い目をつぶって文字を指で書いて当てるゲームがしたい!)

「ん……うん……」

何時までの見守っていたい寝顔!しかしそんな望みも長くは続かない。

ゆっくり木枯が起きたのだ!

「あれぇ?道案内さん?」

ふわぁーっとかわいくあくびをする。

「出涸らし、なぜワタシの車で寝てるんですの?」

さっきまでのお嬢様モードとは一変!いつもの高飛車な物言いにまどかが戻る!

「うーん、ビデオ見てたら寝ちゃったみたい?」

シートの前にあるテレビ画面を指さす。

「はあぁ、まあいいですわ。アナタもウチに来なさい」

そう言ってまどか自体も車に乗り込む。

静かに車が発進する。

 

「ね~!まどか、しりとりしようよ!」

「気分じゃありませんの」

木枯の誘いを突っぱねるまどか、その視線は気だるげに窓の外を見ている。

「じゃ~道案内さん私とシよ?」

「俺と?まあいいけどさ」

天峰は何処となく空気が重いので木枯のゲームに乗った。

「まず私からね!しりとりの【り】!」

「じゃあ、りん【ご】」

「ゴー【ル】!」

「ん、ル【ビ】ー」

「ビー【ル】!」

「る?ルーレッ【ト】!」

「トンネ【ル】!」

実にいやらしい木枯の戦法!見事に【ル】で返してくる!

(フン、途中から読めていたさ、たまにいるんだよなこういうタイプ、しかし!逆転の一手が俺にはある!)

「ルー【ル】!」

天峰は声高く逆転の一手を放った!

「ふふん!甘い甘い!!こがれさまは負けないのだ~!ルミノー【ル】!」

ルミノールそれはドラマなどで有名な血液に反応する液体!

「え?え、えっ?る?るぅ?」

逆転の一手をあっさり返され一気に混乱する天峰。

「ふっふ~土下座して足をなめたら許してあげますわ~」

ローファーと靴下を脱ぎ、天峰の方に素足を差し出す木枯。

「ちょっと!?誰のマネですの?」

さっきまで外を見ていたまどかが、木枯に聴く。

「え?まどかだよ?似てなかった?」

当たり前といった風に聞き返す。

「きぃぃぃぃ!!ワタシそんな事言いませんわ!」

まどかが怒る。

怒るのだが……

(うーん、まどかちゃんならやらせそうだよな……)

天峰の脳裏に、革製のスーツに身を包んだまどかがイメージされる。

(うん、良く似合ってる……)

 

「あは!やっとまどからしくなったね!いつまでも悩んでるなんてまどからしくないよ?」

ニコリとまどかに笑いかける木枯。

「あなた……フン!そんな事いくらでもわかってますわ!けど……今回だけは礼を言いますわ」

ツンケンしながらもどこかうれしそうなまどか。

え?天峰?いまだに妄想世界の中だけど?

暫くしてリムジンが巨大な屋敷の前で停車する。

「お嬢様、御屋敷に到着いたしました」

運転手の佐々木がドアを開ける。

「御苦労、佐々木」

すっかりまどかはいつもの調子に戻っていた。

「さあ!庶民!見なさい!!そして羨ましがりなさい!アナタが一生馬車馬のように働いても縁すらないワタシの屋敷に招待させてあげますわ!」

「こりゃすごい……」

天峰の前には文字通り屋敷!

テレビやドラマで見るようなまさに城と言っても差し支えない豪邸!

噴水に、鉄柵の付いた門、見上げるような屋敷!すべてが天峰にとっての非日常!

その中に平然と立っているまどか!

この時天峰は初めて!

(ああ、この子は俺と住む世界が違うんだ……)

生まれの差を思い知ったのだ!

「さぁて、何時までも馬鹿みたいに口を開けてるんじゃありませんわ、今回はアナタに鉄くずを返すのと同時に食事にも招いてあげますわ、さ!早く屋敷の中に入りなさい?」

 

まどかの合図で扉が開いていく、未知の世界の扉……

天峰は期待に胸を膨らませた。

 



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まだまだこれからだよ~

遂に書いてしまったか……
大丈夫かな?
非常に心配な作者です。


「おお……こいつは凄いな……」

まどかの屋敷に入ってから、もう何度も同じ言葉を繰り返している気がする。

天峰の目の前には非常に豪華な食事が並んでいた、豪華と言ってもステーキや伊勢海老などの庶民にとっての豪華ではない!

天峰が見た事も聞いた事もないような、ひたすらに豪華な食事!

流石の天峰も自分の場違い感を感じ取り、食事に手を付ける事を躊躇してしまう。

しかし……

「むぐむぐ……まどか~マヨネーズとって~」

いつもと同じく、非常におっとりした様子で木枯は食べ続ける。

(木枯ちゃんって肝が据わってるな……将来この子大物になるかも……一部もう大物だけど……)

ここに来ても煩悩を失わない!天峰もある意味木枯と同族!

「木枯様どうぞ、特製マヨネーズです」

運転手の佐々木(正確には仕事は兼用でこの館の責任者らしい)が現れマヨネーズを机の上に置く。

「お~!佐々木さんありがとー!」

木枯が料理にボドボドとマヨネーズをかける、かける!まだかける!

高級料理がマヨネーズの魔力によって一気にB級グルメチックな見た目に早変わり!

「ちょっと!?出涸らし!掛け過ぎじゃありませんの!?」

圧倒的なマヨネーズの存在感にまどかが怒声を飛ばす!

「だってぇ、おいしいんだもん」

最早黄色くなった料理を口に運ぶ!

「太っても知りませんわよ?」

まどかがチキンをナイフで切りながら口に運ぶ。

おそらく同じ料理だったのだろうが、全く違う料理に見える現実!

「ん~、太るのは嫌だな~けどもうちょっと胸にお肉は欲しいかも!わたしナイスバディになるんだ~」

コロコロと楽しそうに笑う木枯!そして逆に修羅の様な顔になるまどか!

コンプレックスクリティカル!

「あ、アナタはもう十分でしょ!?ワタシに少しくらい分けなさい!」

怒りの形相!

(んー、確かに平均より小さいか……イヤ、木枯ちゃんの方が大きすぎるんだ……)

二人の胸を見比べ、残酷な現実を直視してしまった天峰!優しい瞳でまどかの方を見る!主に胸を!

「まどかはまだまだこれからだよ~」

慰めるように木枯がまどかを励ます。

「ええ、そうですわ!ワタシが出涸らしなんかに負けるはずありませんもの、ワタシだって、ワタシだって成長期が来ればすぐにの位!」

魔法の言葉!成長期!この言葉を唱えれば身長などの悩みが一気に吹き飛ぶ!……気がする、たぶん、おそらく、きっと……

(うーん、まどかちゃんにとって胸は禁句か……夕日ちゃんの前例が有るからな……気をつけよ……)

すっかり置いてきぼりの天峰!最早妄想世界に半分トリップ!

 

そして食事は進み……デザートのクリームブリュレ(意識高い)を食べ終わった天峰達。

「ふわ~もう食えない……」

豪華な料理でいっぱいになった腹を抱える。

「そう、満足いただけたかしら?もう少ししたら佐々木に家まで送らせますわ、これをお持ちになって」

そう言って一枚のカードを天峰に渡す。

「これは?メアド?」

「そう、ワタシのメールアドレスですわ。忙しい時は電話に出られませんけどメールなら気が付いた時に読めるでしょ?」

「あ、ああ。ありがと、もらっておくよ」

そう言ってカードをズボンのポケットに入れる。

(お?これって遂にまどかちゃんがデレたか?なんにせよアドレスゲットだぜ!)

「なにニヤニヤ気持ち悪く笑ってますの?」

「いや~連絡先くれるなんて、うれしいなーって思ったからさ」

素直な自分の気持ちを言ったのだが……

「アナタ、まさかロリコンですの?正直引きますわ……」

天峰から身を守るように距離を取る。

(しまった!遂にボロが出たか!!何とか取り繕わないと!)

「……い、いやだなー。そんな事有る訳ないじゃないかー、なんだかお嬢様のまどかちゃんと知り合いになれて、うれしいだけだよ?」

明後日の方を向いて誤魔化す天峰!

「……なら良いんですけど……」

いまだにこちらを怪しんだ目で見るまどか!視線が痛い!

「ど~したの?」

トイレに行っていた木枯が再び部屋に帰ってきた。

「今、この庶民にロリコン疑惑が浮上した所ですわ」

まどかが気にした様子もなく天峰を指さす!

「ん?ろりこんってなぁに?」

聴いたことのない単語だったのか、首をかしげる木枯。

(そうか……この子はホントに無垢な子なんだな……無知シチュって萌える!)

無垢な子を脳内で剥く天峰!コイツは無垢な精神とは程遠い!まさにガチロリコン!

「ロリコンっていうのは、幼い子供が大好きな異常性欲者の事ですわ」

加減を知らぬ!まどかの言葉のナイフ!

天峰に大ダメージ!

(や……やめろよ……異常性欲者とか言われるとガチでへこむ……)

「小さな子が好きなの?」

「そうですわ、気を付けないとアナタも襲われてしまいますわよ?」

「ちょっと待って、{も}ってなに?{も}って、前科があるみたいに言わないでよ!?」

危うく犯罪者にされる天峰!YESロリータNOタッチの精神が無ければやられて居た!

「ん~?そうだ!道案内さんこっち見て!」

無邪気な声で天峰を木枯が呼ぶ。

「ん?なんだい?」

状況が芳しくない状況!自分の無罪を証明する紳士の心を一瞬にして精製!

そのまま仏の様な顔で木枯の方を見る!

「じゃ~ん!」

目の前にあるのはパンツ!

木枯がスカートをたくし上げて笑っている!

先ほどの様にパンツが降臨!

紳士の仮面が一瞬にして吹き飛ぶ!

「木枯ちゃん!?何してるの!?」

危険(社会的な)を感じ目をそらす!そらしたくないのが正直な気持ち!

(オイ、今何が有った?パンツだ、パンツが有ったぞ!ロリのパンチラだ!マジプライスレス!そうか!再び来たかこの瞬間!ラノベのお約束!不自然なパンツ!俺この主役やってて良かった!神様ありがとう!)

恍惚の天峰!幸せいっぱい!パンツいっぱい!

「何ニヤニヤしてますの?」

その夢を止めるのは冷酷なまどかの一言!

「に、ニヤニヤなんてしてないよ?」

再び必死に取り繕うが……

「出涸らし!気を着けなさい!コイツ本物のロリコンですわ!」

無常なジャッジ!

「え~?でも私のパンツから目をそらしたよ?ロリコンさんって子供好きならずっと見てるハズだよ?…………アレぇ?でも私から顔をそらしたってことは、私魅力無しってこと!?道案内さん!私の事嫌いじゃないならこっち見て!」

木枯が慌てて再び自身のスカートをめくる&走る!

「イヤ、ちょっと待って!?」

非常においしい状況なのだが!後ろのまどかが通報しそうなのでさすがに回避する必要がある!身体を捻った時まどかとぶつかる!

「キャ!」

「あぶな!」

天峰は転ばないように何とかまどかを抱きかかえる。

「ふーセーフ」

ホッと息を吐く天峰。

「さ、佐々木ー早く来なさい!庶民が!庶民が野獣の本能を覚醒させましたわ!た、助けなさい!」

耳をつんざくまどかの悲鳴。

「およびでしょうか?お嬢様?」

天峰のすぐ後ろで声がする。

「さ、佐々木さん?何時の間に?」

背中に何か固いものが当たる感触を感じる天峰。

「私は御当主様よりまどか様を守ることを言いつけられております、これ位出来なくてどうします?」

「は、はは。仕事熱心ですね……」

ゴリゴリと動く背中の固いモノを感じながら、天峰は乾いた笑いをもらす。

「さあ、夜もだいぶ更けました。そろそろお送りいたしましょうか」

佐々木が非常に穏やかな声で話す。

「あ、あの世にですか?」

非常にびくびくしながら聴く天峰。

「ホッホッホ!まどか様の友人は実に個性的でユーモラスが有りますね!」

佐々木が笑い出す。

「佐々木!この変態庶民と出涸らしを送っていきなさい!自転車も忘れないように!」

まどかが佐々木にそう命令する。

「解りました、お車を用意いたしますね」

そう言って佐々木は部屋の外に出て行った。

 




次回は少し時間が空くと思います。
読者の皆様ご了承くださいませ。


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急に静かになると寂しいですね

最近肌寒さを感じるようになった作者です。
季節の変わり目、特に秋に関連するとなぜか無性にさみしく感じます。
気が付けば、足音に落ち葉を踏む音が混じる今日この頃……
どうかお風邪などを患わない様にお気を付け下さい。


佐々木さんが再びリムジンを用意する。

「どうぞこちらに」

丁寧な感じで扉を開く佐々木。

「うわぁ~い!ふっかふか!」

木枯がリムジンの座席で飛び跳ねる!再びめくれるスカート!

(ヨォシ!あとチョットだ!)

天峰心の中で思わずガッツポーズ!

そんなにパンツがみたいのか!!

見たいんです!それがこの作品の主人公!

「天峰様?お乗りにならないので?」

すぐ後ろから佐々木さんの声がした。

「おおぉ!びっくりした!すぐ乗ります」

そう言ってそそくさとリムジンに乗り込んだ。

(佐々木さんって気配なく現れるな……忍者かなんかか?)

天峰は微妙に苦手意識を感じた。

間もなくリムジンは静かに発進した。

「ねぇねぇ!!道案内さん!!まどかにスッゴク気に入られたね!」

ころころと楽しそうな笑顔でそう話す木枯。

「気に入られた?俺が?」

全く心当たりのない言葉に天峰は頭を悩ませる。

(気に入られてるのか?怒られたり怒鳴られたりロリコン扱いされたり……気に入った相手にする態度ではない気が……まさか!なじる対象として気に入られたのか!?そうだよ!木枯ちゃんは良く怒られたりしていたし……俺は新たなターゲットになったのか!?アレか?気づかないウチに叱られるのが喜びになってしまうのか!?最終的に俺は自分から叱ってくださいと懇願するようになってしまうのか!?……それも悪くない!)

気に入られたというセリフに対して満更でもない天峰!

彼は幼女が相手なら紳士でもケダモノにでも成れる男!

「そ~だよ。まどかが家に誰かを招待するなんて、私が知ってる限りでは初めてだよ?それに~誰かに連絡先を渡すなんてまずなかったし、誰かにあやまるのなんてすごい久振りなんだよ?」

ものすごくうれしそうに語る木枯。

木枯は自身の友人の変化を心の底から喜んでいるのだ。

「まどかちゃんって人に謝ったりしないの?自分のミスはちゃんと認めないと……」

「ううん!!それは違うよ。まどかはすっごい努力家なんだよ!ミスはしないっていっつもガンバってるんだよ!だから間違う事自体無いんだって~」

何処までも楽しそうに話す木枯。

それはまどかのワガママに慣れてしまっているというよりも、自身が心の底から信頼しているからこそ言える事だと思った。

しかし天峰はその言葉に小さなしこりを感じた。

「あ~なんとなくわかるかも……まどかちゃんって意外と自分に厳しいんだろうね」

天峰が今日のまどかの行動を思い出す。

「木枯様、お家に到着いたしましたよ」

佐々木さんが一軒の家の前で車を停車させる。

「あ!佐々木さんありがとー。道案内さんまたまどかと遊んであげてね!」

笑ながらリムジンを降りて玄関に向かって走る。

しかし途中で振り返り。

「けどまどかの一番の友達は私だよ!!それじゃ~オヤスミ~」

そう言うと玄関に姿を消した。

木枯が居なくなると急にリムジンの中が広く、静かに感じるようになった。

「ホッホッホ、木枯様が居なくなって静かになりましたな……」

天峰の心の内を代弁するように佐々木がつぶやいた。

「ええ、急に静かになると寂しいですね」

木枯の存在がどれだけ大きかったのか、天峰は改めてその身で知ったのだ。

「おや、やはり幼い女性が居ないと寂しくなりますかな?」

運転をしながら佐々木が天峰をからかう。

「やだな、そんな事ありませんよ」

天峰も笑いながら否定する。

 

「お暇でしたら私が面白い話でもしましょうか。まどか様のご実家、トレーディア家には変わった家訓が有りましてね、『どんな相手にも敬意を示せ、そして勝者として君臨せよ』そのせいか争いごとが起きれば相手の最も得意な分野で勝利を収めようとするのですよ、それこそが相手を超えた証左だと信じているのでしょうね。たとえば……」

天峰が話に割り込む。

「自分が長年目標にしていた、人物を追い越す時でも?」

「御名答」

天峰は後ろの席に座っているため、佐々木の表情はうかがい知れない。

「佐々木さん、まどかちゃんはまさか……」

自身の嫌な考えを振り切るために、佐々木に確認を取ろうとするが……

「天峰様、自宅に付きましたよ」

佐々木が車を停車させる。

「佐々木さんさっきの話もっと詳しく……」

「すみません、お仕えする家の事をペラペラしゃべる事は出来ません、さっきのは口が滑ったのです、他言無用でお願いいたします」

今度は佐々木が天峰の言葉を遮る。

「それでは失礼いたします」

そう言って佐々木はトランクから天峰の自転車を手早くおろし、車を発進させた。

天峰は小さくなっていくまどかのリムジンをただ黙って見送った。

「ただいまー」

天峰が自分の家のドアを開ける。

「あ、兄貴。お帰りー」

風呂上りなのだろう、自身の濡れた髪を拭く天音とすれ違った。

「飯は?」

「さっき外で食部てきた」

靴を脱ぎながら天峰が答える。

「外で食うなら夕日に言っとけよ。アイツずっと兄貴が帰るの待ってたんだぞ?」

不機嫌な表情になり天峰を糾弾する。

「そっか、悪い事しちゃったな。天音、今風呂空いてるか?」

今はとにかくゆっくり考え事がしたかった、そのため天峰は風呂に入りたかった。

しかし……

「ああ、ワリィ。俺の次夕日は入るって言ってたから、さっき声掛けちまった。たぶん今は夕日が入ってる」

天音が天峰の質問に答えた。

「そうか……なら夕日ちゃんと一緒に入ってくるよ」

そう言ってお風呂場に向かって歩きだす。

「おう、そうか……って行かせねーよ!兄貴なに考えてるんだよ!」

ゾンビの様に歩く天峰に、後ろから両足をそろえての跳び蹴りを食らわせる!

「痛!……ごめん考え事してた。あー、今日は風呂もういいや。俺先に寝るわ」

そう言って蹴られた腕をさすりながら自身の部屋に向かう。

箪笥から自身の変えの服を取り出し着替えていく。

「今日は疲れたな……ああ、着替えくらいエンカウントしたかった……」

煩悩とまどかの家の事を考えながら、天峰の意識は夜の闇に沈んでいった。

 

 

「お兄様、夜分遅くに失礼します」

まどかが電話を掛ける、相手は言わずもなが山重だ。

「おう!どうした?」

何時もと変わらない山重の声。

まどかは自身の心を殺し、前もって用意していた言葉を紡いだ。




巻末茶番!!
ベアード「最近パンチラ多くない?」
???「ゲドゲド!作者の頭のネジがゆるんでるのさ!前からだけどな!」
ベアード「今回天音の風呂上りが出てきたのだが……」
???「本来ならあのシーンが唯一の妹のシーンだったそうだぜ?」
ベアード「そうなのか!?ずいぶん出番増えたな……」
???「パラレルの番外編、タイトルをつけるなら『リミットリバース』か?そこでは実質主人公だもんな!作者も『すごい成長した』って驚いてたぜ!ゲドゲド!」
ベアード「そう言えばお前名前無いの?」
???「そんなことないゲド?敢えて言わないんだゲド!」


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青春を賭けているんだ!!

そろそろ扇風機は仕舞おうかな?
と考えてる作者です。
こたつ、扇風機、うちわ、湯たんぽどれも季節の変わり目は
移動が激しい道具たちです。
こたつ出したいけど……まだ早いかな?
朝の風に寒さを覚えた作者です。



時は進み再び放課後……

天峰はいつもの様にボーノレ部の部室に集まる。

「アレ?先輩どうしたんですか?」

山重と森林が非常に殺気立っている。

「幻原か……昨日まどかから挑戦を受けてな……」

山重が話している最中に扉が開いた。

「失礼しますわ!」

まどかが木枯を連れて部室に入ってきた。

「よく顔を出せたな?」

「はん!ワタシがあなた如きに(・・・・・・)怯えると思いまして?」

室内の空気が一気に重くなる。

(どうしたんだよまどかちゃん……大好きだった山重先輩にあんなこと言うなんて……)

昨日までは考えられなかった、まどかの態度に天峰は困惑する。

「まどかぁ……ホントにするの?」

木枯も不安そうにまどかを見ている

「ええ、もちろんですわ!さて、よろしいですかお兄様?」

「ルールは昨日そっちが言った通りでいいんだな?」

「ええ、ワタシ、まどか・ディオール・トレーディアに二言は有りません!」

堂々とまだかが啖呵を切る。

「先輩?まどかちゃん?ちょっと状況が読み込めないんだけど?」

天峰が状況を知ろうとおずおずと手を上げる。

「俺が話そう。まどかは俺達ボーノレ部に挑戦したいらしい、まどかが勝ったら俺はボーノレ部をやめる、俺が勝ったら何も言わずイギリスに帰って二度と俺の前に顔を出さない事が条件でな。いよいよ今週の日曜日に迫った全校ボーノレ大会、日本中からエリートボーノレプレイヤーが集まる!そこで雌雄を決する事になった!」

山重が天峰に宣言する。

それを聞いて天峰の顔が青ざめる。

「そんな!!まどかちゃん良いの!?日本に来れないってことは木枯ちゃんと会えなくなるって事だよ!?」

天峰の言葉にまどかがビクリと体を震わせる。

「そんな事ありませんわ!!ワタシが日本に来れなくても、出涸らしがワタシの居るイギリスにこればいいだけですの!!」

「もっと良く考えて!!木枯ちゃんが一人で飛行機に乗れる訳ないでしょ!?」

さりげなく失礼な天峰。

木枯が厳しめの視線で天峰を見ているが天峰本人は気づかない。

 

「も、もしそうだとしてもワタシは一向に困りませんわ!!だいたいセレブで知的なワタシには出涸らしなんて本来不釣り合いですの!向こうが勝手に友達面しているだけで、ワタシは友達と思ってすらいませんもの。ただ懐いてきたから相手してあげているだけですわ!!」

まどかがはっきりと言い放つ。

「まどかちゃん!!ソレ本気で言ってるのかよ……」

天峰自身の右手を左手で押さえながらまどかを睨みつける。

天峰は基本的に自分の怒りをあらわにしない性格だ。

しかし今は違った、怒りにまかせて拳を振ってしまいそうに成るのを必死でこ堪えていた。

「あ、アナタには関係ないですわ!」

天峰の怒りの表情に驚きながらも、すぐに何時もの調子を取り戻す。

「木枯ちゃんの気持ち考えた事ないのかよ!!」

天峰が遂にまどかを怒鳴りつける。

その言葉に最も反応したのはまどかではなく木枯だった。

「や、やめて、道案内さん……私の事は良いから、まどかを責めないで……」

何時からなのだろう?木枯の目には涙がたまっていた。

「私がバカだから悪いの!……まどかはすごいんだよ?いつも正しいんだよ?だからまどかを責めないで!」

ぽろぽろととめどなく涙が木枯の目から流れおちる。

「あ……」

全く考えもしなかった木枯の言葉に天峰の頭が真っ白になる。

「とにかくワタシは帰りますわ!アナタ達を倒すための練習が必要なんですもの!!」

そう言ってまどかは部室から逃げ出した。

「あ!まどかちゃん!!」

天峰が後を追おうとするが……

「待て!幻原!大会が近いんだぞ?まどかに構ってる場合ではないだろう!」

「そう言う事、練習が先でしょ?」

山重、森林の二人が天峰を止める。

「……追わなくていいんですか?」

天峰が先輩二人に振り返る。

「当たり前だ、相手は初心者だがベテラン上級者を金で雇って来ないとは限らない。俺たちはそれでも勝たなくてはいけないんだ」

「油断大敵ってやつだよね~」

練習しか頭にない先輩二人。

「女の子が泣いてるんですよ!!」

再び怒鳴る天峰。

「だからどうした?幻原!お前もボーノレ部の一員だぞ?大会で優勝したくないのか!?」

「泣いてる子を見捨てておいて何がボーノレだ!!何が優勝だ!先輩たちは大事な物が見えていない!!」

「大会で優勝以外に大切なものなどない!!いいか!!俺と森林はボーノレにたった一度しかない青春を賭けているんだ!!あんないやがらせ目的なんかと一緒にするな!!」

山重と天峰の意見が激しくぶつかり合う!

「まあまあ、幻原君もしげっちもそんなに熱くならないでさ?一回クールダウンしない?」

森林が助け舟を出す。

「森林先輩も良いんですか?」

「何が?大会の事?」

「木枯ちゃんの事ですよ……」

此処で森林は訳がわからないと言った顔をした。

「木枯?そこにいるけど?」

「友達と喧嘩したんですよ?泣いてるんですよ?なんないう事は無いんですか?」

「ああ、大丈夫。木枯は馬鹿だから夕飯食べる頃には忘れているよ」

あははと楽しそうに笑う。

 

その様子を見て天峰は。

「木枯ちゃん、もう帰ろう」

そう言って木枯の手を取る天峰。

「幻原どこへ行く!!まだ練習が……」

山重が止めに入るが天峰は全く意に反さない。

「すみません先輩、どうしても外せない用事ができたので……」

「おいおい?幻原君?」

「勝手に優勝でもボーノレでもやっててください。悪いけど今日は俺何言われても練習には出ませんから」

そう言って木枯を連れ学校を後にした。

 

 

学校近くの自販機に硬貨を入れてボタンを押す。

「木枯ちゃんミルクとレモンどっちの紅茶飲む?」

自分が買った二本のペットボトルを見せる。

「ミルク……」

木枯がミルクティーを受け取る。

「ねえ、木枯ちゃん。まどかちゃんの事だけど……」

「まどかは悪くないよ?私がバカだからいけないの!」

天峰の言葉を聞き終わらないうちから否定する。

天峰は昨日のリムジンの中から感じていた小さな違和感がやっと理解できた。

「木枯ちゃんにとってま、どかちゃんはヒーローなんだね?」

天峰は優しく木枯に聞いた。

一瞬木枯がキョトンとする、そしてゆっくり自分の首を縦に振った。

「そうだよ、まどかは私の憧れなんだ……家もお金持ちだし……賢いし…かわいいし、きれいだし、優しいし!カッコイイし!!勉強もできるし!!怖い先生や男の子にもちゃんと自分の考え言えるし!!!……私の事……ちゃんと見てくれるもん!!」

それは天峰が今まで見た中で、二番目に大きな感情の爆発だった。

「まどかはすごいんだよ?私じゃ言い表せないくらいすごいんだ!」

まるで自分に言い聞かせるように「まどかはすごい」を連呼する木枯。

「ねえ、木枯ちゃん。まどかちゃんがすごいのは解ったよ、けど木枯ちゃんは何時までもまどかちゃんに守ってもらってばかりでいいの?」

あくまで天峰は優しく木枯に聴く。

天峰はずっと違和感を持っていた。

木枯がずっとまどかの事ばかり言っている事に。

仲の良い友人ならある程度それはわかる、しかし木枯の行動は度が過ぎていたのだ。

 

木枯はまどかを自分の中で英雄視しているのだ。過去に何が有ったのかは知らないが木枯は周りから相手にされなかったのではないかと思う。

実の兄妹である新芽があの様子だ、天峰の予想は外れていないだろう。

自分をしっかり見てくれるまどかの存在は、木枯にとって欠かせないものなのだろう。

「それじゃいけないんだよ」

あえて天峰は厳しく言い放つ。

「支えられてばかりじゃダメなんだ。

それは友達なんかじゃない、一緒に支えるのが友達なんだよ」

「けどまどかは私の事友達なんかじゃないって……」

不安そうに聴く木枯。

「友達なんだケンカ位するさ、けど困ってるなら勝手に助けに行くのも大事な事だよ?さあ、一緒にまどかちゃんの所に行こう。そんでもって二人をバカにした先輩たちの鼻をあかしてやろうぜ?」

天峰はいたずらを思いついた子供の様に笑った。

その笑顔がなんだかうれしくて。

「もちろん!木枯様は負けないのだ!」

木枯は元気に頷いた。

 




泣いてる子を慰めたい……
泣きながら抱き着かれたい……
よしよししてあげたい……
その子の希望になってあげたい……
そしてその子が本当に困った時に……
下種な笑い方で裏切りたい!
「その絶望がみたかった~」
と言って笑いたい。

嘘です、そんな外道じゃないです。
やめて!逝ッテイイヨーしないで!!
下種なキャラって大変だな~と書いてて今回思いました。
クズなキャラをもっと上手く書きたいな。


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それよりお腹……空いた

更新が遅れてすみません。
特にサボったつもりはないのですが……
時間はあっという間に過ぎますね……
これからもがんばって更新するのでよろしくお願いします。


「道案内さんありがと!ここからは一人で帰れるよ!」

木枯が座っていたベンチから立ち上がる。

先ほどまでの辛そうな顔が嘘の様だ。

(うん、やっぱりこの子は笑顔が一番だな……)

「そっか、気を付けてね」

「うん!」

去っていく木枯を見送る天峰。

「さて、俺も帰ろうかな」

(やることも有るしね……)

そう言って愛自転車(サイクロンシューター)にまたがる。

木枯の為、まどかの為、さらには二人の友情の為天峰は自宅に向かう。

ロリコンとは幼女の笑顔が大好物なのだ。

天峰がそれをみすみす見逃すハズは無い!

 

 

 

自分の家の鍵を開ける。

何時もならしまっている鍵が開いている。

「あれ?おかしいな……父さんか母さんが先に帰ってきてるのか?まあいいか……ただいまー」

少し不審に思いながらも、天峰が自分の家のドアを開ける。

「……天峰……お帰り……」

玄関で夕日が待っていた。

「アレ?夕日ちゃん、今日はずいぶん早いね。どうしたの?」

天峰は部活を早退し、木枯に付き合っていたが、まだまだ他の学生は放課後にクラスに残っている子も多い。

夕日がここにいる事は不可能ではないが、それでも僅かに違和感を感じる時間帯である。

「……別に……そんな事……無い」

しかし夕日は誤魔化すように天峰の質問をかわす。

「ふーん」

そう言われるとどうにも出来ない天峰。

気にせず自分の部屋にむかった。

天峰は気づかなかった……

去っていく天峰の後ろ姿を夕日の二つの暗い瞳がジッと見ていた事を。

 

 

 

自室に帰り机のパソコンで検索を開始する。

キーワードはいつもの様に幼女!

「あ、しまった。いつもの癖で……」

笑ながら消し、代わりにボーノレを打ち込む。

「えーと……有った。ボーノレ大会ルール」

そこにはボーノレの歴史、有名選手、去年の優勝者などが載っていた。

「フムフム、チーム毎の最低参加人数は2人最高は5人までか……」

大まかに調べると今回のボーノレ大会の公式ルールはこうだ。

①18歳以下の人間が参加条件。

②チームのメンバーは最低2人最高5人。

③当日メンバー登録をした人のみが参加可能、逆に登録さえしてあれば開始時に居なくても途中参加は可能。

④競技はチームのメンバーから数人選び他のどれか一つのチームと戦うチーム対抗戦と参加者全員で戦う同時決戦が有る。

⑤原則競技への同じメンバーのみでの連続出場は出来ない。

⑥競技内容は原則秘匿とされ、競技ごとの参加直前に内容が発表される。

⑦ルール違反および極端に人道に反しさえしなければ、どんな行為をしても良い。

 

 

 

「同じ人の連続参加は無理か……メンバー集めなきゃな……」

ルール④⑤からメンバーは多い方がいい。

天峰はさっそく障害につまずいた。

「俺と木枯ちゃんと……まどかちゃんを説得するとして……参加した場合勝てるのかこれ?」

天峰自身ボーノレは参加したこと自体殆ど無い、さらに言うとこのパターンだと他のメンバーは幼女……一概には言えないが他校のメンバーにかてるのか怪しい物が有る。

そして……

「もう一つ障害が有るんだよな……」

天峰はしばらく打開策を考えていたが……

「あー!何も浮かばねー!」

パソコンの前から立ち上がる。

「気分でも変えるか……」

そう言って何か飲もうとキッチンに向かおうとし、自室の扉を開ける。

 

「……夕日ちゃん?何してるの?」

扉の前には夕日がぴったりとくっついていた。

「天峰……さっきハイネから……電話があった……今日遅くなるって」

「そうか……アイツも部活か……夕日ちゃん教えてくれてありがとね!」

そう言って夕日の頭をなでる天峰。

天峰も天音が助っ人で参加している部活の大会が忙しいと言っていたのを思い出した。

「……問題ない……それよりお腹……空いた」

「まだ、夕飯まで時間が有るしね……チョット出かけようか?」

「……うん」

 

 

 

天峰は手早く着替えをして、財布をポケットに突っ込む。

「夕日ちゃん準備できた?おお!」

ノックしつつ、夕日の部屋の扉を開けた天峰は、驚きの声を上げる。

まさに劇的ビフォーアフター!

部屋の中はきれいに整頓され、小さな本棚とベット、GPS、勉強机、フランケンシュタインの様なツギハギのクマのぬいぐるみ、整備され並んだ予備のカッターの刃等の家具がキチンと置かれている。

この部屋は数週間前まで空き部屋だった部屋。それが今はしっかりと女の子の部屋になっている。

(あの部屋がこんなに変わるなんて……なんか夕日ちゃんの匂いがする……イカンイカン変態ぽかったな!)

残念!!天峰もうすでに引き返せないレベル!!

「……おまたせ」

着替えを済ませたワンピースの上に一枚服を羽織った夕日が扉を閉める。

「……天峰見た?」

夕日が天峰を見つめながらジッと聞いてくる。

「着替えの事?見てないよ?病院みたいな事はもうしないよ……」

さっきのはおそらくGPS等の事だと思われるが天峰は気が付かない!

(病院での着替えを覗いた事をまだ気にしてるのかな……確かにあの時は俺が悪かったけど……)

病院での恐怖を思い出し僅かに震える天峰。

「あれは!……身体の傷痕……見られたくなかっただけ……天峰なら……今なら気にしない……天峰見たいなら……見る?」

そう言ってスカートの部分に手を掛ける。

(おっと……急に夕日ちゃんがオフェンシブになったぞ!なんかやばくないか……けど正直すっっっごく見たい!!)

欲望に素直すぎる男!!天峰!!

天峰の視線の先で尚も夕日の手は動き続け……

すでに手は胸のすぐ下まで来ていた。

当然下着は見えてる状態!!

「夕日ちゃん?さすがにそれはやばくない?」

天峰が何とか理性を振り絞る。

「大丈夫……天峰なら……恥ずかしくない……それにみんなも……まだ帰ってこない……」

傷痕を隠さない夕日。

天峰は少々乱暴に夕日の手を掴んだ!!

「夕日ちゃん一体どうしたの?」

そのまま天峰はスカートを離させる。

重力にに従い再び布が夕日の身体を隠す。

「……あ」

「突然こんなことして……何か不安な事でもあるの?」

天峰はしゃがんで夕日と同じ目線に立つ。

「うん……最近天峰……他の子に良く逢いに……行ってるから……」

夕日はぽつぽつと語りだした。

「なるほど……それで俺が他の子に構ってるのが不安なのか。大丈夫だよ、夕日ちゃんと俺はもう家族なんだ、夕日ちゃんがここにいる限り俺もここに帰ってくる。それは絶対の事なんだ、だから夕日ちゃんは気にしないで俺を待っていてよ」

そういて夕日を抱き寄せ、背中を優しくなでる。

「天峰……それは違う……」

天峰に抱きしめられながら夕日がいう。

「私達が……家族なのは……もう知ってる……私も……天峰を絶対に離すつもりはない……地獄の底に……逃げても追いかけて……捕まえる……」

夕日が中学生とは思えない力で天峰を抱きしめる。

「へ!?ゆ、夕日ちゃん?ちょっと痛いから力ゆるめてくれない?」

突然の出来事に焦る天峰。

「……ごめん」

そう言って力を緩める夕日。

(やばいって!!夕日ちゃんなら本気で何処までも追いかけてきそうだ……偶に本気でこの子が怖くなる……)

「けどね?……天峰が何かまた……しようとしてるのは……知ってる……私を無視して……」

そう言って天峰の瞳をジッと除く夕日。

「そんな事……」

「うそ……」

否定する天峰だが、本物と義眼二つの瞳が天峰を離さない。

「……天峰が誰かの……厄介事に……首を突っ込んでる……のは知ってる……私の時も……そうだった……一人で抱えないで……今は私もいる」

夕日はなおも続ける。

「今度は……私が天峰を……助けるから……」

そう言って夕日は天峰を離した。

「あ、ありがと夕日ちゃん……」

そう言って二人は立ち上がりコンビニへ向かった。

(危なかった……あのまま夕日ちゃんの部屋に連れ込まれたら……貞操が危険だった……)

一人で戦慄する天峰!!台無し!!

 




え?R18書かないのかって?
作者はチキンなのでさすがに夕日ちゃんに手を出す勇気はありません。
よ、要望が来てもダメなんだからね!


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『お前先シャワー行って来いよ』

なかなか筆が進まず遅れました。
スミマセン……他の書いてました!!
別に夕日ちゃんに飽きた訳ではないです……


太陽が落ちつつある時間帯、天峰は夕日を連れてコンビニへ向かっていた。

「夕日ちゃん、コンビニだけどこの先サークルXとモーソンどっちに行く?」

足を止め夕日に向き直る。

二人は現在手をつなぎながらコンビニへ向かっている。

え?リア充死ね?相手が病んでなかったら私もそう言ってます。

「……モーソン……コーヒーが……おいしい」

一瞬考えて決断を下す。

「解った。じゃあモーソンに行こうかカリアゲクンも食べたいし」

二人は再びコンビニへ向かって歩き出した。

 

 

 

「ラシャーセ!!モーソンへようこそ!!」

良く教育された店員が挨拶する。

「夕日ちゃん何食べる?」

適当に店内を物色する。

(あ……今日水曜だ。惨泥(漫画)と禍神(漫画)立ち読みして無いな)

ふらふらと漫画コーナーに向かう。

前回展開が気になるところで終わった漫画から読み始める。

「有った有った。今週の『無職王伝説テラニィト』はどうなったかな?」

ぱらぱらと雑誌をめくり、お目当ての作品を読み始める。

「おお……やはり波浪ワークは強敵だな……」

主人公の必殺技が効いてない展開が続いていた。

さらにじっくりと読み進めていくが……

チョイ、チョイ。「ん?」

服の袖が引っ張られる。

服を引っ張ったのは夕日だった。

「あ、夕日ちゃん。欲しいモノは決まった?」

天峰は欲しいモノが決まったのだと思い本を閉じた。

「……天峰、浮気は許さない……」

夕日の明らかに不機嫌な態度。

「…………え?どうしたの?浮気?」

訳もわからず一瞬ストップ&フリーズする天峰の脳内!!

「……今……私と居るの……他の子……見ないで」

立て続けに責める夕日。

「他の子って?」

全く心当たりがない天峰。

何がいけないのか直接聞く事にしたのだ!

「……あれ」

夕日が忌々しそうに雑誌の表紙を指さす。

モーソン名物!!大人コミックコーナだ!!

実はモーソンは珍しくR18雑誌に力を入れているコンビニ!!

フライ系やお弁当ではなくR18雑誌コーナーが充実しているのだ!!

……って八家が言ってた。

「あー。アレね、俺が読んでるのは普通の本だよ、ほら」

自分の読んでいた雑誌を差し出す。

「別に怪しい所なんてないでしょ?」

パラパラとめくって見せる。

「……疑って……ごめん」

納得したのか夕日が去っていく。

(ふー、危なかったぜ……横目でチラチラ見てるのがバレたかと思った……)

欲望に正直な天峰は実際表紙をガン見していた!!

(だってしょうがないじゃない!?あそこに有る『千尋と一緒!!大人の階段のぼちゃお!!』とかすごい惹かれるモン!!男の夢じゃん!!)

天峰の心は見た目が小さな女の子がスク水を着ている雑誌に夢中だ!!

(さて、ここでクエスチョン!!あの雑誌を夕日ちゃんに気付かれずに手に入れるのはどうすればいいでしょうか!!

3つから選びなさい。

①ロリコンの天峰はナイスアイディアを突然思いつく。

②ヤケが来て買って行ってくれる。

③買えない。現実は非情である。)

「……天峰?……何を見てるの?」

突然腕を掴まれる!!!

答え③現実は非情!!

「あ、ゆ、夕日ちゃん。欲しい物は決まった?」

キョドル天峰!!泳ぐ視線!!

「……おでん……食べたい……」

夕日が天峰をレジ横のおでんコーナーまで連れて行く。

「おでんか……季節外れだけど、たまにはいいかもね」

「……うん」

二人でおでんの具を選ぶ。

「たまごと大根は鉄板だけど……夕日ちゃん何が食べたい?」

トングを持ちながら夕日に聴く。

「……ちくわぶって何?」

夕日が不思議そうにちくわぶを見る。

「え!?夕日ちゃんちくわぶ知らないの!?」

「……私の住んでた……トコには……なかった」

おでんというのは地方によって入れる具にばらつきがある。

生まれが違う人同士で話してみると意外に面白い。

「じゃあ食べてみる?」

「うん……」

二人で買い物を師コンビニを出た。

 

 

 

「わぁ!見て夕日ちゃん!夕日がすごいきれいだよ」

「……うん」

街に沈んで行く夕日を二人で見た。

「……天峰」

「何?夕日ちゃん?」

「……さっきも……言ったけど……厄介事……有るならて…私にも手伝わせて……」

夕焼けに照らされながら夕日が強い意志を持った瞳で天峰を見つめる。

「解ったよ、家に付いたら話すよ」

二人で自宅までゆっくり帰った。

 

 

 

その後

家に居た天音に天峰がおでんを強奪され、すきっ腹のまま夕食を済ました。

天峰の部屋にて……

自身のベットに座って夕日を待つ天峰。

夕日は今お風呂に入っている。

(今更だけど……コレってシュチュエーション的には『お前先シャワー行って来いよ』に近いな……)

などとどうでもいい事を考えながら待っていた。

「……おまたせ」

濡れた髪をタオルで拭きつつ、パジャマ姿の夕日が天峰の部屋に入ってくる。

「待ってたよ、さっそく紹介を始めようか」

自身が前もって開いておいたボーノレのホームページを夕日に見せる。

「……ナニコレ?」

夕日が最もな感想を言う。

「ん……ボーノレ?」

自分自身でもなぜこんな事しているのか、真剣に考えると悲しくなってくる真実に気付いた天峰。

「…………ハッ………解った……私も天峰……手伝うから」

一瞬鼻で笑った気がしないでもないが気にしてはいけない……

「ありがとう夕日ちゃん……あとメンバーは一人か……」

競技の定員は全部で5人。

天峰、夕日、木枯とまどかは説得するとして後一人メンバーを入れる事ができる。

「……天峰……あて……有るの?」

夕日が心配そうに聴く。

ある意味この心配は当然の事である。突然友人が『謎のスポーツ大会有るんだけど参加しない?』と言ってきたら殆どの人が断るだろう。そのため最後の一人の探しは難航しそうである。

「一応有るんだけど……心配なんだよねー」

自分の頭を掻きながら話す。

「……私の……クラスに今まで……登校してない子が……居る……名前借りる?」

要するに夕日は競技不参加用に一人ダミーを作ろうというのだ。

「いや、さすがにチョットそれは……とりあえず相談してみるよ」

充電器に刺さっていた携帯電話を掴みナンバーを慣れた様子でプッシュ。数瞬後に相手につながったようで。

うんうん、そうそうと相手と話始める。

「……ん!じゃあよろしく!」

そう言って電話を切る。

「……天峰……誰に……電話したの?」

「さーてね、明日のお楽しみだよ。あ!ヒントを言うと夕日ちゃんもよーく知ってる相手だよ」

天峰はあえて夕日に秘密にした。

「……イジワル……」

夕日が少し頬を膨らませる。

 

 

 

翌日の放課後

授業の終了と共に中等部の玄関に走る天峰!!

「夕日ちゃんおまたせ!!」

ハアハアと息を切らせ夕日と落ち合う。

見た目の犯罪臭マジすごい!!

「……行くの?」

夕日が鞄を持ちながら話す。

「もう時間が無いからね。直接まどかちゃんと交渉するよ」

ポケットから携帯を取り出す。

「えーと……ナンバーは……」

まどかからもらった名刺を確認する。

「その電話は不要ですな」

後ろから声が掛けられる。

「佐々木さん!!」

そこにいたのはまどかの執事の佐々木だった。

「どうしてここに?」

携帯電話をしまいつつ佐々木に向き直る。

「天峰様ならここ等で、まどか様に接触しようとするハズですから」

全て見ていたように天峰の行動を当てる佐々木。

「すごい洞察力ですね……」

「これでも皆様の三倍近く生きているモノで……さ、行きましょうか?木枯様も待てますよ?」

佐々木に連れられリムジンに乗り込む。

「ハロー!!道案内さん!!」

何時もの明るい様子で天峰に手を振る木枯。

「やあ、木枯ちゃん」

天峰もそれにこたえる。

「……天峰……この子……誰?」

夕日が露骨に警戒した様子で尋ねる。

「ああ、夕日ちゃんこの子は……」

「わたし森林 木枯!!よろしくね!!わー!!この子かわいいね!!道案内さんの彼女!?」

抱きっと夕日に抱き着く木枯。

「……!!邪魔……」

夕日がどかせようとするがビクともしない木枯。

「あ、木枯ちゃん?その辺にした方が……夕日ちゃん嫌がってるし……」

仲裁に入る天峰!!

「ゆーかちゃんって言うんだ!!ねえねえ!道案内さんとキスした?キスした?」

「……してない!!」

真っ赤になって否定する夕日。

(うーん……ローなテンションの夕日ちゃんとハイなテンションの木枯ちゃんが絡むとこうなるのか……)

珍しくペースを乱される夕日を見ながら天峰はそう思った。

「……天峰!!……助けて!!」

 

 

 

 




今回で物語が大きく動き出しました。
もうしばらくお付き合いください。


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わ~い!!お泊りだ~

最近筆の進みが遅い気がします。
皆さん執筆のモチベーションってどうやって保ってます?



今回の物語はリムジンの中から始まる。

中には4人の搭乗者たち。

先ずは運転手の佐々木さん。

まどかのお目付け役にしてリムジンの運転者!!

何時もの様に安全運転を心がけてくれています。

二人目は森林 木枯。

禁断の果実(巨乳)を揺らし、夕日に話しかけている。

「ねえねえ、ゆーかちゃんと道案内さんのなれ初めは?」

幼くともやはり女の子!!コイバナに興味深々である!!

 

「……うるさい……」

その視線の先には明らかに不機嫌顔の坂宮 夕日。

リムジンは初めてなのだが、その事による心労よりも木枯の絶え間ない口撃に疲弊気味だ。

「……天峰……助けて……」

そしてこの車、最後の搭乗者に助けを求める!

しかし!!

「まあまあ、夕日ちゃんも木枯ちゃんもそんなに喧嘩しないで、ね?」

あっさりと夕日の言葉を却下!!

そういうのはこの作品のロリコン末期系主人公!幻原 天峰!!

言っている事は一見まともだが……騙されてはいけない!!

その顔は思いっっっ切り!緩んでいる!!

それもそのはず。

現在天峰達三人は一つのソファーで並ぶように座っているのだ!

事の初めは夕日と木枯の会話からだった。

夕日の苦手とする高いテンションを持つ木枯から逃げるため、夕日は天峰の隣に移動した。それだけならばよかったのだが……

「わたしもー」

と言って木枯が夕日の隣に行こうとした!

二人の話し合いの結果天峰をはさんで夕日と木枯が隣同士に座る事になった!!

その結果!!

(ひゃうほっう!!両手に華ならぬ両手に幼女!!三人で座るには狭いソファーが逆にイイ!!右側から夕日ちゃんのスレンダーボディが!!左側からは木枯ちゃんのムッチリ生意気ボディが!!しかも揺れる車内!!二人のボディ&ハートが堪能し放題だ!!こ、これが現代日本ではエロゲの中にしかないと言われるユートピア、ハーレムエンドか!?ロリコニウムが!!ロリコニウムが暴走寸前だ!!)

天峰ヘヴン状態!!顔面だけ見れば通報待った無し!!おまわりさん何時ものこの人です!!

「……天峰……何笑ってるの?」

「とにかく幸せそうだよね!」

((この人/天峰大丈夫なのかな?))

二人が心配になってくるテンション!!

 

 

 

しばらくして……

煩悩の塊を乗せたリムジンはまどかの屋敷まで到着する。

佐々木さんがリムジンの扉を開ける。

「天峰様、木枯様そして……」

夕日を見て言葉が止まる。

「……坂宮 夕日」

ぼそりと自身の名を告げる夕日。

「失礼しました……坂宮様ですね。お三方この先にまどか様がいらっしゃいます、使用人風情の私では口出しできぬことも多々あります。どうか、どうかまどか様のお力になってください」

そう言って佐々木さんは深々と頭を下げた。

「任してください、きっとまどかちゃんを説得して見せます」

「大じょーぶだよ!!」

そう言って天峰達はまどかの屋敷に入って行った。

「アラ?何の用かしら?ワタシ忙しいのだけれども?」

玄関ホールで早くもまどかが姿を現した。

いつもの様にとげとげした威圧感が有る。

「まどかちゃん!俺達ボーノレの大会に参加することにしたんだ、まどかちゃんもチームに入ってくれない?」

天峰がそう言いながら歩みよる。

「ワタシがアナタ達と?冗談でしょ?ワタシ一人で出た方がまだマシですわ!!」

そう言って天峰の提案を一蹴する。

鳥つく島なしという表現が当てはまるか?

「まどか~意地はらないで一緒にわたし達と一緒に出ようよ?」

木枯も天峰に追従するように声を上げる。

「いやですわ!!というよりまだアナタはワタシに付いて来ますの?」

ジロリと木枯を睨む、その視線に木枯がたじろぐが……

「だって友達だもん!!」

その視線に負けじと木枯が声を上げる!

「言ったでしょ!!アナタは友達でもなんでも無いと!!」

まどかからの2度目の決別の言葉、木枯がビクリと体をこわばらせる!

「まどかちゃん!まだそんな事……!!」

天峰が怒りを爆発させる前に動いて居た影が有った。

「……いい加減……うっとおしい……」

夕日のその言葉と共にパチンッ!と広場に音が響く。

 

「な!?」

「あ……」

「この……!」

まどかに対しビンタを繰り出した夕日三者三様の声を出す。

「いきなり何を……」

打たれた頬をぬぐうように手を当てるまどか。

「……甘えるな……一人じゃ……何も出来ないくせに……!!」

珍しく夕日が怒りを表に出している。

「はぁ!?ワタシが一人じゃ何もできない?馬鹿にしないでくださる!?ワタシはアナタよりも賢いし、権力だって持ってますわ!!実際ここに来たのだってワタシの努力のお陰ですわ!!」

夕日の言葉に対し逆上するまどか、その表情には鬼気迫るものが有った。

「……だから……何?……そんな事……自分の為に自分がした事を……誇るな……誰でも助けあって生きてる!!……みんな自分の弱さと……生きてる!!……自分だけで完結できるわけない……もしそれが出来た……と思うなら……それはただの思い込み……」

夕日の言葉にまどかは自分の周りの人間の事を思い出す。

ずっと自分が他人に頼らないように生きようとした、それが強さだと思った。

「まどかちゃん、まどかちゃんがすごく努力家なのは木枯ちゃんから聞いたよ。一生懸命頑張るのは良い事だよ?けど自分だけでは出来ない事も一杯あるんだ。強がらなくていいんだよ、友達に頼っていいんだよ、まどかちゃんはイイコなんだからきっと助けてくれるよ?」

天峰はゆっくり諭すようにまどかに話す。

「……皆さんワタシを助けるためにここに来ましたの?」

まどかが三人を見回す。

「そーだよ!!」

「もちろんさ!」

木枯と天峰が確かな意志で頷く。

「……?天峰に……協力しただけ……あなた誰?」

「夕日ちゃん!!今いいとこだから!とりあえず頷いて!!」

台無しである……

「ま、まあいいですわ。皆様ワタシのために集まってくれてありがとうございます、ボーノレの大会ですけど……」

「悪いけど俺は諦めないよ?」

天峰がまどかの言葉を遮る。

「悪いけど今回俺はマジに怒ってる、木枯ちゃんを傷付けたまどかちゃんもだけど、傷ついた木枯ちゃんをほっておける先輩たちも許せないんだ。たぶん先輩たちに何を言っても無駄、だから徹底的に大会で恥をかかせるぞ!!」

天峰が3人にそう宣言する。

「理由が……」

「道案内さん根暗~」

「……天峰はロリコン……幼女を傷つける人は……許さない」

 

「夕日ちゃん!?突然何を言ってるの!!ほら!!まどかちゃんたちドン引きしてるでしょ!?」

「ドン引きですわ……」

「うえ~い……ドン引き」

突然の夕日の裏切りの驚く天峰!!

まあ、嘘は一言も言っていないのだが!!

「……隠してたの?」

夕日がかわいらしく首を傾げる。

「当たり前でしょ!!いいかい夕日ちゃん?ロリコンは場合によっては警察呼ばれる可能性がある危険な嗜好なんだよ?俺は幼女を愛さねばならぬサガを持っているけど静かに暮らしたいんだ、正体をばらしちゃダメ!」

何処の殺人鬼だ!!

という突っ込みは無しでお願いします!!

「……解った」

 

場の空気を換えるようにまどかが咳払いをする。

「兎に角!!大会まで近いんですから練習有るのみですわ!!ワタシの屋敷を使って特訓しますわ!!」

まどかが一気に気合いを入れる。

もともと負けず嫌いな性格、勝負ごとに取り込む姿勢が違う!!

「わ~い!!お泊りだ~」

木枯がはしゃぐ!!

そんな中ゆっくりと夕日が天峰に近づく。

「……天峰……最後の……一人は?」

「ああ、今頃準備してくれてるはずだよ」

 

 

 

志余束高校の廊下を一人の少女が走っていた。

「あれ?ウッキーどこ行くの?」

「ちょっと~」

「アレ?いま帰りか?」

道行く友人に声を掛けられる。

その多さから彼女がどれだけ他人に好かれているのか予測できる。

そんな彼女が目指す場所は一つ!!

そして顔には僅かな笑み!!

(天峰ったら……いきなり部活の大会に出るから助けてくれなんて……調子いいんだから!!けど……電話までしてきたんだし!助けてやってもいいかな~なんて……)

天峰の事を考えつつ部室の扉を開ける!!

「こんにちは!!卯月 茉莉です!!入部したいん……です……けど?」

部室の中の訳のわからない行動を見て言葉が止まる!!

「おお!!君が天峰の言っていた代わり(・・・)の子か!!まって居たぞ!!」

「あれ?卯月ちゃんじゃない?君、僕のクラスで人気高いよ?」

謎のゲームを繰り広げる先輩に固まる。

「あの……天峰は?」

「ああ!!他の奴らと大会に出るらしい!!代わりにお前をよこすと!!行っていたが?」

「ああ、解りました……そういう事ね……」

ゆらりと雰囲気が変わる。

(天峰……いい度胸じゃな!!乙女の心をもてあそんで……全力でぶっ潰すわ!!)

此処に一人の復讐鬼が誕生した!!

 

 

 

「おかあさーん!歯ブラシセットってどこにしまいましたっけ?」

とある家でかわいらしい声が響く。

「洗面所の右の棚よ?ハイ、タオル。ご迷惑かけないようにね?」

「はーい!明日が楽しみです!」

天峰に誘われた藍雨が待ちきれない様に荷作りをする。

 




なんだかキャラクターが増えてきたな~
ハーレムっぽくなってきたか……?
イヤ!ハーレムは適齢期の女性が居る場所!!
この作品のハーレムは小学校のクラスだ!!


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最後に言う奴じゃない?

こたつを出しました。
寒さに対するアンチテーゼ。
寝ないようにしなければ……


まどかの屋敷にて天峰達がボーノレについての作戦会議をしている。

場所はまどかの家の食堂。天峰とまどかが向き合うようにテーブルを挟んで座っており、天峰の隣には夕日がまどかの隣には木枯が座っている。

先ほど、佐々木さんが厨房に入って行ったので何か用意してくれているらしい。

4人の中で最初に口を開いたのは天峰。

「パソコンで調べた情報なんだけど、ボーノレは複数の競技をする事になるみたい。あらかじめ俺達個人の得意分野を整理しないか?」

それぞれの得意な事を生かすのはボーノレの基本である。

「解りましたわ、私は主に経済学、商業、後は暗算などでしょうか?ああ、宝石と装飾などについても知識はありますわ」

自慢げに話すのはまどかだった。

「安産?……ああ!!暗算か、びっくりした」

アンザンの言葉がまどかの口から放たれた瞬間、病室で赤ん坊を抱いているまどかの姿が頭をよぎった!!

「天峰、何を想像したの?」

夕日が非常に厳しい目でこちらを見ている!!

ツンツン!!ツンツン!!

天峰の左足ももに僅かな刺激が伝わる。

何かと思って自身の足を見ると、夕日がカッターで天峰の足をつついていた。

幸い刃は出していないが気分の良い事ではない。

「ゆ、夕日ちゃん?なにしてるの?」

天峰が顔を引きつらせる。

「……コレは警告」

厳しい視線はそのままでニヤリと夕日が口角だけを上げる!!

次、何か他の娘に手を出したら容赦はない!!と遠まわしに言っているのだ!!

「うん……ゆ、夕日ちゃんの特技って何かな?」

話題を無理やり戻す天峰!!

「……天峰を解体する(バラス)事?」

恐ろしい事を平然と言ってのける!!

「あー!さっきロリコンだってばらしたもんね!!」

ばらすの意味を誤解した木枯がカラカラと笑う!!

「そ、それ以外に得意な事って無い?」

天峰が再びマズイ方に行きつつある会話をもとに戻そうとする。

「……他に?……有る」

そう言ってテーブルの上の紙ナプキンを一枚取って折り曲げる。

チキ……チキチキ……チキチキ!!

カッターナイフの刃を出す!!

「…………ん!……」

凄まじいスピードでカッターが紙ナプキンを切り刻む!!

「まあ!!」

「おおー!!すごーい!!」

パッと紙ナプキンを広げると、そこには二人の男女が仲良く手をつなぐ切り絵。

「おお!!すごい、夕日ちゃんって意外な特技持ってるんだね……」

天峰が驚き半分怯え半分で夕日の技量を褒める。

「夕日ちゃんは芸術センスと手先の器用さが武器だね。木枯ちゃんは何か得意な事ないの?」

今度は木枯に対して質問をする。

「ん?私か~。得意な事……得意な事?無いよ!!」

元気よくその場で立ち上がる!!

(あら、かわいい……)

しばし純粋な笑顔に癒される天峰!!

しかし夕日の持っていた二人の切り絵の内、男の首が音もなく落ちたのを見て現実に戻される!!

「木枯ちゃんは純粋さが魅力だね!!」

夕日が凄まじい目でこちらを見ている気がするが気にしない!!

気にしたら取られる!!大事な何かが!!そんな気がする!!

「いえ~い!!褒められた~」

その場でうれしそうに謎のダンスを踊る!!

「まあ、出涸らしはメンタルの強さが売りですわね?」

助け舟のつもりかまどかが天峰にそう話す。

「うぇーい!!メンボウ強~い!!」

「メンタルですわ!!おバカ!!……まあ、前の敗北に左右されない精神力は思った以上に大切ですわ」

実際思い当たるところが有るのか、まどかは木枯の性格を高く評価しているようだ。

「……天峰は……何ができるの?」

夕日が天峰に聴く。

そこでハタと思い直す天峰!!

(あれ?俺って何が得意なんだ?……幼女センサー?……イヤイヤ!!もっと役に立つ能力が…………あれ?不味いぞ……俺得意な事って………てもしかして無い?)

絶望的な事実が頭の中をよぎる!!

自身の心の中で必死に否定し、自分の特技を考え始める!!

が!!

「やばい……俺特に得意な事ない……夕日ちゃん!!俺の特技って何かな!?」

最期の手段としてついには他人に聞き始めた!!

「……ん?……優しい?……事?」

しばらく考えてから首をかしげる。

それ(やさしい)って何にもなかった時に最後に言う奴じゃない?」

「…………」

気まずいのか目を合わせない夕日!!

「道案内さんむのー!!」

天峰を指さし笑う木枯!!

グサリ!!と天峰にダメージが入る!!

「……良いよ!!無能あろうとやってやるぜ!!」

椅子から立ち上がり高く右手を上げる。

「……追い込まれた……時の……爆発力がすごい……」

「だよな?そこが俺の魅力だよな?」

天峰がうれしそうにポーズを決める。

正直ださい!!

 

 

「さて……お互いの得意分野がわかって来たのなら、次は相手の情報ですわ!!残念ながら他校のボーノレ部のデータは有りませんわ、しかし前年の競技データなどから今年も出そうなのをピックアップして……」

「あー!!忘れてた!!ビデオー!!」

まどかが過去のデータを探ろうと話している最中に、木枯が立ち上がった。

そしてそのまま走り去ってしまう。

「ちょ!!ちょっと何処行きますの!?…………なんなんですの?ビデオ?」

木枯を止めようとするがすでに部屋を出てしまっていた。

数分後

木枯は2枚のDVDを持って帰ってきた。

「木枯ちゃんそれは何のDVDなんだい?」

一つは製品版の様だがもう一つは録画用に市販されているディスクの様だった。

「お兄ちゃんの部屋から持って来た~。みんなで見よ?」

ディスクを持ってパタパタと部屋を走りまわる。

(先輩の部屋って……子供に見せて大丈夫なDVDなのか?)

非常に失礼な心配をする天峰!!DVDと聞いて想像するのは一つのみ!!

「だから一体なんのDVDですの?」

周りの人間の質問を無視して木枯はTVにディスクを挿入しようとする。

「あれ~どうやるんだっけ?あ!!わかった!!」

適当にボタンを触る木枯、何とか再生させる事に成功する。

 

軽快な音楽と共に映像がスタートする。

『みんなと一緒に!!レッツボーノレ!!』

二人の人間が出てきてボーノレの歴史や、種目などを紹介する。

天峰が初めてボーノレの部室で見せられたものと同じだった。

「ああ、これなら市販してますわよ?持ってきてくれた所悪いのですけど……」

まどかがDVDを停止させようとする。

しかし

「ちょっと待ってまどかちゃん、リモコン早送りってどこ?」

天峰がまどかを制止する。

「え?なんですの?とりあえずここですけど……」

「ありがと……」

天峰が映像を早送りしてゆく。

『……で……ある……yt………』

ディスクが早送りで進んでいく。

「何がしたいんですの?」

まどかが訝しむ。

「ちょっと気になることが有って……」

そしてディスクの映像に変化が起きた!!

「あ!!」

「すごーい!!」

「……録画失敗?」

ボーノレの映像が切れ他の映像になった。

画面の中では選手たちが動いて居るが、手振れや雑音が入り素人がとったモノだと解らせる。

「やっぱりか……」

天峰がつぶやく。

「昔はビデオの先に関係ない画像をわざと撮って、本命を隠す手段が有ったんだ。先輩は製品版を持ってたからね……同じのが有るなんておかしいと思ったよ」

画面に映るのはまだ最近と思われる大会の様子だった。

「すごい……お手柄ですわよ!!出涸らし!!これさえあれば実際の競技の様子や警戒すべき選手たちもわかりますわ!!」

圧倒的に不利だった天峰達一行に有力な情報が手に入った!!

これが逆転ののろしとなるのか!?

 

 

 

「……天峰……なんでそんな事……知ってるの?」

「ああ、それ?ヤケが貸してくれるDVDに似たような仕掛けが……」

ボゴン!!

「……最低……」

一気に台無し!!

 




ゲーセンで800円使ってハムスターのぬいぐるみゲット!!
ヤバイ!!かわいい!!今日から抱いて寝るかな!!
かわいいぬいぐるみ?好きですよ?
似合わないって良く言われる……


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負けられない物が出来たんだよ

人との出会いは不思議だ。
何時他人の人生と交わるかわからない。
袖振り合うも他生の縁。


「さて、そろそろお開きにしましょうか?」

まどかがDVDを片しながら天峰達に呼びかける。

天峰が時計を見ると時刻はすでに9時近くをまわっていた。

「作戦会議とDVD見ただけの積りだったのに、ずいぶん時間がたったな」

天峰はその場で立ち上がり体を動かす。

天峰本人の意志とは裏腹に、ずいぶんと体が固まっている様だった。

「不思議な感覚ですわ……時間がこんなにも早く過ぎるなんて……」

まどか自身もあまり身に覚えのない体験の様だ。

「えー!!まどか知らないの?楽しいときは時間って早く過ぎるんだよ?イジワルだよね~」

その隣でも木枯が同じく伸びをする。

(おお……背伸びって胸が強調される上にへそがギリギリ見える!!チラリズ「キチ……」

「ヒッ!!」

カッターの音が聞こえた気がして天峰が怯える!!

「……どうしたの?……天峰?」

夕日が心配そうに聴く。

(幻聴か……生霊でも憑いてるのかな……)

だんだん夕日がトラウマに成りつつある天峰!!

(天峰私に怯えてるの?少しかわいそう……)

その事は夕日も気が付いている!!

しかし彼女は動じない!!

(今、天峰の心は私が居るんだ……)

人知れずニヤリとする夕日!!

他の子がいると病みやすい!!

 

「さて、明日もまたワタシの家に集合で構いませんか?」

まどかが明日の予定を決めはじめる。

「明日って言うか明後日が大会だろ?大丈夫かな?」

そう!!大会の日はすでに明後日まで迫っている!!

残り少ない時間で用意をするしかないのだ!!

「……練習……する?」

夕日が天峰に意見を伺う。

「うーん……練習って言っても種目直前まで何が来るかわからないし……幸い既存のゲームに近い物が多いみたいだし、後はどうメンバーを振るかなんだよね」

そう、今更感が多いのだが無理をしないことが一番なのだと夕日を諭す。

まどかと木枯は気が進まない様子だが何とか天峰の意見に賛成した。

「佐々木!この二人を車で送りなさい」

厨房に向かって声を掛けるまどか。

「了解しました。まどか様」

佐々木が扉から音もなく現れる!

「あれ!?佐々木さんさっき厨房にいませんでした?」

天峰が佐々木の登場に驚く。

「ええ、いましたよ?」

何時の間にか手に持っていた紅茶を机の上に置く。

「ワープですか?」

「天峰様。あまり老人をからかう物ではありませんよ?トリックです」

そう言ってにっこり笑う。

 

 

 

まどかのリムジン内

「……天峰……結局最後の……一人は?」

何かの拍子に思い出したのか、夕日が天峰に最後のメンバーの事を聴く。

「最後の一人?ああ!藍雨ちゃんの事だよ、以外かもしれないけれど藍雨ちゃんって意外とスポーツとかできるんだよ、一回関節技された事が有るんだよね」

「……関節技?」

思いで深そうに語る天峰と明らかに不振がる夕日!!

どんなシチュエーションで関節技を掛けられたかは読者の想像にお任せします!!

「天峰様、坂宮様。まどか様のワガママに付き合って頂きありがとうございます」

運転席から佐々木が二人に声を掛ける。

「いいえ~構いませんよ。自分がしたかったんですから」

「私が後もう半世紀ほど若ければ年齢を偽ってでも参加したんですが……まどか様をお願いします」

穏やかな口調でそう話す佐々木、彼流の冗談なのだろう。

「天峰様、坂宮様。まどか様は孤独な方なのです……若いその身にトレーディアグループの重圧がかかっています。イギリスでは友人と呼べる方もおらず誰にも心を開きませんでした……ついには山重様との決別。あの方が活力を取り出したのはお二方のお陰です!!本当にありがとうございます……どうか、どうかこれからもまどか様のおそばにいてやってください」

何時ものヒョウヒョウとした感じではなく、言葉の端に嗚咽の様な物が混ざっていたのを天峰は感じた。

(佐々木さんはまどかちゃんの一番近くに居たんだ……ずっと無力を噛みしめていたんだろうな……)

佐々木の声からついそんな想像をしていまう、天峰が何年もまどかに仕えた佐々木の心情を真の意味で理解する事は出来ないだろう……

しかしその言葉に有る重みは理解することが出来た。

「佐々木さん……俺」

「そろそろ自宅ですぞ?」

天峰の言葉を遮るようにそう言って、天峰の家の前に車を止める。

そして恭しく天峰の座っているドアを開ける。

その眼には涙などなかった。

唯、託すという固い意思が有った。

「夕日ちゃん行こうか」

「……うん」

これ以上の言葉は不要。

後は態度で示すべきと思い敢えて天峰はもう言葉を掛けなかった。

「佐々木さんありがとうございます」

「こちらこそ……」

二人はそう言葉を交わし別れた。

 

「お!兄貴帰ってきたのか……どうした?二人してそんな真剣な顔して?」

天音が帰ってきた天峰を見て不思議そうな顔をする。

「負けられない物が出来たんだよ」

「……そう」

天峰の言葉に夕日が頷く。

「ふーん。兄貴にしては珍しくいい顔してんジャン?オレそういう奴嫌いじゃねーよ。ところで車で帰ってきたみたいだけど……チャリ(自転車)は?」

何気ない天音の言葉に固まる天峰!!

1秒、2秒、3秒、固まる!!そして絶叫!!

「し、しまった~!!!」

今更学校に自転車を置いてきたことを思い出しがっくりとうなだれる!!

うなだれる天峰の頭に夕日がポンと手を乗せる。

「夕日ちゃ~ん……」

「……明日は……一緒に……バスで行こ?」

最期まで閉まらない主人公!!それが天峰!!

 

 

 

翌日

「おっすヤケ!おはよー」

教室にすでに来ていた八家に挨拶する天峰。

「おお、今日ははえーな」

自分の席に座って小説を読んでいた八家が本から目をそらし挨拶する。

「今日はバスで来たんだ、だからかな?」

自分の席に荷物を置き八家の所に来る。

「何読んでんだ?」

「『未亡人の午後』若くして夫を亡くした人妻が、偶然郵便配達員に襲われて自分の『女』を取り戻していく感動ストーリー。人妻の背徳感の心理描写が濃くて良い」

なぜか官能小説を純文学の様に説明する八家!!

しかも朝っぱらから堂々と!!

「ロリものは無いのかよ?」

お前もかよ!!主人公!!

「もちろんある。ほら、『俺ツインテ幼女に成ります!!』神のミスで死んだ主人公がツインテ限定で小学生に乗り移れるようになる話、攻めと受けが目まぐるしく変わるからちょっと読みにくいかな……貸そうか?」

机からもう一冊本を取り出す八家。

「おお!借りる借りる!!あ!後この前モーソンで見た……えっと?なんて言ったっけ?」

夕日と一緒に行ったコンビニの本も借りようとする!!

大丈夫か!?主人公!!

「検索を始めよう」

スッと八家が立ち上がり脳内に大量の本棚が浮かぶ。

「キーワードは?」

「幼女、2次元、大人の階段」

天峰が言葉を発する度八家の脳内で本が絞られてい行く!!

「最後にモーソンの店長の仕入れ傾向を加えて……解ったぞ!『千尋と一緒!!大人の階段のぼちゃお!!』だ!」

喉のつっかえが取れたように本のタイトルを口にする!!

ポチポチとスマートフォンを触って本の表紙を表示する。

朝の教室で!!堂々と!!

「それだ!!それだよヤケ!!持ってるか?」

八家が見事に天峰の探していた本を見つける。

「もちろんさ!家に有るから今度貸してあげるよ!!」

「センキューヤケ!!」

男二人の猥談!!此処に極まり!!

『先輩だいすき!!先輩だいすき!!先輩だいすき!!』

その時タイミング良く天峰の携帯に着信が来た。

「俺に気にせず出なよ?」

八家がそう言いながら椅子に座ってさっきの本を読み始める。

「おう、解った悪いな」

ピッ!

「はい、もしもし幻原です」

相手も見ずに電話に出る。

「庶民!!大変ですわ!!出涸らしが風邪をひきましたの!!」

電話の相手はまどか。

どうやら木枯が風邪をひいたらしい。

「そんな……大会は明日なのに……」

おろおろする天峰。

その横で、八家が本を閉じた。

「どうやら、俺の出番の様だな?」

そう言ってニヒルに笑って立ち上がった。

 

野原 八家参戦!!




今回まさかのキャラの参戦!!
作者としては皆様にサプライズ(予想出来ない)作品を目指しています。
まだまだ勉強中ですが……


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こらぁ!!野原!!何やってんだ!!

なんだかすごい時間がかかりました。
楽しみにしていた人ごめんなさい!!
失踪はしてませんよ?


休み時間。

天峰は気が進まないながらもまどかのケータイに電話をしていた。

「あ、もしもし?まどかちゃん?俺、天峰だけど……」

「ああ、庶民……代わりのメンバーは何とかなりました?一応出場可能人数はそろってますけど……」

不安そうなまどかの声、後ろで微かに咳をする声も聞こえてくる。

どうやら木枯の看病をしている様だった。

「ああ、それなら……何とかなりそう……かな?」

不安に成りながらもそれに応える。

正直天峰は八家がどの程度の能力が有るか知らないのだ。

不安なのもうなずける話である。

「はっきりしませんのね?まぁ良いですわ……とにかく今日も学校が終わり次第佐々木を向かわせますから、今日は家に泊まって明日直接会場に向かう様に!」

そう言うと電話が切れた。

(うーん……ヤケを信じてない訳じゃないけど……大丈夫かな?)

明日の事を思うとますます心配になる天峰。

(にしても……まどかちゃん遂にデレたか!?イヤ!!まだ正確にはデレていない!!ツンな言葉で優しい行為が来る段階!!俺が思うにツンが有る子のここが一番の魅力だと思う!!たとえるならバレンタインがわかりやすいか?『大好き』と書かれた手作りチョコがデレ100とすると、あれは10円チョコ!!人によってはまだまだと思うかもしれない!!しかしこれはツンとデレを同時に味わう事の出来る唯一の場面!!俺はこの瞬間こそが最高だと思う!!その輝きは女児から少女に成長する幼女のごとk…)

長くなるので割愛♥あんまり読むと頭がおかしくなるよ?

悩ましげな表情をしているが、机の中にはヤケから借りた本がちゃっかり有る!!

彼の残念さが良くわかる!!

 

 

 

放課後

中等部に向かい夕日と合流する天峰、その足で駐車場に向かっていく。

学校の駐車場にもうすっかり見慣れたまどかのリムジンが停まっている。

「おまたせしましたわね?」

窓からまどかが姿を現す。(ダジャレじゃないよ?)

「ああ、まどかちゃんお迎えありがと」

「あら?庶民が見つけた助っ人は何処にいますの?」

キョロキョロと辺りを見回す。

「実はそれがさ……俺の親友のヤケって奴が参加してくれることになったんだけど……」

天峰が気不味そうに話しだす。

「さっさと言いなさいな!!」

「勝手に帰っちゃいました、テヘ!!」

かわいく舌を出して誤魔化す天峰。

「はぁ!?ちょっとソレどういう事ですの!?その……えっと誰でしたっけ?」

「ヤケ?」

「そうです!!その焼け?でしたっけ?大会は明日だって知ってますの!?」

半場ヒステリック気味に声を荒げるまどか!!

周りにいた学生がビクッとこちらを見るが気に留めないまどかの言葉は続く!!

「ちょっとその方誠意というか……心構えとかが足りないんじゃありませんの!?一体何を思った帰って行ったんですの!?」

「ああ、それなら……」

 

以下回想~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「お前ホントにできるのかボーノレとか……」

心配そうに八家に聴く天峰。

当たり前だがボーノレはあまりポピュラーなスポーツ?ではない。

そもそも八家が知っているかどうかすら怪しいのだ。

しかしそれに対して意外な言葉が帰って来た。

「何言ってるんだよ?ボーノレの会場俺んちのすぐ近くだぜ?この季節になるとオカシナ特技持った奴らが集まって来てさ~。俺んちの近くのコンビニで作戦会議とかしている奴らもいんだよ?知らない訳ないじゃん」

淡々と話す八家の言葉に目が思わず点になる天峰。

「え?じゃあ……お前って経験者?」

あまりの出来事に理解が追い付いていない天峰が、何とか言葉を紡ぐ。

「いや……経験者って訳じゃねーよ?確かに何度か面白そうだから見に行った事は有るし、大体のルールも把握してるけど実際にやったことはないな」

実にあっけらかんと八家が言い放つ。

「え?じゃあなんで俺がボーノレ部に行く時教えてくれなかったんだよ?」

「いや、お前ボーノレじゃなくて、『総合ボール球技部』って言ってたじゃん。『総合ボーノレ王求技部』って言ってりゃ解ったぞ?」

圧倒的なすれ違い!!ガクッと膝から崩れ落ちる天峰!!

「マジか……マジだ……マジで?しょうか?つまり俺たちの中でもかなりの経験者?」

「いや……だから実際にやったことは……」

訂正しようとする八家。

しかし!!天峰は止まらない!!

「イヤイヤ!!場合によっては超戦力ジャン!!さっそく明日まで練習しようぜ?」

思いも依らぬ強力?な味方の登場でテンションが上がる天峰!!

しかし!!

「あ、ワリ。練習はパスで、今日で点描画仕上げたいんだ。提出も期限近いし……んじゃね」

そう言って学校が終わると同時に部室に入りこんでしまったのだ!!

部室の中からは

「うおぉおぉおおお!!八斗!!百裂点描拳!!あたたたたたたたたたたたたた!!あったたたたたたたたたたたたたたたたた!!!目指せ!!『しゅごいぃいい!!腕がいっぱいあるみたいぃっぃい!!』あたたあたたたたったたああたたたったたあああ」

八家の自分の夢に対して真剣に努力する声が響く。

「こらぁ!!野原!!何やってんだ!!」

あ、怒られた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「という風なんだけど……うわ!」

天峰の言葉を聞いていたまどかが鬼のような形相をしている!!

「なんなんですの!?その訳解らない人は!!やる気が足りませんわよ!!やる気が!!これが噂に聞く『ゆとり』という奴ですの!?」

その場でダンダンと地団太を踏む!!

「(癇癪もかわいいな)まどかちゃん落ち着いて!!俺達は俺達でしっかりやっていけばいいんだよ!4人でも何とかなる筈さ。だからおちついて、ね?」

何とかまどかをなだめようとする天峰。

「ほら、夕日ちゃんも一緒になだめて!!」

手におえないと判断した天峰が夕日に助けを求めるが……

「……めんどくさい」

そう言って完全無視!!

結局、ひたすら家に付くまでまどかの愚痴に付き合わされた天峰であった。

 

 

 

「ふう、完成だ……」

そう言ってペンを机に置く男。野原 八家。

夢中だったのか、気が付くと外はすっかり夜の帳が降りており、自分以外の部員は一人もいない。しかし八家の中には心地よい疲れと、確かな満足が有った。

彼が今週の初めから書き始めていた現代リメイク風、モナリザが完成した。

イマイチ萌えないモナリザをラノベの絵風にリメイクする、というのがコンセプトで歴史に有るイマイチ萌えない名絵を、かわいいけどどこか不健全な匂いのする作品に書き換えた。

道具をかたずけ、カバンを持って駐輪場に向かう。

「待たせたな俺の8(エイト)・ビート・ヒート……」

自分の自転車にまたがる。

「あ、天峰のヤツサイクロンシューター(自転車)また忘れてる……学習力のない奴だな……きっと年中幼女幼女言ってるせいで頭にカビが生えたに違いないな」

ニヤリとしながら自転車を発進させる。

駅前を通る時僅かに空腹を感じ、自転車をハンバーガーチェーン店に停車させる。

「明日はボーノレか……」

思わすその言葉が八家の口から出る。

丁度駅から多数の乗客たちが降りて来た所だった。

「この季節はこうなるんだよな……」

八家の隣をギターの音を口で出しながら通る男がいる、何を思ったのか竹刀にWiiリモコンをストラップの様に付けた男が横を通る。

ハンバーガー屋の店内に入ると、モデルガンを机に並べながら整備する男の前で堂々とBL同人を読む女がいる。

逆に目を向ければ、楽しそうに空の紙コップを積む男達が居る。

それだけではない少し目を凝らせば、おかしなやつらは何処にでもいるのだ。

間違いなく集まって来ているのだ!!全国から歴史の闇に葬られたスポーツに魅入られた人々が……

「明日はボーノレか……」

感慨深そうにヤケが一人つぶやく。




遂にあのキャラクターが本格始動!!
次回から遂に大会が始める予定です!!


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ううん!!キモい方!!

今回は前応募してもらったオリジナルキャラクターを登場させました。
沢山の応募ありがとうございました。
此処にて感謝の言葉をお送りさせていただきます。


天峰達の住む町にある天井付の全天候適用屋内型グラウンド「フリーアグレッシブ」、通称 豪華な空き地。

前任の市長が街の若者のスポーツを応援するために、市民の血税を搾り取って作った巨大な運動施設だが、一回の使用料がべらぼうに高くしかしその割には大した設備もなく、市民からはもっぱら「デカいだけの有料体育館」「空き地の方がまだ良かった」「フリーとか言ってるのに有料?」「大人しくラブホ建設しとけ」などの輝かしい言葉をいただいている施設である。

しかし!!今この空き地で世紀の戦いが始まろうとしている!!

 

 

 

無駄に250台まで車を停められる駐車場に天峰達一行が降り立った。

「いよいよ今日ですわね……」

「みんなガンバってね!!私一生懸命応援するから!!」

「うわ~、大きいです……なんか緊張してきました!」

「藍雨ちゃん、もう一回『大きいです……』って言ってくんない?出来れば少し羞恥を込めて……」

「…………」キチ……スッ

「夕日ちゃん!?無言のカッターはやめて!!」

5人がそれぞれ真剣な面持ち(若干一名違う)で今日の会場となるフリーアグレッシブを見上げる。

天峰達が会場を見上げている現在も次々に会場に人が吸いこまれていく。

「よう、天峰。遅かったな?」

天峰の後ろから、すでに天峰にとっては聞きなれた声がかけられた。

「ヤケ!着てたのか?」

「当たり前だろ?此処、俺んちのすぐ近くだしな。ところで……」

そう言ってはにかんで笑う。

「天峰、まさかと思うけどこのチームって、俺達以外ってまさかオールロリータ?」

八家が他の4人に視線を送る。

「もちろんさ!!」

それに対して凄まじく良い笑顔で答える!!

天峰まさに!!ヘヴン状態!!

「なるほど……さしずめこのメンバーは幻原 天峰のロリロリハーレム隊って訳か……」

真剣なまなざしで天峰達を再び見る。

「そんな訳……有るか?まあ、いいや早くエントリーしようぜ?」

天峰達はロリーズの刺すような視線を背中に感じながら、エントリーに向かった。

今回は前回よりも数が少ないらしく、エントリー自体は早くに完了した。

まあ、チーム名の決定で少しもめたが……

結局は藍雨の提案したチーム「天気屋」に決定した。

 

「まったく……なんでおとなしく『トレーディア奴隷団』にしなかったんですの!?」

自分の名前が採用されずに不機嫌になるまどか。

「いや、チーム名に奴隷って無いでしょ!?せめて俺の『ロリコニックナイツ』にしなかったんだ?」

「……天峰……さすがに……その名前は無い……」

天峰の案を却下した夕日が横から話しかける。

因みに夕日はカッターを取り出しチーム名の記入欄を、血の赤一色で染めようとしたため全員で止められた。

「間を取って私の『マヨネーズごはん』でも良かったのに……」

やや落ち込んだように木枯が頬を膨らませる。

「いや、それを言うなら俺の……」

「ヤケは話にならないからな!?」

天峰が突っ込む!!

八家はチーム名の記入欄に「もっと欲しいのアンアン」と書こうとしていた。

本人曰く読み上げる人が女性の可能性に賭けたらしい。

最早チーム名かどうかも怪しい!!

そんな一行の間に、山重と森林が立ちふさがる!!

「おはよう!!幻原!!そしてまどか!!俺に負ける用意は出来たか!!」

「山ッチ違うって、『俺達』だよ。まあ?最初っから仲間割れシテル?チームなんて敵じゃないんだけど?」

二人がこちらを挑発するが……

「うるさいですわ!!今取り込み中ですわ!!ねぇ?やっぱり今から名前変えません?」

「ああ、先輩……すみません今こっち忙しいんで」

「……天峰……この……暑苦しい人と……ハイネが嫌いそう……な人誰?」

「ゆーかちゃん知らないの?私のおにーちゃんだよ?」

「……暑苦しい方?」

「ううん!!キモい方!!」

「き……キモ!?」

全く相手にされない!!先輩たち早くも涙目!!

無視よくない!!イジメ絶対ダメ!!

「フン!!い、今のうちに!!吠えておけ!!」

「お、お前ら覚えてろよ!!絶対恥かかせてやるからな!!」

先輩二人組は捨て台詞を吐いて帰って行った!!

 

暫くして会場にアナウンスが鳴り響く。

「開始時間10分前に成りました~、選手の方々は1番ゲートにチーム毎で集合してくださ~い。繰り返しま~す。開始時間10分前に成りました~、選手の方々は……」

 

「さあ、行こうかみんな?いよいよだ!!気合い入れて行こう!!」

天峰の掛け声にそれぞれが頷きゲートに向かって行った。

 

 

 

そして再びアナウンスが会場に響き渡った。

『さーて皆さん遂にいよいよ始まりました!!第913回目のボーノレグランプリです!!歴史の闇に埋もれた悲運の競技ボーノレ!!しかし!!いま!!そんな競技を競うべく全国から腕利きのボーノレプレイヤー達が集まりました!!さて、今回はどの様なプレイが見れるのか!?わたくし昨日から遠足前の小学生の様に眠れませんでした!!申し遅れましたが実況はわたくし!!タナトスこと、立花 利康(たちばな としやす)がお送りします!!そして……解説は外道 進二朗(そとみち しんじろう)さんです!!』

『ゲ~ドゲドゲド!!愚か者共の皆さんこんにちは!!趣味は電車の乗り放題チケットを買って、なるべく混む時間帯の優先席でお年寄りを前に昼寝をする事ゲド。日曜はもっぱらデートスポットで奇声を上げてカップルのテンションを下げる仕事をしていますゲド。《まさに外道》がキャッチコピーの外道 進二朗ゲド!!貴重な休みを馬鹿な事に使うお前らを今日は嘲笑しに来てやったゲドよ~?』

解説と実況の二人が声高らかに自己紹介をする。

 

「なあ、ヤケ。あの変な二人組色々と大丈夫なのか?俺、スゴイ心配なんだけど……」

不安を感じた天峰が八家に話しかけるが……

「おい!!天峰!!スゲーぞ!!今日はタナトスさんと外道さんの奇跡のコンビだぜ!?こんな事10年以上なかったんだぜ!?まじか!!今日あの二人に俺達を見てもらえるんだよな!?」

非常にハイテンションで興奮した様子の八家、言われてみれば周りの人間も同じような感じだ、中には涙を流しながらケータイで声を録音している人もいる……

(え……何ここの人たち……)

あまりの奇行に天峰は絶句する。

『それでは名前を呼ばれたチームから入場してくださ~い』

タナトスの声が響く!!

いよいよ入場が始まる!!

 

『エントリーナンバー1!!《H&S連合》!!』

タナトスの言葉と共に元気そうに手を振る少女と、逆にひたすら寡黙で愛想を持たないモデルガンを背中に背負った少年が歩いてきた。

『今大会の注目のチーム!!参加人数僅か2名!!八咲 鈴菜(ハチザキ スズナ)と笹暮 硝(ササクレ ショウ)の二人が織りなすキラーマシーンの様なボーノレ!!実はこの二人!!前々回のボーノレ大会で優勝を争った二チームのメンバー!!お互い意気投合し今回はチームを組んだとのことです!!さて、今回は何人に精神的、肉体的苦痛をもたらすのかぁああああ!!!』

 

 

 

『エントリーナンバー2!!《ゴールデンストーンズ》!!』

再びタナトスの声と共に入って来たのは見た目がそっくりな双子、コック帽と白いエプロンをつけている。

二人してゆっくり歩いていたが、何かに気が付き待合室に戻って行った。

次に現れたのは日焼けした大柄な男でまさにスポーツマンと言った感じの男で、何故か二人に引っ張られていた。

『ゴールデンストーンズはリーダー蛇野 獅石(ヘビノ シシャク)とそれをサポートする金平 人(カネヒラ ジン)と金平 牛(ギュウ)の兄弟から成るチームです!!総合能力では歴代ボーノレトップレベルの蛇野が居ますが、実は彼は非常に上がり性!!毎回実力の半分も出せません!!今回もいかに早く緊張をほぐすかがカギになります!!しかしその件に関しては金平兄弟どうやら思惑が有るようです!!さて!!今回はどんな力を見せてくれるのか!?非常に楽しみです!!』

 

 

 

『エントリーナンバー3!!《園田家》!!』

その言葉と共に入ってくるのは三人の少年達!!えらそうに胸を張る男の後ろを、無駄に笑顔の少年と、手を控え目に振りながら入ってくる。

『園田家は実に珍しいチームです!!家とついてますが完全に血のつながりがありません!!偶然同じ苗字の様です!!具体的に紹介しますと一番前のエラそうなのが「全体的におかしい方の園田」こと園田 王聖(ソノダ オウセイ)!!二人目の無駄に笑顔の方が「どっかおかしい方の園田」こと園田 文部(もんぶ)そして最後にこのチーム唯一の常識人!!「おかしくない方の園田」こと園田 灯直(ひじき)!!めくるめく園田ワールド!!絶妙な空間を形成している!!一体どのようなプレイを見せてくれるのかぁあああ!!』

 

 

 

『エントリーナンバー4!!《フリーダムソングス》!!』

名前が呼ばれた瞬間バイクの音が大音量で響渡った!!

しかし入口から出てきたのは何の変哲もない5人組の少年達!!

『フリーダムソングスは何とボイスパーカッションを得意とする4人組です!!リーダーの刻々 刻(コクコク キザム)はまるでホントの様にあらとあらゆる音を声で奏でる人呼んで「すべての音を刻みし者」と呼ばれています!!そのわきを固める4人は鍵盤ハーモニカ、水笛、トライアングル、カスタネット等微妙な楽器を演奏する集団です!!一体何をしでかすのか!?楽しみで成りません!!』

 

 

 

『さあさあ!!次行ってみましょう!!エントリーナンバー5!!《天気屋》!!』

遂に天峰達のチームが呼ばれた。

「行こうか、みんな?」

そう言って天峰達は舞台に飛び出した!!

 




ツッコミがたりない……
ボケは余ってるのに……


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下の名前で呼べよ!!

すみません!!なんか遅れました!!
決してエタル気はないので待っていてください!!


何時もは全く人が寄り付かず「閑古鳥すら近寄らない」と散々馬鹿にされたフリーアグレッシブにタナトスの声が響く!!

「さぁて!!ご来場の皆様!おまたせしました!!遂に!!遂に!!豪華な空き地こと、ここフリーアグレッシブにすべてのボーノレ参加チームが集合しました!!!そうそうたる面々です!!さて参加チームの皆さん!!今日は日々の練習の成果を存分に発揮してください!!」

「ゲドゲド!!人生を無駄に浪費する皆様こんにちはゲド!!見れば見るほどどうしょうもない奴らばかりゲドねぇ!!こんなスポーツするくらいならデートにでも行った方がマシゲドよ?もっとも相手が居ればゲド!!」

同じく外道の笑い声が響く!!

天峰としてはなんでこんな奴が呼ばれているのか全く分からないが、他の参加者曰く「これが良い!!」「この外道節は外道さん以外に考えられない」など一部カルトな人気を獲得しているらしい。

《H&S連合》《ゴールデンストーンズ》《園田家》《フリーダムソングス》《天気屋》そして先輩たちが所属するチーム《志余束学園ボーノレ部》……今大会はこの6チームで優勝を争う!!

 

 

 

大会プログラムに従いすべてのチームがグラウンドに集合する。

開会のあいさつが市長から有るそうだ。

壇上に市長がのぼりマイクを調節する。

「えー、皆様こんにちは。ご存じこの街の市長を務めさせてもらっています……」

「カツラのズラ太郎ゲド!!裏金よりも頭のハゲを隠す方が上手な市長の鑑ゲド!!ゲ~ドゲドゲド!!」

突如市長の挨拶を遮り、外道の言葉が会場に響く!!

突然の事に市長、参加者共に唖然とする!!

「さぁ~て!!解説者特権ゲド!!スポーツマンシップに則ってプレーする事を宣誓するゲド!!」

その言葉と共に参加者全員の目付が変わる!!

「マイクを奪え!!」

誰かがそう叫ぶ!!それを始めとした様に次々と声が上がる!!

「おおおお!!!奪えぇえええ!!」「俺が!!!俺が宣誓するんだ!!」「じゃまだぁ!!」

会場の選手が一斉に市長の居る高台めざし走り出す!!

「え、ちょ!?み、みなさん!?なにごと……うわ!!」

市長が押し倒されマイクを奪おうとする選手たち!!

競技はもうすでに始まっている!!

 

第一競技『選手宣誓』!!

それはその名の通り「スポーツマンシップに則り~」で始まる宣誓の言葉で、運動会などの行事ではもはやお馴染みだがボーノレにももちろんそれは存在する!!

唯一の違いと言えば誰が選手宣誓をするか決まっていない事と、宣誓をした人のチームには得点が入る事である!!

 

「庶民!!行きますわよ!!」

まどかが天峰を叱咤する!!

「解ってるって!!」

『選手宣誓』は明らかに体力と体格がモノを言う勝負。天峰達のチームは必然的に天峰と八家がメインの戦い方になる。

「そりゃぁあああ!!」

掛け声と共に市長の持つマイクに向かって走り出す!!

「ああっ!!」

参加者の一人に押し倒され市長のズラとマイクが宙を舞う!!

「獲ったぞ!!兄さん!!」

コック帽とエプロンをつけた男(天峰の記憶が正しければ金平 牛だったか?)が壇上にいる自分と同じ顔(兄の人だと思われる)にマイクを投げ渡す!!

しかしそこで人が集中した中で軽快な声が響く。

「おおーっと!!そうはいかないんだよねー!!硝ちゃん!!お願い!!」

「了解」

恐るべきことに一人の少女が飛び上がった!!どうやら自分のチームのメンバーを足場にしたようだ!!

「キャッチ!!イェイ!!邪魔邪魔!!どいてよね!!」

そして少女 八咲 鈴菜はそのまま人をかき分け壇上を目指す!!

「おっと!!そうはいかんな!!園田と園田よ!!アヤツを捕獲するのだ!!」

何を思ったのかマントを装備した男、全体的におかしい方の園田がおかしくない方の園田と、どっかおかしい方の園田に指示を出す。

*園田書きまくってゲシュタルトが……

 

「りょーかーい!!」

「いや、全員園田だから!!下の名前で呼べよ!!」

園田二人組が鈴菜を押さえようと走りこむ!!

「無駄無駄ぁ!!私は二人程度には……止められないよ!!」

そう言って、鈴菜は圧倒的な身体能力で二人を回避するが!!

「うひひひ!!偶然触っちゃっても問題ないよね!!レッツ!!πターッチ」

そこに向かうは!!変態!!野原 八家!!

「うわぁ!!キモ!!」

容赦ない蹴りが八家にヒットする!!

「ふっ!!甘い!!これ位俺の業界ではご褒美だぜ!!」

良い顔で凄まじく恥ずかしい事を言い放つ!!

「女!!マイクを渡してもらうぞ!!」

さらにそこに山重がマイクを奪おうと走る!!

「え?邪魔だから」

「ぐぶぅ!!」

八家と同じく蹴りが山重を襲い、一撃で倒れこむ!!

「うわ、返してよ!!」

しかし山重の犠牲は無駄ではなかった!!

油断した鈴菜がマイクを落とす。

「よし!取ったぜ!!」

誰かがそう言って壇上にマイクを投げる。

最早誰がやったか関係なくメンバー達が壇上に殺到した!!

「……うわ……レベル高けー……」

半場呆然となりながらも天峰も壇上に向かう。

そして遂に!!

「選手……宣誓……ボーノレ始め……」

壇上で開会の挨拶がされる!!

「この声……夕日ちゃんか!!」

疑問を感じながらも、自分のチームの勝利を喜ぶ天峰!!

しかしそうではなかった!!

「ゲドゲド!!遂に決まった様ゲドね~。今回の結果は刻々 刻率いるフリーダムソングズゲド!!」

外道が勝者の名前を上げる!!

