高二病でも恋がしたい (公ノ入)
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第一話

モリサマー「あなたの瞳には邪精が取り憑いています」

 

八幡「はぁ?」

 

モリサマー「邪精とは人の悪意により変質してしまった、哀れな精霊の成れの果て。人に取り憑き、人に害を成す。放置しておけば肉体と精神を蝕まれ、やがて人ならざる者へと変質してしまいます」

 

八幡「……そうっすか。じゃあ帰ってホットアイマスクでもしときますね、それじゃ」スタスタスタ…

 

モリサマー「お待ちなさい」ガシッ!!

 

八幡「ぐえぇ!!」

 

 

モリサマー「ホットアイマスクで邪精は祓えません」

 

八幡「お、おま……襟が伸びんだろうが……」ゲホッゲホッ

 

モリサマー「案じることはありません。正しき精霊の加護を受ければ、貴方のその目も元の輝きを取り戻すことでしょう」

 

八幡「いや俺が案じてるのはシャツの襟なんだが」

 

モリサマー「襟も戻ります」

 

八幡「マジでか(精霊パネェ……)」

 

モリサマー「私が調合したクリスタルポーションを授けましょう。これを使えば貴方の目はもとより、襟の弛みも霧吹きで吹きかけてアイロンがけすることであっという間に元通りに……」

 

八幡「あ、キャッチセールス?」

 

モリサマー「違います」

 

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 

八幡(ってな感じで、中学時代やたら付きまとって来た女子に良く似た奴と、偶然電車で隣同士になったわけだが……)

 

丹生谷「…………」ダラダラダラダラ

 

八幡(本人……か?)チラッ

 

丹生谷「ッ!」ササッ

 

八幡(あからさまに目、逸らしたな。これは決まり――ってそういや俺、クラスの大抵の女子からも目ぇ逸らされるんでした。テヘッ♪ 由比ヶ浜にさえ、近距離で目が合うと逸らされるまである)

 

丹生谷(気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな気付くな……)ダラダラダラダラ

 

 

八幡(カマ掛けてみるか……)

 

 

八幡「もりさ――」

 

丹生谷「ッ!!?」ビクゥッ!!

 

八幡「んちゅうって、最近あんま三人で活動してねぇよなぁ……(どうだ?)」チラッ

 

 

丹生谷「~~~~~~~~ッッッ」プルプルプルプル

 

八幡(あ、コレ本人だわ間違いないわ。船堀コール受けてる船堀さんみたいな顔なってるわ)

 

 

八幡(さてどうしたもんか。まぁ、普通の奴らなら「わぁひさしぶり~、懐かし~、元気してた~?」とか言って適当な近況報告でお茶を濁すんだろうが……)

 

丹生谷「」ガクガクブルブル

 

 

 

<次は~、○○駅~、○○駅~

 

 

 

八幡(ぼっちは交流を――求めないッ。と言うか俺ほどのぼっちになると報告するための近況が無いレベル。何より相手の話しかけるなオーラが半端無いしな。比企谷八幡はクールに去るぜ……)スクッ

 

丹生谷「……ッ」スクッ

 

 

八幡(って、こいつもココで降りるのかよッ)

 

丹生谷「ッ――!?」ガクゼン

 

 

八幡(愕然とした顔してますね。そうですねやっと逃げられると思ってたんですもんね。

   ほら、今からでも遅くないから椅子に座り直しな――)

 

丹生谷「」オロオロ ←携帯チラ見

 

八幡(ああそうですか、待ち合わせがあるんですか。……う、うろたえるんじゃあないッ。千葉県ぼっちはうろたえないッ。慌てず、騒がず、電車から降りるんだ。こちらが気付かないフリをしている限り、向こうからは話しかけてこな――)

 

 

――ガツッ!

 

 

八幡(痛てぇ! オイなんで同時に降りようとすんだよ!?)

 

丹生谷「~~~~ッ!?」ハワワワワワワワー!

 

八幡(なんなのコイツ、どんだけテンパってんの? 俺のスルースキルにだって限界あんだよ? もういいよ、そっちが先に降りなさいな)スッ

 

丹生谷「ッ!」バッ! スタタタタタッ

 

 

八幡(そうそう、いい子ねモリサマー。森へお帰り。モリだけ――)

 

 

――ビュンッ!

 

 

八幡(――に?)

 

 

凸守「隙ありDEATH!!」ズザァァァッ!!

 

丹生谷「ほわぁ!?」ズデンッ

 

 

 

八幡(……わぁ水色、とってもサマーだね。……いや、今冬だけど)

 

 

 

凸守「ふふん、遅いのDEATH! マスターを待たせるとは何事DEATHか、偽モリs」

 

 

――ガシッ!

 

 

凸守「ふがっ!? ふがふがもが!」

 

丹生谷「それ以上喋ったら……殺す……」メキメキゴキ

 

凸守「」

 

 

 

八幡(やべぇアイツ目がマジだ……)

 

 

 

六花「シュバルツシルト!!」ジャキン!

 

丹生谷「あいたっ」

 

 

 

八幡(またなんか出てきた……)

 

 

 

凸守「マスター! 助かったのDEATH!」サササッ

 

丹生谷「クッ、なにすんのよ小鳥遊さん」

 

六花「サーヴァントを守るのもマスターの務め。貴方こそなぜこのような凶行を? はっ、まさか古の魔術師モr 丹生谷「ほあー! ほああー!!」 マーとしての記憶がよみがえり混乱を!?」

 

凸守「マスター、奴は偽物DEATH! 本物のモr」

 

丹生谷「喋るなっつってんでしょうが」ギロッ

 

凸守「ヒィッ!? (なんかいつもと違う……)」

 

 

 

八幡(早くどっか行きたいんだけどなー。階段の前からどいてくんねーかなー……)ウロウロ

 

 

 

富樫「おーい、なにやってんだよー」

 

くみん「凸ちゃーん。六花ちゃーん」

 

七宮「にーっはっはっはー!」

 

 

 

八幡(げっ、魔王魔法なんたらまでいるじゃねぇか。……あれ、魔法魔王なんとかだっけ?)コソコソ

 

 

 

くみん「あ、もりさm」

 

丹生谷「てい!」ペチンッ

 

くみん「あた! な、なにするのー……?」フエェ…

 

丹生谷「いいからちょっと黙ってて!」

 

六花「気をつけて、くみん。彼女は過去の記憶との混同により、正気を失っている」サッ

 

七宮「な、なんだって!? ということは、宿敵ノスf 丹生谷「それも言うなぁぁあ!!」nグに掛けられた封印が解けかけているの!?」

 

六花「ノスフェr 「ソイヤソイヤァ!!」の 封印とはどういうこと? モr 「ウララララー!!」の過去にいったい何が?」

 

富樫「ど、どうしたんだ丹生谷。本気で危ない人だぞ?」ドンビキ

 

丹生谷「うっさいわよ!!」

 

凸守「コイツがおかしいのは元からDE」

 

丹生谷「ア゛ァ?」

 

凸守「ヒィッ、何でもないDEATH!!」

 

七宮「今こそ語る時が来たようだね。かつてモリs――」

 

丹生谷「うっがぁああああ、だから! モリサマー言うなっつってんでしょうがぁああああああああー!!!」

 

 

 ああー……あぁー……ぁぁー……。

 

 

 冬の透き通った空に吸い込まれるように、長く尾を引いてその叫びは響いた。

 

 その後を追うような心持ちで、空を見上げる。

 

 視界の端で、モリサマーがゼンマイ人形の様にギシギシと首をこちらに回しているのが映った。

 

 ほぅ、と吐息をひとつ。諦めの溜め息ではない。

 

 虚空を一瞬だけ白く染めて消えていくその様に、俺は唯一の理想を見たのだから。

 

 ならば後はそれを実行すれば良い。

 

 慌てず、騒がず、いつも通りに。ポケットからiPodのイヤホンを取り出し、耳につける。

 

 ハイ準備オッケー、音楽スタート。

 

 

<日の○ちるーこ○ーへーやー、そっと○ーを○ーつーよー♪

 

 

 

 

 

八幡(いやー、音楽聞いてたから周りの声とか全然聞こえてねーわー。ッべーわー、マジ何も聞こえねーわー)スタスタスタスタ

 

 

 我がボッチ道に一点の曇りな――

 

 

丹生谷「って、そこまであからさまに知らん振りされたら流石にムカつくわ!!!」

 

八幡「ぶほぉ!!」

 

 

 横合いからバッグを投げ付けられ、敢え無く俺はホームに沈んだ。

 

 

 

 

 



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第二話

 

 

モリサマー「私はモリサマー。400年の時を生きる魔術師」

 

八幡「へー……。そうですか」

 

モリサマー「どうやら私の言う事が信じられないようですね」

 

八幡「ああ、うん。悪い。信じる信じないとか、そういうレベルの話まで至ってないから」

 

 

モリサマー「目を」

 

八幡「あん?」

 

モリサマー「私の目を見てください。言葉など、本来人が分かり合うためには不要なものなのです。己の有り様を真摯に示せば、それは伝わるもの。精霊はそう語っています」

 

八幡「あれ、それ精霊喋ってない? 言葉使ってない?」

 

モリサマー「精霊のはテレパシー的なアレです。なんか頭に直接入ってくる的なヤツです」

 

八幡(いきなり適当になったな……)

 

 

モリサマー「さぁ」ジー

 

八幡「……ハァ」ジトー

 

モリサマ「……」ジー

 

八幡「……」ジトー

 

 

モリサマ「うッ」サッ

 

 

八幡「え、今目逸らした? なんか耐え兼ねるよな感じで逸らしたよね今」

 

モリサマー「な、なんという濁りきった瞳……。まるで排水管に詰まったヘドロのような……!」ワナワナッ

 

八幡「ねぇ、初対面の人間の目をそこまで言えるとか、お前の神経どうなってんの?」

 

 

モリサマー「この私が直視出来ない程の闇……ハッ! まさか精霊たちが語っていた、灰色世界の不浄王とはアナタの事!?」

 

八幡「自分の失態を誤魔化すために変な設定でっち上げんのやめてくんない?」

 

 

モリサマー「腐敗の主よ、立ち去りなさい! クリスタルスプラッシュ!」バシャッ!!

 

八幡「ぎゃああああー!! 目がー! 目があああー!!」ゴロゴロゴロ!

 

 

モリサマー「その苦しみ様はやはり不浄の者!」

 

八幡「オマっ、フッザケンナよこれメンソールかなんか入れてんだろ! めっちゃ目がスースーすんだけど!」ナミダメ

 

モリサマー「愚かな。これは聖別した薬草を霊山の雪解け水で煮詰め、濾過したものです。人間にとっては万病に効く霊薬であり、これによって苦しみを受けるということはすなわち不浄の者の証――」

 

八幡「んじゃお前は平気なんだな」ヒョイッ

 

モリサマー「あ」

 

 

八幡「バルス」バシャッ!!

 

モリサマー「ぎゃああああー!! 目がー! 目があああー!!」ゴロゴロゴロ!

 

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 

八幡「ねぇ、何で人が必死で気付かないフリしてたのを無駄にしちゃうの? お前の奇行に対して、ツッコミ我慢すんのがどんだけ大変だったか分かってる?」

 

丹生谷「ぐっ……アンタにだけは情けとか掛けられたくないのよ……!」

 

八幡「情け? ハッ。あんま俺を見くびんなよ」

 

丹生谷「ハァ?」

 

八幡「関わると面倒臭そうだから、話しかけなかっただけに決まってんだろうが」キパッ

 

丹生谷(殴りたい、このアホ毛……)プルプル

 

八幡「あとテンパったらすぐ手が出る癖もどうにかしてくんない? 昔っからだろソレ」

 

丹生谷「うぎぎぎぎ……」

 

 

 

富樫「知り合いか?」ヒソヒソ

 

七宮「うん、中学時代のね……」ヒソヒソ

 

富樫「仲悪そうだけど……」ヒソヒソ

 

七宮「そう見える?」クス

 

 

 

六花「……」ジー

 

凸守「……」ジー

 

八幡「ん?」

 

六花「貴方のその目……」

 

丹生谷「そいつの目、カラコンとかじゃなくて自前よ」

 

六花・凸守「「マジDE!?」」

 

 

凸守「これが自前とかどういうことDEATHか!?」グルグル

 

六花「すげー。超すげー」グルグル

 

 

八幡(……なんで俺包囲されてんの?)

