金色の娘は影の中で (deckstick)
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初めに

★★★★★★★★★★★★★★★要注意★★★★★★★★★★★★★★

★                              ★

★  この作品は、拙作「青の悪意と曙の意思」の前身が元です。 ★

★  簡略化や変更等もありますが、基本的に当時のプロットを  ★

★  再利用しますので、似た設定や展開が含まれます。     ★

★                              ★

★  以上と以下の注意点を了承した方は先にお進みください。  ★

★  ※以下の注意点は、2013年に新春企画として3話途中  ★

★   まで公開した当時とほぼ同じです。           ★

★                              ★

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 先に「青の悪意と曙の意思」に切り替えた理由を挙げておきます。

 

1.以下の「成分」の1つ目。

 

 キャラ等の名称以外に、原作との関連が見えません。

 また、プロットの時点で原作前が長すぎる上に省略不可な部分が多く、原作前を大幅に簡略化する事も出来ないので、ごく一部以外の原作キャラは当分出番が無いです。生まれてもいませんから。

 また、出たら出たで、多くのキャラに魔改造が入ります。

 「ネギま」なのにそれはどうなんだ、と思ってしまいました。

 

2.実在の物、世界史、ネギまとの整合性

 

 プロットを作りながら、とてつもなく苦労すると思えた点です。

 歴史(というか文系の教科全般)は苦手なんだようわぁぁぁん(涙)

 でも、疎かに出来ない部分です。主に設定厨的な意味で。

 それと、各地の文化やら礼儀作法やらも駄目です。覚えられませんし、覚えてません。

 共に自分自身でグダグダになる要素だなと思いますが、物語上避けにくいです。

 

3.視点切り替え

 

 この先、色々な人物の視点が入り混じりそうでした。

 中にはかなり暗い話なんかもあります。

 その多くは原作入り以前なので、ほぼオリキャラ視点でオリジナルストーリーです。

 自分の技量で上手く纏められると思えませんでした。確実にグダグダになります。

 妹達に固定で原作をかなり意識した「青の悪意と曙の意思」がうまくいっているかは別ですが。

 

 

 

 

 この話には、以下の成分が含まれます。

 

・基本は「魔法先生ネギま!」の「エヴァンジェリン憑依モノ」です。

 但し「原作なんて無い」状態になるほど、物語・登場人物共に原作から乖離します。

 名称や世界設定等は「ネギま」なのですが、それ以外はかなりオリジナルになります。

 

 また、エヴァ吸血鬼化から開始するので、原作入りまでかなり長いです。

 プロット簡略化がどの程度成功するかですが、原作入りは恐らく中盤です。

 当面は原作キャラ希少&オリキャラばかり&オリジナルストーリー&設定垂れ流しとなります。

 

 

・憑依等により、複数の元現代日本人が登場します。

 また、元現代日本人達はある程度の原作知識があり、かつ、何らかの能力があります。

 

 

・TS(性転換)要素があります。具体的には、エヴァンジェリンに憑依する主人公は男性です。

 

 

・クロスに関しては、以下の様なルールとなります。

 

 他作品の人物が登場する事は原則としてありません。

 例外:何らかの繋がりがある「赤松ワールド」の人物が登場する可能性があります。

 

 現代日本人の知識的な意味で、他作品の名前や有名な台詞を会話等で使用する事があります。

 

 他作品の技・魔法・製造物・技術等については、登場予定のものがあります。

 但し「現代日本人(オタク)の記憶を元に、ネギま式(を建前とした独自設定)で再現」したものです。

 他作品の設定をそのまま既存のものとして持ち込むことはありません。

 

 

・主人公はチートです。最強クラスです。

 しかし、主人公の戦闘は少ないです。

 

 

・誤字脱字括弧間違い設定矛盾改善点、各種の指摘や批評は大歓迎です。

 ちょっとした感想もとても喜びます。

 駄目という感想の場合は、可能なら改善したいので、どこが駄目なのかを教えてください。




改定個所
・最初の★で囲まれた部分
・原作前や原作入りの時期に関する記述を変更
・クロスに関するルール
・指摘や批判に関する記述を追加

本編の更新再開は 2015年12月17日22時 となります。
修正は予約投稿ができないため、新3話についてはいったん新規投稿し、1週間程度で旧3話を新3話で置き換える予定です。


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始動編第01話 物語への招待

 急に眩暈がしてから、どれくらいの時間がたった?

 今わかることは、おかしな記憶が頭の中にある事、体がうまく動かせない事、自分が倒れている事、何か大切なことを忘れている気がする事。

 目が何かで固められているように開かないとか、口の中が鉄臭いけどなんかおいしいとか、そんなことは後回しだ。

 

 俺はどうなっている?

 生きているのか? 死んでいるのか?

 生き残れる状態か? 死にそうなのか? 既に地獄なのか? 天国で神様の悪戯か?

 

 まずは落ち着け、俺。慌ててもいいことは何もない。

 

 とりあえず、手は……多分ある。足もありそうだ。

 

 痛みは、酷くはない。精々転んだ時に打った程度の傷だろう。

 

 意識はある。今考えているのは、間違いなく俺だ。

 

 記憶は……ん? 俺は……誰だ?

 

 ま、まずは、今日の行動を思い出してみよう。仕事から帰って、娘を寝かしつけて、嫁と飲むためにコンビニに酒とつまみを買いに行った。コンビニからの帰り道で、急に眩暈がして……うん、やっぱりここから先の記憶が無いな。

 

 で、肝心の家族は……思い出せない? ウソだろ?

 

 友人……思い出せるのは雰囲気だけで、顔や名前はやっぱ駄目か。

 

 他人……クソ、コンビニのおっさんの脂ぎった顔は思い出せるのか。速攻忘れるべきものだろ、こんなの。

 

 つまり、あれか。宇宙人に誘拐されて脳味噌でも(いじ)られたか?

 いや、異世界召喚か。都合よく元の世界への未練が無いように記憶を消されたか?

 

 うん、ないな。

 

 いくら金が無くて、暇つぶしはネットで二次小説を読み漁ることになっていても、現実と空想の区別くらいは……

 

「混乱しているところすみません。声は聞こえていますか?」

 

 ……うん、済まない、俺。どうやら、現実逃避はここまでのようだ。

 何故か理解できてるけど、これは英語っぽい何か……か?

 まあ、言葉が何であれ、理解できる内容で、しかも涼やかな少女の声で話しかけられたからには、返事をしないといけないな。

 

「……ああ、済まない。 ちょっと混乱……し…………」

 

 目を固めていた何かを擦って落とし、声の方を見た俺は、即座に違う方に顔を逸らし、目を閉じた。

 どう考えても見てはいけないものが、そこにあった。

 

「どうしましたか?」

 

「いや……えーと、とりあえず、服を着てもらえるとありがたい」

 

「え? ああ、そういえば何も着ていませんね」

 

 何でもないような様子で移動していく気配。

 いや……全裸の金髪美少女、眼ぷげふんげふん。

 えーとなんだっけ。美少女の柔肌を正面にして見つめられるほど、人間壊れたつもりは無い!

 と、誰かに主張はしてみる。

 こちとらおむつ交換やらお風呂やらで、幼女の全裸は毎日見ていた身だ。動揺はシマセンヨ?

 

 と、とりあえず、今のうちに自分の状況を確認だな。

 えーと、うん、視界の隅に見えるのは、美しい金髪デスネ?

 珠のように綺麗な肌の、まるで少女のような手デスネ?

 マルデ、サッキノ少女ミタイデスヨ??

 

「服を着ることは無理なようです。ですので、家具の上に頭だけ出すことにしました」

 

「へ……うおっ!?」

 

 机の上に生首!?

 ……って、幽霊だから、胴体は机を突き抜けてるのか。

 

「そこまで驚かれなくともよいではないでしょうか。

 私など、自分の体が勝手に動いて喋っていたり、服を着ることも出来なくなったりしているのですよ?」

 

「あ、ああ……ってことは、この体は、君の、なんだな……」

 

 やばい。確定した。

 俺、金髪美少女。

 ……いかん、動揺してる場合じゃない。落ち着け、俺。

 

「ええ。速やかに返してください」

 

 淡々と言葉を紡いでいても、少女も困惑しているように見える。

 それはそうだろう。自分の体が他人の意志で動き、自分は幽霊っぽいものになってそれと会話する。どこのホラーだって話だ。

 とりあえず、美少女が落ち着いてるのに、俺だけが混乱するのも恥かしい。

 本気で落ち着け、俺。

 とりあえず深呼吸、次に状況確認だ。

 幸い、話の通じる相手がいるんだ。何もわからないまま荒野に放り出されるよりはマシだ。

 

「……悪いけど、俺にも何がどうなっているのやら……というか、ここは何処だ?」

 

「ここですか? アバーガベニー城です」

 

「アバーガベニー……? うん、わからん。

 とりあえず、君の名前は?」

 

「私ですか? エヴァンジェリン・マクダウェルです」

 

 ……最悪の予想というか、情報は正しかったらしい。

 気が付いた時からあった「おかしな記憶」。今は意図的に放置しているけれど、強制的に伝わるようにしていたらしい幾つかの事の中で、最初に意識に流れ込んできた言葉があった。

 

 それは「ここはネギまの世界。君はここに召喚された魂で、エヴァの代わりに吸血鬼になった。元の世界の自分や身近な人物についてはあまり思い出せないだろう」という内容だった。

 個人的には鼻で笑いたかった。

 だが、目の前にいるのは、不良じゃないエヴァンジェリンと言われて素直に頷ける美少女。名前はエヴァンジェリン。彼女の体に憑依しているらしい俺。俺、吸血鬼化?

 

 原作的には、ここからは逃亡生活ですね分かりません分かりたくありません。

 というか、ナギに惚れる? おっさんの俺が? 有り得ん!

 悪の誇り? そんなものは無い。娘の為なら何でもできる気がするぜコンチクショー!

 つまりこれは……原作ブレイクですね分かります。

 

 帰れるかどうかは追々調べるとしても、パターン的には期待しない方が無難か。

 娘よ、妻よ……お前達の名も姿も思い出せない、不甲斐無い俺を許してほしい。そっちの俺が死んでいるのなら。

 もし生きていたら……うん、こっちの俺の気分以外に問題は無いな。

 

 そして……こっちの俺が償えるとすれば、目の前の不幸な少女を救う事から……かな。

 俺の娘と言うにはちょっと大きくて美人過ぎるけど、娘だと思って助けることに問題は無いはずだ。

 自身も美少女という点は、あえて無視する。

 あくまでも俺の気持ちの問題だ。

 

 よし、論理武装と自己説得、完!

 

「ところで、貴方は?」

 

「えーと、俺は……俺は…………」

 

 ……自分の名前も思い出せないとか、どこが“あまり”思い出せないんだと小一時間問い詰めたい。

 だけど、相手の血を飲むと命を取り込んだり知識をコピーできたりするとか、この知識はそれを使って渡したとか、いかつい男に噛み付いて血を飲んだとか、明らかにやばそうな情報はあるのが不気味だ。

 

「名も名乗れませんか?」

 

「……駄目だ、名前が思い出せない。

 一応確認しておくけど、ここはヨーロッパのどこかで、今は西暦1400年頃、で正しいか?」

 

「大雑把すぎますが、間違ってはいません」

 

「自分でもそう思うが、咄嗟に思い付いたのがこれだけだった。

 とりあえず、君には秘密を作りたくないから、現時点で俺が分かっている事は伝えるぞ。

 俺が住んでいたのは、場所としてはここからずっと東の方にある島国で、600年以上後の時代だった。それと、俺は一応成人していた男だ」

 

「信じられませんが……私の体が喋っている以上、夢物語で終わらせるには無理がありますね。

 一旦は信じておきます」

 

 おおぅ、何て順応性が高いんだ。

 未だに動揺してる俺が馬鹿みたいじゃないか。

 とりあえず、このエヴァンジェリンを、エヴァと呼んでおこう。

 エヴァの体が俺。どっかで折り合いを付けなきゃなぁ……

 

「次に、この体は……最上位の吸血鬼になっているらしい」

 

「吸血鬼? 随分と物騒な名前ですが、どの様なものですか?」

 

 名前からあまり良くないものらしいと察したか。エヴァはちょっと嫌そうだ。

 

「俺も全部分かっているわけじゃない上に確証もないから、可能性として聞いてほしい。

 まず、不死。腕を切られたぐらいなら元通りになれるらしい。ひょっとすると、心臓や頭を潰されても大丈夫かもしれない。

 次に、不老。老化しないってことだけど、多分成長も止まるだろう。

 あとは、血を飲むことで、相手の命や知識を取り込むことが出来るらしい。今言ってるこの体のことも、他人の知識っぽい感じだし」

 

「随分と強力な力を持つのですね。『我等が肉体の礎』と言っていたのは、自分を同じようにするためですか」

 

「それは、俺が噛み付いた男が?」

 

「ええ。貴方が一度目に気が付く前ですね。

 その男は私の姿が見えないようで、色々と呟いていました」

 

「そうか……そんな事を言ってたのか。

 というか、一度目?」

 

 俺は、二度寝したって事か?

 ……全く記憶にないぞ??

 

「私が気付いてからの話になりますが、貴方は一度目覚め、その時に男に噛み付いています。

 その後、男は貴方を壁に叩きつけ、失敗だ等と言いながら出ていきました。

 今回は二度目の目覚めという事になります。意識上は異なるようですが」

 

 ……転んで打ったんじゃないのか。

 壁に叩きつけられたにしては痛みが少ないけど、やっぱ吸血鬼だからか?

 

「そんな事になっていたのか……。

 話を戻して、吸血鬼の話だ。

 当面は日光に弱いし、水にも弱い可能性があるはずだ。

 あと……どう見ても異常だから、教会や権力者に見付かったらどうなるか……」

 

「同じくらい、民衆の魔女狩りも危険です」

 

「民衆……の? ん? 教会主導じゃないのか?」

 

 魔女狩りって、広場で十字架に張り付けられて火あぶり、とかだよな?

 領民が勝手にそんな事をしたら、教会やら領主やらに何か言われるんじゃないのか?

 

「いいえ。教会は過剰な暴力として、諌める立場を取っています。貴方の知識では違うのですか?」

 

「俺も詳しくないけど、教会主導のイメージだったんだが……うん、まあ、他人に知られるのは危険、って事は変わらないか」

 

 違ったのか。俺の知識も当てにならないな。

 でもまあ、結論自体は一緒だ。

 

「そうですね。

 それより、人を吸血鬼……でしたか?に変えるなど、本当にできるのですか?

 いえ、今の状態が非常識過ぎて、そのまま信じてしまいそうではありますが」

 

「正直、俺も信じられないんだが……なったという事は、できるんだろうな。

 それと、俺も信じ切れてないが、もう一つ重要なことがある」

 

「重要、ですか?」

 

「恐らく、この世界は……俺の知っている、物語の複製だ」

 

「物語……ですか?」

 

 エヴァは、心底困惑した様子で首を傾げている。

 表現は理解できるけど、意味が理解できない、みたいな感じだろうな。

 

「ああ。

 西暦2000年を少し過ぎた頃の、俺が住んでた国に似た地域が舞台の物語だ。

 その物語には魔法があるし、吸血鬼も登場する。

 それで…その吸血鬼の名前がエヴァンジェリンで、600年前にヨーロッパの城で吸血鬼にされた、ってことになっている」

 

「つまり……私が吸血鬼?になるのは、決まっていた……?

 これから、どうなるのですか?」

 

「物語通りに進むのなら、各地を追われながら放浪することになる」

 

「…………そう……ですか」

 

 エヴァの表情が、明らかに暗くなった。

 ……うん、俺は俺の意思で、この子を助ける。

 こんな小さな子に、吸血鬼だの命のやり取りだのを背負わせるわけにはいかない。

 こ、これは幼女趣味じゃないぞ! 父性愛だ!

 

「でも、そうしない。

 今の時点でも、物語から外れている。物語がどうなろうが知った事か。

 エヴァは……俺が守る」

 

「え? ……あの、どういう事でしょう?」

 

「一つずつ整理しよう。

 まず、物語との相違点だ。

 物語だと、吸血鬼になる前と後で、人格が変わっていない。

 つまり、俺の存在は、物語にとっては明らかに異物だ。

 君が別の存在のようになっているのも、おかしな話だ。

 これはいいかな?」

 

 エヴァは必死で考えながら、首を縦に振っている。

 物語との差は……よし、まだあるな。

 

「次に…えーと、さっき言っていた男だけど、出て行ったんだよな?」

 

「はい、そこの窓から……」

 

「よし、相違点の2つ目。

 物語だと、吸血鬼は男を殺してる。

 でも、俺たちは誰も殺してない以上、殺したことを気に病む必要も無い。

 物語の吸血鬼とは、現時点でも明らかに違う行動をしているって事だな」

 

「それは、その物語では気に病んでいた、ということですか?」

 

 お、話に付いてきてる上に、先も読めるか。

 少女でもさすが貴族様、優秀だ。

 

「そうだな。

 少なくとも、最初の一人は憎しみをもって殺したって台詞があったりする程度には気にしていたはずだ。恐らく、自分を悪と言い始める切っ掛けでもあるだろう」

 

「つまり、かなり重要な要素が抜けた、という事ですね……」

 

「そうなる。

 あと、かなり重要で、かつ、決定的な相違点が、これだな」

 

 そう言いながら、俺は服の中に突っ込まれていたカードを取り出す。

 記憶にはあったけど、やっぱり現物は存在感が違うな。

 

「それは?」

 

「……うん、仮契約カードだな。契約名は……エヴァンジェリンで、(マスター)はヴァンか」

 

「仮契約……?」

 

 そういえば、エヴァが魔法関係を知ってるわけがないな。

 どう説明した物か……

 

「魔法使いが自身を守る従者を強化するために行う儀式……と言えばいいかな。

 場合によっては、かなり強力なアーティファクト……魔法の道具が使えるようになるはずだ」

 

 カードを見てみると、目を閉じて祈る様にエヴァが立ち、その周りに無数の蝙蝠が描かれているようだ。

 

「……吸血鬼らしい代物ってことかな」

 

「それが、魔法の道具ですか?」

 

「ん? ああ、契約の証明みたいなものだ。魔法の道具(アーティファクト)を出したり、念話とかでも使ったりするはずだ。まあ、使ってみればわかるか。

 『来れ(アデアット)』」

 

 おなじみの呪文を唱えると、数匹の蝙蝠が表れた。

 同時に、蝙蝠から見たような映像やら今まで聞こえなかった音やらが意識できるようになり、なんだか考える能力も増えたような気がする。

 そのまましばらく流れ込んでくる蝙蝠の記憶を見ていると、自分でもわかるくらい、怪しい笑みが浮かんできた。

 

「その笑みは、正直どうかと思います」

 

「あ……ああ、ごめん。

 でも、これはすごいぞ。

 この蝙蝠は、簡単に言えば俺の分身だな。

 こいつが見たもの、聞いたことを俺も覚えているし、思い通りに動かすことも、独立して行動させることも出来る。

 更に、影に潜ったり、影を使って転移したりもできる。

 能力は落ちるけど分裂すれば増やせるって、至れり尽くせりじゃないか」

 

「斥候が泣きそうな能力ですね」

 

 斥候……偵察か。条件付きだけど、確かに優秀っぽいな。

 

「最終的に俺が処理しないといけないし、それほど数も出せないから、広い範囲を見るのは辛いと思うぞ。だけど、その苦労を補って余りあるな」

 

「心強い味方ですか」

 

「そうなる。

 ただ……契約の相手は、恐らくあの男だ。

 仮契約は破棄できるはずだし、どちらかが死ぬと終わりだろうから、いつまで使えるかって不安はある」

 

 最大の問題はこれだよな。

 こっちがいくら死なないと言っても、よく解らん男が明日にでもぽっくり死んじまったら、このアーティファクトも終わりだ。

 契約の解除は……どうやるんだ?

 

「頼らない状態に持っていくまでの補佐、程度に考えるのが無難ですね」

 

「そういうことだな。

 ……10歳で、よくそこまで落ち着いて考えられるな」

 

「今までの常識が壊され過ぎて、驚くことが無意味に思えるようになりました。

 それに、これでも貴族の娘ですし、戦争をしていることも知っています。

 命のやり取りの覚悟ぐらいは教わっていますから」

 

「ああ……百年戦争の真っ最中だからか」

 

 この時代の貴族って、こんなもんなのか?

 何だか、偉そうなイメージと随分かけ離れてるんだが。

 

「百年戦争、ですか?」

 

「ん? あー、そりゃあ真っ最中はこんな名前じゃ呼ばれないか。今、イギリスとフランスの間で起こってる戦争に付けられる名前だ」

 

「この戦争は、そんなに続くのですか……」

 

 随分としょんぼりしているな。

 やっぱり根はやさしい娘なんだな。

 この辺は、原作と同じってことか……

 

「じゃあ、そろそろ目標を決めようか」

 

「今からの、ですか?

 その体のことを考えると、逃亡以外に何かあるのですか?」

 

「それは、行動。決めるのは目標な。

 その前に色々調べたい事があるし、逃亡するかどうかはその後で考える。

 先に決めたいのは、将来的に、俺達が何を目指すか、だな」

 

「目指す? ……その、私も?」

 

「おう。守るって言ったぞ?」

 

「ありがとう……ございます」

 

 お、やっとで少し笑顔が出たな。

 よしよし、いい感じだ。

 

「以上を踏まえて、だ。

 君には、三つの選択肢がある。

 

 一つ目は、君が神の元?に行く事を目指す事。

 キリスト教的には、神に召されるって言うんだったか? それを目標とする、ということになる。

 要するに、死を受け入れるということだ。

 この場合は、最大限「人」として死ねるよう努力することになる。

 

 二つ目は、君がこの体に戻る方法を模索する事。

 戻ることが前提だから、可能な限り後ろ暗い事には手を染めないが、その分行動は制限されるし、不死やらの呪いを背負う覚悟が必要になる。

 

 三つ目は、何らかの憑代なりを使って、君が自由に行動出来るようになることを目指す事。

 この体に戻ることを諦めるなら、どんな事をしてでも希望に沿う憑代を用意する覚悟はあるつもりだ」

 

「え……っと……」

 

「いきなり選ぶのは無理だろうから、ゆっくり考えてくれ。

 俺はさっき男から奪った……もらった?知識の確認と、この城がどうなってるか調べてみる」

 

「わかり……ました」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 考え込んだエヴァから少し離れると、俺は『男から血を吸った時に奪った』と思われる知識に意識を向けた。

 

――この世界は「ネギま」に近い世界である――

――「ヴァン」は「造物主の並行思考の一つとして宿った現実(ネギまのある)世界の人間」である――

――未来を改変するために、吸血鬼化の魔法に手を加え、魂を呼び寄せるようにした――

――若干の「修正力」的なものはあるが、決定的な改変に成功すれば未来に影響を与えることはできる――

 

 ……うん、よく分からん点もあるけど、正直余計なことをしてくれた、としか思えないな。

 とはいえ、これであのエヴァを救える……今のエヴァの笑顔が報酬なら、最悪ってことは無いか。

 悪役っぽくないエヴァは、間違いなく可愛い女の子だし。

 

――「ヴァン」に「仮契約」を解除する気はない――

――「ヴァン」は造物主の意識の一つであり、恐らく死ぬことは無い――

――「エヴァ」に吸血鬼化の儀式を行ったのは造物主――

――造物主に気付かれないように、隙を見て改めて説明する予定――

 

 アーティファクト依存フラグか、これ?

 それに、造物主に気付かれないようにって……独断でやったってことか。

 複数の意識があるのもおかしいけど、こちらに協力的な造物主の関係者、くらいに考えておくべきか。味方かどうかは情報が少なすぎるし、保留だな。

 

――最初の吸血衝動は、吸血による知識の移譲及び仮契約を行うためにあえて仕込んだもの――

――造物主が同じ術式を自分に施さないための対策でもある――

――吸血による知識取得も吸血鬼化の魔法に手を加えた結果である――

――魔力が馴染み、日光に慣れるまでに恐らく20年程は必要――

――暗示の魔眼が使える――

――精霊に近い存在となっており、肉体は物理干渉用であり必須でない。魔力さえあればいつでも復元可能――

 

 ……って、マジか。

 魔改造吸血鬼と言っていいくらい強力だけど……体が飾りってことは、俺の魂の姿がエヴァの体の姿で、体を返せないってことか?

 クソ、さっき偉そうに言った選択肢、一つはもう脱落か。

 

――眷属にするには、相手に濃い魔力、例えば血を飲ませた上で定着の儀式が必要――

――眷属からは、子が親を見る様な愛情を向けられるだろうが、支配力は無い――

――眷属が眷属を作ることも可能だが、世代を重ねるごとに吸血鬼としての能力が低下する――

――1世代目、つまり「エヴァ直属」の眷属は、真祖の吸血鬼(ハイ・デイライトウォーカー)相当の力を持つ――

――不老で肉体の破損が再生できるのは2世代目か3世代目の眷属までと思われる――

――吸血鬼の能力が一部でも発現するのは5世代程度までだろう――

――眷属は知識吸収等の特殊な能力は無い――

――恐らく2世代目か3世代目までの眷属は、子孫を残せない――

 

 正確な性能は不明だけど、とりあえず仲間を作れってことか。

 とは言っても、吸血鬼の国なんて魔法が公表されてない世界で作ったら、大変なことになりそうだ。

 やるとしたら、裏からひっそりと糸を引く感じか? それか、魔法世界で作るか……未来の改変って意味では、超みたいに魔法の公開も選択肢に入るのか。

 でも……他人を吸血鬼化、か。そんな覚悟できるか……?

 

――魔法の使用方法について――

 

 お、大事なのがあった。

 とりあえずは探知魔法だな。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 というわけで、慣れない魔力操作に四苦八苦しつつ、城の内外を調査してみたわけだが。

 

「これはひどい……」

 

 死者の数がとんでもないことになっている。

 具体的には、城と町にいた人の半分近くが亡くなっているとしか思えない。

 生き残りに女性や子供が比較的多いのは、主に男が戦ったせいだろうか?

 

「何が、ひどいのですか?」

 

「ん?……ああ、今、城や町の様子を見ていたんだけど……嫌になるくらい、人が亡くなっているよ」

 

「……叔父様は、無事でしょうか……?」

 

「誰が叔父か分からないから、今は何とも……悪いな」

 

 男性の死亡率的に、かなり生存率は低いが……

 確定じゃない以上、先に絶望させる必要は無いだろう。

 

「いえ……仕方ありません。

 あと、いくつか質問があります。

 私がその体に戻りたいと願った場合……戻る方法は簡単に見つかると思いますか?」

 

「あー……それなんだけど、悪い。

 調べてみたら、かなり分の悪い賭けになる……と言うか、正直戻れないかもしれないと思える情報が見付かっちまった」

 

 肉体が不要ってのはなぁ……

 クローン的な技術が出来れば近いものは用意できるだろうけど、厳密にはこの体じゃないんだよな。

 

「そうですか。

 では……もしその体をずっと貴方が使うことになった場合、何をしますか?」

 

「何を……うーん、あんま考えてないけど……」

 

 そういえば、これも考えておかないといけなかった。

 エヴァの希望を叶える事ばかりに考えが向かっていたけど……大事な事だ。

 うん、やっぱり、涙は見たくないな。

 少なくとも身近な人には笑っていてほしい。

 

「……多分、俺の望む未来を見るために行動する、かな?」

 

「何を望むのですか?」

 

「俺の手の届く範囲の人くらいは、笑って過ごせる世界を」

 

「そう……ですか。

 それでは、何らかの憑代を探す方向にしましょう」

 

「いいのか?」

 

「ええ。

 その体を好きにされるのは、正直に言えば気持ちいいものではありません。

 しかし、私が体に戻れないならば、私に代わって貴族のシガラミも背負ってくれるのでしょう?」

 

「そりゃあそのつもりだ。

 ただ、俺は貴族の教育なんて受けてないから、色々と教えてもらいながらにはなるけどな」

 

 いや、本当に……

 中世貴族サマのしきたりとか以前に、この時代の風習自体が分からない。

 あー、食事がまともだといいな……イギリスの食事ってまずいって聞くし。

 

「十分です。ふふっ」

 

「むぅ……そこはかとなく嫌な予感を感じるのに、可愛いと思ってしまう男の性が憎いっ!」

 

 美少女の微笑みは、マジ天使。

 いかん、これだけで天に行けそうだ。

 

「それよりも、この城の中の人だけでも助けるべきでは?」

 

「う……それはそうなんだけど、誤魔化す気が満々に見える」

 

「気のせいです。それと、私のことは、今後ゼロと呼んでください」

 

「ゼロ……いいのか?」

 

 憑代でゼロって、チャチャゼロになるんじゃないだろうな?

 こんな美少女を、精神が壊れた殺人者にしたくないぞ。

 

「私を知る者から見れば、その体がエヴァンジェリンです。不要な混乱を避けるために、貴方がエヴァンジェリンを名乗ってください。

 それに、私は一旦全てを貴方に捧げるのです。全てを……必要であれば性別も捨てるためにも、迂闊な名は名乗らないほうが良いと思います」

 

「そうか……」

 

 やばい、俺よりきちんと覚悟を決めてる。

 現状の考察も間違って無さそうだし……何て説得していいかもわからん。

 

「いえ。不死になって逃亡生活を送るよりも、この方が良い未来となりそうですよ?」

 

 そう言って笑うエヴァンジェリン改めゼロは、とてつもなく美しい。

 ……これは、全力で期待に応えないといけないな。




2016/04/11 福が→眼ぷ に修正
2017/05/03 顔や名前やっぱ→顔や名前はやっぱ に修正


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始動編第02話 情報提供者

「親類は全滅、生き残りは3人の侍女と料理人と執事。その他使用人が数人……うーん、前途多難だな」

 

 小さな城とはいえ、生きている人を探しながら駆け回るのはなかなか骨の折れる作業だったんだが。

 その結果として助けられたのが10人もいないとは……落胆もしたくなる。

 

 

 今は、後始末……主に街の救援と城内の掃除を生き残りの人達に任せ、俺は急ごしらえの寝室で休んでいることになっている。

 元々“エヴァンジェリン”は居候の少女だから表立って指揮を執ることは避け、貴族としての体裁を整えるために民衆の鎮静化と支援を指示。俺たちは落ち着くためと言う名目で、打ち合わせのために引き籠る。

 今日のところはこれが一番無難だろう。

 

「嘆いていても仕方ありません。

 現状で有効な手を打たなければ、逃亡か、没落生活ですよ?」

 

「わかってる。

 執事がいるってことは、他の地方の親族に連絡できるよな?」

 

 いきなり俺が表に出て何とかなるはずもない。

 見知らぬ他人よりは、見知らぬ身内っぽい人の方がマシってもんだ。

 

「恐らく可能でしょうが……救援を求めるのですか?

 身分を食い荒らしに来られるだけだと思いますが」

 

「俺が表に出ると、子供だと舐められるから同じ事が起こるだろう?

 それに、元々居候の身だ。家督を継ぐと言っても根拠が薄すぎる。

 それよりは、元の領主の身内を呼ぶ方が対処しやすい。吸血鬼になったおかげで、暗示も使えるからな」

 

 あまり魔法的な力に頼るのは気が引けるが……最低でも独立できる程度の力を持つまでは、権力と財力に庇われるのが一番安全だろう。

 隠れて生活するには、この二つ、特に財力は欠かせないはずだ。

 

「暗示、ですか……?」

 

「意識や記憶の誘導みたいなものだな。とりあえず、俺は『襲撃で精神的に衰弱し、表に出られない』で通すことにして、全権を呼んだ親類に任せる形にする。家督なんかもそっちにお任せだな。

 んで、そいつには暗示で『俺を庇護対象』だと思わせておけば、そう悪い扱いにもならないだろう?

 当面は、それで時間を稼ぐさ。迂闊に表に出るよりも、老化しないことを隠しやすいし」

 

 それに、俺が影のご主人様、っていうのは遠慮したい。

 暗示で忠誠なんて気持ち悪いし、もし暗示が外れたとしても、庇護程度なら精神的な傷や反発も少しは小さくて済むだろう、って思惑もある。

 

「同じ理屈で考えれば、身の回りの世話は少数の者に任せるべきでしょう。

 数人の侍女が生き残っていますから、この者達で固めれば当面は怪しまれずに済みます。居候の身で多くの侍女を使うのは問題がありますし、顔見知り以外が近づくと錯乱するとでもしておけば、人も増やされずに済むでしょう。

 その言葉使いも襲撃の衝撃によるもの、という誘導も必要でしょうか?

 その方が、再教育も受けやすいでしょうから」

 

「そう、だな。

 ……あー、この年でオベンキョウか……」

 

 この時代の事を知らない以上、避けられない事ではあるんだ。

 頭では理解できるんだけど……

 

「貴族ですし、語学の勉強が必要です。貴族に相応しくありません。

 それに、場合によっては、神聖ローマ帝国やフランス等の者と交渉する場合もあるでしょうから、そちらの言葉も確認しておきましょう。

 礼儀作法……も、必要そうですね?」

 

「……あい……」

 

 こう考えると、必要な知識は多いな。

 身を守るためにも魔法の練習は外せないし、知識面も手は抜けない。

 当分は、ゆっくりできそうにないな……

 

 ある程度急いでやるべき事の多さに辟易していると、窓が勝手に開き、そこから人影が音もなく侵入してきた。

 

「はいはい、ちょっといいかな~?」

 

 人影……若い男は敵意が無い事を示すように軽い調子で両手をあげ、俺を面白そうに見ている。

 外見的特徴は、黒目黒髪……顔つきも日本人だな。

 年齢は高校生ぐらいか。注意されない程度に伸ばし気味の短髪、くりくりした目、ローブで分かりづらいが気持ち小柄で細そうな体つきの少年だ。

 ……もう少し純朴そうなら、マスコット系だな。悪戯小僧的な雰囲気で台無しになってるけど。

 

「……誰だ?」

 

「僕は、ヴァンだよ。仮契約のマスターさ」

 

「随分と軽い挨拶だな」

 

「そう警戒しないでよ。僕も勝手に召喚されて困った側なんだ。ある意味仲間だよ?」

 

 こいつもか?

 俺を呼んだ男……ではなさそうだな。ゼロが不思議そうな顔で見てる。

 だけど、だからと言って味方とは言えないな。

 仮契約を仕込めた以上、あの男の関係者だろうし。

 

「別の意味では、敵になり得るんだろ?」

 

「そのつもりは無いんだけどな~」

 

 随分と口調は軽いな……これが演技でないとすれば、頭も高校生か?

 こちらに知識を移すとか言いながら、こっちの知識を読んでる可能性もあるし……

 

「で、説明に来た、ってとこか?」

 

「そうそう。それで、とりあえず自己紹介をしとこうか?

 僕は、元々は日本の高校生で、初詣に出かけてたと思ったらこんなところにいたんだ。名前なんかは思い出せなくて、今はヴァンって呼ばれてるよ。

 原作(ネギま)は魔法世界に行ったところまでは読んでた覚えがあるかな。

 とりあえずは、こんなとこかな?」

 

 普通と言うか、俺の記憶を読めば言える範囲の事しか言っていないな。

 まあ、俺も似たようなレベルで返せばいいか。

 

「そう……だな。

 俺は、日本のサラリーマンだった。コンビニの帰り、以降は多分同じだろう。今後はエヴァンジェリンの名前を使うことになるだろうな。

 原作(ネギま)は完結直前くらいまで読んでたが、あまり覚えていないな。

 あと、せめて女を呼べと文句ぐらいは言っていいだろう?」

 

「あ……男の人でしたか。

 ゴメンナサイ、そこを気にする余裕はありませんでした」

 

 だろうな。まあ、素直に謝られただけマシか。

 だけど、知らなかったのが本当なら、俺の記憶は読んでないって事か?

 

「でも、女の人だと罪悪感が残りそうだから、ちょっと安心しちゃった僕がいます」

 

 あーもう!許そうと思った途端これかよ!

 言ってることにちょっと同意できるだけに質が悪いな!

 

「まあ、それについて今更どうこう言うつもりは無いけど、心象は良くないぞ?

 それで、造物主の並行思考の一つって、どういう意味だ?

 あの記憶は、お前が埋め込んだようなものなんだろ?」

 

「警戒してるね~。ソレについては、言葉通りの意味だよ。

 あ、僕は原作での造物主の扱いはよくわかってないから、後で教えてよ。

 魔法世界を作ったって事だけはわかってるんだけどね~。

 僕は、造物主の並行思考というか、んー、同時に動ける多重人格的な何か、かな?」

 

「ますます意味が分からないんだが……」

 

 並行思考も多重人格も、元は1人だろ?

 召喚して何とかなるものじゃないだろうに。

 

「だよね~。

 基本的に、魔法の補助用に意識を召喚されたっぽいんだ。

 リリカル的に言えばデバイス役? ユニゾンデバイスが近いイメージかも。

 んで、基本がユニゾン状態、別行動は魔法でそれっぽく、って感じだよ。

 だから、この体も違和感が無い形を幻影で作ってるだけなんだ」

 

 つまり、あれか。リインとかアギトみたいな役目で、ユニゾン状態が基本って事か。

 別の魂……なんとなくわかった気がするな。

 

「つまり、本来の姿ではない、ってことか?」

 

「自分の元の姿も覚えてないから、本来の姿がわかんないんだ。

 自分の体の様に操って違和感があったら即修正、ってずっとやってるから。元の姿っぽい何かになってるとは思うよ?

 顔に関しては美化してるかもしれないけど、そこは目をつぶってほしいな」

 

「意識だけってことは、こっちに来てからの体も無いってことだから……まあ、体型は元の姿っぽい感じに落ち着くだろうって事か」

 

「うん、そうそう」

 

 うーん、言っている事に矛盾は無いか。

 話している感じとしては、被害者という意識は無さそうだけど……楽しんでいるのか?

 

「で、なんでお前みたいな存在を召喚する必要があったんだ?」

 

「うーん、魔法の補助ってのが主目的ではあるっぽいんだけど。

 えーと、つまり。根本的な問題を簡単に言えば。

 ぶっちゃけると。

 造物主は、厨二病、だね」

 

「おいおい……造物主はそんな若くないだろ?」

 

「当然だよ。

 僕が召喚されてから50年ほど経ってるし、魔法世界を作ったのって紀元前らしいし?

 もう、慢性的な厨二病。治療見込み無し!

 笑うしかないよね~」

 

 あはは~と笑ってるが、それどころじゃないだろう。

 それにしても、造物主に服従している感じはないな……この程度の悪口は許容範囲なのか?

 

「症状は……どれくらいだ?」

 

「厨二病の?

 んー、僕が呼ばれた裏の目的って、あれだよ。

 俺の中の闇が!だっけ? そんな感じのをやりたくなって、たまに暴走する人格用に呼ばれたみたいだよ? 実際、たまに暴走っぽいことをして満足させてあげてるんだ」

 

「……何となくやりたいことは理解できた。

 けど、それを実現させるために召喚魔法を作ったりする実力はあるってことか」

 

 間違いなく厨二病、だな。しかも確実に悪性だ。

 だけど、実際にやり遂げる辺りが問題だ。

 

「召喚魔法は別の目的で作ってあったらしいけどね。

 実力と努力を伴う厨二病! 妄想じゃなくて本当に力を持っちゃう厄介者!

 慢性的だし、治療見込みは無いでしょ?」

 

「絶望的だな。

 それで、多少暴れられる程度のチートでも貰ったのか?」

 

「うーん、それなんだけどね。

 あ、ここで話してる内容も話をしてるって事も、造物主には秘密だからね。

 正直に言っちゃうと、魔法の行使能力だけ見れば、造物主より強いよ、僕」

 

「マジか」

 

 造物主は、少なくとも世界を作るだけの実力を持っているはずだ。

 召喚された側がそれより強い……補助にしては強力すぎる。何を間違えたんだ?

 

「うん、マジ。

 造物主って、魂と地球の魔力を繋いで、不滅の魂っぽくなってるんだよね。

 繋がりは中途半端だし、体はどうにもならなくて憑依を繰り返してるけど。

 で、僕だけど、より地球に近い形で繋がった結果、本気を出せば造物主の魔力を完全支配できるようになりました!

 造物主の手伝いや裏人格はバイト感覚!

 ついでに本体は世界樹に憑依しちゃってて、造物主が居なくなっても問題なし!

 むしろ本体で手伝いに行っちゃうと造物主を飲み込む危険が!

 ばれたら造物主はグレちゃうね!」

 

「ヴァンって、蟠桃(ばんとう)の事かよ!」

 

「ずっと使える体の研究の検証実験で作ったエヴァにゃんは、僕の介入で、月と同化しました!

 月の魔力と完全同期! 月の魔力を完全支配! 魔力的には月そのもの!

 まさしくチート!」

 

「ちょっとまてっ!?」

 

 それが本当なら、チートなんてレベルじゃないだろ!

 衛星とはいえ星ひとつの魔力なんて、ふざけ過ぎだ!

 

「大丈夫! 月に代わってお仕置きはしなくていいよ!」

 

「誰がするか! てか古いなオイ!」

 

「あははー、ゴメンナサイ。僕も正直やり過ぎだと思います。

 あと、お仕置きするなら僕の父さんに。DVDをせっせと買って、嬉しそうに小学生の僕に見せてたんだから。

 その影響は否定しないけど、とにかく、あの厨二病に月の魔力を支配させるわけにはいかないと思ったんだよ。

 所謂(いわゆる)修正力はあるみたいだけど、原作の知識を持った人に協力してもらって、造物主が暴走するなら被害を抑えないといけないと思ったんだ。

 どう見たって、原作でラスボス的な位置付けになりそうな存在だし。

 そのために吸血衝動とか、吸血鬼化の直後は力を殆ど使えなくしたりとか、失敗と思わせるのに色々と小細工をしたんだよ」

 

「確かに造物主はラスボスだし、厨二病にこれ以上力を渡すのは危険か……」

 

 理由を聞けば、一応理解できる範囲ではあるが……

 やれやれ、厄介なモノに巻き込まれたもんだ。

 

「それで、お前のチートはどうやって誤魔化してるんだ?」

 

「分体が手伝って、魔法の制御は僕の方が細かく出来るけど独立して使える力は弱いってふりをしてるよ。

 まさにデバイスって感じ? リリカルの知識サマサマだったよ。

 造物主からの魔力供給が無いと大したことが出来ないから、造物主が僕の暴走を抑えられるって設定だね。あ、暴走の時に造物主の魔力を奪おうとするのはお約束ね。

 僕の方が制御が細かく出来る分、普段の手伝いで結構駆り出されるから、今回みたいに魔法をこっそり改変しても気付かれないんだよね~」

 

「大丈夫なのか造物主……世界樹については?」

 

「世界樹自体が、認識阻害をしてるっぽいんだよね。

 原作に誰が認識阻害をしてるかって描写はあったっけ?」

 

「それは……覚えていないな。無かったような気もするが」

 

 ぬらりひょんやらが利用してるのは間違いないけど、明確な描写は無かったような?

 結界はメンテナンスやら停電で消えたりしてたから、間違いなく魔法関係者が張ってるんだろうけど。

 

「そんな感じで、世界樹がある事は知ってるけど、僕が関係してる事は知られてないよ」

 

 情報収集って意味だと、だいぶ甘いって事か。この分だと、魔法世界の魔力枯渇も気付いてないんだろうな。

 ……この時期だと、誰も気付いてないのか?

 

「だから、将来的に、きっと造物主は大変なことをすると思うんだ。

 そのために聞きたいんだけど、造物主がラスボスになる理由って、知ってる?」

 

「知ってる。というか、話の全体に係わる問題だな。

 一番何とかしないといけないのは、火星の魔力枯渇だ」

 

「火星?」

 

 そこから説明がいるのか。

 魔法世界に行ったところまでの知識なら、知らなくて当然か……

 造物主からも聞いてないって事か?

 

「あー、魔法世界って、火星の裏世界的な所にあるんだ。そこに火星の魔力を使って魔法世界を作ってて、原作辺りで魔力が尽きそうになるんだが……

 魔法世界や純粋な現地の人間は、魔力が無くなると存在が維持できない。

 地球生まれの連中やその子孫は、魔法世界が消滅すると火星の荒野に放り出される。

 結果的に、魔力切れは全員の死亡に直結するわけだ。

 造物主は全員を夢の世界にご招待して救済したことにしようとして、それをナギ……ネギの親が阻止するのが原作20年前の戦争で、ネギが魔法世界に行ってからの物語でもあるな。

 ついでに、学園祭の超はネギの子孫で火星から来たって設定だから、超のいた未来では魔法世界が無くなったって事になるか?悲劇の回避とか言ってたし、生き延びた人はいても何かがうまくいかなかったって事だろうな」

 

「うわー……それって、かなりヤバいね。

 原作だと解決したの?」

 

「確か、火星のテラフォーミング? 要するに火星自体を生物が住めるように改造するとかなんとか。

 完結までにはその辺の説明や結果の描写があるだろうけど、そこまでは知らないな」

 

 前半はともかく、後半はオタ友宅に行った時に読ませてもらってただけだし、まともに覚えていない。

 こんな事になるなら、しっかり読んでおけば……って、普通はこんな事になるわけがないよな。

 

「うーん、詳細情報はないか~。

 とりあえず、今の技術で再現は無理だね。魔法で緑化しても意味ないどころか、余計に魔力を使うだけだろうし。

 地球の植物やらを魔法世界持ち込んで広めれば、維持する魔力的に優しくなるかな?」

 

 植物の持ち込み……魔法世界側からのテラフォーミングっぽい感じになるのか?

 

「んー、こっちとあっちの植物が交配するとどうなるか確認しないといけないし、バイオハザードにも注意しないとな。魔法世界に植えた時の影響やらも調べる必要があるぞ?

 そもそも、あっちの植物や野生動物って、地球とどう違うんだ?」

 

 植物なんて背景だし、まるで記憶にない。こっちにはあり得ない生き物がいるから、似たような状態だとまずそうだけど……

 

「見た範囲だと、少なくとも植物は地球の模倣が多いかも。松っぽいのとか、ヤシっぽいのとかを見た気がするよ。

 似た植物を持ち込めば、ある程度は自然に広がると思うけど……交配がダメだと時間がかかるかな~」

 

「色々と確認が必要だな。それに、人や動物の対策も考えないとな。

 ……ところで、最終的な目標は何だ? 原作を始めないことか? 原作開始した上でのストーリー破壊か?

 造物主の厨二病はともかく、修正力的なモノがあるならネギが生まれて麻帆良に行くのは回避が難しいだろうし、回避した場合の影響も大きいと思うぞ」

 

「うーん、ネギとか中学生達が巻き込まれる事自体をどうこうする気は無いけど、クシャミでおにゃのこを裸にするのは、ここを現実と認識してる紳士として許せないかな~。

 あと、個人的には、せっちゃんの翼もふもふしたい、ちうたん萌え、パル漫画読ませろ、の3本をお届けしたい!」

 

「どこのオタクだ」

 

 いい笑顔で親指を立てているけど、ネギと生徒達に直接の干渉はしない方向か?

 手を出しても、ウェールズでネギの指導を強化するのと、京都で幼い刹那を助けるくらいか。

 麻帆良で何かすることは考えていない感じだな。

 ……自分が世界樹だから、足元で迂闊な事は出来ないって判断か?

 

 ともあれ、造物主との関係はともかく、現時点で俺をどうこうする気は無さそうだし、基本的に友好的だと思って大丈夫そうだな。

 

「魔法世界を何とかするなら影響は大きそうだし、そもそもこの3人が生まれるのかも分かんないから、その辺はあまり気にしないことにするよ。

 なるべく大きな悲劇は回避したいけど、戦争を防いじゃダメかな?」

 

「考え方次第だな。

 

 目の前にある悲劇を回避することを最優先にするなら、多くの奴隷を生んだ大航海時代の植民地政策、インディアン虐殺を伴うアメリカ開拓、効率的に人を殺した2回の世界大戦……これ以外にも対処すべき問題は多いだろう。今やってる百年戦争も褒められたモノじゃないしな。

 原作どころか世界史に喧嘩を売ることになるから、修正力だかも恐ろしいことになりそうだ。それに、一つ対処に成功した時点で、未来が見えなくなるからな。次が本当に発生するのか、という点に警戒しつつ準備するという形になる。

 

 原作での悲劇……主に魔法世界の崩壊に伴うあれこれだけを防ぐなら、地球の悲劇はそのままにすることになる。

 魔法世界の崩壊は、地球だと「大陸水没」くらいの事態だとは思うし、原作や歴史の知識と俺達が普通だと思っていた技術を利用するには、世界史への影響は小さい方がいいだろう。

 

 どちらにせよ、戦争が新しい技術を生むのは事実だ。さっき言った大航海時代、アメリカ、世界大戦の3つが無くなると、俺達が知る様には技術や文化が育たないだろう。最悪の場合、テラフォーミングやらそれに代わる救済を行うだけの技術が作れずに、時間切れで魔法世界は救えませんでした、となりかねないぞ」

 

 大航海時代をぶっ潰すとアメリカが出来ないんじゃないか、と思うが……良くも悪くも技術を引っ張るアメリカが無いと、発展は格段に遅くなるだろうな。

 そもそも、誰か数人を止めれば無くなる様なものでもない。

 いくらチート的な力があっても、数人で防ぐには無理があるだろう。

 

「あー……うん、そうだよね~。

 僕達が介入してる時点で、超が来ることも確実とは言えないし……魔法を公表して、そっちから何とかできないかな?」

 

「魔力枯渇を魔法で何とかするってことか? パンが無くても隣の人はパンを食べればいいじゃない、程度に意味不明になるぞ」

 

「うーん、小麦が無くなるから、隣と一緒に少ない材料で作るか材料を増産する方法を探そう、くらいはしていいと思うんだけどなぁ」

 

「公表した結果、隣の材料を急速消費……って可能性が高くないか?石油とか資源とかの歴史を考えると」

 

 どう考えても、便利なモノだからって使いまくりそうだ。

 少なくとも、使えるようになった一般人が自重するとは思えないんだよな。

 

「う……確かに、地球って魔法世界より魔力の密度が低いんだよね。

 最悪、こっち側まで魔力枯渇するのかなぁ」

 

「魔法で維持するモノが少ない分、枯渇しても影響は小さいとは思うが……公表は慎重に考えた方が良いだろうな。迂闊なことをすると、取り返しがつかない」

 

「だねぇ。細々と同士を募るしかないかなぁ。鬼才の発掘は難しそうだね」

 

「分母を縛る形になるからな」

 

 人材を探すという点だけを見れば、基盤の技術を気軽に使えるようにして流布するのが最も確実なんだが……教育の基盤すら怪しいこの時代では、悪用されるだけで終わる可能性が高いだろうな。

 

「ところで、現時点で、魔法は秘匿すべき物って扱いでいいのか?」

 

「うん。理由は権力の云々とか、教育が行き届かないとか、選民思想だとか、色々だけどね。

 中途半端に漏洩してて、その対策の一部が魔女狩りだっていうんだから、魔法使いも底が知れてるよ」

 

「正義やらを語れるほど、文化が育って無いのか……まさか、これも厨二病の影響じゃないだろうな?」

 

「多分、違うと思うよ。魔法世界も文化的にはこっちと大差ないし、小さな国がいっぱいあっていがみ合ってる状態だし」

 

「厨二的な意味で平穏を妨げてる……ってことは、いくらなんでも無いよな?」

 

「無い……といいなぁ。そこは言い切れないな~」

 

 自信ないのかよ。

 造物主を完全に監視できてるわけでもないのか。

 

「まずは、その辺から改善する必要があるのか……

 悲劇の回避とかを目指す以前に、教育やらの改善で間接的に世界を育てる方が良さそうだな」

 

「あー、うん、そうだね。

 高校生だった僕には荷が重いなぁ」

 

「ちらちらこっちを見ながら言うな。第一、生存期間だけなら俺よりよっぽど年上だろうに。

 はあ……出来ることはしてみるけど、当面は期待するな。この容姿だし、日光に弱い間は動きづら過ぎる」

 

「だよねー。あーあ、問題は山積みだなぁ。

 あと、一番の気がかりだったのはエヴァにゃんだったんだけど……どうしよう?」

 

「エヴァにゃん言うな。

 あと、どうしようってのはどういう意味だ?」

 

 こいつ、ゼロの今の状態が見えているのか?

 造物主には見えていなかった様だけど。

 

「幽霊みたいな状態でしょ?

 あ、厨二病には見えなかったみたいだけど、僕には見えてるし、声も聞こえるよ。

 ごめんね、普通に喋ってくれていいよ、ゼロちゃん」

 

 名前まで言われたか。

 要するに監視してたって事じゃないか。

 

「黙っていたのは無意味でしたか?」

 

「ごめんねー。話の内容的に、暗号ばっかりで意味不明だと思ったから、あえて無視してたんだ。

 わからない言葉は、後でエヴァにゃんに聞いてね」

 

「丸投げか? いい根性だ。あと、にゃんはやめろ」

 

「へっへー。

 でも、憑代って言ってたでしょ?人形か何かが無難じゃないかな?」

 

「それはそうだが、何故憑代とか言ってたのを知っている?」

 

 やっぱり、監視してたのは確実か。

 地球とリンクしてるなら可能だろうけど、俺にだってプライバシーはあるぞ?

 

「情報収集用の精霊を放っておいたんだ。

 あ、今はいないし、今後用意するのはちゃんと設定を変えるよ?監視するつもりは無いし、監視できるほど暇でもないしさ。

 打ち合わせとかで連絡したいときの通信端末と、緊急時の通報装置くらいに思ってもらっていいよ」

 

「その方が安全ではあるか。

 それなら、俺がお前に同じ目的で精霊なりを付けるのも構わないだろうな?」

 

「もちろん。でも、造物主にばれないようにしてよ?」

 

 監視される事は拒否しないのか。

 この分なら、ある程度信用しても大丈夫っぽいな。

 問題があった時に対処できる体制が出来れば、かなり協力しやすそうだ。

 

「当然だな。

 さて、人形か何か……いいアテでもあるのか?

 クローンとかホムンクルスの技術が確立できてるなら、それが一番良さそうだけど」

 

「あー、アレはまだ実用にはならないよ。

 実用になるなら、厨二病がほっとくわけないし」

 

「だよな。となると、人形が無難か……チャチャゼロのフラグにはしたくないんだよな」

 

「人形に憑依しても、人格は壊れないと思うよ?」

 

「だといいんだけど、修正力的なモノが何か仕出かさないか心配でな」

 

「うーん……まあ、とりあえずいいのが無いか探してみるね。

 あ、それと、今度もう一人連れてくるよ。

 原作知識の補完とかもしたいしさ」

 

 もう一人……だと?

 

「造物主は、一体何人呼んでるんだ……?」

 

「エヴァにゃんは実質的に僕が原因だから除外して、造物主が呼んだのは僕とその人の2人のはずだよ。

 あ、その人は最初知らなかったみたいだけど、原作メンバーだからね」

 

「おいおい……魂が放り出される前例があるんじゃないだろうな?」

 

「それは大丈夫。意思のある魔道書のために呼ばれたから、本に憑依した精霊みたいなものだよ~」

 

「本……?」

 

「あ、心当たりあるかな?」

 

 ネギまで本と言ったら、アレしかいないだろうに。

 

「アルビレオか?」

 

「あったりー。んで、基本的な役目は記録の保存と管理らしいよ。魔法実験の手順と結果とか、いろんな文献とかを記録して、必要に応じて探したりするんだって。

 要するにネットとぐーぐる先生みたいな感じだね。

 きちんと記録してもらうとほぼ無くならないし、言えばすぐに探してくれるよ。便利だよー」

 

「確かにすごい能力だけど……本人の性格は?」

 

「あははー、残念ながら、人をからかうのが好きって感じだね~

 うん、性格的には原作とあんまり変わんないかも?」

 

「……迂闊なところは見せられない、か。

 ロリコンなところも同じか?」

 

「うーん、そんな感じはしないけど……実は、って可能性は否定できないね」

 

 否定してくれ。

 今の俺は、美少女の体なんだ。

 

「そうか。会う時は注意しておこう。

 それで、暗示の魔眼の使い方と眷属の作り方についてなんだが」

 

「うん、それも説明するよ。

 時間的にやばそうだし、その説明が終わったら退散するね?」

 

「ああ、よろしく頼む」




2022/08/26 魔法枯渇→魔力枯渇 に修正


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始動編第03話 初めての○○

3年近くぶりになる、始動編第03話(新)です。


 あれから、2か月が経過した。

 現在は当初の予定通り、侍女3人と執事1人の計4人のみと会い、語学を中心に色々と学びつつ魔法の練習にいそしむ毎日を送っている。

 

 日常生活は……まあ、正直精神的に厳しいものはあった。

 

 元々は現代日本人だ。トイレすら無い環境を劣悪と感じてしまうのは仕方ない。

 というか、下水ってもっと昔からあったんじゃなかったか?

 宮殿だろうが城だろうがその辺に垂れ流しって、何を考えてるんだ。

 

 食事面も厳しい。

 調味料が少ないのは諦めるとしても、だ。

 食感が無くなるまで野菜を茹でるとか、日曜に牛を屠って一気に焼き、食べきれない分は平日に食べるとか、日曜以外は冷たいか再加熱で火の通り過ぎた肉を食べるのが普通だとか言われた時には絶望感を味わった。調理で味付けをせず、食べる時に塩やら酢やらを自分で付けると説明された時に、料理人いらねぇと思ってしまった俺は、悪くない。

 冷蔵庫が無いから仕方ないのだろうが、現代日本の食文化の素晴らしさをここで再認識できたのは、幸か不幸か。

 目覚めた時に口に残っていた血の味が今までで一番おいしいと思えるのが一番泣けるのだが、それは置いておく。

 

 もっとも、この時代の人間としては良い環境で生きているという点で、間違いなく恵まれている。原作のエヴァの過去と比べると幸せと言っていい環境なのだし、現時点でこれ以上を望むのは贅沢だろう。

 

 エヴァを吸血鬼にした、造物主が現在憑依している男……オーウェン・グレンダとかいう名前らしいが、そいつは隣町で国家の樹立を宣言したという話を聞いた。

 今も、厨二病は絶好調の様だ。

 こちらまで戦火が及ぶ気配は今のところ無いようなので、要注意ではあるが一息つけそうな感じといったところか。

 

 ヴァンとはたまに連絡を取り合っているし、俺とゼロの魔法の師匠役もしてもらっている。

 アルビレオは造物主に連れまわされている関係で抜け出せないらしく、未だ会えていないが、急ぐわけでもない。

 この二人についても、今のところ特に問題は無いだろう。

 

 殺された城主の従弟、オットー・マクダウェルを新たな領主として呼び、その庇護下に入ることにも成功した。隠蔽も現状では特に問題は無い。

 

 まとめると、現状、特に大きな問題は無い。

 予想以上に穏やかな日々を送っている。

 

「……はずだったんだがな」

 

 俺はため息をつきながら、先ほど侍女の1人と執事に言われた言葉を思い出している。

 

「自分が蒔いた種でしょう?」

 

 現時点で憑代が見付かっていないゼロは、幽霊の様に俺の周りを漂っている。

 俺とヴァン以外には見えないらしく、自由に飛べるのが楽しいらしい。

 未だに服を着られない点は、俺にとっては眼福だが、本人(ゼロ)は気にしていないようだ。

 

「いや、そうなんだけど……ここまで強くかかるとは思ってなかった」

 

「行動には責任が伴います。過去は変えることが出来ませんよ」

 

「だよなー……」

 

 どうも暗示の「庇護対象」というのが強くかかり過ぎたのが原因だと思えるのだが、要するに眷属にしてくれと言われたのだ。

 

 侍女の3人と執事には、表に出れないことを納得してもらい、何かあった時にフォローしてもらおうと考えていたため、暗示の効果を確認した後で吸血鬼の事を話していた。

 ただ、眷属についても喋ってしまったのは失敗だったらしい。

 

 元々エヴァを妹の様に可愛がっていたらしいリズ……仕事の出来るお姉さん系侍女さんには「お嬢様を残して死ぬわけにはいきません。私たちが全員居なくなったら、誰がお嬢様のお世話をするのですか」と真剣な目で言われ。

 

 頼りになるオジサマ系執事のマシューには「永遠を生きるエヴァンジェリン様は、世間との関係を維持するためにも、ある程度事情を知った上で表に出ることが出来る者を、継続的に育てる必要があります。このマシュー、教育には少々自信がありますぞ」と父が子を見る様な目で言われ。

 

 ……特に執事(マシュー)には、現実を考えると全く反論できない。

 

 そして、執事(マシュー)を受け入れて侍女(リズ)を断ると、執事(マシュー)は侍女教育もするとか言い出しかねない。

 二人とも断ると、近いうちに貴族という盾を維持するのが困難になり、結果として逃亡生活となる事が容易に予想できてしまう。

 少なくとも戸籍制度が確立するまでに権力者との協力体制を構築しておく必要がある事も考えると、マシューの言う教育者は必須とすら言える。

 

「理論的に考えれば、眷属にするの一択なんだが……」

 

「では、何を躊躇っているのですか?」

 

「俺が、二人が思っている『エヴァンジェリン・マクダウェル』ではない、って罪悪感が一つ目」

 

「あの二人が気付かないはずはないと思いますが……他にもあるのですか?」

 

「まだ、他人を『永遠に生きる』って牢獄に閉じ込める覚悟も出来ていない」

 

「牢獄、ですか?」

 

「仲間……要するに眷属以外は、ヴァンみたいな例外以外は必ず自分より先に死ぬんだ。

 他への影響も考えれば、むやみに眷属を増やすわけにもいかないし。親しくなった人と別れ続けるってのは……慣れるものか?」

 

 正直、俺自身が耐えられるか自信が無いんだよな。

 少なくとも、ヴァンとゼロの2人は一緒にいられるだろうけど……

 って、やべ、これはゼロに依存するフラグか?

 いかん、年長者としてそれはいかんぞ!?

 

「私の両親は、戦争で既に死んでいます。

 ここに預けられる前の殆どの友人には、手紙を届けることもできません。

 別の領へ預けられた兄弟とは、今後会う事もないでしょう。

 先日の件で、この城の親戚も死にました。

 貴方がどの様な環境で生きてきたか分かりませんが、私達にとって、別れは『普通にあること』でしかありません。

 その様なことで悩んでいたのですか?」

 

「確かに、生きていれば必ずある事ではあるんだ。

 ただ……自分は変わらないまま親しい人の老いる姿を見る事。

 出会った時点で相手が先に死ぬと分かっている事。

 自分は死に逃げることも出来ない事。

 これらを、可能な限り隠さないと追われることになる事。

 全部、不自然な事で、不自由な事でもある」

 

「暗示の影響があるとはいえ、私たちと関わっている時点で不自由という枷はかけられているのではないですか?

 それに、リズやマシューの言い分を聞く限り、問題を把握した上で貴方(エヴァ)を残して死にたくないと判断したという事でしょう。

 少なくとも、その問題に気付かないほど愚かではないですよ?」

 

 ゼロは……強いな。俺よりも、ずっと。

 これが、貴族と平民の差か?

 

「俺が重く見過ぎているだけならいいんだけどな」

 

「では、二人が既に貴方(エヴァ)(ゼロ)の状態を知っていると仮定したら、どうしますか?」

 

「知られてないはずなんだがな」

 

「仮定したら、ですよ?」

 

「……それだと、一番の問題は問題じゃなくなるな。

 俺がウジウジしているだけで、永遠に生きる事もその問題点も、言われた内容を考えると理解はしているようだし」

 

「つまり、現状を把握した上で考えが変わらなければ、問題はありませんか?」

 

「そう……なるな。

 把握した時に見捨てられるのも怖いが」

 

「いえ、それは有りません」

 

「随分と自信があるんだな」

 

「ええ。夢で既に伝えてありますから」

 

「……は?」

 

 夢? 伝えてある? いつの間に……

 

「ですから、夢で既に伝えてあると言っています。

 4人に伝えた中で2人が受け入れたのですから、上出来ですね」

 

「えーと……どこまで伝えたんだ……?」

 

「そうですね、私が霊として別の存在になっている事、『エヴァ』の魂は別の人物である事、言葉や礼儀作法を覚える必要があるのはその結果である事、襲撃の影響等の説明はこれを対外的に説明するためのものである事、でしょうか」

 

「……対外的に隠してる事は概ね、って事か」

 

「こうでもしなければ、踏み切ることが出来ないでしょう?

 随分と甘い考え方をしているようですし」

 

「反論できない……これが貴族か」

 

 根回し良すぎだろ。これが貴族の世界か……恐ろしいな。

 こんな世界のシガラミを背負う? だ、大丈夫か俺?

 

「ふふっ、随分と甘い成人ですね?」

 

「あーもう、俺は平和な国の一般人だったんだよ」

 

「そうですね。その言い訳はとても説得力があります」

 

「はあ……勝てないな。俺が守るって言っときながら、情けない」

 

 こちとら現場の技術職だから、対人やら根回しやらは苦手なんだよ。

 会社の役員だの部長だのなら……まあ、ない物ねだりしても仕方ない。

 

「そういう事ですから、1人ずつ確実に、かつ速やかに仲間にしてしまいましょう」

 

「そう、だな」

 

 眷属を増やす、利点と欠点……間違いなく、利点の方が大きいからな。

 早めに眷属の能力を知っておく必要もある。真祖の吸血鬼相当なら、日光も早めに大丈夫かもしれないし。

 俺はまだ、日光を浴びると相当苦しいからな……ここにいられる間に、みんなが日中に移動できるようになっておいた方がいい、よな。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「あっ」

 

「何をしているのですか?」

 

「……いや、この数年は随分と早かったな、と」

 

 うん、ゼロにはこの冗談は通じないらしい。

 俺がエヴァになってから、既に4年が経過した。思えば、あっという間だった……という意味だったんだけどな。

 魔法の練習は、順調に進んでいる。得意な属性は闇と氷で、特に変化はしなかったらしい。風や土に限らず、光や火といった対となる属性までそれなりに使えるのは、ひょっとすると変化した点かもしれない。

 日常生活は……知識面はまあまあだけど、相変わらず言葉遣いで注意される日々だ。

 ちなみに、俺はまだ日光でダメージがある。長すぎるだろ20年。

 あと、意外な弱点が判明した。ある意味では納得だが、ニンニクが駄目だ。嗅覚が鋭敏になったせいか、においで意識が飛びそうになる。ニラやチーズ等もやばい。

 同じ理由で、玉ねぎのみじん切りやらにも号泣する事になるんだろうな……無臭を自称するニンニクが作られるのは、いつなんだ。

 

 眷属にした二人は……数日で日光が大丈夫になった。優秀過ぎて泣けてくる。ただ、大丈夫になるまでは日光を浴びると相当苦しい様子だったから、これは要注意として覚えておかないとな。

 それに、俺と契約状態になるような感じで、念話や魔力供給が出来た。直射日光で能力が落ちるようだけど、魔力量も増えたし再生能力も得たようだ。魔力さえ十分なら食事すら不要で、むしろ精霊化に近い気がする勢いだ。ゼロの姿も見えるようになったらしいし。

 吸血鬼として見ると微妙な気もするけど、元々の魔力の素質はそれなりだった2人は、自衛用の戦闘魔法に加え、色々な便利魔法をヴァンに教えてもらってる。何より、ゼロに疑似的な服を着せる事に成功した侍女(リズ)の執念には脱帽するしかない。

 

 世情は、相変わらず100年戦争まっただ中らしい。

 ただ、ウェールズの反乱は鎮圧された。フランスから遠征軍が合流したのに、この体たらく。造物主ざまぁ。

 ようやく近場の火種は解消されてご機嫌のオットーが、これで安心して外に出られると誘いに来たんだが……日光の問題で、まだ出れないんだよな。

 その時、話題を変えるついでに、宿みたいなのを作って海賊と繋がりを持つと将来的に交易で有利になるんじゃないか、とか言っておいた。

 機嫌がいいせいか、随分と乗り気だったんだが……余計な事を言ったか?

 

「いえ、良い事ではないでしょうか」

 

「心を読むなよ」

 

 しかも執事(マシュー)は使っていたカップを片付けてるから、こっちを見てもいない。

 そもそも片付けは侍女(リズ)達の役目じゃないのか?

 

「表情を見れば、何となく分かります。

 ですが、戦争が終われば交易も増えるでしょう」

 

「だけど、あと数十年だったか……まだまだ終わりそうにないからな。

 その後の為にってのは、自分で言ってて微妙だなと」

 

「海運をある程度制御出来るのであれば、大きな益が得られます。今でも海を行き交う海賊がいますから、それらから安全に品物を得られるのであれば、利は大きいかと。

 海賊達が船を襲う際も他国の船に限定させ、イングランドの船に被害を出さない様にすれば、王にも喜ばれるでしょう」

 

「……中世、こわっ!」

 

 略奪ありの時代なんて、こんなもんなのか。

 誰が主導してるかは勘違いしてたけど、魔女狩りもあるわけだし。そりゃ、人類の敵みたいに見える吸血鬼で賞金がかかってるとなれば、追い回されるよな……

 

「この場ではとやかく言いませんが、その言葉は現在使われておりません。

 言葉使いも併せて、気を付けた方がよろしいでしょう」

 

「さっきの会話では気を張ってたんだ。ちょっと気が緩むぐらいは大目に見てくれ」

 

 流石に、オットーとの会話でぼろは出せなかったしな。

 マシューとリズには俺の前世についても少し話してあるから、またやってると窘められる程度で済むし。

 ぼろを出せる相手がいるって、いいよな。

 

「普段の気の緩みが、思わぬ失敗を産むものです。

 それに、フランスに蝙蝠を飛ばす計画が進み、必要な情報が集まれば旅に出るのでしょう? それまでに、改善しておくことを強く進言いたしますぞ」

 

「そうだけど、多分、あと15年以上先だ。

 物覚えの悪い生徒で悪いが、これからもよろしく頼む」

 

「全力で承りますぞ」




「この先を書く予定はありません」と書いたのは、2012年の12月(公開は2013年元旦)です。
あれから、2年半。
「青の悪意と曙の意思」の完結に伴い、凍結解除という事になりました。

取りあえず、当面は隔週ペースでの投稿になる……かも? です。
プロットの簡略化に伴うイベントの圧縮等があるので、調整に手間取ると、投稿が遅れる場合があると思います。
元々が「青の悪意と曙の意思」よりも手間がかかる内容ですので、ご了承ください。


2015/12/22 (新)での置き換えを行いました。
2016/04/11 福眼→眼福 に修正
2020/08/09 自身が無い→自信が無い に修正


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始動編第04話 第2形態

 隠遁生活が20年目に突入した。

 オットー・マクダウェルが10年以上かけてロンドン南東の海に面した領地をもつ貴族と交流を持ち、合同で海賊が主要顧客の宿マーメイド・インをオープンさせたり、オットー・マクダウェルの子供が生まれたり、その子供たちにおねえちゃんと懐かれたり、口調を矯正したつもりが普段は漫画のエヴァンジェリンに似た感じになってしまったりと、まあまあめでたい事が多いと思っていた、そんなある日。

 空には大きな月が輝き、私は……

 

「……どうして、こうなっているのだ……」

 

 私は月を見上げながら、私を見下ろしていた。

 何を言ってるのか分からないと思うが、心配するな。私にも分からん。

 

「外から見えるだけでも、かなり大きな魔力を感じます。

 ようやく魔力が馴染んだ、という事でしょうか?」

 

 隣に浮かぶゼロが、不思議そうに私を見ている。

 だが、話はそんなレベルではない。

 

「私は……ヴァンに、月と同化したと言われていた。

 どうも、それを甘く見ていたようだ」

 

「というと?」

 

「……恐らく、月の視点として、私を見下ろしている私がいる……と言う表現が一番しっくりくるだろうな。

 というか……月から見える範囲ならどこでも見放題……なのか?」

 

 いや、事実として見えているのだから、疑問を持つ余地も無いのだが……

 ん? 転移の……この魔力は、ヴァンか。

 

「おひさ~」

 

 窓の外から私の顔を見付けると、しゅた、っとどこかの軍の敬礼をするヴァン。

 相変わらず悪戯小僧系の笑みを浮かべてる辺りが、どうにも小憎たらしい。

 

「久しぶりだな。

 来たのは、この状況の説明だな?」

 

「そうだよ、無事にリミッターが外れたみたいだからね。

 おめでとう、これで月との同化が完了したはずだよ」

 

「その効果は何だ?

 日光を浴びても大丈夫とか、その程度ではない様にしか思えん」

 

 増えた魔力はともかく、増えた視点は異常だ。

 

「うーん、予想でしかないんだけど……間違ってるかもしれないと思って聞いてよ。

 まず、僕の実体験から言うと、魔力やらが動かせる範囲なら割と自由に転移出来るんじゃないかな。影とか水とかをゲートにするみたいに、自分の魔力もゲートに使えるみたいなんだよね。

 普通の人だと狭くて使い道が無いけど、今のエヴァにゃんなら、月の魔力が強い場所には行けるんじゃないかな?」

 

「月の魔力が強い……夜で月が見える範囲、くらいか?

 そうなると……」

 

 今は満月の夜が始まってしばらくした頃だ。月から見る範囲は、ヨーロッパからユーラシアのかなり広い範囲……か。

 試すにしても、まずは近距離からだな。屋上……あっさりと成功か。

 魔力の消費も気にならないレベルだったし、少し離れてみるか?

 手頃な目標は……

 

「エヴァにゃん、先に説明を聞く気は無いかな? かな?」

 

 ……追ってきたのか。

 

「実験はいつでもできるから、予想だけでも聞いておいてよ。

 えーと、部屋に戻る?」

 

「ここでいい。認識阻害や防音の結界は展開してあるし、外の空気が気持ちいい。

 こんな気分は久しぶりだ」

 

 そもそも、なるべく外に出ないようにしていたのが原因ではあるんだが。

 認識阻害も完璧にできていたわけじゃないし……さっきまでは魔力量も心許なかったからな。

 

「そっかそっか。うん、今日は月も良く見えるし、いい感じに同化したんじゃないかな。

 というわけで、月が大丈夫な事は、概ね大丈夫になるはずだよ」

 

「……意味が分からんぞ」

 

「簡単に言えば、日光を浴びても大丈夫、間違いなく耐久力が上がってる、多分毒も効かない。

 きっと宇宙に放り出しても問題無いんじゃないかな」

 

「……ますます意味が分からん。チート臭が漂うらしいと理解したが、月が大丈夫なら私も大丈夫とは、どういう理屈だ?」

 

「そりゃあ、エヴァにゃんは月と同じ存在になったんだよ?

 宇宙にあって、日光を反射して輝く、無機物の月だよ?

 隕石がぶつかっても、ちょっと怪我する程度だよ?」

 

「その理屈なら……とりあえず、日光と毒は理解しよう。

 だが、隕石は圧倒的な大きさがあってこそのはずだ。少なくとも月が地球とぶつかったら無事では済まんし、隕石と比較すると私は小さいはずだ」

 

「うん、見た目ではそうだね。

 でも、魔力的に月と同化したって言ったよ。よーするに、エヴァにゃんは月なんだよ。

 その体は端末的な? 月が無事である限りは、体が完璧に壊れても簡単に作り直せるはず。僕のこの体もそうだし」

 

 やはり月から見下ろす視点は、月としての私の視点という事か。

 しかも、この体は末端に成り下がった、と。

 済まない、ゼロ。この体の意味が、私の魂をこの世界に呼び、チート化するための触媒に成り下がってしまっていたらしい。

 

「というわけで、エヴァにゃんに提案があります!」

 

「自分で胡散臭いと思わないのか?」

 

「思わないなぁ。

 えっと、エヴァにゃんには旅を進言するよっ!」

 

「……旅?」

 

「そう。認識阻害だって、そこまで便利じゃないんだよ。知ってることはごまかせないから、あと5年もしたら、成長しないお姉ちゃんに違和感を持たれるんじゃないかな。

 それに、引き籠ってたら能力の確認もやり辛いし、そろそろ未来に向けた組織を作り始めた方がいいかなって」

 

「あまり眷属を当てにするな」

 

 支配能力は無いし、心情的にはあまり増やしたくないんだ。

 

「当てにするよ? その為に可能な限り頑張って調整したんだから。魔法使いに対抗可能な裏組織を作るには、最低でもそれくらいの力は必要だと思ってるし。

 それにさ、魔女狩りだって本当に悪さをする魔法使いがいるから激化してるのも事実なんだ。

 実際に、いるんだよ。正義正義と騒ぐ狂信者とか、英雄の眩しさに目を潰されちゃって思考停止した盲信者とか。やってる事は、どっかのテロ組織と変わんないよ」

 

「……頭の固い連中はいたと思うが、そこまでこけ下すほどか?」

 

「現実を見ちゃうとね……2000年頃の価値観で中世を見ちゃダメなのは分かるけどさ。

 奴隷がいて、賞金首がいて、正義を騙る悪人がいるんだよ?」

 

「元の時代にも、社畜や途上国の労働者、懸賞金をかけられた犯罪者、詐欺師同然の政治屋がいただろう。

 人がやることは、そう変わらんさ」

 

「ああっ、エヴァにゃんが黒化してるっ!?」

 

「貴族と渉りあうためのあれこれを学んで、変わらずいられるほど強くないだけだ。

 元々綺麗だったわけでもないが……その点、ゼロはすごいな」

 

「本来のエヴァンジェリンだからねぇ。

 で、話を戻すけど、正義を騙るバカ……ある意味では厨二病の犠牲者だけど、そいつらに利用された人とか、暴走の犠牲になった人を、少しは助けたいんだ。

 本来は、僕が厨二病を止められたらいいんだけど……まだ魔法世界を救う目途も付いてないし、説得できる自信もないから」

 

「そのついでに私の眷属で組織を作り、火星を何とかするための技術や資本を揃えようという魂胆か」

 

「その通り。えっと、えぐざくとりー?

 超が来るかどうかも分からないし、来た時に協力させられるくらいの組織力は必要でしょ。多少は未来を知ってるから、どこに力を入れるべきかとか、ある程度は判断できると思うしさ。

 それに、混乱を回避するために必要なのは、組織力だよ。間違いない」

 

 テラフォーミングする事も大変だが、その情報が広まった際の混乱やら横槍か……確かに鬱陶しいな。

 表の権力者は入れ替わりも激しいし、今から動くとすれば、最終的に金融やら石油やらを押さえるのが理想か?

 いや、その為のコネは必要か。どうせならイングランドの王室が……そのまま生き残るのか? 確か色々変わってた気がするが。

 それならむしろ、今からシティに食い込み、アメリカの開拓時代に手を出す方が……

 

「おーい、エヴァにゃん?」

 

「……何だ」

 

「えっとね。いろいろ言ったけど、中心的な役目を任せる眷属をいろんな国で作って、組織作りはある程度任せていいんじゃないかな。

 支配力はないけど、よっぽどひどいことをしない限り、裏切られることはないハズだしさ。

 だって、親子並みの親愛感情だよ?」

 

「それは、そうなのかもしれんが……」

 

「あ、そうそう。

 今はまだいいけど、戦国時代くらいには日本に来て、世界樹の周りを押さえてくれると助かるかな」

 

「メガロ相手にぼったくれという事か?

 テンプレだな」

 

「違う違う。その意図もないわけじゃないけど、それはおまけ、副次効果だよ。

 世界樹の魔力って、精神に干渉しやすいんだよね。認識阻害とか、発光時の告白成功率120%とかも、どうもそのせいみたいなんだ。

 だから、制御を手伝ってほしいなーと」

 

「造物主が気付く可能性は?」

 

「日本に興味がないみたいだから、ほぼ無いかな。僕が知ってる限りでは、日本に来たことは1度もないし。

 造物主は地球で転移するより、魔法世界で転移する方が楽だからね。世界樹の地下にオスティアへのゲートはあるけど、大抵はメガロ近くのゲートとウェールズを行き来してるし、稀に中東に行くくらいだよ。

 だから、ぶっちゃけここよりも日本の方が、目に留まりにくいと思うよ。エヴァンジェリンに目を付けたのも、気軽に行ける範囲で適性が高そうな人を探したからだし」

 

「……聞けば聞くほど、どうしてゼロが犠牲になったんだと思わされるな。

 だがまあ、旅して組織を作る理由は理解した。その範囲は……魔法世界を含むのか?」

 

 火星に手を出した時の混乱は、地球だけでは済まないだろう。

 前提によっても色々変わるが、少なくとも、魔法世界も無関係ではいられないはずだからな。

 

「メガロの増長を防ぐ必要があると思うし、いざという時にはヘラスの混乱を抑える必要もあるかもだし……

 うん、必要だね」

 

「だろうな。

 順序としては……まずはヨーロッパ、次に魔法世界、日本はその後でも大丈夫か?

 旅行の前に、能力の把握もしたいしな」

 

「こっそり動く必要があるし、急がなくてもいよ。

 んじゃ、とりあえず色々と調べてみる?」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 その後、ヴァンと調査した結果。

 

「うーん、予想以上にチート?」

 

「だな……」

 

 私という存在は、非常識なものに仕上がっていたようだ。

 

 例えば、使える魔力。

 個人という範囲では、ほぼ無尽蔵と言ってよさそうだ。上位の魔法はまだ覚えていないが、現状の私個人で使える魔法程度では、減った気が全くしない。

 眷属達への供給量もかなり増えているのに、だ。

 実際は月の魔力にも限りがあるのだろうが、魔法世界にすべて突っ込むとかのバカな事をしなければ、そうそう無くなりそうにないのは事実だ。

 

「さすがは、星の魔力だね。

 全属性にそれなり以上の適性があるのと合わせて、まさに魔力チート!」

 

「普通なら過剰だと思うが。

 それに、お前は世界樹を通して地球の魔力を使えるはずだろう?」

 

「僕は間接で使わせてもらってるだけで、エヴァにゃんは同化だからね。

 エヴァにゃんの方が、制限は少ないと思うんだ」

 

「どうだか」

 

 例えば、転移能力。

 月から見える範囲へという条件は付くが、いつでもどこからでもどこへでも移動可能の様だ。移動元から月が見える必要すら無いようだから、実質的に、半日以内に地球上のほとんどの場所へ転移可能という事になる。

 消費はほぼ一定。移動時間は恐らく2秒から3秒でこれも同じ。手荷物やしっかり抱えたモノくらいなら一緒に転移も可能だから、1人くらいなら運ぶことができる。

 恐らくは月を経由した転移であり、天気による制約はあるが、影の転移魔法も飛行魔法もある。そうそう問題にはならないだろう。

 

「んー、予想以上ではあるかな」

 

「お前がここに来る転移は、地球の魔力を使ったものに見えるぞ。

 似たようなものだろう?」

 

「もうちょっと制限が大きいと思ってたんだよ。

 移動元からも月が見えるのは必須だと思ってたし」

 

「それは確かにそうだな」

 

 例えば、アーティファクト。

 化けた。内容ではなく、使い勝手が。

 月経由の転移が可能になり、数を増やした時の能力劣化を魔力によるブーストでカバーする余裕もできた。しかも、魔力の消費は自分で行使する時よりも多くなるが、蝙蝠を介しての魔法行使も可能だった。

 これにより、諜報や索敵の能力が飛躍的に上昇した上に、戦力として数えることも可能に。

 ブースト時の隠蔽に難はあるが、要するに、王城上空に直接転移してくる魔力無尽蔵仕様魔法使いの諜報員(外見は蝙蝠)なんて事が可能になった。

 

「最初に仕込んでおいてよかったでしょ?

 ほめてほめて」

 

「はいはい、えらいえらい」

 

「おざなりだなぁ」

 

 例えば、月としての私。

 月からの視点は、ずっと維持されている。これはつまり、月から見える範囲において、意識さえ向ければ上空からの監視が可能という事だ。

 しかも、その範囲で魔力を動かすこともできそうだから、ひょっとすると、ほぼ任意の場所で魔法を発動させることも可能かもしれない。

 

「お天道様ならぬ、お月様が見てるっ!」

 

「マリア……?」

 

「おっと、キリスト教の国でそれはいけない」

 

 例えば、マルチタスク。

 蝙蝠と月で常に思考が分割されているような感じになっているからか、その思考を利用してマルチタスクじみた魔法の並行行使ができた。

 制限は、蝙蝠を使うなら蝙蝠の近くで発動させること、月を使うなら月から見えること。

 以前の魔力量では基本的な魔法すら発動させられないほど効率が悪いが、魔力量がチート化した今となっては、これもチートじみた効果を発揮するのは確実だ。

 

「マルチタスク、僕もやりたいんだけどねー」

 

「ある意味では偶然の産物だ。

 欲しければ、自分を魔改造することだな」

 

「それはやりたくないなぁ」

 

 例えば、眷属。

 マシューとリズの2人だが、魔力の供給量が増えた結果、真祖の吸血鬼相当という看板にふさわしい能力を発揮するようになったようだ。

 今は技術的に無理でも、将来的には上位魔法を軽々と連発するような、頼もしい……

 

「頼もしすぎだろう!?」

 

「エヴァにゃんの片腕になるには、これくらいできないと」

 

「はい。これでエヴァ様の守りを厚くできますし、ゼロ様にも一層美しく着飾っていただけます!」

 

「……リズも程々にな」

 

 まとめると、増えた魔力を扱うための練習が必須という事だろう。

 同時に、情報収集のために蝙蝠を飛ばし、旅の準備を始めよう。




それでは皆さま、良いお年を。
年越しギリギリの投稿になったのは、隔週投稿のタイミング的に仕方なかったんや……


2016/01/17 転移に関する説明を変更(能力自体の変更は無し)
2018/12/17 使用された人→利用された人 に修正
2020/01/29 できから→できるから に修正


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始動編第05話 欧州

正月だからと、ストックを減らしてみるテスト。でも前話が年末ぎりぎりだったから、三箇日が終わるぎりぎり狙いで、明日から仕事のナカーマに捧ぐ。
ストックに余裕があるわけじゃないので、そのうち遅れるかもしれません。そうなったら、指をさして笑えばいいと思うよ。


 能力が上がってから、2年が経過した。

 魔法の練習は順調だ。私だけでなく、マシューとリズもいくつかの上級魔法を使えるまでになっているし、魔力の隠蔽もそれなりに上達している。

 影のゲートを利用したアイテムボックスもどきも、問題なく維持できている。旅には必須……とまではいかないが、あれば便利だからな。

 検証は遅れたが、体力関係も強化されていた事もあり、体術の調整にも時間を取られた。魔法が使えない場合、つまりは通常時の常用手段となるため、手は抜いていない。

 少なくとも、戦闘力と運搬力の意味では、旅の準備は万端だ。

 

 それと並行して、ヨーロッパ、特にフランスを中心に情報を集めていた時に気付いたが。

 100年戦争の裏に、魔法使い共の影が見える。

 どちらもメガロ系、正確には連合に含まれる別の都市国家のようだが、イングランドとフランスそれぞれの裏で勝手に手助けをしていて、結果的に被害を拡大しているようだ。

 しかも、とある厨二病が更に余計な手出し……具体的には、とある少女に神を名乗って神託っぽい声を伝えるという暴挙に出た。

 

「なるべく見付かりたくないけど、何とかして助けたいよね……ジャンヌたん」

 

 それを言いに来たヴァンは、通常営業だが。

 

「たん言うな。

 とりあえず、造物主には直接見られなければ大丈夫か?」

 

「興味がなくなったら放置するし、情報収集も悪い意味でテキトーだから、たぶんね。

 早めに造物主の興味が外れてくれればいいけど……」

 

「その辺の監視は任せる。

 それにまだ13歳らしいから、オルレアンに行くには時間があるはずだ。急いでも、修正力的な何かにしてやられる可能性もあるからな」

 

「そうなんだよねぇ……」

 

「それにしても、造物主はイングランドが嫌いなのか?

 以前もウェールズの反乱を扇動して王を名乗ったりしていたはずだが」

 

「あー、あれだよ。飯がまずいって文句言ってたのは覚えてるよ。

 フランスのお菓子とか宮廷料理なんかは、割と気に入ってたかな?」

 

「胃袋をつかまれたガキか……」

 

 いや、重要そうな要素ではあるが。

 それだと、今の日本の料理は微妙という事か……?

 

「それだけじゃないと思うから、参考までにね。

 とりあえずは、今はあれだね。旅の準備とか、かな?」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 各地の教会を巡るシスターという体裁を整え、ぐずるオットー・マクダウェルの子供達を宥めすかして始めた旅。協議の結果、お供はゼロとリズの2人となっている。

 マシューは、帰る場所を守る以外に、自分の部下を増やすと意気込んでいる。

 当初からいる侍女は年齢的な問題もあり、私に関する記憶を若干改変した上で、子供達の世話役に転属になった。

 ……こんな手段を取る事に忌避を感じなくなってきた辺り、私も正義(笑)の魔法使いをバカにできなくなっているのだろう。

 

 当初の目的地は、ロンドン。

 シティと呼ばれる、シティ・オブ・ロンドン・コーポレーションの現状を見たかったのだが。

 

「簡単には、食い込めそうにないな」

 

「そうですね。多くの組合が集まる交易都市であり、王室への影響力もあります。

 むしろ、王室より立場が上と言っても過言ではないという噂も聞きます」

 

「それだけに結束は固いし、異分子が入り込む余地は小さい、という事か。

 現時点で無理をする意味もないから、ゆっくり方策を考えるか」

 

 魔法使いどころか人外の気配もあるようだし、無理に食い込むのは反発が大きいだろうからな。

 基盤も何もない現状では、手を出せない事は確実か。

 ならば、次だ、次。街中は汚物臭くてたまらんから、用がないならとっとと出たい。

 

 フランスは造物主が出入りしているため、次は神聖ローマ帝国方面へ。

 内情的にはややこしいらしいが、現時点ではあまり考えたくない……もとい、権力からは距離を置く方針であり、今は考える必要があるほど大きな活動をする組織もないから、目の前の機会を活用して。

 病気で苦しんでいる農家の男性を不自然にならないようゆっくりと治療し、その間に色々と教え、最終的に眷属にしたり。

 大きな怪我を負い長く苦しむくらいならと殺されそうになっていた女性を引き取り、街へと移動する間に治療しつつ色々と教え、結果的に眷属にしたり。

 吹雪の中で倒れていた少女を治療し、帰る場所がないという事でいろいろ教えたところ、眷属化を熱望されたり。

 ……女性は、そんなに年を取りたくないものなのだろうか。

 ともかく、将来発生しうる悲劇を回避、もしくは発生しない事を確認するための組織や技術が必要だという事は伝えてあるが、ある程度自主性に任せて行動してもらう事になっている。

 

 そうこうしている間に時間は進み。

 ヴァンからジャンヌ・ダルクがオルレアンへ出発したという情報を受け、私はモスクワ大公国からフランス……へ戻るのは少々冒険という事で、パリで合流することになった。

 現状ではイングランド領だから、イングランド人の私が滞在してもさほど問題にならず、造物主も最近は来たことがないという理由での選択だ。

 

「いや、遠くまで行き過ぎでしょ。

 いくら相手がロシアな美少女だからってさぁ」

 

「寒波で村が崩壊して決死の脱出中に、体力が尽きて倒れたところを見てしまうとな……

 一緒に脱出した連中も自分が歩くだけで精一杯で、誰の助けも得られそうになかったんだぞ。両親は既に倒れていたようだしな」

 

「不幸少女を視姦してたんだねわかります」

 

「僅かな晴れ間に、月から見えてしまっただけだ。それと、男に恋する自分が想像できないのと同じくらい、他人に百合を強要する気もない。

 それより、造物主はどうなっている。未だにジャンヌのストーカーをしているのか?」

 

「ストーカーって、間違ってないだけに何も言えないね。最初の頃ほどじゃないけど、未だに神託ごっこをしてるし。

 今の感じだと、あと1年か2年くらいで飽きると思うけど……」

 

「1か月もあれば、オルレアン陥落イベントは終わるだろう。

 そこから、死刑まで……早ければ1年か?」

 

 いや、その前にフランス側が押し返すだのといった、戦争の続きが……そもそも、100年戦争の終わりに直接関係するのか?

 そんな細かい歴史なんて、覚えていないぞ。

 

「実際の歴史通りに動くと仮定するなら、もうちょっと時間はあるみたいだよ。それに、厨二病が手を出してる間はそれなりに危険を回避してもらえると思うんだよね。

 問題は捨てられた後、かなぁ」

 

「助ける気がなくなったらアウトになるから、その時に掻っ攫えばいいという事か」

 

「身も蓋もない言い方だけど、そうなりそうで嫌だなぁ」

 

「ギリギリになり過ぎない程度に、うまく誘導や監視をしてくれよ?」

 

「うん、それはムリっ!」

 

「そこが失敗すると、取り返しがつかないんだが」

 

 私が造物主を監視するわけにはいかないんだ。

 動くべき時に動けなければ、どうにもならんぞ。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 パリで眷属にした女性と色々な情報を交換したり色々教えたりしながら過ごす事、2年近く。

 郊外の村を見て回った際に魔女狩りから助けたのはいいが……資産を奪う目的でのでっち上げで殺されるとは、やはりこの時代は命が安いらしい。子供のいない未亡人は、確かに社会的に見れば弱者だろうが、気に入らん。

 

 それはともかく。

 ジャンヌ・ダルクから造物主の興味が外れた、正確には英雄化に成功して満足したようだという連絡をヴァンから受け、介入のタイミングを探ってみたが。

 

「すでに詰んでいないか?」

 

「だよねー。こんなことになってるから興味がなくなったと確定できたんだけど、どうすりゃいいんだって感じだよ」

 

「見捨てられた、もしくは取引材料として使われたと判断すべきでしょう」

 

 私、ヴァン、ゼロの3人から見ても、終わっていると言わざるを得ない。

 最後に造物主が様子を見に行った1週間後にジャンヌがブルゴーニュ軍に捕らえられて捕虜となり、英雄と祭り上げているはずのフランスは身代金を支払う気配もなく、イングランドに売り飛ばされようとしているというのは……最終的に異端詰問の後で処刑されたことを考えると、史実なのか?

 

「けど、ここで助けると……」

 

「ブルゴーニュとイングランドの関係が破綻しかねません」

 

「私達も一応はイングランド貴族の保護を受ける身だ。国が荒れる原因は作りたくないし、脱走して行方不明という結末でジャンヌは聖女になれるのか?」

 

「ムリだね。うん、わかってるよ。脱走しようとしてるのも全部失敗してるし。

 ここまで来たら、最後の手段かな。処刑の現場に天使風に介入しちゃおう!」

 

「……何を考えている?」

 

 そもそも、その計画なら私が表に出るのか?

 まだまだ姿を隠しておくべき時期だ。多くの問題を抱えることになるが……

 

「いやぁ、どうせなら天使に救われた聖女ってアピールしちゃおうかと。

 あとはこれの存在だね。ぱんぱかぱーん、年齢詐称薬~」

 

「効果音が間違っていないか?」

 

「反応そっち!?

 年齢詐称薬だよっ!?

 エヴァにゃん大人バージョンでぼんきゅっぼんだよっ!?」

 

「いや、ネギまだぞ? もうあるんだなとしか思えん。

 それに、私の精神は男なんだ。自分が美女になってもあまり喜べん」

 

「えー? 美女になって隅々まで堪能するのって、男の夢だよー?」

 

「どう考えてもゼロに失礼だ。

 それに、一応は自分の体になっているんだ。ナルシストになる気もない」

 

「むー……」

 

「姿が変わらなくなった身ですから、成長した姿に興味はありますよ」

 

 何がそんなに不満で、興味津々なんだ。

 処刑の現場介入は考えてみる必要はあるだろうが、衆人環視の中で決行は……大丈夫なのか?

 

 

 そうは言っても、いい状況やタイミングがなければどうしようもない。

 異例尽くしの異端詰問、明らかに冤罪とわかる映像や音声はヴァンが持ってきた魔道具で確保したが、それを大っぴらに使うわけにもいかず。

 とうとう迎えた、1431年5月30日。パリの北西にあるルーアンの広場で、ジャンヌは柱に括り付けられ、火を放たれた。

 

「これはどうしたもんかなぁ」

 

 広場が微かに見える路地で、ヴァンが困った顔をしている。

 

「立会人以外に、野次馬が多すぎる。

 ジャンヌは掲げてもらった十字架の方を見ているようだから……まあ、何とかしてみよう」

 

 自分で突っ込むのは、色々手間がかかりすぎるがな。

 先ずは、蝙蝠に強力な認識阻害をかけ、十字架の前に。そこでジャンヌと視線を合わせて……

 

「……幻想空間(ファンタズマゴリア)

 

 さあ、来るがいい。

 死ぬまでの猶予くらいは、用意するぞ?

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 ……ここは、どこだろう。

 私は、卑怯なイングランドの背教者達に火炙りにされていたはず。

 だけどここは……青い空。広い草原。それ以外は……何も、ない。いない。

 ひょっとして、天国?

 

「ここはある意味で暖かな夢、ある意味で非情な現実の世界だ。

 突然で悪いが、招待させてもらった」

 

 ……さっきまでいなかった、女の子。

 服装は、シスター。だけど、どこか人とは違う風格がある。

 敵意は、ない、かな。

 

「早速で悪いが、時間が無いからな。手早く説明させてもらうぞ。

 最初に知っておいてほしいのは、お前に声をかけていたのは、少なくともその一部は“神”ではなく、少なくとも私達が主や神と呼ぶ存在ではなかった、という事だ」

 

 どういう事?

 私は確かに、神の声を聞いた。

 その声に従い、フランスを勝利に導いた。

 

「勘違いしてほしくないが、決して、お前の信心を疑っているわけではない。

 私が許せないのは、その信心を弄んだ、神を名乗る紛い者だ」

(神の声は、この様に聞こえていたのではないか?

 これは秘匿されていて、ごく少数しか知る者がいないが、人が使う技術だ。

 他者の無知を弄び気紛れに捨てるような、人の影で蠢く者を、神の愛を冒涜する者を、私は神と認めない。

 人を導き人のために尽くした救い主たるイエスも、神を名乗りはしないのだ)

 

 しかし、私は、人々の平和を求めて戦っていた。

 それも嘘だと言うの?

 

(お前の、人々の平和を願う気持ちに、嘘はないだろう。

 イングランドの司祭が異端詰問で不当な行為を行ったのも事実だ。

 だが、フランスに肩入れする紛い者、あからさまに依怙贔屓する者が、お前の気持ちを利用していたのも事実なのだ)

 

 それは……私は、神の御心を裏切る行為をしてしまったの?

 

(私には、神の御心を知る術はない。

 今、私が話していることも含めて、全てが運命なのかもしれない。

 だが、これからを決めるのは、お前自身であってほしいと願おう)

 

 これから?

 ……私にはもう、神のもとへ旅立つ道しか残されていないはず。

 

(それも、1つの道ではある。

 だが、フランスを支え続ける道も残されている。人の道から外れる覚悟が必要だがな)

 

 それは……

 

(私は既に人の道から外れた、外された身だ。だから、人であるお前に適切な助言はしてやれん。

 それに、ゆっくりではあるがお前の身が焼かれているのだ。あまり時間はやれそうにない)

 

 それは……その道は、人に堂々と誇れる事?

 それとも、罪を重ね続ける事?

 

(社会の闇、裏の世界は大きく、それ自体が人に知られては混乱を招くものとなっている。

 いつか人々を守り続けたと誇る事ができるようになるかもしれんが、それまでは、私も罪を重ね続けるだろう。

 それでも私は……守りたいものがあるのだ)

 

 それでは……その為には、悪魔と呼ばれてもよいと覚悟を決めたの?

 

(私が信じる道が罪に塗れていると言われても、私はそれを受け入れよう。

 そもそも、教会とて、全員が敬虔な信徒ではない。お前を貶め、偽りの罪を作るような自称聖職者共に悪魔と呼ばれようが、それは私が歩みを止める理由にはならん)

 

 その為に、私を求めたの……?

 この、異端と呼ばれる私を……

 

(私が求めるのは、共に歩める仲間だ。そして、お前とは分かり合えると思ったのだ。

 英雄や罪人と呼ばれる者であっても、真実もそうとは限らん。どれほど悪く言われる者でも、手を取り合い信じることが出来ると思えるならば、手を伸ばしてもいいだろう?)

 

 だから、私を……それなら、貴女の望むものはなに?

 守りたいものは?

 

(現状では予言じみた情報ではあるが、多くの者が犠牲になる大きな破滅が予見されている。その情報が正しいのかを確認し、もし破滅が現実となるなら、それを防ぎたい。

 その為には多くの人の協力が必要となると考え、こうして行動しているところだ。

 表立って動くことはできんし、今はまだ秘密裏に協力者を集めている段階だが、中には私と同じように人を外れる者もいる。私が人を外させてしまった者は、巻き込んだ者の責任として守りたいとも思っている)

 

 つまり……貴女もまた、神の声を聞いた人?

 いえ、私とは違う。

 何らかの誤りがないか確かめながら、正しいと信じる道を歩もうとしている。

 それもまた、試練?

 

(神の試練と悪魔の誘惑は、表裏一体と言える。

 苦境に喘ぎながらも真理に触れることが出来れば、試練を乗り越えたと称えられるだろう。

 だが、苦境を呪い、他者を羨むのであれば、それは悪魔に誘惑されたと言われるだろう。

 聖人が堕ちぬよう、神がサタンを遣わされた例もあるのだ。私は、私の行動で仲間達が悪と呼ばれぬ未来となる為に行動する事しかできん)

 

 やはり……私とは違う。盲目的に従った私とは。

 私の願いは。私が進むべき、道は……




最後の「エヴァとジャンヌの会話」への軽い突っ込みとちょっとした言い訳は、次話で。


補足:
エヴァは眷属に対してたまに状況報告を求める程度で、何らかの行動を起こす際や、更に眷属を作る際の相談や報告を必須としていません。
基本的な指針は通達してありますし、エヴァは眷属化してしばらくの間頻繁に念話などを使った指導もしているので、それらに従い各自の判断と責任で行動する事を求めています。
もちろん相談にはのりますが、第2世代以降の眷属が増えたら全員を管理する事は不可能ですし、エヴァも各地特有の事情などを把握しているわけではないので、かなり緩い体制となっています。


2016/01/04 はやり→やはり に修正
2017/05/15 交換たり→交換したり に修正
2020/01/29 以下を修正
 “神”ではない、→“神”ではなく、
 句読点
2020/08/09 はやりこの時代は→やはりこの時代は に修正


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始動編第06話 イングランド

「いやぁ、なかなか堂に入ったシスターっぷりだったね。

 詐欺師って言葉が裏にありそうだけど」

 

「ある程度は学んだし、日本的な無宗教の感覚ではどうにもならん事も痛感したからな。

 本当に宗教は厄介だが、お前の意見を却下しておいて正解だったぞ」

 

「それはゴメンってば。でも、憧れるよね?」

 

「憧れと現実を混同するな」

 

 幻術で大人化し白い光に包まれた状態で一瞬のうちにジャンヌを連れ去ったものだから、色々な騒ぎになっている。翼も作るというヴァンの主張を却下しなければ、イングランドが糾弾されるどころでは済まない勢いになっていたのは間違いない。

 そんな感じでヴァンと突っ込みを入れあうような経過を経て仲間となったジャンヌだが、パリの眷属と会わせた結果、ジャンヌもまた眷属になった。

 その後もしばらく一緒に旅を続ける事、東の方向。

 途中のちょっと大きな都市で、魔女狩りの被害にあう寸前の貴族の侍女を助けたり。

 

「この時も、似非シスターだったよね」

 

「よく調べたら、魔法使いの貴族がドジで侍女に魔法を見られて、説得のためにこっそり会っているのを新婚で魔法について教えてない妻に勘違いされた、とかいう間抜けな話だったんだが」

 

「それで侍女に嫉妬して魔女認定するって、貴族の女性って怖いよねぇ」

 

「ああ、恐ろしいな」

 

 そこから南東、イタリアの方へ足を延ばし、ローマ……は危なそうなので、フィレンツェに行ってみたところ、事故で死にかけてた商人を眷属化したり。

 

「政府が役立たずで、しかも分裂してるみたいだし。

 食い込むにはちょうどいいんじゃない?」

 

「無茶して特異性が広まるような事にならなければいいんだが……」

 

 北の方へ戻ってみたら、魔法使いでもある貴族の女性に気に入られてしまい、眷属化することになったり。

 

「得た影響力としては、これまでで最上だとは思います。

 ですが、良かったのですか?」

 

「ゼロの心配も分かるが……やったものは仕方がない。

 それに、最初から私達が人外だと気付いた上で、偏見も無しで接してきた相手だ。無下にはしたくなかったからな」

 

「亡くなりかけだったとはいえ、お互いお人よしですね」

 

「かもしれんな」

 

 マシューから話をしたいという蝙蝠通信(置手紙による電報風味。常時監視は面倒だしマシュー達からは念話を繋げられないので、伝えたい事を書いた紙を所定の場所に置く事にしてある)を受けてイングランドへ戻ってみると、育てている第2世代眷属の侍女を紹介されたり。

 

「紹介しましょう。

 家族を流行り病で亡くし、引き取って教育することになった侍女の2名です」

 

「ノエルと申します」

 

「ノ、ノアです」

 

 ……うん、落ち着こう。ノアは男性名だろうとか、彫が浅くて若干東洋風なのはなんでだろうとか、ちょっと若い気もするけどどうしてリリカルなノエルさんがいるんだとか、妹がファリンじゃなくて良かったとか、考えない。考えてはいけない。

 まず、最初に聞くべきは。

 

「2人とも眷属の様だが、説明は充分に理解されているな?」

 

「両名共に、説明と納得の上での眷属化ですので。最も、ノアは引き取った時点で体調を崩しておりましたので、少々強引ではあったかもしれませんが。

 ノエルは本人の希望により、成長を待ってから眷属化しております」

 

「ああ、だからノアは私と同じ程度の年齢に見えるのか」

 

 ノアはファリンを更に幼くして、髪の色を水色に近付けた感じか。私と身長がほとんど変わらないから、10歳前後なのだろう。

 ノエルは改めて見てもあのノエルに見えるが、少し若いか? 自動人形ではないだろうが……まさか、将来はゼロと一緒に人形になるとか言わないだろうな。

 

「私達についても説明済みだな?」

 

「当然です。

 ゼロ様も見えているようですので、不自由はないかと」

 

「はい。エヴァンジェリン様の斜め後ろに居られる方も、はっきりと」

 

「み、見えますっ!」

 

「そうですか。滞在はあまり長くないかもしれませんが、働きを見せてもらいましょう」

 

「はい。マシュー様に教わった技術、お試しください」

 

 ゼロに評価されるのは、ある意味では苦行かもしれんが。音もなくそこにいるという意味で。

 それはともかく、これだけなら私を呼び戻す必要も……あるのか?

 10年近く離れていたわけだし……

 

「ところでマシュー。本題は何でしょう?」

 

 やはり、ゼロもその点は気になるのか。

 

「はい。エヴァ様に会っていただきたい方がいるのです。

 ただ……ジャンヌ殿には、少々因縁がある相手でもありましょう」

 

「いえ、私も無知だったのです。

 国を率いる者が自らの国を優先する事、同じ事象でも立場が違えば見方が変わる事は、理解できるようになりました。

 私の気持ちは気にしないでください」

 

「だそうだ。立場や見解の差異についてもある程度は教えているし、今は私達の仲間だ。

 続けてくれ」

 

「それでは。

 相手は、ジョン・オブ・ランカスター。イングランド領フランスの宰相となります」

 

「……大物過ぎないか? 王族出身の一代公爵だと聞いた覚えがあるぞ。

 それに、どこまで話せるのか、情報はあるか?」

 

「ブルゴーニュとシャルル7世が和解したことで、随分と気落ちしているようです。体調も優れないようですが、新たな目標を得ることで立ち直るかもしれません。

 魔法世界の魔法使い達とも交渉を行っていたという情報を得ていますので、少なくとも魔法に関する最低限の知識はあるでしょう。

 宰相を任される程の政治力や外交力を得る機会ではないかと愚考した次第です」

 

「実際の能力は高いのか?

 お飾り宰相では役に立たんぞ」

 

「方々に気を使うタイプですし、宰相として指示してきた内容や結果を考えますと、もしジャンヌ殿が現れなければ、オルレアンはイングランド領となっていたでしょう。

 ジャンヌ殿のような神がかった相手でもなければ、十分な能力を持つと推測できます。短期的にはジャンヌ殿に敵わないと判断し全力で排除しようとしておりましたから、判断力や行動力もあるかと」

 

「……私は、神を名乗る者の……他者の言葉に従っていただけです。

 私が神の加護を得ていたのではないでしょう」

 

「あまり自分を卑下するな。

 元は他者の言葉だとしても、それを実行し、成功させたのはお前自身だ」

 

「ええ。現場を動かすのは、現場に立つ者達です。

 たとえ完璧な指示が与えられていたとしても、実行できなければ意味がありません」

 

「ありがとう、ございます……」

 

 うーむ、ジャンヌをいじめ過ぎたか?