「へ!?夕日ちゃんじゃ……」

「天峰……私は……ここにいた……」

唖然とする天峰の後ろから夕日が声をかけた。

「え?え?だって今……」

混乱する天峰。

「声マネですよ先輩?」

後ろから藍雨の声がして振り向くが、そこに居たのは小柄な少年。

「はじめまして、刻々 刻です。声マネが得意なんです、今回はアナタ達のチームの声をマネさせてもらいました」

そう言って踵を返す。

先ほどの混戦、もはやだれが喋っているのかわからない。

おそらくだが、あの刻という男は各チームの声をまねて遠まわしに競技をコントロールしたのだろう。

体格ではなく頭脳を使ったプレイヤーの様だ。

「やりますわね……体格が向いていないからと言って……今の競技は油断しましたが……次はそう行きませんわよ!!」

去っていく刻の背を見てまどかは静かに闘志を燃やした。

え?なにか忘れてるって?さあ?知らないな~

「……おのれ……ボーノレ……め……私のズラを……」

 

 

 

 

「うわ~!!広ーい!!」

各チーム毎に分けられた控室に入るなり木枯が声を上げる。

フリーアグレッシブには全部で15もの選手用控室が存在し、その中には机と椅子、さらに作戦会議用ホワイトボード、個人用シャーワー、貴重品入れ、グラウンドを見るためのTVなどが備え付けられており、非常に豪華な造りになっている。

問題点を上げるならやはり使用料の高さと、数の割には肝心のグラウンドの整備が行き届いてない点か。

「ちょっと!!病み上がりではしゃぐんじゃありませんわ!!」

「おー……なんかすごいな……」

「あ!!DVD見れるぞ!!コンビニで暇つぶしになんかDVD付の本買ってくれば良かったな……」

「わぁ!!すごい!!なんだか緊張しますね!!」

「……そんな事……ない……」

天峰達天気屋のメンバーが順に入ってくる。

 

「おほん!!皆さんまずは開会式お疲れ様ですわ。残念ながら先手は他のチームに……聴きなさい!!」

まどかが皆の注目を集めようとするが、それぞれが勝手に動くためうまくいかない!!

「まぁまぁ……まどかちゃん落ち着いて、まだ始まったばっかりじゃない?」

天峰が気負ったまどかを落ち着かせようとする、がまどかは天峰の事など気にしない。

「何を言ってますの!?他のチームの出鼻をくじかれましたのよ!?」

ヒステリー気味に叫ぶ!!

その声にワイワイ騒いでいたメンバー達がぴたりと、騒ぐのをやめる。

「良いですか!!コレは勝負なのですよ!!勝たなくては意味が有りませんの!!『楽しんだ者、勝ち』という言葉が有りますが所詮それは敗者の戯言ですわ!!勝たなければ意味がないんですの!!」

たたみかけるようにまどかがそう言い放つ!!

「ふー……勝負の世界、ね……それってホントにイイの?」

やれやれと言った感じで八家がゆっくり立ち上がる。

「ねぇ?……えっと……天峰のハーレム要因3ちゃん?」

「ま・ど・か・ですわ!!なんですのハーレム要因って!!私の事馬鹿にしてますの!」

まどかが怒り狂う!!無理もないのだが!!

「ああ、ごめんごめん。負けて終わりってさ、馬鹿らしくない?俺はさ、絶対折れちゃいけない剣よりも、何度折れても直せる剣の方がすごいと思うんだ、何度でもってのがすごいよね?俺はそうなりたいんだ、たくさんの負けを知って、たくさんの勝ちを知って……その先にしかない物が有ると思うんだ」

ゆっくりと八家が語りかける。

 

その時放送が鳴り響く!!

「おまたせしたゲド!!第一競技の参加チームが決まったゲド!!『H&S連合』VS『天気屋』!!両チームはグラウンドに集合ゲド!!」

 

「さて……この話はまた後かな?天峰、行こうか?」

そう言って八家が立ち上がった。

 




なんか八家が恰好良くなってきた!!
キャラクターが成長しているのか!?


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これ位ご褒美だぜ!!

大分遅れました!!すみません!!
決してしてエタル気はございません!!
ゆっくりと待っていてください。




天峰達『天気屋』の少し重くなった空気を崩すように、その場で放送が鳴り響いた。

それは開会式が終わり、全体ではなくチーム毎での第1回戦が始まる事を意味している。

「おまたせしたゲド!!第一競技の参加チームが決まったゲド!!『H&S連合』VS『天気屋』ゲド!!」

 

チーム戦一回戦目の試合から天峰のチームが呼ばれる。

それぞれ言いたいことが有るのだろうが、今はそれどころではない。

『天気屋』メンバーは続々と立ち上がり控室を後にする。

天峰をはじめとしたメンバー達は不安からなのか、声すら上げずにグラウンドを目指す。

グラウンドの照明を浴びた瞬間、観客席から割れんばかりの歓声が響いた!!

「わーわー!!」「キャーキャー!!」「待ってたぜ!!」「試合期待してるぜ!!」

しかし……

「なんだよコレ……」

天峰が驚愕する、何と観客席には殆ど人がいない!!先ほどまでの歓声は実はすべてテープに寄る物だった!!

がっかりだよ!!

 

『ゲ~ドゲドゲド!!お前らに観客がいると思ったゲドかぁ?ザンネ~ンでした!いる訳ないゲド!!コレはフリーダムソングズの皆さんによって作っていただいたものです、急なお願いに対して快く手伝ってくださった皆さん本当にありがとうございますゲド!!』

『さぁ!注目の第一回の競技です!!どんな試合になるのか!!私楽しみで成りません!!』

会場に外道とタナトスの声が響く。

そしてその声が合図だったように会場に大きな透明の球体が持ち込まれる。

その球体は小さく穴が有り、中ではクジが風に舞っている。(遊園地などのクジのマシーンと全く同じ)

 

チーム戦毎の競技種目は、基本的にランダムある。

それぞれのチームのメンバーの代表がクジを引き、最終的に2種目の内どちらかが審判のその場のテンションによって決定される。

実際に見てもらった方が早いだろう。

 

「両チームの代表者前へ!」

「俺が行っても良いよな?」

タナトスの言葉に天峰が皆に確認を取る。

「かまいませんわ、大して競技に関係なさそうですし」

「……行ってらっしゃい……」

 

一方で……

「ねぇ、硝ちゃん。私行ってきて良いかな?誰でもいいからぶっ潰したいんだぁ!」

「任せる」

『H&S連合』の二人も手短な会話を終え、鈴菜がクジの舞う球体に向かう。

 

「それぞれ一枚づつクジを引いてください!」

「解りました」

「了解♪」

ズボ、ズボッと両人がマシンに手を入れクジを取り出す。

「フムフム……今回は、グレイ部マッシ部とガンバ零度マーチですか……外道さーん!!どっちが見たいですかー?」

クジの内容を確認次第タナトスが解説席の外道に声をその場でかける。

 

(ええー!?そんな雑なシステムなの?)

天峰があんぐりと口を開ける。

周りのメンバー達が全く動揺していない所を見るとそれが普通の様だ。

「ゲドッ!?このチームでグレイ部マッシ部ゲド!?それに決定ゲド!!」

勢いよく立ち上がり天峰の引いた競技を指名する。

それと同時にアナウンスが会場中に鳴り響く!!

『第一競技はグレイ部マッシ部に決定しました、繰り返します!!第一競技はグレイ部マッシ部に決定しました』

 

「あはッ!可哀想に~君たち運がないね~、寄りにも寄ってグレイ部マッシ部か~、コレはもうウチの勝ちだね。せっかくだから思いっきり恥ずかしく負けさせてあげるよ」

そう言って相手チームのメンバー八咲 鈴菜が笑う。

 

「それでは両チーム参加者を選んでください!!制限時間は10分です!!」

タナトスに言われ天峰が自分のチームに帰ろうとするが……

「ねぇ?キミたちのチームのもう一人の子来ない?私が本気で相手してあげるからさ?」

『天気屋』の他のメンバーに聞こえるように声をその場でかける。

その瞳はまるで獲物を見据え、今まさにいたぶる(・・・・)事を決めた猫の様だった。

その瞳に天峰は僅かに血の気が引くのを感じた。

 

「やってくれましたわね……あのチーム相手にグレイ部マッシ部……」

まどかが重たい表情をする。

 

『グレイ部マッシ部』それは基本ルールは『叩いてかぶってじゃんけんポン』と同じだ。

この競技では盾がそれぞれ両人に用意され、テーブルの上にハリセンが置かれる。

じゃんけんをして勝った方が相手をハリセンで叩けるまでは全く同じなのだが、この競技は叩かれても(・・・・・)負けにならない(・・・・・・・)所がポイントだ。

ジャンケンの勝者には30秒の攻撃権が与えられ、この間相手をハリセンで攻撃しても良い。

逆に負けた側は盾を使って体を守って良いが、盾を3回使った時点で敗北となる。

端的にまとめると、相手にハリセンでダメージを与え盾を3回使わせるゲームという事になる。

因みに

木枯が持って来たビデオに、前々回の戦いで八咲 鈴菜が相手を叩きのめすシーンがばっちり収録されていた。

彼女はその見た目に反し、人間とは思えない威力をハリセンで叩きだすのだ!!

鈴菜とこの競技は相性が素晴らしく良いと言える。

 

「私がやりましょうか?」

藍雨がおずおずと手を上げる、藍雨の特技は身軽さとバランス感覚。

相手のハリセンを回避するなら最も向いているが……

「藍雨ちゃん……攻撃はハリセンでしか出来ないから藍雨ちゃんじゃちょっと力が足りないんじゃない?」

天峰が進言する。

そうこの競技は力がモノを言う競技、『選手宣誓』と同じく体格では劣る『天気屋』には不利な状況だと言えるだろう。

しかしそんな中、手を上げる人物が一人。

「ああ、俺が出るわ。アッチの子、俺を指名してきたんだろ?」

天峰以外の唯一の男、野原 八家だった。

「出るのか?お前を指名してきたってことは……」

「何か俺に対して思う事が有るんだろうな?けど構わない。だってよ天峰?ロリーズの内誰かを出そうとは思わないだろ?」

心配する天峰に対しそう答え、競技場に歩いて行く。

「ヤケー!!ファイトだ!!」

声をかける天峰を余所に振り返らず無言のサムズアップをする。

幾度も行われた二人のサイン。

今回も八家は同じポーズで応えた。

 

ステージ上にはすでに相手の選手 八咲 鈴菜がスタンバイしていた。

目の前のテーブルにはハリセンが用意されており、すでに腕に盾を持っている。

「アハッ♪来てくれたんだ!待ってたよ?『選手宣誓』ではふざけた事してくれたよね?……ここに来たことをたっぷり後悔させてあげるからさ~」

凄まじく好戦的な表情で八家を睨む。

「『選手宣誓』?なんの事だ?悪いけど覚えてないな?」

盾を腕に装備しながら全く記憶にないと言った様子の八家!!彼は自らの本能のままに動く人間!!

いちいち覚えていないのだ!!

だがここは相手に対する挑発も有ったようだ。

「……チッイ!!むッかつくな~、私の事ここまで馬鹿にしたヤツって初めてかも!!……久しぶりに?本気で?殺っちゃおうかなぁ?」

鈴菜が舌打ちをし、露骨に不機嫌な顔をする!!

その時再び外道が声を上げる!!

『それではグレイ部マッシ部!!スタートゲド!!』

 

「「じゃんけんポン!!」」

両人が手を出すとほぼ同時にスパーンと音がした!!

ドサッと音を立て八家が倒れる!!

「なにが起きたんだ!?」

混乱する天峰に対し静かにアナウンスが答えた。

『ただいまの結果、鈴菜選手にペナルティ発生!!野原選手に1ポイント贈呈されます!!』

電光掲示板に八家にポイントが入った事を知らせる文字が流れる。

自体としては喜ぶべきなのだろうが……

「あれがアイツの手段ですわね……」

まどかが悔しそうに歯噛みする。

鈴菜は相手を痛めつける事に対しては、天才的な才能を見せる!!

この一発で自分の力を、相手に知らせるのだ。

ポイントより相手にダメージを与える事を重視しているあたり、彼女の性格がうかがえる。

「ヤケぇ!!大丈夫か!?」

天峰が必死に呼びかける。

「これ位、無問題!!」

それに対し八家はゆっくりと立ち上がった。

「兎に角これで一点先取だな?」

「へぇ?まだそんな軽口言えるんだ……いい気にならないでよ?コレは私からのプレゼント、ホンの挨拶代り……まだまだまだまだまだまだ!!たっぷり遊んであげるから」

八家の挑発に対し鈴菜が交戦的に笑う。

 

 

 

「「じゃんけんポン!!」」

スパーン!!

「「じゃんけんポン!!」」

……

「「じゃんけんポン!!」」

スパーン!!

「「じゃんけんポン!!」」

スパーン!!

「「じゃんけんポン!!」」

……

その後しばらく二人の戦いが続くが、非常におかしな戦いとなっている。

鈴菜に攻撃権が有るときは八家は全く避けず攻撃を食らっている。

しかし

八家に攻撃権が有るときは八家からは全く攻撃しない!!

完璧に30秒間立ったままなのだ!!

「ねぇ?なんで攻撃しないの?馬鹿なの?な~んの意味もないと思うんだけどぉ?」

おかしそうに鈴菜が言う。そういうのも無理はない、八家の戦い方は完全にセオリーから外れた勝機の無い無謀な戦い。

「なんでって?避けるまでも無いからかな?大した威力じゃないし……」

そう強がっているが顔は腫れてすでに真赤だ。

「何より!!これ位ご褒美だぜ!!ボインちゃ~ん!!」

そう言って指を立て下品に笑う!!

スパーン!!

無意識に鈴菜は八家をハリセンで叩き飛ばしていた!!

その途端再びアナウンスが響く!!

『ピピー!!鈴菜選手、攻撃権時間外の攻撃により八家選手にポイントが追加されます!!』

「いいよ……2点目もあげる……けど正直言って今回のは失敗だな~。こんなにムカついたのはかなり久々!!けどまだ……」

言葉を続けようとしてハッとしたように鈴菜が表情を変える!!

「……これを狙ったんだ?」

「アンタ、なんだかんだ言って気性が荒いだろ?下手にヤルよりもこっちの方が良いみたいだしな?」

睨む鈴菜を横目にボロボロの八家が笑う。

「……コイツ……どうやって殺してやろうかなぁ……二度とボーノレをする気が起きないように……ああ、とりあえずあのふざけたチームは全員徹底的にヤルとして……コイツは見せしめ、見せしめにどうしてやろうか……私の名前を見ただけで震えるように……」

小声で鈴菜がブツブツと言いはじめる。

(よぉし……その調子だ、怒りで我を失え~)

その様子を見て八家がほくそ笑む。

これこそが八家の作戦!!身体能力では勝つことの出来ない相手に唯一勝機が見える戦い方!!

それはひたすら耐える事!!

鈴菜の相手を徹底的に攻撃する作戦に対し!!相手の反則負けを狙った守りの作戦!!

作戦は順調と言えた。

しかし!!

「鈴菜!!」

相手の応援席の笹暮 硝が声を上げる。

「硝ちゃん……」

その言葉を聞いた途端鈴菜の気性が少し収まる。

《落ち着け》無言のうちに硝がそう言った気がした。

「そうだよね、私達はチーム。個人の主義を優先させちゃダメだよね。遊ぶのは勝ちが確定してから……絶対の条件でいたぶる!!」

そう言って真剣な顔で八家に向き直る。

「悪いけどもう、挑発には乗らないよ。勝つために冷静にアナタを倒す」

 

「「じゃんけんポン!!」」

勝ったのは鈴菜!!テーブルに有るハリセンを手にし振りかぶる!!

しかしその時八家は体制を後ろに倒そうとしていた!!

(後ろの回避する気?なら追撃するだけ!!私相手じゃそんなの回避にすらならない!!)

一歩を大きく踏み出し全力で叩きこむ!!

ドカァ!!

(へ!?なんで?)

内心鈴菜は焦った!!相手を攻撃したのはいい、しかしそれは明らかにハリセンの感触ではなく……

『鈴菜選手!!ハリセン以外での攻撃の為ペナルティ発生!!野原選手に1ポイント贈呈!!それにより計3ポイント!!この競技チーム《天気屋》の勝利です!!』

絶望的なアナウンスが響く!!

何故?

その疑問にはすぐたどり着いた。

「ハリセンの持ち手が……」

ハリセンは紙で作られた簡単な物、そして持ち手にテープは張られているが今はそれがほどけていた。

早い話脆くなったハリセンが、鈴菜の腕力に耐え切れなかったのだ!!

「……俺の手番の時、少しずつテープを揺るめたんだ、アンタが振った時すっぽ抜けるように……怒りで我を忘れさせて1回、さっきのテープで2回。3回目はホントは取れずに負けると思った……けどアンタは俺を馬鹿にして遊んだ……アンタはボーノレを舐めたんだ!!ホントはずっと俺より強いのに、ずっと才能が有るのにそこがアンタの敗因だ……」

顔を腫れらしながらゆっくりと八家がステージから降りた。

 

 

 

チーム対抗第一競技 『グレイ部マッシ部』

勝者『天気屋』野原 八家!!




対戦をかいてたら思った以上の長さに……
うーん……人様からもらったキャラクターって思った以上に扱いが難しいですね。
まだまだ精進が必要です。


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……前にも……見た事有るの?

あ~チクショウ……最近幼女を書いていない……
もっと!!もっと私にロリコニュウムを!!



ぐはぁ!?禁断症状か……!?



『H&S連合』と天峰達の対戦が始まって少し経った頃、第二試合が始まろうとしていた。

 

此処は『園田家』の控室、現在2人のメンバーが控え室に待機し、思い思いの時間を過ごしている。

コトッ……ズズッ……「短谷円……」

コトッ……ズズッ……ズズッ……「味シミ屋、イヤ違う。濃口堂」

コトッ……ズズッ……!?……ズズッ!!ズズッ…………

「コレお吸い物じゃねーか!!俺を舐めてんのか!?」

誰に聴かせるでもなく、紙コップにインスタントみそ汁を作り、飲んでいた一人の男 園田 文部が机を激しく叩き立ち上がる!!

その衝撃でその隣の男が作っていたトランプタワーが崩れる!!

「おい!!灯直!!コレお吸い物じゃねーかよ!?」

トランプタワーを作っていた男、園田 灯直に激しく詰め寄る!!

灯直は「やれやれまたか……」と言いたげに言葉をゆっくり紡ぐ。

「……いや、買って来たの俺じゃねーし!!知らねーよ」

火直が反論する。

その言葉に対して文部がキョトンとする、そしてしばらく黙りこみ……

「え?そうだよな?買って来たの俺だった!!あはははは!!」

脈絡も無く笑い出した。

(いい加減にしろよ!?……どうも俺はコイツのテンションには、ついて行けないんだよな……)

内心でやれやれと心労を募らせる。

(けど……アイツよりはマシか……)

そう思った時!!件の人物が扉から姿を現した!!

「ふはははは!!園田と園田よ!!待たせたな!!私が腕によりをかけてジュースを買ってきてやったぞ!!」

すらっとした長身に少し長めの髪、知的で意志の強さを感じる瞳。

ここまでは良い、ここで終わっていたらこの男はただの美男で終わっていた。

しかしそうではない!!

何を思ったのか制服の上にマント+紙で作った王冠。

そして先ほどからしている様に芝居がかった口調!!

『痛い』としか表現できない男がそこにいた!!

この男は園田 王聖 19歳(留年中)!!

『園田家』のリーダーにして「全体的におかしい方の園田」と呼ばれる男!!

「ほぉ~ら、園田よ。ジュースだ、ドクターイエローとメローペッパーどっちがいい?」

そう言って腕に掲げたビニール袋から、緑っぽいド毒々しい液体と黄色っぽいヤバそうな液体を取り出した。

「いや、全員園田だし……下の名前で呼んでくださいよ……」

そう言いつつも黄色いドクターイエローを手にする。

「ほら、園田お前の好きな味噌汁缶も有るぞ?」

「ヤッタァィ!!!ホホホォウ!!」

文部が狂喜乱舞する!!

さっきまで味噌汁飲んでたのに……

 

「お前たち、私のワガママに付き合ってくれてありがとう……絶対優勝台に連れてってやるからな!!」

王聖が力強く二人に宣言する。

「王聖さん……」

「味噌汁の人……」

最早突っ込みはしないでおこう……

 

 

 

その時アナウンスが響きわたる。

『ゲドゲド!!第一競技の結果が出たゲド!!勝者は《天気屋》!!ゲド!!同時に第二競技の組み合わせも発表するゲドよ~?第二競技の参加者は《園田家》VS《志余束学園ボーノレ部》ゲド!!』

 

「どうやら俺達の出番の様だな!!行くぞ園田達!!」

バサッとマントを翻し立ち上がる

が!!

「うおッ!?なんだ!?何かが引っ掛かったぞ!?」

「王聖さん、マント、椅子に引っ掛かってる!!」

「味噌汁うめぇえええええ!!」

ツッコみが足りない……

 

 

 

 

 

先ほどまで八家がさんざん殴られていた場所に、園田家のメンバーが立つ!!

「相手はまだ来てないのか?」

灯直は相手の席を見る、相手は『志余束学園ボーノレ部』らしいがデータらしきデータが殆ど無い幻のチーム!!

灯直にはそれが酷く不気味に思えた!!

*実際にはメンバーが足らない等の不足の理由です。

 

そうしていると相手側のチームがゆっくりと現れた。

しっかりした体格の男、山重とその隣の優男風の森林。

そして圧倒的なプレッシャーを出す謎の女。

 

「王聖さん、来たようですね……」

灯直はそっと王聖に耳打ちする。

「出たな!!『志余束』!!ずいぶん遅かったではないか?逃げたと思ったぞ?」

その場で相手のチームを挑発する王聖。

すると向こうのチームから山重が

「フン!!気にするな!!少し仲間内で揉めただけだ!!」

謎のポーズを決めながら返事をしてきた。

 

(うわぁ……この面子メッチャ濃い……しかも揉めたのかよ!!……あ!ウチも似たようなもんか……)

灯直は一人ため息をついた。

何はともあれゲームは開始される!!

 

『それでは今回もクジを引くゲド!!』

外道の言葉に灯直がクジのマシンに歩み寄る。

「行けぇい!!園田!!君に決めた!!」

王聖がどこぞのモンスターを操る主人公の様な応援?をする。

「ウム!!この場合は!!卯月!!お前の初仕事だ!!行けい!!」

相手も気だる気に座っていた少女をこちらに送ってきた。

 

卯月と灯直が向かい合う。

(あれ?この子、うつむいてるけど結構かわいいかも……)

不覚にもときめく灯直、笑顔を作り愛想笑いをする。

「初めまして、園田 灯直です。今日はよろしくお願いしますね」

ここ数年で一番うまく出来たつもりの笑顔で相手の卯月に話しかけるが……

「ああん!?あなた、今私の事を笑った?」

「ヒッ!!ごめんなさい!!」

凄まじくガラが悪く返された!!

まさに何人か殺ってそうな目付!!

幽鬼という言葉が灯直の脳裏によぎった!!

 

 

 

同時刻応援席にて……

「天峰先輩……なんだか卯月先輩、機嫌悪そうですね?」

観戦に来ていた藍雨が、同じく観戦していた天峰に話す。

現在天峰、藍雨、夕日の三人が『志余束』の実力を見るためここまで来ていたのだ。

因みに八家、まどか、木枯の三人は控室に残っている。

 

「うーん……あんなに卯月の機嫌が悪いのは久しぶりだな……」

「……前にも……見た事有るの?」

天峰の呟き夕日が疑問を呈す。

「ああ、天音と卯月がゴルバニアファミリー(擬人化した動物の人形)で遊んでた時、間違ってわざとお家にZAIDO(モーターの入った歩く恐竜型プラモ)を突っ込ませた事が有って……二人で『地獄姉妹』とか言って一週間くらい荒れてた事が……」

「先輩!?何やってるんですか!?」

「……天峰……流石にそれは……酷い……」

藍雨と夕日が驚き、天峰を非難する!!

「……いや、だってよ?さみしかったていうか……かまってほしかったって言うか?まぁ、若さゆえの過ち的な?」

しどろもどろになりながら二人に事情を説明する。

事情というよりは明らかに良い訳だが!!そこは突っ込んではいけない!!

*今回の天峰(主人公)の出番はこれで終了です。

by作者

 

 

 

天峰達がどうしょうもない会話をしている間にも、『園田家』と『志余束』の競技は決まり準備が着々と進んでいる!!

『さーて!!今回の競技は《メイドイン場ベル》ゲド!!』

外道の言葉に導かれスタッフが、大きめのテーブルと空き缶、紙コップ、トランプが運ばれてくる。

『メイドイン場ベル』は道具から有る程度予測されるように、物を高く積み上げる競技である。

それぞれ、積み上げた高さの合計でポイントを競う。

空き缶と紙コップは積み上げたときのポイントは同じだが、トランプはそうではない!!トランプは形がタワーの場合のみポイントが5倍に加算される。

この高さはそれぞれをバラバラに加算される為、缶、紙コップだけでそれぞれタワーを制作しても良いし、一つの物に絞っても構わない。

 

 

 

「王聖さん、この競技、俺向けです。行かせてくれませんか?」

灯直が王聖に進言する。灯直には物を手早く正確に積み上げる特技が有る。

昔、偶然テレビドラマで見たシャンパンタワーに憧れて、密かに練習したのがここまで昇華したものだ。

「ああ、お前ならしっかりやれるだろう……園田もそう思うよな?」

そう言って二人はさっきまで静かにしていた、文部に語りかける。

「ふぅ……偶にはお吸い物も……ハッ!?お吸い物とかクソだろ!!」

二人の視線に気が付い文部が、地面にお吸い物を叩きつけた!!

*スタッフが後で美味しくいただきました。

「王聖さん……」

「責めてやるな……アイツも自身のキャラを確定させるのに必死なんだ……」

「そうですね……」

何ともいえない気持ちでステージに上がる灯直!!

そして……ステージに待っていたのは卯月!!

 

「悪いけど勝たせてもらいます」

「パーフェクトもハーモニーも、もうどうでもいいわ……」

二人が会話を軽くかわし、自分のテーブルに着く。

卯月の言葉が支離滅裂?

しょうがない、彼女も自分のキャラを立てるのに必死なんです。

 

『それでは競技!!スタートゲド!!』

その言葉と共に灯直が空き缶て手にする。

カンッ、カンッ、カンッ!!

リズミカルに、しかし手早く缶を積み重ねていく!!その動きはまさに精密機械!!

この缶詰み、本来なら下側を多く積み上に積む数が減っていく。

丁度ピラミッドの様になる筈なのだ。

しかし灯直は違う!!一つの缶の上にさらに缶を乗せる!!

そのため他者とは違い高速で缶が積まれていく!!

 

チラリと灯直が横目で卯月の様子を見る。

自身と同じく缶を使って積んでいるが、明らかにこちらよりもスピードが遅い!!

灯直は勝利を確信した。

(よし、行けるぞ!!これで20缶目だ!!)

あらかじめ用意してもらった、足場に乗りながら20缶目を乗せようとするが……

ガシュウゥアン!!

甲高い音を立てて、タワーが崩れた。

「な!?なんだと!!」

突然の事に灯直が驚きに目を見開く!!

 

卯月の方を見るとニヤリと笑っていた。

その手には缶が握られていた。

(やりやがった!!)

心の中で灯直が悪態をつく。

この競技、相手への妨害は禁止されていない。

しかし相手への攻撃は、自分に対する攻撃を許可するのと同じことである。

最悪の場合、足の引っ張り合いの泥仕合に発展する可能性すらある!!

しかし、しかし灯直は違った!!

「俺は、俺の戦い方をする!!」

卯月のそう宣言して、再び一から缶を積み始めた!!

「チッ!」

卯月は舌打ちをすると、再び自分の缶を積みはじめた。

カチッ!!カチッ!!カチッ!!

まるでパズルのピースがはまっていく様に、次々と缶が積み上げられていく!!

『ゲド!!両者残り時間10秒ゲド!!ラストスパートゲド!!』

『非常に白熱しております!!わたくし非常に楽しみで成りません!!』

その言葉に灯直はさらに腕を早める!!

(正確に!!素早く!!そして平常心!!)

心の中には王聖の顔が浮かぶ。

(あの人に……勝利を届ける!!)

そう思った瞬間!!

カチャーン!!

再び響く甲高い音!!

灯直の積み上げた缶が崩れてく!!残ったのはたった一つの缶のみ!!

そして絶望のアナウンス!!

『両者そこまで!!缶から手を離すゲド!!』

「あはははは!!」

勝利を確信したように卯月が笑い声を上げる!!

しかし、笑ったのは一人ではなかった。

「…………最初の一投で予測して無かったとでも?」

ニヤリとニヒル灯直が口角を釣り上げる。

 

ガシャーン!!と音がして卯月の立てたタワーが崩れる!!

「気が付かなかったみたいだな?アンタ自分のタワーが崩れ掛かってたんだぜ?最初から」

一瞬唖然とする卯月、しかしこちらもニヤリとして自分の机を指差す。

そこには缶の上に缶が立っていた。

たったそれだけなのだが、これでポイントは成立する。

1対2で卯月の勝と思われた!!

が!!

「言った筈だよ?『予測した』って……」

そう言って灯直は上を指さす。

そこには最後に上に投げていた缶!!

カシャーン!!

甲高い音が立て缶の上に落ちる。

同点?否である!!

「俺はすでに未来を掴んでる!!そして……これからも掴み続ける!!」

さらにもう一つ落ちてくる!!

カチィ!!まるで手で置いたようにきれいに缶が落ちる!!

3対2……『園田家』の勝利が決定した瞬間だった。

 

第二競技『メイドイン場ベル』

勝利者 『園田 灯直」!!




ふう……非常用ロリコニュウムが有って助かったぜ……
皆さんも季節の変わり目の、ロリコニュウム不足に注意してください。


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ふぅ……だいぶ良くなったよ

最近、何が面白いのか……
という事に迷いはじめました。
うーン……これが倦怠期!?←違う。




『ゲドゲド!!第二競技の結果が出たゲド!!勝者は《園田家》!!ゲド!!同時に第三競技の組み合わせも発表するゲド!!第三競技の参加者は《フリーダムソングズ》VS《ゴールデンストーンズ》ゲド!!』

 

 

 

外道の挨拶を、一回戦目で負傷した八家は選手控え室で聞いていた。

「ふぅん、先輩達のチームは負けたか……」

パスンッ!パスッ!

何処か興味なさそうに、顔を濡れタオルで押さえつけながら呟く。

「その様ですわね……」

パシッ!パシッ!!

まどかが地面に四つん這いになった(・・・・・・・・・)八家の尻を蹴りながら(・・・・・・・・・・)話す。

「ねぇねぇ……まどかはなんで変態さんのおしりを踏んでるの?」

何処かで買ったチョコバーを齧りながら、木枯が興味深そうに話す。

「木枯ちゃん、知らないのかい?コレは最新式の治療法方さ!!今俺は頭と顔が痛いだろう?頭の反対は何処かって言ったらおしりだ、じゃあおしりに痛みを与えれば痛みはおしりに向かうから、頭の痛さが半減するんだよ?」

ニコリと笑いながら、優しい口調で木枯に説明する八家。

賢明な読者諸君ならすぐに解るだろうが、そんな効果は全くない!!

唯単に八家が話しているだけである!!

 

「本当に効くの~?」

その証拠に騙されやすい、木枯にすら怪しまれている!!

八家の頭の悪さがうかがえる光景である……

「まぁ?本人がやってほしいと言うんですから?ワタシは心優しいのでやってあげるだけですわ。ホラ!この変態庶民!!ありがとうございますと言いなさい!!」

そう言って靴底で、八家の尾てい骨あたりにを踏みにじる!!!

「ああ~!!ありがとうございますぅ!!」

そう言って恍惚の表情を浮かべる八家!!

諸君!!これこそが変態紳士である!!

そして!!

実にいやな需要と供給である!!

「わたしジュース買ってくるね~」

そう言って木枯が「付き合いきれない」と言った表情で控え室から出ていく。

 

 

 

 

 

競技場グラウンドにて……

「蛇野さんファイト!!」

「行けますって!!」

仲間に向かって熱い声援を送る、見た目がそっくりな双子のボーノレ選手。

金平 人と牛の兄弟の視線の前には、上がり性の選手、蛇野 獅石はのっしのっしとその巨体を揺らしながら歩いて行く。

それに対して……

 

「いざ!!出陣!!」

「「「「エイ!!エイ!!オー!!」」」」

まるで将軍の出陣の様に送り出される刻々 刻。

一歩、歩くごとにカスタネットで馬の蹄の音、水笛でほら貝の音、さらに全メンバーでガヤまで行うという正に豪華絢爛と言える登場だった。

 

 

 

 

 

その様子を離れた観客席で天峰、夕日、藍雨が見ていた。

「刻々か……開始時点では辛酸を舐めさせられたんだよな……出来ればここは向こうのチームを応援したいな……」

彼の選手宣誓は、天峰にとって苦い思い出である。

しかし、

夕日と藍雨はジッと蛇野の方を見ていた。

蛇野は他のメンバーと明らかに、秘めているポテンシャルが違う!!

二人はそれを読み取っていたのだろう。

「ここからじゃあ、しっかり見えませんがたぶんかなり鍛えてますよ?」

「……威圧感……が有る……たぶん自信の表れ……?」

 

幼女二人が横でこそこそと話しているのを天峰が見て……

(百合も……有りだな!!)

とどうでもいい妄想を続ける!!

何処までもかみ合わないメンバー達である!!

 

 

 

 

 

天峰達の控室に有るTVの画面に、蛇野と刻々の姿が映し出されている。

 

「ふぅ……だいぶ良くなったよ。えっと……女王ロリちゃんありがと」

そう言ってスッとその場で立ち上がる八家。

ニックネームのセンスがおかしいのは、今に始まった事ではない!!

「ちょっと!?ワタシの名前はまどかですわ!!そんな女王蟻みたいなニックネームで呼ばないでくださる!?」

まどかが顔を真っ赤にして怒鳴る。

しかし八家はそれを全く意にかえさない!!

「ああ、ごめん。どうも昔から人の名前って覚えるの苦手なんだよ」

そう言ってし所在なさげに自分の頭を掻く。

その態度にまどかがさらに眉を吊り上げる!!

「アナタねェ!!そんな態度では会社では通じませんわよ!?」

「そうそう、そういうのって大事だよね?」

その場でへらへらと笑いはじめる八家。

しかし

その瞳にはいつもの彼に、ふさわしくない熱がこもっている。

「ねぇ、まどかちゃん。天峰から聞いたよ、山重先輩と喧嘩したんだって?」

「ッ!?…………それは……お兄様が……」

全く予想していなかった質問だった為、まどかが口ごもる。

「この種目……と言うかこのスポーツ自体どう思う?」

そう言いながら、モニターの画面を指さす。

現在も絶賛競技は続行中で、難易度の高いポーズを取りながらプレイする、だるまさんが転んだの様な競技が繰り広げられている。

 

「……正直言って、理解不能のスポーツですわ……お兄様もこの会場に集まってる人たちも何の意味が有るのか、それどころかどうしてこんな競技をしたいのかすら解りませんわね……」

目の前にたった一人とはいえ、このスポーツを楽しんでいる男(怪我をする事すら厭わないレベル)がいるので多少気まずそうに話す。

「そうだよね、何がしたいのか解んないよね?けど大体の物事ってそうじゃ無い?

プロのスポーツ選手だってさ、究極的な話ただの遊びを本気でしてる人達じゃない?いや、それだけじゃないよ、大会の有る将棋やチェスだってただの遊び、1億部売った漫画家もただのお絵かき職人だよ、けど他の人に認められてるんだよ。

不思議だと思わない?」

指おり、いくつかの職業を例に挙げ始める。

その表情から彼の真意は読み取れない。

「何が言いたいんですの?」

まどかが質問をするが、八家はそれを無視してさらに話を続ける。

「俺から言わせてもらえば、宝石商も唯の綺麗な色の着いた石を売ってるだけ、それでなんであんな物が高いのか理解できないんだよ……」

「アナタ!!なんて事を言いますの!!ワタシに文句が有るならはっきり仰い!!」

実家の宝石商の事を馬鹿にされ、憤慨するまどか。

外聞も気にせず八家に食ってかかる!!

「……色つき石でなら怒れるんだ?」

「アナタ……いい加減ワタシも我慢の限界が……」

尚も自身の家族の仕事を馬鹿にする八家に対して、どんどん怒りが湧きあがってくる!!

「山重先輩も、この競技に自分の青春かけてるんだよ!!」

突然の八家の大声に、ビクリと体を縮困らせるまどか。

そんな、まどかを余所に尚も八家は言葉を紡ぐ。

「いいかい?キミから見たらつまらない事でも、本気でやってる人たちがいるんだよ。この会場にいる人たちは、みんなそうなんじゃないかな?自分の競技を認められたくて、確かな証拠が欲しくて、『優勝』って言う証左が欲しいのさ。けどキミはどうだい?相手を邪魔するために参加したんだって?それって失礼な事じゃないかな?」

八家はそう言って一旦言葉を区切り、一回深呼吸した。

「君のやってる事は正直ムチャクチャだ、他人と自分では見える世界は違うんだよ。けどそんな中でお互い譲り合って生きてるんだ、キミはずっと守られてたから知らないみたいだけどね」

その言葉にまどかはハッと思い直す。

何時も自分で強く生きているつもりでいた。

誰よりも努力しているつもりでいた。

全て他人より優れようとしたために……

しかし考えてみれば。

何時も隣に佐々木が居たし、木枯が居た。

そして今回は……

「天峰が居る……」

「そう、だね。天峰は変な所で優しいんだよ結局、困ってる奴をほっておけないんだ。感謝しなよ?アイツはたぶんキミと同じ様にこの競技、面白味とかは感じてないけどキミの為に参加してるんだろうね……さて、俺の言いたい事はこれだけ、この後どうするかはまどかちゃんが決めなよ。天峰はきっと助けてくれるさ……あ、コレ言ったの俺だって天峰には黙ってて、腐女子共の餌食にされそうだからね」

そう言ってにニカッと笑い、近くの椅子に座って本を読み始めた。

 

 

 

 

 

「ワタシは……どうすれば……良いんですの?」

自問自答、目標を決めたら迷わず直線。

全ての障害は力づくで破壊する。

それこそがまどかの人生で学んだこと。

しかし目の前にあたらしい課題が出来た。

どう動くか、自分の中でどうするか考え始めた。

「ワタシは……」

その時、館内放送が再び流れた。

 

『ゲドゲド!!第三回戦遂に決着ゲド!!』

 

「おっと、ゆっくり考えてる暇は……」

「問題有りませんわ!!これ位の時間が有れば答え位出せますわ!!」

そう言って不遜な顔で八家を指さす!!

その顔にはもう迷いはなかった。

 




この前銭湯に行ってきました。
広いお風呂は良いですね。



いざ、出ようとしたら、使っているロッカーの前でオジサンが着替え中……
リアルに全裸待機をすることになりました……


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ピンクは淫乱

前回は競技するシーンが有りませんでしたが、今回も有りません!!
もっとボーノレミテーヨ!!
と言う人、たぶんいないけどごめんなさい。


『フリーダムソングス』と『ゴールデンストーンズ』

の試合はタイムアップの勝者なしで終了した。

それと同時にすべてのチームが、一回は何らかの競技に参加したことになった。

ここで一旦競技は中断され、昼食の時間になる。

午後からはまた最初の様にすべてのチームで行う競技から始まり、その後再び一チーム一回ずつ戦う事となる。

 

 

 

それを伝える放送がドーム中に鳴り響く。

『ゲ~ドゲドゲド!!愚かなボーノレプレイヤー共、競技お疲れゲド!!実に無駄な時間を過ごしたゲドねぇ?次の競技は1時半までオヤスミゲド!!その間昼食を取ることをお勧めするゲドよ?因みに俺は頼んでいた高級鰻を食べるゲド!!羨ましいゲド?げ~ドゲドゲド!!』

『わたくし今から昼食が楽しみで成りません』

何時もの二人が何時もの様にアナウンスをする。

天峰達はそれを観客席で聞いていた。

 

 

 

「さぁてと、お昼ごはんどうするかな?」

二人に対して天峰が問いかける。

「お弁当とか持ってきてないんですよね?」

「……近くに……コンビニ……有った」

藍雨と夕日が昼食の相談をする。

「とりあえず、一回控え室に戻ろ?まどかちゃんと木枯ちゃんと……ヤケ……が……」

そう言って口ごもり、どんどん顔色が悪くなっていく。

その様子を見た藍雨が、不審に思ったのか天峰を心配し始める。

「先輩?どうしたんですか?お腹でも下しましたか?」

おろおろしながら右往左往する。

「い、いや……そうじゃ無いんだよ、そうじゃ無いけど……」

目に見えて天峰の顔に焦りの色が見え始める。

「……たぶん……大丈夫……心配する事じゃない」

「で、でも……」

「……どうせ……くだらない事」

心配する藍雨を夕日が伴って観客席から立ち上がった。

 

その頃天峰の脳内では……!!

(やばいんじゃないか?やばいんじゃないのか!?俺達の控室には今、まどかちゃんと木枯ちゃんが居るハズだ……けど同時にヤケも居る!!あの二人とヤケを一緒に居させて大丈夫なのか!?ピンクは淫乱。ヤケは変態。何をするか解らない!!アイツの事だからな……心配する木枯ちゃんに対して……)

 

 

 

~以下天峰の妄想~

木枯「変態さん、だいじょーぶ?」

八家「ううぅ……俺はもうダメかもしれない……けど木枯ちゃんの協力が有れば助かるかもしれない……」

木枯「どうすればいいの!?」

八家「木枯ちゃんの身体をなでなでさせてくれれば助かるぞ……」

木枯「なでるくらいならいいよ?」

変態「ひゃっほほう!!」

~終了~

 

(とかなってるかもしれない!!いやそれどころか、まどかちゃんも脅して……)

 

~以下天峰の(ry~

八家「これ以上協力してほしければ……払う物払ってもらおうか?」

まどか「払う物って……そんなこのタイミングで急に……お金なら帰ってから――」

八家「ああん!?金なんかキョーミねーよ!!俺はお前に脱げって言ってるんだよ!!」

まどか「な、なんてことを――」

変態「おやぁ?良いのかな?まどかちゃんの為にみんな集まってくれたのに……当の本人がそれを邪魔して?みんな悲しむだろうな~」

まどか「ひ、卑怯者!!」

変態「グへ!!グへ!!ぐへへへへ~!!」

~人生終了~

 

(とかなってるかもしれない!!こうしちゃいられない!!)

*なってません。

 

「あの?先輩?どうして地面に四つん這いに……あ!!血!!鼻血出てますよ!!」

地面に垂れた天峰の真紅の鼻血(レッド・ホット・チリペッパー)を見て藍雨が慌てて、ポケットからハンカチを取り出す。

それに対して天峰はふらふらと立ち上がり……

「大丈夫だ、心配はいらない……けどハンカチ借りて良い?藍雨ちゃんの匂いがしそうだか――」

キチッ!!キチキチ

「い、いや、やっぱり汚しちゃ悪いからティッシュの方が良いかな~」

「私も……そう……思う」

慌ててティシュに変えた天峰を、不自然なふくらみが有るポケットに、手を入れた夕日が同調する。

「と、とにかくさっき言ったみたいに、控室に戻ろうか……夕日ちゃんそろそろ殺気を込めた目で俺を睨むの辞めて……」

「……前向きに……検討する……」

そうして三人は控室に戻って行った。

 

 

 

 

 

控室にて。

「みなさんおかえりなさいませ。ささやかですがお弁当を用意さてもらいました」

競技中は姿を消していた、佐々木さんが控室で待っていた。

テーブルの上にはお重が並んでいる。

そのお重の群れを木枯がキラキラした目で見ていた。

「佐々木さん、ありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらずに……それでは午後の部も張り切ってお願いしますね」

そう言って佐々木さんは部屋を出て行った。

 

「みなさん。待っていましたわよ?食事をしながらで良いので来てください」

全員が椅子に座って食事を楽しむ中、まどかがポツリと話始めた。

全員の意識が目の前の弁当からまどかの方へ向く。

「みなさん午前はありがとうございました、ワタシとても感謝していますわ……先ず最初にこれを言わせてください『ありがとう』と、今回はワタシのわがままに付き合ってくださって本当に感謝していますわ、多くは語りませんが……午後の部も私の為に競技に出てくださるかしら?」

まどかの今までの高飛車な態度とは違う反応に、天峰が内心驚く!!

 

「何言ってるの~?私はまどかの友達だよ~?助けるのは当たり前だよ!!」

その場で木枯が立ち上がる。

おそらくいつも、木枯は同じ事を言っていたのだろう、しかし今回まどかのリアクションは違った。

「木枯……アナタには何時も感謝していますわ、ワタシのそばでいつも励ましてくれる……愛しい親友ですわ」

「う~ん、なんかそう言われるとくすぐったいな~」

そう言って木枯に笑いかけるまどかに対して、くすぐったそうに笑う木枯。

 

きっとこのやり取りはずっと行われていなかったやり取り、プライド、場所、性格、ありとあらゆる問題が彼女達に許さなかった物だろう。

木枯はずっと、まどかに歩み寄っていたはずなのだ、しかし木枯が歩み寄った分だけまどかは後退していたのだろう。

しかし今は違う、お互いが半歩ずつ歩み寄る事で遂に長い時を超え、遂に交わす事の出来た言葉なのだろう。

たった、たったこれだけでも天峰にい取っては、この競技に出る価値は有ったことになる。

しかし次には『約束』と言う壁が立ちはだかる!!

まどかが山重と交わした約束、この二人を守るためには山重達に勝たなくてはいけない!!

「よーし!!まどかちゃん!!午後のゲームもやるぞ!!山重先輩にの鼻をあかしてやろうぜ!!」

「「「「おー!!」」」」

チーム『天気屋』はお互いの負ける訳に行かない目標の為、さらに強い結束をえたのだった。

 

 

 

余談

「なぁ、天峰……幼女同士のレズも有りだよな!?」

「八家……お前……分かってんじゃねーか……」

そう言って二人は固い握手を交わした。

キチッ!!キチキチ

「「ヒッ!!すいませんでした!!」」

 

これが無ければもう少しこの二人は良い人間なんだろう……

 

 

 

 

 

食事が終わり、次の競技が始まる時間に成った。

高らかに、放送が鳴り響く!!

「ゲェ~ップ!!いやー良く食ったゲド……さて、愚かにも時間を浪費する、馬鹿者たち!!午後の部が始まるゲド!!グランドに全チーム集合ゲド!!」

「わたくし、午後からどの様な競技が始まるか、たのしみで成りません!!」

二人の言葉に競技場に集まっていくメンバー達。

 

「ゲドゲド!!午後の一番初めの競技は料理対決ゲド!!こちらのスタッフが調理器具を用意してるゲド!!食材は近所にスーパーが有るからそこで買ってくるゲド!!因みにレシートを提出したらその分の金額が帰ってくるからちゃんともらってくるゲド!!さぁ~て!!では審査員を紹介するゲド!!」

その言葉と共に、会場に三人の男たちが入って来た!!

 

「さぁて~紹介するゲドよ?まず一人目はこの街の市長『カツラのズラ太郎』ゲド!!」

そう言って紹介された初老の男は、開会式で参加者達に徹底的のもみくちゃにされた市長だった。

現在でもスーツはボロボロの上、カツラまでずれていて修羅の様な瞳をしている!!

「ボーノレどもめ……許さんぞ……絶対に潰してやる!!」

 

「二人目はその辺で拾った謎の人物、朝倉さんゲド!!」

次に紹介されるのは蛇柄のジャンパーを着た鋭い目をした男。

「お前たち、泥を食った事は有るか?泥だよ……」

 

「三人目は具のチャーシューゲド」

「えっ?」

 

 

 

「それではみなさん!!午後の部!!スタートゲド!!」

外道の声が会場中に響いた。

 




ピンクは淫乱!!八家は変態!!天峰はロリコン!!
三人合わせて……「「「何をするか解らない!!」」」


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なんだかぁ……楽しくなって来たなぁ~

いょうし!!
ロリコニウム補給完了!!
今の俺のテンションはアドレナリンMAX状態並みに高いぜ!!


コレはほんの少し前の義理の兄妹達の会話……

 

「あ~、なんか小腹が空いたな……アレでも食べようかな?」

小腹を空かした天峰は、戸棚の奥から一つの缶詰をとりだし、マヨネーズをかけ食べ始める。

 

「うん、このチープな味が偶に無性に食べたくなるのはなんでだろう?なんでだろ~?」

少し前の流行った芸能人のネタを言いつつ箸を進める。

 

「……天峰……それ何?」

偶然台所に入って来た夕日が、天峰の食べているものに興味を持った。

はじめて見るのかまじまじと天峰の手元を見ている。

 

「あれ?夕日ちゃん知らないの?コレは(ロリ)コンビーフって言うんだよ?少し食べてみる?」

そう言って自身の箸の先に少量摘み、夕日の口元に持って行く。

「コンビーフ?……おいしい……もっと頂戴」

はじめて食べた食材に夕日は若干興奮気味だった。

 

「いいよ、ほら俺ので良ければ全部上げるよ?」

そう言ってコンビーフを全て夕日に差し出す。

「ありがと……今度……私の……料理食べさせてあげるね……」

「うん!!楽しみにしてるよ!!」

それを聞き上機嫌で天峰は自分の部屋へと戻って行った。

 

その後、夕日に食べさせた箸を使えば間接キス出来た事を思いついた天峰が、非常に残念がるがそれはまた別の話。

 

 

 

 

 

時と場所は変わり……

「それではみなさーん!!午後の部。第一競技は料理対決ゲド!!

制限時間は2時間!!料理を食べる審査員は料理が運ばれ次第食べていただくゲド!!

それぞれ得点がもらえ、上位2チームが点を獲得するゲド!!

それでは……準備が出来次第、スタートゲド!!」

モニターに時間が表示され、外道の声が会場中に響いた。

 

 

 

「次は料理か……マジでボーノレなんでもアリの戦いなんだな……」

競技の内容を聞き天峰は呆然とする。

そうしている間にも他のメンバー達は何を作るか話し合っている。

「まどかちゃんは料理が――」

「出来ませんわ!!」

「――わぁお!!バッサリ!!」

八家の言葉をまどかがあっさり不可能と答える。

何故かドヤ顔で……

 

「この中で料理経験のある人は?」

天峰が他のメンバーを見回す。

残念だが天峰自身、全く料理が出来ない訳ではないが得意とはお世辞にも言えない。

 

「……そう言えば、藍雨ちゃん前にハンバーグとか作ってくれたよね?」

「一応出来ますけど……あれは殆どお母さんがやってくれた物なので……それに他の人と戦って勝てるかはまで、解りませんよ?」

天峰の言葉におずおずと自身なさげに話す藍雨。

このメンバーの中で生活能力が最も高いのはほぼ、間違いなく藍雨である。

アテが外れた天峰は頭を抱えた。

 

「……天峰……私がやる……」

そんな天峰に夕日が自身ありげに名乗り出る!!

そしてメンバー内からワッと歓声が起きる。

 

「坂宮先輩料理できるんですか!?」

「おおー!!夕日ちゃん天峰に料理とか作ってあげてるの?」

「流石ですわね!!褒めても良いですわよ!!」

藍雨、八家、まどかが夕日を褒め始める。

 

「……要るモノを……リストアップする……どこかで買ってきてほしい……」

三人に褒められて気を良くしたのか、夕日が誇らしげに話ながらメモを書く。

 

「よっしゃ!!買い出しは男衆に任せろ!!ロリーズは必要な食器を準備しておいてくれ。行くぞ天峰!!」

「お、おう……」

八家に手を引かれ天峰と二人で、近所のスーパーまで走る!!

 

 

 

 

 

「しかしまぁ……夕日ちゃんが料理できるなんて知らなかったな~。ってか天峰なんで素直に夕日ちゃんを指名しなかったんだよ?」

スーパーのカゴを手に八家が天峰に尋ねる。

しかし天峰は浮かない顔をしている……

 

「ヤケ……俺、前に一回夕日ちゃんの料理食べた事有るんだけどさ……」

「おお?惚気か?それとも『夕日ちゃんが食べたい』とか言っちゃったクチか?」

ニヤニヤと楽しそうに買い物カゴにたまごを一パック入れる。

 

「いや惚気とかじゃなくて……おにぎりだったんだよ……砂糖で握った……」

「え?」

天峰の言葉に八家が動きを停止させる。

 

「ま、まぁ?誰でも一回くらい失敗する事も――」

「失敗じゃない……失敗じゃなかったんだよ!!夕日ちゃん砂糖入りのおにぎり喜んで食べてたんだよ!!」

「え、ええ~!?ちょ、ちょっとヤバくないか?ナニ?夕日ちゃんって味覚オンチ?」

 

まさかの情報に八家がさらに驚く!!

そう!!夕日には実は圧倒的な欠点が存在する!!

それは彼女が壊滅的な味覚を持っている事だった!!

通常の料理はおいしく食べる事が出来るのだが……彼女は謎のアレンジをしてしまう!!

しかも本人はそれをおいしくイタダケル!!

夕日の料理によって天峰、天音の両兄妹がノックダウンされたのは天峰にとっては最近の(砂糖が使って有るのに)苦い思い出である!!

 

「ま、任せたらやばいんじゃ……」

「もう遅い……夕日ちゃんは止められない……さぁ……残りの材料を用意するぞ……」

そう言って天峰は八家にメモの内容を見せる……

「……!!マジか!?……一体何を作るんだよ……」

メモの内容を見て八家が絶句した。

 

 

 

同時刻、会場にて……

夕日は鍋にお湯を溜め、さらにあらかじめ用意されていた白米を炊いていた。

夕日は楽しそうに鼻歌を歌いながら、道具の準備をしている。

「~♪」

 

「あ、あの……坂宮先輩?」

「庶民?その道具は……おかしくありませんか?」

「……♪……問題ない……あはッ」

藍雨とまどかが夕日の持つ道具に疑問を呈す。

最早説明するまでは無いだろうが、夕日の手にはいつものカッターナイフ!!

 

くるくると手の中で、刃を出した状態のカッターを回す。

近くに会った紙を丸め、空中に放る夕日、そしてそれを手のしたカッターで真っ二つにする!!

「あはは!!……なんだかぁ……楽しくなって来たなぁ~」

チキ、チキチキ!!

手にしたカッターまでもが、うれしそうに唸り目の前の紙をバラバラに切り刻む!!

 

「今日は……久しぶりにぃ……お肉が刻めるよぉ?アハ!!あははっはは!!」

チキチキ!!チキチキチキチキ!!チキチキチキチキチキ!!

夕日の狂喜の笑い声とカッターの刃が、うれしそうに擦れる音が天峰達の調理台に響いた!!

 

因みに暫くして帰って来た天峰によって停止させられました。

 

 

 

 

 

30分後……

「ゲドゲド!!最低調理時間は終了したゲド!!完成したチームは料理を持ってくるゲドよ?……完成して無いチームはまだ時間が有るゲド!!タイムアップまで頑張るゲド~」

外道がアナウンスをする。

完成してすぐに料理を出す必要は無く、時間以内なら自由なタイミングで出せる様だ。

早期に出せば後続に料理達によって、相対的にインパクトが薄れる。

逆に後期に出せば、印象は残りやすいが審判の空腹感が少なく、おいしさを感じさせにくい。

料理を出す時間も重要と言えるだろう。

 

 

 

そんな中で夕日は……

「やっと……時間……持って行ってほしい……」

「わ、解ったよ……行ってくる……」

彼女が選んだタイミングは何と超早期!!

チームによっては完成してすら居ないのに、料理を出そうとしている。

 

審査員席に料理が運ばれる。

「むむ?コレは……」

「悪くないんじゃないか?」

「私の好物だな」

三者三様の反応。

夕日の作った料理はラーメン!!生めんタイプの醤油味!!

しかしインスタントタイプと侮るなかれ!!

茹で卵や炒め野菜、さらに厚切りのチャーシューなど随所に、手が加えられている!!

 

 

 

ずるずると食べていく審査員達。

しかし……

「まぁこんなモンか……」

「悪くは無いんだけどね~」

「うまいな……もう一杯無いか?」

最初こそは手早く食事をしていたが、すぐに箸が止まってしまう。

やはりインスタントと言う壁は分厚かった様だ……!!

 

「……ごはんと……温たま……」

だが!!夕日の料理はまだ終わっていなかった!!

最期の足掻きとばかりにライスと温泉卵が渡される。

もちろん使い方はスープの中にインしてラーメン雑炊にする事!!

このラーメン雑炊、意外と歴史が深く。

中世ヨーロッパでディクライン・ヴォルガーと呼ばれる品の良さよりも堅実性や実用性を重視する人種が現れ、彼らが好んだことから通称『デヴ食い』と呼ばれる食事法である。

*真っ赤な嘘です、読者諸君は信じないでください。

 

結局審査員達は最初の一皿で、空腹感が高かった事から全部食べてくれたが、あまりいい印象は持たれなかった様だ。

 

 

 

 

 

「夕日ちゃん……ドンマイ……次はきっと――」

「……何を……言ってるの?……目標は……達成した……」

気落ちしているであろう夕日を天峰が励まそうとするが、夕日は全く落ち込んだ表情は見えなかった。

天峰はこの時、夕日がなぜこんなにも強気でいるか理解できなかったが、答えは次のグループ、フリーダムソングズが中華飯を出した時に解った!!

 

「……ううん?なんだかイマイチ……」

「味が薄いんだよ!!」

「少し……私には油っぽ過ぎるかな?」

審査員達の反応が露骨に、悪くなっている!!

続く、志余束、園田家も良い反応はもらえなかった。

 

「えっと……夕日ちゃん何かした?」

疑問に思った天峰は夕日に遂に聴いてみる事にした。

それほどまでに彼女のさっきの態度は引っ掛かる物が有った。

 

「……簡単な事……何かを食べる時……最初においしく感じさせるには……味を濃くして油を増やす……」

へらへらと夕日がそう言って笑った。

彼女の話に依れば、人の好みは強すぎなければ基本的に油っぽい濃い味の食品を好む人種が多いらしい(ハンバーガーなどがその最たる例である)。

 

しかしその方法は同時に、薄味がわかりにくくなるというデメリットが有る。

夕日の作ったのは、くどくならない程度に油、調味料を増やしたラーメン!!

夕日の後に作った食品は強制的に、濃い味と油に成れた舌の為どうしてもパンチが足りなくなっているのだ!!

更に最後の雑炊で胃袋に料理を詰め込ませた。

 

この料理は美食ではなく、他人を陥れるための料理である!!

 

 

 

「えっと……すごいモノ作ったね……」

天峰が驚きながらも夕日に話す。

「おかあさんがいない頃……インスタントばっかりだった……から……覚えた」

自身の暗い過去の経験を夕日は語る。

しかしその言葉に昔の様な悲壮感は無く、夕日自身が未来に向かった歩いている事を天峰に感じさせた。

「そうか……うん……ありがとうね」

そう言って天峰は夕日の頭を優しくなでた。

 

 

 

 

 

しかし……

最期の組で結果は変化した。

「うまい!!美味いぞ!!こんなのは初めてだ!!」

「……イケるな……カップ焼きそばよりうまい!!」

「偶には和風もいいもんですなー」

審査員が絶賛するのは、ゴールデンストーンズの金平兄弟の五目御飯とトン汁!!

ご飯に薄らと味が付いたモノとトン汁だが、こちらは基本的にさっぱりとしたタイプで、味のくどさに疲れた舌を休ませる効果が有った!!

最期だというのに、審査員たちはどんどん箸を進める!!

その結果!!

「やったよ兄さん!!」

「もちろんだ!!この競技なら確実に取れるさ!!」

台の上で金平兄弟がお互いをたたえ合う!!

 

 

 

 

「……一位には……なれなかった…………」

「大丈夫さ、二位にはなったから」

 

敗北と言う苦い結果に夕日がうなだれる。

そんな夕日を天峰が支える。

「今日の負けは何時か返せばいいんだよ?」

そう言って優しい表情でゆっくり夕日を励ます。

「……いつか……あの場所(一位の席)……に立ってみせる……!!」

夕日は静かに情熱を燃やした……

 

次からは再び個人競技が始まる……!!

 




ふぅ……燃やし尽くしたぜ……
真っ白にな……
真っ白な灰だ……



だが!!不死鳥は灰の中から復活するぜ!!
ほほぅ!!


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目指すは勝利の二文字のみ!!

さぁて!!盛り上がってきました!!
どんどん書くぜぇ!!書くぜぇ~

思ったより長くなったこの作品ももう少しで終了です。
最期まで、ラストスパートよろしくお願いします。


「しばらく、暇か……」

「……仕方ない……」

全てのメンバーが思い思いの場所に座り、自分たちの出番を待っている。

料理対決の結果が、2位と言う順位に落ち着いた天峰達一行。

午後の部が始まり、最初は『園田家』と『H&S連合』が、次は『フリーダムソングス』と『ゴールデン・ストーンズ』がそれぞれ試合に参加した。

結果は一試合目が『H&S連合』が勝利、二試合目が両者引き分けとなっている。

正直言って今の所すべてのチームが横並びになっている、しかし次の試合で天峰達のチームが勝利すれば他のチームを出し抜く事が可能となる。

 

しかし!!次の試合相手は出たカードから見ると……

 

『ゲドゲド!!さぁ!!最終試合ゲド!!『天気屋』と『志余束高校』出てこいや!!』

外道のうるさい声が響き、天気屋全員がその場で立ち上がる。

そして誰も声を上げることなく静かに会場に向かう。

 

 

 

 

 

「よお!!まどか!!調子はどうだ?まさか素人のお前たちが、ここまで来るとは思っていなかった!!」

山重が『天気屋』一向を迎え入れる。

その後ろには新芽と卯月が立っていた。

 

「ええ、まさかここまで自分でも来れるとは、思っていませんでしたわ……すべてはワタシに力を貸してくれた皆の助力が有ってこそですわ……ねぇ、お兄様?ワタシにもこんなにたくさんの友達が、ワタシを助けてくれる人たちが出来たんですの……一人一人は本当に小さな存在ですわ、けど今のワタシにとってはどんな宝石よりも輝いて見えますの!!ワタシも……ワタシもこの一戦!!誰よりも輝いて見せますわ!!」

 

2人が同時に種目選出の紙を引く!!

暫くして最終種目が発表される!!

 

「最終種目は……ブラックアンドホワイト、ゲド!!」

その種目を聞き、山重が僅かにガッツポーズをする。

 

天峰はこの競技を知っていた!!

(これって……確か初めて先輩達とやったゲーム!!)

 

そう、ブラックアンドホワイトは初めて天峰が体験したゲーム、そして……

 

「よぅし!!俺が!!得意なゲームだな!!」

山重の得意競技である!!

 

 

 

「まどかちゃんここは……」

「ワタシが行きます、いえ、行かせてください!!」

天峰の言葉を区切りまどかが全員に対してそう言い放つ。

 

「……けじめは……大切……決着……つけて来て……」

夕日が何時もの様に、感情を読み取らせないローてテンションでまどかの背中を押す。

 

「まぁ?俺は助っ人だし?主役に譲れって言われちゃどうしようもないでしょ?」

八家も同じく、何時もの様なおちゃらけた様な態度を露わにする。

 

「まどか先輩!!がんばってきてくださいね!!」

藍雨が何時もの様にまっすぐな態度で応援する。

 

「……行ってきなよ、まどかちゃん」

天峰が優しくそう言って道を開ける。

 

この種目、優勝よりも山重に勝と言う事が重要視される。

それはまどかと山重の約束。

それはまどかが勝利した場合、山重はボーノレをやめ、山重が勝利した場合まどかはもう日本に来ないという約束。

 

(今思うとずいぶん愚かな約束ですわ……何の得も無く相手の大切なモノを奪う戦い……なぜワタシはこんなに愚かな約束をしたのでしょう?……きっとそれはワタシ自身がそれだけ世間知らずだった。という事ですわね……)

 

そう思いながら山重の座る椅子に腰かけた時……

 

「まどかぁー!!まっけんなぁーーーーーー!!!!」

最後に聞こえたのは自身が良く知る声、ずっと自分の傍に居てくれて支えてくれた存在。

自身の親友の珍しく真剣な声だった。

真後ろの観客席からの為、姿は見えない。

しかし、しかし彼女の親友の声は、まどかを今までの誰よりも強く勇気付けた!!

 

 

 

「さぁ!!圧倒的実力差を見せてあげますわ!!」

「かかって来るがいい!!」

2人は同時にコマを取った!!

 

パチン、パタパタ……パタ……

 

パチ、パタパタ……

 

前半までの賑やかな雰囲気はすっかり鳴りを潜め、静かな戦いが続いている。

 

「……すまん、熟考する……」

そう言うと山重は盤上を見つめたまた、動きを停止させた。

ゲームのルール上時間制限と言う物は無い、お互い打てなくなるまでが競技時間だ。

露骨な時間稼ぎは問題視されるが、2~5分程度なら止められる事は無い。

 

「大分強く成ったな……正直驚いた……」

パチ、パタパタ……

指を動かしながら山重がゆっくりとつぶやく。

 

「ええ、ずっとお兄様に憧れていましたから……」

パチ、パタパタ……

 

「憧れ?俺なんかにか?」

パチ、パタパタン

 

「ええ、誰しもワタシの顔色を窺ってばかり……本当の顔を見せてくれる人は殆どいませんでしたわ……」

パタパタパタパタ……

自身の幼少の頃の思い出をゆっくり語りだす。

 

「フン、あの時は俺も馬鹿だっただけだ……」

 

「あら、今でもワタシに()()()()()()()いるじゃないですか?」

パチ、パチパチ……

 

「当たり前だ、お前には解らないだろうが、ボーノレは俺の青春そのもの!!誰にも奪わせはしない!!」

パチ、パタ

楽しそうに話すまどかに対して山重は重々しく、絞り出すような声で話す。

「そうですわね、それほど大切なんですよね……」

パタパタ……

「どうした?やけにしおらしいではないか?手加減はしないぞ?」

パタンパタン

「無用ですわ、この勝負ワタシが勝ちますもの」

パタ、パチ

「よく言った」

何処かうれしそうに山重かコマを取る。

パタンパタパチ

 

「ねぇ?初めて会った日の事覚えてます?」

パチ!!

「覚えてないな。いつの間にかお前が、俺の友達の妹に付いて来ただけだ」

パチパチ!!

「アナタにはその程度でしたけど、ワタシは革命的でした」

パタンパタパタ

「……何が言いたいんだ?」

パチパチパタ

 

「さっきも言ったようにワタシの憧れだったんです、アナタが……新しい考え、見た事も

無い遊び、無邪気な笑顔、たまにワタシにするイジワル……新しい世界に見せてくれたんですわ!!」

パタパタ

「ふぅん……で?」

パチパチ

「あら、気が付かないフリですの?」

パタパタパチン

「フリも何も、お前の言いたいことは全く理解出来ん」

パチ、パチ……パチ

「あら、本当に酷いですわね……泣きたくなりますわ……」

パタンパタン

「何が言いたいかさっさと言え!!」

バッチーン!!パタパタ

苛立ちを隠そうとせずに山重がボードにコマを叩きつけるように置く!!

 

「あら?女の方から言わせるなんて……イジワルですわね……」

「…………?」

パチ、パチパタパタ……

 

 

 

「アナタの事が好きでした……!!」

絞り出すようにまどかが話す。

この気持ちは嘘偽りない本心、まどかの心の中には常に山重がいた。

「…………!!」

一瞬だが山重が硬直する。

「何も言わないんですの?」

パチン……

「こんな時に、悪趣味な冗談はよしてもらおう!!」

しかしそんなのは本当に僅か一瞬、すぐに態度を改める。

パタパタ!!

 

「今のアナタに何を言ってももう聞こえないんですわね……」

パタンパタパタ……

「安いお涙頂戴は要らん!!何をしようとも、俺は動くつもりはない!!目指すは勝利

の二文字のみ!!」

バッチーンン!!

「……そうですわね……ある意味、この段階に追い詰めたのはワタシなのかもしれません

わ……」

 

「そうだ!!お前が変な条件を付きだして来た!!何が目的かは知らん!!だが、だが

なぁ!!コレは俺が見つけた俺の輝く場所!!自分の守るべき場所!!お前なんぞに、

お前なんぞに絶対に譲らん!!」

僅かにうなだれる、まどかに対して山重が追及するような話し方をする!!

その態度に、まどかの中に会った山重への熱がどんどん下がっていくのを感じた。

 

 

 

「良いですわ、そうでなくちゃ、そうでなくちゃ面白く有りませんわ!!絶対、ぜぇえ

ええええったあああいに!!叩き潰してあげます!!」

そう宣言すると同時にまどかの指筋が変化する!!

戸惑う様な動きから、目的に向けて一直線に動く姿へと!!

 

「……くそ……!!そんな……馬鹿な!?」

圧倒的なまどかの手によりどんどん山重の色は失われていく!!

 

「アナタ、今まで自分が強い積りでいたんですか?」

何処か余裕じみた、正確に言えば()()()()まどかの態度へと変化する!!

 

「なぜ……ここまで……」

コマがかなり消えた盤上を見て唖然とする山重。

「オセロを教えてくださったのはアナタですわ!!ワタシね?一人でいる時、次アナタに会う事ばかり考えてましたの!!」

 

「俺を倒すためにか!?」

 

「違います!!アナタとまた遊びたかったから!!前みたいに!!」

 

「今更何を言う!!」

 

「アナタはワタシの憧れだった!!けれど、再び出会ったアナタは……アナタは変わって

しまった!!ワタシの理想から大きく外れた!!」

 

「当たり前だ!!俺の人生だ!!なぜお前の思い通りにならなくてはいけない!!」

 

「そう、全てがワタシの思い通りになるなんてただの甘えでしたわ!!」

 

「それを理解しているならなぜ?俺の邪魔をする!!なぜだ!!」

 

「ワタシね?ワタシにもね、譲れないモノ(友達)が出来ましたの!!その人達は、

愚かなワタシに味方してくれた!!間違っているのはワタシなのに……!!叱ってくれ

て、それでも協力してくれた!!間違ってもいいって、失敗しても良いって教えてくれ

た!!だから、だから……」

 

「俺を倒そうと?自分だけでなく友達の為にも、と?」

 

「ええ、そうですわ!!そしてこれで……」

そう言って盤上の開いた空間に、コマを近づける。

「!!それは……」

そこは、量自体は少ないがコマを取りにくい場所、ここにコマを置けばまどかの勝利はほぼ確実になる!!

 

「ここでワタシの勝ですわ……けれど……」

パチン!!

「なぜ、そこに置いた?勝ちは確実で……」

まどかが置いたのは別の場所だった、誰しも一目で解る悪手だった。

 

「ワタシからアナタへの最後の慈悲です、ありがとうお兄様。楽しい夢を、思い出

を……」

パチン

「馬鹿な奴だ……」

帰す一手で、山重が先ほどまどかの使わなかった部分を使う。

パタパタパタパタ……

おおくのコマが入れ替わっていく……

そして遂に……

 

『決着ゲドー!!最終決戦は『志余束高校』の勝利ゲド!!そして同時に今回の大会す

べてのゲームが終了したゲド!!それぞれ選手は控え室にて結果発表を待つゲド!!』

 

 

 

アナウンスが響くと同時に二人が席から立ち歩いて行く……

どうしても、どうしてもまどかは山重に勝事は出来なかった。

きっとそれは彼に対する罪悪感……散々利用した自分に対する負い目からの行動だったのかもしれない……最後の最期で彼女は自ら敗北を選んだ。

「さよなら、ワタシの初恋、ワタシの親友……」

会場に小さく誰かの声が響いた……

 

 

 

「まどかちゃん!!」

「ああ、みなさん……ごめんなさい、負けてしまいましたわ……優勝も出来なかった……明日の便で帰る事に……」

帰って来た、まどかに天峰が声を掛けるが何処か心ここに非ずと言った感じだ。

 

「そんなの!!そんなのダメだろ!!」

「……!!放して!!」

天峰がまどかを激しく揺さぶる、その中にはいろいろな感情がないまぜになっていた。

 

「せっかく木枯ちゃんとまた会えたんだろ!?こんなすぐにあきらめて良いのかよ!!」

 

「良い訳有りませんわ!!けど……それが約束――」

 

そこで再びアナウンスが流れだした。

『ゲドゲド!!集計が終わったゲド!!優勝は……いないゲド!!現在ゴールデンストーンズとフリーダムソングスが同着ゲド!!そのため最終(予備)戦を開始するゲド!!競技を選ぶ為両チームは、こちらで今スグ引くゲド!!……あ、関係ないチームは帰って良いゲドよ?』

 

放送を聞きまどかが自嘲気味に笑う。

「ほぅら、帰れですって……さぁ、みなさん行きましょう?ああ、そうだ。ワタシに付き合ってくれたお礼に帰りにお寿司でも――イタァ!?」

 

後ろから誰かが現れまどかを殴りつけた!!

「一体何を――」

「まどかのバカァ!!」

そこに居たのは木枯だった。

眼にいっぱい涙をため、前進を震わせながらそこに立っていた。

 

「あら、アナタに馬鹿って言われる日が来るなんて……」

「悔しくないの!?なんで勝たなかったの!?まどかなら絶対勝てるでしょ!?」

今まで見た事ない様な鬼気迫る表情で、まどかの服の襟をつかみ上げる!!

 

「やめなさい……この服高いんですのよ?」

「悔しくないの?……悲しくないの!!もう会えないかもしれない――」

「悔しいですわ!!悲しいですわよ!!ワタシは……ワタシは二つの物を失いましたわ!!なぜ悲しくないなんて言えるんですの!!」

遂にまどかまで泣き出した、彼女のウチに有るのは後悔……

きっとこれからも、ずっと悲しみ続けるのだろう……

 

 

 

 

 

『おおーっと!!最終競技(予備)が決まったゲド~!!コレは…………は?……こんなことが有るゲド?い、いや……決まったものは……決まったものはしょうがないゲド!!全参加者!!聞くゲド!!最終競技(予備)『スク乱舞る・奪取』ゲド!!本来コレは全員同時の競技……個人競技にはないハズゲドが……出た物はしょうが無いゲド~。帰るのをやめて!全チームグラウンドに集合ゲド!!』

 

その言葉を聞き天峰達の瞳に再び光がともった!!

「まどかちゃん、いや、お嬢様……今、欲しい物はなんですか?」

佐々木の口調をマネしながら天峰がまどかに、すでに決まりきった事を聞く。

 

「もちろん……勝利ですわ……ワタシにふさわしい」

その言葉に天峰はニッと笑った。

 

「夕日ちゃん、藍雨ちゃん、ヤケ……他の奴から『勝ち』奪いに行こうぜ?」

「……そう言うと思った……」

「ええ、先輩ならそう言いますよね!!」

「ちょっとハッピーエンド拾いに行こうか!!」

そう言ってメンバー達はグラウンドに走って向かった。

 




最初から引っ張ったボーノレ!!
このタイミングで使うと言う暴挙!!
作中の告白シーンはなぜかテンションがスゲー上がった……
なぜだ?寝取りと言う奴か?そうなのか!?

自分の新しい一面です。


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夢の追い人

今回でラストです。
お付き合いありがとうございました。


遂に最終競技。

今回の競技は『スク乱舞る・奪取』

簡単に言えば、スタンプラリーだ。

大会側が用意した、4つのスタンプを紙に押し会場の審査員(今回は外道)に渡す事で勝利となる。

ルールとしては、スタンプを隠さない事、紙を他人から奪わない事の二つである。

 

『ゲェ~ドゲドゲド!!長らく続いた競技もこれで最後ゲド!!現状はほぼ横並びゲド!!この競技の勝利者が逆転で優勝。という事も十分あるゲド!!皆の衆頑張るゲド!!』

『素晴らしいですね!!私楽しみでなりません!!』

 

 

 

そう言っている間にも、会場の端に自転車やスケートボードなどが置かれていく。

 

「どうやら、この競技乗り物の使用が認められているみたいだな」

天峰が、こっそりと八家に耳打ちする。

最終競技は第一回戦と同じく体力勝負、ここで天峰率いる『天気屋』の戦力は天峰と八家の二人に限られた事になる。

 

「分かってる、全員が狙ってるんだ嫌でも気が付くさ……」

 

そうしているウチに、チームの全員にスタンプカードが配られる。

特に押す順番は決まっておらず、有る程度コースは自由に選べるようだ。

 

「やるぞ、ヤケ。この勝負絶対に勝ぞ!!」

「わ~かってる!!任せとけ!!」

 

全員がスタートラインに付く。

 

『それでは……スタートゲド!!』

パァン!!と運動会などで使われる、銃の様な物の音が響く!!

 

「行く……ぐはぁ!?」

「ヤケぇ!?」

スタートと同時に、様々なところから悲鳴が上がる。

何事かと、混乱した天峰が目撃したのはライバルを攻撃する、選手達。

ここでの妨害は禁止されていない。

自身のチームを半分に分け、妨害要員に割いたところが多い様だ。

 

「はぁい、会いたかったよ!!この変質者!!」

『H&S連合』の八咲 鈴菜がいつの間にか八家の腹に拳を叩きこんでいた!!

 

「……誰だっけ?キミ?」

「コイツッ!!まだ私を馬鹿にするなんていい度胸!!」

個人戦一回戦目と同じ様に、八家が二ヘラと笑い挑発する。

 

「天峰ぇ!!お前先に行け!!まどかちゃんに笑顔届けるんだろぉ!?ロリコン根性見せろよ!!」

「おうよ!!俺の実力見せてやるぜぇ!!」

パチンッ!!とお互いバトンタッチするように手を叩きあわせ天峰は自転車の向かって走り出す!!

 

 

 

「ふぅん……変質者の友達はロリコンかぁ、お前のチーム変質者ばっか?うえ!!キッモチワルー……」

他の参加者を叩きのめしながら、鈴菜が吐き捨てる。

心底気に入らないと言った心理が見え隠れする。

 

「……オイ、今の取り消せよ……」

「あ”?ナニ?私になんか文句有るの?」

 

「俺は、確かに他の奴らより欲に忠実さ。ジャンルもJY、JC、JK、JD、OL、SM、熟女、未亡人、バイト、正社員、派遣社員、秘書、社長、不良、優等生、委員長、お嬢様、転校生、幼馴染、電波系、男の娘、従妹、義妹、義姉、義母、ツンデレ、ヤンデレ、クーデレ、デレデレ、レズ、天然、小悪魔系、エルフ、モン娘、単眼、くっ殺、おねショタ、ショタおね、調教、逆レ、和姦、無乳、貧乳、膨らみかけ、普通乳、巨乳、爆乳、超乳、奇乳、魔乳!!!有りとあらゆるジャンル、シチュエーションが俺の守備範囲だ!!だけどな、だけど天峰はブレ無い漢なんだよ!!ひたすら、自分の好きな物だけを持て目続ける探究者なんだよ!!たった一つのジャンルを守る男は強いんだよ!!お前なんかが理解できない程にな!!」

 

「ひぃ!?キモ!!キモチワル!!」

 

 

 

 

 

「あと、少し……あと少しで自転車……ぐはぁ!?」

「どけぃ!!」

天峰は隣から現れた大男に突き飛ばされた。

その男は、蛇野 獅石。

圧倒的に恵まれた体格を持つ男だった。

序盤は緊張で動けなかったようだが、現在はその圧倒的能力を遺憾なく発揮出来ている様だった。

 

「はっはー!!先に行かせてもらうぞ!!」

自転車の飛び乗ると同時に、猛スピードで走り出す!!

 

「クソッ!!他は……他は無いのか!!」

狼狽えながらも他の乗り物を探すが、有るのは2人乗りや、何故か有るミニカーだけだった。

不意に見ると、先頭集団に山重と新芽が見えた。

2人とも、自転車のスピードがかなり早いのは天峰がまどかと初めて会った日に嫌と言うほど知っている。

天峰の中に絶望がジワリと広がる。

 

「こ、こうなったら走ってでも……」

天峰が走り出そうとした時、夕日が天峰の袖を引っ張る。

 

「……来て……渡された」

そう言って夕日が天峰に見せるのは車のキーだった。

「?」

状況が読み取れない天峰。

自動車を使う場合、自分が運転するか公共のものを使う必要がある。

もちろん天峰は車など運転出来ない。

「……相棒が……待ってる……」

 

夕日に連れられ、向かった先は駐車場だった。

やはり、無駄に広く車もまばらにしかない。

そこで待っていたのは佐々木だった。

 

「お待ちしておりました、私は選手ではないのでお手伝いできませんが……これをお渡しするくらいなら、問題有りません」

夕日からカギを受け取りリムジンのトランクを開ける。

 

「!!コレ……って……なんで此処に?」

「学校にお忘れでしたので、午前中に持ってきました」

そう言って、トランクからそれを下ろす。

青と銀の輝くマシン……天峰の通学を支える相棒――

 

「サイクロンシューター!!」

通学自転車だった。

 

「ありがとう、佐々木さん……アナタの、アナタのお陰でまどかちゃんの為にまた戦える……またまどかちゃんに笑顔を届けれられる!!」

それだけ言うと、天峰はペダルに足を掛けて勢いよく走り出す!!

 

「……お気をつけてください……」

佐々木はポツリと心配そうにそう漏らした。

「……大丈夫……天峰は……勝ってくる……」

それを励ますように夕日がそう漏らした。

 

 

 

 

 

自転車をこぎながら、天峰は自身のマシンサイクロンシューターに話しかける。

「よう、相棒――調子はどうだ?」

シャー、シャー、シャー……

「そうか、久しぶりだよな、こうやって誰かと競争するの。八家と最後にやったのいつだろう?」

シャーシャーシャー!!

「勝とうぜ!!誰かの為とかじゃな!!目の前に誰かがいるなら!!追い抜きたいよな!!!???」

シャー!!シャー!!!シャー!!!!!

「いっくぜぇ!!」

ガゴン!!

天峰はより一層ペダルに力を入れた!!!

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……王聖さぁん!!今、今俺達ドン位行きましたっけ!?」

チーム『園田家』のメンバー園田 灯直が()()()()園田 王聖に話しかける。

現在二人は2人のり自転車をこいでいた。

誰も選ばなかった為、余っており運よく入手できたのだ。

 

「知らん!!だが、前には他の奴らがいる!!追い抜くぞ!!追い抜いてトップに立つ!!」

「はぁ、はぁ……ハイ!!がん、頑張りましょう!!」

灯直がそう言った瞬間自身の横を、天峰が通り過ぎた!!

鬼気迫る表情に凄まじいスピード!!その両方を誇り、灯直は冷や汗をかいた。

 

「王聖さん、今の……」

「ああ、もう諦めよう……」

実に残念そうに王聖が灯直に言う。

それに反発したのはほかならぬ灯直だった。

「ぜぇ、王聖さん!!何言ってるんですか!!ぜぇ、せっかくここまで……ここまで来たのに!!」

「お前、体力の限界だろ?先ほどからずっとそうだ、無理をさせ過ぎた様だな……」

そう言ったゆっくりブレーキをかけ、遂には止まってしまった。

 

「王聖さん!!なんで!!なんでみすみすチャンス逃すんですか!!おれ、おれなんかに構ってないで……ぜぇ、一人でも……!!」

「煩い!!黙っていろ!!」

尚も食い下がる灯直をバッサリと一刀両断!!

 

「なんで、なんで俺なんかにぃ……すいません、すいません王聖さん、俺が、俺が体力無いせいでぇ……」

「なんの事か知らんな……俺は、園田のヤツが美味そうに味噌汁を飲んでいるせいで自分んも飲みたくなっただけだ、飲みたくなったから自転車を止めた、それだけだ……」

 

崩れ落ちる、灯直にそう言い放つと近くに有った自動販売機から味噌汁を2本買って一本を灯直に渡した。

「飲め、園田。おごりだ」

「ぜ、全員園田で……す……名前、で……ぜぇ……名前で呼んでください……」

「疲れただろう?ゆっくり休め、()()

 

 

 

 

 

トン……

天峰のスタンプカードにスタンプが押される。

これで二個目だ。

 

「行くか……」

そう言って再び自分の相棒に乗り込む。

ここまで来るのに、一組抜かした。

 

まだまだ本命の先輩二人は愚か、さっき逃した蛇野すら姿が見えない。

 

心なしか前回よりも焦りが消えた気がした。

なぜかは天峰には解らない。

しかし体はまだまだ動く、もっと、もっと速度をと求めている気がする。

 

「っしゃ!!」

再び勢いよく自転車に乗り込む!!

 

 

 

「!! 見つけた!!」

天峰の前には大柄な男の背中!!

ガシャガシャと凄まじいスピードで自転車をこいでいる!!

 

無言で息を吸った天峰は足をさらに加速させる!!!

「……おお!?……まさか追いつくとは……!!あっぱれ!!」

 

威厳に満ちた表情で、獅石が笑う。

その名の通り彼は蛇の狡猾さと執念深さ、獅子の様な威厳と力強さを誇る。

 

「…………」

「オイ、なぜ無言なんだ!?何とか言ったらどうだ!!」

無言でひたすらサイクロンシュータ―を漕ぎ続ける天峰。

その瞳は遥か向こうを見ていた。

 

(こいつ……!!俺を見ておらん!!……話しかけられても気が付かんまでの集中か!?面白い!!俺の存在をその眼に刻んでやろう!)

天峰の態度に、強い意志を感じた獅石は敵を倒すべく自身のマシンに力を込める!!

 

シャーシャーシャー……

ガチャン!!ガチャ、ガチャ!!!

此処はすべての中でも、最長のストレートコース!!

お互いのマシンの音が周囲に響き渡る!!

シャーシャーシャー……

ガチャン!!ガチャ、ガチャ!!!

 

「…………」

「むぅおおおおお!!!」

シャーシャーシャー……

ガチャン!!ガチャ、ガチャ!!!

 

レースコースとして使われているが、ここは普通の道の為それ様に作られたコースではない。

砂利や小石などが容赦なく、転がっておりスピードをトップスピードに持って行くのを防いでいる!!

獅石の体力にも陰りが見え始めた。

 

「…………」

「ふぅおおおッおお!!!」

シャーシャーシャー……クイッ!!

ガチャン!!ガチャ、ガチャ!!

 

しかし天峰のスピードは、まるで落ち体力スピード共に落ちる事は無かった。

遂に、獅石がその事を怪しみだす。

その時、僅かに天峰がハンドルを動かす。

(な、何故だ?なぜ奴はこんなにも涼しい顔で……ハッ!?地面か!!地面の状況を読んでいるのか!?)

 

天峰は地面の小さな石を、躱していた!!

それだけではない!!より石の少ない場所を選び、体力の消耗を押さえていた!!

 

(障害物が少ない方が早く、体力の消耗も少ない!!だが、だがそんな事狙ってできるのか!?)

その時、獅石の心を読み取ったかのようにポツリと天峰がつぶやく。

「サイクロンシューター……それが俺の相棒(マシン)の名前だ……」

疾風の狙撃手(サイクロンシューター)……か……見事だよ……」

敗北を認めた獅石が、速度を緩める。

 

「なるほどな……惜しいな……最初から全力で戦いたかったものだ……」

そう言う獅石は、何処か満足気につぶやいた。

 

 

 

 

 

「これで、後一つ……」

3つ目のスタンプを押した天峰がそうつぶやく。

 

「ああ、最後はもうすぐだ……」

肩で息をしながら目の前の新芽が天峰に対して、答える。

彼の様子は明らかな疲労困憊で、立っているのもやっとの様だった。

 

「やり過ぎたよ……少し……ピッチを上げ過ぎた……」

「そうですか……」

天峰はただそう言って再びサイクロンシューターにまたがった。

新芽とは木枯に付いての事など、まだまだ話したい事は有ったが山重がまだ先に居る。

ゆっくり話す事は出来ないと考え、軽く会釈して最後のスタンプを押しに向かう。

 

 

 

 

 

「…………見えた!!」

遂に天峰が自身の視覚に山重の姿を捕える!!

目の前に追い越すべき最後の刺客がいる!!

彼に勝利することが最低条件、天峰は自分の両足にさらに力が入れる!!

 

その時天峰は不思議な感覚を感じていた。

(なんだろう?……すごくおかしな気分だ、体は全身が疲れてる、汗も酷いし両足も突っ張る、もう辞めたくてしょうがないハズなのに、なのにどんどん力が湧いてくる……!!どんどん頭が冴えてくる……!!そして……今と言う時間がたまらなく楽しい!!)

 

天峰の自転車が遂に、山重の隣に並ぶ!!

「幻原!!お前遂に来たのか……!!まどかと云いお前と云い、余程俺の邪魔をしたい様だな!!」

憎しみの籠った視線で天峰を睨みつける。

しかし天峰は全くそれを意にかえしはしない。

 

「何の事です?俺はやりたいから此処に居るんですよ。先輩と一緒です……先輩はこの競技が好きだから、俺はまどかちゃんの笑顔が好きだから此処に居る、それだけです」

そう言いながら尚もスピードを上げる!!

僅かに、僅かに天峰のマシンが先に出る。

 

「ふざけるなよ?俺は自分の――」

「『自分の夢の為』でしょ?知ってますよ、恥ずかしくないんですか?自分の好きな物を邪魔されたくらいで喚いて怒って」

 

冷めた目で天峰がチラリと山重を見る。

その態度には明らかな呆れが潜んでいた。

 

「俺はねぇ!!自分が好きなら何を言われようとそれを貫く意志を持ってます!!誰が邪魔しようと!!何度馬鹿にされようとも!!絶対に譲れはしないんです!!先輩は自分の好きなものを馬鹿にされたと喚く子供です!!俺ねぇ……俺は!!!ロリは好きだが子供(ショタ)は好きでもなんでもないんですよ!!

寧ろうぜぇ!!そこ代われ派の人間なんです!!」

 

「はぁ!?一体何を言いたいんだ!?まどかいいお前といい、一体なんなんだ!!」

 

「俺は!!!夢の追い人!!幼女の守護者(自称)!!幻原 天峰だぁ!!

追いついてみろ!!俺の幼女へのラブは!!誰にも止められない!!」

そう街中で大声を上げる!!

周りの買い物帰りの主婦が、ひそひそ噂するが気にしない!!

ランナーズハイ!!

 

「良いだろう!!!お前の幼女愛と俺のボーノレ愛!!どちらが勝つか勝負だ!!」

両者同時にスピードを上げる!!上げる!!!上げる!!!尚も速度は上昇し続ける!!

「「見えた!!」」

両者が同時に最後のスタンプを目にする!!

 

「世界に響けぇぇっぇぇぇえ!!!!俺の……俺のボーノレ愛ぃっぃっぃぃぃ!!」

「うをおおぉおっぉぉ!!!打ち込めぇええええサイクロン!!!シューターぁあああぁぁ!!!」

両者デットヒート!!譲らぬ勝利への思念!!

2人が台の上のスタンプに手を伸ばす!!

 

「獲った!!!」

そう宣言したのは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天峰!!その手に最後のスタンプを手にした!!

 

パァン!!

 

小気味の良い音がして最後のスタンプが、天峰の持つカードに押される。

 

「先輩、どうぞ……」

天峰が山重にスタンプを渡すが、山重は受け取らなかった。

 

「俺の負けだ……お前に勝てなかった……」

先ほどまでの勢いは何処かへ消え去り、ぐったりとしている。

しかしそんな山重へ天峰は無理やりスタンプを押しつけた。

 

「なんで、なんでアンタらはそんなにあきらめが良いんだよ!!足掻けよ!!万が一、億が一の可能性にすがれよ!!きっぱり諦めてカッコイイ積りかよ!!」

 

最早先輩という事も忘れ、激情に駆られたまま叱咤する。

天峰は諦めが良すぎる態度が気に食わなかった。

たとえ1000回負けても次の一回を求めない姿勢が気に食わないのだ!!

勝てるまで!!という泥臭さが足りない!!

天峰はその事をここでやっと理解した。

 

「先輩、先輩ならきっと来れるって信じてます」

そう言ってゴールへの道を進む。

 

最早何も考えていなかった。

追い抜いた奴らが来ないウチにと、最後の力を振り絞る。

 

「幻原!!幻原ぁ!!」

後ろから、山重の声が聞こえる。

同時に車輪の駆動音も、復活しこちらに向かっている様だった。

 

「良いですね!!やっぱり独走は詰まらな――」

「後ろだぁ!!」

復活した山重に笑顔を向けようと、首を右に回転させ後ろを振り向こうとした時。

逆側を凄まじいスピードで何かが通り過ぎた。

 

「え……?」

「『カルマ・スピード(業速弓)』………………」

 

気が付いて前を向きなおす時はもう遅かった。

カルマ・スピード、その自転車は確かにそう名乗った。

正に弓の様に、プロ野球選手の剛速球の様にまっすぐ飛んでいく!!

 

「な!?だ、誰だ!?速い、速すぎる!!」

このゲーム中何処かで見た背中を見送る。

誰かは解らない、しかし確実に見た事のある背中だった。

 

さっきも言ったように、現在順位はほぼ横並び。

『業速弓』がさきにゴールすれば、そのチームの勝利となる!!

 

「くそッ!!行かせるか!!この勝負は……勝ちは誰にも渡さない!!」

悲鳴を上げる身体に鞭を入れる!!

前の奴を追えと、勝利を逃がすなと

 

「幻原、俺も行くぞ!!あんな、あんな奴に……あんな奴に勝たせたならん!!」

山重も同じくボロボロの身体で『業速弓』を追う!!

 

「行くぜ先輩!!アイツから勝利をもぎ取る!!」

「おう!!優勝は俺かお前だ!!」

2人が再び足に力を入れ、速度を上げる!!

ボロボロの身体、僅かな残り距離、しかしそれでも、それでも必死に目の前の『業速弓』の追いすがる!!

お互いが、競うように。お互いが相手を思うように2台が疾走する!!

「うをっぉぉぉぉ!!」

「はぁああぁぁぁ!!」

あと僅か、あと僅かと言った所まで遂に追いつく!!

そして……

 

「ゴールだ!!ゴールが見えた!!」

3人の前にゴールとなる会場が見えてきた!!

最早どこにあるのかという気力を振り絞り、全力でペダルを踏む!!

そして遂に『業速弓』に並ぼうかというところで……

 

「カルマスピード……マックススピード!!」

グン!!と加速する『業速弓』!!

そしてそのまま、ゴールのテープを切った!!

 

外道が現れその男の手を高く上げる!!

 

「そんな……」

天峰が驚愕に目を開く!!

『ゴールゲドぉ!!優勝者は!!野原 八家ゲド!!』

 

「やったぜー!!ひゃっほう!!!」

その場で元気に飛び跳ねる!!

 

「……オイ。ヤケ……お前他の選手の足止めしてたんじゃ……」

「ん?その後、追ったんだけど?」

「イヤイヤ、お前のマシンって8(エイト)・ビート・ヒートじゃないのか?」

「パンクしたから修理出した、これ玉五兄さんの」

「ああ、五男の……」

がっくりと天峰はうなだれた。

 

「俺が最速だ!!おらぁ!!!」

会場に八家の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談

その後閉会式が行われた。

八家と天峰が1、2フィニッシュを決めたおかげで文句なくの優勝。

まどかは日本に残る事となった。

帰りにお寿司を食べに行き、簡単な祝賀会も行った。

MVPはもちろん八家だが……どうしても納得いかないのは無理もない話だろう。

そんな事が起きてから1月が経った。

 

 

 

 

天峰は廊下を歩いていた。

時間はお昼時、あれ以来ボーノレ部は解散し天峰は新しく「写真帰宅部」に入った。

帰り道の日常を写真に撮るというのもで、かなり緩い部活だ。

一緒に帰る夕日や藍雨ばか撮ってしまうのは、彼のサガだろう。

 

話を戻すと今日は購買で何かジュースでも、と思い校舎内を歩いていた。

そこに横から声が聞こえた。

「はぁい、庶民。久しぶりね?」

そこに居たのはまどかだった。

あれ以来学校どころか、殆ど姿も見なかったのみ当たり前の様に立っていた。

しかし驚くのはその服装だった。

 

「なんでウチの制服?」

まどかの服装は志余束の女子制服だった。

他の生徒と比べると明らかにサイズが小さいが、確かに天峰の学校の制服だった。

 

「あら、無知なんですのね?海外には飛び級という制度が有りまして、イギリスではワタシ高校レベルですの!!……ホントはお兄様と同学年になりたかったので頑張ったのですけど……まぁ良いですわ。

さて、ワタシは晴れてアナタの先輩なんですけれど……一回やってみたい事が有りますの!!う、ううん『おい、カレーパン買って来いよ』」

そう言って天峰に500円を渡す。

 

「まどかちゃん?ナニコレ?」

 

「何って……ジャパンの伝統パシリですわ!!ほらほら!!先輩のいう事は絶対!!その腱脚で早く行ってきなさい!!」

まどかはいつもの様に高飛車な態度でそう言い放った。




はい、今回でリミットラバーズ2部は終了です。
結構スランプ気味でしたがゴール出来て良かったです。

次は3部!!……と言いたい所ですが……

一回戻ってゼロ部行ってみましょう!!
活動報告に、次回予告上げときます。


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Episode0カウントダウンto『S』
私の事待ってて!!


第0章遂にスタート!!
天峰達のほんの少し前の物語です。


 Time limit 50:09:32

 

 

 

 

 

カリカリカリ……

教室内にノートを取る音と、教師が黒板に板書する音が静かに響いている。

(早く……!!早く終われよ!!)