 

 

凸守「濁りっぷりが半端ないDEATH!! 混沌を煮詰めたかのようDEATH!!」グルグル

 

六花「呪われてる。これ絶対に超呪われてる。視線向けただけで森とか枯れるレベル」グルグル

 

 

八幡(何これ褒められてんの? 貶されてんの? どう対応していいか分かんねんだけど。ていうか見ただけで森が枯れるってなんだよ。ディープドラゴンかよ。……って、ネタがディープすぎるネッ)フヒッ

 

六花・凸守「「――ッ!?」」ビクゥ!!

 

 

八幡「うん?」

 

丹生谷(アイツ、自分の脳内ギャグで笑ったわね……。キモいのよねぇアレ……)

 

 

凸守「な、なんDEATHか? 今の邪悪な笑みは……」ガクブル…

 

六花「底知れない不気味さを感じた……。やはり、只者では無いッ」ジャキンッ

 

八幡(はちまん、知ってるよ。悪意の無い無邪気な言葉こそが、真に人を傷つけるんだって……)トオイメ

 

丹生谷(あ、地味に傷ついてる)

 

 

 

七宮「にーっはっはっは! 流石だね邪王真眼! 一目で彼の実力を見破るとは!!」

 

六花「ソフィアリング・SP・サターン7世! と言うことはやはり……」ド ド ド ド ド

 

七宮「そう。白でも黒でも無い、本来存在する筈のない灰色の世界に唯一人住まう孤高の主。三千世界に遍く腐敗の種を振りまく不浄王――」ド ド ド ド ド ド ド

 

 

八幡「俺、中二設定の中でもぼっちなのな……」ボソッ

 

 

七宮「彼こそはノスフェラトゥ・キング!! キヒヴァレイ!!!」ッバーン!!

 

 

六花「ノスフェラトゥ・キング!?」ズキューン!!

 

凸守「キヒヴァレイ!?」ズキュキューン!!

 

 

八幡(……帰っていいかな?)

 

 

六花「なるほど……。生も死も一緒くたにして腐敗させる不死者の王……相手にとって不足は無い……」ス…

 

凸守「マスター!?」

 

七宮「やる気なの?」

 

六花「当然。同じ魔眼の使い手として、見過ごす訳にはいかない」

 

 

八幡「なぁ、どっかその辺に『俺の意志』とか言うの落ちてない? 最近色々削られてるとは思うんだけど」

 

丹生谷「知らないわよ」

 

八幡「ハァ……めんどくせぇ……。まぁ、いつも通りの対応でいいか……」

 

 

七宮「そう……。でも油断しないで。不浄王の言葉には強力な言霊が宿っているの。精神が脆弱な者はその声を聞いただけで――」

 

六花「問題無い。邪王真眼は最強。爆ぜろリアル! 弾けろシナプス! パニッシュメント・ディs――」

 

 

八幡「邪王真眼ってカッコいいねっ。なんのパクリ? 飛影?」ニコッ

 

六花「グハァ!!」ドシャッ!

 

凸守「マスタァァァァアア!?」

 

 

 

六花「……パ、パク……パクリ、ちゃう……ちゃうもん……」ピクピク…

 

凸守「マスター! シッカリしてくださいマスター!! な、なんという禁句を……お前は悪魔DEATHか!?」

 

八幡「ああ、なんか不浄なる者とかそういうのらしいな」シレッ

 

凸守「くぅ……マスターの敵は、サーヴァントである凸守が討ちマス!!」ガバッ

 

 

七宮「イケない凸守早苗! 迂闊に突っ込んだら――!」

 

凸守「案ずるなDEATH! 凸守の武器はミョルニルハンマー! 元ネタの北欧神話は様々な話で引用されているポピュラーな題材!! 胸を張って『オマージュDEATH』と返してやるDEATH!! 喰らえッ、ミョルニル――」ギュルルルルルル!!

 

 

八幡「その口調って多分、英語の『DEATH』と『です』を掛けてんだろうけど、冷静に考えるとソレ単なるオヤジギャグだよな」ニゴッ

 

凸守「デゴぉ!?」ズシャア!!

 

富樫「凸守ぃぃいい!?」

 

 

 

凸守「お、おや……おやじ……ぎゃぐ……」ピクピク…ピクピク…

 

六花「ちゃうねん……ホンマ……ホンマちゃうねん……」プルプル…プルプル…

 

 

 

七宮・富樫「「む……酷い……ッ」」

 

八幡(えー? そんなひどいこと言ったかなー? アタリマエのことしか言ってないと思うけどー? ハチマン、ヨクワカラナイヤッ)

 

 

 

丹生谷「相変わらず、性格腐ってるわね……」

 

八幡「バッカお前、熟成してるって言え。基本暗所に押し込められてるからな。醗酵して深みが増してんだ。てか、そういうお前はどうなんだよ?」

 

丹生谷「なにがよ?」

 

八幡「卒業したって聞いてたんだけどな? モリサマー」

 

丹生谷「したわよ。この連中には色々あって巻き込まれてるだけで……。だから、もうモリサマー言うな」

 

八幡「他にどう呼べってんだよ」

 

丹生谷「普通に名前で呼べばいいでしょうが」

 

八幡「いや、俺お前の本名知らんし」

 

丹生谷「はぁ!?」

 

八幡「なんだよ?」

 

丹生谷「し、知らないの?」

 

八幡「だってお前、俺に名乗ったことないだろ。クラスも違ったし」

 

丹生谷「え、いや……そう、だっけ? いやでも……だって……」ボーゼン…

 

八幡「どうでもいいけど、俺そろそろ行くぞ」

 

丹生谷「え!?」

 

八幡「もともと映画見に来たんだよ俺。もうすぐ始まるし」

 

丹生谷「ぐ……か、勝手にすればいいでしょ」

 

八幡「ああ、そうするわ。じゃ」スタスタスタ…

 

 

 

          ▽

 

 

 

丹生谷「…………」

 

富樫「良かったのか?」

 

丹生谷「なにがよ?」

 

富樫「いや、何がって聞かれても困るんだが。……なんとなく」

 

丹生谷「はんッ。別にもう会うこともないでしょ。私達もさっさと行きましょ」スタスタスタ

 

 

富樫「あ、おい! ……なんなんだよ、一体」

 

七宮「まぁ、色々と複雑なんだよ」

 

富樫「七宮……。中学時代なんかあったのか? あの二人」

 

七宮「ノスフェラトゥ・キングの封印」

 

富樫「え?」

 

七宮「さっき言ったでしょ? ……魔術師モリサマーはね、彼に封印されたんだよ」

 

 

 

 

くみん「凸ちゃーん、六花ちゃーん。だいじょーぶー?」ツンツン…ツンツン…

 

凸守「だ、だいじょうぶDEATH……。あ、いや、だいじょうぶです……」←大丈夫じゃない

 

六花「じゃ、邪王真眼の力を舐めるなよぅ……ッ」←ヤケクソ

 

 

 

          ▽

 

 

 

 深夜も回り。布団の中で微睡んでいた俺の耳に、不意に携帯の着信音が届いた。

 

 部屋の寒さと、布団の中の温もりに抗いがたいものを感じながらも、半ば無意識に腕だけを伸ばしてスマートホンをたぐり寄せる。

 

 薄目を開けて画面を見やれば、一通のメールが届いていた。アドレスが直接表示されているということは、電話帳に登録されていないということだろう。

 

 本来であれば、スパムメールか何かだろうと無視してそのまま布団をかぶり直すところなのだが、生憎とそういうわけには行かなかった。

 

 そのメールアドレスは、見覚えのあるものだった。

 

 中学卒業と同時に、関係と共に全てをリセットしたアドレス帳。そこに登録していた中でも一際――いや、唯一か――記憶に残っている、曰く付きのアドレスだ。

 

 

八幡「アイツ、なんでこんな時間に送ってきてんだよ……」

 

 

 ガシガシと頭を掻き毟り、画面を睨みやる。

 

 少しの間逡巡した後、俺はメールを開いた。

 

 

――――――――――――

 

 丹生谷森夏よ

 

――――――――――――

 

 

 メールにはただ一文、それだけが書かれていた。

 

 

八幡「名前知らなかったの、そこまで気にしてたのかよ」

 

 

 思わずため息が漏れる。

 

 つーか、モリサマーの由来を今更ながらに知ったわ。ん? ということはキヒヴァレイも……ああ、なるほど……。ワンパターン過ぎんだろ、アイツ……。

 

 どうしたもんかね、これは。別に無視してもいいだろう。また会う可能性も少ないし、向こうだって俺がそういう人間だという事は承知しているはずだ。

 

 しかし、いつもなら容易く行えるはずの割り切りに、どうにも躊躇してしまう。

 

 過去のものとして放り捨てようとするたび、逆に思い出される中学時代の記憶。

 

 綺麗な思い出ではない。それこそ、水溜りの奥底に沈殿している、泥のようなモノだ。ただその中にも、削られたガラス片程度の代物も確かに有って。

 

 波紋を立てるたび、極稀に光を反射して色を放つ。

 

 そうしてウダウダと悩んでいるうちに、いつの間にか時計の針は夜中の二時に差し掛かろうとしていた。

 

 はぁ、なるほど。つまりは、アイツがこんな夜遅くにメールをした理由も、こういう訳なのだろう。

 

 その理解とともに半ば諦めの境地でもって、俺はスマートフォンに指を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

From:比企谷

――――――――――――

 

 覚えとく

 

――――――――――――

 

 

 




取り敢えずキリのいい二話まで。
何もなければ、しばらくは一日一話ずつ投稿していくと思います。




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第三話

 

 

モリサマー「貴方にこれを授けましょう」

 

八幡「いや昼飯喰いたいからどっか行ってくんない? あとなんでこの場所知ってんの?」

 

モリサマー「この書はマビノギオン」

 

八幡「尾行したの? ストーカー? 警察呼んでいいよねこれ」

 

モリサマー「私が精霊たちの囁きを書き記した、聖典の原本です」

 

八幡「すげぇなオイ、全くこっちの話聞いてねぇぞ。どんだけ神経図太いのお前」

 

 

モリサマー「さぁ、お受け取りなさい」

 

八幡「いや……」

 

モリサマー「さぁ」

 

八幡「邪魔臭いから要らないんだけど……」

 

モリサマー「……」

 

八幡「……」

 

モリサマー「…………今ここで朗読しますよ?」

 

八幡「どんな脅しだよ……」

 

モリサマー「第三章、一節。精霊の囁きと光と水の想いが――」

 

八幡「ああ、ハイハイ分かったよ受け取るっつの……。あと予言しとくけどな。その行いは数年後のお前自身を殺すからね?」

 

モリサマー「面白い。ソレが貴方の、呪いの言葉というわけですね」フフリ

 

八幡「ああ、うん。数年後に下唇噛み締めて悔いろ」

 

 

モリサマー「さて……」スッ

 

八幡「……何で座んの?」

 

モリサマー「……」カパッ

 

八幡「何で弁当箱を開けるの?」

 

モリサマー「いただきます」

 

八幡「聞けよオイ。ここは俺の――」

 

モリサマー「トイレ……」ボソッ

 

八幡「あ?」

 

モリサマー「……トイレで食べるのは……もう、嫌……」ボソボソ…

 

八幡「…………ソ、ソウカ」

 

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 

――チュンチュン、チュンチュン……

 

 

丹生谷「…………よく考えたらアイツもマビノギオン持ってんじゃん」

 

 

 朝、私は深刻な絶望感とともに目を覚ました。

 

 

 

     ▽

 

 

 

【佐々木ゼミナール津田沼校】

 

 

――ワイワイガヤガヤ、ワイワイガヤガヤ…

 

 

八幡(冬になって少しは受験ムードになってるかと思ったけど……夏とあんま変わんねぇな)ボー

 

八幡(まぁ、今回もスカラシップ取れたし。講習受けれて金も貰えるってんだから、何も文句ねえけど――)

 

 

??「ほら六花早く! 講習始まるぞ!」

 

??「ううう……休みなのに……冬休みなのに……」

 

??「一緒の大学行きたいって言い出したの六花じゃないか。今のウチから頑張んないと、本気で追いつけやしないぞ」

 

 

八幡(……うん。前言撤回。カップルで冬期講習とか死ねばいいと思うよ)

 

 

??「お、ここ空いてるな」

 

??「ゆ、勇太、待ってほしい。そんなに前の席では、私の瞳の邪気にあてられ、講師に悪影響が……」

 

