艦隊これくしょん ~拝啓、鬼畜兄貴殿。恙無きや云々~ (ハロー=アドルフ)
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About me~兄提督と弟提督、早朝の教習寮にて~

人類に制海権がなくなった世界

 

海は突如現れた『深海棲艦』にうばわれた

 

これは人類にとって由々しき事態であった

 

海上のルートは、石油、自動車など、航空機では運べないものを輸送していたからだ

 

また、その航空機すら敵艦の戦闘機により追撃されるようになり

 

島国日本は世界と隔離された

 

 

 

しかし、人間が突然の危機に右往左往しているなか

 

支配されたはず海は変わらずに青い

 

 

 

海にとっては、自分を誰が支配しようと関係ないのだろう

 

相手が誰であろうと気まぐれで波を立てて、いたずらに船を揺らす

 

この馬鹿でかい水たまりにとって、俺たちの奮闘なんざあってないようなもんなんだ

 

そう思うと、責任が少し軽くなる気がする

 

提督なんて、自分には大きい肩書きを背負う責任が………

 

 

 

弟「おい、兄貴…………やっぱり喫煙所にいた」

 

兄「うぁ?なんだ、お前か……………教習寮で唯一寄り付かなかったところが喫煙所じゃなかったのか?」

 

 

 

寮の裏側、小さな灰落しが備え付けられた吹き晒しの喫煙所

 

禁煙化の昨今を表したような場所でも、愛煙家の俺にとっては聖域だ

 

そこで紫煙をくゆらせてた俺をたずねてきたのは、海軍では先輩にあたる弟だった

 

 

 

弟「寄り付かないとは言ったけど、行かないとは言ってないよ……………ほら、着任祝い!わざわざ持ってきてやったぞ!」

 

兄「ほいほい、ありがとさん」

 

 

 

手に持ってたタバコを口にくわえ、丁寧に梱包されてる細長い箱を受け取る

 

その丁寧な梱包を破るようにして、中身を取り出す

 

中に入っていたのは、俺が愛煙してる煙草『七つ星』1カートンだった

 

 

 

兄「けっ、色気のねぇプレゼントだな」

 

弟「それが一番喜ぶだろ?」

 

兄「ははは!違いねぇ」

 

弟「このヘビースモーカーが…………荷物の用意は終わった?」

 

兄「昨日のうちに発送まで済ませてる。今日の夕方には俺の赴任先につくはずだ」

 

弟「なんで部屋で吸ってなかったんだよ、実家だといつも自分の部屋ですってるじゃないか」

 

兄「あぁ……………ここなら海がみえるからな」

 

 

 

俺は海へと視線を向ける

 

弟も同じように水平線へと目をやった

 

 

 

暁の水平線だ

 

 

 

弟「朝の海か……………」

 

兄「お前はもう一年間も提督やってるもんな、こんな景色見慣れたもんだろう?」

 

弟「いや、いつ見てもいいものだとおもうよ…………この静けさは独特だとおもう」

 

兄「…………………そろそろ、ここを発つ時間だ。荷物でもとってくるか……………はぁー………………」

 

弟「なに?まだ責任がどうとか思ってるの?」

 

兄「いや、女だらけ職場なんだろ?なんかネチョネチョしてそう」

 

弟「すごい偏見だよね!?それに、最初は駆逐艦が一人だけだから、大丈夫だよ!?」

 

兄「じゃあ、数が増えてもネチョネチョしないのか?」

 

弟「……………………」

 

兄「そこでだまるなよっ!」

 

 

 

 

 

 

この物語は

 

 

 

俺達が提督になった話

 

俺達が海の支配権を取り戻さんと戦う話

 

俺達が艦娘という兵器を指揮する話

 

俺達が艦娘という人格と向かい合う話

 

 

 

そして、このなんとも尊大に気まぐれな海の上で、俺達が艦娘たちと手を取り合う話

 

 

 

 




兄:本名『淵脇康一《ふちわきこういち》』今日から提督になる28歳の男性。好きなものはタバコ、嫌いなものは努力

弟:本名『淵脇哲二《ふちわきてつじ》』提督歴一年の日本海軍大佐。年齢は25歳。好きなものは唐揚げと麺類、嫌いなものは父親から送られてくる見合い写真(自分のところの艦娘に見つかる度に、殺されそうになるから)

海:広くて大きい

七つ星:NT(Nippon Tobacco)が販売してる煙草。奥行きのある確かな味わいが売り。兄提督が愛飲してる。


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ニナ~兄提督と叢雲は仲が悪い~

 

兄「ふぃー、案外早く着いたな。寮から近い鎮守府に希望出しといてよかった」

 

 

訓練生の寮からバイクに乗り二十分ほどで、俺が着任する鎮守府につく

 

