廻り還る先 (伊呂波)
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第1局

第XX期 本因坊戦

 

第七局

 

ヒカルはパシっと小気味よい音を部屋に響かせ、強い眼差しで相手を見据えた。

それを受け止め、一瞬、苦い顔をした上座の緒方はゆっくりと息を吐き出し、口を開いた。

 

「…ありません。」

 

ヒカルの勝利を告げる言葉と共に歓声とカメラのフラッシュが飛んだ。

進藤ヒカルが緒方精次の保持する本因坊最年少記録を大幅に塗り替えた瞬間だった。

 

 

 

 

 

ヒカルはそっと目を閉じた。

 

(…佐為、俺、やったよ。本因坊だ。

 まだ緒方先生の実力には及ばないけど、ここまで来て本因坊は渡せないもんな。

 だから、ここが終わりじゃない。俺は…塔矢や緒方先生達もまだまだ高みへ行くよ。

 いつか神の一手を極めるために!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、佐為。

 

俺、やっぱり、お前とも打ちたいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ル…カル…ヒカル!」

 

「…え?」

 

自分を呼ぶ声に目を開けると、目の前には骨董品が並んでいた。

 

「もう!さっきから呼んでるのに!」

 

「…え、あ、あかり…?…縮んだ?」

 

横を見ると幼馴染のあかりが頬を膨らませている。

 

「私より小さいくせに何言ってるのよ!それより、もう出ようよ。気味わるいし…」

 

「はあ?って此処、じーちゃんの蔵!?何で!?」

 

「何でって…ヒカルがお宝を見つけるって連れてきたんじゃない!」

 

「そ、そうだっけ?」

 

未だ現状を理解しかねるヒカルだったが、此処にいるなら確認しなければいけないことがある。

 

ヒカルは抑えきれない期待に鼓動が早くなるのを感じつつも、見慣れたその場所に目を向けた。

 

「あった!」

 

「あ…これ知ってる。五目並べする台でしょ?」

 

「バーカ。囲碁だよ。碁盤っていうんだ。」

 

あの日と同じように子供らしい間違いを口にするあかりを見てヒカルは理解した。

 

(ああ、俺は、還って来たのか…)

 

「それ、どうするの?」

 

「じーちゃんに貰う!」

 

「そんなの貰ってどうするのよ。囲碁なんてやらないでしょ?」

 

「やるよ。囲碁。」

 

碁盤の端をそっと撫でながら優しく呟くヒカルにあかりはドキリとした。

 

 

 

 

 

 

ヒカルは、そんなあかりの様子は露知らず。

 

ただ必然の再会を。

 

『見えるのですか?』

 

(…うん。見えるよ。)

 

『私の声が聞こえるのですか?』

 

(うん。聞こえるよ。)

 

『いた。』

 

(うん。)

 

『いた。』

 

(うん。いるよ。)

 

『あまねく神よ。感謝します。』

 

(はやく来いよ。)

 

俺は、ずっと待っていたんだ。

懐かしい声に熱いものが込み上げてきたが、なんとか耐える。

 

『私は今一度…今一度…現世に戻る―――』

 

ヒカルはずっと欠けていたものが満たされるのを感じた。

もうずっと欠けているはずだったもの、満たされることがないはずだったもの。

 

『私の名は藤原佐為。よろしくお願い致します。』

 

(俺は進藤ヒカル!よろしくな!)

 

 

 

 

 

「…ヒカル?」

 

気づくとあかりが心配そうにヒカルを覗きこんでいた。

 

「うん?どうした?」

 

「さっきから何度もボーっとしてるから。具合が悪いならもう本当に帰ろうよ。」

 

「ああ。心配させて悪い。もう大丈夫だ。」

 

「なら良いけど…。」

 

『ヒカル、この娘は?』

 

(藤崎あかり。俺の幼馴染だ。)

 

『優しい娘ですね。大事になさい。』

 

(…おう。)

 

 

 

 

 

「あかり、日が暮れる前に先に帰れ。」

 

蔵を出た所でヒカルはあかりに促した。

 

「俺はじーちゃんに用があるから。この碁盤のことで。」

 

「時間かかっちゃうの?」

 

「少しな。送ってやれなくて悪い。」

 

「ど、どうしたの?送るなんて!」

 

いつものヒカルと違う言動にあかりはドキドキさせられっぱなしだった。

 

「だって、お前、一応、女だし。まあ、まだ明るいし大丈夫だろ。」

 

「一応って何よ!もう!じゃあ、先に帰るね。」

 

「ははっ!ああ。気を付けてな!」

 

 

 

***

 

 

 

あかりを見送ったヒカルは母屋に向き直った。

 

(さて。じーちゃんに勝負吹っかけるか!)

 

『さっそく一局打てるのですか!?』

 

(お前はまだダメ。これは俺が打つの。)

 

『…そんな…』

 

(…っぐ!…バ、バカ!後で俺が打ってやるから!嘆くな!)

 

久々に佐為の嘆きで具合が悪くなったヒカル。

逢えたのは嬉しいが、これには慣れそうにないと盛大に溜め息を吐いた。

 

『約束ですよ!』

 

(ああ!飽きるほど打とうぜ!!)

 

『♡』

 

浮かれる佐為につられて、こちらまで温かくなる。

忙しい心にヒカルは小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

「今日は何の用だ?ばーさんは買い物でおらんが。」

 

「フッフッフッ、実はね、じーちゃん、俺、碁を覚えたんだ!じーちゃんに勝ったら、この蔵にあった碁盤と碁石ちょーだい!」

 

「碁!?おおっ、お前、覚えたのか!?よーしっ、今、持ってくるから待ってろ。逃げるなよ!」

 

「逃げないよ。…あ、電話かりるよ。」

 

「おう。ちゃんと家に連絡しとけ!」

 

祖父がドタドタと家にある碁盤と碁石を用意する間、ヒカルは家に連絡することにする。

黙って来てしまったし、今からでは門限に間に合わないので、叱られる前に自己申告だ。

祖父の家にいることが分かれば、そこまで叱られないだろう。

 

「…あ、母さん?俺。今、じーちゃんのとこ。ちょっと碁をやりに。…そう。囲碁。覚えたんだ。…そんなに遅くならないから。…うん。じゃ…」

 

 

 

 

 

「そーか。お前も碁の面白さに目覚めたか。さァ、いくらでも打ってやるぞ!」

 

ヒカルが電話を切ると縁側に碁盤を用意した祖父が上機嫌で座っていた。

 

「とりあえず、一局だけでいいんだ!碁盤、頼むよ!」

 

「勝ったら碁盤だぁ?フッフッ、ワシは強いぞォ!ほら、いくつでもいいから石を置け。」

 

「いや、じーちゃんが置けよ。」

 

「ムっ。これを見よっ!」

 

そういって祖父が出したのは囲碁大会のトロフィーや表彰状だった。

 

(そういや、県大会レベルくらいは負けなしだったけ。)

 

『…よく分かりませんが、お強いのですよね?大丈夫ですか?代わりましょうか!?』

 

ワクワクを抑えきれないとばかりに佐為が言った。

 

(大丈夫、俺だって強いんだ!)

