彼らは何を夢見て目指すのか。 (マイナスくん一号)
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滅びの呼び声

 「どうして俺を殺さなかった?」

 

俺が思うに、物事には決まり事がある。

どれだけ繁栄しようとそれが永続するということはあり得ない。

発端は何にせよ、いずれ滅びの時が来るということ。

だからきっと俺はたまたま、その滅びの時に居合わせてしまっただけなのだろう。

 

歴史的に見れば辺境の小さな国が滅びただけのこと。

その国をよく知らないものには、まあ会話の種程度にはなるだろう。

 

だが俺にとって、その国に生まれた者にとってはどうだろう。

 

『故郷が滅びた』

 

その事実が、鉛のように重くのしかかる。

 

長期遠征から帰ってきたら妻と久しぶりに一緒に食事をしようと約束していた事を思い出す。

視線を目の前に集中させる。

目の前では妻がいたであろう家が焼き焦げ崩れ落ちている。

その瓦礫の下にいる真っ黒く焼け焦げた『何か』が身につけているそれは、俺が妻にプロポーズした際に渡したアクセサリーだった。

 

そこで俺は約束を果たすことは二度と出来ないことを悟った。

 

せめて他に生存者はいないものかと市街地を走り回る。

だがそんな俺を嘲笑うかのごとく俺の前で激しく揺れる炎が、主を失った家、人々が行き交っていた広場、民衆の憧れの的だった城をパチパチと音を立てながら燃やし尽くしていく。きっと最後には燃えカス以外何も残らないのであろう。

 

結論から言うと生存者は、いなかった。

 

……もし語り継ぐものがいなければ、この地で人々が生活していたという事実すらも時間と共に消えてしまうのだろうか。

なら俺が生きた証も何処にも残らないのだろう。

友も、家族も、愛する者さえ失い

彼らとの思い出が詰まった故郷をも失った俺はさしずめ燃えカスといったところか。

この国と同じで、いずれは風と共に流れ消えてしまう運命にある終わりの時を待つだけの身。

 

「いっそここで果ててれば」

 

口に出しても余計に虚しさを増長させるだけ。わかっていても口に出してしまう。

ふと自分が生き残った理由を考えてみる。だがいくら考えたところで答えは出ない。

神様とやらには生まれて一度も祈ったことはないが、いるのならば答えてくれ。

 

「何故俺だけを生かした?」

 

当然、返事はかえってこない。

いつだったか、まだ軍の中でも下っ端だった私が、区内を巡回中に布教中の聖職者がこんなことを言っていたのを覚えている。

 

『神が与える試練に意味を持たないものはない。神の与えるそれ全てに意味があるのだ』

 

つまり、これも神が与えた意味のある試練なのだろうか?

この地獄絵図も神が与えたものか?

神は俺ならばこの忌々しい情景をも乗り越えられるとでも言うのか。

それとも神は俺の復讐劇でも見たがっているのか。

 

ならば、神様とやらはきっと誤解しているに違いない。

佩剣していた剣を抜きながら捨て台詞のように吐き捨てる。

 

「……俺はそこまで強くないよ」

 

――その言葉とともに自身の獲物で腹を貫いた。



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