 

鎮守府の敷地内の駐車スペースにバイクを停め、ヘルメットを脱いで、周りを見渡す

 

大きなクレーンに、立派な工廠、そして艦娘たちの寮などなど

 

 

鎮守府の敷地内は、物々しいもので埋め尽くされているが、港の波音以外は音が聞こえない

 

その静けさが逆に、どこか薄気味悪い雰囲気を作り出していた

 

 

たしか、俺と同じく、今日付けで大本営から配備された駆逐艦が一隻いるだけなんだよな

 

 

一人と一隻には、今の鎮守府は広すぎる

 

はやく仲間が増えればいいんだが

 

 

鎮守府の本館に入り、外よりも静かな廊下を歩いていく

 

廊下の先には、執務室と書かれた表札と深い木の色合いを見せる扉が待っていた

 

 

兄「ここが俺の執務室か…………たしか艦娘は、ここで待機してんだよな……………」

 

 

 

扉の向こうに大本営から直々に頂いた艦娘が俺を待っている

 

ここが新しい俺の職場だ

 

軍帽を深くかぶり直し、気合を入れ直しておく

 

何事も初めが肝心だ

 

いっしょに苦楽をともにする最初の仲間に、だらしのない格好を見せるわけにはいかない

 

俺はドアノブに手をかけ、静かにゆっくりと開く

 

 

新たな俺の戦場は驚くほど殺風景であった

 

まだ家具は何も置いてなく、段ボールだけ存在する寂しい部屋

 

照明にも灯がついてないので、窓からの光だけが木目の床に降り注ぐ

 

そして、部屋の奥には………………

 

 

 

??「あんたが司令ね?まぁ、せいぜい頑張りなさい!…………………うーん、いい線いってるんだけど、もう少し箔をつけたほうがいいわね」

 

 

銀髪の女の子が壁に向かって何やらブツブツとつぶやきていた

 

 

 

こちらには背中を向けていて顔は分からない

しかし、セーラー服に黒のストッキング、脇に置いてある艤装を見るに彼女が、俺の最初の艦娘でよさそうだ

 

 

 

??「あなたが司令?今日から馬車馬のように働きなさいよ!………………でも、実際働くのは私たちだし、これでは語弊があるわね 」

 

 

 

 

 

 

……………おもしろそうだから、しばらく様子を見るか

 

 

 

数十分後

 

 

 

なかなか最初のセリフが決まらないらしい

 

ついには、ポーズもつけながら練習を始めた

 

どうやら、俺に初っ端からなめられないようにと、気合の入ったセリフで俺と挨拶を交わすつもりのようだ

 

しかし、そんな健気な彼女を見てしまった俺は、なめてかかるしか選択肢がない

 

 

 

 

??「よし、決まったわ!原点回帰よ!コホンッ!……………あなたが司令ね?まぁ、せいぜい頑張りなさい!!」

 

 

ハキハキとした口調で、ついに決定した決め文句を発しながら、彼女はクルッと綺麗に半回転し、俺の方へと白い綺麗な指をさす

 

ポーズは綺麗に決まった

 

しかし、それがより滑稽に彼女を演出している

 

 

??「……………………」

 

兄「…………………まぁ、その…………なんだ」

 

 

目は点に、口はパクパクとさせ、固まっている艦娘

 

おそらく、あまりの驚きで頭が回ってないのだろう

 

俺は彼女を刺激しないように、フォローをいれようと試みる

 

 

兄「初めが肝心だもんな、いい心掛けだと思う!」

 

??「いやぁぁぁぁぁ!!!そんな優しさは今求めてないのよぉぉぉ!!!」

 

 

 

どうやら、フォローには失敗したようだ

 

 

 

 

兄「じゃあ、改めて自己紹介な!俺が本日付で鎮守府に着任した提督だ、よろしく!」

 

 

しばらく真っ赤な顔で泣き叫んでいた彼女をなだめるのに10分ほどかかった

 

ようやく落ち着いたので、ここで初めて挨拶できる

 

 

叢雲「うぅ、吹雪型 5番艦 駆逐艦の叢雲よ……………よろしくしたくないわ、この変態っ!!」

 

 

叢雲と名乗った彼女は、赤面のまま俺を睨んでくる

 

 

兄「男は誰しもが変態だ!上半身と下半身が別の生き物だ!」

 

叢雲「無駄にきりっとした顔で乙女になんてこと言うのよ!?私は覗きなん行為そのものが変態だって言ってるの!」

 

兄「覗きというか普通に部屋に入ったら、決めゼリフを真剣に考えてたんだろうが」

 

 

俺に落ち度はないはずだ!

 

面白がって声をかけなかったこと以外はっ!