 

「ま、互先で良いよ!俺、マジで強いぜ!」

 

「何言ってるんだ。覚えたてだろ。どーせ。強いも何もあるもんか。気が強いってだけだ。お前のは。」

 

「コミ無しの白だって負ける気は無いぜ!」

 

そういってヒカルは白の碁石を取った。

 

『コミ?』

 

(先に打つ黒が有利だから普通は白が始めから六目…じゃねえや、五目半もらうんだ。)

 

『なるほど。黒を持ったら負けなしでしたけど、これは面白いですね。』

 

(…当時、不公平だとか思わなかったのか。)

 

「まー、いい。いくぞ、ヒカル。」

 

パシっと黒石が碁盤に置かれる音が響く。

 

(いくぞ、佐為!見てろよ!)

 

はらり

 

白石を持ったヒカルの上から何かが降った。

 

(…佐為。やっぱり打つか?)

 

『…いいえ。この音を再び聞けたことが嬉しいのです。それに、あとでヒカルが飽きる程に打ってくれるのでしょう?…とても打ちたいですが、今は貴方の実力を見せて下さい。』

 

(ああ。すぐ終わらせてやるから待ってろ!)

 

『はい!』

 

パシっ!

 

ヒカルは力強く打った。

 

 

 

 

 

「…ヒカル、お前、いつ碁を始めた。」

 

「内緒!」

 

一気に形勢の決まった盤面を見つめる祖父にヒカルは嬉しそうに答えた。

 

「師はいるのか?」

 

「うん。めちゃくちゃ強いよ!」

 

『そんなに強い方がいらっしゃるんですか!打ちたい!打ちたいです!』

 

(馬鹿。お前だよ。お前。)

 

『…はい?』

 

「…碁盤だったな。そんな古いのじゃなくて新しいのを買ってやるぞ?」

 

「ううん!これが良いんだ!」

 

「そうか。大事にしろよ。」

 

「うん!じゃ、貰うね!」

 

「待て。持って行くには重いだろ。車で送ってやる。」

 

「マジで!?やった!」

 

 

 

 

 

(で、秀策…虎次郎の次に俺に来たと。)

 

『ええ。何故なら私はまだ…神の一手を極めていない!』

 

(…それで、ペリーはどこに来たんだっけ?)

 

ヒカルは二度目になる佐為の身の上話を聞き流しながら机に向っていた。

二度目の勉強は楽勝かと思ったが、身についていた訳ではないので思った以上に苦戦していた。

 

『浦賀ですよ。…ですから、そんなことしていないで打ちましょうよ!』

 

(宿題はやらないと叱られるんだって!だいたい、一気に八局も打ったろ!)

 

『飽きるまで打ってくれるって言ったのに。ヒカルの嘘つき!』

 

(…っつ…具合悪くなるからやめろって。俺は生身なの!幽霊のお前にずっと付き合ってられないんだって!)

 

『…うう。』

 

(だあっ!とりあえず、明日!他の人とも打たせてやるから!)

 

『本当ですか!?』

 

 

 

***

 

 

 

『此処は…』

 

(囲碁教室。初心者に囲碁を教えてくれるところだ。)

 

ヒカルが佐為を連れてきたのは白川七段の囲碁教室だった。

ここが一番最初にまともに囲碁に触れた場所だったから来ておきたかったのだ。

 

『教えているあの方はどれくらいの腕なのでしょうか。』

 

(プロだよ。)

 

『プロ?』

 

(囲碁でお金をもらって生活してるってこと。)

 

「…では、講義はここまでにして対局に入りましょう。」

 

(…まあ、奇数で新入りの俺が余るのは必然だよな。)

 

『そんな!対局は!?』

 

(この教室が終わったら!)

 

佐為に早く打たせてやりたいのは山々だが、佐為の実力をヒカルの実力とされてしまうと面倒臭くなる。

申し訳ないが、もう少しだけ佐為には我慢してもらう。

 

「えーと、君は進藤君だったね?」

 

「はい。」

 

「囲碁は初めて?」

 

「けっこう打てます。」

 

「そうなのかい。本当は僕が打ってあげられたら良いんだけど、他の方のも見回りたいからね。今日は見学をしていてくれるかな?」

 

「はい。…あ、先生、あのさ。」

 

「何でしょう?」

 

「先生は囲碁の歴史上で一番強いのは誰だと思う?」

 

「そうですね…そうそう。この間、雑誌で面白い記事を読みました。」

 

「面白い記事?」

 

「少し待っていていて下さい。…ああ、これです。ここの記事。」

 

白川はすぐ近くの棚から雑誌を取り出すと、ヒカルにあるページを開いて見せた。

 

「読んでみる!」

 

「はい。では、私は他の方のを見て回りますね。」

 

『あの方、ご自分の答えを上手く誤魔化しましたね。』

 

(うわっ!本当だ!侮れねえ!)

 

佐為の指摘にヒカルはやっと誤魔化されたことに気づいた。

 

 

 

――― 問われた棋士は間髪をいれずこう答えた。

   

          江戸時代の「本因坊秀策」―――

 

 

 

***

 

 

『なんと!書物がこんなに!』

 

(図書館っていうんだ。)

 

『とても素晴らしい場所だとは思いますが、対局は!?』

 

(はいはい。此処で出来るから。)

 

ヒカルはカウンターでパソコンの貸し出しカードを受け取ると指定された席へ向かった。

まだ三谷と出会っていない今。小学生がネットカフェは少しキツい。

そこで思いついたのが図書館だ。

ヒカルはなんとかネット碁がOKの図書館を見つけたのだ。

 

『ここで!ヒカル、ヒカル、碁盤と碁石が見当たりませんよ?』

 

(ははっ!この箱の中だよ。)

 

『お相手は!?』

 

(それも箱の中。対面させて打たせてはやれないけれど、この箱なら世界中の奴と打てるぜ!)

 

『すごい!はやく!はやく!』

 

(ああ。いくぜ。負けるなよ!)

 

『無論!!』

 

 

 

 

 

― sai Enter ―

 

 

 

 

 

― 終 ―

 



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第2局

休日の居間。

 

すっかり寝坊したヒカルは留守にする母親が作ってくれていたお握りを頬張る。

母親は朝食のつもりだったのかもしれないが、今は昼だ。

お昼は近くのコンビニで好きなのを買いなさいとメモと置かれていた千円は有難く頂戴する。

 

『あ、てれび!図書館にある不思議な箱とまた少し違うものなんですよね!』

 

(そう。これは遠くのものや芝居とかを見せてくれる機械だ。)

 

『ヒカル、ヒカル!囲碁もやってますよ!』

 

(その人は、塔矢名人。「神の一手に一番近い人」って言われてるんだぞ!すげーだろ!)

 

ヒカルの言葉に佐為は無駄なく美しく紡がれてゆく盤面を見つめた。

 

【私と同じく神の一手を極めようとする者。…この男…!!】

 

『ヒカル!』

 

(悪い。いつかネット碁を打たせてやる。でも、それはすぐには無理なんだ。)

 

『…すいません。』

 

(そうしょんぼりするなよ!代わりって言ったら何だけど、近いうちに息子の方とネット碁を打たせてやるから!)

 

『息子と!?この者の子ならば、きっと強いのでしょうね!』

 

(まあな。ほら、飯も食ったし、出掛けるぞ。)

 

『今日も図書館ですか!?』

 

ネット碁は残念ながら礼儀を知らない者もいたが、佐為はお気に召したようだった。

ほとんどが佐為を相手にするには力不足の者達だったが、一手一手から囲碁が好きという気持ちが感じられてとても嬉しかったらしい。

 

(いや、今日は息子に会いに!)