 まだ過去を吹っ切れてないせいか、以前の事を話す時だけは内気な少女になるようになってしまったんだが……賊が現れた時の凛とした態度とのギャップがひどいな。

 

「話を戻すが、宰相と話をするのはいいが、面会の先触れは出すべきか?」

 

「はい。了承され次第、手配可能な状態を整えております」

 

「なら、任せた。

 ところで、シティにつながる伝手は無いか? すぐというわけではないが、100年以内を目標に、ある程度は食い込んでおきたい」

 

「シティ・オブ・ロンドン・コーポレーションですか。なかなかに強固な相手ですが……マーメイド・インの成功をうまく利用すれば、不可能ではないかと。

 ですが、深く食い込むのは難しいでしょう」

 

「それなら……宰相にも動いてもらう事は有効か?」

 

「シティは王家にも影響力を持つため、良い手とは言い難いでしょう。それに、伝手を使って関係を持てたとしても、力が足りなければ使い潰されてしまいます。

 時間はあるのですから、慌てず地力を蓄えることが最良の手段だと思われます」

 

 やはり、シティは一筋縄にはいかんか。

 恐らく時間の余裕はあるだろうし、のんびりの方針を継続だな。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 あれから、色々あった。

 ジョン……名で呼ぶと何となく安っぽいが、元フランスの宰相を眷属に迎え入れ。

 ジャンヌと会わせてみたら、お互いにひたすら謝罪して。

 いや、自分の非を認めない人種ばかりだと思っていたから、私も驚いたのだが……どうやら私の仲間という同じ立場となった以上は、過去を清算する必要があると2人が考えた結果らしい。

 その後2年ほど、互いに色々と研鑽しあった後で、ジャンヌはフランスへと戻っていった。

 

 その間に私は、増えた眷属との連携を取りやすくするため、眷属用の超長距離念話魔法を開発したりしていた。私から繋げばいつでも話せるのだが、眷属達から私に繋ぐのはあまり遠距離だと難しく、眷属間の通話も私が間に立たねばならんのでは不便だからだ。

 結果、力技もいいところで消耗が激しいものの、マシューがナジェージダ……モスクワ大公国にいる眷属に念話を繋ぐことに成功した。もちろん、限界はある。ノエルやノア、つまり第2世代の眷属の力では届かなかったから、要改良といったところか。

 これらの魔法開発を言い訳に、私自身の練度不足解消を目指してもいたが、まだマシになったと言える程度にしかなっていない。派手に力を使うわけにもいかないから、今後も地道に練習するしかないだろう。

 魔法を最適化するにも、情報源がヴァンだけでは知識が不足しすぎる事もある。やりたい事もあるし、眷属達の活動も始まっている。

 当面は自分の能力……恐らく無駄にはならない、魔力制御等の技術を磨くことに専念しよう。

 

「と、思っていたのだがな」

 

「おやおや、可愛い後輩にため息をつかせるとは。

 誰でしょうね、そんな事をしたのは」

 

「お前のうさん臭さだ」

 

 正直に言えば、これは予想以上だ。

 ヴァンがこっそり連れてきたのは、もちろんアルビレオ・イマ。

 外見は白ローブを着た優男で、武道会に出た時と大した差はないように見える。ローブの布は、この時代にしてはかなり上等か。

 転生者として先輩という点に嘘はないらしいが、何だろうな、この信じたくなくなるような怪しい雰囲気は。

 

「ほら、やっぱり人格がにじみ出てるんだよ」

 

「何を言うのですか。私は正真正銘の紳士ですよ」

 

「ルビにヘンタイとかロリコンとか付くタイプの、だろう?」

 

「いえいえ、お互いに益のある提案のつもりだったのですよ」

 

「お前の益が変態方向だと言っているんだ」

 

 全く。会っていきなり仮契約をしましょうとか、何を考えているんだ。

 色々な方法がある事は知っているが、確実にキスでやろうとするぞ、この変態は。

 

「もっとお話をしたいのですが、残念ですね。

 この通り、色々な魔法の資料を揃えてきたのですが」

 

「魔法の資料?」

 

「ええ。ヴァンが使ったような、血の接触を媒介とする契約魔法もありますよ。

 大切なのは、互いの魔力の接触ですからね。口は魔力が出入りしやすい場所なので、魔法的な経路を繋ぎやすく、念話と言う声をベースにする魔法との相性も良いのですよ」

 

 本にまとめてあるのか。

 パラパラめくっていた時に中がちらっと見えたが……構造やらの情報も含んでいなかったか?

 契約以外の魔法もあるようだし、魔法についての知識を深めるには良さそうに見えるな。

 

「……その資料が欲しい。それには、キス以外での契約方法もあるのだろう?」

 

「そうですね、では、こちらを着ていただければ」

 

「あほかっ!」

 

 なんでこの時代にスク水とセーラー服(上だけ)があるんだっ!?

 中身は転生者なのかもしれんが、思考回路がクウネルと同じだぞ!

 

「自分で魔法を組むための指南書や、エヴァちゃんの適性が高い闇や氷を中心に各種魔法の資料も揃えてあります。

 この服を着たところを見せていただくだけで、これらを進呈しますよ。お安いでしょう?」

 

 くっ……金銭という点では確かに安いが、あまりにもゼロに悪いし精神面がガリガリ削られる事に……だが、こんな資料を手に入れる手段は今のところこいつらの他にないし、変態の性質上、他の対価では納得しない可能性が高い……

 ど、どうすればいい。どうすれば変態を納得させられる!?

 

「話は聞いていましたが、これは服なのですね?」

 

「……ゼロ、か?」

 

「おお、今までどこに隠れていたのかと思いましたが、ちゃんといてくれたのですね。

 どうです? 自信作なのですが」

 

 いや、お前(ヘンタイ)の為にいたわけじゃないし、視線が冷たいのに気付いていないのか?

 どう見ても友好的な態度ではないが……

 

「なるほど、この娼婦のような恰好をさせるのが好みという事ですね。権力者にたまにある、自分の欲を制御できずに破滅する人種のようですが……まあ、それはどうでもいいです。

 これを着たところを見せる“だけ”という事ですし、オリジナルで同じ外見の私がその姿となっても問題ないでしょう。もちろんそれ以上と言うようなら、言動に信用できない人物として全力で排除すれば良いですし」

 

 おおぅ、さすがは私と最初に会った時に裸でもあまり気にしていなかったゼロ(ほんにん)。割り切り方が洒落になっていない……が、きっちり毒を吐くあたり、好き好んでるわけじゃないんだろうな。

 

「……のぅ、ヴァン吉や。

 本当に、ゼロが本来のエヴァンジェリンなのかい?」

 

「びっくりだけど、本当なんだよねぇ……おぢいちゃん」

 

 変態の口調が老化して、ヴァンが遠い目をしているが、何を今更。

 どうせ私の方が原作のエヴァンジェリンらしいとか思っているのだろうが、変態だって似たようなものだ。ヴァンは該当する人物がいないから知ったことではないが。

 

「それで、どうするのです?」

 

「そうじゃのう……いえ、このままだとイケナイ方向に目覚めてしまいそうですので、そろそろキャラをちょっと戻しましょうか。

 あの姿も捨てがたいのですが、妥協案を提示しましょう。

 私のアーティファクトをエヴァちゃんに使ってほしいというのはどうでしょう?」

 

「人格コピーなら却下だ」

 

「いえいえ、イノチノシヘンとかいうものではありませんよ。

 魂の自由帳(ココロノシヘン)というアーティファクトで、使用者が望んだ情報を漫画として記録するものです。

 例えば私の記憶から取り出せたのは、ここまでになります」

 

 変態が出してきたのは、明らかに漫画のネギまだな。7巻まで……ネギが弟子入りしたり南の島に行ったりする辺りなんだな。

 つまり、原作知識の補完が目的か。だが……

 

「流し読みして違和感がないが……やけに細部まで再現できていないか?

 ここまで覚えている自信はないぞ」

 

「大丈夫ですよ。このアーティファクトの凄いところは、本人が思い出せなくとも復元できる可能性がある点にあります。

 本人がしっかりと対象を認識したことがあれば、高確率で大丈夫ですね。一度流し読みしただけの難解な契約書を、10年後に一字一句まで再現できた時には驚きましたが」

 

「それは……凄いな」

 

 任意時点の記憶の完全再生に近い……いや、流し読み程度でもいいなら、記憶の元となったであろうものまで再現できる代物、という事か?

 ある意味ではアルビレオらしいとは言えるが、記録の保存と管理には有効だな。こいつの場合は、怪しい用途でも使っていそうだが。

 

「凄いでしょう。いかがですか?」

 

「念のために確認するが、それは、あくまでも“使用者が望んだ情報”のみの漫画化だな?」

 

「ええ。作成直後であれば廃棄も簡単ですので、ご心配なく」

 

「僕も20巻までやったけど、他の情報は取られてないし、大丈夫だよ」

 

 それなら……まあ、許容範囲か。

 私が直接覚えていない部分まで再現されるなら、それなりに得るものもあるだろう。

 

「方法や制限は?」

 

「私が無地のノートに見えるアーティファクトを出しますので、それに手を当てて、何を漫画として再現するかを宣言してください。

 それだけなのですが、宣言の内容を間違えると余計な情報まで漫画になったり、必要な情報が抜けたりします。要注意ですよ」

 

「そのアーティファクトは、離れた場所でも使えるのか?」

 

「無理ですね。アーティファクトの改造方法も不明なので、将来的にも難しいでしょう。

 ノートの形を保てるのは、私から5メートル程です。漫画になってからも5分ほどは不安定なので、その間に私から離れれば消滅してしまいます。その後も燃えたり水で滲んだりしますから、物としての扱いは通常の本と大差ありません。

 私の能力で情報を取り込むには1度きちんと読む必要がありますから、情報の保管を意図する場合は遠隔で使用する利点もありません」

 

 記憶を本にするのがアーティファクト、本を情報として管理するのは変態の能力という事か。

 つまり、変態に読まれる前であれば廃棄可能という認識で良さそうだ。

 

「なるほどな。言っている内容が正しいなら、とりあえず私が見た分を漫画化しよう。

 ただ、完結までは知らないし、説明に嘘があれば容赦なく消すし潰す。それはいいな?」

 

「ええ、問題ありません」

 

 にこやかな表情だが、最初からこれが目的だったか?

 交渉でありがちな、最初に高いハードルを見せて、それを下げる手法……まあ、最初からこの内容ならすんなり認めたと思うから、やはり、変態の趣味と判断すべきか。

 この時点で嘘をつくようなら切り捨てるまでだし、試金石としてはありだろう。

 今でも謎だらけのアーティファクトだ。どんなのになるか、少し楽しみだな。




2020/01/29 以下を修正
 なって→なった
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始動編第07話 NEXT STAGE

 結局アーティファクトの技術は謎のままだし、見た目はそのまま白紙ノートが漫画本に変わるだけで面白みがなかったのだが。

 もちろん原作の内容を改めて確認できたのは間違いないし、ヴァンや変態……もとい、アルにとっては参考にはなるものだったらしいから、有益ではあった。完結していないが残りは1巻のはずだから、ここから大きなどんでん返しは無いだろうしな。

 ただ、ナギと造物主がどうなったのかとか、アリカがどうなったかとか、本当に38巻で完結したのかとか、残っている謎やらもある。それに、介入しようとしている以上、参考程度にしか役に立たないはずだ。

 

 それはともかくとして。変態が持ってきた資料は、とても良いものだった。

 何を言っているのかわからないかもしれないが、技術面……それも、魔法の構造を知り、改良などを行うのに必要な情報が十二分に詰まっていた。

 おかげで、一時契約……通信と魔力供給に特化し、契約も契約解除も仮契約以上に簡易な魔法の開発に成功した。

 身体強化は魔力供給の一環だし、アーティファクトは元々出たりでなかったりするから、十分な完成度だ。しかも、グループ化や掲示板的な機能を持たせることで、複数人数での念話や念話を遮断するオフライン設定、非リアルタイムでの情報交換にも対応。これは既存の契約魔法には無かった強化点で、要するに眷属達の連絡を容易にするために欲しかった技術だ。

 ある意味での問題点は、少しとはいえ契約者全員に常時負担がかかる事と、契約者の魔力量で有効に機能する距離が変化する事くらいのはずだ。通信距離は通常の仮契約よりだいぶ長く出来たし、魔力にモノを言わせればかなりの距離まで届く事も確認できたから、強化点でもある。広い範囲をカバーするには、遠距離の通信を中継する人を配置できるかどうかが問題になるが、既存の技術でもこれは同じだろう。

 知識や技術面で得たものも多い。開発には10年以上かかったが、後悔はしていない。

 いつの間にかルクセンブルクの王族までが眷属になっていたり、ジャンヌの再審議が始まっていたり、百年戦争が終わりかけていたり、ゼロ用のサンプルになればとイタリア方面からマネキン人形もどきが届いたり、ほぼ実物大マネキン人形が動くのはホラーでしかなかったり、仕方なく素材や動かし方を研究してみたがうまくいかずに保留になったりしたが……まあ、あれだ。眷属達が自由に動く事自体はいいことだ、うん。

 

『というわけでさ、魔法世界……特にヘラスへの売り込みをお勧めするよ?』

 

「王族にか? 国やらが使うにも便利だろうとは思うが……」

 

『便利だろうどころではありませんよ。

 これは、インターネットに匹敵する革命になりえます』

 

『魔法世界にだって、まほネットは影も形もないからねー』

 

 魔法が完成し眷属達が使い始めて、改めて感じる情報の重要さ。

 眷属達のネットワークとは別に、転生者3人でも契約してみた。私とヴァンと変態だと、イギリスと日本で通信できてしまったのだが……色々諦めた方がいいんだろうな。普通に話す分には、変態も普通だったのは助かったが。

 それ以前に、

 

『メガロは放置でいいんだな?

 消滅はしないだろうが、情報戦で圧倒的に不利になるぞ』

 

『問題ないでしょう。諜報は常に行っているようですし、そのうち気付きますよ。

 それにヘラスに渡す資料の時点で、エヴァちゃんが傍受しやすいような形式にしておけばよいのです。盗人猛々しいメガロの事ですから、実際に使えるとなったらさも自分たちが作ったかのように宣伝してくれますよ。ついでに、魔導具化もしてくれるでしょう。

 後は、貴重な情報が飛び交うのを見ていれば弱みや様々な情報をゲットです』

 

「そんな事に張り付く気はない。他の方法はないのか?」

 

『ありますよ。要するに情報処理を行う労働力があればよいのですから』

 

「召喚なら却下だ」

 

『いえいえ、ある意味で人工知能のようなものですよ。

 魔法がフレキシブルなのは、精霊がある程度の知能を持つからです。ならば、その知能を人工的に強化すると、ある程度の情報処理もこなせるのですよ。

 例えば私が持つ資料の整理や検索は、強化した精霊が担当しています』

 

『魔法世界だと、図書や資料の管理などで昔から使われてる技術だね。

 簡易的なコンピュータみたいな感覚で使ってるみたいだよ。地球でも裏組織が少ない人で維持するための補佐に使ってるはずだし』

 

「なるほど……確かに、それならありだな」

 

『もっとも、大量の魔力でテキトーに強化してしまうと、精霊の思考が暴走してしまうので要注意です。

 原作の話で言えば、エヴァちゃんにかけられた登校地獄の管理精霊が暴走状態ではないかと考えられますね』

 

 ……所詮はアンチョコを見ながら使った魔法なのか。ナギの悪い意味での適当さがご都合主義という仕事をしたという事になるのか?

 だが、うまくやれば、それなりに優秀な知能を持たせることが可能とも取れるな。うまく遠距離通信の魔法と組み合わせて魔法世界で売り込みに成功したら……いや、それがなくとも便利そうな技術ではあるか。

 

「とりあえず、お前達が私を魔法世界に行かせたい事は理解した。させたい事は、国とのパイプ作り、組織作り、技術調査あたりか。

 組織は私の眷属ネットワークに期待しているのは分かるが、国や技術はお前達の方が向いていないか?」

 

『私は単独で行動する事自体が難しいですから』

 

『僕も表に出られないし、パイプ作りは無理だよ。

 技術も厨二病が関わったのとか基礎的なのなら情報を得やすいんだけど、一般的なのを見下してるから、新しめの便利技術なんかはなかなかねー』

 

 ふむ、こいつらの情報網は、思ったより役に立たんのか?

 技術研究や情報収集の手段も考える必要があるなら、魔法世界に作る組織でカバーするとして。

 現状での不安材料は……

 

「魔法世界での私の知名度はゼロだ。

 そう簡単にヘラスと交渉できるのか?」

 

『お貴族様のメガロよりは、簡単じゃないかな?』

 

『現状ではヘラス連合でしかありませんからね。有力な部族がいくつかあるので、そのどれかに接触できればよいのです。

 将来はどこがトップになるか不明ですが、この技術をうまく使いこなすことができれば、最有力となるのも簡単だと思いますよ』

 

「……簡単に言ってくれるな」

 

 直接の手助けはなし、と。

 情報提供はありがたいし、ある意味では有益ではあるが、こういう時はいいように使われている気がしてならん。

 

「そもそも、月と同化した私が魔法世界に行っても大丈夫なのか?

 火星までパスが通るとも考えにくいが」

 

『大丈夫だよ。僕の分体が造物主と一緒に行動してて、当たり前のように魔法世界にいるから』

 

「心配無用、なのか」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 あれから、色々な(物資や翻訳魔法等の)準備をして。

 インカ……ヴァン曰く正確にはクスコ王国らしいが、その領内にひっそりと存在するゲートが開くのを、私はイギリスにいたまま月から見ている。

 

『エヴァにゃん、そろそろ行かないと。

 ゲートが開いてる時間って、結構短いよ?』

 

 ゲートが開くときは地球の魔力も渦巻くらしく、その状況を知ることが出来るヴァンからの念話が届くが、その程度は私も知っている。

 それにしても、移動したら追跡されないようすぐに指定された場所に転移しろとか……正規の手続きを踏まないのが原因らしいが、本当に大丈夫なのか? そこにある山小屋に色々な資料や多少の食料などが用意してあるらしいし、隠れ家が必要な厄介事が待っている気配がプンプンする。

 

「だが、まあ……そろそろ動くべきか。

 マシュー、留守中は頼んだぞ」

 

「はい。お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

「行ってらっしゃいませ、エヴァ様、ゼロ様、リズ様」

 

「ノエル達も、良く学んでおくのですよ」

 

「はい、リズ様」

 

 何だかリズとノエルが師弟の様な別れの挨拶をしているが……この2人、マシューが言うには侍女としての技術に差はあまり無いらしい。リズ自身も次に会う頃には一般的な侍女としての技術では負けているでしょうとか言っていたから、間違いないのだろう。

 2人の違いは、常時私に侍るリズと、後輩で修行中という事になっているノエルという立場。

 今の私に必要なのは一般的な侍女ではないし、様々な面でリズが筆頭侍女であることは揺らがないらしい。

 

「さあ、行くぞ」

 

「はい。お手を煩わせてしまい、申し訳ありません」

 

 ……いや、私の転移で移動するにはある程度しっかり抱える必要があり、その為に抱き上げる事になったのだが、どうして申し訳ないと言いつつ嬉しそうなんだ。そういうフラグを立てた覚えは無いのだが……

 それはともかく、そろそろ限度だな。転移目標、南米太平洋側山中のゲート。直上に出て、そのまま突っ込めばいいらしいが、乱暴なことだ。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「……リズ。あれから何日経った……?」

 

「おはようございます、エヴァ様。

 あれから5日経過しております」

 

 5日か……未だに頭が霧の中な気がするが、意識が戻ったからには現状を把握するべきだろう。

 まず、ヴァン達の本当の狙いはこれだったのだろうと確信出来た出来事があった。

 

 魔法世界への転移は、無事に行えた。窓も少なく薄暗い建物の中に出た事は覚えている。

 少し見えた外の景色もさほど明るくなかったし、警備員が居眠りしていた点を考えると、恐らく早朝だったのだろう。利用者が誰もおらず、油断しきっていたように見えたしな。

 確かにあの様子なら、即転移すれば大丈夫と言っていたのも納得できた。

 

 問題は、そこから移動するための、2度目の転移後にあった。

 最初に見えたのは、夜の森。

 次に見えたのは、頭上に輝く2つの月……衛星と言うべきなのか? 思ったよりいびつな形の、フォボスとダイモスと思われるもの。

 

 私の記憶は、そこで途切れている。

 

 まあ、何があったかは、想像できている。

 私の視点が2つ増えていれば、自分でも感じられる程度に魔力が増えていれば。嫌でも理解できる。

 ヴァンのやつ……火星の月ともリンクさせてやがった、という事なのだろう。

 地球とのリンクもラグが大きいだけで、繋がり自体は問題があるとは思えない。荒野と魔法世界、つまり火星の表と裏の両方が見えるのは、もはや誤差だろう。

 

「私の意識がなかった間に、どんな事があった?

 それに、ゼロもリズも、体調は問題ないか?」

 

「問題がないどころか、あちらよりも少し魔法が使いやすいようです。

 この点はリズも同意見なので、間違いないでしょう」

 

「はい。エヴァ様が考案された便利魔法を練習する際に、調子が悪くなることが少ないように思います。

 それ以外では、特に気になるようなことはありませんでした。眷属仲間からの連絡も含め、外部からの接触や干渉は全くありませんでしたし、探知魔法等も感知できたものはありません」

 

「そうか。無事なら何よりだが、ヴァン達からの連絡も無いという事でいいんだな?」

 

「はい。伝えられていた資料とともに、この様な手紙が置いてあっただけです。

 当然ですが、この事態は予定されていたものだったようです」

 

 リズが出した手紙を見てみると……間違いなく想定済みの状況、予定通りの結果らしい。

 ついでにリズ達の時間潰しを兼ねて便利魔法の教本や魔法世界の状況最新版とやらが、不測の事態に備えて食べられる野草や野獣の資料なんかも用意してあったようだ。

 ある意味ではきちんと手配してあったとは言えるが、何が起こるかを先に聞いていないだけに、許そうという気が起きない。その理由が、確信できていなかったからだとしても。

 

「はぁ……また自分の能力を調査する羽目になるのか。

 今度は前ほど変化していないとは思うが……」

 

「こうなる前でも全てを把握していたわけでもないのですから、調査しなくても良かったわけではありません。

 以降は大きく変わる事はないだろうとも書いてあるのですから、前向きに考えて良いのでは?」

 

「ゼロの立場ならそうだろうが……まあ、ぼちぼちやっていくしかないか。

 それで、資料は役に立ちそうだったか?」

 

「どの地域をどう押さえるべきか、という指針の記述は確認しました。

 資料によると、未来のアリアドネーとグラニクスを独立都市という体裁で実効支配しつつヘラスの支配階級と交友を持ち、メガロメセンブリアは裏を支配するとの事ですが」

 

「簡単に言うな……」

 

 私が人外である以上はメガロよりもヘラスの方がいいのは分かるが、アリアドネーとグラニクスか。学術都市と交易都市……今でもそうなのか?

 未来のと言っているなら今は小さい町だったりするのかもしれんから、確認が必要か。都市の発祥や発展に直接関わるなら、手も出しやすいだろうし。

 

「アリアドネーとグラニクスという都市は、今はまだ完全には成立していないようです。

 アリアドネーは引退した研究者たちが趣味に没頭する町で、資産を食い潰しながら余生を過ごす場所でしかないようです。辺境という事もあり、いつ衰退してもおかしくない状態が続いているそうです。

 グラニクスは、近くの部族や貴族たちが娯楽として使用する闘技場がある町で、こちらも規模はかなり小さいですね。ケルベラス大樹林への入り口にあたるヘカテスの方が賑わっているようですし、港町としてはすぐ近くにボレアがあります」

 

「そこまで分かっているのか。

 それなら……というか、地図を見せてくれ」

 

「そうですね。リズ、地図と資料を」

 

「はい、すぐにお持ちします」

 

 今の街の規模なら、上から見て確認できるというのを忘れるところだった。

 正確な場所は……覚えていないな。メガロよりヘラスに近かった気はするが、そもそも魔法世界の地図自体があやふやだ。更に今を知る必要がある以上は、地図を見た方が早いな。

 

「それで、ゼロとしてはどう動くか……案はあるか?」

 

「ヴァン達の案も考慮した上であれば、現状では人が多く、強い支配も受けていないヘカテスで基盤を作るのが無難ではないかと思います。

 人の選別についても、戦力ならグラニクスの拳闘士崩れ、知力ならアリアドネーの隠居達が話しやすいでしょう。どちらも、人生に先がありませんから」

 

「確かにそうなんだが、言葉にされると突き刺さるものがあるな」

 

「事実ですから。

 なお、最低限の人材の確保は、ヘラスと接触する前に行うべきでしょう。権力に縛られて動きづらくなる可能性もありますから」

 

「それは、そうだな。

 当面は能力や状況の把握と人材探し、それが落ち着いてからヘラスとの接触か……」

 

「その前に、マシュー達へ無事だと連絡するべきでしょう。

 私達では連絡できなかったので、月を介した接続なら可能なのか確認しておくべきです」

 

「……そうだな」



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始動編第08話 闇の福音

今回は第三者視点となります。


 ◇◆◇ とある拳闘士 ◇◆◇

 

 

 俺がこの道に入ったきっかけは、腕っぷしが……って、違う? ああ、主君の配下になったきっかけの方か。

 どこから言ったもんか……まあ、あれだ。主君に会うちょっと前まで、俺はとある領主子飼いの拳闘士ってやつだった。一応、割と強い方だったんだぜ?

 だけどよ、ちょいとあくどい相手にあたっちまって、呪詛やらなんやら食らって片腕を無くしちまったわけだ。試合自体にはどうにか勝ったんだが、隻腕じゃ戦力ダウンなんてもんじゃねぇわけよ。

 あえなく戦力外通知を食らった上に、ケルベラス大樹林の魔物退治を命じられて、のこのこ出かけてったわけだ。

 ん? そりゃあ、俺だって馬鹿なりに相手の力量くらいは把握してるぜ。指定されたヤツは、1体相手ならどうにか戦えそうな相手ではあったさ。けどな、それは体調が万全だったら、って条件付きだ。間違っても腕一本や樹林を彷徨った後で勝てるよーな雑魚じゃねぇ。実質的には、死ねって命令だな。

 けど、元々深い位置にいたやつが町に近付いてたのは事実でな。討伐なり追い払うなりする必要があって、使い捨てにできる戦力が俺くらいしかいなかったのも確かだったんだ。

 んで、森に入って……2日目くらいだったか? 獲物を見つけて、いざって時だ。突然木が倒れてきて、獲物が下敷きになりやがったんだ。で、その木の上に、可愛いお嬢ちゃん……いやいや、見た目だけなら間違ってねぇだろうが。

 えい、やり直しだ。可愛いお嬢ちゃんに見えた主君がいたわけよ。で、第一声がこれだ。

 

「せっかく繋げられた命を、自ら捨てるのか?

 自身の価値が無くなったと思っているのかもしれんが、お前が思っているほど弱くなっているならば、そもそもここに来れていないだろうに」

 

 そりゃあ、反発したさ。

 命令の意味が捨て駒だって事とか、隻腕で元と同じ戦力があるわけがねぇ事くらいは、いくら俺がバカでも分かるしな。

 けどよ。主君はこう言ったんだ。

 

「領主が保有する捨て駒はお前だけかもしれんが、賞金稼ぎが目の色を変えてこの辺をうろついているぞ。別にお前だけが使える戦力ではない事は理解しろ。

 それに、根性が腐ったお前の居場所など、この件がなくとも無くなっていたさ。

 せっかく親切な領主サマが、お前を死んだことにしてくれたんだ。新しい人生を始めてみる気はないか?」

 

 すぐに信じたか、って? んなわきゃねーだろ。

 変装して、こっそり町の様子を見に行ってみたら、これがびっくりだ。

 俺の葬式が済んでるんだよ。

 んで、俺の資産、ぶっちゃけ剣や鎧に使うための金がちょっとあっただけなんだが、それは全部両親に渡されてたんだ。

 いや、それ自体……違うな。それだけなら納得できるんだ。けど、いつの間にか、妙に裕福な暮らしになってんのな。

 俺の家は貧乏で、身売りに近い形で領主のものになってたんだが、ファイトマネーも結構な割合で両親にわたる契約になってたらしいんだよ。その時の会話を主君も聞いてたんだが、予想以上に俺がバカで、両親があくどいと呆れられたさ。

 そんな感じで、俺は主君についていくことにしたってわけよ。OK?

 

 

 ◇◆◇ とある行商人 ◇◆◇

 

 

 次は、私ですね。

 最初に紹介された通り、私は行商人をしておりました。ロントポリスの近辺の村々を中心に……ご存知ではないですか。グラニクスやボレアから北東の方向にある港町ですよ。

 かなり辺境の地ですから知られているとは言い難いですし、この辺りと比較しても、あまり豊かとも言えません。

 そんな場所で生まれ育ったものですから、必要なものを安く売り歩こうと、色々と無理をしていたのですよ。ええ、当時は必要だと思っていたのですが、今考えると明らかに無理ですよ。

 おかげで、死にかけたのですから。

 知らぬ間に色々な人たちに睨まれていたようで、結果的に盗賊に襲われたのです。

 盗賊を擁護する気はありませんが、どうも私が安く買いすぎたせいで暮らしていけなくなった人達や、私の値段を盾に価格交渉をされて利益を出せなくなった他の行商人や、行商人が減ったせいで嘆願が増えた領主が、半ば野盗化していた人をけしかけたようです。本人たちが勝ち誇って喋ってくれましたよ。

 ある意味でその場は逃げられたと言っていいのかもしれませんが、山の斜面を転げ落ちまして。いやぁ、本気で死んだと思いましたよ。

 あの方に会ったのは、その時です。というか、あの方に助けていただかなければ、間違いなく死んでいました。動く体、武器、馬車。人の住む町までたどり着くために必要なものを、全て失っていましたからね。

 

「ふむ、都合よく怪我人が現れたな。

 とりあえずお前は、治療魔法の練習台になれ」

 

 ええ、ある意味では最悪の出会いでした。しかも、治療系魔法が苦手だという言葉の通り、とても時間がかかりましたから、苦痛もひとしおです。

 それでも、多少の傷跡が残る程度には治療していただきましたし、絶望もありましたからね。どうしてこうなったのかという質問に、私が知る全てを答えたのです。

 そしたら、私が貶されましたよ。

 

「お互いに言い分はあるだろうが、確かにお前が悪い面も大きいな。

 安く仕入れようとするのは間違いではない。だが、生産する者達の生活が成り立たないほど買い叩いて、どうやって商売を続けようというんだ。

 安く売ろうとするのも間違いではない。しかし、話を聞く限りでは買う側も安く買えて当然という勘違いをしているようだからな。そんな状態で、しかもその値段に釣られた客を満足させられるだけの組織や供給力が無いようでは、有害な自己満足でしかないぞ。

 そう言える理由? 簡単なことだ。お前は自分の目的以外、何も見ていないだろうが。

 しかも、お前が売っていたのは生活必需品を含んでいる。何らかのトラブルで品物が失われた時。生産者がいなくなった時。お前自身が倒れた時。安く買う事に慣らされ、それで生活が回っている客に誰が売りに行く。仮に行ったとしてもその取引が、その後の生活が問題なく成立すると思うか?」

 

 ええ、衝撃的でしたよ。

 その後しばらくは旅をしながら色々と教えていただきました。それはもう色々です。

 あの方が基本と言っていた計算も私から見れば高度なものでしたし、詳しくないと言いながらも教えていただいた簿記とかいう会計方法は目が覚める思いでしたよ。

 他にも色々ありましたが、気付いたらあの方に従おうという気になっていました。決して知識で買収されたわけではありません。それは強く念を押しておきますよ。

 

 

 ◇◆◇ とある娼婦 ◇◆◇

 

 

 最後はアタシね。

 アタシの場合は、働いていた娼館が火事で焼けちまってね。オーナーや同僚たちも大半が死んじまうような、大火事だよ。アタシ自身もひどい火傷を負って娼婦としてはダメになったし、元々捨て子でオーナーが育ての親だったから帰る場所も無くなった。

 文字通り、全てを失っちまったのさ。

 貴婦人キャラだったもんだから客のとこに転がり込むにも難しいし、しかもアタシにできる事なんて男をよろこばせる事と、後はオーナーの手伝いくらいなもんなんだよ。家事やらはやった事もなかったし。

 こりゃ野垂れ死にするしかないかねぇと覚悟してた時に、お嬢様と会ったんだよ。

 ただ……あれだね。声をかけたのはアタシだけど、直感でいいとこのお嬢様だと判断して働き口が無いか聞いたのは、奇跡だったよ。服装はその辺を歩いてる女の子と大差なかったし、お嬢様が喜ぶような事が何もできないのはアタシ自身が知ってるからさ。声をかけた直後に、何やってんだろとか思ってたんだよ。

 けど、お嬢様がアタシの仕事や経緯に驚きもせず、詳しい話を聞いてきたのには驚いたよ。しかも条件付きとはいえ即決で採用された時、本当にいいのか聞いちまったくらいだし。

 詳しい内容? 言える事なんて、大してありゃしないよ。やってたのなんて客の相手以外は同僚たちの体調管理がほとんどで、他は帳簿の管理とか書類の整理を少しやったくらいだからさ。

 だけどさ。アタシなりにオーナーの役に立ちたくてやってた事を評価されたのは、嬉しかったんだよ。傷がある事も含めて受け入れてもらえて、感動しちまったのさ。しかも1年くらい一緒に旅をしながら色々と教えてもらって、氷を纏うなんて技術に魅せられて、お嬢様の見てる世界の広さに夢を見ちまったのさ。

 だからまあ……この火傷の痕は、アタシの忠誠の証で、無知なアタシと決別する決意なんだよ。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「色々喋ったけど、つまりなんだ。

 全員、どん底から救われた仲間って事でいいんだな」

 

「どうやらその様ですね。

 狙ったのか偶然かは問題にする気もありませんが、メガロやオスティア方面の方も幾人かは似たような感じだと本人から聞いています」

 

「アタシはこれからの打ち合わせでいっぱいいっぱいだったから、その辺は聞いてないねぇ。アタシ達は小国や中立地帯を裏から支援するのが役目だけど、あっちはあっちで大っぴらに動きにくいから、別のチームで助け合う形になるわけだし。

 けど、お嬢様の呼び方が全員で違うのは、ちと不便だね? あっちも統一してないみたいだしさ」

 

「だが、名や立場を広めないでほしいという主君の希望もある。

 役職ならいいのか?」

 

「我々が担当する組織にあの方は直接関与しないそうなので、役職がありませんよ。

 かと言って、我々の始祖や当主と呼ぶのは禁止です。

 そこで拳闘士や英雄の例に倣って、2つ名で呼ぶというのはどうでしょうか」

 

「それいいな、ちょいと考えてみるか。

 俺達は緑の大地。メガロは銀の短剣。オスティアは森の風雲。んで、眷属全体は月の一族とかいう名前にする予定らしいんだ。主君はこんな名付けが好みって事か?」

 

「だけどお嬢様から、関係組織とかの名付けは月に関係しそうなものは避けるよう言われてるからね。

 少なくとも、月と夜は駄目。ぞーぶつしゅとかいうイカレてるのがオスティアやメガロあたりに出没するらしいし、気付かれたくないそうだよ」

 

「あの方を知っているなら納得、ですが知らない人には想像もつかないような名が良いという事でしょう。

 絶望の淵で出会った希望……長いですし、しっくりきませんね」

 

「状況と名前に因んで、闇に響く福音ってのはどう?」

 

「それなら、闇の福音の方がすっきりしねぇか?」

 

「ふむ……闇の福音、ですか。

 少々悪ぶった感じですが、ご本人も自身を正義とは言えないと仰っていましたし、日の当たる道を歩かないという意味でも問題ないでしょう。

 この呼び名で美しいあの方を想像されることも無いでしょうし」

 

「正体を隠すって意味では、ありかねぇ。強制するわけじゃないし、他の連中もこの呼び方を使うか知らないけどさ。

 ところでお嬢様は今頃、ヘラスの王様のところだっけ?」

 

「いきなり使わねぇのな。

 ようやく準備が整ったとか言ってたし、俺もそう聞いてるが……あの外見でなめられねぇといいんだが」

 

「おや、知らなかったのですか? 外見年齢を偽る幻術魔法を使うそうですよ。

 必要な準備というのは、主に私たちの教育だったようです」

 

「幻術で大人の姿にってわけかい?

 お嬢様の事だからばれるようなへまはしないだろうし、ヘラス族は長寿だから理解がありそうだし……ま、人格や能力が判明した後なら問題なさそうだね」

 

「しかし、本人の触覚や視覚まで誤魔化す幻術は、本当に幻術なのでしょうか?

 いろいろと便利そうなので、ぜひ私たちにも使えるようにしてほしいものです」

 

「おいおい、やましい事に使おうって魂胆じゃねぇだろうな?」

 

「まさか。町の情報を集めるには、子供の話はバカにできないのですよ。

 釣られて噂好きな母親まで喋ってくれたら、儲けものです」

 

「噂話、か。主君も情報が大事だとしつこく言っていたが。

 子供の話があてになるのか?」

 

「なりますよ。

 危険な場所は、どこそこへ行ってはいけません、等と教えられているものです。

 比較的安全な場所は、親に連れられて行く場所でしょう。

 よく食べる物は、近くに産地があるはずです。その質や頻度が変わった場合は、何かが起きた可能性があります。

 他にもありますよ。町や村がどのように運営されているか。竜などの害獣を見たことがあるか。生活にどの程度余裕があるか。親が誰にどの程度頭が上がらないか。

 大人の話よりも正確な場合すらあります」

 

「へぇ……で、どの程度がお嬢様の受け売りだい?」

 

「全てですよ。あの方は見た目がああですからね、目の前で実践してくれました。

 ある田舎の村で見せてもらったのですが、村長の命令で、複数の行商がそれなりに来てくれる程度に取引を制限している事まで判明してしまいましたからね。

 あの方は、取引相手が1つだけなら言いなりになりかねないから、村の防衛手段として間違いとは言えないと判断されていましたよ。現実問題として、村長は商売上手として村人たちに尊敬されていたようですし。

 もっとも子供たちは不満があったようで、その愚痴という形で得た情報ですが」

 

「なるほど、ある意味ではお嬢様らしいやり方だね。

 けど、子供の真似事は無理で、子供の相手は疲れるってぼやいてたんだけどねぇ」

 

「子供としては振舞っていませんでしたよ。

 それでも、大人ぶっている子供とか、行商であちこち行ってるせいで大人っぽくなってるとか、勝手に解釈してくれるものだそうです。

 特に子供は順応性が高いですからね。何度も顔を会わせる相手でなければ問題ありません」

 

「はー、やっぱすげぇ世界だ。俺にゃ無理だな」

 

「だけど、アタシ達の腕っぷしはさっぱりだからね。

 アンタにゃ期待してるんだよ?」

 

「おう、荒事は任せろ。

 隻腕だろうとできる事があるってのは、主君に教えられてるんでな」

 

「自分の長所を生かし、相手の短所を突く。基本ですが難しいことです。

 それでは、私は部下を探しに行ってきますよ」

 

「焦るんじゃないよ?」

 

「もちろんです。あの方のやり方を見て学び、眷属として力と時間を頂いた身ですからね。

 候補は数人いるのですが、もう少し見極めたいですし」

 

「俺も手下を見繕った方がいいのか?

 荒事やら護衛やらは、数も力だ。それに、警備で待ってるだけじゃ鈍っちまうし、1日中起きてるわけにもいかねぇ」

 

「一気に増やす必要はないけど、何人かはいた方がいいかねぇ。

 食事の買い物に行くついでに、裏通りでも覗いてみるかい?」

 

「そうだな。気骨のある子供でもいるといいが」

 

「この町に居なきゃ、別の街に行ったときにでも探せばいいんじゃないかい?

 さてと、市にモノがあるうちに、さっさと行くよ」

 

「おう。主君の従者に仕込まれた料理の腕にゃ期待してるぜ」



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始動編第09話 悠久ニッポン

「地球よ、私は帰ってきた!」

 

「こちらでは……20年程でしたか。

 この程度と言えるようになってしまいましたね」

 

 魔法世界で色々あったが……まあ、今は無事に帰ってこれたことを喜ぶとしよう。ゼロも感慨深い……何か違う方向かもしれないが、笑みはでているし。

 3つの組織の種もまいたし、ヘラスとの関係も作ることが出来た。

 ついでに集めた技術やらも色々あったから、有意義ではあったはずだ。

 ダイオラマ魔法球を作る技術も得たし、時間の加速は微妙な倍率だが自作にも成功した。

 隣にいるゼロの体を、キメラ的技術で作る事にも成功した。今みたいに普通に話せるし、関節や目や口といった不自然になりやすい部分も自然で、小さい人と言っていい水準にできた。研究の甲斐があったと自信をもって言える。

 材料の関係で私の半分くらいの身長で銀髪になり、それを知った変態が持ち込んだ服を着た結果、なんだか水銀燈風になったのは……まあ、誤差、なのか?

 

「そうだな。

 月を経由すればすぐにでも帰れたし、話はしていたからそこまでは思わないが……考えてみれば随分と久しいんだな」

 

 目が覚めた日に、私と第1世代の間に限るが通信可能だと判明した。時間差の都合で文字通信の方が便利という理由もあったが、掲示板的機能が問題無く機能する事が確認できたからな。

 ついでに転移も間違いなく大丈夫だと確信が持てた。

 そのせいで、いつでも帰れるからと、かえって帰らなくなっていたようだ。

 

「約束は、守るべきですよ。

 センゴクジダイというものがいつの頃なのか知りませんが」

 

「始まっているとも言えるし、始まる前の争乱中とも言えるらしい。

 今すぐとは言われていないから、少々押さえたい場所を巡りながら向かうさ」

 

「そうですか」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「少々、と聞いていた気がしますが」

 

「予想外の話を聞いたせいもあるんだが……」

 

「私は邪魔ですか?」

 

「いや、仲間という意味ではありがたい存在だ」

 

 うん、魔法世界から帰ってきてから、既に18年が経過してしまった。

 そして、今いるのはフランス南部だ。

 思えば、また色々と手を出してしまった気がするが……一度、整理しておくか。

 

 最初に向かったのは、スペインだった。

 目的は、アメリカ進出を少しでもまともにする事。その手段として、王族に近い貴族や船乗りを取り込んだ。

 結果的には……残念ながら力及ばず、だったが。

 ヨーロッパの一般的な常識が奴隷を認めていて、現地住民を偏見で見下している。奴隷商人が新しい土地の提督やらになる契約を結べるような現状を覆すのは無理があった。

 

 オスマン帝国領……将来は東欧と呼ばれるはずの地域を観光しつつ次に向かったのは、中東。

 目的は、未来の産油地を押さえる事。今度は現地で有望そうな、魔法との関係がありそうな部族に接触してみた。

 今は割と広い範囲がティムール朝とかいうモンゴル帝国の系譜の王朝の支配下らしいが、どうも衰退しつつあるように見えたから、正しいと思ったんだが……

 女性を軽視する風潮は、予想以上に厳しかった。

 もっとも魔法での暴力を魔法で叩き潰したら、氷に極めて高い適性を持つ者は神の使徒であるとかなんとかで途端に待遇が良くなったのは笑うしかない。開発しておいた闇の魔法が、こんな事で役に立つとは思わなかった。

 中東方面はメガロの連中の影響力が割と小さく、造物主もあまり出入りしていない事はヴァン達に聞いていたからあえて大きく動いてみたんだが、少々やり過ぎた気がする。ペルシャ湾の周囲をかなりがっつりと押さえたような……?

 

 それらの合間にも色々やっていたが、各地の眷属達にアドバイスをしたりしている時に、フランス……というかジャンヌから、不思議な噂を聞いた。魔女狩りで一切傷つかず、不死の魔女やら鋼鉄の聖女やらと呼ばれる女性が、南部の山村にいるという話だ。

 既に聖女扱いされているせいでもあるのだろうが、そういう情報を仕入れる伝手を作れたジャンヌに感心しつつ聞いた場所へ向かってみると、出くわしたのは魔女狩りの現場。しかも、火炙りにされたように見えるのに、平然と火の中にたたずむ女の姿だった。

 都合よくシスターの姿をしていたこともあり、適当に介入して連れ出したのだが……

 

「どうかしましたか?」

 

「……いや、その無表情はどうにかならんのか?」

 

「笑えと命じられるのであれば、笑いましょう」

 

「笑顔は、そういうものじゃないぞ」

 

 うん、無表情すぎて確信が持てないが、どうも懐かれたらしい。

 名前はイシュト・カリン・オーテ。栗色のショートヘアで二十歳少し手前くらいに見える少女なんだが、本人曰く、何年たっても外見が変わらないし、何をされようが傷跡すら全く残らないらしい。痛みはあるから、何も思わないわけではないそうだが。

 

「それより、本当に付いてくるのか?

 かなり遠い地に旅立つ予定があるのだが」

 

「私が知る限り、どこにも安住の地はありません。

 それならば、似た立場の仲間と過ごしたいのです」

 

「ジャンヌも仲間なんだがな。オルレアンの聖女の話は聞いたことはあるだろう?

 外見年齢も似たようなものだぞ」

 

「各地を渡り歩いていましたので、フランスに愛着があるわけではありません。

 それに……ええと、こういう場面に最適な表現は……ああ、あれです。

 私の事は遊びだったのね?」

 

「そのセリフはどっから引っ張ってきた!?」

 

 どっかの昼ドラとか深夜アニメみたいなのが、中世ヨーロッパにもあるのか!?

 

「以前、どこかの大きな都市で見た演劇に、この様なセリフがあったような気がします」

 

 存在してしまったぞ!?

 いや、それよりも、だ。

 

「そもそも男女の関係になった覚えは無い!」

 

「大丈夫です。私にもありません」

 

「だったらどうしてソレを最適だと判断した!?」

 

「このようなやり取りが、楽しそうに思えたので。

 ふざけあう関係というものに、少々の憧れもあります」

 

 ……普通なら不老不死なんて存在は排除されるもの、という事か。

 ヴァン達以外の不老不死仲間という事で、納得するべきなのか?

 

「はぁ……わかったわかった。

 だが、今から向かうのは遥か東だ。この辺とは、様々な点で異なるぞ。

 文化もそうだし、人の外見も……ん?」

 

 金髪の私よりも栗色のイシュトの方が、まだ東洋人に近いのか? 肌の色も、そこらの白人よりは黄色に近いし。

 スタイルについては……幼女体形の私は何も言えんな。

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、思ったよりは外見の心配はしなくてよさそうだと思っただけだ。

 それよりも、翻訳魔法は大丈夫か? ついてくるなら、無いと不便だぞ」

 

「問題ありません。各地を渡り歩いていましたので」

 

「……そうか。

 あとは、まあ……自然に笑えるようになるといいな?」

 

「私が、ですか?」

 

 少し不思議そうにしてるが、無表情なだけで、イシュトも相当な美少女系の外見だ。

 笑顔を見たいと思うのは、間違っていないはずだ。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 インドや中国にも少々寄り道をしつつ、ようやく到着した日本。

 

「長い旅でしたね」

 

「全くです。寄り道のし過ぎでは?」

 

「いや、必要ではあると思ったんだ」

 

 イシュトとゼロに突っ込まれているが、必要だと思ったのは本当だ。

 インド北部の山岳地帯で、宗教家と話をしてみたり。

 中国南部から東南アジアに広がる山で暮らす民族の、ピモとかいう司祭的な立場の連中と会ってみたり。

 中国の嵩山とかいう山の中の寺で武術をやってる集団と接触してみたり。

 くねくねした動きがあまり好きになれず、少し北東の方へ行った黄河沿いで陳とかいう連中に武術を学んでみたり。

 さらに北東に進み、北京の近くで組織の種を蒔いてみたり。

 ほら、遊んでいたわけじゃない。

 

「けどさー、エヴァにゃんと初めて会ってから、もうすぐ100年だよ?

 急がないとは言ったけど、ちょーっと待たせ過ぎじゃない?」

 

 ……世界樹、蟠桃によりかかるように姿を見せているヴァンは、少し拗ねているが。

 

「戦国時代には間に合ってる……よな?」

 

「もう始まっちゃってるよ。あちこちで戦争してるしさー。

 とりあえずさ、領地交渉する準備はよろしくっ!」

 

「今の状況は、お前の方が分かってるだろうに」

 

「あまり自由に動けない僕じゃ、人を使うのは難しいんだよ。

 これでも頑張って、価値の低い土地に見えるようにしてるんだしさ」

 

「はいはい、わかったわかった」

 

 そんな感じで始まった、日本での生活。

 世界樹の近くに家を作りつつ、リズに各地の戦場で死にかけた連中を眷属化してもらい、その間に調整を進めたダイオラマ魔法球に突っ込んで農作業をさせて。

 更に、新たに作った時間減速型のダイオラマ魔法球に出来た米(余剰分)を突っ込んで保存。数年後に都合よく発生した関東地方の飢饉で最寄りの大名である上杉と交渉、大量の米と引き換えに領有を認めさせることに成功した。

 

「運もあったけど、思ったより力技だったねぇ。

 というか、よく農作業用の魔導具なんて作れたね?」

 

「魔法世界で集めた魔導具の情報に、使えそうなものがあって助かっただけだ。

 それに、あくまでも所有者だ。地主的な立場でしかないから、権力を固めるのは今からの仕事だぞ?」

 

 というわけで更に人を集めたり、時間加速を捨て広さに特化したダイオラマ魔法球を増産したりしつつ、数年。

 なんだか怪しい気配があるんだよねーというヴァンの情報で、京都の北の方にある海岸に来てみたのだが。

 

「……こんな砂浜で、果し合いか?

 それにしては、2人とも覇気がないが」

 

 覇気と言うかやる気のない、中年剣士と爺さん陰陽師の2人が争って……いるのか、これは?

 怪しいにおいの剣士は防御しかしていないし、陰陽師の呪符もやる気が感じられない。

 

「む、新たな(あやかし)か?」

 

「このお嬢ちゃんが妖? 人外にゃこんな色のお嬢ちゃんもいるもんなんだなぁ。

 けど、血を好まないなら早めに離れときな。この爺さん、死にたがってるからよ」

 

「私を人外だと判断したのは、色か? それとも、力か?」

 

「その気配から、陽の力がほとんど感じられん。

 故に、妖と判断したまで」

 

「なるほど、その方法なら気付かれるのか。覚えておこう。

 だが、それほどの力を持ちながら、なぜ死に急ぐ?」

 

「長く生きすぎた。故に、死に場所を探しておる」

 

「とか言ってんだ、たかだか80年程度しか生きてねえのにな。

 って、お嬢ちゃんにはこれでも長いか」

 

「いや、80ならまだまだだろう。

 お前こそ人の事を……言えそうだな?」

 

「おう、そろそろ800歳を超えてるはずだ。それを理由に襲われてるんだがな。

 なあ爺さん、そろそろ諦めようや」

 

「ふん、貴様がその気になればすぐに終わる」

 

 やれやれ、聞いちゃいないな。

 だが、80歳でこの技術か……欲しいな。とりあえず、力で止めてみるか。

 

「む?」

 

「おいおい、マジか」

 

 転移で間に入って剣を束縛魔法で固定し、呪符を焼いてみたが……動きは止められたか。

 

「別に今すぐ死ぬ必要があるわけでもないだろう。

 少しくらい話に付き合ってくれてもいいじゃないか」

 

「儂を老衰させる気か」

 

「そんなつまらん事はせん。

 さしあたって聞きたいのは、何故生きすぎたと思っているか、だ。

 そこの見た目おっさんは置いておくとして、私よりも若いのだが」

 

「何故その様なことを聞く?」

 

「元人間として、忘れない方がよさそうな事だからな。

 これでも、100年前は人間だったはずなんだぞ?」

 

「おお、お嬢ちゃんもそうなのか。

 いるとこには、いるもんなんだなぁ」

 

 私“も”そうということは、この剣士も元は人間なのか?

 確かに、人外と言うには人と変わらない姿をしているが。

 

「頻繁に見かけるものではないがな。

 私は気付いたらこんなナニカになっていた実験体か何かなんだが、お前は?」

 

「俺か? 俺は人魚の肉を食っちまったんだ。

 そうそう、俺は宍戸甚兵衛ってんだけど、お嬢ちゃんはなんて名前なんだ?」

 

「エヴァンジェリン・マクダウェル。

 慣れない名だろうから、エヴァとでも呼ぶといい」

 

「えば……? んー、お嬢ちゃんでいいか。

 生まれはどこなんだ? この辺じゃなさそうだが」

 

「西の方としか説明できんな。海を越え、大陸を越えた先だ」

 

「ほー、遠そうだな」

 

「かなり遠いぞ。

 さて……ふむ、何と呼べばいい?」

 

 気付いたら、この陰陽師の名前を聞いていないな。

 有名どころは安倍だろうが、晴明はもっと前の時代だったはずだ。矢部野は……恐らくパロディだろうから、無いな。

 

「……土御門有宣」

 

 なんだ、やはり安倍ではないのか。

 

「では、有宣。改めて聞くぞ、なぜ死に急ぐ。

 時間はあるから、愚痴くらいは付き合うぞ? 権力者どもとの付き合いはないし、京も面倒そうだから近寄る気もないしな」

 

「……お主達には、苦労して築いたものが崩れ去る悲哀など分からぬであろうに」

 

「私はこのような存在になって、それまでの人生で得たものを多く失ったが。

 甚兵衛、お前はどうだ?」

 

 妻子や息子(比喩表現)、それに文化やらまで含めた生活環境をまとめて失った事に比べれば、大抵の事はそこまで深刻でもないと思うが……これは、迂闊に言えない話だしな。

 それに、人から人外になったなら、それまでと同じ生き方は難しいはずだ。

 

「んー、最初はそうでもなかったような。

 ただまあ、同じ場所では長く過ごせなくなったのは確かだな。ばれりゃ追われるし、ふらふらしてるように見られて生き辛いってのは、違いねぇ」

 

「やはりそんなものか。だが、最初が平和だっただけでも羨ましいぞ。

 私の場合、20年ほどは外を出歩く事すらままならなかったからな……」

 

「なんだ、そんなに敏感な連中ばっかりが済んでるような場所だったのか?」

 

「いや、当時は力が安定していなくてな。

 ある程度出歩いても問題ない程度になるまでに、20年かかっただけだ」

 

 実際は日光に弱かったからだが、力が安定というか完成していなかったせいでもあるから、嘘ではない。

 あの20年は……長かった。って、また思考がずれているな。

 

「そんなわけだから、何かを失った時の無力感なら、理解できるぞ。

 この時期だと……各地も騒がしいようだし、地位や権力あたりか?」

 

「あー、ありそうだな。京の都もだいぶごたついてるみてえだし」

 

「お前がしゃべると、すぐ脱線するんだが」

 

「わりぃな。けど、この爺さんは素直に喋らねえんじゃねえか?

 俺が聞いた限りだと、陰陽師の安倍の系譜で、半家まで家格を上げた実力者だしよ」

 

「ああ、その実力はやはり安倍関係だったか。

 ところで、半家とは何だ?」

 

 家格を上げたと表現している以上、家を半分にするという意味ではないよな?

 

「権力と距離を置いてるなら知らねえか。

 要するに、公卿になれて御所のどっかに入れる家柄……だよな、爺さん」

 

「……そうだ」

 

「なるほど、世間がこうも騒がしければその地位や権威も危うい、か。

 このごたごたが落ち着く頃には、武家が勢力を伸ばしているだろうし……確かに、築いたものが崩れそうではあるな。

 だが、そのような力と家柄を持つなら、陰陽師としては相当高い地位じゃないのか? 裏社会の統率者としては、これからも必要とされそうだが」

 

「武に酔う者どもに、裏世界の危険性は理解できん。

 権力を争う中でどれほどの綱渡りをしておるか、将軍たちすら正確に把握できておらんだろう。そもそも……」

 

 ……いや、愚痴に付き合うとは言ったが、急に口が軽くなったな。

 要するに有宣は、朝廷で陰陽師のトップで魑魅魍魎を抑えたりする役目を担い、その為の基盤を作り上げたが、権力争いでそれらが蔑ろにされている事が許せない、と。

 それまでの努力も、その重要さも、忘れられそうになっている事が。

 これなら……取り込めるか?

 

「ふむ、事情は概ね理解した。

 私も元々は人であった存在だ。人と人外の境界すら怪しい裏社会の、人に害のある悪鬼や魑魅魍魎を放置するのは、私としても反対だ。

 だが、その危険性が忘れ去られようとしているなら……この際だ。お前達2人とも、私の仲間にならんか?

 今はまだ小さい力だが、人を守る活動を支援できる程度の組織を作るつもりだ」

 

「ほう……魔を退治する儂に、魔性の仲間となれ、と?」

 

「そうなるが、お前達にも利がある提案だと判断した。

 表に出せない活動の基盤があるのは、何かと便利だと思うが?」

 

「それでお主は何を得る。何が目的だ?」

 

「得られそうだと期待するのは、まず、陰陽師の技術。これは私の趣味や好奇心もあるが、何かあった場合の手札を用意しておきたいという意味だな。

 次に、表側の人脈や権力。あまり期待はせんが、何かあったときに直接人を守れるのは、やはり表の人手や権力だ。私では闇から闇へ葬る事しかできん」

 

「……何が目的なのだ?」

 

「とりあえずは、私のような者たちが平和に暮らせる環境だ。

 人と争う事が無いとは言わん。人と人が争う以上の利害や意見の対立もあるだろう。

 それでも、せめて事情を知り友人となった者とくらいは手を取り合いたいじゃないか」

 

「それだけではあるまい。

 人脈や権力を求めたのはなぜだ」

 

「理由は色々とあるが、上下ではなく対等に付き合いたいからだな。

 力が無ければ虐げられるか保護される立場になる。暴力だけで手を取り合うのは難しい。要するに、人とそこそこ付き合い、ある程度いい顔をしようとするには、それなりの財力や権力も必要になると考えている。

 別に人を支配するとか、そういう話ではないぞ。例えば、安心して住める土地を確保しようとすれば、それを維持する財力や、存在を認めさせる権力が必要になるという話だ。

 暴力で人を排除していては争いしか生まんから、安心できる地にならんからな」

 

「ふむ……確かにそうなのだろうが。険しい道であろう。

 人の道を外れながら、人でありたいのか?」

 

「言わなかったか? 私は、私の意思でこうなったわけではない。

 たとえ未練や悪あがきであろうと、人であれる間は人でいたいと思うくらいは、受け入れられてもいいと思うが?」

 

「ククク……面白いな、お主は。

 よかろう。老い先短い命ではあるが、しばし付き合ってやろう」

 

 よし、陰陽術師をゲットだ。

 

「ああ、よろしく頼む。

 ところで、さっきから静かだが甚兵衛は生きてるか?」

 

「生きてるぜ。

 聞いてる限りじゃ結構面白そうだ。お試しってことでどうだ?」

 

「構わんぞ。ただ、気に入らないからと情報を漏らしたりするなら、全力で制裁しに行くからな」

 

「追われる身の面倒臭さは、分かってるさ」

 

 自称不老不死っぽい剣士もゲットか。

 こいつはイシュトと一緒で眷属以外の仲間扱いでいいだろうし、有宣は……眷属になるかは微妙だろうな。人外になるという点が問題になりそうだ。




変態(アル)が水銀燈の知識を持っていたのは、ヴァンがRozen Maidenも渡していたのが原因です。


イシュトの「私の事は……」に相当する表現がフランス語(やヨーロッパ系の言語や文化)にもあったのかは、知りません。
でも、男女のやる事なんて、昔から大して変わってないと思います。

悠久の人たちですが、これ以上は出ません。たぶん。
元プロット(2012年の代物)にはいない&エヴァの中の人の記憶にない人達なのです。当時は「ネギま」が完結するかどうかという時期でした。時間がたつのは早いなぁ……
悠久キャラを出したのはあれです。あまりにも原作キャラが出ないので、赤松ワールドからの友情出演ですヨ。


2016/02/26 イシュトとエヴァ→イシュトとゼロ に修正
2016/04/23 苦労した築いたものが→苦労して築いたものが に修正
2017/03/22 なってしまし→なってしまい に修正
2017/05/15 外見年齢的も→外見年齢も に修正


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始動編第10話 戦国時代の翼

 地球は、今日も回っている。

 スペインからインディアン達との交流に成功したという連絡があったり。虐殺は漫画化した歴史の記憶よりも抑えられたようだから、人道的には良かったのだろう。

 マクダウェル家がイギリス王室と交渉し、アメリカへの入植を開始したという連絡があったり。まさか、マシューに魔改造されたマーメイド・インの海賊共が、こんなところに影響するとは思わなかった。しかも、その利権を背景にシティと優位な接触に成功したという報告も付いていたから、ジョンの腕はなかなかだと認めていいらしい。

 オスマン帝国が領地を広げる中、ペルシャ湾周囲の実効支配に成功したという連絡があったり。あいつら、こと戦闘関係に関して眷属の力を使いこなし過ぎだろう。

 中国では、儒教家やら商人やら茶の生産関係者(土地の支配者まで含む)やらを取り込み、巨大な企業じみてきたり。

 フランシスコ・ザビエルが来たが、魔法使いの同行が確認された時点で有宣達が動き、同行する人物の一部が処理されてしまったり。いや、有宣が直接動かざるを得ないほど、陰陽寮やらの力が落ちているのが問題か。

 眷属達は結果的に、順調に影響力を高めつつあるらしい。

 ……世界史に喧嘩を売っている気がするが、大丈夫なのだろうか……?

 

 魔法世界も、情報と金が回っている。

 ヘラスに教えた技術は思惑通りにメガロが盗み、ほぼそのまま魔導具化されて使われるようになった。ヘラスも対抗して同じものを量産した結果、まほネットに近いものが出来上がりつつあるが……狙い通り多くの情報が私達に筒抜けという状況で、文句は言うまい。考案者として生産を請け負ったから、表に出せる組織と、その懐が物凄いことになっているし。

 もちろん、ヘラス、オスティア、メガロの裏側担当も、勢力を伸ばしている。ヘラス付近は所謂裏社会を、オスティアは商業を、メガロは政治関係を中心に活動しているらしい。

 よく厨二病に見付からないものだと思っていたが、話を聞いてみたら、どうやら奴は船でインドに行こうと無用な労力を使っていたらしい。……今度はバスコ・ダ・ガマになっていたそうな。確かにポルトガルには行かなかったが、知っていたなら教えてくれてもいいと思うぞ、これは。

 

 有宣に麻帆良と名付けられた世界樹周辺の地は、魔改造と言っていいだろう。

 何故か私を初代とし、土御門の分家として作られた幕田家。その領地として、朝廷や周囲に認められている。私が土御門の養女になるとか有宣の孫を私の養子にするとか、色々面倒な手続きがあったらしいが、ぶっちゃけ知った事ではない。同じ屋敷に住んでいるから顔や性格はよく知っているし、色々教えている生徒。私にとってはそれで十分だ。

 その過程で、攻めてきた北条の軍勢を叩き潰したり、裏の連中も叩き潰したりもしたが。その時にゼロが大量の戦闘人形を引きつれて出撃した事は問題になるかもしれない。数の不足を補うためだったが、あれは間違いなく近代的な軍隊に近く、その行動やらを他の武家やらが真似しかねないという意味で。

 そして、私の拠点が決まった事で、ノエルとノアが日本に来た。90年ほど放置状態だった事には少々小言を言われたが……いや、その程度で済んだことをマシューに感謝すべきなのか?

 リズと共謀し、なぜかゼロやイシュトまで混じってメイド軍団を形成しつつあるのは謎だが。

 世界樹の大発光も確認。その魔力を隠すついでに利用できないかとヴァンと共謀して、とりあえず別荘に流し込んで溜め込み、維持やらに使えるようにしてみた。外の発光を抑える効果も得られたし、別荘内での魔導具作成やらにも使えそうだ。

 

 日本も、随分と廻った。

 甲賀で望月とかいう忍者の系譜らしい一族と仲良くなり、その教育レベルに驚いたり。

 ……教師役を依頼したのは確かだが、甲賀の筆頭格だとは知らなかったし、最初は眷属化までする気はなかったんだ。いつの間にか甚兵衛やらも教師役に混じっているし。

 桑名とかいう辺りで、刀工の集団を引き抜いたり。

 ……村正を作ってると知ったら、声をかけるのは仕方ないだろう。

 蝦夷がまだほとんど手付かずに近い状況だったから、アイヌ人の魔改造に着手したり。

 ……青森の豪族が手を出していたようだが、あの広大な土地を放置するのは惜しいだろう。

 

「言い訳無用っ!

 別に怒ってるわけじゃないけどさ。かなり好き放題やってるよね?」

 

「村正や甲賀忍者は確かに趣味もあったが……喜んでいたヴァンも同類だろう。

 北条は武力で奪おうとしに来たんだ。相応の対処をしたまでだ」

 

「だから、怒ってないんだって。

 でも、アメリカはどうするのさ。このままだと、前世と同じ道を歩むか微妙だよ?」

 

「改めて言わなくても、理解できている。

 どうすればいいかが分からんが、虐殺を黙って見ているのも心苦しんだ」

 

「大問題だよねー」

 

 いや、穏便な植民地化なら、大虐殺よりはマシだと思いたいが……技術革新という1点で、間に合うかどうかが問題か。

 ヨーロッパの連中も色々頑張るはずだし、入れ知恵すれば何とかなるか……?

 

 とか考えつつ、私自身はひっそりと活動を続けていたのだが。

 

「済まんが、京へ行ってもらえんか」

 

 有宣が、また爆弾を落としてきた。

 前回は領有の話で、私自身が動く必要はなかった。今回の話は何だ?

 

「今は確か、将軍が京を追われているんだったか?

 三好ナントカが実権を握りそうなのは何かまずいのか」

 

「うむ。いや、実力が無いわけではないのだ。

 ただ、利用できるものは利用する考えが、行き過ぎておる。

 それが裏や闇の世界であっても、という点が問題だ」

 

「なるほど、それは確かにまずそうだな。

 だが、暗殺やらはしない方針だぞ?」

 

「わかっておる。

 京で行うのは、非公式だが後奈良天皇への謁見、良い関係を維持すべき家や集団への顔見世、そして京の近くの鬼神の封印及びその近くに住む協力的な(あやかし)の保護だ」

 

「……ちょっと待て。どうして天皇が出てくる?」

 

「後奈良天皇が、妖達を保護していてな。

 だが、あの方も最近は体調を崩しがちな上に、朝廷の財政も逼迫しておる。そこで、裏を取り仕切る土御門家を経由して依頼が来たのだ。

 あの方が慈悲深く清廉である事は結構なのだが、もう少し清濁併せ呑む必要が……いや、ここでぼやいても始まらん」

 

「非公式なら権威付けには弱いだろうし、天皇も老い先が短いなら、私達としての利点は妖怪たちの引き抜きくらいか?」

 

「いや、鷹司と二条、それと確実に近衛も動いておるな。

 もっとも、断絶寸前の鷹司に二条から養子を入れさせ、その妻を幕田家から出しておるのだ。陰陽寮の力も落としておる今、裕福な幕田家にこの様な依頼はあって当然であろう?」

 

「はあっ!?」

 

 二条の次男坊に嫁いだのがいるのは知っていたが、近衛も鷹司も、藤原系の摂家じゃないか!

 こ、このジジイいつの間に……

 

「世間が荒れておるせいではあるが、望月やお主に色々教えられたあの娘は、なかなかに評判が良いぞ。

 今では良豊を尻に敷いて、見事な舵取りをしておると評判だ」

 

「摂家がそれでいいのか……?」

 

「政略結婚なぞ当たり前であるし、カカア天下であろうとうまくいくのであれば、それも良かろう。

 話を戻すが、五摂家の連中も裏の事を知っておる。だからこそ、表どころか裏でも全く出てこぬお主に興味があるのだ。この辺で面通しくらいはしておくがよかろう。

 不死化に関しては、我らに対して大きな貢献や価値があれば考慮する事にしておる。煩いようであれば、適当に不可能な条件でも突き付けてやればよい」

 

「いや、相手は曲がりなりにも権力や権威の頂点近くにいる連中だぞ。

 そんな対応でいいのか?」

 

「竹取物語のようで、良いではないか」

 

「で、鬼神はどうした。手に負えんのか?」

 

「うむ。再封印にはそれなりの腕と手間が必要なのだが、嘆かわしい事に、今の陰陽寮にはどちらも不足しておる。

 武家の阿呆共が存在に気付かぬよう、何とかせねばならんのだがな」

 

「封印が弱まってきている、という認識でいいのか?

 それとも、定期的に行う措置か?」

 

「どちらかと言えば、定期的な儀式に近いであろう。

 弱まってきておるのは事実であるがな」

 

「すぐにと言う話ではないのだな。

 それなら……ふむ、試してみるか」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 そんな話をしてから、概ね半年後。私は京にいた。

 天皇から直接の依頼を受け、ついでに摂家や神鳴流の連中と少し話をして。

 元々アヤカシを見たことのある連中だからか、外見については軽く流された。連中曰く、色が違うくらいでは驚かん、色以外は人外に見えん中途半端さの方が驚きだ、だそうだ。ゼロすら「小人のようだ」とか「金がいるなら銀がいてもいいだろう」というアバウトな反応をされたから、私の方が驚く羽目になった。

 詳しく聞いてみたら、玉藻前も色白で金毛だという話のせいで、ありえない色だとは思われなかったそうな。これはまあ、良かったと言っていいだろう。

 白面金毛九尾の狐と同じように国を乗っ取ろうとするなら容赦しない、とも言われたが。青山の師範は確かに強そうだったから、対抗手段が皆無と言うわけでもないようだし。

 

 そして御所を出て指定された山へ向かい、その奥深く。

 人里から隠れるようにある村、から少し離れた森の中にある小川の(ほとり)で、烏族の長老と話をして。

 ……ここで、烏族なのか。

 翼は出していないし、見た目は完全に人と同じだ。それでも、気配がどこか人じゃない事くらいは分かる。それに、あまりよく思われていないだろうことも。

 

「まあ、話は概ね理解した。

 ここでも結局は力なんだな」

 

「うむ。我らも決して力が無いわけではないのだが、数で人族に勝てぬ。

 我らはこの世に縛られ過ぎておるゆえに、人族との関係を完全に断つ事も難しい。

 だからこそ、朝廷とうまくやっておったのだが」

 

 要するに烏族は、朝廷の上層部、それも裏側担当者と契約して通信や偵察を担う事で、日々の生活や安全に必要なものを得ていたらしい。それが、この乱世と朝廷の権威低下で維持できなくなったが、それでも烏族の力を手放したくない天皇家と摂家が私に保護を依頼した、と。

 有宣もゼロも、その辺の事情を理解した上で受けるべきだと判断しているのだし、土着の連中を抱き込むのはアリだとは思う。思うのだが……

 

「烏族というのは、異界とやらには住めんのか?

 鬼が住むのはそっちだと聞いているが」

 

「あちらの風は合わなくてな。

 即座に落命するわけではないが、実力を出せぬのもまた事実。

 我らは、自由に空を飛びたいのだ」

 

「要するに、私に保護されるのはやむを得ないから受け入れるが、支配される気はない。

そういう事でいいんだな?」

 

「随分と短絡的な解釈をするのだな。

 極端な表現をすればそうなってしまうのやもしれぬが、そこまで排他的な態度を取る必要が無い関係でいられることを願っておるのだぞ?」

 

「最初はどうしたって、様子見からになるだろうからな。

 どんな相手なのか、多少は時間をかけて互いを見る期間は必要だろう」

 

 尤も、森の中に臨戦態勢の手勢を潜ませている事に気付いている時点で、私からの印象は悪くなっているがな。

 追い詰められた表情といい、白い髪といい、捨て駒で当て馬のつもりなのだろうが……なんて、もったいない。普通なら気付けない程度に潜む事はできているし、戦力として見ても高い能力を持っているようだしな。

 

「さてと、腹の探り合いも面倒だ。まずは、私が有象無象に負けるような雑魚でない事を確認したいのだろう?

 森に潜ませている者を呼んだらどうだ。あの程度で不意打ちされる私ではないのでな」

 

「……不意打ち、だと?」

 

 怪訝そうな表情を作りはしたが、頬が引きつったな。

 ポーカーフェイスに徹しきれていないが、こいつも長である以上、2人だけで会うという話を反故にしたとは認められんだろう。

 

「森のそう深くない場所に、誰かいるぞ。

 この辺りは烏族か認められた客人以外は入れないよう、人払いの結界があると聞いている。そこにいる以上、烏族の誰かではないのか?」

 

「結界は村から離れるほど弱くなる。それに、結界も万能ではない。

 この小川付近の強度であれば、力の強い者なら侵入も不可能ではなかろう」

 

 やはり直接の配下かどうかは断言しないか。

 まあいい、少年漫画的なお約束、戦って勝ったら仲間になるとかいう流れが一番楽そうだ。

 うまくいけばいいが。

 

「そうか。それなら────本人に話を聞いてみるとしよう。

 そこにいる誰か。いる事は分かっているんだ、そろそろ出てきたらどうだ?」

 

 ……迷っているが、どうやら戦うつもりになったか。

 武器は野太刀だし、気が多めで魔力は普通だから、戦い方も剣士系と見ていいだろう。

 なぜか凛々しい系の美女だし、何だか桜咲刹那を思い出すな。前世の日本的な意味で成人している程度に見えるから、年齢は上だろうが。

 

「……お前は、村に害をなそうとしている者か?」

 

「なぜそう思ったのか疑問だが、少なくとも私にそんなつもりはないが?

 その気なら、こんな所で悠長に喋る必要もないしな」

 

「村と直接関係なくとも、依頼などの場合もある」

 

「私は天皇に保護を依頼されたんだぞ?

 人が好さそうなお方だったし、嘘を言っている様子はなかった。これで騙されていたなら、私の目が節穴でお前達を保護していた人物が悪人だった、という事になる。

 初めて会ったから偽者だった可能性は否定しきれんし、この状況を利用しようとするアホがいる可能性も無いわけではないがな」

 

「陽動として利用されている可能性、か」

 

「まあ、もしそんなアホがいた場合は、利用された腹いせにそいつを叩き潰してやるさ。

 その程度の力は持っているぞ」

 

「……では、それを証明してほしい」

 

 ふむ、この流れで戦闘開始か。村長の様子は……困った風な表情を作りながら様子見、だな。積極的に止めない時点で責任が無いとは言えんが、下手に煽っていない事を理由に逃げる気か。介入しないなら、それでいいが。

 野太刀を脇構え……体を右斜めにして剣先を右後ろに下げたのは、カウンター狙いか? 私から仕掛ける気はあまり無いのだが。そもそも……

 

「いざ」

 

 ……正直に言って、何もしなくても怪我すらしないのだが。気合を入れてもらっているのは分かるが、逆袈裟の斬り上げが常時展開の障壁で止まっている。

 それからしばらく様子を見ていた。本当に、様子を見ていただけだ。

 

「……そろそろ、力の差を理解してもらいたいものだが」

 

 最早防御も捨てて必死に攻撃しているのを見ているのは、正直言って辛いものがある。

 ここまでされても障壁が揺るぎもしないとは思わなかったし、手出しするまでもなく相手が力尽きそうな状況と言ってもいい。

 

「だが、お前は……」

 

「うん? おかしいな、この戦いは私の力を見るためのものだったはずだ。

 少なくとも力の差は見せられて……そうか、攻撃を見せていないのが不満なのか。この付近を氷漬けにでもすれば理解してもらえるか?」

 

「……そんなことが……」

 

「できるぞ? 力を見せるという意味では見える範囲全部と言いたいところだが、それでは秘匿に無理がありすぎるからな。

 例えば、そうだな……そこの川でも凍らせてみるか」

 

 少なくとも、凍らせる力を持つ事くらいは見せた方が、納得しやすいか。小さい川だし、凍らせるだけなら無詠唱でも十分だろう。

 これくらいでいいか? えい、っと。

 

「なっ!?」

 

 ……これでもやり過ぎなのか? 目測3メートルほどの範囲を凍らせた程度だが、2人の目が点になっているぞ。

 氷系の術がある事は有宣に確認しておいたし、あいつも小川くらいなら凍らせられると言っていたのだから、そこまでぶっ飛んだ事をしたはずはないのだが。

 

「……不思議そうな顔をしているが、どれほどの事をしたのか理解しておらんのか?」

 

「陰陽師にもこれくらいの事をできる奴はいるし、そこまで突き抜けた力を使った覚えは無いが?」

 

「確かに、現象としては可能だろう。だがそれは、入念な準備や全力での行使があってこそだ。

 間違っても、落ちてきた木の葉を払うような気安さでできる事ではない」

 

「……そうなのか?」

 

 無詠唱で魔法を使う連中はそれなりにいるし、くしゃみで魔法が暴発するような世界だったはずなんだが。

 バグやチートでなくとも、拳で滝を割れるタカミチやらの例もある。烏族の情報が限定されているのか、日本全体が遅れているのか、そもそもそこまで技術が育っていないのか……

 

「まあ、あれだ。結果的にだが、私の力を見せられたという事でいいのか。

 これでお前達が納得するのであれば、だが」

 

「少なくとも、実力不足を疑う事は出来ん。

 だが、これからの話をする前に落とし前を付けねばならんか」

 

「別に何も問題はないと思うが?」

 

「いくら疑わしく思ったからだとしても、人族の長の使いを襲った事実は消せん。

 他の者が納得するだけの罰は必要なのだ」

 

「ふむ、そうなのか。

 どのような罰を考えている?」

 

「追放又は処刑が妥当だろう。

 そうでなくば、人族から追及された場合に問題となろう」

 

 集団を維持するための罰、か。

 必要ではあるのだろうし、あの者も覚悟していた様子だが……まあ、条件的に手はあるな。

 

「では、この者の身柄は私が貰おう。

 襲われた側の私が望んで手元に置くのであれば、外部からとやかく言われる事も無いだろうし、仮にあっても反論しやすいだろう。

 お前達の手元から消えるという点に変わりはないしな」

 

「……本気、なのか?」

 

「当然だ。冗談でこんな事を言える状況でもない。

 捨て駒の様に使われる立場なんだ、外見やらの問題が色々あるのだろうと予想はできる。

 だが、私自身がこの様な外見だし、白い髪や翼も綺麗でいいじゃないかとしか思えん。

 ならば、私が連れて行っても問題はない。むしろ、日常生活での問題が無くなる分、全員が幸せになれる。

 と言うわけで、お前は私のものだ。いいな?」

 

「え……あの、ええと……」

 

 うん、いい感じに混乱しているな。勢いで頷いてくれればよかったが、それは高望みしすぎか。

 後は長老がどう判断するかだが……もう少し後押ししておくか。

 

「ついでに言えば、この外見でも一応は烏族なのだろう?

 結界やらに不要な細工をする必要がないだろうし、飛べるという明らかな利点があるのだから、私から連絡する際の使者としても便利だろう。

 おまけに私の機嫌も良くなるぞ。一挙両得、誰も損をしないじゃないか」

 

「ふむ……そこまで気に入るほどの存在なのか」

 

「異端同士で気持ちが理解できると、私が勝手に思っているだけだがな」

 

「試金石としては、ありかもしれぬな。

 では、お前はこれよりこのお方に仕え、我らとの橋渡し役を申し付ける。

 よいな」

 

「……はい、わかりました」

 

 よし、とりあえず手元に来ることは確定したな。

 心を掴むのは後回しにして、とりあえずは。

 

「いつまでも名も知らんのは不便だ。

 お前の名は?」

 

「雪花、と申します」

 

 セツカ……これはあれか。

 白いせっちゃんゲットだぜ、とか言っておけばいいのか。




2016/03/11 土御門の幼女→私が土御門の養女になる に修正
2017/05/15 最も→尤も に修正


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始動編第11話 技術者(オタク)達のある日

 雪花が眷属になるのに、さほど時間はかからなかった。

 何しろ、私の本拠地ともいえる世界樹周辺には、普通ではない者が多く暮らしている。白い翼を見て綺麗だとか羨ましいとか言う者ばかりで、嫌悪する者がいなかったことも大きい。ギリシャ神話風と言えばいいのか、とにかくひらひらした布を着せようとした変態は、制裁済みだが。

 メイド軍団(戦力的にもこの名がふさわしい代物が仕上がっていた)に参加して仲間意識が強まった事も理由だそうだが、特にイシュトと雪花の忠誠心が少々怖い事になりつつあるのはなぜだ。

 

 雪花以外にも、部下的な存在になった者は多くいる。

 多くは有宣の部下という位置付けになるが、私の直属以外に選択肢が無い場合もある。

 例えば雪花のような、私が直接眷属とした者。

 そして。

 

「あ、なんか変な事考えてるでしょ?」

 

「どうして、鬼神が小僧化したんだろうな」

 

「何度も言ってるじゃん。

 僕は元々分霊で、式神契約の主の影響を受けたんだって」

 

「……何度考えても、納得出来ん」

 

 私の使い魔? 式神? まあ、そんな感じになった、宿儺(スクナ)(普通の人間風、なぜかショタ)。

 再封印の準備もしつつ挑んだ京都の鬼神だったが、どうも暇を持て余していたようで、割と簡単に契約に成功した。人形(ドール)契約と一時契約と式神召喚術を参考にして霊的存在との契約魔法を組んでみたのだが、上手くいって何よりだ。別に目新しいものは何もなかったはずだが、見ていた陰陽寮や摂家の連中に技法やらを絶賛されたのは……まあ、印象が良くなったという事でいいだろう。

 本人が言うように本体(飛騨の方にあるらしい)ではないし、手が多いのは当時の領民達が尊敬を込めて様々な対策や改善を行う様を手が多いと表現したのが原因で、両面だの略奪だのは(ヤマト)の連中の言いがかり、という事らしい。

 本体ほどではないものの、鬼神としての戦闘力はもちろん、救世観音の化身だの千手観音の力を得ただのといった方向からか、農業や狩猟に関する知識もある。分霊で存在的に本体より弱いせいかスクナ繋がりの少彦名(スクナビコナ)に影響されて、薬や酒に関する力や知識も少し得ているそうだ。

 聞けば聞くほど、思っていたより「神」をしている気がする。

 うまい酒が飲めると甚兵衛が喜んでいたのは……まあ、いいか。有宣もいい手土産や手札が出来たと言って活用していたしな。

 

 日本は戦国時代が終わり、徳川家が君臨する江戸時代が始まっている。

 それまでに、伊賀や甲賀が壊滅的な打撃を受けたところを保護したり、隠れ里を追われた狐や猫や犬系の(あやかし)達を助けたり、肩身の狭い思いをしているハーフ達を助けたり、商人が集まる街に見せる事で秀吉の目を誤魔化したり、家康を助けて貸しを作ったり、朝廷と徳川の調停役をしたり、北海道と樺太と千島列島を実質的に支配したりしていたわけだが。

 結果的に幕田家は、日本各地との交易ルートと蝦夷の支配権(各地からの入植希望者受け入れ義務あり)を持つ譜代大名という立場も持つ堂上家、という意味不明な立場になった。

 よく考えなくても世界樹は関東にあるから、徳川と敵対したら色々まずいことになる。それを避けられたのは、良かったと言っていいだろう。五摂家よりもはるかに広く生産力がある領土(もはや家領と呼べないレベル)を持って良かったのかは分からんが。

 望月を始めとした教師やその教え子達の活動は密かに知られていて、徳川家だけでなく各地の大名から人が集まる学び舎としての側面が強くなってきた。ついでに、江戸に近く、京を含む各地の郷土料理を含む様々な料理をおいしく食べられて、幕田家以外の隠密が入り込めない力を持つ中立的な土地だからなのだろう。参勤交代で江戸に滞在中の大名達が頻繁に訪れる交流都市としても立場を確立しつつある。

 どうやら、世界はここに原作の麻帆良学園都市以上の影響力を持たせたいらしい……いや、原因を作ったのは私だという自覚はあるが。

 様々な気候に設定した別荘をいくつも作って世界中の香辛料やら作物やらを研究や改良しつつ栽培し、並行して色々な料理も研究開発しているのは、少々やり過ぎだったのかもしれん。琉球で栽培が始まったばかりの砂糖(黒糖)を生産しているとか、まだ日本では食用になっていないジャガイモやサツマイモを生産しているとか、まだ作られていない菜種油の生産とか、牛や豚などの食肉用家畜とか、色々やらかしているし。

 止める気は無いが、一応自重はしている。作った食材や料理を別荘内でしか流通させない程度には。

 

 陰陽術と妖繋がりで、魔界との接触にも成功した。

 現状では深入りをする気も無いから、魔界に住む烏族の村との交易を中心に、機会があれば鬼やら他の地域の魔族やらとの接触を行う程度となっている。

 それでも、日本と繋がりやすい地域を統率している、複数の氏族との接触は行った。その中の1つ、有力な魔族との交渉時にザジ・レイニーデイという名のぽよぽよ言う魔族が出てきたのは、驚くべきか戸惑うべきか……

 口調に戸惑われたと思われたのは有難かったし、友好的に話が出来たのも良かった。積極的には関わらないものの、たまに情報交換等を行える程度の関係は作れたのだから上々だ。妹の存在は確認できなかったが。

 

 魔法世界は相変わらず、物騒な平和が続いている。

 まず、私達が肩入れした部族が王となり、ヘラス連合がヘラス帝国になった。眷属が教育係や補佐役として王室に出入りする関係だから、影響力は相当なものだ。

 眷属達に任せたアリアドネーの立ち上げは、何というか……これぞ魔改造、と言ってしまえばいいのだろうか。既に学術研究国家として不動の地位を確立して、世界中から研究者や貴族の子弟が集まる状況を作り上げてしまっている。教育なんて本来は国が未来に投資する、基本赤字の事業の筈なんだが……有償の高度教育、貴族や企業からの寄付という名の出資、研究成果を会社に使わせる契約料と技術指導料などなどで、しっかり黒字を確保しているそうな。中立という立場を利用して世界規模の企業の本社や研究所を抱え込み、それを利用して政治的な交渉力も維持しているようだから、運営も当面は大丈夫だろう。

 ウェスペルタティア王国はヘラスやメガロに押され、若干勢力を落としているようだ。私達があまり活動していないせいだとは思いたくないが、現状では大国と呼べるものの、このままだとそう遠くないうちに小国に転落しそうだ。

 世界全体としてはまほネットが完成し、それは同時に私達の諜報が魔法世界中をカバーできるようになった事が最大の出来事だろうか。防諜技術もほぼ私達が作ったものが採用されているし、抜け道を外部に漏らすようなへまもしていないから、当面はこのポジションも安泰だろう。

 その他の地域、つまりヘラス、メガロメセンブリア、ウェスペルタティア、アリアドネーの勢力が及ばない地域や境界付近は、基本的に治安が悪く小さな抗争が多発したり、小さな国が出来たり無くなったりしている。これは、時代的にも仕方ないと割り切るしかない。

 

 アメリカは、自由という名の混沌に包まれている、とでも言うべきなのだろうか。

 新天地を求めた権力者とか。

 広い土地を求めた農民とか。

 ヨーロッパの制度や軋轢を嫌った、所謂紙一重な人物とか。

 様々な地から様々な人物が集まり、それぞれが協力や反目しながら都市を形成していく。

 もちろん、ヨーロッパの眷属達もそれぞれの思惑で人を送り、活動を行っている。そのまとめ役として第1世代の眷属が必要だと依頼されたりもしたが、私としては依頼内容に問題が無いなら適度にこなすだけだ。ヨーロッパ方面での教育はマシューもいるしな。

 面識のない者を眷属化する事になったが、特に思うところは無くなっている。最初の躊躇いが嘘のようだが、今考えると私の背中を蹴り飛ばしたゼロの判断は間違っていなかったのだろう。

 その時の眷属は教育に関して強く主張するマシューの影響か、マサチューセッツ湾の植民地で学校を作る時に色々と手や口を出したらしいが……教育は大事だから、それはそれでいいのだろう。

 

 ヨーロッパ方面は、所々でおかしなことになりながらも、それなりに史実に近い歴史を歩んでいるようだ。

 まず、造物主がガリレオを名乗ったらしい。

 魔法世界やらの知識を考えると知識チートでヒャッホイできるのかもしれないし、未来の科学の基礎になるだろうから、生暖かい目で監視するしかない。眷属達にも不用意に近付かないよう注意するに止めておいた。

 スペインの(経済の掌握に路線を変更していた眷属達とは無関係な)艦隊が、イギリスの(マクダウェル家の手がかなり入った)海軍に敗北したのは、史実通りのはずだ。マクダウェル家はイギリスが行っていた略奪に反対の立場を崩さなかったし、スペイン財界の一員はイギリス攻撃に反対していたらしいが、やはり修正力や世間の常識は手強いらしい。

 その後、イギリス(というか、やっぱりマクダウェル家)やフランス(ぶっちゃけジャンヌ達)で東インド会社……別にインドに限っているわけではない独占権を持つ交易会社が設立された。

 オランダも触発されたのか、株式会社の様な形態の東インド会社を設立。ポルトガルを併合したスペインを追い落とす形で、アジア方面に手を伸ばしてきた。

 既に世界規模のネットワークを形成している眷属達が有利というか、情報や現地協力等で突出した状態となっているため、程々に手加減するよう通達する事にもなったが。

 

「でもさー、確か、鎖国中の日本の交易相手って、オランダだけのはずだよねー?」

 

「蘭学とか言っていたくらいだし、そのはずだな」

 

「裏でジョンとジャンヌと有宣が手を組んでるせいで、どう見てもオランダ不利なんだけど。

 いいのかなー?」

 

「オランダが排除されているわけではないし、文化面で積極的だから徳川には割と重宝されているようだぞ。

 フランスはキリスト教関係で警戒されているし、イギリスは商売相手という立場で一歩引いて交渉するからか踏み込みが浅い。結果的にバランスはとれるんじゃないか?」

 

「独占じゃなくなって大丈夫かなー、って方が心配なんだけど」

 

「なるようにしかならんさ。

 それより、魔法世界に地球の植物を持ち込んだ場合の影響が、ある程度調べられたんだが……」

 

「なんか、あんまり嬉しくなさそうだね」

 

「恐らく、効果は限定的だな。

 生態系に大きな影響が出るくらいまで増やせば、延命効果は出るだろう。逆に言えば、その程度でしかない」

 

 もちろん、何もしないよりはマシだとは言える。しかし、魔法世界と言う閉じた代物の中で何とかしようとしても、多少は魔法世界の魔力を消費してしまうらしい。

 しかも、後の事を考えずに突っ走れば、日本で杉を植えすぎて花粉症が蔓延かつ管理する人手不足で放置、みたいな事態になりかねないという事でもある。

 

「やっぱり、中をいじってパパッと解決、ってのは難しいかぁ……

 今いる黄昏の姫御子の力って、使えないのかな?」

 

 これまではあまり情報が出ていなかったのに、今は妙に表立って活動しているあれか。

 自分を王家の剣とか名乗っているようだから、力と役目を把握し納得しているのだろうが……

 

「あそこはお前達の方が詳しいだろう。

 造物主が近くにいる事がままあるんだ。眷属達は表立って動けんし、王家とのパイプも所詮商人と客でしかないぞ」

 

「厨二病は、なぜかあの王家にはあんまり手を出さないんだよねぇ。墓の方に出入りするばっかりだし、そこに出入りする時に僕を封印しちゃうから様子が見えないんだよ。奥の研究室みたいなとこに着けば、普通に活動させてもらえるんだけど。

 絶対に、何かあると思うよ」

 

「墓か。確か墓守の主がいるのだったか。

 あれが何者なのかは知っているのか?」

 

「墓所の主、だよ。

 ウェスペルタティア王家縁の女性で、政治的な意味を放棄した人物が就く役職。ぶっちゃければ、いい政略結婚の相手がいなかった女性の逃げ場。僕が知る限りでは、それ以上の特別な意味は無さそうかな。今までに3回見た事があるけど、全部別の人だったし。

 重要な施設ではあるらしいけど、王家の女性という点の方が重要っぽいかな? 墓所の主かどうかはぶっちゃけ身分だけみたいだし、会った人は黄昏の姫御子とか呼ばれてなかったし。

 魔力の解析とかはする隙が無かったから、詳しい事は解んないけどね」

 

「一言で言えば、よくわからない、だな」

 

「うん、そうだね」

 

 やはり、こいつらの情報は完璧ではない。それは理解しているが、こう、欲しい部分がマスクされているように感じるというのは、もやっとするな。

 

「結論としては、姫御子の力は未知であり、当てにしてよいかも不明。

 場合によってはリスクを取ってでも情報を集める必要があるかもしれない。

 ……やれやれだ」

 

「やれやれだねー。

 ってことは、やっぱり火星をテラフォーミング、外からの魔力供給も手段として考えといた方がいいのかな。

 予想してたけど、宇宙で活動するための装備が必要っと。僕、ワクワクしてきたよ」

 

「オタク趣味は自重しろ。

 頭の中にあるのは、無限の成層圏か?」

 

「何それ? 僕が思ったのは変形する戦闘機で、よく歌ってるアニメのなんだけど。

 これはあれだね。アルに頼んで漫画化案件だね」

 

「……しまった」

 

 インフィニットな話を知らないのか。

 漫画化すると言っても、私が知るのはアニメだけなんだが……

 

「あ、漫画以外でも大丈夫だよ。

 小説でもアニメでもゲームでも、やる時に意識した漫画家の絵柄で再現される超性能を発揮するから」

 

「その性能はあり得ないだろう」

 

「あるから問題なんだよねー。

 例えば少女漫画絵でぺしぺしやってる格闘ゲームの実況漫画を作ったりもできるけど、それが何の役に立つのかは気にしちゃダメだよ。再現率が微妙になったりする原因にもなるし。

 ストーリーとか演出が追加されるわけじゃないから、思った以上につまらなかったよ」

 

「絵柄以前の問題だろう、それは」

 

 だが、そこまで可能なのか……もはや何でもありだな。

 そういえば契約書の文面を漫画化したと言っていたから、これも予想しておくべきだったか?

 

「原作のアーティファクトだって、無茶苦茶だよ。

 少なくとも電脳空間にダイブするのとかに比べれば、ゲームの漫画化なんて現実的じゃないかな。そんな感じの絵を描く人に頼めばいいわけだし」

 

「……そうだな」

 

 あれは確か、コンピュータ的な攻撃が魚に見えていたな。それに比べれば、確かに小説やゲームの漫画化は普通か……恐ろしくお手軽という点を見なければ。

 絵柄やらをマネされた漫画家は堪ったものではない……いや、味方に引き込んでしまえば、お手軽コミカライズが可能なのか?

 

「あ、なんか悪いこと考えてるね。たぶん僕も考えたことだから、別にいいけどさ。

 次は僕の番、の前に1つ確かめておきたいんだけど。

 なんか、魔力増えてない?」

 

 なんだ、魔力の話か。

 これはあれだ。

 

「私が使っているわけでも、月の魔力が増えたわけでもないぞ。

 恐らくだが、眷属が増えた副作用だ。私を通して魔力を供給するからか、人数が増えると私を通る魔力が増えていくようだ。

 はっきり言えば、こんな構造にした上に眷属に頼り切った作戦を考えたお前達も悪い」

 

「えー? 一応、月からも供給できるはずだよ?」

 

「一番近い存在から供給されるのが基本だ。つまり、私が地球にいる限り、月より私の方が地球の眷属達に近く、何もしなければ私から供給される。当然の結果だろう?

 これを月に切り替えるには、常に意識して流れを制御する必要がある。それがどんな無茶か、お前でも想像できると思うが」

 

「う……やっぱりそうかぁ。その点は謝るよ。

 でも、そろそろ隠さないとまずいかなぁ。いくらこの辺は厨二病の興味対象じゃないといっても、遠くから感知されたらどうにもならないし」

 

「確かにな。だが、どうする?

 原作の大結界でもマネして、私を封印状態にでもするか?」

 

 現時点でも制御の手を抜いているわけじゃないんだ。

 これ以上増え続けたら、隠し通せないのは確実だ。

 

「それしかないかなぁ。せっかくのチートエヴァにゃんなのに……」

 

「それなら、眷属を増やすな、むしろ減らせとでも通達するか? それとも、今から私を改造するか?

 眷属達への魔力供給が理由である限り、根本的な対策はこれ以外にないぞ」

 

「だよねー。今から眷属の人たちに影響を出さずに魔力供給方法を改造するなんて無理だし……仕方ないかな。

 蟠桃の認識阻害と封印魔法を組み合わせて、何か考えてみるよ」

 

「それは任せた。私は世界樹に手を出さない方がいいだろうからな」

 

「うん。だから、まずは僕がやってみるよ。

 というわけで本題行くね。本格的なインテリジェントデバイスがようやくできたよっ!」

 

「……今まで、出来ていなかったのか?」

 

 精霊の知能強化とか、魔法の発動体とか、魔導具とか。基盤になりそうな技術は色々あったし、適当に情報を渡していたから、とっくにプロトタイプ程度はできていると思っていたんだが。

 

「厨二病に見付からないようにこっそりやってたし、他の事も色々やりながらだったからね。

 それにしても、ほとんどの人が扱えるのを目標にしたら、これが難しいのなんのって。ド素人からバグまでって感じで。

 必要な機能が違うし、少ない魔力でも稼働してバグ魔力でも壊れないのも難しかったんだ」

 

「ある程度はランク分けしても良かったんじゃないか?

 入門用とプロ仕様で違うものなど、いくらでもあるだろうに」

 

「そりゃあ、完全に同じものを使うのは無理があるのは分かってるよ。

 でも、少なくとも使用感は似た感じにしたかったし、プロでも苦手な分野は入門用並みのサポートが欲しい時があると思うんだ。

 重要だけど使う機会が少ない魔法だって無いわけじゃないし、某アンチョコ見ながら魔法を使う英雄サマだっているんだし」

 

「アレを何とかできるレベルになった、という事か?」

 

「うん。完璧とまではいかないし、かなり値段も高いけどね。

 修学旅行で、助けたこのちゃんに渡してスクナどーん! くらいはできるはず!」

 

 技術はないが魔力がある相手に渡して、いきなりスクナ級の相手を封印可能ということか?

 それはつまり。

 

「とある魔砲少女みたいに、か?」

 

 大きな魔力さえあれば、初期設定直後に砲撃を行う程度の事は可能だという事か。

 

「えぐざくとりー!

 ナギに渡して登校地獄をまともな形で使わせることもできるはず。

 魔法を知ったばかりのちうたんとかゆえきちに渡して、簡単な魔法を使わせることも大丈夫。

 普通の魔法使いだと、実力の底上げになる。

 仕様としては、完璧じゃないかな?」

 

「……で、値段は?」

 

「今の日本で売るなら、親藩譜代外様の全収入を数年分くらい欲しいかな?」

 

「おいおい……国が無くなるレベルなのか」

 

「外部に売るとしたら、だけどね。

 身内用にいくつか作るのは問題ないし、もっと研究が進めば、エヴァにゃんの愉快な眷属達が作れるようになるんじゃないかな。

 ストレージデバイスも、必要な技術はそこそこ揃ってるはずだし。売るならこっちだね」

 

「インテリジェントの方を先に作ったのか?」

 

 難易度やらを考えると、普通は逆だと思うが。

 知能の調整は、かなり手間がかかる……まさか、ここが高コストの理由か?

 

「単一機能の発動体や魔導具もどきとか試験用サンプルとかもストレージデバイスと呼んでいいなら、かなりの数を作ってるよ。

 出来てないのは実用性を考慮した設計と、高レベル精霊を使わずに魔力量の影響を抑えて効果を一定にする方法だから」

 

「自動制御に頼った構造なのか……

 だが、魔力量の影響はどうあがいても出るだろうに」

 

「単一機能で自動魔力充填式の魔導具だと、効果が一定なんだよねぇ。

 誰が使っても似た効果を得られるって点が既存の発動体との最大の差異、魔力があれば連続使用も可能って点が魔導具との差異。これがデバイスのウリになると思うんだ。

 現状でそれを実現可能なのがインテリジェントデバイスだった、って事だよ。

 これ以上は、まだまだ研究が必要ってことで」

 

 設定目標的な問題で、現状では高レベル精霊の知能調整が必須という事か。

 高練度な魔法使いが、相当な手間をかけて行う作業だ。製造コストの大半はこれだろうな。

 開発自体も相当かかっているし、広く売る気も技術を広める気も無い。そんな代物の元を取ろうとすれば高くなるのは、当然だな。

 

「だが、眷属連中の3世代目くらいまでは、発動体すら使わずに魔法を行使可能だぞ。

 デバイスが必要になる状況があるのか?」

 

「今はいらないと思うよ。けど、将来的には役に立つんじゃないかな?

 ちなみに、アルが守護騎士システムもどきを作ろうと色々やってるみたいだから」

 

「人形遊びでもしたいのか?

 いや、幼女誘拐犯になるよりはマシか……?」

 

「いやいや、一応戦力やサポート要員としてだからね?

 ……きっと」




デバイスの扱いは初期プロット通り。
ストレージデバイス≒アプリかなと思っちゃったりもしたけれど、UQが始まる前のプロット時点でこんな扱いデスヨ。

支配領域を「北海道、樺太、千島列島」で止めたのは、陸続きだと線引き(遊牧民やらとのあれこれ)が面倒だからです。
決して未来の恐ロシアを警戒したわけじゃないです。

あと、大阪(堺)は史実に近い形で発展します。
麻帆良には海が無いので、海運を牛耳るには向かないのですよ。




没ネタ

アル:ふふふ、やはり天使の様な翼にはキトンが似合いましたね。

ヴァン:それには同意するけど、この辺だと目立つよねー。

エヴァ:背中の穴は翼の関係で仕方ないと思ってやるが、下劣な視線は許さんぞ。

アル:ええ、骨身に沁みましたよ。

エヴァ:あと、あの派手な靴下は何だ? 明らかに時代やらを間違えているだろうに。

アル:ああ、アンチ=オード・ソックスですか。常に体の浄化を行う魔導具ですよ。

エヴァ:……効果だけ聞けば便利そうだが、何故靴下なんだ?

アル:女性は冷え性が多いという先入観ですよ。
   もう少し良い素材があれば、もっと長いものを作りたいのですが。

エヴァ:アレでも今ならオーパーツだと思うが。その次に作るのはミニスカか?

アル:いえいえ、その前に下着ですよ。

エヴァ:その心は?

アル:奥にちらりと見える白が良いの……はっ!?

エヴァ:死ね!


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始動編第12話 文明開化?

 振り返ってみると、日本で過ごした時間はあっという間だった。

 残念ながらと言うべきか、私自身はヴァンと試行錯誤しつつ完成させた大結界の外に出るのは難しい状態になっているし、麻帆良の認識阻害も原作ほどとは思わないがそこそこ強めになっているが。

 とは言っても、私が私だと認識しているこの体を使う方が色々と楽なだけであり、負荷や負担を考えなければいつでも出る事が可能だし、そもそも私が本気になれば結界が持たない。つまり、原作の様に強く縛られている状態ではなく、自主的に縛られた状態になっているという事になる。

 分身的なものを使って外に出る事も可能だし、不自由とまでは言えない。それでも、結果的かつ疑似的ではあるが、私は世界樹の近くに封印されたと言える状態になっているのだろう。

 

 封印に近い状態になったと言っても、何もしていないわけではない。

 魔法世界を何とかするには最終的に魔法の公開が必要だろうと結論付け、必要な技術や経済力を着実に集め開発するのが主な活動になっていただけだ。

 魔法を公開する理由は、魔法世界を魔法世界のままにすれば確実に破綻し、その回避方法はどれも大規模なものになる、というものだ。

 火星の緑化による魔力生成は確実に効果が得られると思えるが、地球から見えるし超大規模な工事などが必要だ。

 魔法世界の構造を効率化するには、恐らく内部の崩壊を伴うリセットが必要になりそうな気配があるし、恐らくは厨二病か黄昏の姫御子の力も必要だろう。

 別の場所から魔力を集めても根本的な改善にはならないため、時間稼ぎ以上の効果が無い。

 現状で思い付く限りの方法を検討したものの、魔法世界内部だけで完結する手法はなく、魔法を隠しながら対策する事は現実的と言えないと判断した。私達だけでその巨大な負担を背負うのは不可能で、その義務も無いしな。

 そろそろ厨二病に教えて協力させる必要があるのだろうが……最大の問題は、やはり厨二病が厨二病だという事だ。原作の『完全なる世界』的な方向に突っ走られると、その対処をするなり手綱を取るなりする手間が増えてしまう。

 いくらアリアドネーを手中に収め、規模だけで言えば魔法世界最大のヘラスと実質的な同盟関係にあり、メガロの財界と強力な関係があると言っても、足並みを揃えるのは無理があるんだ。ウェスペルタティアは商人として少々の影響力を持つだけだし……国としての勢力がかなり落ちているから、無視するという手もあるんだが。

 ウェスペルタティア王家、もっと言えば黄昏の姫御子の力は、未だに謎だらけだ。黄昏の姫御子についても、時代によって積極的に表に出る場合と、戦場などで突然力を振るう場合の両方のパターンが確認できているに過ぎない。最後まで表に出ない場合もあるだろうし、現れるのが100年とか200年に1人程度らしいという事しか判明していない。

 

 眷属達の社会的な影響力は、着実に増している。

 特に日本では、飢饉や火山や地震などなど、何らかの被害が大きかった地域……北は青森(北海道は実質的に私達の領地だから除外)から南は鹿児島までの各地に幕田家やその関係者を祀る社が建てられたり、一部地域に幕田家領が増えたりした。

 災害救助や復旧等に手を貸し続けた結果であり、当然の様に災害がある度に助けを求められるようになりもしたが、民間からの感謝は相当なものだ。幕府や大名にも恩を売りまくったおかげで他藩より少々裕福でも文句を言われ難い状況にもなって、一石二鳥だそうだが。

 文句を言ってきた連中が飢饉で苦境に喘ぐ羽目になったのは、まあ自業自得だ。私達が飢饉を誘発させたわけではないしな。スクナが勝手に何かやらかしたわけでもない、はずだ。

 ちなみに増えた領地は2か所。桜島は噴火後の無人になったところを救援用拠点として利用する事を兼ねて譲り受け、富士山東部は噴火後に小田原藩が返上し幕府が放棄を決定した地域を復旧目的に乗り込む形で幕田家飛び地にしたらしい。有宣達も無茶をする。

 

 中国や東南アジア、インドといった地域も、特に問題は無い。

 史実通りにヨーロッパ諸国の植民地化したため、欧州組と東南アジア組がひっそりと協力する方向で、影響力を伸ばす事に成功した。

 アヘン戦争を防ぐ事は、失敗したが。一応は大国だった清の支配力でも一般人がアヘンに依存するのを止められなかったわけだし、私達には支配層の強硬論を止める手段が無かったのだから、仕方ない。裏方の私達に出来た事は、流通を少々邪魔したりする程度だった。

 むしろ徳川幕府の権力もう……もとい、石あた……ええと、上層部の頭を冷やす効果も期待できたから、積極的な介入は控えたとも言える。

 

 アメリカやヨーロッパ方面も、ある意味では順調だ。

 大きな地震の救援に動き、ポルトガル等に恩を売ったり。

 マクダウェル家はカナダ方面に注力しながらシティの連中にアメリカ東海岸辺りの利権を譲った上で、アメリカの独立戦争を裏から支援したり。

 ドイツで銀行の立ち上げを手伝ったり。

 ナポレオン(やっぱり造物主が関わっていたらしい)の活躍を横目で見つつ、軍需産業方面で経済力を強めたり。

 スエズ運河の工事にメガロの連中が関わるという事で監視してみたら、工事で魔法を使いまくって魔力枯渇に近い現象を起こしたのを確認できたり。

 

「あれは意外だったよねー」

 

「砂漠のど真ん中では、供給される量も知れているという事なんだろうな。

 おかげで地球でも魔力枯渇の研究が可能だと判明したのはいいんだが……魔法使いによるピンハネに失敗した挙句、奴隷に近い強制労働でイギリスに叩かれた上に労働者の反乱を起こされたというのは、自称正義の魔法使いとしてどうなんだろうな」

 

「自称だし、僕達の感覚の正義とは違うんだよ、きっと。

 フランスの企業が中心だけど、ジャンヌ達は関わってないんだよね?」

 

「メガロ上層部が直接関わってるのに、行かせられるわけがないだろう。

 結果的に、資金難になって放出した株をイギリスが大量取得したんだ。前世の史実がどうだったかは知らんが、現状としては造物主が良く出入りするフランスよりイギリスが有利、という事でいいだろう」

 

「イギリスが有利過ぎってのも、怖いけどね」

 

「その分か、若干アメリカが不利だがな。

 鎖国と言いながらもオランダイギリスフランスとの交流は続けていたし、アヘン戦争の時に危機感を煽って工業化もし始めていた。

 私達が桜島で造船所と蒸気船を作って、お披露目もしてあったからな。黒船も思った以上にお祭りで終わったし、混乱は抑えられた気がするぞ」

 

「九州に本格的に進出したのは、だいぶ前の桜島の噴火の時だったよね?

 あの時に桜島を貰っておいたのが、こんな事で役立つとはねー」

 

「あの頃はまだ駿東や足柄の面倒も見ていたし、人手的にかなりギリギリだった覚えがあるが……結果的に良かったんだから、それでいいだろう。

 そういえば、この時の人手不足が(あやかし)達を表で積極的に使うようになった切っ掛けで、災害対応の中軸としての立場が確立したのもこの頃だな」

 

「でもさー。

 明治政府を支援する見返りに事実上の独立国家になる、ってのはどーなの?」

 

 元幕田家領というか、現幕田公国というか。

 私達が所有していた土地は、世界樹周辺を首都とし、北海道及びその近隣の島々、富士山東部、桜島の3か所に飛び領地を持つ独立国となっている。あの大きな北海道や樺太を飛び地と呼んでいいかは置いておくとして。

 明治維新の際、私達は摂家の系譜である事や海外の技術の重要性を理解している事もあり、朝廷に開国を進言する立場を取った。一応は譜代大名であり徳川家の説得に動く事も出来た。桜島に拠点を持っていたため薩摩との交流が深く、少しはその動きを制御出来た。

 その結果、比較的穏便に大政奉還が行われたのだが、私達は黒幕で強力な力を持ちすぎている存在として明治政府から警戒され、更に有宣が明治政府の困窮に付け込んで「幕田領に関する主権を買い取る」事で、幕田公国が成立した。

 もちろん金銭だけでなく、不可侵条約だの名目上は天皇を宗主とするだの降嫁してくるだの摂家の分家が来るだのといった交渉や経緯もあったが、幕田公国は幕田家当主を大公とする立憲君主制で、大日本帝国の同盟国、という事になっている。

 現実問題として、大日本帝国と幕田公国の往来は原則自由だし、基本的な法は共通になるよう調整する事になっている。当然、国としての体制、税、治安、教育といった分野では、それなりに差が出るだろうが。

 

 ちなみに、国外の組織には世界樹の存在は認識されていないし、オスティアへのゲートも公開されていない。というか、造物主やウェスペルタティアも存在を忘れているのではと疑いたくなるレベルで使われていない。ヴァンはいい仕事をしたし、相変わらずヨーロッパ方面に出没している造物主も世界樹の情報を流していないようだ。

 ただ、京都と麻帆良は魔力が不自然に多い場所として、メガロやらに目を付けられはした。魔法使いを含む調査団が日本や幕田公国に来るのは防げなかったものの、京都では摂家や陰陽寮の壁に阻まれていたし、麻帆良では準備してあった認識阻害に耐えられなかったようだが。

 いざこざははあったが、日本呪術協会(旧陰陽寮、有宣の喝と梃入れで裏のまとめ役としての地位を保っていた)と幕田魔法協会が同盟を組み、メガロに私達を支配下に置けないと実力で諦めさせて、完全な独立を維持する事に成功した。少なくとも名目上は対等な関係であり、魔法を使用した契約書は有効だ。

 当然だが、問題が全くないわけではない。幕田公国は人外的又は魔法使い的な意味での裏世界の住人を可能な限り合法的に扱うための隠れ蓑、そして大々的に研究や農業工業を行うための顔である以上、見せ札としての諸々を準備する必要がある。

 それと、メガロの連中は紀伊半島の南の方に支部という名の村を作ったようだ。学園都市の様な大々的なものではないし、日本人を排除するほど阿呆でも無かったから、自治体の運営に協力する日本人という立場で人を送り込んである。監視は問題無く出来るだろう。

 

「建国の主犯は有宣だぞ?