 

 

 

叢雲「まずノックをしなさいよ!ノックを!」

 

兄「アホか、自分の部屋に入るのにノックする馬鹿がどこにいるんだ」

 

 

未だにガウガウと唸っている叢雲をよそに、俺は侘しい部屋の中央に陣する段ボールに手を掛ける

 

 

叢雲「ぐぅ…………あぁ、言えばこう言うわね…………」

 

 

流石に言い返せなかったようで、押し黙る叢雲

 

最初の艦娘が、こんな跳ね返り娘だなんて、先が思いやられるな

 

 

 

兄「なぁ、そろそろ勤務に入らせてもらっていいか?一応今日の目標ぐらいは考えてきてるんでな」

 

 

俺は部屋の奥の段ボールから幾つかの書類を取り出し、それを叢雲に渡した

 

 

 

叢雲「この書類はなんなのよ?」

 

兄「初建造と初出撃に関する任務書(オはーダー)だ。今日のうちにこれを終わらせないと、お上から怒られる」

 

叢雲「なんで、私に持たせるのよ!」

 

兄「出撃まで暇だろ?だったら、いっしょに工廠まで来い!今日はお前が秘書艦だ」

 

叢雲「…………仕方ないわね、暇つぶしのついでに付き合ってあげるわ」

 

 

 

忌々しそうな顔をしながら叢雲は、しぶしぶ了承してくれた

 

 

およそ司令官たる俺に対する態度ではないな

 

 

まぁ、最初はこれぐらい反抗してくれた方が面白いか

 

変に萎縮されるよりかは、マシだし

 

 

 

 

兄提督in工廠

 

 

 

兄「君らが工廠に住む妖精か…………これからよろしく頼む」

 

妖精たち(ブイッ!)

 

 

いま俺と叢雲の足元には、数人の小人がいる

 

大きさは30cm程度、容姿は女の子のように見える彼女ら

 

その名は『妖精』

 

実は決まった名前はないらしく、その小さな姿から便宜上そのように呼ばれているのだ

 

これは大本営も認めているものらしい

 

 

叢雲「不思議ね、こんな小さな子が私達を作り上げてしまうなんて」

 

兄「こんな小さな存在に頼ることしかできないって考えると、あんがい艦娘も心もとないな」

 

叢雲「その言葉、そのまま酸素魚雷で打ち返すわよ、司令」

 

兄「けっ!」

 

叢雲「ふんっ!」

 

 

俺達はお互いに顔を背ける

 

おそらく叢雲と俺は、争い合う星の下に生まれてきたんだと思う

 

ガチで殴り合いとかになったら勝てる気はしないけどな

 

相手は艦娘だし

 

さぁ、こんな反抗期の娘なんぞほっといて、建造だ!

 

早いこと素直で元気な扱いやすいチョロいやつを手に入れるぞ

 

 

兄「建造を行う機械は……………これか。最初は軽巡が欲しいところだが、どうやっていじるのかな?」

 

叢雲「司令は知らないかもしれないけど…………」

 

 

 

馬鹿でかい機械の前で唸る俺の横にたち、叢雲は得意げに話し始めた

 

 

 

叢雲「この機械には、燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトを入れるのだけど、ある決まった割合の入れ方をしないと欲しい艦種が建造されないのよ?まぁ、私は大本営の研究室から教えられているから、あなたがお願いするなら教えてあげてもいい─────」

 

兄「あぁ、建造レシピのことだろ?それなら知り合いから教えてもらったから教えてくれなくていいぞ………………燃料250、弾薬30、鋼材200、ボーキサイト30…………よし、これで建造開始!」

 

叢雲「知ってたのかよっ!?」

 

 

 

コンクリートが敷き詰められた工廠の床は硬いだろうに、綺麗なズッコケをみせる叢雲

 

本当は、ノリがいいほうじゃないのだろうか?

 

 

 

叢雲「うぅー、しかも建造時間が1時間……見事、狙ったとおりに軽巡を引き当てたのね」

 

 

建造機械のモニターに映った必要時間は、およそ軽巡がつくられる程度の長さだった

 

俺の提督生活、幸先はよさそうだ

 

 

兄「さぁてと、建造おわるまで昼飯がてら一息つきますか」

 

叢雲「司令、一息って言っても全然働いてないじゃない!」

 

兄「そうか?俺今日はなにやったんだっけ?鎮守府来て、挨拶の練習をポーズまでつけてノリノリでやってた叢雲を見学して────」

 

叢雲「ふ、振り返らなくてもいいわよっ!!このアホ司令!!」

 

 

ギャーギャーと騒ぐ叢雲をあしらいながら工廠の外へと出た

 

むくれる叢雲を横目に見ながら、鎮守府本館の方へと足を進める

 

 