??「いいからさっさと座れッ」

 

 

八幡(ゲッ、よりによって隣に座る気かよコイツら……)チラッ

 

 

富樫「ちゃんと筆記用具とか持ってきてるよな?」

 

六花「勇太は私の事をなんだと思っているのか……。バカにし過ぎちゃう? 舐めすぎちゃう?」

 

 

八幡(あれ? コイツら昨日の……)

 

 

富樫「で? 消しゴムは?」

 

六花「…………忘れた」

 

富樫「……言い残すことはあるか?」

 

六花「なに、機関からの妨害を受けているだと!? クッ、すぐに緊急コードKTK(帰宅)を発動し痛い痛い痛い痛い」グリグリグリグリ

 

 

八幡(何これ死にたい。真横でイチャつくなよ、拷問だろコレ……。クソ、今からでも別の席に――)

 

 

――ガラララッ

 

 

富樫「っと、講師が来た。ほら六花、早く準備しろよ」

 

六花「ううぅ……」フラフラ

 

 

八幡(マジか……)ガクッ

 

 

 

     ▽

 

 

 

講師「で、ここの文法は……であるからして……ここの名詞にかかってくるわけで……」

 

 

――カリカリカリカリカリカリ……

 

 

丹生谷(……まさかアイツもこの講習受けてたとはね。丁度いいわ、講義が終わった後に……後に……どうしよう……どう切り出そう……)コソコソ…

 

川崎(何こいつ、何でノート立てて顔隠してんの……? 勉強する気無いならこんなとこ来るんじゃ無いよ、腹立つね……。あ、比企谷……やっぱアイツも講習受けてたんだ……)ソワソワ…

 

丹生谷(何この人、何で講義中に手鏡取り出してんの? なんか不良っぽいし……講義中に髪なんか気にしてんじゃないわよ、やる気ないなら来なきゃいいのに)

 

川崎(どうしよう、いやどうもしないけど。アイツが居ようと関係ないし……。あ、でもこないだのけーちゃんの写真、よく撮れてたからアイツに見せてやっても……。いや何で見せてやる必要があんのよ意味分かんないっての、あ、でも一応アイツが企画してたイベントなわけだし……)ソワソワソワソワ…

 

丹生谷(ってこんな不良のこと気にしてる場合じゃなかったわ。それよりマビノギオンよ、アイツから取り戻さないと……。いっそ尾行してアイツの部屋にこっそり……いや、さすがに犯罪よねそれは……)

 

 

丹生谷・川崎((ど……どうしよう……))コソコソ、ソワソワ…

 

 

 

     ▽

 

 

 

――キーンコーンカーンコーン…

 

 

講師「では、今日の講義はこれまでとします」

 

 

丹生谷(ええい……ッ)ダッ!!

 

川崎(当たって砕けろ……ッ)ダダッ!!

 

 

――ガツッ!!

 

 

丹生谷・川崎「「痛ったぁ!?」」

 

 

丹生谷「ちょ、アンタ何ぶつかって来てんのよ……!」

 

川崎「ハァ!? いきなり割り込んできたのはそっちでしょ……!」

 

丹生谷「ハ?」ヤンノカ?

 

川崎「ア゙?」ヤッタルヨッ

 

 

 

八幡(さて、と……。本屋でも寄ってくかな)ガタ

 

六花「あ」

 

八幡「ん?」

 

六花「…………ほわぁああう! のの、ノスフェラトゥ・キング!?」ガタタタ!

 

富樫「あ、昨日の」

 

六花「い、一体いつからそこに!?」

 

八幡「いや……アンタらが来る前からここに座ってたんだが……」

 

富樫・六花「「え゙?」」

 

 

八幡「…………」

 

富樫「…………」

 

六花「…………ちょっとタイム」スッ

 

八幡「はい?」

 

 

六花「…………勇太気付いてた?」コソコソ

 

富樫「いや、全く…………て言うか隣、人居たっけ……?」ボソボソ

 

六花「分からない。全く気配を感じなかった……」コソコソ

 

富樫「だよな……」ボソボソ

 

六花「でも、正直に『全く気付いてませんでした』と告げるのはとても残酷な事だと思うので、ここは中二的なネタで誤魔化そうと思う……」コソコソ

 

富樫「六花……お前も人並みに他人のことが気遣えるようになったんだな……」ホロリ…

 

 

八幡(……悪意が刃物だとしたら、優しさって鈍器だよね。致命傷になりにくいけど刺されるより超痛いの)トオイメ…

 

 

六花「さて……。フッ、流石は不死者の王! 存在定義を滲ませこの邪王真眼の目を欺くとは――」

 

八幡「いや、さっきの会話聞こえてたから。もう良いから」

 

六花「……そ、そうですか」

 

富樫「なんか、スマン……」

 

八幡「別に気にしてない。それじゃ、俺もう帰るから」

 

六花「あ、はい……」

 

富樫「さようなら……」

 

 

八幡「……」スタスタスタスタ…

 

 

富樫「…………変わった人だな」

 

六花「うん、超キャラ立ってる。マジ孤高キャラ」

 

 

 

     ▽

 

 

 

丹生谷「……」ガンクレ

 

川崎「……」メンチキリ

 

 

講師「君たち。もう教室閉めますよ?」

 

丹生谷・川崎「「へ……!?」」

 

 

 

     ▽

 

 

 

丹生谷(くっ……変なのに絡まれて時間無駄にしたわ……。て言うかあの女ずっと後ろ付いてきてるけど、偶然? まさか闇討ちしてきたりしないわよね……)チラッ…チラッ…

 

 

川崎「…………」スタスタスタスタ…

 

 

丹生谷(マビノギオン、どうしよ……。まぁ、次の講義の時に話すれば――)

 

――ウィーン

 

八幡(特に買いたい新刊も無かったな……。まぁいい、帰るか)

 

丹生谷「あ」

 

八幡「ん?」

 

丹生谷「……」

 

八幡「……よぉ」

 

丹生谷「ええ……」

 

八幡「…………じゃ」クルッ

 

丹生谷「ってオイ!」

 

八幡「なんだよ……?」

 

丹生谷「ナチュラルに帰ろうとすんじゃ無いわよッ」

 

八幡「いやだって、別に用とか無いだろ」

 

丹生谷「よ、用ならあるわよ……」

 

八幡「どんな?」

 

丹生谷「えっとその……」

 

八幡「……」

 

丹生谷「…………き、今日、アンタん家、行っていい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川崎「…………え?」

 

 

川崎「いや、えっと………………え?」

 

 

 

 



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第四話

 

 

八幡「あ、マビノギオン校正しといたから」

 

モリサマー「……は?」

 

 

八幡「このビッシリ張ってる付箋の箇所全部な」

 

モリサマー「え? これ全部?」

 

八幡「全部だ。まぁ誤字脱字多すぎだな。後ら抜き言葉ばっかで厳格さ皆無。マジ聖典(笑)」

 

モリサマー「」イラッ

 

八幡「それから、名詞に英語やらフランス語やらイタリア語やらが入り混じってて統一感皆無なんだけど? こういうの書くならもうちょっと世界観を大事にしてくんない? モリサマーってどこの国の人? ねぇ何人なのモリサマー?」

 

モリサマー「そ、それは……私が転生を繰り返しているからで……」イライラ

 

八幡「ほーん、そうなんだー、そんな話、巻末に付いてるお前の生涯年表には全然書かれてなかったけどなー」

 

モリサマー「ぐぎ……ぐぎぎぎぎぎ……」イライライライラ

 

八幡「ま、それ全部直したところで、結局お前のマル文字で全部台無しなんだけどな」キパッ

 

 

――ブチッ

 

 

モリサマー「細かいことイチイチ五月蝿いのよこの腐れ目が!!」ドゴォ!!

 

八幡「ガハァッ!?」

 

 

モリサマー「くそう! くそう!!」ダッ

 

 

八幡「き……きるみぃ……べいべぇー……」ガクッ

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

――ガサガサゴソゴソ…

 

 

八幡「ったく、いきなり家に来たいとか、何かと思えば……まぁ気持ちはわからんでもないが。黒歴史を他人に握られてるとか、リベンジポルノ並みの恐怖だわな」

 

八幡「いらんモンは適当に押入れに放り込んでたはずだし、多分この辺に……お、コレか?」

 

 

 

 

 

八幡「おーい、見つかったぞー……」エッチラオッチラ

 

丹生谷「ちょっと、遅いわ……よ?」

 

八幡「よっこいせと」ドンッ

 

丹生谷「……え? このダンボールの中、全部……?」

 

八幡「ああ。だってお前、書き直すたびに押し付けてきてたろ」

 

丹生谷「わ、私は……なんて愚かなことを……ッ」ギリギリギリギリ

 

八幡(わー、下唇噛み締めて悔いてるわぁー)

 

 

八幡「しっかしよく書いたよなホント。これとか14版って書かれてるし。まぁ、俺が嫌がらせに校正しまくってたせいなんだろうけど」

 

丹生谷「ぐっ……やっぱアレ、嫌がらせだったのね……」

 

八幡「当たり前でしょうよ。他のなんだと思ってたの?」

 

丹生谷「うぐぐ……(反応が貰えるだけで無条件に喜んでた過去の自分を呪い殺してやりたい……)」

 

 

八幡「で? コレ持って帰んの?」

 

丹生谷「あ、当たり前でしょッ。置いとける訳ないじゃない……」

 

八幡「ふ~ん」

 

丹生谷「意地でも持って帰るわよ……ふぎぎぎぎぎ……ッ」プルプルプルプル

 

八幡(……いや、無理だろ)ハァ…

 

 

丹生谷「くはぁ! ゼーハー……ゼーハー……」

 

八幡「……お前ん家どこ?」

 

丹生谷「え?」

 

八幡「こっから歩いていける距離なわけ?」

 

丹生谷「だ……大体、歩いて30分ぐらいだけど……」

 

八幡「嫌なラインついてくるな……」

 

丹生谷「ハァ? なによそれ」

 

八幡「行こうと思えるギリギリの距離だってことだ……。自転車の荷台に載せれば運べるだろ。取ってくるから少し待ってろ」

 

丹生谷「あ、うん……」

 

 

 

     ▽

 

 

 

八幡「……」テクテクテクテク…

 

丹生谷「……(き、気まずい……)」テクテクテクテク…

 

八幡(……さみぃ。手袋してくりゃよかった)テクテクテクテク…

 

丹生谷(私、コイツとどういう会話してたっけ……? ああ、そうだ、いっつもモリサマーモードで会話してたんだ……)テクテクテクテク…

 

 

八幡(……ん? あれは……)

 

丹生谷(……あれ、あの前から来てる奴って)

 

 

??「……だから友達が…………後輩の…………」

 

??「……こっちも……うちの先輩の…………に連絡をとって……って、あ!」

 

 

八幡・丹生谷「「一色?」」

 

 

八幡「うん?」

 

丹生谷「へ?」

 

一色A「んへ?」

 

一色B「おう?」

 

 

八幡「……なに、お前ら知り合いだったの?」

 

丹生谷「あんたこそ、どこで知り合ったのよ?」

 

八幡「いや、単なる後輩だが」

 

丹生谷「は、後輩ってなんの? バイトか何か?」

 

八幡「何もクソも、普通に学校の――」

 

一色A「あー、先輩、先輩」クイクイ

 

八幡「なんだよ? つーか袖抓むな。あざと過ぎて警戒心しかわかん」

 

丹生谷(先輩?)