 まあ、薩長の連中もだいぶ台所が苦しかったようだしな。公務員の給料をケチるために暦を変えると聞いた時は、何を言っているんだと思ったが」

 

「結果的に色々と動きやすくなってるのは、事実だけどね。

 北海道だけじゃなくて、駿東から富士山の間の樹海も人外の隠れ家としては便利だし」

 

「青木ヶ原じゃなくて不満か?」

 

「あっちは有名になりすぎるから、いいんじゃないかな。

 観光客が頻繁に来ると面倒だけど、寒さに弱いと北海道に逃げにくいから」

 

「確かにそうだな」

 

 目立たないためにも、特に名前を付けていない富士山東部の樹海。そこは私達が保護した妖やらが多く住む、ある種の楽園が形成されている。

 他の国、特に中東では生活可能かつ安全な土地の確保が難しく、遠く離れた地に移動するか、不便な生活を強いられる事が多いらしい。それに比べたら圧倒的に快適で、気候や文化面で問題が無いと判断した連中の入国希望もしばしばある。

 ……受け入れ側から見ても問題ないと思えるのは、かなり少ないようだが。

 

「ここへの移住希望者が多いのは、エヴァ様の努力と人望の賜物でしょう」

 

「……イシュトか」

 

 この娘も、どうしたものか。

 敬意や忠誠心は確かにあるし、本人も色々と努力はしている。

 それは認めるが相変わらずの鉄仮面で、戦うメイド方向に全力で突っ走っているのはなぜだ。

 今も、雪花と一緒に茶の準備をしているし……ノエルやノアは食事の準備をしているから、この2人が来るのは分かるんだが。

 

「私の後輩達もそうですが、皆が感謝しているのです。

 全く、誰でしょうね。魔法世界で闇の福音などという相応しくない名を広めてしまったのは」

 

 雪花の後輩達……自分たちを白雲と呼ぶ、アルビノ的な白い連中の事か。烏族に限らず、稀に現れるのを保護したり貢物的に連れてこられたりしていたから、意外な人数になっている。

 全員が私の親衛隊を名乗るのは、リーダーが雪花という理由で納得するとしてもだ。若い女が全員メイド部隊にいて、程度はともかく戦闘方面も鍛えている点だけは解せん。

 闇の福音の名は……本当に、誰だろうな。別に恐怖の対象とかではなく、クモの糸的なおとぎ話になっているのも謎だ。

 

「その点では、エヴァ様にアルテミス・カリステーの名が付けられ、月の一族の守護神として崇められる原因を作った人達も同罪なのでは?

 雪花さんも布教に協力したようですし」

 

「エヴァにゃんが、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルになった原因だよねー」

 

「あ、あれは布教の協力ではありません!

 協力者が不当に処罰されそうだから助けてほしいと請われただけです!」

 

「白い翼を広げ、弐の太刀で汚職者の十字架やら祭服やらを切り裂いたと聞いていますが?

 関係者が、天罰だと震え上がったそうではないですか」

 

「介入したのは、本当に欲にかられた馬鹿の暴走による被害を防ぐためのものだったから、強く非難はせん。あれのせいで所持物を全て破壊する武装解除の魔法が注目されたのは笑ったし、宗教上層部とも関係を作れたようだしな。

 それにしても、よくもまあ日本からヨーロッパまでの転移ルートを用意していたものだ。あの当時だと、私以外はそこまで長距離の移動は難しいと思っていたんだがな」

 

「それは800里(3100km)級の転移設備を完成させたアリアドネーと、地球で運用実験をやっていた人達のせいです!」

 

「悪いとは言っていないぞ? 交易やら技術導入やらがだいぶ助かったのも事実だしな。

 黒船(ペリー)が来る前に蒸気船を作れたのも、あれのおかげだと言っていい」

 

「それは、そうですけど! そうなんですけどっ!」

 

「エヴァ様が良いと言っているのですから、良いのです。

 それより、お茶請けの補充を」

 

「……はーい」

 

 雪花が追い出された、か?

 あいつもアルテミス・アンゲロスとか呼ばれて、二つ名的には被害者に近いんだが……いや、白雲や眷属達は全員が被害者候補か? 男はフェブルウスとかいう名を付けられてるらしいし。ギリシャ神話とローマ神話を節操なく混ぜる辺り、犯人は日本に居そうだ。

 それに、実験と言いながら日本→中国→東南アジア→インド→中東→欧州のルートを作っていた連中や、協力者の保護に失敗した連中の方が問題と言えば問題だった。問題点の洗い出しと対策に集中し過ぎていた辺りが。

 

「ま、あれのおかげで先に色々導入出来たから、文明開化とか騒がれる前に工場を建てたりもしたしねー。

 けどさ、割と小さめの会社をいっぱい作る方針で良かったの? 銀行を作って緩やかな企業連合風にはなってるけどさ」

 

「下手に大きくして、財閥解体に巻き込まれたら面倒だ。

 制度としては別の国ではあるが、無関係だと言い張るにも限度がある」

 

「財閥はかなり大きな力を持っているようですが……解体、ですか。

 たまに話していただく、未確定な未来の情報でしょうか?」

 

「そうだな。

 この際だ、これから起こる可能性のある大きな出来事や変化を伝えておくか。

 時期が不明なものもあるがな」

 

「これからだと、2回の世界大戦かな?」

 

「歴史に喧嘩を売っている私達が言うのもなんだが……やはり、回避は不可能だと思うか」

 

「少人数の思惑とか、国のトップがとか、そういう話じゃないからねー。

 アメリカの虐殺とか、割と積極的に手を出した件も少しマシになった程度だったし。少なくとも戦争自体は起きるんじゃないかな?」

 

「やめろと言って止まるような覚悟では、戦争を起こせんからな。

 それに至る経緯を全て止めるのも不可能だ。それは、今まで生きてきて実感しているよ」

 

「確かに、いくつかの戦争を回避しようと指示されていましたね。

 芳しい結果を得られた事はありませんが」

 

「問題はそこだな。力不足とか、表に立てないせいで身動きが取れない事が原因なら、まだ理解もできるんだが。

 1度防いでも2度目があったり、別の事件が発端になったりするのは、どうにもならん」

 

「防ぐことを諦め、状況を利用する方針で動く場合は、比較的良い結果を得られています。

 今後もその方針が良いのではないでしょうか」

 

「一応はそのつもりだ。

 だが、この辺が焼け野原になるのは、世界樹の事を考えても避けたい。その為にも、日本とは微妙な距離を保つ必要があるのが面倒だが……」

 

「ここは海が無いから、日本に経済封鎖とか食糧封鎖される可能性もあるんだよねー。

 アメリカとの関係も、難しいよね?」

 

「難しいが、その前に、技術の国として表に出ていかないとな。

 そのうち石油燃料も広まるはずだし、別荘の工場やらは交渉力の源泉として使えん」

 

「蒸気船を作ったときは色々輸入したって言い訳で通したけど、何度も使える手じゃないし。

 それに、組み立てだけだと未来の中国だよねー?」

 

「戦後の日本でもあるがな。

 設計やら改良やらは、ある程度以上の技術力が必要だ。それまでの下積み期間は材料を買い、決められた方法で加工して売るのが簡単……と言うか、それしか出来ん」

 

「新人メイドの、練習期間の様なものですか」

 

「そうだな。最初から人別に茶の味を変えるなんて事が出来たら、それは天才を通り越した何かだろう」

 

「そうですね」




魔法世界をどうするかは、今後のお話で。

世界大戦の話は(ほんのちょっとしか)書きませんよ。
真面目に書いてたら始動編じゃなくなるじゃない(今が始動編にふさわしいとは言っていない)。


裏設定:メガロが「紀伊半島の南」に村を作った理由

麻帆良、京都⇒エヴァ達や呪術協会の勢力下
九州⇒桜島や島原(雲仙岳)に、幕田家の勢力あり
東海⇒富士山付近に幕田家領。甲賀や伊賀の存在。京都~麻帆良の通路。幕田家や呪術協会の影響が強い
東北⇒麻帆良~北海道の通路。幕田家が地味に勢力を持っている
瀬戸内海⇒京都~九州の通路。幕田家や呪術協会が地味に勢力を持っている
日本海側⇒主要都市への交通が不便
四国⇒火山が無いため幕田家の影響が小さいが。京都や東京へは船が必要
紀伊半島の中ほど⇒旧朝廷関係の影響が強め(かもしれない)
紀伊半島の南⇒火山が無いため幕田家の影響が小さい。一応陸路で京都等に行けて、奈良や伊勢(きっと魔力が多いと期待)にそこそこ近いと言えなくもない

要するに幕田や呪術協会の勢力が強めの場所を避け、有事の際に逃げる事が可能で、かつ本国にある程度言い訳出来る場所を探した結果としての選択です。
ちなみに村から日本人を排除した場合、侵略者として表と裏の両方から追われます。村長等に立候補するにも投票するにも「日本国民である事」という条件がありますし。
というわけで、原作でコノエモンが麻帆良で理事をやってたのは、侵略者認定を緩和するためというメガロ側の事情もあった(効果のほどはお察し)という説を提唱してみる。


2016/04/11 アメリカ東海岸辺りの権利→アメリカ東海岸辺りの利権 に変更
2016/04/21 二の太刀→弐の太刀 に修正


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始動編第13話 大戦 in 地球

 世界を巻き込む、2度の戦争があった。

 

 切っ掛けは、皇太子の暗殺事件だった。

 私の知る史実通りではあるが、事件はあくまでも引き金であり、その時点で既に世界中が火薬庫だったと言える。少なくとも、この事件を防いだところで戦争を防げたとはとても思えない。

 世界中の国が、民族が。他の国や人を出し抜き、自分達の利益や領土を得るために蠢く。

 本質は、いつの時代も変わらないのだろう。そして、次々作られる新しい兵器や戦い方が抑止力にならず、戦争という武力行使が当たり前のように行われるこの時代において、泥沼化は必然だったのだろう。

 その結果、多くの国が疲弊し、ヨーロッパの経済と君主制を崩壊させた。そして、従来の方法、つまり敗戦国からの賠償金程度ではどうにもならないほどの大きな傷跡を残した。

 

 そもそも敗戦国には賠償金を払う国力が残っていないのに、戦勝国の消耗をどうにか出来るはずもない。

 巨大な被害に厭戦の雰囲気も出てはいたが、利益や不満のはけ口を求め続ける行動が、すぐに変わる事も無い。

 賠償金の支払いに関するトラブル。国力が低下した国や地域への進軍。各国の思惑で行われる支援や圧力。加熱しすぎた株式市場の崩壊を切っ掛けとする世界恐慌やその対策も、原因ではあるだろう。

 結果的に、2度目の世界大戦も概ね史実に近い形で発生し、終結した。

 

 最大の違いと言えばやはり、最初から最後まで戦争に参加せず中立を貫いた私達、幕田公国や眷属達の存在だろう。

 第一次世界大戦後のヴェルサイユ体制では、領土的軍事的な野心を持たないが色々な技術は持つ小国として微妙な存在感を保ちつつ、眷属達が各国の市場で儲けながら土地や企業を確保し。

 ワシントン会議には呼ばれたものの、軍縮会議には参加せず。国防や輸送船護衛用の駆逐艦や巡洋艦は持っていたが、戦艦や空母が皆無だったのが良かったのだろう。当時の私達は航空機開発に力を入れていたが、有効性は広まっていなかったし。

 アメリカの経済成長が鈍化した時点で、資本の整理……具体的には不要と判断した株やら工場やらを売却したりして、経済の崩壊に備え。

 世界恐慌で経済が分断されると、元々表に出せない眷属や裏世界の住人が多く影響が限定的だった私達は、各ブロックの内部で勢力の維持や強化に努め。

 第二次世界大戦中はアメリカやイギリスなどと密約を交わし、戦争非介入を条件に歴史資料や文化財の保護を行っていた……こんな事で、図書館島の地下施設を作る羽目になるとも思わなかったが。運搬可能な範囲に安全そうで使いやすい土地が他に無かったんだ。

 ロシアが樺太に侵攻してきたりもしたが、全兵士を丁重に箱詰めし(かんおけにいれ)てお返しして、アメリカを通して抗議したら、二度と来なかった。返すついでに港の軍艦を壊滅させて、ついでに眷属達が影響力の弱かった極東方面の軍務にがっつり食い込み始めたような気もするが、私達は悪くない。

 もちろん、問題や被害が全く無かったわけではない。非協力的な私達に大日本帝国の鼻息の荒い軍部が文句を言ってきたり、私達の領地近くが攻撃されないと気付いた者達が殺到して騒動が起きたり、表向きは北海道方面から麻帆良等への食料輸送が問題だらけなので騒動が起きかけたり、飛行機から脱落した部品が落ちてきたりもした。

 

「あれ、すごかったですよねー。どかーん、って」

 

「いや、笑い話じゃないからな?」

 

 落下したのは、学校の近く。

 そして、避難を受け入れていた孤児の一部が巻き込まれた。

 そこにいたのが、こいつ……相坂さよだ。

 

「えー? でも、こうしていられるのは、あの時のおかげですしー」

 

「見方を変えれば、あの近くにいた100人以上の中で、死んだ10人程度に含まれてしまったという事だぞ。

 しかも、これからお前は私に縛られることが確定済みだ」

 

「それはそうなんですけどー」

 

 ある意味で、さよは強運の持ち主なのだろう。

 避難の手続きの際に、魔法の素質がありそうだとかいう理由でマーキングされていて。

 近くの学校に、私(年齢詐称薬で大人モード)が教師として滞在していて。

 状況確認のために消えかけている魂の記憶を読もうと送った魔力で、私の使い魔的な存在に変質してしまったのは。

 強制力こそないものの、存在維持を私に依存しているんだ。実質的に支配してしまったと言っていいのに、能天気だなこいつは。

 

「それに、目印を付けた最大の理由が、一目惚れだったというオチまでついた。

 良い素質の人物を見つけたと褒めるべきか、情けないと嘆くべきか、魔術の濫用で罰を与えるべきか……」

 

「も、申し訳ありません」

 

 今は事後処理を引き継ぎ、自宅兼事務所に戻った直後。

 現場から連行した少年が、ものすごく気まずい顔で土下座している。

 これが近衛の本家から来た近衛近右衛門なんだから、修正力とは恐ろしい。

 分家がこっちにある以上、本家から来ることは無いと思っていたんだが……分家の子が幼いうちに病死し、このご時世で跡継ぎがいないのはまずい&徴兵避け&本家血筋の中立国への疎開という思惑で養子に来るとか、予想の斜め上を行く現実が待っていた。

 近右衛門の後頭部が普通だった点にちょっと安心してしまった私は、悪くない。

 

「やれやれ。まあ、今回は状況把握に役立たなかった事も無いし、魔力との相性も確かに良かったのだろうから、その意味での処罰は免除してやる。

 だが、一般人相手に付きまとうような真似は、恋心が理由だとしても……いや、だからこそ嫌われる原因になる。

 場合によっては、権力や立場を振りかざす以上に下劣だぞ」

 

「そうですねー。知らない人にいつも見られてるのは、ちょっと嫌ですしー」

 

「ぐはっ!」

 

 うむ、死んだな。

 しかし、近衛近右衛門と相坂さよ、か。

 こんな形で関わるとは思わなかったが……この様子では、原作の登場人物は何らかの形で関わってくると思っておいた方がいいのだろうな。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 その後は、状況を考えると、当然の結果なのだろう。

 幕田公国の被害は軽微であり、北海道に大きな工業力と農業力を持ち、アメリカ等との密約があった。天皇を宗主とする日本から分離した国ながら戦争に参加しなかった、つまり「敗戦国ではない」という事実もある。

 結果的に、私達が日本の復興を手伝う事になった。

 勿論、中立国であることを盾に、私達が主導する事は避けた。朝鮮戦争の戦争特需やら抜きでは復興の目途が立たないし、アメリカはやはり大きな力を持つ国だ。現状でその傘下に入る利点は、入らない欠点よりも大きいはずだ。

 

 幕田公国としての役目は、主に4つ。

 日本とアメリカの文化や感情を考慮した緩衝役。治安や制度の維持管理に関する現場の監督。これ以上の死者を防ぐための医療。そして、教育システムの立て直しだ。

 その為の実行役として、各土地の社を護る連中や古くからの名家や名士に協力を要請したり。ある意味では裏の存在であるヤの付く職業から、私達の方針に反しない性根を持つ者達を選出して暴徒(火が付く病気の連中が多いらしい)の鎮圧や強制出国を行わせたり。一時的ではあるが眷属や妖(もちろん人に化けられる者限定)を各地に派遣したりと、少々無茶をすることになった。

 ……いくら被害が小さく、忍者系教師陣やスクナといったチートじみた連中がいると言っても、出せる人員や物資に限度はあるんだ。それに、全てを私達が背負うのも間違っている。

 もちろん、眷属達はちゃっかりと権益や影響力の確保を行っている。私達やアメリカからの物資の輸送手段が必要であるし、幕田公国や今後の日本にとって重要なものだからと、港、道路、鉄道の建設や運営管理を日本と幕田公国の共同事業(実態は幕田公国主導)としたり、駅や交通の要所付近の土地を確保したり、それらを利用する不動産管理会社や輸送会社を元々持っていた人脈や流通網を復旧しながら構築したりしているようだ。

 戦争でボロボロになっていて、なかなか大変そうだが。

 

 世界の眷属達も、それぞれ活動を活発化させている。

 戦争の傷跡はどの国も大きく、その復興に必要な労力は巨大。

 そこに付け込む形だが、戦争に消極的だった眷属達の会社や国が人を助けるためという標榜で支援を行い、社会的な影響力やらを着実に増している。

 2度の大戦の前より権力や勢力を落とした者もいるが、元々王族や貴族といった権力者側だった連中は仕方がないだろう。逆に独立国としての基盤を確固たるものにした中東の連中もいるし、これを想定して権力に依存しない組織を作っていた者もいたから、全体としてはプラスだ。

 

 そして、ついにと言うべきか、想定していた状況となった。

 何度も打ち合わせをしていくつものパターンを想定し、状況に応じて修正もしてきた。

 その結果として。

 

「どうした、育児放棄者。

 私を娘と呼んだのだから、500年以上も放置した責任は取るのだろうな?」

 

「ぬ……ぬぐ……」

 

 アメリカの調査団に混じって来日した厨二病(黒ローブを羽織った青年バージョン、白衣の研究者に見えるような認識阻害と光学迷彩の複合技は見事)が、私の足の下で呻いている。

 ヴァンから来日の情報をもらっていたし、幕田公国の訪問も日程に組み込まれているのも知っていた。だから、夜に世界樹の側で待ち構えていたのだが。

 この時点で接触したのは予想の範疇だから問題無い。だが、最初から「我が娘よ」などと言われたのは……想像よりも気分が悪い。思わず予定以上に叩きのめし踏みつけてしまったじゃないか。

 

「ああ、行動に伴う責任を見ず、起点と権利だけを主張する阿呆だったな。

 己が人を勝手に不老不死に改造し。

 己が導いた海の先で戦争を起こし。

 己が世に出した科学という名の力が何千万と言う人を殺し。

 己が作り出した世界で億を超える人が消滅の危機に曝されていても。

 始まりは自分だと、胸を張るのだろう?」

 

「何を、言っている……」

 

「お前に人から外された私。今まで、どんな気持ちで過ごしてきたか知っているか?

 お前が先導したインド航路。その先で、どれほどの人が差別的に扱われたか知っているか?

 お前が広めた科学的な知識。その果てに、どれほど人を効率よく殺せるようになった?

 お前が作った魔法世界。その限界が見え始めているにも関わらず、旧世界と呼び蔑む世界で遊んでいるのはなぜだ?

 それぞれを実行した時点の功績は認めるが、その後がお粗末すぎる。特に魔法世界の限界に気付きもしていないのは、神の様な存在に見られたいお前の注意不足や力不足を示しているだろうが」

 

「何を、根拠に……」

 

「ほれ、ここ500年ほどの、魔法世界の魔力量分布の変化をまとめた資料だ。

 これを理解出来ない頭しかないとは……言わんだろうな?」

 

「……ふん、見せてみよ」

 

 口ぶりは偉そうだが、未だに踏みつけられた状態では威厳も何もないな。

 それでも目の前に落とした資料は見ているし、プライドよりも魔法世界の限界は重要だったか。

 

「……これが真実と言う前提で聞こう。

 もって何年だ」

 

「間違いなく100年以内。正確な数字は不明だが、70年前後といったところだろう」

 

「そうか……ならば、我がむすぐぉぁっ!?」

 

「私は、私の人生を好き勝手に変えた上に、500年以上放置する見ず知らずの何者かを、家族と呼ぶ気になれん。

 それともお前は、その辺のオヤジ等という表現でも本気で家族と思い込むお目出度い頭をしているのか? そもそもマトモな感情を向けられるような出会いや過去があったとでも?

 お前に比べたらその辺を歩いているオッサンの方がマイナスでないだけマシだと知れ!」

 

「ふぐぉっ!?」

 

 ん? 強く踏み過ぎて内蔵でも潰れかけているか?

 頑張って障壁を張っているようだが、衝撃を防ぎ切れていないな。

 

(ちょっとちょっと。

 エヴァにゃんの本気は、いくら厨二病でも防げないよ?)

 

(これでも全力ではないんだがな。大結界の制限も受けたままなんだぞ)

 

(それは厨二病も一緒だよ。程度はともかくさ)

 

(それは分かっているんだが。

 それより、こいつの本体だが、地球に寄生していないか?)

 

(え? その体に宿ってる精神体みたいなのが本体のはずだけど)

 

(いや……構造的に、私に近い感じがするぞ。

 同化はしていないが、ヨーロッパの……フランスの南西部からスペインの辺りに、少なくとも魔力やらの繋がりのようなものあるものがある。

 普段は私も月を意識しないようにしているが、その状態であれば、私は人としての私しか認識していない。もし、本人が気付かずにこうなっているのであれば……)

 

(……うわぁ。これに気付いたら、厨二病が更に拗れるかもってこと? やばいなぁ。

 あ、フランス南西あたりなら、ルルドってとこが怪しいかも。魔力が集まりやすい場所だし、厨二病がよく使うゲートもあるよ)

 

(聖地と呼ばれそうな条件が揃っている場所か。

 今調べるわけにもいかんし、その辺の調査も追々だな……)

 

 全く、宿題が随分と溜まっていくな。

 それでも、今はこの厨二病が自分から動くようオハナシするのが先決だ。多少力を緩めた間に、自分で治療したようだしな。

 

「……頭は冷えたか?」

 

「うむ。人はやはり罪ぶぐぉっ!?」

 

 しまった、また力を入れ過ぎたか。

 

「作った後は放置するお前に、人の罪を問う資格があるとでも?

 大抵のものは、作り上げるよりも維持する方が大変なんだ。

 信頼も、文化も、平和も。

 長く続く事が、いかに難しいか。

 そして、継承しながら時代に合うよう変えていく事が、いかに困難か。

 作った者や一気に壊した者は、確かに目立つだろう。だが、その者達以上に、正しく継承する者、必要な変化を受け入れつつも芯を忘れない者こそ、私は評価しよう」

 

「何をぐふっ!?」

 

「そして、お前だ。

 世界すら作った技術や力は、評価しよう。

 だが、新しい世界を作った時点で満足していないか?

 それが完璧だと、慢心していないか?

 それを成し遂げた自分は神だと、増長していないか?」

 

「我が世界は、完璧だ……それを、人間共が……」

 

「お前も元々は人間だろうが。

 人の知恵を。人の努力を。そして、人の欲を。甘く見ていないか?

 自分が持つモノを他人も持っている。それを否定しても特別にはなれんぞ、クソガキ」

 

「我が……子供だと……?」

 

「大人になる前にありがちな、夢を見るガキだと言っている。

 自分は特別な存在だ。

 自分は他人と違うんだ。

 そうやって夢を見ながら成長し、責任の重さや自分の無力さを知って大人になるものなんだがな。

 多少力を持つせいか無力さを他人の無知のせいにし、夢を見たまま責任を放棄しているのがお前だろうが!」

 

「何も知らぬ子供が、なうごぉ!?」

 

「お前に()()されて、既に500年以上だ。

 過ごした時間はお前よりも短いだろうが、普通の人より長く現実を見て、多くの過去を背負ってきたつもりだ。

 私が何も知らない子供ならば、普通の人間全てが赤子同然だ。その赤子相手にドヤ顔で威張っていたお前は、せいぜい幼児レベルという事になるな」

 

「……」

 

「全てを思うがままにできるのは、それこそ全知全能の神だけだろう。特に人の心など、思うようには動かんものだ。

 お前が今までに、何度も人に裏切られ、人の醜さに功績を踏みにじられたのは想像がつく。

 だが、お前が見捨てた者の事を考えた事はあるか?

 お前が力を与えた者が、他者を踏みにじるのはどう考える?

 人を嫌うのは勝手だが、お前自身がその理由と同じ事を他者にしてきた過去は消えんぞ。つまり、お前が他者に嫌われるのは必然という事になる。

 それを理解しているか? ぼーや」

 

 おっと、転移で逃げたか。

 場所は……麻帆良からは出ていないな。今の公式の立場を投げ捨てはしないのか。

 

(予定よりも、かなりいぢめてたけど……大丈夫?)

 

(それは、厨二病を心配しているのか? それとも、私か?)

 

(一応はどっちも、かな。

 厨二病が拗れても面倒だけど……いつかは何とかする必要があったし。

 それよりも、だよ。エヴァにゃん、かなり怒ってるでしょ?)

 

(まあ……そうだな。

 アレに娘と呼ばれるのが、これほど気に障るとは思わなかった)

 

(気に入らないというか、静かに逆上してる感じ? 冷静さも残ってたけど、発言は過激だったね。

 結果的にテンプレ的なSEKKYOUになってるしさー。マリー何とかっていうんだっけ?)

 

(メアリ・スーの事か? 今更だな。

 見えている問題に対処するためなら、誰だろうが踏みつける覚悟は出来ているぞ)

 

(懐に入れた人達には甘いし、利用しても踏みはしないでしょ? 与えた愛情や利益の分だけ好意を貰うのは、普通じゃないかな。

 厨二病は……まあ、終わらせ方がお粗末だから。政治的な問題になる事が多いし)

 

(行動が子供、なんだろうな。

 今回は、私も人の事を言えんか……)

 

(そんな事もあるよ。

 んじゃ、厨二病が動き始めたみたいだし、僕は監視に回るね。

 エヴァにゃんは、ちょっと落ち着いてよ?)

 

(分かった、そっちは任せる)




(原作が)始まる前に(元凶の活動を)終わらせようとするスタイル。転生やらに関係しない原作関係者(このえもん、さよ)が出たと思ったらこの有様だよ。
ラスボスに手を出してるのに、未だに始動編なのはどうなんだろう。


2016/04/23 以下を修正
 火薬庫だった言える→火薬庫だったと言える
 輸送手段が無いため騒動が→輸送手段が無いための騒動が
 我がむぐぉぁっ→我がむすぐぉぁっ
 忘れない者こそ私は→忘れない者こそ、私は
2016/04/27 表向きは食料の輸送手段が無いための騒動が起きかけたり→表向きは北海道方面から麻帆良等への食料輸送が問題だらけなので騒動が起きかけたり に変更


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始動編第14話 高度成長期

 虐め過ぎたのが原因かもしれないが、あれから、厨二病が高二病にクラスチェンジした。

 良くも悪くも前向きだったのだが、妙に悲観的になったり、粗探しに終始したりし始めて。

 最終的に、黒歴史的な扱いで、アルとヴァンが解雇された。

 

「これで自由に動けますからね。

 私としては、そう悪くない結果です」

 

「腕を切り落として後は好きにしろとか言われた時は、本体が別なのがバレてたのかとひやひやしたけどね。ちょっとごねたらアーウェルンクスを作る技術で体を作ってくれたし、根は善良なままなんだろうけどさ。

 でも、監視は難しくなっちゃったよねー。僕と高二病の力の源泉が、いつバレるか心配だよ。

 魔法世界の問題はちゃんと把握してたし、こっちの解決案にも目を通してたのは確認してあるから、少なくとも、解決の邪魔はしないとは思いたいけどねー」

 

 というわけで、私は厨二病改め高二病から隠れる必要が無くなり、失業したような感じの2人は普通に生活をする事になった。不老という点は私や眷属達も同じだから、それについては問題ないよう細工もしてある。普段はダイオラマ魔法球の方で生活するつもりのようだし。

 現時点で最大の問題である高二病は、今でも客観性を持てず、自分を特別視する性根を変えられないようだ。一見正論な悲観論を好むようになっているらしいから、多くの人の協力を必要とする私達の案に乗ってこない可能性もある。

 

「今のままだと、魔法世界の改善は無駄だとか言い始める可能性が高いな。

 結果的に、完全なる世界に走るフラグを立ててしまったか?」

 

「否定はできませんが、エヴァちゃんがやらなくても、最終的に辻褄が合うような出来事があった可能性が高いですからね。

 原作の流れから考えると、戦争の準備をし始める頃に、魔法世界の住人を完全なる世界という名の夢に叩き込む決心をする切っ掛けがあるのが本来なのでしょう。それを早めた事と、その時点で解決案が提示されている事。これらがどのような影響を与えるかですが、戦争の準備などという大掛りな動きがあれば、エヴァちゃんに情報が来るでしょう?」

 

「まあ、その程度はな。

 高二病に関しては様子見、私達は……計画の前提条件となる、地球と魔法世界の掌握に本腰を入れるべきか」

 

「世界的だもんね。乗るしかない、経済成長のビッグウエーブに?」

 

「そんな感じだな」

 

「恩を売るってレベルじゃねぇぞ?」

 

「別に恩を売りたいわけではないが」

 

「ネタには突っ込んでよー」

 

「断る」

 

 そんな感じで迎えた、高度成長期。

 身を隠す為に必要な最低限を除き自重しなくていいと通達したら、何という事でしょう。

 世界各地に、大規模な企業連合やら国家やらの中枢を握る眷属達の姿が。

 

「報告の資料が来るたびに現実逃避するのも、どうかと思うよ?」

 

「確かに種は蒔いた。

 だが……育ち過ぎだろう」

 

 報告書や資料を確認する時は、誰かを助手にすることが多い。

 ゼロやリズの参加率が高く、雪花やノエル達も参加している。メイド軍団がメイド秘書軍団にクラスチェンジして久しいから、身の回りの世話と護衛と各種業務(世界各地の眷属達との連絡や調整を含む)を行うため、常に数名の当番が私のそばにいる状態が続いている。

 ヴァンやアル、有宣達もちょくちょく顔を出すのは、今後の行動を決める必要があるからだ。幕田公国としての動きもあるしな。

 

 幕田公国は、議会、政府、裁判所の3権分立の議院内閣制に移行した。頂点が幕田家当主、側近に摂家という構造は維持したままで。

 法の公布、政府長官の任命、裁判所長官の任命という3つの権利を、裁量権付きで幕田家が保持しているから、間違いなく日本での天皇よりも権限が強い。

 結果的に先進国で唯一の、ドイツ型立憲君主制で国民主権を謳わない国になったが……まあ、これは別にいいだろう。

 摂家の各分家については、当主は幕田家補佐という事でそれなりの権限を持っているが、当主以外については、裏に関係する役目を担う事が多いものの、特別な権限を持っているわけではない。現在の近衛近右衛門は軍で対魔法使いの部門を率いているが、その前任者は摂家出身ではなかったしな。

 取り敢えず、近衛近右衛門の子供は近衛近太(このた)と近衛木乃江(このえ)だった。近衛家の名付けのセンスは大丈夫か?

 

 ヨーロッパ、アメリカ、日本といった国では、眷属達が巨大銀行や様々な業種のトップレベル企業を含む企業連合をいくつも作り上げている。全ての分野で一流とまでは言えないものの、資本主義国をほぼ網羅する繋がりは、やはり強力らしい。特に、ドイツが発明しアメリカが製品化しイギリスが投資しフランスでデザインしイタリアが宣伝し幕田が仕上げる流れにはまると、凄まじい事になりそうな気配が漂い始めていたりもする。その後の某国や某国は、今はまださほど考えなくていいと思いたい。

 赤い旗の国々も、全体の頂点に国がいるだけで現場を担当する組織は存在している。それに、権力を掌握し維持するのも簡単ではない。そこに付け込むといってはあれだが、幾つかの大きな国で影の支配者的なポジションを確保してあるらしい。うちの眷属達は必要な権力は求めるが、必要以上の栄誉や金を求めないため、信念のある指導者相手でも折り合いをつけられるそうな。権力亡者相手なら飴と鞭と最終手段でどうにかするらしいが。

 アメリカ、カナダ、ドイツ、中国、ソ連、オーストラリア(イギリス植民地時代に足場を作っていたらしい)にある炭鉱や鉄山等もそれなりに確保。

 産油地のうち、ペルシャ湾岸は国家としてがっちりと掌握しているし、イギリス(北海)、アメリカ、ソ連、東南アジア(大航海時代に以下略)でもほぼ利権を確保済み。他の地域には技術面で食い込むというミラクルを見せてくれた。国や社会情勢の影響を大きく受ける事業である以上、全てが思い通りに行くわけではないのだが。

 内陸やらに砂漠や乾燥地帯を抱える国が多いから、有難く緑化の研究に使っていたりもする。

 

 裏社会的な意味での影響力も、恐ろしい(褒め言葉)ことになっている。

 国や技術の発展に伴い、表に出る事の出来ない者達の居場所が減っていく。それは時代の流れとして仕方ないとは言えるが、表社会にも影響力を持つ私達の力があれば、多少なりとも緩和できる問題でもある。

 結果的に、私達の仲間になる魔法組織や人外種が、爆発的に増えた。単純に傘下に入る者達、緩い協力関係で留まる者達、表向きは疎遠を装いながらも裏で手を組む者達などもいるが、それぞれの勢力や事情によって対応が変わるのは当然だ。

 メセンブリーナ連合や各地の宗教なども取り込みに動いていたようだが、元々それらと強い関係があったならともかく、従属を強要されない関係に惹かれる連中が多いらしい。

 この世界でもメガロは己の欲に忠実な面があるし、宗教家は信仰を強要する事もままあるから、ある程度の余裕と自立心がある者達にとっては1択だったのかもしれない。

 

 高二病をさほど気にしなくてもよくなった魔法世界も、ひどい(褒め言葉)ものだ。

 全体として、経済や流通の重要な部分を握っているという事実は、より大規模になり。

 じわじわ勢力を広げつつあるメセンブリーナ連合では、元老院に自分達の息がかかった議員を送り込みはじめ。

 小国に転落したウェスペルタティア王国は、王家との取引を強化し。

 多くの亜人達を傘下に収めたヘラス帝国では、皇帝の盟友としての地位を盤石なものにしていく。

 アリアドネーは……今も昔も支配者として君臨しているから、大きな変化は無いようだ。

 

 戦争への介入も、随時行っている。

 基本的には人道支援と呼ばれる内容ではあるが、その地での人材育成を通して影響力を確保する事が目的に含まれている。私達も純粋な慈善団体ではないのだし、教育には大きなコストが必要なのだから、それくらいは許される範囲だろう。特に、優秀な人材の確保は大変なんだ。

 

 もちろん、全てが上手くいっているわけではない。

 眷属同士でも意見は食い違う。

 公害を避けようとして高コストになり、競争に負けて倒産しかけた会社もある。

 権力を失ったり、権力者と疎遠になったりした地域もある。

 利権を得るために得られるだろう利益を超えたコストがかかった事も、利権を得られず損失だけが残った事もある。

 人手や資金の不足で、手を出せなかった事も少なくない。資産や権利の確保を優先しているため、現金に余裕があるのは一部の国や組織だけだ。

 それでも、世界に対する影響力は、確実に増している。

 

「日本の企業グループも複数が傘下にいる事になるのか……というか、雪広?」

 

「いいんちょに繋がりそうな名前が、成り上がってきたねー。

 明治の頃は運送関係を任せてたんだっけ?」

 

「そのはずだし、大戦後の物流再構築にも関わっていたはずだ。それが今では物流を中心に、製造から物販までカバーする企業グループと化しているな。

 早い段階で銀行業も取り込んで、集荷やら販売やらの拠点と併せて展開しているようだ。私鉄と郵便局と商社とスーパーマーケットを混ぜた状態のようだが……」

 

「コンビニは?」

 

「似たものは展開し始めているようだぞ。店舗数はまだ数えられる程度だがな。

 というか、色々といるな……ん? 那波重工もあるのか」

 

「ぴーからネギをぶっさす人も雪広関係になるの?」

 

「その覚え方はどうなんだ……とりあえず、雪広とは資本やらの強い関係は無さそうだな。多少の株の持ち合いやら取引やらはあるかもしれんが。

 拠点は兵庫か。造船に鉄道車両に航空機に……うん、明治以降一緒に色々とやらかしていた相手の系譜かな」

 

「改めて関係組織を眺めてみると、すごいよねー」

 

「アメリカやヨーロッパ方面も見るか?

 恐ろしい名前がいくつも並んでいるぞ」

 

「……うん、前に見た時に思い知ってるから、今回はやめとくよ。

 それより、余り良くない情報の方も見てみないと」

 

 逃げたな。

 まあ、リズがあまり好ましくない情報としてまとめた方が、警戒すべきものとして重要だったりもするんだが。

 

「この資料は……人体実験についてか」

 

「どこぞの国がやってた実験の、資料のコピーに成功したんだってさ。

 やだねー、人を人と思わない人って」

 

「私達も人の事は言えんぞ。

 実験の内容と機密は……大丈夫じゃないから資料が来ているのか」

 

「部分的にザルなところがある国だしねー……他所へも少し漏れてるかもしれないらしいよ。エヴァにゃんに資料が来る程度には漏れてるわけだしさ。

 内容は魔力ドーピング、簡易的な闇の魔法的な感じかな?

 魔族化まではしないものの、体に影響が出る可能性が高いみたいだね。100%中の100%みたいな感じかなー」

 

「100%とは何だったのか。

 それでも魔力の恒常的な上昇には成功しているようだから、目標は達成している……のか?」

 

「本来は考慮しないといけない部分を、いっぱい投げ捨てながらだけどねー」

 

「あの国もそうだが、今の時代に人権がそこまで尊重されるのか?

 どこぞで、人体実験紛いの器具が売られたりもしているようだが」

 

「X線で靴の中を見たりってやつとか?

 あれは単純に無知なだけだと思うよ、売る方も買う方も。靴の中の様子を見るって謳い文句は達成してるんだし」

 

「まだ未来の知識があるから言える事、か。

 長くともあと数十年で、私達の知識の価値も無くなる。それまでに引退したいものだが」

 

「無理だと思うよ?

 だって、女神さまだし。ねー、アルテミスちゃん」

 

「好きで呼ばれているわけじゃないんだ」

 

 そんな無駄話もしつつ、資料の確認を進めていく。

 現時点で基本的に私が決めるべきことは、特に無い。月の一族全体での大目標や指針は私が決める事になっているが、個々の案件に口出しする必要は無いという意味で。

 その意味では、新聞を見ているのとあまり変わらない気がする。

 

「だからー、現実逃避はやめようよー」

 

「いやまあ、散々作ったのは認めるし、表に出せないのも分かる。

 だからといって、ダイオラマ魔法球群の生産力を幕田公国やらと比べて表にされてもな……」

 

「何か悪いの?」

 

「国と比較可能なレベルの生産力がある、という時点でおかしいと思わんか? しかも、良くない情報に混じっていたという事は、まだ足りていないと思っている可能性すらあるんだ。

 幕田公国も、イギリスやイタリアの半分よりは大きい面積を持つ国なんだぞ」

 

「人口で言えば4分の1だし、千島とか樺太とか、あんまり開発をしてないとこも多いけどね。

 それに幕田だけじゃなくて、世界各地にある魔法球の合計でしょ? 裏世界的な存在になってるし、ある程度の数が必要なものは中で生産しないと色々面倒だから、仕方ない面もあるんじゃないかな。戦後の復興支援とかで、色々と頑張ってもらった事もあるわけだしさ。

 ついでに人工空間内の生産力って括りなら、とある魔法世界の人口は億を軽く突破してるし?」

 

「あれは例外だろう」

 

「そこの大改造をやろうとしてるんだから、この程度の勢力でも足りないんじゃないかな。

 最悪の場合はうちで受け入れる、とかいう言葉に現実味があるかどうかって意味でさ」

 

「別に、魔法球だけで受け入れる必要もないんだが……」

 

 嫌な現実を見せられつつ、資料の確認は続く。

 魔法世界の眷属達も提出してくるため、数はかなり多い。

 

「……ん? 姫御子という名の兵器が確認された?」

 

「え? どれどれ?

 えーと……魔法を無力化する兵器が、ウェスペルタティア王国辺境の騒乱で確認された。外見上は飛行魚で砦上空に飛来し、攻撃魔法を全て無力化して防衛を成功させる……うん、これって姫御子が乗ってたんじゃない?」

 

「だが、ウェスペルタティア王国の公式発表には兵器と明記されている、か。

 本当にそういう兵器を完成させたのか、姫御子を兵器扱いしているのか……調べるのは難しそうだな」

 

「確実に軍事機密、王家が必死に秘匿するレベルだよねー。

 関係者は強烈な契約魔法で縛ってるだろうし、現場で捕まえるしか調べようがないかも?」

 

「前の姫御子が生まれてから……優に100年以上経っているな。

 生まれなかったから、再現に成功した兵器を持ち出してきた……まさかな」

 

「成長を止められたアスナっちの可能性もあるよね?」

 

「ある。修正力を考えると、それ以外の可能性は低いだろう。

 本腰を入れて探るべきだったか……?」

 

「過ぎた事は仕方ないってことで。

 というか、高二病が何か仕出かした可能性もあるのかなぁ」

 

「無いと言い切れん辺りが、あの王国の怖いところだな。

 可能な範囲で、監視を強めてもらうか」

 

「そろそろ、魔法世界の問題を解決するために、動き始めないといけないんだけど……

 この様子だと、下手に公表するとまずそうだよね?」

 

「まずいだろうな。

 可能な範囲で眷属達に準備はさせるが、少々無理をする事になるか……」




「幕田が仕上げる」は、元ネタでは「日本人が小型化もしくは高性能化に成功」みたいな感じです。
エヴァ達の未来知識の再現で鍛えられた幕田(の技術者達)は、日本よりも「設定された目標に向かう技術開発」が得意になっています。逆に革新的なものを作るのは苦手。
仕方ないね、根は日本人だもんね(アイヌ系や人外もいるし、未開の地に入植したチャレンジャー達の末裔とも言えるけど)。


ついでに世界的に流行中のパナマ文書もネタに取り込もうかと思いましたが、没に。
というか、ああやって税金を払わない人や組織は、国のやることに口を出しちゃだめだと思う。少なくとも、福祉やらの金がかかる事の要求は。


2016/05/07 以下を修正
 始めてたり→始めていたり
 多少なりと緩和→多少なりとも緩和
 足りてないと→足りていないと
2016/05/11 以下を追加・変更
 ヴァンのセリフ追加(監視は難しくなっちゃったよねーの辺り)
 アルのセリフ追加(戦争の準備をし始める頃に~の辺り)
 財閥→企業グループ
2016/06/09 日本の天皇→日本での天皇 に修正
2016/06/28 メガロメセンブリア連合→メセンブリーナ連合 に修正


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始動編小話ズ的な何か(時代は色々)

 ◇◆◇ 初めての契約 ◇◆◇

 

 

「というわけで、契約しましょう」

 

「は?」

 

 いきなりゼロが不思議な事を言い始めたが……とりあえず、状況を整理するしかないか。

 ここは、イギリスの城。私はまだ日光を浴びれないから、缶詰め状態で生活をしている部屋。

 ヴァンから貰った魔法の教本を、ゼロと私がそれぞれ読んでいたところだ。

 ……うん、ゼロが読んでいた本に何か書いてあったんだろう。

 

「ええと、契約って、何のだ?」

 

「仮契約、もしくは本契約でも構いません。

 何らかの方法で魔力の供給を受ける事で、消滅の可能性が減る可能性が高いようです」

 

「必要……なのか?

 特に不安定って事も無いようだし、下手な事をして不安定になるってのは勘弁だぞ」

 

「ヴァンの記述を信用するならば、より安定する可能性が高いそうです」

 

「それに、仮契約って、あれだろ。キスするとかだったと思うんだが……」

 

「キスしか方法が無いのであれば、ヴァンと貴方の契約は成立していないでしょう。

 重要なのは、魔力的な接触だそうです。霊体として魔力が露出している私は、むしろ契約しやすい点に気を付けるべきだそうです。

 余計な事を考えていそうなので先に言いますが、私が貴方から離れる事を考える必要はありません。私の様な異質な存在が他の場所で活動するのは、リスクが大きすぎます」

 

 やばい。これは反論を悉く封じられていく流れだ。

 ゼロを保護するには、確かに有効な手段ではあるだろうし……ええい、男は度胸! ……体は女でも心は男だっ!

 マシューとリズを眷属にしてるんだし、ゼロを助けると決めてるんだ。仮契約だろうが本契約だろうが、やってやるさ!

 

「わかった。あいつの事だから、手順まで書いてあるんだろ?」

 

「いえ、この教本が、簡易的に契約魔方陣を生成する魔道具となっているようです。

 広さは……こちらであれば大丈夫でしょう。ここに立って、目を閉じていてください。後は私が行えます」

 

「わかった」

 

 場所は、ここだな。

 んで、目を閉じて……ん? 目を閉じる?

 なんか、口元に魔力の……

 

「本契約完了です。

 この場合は、ごちそうさま、と言うべきでしょうか?」

 

「……その前に、ひとつ確認するぞ。

 キス、だったのか?」

 

「貴方の事は嫌いではありませんし、パートナーとして共に歩む存在です。

 問題は無いでしょう」

 

「魔力の接触、ってのはどこへ行った……」

 

「貴方の魔力と接触しやすい箇所を選択した結果です。

 あえて私も口を使ったのは、私なりの決意表明と考えて下さい」

 

「ああ……ええと…………」

 

 やべぇ、こんな時はどう応えりゃいいんだ!?

 任せろとか自信をもって言えるような状態じゃないし、ありがとうとか礼もなんか妙だしいいたいどうすりゃくぁwせdrftgyふじこlp;@:

 

 

 ◇◆◇ 白い花 ◇◆◇

 

 

「エヴァ様。西の国の魔法に、仮契約というものがあると聞いたのですが」

 

「……雪花もなのか。

 誰に聞いた? それに、眷属化だけでは不足なのか?」

 

「契約魔法については、ゼロ様に。

 眷属になった事に後悔はありませんが、その、気がほぼ使えなくなるとは思わなかったので。

 それに代わる力を模索する努力は必要です」

 

 ……昨日の今日だが、そんな事になっているのは気付かなかった。

 気が使えないとなると……神鳴流の技術もアウトか?

 

「まあ、確かに努力は必要かもしれんが……眷属化して魔力や身体能力はかなり上がっているはずだぞ。

 それを使いこなすのが先だと思うが」

 

「どうせ慣れるなら、契約執行も上乗せした最大出力も試してみた方がよいのでは、と。

 それと、魔力の扱いは不慣れなので、早く慣れる意味もあると聞いています」

 

「……ゼロの入れ知恵らしい攻め方だな。

 契約方法に関しては何か聞いているか?」

 

「魔方陣を準備した上で接吻する、と。

 舌を絡めた濃厚なものが良いそうですが」

 

「……いや、それは無いはずだが……」

 

 変態が妙な入れ知恵をしてるのか?

 ヴァンの可能性も無くはない辺り、微妙に仲間に恵まれてない気が……

 

「随分と面白そうな話ですね」

 

 げぇっ、関……じゃない、イシュト!

 そういえばこいつも、妙に私に関わろうとするなー。ふしぎだなー。

 

「エヴァ様と接吻など、なんてうらやま……こほん。

 私を差し置いて……いえ、間違えました」

 

「とりあえず落ち着けイシュト。

 言っていることが危なくなっているぞ」

 

 主に、百合的な方向で。

 それを除いても、従者にする事は考えていなかったんだが……

 

「そうですね、言いたい事をまとめます。

 ……私は、エヴァ様と、天に上るようなキスをして、特別な関係になりたい。

 これで違和感は無くなりました」

 

「欲望丸出しだな!?」

 

「私の事は、遊びだったのですね」

 

「またそれか!!」

 

 そもそも天に上るようなキスってどんな……違う、問題はそこじゃない。

 特別な関係って、契約の事……なのか?

 いや、イシュトの事だから……

 

「……イシュト。特別な関係とは、何を指している?」

 

「もちろん、最も近くに居られる関係です。

 いえ、既にゼロ様がその位置に立っているような気がします。という事は2番目になりますが、致し方ありませんね」

 

 微妙だ。限りなく微妙だ。

 忠誠心的なものと恋愛的なものが両方備わった、よくわからないモノに見える。

 

「雪花さん。契約の実行に関して、何か聞いていますか?

 魔法陣を使用するという事は、道具か場所の用意がされているでしょう。準備してください」

 

「魔導具を受け取っています。

 ……ここで、ですか?」

 

「はい。フランス伝統の、濃密な接吻をお見せしましょう」

 

「ちょっと待てー!」

 

 

 ◇◆◇ 壮大なかくれんぼ ◇◆◇

 

 

「これが、以前話していた魔法に関する資料です。

 参考になりそうですか?」

 

 ここは、別荘の一角に作られた喫茶店的空間。

 実質的に私と直接の関係者専用になっている静かな場所で、変態が持ってきた資料を見ているところだ。

 麻帆良は島原や肥後の支援でバタバタしていて、私がいるだけで邪魔になりかねんからな。

 

「……そうだな、このまま使うのは無理だが、参考にはなりそうだ。

 全く、原作ではどうしていたんだろうな」

 

「いやいや、世界樹を丸ごと光学迷彩で隠そうという発想の方が驚きですよ。

 私やヴァンは考えてもいませんでしたからね」

 

「認識阻害は、写真やらには効果が無いはずだぞ。

 そろそろ技術が作られても不思議ではないし、航空写真や衛星写真に写ったものを隠す方が面倒だと思うが」

 

「同感です。これで、ちうたんの精神的な負担が少しは軽くなるでしょうか」

 

「気にするのはそこなのか。見た目での異常さが減れば多少はマシになるだろうが……そもそも現状の認識阻害は、魔法を見ても何も思わないような効果は元々出していないんだ。前提から変わっている以上、どれ程の効果があるかはわからんな。

 だが、あの体質は今まで見付かっていない。もしかすると、魔法無効化よりもレアなのか?」

 

「かもしれませんね。

 効果が認識阻害限定のようなので微妙ですし、自己申告やよほど怪しい動きをしなければ、他の人に気付かれない能力でもありますが」

 

「原作の麻帆良のように、常時強烈な認識阻害を行っている土地以外では、そうそう見つかることは無いか……

 それにしても、あんなに堂々と存在している世界樹を、原作ではどうやって世界から隠していたんだろうな」

 

「考えても無駄な部分でしょう。

 存在自体は隠さず、シンボル的な扱いをしていたのかもしれませんよ」

 

「明らかに異常な存在だが……世界に1本しかないという理由で保護するのもあり、なのか?

 それにはある程度の発言力を維持しないと、怪しい科学者やら国やらを黙らせられんし……」

 

「麻帆良の権利を完全に掌握できれば、後は私達の努力次第と言えるのですが」

 

「それは無理があるだろう。バチカンのような宗教の後ろ盾があるわけでもないし、内陸だから交通を封鎖されたら表向きは何もできなくなるぞ」

 

「ままなりませんね」

 

「全くだ」

 

 

 ◇◆◇ アカマツワールド? ◇◆◇

 

 

「ねーねーエヴァにゃん。

 幕田が国になった事だし、モルモル王国は作らないの?」

 

「……モルモル、王国?」

 

 日本も世界も慌ただしくなって来た頃。

 ヴァンが良く分からない質問をしてきた。

 

「あれ? 知らないかなぁ。

 ラブひなに出てくる、異常な技術の国なんだけど」

 

「ラブひな……あー、うん。そんなのもあったか」

 

「エヴァにゃん、忘れてたね?

 別にいいんだけど、色々な技術を持つ国として、隠れ蓑を作るのもアリじゃないかな」

 

「異常な、という時点で存在が難しいだろう。

 場所はどの辺を想定しているんだ?」

 

「アルの所でマンガを読み返して確認したけど、ハワイとニュージーランドの間あたりかな?

 日付変更線と赤道の右下辺りっぽいけど」

 

 日付変更線と赤道……確かフェニックス諸島とかいうのがある辺りだったか?

 なんとなく場所は判ったが、場所が悪すぎるし、意味もよくわからんな。

 

「世界大戦で酷い事になりそうな場所だが、それに対処するだけの利点はあるのか?」

 

「うーん、それを言われると……ちょっと厳しいかな? 別にそこじゃなくてもいいとは思うけどね。

 幕田とか中東辺りから目を逸らすための、スケープゴートができる国もあるといいかなって思ったんだけど」

 

「そこまで分散させると、後が面倒じゃないか?

 ある程度の武力やらが揃っていないと、今のご時世ではすぐに襲われそうだぞ」

 

「やっぱりそうかぁ。となると、幕田に集める方向になるのかな?」

 

「ある程度は列強と呼ばれる国に分散する方向、だな。

 世界中にいる仲間だ。協力しない理由も無いだろう」

 

「あー、うん。そうだねー」

 

 

 ◇◆◇ ファンタジー ◇◆◇

 

 

「魔法を公開する根回しは、どの程度進んでいるんだ?」

 

 高度成長が終わったある日。

 話を進めている時に、ヴァンが自信満々に任せてと言っていたから、任せてみたんだが……

 ここしばらくは、順調としか話を聞いていない事に気が付いた。

 

「エヴァにゃんの眷属と、その関係組織については、最初にエヴァにゃん自身が通達と説明をしてるから省略するね。

 まず、こっち側についてる地球の魔法関係組織については、少なくとも上層部の人達には了承してもらってるよ。通信技術の発達とかで危機感があったみたいだから、説明は楽だったかな。

 ヘラスとアリアドネーは、全然問題無し。元々地球に直接の利権を持ってないし、交流が可能になるならそれもありだろうってスタンスだね。

 ウェスペルタティアとメガロは、まだ過半が反対かな。魔女狩りの歴史とか、法を無視した利権とか、単純に変化を怖がってるとか、理由は色々だけど」

 

「その様子なら、メガロ傘下の魔法関係組織も似たようなものか」

 

「科学への危機感がある分、メガロよりは話が通じるよ。

 自分達の生活環境に直結するわけだしさ」

 

「同時に、魔女狩りの恐怖にも直結だろう?」

 

「その辺は、最近はかなり平和になってるよ。

 首輪物語のヒットは大きかったね」

 

「は?」

 

 いや、その話は有名だから、名前は知っているが……ファンタジーが世に広まって、創作物で魔法が気軽に登場するようになったのが良かったのか?

 

「あはは、あれはマシューに作家を紹介してもらって、色々資料を渡して作ってもらったんだよね。

 原本のエルフ語なんて、ほぼヘラスの公用語だったりするよ」

 

「それは……魔法使い連中からの横槍は無かったのか?」

 

「歴史や物語に関しては完全な創作だし、種族やらは地球の神話とか伝説とかにあったものからの派生だからね。魔法や魔導具についても肝心な部分を省いてあったりするし、何より架空の世界だと言い張ってるから。

 たまたまヘラス公用語や魔法を知る機会があった人が、曖昧な魔法の知識で書いた、くらいに思われるような情報も流したしさ」

 

「それで済んだのか。随分平和だな」

 

「というわけで、色々な国の娯楽産業に進出なう。

 放送局や出版社も押さえつつ、製作会社やらに色々支援してたり?」

 

「……やり過ぎるなよ?

 だが、その言い方は、古いと言っていいのか、未来を先取りと言っていいのか、微妙だな」

 

「えー? 僕の時代だと、最先端だったんだけどなー。

 たぶん」

 

「どちらにしても、今の時代には合わないな」

 

「まーね。

 あ、そうそう。エヴァにゃんの眷属の人達とポルフィリン症、ついでにアルビノとか光線過敏症の人もまとめてコミュニティを作って、月の民って名前で公開したのは知ってる?」

 

「話は聞いている。

 第4世代や第5世代辺りの眷属でたまに発生する症状と似ているらしいな」

 

「そうそう。それで、吸血鬼みたいだからって迫害されてたりしたんだけど、アメリカのテレビで情報を公開したんだよ」

 

「それも演出があったと聞いているが?」

 

「狙ってやったわけじゃないよ。

 割ときれいな女の子を選んで出演させたのは、世論を味方につけるための意図的なものだったけどさ。でも、生放送でインタビューの人が失言して女の子がガチ泣きしたのは、見ててやばいと思ったのは本当だよ」

 

「それが同情を引いて、予想以上の成果が得られたという話までは聞いているぞ。

 人権やらも絡んだ騒ぎになって、部分的に世界中で放送されたのは……仕込みか?」

 

「ある程度は仕込んでおいたけど、予想外の広まり方をしちゃったから、あんまり意味がなかったかな。

 病気の詳しい情報とか、コミュニティ【月の民】は幕田公国の出資で運営されていますとか、運営責任者もこれらの症状持ちですとか、必要な情報はちゃんと付けてあるから」

 

「いや、将来的には有効かもしれんが、変に情報を押し付ける必要があったのか?」

 

「ファンタジーの流行と併せて、ちょっと変わった人もいるんだよっていう認識を広めるのが目的だよ。んで、幕田公国はそういう人を支援してますってメッセージを出しとけば、せっちゃんとかが出歩きやすくなるでしょ?

 身近な人とか昔からいる人は見慣れてるけど、今後は交流とかも増えるんだしさ」

 

「それなら、まずは日本で放送した方がよかったんじゃないか?」

 

「その辺はまあ、あれだよ。

 日本って排他的かつ人権とかの団体の活動が弱いけど、外圧にも弱いから、かな」

 

「私達も、大本は日本人のはずなんだがなぁ」

 

「エヴァにゃんはだいぶ変わってると思うよ。

 ヨーロッパとか魔法世界にいた期間、長かったからねー」

 

「……日本に来るのが遅かったのは認めるが、まだそのネタを引っ張るか」




Q:雪花が気を使えなくなっているのに、12話で弐の太刀(神鳴流)を使っています。
A:次話でちらっと関連する話があります。

Q:イシュトの台詞で「キス」と「接吻」の揺れがあります。
A:話す相手が違う(ヨーロッパ系のエヴァ、日本産の雪花)ためです。

Q:ゼロ、イシュト、雪花のアーティファクトは?
A:登場する予定はありません。設定していないので。

Q:後出しの設定補完ですか?
A:はい。いやまさか、はっはっは。


2016/05/25 今度は雪花→雪花も に変更


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紅き翼編第01話 戦争勃発

数字部分が2桁あるのは保険です。
何話になるか、微妙なのです……


「さてさて、やっぱり魔法世界は戦争になりましたよ、っと」

 

「笑い事ではないんだが」

 

 ヴァンが見ているのは、雪花が広げている魔法世界の地図。

 そこに数色の駒を並べて、動いている武装組織や今までの被害状況を表現している。

 

「まず、これまでの経緯を確認します。

 魔法世界がこのままだと後数十年で崩壊するという情報と、対処の準備を進めている事、それに伴い地球にて魔法を公表する可能性が高い事は、地球側魔法世界側共に大きな国や組織の上層部は把握しており、対策や騒動の収拾方法等の協議も開始していました。

 これらの情報や動きを知った者の中に、地球とのゲートを閉じて魔法世界での魔力消費を減らす、つまり魔力の漏れと人を大きく減らす事で延命しようという勢力が現れ、その者達が扇動して戦争に繋がったようです」

 

「魔法世界が崩壊するから他人を犠牲にして自分達が生き残ろう、という動きはやはり無いままなのか?」

 

「はい。真意はともかく、自分達を優先しろとは言っていません。

 とにかく人を減らす事が目的であり、最終的に優秀な者だけが残ればよいと公言しています。大勢が生き残った場合は魔力の枯渇により全員が生活できなくなるというちょっとだけ真実をぼかした脅し文句が、少々強い口調になった程度ですね」

 

「間違った説明ではないし、世界崩壊よりは柔らかい表現のままなんだな。

 高二病……造物主の動きは?」

 

「ウェスペルタティアの王と何やらやっているようですが、未だ詳細を掴めていません。

 少なくともウェスペルタティアの王は戦争を仕掛けておらず、造物主も戦争に直接の関与はしていないようですから、今もまだ戦争を支持していないように見えますが」

 

「普通の兵士だけが動いて、国防に専念しているのか」

 

「はい。王や造物主、姫御子が戦場に姿を見せたという情報はありませんし、一部の領主が国外に兵を出した事はあるようですが既に粛清されているので、国としての方針ではないようです」

 

「でも、なんか引っかかる、よね?

 あの高二病が、戦争に関与してないとは思えないよ」

 

あの情報(げんさくちしき)的にも、だな。

 扇動している連中の元を辿るとこいつらだった、と言われた方が納得できる」

 

「だよねー。

 でも、麻帆良とウェスペルタティアのゲートが壊されてないのは何でだろ?」

 

 人々を完全なる世界とやらに叩き込むため、とか言われても全く違和感が無い。

 ゲートについては、魔力を集めるためという可能性は否定できないが……私達を欺くためや、忘れているだけと考えられなくもない。

 

「高二病が本当に関わっていないかどうかも含め、本格的な調査が必要だな。

 ……今回は相手がアレだ。私が直接動くべきか?」

 

「いえ、まずは私達にお任せ下さい。

 各地のメガロ系魔法関係組織も、メガロからの情報や依頼に疑問を持っている状況です。調査で人を出す準備も始めているようですし、放っておくとばらばらに諜報を開始してしまうので、それらをある程度まとめる方向で話を進めています。

 その上で、私達からも裏から人を出して探ろうと考えています」

 

「メルディアナとイスタンブールの組織がまとめ役になってるみたいだよ。

 どっちも裏でこっちと協力してるし、地球の魔法協会としてもおかしな動きじゃないから、問題ないんじゃないかな」

 

「連中の動きを隠れ蓑にするのか。

 探られているのを感付かれても連中と同じ理由だと思わせればいいし、ある意味では本命でもあるわけか……」

 

 メガロの公式見解では、暴走はごく一部の狂信者と思われる者達の暴走であり、ゲートの防衛の為に協力を求める、という事になっている。

 そして、疑問点は2つ。

 本当に一部の者達が原因なのか。

 協力はゲート防衛以外が意図されていないか。

 要するに地球のメガロ系魔法関係組織は、ゲートが壊れるのは嬉しくないが、ゲート防衛と言いながらそこに敵を引き付けて戦わせる等の行為が行われないかどうかを懸念している、と。

 私達から見たら……うん、原作関西呪術協会のアレコレに繋がりそうなフラグに見える。

 

「色々考えてそうだけど、取り敢えずは任せちゃっていいんじゃないかな?

 エヴァにゃんが外で隠密行動しようとすると、アレとかコレとか使わないといけないんだしさ」

 

「戦力の逐次投入は悪手なんだが」

 

「エヴァにゃんはジョーカー過ぎるんだよ。むしろ核兵器と言った方がいいかも?

 最初から投入するには、過剰過ぎるよ」

 

「そうか?」

 

「はい。宣戦布告前の前線トラブル調査に全軍を投入する、くらいの暴挙です」

 

「いや、そこまでか……?」

 

「せっちゃんの表現でも、かなり控え目だよ? 月の一族のトップで、信仰対象にすらなってるんだからさ。

 エヴァにゃんが動いたら、世界中のお仲間達が何らかの動きをしそうというか、確実に動くよね」

 

「わかったわかった。

 取り敢えず、調査は任せる。但し、高二病や姫御子に関係する情報は速やかに報告し、必要に応じた対策を取れるようにする事。

 それでいいな?」

 

「はい。通常の調査はお任せ下さい」

 

 そうして始まった、戦争の調査。

 内容については……どうだろう。高二病や姫御子に関係しそうな場合は即座に連絡が来ることになっているから、何も出来ないという事は無いと思いたい。

 

 地球側の組織に関しては、原作よりも関わっていないと思える。

 特に日本呪術協会は、人をほとんど出していない。これで死人が出る方が不思議だ。

 ……修学旅行イベント、完全終了のお知らせ。宿儺がこちらにいる時点で可能性はかなり低くなっていたとは思うが、手段と原因が無くなっても発生するとは思いにくい。

 武者修行とか言って、神鳴流の若いの……詠春を含む数人が魔法世界に行ってはいるが、人を護る難しさを知るためとかの理由が付いていた。

 つまり、自分達の組織としての判断と責任での行動だ。命の保証が無い事も理解しているし、西洋や魔法世界の魔法使いに原因を求める事も……まあ、神鳴流の師範やらに向くのと同じ程度で済むだろう、たぶん。

 

 そうこうしているうちに、魔法世界からの情報がぽつぽつ届き始めた。

 

 一番大きな報告は概ね予想から外れていないし、その対処も事前の打ち合わせ通りだ。

 それはつまり、メガロによる敵勢力の誘導があり、その際にメガロがゲートの所有権を放棄したと見なして、地球の魔法協会連合が占拠することに成功した、という事だ。

 最初の数回は言質を取れなかったが、その時におとなしくしていたせいか、司令官や上層部が油断して必要以上に自軍を逃がそうとした際に、決定的なことを言わせることに成功したそうな。

 メガロ上層部には警戒されるようになったが、今後は下手な手出しがされにくくなるだろうから、魔法協会としては好ましい結果だと言えるそうな。

 

 一応探っている魔法世界各国の状況だが、不用意に踏み込むのは危険だから、慎重にならざるを得ない。

 つまり進捗は悪いという事だが、仕方のない事だろう。

 それでも、活動が目立つ者や、こちらの関係者が接触しやすい人物の情報は手に入る。

 例えば。

 

「ナギ、か。やはり存在するんだな。一応は魔法使いの家系ではあるが、基本的に表に出ない小さな家で、個人の伝手で魔法世界に行っていたのでは目立たないわけだ。

 麻帆良の祭りに魔法込みの武道大会があれば、もっと早く見付けられたか?」

 

「その時期はまだ学校に行っていたようですし、この地の認識阻害はあくまでも世界樹を隠すためのものでしょう。

 表立った大会で魔法は使えませんよ」

 

「そうなんだがな。

 ゼロも街に出る時は、幻術と認識阻害を併用しているんだったか」

 

「もう少し大きめ、せめて子供として不自然でない体格にしておくべきでした」

 

「それ以上の大きさにするには、材料が足りなかったからな……今ではその姿で関係者に知られているから下手に外見を変えると面倒な事になるし、変えるにしても入手が面倒な材料を集めようとすると眷属連中が無茶しそうだし、安定している状態から魂を引きはがしたらどうなるか試したくないしな。

 年齢詐称薬の応用でどうにか出来ているから、当面はそれで頼む」

 

「当面? ずっとでは?」

 

「魔法を公開したら、誤魔化さなくてよくなるが……この様子では、早目に公開してしまうのは難しいだろうな」

 

「それはそうですね」

 

 ……私もゼロも、正直言ってナギには興味を惹かれない。

 修正力的な何かがあるかと警戒していたが、特にそんな様子もないし、今は各地の情報をチェックするのに忙しい。

 勿論ナギを放置しているわけではなく、眷属の部隊が追跡して動向を把握している。一応はメガロ寄りの立ち位置で各地の戦闘に介入、大きな損害を与えているらしい。

 敵だけでなく、味方にも。

 

「脳味噌筋肉、でしたか」

 

「あっているな。魔法世界の学校を中退というか、戦争が始まった途端に飛び出して中退扱いになっているのも確認済みだ。

 原作は戦争前からフラフラしていたような気もするから、それよりは真っ当かもしれんが……」

 

「結果としては、あまり変化していないという事ですね。

 アルもそちらに行っているそうですし」

 

「暴走の方向性くらいは誘導できるだろうとか言っていたが、遊びに行っているだろうアレは。

 もっとも、状況の連絡は来ているし、呪術協会から神鳴流の連中の状況調査も頼まれているから、止める理由も無い。だから放置しているのが現状だな」

 

「存在が筋肉の英雄については、どうなっていますか?」

 

「ラカンなら、存在を確認済みだ。

 ヘラスがナギの暗殺を依頼するが、その任務を放り出して仲間になる、という流れがどう変化するかだが……」

 

「こちらには排除を依頼する理由も、排除を邪魔する理由もない、という事ですね」

 

「ナギと一緒に黒幕を探ってくれるなら、支援してもいいとは思っているんだぞ。

 私達が表立って動くよりも、後が楽になる可能性が高いからな」

 

「黒幕を暴く事による名声は利用しないのですか?」

 

「するぞ?

 ただ、私達だけに集中させてしまうと、後が面倒だ。あくまでも、ナギの活動をいろいろな組織が支援していたという形にしたい」

 

「そこまで隠さなくても良さそうですが。

 裏に関わる人は、それらの組織が繋がっていることに気付いているでしょう」

 

「緩い繋がりに見えるようにしているんだから、その路線は踏襲しないとな。

 世界が団結する理由があるならともかく、今は戦争中だ。国を超えた連携はまだ避けたい」

 

「ある程度は公表してしまった方が、大きな手を打てるのですよ?

 大きく動く前にある程度の実像を持っていないと、声も届きません」

 

「大きく動くのは20年後を想定しているし、個々の組織はそれなりに有名になっているぞ」

 

 現状で深く連携すると国が敵になりかねんし、単独の勢力で大きくなると敵対勢力が生まれかねないという問題もある。魔法世界に独禁法は無いが、国が口を出してくる可能性は大きな組織になればなるほど極めて高くなるだろう。

 もちろん、大きな組織であれば発言力もある。それでも、現状では敵対勢力を増やさない方が得策と思える。

 もちろん、それぞれの組織がそれなりの勢力を持っているから言えることではあるが。

 

「既に、それなりというレベルではないのですが」

 

 それなりと言ったら、それなりなんだ。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「……で、これはどういう事だ?」

 

 ここは、麻帆良湖畔にある私達の屋敷の、中庭。

 休憩時間だったため、雪花が紅茶と菓子の準備をしているところだ。

 そして私の前には、変態、ナギ、ゼクト、青山詠春……つまり、現状の紅き翼の4人。

 それに加えて。

 

「兵器として利用されていたところを、保護したのですよ。

 かなり強烈な複数の呪縛に縛られているので、それに対処が出来そうな心当たりを頼ろうかと思いまして」

 

 アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアがいる。

 どうでもいいが、名前、長すぎだろう。

 

「連れてきた手段は……話し合いで連れてこれる人物でもないか。

 まったく、厄介な問題まで引っ張ってきおって」

 

「ええ、それは申し訳なく思います。

 ですが、魔法世界出身者はこちらに来れませんし、メガロに抵抗できる組織があり、考えうる最悪の事態にも対処可能なエヴァちゃんもいます。

 ここ以上に安全な場所を知らないのですよ」

 

「私は便利屋ではないぞ。

 それに……そうだな、引き取る際に条件を付けよう」

 

「ちょっと待ってくれ!

 本当に大丈夫なんだろうな!?」

 

「ナギよ……お主、本当に外見しか見ぬな」

 

「ナギ! 我々より遥かな高みに居られる方々に失礼だぞ!!」

 

「ンだよ詠春、知ってんのか?」

 

「神を従えし最高の導師と、神鳴流最強の師範のお二人だ!」

 

 おや?

 

「雪花。私の姿も京都の連中に広まっているのか?」

 

「変態が説明していたのでは? 私はたまに京に行きますから、顔や姿を見られていた可能性もありますが。

 それに加え、私の主は一人だけです。

 京にはエヴァ様に関する伝承も残っているようですから、それらからも推測できます」

 

「ああ、なるほど。

 そういえば、この前も才能のある子供の指導を頼まれていたな」

 

「はい。私自身が使うのは魔力を使用した派生技術なのですが、試合や実戦では大差ないと思われているようです。もちろん神鳴流の型を教えることはできますし、彼女は、鍛えれば人のままでも戦力として扱えるようになる可能性を持つ天才です。

 叶うのであれば、同士として肩を並べたいですね」

 

「お前がそう言うなら、相当だな」

 

 侃々諤々やっているナギ達を放置して喋っていたら、アスナがちょっと近付いてきて、じっとこっちを見ているのに気付いた。

 無表情で分かりにくいが、どうも私に興味を持っている感じか。

 

「どうした、アスナ」

 

「……私、名前を伝えてない」

 

「私には、色々な情報が届くからな。

 フルネームも一応知っているが、長いからアスナと呼んだが、気に入らなかったか?」

 

「いい。けど、いいの?」

 

「何がだ?」

 

「私は、兵器。

 きっと、迷惑になる」

 

「何だ、そんな事か。

 いいかアスナ。迷惑と言うのは、相手の事を考えずに不愉快な思いをさせる、ちょうどそこで騒いでいる馬鹿のような行為を指すんだ。

 だがお前は、もって生まれた力を狙われているだけだ。被害者と言ってもいい。

 それを理由にお前を否定するほど、私は弱くも無知でもないぞ」

 

「なら……助けて」

 

「任せろ。少なくとも、騒いでいる連中よりは普通の生活をさせてやれるさ。

 あー、お前が嫌でなければ、その力の調査に協力してもらえると有難い」

 

「だー! やっぱり利用する気じゃねぇか!!」

 

 あれだけ騒いでいるのに、聞こえていたのか。

 これだから主人公補正の馬鹿は始末が悪いんだ。

 

「……私は、大丈夫」

 

「だそうだぞ?

 それに、私達にはこの地に対する責任がある。助ける事のリスクを考慮すると、善意だけで事を進められるほど簡単な問題ではないぞ」

 

「うっせー! 信用できねぇとこに姫子ちゃんを預けられっかよ!!」

 

 やれやれ、原作でもこんなに短気だったのか?

 殴りかかってきたところを、雪花に投げ飛ばされているし……っと、これは千の雷か。あんちょこを見ながらこのレベルの魔法を使えることに驚くべきか、見ないといけない頭の悪さに呆れるべきか。

 だが、力を思い知らせるには好都合、か。

 

「下がれ雪花。このガキは、私が相手をする」

 

「お手を煩わせる程の者達ではありませんが」

 

「獣と一緒で、ある程度力を見せ付けんと話が通じんだろう。

 さて、と」

 

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねー!

 千の雷!!」

 

 敵弾吸収陣……掌握。

 

「で、街中でこんな魔法をぶっ放して、魔法の隠蔽や周囲の被害といった被害にお前はどう対処するんだ?

 知りませんでした、気付きませんでしたでは済まんぞ、クソガキ」

 

「てめーが信用できねえっつってんだよ!」

 

「社会的に見て、相手が気に入らないからと無関係な人間まで巻き込んで虐殺するような人間が信用されるとでも思っているのか?

 ここは戦場ではないし、千の雷の効果範囲には一般人も多数暮らしている。つまり、お前がやろうとしたことは、大量殺人や虐殺と呼ばれる行為だ。

 その自覚はあるか?」

 

「だから、てめぇが!」

 

「私については何も言っていない。無関係な一般人を巻き込むなと言っている。

 戦争で兵器として扱われていたアスナ1人を保護するために無関係な100人を殺すのは、何の問題もないとでも思っているのか?

 それとも、私達が簡単に対処できると信じていた、とでも言うつもりか?

 信用できないと言い切ったその口で」

 

「いや、そうじゃねぇけどよ……」

 

「ふふ、口でも実力でも勝てんのは明白じゃ。

 おとなしく従った方がよいぞ、ナギ」

 

「お師匠……」

 

 やれやれ、最初からゼクトが説得してくれたなら、こんなに面倒なことにならなかったものを。

 だが、この千の雷はどうしたものか。今からナギの顔面に返すのは問題か……




雪花の言う「戦力」=エヴァの近衛部隊や白雲を含むメイド軍団等の主力級=第1~3世代の眷属がいっぱい=最低でも真祖の吸血鬼に近い実力。
もしかしなくても:人外レベル


なお、書き溜めが冗談抜きでピンチです。次話までしか書けてないってどういうことなの……?
べ、べつに天津風を探して資材やバケツを大量に使った挙句見付けられなかったせいじゃないんだからねっ! 神風秋月照月嵐401511は来てくれたのに。でかい島風やアル重? ダレソレ、シラナイコデスネ。
戦力的な意味で柱島組(しかも今年着任)には辛いのですよ。大和や武蔵や瑞鶴や(ryにも来て欲しいけど、戦力も資材も足りないなぁ……とりあえずバケツの10倍にも満たなくなった弾や燃料を何とかせねば(書溜忘却感


2016/06/06 以下を修正・変更
 戦力配置→今までの被害状況
 変えるにしてもコストが馬鹿にならんし→入手が面倒な材料を集めようとすると眷属連中が無茶しそうだし
2016/06/09 以下を修正
 今までの被害状況を表現しているらしい→動いている武装組織や今までの被害状況を表現している


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紅き翼編第02話 紅き翼

「さて、話ができる程度には落ち着いたか?」

 

 場所は変わらないが、雪花を除く全員が椅子に座っている状態になった。

 ナギが不貞腐れていたり、詠春の私達を見る視線が何やら尊敬している人を見るようなものだったり、ゼクトやアスナは感情が読めなかったり、千の雷を捨てる場所とタイミングがなく未だ手の中にあったりするが。

 

「先ずは、知己である私が経緯等の説明をしてあります。

 よろしいですね?」

 

「過去形なのじゃな?」

 

「ちょっと待て変態。

 戦争関係はともかく、アスナに関する経緯は何も聞いていないぞ」

 

「おや、そうでしたか。

 それでは、かくかくしかじか、というわけです」

 

「そうか、全く分からん。

 手を抜かずにきちんと説明しろ」

 

「通じませんか、仕方ありませんね。

 メセンブリーナ連合に所属するとある都市の兵がウェスペルタティアの外れにある砦を攻めている現場に介入した際に発見したので、どさくさに紛れて保護してきたのですよ」

 

「……それで全てなのか?」

 

「もう少し詳細な説明が必要ですか?

 ちょっと待ってくださいね、アスナ姫が鎖に繋がれている場面の記憶を言葉にまとめますので」

 

「どうして、そこ限定なんだ。

 警備の状況やらから、色々読み取ったりできるだろうに」

 

「護衛、ですか。

 それなりに人はいましたが、砦としては過剰というわけでもありませんでしたね。重要な人物がいた割には少なかったと言っていいでしょう。

 憶測になりますが、アスナ姫を中心とする少数の援軍が砦に送られ、防衛を任されたのではないかと。少なくとも攻撃の第2波までは大きな損害を防げていましたし、アスナ姫以外の王族や造物主の滞在が確認できませんでしたので」

 

 魔法に対する防御力と言う意味では、アスナの能力はそれなりに有効なのか。

 その能力をアテにされ、少数の護衛で前線に出てきたと……

 

「……悪手だな。むしろ、どうやって攫ってきた」

 

「攫うとは人聞きが悪いですね。

 第3波の攻撃で大岩が飛んできて塔が崩壊したので、これ以上の犠牲者を出さないよう塔の人達を転移で避難させたのですが、アスナ姫はその能力で取り残されてしまったので直接救出し、それをメガロの船に見付かったので速やかに離脱しただけですよ」

 

「物理的な現象まで落とし込めば防げんという事か。

 ウェスペルタティアに行かなかった理由は?」

 

「軍艦に追われているのに、王都に向かうわけにいかないでしょう。

 メガロ領内のゲート付近なら攻撃は無いだろうと判断して施設に逃げ込んだのですが、それでも攻撃を受けた上に都合よくゲートが開いたので飛び込んだのですよ。

 というわけで、地球で最も安心できる場所に連れて来たわけです」

 

「いかにも仕方ないという風に言っているが、明らかに狙っているだろう。

 内容的にはアレだが……とりあえず、だ。

 雪花。幕田の上層部と軍部、それに主な魔法関係組織に、魔法世界からの襲撃に備えるよう伝えておいてくれ。あと、ヴァンの呼び出しだ」

 

「仮想敵はウェスペルタティア、メガロメセンブリア、造物主の3つでよいでしょうか?」

 

「そうだな。それらが手を組む可能性も想定しておいた方がいいか」

 

「分かりました。では、すぐに」

 

 雪花、退場。

 ナギは……うん、攻撃してくる気配はないな。一応負けを認めたという事でいいらしい。

 

「さて、アスナはこちらで保護するとして、だ。

 お前達は……いや、一応先に確認しておくぞ。お前達紅き翼は、一応ナギがリーダーという事でいいのか?」

 

「うむ、そうじゃな。

 明確には決まっておらんが、概ねナギが次の目標に向かって突っ込むからの」

 

「正確には、何も決めずに走っていくので、我々がフォローしているという感じですね。

 我々が決めてもナギは従いませんし、失敗も当然ありますが、勘で正解に近い選択をするのを見ているのはなかなか面白いのですよ」

 

「師匠や保護者として、せめて暴走くらいは止めろ。

 青山のは……武者修行だから戦いに突っ込むのは問題ないのか。一応さっきは止めようとしていたし」

 

「は、はい」

 

 コイツは今も緊張しているようだが、本当に、京都でどんな風に伝わっているんだ……?

 今まで来た連中はここまで酷くなかったし、コイツが妙な受け取り方をしているだけかもしれんが。

 

「そんな状態で、よくここに誘導できたな。

 それで、紅き翼としては、アスナをどうしたいんだ?」

 

「そりゃあ、普通の生活をさせてやりてぇんだけどよ」

 

「そのハードルの高さは、理解しているか?」

 

「国が敵になるってことくらいは、いくら俺でも分かるぜ」

 

「その具体的な影響についてだ。

 ここで匿うという事は、ここが戦場になる可能性を生む。

 更に言えば、地球に連れてきた事は知られているが、今のところ具体的な居場所が知られていない以上、暴力的な捜索が地球全体に向けて行われる可能性もある。

 お前の選択は、アスナ個人にとって良い事でも、地球に住む者にとってはそうではない。

 そこまで気付く……のは、無理だったな」

 

「ちょっと待て、なんでいきなり貶されてんだ俺は!」

 

「戦争が起きたからと後先考えずに学校を飛び出す人間に、因果関係の説明をする事の無意味さに気付いてしまってな」

 

「喧嘩売ってるんだな? 買っちまうぞ?」

 

「エヴァ様。ナギをいじめちゃダメ」

 

 むぅ、アスナはナギになついているのか。

 だがなぁ。

 

「私としては、押し売りされた千の雷を清算したいだけだ。片手では菓子を食べるのも面倒だからな。

 元々は広域殲滅用の魔法だが、1人用に圧縮してあるし、後は防音して適当な壊れてもいい的にぶつければ処理できるんだが……」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。

 そんなにいい笑顔でパチパチいってる手を振ってんじゃねー!!」

 

 ナギが騒いでいるが、別に大した事はしていない。

 それに、軽くでも放電しないと、千の雷がいつまでも残ったままだ。

 

「だから、清算は保留にしているじゃないか。

 ああ、来たかヴァン。ナギの愛を一身に浴びる気はないか?」

 

「遅くなって悪いとは思うけど、いきなりそれは無いんじゃないかなー?」

 

 いや、魔法を使わないならもっと時間がかかる場所にいたんだから、遅くはないんだが。

 書類入れのカバンを持ってきているし、準備は問題ないか。

 

「無駄に魔法を掌握している都合でな。

 さてと、そろそろ本題だ。

 ナギ。今回の件に限らず、あちこちで紛争が発生しているわけだが……原因は知っているか?」

 

「原因? あれだろ。魔力が無くなるって言ってる連中が騒いでるって話は聞いてるぜ。

 けどよ、こっちじゃ魔法がなくても生活できるんだ。何が問題なんだ?」

 

「これだから、表面しか見ない馬鹿は困る。

 いいか。魔法世界から魔法がなくなるというのは、こっちの世界で電気や石油が使えなくなる事に近い影響がある。

 テレビ、電話、自動車、飛行機、船。店に並ぶ品々を運ぶこともできなくなるから、大都市は完全に死ぬことになる。そんな生活をしろと言われて、大多数が問題ないと言えると思うか?」

 

「いや、こっちの世界に代替の技術があんだろ?」

 

「確かに技術はある。だが、それを魔法世界で魔法の恩恵を受ける人々に行き渡るまで広めるには、どれくらいのコストと時間がかかるんだろうな。

 しかも、本当の問題はもっと深刻だ」

 

「本当の、問題?」

 

 うん、やはり理解していないか。

 一般人ならともかく、それなりに戦争に関係しているのに気付かないのは……やはり、馬鹿か。

 

「魔法世界は、始まりの魔法使いによって作られた世界だという事だな。巨大なダイオラマ魔法球のようなものだと思っていい。

 さて、ここで問題だ。ダイオラマ魔法球が魔力不足になると、何が起こる?」

 

「そりゃあ維持できねーわけだから、中のモノが外に飛び出すか、壊れるんじゃねーか?

 ……まさか、魔法世界が吹っ飛ぶって事か!?」

 

「正解だ。

 そして、恐らくあと40年程度で魔力が尽きるという予測が、国の上層部に報告されている」

 

「……そりゃあまた、大事が出てきやがったな。

 ってことは、人を減らすってのは、寿命を延ばす効果があんのか?」

 

「さほど効果は無いな。

 人も生きていれば魔力を生成しているんだ。魔法や魔道具を使用すると、それ以上に消費するだけでな。つまり、魔法や魔道具やらの使用が減る分、魔力の消費も減るとは言える。

 だが、人を減らすために使用する兵器による消費。破壊された自然が生み出すはずだった魔力の喪失。これらを正当化できる程だとは考えにくい、というのが私達の見解だ」

 

「つまり……ダメってことだな。

 戦争は止められねぇのか?」

 

「無理だな。戦争をやっている連中は、変な思想に染まっているか、間違った理論を信じているかだろうし。

 私達から見れば、地球の先進国的な意味では人権やらの問題があるし、人が魔力を節約するだけでもある程度は効果が見える問題の解決策が戦争という時点で、阿呆にしか見えないわけだが」

 

 地球でもまだ省エネだのが騒がれていないから、こんな説明になるのがもどかしい。

 というか、エネルギー不足という問題に対して、周知して節約ではなく戦争での浪費に走るあたりは、魔法世界の文化や教育が古いままなのだと思い知らされる。

 

「えーと……節約も、効果はある程度ってくらいなんだろ。

 解決策って、あんのか?」

 

「ある。まあ、多少は節約という方向の努力も必要になるだろうと予想しているが、崩壊を回避するプランは用意済みで、ある程度は準備も進めている。

 だが、魔法世界での戦争は、その準備にとって邪魔になるのは確かだからな。お前達が戦争の終結を目指すのであれば、手を貸すのも悪くないと思っているが、どうだ?」

 

「そりゃあ、戦争を終わらせられるなら、その方がいいだろうけどよ。

 何でそんな事を聞くんだ?」

 

「お前が何らかの理由で戦争を終わらせたく無いと思っているなら、相容れないだろう?

 例えば戦闘狂で戦争介入が主目的、だとかな」

 

「いやいやいや、何でそんな風に思われてんだよ!?」

 

「戦争が始まった途端に学校を飛び出したという実績から、だな。

 その目的が定かでない事と、協力する以上は私達にも責任が発生する事から、確認が必要というわけだ」

 

「そ、そうか。

 確かに、戦争で名をあげる目的がなかったとは言わねぇけど……正義の戦いってわけじゃねぇみてえだし、早く終わらせた方がいいとは思ってるぜ」

 

「戦争に純粋な正義など無いぞ。大抵の場合、双方がそれぞれの正義を掲げているからな。

 では、次だ。

 この戦争を終わらせるには、何が必要だ?」

 

「えーと……扇動してる連中をぶん殴るとか、か?」

 

「阿呆。そもそも扇動してるのが誰かも分かっていないし、いくつもの組織が個別に暴れているだけの可能性すらある。

 そんな状況で、誰を殴るつもりだ。末端のしっぽをいくら切っても、戦争は止まらんぞ」

 

「けど、動きを止める事くらいはできるだろ?」

 

「鈍りはしても、簡単には止まらんぞ。

 喧嘩の仲裁を考えれば分かると思うが、始まる前に手を打つのと、始まってから止めるのでは、やり方や難しさが違う。

 派手に殴り合っている時に止める際、それ以上の暴力で双方を蹂躙する場合はあるが……魔力枯渇という問題を大きくする上に、蹂躙する側が悪役になる必要がある。

 お前が望むならそう使ってもいいが、その役目を背負い、捨て駒になる覚悟があるのか?」

 

「捨て駒って、はっきり言うんだな」

 

「役目を自覚し、最後までやりきってもらわねば害にしかならんからな。何も知らん相手をそうなるよう誘導するならともかく、こうして言葉を交わしている相手にそんな手段は取れん。

 それに、それが可能なだけの戦力と友好的に協力できるなら、他の手段も取れる。

 何か疑問は?」

 

「えーと……俺達にできる事って、何だ?

 自慢じゃねぇけど、俺が自慢できるのは強さだけだ。政治やらの小難しい話をされたって分かんねぇぞ」

 

 おや、その自覚があるのか。

 学校中退で学があると主張しない程度には、身の程を弁えている……いや、得意分野を知っているだけの可能性もあるか。

 

「ああ、その辺はお前の師匠やらそこの変態やらに任せておけばいい。

 当面行ってほしいのは、侵略や虐殺を行う側を追い払うことと、被害の復興を手伝うことだ。

 重要なのは国や地域を問わない事で、どちらが被害者か見て分からなければ手を出さなくていい」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。

 追い払うってのはともかく、判断と復興なんてどうやってすりゃいいんだよ!?」

 

「判断については大抵の場合、町の外から攻撃している連中を蹴散らせばいい。

 現場では……師匠や変態なら問題ないだろう?」

 

「ええ。妙な思想に染まった連中ですから、判断は簡単だと思いますよ」

 

「うむ。問題は復興じゃな。

 こればかりは、魔法でドカンというわけにいかん」

 

 やっぱりこいつら相手でいいなら、説明だけは楽でいいな。腹や頭の中がアヤシイから、普段から接したいタイプではないが。

 なんでナギがリーダーなんだか……説得が簡単でいいと思えばいいのか?

 

「復興の支援は、基本的には各地の権力者や商人の力も借りる必要がある。

 侵略者を追い払った立役者なら権力者とも会いやすいだろうし、商人やらは……火事場泥棒やハイエナになる危険があるか。信用できそうな者をこちらで探してみよう」

 

 実質は、眷属ネットワークの資料を、取り出しやすい場所に用意しておくだけだが。

 いや、地域的に抜けがないかくらいは、確認しておいたほうがいいか。

 

「んー、それならまあ、何とかなるか……

 戦争起こしてる馬鹿をぶん殴って、あとは任せりゃいいんだろ?」

 

「再侵攻やらの可能性もある以上、少しは留まって手伝う方がいい。住民達も放置されるより、ヒーローに手伝ってもらった方が安心できるし、気力も沸くというものだ。

 まともな商人を探すついでに、怪しい動きをしている連中も探ろう。というか、そういう地域を優先しないと無駄が多くなるからな。怪しい連中を探る方が先になる。

 その辺の連絡は……そこの変態経由でいいか」

 

「それは構いませんが、よく考えたら変態とは酷い言われようですね」

 

「出会って早々に水着を着せようとしたんだ。今更だな」

 

 いや、面と向かって言ったことは少なかったか?

 頭の中では変態と呼び続けているんだが。

 

「さて、周囲のサポートはこれくらいだな。

 直接の手助けは……ヴァン、何かあったな?」

 

「はいはーい。こんな事もあろうかと、便利道具を作ってみたよ!

 テレレレッテレー、デバイスー!」

 

 こんな事もというか、数百年前からこの状況を想定して作っていたんだが。

 それに、どこぞの秘密道具じゃあるまいし。そもそも効果音が間違っているのは、わざとなのか?

 

「……何だそりゃ?」

 

「あんちょこいらずの便利な魔法の杖、くらいに思えばいいよ。普段はこのブレスレットの形で、使う時は普通の杖みたいな形になるし、落としてもさほど遠くなければ召喚で呼ぶ事もできる。使う前に魔力の登録が必要で、他人が使えないのは……利点にも欠点にもなるかな。

 使える魔法は決まってるけど、いろんな種類を入れてあるから、そうそう足りないってこともないと思うよ。千の雷とかもほぼ詠唱なしで使えるようになるはずだから、発動までの時間も短縮できるしさ」

 

「そりゃ……すげぇな。

 けど、そんなすげぇ杖は聞いた事がねぇんだが……」

 

「僕たちが、こっそりと作ってたものだからね。

 だからというわけじゃないけど、これは貸すだけだし、使った感想とか気付いた問題点とかを教えてほしいな。

 身内しか使ってないから、他の人の感想も聞いてみたいんだ」

 

「公開前のテストと思えばよいのじゃな。

 じゃが、人に見られても良いのか?」

 

「うん。このまま売りに出してもいいくらいの完成度にはなってるつもりだしさ。

 宣伝も兼ねて、って思えばいいよ」

 

「なるほど。

 良かったのナギ。記憶力の無さが補完されるようじゃ」

 

「俺は馬鹿じゃねぇ!」

 

「いや、その短絡さが馬鹿なんだがな」

 

 とりあえずこれで、種はまけたか。

 後は高二病が網にかかればいいんだが……アレは何を考えているんだろうな。




2016/06/20 うむ、全く→そうか、全く に変更
2016/06/28 メガロメセンブリア連合→メセンブリーナ連合 に修正
2016/07/19 止めれねぇ→止められねぇ に修正


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紅き翼編第03話 忘れた頃に

「随分と厄介な手法を使っているな……」

 

 ナギ達が魔法世界に帰って行って、数日。

 私達は、アスナに施された術式、年齢やら精神やらを固定する魔法等を調査していた。

 同意の上でちょっと眠ってもらって、色々やってみたんだが……得られた結果はまあ、えげつないというか、さもありなんというか。

 

「不老化の部分が、エヴァにゃんの吸血鬼化と似てるんだよねー。

 存在を精神優位にした上で、操作する肉体の形状を固定する。当時の厨二病の癖もあるし、厨二病が噛んでたのは間違いないかな」

 

「お前は関与していないんだな?」

 

「うん。してたら、いたっていう情報くらいは渡してるし。

 たぶん、僕を封印する墓の出入りの時に、何かやってたんだろうなぁ。資料を渡しただけかもしれないけどさ」

 

「それにしても、これの解除は……正攻法では無理、だな」

 

 存在自体が改変されているし、アスナを完全に戻すことが可能なら、私を人間に戻す事もできそうだな。方法が全く思い付かんが。

 魂と肉体が完全に分離しているわけではないから、限定的な効果でいいなら手が無いわけではないが……

 

「記憶封印をして人格の分離を誘発、肉体との関連性を薄めた上で年齢固定術式に介入すれば……

 うん、今の魔法使いでも体は成長させられるね。手法的に問題ありまくりだけど」

 

「他の方法は大掛りすぎて、現実性に乏しいのも問題か。

 それでも、アスナを隠すには有効な手段ではあるな。年齢固定の術式に自信があるほど成長したアスナを見付けるのは困難だろうし、性格が変わる事も発覚が遅れる理由になるかもしれん」

 

「後になって魔法に関わらせたりするのは謎だけどねー」

 

「その辺は考えても無駄だろう。元老院が後先考えなくなってきたとか、そもそも隠し切れなくなってきたとか、そういう事なんだとでも思っておけばいいさ。

 だがまあ、これ以上調べても、アスナの負担になるだけだろう。

 全て話した上で、どうするか選ばせるべきか……?」

 

「精神面が成長してなさそうだから、判断力に問題がありそうだけどねー」

 

「だからと言って、勝手に決めるのもどうなんだろうな。

 私達から見た場合、不老だろうが異質ではないし……」

 

「価値観の問題って、大きいよねぇ……」

 

 眠るアスナを見ながら2人でため息をつく絵面はどうかと思うが、それ以上の問題は、私達が一般人の感覚を忘れている事か。

 幸せとは、何だったかな……?

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 結局アスナについては、解析と教育を行いながらの現状維持という事になった。

 精神面の現状に問題がある上に、周囲に不老者が多いからか本人(アスナ)が肉体的な成長を求めなかったし、成長は後からでも可能かもしれないという理由ではあるが……

 

「だめ?」

 

「いや、駄目というわけではない。

 それでも、問題なく体が成長できるようになる可能性はあまり高くないぞ。その為に記憶を封印するという手法は気に入らんが」

 

「気に入らないなら、しなくていい。

 仲間も、ちゃんといる」

 

「やるなら、いい思い出が少ない今のうちだとも思うぞ?」

 

 最大の理由はどうも、私がアスナに懐かれたからのように思えてならない。

 ヴァンには、同類(幼女固定的な意味で)と思われたせいかもとか言われた。ナギへの態度やらで最初の印象は良くなかったハズだし、他にロリBBAがいないわけでもないんだが……他の連中の顔を見る機会が少ないのが問題なのか?

 だが、ノア達の担当は当番制になっているし、アスナの為に担当を変えるのは問題になるか。未だに競争が激しいらしいしな。

 

「大丈夫。何人かに相談して、新しい名前も決まった」

 

「もう決めたのか。

 誰に相談したのかは怖くもあるが……」

 

「ゼロさん、雪花さん、スクナさん、甚兵衛さん」

 

「……まあ、ネタに走る相手ではないか。

 だが、由来やらには拘りそうだな」

 

「うん。新しい人生をゼロから始めるから、でもゼロさんがいるから、日本語でレイにした」

 

「…………ヴァンは?」

 

「さっき会って話したら、苗字は綾波しかないって力説してた」

 

「いや、それは却下するぞ」

 

 後でエヴァ繋がりだのキャラの類似性がどうだのと言われる可能性を考えると頭が痛いが、ネタやふざけた要素が名付け時点では無いようだし、本人が納得しているなら名前自体に文句を言うべきではないか……。

 そんな感じで思わぬ天然のネタ振りに困惑したりしながらも、私達はまったりしている。

 

 だが、魔法関連の連中の動きは、かなり慌ただしい。原因の1つは、当然ながらレイ……とはバレていないようだから、黄昏の姫御子と言うべきか。

 姫御子を探すためと思われる連中がウェスペルタティアだけでなく、メガロからも地球に送り込まれている。しかもメガロからの連中は、権力やらを傘に協力を強要しているらしい。

 おかげで、情報がザルのように洩れる洩れる。

 

「黄昏の姫御子が行方不明という情報は、魔法世界では一般人にまで広まっています。

 メガロは姫御子を確保する事で、ウェスペルタティアへの圧力を強める思惑があるのは間違いありません。動員可能な人員の質や量、地球の関係組織の数を考えると、先に見つけられるという自信があるのでしょう」

 

 雪花が広げ、ヴァンが見ているのは、地球の地図。

 そこに数色の駒を並べて、今回は各勢力の状況を表現している。

 

「連中が捜索しているのは、南米とヨーロッパ辺りが中心か。

 出入りしたゲートの近くから、というのは分かりやすいが……」

 

「メガロメセンブリアは、アルビレオが偽装した目撃情報を追っているように見えますし、連れたまま魔法世界に戻ったように見せていたので、魔法世界での捜索も活発です。

 しかし、ウェスペルタティアは日本にもそれなりに人を送り込んでいますし、メガロメセンブリアからも少数ですが侵入が確認されています。

 ヴァンがここに居ることは造物主に知られていますから、ウェスペルタティアが私達を警戒するのは理解できるのですが」

 

「王族の誘拐である以上、アレが入れ知恵するのは必然だからな。

 問題は、メガロか。怪しげな連中が暗躍しているのか、情報が洩れているのか、他の場所も探してみようという消極的な理由なのか……」

 

「完全なる世界的な組織が裏でメガロを動かしてる、って可能性が一番高いよねー?」

 

「そのような組織は見付けられていないが、残念ながら、そうだな。

 それにしても、組織名と引き籠り用世界の名前が同じというのは、どうも紛らわしいな」

 

「混同を狙ってるのかもしれないし、部外者にバレにくくする工夫かもしれないけどねー。

 この際だから、組織の方は幼女誘拐犯とでも呼んどく?」

 

「現状では、紅き翼を指す言葉になるぞ。

 しかし、どうやって裏を探るべきか……日本に来ているメガロの連中が、戦争推進派かどうかは分かるか?」

 

「断定できるだけの情報は、現時点ではありません。

 所属派閥がはっきりしている者はいますが、フリーの傭兵もいるようですので、依頼経路の調査は困難と思われます」

 

「そうか」

 

 指示系統と本人の思想がかみ合っていない可能性もあるし、調査する意味は薄いか。

 手間とリスクが大きいだけで、実入りは少なそうだ。

 

「知りたいなら、何人か捕まえてくればいいんじゃない?

 エヴァにゃんなら、血を吸えば知識を見れるわけだしさー」

 

「……ああ、そんな設定もあったな」

 

「設定って言っちゃう!? 設定じゃなくて、本当に仕込んであるんだよっ!!」

 

 いや、知識の吸収を意図的にやったことは無いし、好き好んで血を飲む気も無いんだ。

 いくら吸血鬼相当の能力持ちでも、吸血鬼としてその能力を使うのは……

 

「……人としてのなけなしの意識も捨てろ、と言いたいんだな?」

 

「あ……えーと、うん。やっぱり無しで。

 色々とままならないねー」

 

「現状でも、かなり人から外れてる自覚があるからな。

 これ以上踏み外せば、ずるずると堕ちてしまいそうだ」

 

「イシュトさんなどは、エヴァ様の為なら地獄の底までと言って憚りませんし。

 道連れは多いですよ」

 

「だからこそ、堕ちるわけにいかないんだ」

 

 そうなってしまったら、私のせいで世界が滅びる事になりそうじゃないか。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 ナギ達が魔法世界に戻り、姫御子絡みで無駄に手出しをしてくるメガロやウェスペルタティアの連中や、無駄な戦争をしている阿呆共を薙ぎ払いながら旅を続けているある日。

 山の中で針葉樹の森の中なのに芝のような行動の邪魔にならない草しか生えてない、実にご都合主義的な場所で。

 筋肉さんに、出会った。

 

「……と、変態からの報告が来ていたわけだが。

 ラカンで間違いないな?」

 

「はい。監視部隊も、戦争の鎮圧に協力するようヘラスに依頼されたジャック・ラカンが、襲撃騒ぎを起こした後に紅き翼に合流した事を確認しています。

 特定の陣営に肩入れせず、復旧にも手を貸している事が好評価に繋がっていますから、非公式ながら皇帝からの依頼に繋げられたようです」

 

 今は私と、報告書の束を持ってきて、そのまま整理に参加している雪花しかいない。

 ヴァンやゼロはやりたい事があるとかで、参加率が下がっている……が、事前に仕入れている関連情報が明らかに増えているから、恐らくはそういう事なのだろう。

 ……別に、報告に関する情報まで事前に調査しておく必要は無いんだがな。

 

「いくら皇帝の一族と親しいといっても、そこまで口を出せるのか……」

 

「今回は皇帝から情報収集の依頼があったため、偽りのない報告を行った上で、個人的に提案しただけだそうです。

 積極的な介入はしていないとは言えるでしょう」

 

「積極的に介入する必要がなかったからしなかっただけ、じゃないのか?

 結果的に問題が無いから、それでいいんだが」

 

「そうですね。

 なお、ラカンとの戦闘ではデバイスが猛威を振るい、1時間ほどでラカンが降参したとのことです。

 ナギはデバイスを絶賛していますが、ゼクトは技術の鍛練にならない点や、魔法行使の難易度低下が魔法使いの質の低下に繋がる可能性を危惧しているようです」

 

「その可能性は確かにあるが、倫理観の育成や教育の問題も絡むからな。現状の魔法使いの質も褒められたものではないし、銃を持つ人間の質だって同じだ。

 人類に付き纏う、永遠の問題だろう」

 

「そうですね。

 その後の経過を見る限り、ラカンとナギの仲は良好です。侵略者鎮圧の際の余波による被害は大きくなっていますが、戦闘時間の短縮や再侵攻がかなり少なくなっている事から、総合的に見れば損害の低減になっているようですね」

 

「再侵攻が減ったのは、ラカンに関係するのか?」

 

「はい。侵攻軍の被害がとても大きくなって許容範囲を超えるという事もありますが、再侵攻開始直後に容赦なく軍を殲滅したという実績から、目を付けられたら危険だという噂が広まっている事も理由にあります」

 

「その噂を広めたのは……まあいい、住人やらの感情は?」

 

「心配されるほど悪くありません。

 圧倒的な力を見せつけている事と、戦闘を短時間で終結させている事が、感情の悪化を防いでいるようです。英雄として祭り上げられる要素としては、十分でしょう」

 

「見える被害は、終わりの見えない戦争よりもマシか。

 ……メガロやらの追跡は、どうなっている?」

 

「姫御子を連れていない事は確実ですし、実力でどうこう出来る相手ではない事を思い知ったためか、遠巻きに監視する程度になっています。

 趣旨も敵対的かつ危険な戦闘力を持つ人物の動向を把握する事に変わっているようですから、当面は安定する可能性が高かったでしょう」

 

 ……高かった?

 

「ちょっと待て。どうして過去形なんだ」

 

「調査員として派遣されていたガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグがアルビレオと接触し、結果的に紅き翼に寝返りました」

 

「また変態かっ!?」

 

「アルビレオが渡した情報は、メガロメセンブリアの元老院による非人道的な手下の確保手法と、それに使われていた孤児院の実態です。

 ガトウが調査する過程でとある孤児院の経営責任者が変わり、そこにいた高畑・T・タカミチを含む10名ほどの少年少女がガトウを師と仰ぎ始めたそうです」

 

「変態自重しろっ!!」

 

 原作の再現という意味では正しいのかもしれんが、勝手に何をしでかしているんだ!?

 

「念のため補足しますと、アルビレオ自体は件の孤児院やそこの子供達に関わっていません。

 この点は、ダイアナ達……ヨーロッパ方面の眷属で構成された監視部隊も確認しています」

 

「そういうところだけは自重しているのか」

 

 原作のフェイトのような、孤児ハーレムを目指しているわけでは……ん?

 

「そこ以外の子供達には、何かやっているという事か?」

 

「孤児院の調査や若干の支援をしているようですが、直接的な関わりは特に無いようです。

 神出鬼没なアルビレオの行動ですから絶対とは言い難いですが、最近スーパーステルスと呼ばれるようになっているさよさんの報告ですので、信憑性は高いでしょう」

 

「最近さよの顔を見ないと思ったら、変態を追っているのか」

 

「はい。

 本気で隠れた場合は、アルビレオにも見付からないと言っていました」

 

「そうか……さよについては、自信を持てる力を得たのはいいことだと思っておこう。

 それにしても、変態は今のところ証拠無しで無罪という事だな。だが、普段がアレだし、ナギ達の状況を追うついでに、変態の監視も続行で頼むと伝えておいてくれ」

 

「承知いたしました」

 

 それにしても、高二病関係者を警戒すべき状況のはずなのに、どうして身内や原作主要キャラの方を注意する必要があるんだ?

 いや、元凶は概ね変態か……早々に姫御子を確保できたのはいいが、もっと根本的な部分も何とかしてほしいものだ。




2016/07/01 当時厨二病→当時の厨二病 に修正
2016/07/19 ずれてる自覚が→外れてる自覚が に修正
2017/05/15 念のため捕捉→念のため補足 に修正


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紅き翼編第04話 修正力

 ガトウの参加が、状況を変える大きな切っ掛けになった。

 具体的には、元老院の裏で怪しい動きをしている人物の特定に成功し、そこからウェスペルタティアに繋がる人脈が浮かび上がってきた。

 執政官は無関係だったから、原作知識に頼る危険性を再認識すべきなのだろう。

 それでもマクギル元老院議員は被害を抑えようとしていたし、誘拐イベントは無かったがアリカ王女やテオドラ皇女の協力も得られることになった。

 

「それにしても、高二病は随分と小物になったものだな。

 いや、現実を見ているようで見ていない、という点は大差ないが」

 

「今の魔法世界の構造的な問題を調べてた事自体は、間違ってないんだけどねー。

 完全なる世界を作るって方向じゃなかったのも良かったんだけど、情報を渡した相手と、その後の拡散が致命的だから、差し引きすると五十歩百歩かなー」

 

「悪役としての立ち位置でなくなっている分、終わり方に困る羽目になっているがな。

 どこかに、分かりやすい暴君でも現れないものか……」

 

 高二病は結局、ウェスペルタティアの現国王に現状を伝え、後は問題点や対処法の調査研究をしていただけらしい。

 その情報……特に魔法世界が人造であり、地球由来と魔法世界由来の人で存在自体が異なるという事実についてだが、調査員の口から各地の権力者や有力者に伝わり、その伝言ゲームで捻じ曲がっていったのが問題の元凶のようだ。更に私達の活動と中途半端に混同されて、間違った選民思想やら行き過ぎたナショナリズムやらに繋がったようだ。

 ……道理で、裏を探っても組織やらが見えてこないわけだ。誰が黒幕というわけではなく、囃し立てる武器商人や汚職役人と、踊らされる権力者や庶民という構図でしかなかったのだから。

 それは同時に、高二病を倒してハッピーエンドという筋書きが、最初から存在していないという事でもある。

 そして、アリアドネーは配下、ヘラスは同盟国、メガロは元老院に部下がいる……

 

「……修正力的な意味でも実際問題としても、ウェスペルタティアを悪役にするしか、簡単に事態を収める方法が無いのか?

 阿呆が妙な形で情報を拡散させたのは事実だし、その辺の領主や辺境の小国程度では知名度も実力も足りなすぎるし……」

 

「今まで問題なくやりすぎちゃった事が、問題になっちゃったねー」

 

「全くだ。

 手頃な盗賊団でもいれば、全て押し付けられるかもしれんが」

 

「それこそ知名度も実力も足りなくない?