叢雲「司令、昼ご飯って言ってたけれども、まだ補給艦の艦娘が来てないから、食堂も開いてないわよ?」

 

兄「知ってるよ、それどころか酒保担当と任務担当の艦娘もまだなんだろ?…………だから、自分で作ることにした」

 

叢雲「はぁ?いかにも不器用そうな司令が、料理なんてできるの?」

 

兄「まぁ、文句は食ってからにしてくれ、いくぞ」

 

 

怪訝そうな顔をしている叢雲をおいて、俺は食堂の方へと歩く

 

 

叢雲「ちょっと!?なに、ナチュラルに私も食べることになってるのよ!いやよ!ってか、話聞け!このアホ司令!」

 

 

アホ司令は余計だ、跳ね返り艦娘

 

 

 

兄提督in食堂

 

 

 

叢雲「おいっしいっ!!!?なにこれ!?鶏肉のジューシーな旨みを卵が優しく受け止めていて、アクセントに玉ねぎの甘味!出汁もほどよい塩気で────」

 

 

さっきの態度は何処へやら…………ってのは、このことだな

 

親子丼出した瞬間に手のひらを返しやがった

 

 

兄「お前さ、一つの物事に対して十言わないと気が済まないタイプなのか?あれか、ボケに対して懇切丁寧なツッコミを入れるタイプか?場がしらけるぞ」

 

 

 

グルメリポーター並のリアクションをとる叢雲

 

だんだん彼女がいい娘にみえてきた

 

 

叢雲「司令はなんでこんなに料理が上手なのよ?」

 

兄「ガキの頃から料理を作るのが好きでな、母親の手伝いばっかしてたら、いつの間にか覚えてた……………学校が休みの時とかは、家族の昼飯とかも普通に作ってたしな」

 

 

 

叢雲と向き合う形で親子丼をたべる

 

手前味噌ながら、これは自信作だ

 

うまい、うまい

 

 

 

叢雲「見た目のわりに家庭的なのね…………」

 

兄「まぁ、家庭的ではない厳ついツラしてるのは自覚してる…………うしっ!食うもん食ったし、食器片付けて工廠いくぞ」

 

 

丼に残ってた米をカツカツとかき込み

 

ドンっと勢い良く器をテーブルに置く

 

 

 

叢雲「はいはい、いい艦娘ができてたらいいわね。あなたみたいに根性ひん曲がってる艦娘とかは願い下げだわ」

 

兄「ああそうだな、叢雲みたいな跳ね返りがきつい艦娘じゃなきゃバンバンザイだな」

 

叢雲「はっ?なんか言った?アホ司令?」

 

兄「ああん?何度でも言ってやろうか?猛反発性ウサギ耳さんよ?」

 

 

至近距離でメンチを切り合う

 

どんなにいい娘に見えてきても、やっぱりソリは合わないようだな

 

 

 

再び兄提督in工廠

 

 

 

兄「さて、いよいよ初建造の成果を見れるんだな」

 

叢雲「なに?緊張しているの?」

 

 

神妙な面持ちの俺をみて、叢雲は意地悪に笑う

 

 

兄「何事も初めてってのは、噛み締めるべきなのさ………こういう感動を素直に感じることが心を成長させるんだ」

 

叢雲「そっ…………ほら、早く建造ドックを開きなさいよ!」

 

兄「初建造した艦娘、かもーん!!!」

 

 

俺は建造機械を操作し、一番建造ドックの扉を開ける

 

ガガガガッ!

 

ゆっくりと両端へとスライドしていく鉄の扉

 

叢雲と俺は扉の先を凝視する

 

機械の中では、一隻の艦娘が、マイク的なものを持って、アイドルのようなポーズをキメて立っていた

 

 

 

??「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー。よっろしくぅ〜!」

 

 

 

兄「………………………」

 

叢雲「…………………………」

 

那珂「………………?」

 

 

 

工廠の中に沈黙が訪れる

 

那珂と名乗った艦娘は笑顔のまま固まっていた

 

どうやら、俺達の反応を待っているようだ

 

 

 

とりあえず俺はゆっくりと─────

 

 

 

 

 

 

──────『閉』ボタンを押した

 

 

 

 

那珂「ちょっと!?まってよぉおお!!!」

 

 

閉じかけている扉を止めようと、那珂はマイク(?)を放り出し、両手を突っ込み対抗している

 

なるほど、バラエティでいじられて輝くタイプのアイドルなんだな

 

 

那珂「何がダメでしたっ!?露出?露出が少ないのが気に入らないのですか?」

 

兄「いや、俺はアイドルよりアナウンサー派だから」

 

那珂「そんな理由!?人気のアナウンサーなんて、すぐ野球選手と結婚するよね?」

 

兄「野球選手と女子アナってのは、ええと…………あの……………トンカツとキャベツみたいなもの?…………まぁ、つまり、そういうことだ」

 