とある少年が恨めし気に、時計を見ている。

四限目のこの授業、そろそろお腹が空いてくる生徒も多いのだが……

この少年、幻原 天峰(げんのばら たかみね)は違った。

 

その時不意に黒板の、板書が終了し先生がこちらを向いた。

「よーし、今回はここまでだ。書き写した者から順次終了して構わない、赤線で囲った所は今度のテストで出すぞ!!しっかり勉強して赤点などないように!!」

そう言い終わると、先生は教室から退場した。

お許しが出た生徒たちは僅かに活気付く。

 

(いよぅし!!終了宣言!!俺はこれを待っていた!!)

サラサラと自身のノートに板書を写しさらにポイント部分を丸で囲み、最後にオリジナルの幼女キャラを書き「ここがポイントだにゃん!!」とあざとくキャラ付けして教室の外に出る!!

多くの生徒は購買に向かうのだが、天峰は違った!!

目指すは、校舎の東側。

私立志余束高校は小中高の一貫校だ、そのためこの時間は……

 

(あああ~……心が癒されるんじゃ~)

まるで温泉に入った老人の様な台詞を心のなかでつぶやく!!

その視線の先に有るのは……!!

小学校のグラウンド!!生命の輝きにあふれる小学生たちが体育の授業中!!

 

(素晴らしぃ!!ロリコニュウムが!!ロリコニュウムが補給されていく!!)

恍惚の表情を浮かべる天峰!!

説明しよう!!この男、幻原 天峰はロリコンである!!

ロリコンとは!?小さな女の子の幼い肢体や言動等が、大好きな困った性癖である!!

一般的には病気と言われるが!!この男はレベルが違う!!まさにロリコンの末期!!

幼女無しでは生きていけないレベルである!!

 

「はぁい、天峰。また、過去を懐かしんでるの?」

天峰幸せな、ひと時を容赦なく邪魔する誰かの声!!

自身の最重要ライフワークの一つである、『ロリータウォッチング』を邪魔された天峰は機嫌が悪くなる!!

しかし悲しいかな……

天峰とて、無力な社会の一員に過ぎない……

平和な生活の為には、ロリコンが周囲にバレてはならない!!

その為他者には「過去を懐かしんでる」とうそをついているのだ。

その嘘の整合性を取るため、心の中で幼女たちに別れを告げ、断腸の思いで笑顔を作りその声の主に向き直る。

 

「……なんだ……卯月か……」

露骨にがっかりする天峰、興味なさげに再び小学生たちの居るグラウンドに向き直る。

 

「ちょっと!?なんだは無いでしょ!!なんだは!!せっかく私が話しかけてあげたのよ!?」

この少女の名は卯月 茉莉(うづき まつり)スタイル、性格、容姿、成績いずれも高スペックを誇るの校内の人気者!!

因みに噂では、校内女子人気ナンバー1の先輩に告白されたらしいが、フったらしい。

なんでだろう?

 

「あざーす、今忙しいんだよ!!あ、転んだ!!慰めに行きたい!!」

 

「ア・ン・タ・ね!!いい加減にしなさいよ!!いつか逮捕されて、収監先の刑務所のシャワー室で、怖いオジサンにおしりを狙われても知らないんだからね!!」

 

「怖!!お前の妄想変に細かくて怖!!ってかそんな事言われる筋合い無いっての、俺はただ見てるだけなんだぞ?やましい事は何もないだろ?」

尚もグラウンドに目を向けながら、天峰が卯月にそう告げる。

 

「はぁ、なんでこんな事に成ったのかしら……あの頃はかわいかったのに……時間って残酷よね……あなたと離された時間さえ、無ければこんな事に成らなかったのかしら……」

 

悲しそうに卯月がため息を漏らす。

あの頃は楽しかった……天峰もその言葉に賛成だ、しかし今は今なのだ、もう過去には戻れない。

 

少しだけ、昔話をしよう。

天峰と卯月の出会いは、お互いが小学1年の時に遡る。

はじめて座る教室の椅子にワクワクしながら、二人は出会った。

切っ掛けはもう覚えていない、どちらから?と問われても解らない、たぶんどちらともというのが正解だろう。

2人はお互いに惹かれあって行った。

小学生のそんな気持ちは無い、と言われてしまえばそれまでだろうがきっとお互い相手の事が好きだったのだと思う。

幼い幼い恋愛感情、だが確かに二人は相手を思いやっていたのだろう。

しかし

ある日、悲劇が訪れる。

卯月の両親の仕事の都合による引っ越しが決まってしまった……

「大人の都合」その圧倒的な壁は幼い二人にあまりに大きすぎた。

何も出来る事は無く、最後の日まで二人はいつもの様に過ごしていた。

そして、いつも遊んだ公園で二人は約束したのだった。

 

「私は絶対にまたここに戻ってくるから、だから、だからね?私の事待ってて!!絶対に帰ってくるから!!天峰君大好きだから!!」

「ボクも、ボクも茉莉ちゃんのこと好きだから!!好きだからずっと待ってる!!」

そう言って二人は夕焼けの照らす公園で抱きしめあった。

 

翌日天峰は卯月の居なくなった公園に一人たたずんでいた。

「必ず帰ってくる」その言葉を彼は信じた。

愚かとしか言えない愚直さで、彼は遠い地に居る彼女の事を思い続けた……

公園で遊ぶ子供たちの中に、自身の思い人の面影を探し続けた……

そしてそれは、毎月、毎週、毎日続いた……

さらに月日は流れ、天峰は中学2年になっていた。

ひとによっては高校受験や新しい恋など、有るかもしれないがそれでも天峰は公園に居続けた。

全ては思い人への約束の為に……!!

 

 

 

 

 

そしてある日遂に約束は果たされた。

何時もの様に公園で遊ぶ子供を見る天峰、そんな彼に話しかける影が一つ。

 

「やっと、見つけたわよ?約束守ってくれたんだ……ね、久しぶり!!天峰!!」

その声に天峰は持っていた、ジュースの缶を地面に落としてしまった。

そこに居たのは、美しく成長した卯月の姿。

幼さは消え去り、美しさが彼女を包んでいた。

そんな成長した卯月に天峰は……

 

「え!?卯月?…………違くね?」

「へ?」

天峰の心に飛来した感情は、卯月の思っていた物とは明らかに違う物だった!!

その感情とは!!圧倒的なコレジャナイ感!!

天峰の中の卯月はこんな姿ではない!!もっと身長も低いし、声も違う、さらに言うこんなにも胸も大きくない!!その結果がコレジャナイ感だった!!

天峰の中の卯月は幼いままの卯月!!幼女の卯月!!

長い時間公園の幼女たちを見る天峰には新たな性癖が出来ていた!!

その事を理解した天峰は、自身のもう一つの一面に気が付いたそして!!受け入れた!!

 

 

「俺は……俺は、卯月が好きなんじゃない……俺が……俺が好きなのは……!!幼女だ!!幼女なんだ!!小さな肢体!!口足らずな所!!そしてピュアな心!!俺が好きなのは幼女だああああああああああ!!!!!!!!!」

 

ロ リ コ ン 覚 醒 ! ! !

 

そして現代にいたる!!

 

「いや~、ホントに幼女っていいもんだな」

しみじみと天峰が小学生たちを見ながら話す。

その態度に卯月の限界が遂に訪れた。

 

「なに?アンタ小学生と恋愛したいとか言うんじゃないでしょうね?その小学生を覗く趣味は実害が無い内は許してあげるわ、けどもし手を出すならそれは立派な犯罪よ!!そこん所理解してるの!?」

攻め立てるような卯月の言葉に天峰がたじろぐ。

それに良い訳をする様に天峰が答えていく。

 

「そんな事分かってるよ……だから見てるだけで――」

「そんなやましい気持ちで小学生たちを見るな!!アンタいい加減にしないと何時か本当に逮捕されるわよ!!」

言いたい事を言い終わったのか、卯月は怒りながら何処かへ行ってしまった。

 

天峰とて理解しているのだ、自分が異端であると。

しかし彼はどうしても幼い女の子が好きなのだ、それはどうしょうもなかった。

 

「はぁ……俺は、誰が好きなんだ?卯月なのか?それとも幼女なのか?……俺は幼女が好きなつもりだ……けどそれは許されないのか……俺はどうすればいいんだ?」

自身の気持ちが理解出来ず、泣きそうな顔でグラウンドを見る。

何時の間にか、体育は終わり幼女たちは道具の片付けをしていた。

 

「……んん!!なんだアレ!?」

そんな中天峰がとあるモノを見つけ声を上げた。




まさかのあの人が登場。
ある意味この時代が最も輝いていたんだな……
成長って残酷ね……


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ロリコンの人でしょ?

あれ?最近卯月がヒロインしている……
なぜだ?


 Time limit 49:08:22

 

 

 

 

 

(ああもう!!イライラする!!)

卯月茉莉は非常に不愉快な気分で、廊下を歩いていた。

不機嫌な理由は簡単だ、ついさっきの天峰の態度だ。

 

(あのバカは一体何を考えてるの!?私をフルのはまだいいわ!!……悲しいけど『人の思いをずっと』なんてのは都合が良すぎるのは分かってるわ……けど!!相手も居ないのに成長したからサヨナラって何よ!!幼女が好きって何よ!!ロリコンって恥ずかしくないの!?……絶対また私に振り向かせてあげるんだから!!)

そう決心を新たにする。

 

勘違いされがちだが、卯月自身自分の容姿が特段優れているとは考えていない。

寧ろまだまだ努力すべき点があると思っている。

彼女は美容と健康には他人より特別、気を使っているつもりだ。

あらゆる面での非凡な努力、それこそが彼女を校内の人気者至らしめている秘密だ。

もちろんその努力は全て自分の思い人を振り向かせるために……

 

「ったく……どうして()()なっちゃったのかしら……まったくイヤに成るわ……」

いつの間にか考えている事を口に出して、ため息を思わず漏らす。

その心中は酷く複雑だ。

天峰に対する好意というのは、確実に現在でも自分の中に有る。

あえない時はいつも彼の事を考えいたし、好かれるための努力も決しておろそかにはしていないハズだ。

そんなに気持ちが向いているというのに、彼は他の誰かを見てばかりいる。

これが荒れずにいられるだろうか?

 

 

「あれぇ?茉莉お姉ちゃんどうしたの?ため息なんてついて?」

後ろからの声に卯月が振り返る。

誰かは知らないが何処かで聞いたことのある声だ。

 

「……あら、夜宵ちゃんじゃない?どうしてこんな所にいるの?」

そこに居たのは、卯月の従妹に当たる少女。

読河 夜宵(よみかわ やよい)だった。

 

夜宵は片手に紙の束を持っており、もう片方の手で自身のスカートの端をつまんだ。

「お姉ちゃん忘れたの?私今年から中学生よ?……ああ、この束は地理の先生が高等部の準備室から借りてきてって頼んだ世界地図ね」

そう言うと同時に紙の束も見せる。

 

天峰と卯月の通う志余束は、小学校から高校までのエレベーター方式の学校で有り。

小学校とは校舎は別だが、中高は校舎も同じで日常的に中高生たちの接触が有る。

そのため、中学生が高校のクラス前に居る事も珍しくない。

しかし問題は他の所に有った。

 

「あ、ああ……そうなの……知らなかったわ……そっかぁ、もう中学生かー」

それは卯月が個人的に夜宵を苦手としている事だった。

何故なら……

 

「そうそう、お姉ちゃん何か悩んでるの?」

 

「え!?な、何も悩んでないわよ?」

夜宵が鋭い質問をするが、卯月は必死で誤魔化そうとする。

 

「うっそだー!!だってぇ何かイライラしてるみたいだし、けどただイライラしてるだけじゃないよね?う~ん……女の勘的に恋の悩みね!!」

ビシッと卯月の考えていた事を、自信ありげに言いあてる。

「ち、ちがうわよぉ?夜宵ちゃんもおませさんね……(相変わらずの凄い勘!?)」

 

そう、卯月が夜宵を苦手とする理由はここに有った。

夜宵は「女の勘」と言う物が非常に鋭い。

更に話術まで優れており、さらにいろいろとおかしな人脈がある油断ならない人物なのである。

 

もしも、もしもだ。

彼女に、自分の思い人が久しぶりに会ったらロリコンに成っていた。

なんて言ったらどうなるか解らない!!

 

「じゃ、じゃあ私次の授業が有るから……」

そう言って手短に別れを告げ、夜宵から距離を取ろうとする。

 

「うん!!じゃあね!!例の彼氏さんによろしくね~」

それだけ言うと、後ろを向き歩き出そうとする。

 

「え?夜宵ちゃん天峰の事しってるの!?」

 

「……うん、もちろんだよ?ロリコンの人でしょ?」

ニヤリと笑う夜宵。

その言葉に卯月が慌てだす。

「ちょ、ちょっと!?誰から聞いたのよ!?」

 

卯月は夜宵の言葉に焦りだす。

自分では隠していたつもりの事がこんなにもあっさりと、バレていたとなればそれもしょうがないだろう。

 

「……ひひ、そんなの簡単だよ、卯月お姉ちゃんなんだか、悩んでるみたいに見えたから『恋の悩み?』ってカマ掛けたのそしたらドンピシャ!!あんなに慌てだしたら誰でもわかるよねー?

で、ポイントはここから、お姉ちゃん自分で『タカミネ』って名前出したじゃない?私自身噂好きだから、校舎内の噂をたくさん集めてるんだよねー。

もちろん天峰さんの事も聞いてる、結構かっこいいけど何故か小学校の校舎ばっかり見てる人でしょ?ソコから連想すれば、大体は解るでしょ?

ちょっと突けばボロが出る。後はちょっとの想像力と度胸と運!!」

 

そう言って自慢げに笑う。

卯月は完全に嵌められた形となった訳である。

 

「すごいわね……夜宵ちゃんの言うとおりよ……あなたのそう言う賢い所って私は嫌いじゃないわ。けど、そんな事ばかりしてると何時かみんなに嫌われるわよ?」

絞り出すような声で、夜宵を見据える。

そこにはもう既に、年上としての威厳などなかった。

 

「大丈夫、大丈夫。卯月お姉ちゃん知ってる?どんなに話したって所詮は『噂』でしかないの、煙みたいに形が無くて簡単に操れる、けれども確かに信じている人もいる。

人はみんな自分が面白い様に動くの、私はその中心に居る。

噂の霧の中で誰にも私に気が付かないわ。

ねぇ、お姉ちゃん?私個人的にお姉ちゃんが好きよ?少しだけ協力してあげようか?」

ニヤリと、まるでそこのしれない顔で嗤った。

『噂の霧』彼女はそう言ったが、まさにその通りだった。

正確な心の内は解らず、けれども確実に心の中に入り込んでくる。

そんな気配を彼女は持っていた。

 

「協力?夜宵ちゃんが?」

その時チャイムが鳴り始める。

彼女が目の前に居るせいか、いつもよりもずっとゆっくりに聞こえた。

 

「そうだよ?お姉ちゃんが望むなら、師匠譲りの情報網で天峰さんの事調べてあげるよ?恋は情報戦だよ?」

 

「うれしいわね……けれどどうしてそこまでしてくれるの?あなたには何のメリットもないハズよ?」

 

「あははははは……メリット?メリットなら有るわ?簡単、だって面白くなりそうだから、私は自分が楽しむためならどんな努力も惜しまないわ!私はね?自分の為ならどこまでも他人の力になれるの」

ニヤリと年不相応の顔をして、卯月の表情を見る。

自分の為、何処までも利己主義的な考えだが、それゆえに信用できるともいえるだろう。

 

「……そんな事より、夜宵ちゃん。チャイム鳴ったわよ?プリント、届けなくていいの?」

卯月は夜宵がさっき言っていた、件を指摘した。

 

「あ!?いっけない!!すっかり忘れてたよ!!あ~ん!!途中まではミステリアスな感じで恰好良かったのにぃ!!じゃあね、お姉ちゃん!!私プリント出してくるから!!」

それだけ、言い放つと廊下を、スカートがめくれるのも気にせず全力で走り出した。

(はぁあ。軍師気取りって感じね)

何処か呆れながらも、心強い味方が出来た事を卯月は少しだけ喜んだ。

 

 

 

 

 

一方その頃天峰は……

 

「おっと……チャイムか。結構ロリコニウムは補充出来たな……これであとしばらくは禁断症状に悩まされなくて済むな……あ、禁断症状なんて出たことなかったわ!!」

凄まじくどうでもいいことばかり考えていた!!

 




夜宵ちゃんは実は過去に名前だけ、登場しています。

自称ミステリアスなへっぽこ軍師


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死なない程度にがんばってね

かいてたら、少し長くなりました。
言い切り具合がなかなか見つからない……


Time limit 49:50:22

 

 

 

 

 

天峰のライフワークである。

幼女ウォッチも終了し、再び授業が始まる。

退屈な時間だが、学生の身分だ受けなくてはいけない。

入って来た教師が授業を始める。

 

「え~であるからにして、一度『丹田』の言うへその近くにある場所にスピリチュアルを溜める事によって……」

教壇では先生がスピリチュアルパワーに付いて説明している。

実はこの学校ではスピリチュアルなパワーで戦う戦士を育成している。

……という事は全くなく、週一で特別授業という形でそれぞれ勉強以外に知っていると役立つ物事を教えてくれると言う、《《先生によっては》》有意義な授業である。

 

では、現在天峰の受けている授業の講師、城山 最(しろやま さい)はどうだろうか?

彼が教えているのは、先ほども言った様にスピリチュアルなオーラの使用方法。

コアなファンがいるようだが、正直言って素晴らしく詰まらない!!

因みに城山先生は、生徒間で変態教師四天王と呼ばれている人間の一人である。

ぶっちゃけるとこの授業……ハズレである!!!!

 

天峰は自身の頭の中で「ふっ!!俺の事見てるんだろ?解ってるぜ?」と思考を読まれた時なために必要のない妄想を始める。

 

「――では幻原君、実際にオーラを溜めてみてくれ」

ボーッとしていた天峰を、城山が指名する。

 

(うげぇ!?いきなり当てられた……)

殆ど授業など聞いていなかった為、一瞬激しく躊躇するが仕方なく形だけでもやってみる事にした。

 

(たしか……こうやってた……カナ?)

へその下に力を込めながら深呼吸を繰り返す。

 

「おおぉう!?すばらしぃ!!どんどんスピリチュアルなパワーが溜まっていくぞ!!天才!?キミは天才なのか!!」

城山が激しく反応し、天峰をほめたたえる!!

しかし、何故か全くうれしくない!!

 

(いや、むしろ恥ずかしい様な……)

 

「どうした!?オーラが乱れているぞ!!集中だ!!集中するんだ!!」

天峰の心の中の葛藤を知らない城山は、天峰に激を飛ばす!!

 

「あの……先生?何時までその、溜め続ければ――」

 

「馬鹿者!!オーラを溜めている最中にしゃべるんじゃない!!空気中の酸素とオーラ同士が反発して爆死するぞ!!」

『爆死』の単語を聞いた他の生徒までもが、ざわめきだす。

延々と無言でオーラを溜める天峰と、それをアツく賞賛する城山!!

教室は完全にカオス空間となった!!

 

(ふ、うええ……正直泣きたい……)

授業時間終了まで、天峰は無言でオーラを溜め続けた。

 

 

 

チャイムがなり、天峰はやっと謎のオーラ地獄から解放された。

心労に効く薬(幼女)の補給とトイレで用を足したいと思い立ち上がるが……

そこに近づくは城山の影!!

 

「やあ、天峰君先ほどのオーラ、実に見事だった。そこでどうだね?私の顧問するスピリチュアル・オーラ部に入らないかい?」

にっこりと誘うように天峰を部活に勧誘する。

 

「(え……部活あるの?ってか、絶対入りたくないし……)謹んでお断りします」

 

「ふふ、そうだろ?是非ともこの部活で……え?」

天峰が断ると思っていなかったのか、城山は一瞬理解できなかった様だった。

 

「天峰君、君は自分の才能に気が付いていないのだよ?君の力なら即戦力だ!!いや、戦力どころではない!!君が私の元で訓練を積めば全国制覇も夢じゃない!!」

先ほどまでの余裕の態度は消え、天峰を懸命に自分の部活に誘いはじめた。

 

「(大会まで有るのか……しかも全国)スイマセン、やりたいことが有るので……」

再度天峰は、城山の言葉を突っぱねる。

 

「頼む!!どうか、どうか私のオーラ部に入ってくれ!!君は10年、いや50年に一度の逸材だ!!学生時代私はオーラを溜めるスピードが足りなかった……しかし君なら……君とならば全国の強豪たちと戦えるんだ!!」

そして遂に城山た生徒の前だと言うのに、土下座を始めた!!

リアルで見るのなかなか引く物がある。

 

「(ええ!?どうしよう……流石に断れる雰囲気じゃないよな……)解りましたよ。俺、入部します……」

何処か諦めに近い境地で、天峰がしぶしぶ城山の言葉にうなずく。

 

「本当か!?ならさそっく今日から……は器具が無いから無理か……明日だ!明日から早速練習だ!!」

そう言い放つと、凄まじくご機嫌で城山は帰って行った。

その時、鳴り響くのはチャイム!!

残念!!天峰の休み時間はここで終わってしまった!!

 

結局トイレに行けなかった天峰は、何とか次の授業を受け切った。

そんなこんなですべての授業は終わり……

時は放課後となった。

 

 

 

「なぁ~ヤケ~一緒にかえろうぜ?」

一人での帰宅はさみしいため、自身の友人の一人に声をかける。

 

「ん?ごめんな天峰?帰りたいのはやまやまなんだけど……今日部活なんだよ、それに帰りに買いたい本も有るし、結局夜近くまで忙しいんだよ、ごめんな?」

そう言って八家は両手を合わせ、拝むように謝る。

 

彼の名は野原 八家。

男子の中ではやや低めな身長と、かわいらしい系の顔。

物腰も柔らかくいかにも人気者と言ったプロフィールだが、彼には大きな欠点が存在する!!

それは!!彼が自身の欲望に忠実すぎる事!!

授業の合間の、成人向けラノベは当たり前。

コンビニも成人コーナーはには毎日通い最早顔なじみで、おおよそに入荷状況を頭の中で検索できる。

一節では10万3000冊の本を頭の中に抱えているとも言われ。

挙句の果てには……『俺最近SMにはまってて……プレイで使える様に椅子が欲しいんだよね』と言って技術部に入部した(本人曰くこれだけで終わるつもりは無く、次は自作にエロイラストを描きたいから、絵画部に入る予定らしい)。

彼の女性への飽く無き探究心は他の追従を許さない!!

 

「そっかぁ……ヤケも大変だな……ま、死なない程度にがんばってね」

それだけ話すと天峰は、駐輪場の自身の自転車に向かって行った。

 

 

 

 

 

「あ~……なんか暇だな……適当に駅前のゲーセンでも行こうかな……」

校門を抜け、愛車を走らせながら不意にそう思いつく。

どうせ家に帰っても暇なのだ、問題は無いと家の方向でなく駅前に自転車の前輪を向ける。

 

数十分後

天峰は駅の裏の駐輪場に居た。

駅前は人通りが多く、自転車を路駐すると注意される事が多い。

かと言って僅か1時間ほどの駐車に、一日分の現金を払って止めるのも馬鹿らしい。

そのため、天峰は駅の少し離れた裏にある無料の駐輪場を使っている。

駐輪場と言っても、橋のしたの為薄暗く、お世辞にもきれいとは言え無いし、管理人無し、保証無し、さらに言うと屋根まで無しのナイナイ駐輪場だ。

そんなところで少年の声がする。

 

「ねぇ!僕君に一目ぼれしちゃったよ!!一目見たときから君の事が大好きなんだ!!僕と付き合ってよ!!」

先ほども言った様に、汚い自転車の駐輪スペースで言う台詞ではない。

 

天峰は一気に不快な気分になった!!

(マジかよ……こんな所で告白すんなよ!!もっとムードの有るところでイチャ付けよ!!)

非リア充天峰に嫉妬の炎が燃え上がる!!

心の中ではエンドレスで振られろコール!!

更に世の中の厳しさを教えるため鬼の形相で、声のした方を見る!!いや、睨む!!

 

だが、その相手を見た瞬間天峰は息をのんだ。

会話している二人は明らかに自分より年下だった!!

一人は真新しいブレザーの制服の少年、おそらく中学生になりたてだと思われる。

問題はもう一人の方だった。

 

青いスカートの黄色い帽子、背負うのは真っ赤なランドセル!!

間違いなく小学生!!

そう!!この中学生、目の前の小学生を口説いていた!!

 

「あの、いえ……そんなの困ります、私お付き合いなんて、考えた事も……」

小学生女児は、震えた声で何とかそう応える。

もともと引っ込みじあんなのか、震えている様にも見える。

 

「ええ!?マジで?こんなに可愛いのにぃ?なら余計に付き合ってみない?折角だから大人の仲間入りしようぜ?」

何処かマセタ中学生がさらに小学生女児に詰め寄る。

相手の、気弱な性格にこのまま押せば何とかなると思った様だ。

 

「そんな……私どうしたら良いか……」

「大丈夫だって!!俺達の本能に忠実に生きてれば何とかなるって!!」

 

(はぁ~なんで中学生って頭の中ピンク一色なんだ?手を出さない分ヤケの方がマシだな……)

そんな事を考えながら天峰の足は、いつの間にか二人の方向に向かっていた。

 

「おい、そこの青春ボーイ。自転車停めるの邪魔だ、のけ」

自転車を引きながら、二人の間に入る。

 

「なんだよお前!愛の語らいの邪魔すんなよ!!」

中学生が威嚇してくる、後先考えない怖い物無しだ。

そのリア充チックな言葉が天峰をキレさせた!!

「ああ!?んな事余所でやれ!!というかお前らは大人しく漫画やパソコン画面の彼女と仲良くしてろ!!」

天峰が一喝!!しかしこの少年も怯みはしない!!

 

「なぁにぃ!?台名(だいな)中の蒼い火の鳥(ブルーエンペラバード)と呼ばれた俺にケチつけようってのか!?」

 

「ぷッ!ブルーエンペラーバードって……リアル中二かよ……ププ……」

思いがけない中二発言で、思わず天峰が笑い出す。

「野郎!?ぶっとばすぞ!!俺の実力見てせてやる!!」

そう言うと同時にリアル中二が謎の構えをする。

右手は上に、左は下にし両方の指を広げ曲げる。

 

(あれ?あの構えどっかで見たぞ?なんかの漫画だよな?)

そう思いながら謎の構えを観察し始める。

その最中も、リアル中二は小学生を方をチラチラ見ている。

どうやら、天峰を倒していいところを見せたいらしい。

 

「ソイヤー!!」

中二男子が、謎の掛け声と共に跳びかかってくる。

(さぁて……ドウすっかな?

①容赦なく殴る

②とりあえず出来る限りバイオレンス

③自転車で轢く……どれにしようかな?)

天峰がどれにするか迷っていた時。

ドス!!っと鳩尾に衝撃!!さらに金的!!

容赦ない急所2連!!

 

「うお~……マジかよそのコンボは反則だろ……」

鳩尾と金的!!ダブルの痛みに天峰がしゃがみこむ!!

 

「どうだ!!蒼い火の鳥(ブルーエンペラバード)の実力思い知ったか!!」

中二男子が勝ち誇る!!

そんな中で……

「止めてください!!」

小学生女児が天峰を庇う!!

 

「何言ってんだよ?コイツは俺を馬鹿にした、侮辱罪だろ?殴っていいはずだろ?」

あまりにお粗末な勝手な法律を口に出す。

今まで震えていた小学生女児の瞳には、強い意志が宿っていた。

そしてその意志を持って明確に否定する。

 

「私、暴力も暴力を振るう人も大っ嫌いです!!やめてください!!」

彼女の言葉に駐輪場の空気が変わった。

 

「あ、ああ!!そうかよ!!せっかく優しくしてやったのによ!!」

そう吐き捨てると、中二男子は駐輪場から逃げて行った。

 

「あの……大丈夫ですか?」

さっきまでの強い意志は消え去り、再びおどおどした口調で天峰に小学生女児が手を差し伸べる。

天峰はそう話す彼女に心配をかけない為、なるべく優しい声で返事をした。

 

「うん、なんとか大丈夫だよ。君こそ怪我はない?」

天峰はその時初めて薄暗い駐輪場の中で、初めてしっかり小学生女児の素顔を見た。

 




自分が中二病の頃の名前って覚えてます?

ダーク○○とか、デビル○○とか多いんじゃないですか?

え?私?今も昔もホワイトですけど?

最近ラムが付いた……


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気を付けて帰りなよ?

遂に謎の幼女の正体が明らかに!!??


Time limit 46:30:20

 

 

 

 

 

「あの……大丈夫です……か?」

日の光が殆ど遮られた暗く汚い駐輪場で、一人の幼い少女が地面にうずくまる天峰に恐る恐ると言った様子で声をかける。

 

「……うん、何とかね。そっちこそ大丈夫だった?」

一瞬遅れて天峰がそう返す。

少女が近付いたお陰か、この時天峰は始めて相手の顔をしっかりと見ることが出来た。

気の弱そうな、大人しくてかわいらしい。陳腐な言い回しだが「守ってあげたい」タイプの子だった。

しかし忘れてはいけない。彼女はつい先ほど中二男子を拒絶した、つまりはしっかりした意志を持っているという事だ。

だがもう既にその怯えがちな表情へ隠れてしまっていた。

 

「は、はい……大丈夫です……」

少女は今にも消えてしまいそうな声で何とか天峰にかえす。

しかしその言葉とは裏腹に、彼女は僅かに震え、その表情はこわばった物に成っている。

 

(この子の笑顔が見たい……微笑むとかじゃなくて心の底からの笑顔が!!)

そんな表情をする幼女を天峰が逃す訳がなかった!!

天峰はどうしてもこの子の笑顔が見たかったのだ!!

 

「悪いけど一緒に来てくれるないかな?」

 

「え?あ、はい?」

自転車の自身の愛車、サイクロンシューターを停めその子を連れ駐輪場から出ていく。

 

「ねぇ、ジュースって何が好き?」

ボソリと天峰がその子に聴く、あくまで自然に怪しまれないように……

一瞬何か会話が大きくずれた事に少女が焦るが、すぐに答えてくれた。

 

「えと?飲み物ですか?え~と、アップルティーが好きです!!」

半場慌てて、何とかそう言葉を切り出した。

 

「アップルティーね。じゃあ、プレゼントフォーユー!!」

そう言うと後ろに有った自販機に手早く硬貨を入れ、アップルティーを買って彼女に差し出す。

 

「え?ええ!?そ、そんな悪いです!!初めて会った人にいきなりそんなの貰ったり……」

小学生が慌て始める。

正直かわいい。

 

「いーって、いーって。あ、俺幻原 天峰、よろしく」

知らない人ならいいのかという天峰の考えで、その場で自身の名を名乗る天峰。

挨拶されると反射的に返してしまうのか、同じく小学生女児も自己紹介を始めた。

 

「あ、はい。私は晴塚 藍雨(はれつか あめ)っていいます」

 

「よくお返事できました!!はい、ご褒美のアップルティー!!」

そう言って再び藍雨にアップルティーを差し出す。

 

「だからダメですって!さっき会ったばっかりだし、全然知らない人だし……」

 

「何言ってんの?君、志余束の子でしょ?黄色帽子のマーク、志余束のだし。絶対とは言えないけど、きっとどこかで会ってるよ?俺も高校志余束だし……それに名前だけならお互い知らない仲でもないしね。藍雨ちゃん?」

自身の校章を見せながらそう言って藍雨の視線までしゃがむ、この話術とさりげなく相手を下の名前で呼ぶのは天峰のロリコン精神の成せる技であろう。

 

「えっと……でも……」

知らない人から物を貰うのはやはり気が引けるのか、いまだに藍雨は困惑気味である。

 

「まあ、そんな事言わないで受け取ってよ。自販機って返品できないからさ」

あくまで相手に罪悪感を持たせない物言いで、藍雨にジュースを渡す。

もし仮にの話だが、ここで藍雨が「助けて!!」と大きな声で叫んだらどうなるのだろうか?

 

「は、はい……」

藍雨がこわごわとした表情でペットボトルに口を付ける。

その瞬間藍雨が目を見開く!!

「このアップルティーおいしいですね!!」

振るえていた肩もすっかり落ち着き、2口3口と飲み進めてく。

一瞬だが、藍雨の笑顔を見ることが出来た。

 

「うん、うん、良かった、良かった」

天峰が満足気にうなずき、踵を返す。

 

「じゃ、俺もう行くから気を付けて帰りなよ?」

 

「はい!ありがとうございました!」

天峰は駐輪場へ戻ると、上機嫌で自転車のまたがった。

ゲーセンで遊ぶつもりだったが、それよりもずっと良い時間を過ごした気分だ。

速度を出しながら、天峰がおまわりさんに職質されそうな表情でニヤ付く!!

その脳内は……

 

(やばかった……!!ホントにやばかった!!藍雨ちゃんマジ俺のドストライク!!マジど真ん中!!あ~~~~今更だけど、なんか口実作って手とか握れば良かっ――ああ!?あのペットボトルも回収……いや、それよりも「一口頂戴」とか言えば良かった!!あああ~~~くそう!!……まあ、いいや……今度は堂々と会える!!)

実の事を言うと天峰と藍雨は、お互い初めて会った訳ではなかった。

昼のグラウンドで、授業を受けているのを天峰は見ていたのだ。

最も、今回あったのは完全に偶然だが……

 

「ほへ~……すんごい笑顔!!さすがの私も退いちゃうよね……これはお姉ちゃんの報告かな?」

去って行った天峰を、物陰から夜宵が覗いた居た。

 

 

 

 

 

Time limit 43:52:21

 

 

 

 

 

卯月は自分の机に向かっていた。

時間は大体夜の9時と言った所。

何時もなら勉強の為机に向かっているのだが、今日は少しばかり毛色が違う。

一応宿題は並べているが、その表情に覇気は無く机の充電器の上の携帯を睨んでばかりである。

 

「う~ん……夜宵ちゃん遅いわね……やっぱり人を一人調べるのって大変なのね。けど天峰事はは少しでも多く知りたいのよね……」

そんな事をつぶやいた時、机の携帯が鳴る。

恐るべき瞬発力で卯月はその携帯電話に出た!!

 

「はい!!もしもし!!」

電話の向こうからクスクスと笑い声が聞こえてくる。

間違いない夜宵の声だ。

 

「おねぇちゃん必死すぎ~、本当に天峰さんの事好きなのね?」

廊下で話した時の様な、人を掌で踊らせるような。

必死な相手をあざ笑う様な、卯月の苦手なしゃべりかたをする。

 

「そんな事より、天峰の事何か解ったの!?」

これ以上不愉快な笑い声を聞かない為にも、少し強い言葉で夜宵に聴き始める。

 

「ああ、まずは友人関係からね。普通の友達……少し人数が少ないいのと……変な友達が一人いるのよ」

慎重な口調で、夜宵が語りだす。

しかし、そこに卯月は僅かだが心当たりがあった。

 

「その人は 野原――」

 

「ああ、ヤケ君ね。大丈夫よ?本人はかなり変わった部類の人間だけど、いきなり襲いかかってきたりはしないから、大人しい良い子よ?」

まるで、動物に対するようなあっけらかんとした物言い。

その様子に、夜宵も間抜けな声を漏らす。

 

「いや、だって……持ち物が――」

 

「知ってるわよ?本でしょ?いつも持ち歩いているわよね、別にいいでしょ?」

その言葉に夜宵が激しく反応する!!

「ホンの1、2冊じゃないのよ!?やばい位の――」

 

「知ってるわよ!!そんなことより他の情報!!」

 

「ひぅ!!」

卯月の怒気に夜宵が怯える、せっかく手に入れた情報をもう知ってる呼ばわりされさらに、怒られたのでは恰好がつかない。

もう半場失いかけた、ミステリアスな空気を無理やり作る。

 

「あ、あと変な部活に入ったわ!!」

 

「ヘンな部活ぅ?」

またしても卯月が疑いの感情をこめて応える。

「そ、そうよ!!スピリチュアル――」

 

「ああ、スピリチュアルエネルギー部ね。城山先生の部活でしょ?あの先生変な事しかしないのよね……ああ、天峰入るんだ近いうちに廃部になりそうなのに……」

今度は気の毒そうにまたしても、卯月が答えてしまった。

先ほどと同じなのだろう。

卯月の声には最早余裕すら感じる。

 

「ねぇ、夜宵ちゃん?あなた志余束って中学からよね?」

面目丸つぶれな夜宵に卯月が優しく話しかける。

 

「うん……小学校は別だった……」

 

「じゃあ、志余束初心者ね……初めに言って置くわ。志余束はかーなーりー!!変人が多いのよ!!」

 

「ひぅ!?」

卯月の言葉に、夜宵が小さく悲鳴をあげる!!

 

「良い事?小中高大と有る志余束では……何が有っても不思議じゃないわ!!」

衝撃的な言葉が卯月の口から放たれる!!

 

「ここは日本中のおかしな人間が集まるので、一部裏サイトでは有名な学校よ!!まず理事長自体おかしいのよ!!いつも真っ赤な覆面なのよ?噂ではその下は蛇の絡み付いた目とか、秘密結社の首領だとか改造人間作ってるとか言われてるのよ!!普通な訳ないじゃない!!」

因みに卯月は現役志余束生。

言ってて悲しくならないのだろうか?

 

「生徒も教師も、癖が有るに連中ばっかりよ!!それくらいの事で泣き言言うんじゃありません!!」

 

「ひ、ひぐぅ!?ご、ごめんなさい!!ちょっと謎の女気取ろうと――」

 

「志余束にはゴマンと転がってるわよ!!むしろ謎の女だけじゃ影薄いわ!!」

圧倒的な!!言葉で中二患者にトドメ!!

 

「じゃ、じゃあ最後に……今日の……」

夜宵はやっと今日の、駅での事を話した。

すぐ後に、卯月の怒りの余波を食らったのは容易に予測できる。

 

 

 




そう、謎の幼女の正体は藍雨だった!!……え?知ってるって?


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まったく同情出来ない!!

楽しみにしていた人たちごめんなさい!!
更新がかなり遅れました!!

ちょっと色々ありまして……


Time limit 26:32:01

 

 

 

 

 

(はぁ~、染みるね……さて、愛しの藍雨ちゃんは何処かな~?)

今日も今日とて、末期ロリコン幻原天峰は小学校のグラウンドに夢中だった!!

更に始末が悪い事に現在は、思いっきりターゲットまでいる!!

もし、日本に妄想を規制する法律が出来たのなら間違いなくこの男は規制されたその日にほぼ間違いなく逮捕される!!

*この変態は主人公デス。

 

「ねぇ、天峰。今日の夜なんだけどなんか予定とか有ったりする?」

そんな天峰に卯月が話しかけた。

昨日の夜、夜宵に電話など『特別な』理由を付け、無理やりにも何かしらの会話などをすべきだと言われたのだ。

 

「今日の夜か?別にどこか行ったりする予定はないから大丈夫だぞ?」

 

「解った、電話するから待ってて」

そう言って卯月は踵を返した。

実はこの時点で、半分卯月はゆっくり二人で会話できる事を楽しみにしていた。

一対一の会話と言う物自体最近は無く、ひどく懐かしい気分になった。

 

 

 

(なんだったんだアレ?……ま、いっか。卯月の事だ、大した事は無いだろう……)

そう思い直し、再びグラウンドに目を向けるが……

 

「やあ!!幻原君、昨日今日と二日掛けて私の家に有った、オーラ育成マシンを全て持って来たよ!!今日の放課後から一緒に訓練だぞ?……これであのボーノレ部顧問のアイツの鼻をあかしてやれるぞぉ」

ニヤリと楽しそうに笑う城山。

しかし!!そのにやけ顔もすぐに消えてしまった!!

 

「へぇ?そうですか……それは良かったですね!!」

その理由は天峰の表情に有った!!

鬼や修羅の様な、恐ろしい表情!!

卯月に続き城山にまで、藍雨探しを邪魔されたのだ!!

ロリコニウムが切れかけている天峰は非常に不機嫌だ!!

 

「え?えっと……どうしたのかね?そんな怒りの形相で……」

 

「今日の部活の事でしょ?解ってますから!!そんな何度も呼ばないでくれますか?」

天峰の気迫に狼狽える城山に対し、不機嫌な表情で返事をする天峰!!

 

「す、すまない!!脅かしてしまった様だ……わ、私は体育館で待ってるからよろしく!!」

すごすごと城山は天峰から逃げて行った。

 

 

 

「さて、再開……あ、雨……マジかよ!!」

意気揚々と再開しようとしたその時、雨まで降り始め小学生たちは校舎にもどって行ってしまった!!

てて続けに起こる不運!!何ともいえない気分に天峰は行き場のない怒りを抱える!!

 

 

 

 

 

Time limit 22:30:00

 

 

 

「よーし!!まずはウェイク・アップからだ!!自らのサダメの鎖を解き放つんだ!!」

 

「「「「ウェイク・アーップ」」」」

城山の掛け声と共に、数人のメンバー達が胡乱な表情で思い思いのポーズを取る。

こんな事を言ってしまうと、非常に困るのだが凄まじく胡散臭い。

あと、活気が驚くほど無くゾンビの集団を見ている様だ。

 

「コラ!!幻原!!サボるんじゃない!!」

呆気にとられた天峰に、城山の激が跳ぶ!!

 

「いいか?確かにお前は才能はピカイチだ!!だけどな、努力を怠って勝てるほどオーラは甘くない!!……といっても、イマイチピンとはこんだろうな。先輩たちの実力を見せてもらえ!!安西!!お前のメテオストームパニッシャーを見せてやれ!!」

 

「はい!!」

謎の掛け声と、共に一人の先輩が体育館の真ん中に走り出す!!

 

「うおおおお!!メテオストームパニッシャー!!」

そう叫ぶと空中でくるくる回転し、いつの間にか持っていたバスケットボールをゴールにシュートした。

 

「おおー!!3ポイント……バスケ?」

呆気にとられるが一応拍手する天峰。

 

「どうだ、スゴイだろう?安西はコート内なら何処からでも3ポイントシュートが決められるんだ」

城山が自慢げに天峰に話すが……

 

「いや、すごいけどバスケ部行けばいいんじゃないですか?」

 

「実はな安西にはバスケが出来ない理由が有るんだ……」

天峰の質問に、城山が急に真剣な顔をし始める。

 

何かまずい事を聞いたか、と天峰が安西の方を向く。

 

「幻原とか言ったか。実はな、俺はバスケが好きでずっと一人練習していたんだが……バスケシューズのキュッキュ言う音がどうしてもダメだったんだ!!だから大会の3日前にやめたんだ……仲間からは『裏切り者』『何やめてんだ安西』『安西先生バスケがしたいです』とか言われたよ……」

そう言って遠い目をして黄昏る。

 

「まったく同情出来ない!!」

天峰の叫びが体育館に響いた!!

 

その後他のメンバーの話を聞くが何処かおかしな奴らばかりだった。

仕方なく城山が大量に持って来た、謎の器具たちで練習させられた。

 

 

 

 

 

Time limit 19:12:09

 

 

 

(あー……疲れた……明日も有るのか……憂鬱だな)

天峰は結局城山の謎の健康グッズにそっくりな、大掛かりな道具でひたすら練習したのだが結局何がしたかったのか、不明なままで終わってしまった。

 

オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー

「ん?メールの着信音か……」

自身のポケットの中の携帯がメールの着信を知らせる音楽を鳴らす。

携帯のメールを読むとそれは家族からだった。

簡単に言うと、ファミレスに行ってくる何かテイクアウトしようか?という物だった。

天峰はそれに対し『適当に牛丼とか食ってくるから要らない』と書いて返信した。

 

そして自転車にまたがるとさっきのメール内容通り、適当な店を探し始めた。

 

 

 

(さーて、ドコ行こうかな?マスト、スカイシャーク、デデーズも良いな)

自身の胃袋と何を食べようか相談しながら、自転車をこぐ。

 

(あれ?今のって……!!)

人ごみの中、知っている顔が有った気がして天峰は自転車を降りる。

流れる人の中を掻き分け、目的の人物まで近付いて行く。

 

「あ、やっぱり藍雨ちゃんだ。どうしたのこんな所で?」

それは藍雨だった。

どこか不安そうに、街中を歩いていた。

 

「ふぇ?……!!。幻原先輩!!うわ~ん、心細かったです!!怖かったです!!」

目に涙を浮かべながら、藍雨が天峰に抱き着いてきた。

一瞬呆然とするが……

 

(イェス!!まさか!まさか!!まさか!!!小学生が向こうから抱き着いて来てくれるなんて超常現象が今!!たった今!!目の前で!?それどころか俺が当事者だとぉ!?う、腕で抱きしめたら……抱きしめたら!!!だっこできてしまう!!小学生高学年の子をだっこ出来てしまうぞ!!やばい…ッ…!!ニヤケが!ニヤケが止まらない!!ダメだ!!ニヤケるな!!通報される……!!通報されてしまうぞ天峰!!お、落ち着いて深呼吸……甘い!!空気が甘いぞ!!!藍雨ちゃんなのか?藍雨ちゃんの匂いなのか!!?し、静まれ、静まるんだ俺の中のビーストよ!!破壊者を守護者に変えるんだ!!この欲望はコントロールしなくてはならない!!)

 

天峰が己の欲望と激しくファイトしている最中も、周りの人々は夜も近い街中で高校生に抱き着いて、涙を流す小学生というあまり見ない組み合わせに、眉を顰める!!

最早半分アウト!!通報カウントダウンはすでに始まっている!!

 

天峰はそんな周囲の視線を敏感に感じ取った!!

そしてロリコン特有のステルスの能力を使い無理やりキリッとした顔を作り、藍雨に優しく語りかける!!

 

「藍雨ちゃんいったいどうしてこんな時間に、こんな所に居るんだい?」

天峰の質問に藍雨は、しゃくりあげながら答え始めた。

 

「ううッ……実は、今日友達の家に、遊びに行ったんですけど、帰りの道に迷ってしまって……自転車のチェーンは外れるし、暗くなって来たし……」

そこまで聞いて、天峰は再び藍雨を優しく抱きしめた。

そして肩をポンポンと叩く。

 

「あーよしよし、心細かったね。もう大丈夫、俺がそばにいてあげるからさぁ、行こうか」

そう言って優しく藍雨の手を引き始めた。

近くに停めてあった藍雨の自転車のチェーンを直し二人で自転車を引いて歩き出す。

 

「天峰先輩は何処に住んでいるんですか?」

安心したのか、いつの間にか呼び方が幻原から天峰に変わった藍雨が尋ねてくる。

 

「ん~?俺?駅の向こうの神独町だよ」

 

「神独!?反対側じゃないですか!!そんなの――」

おそらく『悪い』と言おうとしたであろう、藍雨に天峰は自らの指を振る。

「待った!!藍雨ちゃん?悪いとか言わないよね?俺は藍雨ちゃんを一人にする方がよっぽど心配なんだよ?」

 

「は、はい……」

言おうとしたことを先に言われた、藍雨はもう黙るしかなかった。

しかし、そのこころの中には心強さとうれしさが渦巻いていた。

 

「天峰先輩!!先輩って趣味とかなんですか?」

キラキラとした視線で藍雨が、天峰に尋ねる。

 

「え!?読書と……か?」

急にきた、質問にしどろもどろする。

流石に藍雨の前で「幼女をじっくりネップリ舐めるように観察する事だよ!!」とは言えなかった。

そのため、当たり障りのない読書と答えた。

 

「何読むんですか?今度私にも見せてくださいね!!」

現在天峰のカバンの中には八家から借りた、幼女に調教される系の本が有るのだが流石にこれを藍雨に見せる訳にはいかなかった!!

 

「な、ナンプレかな?読書って言うよりゲームだけど……」

焦りながら、以前暇なと買ったナンプレを藍雨に見せた。

その後も、二人で会話しながら藍雨の家に向かう。

 

 

 

「付きましたよ、ここが私の家です」

藍雨は大きな門の有る純和風の家の前で止まった。

 




やっとヒロインがアップを始めました。

長かった……

途中何度「卯月ヒロインにしない?」と思ったか……


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ホントにつくってくれる!?

久しぶりの投稿になりました。

一日書かないとサボリ癖が付いてヤバイですね……
発表しなくても1000字は書かないと……


Time limit 17:52:08

 

 

 

 

 

「決?流……場?」

藍雨によって連れてこられた晴塚家の入り口に、ひどくかすれた文字で何かが書いてあった。

 

「ああ、ウチの名前ですよ。遠慮しないで来てください!!お礼しますから!!」

藍雨が天峰の手を取って、大きな木製の門をくぐろうとする。

通常なら幼女の家という事もあって天峰は大はしゃぎするはずだが!!

今回はそうはいかない!!

先ほども言うように目の前には大きな木製の門!!

純和風のお屋敷……というには多少小さいが十分大きいと言える面構えの家!!

しかし!!しかしぃ!!

あまりの存在感に天峰は恐ろしい予感がひしひしとしていた!!

 

(やばいやばいやばい!!コレ、ひょっとしてヤの付く自営業のお兄さん達のお家じゃね?そう言えば……藍雨ちゃんって年の割には変に躾が行き届いてたよな……)

振るえる天峰に気が付くことなく藍雨は、天峰の手を引き誘う!!

 

(コレって半分ワザとなのかもしれない!!さっき見たとき時間は7時54分!!小学生連れていていい時間じゃないよな……も、もし入ったら……)

「よう、ロリコンのアンちゃん。お嬢が世話成ったみたいやな?お礼にお前の腹搔っ捌いて内臓売ったるわ!!……けど先ずはケジメや、小指からばらしましょか?」

(なんて感じの黒服のお兄さんが……!!どうしよう!?内臓は2個有るのは全部売られる!!目と肺と心臓と肝臓と……後、下の玉も二つあるから売られる!?)

*玉は売りません。

*2心臓は一つしかありません。

 

戦々恐々としならが、天峰が何とか言葉を藍雨に繰り出した!!

 

「あ、藍雨ちゃん?悪いけど俺やっぱ帰るよ……ご両親とかいきなり来たら困るでしょ?」

何とか絞り出す天峰の言葉に、藍雨は首を横に振る。

 

「今日お母さんはお葬式に行っていていないんです、お父さんとお兄ちゃんは遠い所に居ます……あ!!遠い所とお葬式って言いましたけど二人とも生きてますからね?死んでませんよ!?」

天峰が気の毒そうな顔をしたのに、気が付いた藍雨が必死でフォローする。

想像と違いちゃんと生きている様で天峰は安心した。

 

「ああ、びっくりした……そう言えば……」

さっき藍雨が外に居た事を思い出した。

友達と遊んだ帰りと言っていた。

普通あんな時間まで子供が帰らなければ、連絡なりするだろう。

そう言った事が無い、という事は本当に誰も家に居ないのだろう。

 

「ふぅん……そうなんだ……」

天峰はゆっくりと藍雨の言葉を自身の中で消化した。

 

(不思議な気分だな……目の前には親が家に居ない幼女、まさにどっかのエロゲ的シュチュエーションだけど……そんなに興奮はしない、なんでだろ?きっとさっきの顔を見たからかな?)

自身でも感じている様に、天峰は藍雨に対してなぜかほっておけない気分になっていた。

(この子の傍に居てあげたい……藍雨ちゃんの近くに居るとそんな気分になる……)

気が付くと、半場無意識に藍雨の頭に手を置いていた。

 

「わわ!!先輩!?」

 

「ん?あ!ごめん!!なんとなくやってた、ごめん!!」

藍雨の言葉に気が付き急いで手をひっこめた。

 

「もう!子供扱いはやめてくださいね!!」

どうやら藍雨は御立腹の様だった。

 

「ごめん、ごめん、悪気はなかったんだよ」

そう言いながら天峰の藍雨に続いて門をくぐった。

 

 

 

「そう言えばさ、藍雨ちゃん、門の所に有った木の表札みたいなのってなんて書いて有ったの?快とか、流?は読めたんだけど……」

 

「ああ、それは家の道場の名前です。『快晴気流』って言うのがお父さんが師範をしていたんです、今はお兄ちゃんと一緒に修行の旅に出てるんですよ!!」

誇らしげに藍雨が話す。

どうやら余程父親と兄が好きな様だった。

 

「へぇ~!!道場なんて有ったんだ!!っていうか修行の旅なんて実際に有るんだ……」

何処か時代錯誤な情報に天峰が突っ込む。

それに対して藍雨も

 

「あ、やっぱりそう思います?私もこの年に成ってやっとそう思いはじめたんですよ」

そう言ってケラケラ笑いはじめる。

 

「そうだ、先輩ごはんって食べました?まだなら一緒に食べて行きませんか?私作りますよ?」

その言葉に天峰は激しく反応した!!

 

「え!?マジで!?実はどっか食べに行こうとしていたから今お腹ペコペコなんだよ!!ホントにつくってくれる!?」

幼女の作った手料理を食べられるとあって、天峰の瞳が嫌に輝く!!

尻尾が有れば千切れんばかりに振っていただろう!!

その言葉を理解した藍雨の表情も同じくぱぁっと輝く!!

 

「はい!!私腕によりを掛けて作りますね!!」

 

「あ!!待って!!藍雨ちゃん!!」

そう言って走って行こうとするが、天峰は藍雨を呼び止めた。

 

「実は道場に興味が有るんだけど見に行っていいかな?」

折角の幼女の料理なのだ!!僅か、ほんの僅かでも腹を空かせよりおいしく戴こうとの天峰の計画であった!!

その申し出に藍雨はにっこりとうれしそうに笑った。

 

 

 

「どうぞ、コレ。お兄さんの胴着と鍵です」

案内された道場内で、何処かから持ってきた胴着と鍵を天峰に渡す。

 

「ありがと、藍雨ちゃん」

胴着に着替えた後、きれいに掃除された道場内で天峰は思いつく限りの運動をした。

 

「よっ!!ホッツ!!ライダーキック!!」

テンションが上がり始め、何時かテレビで見た技をやってみようとして派手に失敗する!!

 

「あ、天峰せんぱ――」

料理が出来たのか、呼びに来た藍雨が天峰の姿を見て固まった。

 

「かっこ悪い所見せちゃったね、どうしたの?」

尚も固まる藍雨に気が付いた天峰は声を掛ける。

 

「い、いえ……胴着のせいですかね、なんだか一瞬お父さんに見えて……昔稽古をつけてもらった事を思い出したんです」

恥ずかしそうにそう語り始めた。

 

「ふぅん。俺まるっきり初心者だけど稽古してみる?空手なら少しだけ知ってるし、まぁ逆に藍雨ちゃんに稽古付けられるだけだと思うけどね」

笑ながら半分冗談で行ったのだが、その瞬間パァっと藍雨の表情が明るくなった。

 

「本当ですか!!」

 

「い、いいよ?ど~んと来てよ」

あまりの表情に『アレは冗談だった』とは言えず、天峰は受け入れてしまった。

 

「私着替えた来ます!!」

今まで見た事のない様なイキイキした顔で藍雨が道場を出ていく。

 

(ま、まぁ結果オーライとしようか……プラス思考だ。そうだよ!!稽古なら藍雨ちゃんと合法的に抱き着けるぞ!!ロリっ子と組手だ!!身体が触れ合う大チャンス!!全然やましくない!!間違って膨らみかけの胸とか当たっても事故だよね!!)

鼻血を出しそうになりながら天峰が、テンション高めで待つ!!

たぶん表情だけで逮捕されてもおかしくない!!!

 

「おまたせしました!」

ペタペタと胴着姿に成った藍雨が道場に入ってくる。

 

「有だ……」

そんな言葉が意図せず天峰の口から漏れ出した。

「へ?」

 

「い、いやなんでもない……さぁ、藍雨ちゃんドンと来てくれ!!」

 

「じゃ、行きます」

必死で誤魔化すが彼の脳内では!!

(アカン!!マジでかわいくない!?清楚な感じの子が活発な胴着だよ!?アンバランスさが際立っている!!それどころか、必死にこっちに技を掛けようとしているトコとか考えたら――)

しかし!!

そこで天峰の妄想は強制終了!!

 

一瞬体がふわっとした空気を感じる、一瞬後に感じるのは激しく床に叩きつけられる感覚!!

 

「いてぇ」

痛みを感じ目を開けた天峰の前に飛び込んできたのは、まるでさっきと雰囲気が違う藍雨!!

獰猛な猛禽類をイメージさせるような鋭い、空気を纏っている!!

(な、ナニコレ!?ライオンの前のうさぎってこんな気分なの!?ってか藍雨ちゃん変わり過ぎ!!視線だけで紙とかなら斬れそうなんだけど!?)

 

「……立ってください……まだ終わりじゃないですよね?」

ドスの効いた声で天峰の耳元で話す。

圧倒的強者の言葉に天峰は素直に従うしかなかった!!

 

「は、はい」

 

「良い子です……では2本目いってみましょうか」

その言葉と共に再び藍雨が姿を消す!!

グイッと天峰の腕が引っ張られる!!

気が付くと藍雨は天峰に関節をキメていた、何時でもへし折れる体制だ。

力を加減した技だろうが、天峰のは無意識に腕を庇った!!

藍雨はそこを待っていた!!

僅かに痛みを庇いずれた天峰の重心!!

そこの容赦なく藍雨が足払いを掛ける!!

 

再び襲う無重力感!!

そして先ほどと同じく待つのは……

「舌を噛みますよ?」

その言葉に最後の抵抗として天峰は歯を食いしばった!!

 

その瞬間!!全身を貫く痛み!!

「あ!やり過ぎました……!!」

最後に天峰が見たのは慌てた藍雨の表情だった。

 




余談
ふははは!!遂に手に入れたぞ!!超進化と同等の力を!!
これからは『ゴルド・ラム』と呼べ!!!!



はい、何故か逝イイーヨされそうな人の物マネを始める私。
いや、今回はちゃんと理由有るんですよ?
何時もの奇行ではないんですよ?

実は遂にUAが1万超えました!!
1万ですよ1万!!1000UAが10回分ですよ!!
気が付いた瞬間リアルで超進化しかけました……

これも全部応援してくれた皆様のおかげです!!
ありがとうございます!!


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通報、通報しなきゃ……

おまたせしました!!
最近筆が少しノリが悪い作者です。


Time limit 16:59:12

 

 

 

 

 

「見た事ない天井だ……」

いつぞや読んだラノベの登場キャラの様な台詞を、天峰は一人つぶやいた。

その言葉通り、目の前には木の板の天井。

何気なく木目の数でも数えようとした時、黒い影が天峰の視界を遮る。

 

「あ!気が付いたみたいですね。大丈夫ですか?」

その影の正体は藍雨だった。

藍雨の顔をみた瞬間、天峰の脳内にさっきあった出来事がフラッシュバックする!!

 

「藍雨ちゃん、ごめん。俺藍雨ちゃんを甲子園に――」

 

「先輩!?しっかりしてください!!甲子園行く約束なんてしてませんよ!!」

藍雨が驚いた顔をする、焦った様な困ったような表情に思わず天峰の頬がゆるむ。

 

「ぷぷ……はは、大丈夫、ただの冗談だから。ちゃんと覚えてるよ、道場で藍雨ちゃんに投げられたんでしょ?」

思わず噴き出した天峰が、藍雨に優しく話しかける。

 

「心臓に悪い冗談は止めてください!!ホントに頭がおかしく成っちゃったんじゃあ?って心配したんですよ!?……っと……半分は私の()()なんですけど……」

ぷんぷん怒りながらも後半は、どんどん声が小さくなっている。

初心者の天峰を気絶させた事は、少し気にしているらしい。

 

「ははは、だーい丈夫だって!!藍雨ちゃんちょっと心配症過ぎだよ?」

 

「け、けど、一瞬本気出しちゃいましたし……!!」

笑って答える天峰に、尚も藍雨は尚も不安そうな顔をする。

 

(本気出せば俺一瞬でやられるのか!?)

一部聞き捨てならない、というより出来れば気が付かないでいたかった言葉が藍雨から発される!!

しかし天峰は何とか年上の、威厳を保とうと余裕の表情を作る。

最も、小学生相手に気絶させられていて威厳もクソも無いのだが……

 

「き、気にしないでよ、本気出して良いって言ったの俺だしさ?それにしても藍雨ちゃんすごく強いんだね、大会とか無いの?有ったら優勝とかしてそうだけど?」

藍雨の気をそらそうと、あえて別のベクトルに会話を変える。

 

「そんな事ありませんよ?そもそも快晴気流に大会とかは有りませんし、それに私のお父さんとお兄ちゃんの方がずっと強いんですよ!!一回お父さん達に連れられて、空手の大会に遊び行ったんですけけど、お父さんもお兄ちゃんも年上の大会優勝者とか優勝経験者とかバンバン倒しちゃうんですよ!!……私は緊張してあんまり年が変わらない子を2、3人倒しただけなんですけど……」

何処か恥ずかしそうに、しかし父親と兄の部分は誇らしげに話す。

 

(う、うん!?遊びに行くって……意味違くない?それ道場やぶり……ってかお兄さん達強!!)

様々な突っ込みどころが有るが天峰は藍雨の前の為、華麗にスルー!!

 

「ふ、ふーん。すごいね!!」

何とかその言葉だけを発する。

 

「そうなんです!!お兄ちゃんは凄いんですよ!!……っと、思わず熱くなっちゃいましたね……あ、大分遅れちゃいましたけど夕飯出来てますよ、食べますか?」

 

「モチのロン!!」

そう言って、寝たままの姿勢から素晴らしい跳躍だ立ち会がる!!

先まで様々な事を考えていたが、藍雨のその一言で全て天峰は気にしない事にした!!

幼女の手作りご飯は、地球より重い!!

byロリコン。

 

 

 

 

 

「はい、こんなのしかないんですけど、どうぞ」

 

「うほぉう!?美味そう!!」

テンション振り切れ気味で天峰がリアクションを取る。

机の上に白米、味噌汁、野菜サラダ、目玉焼きの乗ったハンバーグさらには漬物が並んでいる。

 

「「いただきます」」

2人がほぼ同時に箸を手にし、食事を始める。

 

「う~ん!!このハンバーグおいしいよ!!藍雨ちゃんは強いだけじゃなくて料理も上手なんだね!!」

もきゅもきゅとまるでハムスターの様になりながら天峰が話す。

本来は行儀の悪い行為だが、藍雨はうれしそうに応えてくれた。

 

「そうですか?私はただお母さんの用意したのを、適当な大きさに分けて焼いただけですよ?」

 

「そんな事ないって、それを加味しても十分おいしいからさ!!」

藍雨がうれしそうに受け答えする。

 

「うーん!このたくあん、すごく美味しいよ!!どこのメーカー?」

ハンバーグの箸休めに、テーブルの上に置かれたたくあんを口にする天峰。

今まで食べてた事のない味に絶賛する天峰。

 

「ほ、本当ですか!?」

何気ない一言だったが、その言葉に藍雨が目を輝かせる!!

 

「これ、実は私のお手製なんですよ!!自分で漬けたんですよ、まだまだありますからちょっと待っててくれますか!?」

それだけ言い放つと、藍雨はそのまま台所まで走って行ってしまった。

 

「ヤベ!もう九時か!?」

何気なく時間を確認した、天峰が焦って声を上げる。

現在の時刻は8時54分。

しっかりした時間は決めてないが、そろそろ卯月が電話をかけてくる時間だろう。

そんな事を考えていると……

自身の携帯電話が震えだす。

 

オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー

同時に、着信を知らせる着メロが鳴り始める。

 

「おっと、ナイスタイミングだな」

それだけ呟くと、通話ボタンを押す。

予想通り相手は卯月だった。

 

「天峰今、時間大丈夫?」

 

「ま、まぁ。少しなら何とか成る……かな~って?」

 

「何よ、ヤケに歯切れが悪いわね?まぁいいわ、言うわよ?私、あなたに振られてからもやっぱり――」

「天峰せんぱーい!!用意できましたよ!!」

卯月の言葉を遮り幼い声が、天峰の耳を刺激する。

 

「あ、藍雨ちゃん、ありがと今いくよ!!」

ロリコンのサガか……

反射的に電話で話す卯月よりも、藍雨に応える天峰!!

そして一瞬の静寂の後響くのは……

 

「ねぇ、藍雨ちゃんって誰よ?」

まるで鬼のような卯月の声!!

恐怖のあまり小さく「ヒュウ」と声を漏らす天峰!!

 

「ぐ、偶然会った子なんだ……な、何もしてないからね?」

誤魔化すように、苦しい良い訳を続ける天峰!!

 

「本当に?いかがわしい事とか世間様に顔向けできなくなるような事はしてないわよね?」

訝しむように卯月が追及する!!

なぜ女性はここまで浮気などに敏感なんだろうか?

 

「せんぱーい!!早くこっちに来て食べてくださいよぉ、私先輩に褒められてからすっかりその気なんですよ?じらさないでくださぁい」

絶妙な言葉使いで藍雨が天峰を呼ぶ!!

その言葉はもちろん電話の相手の卯月にも聞こえており!!

 

「け、警察!!通報、通報しなきゃ……ロリコンは汚物、汚物は消毒!!滅菌殺菌監禁……相手は幼女相手に……はぁ、はぁ……」

何やら不穏な言葉を並べ始めた、卯月に恐怖を感じた天峰は……!!

 

プチッ!!

「電話もういいんですか?」

 

「うん、間違い電話だった!!」

藍雨に良い笑顔で応える!!

何故って決まっているじゃないか。

幼女の手作りご飯は、地球より重い!!

byロリコン。

これが真実さ。

 

 

 

「どうですかセンパイ!!」

藍雨が漬物を口に運ぶ天峰をキラキラした瞳で見る。

 

「すごく美味しいよ!!藍雨ちゃんは将来良いお嫁さんになるよ!!」

 

「そ、そうですか?なんだか照れくさいです」

そう言って藍雨は自身の頬を染める、一瞬あとに天峰自身も自分の言葉を思い出し同じく顔を赤く染める。

お互いに気マズイ空気が流れる。

 

「さ、流石にもう帰らないといけない時間だな~。ごめんな藍雨ちゃん、俺そろそろ帰るから」

そう言って荷造りを始める。

 

「最後に洗い物だけでも、するからさ」

そう言って自身の食べた物を片し始める。

 

「あ、大丈夫です。私先輩の分まで洗っておきますから」

そう言って、藍雨も汚れの付いた食器を集め始める。

 

「そっかじゃあ……藍雨ちゃん携帯電話って持ってる?」

 

「はい、有りますよ。アドレス交換ですか?私ちょっと携帯電話って苦手です……」

そう言いながら、自身の部屋から電話を持って来たのだが……

 

「ガラケーどころか、かなり古いタイプだね……」

藍雨の携帯電話は型が古く、赤外線送信すら出来ないタイプだった。

仕方ない。

と一言話すと、天峰は自身のノートを一部破りそこに自身の携帯の番号をかきこんだ。

 

「俺が、打ちこむから。貸してもらっていいかな?」

 

「あ、すいません、お願いします」

そう言ってオズオズと、自身の携帯電話を渡す。

 

「一回かけてみようか?」

天峰が藍雨の携帯に電話を掛ける。

小さく震え、かわいらしい音楽が鳴る。

 

「うん、ちゃんと出来たみたいだね」

そう言って改めて、藍雨に携帯を返す。

 

 

 

「先輩、また来てくださいね」

 

「うん、もちろんさ」

自転車に跨る天峰を、見ながら藍雨がうれしそうに話す。

同じく簡単なあいさつを交わし天峰は夜の街に自転車を漕ぎだした。

 

 

 

 

 

その心中は……

(やった、やったぜ!!遂にリアル幼女のメアドゲット!!いいねぇ!!いいねぇ!!毎日ボタン一つで藍雨ちゃんと(電話が)繋がったり出来るのか!!)

ハイテンションで夜の街を走る!!

正直言ったキモイ&怖い!!

 




今回の話を書いてて。
変換ミス。
藍雨のセリフで、
おとうさん→お父さん
おにいちゃん→お兄ちゃん
おかあさん→お義母さん……

なんで!?なんで義付いた!?


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月並みな事しか言えないけど

この前ウルトラマンの映画見てきました。
うん、ティガが出るだけで栄えるねぇ……


Time limit 16:19:29

 

 

 

 

 

ドン!!とくぐもった音が一つの部屋からする。

更に2度、3度とその衝撃は続く。

その音の原因は一人の少女のお怒りだった。

 

「そうなのよ!!天峰ったら!!ああもうムカつく!!」

卯月が怒りの鉄拳を自身の机に叩き込む!!

もちろんこれは一人言ではなく電話の相手に話しているのである。

お怒りのとばっちりを受けるのはもちろん、夜宵だった。

 

「ねぇ?おねーちゃん、落ち着いて?焦っても――」

落ち着いた大人の余裕すら醸し出しそうな雰囲気で話し始めるが……

 

「煩いわよ!!ミステリアスキャラなんて流行らないのよ!!数年後ベットで思い出してジタバタする事に成るからやめなさい!!」

卯月の言葉で一刀両断!!

 

「ヒャウ!?酷い!!これでもキャラ模索中――」

 

「知りません!!」

更に追い打ちを掛ける!!

最早死体蹴りレベル!!

 

「お、おねーちゃん?落ち着いて、ね?」

 

「これで落ち着いて居られる訳ないじゃない!!通報物よ!!事案発生なのよ!!」

天井知らずの卯月の嫉妬心!!怒りのボルテージはとどまるところを知らない!!

巻き込まれた哀れな夜宵はただひたすら耐えるしかない!!

 

 

 

 

 

一方その頃……

「たっだいマンゴープリーン!!イェィイェィ!!」

遂に念願の幼女のアドレスを入手した天峰が、超ハイテンションで自宅のドアを開け放つ!!

 

「な、何だよアニキ?やばい薬でもやってるのか?」

偶然入口の近くに居た天峰の妹、天音が自身の兄の奇行に驚く!!

若干引き気味である。

 

「オオゥ!!マイプリティーシスター!!今日のご機嫌はどうだい?お兄ちゃんは今とーっても機嫌が良いんだゾイ!!よ~しよしよし!!」

その場で荷物を投げ捨て、ワイアーアクション張りの動きで天音に抱き着き頬をすりすりする!!

 

「や、やめろぉ!?気持ち悪い!!離せ……ひぃ!?触ってきた!!今普通に腰とか触ってきた!?た、助けて!!襲われる!やばい薬、キメたアニキに襲われる!!『お前がママになるんだよ』とか言われてしまう!!」

 

「うふふ……お前はママにはならないけど、お兄ちゃんがリア充に成るんだ~よ?」

 

「うぇ!?今リアルにサブイボたった!!テメェ!!いい加減にしろや!!」

遂にキレた天音のアッパーカットが天峰の顎を捕え脳を激しく揺らす!!

倒れた天峰を無視して天音は自身の部屋へと帰って行った。

 

「ああ~、この痛み……藍雨ちゃんを思い出すな……うふふふふ……」

ポケットから、携帯を取り出しあアドレス帳の『晴塚 藍雨』の文字を指でなぞりニヤニヤする。

しかし突然現実に戻ってくる。

 

(そう言えば、卯月明日有ったらすごく怒ってるんだろうな~。

何かいい言い訳考えなくちゃなぁ……)

そう思い、風呂に入ろうといそいそと自分がさっきブチぶちまけた教科書を集め始める。

 

 

 

 

 

「さて、一旦状況を整理するわよ?」

卯月のお怒りが収まった為、再びミステリアスキャラを作った夜宵が電話口越しに話す。

 

「ええ、よろしく夜宵ちゃん」

 

「先ず状況を一言で言うと……『最悪』よ。

天峰さんと今日一緒に居たらしい娘……『あめ』って名前よね?少し調べてみたんだけど私の情報網におそらくその人物と思える娘がいたわ『あめ』なんて珍しい名前で良かったわね?……ああ、情報が先だったわね?志余束小学校5年2組、出席番号19番よ。

特に悪い噂は聴かないわね、良い噂も無いけど……地味な娘なのかな?……あ!この子結構スペック高いわね」

ペラペラと藍雨についての情報を話す。

卯月はそれをただジッと聞いていた。

 

「おねーちゃんの話に依ると、一緒にご飯食べてたっぽいけど、普通どっかに食べに行く……まぁ、高校生と小学生の組み合わせ自体珍しいかしら?

兎に角相手をウチに呼んでごはんを作る程度に発展してるってことよね?」

 

夜宵の言葉を聞いているウチにドンドン卯月は顔面蒼白になっていく!!

正直言うと此処までマズイ状況だとは思っていなかった!!

 

「それって……もう……」

 

「そうだね、意識し始めたら付き合っちゃうレベル。というよりもう付き合ってるって考える方が自然かな?夜の9時近くに家に呼ぶなんて、ご両親公認の仲かもね?」

 

最後の一言がトドメだった!!

気が付いたら卯月の頬を一滴の水が伝わっていた。

机をほんの少しだけ濡らす。

 

「いやよ……そんなのいやよ!!私は天峰の隣に居たいの!!私以外認めないわ、私だけが天峰の横に居ていいのよ!!それだけ、それだけ私は天峰が好きなのよ!!」

まくしたてる様に一気に夜宵に電話越しに言い放つ!!

 

「卯月おねーちゃん?それを言うのは私じゃないでしょ?それとどうしたら良いか分かってるハズよね?」

 

「うん、うん……分かってる明日、この気持ちを伝えて見せる!!」

その言葉にもう涙は無かった、確固とした確かな意志が有りその言葉には強い決意の表れがあった。

夜宵はその言葉に、小さく口角をあげた。

 

「そう、月並みな事しか言えないけど、頑張ってね」

その言葉を最後に携帯を切った。

 

「さぁて、ドウなりますかねぇ」

わくわくしながら彼女は、ベットに潜り込んだ。

宿題を忘れて翌日先生に怒られたのは別の話である。

 

 

 

 

 

Time limit 07:59:02

 

 

 

 

 

翌日

「ふぅあ~……眠むたいぃ……ヤバイだろ、なんでこんなに眠たいんだ……」

愚痴りながらも自転車を漕ぐ天峰、その表情は酷く眠たそうだった。

ベットに横に成ってアドレス帳の『藍雨』の字を指先でなぞっていたらいつの間にか夜が明けていたのだ。

 

「こんなの絶対におかしいだろ……ハッ!?まさか、妖怪の仕業!?」

何処かの妖怪をウォッチする主人公みたいな事を考える天峰。

どちらかと言うと彼は幼女をウォッチするタイプの主人公なのだが……

そんな事を考えているとポケットの携帯電話から最早お馴染みのメールの着メロが成る。

 

オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー

 

その瞬間!!天峰の頭が一気に覚醒する!!

そして光速に迫るスピードでポケットから携帯電話を取り出し、着信相手を確認する!!

(なんだよ、卯月か……もしかして藍雨ちゃんから「一緒に学校行きませんか?」とか来たと思って期待したのに……まぁ、どうせ昨日の事だろうな。う~ん、どうやって誤魔化そうかな?)

内容も読まずに再び天峰は自転車を漕ぎ始めた。

 

 

 

「なぁ!!天峰聞いてくれよ!!実は昨日スゴイ物見ちまったんだよ!!」

自分の席に着くと同時に八家が興奮気味に話しかけてきた。

 

「何見たんだよ?UFOか?間違って美肌モードで撮った話ならこの前聞いたぞ?」

 

「ちげぇよ!!何と西通りにハイエースが走ってたんだよ!!ハイエースだぜ!?ハイエース!!」

 

「マジで!?西通りにハイエース!?昨日近くに居たから見れたかもな!!」

2人がこんなにも興奮しているのには理由が有る!!

読者諸君は『ハイエース』を動詞で使った事は有るだろうか?

例文としては「昨日遂にハイエースしました!!」などという風に使う。

ここでいうハイエースするは誘拐(幼女がメイン)の意で、さらに言うと西通りは小学校や幼稚園が集中している地域の為、凄まじくロリコンの妄想を掻きたてるシチュエーションなのだ!!

ロリコンと変態の会話はさらにヒートアップ!!

 

「なぁヤケ!!ハイエースで思い出したんだけど、この前の漫画の『小さな宝箱』の続編無いのか!?」

 

「ああ、あれか。来月発売予定だぞ」

 

「あ~早くよみたーい!!」

『小さな宝箱』とはハイエースされた幼女とハイエースした男の不器用な恋愛模様を描いた作品である。

お互い両思いに成るも、警察が迫り二人は離れ離れになってしまうと言う何処か物悲しいラストである。

オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー

 

「ん?天峰、メールだぞ?」

 

「そうらしいな」

着信音に気が付いた八家促され、天峰が今来たメールボックスを開く。

(そう言えば朝の奴も読んでなかったな)

やはり二通とも卯月からで、朝のメールは今日話したい事が有る事。

今来たメールはその話の為に、昼休みに校舎裏まで来てほしいとの胸だった。

 

「誰からだ?」

 

「ん?卯月、昼休み会ってくる」

それだけ言うと八家は何かを理解した顔でうなずいた。

 

 

 

Time limit 03:29:09

 

 

 

昼休み、食事をすませた天峰が卯月の待つ校舎裏へと向かって行く。

卯月はもう既に待っていたようだった。

 

「よう、朝は悪かったな。で?俺に言いたい事があるんだろ?最初に言っておくと昨日の夜は特に何も――」

 

「昨日の事はいいわ!!そんな事より私――『オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー』」

 

「あ、ごめん。メール来た……構わず続けてくれ」

 

「いや、良いわよ。先にメール見なさいよ……ってか、マナーモードにしておきなさいよね!!」

 

「いや、このカワイイ着信音が聴けないのって嫌だし……」

そう言いながらメールを開く。

 

「ッ!?……マジかよ……」

内容を読んだ天峰が固まり目を大きく見開く。

 

「卯月!!すまない話はまた今度だ!!」

その言葉を言いの残すと何処かへと走って行った。

 



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素晴らしいね、クセに成りそうだ

さぁて、投稿に時間だ!!
最近、少し筆のノリが悪い作者です。
うーん……偶にはギャグ回とか挟んだ方が良いのかな?
その作品9割がギャグナンデスケド……

今回は文字数が多くなりました。


「先輩、また来てくださいね」

 

「うん、もちろんさ」

自転車に跨る天峰を、見ながら藍雨がうれしそうに話す。

同じく簡単なあいさつを交わし天峰は夜の街に自転車を漕ぎだした。

藍雨は天峰の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

 

 

カシャ……カチャ……

藍雨は台所に戻り食器を洗いはじめる。

『先輩、()()来てくださいね』

先ほどの言葉が脳内にリフレインする。

 

(なんで私はあの時()()なんて言ってしまったんでしょう?……きっと家に一人に成るのがさみしかったんですよね……)

二人分の食器を方付け、藍雨が自身の気持ちを断定する。

 

(さて、次はお風呂の準備ですね。お母さんが帰って来たとき入りたいでしょうから)

自分の部屋に戻り着替えを用意し、風呂場に向かう。

脱衣所で、さっきまで天峰が来ていた胴着が目に入った。

 

コレは藍雨の兄の胴着だった。

中学卒業と同時に修行の旅に出た兄と父、当時はカッコイイと思っていた時期もあったが今はそれが時代錯誤であることを藍雨は理解している。

 

兄の胴着を着た天峰は何処か兄の様で、兄が自分の元に帰ってきてくれたようにも感じた。

そのせいで、そのせいでつい本気になって天峰に技を掛けてしまった。

天峰は簡単に倒されてしまった、自身の兄と同じレベルの人間はそうはいないだろう、ある意味当然の結果だった。

 

(悪い事しちゃいましたね……)

お風呂につかりながら藍雨はそんな事を一人思う。

何処か寂しいのはきっと、今夜自身が一人で寝るからだと藍雨は思う事にした。

 

着替えを済ませ宿題を終えたら就寝の時間だ。

布団に入り天井の木目を数える。

心がもやもやした時の藍雨の眠り方だった。

そして藍雨一人の夜はゆっくりと更けていく……

 

 

 

 

 

「……?……お母さんです……か?」

どれくらい寝ただろうか?

藍雨は物音で目を覚ました。

 

(お母さんでしょうか?……けど、予定よりかなり時間が早いです……)

時計を確認し、まだまだ母親の帰宅時間より早い事に疑問を持つ。

意を決して音のする方に向かう事にする。

布団を抜け出し、足音を殺し、ゆっくりと相手に気づかれない様に進んで行く。

 

ごそごそ……

 

がさがさ……

 

聞き間違いではない!!確実に誰かがこの家の中に居る!!

居間の方から音が聞こえる!!

相手に気づかれない様に、そっと顔を覗かせる。

 

居た……

 

自分と家族の憩いの空間に、異物となる男が無遠慮に部屋を荒らしていた。

一瞬だけ男がこちらを振り向いた!!

 

「ヒッ!?」

藍雨は無意識のうちに小さく悲鳴を漏らしてしまった!!

その一言は、侵入者に藍雨の存在を知らしめるのに十分だった!!

 

ピタリとその男が部屋を荒らすのを止める。

そしてゆっくりと男が藍雨の方に振り返る。

 

その瞬間やっと藍雨の脳裏に「逃げ」の文字が浮かぶ!!

パッとその場から身を翻し、自室の方に走り出す!!

後ろから気配がする!!確実に相手は自分に気が付いている!!

平穏な日常はたった一人の侵入者によっていとも簡単に崩壊した!!

 

逃げる藍雨の後ろから足音が聞こえる!!追ってきている!!何かの目的を持って確実に自分を追ってきている!!

廊下の角を曲がろうとして足が滑った!!

自分の身体が床に叩きつけられた!!

その間も容赦なく侵入者の足音は近付いて来ている!!

振り返れば……

すぐそばに、その男がいた……

 

怖い怖い怖いお母さん怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い助けて怖い怖い嫌だ怖い怖い怖い助けて怖いお兄さ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖来ないでい怖い怖い怖い怖い怖い助けて怖い怖い殺される怖い怖い怖い助けて怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い帰って怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い嫌だ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い嫌だ怖い怖い怖い怖怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いなんで私が怖い怖い怖い怖い怖い怖いお父さん怖い怖い怖い怖い怖い助けて怖い怖い誰か怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 

寒くないのにガチガチと歯が震える。

立ち上がりたいのに手足が自身のいう事を聞かない。

すぐそばの暗がりに居る男が笑ったのを藍雨は見た。

そしてポケットから四角いナニカを取り出し、目の前でそれをスパークさせた。

何時か聞いた事が有る。

防犯グッズの一つで名前は確か……

ソレが押し付けられ、藍雨は激しい痛みと共に意識を失った。

 

 

 

 

 

瞼の裏にまぶしさを感じる。

(早く学校行かなきゃ……今日は私の班が給食当番です……)

そんな事を考えながら藍雨は体を起こそうとする。

今日も一日が始まったのだ、早く学校に行かなくては……

しかしそんな当たり前の日常はもう藍雨には無かった。

 

先ず最初に感じたのは違和感の塊だった。

自身の部屋ではない、それどころか知りもしない場所だった。

見た事のない汚い部屋、部屋の隅に埃が山の様に溜まっているし、畳の床には何かを零した様なシミ、コンビニ弁当とカップ麺の山にはカビが浮いている。

自身の両手にはビニール紐とガムテープの二重拘束、足も同じだった。

正に手も足も出ない状況。

まるで、遊び終わったおもちゃの様に藍雨は無造作に部屋に転がされていた。

 

昨日の記憶がよみがえってくる。

そうだ、昨日泥棒が家に入ったのだ。

それだけならまだいい、しかし泥棒は何の目的か自分を攫う事にしたらしい。

逃げる手段を考える藍雨、そんな藍雨の思考を邪魔するように横から声が掛かった。

 

「おはよー、よ~く眠れたかな?」

男の声がして、不自由な体をそちらの方に振り向かせようとした時、後頭部を押さえつけれる。

 

「おっとっと、まだ顔を見せる訳にはいかないからね~。

少し顔を隠させてもらうよ?え~と、コレとコレと……」

近くに会った白いコンビニの袋を、藍雨の顔に被せられる。

せめてもの情けか、呼吸が出来るようにと口には掛からない様に被せ頭をガムテープでぐるぐる巻きに固定される!!

 

「うんうん、いいね~。拘束された幼女……はぁ、テンション上がるね~。写真撮っておこう」

パシャパシャとヤケにあっさりとしたシャッター音が鳴る。

 

「ううぅん!!エクセレント!!ふふふふふふふ……いいね!!いいね!!縛られてるロリってサイッッッッコウ!!!ゾクゾクするねぇ!!」

姿は見えないがすぐ近くで声がする!!

こちらの様子を覗き込んでいる様だった。

 

「さぁて……幼女ちゃん?すこ~しご飯を買いにコンビニまで行ってくるけど何か食べたいモノは有るかなぁ?」

ゴロンと今度は仰向けにされる。

何も出来ずこの男の思うままにされる、藍雨はまるで自身がこの男の人形に成ったような気さえした。

 

「……おい、なんかしゃべれよ!!」

藍雨の腹に激しい痛みが走る!!

暫くして男に蹴られたのだと理解した。

 

「お前さ、この状況分かってる?お前は何も出来ない、生き残りたかったら()()()()()。俺に(へりく)だって懇願して無様に(こいねが)え、それだけがお前が今日から生きていく唯一の方法だ。理解したか?」

そう言いながら男が藍雨の首に手を掛ける。

顔のすぐ前でバチバチの電気がスパークする音がして背筋に冷たい物が走る!!

武器、体格差、自身の体の状態を鑑みても殺されるだけ、生死与奪権があちら側に握られているのは確定だった。

必死の思いで藍雨は首を縦に振る。

 

「……よぉ~し!!いい子だねぇ~。逆らわない良い子に成れば可愛がってあげるからね?早く『良い子』に成るんだよ?」

藍雨の様子を見て満足した男はコロっと態度を変え上機嫌になった。

それだけ言うと男は藍雨の頭の袋を取って出かけて行った。

 

まともに辺りを見る事が出来るようになった藍雨は周囲の状況を疑う。

部屋の隅に自信が昨日着ていた洗濯していない服や、下着が置かれている。

「気持ち悪い」ただ一言藍雨はそう感じた。

父親は兄は決して自分に向けてこなかったドロドロした男の醜い欲望。

それを目の当たりにし、藍雨は喉元に酸っぱい味が逆流するのを感じた。

 

「あ……」

 

無意識の内に藍雨は言葉を漏らした。

乱雑に物が置かれて机の上に、黒い機械。

 

「携帯……電話!!」

あれで助けを呼べば……!!

藍雨は縛られた体を動かしテーブルに体当たりする!!

本来なら立てば簡単に手に出来るハズだが、現在藍雨は拘束されている。

2度、3度とテーブルに身体を当てる。

まだ汁の入ったカップ麺の容器が転がり藍雨の服を汚す!!

それでも気にせず、電話を落とそうとする!!

そして遂に……!!

 

カコン……

「やった!!」

二つ折りの携帯を開く、何時もなら2秒もかからないその動作を口を使って20倍以上の時間をかけて成功させる。

近くに有ったボールペンを口に含み、ボタンを押す。

1、1、0……

(助けて、助けて……助けて!!)

必死の願いを含めコール音を聞く。

 

『はい、中次(なかつぎ)交番です』

数秒後電話の向こうから警官の声がした。

 

やった!!助かる!!

藍雨の心に安心が広がった。

 

「た、助けてください!!私攫われたんです」

持てるだけの言葉を使い、警官に助けを求める!!

 

しかし……

「はぁ?お嬢ちゃん何言ってるの?こんな朝早くからイタズラ電話なんてダメでしょ!?学校は行きたくなくてもサボらず行きなさい!!それじゃあね!!」

ガチャンと電話が一方的に切られる!!

何度言葉を発そうともう無駄だった。

藍雨の希望はたった今!!消えたのだ。

その事実がじくじくと痛みを伴い心に沁み込んでいく。

 

(もうずっとこのままなんだ……誰も来てくれない……私は一生あの人のオモチャにされるんだ……絶望って……こんなに近くに有ったんだ……)

誰も気にしない、誰も来はしない、誰も彼女を助けはしないのだ。

 

 

 

この男を除いては!!

「たっだいま~ロリちゃん良い子にしてたぁ?」

男がコンビニの袋を持って帰って来た。

 

「んん!?」

目ざとく自分の携帯電話が床に落ちているのに気が付く!!

すぐさま取り上げ発信履歴を見る。

 

「……やってくれたな……クソガキィ!!」

 

鼻がつーんとする、その後すごく熱くなる!

自身の顔が蹴られたと理解するのはその後だった。

 

「優しくすると付け上がりやがって!!コレだからガキはよぅ!!おとなしく大人のいう事、聞いてりゃいいのによぉ!!クズめ!!俺の優しさを裏切りやがって!!体に教えるしかないか……」

バチバチと音を立て、藍雨の目の前でスタンガンをスパークさせる!!

 

「……殺したいなら殺しなよ!!どうせ誰も来ない……なら、もう止めてよ……もういっそ終わらせて!!」

藍雨の怒気を含んだ声もドンドン弱っていく。

最後には涙声に変わってしまった。

 

「…………ふひッ!……コレは良いね……幼女の泣き顔ってなんでこんなにソソルんだろ?ああ、素晴らしいね、クセに成りそうだ!!おっといけない、保存保存!!」

ピッ!っと音がして携帯のカメラが起動する。

ムービーを取っている様だった。

 

「ほぉら、ロリちゃん?僕の事お兄ちゃんって言ってみようか?ふひひ!!」

何時もの調子に戻り藍雨の撮影を始める!!

 

「……お兄ちゃん……」

 

「いいねぇ!!素晴らしいよ!!そうだな……次はご主人様だ!!あ!正確には『ご主人様、私にお仕置きしてください』ね!!」

 

「ご主……人様……私にお仕置き……してくださ……い……」

カメラに向かって藍雨に屈辱的な言葉を次々と言わせる。

そのたびに男は、ニタニタと気持ちの悪い笑顔を藍雨に向ける!!

藍雨は心を殺した様に、ただただ言われた事だけを口にする。

 

「そうだよ?こうしてれば君は痛い思いもしなくて良いんだよ?幸せだよね?」

 

「幸せで……す……」

 

「じゃあ次は……っと!もう仕事の時間だ!!悪いね、戻ってきたらまた遊んであげるからさ」

それだけ話すと、弁当を机に置き出かけて行った。

再び自分だけに成った部屋。

藍雨は自身の昨日着ていた服を枕にして寝転がった。

死体の様に藍雨は呆然としていた。

時計の針だけが嫌に速く流れて行く。

死体。

今の藍雨を端的に言えば心の死んだ死体だろう。

寧ろ藍雨は自身の心を殺し死体に成ろうとしたのかもしれない。

 

 

 

頬を何かが零れる。

涙だった。

心を麻痺させた積りなのに……

あの男にさえ逆らわなければ幸せなハズなのに……

全てを諦めてしまえば楽なハズなのに……

何故か涙が次々あふれてくる。

 

(そうだ……せめて楽しかった事を考えよう……私は自慢の漬物を食べてもらって……お母さんに料理を教えてもらって……お兄ちゃんとお父さんに食べてもらって……二人に褒められて……そうだ、思い切ってクラスの子たちにもたべてもらおう……きっとみんな褒めてくれる……そうだ、先輩、天峰先輩にも食べてもらって、一緒に道場で組手して……弱いくせに先輩は私をみて笑うんだ……また、料理たべてもらって……)

 

昨日の事なのに、もうずいぶん遠い昔な気がする。

もう決して戻らぬ過去の幸せ。

色あせた幸福と絶望に染まる未来……

 

「やさしい人だったな……わざわざ自分のアドレスを――アドレス!!」

その時藍雨は昨日の事を思い出す!!

 

(アドレス!!先輩が紙に書いてた!!それを貰った!!)

藍雨は自分が枕にしていた昨日の服を、口でまさぐる!!

 

有った、くしゃくしゃに成った紙が自身の服から出てきた!!

テーブルの上に携帯はまだある!!

再び携帯を落とした藍雨は、割り箸を咥え携帯にメールアドレスを打ちこむ!!

 

「たすけて」

 

変換すらしていないたった四文字の言葉。

何度も唱えそのたびに裏切られた言葉。

その言葉を携帯に打ちこむ。

そして送信のボタンを押し、今度は履歴を消す。

何時もの何倍も疲れた気がする。

 

 

 

 

『オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー』」

 

「あ、ごめん。メール来た……構わず続けてくれ」

 

「いや、良いわよ。先にメール見なさいよ……ってか、マナーモードにしておきなさいよね!!」

 

「いや、このカワイイ着信音が聴けないのって嫌だし……」

そう言いながらメールを開く。

 

「ッ……マジかよ!!」

着信履歴には見た事のないアドレスからだった。

正直イタズラだと思い、僅かに怒りが湧いた。

 

(差出人は不明……イタズラメールか?開けてみるだけ開けるか……)

内容はたった一言「たすけて」のみ。

たったそれだけ、何時もならイタズラと決めつけすぐに忘れるハズのメール。

しかしなぜかこの時は違った。

天峰本人も何故だかわからない、ただこの言葉は決して踏みにじってはいけないと本能的に理解した!!

 

「悪い、卯月!!この話はまた今度だ!!」

天峰は自分でも解らないまま走り出していた!!

着信したのはたったの四文字しかし天峰は、この時確かに藍雨の心を受信したのだ!!




良し!!久しぶりにリバース版書こうか!!

けどリバース夕日は使い方が難しいキャラなんです……
何というかクセが強くて、私にR18の呪いをかけてきます。
書いてるうちに「あ、ヤベ……コレR18行じゃん……」とか有りましたからね。
セーブしなくては……


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ゆとり世代なめんなよ?

作品もいよいよ大詰です。
そろそろリミットも0に成りますし。
皆さんには最後までお付き合いいただけたら幸いです。


Time limit 03:26:19

 

 

 

 

 

ひしひしと伝わってくる嫌な予感を振り払うため、藍雨の無事を確かめるため天峰は昨日登録したばかりの藍雨のアドレスに電話を掛ける。

小学生の藍雨が学校に携帯を持って来ているか解らないし、天峰の思いすごしの可能性も十分ある。

結局天峰の思い過ごしで無用な心配だった。

と二人で笑えればいい、そんな日常こそ天峰の求め結果だ。

しかし天峰の望むようにはならなかった。

数度のコールの後相手に電話が繋がる。

 

『はい!!もしもし?もしもし!!』

必死な様子の女性の声が聞こえる。

電話相手は藍雨ではなかった、詳しくは解らないが声の質からかなりの年上であることがわかる。

じくじくと天峰の心の中の嫌な予感が現実味を帯びていく。

 

「あの……藍雨ちゃんの……」

藍雨の名を出した瞬間、相手の女性が息を飲むのが電話越しでもはっきりわかった。

 

「お願いです!!藍雨を!!私の娘を返してください!!」

悲痛な声は悲しみの色が濃くなり、もう殆ど聞き取り不能なレベルでの泣き声に変わっていった。

 

「落ち着いて、落ち着いてください!!藍雨ちゃんがどうかしたんですか!!」

天峰は必死で電話越しで相手の女性(本人の話を信じるなら藍雨の母親)を落ち着かせようとする。

しかし電話から聞こえてくるのは壊れたレコードの様な「藍雨を返して」の繰り返しで要領を得ない。

 

「クソ!!」

天峰は悪態を付き、電話を切るお同時に学校の駐輪場に向かう。

詳しい事は解らないが話に依ると藍雨が行方不明らしい。

 

(行ってみるしかないよな……コレが藍雨ちゃんからのメッセージなら……藍雨ちゃんは俺に助けを求めてる……それなら、俺が行かなくちゃいけない!!)

差出人不明のメールが着信した携帯をポケットにねじ込み、自身の愛車に跨る。

 

「最初に状況を確認しなきゃな!!」

ペダルに足を掛け、がむしゃらに藍雨の家に向かって行く!!

 

 

 

Time limit 02:57:22

 

 

 

 

 

「はぁはぁ……着いたぞ……」

がむしゃらに自転車を漕ぎ、昨日きた藍雨の家の前に天峰は居た。

昨日とは全く違う嫌な気分で門をくぐる。

見た目は昨日と全く変わりはしない。

 

しく……しく……

 

唯一つ違う点は、縁側で女性が呆然としながら泣き崩れている事だった。

天峰に気が付いた女性が天峰に飛びついてくる!!