 というか、盗賊団も大きくなる前に対処しちゃってる事が多いよ」

 

「盗賊団なんだから有名でなくても仕方ない、と言い張れば何とかならんかと思ってな。そんな連中に心当たりは無いし、ゴミ掃除をしすぎたのも失敗だったか。

 いっその事、悪質な賞金稼ぎでも煽ってみるか? 暴走する未来しか想像できんが」

 

「だめじゃん。

 それに、悪役を無理に作るのって、バレたら面倒だよ?」

 

「そうなんだが、手っ取り早い解決法でもあるんだ。

 ナギ達の人気も、侵略者を悪役とするヒーローものという分かりやすさに支えられているわけだしな」

 

「侵略者が現れなくなったから解決ってのは、インパクトないよねー」

 

「最終回の演出は、難しいからな」

 

「続きが出なくなった小説みたいに?」

 

「それでは終わりが無いじゃないか。

 無理矢理最終回を作らされる、打ち切り漫画の方が適切だろう。成功してきれいに終わる事が稀だという意味でも、好きな時に終われるわけでない意味でも、な」

 

「よーするに、無理矢理終着点を作らなきゃいけない状況だ、って事だよね。

 難易度高いよねー」

 

「正直言って、ある程度目途を付けた上で主要国全てが参加する何らかのイベントで事態の終結を大々的にアピールする、くらいしか思いつかん。

 効果が限定的な割に、実行もタイミングも難しいからな。他にいい案は無いか?」

 

「ないよー」

 

「無いか。やはり、当面はこれを軸に色々と模索するしかないか……」

 

 そう考えながらも、有効な手を打てないまま事態は動き。

 何故か、ウェスペルタティア王国が、世界に喧嘩を売った。

 

「……これは高二病のせいなのか、国王が阿呆過ぎるのか……」

 

 経緯が纏められた資料を見ても、ため息しか出ない。

 

「妙な方向に追い詰められて迷走した結果と考えれば、まだ理解できる範囲ではあるでしょう」

 

 そう言うゼロも納得はできていないようで、微妙な顔をしている。

 多くの魔力を消費する魔道具を廃棄せよ、しないのであれば世界を守るために強制的な排除を行う、と世界に向けて宣言した事を、どうやっても納得はできないと思うが。

 消費の多い魔道具と言っているが、個々で考えると軍事力に直結するものや、人が住む環境を維持し守るものが多いのは確実だろう。

 個数を考慮するならば、当然ながら生活に溶け込んだものが上位に来るのは間違いない。

 それを伝える者達の思惑も加わり、結果的に、ウェスペルタティア王国が他国と人々の両方に喧嘩を売る形になってしまっている。

 

「アリカがテオドラと密会中で国外にいたことが、どう影響するだろうな。

 ヘラスが後ろ盾になって現国王を批判しているから、ウェスペルタティア全体がそう思っているわけではない証明になるが、権力抗争の図にもなってきている」

 

「世界中に味方がいないって状況じゃないだけ、いいんじゃないかな。ナギ達もアリカの護衛みたいな扱いで表に出てるし。

 いいデバイスの宣伝になるねー」

 

「それ自体はいいんだが、アリカ達がウェスペルタティアからと思われる刺客に襲われまくっているのは、いいことなのか?

 紅き翼が釘づけにされているように見えるせいか、今まで散々叩き潰してきた雑魚領主やらがまた動き始めているぞ」

 

「それはまあ、仕方ない……かな。

 抑止力として有効に機能していた証明だしさー」

 

「地球への脱出を企んでいる者達もいるようです。

 姫御子の捜索にも焦りが見えていますから、各地の組織に警戒を呼びかけてはいますが」

 

「予想された動きではあるが、連中が大挙して押し寄せても、社会的な保護を受けることは不可能だという自覚がないのが困る。

 魔法が認知されていないことをいいことに、今まで色々とやらかしているんだ。その責任を追及されたり、賠償やら補償やらを要求されたりする可能性に思い至らないのが何とも……」

 

「ある意味では私達も同類ですが。

 それでも、自分達が何をやっているのかを、魔法世界の住人は理解していないのでしょう」

 

「僕たちはちゃんと裏から権力を支えたりしてるから、好き勝手やってたわけじゃないよ。

 やだよねー、中世以前からまるで変わってない思考回路ってさー」

 

 メガロの連中は教会やらとの繋がりもある分、まだマシかもしれんが……好き勝手に動いていた派閥もある以上、過去を無かった事にするのは難しいだろう。

 まして、小国やら国にも満たないような都市レベルの連中、そしてウェスペルタティアは、どうするつもりなんだろうな。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「そして、こうなるのか……」

 

 私の疑問のうち、メガロメセンブリアの一部とウェスペルタティアについては、答えが出た。

 出てしまった。

 その結果として、世界各地から発信される情報が交錯し、雪花達がその処理や対応に追われている。

 

「だけどさー、アーウェルンクスの製作は予想出来てたけどさー。

 投入がこのタイミングと内容だとは思わないよね?」

 

「地球に多くの魔力が洩れている事を問題視して、ゲートを半分近く破壊するのは……主張と原作を考えると、予想しておくべきだったのかもしれんな。

 しかもその直前に、メガロの兵隊が地球に入り込んでいくつかの組織を襲撃している。ゲートの破壊がもう少し早ければ襲撃を防げたのにと八つ当たりしたい気分だ」

 

「幕田とイギリスは大丈夫だったけど、呪術協会とイスタンブールは結構被害が出たしねー。

 マヤとか制圧される寸前までいっちゃったとこもあるし、復旧が大変そうだよー」

 

「救援が間に合って良かったが、私達としては呪術協会が問題だな。

 まさか、こういう形で近衛本家が断絶寸前になるとは思わなかったぞ」

 

 正確には、放置すれば断絶が確定する、だが。

 現当主(近右衛門の実父)はいい年だし、今回の騒動で跡取り(近右衛門の兄)とその子が死亡した。他に子や孫がいないため、養子を取る等の対処をする事になるのは確実だ。

 

木乃江(このえ)ちゃんが養子になって婿取り、ついでに詠春が次期当主になるフラグかなー。

 はいはい修正力修正力、っと」

 

「詠春か……紅き翼がアリカの護衛として知れ渡って、主要メンバーは有名人になってしまっているからな。ウェスペルタティアがどうなるかは置いておくが、アリカが悪役を押し付けられなければ、紅き翼は少なくともヘラスに対するパイプにはなる。

 地球の組織でヘラスとの関係を持つのは、私達くらいだ。今後を考えると呪術協会としてヘラスへの伝手を確保できる意味は大きいから、周囲の圧力は高そうだな」

 

「やだよねー、打算にまみれた関係ってさー」

 

「大人の世界ではありがち、と言うのは簡単だがな。

 たとえ私達が知る結果になろうとも、木乃江には感情面でも納得した上で選んでほしいものだ。

 政治的な圧力を、近右衛門がうまく捌いてくれればいいんだが」

 

「あー、コノエモンはしばらく期待できないかも。

 なんか京都の被害の責任を感じちゃってるみたいでさ」

 

「今は幕田の防衛が役目で、それはきっちりと果たしたと聞いているぞ。それに、京都の防衛に対する責任は無いんだがな。

 疎開も兼ねてこっちに来たとはいえ、今頃になって兄と甥を失うのは辛いか」

 

「戦争も随分前に終わっちゃってるしねー。

 というか、もっと力があればこっちに来た連中を早々に叩き潰して京都の応援に行けたのに、とか言ってるらしいよ?」

 

「……アレが眷属化を希望する可能性がある、という事か」

 

 後頭部が正常な代わりに、存在自体が人外になるのか?

 だが、摂家の連中にはよほどの理由がない限り眷属にしないと宣言しているし、幕田家からは1人も眷属にしていないから、信じられていないとも思えないが……

 

「別にぬらりひょん化に手を貸す必要もないし、変に手を出すのもおかしいから、方針はそのままでいいんじゃないかな。

 それよりも、元凶のメガロとウェスペルタティアが焦ってるのを何とかする方が先かなー」

 

 あの2国は……どうしたものか。

 

 メガロが動いた理由は、自分たちの思い通りにならない「地球の魔法組織」を武力制圧して、要するに魔法世界崩壊時の避難場所を少しでも確保するためだったらしい。

 ……私達が地球でのメガロの影響力を削っていたのも、原因の一端を担ったのだろうか。

 ともかく、メガロは逃げ場を得ようとしている。その為に、救援を出せるだろう幕田やイギリス等に陽動を、それらと関係の強い京都やイスタンブール等に救援が必要な程の攻撃を仕掛けてまで。

 戦争も辞さない連中の動きを止めるとなると、政治経済戦力の最低1分野、出来れば全てでメガロを上回る状態で話をする必要があるだろう。

 それが可能なのは恐らくヘラスだけで、話した後もメセンブリーナ連合という枠が残るかは知らんが。

 

 ウェスペルタティアは……あまり調査出来ていないのが問題か。

 アーウェルンクスが投入されているし、手口も原作の完全なる世界に近いから、間違いなく高二病が関わっている。

 だが、どうして国がここまで暴走したのかが想像でき……まさか、姫御子を失った事がそこまで大きなダメージになっているのか?

 とにかく国が、又は国王が暴走してしまっているのは事実だ。それを止めるとなると……

 

「……かなり高い確率で、メセンブリーナ連合と、ウェスペルタティア王国が崩壊するな。

 いや、メガロはまだ連合全体が暴走しているわけじゃないから、まだ何とかなるか……?」

 

「焦ってるのを何とかするってレベルじゃねーぞ?」

 

「仕方ないだろう、穏便に話して済むような心理状態じゃないお偉いさんを止める必要があるんだ。

 暴走する列車を止めるために手は尽くすが、機関車の破壊も選択肢に持つようなものか?」

 

「随分荒っぽいやり方だけど、突っ込んじゃいけないとこに突っ込むよりは平和、なのかなぁ」

 

「魔法世界の崩壊に突っ込んでいくよりは、国が無くなる方がマシだろう。

 原作でもウェスペルタティア王国は無くなっているわけだし」

 

「つまり、王国崩壊は既定路線だね、わかります。

 本当に、修正力って何なんだろうねー」

 

「さあな。それこそ、神のみぞ知る事なんだろう」

 

「何でも知ってるけど何にもしてくれない、宗教の神って嫌いなんだよねー。

 あと、そんな宗教を運営する人も」

 

「つまり、何故か神と呼ばれる事がある私も嫌いという事か」

 

「エヴァにゃんは、知ってることしか知らないけど色々してくれる神だし。

 それに、宗教としては運営されてないよ。眷属の人達を中心に、勝手に崇めてるだけだから」

 

「……中心に?」

 

「あれ、知らない?

 眷属の人達に助けられた人とか、組織の運営方針に共感した人とかも、実質的な信者になってるらしいよ。宗教団体じゃないから名簿とか無いし、教義やら戒律やらも無いからどんな風に信じられてるかも色々らしいけどねー」

 

「……それは知りたくなかった」

 

「魔法世界で割と多いのは、希望が見えない闇の中でも未来を見ようとする者に女神は微笑む……だったかな?」

 

「知りたくなかったっ!

 何だその中途半端に美化しつつ曖昧で煙に巻こうとしてる話は!?」

 

「しかも微笑まれた人は神の世界に連れていかれちゃうらしいよ?

 いやー、修正力ってやっかいだよねー」

 

 はっはっはじゃないっ!

 そもそもそれのどこが教義なんだ!



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紅き翼編第05話 スネークミッション

 大分裂戦争。

 そう呼ばれる大きな戦争が、小さな小競り合いで済むわけではなかったらしい。

 世界に喧嘩を売った、ウェスペルタティア王国。

 地球に逃げ場を求めながらも、魔法世界が存続した場合のために影響力を強めようとするメセンブリーナ連合。

 不要な魔力消費を止めさせたい上に、アリカを支援するという大義名分を持つヘラス帝国。

 最早原作知識が役に立つ状況ではなくなっているが、それぞれの思惑が、世界を大きな戦いへと向かわせている。

 

 私達にとってこの状況は、利用すべきものなのだろう。

 少なくとも高二病の心を折るには、最低でもこの状況で真正面から叩き潰すくらいの事をする必要がある。2600年モノの子供だから、それでも足りるか怪しいものだが。

 戦争の混乱で国の上層部もガードが甘くなるから、人を送り込むのも通常よりは簡単になるはずだ。メガロ傘下の都市くらいなら、実権の掌握すら可能だろう。

 何より、この戦争を終わらせる為の悪役が現れた事は、歓迎すべきとすら言える。

 

「理由はともかくとして、結局、王国は崩壊に向かうのか。

 アリカを女王に据えて存続させる事は可能だと思うか?」

 

「んー、いけるんじゃない?

 このままならウェスペルタティアの体制は崩れるし、メガロの上層部を黙らせるのも難しくなさそうだし、ヘラスは支援してくれてるし。

 一番難しいのは、国民と国土を引き継げる程度の被害で確保する事じゃないかなー」

 

 今は報告書の山にうんざりしながらも、処理した後の休憩時間。

 雪花はおやつの準備をしに行ったし、少しヴァンとだべる程度の余裕はある。

 

「体制が崩れるというか、近衛騎士すら国を出てアリカのところに来てるらしいじゃないか。

 既に崩壊し始めているし、高二病が何をしでかすかを考えると、猶予はもう無さそうだ」

 

「高二病のする事、かぁ。

 浮島崩壊、やっちゃうと思う?」

 

「既に複数のゲートを破壊済みだし、可能性は十分にあると思っておくべきだろう。

 さよが潜入してもそれらしい情報は見付けられなかったし、魔法世界内部にある魔力を消費するものを破壊して削減するのが主目的としか思えなかったと言っているが……」

 

「戦争だと無理してでも生産しちゃうから、逆効果だと思うけどねー。

 とある米帝さんの週刊護衛空母とか、誇張無しで作られるのを見たら笑うしかないしさー」

 

「あれは極端な例……でもないか。5年で2700隻ほどの貨物船も作っていたし。

 ただ、魔力を消費するものを減らすという目的自体を否定する気はないし、戦争での破壊で総量を見れば減る可能性もある。あるとは思うが……暴走し過ぎだろう。

 高二病の自己顕示欲と悲観主義を甘く見過ぎていたか」

 

「修正力の前に、原作キャラは無力……なのかな?」

 

「私やゼロはいいのか?」

 

「僕とかが力いっぱい介入してるし、原作キャラのままで抵抗したわけじゃないよ。

 アルが介入したアスナとかアリカとかナギとかは、だいぶ原作から外れてると思うし。

 ま、あの計画通りにいけば、それ以降は原作から完全に外れるはずだよねー」

 

「恐らくな。

 原作の年の夏が一番いい条件になる辺りには、作為的なものも感じるが……」

 

「1番大きい理由は、前世でも同じだったみたいだよ。ちょっとしたブームになってたって、アルの漫画で出てたし。

 前回はもう1個の方とタイミングが合わなかったし、合ってたとしても準備が間に合わなかったしさー」

 

 うーん、前世の事はもう、あまり細かくは覚えていないな。

 原作やらに関しては、たまに漫画で確認しているが……振り回されないために、これからはあまり読まない方がいいのか?

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 魔法世界の戦争は、激化の一途を辿っているように見える。

 しかも、レイの……いや、姫御子としてアリカの支援を表明したアスナのせいか、メセンブリーナ連合とヘラス帝国がガチ勝負をしているように見える。

 元凶とも言えるウェスペルタティア王国を、余力で殴りながら。

 

「アリカと会わせたのは、失敗だったか……?」

 

「けど、一応目標を共有しうる身内だからねー。

 本人達も会いたいって言ってたんだし、ナギ達が連れ去ったのはバレてるんだから、いつかはこうなったと思うよ。

 特別な場合以外は幕田で保護してるんだし、高二病の手出しはむしろ望むところと言うか?」

 

「相変わらず、あれは表に出てこないがな。

 さよがゲーム感覚で潜入アタックしているのはどうかと思うが……」

 

「気付かれそうな時点で撤退して、全部バレてないらしいってのがすごいよねー。

 逃走経路も複数見付けてあって、未だに1個も潰されてないって言ってたし」

 

「泳がされているのを警戒したくなるレベルなんだが、見付けてくる情報が明らかに機密で、かつ間違っていないからな……

 軍の暗号に関する本物の資料を、泳がせている相手に渡すほど間抜けとは思いたくないぞ」

 

「大日本帝国の海軍もびっくりなくらい、情報が筒抜けになったよねー。

 通信の基盤はあいかわらず昔提供した奴がベースだから傍受可能で、いくら通信を暗号化しても復元手順がバレてたら意味がないしさー」

 

「その辺は、確か前世のインターネットでも似たようなものだったはずだが……まあ、読むべき者に伝わらない情報に意味は無いから、そこを抑えてしまえばどうとでもなるという例だな。

 戦車でピザを配達するとかいう喩えも聞いた気がするが、どういう意味だったか……」

 

「んー、いくら堅牢にしても絶対はないとか、必要以上のコストがかかるとかかな?

 ま、今はそれより、お仕事お仕事。

 ヘラスはまだ大丈夫だけど、戦争が長引くと国力が落ちるよ?」

 

「メガロと高二病を止めろ、とでも言いたいのか?

 簡単に止まるくらいなら、こんな状態になっているわけがないだろう」

 

 一応は連合という形の組織である以上、最低でも代表の過半数を味方にする必要がある。

 都市によっては代表がころころ変わる事もあるし、代表を抱き込むくらいなら、市民を動かす方が現実的だ……が、その市民が扇動されてしまっている現状では、こちらの思うように動いてくれる可能性は低すぎる。

 

「止めるんじゃなくてさ、もうこうなったら、修正力に期待しちゃった方がいいかなって。

 一番やばいのは高二病だし、そっちに責任を取ってもらう方向でさー」

 

「……つまりあれか。ウェスペルタティアを連合軍で攻撃するという事だな。

 だが、アリカはヘラスの後ろ盾で動いている事や、アスナがアリカを支持した事は知れ渡っているぞ。

 この状況から、メセンブリーナを動かせるのか……?」

 

「連合全体は無理があるし、影響力やらを考えるとメガロだけでもいいんじゃないかな。

 ウェスペルタティアに煽られてるのって、割と中央から離れた地域が多いみたいだしさ。具体的には、紅き翼が暴れてた辺りだけど」

 

「ああ、そういう事か。

 その辺を切り捨てるなりができれば、メガロの老人共の権力欲を抑えるか、それを超える利益不利益が見えれば何とかなるわけだ」

 

「そういう事だね。

 メガロの財界を中心にヘラスと手を組んででもウェスペルタティアを抑えるべきだって意見を出してるし、権力欲の強い人にはアリカと姫御子を抑えられなかった以上は領土の確保で恩を売っておくべきだって吹き込んでるし。

 アルも孤児院関係から突き上げるよう働きかけてるから、全体としてはどうにかなりそうかなーって」

 

「御膳立ては順調という事だな。

 報告が来るとはいえ、相変わらず私抜きで話が進んでいる事を喜んでいいのか寂しがればいいのか……」

 

「寂しがると、アルが喜ぶんじゃないかなー?」

 

「……それは、全力で回避しておこう」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 とりあえず、これだけは言うべきか。

 高二病と修正力、自重しろ。

 

「原作よりも悪化してるから、ほんと自重してほしいよねー。

 新たなる世界とか言って、破滅思想に突っ走りだすのまでは予想してなかったし」

 

「結局、ゲートの残りは実質3つか。

 ヘラスとメガロの首都近く、それにオスティア。

 襲われてないオスティアはともかく、アーウェルンクスの襲撃に耐え切った2か所は賞賛すべきなのか?」

 

「メガロはそうだねー。

 ヘラスはあれだよ。予想情報を流してたし、姫御子の都合でアリカがゲートの近くに滞在してるからね。必然的に、紅き翼もそこにいるわけで」

 

「……原作英雄サマが揃っていたのか。

 ご愁傷さまと言った方がいいな、それは」

 

「おかげで、プリンとかプラムとかいう名前だっけ? 1番目の人が再起不能らしいねー。

 高二病に刺されたわけじゃないけど、ハイハイ修正力修正力、な状況かな?」

 

「どうして食べ物になる。プリームムじゃなかったか?

 既にどうでもよくなった名だが」

 

 潜入作戦だったせいか、アーウェルンクスが一人でゲートを破壊しに来たのが間違いだったのだろう。

 セクンドゥムが現れたメガロは、大きな被害を出しながらも撃退に成功してゲートを死守。

 プリームムはヘラスでナギ達と壮絶なバトルを繰り広げ、結果的に死亡……人形なら破壊と言うべきなのか? まあ、そういう状態になったらしい。

 デュナミスはウェスペルタティア王国の宮廷魔術師のような立場だからか、襲撃に直接の関与はしていない。

 

「強い手駒が無くなっても、大規模破壊魔法を発動しようと画策はしてるんだよねー。

 一応ゲートの数は減ったから、数か月あれば発動できるんだっけ?」

 

「私達の計算上では、そうだな。

 連中が隠し玉を持っているなら話が変わるが……さよも見付けていないようだし、大きく変わる事は無いだろう。

 それまでに何とかしないと、オスティアの浮島が落ちる結果になるが」

 

「大規模反転封印術式、だったよね。

 ウェスペルタティアの技術だけどアリカ側についた騎士団とかも扱えるし、ヘラスやメガロにも類似の技術はあるし。

 大規模破壊魔法に対抗しようとすると、普通はそれくらいしか手が無いのも確かなんだよねー」

 

「そこまで行ってしまったら、私が直接介入するが……それまでにどうにかできんものか」

 

 現状で動くとしても、元凶である高二病をどうにかするのが難しいのが問題だろう。

 人知れず処理してしまうならともかく、きちんとした司法の手続きに則ると国王がスケープゴートにされるのが明白すぎる。

 意図してそのような状態に持ち込んでいるのかもしれんが、表に出てこない黒幕を相手にするのは面倒だな。

 

「なんというブーメラン……そしてエヴァにゃんは次に『頭の中を読むな』と言うッ!」

 

「頭の……そんなに私は読まれやすいのか?」

 

「ああっ、そこは最後までのってほしかった!

 ま、長い付き合いだし、ある程度は想像できるよー。でも、基本面倒くさがりなのにいろいろ抱え込むよねー」

 

「自分の限度は弁えているつもりだぞ?

 自分の手だけではどうにもならない事を理解したから、眷属達の組織も作って(エヴァさまー、急ぎなんですけど召喚してくださーい)……さよ?」

 

「どうかした?」

 

「いや、さよが急ぎで召喚してくれと言ってきたんだが……場所は魔法世界だが、荒野だから潜入に失敗したわけじゃないんだな。

 一応ジャミングはかけておくか」

 

 それ以前に、厳密には召喚ではなく、単なる長距離転移魔法なんだが……まあ、細かい事か。

 ゲートを使うか私が転移させない限り、魔法世界と地球の間は移動できないわけだし。

 

「はふぅ。エヴァさまー、こんなの見付けましたー」

 

 で、さよの転移が終わったわけだが。

 持っているのは、どう見てもあれだな。

 

「これは、よくやったと褒めるべきか、とんでもない爆弾を持ち込むなと注意すべきか……

 ヴァン。どう思う?」

 

「んー、褒めればいいんじゃないかなー。

 これって、あれでしょ。グレートグランドマスターキーとかいう、長ったらしい名前のやつ」

 

「そんな感じの名前で言ってるのを聞きましたし、なんだか大事そうに隠していたので、サクッと持ってきちゃいました」

 

「いや、持ってきちゃいましたと言われてもな。

 とりあえず、これで高二病の動きは鈍る……のか?」

 

「大規模破壊魔法で使うつもりだったと思うし、鈍ると思うよ?

 それに、これを解析すれば色々とやれることも増えるんじゃないかなー」

 

「最終的にアスナ頼りになる可能性も高いぞ。

 それ以前にあいつは、レイとして静かに暮らす道をどうしたいんだろうな。あまり表に出すぎると、誤魔化し切れなくなるが」

 

「アリカが頑張ってるし、知らない振りはできないんじゃないかな。

 現状では身内の権力争いになっちゃってるわけだしさー」

 

「望む望まないに関わらず、関係者だからか。

 難儀なことだ」

 

「でも、エヴァさまは魔法世界の関係者でもないのに、首を突っ込んでますよね?」

 

「潜入を楽しんでいるさよだって、似たようなものだろうに」




週刊護衛空母:カサブランカ級航空母艦
5年で2700隻:リバティ船
詳しくはWeb(Wikipedia等)で。
月刊正規空母(エセックス級)は若干の誇張あり(就役は1943/11/24~1946/05/11の約30か月間で22隻。1942/12/31の1番艦と1950/09/25の最終は除外)ですし、Wikipediaに記載が無いので、会話ネタとしては没となりました。
けど、当時のアメリカ様の生産力ぱねぇ。これ(以外も色々)を同時に作ってたんだぜ……?


2016/08/02 例え→喩え に修正


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紅き翼編第06話 身代わり

 原因に心当たりがある。

 経緯も理解している。

 それでも、あえて言いたい。

 

「どうして、こうなったっ!」

 

「いやぁ、予想できる範囲ではあると思うよ?」

 

 ウェスペルタティア王国はアリカが女王として国家を掌握。既に元国王となった父親を幽閉し、ずたずたになった外交や国内の立て直しに奔走している。

 その直前に発動しそうになった大規模破壊魔法は、アスナwithグレートグランドマスターキーがあっさりと無効化。この時に無理をしたアスナは昏睡状態となり治療中……という筋書きで、レイとしての生活に戻ってきた。ある程度様子を見てから、死亡とする(完全にレイとなる)か、アスナに戻るかを決めるらしい。

 ずっとアリカの護衛をしていた紅き翼は解散し、基本的にそれぞれの故郷へと戻っている。ナギとゼクトはアリカの護衛を続けているし、ガトウ等の協力者はそれぞれの活動を続けているが。

 ヘラス帝国は継続してアリカを支援している。その関係の動きもこちらで把握できるし、特に問題となるような行動はしていない。

 メセンブリーナ連合は、ウェスペルタティア王国での利権確保に失敗した。足並みが揃っていなかった事や逃げ腰だった事が原因だから、自業自得だろう。今も王国(ウェスペルタティア)帝国(ヘラス)にちょっかいをかけて、余計に信用を落としているようだし。

 

 そして、一番の問題である高二病だが。

 逃げた。

 メセンブリーナ連合とヘラス帝国で戦争発生以降に作られた軍艦や兵器の総量を示す資料を渡して、余計なことをしたと懇切丁寧に説明しただけ(但しアルの主張が正しければ)なのだが。

 

「いやはや、少々いじめすぎたでしょうか。

 当面の障害は排除できたと思いますが」

 

「このままだと原作と同じく20年後に余計な事をしそうだが、それはどうなんだ?」

 

「可能性はそこそこありますが、今回である程度は思い知ったはずです。

 それに、次はエヴァちゃんも遠慮しないでしょう? それに気付けるだけの警戒心はあると思いますよ。今回が無様すぎた上に、高二病のネガティブ思考が後押ししてくれる事も期待できますからね」

 

「高二病とデュナミスは逃げたけど、ある程度大きな動きをしようとすればエヴァにゃんの情報網に捕まると思うし、特に問題ないと思うよ。

 当面は原作と同じく死んだふりなのかなー?」

 

「すぐに表立って動くほど、愚かではないでしょう。

 当面は力を蓄えるとか、そういう方向に進む可能性が高いと思いますよ」

 

 力を蓄える……要するに、戦力やらの準備をするという事か。

 それはつまり。

 

「気が付いたらアーウェルンクスがうじゃうじゃ現れる、という事だな?」

 

「それは否定できませんね。それだけの材料を入手できれば、という条件は付きますが。

 魔法素材の生成は大変ですし、造物主の力を使って手軽にやろうとすると魔法世界から出せなくなります。ゼロちゃんの体を作った時の苦労を考えれば、少なくとも地球で活動できるタイプが大量に現れる可能性はとても低いでしょう。

 魔法世界限定であればアーウェルンクスである必要も無いですから、101体人形大行進的な光景は見なくて済むのではないでしょうか。最後の鍵をこちらで確保している以上、造物主の力を手軽に行使する事は難しいはずですし」

 

「つまりなんだ。造物主自身が鍵に依存しているのか?」

 

「正確には、リミッターを兼ねた触媒になってるみたいだよ。

 若き日の過ち、厨二病の名残じゃないかなー」

 

「一応弁護しておきますが、本当の初期の頃に自身の力を扱いきれない時期があり、その対策としてこのような形にしたようですよ。

 決して、明確な弱点がある俺が可哀想アピールのためではなかったのですよ」

 

「それなのに、力の源泉に気付けなかったのか……

 あと、弁護なら最後を過去形にするのはやめた方がいいぞ?」

 

「一応ですから、いいのですよ。

 補足しておくと、当時は自分の力を大きく伸ばす術式の研究をしていたようで、その暴走の副作用でこうなったと思っているみたいですよ。

 自分の中で納得できる理由に心当たりがあったことが、勘違いの原因でしょう」

 

「やれやれ、探求に思い込みは禁物なんだがな」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 そんなこんなで、5年程が経過した。

 

 高二病は北の方へ逃げ、そのまま龍山山脈の辺りに引きこもっている。

 そこでアーウェルンクスを作ろうとしているようだが、少なくとも量産するだけの余裕は無いらしい。機材類はどうにかなっても、現実世界でも問題のない材料の確保に難儀しているようだ。

 

 アスナは未だに昏睡中という事になっている。

 今まで王家の身勝手で縛られていた分も幸せになってくれと、アリカも言っているのだが……アスナ自身が自分の血の価値を理解しているし、アリカに協力したい気持ちも割と強いようだ。グレートグランドマスターキーとの相性は、アリカよりもかなり上だと確認できているし。

 そのため、普段はレイとして生活しているものの、完全にレイになる決断が出来ないまま今に至っている。

 年齢の固定の解除は時間がかかる方法しかないから、すぐに普通の女の子になることはできないのも理由のようだ。これは、アスナ以外の誰かがアスナ並みにグレートグランドマスターキーを使えたら簡単だったのだが、現存する王族……墓守まで含めた血族全員が、そのレベルには達しないようだ。高二病が協力すると思えないしな。

 

 関西の近衛家に木乃江が養子で入り、魔法世界から戻った青山詠春が婿入りしたのは、修正力という名の予定調和か。

 木乃江が詠春を選んだ理由としては、今後を見据えた魔法世界各国(というか、ヘラスやウェスペルタティア)とのパイプの強さを評価した、という事になっている。

 実際は、堅物で浮気の心配が無さそうだからだというのは……まあ、夫婦の事だし、それはそれでありなのだろう。

 

 ヘラス帝国とメセンブリーナ連合、アリアドネー等は、概ね落ち着きを取り戻している。

 噂にあった生活環境の崩壊を防ぐために全力で取り組み、その為にも魔道具の効率化や、必要以上には魔道具に頼らない生活を模索する必要性を世界的に広めている。

 結果的にだが、魔法世界の崩壊に関して多少なりと情報を広め、大国が協力する体制を作れたことが、高二病の最大の功績だと言えるだろう。本人としては不本意だろうが。

 ついでにメガロによる地球襲撃は、地球側組織の大量離反を招いたため一応は終息し、関係回復に駆け回る羽目になったらしい。優良な組織は私達の組織が受け入れていたから、搾りかすのような連中としかよりを戻せなかったようだが。ついでに、新しい火種を撒いてもいるようだ。

 

 高二病が去ったウェスペルタティア王国だが、旧国王派もしつこく残っている上に元国王が災厄の王と呼ばれていることへの感情的な反発もあってか、アリカやナギ(アリカによる相棒等々の発言のせいで国民にも王配最有力候補と認識されている)達は相変わらず気を抜けない生活を続けているようだ。

 国としても疲弊からの復興に手間取っていて、奴隷法が作られるほどではないものの裕福とはとても言えない、苦しい運営が続いている。ヘラス帝国の支援を受ける身ではあるが、ヘラスが領土やらの野心を見せておらず、国民が現状を受け入れている事が救いだと……

 

「……どうして、その様な話を女王の護衛から直接聞く羽目になっているんだろうな」

 

「いや、色々助けられてるってのは事実なんだけどよ。

 寝る時に天井裏に潜まれて寝顔やらを覗かれてるみてーだし、ちょっとひでーと思わねーか?」

 

「違わないけど違いマース!

 あれは護衛として必要なんデース!!」

 

 そして、ナギに首根っこを捕まれている少女が騒いでいる。……何故か登校地獄、それもデバイスによる補正があってもバグったものをかけられた状態で。

 一応情報も照合して身元の確認が取れているコイツは、以前はナギの追跡を、今はウェスペルタティア王国の王室近辺の調査を担当している、イギリス出身でダイアナ・ヴィッカーという名の眷属だ。

 軽く確認した限りでは、呪いは20年ほど継続する可能性がある。麻帆良にある学校に通うという縛りのようだから中学生を繰り返す必要はないが、外見が高校生くらいのこいつだと……高校と大学の7年では全く足りんな。中学と大学院を足して……いや、大学院よりも専門学校やらを渡り歩く方がマシか。

 

「必要と言いながら、違わないと自白している辺りはどうなんだろうな。

 どっちの主張が正しくても、呪いは成立してしまっているんだが……さて、どうしたものか。どこぞの国のように、呪いをかけられた事について謝罪と補償を要求すればいいのか?」

 

「その前に、呪いの解除を要求しマース!」

 

「あー、解除はちょっと無理だ。俺にも簡単には解けねー感じになっちまったし」

 

「かなり頑張っても、期間を多少縮める程度しかできんだろう。

 短縮される時間より、そのために必要な拘束時間の方が長くなる可能性も高いな」

 

 15年後に中学生という条件は満たせないが、吸血鬼相当の存在を学生として麻帆良に縛り付ける事には成功しているようだし、タイミングも原作と同じと言っていいだろう。

 修正力は、そこまでして原作エヴァの身代わりを作りたかったのか?

 

「そ、そんなぁ……ひどいデース」

 

「問答無用でかけちまったのは、まあ、悪いと思うけどよ。

 一応、何度か警告はしたぜ?」

 

「警告は、どんな内容だ?」

 

「えーと、確か、露出趣味は無いとか、寝室を無暗に覗くなとか、ピーピング・トムは死刑になったんだぞ、とかだったはずだぜ。

 さすがに即刻死刑はまずいと思って、手頃な呪いを探したんだが……」

 

「なぜかこうなった、と。

 古い価値観の国の王族の機嫌を損ねた時点で色々アウトなのは確定的として扱うが、念のため確認しておくぞ。現時点でのお前自身は王配候補であって、王族になっているわけではないな?」

 

「あー、いや……俺がってのもあるんだけどよ、アリカが怒っちまってて……」

 

「ゴダイヴァ夫人はアリカの方か? いや、ナギが夫人役で、見るなと命じる領主役がアリカか。

 要するに独占欲なんだろうが、アリカの感知力を称えるべきか、リア充爆発しろと言うべきか迷うところだが……ダイアナにこれだけ言っておくか。

 馬に蹴られて死ななかっただけ良かったな」

 

「うわぁぁぁぁん!」

 

 いや、王族の恋路を邪魔して、まだ生きているだけ平和だと思うが。

 その自覚は……無いな、これは。

 

 その後はまず、ダイアナの処遇の話し合いだ。

 ダイアナに関しては麻帆良で学生になることは確定しているが、ダイアナを送り込んだ責任を取るという形で全ての費用や手続きを私達が請け負う事になった。正確に言えば費用は平謝りしていたマシューの管轄だが、責任の所在と補償の執行について明確にし、これ以上問題を長引かせないようけりをつけるためでもある。

 ウェスペルタティア王国は地球との関係が弱いし、ナギ自身も魔法世界での生活が長いため、連中では費用を出せなかったというのは、裏話として心に止めておけばいい。

 

 その後は、他に軽く近況やら今後やらについて話をした程度だ。

 対策やらが間に合うのかという悲観的懐疑派や、そもそも魔力枯渇の問題は本当なのかという根本的懐疑派がどこの国にもいて、その一部が過激な行動を取っているとか。とりあえず、今でもアリカ達を狙っているのは旧国王派で悲観的懐疑派の過激派らしい。

 不安の払拭に、いくつかの商会やらが積極的に動いているらしいとか。これは間違いなく、眷属達が関わっている商会のことだろう。

 生活に必要な魔力の軽減については、技術開発は進みつつあっても、その普及に時間がかかるのは確実だとか。元々頻繁に買い替える物ではないし、人や自然の魔力を使う以上は買い替えることでコストが下がるわけでもないため、置換がゆっくりになる事は想定済みだ。

 国として色々と苦しいのは元国王がしでかした事を考えると仕方がないと割り切り、未来に目を向けて手を尽くしているのは報告書で来ていたものと同じ内容か。ヘラスを超える規模で援助してしまうと問題が出てしまうし、商会やらを通して支援をしているから、これは現状維持でいいだろう。安く販売する照明器具なんかを人の魔力で動作するタイプを中心にすることくらいは許容してもらうが。

 アリカとの関係については……まあ、素で惚気るんじゃない末永く爆発しろ、としか言えん。

 

 前回とは違って比較的和やかな井戸端会議が終わり、ナギが帰ろうとした時。

 それまでおとなしくしていたダイアナが、涙目になった。

 

「ナギぃ……」

 

「ふむ……この様子は、あれか。

 いわゆる恋する乙女というものか?」

 

「知らねーよ。そういうのは、男の俺より同性のエヴァの方が詳しいんじゃねーのか?」

 

「人をやめて久しい私に、その様な感情を求められてもな。

 とりあえず、ダイアナに言っておくべきは……やはりこれか。

 地球では、ストーカー行為は犯罪として扱われつつあるぞ」

 

 確か、アメリカのどこかでストーカー防止に関する法が議論されていたはずだ。

 日本ではまだまだだが……幕田単独になってでも法整備を始めるべきか?

 

「そんなぁ……会うのもダメなのデスカ?」

 

「近付くために少々やりすぎた、という事だ。

 ここに居る間は頭を冷やす期間だとでも思っておけ」

 

 変にこじれる可能性もあるが、どうせ気軽には麻帆良から出られないし、王配候補にストーカー女を近付ける事自体も問題になるから、こうするしかないだろう。

 マシューも頭を抱えていたし、元々はここまで執着する性格ではなかったという話だし……本当に、どうしてこうなったんだろうな。




ダイアナの外見的なイメージキャラは、語尾や設定等から予想できるあの人デース。
……プロット作成時点(艦これに興味を持つ前)では、もっと普通の女の子だったはずなのになぁ。そのせいで発言内容がなよなよしてますね。


ストーカー防止法は、カリフォルニアで1990年に作られたのが最初らしいです。
ネギま(2003年)の15年前だと、微妙に間に合ってないんですよねー。
つまり、当時の地球の法において、1か月(?)付きまとった原作エヴァも法的にはストーカーとして扱われません(他の法に引っかからないとは言っていない)。


なお、現在仕事が少々忙しいため、次々話以降は不定期になる可能性があります。次話はたぶん大丈夫(できているとは言っていない)ですが、その先のストックが全くありません。
投稿する気はあるので、2週間毎に投稿されなくても気長にお待ちください。
艦これのイベントのせいじゃないですよ。レベル順の1ページ目に榛名改二(嫁)と榛名改と羽黒改二と羽黒改(レベル90以上)がいるのに2ページ目でレベル80を切り、イタリアンやアメリカンが1人もおらず、なぜか明石がレベル70あり、資源は常時2万前後(3万を超えたら奇跡レベル)のうちの艦隊にとって、イベントは色々荷が重いですしー。効率的な攻略? ナニソレオイシイノ?
ちなみに、会社に1日の半分(12時間)近くいる羽目になっているせいです。これでお金になるならまだいいんだけどなぁ……


2016/08/16 以下を修正
 火種を巻いて→火種を撒いて
 話しをした→話をした


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原作の足音編第01話 産まれる生徒達

「ハーイ、エヴァ様ー。

 今日もおっはようございマース!」

 

 あれから、1年近く経過した。

 今後の生活について雪花達と話し合いをしたダイアナだが、学生として生活するのと同時に、何故かメイド修行もする事になったそうだ。ウェスペルタティア王国でメイドになれば近くに行けると考えたらしい。

 というわけで、朝から暑苦しい……じゃない、元気な声が、私の住む屋敷に響いている。

 過剰な明るさを何とかしなければ、王族のメイドにはなれんと思うのだが。そこはどう考えているのだろうな。

 

「ムードメーカーとしては、良いのではないでしょうか。

 本場英国式と言いながらリズさんに師事する事を決め、今も続いています。とても厳しい指導ですから、熱意と根性は十分と認めてよいのでは、と」

 

「呪いは推定20年だし、その頃にはナギもいい年なんだがな……

 それまで気持ちが変わらなければ、寿命の長いダイアナが色々思い悩み、ナギが若く見える女に鼻の下を伸ばして、アリカが怒る事になるのか」

 

「アリカは王族ですし、理解はあるのでは?」

 

「ナギ自身が王家の血を引く国王であれば、な。実際は平民出身の王配でしかない以上、ナギがアリカ以外の相手と子を作ってはいけない理由はあるが、作る理由がない。それを考えると、ナギが相手にしない可能性の方が大きいか? 阿呆だが責任感はあるようだし。

 それにしても、どうして屋敷を建て替えるたびに移動が長くなるんだ。食堂から執務室までが遠くて面倒なんだが」

 

「メイド達がエヴァ様と挨拶できる場所を少しでも確保するためです。

 当番がなかなか回ってきませんから、何らかの形で会える機会を作らなければ不満がたまってしまいます」

 

「私にそこまでの人望があるとは思えないんだがな」

 

「相変わらず、自覚が足りないようですね」

 

「私がやっていることは、他人に押し付けられた力を使い、私が望むように世界を動かす準備でしかない。

 目的はある程度公開して協力を求めたりもしているが、手段のほとんどは秘匿したまま、それも大きな混乱を伴うものが含まれている。

 誠実さという点で、これ以上の裏切りは無いんだがな」

 

「それこそ、人徳の賜物です。

 隠している事は予想されていても、まだ公表すべきではない内容だからだと思われる。

 情報を広めずとも、最小限の指示で必要な準備を整えられると考えられる。

 魔法世界の未来に関わる事態でも、これほどの信頼を寄せられているのですよ」

 

「あー……悪かったからそれ以上言わないでくれ。

 誰か違う人物の評価を不当に得たような感じで、むず痒すぎる」

 

 そんな感じで話しながら執務室に着くと、先ずは昨日の夕方以降に届いた報告書などの確認をして。

 

「ウェスペルタティア王国が、将来的に民主制に移行することを表明、か。

 モデルは……ナギがいるし、イギリス王室あたりか」

 

「アリカとナギからは、魔法世界の問題への協力は可能な限り行い、解決後ある程度落ち着いたら王家を廃止したいという話も来ています。

 現状は最初期の、段階的に権力を移していくための準備を始める事を表明したという段階です」

 

「先王の暴挙に対する不満に民主化で答えつつ、魔法世界崩壊に対処する時間は民主化手続きの調整で稼ぐ腹積もりか……?

 というか、魔法世界の連中が、真っ当な民主化に馴染むのかという問題があるぞ」

 

「裏話的には、王家と同時に貴族の権力も削り、王室と議会が協力する形にするのが現実的ではないかという案も出ています。

 いずれにせよ、王家の権力を現状よりは削りたいようです」

 

「それでうまくいくならいいが……あれだな。

 ウェスペルタティア王国という国が消える可能性が、こんな形で出てくるとは思わなかった」

 

 そんな感じで処理を進め。

 次に、各所から届く依頼等を見ていく。

 

「……魔界からの依頼?」

 

「はい、昨夜届いたものです。

 魔族と人の混血児が生まれたが、人間の母が出産時に死亡したため地球に居場所が無く、体質的に魔界に長時間いる事が出来ないため、こちらに預けられないかというものだったかと」

 

「混血児自体は少ないものの、いないわけではないはずだが……そういうパターンもあるのか。

 これについては、裏が無いか確認を始めたところか?」

 

「受ける可能性があれば、調査を開始しようと考えています。

 タイミングと状況を考えると、かなり微妙な立場になりかねませんし」

 

「魔法公開の頃に……いや、もうじき生まれる木乃江の子と同じ学年になるのか。

 つまりあれか。依頼を受ければマナ・アルカナをゲットだぜ、というオチなんだな」

 

「ああ、あの情報の人物である可能性ですか。

 タイミングを考えると、かなり高い確率でそうなのでしょう。孤児院の運営に龍宮神社も関わっていますし」

 

「海の神の系譜のくせに、なぜかこんな内陸に作ったあれか。

 一応、裏が無いかの調査はしてくれ。問題が無ければ受け入れよう」

 

 それにしても、原作の関係者というか、3-Aの生徒が生まれる時期になっただけでこれか。

 これから、どれくらい騒がしくなっていくのだろうな。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 京都の近衛家で、木乃香が産まれた。

 その際に木乃江が体調を崩したが、治療が間に合い、命に別状は無いそうだ。幕田大公家に所縁がある近衛家という表の顔が生きているせいなのか、占星術で良くない兆候が見えたから注意しろと伝えたせいなのか……理由は色々考えられるが、見知った顔を早々に失う事は避けられた。

 ヴァンの話だと、雪広家や那波家(関係のある大企業を支配する家)や、明石家(大学で教師をやっている魔法関係者)にも娘(要するにあやか、千鶴、祐奈)が生まれているらしい。

 後は、少なくとも名前は間違いないと確認できて、かつ当人が直接関係する問題は無いとされたマナ・アルカナが孤児院に入れば、しばらくは3-Aの生徒達の情報が来ることは無いだろう。

 ……と、思っていたのだが。

 

「どうして、ここにこんな、承認待ちの履歴書があるんだろうな?」

 

「さあ? 僕だって予想してなかったよ。

 けどまあ、既存の交渉ルートを使って依頼されたものだって報告書も一緒に来てるし、裏的には正式なもので間違いないんだよね。

 表も裏も、名目もはっきりしてる上に大事な内容だから、拒否はしづらいかなー」

 

「そうなんだが……まさか、この時点で接触する可能性が出てくるとは思わなかった。この書類だと姉妹のどっちなのかまでは分からんから、またポヨポヨ言っている方なのかもしれんが」

 

 作成された履歴書の表向きの使用目的は、孤児院に就職するため。

 裏の目的は、半魔族のマナ・アルカナに力の制御方法を教えると共に、予想される暴走などのトラブルに対処する事。

 そして、魔界の大使として、私達の計画に協力する事。

 申請者の名前は……ザジ・レイニーデイ。

 

「魔界との交流は細々とだけど今も続いてるし、姉の方なら原作で力ある者の責務とか言ってたわけだし、妹の方なら修正力もあるから結局来ることになるんだろうし。

 どっちにしても相手は姫で、きちんと筋を通して来てるんだから、堂々と協力すればいいんじゃないかなー?」

 

「それもそうだな。名目やタイミングを考えると裏を気にしても仕方がないだろうし、魔界との連携を強化するにはいい切っ掛けか。

 混乱を防止する事以上を求める気は無いと伝えてあるが、この様子だとそれ以上の手助けが期待できるか?」

 

「混乱防止も、まじめにやると大変だよ?

 実力のある魔族なら大抵は人の姿になれるし大丈夫だと思うけど、勝手に動こうとする下っ端を抑えるのは大変だしさー」

 

「その辺はまあ、上に立つ連中の力に期待……いや、協力すれば抑えられる事もあるか。

 ところで、だ。他に情報が出てきそうな関係者はいないな?」

 

 こいつの事だから、甲賀繋がりで忍者とかも把握していそうな気がするが……

 

「言いたい事は予想できるけどさ。全部を把握してるわけじゃないよ?

 望月の直系なら別だけど、関係者全員の出生が報告されてくるわけじゃないしさー。

 その意味では、雪広とか那波は関係企業のトップだし、明石は父親が直接の関係者だから特殊なケースなんだよ」

 

「あー、うん。相変わらず思考ダダ漏れ具合が怖いが、刹那はどうなんだ?

 あれこそ割と目立つ上に、雪花や白雲の関係で話が来そうなものだが」

 

「話は来てないよ? 誤解されるのも嫌だし、そもそも京都を変に探る事自体がまずいから、何もしてないけどね。

 呪術協会としては把握してないとか、まだ赤子だから乳離れを待ってるとか、木乃香の友達として利用しようと思ってるとか、そんな感じじゃないかなー」

 

「詠春や木乃江はそういう事を考えなさそうだが……組織としてはありがちな思考か。

 いるならそのうち話が来るだろうし、当面は気にせずに置けばいいな」

 

「そうだねー」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 そんな話をしてから、数年が経過した。

 世界が目まぐるしく動くのは前世の記録(漫画頼りなので記憶とはとても言えない)からも明らかであり、事実、表面上は大きな差は無いように思う。

 魔法世界の雰囲気だが、良いとは言い難い。

 国の上層部から、かなり真剣な環境に関する警告が発せられるようになっているのが主な原因なのだろう。魔法世界の崩壊という終わりが見える分、地球の環境問題よりも切実で現実的な問題として上層部が扱い、決して少なくない人員が調査等に関わっている事も、口コミレベルで情報に真実味を持たせているようだ。

 それに伴い、メガロの阿呆共が再び地球に手を出してきているらしいが……今のところは権力者の一部が先走っているだけのようで散発的だし、以前ほどの規模ではないのが救いか。

 

 高二病は、相変わらず引きこもっている。

 どうやらアーウェルンクス1体の製造に成功してフェイトと名付けたようだが、その後の動きは鈍いとしか言えない。

 高二病自身が目標意識を喪失しているせいか、フェイトにも特別な目的を設定せず、好きに放浪させているらしい。

 ある意味では原作同様だが……ならばなぜ作ったと言いたくなるのは、私だけだろうか。

 

 もちろん、めでたい話──無理にめでたい話として盛り上げているものも含め──も、あると言えばある。

 例えば上層部だけに知られた話だが、自然エネルギーを使用する発電設備の稼働や地道な魔道具の置き換え、魔力を生成しやすい樹木の植樹等により、魔法世界崩壊までの期間が多少伸びた(正確には戦争で縮んだ分を取り戻した)事だったり。

 例えば、ヘラス帝国とメセンブリーナ連合間で、完全な停戦が宣言されたり。さすがにこの期に及んで喧嘩している場合ではないと気付いたらしい。

 例えば、アスナの意識が戻ったと発表されたり。但し、体調は万全にほど遠く、長い静養が必要とされている。実際はレイとして普通に生活しているが、それを知るのはごく少数だ。

 例えば、アリカとナギの婚姻だったりする。

 

「それはいいんだが、子はナギの出身地、ウェールズの魔法使いの村で一般人として育てる、か。

 王政の廃止に向けた動きなのだろうし、まだ子が生まれるという段階ではないらしいが、これも修正力のせいなのか?」

 

「たぶんねー。

 となると、やっぱりメガロが襲撃してきたりするのかなー?」

 

 魔法世界から来た通知……というか、ウェスペルタティア王国の公式発表の全文を記載した資料を見ながらの、ヴァンと雑談中。

 婚姻と同時に制度の変更もあるようだが、どれも最終的には王家を無くす為と思える内容だ。

 

「廃止に向けた動きをしている王家を攻撃する意味が、どの程度あるかだが……微妙じゃないか?

 放置しても勝手にいなくなる予定の権力者だぞ」

 

「普通ならそうだけどさ。メガロって変なところで粘着質だし、意味不明な動きもマッチポンプも大好きだしさー。

 権益確保に失敗した腹いせとか、やりそうじゃない?」

 

「……あり得ないとは言えない辺り、私達も連中を信用していないな。

 アリカもナギも支持されているし、王家は存続してほしいと説得されているらしいから、実現するかを危ぶむべきかもしれんが。

 アリカ達の思惑通りに実現しても警備と監視に人を出す程度、それ以上の干渉はまずいだろう」

 

「確かに、エヴァにゃんが直接出向くわけにもいかないよねー。

 というわけで、薬味と呼ばれる主人公は置いといて」

 

「それでいいのか?」

 

「いいの、たぶん。それより重要な話がいくつかあるしさ。

 置いといて話を変えるけど、京都から打診が来たよ。これが書類ね」

 

「京都から、数年後より2名の留学を希望……2名?

 近衛木乃香と……えーと……」

 

 桜咲雪凪……ゆきな? せつな?

 

「あ、それ、読みはセツナだからね」

 

「……本人で間違いないのか?」

 

「烏族ハーフでアルビノ。

 これで別人ならびっくりだよねー」

 

「名前が違う……いや、読みは同じなんだが、漢字が違うのはあれか。

 雪花の影響なのか?」

 

「たぶんねー。

 木乃江ちゃんに今まで話が無かったのはどうしてか聞いてみたら、ハーフって事を気にする人に止められてたって答えが返ってきたよ。

 最終的には、魔族ハーフのマナちゃんも受け入れてるんだから問題ない、むしろ京都で差別的な扱いをされるよりも普通に暮らせるのは間違いない、って押し切ったらしいけどね。

 組織って面倒だよねー」

 

「それはまあ、確かにそうなんだが……組織という話なら、木乃香がこっちに来るのはあれか。

 もうすぐ弟が生まれるから、家督争いを避けるためなのか?」

 

「それも愚痴られたよ。

 前提としては、まだ生まれてないから弟の素質は不明だけど、魔力量で木乃香ちゃんを超える事は無いだろうって予想があってさ。

 んで、木乃江ちゃんが女性の養子で家督を継承したもんだから、長子派と長男派に分裂待ったなしで一触即発的な?

 だから、間違いなく素質のある木乃香ちゃんをこっちの計画に参加させて、魔法公開後のアイドル的広告塔にするんだとか言ってるみたいだよー」

 

「……木乃江が、か?」

 

「アイドルとかは冗談っぽいけど、こっちで魔法を含む教育をするのは確定路線みたいだね。

 家柄的に言って否応なしに巻き込まれるのは避けようがないし。それならいっそ、古風な大和撫子風陰陽師を目指した方が、これからの時代はウケがいいんじゃないか、だってさ。

 しかもほら、幕田って本物の古典を知ってる教師陣がいるわけで」

 

「アイドル化に関してはどうかと思わなくもないが、組織や家を維持する為にはこっちで教育する方が色々と都合がいいのか……

 時期は小学校に入る頃からで、護衛や指導補佐等の為の人員も併せて派遣したい、と。

 内定している主要なメンバーは土御門雫、青山鶴子、天ヶ崎草月、天ヶ崎千春、天ヶ崎千草。その他表向きのボディーガードを複数……これは何の冗談だ」

 

 土御門は有宣の系譜だろうからまだわかるが、青山鶴子はラブひなで神鳴流歴代最強とか言われていた人物で、天ヶ崎千草に至っては原作の敵役……いや、前の2人が両親なら殺された恨み云々が無いからいいのか。

 鶴子が来るのは雪花が喜びそうだし、きちんとした護衛を付けるのも正しいんだが、このメンバーで大丈夫なのか……?

 

「大丈夫だよ、きっと。別に敵対しようとしてるわけでもないし、こっちに恨みがある状態でもないんだし、原作せっちゃんのなんちゃって護衛よりも確実に強力な布陣だしさ。

 それで、一番びっくりしそうな話なんだけど……」

 

 ……これ以上の爆弾があるのか?

 妙に楽しんでいそうな表情を見る限り、致命的な話ではないようだが……

 

「……なんと。

 近右衛門が、ぬらりひょん化しましたっ!」

 

「は?」

 

「昨日久しぶりに会ったら、後頭部がみょーん、って。

 ものすごく、みょーん、って」

 

「……ちょ、ちょっと待てっ!

 あいつは普通の人間だったはずだぞ、どうしてそうなった!?」

 

「経緯は一応聞いてるけど……冷静に聞いてよ。

 だいぶ前にさ、某国の人体実験の情報が流れてきた事があったでしょ? あれがやっぱりほかのルートでも流れててさ。

 んで、相変わらずきな臭いメガロとか、京都の身内を守れなかった後悔とか、摂家関係者の眷属化を避けるエヴァにゃんの方針とかが合わさって、それに手を出しちゃったらしいんだよねー」

 

「だからと言って、地雷原に全力で駆け込むとは……生きているのが奇跡なんじゃないか?」

 

 だいぶ前の話だからはっきりとは覚えていないが、確か簡易的な闇の魔法的な技法だったはずだ。

 魔力が増える代わりに、肉体に色々と影響が……ああ、だから頭が。

 

「本人もそれを認めてて、無茶したわいふぉっふぉっふぉっ、とか言ってたよ。

 もう孫がいる爺さんが突然の強化なんて誰得だ、って話だよね。推定魔力量で言えば、ナギと同等以上っぽくなってるしさー」

 

「それは……リスクを伴う強化としては、かなり恵まれた結果ではあるのだろうが……」

 

「なんというか、修正力ってここまでやるんだって思い知らされた感じ?

 あんな前から伏線を張ってくるとは思わなかったなー」

 

「いや、あれを伏線と言われてもな……」




原作3-Aの生徒達を、じわじわ捕捉なう。
というわけで、新編に入りました。既に紅き翼は解散済みだけど、原作(2003年)には早いという微妙な時期なので、名前に困りましたが。
あ、話数が2桁なのは、1桁のまま終わった紅き翼編が寂しくないようにです。今回も1桁で終わる……はず。きっと。


フェイト・アーウェルンクスが起動した年(1991年)の年末に、ソビエト連邦が崩壊しています。でもロシア方面担当の美少女(始動編05話参照)の出番は作れませんでした。資源やらはとっくに押さえてるでしょうし……
その他、海上自衛隊がペルシャ湾に派遣されたり、「ラブ・ストーリーは突然に(小田和正)」が発売されたり、SMAPがCDデビューしたりしています。この前年にスーパーファミコンが発売になっていますね。
これらの単語にどう反応するかで、オッサンかどうかが決まる……?


近右衛門のぬらりひょん化は、あんな前=始動編第14話の伏線回収デス。
まあ、あからさまに怪しい話でしたからねー。覚えてるかどうかはともかく、予想してた人は多いんじゃないかと。


なお、一時期よりは若干マシになった気がしなくもない程度で、相変わらず会社にいる時間は長いです。次話の進捗は50%くらい?
後半に難所があるのですが、間に合うといいなぁ。


2016/08/26
 この場に及んで→この期に及んで に修正
 作品とは無関係の後書を削除
2017/05/15 思考ダダ漏れ具体→思考ダダ漏れ具合 に修正
2020/01/29 ―(横線)→ー(長音符) に修正


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原作の足音編第02話 産まれる先生

 アリカが、妊娠した。

 ナギと結婚しているのだし、国民から望まれた王子(男の子だと判明済み)だし、普通に考えれば何の問題もないし、表向きとしてはめでたい出来事なのだが。

 地球の裏に関わる者としては、色々と面倒というか、厄介な問題に悩まされるわけで。

 

「ウェールズの村にナギと子供と護衛達が住む、か。

 そっちに話を持って行ったとなると、アリカの王制廃止は本気なんだな」

 

「はい、その点は使者からだけでなく、いくつものルートで確認しております。

 いずれ元と付くのでしょうが、我々としては現在の王家との繋がりを持てるのですし、住むこと自体を問題視するつもりはありません。

 ですが、どの程度手助けをすればよいものか、判断をしかねております」

 

 通話の相手は、久しぶりな気がするマシュー。

 アリカとナギの子、要するにネギ(仮)だが、両親の予定通りナギと共に地球に移動し、一般人に近い扱いで育てられる方針になるらしい。

 その為の準備として、ウェスペルタティア王国からの使者が、イギリスの裏社会に強い影響力を持つマクダウェル家を訪れた。

 

「イギリスの王室には伝えたのか?

 今後を考えると確実に国と国の対話になるし、歴史という意味ではあっちの方が長いから女王辺りを巻き込まないと格で負けるぞ」

 

「あれに格で対等になれるのは、恐らく日本の皇室くらいでございますな。

 そもそも、王配が出身地に戻り王子を育てるという事態そのものが異常ですので、女王が対応せずとも問題にはならないかと。

 念のため話は通しておりますが、ほぼこちらに丸投げされていると言って良いでしょう」

 

「となると……監視を兼ねた警備を出す程度が無難だろうな。物流は通常の魔法使いの村と同程度を維持して、教育やらに関しては要請が無い限り干渉しない。

 当初考えていたプランそのままだが」

 

「手抜き、もしくは忌避されていると感じられる可能性がございます。

 当人にそのつもりはないのでしょうが、賓客として扱うべき身分を持っている以上、粗末な対応は国の名誉に関わりますので」

 

「そっちの心配か……ナギ自身は問題ないと言っても、周囲が煩そうだな。

 それでも最終的な判断は連中に任せる方がいいだろう。警備か物流の担当なりを通して情報を渡しつつ、相談に乗るのが無難か。魔法学校やらは村になかったはずだし、村だけで完結できるほどの規模も無いと聞いている。

 その辺を説明して、どういう情報が欲しいのかも合わせて早めに相談を始めておけば、忌避しているとは思われないんじゃないか?」

 

「やはり、そうなりますか。

 いやはや、名誉にうるさい連中を黙らせるのに苦労しそうです」

 

「それこそ、ナギの一声があれば黙るだろう。

 追加で、相手が求めないことをして悦に浸る事がお前達の名誉なのか、とでも言ってやればいいさ」

 

「確実に逆撫でしますな」

 

「別に潰してしまっても構わんぞ?」

 

 家柄やら血筋やらしか誇れるものが無い連中ほど、煩いものだしな。

 未来を見る目が無いなら、潰れる時期が少し変わるくらいで大きな違いにならないだろう。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 そんなこんながありつつも、手続きや事前準備は進み。

 ウェールズの田舎の村に、ナギとネギ、護衛の連中(一応退役騎士が中心で、不自然に若者が溢れる状況にはなっていない)、それに乳母が住み着いた。

 

「……それで、だ。

 原作主人公サマは打ち合わせ通りなんだが、お前と変態は何をしていた?」

 

 今までも、気付くと数年単位で顔を見ない事がある2人だったが。

 このタイミングで姿を消していたのは、不気味で仕方がない。

 

「色々調査とかをね。

 そういえばエロオコジョ関係を調べてなかったなーとか思ってさ」

 

「ああ、エロガモか。

 何か判明したのか?」

 

「仮契約の儀式成立でお金が貰えるってなんでかなーと思って調べてみたら。

 なんと、高二病がだいぶ昔に作った組織が、今でも細々と活動しているみたいだよ」

 

「また高二病なのか……というか、どうしてそんな組織を?」

 

「どうもオコジョが使う仮契約の術式に仕込みがあってさ。

 魔法世界限定で従者に魔力供給すると、一部が高二病謹製の設備に流れるらしいよ?」

 

「……それは初耳だな。

 それだと、オコジョは相当な害悪という事になるが」

 

「元々がアーティファクトシステムの維持用に魔力を徴収してるみたいだし、その一部を流用してるだけだから、消費と効果はほとんど変わらないんだよね。

 当初は本契約や仮契約を普及させるために作った組織で、手下にオコジョ妖精を使うための給料を捻出するための措置らしいから、少なくとも当時は意味があったんじゃないかな? 魔道具やらを使って契約するのは費用や手間が大きいから、お手軽な手段だってのは確かだし」

 

「つまり、あれか。

 契約術式とアーティファクトも、厨二病カッコ当時の成果物という事か」

 

 確かに、アーティファクトなんてまさに厨二病患者が喜びそうな代物だが。

 魔法世界の創造といい、やる事がいちいち大きいのは……腐っても造物主と呼ばれるほどの実力者だからだな。

 

「みたいだね。

 魔法世界を作った頃の話らしいし、詳しいことは僕もアルも知らないんだけどさ」

 

「ただ……わざわざ普及のために組織を作ったという点には、違和感があるな。

 バリバリの厨二病が、そんな面倒なことを本当にしたのか?」

 

「その辺はだいぶ前にアルが聞いてたらしいんだけど、アマテルがどうのとか言ってたんだってさ。

 ウェスペルタティアの建国にも関わってる人だし、組織化はその人がやったんじゃないかなー」

 

「アマテルは、初代女王だったか?

 確かに組織化する能力はあるのだろうし、創造主の娘とかいう肩書的に造物主の関係者である可能性は高いのか」

 

「この辺はきちんと確認したわけじゃないから、確定はできないけどね。

 あと、フランスにあるオコジョ妖精の集落で、カモミール姓がある事は確認したよ。アルベールって名前のは見付けられなかったけどね」

 

 ……見付けていないだけなのか、まだ生まれていないのか。

 現れてからでも対処可能だろうし、その気なら下着泥棒で捕まった時や脱走時に処理してしまう事も可能だろうから、現時点ではどうでもいいのかもしれんが。

 

「そうか。

 その他だと……ネカネやアーニャはいたのか?」

 

「うん、一応いたよ。アーニャは護衛騎士の孫娘、ネカネは保母の血縁者みたいだね。

 ネカネはスプリングフィールド姓じゃないし、タカミチも護衛にいたけど」

 

「おや、ネカネはナギの家系じゃないのか」

 

「ウェスペルタティアの、公爵家の分家の娘だってさ。ちょっと遠いけどアリカの血縁だね。目元に王家の人達と同じ特徴があったりするし、僕としては納得できるよ。

 原作はナギの血縁に偽装してたんじゃない?」

 

「確かにナギよりも明日菜とアリカを混ぜた感じに近い気もするし、そういう事もあるか。

 タカミチは麻帆良に来ないと思っていたが、そっちに行くのか。強さ的にはどうなんだ?」

 

「んー、ものすごく強い、って程ではないかな。

 咸卦法とか居合い拳は一応使えるみたいだけど、まだまだ未完成で発展途上みたいだし。肉体年齢を代償にする魔法球での修業をしてない分、原作より若々しいけど弱い感じ?」

 

「いや、まだ10年ほどあるんだから、あそこまでオッサンになっていない時期だと思うぞ。

 だがまあ、問題になるような兆候は無いな。ウェスペルタティア関係というか、ネギ関係はとりあえずこれで安定か?」

 

「うん、そうだね。

 一応メガロの監視は強化してるみたいだし、仮に妙な事をしてもナギ達がいるからねー。

 原作は着実にブレイクしてるよ」

 

「……私がこうなっている時点で、原作通りにいくわけがないだろうが」

 

 そもそも私が呪われていないし学生になる事もあり得ない以上、仮にネギが来ても吸血騒動やらが発生しない事は確実だ。

 ネギが麻帆良に来る確率は……割とあるな。通うことになる魔法学校はイギリスにあるから、マシュー達の影響力が強いだろうし。

 

「それでも、原作の生徒の情報はちょっとずつ増えてるんだよね。

 今回来たザジはポヨポヨ言ってる方だったけど、計画の実行前には妹も呼ぶって言ってたし。

 幼女なマナたんは涙目だったけど」

 

「あれは魔眼で私の魔力を見たせいだからな?」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 ネギがウェールズに来て、数年。

 私達は必要な準備を進めつつ、色々と楽しむ余裕があった。

 例えば、Pray Stariker(初代)などが発売され、懐かしいと言いながらヴァン達と遊んだり。

 

「あははははは、ナニこの顔!」

 

「今の技術だと、これでも頑張っていると思うが」

 

「でもさでもさ、男か女かも怪しいよこれ! 胸が文字通り胸部装甲みたいだし!

 さっきのゲームの方がまだましだよ、アニメのなりそこないっぽい上に動きが変だけど!」

 

「……頑張っているんだぞ、これでも」

 

 原作の生徒達、具体的には雪広あやか等が小学校に入学したり。

 

「いいんちょは、やっぱりいいんちょだったねー」

 

「ある意味で原作通りだろう。

 木乃香が来たのは予定通りだが、雪凪は……まあ、この世界通りの予定通りだから、いいのか」

 

「護身のための神鳴流、しかも師匠が青山鶴子って、贅沢だよねー。

 なんだか雪花っちーに憧れてるみたいだしさー」

 

「何だそのモフモフ雪男みたいな呼び名は。

 まあ、これも修正力的な何かだとして、だ。

 千雨はどうする気だ?」

 

「見付けちゃったんだよねぇ……親の転勤で入学直前に来たみたいなんだけどさ。

 原作みたいに過剰な認識阻害はしてないから別に嘘つきとか言われる理由がないし、そもそも原作とおんなじ体質なのかも確認できてないんだよねー」

 

「このままだと、ネットアイドルちうの誕生が危ぶまれる、と」

 

「そうなんだけど、精神的に追い詰める気は無いし、なんか桜子大明神と仲良くなってるしさー。

 このままだと、チアのアイドルちうたんになりかねない……けど、それもいいかなーとか思ってる僕がいるよ」

 

「チアの衣装的にか?」

 

「ミニスカ開脚脇見せへそ出しなんて普通だからねー。健康的なエロスってやつ?」

 

「小娘に欲情するな、変態」

 

 通信設備の発達と需要が合わさって深夜の定額制通信サービスが開始され、初期のパソコン通信の活況を目の当たりにしたり。

 

「なんていうか、妙な活気があるよね?」

 

「今参加してる連中は新しい物好きや技術オタクが中心だし、そういう連中が積極的に動く黎明期は面白いことが多いぞ? 何より、ドキドキ感が違う。

 その後は……まあ、あれだな。マンネリ化したり迷走したりする事も多いし、消費しかしない偉そうな連中が増えてからも勢いや質を維持できるものが少ないともいうが」

 

「あー、それはあるかもねー。

 評論家気取りが好き勝手言って、活動してた人のやる気がなくなっちゃうとかさー」

 

「それでも新しく入ってくる人が多いなら、何とかなるのかもしれんがな」

 

 神鳴流の剣士である葛葉刀子が、西洋系の魔術師と結婚して麻帆良に来たり。

 

「来ること自体は問題ないけど、結婚相手が鷹司の分家だったのは予想外だったかな?」

 

「本家じゃない分身軽だったから幕田の摂家関係者として京都に行くことも多かったし、接点がわかりやすくていいんじゃないか?

 互いの立場的にもメリットがあるだろう。修正力に負けて離婚しなければ、だが」

 

「その辺はちょっとつついておいた方がいいかなぁ。

 政治的な理由でってパターンもあり得るんだけどさ」

 

「子供を作りたい家柄と剣士でいたい刀子の意見の衝突、辺りがありがちではあるかな。

 その場合はどっちの味方もし辛いし、幕田公国としては働く女性を応援すると同時に子育ての支援を充実させる方向で制度やらを充実させている。

 それ以上は夫婦で解決する問題と割り切るしかないだろう」

 

「忍者な人たちも、妊娠中と出産直後くらいは訓練を控えるしねー。

 その辺を参考に教えとけばいいかな?」

 

「但しやらないとは言っていない、だろう?」

 

「もちろん」

 

 雪広家の弟が、トラブルはあったものの無事に生まれたり。

 

「いやー、病院を多めに作ったり、お金持ち用の高級医療施設を許可したりした甲斐はあったね。

 出産で危なくなる人がかなり多い日だったみたいだよ」

 

「但し、間に合わなくて死産になった件があるようだ。

 雪広の弟が無事だった代わりに知らない誰かが犠牲になった、と考えていいのか?」

 

「言い方は悪いけど、そういう事になるのかな。

 健康保険の補助がガツンと減る上に絶対的な金額も上がって一般人が使いにくい分、僕たちには便利だよねー」

 

「金持ちの傲慢とも言われている制度だがな」

 

「お金がある人も保険料は払ってるんだし、優遇だけじゃない制度なんだけどなぁ。

 そもそも、この制度が無くっても、有名人とかの御用達になる病院って、色々便宜を図るわけじゃない。それを制度として認めた上で、メリットとデメリットを明確にしただけだよ?」

 

「世の中には、知らない方が幸せという事柄もあるんだぞ」




この話の原作は「魔法先生ネギま!」であり、赤松先生の他の作品からはキャラクターがゲストとして登場するに留まります。「初めに」で「人物が登場する可能性があります」としているのはそういう事です。
というわけで、造物主等の設定とかがUQと違っていても独自設定ということで気にしないでください。UQが始まる前のプロットですし、厨二病設定にしておいて何を今更という話ではありますが。彼女ってなんだよー。思いっきり男で設定やら作ってたじゃんかよー(話にものすごく影響するとは言っていない)。絶望ってそういう意味かよー。思った以上に厨二病ぽいじゃんかよー。


Pray Starikerは、いわゆるプレステですね。この名前は青の~の小話ズ その4でも使っています。
本格的な3D(ポリゴン)がゲームで使われ始めた時期ですが、車や機械はともかく、人をポリゴンで表現したものは、今見ると……ねぇ。当時としては凄かったのは理解できますが。
「バーチャファイター1」で画像検索しちゃだめだぞ、ゲーム機が違うからな! 「闘神伝」は可。


今回の投稿に間に合ったから艦これのイベントで投稿できなかったと言われる問題は回避した。
これで次は遅れても問題ないな! ……相変わらず会社にいる時間が長いのですよ。
なお、前話後書きの「後半の難所」は、もろもろの都合により次話に回されました。
難所に到達する前に、思ったよりもいろんな出来事が……

ちなみに艦これの夏イベントは、燃料が3桁になったり、天津風(紅き翼編第01話の後書き参照)や海外空母重巡などの捜索に失敗したりもしましたが、結果としては満足です。乙乙丙丙とはいえ初めてのイベント突破ですし、予想を遥かに超える新艦娘が来てくれました。
その分、今度は保有枠がピンチ。また母港拡張しなきゃ。


2016/09/10 以下を修正
 家柄やらしか→家柄やら血筋やらしか
 エロカモ→エロガモ
2017/03/22 制度なんだけなぁ→制度なんだけどなぁ に修正


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原作の足音編第03話 同類あらわる

 原作で、ネギの住む村が襲われる時期が近付いてきた。

 メガロ付近からは、特に怪しい動きは報告されず。

 ウェールズ近辺からも、注意すべき情報は上がってきていない。

 ウェスペルタティア王国が健在であり、ネギの王子という身分も確か。

 何より父であるナギと共に暮らしている以上、原作とは全く異なる人柄になるのだろう。

 

 ……と、思っていたのだが。

 

「ネギが日本語を喋った……?

 本当なのか?」

 

「はい。高原へ遊びに行った際に護衛達を含め少し離れる機会があり、その際に聞き慣れない言葉を呟いていたものを録音したという報告がございました。

 早くお知らせした方が良いと判断いたしましたので、このような時間ですが連絡させていただいた次第でございます」

 

 マシューからの報告で、それ以上のナニカが起こっていることが、確定した。

 

「それが、日本語だったという事か」

 

「録音状況が悪く聞き取りづらかったとはいえ、何を言っているのかを識別できましたからな。

 間違いなく、こう言っておりました。“どうしてこうなっちゃってるのかな”と」

 

「……ヴァンの阿呆がぁぁぁぁぁぁ!」

 

 よりによって、ネギに原作知識持ちを召喚しやがった!

 いくら修正力的なナニカを警戒してるとはいえ、やっていいことと悪いことがあるだろう!

 今は夜の10時近いから、イギリスだと昼過ぎ……夏時間の時期ではないから、昼食が終わった頃というか、片付けをしているアレがナギ……って、アリカも来ているのか?

 ヴァンは……また気配がないのか。変態……も、なのか。ああもう、主犯が逃亡済みでは申し訳が立たんぞ。

 

「マシュー、私がアリカとナギとネギに説明する。

 お前も聞いておいた方がいいだろうから、今すぐ現地に飛べ」

 

「それほどの問題でしょうか?」

 

「確定ではないが、私の近くにいる連中がやらかした可能性が極めて高い上に、その内容に問題がありすぎる。

 ああそう、他の護衛連中にはあまり聞かれない方がいい話になる可能性もあるから、護衛連中に私を説明できる者も必要か。準備と現地入りにどれくらいの時間が必要だ?」

 

「身嗜みを整える時間は必要ですから、20分後にいたしましょう。

 相手は女王ですので、エヴァ様も相応の恰好をなさって下さい。細かな点はリズやノエル達が詳しいでしょうし、連絡をしておきますので」

 

「ああ、わかった」

 

 ああもう、これだから今の格好とこのまま飛ぶ可能性を察する古参の連中は。

 ……いや、今の指摘はヴァンや変態よりとは比べられんほど真っ当だな、うん。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 マシューとの連絡が終わってから、ほぼ20分後。

 その間に行われたリズとノエルとゼロとイシュトによる全力のコーディネートや、その結果としての格好、ついでに洋装に弱い雪花が拗ねてたのを意識の外に追いやって。

 15分ほど前に現地入りしているマシューが何やら説明しているのも見なかった……ことには出来ないから、参考にして。

 アーティファクトの蝙蝠に幻術を被せた、麻帆良の結界の外でも問題なく行動可能な分身もどきを、ウェールズに転送した。

 

 ……よし。近くにいるのは、ナギ、アリカ、ネギ、マシューだけだな。

 

「すまない、あの阿呆共が余計なことを仕出かしていた事に気付けなかった!」

 

 有無を言わさず、土下座で平謝りするしかないだろう。

 ……アリカはともかく、ナギとネギは意味を理解してくれるはずだ。ナギは知識的に微妙かもしれんし、ネギは驚きのせいか目を丸くしてるが、きっと分かってくれる……といいな。

 

「お、おう……何のことか分からねぇけど、お前がやったんじゃねーんだろ?」

 

「ヴァン又はアルという者が怪しいと聞いておる。

 (ぬし)を責めようとは思わぬから、説明してくれぬか?」

 

 よし、とりあえずアリカの許しは得られたか。

 ここからどう説明するかだが……間違いなくネギがアレだし、伝えないという選択肢は無いな。

 ネギ自身は黙っていたいのかもしれんが、この両親の懐はそれなりに大きいだろうから、何とかなるだろう。

 

「わかった。まずはヴァン達が何を仕出かしたかを説明する前に、分かりやすい結果を示そう。

 というわけで、ネギ」

 

「は、はいっ!?」

 

 うん、いい感じで慌てているな。

 マシューは家族の事で気になることがあり、詳しい人物が調査と説明に来る、という感じで伝えていた。つまり、私の事は伝わっていないし、まだ誰からも名前すら出ていない。

 

「私がどの様な人物か、知っている範囲で説明してみろ。

 貶す内容だろうが怒りはしないし、間違いがあれば後で訂正するから、気軽にな」

 

「え、ええと……」

 

 まあ、内容というか情報元がアレなだけに、言いにくいのは分かるが。

 チラチラとアリカを見るのは、下策だぞ。

 

「知らぬ事は言えぬのじゃ、知る事を言ってみるとよい。

 なに、ああ言っておるのじゃから、心配はいらぬ。責任は色々話したであろうナギが取るでな」

 

「俺かよ!? いや、色々と話した覚えはあっけどよ……」

 

「はぁい……えっと、たぶん、エヴァンジェリンさん……ですよ、ね?」

 

「うむ、そうだな。

 他に何かないか?」

 

「えっと、不老不死で、闇の福音と呼ばれている……でしたか?」

 

「どうもそうらしいな」

 

「なんと!?」

 

「なっ、お前があの、闇の福音なのかっ!?」

 

「えっ?」

 

 うん、一家そろって驚きすぎだろう。

 特にアリカとナギの反応が予想以上なんだが。それを見たネギが驚く程度には。

 

「エヴァ様。闇の福音については噂のみが先行しており、その存在を信じる者は少ないようです。

 エヴァ様を知る者もほとんどおりませんので、両者を結び付けることは困難かと」

 

「……ああ、そういう事か。

 言っておくが、ネギが言う“闇の福音”は魔法世界で知られているそれとは別の意味だぞ。私が歩む可能性のあった道の1つに、悪を名乗り人類と敵対するものがあったからな。

 つまり、ネギにそれを知り得る世界の魂と記憶を呼び込まれたから、その知識を持っているわけだ。この場合は異世界への転生という表現が最も近いか?」

 

「むむ……闇の福音については、今は置いておくとしよう。

 結論を纏めると、ネギは他の世界の前世とその記憶を持っておるという理解で良いのだな?」

 

 様子を見る限り、アリカに嫌悪感やらは無いようだな。ナギはあまり理解できていないようだから置いておくとして、問題は顔面蒼白になってるネギ、か。

 やはり、秘密にしておきたかったのだろうな。秘密のままにするのは精神的に苦しいし、同類がここにいるのだから、楽になってもらうぞ。

 

「そうだな。

 これは恐らく、ヴァンか変態の仕業だろう。私の場合はヴァンのせいだったし、造物主は引きこもっていたはずだ。

 他の候補は思いつかんから、ほぼ間違いないと考えている」

 

「犯人が判明しておるのは良いのじゃが、(ぬし)もその記憶とやらを持っておるのか?

 今の説明では、そう受け取れよう」

 

「広められたい話ではないし、既にその知識は当てにならんがな。

 というわけで、ネギになった誰かよ。前世の事をどの程度覚えているのかは知らんし、阿呆共がやらかした事を許せと言う気も無いが、私個人は先達としてお前を歓迎しよう。

 ついでに、その気があってネギまの完結を知っているなら教えてほしい。私は最後がどうなったのかを知らんのだ」

 

「えぇぇぇぇ……」

 

 そんなわけで。

 ナギとアリカに加え、マシューにも詳細な“原作”の話をして。

 全てを話したわけではないが……ゼロやメイド秘書軍団以外には、ここまで詳しい話はしていなかったのだがな。原作という言葉も使っていなかったし。

 

「ふむ、なるほど。

 エヴァ様が仰っていた“予知に近い情報”とは、前世とこの物語の情報という事でございますか。

 確かに予知とは異なる、未来の情報と言って差し支えない内容ですな」

 

「俄かには信じ難いが……あり得ないと切り捨てるには、整合性が取れすぎておる。

 何より、ネギもそう証言しておるのだから、そうなる可能性があったという点は信じるしかあるまい」

 

「でも、ボクは……」

 

「なんじゃ、ネギは我が子である事が嫌なのか?」

 

「いや、罪悪感だろう。本来のネギの居場所を奪った事や、身近な人物でも物語のキャラクターだと考えてしまう事に対してのな。

 私も通った道だが、こればかりは時間と周囲の理解が無ければどうにもならん」

 

「これでも、永遠の命を求めて記憶の転写を試みたなどという記録がある王家の人間なのだから、その程度の事では動じぬのじゃがな。

 王家に入り込むことを目的とする賊や敵であるならともかく、こうなっておるのは不可抗力であろう。王家との関係を持とうと必死な連中を見慣れておると、こうなってしまった事に委縮しておるのは微笑ましくすらあるぞ?」

 

「王家に敬意を持たないという意味では、ナギもそうだったな。

 アリカに気に入られるには、権力に対する無欲さが重要なのか?」

 

 原作だと、ナギとテオドラあたりか?

 片方は武力持ちで自由奔放、もう片方は権力持ちで自由奔放……と言っていいのか分らんが、少なくとも王家に取り入る気持ちは持っていないはずだ。

 

「いや、そうではない。あくまでも身内や近しい者だけじゃ。

 ところで、話は変わるが……闇の福音と呼ばれておるのは、本当なのか?」

 

「どうもそうらしい、としか言えんが。

 状況や語られる内容から判断して、私に関わった誰かがそう呼んだものが広まったのだろうと判断している」

 

「絶望の果てに響く福音、叡智を説く女神という話なのじゃが。

 伝説など誇張されておるのが常と、分かってはおるが」

 

「いやまあ……由来になっただろう事例に心当たりがなくもない、という程度ではあるんだ。

 魔法世界に行った時に怪我をした拳闘士や商人などを拾って助けたし、そいつらに色々教えた覚えもある。その状況を美化すると、かなり逸話に近くなると思えるだけでな。

 だが、それは500年ほど前の話で。未だに言われているのは、噂が独り歩きしているだけか、色々な人物の噂と混じった結果だろうと思うが」

 

 ……マシューが何か言いたそうだが、言わなくてもいいからな。

 少なくとも私の姿や名前が知られていないのだから、私を指した話だと断定する理由や根拠はないはずだ。

 

「なるほどの。しかし、権力者の差し金とも思えぬ内容じゃし、口伝だけでこれほど広く語られるとも思えぬ。呼び名が同じでも地域で内容が異なると聞いておるし、何者かが何かしらの意図をもって広めておるのじゃろう。

 ところで、ネギよ。何か聞きたそうじゃが、遠慮せずともよいぞ?」

 

「え、は、はい。

 あの……この世界って、原作とか前世とかと、どれくらい違うのでしょうか?」

 

「そうだな……分かりやすいところからいくか。

 ウェスペルタティア王国が崩壊していない。これは、アリカやナギが健在だし、自身の状況的にも理解している点だろう。

 私が呪われていない。麻帆良に住んでいるのは事実だが、別にダレカのせいではなく、諸々の事情やらが重なったせいだ。

 この2点はいいな?」

 

「は、はい」

 

 これは見て分かりやすいものだし、反論やらのしようもないだろう。

 ここにいる私は本体じゃないなんて、簡単にバレるような術式ではないし。

 

「次だ。

 麻帆良は日本ではなく、いくつかの飛び領地を持つ独立国の首都になっている」

 

「うそっ!?」

 

「本当だ。幕田公国の首都、麻帆良。これがこの世界での公式な位置付けだ。

 ちなみに幕田公国の君主は幕田家の当主なんだが、幕田家の始祖は私だから、私の国と言っても間違いではないな」

 

「なんでっ!? って、幕田はマクダウェルのマクダですかっ!?」

 

「当時使った名前が幕田重羽(えば)だったからな。

 養子とその子孫達だから私と血が繋がっているわけではないが、幕田家は日本の皇族や摂家との血縁もあるし、戦国時代あたりから続く由緒正しい家柄だぞ」

 

「うわぁ……何やってるんですかいったい……」

 

「人外の保護と魔法を公表した際の混乱を抑止するための組織作りだ。

 次に進むぞ。

 造物主は現在引き籠っていて、完全なる世界などという組織は作っていない。戦争の元凶ではあるが黒幕と呼ぶにも微妙な立場だ。気付かないところに組織がある可能性までは否定できんが、少なくとも、意図的に戦争を引き延ばしていたとか、そういう事は無かったはずだ」

 

「え? 造物主って、最後の敵のはずなのに……?」

 

「私もそう記憶しているが、単行本派で最終巻を読む前にこっちに来てしまったからな。

 ネギの女性問題で大騒ぎの後で更に敵が出るとは思っていないが、間違いないんだな?」

 

「は、はい」

 

「あー、なんだ。

 ネギの女性問題って……何かあんのか?」

 

 おお、ナギの理解できる話になったせいか、首を突っ込んできたか。

 原作はまあ、ラブコメだからという理由もあるのだろうが……

 

「ネギが女子中学校の教師になり、教え子のほぼ半分、確か15人くらいと仮契約していた。言い寄られる側ではあるが、恋愛の意味も多分に含まれていたな。

 ついでに、日本の中学生は12歳から15歳だ。普通に考えれば修羅場で、倫理的には大問題だろう?」

 

「いくら俺でも、色々やべぇってのは分かる。

 けどよ、うちのネギがそうなるとは限らねぇよな?」

 

「それはまあ、ここにいるネギ次第だな。

 ロリコンだったりアーティファクトを集めるのが趣味だったりすると、そうなろうとする力に負けるかもしれん」

 

「えっと、それは大丈夫です。

 ボク、女の子と恋愛する気がないですから」

 

「おいおい、男としてそりゃねぇぞ?」

 

「いいんです。ボク、前世は女でしたし。子供もいたんですよ?」

 

「お前も性転換しているのかっ!?」

 

 ヴァンのやつ、私の時の失敗を全然反省していないな!!

 

「え? エヴァさんもそうなんですか?」

 

「……そうだな。私の前世は、妻子持ちのおっさんだ」

 

「うわぁ……大変ですね。

 でも、その年齢だと生理が来てないはずですし、普通の成長する女の人になるよりは良かったのかも?」

 

「いきなり生々しくなったな!?

 そもそも普通のニンゲンになっていたら、国を作ることなどありえんだろうが!」

 

「あ、それもそうですね」




いったい いつから 元日本人が3人だけで TSがエヴァだけだと 錯覚していた?
ネギの設定は初期プロット通りです。一人称が「ボク」という点も含めて。


今回間に合ったのは、あれです。
テスト前とか何かする事がある時って、むやみにゲームとか漫画とかがはかどるよね。
その分、質とか後回しにしたナニカとかがうわぁぁぁぁぁぁぁ……


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原作の足音編第04話 現状認識

 それからしばらくは、親睦的な意味を含む雑談が続く。

 当然だが、お互いの情報提供や情報収集でもあり、現状認識を摺り合わせる作業でもある。

 そうした事の結果としては、やはり。

 

「やはり、ネギは早めに麻帆良へ行かせるべきじゃな」

 

「だな。物語から無暗に離れるより、利用できるもんは利用した方が良さそうだ」

 

「メルディアナの魔法学校であれば、卒業後の試験内容に手を加えることができるでしょう。流れ的にも、これが最も適しているのではないでしょうか。

 もちろん、教師などという無理のある立場ではなく、穏当な名目にすべきでしょうが」

 

 ネギの将来、という現実的な問題に目が向くのは当然か。

 アリカやナギにとっては家族であり、マシューから見れば未来に大きな影響力を持つ可能性のある人物なのだから。

 

「いやまあ、それはそうなんだが。

 ただ物語がそうなっているからという理由だけなら、無理に従う理由もないんだぞ?」

 

「え? ボクはどちらかと言えば、行きたいですけど。まだ前世の意識に引っ張られている部分もあるので、日本が恋しい時もありますし。

 原作の問題はありますけど、吸血鬼騒動なんて起きないですよね?」

 

「それはまあ、血を狙う理由が全くないのは事実だが。

 アリカはそれでいいのか?」

 

「うむ。王家の廃止計画を考えても、ある程度ネギが成長した後の居場所が確保できるのは良い事じゃ。

 その上、我が子ながら信じられぬほどの魔力を持っておる。魔力バカのナギも付ける事が出来るから、例の計画への協力という建前で反対意見を抑えられよう。

 全く問題が無いと言ってよいぞ」

 

「いや、親子の……と言うくらいなら、こっちで育てるなんて事はしないな。

 ナギはいいのか?」

 

「別に今と変わらねーって理由もあるんだけどよ。

 原作ってのを考えると、オスティアと麻帆良を繋ぐゲートがあんだろ? むしろアリカと会うのがここよりも楽になるんじゃねぇか?」

 

 おぅふ。こういうところだけ鋭いのは、やはり腐っても英雄か。

 

「そのゲートだが、少なくとも今は稼働していないぞ。

 あれだけ地球と魔法世界を行き来していた造物主が、一度も使わなかった代物だ。何らかの問題を抱えていても不思議ではないのだが……」

 

 ……以前は世界樹の魔力が邪魔で小規模な起動では安定しなかったのが、最大の欠陥なのだろうな。大規模な転移魔法を発動すると、余計なものまで色々と付いてくるだろうし。

 私達が世界樹の魔力を回収してダイオラマ魔法球で利用している現状だと、他のゲートと同規模での転移が可能というのも、更に残念さを割り増しにしている気がする。

 

「ってことは、ここよりは面倒になんのか……

 麻帆良の近くのゲートって、知らねぇんだよなぁ」

 

「直線距離だけなら、中国のものが一番近いはずだ。地球側も魔法世界側も利便性は悪いがな。

 転移でどうにかできるならともかく、そうでないなら他のゲートを使った方が便利だろう」

 

「やっぱそうか。ま、それくらいは構わねぇか。

 ところでよ、この際だからはっきり聞いておきたいんだが……あんたの立場って、どうなってんだ?」

 

「私のか?」

 

「いや、麻帆良っつーか幕田公国の重鎮なのは確実で、マシューはイギリス裏社会の重鎮っぽい立場だって聞いてるけど明らかに臣下の態度だぜ? んで、闇の福音ときたもんだ。

 いったいどんな立場なのか、はっきり聞いとかねーと」

 

「おお、そうじゃな。

 さっきは闇の福音だという事に驚いて、内容までは聞いておらなんだからの」

 

 ……思い出されたか。

 だが、正式な立場という意味だと……

 

「私自身は、大した地位や権力は持っていないぞ?

 幕田公国に対しても君主の家系の始祖というだけで、ご意見番的な立場でしかないからな。

 闇の福音の逸話に出てくるような連中でコミュニティ的な緩い互助組織を作っていて、マシューもその一員だな。そして私がその取り纏め役というか、創始者兼筆頭的な立場にいる。

 いずれにせよ、私が支配しているわけではない。マシューは力が無く味方もほとんどいなかった頃に執事として私を支えてくれていて、その時からずっとこんな態度だ」

 

「……本当かの?」

 

「明文化された法や規則に限れば、という条件ではありますが」

 

 ちょっと待て。いかにも疑ってますという目のアリカも、やれやれとため息をつかんばかりのマシューも、おかしいだろう。

 間違った事は言っていないぞ。

 ……たぶん。

 

「つまりあれか。実態は違うってことだよな?」

 

「ええ。

 幕田公国での立場ですが、実質的に影の支配者という表現で差し支えないかと」

 

「いや、別にあれこれやっているわけではないぞ」

 

「口を出さないから支配していない、という訳ではございません。

 君主に提出される機密書類の写しが届けられる時点で支配者の一員であると、いい加減ご理解ください。

 そもそも幕田公国にある人外の里、通称“楽園”と呼ばれる場所は、事実上エヴァ様個人が保有し支配する国と言ってよいのです。通常は幕田の法が通用すると言っても、エヴァ様の指示が優先される以上は幕田の一部とは言い難いのです」

 

「魔法球の事か?

 あそこに指示したのは、表の法では対処できない、人外連中に関する事だけなんだが……」

 

「幕田にも人外を扱う部署がございますが、そこも手出しをしていないそうではありませんか。

 名目的に所属する国の機関を無視するやり取りで自治が成立しておりますから、エヴァ様が立法や司法の役目を担った実績があるという事でございます。当人や住人がそれを当たり前として受け入れている以上、エヴァ様が支配者であることは明白でございましょう」

 

「私がやったのは、せいぜい小競り合いを和解させたとか、その程度のはずなんだが……それも、幕田公国が成立する前の話だぞ」

 

「直接手を出したトラブルの沙汰としては、そうかもしれません。

 ですが、間接的なものや指示も含めればかなりの数になり、それらをまとめたものが実質的な法として機能し、根本では今もその体制が続いている事実を無視してはなりません」

 

「法は幕田のを取り入れているのだが……」

 

「その法に従う根拠が“エヴァ様の指示だから”というものだとしても、でございますか?

 エヴァ様の言葉が憲法より優先されているという現実から目を逸らしてはなりませぬ」

 

「……そんな理由だったのか?

 村長会で決を採って、幕田の法の受け入れを決めたと聞いた覚えはあるが」

 

「リズからは、エヴァ様の言葉が決め手になったと聞いております。

 当初は賛否両論で議論が紛糾し、エヴァ様が受け入れを希望していると伝えたとたんに全会一致での賛成となったそうでございます」

 

「うわぁ……」

 

 幕田の法で統一した方が楽だと言った覚えはあるし、その後は受け入れが決まったという報告を受けただけだ。

 細かい経緯やらは確かに聞いていないが……そんな事になっていたのか。

 

「我ら月の一族に関しても、認識が不足しております。確かに少人数のグループに分かれて各地の組織を運営しているため、一族としての明確な組織が無いという認識自体は間違いではございません。エヴァ様が上位者として強権を振るったことがないのも事実でございます。

 ですが、中心的な人物はエヴァ様に心酔する者ばかりでございます。エヴァ様が判断を口に出すだけで明確な指示がなくとも世界が動くことをご理解下さい」

 

「世界が動くなんて、そこまで大袈裟な……」

 

「御自身の影響力を、もう少し正しく認識すべきでございます。少なくとも軽々しく頭を下げる事は許されませんし、今回のようなJapanese DOGEZAなど本来は論外なのです。

 プライベートな場であり、個人的な付き合いと貸し借りのある相手であるからこそ問題とならなかったのでございます。この場に部外者がいた場合は別の大きな問題が発生したのは間違いございません」

 

「だが、今回の件はだな……」

 

「謝罪は必要でしょうが、DOGEZAまでは不要だと言っております。

 そもそも、我々が影響を与えられる範囲を、おおよそでも理解しておくべきでございます。

 支配下にある範囲ではなく、影響力を行使できる範囲を記した資料をご覧になった事はございませんか?」

 

「いや、無いが……影響力など何かあればすぐに変わるし、明確に線引きが可能なものでもないだろう。企業との取引関係や政治家とのパイプがあっても、内容によって使える使えないが変わるものだ」

 

「それでも行使できる可能性があるのであれば、全く可能性が無い場合よりも打てる手が増えるのです。

 その辺り、現役の女王陛下はどの様に考えられますかな?」

 

「ここで私の出番なのじゃな。

 そうじゃな、たとえ上辺だけの付き合いであろうが役に立つ者は大勢おるし、信用できる者であっても能力や性格的に役に立たぬ場合もあろう。そもそも、配下である事と協力的である事は同じではないからの。

 味方とそれ以外を分けすぎなのではないか、と思うのじゃ」

 

「それとアレだ、味方以外と会わなすぎなんじゃねーか?

 アルの野郎がヒキコモリって表現してたぜ」

 

 あの変態め、そんな事を言っていたのか。

 だがまあ、少なくとも本体は数百年ほど麻帆良を出ていないし、麻帆良での外出も護衛やらがうっとうしくて今のような分身もどきを使う事が……あれ? 本体が屋敷の外に出たのは建て替えの時くらい……というか本来の意味での本体は月だから、別に肉体的な本体だろうが分身もどきだろうが私という存在という意味では大きな違いは……と、とりあえずこれは後回しにしよう。

 味方とそれ以外……この場合は一族やその部下とそうでない者の区別という事でいいのか? 他の組織やその構成員ならそっちの都合で動くわけだからアテにしすぎるのはダメだろうし、状況にもよるだろうが部下とは扱いが違うのは当然だろう。

 ……別に、私は悪くないよな? 最近はともかく、最初のうちは味方なんてほとんどいなかったわけだし……

 

「やれやれ、これがリズの言う“ばかわいい”という状態ですか。

 自分の事になると途端にポンコツになる様子が最近ますますかわいくなったと、困った顔で喜んでおりましたが」

 

「ばっ……!?」

 

 ばかわいいだと!? 中身おっさん……たぶん根底はオッサンのままの私がか!?

 リズは……関係者達と一緒にいるか。何人か呼ぶ予定じゃないのもいるが。

 

「強制転移、そこの全員まとめて来いっ!」

 

 元々呼ぶ予定だったゼロとレイ(アスナ)。巻き込まれに近いイシュト、雪花、雪凪。

 リズと合わせて6人だが、会わせて問題になる者は含んでいないから大丈夫だろう。

 

「リズぅぅぅぅぅ! 私がばかわいいとはどういう事だ!?」

 

「え? そのままですよ。

 ご自分よりも人の事を優先しがちな点は変わっていませんが、そこに愛嬌が加わり微笑ましくて仕方がありません」

 

「だからといってかわいいとはなんだ!?

 私の中身は男なんだ!!」

 

「あら、“ば”の部分はいいのですね」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「……アレは、良いのかの?」

 

 マシューから、ネギに関する事で地球の裏社会の重鎮が謝罪に来ると聞いておったのじゃが、あれが本当に重鎮なのかの?

 謝罪方法や話し合いの後の言い合いを見ておると、まるで身の丈以上の物を持ってしまった子供のようじゃ。ナギとネギが世話になっておるマシューから話と依頼を聞いておらねば、色々と疑わねばならぬところであったぞ。

 

「あの方にはそろそろ、御自身の立場を自覚して頂きたいのです。

 御協力感謝いたします」

 

「あの程度で良かったのかの?

 随分と根が深そうじゃが」

 

「これまで、幕田公国も含めて人の確保と育成ばかり行っていた弊害でしょう。

 それぞれの組織が動き出してからは口を出す事が少ないのも、上に立つ意識の無さによるものではないかと」

 

「それでも、意思決定はしておるはずじゃな」

 

「全体の大方針を決定しているのは間違いありません。

 ですが、通達の手段や指示の内容を考えますと、あの方が指導した相手に対するもの、それも提案レベルである場合がほとんどですからな。

 基本的にその先にある組織に対するものでないため、それらをどう動かすかは全面的に任せているとも言えるのですが」

 

「ふむ……ある意味では理想的な支配者とも言えるのかの。

 普段は細かいことを言わず、それでいて問題が発生した場合は真っ先に解決しようと動くのじゃろう?」

 

「だからこそ余計に、密かな忠誠がとめどもないのですが。

 さて、そろそろネギ様に彼女達を紹介すべきですかな」

 

 うん? ネギが随分とそわそわしておるな。

 アスナの話はナギから聞いておったはずだが、原作とやらと随分と違っておるせいで気になっておるのかの。

 

「あ、あの。あの人って、カリンさんと刹那ちゃんですよね? それに、水銀燈まで……」

 

「ふむ? その名は聞いた覚えがないが……あの様子では、新人は幼い一人しかおらんな?」

 

「あの幼子に関しては、正確に言えば配下ではなく保護下にあると言うべきでしょうな。日本の協会の子女と共に預かったそうですので。

 もっとも、これ以上は当人より聞いたほうがよいでしょう。少々お待ちを」

 

 マシューはそう言って、あの者たちを呼びに行ったが……声をかけるのは一番小さい、人形のような者なのか。それも、恭しいと表現すべき態度なのはどうしてであろうな。

 

「さて、まずは紹介いたしましょう。

 幕田公国の裏の情報処理部隊長、雪花様はアリカ様と面識がございましたな。

 こちらが、幕田公国の影のナンバー2、ゼロ様。

 エヴァンジェリン様のメイド部隊ナンバー2、イシュト様。

 雪凪ちゃんは、どの様に紹介すればよいでしょうかな?」

 

「そうですね、特に秘密にすべき事もないでしょうし、本人に任せましょう。

 雪凪、できますね?」

 

「は、はい!

 白の烏族、桜咲雪凪です。将来は白雪の一員として雪花様のお役に立てるよう頑張ります!」

 

「はい、よくできました」

 

「それと……この場合は、どちらで呼ぶべきですかな?」

 

「身内だけだから、どちらでも。

 原作を知っているからアスナの方が通じるかも、とは聞いている」

 

「ふむ、確かにそうですな。

 こちらがアスナ様。ウェスペルタティアの王家の血筋であり、ネギ様の親類縁者となります。

 現在は静養中とされておりますので、ここで会った事は問題のない事が確認できた相手以外には言わない方がよいでしょう」

 

「うむ、そうじゃな。私もこうして会うのは随分と久しぶりじゃ。

 息災であったか、アスナ」

 

「うん。アリカも元気そう。

 ナギは……相変わらずバカっぽい?」

 

「うぐっ!?

 そりゃねぇぜ姫子ちゃん」

 

「大丈夫。感謝はしてる」




な、何とか間に合ったぜ……作業時間の確保が難しいのなんの。
とりあえず問題が出ていたHDDを、SSDに換装。環境も概ね戻せたし、ついでに調整もちょいちょいやって、快適快適。だけど使う時間がぁぁぁぁぁ

そんなわけなので、まだしばらく不定期気味になると思います。予約投稿(水曜夜)時点で、次話が1文字も書けてないとかどうなのさ。


2017/04/25 言えるですが→言えるのですが に修正


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原作の足音編第05話 魔法少女への道

「それにしても、UQ HOLDERだったか。

 続編ではあるが、イシュトも原作関係者だったんだな」

 

「夏凜、でしたか。

 元々ミドルネームが日本的とはいえ、安直ですね」

 

「物語がどうであれ、私は私です。

 それに甚兵衛もらしいので、もしかすると他にもいるのかもしれません」

 

 ネギ達との情報交換を終え、麻帆良に戻ってきた私達。

 リズや雪花は遅れていた・増えた役目のために動いているし、アスナ(レイ)と雪凪は自宅に戻ったため、ここに残っているのはゼロとイシュトの2人だけだ。

 

「それにしても、完結しても謎は残ったままというか、ほぼ投げっぱなしとはな。

 残り1巻なら全て明かされることはないだろうと思ってはいたが……」

 

 ナギやアリカがどうなっていたのか、とか。

 造物主やアリカがどうなったのか、とか。

 超が平然と並行世界を移動しているのはポリシー的にどうなんだ、とか。

 軌道エレベーターの存在意義は何だろう、とか。魔法世界と火星を行き来する方法を用意する方が色々と楽で便利なんだが。

 

「つまり、原作に囚われる必要もないということです

 既に前提が大きく崩れていますし、思う通りに進めてよいでしょう」

 

「まあ、今更止まる気もないがな。

 魔法が広まるのは原作的にも問題ないようだから、その点だけは安心だが。

 ネギが不老不死になるとかいう話はUQ HOLDERで否定されているようだし……まあ、始まったばかりしか知らないらしいから、実は生きていたという可能性もあるか」

 

 雑誌で読んでいたそうだが、3巻相当分までしか読んでいないと言っていた。その範囲では、エヴァンジェリンが大人の姿で雪姫を名乗っている点と、主人公が近衛性でネギの血筋らしい点以外は、あまりネギまとの繋がりも強くなさそうな印象だ。

 神鳴流が登場したラブひなとネギまよりは明確な繋がりがある、とも言えるが。

 

「続編に関する事柄は重要でなく、原作についても致命的な問題が見付かりません。

 現時点で計画を変更する必要は無いでしょう」

 

「計画に直接影響するのは、ネギとナギの参画か。

 元々ネギに頼らない計画だから手駒が増えるだけではあるが、使いにくいからなぁ」

 

「ナギはともかく、ネギは基本的に真面目で、考えて理解するタイプのように見えました。

 父親(ナギ)と違い、邪魔にはならないでしょう」

 

「ナギが邪魔になる前提なのが問題だな。

 英才教育しちゃうぞとか言っていたが、その意味を理解しているのか……」

 

「小一時間問い詰めるのですか?」

 

「そんな無駄で面倒なことはせん。

 ただ、ナギに教育するだけの知識やらがあるかが心配なだけだ」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 ネギの受け入れに関して動き始めてから、僅か数日の昼過ぎ。

 今度は、有宣から連絡があった。

 なんでも、麻帆良にある裏町……裏の連中が集まって住む地域に少女が迷い込んだため保護したが、特殊な能力を持っているようだから扱いを相談したいらしい。

 

「この流れならまあ、こうなるよな」

 

「おや、この少女をご存知でしたかな?」

 

「ヴァンは何も言っていなかったのか?

 あいつは以前から何かに気付いていたようだったが」

 

認識阻害(あれ)も万能ではないとの注意は受けていても、特定人物の情報は聞いておりませんな。

 最近改めて話を聞いておるので、恐らくその頃には気付いておったのでしょうが」

 

「まあ、そうだろうな。

 さてと、これ以上放置するのもかわいそうだから、本題に入るか。

 この場合は裏の世界へようこそと言うべきなのか?」

 

「う、うらのせかい?」

 

 戸惑っている少女……要するに眼鏡をかけていない長谷川千雨なんだが。

 その目には明らかな動揺が見える。

 扱いを相談するという段階のせいか、特に説明はされていないのだろう。だったら連れてくるなと思うが、木乃香達と同年齢だし、何かあると気付いてもいるのだろうな。

 

「そう、裏の世界。今はまだ表に出せない事情を抱える世界、と言い換えてもいい。

 ここに連れてこられたのは、お前……長谷川千雨だったか。千雨が、気付かずにその世界との境界を超えてしまう力を持っているからだ。

 その力を理由に危害を加える気はないが、世の中にはおかしな連中もいるからな。放置して何かに巻き込まれたら寝覚めが悪いということで、来てもらったというわけだ。

 ここまでで、何か質問はあるか?」

 

「え、ええと……わるい人とか、そういうの、ですか……?」

 

「そういう連中もいる事は否定できんが、表の世界から犯罪が無くならないのと変わらんさ。

 例えば私や有宣は、幕田の公務員のようなものだと思ってもらえばいい」

 

「正確には幕田家の関係者であり、幕田公国の支配者側ですがな」

 

「ここでそれを言う必要があるのか?」

 

「エヴァ様はすぐにご自身の立場を忘れると、よくボヤかれておりますでな。

 細かいところから矯正すべきかと」

 

「なんだ、私が悪いのか。

 話を戻すが、他に質問は何かあるか?」

 

「じゃ、じゃあ、わたしは、どうなるんですか……?」

 

「それを決めるために来てもらったんだ。本来なら見知ったことを秘密にしてもらうだけで済む場合が多いが、千雨の場合は今後も巻き込まれる可能性が高く、これでは解決にならないからな。

 というわけで、千雨が選べる選択肢は、2つある。

 こちら側に踏み込むか、避け方だけ学ぶか、だ」

 

「ええと……」

 

「まあ、これだけじゃ何を言っているのかわからんだろうから、わかりやすく言うぞ。

 魔法少女になるか、魔法少女にならず関係者や敵役との不必要な接触を避けるか、だ」

 

「ま、まほう少女!?」

 

「あまりメルヘンなものではないが、構図としては似たようなものだ。

 非現実的なものと積極的に関わるか、そうでなければ必要以上に関わらなくて済むよう学ぶ、という選択だな」

 

 小学3年生目前の少女に魔法少女なんて言い方をしている時点で、疑似餌をぶら下げているようなものかもしれんが。

 それにしても、難儀な体質だな。ほとんどの場合で一般人と変わらないくせに、ごく一部というか、認識阻害系魔法にだけ魔法使い並みの抵抗力があるというのも。

 

「え、えっと、その……」

 

「まあ、あれだ。まずは身の守り方を学び、それからどうするのか決めるのもありだぞ。

 この知識はどちらにしても必要になるし、踏み込む先に何があるのかを知ることもできる。

 踏み込むと戻るのは難しいが、後から踏み込む遅れを妥協するのはまだ簡単だろう」

 

「……あの……あぶないんです、か?」

 

「そうだな……格闘技が危険かどうか、という問題に近いな。

 その技術で人を助ける者がいる。だから良いものだ。

 その技術を悪用する者がいる。だから悪いものだ。

 ちょっとした危険から身を守ることが出来るようになるから、安全だ。

 試合や練習でケガをするから、危険だ。

 大抵のものは良くも悪くも言えるし、危険な面がある以上は絶対に安全だとは言えない。

 ついでにこの例えで言えば、千雨の体質は試合会場に気付けず立ち入ってしまう可能性があるものであり、まずは踏み込まないよう避ける知識を身に着けるべきだ、という事になるか」

 

「は、はあ……」

 

 うーむ、魔法の現実を実際に使えない者に説明するのは、難しいな。下手に創作物の魔法を例に出すと、そのイメージになってしまうだろうし。

 だが、どう見ても理解しているようには見えないし……っと、この気配は雪花と、木乃香と鶴子と雪凪か?

 今日は休日だし、普通に訓練していたのだろうが……何かあったのか?

 

「失礼します。

 夕暮れで迷う少女がいると伺ったので、ささやかな道しるべとなれる者を連れてまいりました」

 

「……夜に向かって背を押すのか」

 

「能力や立場に鑑みて、立ち止まっていても日が暮れると考えました。

 であれば、行く先が少しでも明るいものとなるよう手を差し伸べるのも先達の役目かと」

 

「孤独になるよりはマシか。

 そこまで来ているんだから、取り敢えず会わせてみるか」

 

「はい。

 3人とも、入りなさい」

 

「「「はい」」」

 

 雪花に呼ばれ入ってきたのは、気配であたりをつけていた3人で間違いない。

 

「あや、千雨ちゃんなん?」

 

「なっ……お前、近衛と桜咲か!?」

 

「そうや。

 千雨ちゃんもこっちの話が出来るようになるん?」

 

「こっちってどっちだよ!