那珂「適当な例えがでなかったんですね!?さては、アナウンサーもそんなに好きじゃないんでしょ?」

 

兄「二次元だろうが、三次元だろうが、画面の向こうの女に現(うつつ)を抜かせるほど純情じゃないんでな」

 

那珂「無駄にハードボイルドだよ、この提督さん!ってか、そろそろ扉あけてええててーーー!!!」

 

叢雲「そろそろ、やめてあげなさいよ!流石に可哀想になってきたわ、閉じそうな扉に顔を突っ込んでアイドルがしてはいけない顔になってるわ!」

 

 

 

 

なんだ、もう少しいじって楽しもうと思ったのに

 

 

 

 

 

 

 

那珂「改めまして、川内型 3番艦 軽巡洋艦の那珂ちゃんです!」

 

 

先ほどのやり取りがなかったかのように、見事な敬礼で挨拶をする那珂

 

ギャグを引きずらないとは、なかなかのプロ意識だ

 

 

 

兄「この鎮守府の提督だ、ようこそ我が城へ」

 

 

 

とりあえず、どんな(痛い)キャラにしろ、記念すべきはじめての軽巡であり、二番目の仲間だ

 

快く歓迎してやろう

 

 

 

叢雲「現在、ふ、ふ、く、ながらも秘書艦を務めている叢雲よ、よろしく」

 

 

やたら不服の部分を強調する叢雲

 

こやつは、自己紹介すら、まともにできないのか………

 

 

兄「さて、早速で悪いが、那珂と叢雲には、出撃してもらう。鎮守府の近くをぐるりとまわってこい」

 

叢雲「あら?そんな簡単な任務でいいの?」

 

兄「練度の低い艦娘2隻にできることなんて、その程度なんだよ。よし、とりあえず港へ向かうぞ」

 

那珂「お仕事ですねー!」

 

 

 

 

兄提督at港

 

 

 

兄「んんっー、やっぱり海ってのはいいな、どんなに見てても飽きねぇよ」

 

叢雲「そうね、海は良い…………だって、誰に対しても同じ態度で接するから………」

 

 

初めて叢雲と意見が合ったかもしれない

 

水平線に向かって大きく背伸びをする俺の隣で、目を細めて彼方を見る彼女

 

 

兄「どうだ?久々に海に出る気分は?」

 

叢雲「悪くはないわね…………この姿っていうのが、複雑だけど」

 

 

叢雲は睨むような目で海を眺めていた

 

彼女の言う複雑な心境を作り上げた原因の一部は、艦の魂を呼び出した人間の身勝手なのだろう

 

人を乗せて戦い、その多くが沈没し、艦としての役割を終えた魂

 

安らかに眠っていたはずの魂を無理矢理呼び起こし、人の形にしてもう一度戦わせている

 

そんな悪行をしているのは、俺たち人間だ

 

人間のエゴが、再び彼女らを傷つけている

 

今の俺には、叢雲にかける言葉が見つからなかった

 

 

那珂「ごめんなさーい!那珂ちゃん、艤装つけるのに手間取っちゃいました!」

 

兄「いいよ、いいよ、どうせ今日は出撃1回が終わったら、任務終了だから…………ただし、次回から遅れたら艦隊のアイドルから解体のアイドルに転身な」

 

那珂「次回からのペナルティが、すごく重いと思いますっ!!!」

 

 

これほど弄り甲斐があるアイドルもなかなか少ないだろうな

 

 

兄「さて、先程も伝えたが、我が第1艦隊には鎮守府正面に出撃してもらう」

 

叢雲「第1艦隊って言っても、二人だけじゃない」

 

兄「しゃらーぷっ!こまけーことはいいんだよ!とりあえず以下の事項を頭に叩き込んどけ

 

一、大破したら帰ってこい

一、俺が撤退を命じたら帰ってこい

一、天候がわるくなりそうなら帰ってこい

 

以上だ!」

 

叢雲「普通ね」

 

兄「へんなところで特徴づける気はねぇよ。まぁ、気楽にぐるっとまわってこい。旗艦は叢雲がつとめろ」

 

叢雲、那珂「「はっ!第1艦隊出撃します!」」




兄:どちらかというとS。叢雲の頭のうさ耳みたいなのが気になる。

叢雲:どちらかというとS。兄提督の坊主頭の感触が気になる。

最初のセリフ:舐められないためには、ビシッと決めなければいけない。ただし、あまり練習に熱心になってはいけない。

妖精:最近、みんなで熱海まで旅行に行ったらしい。

大本営研究室:艦娘についてイロイロ研究している。みんなはW○k○って呼んでいる。

那珂:どちらかというとM。兄提督のボケにどんな反応をしたらウケがいいか悩んでいる。

艤装:出撃の時に鎖で引っ張られてくるシステムはない。


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ブリキノダンス~兄提督と弟提督の共同作戦~

兄提督before鎮守府

 