 

『…!』

 

 

 

 

 

「あった!ここの碁会所だ!」

 

『碁会所?』

 

(皆が碁を打ちあう場所だよ。)

 

『それは素晴らしい場所ですね!』

 

目を輝かせる佐為にヒカルは苦笑を漏らし、碁会所に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

「あら、こんにちは。どうぞ。」

 

(うわあ…相変わらずジジイばっかり…)

 

『なんてこというんですか。囲碁を愛する方々に失礼ですよ!』

 

(はは…)

 

「名前を書いて下さいね。ここは初めて?」

 

「初めてです。」

 

「それじゃあ、棋力はどれくらい?」

 

「…九段。」

 

「まあ。大きいことを言うわね!」

 

「あー!信じて無いな!俺、本当に強いんだからな!」

 

「はいはい。あ、席料は子供は五百円ね。」

 

「はい。五百円。…あ、塔矢発見!」

 

「え…僕?」

 

不意に名前を呼ばれたアキラはキョトンとヒカルを見つめた。

 

「お前、塔矢アキラだろ?塔矢名人の息子の!」

 

「うん。確かにそうだけど、君は?」

 

「俺は進藤ヒカル!六年生だ!」

 

「あ、僕も六年だよ。じゃあ、奥で打とうか。」

 

「おう!」

 

(…それにしても愛想の良い塔矢か。ヤバい。珍しすぎて鳥肌が…。)

 

『何を言ってるんですか。ヒカルと違って聡明な良い子ではありませんか。』

 

(おい。)

 

 

 

 

 

「棋力はどれくらい?」

 

「…九段。」

 

「え?」

 

アキラはヒカルの思いもよららない言葉に絶句した。

 

「今の俺なら緒方先生と互角に戦えるぜ。」

 

「…緒方さんと打ったことが?」

 

「いや。無い。」

 

「…そう。それじゃ、置石は…」

 

「お前が置けよ。三子…いや、三子は無理か。二子で。」

 

「本気かい?」

 

「ああ。」

 

空気が変わった。

 

「「おねがいします!」」

 

アキラが黒を二子置いて対局が始まった。

ヒカルにとってアキラが最初から自分を見ている大事な対局だ。

そして、孤独だったアキラにとっても生涯の好敵手を得る戦いとなる。

 

 

 

「あーっ!やっぱり、負けた!お前相手に二子もキツかったかあ。」

 

ヒカルは盛大に溜め息を吐いた。

終局まで打ったもののコミを入れてもアキラの三目半勝ちである。

 

「っな!負けた!?負けただって!?」

 

「え、落ち着けよ!急にどうした!?」

 

『ヒカルが調子に乗って途中まで指導碁まがいな打ち方をしたのに気づいたのでしょう。』

 

(まがいって…)

 

『圧倒的な実力差があるならば兎も角、貴方達の実力差で置石の上、指導碁。しかも、手に負えなくなったからと猛攻するものの負け。中途半端な事をするからです。』

 

(…っう。)

 

佐為の厳しい正論にグウの音も出ないヒカルだった。

 

「君は!僕を馬鹿にしているのか!」

 

「…ごめん。お前を馬鹿にするとかじゃなく、俺が調子に乗りすぎてた。」

 

ヒカルは頭を下げた。

 

「…いや。僕も怒鳴って悪かった。今度は最初から本気で相手をしてくれるかい?」

 

「ああ!もちろん!」

 

 

 

 

 

第2局目はアキラの中押し負けだった。

 

「進藤、君はプロにならないのかい?」

 

「ウチ、普通の家だからさ。院生からプロになろうと思って。」

 

「まどろっこしいな。父さんにご両親に口添えを頼もうか?」

 

「はあ!?なんでお前はそう極端に走るんだよ!」

 

「極端な碁を打つ君に言われたくない。」

 

「なんだと!?」

 

「はいはい。仲が良いのは分かったから喧嘩しない。」

 

「あ、市河さん。お疲れ様です。」

 

「ありがとう。アキラ君。それより、進藤君、もう日が暮れちゃうわよ。お家の人が心配するんじゃない?」

 

「え、うわっ!本当だ!帰らなきゃ!」

 

『ヒカル!ネット碁の約束!』

 

微笑ましく好敵手の遣り取りを見守っていた佐為だったが、これだけは譲る気がなかったらしい。

今にも駆けだしそうなヒカルに叫んだ。

 

(あ、忘れてた!)

 

「塔矢!」

 

「うん?」

 

「俺の師匠、訳があってネット碁しか出来ないんだけど、打ってみないか?」

 

「…ネット碁は以前にやったことがある。君の師匠なら興味があるな。」

 

「よし!じゃあ、次は土曜日にこのネット碁にいると思うから!『sai』ってハンドルネーム!」

 

ヒカルは手近なメモ用紙を拝借し、ページの名前とハンドルネームを走り書いた。

 

「わかった。僕はそのままakiraでログインするよ。」

 

「分かった!伝えておく!」

 

「…あと、もう少し良いかい?」

 

「なんだよ?」

 

「僕はまだ君に敵わないけれど、このまま足踏みしているつもりはない。」

 

「…!…俺だって簡単に追いつかれれねえぞ!」

 

「ああ!」

 

「じゃあ、また来るから!」

 

ヒカルは今度こそ駆けだした。

 

 

 

 

 

『ヒカル。よい好敵手を得ましたね。』

 

(ああ!)

 

かつて佐為を追うアキラをヒカルが追っていた。

今はアキラがヒカルを追っている。

簡単に追いつかれる気はないが、いつか、並び、共に高みを目指す存在となる。

ヒカルは逸る気持ちのままに家へと駆けた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「…負けた。」

 

アキラはネットで終局まで打った盤上を眺めた。

 

遙かな高みからの完璧な指導碁。

 

最初から最後まで美しく導かれた打ち筋に魅入られた。

 

勝負はsaiの半目勝ち。

 

しかし、悔しくは無かった。

 

 

 

 

 

― ありがとうございました。

 

― こちらこそ。ありがとうございました。

 

― 貴方はプロではないのですか?

 

― 残念ながら私はプロではありません。

  また、事情があり、プロになることも叶いません。

  どうか詮索は控えて頂けますよう、お願い致します。

 

― 失礼致しました。

  ネット碁で構いませんので、また打って頂けますか?

 

― もちろんです。

  貴方はとても優秀で素直な碁を打ちますね。

 

― ありがとうございます。

 

― しかし、少し型にはまりすぎた碁に見受けられます。

  思いがけない所に打ち込まれると躓いてしまうこともあるでしょう。

 

― はい。力不足を痛感しています。 

 

― 不肖の弟子は貴方の苦手な打ち込みが得意です。

  しかし、逆に貴方のような確実に地を取っていく碁が苦手なようです。

  お互い切磋琢磨し、高みを目指してください。

 

― はい。ご指導、ありがとうございました。

 

― では、これで失礼致します。

 

 

 

 

 

まだ無理なのは分かっている。

 

しかし、いつか。この遙かな高みへ。

 

その時、自分と神の一手を極めるのはこの人では無い。

 

アキラは確かに確信していた。

 

 

 

 

 

― 終 ―

 

 

 

 

 

~ おまけ ~

 

(つかれた~)

 

『文字だけでも言葉を交わせるとは!ヒカル!この箱は本当に良いですね!』

 

(はしゃぐのは良いけど、俺、文字を入れるの遅いし、小っ恥ずかしいから勘弁してくれ!)