 

一色A「相変わらず失礼な……。まぁ、それはそれとしてですね。こちら、頭が残念な従兄弟の一色誠です」

 

一色誠「ども」

 

八幡「は?」

 

誠「で、丹生谷。こっちが腹が黒い従姉妹の一色いろはだ」

 

丹生谷「いとこ?」

 

一色いろは「はじめましてぇー。……マコトは後で髪を剃る」

 

誠「お前が先に言ったんじゃん!?」

 

 

八幡「あー……何だそう言うことか。無駄に混乱したわ」ポリポリ

 

いろは「それで先輩。そちらの方の紹介がまだなんですけど?」

 

八幡「え? お前の従兄弟に聞けば良いじゃん」

 

いろは「先輩とどういう関係なのかってのが、気になるところなんじゃないですかー! 在り得ないことは重々承知しつつもまぁ一応礼儀として聞いておきますけど、彼女ですか?」

 

八幡「お前の『礼儀』の定義ってどうなってんの?」

 

いろは「ああ、そうですね。冗談でも先輩の彼女とか言っちゃうのは、相手の人に失礼すぎますよね。礼儀を欠いてました」

 

八幡「俺帰るわ」クルッ

 

いろは「ああー! 冗談、冗談ですからー!」グイグイグイ

 

 

 

丹生谷「…………」

 

誠「へぇ、珍しいな」

 

丹生谷「何が?」

 

誠「いや、いろはが本性さらけ出してるからさ。アイツ、相手が男だと大抵猫かぶって良いように扱おうとするんだよ」

 

丹生谷「へぇ……」

 

誠「…………な、なんか、怒ってね?」

 

丹生谷「私が? 何に対して?」

 

誠「い、いや、違うんならいいんだが! ……ちなみに、どういったご関係で?」

 

丹生谷「中学時代の知り合いよ。単なるね」

 

 

 

いろは「待ってくださいってば! ちょうど先輩に話があったんですよー!」

 

八幡「尚更帰りたくなったんだが」

 

いろは「まぁまぁそう言わずに。ホントヤバくてですねぇ……まぁ実際にヤバイのは、私じゃなくて私達の祖父なんですけど」

 

八幡「そうか……お見舞いにはこまめに行ってやれよ?」

 

いろは「いやそういう意味のヤバイではなく。ていうか先輩もちょっと関わりがある事なんですからね」

 

八幡「あん? 俺が?」

 

誠「そうそう、丹生谷にも聞いて欲しいんだよこの話」

 

丹生谷「私も?」

 

 

いろは「え~、何から話したもんですかね……。取り敢えず、うちの祖父って今町内会の会長やってるんですけど」

 

八幡「へー」

 

いろは「まじめに聞く気皆無ですね……。まぁ、その関係で町内のお祭りの運営とかにも携わってるんですけど……ほら、冬にもこの辺りでやってるじゃないですか」

 

丹生谷「2月ぐらいにやってるあれ?」

 

八幡「ああ、あのしょぼいヤツな。つーかなんでんな時期に祭り開いてんのか、前から疑問だったんだけど」

 

誠「あーそれはなんか、近くの神社に由来した風習とかで、昔から行われてたらしい。詳しくは知らんけど」

 

いろは「で、そのまぁ、ショッボイ祭りをですね。何を思ったかもっと盛り上げていこうって、祖父が変なやる気を出しちゃいまして。幸いと言っていいのかどうか、予算を出してくれるスポンサーを見つけてきちゃったんですよ」

 

八幡「良いことじゃねぇか。つーか、そんな話を俺に聞かせてどうしろと?」

 

いろは「いや、ここからが問題でして」

 

誠「爺ちゃんが話をつけてきたスポンサーってのは、二つあってな。どっちも、この地元の名士の家なんだが……。実はこの両家、えっらい仲の悪い犬猿の間柄だったらしんだわ。祭りの会議の時とか、両家の代理人がぶつかり合って、さながら代理戦争みたいな感じらしい」

 

 

八幡「いやだから――」

 

丹生谷「そんなの私達に聞かされても――」

 

 

いろは「で、そのスポンサーの片方ていうのが、先輩もよく知る雪ノ下家で」

 

八幡「……は?」

 

誠「もう片方が、丹生谷がよくつるんでる後輩の家、凸守家だ」

 

丹生谷「……へ?」

 

 

 

 

八幡・丹生谷「「……はぁああああ!?」」

 

 

 

 




え? サキサキ?
あぁ、そうだね……。悲しい事件だったね……(アニメ二期を見ながら)



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第五話

 

 

モリサマー「書きなおしてきたわよ!」ドンッ

 

八幡「え、もう? ……いくらなんでも早すぎませんかね?」

 

モリサマー「さぁ読みなさい今読みなさいすぐ読みなさいハリーハリーハリーハリー!」

 

八幡「おいキャラが崩れてるぞモリサマー」

 

モリサマー「そんなことはどうでも良いのよ!」

 

八幡「あーはいはい。読めばいいんだろ。まぁ今日はパンだし、食いながらでも読めるか……」ペラッ

 

モリサマー「ふ……ふふふふ……さ、さいこうに、ハイってやつだわ……」フラフラ…

 

八幡「お前、目の隈が凄いことになってんだけど……。昨日寝てんの?」

 

モリサマー「ふ、ふふふ……降りてきたのよ……。昨日の夜、精霊が確かに私の元に……。こ、根源に触れたわ……精霊の言葉、世の理、あふれる囁きの泉を書き留めるため、私はひたすらペンを走らせ続けたわ……」

 

八幡(あ、コイツ相当末期だわ)ペラ…、モグモグ…

 

モリサマー「ほら、今も精霊が私のそばを飛んでいる……、うふふふ……」コックリ、コックリ…

 

八幡「それは多分、見ちゃいけない類のものだと思うぞ」

 

モリサマー「聞こえます……あなたの囁きが……森の声が……そう、ジャムを作るのね……材料は冬虫夏草とマンドラゴラ……ラフレシアの花弁も隠し味に一欠……コトコト煮詰めて、象牙の小瓶に詰めましょう……」

 

八幡「おーい……帰ってこーい……」

 

モリサマー「お味はいかが……? かゆ……うま……」パタッ

 

八幡「……おい? モリサマー?」

 

モリサマー「……」

 

八幡「マジで寝てるの? 風邪引くぞおい」ユサユサ

 

モリサマー「……」スースー…

 

八幡「はぁ……めんどくせぇなぁ……」

 

 

 

 

――キーンコーンカーンコーン…

 

モリサマー「ぅ……ぅん……うん?」パチ

 

モリサマー「あれ? 私……寝てた……? この上着、アイツのかしら……」ムク

 

 

――ペラッ

 

 

モリサマー「あ。……なにこれ、メモ?」

 

 

[ まだ読んでいる途中ですが、少し気になったので書かせてもらいます。率直に言うと、こういう魔導書っポイものを書くのにシャーペンを使うのは如何なものでしょうか。インクを使うちゃんとしたペンを使って書くと、よりソレっぽさが増すのではないかと思います。ぶっちゃけ、今のままだと小学生の落書き感満載です。  比企谷八幡 ]

 

 

――ドサッ

 

モリサマー「先に……先に言っときなさいよぅ……! くそう……くそぉう……!!」シクシクシクシク…

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

結衣「あ、ヒッキー!」ブンブン!

 

八幡「おー……」テクテクテク

 

雪乃「やっと来たわね」

 

八幡「別に遅れちゃいねぇだろ」

 

いろは「そうですねー。嫌味なぐらいに時間ピッタリですねー。まぁ取り敢えず行きましょうか。従兄弟達の方は、直接公民館に向かってると思いますんで」

 

 

 

――スタスタスタスタ…

 

 

結衣「こうして会うの、クリスマスパーティー以来だよね」

 

八幡「ああ、あのカラオケでやった打ち上げな」

 

雪乃「そうね、打ち上げね」

 

いろは「え? うちあげ?」

 

結衣「クリパだよ!? プレゼント交換とかしたじゃん!」ガーンッ

 

八幡「いや、そのプレゼント交換が一番グダグダだったじゃねぇか。後は適当にクリスマスソング歌ってたくらいで――」

 

いろは「あのー、せんぱい……」クイクイ

 

八幡「あん?」

 

いろは「打ち上げってなんですか?」

 

八幡「ああ、なんか由比ヶ浜がやりたいっつうから。25日に適当に集まってしたんだよ」

 

いろは「私、呼ばれてないんですけど」

 

八幡「え?」

 

結衣「」サッ

 

雪乃「」ササッ

 

 

八幡(こ、こいつら一瞬で目をそらして距離を取りやがった……)

 

 

いろは「打ち上げってアレですよね? クリスマスイベントの打ち上げってことですよね?」

 

八幡「……いや、違うよ? クリスマスパーティーだよ? 奉仕部で前からやろうって約束してたんだよ?」

 

いろは「さっきと言ってること違うじゃないですかー!」

 

八幡「うるせぇな、どうせお前だって生徒会の奴らと打ち上げぐらいしただろ」

 

いろは「してないですよ! あの後も何だかんだで残務処理とか大変だったんですよ!? 報告書とかも上げないといけなかったし、終わったらそのまま冬休み突入でしたから、せいぜい書記の子とマック寄ったくらいで……」

 

八幡「ああ、あのお下げの子な。打ち解けられてよかったじゃねぇか」

 

いろは「あ、はい、それはまぁ……ってそうじゃなくて!」ウガー!

 

 

雪乃「遅れてもいけないから公民館へ急ぎましょうか」スタスタ

 

結衣「うん、そうだね。あ、ゆきのんそっちじゃないよ! 左左!」スタスタスタ

 

 

八幡「あ、ほらアイツら行っちまうし。俺らも急がねーとなー」スタスタスタスタ

 

いろは「ううー! 後で絶対話し聞かせてもらいますからね!」スタスタスタスタ

 

八幡「マジレスすると、お前を誘うという発想が欠片も無かった」

 

いろは「酷い!?」

 

 

 

     ▽

 

 

 

 公民館に着くと、丹生谷達のグループは既に全員が揃っているようだった。

 

 丹生谷と魔法魔王なんたら、それから例のバカップルに、黒髪のおっとりした少女(どことなくめぐり先輩を彷彿とさせる)。最後に一色の従兄弟だ。結構な大所帯である。

 

 まぁ半分以上が名前も知らない連中なので、仲介は一色に任せよう。というか任せるまでもなく、従兄妹同士話を進めているようだが。

 

 

丹生谷「……」

 

 

 ふとそこで、丹生谷から、なにか物言いたげな視線が向けられていることに気づいた。

 

 こちらも、視線だけで「なんだよ?」問い返すと、丹生谷はふいっと一瞬だけ雪ノ下と由比ヶ浜を見やる。

 

 あん、こいつら? 別に単なる部活仲間だよ。なぁにその訝しげな目は? 俺が部活に入ってることがそんなにオカシイの? いやうん、そうだね、オカシイね。心配するな、自覚はある。

 

 なんだよそのジト目は。言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ。いや、俺ら会話は全くしてないけど。

 

 

いろは「すいませーん、なんかもうスグに会議始まるみたいなんで、取り敢えず移動してもらっていいですかー?」

 

 

 と、一色の上げた声に、俺達は揃って目を逸らした。

 

 

誠「お互いの自己紹介なんかは、また後でってことで」

 

 

 え、自己紹介とかすんの? それ必要? どうしよう無性に帰りたくなってきたんだけど。

 

 

結衣「ほらヒッキー何やってるの。皆行っちゃうよ」

 

雪乃「そっちは出口よ。目が腐りすぎて、自分が向いている方角も分からなくなったのかしらこの男は」

 

八幡「おい雪ノ下、それ盛大な自爆だってことに気づいてるか?」

 

いろは「はいはい、どうでも良いからさっさと行きますよー」グイグイ

 

八幡「おいやめろ背中を押すな。俺はずっと引かれ続けてきた男だから、押されるのには慣れてねぇんだよ。そして結婚相手も経済的に引っ張ってくれる女性を希望する」

 

雪乃「では馬に繋いで市中を引き摺り回しましょうか」

 

八幡「拷問ですよねそれ?」

 

雪乃「あら凄いわね貴方。一昼夜引き摺られて生きていられる自信があるなんて」

 

八幡「処刑かよ……ッ」

 

 

 抵抗虚しく公民館内へ連行される最中、振り返った丹生谷とまた一瞬だけ目が合った。

 

 

 

     ▽

 

 

 

 連行された先の二階会議室では、すでに多くに人々が会議の始まりを待っているようだった。

 

 ぐるりと部屋を囲むように四角く並べられた長机は、その殆どが席を埋められている。

 

 ただ、その表情は一様に重く、陰鬱に沈んでいた。中には頭を抱えて机に突っ伏している人間さえいる。

 

 件の主役――あるいはラスボス――の二人は、まだ顔を見せていないらしい。

 

 

いろは「え~っと私達一応見学って名目なんで、パイプ椅子適当に使って、壁際に座っててもらえますか?」

 

誠「俺ら、じーちゃんと話してくっから」

 

 

 そう言って、二人は例の頭を抱えている老人の元へと歩いて行った。

 

 ってアレがじーちゃんかよ。いかん、なんか思ってた以上に末期的だな。

 

 

勇太「なんか……空気重いな……」

 

六花「マナが淀んでいて非常に危険。このままでは不可視境界線の歪みが発生し、異界へのチャンネルが開かれる可能性も……」

 

結衣「ふか、麩菓子……?」

 

八幡「気にすんな。アレは材木座の戯言と同種のもんだ」

 

結衣「中二と? どゆこと?」

 

八幡「いいからほれ。さっさと座ろうぜ」

 

 

 隅っこに置かれていたパイプ椅子を手渡し、隔離するように由比ヶ浜を追いやる。

 

 下手に触れると色々と飛び火しちゃうからね。ああいう手合は距離を取るのが一番だ。

 

 ほら雪ノ下を見習いなさい。いつの間にか椅子に座って、完璧に我関せずモードでATフィールド全開だよ。アレもある意味中二的だけどね!