 

 

出撃中は無線に連絡が入らない限り俺のすることがない

 

無線が使われるのも戦闘があった場合のみ

 

さらに、この近海は深海棲艦の目撃情報も少ない

 

 

つまり、俺は現在めちゃくちゃ暇なのだ

 

 

兄「手持ち無沙汰になればなるほど、タバコがすすむのはなんでだろうな?」

 

 

水平線に向かって煙を吹きつけた

 

さすがに着任直後に執務室でタバコをふかすのは気が引けたので、鎮守府本館の前にて一服をつく

 

携帯灰皿の中身を増やしながら、叢雲と那珂の帰りを待つのだ

 

 

ブロロロロロロ…………

 

兄「んっ?」

 

 

鎮守府の門の前に軽トラックが一台みえる

 

 

兄「随分とお早い御着きだな……………」

 

 

火のついたタバコをくわえながら門の方へ

 

鉄製の門をひらき、軽トラックを鎮守府の敷地内にいれる

 

運転席に座ってるのは、今朝ぶりに見る我が弟だ

 

 

兄「おい哲次!確かに早めによろしくとは言ったが、べつに着任当日に運んでくれなくてもよかったんだぞ」

 

弟「明日から忙しくなるから運んできたんだよ!前もって言ってくれれば着任祝いも一緒に持ってきたのに!なんで、今朝に言うんだよ。こっちの都合も考えろよな!」

 

 

知ったことではないな

 

っと、口から溢れそうになったが、火に油を注ぎそうなので、とりあえず黙っとく

 

 

弟「あと階級的に俺の方が上なんだから、形だけでも敬語使ってよ!」

 

兄「えっ…………弟に敬語使うぐらいなら、海軍やめる……………」

 

弟「そんな真顔で答えなくても…………」

 

 

本来なら階級上の方にタメ口なんて厳禁なんだけど、兄弟だから大丈夫だ……………俺のルールブックではな

 

白い軽トラックの荷台には仕事机や棚など、執務に役立ちそうな家具が積まれている

 

 

兄「まさか、弟から『お下がり』をもらう日が来ようとはな…………」

 

弟「それなら、少しぐらい悔しそうな顔をしろよ。そんな、あくどい笑みをしながら言うセリフじゃないよ!」

 

兄「立てるものは弟でも使え、って言うだろ?」

 

弟「言わないよっ!本当にイイ性格してるよ、兄貴は!」

 

 

運転席でため息をつく弟

 

大変だな、我の強い兄貴を持つと

 

 

 

??「お義兄さん!お久しぶりです!」

 

兄「おっ!榛名もきてくれたのか!」

 

弟榛名「はい!御着任なさったと聞いたので、お祝いと家具の運び入れを手伝いに来ました!」

 

 

助手席からハキハキと答えてくれる榛名

 

『おにいさん』のイントネーションが少しおかしかった気もするが…………気のせいかな?

 

彼女は、金剛型三番艦の榛名

 

弟の鎮守府で働いてる戦艦だ

 

 

弟「力仕事があるから、戦艦を兄貴の鎮守府に1人連れていくって言ったら、戦艦達がクジ引きを始めてさ……」

 

兄「それで榛名が選ばれたわけか」

 

弟榛名「はい!お義兄さんに『挨拶』するチャンスですから!」

 

 

『挨拶』という言葉の響きに、意味深長さが伺えるのはなんでだろうな?

 

哲二は心なしかゲンナリとしている

 

 

弟「そういえば、兄貴の艦娘は?」

 

兄「初期艦と初建造した娘の2隻で、ここら周辺をパトロールさせてる」

 

弟榛名「その初期艦と初建造した艦娘は誰ですか?」

 

兄「猛反発性ウサギ耳と、バラエティ向けアイドル」

 

弟・弟榛名「「あぁ、叢雲と那珂か(ですか)」」

 

兄「あっ、やっぱり誰か伝わるんだ」

 

弟「叢雲と那珂はウチにもいるからな。遠征ばっかりだから、兄貴はあったことないと思うけど」

 

兄「まぁ、お前の鎮守府には数回しか行ってないもんな」

 

 

実は、ちょくちょく弟の鎮守府には足を運んでいたことが、あったりなかったり

 

 

兄「とりあえず、鎮守府の門が開きっぱなしはまずいから、本館の目の前に車をとめてくれるか?」

 

弟「りょーかい」

 

 

さてと、叢雲たちが帰ってくる前に運び込んどきますか

 

 

 

 

兄提督&弟提督in執務室

 

 

 