 

「お、お願いです!!お願いですから藍雨を返してください!!」

電話の向こうと同じ声。間違いないこの女性が藍雨の母親だ。

 

「落ち着いてください!藍雨ちゃんに何が有ったんですか?」

 

「あの子が居ないの!!帰ってきたら家が滅茶苦茶で、藍雨が居なくて……どうして?私があの子を一人にしたから?私があの子のイイコな所に甘えていたから!?どうしてこんな事に成ったの!!」

そう言って泣き崩れる。

自分よりも大人の女性が泣くのを天峰は初めて見た。

そんな天峰に起こる感情は困惑でも同情でも共感でもなかった。

 

「……いい加減にしろよ……」

 

「何?何か知って――」

 

「いい加減にしろって言ってんだよ!!」

天峰に縋り付こうとした母親を天峰は、手荒く振り払った。

突如自身に向けられる怒りに、唖然とする藍雨の母親。

 

「何混乱してるんだよ!!娘が居ない!?そりゃ誰でも不安だろうさ!!けどな、親の、保護者のアンタがそんなんでどうすんだよ!!やることが有るだろ!?警察は?学校への連絡は?……アンタの言うとおりだよ、アンタは藍雨ちゃんの優しさに甘え過ぎた!!今藍雨ちゃんはすっごく不安なんだよ!!なら、助けに行かなくちゃいけないだろ!!なんでアンタは動かない!!親子なんだろ?親子なら正面から向き合ってやれよ!!親子なら自身の娘の為に何かできるだろ!!」

天峰の言葉に、藍雨の母親がハッとする。

今の今までずっと泣いてばかりだった様だった。

 

「昨日何時ごろ帰りました?車……特にハイエースやバンなんかの荷物がたくさん運べるヤツ見ませんでした?」

天峰は藍雨の母親の言葉から、推理を組み立てていた。

 

(部屋が荒らされていたんなら、普通は物盗みだよな。けど藍雨ちゃんが居ない……攫うだけなら部屋は荒らさないハズだし、物を盗むなら攫う必要もない……って事は突発的に攫った?藍雨ちゃんが小学生とはいえ人ひとり簡単に攫えるもんじゃない……暴れない様に拘束する道具が居るし……攫った後監禁する為の人に見つからない場所もだ……)

 

天峰が脳内で可能性を考えていると隣から声がかかった。

 

「見ました……昨日……4丁目……駅の西を行った所でハイエース見ました……深夜の1時位です……この辺には珍しいから覚えていました」

 

「たぶんソレです!!お母さんは警察に電話お願いします!!俺はこっちで探しますから!!」

 

それだけ言うと天峰は門の外に出た。

自身のポケットから携帯電話を取り出す。

数回のコール音の後、目当ての相手につながる。

 

「よう、どうした天峰?授業ほっぽり出してよ?」

 

「そんな事より、ちょっと時間いいか?今どこいる?」

 

「トイレだよ、授業中に急に便意が……」

 

「なぁヤケ、お前昨日ハイエース見たって言ったよな?どこ等辺で見たか教えてくれるか?あと見た時間帯」

 

「ハイエース?ああ、昨日のな?確か時間は一時半位か?コンビニに本を買いに行ってたから……グレゴリ屋って分かるか?弁当屋なんだけ――天峰?天峰?」

必要な情報を聞き終った、天峰はヤケの言葉に有った店に向かって走っていた。

時間帯、車種からおそらくこの話はつながっている。

目印は藍雨の家と駅前とヤケの目撃情報、そして車種のみと言う絶望的な物。

犯人と決定したワケではないが、可能性が有るなら向かって行くしかなかった!!

がむしゃらに天峰は自転車を漕ぎ始める。

 

 

 

「なんだったんだ?天峰のヤツ……」

トイレで用を済ませた八家が、授業中の廊下を歩く。

 

「天峰がどうかしたの?」

その声に振り返ると、学年いや学校の中でもかなりの美少女と噂の卯月 茉莉が立っていた。

内心ラッキーと叫びながらペラペラと話を始める。

 

「いやですね?僕の友達の天峰君が、僕の昨日見たハイエースの見た場所とその時間を教えてって言いましてね?意味が解んないなーって考えていたところなんですよ」

その言葉に対して卯月が目を細める。

さっき急に走ってい天峰の姿が卯月の頭の中で、チラつく。

 

「ふぅん……多分それ結構重要な事ね……ちょーっとだけ私も動こうかしら?」

そう言って卯月は美少女に有るまじきイタズラ少年の様な顔をした。

 

 

「この辺のハズだ……ここが最後に見つかった場所だ……!!」

イライラしながら天峰が八家の情報を貰った場所をぐるぐる走り回る。

この辺からはシラミ潰しで探していくしかない。

ハイエースの停められそうな場所を探す。

 

オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー

 

掛かってきた電話を苛立たしげに取る。

相手は今しがた八家と話していた卯月だった。

 

「ハイもしもし!」

 

「天峰授業サボって何してるの!!」

通話早々卯月のお説教が飛ぶ!!

しかし今回はゆっくり聞いている暇はない。

 

「人助け中だよ!!たぶんだけど俺の知り合いの子が攫われたっぽい!」

 

「はぁ!?攫われたって……手がかりも無しに探す気!?それどころかそれは警察の管轄でしょ!?」

至極まっとうな事を話す。

しかし今の天峰にそんな事は意味など無かった。

一度決めた事を天峰はやり遂げるまで止まりはしない!!

 

「手がかりならある!!たぶんだけど車種はハイエース!!あと駅の東側に犯人は居るっぽいんだ!!やる事有るからじゃあな!!」

それだけ話すと天峰は電話をきり、再び自転車を動かしだした。

 

 

 

「……天峰なんだって?」

 

「友達が攫われたみたいね、今救出に行ってるんですって」

八家の問いに卯月が平然と答える。

まるで、なんでもない日常の事の様だった。

 

「へー……って!?それ一大事じゃないですか!?ってゆうかそんなの天峰になんか出来る訳ないじゃないですか!!」

卯月の言葉に、八家が激しく反応する。

平然の卯月は言い放ったが、非日常的な単語に八家の脳内は一気にパニックになる!!

 

「あーむりむり!アイツの決めた事って簡単には変えれないのよ。

はぁ、これさえなければロリコンも矯正できるのに……ま、こんな時は手伝うのが私の役目よね?」

もう何年もお互いの性格を知り尽くした、卯月だからこそ言える発言だった。

卯月は天峰の他人の為に一生懸命に成れるところが昔から好きだったのだ。

相手の気持ちを捕え、補佐すると言う意味では卯月は最も天峰のパートナーにふさわしい人間だろう。

 

「天峰はロリコン……そうだったのか……」

卯月の目の前で八家が驚いていた。

あんぐりと口を開けていた。

 

「(そう言えば隠してるんだっけ……まぁいいわ)」

小さくそう呟くと八家を無視して携帯を再び取り出し2、3言葉話すと再び電源を切った。

 

「何処に掛けてんです?警察?」

 

「違うわよ、情報屋。さて、情報が来るまで暫くサボりましょう?」

そう言うと授業中だと言うのに楽しそうに笑いはじめた。

 

 

 

「であるからにしてここは……」

平和な午後、退屈な授業が続き教師が黒板に教科書の説明を書いて行く。

まじめに受けるメンバー達の中に夜宵はいた。

何の面白味の無い黒板をノートに写していく。

 

(ブルルッ!!)

 

そんな中携帯のバイブが鳴る!!

珍しく授業中だと言うのに着信だ。

面白そうな予感がして、夜宵はニヤリと笑い席を立つ。

 

「先生、お腹が痛くなったのでトイレに行ってきます」

そう言い放つと返事も碌に聴かず教室から飛び出した!!

しかし目指す場所はトイレなどではなく、学校の屋上だった。

 

「どうしたのお姉ちゃん?」

ワクワクが抑えられないと言った感情でうれしそうに応える。

 

「ああ、良かった。夜宵ちゃん、駅の近くのグレゴリ屋ってお弁当やを中心にハイエースを持ってる人を探してくれない?大至急!!マッハで!!」

 

「ハイエース?なんか訳ありっぽいね?いいよ、ちょっと時間掛かるけど探してあげる、何時でも電話に出られるようにしておいて」

その言葉を言い終わる前に電話を切る。

一回深呼吸する。

そしてニヤリと笑うとスカートから2台目の携帯電話を取り出す。

それだけではない!!

カバンの中から更に3、4台目の携帯電話を取り出す!!

両手で携帯を操作し始める。

一台はネットに接続、もう一台は文章を制作する。

3、4台目は基本的に自演用の道具に過ぎない。

 

付近一帯の車の情報。

車オタクと云うのは常に一定は居る。

その男達を上手く誘導して、()()()()()()()説教や自身の知識をひけらかすのが大好きな連中だ。

ドンドンハイエースの情報が来る。

次は本格的な捜査だ。

 

匿名の学校掲示板で目撃情報を募る。

それだけではつまらない、ハイエースの持ち主におかしな経歴を付ける。

今回は芸能人に似ていると言うパターンだ。

すると再びネット上で騒ぐ者たちが出てくる。

同時進行で、自身でそこに煽りを入れる!!

面白おかしく、興味を持つように……

それに気が付いた暇人たちは驚くほどのスピードで情報を集める。

人の目というのは恐ろしい、複数集つまればどんな秘密も有ってない様な物だ。

携帯という小さな端末に無数のデータが人の手を介し集まってくる。

 

最後は情報の取捨選択だ、使えそうな情報を集め一つの形に集める。

夜宵の手によって複数のバラバラの情報がたった一つの形に収まっていく。

取捨選択が終わり満足する形の事実が浮かんでくる。

誰も知らないであろう事を自身の手で形にする。

噂という虚実混ざった物から、生まれる確かな情報。

コレこそが夜宵の最も好きな事柄だった。

情報を見て満足気に笑う。

 

「ふぅ~疲れた、ゆとり世代なめんなよ?」

特定したハイエースの情報を手に、誰に言うでもなく夜宵は笑った。

 

 

 

「おっと!来たようね。流石夜宵ちゃん、仕事が早いわ」

嬉しそうに卯月が笑う。

情報に満足したのか、手早くお礼の返信をした。

 

「うんうん……ホイッと送信!!」

天峰に自身の受け取ったメールを流した。

八家はずっと卯月のうれしそうな表情を見ていた。




今回は天峰以外の活躍に焦点を当ててみました。
八家にもう少し出番を……!!

何気に良いトコはかなり持って行っていますが……


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帰ろう?お母さんが心配してるからさ

はい、今回で第0部は終了です。
気が付いたらこの文字数。
良い所で切れなかったとも言いますね。

私の実力不足ですね……
最後までお楽しみいただけたら幸いです。


Time limit 00:45:56

 

 

 

 

 

「クソッ!!ハァ、ハァ……何処だ?この辺で見たのが最後なら、絶対近くに居るハズだ。見つけるぞ……ハァハァ……絶対に見つけて見せる……」

天峰が自転車を止めて辺りを見回す。

もう既に学校を飛び出して、3時間近くに成る。

天峰は殆ど当てのないままずっと自転車でさ迷い続けている。

体力は奪われ、時間だけがいたずらに過ぎていく。

天峰の中に焦りが募る。

 

「ん?」

その時鼻先に冷たい感触がする。

気が付くと同時にゆっくりとコンクリートが濡れていく。

雨が降り始めた様だった。

 

「…………大丈夫だ、俺は大丈夫、藍雨ちゃんの為ならこの位……」

自身にいい聞かせる様にワザと口に出した。

何故ならそうしないときっと自身の中の弱い心に押しつぶされてしまう気がしたから。

 

「会って3日も経って無いってのに……我ながら良くやるよな」

ダメ押しとばかりに自嘲気味に笑い再びペダルに足を掛ける。

 

(そうだよ、やってやるよ。此処まで来たんなら何が何でも最後まで――)

 

オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー

 

そんな事を考えた時空気を読まないメールの着信音が響く!!

 

「メールか」

何気なくポケットから携帯電話を取り出し内容を確認する。

そこに書かれていた内容に天峰は目を見開く。

それは天峰の求めている複数の情報。

昨日の深夜のハイエースの目撃証言、その車の停めている駐車場の写真、持ち主の住所さらにはその持ち主の情報まで、事細かな情報が羅列されていた。

 

天峰の口角があがりニヤリと笑った。

折れかけていた心が、再び動きを取り戻していく。

 

「サンキュー、卯月。やっぱお前最高だ!!」

携帯を閉じその住所まで向かう!!

自転車のペダルに力が入る!!

 

「待ってろ藍雨ちゃん!!天下御免のロリコン野郎が今いくぜ!!」

自身を鼓舞するようにがむしゃらに走りだす。

この時ばかりは雨が心地良かった。

 

因みに不審者情報が流れ、周囲の小学校に緊張が走ったのを天峰は知らない。

 

 

 

 

 

「……あれ……?私、寝ちゃったんです……ね」

ゴミ屋敷一歩手前の部屋で藍雨が目を覚ます。

気が付かない内に3時間近く眠っていたらしい。

 

「ふぇ?」

こんこんと足音の様な物が聞こえる。

ドンドンこっちに近付いてくる。

まるでコチラに自身の接近を知らせる様な感じだ。

 

ガチャ……ギィイイィィイイイィ……

 

錆びたドアの音がして、誰かが家の中に入ってくる事がわかった。

思わず体を強張らせる。

 

一本、藍雨の目の前のドアの隙間から指が一本見えている。

二本、ゆっくりとドアを押し、濁った瞳が藍雨を捕える。

三本、しっかりとドアを掴み横にスライドさせる。

 

「ハァイ、ローリちゃん!!イイコにしていたかなぁ?ぐふふふ!!」

男が帰って来た、相変わらずの気持ち悪い視線を無遠慮に藍雨に投げる。

見られるだけでまるで体を舐められるような不快感が藍雨を襲う。

 

「さぁてぇとぉ!!私が居なくて寂しかったかぁい?心細かったロウ?私もね!!君が一人でさみしがっていると思って~~~、お仕事、速引きしちゃった!!…………オイ、『お帰りなさいませ。ご主人様』はどうしたぁ!!」

突然キレた男が、近くに有ったゴミを藍雨に向かって投げつける!!

油が浮いたカップ麺の汁や、カビの生えたコンビニ弁当の残りが体にかかる!!

 

「さっさと言え」

 

男が縛られた藍雨の顔面を踏みつけながら話す。

ぐりぐりと黒ずんだ畳に顔を擦りつけられる。

 

「いや、です……もう止めてください……()()……」

 

「うるせぇ!!ここじゃご主人様だろ!!」

男が逆上し、藍雨を蹴る!!

肺から空気が抜け、激しく藍雨が咳き込む!!

 

「謝れよ……お前はもう俺の所有物だ……お前は俺のご機嫌だけを伺っていればいいんだよ…………聞き分けのない奴には『制裁』だな……」

2本の腕が伸び10本の指が藍雨の首に巻きつく!!

 

「カハァ……!?」

 

「今から少しずつ力を入れていく……それまでに俺がお前を許せる様に謝罪しろ、機嫌が直ったらやめてやる……しゃべれなくなる前にちゃーんと謝るんだぞ?……じゃあ始めるか……いーち……」

 

藍雨の首に掛けられた指の力が強くなっていく。

まだ藍雨は謝らない。

 

「にーい……」

 

更に強く力が入り、呼吸が難しくなっていく。

 

「さーん……」

 

遂に10本すべての指に力が入り藍雨の呼吸を奪いはじめる。

 

「よーん……」

 

一瞬だが強く力を込められた、藍雨に明確な『死』をイメージさせる。

 

「謝れよ……そろそろ呼吸が完璧に出来なくなるぞ?謝れよ……ごーお……」

 

ギリギリギリ……更に強い力で首を絞める!!

意識が白んできた……

 

(私……死んじゃうんでしょうか?……苦しいな……いやだな……死にたくないな……)

 

もうカウントダウンは聞こえなかった……

ゆっくりと優しい眠りが藍雨を包んでいく。

シトシトと地面を濡らす雨の様に……

藍雨の意識が白い世界に消えていく……

 

「寝てんじゃねーぞ!!おらぁ!!」

バシンバシン!!

と両頬に痛みが走る!!

藍雨は優しい世界から無理やりたたき起こされた!!

 

「せっかくのオモチャだ……簡単には壊しはしないぞ?さぁ!!ゲームの続きだ!!」

 

再び10本の死神()が藍雨に絡み付く。

 

「……!……、……。……せ……。……!!」

パクパクと藍雨の口が動く。

その様子を見て男の顔が醜悪に歪む。

 

「何?今、なんて言った?」

首を絞める指が弱くなる。

 

「アナタには……絶対負けません!!アナタは弱い人です!!」

こんな逆境でも強い意志を持ち、尚且つどこまでもまっすぐな瞳で男を睨む!!

 

「……ふざけんなよ……粋がるな……ガキが俺に意見してるんじゃねーぞ!!オラァ!!」

この男にとって、子供とは大人のいう事をきくものそれこそが正しいと信じている。

最近の子供はやれ法律だ、やれ自由だの考えですっかり腑抜けてしまっている。

この女は自分(大人)に逆らった、大人に逆らう悪い子は……教育しなくてはならない!!

 

藍雨が縛られた体で必死に抗う!!

足で男を蹴り、首に伸びてきた手に噛みつこうとする!!

 

「捕まえたぞ!!悪い子め!!制裁、制裁してやる!!」

立ち上がり、藍雨の首を持って立ち上がる!!

 

「負けない!!アナタには……心の弱いアナタには絶対に負けません!!」

 

「死ね……死ねクソ餓鬼!!」

 

ガゴンッ!!

 

「なんだ?」

 

「か、は……」

突然響く音に男が困惑する。

このボロアパートは住人が殆ど居ない。

いまどき珍しい風呂トイレ共用の貧乏アパートだ。

そもそも居ない住人とのトラブルなんてありえない。

だが……

 

ガゴン!!

扉を蹴る様な2度目の衝撃、そして更に……

 

バギンッ!!

 

ぼろいチェーンロックが外れる音がする!!

 

「なんだ……一体何が?」

 

困惑する男を余所に、ドンドンと足音がこっちの部屋に向かってくる!!

最後に扉の前で足音が止まる!!

 

「……一体……誰だ!!勝手に入って来るなんて何を考えている!!」

 

男が声を荒げると同時に最後のドアが蹴破られる!!

相手を見て藍雨が笑みをこぼす。

 

「幻原 天峰!!通りすがりのガチ小児性愛者だ!!よーく覚えて置け!!」

天峰が男の部屋へと侵入した。

 

 

 

 

 

Time limit 00:18:06

 

 

 

 

 

「よう、先生……学校早退して特別授業ですか?」

天峰がそう言って、目の前の誘拐犯『城山 最』を睨みつける。

 

「なぜここが?」

 

「ああ、言われてみれば簡単な事ですよ……小学生とはいえ人を攫うのは大変、車に乗せても暴れられる可能性も高い……車はなるべく大きく、そして攫った子を縛れる道具も必要……日常的にこんなの持ってる人なんて、かなり限られてる。

俺も最初は塗装屋のバンとかを探してました……けどこの辺にそんな車を持った企業は無かった。

けど、後一人だけいたんですよ!!

オーラ部の道具を運ぶ為の大型の車!!道具を片す為のビニールテープとガムテープ!!そしてその道具をしまっておく倉庫代わりの部屋!!

城山先生!!アンタがその条件にあてはまる唯一の人物だ!!」

そう言って天峰は、城山に指を向ける!!

 

「……良くわかったな……そうだ……ここは本来、道具を置いておく倉庫代わりに私が借りた部屋だ……妻も娘を私を見ようとはしない……いや!!それどころか!!教師である私を敬おうともしない!!!なぜだ!?子供は大人のいう事を聞いていればいいんだ……私にいう事に全て『ハイ』で応えればいい!!この子(藍雨)を見つけたのは偶然だよ、たまたま盗みに入った家にこの子が居た……物静かで大人しい……まさに私の理想!!

コレは運命だと思った、だから私の家に招いて私に服従する喜びを教えてやろうとしたのに!!裏切りやがって……私の愛を踏みにじりやがって!!貴様ともども許しはしない!!」

 

その言葉と共に藍雨を、ゴミ山に投げ捨てる!!

藍雨を心配して天峰の気が逸れる!!

その事を見越した城山が、拳を天峰の鳩尾に向かって振るう!!

天峰は城山の腕をさけ、手首を二の腕と脇で固める!!

更にそこに腕を城山の肘関節の逆側に添える。

最後にピィンと伸びた城山の腕を捻りながら足を払う!!

 

「見よう見まね式、快晴気流……!!なんかの投げ技!!」

 

「うをっ!?」

バランスを崩した、城山に天峰が体を預ける。

 

「出来るさ、俺はあの時藍雨ちゃんに掛けられた技をずっと反芻していた、猿まねだけどアンタには十分だろ!!」

天峰と城山、二人分の体重が腕を取られ受け身の出来ない城山の全身に掛かる!!

畳に城山が叩きつけられる!!

 

「ど~よ、藍雨ちゃん?この掛け方で合ってる?」

 

「すごいです先輩!!びっくりです!!」

天峰の技に藍雨が目を丸くする。

当たり所が悪かったのか、城山は動かない。

死ぬことは無いだろうが床に落ちていた、物を腹で踏んだんだろう意識を失うレベルの痛みを感じた様だ。

 

「さ、帰ろう?お母さんが心配してるからさ」

 

そう言って藍雨の後ろ手のガムテープを剥す。

その下にはビニールテープ、あまりの周到さに天峰が舌打ちする。

 

「鋏は……この部屋じゃ、見つけるの大変そうだな……藍雨ちゃんごめん」

 

「え?先輩……きゃ!?」

藍雨の手に何か濡れた感触がする。

その後、ブチブチと引っ張られるような感覚。

藍雨の位置から見えはしないが、天峰が自身の歯で噛みきっている様だった。

 

「ペッ!!……手は取れたよ、次は足だ」

 

口からテープを吐き出し、次は藍雨の足のガムテープを剥す。

同じく、巻かれていたビニールテープに再び天峰が噛みつく。

藍雨は自身の足元に顔をうずめる天峰を見ていた。

 

「先輩……なんで先輩はそんなに優しいんですか?私と有ってそんなに経ってませんよね?……一回ごはん食べただけで……なのにどうしてこんなにやさしいんですか?」

 

ピクリと天峰が反応するが、しゃべりはしない。

ブチブチとテープを破く音だけが聞こえる。

やがてそれも止む。

 

「それはね、俺が――ギャァ!?」

 

「先輩!?」

突如天峰が力を失い倒れる!!

天峰の背中の向こうに城山が立っているのを藍雨は見つけた。

 

「ああ!!ダメだ!!このクソが!!イラつく!!」

胸を押さえながらも、もう片方の手にはスパークするスタンガンを持っている。

 

「殺す……殺す!!俺に逆らったお前らは許さない……幻原は両目の水分をこのスタンガンで蒸発させてから全身の骨をボッキボキに折って、声帯をダメにしてから生きたまま山奥に捨ててやる!!晴塚!!お前はどうしてほしい?ダルマにされるのが好みか?剥製にされるのが良いか?解体して大型冷蔵庫で半永久的に保存してやるのもいいなぁ。

ぐひ!!ぐっひひっひひひひひいいっひひひっひ!!!!」

 

目の前で狂気的な笑い声を上げる城山。

城山の手に、天峰が手を伸ばす!!

 

「……藍雨ちゃん逃げて……外に俺の自転車が有る……俺はいいから……一人でも……逃げて……」

 

「なんだ?まだ、意識が有るのか?……まぁいい、その様子では動けはしないな、ヒーロー気取りめ、目の前で晴塚が壊されるのを見るがいい!!」

 

狂気の笑みを浮かべ2人を嘲笑する城山と、半場意識を手放しながらも必死で喰らいつく天峰。

そんな二人を見ていて藍雨の心にとある感情が湧き出てくる。

その感情を胸に、藍雨がゆっくり口を開く。

 

「天峰先輩、ありがとうございます。私の為にとってもうれしいです……

私、ずっといろんな事隠してました。好きな物、家の道場の事、お母さんとの関係、目立たない様にってずっと思ってました……

だって、漬物好きで道場が家に有ってお母さんが頼りないなんて言えないでしょ?

けど……もう大丈夫です、先輩が褒めてくれたから……私を助けるためにここまで来てくれたから……私は……本当の私に成る!!」

 

「何を言って?」

藍雨が地面を蹴る!!

今の彼女を縛るモノは何もない!!

 

「はぁ?」

 

武器をもって油断した、城山の懐に入る身長差が有る。

だが藍雨には問題は無かった!!

 

(もっと速く!!もっと強く!!)

全身の力を籠めて、足首を狙う!!

くるぶしではない、踵側の弱い部分だ。

人間は2本足の生き物、意識しなければ1本足で立てはしない!!

 

「おと……と?」

城山の体制が崩れる、たったそれだけ。

たったそれだけで藍雨にはもう十分だった。

 

「快晴気流式!!」

 

天峰がしたように、腕を掴み自身の全体重を掛ける。

小柄な藍雨のやる技だ、大した事は無い……様に思える。

だが違う、快晴気流は相手の力を利用する流派!!

相手の関節部分を相手の体重と自身の体重を以て地球と言う凶器にぶつける!!

 

「歯を食いしばってください、舌を噛みますよ?」

 

自体が解らないのか、倒れながらも城山は呆けていた。

突然の事に理解がまわっていないのだ。

 

「枯れ木砕き!!」

その言葉と同時に城山は地面に再び激しく叩きつけられた!!

 

「まだだ……まだ私には、これが……」

ゴミの山に身体を預け、少し手前に落ちたスタンガンを拾おうとする。

 

「させるか!!」「ダメです!!」

 

跳びかかろうとする、天峰を藍雨が静止する。

ニタリと笑い城山がスパークするスタンガンに手を伸ばすが……

 

パシャ……

 

何かが零れる音がする。

城山が確認すると、それは藍雨が投げたカップ麺の残りだった。

スープの残りで地面が零れ、床を伝いスタンガンを濡らす。

その液体が勢いを持ったまま()()()()()()()()!!

 

「ひぃや……いやだ……助け――」

 

「「掃除はこまめにしましょうね、先生」」

天峰と藍雨二人がにっこりと笑いかける!!

その間も帯電した汚水がドンドン城山の方に向かう!!

 

「あああ!?ああああ!!」

ピタリと城山の数センチ前で汚水が止まる。

 

「あはは、やった……やったぞ……」

幸運に感謝した城山が息を突く、その時城山の緊張が限界を超え……

 

じわあああああ……

 

アンモニア臭が僅かにし、内側からの水でズボンを濡らす。

水が増えた事で汚水どうしが絡み合う!!

 

「ぎゃあああああああ!?!?!???!!!!」

バチバチッ!!

弾ける様な音がして城山が今度こそ気を失う!!

 

 

 

 

 

数分後

天峰の呼んだ警察のより城山は逮捕された。

汚水と尿に塗れてパトカーで連れて行かれると言う前代未聞の顛末となった。

事件性有りとの事なので、後日藍雨に話を聞く事に成りそうだ。

 

「天峰先輩ありがとうございます……本当に命の恩人です、あれ?足が震えてる……」

その言葉通り藍雨の膝が笑って上手く立てない様だった。

天峰が手を貸し、藍雨を自身にもたれ掛からせる。

 

「無理もないよ、あんな目に遭ったんだから」

もう安心だ、と言うメッセージを込め藍雨の頭を優しくなでる。

 

「先輩……あ!そうです、携帯!!あの人の携帯から先輩にメール送ったんです!!履歴消さなきゃ!!」

誤魔化すように藍雨が落ちていた城山の携帯を手にする。

カチカチと何度かイジル。

 

「う~ん、うまくできません……」

 

「ちょっと貸して……えい!」

天峰が城山の携帯を逆側に、へし折る!!

 

「はい、消せたよ」

 

オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー

 

そう言った時天峰の携帯に着信が来た。

「卯月からか……今回で借り作っちまったな……ってかどうやって此処の場所調べたんだろ?」

疑問に思いながら天峰が返信を書く。

送信し終わって藍雨の方を見るとジト目で天峰を見てくる。

 

「えっと、どうしたの?藍雨ちゃん?」

 

「……先輩、着信音の趣味悪くないですか?」

 

「え!?そう?初めて言われたんだけど……」

尚も藍雨の追及は続く。

 

「今の声って先輩の声ですよね?」

 

「うん、自身の裏声でロリボイスを再現して録音したんだけど……ダメだった?」

 

「ダメです!!そんな変なの使わないでください!!」

藍雨の迫力に天峰がたじろいだ!!

 

「な、なら。藍雨ちゃん何か言ってよ!!俺それを着信音にするから!!」

そう言って携帯をいじり、録音モードにする。

藍雨の目の前に、携帯が突きだされる!!

 

「え、えー!?そんなの恥ずかしいです!!いやです!!」

 

「じゃー俺これからもこの着信音つーかお!!」

そう言って天峰が自身のロリボイスを流し始める。

辺りに天峰の裏声がリフレインする。

 

「ッ~~~!!解りました!!私が入れます!!貸してください!!」

天峰の手から携帯を奪い取ると、部屋から出る。

数分後、録音をし終わった藍雨が顔を真っ赤にしながら戻ってくる。

 

「……一人だけの時に聴いてくださいね」

 

「わかったよ、帰ろうか。今日はもう疲れた……」

2人で部屋を出てる。

外は雨も止み、雲間から見える夕焼け空で紅く染まっている。

 

2人はアパートの階段を下りていく。

 

(そう言えば……藍雨ちゃんなんて録音したんだろ?)

好奇心が首をもたげる。

『……一人だけの時に聴いてくださいね』

藍雨はそう言っていたが……

 

「まぁ、いいや。えい」

再生ボタンを押す、すぐに再生が始まる。

 

『天峰先輩だ~い好きです!!』

 

「うほぉ!?」

藍雨の無駄に甘い声が再生される!!

頬がにやけるが、現在天峰の後ろには藍雨が居る!!

 

「先輩聴きましたね……一人の時にって言ったのに……聴きましたね……」

夕日に負けない暗い藍雨が顔を真っ赤にする!!

 

「……好奇心に負けました……ごめんなさい!!」

 

「許しませんから!!枯れ木砕き100回の刑です!!」

藍雨が両手を振りあげる!!

それに対して天峰が、おどける様に走り出す!!

 

(ああ、いいよな。コレだよ!!コこそが俺の求めた世界だよ!!)

嬉しさのあまり天峰の顔がゆるむ!!

 

 

 

 

 

Time limit 00:00:00 START!!

 

 

 

 

 

事故っていうのは突然やってくる、気分の良い時ほどそんな気がする。

それは俺、幻原 天峰とて例外じゃないらしい。

 

「うおぅ!」

オンボロアパートの二階と一階をつなぐ階段で、一人の少年が足を滑らせた。

重力に従い体が落下を始める。

 

「キャー!先輩大丈夫ですか!」

藍雨が悲鳴を上げる。

 

「うう、リアルに痛い…」

痛みを堪え自分の状態を確認する。

 オカシイナ?僕の腕が肘以外の場所で曲がってるぞ?ふしぎふしぎー

 

「いってー!なにこれ!なにこれ!まじめに痛い!ヘルプ!ヘェルプミー!」

 

「わわわわ!先輩落ち着いてください!」

 

駆けつけた藍雨が天峰を落ち着かせようとする。

「うう、藍雨ちゃん、俺の腕なんかおかしくない?スゲー痛いんだけど」

 

「うわぁ、ぽっきりいってますね……足の方もいたそうですけど……」

 

「え……足?」

天峰が恐る恐る確認すると、右足首が80度位捻じれてた。

 

「え?捻挫?足首がウケ狙ってんの?」

 

「あ、今救急車呼びましたから」

気の毒そうな顔で藍雨がいう。

 

(携帯……藍雨ちゃんのラブボイスの入った俺の携帯は何処だ?)

自身の手に携帯電話が無い事に天峰は気が付いた。

キョロキョロと辺りを見回す。

 

「あった、有ったぞ」

運悪く、車道の方まで転がって行った仕舞った様だ。

体を引きずりながら携帯に方に向かうが……

 

ビビー!!グシャ!!

 

「あ……」

天峰は自身に起きた現実が理解出来なかった。

天峰の携帯電話は……その場を通りかかった車に轢かれ……

 

「なんでだ……なんでだよオオオオオオ!!!!!」

 

暫く天峰の悲鳴が市街地に聞こえたという。

 

 

 

 

 

天峰の乗った救急車がとある病院へ搬送される。

今は使われていないハズの病棟で一人の少女がその救急車を見ていた。

 

「……なんだか……騒がしくなるきが……する……私には……関係ないけど……」

 

その少女は腕に持っていたクマのぬいぐるみの腕を放り投げた。

ベットには最早原型をとどめていないクマのぬいぐるみ。

腹に深々とカッターナイフが刺さっている。

 

「……何か……面白い事はないかな?」

腹からカッターを引き抜き少女は誰も居ない、病棟を一人さ迷いはじめた。

窓の外ではもう既に雨があがり夕日が街を照らしていた。




予測していた人もいましたが、一話の寸前の話だったんですね。
ここから夕日ちゃんと天峰の話がスタートします。



ここからは余談というか裏話を。
実はこの第0部最初は『リミットラバーズ』の第一部として投稿予定でした。
コンセプトは『ロリコンを主人公にした作品を作りたい!!』でした。
そこで最初のヒロインは『性格の良い子』をヒロインにしよう!!
と成りまして藍雨ちゃんが生まれました。

当然2部も書くつもりだったので、あらすじを作ります。
今度は逆に、『良い性格してる子』を書こうと成りまして夕日ちゃんが生まれました。
その結果……
物の見事に夕日ちゃんが、メインヒロインを食っちゃいまして……

「コレはイカン!!」という事で藍雨ちゃんがまさかの格下げ!!
夕日ちゃんはまんまとメインヒロインの座を奪って行きました。
いやー、夕日ちゃんつえーわ……


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Emotion liar~ツンデレが優遇される理由がわからない~
何でこんなの企画通ったんだ!?


過去編も終わり今回から第3部へ戻ってきました。
さぁて、今部のヒロインは?


「ラッシャーセ……サークルXへようこそ……」

まるでゾンビの様な顔をした店員の横を抜け、天峰がスイーツコーナーに足を運ぶ。

ゆっくりと欲しい商品を吟味する。

その表情には切実な物が有り、とても真剣そうだった。

 

「……ここもダメかぁ……」

がっかりという表情をし、コンビ二から出ようとする。

 

「もうダメだぁ……意識が……」

眼の下にヤバイレベルのクマを作っていた店員が遂に倒れる!!

天峰の知る限りでは3日以上、連続勤務していたハズだ無理もない。

 

「マジかよ……」

仕方なく救急車を呼んでおく。

最近職務怠慢で逮捕された警官が出たせいか、病院消防警察が最近張り切っているのだ。

話を聞かれると面倒なので手早く天峰はコンビニを出る。

 

「えーっとこの辺に他のコンビニはあったかな?」

頭の中に有る地図を参考に再び自転車を漕ぎ始める。

時刻はすでに深夜12時をまわっている!!

そんな中!!天峰が買い物に出ているのには理由が有った!!

それは約3時間ほど前に巻き戻る!!

 

 

 

 

 

「ふぅ~いい湯だった」

入浴を終えた天峰が頭を拭きながら冷凍庫の蓋を開ける。

7月も半ばに入り少しずつ熱さを感じる様になり始めた今日この頃。

風呂で火照った体には冷えた氷菓が欲しくなる。

 

「あれ?俺のガリガリ暴君は?」

買って来たハズのアイスが無く、思わずその場でつぶやいてしまった。

がっかり感が天峰を襲う!!!

 

「……アイスなら……ハイネが……食べた……」

 

「うぉぅ!?」

いつの間にか後ろにいた夕日に声を掛けられ、天峰が飛び上がる!!

この少女は坂宮 夕日。天峰の家に訳あって居候している義理の妹である!!

 

「いつから居たの?割と心臓に負担が掛かるからもう少し、普通に出て来てくれない?」

 

「……普通に話しかけただけ……天峰が勝手に驚いた……」

天峰の言葉に不満げに夕日が抗議する。

影が薄いのだろうか?本人は『周波数が合っていない』との事、電波なのだろうか?

 

「まぁいいや、ってか天音が食べちゃったのかよ……仕方ないな、買ってこようかな?夕日ちゃんも何か要る?」

 

「……うーん……私も……アイス欲しい……ヨーグルトのヤツ……」

 

「わかった!じゃあちょっと行ってくるよ」

そう話すと手早く自身の部屋に戻り財布をポケットに押し込む。

頭の中でコンビニを探し、最短のルートを検索する。

 

「ん?アニキ深夜徘徊か?」

扉を開くとそこには、天峰の実妹天音が立っていた。

メタな表現で読者様には悪いのだがこの口調で『妹』で有る。

 

「違う、お前が俺のアイス食ったから買いに行くんだよ!!今度買って返せよ?」

 

「アイス?知らんな!!」

 

「この野郎!!」

とぼけた態度を取る天音に天峰が切れ、頭を押さえに掛かる!!

腕を天音の頭に巻きつける!!

 

「は、はなせ!!おま、乙女に手を出すとか……恥ずかしくないのか!!」

 

「うるせぇ!!乙女はお兄様のアイスの手を出したり、風呂上りに下着だけで家の中をウロウロしないんだよ!!」

 

「個人の自由だろ!!馬鹿アニキ!!」

そう言い放ち天峰の鳩尾を殴る!!殴る!!

 

「はぁはぁ……疲れた……じゃあ俺はもう行くからな?」

 

「待てよアニキ……どうせなら、俺の分も買ってきてくれ……コレのシリーズが欲しいんだ」

そう言いながら、手に持っていたシュークリームの包を渡す。

 

「なんだコレ?」

 

「イイだろ?コレ新発売の『カレーシュー』ってんだよ!シュークリームの生地の中にカレーが入ってんだ!学校の帰りに買ったら美味かったんだよ、4種類とも買ってきてくれ、じゃあな」

手早く自身の要求を伝えると、部屋に入って行ってしまった。

残された天峰の手の中には、包み紙(ゴミ)が残されていた。

 

「なんか……負けた気がする……」

癪然としないが他ならぬ妹の為だ、仕方なしに天峰はコンビニに向かったのだが……

 

 

 

「カレーシュー?ポーク、チキン、シーフードは有るんだけど、他のはね?」

 

「ああ、それかい?実は最後の味は売り切れなんだよ、ごめんね?」

 

「もともと最後のは入荷させていないんだよねー」

 

「カレーシュー?何それ?」

 

「強盗だ!!金を――「カラーボールバァアアアン!!」ぐはぁ!?」

 

行く先々のコンビニで売り切れを言い渡される。

場合によっては仕入れてすらいない様だ。

 

「あーくっそ!!なんで無いんだよ!!ったく、溶けちまうから先にアイスも買えないし」

そう言いながら、天音に渡された紙を再び確認する。

 

『カレーシュー全4種同時発売!!優しさのポーク味!!スパイシーなチキン味!!贅沢シーフード味!!激苦のダンディズム!!オヤジ味!!』

 

(……カレーシューオヤジ味?……何でこんなの企画通ったんだ!?)

何ともいえない気持ちで次のコンビニへと向かって行く!!

 

「馬鹿らしくなってきたから、次なかったら帰るか……」

気が付けばコンビニからコンビニへと、ずいぶん長い距離を走ってきた。

周囲に建物も少なく田んぼ、ばかりでガラスに大量の虫がくっ付いている。

殆どヤケになりスイーツコーナーを目指す。

 

「あった……あったぞ!!」

その場で天峰が小さく声を漏らす!!

スイーツコーナーの端に肩身狭げに鎮座しているのは!!

 

「オヤジ味だ!!」

謎の感動が天峰の中で沸き起こり手を伸ばす!!

しかし!!現実は非道である!!

 

パシッ

 

「ゲット~♪」

横から来た、少女に先にカゴに入れられてしまった!!

更に不幸は続く!!何と!!それはラストワンのカレーシュー!!

この瞬間天峰の努力は水泡と化した!!

 

「ああ……俺のカレーシュー……」

天峰は無力感に苛まれその子が買って行くのをただ見送った!!

 

「カレーシュー……」

何とも言えない気持ちで他の買い物を済ませる。

時計を見るともう深夜過ぎ!!

ずいぶんと長い間探していた様だった。

 

「帰るか……」

そう呟き自身の自転車に跨ろうとする。

その時!!

 

「はぁ~いこんばんは、君今何歳?お父さんかお母さん居る?こんな時間に出歩いちゃいけないって分かってる?」

夜遊びする子供の天敵!!補導警官だ!!

天峰がビクッと反応する!!だが、その警官のターゲットは天峰ではなかった!!

 

「あ、あの……私?」

 

「あーそう、キミキミ。家族のひと一緒じゃないよね?」

 

 

 

ターゲットは先ほどのカレーシューの少女だった!!

確かによくよく考えてみれば、こんな時間に天峰より年下が居るのは褒められることではない!!

哀れにもこの少女は補導警官のノルマの餌食に成ってしまったのだ!!

 

少女の方は補導されるのは初めてなのか、おろおろびくびくとして要領を得ていない!!

その姿に天峰の被護欲求が掻きたてれる!!

 

(仕方ないな、今回だけ助けてやるか)

深呼吸して、天峰はその警官たちの方へと向かって行った。

 

 

 

「いやーごめん、おまたせー!」

まるで警官に気が付いていないとばかりに天峰がその少女に話しかける。

警官と少女が同時に天峰の方を見る!!

 

「にーちゃん、アイス選ぶのに迷ってさ~、さて帰ろうか?」

優しく微笑み、その少女に話しかける。

あまりの事に少女が目を白黒させる!!

 

「君、この子のお兄さん?」

警官が天峰に話しかける。

 

(よし来た!!)

天峰はこの時自身の心の中で小さくガッツポーズした。

何とか警官の注意をそらすことに成功したのだ。

 

「そうですよ?思った以上に悩んじゃって……な!!」

合図の様に、見ず知らずの少女に同意を求める!!

 

「うん……お兄ちゃん遅かったね」

 

(乗ってきた!!)

心の中でそう呟くと、天峰は少女を自身の近くに呼ぶ。

 

「あ!君たち……この辺は物騒だからあんまり夜遅く外出しない様にね!」

 

「はぁ~い解りましたー、ほら、行くぞ!」

そう言って警官の見えない場所、近くに有った公園まで歩いてその子を連れていく。

 

 

 

「さて、ここ等辺で良いかな?」

警官が居ない事を確認して、天峰がその子を離す。

 

「補導には次から気を付けるんだよ?」

尚も黙ったままの少女に天峰は声を掛ける

大体中学生位だろうか?意志弱げに下を向いている。

 

「あ……あの……」

 

「ん?」

消え入りそうな声をその子がゆっくりと顔を上げる。

ポケットから黒ブチの眼鏡を取り出し、掛ける。

 

「おにーさんは変態の人ですよね!?」

 

「はい?」

突然の言葉に天峰の頭脳がフリーズする!!

 

(変態の人?ヘンタイ?変体?編隊……どれだ?)

 

「真夜中の……公園に連れ込んで!!私に乱暴するんでしょ!?エロ同人みたいに!!」

 

(あ、コレ……アカン奴や……)

天峰はさっそくこの子を助けた事を後悔し始めた。

 




色々ヤバめな子登場!!

申し訳ありませんが……
少しこれからは更新の頻度が落ちると思います。
ゆっくり待っていてください。


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冷静に分析しないで!!

久しぶりの投稿です。
実は……今回のヒロインの名前を決めるのに時間がががが……
しかしようやく決定しましたので、今度からペースを速めるつもりです。


「おにーさんは変態の人ですよね!?」

 

「……はい?」

目の前の少女が自身の体を守る様に、手で胸を押さえる。

時刻は12時近くの人通りの少ない公園!!しかも薄暗い!!

さて、ここでクエスチョン!!

1人気の少ない公園!!

2男と対峙する震える少女!!

3その子から発される『変態の人』と言うフレーズ!!

その三つから想像される事態は何だぁ!?

 

(あれ……?コレやばいんじゃねーの?事案発生?おまわりさん来る?)

自身の現在置かれている事態に気が付いた天峰。

救う側から一気に追いつめられる。

 

「い、いや。変態じゃない……よ?日々を一生懸命生きる善良な市民デスヨ?」

 

この場で天峰、相手に対して安心感を持たせようと爽やかな笑みを浮かべる。

もちろん敵意の無い事を強調する。

 

「違うの?トイレに連れ込んだりしない?」

オドオドとした表情で目の前の子が尋ねる。

 

「しない、しない」

 

「と、油断させた所で?」

 

「いや、ないから。安心して良いから」

尚も疑う子に距離を取り始める。

正直言うと天峰自身帰りたいのだ!!

 

 

「なんで距離取るの!?に、逃げる気?ハッ!?遠距離から露出して私に自身の――」

 

「見せません!!」

良からぬ事を言いはじめる子に対して再びツッコむ天峰!!

仕方なくその場で立ち止まる。

 

「なんで止まるのよ!?」

 

「どうしてほしいの!?俺もう帰りたいんだけど!?」

何をして警戒し続ける少女に対して、天峰が遂に声を荒げる!!

この時点で天峰の中でこの子のカテゴリーが『メンドイ奴』決定する!!

 

「帰るの?帰るのね?私を襲ってスッキリした後で――」

 

「すぐに帰るんだよ!!何おま!?メンドクセーなぁ!!」

圧倒的被害妄想!!理解不能!!完全不明!!

夕日が「周波数が合わない」と言っていたがこの子もそうな気がする!!

天峰が少女に背を向け公園から出ようとする。

コンビニには、まだ愛車が停めてある、鍵はかけてあるが盗まれたりイタズラされると困るのだ。

 

「ちょ、ちょっと待っておにーさん!!」

その時天峰の背中に声が掛かる。

 

(ああ、もう。マジでめんどくさいぞ……)

正直言って関わりたくない感がMAXの天峰!!

無視して走り出したい感情を抑え再び振り向く。

 

「何?」

 

「お、乙女をこんな所に放置は無いんじゃないカナ!?せめて明かりのある所、までエスコートするのが紳士なんじゃないカナ?」

本当に天峰が帰ると理解したのか、僅かに震えながら天峰に追いすがる!!

 

「えー……俺帰りたいんだけど?自宅で待ってる人が居るし」

 

「待ってる人ってどうせ妄想の中の彼女――ま、まっててば!!」

公園の出口に全力だ走り出した天峰!!

その様子に少女が必死で追いかける!!

深夜の公園で追いかけっこだ!!

 

「はぁー、はぁー……マジに何なんだよ、帰りたいんだけど?」

最早何回繰り返されたか解らない会話!!

コレに付き合う天峰もお人よしではある。

 

「察してよ!!深夜の公園って怖いじゃん!!人居ないし?このあたり電灯少ないし?補導されかかるし?……実際変な人に絡まれたし?」

変な人の部分で眼鏡の奥から二つの瞳が、天峰を覗いている。

 

「……で?俺にどうしろと?」

 

「私の家の近くのまで送って行ってくれない?」

指を自身の唇にくっつけて(たぶん本人が)カワイイ(と思ってる)ポーズを取る。

天峰は今までの会話で連れてかないと結局めんどくさく喚くだろうと理解する。

しかしここで天峰の中である妙案が浮かぶ。

 

「連れて行ってもいいけど、さっき買ったカレーシュー俺にくれない?100円は払うから」

それは自身の妹に頼まれていた商品の事。

結局手に入れる事が出来なかった商品をこの少女が買っているのを天峰は知っていた!!

多少卑怯な気もするが、目的を達成したい天峰にとって有効な条件の積りだ!!

 

(ってかそれ位してくれないとリアルに俺になんの得も無いんだよね……)

 

「カレーシュー?いいよ?あげるよ。これ位は、オヤジ味で良い?」

そう言って自身の下げる袋から、天峰が探し続けていた何がおいしいのか全く分からない商品を取り出した。

 

「ん、ありがと。じゃ、家まで送っていくよ」

カレーシューを受け取って天峰が、ゆっくり歩き出す。

 

「契約成立、ね――ハッ!?まさかこんなフウに少しづつ少しづつ要求を上げて行って、最終的に私に人に言えない様な事をさせる気よね!?」

 

「あーはいはい。そう言うのもういいから……さっさと行こうか?」

2人は並びながら公園から歩き出す。

天峰はもはや無視している!!

 

 

 

「おにーさんこんな時間に何していたの?」

少女が天峰に歩きながら話しかける。

この子かなりのおしゃべりな性格の様だった。

 

「おにーさんじゃない、俺は幻原 天峰。高1の16歳だ」

 

「ふぅーん、私はくも――じゃないかった!!えーと、えーと……夜城……夜城 黒乃汽(やしろ くのき)……だよ、カタカナでクノキでお願い」

そう言って自身の名を話すのだが――

 

「いや、前後の会話で明らかに偽名じゃん……しかも中二感半端ないし……」

再びめんどくささを感じながら天峰が、おかしな部分を指摘する。

 

「な!?別にいいじゃない、偽名だって、中二だって。アレよ?実年齢より一歳上なだけだし?」

 

「中一か、夕日ちゃんと同じか……」

クノキの言葉から相手の、年齢などを冷静の予測し始める!!

 

「ちょ!?止めてよね!!冷静に分析しないで!!って言うか私の個人情報覚えて何する気!?」

クノキが慌て始める!!その顔には必死さが詰まっていた。

その様子に天峰のイタズラ心が刺激され始める!!

 

「別に?ただ隠された情報って知りたくなるだけだし?」

ニヤリと笑いクノキを見つめる。

すると途端にクノキが再びポケットから眼鏡を取り出し掛ける。

 

「なななな!?やっぱりおにーさん変態でしょ!?年下の女の子大好き人間でしょ!?」

 

「子供好き(意味深)であることは否定しないよ?」

良い笑顔でクノキに笑いかける!!

 

「ひぇ……わ、私をどうする気!?攫うの?調教するの?」

天峰から露骨に身を引く!!その眼には明らかに怯えが詰まっている!!

 

「送るんだよ、家の近くまでな」

最早何度も繰り広げられた会話に天峰がほとほとうんざりする。

 

「……そうだった……おにーさんと居ると疲れるわー」

そう言いながら態度を改めてクノキが道をぶらぶら歩きだす。

「それはこっちのセリフ」だと言う言葉を必死で天峰は飲み込んだ。

 

「クノキちゃん、そう言えばさっきなんで眼鏡かけたの?」

会話を誤魔化すように天峰が口を開いた。

クノキはさっきから何度も眼鏡を掛けたり外したりを繰り返している。

ただ単純に目が悪い訳ではない様だった。

 

「わぁお!イキナリ『ちゃん』付け!?おにーさんのそのコミュ力何?リア充?おにーさん、クラスの端でハブられてそうな見た目なのにリア充なの!?」

目をキラキラさせながら、面白そうに天峰を見る。

物珍しそうな声と、さりげない暴言に天峰が僅かに傷つく!!

 

「『その見た目』って……割かし酷い事言うね!?いや、イキナリ名前を呼ぶのは不味かった?基本年下にはちゃん付けてるんだけど?」

 

「おにーさんは年下の子の知り合い多いの?」

 

「まぁ、そこそこ……かな?」

そう言って自身の知り合いを心の中で数える。

藍雨、夕日、まどか、木枯、ここ数か月の中でかなり知り合いの幼女が増えた気がする。

縁が有ればクノキとも、友達に成れるのだろうか?

 

「あ……ここまでで良いよ、ありがと」

3台の自販機が並んでいる角まで来ると、クノキが眼鏡を外す。

小さく言葉をつげ、夜の闇の中へと歩んで行った。

さっきまでの明るさは消え、暗い中に消えていく彼女を天峰は一人で見送った。

 

「クノキちゃん、気を付けてねー!!」

声を掛けるがクノキはもう振り返らなかった。

 

 

 

 

 

「……ただいまー……」

声を殺しながら天峰は自身の家のドアを開く。

時刻はもう1時近く、俗にいう午前様という奴だ。

 

家自体はすべての明かりが消え、鍵だけが開いていた。

おそらく誰かが開けておいてくれたのだろう。

 

「もう、寝ようかな……」

足音に気を付け自身の部屋に向かう。

 

「……ふみゅ?……」

寝転んだ自身のベットから聞きなれない声が聞こえる!!

 

(あれ?……今の声って夕日ちゃんじゃない?)

ここに来てやっと天峰は自身の部屋の電気を付けた。

そこに居たのは案の定夕日!!

天峰のベットの中で体を丸めている!!

 

「夕日ちゃん?……起こすのは不味いか?」

揺り起こそうとするが直前で考えを改める。

深夜1時だこの時間なら普通の中学生は眠っているハズだ。

クノキの様な子の方がまれなのだと今更ながら天峰は理解した。

 

「仕方ない、今日はソファーで寝るか」

リビングに有るソファーに向かおうとして立ち上がった時、天峰の袖が捕まれる!!

 

「おかえり……おにい……ちゃん……」

寝ぼけているのかなぜか『お兄ちゃん』呼びの夕日!!

そのしぐさに天峰の萌えポイントが刺激される!!

 

「ただいま、ごめんね。帰って来るの遅くなったよ」

 

「……待ってた……ずっと……ねぇ……このまま……一緒に……寝よ?」

半分意識の無いまま、夕日が話しかける。

この間も天峰の袖をしっかりつかんで離さない!!

 

「夕日ちゃん?そのベットは貸すから、一人で寝てね?」

 

「ヤダ……一緒に……寝て……待ってたんだから……それくらいは……する……べき……」

そう言って更に天峰に袖を離さない。

天峰も眠いのだ、問答をしている場合ではない。

出すべき答えは一つだった。

 

「わかった、たまには一緒に寝ようか?」

 

「うん……家族なら……これ位する……よね?……お兄ちゃん……」

夕日が寝息をたて始め、その少し後にもう一人の男も同じく寝息をたて始めた。

 

 

 

翌朝

 

「うーん……あれ……?」

何故かヤケに速い時間に夕日は目を覚ました。

慣れない布団だからだろうか?

外はもうすっかり明るくなっているが、まだ5時前だ。

大分、日の高い日が長くなっている気がした。

 

「天峰……!?」

隣で眠る天峰を見て夕日は昨晩の事を思い出す!!

 

「~~~ッ!?」

かなり恥ずかしい事を口走った事を、思い出してしまった!!

自身の記憶に有る言葉で、赤面する夕日!!

 

「なんで……そのまま……寝てるの?……なぜ……断らない……の?」

あまりにマイペースな天峰に今更ながら疑問をぶつける!!

しかし帰ってくるのは寝息のみ!!

しかも!!夕日の入ってる布団は天峰が外側、夕日が壁側に居る為!!

出たくても出られないのだ!!

天峰が起きるまで夕日は、昨日の自身の無計画さを呪い続けた!!

 

 




ヒロイン思いっきり偽名ですね。

本名はそのうち出るでしょう……
誰しも中二チックな自身の名前が有る!!……ハズ……


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ダメだ……抑えきれねー!!

どうもみなさんお久しぶりです。
訳あってしばらく更新がストップしていましたが、私もついに復活です。
これからまたよろしくお願いします。


「いただきます……」

 

「……いただきます……」

天峰と夕日が同時に手を合わせ、朝食に手を付ける。

今日のメニューは目玉焼きとソーセージ。

幻原家ではパン派とご飯派が分かれているため、主食はどちらでも好きな方をとるスタイルだった。

すでに天音は先に手を付けており、口いっぱいに白米を掻き込んでいた。

 

「ズズーッ……モミジか?」

味噌汁を飲みながら、ボソッと天音が天峰の顔を見てつぶやく。

 

「……ああ、そうかもな……」

天音の言葉を気にしながら自身の頬に手を当てる。

天峰本人からは見えはしないがくっきりと赤い紅葉のような跡がついている!!

 

「……自業……自得……」

食パンをちぎりながら夕日が天峰を睨む!!

その顔は不機嫌に歪んでいた。

 

「おい、夕日何かあったのか?ほれ、姉貴である俺が聞いてやるから話せよ」

 

「……私の方が……年上……妹は……ハイネの……ほう」

興味深々と言った感情を覗かせながら天音がそっと夕日に耳打ちする。

それに対して夕日はいつもの様に返した。

 

「なーんだよー!!気になるだろ!?話せよな!!」

早くもしびれを切らした天音が夕日に箸を突きつける!!

大きな言葉を叫んだせいで夕日の顔に米粒が飛んでくる!!

 

「あ”……ワリィ……」

 

「……ごめんで済んだら……警察は……いらない……の……!」

謝る天音に対して夕日が自身のパジャマのポケットに手を突っ込む。

キチ……キチキチ……と何かを動かすような音がする!!

 

「お?やる気か?いいぜ、掛かってこいよ。返り討ちにしてやるぜ!!」

 

「アハッ!……やる気なんだぁ?……バラバラにしちゃおっかなぁ~」

天音が椅子から立ち上がり、好戦的な表情で人差し指を動かし夕日を挑発する。

同じく夕日も椅子から立ち上がり、何処か濁ったような瞳でポケットからカッターナイフを取り出す。

余談だが、このカッターは刃の部分を取り払い代わりにホームセンターで買った同じサイズの銀色の鉄の板を仕込んでいる、模造刀ならぬ模造カッターである。

夕日はこだわりが有るのかカッターの刃にある溝まで再現している。

 

一触即発の空気の中、天峰はトーストの耳を味噌汁に浸し食べていた。

 

「はいはい、二人ともそこまで!!時間はもうないぞ!!」

その言葉で、ハッと気が付きお互いに椅子に座り食事を再開する。

 

「むぐ……で?結局なんでアニキの頬は腫れてんだ?まぁ、あのモミジマークを見れば大体予測は出来るんだがよ」

自身の目玉焼きの黄身を潰し、その中にソースを垂らしながら天音が誰に聞くでもなく尋ねる。

 

「……昨日、天峰と……一緒に寝た……」

箸で目玉焼きに白身を切り分け、醤油を垂らしながら夕日がポツリと話す。

その言葉に天峰がの顔が気まずそうな表情に変わる。

 

「で?」

 

「……朝……寝ぼけて……抱き着いて来た……」

 

「ああん!?そりゃ全体的にアニキが悪いな、何やってんだか」

天音が天峰を馬鹿にしたように話す。

この間にもどんどん天峰の顔は青くなっている。

 

「……問題は……その後……」

 

「後?」

 

「ゆ、夕日ちゃん?そ、そろそろ行かないと時間的にやばいんじゃないかな!?」

焦るように話題をそらしにかかる天峰!!

せかすように壁にかかった時計を指さす。

 

「……む、胸に……手を……伸ばしてきた……」

 

「ハイ、アウトー!!アニキ、学校から帰ったら警察に出頭な」

まるで汚物を見るかのような瞳で天峰に言葉を投げかける天音!!

この時!!すでに夕日対天音の構図ではなく二人掛かりで天峰を糾弾する体制にチェンジしている!!

 

「いや、だってアレは……気づかなかったって言うか……」

 

「私の胸をお腹と間違えたの!!」

天峰の言葉をさえぎって夕日の叫びが朝のリビングにコダマする!!

 

「へ?間違えた?……胸と……腹を?……ああ!!なるほどな!!」

夕日の胸に視線を送った後、自身の両手をたたき合わせ、合点が行ったと言いたげに天音が笑う。

 

「ち、違うんだよ!?俺は胸を撫でる気じゃなかったんだよ!!夕日ちゃんの背中を抱きしめながら撫でようとしただけで……!!」

 

「ぎゃははははは!!あ、アニキ背中と胸、間違えてら!!あー!!おっかし!!」

大きな声で天音が二人を指さし笑い出す!!

 

「……背中?……お腹……じゃなくて……背中と……間違えたの……?」

天峰がしまった。と思った時はもう遅かった!!

夕日がさっき天音に向けたの以上の視線を天峰に投げかける。

暗く暗く濁った左目の視線と、作り物であるが故の無機質な右目の眼力の違いが非常にアンバランスだった。

 

「しょ、しょうがないんじゃね?だってよ。夕日お前、体のサイズだけなら小学生で十分通じるし……ぷぷ、ダメだ……抑えきれねー!!あはははっははあは!!む、胸と背中!!胸と背中ぁ!!あははっはははははあは!!」

慌てる天峰、睨む夕日、爆笑する天音。

三者三様の姿を見せるなかで……

 

「……あるもん!!……最近……少し大きく成ったもん!!」

涙を浮かべそうな顔で夕日が、自身のパジャマの裾をつかみめくりあげ様とする!!

 

「夕日ちゃん!?見せなくていいから!!しまってしまって!!」

天峰が夕日の裾をつかみ下に下げようとする!!

正直言うと見たいのだが、さすがに今はその時ではない!!

 

「……天峰……放して……手を……どけて!!」

 

「絶対にNO!!」

天峰がそう叫ぶと同時に背後の扉が勢いよく開かれる!!

 

「うるせーぞお前らぁ!!飯位静かに食えねーのか!!」

扉を開け、幻原家の母親。幻原 天唯(アユ)が入室する。

低血圧で朝に弱い彼女は、毎朝旦那に食事を作ってもらっている。

同時にすごくこの時間態は不機嫌なのだ。

 

「天峰ぇ!!お前!!朝から何やってんだぁ!?」

すさまじい剣幕で天峰の方に向かってくる母親!!

一瞬混乱するが……

改めて自身の状況を整理すると……

①手をどけてと懇願する夕日

②そこに手を伸ばし放さない天峰

 

(あれ?コレ……俺が夕日ちゃん脱がそうとしている様に見えなくね!?)

その結論を決定付けるように天峰の頬に再びビンタが飛んでくる!!

 

 

 

 

 

「ぐす……成長……してる……もん……」

 

「あー、分かった、分かった。アニキの悪気があった訳じゃねーから気にすんな」

わずかに泣く夕日に対して天音が励ますように声をかける。

たまに噴き出すので説得力は皆無なのだが……

 

「しっかし、ドウすっかなー」

 

「……何の……話?」

天音の言葉に夕日が疑問を持ち問いかける。

 

「いや、だってよ?もうじき夏休みだぜ?プールとか海とか行きたくね?」

 

「……あんまり」

 

「なんでだよ!?夏と言ったら海だろ!?プールだろ!?」

 

「……傷……見られたくない……」

その言葉に天音がハッとする。

夕日の体には無数の虐待痕が刻まれている。

その傷は癒えてもその傷跡はいまだに夕日を縛り続けているのだ。

 

「おい、夕日。その傷はお前のだよ、気にする気持ちもわかる……

だがよ、今年の夏は一回しかねーんだぜ!?なら楽しめよ、そんなの気にすんなよ!!ここで遠慮しちまったらきっと一生そうだぜ?もし、もし誰かがお前をじろじろ見て笑うなら……そんな奴俺がぶっ飛ばしてやる!!だから、だから諦めんなよ!!」

 

「……何それ……むちゃくちゃ……」

 

「むちゃくちゃでいーんだよ!!お前は考えすぎなんだよ!!とにかく前を見ようぜ、歩いていけばゼッテーどっかにはたどり着けるからよ!!」

そういうと手早く自身の弁当を持ち、玄関から走り出した。

 

「……アリガト……ハイネ……」

少しだけ、心が軽くなった気がした夕日も同じく玄関から学校へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「よー天峰!!……なんだその顔?ムンクか?」

 

「よう、ヤケ……ちょっとな……」

教室にてシャー芯を入れていた天峰の顔を見て八家が言葉を漏らす。

その言葉通り天峰の顔には両頬に赤い手形が付き、有名なムンクの叫びをイメージさせるデザインに変わっていた。

 

「なぁ天峰!!今年の夏はプールに行こうぜ!!水着の美女ナンパしようぜ!!」

 

「いいな!!親御さんとはぐれて不安げな幼女と一緒に母親探しとかしたいね!!」

微妙にかみ合わない変態とロリコンの会話!!

しかしそんな二人に試練が迫る!!

 

「はぁい?二人とも楽しそうね?それよりもうじきテスト期間なんだけど?」

二人の肩を抱くように現れた少女は卯月 茉莉。

成績優秀者が輝く瞬間!!それはテスト期間!!

 

「今年の補習は夏休み返上だって」

卯月の言葉に二人が戦慄する!!

水着美女のため!!迷える水着幼女のため!!負けられない戦いが……近づいていた!!




しばらくぶりに書いたせいか……いまいち感覚がつかめない……
うーん……ブランクですかね?

ちなみに今回で天峰の母親の本名公開。
特に意味はないのですが……
ちなみに天唯でアユと読ませます。

由来は「天上天下唯我独尊」
天峰から見て祖父の「天下泰平」(たいへい)が名づけ親。
兄に天独(はじめ)と弟に天尊(たける)がいる。
曾祖父の名は天下無双(むそう)

「天」を名前に入れたらこうなった……
きっと天峰の名前を付けるとき、両親すごい喧嘩しただろうなー


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そんな無駄な知識ばかり覚えてきますの!?

レッツ投稿!!
いつの間にか書き続けて、一年超えてました。
大体一年で、170話。
二日に一回の割合です……飽き症な自分がよくこんなに続いたなーと少し感動。
読者の皆様、どうかこれからもよろしくお願いします。


カリカリ……

 トントン……

  カンカン……

   シュシュ……

    シャシャ……

規則的な音が図書館の中に響く。

7月も半ばとなり、テスト週間まで既に一週間を過ぎて居る。

一部のまじめな先生は放課後の時間、空き教室を使用し勉強をしたい生徒の為の私塾の様な物を開いている。

今日はその私塾に行った生徒が多いのか、図書館も(テスト期間中としては)空いていた。

 

そんな中な顔でノートにシャープペンを走らせる少女が一人……

この学園の有名人、卯月 茉莉その人だった。

 

カリカリ……カリカリ……

不機嫌な顔で、自身の怒りをぶつける様にノートにシャープペンを走らせ続ける!!

ピシッ!パチィ!!

卯月の力のせいか、へし折れたシャー芯が辺りに飛び散る!!

カチカチッ!!カチカチッ!!

 

「チッ!」

無くなったシャー芯を出そうと上の部分をノックするがどうやら芯が切れた様だ。

舌打ちをしながら自身の筆箱を探すがどれもこれも芯が無くなっていた。

 

「あ……あのう……」

横に座っていた男子生徒がおずおずといった表情で、卯月に話しかけてくる。

 

「何かしら?」

ギロリと不機嫌さをまったく隠さずに、その生徒に向かって向き直る。

生徒は一瞬「ヒィ」と小さく声を漏らした。

 

「し、芯が無いなら僕の使ってください!!」

まるでラブレターを渡すかのような動作で、シャー芯を卯月に差し出す男子生徒。

周囲で小さく「やりやがった!!」と聞こえたのは幻聴ではないだろう。

 

「え?」

 

「一年の卯月さんですよね?ノートすごく丁寧に執ってたから……書けないと困るでしょ?」

 

だから――と言葉を続ける前に卯月は言葉を発していた。

 

「ありがとう、けどいいわ。もう帰るもの、あとは家でやるから」

にこりと笑顔を作るとその場で荷物をまとめ図書室を出て行った。

図書館から去る時後ろから「抜けがけしやがって!!」だの男子生徒の悲鳴が聞こえたが卯月はまったく気が付かなかった。

 

 

 

帰りのバス停に向かう前に卯月は校舎を見上げた。

2年の教室の窓際に天峰が座っていた。

此方にまったく気が付かずに、楽しそうに勉強机に向かっていた。

 

「あのロリコン野郎!!なんなのよ!?私が勉強誘ったのに何で蹴ってるのよ!!あーあ、確実に青春の甘いメモリー逃したわね!!あーあ!!私知らない!!

……馬鹿……

でも、明日こそは……!!」

こっそりとカバンの中のノートの事を思う。

 

(何よ……あんたが泣きついてくると思ったから……ノート作ってあげたのに……バッカじゃないの!!……あんな馬鹿留年しちゃえばいいのよ!!)

やり切れない気持ちで、卯月はバス停に向かっていった。

 

 

 

少し前……

 

「はぁい、天峰!!いるかしら?この卯月様があなたに勉強を教えに来てやったわよ!!」

勢いよく天峰のクラスのドアが開かれる。

そして現れる美少女に男子が、ざわつく!!

一部の男子に至ってはその場で膝をつき、拝み始める者もいた。

 

「あら……ねぇ、天峰何処にいるか知らない?ヤケ君」

目の前の拝む男子、通称ヤケが顔を上げる。

 

「確か2年の教室に行きましたよ?勉強教えてもらうって」

 

「2年の先輩に?」

卯月は同じ言葉を返した。

 

 

 

「――という割合にこの場合は、過去形ではなく別の意味になるので注意が必要ですわ」

2年の教室天峰の前に、小柄な少女が座っている。

気の強そうな青い瞳に、揺れる金色の髪、身長は立ってみれば天峰の胸下あたりまでしかない高校生とは思えない姿。

それもそのはず、彼女は飛び級し高校の地位を与えられているのだから。

彼女の名は、まどか・ディオール・トレーディア。

イギリス屈指の宝石商の娘である。

 

「すげー、分かりやすいよ、まどかちゃん!!助かるよ!!」

天峰が憧れに満ちた視線を送ると、その途端まどかは上機嫌になる。

 

「フフン、まぁ?大学入学余裕レベルの私にとっては……特に英語など日常で使う常識でしかないのですけど?控えめに言って「余裕」というやつですわね。

あと、庶民。私は歴としたアナタの先輩ですわ、きちんと態度を示しなさい!!」

 

「わかりましたー、トレーディア()()

まどかの意図を読み天峰が先輩の部分を強調して、あえて呼びかける。

 

「そうそう、それでいいですわ!!」

口調は厳しいが、まどかの口元は緩み切っている!!

感想したのか、わずかに震えているようにも見える。

 

「それにしても、教えるの上手いね。誰かに勉強教えた事あるの?」

天峰の言葉に、まどかがぴたりと動きを止める。

さっきまでの明るい顔がどんどん曇っていく!!

 

「え、えっと……何かまずい事聞いちゃった?」

心配した天峰が、まどかに声をかける、さっきまでの態度が嘘のように落ち込んでいるように見える。

 

「ああ、ごめんなさい……少し苦い記憶が……」

そう言うとまどかは頭痛をこらえる様に頭を押さえる。

 

「苦い記憶?」

 

「まぁ、アナタになら話してもいいですわ……実は出涸らしに勉強を教えた時……」

 

 

 

 

 

大きな屋敷の一室で、二人の少女が隣り合って教科書を覗き込んでいた。

まどかが自身の友人の木枯に勉強を教えているのだ。

 

「いいですか?疑問文に限らず英語や、言葉というのは『動詞』が重要になりますわ。運ぶ、働く、稼ぐ、儲けるなどの何かの行動を表す単語です、しかし今回の様な文はBe

動詞を使っています、ここまでは理解できます?」

教科書から目を離し、隣に座る木枯に視線を向ける。

 

「う~ん……Bのつく単語がビー動詞なの?」

まったく訳がわからないといった様子で教科書の文字をつつく。

 

「違いますわ!!be動詞の意味事態理解していませんの!?」

あまりの会話のかみ合わなさに、まどかの語気が荒くなっていく!!

 

「ん?Bの意味は知ってるよー、えっとねー、好きな子同士がお互いの体をさわ――」

 

「そこまでですわ!!ア・ナ・タ!!いったい何処でそんな無駄な知識ばかり覚えてきますの!?」

椅子から立ち上がり木枯を指さし、まどかが大声を出す!!

それに対してあくまでのんびりした、態度を崩さずに木枯が顎に手を出し思い出すようなしぐさをする。

 

「えーっとねー……たしか、公園で知らないおじさんが教えてくれたー、物知りなおじさんで、飴とかくれたりひざの上に乗せてくれたり、お腹とか撫でてくれたりしたよー」

 

「佐々木ー!!今すぐ来なさい!!事案発生ですわ!!付近一帯の公園の不審者情報を洗いなさい!!付近の監視カメラをすべて買収し何としてでもその男をひっとらえなさい!!特に飴を渡してくる奴には容赦してはなりませんわ!!」

 

「了解しました!!お嬢様!!すぐに愚か者に生まれてきたことを後悔させてご覧に入れましょう!!」

木枯の言葉にどんどん青くなるまどか!!

ついに使用人の佐々木を呼びつけ、指示を出す!!

*3時間 ぼっこぼこにされた男が秘密裏にまどかの屋敷に運ばれたそうな……

 

 

 

「うわ……木枯ちゃん……どっかやっぱり抜けてるんだよな……」

 

「ええ、ワタシあの子が不安でしょうがないんですの……」

薄暗くなっていく教室で、二人はしばらく話していた。

 

 

 

 

 

学生諸君、または学生だった読者の方々にお聞きしたい。

ズバリ『テスト週間に起こりがちな事』についてである。

①好きな漫画の最新刊が売っている、これはよくあるのではないか?

天峰がふと学校の帰りに本屋に寄ると……

 

「おお!?無職王テラ ニィトの最新刊が売ってる!!買いだな」

 

②家に帰るとなんだが自分の部屋が汚れている気がして掃除してしまう。

勉強気分で帰ってきた天峰、いざ始めようとするとゴミなどが気になり始めた。

 

「あれー?俺の部屋ってこんなに汚れてたかな?資源回収も近いしいらないプリント纏めるか……」

 

③他ごとをしていて、イザ勉強しようとすると夕飯になる。

掃除を済ませた天峰、フレッシュな気分で机の上に勉強道具を取り出した!!

 

コンコン「……天峰……夕飯」

控えめなノックの音と共に天峰の義妹、夕日がドアから顔を出す。

 

「うん、わかったよ。今行く」

 

④なんかテレビでスゲー面白い番組がやってる。

 

『空前絶後のあるあるネタ聞かせたろか!!?』

 

『空前絶後なのに、あるあるって……矛盾してへんか!?』

 

「くっふふふ、あははは!!」

お笑い芸人のよくわからないネタで笑い転げる天峰。

その様子はすっかりテストの事を忘れてしまっている!!

 

 

 

「さて、やるかな……」

番組が終わり、お風呂に入り、ようやく勉強を始める天峰。

ノートなどに今日まどかから教えてもらった事などを復習していく。

 

「……んと……よし……正解。俺って意外に賢いのかもな!」

時に答えを見ながら、にやにや笑いながらワークを進めていく。

もちろんその心中には今日のまどかとの思い出も忘れない!!

その時控えめなノックが部屋に響いた。

 

「……天峰……勉強を……」

 

「教えてほしいのかい?」

ドアの隙間から顔を覗かせる夕日を、天峰は自身の部屋に招き入れた。

 

「……忙しく……ない?」

 

「大丈夫、中学一年位ならよゆー、よゆー」

そういうと夕日を自身の使っているちゃぶ台の横に座らせ、夕日の持ってきた教科書を見る。

 

「中学校もテスト週間?」

 

「……うん……そう……」

言葉を交わしながら、天峰は夕日に勉強を教えていく。

天峰のすぐ近くに、夕日が座っている。

小柄で小さな体躯の少女……

成長途中のその体は天峰の好みそのものだった。

 

(はぁ……なんだかんだ言ってもかわいいんだよな……義理の妹……ね。

2次元の存在だと思った子が、いま目の前にいるんだよな)

しみじみしながら天峰は、自分のすぐそばにいる夕日の存在を感じていた。

 

「……天峰……」

 

「何?夕日ちゃん」

 

「夏休み……たくさん……遊ぼう?」

 

「ああ、もちろんさ!!俺と夕日ちゃんが家族になってから最初の長期休暇だもんね!!」

それを聞くと夕日は何処か照れくさそうに笑った。

 

 

 

 

 

「あれ……消しゴムが……」

夕日に勉強を教え部屋に送り返した天峰。

早速自分の勉強を再開させるが、消しゴムを落とした拍子に何処かに無くしてしまったようだった。

 

「あれー?もともと小さいしな……買いに行くか」

明日の授業に、支障が出ると判断した天峰は近くのコンビニへと再び足を向けることにした。

 

「ラッシャーセー!!」

 

いつもの様に、店内を歩き目的のKOMONO消しゴムを籠に入れた後、適当にジュースを見繕う。

 

「ん?ヘルヘイム果汁89%?中途半端な……しかもなんの果汁なんだろ?」

思わず気になった天峰はそのジュースに手を伸ばす。

目的が同じなのか、横から取ろうとした人と手が触れあう。

 

「あ、すいませ――」

 

「うえ”、変態おにーさん……」

 

触れ合った相手は天峰の知る相手。

なぜか偽名を名乗る少女 クノキだった。

 

テストあるある⑥

こんな時に限って厄介ごとが起きる。




にしても……作中の中での時間経過遅すぎ……
コナン君空間か!?


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なんで殴ったの!?しかも鼻!!

久々の投稿に成ります。
なかなか、書きたいようにかけなくて……
大筋は出来ているんですけど……ね?


「うえ……」

「あー……」

夜のコンビニで少女と少年が、一本のジュースを手にしようとしてお互いの手をぶつけてしまう。

まるで恋愛小説の始まりの様な展開だが、お互いが苦々しい顔をしているためそんな甘い展開でないことは容易に想像できる。

 

「やぁ、クノキちゃん……」

 

「クノ……キ?ああ!確かそう名乗ったっけ、すっかり忘れてた……あちゃー」

天峰のぎこちない挨拶にクノキが、自身の頭の後ろを書きながら解りやすい作り笑顔を作る。

言葉の内容からやはり『クノキ』というのは偽名であるらしい。

天峰にとってそんなことは関係ないが……

 

「こんな時間にまた会ったね、夜のコンビニにはよく来るのかい?」

前会ったコンビニとは別の場所だったが……

ぎこちない空気を持たせるために、天峰がクノキに話題を振る。

 

「え、え、えっと」

天峰の言葉に、クノキが何かに気が付いたように焦りはじめ大慌てで自身の服や持ってきていたカバンをあさり始める。

 

「あった!」

その言葉と共に眼鏡を取り出しかける。

それでようやくクノキは冷静を取り戻した様だった。

 

「フフン、待たせたね。おにーさん、こんな深夜のコンビニまで私を追ってくるなんて……もしかして、私に惚れたかなぁ?」

さっきまでの慌てた態度は何処かに消え失せ、不敵な笑みを浮かべ自信ありげに眼鏡のツルをクイッと指で上げる。

 

「さて、帰るか」

天峰全身全力で無視!!買おうとしていたドリンクを諦めすたすたと、消しゴムだけもってレジの方へと歩き始めた。

 

「おにーさん!?せっかく私が一世一代の大爆笑ジョークを言ってあげたんだよ!?もう少し反応すべきなんじゃないカナ!?」

 

「うーん……25点、全米が鼻で笑うレベル。ん、じゃーねー」

必死に追いすがる天峰が辛口の採点をして、すたすたと再び歩みを再開させる。

テスト週間が近い天峰にとって、面倒事はごめんなのだ!!

 

「待ってよ、ってか待ちなさいよ!!ほら、『また会えてカンドー!!』とか、『うれぴー!!』的なリアクションは!?無いの!?無いの!?」

 

 

 

「コレください、レシートとレジ袋いりません」

 

「128円です」

 

「ハイ、130円。おつりは募金しといてください」

 

「あざーす!!」

天峰ガン無視!!圧倒的ガン無視!!

天峰のスルー力は今、53万位ある!!……気がする。

 

「おにーさん、おにーさん!!」

 

「あーもう!!なんだよ!!」

繰り返されるクノキの声に仕方なく振り返る天峰!!

幼女好きの天峰出なかったら、決して振り返らなかったであろう!!

 

「30円貸してください!!」

その言葉に本日何度目かの頭痛を天峰は感じた。

 

 

 

 

 

「いやー、焦ったよ。まさか30円足りないなんてねー」

コンビニの駐車場で、クノキが近くに備え付けられたベンチに腰を下ろしジュースに口を付ける。

 

「はあ、前にも言ったけど……あんまり遅い時間に出歩くのは――」

 

「うえー!!マッズ!!なにこれ!?史上まれに見る?味わう?不味さ!!コレ160円はアカン!!……どうしたのおにーさん?」

何とも言えない表情で、天峰がクノキを見ていたのに気が付く。

 

「いや……なんか会って10分もしてないのにすごい疲れた……帰って寝たい……」

 

「寝たいって……私と!?」

 

「違う!!」

げっそりしながら、天峰がそういって否定する。

家に帰ってから勉強して寝るつもりだったが、帰り次第寝ることに成りそうだ。

クノキからは天峰を疲れさせる特有の、電波か何が出ているのだろうか?

 

「さっきから変にテンション高くない?」

 

「いやー?家ではこんな感じよ?」

ご家族はさぞ大変だろうと、思いながら天峰がひそかに同情する。

 

「まぁまぁ、あんまりいやそうな顔しないでよー。ほら、再会を祝って一杯やらない?」

そういいながらクノキが、ペットボトルにを天峰に差し出す。

たぷんと乳白色の液体が揺れる。

 

「不味いって言ってなかったっけ?」

 

「ギクッ!?……い、いやー?コレ、チョーおいしよ?うんうん」

 

「ビックリするほど棒読みだな!!おい!!」

天峰の言葉を無視して、クノキが天峰にジュースを投げ渡した。

 

「はぁ、さて、クノキちゃん?夜遊びも良いけど……大概にしなよ?この前補導されかかったばかりじゃない?」

 

「いやだなぁ?だからこっちの方まで来たん――」

 

「あー、はいはい。言っておくけど心配してもらえる内が辞め時だよ?

ってかクノキちゃんだって、テスト近いんじゃない?俺の妹も最近がんばってるけど?」

あきれたと言いたげな視線をクノキに投げかける。

考えてみれば、クノキの部分は謎が多い、現在はテスト週間だが学校によって多少前後するだろうが、何度もこんな夜に中学生の子と出会うだろうか?

天峰は今更だが疑問に持ち始めた。

 

「おっと、今更?テストとか……あんまり気にしないのよ?数字で縛られたくないったの?」

 

「馬鹿!!今はその数字が大切な時なんだよ!いいかい?説教臭いけど、やらなくちゃいけない事ってのは誰にでもあるんだよ!!

やりたい事とやらなくちゃいけない事、そのバランスをとって生きて行くの!!わかった?」

 

「えー……詰まんないなー」

その言葉通り、クノキが唇を尖らせる。

 

「クノキちゃん?いいかい?もう少し自分を大切にしなくちゃダメ!!最後の最後に自分の味方になるのはきっと自分自身だよ?」

天峰の言葉に次ぎこそクノキが黙ってしまった。

気まずい沈黙が二人の中に流れる。

 

「おにーさん……」

 

「さて、悪いけど。俺はもう帰るよ?もう少し勉強したいからさ」

そういって天峰は思い沈黙に耐え兼ねて自身の愛自転車に乗っり、夜の闇に消えていった。

一人ポツンとクノキだけがその場に残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……天峰……ここが解らない……」

帰って来た天峰を待っていたのは夕日だった。

天峰が出掛けてから、待っていた様で座布団に座って自身の教科書を広げていた。

 

「ずっと待ってたの?ごめんね、夕日ちゃん。ちょっと見せてね」

その言葉と共に天峰が夕日から教科書を受け取り、ざっとその場で目を通す。

何も難しくない、簡単な問題の応用だった。

 

(ん?もしかして……)

しかしその問題の部分に天峰は小さな違和感を感じた。

 

「夕日ちゃん、この問題出来る?」

 

「……すこし待って……ん?」

少し困った顔をしながら夕日が問題を解き始める。

 

「……できた」

夕日の出した問題の答えを見て天峰がわずかに顔を曇らせる。

 

「うーん……残念だけど不正解だね、夕日ちゃんあんまり勉強得意じゃないね?」

 

「……そんな事……ない……部屋で……やってくる……」

何かを隠すように夕日がその場から立ち上がろうとする。

しかし

 

「はぁい、逃がしません。こっちにいらっしゃい」

天峰が夕日の腕を掴み自身の方へと引っ張った。

中学の少女と高校の男子の身体能力差から、夕日は天峰に引っ張られるまま天峰の膝の上に落ちる。

胡坐をしている天峰の膝の上に、夕日が座る形になる。

 

「……なに……するの……放して……」

暴れる様にして、夕日が体をひねる。

しかし天峰は夕日を放しはしない。

 

「夕日ちゃん、別にできない事は恥ずかしくないんだよ?わからなかったりしたら俺が教えてあげるから」

諭すように夕日の頭を撫でる天峰。

その言葉と態度に夕日が大人しく成っていく。

 

「……本当に?」

 

「勿論本当さ、解るまで……って言いたいけど、あんまり遅くなるのは良くない、かな?夕日ちゃん明日学校が終わったら駅前の図書館に行こうか、あそこあんまり人がいなくて勉強するにはいい場所なんだよ」

問題を片手に内容を見ながら天峰がそう話す。

夕日は中学に入学したばかりの頃は、訳あって病院にいた。

当然その分、分かりやすく言うと基礎の部分が出来ていないのだ。

 

「……迷惑……じゃない?」

 

「大丈夫!おにーさんに任せなさい」

夕日を安心させる様に、天峰は夕日を撫で続けた。

 

「夕日ちゃんはかわいいなー、よしよ……痛ぇ!?なんで殴ったの!?しかも鼻!!」

 

「触り方が……やらしいから……」

 

 

 

 

 

暗い夜道で、クノキがポケットから携帯電話を取り出す。

無言で画面をみて、不慣れな様子でボタンをプッシュしていく。

 

「もしもーし、どうしたの?こんな夜中に?しかも珍しい相手だからびっくりしちゃったよ」

ミステリアスで、こちらの事などすべて見通していると言いたげな誘う様な怪しい声が電話の向こう側から聞こえてきた。

クノキは正直言ってあまりこの電話の相手が得意ではなかった。

いや、相手の性格上苦手とする人が多いのではないだろうか?

それでも、それでも彼女が有能であるが故に頼らなければ成らないのが癪に障るところだ。

 

「久しぶり……読河さん……」

 

「もうー、苗字呼びなんてよそよそしい事、止めてよ。

前みたいに『夜宵ちゃん』でいいからさ」

電話の向こうで相手が笑う様に漏れる吐息が聞こえる。

毎度、彼女の態度は読み切れない。

信用していいのか?何か裏があるのではと疑ってしまう。

 

「え、ええ。ごめん、実はちょっと調べてほしい人がいて……」

 

「おおっと?今日は本当に珍しいね、私の情報網に御用?」

誇らしげに夜宵が話す。

その口調からは『何か楽しい事が始まった』という考えが見え隠れしている。

 

自身の頼みを言う前に、クノキが一回深呼吸する。

それだけ、これからの事は彼女にとっても、気の重い事なのだ。

 

「タカミネって名前の人を調べて欲しいの」

クノキの言葉に、電話の向こうの夜宵が息を飲むのが聞こえた。

にやにやした雰囲気が消え、一瞬にして静寂が訪れる。

 

「タカミネ……それは『幻原 天峰』の事?」

 

「知ってるんだ……夜宵ちゃん……」

お互い絞り出すように会話を続ける。

クノキにとってなぜ、夜宵がこんなにも押し黙るかは理解できないが相手を知っているという事は、クノキにとって朗報だった。

 

「うん、ちょっと昔ね……具体的に知りたい事は何?」

 

「あの人の事……どんな事でもいいから教えてほしいの」

 

「へぇ、例の癖だね……いいよ、くも――じゃなかった、今はクノキだったね。

うん、わかった。私の知ってる事なら全部教えるから、だから、さ――」

 

「ごめん、もう切るね……」

夜宵の言葉を無理やり区切る様に、クノキが言葉を漏らす。

直ぐ後に電話の通話状態は終わった、あっさりと二人をつなぐ会話は途切れてしまった。

 

 

 

「そうだ……私はクノキ……もう、玖杜(くもり)じゃない……そうだよね……帰ってゲームしよう……」

ふらふらとした足取りで、クノキは自宅への道を歩き出した。

 

 

 

「はぁ、クモちゃん……まさか、あの子まで『幻原 天峰』か……

何なのかな?この『天峰』の集客率……にしても、『天峰』かー。

あーあ、勝手な事したらおねーちゃん怒るかな?

まぁ、いっか!面白そうだし!!」

さっきまでの悩んだ様子は何処へやら。

夜宵は面白い事が始まった!!と言いたげな顔をして一人その場で小躍りを始めた。

彼女の心中は誰も知らない、ひょっとしたら彼女自身も知らないこかもしれない……




まさかの人員、読河 夜宵!!
そしてクノキの本名が判明!!

さて、次回はどうなるのか!?


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月に3回って微妙じゃね?

さて、今部もそろそろ物語が大きく動き出す時が!!
と言いたいのですが、もう少しかかりそうです。


「えーっと……忘れ物は無いよな?」

学校が終わり、机の中の教科書等をカバンにしまう天峰。

今日は学校の終わりに、駅の図書館で夕日と勉強をする予定である。

天峰は高校、夕日は中学。

その事から解るだろうが、夕日の方がが先に学校を終え天峰を待っている事になる。

 

「さて、夕日ちゃんの所に行こうかな!!」

忘れ物が無い事を確認した天峰が、勢いよく立ち上がる。

 

「ん?どうした天峰、ヤケに張り切ってるじゃないか?」

偶然通りかかった八家が興味深そうに話しかけた。

 

「ああ、今日夕日ちゃんと――」

 

「夕日ちゃんと図書館デートだと!?しかも勉強プレイか!?

 

『天峰……此処が……解らない……』

『ここでは先生と呼びなさい!解らない子にはオシオキだな?』二ヤァ

『先生……だめぇ……』

 

とかやるんだるぉぉぉぉぉお?」

八家がその場で叫ぶ!!

*ちなみに天峰はまだ途中までしか行ってません。

 

「ヤケ!?どうしたおまえ?まだ何も言ってないぞ!?未来予知か?G4システムとか積んでるのか!?」

 

「はぁ……はぁ……すまない天峰。

最近ゆっくり寝てないから……少し精神が不安定に成っててな……」

肩ではぁはぁと息をしながら八家がそうつぶやく。

 

「寝てない?テスト勉強か……お互い大変だな」

 

「いや?テスト勉強じゃなくて、提督とプロデューサーの仕事が――」

*どちらも2次元の出来事です。

 

「勉強してないんかい!!」

八家の言葉に天峰の魂の叫びが響いた!!

 

「いやー、ついイベントに夢中に成っちゃって……」

 

「どんなイベントだよ?」

八家の言葉に興味が沸いた天峰が尋ねた。

夕日にはもうすこし待って貰う事になるだろう。

 

「えーと……あれ?どんなイベントだっけ?」

 

「ヤケェ……お前、何だかんだいって全部ダメにしてないか?」

 

「かもしれん……今すぐ……今すぐ帰って提督とプロデューサーの仕事してくる!!」

天峰の言葉に八家が教室から走り出す!!

選んだのは勉強ではなく遊び!!この男!!人生をダメにするタイプ!!

 

「うおおおおおお!!待っていてくれぇえええええ!!今すぐ俺が会いにいくよおおおおおおおおおお!!!」

 

「アイツ何処に向かってるんだろな?」

誰に話すまでも無く、天峰が一人つぶやいた。

教室の窓から外を見ると、ハイスピードで自転車が走り去っていくのが見えた。

天峰は無意識に敬礼の体制を取っていた。

それは死にゆく友への手向けか、それとも潔さに対する敬意か……

 

 

 

「……天峰……何を……してる……の?」

 

「あ!ゆーかちゃーん!!」

おかしなものを見る様な目で夕日が、八家の走り去った廊下の方を指刺す。

天峰は八家の事など忘れ、ワンオクターブ高い声で応える。

おそらく天峰の人生を違う意味でダメにするタイプ!!

 

「……さっきの……って……」

 

「ああ、気にしないでよ。この季節、現実逃避でああなる人がいるんだよ。

迎えに来てくれたんだね、待たせてごめんね?

さぁ、図書館まで行こうか」

 

教室全体を包む『なんだアレ?』の空気を無視して二人は歩き出した。

 

 

 

 

 

駅内図書館。

天峰たちの住む町の駅は、複合施設に成っている。

程よく田舎過ぎず都会過ぎない町なのだが、電車を使えば1時間もしない内に都会まで足を進めることが出来る。

しかしこれでは、都会の植民地でしかない。

と考えた先代市長が、駅と駅周辺の施設の充実を図ったのだ。

 

結果、駅周辺に様々な施設が乱立した訳の解らない町が完成した。

それがいい意味を持てば良いのだが、種類を多くしたことで器用貧乏感が増え『痒い所に手が届かない駅前』が完成した、ちなみに近くにあった商店街が打撃を受け。

結果的に『商店街が寂れ、中途半端な施設が出来た』という最悪のパターンと化している。

 

 

 

駅の内部にある図書館で、天峰と夕日が座っている。

夕日は教科書を広げ今日の宿題をしている。

解らなければ天峰に聞き、偶に電車の出入りで館全体が揺れる以外は問題なく勉強をしていた。

 

「天峰……出来た……」

 

「ん?おお、よくできたね。なかなかの発展問題だったのに……」

夕日の言葉に、天峰が自身の見ていた教科書から視線を上げ内容を確認する。

天峰が基本を教えた所、なかなかに夕日の飲み込みは早く次々と問題を解いていく。

 

「少し休憩しよ――」

 

「はぁい!おにーさん!!奇遇だねー」

夕日と共に休もうとした時、天峰の後ろから衝撃を受ける。

何事かと思い振り返ると……

 

「クノキちゃん……居たの?」

夜に会っていた、謎の少女クノキが立っていた。

何時もは途中でかける眼鏡を今日は最初からかけていた。

 

「そりゃー、もうね?私こう見えて文学少女だしー?図書館で知的な時間とか過ごしちゃう訳よ?」

そう言って手に持つ本をバシバシと叩く。

文学少女にあるまじき行為である!!

 

「……天峰……この子……誰?」

夕日がジッとクノキを見据える。

何時もの冷ややかな視線だ。

 

「うっ……はじめまして。えーっと……小鳥遊(たかなし) 黒乃汽(くのき)でーす!!シクヨロ~」

一瞬夕日の瞳にたじろぐが、すぐに何時もの調子を取り戻しへらへらと笑い出す。

 

「あ、クノキちゃん前と苗字変わってる。前は夜城だったのに……」

前回と違うプルフィールに天峰が突っ込む。

 

「あ……!

ま、まあ。良くない?クノキの部分以外は気分次第だしぃ?

あ、あははははははは!!」

天峰の突っ込みにごまかす様に笑い出す。

 

「……ふうん……」

夕日がジッとクノキを見つめる。

 

「ど、どうしたのカナ!?私に惚れちゃった?ごめんねー?私の心にはもう決めた人が――」

 

「……無理……を……しない方が……いい」

くねくねと体をくねらすクノキを、夕日が冷ややかな視線で見つめる。

それを聞いて、気まずそうにクノキがピタリと体を止める。

 

「それにしても、偶然だね?クノキちゃんは良くこの図書館利用するの?」

空気に耐え兼ね天峰が助け舟を出す。

 

「勿論よ!必ず月3は通ってるわ!!」

 

「月に3回って微妙じゃね?」

 

「……ラノべのコーナー……行くだけだし……」

天峰の言葉に絞り出す様にクノキが答える。

手に持つ、本が僅かに揺れる。

 

「クノキちゃんってどんなラノべ読むの?少し見せ――うっ!?」

天峰がクノキの持つ本の表紙を見て固まる。

本の表紙には半裸の少年たちが、気だるげに抱き合う姿が描かれていた。

 

「お、おう……」

予想外の内容(というより図書館にこんな本が有るのを予測する方が不可能)に天峰がどうしょうもない気分で声を漏らした。

 

「何よ!?いけない訳!?恋愛はもっと自由であるべきなのよ!!むしろこれは性別を超えた愛が――」

 

「……展開が……急……突発的すぎる……」

机に置いてあったクノキの持っていた他の本を見て、夕日がダメ出しする。

 

「「何、冷静に分析してるの!?」」

クノキと天峰の突っ込みが同時に重なった!!

*図書館ではお静かに。

 

「ま、まぁ私の本は置いておいて……お二人さんは、どういう関係?恋人?それとも体だけの関係?それともスワッピング後のカップル?

あ!わかった!!

 

『天峰……此処が……解らない……』

『ここでは先生と呼びなさい!解らない子にはオシオキだな?』二ヤァ

『先生……だめぇ……』

 

的なイメージプレイをしに来たバカップルでしょ!?」

何処かでつい最近聞いたようなシチュエーションをクノキが口走る!!

 

「クノキちゃん!?そんな不健全な関係じゃないからね!?」

 

「恋人じゃない」

 

「う、うん……恋人じゃないよ……兄妹だよ」

夕日の即答に天峰がダメージを受けながら答える。

 

(一応、少しの間だけ付き合っていたのにな……)

 

「へぇ?兄妹?遺伝子仕事しないね?」

天峰の言葉にクノキが目をぱちくりする。

その指摘の今度は夕日が少し気まずそうにする。

 

「実は血のつながらない兄妹なんだよ。

いろいろあって、夕日ちゃんは今俺の家に住んでるんだ。

血のつながりは無いけど、大切な家族なんだよ」

そう言って、夕日の頭を天峰が優しく撫でる。

 

「あっそ。血のつながりね」

露骨につまらなそうな顔をクノキがする。

その表情にはむしろ苦しみすら、込められている様だった。

 

「クノキちゃん?」

クノキの様子に違和感を感じた天峰が声をかけた。

 

「ああ、ごめん。なんかぼーっとしちゃって……そろそろ閉館時間も近いし私帰るわ!

私、来週もこの時間に居るつもりだから、また会ったらジュースとかなんか奢ってよ。

じゃー、バハハーイ」

手早く本をまとめ、クノキが貸し出しを済ませ、逃げる様に図書館から出ていく。

 

「なんだったんだ?」

嵐のように去っていった、クノキを見て天峰が一人つぶやいた。

 

 

 

 

 

 




作中にある、クノキの本の下りは私が昔体験した似たような出来事から来てます。

学校の図書館で、後輩の女の子に「先輩読みます?」と言って渡された漫画。
何故その子は私にそれを貸し出したのか……
いまだにわかりませんね。

「展開が急だね?絵はうまいけど……そこに行くまでが疎かかな?」
そんなことを言った記憶があります。


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はぁ……月曜か……鬱だ

機能投稿するつもりでしたが、いろいろあって今日に。
うーん、急な予定が入ると困るな。

人によっては梅雨の開けた人もいるんですかね?
私の地方はまだまだじめじめしています。
あー、カラッとした太陽来ないカナ?