 

 そういやアイツ、世界を変えるとか言ったことあったよな。あれ? 考えてみると雪ノ下も結構高レベルの――

 

 

雪乃「何か今、途方も無い侮辱を受けたような気がしたのだけど」

 

八幡「……ぃ、いきなり何言い出してんの?」

 

雪乃「……気のせいかしら? まあいいわ」

 

 

 っぶねー! やべぇちょっとドモりかけたし! 出てなかったよな? 顔に出てなかったよな?

 

 つーかホントなんなのコイツ。勘がいいってレベルじゃねぇだろ。

 

 中二病なんて普通格好だけでしょ。中身まで伴わせるんじゃないよ全く。

 

 二人並んで座る雪ノ下と由比ヶ浜から少しだけ距離を置いて、パイプ椅子に腰を下ろす。

 

 そのさらに左側に、これまた微妙な距離をおいて丹生谷が座った。

 

 

八幡「そういやお前、この件知ってたの?」

 

雪乃「知らないわ。姉さんとはこの所会話もしていないし、母は必要なこと以外私に話さないもの」

 

結衣「じゃあ、お父さんは?」

 

雪乃「凸守家が関わっているのなら、父はノータッチよ。ずっと出張に出ていると聞いていたけど、おそらくこれが理由で逃げていたのでしょうね」

 

八幡「は? それってどういう――」

 

 

――バンッ、と。唐突に会議室の扉が開かれた。

 

 悠然とした足取りで入室してくる二人の女性の姿を見た瞬間、どういう訳か俺の脳内で“パーパーパン!!”とキル・ビルのテーマ曲が流れだした。

 

 いや、うん、後ろにつき従う黒服さん達のせいだと思うけどね。

 

 どっちかっつーとアレだな。『新・仁義なき戦い』のテーマ曲と言ったほうがベターだな。雰囲気マジ極道。

 

 会議室に入ってきた二人は、それぞれ示し合わせたかのようにザッと左右に別れ、淀みなく足を進める。

 

 その内の一人は、言わずもながな雪ノ下陽乃。女子大生然としたカジュアルな服装ながらも、その内から溢れだす圧倒的なオーラは隠しようもない。いや、普段はそれなりに抑えて親しみやすさを演出しているが、今は隠す気がないのだろう。

 

 ただ、さすがに俺たちがこの場にいるのは予想外だったのだろう。こちらを見た瞬間、僅かに眉を上げていた。

 

 そしてもう一人は――

 

 

八幡「ッてオイ。誰だよあれ」

 

 

 予想していたものとは余りにもかけ離れたその姿に、俺は思わず丹生谷を問い質していた。

 

 

丹生谷「誰も何も、アンタが親父ギャグ呼ばわりしたデコッパチと同一人物よ」

 

八幡「いやいや、どう考えても別人だろおい。雰囲気欠片も残ってねえじゃん……」

 

 

 膝まで届くような長い金髪を真っ直ぐに下ろし、憂いを帯びた瞳を細めて歩くその様は、駅で出会ったハンマーツインテールとは似ても似つかない。

 

 細く小柄な体型と、それを包み込む淡い色合いのワンピースが相まった姿は、まさに深窓の令嬢そのもので、雪ノ下姉妹以上のお嬢様オーラを醸し出している。

 

 

丹生谷「まぁ、信じられない気持は良くわかるけどね。間違いなく本人よ……」

 

八幡「マジかよ……。ああそうだ雪ノ下、お前もアレと面識――おい、どうしたその首」

 

 

 振り返った先で。

 

 雪ノ下と由比ヶ浜が、首をクキッと全く同じ角度に傾け、呆けたような顔を向けていた。

 

 

雪乃「どうしたというか……ええそうね、どうした事態なのかしらねこれは」

 

八幡「いや、本気で意味がわからんのだが」

 

結衣「えっとねヒッキー……その人と知り合いなの……?」

 

八幡「丹生谷とか? 中学の同級生だけど。言ってなかったか?」

 

雪乃「聞いてないわね。早苗さんの友人が来るとしか……」

 

八幡「まぁ、俺と丹生谷の関係なんてどうでもいい事だろ。大したこっちゃないし」

 

丹生谷「ッ……自分で言っといてなんだけど……。アンタにその名前で呼ばれると、違和感がすごいわね……」

 

八幡「元に戻すか? モリサマー」

 

丹生谷「やめなさい呪うわよ」

 

 

 ふえぇ、目がマジだよぉ……。ていうか、中二卒業しきれてないだろコイツ。

 

 

結衣「もりさまぁ?」

 

八幡「あー、アレだ……アダ名みたいなもんだ。コイツ、下の名前が森に夏ッて書いて“シンカ”だから」

 

結衣「ひ、ヒッキーが、アダ名で呼ぶような仲……」

 

 

 いや、ただ単に本名知らなかっただけなんだけどね。

 

 

一色祖父「あーえー……それではその、人も揃ったことですしー……会議を始めたいと思いますが……構いませんかね?」

 

陽乃「ええ、もちろん」フッ

 

真・凸守「今日も、よろしくお願いしますね」ニコッ

 

 

 一色の祖父の言葉により、会議が始まろうとする中。雪ノ下と由比ヶ浜は、未だ首を傾けたまま固まっていた。

 

 ていうかそれ、疲れないの?

 

 

 



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第六話

土曜日なのでもう一話オマケで更新。
今回は冒頭の中学編はありません。


 

 

一色祖父「えー、現状決まっていることを今一度まとめたいと思います……。去年までは神社周辺でのみ行っていた出店の通りを、範囲を伸ばして稲毛北小学校まで繋げます。そして小学校の校庭を利用し、えー、大規模なイベントを行いたいと思っているんですがー……。えー、そのイベントの案が現状二つ出ておりまして……1つが雪ノ下さんが提案している……そのまぁ……『SAS○KE』です」

 

 

 ……え? なんだって?

 

 

 聞き間違いかと思い左右を見回してみると、由比ヶ浜や丹生谷達も揃って目を点にして固まっていた。

 

 唯一、雪ノ下だけが頭痛をこらえるようにこめかみを抑えている。

 

 どうやら聞き間違いではないらしい。

 

 雪ノ下さん――ややこしいな。陽乃さんでいいや――はさぞかしドヤ顔を浮かべているのだろうと顔を向け……あれ? なんか黄昏れてる?

 

 そんな表情も一瞬のこと。いつもの強化外骨格笑顔を張り付かせて、陽乃さんはおもむろに立ち上がった。

 

 

陽乃「初耳の方もいらっしゃるかと思いますので、詳しくは私から。SAS○KEとは勿論、T○Sのスペシャル番組などで放映されているあのSAS○KEです。それを学校の校庭内に設営します」

 

 

 ……ちょっと何言ってるのかわからないですね。

 

 

陽乃「そんな事が出来るのかと疑問に思う方もいらっしゃるでしょうが、テレビで放映されているSAS○KEのセットは、もともと私ども雪ノ下建設がテレビ局からの依頼を受け製造した物になります。各パーツの保管、放送当日の組み立て作業等も、すべて弊社及び弊社の下請け業者に一任されていますので、それを借りることが可能です」

 

 

 

八幡「……マジで?」

 

雪乃「事実よ。うちのアミューズメント事業部が請け負っているわ」

 

結衣「ゆきのんのお家って、ホントに凄いんだね……」

 

雪乃「金額的には、そう大した案件でもないのだけれどね……」

 

 

 確かにそうなのかもしれないが、俺のような庶民の感覚からしてみれば、テレビ局と繋がりを持っているというだけでかなりのインパクトだ。

 

 というかコレ、町内祭りの企画だよね? 毎年神社の周りに申し訳程度に出店が並んで、ショボイ花火が十数発ほど上がるあの祭りだよね? どんだけー。

 

 

 

陽乃「既にテレビ局には話を通し、セットの使用許可も頂いています。設営については全てこちらで行いますので、金額面についても何も問題はありません。テレビで行われているアトラクションに実際に挑戦できるとなれば、かなりの反響を期待できるでしょう」

 

 

 誰も、何も反応を示さない。それも仕方のない事だろう。

 

 企画のスケールがでかすぎて、どう反応を示せばいいのかも解らない状態だ。

 

 しかしその中で唯一、小さな手が上がった。

 

 

凸守「少し、よろしいですか?」

 

陽乃「どうぞ?」

 

 

 言葉を受け、もう一人の主役が立ち上がった。

 

 周りから視線を向ける大人たちに対して上品に会釈を返し、ニッコリと口を開く。

 

 

凸守「安全面の問題については、どうお考えなのでしょう? テレビではコースから落ちた際には水に落ちるため、そこまでは危険はないでしょうが、まさか校庭を掘り起こすわけにもいかないでしょう。それにテレビで見る限り、あの障害物はかなり難易度の高いものに思えます。町内の方々が挑んだところで、攻略できるものでしょうか? 挑戦者の大半がろくに進めないとなっては、いくら人を呼び込めたとしても拍子抜けのイベントとなってしまいかねません」

 

陽乃「勿論その辺りも考慮しています。もともと校庭の広さでは、テレビと同じ規模のアトラクションは設営できません。ですので、難易度が高いものは省き、安全上でも問題の無い障害物をピックアップして、テレビとは違うオリジナルのコースを作り上げます」

 

凸守「口だけでそう申されましても、どこまで信じて良いものか疑わしのですが」

 

陽乃「そうですね、もっともな意見です。ですので、具体的な設営案を資料として用意しました。……皆さんにお配りして頂戴」

 

 

 言葉を受け、背後に控えていた黒服の二人が、鞄から取り出した資料を参加者に配っていく。

 

 こっちにも回してくれねーかなーと思っていたら、黒服が前を通りかかったところで、雪ノ下が声をかけた。

 

 

雪乃「資料が余っているようなら、こちらにも貰えるかしら?」

 

黒服「む……っと、ゆ、雪乃様?」

 

 

 気付いていなかったのだろう。黒服は面食らった表情で、慌てて残っていた資料を持ってきた。

 

 回ってきた資料を見ればなるほど、クリフハンガーなんかの高い腕力を要求する障害物はほとんど排除されている。コレなら運動神経がそこそこ有れば、運次第でそれなりに進めるだろう。

 

 安全面でも、下にマットを敷き詰める他、アトラクションの上にワイヤーを張り、挑戦者に命綱をつけることで対処する案が提示されている。

 

 問題らしい問題は見当たらないな、と思っていたのだが――

 

 

凸守「……しょっぱ」

 

 

 ボソッと凸守家令嬢が漏らした言葉に、会議室内が凍りついた。

 

 

陽乃「……なにか?」

 

 

 表面上はニッコリと、陽乃さんが問い返す。

 

 

凸守「失礼、思わず……。しかし、半分近いアトラクションが削除されているのですね」

 

陽乃「校庭の規模を考えれば、妥当なところだと思いますけど」

 

凸守「ええ、そうですね。ただSAS○KEの名を聞いて訪れたお客さんにとっては、少々拍子抜けといいますか……。SAS○KEの名前を大々的に広告で打ち出しては、名前負けしそうだなと思ったものですから」

 

陽乃「書面で見ればそう思われるかもしれませんが、実際のアトラクションが校庭に設営されているものを見れば、かなりのインパクトを受けると思いますよ?」

 

凸守「そうですか? だと良いのですけど」

 

陽乃「ええ、私が保証しますよ」

 

 

 ウフフ、ウフフフフ……と、二人の穏やかでいてひたすら薄ら寒い笑い声が、しばらく会議室内に響き渡る。

 

 はい、皆さんドン引きのご様子です。

 

 

 

八幡「なぁ、アイツほんとに駅で会ったデコッパチなんだよな……?」

 

丹生谷「しつこいわね、何度もそう言ってるでしょうが」

 

八幡「だってお前……あの雪ノ下姉と真っ向から対等にやりあってんだぞ? 信じられるわけねぇだろ……」

 

雪乃「早苗さんは、少なくとも学力面では私や姉さんと同等の筈よ」

 

八幡「……ホントかよ」

 

丹生谷「学年でもダントツの成績ってのは聞いてるわね……」

 

雪乃「それに凸守家の一人娘ですもの。それなりに仕込まれているのは当然でしょう」

 

丹生谷「普段は、単なる中二バカだってのに……頭痛いわ……」

 

結衣「中二……ねぇヒッキー。さっきも中二とおんなじとか言ってたけど、どういうこと?」

 

八幡「そのまんまの意味だよ。材木座みたいに変なキャラ作ってる痛い子ってことだ。駅で会った時は、実際にそうだった」

 

雪乃「私としては、そちらの方が信じられないのだけど……。全く想像がつかないわ」

 

八幡「面識あんの?」

 

雪乃「社交界で何度か……」

 

 

 なるほど。最低限のTPOは弁えてるって事か。

 

 

 

一色祖父「え、えー……さ、先に進んでも……よろしいですか?」

 

陽乃「ええどうぞ?」

 

一色祖父「で、では、もう一つのイベント案を……。こちらは凸守さんの提案で……着ぐるみイベントを行うというものですが」

 

 

 あ、コッチは割とまとも――

 

 

一色祖父「メインは、50匹のピカ○ュウ大行進になっています」

 

 

 こいつら馬鹿なの? 死ぬの?