 

哲二と榛名の協力もあり、俺の執務室には、木製の棚と、アンティーク調の仕事机、革張りイスが運び込まれた

 

 

弟「はぁ、疲れた。これで、執務は滞りなくできるだろ?」

 

兄「いやいや、本当にありがとうな。殺風景な部屋から一新したよ。………………後は来客用の机とソファーがあったら完璧なのになぁー」

 

弟「そんな、チラチラこっち見ても、やらねぇからなぁ!!!本来なら自分で買うか、遠征で集めた宝物を妖精さんに渡して作ってもらうしか家具を手に入れる方法なんて無いんだぞ!」

 

兄「ジョーク、ジョーク!イッツァ、ブラザージョーク!」

 

 

hahahahaっと高笑いも混ぜつつ、肩をペシペシと叩きながら宥める

 

 

弟「畜生!家具あげたら、ストレスを返してきやがる!この三十路手前兄貴め!」

 

 

なお、俺は宥めるという行動を遂行できたことはない

 

何故か余計なイラつきを与えてしまうらしい

 

生きていくのって難儀だよな

 

 

弟榛名「やっぱり、二人とも仲良しさんですよね」

 

兄・弟「「そうか?」」

 

弟榛名「ほら、そういうところが仲良しの証拠ですよ」

 

 

俺らのやり取りを、微笑みながら見ていた榛名

 

ちなみに家具の半分は榛名が運んでくれた

 

やっぱり戦艦ってすげぇ

 

 

兄「さてと、第1艦隊が帰ってくるまで、まだ時間はあるな。食堂の方で一服するか………紅茶とコーヒーどっちがいい?」

 

弟「コーヒーで!」

 

弟榛名「榛名もコーヒーでお願いします!」

 

 

 

『ガーーガッー、こちら第1艦隊旗艦叢雲!アホ司令!緊急事態よ!応答してっ!』

 

 

 

運び込んだばかりの机の上においた無線が鳴った

 

スピーカーから焦った叢雲の声が聞こえる

 

 

兄「こちら鎮守府の天才指令、どうした?」

 

叢雲『今しがた鎮守府から北西10キロのところで敵影を確認したわ!』

 

兄「敵?それなら倒せばいいだろ?」

 

叢雲『その敵の強さが問題なのよ!敵影を見るに、おそらく戦艦ル級よ!それがまっすぐ私達の鎮守府の方へと向かってるわ!』

 

兄「はぁぁっ!?戦艦級なんて、ここらで確認情報なんてねぇぞ!」

 

叢雲『煙をあげてるところを見るに手負いね…………どこかでやられて、逃げ込んできたんじゃないかしら?』

 

弟「…………………雷、俺だ、今日練度を上げるために石油所まで出撃した第二艦隊の報告書はあるか?……………あぁそれだ!読み上げてくれ」

 

 

叢雲の連絡を聞き、哲二は部屋に備え付けられた電話をとった

 

自分の鎮守府に連絡しているようだ

 

 

叢雲『えっ?だれかそこにいるの?』

 

兄「叢雲、ちょっと待てくれ………………榛名!そこにある海図をとって!」

 

弟榛名「了解です!」

 

叢雲『榛名!?あんた戦艦も建造したの!?』

 

 

 

無線の向こうでテンパる叢雲は無視!

 

 

叢雲たちがいる場所を把握するため、榛名から地図を受け取って、机に広げる

 

なるほど、ここか…………

 

 

んんーん、おあつらえ向きの小島があるではあーりませんかー

 

 

叢雲『敵艦の射程範囲に入るまで、あと1分ほどよ』

 

弟「あぁ、わかった、ありがとう……………すまん、兄貴、ウチの取りこぼしだ!相手は中破状態で逃げたらしい」

 

 

情報はそろったな………………

 

 

兄「哲二!榛名の補給状態は?」

 

弟「燃料、弾薬ともに補給済み!人員借用させてやるから、自分の所の尻拭いさせてくれるか?」

 

兄「もとより、そのつもりだ!榛名、この『小島』までどれくらいでいける?」

 

弟榛名「………………出撃準備をして、フルスピードで渡航して5分ですかね?」

 

兄「充分だ!化物共に人間様の知恵を見せてやる!叢雲、那珂と代わってくれ!」

 

叢雲『わかったわ!那珂!司令が話したいって』

 

那珂『もしもし、代わりました、那珂ちゃんだよー?』

 

 

緊急事態だってのに、相変わらず間延びした声を聞く

 

そのおかげで、燻ってる焦りがいくつか消えた

 

俺はニヤリと笑いながら、那珂に作戦を告げる

 

 

兄「那珂ちゃんよ、アイドルとして初仕事だ。お客さんの前で華麗なステップかましてやれ」

 

 