 

『そんなあ~…』

 

 




囲碁のルールをあまり理解していないのでアキラに白の置石をさせていました。
調べたら置石は黒がするもののようなのでアキラを黒に修正しました。


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第3局

第19回 全国こども囲碁大会

 

 

 

「うわあ…」

 

「凄いだろう?」

 

感嘆の声を上げるヒカルにアキラは誘って良かったと思った。

 

「うん。凄い。俺達よりも小さい奴まで真剣で緊張感に溢れてる!」

 

(なあ、佐為。本当に凄いな!)

 

『はい!凄い!子供がいっぱい!千年前の私の囲碁への情熱も、今、此処にいる子供達の熱気も同じです。彼等が私に教えてくれます。千年後の未来も同じだと…』

 

(そうだな。きっと二千年後の未来だって変わらない!)

 

嬉しそうに微笑む佐為にヒカルも嬉しくなった。

きっと俺達が一手一手を未来へと繋いでいくのだ。

 

「君となら出ても面白かったと思うけど…。」

 

不意にアキラが寂し気に呟いた。

 

「あー。もしかして、実力差がありすぎて他の子がやる気をなくすって思ってるのか?」

 

「…うん。君は覚えは無いかい?」

 

「俺は無いなあ。っていうか、お前は気にしすぎ!」

 

確かにヒカルには覚えが無かった。

ヒカルは自分が一番下からのスタートだったが、例え負けても悔しいと思ったことはあっても諦めようと思ったことは無い。

 

「そうかな。」

 

「そうだよ。」

 

「まあ、だけど、今は進藤。君がいる。」

 

「…お前、よくそんな小っ恥ずかしい台詞を真顔で言えるな。」

 

「茶化すなよ。僕は本気だ。」

 

「…俺もお前がいて良かったよ。」

 

ヒカルはアキラから顔を背けて呟く。

ヒカルの耳が赤いことに気づいたアキラは小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

「…アキラ君?」

 

ヒカルとアキラが対局を眺めては検討を繰り返していた時。

見覚えのありすぎる白スーツが近づいてきた。

 

(っげ!)

 

『ヒカル、あの者は?』

 

(緒方先生。塔矢名人の弟子。たぶん、今の俺となら互角かな?)

 

『あの者の!』

 

「緒方さん!」

 

「君がこういう催しに顔を出すのは珍しいね。…友達かい?」

 

緒方はヒカルに睨むように目をやった。

 

「…進藤ヒカルです。塔矢とは同い年で碁会所でよく打ってます。」

 

「ほう。アキラ君と。」

 

緒方の目に鋭い輝きが増したのはヒカルの気のせいでは無いだろう。

 

「…初めての塔矢との対局は二子置いて三目半で負けました。」

 

『適当なこと言って。また痛い目を見ますよ。』

 

(放って置け!この人に絡まれると面倒なんだって!)

 

佐為の言葉にヒカルも必至だった。

 

「アキラ君を相手にそこまで打てたのなら大したものだ。」

 

「おい!誤解を生むような言い方をするな!」

 

アキラは会場の邪魔にならない程度に声を荒げた。

 

「君が声を荒げるとは珍しい。」

 

「二子を置いたのは僕です。そして、彼は途中まで指導碁を打ちました。しかし、僕が崩すことに成功すると猛攻。結果は僕の三目半勝ちでしたが、それから互先で勝ったことはありません。実力は彼が完全に上です。」

 

「…君はプロではないな。院生か?」

 

緒方の目がキツくなる。

 

「…いえ、院生ではありません。いずれ入ろうとは思ってますけど。」

 

「あと、緒方さんと互角に戦えるとも言ってましたよ。」

 

「なるほど。面白い。控室に行こう。一局、打ってやる。」

 

緒方は人の悪そうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「…お前、最初に俺が調子に乗ってたの地味に根に持ってるだろ。」

 

「さあ。なんのことかな?」

 

『諦めなさい。どっちにしろヒカルが悪いですよ。』

 

(お前、どっちの味方だよ!)

 

 

 

 

 

「おねがいします。」

 

互先。ヒカルが先番だった。

 

静かな部屋にパシっと小気味よい音が響く。

 

そして、相手の緒方。

 

ヒカルはそう遠くない昔、というか、未来の本因坊戦を思い出した。

 

 

 

 

 

「ありません。」

 

細かい一進一退の攻防。終局間近で口を開いたのはヒカルだった。

 

「…おい。どうして投了した。」

 

緒方は不機嫌そうにヒカルに問う。

 

「…え、だって、俺が此処に打ったら、こっちに打つだろ?で、右辺と中央でこうなって。ほら、惜しいけど俺が負ける。」

 

「本当だ!よくここまで読んだな、進藤!」

 

アキラが感心したように盤面を見る。

 

「…なるほど。」

 

「「え?」」

 

『…ほう。気づいていましたか。』

 

佐為は緒方の意図を理解したようだが、ヒカルとアキラには分からなかった。

 

「俺は中央の攻防と左辺しか見えていなかった。右辺は完全に見落としていた。」

 

「うそ?!」

 

「まあ、お前も左辺を見落としたようだがな。」

 

「あ、俺、こっちに置いたら勝つじゃん!」

 

「少し細かいが、こっちなら確かに進藤が有利だ!」

 

どちらかが自分に有利な場所を先に見つけていたら勝利が約束されていた。

しかし、ヒカルも緒方も互いの出方をうかがうばかりに見落としていたのだ。

 

「…俺は気づかないうちに慢心していたのかもな。」

 

「緒方さん?」

 

緒方のらしくない呟きにアキラは心配そうに声をかけた。

 

「アキラ君、大丈夫だ。久々に手応えのある対局だった。」

 

「俺も!やっぱり緒方先生との対局は面白かった!」

 

「それは光栄だ。」

 

『ヒカル!ヒカル!私も打ちたいです!』

 

(ああ、わかったから騒ぐな!!)

 

「緒方先生ってネット碁、やる?」

 

「ネット碁?」

 

「進藤の師匠がネット碁をやっているんです。」

 

「なんだと?」

 

「訳があってネット碁しか出来ないんだけど、緒方先生とも打たせたくて。」

 

「お前の師匠か。ネット碁はよくやる。お手合わせ願おうか。」

 

「じゃあ、緒方先生と師匠の時間が合う時に対局しよう!」

 

「緒方さんは忙しいし、日程を調整して僕が進藤に伝える形で良いかな?」

 

「うん!塔矢、頼んだ!」

 

「では、僕達は失礼します。また日程の件で連絡しますね。」

 

「…ああ。」

 

仲良く駆けて行った子供達を見送った緒方は今だ石が置かれたままの盤上を眺めた。

侮っていた訳では無いが、アキラと同じ歳の子供と互角の勝負をされた。

 

そして、師匠が出て来るという。

 

さて、どんな化け物が出て来るか。

 

緒方は勝負師の血が騒ぐのを感じた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「…っく、ここまでか。」

 

一瞬で地が両断された。

 

緒方は投了のボタンをクリックした。

 

強いか弱いか。

 

それが分かればよかった緒方はチャットをする気が無かった。

 

また、向こうからメッセージがくる気配もない。

 

これで良かった。

 

 

 

 

 

久々に気持ちよく負けるということを体験させてもらった。

 

あの妙な子供に、その師匠。

 

久しぶりに勝負師の血が滾りだす。

 

まだ、これからだ。

 

さあ、追い、追われる勝負の始まりだ!