 

 

雪乃「凸守家は、システム開発を主軸に添えたIT企業よ。系列にはゲーム開発を行っている会社もあるわ」

 

八幡「任○堂の下請けもやってんの……?」

 

雪乃「そうなんでしょうね……」

 

 

凸守「それについては追加でひとつご報告が」

 

一色祖父「はい? な、なんでしょう?」

 

凸守「ふ○っしーさんのオファーが取れました」

 

一色祖父「は?」

 

 

 ピキッと。陽乃さんの強化外骨格がハッキリと引き攣った。

 

 

凸守「ですから、ふ○っしーさんです。オファーを出したところ快く引き受けてくださいまして。お祭り当日のイベントに参加してくださるそうです」

 

陽乃「質問、よろしいですか?」

 

 

 笑顔だけをそのままに、ドス黒いオーラを漂わせながら陽乃さんが立ち上がる。

 

 周りの大人達は、もはや頭を抱えて身を震わせるばかりだ。

 

 代理戦争っつうか、コレもう怪獣大決戦じゃね?

 

 

 

     ▽

 

 

 

 結局、その後も雪ノ下、凸守双方の言い合いに終始し、結論の出ないまま会議は終わった。

 

 つーかあの二人以外、ほとんど発言してないし。完全に萎縮してしまっている状態だ。クリスマスイベントの時とは真逆の意味で、会議の体を成していない。

 

 まぁ俺達の出番はこれからなのだが……コレ、ホントにどうにか出来んの?

 

 

八幡「……どうするよ?」

 

雪乃「取り敢えず、二人と話してみるしか無いでしょう」

 

八幡「はぁ、ラスボスと直接対峙か……。気が進まねぇな……」

 

雪乃「……その認識、改めておいた方が身のためよ?」

 

八幡「は?」

 

陽乃「雪乃ちゃん、ひゃっはろー!」

 

 

 魔王襲来! やだなぁ、このイベントスキップできねぇのかなぁ。どうせ強制敗北イベントでしょコレ?

 

 

陽乃「比企谷くんもガハマちゃんも、久し振りだね」

 

結衣「あ、はい。お久し振りです」

 

八幡「うっす……」

 

 

雪乃「姉さん」

 

陽乃「わかってるよ。隣の小会議室取ってあるから、取り敢えずそっち移ろうか?」

 

 

 小会議室を? いやに準備がいいな。

 

 

八幡「俺らが来ること、知ってたんすか?」

 

陽乃「まさか。いつも会議が終わった後使うから、取ってるだけだよ。早苗ちゃん、いいよね?」

 

凸守「はい」

 

六花「凸守……」

 

凸守「マスター達も、一緒にお願いします……」

 

富樫「ああ。そのつもりだけど」

 

 

 二人に連れられるまま、俺達は隣の部屋に入っていく。

 

 黒服四人を残して扉が閉められた瞬間、陽乃さんはクルッと俺に振り向き――

 

 

陽乃「さて比企谷くん。早速で悪いんだけど、次の会議で持ち前のヒールっぷりを爆発させて、このお祭りを破綻に追いやってくれないかな!」

 

 

 とってもいい笑顔て開口一番そう言った。

 

 

八幡「はい?」

 

凸守「マスター! 助けてくださいマスター! 今こそ邪王真眼の真の力を開放して千葉に終末をもたらすときDEATH!!」

 

六花「で、凸守?」

 

凸守「ダークフレイムマスターでもいいDEATH!! 暗炎竜を召喚して総武線沿いに破壊の限りをつくすDEATH!!」

 

富樫「お、おい! ちょっと、落ち着けって……!」

 

凸守「限界DEATH! もう限界なんDEATH!!」

 

 

 見れば向こうも、さっきまでのお嬢様キャラを投げ捨ててバカップル二人に泣きついている。

 

 何これ、いったいどういうこと?

 

 

陽乃「ていうか早苗ちゃぁ~ん……。なに? ふ○っしーってなに? どゆこと?」ピキピキ

 

凸守「うぅ!」

 

陽乃「言ったよね? こないだ二人で話し合ったよね? とにかくコレ以上規模を広げるのだけは止めようって」

 

凸守「し、仕方ないじゃないですかぁ! お母さんが思いつきで言い出して……コッチだって本気でオファー取る気なかったんですよ! 形だけ依頼を出してすぐ諦めるつもりだったのに、向こうが『ちょうどスケジュール空いてるからいいなっしよー』って凄い乗り気で……」

 

陽乃「そんな事態になったら、こっちにもテコ入れ指示が来るに決まってるでしょ? どうすんの? こっちもケ○ン・コスギとかにオファー出しちゃうよ? タレント招集合戦に発展するよ?」

 

凸守「やめてくださいしんでしまいます」

 

陽乃「先に密約破ったのはそっちでしょ!?」

 

凸守「うわーん! うわぁーーん!!(マジ泣き)」

 

 

 何だこの地獄絵図……。

 

 

雪乃「見なさい比企谷くん。あの姉さんが取り乱しているわ」

 

 

 誰もが戸惑いの表情を浮かべる中、唯一雪ノ下だけが、キラキラとした至福の表情で自身の姉を見つめていた。

 

 その顔は無邪気な少女そのものであり、同時にラピュタの古代兵器を地上にぶっ放して大はしゃぎするムスカのようでもある。どうしよう、こんな嬉しそうな雪ノ下初めて見るんだけど。

 

 

八幡「結局コレは、どういうことなんだ……?」

 

雪乃「姉さんたちは、結局下っ端の尖兵でしか無いということよ。黒幕は母」

 

八幡「えぇー……」

 

 

 何その、バラモスを倒して世界が平和になったと思ったら、実はゾーマがいましたって感じの事実。

 

 陽乃さんが単なる中ボスとかどういうことだよ……。

 

 

雪乃「だから言ったでしょう? 認識を改めておいた方がいいって」

 

結衣「ヒッキー……これ、どうしようか」

 

八幡「俺に聞かないでくれ……」

 

 

 どう足掻いても絶望って、こういう時に使うんだろうなぁ……。

 

 

 



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第七話

 

 

八幡「要は、雪ノ下と凸守、両家の母親が啀み合っているのが原因で、陽乃さん達は巻き込まれているだけだと。そういう訳ですか」

 

陽乃「うん、そーそー。ぶっちゃけ私達が一番の被害者だからー。あ、ここ良いんじゃない、ここ。部屋に専用の露天風呂ついてて、夜はカニだってカニ。カニ貪り食えるよー」

 

凸守「牛も必要DEATH。グラム数千円クラスの牛もないと、この心の傷は癒やせないDEATH」

 

陽乃「だよねー。和牛もいるよねー、ビール飲んで肥え太った牛も貪るべきだよねー」

 

 

 小会議室の片隅で。

 

 陽乃さんと凸守はドンヨリとした瞳でブツブツ言葉をかわしつつ、ひたすら旅行雑誌を眺めていた。

 

 どうやら会議の後に行われる、この現実逃避のための旅行計画だけが、二人の心を辛うじて繋ぎ止めている癒やしであったらしい。

 

 母からの無茶振りを受けるたびに旅行予算は跳ね上がり、もうすぐ七桁に突入しそうだとのこと。

 

 仕事に疲れきったOLかよ。

 

 

富樫「けど凸守のお母さんって、クリスマスの時に一度会ったけど、全然そんな感じじゃなかったぞ? 凄いおっとりした感じの人っていうか……」

 

凸守「確かにウチの母は普段、大抵の事なら『あらあら、まぁまぁ』で済ませてくれます。ですが、雪ノ下の名が関わった場合のみ、その後ろにハイライトが消えた瞳での『ウフフ』笑いが加わるDEATH……」

 

 

 なにそれちょうこわい。

 

 

陽乃「ウチもねぇ……普段は仕事に私情を挟まない、徹底的なまでの効率主義者なんだけど……」

 

 

――Piririririri

 

 唐突に鳴り響いた携帯の音に、二人が揃って方を震わせた。

 

 携帯を取り出し、一方は安堵の吐息を、もう一方は顔を引き攣らせて呻き声を上げる。鳴っているのは、陽乃さんの携帯であるらしかった。

 

 相手は、言わずもがなであろう。

 

 

陽乃「はい、陽乃です……ええ、はい。会議は終わりました……」

 

 

 立ち上がり、部屋の隅に行って俺達から背を向ける陽乃さん。

 

 すると何を思ったか、雪ノ下も立ち上がって陽乃さんに歩み寄っていくと、相変わらずのキラキラ顔で正面に回り、下からその表情を覗きこみだした。

 

 すかさずターンを決める陽乃さん。しかし雪ノ下も負けじと更に回りこむ。

 

 回る。更に回る。しつこく回る。

 

 

結衣「ヒッキー……。ゆきのんが、あんなにはしゃいでるよ……」

 

八幡「十数年分のストレスを開放してんだ……。今はそっとしといてやれ……」

 

丹生谷「何なの? 一体……」

 

凸守「歪んだ姉妹愛DEATH」

 

八幡「確かに。アイツ、何だかんだで姉ちゃん好きだよな」

 

凸守「雪ノ下家の女子は、総じてツンデレDE……ですからね」

 

 

 総じてツンデレ……。なるほど。陽乃さんのアレも、見方によっては超変則的なツンデレなのだろうか。興味深い。

 

 しかし、それはそれとして気になったことが一つ。

 

 

八幡「お前、こないだ言ったことまだ気にしてんの?」

 

凸守「う、うるさいDEATH!!」

 

 

 俺達の会話も余所に。

 

 グルグルグルグルと結局電話中ずっと、「ねぇねぇ、今どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?」とばかりに、雪ノ下は陽乃さんの周囲を回り続けた。

 

 

     ▽

 

 

 結局あの後凸守にもメールが入り、二人は揃って肩を落として帰っていった。

 

 ちなみにこの小会議室は、一応17時まで取っているので、好きに使ってくれていいとの事だった。

 

 チッ、帰る理由を失った……。

 

 

いろは「せんぱーい……。それで、結局コレどうすればいいんですかね? そろそろお爺ちゃんの胃に穴が開きそうなんで、本気でどうにかしたいんですけど……」

 

八幡「あー、そうだな……」

 

 

 チラっと雪ノ下に視線を向けるも、さっきまでの上機嫌さはどこへやら。今は椅子に座り、何かを真剣な様子で考え込んでいる。

 

 なんか初対面の時並に話し掛けづらいんだが、一体何を考えているのか。

 

 仕方ない、取り敢えずコッチで勝手に進めていこう。

 

 

八幡「まぁ、取り敢えずそもそもの原因と、問題点は見えたからな。まずはその辺を――」

 

 

 喋りながらホワイトボードに置かれていたマジックを手にとったところで、ふと思いとどまる。

 

 

八幡「……いや、やっぱお前が進めろ。いい練習だろ」

 

いろは「は?」

 

 

 戸惑う一色にマジックペンを投げ渡し、俺はそそくさと椅子に座った。

 

 

いろは「ち、ちょっと先輩!? 進めろって言われたって!」

 

八幡「俺が全部進めてちゃ、奉仕部の理念に反するだろうが。ほれ、やり方はクリスマスイベントん時に教えたろう。生徒会長なんだから、頑張ってみなさいよ」

 

丹生谷「え゛? 生徒会長?」

 

 

 なんか知らんが、横で丹生谷が愕然とした顔をしていたが、触れると面倒そうなので見なかったことにしよう。

 

 

いろは「うぅー……。じ、じゃあ、進めますけど……」

 

 

 おっかなびっくりといった感じで前に立ち、小会議室に座る面々に了解を得るように視線を向けた一色が、ある一点でピタリと止まった。

 

 

いろは「何で誠もそっちに座ってんの?」

 

誠「へ?」

 

いろは「あんたも依頼主の側でしょおー! こっち! あんたもこっち!」バンバンバン!