空が馬鹿みたいに青くて、嫌になる。

道行く人の笑顔が自身を笑っている様で、嫌になる。

幸せそうな中で、自分だけが除かれている様で……嫌になる。

他人と関わるのが、嫌になって……

けど、誰とも関わらないのもなんだか、嫌で……

 

一人に成りたくて、部屋のカーテンを閉めた。

誰かと話したくて、パソコンの電源を付けた。

 

 

 

 

 

何が有ろうと、太陽は上る。

そして何が有ろうと一日は始まってしまう。

 

「……はぁ……月曜か……鬱だ」

月曜日は特にブルーな気分になると、思いながらクノキが目を覚ます。

手探りでベットの脇にあるハズの目覚ましを取り上げる。

この道具が『目覚まし』として仕事をしたのはもうずいぶん昔の記憶だ。

時間を見ると午前11時21分。普通の学生、社会人ならそれぞれしている事が有りこんな時間まで眠っている事はありえない。

 

だがクノキは違った。

学生としての身分は有るのだが、中学に通ってはいない。

此処からは見えないが、部屋の隅にたたまれホコリを被ったままの学生服が有るはずだ。

 

「…………」

ベットから起きると、静かに家の中に耳を澄ませる。

この家は自分だけの物ではない、当然親兄弟も共に住んでいる。

社会的不適合者のクノキにとってたとえ家族でも、顔を合わせるのは避けたい自体なのだ。

 

ガチャ……

誰もいない事を確認して台所の冷蔵庫を開ける。

適当な物を拝借し、逃げる様に自身の部屋へと戻っていく。

 

ポチッ

ブゥン……

食べ物を胃に押し込めながら、パソコンの電源を付ける。

自身に与えられた部屋とインターネット上で繋がる顔も知らない他人。

それこそがクノキの持つ世界のすべてだった。

 

カチカチカチ……

適当に興味のある事を、キーボードに打ち込み『検索』を押すとすぐに情報が出て来る。

なんでもという訳ではないが、知りたいことは大体出て来る。

目的など無い、しいて言うなら自身に与えられた今日という『一日を消費する為』の行為だ。

 

「はぁ……目が……」

目が疲れたのを感じ、クノキがパソコンから目を話す。

時計を見た時時間は、13時11分。まだまだ一日は長く続く。

 

「あ…………」

いつの間にか、携帯電話にメールが来ているのに気が付く。

差し出し人は『読河 夜宵』。

それを確認した瞬間、クノキは急いで内容を確認する。

内容は簡単な事だった、今日の学校の終了後以前より興味を持っていた、幻原 天峰が駅の中の図書館で勉強する、というものだった。

図書館の場所自体は、月に何度か通っている為知っている。

絶好のチャンスといえるだろう。

 

「行く価値はあるよね……」

 

独りでに声が漏れた。

天峰との出会いはそんな珍しい事ではなかった。

クノキにとっては別だが……

 

深夜のコンビニに出かけたクノキ。

他人との接触が苦手な彼女でも、どうしても必要な物は出て来る。

そんな日は、こっそりと人気の少ないコンビニまで出かけるのだ。

天峰とはそこで出会った。

 

「いやーごめん、おまたせー!にーちゃん、アイス選ぶのに迷ってさ~。

さて、帰ろうか?」

 

警察に補導されかかっていたのを、助けてくれた不思議な男。

自身の世界に入られるのを嫌う、クノキにとってあまり気持ちの良い事ではなかった。

だけど、確かに誰かと繋がっている事を確信できたのだ。

それが、ほんの少しだけくすぐったくて……

気が付くと少し気に成って、情報通の友人に話してしまった。

 

「また、会えるといいのかな?」

一人でクノキが声を漏らす。

自身の感情をクノキは理解できて居なかった。

他者とは会いたくない、しかし同時に誰かと繋がっていたい。

そんな矛盾した感情がクノキの中に渦巻いていた。

 

「行こう」

静かに決心を決めたクノキが、この日久しぶりに太陽の当たる外へと歩を進めた。

 

「……うっ……」

一歩外にでた瞬間、突き抜ける様な日差しがクノキをうがった。

視界の端に数人の人間が、収まる。

 

「はぁ……はぁ……」

心臓の鼓動が早く成っているのが解る。

誰かが自分を笑っている様な気がして、自分にここがふさわしくない気がして。

クノキの足がすくみ、一歩踏み出すのが非常につらく感じる。

 

「まだ、まだ……」

急いで持って来たカバンの中から、眼鏡を取り出しかける。

 

その瞬間、気持ちがかなり楽になる。

 

「アハッ!!クノキちゃんさんじょ~!!」

小さく口から笑みさえ漏れる。

「クノキ」の部分を強調して、あえて自分で自分に付けたニックネームを口にだす。

このただの伊達眼鏡で、コレはクノキなりの精神リセットだった。

視界そのものを透明レンズでおおう、こうすればもう何も怖くなかった。

 

恐ろしい怪物も、優しい王子様のすべて画面の向こうからやってくる。

パソコンや、携帯、テレビと共に生きるクノキの精一杯の自己防衛だ。

画面の向こうでない、現実世界を乗り切るクノキなりの精神リセットだ。

この眼鏡をかけている間はみじめで、情けない『玖杜』ではない。

明るくて、お調子者の『クノキ』で居られるのだ。

振るえる体を押さえながら、『クノキ』は目的の図書館へと向かっていく。

 

人の視線に震える体を無理やり『クノキ』で押さえつける。

こうすればもう怖くなどなかった。

しばらく図書館内を歩いて、やっと目的の相手を見つける。

そして、笑うのだ。

『クノキ』らしく、軽薄でへらへらした声で。

 

「はぁい!おにーさん!!奇遇だねー」

何時もの様に……

笑顔を振りまいて、仲良く成ろうとした。

しかし……

 

「……天峰……この子……誰?」

天峰の隣に座っていた子がジッとクノキを見据える。

それも最も玖杜の苦手とした冷ややかな目で。

ブワッと玖杜の中に嫌な感じが広がる。

自身のクノキがはがれる様な、どんどんみじめな自分に戻っていく様な気がした。

 

信じたくはないが、学校の帰りに男女二人で勉強なんて、他人同士がやらない事は知っている。

きっとこの二人は――

 

「お二人さんは、どういう関係?恋人?」

すがる様な気持ちで、クノキが質問をする。

最後の方は声が上ずっていないか心配だった。

偶然出会った。近所の子。友達の妹。答えは自分の予想したもの以外なら何でもよかった。

そして、幸運な事に玖杜が願った答えが返って来た。

 

「恋人じゃない」

 

「う、うん……恋人じゃないよ……兄妹だよ」

二人の淡々とする、答えに対して安堵の声が漏れた。

恋人でないなら、ひょっとしたら、自分もこの人の隣に――

 

「へぇ?兄妹?遺伝子仕事しないね?」

ぎりぎりで「クノキ」が持ってくれた事に安堵し、会話を再び続ける。

 

「実は血のつながらない兄妹なんだよ。

いろいろあって、夕日ちゃんは今俺の家に住んでるんだ。

血のつながりは無いけど、大切な家族なんだよ」

そう言って、天峰が隣に居た子の頭を優しく撫でた。

 

「あっ――」

自身でも無意識に声が漏れた。

玖杜は一瞬にして理解した。

この二人の言葉に嘘など無い、と。

本当にこの二人は、実際の家族以上の絆で繋がっている!

画面の向こう、レンズの向こうに隠れる自分とは違う!!

本物の絆、生ものの人間同士のつながり。

それは玖杜が自ら捨ててしまったハズの物だった。

 

この二人にとって現状は当たり前なんだろう。

だが!だが!!自身はそんなものすら持っていないと、理解してしまった。

理解した瞬間、玖杜が隠れ蓑にしていた『クノキ』が崩れた気がした。

 

「あっそ。血のつながりね」

何とかそれだけ、声を絞り出した。

これ以上此処に居れない気がする。

他人が、自分を笑い出す様な気さえする!!

早く!!早く帰らなくては!!

そんな気持ちが「玖杜」を襲った!!

 

「クノキちゃん?」

心配そうな天峰の声。

しかし、リアルの人との会話など玖杜には耐えきれなかった!!

 

 

 

そこからはもう覚えていない。

何か言った気もするし、走って逃げた気もする。

気が付いたら『玖杜』は一人帰宅ラッシュの中を歩いていた。

 

「くの……きに……あのこ……に……ならないと……」

メガネをかけるがもう意味は無かった。

脳裏に移る、あの夕日という子の幸せそうな顔がチラ付いた。

自身の持ってない物を、当たり前のように享受する姿が頭から離れない。

人とのつながりを捨てたのは、自分だ。

悪いのは弱い自分なのだ……これは、罰だ。

だが、どうしても――夕日の立つ場に自分が代わりにと、おもってしまう。

 

「わたし、卑怯で、卑屈で、醜いな……」

そんな声が気が付かない内に漏れた。

 

「おい!!お前こんな所で何してる?」

 

「え?きゃ!」

帰宅途中であったのか、自身の兄に玖杜が手を掴まれた。

この兄はいつも不機嫌で、玖杜は嫌いだった。

世間ではダメな人間なのだろうが、それでも自身より確実に上のヒエラルキーに居るのが解る。

 

「一人で外に出たのか?日も高いうちに?」

 

「うん……」

 

「どうせ、お前は大した事なんて出来ない社会不適合者だろ!?

大人しく家で、パソコンいじってろ。

誰かに一緒に居る所を見られたら不味いな。

かといって、置いていって行方不明になられても面倒だ。

仕方ない、今日はお前を連れて帰るからな!!」

 

無遠慮な言葉が玖杜を傷つけていく。

当の本人は何とも思っていないのが、玖杜にとって余計腹立たしかった。

だが、逆らう事など出来ない。

たぶん、兄のいう様に自分は人生の失格者。敗北者。何も言える事はないのだ。

 

「うん、お兄ちゃん……」

頷くしかなかった。

『血のつながりは無いけど、大切な家族なんだよ』

なぜか思い出すのは、天峰の言葉と夕日の笑顔。

見上げた空が、赤くてきれいで――嫌になる。




家族って何だろう?
人とのつながりを考えてもらえれば、幸いです。

ちなみに玖杜ではないのですが、小学校時代と中学以来で性格が大きく変わったと言われます。
偶然小学生時代の知り合いにあって、ビックリされました。


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前にも……言ったハズ……

さて、物語もだいぶ核心に近い部分に近づいてきました。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。


男には、いや、人間だれしも絶対に負けられない時が有る。

人生においてそんな時は必ずやってくる。

1度か2度か……はたまた10回か。

それはこの際、置いておこう。

さて、それと同時に同じくらい『負けなくてはならない』時もある。

天峰は今その最中に居た……

地面に顔を付け、両手も相手の前に差し出している。

 

「どうかノートを貸してください!!」

ジャパニーズの伝統芸土下座で、目の前の少女に頭を下げる!!

目の前には学園も美少女。卯月 茉莉が佇んでいた。

忘れがちだが、天峰はお世辞にも頭が良いとは言えない!!

それなのに、夕日の勉強を見たりクノキに絡まれたりとで、勉強時間が削れに削れた為……現在天峰は非常にピンチなのだ!!

具体的に言うとテスト週間2日前。

更に言うと頼みの綱のまどかは木枯の勉強を見るのに忙しいらしい。

となれば、泣きつく相手はたった一人しか居なかった!!

 

「ふぅん?アレだけ私を放っておいてこんな時だけ、助けてください?

ずいぶん、都合がいいのね?」

 

ジロリと冷ややかな眼を天峰に向ける。

うっと、小さく天峰が答えるのが聞こえた。

 

「どうしよっかなぁ~?八家君や、ええと……まどか先輩だっけ?その人たちじゃダメなの?」

口に手を当てて、卯月が考える。

しかし!!そんなのは表面上の態度だけ!!

実の事を言うと、にやにやと笑みをこぼす口元を隠す為の物だった!!

 

「ヤケは馬鹿だから、期待できないし……

まどかちゃんは、木枯ちゃんのテストが近いから無理だって。

お願いします!!なんでもするからノートを貸してください!!」

 

「ん?今『なんでもする』って言ったわよね?」

にやにやしながら、というより最早完全に悪役とかヤの付く自営業系のキャラクターの顔をしている!!

*これでも一応美少女設定です!!

 

「何でもって言っても、不可能は有るからな?10階の窓から紐無しバンジーとかは嫌だからな?」

 

「解ってるわよ。私がそんな非道な事する様に見える?」

 

「少なくとも今はそう見えるぞ!?」

*このセリフからも解る様に卯月は非常に恐ろしい顔をしています。

 

「まぁいいわ。私は寛大だし?天峰があまりにも可哀想だから、特別に勉強を見てあげるわよ!!!」

腰に手をあて、尚も土下座スタイルの天峰に、指を突きつける!!

 

「え?いや、別にノート貸してくれるだけで良いんだけど――」

 

「勉強見てほしいでしょ?」

 

「いや?ノート貸してくれるだけで、最悪コピーさせてくれるだけでも……」

 

「勉強見てほしいでしょ?」

天峰が何か話そうにも、卯月は同じ言葉を繰り返すだけだった。

 

(あ、アカンわ。コレRPGのゲームみたいに無限に繰り返す系の会話だわ……)

そのことに気が付いた天峰が態度を変える。

 

「うわぁい!!勉強!!僕、勉強大好き!!」

 

「はーい、じゃあ早速放課後、残ってくれるわよね?」

天峰の態度を見た卯月が、天峰を引っ張り自身の教室に連れていく。

卯月にとっては夢、天峰にとっては悪夢のような時間が始まった!!

 

 

 

 

 

幻原家リビングにて……

 

天峰が机の上に、自身のノートと卯月のノートのコピーを比べ勉強していた。

卯月は自分も忙しいのに明日も勉強を見てくれるらしい。

コピーしてもらったノートも非常に出来が良く、要所要所のポイントが抑えられており表現として少しおかしいが「天峰向け」のノートだった。

 

「よし、これもクリア……」

一問ずつ回答を再確認していく。

そんな天峰の横を夕日が通り過ぎていく。

 

「あれ?夕日ちゃん、何処か行くの?」

 

「少し……ノドが渇いた……何か買ってくる……」

そういうと自身のポケットの財布を見せた。

 

「こんな時間にかい?少し遅くないかな?

おかしな人とか、出るかもよ?

何か欲しいなら俺が行って――」

天峰の心配する様に現在の時刻は午後10時半をまわった所。

中学生、見た目が幼い夕日などは特に補導に危険性のある時刻だった。

 

「大丈夫……問題ない……コレがある……」

すっと自身のポケットからカッターを取り出しつつ、目の前で刃を抜いて見せた。

家の照明に照らされきらきらと、手入れの行き届いた刃が光を反射する。

 

「夕日ちゃん……世間一般では夜、カッターを持って出歩く子は『危ない子』扱い何だけどね?

家に置いて置かない?」

 

「コレは……私の魂……」

 

「侍!?夕日ちゃん侍なの!?」

 

「じゃ……行ってくる……」

天峰の言葉を途中で区切って、夕日は夜の街に出かけて行った。

 

「コレは……私の……すべき事……」

小さく自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

 

 

 

 

 

コンビニの光に導かれるように、クノキが歩いていく。

胸のもやもやは消えず、それを消す為に気分を無理やりにも変えようとしたのかもしれない。

 

「あ……昨日はアレの発売日だった」

漫画コーナーに昨日発売したばかりの週刊誌を見つけて読み始める。

薄っぺらな物語だが、それしか今のクノキの気を紛らわすものは存在しない。

ぺらぺらとページをめくっていく。

 

「…………ふぅん……」

 

「こんばんは」

クノキの肩を誰かが叩いた。

 

「え?」

 

「来ると……思った……」

それは、出掛けてきた夕日だった。

 

『知り合いがいる』そのことを理解した瞬間クノキの中に不安が纏わりつき咄嗟に心の壁を張ろうと、カバンから眼鏡を取り出しかける。

 

「あー!この前のおニーさんの義妹さんだよね?

リアル義妹なんてエロゲ設定初めてだったから覚えてるよ?」

 

「……前にも……言ったハズ……無理は……やめた方が……いいって……」

クノキの心中を察した様な言葉は、クノキのバリアに激しく食い込んだ。

 

「何の事カナ?」

 

「貴女も……レンズの……向こう側に……居るんだね……」

 

「ッ!?」

 

「少し……二人で……話さない……?」

 

 

 

 

 

少し離れた公園にて、二人がブランコに座っている。

 

キィ……

 

「あのさ……なんで、コレ(眼鏡)の事、気が付いたの?」

 

「病院の……部屋……好きな物だけ……集めた……私だけの世界……そこなら私は……一人で居られた」

少し前まで、自身が使っていた病室の事を途切れ途切れで説明する。

 

「何の事?」

 

「解らなくても……良い……」

 

キィ……

夕日が僅かにブランコを漕いだ。

 

「で?私に何か用だったのカナ?」

 

「……用?……そう言えば……特に……なかった」

 

「なかったの!?え?何か用事的な物が有って、私を呼んだんじゃないの?」

驚きクノキがブランコを強く漕いだ。

鎖が軋み音を立てる。

 

「……さみしそうだから……」

 

「何よ?同情の積り?」

夕日に言葉にクノキが機嫌を悪くする。

一度会っただけの人間から同情されるというのは、なかなかに屈辱的だった。

 

「……違う……貴女も……天峰に……引かれたんだね……」

 

「ちょ!?何を言って……」

今度も激しくクノキが反応する。

図星であることはすぐに理解できた。

 

「優しくしてくれた?心配してくれた?声をかけてくれた?」

急に口調が早く成り、ブランコから降りてクノキの顔を覗き込んだ。

 

「いい!?」

豹変する態度と、夕日の張り付いた様な笑顔にクノキが恐怖を抱く。

 

「やっぱり……その顔……間違いない……貴女は……『玖杜』……」

 

「なんでその名前を!?」

急に本名を語られた事にクノキが驚く。

天峰はもちろん、この子にも自身の本名を教えたことはなかった。

 

「前……ボーノレの大会に出る時……クラスに……出て来ない子の……名前を……借りようとした事が……ある。

クラス名簿を……見た……写真で……私の知らない子……がいた……名前は確か――」

 

「止めてよ!!」

夕日をその場でクノキが払いのける。

心を守るクノキにとって、同情。しかも家族については決して心に触れてほしくない部分だった。

 

「……自分と……向き合わない……の?」

 

「偉そうに言うな!!優しいお兄ちゃんに守られて!!なんだかんだ言って!!人生、楽しんでるんだろ!?

リア充が私に構うな!!私は一人で居たいんだよ!!」

今度はクノキ、いや。心の壁がはげ落ちた彼女は軽薄でへらへらしている『クノキ』ではいられなかった。

本来のみじめで、他者との会話を苦手とする『玖杜』に戻っていた。

 

「ヒヘッ!無様……」

にやりと夕日が嘲笑った。

自身を偽る弱者の心を、無遠慮に蹴とばしたのだ。

 

「おまえぇぇぇ!!」

 

「なら何で、此処に居たの?

本当は、助けてほしいんでしょ?

SOSを出してたんでしょ?

何で、逃げるの?」

夕日は容赦などなかった。

知ってたのだ、自身の世界に引きこもる事の愚かさと無力さ、そして……危険さを。

 

「いけないの?私が、小さな幸せ求めちゃいけないの!?あなたはいいよね!!

義兄なんて、絶対なくならない希望もらえてさ!!私の兄弟はそんな事してくれないよ!!

みんな私を、かわいがって、可哀想がって、そのくせ肝心な時に無関心で!!

結局は、みんな心の中で私を馬鹿にしてるのよ!!!

私は出来損ないだって!!兄弟の誰もが!!相手に勝てないなら!!

勝てない相手なら、諦めるしかないじゃない!!一人日陰で暮らすしかないじゃない!!」

 

「馬鹿……野郎……!!」

バシン!!

と音がなり夕日が玖杜をはたいた。

 

「孤独は……強くない……さし伸ばした……手を取る……べき……」

 

「何よ!!何が言いたいのよ!!」

 

「友達に……なろう……私はもちろん……天峰も……喜ぶ……」

 

「な!?」

夕日の言葉と、差し出された右手に玖杜が目を見開く。

それは孤独を破る唯一の光だった。

 

「私……でいいの……?」

 

「うん……構わない……」

二人が手を取り合おうとした瞬間。

 

「こんな所に居たのか!!さっさと帰るぞ。

俺も何だかんだ言って忙しい、馬鹿な妹に構っている時間は無いんだ」

後ろから聞こえた声に、ビクッと玖杜が驚き手を引っ込めた。

 

「お兄ちゃん……」

 

「あなたは……」

玖杜が『兄』と呼んだ人間に、夕日は見覚えがあった。

名簿で名前を見た時から、さらに言うと玖杜の『玖』、九を意味する文字で半分は気が付いていたのかもしれない。

 

「やぁ、夕日ちゃん。夜の公園でお散歩?いや、まさか、一人露出プレイ!?

この時期やりたくなるよね~」

ソコには天峰のクラスメイトにして親友。

大家族、野原家の八男。『野原 八家』が立っていた。

 

「さ、帰ろうか。玖杜」

態度を変えて、いままで夕日が一度も聞いたことの無い冷めた声で玖杜に話しかけた。




数人の読者は気が付いていた、玖杜の設定。
苗字が描写されない、その名の通り九を意味する玖の文字。

ちなみに八家は8男とは、書きましたが8人兄弟とは一度も言っていません。
なんちゃって記述トリックです。


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義妹ほぴぃいいいい!!

熱い……最近マジで熱くなってきました……

あー、汗でべたべたするし夏は苦手な私です。
その分お風呂は気持ちいいんですが……


「何で……あなたが……此処に……居るの……?」

深夜も近い公園の中で、夕日がその人物に声をかける。

 

「ん?別にそんなおかしい事じゃないでしょ?

同じ地域の住んでるんだし。

ほら、買い物行ってスーパーで偶然クラスメイトと会う事もあるでしょ?」

何時もの様に笑顔で、野原 八家が笑う。

嘘っぽい軽薄で信用ならない顔をしていた。

 

「おにい……ちゃ……」

夕日のすぐ後ろに居た、クノキが震えている。

 

「ちッ、こっちは忙しい時期なのに……何してんだよ!!」

 

「ご、ごめんなさい!!!」

笑顔が消え、激しい怒りを八家があらわにする!!

たったそれだけで、クノキの顔には怯えと恐怖が張り付き、目に僅かに涙がたまり震えだす。

 

「おい、帰るぞ。俺に面倒かけるな。

じゃ~ね、夕日ちゃん~、また学校で~」

再び顔に笑顔を張り付け、八家がクノキを伴って帰ろうとする。

クノキと夕日の態度の落差がすさまじく大きい。

 

「ま……まって!!」

 

「ん~?どうしたの、何か忘れ物?」

夕日が咄嗟に声をかけるが、クノキはうつむいたままで何も反応を見せてくれない。

 

「今……その子……と……話を……」

 

「『その子』……?

うん?

……もしかして……玖杜の事を言ってる?」

 

「くもり?」

聞きなれない言葉に夕日が、オウム返しする。

 

「野原 玖杜。コイツの名前」

八家がクノキの頭に手を乱暴におく、その動作にびくりとクノキが反応する。

 

「自分の名前すら言ってなかったのか……愚図のお前らしいな。

いくら名前を消してもお前は無くならないぞ?」

 

「……ごめんな……さい」

消え入りそうな声で、クノキが本当に小さいな声でつぶやく。

 

「クノキ……まって……」

 

「夕日ちゃん。今日はもう帰った方がいいよ」

夕日の声を遮りぴしゃりと八家の声が断ち切る。

 

「けど……」

 

「こいつに期待するだけ、無駄だよ。

それどころか、誰かに心を開いたりもしない。

夕日ちゃんだって、名前すら知らなかったでしょ?」

 

それを聞いて、夕日が固まる。

そう、今言われてみれば本当にクノキも事を何も知らないのだ。

本名も、どんな性格なのか、なぜこんな時間に外に居るのか。

全ての情報がまっさらだった。

 

「ああ、そうそう。

この事は天峰には黙っててくれるかな?

お互いテスト目前だし、余計な事をして成績が落ちるのは避けたいでしょ?

赤点追試なんてなったら、せっかくの夏休みが台無しだしね」

そういうと今度こそ、八家は玖杜を連れ帰っていった。

 

「クノキ……」

夕日の心の中には、クノキの小さく手を振る姿だけが残った。

 

 

 

 

 

幻原家。

「ただいま……」

 

「あ。夕日ちゃんお帰り~」

リビングではいまだに天峰が勉強をしていた。

といっても、ほとんど片付けていてもう終わりの様だった。

 

「天峰……ヤケの……兄妹の事……知ってる?」

半場無意識に声をかけていた。

自身から首を突っ込んだ事、それなのに、八家に言われたのに。

あの兄弟の事について聞いてしまっていた。

 

「うん?珍しいね、夕日ちゃんがヤケの事を知りたいなんて……

ハッ!?まさか、ヤケに惚れたのか!?

ゆ、ゆるしません!!お兄ちゃんはゆるしませんよ!!

あんな、奴に夕日ちゃんをあげたりなんてしな――――」

 

チキチキチキ――

 

「おかしな……推測は……しないで……あの人は……趣味じゃない」

ポケットからカッターを取り出しながら夕日が話す。

 

「お、おお。ご、ごめん……おにーちゃんちょっと早とちりしちゃったよ……」

 

「八家の……兄妹について……知りたい……何か……知ってる?」

クノキの事を聞こうと思い、そう口に出す。

 

「ヤケの兄弟?

うーん……一応、ヤケが8男ってのは知ってるけど……

そのほかの兄弟に会ったことは――あ!一回だけ、5男の玉五さんに会った事はあるよ?

たしか……どっかの大きな会社の社員――あ!!そうだ、スマイルブレインの社員さんだったかな?」

そう言って天峰は有名な、IT会社の社名を上げる。

ITと言っても様々な分野に手を出し、携帯、カメラ、レーザーポインター。

バイクや果てには人工衛星のパーツすら作っているらしい。

 

「へえ……」

 

「意外かもしれないけど、ヤケって勉強すれば賢いんだよ。

本人が大の勉強嫌いだから、成績は悪いけどテストは毎回かなりの上位に入ってるらしいよ?頭の良い、家計なのかな?」

そう言ってすべての道具を片した天峰が立ち上がる。

 

「俺が知ってるのはそれくらいかな?」

 

「下の……下の妹は……知らないの?」

 

「妹?ヤケに?

知らないなー、中学入学以来からの付き合いだけど……

妹がいるなんて話一度も聞いた事ないよ?

っていうか、むしろ本人が『義妹ほぴぃいいいい!!』って言ってたくらいだけど……」

 

「そう……わかった……私も……もう寝る……」

これ以上は収穫無しと理解した、夕日が自室へと戻っていく。

 

 

 

「私は……どうしたいの?」

パジャマに着替え、義眼を外し明日の予定を合わせてからベットへと横になる。

思い出すのはクノキの事。

いや、此処では玖杜と呼ぶべきか。

 

友達に成ろうと言った時の顔が彼女の本心のハズだった。

クノキとしての無理に作った明るい姿ではない。

愚図で出来損ないと自身を追い詰めた、玖杜でもない。

きっと、あの顔が彼女のあるべき姿なのだろう。

 

「……おかあさん……私は……いま……幸せだよ……」

ベットに寝転がりながら、一人つぶやく。

自分だけの世界に今、夕日は居ない。

今という、他者と関わり会う現在を生きている。

そんな事を考えるうちに、いつの間にか意識はまどろみの中に落ちて行った。

 

……きっと……クノキ(あの子)と……夕日(わたし)は……同じ……天峰が……居るかいないか……同じ……コインの……表と裏……

願わくば……あの子……にも……

 

 

 

 

 

翌日の学校にて……

 

「あ、卯月。昨日ノート、アリガトな

スゲー助かったわ」

カバンから卯月から借りたノートを渡しながら天峰が笑う。

いよいよテストも明日に迫っている。

 

「ああ、いいのよ。気にしないで?

それよりも……テストが終わったら二人で遊びに行かない?」

上機嫌で卯月が天峰を誘う。

本人にとってはデートの積りなのだろう。

 

「えー……テスト終わりで疲れてる予定なんだけど……」

 

「黙りなさい」

天峰の言葉を卯月が笑顔をもって叩き斬った!!

笑顔なのだが……恐ろし気な雰囲気を纏っている!!

 

「えっと?」

 

「天峰?今回の事で私に借りが出来たんじゃない?」

う~ん?と顔を近づけながら天峰の顔を覗き込む。

普通の人間なら、美少女と密着という事で大喜びだが……

 

「まぁ……ね?確かに借りがあるね……」

ロリコンの天峰にとって全く効果はなかった!!

 

「そーよねー?コレは、私の買い物の手伝いなり?遊園地奢るなり?

なーんか私にしてくれるべきじゃない?」

天峰の周りを歩きながら卯月が指を振るう。

 

「うぐ……どうしろって言うんだ?」

 

「テスト終わりが金曜よね?でその後が土曜、日曜。

買いたいモノがあるから、日曜私に付き合いなさいよ!

荷物持ちとして、使ってあげるから……ただの荷物持ちだからね!!」

『荷物持ち』の部分を強調しながら卯月がそう話す。

 

「わかった、わかったよ……駅前のデパートでいいか?」

 

「ダメ。欲しいの売ってないし、電車使って隣町の籠鳥市まで行くわよ」

都会となっている隣町の名を卯月が上げる。

夏休み期間が近いので、私鉄を使えば学生は通常より約100円ほど安く乗れるのだ。

 

「あー、はいはい。じゃーお望み通りに……『お姫様』」

恭しく天峰が頭を下げる。

言葉通り、姫に使える騎士の様だった。

 

「あら、良い心がね。日曜日、楽しみしてるわ……

あ!!もちろんだけど、赤点なんて取ったら許さないから!!」

上機嫌で帰ろうとした時卯月が踵を返し、天峰に自身の指を突きつけた。

 

「大丈夫だって……一応対策はしてあるし……」

天峰が気まずそうに鼻の頭を掻く。

 

「不安に成って来たわ……今日の放課後も残りなさい、また見てあげるから」

 

「えー、いいよぉ。一人で出来るしお前も――」

 

「の・こ・り・な・さ・い!!!」

嫌がる天峰を卯月が叱りつける!!

この言葉に拒否権は使えない!!

 

「……は~い」

いやいやという態度を露骨に出しながら天峰がそう頷いた。

 

 

 

「よう、天峰。お疲れ!!大変だったな」

ゲラゲラとノートを返すだけなのに、げっそりと疲れた天峰を見て八家が笑う。

 

「ヤケ……笑いごとじゃないぞ……

このままいけば……絶対なんか有るたびに尻に敷かれるようになりそうだ……」

 

「いいじゃねーか!!胸尻腿は三大部位じゃねーか!!それに触れるって……

ご褒美以外なにものでもないじゃねーか!!」

八家がはぁはぁと鼻息を荒くして興奮する。

 

「俺的には……袖に隠れた指、ランドセル、ポッコリしたお腹、舌足らずな声に興奮する!!」

ロリコンの見る所はやはり違った!!

 

「まぁ、それも解る、すげー解る」

ワインを選ぶソムリエの様な顔をして、八家が何度もうなずく。

 

「そういえば、ヤケって妹居るか?」

 

「妹?義妹は欲しい。リアルのは……要らないな」

八家はいつもの様に笑った顔で答えた。

 




野原家九兄妹!!
たぶん他の人は出ない!!


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なに……今の……寒気……

すごい久しぶりの投稿デス。
気が付いたらまた。UAが上がっていた。
コレはもう、またアレするしかないな!!
という事で、再び活動報告へGO!!


キィ……カタン……

古ぼけてところどころ錆びたパイプ椅子が安っぽい音を立てる。

食堂とプレートが書かれた待合室は、重苦しい空気を含んでいた。

それもそのハズ、此処のいるメンバーは皆受験生だ。

自身の将来を決める、入試の前で騒いだりする人間はまずいない。

1点でも点数を上げる為、開始直前まで参考書を見ている。

 

「ここ、いいですか?」

一人の少年の前に、もう一人の男が尋ねる。

少年が無言で頷くと、その男はそこに座りポケットから携帯電話を取り出した。

ポチポチと、ボタンをプッシュする。

 

「よし、入った」

 

「?」

携帯を構えた少年が、わくわくした顔で画面をのぞき込む。

 

『~♪~~♪~~~~♪』

携帯から流れる音楽に、周囲の受験生たちが僅かに動揺を見せる。

 

「あ~、何とか間に合ったな…………ポリキュアの放送に」

少年が携帯で見ていたのは、日曜の朝の番組『ハードキャッチポリキュア』だった!!

日時的に朝8時30分から放送している女児向けアニメ!!

妖精の力をもらった女の子たちが伝説の警察官『ポリキュア』に変身して悪人どもを逮捕する作品だ。

 

「今日は、4人目の戦士が出るんだよな~」

ニヤニヤと楽しそうに、男が尚も携帯を見る。

 

「お、おい……」

 

「ん?なに、君もみたいのかい?」

そう言って男が携帯を横に移動させる。

コレが天峰と八家の初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

それから3年、中学から高校にあがっても二人の関係は変わらなかった。

「では、時間なので各自、はじめ!!」

 

チャイムと共に、一斉にテストの裏返る音とペンを走らせる音が聞こえる。

天峰も八家も、此処には居ないが他のクラスでは卯月がそれぞれテストにいそしんでいるのだろう。

テスト期間が始まって目の回る様な、日々が始まっている。

勉強勉強勉強……

学生の本文なのだろうが、どうしても遊びたい気持ちはある。

だが、それももう今日で最後!!

テストが終わり、補習さえなければ待ちに待った夏休み!!

勉強でたまったうっぷんを晴らそうと、まるでクリスマス前の様にみんなそわそわしている!!

 

(これが終わったら……思いっきり遊びにに行くぞ!!)

天峰が自身の中にある欲望をたぎらせ、目の前の英訳問題を解いていく。

それぞれのテスト期間が過ぎていく……

 

 

 

「よう、天峰結果どうだった?」

何処となく疲れた顔をしながら、八家が天峰に尋ねる。

 

「うーん……50点から60点位かな?半分は絶対に出来た自信ある!!

けど……英単語のイントネーションっての?それが毎回どうしても解らないんだよなぁ……」

 

「ああ、それか……最近は無駄に英単語を日本語みたいに使ってるからな、日本語英語とでも言うのか?そのせいで解りにくく成ってるんだよな」

二人して軽口を言い合う。

余談だが、テスト前の「俺全然勉強してねーやべー」やテスト終了後の「やべー、全然わからんかったー」なんてのが有るが、最初に言い始めたのは何処の誰なのだろうか?

 

 

「さて、我が同志、天峰よ。遂に開放の時が来た!!

……という訳で、帰りどっか遊びに行かない?

ボーリングとか、バッティングセンター的な所でさ」

八家が楽しそうに提案する、内容的に体を動かす系の遊びがしたい様だった。

 

「あー、ごめん。この後幼児……じゃなかった用事があるんだよ……」

申し訳なさそうに天峰が両手を拝むように合わせる。

 

「ん?卯月さんとのデートか!?前話していたデートに行くのか!?

あれだよな、隣町の籠鳥市だよな?あそこ、デートスポット多いらしいぞ!!

ロマンチックな焼け跡とか有るらしいぞ!!ああ良いなもう!!

俺も彼女……っていうかヒロイン的な子が欲しい!!!」

 

「いや、違う違う。夕日ちゃんとカラオケに行く約束なんだよ」

興奮する八家を押さえつつ、天峰がそう説明する。

暴走する八家は何をするかわからない恐怖が有る!!

さらに言うと天峰のとって美女より幼女の方が価値が有る!!

 

天峰の理想のデートは、小学生の子を手を繋ぎながらコンビニなどに寄って買い食いするものである。

*夕日と似たような事はしている。

たぶん職質食らう。

 

「じゃ。俺、夕日ちゃん待たせてるから!!」

そう言って楽し気に、天峰は教室を飛び出した。

 

 

 

(足が軽い!!疲れているのにどんどん力が湧いてくる!!

もう何も怖くな――ぐはぁ!?)

廊下を走る天峰が、カーブを曲がろうとして足をひねる!!

 

「おー、いてて……だが!!俺の夕日ちゃんに対する愛はこれ位じゃ、少しも変わらないぜ!!」

座ったままのポーズで驚くほどのジャンプをして飛び上がる!!

 

「うをおおおおおお!!夕日ちゃんまっててねぇえええええええ!!!」

少し前の八家の様なセリフを吐いて、再び走り出す!!

 

 

 

 

 

ゾワッ……

「!?……なに……今の……寒気……」

校門のところで、天峰の放った感情を僅かに受信した夕日は、夏近くだというのに寒気を感じていた。

 

「ゆーかちゃーん!!!ゆーか、ちゃーん!!あは、あはあはははは!!」

 

「天峰……」

校舎側から走ってくる。その犯罪者一歩手前のフェイスをみてさっきの寒気の理由を夕日が理解する。

 

「はぁはぁ……お待たせ!!」

息を切らせながら天峰が、顔を上げる。

その表情に夕日は、クノキの事を言う気に成れなくなってしまった。

 

「……大丈夫……そんなに……待ってない……」

二人を連れ添って、駅まえまで向かっていった。

 

 

 

 

 

野原家

「ただいまー」

八家が扉を開けて、台所まで歩いていく。

夏も近く、何か飲む積りなのだろう。

 

「あ……」

 

「チッ、お前かよ」

扉を開けると同時に先に来ていた、玖杜と出会う。

気まずそうに、玖杜が目をそらす。

手にジュースを持っている事から、八家と考える事は同じの様だった。

 

「…………あ…………の…………」

何か言いたげな玖杜を無視して、冷蔵庫からコーラを取り出し氷の入ったコップに注ぐ。

 

「今日……帰るの……早いね」

 

「あ?テスト期間中だから――っと、もうそれも今日で終わりだったな」

ぶっきらぼうにそう話し、一気飲みしたコーラの入っていたコップをテーブルに強く置く。

 

「ひッう!」

大きな音にびっくりした玖杜が、身を縮こませる。

 

「本当はようぅ?お前の無関係じゃ、無いんだぜ?

むしろ、その真っただ中に居るんだ……居るハズなんだよ」

ギロリと視線を無理やり、玖杜に向ける八家。

 

「っ……く……」

その視線に耐え兼ね、玖杜がその場から逃げようとする。

 

「待てよ、屑」

そんな玖杜の首筋を八家が後ろから掴む!!

 

「放して!!」

若干ヒステリックに玖杜が叫びその手を払いのけようとする。

 

「黙れ。逃げてんじゃねーよ!!自分だけ特別な積りか?

兄さん達はもう、全員会社勤めか、大学生だぞ?それも一流な……

お前はどうなんだ?一生自分の部屋に引きこもっている気か!?

どうする気なんだ?俺や兄さんに養ってもらうのか?

俺たち兄弟にお前という『ババ』を押し付け合わせる気か?

ん?何とか言ってみろよ!!」

八家が玖杜を押し付け、無理やりその顔を覗こうとする。

 

「あ……あは!!おにーちゃんったら、急にそんな事言わないでよね」

ポケットに入っていたのか、玖杜は伊達眼鏡を取り出してかけるとへらへらと笑い出した。

メガネのレンズを通して、現実の世界から離脱する。

メガネをかける。そうすれば……此処はもう画面(レンズ)の向こうの世界だ。

そう必死に、玖杜が自身を『クノキ』で、守ろうとする。

 

 

 

だが、そんなのは当然だが無意味な行動だった……

 

「お前……ふざけてるのか!!!」

八家が、玖杜の伊達眼鏡と奪い取る。

そして……

 

バキッ!!

 

小さな音を立て、メガネを握りつぶす!!

更に追い打ちと言いたげに、それを床にたたきつける!!

 

「あ……」

玖杜の目の前で、メガネが壊れた。

もう玖杜を守る、世界の壁は存在しない!!

 

「あ……い……いや……」

 

「は?何を言って――」

 

「うわぁ嗚呼ああああああああぁあああぁああっぁぁああっぁあ!!!!!!」

玖杜が八家を押しのけ、メガネの残骸を拾い集める!!

レンズに一部が、指に刺さるが気にしない!!

必死で砕けてしまった、破片を集める。

そうしないと、もう自分を守れない事を知っていたから。

 

「ああもう!!うっぜぇな!!」

八家が泣きながら、破片を集める玖杜を蹴とばした。

 

「こんなゴミに!!何の価値が有るんだよ!!」

玖杜の落としたメガネの破片を奪い取り、台所の隅に有った瓶を入れているゴミ袋に叩きこんだ!!

 

「あ、あひ、ッ!!めが、めがね!!」

すぐさま玖杜が、ゴミ袋に手を伸ばし中身をあさり始める。

 

「汚ねーな……オエッ!!掃除しておけよ」

そう話すと八家はその場から不機嫌そうな顔をして出て行った。

 

「ぐす……私の……メガネ……」

玖杜はずっと、ゴミ袋を漁っていた。

父の飲んだ酒瓶の破片、割れたコップ、飲んだ栄養ドリンク。

すさまじい、臭いとそこに溜まったそれらの残り汁。

そんな中から玖杜は小さな破片全てを取り出した。

 

「………………………」

破片を部屋に持っていくと再び涙があふれた。

自分を守っていた、大切な物が砕け汚物にまみれ悪臭を放っている。

 

玖杜は一人部屋で、涙を流す。

外は夕焼けが驚くほどキレイに、町を照らしていた。

 

テストから解放された学生たちが楽しそうに談笑している。

その笑い声が、自分を笑っている気がして――

けど、笑われる心当たりも有って――

それなのに、自分を守る術まもうなくて――

 

玖杜は一人静かに涙した――。




受験会場でテレビは実際に、見た事のある光景デス。
というか、友達がやってた……
プリキ○ア見たかったんかい!!


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見てコレ!!全自動卵砕き機よ!!

久しぶりの投稿、本編を書くのが約一か月振りという暴挙。
皆さん、お待たせして本当にすいませんでした!!


「あと、15分か……」

まるで死刑執行までの時間を見る受刑者の様な面持ちで、天峰がリビングに飾られた時計の針を見る。

現在の時刻は午前9時15分。

曜日は土曜で休日、テストから解放された学生たちは自由を謳歌している。

…………ハズだった。

 

「あ、ふっあ……」

苦し気な、ため息を付きコップに注いだ牛乳を何かを押し流す様に、口に押し込む。

 

「……天峰……」

その様子を夕日が、可哀想な物を見る目でじっと睨んでいる。

そして再び口を開く。

 

「……そんなに……デートが……いや?」

その言葉を聞いた瞬間、天峰の体に緊張が走る!!

 

「ほぅあ!?で、デートじゃ、無いよ!?俺は、卯月とデートに行く訳ではないんだよ!!これは、タダの買い物デートじゃないよ、お買い物さ!!別に夕日ちゃんが嫌いになったとかじゃないからね!!デートじゃないしね!?」

まくしたてる様に、天峰が何度も『デートじゃない』を繰り返す。

実の事を話すと、実は天峰コレが初デート!!誰しも緊張してしまう、無論相手が美少女なら尚の事である。

というのは、普通の人の感性。

天峰は、それとは違う考えを持っていた!!

 

「あー、どうしよ……これを機に卯月が必要に俺と距離を縮めてきたら……

いやだぁぁあああ!!俺は、俺は幼女と一緒に過ごしたいんだ!!

彼女持ちより、物理的に幼女を抱っこしていたい!!

同年代と手を繋ぐより、年下を肩車したい!!」

頭を押さえ、床に寝そべりイヤイヤと体を転がす。

 

「……天峰……」

夕日がジッと、自身の兄を『何でこんな生命態がいるんだろう?』と疑問を持った目で見る。

 

「ねー、ゆーかちゃーん……突然、駄々っ子みたいに『ふえぇぇ!!私も連れていってくれなきゃ、やだやだー』とか言って、一緒に付いてきてくれない?」

 

「……私の……キャラじゃない……」

何時もの様に感情のこもっていない顔と声音で、床に転がる天峰を見下ろす。

 

「じゃ、行く前まで近くにいてよ……ロリコニウムが、足りないんだ。

ギブみ~、ロリータ!!」

 

「……わかった」

そう言って、床に寝転がる天峰の背中に座った。

天峰が座布団の様な形になる。

 

「ふぅ……染み込むなぁ~」

目を細め、天峰が口角をほころばせる。

 

「…………………………いいの?……………」

対する夕日は正直言って困惑気味だった。

夕日の予定では、天峰なりに何かリアクションが有ると思ったが大して何もなかった。

半場冗談で天峰の上に座ったのだが、本人は上機嫌の様だ。

 

「この、圧迫感?全身で夕日ちゃんを感じれるのが……すごく良い!!」

 

「……変態」

スパーン!!と天峰の頭を夕日が叩く。

それと同時に玄関のチャイムが鳴る。

 

「……天峰」

 

「ん。わかってる、卯月が来たみたいだね。

ちょっと行ってくるよ」

夕日に笑顔を向け、天峰が立ち上がる。

 

 

 

 

 

『次は籠鳥~籠鳥駅です~神独町および、大稲場行きのお客様は乗り換えとなりまーす』

電車内に響く、コールを聞き天峰と卯月が立ち上がる。

慣れない電車内部、独特の窮屈な閉塞感ともこれでしばらくおさらばだ、両人が意気揚々と籠鳥駅の中を見て回る。

 

「うーん、流石都会ねぇ。不思議な物がいっぱい有るわ」

 

「卯月、なんか田舎臭い事言うなよ?ただの隣町だろ?」

テンション一杯の卯月に天峰が困惑気味に話した。

その言葉を聞いてか聞かずか、相変わらず卯月のテンションは非常に高い。

 

「で?何を買いたいんだっけ?」

 

「ん、もう!買い物より先に、何か遊びましょうよ!!

ゲームセンターでも、カラオケでもいいから」

そう言って、天峰の腕を卯月が引っ張っていく。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 

 

服屋

「天峰!!このマフラー、どっちが良いかしら?」

卯月が、まだ夏前だというのにもうマフラーを出している店で商品を物色する。

サマーマフラーといい、寒さ対策ではなくあくまでファッションとしての生地の薄いマフラーらしい。

 

「んー……白はどうだ?シンプルイズベストだ」

 

「却下、汚れが目立つもの」

 

「じゃ、最初から候補に入れるなよ……」

 

 

 

雑貨屋

「天峰!!見てコレ!!全自動卵砕き機よ!!あの有名なヤツ!!」

興奮気味に、卯月が胸に機械の箱を抱きかかえる。

踊り文句がでかでかと乗っており、ゆで卵をペースト状にしたり生卵を割ってかき混ぜる機能までついてるらしい。

 

「まじか!?いくらだコレ!?……3890円……タッケェ!?」

値札を見て、天峰が驚愕する。

 

 

 

 

 

町の定食屋

「ココの、冷やし中華人気なのよ!!今ならまだ頼めるハズよ!!」

 

「いいねぇ!!俺、冷やし中華ってスゲー好きなんだよ!!」

二人して店に入り、手早く注文を済ませて座敷席で談笑する。

 

「どう?久しぶりの自由は?」

卯月が天峰に笑顔で聞いてくる。

その瞳は楽し気だ。

 

「ハハッ!!堪能してますよー!!それじゃ、ま」

そう言って天峰が麦茶の入ったグラスを掲げる。

 

「テスト、お疲れ――」

 

「自由にカンパ――」

カチャン!!

 

「「バラバラ言ってる!!」」

アハハと両人で笑い始める。

この時すでに、天峰は卯月との休日を楽しみ始めていた。

 

 

 

楽しい時間は過ぎあっという間に夜近くに成る。

テストの振り替え休日の為、明日は休みだがそれでも帰らずにはいられない。

二人して、駅のホームに向かった。

 

「まだ、時間有るわね」

電車の切符を買いながら、卯月が自身の時計を見る。

混雑する駅中で、二人は目当ての電車の乗り場を探す。

籠鳥駅が巨大な駅だ、何本もの電車と接続するので非常に迷いやすく成っている。

電車に不慣れな二人なら尚更だった。

 

「天峰……うあっ!?」

 

「卯月!!」

改札を通り、大量のサラリーマン風の男たちがなだれ込んでくる、まさに『人の波』だ。

その波にあおられ、二人は目的の場所から遠ざかって行ってしまう。

 

「卯月!!手!!手!!」

 

「う、うん」

天峰の伸ばす手を取り、二人が波に逆らう様にゆっくり歩き出す。

人の多い所から、少し離れてやっと二人は手を離す。

しかし、天峰の手にはいまだに卯月の手の感覚が残っていた。

 

(咄嗟にだけど……卯月の手、にぎちゃったな。

あのころより、少し小さくなったな……)

 

「天峰の手って、大きく成ったね」

 

「そ、そうか!?男だしな、女子とは成長速度が違うんだろ?」

自身の思っていた事を見透かされた、様で天峰が慌てる。

 

「うん……私、あの頃より、成長したよ。

手だけじゃないよ?身長も伸びたし、髪もそう、あと胸も大きく成ったよ?」

照れるように、笑う卯月。

天峰は、彼女が『卯月』であることを否応にも意識した。

 

「私はもう、あの頃とは違うよ……けど、天峰もそうでしょ?

砂場で遊んでた私達、今では一緒に買い物するまでになったんだよ?」

 

「ああ、そうだな……」

お互いの意識が、相手に集まっていく。

駅の喧騒が少しずつ、消えていく気がする。

 

「ねぇ、天峰。私達もう一度……」

 

「ん?」

何処かで、誰かが呼んだような気がして天峰が意識を卯月から外す。

その時!!

 

「キャッ!!」

ドン!!

 

天峰位の年齢の男に、卯月が突き飛ばされる!!

卯月を天峰が抱き寄せる様に、支える。

 

「あ、すいません!!急いでたもんで!!」

その男はその場で、振り返り両手を合わせ卯月の拝む様な体制を取る。

 

「ちょっと!!宗託(そうた)!!アンタ何やってるのよ!!早く行くわよ」

拝む少年の少し前を走っていた、竹刀を入れる袋を背負った気の強そうな少女が口を開いた。

 

「まぁ落ち着けよ。(アサ)、ぶつかったら謝るのが礼儀だろ?」

焦る少女に対して、この男はずいぶんのんびり屋の様だった。

 

「あの、コレ。落としましたよ」

天峰がその男の落とした定期を拾い渡す。

定期には、霧夢 宗託とあった。

苗字は読めないが、ソウタの部分は読めたので渡した。

 

「ああ、ありがとう。危うく電車に乗れなくなる所だったよ」

定期を受け取ると、男はゆっくりと走り出した。

 

 

 

「なんだ、アレ?」

 

「籠鳥学院の制服ね……あの二人どこ行くのかしら?」

天峰と卯月が話しあう、さっきの勢いで抱き着いたままだったがもう気にはしなかった。

 

「それより、卯月。お前さっきなんて言おうとした?」

 

「もう、良いわ。なんだか、私疲れちゃった、もう帰りましょ?」

天峰の手を引いて、二人は仲良く電車に乗り込んだ。

 

 

 

そして、この日。

天峰は致命的に間違ってしまった。

二人を見つめる、一人の影が有った。

 

「お、にーさん…………」

それは偶然、伊達眼鏡の代わりを買いに来ていた、玖杜だった。

玖杜の脳内にさっき見た二人の仲のよさそうな、表情を思い出す。

 

(…………や………だ……)

 

美しい容姿の相手の女。

 

(い……やだ……)

 

手を繋ぐ二人。

 

「いや……て……」

 

突き飛ばされ抱き合う二人。

 

「見て!私を!!私をみて!!」

玖杜の様子に、周囲の視線が少しずつ玖杜に集まる。

けれど、そこにもう天峰は居ない。

 

「誰でもいいから!!私を――」

 

「うるさいぞ」

腕を突如誰かに捕まれる!!

その相手をみて、玖杜の声までもが凍り付く!!

 

「こんな所で何してるんだ?前にも言ったよな?俺に迷惑かけるなって」

なぜかそこにいた、八家!!

反論をゆるない視線を送り玖杜を黙らせる。

 

「お、おにい……」

 

「お前はあの部屋に居ろよ。ずぅぅぅぅぅっと一人で、さみしく、死ぬまでな」

もう玖杜を助ける者はいない。

天峰も、夕日も、兄弟も。そして自身を必死に守って来た『クノキ』さえも。

あと、すこし、あと少し勇気をもって天峰に声を掛けていたら――

そんな、事を夢想しながら玖杜は八家に手を引かれ電車に乗った。

 

 

 

手をひいて欲しい男の手は、きっともっと温かいのだろな、と玖杜は思った。




人にはそれぞれ、ストーリーが有る。
天峰にも、夕日にも。卯月にも……さっきであった男にも……
それが目撃できるかは別として……


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ごめんね?もう、無理なんだよ

はい、長かった3部ももう終了デス。
しばらくは夏休み編かな?
現実世界では、終わったけど……


有る日曜の日。

正確には天峰が卯月と出かけた次の日。

夕日は一人ホームセンターに来ていた。

 

「…………♪」

鼻歌を歌いながら上機嫌で、文房具コーナーに並べられたカッターナイフを見る。

100円で2本付いてくる安い物や、逆に替えの刃だけで3000円以上する高価な物までさまざまだ。

共通するのはどれも『切る』という事に機能の重点が置かれている事。

 

「!!……良い……」

偶然一本目に留まった、カッターを手に取ってみる。

 

「……む……」

しかし上機嫌なのはその一瞬だけ、すぐに残念そうな顔をして元の場所に返してしまう。

形や、サイズは気に入ったのだが重さが気にくわないらしい。

手にフィットしそうなだけ、残念に思えた。

 

「……まぁ……いい……」

文房具コーナーを後にして、今度は併設されているペットショップのコーナーに向かう。

少しずつ、動物特有の騒がしさがしてくる。

 

「キャン!!キャン!!」

 

「アン!!アン!!」

 

「zzz……」

 

「にぃ……」

ガラスケース越しの子猫や子犬が元気に自身の存在をアピールしている。

 

「かわいい……」

子犬の姿をみて思わず、頬がにやける夕日。

 

「あおーん!?」

夕日の視線の気が付いた子犬が、ガクガクと震え始める!!

後ろ足の間に、尻尾を巻き付けケースの端に座り込み、ついには粗相をしてしまう!!

怯える子犬をみて、夕日が再び不機嫌になる。

 

「……負け犬……に……用はない……の……」

その場から悔しそうに、踵を返すと後ろに見知った顔が有った。

 

「玖杜?」

玖杜が、買い物かごをもって歩いていた。

 

「!?  あ、ああ……この前の……」

視線を合わせず、露骨に目をそらして話す。

 

「……それ……どうしたの……?」

買い物かごに入った、大型犬のリードを指さす。

 

「こ、これは……家の犬用のリードだよ、古くなったから」

それだけを早口で話すとその場からそそくさと逃げる様に、走っていったしまった。

しかし最後に、少しだけ振り返って手を振り笑った。

 

「バイバイ、夕日ちゃん」

 

「…………うん?」

夕日は玖杜の、前とわずかに雰囲気の変わった後ろ姿を見送った

一抹の不安を抱えながら……

 

 

 

 

 

深夜の野原家にて……

割れた伊達眼鏡を握りしめ、玖杜がホームセンターの袋をおく。

 

「揃った……」

自室のテーブルの上に集まった道具を見て、玖杜が小さくつぶやいた。

その目は暗く、生気というモノが全く感じられない。

 

「あとは……時間を待つだけ」

そう話すと、玖杜はテーブルの上にある一つのビンを手に取った。

 

 

 

 

 

テストも終わり、夏休みのカウントダウンに入った志余束高校の面々。

帰って来るテストの点数に不安のあるメンバーをのぞけば、ウキウキ気分である。

天峰もその『ウキウキ』サイドの人間である。

今日の授業も終わり、駅前で夕日と一緒に本屋に入っていく。

 

「ねぇ、夕日ちゃん。夏休みの予定ってなんか有る?」

旅行ガイドなどが書かれた、本を取ってパラパラとめくっていく。

 

「……無い」

 

「なら、何処か温泉とかどう?日帰りなら、何とか手が出そうだよ」

そう言って、観光地の温泉のチラシを指さす。

最寄りの駅から、専用の長距離バスが出ていると説明が有る。

 

「……温泉?……嫌……傷……見せたくないから」

この言葉と共に、夕日は瞳を伏せてしまった。

上手く隠しているが、夕日には未だに多くの傷跡が体に残っている。

時が経つにつれ消えていく物も多いが、結局は傷は目立つ目立たないに限らず残るし、何よりも夕日の心に付いた傷は治りはしない。

 

夕日の右の眼もそうだろう……

 

唇をかむ夕日、その様子を見た天峰が小さく頷いた。

 

「えい」

 

「!!!?!!!!!?」

指を伸ばし、夕日のカッターシャツを軽く引っ張る。

白い布地がめくれ、それと同じくらい白い夕日の肌が僅かに空気に触れる!!

 

「な……なにするの!!」

珍しく夕日が声を荒げ、天峰を糾弾する。

誰か見ていてもおかしくない場所で、シャツを捲られたら誰でもこうなるだろうが……

 

「夕日ちゃん?俺は夕日ちゃんに、何が有ってもどんな傷が有っても味方だから。

だから、夕日ちゃん。自分で自分を敵にしない――」

ドゴッ!!

天峰の顔に夕日渾身の右ストレートがめり込む!!

 

「夕日ちゃん!?今、せっかく良い事言ってたのに!!」

 

「……うるさい……公共の……場で……妹の……服を捲る変態は……制裁……する!!」

夕日の手の入れた、ポケットの中からカチカチカチとカッターの音がする!!

天峰の義妹はご機嫌斜めの様だ。

明らかに本気だ、本気と書いてマジと読むレベルでの殺気を飛ばして来る!!

 

「ゆ、夕日ちゃん?お、俺が悪かったから、悪かったからそのカッターをしまってくれないカナ!?」

ガクガクと震えながら、天峰がじりじりと追い詰められていく。

 

「ダメ……制裁……するから……」

遂に天峰が壁際まで追い詰められる!!

丁度死角になる位置であるため、店員は居ない!!

 

「うぇ、うぇい!!ちょっと――ウェイ!!」

両手を上げて降参のポーズをする天峰の、左腕と頬の間を何かがすさまじいスピードで通り過ぎる!!

 

ビィィン……

 

本屋の壁にカッターが突き刺さりわずかに揺れる。

 

「次は……無いから……」

 

「わ、解りましたぁああああ!!」

容赦のない目でこちらをを見上げる夕日に、天峰が必死で謝ったのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『楽しい時間はいつか終わる』

 

知っている。

誰でも、何でもそうだ、良い事も悪い事も無限に続く、なんて事は絶対ない。

 

手に持つ本の、最後の一文を読み終える。

また一つ『楽しい時間』が終った。

 

「はぁ、そっかぁ……」

数年前から、読み続けていたシリーズ物の本。なんと本日遂に完結。

実は結構楽しみにしていた、だけど読み切ってしまえばそれはタダの物語。

ヒロインと主人公が抱き合ってキスして幸せに成って終了。

ありがちなハッピーエンド。

 

けど私には、届かない世界のハッピーエンド。

 

「あの、そろそろ閉館の時間でして――」

申し訳なさそうに職員の女の人が、『私』に話しかけてくれる。

 

丁度いい、今読み終わったところだ。

 

『私』はその言葉に反応をして、本を閉じ立ち上がる。

 

「あ、何時もみたいに貸りていく?」

 

「いい、もう読み終わったから」

本を渡し、家から持って来たリュックを手にし図書館から出ていく。

 

さて、何処に行こうか……夜まで時間が有る。

けど食事や飲み物を口にする訳にはいかない、せっかくの準備が無駄になるから。

 

「公園に行こうかな」

 

『私』は誰に言うでもなく、その言葉を呟いた。

本当は、誰かに聞いてもらいたかった。

 

『こんな時間に何処に行くの?』って。

 

『私』に無関心な人の波をかき分け、公園に向かっていく。

 

こんなにも、辛い人生を『終わらせる』為に…………

 

 

 

 

 

用意する物。

1適度な高さの物(人を一人抱えても崩れないほど)

2丈夫なロープ(手に入り難ければ大型犬用のリードがおすすめ)

3簡単に倒せる足場

 

その他、なるべく後を汚したくない人へ。

3日ほど、食べるのを抜きましょう。極端な話、出る物が無ければある程度キレイに逝けます。心配なら下剤も併用しましょう。

眼球が飛び出る可能性もあるので、ネクタイ等で目を押さえましょう。

 

便利な世の中だ。パソコンを利用すればこんな事まで、すぐにわかる。

 

 

 

人の少ない夜の公園、適当な木に登り虫の声を聴く。

持って来たリュックの中の、イヌのリードを木の枝に巻き付けていく。

注意の様に、食事も抜いた、下剤も飲んだ、ネクタイも準備した。

最後の仕上げだ、自身が抵抗しない様に簡易だが自身の手を後ろでに縛る。

この、町の光景も今夜で最後だ。

 

さて、そろそろ――逝こうか。

ネクタイを目にキツク巻き付け、首にかかるリードの強度も確かめる。

 

「ゲーム・オーバー、だね」

 

「……ダメ!!」

木から飛び降りようとする時声が掛かる。

不審に思い、ネクタイの目隠しを外して相手を見る。

 

「あ……」

この前会った、夕日だった。

此方を射殺すかのようなすさまじい視線で見て来る。

 

「……こんな事……して……なんになるの?」

責め立てる様な視線が、玖杜に投げかけられる。

 

「何にもならない。何にも成らないからこそ、こうするの」

視線に怯えながらも、何とか言葉を絞り出す。

その答えに夕日が辛そうな顔を一瞬だけする。

 

「……私は……アナタに……生きてほしい……とは……思わない

正直……どうでもいい……」

 

「じゃあ何で止めたの!?時間を掛ければ私が心変わりすると思うの!?」

 

「言ったハズ……アナタの……生き死に……興味は無い。

けど……アナタに……死んでほしくない人が……要るハズ……」

そう話す夕日はさっきまでの感情はなりを潜め、非常に平坦な声だ。

まるで感情の無い人形が、人間のふりをして話している様な錯覚にさえ引き込まれ始める。

薄っすらと、不気味な物を感じさせる。

 

「前にも言ったよね?アンタなんかに解らないって。

私はもう疲れたの……出来る兄たちと比較される事に、辛くても苦しくてもヘラヘラ笑って『辛い事なんてありませーん』って感じで振る舞うのも!!全部もう疲れたの……」

 

「………………………で?」

 

「『で』って……アンタが聞いて来たんでしょ!?アンタが知りたがったんでしょ!?」

玖杜が感情を爆発させる。

偽りでも、フリをしたものではない本物の『怒り』をあらわにする。

 

「自分を可哀想がるのは、もう終わりぃ?ねぇ?悲劇のヒロインごっこはもう終わりぃ?ねぇ?ねぇ?勝手に自分を追い込んで、一人で死ぬのって、どんな気持ちぃ?」

ニヤァッと効果音の出そうな、笑みを顔に引っ付けて夕日がケタケタ笑う。

バカにして嘲笑う笑みを一切の遠慮なく向けてこちらを笑いものにする!!

さっきとは180°違う、別の狂気に再び玖杜が震えあがる!!

 

 

 

「わ、私は――来ないで!!来ないでってば!!」

玖杜が怯えて後退しようとする。その時、体がバランスを崩し転びそうになる、通常なら木の枝の上から落ちても軽いケガで済む。

しかし、今は枝と首にリードが絡みついてる、後ろに下がれば落ちて首のリードが絡まり死んでしまう!!

咄嗟に、木の枝を強く握りしめる。

 

「なんだ……死ぬの……怖いんじゃ……ない」

5メートルほど前で、夕日がこちらをじっと見ている。

 

「あ、当たり前じゃない!!私だって!!私だって死にたくはないわよ!!」

その言葉に玖杜が咄嗟に反論する。

 

「……なら……家に……帰ろう?

……辛い事は……胸の奥に……しまって……いつか……無くなるまで……

隠して……おくの……そうすれば……きっと……」

 

「ごめん、そうだよね。うん、そうすれば良かったんだよね?

けど、ごめんね?もう、無理なんだよ」

 

玖杜が素早く顔にネクタイを巻き付ける。

そして……

両手に力をかけ、枝から飛び降りる!!

 

一瞬誰かがこちらに走って来るような空気を感じた。

夕日だろう。

けどもう無駄、この距離じゃ間に合うハズが無い。

直ぐに自身の首に力が掛かり、血の流れを押さえ『私』がこの世から消える。

目隠しによって画面の向こう側が消え、さらにこちら側も消え、最後に自分が消える。

 

 

 

ハズだった……

 

「……ダメ!!」

堕ちる『私』に誰かが飛びつく!!

目隠しをしているので相手がだれか解らない。

だが、誰かが私を受け止めようとしている。

 

「が、ハッ!?」

落下の衝撃で首の骨が折れる事を期待したが、そうもいかないらしい。

仕方ない、もう少し苦しもう……

『私』は首に掛かる圧力を感じながら薄れる意識の中で、そう考えた。

 

「夕日ちゃん!!」

 

「わかってる!!」

ふわっとした一瞬の浮遊感、首に掛かる圧力が楽に成った。

次にネクタイが取り払われ、私を覗き込む二人の男女が視界に入った。

 

「お、おにーさん……?……」

呆然としながら、二人を呼んだ。

夕日の手には、カッターナイフ。

どうやら、ソレでリードを切った様だがすさまじい切れ味だな、なんてことを考えていた。

 

「クノキちゃん!!なんでこんな事したんだよ!!」

 

「玖杜…………」

二人が本当に真摯な声音で、玖杜を叱りつける。

相手の事を思った真摯な、言葉は荒んでいた玖杜の心に深く深く響いた。

その瞬間、死を回避したことを理解し体が震えだした。

 

「あ……ごめん、なさ……い。

けど……なんで?」

 

「最初から俺はクノキちゃんの後ろに居たんだよ。

夕日ちゃんが考えてくれたんだよ、『イザという時の為に、後ろから近づいて』って。

ちなみにだけど、自殺を予測したのも夕日ちゃんだよ?」

 

「……様子が……おかしかったから……だから天峰に……聞いた。

八家の家は……犬を飼ってるのか……って」

夕日が天峰を見ながら話す。

その言葉を、天峰が引き継ぐ。

 

「飼ってないよね?八家のお兄さん、七喜(ななき)さんが犬アレルギーのハズだからね」

 

「……そこから……私が……アナタの行動を……予測した」

 

「まぁ、最悪のパターンとしてだったけどね?しそうな日でもあったし」

尚も真剣な顔で天峰が、じっと睨んで来る。

 

「しそうな日?」

 

「月3回図書館にラノべ、読みに行くんでしょ?本屋で調べたら、今日が前クノキちゃんの呼んでいた本の発売日だったんだよ。

死ぬ前に読みたがると思ってね?

まぁ、今日いきなりだとは思わなかったから、内心かなり焦ったよ」

 

意とも簡単に自身の行動パターンを読む二人に、玖杜が驚きの声を上げる。

それ以上に、自身の出したメッセージを受け取ってくれる二人が嬉しかった。

意識などしていない、小さな小さな自分のサイン。

この二人はそのサインを受け取り、自分の為に、玖杜の為だけに動いてくれたのだ。

 

「あ、ああ……私……一人じゃ、ないんだ……ちゃんと……『私』を見てくれるんだ……

玖杜を見てくれる人が、居た」

ボロボロとその場で、涙を流す玖杜。

 

遠く、見るだけだった世界。

レンズの向こうの、遠くて近い世界。

そんな世界を超え、現実の存在が、今、玖杜を救うために来てくれたのだ!!

 

 

 

「おい、屑!!こんな所で何をしてるんだ?」

公園の入り口、息を切らせながら八家が走って来る。

つかつかと近寄ったかと思うと、玖杜に対して右手の拳を振り上げる。

 

「このッ!!愚図が!!」

しかし、その拳が振り下ろされる事は無かった。

 

「おい、ヤケ」

天峰が八家の手を掴んで止めていた。

 

「おまえは……天峰?なんでここに?」

玖杜に気を取られていたのか、此処で初めて天峰の姿に気が付いた様だった。

 

「歯ぁ!!食いしばれぇ!!」

逆に天峰の拳が、八家に叩きこまれる!!

バランスを崩し、八家が倒れる。

 

「痛てぇな……何するんだ!!」

 

「今のは、夕日ちゃんの変わりの一発……そんでコレが!!クノキちゃんの分!!」

更にもう一発、八家を殴りつける!!

パシィ!!

今度は、八家が天峰の拳を受け止める!!

 

「なんども、殴ってんじゃねーよ!!ロリコン野郎!!」

遂に切れた八家が、天峰を殴り返す!!

 

「ああん!?見境なしの変態野郎が!!活きがってんじゃねーよ!!」

夜の公園で二人の男が喧嘩を始める。

 

 

 

「何でお前が、家の妹に関わっているんだ!!」

 

「お前が!!クノキちゃんを追い込んだからだろ!!」

突きと蹴りがお互い交互に、繰り返される!!

防御など無視の削り合いだ。

 

「追い込んだ?何のことだよ!!」

 

「夕日ちゃんからッ!話は聞いてる!!」

 

「コイツが引きこもっている事をか?我が家の恥じという事をか?」

 

「違う!!お前が追いこんだから!!追い込んだからこんなことに成った!!」

八家の眼前に切れたリードを持ち出す。

そのリードをみて、八家が動きを止める。

 

「なんだソレ?なんで片方が木に?なんでもう片方が玖杜の首に……?」

何をしようとしていたか、何となく察した八家が愕然とする。

 

「何も知らないのか?兄妹なのに?」

 

「俺は……追い詰める気なんて無かった……!!

ただ、いつまでも、出てこないコイツを思って――」

ガクガクと今度は八家が震えだす。

 

「伝わってなかったんだよ、ヤケ。

お前、一度でもクノキちゃんとしっかり話した事はあったのかよ!?

理解してあげようとしたのかよ!!」

天峰が八家の首を掴む。

自身のしたことを理解し始めた八家の体から力が抜ける。

 

「お兄ちゃん……私……お兄ちゃんが怖かった……いつもイライラしてて、私にだけ厳しいし……」

玖杜が八家に優しく話しかける。

 

「俺は、お前に前みたいになってほしかったんだ!!兄さん達みたいに成らなくても良い!!立派じゃなくてもいいんだ!!ただ、一緒に話がしたかったんだ!!

すまない。お前の気持ちを汲んでやれなかった!!」

地面に座り込み、八家が玖杜に許しを請い始める。

 

「お兄ちゃん……」

 

「良かったね、クノキちゃん。ヤケはちゃんとクノキちゃんの事を考えてくれてたんだよ?」

呆然とするクノキの肩に手をのせ、八家の方に向かって優しく押し出す。

玖杜と八家が、何かを語り始めた。

その様子をみて、天峰が公園の出口に夕日を連れて向かう。

 

「何処行くの?」

 

「ココからは、家族の話だよ。俺たちに出番はもうないよ。

後は、二人が他のお母さんやお父さん、みんなと話して解決する問題さ」

 

「私も……いつか……いつかまた、お母さんと話せるかな?」

尚も眠り続ける自身の母を思い出し、夕日が天峰に尋ねる。

 

「絶対話せるよ。何が有っても家族の絆は消えないんだ

あ、もちろん俺と夕日ちゃんは家族だからね?」

にこやかな笑みを浮かべて、天峰がほほ笑みかける。

 

「うん、解ってる」

 

 

 

 

 

そんな、二人の目の前にパトカーが停止する。

「はーい、そこの不審者4名!!止まりなさい!!近隣の住民から、喧嘩が有るとの通報があった!!全員その場で両手を上げなさい!!」

青い制服を着た警察官が、公園内の4人を呼び止める!!

 

「天峰……マズイ?」

 

「かーなーり、まずい!!」

夕日の問いかけに対して、天峰が冷や汗を垂らしながら答える。

天峰自身は特に何もないが、隣の夕日はカッターを持ち歩いているし、おそらく公園内の八家は服の下に常にR18の本を持ち歩いている。

それどころか、玖杜は未だに首に大型犬用のリードが付いている!!

カッター、エロ本、幼女に首輪!!どれを見られてもアウト確定!!

どちらも見つかったらやばい!!

 

「ヤケぇ!!全力で走るぞ!!」

 

「おう!!」

天峰が夕日を抱き上げ、八家が玖杜を抱き上げ、それぞれが逆の方向へと逃げ出した!!

 

「あ!!待ちなさい!!」

警察官と夜の追いかけっこスタート!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夏の日光がアスファルトを加熱する。

じりじりと自分が汗に溶けてしまうのではないかとさえ思う。

強い日差しが、嫌になる。

夏を謳歌する運動部員の輝きが、嫌になる。

教室内のにぎやかな声が、嫌になる。

先生の優しい視線が、嫌になる。

今、此処に居る自分さえも、嫌になる

 

だけど、目の前の男だけは嫌に成らない。

 

「やぁ、クノキちゃん!!補習はもう終わり?」

 

「終わってるよ!!最低の意味でサ!!全教科補習ってどういう事なのかな!?コレは陰謀だよ!!インボー!!イン!!ボインボイン!!」

当然だが、テストを受けていない玖杜は全教科分の補習と授業の補講が有る。

夏休みは殆どこれで潰れた様だった。

 

「クノキちゃん、落ち着いて。実はプールに行こうと思って誘ったんだよ」

 

「プール!?あの、監視員成らぬ姦視淫が居るリア充の性地に!?

おニーさん、私の体が目当て!?ロリコンおニーさん逮捕寸前!?」

 

「ちがうちがう、まどかちゃ――知り合いの子が『流し素麺がしたい』ってプールを貸し切ったんだよ。流れるプールで素麺流すんだって、量が多いから友だち呼んで来いって言われてる」

 

「お兄ちゃんは?来るの?」

 

「俺は――あ、ヤケか。行くって、大興奮してたよ?」

 

「なら、私も行く!!」

そう言った玖杜の胸には、八家に買ってもらった伊達眼鏡が紐に吊るされて夏の光を反射していた。




何気に8月31日が日本で一番自殺が多発する日らしい。
人によっては、少し辛い内容だったかもしれませんね。

余談ですが、作者は中学生の頃友人に自殺を仄めかされた事が有ります。
中二だったのか、本当につらかったのか……
放課後の教室で
友「俺生きるの辛い……死のうかって考えてる」
ラム「俺もそんな時有るよ?」
友「なら、一緒に死のうか?」
友人目がマジだったので、コレはやばいと思いましたね。

ラム「しかたねーなー」
学校備品の鉛筆削りで、鉛筆削る。

ラム「えい」
首にブスリ!!

友「おい!?やめろよ!!」

ラム「ん?次はお前の番だろ?」
ぐりぐり……
友「……や……やめろよ!!」

ちなみに指す前に、尖ってない方と変えたので全然刺さってないんですよ。
完璧驚かす専用。
それ以来、彼は自殺を仄めかす事を止めてくれました。
中学卒業した今でもいい友達です。
半分くらいフェイクはいってますがね?

皆さん、命は大切に。


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Erosion passion~修業式後の帰宅時間が至福だと思う~
手口が……鮮やかすぎる……


今回から、夏休み編。

皆さん、夏のイベントって何がありましたっけ?
割とガチで募集するので、気軽にメッセージください。


ペラ……パラ……

夕食も終わり、風呂も入り終えた夏の日の夜。

夕日は一人自室で、友人の久杜から借りた漫画を読んでいた。

 

トントン。

 

「夕日ちゃん?俺だけど、今入って良いかな?」

ノックの音と同時に、部屋の外から夕日の義理兄である天峰の声が聞こえた。

 

「……問題ない」

 

「ん、お邪魔します」

夕日の返答を聞いてから、天峰が扉を開け入って来る。

部屋の真ん中、テーブルに向かい合う様に天峰が座った。

 

「……どうしたの?……こんな……時間に?」

時刻は既に11時を過ぎている。

こんな時間に天峰が来るのは珍しい事だった。

 

「あー、うん……実は明日から、夏休みでしょ?だからさ、俺の部屋に来ない?」

 

「?」

天峰の言葉で夕日の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

明日から夏休みなのは知っている、実際久杜も「夏休みの補習が~」などと嘆いていた。

だが、夏休みなのと、天峰の部屋の自分が誘われる事の関連性が解らない。

 

一瞬の後夕日の中に、とある記事がフラッシュバックする。

 

「……ひと夏の……アバンチュール(火遊び)が……したいの?」

以前みた雑誌で、そんな事が書いてあったのを思い出し夕日が指摘する。

立ち上がりながら、自身のパジャマのボタンに指を掛ける。

 

「ゆ、夕日ちゃん!?違うよ!!確かに、夕日ちゃんとなら……って違う違う!!

夕日ちゃんの部屋って、天音の部屋の隣だろ?だから今夜は俺の部屋に避難しに来ないかって事。

あー、夕日ちゃんって何処かネジ抜けてるよね?」

 

「……む……無礼な……」

 

不機嫌な夕日を見て慌てふためいて天峰が否定し、その後説明をぽつぽつと始めた。

因みに、微妙に見える夕日の鎖骨の視線が集中している。

 

曰く、天音は夏休みが大好きらしい。

曰く、夏休みスタート直前。つまり今は非常にテンションが高い。

曰く、両親はこの日ばかりは耳栓をして眠るし、お隣どころか3件隣の家までもが耳栓をして眠るらしい。例外は耳の遠い向かいのおじいちゃん。

 

「………………何それ?」

天峰の説明を聞きながら、夕日がジト目でつぶやいた。

当然だが、信じられない事だらけだだった。

 

「夕日ちゃんは、解んないだろうけどウチでは毎年そうなんだよ。

俺の部屋、いつでも避難してきていいから……

あ。コレ、夕日ちゃんの分の耳栓」

天峰が夕日の二つの耳栓を渡す。

天峰の冗談だと思っていたが、突然出てきた小道具の真実味が増していく。

その後天峰が部屋を出ていく。

残されたのは、夕日と天峰の渡してきた耳栓のみ。

 

「……訳が……わからない……」

夕日は、冗談か本当かさえわからない出来事に目を丸くする。

夕日にとっては、幻原家特有のテンションは少しずつ慣れてきたがまだ、完全には飲み込めていなかった。

 

 

 

 

 

「そろそろ……眠い……」

漫画をキリの良い所まで読み終わり、ふと時計を見るとすでに12時(夏休み)まで10分を切っている。

当然だが、隣のハイネの部屋からは物音すらしない。

 

「……からかわれた……?」

勝手に天峰の言葉を解釈して、漫画を片すと自身のベットに入る。

終業式などがあり疲れていたのか、ゆっくりと夕日の意識が夜闇の溶けていく。

 

……明日から……夏休み……天峰と……遊びた――――

 

「夏休みぃいいいいいい!!!スタートぉおおおお!!!!サマーシーズン到来!!ワッショイ!!ワーショイ!!ヒャァハハハハハハ!!」

 

「!!??!?!?」

突如壁の向こうから響く爆音と振動!!

始めは地震が起きたのだと思った。しかし!!

時計を見ると0時きっかり!!

 

「夏休みスタートじゃぁあああああああああ!!!!!!!」

ボゴン!!ボゴゴゴン!!

隣の部屋から、何をしているか分からない怪しげな音さえ聞こえてくる!!

響く大音量の声と激しい振動にすっかり夕日は目が覚めてしまった。

 

「……うそ……でしょ……?」

まるでわんぱく小僧をレベル99にしたような衝撃が伝わってくる。

仕方なく、天峰のおいていった耳栓を装備する夕日。

一応は何とかなるが……

 

「……まだ……うるさい……」

隣の部屋の抗議に行ってもいいが、正直いって今の天音のテンションに付いていける気はしない。

 

――俺の部屋、いつでも避難してきていいから――

 

脳裏に天峰の声がよぎった。

 

「……行くのも……悪くない……」

そう思い、適当に自分の枕と愛用のカッターナイフを持ち出し自身の部屋から出ていく。

 

「なっつやすみ~ヘイ!!なっつ休み!!」

 

「……………」

未だに、うるさく騒ぐ天音。

扉一枚隔てているのにすさまじい音が響く。

 

ガゴン!!

 

「………………痛……」

ついイライラしてしまい、天音の部屋の扉を蹴とばすが自身の足の指をぶつけるだけだった。

そそくさと、天峰の部屋に向かう。

 

 

 

「天峰……天峰……」

ドンドンと扉を叩くが、全く反応がない。

天音の騒ぎで聞こえていないのだろうか?

 

「仕方ない……開ける……」

天峰なら怒りはしないだろうと決めつけ勝手に扉を開ける。

 

「あー、うるさ――夕日ちゃーん!!来てくれたんだ?」

枕をかぶっていた天峰が、此方を見つけると同時に手を振ってくる。

 

「……天峰……ハイネが……うるさい……此処に……居させて……」

 

「うん!!イイよイイよ!!好きなだけ居てよ」

そう言って、ベットの端に体を移動させ夕日の入れるポジションを作ってくれる。

 

「……お邪魔しま……はッ!?」

天峰のベットに横になりながら、夕日が何かに気が付いたように驚いた顔をした。

 

「ん?どうしたの?夕日ちゃん」

 

「……私……ナチュラルに……天峰の隣に……呼ばれた……」

改めて確認すると、天峰と夕日は二人で一つのベットを使っている。

さらに、すぐ目の前の天峰と体をくっつけている!!

 

「いや、ベットせまいし……こうしないと寝れないでしょ?」

更に掛布団を夕日にかける。

仕方なし、と言いたいのだろうか?

 

「……天峰……偶にだけど……手口が……鮮やかすぎる……」

布団にもぐりながら、夕日がぼそりと話す。

布団という布の壁におおわれているせいか、大分天音の声が静かになる。

 

「そうかな?別に普通に接しているだけの積りだよ?」

同じく天峰も布団の中に入って来る。

夕日に顔を近づける為か、天峰がしゃがむ様な姿勢を布団の中でする。

すると当然だが、天峰と夕日の顔がお互いの息がかかるまでの距離に近づく。

 

「……流石……ロリコン……」

 

「ゆ、夕日ちゃん!!そんな事言わないの」

自身の唇の指を当て、ジェスチャーを繰り出す。

 

「……秘密……?」

 

「そ、言っちゃダメ」

天峰の必死な顔をみて、夕日がこっそりと笑った。

焦った様な、慌てた様な、それでいてこちらを諭す様な天峰の表情。

夕日はこの表情が大好きだった。

 

「……わかった……秘密に……する」

そう言って再びおかしそうに笑った。

 

 

 

「夕日ちゃんってさ、最近笑う様に成ったよね」

天峰の指摘に夕日がふと思い出す。

そうだ、病室の頃から比べると自分は――

 

「俺さ、正直言うと夕日ちゃんのイメージって、初めて会った時の不機嫌な顔のイメージなんだよね。

ほら、つまらなそうで、ムスッとしててさ」

 

「……うん」

天峰に言われるまでも無い。

その事自体、夕日はしっかり自覚していた積りだ。

小さな部屋で、自分だけの世界で――

 

「私の……中……勝手に……入って来た……から……」

 

「うん、知ってる。けど、夕日ちゃんじゃなくちゃ、こんな風に成ってなかったと思う……」

ゆっくりと天峰が語り始める。

 

「夕日ちゃんを見た時思ったんだ、『この子の笑顔が見たい』って。

だって、夕日ちゃん位の子はもっと、明るくて笑ってるべきだよ。

……天音はやりすぎだけどさ……」

そう言って、夕日の頭に手を伸ばす。

 

「いろいろあったけど……見れて良かったよ」

笑いながら、天峰が夕日の頭を撫でていく。

 

「…………天峰………」

夕日の瞳をみて、今更だが天峰は自分が夕日の頭を無断で撫でている事に気が付いた。

バッと慌てて自身の手を離す。

しかし、夕日はその手を掴み再び自分の頭の上に置いた。

 

「夕日ちゃん?」

 

「もっと……撫でて……撫でられるなんて……無かった……から……」

 

「解った……」

夕日の懇願を聞いて、再び夕日の頭を撫で始める。

サラサラと、夕日の髪を天峰の指が触れていく。

 

「天峰……私……この家に……来れてよかった……

こんなにも……幸せ……」

 

「そっか、明日から、またたくさん遊ぼうね?

家族は、夏休みにどっか遊びに行くものだよ」

 

「うん……お兄ちゃん……」

天峰に撫でられながら、夕日がゆっくりと寝息を立てていく。

体感的にだが、おそらく1時過ぎだろう。

中学生の夕日が眠ってしまうのも無理はない。

 

すー、すー……

 

天峰の目の前で、夕日が眠っている。

天峰の前で、無防備に寝ている。

そして、周囲には誰もいない。

 

「…………信用されてるのか……男として見られていないのか……」

嬉しさと釈然としない感情がないまぜになって、天峰の心の中で渦巻く。

 

「ショージキ言って……かなりタイプなんだよな~」

ムスッとして、滅多に感情を出さないが偶に笑う笑顔が天峰はたまらなく好きだだった。

 

「…………」

眠る夕日の唇の天峰の視線が集まる。

そして、体を近づけ……

 

「……だめだ。コレはだめ。ちゃんと心を通じ合わせるべきだ」

そう言って、天峰が夕日の反対方向を見て眠る。

 

「………いくじ……なし……」

誰にも聞こえない声で、夕日がひっそりと呟いた。

こっそりと自身の胸に手を這わせる。

うるさいくらい心臓が鳴り響いている、よく天峰に気が付かれなかったものだ。

 

「……本当は……私にだけ……笑ってほしい……私にだけ……好きって言ってほしい……」

懐から、カッターを取り出し天峰の首筋に当てる。

普段からよく手入れしている道具だ。

人の皮膚を破く位何でもない。

 

「ここで殺せば天峰の心に最後に残るのは……私」

二ィっと夕日の頬が吊り上がる。

想像する、首筋から()が零れる瞬間を、さらに自身の首を斬りこの布団の中で天峰の()と自身の()が混ざりあうのを――

 

赤と赤が混ざって黒く濁って――

 

「とってもきれい?」

そう言って腕に力を加えるが、すぐに手を離す。

 

「だめ……きっとまだ……天峰が……必要な子がいる……」

先日の玖杜の様にきっと、そんな人がまだいるハズだ。

 

「けど……今は……私の《お兄ちゃん》だよね?」

そう言ってカッターをしまうと、天峰の胸に飛び込んで眠り始めた。

 

 

 

 

 

30分後……

「アニキー!!腹減ったー!!ラーメン奢ってくれよ!!」

天音が扉を叩き壊す寸前の力で開いて、天峰の自室に侵入する!!

 

「うーん……なんだよ……俺はもう眠いんだ……ラーメンなら明日の昼に――」

 

「ハイネ……うるさい……」

二人がベットから這い出ると同時に、ピタリと騒音が止まる。

 

「「?」」

 

「お、お、お……」

 

「どうした?」

 

「あ、アニキと夕日がベットインしてるー!!前々から怪しいと思ってたんだ!!」

二人の様子をみた、天音が今まで以上に大きな声で騒ぎ立てる!!

翌日近所に弁明する事になったのは別の話。



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時代は……小型化……

レッツ投稿。
皆さん、今更ですが夏休みの思い出って何かあります?


ジーリ、ジーリ……灼熱の太陽が容赦なくアスファルトを焼いていく。

道行く人は皆、シャツに汗シミを作っているし、ニュースを見てもキャスターが「今日は記録的な猛暑日です」なんて誇らしげに話しているほどだった。

灼熱地獄、まさにそう呼んでも過言でない夏のよくある日常。

だが……

 

「あ~、部屋の中、涼し~……こーして一日中ゴロゴロしたいぜ~」

ベットの上で、天音がゴロリとアイスを口に咥えて寝転がる。

服装は肌着のシャツとパンツのみで、到底人に見せる事の出来ないあられな恰好である。

体に悪いと解りつつ、エアコンの風と扇風機の風を受けて気持ちよさそうに、目をつぶる。

 

「……ハイネ……宿題は?」

カリカリと鉛筆を走らせながら、夕日が天音に向かって言葉を投げかける。

ベットの前の机には2人分の宿題。

当然、天音と夕日の物だった。

 

「あー……そんなの後、後、どーせまだ、休みは30日以上あるんだぜ?

寧ろ7月中に終わらせるヤツの方が珍しいっての~」

そう言って、再び体制を変え、枕に顔をうずめる。

 

「うえ!?クッサ!!天峰くせー!!」

枕を手に取り投げる!!

それは一筋の矢の様にまっすぐ飛んでいき……

 

「むぎゅ!」

狙ったわけではないハズの枕が、夕日の顔に当たる!!

 

「あ、わりー……」

 

「……鼻に……当たった……」

夕日の恨めし気な顔に、天音がひるむ。

 

「……元の……場所に……片付けて……」

不機嫌な表情を見せながらも、夕日は天音に枕を投げ渡す。

 

「えー、クッセーんだよ……あー、触りたくねー」

指でつまんで元のベットの所に戻す。

乱雑で、いかにも「触りたくない」というアピールをしている様だった。

 

 

 

「おい……あんまり、人の枕の匂いについて言うなよ……」

その時、天峰がジュースを持って部屋に入って来る。

この部屋、実は天峰の部屋だった。

今は訳が合って、天峰の妹たちにの為にクーラーが付いている。

 

「おー、これこれ!!労働の後の一杯は格別だなー」

天音が天峰から、ジュースをひったくる様にして一気に飲み干した。

 

「……ハイネは……勉強……してない……」

天峰から渡された、ジュースを手にしながら夕日がぼそりと声に出す。

 

「あ?別にいいだろ?それに誘ってのは、そっちだろ?」

 

「泣きついても……助けない……から……」

夕日の予想通り、天音は8月31日に答えを見て宿題を終わらせるタイプだった。

 

「そうだぞ?お前、いっつも31日に慌ててるんだから、今年こそは早めに終わらせろよ?」

 

「アニキもかよ!?ってか、夕日にちょっと甘いんじゃねーの?勉強させるのに自分の部屋に呼んだりよ?実はこっそりデキてんじゃねーの?」

下世話な笑みを浮かべて、天音が天峰の分のジュースに口を付けようとする。

 

「違うって、夕日ちゃんの部屋って前まで倉庫だったろ?だから、エアコン無いんだ。

そんな部屋に居たらすぐに熱中症で大変なことになるだろ?

だから、俺の部屋に呼んでるの」

天音の手から、自身の分のジュースを奪い取りながら、天峰が説明する。

 

「へん!!熱中症なんてなるヤツが軟なんだよ!!

よ~し、太陽に喧嘩売って来る!!」

立ち上がり、外に出ようとした天音を天峰が捕まえる。

 

「太陽に喧嘩売るのは、夏休みの友を10ページ終わらせてからな?」

天音の分のテキストを持って、目の前でふる。

 

「天峰……友達になった気も無いのに、相手から『友達だよなー?』ってすり寄って来るヤツがどんだけうるさいか知ってるか?いくら否定しても、来るし、冬も来るしでストレスがマッハで溜まるんだよ!!夏休みの『友』だと!?むしろお前は邪魔する側じゃねーか!!」

バシンバシンと、何度も夏休みの友を殴り続ける天音。

どことなくテンションのおかしい事に気が付く。

 

「おい、どうした?」

 

「……たぶん……熱中症……馬鹿みたいに……暴れてたから……」

カリカリとペンを走らせながら、夕日が指摘する。

何時もの様に無表情で、全く心配というモノが感じられない!!

 

「ち、ちげーし……ちょっと、ふらつくだけ……だし……」

 

「あー、退場。夕日ちゃん、台所に氷枕があるから持ってきてくれる?」

 

「……わかった……」

天峰が歩いて、天音の部屋のエアコンをつけてくる。

再び部屋に戻ってきた天峰がヒョイっと、天音を持ちあがる。

 

「あー、抱くなよ……気持ちわりぃ……」

 

「……天峰……氷枕……」

 

「ん、アリガト、夕日ちゃん」

天峰が手早く、天音をベットに寝かし濡れたタオルで顔を拭いてやる。

 

「今日一日は、大人しくしろよ?スポーツドリンク、枕元に置いておくから」

冷蔵庫から持って来た、ペットボトルを置いていく。

 

「休んでる時間なんて……夏休みタイマーは止まらな……いのに……」

 

「倒れて死ぬよりはマシだろ?ってか、去年もこんな事無かったか?」

 

「さぁね……覚えてねーや」

頭をふらふらさせながら、天音が寝かしつけられる。

寝息を立て始めたのを確認して、天峰が部屋を出る。

 

 

 

 

 

「お疲れ……」

漫画を読みながら、夕日が天峰のベットに座っていた。

どうやら勉強の方もひと段落した様だった。

 

「あ、夕日ちゃん。そろそろご飯だけど、何か食べたいモノある?」

天峰が壁に掛けられ時計を指さしながら、夕日に聞く。

 

「素麺以外!!」

珍しく、夕日がはっきりとしゃべる。

その言葉と共に、天峰は数日前の悲劇を思い出す。

 

「あ、ああ……流れるプールで流し素麺はやばかった……」

天峰の友人のまどかによって連れてこられた、貸し切りのプール施設。

その流れるプールコーナーに漂う、大量の素麺!!

小型の屋内型プールを一月貸し切り、消毒、清掃、調理を済ませた安心安全な流し素麺だったのだが、量が多すぎておかしくなっていた!!

プールを泳ぐ白い糸、糸糸……

天峰の友人たちを集めて総勢10名の及ぶメンバーが全員、トラウマに成っただろう!!

 

「ひ、昼はカレーにしようか?」

 

「……甘口……が……いい……」

夕日の頼みを聞いて、天峰が部屋から出ていく。

天峰の両親は、休みを利用してまた泊りがけで何処かへ出かけたらしい。

幻原家の母親はいろいろと謎の多い人物だ。

 

チラリと、夕日が天峰の枕を抱き上げる。

 

スンスン……

 

「……確かに……少し……する……」

天音の言っていた、天峰の匂いが言葉の通りする。

自身の大切な義兄、自分に手を差し伸べてくれた大切な人の匂い。

 

自身の匂いはどうなっているだろうか?

病院に居た頃はきっと、ホコリと消毒の匂いがしただろう。

今はもう、確かめる方法はない。

 

「む……?」

よくよく見ると、じっとり汗をかいてる。

クーラーの効いた部屋と言えど、記録的猛暑には勝てないらしい。

 

「シャワー……浴びようかな……」

 

 

 

自身の部屋から、着替えを取りに行き風呂場で冷たいシャワーを頭からかぶる。

火照った体に、染み込む水の冷たさ。

 

「は、ふぅ……」

意図しておらず声が出てしまった。

 

「あ……」

鏡に映る自分の姿を見る。

初めて天峰に遭った時、小学生と間違われた低身長。

天音と比べても自分の方が格段に背が低いのだ。

中学に成れば、もう少し伸びると思っていたのだが……

 

「違う……ハイネが……大きいだけ……時代は……小型化……」

必至に自分に言い聞かせる。

 

だが、良い部分もある。

 

「傷……薄くなってる?」

自身の体に刻まれた、傷の一部が薄くなってきている。

勿論消えないモノも多いし、気のせいの可能性もある。

 

「私は……今……進めてる……天峰の……お陰」

そう考えると、不思議と天峰が一層愛おしくなるのだ。

 

ガチャ

 

「ただいまー」

 

玄関から、天峰の声が聞こえる。

帰ってきたようだった。

 

「あれー?天音か?」

ペタペタと、此方の方に天峰が歩いてくる。

 

「違う……私……」

浴室から、廊下に聞こえる様に声を出す。

ピタリと天峰が止まる。

 

「あ、あー。ご、ごめん!!天音だと思ってた!!」

明らかに動揺した、声が聞こえてくる。

天音ならきっとこんな事にならないのだろうと、わずかに夕日が優越感でほほ笑む。

さっきの天音の天峰のやり取り、もう何年も繰り返された家族の会話。

 

そう言ったモノを聞くと、夕日は少しだけ疎外感を感じるのだ。

だけど、きっと天峰の知らない部分を自身は多く知っていると思うと、自然と笑みがこぼれる。

同時に少しだけ、悪戯心が刺激される。

 

「……天峰……」

 

「ん?何、夕日ちゃん?」

扉一枚を隔てて、夕日と天峰が並ぶ。

 

「ねぇ、チューしよ?」

 

「ぶぶ!?」

天峰が、何かを噴き出しバタバタと暴れまくる!!

 

「ど、どうした!?どうした夕日ちゃん!?」

 

「何か……おかしな……こと……言った?」

 

「え?え?あ、あー!!だ、大丈夫だよ!!問題ないよ!!」

何かに気づいた天峰が、慌ててその場から逃げ出した。

どたどたと足音が遠ざかっていく。

 

「あは♪引っかかったぁ……♪」

にやりと笑い一人で拳を握る。

 

 

 

 

「あー、『熱中症』、ねぇっちゅうしょう、『ねぇ、チューしよう』かぁ……

あせったー……」

一人で、台所にカレーを置いた天峰がつぶやく。

 

「どうしたんだろ?俺、最近夕日ちゃんを意識しすぎかも……」

義兄妹だ、自重せねばと天峰が一人戒める。

 




毎年、夏の期間に想う事。
「金持ちに成ったら、トイレにエアコンをつける」

ジュースばかり飲んで、腹を壊し、トイレに駆け込むことが私は多くなります。
当然トイレは、風など通らないし熱い……
その度、思うのですよ。

ひっそりと……


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『私が主役ですけど何か?』

久しぶりの投稿?
しばらく日常回!!
ビックリするほど日常回!!