 

 

 

 

 

その目には確かに情熱と言う名の炎が宿った。

 

 

 

 

 

― 終 ―

 



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第4局

「緒方君。」

 

「はい?」

 

「彼を連れてきてくれないか?」

 

「彼、ですか?」

 

「彼だろう?」

 

「…ええ。確かに彼ですが。よくお分かりになりましたね。」

 

「頼んだよ。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

不意にヒカルは通い慣れたビルの上階にある碁会所を見上げた。

 

『ヒカル!今日はネット碁の約束ですよ!』

 

(分かってるって!)

 

『ヒカルとアキラが打っているのを眺めるのも面白いですけど、やはり自分で打つのは別格です!』

 

(打ってるのは俺だけどな。)

 

『もう!すぐそうやって揚げ足を取る!』

 

(はは!)

 

 

 

 

 

「おい。進藤。」

 

ヒカルと佐為が図書館へ足を進めていると不意に後ろから声がかかった。

 

(っげ!)

 

『この者は確か…』

 

「お、緒方先生…何か用?俺、ちょっと急いでるんだけど。」

 

「お前に会いたいといっている人がいる。」

 

「…誰?」

 

「来れば分かる。ついて来い。」

 

『誰でしょう?アキラでしょうか?』

 

(いや、塔矢ならこんな言い方はしないだろ。)

 

『そうですね。では、本当に誰でしょうか。』

 

(…嫌な予感しかしない。)

 

ヒカルは前回と同じ展開に重い溜息を吐き、諦めたように緒方についていった。

 

 

 

 

 

「塔矢名人。連れてきました。」

 

(やっぱり…)

 

『!!』

 

通い慣れた碁会所で指導をしていたのは、神の一手に一番近い者、塔矢行洋だった。

今日は息子の方はいないらしい。

 

「君がアキラに勝ち、緒方君と互角という子だね?」

 

「…はい。」

 

「君の実力が知りたい。座りたまえ。」

 

 

 

 

 

『ヒカルッ!!彼と打たせて下さい!本因坊秀策であった私に挑んできた数多の好敵手達!この者の気迫はまさしく彼等と同じ!』

 

佐為が叫んだ。

 

(ダメだ!)

 

『ヒカル!!』

 

(ダメだ!俺が進藤ヒカルとして!お前が藤原佐為として存在するために!それだけはやっちゃダメだ!)

 

『しかし!』

 

(佐為!お前はきっとこの人と打つためにここにいる!でも、それは今じゃない!)

 

『今でないならば、いつなのですか!!』

 

(お前が藤原佐為として打てる時だ!!)

 

『…!…必ず打てますか。』

 

(ああ!絶対に打たせてやる!!)

 

『…我儘を言いました。』

 

(いや、分かるよ。打ちたいよな。打たせてやりたいのに…俺もごめん。)

 

 

 

 

 

「どうした?」

 

いつまでもその場から動かないヒカルを行洋は訝し気に見た。

 

「塔矢名人に打ってもらうチャンスなんて滅多にないと思います。」

 

「………。」

 

「でも、俺が貴方と打つのは今じゃない。」

 

「どうしてか聞いてもいいかね。」

 

「貴方は俺の実力を見てsаiと対局するか決めようとしている。」

 

『!』

 

「そうだ。アキラに指導碁を打ち、緒方君を両断した者。そして、君の師匠。」

 

「名人は名も素性も隠している師匠が気に入らないんですよね。」

 

「ああ。だが、深くは聞くまい。アキラもかわされるばかりだと言っていた。」

 

「今の俺の実力では師匠の本当の強さは伝えられません。」

 

「だから私と打つのは今ではないと?」

 

「そうです。そう遠くない未来。俺がプロになって貴方と打った時。」

 

「君の中のsаiの強さが本物だった時はネット碁で良い。お相手願おう。」

 

「ありがとうございます。」

 

ヒカルは一礼して踵を返した。

 

 

 

 

 

「行かせて良かったんですか?」

 

「ああ。先の楽しみが出来た。」

 

緒方は己の師匠は頭の固い所が玉に瑕だと小さな溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「はあああああっ!緊張したっ!」

 

もう寒い時期だというのに、極度の緊張から体に熱がこもったヒカルは近くの公園のベンチで冷たい缶ジュースを一気に飲み干した。

 

『…ヒカル、ありがとうございます。』

 

(おい。礼をいうならもっと明るい顔で言えよ。)

 

『もちろん、あの者といつか対局が出来るのは嬉しいです!ですが…』

 

(なんだよ。)

 

『ヒカルはヒカルがヒカルとして、私が私として打てる道を捜してくれました。』

 

(そんな大げさなもんじゃねーよ。)

 

ヒカルは照れからぶっきら棒に答えた。

 

『…虎次郎は私に名前を貸し、私としてずっと打ってくれました。それは正しいことだったのでしょうか。』

 

佐為は浮かない顔で空を見つめた。

 

(…俺は虎次郎に会ったことが無いから本当のことは分からないけどさ。)

 

『はい。』

 

(たぶん俺と虎次郎はお前の碁を見た時に思ったことというか感じたことが違うんだよ。)

 

『感じたこと、ですか?』

 

(そう。俺はお前が打つ碁を見て俺もこんな碁を打ちたいって思った。)

 

『虎次郎は何と思ったのでしょう。』

 

(ずっと見ていたいって思ったんだろ。きっと誰よりもお前の碁に魅せられたのが虎次郎だよ。)

 

『そうでしょうか…そうですね。そうだと良いです。』

 

【やはりお前の打つ碁は美しいな。】

 

かつて何度も自分の打った棋譜を並べては嬉しそうに微笑んだ虎次郎を思い出して佐為は小さく微笑んだ。

 

(よし!元気になったな!)

 

『ええ。ヒカル、本当にありがとう。』

 

 

 

 

 

「あ、ヒカル!」

 

「あかり。」

 

少し遅くなってしまったので図書館は諦めて帰ろうとした時。

公園の脇をペットの犬の散歩で通りかかったあかりがヒカルに気づいた。

 

「今、ヒカルの家に寄ったんだよ。どこ行ってたの?」

 

「碁を打ってた。」

 

『打ってはいないでしょう。』

 

(揚げ足取んな!)

 

ヒカルは既視感に襲われたが気づかないふりをしておく。

 

「碁?また?ヒカルって碁にハマってんの?」

 

「まーな。」

 

「誰と打ってたの?」

 

「それがよ、聞いてビビるな!あの塔矢名人だぜ!」

 

「トーヤ名人…誰それ?」

 

「俺が悪かった。」

 

その業界でどんなに有名でも興味が無ければ知るはずもない。

塔矢名人もあかりにかかれば形無しだな、とヒカルは小さく笑った。

 

「それより、これ!お姉ちゃんから貰ったの。お姉ちゃんの中学で創立祭があるんだって!行こ!」

 

そういってあかりが出したのは創立祭の出店であるたこ焼き屋の食券だった。

 

「おお!良いな!行こうぜ!」

 

「本当!?じゃあ、次の日曜日の2時に門の前ね!」

 

「了解。あ、まだ散歩の途中だろ?付き合ってやろうか?」

 

「いいよ。大丈夫。日曜日にね!」

 

大きく手を降ってあかりは駆けて行った。

 

 

 

 

 

『逢引ですね!逢引!』

 

(…何でお前が嬉しそうなんだよ。)

 

『ところで、ヒカル。』

 

(うん?)