 

誠「わ、分かったよ……」

 

いろは「はいペン持って! あんた書記ね!」

 

誠「はいはい……。それは良いんだけどさ……」

 

いろは「なに?」

 

誠「先に、自己紹介しとかね? さすがに名前も知らないまま話し合いって不便だろ」

 

 

 え、そう? 別に困らなくない? クリスマスイベントの時も結局、副会長の名前とか知らないままだったんだけど。

 

 

富樫「ああ、確かにそうだよな」

 

いろは「ふむ、誠のくせに一理ありますね……」

 

結衣「じゃあ、先に名前だけでもやっとこうか」

 

 

 あるぇー? みんな同意してるよ? 俺がおかしいの?

 

 名前なんて、脳内で適当な呼び名勝手につけときゃ事足りると思うんだけどなー。バカップルA・Bとか、黒めぐりん(髪色の事だよ)とか。

 

 

富樫「それじゃあ、俺から。富樫勇太。銀杏学園の二年です」

 

六花「小鳥遊六花。邪王真眼を瞳に宿し不可視境――」

 

富樫「今はそういうのはいいから!」ベシッ

 

六花「あうっ」

 

結衣「あははは…………ホントに中二と一緒だ……」ボソッ

 

 

 そんな俺の疑問を挟む余地もなく、あれよあれよと自己紹介は進んでいった。

 

 ふむ。黒めぐりんは、五月七日くみんさんというらしい。なんか声までめぐり先輩に似ていた。癒やされた。他はまぁ、どうでもいいや。

 

 そうして、俺もまぁ無難に当たり前のようにどもりつつも、なんとか名前を伝えたわけだが……。

 

 

雪乃「……」

 

結衣「ゆきのん?」

 

 

 自分の番になってもまだ、雪ノ下はブツブツと考えに没頭していた。

 

 

八幡「雪ノ下。おい雪ノ下」

 

雪乃「ッ! な、なにかしら? 今忙しいのだけれど」

 

八幡「忙しいって……。お前、さっきから何ブツブツ考えこんでんだよ?」

 

雪乃「決まっているでしょう? 祭りの問題を解決しつつ、如何に姉さんを最大限苦しめ抜くかよ」

 

八幡「どこの星のバカ王子だお前は」

 

 

 お前ホント、キャラ崩壊もいいかげんにしなさいよ?

 

 

雪乃「けどまぁ色々と考えたのだけど……」

 

八幡「けど?」

 

雪乃「…………無理ね」

 

 

 ふっ、と全てを悟りきった遠い瞳で、雪ノ下は自らの髪を撫で上げた。

 

 うん、そうだよな。やっぱお前はどう考えてもクラフト隊長タイプだよ……。

 

 

 



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第八話

中学編再開。


 

 

――Priririri……Priririri……

 

 

八幡「はい……もしもし……?」

 

モリサマー『……きこえますか……きこえますか……不浄王よ……モリサマーです……。今…あなたの…心に…直接…呼びかけていm……』

 

八幡「聞こえません」ブチッ

 

 

――プー、プー、プー…

 

 

八幡「……さて、寝直すか」

 

 

――Priririri!! Priririri!!!

 

 

八幡「…………」

 

 

――Priririri!! Priririr…ピッ

 

 

八幡「なんの用だ?」

 

モリサマー『何故切るのですか……』

 

八幡「心に直接呼びかけられるなら、携帯切っても問題ないだろ」

 

モリサマー『…………』

 

八幡「…………と言う訳で切るぞ?」

 

モリサマー『待ちなさい』

 

八幡「……呼びかけられないのか?」

 

モリサマー『今日はちょっと……その、精霊が……』

 

八幡「精霊が?」

 

モリサマー『せ、精霊の密度が薄くて……。バリ3……精霊がバリ3で立っていれば……!』

 

八幡「精霊がバリ3ってどういう状況だよ。つーか今どきバリ3なんて言葉、久々に聞いたわ」

 

モリサマー『うぐぐ……』

 

八幡「で? 結局何の用なの? 俺もう少ししたらプリキュア見なきゃなんねんだけど」

 

モリサマー『…プリキュアを…見る場合では…ありません…仮面ライダー某でも…ありません……公園です…亀治公園に…来るのです……』

 

八幡「そのネタ続けるならマジで切るぞ」

 

モリサマー『…………上着、返したいんだけど』

 

八幡「あー……」

 

モリサマー『…………』

 

八幡「……10時頃でいいか?」

 

モリサマー『分かった』

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

いろは「えっと、じゃあ先ずは……今回のお祭りイベントの問題点? を上げていきます。……でいいですよね?」

 

八幡「いちいち確認しなくても大丈夫だぞ。間違えた瞬間、そこにいる自動迎撃装置が作動するから」

 

雪乃「それは誰のことかしら……?」

 

 

 しかも最上位の氷属性付き。相手は死ぬ。

 

 

いろは「全然安心できないんですけど……。ま、まぁとにかくとして……。問題はやっぱり、イベントの規模が大きすg」

 

雪乃「それは違うわよ」

 

いろは「いきなり!?」ガンッ

 

 

 

六花「今の、超早かった……」コソコソ

 

勇太「言い終わる前にかぶせてきたな……」コソコソ

 

七宮「アイス・エンプレスって名付けよう……。その言葉は時すらも凍らせ、相手に凍結という名の支配を与える……」コソコソ

 

六花・勇太「「なにそれかっこいい」」コソコソ

 

 

 雪ノ下がギロッと視線を向けた瞬間、3人は慌てた様子で口を噤み、姿勢を正した。

 

 良かったな雪ノ下。中二連中の間で、お前のキャラが着々と固まりつつあるぞ。しかも本質捉えまくってるよ、流石だねッ。

 

 まぁ、それはそれとして。

 

 

八幡「確かに規模はデカイが、あの二人は本気で実現できちまうからな。それが問題ってわけじゃない」

 

雪乃「そう、それがクリスマスの時とは違う部分。けれど同じ部分もあるわ。というよりも問題の本質は全く同じね。よく思い出してみなさい」

 

いろは「はぁ……。えーっと、あの時は色々とアイデアはいっぱい出てたけど、それがまとまんなくて……」

 

 

 

丹生谷「ねぇ、ちょっといい?」

 

結衣「え!? あ、あたし?」

 

丹生谷「ええ、由比ヶ浜さん……っで良かったよね? ちょっと聞きたいんだけど、さっきから言っているクリスマスイベントって何?」

 

結衣「ああ……。えっと、いろはちゃんが生徒会長をやっているって、さっき言ってたでしょ?」

 

丹生谷「……ええ」

 

結衣「その関係の話。ウチと、海浜総合高校の生徒会が一緒になってクリスマスイベントを行おうって。でも色々あってイベントの計画がなかなか進まなくて、それでヒッキーとゆきのんと、あと一応あたしもだけど、いろはちゃんのお手伝いをしたんだよ」

 

丹生谷「アイツが? 本当に?」

 

結衣「うん。あたし達、奉仕部だから。あ、でもヒッキーが手伝ったのは、奉仕部関係無かったっけ。でもまぁ……あれだよ。ヒッキーだから」

 

丹生谷「……そう」

 

 

 

いろは「まとまらなかった理由は……トップに、決断力が無いこと、ですか?」

 

雪乃「そういうことね」

 

八幡「まぁ玉縄と違って、お前の爺ちゃんの場合は仕方ない部分もあるけどな。あの状況でどっちか片方切り捨てろって言われても無理があるわ。両家の力がデカ過ぎる」

 

いろは「ですよねぇ……」

 

誠「んな事させたら、じいちゃん本気で倒れちゃうって」

 

 

勇太「なあ、それって匿名の多数決とかで決めるんじゃダメなのかな?」

 

八幡「どうだろうな。陽乃さん達……と言うより、両家の母ちゃん二人がそれを許すかだが……」チラッ

 

雪乃「最終的にはそういう決着になるでしょうけど、それは確実に勝てるという確証が得られてからよ。今の段階で、それを認めることはないでしょうね」

 

八幡「つまりアレか……あの馬鹿げたイベント案は、自分たちの力を示して、裏で町内会員を抱き込むためのもんか?」

 

雪乃「ええ。もっと言えば、半ば脅しね。ここまで資金を出し、準備を進めているものをご破産にする気か? というね」

 

いろは「先輩……なんか急に怖くなってきたんですけど……」

 

八幡「そうだな、怖いな。俺、逃げていいか?」

 

いろは「絶対逃しません」

 

 

 わぁ、すげぇいい笑顔。なのにこの笑顔にはあざとさを欠片も感じない。不思議!

 

 

八幡「まぁ、アレだな。お前の爺ちゃんやら、陽乃さん達やらの多大な負担を無視していいなら、取り敢えず何もしなくても最終的にはまとまるらしいぞ。解決じゃね?」

 

いろは「な訳ないじゃないですか!」

 

雪乃「その男の妄言は置いておいて……。最終的な決着を待てないなら、それ以外の解決法を用意するしか無いわね」

 

いろは「それ以外の解決法って……どうするんですか?」

 

雪乃「それを考えるためのこの場でしょう……」

 

 

 一色の言葉に、雪ノ下は呆れたような溜め息をもらす。

 

 と、そこで予想外な人物が手を上げた。

 

 

六花「はい」

 

いろは「え? ……えっと、小鳥遊さん……じゃないや、小鳥遊先輩? 何かアイデア、あるんですか……?」

 

 

 おそらく見た目から完全に戦力外として捉えていたのだろう。戸惑いを含んだ一色の問いかけに、小鳥遊は「うむ」と大仰に頷いた。

 

 椅子から立ち上がり、片目を手で覆うルルーシュポーズを決める(覆うまでもなく眼帯をしているのだが)と、ゆっくりと一同に流し目を送ってくる。

 

 あ、この何かやらかしそうな雰囲気すごく身に覚えがあるわ。

 

 

六花「奴らには、我々など大して眼中に入っていない」

 

 

 

いろは「は?」

 

 

 一色が、この場の大多数の気持ちを代弁する声を吐いた。

 

 

七宮「奴らの関心は全て、凸守家と雪ノ下家。言葉で何か言っても意に介さないだろう」

 

 

 すると今度は七宮も立ち上がり、不敵な笑みを浮かべながら言葉を繋いだ。

 

 

六花「ならば我々がする事は、言葉で何か言う事ではない」

 

 

 流々と歌うように紡がれる言葉は、協奏的に。

 

 二人、合わせ鏡のように背中を預け合い、ビシリと拳を突きつけ――

 

 

 

 

六花・七宮「「最高のタイミングで、横合いから思い切り殴りつける!!」」

 

 

 彼女らはキメ顔でそう言った。

 

 

 

 

「「「……………………」」」

 

 

 沈黙が小会議室を支配する。

 

 雪ノ下はお決まりの頭痛を堪えるポーズだ。お前、それ好きだよな。

 

 

雪乃「比企谷君……。申し訳ないのだけど、通訳をお願いできるかしら……」

 

八幡「あー……アレだ。多分、俺達でイベントの第三案を出して、争いを収めようって事だと思うぞ」

 

 

 俺の言葉に、二人は満足気にコクコク頷いた。正解だったらしい。

 

 

雪乃「ふむ……なるほど。では比企谷君、彼女らにこう伝えて頂戴。『そう言うからには何か具体案があるのかしら?』と」

 