「…………着いた……」

白いワンピースに身を包んだ一人の少女が、一軒の家の門を見上げる。

シンプルだが、木で作られた荘厳な入り口。

端の柱にはすっかり薄れた字で何かが掛かれている、辛うじて『晴』と『流』の文字が見て取れる。

 

「……………………………あ」

今になって門の前の少女、夕日が重大な問題に気が付く。

 

「……どうやって……開けるの………?」

目の前はぴっしりと閉められ、押しても開く様な気はしない。

 

「……開かない……」

細腕に力を入れて、扉を押すが全く動く様子はない。

更に言うと、インターフォン的な物も無かった。

 

「……困った……」

夕日が、ぼんやりと扉を見上げる。

天峰に持たされた、スポーツドリンクを凍らせたモノを取り出し口を付けた。

 

「ふぅ………上る?」

自身のスカートの中から2本のカッターを取り出す。

夕日のアイディアはすごく単純!!

2本のカッターを扉にさして、上に登っていくというモノ!!

 

「……では……」

両腕に持ったカッターを扉に向かって振りあげる!!

 

ガチャ!

 

「ふぅ……今日も暑いで――坂宮先輩!?何してるんですか!?」

道場の門に片方、よくよく見れば扉になっており一人でも開けられるようになっていた――

そこから顔をのぞかせた、この家の住人である晴塚 藍雨がカッターナイフを両手に持って万歳する夕日を見て、驚きの声を上げる!!

 

「……晴塚さん……おはよう……」

首だけをクルリと藍雨の方に向かわせ、ポーズはそのままで挨拶を返す。

 

「あの、なんで家の扉にこんな事を?」

 

「……開け方が……わからなかった……」

 

「つ、次からは、前もって開けときますね!!」

引きつった笑顔をしながら藍雨が、夕日を自身の家に招き入れる。

 

「……今日は……よろしく……」

 

「はい!!私で良ければ!!」

夕日のローな言葉に、藍雨の快活な返事が重なった。

 

 

 

 

 

事の初めは昨日の昼……

 

「あー!!やっぱ、カレー激辛大盛りに、カツとチーズのトッピングだよな!!」

ガツガツと、天峰の買って来た昼を天音ががっつく。

大盛りのカレーにカツとチーズにトッピング!!

世の中のダイエット中女子に向かって全力で中指を立てるスタイルの食事をする!!

 

「……太っても……知らない……」

がっつく天音を横目に、夕日がサラダを突く。

 

「ケッ!!ダイエット、ダイエット言う奴に限って、動いてねー奴ばっかだんだよ!!

いいか?太りたくないなら、『動け』!!無駄に『食うな』!!

これだけで、別に過度に太ったりしねーんだよ」

 

「うーん……卯月が聞いたら大激怒だな……」

自身の妹の言い分を聞いて、自身のスタイルの維持に気を使っている幼馴染を思い出す天峰、ダイエット中の卯月は鬼気迫るものがあり、正直言って非常に怖い!!

 

「卯月ねーちゃん……無理に痩せる必要なんてねーと思うんだけどな?」

口にプラスチックスプーンを咥えながら、氷水の入ったピッチャーから自身のコップに水を灌ぐ。

 

「あ、こら。それは危ないから、やめろ。

ノドの奥、入ったらどうするんだ?」

天峰が、天音をたしなめる。

 

「……ハイネは……少し……常識から……ズレてる……」

夕日が自身の皿のチョコレートを、カレーに溶かしながら話す。

 

「……ん?」

 

「……あー」

幻原、兄妹が同時に苦い顔をする。

 

「?」

 

「なぁ、夕日。それ自分の事言えるのか?」

 

「私は……一般……ピーポー……」

天音も言葉に、夕日が不機嫌な顔で答えた。

 

「ソレ食ってる時点で『まとも』じゃねーよ!!」

天音が夕日のカレー皿を指さした。

白い白米の上に、乗っかり存在感を主張するのは……

 

板チョコ!!ビター!!×2!!

 

純白の白米の上に、2枚の板チョコが鎮座していた!!

尚も米の温度で板の形を失い溶け、お米をコーティングしている!!

 

「……カレーの……隠し味……」

そう言って、まだ少し形の残っている板チョコをカレーと混ぜ口に含む!!

口に含んだ瞬間、夕日が珍しく頬を緩ませる。

 

「隠れてねーよ!!むしろ『私が主役ですけど何か?』的な顔してすっげーアピールしてるんだよ!!

うわ!?食った!!リアルに食った!!」

 

「ハイネ……板チョコに……顔なんて……ない」

尚もスプーンで辛いのか、甘いのかわからなくなったカレーを口に運ぶ!!

 

「例えだ、馬鹿。そんなもん誰も食わねーよ!!」

そう言って再び、天音が自身のカレーを口に運ぶ。

 

「む……無礼な……天峰!!」

 

夕日に名を呼ばれた瞬間、天峰の体に緊張が走った!!

ゆっくりと口に入っているカレーを嚥下しながら、夕日に目を合わせる。

 

「な、なにかな?」

自身の嫌な予感が当たらない事を願いながら口を開いた。

 

「……コレ……美味しい……きっと……天峰も……気に入る……」

笑顔を浮かべ、自身のチョコカレーをスプーンで掬い差し出す。

 

「え”……食べる……の?」

 

「うん……食べて……」

すさまじくいい笑顔を浮かべながら、夕日が天峰の口元にスプーンを持ってくる。

 

「あ、あーん……」

夢の幼女との『あーん』である事や、スプーンでの間接キスである事など考える余裕は一切ない!!目の前のカレーにあるまじき甘いスメルに全意識を集中させる!!

 

そして、ついに天峰の口にカレーが押し込まれる!!

 

「あれ?意外と普通――あ!ちが、甘!?すっごい甘い!!」

慌てて水を飲むのだが、口の中のチョコレートのベタベタ感と、スパイスを押しのけて自己主張しまくるチョコの甘さが消えない!!

 

「あーあ、そんなもん食うから……んじゃ、俺は部屋、戻ってから。

ごっちそーさん」

天音が天峰の様子を見て、ため息を付いた。

そのまま自分の部屋まで、帰ってしまう。

 

「……?……美味しいのに……?」

そそくさと逃げる様に帰っていった天音を横目に、再びカレーを口にする。

 

「うん……いける……」

 

「お、俺はもういいかな……」

天峰が、目を細めて夕日に話す。

 

 

 

 

 

「うーん……」

食事の終わった、夕日が一人部屋で考え込む。

前々から、思っていたのだが自分の味覚は他者とはズレているのでは?そんな疑問が脳裏を過ぎる。

当然、みんなと同じモノを食べて『美味しい』と感じることはある。

幻原家の食卓は、夕日にとっても毎日の楽しみであるし、テレビでおすすめの店が近所で紹介されれば、おいしいと思える。

 

だが、他人が難色を示す物でも夕日にとっては、おいしくいただけてしまうのだ。

 

「……『おいしいの範囲』が……広い?」

何とかそう思い込み、自身の机の上にある小さな手帳を開く。

 

パララ……

 

「……あった……」

目的のページを見つけて、固定電話を取り電話番号をプッシュする。

 

プルルルル……ガチャ!

 

『ハイ。もしもし、晴塚です。

天峰先輩ですか?』

 

「違う……私に……料理を……教えて……ほしい……」

電話の向こうから聞こえてきた藍雨に夕日は前もって用意していた言葉を発した。

 

 

 

 

 

そして冒頭へ……

「じゃあ、簡単に煮物から作りますよ?今回は肉じゃがです」

エプロンを付けた藍雨が、三角巾を頭に巻く。

やる気は十分のようだ。

 

「……わかった」カシャ!カシャカシャ!!

持って来た自身の携帯で、何度も藍雨のエプロン姿を撮る。

 

「さ、坂宮先輩?なんで私の写真を?」

 

「……天峰に……撮ってきて……って言われた……」

 

「そ、そうですか……」

げんなりとした顔をしながら藍雨が、ポーズを取ってくれた。

 

 

 

「さ、さぁ。気を取り直して、料理です。

煮物には調味料を入れる順番が重要なんです、『さしすせそ』言えますか?」

まるで先生に成った気分なのか、珍しくドヤ顔で説明を始める藍雨。

 

「知ってる……

さ 砂糖醤油……

し 醤油……

す 酢醤油……

せ 背油……

そ ソース……」

 

「違います!!なんでそこまで醤油押しなんですか!?

しかも、肝心の『せ』の部分が違いますし!!それに背油は調味料じゃないでしょ!?」

藍雨が驚く!!

 

「砂糖、塩、酢、醤油(せうゆ)、味噌ですよ?」

一旦落ち着きを取り戻したのか、藍雨が訂正を入れる。

 

「……理解した……」

 

「じゃ、じゃあ、次はお野菜を煮ますよ?今回は肉じゃがなので、シンプルにジャガイモと玉ねぎ、彩のニンジンですよ?まずは皮を――」

 

シュン!!シュパパッ!!

 

「剥けた……これで……良い?」

空中に野菜が舞い、夕日がカッターを取り出したかと思うと皮の部分だけ、きれいに切断されまな板の上に並んでいた。

 

「ちゃんと包丁を使ってください!!」

 

「ジャガイモの……芽を……とり忘れた……」

グサぁ!!グリグリグリグリィ!!

手に持ったジャガイモに、逆手に持ったカッターを突き立てる!!

 

「……なにか……言った?」

 

「い、いえ……なんでもないです……」

引きつった笑みで、藍雨が笑った。

 

「さぁ……!!もっと!!もっともっともっともっともっと!!料理!!」

ケタケタと、夕日が笑いだした!!

 

 

 

 

 

その日の夜……

 

「うん、この混ぜご飯おいしいね!」

天峰が、嬉しそうに夕日の作った料理を口にする。

 

「……頑張った……」

天峰の褒められた夕日が、嬉しそうに頬を緩めた。

 

「うんうん。夕日ちゃんは頑張り屋さんだね」

天峰が、震えながら夕日を撫でた。

 

ドシーン!!

 

天峰の隣で、天音が床に倒れる。

 

ズリ……ズリ……

 

床に、自身の手についていた水でメッセージを残す。

 

『あ じ ご は ん』

そしてついに動かなくなった。

 

「……肉じゃがも……作った……食べて……」

ニコニコとしながら、天峰に山盛りになった肉じゃがを渡す。

ひくっと天峰が強張った!!

 

「い、今、お腹いっぱい……」

 

「愛情……込めて……作った……よ?」

 

「いただきまーす!!」

ガガガ!!と肉じゃがを食べきって天峰が燃え尽きた!!




夕日ちゃんは、下手な訳ではないんです。
変な工夫をしてしまうだけなんです!!
「料理?目分量でしょ?」派の人と同じです……


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仕事はしたくねーが、金が欲しい!!

さて、今回は少し長い話になりました。


コレは過去の物語……

もう終わってしまった、夏休みの物語……

 

~出会い~

 

 

 

「はぁ……」

リクルートスーツに身を包んだ男が、公園でブランコに座って夕焼けで伸びていく影をぼうっと見ていた。

 

「ん?よう、クラナシ!なーにしてんだ?」

後ろからポンと背中を叩かれる男。

なんだと思いながら後ろを向くと、真面目そうな男が同じくリクルートスーツを着て立っていた。

 

「ああ、ソトミチ……就活、終わりなのかい?」

ブランコの男、クラナシと呼ばれた方が作り笑顔で力なさげに笑う。

 

「今日の分は、な」

クラナシの隣のブランコにソトミチが座ってゆっくりとブランコを漕ぎ始める。

都内の公園だというのに、子供はもういない。

夕方と言ってもまだ、4時を回った所だし8月の熱気も弱くなる時間だ。

それなのに、全くと言っていいほど子供がいない。

最早公園で遊ぶ、という行為は時代遅れなのだろうか?

 

「なぁ、ソトミチ……俺の魅力ってなんだろ?」

 

「あ?どうした。なんか、あったのか?」

クラナシの言葉に、ソトミチが反応してブランコを止める。

 

「今日、企業に行ったんだけど……面接官に『君は熱意がない』って言われたんだ。

他の奴らはみんな、何かを頑張ってるってアピールしてたのに……」

 

「あっそ、じゃ、自分の好きな物探せよ。ほら、電車とかお前好きじゃなかったか?」

 

「就活に何の意味が有るんだよ、電車好きって……

むしろマナーの悪い奴のせいでマイナスイメージが多いんだよ」

はぁっと、ため息を付いて再びブランコを漕ぎ始める。

 

「お前にも、なんか有るハズだぜ?ほら、俺のおごり。

まぁ、面接なんて、その場でどんだけ良い子ぶれるかだろ?俺なんて、年中猫かぶってるぜ?」

ソトミチがクラナシに、缶コーヒーを差し出した。

 

「ソトミチ……」

礼を言って、クラナシがコーヒーを受け取って飲む。

 

「うっ!?」

クラナシが小さくむせる。

ブラックだ、口の中に苦みが広がる。

クラナシはブラックのコーヒーは苦手だった。

 

しかし、文句を言おうにももうソトミチは退散した後だった。

 

「ちぇ」

小さく舌打ちして、ブランコに再び身をゆだねる。

キィと鎖が軋み、手の中の9割残っているコーヒーがぽちゃんと揺れる。

 

「はぁ……」

もう何度目になるか分からないため息。

 

別にがむしゃらに努力をしてきたわけではない。かといって、過度にサボっていたつもりもない。

大学も必須科目はしっかり取ってるし、特に素行に問題は有る積りは無し。

しかし気が付けばもうすぐ21歳の誕生日が近付いてくる。

いたって『普通』の積りだ。

 

しかし、『普通』では足りないのだと、今改めて思っている。

 

「熱意……ねぇ……」

 

「へい!にーさん邪魔だよ!!どいたどいた!!」

 

ガシッ!!

 

「へ!?な、なんだい!?」

クラナシの背中に衝撃が走った。

慌てて後ろから聞こえた声の主を見る。

 

「邪魔だって言ったんだよ。そこ、私の指定席なんだから。

ほら、さっさと、どく!!」

 

野球帽から覗く気の強そうな瞳と、腰までのびた長い髪、スカートから伸びる足と右頬には絆創膏が張られている。

そして手には、ビニール袋が下げられている。

まるで少年の様だなと思いながら、クラナシが席を譲る。

 

「ああ、ごめんね。お嬢ちゃん」

クラナシが愛想笑いを浮かべ、ブランコから立ち上がった。

 

「なぁ、オッサン。こんな時間に何してんの?リストラ食らった?

若けーのに大変だなー」

少女が、ブランコに座ってこちらの方を見てくる。

幼さゆえか、言葉に躊躇が無い。

 

「ははは、違うよ。その前段階さ」

 

「ん?どゆこと?」

 

「企業に、雇ってもらえる様に頼んでる最中なんだよ」

子供、それも小学生くらいの子には難しいかな、と思いながらもクラナシが話す。

 

「へー、仕事ねーんだ。人不足だーって、ニュースで言ってるのに雇ってもらえねーんだな、働きすぎで過労死とかあんのによー」

興味なさげに話した後、少女がブランコを漕ぎ始める。

ブランコの方も、やっと本来狙った年齢層に使ってもらえて幸せそうだった。

 

「ははは、俺は熱意が足らないんだってさ」

 

「別にいいんじゃね?つかさ、熱意ってなんな訳よ。

ニートが『働きたくねぇ!!』って言ったら熱意が有るのか?

会社に『仕事はしたくねーが、金が欲しい!!』って言ったら雇ってくれんのか?」

尚も、ブランコを漕ぎながら少女が語る。

というか、ドンドンとブランコのスピードが上がっている気がする。

 

「うーん……それは違うね。けど熱意は……有るのかな?」

思わぬ返しにクラナシがうなりながら、考え始める。

 

「はぁ。オッサンしっかりしろよ~。

私に諭されるくらいじゃ全然ダメだろ?」

 

「いや、しっかり話を聞いてるからこそ……わ!?」

クラナシが驚きの声を上げる!!

さっきからブランコの風を切る音が大きいと思っていたが、今ブランコはすさまじい位置まで漕がれていた!!!

おそらく頂点では、空を見上げる形にすらなっているハズだ。

 

「あ、危ないよ!!すぐに降り――」

 

「トウ!!」

クラナシの目の前で少女が――――――――跳んだ。

夕焼けに長い髪を揺らし、帽子が落ちるのも気にせず、ブランコから解き放たれた小さな姿は……クラナシの取ってとても美しい物に見えた。

そして少女は一瞬だけ悪戯っぽく笑って、重力に捕まった。

 

「ホッ!」

膝を折り曲げる様に地面に着地した。

 

「お~」

パチパチをその姿を見て、クラナシが手を叩く。

 

「すごいけど、危ないから――うわぁ!?」

まわりこんで少女の顔を見たクラナシがギョッとする!!

 

「てへへ……しくっ(失敗し)た」

少女の顔からは、鼻血が流れ出ていた。

 

「え?え!?何処で、鼻をぶったんだい!?」

 

「慌てんなって、着地した時に自分の膝で鼻を打ったんだよ……

あー、チックしょう!」

不機嫌になった少女が、公園の水道の蛇口をひねって鼻を洗う。

 

「ふん!!」

血の出てない方の鼻の穴の指を詰めると、思いっきり息を吐き鼻内の血をすべて出してしまった。

 

「これで、良しだな」

トイレから、紙を持ってきて鼻に詰めると少女が笑った。

 

「ああもう、危ないじゃないか!!」

クラナシが少女の危ない遊びを窘める。

 

「ダイジョーブだって、ケガの仕方なら知ってるからさ」

まるでわんぱくな男の子の様に少女が笑った。

 

「だからって!!それに公園は危険な遊びは禁止されているんだよ?」

 

「あー、解った解った解った。あ、ほらコレ」

クラナシの言葉に不真面目に答えていた少女が、ブランコの下に置いて来たビニール袋を手にして、差し出す。

 

「?」

 

「冷めちまったかな?」

ごそごそと、袋を漁ると近くのスーパーで安売りされているコロッケが出てきた。

更に、賞味期限が近く同じくワゴンで安売りされている食パンも。

手早く、食パンにコロッケを挟み込む。

 

「一緒に食おうぜ?」

即席コロッケパンを、クラナシの差し出す少女。

 

「え?ええ?」

自体に追いつくことが出来ずにクラナシが困惑気に、少女とパンを交互に見る。

 

「おっさん、仕事ねーんだろ?可哀想だから、今日は私がおごってやる」

 

「あ、ありがとう……」

自分より明らかに年下、しかも見た目的の小学生位の子に心配されるとは……

そんなことを考えつつも、反射的に受け取ってしまった為返すのも悪いと口を付けた。

 

「ん?……むぅ」

 

「薄いよな?味」

一口目でコロッケまでたどり着かなかったクラナシに、少女が声を掛けて笑う。

 

「私が、もー少し、金持ちに成ったら間違いなく袋ソースを買うな!!」

にひひと、笑ってコロッケパンを食べきる。

 

「まだ、有るから食うか?」

ビニール袋から、またコロッケと食パンを取り出し二個目にかじりつく。

 

「いや、僕はもういいよ。ありがと、お嬢ちゃん?」

 

「『お嬢ちゃん』!?私がそんなタマかよ?名前で呼んでくれよ、名前で」

 

「いや、名前知らないよ?」

クラナシの言葉に、此処で初めて少女が気が付いた様でバツが悪そうに話し出す。

 

「いやー、私とした事が……しっぱいしっぱい。

私の名前は――幻原 天……『おーい!!』あ!アニキだ。

ワリィ、オッサン、また今度な!!あ!!その袋、処分しておいてくれ!!」

公園の入り口に来た、少年を見つけると少女はそのまま駆け出して行ってしまった。

 

手に残るのは、ソトミチのくれた飲めないブラックコーヒーと味の薄いコロッケサンド、心に残るのは嵐が過ぎ去った様な、気分のいい騒乱。

 

「頑張るかな」

力をもらった気がしたクラナシはまた、歩き出した。

 

 

 

~諍い~

 

 

 

「ありがとうございました!!」

数日前より、リキリキした表情でクラナシが面接を終える。

正直言って、今回はなかなかの手ごたえだった。

気がするだけ、かもしれないが確かに「うまく行った」という確信があった。

だが、本命はここではない。

本命は今日の夕方から、滑り込みである面接の方だ。

ずっと憧れていた分野の仕事で、自分の第一志望でもある会社だ。

 

「少し何か食うか……だが、手持ちが――」

気が付けば時間は昼過ぎ、安心からかクラナシの腹の虫が空腹を訴え始めた。

しかし、ここ数日の電車代などを考えると贅沢は出来ない。

牛丼屋の値段を見て、しぶしぶあきらめる。

牛丼を高いと思った事など、初めてだった。

どうするか思案しチラリと、視線を通りに向けると小さなスパーが有った。

 

「また、あの、コロッケが食いたいな……」

クラナシの脳裏に浮かぶのは、数か月前に食べたあの少女の作ったコロッケサンド。

小学生でも買える値段のハズだと、足をスーパーに向ける。

 

がやがや……がやがや……

 

お昼時を少し回った位の為か、店には結構な人数の人がいた。

主婦が噂話に花を咲かせ、幼稚園帰りの子供が母親に菓子をねだる、そんな光景。

 

「どこだったかな?」

数かい来たことのある店だが、内装を覚えている訳ではなかった。

 

「うへぇ!?ブニブニ~」

小さな子供が、魚屋のコーナーでパック詰めされたイカを指でつついている。

 

「うえー、くっせ!!」

さらに、隣の鮮魚に鼻をくっつけている。

そう思うと、今度はどかどかと、周りに物があるのにも関わらず走り出してしまった。

 

(どこの子供だ?躾がなってないな……)

クラナシが、不機嫌になりながらも目的のコーナーを見つける。

 

「さぁ、コロッケコロッケ」

揚げ物のコーナーで今日は、特売なのか、一個23円という格安で売っていた。

プラスチックのパックを手にして、1個2個と詰めていく。

 

「4つもあればいいかな?」

いや、やはり5個だ、と思い直しもう一つコロッケをトングでつかもうとした所……

 

「かーちゃーん!!コロッケくいてーよ!!あ”」

 

ガシャーン!!

 

「なーに、やっとんじゃ!!馬鹿が!!」

さっきの子供が走って来て、コロッケの乗った棚をひっくり返すしてしまう!!

半分近くのコロッケが床に落ちてしまった。

そこにすぐさま母親の怒声が飛んでくる。

 

「ほら、さっさと戻す!!」

そしてあろうことか、母親が落ちたコロッケを拾い元の棚に戻し始めた!!

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!それ、落ちた物でしょ!?ダメですよ!!」

クラナシが、主婦と子供を制止するが……

 

「あ”なに?あんた。子供のやったことやがね?おおめに見んさい!」

 

「だめですよ、そんな事。第一店員さんに……」

 

「何かありましたか?」

クラナシの言葉の途中で店員がエプロンを付けて走ってくる。

その店員にクラナシは見覚えがあった。

 

「ソトミチ?バイトか」

 

「あ、クラナシ……」

ソトミチが、落ちたコロッケを見て固まる。

 

「ちょっと、店員さん?この男がコロッケをぶちまけたんだけど?」

 

「え!?」

主婦の予想外の言葉に、クラナシが固まる。

それもそうだ、コロッケを落としたのは子供で明らかに母親の躾の不行き届きによる物だった。

 

「そーだ、そーだ!!かーちゃんの言う通りだ!!」

子供までもが同調して、クラナシを犯人呼ばわりする。

 

「まぁまぁ、お客様。落ち着いて……」

 

「早く対応してくださる!?私、早く買い物して帰りたいの!!」

慌てるソトミチに対して、主婦が何度も何度もまくしたてる。

 

「あ、あの、コロッケを落としたのは――」

 

「あー、忙しい!!アナタ、ちゃんと店員さんに謝っといて!!」

バッと、クラナシの持つコロッケをひったくるとさっさと帰っていってしまった。

 

「あ、あー……」

 

「落ち込むな、あのおばさん。

態度悪いってもっぱらの話題なんだ」

クラナシにソトミチが話し、塵取りで床に落ちたコロッケを拾う。

 

「こっちは無事か?」

棚に残ったコロッケを、見てソトミチが話す。

 

「いや、だめだ。落ちたコロッケを戻してた……」

 

「あー、それじゃ、どれがダイジョウブか分からないか……

仕方ない、全部破棄だな……」

あえて、声音を明るくしているがそれでもソトミチの表情は暗かった。

 

「すまない……ソトミチ……」

 

「気にすんな!ってか、まだ夕方から就活だろ?頑張って来いよ!!」

ソトミチが、無理して笑ってクラナシの背中を叩いた。

 

ひっそりと、菓子パンと甘いコーヒーを買って店を出た。

 

 

 

~再会~

 

 

 

「そろそろか……」

腕時計をみて、目当ての会社に向かって歩いてく。

少し腹が、減っている以外すべて問題なく、相手の会社理念などすべての質問パターンが脳裏にしっかりと返せるようにシュミレーションする。

 

「あ……」

気が付くと、いつの間にかあの少女と出会った公園に来ていた。

会社までの道だが、少しだけ遠回りしてしまった様だった。

 

ひょっとしたらお礼が言いたかったのかもしれない。

あの、少女のお陰で自分は少し、だけ進めたかもしれない。

只の思い込みだろうが、きっかけをくれたという意味ではあの少女は恩人と言えるだろう。

 

「ほら、邪魔だ!!どけどけ!!」

公園から、乱暴な男の声がする。

 

「やめろよ!!こんなのおかしいだろ!?」

 

ハッとして、その方向を見る。

いた。公園の真ん中に男に縋りつく様に、例の少女がいた。

 

「お前、何処の小学校だ?大人のやることに口出しするんじゃない!!教育委員会に訴えなくちゃな?」

近くにいた、太った男がラケットを持ちながら少女を払いのけようとする。

 

「止めろよ!!公園は、みんなで使うモンだ!!ゴミは持ち帰んねーといけねぇし!!テニスも禁止だろ!?」

公園は危険な遊びを禁止することが多く、ボールがどこに行くか分からない野球や、テニスは禁止される傾向にある。

 

「それに、私のトモダチに謝れよ!!」

公園の端、砂場に別の女の子が泣いている。

近くに落ちているボールからするに、何が有ったのか――想像は難しくない。

 

「うるさい!!大人のいう事を聞け!!今、私達はテニスをしに来たんだ!!

お前たちはいつでも、遊べるだろう?ここは譲るべきだ」

男がその少女を突き飛ばした。

受け身を取るが頭から、少女が転んだ。

 

「なにをしているんだ!!」

気が付くとクラナシは、走って男の目の前に立っていた。

 

「ただの遊びだよ。関係ない君は帰れ!!その恰好、就活生だろ?大人しく就活だけしていろ!!」

その男の言葉で、クラナシは自分が今、面接に行く途中だったのを思い出す。

 

「とーちゃーん。早くテニスー!!」

走って来たのは、さっきスーパーで見た子供だった。

どうやら、あの夫妻は家族ぐるみで遊びに来たらしい。

 

「おう、坊主。少し待ってくれ?

ほら、さっさと帰れ!!家族の時間を邪魔する権利はお前に無いハズだろ!?」

恫喝しながら、男が威嚇する様にラケットを振りあげる!!

 

「止めてください!!公園は、本来子供たちの為の場所です!!

あなたのやってる事は――」

 

ガッ!!

振りあげられたラケットが、クラナシの頭に振り下ろされる!!

 

「力を抜いた、痛みは無いハズだ。

だが、それ以上、わめくなら今度は力を籠めるぞ?

血だらけで、就活は難しいだろうな?」

嫌な笑みを浮かべる男。

 

クラナシはすぅっと息を吸った。

ベストな選択は、このまま歩いて会社に行くべきだ。

ひょっとしたら、誰かが助けてくれるかもしれない。

そんな考えが脳裏をよぎった。

 

波風立てず、普通でいる事。それこそが今必要な事だ。

けっして、見ず知らずの男と喧嘩する必要は無い。

 

 

 

 

 

だから、後ろを向いて公園の入り口に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!らぁ!!」

走って男の、持つラケットを思いっきり蹴り飛ばす!!

 

「な!?お前、何を――!!」

 

「熱意が足りない!!」

 

「は!?」

怒る男に対して、クラナシが叫んだ!!

 

「此処で見逃せるわけないだろ!!普通!?そんなのどーでもいい!!

いま、俺はこの子を見捨てれない!!」

 

「なにを――言ってるんだ!?警察!!警察呼んでくれ!!」

脅しが聞かないと解った、男が自身の妻に向かって警察を呼ぶように怒鳴り散らす!!

 

「わ、解ったよ!!い、今すぐ――――ぎゃ!?」

電話ボックスに向かって走るとき、何者かが女性の足を引っかける!!

 

「ああ、痛い……アンタ、店員じゃないのさ?何してんだい?」

女性の前に立ったのは、バイトを早退したソトミチだった。

 

「おばさん、聞いてください……俺、さっきの失敗のせいで店長にクビにされちゃったんですよ……正社員にならないかって言われてたのに……

この意味、解ります?」

ボーっとした暗い目でソトミチが語る。

 

「はぁ?アンタの実力不足でしょ?また就活生の戻っただけじゃない!!」

 

「半分せいか~い……けど!!」

ソトミチの瞳に光が宿る!!ランランと輝き水を得た魚の様な様子になる!!

 

「本当は――もう、猫かぶる必要がなくなったっていう訳ゲド!!

ゲェ~ド、ゲドゲド!!」

ケタケタと大きな声で、ソトミチが笑いだす!!

 

「は、はぁ!?アンタ頭、おかしく成って――」

 

「お前の髪形のセンスの方がよっぽどくるってるゲドよ~?

むしろ、何の罰ゲームか知りたいゲドねぇ!?

ビックリするほど、ブスゲドねぇ?」

ソトミチが、油性マジックを取り出し主婦のおでこに『世界一ブス!!』と殴り書きする!!

 

「おい、かーちゃんに何して――」

 

「おおっと!?こっちのクソジャリは全然父親に、似てないゲドね!?

何処で浮気した息子ゲド?

こー、言うのをサン・オブ・ザ・ビッチ、砕けて言うとサバノビッチと言う奴ゲド。

因みに、どっちもお下品すぎて、人前で言えないゲドー!!」

ゲラゲラと笑い出すソトミチ!!

 

「な、なんだコレは!?」

男が慌てるが、その時パトカーのサイレンが聞こえてくる!!

 

「ははぁ!!これでお前も、終わりだ!!」

勝ち誇る男に、クラナシが冷静に――

 

「ああ、あの女の子たちがアンタが何をしていたか、話してくれるだろうね?

指紋の付いたラケットもあるし……

お互い、覚悟がいるな?」

その言葉に、男が青ざめる!!

 

「か、帰るぞ!!早く!!」

放心状態の妻と息子を連れ、男はそそくさと帰っていった。

 

「ゲドゲド!!悪戯アイテムは常に持ってくるものゲドねぇ~」

ソトミチが、笑いながらポケットからサイレンの録音されたウォークマンを取り出す。

 

「ソトミチ、その語尾やめたんじゃないのか?」

 

「猫をかぶるのを止めただけゲド!!これからは、ボーノレで飯を食っていくゲド!!就活はやーめた、ゲド!!」

ヤケにいい顔で、ソトミチがスキップをする。

砂場でうずくまっていた子を助けていくあたり、心の底からの外道ではないらしい。

 

 

 

「大丈夫かい?」

クラナシが、少女を助け起こす。

途中から、呆然とこちらを見ていた様だった。

 

「おっちゃん、スゲーな!!根性有るんじゃね?」

 

「はは、女の子の前で少し恰好付けただけだよ」

 

「ふぅーん、って!おちゃん!!仕事いいのかよ!?」

その言葉に促されチラリと時計を見ると、面接の時間はとっくに過ぎていた。

だけど、なぜか解放された様な気がした。

 

「いいんだ、ゆっくりやっていくよ。慌てることは無い。

どうだい?また、今度、一緒にご飯でも如何だい?」

 

「お、おっさん……私小学生だぜ?流石にそのセリフはヤベーんじゃね?」

 

「む、まだ二十歳だぞ?おっさんって年じゃ――」

 

「私はまだ11歳だ!!」

遮る様に、少女が話す。

 

「そうか、自己紹介がまだだったよな?俺は、倉科(クラナシ) 蒼空(ソラ)

 

 

「げ、幻原 天唯(アユ)……」

二人はたどたどしく挨拶をした。

 

 

 

 

 

そして時は流れ――

 

 

 

 

 

「――という事が有って、私と蒼空は付き合う事に成ったんだ。

その後、結婚して子供が生まれた訳だな?」

幻原家の母親、幻原 天唯が夕日に自身の夫との馴れ初めを、楽し気に話す。

学校の宿題で、家族の昔の話を聞いてこい。というモノがあり、夕日は自身の義母に聞いてみたのだ。

 

「……11歳が……20歳と……付き合った……の?」

 

「あー、大した年齢差じゃ、ねーよ。

愛の力は偉大だからなー」

ケラケラと楽しそうに笑った。

 

「さて、夕飯の準備しなくちゃな。今日は蒼空も早く帰って来るらしいしな」

天唯は立ち上がると、楽しそうに台所に向かった。




今回はUA15000の記念の側面も大きいです。
割と序盤から、書きたかった話なので個人的には満足です。


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この家の兄妹やべぇよ……

さて、今回はあのキャラクターが再登場!!


「よし、完成っと。早速飲みますか」

鍋を使って煮出した麦茶を天峰が水で薄める。

幻原家でも、麦茶が夏の定番アイテムである事は変わらない。

それぞれの家で流派の様な物が有るが、幻原家では濃く煮出した麦茶パックに水を入れ薄め、しばらく放置し粗熱が取れたら冷蔵庫に仕舞うという形になっている。

しかし、煮出したすぐあとは熱をまだ持っているので、氷を入れて飲むことに成っている。

天峰は、この煮出したすぐ後の一杯が好きだった。

 

しかし。

「さぁて……あっ……氷が無い……」

 

冷凍庫を開けた時、もうほとん氷が無い事に気が付く。

おそらく他の家族が使ってしまったのだろう。

 

「仕方ないな……」

中途半端に生ぬるい麦茶を口にする。

 

「うーん……不味くはないんだけどなー」

 

ピンポーン!

 

そんな事を話しているうちに、家のチャイムが鳴った。

トタトタトタ……

玄関の方へ向かう足音がする。

どうやら、家族の誰か(足音の大きさ的に夕日だろう)が出迎えに行ってくれたようだ。

 

「……!!――――。……?」

 

「……、…………、………。」

内容は聞き取れないが僅かに話す声が聞こえてくる。

手早く、氷用の水を補充して改めて、自身の作った麦茶に口を付けた。

 

「ん?」

トタトタと、二つの足音がこちらに向かってくるのが分かった。

誰だろう?と、気にして足音の方へ視線を向ける。

 

「あ、おにーさん!!遊びに来てあげたよん!!」

快活な口調に、首にぶら下げる伊達眼鏡――

天峰の友人でもある野原 八家の実妹、野原 玖杜、通称クノキがそこに立っていた。

 

「やぁ、クノキちゃん、いらっしゃい。

どうしたの急に?」

 

待ってましたと言わんばかりに、腰に下げていたリュックを取り出す。

そのリュックから出てきたのは夏休みの友だった。

 

「お願い!!なんでもするから勉強教えて!!」

パン!!と両手を打ち合わせ、天峰の拝む様に懇願する。

 

「――え?今なんでもするって――」

 

「……天峰?」

 

「ひ、ヒィ!?な、何でもありません!!」

心の中に一瞬良くない、願望が走った天峰を即座に夕日が見抜いてカッターを引き抜いた!!

そして、即座に天峰の計画は瓦解するのだった。

 

 

 

 

 

「うわぁい!!おにーさんの部屋だー!!……面白味あんまりないなー」

天峰の部屋に入って来た、玖杜がガッカリといった様子で口を開いた。

何か、期待していた物が有ったのだろうか?

 

「いや、特におかしい物はないよ?」

 

「えー?だって、ロリコンおにーさんの部屋でしょ?

ベットの柱に意味有り気に、手錠が付いてたり、シーツの真ん中に赤いシミが付いてたり、大人のおも――」

 

「ストップ!!ストップ!!ストップ!!」

会話が暴走気味になってきたので、クノキの口を天峰が抑える!!

バタバタと玖杜が暴れる!!

 

「むぅ~!!むむぅ!!」

 

「はい、落ち着いて?大人しくするんだよ?」

玖杜が天峰の腕をタップして降参のアピールをする。

 

ガチャ……ギィィィィィ……

 

その時なぜか、天峰の部屋のドアが古いドアの様に、嫌な音をたてて開いた。

ドアと壁の間、感情を全く感じさせない夕日の冷たい視線が二人の様子を伺っていた。

 

「あ、ゆ、夕日ちゃん……居たの……ね?」

 

「むぅ!!むぅ!!むむぅ!!」

助けを求める様に玖杜が夕日に眼でサインを送る。

その玖杜からのサインを受け取った夕日は……

 

「……使う?」

ジャラリと音がして天峰に向かって、夕日が手錠を差し出して来る。

夕日は自身の友人よりも、自身の義兄を選んだ!!

何処にあったのか、それとも夕日が自分で買ったのかとにかく手錠を取り出した!!

無機物特有の冷たい、輝きを放っている。

 

「むぅ!?!?!?むぅー!!むぅぅぅぅぅぅっぅ!!」

自体を見て、やばいと判断した玖杜がより一層暴れだす!!

バタバタと手を振り、他人から見ればどう見ても幼子を乱暴しようとしている犯罪現場にしか見えなくなっている!!

 

「あ!ご、ごめん。すぐに放すから」

しばらく夕日の取り出した道具にあっけにとられてフリーズしていたが、自身の腕の中で暴れていた玖杜に気が付き両手を放した。

 

「ぶは!!はぁーはぁー!!」

天峰の手から解放された、玖杜がスーハーと深呼吸をする。

そして最後にもう一度大きく息を吸い込んだ。

 

「この家の兄妹やべぇよ……やべぇよ……!!

リアルに犯されると思った……」

夏だというのに、冷や汗をかきながら玖杜が戦慄した。

 

「大丈夫、大丈夫……そんな事しないから、ね?」

 

「と、油断させて~?」

天峰のフォローに怪しげだと、言いたげな眼で尋ねて来る。

 

「……え?……襲わ……ないの……?」

実に意外そうに夕日が小さく驚いた。

 

「え!?ヤッパリ襲うの!?ここは、ケダモノの館なの!?

女の子は妊娠しないと外に出れないの!?

『あへぇ』『ひぎぃ』『ぼこぉ』の三段活用されるの!?」

 

「馬鹿野郎」

パシーン!!と子気味の良い音がして、天峰が玖杜の頭をはたいた。

 

「うえーん、おにーさんがDVしたー!!DV!!DVだよ!!」

今度は派手に泣きまねを始める。

調子に乗ったり、驚いたり、慄いたり、怯えたり、泣き出したりとコロコロと感情と表情が変わっていく。

その隣でほとんど表情を変えない夕日が、ジッと見ていると非常に対照的に見える。

 

「……うるさい……天峰を……けしかけ……られたいの?」

 

「ひぅ!!ごめんなさい!!」

夕日の脅し文句に、玖杜が口をつぐんだ。

 

「夕日ちゃん!?俺を脅し文句にしないでくれるかな!?」

余りにあんまりな、脅し文句に天峰が夕日に文句を言う。

というより、その脅し文句で黙った玖杜も玖杜だが……

 

「む……静かに……成ったから……問題ない……」

 

「なんか、スッゴイ疲れた……」

まだ夏休みの友すら開いていないのに、天峰の気力がごっそりと減っていく気がする。

 

 

 

「さて、気を取り直して……宿題をやろうか?」

何とか場持ち直させようと、天峰が手を叩いて雰囲気のリセットを謀る。

 

「えー?遊びたーい!!まだ、休みあるじゃん!」

玖杜当人が不満げに唇を尖らせる。

 

「え?何しに来たの?」

まさかの言葉に、天峰が困惑して小さくつぶやいた。

此処に来た理由と明らかに相反する言葉に天峰が本日何度かのため息を付く。

 

「い、いや。ちゃんと宿題はしに来たよ?来たんだけどさー?

端的な話……遊 ん で ほ し い !!

まぁ、アレなのよ。アレ。こう、一人きりの世界から外の世界に目を向けたのは良いんだけどね?今までの積み重ねってか、自由の代償っての?ガッコの先生がアホみたいに私に追試を出して来るのよ。

外を見ると、ナウでヤングなキャップルがキャッキャうふふしてる訳なのよ?

追試と補習で、縛られている私をのぞいて!!

という訳で、遊 ん で ほ し い !!というかむしろ遊べ!!

ドゥユーアンダースタン?」

指をくるくると回しながら、玖杜が話す。

端的の要約すると「勉強ばっかりだから遊んでほしい」らしい。

 

「甘えんな……」

不遜な態度を貫く、玖杜に対して夕日が厳しい言葉を容赦なく投げつける!!

 

「えー、お願い!!八にぃはお父さんたちと田舎に帰っちゃったし、他のお兄ちゃんズは微妙に距離があるし『遊びに連れてって』なんて言えないの!!

お願い!!なんでもするから!!!」

土下座する様なパーズをして、自身の頭上で両手を拝む様に合わせる!!

 

「まぁ、なら仕方ないか……けど、遊ぶったって、何かできる事は――」

懇願する玖杜の姿をみて、天峰が情にほだされた。

相変わらず、夕日は表情は読めないが何処か不機嫌そうに天峰には見えた。

 

「どっかいく?私、お金ならあるよ!おにいちゃんズに頼んだらもらえた!!」

 

「本当は兄妹で仲いいんじゃね!?ってそんなお金を使う事しなくても……

あ!そう言えば、良い物があったよ。

けど、少し時間が有るかな?お昼すぎの3時くらいまで勉強しよ?

たぶんそれくらいなら、丁度良いから」

何かを思いついた天峰が、玖杜に笑いかけた。

 

「良い物?時間が掛かる?3時?

ハッ!!まさか……

『へへへ、良い物はコレだ』ボロン!!

とか、『お前がオヤツに成るんだよ!!』

とかする――」

 

「訳ないでしょ!!」

 

「本当?ピンクは淫乱で何をするか分からないけど、お兄さんはロリコンだから私に何をするか分からないんだよねー」

 

「大丈夫……天峰は……意外と……ヘタレ……」

 

「へ、ヘタレじゃないモン!!」

夕日のフォローともいえないフォローを受け流しつつ、勉強を始めた。

天峰が教えつつ、夕日も同じように宿題をやっていく。

 

 

 

 

 

「そろそろかな?ちょっと待っててね」

天峰が時計をみて、部屋から出ていく。

 

「ふぅー、解放されたー」

出て行った天峰をみて、玖杜がその場で寝転んで大きくため息を付く。

 

「お疲れ……」

寝転ぶ玖杜に対して、夕日がねぎらいの言葉をかけた。

 

「ねぇ、夕日ちゃん……」

 

「なに?」

玖杜が寝たまま、手を顔に当て表情を隠す。

 

「おにーさん、優しいね……急に来たのに、自分も用事あっただろうに……」

 

「……天峰は……そういう性格……」

いつも見ている義兄の性格を思い出しながら夕日が尋ねる。

 

「へぇ、私もこんな兄が居たらなぁ。

8人居てもねぇ?」

 

「欲しいの?あげないよ。天峰は……あげないから。

卯月さんにも、藍雨ちゃんにも、まどかにも、木枯にも、貴方にもあげない……

天峰の隣は……私の……席」

珍しく、はっきりと夕日が自身の感情を口に出した。

 

「うわぁ……むちゃくちゃ好きじゃん!ベタ惚れじゃん!」

 

「違う……隣に居たいだけ……」

 

「あ、ふーん。そう言うタイプか……」

何かに納得した様に、玖杜がつぶやいた。

 

「二人ともお待たせー。かき氷作ってきたよ!!」

天峰がお盆に赤い色の付いたかき氷を持ってくる。

はじっこには、缶詰めのフルーツまで乗っていてなかなかに豪華だった。

 

「待ってましたー!!」

 

「シロップ……有ったっけ……?」

二人の前に置かれたかき氷は少し風変りだった。

シロップに何か、イチゴの果肉の様な物が混ざっている。

 

「これは、ジャムを使ったんだよ。

お中元でもらった、缶詰めを開けてそのシロップを取り出してジャムを融かしたんだよ。

実は、作り始めてから考え付いた、奴だから味は保証できないけどね?」

天峰が優しく二人に笑いかけた。

 

「うわぁーい!!かき氷!!原価いくらだっけ?安い餌付け……

で、この後おにーさんがズボン脱いで『ミルクを足してあげようねぇ!!』

とか、は無いんだよね?」

 

「クノキちゃん、没収!!」

 

「うわーん!!かえして!!返して私のかき氷!!」

3人の笑い声が、家の中に響いた。




なんだかんだいって、玖杜が一番夕日と仲が良かったり。
表情が対照的なのも気に入ってます。


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そうだ、ナンパに行こう。

今回から、少しの間八家が主人公の短編に成ります。
天峰の世界とは微妙に空気が違うので、その差を楽しんでください。


海面を進む一艘の船。

水をかき分け、汽笛を鳴らし進んでいく。

目的地はこの先の島だ、とある一族が所有するその島は地元の人ですら近付く事は滅多にないのだという。

その島の名は『野祓い(のはらい)島』

 

 

 

 

 

「うーえっぷ!?キンモチワリィ……」

船の一室で、一人の少年 野原 八家が青い顔をしてビニール袋にかじりついている。

その表情は決して楽しそうな物ではなかった。

 

「八家大丈夫か?もう少しだから、がんばれ」

そう言って、八家の兄、野原家の次男である 永二(えいじ)が背中をさすってやる。

その言葉に促され、船の窓を覗くと目的地の島が見えてきた。

小さな島に、そこそこの大きさの屋敷。

さらには、外から見える様に作られたのだろうが半分、木に埋もれてしまった鳥居。

 

「帰ってきた……っていうか、あんまり思い出ない……」

気持ち悪さに耐えながら、自身の両親の一族の本家がある島を目にする。

 

 

 

「はぁ、地面が揺れない……当たり前の事って大切だなぁ~」

さっきまで揺られ続けていた八家が、揺れない地面にありがたみを感じる。

その横で、永二はてきぱきと荷物を下ろしていく。

 

「ありがとうございました」

 

「はいは~い。じゃ、また明日の朝ね」

永二が声を掛けると、船頭がにこやかな笑みを浮かべて海へと船を返していく。

 

「さ、行くぞ?」

 

「へぇ~い……」

八家が、後ろに広がる森をみてげんなりとしながら荷物に手を伸ばす。

 

海の次は森か、と小さく漏らして歩き始めた。

 

「なぁ、八家。最近玖杜が明るく成った様だな」

 

「ええ?ああ、アイツか……ちょっと、いろいろあってね」

永二は社会人として家を出ているので、基本的の家にいる事はない。

しかし兄弟同士、特に長男から4男までは割と頻繁に連絡を取るので家の内情がわかるらしい。

 

「七喜の話じゃ、部屋から出てこなかったし学校にも行ってなかったんだろ?

義務教育だから、留年は無いって父さん母さんは放て置いたらしいが……

こじれる前に、しっかりしてくれて助かったよ。お前、初めての下の兄妹だっていってかわいがってたもんな」

笑顔で話しかける、永二の言葉に八家が胸を痛める。

 

「永二兄さん……俺、実は……」

 

「お、見えた見えた」

八家の言葉にかぶせる様に永二が家を指さした。

 

「ん?何か言おうとしたか?」

 

「いや……何でもない」

八家は言えなかった。

自身が玖杜を激励するつもりの行為が彼女を追い詰めていた事を、その事によって玖杜が自殺未遂をしてしまった事も、玖杜を助けたのが自身でなく自身の友人の天峰である事も……

 

「おお、2番目と8番目。よく帰って来たな」

薄茶色の着物を着た、気難しそうな顔をした禿た老人が二人を見て口ひげを振るわせる。

この老人が野原家の現当主、野原老人だ。

80を超えようとする齢を感じさせぬ力々とした足腰と、見事に生え揃った歯が特徴的だ。

 

「おじいさん、今、来ましたよ」

 

「ちぃーす、じいちゃん……道もう少し整備しない?」

 

「こら、八家!!」

畏まる永二と、気だる気な様子の八家、そこに永二の叱咤が跳ぶ。

 

「ハハハ!8番目は相変わらずじゃな。

いい、いい。気にするな。

ほれ、さっさと入れ、話はそれからじゃ」

野原老人に連れられ、二が家に入って行く。

 

「ただいま帰りました。おじい様方」

永二が廊下に並ぶ、歴代野原家の方々の写真に頭を下げていく。

どれも白黒で、特徴のない顔をしている。

 

「仏壇でいいんじゃね?」

その様子をみて、八家が小さく声を漏らした。

 

「馬鹿!お盆がもう近いんだ、ご先祖様たちが帰って来てるんだぞ?」

 

「いや、俺ご先祖様とか、見えんし」

永二の言葉を無視して、居間へと入って行く八家。

昔から八家はこの家が得意ではない。

しかし、今年は八家たちが来る事になっているから仕方なかった。

*野原家は人数が多いため、お盆と言えど全員がそろう訳ではない、基本的に行きたいメンバーが志願するが、3年以内に行っていない者は半強制的に連れて行かされる。

 

 

 

「ははは、よく来たな。2番目に8番目、今年も祭りをやるから頼むぞ?

といっても、基本座ってるだけなんじゃが……」

居間の座布団に座って二人に、笑いかける野原老人。

地元では毎年、お盆に追わせて祭りがおこなわれる。

野原家は、その音頭を取る事になっているのだ。

 

「はい、おじいさん」

 

「お小遣い出るよね?」

 

「八家!!」

 

「構わん構わん、小遣いが欲しいなら、今年は屋台をやるからその手伝いじゃな。

売上の5%をやるぞ?」

野原老人の言葉に、八家が目を輝かせる。

永二は遠慮する様に話すが、相変わらず野原老人は「よいよい」と受け流すだけだった。

 

「さて、祭りの由来をお前らに話しておこうかの?」

野原老人の言葉に、永二は姿勢を正し八家はうんざりと言った顔をした。

 

「この島の名は知っての通り『野祓い島』じゃ。

これはの?まだ、京都に物の怪が跳梁跋扈する時代、物の怪を掃う役職として『祓い役』が定められた事に由来する――」

ぽつぽつと野原老人が話し始める。

 

 

 

 

 

陰陽師という役職が有るじゃろ?今となっては、想像上の役職に成り下がっているが、都では確かに有った役職なんじゃ。

 

有名な陰陽師は、都の帝や上役相手に仕事をした。

だが、物の怪どもは、都以外にもたくさんおる。

無辜の民草に手を出す物の怪は多い、まさに野を埋め尽くさんばかりの数じゃ……

その、無数の物の怪を掃うのが『野祓い』の仕事じゃ。

野祓いは弱きを救い、物の怪を改心させる仕事をしておるんじゃ。

 

『祓う』とは許す事、救う事なんじゃ……

 

野祓いはそれを行う者達、決して表舞台には出んが迷い悪さする物の怪を許す仕事なんじゃよ。

 

やがて、物の怪は時代の流れと共に姿を消した。

陰陽師、さらには野祓いの仕事も無くなったのじゃ……

野祓い達も『野原』と自分の名を改めた。

 

だが、先祖の魂が戻ってくるこの季節、同じく物の怪たちの魂も戻ってくるのじゃ。

儂らがそれを、鎮め宥めそして楽しませて再びあの世に返す。

この島そのものが、物の怪たちを呼ぶ出入り口なんじゃよ。

 

それこそが、我等野祓いに残された最後の仕事なんじゃよ。

 

 

 

 

 

そこまで話して、野原老人は話を終わらせた。

八家はその話を退屈そうに聞いていた。

 

なぜならこの話はもう、何度も聞かされた話だ。

幼い頃は、自分にも野祓いの血が流れていると、中二病的な興奮が有ったが今思ってみるとどうにも胡散臭い部分が多い。

 

まず『野原』なんて苗字はありふれている、そんな事を言ったら某世界一おませな5歳児も幽霊が見える事になってしまう。

 

第二に、野祓いなんて役職聞いた事は全くない事。

図書館に行こうがパソコンを調べようが全く出てこないのだ。

その事から八家は老人のたわごと程度にしか聞いていないのだった。

 

「さて、3日後には祭りが有るからな?それまでよろしく頼むぞ」

野原老人はそう話し、この会はお開きに成った。

 

 

 

 

 

「あー、暇だ。ビックリするほど暇だー」

ゴロゴロとあてがわれた部屋で寝転がる八家。

家から持って来たゲームはもう飽きているし、携帯電話もコレと言ってやりたいことは無い。

 

「八家、悪いけど買い出し行ってくれないか?

儂と永二は祭りの為の打ち合わせに行くからの。

夕飯はどっか外で適当に食ってくれ」

 

扉を開け、顔を覗かせたのは野原老人。

その後ろには、永二が立っていた。

 

「あー、解ったよ。丁度暇だったし……」

 

「ほれ、買い物メモと金じゃ、釣りはいらん。

適当に買いたいモノを買って来い」

少し多めのお金をもらい、3人は島のボートに乗った。

 

 

 

「ほいじゃー、頼むぞ?」

 

「へいへい!」

野原老人を後にして、八家は町の商店街に向かっていく。

 

「おお、野祓いん所の8番目!帰って来たのか?」

 

「今年は8番目が来たか」

 

「ハチバン目~」

野原老人の言葉が、商店街まで響いているので行く先々で話しかけられる。

老人をはじめ、小学生に至るまで……

昔からこの辺に住んでいる住人にはすっかり八家の事は知れ渡っているらしい、そしてその孫にまでも。

しかし誰も八家の名を呼ばず『8番目』としか呼んでくれない。

その事が八家に小さな苛立ちを感じさせる。

 

「八家だってのに……なんだよ、『8番目』って……」

適当な定食屋で、やって来るメニューを待ってる間も小さなむかむかは消えなかった。

数字で区別されている様な、嫌な感じ。

兄妹たちには、何らかの形で数字を意味する漢字が使われているがそれでも数字分けされるのは好きでなない。

実際八家は自身の友人には『ヤケ』とニックネームで呼ばれる方が好きだし、八家の妹も本名ではなくクノキというニックネームを使っている様だった。

 

「お待たせしました~」

 

店のお姉さん(叱ってもらいたくなるタイプ)がテーブルにかつ丼をおいてくれる、そしてさらに、フライドポテトと唐揚げのセットとミニうどんも。

 

「あれ?かつ丼だけしか頼んでないけど?」

 

「いいのいいの~、野祓いさんの所の8番目でしょ?

あそこのお爺ちゃんにはいつもお世話になってるから~」

ぽわぽわした雰囲気で、お姉さんがサービスと言ってさらに冷ややっこまで机においてくれる。

 

「は、はぁ……どうも」

自身の爺さんがどんな振る舞いをしているか分からないが、なかなか地元の人間に好かれているのは目の前の豪華になり過ぎた料理で理解できた。

 

「むぐ……うまい……」

ミニうどんに口を付けながら、八家が考える。

 

(爺ちゃんの威光を利用すれば、彼女出来るんじゃね?)

一瞬だけそんな馬鹿な事を考え、八家が笑う。

 

(冗談じゃないっての、恋人位自分で見つけてやる!!

そうだ、ナンパに行こう。

うっし!俺を『8番目』じゃなくてニックネームで呼ぶ恋人を作るか!!)

かつ丼、冷ややっこミニうどんを手早く平らげ、余った唐揚げとポテトを持ち帰り用に包んでもらうと荷物をまとめて、定食屋を後にする。

 

「さぁて、天峰の次は俺に春が来る番だぜ!!」

ナンパをするために、夕焼けに染まる町に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

木々の生い茂る山の中……

朽ち果てかけた鳥居が、山の中腹に神社と共に立っていた。

 

「すぅ……久しぶりだけど、空気が悪く成った気がするわ」

薄水色の着物をきた少女が、長い髪を揺らし一人つぶやいた。

髪飾りの鈴が小さく鳴った。

 

「全く、今代の野祓いは何しているんだか」

美しい瞳を鋭く尖らせ、山の神社から海を越えて見える野祓い島の鳥居を睨む。

 

「へぃ、おねぇさん!!観光?俺とどっか行かない?」

そんな彼女のイラつきを無視するかのように後ろから声が聞こえた。

 

「俺、野原 八家!!気軽にヤケって呼んでくれ」

 

 

 

祭りまであと3日。




田舎、神社、海、祭り、ワクワクする要素を適当にぶっこんだ!!


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コレは私がもらう権利があります!!

八家編 2話目。
次で終わらせたい、終わるかね?


「馬鹿じゃないの?」

静かな山の中、青い着物を着た女が冷めた目で自身をナンパしてきた男に吐き捨てる様に言い放つ。

なるべく冷徹に、なるべく侮蔑を込めて――目の前を男を威圧する様に――

 

寂れたとはいえ、ここは神聖なる神社の目前。

つまり神前だ。神前で愛を語っていいのは、永遠の添い遂げるという誓いを報告する時のみ。

決して、気に成った女の子に声を掛けるべき場所ではない。

 

「山とは元来神聖な場所よ?しかも、此処は神社の前。

神域中の神域なんだから!!アナタの様な、鼻たれ小僧が来ていい場所じゃないの!!」

 

見た所相手は10代中盤、此方の方が年上だという考えから思わず語気が強くなっていくのを感じる。

 

目の前の小僧は、下をみて俯いている。

その様子に、少し強く言い過ぎたかな?と女は思った。

 

「ねぇ、あんた――」

 

「おかわりだ」

 

「は?なに?おかわり?」

意図せぬ言葉が返ってきた事に女が僅かに困惑の感情を見せる。

次の瞬間!!

 

少年がバッと顔を上げる!!

眼に宿るのは、強い意志!!

 

「そうだよ!!その、罵りボイスが欲しいんです!!」

そして、女の足元に四つん這いで這いつくばる!!

 

「さぁ!!俺に、そのおみ足を!!さぁ!!卑しきこの豚めに!!」

 

「なに!?なに!?一体なんなの!?物の怪!?新手の物の怪の一種なの!?」

女が慌てて、あたふたと慌てる、その動揺に合わせて髪に結わえれれた鈴がちりんと軽やかに鳴り響く。

 

「なるほど――一見Sな罵りおねぇ様タイプだが、責められると逆に動揺して年上ドジッ娘タイプへと変化するのか!!

二つの態度のギャップ……大いに『アリ』!!」

グッと親指たて、ハンドサインを送る。

 

「!?!?!???!?」

女の中では、目の前の少年の事は完全に理解不能な存在へと変化していた。

そして、理解できないという事はやがて恐怖へと繋がっていく。

 

「あ、あなた何なのよ!!いったい何処の物の怪よ!!」

理解不能な生き物に対して、女が指を指し少年を牽制する。

 

「おっと、さっき名乗った積りだったけど、聞きそこなったかな?

なら、もう一度。

僕の名前は野原 八家。気軽のヤケって呼んでください。

訳あって、お爺ちゃんの田舎のこの町に帰省してきてます。

 

因みに惚れました、付き合ってください。

年の差とか気にしないタイプなんで大丈夫です、あ、けどさっきからとと年上が好きになってます!!」

 

「……は?」

言われたことが理解できずポカーンと女が口を開ける。

当然だが事態についていけていない、というよりもこんな事態についていける訳がなかった。

 

「あれぇ~?せっかく決め顔してまで自己紹介したのに……なら、もう一か――」

 

「わかった、わかったから!!もうやめなさいよ」

あたふたと、女が八家の言葉を押しとどめようとする。

何もしないとループするだけという事を理解したのだろう。

 

「ご理解いただけましたか?」

無駄に畏まった態度で、女に話しかける。

気分は、紳士のお兄さんだ(変態の方でない)。

 

「ええ、野原の八家ね?

それとあんたが常人には理解できない思考をしている事を理解したわ。

まったく、この季節はおかしな奴が多くて嫌になるわ」

腕組をして、顎に指で触れる。

厄介なのに絡まれた、と一人小さくつぶやいた。

 

「という事で、お姉さん。デートしに行きましょう!!お手を!」

今度は目の前に跪いて、手を差し伸ばす八家。

女は困惑気味にその手を見たが――

 

パシン!

 

「嫌よ。あんたみたいな得体のしれない物の怪お断りだわ」

差し出された手を払って、意図して再び冷たい視線を送る。

 

「まぁまぁ、お姉さん。そう、言わずに――」

 

「あのね!!ここは神聖な山の神社よ!!

神の御前でヘラヘラと不埒に、女性に声を掛けるなんて恥ずかしくないの!!

まずはお参りをするのが普通でしょ!!!

それに、私はあなたの様な常識の無い、ケダモノはお断りよ!」

女の怒りの反応するかの様に、頭に付けた鈴が小さく鳴った。

 

「え、ここ神社?――あ、本当だ。鳥居あるわ。

しっかしボロイなー、半分自然と同化してるじゃん」

 

「う、うるさいうるさいうるさい!!私だって、こんな神社嫌よ!!

けど仕方ないじゃない!!誰も、お参り来ないんだもん!!」

今度は女が子供の様に駄々をこね始めた。

ナチュラルに神社だと気が付かなかった八家をみて相当ショックだったようだ。

 

「ほ、ほら!!せっかく来たんだし、参っていきなさいよ!!お賽銭とお供えが有ればなお、良しよ!!屠られた家畜の肉とか、野菜とかがおすすめよ」

 

「なら、ほい。定食屋のおばちゃんがおまけしてくれた、唐揚げとフライドポテト。

お賽銭箱の上に置いておけばいい?」

手早く、カバンから包んでもらったおまけを取り出す。

 

「ちょ……唐揚げって……フライドポテトって……」

 

「美味しいのに……あむ……」

女の見る前で、パックから唐揚げを取り出し一個くちに含んだ。

冷め始めているが未だにジューシーで口に旨みが広がっていくのがわかる。

 

「な、何食べてるのよ!!お供えしたものでしょ!?罰当たり!!あなた相当の罰当たりよ!!死んだあと絶対地獄に落ちるわよ!!」

すっかりと余裕を失い、八家を指さして何度も怒鳴りつける。

しかし八家は涼しい顔で一切答える気は無い様だ。

 

「いや、だって悪く成ると、おばちゃんに悪いし……要らない?」

そう言って女の前に、唐揚げを差しだす。

 

ごくりと女の白い喉が、唾をのみこんだのが分かった。

 

「わ、私は……この神社の関係者だから、も、もらってもいいわよね?

神様にあげた物はこの神社の物、この神社の物は、巡り巡って私の物よね?」

誰に聞かせるでもなく、ジャイアニズム染みた倫理武装をして八家の唐揚げに手を伸ばす。

 

「い、いただきまー」

 

女が手を出すより一瞬はやく、八家の手が伸びる。

 

ヒョイ、パク。

 

「あ……」

 

「あー、うまかった。満足満足」

八家がお腹いっぱいという様に、小さくげっぷをする。

 

「わ、私の……からあげ……」

女の目に、わずかに涙がたまっていく。

だが、その悲しみはすぐに八家への怒りへと変換された!!

 

「ちょっと!!なんで私の分を残しておかないのよ!!神前よ!!神前!!!

罰当たり!!罰当たりィぃぃぃぃ!!

あなた、死んだら間違いなく地獄送りよ!!」

けたたましく、女が騒ぎ立てる。

しかし八家は涼しい顔をしたままだ。

 

「いや、食べないからいらないかと思った。

食べ物残すのは、あんまり良くないし……

ポテトは全部食べていいよ?」

すっと残ったフライドポテトを差し出す。

 

「あ、当たり前です!!コレは私がもらう権利があります!!むぐ……むぐ!!」

八家からポテトをひったくると、次々口に投げ入れ始める。

 

「むぐ……む……ぐぶ!?げほ!!ゲッホ!!」

 

「あーあ、ノド詰まらせた、ほい、俺の飲みかけだけど、お茶」

 

「あ、ありがとう……ございます……はぁ……はぁ……」

飲み干したペットボトルを返しながら、女が礼を言った。

 

(この人、黙ってれば出来る系の人なのに……残念な美人って人か……)

小さく八家が女に対する感想を漏らした。

 

「なにか言いました?」

 

「いや?別に?えーと……名前は……」

そう言えば、此処まで来て一向に相手の名前すら聞いていなかった事を思い出す。

というか、よく平然とよく知らない奴と此処まで話せたものだと半場関心し始める八家。

 

「私の名前?ああ、羽袋布(はたぶ) 百世(ももせ)……へ、変な苗字とか言ったら神罰落とすわよ!!」

自身の名前にコンプレックスが有るのか、後半は怒鳴りながら話して来る。

だが、そんな事程度では八家は気にしはしなかった。

 

「へぇ、確かに珍しい苗字だけど、此処まで気にはしないな?

下の名は、百世?へぇ俺の名前も数字が入ってるんだよね~」

話題をさらす為か、八家がケラケラと笑って見せる。

あくまで、気にしないと

言う体制のアピールだ。

 

「さて、百世ちゃん。デートにでも行かない?

唐揚げ買ってあげるよ?」

 

「はぁ……あんたね、さっき私の言った事忘れた?

ここで、そんな不埒な事するんじゃないわよ。

まぁ?私に惚れたってなら、仕方ないから少しくらい付き合ってあげてもいいけど?」

再度口を開いた八家に、今度はまんざらでもないと言った感じで百世が答えた。

 

「よっし、和服美人ゲット!!テンション上がる!!」

その場でピョンピョン八家が飛び跳ねた。

 

「この服の良さが分かるなんて、タダのケダモノではない様ね?

これは、京都の有名な呉服屋から――」

 

「着物って……服の中でトップクラスに脱がしやすい服なんだな!!」

 

「は?」

八家のセリフに百世が止まった。

ぴしりと空気の凍る音が聞こえた気がする。

 

「帯を解けばすぐに、御開帳できるし、さらに下着を付けないのがマナーって……

いやー、やっぱり日本人はエリートだなぁ!!

さ!俺と下町デートに行こうね」

 

「ちょ、ちょ、ちょ!?あ、あなたなんてこと考えてるのよ!?

あ、頭おかしいんじゃない!?し、神聖な聖地でそんな不埒なことをー!!」

顔を真っ赤にして、百世が慌て始める。

純情な彼女には、八家の煩悩は大きすぎた様だった!!

 

「大丈夫、大丈夫。みんな、今はこんな感じだから――」

 

「こ、この――馬鹿者ー!!

し、神罰です!!心を入れ替えなさい!!」

八家に向かって指を突きつけた瞬間、八家の足元から小さく音がする!!

 

「え――ひゃぁ!?」

いつの間にか、己の足元でとぐろを巻いていた黒い蛇をみて八家が飛び上がる!!

 

「シャー……」

蛇は尚も威嚇する様に、八家に向かって舌を出す。

 

シャー……シャー……

 

「へ!?わわわわ!?」

更にその横から数匹の蛇が出て来て、八家を威嚇し始める!!

次々出てくる蛇をみて、八家が遂に逃げ出した!!

 

 

 

 

 

「見事なお手並みですな、羽袋布様?」

 

「あ――翁」

何時からいたのか八家老人が、杖を突いて現れ笑った。

その姿を認め、百世が少し気まずそうな顔をする。

 

「あら、今年も来たのね永二?」

次に、その横に居た永二に声を掛ける百世。

永二は無言で頭を下げて居た。

 

「教えてもいないのにこの場所に来るとは……あやつも、野祓いの血か」

穏やかな笑みを浮かべて、野原老人が笑った。

 

「はぁ!?ま、まさかアイツも、アンタの血族なの!?」

驚いた様に、百世が驚いた。

驚愕と同時に頭の、髪飾りの鈴が再び大きく鳴った。

 

「8番目の八家です」

今まで黙っていた、永二が頭を上げる。

その口調には恭しさが満ちていた。

 

「8番までいるの!?アンタの一族は相変わらずね……」

 

「羽袋布様にまで言われるとは……

そうそう、3日後の祭り、今年もよろしくお願いいたしますぞ?」

八家老人が、露骨に話題を変えに掛かった。

 

「ええ、解ってるわ。この季節だもの、ね……」

 

「さ、永二。羽袋布神社の掃除を始めるぞ?」

 

「はい、二つの鳥居が祭りには不可欠ですからね」

野原老人の掛け声に、反応して永二が神社の掃除を始める。

だんだんときれいになっていく神社を、百世はつまらなそうに見ていた。




今季のヒロインの名が決定。

たぶん使い捨てに成るんだろうなー


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私が何か食べる所をみて興奮してるの?

ふぅ、八家編が遂に終わりました。
結構疲れた……けど楽しく書けた気がします。


潮風の乗って海の匂いを含んだ涼風が部屋に入りこんで来る。

その風が部屋の風鈴を小さく鳴らす。

 

鈴のような涼し気な音色。その音色は八家にとある人物を思い浮かべさせた。

 

「ふぅわぁ~あ……」

潮風の匂いを嗅ぎながら八家が大きくアクビをした。

なんだかんだあって山から逃げ出した八家。

あの日から2日経っており明日の夕方から、祭りが始まる。

今日もナンパに出かけようと思ったが、永二に止められ祭りの準備を手伝わさせられた。

 

「派手だねぇ……」

そう言って今日自身でライトアップした、島の鳥居を見る。

島の鳥居は下側からサーチライトの様な物でライトアップされ、おそらくだが本土の方からもしっかり見えているハズだ。

チラリと本土の方に眼をやるがぽつぽつと民家の灯りがあるだけであの山の鳥居は見えはしなった。

 

「八家、もっとシャンとしろ!」

部屋に入って来た永二が、だらりとする八家を叱りつけた。

さっきまで別の仕事をしていた永二は風呂上りなのか、ホカホカと湯気を体から立てている。

 

「いや、仕事で疲れてるんだよ……はぁ、祭りの手伝いとか嫌だなー

だからこっちに来たくなかったんだよ……」

小さな声で愚痴を言う八家、その声を聴いた瞬間永二の眉がつりがる。

 

「おい、八家!!いいか?この仕事は家が代々やってる事なんだ、とても名誉なことだ。お前のミスで代々受け継いだものを汚していいと思うのか?

自覚をしろ、自覚を!!お前は野祓い一族の一人なんだぞ!!」

 

「野祓いなんて知らねぇーよ!!俺は俺なんだよ!!!

頼まれた仕事はしっかりやってる、それでいいだろ?」

睨み返す八家をみて小さく、舌打ちをした永二が部屋を出ていく。

今思うと永二は役目という物に強い執着があるのではと八家は思った。

 

「俺と、兄さんたちは違うよな……」

そして小さくつぶやく。

その通りだ、八家は名前の通り8番目の兄弟。

男の兄弟という意味では末っ子に値する。

長男次男三男といった上位の兄弟たちは、いわゆる『受け継ぐ』側の兄弟だ。

だが4男5男となってくれば話は別だ、受け継ぐのではなく自身で手に入れなくてはいけない。

他者を馬鹿にする言葉に「たわけ」という物がある、諸説あるがその語源の一つに息子たち全員に親の田んぼを分けて渡した結果、小さな田んぼに分かれてしまい、うまく農作物がとれなくなった。

それが転じて「田んぼを分けるのはおろか」から「たわけ」になったという訳だ。

仮に財産を分けるなら与えるべきは長男だろう、だが何ももらえないその下の兄弟は?

同じ血を分けた兄弟の中にある明白な格差、八家はそれを今、ありありと感じていた。

 

「そうか、玖杜もこんな気持ちだったのか……」

今更になってほんの少しだけ、自身の妹の気持ちが分かった気のする八家。

と言っても、彼女はもう救われた気がする。

出掛ける前に珍しく外出すると言っていた玖杜、聞けば天峰の家に遊びに行くらしい。

クラスメイトの夕日ではなく、年上の天峰という所が彼女の心を誰が変えたかという事を物語っている。

 

「アイツは、不思議な奴だ……俺にはない力を持っている……」

自身の友人のことを思い浮かべる八家。

幻原 天峰。その男を八家はこれから一生忘れないだろう。

困った意味で子供好きな彼は、今まで何度も小さな幼女の心を救っている。

ある時は攫われた子を探し出し、またある時は心を病ませ人形のようになってしまった子を自身の怪我を気にせず助け、引き裂かれる友情を守ったりもした。

天峰には間違いなく、幼女と引かれあう才能とそれを救うための意思を持っていた。

 

「俺は……何が出来るんだ?」

自問自答をする八家だが、風鈴がなるだけで誰もその答えをくれはしなかった。

何もないままただ時間だけが過ぎていく。

 

 

 

 

翌日。

夕方の5時に、八家の居る野祓い島から花火が上がった。祭りの開始の合図だ。

八家は本土の方におり、島から上がる花火を見ていた。

 

「うっし!じゃ、こっちもはじめっか。な?8番目」

日に焼けた野原老人が二カッと白い歯を見せた。

名前を呼ばれない事に少しイラつきながら八家が仕事を始める。

 

「灯篭、販売開始しますー」

八家が大きく声を張りあげると共に、客人が押しかけて来る。

厚紙に金属製の固定針と蝋燭、その周りを囲むありがたい言葉のかかれた障子紙。

この祭りで販売される簡易灯篭だ。

 

「二つ頂戴?」

 

「はい、二つで600円です」

 

「家族セット一つ」

 

「5つセットで1300ですね」

八家が灯篭を売るたびに海に買った灯篭を客人が流していく。

ぽつぽつと、灯篭の灯りが暗くなっていく海を照らしていく。

 

「もう、そろそろだ」

野原老人が小さく口に出す。

2時間ほど仕事を続けると、海はまるで星を写したかのようにまばらに光る灯りでおおわれていく、ゆらゆらと波の揺れる灯りが動きを止めていく。

 

「あ……」

 

「干潮だ。この時期だけなぜか、潮がひいて島と本土がつながるんだ……

そしてその場所が、祭りの会場になるんだ。

あの灯篭はその会場を照らす灯りでもあるんだ」

説明する野原老人の横を永二率いる、やぐら部隊が進んでいく。

灯篭を壊さぬ様に手早く、バラバラだったやぐらを島と本土の中心に組み立てる。

何処かにスピーカーがあるのか、組み立てられたやぐらから祭囃子が流れてくる。

 

「ほい、行ってこい。8番目、ナンパでも買い食いでも好きにしろ。

儂は、やぐらの方み向かう」

そう言って野原老人が、5千円札を八家に渡した。

 

「……うん、ちょっと行きたい所があるから」

金を受け取った八家が、山の方へと走っていくのをみて野原老人が楽しそうに笑った。

 

「ええのぅ、ええのぅ。青春じゃ、青春じゃ。

さて、不機嫌な神様を呼び出すのも、野祓いの仕事じゃぞ?

お前に出来るか?8番目よう?かっかっか!!」

 

 

 

 

 

3日前、蛇に追われて逃げ出した神域を進んでいく。

しかし一向に返事がない、ライトアップしてないだけでまるで山が別の場所になってしまった様だった。

なるほど、確かに山は異界なのかもしれない。

 

「おーい!!おーい!!羽袋布さーん!!羽袋布さーん!!

……おーい!!ダメおねーさん!!ギャップ系ダメおねーさ――」

 

「その不愉快な呼び方を止めなさいよ!!」

八家が呼びかけを変えた瞬間、木の間から鈴の音と共に百世が現れた。

早速だが不愉快そうに、八家を睨んでいる。

 

「はぁ、はぁ、探したよ。いきなりだけど、今日祭りあるんだ。

一緒に遊びに行こうぜ!唐揚げ買ってあげるからさ!」

 

「唐揚げって……私そんな、安い女に見えるの!?」

 

「安いって言うより、ポンコツとか、チョロイって言うか――」

 

「なんで下になってるのよ!?私神職よ!!神職!!

神社だってあるのよ!?昔の呼び名は神童よ!!」

 

「振動?バイブ?なに?唐突な下ネタ?」

とぼけた顔で、八家が言い返した。

 

「いい度胸ね……野祓いの8番目!!

貴方の血族はみんなもっとまともだったわよ!!」

一部の単語を聞いて八家が固まった。

 

「知ってるのよ、翁から聞いたわ。あなた野祓いの――」

百世が八家の顔を見て言葉を飲み込む。

それだけ八家の顔はさっきと打って変わったものとなっていた。

 

「俺を8番目と呼ぶな」

さっきまで全く見せなかった厳しい顔で百世を睨んだ。

ヘラヘラとした鳴りは潜めていた。

 

「な、なによ……別にいいじゃない。本当の事なんだし名誉ある一族でしょ?」

 

「そんなものは記号でしかない!!しかも、8番目?1、2番目ならまだしも、8番目ね?ほぼ意味は無いよ」

さっきまでの剣呑な雰囲気をごまかすかのように、八家は自嘲気味に笑った。

 

「無意味だって言うの?光が当たらなければ、無いのと一緒だって言うの!?忘れられたら無いのと同じだというの!?」

今度は百世が激情を露わにした。

羽袋布神社は寂れた神社、今夜の祭りだって主役は本来二つの鳥居のハズなのに、こっちは光すら当たりはしない!!

忌々し気に、にぎやかにライトアップして居る野祓い島の鳥居を睨んだ。

 

「無意味とは言わない、けど所詮君は君だろ?なぜ、そんなに神社にこだわるんだ?」

 

「うるさい!!この神社が私の存在意義――」

 

がさッ!!

葉っぱを踏むような音がして、八家と百世が同時にそっちの方を見た。

 

「あ、あう……」

小さな子供が、震えてそこに立っていた。

眼に涙を溜め今にも泣きだしそうだった。

 

「ん?どうしたのかな?こんな所で?」

 

「う、うぇ……うぇええええ!!!」

しゃがんで八家が話しかけたが、ついにはその子が泣き出してしまった。

その様子に八家はオロオロするばかりだった。

 

「おーおー、どうしたんだ……」

 

「親とはぐれたのかしらね?」

横で来ていた、百世が同じくしゃがんで頭を撫でる。

 

「う、う、うぅぅ……ヒック……」

百世に撫でられ安心したのか、静かに子供は泣き止んだ。

泣き止んだ子供をみて百世が小さくほほ笑んだ。

 

「たぶん、祭りに呼ばれて来たのね」

 

「ふーん、さがしてやるか。親を」

八家がその場から立ち上がった。

チラリと視線を百世に送った。

手伝えという無言の圧力だ。

 

「はぁ、ついて行けばいいんでしょ?

見捨てるなんて、神前でそんな不道徳な事出来ないわよね。

ほら、おいで。手を繋いであげる」

 

「マジか?じゃ、遠慮なく――」

 

「馬鹿!!この子に言ったのよ!!」

手を握ろうとする八家の手をはたいて、子供の手を握る。

その様子を八家が不満げに見ていた。

 

 

 

 

 

「ふぅ、いないわね……ご両親見つけたら行くのよ?」

百世の言葉に、子供が何度も首を縦に振る。

 

「そうだ、ぞ?ハフ、ハフ……しばらくしたら、ハフハフ……人の数も掃けるハズだし……」

 

「8番目!!あんた何食べてるのよ!!」

たこ焼きを頬ばる八家をみて百世が、怒声を上げる。

 

「ん?たこ焼き」

 

「知ってるわよ!!なんで今このタイミングで食べてるかって事!!!」

すっかりマイペースを取り戻した八家を見て、小さく百世がため息を漏らす。

 

「焼きたてだったからさ。ほら、食べるだろ?」

そう言って、別のつまようじをさして、子供と百世に渡す。

 

「……おいしい……」

 

「なんで、私がこんな所で――あら、おいしいじゃない」

子供は素直に、百世はぶつくさ言いながら口にたこ焼きを含んだ。

その様子をみて八家が笑う。

 

「な、なによ?私が何か食べる所をみて興奮してるの?」

 

「いんや?楽しいなって思ってさ」

 

「たのしい?この子が大変なこんな時に?」

八家の言葉に、再び百世の反論が飛んでいく。

しかしそれでも八家は表情を変えない。

 

「楽しくないか?身分もレッテルも、何も関係なく交流するのはさ」

 

「ふん、当たり前よ!ここは、二つの入り口が混ざり合う会場よ?

生者も死者も、物の怪だって神様にだってここでは平等に楽しむ権利があるんだから!!そして、私はその片方を担う羽袋布よ?いわばこの半分は私のお陰――」

 

「じゃ、もう半分は野祓いの俺のお陰だな?」

八家が言い放つが、どうもそれは納得いかない百世。

しかし、此処で八家の事を否定したら遠まわしに自分の事まで否定することに成ると思ったからだ。

忌々しいが、影響力では野祓いの方が羽袋布よりずっと上なのだ。

 

「さて、とっとと探して――」

 

「あ!いた!!」

捜索を再開しようとした時、子供が小さく走り始めた。

人込みの中に居た、二人組に抱き着いた。

その二人を見た時、子供の顔に笑顔が戻った。

 

「うふ、良かった。これ以上は野暮ね。

さ、帰りましょうか?」

 

「待った待った!せっかく降りて来たんだ、終わりまで時間はもうないけど、せっかくだし楽しんでおこうぜ?という事で、お祭りデート行こうぜ!!」

踵を返す百世を八家が止める。

そして、自身の右手を差し出した。

百世はその手を片目をつぶって見ていた。

 

「へぇ?私を誘う積り?まぁ、此処は聖域って訳じゃないし、野祓いの――いえ、せっかく八家君が誘ってくれたんだものね?

少しだけ、付き合ってあるげるわ」

そう言って、今度こそ八家の手を取った。

 

 

 

 

 

「ん?アレは、羽袋布様と、8番目か……ふぅん?

なるほど、今代は8番目が選ばれたか……2番目には黙っとくか、羽袋布様に気が有った様じゃしの……」

祭りのなかで、手を繋ぎ久方ぶりの百世の笑みをみた八家老人が笑った。

 

 

 

「はぁ、楽しかった」

 

「マジか……爺ちゃんの分の5000円含んで7000以上あったのに……なんで600円しか残らんの?」

楽しそうに笑う、百世と財布を見て愕然とする八家が、神社の前に戻ってきていた。

しかし――

 

「ふっふっふ、お前には私自ら名を与えてあげるわ。そうね――――上ヶ鳥(アゲドリ)、そうよ、あなたは今日から上ヶ鳥よ!!」

 

「ぴィ!?」

楽しそうにカラーひよこに名前を付ける、百世を見るとこんな事はどうでもよくなるから不思議である。

後ろで不意に灯りが消えた。

 

「あ、もう――」

 

「祭りも終わりか」

何処かさみしそうに、八家が島の方を見る。

祭りの終わりはやはりどこか悲しくなるのを感じる八家だった。

灯篭は燃え尽き、やぐらは分解されていく。

 

「そう、あの世とこの世の境界が今もとに戻っていく。

野祓いと羽袋布の二つで歪んだ境界が――

ねぇ、八家君。特別に良い物見せてあげる、ついてきて」

 

「ん?なになに?」

百世は笑うと、八家の手を引いて神社の入り口を開ける。

その瞬間一瞬にして景色が変わる。

 

「は?」

八家は確かに、神社の本尊のある扉を百世に引っ張られてきたはずだ。

だが、目の前はそんな物は何処にもない。

有るのは、太陽の無い青空と足元の花畑、遠くに大きな木が見える。

 

のどかな平和な光景のハズなのに、八家の背中に嫌な汗があふれ出て来る!!

本能が、此処に居てはいけないと強く訴える。ここは異界だ。

 

「ここは――」

 

「鳥居の向こう側だよ?この時期は鳥居が開いて外に出れるの。

みんな戻ってきたみたいだね」

ブワッと大量の蝶が八家の上を飛んでいく、まるで天の川の様に色ととりどりの蝶が並んで飛んでいく。

 

「ねぇ、八家君。君もこっちに来ない?」

百世が八家の手を強く握った。

その瞬間八家の中にあった、気が付かないフリをしていた物が全て動き出した!

目の前の女は何故、着物で山の中に居たのだろう?草履で登れる場所ではないのはわかる。

なぜ野祓いは、二つの神社を残したのだろう?残したのではなく、消せなかったとしたら?

目の前の女は何故、そんな恰好で祭りの会場に行ったのだろう?潮が引いてもまだ水たまりは残る。

視線を足に向けたが、当然の様に足袋はおろか下駄すら濡れていない。

なぜ、野祓いの家には男児は時期変えてあの祭りに参加する必要があるのだろう?

様々な疑問に、良くない答えが勝手に湧いてくる。

 

「ねぇ、八家君?私が君の事気に入ったって言ったんだよ?コレは光栄な事なんだよ?だからさ、私と来てくれるよね?」

無邪気な笑みで、百世が笑う。

掴む八家の手の力を緩めることはない。

 

「いいよ、さみしいのは嫌だもんな。

今度は、今度こそは、間違わない。

一人で、震えている奴をほおっておかない!!」

そう言って八家が反対側の手で、強く百世を抱きしめた。

 

「へぇ、嫌がるなら無理やりでも連れてくつもりだったけど……

受け入れてくれるんだぁ?うれしいなぁ」

 

リン――小さく百世の鈴がなる。

彼女がつま先立ちになって、八家の顔と百世の顔が重なる。

 

「ん!?」

未知の感覚に、何をされたのか八家が混乱する。

一瞬後目の前に、百世の顔が有った。

 

「これで、私のとの間に『縁』ができた。

またいつか――いえ、ずっとそばに居るから」

そう言って笑うと、百世の姿が薄れていく。

 

 

 

 

 

ちゅん!!ちゅん!!

自身の頬を何かが突く様な、感触に八家が目を覚ます。

気が付くと、神社の階段に寝かされていた。

頬をつついていた物を正体をみると、百世が買った青いカラーひよこだった。

いつの間にかついたのか、首に百世と同じ鈴が結ばれている。

百世はいない。

 

「夢か……帰るか……」

 

「ぴィ!!」

流石に神社の中を見る勇気はなかった八家。

百世が残した上ヶ鳥と胸ポケットにしまって、家に帰っていった。

彼女が何だったのか、それはもうわからない。

ひょっとしたら、最後のは夢を見ただけかもしれない。

全て忘れてしまおう、そんなことを八家が思って山を下り始めた。

 

リン――

 

直ぐ後ろから鈴の音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

「よう、8番目。帰って来たか」

出迎えた野原老人が笑った。

 

「八家、そろそろ家に帰るぞ?荷物はまとめといてやったからな?」

永二が八家の荷物を詰めたカバンを差し出す。

 

「あ、ありがと……」

 

「ん?カラーひよこ?珍しいな、買ったのか?」

 

「あ、ああ……」

永二に連れられ、野祓いの家の廊下を歩いて居く。

夏休みはまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日……

「よう天峰!デートか?」

街中で偶然八家が天峰、夕日の二人組にであう。

 

「そうそう、夕日ちゃんと買い物デート――」

 

「……違う」

ふざける天峰に対して、夕日が釘ならぬカッターを刺そうとして止める。

 

「ん?ヤケそれ、ひよこか?」

 

「かわいいだろ?上ヶ鳥って言うんだ」

胸ポケットに入っていた青いカラーひよこをみて、天峰が指を差し出す。

 

「唐揚げかよ……もっと、かわいい名前を――いでぇ!?」

指を突き刺した上ヶ鳥に天峰が手をとっさに引っ込める。

 

「はっはっは!!じゃーな、俺、ビデオ借りに行くから」

笑いながら、八家が歩いていく。

その八家の背中を夕日がぼおっと見ていた。

 

「どうしたの夕日ちゃん?ヤケの背中、なにか付いてる?」

 

「……うん……すごいのが……憑いてる……」

 

リン――

 

夕日は小さく鈴がなる音を聞いた気がした。




少し不思議なエンド。
百世の正体は皆さまの想像に任せます。

普通の人か、それとも……


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阿弥陀くじで決めましょう!

さて、今回は夏休み編であの人に遂にスポットが!!
公式不遇なあの人の活躍はいかに!!


「肝試し~?」

 

「そうよ!!今日あるらしいのよ!!行きましょうよ!!」

携帯電話から聞こえる卯月の声に天峰がめんどくさそうに答えた。

突然電話が来て最初の一言が「肝試しに行きましょう」ではだれでもこうなってしまうだろう。

 

「嫌だよ、めんどくさ――」

 

「肝試し?行きたい!!行きたい!!」

 

「……悪くは……ない」

断って電話をきろうとした時、後ろで勉強(遊びに)来ていた夕日、玖杜の両名がリアクションを示した。

 

「二人とも行きたいの?」

 

「行きたい!!」

 

「……うん」

電話に手を当てて、幼女二人の意見を聞く。

天峰の考えとは裏腹に、二人とも行くき満々らしい。

 

「うーん……」

……

………………

………………………………

……………………………………………………

天峰の脳内で高速シュミレーションが始まる!!

暗い墓場、怯える幼女二人!!

「……天峰……怖い……手を……繋いで……ほしい……」

怯えた夕日が、おずおずと手をさし伸ばす。

何時もより姿が小さく見えるのは、なぜだろうか?

 

「おにーさん!!怖いよ!!手を繋いでね!!放さないでね!!」

同じくクノキまでもが震えて、天峰に抱き着かんばかりにくっついて来る。

痛いくらいに握られる手、二人の幼女に挟まれる天峰……

 

「よぅし!二人とも俺の胸に飛び込んでおいで~うふふふふふ……」

 

「「うわぁ~い!!」」

その様子はまさに天国!!ユートピア!!

天峰の望むモノがそこにある!!

……………………………………………………

………………………………

………………

……

 

「うっふふふ……」

 

「うわぁ……おにーさんがすさまじい笑顔を誇っているよ……なにコレ?

ヤバいおクスリでもキメてるの?」

 

「……問題……ない……偶に……ある事態……」

天峰の笑顔に軽く引く玖杜、それを成れた様子で静かに見守る夕日。

一方卯月は全く返信が来ない電話に向かって何度も声を掛けていた。

 

「解った、卯月。今日一緒に肝試しに行こう!」

 

「本当!?確かに聞いたわよ、夜の8時に3丁目の墓地に集合だからね!!」

非常に楽しそうな、口調で卯月が電話をきった。

 

 

 

 

 

「やったわ!!天峰を、肝試しに誘えたわ!!

これで、二人の仲も急接近よね!!

浴衣……浴衣着て行かなくっちゃ」

そそくさと前もって準備していた浴衣を見る。

こっそり紅でも差そうかと、化粧棚を見る。

卯月の脳内では、天峰にくっついたり、二人で暗い中密着する事しか考えていない!!

 

 

 

 

「よし、夕日ちゃん&クノキちゃんと一緒に肝試しだ!!!

うふふ……怖がらなくていいよ、俺が付いてるからね~」

天峰が密かにほくそ笑む、その脳内では幼女二人と一緒にくっついたり、トラブルが起ったりすることしか考えていない!!

 

 

 

 

 

「おにーさん達と、肝試しか~

いいねぇ……」

玖杜が楽しみにする、その心中では夏休みのイベントを自身の友人たちと過ごせるリア充っぽいイベントに胸をときめかせる。

画面の向こう、ゲームやアニメ、漫画のキャラクター達がやってるのを見ているしかなかったイベントが自分に来るのだ。

コレは期待しない訳がなかった。

ワクワクと勉強をしながら、夜を待つ。

 

 

 

 

 

「……………………肝試し……」

ゾンビ、流血、瀕死、悲鳴。

密かにホラー映画やスプラッタが好きな夕日は、一体どれだけ工夫を凝らしてこちらを怯えさそうとするのか、運営側の努力に期待していた。

 

 

 

見事にすれ違う4者の思惑!!

様々な計画を持って、運命の時間は進んでいく。

 

 

 

 

 

約束の時間。

4人は肝試しの会場にやってきていた。

墓場を利用した場所で、お寺が主催している様だった。

バチ当たりな気がするが、お寺がやっていいと言うのだ、良いんだろう。

結構な数のカップルや、おかしな奴ら、あと怖い物見たさで集まったメンバーたちが居た。

 

「た~か~み~ね~?な~んで、夕日ちゃん達が居るのかしら~」

額に青筋を立てた、卯月が笑顔で天峰を睨む。

何というかオーラ的な物が上がっていて、中途半端な幽霊より怖い気がしてならない!!何気に卯月と初対面の玖杜に至っては、伊達眼鏡をかけて自分の世界へと逃げ帰ってしまっている。

便利なメガネだと思う天峰、そんな様子を相変わらず冷めた目で見る夕日。

そして……

 

「なんで、お前らここに居んの?」

そんなメンバーを見つけて、驚く八家。

 

「そっちこそ、なんで8兄が居るの?ボッチなの?さみしい人なの?友達いないの?去年のクリスマスは男子シングルだったもんね」

玖杜が、可哀想な人を見る目で自身の兄に対して哀れみをかけた。

半分くらい悪口な気がするが、軽口を言い合える程度に兄妹中は良くなった様だ。

 

「ひ、一人じゃねーよ……ほ、ほら、上ヶ鳥もいるし……」

八家が胸ポケットを指で軽く突くと、首に鈴つきリボンを巻いた嘴まで真っ青なひよこが顔を出した。

 

「ぴぃ!」

 

「よう!」

 

「……こんばんは……」

まるで挨拶をするかの様に、メンバーに向かって鳴いて見せるひよこ。

反射的に天峰と夕日が挨拶を返す。

 

「なんで俺より、コイツにする挨拶が丁寧なんだよ!!」

八家が二人にツッコミを入れる。

自身の立場がカラーひよこより下だとは思いたくなかった!!

 

「ぴィぴィ……」

まるで慰める様に、ポケットから飛び出た上ヶ鳥が八家を羽で撫でる。

それを見た八家が優しく上ヶ鳥を撫で返す。

 

「俺の事をわかってくれるのは、上ヶ鳥だけだよ~」

 

「ピィピィ……」

ひとしきり撫でられ終わった後、上ヶ鳥は自分で胸ポケットへと帰っていった。

なかなか賢い生き物らしい。本当にひよこなのだろうか?

 

 

 

「まもなく、肝試し大会始まりま~す」

坊主が現れ、説明を始めた。

ざわざわと参加者たちが集まっていく。

 

「墓場内は順路が矢印で決められています。

チェックポイントは5つ、それぞれの場所に合言葉が書かれています。

今からお配りする紙に五つの合言葉をすべて順番通りに書いてもらいます。

正解者には抽選で豪華特典、線香と提灯一年分。外れても参加賞として饅頭がもらえます、では皆さん参加用紙に名前を書いて投稿ポストへ投入してください。

基本2人一組です、一名の方は相方待ちになりますので一名様ポストに投稿してください」

 

天峰達に参加用紙が配られる。

当然ここで問題になるのは、チーム分けだ。

 

「さて、俺、夕日ちゃん、クノキちゃん、八家、卯月のメンバーなんだが……一人余るぞ?」

天峰が他のメンバーをみて一言上げた。

 

「あ、阿弥陀よ!!阿弥陀くじで決めましょう!」

卯月が誰かが何かを提案する前に卯月が手早く、自身の参加用紙の裏に阿弥陀を掻き始めた。

それを見た他のメンバー達も、ぞくぞくと自身の名前と阿弥陀くじに棒線を引いていく。

 

「さぁ!始めるわ!!」

勢い急いで、始める卯月!!

その結果……!!

 

天峰&玖杜「妄想系暴走コンビ」誕生!!

「クノキちゃんよろしくね?」

 

「おにーさん、暗闇は人を獣にするっていうけど……おにーさんは、成らないよね?」

 

八家&夕日「エロス&タナトスコンビ」

「夕日ちゃ~ん、怖かったら手を握ってあげるからな!!」

 

「……お……こ……と……わ……り……」

 

余り

 

卯月 シングル

「何よ……私が何したってのよ……」

一人さみしく余った卯月が、ぶつぶつと一人用ポストに自身の紙を入れに行った。

 

 

 

 

 

「あ~イライラするわ……」

くじの結果一人あぶれた卯月、同じく一人あふれた見ず知らずの人と共に二人で墓場を歩いていく。

 

「えっと、卯月ちゃんだっけ?オレ、幽霊とかマジで得意だからアテにしてくれよな?」

見た目はチャラい大学生の男、上機嫌で卯月にアピールを仕掛けてくる。

そんな、半分空回りした情熱を卯月は冷めた目で見ていた。

 

「オレ、空手とかチョー得意で?一発バシッとやってやっから!!よろしく的な?

シュ!!はッ!!」

良い所を見せたいのか、暗がりに向かって拳や足を振り回す。

その時!!

 

ガチャ!!

 

「あ、ヤベー、ふふッ」

墓に供えられていた、カップ酒を蹴り壊してしまった。

本来墓に供える物ではないだろうが、生前余程酒好きだったのか中身のある状態で2本供えられていた物を蹴り壊してしまった様だ。

本人は悪いと思っていない様で、小さく笑いすら零れている。

 

「一応寺の人に謝った方が……」

あんまりの態度に卯月がやんわりと注意を促す。

しかし大学生は気にしていない様だった。

 

「だーいじょうぶだって!!気にしすぎ、気にしすぎ!!