 

『創立祭って何ですか。』

 

(寺子屋の祭りみたいなもんだよ。)

 

『ほーっ!そんな祭りが!』

 

(囲碁部も出し物してるから見に行こうな!)

 

『はい!』

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「たこ焼き美味しかったね!」

 

「おう。」

 

「次、どこに行こうか?」

 

創立祭。

目的のたこ焼きを食べ終え、あかりはパンフレットへ目を落とした。

 

「俺、囲碁部を見に行きたいんだけど、良いか?」

 

「囲碁部?ヒカル、本当に碁にハマったんだね。」

 

「お前にはつまらないかもしれいから他の友達と周ってきても良いぞ?」

 

「ううん。私も行くよ!」

 

「そうか。じゃ、行こうぜ!」

 

 

 

 

 

「では、中級の問題です。三手目まで示して下さい。」

 

「まず黒がツケだろ…」

 

囲碁部では詰碁をやっていた。

問題を出しているのはいずれ伝説と呼ばれる部長の筒井だ。

 

「何か難しそうだね。」

 

「少しな。」

 

『あ、ヒカル!この書物!』

 

佐為は目ざとく【塔矢名人選・詰碁集】を見つけた。

 

(景品だから問題を答えられたら貰えるぞ。)

 

『貰いましょう!』

 

(はいはい。)

 

「ヒカルは分かるの?」

 

「あかり、ノド渇いてないか?」

 

「え?少し。」

 

「ねえ。次、いい?」

 

ヒカルは先程の問題を降参して席をたった客と入れ替わるように言った。

 

「どうぞ。」

 

「俺達、ちょっとノドが渇いてるんだ。ジュースが景品の問題やってよ!」

 

「…じゃあ、これかな。」

 

「ココとココ。」

 

「正解!速いね!」

 

「よく分からないけど、ヒカル、凄い!」

 

あかりや周りからも感嘆の声が聞こえた。

 

「へへ!あ、詰碁集も欲しいんだ!一番難しいので!」

 

「一番難しいって。こんなの解けたら塔矢アキラレベルだよ!」

 

「大丈夫!俺、塔矢より強いから!」

 

「えっ、君が!?」

 

「うん!」

 

「…どうぞ。第一手目がカギだ。」

 

筒井は半信半疑なようだったが一番難しい詰碁を並べてくれた。

 

「第一手目は…「おい!」

 

ヒカルは割り込んで来た声とともに降りてきた腕を掴んだ。

 

「っけ。」

 

そこに居たのはやはり加賀だった。

ヒカルに抑えられたことによって碁盤に煙草を押し付ける暴挙は諦めたらしい。

 

「加賀!」

 

筒井が怒鳴った。

 

「やめちまえ。囲碁なんて辛気くせーもん!石ころの陣地取りなんてくだらねー。将棋の方が千倍オモシロイぜ。なーにが塔矢アキラだ。あんなヤツ、俺にも負けたサイッテー野郎だ!」

 

「…加賀は以前、塔矢アキラのいた囲碁教室に通ってたんだ。アマの大会に出て来ない塔矢アキラを直接知っている数少ない人の一人だよ。」

 

今は将棋部だけど、と筒井はヒカルに教えた。

 

「そこのガキ。お前も塔矢アキラに勝ったらしいな。」

 

「うん。」

 

「…惨めだな。俺もお前も。それともお前は気づいてないのか?」

 

『どういうことでしょう?』

 

(大方、塔矢がわざと負けたんだろ。で、俺のことも同じだと思ってるんだ。)

 

『ヒカルじゃあるまいし、アキラがそんなことをするとは…』

 

(お前なあ…まあ、何かしらの事情はあったんだろ。知らないけど。)

 

「塔矢とお前の間に何があったか知らねーけど、いつまでも拗ねて八つ当たりしてんなよ!かっこわりー!!」

 

「ヒカル!」

 

見るからに不良の加賀を煽るヒカルにあかりは気が気でなかった。

 

「…小僧!棋力は!」

 

「九段!」

 

「っは!吹かすじゃねーか!!俺の実力、見せてやる!打て!!」

 

加賀は【王将】と書かれた扇を広げた。

 

『この者、勝負強いようですから面白い対局になりますよ!』

 

「望むところだ!!」

 

 

 

 

 

「凄い!!」

 

「あの、ヒカル、大丈夫ですか?」

 

あかりは二人の対局を見守る筒井にきいた。

 

「大丈夫なんてものじゃないよ!圧倒的だ!」

 

「え?」

 

 

 

 

 

パシンっと扇の閉じる音がした。

 

『ヒカルに劣らぬ面白い碁を打ちますが、残念です。』

 

「お前、本当に塔矢アキラに勝ったのか。」

 

「…うん。中押しで。」

 

「そうか。」

 

「加賀。あんたさ。何だかんだ言って囲碁も塔矢も嫌いじゃないだろ?」

 

「っけ。」

 

「え?」

 

疑問の声を上げたのは筒井だった。

 

「俺が塔矢に勝ったって聞いて勝たせて貰ったことに気づかない馬鹿なガキだと思ったんだろ。」

 

「俺が恥かいただけだがな。」

 

「俺、加賀のそういう所、カッコイイと思う。」

 

「言ってろ。…筒井、囲碁大会に出てくれって言ってたろ。」

 

「出てくれる気になったのかい!?あと一人誰か来てくれたら大会に登録できる!!」

 

「…このガキだ!このガキが大将で俺が副将、お前が三将!」

 

「彼は小学生だぞ!?」

 

「バレなきゃいーだろ。」

 

「あのさ!」

 

勝手に進む話にヒカルはやっと声を上げた。

 

「なんだよ。」

 

凄むように声を上げたのは加賀だ。

 

「大会のルールを破るのは良くないと思う。来年、絶対に囲碁部に入るから!」

 

それまで待ってって、とヒカルは筒井に訴えた。

 

「…うん。そうだね。待ってるよ!」

 

「………」

 

筒井は一瞬、残念そうな顔をしたが、先輩らしく微笑んでみせた。

加賀は不機嫌そうに黙ったままだ。

 

 

 

 

 

「…ヒカル、中学に行ったら囲碁部に入るの?」

 

創立祭の帰り道、あかりはヒカルに問う。

 

「ああ。」

 

「私も入ろうかなあ。」

 

「お前が?」

 

「うん。ヒカルが夢中になる囲碁、覚えたいし。」

 

「そっか。じゃあ、少しくらいなら教えてやるよ!」

 

『よかったですね!ヒカル!』

 

(だからどうしてお前が嬉しそうなんだよ…)

 

 

 

 

 

― 終 ―

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

「筒井!」

 

「加賀?どうかした?」

 

「囲碁部の大会出るぞ!!」

 

「え、メンバーは?」

 

「コイツ!将棋部で俺の次に囲碁が強い!将棋はヘボだけどな!」

 

「俺、先輩に憧れて将棋部に入ったのに酷いっす…」

 