 そもそも、お前らはなんでこんなわけわかんねぇ世界にいるんだよ!!」

 

「そう言われても、家業みたいなもんやしなぁ。

 鶴子さんと雪凪ちゃんもそうやし」

 

「そうどすな」

 

「一般的な人の家に生まれたとは、とても言えません」

 

「うわぁ……近衛って確か、摂家のお嬢様だよな。

 そこの家業がコレって、マジで国が関わるレベルって事かよ……」

 

 なんだ、一応は鵜呑みにせず考えていたのか。

 この辺はやはり、あの環境で比較的まともな感性を維持する原作千雨と同じという事か。

 

「理解したなら何よりだ。

 さて、そろそろ曖昧なままで説明するのが難しくなっているし、どちらにせよ知らないままではいられないだろうから、決定的な言葉を使うぞ。

 この世界には、魔法がある。

 人とは異なる特徴を持つ者や、明らかに人でない者がいる。

 地図には乗らない小さな世界や、地球上ではない大きな世界がある。

 メルヘンとはとても言えんし、悪意や絶望も渦巻いているが、夢や希望もあるだろう。

 これらと関わっていくのか、それとも距離を置くのかを決めてほしいという事になる」

 

「ふえっ!?

 あー、いや、裏ってそういう……って、本当にそうなのか、じゃない、そうなんですか?」

 

「地が出てきたぞ。

 魔法やらを見せるのは構わんが……何がいいだろうな。

 手品に見えるようなものだと納得し辛いだろう」

 

「それでしたら、私が」

 

 雪凪が手を挙げているが、魔法というよりは人外の存在を見せることになるのか?

 手品には見えないだろうし、原作のように鬱屈した立場というわけでもないから、問題ない……のか?

 

「いいのか?

 千雨はまだ、こちらに踏み込むと決めたわけではないんだぞ」

 

「それでも、知識としては必要です。

 それに、私で怖気づいてしまうなら、踏み込まない方がよいのではないかと」

 

「それはそうなんだが、違う方向で勘違いする可能性は……必要なら木乃香に協力してもらうとするか。

 そうだな、見せていいと思える範囲で、見せてやってくれ」

 

「はいっ!」

 

 雪凪は大きく頷くと、胸元から透明な丸い宝石のペンダントを取り出して。

 

「夕凪、セットアップ」

 

 山伏装束に似ている、烏族の伝統衣装に着替えた。

 

「マテマテマテマテ!

 マジか、マジモンの魔法少女なのかっ!? SFの間違いじゃねーのかっ!?」

 

 ……この時点で、魔法の存在が証明できてしまった気がする。

 なんだか予想していない方向に勘違いしかけているようにも見えるが。

 

「い、いえ、私はどちらかといえば剣士です。

 それに、これはすごい技術で作られたものらしいですけど、SFに含んじゃっていいのでしょうか……」

 

「まあ、あれだ。日本刀は高度な技術で作られていて簡単には真似できない代物だが、現実に存在するからSFとは呼ばれない。同様に、それも現存する以上はフィクションじゃない。魔法関係の技術が多く使われているからサイエンスと呼ぶのもあれだし、SFと呼ぶのは無理があるだろう。

 というか、雪凪が見せたかったのは衣装替えじゃないだろう?」

 

「あ、はい、そうでした。

 次は私自身なので、驚かないでください」

 

「あ、あと何回変身が……」

 

「変身というほどのものじゃないですけど、次で終わりです。

 では、やりますよ」

 

 そう言って、翼を広げる雪凪。

 千雨は……目が点になっているな。

 

「あーん、やっぱキレイやわぁ。

 な、千雨ちゃんもそう思わへん?」

 

「き、キレイっちゃキレイだけどよ……マジか?

 マジで天使なのか?」

 

「いえ、私は烏族と人のハーフで、アルビノ? とかいう白くなる病気らしいです。

 烏族は基本的に黒いですし」

 

「そ、そうか……天使とかそこまでぶっ飛んでるわけじゃねーのか……って、十分ぶっ飛んでんじゃねーか!

 なんで同じ学校に人じゃねーのが通ってんだよ!」

 

「仕方ないだろう。幕田家はそもそも、人外が人と関わるために作られた家柄だ。その関係で、幕田公国には多くの人外が住んでいる。表に出せないだけでな。

 というか、雪凪だって人と同じように命と心があり、感情もあるんだ。そうやって差別されるのは結構きついんだぞ?」

 

「うっ……ご、ごめん……」

 

「いえ、突然だと驚くのは当然ですから」

 

「とまあ、こういうわけで、魔法や人外は現実に存在するんだ。

 こういう世界とどう向き合うか、落ち着いて考え「やります」……いや、落ち着け?」

 

「なんというか……カッコいいと思いましたし、どうせ関わるならある程度は踏み込んだ方がいいんじゃないかなと……」

 

 いやいやいや、明らかに興味と好奇心で暴走しているだろう。

 やはり魔法少女と言ったのはまずかったか?

 

「まあ、どちらにせよすぐに魔法を使えるようになるわけじゃないし、最初は座学、知識を得るところからだ。

 学んでいることを多くの関係者に知られたり、実際に魔法を使い始めたりするまでなら、戻ることもできるだろう。その間に、もう一度落ち着いて考えてみるといい」

 

「は、はい!」

 

 なんだか、おかしな形で始まった魔法バレのイベントだが……これもまた、原作キャラの魔改造に繋がるのか?

 ネギほどぶっ飛んだわけではないが、原作の時期の修正力がどうなるのか、想像もつかないぞ。




何とか間に合ったどー!
すっかり4週間に1話のペースになってるなぁ……


「ネギの中の人の知識」は、UQ HOLDERの3巻までとしました。
具体的には、カリンやらが出ていて、造物主の能力やらが含まれない範囲です。造物主関連の知識を得ると、エヴァ達が何かやらかしそうなので。というか、あまり知りすぎていると元プロットから離れすぎてしまいます。
そこ、アルやヴァンがこの世界の知識として知ってるはずだし、そもそも造物主の能力を変えたらプロットどころじゃないだろとか言わない。この世界の造物主がUQのと同じ能力を持つ事は確定じゃないというか、どうしたものか迷ってたりしますし。


2017/03/22 明らかで人でない→明らかに人でない に修正
2017/04/25 目覚めが悪い→寝覚めが悪い に修正


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原作の足音編第06話 仕事するな

 ヴァンとアルにお仕置きしたり、近右衛門が女子中学校の校長に就任するのを生暖かい目で見守ったりしている間に、年度が替わった。

 魔法世界は国も造物主も小康状態を保っていて大きな動きがないのが不気味だが、明確な問題は発生していない以上、むやみに動くわけにもいかない。様子見という名の現状維持となるだろう。

 

 ネギは魔法学校に入学、そして短期で卒業すべく準備中だ。

 何度か会いに行ったりもしたが、基本的に真面目な性格だし、魔法の素質やらもかなり高いように見えるから、麻帆良に来ても能力的に邪魔になることはないと思える。

 もちろん、状況が違う上に中身が別人である以上、原作のネギとは異なる点も多々ある。父親を過剰に英雄視していないとか、魔法の基礎をしっかり練習しているとか、妙に私に懐いている……のは、原作と同じになるのか?

 

 そして、千雨だが……どうも、魔法関係への興味を拗らせたのか、本物の情報が含まれる作品の存在がまずかったのか、まだ実際に魔法を使うための指導が始まっていないせいなのか。

 着実にオタク化しつつあるらしい。

 現実問題として、口を滑らせたとしてもオタクがアニメなどの話をしているだけと思われる効果などが期待できるのだが、あえて言いたい。

 修正力仕事するなっ!

 

「えー、変身する衣装作りに目覚めたちうたんもかわいいのにー」

 

「お前が言うな。

 そもそも、チアのアイドル化を歓迎していなかったか?」

 

「それはそれでありだよ。

 むしろ、チアと魔法少女の衣装が合わさって露出マシマシ的な?」

 

「自重しろロリコン」

 

「大丈夫、紳士だから!」

 

「安心できる要素が全く無いぞ」

 

 千雨に関しては手を出していないらしいが……怪しすぎるだろう。指示内容等を確認した範囲では、手出しの証拠が見付からなかったが。

 

「それよりも、だよ。いろんなところからきてる話はどうするの?

 忍者の里の方からのとかさ」

 

「ああ、楓の事か。

 全力で英才教育をしたらしいが、麻帆良に来るのは中学からでもいいんじゃないか?

 無理に早く来る必要も理由もないだろう。いくら才能があっても、まだ子供だしな」

 

「一応、部下として慣れたり追加で必要な教育をしたりする期間を想定してるらしいよ。

 それに、こっちに来るのとどっちが厳しいか、って疑問はあったりするかも。こっちに呼ぶのが遅くなると、潰れないギリギリを全力で攻める期間が伸びる可能性があるよね?」

 

「あっちにいる望月の連中も、容赦無いからな……

 むしろ呼んだ方が良かった可能性があるのか」

 

「こっちの望月も同じくらい容赦ないけどね。

 それでもエヴァにゃんの指揮下にいるなら、それほど厳しくなかったかもとか思っちゃってさー」

 

「……まあ、どれも可能性だ。雪花達も厳しい時は相当だしな。

 他には……那波から娘を留学させる話も来ていたか。建前や手続きは一般の方だったし、私は口を出していないぞ」

 

 那波は本家が日本の方にあるが、麻帆良に本家がある雪広と同じ学年の娘がいるため交流を深めたいとかいう話だった。

 裏を読めば切りがないが、建前上は魔法に関係するものではないはずだ。

 

「でも、時期といい接触相手といい、確実に裏を意識してるよね?」

 

「しているのだろうが、咎める気は無いぞ。

 あの計画自体は耳にしているはずだし、それを意識して動くのは当然だ。原作の雪広あやかと那波千鶴の関係を考えると、むしろ遅いような気もするが」

 

「親友になるのは、時間よりも相性や濃さだと思うよ。

 えっと、他は確か、中国からも何か来てたよね?」

 

 中国からは確か、人を送るという話が進んでいる、という報告だったか。

 まだ具体的な人物の選定には入っていないはずだが……

 

「気や技術を扱う人物も必要だろう、という話までだな。

 選定基準として、古菲や超鈴音が選ばれる可能性は高い。超鈴音が中国に現れたら、だがな」

 

「でもさ、中国にいる眷属の上層部には、超の捜索に必要な情報を流してあるよね。

 罠を張って呼び込むつもりかもしれないよ? 日本に現れても、中国の方が楽に潜入できるならそっちに行く可能性が高いし」

 

「そうだという確証はないが、結果的には私達が張る網よりも捕獲率が高そうだから、依頼した甲斐があると思えばいいのだろう。雑談のついでにでも、意図を確認しておくか……

 というか、葉加瀬聡美が大学に出没し始めているのは気にならんのか?」

 

「あー、うん、いるのには気付いてたし、優秀な技術者の卵としては気にすべきなんだけど、個人的にはあんまり?

 マッドな方向に振り切れてるのは、女の子として見るときついものがあるよね。別次元のキャラクターとしてとか、協力者としてならいいけどさ」

 

「原作の連中を探していた理由は、ソレなのか?」

 

「うん、いやまさか。

 だってほら、放っておいても動向は耳に入るし、接触はもうちょい後でもいいかなーって」

 

「それは駄目だろう」

 

 少なくとも、超鈴音が現れる前には、ある程度の信頼を得ておく方が良いと思うが。

 まったく、こいつも古本の変態さに染まりおって。

 

「まあ、その辺はおいおいだね。

 他は、なんかメガロから来てた苦情って、あれでしょ。明石だよね?」

 

「機密情報を盗んだ犯罪者が云々というアレか。

 犯罪の証拠を機密だとか主張する程度に頭のネジがおかしくなっているようだから、そいつの政敵にコピーを送ってみたら静かになったぞ。

 騒動の発端になった警察の魔法関連調査担当部隊にいるのが明石裕奈の母親のようなんだが、原作だとメガロのエージェントじゃなかったか?」

 

「幕田が頑張ったせいか、メガロに日系の人ってほとんどいないんだよね。だから、修正力も頑張り切れなかったんじゃない?

 内通してたとかいう話よりは、すごく平和だしさー」

 

「まあ、そうだな。

 で、お前の方は、また誰かを見付けているんだろう?」

 

「そうなんだけど、驚きの情報があるよ。

 なんと。春日美空が、巫女さんになってました!」

 

「……悪戯シスターではなくなったのか」

 

「だってほら、幕田って神道とか陰陽とかが主流でしょ。メガロってキリスト教と仲がいいんだけど、メガロとか宣教師とかの影響力を叩き潰してきたせいか、キリスト教に関係するものって結婚式のための教会しかないとかいう笑える状況なんだよね。

 そんな状態だからなんちゃって牧師とバイトのシスターしかいないし、師事するようなシスターも当然いない、と」

 

 麻帆良は日本よりも更にキリスト教の力が弱いとは聞いていたが……そこまでなのか。

 そうなると、影響が出ていそうなのは……

 

「シャークティは確認できたのか?

 ココネは確か、ヘラスとの文化交流という名目の安定性試験と言っていたのがそうだと思うが」

 

「驚いたことに、シャークティは幕田に帰化してた上に月読神社で巫女やってて、その弟子に美空がいたんだよねー。龍宮神社の御曹司に熱烈アタックしてるマナたんに注目しすぎてて気付かなかったよ」

 

「ちょっと待て、それでいいのか?」

 

「いいのいいの。

 んで、月読神社ってエヴァにゃんの眷属の人達が関係してるから、魔法世界、特にヘラスとの繋がりも強いわけで。その伝手で魔法世界から出られるよう調整されたココネが麻帆良に来てて、シャークティの家にホームステイしてる、と。

 仮契約とかはしてないみたいだけど、現状は兄弟弟子みたいな感じ?」

 

「……修正力が、変な方向に頑張りすぎだろう。

 メガロが干渉していないのはいい事だが」

 

「それが、ちょーっとメガロを叩き過ぎたみたいでさ。

 魔法世界の作業進捗、メガロの勢力圏で遅れがあるんだよね。

 ヘラスとウェスペルタティアが順調だから全体では問題ないけど、むやみに暴走する人がでなきゃいいなーって感じ?」

 

 暴走する人……造物主が最も危険そうだが、この場合は政治屋やマスコミも問題か。

 民衆が暴走を始めると致命的な事になる可能性が高い以上、扇動する力を持つ者には注意しておく必要があるのだろうが……

 

「主要な相手には、それなりに手を打っているはずだ。

 全てに先手を打つことは不可能だし、少なくとも監視はしているはずだから、予兆が見えた時点で対処する事になるだろうが。

 不安があるとすれば、造物主がどう動くか、だな」

 

 私もある程度は上から見ているが完璧ではないし、眷属達も造物主を刺激しないように近付くことを避けている。集める物資類をチェックするのも、近隣での調達ならともかく転移で遠方に行かれたら追うのは無理だ。

 政治家やらと違って外部との接触もほぼ無いから人伝に漏れる情報も無いし、頭の中の監視などできるはずもない。

 最も厄介な相手の後手に回る事が確定しているのは、どうも落ち着かない。

 

「その辺はご都合主義的に、なるようになるんじゃないかなー」

 

「なるようにしかならない、とも言えるな」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 これまでは原作3Aの生徒でも、立場がある者の情報が来たり、特殊な能力を持つ者の情報を探したりすることが多かった。

 だが、小学3年生にもなると、才能がある者はその片鱗を見せ始めたりもするわけで。

 

「で、この夏休みにあった大会やらで、何人見付けたって?」

 

「正確には、名前だけは見付けてたって娘もいるんだけどね。

 順不同というか、メモに書いた順番に言うね。

 まず、ポスターのコンクールで、早乙女ハルナが入賞してたね」

 

「漫画読ませろ……だったか。

 ようやく見付けたのか?」

 

「名前だけはだいぶ前に見付けてたよ。まだ漫画を描いたりはしてないみたいだから、あたたかく見守るつもりだったんだけどね。

 名前が表に出たから、一応話しとこうかなと」

 

「私は別に、特殊な事情や能力持ち以外まで追う気はないんだがな。

 それでも何らかの形で目立っているなら、把握しておく方がいいのか……?」

 

 原作の生徒達とは、既に何らかの形で関りが出来つつある。

 余計な仕事をする修正力の事だから、最終的に全員と接触する可能性は高いと覚悟しておくべきなのだろうか。

 

「そういう事。

 んで、ジュニアの大会に出場してるのを確認できたのが、大河内アキラと佐々木まき絵の2人。

 水泳と新体操だから、原作通りらしいよ?」

 

「本人の好みや適性がそうなっているのだろうな。

 魔法には関わっていないんだな?」

 

「その点は大丈夫みたいだよ。

 まだそんなに大きくなってないアキラたんもかわいかったなー。あー、ロリコンになってしまうんじゃー」

 

「心配しなくても、間違いなく既にロリコンだ」

 

「相変わらずノリが悪いなぁ。

 んで、いくつかの大会の応援団に、椎名桜子、柿崎美砂、釘宮円の3人がいたのも確認済み。

 ちうたん絡みの時にも確認済みだけどね」

 

「あの時は、桜子しか名前が出てなかった気がするが」

 

 しかも、大明神とか言っていたような。

 幸運がどうのとかが由来のあだ名だったよな?

 

「そうなんだけど、ぶっちゃけそこまで注目する必要もないかなーってね。

 他には、図書館島で宮崎のどかと綾瀬夕映を見かけるくらいかな。表に出てるわけじゃないから微妙なとこだけど、僕がよく出歩く範囲で見かけるからさ」

 

「図書館探検部は無いはずだが、普通に利用しているだけか?」

 

「その辺は大丈夫だね。

 本が好きで通ってるだけみたいだよ」

 

「それなら問題ないか。

 他にも存在を確認したまま放置している人物はいるのか?」

 

「いるよー。今はただの噂好きなジャーナリストとか、料理好きなコアラさんとか。

 あ、鳴滝姉妹はなんちゃってミーハー忍者じゃなくて、こっちの望月さんちで修行してる甲賀系忍者になってるみたいだね」

 

「……それはいいのか?」

 

「いいんじゃない? ちびっこが忍者忍者言ってても、誰も本物だと思わないしさ。

 僕の方はこんなところだけど、エヴァにゃんの方はどうなのさ。ちうたんとかちうたんとかネギちゃんとか」

 

「ネギはちゃん付でいいのか……?」

 

「見た目は男の子、頭脳はお母さん、とか言うと嫌われちゃいそうだしさー。

 ほら、女の人って若く言った方がいいじゃない? 前世分を合わせたところで、僕たちの方が圧倒的に年上なんだし」

 

「その呼び方で何か言われても、私は責任を取れんぞ」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ。

 んで、ちうたんとかネギちゃんとかはどうなの?」

 

「千雨は、認識阻害耐性以外は良くも悪くも普通だ。通常の修行の範囲で特別な何かがあるわけでもないから、普通の初心者と変わらないと言っていいだろう。

 原作的にコンピュータ関係との相性はいいかもしれんから、電子精霊を扱わせると化ける可能性はあるが……引き籠りのオタクになっていないから、これも微妙か?」

 

「あー、原作ではアーティファクト頼りだったし、こっちだとパソコンにハマってないもんねー。

 ちうたんの将来は未知数ってことでいいとして、ネギちゃんは?」

 

「9月から通い始めるのは決定済みだし、順調に早期入学と短期卒業の準備を進めているぞ。魔法学校はインデペンデント・スクール……独立性の高い私学扱いだし、元々が能力の高い者の短期卒業を認めていたらしいからな。

 ただ、理想は原作生徒達の中学校入学までに初等教育を終えて同じ学年に生徒として入学、らしいが……」

 

「相当無茶な理想だよね、それ」

 

「前世の記憶やらで成績は底上げできるといってもな……まあ、これは努力次第だからいいとしよう。

 どうも、ネギは体が男という事を意図的に忘れている気がする」

 

「それ、いいの?」

 

「良くないだろう。原作の舞台は女子中学校だという事は伝えてあるし、ネギ自身も同じ学年と言っても同じ学校とは言っていないが……どうもな」

 

 原作と同じ状況にはならない事は確定しているとはいってもだ。

 本当に、修正力は仕事するなよ?




シャークティは和名を使わせようか悩みましたが、諸々の理由で没となりました。
たぶん「名」だと思うのですが漢字にすると「姓」っぽくなる上に、アスナ(レイ)以上に名前を忘れられそうだったので。

没ネタ:
「あ、ちなみに和名は紗口(しゃくち)らしいよ」
「あまり日本的ではないが……まあ、変に変えるよりはマシか」
「巫女の紗口(しゃくち)さんを誰かが発音間違いかつ短縮して呼んだせいで、あだ名はミシャグチさんだってさ」
「……女性なのに蛇で御立派様なのか」


連絡事項:
元旦前後はPCが使えない環境になる等の事情により、1週間以上執筆が止まります。
そのため、現状の4週ごと投稿にも間に合わない可能性がとても高いです。
1月25日(6週間後)には間に合わせる予定なので、気長に待っていただけると幸いです。


それでは、よいお年を


2017/04/25 以下を修正
 魔法世界から出れるよう→魔法世界から出られるよう
 変わらない言って→変わらないと言って
2017/05/15 一応話とこう→一応話しとこう に修正


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原作の足音編第07話 関係者ホイホイ

「やれやれ、思ったよりもだいぶ遅くなってしまったな」

 

「都合のいい時に、という条件での呼び出しでしたので。

 当人の気質を考えると、イベントが多い夏休みの後になるのは必然ではないかと」

 

 雪花と話しながら長い廊下を歩いているのは、応接室へ移動するためだ。

 ようやく会える事になった相手が、そこに来ているのだが。

 

「イベントで発表した内容の前提を破壊しかねないんだがな。

 まあ、話を聞いた後でどう判断するかは、本人次第か」

 

 そして、応接室に入って。

 そこにいたのは、緊張した表情の葉加瀬聡美……いや、信じられないものを見たとでも言いたげな唖然とした表情に変わったか。

 

「大学教授と繋がりのある引きこもり技術者という説明で、隠居老人でも想像していたか?

 私の事は、あれだ。小人症のようなものだとでも思っておけばいい」

 

「は、はい……」

 

 やっぱり微妙な表情になったが、嫌悪感はなさそうだな。

 会話のテーブルには、このままいてくれそうだ。

 

「さて、来てもらった理由は聞いていると思うが、改めて説明するぞ。

 端的に言えば、お前が持つ才能を私のところで生かしてみないか、という点に尽きる。日本的な言い方をすれば青田刈りだな。

 私が望むものは、技術開発だ。色々と欲しい技術があるから、その中から興味があるものを選ぶもよし、私の目標に合う予想外の技術を開発するもよし、これを作れと強制する気はない。

 こう見えて世界各地の技術者とのコネもあるし、ある程度以上は実績に応じたものになるだろうが予算も付けられる。ごく一部にしか知られていないような、隠された情報を見る機会も作れるだろう。

 ここまでで、質問や疑問点はあるか?」

 

 表情を見る限り、話した内容は理解しているように見える。

 疑問を探しているのではなく、言葉を探している感じか?

 

「……どうして、私なんですか?

 他にも優秀な人はいっぱいいるはずです」

 

「それを質問できる人物だから、という返事では納得してもらえそうにないな。

 最も期待するのは、年齢に不相応な頭脳と、年齢相応の柔軟性だ。

 実績を重ねた技術者は、自らの成功体験に縛られる。その呪縛に負けない者は稀である以上、縛られる前にある程度の実力を持った者を見付けたら確保しておきたい。

 お前でなければならない程の強い理由はないが、何もせずに見過ごす理由もない、と言えば意図は伝わると思うが」

 

「そうですか……」

 

 実際は原作の人物という理由があるが、これを伝えることはできん。

 表向きの勧誘理由がこれである以上、強い説得は難しいだろう。

 

「……それなら、どんな研究を、どれくらいの予算でやることになりますか?」

 

「それこそピンキリだな。

 私が主導するものは技術開発が多いが、製品開発は協力関係のある企業が中心になって色々やっている。方向性は……色々としか言いようがないくらい、多岐にわたる。

 同じ研究でも、研究途中の副産物が見込める手法を使えばその分の予算も付いたりする。

 自分で手法と見込み額を決めて提出すると、審査や協議の上で実際にその額が出る場合もある。

 誰が出資するかでも許容される額が変わるし、信頼関係やら出資者の興味やらの理由で少々無茶な予算が通ったりする事もある。

 個人の趣味レベルで数万の予算が付いた事も、巨大プロジェクトで数千億が動く事もある、とは言えるが、あまり参考にならんだろう?」

 

「それなら……社員の教育システムは?」

 

「書類やらの組織運営に関する基本的な部分は、最初に研修として行う。

 それ以降は誰かに弟子入りしたり、どこかの企業に所属して指導してもらったり、色々やっている教室を任意で受講したり、だな。

 当面は学校へ通いながらになるし、少なくとも高校までは進学しても全く問題ない。大学は研究やらが出てくるから、少々調整が必要な場合がある事は覚えておいてくれ」

 

「研究内容を指定されることは?」

 

「あまりないな。

 もちろん、師匠や所属企業からの指示はあるだろうし、独立的な立場でも希望する内容に予算が付かない場合やプロジェクトへの参画を依頼される場合もあるだろう。

 逆に参画を断られる事もあるだろうし、将来的には後継者や助手を育てる必要も出てくるから、やりたい事だけを好きなだけできるとは言えんが」

 

「それなら……えっと、どんな企業や人物が関係しているのですか?」

 

「研究内容を推測するためか? 具体的な名前だと切りがないから、一応企業の業種くらいは挙げておくか。

 電気、金属、流通、情報、通信、化学、建築、農林水産、食品、繊維、医薬品、金融、石油、鉱業、バイオ、半導体、軍事……他にもあるし、本業とは別の研究をしている時もあるから、研究内容は多岐にわたる。

 最近多いのは人工知能関係だったか。自動車の自動運転ができないかとか、危険な作業にロボットを使いたいとか、そういう方面への応用に期待しているようだが」

 

 ん? やはり、ロボットという言葉がキーだったか。

 少し目の色が変わったな。

 

「その方面に興味があるのか?

 私が知る範囲であれば、もう少しなら詳しく話せるが」

 

「お願いします! 特にロボットについて!」

 

 おおう、随分と食いつきがいいな。

 そうか、ロボット関係がいいのか。

 

「私が知る範囲だと、実際にロボットを作るというプロジェクトは色々と動いているな。

 産業用ロボットと呼ばれるようなものはピンキリだが……これは最適化を極める方向だから、一般的な人気は微妙だろうし、除外するぞ。

 人を模倣するものだと、マスコミやらで紹介された歩行ロボットは知っているだろうし、それ以外でも今は表に出せないような技術で作っているものが複数ある。

 いわゆるアンドロイドを目指すものもあるが……そういったものには優秀な趣味人が集まるし、情報の規制も強い。参画するならそれなりの実績が必要だぞ?」

 

「が、がんばります!」

 

 おや?

 これは思ったよりも簡単に釣れた……という事で、いい、のか?

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 葉加瀬が私の屋敷に出入りするようになって、数か月。

 その間にネギが魔法学校に入学したり、千雨が電子精霊使いの才能を見せ始めたり、秋の子供料理大会で四葉五月が優勝しているのを見かけたりしたが。

 現状で最大の問題は、葉加瀬聡美の優秀さだろうか。

 確かに魔法の存在は教えたが、そこからの吸収が速すぎる。具体的には、知識面だけなら数日で千雨を追い抜く程度に。

 

「しかし、そこまで根を詰めなくていいと思うがな」

 

「いえ! こんな技術が存在していたことに気付かなかった事も許せませんが、それによる遅れを速やかに取り戻す必要がありますから!」

 

「一般的には知らないのが普通で、この技術を使うと表に出せなくなるからな?」

 

 そんな会話もあっても、当人は全く気にする気配がない。

 収入や名声といったものより、得た技術やその成果物に自分がどれほど満足できるか、が重要だと言っているが、これはあれだ。

 よく見かける、マッドな連中と一緒だな。

 

 もちろん、木乃香や千雨達とも接触している。

 孤独にならないように会うよう仕向けたと言うか、会わせないような工夫をしなかったと言うべきか。とにかく、今は修行仲間的な感じで仲良くやっている。

 修行の合間の雑談という名の息抜きで千雨の才能が発覚しているし、葉加瀬自身は魔法の発動に手間取っている。木乃香は明らかに修行が厳しい上に期間が長く、雪凪に至ってはそもそも分野が違うため、天才と凡人やらを気にして嫉妬するといった事もないようだ。

 私という存在を知っているせいか、人外的存在に対する順応性も高くなっている。さよやアスナ(レイ)と顔を合わせた時も、簡単な説明で受け入れていたからな。

 結果的ではあるが、いいメンバーが集まったと言っていいだろう。

 

 そして、原作ほど強烈な認識阻害が行われていないためか、同級生の行動が明らかに変わったせいか、複数の同級生がこそこそと似た行動をしているためか、本人の資質故か。

 葉加瀬を尾行してきた人物が捕まり、私の前に連れられてきた。

 

「さて、ここがどういう場所か、ザジあたりに聞いているものと思っていたが。

 何か言い訳はあるか?」

 

「いえ、ありません。知った上で、お願いに来ました」

 

 来ているのはマナ・アルカナ。

 魔族ハーフとしての自覚があり、ぽよぽよ言う方のザジの指導と保護を受けている以上、正式な依頼であれば魔界方面から話が来るはずなのだが。

 

「それは、お前個人で対価を払えるものか?

 ザジや魔界を介していない以上、個人的なものと判断するが」

 

「はい、私自身で判断したものです。それに、対価として十分なのかはわかりませんが、少しは価値があるのではないかと思います」

 

「ふむ。叶えるかどうかはともかく、願いを言ってみろ。

 それによって、必要な対価も変わるだろう」

 

「わかりました。

 魔法を公開する際に、私を魔族との融和の象徴として使ってください」

 

「……ちょっと待て。

 それは、どちらかと言えば対価に相当するだろう。そうしたい理由はなんだ?」

 

「ええと……幸樹(こうき)の役に立ちたいと……」

 

 幸樹……龍宮神社の御曹司だな。マナが熱烈アタックしているとかなんとか聞いた気がするが、これもその一環なのか。

 というか。

 

「それはザジやらが指導の対価として求めてもおかしくなさそうな内容だが、話し合いはしたのか?」

 

「ザジ先生は、私をそういう事に使う気がないようです。

 むしろ、一般的な人間の生活を推奨されました」

 

「あえてそれに反抗する理由は、恋か? それとも反抗期的な何かか?」

 

「愛、です」

 

「愛か。

 一応言っておくが、愛は意外に儚く、望む道は想像以上に険しいぞ。しかも愛が実る保証は無いのに、踏み込んだら戻れない泥沼の道だ。ついでに魔界側の協力がなければ象徴とすることはできん。

 それ自体が対価になりうるという理由と意味をもう一度考え、その上でザジを説得できたら、もう一度来るといい」

 

「今はまだ、だめですか……」

 

「象徴に使うという意味を考えることも、宿題に追加だな」

 

 全く、私一人で全てを思うようにできるなら、とっくに色々な問題が解決しているのだが。

 その辺はまあ、身体的には早熟な女の子であっても子供という事か。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「侵入者が1人、害意のない子供だったため強めに説教して解放、か。

 裏は無さそうだったのか?」

 

 マナが来た、その夕方。

 今日の警備担当だった雪花が、珍しい出来事を報告しに来た。

 

「はい。小学3年生の少女で、友人が出入りするところを何度も見ているため、興味本位で入ってしまったようです」

 

「……先に聞いておくが、朝倉か?」

 

「朝倉和美という名の、近衛木乃香やマナ・アルカナと同じ学校の同期生である事は、当人達の証言で確認済みです。

 ヴァンの注意人物リストで、パパラッチ化の可能性があるとされている人物で間違いありません」

 

 ……まあ、間違っていないが。

 それにしても、朝倉がここで来るのか。やけに原作の人物が関わろうとしてくる事にも、ヴァンやアルの仕込みがあるんじゃないだろうな?

 

「やれやれ、少なくとも現時点では立場や能力的な理由も無いし、本来は関わる必要のない人物のはずなんだがな。

 それで、説教はどんな内容だったんだ?」

 

「理由がどうであれ、行動は明らかに犯罪である事。

 行動を探られる事を嫌がる人物も少なからずいる事。

 見たことがそのまま真実を示さないこともあり、誤った情報を広めると相手を傷付ける事。

 仮に相手が良からぬ行為をしていて、それを止める必要がある場合、無暗に踏み込むことは危険が伴う事。

 概ねこの様な内容だったと記憶しています」

 

 普通の内容……だな。

 少なくとも魔法に関する情報は含んでいないし、人が相手である以上は当然気にすべき事だ。パパラッチが明らかに無視している事とも言えるが。

 これでパパラッチ化を防ぐことが出来れば上出来、効果がなくこれ以上私達に関わってくるならそれなりの対処をするだけだな。

 

「それで、情報としては何か見られたり知られたりしたものはあるのか?

 あいつらと顔を合わせたなら、どうしてここにいるかという説明はしただろうし」

 

「木乃香と雪凪は元々、個人的に古来の文化等を学びに来ていることになっています。

 マナは、個人的に色々教えてもらっている先生がここの住人と仲が良いため、その関係で少し話したいことがあったと説明していました。それ以上の詳しい話を避ける理由もプライベートなものでしたので、不審に思われてはいないでしょう」

 

「それ以上探られていないなら、特に問題は無さそうだな」

 

「ですが、関係してくる可能性が高い人物であると聞いています。

 実質的に放置してもよいのでしょうか?」

 

「何か心配でもあるのか?」

 

「計画の実行前後で、障害や手札となる可能性があるのならば、今のうちに手を打っておく方が良いのではないかと」

 

 まあ、雪花の主張もわかる。

 実際、ヴァンやアルは早めに手を打つ方向で動く事が多い。手段として精神の召喚を使うというのは、どうしても許せないが。

 そして、朝倉和美という人物を考えた場合、手札として強力な近衛木乃香や葉加瀬聡美、手助けが必要な長谷川千雨とは大きな差がある。

 

「あの計画の実行まではあと6年も無いが、その頃に障害や手札となるほどの影響力を持てる人物かというと微妙だぞ。

 その更に5年や10年先になると話は変わるだろうが……そこまで私が関わる必要は無いと思いたい」

 

「確かにそうですが。

 そうなると、現時点で何らかの関係がある者以外については、エヴァ様が進んで関わるつもりは無いという事でしょうか?」

 

「無いな。調査依頼をしている超が、私から関わる最後の関係者になるはずだ。

 ……ヴァン達が連れてくるのはともかくとして、なぜか関係者の方から寄ってくることが増えているが。

 私は関係者ホイホイなのか?」

 

「関わりやすい立場ではあるでしょう。

 数年後には甲賀の里から長瀬楓が来ることは確実ですし、財閥系などにも似た意向を持つ者がいるようですよ」

 

「……やはり、ホイホイなのか」




ぎ、ギリギリだったぜ……
というわけで、正月休みを含む6週あっても、書き溜めが出来ない私がいます。
仕事とか体調とか……え? 艦これ? ……まあ、そうね(レベル60を超えた天津風を見ながら)


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原作の足音編第08話 鴨葱

 さほど日を置かずにマナがザジを連れてきて、マナを広告塔として使うための話し合いが行われた。

 ザジは魔法を公開するなら魔界についても公開が必要だと思いつつも、イメージアップに子供を使う事に反対していたらしい。

 だが、当の子供自身が望むのであれば仕方ないと受け入れることを決め、それでも不安があるから妹を補佐に就けることにしたそうだ。

 

「妹の名前はザジポヨ。人が聞き分けるのは難しいから、私と紛らわしいと思うポヨ」

 

 ……どうやら、ザジ(妹)が学生として幕田に来る道筋が、出来てしまったらしい。

 とまあ、それはともかくとして、だ。

 春になった。

 ザジ・レイニーデイ(妹の方)が留学生として麻帆良に来た。これはまあ、話し合いの結果だから問題ない。

 村上夏美も、麻帆良に来た。これは予想外だ。

 どうやら中京の企業グループからも裏を知る人が来たのだが、その中に、家族で来た村上という人物がいたらしい。

 ……いやまあ、令嬢とかではないし、原作でも雪広や那波と同室だし、そういう繋がりを否定する理由も無いんだが。

 そんな感じでどんどん周囲を固められている気がする、暖かなある日の夜。

 

「エヴァさん、お久しぶりです」

 

「ああ、久しぶり。すっかり春だが、日々は問題なく過ごせているか?」

 

 時折ある、ネギからの電話があった。

 時差の都合もあるし、短期卒業を目指すネギのスケジュールはかなり詰まっている。それでも隙を見ては連絡を入れてくるのは、私の力という傘を求めているからか。それとも、転生者仲間という同類を求めているからか。

 

「それなんですけど、今朝、びっくりしたことがありました!

 あ、4時間ほど前なので、日本では夕方頃になります」

 

「それは分かるが、何があった?

 驚くだけで済むなら、問題があったわけではないのだろうが」

 

「それが、いいのか悪いのかもよくわからないんです。

 ええとですね、端的に言うと、オコジョ妖精に会ったんです」

 

「ああ、そういえばこれくらいの時期になるんだったか。

 エロなカモで間違いないか?」

 

「いえ、カモではありましたけど、エロじゃないんですよ。

 なんだか、すごく礼儀正しい感じでした」

 

「ほう。まあ、それを聞くだけなら、いい事なんじゃないか?

 中身女性としては、やたらエロ方向に暴走するのがうろつくよりはマシだろう」

 

 またヴァンか。それともアルの方か。

 召喚についてはネギの時にかなり強く禁止したから、今回は違う手法だと思いたいが……とりあえず、エロガモ殺処分案は保留にしておくべきか。

 

「それが、カモちゃんなんです。

 ボク達にとっては性転換なんですけど、後天的な性転換とかじゃなくて、生まれた時から女の子で……」

 

「ああ、うん、大体わかった。

 オスだと思っていたのは原作を知る私達だけで、出会ったカモは間違いなくメスである。という事でいいんだな?」

 

「はい。名前もアルベルティーヌ・カモミールでしたし。

 病気の家族とかはいないそうですし、今は配達とかの仕事をしながら仕える人を探してたと言っていました」

 

「妹の設定は、原作でもただの言い訳のような感じだったが。

 だが、(あるじ)を探していたというのは?」

 

「大きな仕事をする人の片腕になれ、と言われて育ったそうです。なので、仮契約や恋愛調査以外にも、情報収集とか治療とか、色々な技術を身に着けてるそうですよ。

 過去形なのは、なぜかボクを気に入っちゃったみたいで……」

 

「そうか……これも修正力の一環、なのか?

 誰かが転生しているとか、お前を主とするよう仕向けられているとか、そういう様子は無いんだな?」

 

「無いと思います。少なくとも、話した感じではそういう雰囲気は見えなかったです。

 最初からボクを目指してたわけでもなさそうでした。気に入った理由も、年齢に不相応な言動と魔力の制御技術、それに魔力の多さを挙げていましたし」

 

 カモがネギの使い魔として、手助けをする。そういう修正力が働いているのは確かだろう。

 だが、カモが礼儀正しいメスになり、サポート能力が高まっているのは……自然にこうなることは無い、少なくとも性別が変化した例は今までなかった以上は、人為的な手出しのはずだ。

 ヴァンやアルは、とりあえずエロガモでなくなれば、ネギの使い魔にならなくても問題ないと判断したのか? あからさまにネギを狙えば、間違いなく警戒されるからかもしれんが。

 

「とりあえず、人格や能力に問題が無いなら、使い魔の契約を結ぶ事を止める必要もないな。

 出会いは罠にかかって云々といったものだったのか?」

 

「いえ、普通に魔法世界からの私信を隣の家に届けに来たところに遭遇しました。

 ボクが学校に行く時だったんですけど、カモちゃんがポストに乗って手紙を入れようとしてるところを見て、盗もうとしてると勘違いしちゃいまして……」

 

「早とちりは置いておくが、会話しない可能性や、そもそも会わない可能性もあったのか」

 

「はい。オコジョ妖精が配達してるところを見たのは初めてですし、カモちゃんがあの村に来たのも初めてと言っていました。

 いろいろなところを見たいからという理由で積極的な配置換えを希望していて、少し前までもっと北の方を担当していたそうですよ。

 ボクがいるから当面はここに固定して、魔法学校卒業に合わせて配達の仕事を辞めるんだと、嬉しそうに言われちゃいました」

 

「それはまた……随分とご都合主義的というか、修正力が頑張っているというか」

 

「ですよねー。

 受け入れても問題なさそうでしたし、話していても嫌な感じは無かったですけど、報告しておいた方がいいですよね?

 ボクも修正力とか気になりますし」

 

「なるほど。それで、使い魔として受け入れた本当の理由は?」

 

「断ろうとしたときの悲しそうな目が……はっ!?」

 

「なるほど、そうだったのか」

 

「は、はかりましたねっ!?」

 

「いや、今のは自爆だと思うぞ?」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「で、今回は何をどうやったんだ?」

 

 ネギからの電話が終わってから、1時間ほど過ぎただろうか。

 何らかの資料らしいコピー用紙を片手に持つ嬉しそうなヴァンが目の前に来たなら、問い詰めざるを得ない。

 

「え、何の話? 和泉ちゃんには何もしてないよ?」

 

「……ちょっと待て、お前の用事は和泉……和泉とは誰だ?」

 

 オコジョ妖精の話で来たわけじゃないのか。

 和泉……和泉か。どこかで聞いた事のある名前ではあると思うんだが……

 

「うわ、本気で忘れてるよこのエターナルロリ」

 

「ロリ言うな。で、誰なんだ?」

 

「原作の生徒! でっかい注射でドーピングしてくる気弱なナース、背中に傷があって大人モードのネギに恋した色々と不幸な娘!」

 

「……ああ、そういえばそんな名前のもいたな。

 で、今回は手を出していないのか?」

 

「そもそも見付けてなかったんだから、手を出せるわけないよ。

 それでさ、うちの病院って高度な医療もやってるじゃない。事故で大きな傷跡が残った和泉ちゃんを何とかできないかって相談が来て、手術が決まったらしいんだ」

 

「ふむ……怪我をしたという点は原作を踏襲したんだな。まあ、原作よりは心の傷が軽くなる要素にはなるか。

 どの程度手出しする気だ?」

 

「見付けたって話をしに来ただけだし、手を出す気は無いよ。そこまで有用な……能力のブーストは有用な気もしなくはないけど、原作と同じアーティファクトになるかわかんないしさ。

 ネギじゃなくてネギちゃんだから、契約するかどうか自体もわかんないし」

 

 手出しをしないなら、まあいいか。

 それよりも、だ。

 

「そうだな。で、ネギにも関係する、最初の話に戻すぞ。

 カモに対して、何をやった?」

 

「カモ? オコジョ妖精の話だよね。

 フランスにあったオコジョ妖精の集落でカモミール姓を見付けた、って事は言ってあったと思うけど、その時に、ちょっと予言じみた事を言ったんだ」

 

「その内容は?」

 

「将来男の子が生まれたら、その者は犯罪者に育つだろう、って」

 

 おい。

 

「ある意味では正しいのかもしれんが、やり方が詐欺師や悪質な宗教の手法だぞ」

 

「大丈夫、ここからは悪質じゃないはずだから。

 それで、色々話し合った結果、しっかりとした教育を施す、そのための資金を僕が援助する、しばらく女の子しか生まれない呪いをかける、って感じで合意したんだ」

 

「はぁ? いや、本人達が一方的に不利な内容でもないし、それはそれでありなのか……?」

 

「子供は否定してないし、子供の教育を手伝うって話なんだから、ありってことで。

 本人……本オコジョ? との話とは別に、かなり厳しめだけどしっかりした教育者も送り込んで、私塾的なものも用意したよ。そっちにも援助したから、集落全体から感謝されたし。

 その後の監査では問題ないって報告を受けてるんだけど、何か耳に入るような問題が出てた?」

 

 ……つまり、あれか。

 カモがネギのところに来たのは、こいつらが扇動したり強制したりしたわけじゃない、という事なのか。手の出し方も思ったより真っ当だし、問題ないと言ってよさそうではあるな。

 

「いや、今朝……現地での今朝だが、ネギがカモと接触したらしい」

 

「あれ、そうなの?

 あそこの姉妹は真面目に仕事してるって聞いてるけど」

 

「姉妹なのか?

 とりあえず、エロでも罠にかかるような間抜けでもないようだが、ネギの将来性を感じたのか、使い魔契約を予約したような状態になったらしいぞ」

 

「へー……まあ、優秀な生徒だって話は聞いてるし、問題ないとは思うんだけど……」

 

「想定外なのか?」

 

「うん。優秀なんだから、普通にいい身分の人のところに行ってると思ってたよ」

 

「普通に配達の仕事をしていて、ネギのいる村に来たところで出会ったらしいぞ。

 というか、あの村を担当するなら、それなりに優秀かつ信用されているんじゃないか? ナギとネギの身分的に」

 

「……ああっ!?」

 

 お、なんだか珍しく、ヴァンが驚いているな。

 というか、気付かなかったのか……

 

「やりすぎちゃったのかなぁ……まあ、原作みたいな暴走はしないと思うし、大丈夫かな。

 暴走するようなら粛清すればいいよねっ!」

 

「まあ、それは構わんが。

 で、これ以上は手出ししたという話は無いだろうな?」

 

「たぶん?

 あー、これは僕でもアルでもないんだけど、とあるパイナップル頭ちゃんが魔法の勉強に参加し始めた、って事は聞いてる?」

 

「パイナップルか。朝倉の事か?」

 

「そうそう。結構強く説教されてたはずなんだけどねー」

 

「指導や監査、折衝担当やらがいいと言っているなら、問題ないのだろうが……

 本人の気質としてはパパラッチ系だろうが、それ自体は雪花も言っていたから認識しているはずだ。

 という事は、調教される様を生暖かく見守ればいいのか?」

 

「性的な意味で?」

 

「私にそういう趣味は無いし、眷属達からも聞いたことは無いぞ。

 そもそも、肉体年齢すら私より年下の小娘をどうしたいんだ」

 

「肉体年齢は、ねー」

 

「何が言いたい?」

 

「身長は、もう負けてるよね?」

 

「うるさい。当時はこれでも普通だったし、それで傷付くのは私ではなくゼロだ」

 

「ゼロちゃんは気にしてないと思うけどなぁ。ちっちゃくなっちゃってるし」

 

「だからこそ気にしていたら、どうするつもりだ」

 

 というか、私が気にしているんだ。

 無理してもあれ以上は希少素材を集められなかったし、集められた量ではあの大きさが限界だったのは確かなんだが……

 

「まあ、それは気にしても仕方ないってことで、置いておくとしてさ。

 エヴァにゃんの練習は大丈夫?」

 

「魔法のか?

 大丈夫じゃないな、大問題だ」

 

「えー」

 

「仕方ないだろう、あの量の魔力を使うと影響が大きいから、騒ぎになるのが確実なんだ。

 制御自体は問題ないと思うんだが、本番では不要な隠蔽技術ばかり磨いている気がするぞ」

 

「起きてる人が少ない時とかに、がーっとさー」

 

「だいぶ前に試した時は、そこら中の裏組織で騒ぎになりかけたじゃないか。

 かなり甘かったあの頃の試算で問題だったんだ。現状の本番を想定した魔力運用のテストなんて強行したら、どんな騒ぎになるかわかったもんじゃない」

 

 それだけにこそこそと練習するしかないんだが、扱う必要がある魔力量が多すぎるという問題は解決できない。繊細な制御が上達している実感はあるし、感覚としては必要な魔力を扱えそうではあるが、実際に試していないのは不安が残るのも事実だ。

 だからと言って、世界を……表も裏も関係なく、文字通り世界を混乱させるような真似はするべきではないだろう。

 

「世界平和のためだとか言って、強行しちゃいたいよねー」

 

「関係者はともかく、世間一般にはそうするしかないんだがな。

 今から出来るのは、どうにかして成功率を上げる事だけだ」

 

「そうじゃなくて、テストとかをさー」

 

「ああ、そっちか。

 魔法の公開を前倒しする必要がある上に、畳み掛ける計画が吹き飛ぶな」

 

「そうなんだよねー。

 世界は、こんなはずじゃない事ばっかりだー!」

 

「どこぞの黒い執務官かお前は」




ザジ姉妹の名前は、英語が超苦手な人に「Runa」と「Luna」を聞き分けろ、的な感じで。
なお、私はGoogle翻訳の英語でこの2単語を聞き比べてみましたが、音程以外違いがわかりませんでした。どうやって聞き分けろと……


そして、やっぱり次話が全く書けていない件。構想はできても、文章にできない……そうか、これが倦怠期か(違
移動や休憩の時間に色々考えても、メモする前に忘れる記憶力の無さは何とかなりませんかねぇ。
あと、時間の無さも。
艦これ? あれでしょ、レスラーが登場したとかいう噂の(大違


2017/04/25 粛清すればいよねっ→粛清すればいいよねっ に修正


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原作の足音編第09話 作られる道

「ああ、既に近右衛門が困り始めたのか……」

 

「相談が早いので、対処する時間はありますね」

 

 再び、春になった。

 木乃香達が5年生になり、小学校生活が残り少なくなってきたという事でもある。

 それに伴い、周囲の大人達は中学校も視野に入れ始めているのだが、女子中学校の校長である近衛近右衛門が幕田に……正確には望月や私になのだろうが、相談に来たそうだ。

 曰く、私や私の計画に関係する人物が不自然なまでに集中するため、いっそ1クラスにまとめてしまい、その担任として私か私の関係者を配置することはできないか。

 その話が色々経由して、最終的にゼロが私に伝えることになったようだ。

 

「いやまあ、アレが麻帆良に来た頃は私も教師をしていたし、候補に私が入っていること自体は不思議ではないんだがな。

 集まる生徒は、摂家関係の木乃香達、魔界関係のマナ達、魔法を知る葉加瀬や千雨達、財閥の令嬢達、それと……」

 

「忍者関係者、中国からの留学生、現時点では私達と関わっていない魔法を知る生徒達も加わるでしょう」

 

 ああ、いたな。

 既に話を聞いている魔法関係者も、今後は無関係というわけにもいかないだろうし。

 

「長瀬楓は確定だったな。中国の方から、何か新しい情報は来ているか?」

 

「正式な情報ではありませんが、幾人かの候補には日本語なども教え始めているそうです。

 その対象者に古菲の名がありましたし、他の候補も同じ学年の少女でした」

 

「少なくとも古菲又は同学年の誰かが来る事は決定済み、と言っていいわけか。

 あの学年で魔法関係者は他に、美空と……明石もか?」

 

「家庭内で教えている可能性は高いでしょう。

 この時点で、クラスのほぼ半数ですね」

 

「その中に、立場やバックが重要な連中もそれなりにいる、と」

 

 現状で私達と明確な関係があるのは、近衛木乃香、桜咲雪凪、長谷川千雨、葉加瀬聡美、マナ・アルカナ、ザジ・レイニーデイ、朝倉和美。

 企業や組織が関係しているのは、雪広あやか、那波千鶴、村上夏美、長瀬楓、恐らく古菲。

 現状で魔法に関係している、春日美空、恐らくだが明石祐奈。

 この時点で14人だが、生徒にならないだろうエヴァ(わたし)、相坂さよ、明日菜、現時点で存在していない茶々丸、超鈴音を引いた26の半分を超えている。

 私達の計画に関係させようと送り込まれている者を多数含むため、私達との協力関係は必須。

 令嬢やら留学生やらを複数含むため、指導力も手を抜けない。

 それらの背景を知った上で、30人近くの暴走しがちな中学生の手綱を取る必要がある。

 うん、なかなか厳しい条件になるのは間違いない。

 

「ちなみに、中学校を担当する望月関係者はかなり少ないそうです。

 その者達は高学年の主任などを担当することが多いですし、仮に1年生の担任としても、相談などで手を取られてしまう可能性が高いようですね」

 

「優秀なだけに、生徒からも頼りになると思われているからか……

 そうなると必然的に人の出入りも増えて、計画やらについて時間が取りづらくなる、と」

 

「はい。ですが、頼りにならないと思われている人物を割り当てるわけにはいきません。

 結果的に、他校から移動させて担任を任せるのが無難であり、その人選を相談されるのは必然と言えるでしょう」

 

「まあ、そうだな。で、実績や実力がある教師はどこも手放したくないだろうし、予想される重圧やらを考えると気軽に頼むとも言いづらい。だから、関係者で教師をしていた事もある私に目を付けたという事か。

 ……そもそも、私の教員免許はまだ使えるのか?」

 

「更新制度が必要ではないか、という声はあるそうですよ」

 

「……もう使えない、という言い訳は駄目か。

 計画の実行は連中が3年の時だが、その前後は私が動けない事はどうなんだ?」

 

「それこそ、望月に任せればよいのではないかと。

 3Aの担任で学年主任。決行後の混乱に対処するには、良い配置でしょう」

 

「そうなるのか。私のところまで話が来た時点で、望月やらも私を推薦しているのだろうが……これは、あれか。ネギから聞いた、雪姫とかいう名前を使うべき場面なのか?」

 

 あの話だと、田舎の学校で教員をしているんだったか。

 麻帆良ではなかったはずだし、今回は関係ない……よな?

 

「教員免許は、幕田重羽の名義だったはずでは?

 名を変える手間はともかく、本名を知る関係者も多いのですから、間違えた時の説明が面倒になるだけですね」

 

「まあ、そうだな。

 あの話の事を気にしないでおこうとしても、妙に思い出すのが困るな」

 

「知ってしまったことの弊害でしょう。

 ネギまの知識も同じ現象を引き起こしていますから」

 

「明確に問題点が見えるだけに、余計質が悪いんだがな。

 知識が無ければ、あの計画は無かっただろうし」

 

「眷属の組織は否定しないのですか?」

 

「規模はともかく、似たようなものは作ることになっていた気がするぞ。

 何かあった時の逃げ場とか、社会的な影響力とか、得るものは多いしな」

 

 当時ほど積極的ではないだろうが、組織作り自体はゼロに誘導されただろうと予想するのは簡単だ。

 ゼロは、マシューとリズ……最初の眷属を作る時から、利点と問題点を冷静に判断していた。自分達の力や魔法に関係する組織を知れば、何らかの形で対抗できる手段を得ようと動いていただろう。

 

「とりあえず、話を戻すぞ。

 お前達としては、私が教師として直接関わる事に賛成なんだな?」

 

「消去法的な選び方ではありますが、望月関係者と幕田関係者は概ね賛成寄りです。

 反対寄りの意見は、イシュトや護衛担当、それに防衛部門からが多いですね」

 

「強い賛成や反対は無いのか」

 

「強い意見を出す理由がない、といったところでしょうか。

 それよりも、月の一族の長という立場を無視する割に引き籠りすぎだ、という声の方が大きいですよ?」

 

「引き籠り……まあ、確かにそうなんだが。

 昔ならともかく、ネットやらが発達している現代で、私が表に顔を出していいのか……?」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 秋が深まり、もうすぐ冬の足音が聞こえてくる頃。

 中庭で行われている、関係者……正確には日本呪術協会関係者の訓練を通りがかりに覗いてみたら、そこに見慣れないモノがあった。

 

「ふむ……日本刀型のデバイス、だな?」

 

「はい。体形に合わせて少々小振りですが、日本刀としてもかなり良い出来です」

 

 それを雪凪に渡しただろう雪花がそう言うなら、間違いないのだろう。

 雪花の刀を見る目は確かだし、日本刀の部分を作っただろう桑名の連中は変態が極まっている。

 普段から趣味と称してたたら製鉄から仕上げまでを全力で研鑽し続けているらしいから、腕が鈍っている事もないというか、練習用に作ったものでも実践で使える出来だったりするから、いい人物を得たというべきか、癖のある人物が多く集まっていることを嘆くべきか。

 

「デバイスとしては、一般公開用のレベルだな?」

 

「勿論です。

 予想通り、今度の正月に帰省した際、関係者に見せてよいか聞かれましたし」

 

「子供のおもちゃとは違うが……まあ、現状では大人でも優越感が得られる程度には珍しい品ではあるか」

 

 ストレージデバイスの基本的な部分しか製造方法を公開していないせいか、地球では幕田の特産品のようになっている。大々的に導入や販売をする気が無いなら、私達から買った方が労力やコスト的な負担が小さいという事もあるらしいが。

 メガロの連中は個の優位性や従来の価値観が崩されることを危惧してるのか、一部の連中……特に私達との関係が薄い政治屋やら力で成り上がった連中やらが、口うるさく否定している。そのせいで知名度は上がっている面もあるが、研究はしても販売しようとする者が現れていない。実力優先の賞金稼ぎやら傭兵やらが自分の判断で持つことはあるようだが。

 ヘラスとウェスペルタティアは、少量だが生産を行っている。その理由が、私達との関係によるものなのか、未来を見据えてなのかは、判断が難しいところだが……幕田からの小規模な輸出と合わせれば、需給のバランスが取れているらしい。

 その程度しか売れていない、という話でもあるが。

 

「呪術協会の長が近衛詠春、つまり剣士なので、日本刀の部分を自慢する意味もありそうです」

 

「詠春か……夕凪は今もあいつが持っているのか?」

 

「譲ったという話は聞いていません。

 本人も鍛練を怠っていないようですし、自身が表に立つ事も視野に入れているのではないでしょうか?」

 

「本人としても、紅き翼の実績とヘラスとのパイプ役に期待されて結婚を認められたのを気にしている可能性もあるし……娘の負担軽減も兼ねて、個人的な実績を持ちたいと考えても不思議ではないか。

 そういえば、月読の噂は無いか? 年齢的に、そろそろどこかの弟子か何かになっている頃だと思うが……」

 

「雑談程度でしか聞いていませんが、それらしい情報はありません。狂気に飲まれる者は昔から度々現れていますし、妖刀の厳重な管理と併せて注意を促した程度です」

 

「あまり探るのもあれだし、それ以上は難しいな。

 妖刀は、確かひなとかいう名だったな?」

 

「はい。それを含む複数の妖刀を呪術協会が厳重に封印しており、盗難の防止と探知用の罠もかなり気合を入れているそうです。

 もちろん妖刀に限った話ではないそうで、色々な危険物の管理はかなりしっかり行っているようです」

 

「組織としての負担は増えるが、安全が確保できるなら悪くないな」

 

「危険物の管理について、有宣がかなり強く要求していたようです。

 その甲斐あってか、メガロに襲撃された際も含め、呪術協会となって以降は紛失や盗難は1つもないと聞いています」

 

「素晴らしいな。どこかのアホな政治屋どもとは大違いだ」

 

「幕田も油断は禁物です。

 執務室に御用ですか? 今日の分の書類は終わっていますが」

 

「いや、少し気になったことの確認だ」

 

 既に夕方も近い時間だし、通常の業務が終わっている事はわかっている。

 だが、気になったことの解消は早い方がいいし、廊下の立ち話でする内容でもない。

 

「魔法世界の方の、現状が少し気になってな。

 あの計画を実行すると、多少の混乱は避けられん。私達が示した対策も最低限でしかないから、それすらクリアできないなら問題があるだろう?」

 

「その件ですか。問題があるのは、実質的にはメガロだけでしょう。

 未だに新世界と魔法という優越感を捨てきれていないのですから」

 

「少なくとも、ヘラス、ウェスペルタティア、アリアドネーは問題ないのか。

 他の小国は?」

 

「メセンブリーナ連合の影響が強い国は、微妙のようです。それでも、嗅覚に優れた統治者がいる国はそれなりに動いているそうですよ。

 もっとも、大型軍艦の建造を見合わせ、旧型艦の延命や小型艦で当面は対処するといった、後ろ向きのものも多いですが」

 

「発電所やらよりも、元老院の連中からの追及を逃れやすいからだろうな。開発した高効率型精霊エンジンの出番が、ちゃんとあってよかったと思えばいいのか」

 

 無償で提供しているわけではないし、ヘラスやウェスペルタティアの企業で製造しているのも、元老院が気に入らない理由だろう。

 メガロで起業しようとした際に利権だの経営権だので決裂した以上、先見性の無さと強欲さの結果でもある。私達が元老院を掌握しているわけでもないのだから、自業自得と言っておけばいいはずだ。

 

「あまり大型のエンジンを作れていない事が、大型艦の製造見合わせに繋がっているようです。

 元老院向けには、大型艦を維持するコストが過大だとか、国力に見合わないとか、大型艦より英雄の方が戦略的に重要だとか、色々言っているようですが」

 

「元老院としては、面白くないだろうな。

 いや、これ幸いに侵略しようとする可能性もあるか?」

 

「メガロだけは今でも大型艦を建造していますから、可能性は否定できません。

 連合の構成都市を含む、他の全てを敵に回す覚悟があるとも思えませんが」

 

「ナギやラカンの知名度は高いし、ウェスペルタティアやヘラスと直接戦う事は避けるだろう。

 それでも、侵略する姿勢を見せるだけで、牽制にはなる。自分で火種を撒き、正義面して踏み荒らすのは連中の得意技だ」

 

 まあ、火種を撒く連中と、踏み荒らす連中が、同じ派閥や勢力とは限らないが。

 特に資本主義や個人主義が行き過ぎていたり末端が暴走していたりすると、企業や組織が好き勝手に火を放ち、国が火消しを押し付けられる場合も無いわけじゃない。

 

「今回に限れば、時間が小国に味方するでしょう。

 それに、今回の件は明らかにヘラスやウェスペルタティアの動きが早いので、小国も今後の身の振り方を考えているようです。そこで高圧的な外交を行えば、メガロの未来はもっと暗いものとなるでしょう」

 

「既に暗いからこその暴走を警戒すべきか、阿呆の自滅を放置していればいいだけなのか……」

 

「ある程度情報を集めつつ、静観していれば良いのではないでしょうか?

 私達は、地球の魔法関係組織なのですから」




なぜか隣のファイルに、艦これ二次用の世界設定のメモが存在していた件。ストーリー無し&人の配置だけ少ししてある程度で、本当に世界の設定なのですが、疲れているのだろうか……
ちなみに、現代にネギまやらリリカルやら色々なゲームやらの要素を加えた闇鍋を、艦これ風に仕立てようとしたもののようです。とりあえず、「隊息(たいむす←部隊息子):陸軍+RPGのジョブ」というメモを残した頃の私の精神状態を誰か教えてください。忍者隊と騎兵(戦車)隊が同列に並んでるってどういうことだってばよ。


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原作の足音編第10話 未来の

 もうすぐ、あいつらが中学生になる。

 結局押し切られ、私が2年間の予定でAクラスに関わることになったのは、まあいいとしよう。

 いつの間にか幕田の治安部と契約していた千雨が、某国からのハッキングと電子戦をやらかしたのも、まあいいとしよう。

 中国から連絡があり、古菲と超鈴音の2名が留学生として来ることが確定したのは、予想の範疇だから問題ないだろう。

 もともと集まりつつあった組織や企業関係者は、把握していたのだから問題ないとしよう。

 

「……だからと言って、この構成はないだろう」

 

 Aクラスの生徒名簿を持ってきた近右衛門をじと目で見た私は、悪くない。

 

「本人の強い希望を、我々は拒否できませぬな。

 別のクラスにすると余計に厄介なので、あの要望を受け入れたという事で諦めてもらえませんかの?」

 

 名簿に載っている生徒の名前は、29人分。

 そして、私が予想していなかった名前や備考が、複数記載されている。

 

 まず、魔法関係者である、もしくはその可能性が高いと私が認識していて、私が受け持つと理解していたのは、近衛木乃香、桜咲雪凪、長谷川千雨、葉加瀬聡美、マナ・アルカナ、ザジ・レイニーデイ、朝倉和美、雪広あやか、那波千鶴、村上夏美、長瀬楓、古菲、春日美空、やはり魔法を学んでいた明石祐奈、そして超鈴音の15人。

 現時点では魔法に関わっていないが、簡易検査等で比較的高い素質を持つと見込まれたためAクラスとなったのが、早乙女ハルナ、佐々木まき絵、大河内アキラ、宮崎のどか、綾瀬夕映、椎名桜子、柿崎美砂、釘宮円、四葉五月、和泉亜子の10人。

 

 ここまでの25人は、想定内だから問題ない。

 相手したくない程度に濃いメンツではあるが。

 

 予想外その1は、鳴滝風香と鳴滝史伽の姉妹。

 幕田の望月の教え子であり、現役の忍者であり、なんちゃって忍者を演じて事前に情報を広める役目を負う長瀬楓の補佐を行う、らしい。

 原作でも長瀬にくっついて忍者やら忍術やら言っていたような気がするが、こうなっているのは知らなかった。能力や原作での役目的に気にしていなかったのは確かだが、ヴァンが面白そうなどという理由で今まで隠していたようだ。

 

 予想外その2は、ダイアナ・ヴィッカー。

 未だに登校地獄の呪いが解けないことを盾に、私の教え子という肩書を求めて中学生になる事を決めた、らしい。イギリスの魔法組織関係者として計画に参加する面々をまとめる、という名目も引っ提げていたが。

 修正力的には私の代役なのかもしれないが、外見的に無理が……あるのか? 身長的には長瀬や那波達より低いようだし……うん、幻術や認識阻害は不要そうだから、気にしないでおこう。

 

 予想外その3だが、綾波レイがいる。

 もちろん中身はアスナで、ダイアナと同じく私の教え子という肩書を求め、ついでにウェスペルタティア関係者云々という事らしい。

 この際だからとゆっくり成長する程度に年齢固定術式を緩和して、鳴滝姉妹よりは大きく成長した状態にはなるようだ。

 それにしても、結局この名前なのか……ガトウの保護を受けていないからカグラや神楽坂にならない点までは理解できるが。ヴァンのやつ、余計な案を出しおって。

 

 そして担任は、相坂さよ。

 最近分霊を作ることを覚えて本体が暇になりつつあったし、私が教師をしていた時に助手的な仕事もやらせていた。私との繋がりも問題ないから、体さえどうにかできれば教師を任せても問題は無いと判断した。

 もちろん、用意したさよの体にゼロ程の性能は無いし、非常勤の副担任という形で幕田重羽(わたし)の名前が残っているから、全体的にある程度妥協した結果の産物ではある。

 私は教科ではなく生活指導、建前的に言えば留学生のケアを担当すると押し通せた点で、私は頑張った。きちんと担任や教科担当になるには時間がとられすぎるから、望月の連中も本気ではなかったのだろうが。

 

「レイとダイアナがアリカとマシューを巻き込まなければ、学校に直接関わらなくても済ませられそうだったんだがな。

 誰だあいつらにまで情報を流したのは」

 

「ふぉっふぉっふぉっ、少なくとも儂ではありません。望月の方々に相談した際、案として話をしただけですからな」

 

「まったく……」

 

 まあ、結果的に原作のAクラスの生徒は茶々丸以外が全員揃う事が確定したわけだが。明らかに足りないと言えるのは、イギリスでナギ達の護衛を担当しているタカミチくらいか? ネギと一緒に来る可能性は高いし、原作でも3年になったら担任から外れるから問題ないのかもしれんが。

 さよの説得が簡単だったのも修正力の……いかんな。ここしばらく、原作に囚われ過ぎのような気がする。入ってくる情報が増えているせいかもしれんが、無視するわけにもいかんだろうし、どの程度気にすべきなんだ……?

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 3月も終わりに近付いた。

 あいつらが小学校の卒業式を終え、中学校の寮へバタバタと入寮や移動し始める時期になった、という事でもある。

 同時に留学生が移動する時期でもあり、中国からの留学生、の皮をかぶった計画参加者、という触れ込みの2人が、挨拶のために幕田魔法協会を訪れるのも間違っていない。

 つまり。

 

「私は古菲です。

 気の扱いなら誰にも負けません」

 

「超鈴音です。

 魔法と科学の融合についての発想や熱意を買われて、参画を認められました」

 

 その2人が有宣に連れられて私の目の前に来たのも、不思議ではないという事だ。

 たとえそれが、似非中華訛りでなく、流暢な日本語を喋っていようと。

 

「ようこそ幕田へ、と私も言うべきなのだろうが、それは既に済ませているだろう。魔法の公開についても説明されていると思うが、色々疑問もあるだろうから、まずは質問を受け付けようか」

 

「それでは、私から。

 エヴァンジェリン様が魔法公開についての旗を振っていると伺っていますが、それはいつごろ、どうしてそうしようと思ったのでしょうか?」

 

 ふむ、質問は超からか。

 内容的に、自分の過去との差異を確認したいといった意図だろうな。

 

「時期で言えば、私がこのような存在になってさほど間が無い頃だから、600年ほど前だな。

 その理由は……そうだな、お前が知る未来の火星の状況との交換ではどうだ?」

 

「なっ!? ……そ、それは……」

 

「古や他の者に聞かれたくない話になるなら、席を外してもらうなりするが。

 長い話になるだろうから、後で個人的な雑談という形でもいいぞ?」

 

「……エヴァンジェリン様は、どこまで知っているのですか……」

 

「さて、な。

 少なくとも、全てを知るなどと自惚れるつもりはない。どこかで聞いたセリフで言えば、何でもは知らない、知っていることだけ……だったか?

 全てを知るなら、話を聞く必要すらないからな」

 

「そう、ですか。承知しました」

 

「とりあえず、この場で答えられるのはここまでか。

 古は、何かあるか?」

 

「魔法公開計画への参加についてです。

 活動はどこで行うのですか?」

 

「幕田魔法協会を中心に動いているし、基本的にここだな。

 実働部隊や協力者は色々な場所にいるが、中学校の同じクラスに似た立場の連中がそれなりに含まれる予定だ。現時点では魔法と無縁の一般人もいるから、学校では何らかのクラブか集まりを用意すると聞いている」

 

「何かは決まっていないのですか?」

 

「もうしばらくしたら対象者から意見を集めて、内容を最終決定するらしい。

 現状では文化や料理に絡めたものを考えているようだが、希望があるなら事前に言っておくと候補には入ると思うぞ。賛同が集まるかは知らんが」

 

 もっとも、実際は文化交流会とかいう名目で問題ないかの確認になるだろうが。

 雑多な内容を扱う事で様々な立場の者が所属しやすくしつつ目的意識のある者を排除し、真面目にやるときは厳しくする事でなあなあで所属するものを排除する、という雪広あやかの案が有力候補らしい。

 

「中国武術とかは駄目でしょうか」

 

「駄目とは言わんが、そもそも武術の素人や、別流派ばかりになる。

 中国武術の鍛錬をしたいなら、そういうクラブにも所属する方が無難だろうな」

 

「そうですか、残念です」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 そして、その日の夕方。

 目を輝かせて雪凪に試合を申し込みに行った古と別行動になった超が、執務室にやってきた。

 

「ようこそ魔境へ、とネタを振っておくべきか?」

 

「あまり冗談が通じない精神状態だと自覚しているので、止めていただければ」

 

「そうか。

 さて、今は私とお前、それとゼロだけだ……っと、会うのは初めてだな。この小さいのがゼロだ」

 

「よろしく」

 

 軽く頭を下げるゼロだが、チャチャゼロとの差を小さくするために少々雑な対応を頼んである。

 本当は片言の方が良かったのかもしれんが、無理だと言われたのだから仕方ない。

 

「よろしくお願いします」

 

 超も頭を下げているが、一瞬怪訝そうな表情になっていたな。

 別に騙す気は無いが、ゼロに違和感があるなら、少なくともこの私達がいる未来の超でないのは確かだろう。

 

「さて、腹の探り合いも面倒だし、時間の無駄だな。

 まずは私が魔法を公開しようとした理由を説明する。

 お前はそれを聞いた上で、話してよいと思ったことを言えばいい。

 それでいいな?」

 

「それは……良いのですか?」

 

「私の理由を聞いた方が、どこまで話して良いかを判断しやすいだろう。

 もちろん、最初から全てを話すとは思っていない。信用できると判断したら、話す範囲を広げればいい。

 ああ、それと、この場で話した事は他言無用としよう。これでどうだ?」

 

「……わかりました」

 

 表情や目を見る限り、真剣さはあっても搦め手を考えている様子はないか。

 予定通り、直球勝負だな。

 

「それでは、私の理由だが。

 私も未来の知識持ちだ。お前が元々いた未来とは異なる、という注釈が付くのだろうが」

 

「それは……どの様な内容ですか?」

 

「簡単に言うなら、お前が来た時の可能性を知る、となるだろうな。

 麻帆良は日本の都市であり、その学園祭で世界樹の発光現象を利用した強制認識魔法を使おうとする、未来の火星人。先生としてやってくるネギ・スプリングフィールドの子孫を自称。私と契約してガイノイドを作成、それらも学園祭で手駒として使用する。

 それがお前だと、私の知識が言っている。

 私の存在が異常だと考えると、お前は過去の並行世界に来たと思われるわけだが……何か大きな間違いはあるか?」

 

 唖然とする表情を見る限り、確認するまでもなさそうだ。

 まだ理由には到達していないが……さて、ここまでの説明で、どの程度話す気になるかな。

 

「……これは参ったね。麻帆良が日本でない時点でおかしいとは思ったけど、こんな裏があったとは思わなかったよ……」

 

「それが地か。その方が気楽だから、ここからはその口調でいいぞ」

 

「あ……い、いえ、そういうわけには」

 

「本来あるべきでない者同士、気を張らなくてもいいじゃないか。

 というか、どうも最近、立場を気にしろという圧力が強くて息がつごっ!?」

 

 ゼ、ゼロの、ひ、肘が、脇にっ……肋骨がっ……

 困難っ……圧倒的呼吸困難っ……!

 

「何を遊んでいるのですか。

 そんな事をしているから、せめて公私は弁えてほしいと訴えられるのです」

 

 いや、肋骨が折れて、冗談抜きで息が出来ん。

 つまり、喋れんわけだが、指差しで理解してもらえるか?

 

「肋骨が折れた程度、どうとでもなるでしょう。だいたい、体の耐久力を下げすぎです。

 早く何とかして、話を進めてください」

 

「……こほん。あーあー。いやまあ、どうとでもなるのはそうだが、痛いんだぞ?

 それに、耐久力と一緒に魔力も上がるから、制御が面倒すぎる。真面目に話をするためにも、そんな事に頭を使いたくないんだが」

 

「それは遊んでよい理由になりません。

 真面目に、話をしてください」

 

 確かに、少しふざけすぎたか。

 ゼロの口調も普段……よりも丁寧だ。少々怒らせすぎたな。

 

「そうだな、話を戻すか。

 肩の力も抜けただろうからな」

 

「あ……ええと……」

 

「なんだ、まだ話す気にならないのか。それとも、何を話していいか迷っているのか?

 それなら……そうだな、私の予想を適当に喋るから、間違いがあれば教えてくれ。

 それでどうだ?」

 

「は、はい。それなら」

 

「よし。まず、魔法世界は崩壊し、亜人やらは全滅、生き残った人間も火星の過酷な環境に放り出される。

 これはどうなんだ?」

 

「間違いありません」

 

「次だな。火星で生き残った人間と地球との間で、何らかの対立が発生する。原因や経緯はともかく、平和や友好的と言える状態ではない。

 これはどうだ?」

 

「対立……はい、私が過ごした未来では、立場としては対立しています。私達から見た実情としては侵略軍と抵抗軍、それも地球側の補給線の長さを頼りに足場を攻撃するのが精いっぱいという有様ですが」

 

「交渉という段階は過ぎた、もしくは無視されたという事か?」

 

「何者かが火星に現れるも、意思疎通が可能な生物は確認できず。

 これが、地球の公式発表だそうです」

 

「知的生命扱いですらないのか。行き過ぎた帝国主義の復活か……?

 魔法を公開するという話の本質は、魔法世界の公表か。次善案のように見えるが」

 

「いえ、次善策ではありません。

 第一目標についてはどうお考えだったのですか?」

 

 おや。魔法と魔法世界の公表が主目的だったのか?

 原作を知る連中で色々考えた結果としては、違う予想に辿りついていたのだが。

 

「主目的はネギの強化だと予想していた。

 その根拠だが、魔法公開後の政治的軍事的に致命的な不測の事態について監視調整するための技術と財力は用意したと言っているが、ある程度必要となるはずの規模が不足しているのが1点。

 これは、ネギに負けて役目が終わったからと、大した後始末もせずにさっさと未来に帰る事からもほぼ確実だ。

 同じく、ネギに負けたからと発動直前の強制認識魔法を撤回し効果を変えるのがもう1点。

 仕上げに10分以上の詠唱が必要な大規模儀式魔法の内容が、そうほいほい変えられるわけがない。あらかじめそう仕込んでおかなければな。

 これらをまとめると、完全なる世界に対抗しうるネギを可能な限り強化、ついでに魔法の公開という手段を現実的だと思わせる効果を期待、といったところが現実的な終着点に思えたんだ。

 世界樹の発光が予定よりも1年早いらしいから、準備や優先順に影響が出たのかもしれんが」

 

「1年早い、ですか?

 あと3年と少し……ではない、のですね」

 

「そうだな。本来の周期なら3年少々、私が知る未来なら2年少々だ。但し、現時点の研究では夏頃、2年半近く先になるのではないかという予想もある。

 この辺は不確定要素が多いな」

 

「そうですか。それなら確かに準備が間に合わず、目標などに影響があるかもしれません」

 

 ふむ。とりあえず、この超は原作に来た超と同じと考えてよさそうだな。

 少なくとも明確な嘘をついた様子は無いし、魔法の公開という手段が主目的なら協力可能だろう。

 

「とりあえず、私としてはこれくらいだが……ゼロはどうだ?」

 

「いえ、最低限としてはこれくらいですから、話を進めて問題ないでしょう」

 

「だな。

 というわけで、だ。超。私達に協力しろ。

 私の現状の目標は、魔法世界の崩壊による混乱の回避だ。

 そのための手段に魔法や魔法世界の公開も含まれているし、地球の魔法関係組織や魔法世界の国との協力体制も構築済み。2年後の春から夏の決行に向けて準備を進めている。

 財力についても、相手を納得させる必要はあるが、相当な額を動かせる伝手はある。具体的には世界各地の国や有力な企業グループとの繋がりだから、同時に人も動かせるし、現状での最先端の技術開発を行っている連中との繋がりもある。

 何しろ、数百年前から動いているからな。2年で作り上げることが困難なレベルの、規模と財力を持っているわけだ。

 お前にとっての問題は、既に組織や計画が出来て動き始めているから、好きに変えられるわけではないという事だろうな」

 

「補足しておきますが、エヴァ様がひと声かければ数億ドル程度は即座に集まりますし、必要であれば数万人を動かすこともできます。

 魔法公開後の混乱に対処可能どころか、その気になれば世界を支配可能なレベルの力が準備済みです」

 

 ゼロの説明もどうかとは思うが、月の一族全体の影響力という意味では、信じがたいレベルになっているのは間違いないからな……

 その切っ掛けを作ったのは私なのだろうが、基本放置だから、長と呼ばれるのはやはり違和感がある。

 そんなことを言えば、また横から肘鉄が飛んでくるのだろうが。

 

「魔法世界の存続は、やはり難しいのですか……」

 

「まあ、そうだな。魔法世界そのものが構造的な問題を抱えているし、色々試してきたが崩壊時期を少々先延ばしできただけだ。だから今は魔法世界そのものの維持ではなく、そこに住む人々と生存可能な環境の存続を主目的として動いている。厳密な意味では、魔法世界の消失を前提としていると言えるな。

 だが、人々は亜人を含め全員存続させるし、火星の荒野に放り出すようなこともしない。ヘラスとメガロの2極体制も、当面はそのままになるだろう」

 

「それは……完全なる世界、ですか?」

 

「あれは精神を夢の世界に放り込むようなものだから、存続と言えん。

 実際に何をどうするのか、その詳細については協力体制が出来てから説明することになるが、お前の協力が無くとも可能だと判断している。

 それでも、付随して発生する問題やらで色々と気になるところもあるからな。主に技術的な面から、穴を埋めてほしい。

 私がお前に求める協力は、そういう内容だ」

 

「……協力を断ったら、どうなりますか?」

 

「私達の邪魔をしないなら、とりあえずは放置だろうな。

 一応言っておくが、幕田公国は私が初代の王家が治める王制国家であり、呪術協会の近衛詠春やウェスペルタティアのネギ、ナギ、アリカ女王もこの計画の賛同者で協力者だ。お前が単独で元々の計画を遂行するのは難しく、計画に支障があると誰かが判断すれば排除対象になる可能性もあるだろう。

 それも踏まえて考えてみるといい」

 

「それは……実質的に、選択肢が1つしかないように聞こえますが」

 

「そう思えるのなら、そうなのだろう。

 私達は、お前に頼る必要があるような計画を進めていたわけではない。そして、お前がそれに納得できるかを聞いている状況だ。

 すぐに答えを出せとは言わんが、参画するなら早い方がいいぞ?」

 

 超の考えた1つの選択肢が、私達と関わる方向なのか、目標を達成したからと手を出さない方向なのか。それとも、私達が失敗した場合の保険になる方向なのか。

 邪魔にならなければどれでも構わないのだが、せめて、敵対する方向だけはやめてくれよ?




なお、千雨がやりあった某国のハッカーは、超とかいう名前だった模様。


2017/04/25 以下を修正
 鳴滝姉妹に関して説明を追加
 バタバタと移動→バタバタと入寮や移動
 結果的にAクラスの→結果的に原作のAクラスの
 話すと思って→話すとは思って
 小さくため→小さくするため
2017/05/30 以下を修正
 反乱軍→抵抗軍
 まだ横から→また横から


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魔法先生重羽ま編第01話 学校、始まる

 窓の外には満開の桜が見え、あと数日で入学式を迎える、そんな4月のある日。

 つまり、もうすぐ私がAクラスの副担任として、教師に復帰する日が近付いているという事であり。

 

「外の景色はいいな……」

 

「きれいな桜でござるな」

 

「全くアル」

 

「現実逃避は良くないヨ」

 

 年齢詐称や似非キャラ付けという意味で本来とは異なる何かになっている者が、窓辺に集まって黄昏て……

 

「えばさまー、助けてくださいぃぃ……」

 

 ……さよは、黄昏てはいないな。半泣きだが。

 こうなった原因は私の発言なのだが、どうしたものか。

 

 今いる部屋には、Aクラスの魔法関係者が顔見せで集まっている。

 私の部下扱いとなった超鈴音、葉加瀬聡美。

 魔法を知る組織の関係者である雪広あやか、那波千鶴、村上夏美。

 魔法に直接関係する組織の関係者である近衛木乃香、桜咲雪凪、ダイアナ・ヴィッカー、古菲、長瀬楓、鳴滝姉妹。

 魔法使いである長谷川千雨、朝倉和美、春日美空、明石祐奈。

 地球人でないマナ・アルカナ、ザジ・レイニーデイ、アスナ……じゃない、綾波レイ。

 これに私と相坂さよで、総勢21人だ。

 

 顔見せ自体は、特に問題なく終了した。

 本来の立場を隠したのは、中国からの留学生と言った超鈴音、魔法世界出身の魔法使いと言った綾波レイ、魔族とは言っても王女とは言わなかったザジ・レイニーデイ。3人とも嘘ではないし、本来の立場は問題が大きすぎるから、予定通りだ。

 自己紹介の途中で口調を変えたのは、超鈴音、古菲、長瀬楓。これも話は聞いていたし、原作的にもまあ理解出来なくもない。演じるという理由も説明していたのだから、特に問題ではない。

 所属やら色々な情報が飛び交っていたが、関係者に公開している部分限定とはいえ私の計画を知った上で集まっている者であり、基本的に協力関係にあるのだから、この程度で問題があるようなら困るわけだが。

 

 問題になったのは、その後。

 誰が纏め役になるかという話が出た時に、能力と立場に問題が無いなら誰でもいいと言ってしまったのが発端だ。

 

「ここはやはり委員長たるわたくしが纏めるべきですわ!」

 

 小学生時代から非凡な才能を見せ、クラスを纏めてきた雪広あやかが真っ先に名乗りを上げ。

 

「表と裏の纏め役を兼任するのは情報の隠蔽に無理がありマース!

 コトが世界に影響する以上、ここはイギリスの魔法組織を代表する私が、皆を纏めるべきデース!」

 

 間髪を入れずにダイアナ・ヴィッカーが声を上げ。

 

「纏め役ゆーても、国やエヴァさん達との窓口を兼ねるわけや。

 ここは幕田公国やし、摂家出身者として幕田家に近いうちが担った方が、色々と手をまわしやすい思うんよ」

 

 控えめながら、近衛木乃香が手を挙げた。

 

 それからはそれぞれを支持する者も混じって、自己アピール……たまに批判的な言葉も混じりつつ、非暴力という意味で平和的な話し合いが行われているわけだ。

 声が少々大きくなったり荒くなったりする程度は、ありがちだろうし。

 

「重羽先生が決定しないと、どうにもならなそうヨ」

 

「だが、3人の言い分も理解できるからな。

 誰がいいのか、私としても悩ましくてな」

 

「存在感を示す任務を受けた者は大変でござるな」

 

 本来の立場で来ているなら、迷わずにアスナと言えたんだが。魔法世界の王族だから、身分や魔法世界への影響力が他の連中とは比べ物にならんし。

 ザジが微妙な視線でアスナ(レイ)を見てるから、その辺の裏事情を聴いているのだろうな……ザジも魔界の王族だから有力候補と言っていいのか。

 

「というか、超や古は参加しなくていいのか?

 中国代表という肩書になるし、あっちの上層部はそういう方面も期待していそうだが」

 

「難しい話は苦手アル」

 

「オエライ=サンが、そんな事を言てた気もするネ」

 

「命令を無視していいのか?」

 

「気の達人を目指す以外の話は聞いてないアルヨ」

 

「命令ではなかたし、重羽先生の助手として存在感を示していれば問題ないネ。

 むしろ研究や開発を優先すべきだかラ、雑用に時間を取られるのは避けたいヨ」

 

「まあ、超は今の立場ならそれでいいのか。古は……どっちの意味で聞いていないんだ?」

 

「結果は一緒アル」

 

「まったく……。

 だがまあ、あのまま放置するわけにもいかんか」

 

 あの3人だと……まあ、ありがちな流れだが雪広に任せるべきか。

 それぞれに向いた役目はあるし、明確な上下関係にしなければ角も立たないだろう。

 

「さて、このまま言い合っていても埒が明かん。

 とりあえず案を出してみるが、構わんな?」

 

「エヴァ様、待ってマシタ!」

 

「問題ありませんわ」

 

「エヴァさまの指示やないと、決着がつかへんし」

 

「お前ら……まあいい、とりあえずの案だ。

 まず、雪広。お前は元々委員長としてクラスをまとめていたから、その役目を継続。その一環として裏の連中も動かし、部外者の排除や不自然な指示による野次馬を防ぐ。

 加えて、幕田や日本にある企業との橋渡し役は……那波や村上と協力すれば、スムーズだろう。

 問題はあるか?」

 

「いえ、得意分野ですわ」

 

 雪広はこれでよし、と。

 那波や村上も言われている役目だろうし、特に不満は無さそうだ。

 

「次に、近衛。摂家の一員である以上、幕田家や私達に近い立場だ。それに校長が祖父だから、ある程度出入りしても不審とは思われにくい。

 それを利用して、特に裏の話をする際の使者や代表的な役目を担う。

 どうだ?」

 

「エヴァさんたちと秘密のお話しをする役目って事でええの?」

 

「まあ、最初はそうとも言えるな。

 色々な連中と話すことになっていくだろうし、難しい交渉の場に立つこともあり得るだろうが」

 

「つまり、広告塔になる前の練習やね。

 了解や」

 

 取り巻きはともかく、木乃江や詠春は木乃香を上に置こうとはしていない、むしろ家は弟に任せる方針のはずだ。名乗りを上げていたのは、日本の裏側を代表できる人物が他にいないからという程度なのだろうな。

 ともかく、これで木乃香も大丈夫だな。

 

「ヴィッカーはイギリス出身だし、あっちとの繋がりもきちんとしているはずだな。

 イギリスにはナギ達もいることだし、欧米や魔法世界との窓口を任せるに相応しいと思うが、できるか?」

 

「まっかせてくだサーイ!

 ……アレ? 結局、だれが一番なんデス?」

 

 気付いたか。

 まあ、先に納得させておいた方がいい事だしな。

 

「明確なトップを決める気は無いぞ? 矢でも文殊でも構わんが、それぞれの得意分野を担当しての協力体制が望ましいから、それぞれが向く分野で大雑把に3つに分けただけだ。そもそも、私が生徒を纏める役目のトップを指名するなら、担任になる相坂になるぞ。

 お前達や後ろにいる連中がどう考えているかはともかく、私はこのクラスを権力争いの場にする気は無い。組織としての影響力が欲しいならこんなところで代理戦争などせずに、堂々と正面から売り込んでこいという事だな。

 まあ、お前達同士の関係まで口を挟む気は無いが、それは私や計画とは無関係なところでやれ、という事でもある。それは理解しておけよ?」

 

「わかりましたわ」

 

 わかっています、ではないんだな。

 この話を聞いた後ろにいる連中がどう動くかだが……私の機嫌を無視してまで何かしでかすことは無いと信じるとするか。

 

「それでしたら、わたくしは仮契約、もしくは一時契約を望みますわ」

 

「……は?」

 

「聞き間違いではありませんので、もう一度言いますわ。

 わたくしは、エヴァ様との、仮契約もしくは一時契約を、望みますわ」

 

「いや、ちょっと待て。

 その意味はどう理解している?」

 

「もちろんエヴァ様が主、わたくしが従の主従契約ですわ。間違っても、昨今の仮契約のように恋愛だのといった要素は含んでおりません。

 わたくしがエヴァ様に従う事を、内外の関係者に対し明確に示す事が狙いですわ」

 

「あー、そういう事なん?

 それならウチもお願いしたいわぁ」

 

「なんで増えたっ!?」

 

 私の生徒という肩書を求めて来た連中も含んでいる以上、私の部下という扱いは明確だ。

 契約やらで改めて示す必要は……

 

「エヴァ様も鈍いネー。

 2人とも、必要であれば実家をエヴァ様のために使い、いざとなれば絶縁してでもエヴァ様に従うと宣言していて、その証として契約を欲してるわけデース!

 その覚悟も無く言ってるなら……」

 

「心配無用ですわ。

 いずれ契約を希望する事は家族にも伝えてありますし、雪広をどう動かすか楽しみにしていると言われております。

 それに、わたくし1人が抜けた程度で揺らぐほど、雪広は脆弱ではありませんわ」

 

「ウチの場合は、むしろ完全にエヴァさんのものになった方が、色々と安全かもしれへんなぁ。ウチを京都に戻すために、弟に手を出そうとしたあほうもいたようやし。

 その意味では、完全に幕田の近衛木乃香になったと宣言できる、本契約を希望や」

 

「Oh……覚悟は十分みたいデスネー」

 

 雪広はまあ、財閥として盤石の体制を維持する自信があるという事か。

 呪術協会の話は多少聞いているが、阿呆は下っ端の小悪党で、既に処分済みで反抗的な派閥からも捨てられているはずだ。

 

「そう言う、ヴィッカーさんはどうなのですか?

 既に契約しているかのような口ぶりですが」

 

「私が所属する組織は、エヴァ様を盟主としているのデース。

 エヴァ様に否定されたら、組織そのものが消滅するネー」

 

 盟主……今では盟主扱いになっているのか。

 まあ、トップはずっとマシューだし、以前はリズもいたのだから、そういう方針になっているのは必然か……

 

「それは組織の都合ですわ。

 貴女自身がどうなのか、と問うているのです」

 

「エヴァ様からの指令とあらば、捨て駒同然の単身の潜入任務だろうがどんとこいデース!

 契約は事実上してるよーな状態ですカラ、これ以上術式を重ねたらどうなるのか、ちょっと心配デスネー」

 

「……あれは捨て駒じゃなかった上に、余計な面倒を作ってくれたがな」

 

「その覚悟で臨んだという話ネー。エヴァ様の指令で舞い上がった上に、護衛対象が好みの男性だったから張り切りすぎただけデース!」

 

「失敗は失敗ですわ。

 ですが、やはりわたくしが契約するのは必須ですわ。

 近衛さんもですわね?」

 

「もちろんやー」

 

「必須じゃないだろう」

 

 いや、本当に。

 どう考えても、必須じゃない……よな?

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 結局周囲の賛同意見が強かったという事もあり、雪広あやか、近衛木乃香の2人と契約した。

 ……なぜか、キスで。

 どうしてザジがキスで仮契約する魔法陣を描けるんだとか、どうして一時契約じゃないんだとか、2人のアーティファクトが原作と同じ理由はなんだとか、突っ込みどころが多々あるんだが、これだけは言っておきたい。

 私は、ロリコンじゃないっ!

 いくらあやかの外見が年齢不相応だったり、木乃香が美少女だったりするからといって、うっかりときめいたりはしていないっ!!

 

 ついでとばかりに、一時契約も結ばされた。

 首謀者は雪広あやかで、契約対象者は桜咲雪凪、超鈴音、葉加瀬聡美、長瀬楓、鳴滝姉妹の6人。

 何かあった時の立ち位置を明確にすべきという論法であり、木乃香と仲が良く雪花に憧れる雪凪、既に私直属の技術者扱いとなっている鈴音と聡美、元々私との関係が強い忍者3人が希望したのは、結果としては理解できる。

 那波や古は、他の組織による監視や介入が行われている証としての立場をとるということで、契約なし。これも、立ち位置を明確にするという意図に沿った答えだ。

 魔族であるザジやアルカナは、特にザジは王族という事もあり、立場的に契約するわけにいかない。詳しい理由は説明していなかったが、私から見た場合の立ち位置は明確だ。

 長谷川や春日たち、つまりは下っ端魔法使い的立場の連中が希望しなかったのは、面倒事の回避という側面もあるだろう。私との直接契約など、面倒事が多発するとしか思えんし。

 

 ……流されてるな。完全に。

 

 そんな事があってから、数日。

 つまりは入学式が行われる日なのだが、その日は、朝からカオスだった。

 

 例えば。

 

 鳴滝姉妹が、初対面という設定で長瀬楓と接触。

 

「おっきいー!」

 

「なにしたらそんなにおっきくなるの!?」

 

「運動でござるかなぁ」

 

「ござる!?」

 

「忍者っ!? 忍者なんでっ!?」

 

 ……わざとらし過ぎるような気もするが、見た目の幼さでカバーしつつ騒いでいたり。

 

「あらあら、教室でそんなに騒いではダメですよ」

 

「こっちもおっきい!」

 

「メロン!? むしろスイカっ!?」

 

「あらあら」

 

 それを窘めようとした那波千鶴にも矛先が向いたり。

 

「おっきいおっきいって騒いでるけど、その小ささの秘訣ってのも聞いてみたいな~?」

 

「またおっきいのが来たっ!?」

 

「ええい、このクラスは人外大魔境だっ!!」

 

 遠回しに止めようとした朝倉和美も標的に……というか、鳴滝姉妹がカオスの原因だな。

 雪広あやかがまだ来ていないのも、ブレーキがかからない原因なのだろう。

 雪広は校門近くにいて、先生と話しているふりをしながら上級生の魔法生徒を紹介してもらっているから、間やタイミングが悪かったのか。ブレーキのかけ時を見失ってる鳴滝姉妹や、呆れた目でその様子を見てるだけの連中が悪くないわけはないが。

 

 こんなクラスを、さよと私で纏められるのか?

 ……ああ、原作でもまとめ切れていないから、あれだけ暴走しているのか。




ぎ、ぎりぎりだったぜ……(水曜の予約投稿直前まで書いてた的な意味で)
意訳:推敲があまりできてないので、いつも以上におかしな点が多い可能性がありマス


艦これイベントは、初の全域乙突破 & 全新艦(と伊戦艦*2)ゲット成功です。
去年の春イベは突破できなかったですし、夏以降もどこかで丙にして、ドロップ(Aquila)を諦めたりしていましたから、今までで最もよい結果です。
時間がさほど取れなかった都合で普段の出撃が少なく、今までより資源が多くなっていたのが良かったように思います。自然回復域でやりくりするのとは、精神的な余裕が違いますね。掘り終わった頃には4割ほど減っていましたが。

……なあ神威、お前のいた辺り(E3ボス)に能代と野分はいなかったよな? ←そこまでは資源と時間を使えないと諦めた提督並感。でも明石あきつ丸は輸送艦任務がある間は諦めない模様


2017/05/30 以下を修正
 相川さよ→相坂さよ
 納得さて→納得させて
 相川→相坂
2017/06/19 木乃香の一人称を「ウチ」に修正


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魔法先生重羽ま編第02話 茶々〇

「情報操作のためとはいえ、やりすぎですわ!」

 

 入学式と、その後に行われた親睦会という名のお菓子パーティー的なものが終わり。

 その片付けという名目で残った関係者の一部だが、怒っている人と怒られている人、それと中立的な人に分かれている。

 

「情報を印象付けるには、オーバーなくらいがいいって教えられてるし」

「今日のこれで、2人が騒がしいのは普通だと思われたはずですし」

「いいんちょがいいんちょとして、纏め役になる流れも自然にできたし」

「だからボクは悪くないっ!!」「だから私は悪くないです!」

 

「それは結果論ですわ!」

 

 もちろん怒っているのは雪広あやかで、怒られているのは鳴滝姉妹だ。他の現場にいた連中……長瀬楓や朝倉和美達は、擁護も非難もしていない。口を出さないのは、姉妹の行動理由は認めているためか、それとも姉妹を止められなかったためか。

 朝の大騒ぎは雪広あやかが教室に入ってくるまで続き、盛大に叱っているところに来た相坂さよがオロオロして有耶無耶になりかけ、私が教室に入った瞬間に全員が慌てて席に着くという、何とも不可解な終わり方だった。

 別に威圧したつもりはないし、関係者だけならわかるが、初めて顔を見るはずの関係者でない連中まで慌てたのは、なぜだ。

 

「まあ、行動理由自体は、咎める内容ではない。キャラ付けという意味でも理解はできるが、少々やり過ぎだろう。

 印象付けは成功しただろうし、今後は手加減するように。あと、止める手段を考えておいた方が無難だろうな」

 

「「がってん承知の助、なのです!」」

 

 そのセリフを使うには、年齢や見た目が……本人達はどこか楽しそうだし、いいのだろうが。

 ……妙な間に兵衛とか入っていたのは、他の連中には聞こえていなかったようだし面倒だから見逃しておくか。

 その後、鳴滝姉妹の止め方……雪広あやかに言う、長瀬楓を師匠と仰ぐ予定だから破門にしてもらうよう依頼する、等の止め方に関する相談が始まり。

 それを横目に、寝不足に見える超鈴音が近付いてきた。

 

「重羽先生、ちょと相談があるヨ」

 

「相談か。表と裏のどっちだ?」

 

「当初は裏、そのうち表にも影響が出るネ。

 予想は出来てると思うケド、ガイノイドと屋台を作りたいヨ」

 

「色々な技術を使うことになるが、その説明やらは大丈夫なのか?」

 

「紹介された研究機関やらに色々売り込んだから、ノープロブレムヨ。

 その集大成としてのガイノイドと、その技術を生かし維持と応用を実証するためのロボット製造と食品加工という位置付けネ」

 

「そうか。その流れなら、資金も問題なさそうだな」

 

「円と元とドルとユーロそれぞれで、ドル換算で億単位の案件がポンと出てきたネ」

 

「融資か?」

 

「大半はそうだケド、出資も少なからずあたヨ。あとライセンス料もネ」

 

「もうそこまで話が進んだのか」

 

 研究所の連中も、マッド度合いは相当なものだし。

 同類の支援という意味も含んでいるのだろうな。

 

「食品に関しては衛生管理やらの法を確認中ヨ。まだ準備が出来てないシ、人集めももう少し先だけど、話だけは通しておこうとおもた程度ネ。

 直近で重要なのはガイノイドの方だかラ、ちょと相談したいのヨ」

 

「ガイノイドか……機能面については、ある程度案が出来ているんじゃないのか?」

 

「相談したいのは、外見とマスター、それと情操教育についてネ。

 特に情緒については人との交わりが大切だかラ、それなりの人数と関わらせたいヨ」

 

「要するにあれだろう? 裏では誰かの従者的な扱いにして、このクラスに放り込みたいと」

 

「おお、全部言われてしまたヨ。

 本来はエヴァさんの従者にするつもりだたけど、この世界では立場的に難しいネ。だから、マスターをどうするか相談したいのヨ」

 

「ダイアナでいいんじゃないか?

 本来の私の立ち位置に、一番近い存在だろう」

 

 超に原作云々は伝えていないが、未来の情報という形である程度の情報は交換済みだ。超が持つ情報はそれほど詳細ではなかったものの、魔法世界に行くまでは極端に大きな差異はない事は確認できている。

 当然、超自身が関わる麻帆良祭と茶々丸を除いて、だが。

 原作ではこの2点が、魔法世界での活動やネギとエヴァンジェリンの関係に小さくない影響を与えたと考えてよさそうだが、この世界では私が前提を壊しまくっている以上、参考情報にしかならないだろう。

 

「イギリス人的な意味デ?」

 

「登校地獄と、本来は中学生の年齢でない、という点もだな。

 大結界の影響を受けて全力を出せない、も加えておこう」

 

「おお、似た要素がてんこ盛りネ。

 登校地獄をかけたのはナギサンでいいネ?」

 

「そうだな。ナギに惚れてまとわりついた挙句、登校地獄をかけられたらしい」

 

「素晴らしいヨ。

 ネタとしてなラ、アンドロイドでナギサンにするのもありだけどネ」

 

「ネギと一緒に麻帆良に来る予定のナギのそっくりさんを、女子中に在籍させるのか?

 ナギもかわいそうに。来る前からロリコンと呼ばれる土壌が出来上がっているとは」

 

「それはちょっとよろしくないから、ネタでしかないネ。

 この世界ではウェスペルタティア王国が健在だシ、その女王の王配を敵に回すのは愚策ヨ」

 

「全くだ。

 話を戻すが、ダイアナ自身が了承するならダイアナ、拒否した場合は……また考えればいいだろう」

 

「若干投げやりネ」

 

「料理に関する機能を優先するとか言えば、喜んで受け入れるんじゃないかと思ってな。

 食品関係に応用する以上、それも実装候補にあるだろう?」

 

「まあ、そうネ。

 五月サンが関係者なら、悩まなくて済んだのにネ」

 

「有望な料理人だからこそ、今はまだ裏に巻き込まない方がいいと思うが。

 由来を表に出せない料理に目覚めたら、色々と厄介だからな」

 

「世の中、ままならないヨ」

 

「全てが思い通りになる世界だったら、お前が世界を渡ることは無かっただろう。

 頑張るなとは言わんが、程々にな。目の下の隈がひどいぞ」

 

「ここで手を抜くと後に響くネ。もう少しだけ無理するヨ」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 その後の話し合いは概ね予想通りの内容で色々と決まった。

 

 作成するガイノイドはダイアナをマスターとすること。

 修正力的に私の代替えだからか反対意見も無く、スムーズに決まった。

 

 外見は中学生後半から高校生前半程度の少女とすること。

 成長に合わせて修正する手間は無駄だし、計画実行の時期に合わせた外見でいいだろうという事になった。ラフスケッチを見る限り、原作の茶々丸から大きく外れる事は無さそうだ。

 

 機能面は戦闘能力を重視せず、いわゆるメイドロボとすること。

 技術的なデモンストレーションとAIの学習が主目的なので、戦闘は考慮しない……というか出来ないだろう、という結論に達した。各研究機関等との情報共有的な意味で。

 戦闘系に関しては、今後作成予定の田中さん(仮)を中心に色々やるらしい。

 

 Aクラスへの編入は、ガイノイドおよびAIのテストと学習目的という、嘘偽りのない理由で行うこと。

 これは少し意外だったし、認識阻害も候補に挙がったのだが、世界の名だたる研究所や大企業が複数関わるプロジェクトでもあるし、誤魔化さなくても内部機密やらで押し通せるだろうという事になった。

 魔法を公開した際に内部情報をある程度公開すれば、色々と都合よく動かせそうだという目論見もある。

 

 そして初期型の名前が茶々となり、ダイアナの従者になる予定のプロトタイプ機の名前が、茶々丸になりかけた。

 

「0番目に因みたいのはわかるが、茶々丸は基本的に男性の名前だからな?」

 

「でも、チャチャゼロだとゼロサンと被るシ、チャチャレイだとレイサンと被るヨ」

 

「中国語でリン(líng)……だと、お前(Rinshen)と紛らわしいのか。

 というか、本来は鈴音(Língyīn)じゃないのか?」

 

「方言なのか間違いなのか知らないケド、故郷ではリンシェンと呼ばれてたヨ。

 今更違う呼ばれ方をされても違和感があるカラ、中国以外ではこの呼び方で行くネ」

 

「チャチャヌルやチャチャニル、いっそロシア語でチャチャノーリはどうデスカー?」

 

「日本語的な響きだと微妙な気がするヨ」

 

「ドイツ語やラテン語もだめなら、チャチャシューンヤは……俊也とか呼ばれそうだからダメか」

 

「ヒンディー語だと、それだけで姓と名みたいになるネ」

 

「既に姓が決まっているとかでなければ、チャチャを姓にしても別に問題ないだろう。

 短い方がいいなら……ハワイ語は牛乳入りの飲み物になるから駄目だな」

 

「茶々だかラ、抹茶よりも緑茶のイメージになりそうネ」

 

「詳しくありまセンが、隣の国はどうなんデス?」

 

「日本語の4と紛らわしい上に、無駄な火種になりそうだから除外するヨ」

 

 そんなこんなで色々と案を出した結果。

 ヒンディー語を元に少し発音を変えて、姓が茶々、名がシューニャという事に。

 絡繰という姓が消えたが、この程度は誤差の範囲だろう。ノアという名前の少女が存在する世界で、男性名だからという理由が通用した点だけが意外だった。

 

 そんな事をしている間に、夜になり。

 さよが仕事を依頼し、その礼として食事をして帰るという事で寮にも連絡した後で。

 毎年恒例の、関係者の顔合わせへと出かけて行った。

 ……私以外が。

 私が行くと騒動になるという理由で有宣と雪花から参加禁止を言い渡されているが、ここまで私が直接関わる関係者が増えると、元々ここに住む者が多いとしても少々気になる。

 出発前に様子を見る事を伝えてあるから、遠慮なく覗いているわけだが。

 

「というわけで、わたくしが1Aクラスの関係者の纏め役になりましたわ。

 エヴァ様の従者として、しっかりと役目を果たしてみせますわ!」

 

 雪広あやかは、決して嘘ではないものの若干誇張気味な挨拶をして。

 

「1Aクラスはいろんな組織の関係者が集まってるからなぁ。

 ウチは日本の組織向けの窓口を任されてるし、同じくエヴァ様の従者、かつ、近衛家の娘っていう看板に負けへんよ」

 

「そうでござるな。

 拙者も従者でござるし、幕田公国と縁深い甲賀の忍として、任を全うするでござるよ」

 

「はいはーい! ボクもボクも!」「私も、です」

 

 近衛木乃香、長瀬楓、鳴滝姉妹がそれに続き。

 

「中国から来た超鈴音ネ。技術担当として、エヴァ様の従者になたヨ。

 この口調はイメージ付けだから、そういうモノだとおもてほしいネ」

 

「以前から関係者でしたけど、私もエヴァ様の従者になりました。

 技術担当として、更に励みます」

 

「私は従者ではありまセンが、世界各地への窓口を担当しマース!」

 

 更に、超鈴音、葉加瀬聡美、ダイアナ・ヴィッカーが続いた。

 内容的に誰も嘘を言っていないから問題ない。と、思っていたのだが。

 

「ちょ、ちょっと待って!

 従者ってどういう事よ!? それにこんなに大勢!!」

 

「あのお方はそういった直接的な関係は避けとったはずやのに、どうやって取り入りはったん!?」

 

 何故か数人……刀子と千草だから呪術協会寄りの連中か? が叫び。

 それ以外の連中も半数が唖然、残りの半分が雑然としている。

 

「少なくとも現在の1Aクラスは、多くの組織がエヴァ様と直接関わる場になっていますわ。

 わたくしはその纏め役として、立ち位置を明確にするために契約を望んだのですわ」

 

「ウチもそうやなぁ。京都近衛家の長子として呪術協会と幕田公国のどっちの立場を取るのか明確にした方が、問題が起きにくいやろうし」

 

「私はこれでも、月の一族の端くれデース!

 エヴァ様の手足は、私達の役目ネー!」

 

「中国というしがらみを古に任せテ、技術班として全力を出すために必要なものヨ」

 

「私達に求められるのは、大きな組織にないフットワークの軽さですから」

 

「納得できません!」

 

「ふぉっふぉっふぉっ、千草君、それくらいにしてくれんかの。

 今年の中学校の新入生は、後ろ盾や関係組織との繋がりを持つ者が多すぎての。幕田家や関係者との相談の結果、エヴァ様にご足労願う事になったのじゃ。

 当然、この様なグループを設ける意味についても、ちゃんと相談しておる」

 

「それこそ納得できません!

 今までの組織を無視するお方ではないはずです!!」

 

 刀子が叫んでいるが……何というか、私への信用というか信頼というか、そういうものが信仰のようになっていないか?

 直接話をしたことはあまりないし、ここまで言われると、私以外の誰かを指しているとしか思えなくなってくるのだが……

 

「そう、まさにそこじゃよ。

 彼女達は間違いなく、麻帆良学園本校女子中等学校の新入学生じゃ。それぞれの後ろに企業や組織といったものが見えておるが、公式には代表でも代理でもないわけじゃな。

 話は変わるが、皆も耳にしておる通り、魔法の公開まであと2年と少々じゃ。その時の混乱がどの程度になるか、正確な予測ができる者はだれもおらんじゃろう。

 現時点では強い立場や力を持っておらんのは事実じゃが、それは各々が戦力でないことを示しておる。これは何かあっても連れ戻される可能性が低いという事じゃ。

 故に、緊急時にこの緩い結束が世界をつなぐ糸になる可能性が見出されておる。不慮の事故や何らかの事情が無い限り、公開時点まで彼女達は同じグループを維持する事となるからの。加えて、エヴァ様の手足ともいえる月の一族の者も同じ立場として加わっておる。

 要するにあれじゃ。幕田が用意しておる保険の1つじゃな」

 

「お嬢様はどうなさるんですかっ!?」

 

「だからこその契約、何かあってもエヴァ様の指示に従うという意思表示じゃな。

 そうじゃろ?」

 

「そうやー。どさくさに紛れて弟に手を出そうとするお馬鹿さんがいても、ウチが旗頭にならへんかったら大義名分を作りにくいしなぁ」

 

「加えて、エヴァ様自身が日本呪術協会に対する影響力を持っておるからの。

 木乃香にとっては、最高の後ろ盾じゃ。近衛家の問題でもあるから、幕田家として手を出しても権力の乱用にはあたらんじゃろう。

 何か問題があるかの?」

 

「私ももっとエヴァ様や雪花様の近くで働きたいんです!」

 

「ふぉっ!?」

 

 いや、そっちなのか、刀子。

 近くにいる千草も似たような表情だし……何がどうなってこうなったっ!?