何時か捨てるもんだし気にするべきじゃないっての!

に、してもオレの蹴りやばくない?ガラス瓶粉砕よ?粉砕!!

トウ!!タァ!!ハァ!!」

何に機嫌を良くしたのか、また腕や足を適当に振り回しまくる!!

そしてついに事件が起こった!!

 

「あ、そっちは――!!」

 

「え?なに?」

男が卯月の言葉に気を取られた瞬間、あらかじ寺が用意しておいた()()()()()()()()

当然提灯の中には、灯りをともす為に()の付いた蝋燭がある、そして不運な事にその提灯をけ破ったのは、さっきカップ酒を蹴り壊したのと同じ足。

アルコールは燃える、それが付着した足で蹴った男の足も当然――

 

燃 え る !!

 

「アチャチャチャチャ!?」

酒に引火して男の足が燃える!!

パニックに陥った男は火を消そうと何度も火のついた方の足を振り回す!!

 

「あぁあああ!!消えろ!!消えろっての!!」

そうなると当然再びバランスを崩す事になる!!

 

「うわぁ!?」

あえなく男は地面に転倒!!

尚も火を消そうと、地面を這いずり回る!!

男の努力の甲斐あってか、だんだんと火が小さく成っていく。

濡れた地面を見つけ、足を押し付けようとする。

 

「あー、あー……やばかった……あー、死ぬかと思っ――――」

 

「止まって!!!」

 

「え?」

卯月が男を止めようとしたが、男は自身の足を地面に付けてしまった。

そこは、さっき男が酒を割った墓の前。

そう、地面に溜まってるのは水ではなく酒!!

 

ボブゥ……!!

 

小さな火種に再び引火する!!

 

「おいおいおいおい!!」

男のジャケットや、シャツにまで地面の酒は染みていた。

今度は全身が火で包まれる!!

 

「服を!!脱いで!!」

慌てて卯月が駆け寄って、男の服を脱がしにかかる。

ジャケット、シャツ、ズボンと慌てて脱がし捨てる。

 

「はぁー、はぁー……助かった……」

幸い軽いやけど程度で済んだようだが、服は黒焦げに成ってしまった。

そんな男に卯月は優しく語り掛ける。

 

「大きなやけど、とかは有りませんか?

念のため救急車を呼んだ方が――」

 

「あ、あなたは女神だ。本当にありがとう……

どう?今度食事でも……」

半分泣きながらナンパする男。

本能に忠実なのか、それともテンパってるのか……

 

そこにバタバタと、寺の関係者が走ってきた。

男の悲鳴を聞きつけたのだろう。

 

「一体なにが?」

 

「事情は説明します、いったんこの人を救急車へ」

てきぱきと卯月が説明をしていく。

 

結局、男の自業自得なのだが、問題ありとしてこの肝試しは中断となった。

残念そうな顔をしたメンバー達が、続々と帰っていく。

そんな中で卯月は、天峰達一行を探していたが……

 

「いないわね……帰ったのかしら?」

 

卯月は気が付いていなかった。

この大学生の男が暴れまわった時、ひそかに順路を示す矢印を一枚壊していた事を、そしてさらにその次のとさらに次のメンバーがそれぞれ、天峰、八家のチームだった事を。

 

「お、おにーさん!?大丈夫かな?あんまり人いないよ!?暗いし提灯とかないけど……道あってる!?」

玖杜が震えて天峰の抱き着く。

天峰自身も現在かなり不安な気分でいる。

 

「だ、大丈夫だ……よ?うん、心配ない……ええと……矢印通りなら……

次はこの、廃屋?」

 

「いま、一瞬誰か窓の所いなかった!?ねぇ!!ねぇ!!」

 

「大丈夫、だって……スタッフの人だよ……たぶん」

この後夕日ちゃん達と合流して帰って行きました。




ミニキャラ紹介。

『幸せを呼ぶ?青い鳥』
上ヶ鳥 アゲドリ

八家が飼っている青いカラーひよこ、首には赤いリボンと小さな鈴かついている。
目以外の全身が青く、嘴からつま先まで薄青色している。
通常カラーひよこはすぐに色が落ちるのだが、何時まで経っても落ちない。
不思議である。

いつの間にか八家の肩や、胸ポケットに入っている。
カバンにも入っている、冷蔵庫にも入っている、トイレにも入っている。
なぜか八家の行く先々に現れる。
どんなトリックなんだろうか?

本編では基本的に『ぴィ』や『ピイピイ』としか鳴かないが、実は江戸っ子口調で話している。
らしい。

実はある「やんごとなき」方から、八家の監視を頼まれている。
夜になると報告している。
らしい。

基本無力だが、本気を出せば野良猫程度なら引き分けに持ち込める実力がある。
鈴の音がダブって聞こえたら要注意。


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うぁ……これは、ひどい

さて、今回はあの子が復活。
どのように関係していくのか……!!


家族の団らんの時間夕食時。

季節は夏、この時期では素麺や冷やし中華などの冷たいさっぱりした物が夕食に並ぶことが多いだろう。

だが幻原一家は少し違う、食卓を囲みキムチ鍋を楽しそうに突就いている。

 

「あーうめぇ!!やっぱ、夏はあえてのキムチ鍋だよなー」

シャツを羽織った天音が、麦茶を飲み干して笑った。

母親も父親もその様子を見てにっこり笑う。

 

「あまり夏にこういう物を食べる事は無かったかな?」

父親が夕日に尋ねた。

家によっては有るらしい、夏場のキムチ鍋。

夕日が少し困惑気味の表情をしているのに気が付いた父が尋ねた。

 

「……辛い……熱い……けど……好き……」

 

「うっし!!〆はうどんだぞ!!」

夕日の言葉を聞いて、母親も楽しそうに話す。

最早すっかり夕日の日常となった家族の団らん、そんな中天峰が口を開いた。

 

「あ、そうだ。明日、明後日ちょっと家を出るから。

朝ご飯食べた後、次の日の夜まで帰らないから」

 

「明後日夕飯は居るか?」

 

「いらない」

急な泊りがけの天峰の用事、母親は気にした様子もなく父親は口出しする事もない。

いい意味でも悪い意味でも幻原家の両親は、自由放任主義の様だ。

 

「おっ?アニキお泊りデートか?ヤルな!!」

 

「別にコトに及んでいても構わないが、相手を悲しませるなよ?」

天音、母親が天峰をからかった。

というか母親はこれでいいのだろうか……

 

「まぁ、ちょっと家事の手伝いを頼まれてさ~」

 

「…………」

夕日は困った様に笑う天峰をじっと見ていた。

 

 

 

 

 

事の始まりは一本の電話だった。

 

「あの……此方、幻原 天峰様のお宅でしょうか?」

凛とした、佇まいで意志の強さが現れている様な声がする。

気の強そうな声が電話越しに響いてくる。

 

「まどかちゃん。どうしたの?」

相手に心当たりがあった天峰が軽く答える。

 

「あら、庶民自ら私の電話を取るとは感心な心掛けね。

実は今日は貴方に頼みが有って、わざわざ電話をかけていますの」

相手が天峰だと解ったからか、急に電話口でのまどかの態度が高圧的になる。

すさまじい態度の変化、天峰が感心しながら聞く。

 

「で?なんの用事?」

 

「……実は、来週の木金と佐々木が居ませんの……

特別に私の世話をさせてあげますわ!!」

頼むというのに、相変わらず高圧的な態度を崩さずに言い放つ。

頭を下げるのが好きではないのだろうが、あまり褒められた態度ではない。

しかし天峰は、まどかの不器用さと素直にされない性格を知っている。

 

「要するに、佐々木さんが用事で居なくて。

心配する佐々木さんに対して――――

『大丈夫ですわ!!あなたが居なくても、この私が困る訳ありませんわ!!すきに自分の用事を済ませてきなさい!!』

とでも言っちゃって、その後不安になったから俺を呼んだってところかな?」

 

「見てましたの!?何処かでカメラとか仕掛けてました!?」

よっぽど天峰の予想が正確だったのか、目に見えてまどかが慌ては始める。

余裕の失った態度を天峰は面白そうに聞いていた。

 

「わかったよ。その日は一緒に居てあげるよ」

 

「~~~~ッ!!か、感謝しなさい!!タクシーを手配しますから都合のいい場所を――」

 

「あ、ちょっと待って!もう一人呼びたい子が居るんだけど、その子にちょっと連絡すするから待って!!」

狂わされた態度を取り戻そうとするまどかに、天峰は声を掛けて制止する。

 

「?」

電話越しにまどかが不思議そうな声を上げた。

 

 

 

 

 

翌日

「わぁ!!タクシーなんて、リッチですね先輩!!」

 

「確かにそうだね、あんまり乗らないしね」

まどかの手配したタクシーに揺られる大小二つの影。

一つは天峰、もう一つは天峰の呼んだ藍雨だった。

 

「付きましたよ、お客さん」

運転手が、大きな屋敷の前に二人を下ろす。

すでにお金を受け取っている様で、すぐに二人を置いて出て行ってしまった。

 

「さてと、急に呼んでごめんね?少し家事に自身が無くて……」

 

「大丈夫ですよ先輩!!私にお任せです!!」

家事が好きのか、きらきらした瞳で藍雨がほほ笑んだ。

そう!!天峰が呼んだ新たな人員とは藍雨の事。

 

正直な話、天峰はある程度料理は出来るが特に得意という訳ではない。

その為、天峰達の中で最もお嫁さん能力が高い藍雨を呼ぶことにしたのだ。

藍雨本人はそれを快諾し、その母親も「天峰君が付いているなら」と了解してくれた。

 

「ご機嫌よう、お二人とも」

扉が開き、まどかが顔を覗かせた。

何処かその表情はお疲れ気味だった。

 

「まどかちゃん、おはよう」

 

「まどか先輩、おはようございます」

心底ほっとしたのか、まどかは力なく笑った。

 

 

 

 

 

「うぁ……これは、ひどい」

 

「食材さん達が可哀想です!!」

ぐちゃぐちゃになった台所を見て、天峰の藍雨が口を開く。

謎の粉が飛び散り、カップは割れ、棚は大きく開け放たれている。

 

「こ、紅茶を淹れようとしましたの……」

恥ずかしそうに、まどかが口を開いた。

二人の視線の先には、蓋の間からあふれんばかりの茶葉を覗かせるティーポッドが。

そこ言葉通り、努力の後は確かに見て取れた。

そう、努力はしたのだ、努力は……

 

「まどかちゃん……最近の小学生の子でも紅茶は淹れられるよ?」

 

「そ、そんな訳ありませんわ!!私以上に優れた小学生が居る訳は――」

 

「あ、紅茶がはいりましたよ」

避難するかのような目で見る天峰に、言い訳するまどか。

そこに、台所ててきぱきと片付けて、さらに残った茶葉で紅茶を淹れた藍雨がカップを差し出して来る。

 

「あ、ありがと……あ、味は合格ですわ……一応ですけど……」

一瞬呆然となりながらも、まどかが震える手で紅茶を手にする。

天峰、まどかが言い合っている間に藍雨は茶葉を鍋に移し、多めのお湯で丁度いい濃度にした様だった。

 

「本当ですか!?嬉しいです!!」

↑小学5年生。

 

「まだ、おかわりありますからね。

麦茶みたいに大き目の器を用意して、冷蔵庫で冷やしておきますね。

あと、ガムシロップも作りましょうか」

余った紅茶を入れかけて、常温で少し冷ます。

その間に、砂糖を使ってガムシロップを作り始める。

 

「ゆ、有能ですわね……貴女……」

 

「そんな事ありませんよ?お母さんのお手伝いで覚えただけですよ?」

褒めるまどかに対して少し謙遜しながら藍雨が笑う。

褒められてうれしいのか、その顔には隠し切れない喜びを感じた。

 

「おお!!この紅茶美味しい!!こんなの初めてだよ!!

藍雨ちゃんはすごいな~、いつでもお嫁さんに行けるよ」

同じく紅茶を飲んだ天峰が、藍雨を撫でて抱きしめる。

 

「お、お嫁さん……ですか……」

天峰の言葉に、耳まで赤くしてイヤイヤと首を振る藍雨。

その様子をニヤニヤと天峰が眺めていた。

 

 

 

藍雨の淹れた紅茶とクッキーをもって、中庭にあるお茶会用のテーブルにやってきた3人。

そこで改めて、まどかが口を開いた。

 

「さて、先ずは今回貴方を呼んだ理由ですが――」

 

「佐々木さんが居ないからでしょ?一人では不安なのも知ってるよ。

けど、佐々木さんどうしたの?」

まどかの言葉を先回りして、天峰が話す。

この部分はもうすでに藍雨に話している、しかしここから先は知らされていない。

 

「佐々木は……葬式に行きましたわ」

 

「えっ!?――――それは、ごめん……悪い事聞いたね……」

察した天峰が、まどかに謝った。

しかしまどかはそれを瞬時に否定した。

 

「違いますわよ?別に佐々木は死んでませんわよ?

死んだのは、佐々木の曾祖父ですわ。

田舎に戻ってるだけですわよ?」

誤解を解こうと、まどかが説明をしてくれる。

 

「なーんだ、良かった。安心したよ、佐々木さんの曾祖父が――ん?」

ここで天峰がおかしな事に気が付く。

曾祖父という事は、分かりやすく言うと『ひいお爺ちゃん』お爺ちゃんのお父さん、という事になる。

そして佐々木さんは白髪のナイスミドル……

仮に、佐々木さんの年齢を60として、20で早めに子供を産んだとして……

 

佐々木60➟佐々木父80➟佐々木祖父100➟佐々木曾祖父120?

 

トンでもなく長寿の人となるのでは!?

 

「あれ???まどかちゃん、佐々木さんの年齢って幾つだっけ?」

 

「還暦と言っていたので、60かしら?」

 

「?????」

何度計算しても、今回の葬式された人の年齢がおかしい!!

少しだけ、天峰が不安になった。

 

「ま、まぁ、それくらい長生きの人もいるよね……」

これ以上考えな様に決めた天峰、露骨に話題を変えに掛かる。

 

「そ、そう言えば、木枯ちゃんは?いつも一緒にいるイメージだったけど?」

そう言えば、何時も一緒に居た能天気なあの子がいない事に天峰が気が付く。

その話題を振られた瞬間、まどかの顔が露骨に曇った。

 

「出涸らしは、なんて言いますの?夏休みのテンションのせいでしょうか?

『今なら飛べるー』とか言って、庭に飛び降りて骨折して家に居ますの……」

 

「ええ……木枯ちゃん……何やってるの……」

頭のネジ的な物が外れている様な彼女だが、まさかここまでとは……

天峰があまりの馬鹿さ加減にあんぐりと口を開く。

 

「たぶん、2、3日で戻ってくると思いますが――

はぁ、なんであの子はあんなにおバカなんでしょう?」

やれやれと言ったように、頭に手をやる。

 

「なんだかんだ言って心配してるんだ。優しいね」

微笑ましい事態に、天峰がまどかの笑いかける。

 

「そ、そんな事ありませんわ!!出涸らしがおバカだと、一緒にいる私の気品がそ行われるからですわ!!」

天峰のにやにや笑いを受けながら、まどかが激しく否定した。

そこを認める事は出来ないらしい。

 

「さ、さて!!話はこれで終わり!!終わりですわ!!

今日、明日とアナタ達二人には佐々木の代わりに私のお世話をお願いします。

勿論バイト代も出しますわ!!」

 

「素直に助けてって言えばいいのに……

藍雨ちゃん、コレがツンデレって奴だよ」

 

「へぇ~、コレが有名な」

 

「違いますわ!!」

まどかが勢いよく否定した。

その様子を二人でにやにやしながら見ていた。




藍雨ちゃん、まどかちゃん復活。
藍雨ちゃんは書いていてニヤニヤしてしまうキャラです。
流石ヒロイン0号(夕日ちゃんが居なければメインを飾ったハズの子)

まどかちゃんは、からかって遊べる子です。
強気な子が、責められるのって良くない?
次回に続きます。


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ムービー撮っていい?

さて、夏場のバイトも今回で終了です。
次は、天峰達の帰省かな?


「わぁはぁ……文明の利器ですねぇ!!」

まどかの家のキッチンにて、藍雨が食器洗い機を見て目を輝かせる。

実家が道場である藍雨の家は確かに、こんなものがあるイメージはない。

ボタンを見ながら、きらきらして目で食器洗い機を見ている。

 

「一片に済むのは助かるよね。

といっても、まどかちゃんの分だけ洗うのはもったいない気がするけど……」

そう言いながら、天峰がまどかの使った食器をタオルで拭いて食器棚に戻しておく。

冷蔵庫を見たがかなりの食材があり、明日までどうにでもなりそうだった。

 

「ね、ねぇ?晴塚……さん?」

 

「藍雨で良いですよ、まどか先輩」

ひょこっと出て来たまどかに呼ばれて、藍雨が部屋を出ていく。

何かな?と思いながらも天峰は、洗い終わった食器を拭いて棚に戻していく。

 

「先輩!!先輩!!見てください!!これ、借りちゃいました!!」

数分後戻ってきた藍雨の姿をみて、天峰が食器を落としそうになる。

 

「あ、藍雨ちゃん!?その恰好――」

 

「メイドさんですよ!!」

黒いドレスに、白いエプロン、頭にはカチューシャが乗っている。

クルリと回ると、長いスカートが翻った。

藍雨の姿はメイド服!!メイド、ナース、巫女服はもはや記号化された『萌』の象徴だが、やはり実物を見るのとは違う!!

まだ幼い容姿の藍雨が、メイド服!!

小さな子が背伸びしている様で、しかし藍雨の家事能力を知っている事で妙にしっくりくる所もある!!

極端な話すごくイイ!!

 

「かわいいよ!!藍雨ちゃん!!すっごく似合ってる!!写真撮っていい?」

カシャカシャカシャ!!

 

「先輩、もうすでに撮ってますよ?」

藍雨に指摘されて自身の右手を見ると、確かに携帯のカメラで藍雨のメイド姿を撮っていた!!一体何時から?なぜ取っていたのか分からない!!

催眠術や超スピードなんかではない!!もっと本能に忠実なロリコンのサガの片鱗を天峰は見た気がした!!

 

「あ、ごめん。無意識に……やってた」

 

「仕方ない先輩ですね、少しだけですよ?」

 

「うん!!」

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ!!

 

「と、撮り過ぎでは……?」

 

「まだだよ!!藍雨ちゃん!!藍雨ちゃんは今、一瞬ごとに進化してるんだ!!

その過程を、全部、全部撮らなきゃ気が済まない!!

さて、藍雨ちゃん、スカート少し持ちあげてくれない?ふくらはぎが見える位――」

 

「快晴気流!!濁流河川衝!!」

天峰が欲望を見せた瞬間!!天地がひっくり返る!!

気が付くと、自身を見下ろす藍雨がいた。

 

「ダメですよ天峰先輩?今はお仕事中ですよ?」

困った様に笑う藍雨、忘れていたが藍雨は物理がなかなか強い。

というか、本気を出せば天峰位簡単に気絶させれるらしい……

 

「さ、さて!!お仕事に戻ろうか!!」

冷や汗をかきながら藍雨に提案する天峰、肝が冷えたのは冷房のせいだけではないハズだ。

 

 

 

 

 

「まどかちゃん、お昼は何が良い?」

 

「私達、作りますよ」

 

「す、少し待ちなさい……」

天峰と藍雨がまどかの部屋へ行くと、いそいそと一枚のチラシを持って来た。

カラフルな見た目の食べ物が沢山乗っている。

特段珍しい物ではない、天峰も何度も食べている物だ。

しかし、まどかは珍しく動揺しながらそのチラシに載っている物を指さす。

 

「この、ピザという物が食べたいですわ……」

 

「食べた事、無いの?」

まるで今まで食べた事に無いかの様に話すまどかに対して、思わず疑問が口から漏れた。

 

「そ、そうですわ……ホテルでのランチなどは何度も有りますが……

前々から、食べてみたかったのですが……

その、佐々木が頼ませてくれませんの……」

気まずいのか、しかしそれでも興味があるのか。

不安半分期待半分という顔で、尚もチラシを見ている。

 

「ふぅん。宅配ピザを食べた事ないなんて、意外だな~

藍雨ちゃんも、そう思うでしょ?」

 

「え!?えっと、実は私も頼んだ事は無くて……

お母さんが、作ってくれた事は有りますよ?」

 

「藍雨ちゃんも無いの?」

しょっちゅう利用している訳ではないが、何度かはある天峰。

最近のこはあまり頼まないのか?と疑問を感じながらまどかからチラシを受け取る。

 

「分かった、お昼はこれにしようか。

佐々木さんには秘密だよ?」

天峰は自身の携帯に、チラシの番号を打ち込んでいく。

一瞬だけかけてすぐに切る。これで携帯の履歴から簡単にかけれる。

 

「さて、何にする?」

チラシにはデカデカと、様々な商品が載っている。

どうやらキャンペーン中で一枚頼むと、もう一枚サービスしてくれるらしい。コレは利用しない手はないだろう。

 

「な、何が良いですの?沢山あって、困りますわ……」

 

「和風って、どんな風に和風なんですかね?」

 

「苦手な物ってある?個人的に、このシーフードミックスがおいしそうだけど?」

三人そろってキャッキャ言いながら、あれやこれやと指をさしながら決める。

にぎやかさを楽しみながら、天峰は携帯で注文を済ませた。

 

 

 

「ほほぉ!!コレがピザですねの!!」

 

「すごいです!!出前みたいに持ってきてくれるんですね!!」

始めての宅配ピザにまどか、藍雨両人が目を輝かせる。

結局、決めたい物が決まらずSサイズのピザを3枚も頼んでしまった。

しかし二人はそんな事気にしていないらしい。

 

「はい、二人ともコレ。

しょっぱいから、飲むといいよ」

ピザが来るまでと、出掛けていた天峰がビニールからコーラを取り出す。

 

「まぁ、食事にコーラですの?」

 

「不思議な感じです……」

アメリカンな食事風景に、二人が慣れないながらも食事を楽しんでいるのが分かる。

気が付くと3枚あったピザは全てなくなっていた。

 

「はぁ、満足ですわ……シェフに伝えてください」

 

「う、うん」

ズレたまどかの言葉を聞きながら天峰は小さく頷いた。

まだまだ、仕事は有る。

天峰はそれを片付けに行った。

 

 

 

「こんなもんか……」

全体の掃除は出来ないが、まどかの服を洗濯して庭に干す。

暑い夏の日差しの中、天峰が干した洗濯物が風に揺れる。

確かな満足感を感じて、その場を後にする。

 

「次は、こっちだ」

浴場の扉を開けると、藍雨がブラシで床をこすっている最中だった。

どうやら自発的にやってくれた様だった。

 

「あ、先輩。私にもお仕事手伝わせてくださいよ」

藍雨のメイド服のスカートが捲られ、健康的な足が見えている。

 

「ごめんごめん。今度はちゃんと頼むからさ。

所でムービー撮っていい?一時間分くらいで良いから」

 

「絶対ににダメです!!」

いけないと解りながら視線が藍雨の足元に向かってしまう。

さらに運よく転ばないかな~などとも考えてしまう。

 

「じゃあ、夕飯の買い出し、お願いしても良いかな?」

 

「はい!何を作るんですか?」

 

「牛丼さ」

天峰が藍雨に向かって笑った。

 

 

 

 

 

「すごいですわ……お肉をこんなに薄くスライスできるなんて……!!

まさに職人技ですわ……!!」

 

「いや、普通にスーパーで売ってるんだけど……」

牛丼を突きながら感動するまどかを見て、小さく天峰がツッコミを入れた。

 

「まどか先輩って少しズレてますね……」

藍雨までもが、彼女の微妙に世間知らずな所を天峰に耳打ちする。

彼女は彼女で、ズレた所は大きく有るのだが……

 

「まぁまぁ、テレビでも見ながら食べようよ」

3人で食卓に座り、部屋の端にある大画面テレビを天峰が付ける。

人並な幸せだが、テレビを見ながら食事が出来るのはなかなか贅沢な事の気がすると天峰は思っている。

 

「食事中にテレビ?行儀が悪くありません?」

 

「お家じゃ、叱られちゃいますよぉ」

まどか、藍雨の両人が天峰を諫める。

どうやらここでも微妙に生活の違いが出ている様だった。

 

「あ~、なんかごめん……」

謝りながら天峰が、テレビを消す。

3人の声が聞こえる中再度食事が始まる。

 

 

 

「じゃ、俺はコレ洗ってくるから」

 

「私も手伝いますよ」

天峰が3人分の食器を持って立ち上がると、藍雨が付いてくる。

しかし天峰はそれを断った。

 

「大丈夫だよ、3人分だし食器洗い機に入れるだけだから。

まどかちゃんの相手をよろしく」

そう言うと天峰が部屋を出て行った。

 

「ふん、ふふ~ん♪」

軽く鼻歌を歌いながら、皿を軽く水で流して食器洗い機に入れる。

只のバイトモドキだと思った仕事だったが、思った以上に楽しくてしょうがない。

 

「意外と俺って、世話を焼くのとか好きなのかも……」

思わずにやけながら全ての食器を仕舞い手を拭いて、まどか達の部屋へと戻っていく。

天峰の中では、この後起きる幼女たちとのお泊り会に心を躍らせる。

 

 

 

 

 

「藍雨ちゃ~ん、まどかちゃ―――」

 

「ヒィ!?」

 

「あわわ!!」

テレビを見ていた二人が同時に飛び上がる!!

二人して走って来て天峰に飛びついた!!

 

「ふ、二人ともどうしたの!?」

 

「べ、別になんでも、あ、あああ、りません、わ!!」

 

「は。はひ……て、テレビが……」

藍雨の言葉に習い、テレビに視線を向けると……

 

『恐ろしい事に、女の顔が映りこんでいる……

まるでこの世に深い未練が――』

夏の季節に良くやっている、ホラー特集だ。

そう言えば、天音が見たがっていたなと、天峰が思い出す。

 

「怖いなら、チャンネル変えようか?」

 

「わ、私が怖いハズありませんわ!!

この、私に恐れるモノなど何もありませんもの!!」

震えながらも、天峰に抱きつくまどか。

 

「わ、私は怖いです!!け、けど、見ちゃうんですよね」

同じく藍雨もくっ付いてくるが視線はテレビにくぎ付けだった。

まさかの幼女二人からの抱擁に天峰が思わずにやけた。

気丈なまどかが怯えている姿は、新鮮で意外な気がする。

 

「さ、最後まで見てやりますわ!!これ位で、怯えるなんてありえませんわ!!」

 

「先輩、急に動かないでくださいね?」

怯える二人を両脇に抱え、柔らかいソファーでホラー番組を見る天峰。

 

「うわぁ!!!」

 

「ひ、ひいい!!」

ナニカ有るたび、小さな事で二人はオーバー気味にリアクションを上げる。

その度に天峰は小さく苦笑する。

 

「二人とも怯えすぎ、怖くないって」

 

「こ、怖がってませんわ!!」

天峰がからかう度に、まどかが怒りで自身の恐怖をごまかす。

しかしそれももう限界が近い事は誰の目にも明らかだった。

 

『いかがだっただろうか?恐怖の世界はきっと貴方のすぐ近くに……』

おどろおどろしいナレーションが流れ、番組は終了した。

時刻も寝るには丁度良い時間だ。

 

「さて、そろそろ寝ようか?」

天峰が二人の間から立ち上がる。

休憩室としてあてがわれた部屋へと向かうのだ。

 

「ま、待ちなさい!!しょ、庶民が怖がるといけないので今日は特別に一緒に寝てあげますわよ!?」

 

「天峰先輩、待ってください!!」

二人が天峰を呼び止める。

その様子はすっかり怯えてしまっている事が容易にわかる。

 

「えっと……流石に、3人では寝れないよ?」

 

「私のベットはキングサイズですわ!!藍雨さんも私も小柄なので大丈夫ですわ!!」

 

「わ、私を一人にしないでください……」

まどか藍雨両名に袖を引っ張られた天峰は――

 

「しかたないな~」

すさまじく幸せだった!!

 

 

 

 

 

翌日――

 

「……おかえり……楽しかった……?」

家で夕日が天峰を迎える、どうやら待っていてくれた様だった。

 

「うん、バイト代までもらっちゃったよ。

また、呼ばれないかな~」

ほくほく顔で、夕日の横を通り過ぎようとする天峰。

 

「……変な事……してない……?」

 

「す、する訳ないじゃん!!まどかちゃんは普通の友達だよ!!」

夏だというのに、うすら寒い感覚が背中を撫でる。

 

「……天峰」

夕日が天峰に優しく抱き着いて来た。

急な出来事で、天峰が慌てる。

 

「ど、どうしたの?いきなり……」

 

「……藍雨ちゃん……まどかちゃん……の匂いがする!!」

 

「うぇ!?なんで、なんでわかるの!?」

見事に言い当てた、夕日に天峰が驚く!!

 

「天峰の事なら、みんな知ってるよ?

ぜ~んぶ知ってるよ?」

ニヤッと嫌な笑顔を張り付け、小さく天峰の耳元でささやく。

 

「ハイネに言ったら……どうなるかなぁ?」

 

「な、何が目的だ!?」

いきなりの夕日の脅迫に天峰が慄く!!

 

「私……アイスが食べたいな~

高いヤツ……ねぇ、お兄ちゃん……

私とお出かけしようか?あはッ!!」

 

「ま、まさかの強制デート!?」

 

「……デートじゃ……ない……」

 

結局天峰はストッパーである天峰が居なくなった天音に、さんざん振り回された夕日のうっぷん晴らしに付き合わされたのだ。




ピザって意外と高い……
今日昼に買って食べたんですよ、意外と美味しいからびっくり。
前は、もっとまずかったと思ったのに。


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見たかよ、私のドライブテク!!

さて、今回は少しタイミングを外した帰省回。
謎の一族、幻原一家のルーツが明らかになるのか?


ピリリリリッ……!

天峰の携帯電話に誰かからの着信が来る。

少し苦労しながらも、天峰はその電話を受ける。

 

「もしもし?」

 

『はぁい、天峰。突然だけど、明後日辺りどっか遊びに行かない?』

電話の相手は夘月だった。

肝試しをして以来、結構な頻度で遊びの誘いが来るようになっていたのだ。

今回もそのパターンの一つだろう。

しかし、天峰の答えは良くないモノだった。

 

「あー、ごめん。その日、ジィちゃんの家に居るから無理だわ」

 

『今更帰省中?まぁ、それなら仕方――』

 

「……天峰……揺らしちゃ……ダメ……」

天峰のすぐ近く、それこそ電話口で聞こえる距離で夕日の声が聞こえた。

ピシッと凍り付く様な卯月の気配に天峰の気がつく。

 

「えっと……卯月?」

 

『ねぇ、すぐ近くで夕日ちゃんの声がするんだけど……どういう体制で居るのかしら?

私が満足する説明、してくれるんでしょうね?』

電話越しだというのにプレッシャーが伝わってくる!!

コレが恋する乙女の実力か!?

 

「……私は……天峰の……膝の上……」

 

「あ、ちょ!?夕日ちゃん、本当の事言っちゃダメ!!

せっかく言い訳考えてたのに!!

えっと、ごめん。帰ったらちゃんと説明するから!!」

 

『あ、待ちなさい――』ブチッ!!

卯月の電話をきって、天峰が再びポケットに携帯をしまった。

 

「……天峰……嘘は……ダメ」

的外れというか、タイミングがおかしいというか……

そんな注意をしている間に、クラクションを鳴らしながら白い車が乱暴な運転で二人の横を追い抜いていく。

 

「あ”?あの車、私を煽りやがったな?チッ……

オィ、ガキども!!シートベルトしろ!!

ゼッテーぶち抜てやる!!」

夕日の言葉にかぶせる様に、幻原家の母親 天唯がアクセルを吹かす!!

家族5人の乗った車が加速し始める!!

 

「うをおお!?マジか!!」

天峰が体に掛かるGと夕日の体重を感じながら、こうなった経緯を思い出す。

 

 

 

事の始まりは約1日前に遡る。

 

「田舎に帰る?」

 

「そ。帰省ラッシュも過ぎた頃だし、このタイミングを見計らって毎年ウチは田舎まで帰ってるんだよ。

母さんの実家で山奥に有る上に遠いから、行くだけで一日以上かかるんだよ。

だから父さんは有休をもらって一日かけて帰省するんだよ」

夕飯の終わり、幻原両親の「明日から帰省するぞ」の一言で決まった要件。

と言っても天峰も天音も毎年の事なので大体理解していた。

 

「……私も……行くの?」

天峰の母親の実家、正直な事を言えば夕日は全く関係のない家となる。

幻原家に世話に成っているが、そこまでしていいのかという後ろめたさがあった。

 

「何言ってるんだい?夕日ちゃんも家族じゃないか。

それに、夕日ちゃん一人じゃ家事出来ないんじゃない?」

 

「む!……馬鹿にしないで……!!」

天峰の言葉に、夕日がむくれる。

その様子を天峰が笑ってみていた。

 

「あはは、ごめんごめん。

けど、今回は夕日ちゃんを紹介するっていう意味のあるハズだからね。

ある意味夕日ちゃんが主役だよ。

さ、大き目のカバン貸してあげるから、田舎に持っていくもの用意しようか」

 

「……カッターと……服と……」

 

「最初に来るのやっぱりソレ!?」

指折り数え始めた夕日を見て、半場予測していた天峰が驚く。

 

 

 

 

 

翌日

 

「みんな用意は良いかな?」

幻原家の父親 幻原 蒼空が最終確認とばかりに子供たちに声を掛ける。

 

「親父ぃ!!俺のアミ何処だ?」

 

「後ろに積んだよ。虫かごも一緒にね」

 

「じゃ、行くか?3人で大人しく座ってろよ?」

天唯が、後ろの席に座る天峰達に声を掛ける。

 

「俺、真ん中に座りてぇんだよ!!」

 

「……天峰と……話したい……ハイネは……隅に座って……」

早速天音と夕日の言い争いが始まっている。

後ろの3人席、真ん中に座りたい天音と天峰と並んで座りたい二人の意見が衝突し合う!!

 

「ああ”?何くだらない事で喧嘩してんだ。

オイ天峰、お前端座れ。

んで、夕日、お前は天峰の膝の上だ。

それでいいだろ?」

 

「……私は……構わない……」

 

「マジか!?」

半場冗談だった天唯のセリフに夕日が素早く反応して、天峰の膝の上に座る。

 

「ゆ、夕日ちゃん!?良いの!?」

天峰が自身の膝の上に座る夕日にあたふたと話しかける。

夕日自身はかなり小柄で、小学生と変わらない見た目をしているため大した重さではない。

というよりも、否応なしの夕日との接触&幸せな重みに天峰の顔はにやけ始めている。

 

「……重い……?」

 

「余裕、余裕」

にこやかに笑って余裕アピールをする。

その様子を隣で、天音が「マジかよ……」と小さくつぶやきながら見てた。

 

「うんうん、仲の良い事は素晴らしいね。

あの二人を見ると、昔を思い出すよ……

天唯ちゃんが運転してる間、膝に頭置いていい?」

 

「蒼空バッカ!!そういう事は、ガキどもが見てない所でやれよな……」

天唯が運転している最中だというのに、両親二人がイチャイチャとし始める。

両親が結婚してもはや20年近く、新婚当時の仲の良さは全く衰えていなかった。

たぶん結ばれるして結ばれた夫婦とは、こういう二人を言うのかもしれない。

とは言え、年頃の子供たちは流石に引き気味ではあるが……

 

「うえぇ……」

天峰と夕日、更には自身の両親と無駄に仲の良いメンバーに天音が辟易として携帯をいじり始めた。

 

「おい、高速入るから、そろそろ頭あげろ」

 

「はぁ~い」

高速道路に差しか掛かり、天唯の言葉にずっと天唯の膝に頭をのせていた蒼空が頭を上げる。

 

「わぁ……早い……」

夕日が、すごい速度で走っていく他の車に眼を輝かせる。

そんな感動を遮る様に、天峰のポケットから電話がかかってくる。

 

「む……電話……」

 

「ごめん、今出るから」

そう言って天峰は電話を取った。

 

 

 

 

 

「しゃぁ!!ざまー見ろ!!見たかよ、私のドライブテク!!」

 

「流石天唯ちゃん!ホレなおしたよ!!」

走り屋染みた車を追い抜かし、目的のサービスエリアで食事をとりながら嬉しそうにビールを手にする。

時刻はすっかり夜に成っていた。

朝の早い時間から、ずっと運転していた母親はお疲れの様だ。

今夜は、このサービスエリアに宿泊する予定だ。

このサービスエリア、数年前に再開発されレストランや売店は勿論、スキー場が近いと理由もアリちょっとした銭湯まで完備している幻原一家以外にも車内泊する一家も居る様だ。

 

「夕日ちゃん大丈夫?疲れてたり気持ち悪かったりしない?」

親子丼を食べながら、天峰が夕日を気にする。

 

「……大丈夫……問題……ない……」

クルクルとパスタをフォークで巻きながらつぶやく。

 

「けど、少し調子悪そうだよ?」

 

「兄貴、夕日はいつも顔色悪いだろ?もやしカラーで、げっそりしてるじゃんかよ」

天音がそう言うが、それでも天峰には夕日が少し疲れている様に見えた。

 

「仕方ないね。車は閉鎖空間だし、休憩を何度かしたけどそれでも成れないからストレスが有るのかもしれないね」

天峰の父親も心配そうに気にしてくれる。

 

「本当に……大丈夫……今日はゆっくり休む……」

周りに心配をかけまいと、話すが正直言うと心配な事が有った。

 

 

 

「んじゃ、俺たちは行ってくるから!」

天音がレンタルのタオルを手に、赤い暖簾をくぐる。

その暖簾には大きな字で『女』と書かれている。

 

「じゃ、サービスエリアの真ん中のカフェに出たら集合だね」

父親が、天音の頭に手を置いて手を振る。

此方は此方で、天峰を連れ添って『男』と書かれた暖簾をくぐる。

 

このサービスエリアの名物の露天風呂だ。

数年前からあって、天峰にとっては密かな楽しみだったりもする。

 

「うーん、気持ちい……」

手早く体を洗った天峰は、岩に囲まれた露天の湯に身を浸す。

父の言う通り車で一日中座っていた為、本人が気が付かない内に筋や筋肉が固まっていたらしい。

お湯の中で手足を伸ばす。

 

「年寄臭いな、天峰」

 

「父さん」

同じく露天に入って来た、父親に気が付きそちらの方を向く。

親子そろって、大きな風呂に体を伸ばす。

 

「夕日ちゃん、村に来たらどんな顔するかな?」

 

「さぁな。俺よりお前の方が、夕日ちゃんには詳しいんじゃないか?」

天峰の質問をさらりと返す。

のんびりしている様で、しっかりと自分の子供の事は見ている様だ。

 

「そっか、きっと驚くだろうなぁ……

驚くと言えば、どうして夕日ちゃんを家に引き取ったの?」

それは今更な質問だった、ゴールデンウィークが終り病院から帰ったら夕日は既に家族の一員として迎え入れられていた。

 

「母さんのアイディアさ。

学生時代、いや……知り合った当時からむちゃくちゃするけど、結局は一番大切な事はちゃんと見えてるんだよ。いや、本当は見えてないのかな?けどいいと思った事が何だかんだ悩んで決めた事よりも、打算抜きでやってる分、心がしたい事に正直なんだよ。

けど、周りには理解されにくいんだ……

母さんが何かを感じ取ったんだろうね、だからさ」

父の言葉に眼を丸くする天峰。

簡単に言えば、母が根拠なくなんとなくで引き取る事を決めた事を、こちらも何も考えず引き取る事を了承したという。

だが、そんな両親のやり取りがなぜか非常に「らしい」と天峰は思った。

 

「さて、明日は俺が運転だ。天峰、先に出て車で寝てるから、後は自由にな」

風呂から上がり、天峰を後にして出て行った。

天峰はもう少し浸かってから出る事にした。

 

 

 

「ふぃ、さっぱり……」

髪を乾かしながら天峰が、歩いていく。

高速道路内なので、空気はお世辞にもキレイとは言えないがさっぱりした気分で入浴の余韻に浸る事が出来た。

 

「あ、夕日ちゃん。もう出たの?」

 

「……天峰……」

土産物を見ている夕日に天峰が声を掛けた。

どことなく、気まずそうに見えたのは気のせいだろうか?

 

「あれ、夕日ちゃん。お風呂は?」

 

「………………」

天峰の質問に今度こそ、夕日は黙りこくってしまった。

俯いたまま、何も話してくれない。

 

「……他の……人……居るから……」

 

「え?――――あ、」

チラリと見える夕日の袖の腕を見て、天峰が気が付いた。

夕日は夏だというのに、長袖の服を着ている。

生地は薄手だがそれでも、夏場に着る服ではない事はわかっている。

 

「……傷……見せたくない……」

ぎゅっと自分の腕を押さえる夕日。

俯いて顔は見えないが、当然楽しそうな声音ではない事はわかる。

 

夕日の服の下、体には未だに多くの傷跡が残っている。

物によっては目立たなくなるだろうが、それでも一生消えない傷もかなり多い。

彼女の右目もその一つだ。

 

「夕日ちゃん……」

天峰は優しく夕日を抱きしめる。

小さな体が、震えてるのが分かった。

 

天峰の中ではもう終わった事でも、夕日の中では未だに――否、それどころか永遠に続いていく呪縛なのかもしれない。

正直いって、夕日をわかった様な気がしていた自分を殴りたくなった。

まだ、この子はこんな小さな体でまだ苦しんでいるのだ。

 

「夕日ちゃん……こっちにおいで」

 

「?」

天峰は夕日を連れ、レンタル出来るタオルを持ってサービスエリアのはじっこまで向かっていく。

黙って夕日は天峰に手をひかれている。

 

「はい、付いたよ夕日ちゃん」

 

「此処は?」

天峰が連れて来たのは、小さな小屋ともいえる粗末な建物だった。

場所も端、それも隠す様にひっそりと建っていた小さなボロイ小屋だった。

 

「数年前、此処が新築される前に有ったシャワー室。

殆どが壊されたんだけど、増築された此処だけは残ったんだよ。

未だ使えるハズだよ、殆どの客が大浴場に行くからボロっちぃけどね……

誰か来ないか、見張ってるからささっと入って来てよ」

 

「……わかった……」

天峰を残し、夕日がシャワー室へと入って行く。

残された天峰は自身の右手を開いた。

掌を真っ二つにするかのようにつけられた、傷跡。

コレは夕日のカッターを握りしめて止めた時の物だった。

 

父の言葉がよみがえる。

『いいと思った事が何だかんだ悩んで決めた事よりも、打算抜きでやってる分、心がしたい事に正直なんだよ』

 

「俺は、後悔はないぞ。夕日ちゃんに逢えてよかったと思う。

今までが辛いなら、これからは俺が沢山の幸せを上げたい……

コレが俺の心だ」

そんな事を言っていたら、横の扉が開き夕日が顔を覗かせた。

 

「……なんで……シャワー室を……熱心に……見てるの?」

責め立てる様な視線が天峰に突き刺さる!!

非常にいたたまれない気分で、天峰が言い訳する。

 

「べ、別に夕日ちゃんの事なんか、待ってないんだからね!」

 

「……ツンデレ風にしても……ダメ……」

ごまかすことは出来なかった!!

 

 

 

 

 

翌日、昼頃――

山の中、獣道に近い様なでこぼこした道を進んでいた車が一軒の屋敷の前で止まる。

 

「付いた様だな、ここの空気は澄んでる」

母親が笑い、村の空気を吸う。

数回の深呼吸後に、背伸びをする。

 

「あ!!天唯ちゃん、おかえり~」

屋敷の中から、黒いサマーセーターを着た髪の長いおしとやかな女性が姿を表す。

ゆったりしたロングのスカートが風に揺れる。

 

「……きれいな……人……」

 

「あーん、天峰君も、天音ちゃんも大きくなったわねー。

あ!この子が夕日ちゃん?かわいー!お人形さんみたい!!」

女性が今度は夕日を抱きしめて、ほおずりをする。

 

「おいおい、夕日が引いてるだろ?()()()

 

「え!?」

母親の言葉に、夕日がぴしりと固まる。

今、この人の事を何と呼んだ?

脳の処理が追い付かない、けど確かに――

 

「あ、ごめん。ビックリしちゃった?

私の名前は 幻原 天独(はじめ)

あなたの義理のお母さん、幻原 天唯のお兄さんだよ?」

 

「お、おねーさん、じゃないの?」

 

「はい胸、ぺったんこ」

夕日の手を取って自身の胸に付ける、確かに女性らしい膨らみは全くなかった。

 

「え、ええ?」

 

「うふ、夕日ちゃん。奥淵村へようこそ」

楽しそうに、その男は笑った。




気が付くとこの作品も90話近く。
そして読み直してみると、驚きの事実が。

作品のスタートはゴールデンウィークが始め、今は夏休みの後半、要するに8月。
3ヶ月しか経ってない!?


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もらってくれてありがとうね?

最近忙しくて投稿が遅れ気味です。
その代り今回は、あまり表に出ない設定が一部見れますよ。


Z県X市の山の奥……地元の猟師すら滅多に入ってこない山の奥の奥。

そんな場所にその村は有った――その村の名は奥淵村。

名前の通り、山々の奥、そして小さく出来たスペースにひっそりと佇んで居る村。

 

「はぁい。みんなお疲れ様。

今日は私が腕によりをかけて料理するからね」

長い髪に、サマーセーターとスカートを美女?が笑って家の中を進んでいく。

 

夕日の家族もそれに黙ってついて行く。

 

「……天峰……あの人……男の人?」

 

「ん、そうだけど?俺のおじさんに当たる人――」

そこまで言って、天峰が目の前の人物が不機嫌そうにしている事に気が付く。

 

「ノンノン、天峰君。私の事はハジメさんって呼んでっていつも言ってるでしょ?」

指を振るい小さく天峰を注意する。

その振る舞いは完全の女性の物だ。

かさねて言うがとても男性とは思えない。

 

「…………」

さっき胸を触った夕日がなぜ、こんな格好をしているのか一瞬だけ考える。

ひょっとしたら、何か訳が有るのでは?心は女の人なのか?そんな考えがよぎる。

 

「あ、そうだ、夕日ちゃん。

最初に言っておくけど、別に私、心と体の性別が合ってない訳じゃないのよ?

普通に女の人が好きだし、エッチな本も読むし、体もいじってないわよ。

竿と玉触る?」

そう言ってからかう様に、自分のスカートに手を伸ばす。

 

「いい、いい!」

首を横に振るって、夕日が否定の意を見せる。

クスクスとハジメがその姿を見て笑った。

どうやらからかわれた様だ。

 

「そういやアニキ、親父とお袋は?」

助け船を出す様に、後ろに居た夕日の義母 天唯が尋ねる。

 

「パパとママは出かけてるわ。

え~と、たしか……そう!

ブランド牛のステーキを食べに、オーストラリアに行ってるわ」

 

「!?」

さらりと流されるまだ見ぬ祖父の異様なアグレッシブさに夕日が目を見開く。

始めは冗談だと思ったが、他の人が特に慌てる様子もない事から「割とよくある」事態の様だ。

 

「またか?前行った時は、医者にもらった風邪薬を英語で何か聞かれて大変な事に成ったんだよな……」

今度は、天唯が笑って話す。

思いで話を語る家族の光景だ。

 

「……何が……有ったの?」

興味を持った、夕日がハジメに尋ねる。

その時丁度目的の部屋に着いたようで、はじめはふすまを開けて座布団を配り始める。

 

「失敗談なんだけどね?そこで、お父さんテンパちゃって!

クスリって英語でなんて言うか忘れちゃったのよ、で。

果物はフルーツ屋、下着はランジェリーショップ、的な具合でクスリを買う場所を英語でいう事にしたのよ。

で、その薬を売ってる店は()()()()ストアって言うでしょ?

もー、税関の人、すごい集まって来て!すごい大変だったんだって~」

ケラケラとハジメが笑い出した。

なかなかないであろう失敗談を話し終ると、手早くお茶と茶菓子を配った。

 

「おおぉ、これこれ。コレが有ると実家って気がする」

天唯が湯呑を手の中で転がして、ホッと一息つく。

 

「ハジ兄!コレ、うまいな!!」

その横では天音がぼりぼりとせんべいを食べていく。

天音の様子を見て、ハジメは小さく眉を歪める。

 

「天音ちゃん?まだ、そんな男勝りな口調してるの?

ダメでしょ?そんなんだと好きな男の子に嫌われちゃおうわよ?」

 

「ええ?別にいーじゃねーか?俺はこの方が慣れてるし。

っていうか好きな男自体いねー、全員軟弱なんだよ」

尚もぼりぼりいいながら、せんべいを口に運び続ける。

その様を心配そうに、ハジメが見ている。

小さくため息を付いて今度は、天唯に向き直る。

 

「ほら、天唯ちゃんがいつまでもそんなしゃべり方だから、移っちゃったのね。

はぁ……

こんなしゃべり方じゃ、何時まで経ってもお嫁にいけないわよ?

もっと、男の人を喜ばせられる様にならないと……

蒼空さん、本ッ当!に天唯ちゃんをもらってくれてありがとうね?

貰ってくれなかったら、今頃一人寂しく生活していたかもしれないのよね」

ハジメが今度は、天峰の父親に話す。

父は、気まずそうに後頭部を掻いて笑った。

 

「うっし!腹も膨れたし、遊びに行ってくる!!」

あらかたのせんべいを食べ終わると、天音が勢いよく走り出し襖の向こう側、縁側から飛び降りて何処かに走って行ってしまった。

 

「……逃げた……」

小さく夕日がつぶやいた。

確かに自分の義母とは、到底兄妹とは思えない人物だった。

天音が苦手とするのも解る気がしないでもない。

 

「私は、自分の部屋に行ってる。

蒼空、付き合え。アニキに鼻の下伸ばした罰な」

 

「天唯ちゃん!!何を言ってるんだい!!

僕は、天唯ちゃん一筋だよ。

それは君が一番知ってるハズだろ?」

後ろからベタベタと蒼空が天唯にくっつく。

満更でもないといった顔で、天唯が笑うと二人で出て行ってしまった。

 

「あらら、みんな忙しいのね」

小さくため息を付いて、その場に残った天峰と夕日を眺める。

長い眉毛と、弾力のある唇。全身から女性的なオーラがあふれている。

何度見ても、本当にきれいな人だな。と夕日は思った。

 

「ハジメ兄さん、そう言えば天尊さんは?」

夕日はその名に聞き覚えがあった。

確か、義母である天唯の弟らしい。

 

「ああ、タケルね。タケルはお仕事が忙しくて来れないって。

残念よね、せっかくみんな集まろうって話なのに、結局天峰君たちしか来てくれなかったわね」

 

「う~ん、仕方ない部分もあるかな?此処って来にくいし……」

困ったような顔をして、天峰は自身も頬を掻く。

 

「所で、二人とも――――――――()()()()()()()?」

 

「!?ゲホ!!ゲッホ!!」

 

「ハジメ兄さん!?なにを突然!?」

夕日と天峰両人が驚き、夕日に至っては飲んでいたお茶を噴き出してしまった。

 

「え~、だって夕日ちゃん普通に天峰君の隣に座ったでしょ?

年頃の中学生は、普通男の子を苦手にする――までも行かなくても普通は同性の天音ちゃんの隣に座るわよね。

けど、夕日ちゃんが座ったのは、天峰君の隣。

それと困ったら天峰君の方を無意識に向くクセが有るわね」

ペラペラと、二人の事情を言い当てていく。

まるで探偵の様な洞察力に夕日が小さく驚く。

 

「……付き合ってない……天峰とは……兄妹……」

夕日が否定して、天峰が少しだけ悲しそうな顔をする。

その様子をみて、ハジメが笑みを強める。

 

「ふーん、そっか。まぁいいや。

これからどう転ぶかはお楽しみかな……

どうなろうと、私は応援するよ」

最後にそう言って、空っぽになった湯呑を持って台所へ行ってしまった。

 

「…………」

まるで嵐が去った後の様に夕日が沈黙してしまう。

 

「……なんで……あんな事……言ったの?」

不思議そうにつぶやく夕日。

それを見た天峰の中に、昔聞いた事件を思い出す。

 

「幻原ってさ、母さんの苗字なんだよね」

 

「?」

突然話し始めた天峰の言葉に、夕日の頭に疑問が浮かぶ。

今まで気にしなかったが、確かにそうだ。

義父は母方の苗字を使っている。

婿入りしたのだろうか?

 

「父さんのもともとの苗字は俺も知らないんだけどね?

結構大きな一族だったらしいんだよ。

此処までは別に普通、そんなに珍しい事じゃないんだ。

けど、結婚しようってプロポーズした母さんが若いからって、父さんの実家が猛反対したらしいんだ。

けど、父さんは母さん以外に興味はもう無かったらしくて、実家に離縁してこっちに来たんだって。

んで、その補助に一番力を入れてくれたのがハジメさんなんだよ。

きっと、そう言う意味でも「応援する」って言ってくれたんじゃないかな?」

 

「……ふーん」

なるべく興味なさそうに、夕日がそっぽを向く。

しかし心中では穏やかではなかった。

 

前に聞いた両親の出会い。その後はかなりの困難があった様だ。

しかし、それをのり超えたから、こそ。

天峰と天音が居るのだろう――幸せな家が有るのだろう。

 

しかし、自分の家族はそうではなかった――こうしてみると本当に対照的だと夕日が思う。

父の顔も名も知らない、手切れ金替わりにもらったアパートも近寄ってはいない。

母は今も意識不明で、叔父の霧崎に面倒を見てもらっている。

 

そんな対照的な人生を歩んだが今、こうして隣同士でいる事が酷く不思議に思えた。

 

「よし、夕日ちゃん。これから少し村をみて回ろうか。

せっかくだし、楽しもうよ」

そう言って、天峰が夕日に手を伸ばす。

この手は、自分を連れて行ってくれる手だ。

知らない場所、新しい友人、感じた事のない感情、そして恋も。

それらを連れて来てくれる手だ。

 

「……行く」

そう言って今日も夕日は天峰の手を取る。

 

 

 

「あら、二人でお出かけね。

天唯ちゃんがいきなり引き取ったって聞いてびっくりしたけど――

良い子みたいね……」

家の窓から、ハジメが二人が手を繋いで仲良く遊びに行く様子を見て小さく笑った。

 

「大学時代の後輩から、話を少し聞いた。

どうやら、辛い事が有ったみたいだ……

話はしないけど――天峰は優しい奴にそだったな」

 

「天唯ちゃんと僕の子供だからね」

その後ろで天唯が話し、蒼空が後ろからか声をかける。

どうか、皆夕日の幸せを願う者達だった。

今確かに、夕日を思う者達が集まっている。

 

「ねぇ、夕日ちゃんって――何時、幻原苗字になると思う?」

 

「あ?前の苗字を捨てるって事か?それとも――」

 

「天峰君の奥さんになるって事」

ハジメが楽しそうに笑った。

 

「さぁな。案外近いかもしれないし、ひょっとしたらそんな日は来ないかもな。

なんにせよ、そこは二人次第だな」

 

「天唯ちゃん、自分の息子なんだから――」

 

「いいんだよ。

お前と私が引き合った様に、きっと夕日にも天峰にも引き合う奴がいる。

そんな奴を連れて来るのを待つだけさ」

異を唱え得る夫を妻が笑って制止した。




皆さん、来年もよろしくお願いしますね。


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何も心配することないでしょ?

さて、今年一発目の話です。
と同時に帰省編も終了ですね。

さて、そろそろ個別のルートに入りたいなぁ(願望)


「……むぅ……重い……」

幻原家の祖父の住む、山奥のもはや陸の孤島と言っても過言ではない村。

『奥淵村』にて、夕日が両手に持った荷物を見て小さく漏らす。

 

「夕日ちゃん、少し持とうか?」

 

「……大丈夫……」

そう言うが、夕日の顔は非常にきつそうだった。

そんな二人に近づく影が一つ。

腰の曲がった老婆だった、手にはオレンジの入った袋を抱えている。

 

「あんれまぁ!幻原さん家の天峰君?大きゅう成ったねぇ!

ん?その隣の子が噂の嫁さん?

ほへぇ、天唯ちゃんは年上好きだったけんど、天峰君は年下好きなんやねぇ。

ほれ、これ持ってって食べぇな?な?」

すさまじい勢いでまくし立てる様に話すと、手に持ったオレンジを一瞬夕日の方を見た後、物理的に持てない事に気が付き天峰に押し付けて帰って行った。

 

「ほんじゃ、またの~。

田植え教えて欲しけりゃいつでも来な~」

今度こそ立ち去る老婆、残されたのは不機嫌な顔をする夕日と困ったような愛想笑いをする天峰。

 

「……この村……嫌い!!」

夕日が珍しく感情を荒げた。

 

 

 

 

 

時間は数時間前に戻る。

 

「さてと、村の観光って言ったって……この村なんか有ったかな?」

村を見せると名目で家から夕日を連れだしたものの、天峰は道端で早速頭を抱えた。

さんざん陸の孤島だとか、人がいないだの言っているがそんな場所に観光出来る物などハナから無いのだ。

 

四方どころか360度何処を見ても山、山、山、畑、田んぼ、水田そして木、樹木、大木……

少し前、地上げ屋が伝統のある村の真ん中に、高速道路を通すだの通さないだののドキュメンタリーがやっていたが、その地上げやすらこの村には来ない。

 

小さな学校、小さな店が数件。およそそれだけでこの村は成り立っている。

 

「……なんか……有名な名所とか……無いの?」

夕日が退屈そうに天峰を見上げる。

誘った手前、ないとは言えない天峰。

必死になって、この村のアピールポイントを探す。

 

「そ、そうだ。この村伝説が有るんだよ」

 

「伝説?」

 

「そそ、歴史上の有名な失脚した侍が、実は生きていてこの村に落ち延びて生涯を閉じたって言う話。

確か、村の外れに小さな塚が有ったよ」

簡単な話、何処かで聞いた事のある生存論なのだが、こんなもの位しか話せる物はない。

一部の歴史ロマンを感じたい人にとっては「聖地」何だろうが……

 

「……へぇ……あんまり興味……ない」

 

残念なことに夕日は特に歴史に興味が無かった!!

 

「あ、あー、他にも海外の独裁者がこの村に生き延びて死んだ話や、有名な宗教家が死んだと思わせた後に、この村で生き延びて死んだ話もあるよ?」

夕日の興味を引こうと、必死になって天峰が思い出せる限りの話をしていく。

 

「……この村……自殺の名所?」

 

「い、いや違うからね!?別にそんなネガティブなイメージはないから!!

あ、ああ!!そうだ!!確か牛を放牧してる家があったからソコ行ってみない?

うまく行けば牛乳飲めるかもよ?しぼりたてのヤツ!!

栄養満点の牛ですっごく大きいんだよ?」

 

天峰が夕日の手を引こうとした時――――

 

「ハ、ハナコー!戻ってきておくれー」

必死に走る農夫とすれ違う。

農夫の姿につられて、視線の先を見ると……

 

「ぶぅもぉぉぉぉぉ!!」

巨大な乳牛が山の中にちらりと見えた。

見えたのだが、いろいろとサイズがおかしい。

まず、木をなぎ倒して山をかき分けているし、どう見ても牛というより牛の形をした怪獣とでも言える凶暴そうな見た目、最後に――

 

「ハナコー!そんなの食べるんじゃない!」

 

「ぶもぉぉぉぉぉ……」

ハナコと呼ばれた牛は口にクマを咥えていた。

クマの首筋に歯をガッツり食い込ませ持ち歩いている。

 

「……天峰!!牛が!!牛がクマを!!」

目の前を通り過ぎた異常な光景を夕日が指さす。

 

「あ、あ……またハナコさん逃げたのか……

ごめん、夕日ちゃん。

たぶん牛乳は無理だね……にしても、また大きく成ったなー」

何処か懐かしそうに牛を見る天峰。

慣れた様な顔をする義兄に夕日がまたしても目を丸くする。

 

「いや、昔は普通の牛だったんだよ?栄養一杯浴びて大きくなり過ぎたんだよ。

背中に乗せてもらった事あるし……

顔を執拗に舐めるのはやめてほしいけど、牛乳はすごくおいしいよ?」

何とか天峰がフォローをするが、夕日にとっては全くフォローに成っていない。

とうか、さっきまで天峰はあの牛の乳を自身に飲ませる気だったのだろうか?

飲まなくてよかったと、静かに夕日が安堵した。

 

「はぁぁ……ハナコめ、またどっかに行って待って……」

トボトボとさっきの農夫が戻ってくる。

結局あの巨大乳牛には追い付かねかったみたいだ。

 

「花山のおじさん、こんにちは」

戻ってきたおじさんに天峰が声をさわやかにかけた。

農夫が振り返り天峰の顔を見ると、みるみる内に元気を取り戻す。

 

「ん?幻原さん所の、天峰君か!?

えろぉ大きく成ったな!

隣の子は――天音ちゃんじゃないな。

もしや、コレか?」

にやにやと笑って、小指を立たせて見せる。

恋人を意味するハンドサインだが、夕日はすごく久々に見た気がした。

その農夫のニタニタ笑いが、将来排他的な部分のある夕日には気に入らなかった。

なんだか土足で自分の世界に入り込まれた様な、そんな不快感があった。

 

「違うって、夕日ちゃんは――えっと……」

説明しようとして、天峰が言い淀む。

二人の関係として最も適切なのは「義兄妹」だが、その関係という物はあまり世間で一般的ではない。

子供がいない両親に、義理の娘はわかる。

しかし幻原家は両親の間に二人も子供もいるし、深く話せば夕日の苗字が幻原ではない、つまりは義理の家族だが苗字だけが違うという極めて不自然な状態だ。

狭い村だ、小さな噂はすぐに広がってしまう。

悪評なら特にだ。

夕日はその事をすぐに察知した。

 

「……坂宮(さかみや)……夕日(ゆうか)です……

ハイネ……天音の……友達……です……」

夕日の選んだ答えは、天音の友達であるという事。

もっともベターで、もっとも自然な形を取った。

 

「ほう、そうかぁ。天音ちゃんのお友達――」

 

ハズだった――

 

「違うよおじさん。夕日ちゃんは、夕日ちゃんは血の繋がらない俺の家族なんだ!!」

夕日の気使いを無視するかのような、天峰の強い意志のこもった言葉がその場に響いた。

 

「天峰!?」

 

「おじさん……天音と夕日ちゃんは友達なんかじゃないよ、義理の姉妹なんだ。

そしてさっきも言ったように夕日ちゃんは俺の家族なんだよ。俺の大切な人なんだよ」

そういって、天峰が夕日を抱き寄せる。

 

「ほう……そうか……そうなんじゃ……へー、しらなんだ……」

一瞬呆然とした後、農夫のおじさんが一瞬だけすごい笑顔を見せて先まで牛を追っていた時より素早いスピードで走り出した!!

 

「すまん!!用事が出来たわい!!じゃあの!!」

ドンドン遠くなっていく。

その様子を天峰は笑って見送った。

 

「天峰!!なんであんな事……!」

自身の気使いを無駄にされた夕日が、天峰に対して怒りをぶつける。

 

「ん?夕日ちゃん悪いけど怒ってるのは俺もなんだよ?

なんで関係ないなんてフリしたの?

俺の言葉に嘘はないよ、夕日ちゃんはもう家族だし俺にとっても大切な人なんだ。

今更、無関係のフリなんて許さないから」

 

「な……け、けど、変な勘ぐりされたら――」

珍しく天峰の怒りをぶつけれれた夕日がたじろぐ。

 

「この村の人はそんな事しないって。

仮にもし何か言われてもその度訂正するだけ、それともそんなに俺の家族は信用ならない?」

 

「そんな事ない!!」

突発的に夕日は首を横に振った。

自由だが、大切な事をはしっかりわかっている義母、天唯。

穏やかだが、誰よりも強く自身の妻を信じている義父、蒼空。

活発で、いつもふさぎ込んだ空気を消してくれる義姉妹、天音。

 

そして、夕日を暗い病室から連れ出し尚且つ受け入れてくれた……

 

大切な物はいつもすぐ近くに有った。

 

「家族は……私も大切に……思ってる……から……」

 

「なら、何も心配することないでしょ?」

天峰が手を伸ばし乱暴気味に夕日の頭に手をのせる。

 

「うん……」

嬉しくなるような天峰の言葉に、夕日が何度も頷く。

 

「さて、と。どっか行こうか?河とか有るよ、河」

自身の言ったクサいセリフをごまかす様に天峰が口に出す。

河、河と何度も言いながら歩き出す。

 

「天峰くん、久しぶりだがや~」

そんな二人に腰の曲がった老婆が近付いてくる。

手には干し芋を持っている。

 

「あ、隣のばぁちゃん。どうしたの、急に?」

 

「牧場の爺さんが、デートしちょるって言うから干し芋持って来たんじゃ。

この辺はナウでヤングなスッポッチョは無いからの。

ほれ、天峰の嫁、たくさん食えよ?」

隣に住むという老婆は夕日に多数の干し芋を押し付け、にやにやしながら帰って行った。

夕日を嫁と言われ、何処か恥ずかしくなった天峰が夕日に視線を投げると、口を激しくパクパクしていた。

天峰が思うよりずっと混乱している様だ。

 

「た、天峰!!嫁って言われた、嫁って、嫁って」

 

「あー、さっきのおじいさんに対する言い方が悪かったかな?

義理の家族じゃなくて、嫁をもらったと思ったのか……」

しまった!と思った時にはもう遅かった!!

ぞろぞろと、周辺の家から老人やおばさんが顔を覗かせて、こっちに向かっている。

 

「よう、天峰の坊主。嫁貰ったんだってな?

ん?かなり若い嫁だな……まぁ、うまくやれよ?」

気の良いおじさんが、天峰の背中を少し乱暴に叩いて激励して。

 

「天峰君、聞いたよ?年下の嫁さん貰ったんだって?

男は家庭を持って子供を一人前にして初めて父親に成れるんだからね?

大切にしてやんなよ?」

去年息子が都会の大学を卒業した、一家の主婦に励まされ。

 

「おう、幻原ん所の孫ぉ……

嫁を連れて来た様じゃな……

夫婦性活に欠かせん物をやろう……

ほれ、ワシ特性の蛇酒じゃ。

これさえ飲めば、夜もギンギンじゃぞ?

実際ワシも、まだまだ現役じゃぞ?にっひひひひ!!」

足腰のしっかりした禿た老人が、蛇の浸かったすさまじい匂いの酒を押し付けて来て。

 

「天峰さん聞きましたよ?小学生くらいの嫁貰って孕ませたんですって?

今度ウチの店に来たら紙おむつ割引しますよ?」

比較的若い男(新米パパらしい)が商品の割引券を持てせてきて。

 

「天峰君……私の事覚えてる?昔一回だけ村で遊んだんだよ?

こ、今回は、その……おめでとう……幸せになってね?

赤ちゃん……ぐすっ、生まれたら、グスッ、抱かせてね?」

セーラー服を着た分校に通う女の子に泣きながら、祝福された。

 

 

 

当然だが、田舎の此処は娯楽が少ない。

その為、何処どこの誰々が、結婚しただのの話題は敏感だった。

特にこの手の話題は、村に若い者が来るとして非常に好んで噂される。

そして噂は、尾ひれ背びれが付く物で――

 

「あ、天峰君。小学生の奥さん孕ませて尚且つ毎日お盛んらしいね。

聞いたよ?2人目のひ孫をおじいさんに見せに来たんでしょ?

子供沢山生んでもらって、大家族でTVに出ようとしてるらしいけど……粉ミルクいる?」

 

「根も葉もないうわさなので結構です!!」

ニヤ付く男を天峰が、きっぱり断る。

 

「天峰君」「幻原の」「天峰――」「孫を――」

次々と、噂を聞きつけた者達が集まってくる!!

正直言ってキリがない!!

というか少しずつ噂が大変な方へ向かっている気がする!!

 

「えっと、そうじゃなくて――いや、夕日ちゃんは家族だけど――」

それを順番の対応する天峰。

すさまじい事になっている事情に、本人自身が驚きながら事情を説明していく。

 

「……天峰の……馬鹿!!バカぁ!!」

その後ろで夕日が何度も天峰を責める。

 

「おおぅ!?え、えすえむじゃ!!外でえすえむを始め――」

 

「違う!!」

ボケた爺さんに夕日が釘をさす!!

しばらく二人はてんてこ舞いだった。

 

 

 

 

 

「あっはっはは!!それは大変だったね。

え?小学生で子供が二人いて、尚且つ3人目がお腹の中に?

いろいろありえないのにぃ……あはははははは!!」

話を聞いたハジメが、夕食の準備をしながら笑った。

今台所には夕日とハジメだけが居た。

夕食の準備を手伝う様にと、ハジメが夕日を指名したのだ。

 

「……疲れた」

夕日が小さく声を漏らした。

 

「けど、天峰君の事、嫌いじゃないでしょ?」

 

「……別に……」

ハジメの一言に、夕日がそっぽを向いた。

 

「いいのいいの、隠さないで。

私も中学の時ふざけて女装してミスコンに出て以来、ずっとこの恰好なのよ?

なんかさ、落ち着くっていうか?なんだろ?フィットするのよね。

そう言う感覚って大事よ?理由じゃなくて魂で引き合うの、それが結局一番なのよ?

夕日ちゃんも、自分にフィットする人を見つけなよ?」

 

「……知らない!」

大きな声を上げると同時に、カッターで大根を切り刻む。

 

「夕日ちゃん?そんな事したらお野菜が驚いちゃうよ?

もっと、優しく、優しく。

大切な人に食べてもらうんだよ?夕日ちゃんの作った物が大切な人の一部に成るんだよ?そんな風にしていいのかな?」

 

ハジメの言葉に夕日の手が止まる。

 

「天峰に……食べてもらう……」

今度は心を込めて、野菜を斬り始めた。

心を込めて一刀一刀ずつ。

 

「そうそう、いいわ。上手上手。

天唯ちゃんも天音ちゃんも、ちっとも覚えないんだもの。

夕日ちゃんは教えがいがあるわ~」

楽しそうにハジメが笑た。

 

 

 

 

 

夕食後……

「夕日ちゃん、今日の豚汁夕日ちゃんが作ったんだって?

美味しかったよ。料理頑張って練習したんだね」

笑って天峰が夕日の頭を撫でる。

 

「……うん……そうだよ……また、天峰の為なら……また……作るから……」

そう言って小さく笑い返した。

 

「……そう言えば……ハイネは?」

 

「うーん、野生化してる頃だね……帰るまでに戻って来ればいいんけど……」

困ったように天峰が自身の頬を掻いた。

 

「野生化?」

 

 

 

 

 

「キー!キキィ!!」

 

「うっせぇ!!寄越せ!!」

猿から木の実を強奪した天音が、ぼりぼりと種ごと食べてく。

周りには猿が集まっているが、どの猿も怯えて居る様だった。

 

「ぶぅもぉぉぉぉぉぉ!!」

その時、木々をなぎ倒して巨大な乳牛が姿をあらわす!!

ひどく興奮している様だった。

 

「はッ!丁度ノド渇いてたんだ、テメェの牛乳もらうぜ!!」

天音は、ハナコに向かって跳躍した。

月の獣たちだけがハイネの雄姿を見ていた。




作中の訛りは全部適当です。
余り方言を知らないので……

というか、普通に使っている言葉が方言で他の人に伝わらない時ってすごい驚く。


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現実じゃ絶対やっちゃダメなんだぜ!!

さて、夏休み編もだいぶ佳境です。
新学期編の足音ももうすぐです。

個別ルートを書くかな……


有る夏の日の朝。

遅くまで宿題をこなした為、少し寝坊した天峰に夕日が朝食をふるまっていた。

 

「うん、美味しい」

出汁巻卵の味を噛みしめながら、天峰が白米を掻き込む。

もやしと揚げの味噌汁も、焼き鮭も夕日が作ったものだった。

 

「夕日ちゃん、料理上手に成ったね。ハジメさんに教わったんだっけ?」

味噌汁を飲みながら、天峰がほほ笑みながら話しかける。

 

「……うん……けど……此処まで……詳しくは……教えてもらってない……

作り方……調べて……作っただけ……だから……」

すこしだけ、しかし確実に夕日は誇らしげに、小松菜のお浸しも出してくれた。

 

ハジメの教えを受けて、夕日は確実に調理が上達していった。

(私の料理……嬉しそうに、食べてくれるのは、嬉しい……)

 

天峰が美味しいと言って食べてくれるのを見て、夕日は幸せな気分に成った。

きっと天峰が自身の為に何かをしてくれるのは、同じ理屈なのだと思った。

 

「夕日ちゃんも少しづつ成長してるんだね。

ふぅ、美味しかった。そうだ、もう少ししたら出かけて来るから、何かいるものあれば帰りに買ってくるけど?」

 

「特に……ない……」

 

「そっか」

 

(あれ……?)

いつもの会話、なんの意味もない何時もの日常会話。

しかし、その中に夕日は小さく違和感を感じた。

だが、その違和感の正体が分からない。

 

小さな小さな違和感。

だがそれは、確実に有った。

 

「?」

それを夕日は気のせいだと思う事にした。

 

 

 

 

 

病院にて――

「あ!道案内さーん!来てくれたんだぁ!!」

 

白く、清潔感漂う病室。

病に倒れた人間が集う病棟。

そんな中で、太陽の様に元気な声が天峰に対して響いた。

 

「おはよう、木枯ちゃん。

まどかちゃんに聞いたんだけど、足大丈夫?」

ベットに横たわる小さな影、アニメキャラの書かれたピンクのパジャマの胸はその子供っぽいデザインを不釣り合いなほどの膨らませる豊満な胸を持つ幼女。

森林 木枯があどけない顔でニコニコと手を振ってくれた。

 

「むむぅ……!!木枯様のご友人かのぉ?」

 

「おお……ありがたや、ありがたや……」

 

「儂に!儂に手を振ってくれとるぞ!!ウヒヒ!天国のバァさんや、もう少しそっちに行くのは先に成りそうじゃな!!」

 

「おじいさん?私はまだピンピンしてますよ?」

木枯が手を振ると、病室に居る数人の老人がどよめいた。

皆幸せそうな顔をして、人によっては両手を合わせ拝み始める人までいる。

 

「……ナニコレ?」

まるで何処かの宗教みたいな事に成っている様子に、天峰が小さく汗を流す。

天峰に気が付いた、フルフルと震える痩せこけた老人が杖を突きながら天峰に話す。

 

「なんじゃぁ!若いの、お主びぎなーか?

此処は儂ら、後期高齢者のあいどる、木枯様の病室じゃぞ………!

若い子にあまりない元気さと、人懐っこさ、そして誰にでも分け隔てなく振りまいてくれる笑顔……天使じゃぁ……この病院に舞い降りた、まいえんじぇるじゃぁ!!

天国のばぁさん!!儂、齢83にして新しい恋を見つけたぞぉ……この子の笑顔を見れば味気ない病室も、極楽じゃぁ……」

 

「おじいさん?私はまだ、生きてますよ?

いつまでも若いままなんだから……けど、浮気は許さないからね?」

 

「ばぁさん!?生きとったんか!?止めろ!放せぇ!!」

 

「ハイハイ、私が極楽に連れて行ってあげますねぇ……」

 

「い、嫌じゃ!!死にとーない!!木枯ちゃんのプルプルをみるまではぁあああ!!!」

おじいさんは、笑った笑顔の怖いおばあさんに病室の外に連れていかれた。

 

「むむぅ?そろそろ往診の時間じゃ……皆の衆、戻るぞ!!」

 

「おー」

 

「ぼー」

リーダー格っぽい老人に連れられ、他の老人たちが履けていく。

病室は再び静かさを取り戻した。

 

「えっと、木枯ちゃん?いろいろと大丈夫?」

 

「うん!もう大じょーぶ!ふふふ~、健康優良児の私にはこんなダメージなんともないのだ~!!」

まるでその事を証明するかの様にベットから起き上がり、目の前でスキップをして見せる。

老人たちの事は本人は全く気にしていない様だ。

だが、そんな事より天峰には気になる事が有った!!

 

「おおぅ……」

天峰の前で飛び跳ねる、木枯。

そのスキップの上下で同じく激しく上下するバスト!!

 

(すこし、わがままに動きすぎなのでは――)

そこまで考えて別の答えが天峰の中で生まれる!!

 

「まさか……ね?」

 

「ふぅ、あっつーい。疲れたー」

スキップを終えた、木枯がパジャマの胸元のボタンを開ける。

1つ、2つ、3つ……開かれていく部分に対してその下に有るべく衣類が見られない。

 

「付けて……ないのか……」

遂に思い至ってしまった天峰!

自身の中で、こんな事ってあるんだと思わぬ幸運に感謝する。

 

だが、すぐに考え直す。

 

(ダメだ、俺は幼女が好きなんだ!!

巨乳に、心を奪われるな!!別の事を考えよう、そう……なるべく関係ないことを!!

そうだ、ヤケだ。ヤケについて考えよう。

最近出番が無いヤケ、最近ナンパをしに行く度に上ヶ鳥に邪魔される八家、そんで失敗した日はなぜかポストに、田舎でナンパした子からの手紙が入ってるヤケ……)

 

必死になって自身の邪心を打ち消そうと、親友の事を思い浮かべる八家。

その妄想八家が天峰に熱く語り始めた!

 

『なぁ、天峰知ってるか?良くあるエロ漫画の展開で、思春期の女の子が「胸が小さいのがコンプレックスで……揉んで大きくしてほしいニャン!」って言うのは現実じゃ絶対やっちゃダメなんだぜ!!

なぜって、成長期の胸ってのはすっごくデリケートなんだよ。

それを鷲掴みにて揉むなんてもってのほかなんだよ!!

大きくしたいなら、睡眠でしっかり成長ホルモンを出して、規則正しくて栄養バランスの良い食事、更に胸筋を鍛えることなんだ、土地が悪いと大きなビルは建ちにくいだろ?だからちゃんと下着はつけないとダメなんだぜ!!

ハリのあるおっぱいはそんな努力によって成り立っているんだぜ?』

妄想内のヤケが嫌にいい笑顔でサムズアップしてくる。

 

「ちげーよ!!合ってるかもしれないけど、このタイミングではNGだよ!!」

 

「わわわ!!な、何道案内さん!!敵襲!?忍者?曲者?」

突然叫びだした天峰の言葉に、慌てて木枯が謎の拳法家っぽい恰好を取る。

 

「あ、いや。大丈夫だよ、ちょっと妄想の中の友人が、ね」

 

「?」

愛想笑いをしてごまかす天峰。

その様子を見て、木枯が良く分からないという顔をする。

 

「そ、それにしてもすごいお見舞いだね……」

話をはぐらかす様に、木枯の横に山積に成ったお見舞いの品を見る。

ソコには、花束だとか、フルーツのバスケットだとか、箱に入った高給っぽいメロンだとか、大きなぬいぐるみだとか様々な物が置かれている。

 

「まどかがくれたー。

昨日も遅くまで来てくれたんだよー。

あ!けど、看護婦さんに怒られてたよ。

えーと、スペース?を取り過ぎだって」

その言葉に、天峰が納得する。

確かにこの量だ、看護師から小言をもらってしまっても仕方がない。

 

「だから、個室を借り切ってお見舞いの品を置く為の倉庫にしようとしたんだって!」

 

「ええ……まどかちゃん……あの子賢いんだけど、変な所でバカになるな……」

天峰の脳裏に、夏休みの初期にやった流れるプールを貸し切っての流し素麺を思い出す。

今でもたまに、無数の素麺の流れるプールで溺れる悪夢を見る天峰。

 

「ぶー!まどかはばかじゃないモン!!私の方がばかだモン!!」

 

「いや、まどかちゃんを馬鹿にした訳じゃ……

ってか木枯ちゃんも自分を卑下しちゃダメ!!」

 

「ぶー!私は良いんだモーン、まどかを馬鹿にするのはゆるさ意無いんだモーン!!」

天峰の言葉に不服そうに、木枯が唇を尖らせる。

木枯はまどかに対して、依存にも近い感情を持っている。

厚い友情と言えばいいが、何処かそこには危うさも持っている。

そこを含めて、友情なのかもしれないが……

 

「うーい、林古ちゃん診断の時間だよー」

その時、病室の扉が開いてくたびれた容姿のやせた医者が入って来た。

その男に天峰は何処か見覚えがある気がした。

 

「ん?お前、ゴールデンウィークの時の……」

天峰の姿を見て、男が反応する。

どうやら見覚えが有るのは天峰だけではなかったらしい。

 

「えっと、誰でしたっけ?」

しかし天峰は全くと言っていいほど覚えていなかった!!

どっかで見た事ある、程度の認識。

 

「あー……俺の事忘れてんのかよ……」

露骨に嫌な顔をして、その医者は天峰の隣を通り過ぎ、木枯のすぐ前の椅子に座った。

 

「はい、林古ちゃんおはよう。調子はどうだい?」

 

「センセー、おはよー!!けど、私の名前はリンコじゃないよ?」

木枯がころころと笑いながら、先生に訂正する。

 

「あー、はいはい。木枯ちゃんね。

林古が本名なのに、なんでニックネームを使うんだ?

……まぁいいか。

さて、木枯ちゃん、体の調子はどうだい?痛かったり違和感が有ったりしないかい?」

くたびれた様子だが、ちゃんと医者としての矜持は有る様で、だるそうにだがちゃんと仕事を果たしていく。

 

「だいじょーぶ!!もう元気ー!!お外で遊んでイイ?」

 

「まぁ、念の為今日を最後に様子を見ようか。

んで、何にもなかったら晴れて退院だね。

良かったね。夏休み、少しだけだけど遊べるよ」

 

「本当!?やったー!!まどかにも教えてあげなきゃ!!」

先生の言葉を聞いた木枯が勢いよく立ち上がり、くるくるとその場で回る。

 

「はいはい、病室では大人しくね。

おい、坊主。この後時間あるか?有るなら付き合え。

食堂で待ってるからな」

疲れた様子の医者は天峰に耳打ちして、病室を出て行った。

 

「道案内さん行くのー?」

 

「うーん、俺としてはもう少しま木枯ちゃんと一緒に居たいんだけどな~」

 

「えー、けどちゃんと先生のいう事聞かないと怒られちゃうよ?

行ってきなよ、私はここに居るからさ!!けど、今度また外に行ける様に成ったら遊んでね!!」

 

「分かった、帰りにまた寄るよ」

手を振り天峰が背を向けると木枯は、笑顔を向けて天峰を送り出す。

なるほど、これなら老人たちのアイドルなのも納得できる。と思って天峰はさっきの先生を追った。

 

 

 

 

 

 

「よう、よく来たな。坊主、久しぶりだな」

お茶を飲みながら、くたびれた医者が話す。

 

「えっと、誰でしたっけ?」

 

「マジか?本当に覚えてないのか?

数か月前の事だぞ?」

全く覚えたいない天峰に対して、男が驚愕に眼を開く。

 

「どっかで見た……的な、のは有るんですけど……」

申し訳なさそうに天峰が告げる。

 

「マジかよ……この病院の旧館は覚えてるよな?」

 

「旧館?夕日ちゃんのいた――――あ!あの時の!!」

此処でやっと天峰は、この男が夕日の騒ぎの時の医者だと思い出した。

名前は――

 

「霧崎先生でしたよね」

 

「やっと思いだしたか、夕日からいろいろ聞いてるぞ」

満足したように、霧崎は話し出した。

 

「いや、マジで驚いたぜ。

お前、幻原先輩の息子だったんだってな?」

 

「かぁさんの事ですよね?」

先輩の部分に注意を向けながら天峰が聞き返す。

 

「そうだ、俺が大学時代の先輩、それが幻原先輩だった。

思い切りが良くて、ガサツに見えたなんでもソツなくこなす女。

正直言ってかなり好みだった、結婚して無かったらな~って何度も考えたよ」

冗談めかして、霧崎が話す。

 

「さて、偶然病院で夕日と知り合ったお前が、偶然俺が夕日の世話を頼んだ幻原先輩の息子だった訳だが――お前にはいろいろ感謝してるよ。

先輩だけじゃねぇ、お前にもな?」

言葉を促す様に、お茶に口を付ける霧崎。

 

「たまにだがな?夕日、この病院にまだ意識の戻らない母親を見に来るんだよ。

2日前にも来た、んで、眠ってる母親に何度も話かけるんだ。

『おかあさん、昨日ね。お兄ちゃんの田舎に行ったよ、すごく大きな牛が居たよ』ってな?目覚めない母親に対して何度もだ。

普通はもっと悲壮感が有るもんだ、可哀想ってみんな思うだろう。

けど、すこしだけアイツは違うんだ。アレでやっと母娘として話せるんだよ、言葉のキャッチボールなんかじゃない、ドッチボールだ。

一方的な言葉のやり取りだ、だけどそれでもアイツは幸せそうなんだよ。

お前なんだろ?お前が、支えてやってるんだろ?

アイツを見るとなんとなくわかるんだ。

なぁ、アイツの家族に成ってくれてありがとうな。

ひょっとしたら、近いうちに母親も目が覚めるかもしれない、その時はよろしく頼むぜ」

霧崎はそれだけ言うと、時計をみて「往診の時間だ」といって姿を消した。

天峰は、一人残された食堂で飲んだお茶を片付けた。

 

「家族か……」

無意識に天峰は、家に帰ろうとした足を止めた。

木枯に逢いに行く約束があったハズだ。

 

「体は一つか、みんなと仲良くしたいけど……

皆が恋人、なんて無理だよな。

皆きっと、誰かの『特別な一人』に成りたいはずだ。

ヤケの好きな漫画のハーレムエンドなんて出来ないんだよな……」

そう言って、天峰は木枯の病室へ向かった。

そろそろ、夏休みも終わる。




あ、そう言えばリバース系を書いてなかった。
たぶん次回はリバース世界での夏休みです。


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Permanence cocoon~ブレないキャラって魅力的~(夕日ルート)
そろそろ自重しろ。


お待たせしました。さて、此処から物語が分岐していきます。
という事で、今回から夕日のルートです。


ドンドン!ドンドン!!

 

「――ちゃん!夕日ちゃん!!起きて!!」

 

ドンドンドン!!ドンドンドン!!

 

「…………?……んんっ…………?」

眠い目を擦りながら、夕日が自室で目を覚ます。

自身の部屋のドアを叩くのは、自身の義兄の幻原 天峰だ。

 

「夕日ちゃん!!学校!!遅れるよ!!」

 

「……学校……??……あっ!!」

天峰の言葉で夕日の半覚醒状態だった頭が一気に目覚める!!

 

そうだ、今日からまた学校だ。

 

時計を見ると7時33分、いつもならとっくに起きている時間。

すっかり夏休みボケしてしまって、起きる事が出来なかった!!

 

「……いけない……!」

小さく呟いて自身の部屋のクローゼットへと手を掛ける。

学校の制服は確か選択したのを畳んでしまったハズだ。

上に切るセーラーも確か同じ場所に仕舞っているハズだ。

 

「……ん……んん……!」

バタバタと焦りながら制服を着ようとパジャマを脱ぐ。

姿見に小学生と変わらない、というか場合によっては向こうの方が大きい身長の自分が映る。

全然背が伸びないな。と関係ない事を考えて再び着替えに戻り引き出しに手を掛ける。

制服に手を伸ばすが、一瞬だけ下着も着替えるべきか迷い手が止まる。

 

ガチャ――

 

「何してるの!!夕日ちゃん!早く起きないと――――パンツ!!」

部屋のドアを開けた天峰が下着姿で立ち尽くす夕日を見て叫び声を出す。

叫ぶ言葉の内容から、微妙に本人の願望が見えているがまぁ、年頃だから仕方ないとしよう。

 

夕日は基本無口だ、その為起きていてもあまり声を出さない。

その為天峰は()()()()()()()()()と勘違いしてしまったのが、今回の事件の原因だろう。

 

「えっと、ごめん!!すぐドア閉めるから!!」

慌てて天峰はドアを閉めた。

自分を部屋の中に入れて……

 

「……なんで……入って……来る……の?」

ジト目で部屋に入って来た天峰に、夕日が冷ややかな視線を送る。

 

「あ、ご、ごめん!!無意識に入ってた!す、すぐに出るから!!」

慌てて後ろを向くと天峰は夕日の部屋からすごすごと退散した。

 

「……むぅ」

天峰は見た目が小さな女の子を前にすると、偶に馬鹿になる。

本人の本能が理性的な行動を出来なくするのでは?と夕日は考えているが詳しくはわかっていない。

また、天峰が入ってこない内に夕日は手早く制服に着替え、カバンを手にして部屋を出る。

 

「あ、夕日ちゃん……さっきはごめん……」

 

「……別に……気にして……無い……」

夕日はそう言うし、実際さほど夕日本人も気にしてはいないのだが、罪悪感を感じた天峰にとってはいつものそっけない言い方も、悪意が詰まっている気がしてしまう。

朝から早速気まずくなってしまったな。と天峰は一人思う。

 

「うーっす、二人して何してんだよ?

やーっと夕日は起きたのか?新学期そうそう遅刻する気か?」

食卓で夕日の義姉妹、天音が二ヒヒと笑う。

天音の目の前の皿には、マヨネーズを塗ってトーストした厚切りの食パンに、同じく厚切りの焼け目のついたベーコンの山盛りに乗せて齧っていた。

 

「お前、朝からなんちゅーモンを……」

 

「……ハイネは……おかしい……いろいろと……」

油でテッカテカな天音の朝食をみて、何も食べてないのに胸やけを起こしそうになる二人。

それぞれが、食パンとサラダを手にする。

 

「あーあー、夏休み終わっちまったなぁ……また、休み来ないかなぁ?

ん、まぁ、十分楽しんだけどよ」

そう言って、田舎から持て来たハナコの牛乳を美味しそうに飲む。

 

「……ムゥ……!!」

のんびりと牛乳を飲む天音を夕日が射殺す様な目で睨む!!

 

「あー、やっぱりハナコは最高だな!もう一杯っと」

しかし気が付いてないのか、それとも気にしてないのか天音は全く夕日に反応せずに牛乳をもう一杯コップに注ぐ。

 

「ん?どうした夕日?そんな顔して?」

 

「ハイネェ!!」

どうやら気が付いてなかった天音に遂に夕日がキレた!!

 

「昨日泣きついて来たのは、誰!?

宿題結局やらずに、徹夜したのは、誰!?

私と天峰に宿題手伝わせたのは、誰!?」

珍しく夕日が声を荒げる!!

予想通り、というかやはりというか、夏休みのラストワンは結局宿題をやっていなかった天音の宿題を天峰、夕日の両人が手伝う事となった。

余談だが天音は一芸入試で進学校に通っている為、天峰夕日の学校より宿題の量も質も高い物となっている。

 

「フッ、そんな過去の事もう忘れたぜ!」

 

「忘れんなよ……」

無駄にいい笑顔で答える天音に天峰があきれた様に答える。

そんなこんなで、3人は食事をとり学校へと向かった。

天音は自転車で自身の学校へ、天峰も同じく自転車に跨り志余束高校へ、夕日はバスを利用して天峰の学校と同じ敷地内にある志余束中学へ向かっていった。

 

「あ、夕日ちゃん。今日、久しぶりに一緒に帰らない?お肉屋さんで帰りにコロッケ買って食べようよ」

 

「……コロッケ……好き……うん……待ってる……」

そう言って二人は笑顔で別れ、同じ敷地に有る学校へとそれぞれ向かっていった。

 

何時もの日常。

夕日がずっと欲しがっていいた日常。

終らないでほしいと、彼女が願った日常。

 

そんな今日は、一人の女の目覚めで大きく軋み始めた。

 

 

 

 

 

学校にて――

給食も終わり、少しだけほんの僅かに気だるげな気分の中、午後の授業をこなす中学生たち。

そんな中、教室に闖入者が有った。

 

「授業中失礼、坂宮さん少しいいかな?」

中学の教頭である中年の先生がドアを開け手招きする。

 

「?」

 

「いいよ、行ってきなよ。ノートなら取っておくから」

隣の席、夏休み前までは空席だった席に座っている玖杜がそう言ってくれる。

クラスの中の空席、それは玖杜の席だったのだ。

そう言えば、まどかがボーノレの大会に出る時数合わせに使おうとした事がもうずいぶん過去の様だ。

 

「……行ってくる」

小さく会釈して夕日はそのまま教室を後にした。

そしてもう、その日は戻ってくる事は無かった。

 

 

 

 

 

高校にて――

放課後、授業の終わった天峰が背伸びをする。

そこに近づく影が一つ。

 

「あー、始業式終わってイキナリ授業ってどういう事なんだよぉ……なぁ?天峰」

 

「ヤケ……どうしても休み気分が抜けてくれないよな……」

天峰の友人、野原 八家が話しかけてくる。

夏休み中にもらったという、青いカラーひよこの上ヶ鳥が肩に止まって毛繕いしている。

 

「よぉし!まだ大学生のおねーさんは休みだよな!!

此処は二人で、夏で露出して開放感が上がったねぇ様方をナンパに行こうぜ!!」

 

「ぴィーーーー!!」

笑顔でナンパに誘うヤケの頬を、肩の上ヶ鳥がかん高い声と共に突きまくる!!

本当にひよこかと思えるような気迫だ!!

 

「いで!?いででで!!」

ヤケは上ヶ鳥を下ろそうとするが、回避しつつ尚もヤケの頬を突き続ける!!

 

「ヤケ、大丈夫か?」

 

「あー、せっかくのイケメンフェイスが……」

そう言って頬をさするヤケの頬にはくっきりと突き後が残っている。

落ち込むヤケに対してやり切ったという顔をする上ヶ鳥。

なんだか、変に人間味のあるリアクションに

 

「なんか、ヤケの監視係って感じだな」

冗談めかしながら、天峰が上ヶ鳥を指先で恐々撫でる。

 

「そうなんだよぉ……どこ行っても付いてくるし、ナンパしたりコンビニでエロ本を買おうとするとさっきみたいにスゲー突っついてくるんだよ……

しかも羽袋布さん――ああ、田舎でナンパしたおねーさんな?その人から、偶に手紙送られてくるんだけど『浮気してないわよね?』とか『私を悲しませないでね?』とか『場合によっては迎えに行くから』とか書いてあってスゲー怖いんだよ……

何!?『迎えに行く』って、俺をどうする気だよ!?」

戦々恐々とする八家の隣で、上ヶ鳥が頷く。

このひよこ何か知ってるのでは?と天峰が勘ぐるがただのひよこがそんな事する訳ないな。とすぐに考えを改める。

まぁ、たまたま仲良く成った子が少し病んでるのは珍しくないだろう。

少なくとも天峰には――

 

「さて、悪いけど夕日ちゃんと帰る約束してるから、じゃーね」

そう言うと天峰は手を振って八家に別れを言い、中学の校舎へと向かっていった。

背中越しに八家が叫ぶ!!

 

「下校デートとか全然うらやましくねーし!!

寧ろ、俺なんて下校ナンパして――いででで?!突くな!!」

 

「ぴィィィィいイイイ!!!」

 

 

 

 

 

中学校の敷地。

「あ、クノキちゃん。夕日ちゃん見てない?」

 

「おにーさん……夕日ちゃんなら、先に帰ったよ?

教科書とカバンが有るから持ち帰るの手伝ってよ」

天峰が偶然見つけた玖杜に話しかけると、短く説明された。

おかしいなと思って、携帯を確認すると家からメールが一件着信していた。

 

「ちょっと待ってね」

玖杜に一言言って、携帯のメールを確認する。

その文面を見て、天峰が目を見開いた。

 

「え……」

その内容は天峰には信じられないモノだった。

 

「おにーさん?どうしたの?」

不審に思った玖杜が天峰の手元の携帯を確認する。

その文面を見てハッとする。

 

「へぇ、()()()()()だね」

祝福する様に何気ない一言を告げる。

しかし天峰には聞こえていなかった。

 

「クノキちゃん、悪いけど夕日ちゃんの荷物持ってきてくれる?

直ぐに帰らなきゃ」

 

「うん、わかったよ」

何も知らないクノキが教室から夕日の道具を持ってきてくれた。

それを受け取ると天峰は急いで実家に向かった。

話をするにも、全ては家にいる家族の話を聞くしかなかった。

 

「ただいま!!夕日ちゃんは!?帰ってる!?」

勢いよく扉を開けるが誰もいない。

それもそうだ、さっき自分で鍵を開けてドアを開けたのだ。

誰か居るなら鍵などかかっているハズは無い。

 

「ああ、夕日ちゃん……俺も病院へ――けど……」

グルグルと部屋の中をまわる。

いろいろな考えが頭の中をグルグルと回る。

 

 

 

 

 

病院にて――

 

「夕日。あなたは変わらないわね……」

ベットから伸びる細いほぼ骨と皮の腕が夕日の頬を優しく撫でる。

失った時間を取り戻す様に、やさしさと愛おしさを込める様に。

優しく、優しく何度も何度も――

 

「……お母さん……」

 

「ん?なぁに?」

柔和な笑みを浮かべ、()()()()()が優しく答えた。

 

「おい、そろそろ自重しろ。ずっと眠ったばっかりだったんだぞ?