「はは…」

 

 

 

 

 

葉瀬中 囲碁部

第三回北区中学冬季囲碁大会 準優勝

 



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第5局 / 執筆中

まだ途中ですが、自分のやる気の為にも投稿します。
囲碁部の夏の大会終了辺りまで少しずつ加筆していく予定です。

H27.6.16:ルールの間違いをご指摘頂き、修正しました。
H27.6.20:加筆しました。


季節は春。

それぞれの中学校へ進学したヒカルとアキラはいつものように碁会所で打っていた。

 

「部活の大会?」

 

「そう。俺、囲碁部に入ったんだ。夏の大会に出る!」

 

「中学に入ったら院生になるって言っていたじゃないか。院生は大会に出られないぞ。」

 

「わかってる。その大会が終わったら院生になるよ。」

 

「…何故、君ほどの実力者がわざわざ部活なんかに…院生になる必要も僕は納得していない。」

 

「俺、お前のそういう所、駄目だと思う。だから友達が少ねーんだよ。」

 

「余計なお世話だ!」

 

アキラは声を荒げると同時に強い音を立てて碁盤に石を打った。

 

「…っげ。とうとう二子じゃキツくなってきた。」

 

「二子の置石で僕の勝率が五割を超えた。次からは定先逆コミで。」

 

「そうだな。…お前、強くなるの速すぎ。」

 

もう少し上手で居たかったのに、とヒカルは小声で呟いた。

 

『そういう風に調子に乗っているから、あっと言う間に追いつかれるんですよ。』

 

(…うっ。お前、最近、俺に対して辛辣だよな。)

 

『私もアキラと同じで勿体無いと言っているんです。』

 

子供のように拗ねる佐為にヒカルは小さく微笑んだ。

 

「…じゃあ、時間的にも次が最後かな?」

 

「おう!互先じゃ、まだまだ負けねーぞ!」

 

力量に差があるヒカルとアキラはアキラにハンデを付けてアキラの勝率が五割を超えたらハンデを一段階減らしていくという打ち方をしていた。

そして、その日の最後の対局は互先で締めくくる。

 

ちなみにハンデの段階は、二子局→定先逆コミ→定先→互先、としている。

 

 

 

 

 

「…ありません。」

 

アキラの言葉にヒカルはホッと息を吐いた。

未だ互先ではヒカルの中押し勝ちが続いているものの、終盤まで待ちこまれることも多くなっていた。

 

「やっぱり、お前、強いよ。」

 

「君にそう言われるのはとても複雑だけど、ありがとう。」

 

「…俺も大概だけど、お前も大概だよな。」

 

「僕は今年のプロ試験を受ける。」

 

ヒカルの嫌味など聞こえないとばかりに、アキラは言葉を続けた。

 

「おう。先に行ってろ。来年には俺も行くから。」

 

「君は本当に今年は受けないのか。」

 

「俺には俺のペースがあるの。お前も偶に寄り道くらいしてみろよ。」

 

「寄り道?」

 

『ちょっと!真面目なアキラに何を吹き込んでるんですか!』

 

(真面目だからだろ。少しくらい他にも目を向けさせないとすぐ行き詰まるぜ。)

 

『…本音は?』

 

(面白いから!)

 

『…まったく。』

 

無邪気に笑うヒカルに佐為は溜め息を吐いた。

 

「そう。寄り道。でも、お前、実は不器用だからなあ。寄り道するなら上手やれよ?」

 

「…考えておこう。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

葉瀬中 生徒掲示板前

 

「残念だね。囲碁部、こんな端にしかポスター貼れないなんて。」

 

掲示板の端に貼られたあまり目立たないポスターを見たあかりは残念そうに溜め息を吐いた。

 

「しかたねーよ。うちの部、人数足りてねーし、まだまだ弱小だし。」

 

『しかし、碁に限らず同じ年頃の者達が同じ目標に向かう部活というものは良いですね!』

 

佐為は物珍し気にポスターや部活へ向かう生徒たちを眺めいる。

 

(まーな!これで囲碁部も人数が増えたら言うことねーけど。)

 

「でも、囲碁部は去年の大会で準優勝したんでしょう?」

 

「そうだけど、筒井さん以外は将棋部の奴等だったからなあ。」

 

「将棋部なのに囲碁が強いなんて変なの。」

 

「変で悪かったな。」

 

「ひゃっ!?」

 

「うわ!加賀!筒井さんも!」

 

あかりの言葉に凄んだのは加賀だった。

 

「力のある部活が権利も大きい。ま、トーゼンだ。囲碁部も大変だな。」

 

「…はは。」

 

筒井は加賀の言葉に苦笑した。

 

「それに比べて将棋部は良いぞ、進藤!囲碁部が嫌になったらいつでも将棋部に入れてやるぜ!じゃな!」

 

「嫌になんてならねーよ!」

 

部活へ向かう加賀の背にヒカルは吠えた。

 

「まったく加賀は…。それより、僕たちも行こう!」

 

「「え?」」

 

嬉しそうな筒井の声にヒカルとあかりは同時に声をあげた。

 

「理科のタマ子先生が使ってない碁盤と碁石をくれたんだよ。放課後、空いてれば使って良いって。今日は空いてるし!」

 

「凄いですね!もうちゃんとした囲碁部じゃないですか!」

 

「うん。あとはもう少し人数を増やして正式に部に承認されたら予算も出るよ!」

 

「早く部員とっ捕まえねーとな!」

 

「そうだね。」

 

「…そういえば、加賀は?アイツもうやらないの?」

 

「うん。今年は君が入ってくれるし、あとは何とかしろってさ。」

 

「そっか。」

 

ヒカルはせっかく囲碁も強いのに、と思ったが、自分が囲碁をやりたいように加賀も将棋をやりたのだと思い直す。

 

 

 

 

 

「よし!ようこそ、囲碁部へ!」

 

筒井は何時の間にか辿り着いた理科室の扉を嬉しそうに開いた。

 

 

 

 

 

『だいぶ傷んだ碁盤ですね…』

 

(…打つのに支障はないから。)

 

理科室でヒカルと筒井はさっそく打ち始めた。

あかりはそれを眺めている。

 

「…去年の大会、僕の他は将棋部の二人だったけど、出られて嬉しかったよ。」

 

「準優勝ですよね!凄いです!」

 

「加賀が大将を張ってくれたからね。さすがに強豪の海王中には敵わなかったけど。」

 

「でも、筒井さんは全勝したって聞いたぜ!凄いじゃん!」

 

「はは。ありがとう。最後のは海王中の副将のミスが勝因だからあまり自慢できないけどね。」

 

「…そういえば、文化祭の時もですけど、ヒカルってそんなに強いんですか?」

 

まだまだ囲碁に疎いあかりが問いかけた。

 

「強いよ。今も僕を相手に指導碁を打ってくれているし、塔矢アキラ相手に中押し勝ちしたんだろう?」

 

「え、やっぱり指導碁って分かっちゃう?」

 

「文化祭で見た時の君の碁は攻める碁だったからね。さすがにこんなに丁寧に打たれたら分かるよ。」

 

『ヒカルは極端で分かりやすい打ち方をしますからね。』

 

(…俺はお前みたいに器用じゃねーから良いの!)