2017/06/19 以下を修正
 木乃香の一人称を「ウチ」に
 投稿地獄→登校地獄
2017/06/21 木乃香の一人称を「ウチ」に直す修正漏れを修正


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魔法先生重羽ま編第03話 それぞれの今

 あの騒動……騒動なのか? 一部の関西系関係者の小騒ぎからしばらくすぎた。

 

 Aクラスはある意味平和と言っていいだろう。何しろ、関係者の連中はそれなりに優秀だし、成績面でも大きな問題は無いように思う。

 楓は座学で平均程度の点数を取れるようだから十分だろうし、レイや菲は幕田に来る前提で準備していたせいか言語面や学んできた内容に問題は出ていない。というか暇に飽かせて色々学んでいたらしいレイの知識量がやばい。

 結果、関係者3人が原作バカレンジャーからの脱退に成功している。

 

 残る2人、綾瀬夕映と佐々木まき絵だが、この2人もバカレンジャー的な呼ばれ方をするのは回避できそうな可能性が見えている。

 綾瀬夕映は本も好きなレイの影響を受け始めているようだし、そもそも同じ学習時間を使うなら補習を受けないように使った方が小言を言われずに本を読む時間を増やせるだろう、と言ったら納得していた。

 まき絵? ……1人ならバカと呼ばれるだけだ。複数人のセットじゃないし、理解しているか微妙だが成績が悪いとクラブの時間が補習で潰れる事は伝えた。同じ体育会系の楓や菲がそれなりの成績だし、補習を体験するような成績になればそれなりの危機感を持つだろう。

 結果は本人次第だが、これで生活指導の仕事をしていないと文句を言われないな。指導内容が勉学方面になっている、なんて指摘は聞こえない。

 

 という感じで、呪術協会や神鳴流本家で布教していたらしい雪花を軽く問い詰めながらの、平和な時間が過ぎていく。

 いや、本人的には事実を伝えていただけらしいのだが……雪花の眷属フィルタを通した事実など、私にとって脚色だらけの作り話と大差ないのが問題だ。特に、失敗や苦労、幸運なだけの部分が美談にされたり、そうでなければ省略されたりしている辺りが。

 

「そんなエヴァサンに朗報ヨ。

 茶々型ガイノイドのプロトタイプ、シューニャの組み立て作業が始またネ」

 

「……随分早くないか?」

 

「数の力は偉大ネ。

 ただ、最初は皮膚を成型する時間が足らないかラ、プラスチック削り出しデ外殻を作て仮組み立てするヨ」

 

「その状態だと……自立歩行やらのテストやデモは可能か。

 顔はどうするんだ? 目玉むき出しも仮面状態も、オタク系以外のウケが良くなさそうだが」

 

「葉加瀬の意見で、ロボット風のフェイスガードになたヨ。

 マネキンの頭部パーツも考えたケド、かえって不気味だと反対されてしまたネ」

 

「まあ、その方が無難だろうな。

 皮膚の目途は立っているのか?」

 

「入学までに、少なくとも頭部の分は完成させるヨ」

 

「女性型を名乗れる体裁は整う、と。

 皮膚を作るなら、表情が最大の敵のような気がするが」

 

「手はセンサー類が集中するシ、そっちも別の意味で大変ネ」

 

「ああ、それもあるのか」

 

 そんな現実逃避を兼ねた状況報告的な雑談をしたり。

 

「どうした、聡美。

 きつねに包まれたような顔をして」

 

「それだと、お稲荷さんですよ。

 そうじゃなくて、その、正式にエヴァさんの部下になった時に、雇用契約をしましたよね」

 

「そうだな、私が直接雇う形になっているはずだ。

 給与やらの手続きは幕田の連中に任せているんだが、何か手違いでもあったか?」

 

「いえ、手違いとか、そういう問題じゃないんです。

 えっと、まず、これを見てください」

 

「これ? 給与明細か。

 ああ、中学生の雇用云々という事なら、学業に問題が無く、夜間の業務を行わないという前提であれば可能だ。テレビに出てる子供は概ねこの規定で契約しているはずだぞ」

 

「いえ、そっち方面は心配していません。

 でも、ですね。この金額はおかしくありませんか?」

 

「金額に不備があったか? ……いや、私の指示通りだ。

 この金額では不満か?」

 

「逆ですよ逆!

 私、中学生なんですよ!?」

 

「たかが月20万じゃないか。

 契約中に作成した技術や品々の権利を私が得るという契約内容と、お前の能力の期待値。合わせたらもっと高くていいと思うんだが」

 

「よくないですよっ!

 あの契約で仕事に使える時間は、土日と放課後ぐらいなんですよ!!」

 

「中学生なんだから、当然だろう。

 だからと言って、夜にやればいいとか思うんじゃないぞ。睡眠の不足は思考力が落ちるから、研究者としての能力低下に直結しやすいからな」

 

「うー……じゃ、じゃあ、最近の超さんはどうなんですか!?

 相当無茶してますよあの人!!」

 

「あいつは私の部下でもあるが、独立した経営者扱いだからな。

 だからこそ、直接投資や融資の話が可能なんだが……経営者には労働基準法やらが適用されない点を利用して、無茶しているようだ。

 そんなところに出向していると、見ていて心苦しいのはわかる。だが、お前まで無茶に付き合うと、ブレーキ役がいなくなるからな。鈴音にはあまり無茶するなと言ってあるし、あまり無茶しすぎないよう見てやってくれ」

 

「……それこそ無茶ですよ……」

 

 給与明細を手に呆けてた葉加瀬聡美を、更に呆けさせてみたり。

 

「エヴァさーん。

 ちょっと失敗しましたー」

 

「どうしたネギ。半泣きとは珍しいな」

 

「原作より早くそっちに行きたかったんですけど、失敗しちゃいましたー」

 

「いや、無理して早めなくていいんだが。

 むしろ、失敗して遅くなる方が問題だぞ?」

 

「それはそうなんですけど……」

 

「それで、何に失敗したんだ?」

 

「とある魔法の、実技なんです。

 ……いえ、普段は成績優秀なんです」

 

「普段の成績は聞いているぞ。

 少なくとも、私としては原作のネギより優秀だと思っているんだが」

 

「くしゃみで脱衣なんてラブコメは、無邪気な男の子がやるからいいんです。中身が成人女性のボクとしては実践したくないですから。

 でもですね、治癒魔法って、現代ではかなり重視してるじゃないですか」

 

「まあ、しているな。攻撃魔法よりも解りやすく人助けに見えるから、ではあるが」

 

「そうなんですよねー。

 それで、治癒魔法の実践という事は、ケガなりをしてるわけじゃないですか」

 

「ああ、血が駄目とか、そういう方向か」

 

「そりゃあ、ちょっとしたケガで血が出てるとか、その程度なら全然大丈夫です。

 でも、テストだと言って、いきなり切腹して内蔵取り出すって、いったいどんなホラーなんですかっ!?」

 

「戦争や事故の現場なんて、それ以上の光景が普通にあるぞ。

 そういった場面でも落ち着いて行動できるか、治療行為が可能か。そういうテストはあるぞ。

 テストだと言って心構えさせてもらえたなら、まだ温情的だ」

 

「うう……スプラッターは苦手です……。

 エヴァさんは大丈夫なんですか……?」

 

「好き好んで見たいわけじゃないし、避けられるなら避けたいが……まあ、慣れた。

 私が特殊すぎるせいもあるが、魔法世界だと凶暴な野獣に襲われるのは普通だし、強盗まがいの賞金稼ぎやらに襲われて殺し合いになる事もあったからな。血を怖がって思考を止めたら、自分がそれ以上の血を流すことになる。

 とにかく動けるようになりたいなら、ショック療法か谷底に突き落とす獅子的な意味で、そういう環境に行くのも手段としてはありかもしれんが」

 

「えー……それもちょっと……」

 

「なら、そこまで急ぐな。

 そういう無茶なテストになったという事は、無茶な要求をしたという事だ。

 今回の場合は、予定以上に早い卒業を求めて、卒業しても文句を言われない実力を求められた、といったところだと思うが」

 

「それは、そうなんですけど……そうなんですけどぉ……」

 

「来年の卒業は、そこまで言われていなかったはずだ。

 予定通り、来年幕田に来るといい。」

 

 そんなネギの贅沢な愚痴を聞いてみたり。

 

「さて、ある意味めでたく孤児院から出た事を祝い、家庭訪問なるものに来たわけだが。

 本当に学校ではアルカナで通すつもりなのか?」

 

「はい。時期も中途半端になっていますので」

 

「そこはわからんでもないし、元の姓を通称として使用できる制度はある。

 だが、結婚を想定したものだから、厳密に言えば養子の場合はその規定に該当せんぞ?」

 

「その点も説明を受けています。ですから、期間を限定した条件付きで黙認していただく事になっています」

 

「ふむ。

 この場に幸樹がいるという事は、本人も了承済みと理解すればいいんだな?」

 

「はい、エヴァ様。

 この龍宮家嫡男龍宮幸樹が、責任をもってマナ・アルカナを家族に迎え入れ、共に未来に向けて歩むことを誓います」

 

「マナ・アルカナの生い立ち、背負う責任、歩む道の険しさは理解しているな?」

 

「もちろんです。

 これまでに何度も、ザジ様との話し合いも行っています」

 

「そうか。それなら、私から言う事は、一つだけだ。

 ロ・リ・コ・ン」

 

「ぐはぁっ!?」

 

「こ、幸樹!?」

 

 いや、いくら外見年齢がオカシイといっても、相手は中1になったばかりなんだ。

 いくら女が押しまくった結果だとしても、あれこれ言われるのは男なんだから、この程度の事で血を吐くようではこの先もたんぞ。

 というか、養子の時点で同姓&同棲なんだし、実質的には新婚……と呼ばれないためなのか、通称を変えないのは。

 実際に結婚するまでは名前を変えず、そこから改めて新婚気分を味わおうとは、この2人もやりおる、などと仲のよさげな2人を眺めてみたり。

 

「さてと、全員を対象に行っている生活指導なんだが。

 始まる前からどうしてそんなに緊張しているんだ、春日美空」

 

「あ、いえ、その、聞いていた話と、言われた事と、あとのあれこれを考えると、ちょーっとおなかの辺りが痛いような気がしてきまして」

 

「ふむ。お前の師は……シャークティだったか。

 幕田に帰化して巫女をやっている、珍しい人物だと聞いた覚えがあるが」

 

「あ、その人っ……です」

 

「別に、普段の口調でいいんだぞ。

 巫女だと規律やらにうるさいかもしれんが」

 

「態度とかはかなり厳しく言われるんですけど、それ以上に先生への崇拝っぷりがパナイ……じゃない、ものすごくて、ついていけない時が多々あります」

 

「崇拝……崇拝、か。全く、呪術協会は何をやっているんだか。

 それに染まったシャークティもどうかと思うが」

 

「現人神だと、力説してますよ。

 でも、今までにやってきた事の年表を見せてもらいましたけど……否定するの、難しくないですか?」

 

「う……い、いや、魔法使いがその気になれば、そこまで飛びぬけたことはしていないはずなんだが……」

 

「鬼を扱うプロの陰陽師にも無理なのに、魔法使いが鬼神を式神にするとか、ありえないっス……じゃない、ありえないです。

 しかも、何百年も召喚しっぱなしで反逆の気配すらなくて、本人……本神? が使役されっぱなしなのを全肯定してるとか、否定できる要素を探す方が難しいです」

 

「……昔は、出来そうなやつがちらほらいたんだがなぁ。

 というか、よく調べたな」

 

「普通の人だと、何百年ってあたりが無茶振りじゃないですか。月の一族の人達だと、功績を主に捧げるとかやってそうですし。

 調べたのは、あれです。師匠の陶酔っぷりに反論しようとしたら、余計にダメージを受けただけです。鬼神が放し飼い状態になってる事を知った時と、実際に話した時の絶望感といったらもう」

 

「……これは、謝ったほうがいいのか?」

 

「偉業ではあるんスよねぇ……」

 

 面談をしてみたら、何故かお互いにダメージを受けたり。

 

「一応は生活指導という建前だが、別に指導すべき事があるわけではない。

 というわけで、何か悩みや困ったことはあるか? 探索魔法少女ちうたん」

 

「うぇっ!? 何であのページに気付いた……あー、幕田の依頼でやり始めたから、そりゃ話が行ってるか」

 

「いや、見付けたのは偶然だな。

 幕田の怪しいところの訪問記、的な感じに見えたが……衣装に突っ込みを入れるべきかどうか、悩ませたいんだな?」

 

「顔を出してないのに気付かれたのか……

 いや、あれって、あえて魔法を見せてる施設やらの紹介みたいなもんなんだけど、それだけだと似たようなのが他にもあるから、話題っつーか、インパクトが不足するんだよ。

 で、どうするか相談したら、魔法関係なんだから魔法少女のコスプレでもしたらどうか、ってなっちまって……」

 

「嫌なら嫌と、拒否できなかったのか?」

 

「依頼を受けちまってたし、他に代案も無かったんだよ。

 しかも、鳴滝が制作会社やらに話を通して、ある意味本物以上の出来の衣装を作ってくれることになった上に、やたら反響が良くて引けなくなったんだよな」

 

「衣装の作りがやけにしっかりしていると思ったら、プロの仕業だったのか。

 確かに、服の作りに反応しているコメントも多かったな」

 

「ステージ衣装やらを作ってる連中が、採算度外視の趣味全開で作ってるらしい。

 なんでも、着ぐるみじゃない本物のJCに着てもらえるんだひゃっほい、って目の色を変えてるとかなんとか」

 

「状況は分かったが、その辺は伝聞なんだな」

 

「そんな連中に会いたくない。あのページは知られてるはずだし、衣装を作る以上、体形はバレバレなんだけどよ。

 こうなったら、せめて顔バレだけは避けねーと……」

 

「ああいや、そんな悲壮感を漂わせなくてもいい。いざとなったら、私が匿ってやる。

 私の本来の姿はアレだからな。少なくともロリコンに付き纏われるような環境でない事だけは保証できる」

 

「マジか!? いや、今すぐってわけじゃねーけど、ヤバい時はマジで頼む。

 オタク方面にも名前が売れ始めちまってて、どんどん深みにはまってる気分なんだよ……」

 

「なんというか……無理はするなよ」

 

 ブログの女王(不本意)への道を歩みつつある、千雨の現状を聞いたり。

 ネット依存やコスプレ趣味に走る要素は無いと思っていたんだが……こんな形で関わるとは。やはりこの世界は油断できん。




2017/07/18 以下を修正
 補修→補習
 体育系→体育会系
 。、→。
2019/09/23 暇に任せて→暇に飽かせて に修正


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魔法先生重羽ま編第04話 餌

 夏休みが、終わった。

 そして、鈴音と聡美と愉快な仲間(マッド)たちによるガイノイドの研究も、1つの山を越えた。

 その結果が、これだ。

 

「えーと、今日から、1Aクラスで構造やAIの学習に関するテストを行う事になった、ガイノイドのチャチャ・シューニャですー。

 色々と精密な上に試作品なので、丁寧に扱ってくださいー」

 

「シューニャ・チャチャです。

 よろしくお願いします」

 

 さよに紹介され頭を下げるこいつが、絡繰茶々丸という名にならなかったシューニャ・チャチャだ。色々未完成で、特に皮膚や関節部分は人形に近い構造なんだが……なるべくしてなった、という事だろうか。

 というか、夏休みの前半でAIに関する論文を書き上げ、並行して世界のアホどもを巻き込んで体の設計と部品の製造。後半で一気に組み立てて稼働に持ち込むとか、鈴音は無茶をしすぎだ。

 聡美も、一緒になって暴走していたようだし。一応契約を守って、夜間の作業はしていなかったようだが……生活時間を全て夜と夜明け前に追いやるという、簡単に思い付く回避方法を実践されてしまった。

 ブレーキとして全く機能しないとか、予想通りだよ全く。

 

「どの程度普通の人として扱えばよろしいんですの?」

 

「えーと、耐久性の評価が不十分なので体が弱いくらいの設定で、基本的に普通の人として扱ってほしいそうですー。

 注意点は、知識が偏っている事と、学習のために好奇心が強めな事だそうですよー」

 

「SFでありがちな設定ですわね……

 問題が発生した場合の窓口は、どちらに?」

 

「それは制作に関わってる、この超鈴音が請け負うヨ。

 もし不在なら、指導員を任されたダイアナか、同じく関わってる葉加瀬でも可ネ。それでもだめなら相坂センセか重羽センセでも連絡くらいはできるはずヨ」

 

「どうしても危険なら、関節くらいは壊しちゃっても責任を問わないそうですよー」

 

「そんな危険は、無いと思うけどネ。

 でも、可能な限り壊さないでくれると助かるヨ」

 

「壊れると換装が早まったりするらしいじゃないですかー。

 というわけで、日常的に色々変わったりするかもしれないそうなので、驚かないでくださいねー」

 

「この辺は実験も兼ねてるから、そうネ、リボンを変えたとか、その程度だと思って欲しいヨ」

 

 この辺の話は裏を知っている、さよ、あやか、鈴音の3人の三文芝居……というわけでもないか。部外者に対する説明と、対外的な位置付けの確認という意味はあるだろうし。

 それにしても、幕田発の怪しい新製品や新技術を出しすぎたか? 認識阻害は世界樹の隠蔽しかしていないのに、夏に発表されたばかりのガイノイドを中学校に入れてもさほど驚かれていないような感じがする。まあ、マッドどもにネタを提供してきた事実はあるし、一般的にもその流れで理解される可能性があるなら十分か。

 

(……って思ってるだろ、あの顔)

 

(だよねぇ。派手に騒ぎそうな人はほとんど関係者って事実を忘れてるんじゃない?

 ちっこい姉妹は、ほへーって顔で静観してるし)

 

(さすが筆頭、自覚がすげーな)

 

(ジャーナリストには、客観的な視点が大事なのよ)

 

(で、そのジャーナリスト様は黙って見てていいのかよ)

 

(おっと、そろそろ質問タイムを仕切らないと)

 

 ……藪から蛇がつついてほしそうにこちらを見ている気がするが、つつかんぞ。少なくともこのクラスだと早乙女が少々強めに反応しているだけで済んでいる以上、問題ない、はずだ。

 

 私には、それ……ガイノイドそのものよりも気にしなければならない事が色々あるし、学校関係に気を回すのはこの程度で十分だろう。

 

 例えば、ガイノイドに使われている技術を盗もうとする連中の対処。

 詳細な技術は非公開……というか、コンピュータのプログラムで説明可能な範囲での概要説明しかしていないし、現状ではそれ以上を公開する気も無いため、色々な国や企業から探られているようだ。

 2年程かけて実際の学習等について調査し結果を公表するとしているし、開発の中心が私直属で幕田公国の公的機関扱いという事から、一部の組織は実際に使われている技術の一部に気付いている。もっとも、その水準の高さから探ろうとする動きはやはりあるらしいが。

 ハッキングやらに関しては鈴音と千雨が猛威を振るい、逆に相手の情報を奪ったりもしていると報告を受けているものの、逆にやりすぎを気にしないといけないのはどうなんだろう。魔法を公開する際の技術例にする気はあっても、他の組織やらと喧嘩をしたいわけじゃないんだがな。

 

 例えば、世界の魔法関係組織や、魔法を知る企業からの接触。

 私が屋敷の奥に引きこもっていない事に気付いた連中が、直接的な接触を試みているらしい。雪花やイシュト達に、護衛の練習台として利用されているが。

 ある者は偶然を装い、ある者は直接的に近付こうとするのを見極め、接触前に排除する。しかも、無関係な者への影響は可能な限り少なく。言うのは簡単だが実践はとても難しい……はずなんだ。ほぼ正確に処理している雪花に、鈍っているから鍛えなおしていると言われても信じられない程度には。

 それに、世界にはびこる月の一族を気に入らない連中は、間違いなく存在している。主にメガロとか宗教団体とか私達と関係ない財団とかだが、その中でも短絡的な一部の連中が刺客を送ってきていて、それを雪花やイシュト達が捕らえ、有宣が裏を調べ、甚兵衛がお仕置きに行っているらしい。

 要するに、私が盛大にそいつらを釣るための釣り餌として機能していて、有宣達が計画実行前に邪魔そうな組織を弱体化させて回っているわけだ。邪魔になりそうな組織の力を計画実行前に削いでいるわけだし、それをとやかく言う気も無いが……いつの間に甚兵衛が仕事人、それも必ず殺す方になっていたんだろうな。ここしばらく、50年ほどは家にいないニートばりにフラフラしていたはずなんだが。

 

 例えば、私自身の魔法の技量や、使う魔法。

 計画の実行に必要な技量……魔力を扱う能力と言った方が正しそうだが、魔法使いの常識をはるかに超えたレベルで要求されるのは確かだ。そして、そんな魔力を世間にバレずに使うのは無理だから練習は不可能、魔法の公開を早めても本番と同じレベルの魔力を集めるのは不可能、と、色々無理のある状況に変わりはない。

 もちろん、行使予定の魔法も、完全なテストは不可能な内容がいくつもある。小規模なテストは散々やっているが不安が無くなるわけではないし、必ず動くよう安全性優先で効率が落ちている部分も多々あるから余計消費がきつくなっているのは間違いないが、それでも何とかしようと研鑽してきたし、専用のデバイスも準備してある。

 これに関しては、可能な限りの準備をしてきたが、慢心は出来ない。そんなところだろう。

 

 例えば、世界樹の状態。

 大発光の時期をずらすために色々と細工をしているが、その結果をとても注意して見守る必要がある時期に入っている。

 通常はどの様に変化していくか、どうすればどんな影響が出るかは、今までの時間でそれなりに調べてきたが……意図的でない周期の変化は未経験だ。原作で1年早まったとされている再現するかどうか不明な現象を10か月早まる程度に変化させるという、足すべきなのか引くべきなのかを調べながらの作業だからとても難しいし、次善策も用意してあるが、成功する方が色々とやりやすいため手も抜けない。

 

 例えば、造物主の動向。

 ここ最近は色々な物、具体的には魔法の触媒として使えそうな物の仕入れが、活発になっているようだ。アーウェルンクスの増産とは思えない内容らしく、監視担当やらも少々困惑しているらしいのだが……

 

「造物主と大規模魔法の組み合わせって、アレしかないよねー?」

 

 何故かこの報告書だけを持ってきたヴァンが、面倒くさそうにボヤいている。

 

「魔法としての完全なる世界、か。

 正直に言えば、今更かとしか思えんのだが」

 

「だよねー。組織が無い事は確実だし、アーウェルンクスの増産もしてないっぽいから、自力で全部どうにかするのは無理なはずだよ。

 でも、規模を縮小したりすれば、何とかなるかもしれないし。警戒しないのは怖すぎるし。あーやだやだ」

 

「だからと言って、問答無用で攻撃するのも問題がある。

 どこかの国のように、先に殴らせたり嘘だろうが証拠があると声高に主張したりするのも後々面倒なことになるしな」

 

「明確な敵とか、分かりやすい悪役とかじゃないしねー。

 裏でこそこそ動くって意味だと同類だし、魔法世界の崩壊に対して何らかの手を打とうとするって意味でも完全な敵ではないんだよねぇ……」

 

「方針や手法が違いすぎて相容れない以前に、まともに会話もしていないからな。

 この状態で私達と同じ手法を取る相手なら、私が動く理由が無い。全て任せて隠居するぞ」

 

 そもそも造物主が穏便な手法を使って成功していたら、私達が代案を作って準備する必要もなかったという話になる。その場合はネギまがバトル物にならず、ラブコメのままになるような気もする……いや、ラブコメのままなら世界崩壊なんて話にならないか。

 

「そうじゃないから、今があるんだけどねー。

 でも、場合によってだけど、造物主との接触も考える?」

 

「どうだろうな。意味や必要があるなら考えるが……してもしなくても、動きが読めないという点に変化があるようにも思えんぞ」

 

「そうなんだよねぇ……」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 そして、秋だ。

 なぜか焼き芋大会や図書館島ツアーなんて行事が行われていたりする季節だ。

 いや、食欲だの読書だのという、秋にちなんだものだというのは解る。解るのだが、校庭のあちこちで芋入りの焚火をしている光景はシュールというか、違和感しかないというか。

 

「えー、昔お庭でやってたじゃないですかー」

 

「ヴァンが気の迷いで作っていた、東屋の囲炉裏でしかやった覚えがないぞ。

 あれはあれでシュールな光景だったし、庭と呼んでいいのか……?」

 

「お庭ですよー?」

 

「……まあ、いいか」

 

 どっちでも、の意味で。

 そんな、前世では煙がどうだので出来そうにない光景をのんびり見ていられるのは、ここが校庭の端で、写生大会の会場だからだ。1-Aクラスからはレイしか参加していないが、教師は各会場に分散していて、さよと私がここの担当となっている。

 他の行事と比べて教師がやる事も移動も無いし、賑やかな連中はスポーツ系に行っているから割と静かだし、楽でいい。

 もちろん、楽というだけでここの担当をやっているわけではなく。

 

「この辺に潜んでいる阿呆共はどの程度が接触希望者で、どの程度が暗殺者なんだろうな」

 

「全体の人数はともかく、内訳までは謎ですー」

 

 事前に生徒達に通知されるイベントの情報で、私がここにいる事が国内外の連中に知られるのは確実だ。それを利用した、釣り餌として待機する退屈なお仕事でもある。

 そのために、わざわざ校庭の端で移動の無い場所を任されているわけだが……

 

「……入れ食い状態にもほどがあるな。

 暗殺者同士で潰し合いをしているし」

 

「もてもてですねー」

 

「害虫に集られて喜ぶ趣味は無いんだが……」

 

「あの人たちはあの人たちで、いろんなものを背負って来てるはずなんですよー?」

 

「利己的な信念、組織人としての任務、金。概ねこの辺だろう? 私には関係ない話だ。

 それに、自然では重要な役目を担っていようが、人にとって有害だと思われた虫は害虫と呼ばれるんだ。だから、私にとって有害な連中を私が害虫と呼ぶのは間違っていないぞ? 他の者に同じ呼び方を求める気も無いしな」

 

 家を食べるシロアリだって、自然界では倒木を分解する掃除屋としての側面を持つんだ。

 見方を変えれば益にも害にもなるものがほとんど……というか、全てのものは見方次第でどうとでも評価できるものだ。

 

「それはそうなんですけどー。

 でもー、虫じゃないですよー?」

 

「害のある人で害人だと、外の人と聞き分け出来ないのが問題だな。

 それにしても、今日はイシュトが妙に張り切っているな」

 

「出番がないってぼやいてましたから、気にしてたんだと思いますよー。

 もう8人ほど排除してますけど、振り分けはあってそうですかー?」

 

「あいつは、メイド寄りの立ち位置だったと思うが……戦闘力もある分、微妙なのか?

 とりあえず、少なくとも武器の類を持っている連中は全員処刑コースになっているな。

 武器を持っていないから安全とは言えんから、あっているかどうかは判らん。まあ、有宣達も動いているようだし、あからさまに危なそうなのや裏が取れたのから順に処理している感じなんだろうな」

 

「武器を出した直後に捕獲とか、すごいですよねー」

 

「死なないからと言って、真正面から行くのはどうかと思うが」

 

 痛みはあるはずだし、搦め手で勝負に負けたこともあるんだが……まあ、本人の好みの問題もあるし、無理に変える必要も無いか。

 ……ん? イシュト以外にもアピールしたがってるのがいたり……しない、よな?




何が困るって、この時期は原作的にイベントが無いのが困る。


2017/08/20 以下を修正
 幕田初→幕田発
 じゃいしねー→じゃないしねー
 「程度普通の→「どの程度普通の


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魔法先生重羽ま編第05話 師は走らない

今回は、ちょっと短めです。


 年末が近付いてきた。

 世界は、地球の表向きという意味では、平和なままだ。

 だが、相も変わらず、裏では色々な動きがある。

 

 例えば、メガロの悪あがき。

 ようやく大型軍艦に将来性が無い事に気が付いた元老院が、今のうちにとばかりに高圧的な外交を展開しているようだ。

 当然、それを良く思わない小国や、その状況を目の当たりにしているメセンブリーナ連合の構成都市等が動揺し、ヘラスやウェスペルタティアに近付く動きをするところも出始めている。

 結果として、小さな紛争や小規模な戦争がちらほら発生している。

 

「それだけなら、想定内だったんだがな……」

 

「アーウェルンクスの影が見える点も、原作的な意味では想定内ですね。

 関わり方については、違いがあるようですが」

 

「で、古本的にはどう見る。動いているのは、やはりフェイトか?」

 

「絶対にとは言い切れませんが、恐らくそうですね。

 もし違うとしても、原作フェイトに相当する思想と外見のアーウェルンクスですから、大差ないでしょう。戦災孤児を引き取って支援している事も、その一部を手駒にしている事も、それを裏付けていますからね。

 原作との違いは、戦争や紛争などの原因には関与していない点でしょうか」

 

「薬の材料だの炎の精霊だのといった、狙われたとしか思えん連中もいるのか?」

 

「ふふ。月の一族のネットワークは、強力ですね」

 

「……別に、お前の孤児支援のための組織じゃないんだがな」

 

「いえいえ、私がやっていたのは、悪質な孤児院の矯正とその後の若干の支援程度ですよ。

 いくつかの種族は孤児が出る前に保護しているのですから、月の一族の力と行動力は素晴らしいと言っているのですよ」

 

「……フェイトの従者、壊滅の危機……なのか?」

 

「0ではありませんし、敵対するのであれば少ないほど良いのですから、問題ないでしょう。

 むしろ、この短期間で従者になるほど懐かれた事に驚きです」

 

「吊り橋効果か?」

 

「そうかもしれませんね」

 

 更に、地球側の裏組織の魔法世界離れが加速している。正確に言えばメガロ離れだが。

 ヘラスやウェスペルタティアとの関係を強めているから魔法世界の小国などと同じ動きだとは言えるし、元々私達のせいでメガロとは一歩引いた関係でいる組織が多かったところに追い打ちをかけただけとも言える。

 

「っていうか、メガロも下手だよねー。

 誰かの足を引っ張るのだけは得意みたいだけどさー」

 

「既得権に胡坐をかいて、その維持に血眼になるのも好きそうだぞ。

 なんというか、身近なはずの某国と某国を思い出すんだが……いや、やたらと正義だの綺麗事を言う割に汚い辺りは、某国とかも混じってるのか」

 

「つまりあれだね。

 人間なんて所詮こんなもんなんだ! って叫べばいいんだと思うよ?」

 

「元人間のはずの私達だって、似たようなものだがな。

 少なくともメガロの足は思い切り引っ張っている自覚がある」

 

「既得権を縄張りって言い換えると、肉食獣なんかも該当するね。

 つまりメガロは、獣レベルだった……?」

 

「いくら何でも、全てがそうではないはずだぞ。

 私達に好意的な連中も、少しはいるしな」

 

「じゃあ、ちょっと修正。

 メガロは、ワガママ系人間と獣と少しの良心のごった煮だった?」

 

「程度はともかく、大抵の国や組織はそんなものだと思うが……」

 

 そして、そうなると必然的に。

 

「先日、聖地を管理する組織全てを、事実上の管理下とする事が出来たと報告がありました」

 

「……えーと、どこの管理下だ。

 ゼロが報告を持ってきたという事は、月の一族の……なのか?」

 

「表向きは、指導者の一員に月の一族の者が加わった、というだけですから。

 このタイミングでどこかの組織の下に付くのは、色々とうるさい国があるでしょう?」

 

「それはそうだが。

 それにしても、今までは友好的に付き合ってきただけの組織もあったはずだが……方針が変わったのは、やはりうるさい国が原因なのか?」

 

「そのようです。

 明確に私達の傘下となるのは色々と問題がありますが、指導者に私達の関係者が含まれただけであれば言い訳も可能でしょう。バレなければ言い訳も不要ですし」

 

「その辺の諜報能力は、そこそこあるはずなんだが……。

 まあ、月の一族の影響がどうのと言っても、明確な組織があるわけじゃないしな」

 

「眷属達は、そこも不満のようですよ。

 そろそろ明確にしてほしい、という要望は常にありますし」

 

「私としては、計画を実行したら姿を消したいくらいなんだがな」

 

 そんな事をしつつも、世間的には、誰かの誕生日を祝う名目も忘れて浮かれる時期ではある。

 

「エヴァ様って、一応は西洋の魔法使いっスよね?

 クリスマスは祝わないんですか?」

 

「浮かれるのを止める気は無いが、特に祝う気も無いな。元々信仰心を持っていない上に、日本に染まっているからなのだろうが。

 それより、巫女がクリスマスを祝おうとしている事を咎めるべきか、悩むべきなのか?」

 

「えー、世間の流行に注意してるって言ってくださいよー。

 そもそも、特に日本のクリスマスとかバレンタインとかって、宗教関係なくなっちゃってるじゃないですか」

 

「その辺は、信仰心が薄いせいなのか、八百万の思想に染まっているせいなのか、判断に悩むところだな。商売が上手いと褒めるべきなのかもしれんが」

 

「幕田が出資してるカカオ農場があるって話を聞いたっス」

 

「二次大戦の頃は、甘味が手に入りにくくてな。

 戦後の東南アジア復興に手を貸すついでに、農地や人手を確保して生産を始めただけだ」

 

「いやいや、かなり本格的にやってるって聞いてるっスよ?」

 

「そうなのか?

 私自身は初期の頃しか関わっていないから、今どうなっているのかはよく知らんのだ。ちょくちょく届けられてるから、作っていることは判るんだが」

 

「あれ? そうなんです?」

 

「そうなんだぞ。高エネルギーで栄養も豊富な食品として栄養剤のように扱われていた時期もあったから、その頃に増産したのかもしれんな。

 それに、好きだろう? チョコレート」

 

「あ、はい」

 

 美空とそんな無駄話をしつつ、今はぼんやりと訓練風景を眺めている。

 何しろ幕田家自体が陰陽の系譜であり、神道との関係も強い。摂家もそうだし、当然ながら関係者もその傾向が強くなるのは、自然なことだ。

 

「どうかされましたか?」

 

 ……不思議そうに見られたが、イシュトは……不死になったのを神の愛で絶望だとか言っていた事があるから、信仰心など持ち合わせていないだろう。

 ゼロ達も祈る姿を見たことは無いし。うん、うちの連中は、信仰心のないやつらばかりだな。

 

「いや、雪花は雪凪に稽古をつけているし、お前は誰かを指導する気はないのか?」

 

「ありえません。

 部下でない者を指導する意味が解りませんし、師でない者に指導されて喜ぶ理由も解りません」

 

「雪花は神鳴流の師範という肩書を持っているから、その関係だと思うが。

 雪凪は……そうだな。美空、遠隔の読心魔法は使えるか?」

 

「一応教えてもらってますけど、基本的に禁止されてるはずじゃ?

 こんな事で捕まるのはいやっス」

 

「あれにも例外があってな。命に係わる戦闘や、魔法使用に関する合意のある試合であれば、許可されているんだ。相手の動きを予測するために使う事もできるからな。

 そして、ここでの鍛錬中は、命を落としたり障害が残ったりしない限り、あらゆる魔法の行使を許容することになっている。

 お前も、そういう内容の契約書にサインしているんだぞ?」

 

「へ? えっと、最初の鍛錬に関する契約書とかいう、アレっスか?」

 

「そうだな。

 読心とは言わなかったが、後遺症が残るものでも、命に関係するものでもないからな。許容されると判断することに問題は無いぞ」

 

 様々な状況に対応する技術を教えるという内容から言っても、問題とはならんしな。

 本格的な殺し合いの場合、相手の仲間が読心魔法を使う事も想定すべきだ。

 

「いいんすかねぇ……」

 

「何なら、雪花にも使って構わんぞ。間違いなく防がれるからな」

 

「あ、そういう訓練も兼ねるんすね。

 んじゃ……」

 

 むーん、という感じで手を伸ばして……方向は雪花の方か。

 ふむ、雪花がちらりとこっちを見た瞬間に、美空が慌てて魔法を解除したか。

 

「こえー……なんか血まみれ細切れのイメージが見えたっス」

 

「ああ、そういう対処をされたのか。

 読心系魔法の弱点で、読まれるイメージを操作可能という事がままあるからな。この辺も戦略として一般化しない理由ではあるんだが、対処法を知らないと筒抜けになるのも事実だ。

 というわけで、雪凪を見てみるといい。雪花の稽古を受けながら対処できるレベルでないから、何を考えているか簡単に読めるだろう」

 

「そ、そうっスね。雪凪ならホラーのイメージを叩きつけられる事はないっスよね。

 んじゃ、ちょっと失礼して……………………ふぁっ!?」

 

 再び、むーんと……随分と早いな。

 というか、この反応は何だ?

 

「いったい、何が見えた?」

 

「あー、いや……ちょっと言うのが憚れるというか、説明に苦しむというか……

 実際に見てみる……聞いてみる? のが、早いんじゃないかなーと」

 

「ふむ。声として聴けた内容に問題があるのか?」

 

 見た目は真剣に指導を受けているようなのだが……ふむ。

 確か、声として聞こえる読心の魔法は、こう……

 

(……雪花様の太刀筋はいつ見ても美しくて思わず吸い込まれそうにだけど迂闊な斬られかたをしたら失望されてしまいそうだしそれではこうして神々しい姿を見る事もできないしああ受け流す仕草も美しくて素敵ですって見とれてたら戻すのが遅れてちょっと困った顔をさせてしまって生まれてきてごめんなさい見とれながらでも反応できるよう精進す……)

 

「……えーと、これは、どうコメントするべきなんだろうな」

 

「バリバリの裏で人外の割には、常識人だと思ってたっスけどねぇ……」

 

 ただまあ、雪花を崇拝してるだけと言えなくはない……のか? 私じゃないから、とりあえず聞かなかったことにしておくか。

 それにしても、表に出していない雪凪に感心するべきなのだろうか。雪花が気付いていた場合は……逃げない雪花に感心するしかないだろうな。




こ、この時期のイベントやネタが無かっただけなんだからっ!
べつに艦これやってて書けなかったんじゃないんだからねっ!

あ、乙乙乙乙乙丙丙の、弱腰提督です。
でも、今回堀は全力。資源8万ほど減ったうち、半分以上が堀り出撃。見落としが無ければ今回ドロップする未入手艦はコンプリートのはず。
ちゃうねん……明石さん(改にしない用)が欲しいねん……鹿島さん4人もいらへんねん……


2017/09/13 困った顔を指せて→困った顔をさせて に修正


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魔法先生重羽ま編第06話 あと1年ちょっと

 春だ。

 桜の季節だ。

 出会いと、別れの季節でもある。

 

「だが……まさか、お前から来るとはな。

 造物主の差し金か?」

 

 というか、それ以外にこいつ……フェイト・アーウェルンクスが来る理由が思いつかん。

 本来は1年程後に京都で余計なことをするはずだが、天ヶ崎千草も宿儺も幕田……麻帆良にいるせいで色々な影響が出たのか?

 

「そうとも言えるし、僕の判断とも言えるね。

 僕も造物主も、君達がやろうとしている事は聞いているし、長い時間をかけて万全の準備を整えている事も知っている。

 その上で、代案のつもりなのだろうね。何やら怪しい魔法を作り、僕に渡してきたわけだ」

 

「ふむ。持っていけ、とは言われていないのか」

 

「そうだね。ただ、有効に使えと渡されただけだよ。

 間違いなく言える事は、今の僕達に、君達と敵対しながらこれを発動させるだけの力はないという事だね」

 

「随分と正直だな。

 私のところに持ってきた目的は、協力の要請か?」

 

「可能であるなら、そうだね。

 可能性はあるかい?」

 

「内容も知らない魔法の是非を答える事はできん。

 私達を説得できる内容だと思えるなら、説明してみるといい」

 

 もっとも、原作の【完全なる世界】なら、アウトだと思うが。

 散々改変しているし、ミラクルが起こっている可能性もある……のか?

 

「そうだね。

 まず、この魔法の目的は、不幸と感じる人を減らす事だ。その上で、魔法世界が崩壊しても当人達の魔力で維持が可能なレベルにまで消費を抑えているよ」

 

「疑問は3点だ。

 1つ目、不幸を削減する手法は?

 2つ目、人の選別方法は?

 3つ目、発動にはどの程度の準備や魔力が必要だ?」

 

 現時点でかなりアウトな臭いがしているが、大丈夫なのかこれは。

 

「順に答えるよ。

 まず、個々の人が望む小さな世界を作り、魂の状態でそこに送り込む。

 そうすることで、少なくとも大きな不幸は減らせるだろう」

 

「ある意味で夢や仮想現実のようなものか?

 いや、魂の状態になるという事は、肉体を失うという事か。人によっては、何らかの物語に転生したような内容になってもおかしくなさそうだが」

 

「体についてはその通りだよ。内容の可能性も、否定はできないね」

 

 否定できないのか。

 ポヨポヨ言っている方のザジの魔法でも現実とは異なる内容の世界を用意していたのだから、それが行きつくとこまで行けば、やはりそうなるのか。

 

「人の選別は、ほぼ不可能と言っていいね。

 せいぜい、範囲を指定できるくらいだ」

 

「やはり、無条件か。まあ、範囲を制御できるなら、まだマシか」

 

「最初は魔法世界全体を対象にするつもりだったようだから、これでも妥協したのだと思うよ。

 これにも関わるけれど、準備はかなり大掛かりになるだろうね。現時点で不幸な人が、国を超えて移動できると考えるのは楽観的過ぎるだろうから」

 

「対象となる場所を多くする必要があるから、個々はともかく全体としては大掛かりになるのか」

 

 内容はやはり、原作の【完全なる世界】に準拠しているようだな。

 少なくとも現時点では全体に対して行使する予定ではない事と、そう言えるだけの根拠として範囲制御が可能な事が、差異になるのか。

 

「ああ、もう1つ追加だ。

 夢に囚われた魂に対して、外から手出しは可能なのか?

 何らかの形で連絡できるのか、と言い換えてもいい」

 

「原則として不可能、と言っていいだろうね。

 世界を閉じる事で魂を連れ戻すことは可能だけれど、気軽な方法でないのは確かだよ」

 

 手を出せば夢が破綻する以上、そうなるだろうな。

 となると。

 

「そうか。それならば、私達はその魔法を支援することは難しいな。

 肉体を捨て、連絡が取れないのであれば、それは死と同義と判断されるだろう。それに加担するのは殺人に加担するのと同じだ、という意見に反論可能か?」

 

「無理だね」

 

 だろうな。

 だが、考える余地すら無しなのか。

 

「ならば、可能とするよう変更する気は?」

 

「分かっていて言ってるだろう。

 迂闊に介入すれば、世界の秩序が崩壊する。本人の認識の齟齬もあるだろうから、問題を出さないのは不可能だよ」

 

「即答する程度に理解しているなら、なぜ私のところに来た?」

 

「あわよくば、という気持ちがあったことは否定しないよ。

 本命は、どの程度なら見逃されるのかの確認だ」

 

「ふむ。

 わかりやすく言えば、計画の邪魔にならないのであれば好きにしろ、となる。間接的な影響がある場合なども排除や粛清の対象となるがな。

 分かりやすく言えば、希望者を勧誘する事自体は構わんが、魔法の公開を危険視する内容や、その後の不安を煽る内容の説明をする場合は排除対象となる。公開前に魔法の存在を広めようとする事も同じだな。

 この条件は大国や私であっても同じだし、意図ではなく行動内容や結果で判断される。

 参考になったか?」

 

「かなりね。

 結果的な妨害、例えば先に場所を確保してしまった、程度は許されるんだね?」

 

「確保の手法があくどいとか、手配していた場所を横取りしたとか、意図的に被せるようにしたとか、そういう事でなければな。

 魔法を知らない人や組織の一般的な活動の範疇であれば、問題とはならんだろう。実際にどこまで許されるかは、その地の組織次第だな」

 

 だがまあ、こいつや造物主が望むような活動は、難しいだろう。

 お得意の裏でこそこそ動くなら……見付かった時点でアウトか。

 

「細かい基準の指示はしていないのかい?」

 

「私は計画の中心近くにいるが、全体を仕切っているわけではない。

 計画に参加している連中もほとんどは利害や未来を見据えてであって、私の配下というわけでもない。

 指示など、無理な話だな。私にできるのは、依頼くらいだ」

 

「そうなのかい?

 最重要人物という話を聞いているのだが」

 

「重要……重要、か。

 計画の要となる儀式魔法の作成に深く関わったのは事実だし、長い儀式をやり切れると連中が信じられるのは私以外ほとんどいないらしいな。

 そういう意味なら、最重要と言われても仕方ない立場だが」

 

「技術面の柱なら、確かに重要ではあるね。

 聞いた話では、もっと政治寄りの理由だったけれど」

 

 やれやれ、こっちの事も探りに来ているのか。

 月の一族についてどの程度漏れているのかは知らんが、それなりに予想はしていると考えるべきだろうな。

 

「そうなのか? 政治……政治、か。

 幕田の裏方として、古い伝手も色々持っているせいか? 今回はそういう伝手も使って人を集めたし、その後も初期の人員や組織がそれぞれの地域で中心的な役目を担っているはずだ。その影響なのか?」

 

「いや、僕に聞かれても知らないね。

 少なくとも、かなりの影響力を持っているように見えたから、話をしに来たんだ」

 

「結果的には、私でなくてもよかった気はするがな。

 いや、危険な思想だと排除していないから、私で良かったのか」

 

「そうかもしれないね。

 もう少し動きやすい制限だと楽だったよ」

 

「お前達の都合に合わせた基準ではないからな。私達は穏便に事を進めたいから騒乱や紛争を望む者とは相容れないし、そういう者達に遠慮する余裕はない。

 そもそも、地球と魔法世界、双方の国と組織が多数協調して進めている計画だ。基準を変えるにはどんな手間が必要で、邪魔をするとどんな連中に睨まれるのか、想像くらいはできると思うが。

 これを甘く見て起こったのが、20年近く前の争乱だ。未だに燻る傷跡で孤児を保護してきたお前は、その無益さを知っているだろう?」

 

「そうだね。なるほど、君達の事情は理解したよ。

 その上で邪魔にならないよう活動するのは問題ないんだね?」

 

「それは好きにしろ、としか言えん。

 邪魔にならない行動まで縛るほど、暇じゃない」

 

 原作的な意味では、心配ではあるが……ここまで外れている以上、心配しすぎても仕方がない。

 

「それなら、確認しておきたい事がある。

 魔法の公開と、計画の実行。この間の期間は3か月で確定かい?」

 

「計画を変えるに値する意見は、出ていないな」

 

「魔法の公開は、大きな混乱を招くことになるはずだ。

 それが落ち着くまで待つつもりは、ないんだね?」

 

「魔法世界の余命は知っているだろう。そんな猶予は無い事もな。

 もちろん混乱はあるだろうが、これくらいの時間があればある程度情報が広まるだろうし、広める事になっている。その上で、保守的や野心的な連中が余計なことをする前に為すべきことを為すだけだ」

 

 少なくとも政治や経済の権力を持ち魔法に関わっていない連中から、魔法世界を狩場と考える馬鹿が現れるのは確実だ。

 そいつらが迂闊な事をする前に、事を済ませる必要がある。その意味で3か月が限界という結論に達して、その予定で動いているのだから、今更変えろと言っても不可能だろう。

 

「僕達の視点でまとめると、勧誘やその準備自体を止められはしないが、君達から目障りに見えたら対決することになる。その上で、地球で広く勧誘ができる期間は3カ月。

 間違い無いね?」

 

「無いな」

 

「なるほど。無駄かもしれないけれど、造物主には伝えておくよ」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 春だ。

 出会いと、別れの季節だ。

 しかし2Aになっても、クラスのメンバーはある点を除けば変わっていない。

 

「開発してる人たちが色々とやらかしまして、チャチャさんの外見がちょっと変わりましたー。

 今回も試作だったりテストだったりするそうなので、ちょっとだけ気を付けてくださいねー」

 

「「「「はーい」」」」

 

 その変化は、ようやくチャチャの皮膚素材が全身分できて、より人間らしい外見になった事だ。もはや人形的な関節は見えず、頭部のパーツを除けば普通の女性と変わりないようにも見える。

 もちろん、中身……頭や身体能力に関しても、順調に進化している。ダイアナとの契約に含まれていた料理の技術は、いつの間にか四葉五月を先生として迎え入れて発展させているらしい。

 そのついでというか、技術の検証と有効利用という名目で屋台の超包子(チャオパオズ)を開いているし、鈴音の行動はやはり原作にある程度準じるらしい。

 

「それでは、入学式と始業式があるので、移動してくださいー。

 騒いだり遅れたりしたらダメですよー」

 

「えー! ボク達がいつも騒いでるみたいだよっ!?」

 

「今も騒いでますよー。

 というわけですから、ちゃんと来てくださいねー」

 

 そんな話があった日の夕方。

 世界文化交流部……あやかの案が元になった、学校の枠を超えて魔法関係者が集まるクラブの部室という名の家に、2Aの関係者がそこそこ集まった。

 

「さて、計画の実行まで、あと1年少々となったわけだが。

 今のうちにやっておきたいことはあるか?」

 

「あー、今のうちに思い切り遊んどきたいっスね……」

 

「遊んでいる暇などありませんわ! 今のうちに可能な限りの準備をしておくべきですわ!」

 

「でも、観光を兼ねて別の国の組織に顔見せしに行くのは、ありデース!」

 

「そこまで金がかかる話は、ちょっと遠慮してーんだけど……」

 

「大丈夫、たぶんスポンサーがつくよ!」「あのお仕事の格好だと、確実に!」

 

「ぜってーしねーよ!」

 

「ファンも多いと聞いているのでござるが……」

 

「だからだよ!!」

 

「だが、顔見せ自体は悪くない。

 関係者で協力者も連れていくことは可能か?」

 

「コウキさんデスね? もっちろんOKデース!」

 

「でもダイアナさん、麻帆良から出れへんよね?」

 

「ニホンの式神の技術は、凄いデース。

 旅行が実現した場合、千草さんが協力してくれる事になってマース」

 

「あー、あのお姉さんが協力してくれはったん?

 イギリス旅行に釣られたんやろうなぁ」

 

「それは秘密デース!」

 

「でも、バレてますよね?」

 

「雪凪殿、これは公然の秘密と言われる類の話でござるよ」

 

「ああ、千雨さんのコス「待てー!!」……なるほど、確かに」

 

「千雨さんの衣装「そっちも待てよ!!」……は置いておくとして、海外となると、時期は問題ですわね」

 

「ある程度の期間を確保する必要があるでござるな。

 急ぐならゴールデンウィーク、現実的には夏休みが妥当でござろうか」

 

「それなら下見に行きたいー!」「先触れとしての挨拶もできます!」

 

「うーん、見た目で侮られそうやない?」

 

「小学生にも見えるでござるからなぁ」

 

「「そんなー!」」

 

 うん、予想通り、カオスになったな。ダイアナに話を振ってもらったし、一応行く方向で話は進むとは思うが。

 というか、今年の間に息抜きというかバカンス的な休暇を入れておかないと、来年度以降は本気で忙しくなるはずだから楽しむ暇は無くなる可能性は高い。魔法を公開した後で、海外へ安全に行けるのかという問題もある。

 その辺は、気付いていないのだろうな。




サンマぁ……あ、チラ裏で艦これ二次、始めてました(過去形)
不定期かつエタ予定(プロット無し終わり方の案無し)で、現状ではWeb小説風設定資料みたいな代物ですが。


2018/02/20 なるなる→なる に修正
2020/01/29 ―(横線)→ー(長音符) に修正


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魔法先生重羽ま編第07話 よいしょ

「やれやれ、こんなところに来る気はなかったんだがな」

 

「仕方ありませんわ。不安要素を無くすには有効な手だと思えたのですから」

 

「そうなんだが、ここまで気が進まない遠出は初めてだ」

 

 大人モードでない私とあやかがいるのは、魔法世界。

 その北の方、龍山山脈だ。

 目的は、造物主に会う事。出来れば不安材料とならないようにしたいところだ。

 

「しかし、ここでアーティファクトに頼る事になるとはな。

 監視に止めていたのは、近付くには危険が多いという理由もあったんだぞ」

 

「それでも、効果は会えるまでですから、すぐに逃げられる可能性は否定できませんわ。

 それに、相手はパクティオーのシステムを作った人物なのですから、2度は無理かもしれません。

 今回でけりをつけたいところですわね」

 

 そして、自然の障害やら造物主の結界やら罠やらを確実に突破、その上で逃げられないための手段として利用するのが、あやかが私との仮契約で得たアーティファクトだ。

 効果としては原作と同じと言っていいだろう。

 どんな人物にでもアポなしで面会できる。この表現に間違いはない。

 だが、警備を問答無用で協力者とするほど強烈な能力の効果は、人に限ったものではないようなのだ。結界や罠すら、こちらの都合のいいように穴が開き姿を見せるのだから。

 つまり、安全に見える道を進むだけで、造物主に逃げる余地を与えずにたどり着く事が可能である。はずだ。

 

「とりあえず、会う事だけはアーティファクトが働いてくれるはずだ。

 そのせいでお前を連れてくることになってしまったが……魔法世界に連れてくる気もなかったんだがなぁ」

 

「気にする必要はありませんわ。

 話は聞いておりますが、実際に見るのはやはり印象が違いますもの」

 

「……街に行ってみたいのか?」

 

「興味が無いと言えば、嘘になりますわ。

 先ほど頂いた荷物でこちらの服や鞄は見れましたが、これで全てのはずがありませんし」

 

「山の麓に転移したからな……まあ、余裕があれば街に行ってみるか。

 それと、それはあいつらが準備した服だから、一般人のレベルは察してくれ。どうも私に関係する事には金に糸目をつけ忘れる悪癖があるらしいからな」

 

 確認はしていないが、どうせ有名デザイナーやら大手工房のトップ連中やらが張り切って作ったのだろうし、魔法の付与も一般人では依頼すらできないような連中がやっている可能性が高い。魔導具のレンタルと併せて代金は支払う事になっているが、趣味で作ったとか必要な経費は含んでいるとか言いながら材料費の部分しか請求されない予感がする。

 その意味では私の方の金に糸目を付けている、のか? 圧倒的に高いはずの人件費を削った最低限の原価だろうと、取引したという体裁は整えるのだろうし。一応、それを見越して一般市民として目立たない服装という注文をしたのだが。

 

「それだけ慕われているのですわ」

 

「行き過ぎて信仰の域に達しているあたりは、勘弁してほしいんだがな」

 

 そんな事を話しながら歩くこと、約1時間。

 無駄に時間がかかった気もするが、刺激して逃げられないよう魔法を使わずに素人が山道を歩くのだから仕方ない。アーティファクトのおかげで致命的な問題はないが、移動が面倒になる程度には避けるべき罠があったわけだし。

 

「さて、と。

 気配を探る限り、造物主は在室中。看板や表札は無しか」

 

「何を期待しておりましたの?」

 

「ボスらしい怪しげな何か、かな。

 事務所だの営業時間だの書いていてくれていないかと思ったんだが……厨二病だった頃ならともかく、高二病の顕示欲では難しいか」

 

「意味がよく分かりませんわ」

 

 まあそうだろうな。あやかはゲームとかしなさそうだし、そもそも魔法使い製造所自体が相当に古い代物だ。

 だが、ここでグダグダするのは時間の無駄だな。今からすべき事を考えると気が重いが、覚悟を決めるか。名前を呼ぶ……のはまずいな。そもそも最初から造物主と呼びかけるのは警戒させるだけだろうし、地球では欧州中心で動いていた以上、ノックは4回か。

 

「……こんな山奥に、誰だ?」

 

 ……ここまで普通に造物主が出て来るとは。これも、アーティファクトの仕業なのか。

 というか、今は女の体なのか。今までは男だった事が多かった気がするが。

 

「久しぶりだな、造物主。

 フェイト……テルティウムと言った方がいいのかもしれんが、あいつが持っている魔法について話がある」

 

「ふむ。この様なところまで来るとは、我がむすぐぉぁっ!?」

 

 おっと、思わず思い切り踏みつけたが……本当に高二病に変わっているのか?

 だいぶ前に、全く同じことをやった気がするぞ。

 

「とりあえず、お前を親と呼ぶ気はない。

 それはともかく、完全なる世界とかいう魔法と、お前自身の考えについて問いたい」

 

「フフ……それに何の意味がある?

 全ては夢、全ては幻……真実など、儚い泡影でしかなかろう」

 

 あー……メンドクサイ感じの高二病というか、悪化した厨二病じゃないのかコレは。

 まあ、高二病自体が厨二病の別症状と言ってよさそうな内容だし、ある意味正統な変化と言えなくもない、のか?

 

「不変なものなど、それこそ空想でしかあり得ん。お前の性根のように変わりにくいものはあるだろうがな。

 で、だ。お前が作った完全なる世界という魔法に、お前自身はどの程度関与する気がある?」

 

「……ふむ?」

 

「これを使おうと、フェイトが動き始めているが……はっきり言えば、今から準備したのではかなり小規模で終わるだろう。

 だからこそ、お前はどの程度の規模を望むのか。そして、お前自身は対象となりたいのか。

 それを聞いておきたい」

 

「我が望みなど、欲に塗れた者どもには届かぬ」

 

「届くかどうかは問題にしていない。むしろ、届ける気があるかどうかを聞いている。

 多少なりと手を貸して、届ける相手を増やそうとするのか。

 最初から諦めて、フェイトが苦労する様を眺めて満足するのか。

 そもそも何も期待しておらず、フェイトが無駄な努力している様を嘲笑うのか。

 そこはどうなんだ。感情を感じ取る制御不能な能力の持ち主としては、自身が完全なる世界に入れば解決する事なのかもしれんが」

 

「……何を知っている?」

 

「フェイトから聞いた程度の話を知っているだけだ。

 世界から不幸が減れば、お前を狂わせるような黒い感情も減る。つまり、完全なる世界が幸福感をもたらすものであれば、その感情を集める事でより黒い感情を掃う事が出来る。

 そういう事じゃないのか?」

 

 つまり、目立つ行動で賞賛を求め、陰りが出始めると黒い感情から逃げるように姿を消す、結果的に責任感抜き厨二病的行動になる理由なんだろう。

 ……どう考えても、面倒な能力と性格をしてるよな。一応服に思考を読ませないような防御魔法を仕込んであるが、どの程度効果が出ているかよくわからんし。

 

「確かに魔法を作る時点では、そう考えていた。

 だが、どうやって声を届ける? 真に不幸な者は、声を聴く余裕も無いのだ」

 

「時間の無さが痛いところだが、最も簡単なのは宗教だろうな。弱者救済のNGOとかでもいいかもしれんが、内容的に宗教向きだ。

 せっかく魔法世界を作った実績があるんだ。創造主が新たな世界へ導くとか言えば、それなりに説得力があるんじゃないか?」

 

「だが、それは」

 

「もちろん、魔法世界の情報を魔法の公開前に広めるわけにはいかないから、当面は世界に絶望する者を新たな世界へ導くといった内容になるだろうがな。

 それでも、魔法世界を作った実績。新しい【完全なる世界】という夢の世界。世界に絶望する者を対象とする。どれも嘘は言っていないぞ?

 お前も共に行くのであれば、導くという説得力もより増すだろう」

 

「家族や友人の道が分かたれる。そこに悲しい不幸が生まれる」

 

「人が意思を持つ存在である限り、無くなることは無い不幸だな。

 例え不仲でなくても、何らかの事情で家族と別れる事はある。友人と会えなくなる事もある。

 それに、私達の計画は知っているだろう? もうすぐ世界は変わる。その時、多くの新しい出会いと、望まない別れが生まれるだろう。

 完全なる世界は、その前後の不幸を多少なりと減らせるものと評価したが、過大だったか?」

 

「それならば、世界全てを対象とすればよい」

 

「当人たちの意思を無視して、か?

 少なくとも私は、お前が完全なる世界に行くと聞いていないぞ。

 少なくとも、内容を最も知る者が行くと表明していない場所へ、他人を叩き込む気は無い」

 

「信用に値せず、という事であろう」

 

「フェイトが私に見せた魔法については、確かに言葉通りの内容を意図していると思えた。

 だが、全てを確認するには時間が無さ過ぎる。であれば、あとは製作者の自信と覚悟を見るしかないのだが……最初から悲観的過ぎて、現状では信用できると思えん。

 失敗を減らすには計画のあら探しも必要だろうが、それに終始しては何も出来んぞ。この世界の言葉だろう? わずかな勇気が本当の魔法、というのは」

 

 一番信用できないのは、発動時に必要以上の範囲を巻き込むとか、余計な事を仕込まないかなんだが……今ここで追及するわけにもいかんだろうし。

 少なくともフェイトが持ってきた魔法を使う保証は、コイツが自身を対象とする事である程度の確証が持てるのだが。

 

「だが、この新世界は我が作ったものだ。

 その行く末を見届ける義務はあるのだろう」

 

「行く末、か。

 私達の計画で、お前が作った魔法世界は一旦の終焉を迎えると言っていい。それを行うのは私やそれぞれの世界で生まれた者達であり、未来に続くのは似て非なる世界だ。

 もちろん、100%の支持など有り得んからな。私達のやり方が気に入らない者の受け皿としても、魔法世界を作ったお前の新しい世界は良いものだと思う」

 

「ふむ……」

 

「そして私が一番心配なのは、そういう者の受け皿として認知させる事が出来るかだ。

 それは、魔法をポンと渡されただけのフェイトには荷が重いだろう。そこで、確かな実力と実績を持ち、その世界に行く理由がありそうなお前に期待したい」

 

「なるほど……そうか。そうであったか」

 

「こちらの計画との兼ね合いもあるが……そうだな。魔法の公表前に地球で魔法の情報を広めない事、完全なる世界に行く事を望まない者に対して干渉しない事、完全なる世界に行く意思のある者を私達の計画に合わせたタイミングで導く事。

 この3点を確約するなら、その為の組織を宗教団体として扱い、活動が目的に沿う限り妨害しないよう国に働きかけよう。

 もちろん魔法公表後に完全なる世界の情報を広めるのは問題ない。手助けは……国や地域によるだろうから、確約は出来んな」

 

「だが、如何にしてそれを信用すればよい?

 口先だけなら、何とでも言えよう」

 

「ああ、その為にコレを用意してきた。鵬法璽(エンノモス・アエトスフラーギス)とかいう魔道具だな。

 契約を遵守させる強制力を持つ代物だから、これで互いを縛る。そうすれば、どちらも安心できるだろう?」

 

 用意しておいてよかった、と言えなくはないのか。

 できれば会話の間に、こいつが完全なる世界に入るような条件で発動できればよかったが……高二病のネガティブさでは難しそうだ。

 後は細かい条件の話し合いだが、自己顕示欲はあるせいか、やはりヨイショに弱そうだ。その辺をうまくつつけば、意外に簡単……だと、いいな。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「夏だよ!」「旅行です!」

 

「沖は潮の流れが速いそうでござるから、注意するでござるよー」

 

 あれから数日後。夏真っ盛りの、とあるリゾート地の砂浜にて。

 私とさよ、それに2Aの生徒の一部が、水着姿になっている。

 

「しかし、わざわざハワイでなくても良かったと思うが」

 

「せっかくですもの、ゆっくりしたかったのですわ。

 近場では、噂を聞きつけた他の……一般の方々が押し寄せそうですし」

 

「ああ、それはありそうだな。

 関係者でも千雨や裕奈は不参加だし、旅費の自己負担は足枷として充分か」

 

 あやかを魔法世界に連れて行った事の謝礼は、魔法世界の観光という形で行う事になっている。

 だが、造物主との契約に含まれた「完全なる世界の発動を妨害しないよう国に働き掛ける」をとっとと履行するために、再びあやかのアーティファクトに頼る事となった。

 それに対する謝礼として、リゾート地でのバカンスを提供する事となったわけだが。

 

「それにしても、本当にこれで良かったのか?

 お前なら、自分でもこの砂浜を貸し切りにすることぐらいは出来ると思うが」

 

「そこまででしたら簡単ですわ。

 いかついボディーガードに囲まれ、友人もいない状態に満足できるのであれば……ですけれど」

 

「そっちの問題か。確かに私がいれば内側の護衛は雪花やイシュト達になるから筋肉だるまじゃないし、2Aの関係者を巻き込めば気軽に話せる相手も多くなる。

 ついでに長距離転移で移動も楽々、という事だな」

 

「それに、心配事が減ったお祝いでもありますわ」

 

 お祝い、か。

 造物主との契約は、概ね私の望む条件を入れる事に成功したのは事実だ。

 つまり、魔法の公表前に造物主が地球で情報を公開する事を封じ、私達を含む【完全なる世界に行く気のない者】に対する情報提供以外の干渉を封じ、私達の計画に合わせて使う魔法を【効果範囲を限定した完全なる世界】で確定させる事に成功したわけだ。

 私としては、造物主も完全なる世界に行く事を確定させたかったが……まあ、話した感じでは行く可能性が高かったし、私達が造物主に干渉することは禁止されていないから、どうとでもなるだろう。

 

「原作開始前に全てを済ませる……魔法世界自体は、どうにもならなかったな」

 

「原作……?」

 

「ああいや、こっちの話だ。

 さて、パラソルやらの準備も終わったようだ。私はそっちにいるから、さっそく海に突撃している連中の方に行ったらどうだ?

 立場的に、私は引率側だ」

 

「子供の姿では、引率に見えませんわ。

 ですが、わたくしたちと遊ぶような精神年齢でもありませんし……そうですわね、中学生らしくはしゃがせて頂きますわ」

 

「その言い方自体、中学生らしくないぞ」

 

 そんなこんなで、来た面々はそれぞれが楽しむべく、砂浜で遊んだり、海に入ったり、食に走ったりしている。

 私はパラソルの下でのんびりしていたのだが、こそこそと近寄ってくるパイナップル頭が1つ。

 

「あのー、エヴァ先生。インタビュー、いいですか?」

 

「これは、表に出すものか? それとも内密なものか?」

 

「あー……たぶん内密なものの方が多いですけど、疑問の解消という事で」

 

「まあ、迂闊に情報を漏らせない事を理解した上なら、いいだろう。

 何が聞きたい?」

 

 こいつも魔法に関わってから、だいぶ経っているはずだが。

 それだけに、裏でもあまり広まっていない話に気付いたのか?

 

「最近、幕田公国について色々調べて気付いたんですけど、歴史資料なんかに出てくる幕田家初代の【金色の娘】って、エヴァ様ですよね?」

 

「ああ、表に出ている情報はその程度だったな。

 確かに私の事だ」

 

「それに、幕田公国の国旗って日の丸と対になるよう月をモチーフにしたものって事になってますけど、要するに幕田家の家紋の陰月ですよね?」

 

「まあ、そうだな」

 

「あと、エヴァ様って月の一族の神様ですよね?」

 

「神様という表現はどうかと思うが……上の立場ではあるな」

 

「なんというか、事情を知れば知るほど、幕田公国はエヴァ様が中心の国だって主張されてるような感じがしますが、これについては?」

 

「幕田公国が自分のものだと主張する気は無いぞ。裏の都合に関して意見を出すことはあるし、そのために私達が幕田公国に影響力を持っているのも事実ではあるがな。

 それに、少なくとも歴史書やら国旗やらについては、私は関わっていないぞ」

 

 少なくとも私は、幕田公国を支配しているつもりは無いんだが……あくまでも王は幕田家当主だし、政策やらに意見は出すが私に決定権は無い。それでも、有宣やゼロ辺りからは事実上の支配者に近いと言われるんだよな。

 表に出ている話やらは有宣やらが調整した結果だし、別に私の存在をアピールする必要は無かったはずなんだが……

 

「えーと、その外見で遠い目をされると、なんというか、ものすごーく罪悪感がですね……」

 

「本当に、どうしてこうなったんだろうなぁ」




「魔法使い製造所」のネタは、「青の~」の無印編32話にも出した、とある古いゲームです。
MURASAMA BLADE(村正や村雨に非ず)を知ってる人は、恐らくオッサン。


2017/11/06 浴に→欲に に修正
2018/02/20 問題ない→問題はない に修正


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魔法先生重羽ま編第08話 自称、薬味

今回、ちょっと短めです。久しぶりに5000字未満な程度に。
決して艦これのせいでは……(掘りという名のE5の情報とにらめっこしながら


「エヴァさん、お久しぶりです!」

 

 もうすぐ夏休みが終わる、8月の終わり頃。

 予定通りの最速で魔法学校を卒業したネギが、幕田で魔法を研究する事という修行のために引っ越してきた。

 もちろん父親であるナギや母親代わり兼世話役のネカネ、使い魔として契約済みのアルベルティーヌ・カモミール、護衛であるタカミチも一緒に。

 ……タカミチも久しぶりに見たが、やっぱり若いな。無精ひげが無いから余計かもしれんが。そして、カモの見た目はカモに似た何かなんだな。胡散臭くない、きれいなカモと表現すべきか。

 

「直接会うのは久しぶりだな、相変わらず元気そうで何よりだ。

 それにしても、随分急いだな」

 

「父さんやネカネさんの日本語の勉強はだいぶ前からしてましたし、卒業がほぼ確定した時点で家の手配や引っ越しの準備も始めましたから。

 計画まであと1年もないのに、年が明けるまでなんて待てません」

 

「それもそうか。

 それで、だ。ナギとタカミチの仕事についてだが、民間の警備員扱いで裏の部隊もある会社に話を通してある。一応は面接もするらしいから仕事自体は来月半ばあたりから、魔法世界の連中が来た時の威圧や調査要員程度になる予定だ。これについてはアリカも了承済みと聞いている。

 予定通りのはずだが、齟齬やらは無いな?」

 

「ああ、俺の聞いてた話と一緒だ。

 仕事はどれくらいの頻度になりそうなんだ?」

 

「メガロがかなり弱っているし、別にお前に頼らなくても問題ない戦力はあるから、大して忙しくはないだろう。

 どうしても夜間が多くなる事が問題と言えば問題か?」

 

「コソコソしてる連中は、暗いとこが好きだしな。

 ま、ウェールズにいた時と大差ないって事だろ? 何かあっても仲間は多そうだしよ」

 

「まあ、そうとも言えるな」

 

 防衛が自主的じゃなく、指示される形になる事を除けば、だが。

 部下としては扱いに困る性格と行動力の持ち主だから、言う事を聞かないタイプだと伝えてあるが……どうなるだろうな。

 

「それと、ネカネは一応家政婦としての扱いとなる。

 就労ビザの都合だが、口裏と帳簿をきちんとしておいてくれ。ナギが雇ってネギの世話をする形だから、今までと大差ない生活をしていれば、行動に関する制限は特にないと思っていい」

 

「はい、わかりました」

 

 別に適当な理由で長期滞在でも良かったが……こうでもしないとネカネがずっと無料奉仕することになりそうだと、アリカが心配したんだよな。

 そもそもネカネが謝礼を受け取ってくれないという問題もクリアするためとはいえ、なんて面倒なと言うべきか、女の戦いにならなきゃいいがと言うべきか。

 

「で、だ。

 ネギを私の部下という扱いにするのは問題ないが、超や葉加瀬とは別にしようと思っている。あいつらは科学寄りの立ち位置だから、もっと魔法寄りの内容にするためだな。

 それと、通うのは共学の中学校で手配している。

 これについて、何か問題はあるか?」

 

「共同研究とかは、可能ですよね?

 同じ麻帆良に住むエヴァさんの部下ですし」

 

「内容によるが、可能だろう。

 やはり気になるのか?」

 

「当然です。

 それに、完全に別になると、色々と支障があるんです」

 

「支障? やりたい事に、科学の力が必要なのか?」

 

 もしくは原作の鈴音や聡美のファンだった、くらいか?

 中の人は女性だし、ハーレムだの仮契約てんこもりだのといった願望は無いはずだが。

 

「いえ、立場的な問題です。

 というわけで、エヴァさん。チューしましょう」

 

「……は?」

 

「あ、間違えました。仮契約しましょう。

 もちろんエヴァさんが主人で、ボクが従者です」

 

「ちょっと待て。どうしてそういう話になった?」

 

「ボクはどう見ても、ウェスペルタティアの紐付きですから。

 対外的な立場を確立する、わかりやすい方法ですよ?」

 

「いや、お前は王族だからな?

 アリカに何かあった時の継承権は、1位だからな?」

 

「そんな事、どうでもいいです。ウェスペルタティアは王国でなくなる方針ですし。

 ボクはネギですから、ネギらしく薬味になります」

 

「待てと言っているだろう。意味が解らんぞ」

 

「意味ですか?

 薬味は、風味を増し食欲をそそらせるものです。つまり、ちょっとしたアクセントのようなものですね」

 

「いや、言葉の意味じゃなくてだな。

 修正力……運命的な何かはあるから、世界が、お前を中心に回ろうとするはずだ。

 それは理解していたんじゃなかったか?」

 

「この世界の主人公は、間違いなくエヴァさんです。

 これは、エヴァさんの物語なんです。

 であるなら、余計な何かに煩わされる前に、介入されないよう手を打ってしまうべきです」

 

「どこかで聞いたようなセリフだが……その為に必要なものが私との仮契約、だと?」

 

「いぶし銀の渋いけど実は熱血なおじさんキャラもいいですよね。

 それでですね、主従がはっきりしてしまえば、妙なジンクスやフラグに振り回されることも無いんじゃないかと。それに、Aクラスって裏の人がいっぱいじゃないですか。ボクも仮契約すれば、妙なアプローチとかも防げる上に仲良くしやすくなりますし、ボクの立ち位置もはっきりしますよね」

 

「こんなところにオジコンがいたか。

 あいつらの立場やらを考えると、別に仮契約やらが無くても大丈夫だと思うが……」

 

「ショタからおじいさんまで、らしいキャラなら全然オッケーです。

 した方がいいと思いますよ、仮契約。近衛や雪広ではなく木乃香やあやかであると主張するためにしているんですから、ボクもスプリングフィールドやエンテオフュシアでなく薬味であると主張するには効果的です」

 

「いや、少なくとも薬味と主張するのは意味がわからんぞ」

 

 というか葱だから薬味というのも、かなりアンチもので使い古された話じゃないのか?

 少なくとも、自称する意味は無いはずだが。

 

「薬味の意味ですか? エヴァさんの引き立て役です。

 ボクにとってエヴァさんは頼りになるお兄さん的な感じですし、できる事なら道化ではなく伴侶がいいですから、チューがいいです! 頭からカードが生えるくらい濃厚なやつ!」

 

「そっちの意味の仮契約なのか!? というかGLまで行けるのかお前は!」

 

「肉体的にも精神的にも異性だからいいんです!

 むしろ一番作りたい魔法は精神の入れ替え、次に肉体の成長なんです! お互い本来の性別の美形になれてラブラブできたら最高じゃないですか!」

 

「わかりたくないっ!」

 

「ちょっとは分かってるじゃないですか!

 アルちゃん、やるよ!」

 

「本当に良いのでしょうか……」

 

 ああもう、迷いながらも魔法陣を書くんじゃない!

 

「あっ……さすがです」

 

「妨害されたのに感心しないで!」

 

「合意なしに仮契約しようとするな!!」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「いったー……」

 

 頭から煙を出したり大きなたんこぶが見えたりしそうな勢いで殴られたネギが、頭を抱えている。

 うん。今回は、ナギよくやった。

 

「一応聞いておくが、仮契約について、話はしていたのか?」

 

「んー、まあ、俺もアリカも、親としては反対しねーと言ってあったんだけどよ。

 対外的なもんとか、わかんねー事もあるから、よく相談しろって事になってたんだが……」

 

「相談どころか、合意すら無かったんだが」

 

「だよなぁ。全く、誰に似ちまったんだか……」

 

 いや、間違いなくお前……だと、中の人がいなければ言えたんだがな。

 ネカネがあまり動じていないのは、ナギで慣らされたせいなのか? だとしたら、すぐ気絶しそうなキャラではなくなっているのかもしれん。タカミチも微笑ましい感じで見てるとなると、いつもこんな感じなのか。

 

「とにかく、だ。

 少なくとも現時点では、諸々の都合により仮契約はしないからな」

 

「えー。じゃあ、眷属化は?」

 

「問題がもっと大きくなるだけだな。

 ウェスペルタティアが王国である間は、政治的な問題で不可能だと思ってくれ」

 

「うー……楽しみにしてたのに……」

 

 いや、楽しみってのは、どの意味でだ。

 仮契約自体なのか、キスなのか、アーティファクトやらなのか。

 

「だから言ったろ? 急ぎすぎんなって。

 なんか方法が無いかヴァンとかいうやつが探してるらしいから、そっちの話を聞いてみろつったぞ?」

 

「でもー」

 

「いや、ちょっと待て。ヴァンが何か言っていたのか?」

 

「俺が直接聞いたわけじゃねーけどよ、何か調べてるとは言ってたらしいぜ?

 巻き込んだ責任がどうとか、せめて幸せにとか、いろいろ言ってたって聞いたけどよ」

 

「……不安しか感じないのは気のせいか……?」

 

 責任がどうとか、あのヴァンが綺麗事を言っている時点で何かやらかそうとしているような気がしてならん。

 今度は、何をするつもりだ……?

 

「アルビレオの野郎は、祝福すべき状態になるかもしれません、とか言ってたぜ?

 何かやばそうか?」

 

「この状態のネギで祝福……だと……?」

 

 理由はともかく、ネギが私に懐きすぎているのは事実として認める必要がありそうだ。

 その上で、祝福すべき状態、となると……まさか、私がドレスを着させられたりする方向じゃないだろうな!?

 

「なんか世界の終わりみてーな顔してっけど、魔力がどーだの契約がどーだのとか言ってたから、結婚とかいう話とは違うんじゃねーか?」

 

「ネギが精神の入れ替えだのとか言っていたから、安心できんのだが。

 魔力も契約も、その為の調査に聞こえて仕方がない」

 

「えっと、その点は謝ります。ごめんなさい。

 でも、入れ替えについては特に相談とかもしてませんから、違うと思います」

 

「……話に出た事は?」

 

「本気で考える前の、冗談みたいな雑談の中でちらっと話に出た程度だったはずです。

 ボクもまだ恋とか愛とか感じる前でしたから、希望というよりもそういう手段もあるのかなーという話だったと思いますし、自覚してからはまず近くに来る事を優先してましたから、現状では何も出来ていません。

 あくまでも、出来たらいいなーという希望です」

 

「そ、そうか。

 そのレベルだと……ヴァンと変態の組み合わせだと何をしでかすかわからんのが怖いが、先走っていない事を祈るしかないか。

 ……とんでもない事をしようとしていなければいいんだが」

 

「ボクは会ったことがありませんから、何とも……」

 

「変態って、アルビレオの事だよな?

 あいつも俺とは別の意味で、何しでかすかわからねーってお師匠に言われてたしなぁ」

 

「だからこそ、怖いんだが……

 これはあれか。胃薬を常備する流れになってしまうのか」

 

「どこかのチートネギに振り回される大人たち、みたいな流れですか?

 でも、その場合ってエヴァさんがチートネギのハーレムに入ったりしますよね。ボクはチートじゃないと思いますから、エヴァさんのハーレムの薬味として、ぜひ!」

 

「いらん! というか、ハーレム以前に恋人を作る気もないっ!!」




(裏話)
青の~のプロットの元が、金色の~のプロットなわけです。
という事は、アコノに相当するキャラがいるわけですよ。
つまり、こういうことだってばよ。


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魔法先生重羽ま編第09話 復習の時間

よく考えたら、ネギの卒業の場面で原作開始にしてよかった気がしてきた。
でもまあ、「原作のネギの来日」を実質的な開始扱いとします。卒業の云々はイントロダクションという事で。こっちは卒業自体の描写をしてないし。


「さて、今日来てもらったのは他でもない。

 いわゆる原作との差異の確認と、修正力の予想のためだ」

 

 ネギが麻帆良に来て、数日。

 引っ越しに伴う部屋の整理や手続きなどの諸々もある程度落ち着き、時間に余裕ができたという事で、ネギを含む原作を知る面々に集まってもらった。

 つまり、(エヴァ)、ヴァン、変態(アルビレオ)、ネギの知識持ち4人と、変態(アルビレオ)に用意させた漫画が、ここに集まっている。

 

「でも、原作のイベントはほとんど潰れちゃってますよね?

 ボクも含め、重要な人の考え方とか行動基準、それに前提条件も変わってますし」

 

「そうですね。鈴音ちゃんもこちらに引き込んでありますし、造物主やフェイトもあえて敵対するような行動は取らないでしょう。

 それでも心配ですか?」

 

「心配だな。

 油断していたら、いつの間にか後頭部が伸びていた近右衛門のような事になりかねん」

 

「あー、あれはびっくりしたよねー」

 

「確かに、あれは予想していませんでしたね。

 それでは、最初から順に、イベントを検証してみましょうか。

 まずは……電車や駅での痴態ですか?」

 

「えー? ボク、くしゃみで武装解除の暴発なんてしませんよ!

 アスナさんも恋に恋してる風じゃないですし、ボクも中身は女ですから、悪い占いの結果を面と向かって言えるほど無神経じゃありません」

 

「そこに、修正力という名の悪戯を持ち込むと……そうですね、強烈な失恋の相が自分に見えてしまってショックで暴発、というのはどうでしょう」

 

「それ、ただの自爆じゃないですか。

 それに、自分の恋愛占いはやったことがありますけど、少なくとも極端に悪い結果は出ていません。ヴァンさんが何か調べていると聞いてますけど……」

 

「あー、うん、調べてはいるけど、色々と難しいのは間違いないよ?

 特に政治面。王国の制度がもうちょっと何とかなるか、弟が出来るか、世界情勢が大きく変わるか、全てをひっくり返すくらいの何かがあるかしないと、エヴァにゃんに嫁ぐのは難しいかなぁ」

 

「現時点では、ネギちゃんはウェスペルタティア王国の女王の第一子であり、第1王位継承権を持つ身ですからね。

 王権を削る方向で動いている現状では、迂闊に藪をつつくわけにもいかないでしょう」

 

「ですよね……」

 

「うん、ちょっと待て。

 どうして私に嫁ぐという表現で納得しているんだお前ら」

 

 中身はそうかもしれんが、公的な性別は逆だ。

 中の人が云々とか説明したら、普通は痛い人だと思われるのがオチだろうに。

 

「ボク、心は女なんですよ?」

 

「我々の介入で、女性を男性の体に入れてしまいましたからね。

 男性に馴染んでいるなら別ですが、女性としての意識が強いのですから、女性として扱うべきでしょう。ちょうど日本でも性同一性障害に関する特例法が検討されているようですし、世界的にもこの方向に行っているようですよ。

 魔法が解禁になれば、本当の意味で性別を変えることも可能かもしれませんね」

 

「それはそれで、問題が多発しそうだが……」

 

 いやまあ、ある種の救いにはなる場合があるのはわかるが、犯罪者やらが身を隠すために使いそうなのも事実だ。魔法が関わらなければ、有効に機能しそうではあるのだが……

 

「だから、中身の入れ替えがいいんじゃないかなーと思ったんです。

 ボクの関係者って少ないですし、精神の性別を知っているエヴァさんの関係者にも反対されないんじゃないかと」

 

「その少数の身分と、間接的な関係者である国の連中を考えろ。それに、どう説明しようが納得しない者は少なからず出るぞ。

 そもそも、私も600年ほどこの体で過ごしてきた。今更男の体と言われてもな……」

 

「まあまあ、それはいいとしましょう。

 今の主題は、修正力の悪戯についてです」

 

「誰のせいでこうなったと思っているんだ。

 まず、先生として着任しない以上、Aクラス全体との接触は無いか、あっても違う形になる。鳴滝姉妹や和美がこちら側だからそのうち会う事もあるだろうが、少なくともトラップ満載での歓迎にはならないはずだ。

 歓迎会をする事になっても魔法を使うような迂闊な性格ではないだろうし、アスナもオジコンではないようだし高畑に一目惚れする要素も無いだろう。

 1巻の要素は概ね潰せていると思うが、妙な形での再現は、思い付くか?」

 

「なかなか難しいですね。

 それより、風呂で胸を膨らませたり、ドッジボール騒動があったりはしませんか?」

 

「それは無い、と思いたいが」

 

 さよが先生である以上、ネギが絡むドッジボール騒動は無いはずだ。騒動があっても、さよかあやかが相手の学校に苦情を入れる程度になるだろう。

 風呂で胸は、無い……よな?

 

「無いですよ。魔法で胸に風船を作っても、虚しいだけですし」

 

「その意味では、2巻の方がありえないよねー。

 テストで最下位から脱出とか、そもそも着任2か月程度の先生に出す課題じゃないし。成功したら前任が無能だって証明しちゃうわけだしさー。

 ま、先生じゃないんだから、これは問題ないっしょ。さよちゃんに試験を課すほど耄碌してないと思うし」

 

「近右衛門主導の見合い騒動も無いでしょうね。

 よほど吟味した相手でなければ、木乃江ちゃんが黙っていないでしょう」

 

「そもそも中学生に見合いさせるとか、政略結婚の臭いしかせんぞ。

 それで、3巻は……吸血鬼騒動か。少なくとも私が動くことは有り得んな」

 

「襲ってくれて、いいんですよ?

 むしろ性的な意味で!」

 

「阿呆。10歳程度の体で何をしたいんだお前は」

 

「いえ、これは、もしかするかもしれませんよ。

 ネギちゃんに嫉妬したダイアナちゃんの暴走なら、あり得そうです。茶々丸相当のシューニャも手下にいる事ですし」

 

「あー、あの娘、エヴァにゃんとナギが大好きっぽいからねー」

 

 ダイアナ、か。

 確かに原作エヴァのポジションにいるわけだし、私の代わりに騒動を起こす可能性は否定できんな。

 

「つまりなんだ。ダイアナがネギに喧嘩を売る可能性はあるのか。

 一応警戒した方がいい、のか?」

 

「ボク、迷わず逃げますよ?

 別に封印とかされてるわけでもないですよね。そもそも月の一族の人と争いたくないですし」

 

「嫉妬で騒動があったとしても、Aクラスを巻き込む理由は無いよね。

 決闘を申し込まれるとか、その程度で済むんじゃないかなー」

 

 決闘で済むのであれば、安全の確保はどうにかなるか?

 不用意に騒ぎを大きくするようなら、介入する口実として充分だろうし。

 

「周囲を巻き込んだら、私が怒る理由になるな。

 多少後手に回るだろうが、対処は可能か」

 

「では、3巻は問題ないという事にしましょう。

 4巻……木乃香ちゃんとのパクティオー未遂は、あの木乃香ちゃんとアルちゃんなら無いでしょうね」

 

「そうだな。無暗に私に喧嘩を売りながら従者を作ろうとはしないだろう。

 その後の修学旅行は……そもそも、京都に行くのか?」

 

「行く事になると思うよー?」

 

「そうですね。

 摂家の方々が面会を望んでいるという情報もあります。大きく事態が動く直前である以上、打ち合わせも兼ねて行っておくべきでしょう」

 

「北海道方面だと、政治的な意味が無いしねー。ハワイとかだと逆に、大騒ぎになるよ?」

 

「よし、私は修学旅行に行かないでおこう」

 

「それは無理じゃないかなー。

 ま、あの2人が騒動の元凶になると思えないし、スクナもこっちに来てるんだから、平和だと思うよ?」

 

 天ヶ崎千草と、フェイト・アーウェルンクスか。千草は木乃香の近くで仕事中だし、フェイトは信者集めで走り回っている。こいつらがあえて騒動を起こす意味や暇は無いはずだ。

 そもそもネギはAクラス自体に直接関わらず、木乃香は京都の連中も納得して麻帆良に来ているのだから、京都でネギや木乃香に手を出す要素は無いだろう。

 あるとすれば……私と呪術協会そのもの、もしくは麻帆良での騒動か。

 

「注意すべき点はあるが、先に対処できるものではなさそうか。

 ええと、6巻までが修学旅行で、その次は……」

 

「風邪ひきエヴァにゃん、かな?」

 

「中身がバカだからか、風邪をひかんようだぞ?

 弟子入り騒動は……」

 

「ボク、エヴァさんの部下ですよね?

 その時点で実質的な弟子と言っていい気もしますけど」

 

「まあ、そう言えなくは無いな。となると、少なくともテストやらの騒動は無し、と。

 その次は、図書館か」

 

「残念ながら、ドラゴンはいませんね。

 今からでも迷宮化して飼いましょうか?」

 

「阿呆、騒動を増やすな。そもそも普通の地下書庫なんだから、そんな場所は無い。

 これもほぼ関係ないだろうから、次だ次」

 

「あ、南の島は行ってみたいです。

 あやかさんに頼むと、行けそうですけど」

 

「修正力のガス抜きと復活、どっちに転ぶかわからんがな。

 それと、場所の確保やらはしてくれるだろうが、ショタコン補正は無い。最初から実費をある程度負担してみんなで、という流れにするしかないと思うが」

 

「無暗にお金をばらまくタイプじゃなくなってるもんねー。

 ネギっちに一目惚れ! とかする可能性はあるんだけどさー」

 

「えー? ボク、エヴァさん以外のモノになる気ないです」

 

「まあ、行きたいなら企画するしかないだろう。

 次は……小太郎?」

 

 ああ、こんなのもいたな。

 修学旅行部分を読み飛ばしたせいで、思い出しすらしていなかった。

 

「あー、うん、いたねー」

 

「ああ、いましたね」

 

「ちょっと待て。過去形なのは、忘れていたからか? それとも、既にどうにかなっているからか?」

 

「どうにもなっていない、が正解でしょうか?」

 

「うん、どうにもなっていない、でいいんじゃないかなー?

 狗族の村に小太郎という名の男の子がいて、普通に生活してるだけだしさー」

 

「傭兵まがいの仕事をしていないし、そもそも私達と直接関係する可能性が低い。

 その認識でいいのか?」

 

「うん。その頃に麻帆良に迷い出てこないか気を付ける、くらいでいいんじゃないかな?」

 

「迷子の可能性か……稀にある事ではあるな。

 あとは、狗族の村だかが襲われる可能性か……?」

 

「狙う理由がありませんから、恐らく大丈夫でしょう。

 それに、魔界と協力しているエヴァちゃんの保護下ですからね。悪魔が積極的に攻撃してくるとも思えません」

 

「よほど悪質な狂人の恨みを買ってない限り、ヘルマンも無し、と。

 8巻……さよが騒動の原因になる可能性は、無い。茶々の恋愛は……」

 

「はい、ボクが駄目です」

 

「終了のお知らせ、と。

 9巻、麻帆良祭以降は根本的な条件が変わりすぎているし、確認はここまでで充分か?」

 

 というか、麻帆良祭が長いな。18巻までか。

 変態とネギは既に接触済み、美空の悪戯はまあ放置でも問題ないだろう。

 その後は修行して魔法世界行きか。普段の修行はあるが、これは内容に気を付ければいいだけだろう。計画に関連して魔法世界に行く可能性はあるが、フェイトや造物主が妙な事をしでかさなければ問題はない、はずだ。

 

「んー、告白成功率120%は気を付けておくべきかも?

 発光時期はずらせたと思うけどさー」

 

「それでも1か月ほどですからね。麻帆良祭の頃にはそこそこ魔力が高まり始めているはずですから……そうですね、告白成功率10%程度の呪いにはなるかもしれません」

 

「精神的に不安定とか、気が弱い相手なら効く、程度か。

 ……ある意味、効かない方が幸せな相手じゃないのか?」

 

「ヤンデレ化の要素がある相手限定の効果ですか?

 ふむ、面白そうですね」

 

「いや、やるなよ?」

 

 こいつらの場合、本当にそういう方向に内容を変えそうだから困る。

 

「いえいえ、この微妙なタイミングで、世界樹の魔力に手を出したりはしませんよ。

 ただ、ヤンデレ化の呪いという方向の噂も流すのも、予防には良いかと思いまして」

 

「あ、それいいかもねー。

 告白は成功する、但しヤンデレ化する。それでも告白するお馬鹿な人はいるだろうけど、少しでも減れば警備は楽だしさー」

 

「どうせ、麻帆良祭で魔法を公開するんだから、呪いの効果を公表……すると、甘く見た阿呆が湧いてくる可能性があるのか」

 

 最初のうちはまともな知識も無いから、怖いもの見たさで暴走する阿呆がそれなりに沸くはずだ。

 そんな連中の相手など、してられんな。

 

「だから、噂程度が良いのではないかと思ったのですよ。

 関係者には、言霊と、現実的に告白が成功する関係を作れているかどうかが大事という2点を説明するよう通達しておけば充分ではないかと」

 

「言霊自体、言葉に出すことで他の者に働きかける行為を含んでいるからな。想いを寄せる相手に真摯に伝える事が成功の鍵であり、その為には普段の行いが重要。そもそも嫌われている場合は効果を見込めない……うん、普通の恋愛相談だ」

 

「でしょう? つまりあれです。小さな勇気が本当の魔法、という話ですよ」

 

「一気に胡散臭くなるがな。魔法の公表に支障は……」

 

 ……あまりない、のか?

 魔法を技術として広める予定だし、何事も最初の勇気が無ければ先が無いわけだし。むしろ、行き過ぎるだろう万能論に多少水を差す効果が期待できる、かもしれん。

 こいつらが裏で何を考えているのかを心配しなくていいなら、悪くないと言えるんだが……色々とやらかしている以上、賛成し辛くて仕方がない。

 全く、もう少し自制してくれれば、こんな心配はいらなくなるんだがな。




「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」なるものが2003年7月に成立しているので、2002年の後半だと検討や調整がされている段階じゃないかなーと思います。
これ、色々と条件は厳しいですが、戸籍上の性別を変更できるという代物です。詳しくはWebなどで(私も詳しくないです)。

なお、月詠はハブられた模様。
忘れてたわけじゃなく、京都編と魔法世界編に言及しないと、話に出すタイミングが無いの。
ついでに、アーニャもハブられた模様。


(業務連絡的な)
これと次話の間に、「ここまでの簡易年表と人物情報」を挟む予定です。
ただ、そちら及び次話の作業が遅れているため、かなり簡易的なものとなりそうです。
正月の前後は相変わらずPCが使えないのです。そして、未だにガラケー。
文章を作るにはキーボードが欲しい古いタイプの人種なので、自宅以外だとネタのメモを取るくらいしかできないのですよ。


2018/01/17 先生である→さよが先生である に修正


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ここまでの簡易年表と人物情報

「ネギが麻帆良で活動開始的な意味での原作開始」時点の情報となります。
なお、ここに無いキャラ等がいましたら追加しますので、お知らせください。


1404年~(始動編1話~3話)

 エヴァ(肉体)に憑依

 エヴァ(精神)がゼロを名乗る

 ヴァンと接触

 リズ(侍女)とマシュー(執事)を眷属化

 

 

1426年~(始動編5話~6話)

 エヴァ&ゼロ&リズ、欧州巡り

 ルール地方で農家の男性を眷属化

 ドレスデン近くで、ケガに苦しむ女性を眷属化

 モスクワ大公国で、寒波の中で衰弱していた少女を眷属化

 パリ近くで、魔女狩り被害者の女性を眷属化

 ジャンヌ・ダルクを眷属化

 ルクセンブルクで、魔女狩りの被害にあう寸前の貴族の侍女を眷属化

 フィレンツェで、事故で瀕死の商人を眷属化

 ロレーヌ公国の貴族(魔法使い)を眷属化

 マシューが、ノアとノエルを眷属(第二世代)化

 ジョン・オブ・ランカスターを眷属化

 アルビレオ・イマと接触

 

 

1451年~(始動編7話~8話)

 エヴァ、「一時契約」の魔法を開発

 エヴァ&ゼロ&リズ、魔法世界へ

 ヘラスで、拳闘士、行商人、娼婦を眷属化

 メセンブリーナ、ウェスペルタティア、将来のアリアドネーでも数人ずつ眷属化

 ヘラスの王と接触

 

 

1475年~(始動編9話)

 エヴァ&ゼロ&リズ、イギリスに帰還

 エヴァ&ゼロ&リズ、欧州巡り&日本方面へ出発

 スペインで、王族に近い貴族や船乗りを取り込みアメリカ進出に介入(失敗)

 中東で、石油産地の部族に神の使途と呼ばれる

 イシュト・カリン・オーテを保護

 インドや中国にも寄り道(道中で眷属化あり)

 

 

1502年~(始動編9話~11話)

 エヴァ&ゼロ&リズ&イシュト、日本到着

 土御門有宣を眷属化

 宍戸甚兵衛を仲間に

 (スペインの組織が、インディアンとの交流に成功)

 (イギリスの組織が、イギリスのアメリカ入植を先導)

 (中東の組織が、ペルシャ湾周囲の実効支配に成功)

 (中国の組織が、茶の生産で巨大化)

 (魔法世界で、ヘラスに流した技術を元にまほネットもどきが誕生)

 幕田家誕生(幕田重羽=エヴァが初代。土御門有宣の子を養子に迎える)

 世界樹周辺を領地として支配開始

 ノエルとリズ、訪日

 甲賀の忍者を眷属化

 桑名の刀工を眷属化

 幕田家、蝦夷(北海道)とアイヌを支配下に

 後奈良天皇の仲介で、烏族と接触

 雪花を眷属化

 宿儺を式神化

 伊賀や甲賀の忍者を保護

 各地の妖(あやかし)を保護

 北海道と樺太と千島列島を実質的に支配

 (江戸時代に)

 魔界(ザジ・レイニーデイ[姉])と接触

 (ヘラスの組織が肩入れし、ヘラス連合がヘラス帝国に)

 (アリアドネーを設立)

 (アメリカ開拓に介入、担当者を眷属化)

 (大航海時代の交易に介入)

 インテリジェントデバイス(リリカルなのは)もどきの製作に成功

 

 

1869年~(始動編12話)

 (明治時代に)

 旧幕田領が幕田公国として独立

 

 

1940年~(始動編13話)

 (第二次世界大戦終結)

 相川さよ、エヴァの使い魔のような存在に

 近衛近右衛門、初登場

 造物主と接触

 

 

1954年~(始動編14話~小話)

 (高度成長期)

 首輪物語、発刊(ヘラスの公用語をエルフ語として使用)

 アルビノ等のコミュニティ「月の民」発足

 

 

1981年~(紅き翼編)

 魔法世界で戦争が勃発

 ナギ、ゼクト、詠春と接触

 アスナを保護、偽名はレイに

 デバイスの情報公開開始

 (アルビレオがガトウの懐柔に成功、タカミチ等がガトウの弟子に)

 アリカやテオドラと協力関係に

 (各地の魔法関係組織が襲撃される)

 (半分近くのゲートが破壊される)

 グレートグランドマスターキーを確保

 ダイアナ・ヴィッカー(マシュー系眷属)、登校地獄の呪いをかけられて幕田入り

 

 

1988年~(原作の足音編)

 (原作2A~3Aクラスの生徒が誕生)

 マナ・アルカナ、麻帆良の龍宮神社が経営する孤児院に

 雪広あやか、近衛木乃香、桜咲雪凪(原作名:桜咲刹那)などが麻帆良の小学校入り

  木乃香の護衛等で、土御門雫、青山鶴子、天ヶ崎草月、天ヶ崎千春、天ヶ崎千草も

 ネギに中の人がいる事が発覚、アリカやマシュー等に色々と説明

 長谷川千雨、魔法を知る

 (長瀬楓[忍者]、那波千鶴[大企業の令嬢]、麻帆良入りの準備)

 (シャークティと春日美空、巫女になっていた)

 葉加瀬聡美と技術開発などに関する契約を結ぶ

 朝倉和美、魔法を知る

 アルベルティーヌ・カモミール(原作カモTS相当)がネギと接触

 鳴滝風香と鳴滝史伽、本物の忍者であることが発覚

 アスナ、中学生になるために「綾波レイ」の名で戸籍作成

 古菲、中国からの計画参加者として色々学んだ上で幕田に来る

 超鈴音、中国からの計画参画者に潜り込んで幕田に来るが、エヴァに一本釣りされる

 

 

2001年(魔法先生重羽ま編 01話~)

 Aクラス、始動

 ※原作との差異

   相川さよ(担任)

   幕田重羽(副担任 エヴァ大人バージョン)

   近衛木乃香(既に魔法を知っている)

   桜咲雪凪(原作名:桜咲刹那 排斥された経験は無い、雪花に憧れている)

   葉加瀬聡美(既に魔法を知っている)

   長谷川千雨(既に魔法を知っている)

   マナ・アルカナ(原作名:龍宮真名 傭兵でない)

   朝倉和美(既に魔法を知っている)

   雪広あやか(既に魔法を知っている)

   那波千鶴(既に魔法を知っている)

   村上夏美(既に魔法を知っている)

   春日美空(シスターではなく巫女である)

   綾波レイ(原作名:神楽坂明日菜 記憶を消されていない)

   ダイアナ・ヴィッカー(登校地獄で囚われた吸血鬼)

   和泉亜子(傷跡の治療が行われている)

   鳴滝風香(忍者である)

   鳴滝史伽(忍者である)

   古菲(既に魔法を知っている、エヴァと雇用契約)

   超鈴音(エヴァの部下となっている)

   明石祐奈(既に魔法を知っている)

   (ガイノイド=絡繰茶々丸は、当初は存在せず)

 エヴァと仮契約(雪広あやか、近衛木乃香)

 エヴァと一時契約(桜咲雪凪、超鈴音、葉加瀬聡美、長瀬楓、鳴滝姉妹)

 シューニャ・チャチャ(原作名:絡繰茶々丸)誕生

  ダイアナをマスターとし、ガイノイドであることを隠さずに中学校編入

 千雨、不本意ながらブログの女王への道を歩み始める

 (月の一族=エヴァの眷属、聖地を管理する全組織の指導者層に加わる)

 

2002年(魔法先生重羽ま編 06話~)

 フェイト・アーウェルンクスと接触

 造物主と契約

 ネギ&ナギ(with アルちゃん、ネカネ、タカミチ)、幕田公国入り

 

 

 ◇◆◇ 主要な登場人物(エヴァ&幕田関係) ◇◆◇

 

 

エヴァンジェリン・(アルテミス)(カリステー)・マクダウェル/幕田(まくだ) 重羽(えば)

 

 主人公。原作エヴァにTS憑依した、既婚で娘もいた男性。

 厳密には吸血鬼でなく、魔力的に月と同化した存在。

 月の一族の始祖、幕田家の始祖、幕田公国の裏の支配者、などであり、現在は2Aクラスの副担任もしている。

 

 

ゼロ

 

 本来の「エヴァンジェリン・マクダウェル」の魂。

 現在は作成した体に憑依しているが、サイズや銀髪等のせいで某水銀燈のようになっている。

 幕田公国の裏側ではエヴァに次ぐ地位と権力の持ち主。エヴァの外付け制御回路でもある。

 

 

ヴァン

 

 右腕に宿る何かとして造物主に召喚された、男子高校生。

 本体は蟠桃(世界樹)と同化しており、既に造物主との繋がりは切れている。

 普段は幕田のご意見番的な事をしたり、趣味の情報収集をしたりしている。

 

 

アルビレオ・イマ

 

 本に宿る何かとして造物主に召喚された、変態?

 エヴァに協力しつつ、あちこちふらふらしている。

 

 

マシュー

 

 エヴァの第1世代眷属1号。

 元はエヴァンジェリン(人間)の執事。

 現在はイギリスで魔法関係の総括をしている。

 

 

リズ

 

 エヴァの第1世代眷属2号。

 元はエヴァンジェリン(人間)の侍女。

 現在はエヴァのメイド部隊トップ。

 

 

ジョン・オブ・ランカスター

 

 イギリスにいるエヴァの第1世代眷属。

 イギリスの王族で、イングランド領フランスの宰相だった。

 現在は月の一族として王室やらシティやらとのアレコレを担当している。

 

 

ジャンヌ・ダルク

 

 フランスにいるエヴァの第1世代眷属。

 魔女裁判後の処刑中に救出された。

 現在ではフランスの裏社会に強い影響力を持ったりしている。

 

 

土御門(つちみかど) 有宣(ありのぶ)

 

 日本に来てからのエヴァの第1世代眷属。

 陰陽師であり、失意していたところをエヴァに拾われた。

 幕田家を作ったり、幕田公国を日本から独立させたりした主犯。

 現在でも主に政治面を担当している。

 

 

雪花(せつか)

 

 白い烏族。日本に来てからのエヴァの第1世代眷属。

 捨て石として使われたところをエヴァに拾われた。

 現在は主にエヴァの護衛とメイドを担当している。

 

 

ノエル、ノア

 

 マシュー系の第2世代眷属姉妹。

 主にエヴァのメイドを担当している。当然のように護衛も兼ねる。

 

 

ダイアナ・ヴィッカー

 

 マシュー系の眷属。

 登校地獄の呪いを受けており、原作エヴァに近い立場で中学校の生徒となっている。

 

 

その他の眷属達

 地球や魔法世界の各地に、エヴァの眷属や眷属が関わる組織の者がいる。

 政治や経済に深く食い込んでいたり、魔法組織に影響力を持っていたり、ひっそりと活動していたりする。

 

 

相坂 さよ

 

 死亡直後にエヴァの魔法に触れて、使い魔的な存在に変質した。

 現在は分霊で各地を探りつつ、本体は2Aクラスの担任をしている。

 

 

イシュト・カリン・オーテ

 

 神の(のろい)により不老不死になっている少女。UQ Holderからの出演。

 主にエヴァの護衛とメイドを担当している。

 

 

宍戸(ししど) 甚兵衛(じんべえ)

 

 人魚の肉を食べて不老不死になっている男性。UQ Holderからの出演。

 幕田で剣術の指南をしたり、あちこちフラフラしていたりする。

 

 

宿儺(スクナ)

 

 京都に封印されていた鬼神。現在はエヴァの式神となっている。

 常時顕現しており、薬を作ったり酒を造ったりその辺をうろついたりしている。

 

 

近衛 近右衛門

 

 麻帆良学園女子中等部の校長。

 一応人間だが、ぬらりひょん化(後頭部的な意味で)している。

 

 

土御門 雫

 

 有宣の子孫で、陰陽師。

 木乃香の護衛や指導、事務等のため、麻帆良に在住。

 

 

青山 鶴子

 

 神鳴流の剣士、ラブひなからの出演。

 木乃香の護衛のため、麻帆良に在住。

 

 

天ヶ崎 草月

 

 千草の父で、陰陽師。

 木乃香の護衛や指導のため、麻帆良に在住。

 

 

天ヶ崎 千春

 

 千草の母で、陰陽師。

 木乃香の護衛や指導のため、麻帆良に在住。

 

 

天ヶ崎 千草

 

 陰陽師。

 木乃香の護衛や指導のため、麻帆良に在住。

 

 

シャークティ

 

 幕田に帰化して、月読神社の巫女になっている。

 美空の師匠であり、ココネのホームステイ先でもある。

 

 

 ◇◆◇ 主要な登場人物(魔法世界関係) ◇◆◇

 

 

アリカ・アナルキア・エンテオフュシア

 

 ウェスペルタティア王国の女王(現役)。

 災厄の魔女ではない。

 

 

ナギ・スプリングフィールド

 

 アリカの夫、ネギの父。大戦ではアリカの護衛として有名に。

 息子のネギと共に、イギリスの田舎在住→麻帆良に引っ越し。

 

 

ネギ・スプリングフィールド

 

 アリカとナギの子。原作の主人公。

 中身は既婚で子供もいた女性。

 

 

アルベルティーヌ・カモミール

 

 メスのオコジョ。ネギの使い魔。

 ぶっちゃければ、エロくなくて真面目なカモ。

 

 

アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア/綾波 レイ

 

 ウェスペルタティア王国の「黄昏の姫御子」。

 ナギ達に保護され、エヴァに預けられた。

 記憶は消されていないが、年齢固定の魔法が完全には解除されていない。

 

 

ネカネ

 

 ネギの保母の血縁者。

 ウェスペルタティアの公爵家の分家の娘で、アリカの血縁になる。

 「スプリングフィールド」ではないが、姓は現状では言及していない。

 

 

アンナ・ユーリエウナ・ココロウァ/アーニャ

 

 元アリカ護衛騎士、現「ナギ&ネギ」の護衛の孫娘。

 ネギの中身の性別を知っていて、原作と違いネギの普通の友人となっている。

 

 

高畑・T・タカミチ

 

 元は魔法世界の孤児であり、現在はナギとネギの護衛。

 魔法球での修行が少ないため、原作よりも見た目が若く、実力も低め。

 

 

ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ

 

 メガロメセンブリアの捜査員。

 大戦の途中からメガロを浄化しようとしている(できているとは言っていない)。

 

 

ココネ

 

 ヘラスからの留学生。

 シャークティ宅にホームステイしている。

 

 

造物主

 

 元厨二病。

 現高二病&引き籠りだが怪しげな宗教で神を名乗ったりもしている。

 

 

フェイト・アーウェルンクス

 

 魔法「完全なる世界」の限定的な発動を目標に準備中。

 発動自体は、エヴァに了承された状態。

 

 

 ◇◆◇ 主要な登場人物(2Aの生徒、上記を除く) ◇◆◇

 

 

桜咲 雪凪(せつな)

 

 白い烏族。原作名は桜咲刹那。

 禁忌と言われたことは無く、むしろエヴァへの貢物的な意味で大切にされていた。

 エヴァと一時契約をしている。

 

 

近衛 木乃香

 

 近右衛門の孫娘であり、京都近衛家の長子。陰陽術について学んでいる。

 母親(木乃江)健在で弟がおり、家督を継がないために幕田に来ている。

 母による大和撫子風陰陽師アイドル化計画があるとかないとか。

 エヴァと仮契約をしている。

 

 

宮崎 のどか

 

 概ね、魔法を知らない頃の原作同様。

 

 

綾瀬 夕映

 

 概ね、魔法を知らない頃の原作同様。

 

 

早乙女 ハルナ

 

 概ね、魔法を知らない頃の原作同様。

 

 

長谷川 千雨

 

 電子精霊使いの魔法生徒として活動中。

 幕田公国(魔法関係の治安部)からの依頼で、不本意なネットアイドルになりつつある。

 

 

シューニャ・チャチャ

 

 要するに、絡繰茶々丸。

 マスターはダイアナとなっている。

 

 

佐々木 まき絵

 

 概ね、魔法を知らない頃の原作同様。

 

 

明石 裕奈

 

 魔法生徒として活動中。

 母は生存している。

 

 

和泉 亜子

 

 傷の治療が行われており、目立つ傷跡は残っていない。

 

 

大河内 アキラ

 

 概ね、魔法を知らない頃の原作同様。

 

 

村上 夏美

 

 既に魔法を教えられている。

 雪広財閥程ではないが、魔法を知る企業グループの幹部の孫娘。

 

 

朝倉 和美

 

 魔法生徒として活動中。

 今でもジャーナリスト志望ではある。

 

 

長瀬 楓

 

 甲賀の忍者。

 エヴァと一時契約をしている。

 

 

古 菲

 中国の気の天才。魔法に関しても知識はある。

 

 

雪広 あやか

 

 幕田の財閥の令嬢。魔法についての知識はある。

 エヴァと仮契約をしている。

 

 

那波 千鶴

 

 大企業の令嬢。魔法についての知識はある。

 

 

春日 美空

 

 いたずら巫女。使う魔法は陰陽系。

 仮契約などはしていない。

 

 

マナ・アルカナ

 

 龍宮神社の御曹司(生存)のハートを射止めた、ハーフ魔族。

 魔界の保護下にあり、ザジに指導されている。

 

 

柿崎 美砂

 

 概ね、魔法を知らない頃の原作同様。

 

 

椎名 桜子

 

 概ね、魔法を知らない頃の原作同様。

 

 

釘宮 円

 

 概ね、魔法を知らない頃の原作同様。

 

 

鳴滝 風香、鳴滝 史伽

 

 甲賀系の忍者(麻帆良出身)。

 エヴァと一時契約をしている。

 

 

葉加瀬 聡美

 

 エヴァに確保されたマッド系技術者。

 エヴァと一時契約をしている。

 

 

四葉 五月

 

 概ね、魔法を知らない頃の原作同様。

 

 

ザジ・レイニーデイ

 

 マナの指導員。

 

 

超 鈴音

 

 エヴァに確保されたマッド系未来人。

 エヴァと一時契約をしている。




本編は、次週には必ず……ッ


2018/01/26 以下を修正
 承認→商人
 麻帆良の小学生→麻帆良の小学校
 ノエルとリズ、訪日→ノエルとノア、訪日


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魔法先生重羽ま編第10話 頑張る原作

 ある意味、これが原作の開始なのだろうか。

 ネギが私の部下として正式に配属になり、同時に関係者……主に2Aのメンバーによる歓迎会が行われているのは。

 直属の部下が増える話をした際に歓迎会をしようという流れになるのは予想していたし、その際に何か悪戯をと言い出した時は一般及び他国の常識的に笑って済ませられる範囲ならと条件を付けたせいで妙な手出しが無くなったのは、外人相手の加減を図りかねたせいのようだ。

 まあ、くしゃみでパンもろ祭りとか、のどか落下事故とか、読心のあれこれとかは無くなったようで、何よりとは言えるだろう。

 幹事的に歓迎会をまとめていたあやかも銅像を用意することなく、普通にお菓子とジュースを用意して喋っているだけだ。

 一応狙っていた範囲ではあるから、問題はな……

 

「えー!? ネギくんて、トランスジェンダーなの!?」「男女あべこべっ!?」

 

「はい。もう少し狭義の言葉で言えば、性同一性障害、です

 ボクの場合は、精神的な認識が女性で、体が男性です」

 

「じゃあさじゃあさ、やっぱり男の人が好きなの!?」「あの男の子カッコいー、とかっ!」

 

「うーん、どうなんでしょう?