気持ちは分かるが、それでまた体を壊したら無意味だ」

厳しい口調で厳つい顔をした男――夕日のおじである医者、霧崎 登一が苦笑する。

 

今日の早朝。

ずっと意識不明のままだった、夕日の母親が何の理由か分からないが目覚めたのだ。

午前中はずっと検査をしていたが、容体の安定が確認され夕日に話しても問題ないと判断した病院が夕日の学校に連絡をしたのだ。

 

「ごめんなさいね、夕日。ずっと一人にして――けどもう大丈夫よ?

これからは()()()()()()()()()()()()?」

笑顔でそう話す母親、一瞬だけ夕日の時が止まる。

そして――

 

「……うん……そうだね……」

小さな声でそうつぶやいた。

 




初期からずっと居た、夕日の母親が遂に動き出しました。
さてさて、此処からどう、波乱を見せてくれるのか。


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夕日の気持ちを分かっているのか?

さてと、更新です。
それといつの間にかお気に入りが100人を超えてました。
いやー、三ケタって嬉しいですね。


「――原!!――幻原!!おい!!聞いてるのか!?」

 

「……え?はい?」

授業中、怒鳴る教師の言葉に天峰が何とか反応する。

 

「問4だ。……と言ってもその調子だ、聞いてなかったな?」

数学教師が指摘する天峰の机の上には、前の授業で使った古文の教科書が。

もういい。と小さく教師がため息を付いて黒板に向き直った。

 

(天峰のヤツ、一体どうしたんだ?)

何時もなら真面目に受けている天峰が、授業が上の空である様子を見て不安げに八家が眉を顰める。

今日登校してから、ずっとこの調子だ。

上の空というか、腰が入っていないというか、常にボーっとして話もしっかり聞いていない様だった。

 

 

 

「おい、どうした?お前らしくないぞ?」

授業が終わり、帰りの会が終っても天峰は何処かふ抜けたままだった。

 

「ヤケ……か?」

 

「しっかりしろって!!ほら、最新号の『ロリプレイヤー』だぞ?

夕日ちゃんっぽい絵の子もいるぞ?」

昨日の晩、近くの本屋で買って来たエロ本を制服の下から大事そうに取り出した。

ページを開くと、天峰の義理の妹である夕日に似ている子が過激な水着姿でポーズを決めている。

別のページには、街中でスタッフが許可を貰って撮らせてもらった小中学生の写真のコーナーもある。

それぞれ、最近の事を日記形式で教えてくれており、より自然なコメントが魅力だ。

他にも、体験談や妄想など、様々なコラムが乗っている。

何時もなら、天峰は速攻で飛び付くのだが――

 

「夕日ちゃん……夕日ちゃん……ううっ……夕日ちゃん」

じわっと天峰の目から涙が流れる。

止めどなくぽろぽろと零れ落ちる。

 

「た、天峰!?どうした?なんか悪い事したか?」

あわあわと慌てる八家。

胸ポケットに潜り込んでいる上ヶ鳥までもが心配そうに顔を覗かせた。

 

「ヤケェ……夕日ちゃんが、家を出ていくかもしれない……」

ぐずぐずと泣きながら天峰がそう零した。

 

「はぁ!?一体どうしたんだよ?

あれか?遂に下半身の魔物を押さえきれなくなって、あの子に手を出したのか?

一時の快楽に身を任せてはダメだってあれほど――いや、そこはむしろ責任とって結婚とか――」

 

「違う!!そんな訳ないだろ!!俺が夕日ちゃんを傷付ける事なんてする訳ないだろ!!」

机を殴りつけ、勢いよく立ち上がる天峰。

その音と衝撃にクラスメイト達が騒めく。

 

「あ――ごめん、ヤケ。今ちょっと気持ちの整理が出来てないから……」

周囲の様子に天峰が自分が何をしたのか、改めて気が付き自粛した。

 

「天峰?なんか悩みがあるなら言ってくれよ。

俺、あんまり賢くないけど、話せば楽になる事だってあるだろ?

話せるだけ、話してくれないか?」

八家の胸中にあるのは、自身の妹玖杜の事。

少し前まで、お互いの気持ちを分かり合えずあわや大惨事となりかけたのは、八家にとっても記憶に新しい。

天峰が居なければ、もっと悲劇的な終末を迎えていた可能性がある。

 

「ヤケ……ごめん、こればっかりは家の事――いや、俺の事だから自分で何とかするよ。

全部終わったら、ちゃんと説明するからさ」

無理して笑って、じゃあなと席を立つ天峰。

その背中は何処かさみしい物が満ちていた。

 

 

 

 

 

「ああ……くっそ……」

自宅に帰って来た天峰。制服を脱ぎ捨てハンガーに掛けもせずにカバンもほっぽりだして、ベットに体を投げる。

エアコンもかけず、ぼーっと天井を見る。

 

『…………天峰……』

 

「夕日ちゃん!?」

夕日の呼ばれた気がして、天峰が飛び起きる!!

しかし当然夕日はソコには居ない。そう、今日も学校が終わり次第病院に向かったハズだ。

いる訳が無かった。

時計を見るといつの間にか夕食の時間すら終わっていた。

どうやらずっと眠っていた様だ。

 

夏休み中、部屋にクーラーが無い夕日はかなりの時間を天峰と共に過ごしていた。

ついこの間まで、夕日はいた。すぐ近く、本当に近くに居た。

 

「はは、亡い女を想って妄想って書くけど、まさにその状態だな……」

自嘲気味に笑う天峰。

その時、家のドアが開く音がする。

 

「……ただいま……」

 

「夕日ちゃん!?」

今度こそ聞こえて来た、夕日の声に天峰が慌てて玄関まで走って行く。

 

「夕日ちゃん!!夕日ちゃん!!」

 

「あ……ただいま……」

天峰を視界に収めた夕日が小さく挨拶をする。

 

「よぉ、先輩居るか?」

後ろに居た霧崎も小さく手を振る。

先生の姿を見て、天峰が居間まで二人を連れて来る。

 

 

 

「よっす、霧崎」

 

「幻原先輩……」

居間で寛ぐ霧崎に、天峰の母親が手を振って現れる。

霧崎の前、対面する様にソファーに座って口を開いた。

 

「夕日の母親が目覚めたんだってな?」

 

「はい、そうです……」

母親の言葉に、天峰が固まる。

視界の端でも夕日が僅かに反応した。

 

昨日夕日は学校の授業中、母親が目覚めた知らせを受けそのまま病院に向かった。

そしてその日の夜遅くまで面会した後に、霧崎の車に乗って家まで帰ってきた。

今日も今日とて、学校が終わり次第病院へ向かったのだ。

 

「あ、ゆ、夕日ちゃん……あ、の」

何か夕日に言おうとして固まる天峰。

言うべき言葉はもう決まってる。

『おめでとう』だ。母親と引き離され、心の中にずっと在ったハズのトゲが抜けたのだ。

義理と言えど夕日とは兄妹、ならばこのめでたい事を自分の口から祝福するべきだと思う。

しかし、なぜか天峰の舌は渇き、たった一言を絞り出す事が出来ない。

 

「お、お母さんの事、良かったね」

 

「!!……うん……そうだね……」

一瞬だけ、驚いたように反応して再び小さく声を絞り出す。

 

「さてと、んで?夕日はこれからどうするんだ?

実家に帰るのか?」

 

「「!?」」

天峰の母親の言葉に、天峰夕日両名が驚く。

そこに追い打ちをかける様に霧崎が口を開く。

 

「そう……ですね。先輩のお家にこれ以上私の姪を世話させる訳にもいかないので……」

その言葉は、嫌な予感程度に留まっていた天峰の『夕日と離れる』事をよりリアルに想像させた。

 

「夕日、お前はどうしたい?」

母親の言葉に夕日が固まる。

 

「……う、う……わかんない……少し、時間が欲しい……」

 

「そうか、私はお前の気持ちを尊重するぞ?」

母親の言葉に、夕日は静かに頷くと自身の部屋へと向かっていった。

 

「さて、どうなるかな?」

 

「夕日次第で変わる事も多くあると思います」

母親の投げかけに、霧崎が答えた。

 

「アイツは、今まだ目覚めたばかりです。

いろいろと溜まっている問題もある。

例えば――」

 

「同居していた男、についてだろ?」

 

「ッ――!」

母親の言葉で天峰は今まで忘れていた、いや()()()()()()()()()男について思い出す。

 

夕日のから聞いた事が有る存在だった。

一人ボッチで夕日を生んだ母親は、夕日を認知しなかった血縁上の父親から、アパートの一室を与えられたらしい。ソレが手切れ金替わりであり、それ以来夕日の母親はそこで暮らしていたらしい。

夕日を育てられないと、夫を求めたのか、それとも人肌が恋しかったのか。

その家には複数の男が出入りしていたらしい。

 

二人が言っているのは、その中でも最後の男だ。

夕日母娘に虐待をし、母親はそれでも男を取り男に気に入られる為に夕日を虐待した。事実上夕日は二人から虐待を受けたのだ。

 

ある日その男は、酒に酔った勢いで夕日の右目をたばこで潰した。

夕日の悲鳴を聞いた母親は男と文字通り殺し合いをして、意識を失った。

母親は意識不明、そして男は病院で死亡。

 

最低の男だったとしても、夕日の母親は殺人を犯している。

 

「内容から十分情状酌量の余地はある……らしい。

けどやっぱり殺人だ。そこで夕日を子供として育てさせれば――」

 

「母親として、刑が軽くなるってか?」

 

「そうです……上手く行けば執行猶予だって――」

 

「夕日ちゃんをそんな道具みたいに言うなよ!!」

霧崎の言葉に天峰が食って掛かった!!

まるで母親の刑を軽くするための道具の様に話す霧崎が許せなかった。

 

「道具じゃねぇ!!事実だ。アイツを助けるには夕日の協力が要るんだ!!」

 

「夕日ちゃんの気持ちは!?そっちは知らんぷりかよ!!」

 

「天峰、落ち着け。霧崎だってしっかり考えてるんだ。

それにお前は夕日の気持ちを分かっているのか?」

ヒートアップする天峰を母親が諫める。

 

「夕日ちゃんだって、家に居たいって――」

 

「じゃぁなんで、未だに夕日は『坂宮』を名乗ってる?」

 

「あ……」

母親の言葉に天峰が黙った。

そうだ、夕日は同じ家に居ながらも未だに母親の苗字を名乗っている。

きっとそれは、未だに自身の母親に対して繋がりを求めているのだと、天峰は思った。

 

「夕日は優しい子だ。きっと母親も今は辛い時期なんだと思うぞ?

そんな親を支えたいってのは、きっと夕日の本心だ。

まぁ、最後に決めるのは夕日だがな?」

母親の言葉に天峰が黙った。

正直言うと、夕日にはそばに居て欲しかった。

だが、それは自分のワガママだと気が付いてしまった。

 

「ごめん、ちょっと席を外す……」

いたたまれなくて、感情の処理が出来なくなって天峰はその場から立ち去った。

 

「酷な事しましたかね?」

 

「大丈夫だ。アイツも強い奴だ、私と旦那の子だからな」

母親はそう言って、懐から煙草を取り出し火を着けた。

 

 

 

 

 

トン――トン――

 

「……天峰……居る?」

 

「やぁ、夕日ちゃん……」

天峰の部屋、そこに夕日がノックして入ってくる。

座る様にと、座布団を夕日に差し出した。

その反対側に、天峰が座る。二人の視線が絡み合う。

 

「ッ――お母さんの事聞いたよ。良かったね」

一瞬の躊躇そして絞り出す言葉。

夕日が、ぎこちなく表情を変えようとして、どんな顔をすればいいのか分からず停止する。

 

「ありがと……」

俯いてしまい夕日の顔はもう伺い知れない。

 

「今日もお母さんと話せた?」

 

「…………………………うん………………」

 

「そっか、やっとだもんね」

 

「………………………うん………………」

 

「お母さん、元気?」

 

「………………うん…………」

 

「ねぇ、夕日ちゃんは、またお母さんと暮らしたい?」

 

「………………………………………………………………………………分からない。

お母さんには支える人が必要。私はきっとそれに成れる。

けど、戻るのは怖い、天峰達と離れるのも、怖い……」

天峰の質問に夕日は黙りこくってしまった。

きっと夕日本人にも分かりはしないのだろう。

天峰と同じくはっきりと割り切る事が出来ないのだろう。

 

「俺は、俺は――」

俺と一緒に居て欲しい。そんな言葉を天峰は無理やり飲み込んだ。

さっきの母親と霧崎の言葉が胸の中で渦巻く。

 

真に願うべきは夕日の幸せのハズだ。なら言うべき言葉は決まっている。

 

「俺は、夕日ちゃんのお母さんの所へ行った方がいいと思うよ?せっかくの家族なんだしさ、二人で思い出を作るべきだよ。

やっとまた、家族に戻れたんだからさ」

無理して笑い、悩む夕日の背中を押した。

 

「……うん……わかった……ありがとう……」

何かを振り切る様に夕日が顔を上げる。

後悔するかもしれない、急いだ決断だったかもしれない。だけど、それでも夕日はその決断を選んだ。

嘗ては、偶然出会った顔見知りだった。

次は年の離れた恋人だった。

何の因果か兄妹に成った。

 

「天峰……バイバイ……」

そして再び兄妹は、只の他人に戻った。

 

「まだ、違うよ。この家にいる間は、まだ兄妹さ」

 

「……そうだね……お兄ちゃん……

ねぇ、今日は一緒に寝ていい?」

 

「うん、いいよ……」

離れ離れになる事を選んだ二人。

二人が、一人と一人に成るまで、せめてこの家にいる間は一緒に居ようと、同じ布団で寝むりに付いた。

この時間は確かに二人の中の残るハズだから。




終わりじゃ、ありませんよ?
まだ、続きます。


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まだクセが抜けて無いみたいだ……

はい、みなさんお久しぶりです。
大よそ一か月以上に空きがありましたが、何とか帰ってこれました。
大切なところで切ってすいません。
これからまたよろしくお願いします。


一台の自動車が止まっている。

運転席には、こちらを横目で見る霧崎の姿。

そして、目の前には夕日の母親と夕日本人が立っていた。

 

「娘が今までお世話に成りました」

深く頭を下げる母親の長い髪が揺れた。

その姿は天峰に病院に居た頃の夕日を思い浮かべさせた。

 

(そう言えば、腰近くまで有った髪切っちゃったんだよな……)

夕日の方へ向けると同じく俯いているが、その髪は初めて家に来た時よりも長くなっている気がする。

今改めて気が付く変化に、天峰は夕日と過ごした時間の重みを感じた。

 

「……みんな……ありがとう……」

 

「おう、体に気を付けてな」

 

「じゃあね、夕日ちゃん」

天峰の両親が挨拶をする。

コレ食べて。と父親が自作のサンドイッチを渡してくれる。

 

「おう、夕日。お前最後まで俺の事姉貴って呼んでくれなかったよな?

今なら、呼んでいいんだぞ?むしろ最後のチャンスだぞ?」

 

「……呼ばない……私の方が……年上……」

最後の最後まで自身の言葉を曲げないその姿には、夕日の元来の頑固さを感じさせる物が有った。

そう言えば、なんだかんだ言って夕日は結構頑固な所が有った気がする。

 

「夕日ちゃん……その、俺……」

言いたいことは沢山ある。

二人で前もって沢山話していたハズなのに、それでも言いたい言葉が止まらない。

だけど、不思議とその沢山の言葉は口を付いて出てくれない。

 

「……天峰……ありがとう……天峰と……出会えて……良かった……天峰に……心を……開いて……良かった……私……新しい……所でも……忘れないから……

ううん……違う……何が有っても……どんなに時間が経っても……――

天峰のくれた時間は忘れないから……」

夕日が天峰に抱き着いた。

そして耳元で小さく――『大好き』と呟いた。

それは周りの誰にも聞こえなかった言葉、皆の前で天峰にだけ贈った夕日の言葉だった。

 

「夕日ちゃん……夕日ちゃん……”また”いつか会おう」

 

「うん……」

涙を浮かべながら、それでも懸命に笑顔を作り夕日は幻原家を去って行った。

空には、夕日と同じ名を冠す景色が町を赤く染めていた。

天峰はその夕焼けに向かう車を、影が見えなくなってもずっと見送っていた。

 

 

 

 

 

「ここ、分かる者は?――――ん、幻原!」

授業中、神経質な古文・漢文の先生が問題を出し、天峰が自ら手を上げ答える。

 

「はい、此処に入るのはレ点で、それを含めると『師、曰く過ぎたるは及ばざるがごとし』に成ります」

 

「ん、よろしい。このパターンは漢文では良くある出だしだ、覚えておいて損はないな」

要点を説明して、先生が天峰を座らせる。

夕日が居なくなって、早2週間がたった。

周囲の人間に、夕日が帰ったことを知らせたが、最後には皆納得してくれた。

 

「よぉぅ、天峰。お前、漢文ダメって言ったのにずいぶん、ペラペラだったじゃん?」

 

「ヤケ、昨日前もって予習しといただけだよ。

あの先生、出席番号と今日の日にちで決めんじゃん?

なんとなく当たる範囲は分ってたしね」

そう言って、教科書を片付けてお昼の弁当を持ち出す。

その時、教室のドアが開いて卯月がその姿を見せた。

 

「天峰~、私が降臨してあげたわよ?一緒にお昼食べない?

間違って多めに作っちゃったのよね、出来れば外が良いわね。

中庭とか、行きましょう?」

 

「お、本当か?なら、ヤケも一緒に行こうぜ」

 

「コイツいつも間違って弁当多めに持ってきてんな」

 

「何か言った~?ヤケ君?」

 

「な、なんでもありませんです!!」

3人が中庭に向かって歩き出した。

 

 

 

「うまいな、コレ。春巻きだよな?何処のメーカーだ?」

天峰が卯月の持って来た弁当の春巻きを齧って聞く。

 

「ふふん、コレはレトルトや冷凍食品じゃないわよ?

何と私の手作りなんだから!!」

 

「マジか!?」

自慢げに春巻きを持ち上げる卯月を見て、やや大げさに天峰が驚く。

天峰の中では、春巻きは自作する物ではなく買ってくるものだ。

それを作ってしまうという卯月の料理の腕に、天峰が舌を巻く。

 

「ビックリした?どう?リクエストさえあれば、何か作って来てあげましょうか?

自慢じゃないけど、大概の物は作れる積りよ?」

卯月が自信満々な表情で天峰に聞く。

おそらく弁当に入れる入れないに限らず、必死で多数の料理本を読み取りある程度作れる実力を手に入れたのだろう。

こう言った部分から、卯月の絶え間ない努力の軌跡が伺える。

 

「本当か!?えっと、ええ?なんでも出来る、か……」

じっくりと天峰が考え始める。

その脳内では、卯月に作ってもらう料理を考えてるのだろう。

そして卯月は次に天峰の口から出るであろう料理の名を、今か今かと待ちわびている。

 

「……」

そしてそんな様子を八家が横目で見ている。

その心に有るのは疎外感。仲良く話す二人におまけに成り下がって様なさみしさ!!

 

「なぁ、上ヶ鳥、その米はうまいか?」

八家の弁当の包みの端の方向、青いカラーひよこが弁当の中から分けた米を嘴で突いている。

 

「ぴぃ」

 

「そうか、そうかぁ……今度はキャベツをやろうな?」

 

ヒョイ……

 

今度は、キャベツの一部を指でつまんで上ヶ鳥に食わせる。

 

「悲しくねーし、上ヶ鳥超かわいいし……」

ぶつぶつと八家が言葉を漏らした。

 

「ぴィ……」

何処か憐れむ様な顔で、上ヶ鳥が鳴いた。

目から汗が流れた気がした。

 

 

 

「よし、決めた!!俺、ソーセージが食べたい」

 

「そ、ソーセージは……辛い、わね」

天峰の言葉に卯月が言葉を濁す。

その心中はずっと荒れていた。

 

(あちゃー、こう来たか……

いや、確かにTVとかで作るのは見たことが有るけど……

専用の道具が要るんじゃなかったっけ?)

 

「そっか、無理か……なら、仕方ないかな。

ねぇ、夕日ちゃんは――あ……」

 

「「あ」」

天峰の間違って呼んだ名を聞いて周囲の人間が固まる。

何とも言えない重い空気が周囲に満ちた。

 

「わ、わりぃ……まだクセが抜けて無いみたいだ……」

気まずそうに天峰が頭を掻いてごまかした。

その様子に、八家、卯月の二人が安心した。

今と成っては、こんな風に笑い話で済まさられるが、夕日のいなくなってしばらくの天峰は非常に不安定な状態だった。

 

何かを振り切る様に突然、空元気を出したり。

と思ったら逆に落ち込んでしまい無気力に成ったりと、八家卯月の両名は大層心配したのだ。

 

「あら、ごきげんよう。ずいぶん、しみったれた顔そしてるんですのね。

まさかと思いますが……椎茸でも栽培してらっしゃるのかしら?」

気まずい空気を吹き飛ばす様に、キツめの毒舌が飛ぶ!

金髪碧眼、見たまままるで外国の子役の様な恰好をした少女が腰に手を当て、こちらを見下している。

 

「まどかちゃ――まどか先輩」

 

「あ、女王ロリ」

 

「えっと?」

三者三様のリアクションを取る。

卯月はまどかを詳しく知りはしないので、そこまで大きなリアクションはしないがその存在は知っていた。

確か3年の『先輩』なのだが、その実年齢は中学一年生相当で、海外の制度を使い飛び級しているらしい。

いろいろな意味でネタに事欠かない、噂の人物である。

*ちなみに本人はこっそり身長を高く見せる為、上げ底の上靴を穿いているがそれは内緒だ。

 

「変態庶民!!その呼び方を止めなさいって言ってるでしょ!!」

 

「イントネーションは、女王蟻ね?」

 

「知ってますわよ!!何度も言わなくても!!」

子供特有のキンキンした声が鳴り響いた。

 

「まどかちゃん、一体どうしたの?」

天峰が困った様に笑い、答えた。

 

「まだ食事中でしょ?せっかくですから一緒に食べてあげようと思いまして。

いろいろ持って来ましたわよ」

そう言って掲げる弁当箱は10段にも及ぶ重箱。

開くとおせち料理にも負けないご馳走が並びだす。

 

「マジか……」

 

「さ、皆さんでいただきましょう?」

コレはまどか成りの気使いなのだろう。

きっとうっすらと、まどか自身も天峰の変化を感じ取っていたのだろう。

そして、励ます為にこっちに来てくれたのだろう。

 

「ありがとう。まどかちゃん……」

 

「先輩ですわ」

不機嫌そうにまどかが口を尖らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夜の6時。

白い味噌を、鍋の中で溶かす。

お玉で中身を少しだけ掬い、小皿に移し味を見る。

 

「……おいしい」

小さく夕日が笑った。

しっかりと食べる事の出来る物だ。

幻原家の田舎でハジメさんに教えてもらった技術は、今の夕日にもしっかり使えていた。

 

「……お母さん……早く帰ってこない……かな?」

自身の母親が料理を食べた後のリアクションを想像する。

喜ぶかな?驚くかな?それとも――――怒るかな?

 

その日、夕日の願いはかなう事は無かった。

 

天峰と別れ母親と暮らし始めた夕日。

戻ってきたのは、母親と自分が過ごしたアパート。

契約は半永久的に生きているので、いつでも帰る事は出来たのだ。

 

そう、夕日が願いさえすれば、この家で一人で住む事も出来た。

夕日とその母親が帰って来て初めにした事は掃除だった。

 

一年も開けていないハズなのに、すっかり中はほこりだらけで蜘蛛の巣だらけ。

母親と家に帰って来てからは一日が掃除に費やされた。

 

「…………私は……もう……大丈夫……だから……」

ぎゅっと握りしめた右手の拳、心を強く持つように夕日は言葉に出し自らを鼓舞した。

 

 

 

 

 

翌日。

 

「……おはよう……」

 

「あー……おはよう……」

頭を押さえ下着姿で布団に寝転ぶ自らの母を夕日は見下ろしていた。

チラリと部屋のテーブルを見ると、握りつぶした様な酎ハイの空き缶が転がっていた。

 

「……大丈夫?」

夕日が心配そうに母親の顔を覗き込む。

昨晩は母親が帰ってくるのを待っていたが、結局夕日が寝る時間(深夜1時)には帰って来ておらず、少なくてもそれ以降の時間に帰ってきた事になる。

 

「……ええ、大丈夫よ……悪いけどごはんは適当に何か買って――」

 

「……私が……作った……食べて……」

バックの中から財布を取り出す母親を静止して、台所の方を指さす。

本当は昨日食べてほしかったが、仕方がない。

夕飯用の味噌汁を再び温め、卵焼きの作った。

 

「あっそ……ありがと。けど、食欲無いから、また後で食べるわ」

しかし夕日の母親はそういって布団を被って再び眠ってしまった。

 

「…………うん……後で……食べてね……」

心の中に湧き上がる思いを噛みしめ、夕日は眠る母親の部屋を後にした。

 

コォン――!

 

空き缶用のごみ箱に、母親の持っていた缶酎ハイのごみを捨てる。

結局一人で朝食を食べ終わる夕日。

不足はないはずの日、だがたった一人の食事はひどく味気ない物に感じた。

一人の時間、なぜか自分がこのまま忘れられるのではないかと不安になる夕日、自身のカバンから携帯電話を取り出し、天峰へと電話を掛けようとする。

 

彼の声が聴きたかった。笑う笑顔が見たかった。沈む自分をどこかに連れて行ってくれるあの人に会いたかった。

 

だが――

 

「……ダメ」

ボタンをプッシュする手を止め、携帯をしまう。

 

「……もっと……強く……お母さんを支えて……私が……頑張らなきゃ……

もう……私は……帰って来たんだから」

眠る母親を思い浮かべ、夕日は再び右手を強く握った。

 

もう自分は幻原家の家族じゃないと、自身に強く言い聞かせた。

 




別れと出会いを繰り返す人生。
あなたはその中で、一番大切な人は誰か決めれますか?


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呼んだ?

最近季節の変わり目なのか、気候の変化が大きくなってきましたね。
読者の皆さんは風邪などひかない様に、注意してください。


少しだけ水を出して、食器を洗う。

音は小さく、だけれども静かに綺麗に。

 

部屋を掃除する。ここでも静かに丁寧に。

怒りの琴線に触れない様に。

 

自分を言う存在を薄く、薄く伸ばして誰も気にしない様に――

 

私は小石。誰からも見向きもされない小さな小石。

ただそこに有るだけ、だけど少しだけ役に立ちたいから。

 

思い出だけを糧にして、今日も私は――

 

 

 

 

 

「夕日ー、ごはん作るわよ?手伝ってー?」

夕日の母親がにこやかに、声をかける。

どこかに出かける日も多いが余裕のある日は二人で夕食を作る。

 

「カレーを作るわ。あなた好きでしょ?」

母親が近所のスーパーの袋からカレールーを取り出す。

甘口のリンゴと蜂蜜の入ったお子様向けのやつだ。

 

「……うん」

本当はそれは好きじゃない。甘すぎてピリリとしない。

ハイネが言っていた『カレーは刺激物だ!!辛くねーカレーは良くわからんドロドロした液体だ!!』その意見についてはおおむね賛成できる。……ハイネは度が過ぎてる気がするけど。

だが、そんなことは言ってはいけない。

母親の怒りの琴線に触れてはいけないのだ。

 

「私はジャガイモをむくからあなたは、ニンジンをお願いね?」

そして渡されるピーラーとニンジン。

手早く皮をむいた夕日は母親に、ピーラーを返す。

 

「……はい……お母さん……ジャガイモの芽は……ピーラーを……」

しまった。そんな声が聞こえそうになった。

 

ダンッ!!

 

すさまじい音がして、包丁がまな板にたたきつけられた!!

母親の顔を見るのが恐ろしくなって、夕日は小さく身を縮こませる。

 

「なによ――あんた、いっちょ前に私に指図するつもり!?」

 

「ちが――」

何かを言う前に、夕日の胸倉が捕まれ母親の目前まで引きずられてくる。

圧迫される首に酸素がまわらず、小さく息が抜けた。

 

「全部あんたのせいよ!!こんな暮らしをしてるのも!!私が一人で大変なのも!!

全部全部あんたが生まれたせいよ!!

なによ!!母親の失敗を指摘して楽しいの!?お母さんバカにして楽しいの!?」

すさまじい力で夕日が何度もゆすられる!!

何度も言葉を発しようとするが、そのたびに前後に揺れる振動で言葉が紡げなくなる。

数舜の後、ハッとして母親が夕日を離す。

母親の怒りの時間が終わったのだ。

 

「夕日!!ごめんね?お母さんついカッとなったの!!許して!!あなたの事は愛してるわ!!ほんとうよ?だってたった二人の家族だものね?」

ごめんごめんと何度も謝り、夕日の頭を優しくなでる。

夕日とこの家に帰って来たから、このようなやり取りはもう何度も行われている。

ストレスか、余裕がないのか、小さなことで突如キレる母親。

しかしそれも一瞬。すぐに正気を取り戻し夕日に許しを請う。

 

怒り狂う母は嫌いだが、夕日はこの不安そうで必死に夕日に縋りつく姿をみると、突き放すことが出来なくなってしまうのだ。

 

(お母さんは病み上がりだから、今はきっと不安なだけだから、私がいないとつぶれちゃうから……)

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……

夕日は自分にそう言い聞かせる。

 

実際に母親は穏やかな時には、優しく理想的な母親だ。

そのことを加味するとやはり夕日は母から離れることが出来なかった。

 

 

 

 

 

月ののぼる夜

 

ガチャ――ギィィィィィィィィ……バタン。

 

錆びた音がして、アパートのドアが開かれる。

母親が出かけて行ったのだ。

何処に行ってるのかは知らない、夕日が眠っている間にいつの間にか帰ってきており、酒臭い息を朝になると向けてくるのだ。

 

(きっと、お母さんにもイロイロある……)

暗い部屋の中、時計を見るともう深夜の一時近くになる。

引っ越しのドタバタと、幻原家との関係等があり次の学校の事などがまだ決まっていない。

ゆっくりと、ゆっくりと確実に天峰たちとの『日常』は『過去』へと色あせていく。

 

「……みんな……元気かな?」

思わず携帯電話を取り、電話帳を開く。

少し前までは持ってすらいなかった道具だ。

今はそこに、大切な人たちの名前が羅列されている。

 

「……まだ……つながって……いる……から……

私は……大丈夫……」

一番大切な人(幻原 天峰)の文字を指でなぞって、携帯を大切そうに胸に抱く。

 

「大丈夫……大丈夫だから……きっと……きっと――」

何度も同じ言葉を繰り返す。その言葉がそういう魔法の呪文であるかのように。

 

ブゥゥン!!ブゥゥン!!

 

「――ッ!?なに!?」

突如震える携帯電話、一瞬遅れて夕日は電話が掛かってきたのだと理解した。

 

「……もしもし……」

 

『あわわ……まさか出るとは!!』

電話の相手は、どこか軽い口調で話してくる。

夕日はこの声に聞き覚えがあった。

 

「……玖杜……どうしたの?」

 

『おおっと、いきなしバレるとは……』

相手は夕日の友人、野原 玖杜だった。

さっきも言うように時間はもう深夜の一時近く、中学生の玖杜が電話してくるには少しばかり異常な時間だ。

 

『いやー、ごめん……ヒッキー時代の昼夜逆転生活が完全に抜けてなくて……

あ、ガッコはちゃんと行ってるよ?たま~に寝ちゃって、センセーに激怒されるけど……

ああ、そうだった。ま、たまにこの時間起きてるんだけどさ?なんかさみしくなって、携帯で夕日ちゃんの電話番号とか見てたのよ』

 

「あ……」

今まさに自分がしていた事。それに気が付いた夕日は目を丸くした。

そして玖杜の言葉が再び紡がれる。

 

『んまぁ、間違ってかけた的な。ワンギリするつもりだった的な……?

ちょっと話そうゼ?……いやならいいけど……』

 

「別に……かまわない……」

 

『サンキュ、どう?そっちの生活?もう慣れたん?』

 

「……えっと――」

夕日は言葉に困った。正直言ってこちらの暮らしはまだ慣れない。

いつ怒り出すかわからない母との生活はストレスも有るし、解決すべき問題も多くある。

 

しかし――

 

「大丈夫……もう……慣れた……」

一瞬考えて夕日は嘘を吐いた。

きっと相手を心配させてしまう、母親にも迷惑が掛かるの2点だった。

どうあがいても、母のためにも問題のない生活をしていると思わせなければならない!!

半場脅迫観念めいた感情と共に取り繕った。

 

『そっか……そうだよね……』

その後も取り留めない会話が続いた。

夕日は自分がこんなにもおしゃべりだとは思っていなかった。

それくらい次から次へと、言葉が出てきた。

 

『ふぅ、ありがと……そろそろ寝るわ。

明日もガッコだしね』

 

「……うん……お休み……」

 

『ねぇ、夕日ちゃん。なんか有ったら、助けてって言いなよ?私たちさ、友達なんだし……

ん、んじゃ、ジャーね!!』

最後の部分はまくし立てる様に話て、玖杜は電話を切った。

 

「お休み……玖杜……」

通話の切れた電話を折りたたむと再び大切に抱きかかえて眠った。

 

 

 

 

 

翌日

「ねぇ、夕日。今度のお休み何処かへ出かけない?」

昼食を食べながら、母親が夕日にそう尋ねる。

昨日の一件のせいか、それとも自分の心がそう言わせるのか。

 

「幻原のお家へ行きたい」

ほぼ無意識のその言葉が出た。

それと同時、母親の目が今まで見たことのない位鋭く吊り上がった!

 

「なんで?なんでそんな事言うの!?

夕日は私の事が嫌いなの?」

怒りに震える声を漏らしながら、母親が近づく。

 

「違う……お世話になったから……お礼を――」

 

「うるさいわ!!何が『お世話になった』よ!!

私なんてあなたが生まれて以来ずっと世話してるでしょ!?

それが何!?半年世話になったか成らないかの家にどうしてそこまでするのよ!!」

夕日をつかんでガクガクと揺らす!!

 

「時間は……関係ない!!天峰には……たくさん、助けてもらった!!

また、二人で話したいから!!」

夕日が反論して、母親が驚いて手を離す。

 

「夕日!!あなた!!何よその態度は!!

タカミネ!?一体どこのガキよ!?あの家族の男ね!!

ガキが色好きやがって!!ふざけんじゃないわよ!!」

母親が夕日を蹴り飛ばす!!

壁に当たった夕日になおも、母親の怒りはとどまりはしない!!

 

「大体ね、あんたが生まれたから私は不幸に成ったの!!」

その言葉を聞いた瞬間、夕日の中の時間がとまる。

『もう聞きたくない』必死になって願うが、その願いは届かない。

 

「あんたの役目は『あの人』を私につなぎ留めるための(かすがい)なのよ、それが何!?『子は鎹』なんていうけど、なんの意味のなかったじゃない!!」

 

もういやだ。聞きたくない。

 

「あの人を愛してた、あの人を私のものにする為にあなたを生んだのに!!これじゃ意味ないじゃない!!」

 

お願い、やめて。

 

「生むだけ無駄だったわ!!あなたは生まれるべきじゃなかった!!

コブ持ちのせいで再婚すらできない!!

私はまだ、恋愛を楽しみたいのに!!

あなたのせいよ!!あなたのせいで私は不幸に成ったのよ!!」

 

「今すぐ、口を閉じろ!!」

怒り狂い、スカートのカッターナイフに手を伸ばす夕日!!

 

実の母親だという事も忘れて、カッターの刃を滑られる!!

光り輝く刃を見て、母親が小さく息を飲んだ。

 

殺す!殺す!!殺す!!!殺す!!!!殺す!!!!!

 

殺意が加速度的に爆発して、自身の腕を振りあげる!!

憎き母親に自身の凶器/狂気を振り下ろす!!

 

~夕日ちゃん!こんな事されたら辛いだろ!!痛いだろ!!夕日ちゃんはその事を誰より知っているじゃないか!!~

 

何処かの、大切な人の声が聞こえた気がして、夕日はその手を止めた。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

必死になって、手を止める夕日。

そう、もう間違ってはいけない。怒りに怒りで返してはいけない。

母親の前でその手は止まっていた。

取り返しのつかないことは免れたのだ。

 

「よか――」

 

「この!!ゴミがぁ!!」

安堵した夕日の腹を母親が蹴り上げた!!

夕日の落としたカッターを手にして、こちらに向けてくる。

 

「あ、あああ、あんた!!母親に向かってなんてことをするのよ!!

出来損ない出来損ない!!あんたはやっぱり生きる価値もない出来損ないよ!!」

 

「お母さん……ごめんなさい……」

 

「お母さんなんて呼ぶな!!私からこんなモノが出てきたなんて考えるだけでもおぞましいわ!!こッんな!!!ゴミが!!私の娘な訳ない!!」

 

怒りに狂った母親は夕日の顔面めがけて奪ったカッターを投げつけた!!

 

「ッ!」

 

こンッ……

 

鈍い音がして、顔に当たったカッターが地面に落ちる。

カッターは運良く持ち手の部分が、夕日の右目の義眼に当たった。

顔の当たる位置がずれても、カッターの当たった位置がほんの少しずれても大惨事だった。

 

「あ……」

怒りが収まったのか、呆然とした顔で夕日を母親が見る。

 

「お、お母さんは出かけるから、お留守番してなさい!!」

まるで夕日から逃げるかのように、母親が出かけて行った。

その場に残ったのは、夕日一人。

 

さっきまでの事が、時間を置いてじくじくと心に沁みついてきた。

 

「…………」

何も言えない。何も考えない。何もしたくない。

呆然としながら、床に落ちたカッターを拾った。

 

「……天峰……」

小さくその人の名を呼ぶ。

 

「呼んだ?」

アパートの扉が開いて、大切な人が顔をのぞかせた。

 

「え?」

 

「やぁ、夕日ちゃん。遊びに来たよ」

天峰がいつもと同じ様に笑った。




ハイレベル親子喧嘩。

まぁ、一生に一度はこれくらいの修羅場ってありますよね。


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俺は、天峰じゃない……

さて、今回も無事投稿できました。
皆さんそろそろゴールデンウィークですね。
この作品が皆さんの休日の一部を彩れたら幸いです。


「え……なんで……」

夕日は自身の今の状況が理解出来ていなかった。

目の前にいるのは、今自分に声をかけてくれているのは――

 

「やぁ、この前ぶり」

自身を送り出してくれた男。天峰だった。

まるで少し前の様に、『そこにいるのが当然』と言いたげな表情で立っていた。

 

「どうして……ここに?」

困惑と喜びが、ない交ぜになった夕日の口から出たのが一つの疑問。

しかし、そんな風に呆然とする夕日を無視して、天峰がずかずかと家に上がってくる。

きょろきょろと部屋の中を見回す天峰。

一瞬だけ、わずかに顔をしかめて一言。

 

「酷いね」

悲しそうにそうつぶやく。

 

「あ……」

その言葉に夕日がハッとする。

倒れた家具に、割れた皿、さらにはさっきの母親とのいざこざで破れた自身の服。

どう見ても普通の状況ではなかった。

そう、これが天峰の喜ぶ状況でないのは簡単に分かった。

 

「……これは――違うの!!

……何も……心配する様な……こと……ないから……」

無意味な言い訳、この惨状を見てこんな言葉が信じられるハズがない。

おまけに天峰の入ってきたタイミングから考えてさっきの母親との喧嘩の内容を聞かれてしまっているだろう。

バレてしまったのだ、必死に隠してきた母親との関係も、玖杜の前で見せた平気なフリも。

 

「……クノキちゃんから聞いたよ、夕日ちゃんの事。

元気でやってるみたいだけど――本当にそう?」

夕日の目線までしゃがみこみ、天峰が夕日の目を覗き込む。

 

「あ……う」

 

「『なんか無理してるかも』って心配してたよ?」

いくらか前の夜の通話の事だろう。

夕日自身はうまく隠せた積りだろうが、どうやら玖杜には隠し通せていなかったようだ。玖杜はそういう所で非常に聡い。

 

「ねぇ、夕日ちゃん。もし夕日ちゃんさえ良けれ――」

 

「ダメ!!」

大声を上げ、夕日は天峰の言葉を遮った。

夕日は知っている。天峰の優しさを、幻原家の暖かさを、そしてそのぬくもりの幸福さを。

だからこそ――

 

「ダメ……それ以上は……ダメ。

誘われたら……私……私……天峰に付いて行っちゃうから!!

おかあさん……見捨てちゃうから……だからダメ……!!」

ボロボロと泣き出し、床を濡らす。

今まで閉じていた涙があふれる様に、次から次へと。

 

そう、夕日は知っていたのだ。

天峰は都合の良いヒーローの様に駆けつけてくれる事を、自分のもっともほしい言葉を投げてくれる事も知っていた。

天峰の存在に甘えればどんなに幸せだろう?

 

けど、だが、しかし――それはダメだ。

 

「……今の……私の……家は……ここ……もう……あそこには……帰らない」

確かな気を以て、夕日は天峰を拒絶した。

自分のいるべき家は此処なのだ。

つぶれそうな母を支え、元の平穏な家族へと戻るのだ。

血の繋がった母娘へと。

 

「夕日ちゃん……本当に、ここでいいの?夕日ちゃんの居たい場所は此処なの?」

何度目かになる天峰の質問。

そこの言葉に夕日の心が大きく揺れる。

砂漠でオアシスを見つけた遭難者はこんな気持ちなのかもしれない。

それほどまでに、夕日を惑わすほどに、天峰の言葉は魅力的だった。

 

「……うん……」

ここであえて残る決心を固める。

やさしさに背を向け、試練に向かう。

わずかに、しかし確かに夕日は頷いた。

 

 

「そっか、夕日ちゃんがそう言うなら仕方ないね」

以外にもあっさりと天峰はその場から引いた。

 

「じゃぁね。暇が出来たら遊びに来てよ」

振り返った天峰が扉を開け、出ていく。

最期にわずかに手を振って、その姿は扉の外に消えていった。

あっさり、ほんとうにあっさりと天峰は帰っていった。

 

「あ――」

何かが終わった気がして、夕日は膝をついた。

驚くほどあっけない終焉。

部屋は再び静寂を取り戻し、夕日の静かな息遣いだけが聞こえる。

そんな夕日の心の中に、かつてのとある場所の記憶が飛来する。

 

「似てる――」

思い出すのは、旧病棟での生活。

静かな暗い部屋。あそこには天峰が来てくれた。

だが今は、その天峰を追い出した後の部屋。

もう、救いは来ない。たった一人で立ち向かわなきゃいけない。

 

 

 

 

 

「……部屋……片付け……ないと……」

もそもそと動き出し、自身と母親が荒らした部屋を掃除する。

この後帰って来た母親と生活するために――

これからも母娘として生活するために――

 

ガチャ

 

再び玄関が開く音がする。

母親が帰って来たのか?

その方へ視線を向ける夕日だが――

 

「え?」

理解できない状況に、固まる。

ドアから顔を出したのは母親ではなかった。

黒い眼鏡、所謂サングラスをかけた高校生位の男だった。

その男は何も言わず家の中に入ってくる。

その背格好、そして来ている服に夕日は見覚えがあった。

 

「……天峰?……何をしてるの?」

その姿はまさしくさっき帰ったはずの天峰だった。

 

「ギクッ!?ち、ちげーし……俺は天峰じゃねーし……」

誤魔化す様に下手な口笛を吹いて見せる。

夕日は少々イラっとした、必死な自分を嘲笑うかのようなふざけた態度、そして恰好。

 

「……帰って……天峰には……帰る家が……ある」

 

「…………」

男は無言で夕日を見下ろす。

サングラスのせいで視線が読めないのが、夕日には不気味に感じられた。

 

「……天峰?」

 

「……違う」

夕日の問いかけにぼそりと男が答えた。

 

「え?」

 

「俺は、天峰じゃない……俺は、俺は……」

その男は緊張を抑えるように一回深呼吸をした。

 

「俺は、幼女誘拐お兄さんだ!!」

 

「……は?」

男の言葉が理解できなかった。

一体今、この男は何と言ったのだろうか?

 

「天峰?」

 

「天峰じゃない!!幼女ゆうきゃ、誘拐お兄さんだ!!

えへへへ~お嬢ちゃんかわいいねー、すごくお兄さん好みだねー。

仕方ないねー、こんな可愛い幼女がいたら誘拐するしかないなー。

すごくかわいい幼女が居たから仕方ないなー」

途中噛みながらも、そういってワザとらしい笑みを浮かべ夕日の手を取る。

 

「!?――離して!!」

 

「いやだ、離さない!!」

手を引っ込めようとした夕日を男が引っ張る!!

夕日もそれに抵抗する。

 

「こんなことして何になるの!?」

 

「かわいい子が居たから誘拐するだけだよ!!普通の事だよ!!」

話などない、と言いたげに夕日を無理やり抱き寄せる!!

 

「わたしの事はほっといて!!」

 

「誘拐犯の俺にそんなセリフは無意味だ!!

ぐへへへ~このまま家にお持ち帰りして、たっぷりかわいがってやるぜ!!」

じたばたと暴れる夕日を遂に天峰は抱き上げる!!

いよいよ現実味を帯びてきた『誘拐』のセリフに夕日が慌てる。

 

「こんなことして、何に――」

 

「何にもならないって?違うさ!俺はだれ一人悲しんでほしくない!!

たとえ本人に嫌われたとしても!!

俺には『助けて』って言ってるように聞こえたから!!」

それは明らかに破綻した論理。

本人の為を思って誘拐するなど、誰にでもわかる可笑しな論法だ。

 

「わ、私は――」

 

「夕日ちゃんは関係ない!!!ああ、関係ないさ!!

俺が、()()()()()()()()()()()()()()()()

たったそれだけだ!!だから、無理やりにでも誘拐するから、連れて帰って――」

 

「っ~~~!!訳、わかんない!!意味がわからない!!」

じたばたと暴れて、天峰が夕日を離してしまう。

とっさに走り、天峰との距離を取る。先までつけていたサングラスはいつの間にか床に落ちてしまっている。

 

お互いが肩で息をしあう。

 

「帰る気はないんでしょ?なら、無理やり連れて帰る。

夕日ちゃんの意見は関係ない。俺がやりたいから夕日ちゃんを誘拐する」

 

「……なんで……私は……ここに居たいのに!ここに居なきゃいけないのに!!」

 

「嘘を付くなよ!!夕日ちゃんさっき言ったぞ?『俺に()帰る家がある』って。じゃ、夕日ちゃんの帰る家は?ここが家なの?」

射貫くような天峰の言葉。嘘偽りを許さない裸のこころの一言。

 

「う、ん……う~~~!!」

必死に自分の家がここだと、必死で言いくるめていた自身の心が動き出そうとしているのを夕日は感じた。

帰りたい。幻原家に、天峰の、天音の、幻原両親のいる家へ。

 

「私は――――」

 

「あ、あなた誰ですか!?」

突如金切り声が聞こえる。

天峰、夕日両名がその声の方を振り向く。

 

「出ていきなさい!!警察呼びますよ!!

泥棒ね!?うちにはアンタにやる物なんてないんだから!!」

その声の主は夕日の母親だった。

武装のつもりか、玄関に有った靴ベラを手に持ち構えている。

 

「……お母さん……」

 

「何も盗られてないでしょうね!?大丈夫よね!?」

夕日の事など一切無視して、その視線はタンスや棚の貴重品入れに向かっている。

 

「えっと~」

 

「ドロボー!!ドロボーよ!!警察、警察呼んで!!」

開いている玄関に向かって、大声で叫ぶ。

このアパートのほかの住人が警察に連絡してくれるのを待っているのだろうか?

それよりも――

 

「泥棒かもしれない男の前に娘がいるのに、心配事はそっちかよ……!」

天峰が小さくつぶやくように言葉を漏らす。

今まで夕日が聞いたことのないような、低く恐ろしい声だった。

だがさすがに、ずっとここにいるのも不味いと判断したのか、天峰が開いている玄関に向かって走り出す。

 

そして、右手を伸ばし夕日の手を握った。

それは弱い力、夕日でも簡単に振りほどける力――

 

「あ、」

小さく天峰が声を漏らした。

夕日が、天峰の手を強く握り返した。

天峰はもう何も言わなかった。

夕日も何も言わない。

ただただ天峰の手を引いてくれる力に身を任せるだけ。

 

「ちょっと!?」

母親の声が遠ざかっていくのを夕日は感じる。

わずかに足元が痛い。靴を履き忘れて裸足で出てきたせいだ。

だがなぜだろう?天峰に手を握られているとそれだけで、心が安らぐ。

簡単に振るほどける筈だった手を握り返したのは自分だ。

なにも考えていなかった。ただ『そうしたかった』心が思ったように行動したらこうなっていた。

 

「乗ります!!」

手を上げ、発車しかかったバスを天峰が止める。

一瞬いやな顔をした運転手がそれでも止まってくれ、二人を乗せてくれる。

 

「ははっ、やったぁ」

奥の座席、夕日を座らせ天峰が横で笑う。

 

「かわいい子を誘拐しちゃった」

夕日はそのいたずらっ子のような笑顔の天峰に、心を揺らしている自分がいるのを認識した。




ちょっと、強引な主人公。
かっこいい人にしか壁ドンが許されない様に、主人公にしかロリ誘拐は許されないのでしょう。
皆さんはくれぐれもやらない様に。


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私……天峰に会えてよかった……

さぁて、夕日編もクライマックス!!
ラストまでお付き合いお願いします。
この作品もいよいよ100話!!

飽き性な自分がここまでこれたのもすべて、読者のおかげです。
本当にありがとうございます。


「すいませーん、これください」

見知らぬ街の靴屋で天峰が、一足の女性用の靴を買っていた。

 

「プレゼント用の包装しますか?」

女性店員が、笑顔で聞いてくる。

 

「いいえ、結構です。けど、すぐに履かせてあげたいのでラベルを切ってもらえますか?」

 

「はいわかりました」

店員が手早く鋏を取り出して、靴のラベルを止めているピンを切り落とした。

 

「ありがとうございます」

笑顔を向けた天峰が靴を持って店を出る。

 

 

 

少し離れた公園で、夕日が裸足でベンチに腰かけている。

 

「夕日ちゃんお待たせ」

ピンクのかわいいデザインの靴を持った天峰が笑う。

 

「はい、これ履いてね?」

そう言って、夕日の足元に跪いて足をつかんだ。

手早く夕日に買ってきた靴を履かせる。

 

「うん、かわいいよ。これでお城の舞踏会へ行けるね」

まるでシンデレラの童話の様に、天峰が笑うが――

 

「……うるさい……」

軽く足を上げ、天峰のあごを軽く蹴った。

 

「いて……ひどいなー」

あごをさすりながら、天峰が立ち上がった。

 

「……なんで……こんなこと……」

 

「何度でも言うよ?俺がしたいから、ただそれだけ」

天峰は楽しそうに夕日の手を取った。

 

「さて、誘拐の再開だね」

天峰の言葉に夕日が少しだけ頷いた。

 

 

 

電車、バス、そして歩き。

すべてを駆使して、天峰は夕日を自分の家へと連れて帰っていく。

今は、電車をおり家の近くのバス停にバスで移動中だ。

 

「あ……」

見覚えのある街並みに、夕日が安堵の声を漏らす。

心では強く突っ張っていたつもりだが、やはり心の中では哀愁の念がたまっていた様だ。

何でもない事なのに、目頭が熱くなってくる。

 

「天峰……私……」

 

「さ、もうすぐ家だよ」

何事もなかったように、天峰が夕日の手を引いてバスを降りる。

当然だが、ここでも天峰は夕日の分の運賃を払っている。

天峰とて一介の高校生。他県の夕日の家に往復、さらに帰りは二人分の運賃、さらには自身のための靴となればかなり痛い出費のハズだ。

 

「お金は――」

 

「ん?そんなのいいよ。けど、どうしてもって言うなら……体で払ってもらおうかな?」

天峰がわざとらしい悪い笑みを浮かべて見せる。

 

「……バカ」

夕日は聞こえない様に小さくつぶやいた。

 

 

 

「はい、着いたよ」

天峰に手を引かれ、その家の前にたどり着く。

懐かしの幻原家の家だ。

 

「ただいまー」

 

「……お……おじゃま……します……」

夕日は一瞬自分が「ただいま」と言いそうになったのを何とかこらえた。

それに気が付いたのか、天峰が少しだけ悲しそうな顔をした。

 

「ん?おお、天峰。学校から連絡来たぞ?授業ほっぽり出して、何処行ってたかと思ったが……なるほどな」

天峰の母親が、夕日を見て何かを理解したような気がする。

 

「よ。()()()夕日」

 

「た、ただいま……」

最早他人のハズなのに、母親はとてもやさしく夕日を迎え入れてくれた。

そっと伸ばした手、頭に置かれ少し乱雑になでる手に遂に夕日が、感情をこらえきれなくなった。

 

「……うぐ……ぐすぅ……ヒック……ひっく……」

 

「おーおー、どうした?なんで泣いてるんだ?

天峰に襲われたか?」

茶化しながらも、母親は夕日を抱きしめゆっくり背中をなでてくれる。

暖かい、とても暖かい気持ちになった夕日だった。

 

「うわぁあぁぁぁぁ……!!うわぁあああん……

わたし、わたし、この家にいたい!!

もう、お家に帰りたくないの!!!ここに居させてほしいの!!」

 

「んん?よしよし、かまわないぞ?お前が望むなら好きなだけいていいんだぞ?」

 

「けど、お母さん。うちにいるから……起きたから、家族なら一緒に居ないと……!!」

なおも泣きながら、天峰の母親に縋りつく。

何度も何度も、優しくなでてくれたようだ。

 

 

 

 

 

数時間後――

 

「泣きつかれて寝ちまったみたいだな……」

布団を敷いて夕日を寝かした母親が、天峰に尋ねる。

 

「かぁさん……」

 

「さてと、お前が学校をバックレた事はひとまず後だ。

むしろ、よくここまで夕日を引っ張って来たな」

天峰と母親のそれぞれ横には、天音と父親も座っている。

父親をはじめ、いつもは元気な天音すら黙っていた。

 

「引き取るぞ。預かるんじゃない、夕日を家で引き取る。

文句のあるやつはいるか?」

 

「居ないよ」

 

「天唯ちゃんの考えなら、賛同するよ」

 

「シャーネーよな?」

幻原家、4人の意見が一致した。

 

その日の夜遅く。

霧崎経由で、夕日の母親からのメッセージを受け取った。

 

『お宅の気狂いの息子に拉致された娘を取り返しに行く。場合によっては法的処置も辞さない』

申し訳なさそうに、霧崎はそう言ったらしい。

 

 

 

トン――トントン――

もう寝ようとする天峰の部屋のドアが叩かれる。

ノックの音だけで、天峰はだれが来たか分かった。

 

「やぁ、夕日ちゃん。いらっしゃい」

 

「…………………………うん」

扉の向こう、深夜の暗闇の中で小さな影が立っていた。

 

ギシッ――

 

小さな音を立てて、夕日が天峰のベットに座る。

そのすぐ横に、天峰も腰かけた。

 

「……私……わがまま……言っちゃった……」

 

「別にいいさ。これくらい」

『これくらい』と到底言えない状況でもなおも、天峰は夕日を見て笑った。

 

「……優しいね……天峰は……優しい……」

 

「うーん、どうだろ?優しくするつもりでやってる訳じゃないし――」

何かを考える様に、自分のあごに手を当てる。

 

「私……天峰に会えてよかった……本当に……会えてよかった……」

見上げるように、夕日が天峰を見る。

 

「夕日ちゃん……ん?それって――」

 

「ん?」

ごめんと一言謝ってから、天峰が夕日の右目の義眼に触れる。

 

「傷がついてる……どこか、ぶつけた?」

窓に映る自分の姿を見て夕日が確認する。

言われて通り確かに、小さな傷が付いてしまっている。

当然、家に有るスペアなど持ってきていない。

 

「多分……あの時……」

今日の昼、母親の投げたカッターで傷が出来たのだろうと勝手に理解する。

そして――

 

「天峰……見てほしい……」

ベットから立ち上がり、上着を脱ぐ。

ズボンも同じく脱ぎ捨て、傷のついた体を天峰の前にさらす。

そして傷のついた、義眼も外す。

 

「夕日ちゃん?」

 

「私の体は……醜い……目すら片方しか……ない……

お母さんに……言われた……『お前は、傷物。女としてすら不具だ』って……

実際そう……誰かに……体を見せれない……傷は……消えない……

それでも……私に優しく出来――」

 

「もう飽きたよその展開」

思い切った夕日の発言だが、天峰は夕日を強く抱きしめた。

 

「バッカだなぁ……俺が、夕日ちゃんを見捨てる訳ないじゃない。

たとえ、体が傷だらけでも俺はそれでも夕日ちゃんを大切にするよ?

さてと――――そろそろ服着ない?今更だけど、半裸の夕日ちゃん見てたら理性が危険な状況に……」

 

「天峰なら……いいよ?……一生大事にしてくれるなら――いいよ?」

真剣な夕日の言葉、茶化した様子などない。

本気の言葉。

 

「そ、そういうのは、きちんとやることを終わらせてからね?

けど、それよりも――」

夕日に服を着る様に促し、天峰が自身の机の引き出しをあさる。

 

「有った、有った。そういえばさ、いつか入れてあげる約束だったよね?」

大切に取り出した、指輪の様なケース。

それを開くとそこに有ったのは――

 

「私の――眼?」

 

「そう、病院から退院する時にくれたんだよ、覚えてる?」

 

「うん。覚えてる」

夕日は天峰に優しく微笑み返した。

 

 

 

そして翌日。

霧崎の運転する、車に乗って夕日の母親は姿を現した。

 

「二度目、ですかね?」

 

「ああ、一回目はさっさと帰っちまったからな。

きちんと挨拶をするのはコレが初めてになるな」

二人の女が向き合って、リビングの机に向き合う。

片側には、霧崎。そしてそれに対する様に、天峰と夕日が座っていた。

口火を切ったのは、霧崎だった。

「先輩。ご無沙汰してます」

 

「おう、霧崎。元気でやってるか?」

 

「はい、おかげさまで……」

 

「うっさい!!黙れ!!こいつらは敵だ!!頭なんて下げるな!!」

ペコペコと頭を下げる霧崎に、夕日の母親がいきなり叫び声をあげた。

突然の怒鳴り声に、夕日がビクリと体を縮めこめる。

 

「本来、こんな場は必要ない!!夕日は私が産んだ娘だ!!

連れて帰るのが当然のハズでしょ!」

威嚇するように、机を夕日の母親が叩いた。

 

「………夕日ちゃんは……この家に居たいって言ってくれてます!!」

 

「本人の考えなんて関係ない!!親子は一緒に居るものなの!!

私から生まれた夕日は、何が有っても私の家に居なくちゃならないわ!!」

天峰の言葉を無視して、母親が容赦なく言い放つ。

 

「俺、あんたの家の前に行ったから知ってるぞ!!あんた、夕日ちゃんに酷い事言っただろ!!夕日ちゃんの悲しさが分からないのかよ!!」

天峰のセリフに、霧崎がわずかに眉を動かす。

一瞬だけ、夕日の母親が言いよどんだ。

 

「真実を言っただけよ。本当にこの子は女として不遇よ。

傷だらけの体に、片方しか見えない目。

良い?女の幸せはいい男に貢いでもらって生きること。

私はそれができる美貌を持ってた!!あの人との子を産んで結婚してもらえるハズだった……けど、あの人と一緒になれなかった時点で、この子はもう私の人生の障害でしかないの!!殺さない所か、食事まで上げてるんだからいいでしょ?

死なずにここまで、育ったんだから。これからは私に恩返しするべきなのよ!!

私の子は、私のいう事だけを聞くべきなのよ!!それが当然の――」

 

「ふざけ――」

 

「ふざけんな!!」

天峰がいきり立つ前に、天峰の母親が夕日の母親を殴り飛ばした!!

 

「かぁさん!?」

止める天峰だが、なおも母親は倒れた相手の方へと向かっていく。

 

「立て……立てぇ!!」

首根っこをひっつかんで、無理やり夕日の母親を立ち上がらせる。

 

「な、なにを――」

 

「お前は人間だろうが!!犬猫とは違うんだよ!!

子供ってのはそんな簡単じゃねーんだ!!

孕んだ瞬間から一生守るて決めるもんだろ!!てめーは何だ!?

相手と結婚するための手段!?殺していない!?ふざっけんな!!

ちげーよ!!子供は子供だよ!!実家に勘当されようと、何が有っても守らなきゃいけないモンだよ!!

自由にしていいもんじゃねーんだよ!!それをなんだ?お前は何度夕日の心を殺した!?なんど、冷たく突き放した!?

やらねぇよ!!おまえなんかに、()()()()()()()やらねぇ!!」

まくし立てるような、言葉。

そこにいた全員が、呆然として固まってしまった。

そんな中、ずっと黙っていた天峰の父が話し出した。

 

「坂宮さん。私の旧姓は倉科って言います。

江戸末期から大昭中期まで宿泊系の産業を牛耳って、爆発的な発展を遂げた一族です。所謂旧華族って奴ですね。

私が大学時代、初めて好きな相手が出来ました。

けど、家から反対されまして……相手の子の年齢も問題だったのかな?

だけども、どうしてもその子が好きで、好きで……()()()()()()()()()()

実家に絶縁状を叩きつけて、苗字も捨てて、今の嫁さんと一緒になりました。

息子も娘も生まれて、毎日楽しく生きてます。私の家族は宝物です。

最初はあなたもそうだったんじゃないですか?どうか、どうかもう一度初めて娘を抱いた時の事を思い出してください」

 

「とっとと帰れよな!!おい、霧崎ぃ!!お前の姉貴だ、責任もって持て帰れよ」

そういうと、両親二人は部屋を出ていてしまった。

 

「夕日……あなたの……あなたの幸せは此処なの?」

 

「……ごめんね……私は……ここに居るって決めたから」

弱弱しい母親の声、それを夕日ははっきりと断った。

 

「ふぅ、いろいろと聞くことが有りそうだな……

すまない、夕日。おまえには無理させちまった」

うなだれる母親を、連れて霧崎はその場をさった。

 

嵐の様な一日は過ぎて――

 

「えっとー、復学に……戸籍?だっけ?」

 

「まだ養子のままだから、キャンセルの方が先かな?」

両親が、忙しそうに話している。

アレから元の学校に戻る事が決まり、その処理に大忙しの様だ。

 

 

 

「夕日ちゃん、一人で大丈夫?俺、ついていこうか?」

 

「……大丈夫……一人でできるから……」

心配しすぎな天峰に対して、夕日がなだめる様に答えた。

 

「ううっ……夏休みの終わり位から……夕日ちゃんの成長がすごい……」

何処か、悲しそうな顔をして天峰が話す。

その様子が、すこしおかしくて夕日は笑って

 

 

 

可笑しな話だが、また天峰の家に住むことになるという事で、夕日は親しい人にあいさつ回りをすることにした。

 

藍雨、まどか、木枯、玖杜と次々挨拶を済ませていく。

そして最後に――

 

「そっか。戻ってきたのね、よかったわ」

天峰のクラスメイト、卯月がそう話す。

 

「……はい……また……よろしく願いします……」

笑顔を浮かべ、挨拶した。

 

「夕日ちゃん少し明るくなった?」

 

「……うん……そうだと思う……天峰にも……成長してるって言われた……」

 

「え?」

その一言で、卯月が固まった。

 

「?」

何か不味い事を言ったかな?

と思い、聞き返す。

そして、卯月はゆっくり語りだした。

 

「ねぇ、夕日ちゃん。天峰がみんなの事、なんて呼ぶか知ってる?」

 

 

 

 

幻原家――天峰の部屋。

「はぁ、夕日ちゃんも成長したか……仕方ないよね……どうしようもないよね……

かわいかったのに……残念だなー、

はぁ、成長したんなら――――――()()()()()()()()

 

 

 

 

 

卯月に言われたことを、考える夕日。

嫌な予感が脳裏を過ぎる。

 

「えっと――【藍雨ちゃん】【まどかちゃん】【木枯ちゃん】【クノキちゃん】?」

 

「そうね、それと【ヤケ】君ね」

 

「じゃ、()()?」

暗い、とても暗い、まるで追い込まれた自分の様な真っ暗な目をして、卯月が尋ねる。

 

「【卯月】……?」

 

「そう、そして私の名前は【卯月 末理】!!」

 

「あ……」

夕日は気が付いた。

卯月だけ苗字呼びなのだ。ほかの仲間は下の名前なのに――

 

「天峰はね?成長した幼女に興味はないんだって……

私はもう、アイツの目には映ってない……」

悲しそうな眼に夕日はぞくっとしたのだ。

 

ずっと、ずっと孤独に耐えていたのか?

卯月はずっと、天峰の目に映らない自分に耐え続けていたのか?

そして――

 

「次は――私が……」

夕日が震える。天峰が自身に興味を失う事を理解して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー、仕方ないなー。俺『幼女が好き』だから、成長した子には興味ないんだよなー」

一人部屋の中、夕日よりもずっとずっとずっと心を黒く濁した男が嗤った。




Qいつから天峰が病んでないと錯覚してた?
最初から主人公はロリコンです。
それも末期の――


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いつからかわからないけど

はい、だいぶ作品もクライマックスです。
あと、一話くらいで終わらせる予定です。
最後までよろしくお願いします。


朝一番、リビングに入ってきた天峰に、大きな声であいさつする。

「お、おはよう!!」

 

「やぁ、夕日ちゃん。今日は早起きだね」

あっさりと、非常にあっさりした対応で天峰が食卓に着く。

今日は金曜日、土日と休みが続いている。

いろいろバタバタした夕日の家の騒動もようやくひと段落できるだろう。

 

「………天峰、明日どこか行かない?」

 

「ん?うーん、夕日ちゃんちょっと疲れてるでしょ?

バタバタしたし……おとなしく休んだ方がいいんじゃない?」

こちらを気使う言葉、だが本心は一体どうなっているのかわからない。

 

「いただきまーす」

両手を合わせ、天峰がトーストにかじりつく。

 

「うっす!夕日!!」

それと同時に、天音が部屋に入ってきた。

天峰の様に、食卓に着き朝食を取り始める。

 

「…………」

何も可笑しなことは無い、普通の朝食の風景。

そうだ、自分がこの家を出る前まで有ったナンの変哲もない《《普通》》の風景だ。

 

「ん?俺の顔に何か付いてる?」

夕日の視線に気が付いた天峰が、自身の口の周りを手でさする。

 

「……別に……なんでもない……」

そっけない態度で応え、自分のパンを食べる。

 

『あいつは、ずっと昔の私を探してるの――』

脳裏に浮かぶのは、卯月の話。

夕日は卯月にすべてを聞いていた。

 

まだ二人が小学生だった頃の恋人関係、卯月の両親の都合で離ればなれになった事、そして再びまた会えた事。

二人の間に起った事をすべて聞いた。

 

最早狂気と言っても過言ではないハズの日々。

目の前に自分の愛した者がいて、そしてその面影を探し続ける日々。

 

(ずっと、一人なんだ――可哀そう)

可哀そう。この感情は卯月だけではない。

天峰に対しても思っている嘘偽りの無い言葉だ。

 

(天峰は、ヒーローじゃないんだね……

私の時も助けてくれた。晴塚さんも助けたって聞いた。まどかと木枯の為に頑張ってるのも知ってる。玖杜を一緒になって助けようとしたのは、つい最近――

ずっと、ずっと、ヒーローだと思ってた……

都合のいい、便利なヒーローにしてたんだ……)

 

それはずっと天峰が続けていた事、困った幼女に手を差し伸べ自分すらも後回しにする。

一体どれだけ、天峰は幼女の為に自分を捨ててきたのだろうか?

自分を捨て、自ら傷つき、刹那的に交わす幼女たちの中に、在りし日の自らの恋人を重ね続ける。

おそらくこのサイクルは永遠に続くだろう。

彼が生きている限り、ずっとずっと過去の面影を探し在りもしない存在を求めてひたすら彷徨うのだろう。

 

そして彼は、それを良しとする。

 

(そんなの、ダメ……

そんなの――――悲しすぎるから。

そんなの――――報われないから。)

過去の思いでという檻の中から、天峰を解き放ちたい。

なぜなら天峰は――――

 

(私の心をさらった責任、取ってもらう)

 

 

 

 

 

「……天峰」

いつになく真剣な顔をして、夕日が大切な人の名を呼ぶ。

 

「ん、どうしたの?」

 

「……やっぱり……土日何処かへ……行きたい。

《《連れてって》》」

断ることなどさせない。そう言いたげな強い口調で夕日が頼む。

 

「ええー、正直言ってめんどくさいなー。

俺としては、少し休みたいんだけど……」

夕日の心を無視したような無情の一言。

以前の天峰なら、わずかな心のうちまで読み取り色々お節介を焼いてきたのに、今となってはこの様だ。

 

見えていないのだろう。相手の心が、興味を失った相手の心など天峰にはもう関係ないのだろう。

 

「……お願い……」

 

「はぁ、天音か、玖杜ちゃんと行って来た――」

やはりめんどくさげに、夕日の頼みを断ろうとする。

その態度に悲しくなるが、ここで引いたら絶対に二度と近づけなくなる様で夕日は必死に食い下がった!!

 

「天峰が良い!!」

 

「うぉ……」

 

「うわ!」

突如見せた夕日の激情に、天峰は勿論天音まで目を丸くする。

 

「おめぇ~ら~……朝っぱらからうるせぇ~ぞ~……」

3人がまるで地獄の底から響いてくるかのような声にビクリとする。

リビングのドアを開け、3人の母親が顔を出す。

彼女は低血圧でどうしても朝が苦手だ。朝食、弁当は基本的に父が作っている。

要約すると、朝は非常に機嫌が悪いのだ。

 

「ん~、どうした夕日……お前が声を荒げるなんて、珍しいな」

 

「……天峰と……思い出が……作りたい」

じっとこちらを見る夕日の目を見て、母親が何かに気が付く。

 

「ふぅん……そうか、なら――ちょっと待ってろ」

小さく頷いて、戸棚をごそごそと漁る。

数秒後にその音がピタリと止まり、一つの封筒を持ってくる。

 

「あったあった……こういうのは、取っておくべきだな……

期限は――大丈夫だな。

おい、これやる」

そう言って、食卓の机の上に封筒を投げすてる。

 

「ん?墺歳(おうさい)町、傾山(かたむきさん)麓旅館館長イゴース・ド・イカーナ?外国人?」

夕日の前で、天峰が封筒の差出人を読み上げる。

 

「昔のツテだ。そいつ、山奥の村で旅館をやってるらしい。

少し前に軌道に乗って来て余裕が出来てきたからって、そこまでの電車の切符と旅館のタダ権をくれたんだよ。

二人で行ってこい」

 

「はぁ!?」

突然の、それもまさに『降って涌いた』話に天峰が驚嘆の声を上げる。

 

「夕日。おまえも思う所はいろいろ有るだろう……

だが、最初に言っておく。

後悔はしても良い、だが絶対に腐るな。

お前が不貞腐れて、腐っている間にチャンスはどんどん逃げてく。

前を向いても一日、下を向いても一日は一日だ。

時間を無駄にするなよ?」

いつになく真剣な言葉。

ひょっとしたら、母親は自分の心を見透かしているのかと、思うが夕日が頭を振った。

知っていてもおかしくない。この人は《《そういう人だ》》。

ならば――

 

「……わかった」

夕日は力強く頷いた。

 

そのあと、小さく「学校行ってくる」と言い残し部屋を出ていった。

 

「あー、えっと母さん?因みにこの人ってどういう関係?」

珍しい外国人の名をみて、天峰が訝しがる。

コーヒーを一杯沸かして飲んでから母親が話し始める。

 

「あー、昔の話だよ……どっかの国の旅行者のイゴーズが日本の田舎に行って、泊まった宿が気に入ったらしい。けど、その宿っ後継者がいないから閉めるって言っててな?

イゴースが後継者に名乗りを上げたんだよ。

ま、金の問題も有ったみたいだし?話はそんなに単純にはならない。

仕方ないから、イゴースはインターネットで金銭的支援を求めた。

んで、その旅館を知ってた私たち夫婦は、援助したってだけ」

 

「援助って……そんな、個人の金額は微々たる――」

 

「2億」

 

「は?」

突如母の口からこぼれた言葉に、天峰が固まる。

一体何の意図があって、この言葉を出したのだろうか?

日常ではあまり聞かない言葉、一体何が『2億』なのだろうか?

 

「まさか――」

 

「2億援助した」

 

「どこに有ったその金!?うちって金持ちなの!?」

まさかの実家の経済状況に天峰が驚く。

確かに、家は一軒家だし特に貧窮した生活はしてないハズだが――

 

「宝くじ。それと株だ。言っておくけど、家のローン払うのとその他もろもろでほとんど使い切ったから、親の遺産当てにすんなよ?」

当たって、派手に使い終わった両親をみて天峰が啞然とする。

色々と剛毅な母親だったが、まさかこれほどだとは思っていなかった。

勿体ないような、これで良かったような、不思議な感覚が天峰を襲った。

 

「ほら、早く学校行ってこい」

追い立てられるように、天峰は学校に向かった。

 

 

 

 

 

学校昼休み――

夕日は、学校の高校生用の校舎にいた。

目的の人物は天峰ではない、《《彼女だ》》。

 

「あら、いらしゃい」

 

「……」

思わず見とれてしまうような美人がいた。

華が咲いたような、周りまで明るくする笑顔を振りまき、自分との違いをいやでも実感させる美少女、卯月だ。

恐ろしい事にこれで成績や性格まで完璧というのだから、神様は不平等だ。

夕日は無言で頭を下げ、挨拶をした。

 

「天峰なら、ヤケ君と一緒に居たわよ?

多分学食じゃないかしら?見に行ってみましょうか」

 

「……話が……あります……」

楽しそうに話す卯月に水を差す様にゆっくりと夕日が口を開いた。

 

「わかったわ……この時間なら、校舎裏かしら。

付いてきて」

卯月は夕日の真剣な顔をみて、人通りの無いトコロに呼ぶことにした。

 

 

 

「で?話って何かしら?」

 

「……私……天峰が……好きに成ってた……

いつからか知らない……けど……天峰の『特別』に……なりたいって思った。

だから――」

 

「宣戦布告って訳ね?」

夕日の言葉を受け取って、卯月が言った。

厳しい目をして、こっちを見ている。

 

「『いつからかわからないけど』か……

私は覚えてる。小学生の頃から、アイツの全部が好きだった。

一生懸命な所も、自分を二の次にして他人の為に尽くせる所も、立ち直りが早くて、いつまでもウジウジしてない所も好きだった――いいえ、今でも好き。

私が……私が一番最初に天峰の隣にいたのに!!あなたがシャシャリ出てくる前から私がいたのに!!けど……一緒に居られなくなって……

訳わかんない理由で振られて!!そのくせ、昔の私が好きって何よ……何よ!!

あんな奴!!あんな奴……なんで、すきに成っちゃったんだろ?」

卯月が激情を夕日に見せる。

何時もみんなの近くでニコニコ笑っていた卯月の、本心に近い部分だ。

これが本来の卯月なんだろう。

卯月の脳裏には、数か月前の出来事が浮かぶ。

 

思い切って告白しようとした場所がここだ。

大切な瞬間なのに、藍雨からメールが来た。そして天峰は走り去っていってしまった。

あの時、私を優先させれば結果は変わっていただろうか?

もしかしたら、天峰は怪我を負わず夕日と会う事すらなかったのではないか?

連鎖的に思考が動き、後悔の念がわく。

だが――

 

ひとしきり、激情をぶちまけた卯月が静かになった。

 

 

 

「ふぅ、少しすっきりしたわ。

ごめんね?急に怒鳴ったりして……

別にあなたが天峰を好きに成っても構わないわよ。

あなたも、天峰の素敵な所一杯知ってるんでしょ?じゃなきゃあんなロリコン野郎好きに成る訳ないわよね。

私は天峰が好き。あなたもそうなんでしょ?

なら、お互いライバルよね」

さっきまでの様子がうその様に霧散する。

その顔には、すがすがしい物さえあった。

 

「……うん……私も……そう」

小さく、しかし確かに夕日が頷いた。

 

「そっか、やってごらんよ。天峰のバカを振り向かせた方が勝ちなんだから。

これからは容赦しないわよ?」

そう笑って、夕日の頭を優しくなでた。

 

「さ、天峰を探してお昼を食べましょ?」

 

「……うん」

二人は笑い合って天峰を探しに行った。

 

 

 

 

 

夜、駅にて――

「天峰……電車……来た」

 

「うん、ああ」

気の抜けた返事をして、乗る予定の電車に乗る。

明日の早朝には旅館のある町だ。

 

誰にも邪魔されない、二人きりの旅行だ。

 

絶対に自分に振り向かせて見せる。

夕日はそう決意して、電車に乗った。




珍しく明確に、ガールズの気持ちが出ましたね。
はぁ、幼女に好かれたい……


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信じてくれ!!!俺はロリコンじゃない!!

100話を超えたこの作品。
今宵遂に解決です。
読者の皆様ありがとうございました。


「あ……」

電車の窓の外から、太陽の昇る様子が見える。

昨日の夜の深夜、終電間際の電車に乗って始まった二人の旅行。

乗り継ぎを上手く繰り返して、目的の旅館までの寝台列車になんとか乗り込んだ。

 

 

「きれい……」

眠る天峰を横に、早く目覚めた夕日が太陽を見る。

日の出など毎日の事なのだが、なぜか少し感動的にさえ思ってしまう。

 

「……天峰」

横で眠る自身の大切な人を眺める夕日。

起こそうとお思ったがあえて起こさなかった。

そう、これからずっと一緒に居る関係に成れば、二人で日の出を見るチャンスはいくらでもある筈だからだ。

『その日』の為にとあえて天峰を起こすのをやめた。

 

 

 

とある終電駅にて……

「あ、もう来てるみたいだよ」

田舎のほとんど人の居ない駅の外、『幻原家御一行様』のボードを持った、若い青年が車の前で座っている。

 

「いらっしゃいませ。ええと、幻原 天峰様と夕日様ですね?」

 

「はい、そうです」

天峰が答え、夕日がその様子を見ている。

 

「ささ、お車へどうぞ。お二人の両親――特に母君の天唯様には大変お世話になりました」

すごく流ちょうな言葉を話すこの青年は、よくよく見ると青い瞳をしていた。

訝しがる視線に気が付いたのか、青い目の青年笑顔を作り笑った。

 

「あは、一応私は外国の出身なんで、日本人ではないんですよ。

けど、今は旅館の手伝いをさせてもらってます」

その説明で、天峰は自分の母の言っていた人物の名を思い出す。

 

「えっと……イカーナさん?」

 

「あ、名前だけは聞いてるんですね。

そうです、私がイカーナです。

髪は黒く染めて、カラコンを入れようと思ってもどうしても怖くて」

はははと笑うイカーナの髪の根元は確かに色が違っていた。

平和な会話を繰り返して、二人を乗せた車はどんどん山奥の方へと向かっていく。

 

「すっごい、田舎ですね……」

 

「ははは、そうですね。ここは人の住人よりもサルなどの獣の方が多い位ですよ」

笑ってそういうが、人は来ないと旅館など経営出来る訳などなく……

天峰は少し不安な気持ちを持ちながらも、おとなしく目的地まで待つことにした。

 

「夕日ちゃん大丈夫?乗り物酔い?」

心配そうな顔をして、静かな夕日を覗き込む天峰。

 

「……私は……大丈夫……」

消えそうな小さな声で話す。

その声を聴いて天峰は、興味をまた窓の外へと移す。

 

「………………」

一人はしゃぐ天峰を見る夕日。

この所天峰はそうだ。自分を『観て』いない。

確かに自分は天峰の視界に入っている、だがそれはしょせん認識されてるという事だけで、しっかり向き合ってくれてはいない。

その言葉には明らかに、めんどくささや投げやりな感情が込められている。

所詮最早夕日も、天峰にとっては興味を失った過去の『思い出』でしかないのだ。

夕日の脳裏に、卯月の悲しそうな顔が思い浮かぶ。

彼女も過去の『思い出』に成ったしまった人物の一人だ。

 

ずっと、アプローチをかけてたのは知っていた。

だが天峰はことごとくそれを無視し続けた。それだけ天峰の取って卯月はどうでもよくなったのだろう。

そしてそれは今度は自分の番。

 

(違う……私はそうは成らない!!絶対に、天峰の心を捕まえて見せる!!)

血が滲まんばかりに自身の手を握る。

反対の手では今日の為持ってきた『お守り』を握った。

 

 

 

 

 

「おお!!すごい部屋!!夕日ちゃん見てよ!!山々!!」

窓から指さす天峰の視界には、真緑に染まった山の木々が有った。

場所は少し高い山の中腹にある旅館。残念ながら交通の便はすこぶる悪いが、眼下に広がる山の景色には人を引き込む確かな魅力があった。

 

「ほんとだ……」

天峰の誘われて山の景色を見た。

視界の端、鹿が子鹿と仲良く地面を突いている。

その光景に夕日が頬を緩ますが――

 

パァン!

 

一発の銃声と共に、親鹿が倒れる。

 

「おっと、何処かにマタギでもいるのかな?」

天峰は気が付いていないようだが、さっきの男イカーナが現れ倒れた鹿を引きずっていく。

 

「そうだ、夕日ちゃん。イカーナさん、うまく言えば夜に鹿を出せるかもって言ってたよ。ちょっと楽しみじゃない?」

非常に明るく言う天峰。

 

「……そうだね……多分……食べれるよ」

なんだかいたたまれない気分になる夕日。

ヘラへラ笑う天峰に少しㇺかッとした。

 

「さ、お茶でも飲もうか?羽を伸ばしてゆっくりしようよ」

笑顔を向けて、備え付けのお茶を入れ始めてくれる

数分後には二人の前に、湯気を立てる湯呑が2個並んだ。

 

「お、露天が有るのか……」

湯呑を片手に、旅館のパンフレットを見る。

山奥だが、露天風呂が有るらしい。

自販機の場所や、近くの見どころを紹介している。

 

「じゃ、夕日ちゃん気を付けて行ってきなよ」

 

「え?」

パンフレットを渡し、その場で座布団を枕にしてゴロンと寝転がる。

携帯を取り出し、少し触った後「電波悪い」と言ってポケットに戻す。

 

「……天峰……見に行かないの?」

 

「疲れたんだよ、慣れない旅行でさ。

明日もいるんだから、その時でいいでしょ?

気になるなら、一人で行ってきなよ」

一切の悪意が無い、あっけらかんとした口調。

そんな天峰の様子は、それだけ夕日に興味が無い事を如実に告げていた。

 

「行ってくるね……」

寂しさを抑え、夕日が山の方へと出かけた。

 

 

 

足元の枝を踏み砕きながら、山道をあるく。

特に目的は無かったが、強いて言うならこの先にある山の頂の景色が良いらしいのでそこが目的地だ。

今はただ、現実逃避がしたかった。

 

何時からなんだろう?天峰の言葉に壁を感じる様になったのは?

何時からだろう、天峰が自分をしっかり見てくれなくなったのは――

整備されて登りやすくなった山道を歩いていく。

 

誰にもすれ違わない山道。

目を凝らせば、山鳥などが見えるらしい。

だが今の夕日にはそんな事関係なかった。

 

山歩きの末、ついに頂上へと昇り切る夕日。

富士山の様な雲より高いという訳ではないが、やはりきれいなみはらしだった。

 

「はぁー……すぅー……」

大きく深呼吸する。新鮮な空気が肺に入り頭がクリアになってくる。

 

「……もう、いいかな」

クリアになった頭が思う感情はソレだった。

何時までも、こちらに気の無い男を追うのはもういいだろう。

天峰は天峰で、楽しくやってる。

自分は新しい出会いを見つければいい。そうだ、初恋というのはかなわないモノだ。

彼という人間は所詮ここがリミットだったのだ。

 

「……帰ろう」

景色と心の中の天峰に別れを告げ、踵を返す。

その時――!!

 

ピりりりッ!

 

持ってきていた電話が着信音を告げる。

なぜ?確かに電波が悪かった気がするのだが――

疑問に思いながらも、電話に出る夕日。

 

『あ、夕日ちゃんー?私、私!』

電話口から聞こえる無駄にエネルギーを消耗しそうな声。

玖杜からだった。

 

「……どうしたの?」

 

『旅行行くって聞いてさー!うらやましくて、電話した!!

お土産よろ~』

受話器越しでも、見える玖杜のへらへらした顔。

コレが少し前まで、死ぬ直前まで悩んでいたと思うと不思議な物である。

そこで夕日はハッとする。

 

「そうか……そうだったんだね……」

 

『ん!?どうした?なんかあった?』

慌てる様に聞いてくる玖杜。

だが、気が付いた事を試さないと、どうにも済まなくなった夕日。

 

「……やることが出来た……お土産……期待してほしい……」

 

『あ、えっと……とにかく了解!!!』

話終わる瞬間勝手にプッと電話が切れる。

電波状況を見ると、アンテナ一本と0を繰り返している。

よくこんな状況で電話で来たなと、自分でも不思議に思う。

 

「……そう……退いちゃダメだったんだ……

もっと!!もっと前へ!!それが私!!」

新たな決意を胸にして、夕日は山道を下って行った。

 

 

 

 

 

「天峰……露天に行こう」

部屋に帰って来た夕日。開口一番にそう告げる。

 

「えー?夕飯終わってからでいい――」

けだるげな天峰のそばに夕日がツカツカト歩み寄る!!

 

「……何時まで……『そこ』に居るの?」

 

「え、いや、夕飯が終わる頃には――」

尚もだるそうに話す天峰。

ゴロンと寝転がって、瞳さえ合わせてくれない。

 

「違う!!何時まで私を見ない積り?」

再度掛かる夕日の声、その声はひどく真剣ですさまじい重みがあった。

声に驚いたのか、ついにこちらに視線を合わせる。

 

「なんの、こと、かな?」

誤魔化す様に天峰が声を濁す。

そして露骨に視線を外して見せた。

 

「逃げないで」

視線をそらした天峰に、ずいっと近づきすぐ傍で話す。

寝転がる天峰に夕日が覆いかぶさる形だ。

 

「ええっと――?」

 

「気が付いてるんでしょ?私の気持ちに?

逃げないで、怖がらないで」

まるで守る様に優しく、優しく夕日が話しかける。

至近距離で、天峰が息を飲むのを感じる。

逃れる様に、夕日を退かして天峰が立ち上がる。

今までのどんな時より、輝く目で天峰を見る夕日。

 

「あ、ああ……そっか、もうこんなに俺は――」

 

「そう。私の中で大きく成ってる」

どこかあきらめたような顔をした天峰の手を夕日がつかむ。

そしてそのまま自身の胸にあてがう。

 

「あ……」

早鐘の様に何度も脈動する夕日の胸に天峰が声を漏らす。

遂に捕まえた。もう逃がす気はない。

 

「天峰は……私の部屋()を壊した……

最初はいやだった……うるさい人は要らなかった……あの部屋(病室)は私のたった一人で休める場所だった……

天峰が……勝手に入って来た……」

夕日の言葉。

それが指すのは夕日と初めて会った時。

 

(そうだ、あの日俺はひとりで佇むこの子を見て――)

過去の夕日を思い出そうとする天峰。

最初に出てきたのは、仄暗い夕日の目だった。

しかしそんな回想などさせないと言わんばかりに夕日の言葉が続く。

 

「許さないから……私の平和を壊して……自分が興味無くなったら、さよならなんて許さないから」

じっと犯罪者を断罪するような目で天峰を射抜いた。

何処となく、はじめてあった目を思い出させる物、しかし明らかに違ったものが有る。

それは決意。

何もなくなり、絶望して何も写さない、孤独な心だけが透けて見えていた目ではない。

その目は確かに天峰を捉えていた。

 

「うぐ……」

夕日の威圧感に天峰が一歩後ろへ下がる。

 

「私を『観て』」

天峰が一歩下がれば夕日が一歩進む。

天峰が目を背ければ夕日がその視界に入り込む。

 

こつん

 

「あ……」

下がりに下がった天峰が旅館の壁にぶつかった。

 

「ずっと一人で居たんでしょ?

卯月さんから聞いた。

二人が別れた後、ずっと約束の公園に通てたんでしょ?

ずっと、ずっと待ってたんだよね?卯月さんが帰ってくるの……」

夕日の言葉に、天峰が遂に目を合わせた。

その目に写るのは弱い自分(天峰)自身。

 

「あ、ああ……」

 

「卯月さんが帰って来て公園に行くのをやめたんでしょ?

それは、自分の思い出の人は変わったってわかったから。

天峰は寂しくて、別れた日からずっとあの公園に心を残してきたんだね……」

夕日の言葉は的を得ていた。

 

「そうだ……そうだった……

俺は、成長した卯月が受け入れられなくて……

ずっと別れたまんまの姿しか覚えてなかったから……

だから、分からないフリしたんだ……

俺は、俺の中の思い出を守る事にしたんだ!!

思い出の中だけで――」

 

「けど……違ったでしょ?私を助けてくれたのは?ほかのみんなを助けてくれたのは?

思い出だけなら、なんでほかの子に自分から関わったの?」

夕日の言葉に天峰が固まる。

 

「それは――」

なぜかわからず言い淀む。

正直な話それはなぜだか、天峰本人にも分からない。

 

「自分でも気が付かなかったんだね?

天峰は小さい子が大好きだから」

当たり前だと言いたげな口調で夕日が天峰の鼻をつついた。

 

「俺は……卯月の影を――」

 

「それも有ったんだと思う……

玖杜と一緒だね、自分をだまして偽った……

だから、かな?玖杜の気持ちが分かった、天峰を見てたから」

玖杜はレンズの向こうに自分を隠すことで、自分を守った。

天峰は思い出の残滓を集めることで、過去の記憶を守った。

だが、それは停滞だ。先に進むことを恐れた臆病者の選ぶ道だ。

 

「……私の好きな天峰は……そうじゃないハズ……

私の気持ちなんて無視して……ズカズカ入ってくるタイプ。

けど……私は過去の残滓には成ってあげない……私は――天峰を連れて未来()へ行く」

 

「夕日ちゃん……」

夕日だったのだ。

過去の思い出に縋り、前へ進むことをやめていた天峰を前へ成長させるのは、天峰が救いだした彼女だったのだ。

 

「私は、私は天峰が――むぐ!?」

『好き』と言おうとして、天峰の指が夕日の唇をつまんだ。

 

「おっと、悪いけど――その先を言うのは()の役目だ」

大きく天峰が息を吸う。

深呼吸して、気を落ち着かせる。

 

(そうか……夕日ちゃんが、俺の事を引っ張てくれる人だったんだな……)

自然と笑みがこぼれる。

 

「夕日ちゃん、俺は夕日ちゃんの事が――」

相手を想う言葉を告げる。

それはシンプルな物かもしれないし、ひどく気取ったものかもしれない。

だが、確かなのは、天峰が目の前に居る子を大切に思い、そして一人と一人から二人へと変わろうとする物。

 

「わ、私も、私も同じくらい好き」

顔を喜びで歪ませ、夕日が天峰に抱き着く。

この距離は恋人だけに許された、夕日だけに許されたポジションだ。

 

「よし、よし……夕日ちゃんは可愛いね」

優しく夕日を撫でる天峰。

気分良さそうに、夕日は目を細める。

抱き合う男女、天峰が優しく夕日を撫でる。

これからは二人なのだ。

 

 

 

「良かった……コレ……使う必要はなかった……」

ごそごそと、ポケットから何かを取り出す夕日。

 

「いい!?」

夕日の取り出したものを見て天峰が固まった。

それは、坂宮家に置いてきたはずのカッターだった。

 

「あれぇ?それ、置いてきたんじゃ……」

 

「今日の為に取ってきた……」

最早夕日のチャームポイント?と化したカッターナイフ。

二人の新たな門出を祝福するかのように、キラリと輝いた気がした。

 

「……因みに、ソレ。どうやって使う気だったの?」

旅行に不似合い、それどころか場合によっては警察に連れていかれてもおかしくないアイテムに天峰が冷や汗を流す。

 

「……ん……普通に……夕食に薬混ぜて動けなくなった天峰を脅して……

そのまま……無理やり既成事実を作って――」

楽しそうに指折り数える夕日。

その瞳は狂気的な喜びが見え隠れしていた。

 

「ああ!!もういい!!もういいから!!ね?」

告白を済ませなかったら、危ういタイミングで別の形で付き合うことに成ってた事を理解して天峰が焦る。流石に義妹に手を出したというレッテルは厳しい。

というか万が一ご懐妊なんてことに成ったら……

考えるだけで恐ろしかった。

 

「ん」

夕日が右手を差し出してくる。

 

「握手?」

 

「違う……彼氏は彼女をエスコートするモノ……」

 

「えっと、そうだね」

夕日の手を握る天峰。

まぁ、コレも悪くないと自身に言い聞かせ――

 

「いけない……忘れる所だった……」

夕日が反対の手に刃を出したままのカッターを握る。

 

「……うわぁ」

右手は自身の手に、反対の手にカッターを握る夕日。

その顔はお目当ての物を手に入れて非常に満足気だった。

 

「ま、まぁ。これも個性だよね……」

無理やり自分を納得させる天峰。

そう、このちょっと病んだ子が自分の彼女なのだ。

過去の思い出に捕らわれた自分の手を引っ張ってくれた大切な人なのだ。

だから――

 

「天峰……今後私以外の子を見たら……」

すっと、首元にカッターの冷たい感覚が走る。

 

「わ、わかってるって!!俺は夕日ちゃん一筋だよ!!」

この二人なら、ずっとずっと限界なんて無い恋人同士に成れるだろう。

扉の向こうでは、鹿肉の調理法を聞きにきたイカーナが居心地悪そうに立っているのを二人は気づかない。

 

 

 

 

 

ちょっとその後の物語――――

 

「儀姉さんって呼ぼうか?」

 

「いや、いい」

夕日が何とも言えない顔をした、天音に対して話す。

あの後家族に、事の顛末を話した。

 

天峰の告白に、家族は混乱を極めると思ったがそんなことは無かった。

むしろ両親は「恋人ができたのか。よかったな」とさえ言ってくれて非常にあっさりしていた。

ひょっとしたらこうなる事を読んでいたのかもしれない。

だが、天音はそうではなかったようだ。

未だに二人を見るたび何とも言えない気分になるようだ。

たまにだが一人で居る時に「マジかよ……」とか「何時からだよ」とか「いろいろいいのかよ」とか言っている。

 

家は大した事は無かったが学校は大変な事に成っていた。

二人の顛末を聞いた卯月は一言「そう」と言ったきりすっかり元気が無くなってしまった。

だが天峰は心配してない。卯月の強さを知っている。

そして密かに彼女に思いを寄せる男たちは、そんな卯月をほおっておかないだろう。

 

問題は天峰の方だった。

まずクラスメイトからのニックネームがロリ峰に変わった。

ソレどころか中学生の生徒とすれ違うと、ひそひそとウワサまでされる始末。

 

「信じてくれ!!!俺はロリコンじゃない!!」

と言っても一向に、理解してもらえない。

そう、今の自分は夕日ちゃん一筋だ。

 

……たまに、藍雨ちゃんにご飯貰って喜ぶけど……

……たまに、まどかちゃんと休み時間に話したりするけど……

……たまに、木枯ちゃんの胸が最近大きく成って来て、測りたいとひそかに思ったりするけど……

……たまに、クノキちゃんとゲームで対戦したりするけど……

 

「……ねぇ……浮気?浮気なの?」

 

「だ、断じて違うよ!!」

針の(むしろ)って言うのはこういう状況なのだな。と考えて毎日を過ごしている。

余談だが、驚くことに八家にも彼女が出来たらしい。

数人の目撃情報があり、青い着物姿の美人と一緒にデートしているのを見たらしい。

 

 

 

「よぅし!夕日ちゃん明日デート行こうよ。デート!!」

夕日の部屋のドアを開けて天峰が夕日を誘う。

 

「……うん……行こう……」

ノートに何かを書いていた夕日が降り返った。

 

「あれ?勉強?」

 

「……違う……将来の……子供の名前を……考えてる……

『天樹』が……一番の有力候補……男の子なら『あまぎ』って読ませて女の子なら『てんじゅ』って読ませる」

やけに生き生きと語る夕日に、天峰が苦笑いを浮かべた。

 

「あ、あははは……ちょっと早くない?」

 

「大丈夫……13歳でも妊娠出来る……

それに天峰はロリコン……十分興奮出来る……」

 

「デートってそういう意味じゃないからね!?」

思った以上にガンガンくる夕日を天峰はあきれたような目で見ていた。

だが、確かな幸せがここにはあった。

 

 

 

リミットラバース……完。




遂に天峰の止まっていた時間が動き出しました。
この作品は、コレにてハッピーエンドです。

少し時間を置いて、また別のルートを書いていきます。

具体的には
藍雨ですかね。

上手くいけば、裏で動いていた夜宵ちゃんや。
天候シリーズでまだ名前の出てない、雪を担当する倉科 雪名(セツナ)などが出せるかも……

期待せずに気長に待ってくださいね。


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