 

「ヒカル、本当に強かったんだ…」

 

「あ!あかり!お前、疑ってたな!」

 

「ちょっとだけね!」

 

そんな楽し気な声と石を打つ音が響く理科室。

不意に窓の方から音がした。

 

「進藤!」

 

「塔矢!どうしてこんな所に!」

 

音の正体は開いている窓を軽くノックをした音だったらしい。

ヒカル達が目をやった先にいたのはアキラだった。

 

「最近、碁会所で擦れ違って会えていなかったから。早く伝えたいこともあったし、囲碁部に入るって言っていたから来れば会えるかと思って。」

 

「お前、たまに凄い行動力を発揮するよな…」

 

「そうかい?それより、伝えたかったのは僕も海王中の囲碁部に入ったってことなんだ。」

 

「マジで!?」

 

「うん。君が得ようとしているものを僕も得たくて。」

 

「…葉瀬と海王じゃ得られるものがだいぶ違うと思うぞ。」

 

「だろうね。でも、君が大会に出る以上、僕以外が君に喰いつけるとも思わない。」

 

「なるほど。宣戦布告か。」

 

「そう受け取ってもらっても構わない。」

 

「よし!俺、大将で出るから、お前も大将で出ろよ!…筒井さん、良いでしょ?!」

 

二人の遣り取り呆然としているあかりと筒井だが、筒井はヒカルの言葉に勢いよく頷いた。

 

「もちろんだ。」

 

「じゃ、大会まで碁会所で俺達が打つのも無しな!」

 

「面白そうだ。そうしよう。」

 

「じゃ、塔矢、お前、本当に上手くやれよ!」

 

「…努力する。」

 

それじゃあ、と塔矢は去って行った。

 

 

 

 

 

「…進藤君、もしかしてプロになるつもりかい?」

 

「うん。夏の大会が終わったら、まず院生になる。」

 

「どうしてわざわざ部活に?君の実力ならすぐにプロになれるだろう?」

 

「プロになったら得られないものを得ておきたかったんだ。それはきっと俺の糧になる。」

 

ヒカルはまっすぐ筒井を見つめた。

 

「…夏の大会の後には僕も受験で顔を出せなくなる。君も忙しくなるだろうし。早く部員を確保しないとね。」

 

筒井は苦笑しながらヒカルの頭を撫でた。

なりゆきをハラハラと見守っていたあかりも安堵の溜め息を吐いた。

 

「うん!」

 

 

 

 

 

『良かったですね。ヒカル。』

 

(おう!)

 

 

 

 

 

***

 



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大盤解説(妄想語り)

本編ではありません。
第1局から第5局までのネタバレを含みます。


この作品は皆様の素敵な作品に触発されて衝動的に投稿したものです。

そんな作品に多くのお気に入り登録や評価、ご意見・ご感想をありがとうございます。

 

ここでは頂いたご意見を参考に皆様が疑問に思っているであろうことを解説(という名の妄想語り)していきます。

 

文章力が拙く、描写しきれていない部分も多いので、少しでも補完になれば幸いです。

皆様の偉大な読解力で行間にあったことにしておいて下さい。笑

 

***

 

~逆行ヒカルの強さについて~

 

この作品のヒカルの強さは『九段』としています。

原作初期の緒方と互角程度の力量を目安にしているので、低段者は兎も角、高段者を相手に飛びぬけた無双をすることはありません。

ちなみに、ヒカルは三大タイトルは無理でも『天元』などのタイトル獲得による昇段をイメージしています。

これで原作初期の緒方と互角と考えていますが、経験の差から緒方の方が気持ち強いイメージです。

 

 

~ヒカルが緒方との本因坊戦で勝てた理由~

 

初期緒方と互角では本因坊の緒方に勝つのは難しいです。

しかし、ヒカルにとって本因坊は佐為の名を冠するタイトルということで思い入れが強いと思います。

それを取れるチャンスがあるならば逃したくないと高永夏戦で見せた気概で何とか第七局まで縺れ込ませ、勝利をもぎ取りました。

ご都合主義といわれてしまえばそれまでですが、緒方は、そういったヒカルの一味違う執念に気圧され、苦杯を喫しました。

実力は完全に緒方が上ですし、ヒカルの強い想いと気概があったとはいえ、緒方の甘さというか隙も大きな勝利要因なので、次も本因坊を防衛することが出来るかと聞かれたら怪しいです。

しかし、このヒカルが逆行せずに順調に成長した暁には最終的に桑原の持つ連続防衛記録を更新してくれたと思います。

 

 

~逆行ヒカルがアキラに負けた理由~

 

アキラはこの時点で塔矢名人に三子の実力です。

プロ試験も軽くパスしていることから既に二段か三段くらいの力量ではないかと思われます。

(北斗杯の時点でアキラは三段ですが昇段点が実力に追いつていないだけで、少なくても七段の実力はあったと思います。)

しかし、逆行ヒカルにしてみたら十分に無双が出来る実力の差です。

ここで調子に乗ったヒカルはアキラに二子を置かせ、指導碁を打ちます。

そして、同年代に置石をさせられた上に指導碁を打たれていることに気づいたアキラ。

このまま終わるのは悔しいとアキラは持ち前の勝負強さを発揮して指導碁を崩すことに成功。

かつての佐為のような華麗な指導後で今度は自分を追ってもらいたかったヒカル。

まさかの展開に焦りながらも指導碁が無理ならば勝って自分を印象付けようとします。

しかし、指導碁で少し自分が不利な状況の上、置かせた二子が効いて今一歩のところで負けます。

原作でもアキラは二回目の対局で(現代の定石を学んでいないとはいえ)佐為の指導碁(手加減?)を崩しています。

二子も置かせて調子に乗って勝手に焦ったヒカルに勝てる程度の力量はあるでしょう。

ヒカルは原作でもアキラに酷い碁と言われるものを打っていますし、実力にムラがあります。

緒方との本因坊戦では実力以上の力を発揮しましたが、このアキラとの初対局では実力を発揮しきれなかったと考えて下さい。

 

 

~逆行ヒカルとアキラの実力差~

 

第5局現在。

アキラの勝率が五割を超えたらハンデを一段階減らしていくという打ち方をしています。

ハンデの段階 : 二子局→定先逆コミ→定先→互先

第5局現在、二子局でのアキラの勝率が五割を超えましたが、定先逆コミではしばらくヒカルが有利です。

互先でももう暫くはヒカルの中押し勝ちが続くでしょう。

 

 

~佐為がネット碁で緒方に完勝することが出来た理由~

 

蘇ったばかりの古い定石しか知らない佐為では緒方を相手に無双することは厳しいです。

しかし、この作品の佐為は逆行ヒカルにより、序盤から新しいルールやネット碁に触れています。

描写しきれていませんが、きっと行間でたくさんヒカルと打ったりネット碁を打ってるはずです。

既に現在の定石を学び終えつつある佐為なので、緒方を圧倒出来たと思って下さい。

 

 

~強さ【第5局現在】~(あくまでこの作品における私の考える強さです)

 

佐為≧塔矢名人>本因坊緒方>現在緒方≧逆行ヒカル>現在アキラ

アキラの成長が早いのは逆行ヒカルという好敵手を得て今まで以上に経験値を積んでいるからです。

 

***

 

厳しいご意見もありますが、上記のようなイメージでこれからも作品を続けていきます。

これでも読んで頂けるという方は、これからもよろしくお願いします!



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