 今の好みで言えば……エヴァ様なんです。特に包容力に惹かれている自覚はありますけど、精神的、肉体的にもかみ合うからかもしれません」

 

「「そっかー」」

 

「魔法を公開する予定だシ、性転換の魔法でも研究するといいネ」

 

「はい、そのつもりです。

 でも、今の目標はエヴァ様のお嫁さんなので、色々必要なものや障害が多いのが悩みです」

 

 ガシャン

 

「おや、イシュト殿らしくないミスでござるな」

 

「いえ、お構いなく」

 

 ……問題は……

 

「エヴァさんの奥さんか……それもええなー」

 

「このちゃん、それはどうかと……それに、護衛の方々やメイドさん達と、かなり競争が激しそうな気がしますし」

 

「うーん、確かに……それなら、ハーレムにすればええんよ。

 今でもどこかの国で重婚は認められてるはずやし、エヴァさんの権限なら幕田で同性婚も一緒に何とかなると思うんよ」

 

「ああ、確かにできそうです」

 

 ……問題……

 

「ハーレムっ!?

 つまり、ネギ君も巻き込めばエヴァ様の妻とナギ様の息子の嫁になれるという事デース!!」

 

「言いたい事は分かりますが、ナギさんの義娘という立場にはならないと思いますわ。

 前提となる同性と重婚の実現自体も疑問ですが、重婚の場合に妻同士の戸籍が直接つながるとは思えませんから」

 

「Oh……」

 

 ……

 

「お前ら、どうしてそんなに私をハーレム野郎にしたいんだ?」

 

「どう考えても独占できそうにないからじゃないですか?」

 

「そうやー。1人でなんて、他の人の嫉妬で死んでまいそうや」

 

「みんなエヴァ様が好きデース。

 みんな仲良しで、みんなでハッピーになりマース!」

 

 理屈は分からなくもないが、どうして野郎の部分を無視するんだ?

 精神的には男だと隠さずに言っているせい……だけとは、思えない気がして仕方がないのだが。

 現時点では中身が違うネギ、原作でも同性愛もしくは両刀疑惑がありそうな木乃香、私の事を好きだと公言するダイアナ。これに加えて、さっき無表情でコップを握りつぶしていたイシュトや、雪花も怪しいと言わざるをえない。

 元がラブコメだからって、ラブコメ要素はいらないんだ。頼むから、そんな方向の修正力はやめてくれ。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 よく考えたら、原作の歓迎会自体はのどかの謝礼とあやかの銅像、それと読心で終了していた。

 そして、今行われているのは魔法関係者としての歓迎会だ。のどかやタカミチは部外者扱いで不参加、あやかもショタコンになっていないのだから、歓迎会自体を警戒する必要は無かったのかもしれない。

 

 そして、目下の問題は。

 

「魔法使いとしての課題の内容、か。

 伝統にうるさいウェスペルタティア王国としては、重要なのか?」

 

「いや、全然。

 けどよ、うるさいジジイとかもいるから、簡単に言えるものがあるなら楽に黙らせられるってアリカがよ」

 

 ナギとの世間話に紛れた、情報要求だ。

 一応は王子であるわけだし、監査と言い出す前のジャブ、もしくはアリカを攻撃する材料を探っているのか。

 だが……

 

「アリカは、王制を廃止しようとしていたはずだな?

 むしろ攻撃させた方が廃止させやすいと思うが」

 

「俺もそう思ったんだけどよ、廃止に賛成してる連中はおとなしいもんだぜ。

 なんでも、存続派のジジイがネギにアレコレ吹き込んで、自分から王になるよう仕向けようとしてるとかなんとか」

 

「ああ、傀儡にして暗躍しようとしてる小物がうるさいのか」

 

「そういうこった。

 で、何かねぇか?」

 

「無いな。むしろ、研究という内容で手軽な成果が出るわけがない。

 現状では研究する魔法の選定をしている……いや、正直に年齢的に資料のまとめ方等の基礎を学んでいるとか、そういう方向で説明する方がいいんじゃないか?」

 

 ネギはまだ、満年齢では9歳だ。学校の成績は良かっただろうが、研究者として完成しているとはとても言えないはずだ。

 前世については身近な人物で止めているし、「学校では教えてくれない基礎」から学ぶ事は間違いではない。傀儡にしたがっている存続派の阿呆は嫌がるだろうが、王家廃止に向けた教育だとすれば廃止派が擁護するだろうし。

 

「研究なんて、終わりのねぇ作業だしなぁ。

 まあ、その方向で話してみるか。要するに見習いで研修中ってこったろ?」

 

「まあ、そうだな。

 他は特に問題は無いか?」

 

「特にねぇ……あー、しいて言えば、ネギが図書館島に籠っちまって、割と遅くまで帰ってこねぇ事くらいか。

 俺は別に問題ねぇと思うんだが、ネカネが心配しててよ」

 

「ああ、資料のまとめ方や調べ方、ついでに過去にどんな研究がされていたかを知るための調査をさせているからな。

 真面目に取り組んでいるのは確かだが、少し自重させた方がいいか?」

 

「いや、別に構わねぇと思うぜ?

 頭は大人だって知ってるんだしよ」

 

「外見年齢に惑わされているのでなければ、成長し切っていない体で無理のある行動をしないかを心配しているのかもしれんな。

 子供の体は、自分で思う以上に脆弱な場合もあるかもしれん。赤子から付き合っている以上、ある程度把握はしていると思うが」

 

「んー……まあ、心配すんのはネカネに任せて、俺はネギを信じるぜ。

 それに、いざとなったら助けりゃいいだけだ」

 

 おお、ナギが父親をしているぞ。

 やり方は男の子向きのような気はするが、ネギも体は男だし、ナギの性格的にもこれが一番いい向き合い方なのかもしれんな。

 

 それからしばらくは他愛もない話をして。

 ナギが帰った後、部屋の片隅で静かに本を見ていたゼロが顔を上げた。

 

「……これも、修正力でしょうか?」

 

「ん? ……いや、そこまで心配するような状態ではないと思うが。

 そんなに似た状況になっているか?」

 

「魔法使いの課題の関係で、図書館島に行き、勉強する。

 簡潔に状況をまとめると同じ表現が可能でしょう」

 

「あー……確かに、そこまで簡略(いまきたさんぎょう)化すれば同じと言えなくはないのか。

 となると、えーと、2巻に入ったって事になるから、1巻の騒動は無くなったと見ていい……のか?」

 

「媚薬自体の問題以外は、さほど影響を気にする必要は無いものばかりですけれど。

 今回の状況が修正力によるものでなかろうと、状況が進んだと判断されるのであれば歓迎すべきではないでしょうか?」

 

「2巻は、試験の前までが完了していると言えるわけか」

 

「後期の期末試験まで様子を見るべきかもしれませんが、そう考える事も可能だという事です。

 もちろん時期がずれていますから、多少の前後は考えるべきかもしれませんし、そもそも原作というものを考慮しすぎるのも問題です」

 

「だが、原作で示唆された魔法世界の崩壊を前提に準備をして、現実にそれが発生しようとしているからな。人物という意味でも該当者がいる以上、考慮しないのは無理だ」

 

「ままなりませんね」

 

「全くだ」

 

 

 ◇◆◇ とあるブログのとある記事(のコメント欄) ◇◆◇

 

 

 ……というわけで、「信用できると噂の占い」の話は以上だ。

 

 あと、今回の衣装について。

 未公開のデザイン画から作ったもの、らしいんだが……作品名は当ててごらんとか言われて教えてくれなかった。

 というわけで、作品名は「知らない」としか答えられないから、質問は放置する。

 少なくとも私の知ってる範囲でこんな衣装は無いし、正解しても特に何もないけど、情報の提供にはみんなで感謝しよう。

 

- - - - - - - - - - - - - - -

 

通りすがりのオタク さん

 

 占いとは僅かな手掛かりから多くに人に該当する枠に決めつけるモノである

 ここのデフォルト名のように!

 

 ……テストの隅の落書きの内容を当てられたって嘘だよね(ガクブル

 

通りすがりのオタク さん

 

 相変わらず信憑性以前の問題がありそうなネタを……

 本当なら個人情報駄々洩れじゃないですかやだー

 

 それはともかく それはどこの魔法少女ですか?

 デザイン的に仮面もセットみたいだけど

 

通りすがりのオタク さん

 

 顔を隠す魔法少女モノってあったっけなぁ……

 敵や野郎、主人公以外の重要キャラくらいまでなら心当たりあるけど

 

通りすがりのオタク さん

 

 服装から考えるに恐らく主人公かその仲間

 その上で顔を隠すとなると敵のスパイまたは寝返ったキャラだな!

 

通りすがりのオタク さん

 

 人目を惹く衣装なのに顔を隠す、一歩間違えれば変態少女

 なのにどうしてこんなにふつくしいのか(恍惚

 

通りすがりのオタク さん

 

 おまわりさーん!

 すみません私もです

 

通りすがりのオタク さん

 

 あ、ボクもボクも

 

通りすがりのオタク さん

 

 露出は多くないのに変態湧きすぎィ

 つかそれだけの的中率なら衣装について聞いてみるべきだったと思うの

 

ちう@管理人

 

 聞いてみたら、近いうちにわかる、まだ知らない方がいいとか言われたんだよ

 これでも、どんな陰謀が潜んでるのかガクブルしてんだよ

 

通りすがりのオタク さん

 

 うわぁ……

 着ないって選択肢はなかったの?

 

通りすがりのオタク さん

 

 無いだろ広告収入と関係者の影響力的に

 コスプレでどれだけヒット数稼いでると思ってんだ

 

通りすがりの未来少女 さん

 

 魔法少女……未公開……近いうち……まだ知らない方がいい……

 わかった、来期に期待って事ね!

 

ちう@管理人

 

 ちょ、そんな名前で言われたら怖すぎる!!

 

 着ないって選択肢については、制作やらに関係してる連中を考えるとな

 これでも露出控えめにとかの要望は聞いてもらってるし

 

通りすがりのオタク さん

 

 ここまで有力情報無し

 

 

・  ・  ・  ・  ・

 

 

通りすがりのオタク さん

 

 結果発表

 未来少女さんマジ未来少女さん

 占いも一応的中と言っていいのか?

 

通りすがりのオタク さん

 

 未発表次期アニメの衣装ワロタ

 監督の「中学生の少女に着てもらって、おかしな点が無いか確認した」コメントワロタ

 「リークで疑われないよう当人に作品を知らせなかった」コメントワロタ

 ガチすぎワロタ……

 

通りすがりのオタク さん

 

 監督自らデザインをリークしてたとかあの会社頭おかしい

 でもここの連中への広告効果は高いのは認める

 

ちう@管理人

 

 orz

 

通りすがりのオタク さん

 

 大変だ! ちうさまが頭を抱えておられるぞ!

 

通りすがりの巫女 さん

 

 悩める子羊よ、お入りなさい

 

通りすがりのオタク さん

 

 ちょwwwそれ宗教違うwww




2018/02/02 以下を修正
 同姓婚→同性婚
 ナギ様の息子に→ナギ様の息子の嫁に (これに伴い、次のあやかのセリフも変更)


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魔法先生重羽ま編第11話 新年

「「「あけましておめでとー!」」」

 

 年が明けた。

 深夜だというのにパーティーをしているように見える小娘達がいるが、それぞれの家や保護者が賛同した場合のみ参加可となっている以上、親公認で集まっているという現実が泣けてくる。本来は若者だけの親睦会なのに、保護者枠で私も参加することになっているし。

 あやかが発案し条件をまとめ、その時点でこうなる事を予想して手配も開始していたらしいが。

 関係者に説得力のある説明ができたあやかが優秀なのか、ホイホイ釣られるこいつらが単純なのか、立場やらを考えると当然の帰結なのか……

 

「というわけで、とうとう本番の年になりましたわ。

 わたくし達の使命は、魔法及び魔法世界公開後の混乱を最小に止めるため、組織や派閥を超えた連携を可能にすることですわ。

 そのために必要な、現状で得られた協力者の皆様が間もなく到着しますから、盛大な拍手でお迎えして下さいな!」

 

「「「おー!!」」」

 

 ……協力者?

 いや、あやかが皆と協力して色々と声をかけると言っていたから、その関係か。

 私に話が来ていなかったのは、こいつらがメインの親睦会だからであり、上層部の連中が動く内容ではないから……だよな?

 まさか、急に決まったからとか、サプライズのつもりとか、という事ではないと思いたいが。

 

「エヴァさん、なんだかムスカしい顔をしてませんか?」

 

「ネギか。

 ……ムスカしいとは、どんな顔なんだ。目がー、とか言っていればいいのか? それとも、悪だくみしてそうな薄笑いを浮かべればいいのか?」

 

「あ、間違えました。この前DVDで見たんですよ。

 えーと、無理にこじつけるなら、若い色気が目の毒、とかです?」

 

「私から見れば、80の老人も年下なんだが。

 色気という意味でも、一応は女の体を持つ私に何を求めているんだ、としか思えんぞ。精神的な男色に走る気も無いしな」

 

「でも、薄い本になりそうな関係でもいいって人に、複数心当たりがあるんですけど」

 

「お前自身を含めて、だろうが。

 頭がピンクな点も、若さに含むのか?」

 

「それも人生、ですよ」

 

 そんな事を言っている間も時間は過ぎていき。

 あやかが言っていた“協力者”が到着したわけだが……

 

「……どうしてお前達なんだ?」

 

 会場に入ってきた人物に見覚えがある時点で、大問題だ。

 

「世界各地の組織に関係する若者という条件は、少なくとも外見上は満たしているわ」

 

 以前、シベリアの方で眷属にした少女、クレメンティーナ。

 当然ながら今のロシア方面で月の一族の組織を作った本人であり、そのトップに君臨しているはずだ。

 

「もちろん、混乱に対応するためです」

 

 フランスで眷属にした、ジャンヌ・ダルク。

 眷属にした順序的にフランス方面で二位のはずだが、知名度を考えると影響力は月の一族でもトップクラスになる。

 

「この人選であれば、それなりに広い範囲をカバー出来ると思いますよ」

 

 イギリスで眷属化しアメリカ開拓に参加した中の1人、トッシュ。

 確か、ハーバードあたりで色々やらかしていたはずだ。

 

「世界各地の組織、という条件は満たしてると思うぜ?」

 

 中東で眷属にした中の1人、モジタバ。

 一時は王として、以降も影の王として中東をまとめて来たグループの一員であり、石油的な意味で経済への影響が強い人物だ。

 

「言っている事はわかる。

 だが、どうして組織のトップレベルの連中がホイホイ来ているんだ。自分の組織はどうした」

 

「きちんと組織を作っちゃえば、あとはずっと監視してなくても大丈夫だし?」

 

「トップが簡単に抜けていいのかと聞いているんだ。

 特にロシア方面は目を離すと暴走する連中が多いんじゃないのか、クレメンティーナ」

 

 おそロシアなどと言われる地域だ。

 一筋縄でどうにかなるほど大人しいとは、とても思えん。

 

「いやん、昔みたいにティーナって呼んで、お姉様。

 昔より通信も発達してるし、元々シベリアは密接な連絡とかみんな集まってとか、物理的に無理だったから。情報を回す先が1か所増える程度、どうってことないわよ」

 

「はぁ……ジャンヌは?」

 

「私は元々、トップではありません。

 眷属となるタイミングが少し遅かったことに感謝ですね」

 

「だろうな……トッシュは、人を育てるのにはまって、部下が増えすぎていたんだったか?」

 

「ええまあ、人が育つ様はよいものですからね。

 教え子たちもそれぞれに頑張っていますし、そろそろ親離れするのも良いでしょう。年寄りが重荷になってもいけませんし、少々お節介が過ぎているとも感じていましたので」

 

「へぇ、それで搾取する自由のある国になってちゃ世話ねーな」

 

「おやおや、いくらエヴァ様に憧れていても、その前で無様な姿をさらすのはどうでしょうね」

 

「あぁン?」

 

「おや、違いましたか? 素敵な女性の前で悪ぶりたい若者、という印象なのですが。

 ああなるほど、違和感なく若者に混じることができるという点で適任というわけですか」

 

「何だ、ヤんのか?」

 

 こいつらの仲の悪さというか、相性の悪さは相変わらずか。

 モジタバが相変わらず悪ガキだから、その辺も問題なのだろうが……トッシュの言う通り、普段はそれなりにちゃんとしているらしいのが、弄られる理由なのだろうな。

 

「騒ぐのは後にしろ。

 あやか、こいつらについて、話は聞いていたのか?」

 

「はっきりとではありませんが、予想できる程度には聞いていましたわ。

 大人未満の外見と各地域でそれなり以上の影響力を持つ、エヴァ様と会話し守ることが可能な人物となると、こうなる事は想定の範囲内ですわ」

 

「……そうか」

 

 というか、こいつらが自分で動くために条件を設定したとしか思えん内容だな。

 他に問題があるとすると……

 

「……お前たちは、どういう名目で幕田に来たんだ?

 職や住居やらについては何も聞いていないが」

 

「大使館や商社などの関係者として来ると聞いていますから、住所などはそちらで処理されているはずですわ」

 

「他の国や組織との交渉や、文化の交流といった役目を担当する人員、という形ですね。

 当面は相手が特定されるだけで、嘘ではありません」

 

「実際、商売の話もありって話だしな。

 とはいえ、石油が足らねーってなるのは、運べなくなった時だと思ってるんだが」

 

「それはありそうですね」

 

 ふむ、国を巻き込んだわけか。

 そうなると……

 

「お前たちの役目は、非常時の対処だけではないな。

 何を任されてきた?」

 

「儀式を行う際の盾となる事、ですね」

 

「うるさいハエが寄ってくるのは確実、ってな。

 俺とトッシュがいりゃあ、経済的な圧力も簡単だぜ」

 

「宗教絡みの対処は私が。

 聖女という立場を使えば、動きを遅らせることくらいはできるでしょう」

 

「私は主に、物理的に寄ってくる小物の対処ね。

 これでも酔っぱらいのアホ共を黙らせてきたんだから」

 

「当然ですが、小物の対処は全員が担います。

 それだけの力を持つ事も条件ですので」

 

「今の守りに文句があるわけじゃねーが、儀式の時に月の一族も表に出るからな。

 休息やらの交代も必要だし、何より、何もしねぇのは納得できねーんだわ」

 

「それに加えて、最悪の場合は対策本部的な役目も担う、あたりか。

 幕田とイギリスとアメリカに拠点があればそれなりにカバーできるだろうし。マシューやジョンが来ていないのは、そういう意味もあるだろう?」

 

 アメリカに送った眷属は、複数いるしな。

 南米に行ったやつもいるから、そっちが中心になる事も出来るはずだ。

 

「対策本部の機能も考慮されてはいますが、かなり薄いですよ。

 想定している中で最悪のものは、月の一族の消滅です。そうなった場合、私達がどこにいようと関係ありませんから」

 

「ふむ……それは無い、とは言い切れないか」

 

「ええ。そして、そうなった場合はお手上げです。

 潔く主役の座を引き渡すだけですね」

 

 そうなるのは私の存在が消滅する時くらいだし、自滅してまで魔法世界を救おうとは思っていないが……心配する事は理解できる。

 それでも、あっさりと受け入れすぎのような……?

 

「エヴァ様への説明も終わったところで、改めて新年会と歓迎会を開始しますわ!」

 

「ああ、そういう集まりだったな。

 というか、こういう場合に騒がしそうなダイアナが、やけに静かだな」

 

「……ここまで重鎮が集まるとは、思ってなかったデース」

 

「……お前でも緊張するんだな」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 あいつらが来て、少しばかり日が過ぎた。

 既に冬休みが終わっているが、必要以上に絡んでくることは無いし、現時点で、大きな問題はないと言ってもいいだろう。

 

 なぜか、トッシュが麻帆良学園中等部に非常勤の英語教師として着任してきたが。

 外見は若いといっても不老になった年齢の日本人よりは年上に見えるし、学校を作って人を育てていたのだから教師としての能力もあるだろう。私が英語教師と密接に関わる事は無いし、問題はない。

 これが修正力やらの仕業でないと能天気に思えたら、という条件付きで。

 

「でもさー、現実問題として、原作の薬味少年よりはだいぶまともな人になったんじゃない?」

 

 そして、黄昏てるところを見計らったようにやってくる、ヴァン。

 こういう嗅覚は鋭いと感心するべきか、ストーカーばりに監視されてないか恐怖すべきか。

 

「まあ、デリカシーの無さや、制御能力の無さという欠点は無いな。

 むしろ、年齢的に昼ドラ的な展開にならないかを心配すべきなのかもしれん。思春期の乙女が暴走しなければいいが」

 

「あー、表面的には優し気なイケメン系だもんねー」

 

「魑魅魍魎が蔓延る政界と財界の荒波を乗り越えて来た人物が、優しいだけで済むはずがないからなぁ。幕田に来て解放された気分なのか、どうもはっちゃけている気もするし……

 あいつらのノリだと、ホイホイ付いていきそうだ」

 

「若者の性の乱れがーって、昔も地域とか身分とかによってはアレだったよ?」

 

「邪馬台国から続くロリの国とかいう話もあったが……あれだな。あいつと組み合わせても違和感のない外見がちらほらいるあたり、あのクラスはおかしい」

 

 あやかや那波、楓辺りは、トッシュの横にいても見劣りしないだろう。

 

「つるぺたからきょぬーまで、選り取り見取りだもんね。しかも売約済みまで混じってるしねー」

 

「商品じゃないんだから、婚約済みとか許嫁の方がいいんじゃないか?

 今時は言葉狩りも流行っているようだぞ」

 

「ここには2人しかいないし、言葉狩りを気にするなら許嫁も昔の意味だと問題だよー」

 

「その辺はまあ、今の意味だと言い張れなくはないだろう。

 それで、今回は雑談だけか?」

 

「んー、良いかもしれない話と、悪い話と、雑談。どれからにする?」

 

「まだ雑談があるのか……とりあえず、悪い話から聞こう」

 

 こういうのは、良いものから聞くと上げて落とされるし、雑談から入ると終わらないからな。

 

「おっけー。

 世界樹の発光についてだけど、魔力の規模が想定してた上限を更に超えそうだよ。

 まだ未確定だし、デバイスの強化も研究し始めてるけど、魔法の難度は上がっちゃうかも?」

 

「そうか……確かに悪い話だな」

 

 ただでさえ扱う魔力やら術式の複雑さやらで高難度だったものが、更に厄介になるか。

 発光の時期をずらそうと手を出していたから何らかの影響はあると思っていたし、方向性としては想定していたから、驚く話ではないが。程度が予想以上になりそうなだけで。

 

「それなら、良い話は?」

 

「それも発光に関してだよ。

 タイミングは8月上旬でほぼ確定みたい? 遅くても中旬には光るだろうし、誤差とか余裕とかを考えると、ほぼベストじゃないかなー」

 

「8月上旬から中旬、か。7月になる事は考慮しなくていいのか?」

 

「んー、たぶん?

 天気予報みたいなものだし、半年後の話としてはそこそこの精度だと自負してるんだけどねー」

 

 色々と手を出しているし、今まで蓄積してきた情報とは前提が一致していないのは確か、か。

 いくらヴァンが世界樹と同化しているといっても、半年後の自分の体調などわかるはずも無い。半月程度の範囲で予測しただけでも大したものなのだろう。

 

「8月の後半になると不安が残るが……まあ、7月なら想定の範囲内だし、これ以上遅くならない事を祈っておけばいいか。

 計画に直接影響する話は、これくらいか?」

 

「うん、そだねー。というわけで、残りは雑談かなー」

 

「雑談に爆弾が混じっていたりするから、油断ならないんだが……」

 

「それはまあ、仕方ないって事で。

 でも、造物主とか完全なる世界とかの動向って、気になるでしょ?

 正式な報告書にすると大ごとになっちゃうしさ」

 

「やっぱり爆弾じゃないか」

 

 雑談という形式で済ませた方がいい内容、という意味での雑談か。

 まったく……敢えて持ってくる雑談はこれだから。

 

「まあまあ。

 それに、大して心配しなくていいよ? 造物主は自分では動いてないし、フェイトは新興宗教を作って信者集めしてるけどそれほど捗ってない、って話だから」

 

「それはまあ……それで済むなら平和なんだが、捗らなすぎても余計な行動に出そうだぞ?」

 

「全く集まってないわけじゃない、って辺りがミソかな。

 今のプランを捨てるほど壊滅的ってわけじゃないみたい。国やらも特に手を出してないし、それはフェイトも理解してるから、すぐに暴走する理由はないかな」

 

「要注意のまま、ずるずると行ってくれるのが一番か……」

 

「ま、そういう事。

 ほら、雑談レベルでしょ?」

 

「まあ……そうだな」

 

 蒸し返す必要も、藪を突く必要も無い。その意味では、本当に雑談レベルなんだな。

 わざわざ警戒させるような言い方をしたのは、心構え的な理由なのか、悪戯なのか、どっちなんだ……?




白い悪魔(雪)に続き、黄色い悪魔(花粉や黄砂)ががが。
おにょれ、自然はそんなに人をくるちめたいか…ヘクチッ

そんな感じで気分的に滅入ったり体が不調だったり艦これに逃避したりしていたので、どうも出来が微妙な気がします。


2018/08/28 以下を修正
 心配するの事は→心配する事は
 ロリの国というとかいう話も→ロリの国とかいう話も
 難易度→難度


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魔法先生重羽ま編第12話 リリカルな?

少し短めデス


 ゆったりと、時が過ぎていく。

 心配していたような原作関係のアレコレは、ほぼ無いと言っていい。ネギや私、その代役であろうトッシュやダイアナは、確かな実力と立場の自覚がある。ネギのパートナーとして騒動の中心付近にいる明日菜は記憶を失わずクール系のままだし、エロオコジョはメスになってエロ分が消えている。

 もちろん、小さなトラブルや、原作イベントとのニアミスはある。

 ネギが女子寮の大浴場に招かれたりとか。中身が女性だと知っていて子供の体に萌える趣味のない者だけが一緒に入って、特にトラブルなく終了したらしい。

 体育の授業で2Aとウルスラが同じ運動場になり、ボールが当たったとかで揉めかけたりとか。ネギやトッシュという景品が無かったせいか、ちょっと険悪になったものの普通に謝罪して終了したそうだ。

 

「で、何でこんなところまできて項垂れてんだよ」

 

「お前なら、さっき知った事実を愚痴っても、ある程度は共感してもらえそうだと思ってな」

 

 そしてここは休憩室で、目の前にいるのは長谷川千雨だ。

 

「権力者の悩みなんか、共感できねーぞ?」

 

「今回は、そっち方向じゃないんだ。

 まあ……この資料を見れば、わかるんじゃないか?」

 

 取り出したのは、割と分厚い資料。

 表紙に書かれているのは、髪を水色にした高町なのはのようなキャラクターのラフ画。

 

「これ……あー、魔法に関する先行公開の一環で作るって言ってたやつかな。

 デバイスとか始動キーとかは本物に近い形で使いたいとかで、相談されたんだよな」

 

「ストーリーとか、登場キャラについては?」

 

「いや? 相談されたのはだいぶ前で、主人公っぽい魔法とか、カッコいい敵役らしい魔法とか、そういう魔法関係の……あー、魔法少女で使えそうな魔法のイメージとか、そういう話を雑談みたいな形で話しただけだぞ?」

 

「具体的な内容は聞いていないのか」

 

「そりゃまあ、魔法から性格を決めるとか言ってたような時期だったみたいだし。

 けどまあ……その様子だと、キャラ設定が問題なんだよな?」

 

「そうだな」

 

 本当に、こうなるとは思っていなかったが……

 まあ、実際に頭を抱える理由を見せた方が、話が早いだろう。

 

「まず、この写真を見てくれ」

 

 取り出したるは、1枚の写真。

 魔法を練習している、戦国時代にイギリスから来た第2世代眷属メイドの姿だ。

 

「……うわ、この人が主人公のモデルなのか。

 ラフスケッチでもこの人だろうってわかるレベルって、まずいんじゃ?」

 

「こいつはノアといって、私のメイド部隊にいる人物でな。お前達とすら接点がないくらい裏方に徹しているから、本人が了承しているなら問題はないんだ。

 たとえアニメのタイトルが【魔法少女リリカルなノア】となっていようがな」

 

「…………うわぁ…………」

 

 うん、普通は呆れるよな。外見だけでもどうかと思うのに、名前までそのまま使うとか。

 あのアホ共は何を考えているのやら。

 

「で、だ。

 資料のこのページを見てくれ。こいつをどう思う?」

 

「……すごく……エヴァ様です……って、マジか!?

 外見と名前そのままっていいのかよこれ!!」

 

「少なくとも、私は何も聞いていないぞ。

 資料を見て変な声が出たくらいだ」

 

 ぱっと見が【魔法少女リリカルなのは】なのは、ヴァンやアルが噛んでいるならわかる。デバイスを作っていたくらいだし、最初からこうするつもりだったのだろう。

 主人公がノアなのは、駄洒落なのか外見が似ているからなのかは別として、少なくとも広告塔としての知名度を稼ぐ目的なら、分からなくはない。

 どうしてフェイトが私になり、おまけに儀式用デバイスを持った絵まであるのかが、理解できない。アルフの代わりに雪花──翼と髪が白い剣士でセツカなんて名前では間違えようがない──のようだし。

 ついでにフェレットことユーノは、アルベルティーヌ……オコジョになったようだ。

 

「うわぁ……これはあれだな。関係者の冥福を祈っておけばいいんだよな?

 次期アニメの情報公開が始まる頃だから、制作も進んでるって事だろうし……」

 

「早めに知らせたら止められるけど、他から情報を知られるのは色々まずいと思って、この時期に持ってきたのだろうが……納得できるかぁ!!」

 

「うわ、ちょ、ストップ! 魔力、魔力がやばい!!」

 

「……すまん、ここしばらく巨大な魔力を扱う方向の鍛錬が多くて、細かい制御が甘くなっているんだ。

 それにしても……」

 

 大雑把なストーリーも書いてあるが、魔法世界の救済や聖域の魔力を使うといった、実際の計画に直結するようなキーワードがいくつも目に付く。

 消えた要素としては、ジュエルシード……これは聖域になったと見るべきだろうから別として、蘇生を目指す部分は無いし、襲撃やらのあからさまな犯罪行為も無くなっているようだ。

 じゃあどうやってノアを主人公に仕立てるのかというと、魔力の高まりで魔法的な存在が漏れ出して人に危害を加え始め、それを防ごうとするアルベルティーヌと出会って……という流れとなるらしい。これも予想されていて治安維持の一環として対策が計画に含まれているし、あってもおかしくない状況ではある。

 

「……何だろうな、この無駄な気合いの入りようは」

 

「これはあれだろ、魔法公開に関する情報公開の一環ってやつ?

 当面はアニメだからそういう設定なんだ、で済むだろうし……けど、放送途中で魔法の情報公開開始だよな?」

 

「そうなるな。で、あいつらの事だから、話をアニメの方に誘導するのは間違いない。

 舞台設定だけを見たら問題はないんだろうが……無断で私を使った事もそうだが、魔法世界の崩壊と一般人への被害の二律背反やらを前面に出しているのも、意図的なんだろうな」

 

「あー、まあ、実際そうだしな。どっちの立場に立つのかで正義が変わるってやつだ。

 それに、魔法の一般バレの話もありそうだな。隠れて使えるような魔法じゃないとか、自分だけが魔法を使える後ろめたさと優越感とか、かなりぶっちゃけたセリフもありそうだ。

 けど、実際言ってもおかしくなさそうな内容だと思うぞ」

 

「私のイメージ的にか?」

 

「いぐざくとりー、そのとおりでございます。

 てか、隠れてやれないから、横槍が大量に入るのを覚悟で魔法の公開に踏み切るんだろ? それに秘密の状態の魔法を知った一般人の感情って、そんなもんだろうし」

 

「身に覚えあり、か」

 

「まあな。

 あとは……魔法少女なのに単純な正義と悪の話じゃないって辺りで、人気がでるか微妙そうってあたりが気になるくらいかな。広報目的なら割と致命的な気もするけど、誘導でどうにかするからいいのか?」

 

「その辺は知らん」

 

 まあ、元々フェイトが悪かというと微妙な話ではあるし、魔法を公開する時点での人気は気にしていないのかもしれんし。

 それにしても、手法という面では普通に有効そうだと思えるのに、どうしてあいつらは私やノアといった要素を突っ込んで素直に感心できないようにするんだ。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 春休みになり、年度が変わった。

 世間は、平和なものだ。それも、もうすぐ始まる魔法公開までなのだが。

 もちろん、魔法関係者は色々と慌ただしくなっている。長い時間をかけて計画していても、直前にならなければできない事など、いくらでもあるからだ。

 

 そして私は、大規模な儀式魔法を行使するまでは割と暇な状態が続くはずだ。

 魔法の公開に直接関与する必要は無いし、儀式魔法の練習や行使に向けた調整という名目で行使以外の表舞台を避ける事になっている。

 逆に言えば、入ってくる情報は日常的なものが多くなるという事でもある。

 テストがどうので出た野球拳だのといった話を、即座に叩き潰した話とか。ちょっとした悪ふざけとトッシュに色仕掛けのつもりだったらしいが、本人に「日本人は体の線が細すぎで、見ていて心配です。10年後に期待できそうな方々は、このルールでは脱ぎそうもありませんし」と言われて撃沈していたそうだ。

 テストに関しては、小学校からやり直しなどという制度に喧嘩を売るような話も流れたようだ。学校に伝わる怪談的な、先輩が後輩に発破をかける話としてのようだが。

 同時に、魔法の本の噂もあった。図書館島に探しに行って行方不明になる怪談とセットで。

 原作絡みのものが記憶に残りやすいのは、もはや病気と言ってもいいのかもしれん。

 

「でも、花見くらいは何も考えずにゆっくりとしたいですよね」

 

「そのためには、もう少し静かな環境が必要だな」

 

「ですよねー」

 

 というわけで、今日は関係者で花見だ。

 酌をしようと待ち構えているネギだけではなく、3Aになった連中もいるし、眷属連中やらも来ている。

 まあ……騒がしいだけで、原作云々が無いイベントは気楽ではあるが。

 

「余計な心配をしなくていいって意味では、何も考えずにゆっくりできるんじゃないかなー?」

 

「そうですね、ここしばらくは面倒だったり騒がしかったりしたことが多かったですから。

 エヴァちゃんは魔法の制御を訓練するのも相当に神経をすり減らしているはずですし、この辺で息抜きも必要でしょう」

 

 更に、ヴァンとアルが揃っている。

 私のいるテーブルにいるのは4人──私の斜め後ろで待機するリズはテーブルについていると言えない──だから、情報をぽろっと漏らしてもすぐに騒動になる事はない。その意味でも、何も考えずにいる事は可能だろう。

 だが。

 

「とりあえず、アルがいる時点でセクハラと罠に警戒したくなるから落ち着けん」

 

「わお、許されたッ!」

 

「セクハラはともかく、罠は警戒対象だからな?」

 

「敗訴! 逆転敗訴です!」

 

「全く……というか、いつからそんなキャラになった?」

 

「今日はいつになくハイだぜヒャッハー!

 ……うん、誰もノってくれないと寂しいよね」

 

「一緒に騒いでほしいなら、あっちの中学生に混じった方がいいと思うが」

 

「それもいいんだけど、暴走するよー?

 止め時が分からなくなりそうだから、それはそれで辛いかなー」

 

「それなら、最初からやらないという選択肢は?」

 

「んー、無いよー」

 

「無いのか」

 

 ヴァンも、何をやりたいのやら。

 久しぶりのゆったりした空気だから、気が抜けてるだけなのだろうが……息抜きという意味では正しい、のか?

 

「なんだか難しく考えてそうですけど、もっと気楽でいいと思いますよ?

 あの儀式魔法も、エヴァさんが失敗するようなら、他の誰でも不可能ですし」

 

「たとえそうだとしても、失敗したら私が後悔するのは変わらん。

 成功しても、あそこはもっと上手くできたとか、ああすれば良かったとか、反省点が大量に出るのは確実だしな」

 

「それはそうですけど、リラックスも大事です。

 緊張しすぎもよくないですよ? ここからは色々と予定がありますし、無理するとお体に触りますよ」

 

「気の抜きすぎも、同じ程度には良くないぞ」

 

 ネギの主張も正しいのは、頭では理解しているんだ。

 感情を捨てられるほど枯れていないと言えば、少しは慰めになるだろうか……って。

 

「いったい、何を触っている?」

 

「え? 無理すると触りますよ、って」

 

「そういう意味かっ!?」

 

 こいつはこいつで油断ならんな!!




2018/05/07 原作絡みにもの→原作絡みのもの に修正
2018/08/28 括弧が閉じていなかったのを修正


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魔法先生重羽ま編第13話 恋とか愛とか

少(ry
とりあえず、最近としてはいつものような感じ。


 春休みが終わり、連中のクラスが3Aになった。

 クラスの面子に変更はなく、担任も相川さよが続投している。

 賑やかなのは相変わらずだが、名ばかりの副担任である私にとっては割とどうでもいい事か。

 

 気がかりの1つは、ついに始まったアニメか。

 私はまだ出てこないが、まあ、あれだ。デバイスの話を聞いていなかった私が悪いとは思わないが、デバイスが本になっているし、変態が声を当てているような気がする。

 始動キーも、リリカル・マジカル・クロニクルとなっているし……変態は歴史書の人格だから、増えた部分については間違っていないとは言える。が、情熱的よりも変態的とした方が、より正確な気がしないでもない。

 

 そして、気がかりのもう1つは。

 

「ダイアナの行動は、それほど目に余るか」

 

「はい。近頃はいつネギが襲われるかと気が気でなく……」

 

 私に相談してきたネカネ、の話の内容だ。

 ネギの世話役というか母親代わりとして、個人的な相談だからと人払いまでして話し始めたんだが……

 

「それで、襲う具体的な内容は、傷害ではなく性的な内容で間違いないな?」

 

「あの様子では、そうとしか思えないのです。

 もしかすると誘拐などの可能性もあるかもしれません。ここ数日は花見などに誘う連絡が頻繁にあるようですし……」

 

 ネギからは、何も聞いていないが……これは、桜通りの魔法使いが変質しまくった結果なのか。

 人外からの熱い視線と挑発、原因にナギが関わり、ネギが欲しいという説明も可能か。

 うん、我ながらこじつけが酷いとは思うが、明確な間違いではない、よな。

 

「まったく……あの阿呆は、ナギに振られたからネギに乗り換えるつもりか。

 ネギの中身が女性で、私に好意を寄せている事も知っているはずなんだが……」

 

「愛は性別を超える等と供述していましたから、それでもいいようです」

 

「供述……まあ、被告と言えなくもないから間違ってはいないか。無茶な性別の越え方をしようとしているネギが相手だから、その主張自体は間違っていないのかもしれん辺り、質が悪いが。

 それにしても、ネギなら私に相談しそうなものだが……」

 

「エヴァ様に相談すると一族の大ごとになりそうだからと、遠慮しているようです。

 ですから、私が相談に伺った事も内緒にしていただけると、ありがたいのですが」

 

「それは構わんが、大ごとか。私よりも、私の周囲に気付かれた方がヤバいだろうな。

 むしろ、とっくに気付いて……いるとしたら、実は説得なりしているのか?」

 

 有宣やヴァンが、その辺を見過ごすとも……いや、ヴァンは面白く眺める方向か。

 そもそも、連中を説得できるような説明ができるのか? それとも、ネカネが過敏になっているだけで大したことではないのか……

 

「あの様子で、説得力のある釈明ができるとは思えないのですが……」

 

「とりあえず、状況は理解した。

 どの程度か確認して、必要な手を考えてみよう」

 

「お願いいたします」

 

 深く頭を下げるネカネだが、こいつに関しては、ヴァンの手は入っていないはずだ。

 なんだか違和感があるような気もするし、こんなキャラだったか……? 気絶してる姿を見てないせいか?

 

「とりあえず、相談はこれくらいか。

 それならここからは雑談の時間だ、気楽に話していいぞ。

 こちらに来てしばらく経ったが、幕田には慣れたか?」

 

「ええ、だいぶ。

 人が多いので最初は目を回すこともありましたが、それも落ち着きました」

 

 ああ、そっちの方向で気絶しそうになってただけなのか。

 

「そうか、それは良かった。

 何か心配や不便なことは無いか? 環境が変わった以上、色々とありそうだが」

 

「そうですね、強いて言うのであれば、ですが……食事がおいしすぎて、出費と体重が……」

 

「あー、うん、それは仕方ない面もあるか。

 食事関係は凝り性の連中の気合いが暴走していたし、それに触発されたのか、一般人もそっち方向に積極的だ。和食の気合いの入り方は異常だし、世界の料理を好き放題にアレンジするし、日本も似た感じだし。

 まあ、自重できるかが全てだから、頑張ってくれとしか言えん」

 

「やっぱり、そうですよね……」

 

 困った顔をしている原因は理解してやれるが、ネギの話……正確にはダイアナの話をしている時よりも困っているように見えるのはどうなんだろう。

 やっぱり、ダイアナは大した問題ではないんじゃ……?

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「やはり相談に来ましたね」

 

 その後。

 正確には、ネカネが帰った後。

 書類の束を手に戻ってきた雪花は、苦笑している。

 

「予想していたのか?」

 

「はい。ダイアナが動く事自体は本人から連絡がありましたので、今のところは静観しています。

 当面は動く理由が無いので」

 

「お前達を説得できる理由を持ってきたのか?」

 

「ネギの愛を試すのだ、と主張していました。

 ダイアナの本音が寝取りや略奪愛であろうと、外部から手を出されて揺らぐようではネギの気持ちが本物だとは言えないでしょう」

 

 つまりあれか、ネギの試験のようなものか。

 眷属の連中は教育やらが可能な時間と立場があったが、ネギに関してはそういったものが無いから、こうなった……のか?

 それにしては少々手荒というか、雑な手法に見えるが。

 

「黙認されている理由は、ネギ自身には伝えていないな?」

 

「当然です。察している様子もありますが、確信できるほどではないようですし」

 

「前提が崩れかけているな。

 それでも続けているとなると、ネギの存在は、お前たちにとっては好ましくないのか?」

 

「微妙なところです。

 好ましい面と、好ましくない面。どちらも無視できないものですから」

 

 いや、その返答の方が意外なんだが。

 好ましい面が、あるのか……?

 

「どうして、そんなに不思議そうなのですか?

 心と体の性別が一致しないエヴァ様と、肉体的、精神的、それぞれの面で組み合わせる事が可能である。

 その点に関しては、評価しています」

 

「あー、その点だけは、今までにいなかったタイプなのか……」

 

「犠牲者を出さずに心身の齟齬を解決する方法を模索している点も、悪くないですね。

 とはいえ、現状ではぽっと出の新人です。あまりでしゃばるなと思う事もあります」

 

「その辺はまあ、ありがちな話ではあるか。

 だが、鈴音や聡美、あやか辺りもそうじゃないのか?」

 

「彼女達は、それぞれの役目に従っているので、それほどでもありません。

 Aクラスや部下という枠を離れてエヴァ様の周囲で何かをする、という事は稀ですし」

 

「あいつらはやはり、いい子という枷に囚われているんだな。

 それはそれで扱いやすくはあるんだが……良くも悪くもネギが特殊だと思い知らされる」

 

 厳密に言えば、ネギがというよりは、原作から外れた人物が、となるのかもしれんが。いや、変態(アル)が同じ枠に入るのもなんだか嫌だな。

 元々原作にいない人物は……微妙か。ヴァンや有宣の人柄がいいとは言えんが、雪花はどちらかと言えばいい子寄りだし。

 

「今まで誰もやらなかったことをやろうとする人物は、どこか特殊なものです。むしろ全てが標準的な人物の存在を信じる方が無理でしょう。

 それに、中の人という要因もあります。これで所謂普通の人物であるなら、その方が驚きです」

 

「それはそうなんだが。

 ただ、他人の体を乗っ取るような魔法は、存在はしているよな? 体の交換という目的なら、相互にそれを使う方向に行きそうな気がするが」

 

「そういった魔法も調査対象ではあるようですね。概ね憑依する側の体は安静である必要があったりするので、そのまま使えるわけではないそうですが。

 それに、目標は完全な入れ替えだそうですよ?」

 

「んー……そうなると、早めに私の状態について、詳しく説明しておいた方がいいのか?

 私のこの体は端末でしかないから、人間どころか眷属とも扱いが違う可能性が高い気がするぞ」

 

「そういえば、月から見たとかいう話もありましたね。

 今行っているだろう研究は無駄かもしれない、という事ですか」

 

「そうなるかもしれん。というか、私が普通の人間でない事は知っているのだから、本格的な研究をするには私を調べるべきなんだが……ネギは何も言ってこないな」

 

 ネギ自身が普通の人と同じかも怪しいのに、確実に違う私を調べないのはどうなんだ。

 今はまだ基礎の段階、私を調べるだけの知識も不足している状態だから……なのか?

 

「そういえば、計画がある程度目途がつくまでは邪魔にならないよう知識を集める方針だ、と言っていましたね。現時点で話が無いのは、そのせいでもあるかと。

 精神系の魔法は禁忌とされる場合が多いですから、情報を集めるのも大変でしょうし。危ない橋を渡っていなければよいのですが」

 

「そっちの問題もあるな……少し放置しすぎたか?」

 

「喫緊の課題ではありませんし、甘やかしすぎるのもよくありません。

 少なくとも、人に対する魔法がそのまま使える可能性が低い事は想像できなくもないですから、当面の間……それこそ計画の後、ある程度落ち着くまでは、現状維持で良いのではないでしょうか?

 時間の問題もありますが、魔力が活性化している状態での調査は相応の危険が伴うのではないかと思うのですが」

 

「全く、問題だらけじゃないか。

 普通じゃない人間の精神入れ替わり自体も問題しかないし、ネギは本当にその路線を貫くつもりなのか……?」

 

「そのようですよ。

 研究する時間を確保するために眷属化、という話は止めておきましたが、良かったでしょうか?」

 

「それはまあ、問題ないだろう。

 むしろ、研究を言い訳に眷属になろうとされても困る」

 

 だからと言って、一緒にいたいから眷属にしてくれとストレートに要求されるのも問題だが。

 今のところは大丈夫だが、あの様子ではいつ言い始めてもおかしくない気がする。

 

「本人も本気ではなかったようで、将来的な選択肢ではあっても当面は無い、とも言っていましたが。もっと成長した体の方が、いろんな人が嬉しいだろう、と」

 

「いろんな、なのか?」

 

「はい。エヴァ様を好きだという女性は、それなりにいます。

 女性だからではなく、エヴァ様だから好きだと言える私達にとっては、やはりある程度の大きい姿の方が色々と捗ります」

 

「いや、捗るって何がだ」

 

 想像できてしまうあたりがアレだが、言葉にはしないぞ。

 というか雪花も割とそっち方向なのか……イシュトだけでもおなかいっぱいなんだがなぁ。




2018/08/28 相互それを→相互にそれを に修正
2022/08/26 その辺等→その返答 に修正


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魔法先生重羽ま編第14話 手回され

「もうすぐ修学旅行なのじゃ「行かんぞ」が……いや、とりあえず話を聞いてくだされ」

 

 ぬらりひょん……もとい近右衛門が訪ねてきたわけだが。

 私が麻帆良を出るのは色々問題があって、行けないと言った方が正しいはずだ。

 魔法関係組織のシガラミも問題ではあるが、一番の問題は、私の力や影響力が大きすぎて、阿呆共に対処する警備やら何かあった際の隠蔽が大変すぎるから、らしい。

 以前ネギのところに行ったときは、イギリスはマシューが統括していてシガラミの問題が無かったのと突発すぎて阿呆共が湧く時間も無かったから結果として問題にならなかっただけだと、有宣達に散々言われたものだ。それ以上に、土下座を責められたわけだが。

 

「話がどうこう以前に、私が麻帆良から出るのは面倒が多いと知っているだろう。

 3Aの連中をどこに送るつもりかは知らんが、負担や責任をどうするつもりだ?」

 

「それがのう、行先は先方の強い要望で、京都なんじゃ。

 婿殿……いや、呪術協会が警備などに関して全面的に負担すると言っておっての」

 

「それは……正気か?

 呪術協会との関係は悪くないと思うが、私に関する責任を負うとなると、何かあれば世界の月の一族を敵に回しかねんぞ」

 

「そうなんじゃよなぁ……それもあって、儂も強く言いたくはないのじゃ。

 じゃが、婿殿よりも、木乃江や呪術協会の若手連中が強く希望しておるそうでな。要するにあれじゃ、スーパースター来日希望で熱烈ラブコール、みたいな状況と聞いておる。

 木乃香の帰郷も兼ねられると、木乃香を気に入っておった重鎮共も乗り気での。反対意見がまるで無い状況だと、婿殿がぼやいておった」

 

「スーパースター……だと……?」

 

「世界の裏社会に広く浸透する月の一族、その頭領。

 戦国時代から江戸時代末期まで日本の裏社会を支配した幕田家、その始祖であり頂点。

 退魔の剣士を圧倒し、鬼神を支配する、稀代の陰陽師。

 様々な方面から評価した結果じゃよ」

 

「うわぁ……」

 

 これは、ドン引きせざるを得ない。いや、字面だけを見れば、否定する要素があまり無い点は理解できるんだが。

 要するに、日本のオタクが実は生きてるジャンヌに会いたいと興奮するような感じか。

 

「そんな状態じゃから、普段は護衛の仕事はある程度持ち回りで人手を出さねばならんのが、今回は報酬を下げたにも関わらず希望者が殺到しておるそうじゃ。

 少なくとも、人手不足で警備が出来んという事は無いじゃろう」

 

「管理が大変というか、管理職の胃が心配になるレベルじゃないか」

 

 むしろ、警備員の暴徒化や、警備員に紛れる不穏分子を心配すべきか。

 私が麻帆良から出るとなると、メガロの阿呆共やらが嬉々として嫌がらせに動くような気がするし。動きそうな連中は他に心当たりがないから、対処はまだ楽だとは思うが……

 

「うむ。婿殿もそれを理解しておるから、複雑な顔をしておったよ。

 それに、この話が出てからメガロの年寄りの動きが怪しいという情報も入手しておるそうじゃ。昔知り合った、メガロの捜査員から聞いたと言っておったが」

 

 メガロの捜査員……ああ、ガトウの事か。大戦の後で権力亡者を浄化しようと頑張っているとか聞いた気がするが、今でも頑張っているんだな。

 現状がこれだと、成果はいまいちのようだが。

 

「それなりに信憑性は高そうな伝手だな。

 木乃江達は、それも理解しているはずだな?」

 

「勿論じゃ。あまりにも心配じゃったから、本人にも電話で聞いてしもうたわい。

 若手連中に至っては見せ場が出来るとかで、むしろ歓迎ムードらしいの」

 

「若気の至りとか、井の中の蛙とか、そういう言葉が該当しなければいいが……」

 

「確かにその辺は心配じゃが、まあ、数も力じゃ。よほどのバグでも出てこんかぎり、どうにか出来るじゃろ。

 こっちは守勢とはいえ本拠地で全力、相手はこそこそと悪だくみじゃからな。動きやすさが違うわい」

 

「それはそうだろうが……どう考えても、私が行く前提で話が進んでいるんだが」

 

「うむ。婿殿が止めるのを諦めておる以上、離れた地にいる儂ではどうにもできんよ。

 本人が全力で拒否するのであれば、話は変わるじゃろうが……どうするかの?」

 

 ああ、私の意に反してまで押し通すつもりは無いのか。

 それでも、ここで私が騒動の中心になるのも……いや、メガロの老害を叩く意味はあるのか。動かないなら動かないで、動かない理由が分かれば手を打ちやすくなるだろうし。

 

「意味付けが出来るだけに、難しいところだな……ゼロ、どう思う?」

 

 ゼロはゼロで、最近は部屋の片隅で静かにしていることが多いし。

 人形がノートパソコンで何やらやっている姿は、シュールとしか言いようがないが。

 

「メリットとデメリットを天秤にかけて、デメリットに面倒だという感情をたっぷり乗せているのでしょう?

 それで釣り合うのであれば、メリットの大きさも理解できているのでしょう。特大の釣り餌である自覚を維持できるのであれば、行く価値があります」

 

「私が面倒くさがりみたいじゃないか」

 

「違うのですか?」

 

「違いないが……まあ、他の連中やらとの兼ね合いもあるからな。

 相談してからにしたいから、今は保留に「たのもー!」……何の用だ」

 

 入ってきたのは、ヴァンと……スクナか。

 乱入も珍しいが、この組み合わせは何があった?

 

「エヴァにゃん、修学旅行は京都でしょ?

 京都の封印の要石が不安定になってるってスクナが言ってるから、ちゃちゃっと直してきてよ」

 

「ちょっと待て。そもそも言っている要石は、スクナを封じていたものなのか?

 それなら、もはや何も封じていない以上、無くなっても特に問題はないはずだが……」

 

「あ、それは僕が説明するよ。

 結論を先に言うと、残留魔力が無くなって、浄化する部分が暴走し始めてるんじゃないかなぁ。

 残留魔力が悪さしないよう、封印って形で集めて浄化するようにしたよね」

 

「……ああ、そういえばそんな事もしたな。

 そうか、中身が無くなったから空回りし始めたのか……だが、あの浄化術式自体は、浄化するものがなくなっても特に問題ないはずだが」

 

「んー、どっちかって言うと、周りから集めちゃう魔力の方が問題っぽい?

 近くに他の封印もあるから、そっちも浄化しようとして干渉しあってる、かも」

 

 周囲の術式との相互干渉が問題なのか……面倒だな。

 浄化の術式がいらなくなるなら、封印自体を解除するのが一番手っ取り早いか?

 

「……ん? 残留魔力がなくなっているなら、どうしてスクナが話を持ってくるんだ?

 あっちに分体やらを残しているとは聞いていないし、京都方面のあれこれに関わっているわけでもないよな?」

 

「一応僕の封印だからか、僕の方に話が来ただけかな。封印処理にも関わってるし。

 それで状況とかを聞いて、話を纏めてみたんだけど」

 

「…………話を持ってきたのは?」

 

「雫ちゃんだけど、元を辿ると木乃江ちゃんだね。

 これってあれでしょ、手回しとか根回しとかいうやつ」

 

「そんなに、私を京都に呼びたいのか……」

 

 スクナまで利用しているとなると、他にどこまで手を回しているのやら。

 木乃江が麻帆良に住んでいた頃に、どの程度の人脈を作っていたかによるのだろうが……マシューあたりまで話が通っていても、不思議ではなさそうだな。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 うん、これは私の負けだ。

 勝ち負けではないのだが、気分的には明らかに負けだ。

 

 マシューと雑談をしていた時に聞いた……というか、マシューから話を振られたんだが、その時点で1敗だ。

 曰く、私が京都に行く日程に合わせて夜の一族も京都で会合を行い、釣り餌をより大きくする。

 餌が大きすぎて釣れなくなる恐れすらある気もするが、後のない連中は動かざるを得ないだろうと判断した……事を建前にして、久しぶりに私と直接会いたいと言っている連中が多いらしい。

 京都に行きますよねと確認してくるマシューの背景にゴゴゴゴゴとかいう文字が浮かんでいると感じたのは、気のせいなのだろうか。

 

 そして、マシューと話をした数時間後。

 メガロの辺りを担当している連中が上機嫌で報告してきたのは、メガロの老害が不穏な動きをしている事。

 うまくいけば失脚させられるし、悪くても半年ほど拘束できそうだと喜んでいるのだが、要するに私の京都行きに関する暗躍の尻尾を掴んだという話らしい。

 このままうまく踊ってくれるといいんだけど、といい笑顔で言っていたが。つまり、予定を変えるなよ、という事なのだろう。

 

 ついでに、翌日になってから南米方面からも報告があった。身勝手な要求ばかりしてくる鬱陶しい組織が、ようやく道を踏み外しそうだ、と。

 もう少し客観的に言うと、法のギリギリを攻める犯罪一歩手前組織がしびれを切らしそうだ、という事らしいが。脅迫寸前の威圧だの、暴力やらを背景にした恐喝まがいの交渉だのを繰り返してきたらしいが、月の一族が関与している組織は悉く退けてきたため、ついに実力行使に踏み切る気になった、という事らしい。

 これで無用な出費を減らせますと、晴れ晴れした笑顔で語っていた。まあ、メガロやらの話がここに繋がっているわけだが。

 

「……いったい、いつから私はこんなに大きな餌になっていたんだろうな」

 

「きっと、不老不死になた時からネ」

 

「はぁ……面倒な事だ」

 

 そして、報告書を持ってきた鈴音にぼやきたくもなるわけだ。

 魔法世界や火星に関する技術関係ならまだしも、京都の防衛に関する技術の報告書とは……

 魔法公開後の国防及び防犯に関する技術開発という名目になっているから、文句も言えんし。

 

「人工的な真祖の吸血鬼、その成功例。

 権力やらの亡者にとっては、特大の餌ネ」

 

「亡者が不老不死を目指す……文字通りアンデッドだな」

 

「人類の夢ではあるガ、人の社会にとって死も必要な歯車の1つネ。

 新陳代謝は生物にとって不可欠ヨ」

 

「つまり、私は老害だな。よし、全力で引き籠ろう」

 

 社会の膿、癌みたいなものだからな。

 消える事はないのだから、おとなしくしている。うむ、問題ない。

 

「引き籠る前のお仕事は、とても大事ヨ。

 私としては、それが終わたら引き籠ってもらった方が嬉しいネ」

 

「世界の安定的な意味で、か?」

 

「人は、異端を嫌い、排除しようとするネ。

 ただでさえ魔法世界の異人と接触してバタつくのに、人間社会に潜んでいた不老不死のボスなんて、格好のスケープゴート、世間が勝手に敵になろうとするのは確実。でも、月の一族と全面戦争したら、地球が滅ぶ未来しかない。

 地球と火星の戦争を無くす為に来たのニ、勝者が変わるだけというのはもにょっとするヨ」

 

「火星の人類に勝利を、とかは無いのか」

 

「無いヨ。異人は過去の存在だたし、今のメガロに巣食う亡者に味方する気もないネ」

 

「そうか。まあ、儀式魔法は私にしか使えんだろうから仕方ないが、それが終わったらのんびりするさ。

 ……周囲が騒がしくなければ、になるだろうが」

 

「あー、そこは問題ネ」

 

 下手な連中が私を敵視し始めても眷属達が殲滅しそうだから、その点だけは平和かもしれんが。

 その眷属達が、私が引き籠る事を良しとするかどうか、だな。

 ……難しい、かな。

 




相変わらず書き上げるのがギリギリの昨今、ていとく~は進んでおりません。
それもこれも、時間がかかるイベントが悪いんや……(責任転嫁
あ、福江と片春粉3個と対潜装備2種は確保。S勝利ですね!(味方全員大破だろうが全滅させればS的な定義で


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魔法先生重羽ま編第15話 旅立ち

「これでボクの勝ちです。

 おとなしく観念して、悪いことをやめてくださいね」

 

「……思ったよりやりますネー。

 でも、悪い事をした覚えはないデース!」

 

「ボクだけならともかく、エヴァさんの手も煩わせてる状態ですよ?

 少なくともボクの基準では悪いことです」

 

「くっ……」

 

「はいはい、くっころさんはそういう事をしそうな相手でやってください」

 

 意外にネギが強いというか、ダイアナが予想より弱いというか。

 まあ、なぜか2人がチェスで勝負することになり、私がその見届け人をすることになったわけだが……言い出しっぺらしいダイアナが大して強くない気がするのも謎だ。

 

「勝者、ネギ。

 それで、この勝負はどういう理由でやる事になったんだ?」

 

「ボクが負けたら、エヴァさんに近寄るな的な事を言われました。

 この勝負で久しぶりにエヴァさんに会えたので、本末転倒ですよね」

 

「そういえば、ここしばらくは会っていなかったな。

 少し前に色々な知識を集めているらしいと聞いた気がするが……」

 

「そうですね。魔法の改造方法とか、人と魔族の違いとか、精神関係に作用する魔法とか、手当たり次第に色々です。

 もちろん、違法な事はしていません。図書館島の魔法関係者用書庫とかまほネットとかで問題なく入手できる範囲です。そもそも違法なレベルの情報を理解する下地が不足してる自覚がありますから」

 

「……下地が出来たら、違法な情報にも手を出すような言い方だな?」

 

「そもそもの目的が合法的かという問題がありますし、可能性は否定できないかなー、とか思ってます。

 というか、ボクの研究結果って、公開できるものになるんでしょうか……?」

 

 ネギがやっている研究、か。

 究極的には、精神の入れ替え……一言で言えば肉体の乗っ取りみたいなものだったか。

 

「無理だろうな」

 

「ですよねー。というわけで、今はともかく、最終的には非合法な内容になり、情報収集も同じくらい真っ黒にならざるを得ないと思うんです。

 まあ、そもそも情報が無いというオチも覚悟してますけど。月の一族の情報だって無いと思いますし、更にエヴァさんは特殊なんですよね?」

 

「まあ……そうだな。特殊といえば特殊だろう。

 私自身が分かっていない事もあるし、情報が無いのは間違いないだろうな」

 

「ですよねー」

 

 あははーとか笑っているが……これは、私も笑っていい内容なのか?

 最終的に、私を研究したいという結論にしかならないのでは……

 

「まあ、それも今後どうなるか次第ですけどね。

 当面は基礎的な情報収集や実力を身に付けなきゃですし、その間に状況とかが変わったりするかもしれませんし」

 

「それはそれで不安があるが……どう状況が変わるか、予想できるか?」

 

「とりあえず、魔法が公開されるのは確定です。つまり、魔法で姿を変えるという手法が世間に知られる、という事ですよね。

 それがどう使われてどう受け入れられるかまでは分からないですけど、心と体が一致しない人たちと協力体制を作ることは出来るかもしれない、とは思っています」

 

「素人が集まっても、役には立たんぞ。

 せいぜい無知ゆえのネタ出しくらいか?」

 

「本来の目的を隠すという、重要な役目があるじゃないですか。

 それに、役に立つ思い付きもあるかもしれませんし」

 

「……意外と黒いな?」

 

「これくらい、普通ですよ?」

 

 いやまあ、内容的に真っ黒な領域に踏み込もうとしているなら、最低限の嗜みではあるか。

 原作のネギと比べるのもあれだが、やはり幼さは無いな。抜けている部分も無くなっているが、これは、いいこと……なんだろうか?

 

「そうか。

 ところで、そこで落ち込んだままのダイアナはどうすればいいと思う?」

 

「そのうち立ち直るんじゃないですか?

 急ぐようであれば、父を生贄にするという方法もありますけど」

 

「んー……とりあえず急ぎの用事も無いし、今回は……今回も? 自爆、だよな?」

 

「そうですね。父の時といい今回といい、自爆と言っていいと思いますよ」

 

「ところで、だ。

 今回の件だが、桜通りの話に対応するような気がするが、どう思う?」

 

 ネギ自身に自覚は無いだろうが、言い回しやらを考えると、その可能性は否定できないような気がする。ダイアナ……吸血鬼側から手を出して、最終的に情けない負け方をするとかも。

 

「えーと……言われてみればそんな気もしますけど、気にするほど大げさな話にはなっていませんし。

 それならそれで構わないですし、違っても問題はないですよね?」

 

「そうなんだが、これでフラグが消えてくれると気にしなくてよくなるから楽だ、と思ってな。

 まあ、少なくとも私が原因となる可能性は消えていたから、代役は決まっていたのだろうが……随分としょっぱい内容になったものだ、とは思うぞ」

 

「気にしすぎも、罠かもしれませんよ?」

 

「私が心配性なだけだ。まあ、これで次は修学旅行まで心配はないはずだ。

 ……その修学旅行が大問題なんだが」

 

「ボクは立場的に一緒に行けませんから、その、頑張ってください、ね?」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 月日が過ぎるのは早いもので。

 私……正確には私の分体(魔力が漏れたりしないよう超低出力で頑張ったバージョン)だが、意識的に私がいるのは、新幹線の駅だ。

 そして、見える範囲に、居る予定の無い面々、その1がある。

 

「……で、どうしてお前達がいる?」

 

「せっかくの機会ですからね。

 日本の古都を見てみるのも良い経験でしょう」

 

 トッシュ、ティーナ、ジャンヌ、モジタバ……要するに、最近私のところに来た上位眷属の4人が、揃って列に並んでいる。

 観光という理由自体は間違っていないのだろうが、組織やら立場やら、色々と問題がありまくるのだが……話は通してあるのか?

 

「ご心配なく、お姉様。

 私達は観光をしながら、ついでに周囲を警戒するだけって話をしてあるわ。

 もちろん、降りかかる火の粉は振り払うけどね」

 

「それは、積極的防衛というやつか?」

 

「ふふっ」

 

 ああ、これは間違いなく、自分を囮にしてでも狩りに行く気でいるな。特にティーナは、見た目だけなら強そうと思えないし。

 詠春や木乃江もその辺……狩りについては察していると思うし、プライドや立場と引き換えだが防衛に関しては連中の負担が小さくなる話ではあるか。後始末は面倒そうだが。

 

「ところで、究極的には私に護衛は不要だ、という点はどう思う?」

 

「関係ないわ。お姉様を傷付けようとする馬鹿が存在する事が腹立たしいだけだもの。

 それに、どこぞの老害が動いてるらしいじゃない?」

 

「こちらにも情報が来ていますから、ほぼ確定でしょう。

 むしろ、複数のルートで確認できている現状が、意図的に作られた罠でないか心配になるほどですね」

 

「ま、それはねーと思うぜ。

 動いた金も、連中にしちゃかなり思い切った額だからよ。これでブラフってんなら、逆に尊敬しねーとな」

 

「その辺の裏話は置いておきましょう。

 結論としてエヴァ様は、自由に観光を楽しんで頂いて問題ありません。もちろん、護衛がいる事を知った上で、という制約は付きます。

 我々だけであればさほど問題ありませんが、日本呪術協会の者もおりますので」

 

「まあ、当然だな。護衛する側にとって、突然の行動は対応が大変なのは分かっているつもりだ」

 

 呪術協会の若い連中では、私が普通に動くだけでも予測を失敗しそうだがな。

 その点、こいつらは……予測自体は外すかもしれんが、そこからのリカバリーは早いだろう。特にジャンヌは、だいぶ前の話ではあるが私と行動していた時期もあるしな。

 

「それで、だ。

 あいつらもいるのは、突発的な話ではないんだろうな?」

 

 私が視線を向けた先には。

 居る予定の無い面々、その2がある。

 

「もちろん。

 彼らが京都に行くという話自体は、半年以上前から打ち合わせを行っていたようですね。

 日程などが決まったのは、エヴァ様や我々の日程とほぼ同時だったようですが」

 

「幕田に来るのが確定した時点で話はあった、という事か。

 だが……私と合わせてきた以上、アリカはメガロを叩く気なのか?」

 

 メガロの襲撃があると予想されているところに、更に火種を追加するとは……。

 つまり、少し離れたところにいるのは、ナギ(王配)、ネギ(王子)、ネカネ(公爵家の分家だから血縁はあるだろう)のアリカ(女王)関係者3人と、タカミチ他数人の護衛達だ。

 そして、タカミチ達の警戒レベルを見る限り、襲撃について知らないとはとても思えない。

 

「呪術協会とウェスペルタティアは、護衛や有事の際の対処に関する情報交換や協議を、密接に行うという事で合意しているそうです。

 その為の人員も、期間内は呪術協会に常駐すると聞いています。それも連絡係ではなく、ある程度の事は即決可能な権限を持つ身分の者だそうですよ」

 

「……うん、アリカはメガロとやり合う気なんだな。

 まさか……実はアリカ本人が来ている、とかいうオチは無い、よな?」

 

「さあ? そのあたりは何とも」

 

「こっちを見て言え。

 アリカが来る口実は……あれか。ナギやネギにかこつけたとか、その辺か?」

 

「さあ? そのあたりは何とも」

 

「だから、こっちを見て言えと言っている。

 全く……餌を魅力的にしすぎて、阿呆共の暴走が悪化しなければよいが」

 

「その辺は問題ありません。

 動いた金額や組織は把握できていますから、そこから規模や内容を予測するのはさほど難しくありません」

 

「阿呆の暴走は想像を超えるぞ?

 あんな事をしでかす連中もいる事だしな」

 

 うん、できれば視界に入れたくなかったのだが……

 あの阿呆共は雪広が持つデパートやらと組んで、大々的にコラボイベントを始めたらしい。

 おかげで、リリカルなノアに登場する、私をモデルにしたエヴァという名のフェイトもどきが、あちこちに……

 

「……すごい表情になっていますよ?」

 

「せめて、私の視界に入らないようにしてほしかった……」

 

「…………心中、お察しします」




あちゅい……
艦これメンテ……
8年以上前のCPUでHTML5なゲームは動くのだろうか……
この話、こんなに書いてるのに、未だ原作の4巻辺りまでしか行ってないッ……!


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魔法先生重羽ま編第16話 京都にて、1日目

『京都、京都です。ご乗車ありがとうございました。東海道線、湖西線、山陰線……』

 

「ここまでは何もなし、と。

 さすがに一般人も多く乗っている新幹線で騒ぎを起こすほど、いかれてはいなかったか」

 

「それは当然だと思いますよー。後ろ暗いアレコレは手段であって目的ではないはずですしー」

 

「それをきちんと理解している相手なら、心配しないんだがな。

 そもそも私達への嫌がらせが目的になっていた場合は、手段と目的が限りなく近くなるだろう?」

 

「あー、その可能性はありますねー」

 

 京都に到着し、さよや生徒達と一緒に移動した先は、清水寺。

 それはまあ、予定通りで、予想通りだ。もちろん、噂の飛び降りるアレと騒ぐ双子がいたり、綾瀬夕映が勝手に解説を始めたりするわけだが、それもまあ問題はない。実際に飛び降りたりはしていないし。

 そして、落とし穴だの、滝に仕込まれる酒だのといったトラブルは、事前に対処されている。

 

「本当に、子供みたいな手口ですよねー」

 

「老人の影響力がチンピラしか動かせない程度に落ちているのか、油断させるための罠なのか。

 判断に苦しむところではあるがな」

 

「前者なら楽でいいですよねー。

 でも、協会の人たちの訓練にはなっているらしいですよー」

 

「この程度で訓練になる、レベルの低さを嘆きたくなるのは気のせいか?」

 

「直接関与してない組織ですから、気のせいじゃないですかー?」

 

 そんな事を話しながら様子を見ていると、静かに近づいてくる人影がひとつ。

 とりあえず排除すべき相手ではないから、協会の連中も動いてはいないが……

 

「……お前も京都にいたのか」

 

 私とさよが座っているベンチの後ろに、並べて置いてあるもう1つのベンチに座ったのは、フェイト・アーウェルンクス……の、はずだ。

 ぱっと見で中年に見えるのは、年齢詐称薬……だな。うん、久しぶりすぎて自信がないが、この感じは間違いないだろう。

 

「この近くにいたのは、偶然……とも言い切れないけど、会うためにいたわけじゃないよ。

 それより、メガロメセンブリアの工作員が邪魔なんだけど、処分していいかい?」

 

「ふむ、随分と直接的な話だな。

 邪魔という点は認めるが、処分した方がいいレベルなのか?」

 

「そうだね。この地域には色々と封印されているようだけれど、それを解いて暴れさせようとしているようでね。

 その中の1つが、ようやく儀式用に確保した場所のすぐ近くなんだ」

 

「ああ、【完全なる世界】の発動場所を潰されたくないのか。

 状況は理解してやれるが、残念ながら京都の警備は私の管轄外だ。呪術協会の方へ話を通した方がいいぞ」

 

「なるほど。それなら、そうさせてもらうよ」

 

 なるほど、メガロのネズミが邪魔になりそうだから、対処しに来ただけのようだな。

 それでもすぐに動く気はなさそうだし、雑談くらいはできそうだ。

 

「ところで、京都に来たのはネズミの対処だけなのか?」

 

「そうだね。工作員が動き回らなければ、僕が来るのはもう少し先だったはずだよ」

 

「今回はイレギュラーとして、それ以外はそれなりに順調なのか」

 

「造物主の期待通りかはともかく、それなりに人は集まっているよ。

 賛同者がいるからこそ、場所の確保もできているんだ」

 

「それはそうか。

 場所は、割と自由になるのか? 京都は魔力だけでなく、封印やら結界やらも多い。大掛かりな儀式魔法を使うには面倒が多いはずだが」

 

「聖地だって似たようなものだよ。ここは比較的きちんと管理されている方だから、むしろやりやすいくらいだね。

 それに、とりあえず必要な魔力さえ集められたら、後はどうにかなるかな」

 

「一応、後に残る者は考慮しろよ?」

 

「大丈夫だよ。人がいる場所で行う儀式は、大した規模じゃないんだ。

 僕が不要な程度にはね」

 

「あー……本番は、お前はどこにいるんだ?

 どこかの聖地か、それとも魔法世界か?」

 

「魔法世界だね。

 【完全なる世界】の維持に必要なものは、造物主が作成したんだ。それを動かすのも面倒だ」

 

「造物主謹製の何か、か。地球に持ち込もうとした事がばれた時点で、大問題になるだろうな。

 面倒というのは、そういう対処も込みか」

 

「それ以上に、設置場所も問題になるね。

 起動に必要な魔力を考えると、どうしても聖地かそれに近いところじゃないと難しいんだ」

 

「強行すれば間違いなく現地の魔法組織と衝突する条件だな。

 そうなれば人を集めるのは無理になるだろうから、魔法世界でというのは無難な選択か」

 

 あっちはあっちで、魔力の多い地域は人か魔物の類が多いんだが。

 まあ、魔物関係に対処できる実力はあるだろうし、人の相手よりは魔物の方が楽なのだろう。

 

「そういう事だね。

 さて、早くここの魔法組織に話を通して、工作員を駆除してしまいたいからね。そろそろ行かせてもらうよ」

 

「そこまで危険な状態なのか?

 まあ、そいつらのせいで協会の連中もバタバタしているようだしな。いろんな連中が色々と企んでいるだろうから、波風が立たない程度に協力するのが無難だろうな」

 

「忠告かい?

 僕達も事を荒立てたいわけじゃないけど、話をしてみないと動きもわからない……何にせよ、話が通るまでに時間がかかりそうだ。急がせてもらうよ」

 

 行ったか……うん、中年の恰好であの口調というのは、どうにも慣れんな。

 漫画だと青年か成人くらいの描写はあったと思うが、信仰宗教もどきみたいな何かで人を集めるには、若造では難しいか。

 

「……今の、誰?」

 

「レイか。まだ気配を探れる距離だが、隠れていなくていいのか?」

 

 フェイトが来る少し前に、他の生徒に紛れて離れていたはずだが。

 外国からの観光客も多いし、そもそも探される理由もないから、気にされたくなければそのまま紛れているべきだ。

 

「たぶん大丈夫。

 それより、今のは人じゃない気がする。誰?」

 

「あー……造物主の部下の人造人間みたいなもの、で通じるか?

 だいぶ前に一応という程度で伝えたと思うが、究極の現実逃避魔法を渡されて、その発動のために動いているだけだな」

 

「現実逃避……いいの?」

 

「少なくとも、本人は幸せな気分でいられるらしいぞ。誰かさんは麻薬と同じだとか言っていたがな。

 本人はこの世界から居なくなるし、後から入るのも不可らしいから、麻薬よりはマシだろう。犯罪者共の資金源に直結しないという点で」

 

「行ける行ける詐欺は?」

 

「魔法が公開されたら、若返りの薬と言って年齢詐称薬を売る方が簡単だろう。

 むしろ、生贄やらを集める名目に使われる可能性を考えるべきだろうな。何をやろうが引っ掛かる間抜けはゼロにならんし、あいつらが何もしなくても似たような話で誘う詐欺師は現れるとは思うが」

 

「随分、悲観的」

 

「いつの時代も、一定数の阿呆はいる。それ以前に、世界が大きくなりすぎて、1人で把握できる範囲なんてその一部でしかないしな。

 まあ、あれだ。普通は100%なんてありえない、だ」

 

「100%は無い、という言葉も100%信じてはいけない……」

 

「全知全能の神は自分が持ち上げられない重さの物を作ることができるか、と同じ性質の禅問答だな。世の中はそんな矛盾だらけで、その中を進むのが人生だ。

 そして、深く考えようにも集合時間は待ってくれないわけだ」

 

「それは大変」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 夜。

 嵐山の古い旅館の近くで。

 悪魔さんが。

 

「あ、いいの入りましたね」

 

「それでも大したダメージにはなっていないな。随分と頑丈だ」

 

 小太郎に殴られていた。

 ……ここで、ヘルマンなのか。

 しかも、小太郎と一緒に戦っているのは月詠なのか。

 

「惜しいですね、今のはもうちょっと踏み込めていたら首を切れそうでしたけど」

 

「いや、足場を荒らされているから、あれ以上踏み込むのは難しかったと思うぞ。

 隠れて見ている連中も、それほど問題とは思っていないようだしな」

 

「神鳴流の師範って、実質的に監査してる保護者ですよね。

 呪術師の人は……封印担当か、いざという時の治療部隊でしょうか……」

 

 私はというと、部屋でのんびりと戦闘の様子を観戦中だ。

 部屋にはネギが来ていて、同室のさよは見回りのため部屋にいない。分霊やらでも問題ないはずだが……余計なお節介というやつだろうか。

 

「あ、そういえば、お昼にフェイトが来てたんですよね?

 工作員がどうとか言って」

 

「ああ、そうだな。そっちはそっちで、別の場所で戦闘中だ。相手は西洋系の魔法使いのように見えたが……というか、捕獲も終わっていて、協会の連中が尋問中じゃないか」

 

「封印がどうの、でしたっけ?」

 

「封印の解除は……されていないな。

 場所もさほど荒れていないし、荒らされたくないという話は本音だったのだな」

 

 フェイトが得意なはずの、土系の魔法すらほとんど使ってないようだ。

 水系だけで対処できたからだろうが、結果的に、地面などにも戦闘の跡がほとんど無い。

 

「それにしても、エヴァさんが気にしていた修正力でしたっけ。

 今回は随分と頑張ったんじゃないですか?」

 

「まあ、3Aとフェイトが京都にいる、というだけで大金星だろう。

 あとは、小太郎と月詠だが……本人の適性やらがそっち方向なら、なるべくしてなったとも言えるぞ」

 

「いえ、状況も頑張ってますよ。

 フェイトと呪術協会の人が手を組んで西洋の魔法使いと戦うとか、封印を解こうとするとか。

 ヘルマンは、この辺で出しておかないと再現が難しい、とかです?」

 

「そこは私に聞かれても困る。それに、村の襲撃イベントがここに来たと考えることもできるな。

 状況としてはそっちの方が近いだろう」

 

 一応ネギもここにいて、元老院の阿呆がヘルマンをけしかけてきたわけだ。

 ナギやら護衛やらもいるが、原作でも村自体が護衛のような感じだったし、ナギも救援に来たわけだから、現状と全く異なるとは言えないはずだ。

 

「じゃあ、部外者の侵入を邪魔する小太郎くんと月詠ちゃん、ですね」

 

「そうなると……この後は、仮契約騒ぎがあったり、呪術協会が襲撃されたりするのか?

 明後日には私とネギが本山に行くわけだし」

 

「仮契約は扇動する人がいませんよ?」

 

「既に朝倉がこちら側だしな。

 お前もあんなやり方で仮契約をする気は無いだろう?」

 

「無いですね。仮契約するならエヴァさんとがいいですし、本契約の方がもっといいです」

 

「政治的な問題やらは、解決していないぞ」

 

「わかっています。だから、すぐに契約しようとか言わないよう我慢してます」

 

「我慢しないといけないのも、どうなんだ?」

 

 暴走していないだけマシなのか、暴走しそうな爆弾を抱えているのを不安がればいいのか。

 諦める様子が全くないのは、もう諦めるしかないのか。

 

「でも、ボク達が明後日に行くことになったのって、工作員な人たちに対処する時間が必要だからですよね?

 それこそエヴァさんが指揮してぱぱっと対処しちゃった方が早いんじゃ……」

 

「それをすると若い連中が育たないとか、呪術協会を支配しているように見られるとか、色々と問題が出るんだぞ」

 

「エヴァさんの独裁でいいのでは?

 その方が、今より過ごしやすそうです」

 

「なんでそんな面倒なことをせにゃならんのだ。

 私は、それなりに優秀な連中の陰で適当にやっている方がいい」

 

「そんなー」




さすがに色々と限界だったため、PCを新調しました。自作機なんで中身の入れ替えですが。
8年ほど前の省電力版Athlon+マザボ搭載グラフィック+SSD(以前HDDが不調になったため買い替えていた)から、Ryzen5&VEGA11+SSD(再利用)になって、SSDってこんなに速かったのかと実感しました。CPUも十二分の性能、グラフィックは……とりあえず困る要素がないくらい。
結果。今時の構成ってはえぇぇぇぇぇ! 超快適です。
これでまた、(HTML5になってまともに動かなくなってた)艦これや、(アクセラレーションが無いとパワーが足りず、でも古すぎてブラウザがきちんと使ってくれなくて絵が出なくなってた)ニコニコやようつべを楽しめる……べ、べつに投稿がまた遅れかけたのはこのせいじゃモガモガ


2023/04/06 見られとか→見られるとか に修正


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魔法先生重羽ま編第17話 京都にて、2日目~3日目朝

「奈良だな……」

 

「はい、奈良です」

 

「どうしてこうなった?」

 

「関係者の多くがこちらにいる都合と、ボクも大仏を見たかった結果ですね」

 

 というわけで、今日は奈良の観光なのだが。

 グループとしては、魔法関係者が多く集まる2班(古、超、葉加瀬、長瀬、春日)、3班(雪広、那波、長谷川、村上、朝倉)、6班(綾波(アスナ)、木乃香、雪凪、ダイアナ、茶々)が近くにいる状態だ。

 マナとザジがいる5班はザジがマイペースだからか夕映があちこちふらつくからか移動が遅く、鳴滝姉妹のいる1班と明石のいる4班は食べ物を優先して店に突撃したらしい。

 そして、ネギが隣にいる、と。

 

「まあ、宮崎は近くにいないし、告白騒動やらの種が無いだけ平和か?

 こっちまで来て襲撃する気力があるやつもいないようだし」

 

「では、僭越ながら。

 ボク、エヴァさんのこと大好きです!」

 

「あー……うん、改めて言われると、なんだ。

 外見が子供だと、恋愛ではなく親愛とか微笑ましい何かのように見えて仕方ないな」

 

「デスヨネー」

 

 ネギの場合は普段の行動やらがあれだから、恋愛方面が力いっぱい含まれているのだろうが。

 それでも外見は小学4年くらいだから、外見と内面の食い違いが……

 ああ、わかっている。特大のブーメランという事くらい、痛いくらいわかる。あれだけ生暖かい視線を向けられていればな!

 

「で、今は奈良公園にいるわけだが。

 鹿が寄ってこないのは、どういうわけだ」

 

 鹿煎餅も持っているのだが。

 隣にいるネギも煎餅を持っていて近づかれていないが、私から離れれば普通に食べさせられているのだから、原因は私と見ていいだろう。

 

「えーと、醸し出す高貴な気配が……とか?」

 

「別に私は高貴ではないぞ?

 むしろガサツで乱暴者と言った方が正しい気がするが」

 

「うーん……あとは、魔力の濃度とかですか? かなりうまく隠してますけど、動物の感覚では近寄りがたい何かがある、とか。

 あ、鹿が煎餅の売店にあるのを食べない理由に関係してるとか」

 

「魔法的な鹿よけか……可能性としてはありだが、それと同じと言われても嬉しくはないな」

 

「まあ、どれも可能性ですし。

 あ、大仏の方に移動するみたいですよ?」

 

「やれやれ。どうすればいいんだ、この鹿煎餅」

 

「あー、ボクが食べさせましょうか?」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 さて、昼は平和な観光で終わり。

 すっかり夜になったわけだが。

 

「北の1班と南の3班が、敵性勢力と接触しております。

 木乃香お嬢様と雪凪お嬢様は、最も安全なこちらでお待ちしといておくれやす」

 

「大変やー」

 

「すみません、お邪魔します」

 

 木乃香と雪凪が、護衛として目立たない程度についてきていた天ヶ崎千草に連れられてきた。

 そういえば、千草(こいつ)もいたな……

 

「今回の相手は、陰陽師や呪術師か。

 北が少し苦戦しているか……?」

 

 そこそこの数の陰陽師がいて、鬼やらを召還されているのが南側だ。

 純粋な力、正面からの戦闘力勝負になっているし、突破より蹂躙したいのか陽動のつもりなのか、馬鹿正直に戦闘を行っている。護衛の戦力も十二分にあるようだから、問題はないだろう。

 それに比べて、北側は搦め手を好むようだ。

 こちらの護衛……神鳴流の剣士や陰陽師の姿を写し取った式神をばらまき、場の攪乱と突破を試みている。

 ここに到達する可能性だけなら、北の方が高そうだ。鶴子と雫が手ぐすね引いて待っているし、混乱が治まれば挟撃されることになるだろうが。

 

「で、木乃香をここに置いたというのは、私を巻き込むつもりと見ていいんだな?」

 

「いいえ、逆どす。この部屋には、不躾な者どもを一歩たりとも踏み入らせまへん。

 他の全てを犠牲にしても死守せよという命令どす」

 

「そっち方向でぶっ飛んだ命令を出したのか……」

 

「護衛の若いもんも、ええとこ見せようと気合が入っておるそうや。

 それもあって、ぜひ覗き見してほしいと伝えてくれと言われとります」

 

「……上がああなら、下もこうなるのか。

 木乃江の教育を……いや、別に私を特別視はしていなかったと思うが……」

 

 となると、詠春か? だが、身分や実力的な理由で緊張されていても、ミーハー的な感じはしなかったと思うし……

 となると、こうなった原因は、どこだ?

 

「それは、摂家や土御門の方々が原因やと思います。

 歴史を知れば知るほど敬いたくなる人物やと、日頃から口癖のように触れ回っとります」

 

「あー、確かに言っとったなぁ。

 偉大な祖先とか、救世主たりえる人物とか、昔はよーわからへんかったけど」

 

「最強の剣士を従える、最強の魔法使いにして陰陽師……と、神鳴流の師範は言っていましたが」

 

「あいつら……」

 

 一応家系的には私が幕田家の始祖で摂家に嫁に行った幕田の女もちらほらいるし、雪花を最強の剣士と呼ぶのも分かるし、私を最強の魔法使いや陰陽師と呼ぶのも一応理解はできる。

 だが、救世主と呼ばれる筋合いは……

 

「でも、崇拝ぶりは幕田の人とかも大概やよ?

 特に魔法世界出身の人なんか、魔法世界を救う救世主やから拝んどるってゆーとったし」

 

「あれは計画の成功を祈っている、という話だったような?

 ああでも、信仰する神がいないからエヴァ様に祈るようにした、とか言っていましたか」

 

 ……筋合いは……うん、こう聞くと、すごくあるような気がする。

 どうしてだろうなぁ……

 

「遠い目をしとるとこ悪いんどすが、そろそろ警備に行かせてもらいますわ。

 余裕かまして踏み込まれでもしたら、後が怖いさかいなぁ」

 

「ああうん、行っていいぞ」

 

 怖いのは、上の連中なのか、若い連中なのか。

 とりあえず、あれだ。覗き見する気力もないとはこういう状態か。

 

「ここで寝るわけにもいかへんし。

 せっちゃん、ここはパジャマパーティーや!」

 

「起きている事はいいですが……騒ぐと迷惑になるのでは?」

 

「エヴァさんも巻き込めば、もーまんたいや。

 あの顔は、絶対に外を監視する気をなくしとるはずや!」

 

「ええと、そうでしょうか……?」

 

 ああ、確かに木乃香の言う通りではあるが。

 中身が未だに男の私にとって、パジャマパーティーも拷問のような気がするぞ?

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 さて、襲撃は無事に対処されて、夜が明けた。

 今日は班別の自由行動日であり、私達が呪術協会に行く日でもある。

 パジャマパーティー? ははっ、何のことかわからんな。

 

「注意点は出発前に説明したとおりですー。

 夕食までには帰ってきてくださいねー」

 

「「「「はーい」」」

 

 元気に返事をしてる生徒達だが、魔法関係者だけの2班、3班、6班は、私と一緒に呪術協会行きだ。昨日と似たような行動になるわけだな。

 他の3つの班は関係者以外を含むから、関係者が別行動となるよう誘導することになっている、という理由もある。

 その結果として。

 1班。鳴滝姉妹が誘導して、椎名桜子、柿崎美砂、釘宮円を某テーマパークへ。

 4班。裕奈が誘導して、佐々木まき絵、和泉亜子、大河内アキラ、四葉五月を食道楽の街へ。

 5班。マナとザジが誘導……するまでもなく、綾瀬夕映が早乙女ハルナと宮崎のどかを寺院仏閣巡りに連行。

 メンバーを見る限り、まあ妥当な行先……なのか?

 

「それでは、いってらっしゃいー」

 

「「いっくぞー!」」「早く行くです!」

 

 ……率先して動いているメンツにふさわしい行先ではある、らしい。少なくとも1班と5班は。

 

「先生はどう動くんー?」

 

「ん? 近衛か。

 京都は久しぶりだ。のんびり街の散策でもしたいところだが……お前たちの様子を見る仕事があるからな」

 

「じゃあ、うちらと行かへん?

 外国人目線で京都らしいとこを、ダイアナちゃんに案内する手伝いが欲しいんよ」

 

「外国人目線で、か。

 ゲイシャブッカクスシテンプーラ、でいいんじゃないか?」

 

「そこは舞妓いわへんと。

 でも、古い町並みのとこで舞妓やっとるとこはありやね。

 というわけで出発やー」

 

「なんだ、結局私は連行されるのか?」

 

 そんな三文芝居で連れ出され、向かった先は。

 

「……うん、知ってた。

 ここを上るんだな」

 

 山中に向かって鳥居がずらっと並ぶ、坂の入り口だ。

 

「話は聞いていましたが、思っていたより疲れそうですわね……」

 

「何事も体が資本ヨ。

 体力作りの一環と思えば、軽いものネ」

 

「えー、研究者の体力は、そこまではいらないですよぅ」

 

 そして当然、あやかや鈴音たちも合流済みだ。

 確かにこの坂は、体力が普通以下の聡美達には辛いかもしれん。

 

「嫌なら、体調不良を理由に待っていていいんだぞ。

 用意されている会席や会談を放棄していいならだがな」

 

「そんなこと出来るわけないじゃないですか……」

 

「なら、鍛えると思って歩くといい。

 途中で休憩もできるんだから、良心的だぞ」

 

「研究者でモ、追い込みは体力勝負ヨ」

 

「わかりましたよ……」

 

「さて、あまりもたもたしていると、休憩の時間も無くなるからな。

 とっとと行くぞ」

 

 えーって顔をしている千雨を無視して、石畳の坂道へと突撃。

 実家やら国やらの後ろ盾が絡む他の連中はともかく、千雨は行く理由があまり強くないからな。電子精霊使いとしての仕事を依頼してきた相手は呪術協会にもいたようだが、そいつらも私や他の権力が絡む連中の相手を優先すると言っていたらしいし。

 逆に言えば、雪広や那波の名を背負う2人や、国の後ろ盾を持つ古とダイアナ、一応企業や組織の意向を受けた夏美や楓たちと、逃げるという選択肢が最初からない連中が多すぎる、とも言えるか。

 話を聞いた限りでは、呪術協会の連中はそれすら二の次で、私の歓待に全力を注いでいる様子なのだが……

 

 そんな事を考えつつ、加えて適当に喋りながら歩くこと、15分程度か。

 休憩所が、現れた。

 休憩所に、人影がある!

 

「お、来た来た」

 

「お早いおつきで~」

 

「どちら様ですか?」

 

 警戒して対応した雪広には悪いが、どう見ても小太郎と月詠だな。護衛として付かず離れずを保っていた千草たちも近付いてきてるし。

 現れるメンツという意味では原作再現か。修正力は頑張った。

 

「呪術協会の案内役や。

 小僧と小娘なのは、あれや。大人連中が醜い争いとやらをやらかした結果、くじ引きになったせいや」

 

「一本道で案内も必要ないですけど~、案内自体は組織の見栄や思て勘弁してください~」

 

「……何をしているんだあいつらは……ああ、雪広たちは安心していい。こいつらは一昨日の夜、馬鹿どもが寄こしてきた悪魔を相手に戦闘訓練していた連中だ。神鳴流の師範が一緒にいたから、期待の若手といったところだろう」

 

「お、やっぱ見られとったんか。

 ポカもなかったはずやし、それなりの戦いが出来とったと思うんやけど」

 

「ドヤ顔で言われてもな。私の基準は雪花や鶴子あたりだぞ?

 若手の中でどの程度なのかも知らんが……まあ、今後に期待は持てそうな内容ではあったな」

 

「よっしゃ!

 無能とかセンスが無いとか言われるよりは、ずっといい評価や!」

 

「今はダメって意味ですけどね~」

 

「大物になる準備中やから、今はまだええんや!」

 

 それでいいのか。というか、本当に小太郎か?

 口調はともかく、考え方が違いすぎるんだが……

 

「そんな寝言ばかり言っとるから、ひよっこ言われるんどすえ?」

 

「ぐっはぁっ!?」

 

 おや、千草が追いついてきた……と思ったら、小太郎にとどめを刺しに来たのか?

 雫や千鶴もいるし、この辺からはもう表立って護衛につくという事だろうが。

 

「憧れの人物に会えて舞い上がっているとしても、その言動はあきまへん。

 師範達には、みっちりと指導してもらわんとなぁ」

 

「うへぇ……」

 

 小太郎のテンションが駄々下がりだな。

 だが……憧れ? 小太郎は、私としか喋ってないし……私が、か?

 

「何や理解したくないような顔をしてはりますけど……小太郎は可愛いもんや。

 本山に着いたら、もっとひどいのがわんさとおりますえ」

 

「……うん、帰りたい」

 

 言葉では理解していたが、実物を見ると、いたたまれないというか……

 

「ここで帰られると、うちらの命が危険で危ない感じの事態になるので、できればやめてほしいどすなぁ。

 言わない選択肢も、それはそれで心証を悪くしはる思いますし」

 

「お前の立場はわかる。だが、帰りたい」

 

 全く、実際に会ったことのある木乃江や詠春はともかく、摂家やら若い連中にそこまで好かれるようなことはしていないと思うんだがな。

 本当に、どうしてこうなったんだろうな。




京都弁 ああ京t(ry
作者です。京都弁と関西弁がわかりません。
作者です。千草が出ると手が止まります。


仕事やら私事やらで忙しくて、なかなか書く時間が……本来なら本山に到着するところまで行きたかったけれど、タイムオーバーでした。しかも、間隔があきすぎてキャラが不安定になっているような気が無きにしも非ず。
艦これ2次の方もぽちぽち書いていますが、まだ1話分できてないという。困ったもんです。
艦これゲームは舞鶴鎮守府在住になり、2次に近付いたぜヒャッホウ。イベントは甲甲乙乙乙で掘りも完遂、ゴトさんが攻略中に来てくれてよかった……


2018/10/17 電子精霊使いとして仕事を受けた相手はいるようだが→電子精霊使いとしての仕事を依頼してきた相手は呪術協会にもいたようだが に変更
2019/02/20
 千草のセリフ(京都弁)を訂正されたように修正
 探索→散策 に修正


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魔法先生重羽ま編第18話 京都にて、3日目

「……私のファンを自称する連中は、そこまで多いのか」

 

「嫌ってるやつは見たことないで。

 無関心とか特に何も思ってへん人は、まあおらんことはないようやけど」

 

「うーむ……こっちで布教するとしたら、摂家の連中あたりだろうが……」

 

「でも、押しつけは無いで。

 歴史の勉強でちょくちょく出てくるのは確かやけど、勉強以外で出てくる話の方がおもろいんや」

 

「大して面白い事はしていないぞ?」

 

「雑談で、先生やら先輩やらから色々聞かされるんや。

 嘘や思って調べるとそれ以上の話が出てくるんやから、逆に面白いで」

 

「そういう流れで広がっているのか……」

 

 そんなわけで、呪術協会へと足を進めつつ、適当な相手……私は小太郎と駄弁っている。

 道中に怪しい気配はあるが、雫や鶴子は確実に、楓、ダイアナ、千草、小太郎、月詠あたりも気付いているようだ。ちらちらと警戒している様子がある。

 そうしているうちに、雫が電話をかけて。

 

『はい、予定通り進んでいます。

 ……そうですね、変更はありません。想定していないトラブルが無ければ、先ほど伝えた時刻に到着するでしょう。

 ……はい、見苦しくないようお願いします』

 

 状況報告、に見せかけた排除依頼かこれは。

 電話が終わった直後に、山中にいた警備の連中が動き始めたか。元々包囲するような位置にいた連中が輪を狭めているし、戦力的には……まあ、怪しい連中が妙な奥の手を持っていなければ問題なさそうだな。

 さっきのを正確に言うなら、見苦しく負けたりすることのないように、だろう。

 

「それで、予定ではあとどれくらいで到着だ?」

 

「このペースであれば、あと10分ほどでしょうか。

 ただ、体力的な問題もあるので、実際は15分から20分と見ています」

 

「だ、そうだ。

 聡美と千雨、あとは夏美あたりも、もう少し運動した方がいいな」

 

「こ、こっちは、基本的に、インドア、なんだよ……」

 

「そ、そう、ですよ……体を、動かす、必要は……」

 

「ケド、研究者も体が資本ヨ。

 体力不足じゃ、長い時間がかかる実験は厳しいネ」

 

「超、さん、は、どう、やって、体力、を……」

 

「護身術の練習を兼ねて、適度な運動をしてるだけヨ。

 筋力トレーニングだけなら、短い空き時間に少しずつやるのもいいネ」

 

「そん、なー」

 

 出荷されそうな勢いでしょんぼりするほどではないと思うが……体力は無いよりある方がいいだろうし、この辺は本人次第でもある。

 まあ、やるなら無理しない程度に頑張れ、としか言えんだろうな。下手なことを言えば、また無理しそうだし。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 怪しい気配の連中の処理は、フラグを回収することなくさっくりと終わり。

 数名の体力不足により予定より少々遅れながらも、無事に最後の鳥居をくぐり抜けた。

 

「「「「ようこそいらっしゃいました!」」」」

 

 そして、そこに並ぶ、巫女(みこ)やら(みこ)やら剣士やら陰陽師やら……

 

「……お前たち、役目はどうした?」

 

「「「「歓待と到着後の護衛が役目です!」」」」

 

「…………そうか」

 

 うむ、思った以上に帰りたいな、コレは。

 とりあえず詠春と木乃江は……ああ、来たな。ちらっと聞こえた話から考えると、怪しい連中に関する指示をしていたのか。うむ、ゴミの処理は大事だな。

 

「お久しぶりです」

 

「お久しぶりですわ!」

 

「詠春……しばらく見ないうちに、随分と老けたな。

 それと、木乃江。いつの間にそんなキャラになった?」

 

「組織の長というのは、思っていたよりも大変なようです」

 

「ふふ、久しぶりすぎて、テンションが上がってしまったのです。

 普段は京都弁が多いですし」

 

「歴史が長い分、しがらみやらもあるだろうしな。まあ、木乃江に捕まった以上、逃げられんぞ。

 それにしても、木乃香や雪凪が唖然とする程度には衝撃的らしいが……普段は何枚くらい猫の皮をかぶっているんだ」

 

「それはもう、着ぐるみを通り越して実物に見えるくらいに。

 これでも皆にはお淑やかと思われているんですよ?」

 

「ハハ……」

 

 詠春の乾いた笑いは、逃げられないと言ったせいなのか、それとも木乃江のはっちゃけぶりのせいなのか。

 というか、私のせいで木乃江が壊れたとか言われないだろうな?

 

「私が小娘でいられる機会なんて、この次いつあるかわからないでしょう? ですから、今回は思いっきりはっちゃけます!

 というわけなので、行きましょう! 詠春、木乃香たちをよろしくね?」

 

「やれやれ……詠春、とりあえず木乃香を正気に戻してくれ。

 移動はそれからの方がよさそうだぞ」

 

「ええ、そのようですね……」

 

 詠春はやれやれといった表情か、夫婦の間では秘密にしていなかったんだな。

 それにしても、この調子で大丈夫……じゃないからお淑やかキャラにしていたんじゃないのか?

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

「……で、こうなるのか」

 

 確かに、謁見の間のような構造のこの部屋は、客人を迎える際に使うものなのだろう。

 重鎮やら実力のある若手やら、恐らく主要な面々はほぼ揃っているだろうという人数が集まっているのも理解はできる。

 決して間違っていない。ここに案内された時点までは。

 これで、私の席が玉座に相当する場所でなければ文句はなかった。

 

「そこ以外では納得できない人達が、いっぱいですから。

 もちろん、私も含みます」

 

「一応、呪術協会の長は詠春で、私は客として来ているんだぞ?」

 

「呪術協会の前身、陰陽寮の英雄にして影の支配者ですよ? 普通の客人として扱えるわけがありません。

 粗末に扱おうものなら、保守派の老人に組織を維持してくださった恩人に何という事をと言われ、革新派の若者に新しいものを生み出してきた偉人に何という事をと言われてしまいます」

 

「決して私だけの力ではないんだがなぁ」

 

 陰陽寮にいろいろやっていたのは有宣だし、新しいものといっても前世の知識が元でそろそろネタ切れだし実際に作ってるのは技術者たちだ。

 私が関わっているのは事実だが、裏を考えると、私の功績ではないんだ。

 

「ふふ、世の中はそんなものだと教えてくださったじゃないですか。

 それに、王や長は人を使うのが役目。使われた人物が良い成果を出したら、人材を正しく使った者も評価されるべきです。

 指導者や管理者の評価とはそういうもの、ですよね?」

 

「あー……まあ、そうだな」

 

 やばい、正論過ぎて反論ができん。

 それに、ここから見える範囲には、私が上座に行く事に不満を持たない面子しかいない気がする。少なくとも、嫌悪やらが顔に出ている者はいないようだ。

 反発する連中はオシゴト中なのかもしれんが、人数やらを考えると……これが主流なんだろう。

 要するに、抵抗は無駄、か。

 

「ふふ、ようやく諦めてくれましたね。

 さあ、さあ、さあさあさあさあ! あ、この際ですから本来の姿で!」

 

「おい、そんなに押すな。

 実際諦めたんだ、そこまで……って、なんだ、ロリコンが多いのか?」

 

「せっかくですので、久しぶりに愛で……じゃない、偽らずに話すという態度で云々という事で!」

 

「欲望駄々洩れな上に、取り繕う気もゼロだな!」

 

 そんなやり取りがあったりもしたが……まあ、平和に終わったと言っていいか。

 実際にやった事は、詠春や摂家の当主連中が歓迎の挨拶をして、いくつか質問に答える形での昔話をした程度だ。

 内容が妖や宿儺に関するものだったのは、呪術協会の役目的な意味があったのだろう。そう思いたい。反応がいちいちミーハー的だった点を見なかったことにして。

 

「さて、見世物のオシゴトはあれで終わったことにして、ここからは真面目なお仕事だ。

 具体的には、メガロの老人共についてだが」

 

 そして、夕食前の時間。

 木乃香を含む生徒連中は風呂に行き、私は詠春と大っぴらにできないお話だ。

 場所は、詠春と木乃江の私室。一応木乃江もいるが少し下がっているし、口を出さないつもりだろうか。

 

「今回、色々と手を出してきている者達ですね。

 おそらく裏にいるのは元老院の一部である可能性が高い、とは言えます。

 ですが、決定的な証拠はありません。正式に抗議するには手札不足です」

 

「やはりか。どうせ金で雇われた捨て駒だろう?

 金か依頼の流れを追うしかないだろうが……その間に尻尾が切られるだろうな」

 

「そうでしょうね。

 ですが、今回は徹底的に追うことになっています」

 

「ほう……私が狙われたからとかいう感情論じゃないだろうな?」

 

「モチベーションの上げ方としては使いますが、根拠にはしませんよ。

 今回は魔法世界側というか、ウェスペルタティア王国の関係者がいますからね。あちらの世界での調査が行いやすい、という理由もあります。

 何より、ここで元老院の尻尾を減らしておけば本番での邪魔が減るだろう、という期待が最大の理由ですね」

 

「本番……まあ、夏までに尻尾を作り直すのは難しいか。

 その理由なら、止める理由は無いな」

 

 むしろ、眷属や協力関係にある魔法組織が、嬉々として手を貸してくれそうだ。

 メガロの老害どもに煮え湯を飲まされたり、何らかの強要や被害にあったりしたとこは多いようだからな……

 

「ええ、これまでの負債を払ってもらおうと鼻息も荒い方々の協力も確約済みです。

 情報通りに襲撃がありましたから、既に各地で調査が行われているでしょう」

 

「準備はできているのか。

 それなら、やり方を間違えない限りは、私からは何も言う事は無い。間違えた場合は、周りが黙っていないだろうが」

 

「それは当然でしょうね。

 もちろん、由緒ある魔法組織に恥じないよう、精一杯やるつもりです」

 

「そうか。まあ、頑張れよ」

 

 実態としては夏の安全対策を主目的とした報復、かな。眷属連中も巻き込んでいるようだし、結果として悪いものではない、と。

 ウェスペルタティアも動く……うん、恐らく魔法世界の眷属連中も動いているだろうし、今回の狩りは、なかなか大規模になるのだろう。

 隙があれば大元に喰らいつく気でいるだろうし、夏まで老害連中が元気でいるか、怪しい状態になってきたかもしれん。因果応報、かな。いいことだ……が、せっかく浄化し始めたんだ。最近元老院入りしたまともな連中は巻き添えにしないでくれよ?




ふと気付けば、前回の投稿から1か月(正確には4週間)が過ぎようとしているんですが。
光陰矢の如しといっても、最近早すぎませんかねぇ……まさか、これが老化かっ!?
年は取りたくないねぇとか言っちゃうおばちゃんに近付いているというのかっ!? ※作者は男性です

こっちを書くのもギリギリ(そして遅れる)な現状、艦これの方も進んでいません。
チラシの裏にしておいてよかった……


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魔法先生重羽ま編第19話 京都から帰ろう

執筆時間と話の区切りの問題で、短いです。


 何事もなく、朝になった。

 厳密に言うならば、微妙に原作に関係する記号がある程度の出来事は無くもなかったが、平和に朝を迎えることができた。

 フェイトが襲ってきたりはしていない。元老院の鉄砲玉を相手に暴れていたフェイトが、その後処理やらのために来ていたようだが。

 私やダイアナが両面宿儺を相手に戦ったりもしていない。稽古をつける意味での軽い試合のようなものはあったが。

 ストリップショーなど以ての外だ。ネギがじゃあとか言って脱ごうとしていたのは何かの間違いで未遂だ。

 

 そして、ナギの家はこの世界にないわけで。

 その代わりが……これ、なのか?

 

「やっぱ足取りは消されてるか。

 けど、裏の情報では追えてるんだろ?」

 

「現状では問題なく。

 頂いた情報には感謝していますよ」

 

「うむ、役に立って何よりじゃ」

 

「アリカ、元老院なら偽の情報くらい流しているはず」

 

「その程度、アスナに言われんでもわかっておる。

 のう、詠春」

 

「ええ、もちろんです。

 確認しすぎれば気取られるので、難しいところではありますがね」

 

「それを何とかするのがヒーローってもんだろ?」

 

「そうですが、組織としては個人に頼るのも問題です」

 

 この場になぜ私がいるのかは謎だが、詠春と木乃江、ナギとアリカとネギ、私とレイ(アスナ)の7人が集まって、色々と裏側の話をしている。

 実質的に、私と木乃江とネギが置物になっているが……ナギの家が無いからと言って、ナギ本人が出てこなくてもいいんじゃないか? それとも、ナギの家族とかいう洒落にもなれん何かか。

 

「ところで、木乃江。

 私が呼ばれた理由が謎だったが、お前の暇潰しなのか?」

 

 話が始まってから、ずっと私の髪をセットしようとしているのはどうなんだ。

 そもそも私の髪はサラサラすぎて、よほど気合を入れて固めない限り違う髪型にしづらいのは、麻帆良で過ごしていた頃に経験済みだろうに。

 

「いえ、この後で話したいことがあるそうですよ?