 

 

 

叢雲&那珂on鎮守府正面海域

 

 

 

 

私達は、あのアホ司令の作線に従い、ある場所に向かって逃げていた

 

後ろからは敵艦のけたたましい砲音が聞こえる

 

手負いでも、流石は戦艦級

 

私達の単装砲とは、ケタ違いの音を奏でている

 

先行しているのは、旗艦である私

 

とある理由でわざとスピードを抑えて走っている

 

そして、私の後ろでは………………

 

 

那珂「きゃーー、やめてー、アイドルだから顔だけはーーキャハ☆」

 

 

敵艦の射程範囲に入らないギリギリの距離を保ちながら、敵をおちょくりつつ砲弾を避ける那珂がいる

 

右へ左へ、後ろ向きに走ったり、華麗なターンを決めたり

 

さながら、ダンスをおどってるようね

 

 

ル級「待テッ!!沈メテヤル!!」

 

 

そんな那珂をみて、怒り狂った戦艦が追いかけてくる

 

別の海域で負けたことも含めて、そうとう頭に血が上ってるようね

 

ここまでは、作戦通り

 

むしろ、上手く行き過ぎてるぐらいだわ

 

 

 

叢雲「那珂!目的地が見えたわ!挑発はそれぐらいでいいから、私の後ろにぴったりついてきて!」

 

那珂「了解だよ!」

 

 

 

ここからは那珂も後ろにつけて走る

 

私達の進行方向の先には、海域にポッカリと浮かんだ小さな島

 

木が生い茂っていて、向こう側は見えないけど、採取目的地は、この島の裏側だ

 

 

 

ル級「逃ガサンゾ!小娘ドモガっ!!!」

 

 

敵も砲撃をやめて、全速力で私達についてくる

 

でも、この時点で私達の勝ちは決定した

 

 

 

 

島の裏側、そこに一隻の戦艦が艤装をかまえて待っている

 

 

叢雲「あなたが援軍ね!」

 

弟榛名「任務お疲れ様です!あとは榛名にお任せをっ!」

 

 

黒く綺麗な長い髪に、凛々しい顔立ち

 

赤と白を基調とした服を纏った彼女の名前は、榛名

 

日本海軍初の民間の造船所で造られた純国産戦艦の魂を受け継いだ艦娘だ

 

 

ル級「何ッ!!仲間ガイタノカッ!」

 

 

敵からして見れば、榛名は急に現れたに等しい

 

戦艦ル級は、すぐさま砲門を榛名に向けるが、最初から構えている榛名のほうに分がある

 

 

弟榛名「未来のお義兄さんの鎮守府を襲うなんて、そんな勝手は!榛名が許しません!主砲!砲撃開始!」

 

 

彼女の両側に展開された艤装から力強い砲撃音が響く

 

 

ル級「ガアアアアアアッ!??」

 

 

見事に全弾命中

 

この榛名、なかなかの練度ね!

 

 

もともと手負いだった戦艦ル級は、体のいたるところから火を上げる

 

そして、ゆっくりと海底へ沈んでいった

 

 

 

敵をおちょくって、伏兵がいるところまで誘導し、奇襲をしかける

 

たしか『釣り野伏』って言う戦術だ

 

なるほど、確かに大きさが小さい人間の形じゃなかったら成功しない作戦ね

 

 

弟榛名「こちら、援軍榛名です!『お義兄さん』の作戦が見事にハマって完全勝利しました!敵艦轟沈です!」

 

兄『こちら、君の提督の『お兄さん』。援軍感謝する!我が第1艦隊とともに帰投せよ!…………なぁ、哲二。やっぱり、榛名のお兄さんのイントネーションおかしくねブツッ────』

 

 

あっ、それ私も思った!

 

 

弟榛名「さぁ、帰りましょうか!貴方達の鎮守府へ!」

 

 

でも、榛名が怖い笑みを向けてるから、聞かないことにするわ………………




兄:好きな単位はkg。重さこそ戦闘の極意だとおもっている。
艦娘は一隻二隻と数える

弟:好きな単位はmm。細かいところまでキッチリしないと気が済まない。
艦娘は一人二人と数える

弟榛名:好きな単位はcm。最近、また大きくなったのでワンサイズ大きいのに買い替えるらしい。なんの大きさかって?言わせんな!

叢雲:好きな単位は秒。時計のカチカチって音が落ち着くらしい。

那珂:好きな単位は人。ファンの数が増えることを夢見て今日もダンスの練習に打ち込む。

戦艦ル級:好きな単位は…………………知らん。

釣り野伏:鬼島津さんとか、妖怪首おいてけとかが大好きな戦法。ちなみに島津さんたちは、とても戦上手で、敵3000人を300人で囲い殺したらしい…………えっ?


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