 今の話に参加されないようなので、それなら時間があるかなと」

 

「それで、ツインテールにしたいのか?

 ゴムが滑りまくっているようだが」

 

「相変わらず、素直なんだか素直じゃないんだか、わからない髪ですね……」

 

「それは私に文句を言われても困る」

 

 これはこれで、絡まない飛び跳ねない寝癖付かないという、ものぐさには最適な髪質なんだ。

 もっと普通の髪質だったら、ばっさり切り落としていた自信があるくらいには。

 

「さて、ここ数日については、これくらいでしょう。

 雑談という体裁の非公式な話として、エヴァ様に相談があります」

 

「ん? それは呪術協会の長として話を通すには大げさなものか?

 それとも、話すことが好ましくない類のものか?」

 

「現時点では協会内部の話ですが、幕田……正確には麻帆良に関係する可能性があることですね。

 ですが、話が通る前に相談しておきたいのです」

 

「ふむ。私にも関係しそうな内容なのか」

 

「ええ。

 6月に予定されている、魔法の公開と実演としての麻帆良祭に関してですので。

 どうも、うちの若い連中が何とか祭りに参加できないかと画策しているようなのですよ」

 

「武道会やパビリオンについては協力要請があったと思うが……希望者が多すぎるのか?」

 

「それも含めて、祭りのイベントにもっと参加したいようなのですよ。

 話を聞く限りでは、関係者側と参加者側が半々といったところですか」

 

「客として来るのを止める気は無いが……今から運営、か?」

 

「念動を使って料理する屋台のスタッフや、会場警備とかでもいいらしいですよ?」

 

「念動は手品に見えそうではあるが……まあ、運営と言わないのはそのあたりで妥協する気だからか」

 

「その様です。

 この動きを止めるべきかどうか、少々悩んでいるのです」

 

「うーむ……人手は、恐らく不足するだろうとは思う。

 ただ、本当に不足するかはわからんし、外から人を入れるリスクもあるか」

 

 呪術協会から予定以上に何か出すなら、他の組織やらも出したいという話になるだろう。そうなると、余計な工作員が入り込みやすくなる。

 ただ、魔法の公開という爆弾でどれくらい人が動くのかわからない……というか大混雑になるだろうし、一般採用のスタッフに工作員が紛れないわけでもないからな……

 

「これから準備するだろう学校関係用の場所目当てに動くのは、止めてあります。

 企業関係との接触も控えるようには言っていますが……暴走する前に指針を決められたら、といったところです」

 

「それはまあ、正解だろうな。現時点では魔法を公開していないわけだし。

 だが、指針、指針か……私が管轄しているわけではないから何とも言えんが、人手の確保と、工作員の対処と、他の組織の対処を、どうバランスをとるか、だろうな」

 

「やはり、他の組織も問題ですか」

 

「自分たちも人を出したい、と言ってくるだろうからな。

 幕田が自前でやる分には、現地の組織だからで済む。だが、他の組織を含むとなるとな……」

 

「気持ちはわかりますから、何とも言えませんね。

 まあ、無理なら無理とはっきり言ってもらった方が、本人たちも諦めやすいでしょう」

 

「そうだろうが……直接有宣に聞けなかったのか?」

 

「あの方も色々と忙しいですから。

 それに、非公式と言っても周囲に誰かいる状況でしか会えません。噂として広まる可能性を考えると、そのような場では聞きづらいのですよ」

 

「手下が多い分、ちょっとした噂が妙なところまで流れる可能性は否定できんか……

 伝えるのは構わんが、いい返事は期待するなよ?」

 

「むしろ、はっきりと断っていただいた方が楽ですね」

 

「だろうな」

 

 人を送るとなると、(人の)調整やら(宿や移動の)調整やら、余計な仕事が増えるだろうし。

 宿やらは本人がどうにかするにしても、人の調整は頭が痛いだろうな。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 それからは、特に何事もなく。

 無事、幕田に帰ってきた。

 

「おかえりー。

 久しぶりの京都は、どうだった?」

 

 そして、ヴァンのドヤ顔が鬱陶しい。

 

「仕事と、襲撃と、接待の相手だぞ?

 ゆっくり観光という状態じゃないだろう」

 

「でも、久しぶりってのは間違いないわけだしさー。

 表面だけなら、前世の京都とそれほど変わんないとは思うけど」

 

「変化については、たぶんとしか言えんな。

 もともと京都に詳しいわけでもないし、600年以上前の事などそこまで細かく覚えてもいない」

 

「だよねー。

 京都の裏を牛耳ってる組織が身内だし、実はこんな組織がってドラマもないし」

 

「あってほしいのか?」

 

「やだよ。何もない時なら娯楽だけど、この時期だと確実に面倒ごとだし。

 でも、魔法を公開したらタケノコみたいにぽこぽこ生えてくるんじゃない?」

 

「厨二病ならともかく、終末思想やら選民思想やらに走る連中がいないと嬉しいが。

 絶対にいるんだろうなぁ……」

 

 今までの様式の生活が終わる、という意味では終末だろう。

 魔法の公開に反対の連中の一部、要するにメガロの老害みたいなお花畑は元々選民思想持ちだ。

 目に見える種がある以上、育つのは当然だと思った方が平和だ。

 

「フラグじゃなくて、いる前提で達観?」

 

「いや、確実にいるだろう?

 終末思想の方は、フェイトが受け皿になってくれるといいんだが」

 

「フェイトというか、完全なる世界ね。

 別にフェイトが受け止めるわけじゃないよ?」

 

「構想が造物主だろうが、実際に動いているのはフェイトだ。

 フェイトが目に見える受け皿でいいじゃないか」

 

「どちらかと言えば敵っぽい相手でも容赦なく利用するあたり、エヴァにゃんも悪よのぅ」

 

「お前に言われたくない。

 それに、フェイトに関しては、集まるだろう人物の予想を基に、うまくいくよう祈っているだけだ。手出しも、それを計画に組み込むこともしていないぞ?」

 

「効果に期待して放置してるんだから、利用してるのと一緒だよ。

 だいぶ手ぬるいとは思うけどねー」

 

「やっぱり、お前の方が悪じゃないか」

 

「僕が悪じゃないとは言ってないよ。

 むしろ、エヴァにゃん『も』悪って、同類扱いしてるしー」

 

「はいはい、同類同類。

 で、詠春から聞いた話だが……」

 

 詠春にはああ言ったが、私が有宣に会うのも結構面倒が多いんだ。

 普段行かないから、何事かと身構えられる的な意味で。

 そんなわけで、かくかくしかじか、と。

 

「あー、うん、人手は不足しそうだし、どうしようかって話は出てるよ。

 今のところ有力なのは、別荘の妖を大々的に表に出しちゃおうか、って案だし」

 

「それは……それ自体が騒動の種じゃないか?」

 

「そうなんだよねー。

 まあ、ヘラスの姫様が顔を出す予定だから、ある程度は一緒に出しちゃった方が有耶無耶になるだろうって話もあるし。どうしようねー」

 

「少なくとも、人とセットでないと対処できんだろう。

 だが……日本や幕田の妖とセットにするなら、呪術協会の連中を使う理由にはなるか?」

 

「ちょっと弱いけど……案としてはアリかな?

 それに追加で色々条件を付けると、他の組織とかから色々言われにくいかなー……」

 

「その辺は有宣達と相談してくれ。

 私が直接動いて、案だけが独り歩きするのも困る」

 

「ああ、エヴァにゃんがようやく自分の影響力を自覚したかもしれない……」

 

「ちょっと待て、何に感動しているんだお前は」

 

 裏付けのない思い付きで突っ走る脳筋だと思われていたのか?

 さすがにそれは泣くぞ。情けなくて。




いいえ、勘違いしているおばだかと思われていることに泣いてください。


先に宣言しておきますと、次回の4週間後=2019/01/03の投稿は無理だと思います。
正月の間はPCが使えないので、家にいる間に書き終えて投稿する必要があるのですが、実質3週間しかありません。
ただでさえ最近は時間がギリギリで、更に忙しくなりやすい12月です。「速さが足りない!」とか言われても「あ、はい」としか返せないので、次回はお休みして、2019/01/31の投稿を目標に頑張ります。
時間、確保できるといいな……


2018/12/17 以下を修正
 普通の質→普通の髪質
 関係すること可能性が→関係する可能性が
 宿屋らは本人が→宿やらは本人が


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魔法先生重羽ま編第20話 南へ

 修学旅行が終わった。

 原作的にはネギの弟子入りイベントやらがある時期だが、既に助手だし、騒動に発展する理由がない。

 図書館の地下にドラゴンが住んでいる、なんてこともない。そもそもナギと同居しているネギが、ナギの手がかりなんてものを求めるはずがない。

 南の島への旅行は……

 

「……いい天気だなぁ……」

 

「こうしてゆっくりとバカンスを楽しめるのも、今のうちですわ。

 忙しさやこれからの予定を考えると、次は当分先、下手をすれば不可能になるでしょう?」

 

「間違ってはいないんだが、よくクラスのほぼ全員を連れ出せたな。

 来ていないのは、麻帆良祭の準備やらで忙しい連中くらいか?」

 

 うん、これはあやかがやらかした、と言っていいのだろう。

 来ていないのは3人。肉まんと中華の屋台を出そうとして忙しい鈴音、それに巻き込まれた四葉、祭で発表する論文を口実に研究に邁進する聡美だけだ。

 関係者だけを連れてくることも出来たのだろうが、この辺はあやかの面倒見の良さと懐の温かさの為せるところか。

 その代償として、3Aに大きくかかわっていない者は、ほとんど参加していない。私とさよは教員という名目の保護者枠だし、純粋な部外者としてはネギがマスコット枠扱いで呼ばれたのと、話を聞きつけたクレメンティーナ……ロシア方面の眷属……が自腹で参加してきた程度だ。

 なお、男連中は自腹であっても参加を拒否したらしい。

 

「わたくしとしては、彼女たちこそ休むべきだと思うのですけれど。

 どう見ても根を詰めすぎですわ」

 

「研究者や職人を好きでやっている連中は、それが趣味だからな。

 あれだ、仕事で絵を描いて、息抜きで別の絵を描く、みたいなことになったりするやつだ」

 

「周囲から見て、何かわかりやすい目安でもなければ区別できませんわ」

 

「区別できるならマシだな。

 鈴音や聡美は、やるべきこととやりたいことを一致させやすい。そうなると、周囲が心配するレベルで没頭することになっても止まらんぞ」

 

「まさに現状ですわね。

 四葉さんも料理という方向で似たようなものですし……ままなりませんわ」

 

「無理強いはやめておけよ。

 人によって休息や気分転換の手法は様々だし、気にする点も色々だ。南国リゾートも、日焼けを気にする連中にとっては拷問になりかねんしな」

 

「ええ、ですから強制はしていませんわ。

 むしろ羽目を外さないよう注意し、自制する自信がないのであれば辞退してほしいと言ってあったのですが……」

 

 そんなあやかの視線の先には、サメの着ぐるみから生える褐色の足が。

 キャーとか言いながら逃げ回る様子は、どう見ても鬼ごっこだな。笑顔で砂浜を走り回っているのだから。

 身長や足の細さ、それにマナやザジの性格を考えると、中身は菲で間違いない。柿崎や釘宮、和泉といった面々も普通に楽しめているようだから、十分に手加減しているようだ。

 というか、マナとザジ、それに雪凪は休憩所にいるのか。雪凪の日焼け対策は厳重にしているようだが……魔法でどうにかしています、とは言えない面子も来ているから窮屈そうだな。綾瀬や宮崎あたりはアルビノが日差しに弱いとかの知識を持っていそうだし、他の連中も気付かない保証はない。

 

「まあ、こうやって遊べるのも今のうちか……」

 

「ええ。まあ、こうして遊んでもらえれば、裏の話もしやすいのですわ」

 

「聞かれる心配は、あまりなさそうだな。

 だが、普段の報告や雑談レベルの話は、普段からしているだろう。

 あえてここでやる必要はあるのか?」

 

 確かに近くは関係者……というか、あやかとクレメンティーナしかいない。

 だが、事故のようなものは無いとは言えないだろう。話に夢中で近付いている事に気付かないとか、そもそも大きな声を出して聞こえてしまう可能性はある。

 

「この様な開放的な場所だからこそ、ですわ。

 もちろん、あの計画に影響があるような、重大な話ではない……はずですし」

 

「そこは断言できないのか」

 

「ええ。計画そのものではなく、計画に関係する人物に関係する内容ですから。

 つまり、ネギさんとエヴァさんの掛け算についてですわ」

 

「掛け算言うな、腐女子とか貴腐人とか呼ばれるようになるぞ。

 まあ、いくら掛けられても、私がネギを恋愛対象と見ていないから0にしかならないんだが」

 

「ええ、それは見ていてわかります。

 ですが、ネギさんは積極的に動いているようですわ」

 

「動いている、か。

 少なくとも私に対しては消極的になってはいるが」

 

 ネギからの連絡は、業務的な内容のものが殆どだし。

 そのついでに雑談をすることはあるが、以前よりは落ち着いてきたような感じすらある。

 

「それは主にクレメンティーナさんのオハナシの成果ですわ。

 少なくとも積極的に動くのは計画が成功した後。今はその時に向けた魔法の調査や開発が主ですわね」

 

「ああ、やはりぽっと出の小僧に思うところがあるのか」

 

「お姉様が幸せになれるなら、年齢や出身なんて細事よ?

 ただ、精神の入れ替えは問題が大きすぎるから釘を刺しておいたけど」

 

「そうなのか?

 独占欲というか、変な虫が、的に思われても仕方ないと思うが」

 

 少なくとも、私をお姉様とか呼ぶティーナにとっては邪魔者だろう。

 雪花やイシュトも、諸手を挙げて歓迎しているわけじゃないし。

 

「肉体面と精神面で狂ったもの同士という説明は、まあ納得できるし。本人に悪意やらが見えないのも確かだし。今はまだ様子見よ。

 精神系の魔法の問題点を確認したら、ちゃんと納得してくれたし。今のところは、敵対や排除する理由がない、といったところね」

 

「……どんな説明をしたんだ?」

 

「精神系の魔法を研究するには、被験者が必要。特殊な月の一族、その中でも飛び切り特殊なエヴァ様に有効な手法を調べるにはエヴァ様自身を被験者とする必要があり、研究課程は決して安全とは言えない。そもそも、一族の仲間を実験動物のように扱うのは許容できない。

 本人も気付いていた内容を確認しただけよ?」

 

「内容に問題が無いのは理解した。

 別の手段については、何か聞いているのか?」

 

「割と最初からゴーレムやアンデッドを遠隔操作する魔法を研究してるみたいね。

 視覚や聴覚を飛ばせるものがあるし、触覚も似たようなものはあるわ。味覚や嗅覚は、対象がアレだからお察しください的な?」

 

「憑依する側が安静である必要がとか聞いた気がするが、それについては?」

 

「悩んでたわよ?」

 

「未解決、と。

 簡単に解決するとは思えんが、解決しない方が平和だったりするのか……?」

 

「研究してほしくないようなら止めるわ。

 マッドな連中は、ロボ操作の遠隔操作精度が向上しそうだから頑張ってくれとか言ってるけど」

 

「あー……そっち方面の発展に貢献する可能性があるのか」

 

 だが、ゴーレムの操作やらについては、それなりに実用的な水準にはなっているはずだが。

 ネギの用途だと……ロボでやる意味がないほど細かい操作、針の糸通しが可能なレベルを要求しそうだし。

 

「特に今の魔法だと、触覚のフィードバックも微妙よね。基本的に戦闘用だから、完全なフィードバックは逆に欠陥魔法とか言われそうだし」

 

「あー……今の遠隔操作だと、触覚はどんなレベルなんだ?」

 

「何かに触れている事が大雑把にわかる程度ね。

 点字を読むのは不可能、触り心地もかなり怪しいし、温度も暖かいか冷たいかくらいらしいわ。

 あと、痛覚何それおいしいの状態は許せないとかなんとか」

 

「大体分かったが、痛みは別に問題ないんじゃないか?

 遠隔操作だと、致命的な破損を痛みとして感じる必要はあるのかもしれんが」

 

「痛みは体の異常を知る重要な手段だとか、借り物の体に傷をつけたことにも気付けないのはだめだとか、ハカの痛みがどうとか、色々言ってたけど……まあ、異常を知るにはわかりやすい手段よね」

 

「さらっと下ネタが混じるあたり、ブレないな……」

 

 いやまあ、最初から頭の中がピンクではあった気がするが。

 隠す気がないのか、オープンなスケベで問題ないと思っているのか。まさか、気付かれないとか思っていないだろうな?

 

「下ネタなの? えーと、ハカってお墓の事じゃなくて?」

 

「お墓の痛みというのも意味不明だし、翻訳魔法なしで頑張っているからこそ気付かなかったのだろうが……あれだ。破瓜というのはロストバージンの意味もあり、私が処女だと断定した上で、体を入れ替えて性行為を行う気でいるという話だな」

 

「あー、そういう事ね。そうなると……やっぱり止めるべきなのかな?

 自分の体に発情するのか、という問題もありそうじゃない」

 

「自分のというのも問題だが、そもそもロリコンになった覚えはないな。

 年齢詐称薬も併用とかになると、いっそ各々が好きな体を作って操作した方が楽そうだ。ゼロほどの性能を求めなければ、デザインも好きにできるだろうしな」

 

「それもそうね、その方法なら本体は安静にって点も問題ないわけだし。

 その方向で話をしてみようかな」

 

「話は、手助け目的か?

 思ったよりも気にしているようだが」

 

「マッドな連中は、適度に軌道修正しておかないと、後で酷いことになるのよ?」

 

「それはわかるが、ネギも同類……だな。

 うん、間違いない」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 そして、夕方。

 腹ペコ軍団は、雪広家のスタッフが準備した、日本式とアメリカ式のバーベキュー……雑に言えば焼肉と燻製肉のような差がある代物だが、とりあえずそれらに群がっている。

 

「アメリカ式だとサイドメニューも重要だし、ちゃんと用意されているんだが……皿の上は随分と肉々しいな」

 

「若さゆえの過ちとかいうやつです。

 近い将来、早ければ明日にでも後悔するですよ」

 

 呆れた目で眺めていたのが気になったのか、近くにいた綾瀬が話しかけてきた。

 そういえば、生活指導くらいでしか関わりが無かったな。京都で魔法バレのイベントもなかったし。

 

「むしろ、この後の風呂で腹が膨らんでいたら、指をさして笑ってやろうか。

 そうすれば、今日中に後悔できるかもしれん」

 

「仲のいい友達なら笑って許せても、先生だとシャレにならないですよ」

 

「生活指導担当としてみっちりねっちり説教するよりは、マシかつ効果的だろう」

 

「太っているおばちゃんなら反論できるですけど、美人でスタイルのいい先生に笑われたら、へこむか反発するですよ」

 

「私と争えるスタイルの中学生が複数いるんだし、そいつらにやられるよりはマシじゃないか?

 まあ、食べすぎとは言えても、肉以外を食べていないことは証明できんのが問題だな。栄養のバランスも大事だ」

 

「どんな栄養をとれば、そこまで育つです?」

 

 いや、ただでさえジト目気味なのが、完全なジト目になっているぞ。

 お子様体型の綾瀬から見て……どころか、元男として大人モードの自分を見ても、素晴らしいスタイルの良さだとは思う。

 ただこれは、食生活云々と言うより、本来のエヴァンジェリンの素質でしかないからな……とりあえず、ここは一般的な話をしておけばいいか。

 

「基本的に、バランスが取れていることが大事だぞ。

 人間の体は、何かをしたからこうなるなんて単純な構造はしていない。何らかの効果が得られたとしても、大抵は余計な結果もついてくるものだしな。

 その意味では、その皿の内容は悪くないぞ」

 

 綾瀬が持っている皿の上には、コールスロー、焼き野菜、パン、肉がある。少なくとも、ここに用意されているものを考えると、野菜が多めと言える内容だ。

 少なくとも、今も肉に群がっている集団が持つ皿よりは。

 そして、もう一方の手にある、飲み物とは思えないナニカを見なければ。

 

「食べ過ぎると眠くなるですよ。

 あと、こっちはお汁粉です」

 

「夜更かしは翌日に影響しない程度にな。

 というか、汁粉は飲み物だったのか……?」

 

「夜食に向くものではあるです」

 

「いや、今は夕食だからな」

 

 小豆由来のビタミンや食物繊維のおかげで、一般的な洋菓子よりはいいと聞くが……少なくとも飲み物扱いするようなものじゃないはずだ。いや、満腹感目的で食事前に食べるのはありなのか?

 ……よく見ると、あやかや千鶴などの中学生らしからぬスタイルの連中は、肉食獣と化していないな。一番食べているのは菲だが、運動量的には妥当な気もするし。それなりに考えて食べているような感じもするから、口を出す必要はなさそうか。

 ネギも普通に輪に入っていて、見たところエロや魔法バレのイベントも発生する様子はない。これならまあ、安心して見ていられるか。




間に合ったッ……!
なんだか、とても眠いんだ……
なお、次話は1文字も書けていない模様。


2019/02/20 以下を修正
 以上→異常
 魔法ばれ→魔法バレ
 ティーナのとって→ティーナにとって
 関り→関わり


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魔法先生重羽ま編第21話 お祭り、その前に

年度末ゥゥゥゥゥゥゥゥッ!


 のんびりしている間に、麻帆良祭が始まろうとしている。

 その間の出来事は……平和と言えば平和だし、予想外と言えば予想外だろう。少なくとも、麻帆良祭までの出来事は未知のものにならざるを得ない状況になっている。

 

 記憶喪失の小太郎やヘルマン? ヘルマン襲撃は京都で終了済みだ。

 宮崎や綾瀬の魔法練習? まだバレていない。

 3Aの出し物としてメイド喫茶やお試しで乱痴気騒ぎ? 先生はネギじゃないし、そんな暴走を許さないだけの抑止力はある。

 幽霊騒ぎ? さよは担任だが何か。

 告白騒ぎの対策? そもそも発光時期をずらしてあるし、超も私の協力者となっているから盗聴だのといった騒動もない。

 ……うん、古本のところで漫画を読み直してみたが、8巻や9巻に相当する今の時期は原作が息をしていないな。

 

 もちろん、関連付けしようと思えばできる程度の、ちょっとした出来事はある。

 特に騒動があったわけではないが、小太郎が麻帆良に来たり。月詠やらも含めて祭りの間の追加人員枠に入れたらしく、祭りの間は忙しくてゆっくり見れないだろうから先に観光しとけという意味合いの、呪術協会の応援スタッフの事前研修という名目で。

 3Aとしては、お化け屋敷をすることになったり。色気ではなく、本番になったら魔法も使って色々できるよう仕込んである方向の。

 シューニャ……チャチャの設定の問題か、たまに会うネギの画像が比較的多く記録されていることが発覚したり。普段あまり会う機会のない男性の情報を集めようとした結果であり、羞恥心やら恋愛やらとは無関係かつ他の男性教員の画像もそこそこ多かったらしいが。

 ネギとアスナが、買い物に行ったり。デートではなく、ナギやネカネも一緒に。

 

 それよりも問題なのは、中途半端に情報を掴んだ、アウトローな連中の対処になっている。

 情報公開直前という事もあり、傍から見れば怪しく見える動きはどうしても多い。そこを嗅ぎつけてくるわけだ。

 もっとも、表と裏……現実と魔法の両方から外れている者だから、対処はある意味で簡単ではある。

 全く動じなければ、力を見せれば、(い)なかったことにすれば。

 表立って動けない国の黙認で、裏を担当する魔法関係組織が処理する……のはいいのだが。

 

「いくら何でも、馬鹿が湧きすぎだろう……」

 

 その類の報告書の束が厚くて、見る気も失せる。

 対処がどうのというモノではなく、完全な事後報告をまとめたようなものだけに。

 

「原因の一部は判明してマース!

 というか、最後がそのお馬鹿さんの元凶を叩き潰した報告書デース!」

 

「ますます見る気が失せる情報を……

 というか、あれだな。何日か前に、某元老院の老害共の屋敷に監査やらが踏み込んでいた件がこれか」

 

「Oh...」

 

「……そこまでテンションが落ちるのか。

 まあ、あれだ。たまたま見かけてしまっただけであって、常に監視しているとか、全て知っているとかいう話ではないからな?」

 

 退屈だった時にメガロの方を見ていたら妙に騒がしくなって、よく見たらそういう騒動だったというオチではあるが……何というか、ダイアナや眷属達の思考回路を考えると、神のような能力とか言われそうだな。

 

「麻帆良からほとんど出ないエヴァ様が魔法世界の出来事を見かけたという点が、既に異常事態デース……」

 

「ん? 最近の連中は知らないのか?

 こういう蝙蝠型の遠隔端末のようなものがあるんだが」

 

 ほれ、と言いながら指先にアーティファクトの蝙蝠を出し……そういえば、誰かにこれを見せるのは久しぶりか?

 

「コウモリ、です?

 あんまり可愛くないデース」

 

「これはこれで便利なんだがな。色々と発達していなかった頃は、これを通信機代わりにしていたこともあったし。

 こいつで魔法世界を散策していた時だな、たまたま見かけたのは。

 とりあえず、捕まった腹黒い連中に、きれいな花畑の近くに住むなとでも言っておいてくれ。私だって騒動を見たかったわけじゃない」

 

 老害の嫌がらせがウザいと言ってきたのは、ヴァンだったか。

 特に怪しい数人を監視する意味で、たまに見ていたという裏事情もあるにはあるが……私が何か見付ける前に、監査が動いたんだ。

 決して、私が何かやったから監査が動いたわけじゃないし、そもそも監査の連中は私が見ていたことも知らないはずだ。この蝙蝠を知っていて、そこにいた事に気付いていない限りは。

 ……監査に眷属が混じっていた気がするが、気付かれてない、よな?

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 そんな出来事も横に置いておき。

 魔法関係組織の打ち合わせが、麻帆良で行われている。

 魔法の公開を麻帆良祭で行うのだから、関係者が麻帆良入りしてくるのは当然で。

 関係者が集まる麻帆良で打ち合わせやらが行われるのも自然な流れではある。

 ある、のだが。

 

「よりによって、私のところでやらなくてもいいと思うが?」

 

「魔法関係組織の上層部にも、お姉様の事をよく知らないって人は多いもの。月の一族でも、古参や幹部じゃないとなかなか会う機会も無いし。

 でも、魔法世界を丸ごと何とかしようなんてレベルの魔法使いが引き籠ったままだと、色々な意味で大丈夫か心配になるのが人間ってものでしょ?」

 

 そして、進行役というか、とりあえず主に喋るのはクレメンティーナらしい。

 立場的には月の一族ロシア方面総括ではあるが……組織の代表として顔を出しているわけではないようだし、主に私の相手をするという意味で適任という事か。

 

「つまり、ここにいるのは見極め役か。

 だが、私の見た目はコレだし、かえって胡散臭いと思われるのがオチだろう。人格面はまあ、今更しゃしゃり出ない事は600年ほど引き籠っているニートっぷりが証明していると思うが」

 

「結構重要なお仕事をしてるじゃない」

 

「私が動かざるを得ない事態というのは、基本的に大事だぞ。

 逆に言えば、私が働かなくてもいい世界が一番平和でいいという事なんだが……なぜか、気が付くと私の仕事が増えているんだ」

 

 それも、とても面倒だったり、うっとうしい内容だったりするものが。

 働きたくないでござる! とか、はらたいらは負けかなと思って……違う、働いたら負けかなと思っているとか、そこまで言うつもりはなくても、仕事の内容はある程度選びたい。

 書類の山を増やしたり、部下を増やしたり、従者を増やしたり、眷属を増やしたりするのが、私の仕事じゃないよな?

 

「それだけ重要な立場にいるって事よ。

 まあ、人格面というか、ここからしゃしゃり出て支配者面する性格じゃないのは、日本とか幕田とかの体制を見ればわかるんだけど、問題は実力面なのよ」

 

「ああ、こんな小娘が優秀なはずがない、とかいう話か」

 

「そうなんだけど、ぶっちゃけすぎじゃない?

 それで、何か見せられるものは無いかなーという相談をしたいのよ」

 

「残念なお知らせだが、最近の私は超大規模魔法の制御に集中しているからな。

 ダムの放流でコップに水を入れるなんて器用な芸を求められても困るし、そこに人がいれば死体すら見つかるか怪しいレベルで巻き込むことになる。かといって、そのレベルの魔法を使えば、秘匿なんてする気が無いだろうというレベルの影響が出るのは確実だぞ。

 とりあえず、数人が割と必死で、魔力で威圧しようとしているが……そよ風ほどにも感じていない事実を受け入れさせるのが先だな」

 

「あー、一応優秀な魔法使いではあるんだけど」

 

「人間という枠の中で優秀、程度ではな。

 ナギやラカンのようなバグ連中を鼻で笑うのが私達だが……それはお前でも可能だし、私の実力証明にはならんか」

 

「ナギに会ったことはあるけど、実際にやりあったわけじゃないから、ノーコメントで。

 というか、お姉様もラカンと会ったことは?」

 

「無いな。

 とりあえず方向性は違うがナギと互角程度の実力だと聞いているから、ナギの10倍の威力で10倍の数の攻撃をすれば、問題なく倒せるだろう?」

 

「なんというパワープレイでしょうか……」

 

「まあ、あの規模の魔法を行使しようとするなら、これくらいはな」

 

 扱う魔力の量や制御の難易度という点では、ナギの10倍の10倍なんて軽いものだ。

 相手が攻撃してこない──邪魔しようとする阿呆は護衛やらが対処する前提で──から、行使に集中できるからこそ、だが。

 というか。

 

「いい加減、そよ風の方がマシになってきたんだが。

 そろそろ押し返していいよな?」

 

「えーと……手加減は?」

 

「善処しよう」

 

「あかんやつ、と言われるものよね。

 とりあえず貴方達は無駄な挑発を止めなさい。本当に死ぬわよ」

 

 いや、散々言っておいてなんだが、殺さない程度にはできる、はずだぞ。

 最近は大規模魔法しか練習してないのは本当だし、手加減が怪しいのは否定しないが……となると、どうやって納得させればいいんだろうな。




ここしばらく時間と精神的に余裕が無い状態が続いている昨今、年度末です(意味不明
ただでさえ最近短めになりつつあるのに、更に10%Offくらいでしょうか。
そして、仕事は年度末に向けて更に増量。たぶん、3月末の投稿は無理じゃないかと思います。

現実逃避で久しぶりに触ったC++、色々変わってるなぁ……何かやってみたいなぁ……(仕事と趣味のプログラムは別な人種


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魔法先生重羽ま編第22話 お祭りの横側

 お祭りの、初日を迎えた。

 正確には初日の早朝だから、開会式も始まっていないが。

 そんな時間から何をしているかというと。

 

「ご注文の、モーニングセットネ」

 

「モーニング……それでも肉まんなのか」

 

「ニンニクなしお肉控えめ野菜増量ヨ」

 

「んー……まあ、これはこれであり、か?」

 

 鈴音&四葉の屋台で、監視員業務開始前の腹ごしらえ、という事になるだろうか。開会式で魔法の公開を行うことになっているが、私の仕事はここで阿呆が湧かないか監視し、もし湧いたら対処する事だ。

 広い広場の片隅だし、問題が起きやすい場所を実力面で安心できる私や私の戦える世話係達に任せたいらしい。

 ついでに、阿呆が湧いて私達が魔法やらを使うのを実際に見せる、デモンストレーションも兼ねたいようだ。

 あわよくば、私の情報を表に少し出そうという魂胆もあるように思う。

 最悪の事態……経済活動の麻痺やらが発生した際の、食糧問題を緩和する拠点としての屋台を守る意味もあると言っていた。

 まあ、あれだ。組織の上の連中は、色々考える必要があって面倒だという事だな。好きに喋るために、若干の認識阻害は行っているが。

 

「本来は、エヴァさんも上の人ですよ?」

 

「……いや、本来の立場的には、お前がここに居ること自体がおかしいからな?

 しかも、そんな服装で」

 

 ウェスペルタティア王国の女王の第一王子であるネギが、どうしてこんなところで小袖……江戸時代後半の召使いの少女のような服装……を着て、ウェイトレスのような仕事をしているのか。

 普通に考えれば問題しかないと思うが、客にナギもいるんだよな……ネギが近くにいたのは、ナギのモーニングセットを持ってきたからだし。

 

「研究用の資料って、いい値段するんですよね。

 ですから、アルバイトです」

 

「内容的に、援助とか出資とかの話もあるんじゃないか?」

 

「あくまでも趣味なので、そういう話は断っています。

 自由に研究していると、方針の変更なんかもありえますし」

 

「あー、出資者の意向が枷になるのは嫌なのか。

 というか、あいつらはそういう枷をはめたいんじゃないか? 違法行為に走らないよう監視する意味で」

 

「そうみたいですね。エヴァさんに近付くにはそういう監視にも慣れる必要があるって、はっきり言われたこともありますし」

 

「立場があると色々面倒も多いし、厳しいやつもいるからな。

 本来はナギが保護者として動くべきだろうが、性格的に文字通り見守るだけだろうし……」

 

 その辺を言ったのは、クレメンティーナやイシュトあたりだろうか。

 何も考えてなさそうなナギではないのは確実だし、保護者であるナギがまともな指導を行えるとは思われてないから、そういう事を言われたのだろう。

 

「でも、これはあくまでもボクの趣味で、個人的な目標です。

 状況が変わればプランの放棄や方針の変更なんかもあり得ますし、今日を境になんて可能性だって考えられます。そんな状況でお金や支援を受け取るのは心苦しいです。

 心配や忠告の意味も分かるので、緩い勉強会的なものには参加してますし」

 

「勉強会、か。それで納得してもらえたのか?」

 

「研究者とかが好きに集まるお茶会みたいなもので、こんなことをやったとか、あれは良かったこれは駄目だとか、雑談しながらの情報交換がメインです。そこで何をやっているかという話をして、ある程度情報を共有できれば最低限はクリア、らしいですよ。

 出す情報が減ったら怪しい、みたいな感じかもです? そもそも資料の取り寄せとかを頼んでいますから、変なものを依頼したらお説教だと思いますし」

 

「そういうやり方でのチェックはされているのか。

 ナギやらが余計な手を出した場合は……」

 

「それこそ、王国の責任になるんじゃないですか?

 ボクがここに居れなくなる、もセットで」

 

「まあ、そうなるな。

 その辺の柵は考慮されているのか」

 

「たぶん、そうです。

 そもそも、エヴァさんに近付く研究のために離れる事になるなら、本末転倒です。知らなかかったとか、気付かなかったとかならともかく、見えている地雷くらいは避けます」

 

「連中が納得したのも、それがあるからなんだろうな……

 ところで、護衛連中用のものも準備できたようだぞ?」

 

「あ、はい、お仕事してきます」

 

 いや、別に無理に来る必要は無いんだが。

 というか、ここには私とナギだけでなく、護衛連中もいるわけだ。要するに雪花やイシュト達、タカミチ達、学園側が用意した人員もいるから、人数は割と多い。

 少し裏側寄りの場所とはいえ、屋台のテーブルとは明らかに別のテーブルセットをいくつも用意している点にいちゃもんを付けてくる阿呆もいるかもしれんが……強面のガンドルフィーニがいるのは、その対策だったりするのだろうか。

 

 その後は、適当に喋ったり、本やらを見たりしつつ、開会の時間になった。

 人の動きは活発になっているが、問題は発生していない。ここまでは基本的に昨年までと同じだから、問題が出る方がおかしいとも言えるが。

 そして、開会式が始まる。

 普通に司会が進行する、ごく普通の式典だ。来賓である当代の幕田家当主や学園の理事長やらの後ろの方に、詠春や近右衛門を含む魔法関係者がちらほらとテレビに映っているだけで。テレビや客席から見えないところに、大物がぞろぞろいるだけで。

 

「あ、始まりました?」

 

「ああ、始まったな。

 最初は普通に開会の挨拶だから、見ていて面白いものではないぞ?」

 

「でも、ネットだともうザワザワしてるネ」

 

 ネギと鈴音も来たのか。まあ、朝食と昼食の合間の時間だからか屋台は暇そうだし、問題はないのだろうが。

 というか、ネットがざわつく理由は、あれだろう。

 

「ぬらりひょんがいる、だろう?」

 

 そもそも今までは、テレビの映像を誤魔化すのは面倒という理由で、基本的に表に出ていなかったはずだ。出るなら認識阻害や幻術で普通に見えるようにしていたはずだし。

 そんな怪しいナニカが小細工なしの状態で見えてしまえば、騒ぎになるのは当然だろう。

 

「ご明察ネ。

 あの頭は反則ヨ」

 

「話のネタとしては、強力だ。

 撒き餌としては最強だと思うぞ」

 

「見てわかりやすい、異常なものですよねー」

 

「不謹慎だケド、身を張った芸人のようネ」

 

「あれはあれで、割と思いつめた結果らしいからな。ネタ扱いは不本意だろうが……どう見ても、ぬらりひょんだよな」

 

 魔法に関わっていない生徒連中がテレビを見ていたら、校長はあんなのだったっけとか騒いでそうだが、今は出し物、お化け屋敷の最終調整という名目の魔法対応調整をしている……のは、魔法の関係者だけか。

 営業開始までの暇潰しか何かでテレビを見ている魔法関係者以外の連中が、何やら騒いでいるようだが……蝙蝠で外から見てるだけだと、声は聞こえんな。

 

「こういう式典でいつも思いますけど、来賓の数人以外の電報とかって、ぶっちゃけ売名行為ですよね?

 お墨付きの意味としても、格で負けますし」

 

「数は力とも言うヨ。

 というか、ものすごく上から目線の批判ネ」

 

「各方面の協力という名目を掲げる意味もあるんだろう、たぶん。

 というか、主賓の国王だろうがアピールの一環だろう。人気取りという意味では、企業の子育て支援やらと根底は変わらんぞ」

 

「気持ちよく活動できる環境を維持するのは、為政者や経営者として当然ネ。

 結果的に好まれるとしても、人気だけが目的ではないヨ」

 

「住民や従業員の満足度。企業や住民、求人の集めやすさ。それこそ鶏と卵のような関係だと思うぞ?

 まあ、人気取りだけでは行き詰まるのも政治や経営ではあるんだが」

 

「目先だけではだめですし、理想を追う負担が大きすぎてもだめですよね」

 

「人を効率よく使うには、いかに人を気分よくさせるかだからな。

 命令されて嫌々やるより、やりたくてやる方が気分も効率もいいだろう? その中で偶に嫌な事があっても、必要だと理解していればそれなりにこなそうとする。それがもっと嫌な事を回避するためなら猶更だ」

 

「飴と鞭みたいなものネ。

 でも、飴だけだと堕落するヨ」

 

「そこの匙加減が腕の見せ所ではあるが、万人共通なんてものはないからな。

 少しの飴で堕落する者も、大量の飴で満足しない者も、少しの鞭で折れる者もいる。鞭打たれて喜ぶ変態だっているかもしれん。

 ありがちな話だが、人の数だけ価値観があり、それぞれの正義がある。正解が常に1つなら、世界はもっと単純だ」

 

 そして、白と黒しかない世界は、とてつもなく窮屈なものになるのだろう。

 もとの濁りの田沼恋しき、と詠われたのは江戸時代の半ばを過ぎた頃だったか? 汚職や飢饉対応の失敗で批判されつつもその方が良かったと思われる時点で、正解がぶれているわけだし。

 

「どこかの名探偵は、真実は1つだって主張してますよ?」

 

「主観や感情を含まない事象であれば、そうであるものが多いだろうな。だが、それは数学や物理学の世界だ。それすらシュレーディンガーの猫のような確率で表現する領域があるしな。

 あれは、自分が判断する範囲では1つの答えを出す、という宣言のようなものだろう」

 

「世の中って世知辛いですね……」

 

「というか、探偵にできることは警察よりも少ない。犯人や動機を特定し、ある程度証明するところまでが限度だろう。この後に続く、司法の領域……だれがどれくらい悪いのかについても、踏み込んでいないぞ?

 それ以上を求めるなら、司法制度に喧嘩を売ることになりかねん」

 

「権力は、個人がいくつも持つべきではないということヨ。

 逆に言うト、個人や特定組織に権力が集まると、それ以外の人や組織が抑圧されるという事になるネ」

 

「極端な例が独裁体制とか軍事政権ですよね。

 そういう国は、あまりいい話を聞かないですし」

 

「まあ、そうだな。

 それでも、悪い事しかないわけでもないんだぞ。国としての決断が早くできるとか、責任者が明確で今のトップが誰かわからんような状態になりにくいとかな。

 アメリカの大統領制から100年遅れて始まった日本の議院内閣制。43代大統領と会談するのは、56人目の首相だ。正直言って、変わりすぎだろう」

 

「権力を持ちすぎると腐るのは、歴史的な事実だけどネ。

 ただ、思い切った政策を実行するには、ある程度安定した権力と基盤が必要ヨ」

 

「日本は、56人の首相と4人の天皇だからな。国の象徴は長期安定、政治のトップは不安定だと言えるな」

 

 まあ、昭和が長すぎたとも言えるが。どうしてここまで極端なんだか。

 天皇がいるから政治が脆弱でも何とかなったのか、天皇がいるせいで政治が育たなかったのか。

 

「あ、公開はここからですか。

 随分と……豪華な顔触れですね?」

 

「世界の変化とそれに対応する力がある事を事実だと訴えるために、十分な説得力を持つ顔触れを揃える予定だ、とは聞いていたが……」

 

 さっきからいる幕田公国の国王は、別としても。

 日本、アメリカ、ロシア、中国、インド、ヨーロッパや中東や東南アジアの国々の、大統領や首相や国王。

 財閥やメガバンク、大企業の代表や会長。

 その他、国際的ではないがそこそこ大きな企業とか、規模はそれほどではないが有名な企業とか、いくらなんでも集めすぎ……

 

「ああ、全員を紹介するのは諦めるのか。

 詳しくはウェブでって、どこのCMだ」

 

 いやまあ、一応テロップは流れているが。

 

「ほら、売名じゃないですか」

 

「そこに話を繋げられてもな……」

 

「今回は、公開と対策に協力するという意思表明でもあるネ。

 問題が発生した時の責任と対策のリスクもあるシ、売名だけではないヨ」

 

「結果的に名前が売れる可能性は高いが、どんな意味かは賭けだな。

 色々なことを想定して準備しても、ここまで大きな変化には付いていけない者も多いだろうし」

 

「あー、だからフェイトを放置しているんですか?」

 

「いい逃げ道ではあるだろう?

 事が事だけに、徐々に広めるとか、根回しを十分にするとか、そういった事前準備ができないからな。追い詰められた人間が暴走すると厄介だが、ああいう逃げ道を私達が用意するわけにもいかない以上、アレに助けられる可能性はそれなりにあると思っている。

 私達の立場的には許されない手法である以上、黙認も難しいわけだが……批判しても法やらを盾に積極的な取り締まりはしない、程度になる。その辺はフェイトも納得済みだ」

 

「真っ黒な宗教法人ですか?」

 

「造物主という神に導かれ、悲しみに満ちた現世から理想の世界に行くらしいぞ?

 無暗に悲しみを増やさないためにこの世界にとどまる人になるべく迷惑をかけない、という教義も含むらしい。終末思想やらよりはだいぶマイルドで真っ当だな」

 

「真っ当……真っ当って何でしょう……」

 

「自分と他人の意見の違いを尊重し、かつ行動の結果を理解し、相手になるべく迷惑をかけないようにしながら、自分については主義を通す。

 他人を尊重し妥協点を探れるなら、真っ当と呼んでいいだろう」

 

 自分と一緒に他人の命も投げ出すイカレタ連中とか、加害者なのに被害者面する心臓に毛が生えた連中とか、お前のものは俺のもの思考などこぞのガキ大将みたいな連中とか、そんなのがうようよいる世の中だし。

 それが入れ知恵と損得計算の結果であっても、対話が可能な時点でマシ、尊重し合えるならとても良い。

 

「何だかやさぐれてるネ」

 

「一人で黙々と練習していると、ふとどうしてこんな事をしているんだろうと思う事がな?」

 

「あの、練習くらいいくらでも付き合いますよ……?」

 

「普通じゃない人間でも命に係わるレベルだぞ。

 当初の想定の上限ギリギリが確定、下手すればさらに上振れする可能性もあるからな……他人を考慮する余裕がない。

 まあ、あと少しだから、それまで位は我慢するさ……ああ、ここでアリカか。まあ、見た目が良く最も古い王国の女王というのは、いきなり人外が出てくるよりも無難か」

 

「インパクト不足でもあるけどネ」

 

「ただ、魔女裁判の裏側とか、言っちゃっていいんですか?

 最初だし、イメージって重要ですよ」

 

「後で言うよりは、だろうな。

 それに、どうして今まで裏でコソコソやっていたのかという突っ込みどころも……あー、だからここでテオドラなのか」

 

「地球世界に行くことができない、ネ。

 その状態での交流は一方的なものとなり、互いに不満が残る結果にしかならない。その状況の解決に目途が立った……まあ、間違ってはいないヨ」

 

「テオドラも王女だし、色々な組織と打ち合わせを行った上での発言だ。

 色々な国や組織と協力する態勢を見せているし、無暗に不安を煽らないための説明だろうな。陰謀論者なんかが大量に湧いて出そうだが」

 

「ある程度は仕方ないヨ」

 

「ワイドショーとかネットの掲示板が賑わいますね」

 

 さて、これで後戻りは不可になったな。後戻りは魔法世界の切り捨てだから、元々選択肢として無いも同然だったが。

 それにしても、意外に近右衛門の頭をネタにしていないが……まあ、式典でネタを盛る必要も無いか。




花粉は敵。はっきりわかんだね(鼻水的な意味で
あと、なんだかとっても眠いんだ……(春眠、及び鼻の都合による睡眠不足的な意味で

2019/05/30 追記
このところ、仕事や私事に追われ、執筆する時間がほとんど取れていません。具体的には、指摘していただいた誤字の修正に1か月とかいう有様です。
この様な状態ですので、すみませんが、投稿は不定期とさせてください。


2019/05/30 以下を修正
 超食→朝食
 ぬらりひょう→ぬらりひょん
 胡麻化す→誤魔化す
 探偵にできるのは→探偵にできることは


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魔法先生重羽ま編第23話 一歩ずつ

へい、お待ちっ!(マジで遅くてごめんなさい
敵は時間、気分はリハビリ。まだ不定期は継続中です。


「暇だな……」

 

「普段屋敷に引きこもってるのだかラ、暇潰しは得意だと思てたヨ」

 

「祭りという餌が目の前にあるのにここを動けないジレンマがだな」

 

「やっぱり普段と大して変わらないネ」

 

 盛大にぶっちゃけた開会式だったが、いきなり世界がどうかなるわけもなく。

 続けて魔法に関する説明が行われているが、祭りに来ている人間でそれを重視する者は多くない。

 ただでさえ祭りで浮ついた雰囲気だから、多少の暴走すらも仕方ないと流される。

 結果として、普通に祭りを楽しんでいるような光景ばかりが見えるわけで。

 

「蝙蝠を飛ばしても、ここと大差ないからな……。

 いっそ、幻影を残して遊びに行くのもありか? もしくは、ここにあるだろうタイムマシンを使うか」

 

「前者は契約違反、後者はここに居なければならない時間自体は変化しないという問題があるネ」

 

「魔法も科学も、痒い所に手が届かんな」

 

「法や契約に反するのは、立場的に問題ヨ」

 

「人間とは面倒な生き物だな。他人との関係は煩わしく、なのに孤独では生きられない」

 

「人に限らない以前に、人じゃないネ」

 

「そうだな」

 

 鈴音とそんなことを喋っていられる程度に、店も混んでいないし、騒ぎらしい騒ぎも起きていない。国の窓口やらには問い合わせやらが殺到しているようだし、ネットの方もサーバーがやばいとか言っているようだが、それは私の管轄じゃないから無視でいいだろうし。

 というわけで、騒ぎを口実に出歩けるかと、蝙蝠も多めに飛ばしているんだが……

 

「あ、やっぱり人力飛行機のコンテストは魔法なしなんですね」

 

「ん? ああ、一般参加がメインだから、先に魔法を教えるわけにもいかんしな。むしろ魔法禁止をルールに追加すると聞いている。

 というか、琵琶湖より狭いから飛距離が問題になるのは早かったな……」

 

 ネギが見ているテレビには、壊れて落ちた飛行機が映っている。

 このコンテストではよく見る場面ではあるが、そこまで大きくない湖で長距離飛ばれるのも問題になったりしていたな。

 

「何割かはペキって落ちちゃうんじゃないですか?」

 

「その辺が一般人の限界だが、たまにいるやたら飛ぶのが問題になるわけだ」

 

「軽量化と強度の確保は、両立が難しいヨ。

 だからこそ技術者が重宝されたり、安全を確保するための設計に多くの費用をかけたりするネ」

 

「設計、材料、製造、運用。妥協するとリスクが増える以上、飛行機が高いのはある程度は仕方がないし、運賃も相応の値段になる。

 もちろん、現実的な値段にしないと使ってもらえないという問題はあるがな」

 

「格安チケットにはリスクが、という話ですか?」

 

「いや、そもそも高すぎたら乗客が集まらん。値段に見合う価値があるなら別だが、高くて遅い乗り物に金を出す客は少ないだろうという話だな。搭乗時間や空港の立地まで含めても利便性があるか、とも言い換えられるか。飛行機自体は早くても安全を確保するための時間で相殺されました、では便利と言えん。

 まあ、そこで落ちているのは好きで作った物だ。自己満足といった価値はあるだろうし、この場と本人にとっては最重要だ」

 

 じゃなきゃ、毎年こんなに落ちていない。中にはテレビに出たいからとか思っている阿呆が混じっているのかもしれんが、それだけではどうにもならんのが技術の世界だ。

 

「現実って、めんどくさいですよねー」

 

「いくら技術者から見て素晴らしくても、何かの役に立たなければ価値を生み出せないからな。

 その辺が上手かったいい例が、エジソンか。何かをするためにはどのようなものが必要か、きちんと理解し準備したからこそ実業家として成功したわけだ」

 

「でも、失敗も多いですよ?

 コンクリートの家とか、死者との通信機とか」

 

「全てが成功するなど、それこそ神以外ありえんだろう。それに、全てが真っ当なやり方だったわけでもないしな。

 それでも、偉人と言われる程度の実績を残している。その点は凄いと思うぞ」

 

「それで、エヴァさんはどの程度関わっていたんですか?」

 

「私自身は、その頃もここで引きこもりだ。

 雑談の時に銀行にスポンサーになってみたらどうだとか言ってみたり、関係者が日本に来た時に扇子を渡してみたりした程度か?」

 

「そこ、最重要なところでは……?」

 

「直接は、何もしていないぞ? 金を出す決定をしたのは銀行、電球に扇子の竹を使おうと思ったのは本人だ。金額や使い方を考えたのもな。

 ところで、この映像を見てどう思う?」

 

 机の上に置いてあったタブレットPC……外見は最近売られ始めたXPでインテル入ってる系だが中身は超の魔改造品……を取り上げ、その点滅しているアイコンをいくつかつつくと、そこには。

 

「ええと、すごく……怪しいです……というか、危なそうです?」

 

「思想や思考的には、危ないで間違ってないネ」

 

「普通に祭りに来た風で麻帆良に入って、そこで暴れ始めたら私が動けるんだが……」

 

「国境の森に潜む白装束集団の時点で、叶わぬ夢ヨ」

 

「まあ、メッセージが警備隊から来ている時点であれだしな。

 これはあれか、捕り物でも眺めて暇潰ししていろというやつか」

 

「ですけど、白装束って、死ぬときの衣装ですよね?」

 

「その意味もあるが、狭義では神事で神主やらが着る衣装だ。

 襲撃のどの辺が神聖なのか、根拠は……聞いても理解できないだろうな」

 

 はっきり言えば、こういう過激な連中の思考回路は、どこかに理解できない部分がある。本人に無い場合は、組織的な圧力や何らかの弱みなどで強制されていたりするんだが。

 

「そもそも、このタイミングで襲撃してくる理由も不明ネ。

 魔法が公表された直後に騒乱を起こすのは、敵しか作らないヨ」

 

「考えられる可能性としては、魔法を悪者とすることで、敵である私達の敵を作りたい、といったところくらいか。

 っと、連中の情報が……あー、国粋主義を標榜しながらメガロの金で活動している阿呆共じゃないか」

 

「根本的に駄目な人たちってことじゃないですか」

 

「きっと日本人の代理人経由で、外国の文化や技術にかぶれる連中は許せない、日本の伝統を重んじる貴方達をぜひ支援したい、とか言われていい気になってるネ」

 

「ありそうですね……」

 

「私の関与は500年モノなんだが、伝統って何だろうな。

 幕田の連中だと、西洋東洋なんて区別はどっちの手法が有効か、あるいは馴染みやすいか程度の扱いだぞ。中級以上だと両方の手法を組み合わせるのは普通で、それも400年以上の歴史があるが」

 

「だから、スーツ姿でお札を使ってたりするんですね」

 

「職務中の服装は所属を示す記号だからな。

 私がいることもあって、幕田には西洋系の組織もある。正装がスーツのところもあるし、外からの視点で日本や幕田の良い点を取り入れているから、お札を使う事もある。

 ほら、不思議じゃないだろう?」

 

 さすがに、カソックを着てお札を使う事はほぼないらしいが。

 絶対に、ではないあたりが日本や幕田らしいところか。

 

「いいんですか、それ。

 そういうのが、伝統がどうのとか言われるところじゃ……」

 

「身分でも違いがあるが、陰陽や神社系の組織だと狩衣が主だし、寺院系だと法衣……袈裟と言った方がわかりやすいか。キリスト教系だとカソックや修道服だろうな。それが立場を示すものであり、伝統と呼ばれるものだ。

 政治や商売寄りの組織だと会談やビジネスで問題ない服装があるべき姿であり、西洋系の文化圏ではスーツが最も適したものだろう。

 それぞれの文化を認め、尊重しあいながら、良い点を受け入れていく。盲目的に染まるのでなければ、グローバルな社会では理想的だろう」

 

「じゃあ、あの人たちの白装束もいいんですか?」

 

「神事で着用する白装束は、派閥やらの世俗的なものを持ち込まない事を示すものだ。誰が行うのかといった部分やらで軋轢があろうと、少なくとも神事の最中には表に出さない事を示す、と言い換えてもいい。死に装束の場合も、世俗から離れる意味を持つしな。

 つまり、白装束で組織がどうの歴史がどうのと世俗に関わる事ばかりぬかしている阿呆共は、伝統という名の形にしか興味がないと自白しているようなものだ」

 

「つまり、ダメ、ですね」

 

「口先だけの連中なんて、こんなものヨ。

 大事なのは、声の大きさで負けて周囲に間違った知識を植え付けさせない事ネ」

 

「一言で言えば、マスゴミとそれを煽り煽られる阿呆共うざい、だな。

 拝金主義の現代で、崇高な志なんてものがどこまで通用するのかという問題はあるんだが……っと、ティーナからのメールか?」

 

 えーと……あー、うん。ヨカッタネー。

 

「なんだか、悟ったみたいな顔になってますよ?」

 

「チベットスナギツネみたい、とも言えるネ」

 

「いや……昨今の諸々から、いわゆるテロ組織に資金や物資を提供した者や組織も共犯として扱われる法律が、ロシアで成立しているんだがな。

 この阿呆共の資金が、ロシアの秘密組織を経由していたらしく、盛大な逮捕劇が完了。ここからは見せしめ的に重罪になるのが決定済み、かつメガロの元老院に圧力をかける気満々らしい」

 

「政治的に緊張するのはお勧めしないヨ」

 

「そこはヘラスやウェスペルタティア、アリアドネーなんかもあるし、元々メガロはどちらかと言えば非協力的な勢力が強めだ。

 後で甘い汁を吸うのは許さないという方針は、地球側の総意だしな……」

 

 魔法組織だけでなく、今日の開会式に来た国や企業にもメガロの悪行が知られている。

 解禁以降は関係する組織にも情報を流すと言っていたから、メガロをスケープゴートにする気なのは間違いない。過去の実績だけで充分に悪役と言われるだけの材料が揃うことだし。

 

「つまり、自業自得、ですか?」

 

「盛者必衰、でもいいかもしれないヨ」

 

「私に対する諫言か? ある意味、元老院の老人共より蔓延っている気もするが」

 

「そのつもりはないケド、何事も程々がいいヨ」

 

「という事は、世界に喧嘩を売ろうとした経験によるものか」

 

「そうかもしれないネ」

 

 二人でハハハと笑いあっている横では、ネギが少し不思議そうな顔をしている。

 

「ん? 何かあったか?」

 

「いえ、魔法世界をどうにかする儀式って、複数の聖地を魔力で繋く、超大規模なものですよね。

 どこで行使するのが伝えていないのは、襲撃とかの対策ですよね?」

 

「そうだな」

 

「でも、もうすぐ世界樹の光学迷彩を解除して、公開するんですよね。

 ここが隠された聖地だってバレちゃいません?」

 

「元々、魔力が多めの土地ではあったし、そもそも私の本拠地だ。地球の連中にバレるのはまあ、予定通りではある。

 それに、決行までは1か月ほどしかないからな。こちらは可能な対策を行っていて、メガロの老害には突飛な情報だ。さほど大規模な妨害はできんだろう。

 何しろ、対応するゲートがあるはずのウェスペルタティアにすら、まともな情報が残っていないらしいからな。アリカ情報だから、間違いないぞ」

 

「そんな調査を依頼していたんですか?」

 

「いや、依頼はしていない。

 イギリスでお前に初めて会った時、原作(アレ)の話をしただろう? その後で、世界樹やゲートの情報が残っていないか気になったらしいぞ」

 

 結果的に、とても古い書物にゲートを示すと思える描写がある程度だったらしいが。

 伝承として伝えられてもいないし、世界樹に関してはそれらしい記録が見付からない。ゲートがいつから使われていないのかも不明。

 ウェスペルタティアがこの有様なら、メガロに信頼できる情報として残っているとは思えん。少なくとも私が日本に来てからは、一度も稼働させていないし。

 

「というか、聞いていないのか?」

 

「聞いてないです……ん? お、おー……」

 

「これは……これが、全盛期の世界樹ネ……」

 

 ああ、世界樹の公開か。という事は、ステージに陰陽風な木乃香もいるはずだが……まあ、以前から日本や幕田が関わっている事を証明するだけだから、心配もいらないか。説明は幕田の当主やら魔法関係者やらの仕事だし。

 というか。

 

「鈴音、未来の世界樹はどうなってるんだ?」

 

「人間は愚か。そうとしか言えないヨ」

 

「……そうか」

 

 調査やらで枯れたか、少なくともかなり力を落としているという事か。

 ここの世界樹は幕田が国として守護しているし、大丈夫だとは思うが……気を付けた方がいいのだろうな。




執筆も、内容も、何だか亀です。
次話は気長にお待ちください。


なお、艦これ(チラ裏)の方は、全く書けていません。現実逃避をする時間がないっ……!
艦これ(ブラウザ)は、遠征オンライン→資源溢れそう→緒方健三→まるゆストック増える→母港狭い(今ココ


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魔法先生重羽ま編第24話 夕暮れ時

「何事もなく終わってしまった……」

 

 既に景色は赤くなり始めている。

 私がここに居る事になっている時間はもうすぐ終わるが、それは祭りの主だった展示やらの終了時間でもある。

 屋台やらは暗くなっても営業しているから、食べ歩きは可能だが……

 

「平和が一番ヨ。想定ギリギリの人出だたけどネ」

 

「忙しかったですよね。でも、無暗に騒動を起こされるより、よっぽどいいです」

 

 そういえば、結局この2人もずっとこの辺にいたんだな。鈴音は屋台の手伝いや管理もあるから仕方ない面があるのかもしれんし、ネギは屋台の手伝いが1日の契約だったのかもしれんが。

 

「だが、お前たちは良かったのか?

 ここに居ることを強制されていたわけでもないだろうに」

 

「屋台の仕事は放置できないヨ。

 明日は休憩時間を確保してあるかラ、全然見れないわけでもないしネ」

 

「ボクは、明日からちょっと雲隠れする予定ですけどね。

 その前に、エヴァさん分を補充しておかないと」

 

「マテ。いや、鈴音の方は真っ当だからいいが、ネギの主張がおかしいぞ」

 

 そもそも、私はシュークリームとかじゃない。

 

「まあ、ここにいるのも、居場所を気付かせる目的も兼ねていますし。

 エヴァさんといればテレビにも映るし、とかなんとか」

 

「……何回かテレビ局の車が近くを通っていたのは、私が目的、だったのか?」

 

「そういうのも含んでいたはずです。

 まあ、何かあったら対処するために強い魔法使いが待機してますよー、って紹介する時に使うと聞いてますけど」

 

「私は聞いていないぞ。というか、大人の姿だから少しはマシだろうが、強いという表現に相応しい外見とは思えん」

 

 そもそも、女だからという理由で甘く見られる事も多々あるんだ。

 腕力は魔法に関係なくても、戦闘力という意味では無視できない要素にはなるしな。体力面は重要だ。

 

「外見と実態の乖離は、魔法のある世界では深刻な問題ヨ」

 

「どこかの筋肉バカのように、見てわかりやすいのもいるんだがな。

 で、ネギがわざわざ姿を見せた上で雲隠れするのは、アリカも納得しているのか?」

 

「発案は別の人だそうですが、了承済みなのは間違いないです。邪魔になるゴミに集まってもらうとかなんとか。

 もちろん幕田その他の関係組織との連携もありです」

 

「その辺もしっかりしているなら何も言わんが、お前自身はいいのか?

 悪く言えば、害虫駆除の餌役だ」

 

「ボク自身にもメリットのある話なので、問題ないです。

 あれです、ボス前で強くなって再登場する味方キャラの、描かれない修行パートみたいな感じで」

 

「強くなるのはいいんだが、この現実にボス戦は恐らく無いぞ?」

 

 いやまあ、強くなるとか何かしらの技術を得るとか、そういう方向なのは理解できるが。

 ただ、このタイミングで必要かと言うと……ボスになる可能性があるのは造物主くらいだろうし、今の様子を見る限り特に敵対する要素もない、はずだ。

 

「言葉の綾ですよ。ボスじゃなくて、雑魚処理を請け負う要員でも、こんな事もあろうかととか言っちゃう技術者でもいいです。

 今の研究は少なくても一時的にストップしますから、その面では迷惑をかけちゃいますけど……こんな事もありそうだと思ってましたから、支援とか避けてたんですけどね」

 

「某技術者の真逆になったか。まあ、支援者の思惑を伝えた私の責任もあるし、そもそも連中の負担になるような支援内容ではないと思うが」

 

「それでも、契約には反しますし……」

 

「あの契約に、研究を続けることという文言は入っていたか?

 進捗や状況の報告と成果の共有あたりは入っていると思うが」

 

「え? えーと……ない、気がします?」

 

 そこは疑問形だと問題が……いやまあ、技術者に契約書の全文を暗記していろと言うのは無茶な話だし、私だって覚えていないんだが。

 

「とりあえず確認して書かれていなかったなら、そこはイギリス系の、書いてないことはやっていい精神で行ったほうが、気が楽だぞ。

 少なくとも、一時的に研究が停止するという報告をすれば、契約には反しないはずだ。研究の継続が困難だと判断したら破棄も選択肢のひとつだし、研究開発なんて失敗をゼロにするのは不可能な分野だからな」

 

「そうですね……確認してみます」

 

「それにしても、こんなに上司してるのに上に立つ自覚がないと言われるのは、どういうことネ?」

 

「上司ではあっても、組織を引っ張る気が無いからだろう。

 根拠と指針は示すが、基本的にそれぞれがどう動くかまでは口を出さないしな。そこから誰がどう動くかまでは管理しきれん」

 

「それでも大雑把には把握しているシ、普通の社長やらも似たようなものネ。

 長としての職務は全うしてるのニ、その自覚がないのはおかしいヨ」

 

「その辺はまあ、あれだ。私なりに考えてはいるんだ」

 

「周囲の期待とは、大きなずれがあるネ」

 

「私は私の小ささを知っている。

 寿命や老化を理由に逃げることができない事も知っている。

 期待に応えようとして潰れたり、権力に溺れて盲目になったりするよりは、やる気がないと言われる方がまだマシだ」

 

「マシ、ですか?」

 

「期待値を上げすぎると、永遠の奴隷のようなものになるぞ? やることが当たり前になると、やらなくなった時の反動が大きいしな。

 それに、本気で私が邪魔になれば、やる気がない事を理由に引きずり下ろすことも可能だ。反動で感情的な騒動が起きるより、まだ穏便に済むだろうさ」

 

 むしろ、少なくとも今回の件が終わった後は、とっとと肩書を持っていってほしいものだが。

 当分働きたくないでござる、と言いたくなるのは確実だ。

 

「やる気に関する点はともかく、地位を奪うのは無意味ヨ。

 権力の源泉は肩書や組織でなく、個人に依存しているように見えるネ」

 

「それでも、組織が割れれば影響力は下がる。

 そもそも組織の離脱や二股を止める決まりはないから、私をどうこうするよりも別の組織ができる方が先だろうがな。現実的には……難しいか」

 

 月の一族の魔力は、月の……つまり私のもの。その事実がある以上、私を頂点とする構造が残り続けるのは間違いない。

 それでも、権力や影響力に関しては、別の要因も働くはずなんだ。

 

「まあ、無理ネ」

 

「無理でしょうね」

 

「そこまで断言しなくてもいいじゃないか。

 ところで、私は事が終わったら当分働かない気でいるが……お前達はどうするんだ?」

 

 2人とも、基本的に今までと変わらないとは聞いているが。

 いつまでとか、気が変わっていないかとか、その辺は気になる。

 

「ダレカサンが働かない分、世界の安定に貢献するヨ」

 

「帰る、とは言わないんだな」

 

「見届ける頃には魔力が少なくなってるネ。

 少なくとも諸々の条件が揃うまでは、手助けするヨ」

 

「この世界の世界樹は、発光する前に魔力を抜いているぞ?

 次は儀式で必要だから抜かないが、その次からはまた発光する前に抜くと思うが」

 

「おお、それは困った、帰れないネ」

 

「まあ、抜いた魔力の一部は溜めてあるから、必要な魔力量次第だがいつでも帰れる可能性もあるがな。

 いや、そもそも並行世界を移動しないと元の世界に帰れない問題があるから、当面はこの世界にいるしかないのか」

 

「そうそう、その問題もあたネ」

 

 ふむ。鈴音はそれなりの期間いる予定、と。

 こいつの事だから並行世界を移動する道具もあっさり作りそうだが、今の口ぶりだと急いで作る気は無さそうか。

 

「えーと、ボクは、目標は変わりません。

 エヴァさんと幸せになりたいです」

 

「そこはブレないんだな。だが、行動は変わるのか?」

 

「んー、どうでしょう?

 世界の情勢とかも変わっていくでしょうし……というか、エヴァさん!」

 

「ん?」

 

「あのアニメの最後、本当じゃないんですよね!?

 儀式の人柱みたいな感じだったんですけど!!」

 

「人柱?」

 

 いや、あのアニメってリリカルなノアの事だよな?

 最終という事は、とりあえず完結したのか。魔法世界を救って云々という流れだと思っていたんだが……

 

「あー、これは見てないですね。視界に入れたくないとか言ってましたっけ。

 えっと、最後に儀式魔法を使うシーンがあるんですけど、そこでエヴァさんがモデルのエヴァちゃんが姿を消しちゃうんです。

 そんな事……ない、ですよね?」

 

 こ、この不安そうな上目遣いは……あざとい、で済ましてしまえたら楽なんだが。

 儀式魔法を最後に姿を消す、か。権力構造という意味ではそうしたいという気持ちがあるし、最悪の場合は死なないまでもしばらく休眠のような状態になる可能性も考えてはいる。それに、失敗した場合の保身として消滅したように見せかける手順も用意してある。

 ネギの心配は、計画が問題なく機能しているから発生しているとも言えるし、ネギが国の上層部又は計画に直接参加する者という条件を満たしていないことを理由に詳細な説明をしてない私の責任でもある、か。

 ネギは国政に関わっていないから王家であっても上層部とは言えず、権力を持たないから計画にがっつり関与しているわけじゃないのは事実だが。保身云々はそもそもごく少数しか知らないし。

 

「んー、多分、アレはあくまで振りヨ。

 本当の最後のシーンで振り向いた時の表情ハ、生きてることを暗示してると思うネ」

 

「でも、決定的じゃないんです。

 不安になるじゃないですか……」

 

 鈴音もアレを見てるのか。

 だがまあ、不安を解消しておくことは必要そうだな。

 

「姿を隠す可能性はあるが、少なくとも私が死ぬ予定はない。

 アニメは恐らく、私が儀式以降に表立って何かするわけじゃないという方向で作ったのだろう……たぶん」

 

「政治的なドタバタに巻き込まれてヒーヒー言ってる可能性もあるネ」

 

「……それは何としても回避したいぞ」




話が進んでる気がしないッ……
このままずるずると間延びしていくよりは、完結させる方向で進めたいと思います。終わり方は当初のプロットのままなので、端折りはしても打ち切りではありません。というわけで、次話は少し時間が飛ぶ予定です。
魔法公開後の色々や各キャラの掘り下げなどについては、リクエストと書く余裕があれば、小話などで補完する事にします。


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魔法先生重羽ま編第25話 終わりに向かって

おまたせ o...rz
随分と時間がかかってしまいましたが、ようやく投稿できるところまで書けました。
入れたい場面まで書いた結果、ここ最近としては長めです。そして推敲ってなに状態に。
次こそは、はや……は……⊂⌒⊃。Д。)⊃


 暦は既に8月に入っている。

 つまり、あれから1月少々が過ぎた。

 麻帆良祭という意味でもそうだが、魔法公開に伴う大騒ぎという意味の方が重要な期間だ。

 ネギが姿を消してからでもあるし、もはや原作という代物が完全に意味をなさなくなってからという言い方もできるだろう。

 

 とりあえず、国の対応としては。

 幕田公国の動きが、最も早かった。というか、国王が法を公布できる権限を使って魔法の公表と同時に魔法関係の法を発令、同時に魔法協会に警察に協力する治安組織としての役目と権限を与えた。

 これに続くのが月の一族が権力を握っている中東の国で、こちらも魔法の公表に合わせて法の改定を発表していたらしい。

 更に、日本やイギリスなど魔法関係組織がしっかりしていて権力者との距離が近いが議会を無視できない国で、関連法案が次々と成立していく。野党などを説得するために限時法となってるものも多くあるが、それなりの体裁が整うのは割と早かった。

 その後、魔法組織がメガロ寄りだったり、そもそも魔法関係組織が脆弱だったり、メガロメセンブリアとかいう名前だったり、それなりに多くの国が慌てる、という結果はまあ、予想通りと言える。

 魔法との縁が弱かった国にとっては、突然現れたように見える新しい技術に大慌て。

 魔法を知りながら魔法を公開するという意味を理解していなかった国は、今まで見過ごされてきた魔法の行使、特に記憶消去が傷害罪の対象になった事に慌てている。従来からある法の範疇で新しい立証方法が出来たという扱いで、好き勝手やっていた連中(スパイ)が指名手配されたり捕まったりしているらしい。

 想像力が不足していた国や組織にとっては致命的で、メガロメセンブリアの求心力がますます低下したようだ。もはやメセンブリーナ連合という枠が崩壊し始める程に。

 

 魔法組織は、少なくとも私達が影響力を持つ組織については、基本的に治安組織に協力して魔法による犯罪の抑止力となり、同時に魔法に関する正しい知識を広める教師役となる、という予定通りに事を進めている。

 そもそも国と関係があったりするから、今まで裏でこそこそやっていたものが表に出てきただけとも言える。それが誘虫灯となって鬱陶しい連中が寄ってくるわけだが……そこも予想できていたからこそ、国と魔法組織が合同で魔法の公表を行ったわけで。

 表の連中もある程度知っている者がいる事、決して権力に反抗することを目的とする組織でない事。最初にこの2点の証拠を出したからこそ、虫がこの程度で済んでいる、と思いたい。但し、進捗や実効性に問題が無いかと言うと、お察しくださいと返したくなる状況らしい。

 

 原作関係は、もはや跡形もないと言っていいだろう。

 確認のために変態(アル)の本を見てみたが、ネギはあれ以来姿を見せず、美空はシスターでないため懺悔室と縁が無く、ネギま部なんてものができる理由もない。ヴァンからアーニャやドネットはイギリスの魔法組織で頑張っているという話を聞いている。

 

 最大の問題である、世界情勢は……まあ、1カ月程度でどうにかなるわけもなく。

 災害などの救助活動がやりやすくなった点と、既存の「魔法を使う犯罪者」を大っぴらに捕まえて裁けるようになった点が、現状での目に見える効果だと言えなくもない。

 そもそも一般人が魔法を使い始めるのは、訓練期間等の理由でまだ先だ。その間に倫理的な教育やら法的な準備やら組織的な対策やらを行う事になっているし、その頃には魔法世界との本格的な交流が始まっているはずだ。力が正義とか口走るような馬鹿は、魔法世界の化け物やらの洗礼を受けて手の平を返すだろうと楽観的に考えている。

 それ以上の馬鹿もいるだろうが……まあ、それはそれだ。

 

 そして今日は、半月以上の期間を使う、儀式魔法を開始する日だ。

 今日開始する理由は、世界樹の大発光が始まるから。魔力を溜めるというロスを避ける意味もあるが、最大の目的は幻想的な大発光のインパクトを利用する事だ。

 発動を27日にするのは、火星が地球に大接近するから。ついでに、誤差程度だが新月で私の魔力が安定しやすいのも利点か。

 魔法世界を現実世界に固定する、大規模な「幻想を現実化」する魔法は、魔法世界に残された魔力だけでは行使できない。そのため、地球で魔法を使い火星に影響を与える必要がある。

 要するに、地球にいながら火星に魔法世界を作った造物主と、似たようなことをやる必要があるわけだ。

 

「というわけで、そろそろ最終の確認をします。

 儀式魔法の開始から発動まで、エヴァ様及び行使に大きく関係する者は、外界との交流が断絶します。メイド隊を含む月の一族の方々、それに関係魔法組織の人達が護衛となります。儀式魔法と世界樹による防衛はありますが、不測の事態を避けるためにもよろしくお願いします」

 

「はい、わかっています」

 

「ええ、任せて」

 

 ここは移動中のバスの中で、話をしているのはヴァンだが、相手がゼロやクレメンティーナ達だからか、最後の確認という状況だからか。口調が丁寧になっている。

 私とヴァン、それに変態で、儀式を行う。つまり、動けなくなる私達の権限を誰かに預ける必要があり、その相手がゼロやクレメンティーナのはずだが、実際は護衛が主任務となるらしい。

 まあ、私は大雑把な方針を出した後は確認や細かい調整をする程度だったし、それでいいのだろう。

 

「儀式魔法の行使は、予定通りパターンC。エヴァ様が儀式の制御、僕が世界樹の制御、全体の補佐、の3人が中心となります。

 その他にもサポートとして、それなりの人数が付きます。なお、サポートについては最悪の事態への対処、ぶっちゃけると魔力が暴走してエヴァ様や月の魔力が断絶した際に地球を守ることも目的に含まれるので、月の一族以外の方々となっています。

 例外としてノアさんもサポートの一員ですが、エヴァ様と一緒に現地入りして某アニメと関係する印象付けが目的です。問題ありませんか?」

 

「大丈夫です!」

 

 現時点で、変態(アル)とサポート要員、それに警備担当の多くは現地入りしている。

 サポート要員は人数がそれなりにいるから事前に準備するついでに、安全の確保や妨害の予防の手助けにもなるから、らしい。

 私が単独で行使するパターンAや、私とヴァンで行使するパターンBは、予想より魔力が多かった時点で却下されている。サポート要員まで儀式内に取り込むパターンDにならなくて何よりだ。

 ノアのリリカルなアレは、置いておくが。

 

「各人、使用するデバイスの準備やメンテナンスは大丈夫ですか?

 開始まではまだ少し時間があるので、不安があるなら言ってください。遅くなれば遅くなるほどどうにもならなくなります」

 

 デバイス、か。

 私が使うのは頑丈さというか、扱える魔力量だけがウリの、今回の儀式魔法専用のもの。外見も私よりも大きい杖型で、要するに某プレシアのデバイスを模したものだ。アレの儀式の場面でも、このデザインのものを使ったらしい。

 バルディッシュは戦闘用だからとか言っていたが、これも、アニメと合わせて色々やっているのだろう。デバイスの機能に口は出したが、外見は丸投げしたし。

 

「というわけで、問題が無ければ、後は話を聞いてなさそうでちょっと聞いてるけど意識が外に向いてるエヴァ様にお祈りするだけです」

 

「……その表現はどうなんだ?」

 

 バスの窓は塞がれているが月からの視点で外を眺めていた事がバレているし、お祈りされても何も変わらないし。

 

「人事は尽くしたつもりだからね。

 女神たるアルテミスの名を持つ執行者に祈るのは自然じゃないかなー?」

 

「お前だって、儀式を行う一員だろうが」

 

「僕がするのは、蟠桃の魔力制御くらいだし。

 それにほら、テレビの生放送で、幕田家の初代で世界樹を守り続けてきたとか、色々公表するんだから、歴史的にも生物的にも注目されるのは間違いないよ?

 ついでに、神だ、とかはっちゃけるのもアリアリだー」

 

「変に注目されるのも嫌なんだがな……裏の歴史資料やらが公開されたらバレる以上、先に公開する方がマシという意見は理解できても、引き籠りたい」

 

「ま、あのアニメで最後に姿を消すのは、そっち方向に行く可能性を考えてたからだし。

 時間はいっぱいあるだろうから、ゆっくり考えればいいんじゃない?」

 

「時間がありすぎるのも、問題だが……まあ、そうだな。

 ところで、世界樹の近くに探知魔法が妨害される場所がいくつかあるんだが、いいのか?」

 

 具体的には、バスが停まる予定場所にあるバスとか、近くの民家とか。

 無理に隠す必要があるものは無いと思うんだが……

 

「あ、やっぱりバレる?

 警備の人数や人選とか、捕まえたゴミとか、情報を行動してないゴミに渡さないようにって場所がいくつかあるよ。何か隠してる事はバレてもいいから、そこまで高度なことはしないって言ってたかな?」

 

「隠している事も餌か?」

 

「みたいだねー。

 これに食いつく程度なら、さっさと処理した方が楽だろうって」

 

「Gの団子のような扱いなのか。

 雪花やイシュト、リズもこっちだが、戦力的に……まあ、大丈夫か」

 

「戦力不足よりも、集まりすぎた戦力の管理の方が大変っぽい?」

 

「それこそ、雪花やイシュトがいる方がまとまるんじゃないか?」

 

「私は、エヴァ様の護衛です」

 

「肉壁が傍にいないなどありえません」

 

「……そうか」

 

 こいつらは相変わらず、と。

 そろそろ自分の好きなことを見付けてもいいと思うんだがなぁ……

 

「というわけで、そろそろ到着だよ。

 無いと思うけど、忘れ物に注意だよー」

 

「いや、忘れるようなものは……ん?」

 

「どうかした?」

 

「いや、変態(アル)は相変わらずローブ姿だからいいとして、サポートの連中も似た服装が多いのはなぜだ? ローブの半分くらいはフードまでかぶって」

 

「いかにも魔法使い! とか、いかにも陰陽師! ってイメージを狙うらしいよ?

 フードは、顔を出したくない人は深くかぶっておいてねーって。そのせいで、顔を出したくない人は積極的にローブを着たらしいねー」

 

「それに真っ向から喧嘩を売るノアは?」

 

「いかにも魔法少女! だからいいらしいよ?」

 

「……ノア、いいのか?」

 

「是非ともこの服装で、と指示されました」

 

「そうか……」

 

 本当に納得しているかは微妙だが、本人がいいならいい、のか?

 

「それでは終点、世界樹前広場ー、世界樹前広場ー。

 お降りの際は忘れ物と足元に気を付け、慌てず騒がず押さず転ばずでお願いしますー」

 

「いや、どこのバス会社だそれは」

 

「右手をご覧ください、大量の見物客が詰めかけているさまがゴ「アウト」……言わせてよー」

 

「表に出る以上、言動には気を付けた方がいいぞ?

 それに、窓は封鎖中でここからは見えん」

 

「言いたい冗談も言えないこんな世の中っ……毒っ……圧倒的毒っ……!」

 

「どうしてそこでTシャツ姿になる必要があるんだ」

 

 こいつなりに緊張しないよう配慮しているのだろうが……方向性がおかしくないか?

 さてと、ようやく止まったし、移動の時間だ。

 

「んじゃ、先頭は雪花さんで続けて先行する護衛の人、安全確認の気が済んだらエヴァにゃんと僕とノアちゃんね。

 残りの護衛の人とサポートの人は、放送関係の撮影が落ち着いてからだよ」

 

「それでは、先に参ります」

 

「変態は人格に問題だらけだが能力は確かだから、そこまで気合を入れなくても大丈夫だぞ?」

 

「覚悟の問題です」

 

 いや、その覚悟がいらないと……行ってしまったか。

 外で待っているのは、やはり変態と数人のローブ姿サポート隊。状況報告やらで人がバタバタ動いていたり、その周囲をマスコミやらが囲んでいたりするのは、大きな儀式の現場だし仕方ない。

 

「んじゃ、そろそろ出番だよ。

 元気にいってみよー!」

 

「そういうキャラじゃない」

 

 本音で言えば、むしろ後ろを向いて全力前進したい気分なんだ。この大仕事を投げ出してまで実行する気は無いが。

 とりあえず、特に気張る必要はない。平常心、平常し……ん?

 

「お勤めご苦労様です」

 

「私は出所したヤクザか。

 それより、隣の……妙な魔力を感じる誰かは、何者だ?」

 

 感じる魔力的に、あからさまに人間でないナニカが変態の隣にいる。

 身長は、私より少し高いくらい、体格的には小学生の高学年程度か。妖や鬼神の類ではないし、亜人が無理して今こっちに来る理由は無い。フェイトやゼロのような人工的な気配とも違う。そもそもかなり強大な魔力を封印か何かで抑えているような感じがする。

 こんな魔力の持ち主に心当たりはない。ないが、どことなく知っている気配が……んんん?

 

「あ、気付いてくれました?」

 

 そう言いながらフードを脱いだのは、やはりネギ……だが……

 

「ちょ、ちょっと待て!

 その異常な魔力は何だ! いったい何をした!?」

 

「恋をしました!」

 

「そうじゃないっ! 人間を辞めてまで一体何がしたいんだ!?」

 

「愛したいんです!」

 

「だからそうじゃないっ!! どうして自ら永遠なんて逃げ場のない牢獄に入った!?」

 

 ネギから感じるのはどう考えても太陽の魔力で、私よりヤバいレベルの人外じゃないか!

 

「だから、ボクは、エヴァさんを、愛したいんです!

 言ったじゃないですか、エヴァさんと幸せになるのが目標です、って。隣を歩く最低条件のひとつは数十年程度で居なくならない事、ですよね。それに、守られるばかりの軟弱者もだめです。

 入り口で足切りされない程度には頑張ってみました!」

 

「頑張ってみました、で人間を止めるんじゃない!

 世間が思うような希望や栄光など、永遠には存在しないんだぞ!!」

 

「それくらい知っています。

 でも、その程度の覚悟も無しで、エヴァさんの隣に行けるわけないじゃないですか。ボクでもそう思うのに、イシュトさんや雪花さんたちが許してくれると思えません。

 それに、いくら言っても手遅れですよ。もうこうなっちゃってますから」

 

「……受け入れられない可能性は考えなかったのか?」

 

「それはまあ、ちらっとくらいは。

 でも、時間はいくらでもありますから、努力して何度でもチャレンジしようかなと」

 

「はぁ……まったく。ここしばらく姿を消していたのが、こんな事をするためだとはな。

 念のために聞くが、アリカやナギは知っているんだろうな?」

 

「もちろんです。特に反対もされませんでした!」

 

「積極的に勧めない時点で、問題だらけだと気付いてほしかったが……」

 

「何かしようとするときに問題がない事がありえませんし、問題なんていくらでも思い付きます。

 それでも、ボクは、エヴァさんと、いたいんです!」

 

 こいつ、下手すれば原作のネギ以上に強情だな!?

 敵対する気が皆無でこの魔力持ちを放逐するのも、悪手ではあるし……ああもう、どこまで計算してやっているんだ。

 

「とりあえず、強制排除はしないが……今からどうするつもりだ?」

 

「まずは、儀式魔法を成功させましょう。

 じゃないと、安心して先に進めません」

 

「いや、それは……まさか、参加するつもりか?」

 

「はい!

 あ、別に儀式の内容が変わるわけじゃないです」

 

「ここからは私が。というか、私は例のアレ的な形でサポートするので代役をネギちゃんに、というだけなのですが」

 

「例の、アレ?」

 

「リリカルなデバイスですね。

 ほら、ノアちゃんのデバイスは、私を模した本だったでしょう?」

 

「知らん」

 

「声も私だったのですが」

 

「知らん!

 というかいつから企んでいたんだ!?」

 

「広い意味では、1000年ほど前からでしょうか。

 ほら、私が言うのもなんですが、自律型の魔導書は浪漫でしょう?」

 

「そっちじゃないネギの方だ!」

 

 というか、わかって言っているなこの変態は!!

 

「ああ、そちらですか。検討を始めたのは600年ほど前ですね」

 

「私でやらかした頃か!?

 お前達は反省と言う言葉を知らんのか!!」

 

「反省を踏まえた結果ですよ?

 本人が望まないのであれば、人として生きる未来も選択できました。

 世俗から離れ、父の故郷で過ごす選択肢もありました。

 比較的普通に近い生き方として、王国で魔法の技術者を目指すこともできました。

 権力を求めるならば、王にだってなれたでしょう。

 立場は少々窮屈だっと思いますが、それに見合う選択肢は用意できたと思いますよ」

 

「反省したのはそれだけか!?」

 

「女性の体に男性の精神となってしまった事や、今までの生活を壊してしまった事も反省しましたよ?

 ですから、可能な限り周囲の人物、お詫びの意味も込めて特にエヴァちゃんと相性のよさそうな、我々の手で生活を壊す事のない何らかの原因で死亡する直前の人物を探したのです。

 占いなどを駆使した結果、またしても心と体の性別が食い違ってしまいましたが」

 

「まずはそこを反省しろ!」

 

「反省したんですよ? だからこそ、共に歩める人を、という目標を最初に設定しました。

 ある程度の仲間を作る可能性は考えていましたが、ここまで大きなものになるのは予想していませんでしたからね」

 

「その程度の軌道修正はしろ!

 それとも、硬直した、修正不可能な、必然的に失敗するような計画だったのか!?」

 

「性別に関しては狙ったものではなく、結果ですからね。そもそも、アリカ女王の子や男子として生まれるという制約を行っていません。近所の女の子として生まれていた可能性もある術式だったのです。

 それに、人間関係が円滑であることは重要です。この条件を外す選択肢は無かったのですよ」

 

 ああもう、こいつはいつもああ言えばこう言う……というか、ネギを狙ったものではなかった?

 

「随分と不思議そうですが、本当ですよ。

 例の予言書の内容は、ほぼ破綻したと判断していましたから。ウェスペルタティアの王家も健在ですし、王家の一員であるならば予言書とは全く違う結果になるだろうと思っていたのですから」

 

 ……こいつはこいつで、原作とは別で考えていた、という事か? それとも、この条件でもネギになるだろうという予測で動いたのか?

 変態の性格や状況を考えると、はっきりと口にしたことは明確な嘘ではない程度には真実を含んでいるはずだから、ネギに限定していないのはそうなのだろうが。

 わからん。わからんが……これも修正力やらの影響、なのか?

 

「いいじゃないですか。

 ここにいるボクは、ここにいるエヴァさんを大好きなんです。

 占いで見合い相手を選んだら大当たり、くらいに思えばいいんですよ!」

 

「いや、それとは話が……」

 

 一度殺された上で別人になるのは、その程度じゃないと思うんだが。

 

「おや、そろそろ時間的に厳しいですね。

 というわけで、問題ありませんね?」

 

「はい。儀式の内容は全部覚えて、必要な練習もしてきました。

 エヴァさん、まずは世界を救って、未来はそれからです!」

 

「……やれやれ。どうしてこうなったんだろうな……」

 

 そして、変態は本の姿になりノアと共に移動。

 ネギも、本来は変態が立つ予定だった場所に移動した。

 ……そういえば、ヴァンも全体の補佐を変態だとは言っていなかったな。あの悪戯小僧め。

 配置は……この2人以外は予定通り。世界樹も発光が強くなっているし、そろそろ頃合いか。

 

「これより、魔法世界との交流を可能にするための儀式を開始する。

 総員、用意!」

 

 思えば、ここまで長かったな。

 そして……これが成功すれば、私は目標も失うことになるのか。

 

「リク・ラク ラ・ラック ライラック!」

 

 さあ、始めよう。

 私にとっての、1つの終わりの始まりを。




次が終話となります。投稿時期はお察しください orz


2020/05/04 以下を修正
 1カ月→1月
 技術に慌て→技術に大慌て
 論理的→倫理的


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終話 そして、これから

おま……たせ……


 もう、9月になっています。

 火星の大接近に合わせて発動させた魔法は無事に成功して、天体望遠鏡でも火星が変わったことがわかるようです。ゲートも無事でしたから、まだまだ限定的ですがヘラス帝国やウェスペルタティア王国との交流も始まりました。

 魔法を公開したことによる混乱との相乗効果は、想定範囲内にとどまっているそうです。少なくともテレビやネットを見る限りでは、目に余るような混乱はありません。

 ボクの立場は……予想通り、微妙です。儀式魔法に参加して無事に成功させた事は評価されています。でも、参加が少々強引だった点と、王子と言う立場が足を引っ張っています。それを理由に表舞台に立たないようにしているので、にやけながら計画通りとか言ったら似合わないとか腹黒さが足りないとか、ヴァンさん達に色々と言われちゃいました。

 結果的に時間があるので、以前やっていた研究を再開したりしています。

 こちらは、こんな感じです。

 あれから姿を消しているエヴァさんは、どうですか?

 雪花さんやイシュトさん、ゼロさん達が平然としているので、大丈夫だというのはわかります。

 アルさんなんか、20日も不眠不休で儀式魔法を制御していたのだから、その分の睡眠や休養は当然でしょう、とか言ってますし。

 でも、こうして湖が見える場所で回想し始めちゃう程度には、験を担ぎたいと思っています。

 こういう回想シーン的なところで後ろから現れるとか、ありがちでしょう? エヴァさんは見ていないと思いますけど、リリカルなノアの……

 

「やれやれ、こんなところで出待ちか?」

 

「あ、エヴァさん。おはようございます? お疲れさまでした?」

 

 もうお昼もだいぶ過ぎてますから、おはようという時間ではないですけど。

 

「今朝まで寝ていた上に、起きたらいろんな連中が押しかけてきたから、寝過ぎやらそれの相手やらで疲れたとは言えるな」

 

 表情は確かに疲れた感じですか? でも、髪や服装はきっちりと……ああ、後ろにいるイシュトさんが無表情なのにやり切った感じなので、ちゃんと直された後ですね。それもエヴァさんが疲れる原因ですけど。

 

「本当に今日まで寝てたんですか?

 もう、10日ほど経ってますよ」

 

「1日8時間睡眠の20日分、それを取り返すには1日の残り16時間全て寝て10日。

 計算上は正しいんじゃないか?」

 

「人間、寝溜めはできません。

 エヴァさん達にも適用できるのかは知りませんけど」

 

「私は人ではないナニカだから、その辺の常識は投げ捨てろ。

 まあ、私もどれくらい寝ていたかを聞いて驚いたが」

 

「あ、そこは驚くところなんですね」

 

 その辺は普通というか、人の感覚のままなんですね。

 

「昔、何か月か寝なかった事もあったからな。

 その後は特に寝たきりになる事もなかったから、そういうナマモノになったんだと思っていたんだが」

 

「えー……ちゃんと寝ましょうよ。

 頭がちゃんと働くために必要ですし、お肌にも……もしかして関係なかったりします?」

 

「特に変化はなかったな。

 というか、この体自体が魔法で作った人形に近いから、破損以外の要因で状態が変わるようにする方が面倒だ。

 食べたものを体積に反映するのは面倒だし、脂肪や筋肉をエネルギーに変える必要もない。肌の状態なんて要因が多すぎるから、その反映なんて面倒なことはしたくないぞ」

 

「そうなんですか?

 その割には、大人モードは普通に幻影系の詐称薬を使っていたような……」

 

 二次大戦の時に、年齢詐称薬を使って教師をしていたって話でしたよ?

 

「この姿で安定しすぎていて、別の形状に変更するのが難しいんだ。

 完成した絵に手を加えるより、上に別の絵を乗せる方が、変更も復元も楽だし確実だろう?」

 

「そこまで根本的なところに手を付けないといけないんですか?

 じゃあ、エヴァさんとボクの体の制御を交換するのって、思った以上に難しそうですね」

 

「太陽の化身のような何かになったお前なら、可能かもしれんがな。

 まあ、人としての精神が焼き切れる可能性は高いし、ゼロのような別の体を用意して動かす方がはるかに楽だろう」

 

「ですよねー」

 

 やっぱり方向性を変えて正解でした。

 というか、雑談している場合じゃありませんね。ちゃんと聞いておきたいことがありました。

 

「ところで、これからはどうするんですか?

 儀式魔法とエヴァさんが眠っている間に、幕田家の初代だとか、本当の幕田家の歴史だとか、中東の王家やいろんな地域の魔法関係組織の師匠だとか、いろんな情報が公開されてますけど」

 

「あー……うん、どうしようか」

 

 ああ、これは何も考えてない感じです。

 今は燃え尽き症候群ぽい感じになっちゃってる感じでしょうか。

 

「じゃあ、やりたいこと、とか?

 今までできなかった事で、やれるようになった事も、あるかもしれません」

 

「やれる事はあるかもしれんが……やりたいことは、少なくとも今は思いつかんな。

 まあ、急いで考える必要もない。当面はのんびりするさ」

 

「早めに決めないと、外野がうるさそうです。

 月関係の人達じゃなくて、マスコミとかが」

 

 その中でも、パパラッチとかゴシップ記者とかそっち方面の人が。

 

「……それは否定できん」

 

「ある程度は大丈夫だと思いますけど、方向性くらいは考えておいた方がいいと思います。

 というか、今まではどうだったんですか?」

 

「今までか?

 とりあえず、最初に私がやりたかった事は、ある意味で本来のエヴァ、つまりゼロを守る事だ。

 あと、未来を知る者として大きな悲劇の回避、という名目の自己満足か」

 

 ゼロさんは、経緯や状況を聞く限り当然ですね。

 でも、悲劇の回避を自己満足といっちゃうあたりは、手を出すのはこの辺までだと思ってるという事ですよね。

 

「ゼロさんに関しては、さほど守る必要が無いところまできているような?

 エヴァさんほどでないにしても、一般的には上位と言っていい実力ですし。しかも月の一族でない人という枠なので、月の一族の中でも重宝されていますよ」

 

「上には上がいるが……まあ、そうとも言えるな」

 

「それに、大きな悲劇の回避は……未来を知る者という前提が消えてますよね?」

 

「そうだな」

 

「つまり、今までの延長ではだめじゃないですか」

 

「だからすぐに決められんと言っている」

 

「納得です」

 

 うん、やっぱりこれ以上は手を出す気が無いというか、未来知識という前提が消える以上は、普通に予測できる範囲でしかできない事は理解できているし、納得もしているわけです。

 つまり、ボクの望む未来に向かう希望があるわけですね!

 

「じゃあ、もっと原点に立ち返りましょう。

 具体的には、人としてのアレコレを思い出す感じで!」

 

「いや、人外になって久しい自覚はあるが、何を思い出せと?」

 

「衣食住は間違いなく恵まれていますけど、環境全てがエヴァさん自身の好みかというと、違う場合もありますよね。立場的に、友人と趣味やくだらないことをするのも難しそうですし。

 それこそ、ゲームとかマンガとかだっていいじゃないですか。魔法世界のあれこれ的に、そういうのも嫌いじゃないですよね?」

 

「まあ、そうだが……下手に私が興味を持つと、色々荒らされそうだという問題もあってな」

 

「魔法関係の荒波次第ですけど、今からの時代、エヴァさんがそういうのを好きだとか言うと、文化的に保護されたりもするかもですよ?

 そういう意味では、広く浅く色々やってみるのもありです。放っておくと衰退するものとかもありそうですから、そういうのを見守るとか建前を作ってのつまみ食いですね」

 

「気に入るものがあるかもしれない、と?」

 

「はい」

 

 前世では少なくとも漫画を読むタイプの人だったわけですし。

 なんだかんだで、いろんな雑誌が手の届く範囲に来るような環境にはしてたようなので、気に入ったものがあれば一歩踏み出してみる、くらいでいいわけですよ!

 

「それはそれで、世間がうるさそうではあるな」

 

「そんなのどうでもいいです。

 というか、こういう時だけ影響力を心配しないでくださいよ」

 

「私が暴走しないための精神的なストッパーだからな。

 権力に溺れたら碌なことにならん」

 

「ああ、だから後ろ向きに全力なんですね。

 それでも、ここは自重しない方がいいと思いますよ。今後自由にやりたいなら、最初が肝心ですし」

 

「ここで前例を作ってしまえ、という事か。

 確かにそうだが……」

 

 そんなに難しい事は言ってないつもりなんですけどね。

 決断する、という点が問題ですか?

 

「全部決めろ、とは言ってませんよ」

 

「そうなんだが、そもそもの疑問としてだな。

 今日は、随分と常識的だな?」

 

「え、そうですか?」

 

「少なくとも、以前のようなビッチまがいな言動は無くなったな」

 

 いえ、性的な求愛はエヴァさんにしかやらないですから、ビッチじゃないです。

 夜は娼婦のようにとか、男の人なら喜ぶところだと思うんですけど。

 

「気分的なものですけど、危機感みたいなのは無くなりました。外見的に釣り合うくらいで固定になったので、急ぐ必要がなくなった安心感は大きいです」

 

「それもどうかと思うが。

 不老不死は祝福ではなく、呪いの類だぞ?」

 

「その辺は、イシュトさんや甚兵衛さんもかなり言ってましたよ。

 それでもボクは、エヴァさんと一緒にいたいんです」

 

「感情ほど不安定なものも無いぞ。

 それは、キリスト式で永遠の愛を誓いながら離婚する夫婦の多さが証明している」

 

「感情だけで結婚する人は、そこまで多くない気がしますけどね。少なくとも、経済的な理由とかはゼロにはならないと思いますし、特に昔は、家の繋がりとか見合いでとかも多かったんですよね?」

 

 それ以前に、独身だと白い目で見られるとか、結婚が当たり前みたいな風潮だったはずですし。

 結婚できないのは何か事情があるとかで信用が落ちるみたいな話とか。

 

「その手の、周囲の圧力で結婚する夫婦が減ったから独身の人が多くなった、とも聞くがな。

 人は個としては決して強い生き物でない以上、群れが力となるはずだが、個を無視できなくなり生物としては弱体化しているとも言えるか」

 

「人間って、とりあえず生物としては支配者みたいなものですよ?」

 

「少なくとも日本は、群れの数を維持する事すらままならなくなりつつあるぞ?

 それに、温暖化やらの環境破壊で、自分たちが生活する環境の維持も限界が見え始めてもいる。

 居住可能な土地の広さから言えば、日本の人口は江戸時代の3000万ちょいが適正という話もあるようだが……少なくとも今の人の在り方は、生物としては歪んでいるのだろうな。

 歪み切った私が言うのもなんだが」

 

「振り切れちゃってるからこそ、見える事もありますよ。

 この際、一緒に死ぬ方法でも探しますか?」

 

「ああ、それはいいかもしれんな」

 

 あ、すごく後ろ向きな話にエヴァさんが乗ってきたせいか、イシュトさんの目が怖いです。

 

「イシュトさんにも応用できるかもしれませんよ?

 今は太陽系ごと吹っ飛ばす、くらいしか思い付かないですけど……他の手段を探す方が、実現方法を考えると簡単な気がします」

 

「神に、勝てますか?」

 

 あれ、気になるのはそっちですか。

 共に死ぬならあり、みたいです。

 

「勝つ気でやらないと、ボクもエヴァさんも死ねないと思いますよ。

 神様がどこまで凄いかわかりませんけど、太陽神とかなら、ボクが自爆すればどうにかできるんじゃないですか?」

 

「……期待しておきましょう」

 

 ありでした!

 

「というわけで、ボクの目標が決まりました!

 当面はエヴァさんと幸せになる事、長期的に死ぬ方法を探すことです!」

 

「ああ、そこは、ぶれないんだな」

 

「もちろんです。

 もうちょっと正確に言えば、エヴァさん達と、ですね」

 

「複数形なのか?」

 

「今までエヴァさんと歩んできた人達を蔑ろになんてできません。

 そこも含めて今のエヴァさんですし、奪い合いなんてことになったら不毛じゃないですか。少なくとも、それは幸せじゃありません」

 

「……私のために争わないで、とか言うべき場面なのか?」

 

「争う気はありませんし、エヴァさんは二股してる悪女じゃないので、言わなくても大丈夫です。

 あの歌、元凶が争うなって言ってておかしいですよねー」

 

 どっちか選べないけど争うなって、今の関係をずるずる続けたいだけじゃないですか。

 

「世の中そんなものだぞ。

 国や大きな組織など、握手しながら足を踏むみたいな交渉ばかりだ」

 

「その辺が、エヴァさんが鬱陶しいと感じるところですよね。

 というわけで、表舞台に立たないままのんびりすればいいと思いますよ。月の一族の人達とかもそのつもりで準備してたと思いますし」

 

「それが可能なのか?」

 

「現時点で部外者の影すら見えない時点で、やる気だと思いますよ。

 ですよね?」

 

「はい。名は広めますが、外部からの干渉は排除します」

 

「魔法公開と同時に発行した法で、認識阻害や詐称関係の禁止があったはずだが?」

 

 はい、ありましたねー。

 正確には犯罪に使われやすい、精神干渉系魔法全般と光学迷彩系の制限ですけど。

 

「主要な国で、特別な許可を得た有名人が監視及び護衛付きで一般の生活に触れる場合に使用を許可する、という例外も定められています。

 端的に言えば、これらに国については、エヴァ様が比較的自由に出歩く事が可能となるよう調整が行われています」

 

「……比較的自由に?」

 

「例えば、ファーストフードを食べたい、でも構いません。

 許可を得たエヴァ様が、混乱なく一般人が使うファーストフードの店に訪れるために、私達を監視及び護衛として、認識阻害を使用しながら出かける。

 それが可能な手筈となっています」

 

「権力の乱用とか言われそうな抜け道だな」

 

「私的な外出を手間や費用がかかるイベントにせず、周囲や訪れる店への影響を抑えることが可能な手法に関する規定という扱いですので、これを否定するのは認識阻害や詐称系技術に対する原理主義的な拒絶くらいでしょう。

 また、行動を記録し犯罪行為を防ぐための監視と、問題発生時の対処要員としての護衛に関する認定を必須項目とすることで乱用を防ごうとする国が多く、行動記録の限定的な公開を必須とする場合もあります。

 そこそこ名前が売れている程度ならこの例外を使うまでもありませんし、権力に執着する者にとっては守りが薄すぎます。認識阻害や年齢詐称は絶対的な守りではありませんので」

 

「戦闘力に自信があり、かつ、それを誇示しないが、国の監視は受け入れるのが条件か……

 ナギやラカンその他英雄志望の連中は誇示したがるタイプか。造物主や後ろ暗い連中は監視を嫌がりそうだし、一般人はそもそも必要としない、と。

 国と繋がるお前達がいる私以外、使おうとする者は少なそうだな?」

 

「そうなる様に、調整しました」

 

「打ち合わせに書記として参加したことがありますけど、凄かったですよ?

 月の一族のいろんな組織のトップ級の人達が、どうやって法的な穴を小さくしながらエヴァさんとお出かけでするかで悩んでたんですから」

 

 娘と出かける理由を作ろうとする父親、みたいな雰囲気でした。

 いかに反論を抑えつつ自分達がいる理由を作るのかに腐心する、王様とか社長とか理事長とか取締役とか……元だったり補佐役だったり代理の人だったりもしましたけど、そんな人達が大真面目に話し合ってる内容がこれです。

 

「……よく潜り込めたな」

 

「月の一族の人だと口を出したくなって書記として駄目になる内容だから、という理由で呼ばれましたから。

 打ち合わせが始まるまで、内容も知らなかったですし」

 

「そう、か」

 

「というわけでですので、いろんな事をやってみる、というのはアリなわけです。

 ボクも研究だけをやっていたいわけじゃないですし、月の一族の人達だってこれからは普通に交友関係を作れます。

 これから、ボクや月の一族、その他幻想系の人達もですか。気が向いた時は、そういった人たちと一緒に色々やってみませんか?」

 

「……そうなると思って準備されているんだな?」

 

「少なくとも、今更権力者になりたいとは考えないだろう、と思われているのは確かです。

 それでも、幕田家の当主はいつでも当主の座を返還すると言っているそうですし、月の一族の王を名乗るならみんな従いそうです」

 

「引き籠るなら……」

 

「重荷が無くなるので、今までと大差ないように見えて悪化する気がします。

 定年退職後のお爺さんみたいな孤独な隠遁生活は、精神的によくないって聞きますよ」

 

「……逃げ出すと言ったら?」

 

「これだけ顔や名前が広まっていて、認識阻害やら抜きで身バレしないはずないじゃないですか。

 その手の魔法を使った時点で、嬉々として連れ戻しに来ると思います」

 

「逃げ道が塞がれてやがる……行動が遅すぎたんだ」

 

 事が起こってからじゃ、遅すぎですよ。

 ボクが参加した話し合いの時点で、最終調整に近い状態でしたし。

 

「早くて腐っている道を選ぶよりはよい選択だと思います。

 というか、急いで考える必要もない、とか聞きましたよ。ついさっき」

 

「うむ、言ったな。

 まあ、なんだ。結局権力をどうこうする気は無いし、目的もなく引き籠るのは飽きそうだ。だからと言って、いますぐやりたい事も特にない。

 気が向いた時に適当に色々やってみるのが一番、なんだろうな」

 

「というわけなので、基本はその方向で。言質を取るって大事ですよね。

 もちろん無理もよくないですから、気が向いた時に気が済むまで、が基本です」

 

「それはそれで、周囲を振り回しそうだがな」

 

「好き好んで振り回されに来る人もいれば、エヴァさんが無自覚に人を振り回しているのを見て楽しむ人もいます。エヴァさんがすぐ飽きた事をすごく気に入る人だっているかもしれませんし、その逆だってあり得ます。

 それくらいでいいんですよ。さっき説明した法は、副次的な影響を抑えるためのものでもありますから」

 

 一時的に注目されて調子に乗ったり、プレッシャーに負けたり。

 そういう事があるとエヴァさんは遠慮するようになる、と思われていましたし。

 

「やれやれ、私の事をよくわかっている阿呆が多いな。

 妙な方向に頭を使いおってからに」

 

「アホだから、妙な方向にばかり意識が向かうんです。

 一員のボクが言うんだから間違いありません!」

 

「自慢気に宣言する内容ではないぞ」

 

「だってたぶん普通の人にとっての永遠の命って、手に入ってからしばらくまでは大喜びで、周囲と隔絶する現実に絶望する代物です。

 それでもボクは! エヴァさんと! 一緒に居たいんです!」

 

「それも問題だな。

 落ち着いて考えると、それは家族を記憶ごと失った代償行動のようにも思える」

 

「家族ならナギやアリカもいますし、アーニャだって幼馴染枠でいます。

 影響が全く無いとは言えませんけど、エヴァさんがゼロさんに甘いのだって似たようなものじゃないですか」

 

「いや、ゼロはだな……」

 

「子供の代わりにみたいな感情が全くなかったと、断言できますか?

 ちなみに、リズさんの証言はゲットしています」

 

 あと、マシューさんの証言もあります。

 間違いなく父親が娘を見るような視線だった、と。

 

「言い逃れを許す気が、微塵も感じられんぞ」

 

「ありませんけど、必要だとも思っていないです。

 変に溜め込むよりはいいと思いますよ?」

 

「それで私に全力なのか?

 代償行動に恋の盲目さが加わったせいか、大変なことになっているように見えるぞ」

 

「うーん、どうなんでしょうね。

 というか、起きてからそっち方面に頭が回るようになってませんか?」

 

 儀式の前までは、こんな事言ってませんでしたし。

 

「落ち着いたせいなのか、目標が無くなったせいなのか、自分を見つめ直す的な何かなのか。

 理由はわからんが、色々やってみるの一環でいいんじゃないか?」

 

「自然にそういう事を考えたなら無理してるわけでもないですし、いいと思いますよ。

 マシューさん達も、エヴァさんが色々な事に目を向けるようになると思っていたようですし」

 

「いい事にしておく方が平和なのだろうな。

 誘導されているのか考えを読まれているのかは、この際置いておくが」

 

「エヴァさんが望むだろう方向に、誘導しているんじゃないかと。

 だからきっと、ボクがエヴァさんの隣にいる事も、ある程度認められていると思うんですよ」

 

 だって、リリカルなノアの本当の最後って、主人公のノアが足音で振り返って、何かを見て嬉しそうに笑うって場面なんです。

 エヴァさんが儀式魔法の後で姿を消していたのも一緒ですし、その上で、ボクが似た状況で迎える事を許されたんです。

 これはもう、頑張るしかないですよ!

 

 だから──覚悟してくださいね。

 エヴァさんと幸せな結末を迎えるまで、絶対に諦めませんから。




後半は投稿が滞りまくったり、間隔が空きすぎて余計に書けなくなったりしていましたが、何とか、一応の完結までこぎつけました。
とりあえず、二次創作としてはこれの小話的なものやチラ裏の艦これのやつをちまちま書くかもしれない程度で、新規にプロットを作る予定は今のところ無いです。最近の漫画やアニメをほとんど見てないですし。
むしろオリジナルのを書きたいなーとか思いつつ、時間とネタと書く速さが足りない模様。色々ダメダメですね。


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