八幡「分かった。……邪王真眼、ソフィアリング・SP・サターン7世。その自らの矮小さを顧みぬ蛮勇、まずは褒めてやろう。しかし、かの両家の闇は、貴様らが想像するよりもはるかに深く、強大だ。それに挑まんとするならば、まずはコキュートスの永久凍土に座するアイス・エンプレスに、その力を示してみせるがいい」

 

雪乃「私はそんな馬鹿げた名を名乗った覚えはないのだけれど……」

 

 

 空気を読まない雪ノ下のツッコミは、取り敢えずスルーしておこう。

 

 

六花「フッ……舐めないでもらおうか、不浄王。このような場で安易に手の内を見せるほど、私は愚か者ではない」

 

七宮「相手の強大さは百も承知。けれどそれで引き下がっては、魔法魔王少女の名折れさ。どのような敵が相手であろうと、私は決して背を見せない!」

 

六花「私達が今示せるものは唯一」

 

六花・七宮「「全てを貫き通す、漆黒の意志のみ!!」」

 

八幡「そうか」

 

 

 二人の言葉に深く頷き、俺は雪ノ下に振り返った。

 

 

八幡「ノープランだそうだ」

 

 

――ガタタッ、と一色と由比ヶ浜がコケた。

 

 

結衣「何でそれ伝えるだけで、あんな長い台詞になるの!?」

 

いろは「ていうかクリスマスイベントで発言しだした時も思いましたけど、先輩って妙な所でノリがいいですよね……」

 

 

 割りと楽しかったのは秘密だ。

 

 

勇太「なんか……スマン……」

 

雪乃「まぁ、予想はしていたから構わないわ。それに、見当外れな意見というわけでもないもの」

 

いろは「え? でもあんな規模のイベントに対抗できる案なんて、私達じゃ……」

 

八幡「そうでもないぞ。イベントの規模は問題じゃないってさっき言ったろう。むしろプラスに働くまである」

 

いろは「どういうことですか?」

 

八幡「自分の身になって考えりゃわかる。アレだ、例えばお前が雪ノ下家の人間だとして、自分のイベント案が採用された場合のメリットって何がある?」

 

いろは「え~っと…………あぁ……ビックリするぐらい何もないですね……」

 

雪乃「では、デメリットは?」

 

いろは「めっちゃ財布が痛いです」

 

八幡「相手に負けたくはない。けれど、勝てば多大な資金と労力を強いられる。そんなところに出てきた3つ目のイベント案」

 

結衣「そっか。それが選ばれれば、負けもしないしお財布も傷まないもんね」

 

雪乃「そういうことよ」

 

八幡「まぁ、今まで自分たちの案を主張してきた手前、あんまいい加減なイベントじゃ、賛同できないだろうがな。規模は小さくても、そのへんを納得せるだけの要素を持ったイベントなら、十分に勝機はある」

 

いろは「なるほど~……。で、その納得させる要素を持った案て言うのは?」

 

 

 コイツ……マジで自分で考える気ねぇな。

 

 まぁ俺もまだ思いついてはいないわけだが……。

 

 

丹生谷「……神社は?」

 

八幡「ん?」

 

 

 今まで殆ど発言のなかった丹生谷のもらした呟きに、全員が――いや、約一名はいつの間にか熟睡していたが――視線を向けた。

 

 

丹生谷「だから、鶴御(つるご)神社よ。このお祭りって、あの神社に由来した風習なんでしょ? なら、その由来ってのを元にしたイベントを考えればいいんじゃない?」

 

勇太「おお! それなら確かに納得させられるかもな!」

 

雪乃「悪く無いわね……。それで行きましょう」

 

結衣「じゃあまずはその由来ってのを調べないとだよね。どうやって調べるの? 図書館?」

 

雪乃「そうね図書館で郷土資料を閲覧してみましょう。後は、神社の人間に直接聞くのがっ手っ取り早いかしら……」

 

八幡「二手に別れるか? 俺んち神社方面だから帰りに寄ってくわ」

 

雪乃「そうね……次の会議までにはある程度案をまとめておきたいし、早いに越したことはないわね。一色さん達は、取り敢えず今の話をおじいさんに伝えておいてもらえるかしら?」

 

いろは「了解ですー」

 

 

 よし、図書館で調べるよりも神社で話し聞くだけの方がはるかに楽だしな。

 

 それに確か、雪ノ下の家は図書館と近かったはずだ。由比ヶ浜の家もそっち方面。

 

 アイツら二人が一緒じゃなければ、適当に要点だけ聞いてさっさと家に帰れる筈――

 

 

丹生谷「なら私も神社に行くわ。同じ方向だし」

 

結衣「え?」

 

八幡「……うん?」

 

 

 おや? 由比ヶ浜の様子が……。あれ? なんか急に空気が冷たく……。

 

 

雪乃「…………そうね、では私と由比ヶ浜さんも一緒に神社に行きましょう」

 

八幡「へ?」

 

雪乃「富樫君、と言ったわね。そちらは図書館の方を任せてもいいかしら?」

 

勇太「ああ。家からそう遠くないし、問題ないよ」

 

八幡「ちょ、まっ――」

 

雪乃「何か問題でも?」ニコッ

 

結衣「別にないよね? ヒッキー?」ニコッ

 

八幡「…………はい」

 

 

 はちまん、しってるよ。笑顔って元は威嚇の表情だったんだって……。

 

 どうしてこうなった。

 

 

 



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第九話

 

八幡(公園に来たはいいものの……どこに居るんだ? アイツ)テクテクテク

 

 

モリサマー「来ましたね。不浄王、キヒヴァレイ」

 

 

八幡「ん?」キョロキョロ

 

モリサマー「どこを見ているのです。こちらですよ」

 

八幡(上? 木の上か?)ミアゲ

 

モリサマー「フフフ、相変わらずの淀んだ瞳ですね」プルプルプル……

 

八幡「…………」

 

モリサマー「しかし、不死者の身で有りながら陽の下を出歩けるのは、流石といったところでしょうか」プルプルプルプル……

 

八幡「お前…………ひょっとして降りられなくなったのか?」

 

モリサマー「……フッ、何を馬鹿な。風の精霊を従えるこの私がそのような事あちょっ止め、ま、松ボックリ投げるのはだ――ほんとダメだからマジやめて!!」ナミダメ

 

 

 

八幡「……降りられないんだな?」

 

モリサマー「はい……」

 

八幡「どうすんだ?」

 

モリサマー「ハシゴとか……無い?」

 

八幡「持ってるわけ無いだろ」

 

モリサマー「近所の家から借りてくるとか……」

 

八幡「俺にそんな難易度高い事求めるな」

 

モリサマー「…………」

 

八幡「……お前んとこの親、呼ぶか?」

 

モリサマー「それはちょっと……。こないだも怒られたばっかりだし……」

 

八幡「お前はしょっちゅう木に登ってんのか」

 

モリサマー「いや、こないだは水の精を探してたら池に落ちて……」

 

八幡「…………」

 

モリサマー「い、いやでも、ホントいたのよ! 溺れかけた時になんか人面魚っぽいのが横をヌメっと――」

 

八幡「水の精はどこに行った」

 

モリサマー「…………」

 

八幡「…………で、どうする?」

 

モリサマー「どうすればいいですか……」

 

八幡「自力で降りろ」

 

モリサマー「……マジ?」

 

八幡「マジ」

 

モリサマー「……何とかなりませんか?」

 

八幡「ならねぇよ。つか何でスカートで木に登ってんだよ。俺、下に近づけねぇだろうが」

 

モリサマー「あ、それは下に短パン履いてるから大丈夫」

 

八幡「あ、そうなの……」

 

モリサマー「うん」

 

八幡「じゃあ……下からサポートしてやるから」

 

モリサマー「から?」

 

八幡「自力で頑張れ」

 

モリサマー「自力はまかりませんか」

 

八幡「まからねぇよ」

 

 

 

 

 

モリサマー「ううう……腕が……」プルプルプル…

 

八幡「だから左だ左! 左に出っ張りがあるからソコに足かけろって言ってんだ!」

 

モリサマー「無いもん! 掛かんないもん!」スカッ、スカッ

 

八幡「ちゃんと下を見ろよ、下をッ」

 

モリサマー「嫌だ怖い!」

 

八幡「んな事言ってる場合かッ」

 

モリサマー「あ、ちょ……ホントもう腕……げん、かい……」プルプルプルプル…

 

八幡「よ、よし分かった。じゃあもう一旦上に戻れ。足場を確保して休憩しろ」

 

モリサマー「う、上? 上……む……むりぽ……」プルプルプルプル…

 

八幡「諦めんなバカ!」

 

モリサマー「だ、だって……」グシグシッ

 

八幡「だぁくそ、仕方ねぇ……それでもお前は四百年の刻を生きる魔術師か!」

 

モリサマー「ま、魔術師? ……そ、そうよ、私は魔術師モリサマー……こ、この程度……ッ」グググッ

 

八幡(よしっ。中二病を刺激して持ち直――)

 

モリサマ「精霊の力を借りれば、空を飛ぶことぐらい造作も無い筈……!」

 

八幡「え?」

 

モリサマー「今こそ目覚めよ、秘められし私の力! 精霊よ、風の導き手よ! 我が声を聞け!」

 

八幡「おいバカやめろそっち方面に希望を見出すな」

 

モリサマー「裏を表に、表を裏に、アストラルの白き力をこの身に宿せ! あぁあいきゃぁああんふらぁああ゛あ゛あ゛あ゛ー!!?」

 

八幡「アホかぁああああああ!?」

 

 

――ドザザザァアア!!

 

 

モリ八「「ぐえッ!」」

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

結衣「あれ、ヒッキー。そっち公園だよ?」

 

八幡「神社行くなら、公園横切ったほうが近いんだよ。つかすぐ隣だし」

 

雪乃「鶴御神社に亀治公園、ね……。何か関わりがあるのかしら?」

 

八幡「さぁ? 知らん。丹生谷、なにか知ってるか?」

 

丹生谷「なんで私に聞くのよ」

 

八幡「お前、よくこの公園探索してたろう。木に登ったりとか」

 

丹生谷「え、なに、よく聞こえない。死ぬの?」

 

八幡「どんな飛躍の仕方だよ」

 

 

結衣「へ、へぇ……ふ、二人で遊んでたりしてたんだぁ……」

 

八幡「いや違う。あれは遊んでたとかそんなのでは断じてない」

 

丹生谷「……」

 

雪乃「では何なのかしら?」

 

八幡「…………一言では名状し難いな」

 

丹生谷「ゴメン、私もあんまり昔のこと思い出したくないから……」

 

結衣「そ、そっか……。ごめんねー」

 

丹生谷「ううん。こっちこそ」

 

 

 

 

雪乃「……結局、あの二人はどういう関係だったのかしらね」

 

結衣「ああ言ってるけど多分……凄く、親しかったんだと思うよ」

 

雪乃「彼女に、なにか聞いたの?」

 

結衣「ううん。ただ、クリスマスの時の事説明した時、ヒッキーが手助けしたこと意外そうに聞き返してきて。でも凄く納得したような顔もしてたの。……それってさ、そういう事でしょ? ヒッキーの事、凄く良く知ってるの」

 

雪乃「そう……。そうね」

 

結衣「それになんか、離れて歩いてるのに、歩幅あってるし……」

 

 

八幡「……」テクテクテク…

 

丹生谷「……」テクテクテク…

 

 

雪乃「……まぁ、考えても仕方ないわ。あまり趣味の良い詮索とも言えないし」

 

結衣「う、うん……そうだね」

 

 

     ▽

 

 

八幡「久々に来たけど……相変わらず寂れた神社だな」

 

雪乃「静かね。宮司は常勤しているのかしら?」

 

丹生谷「確か境内の奥に住居が会って、そこに定住していたはずだけど……」

 

雪乃「では社務所も奥かしら?」

 

結衣「しゃむしょ……?」

 

八幡「神社の事務所だ。ま、取り敢えず行ってみるか」

 

 

結衣「あ、ヒッキー! 鶴の像があるよ。やっぱ、この神社って鶴と関わりがあるのかな?」

 

八幡「知らん」

 

雪乃「妙ね。何故こんな外れに有るのかしら。しかも外を向いているし」

 

丹生谷「……丁度、公園を見下ろす形になってるのよね」

 

八幡「へぇ、詳しいな」

 

丹生谷「べ、別に……たまたまよ」

 

八幡(やっぱ、この辺も探索してやがったな)

 

結衣「あ、アレがしゃむしょかな?」

 

八幡「ああ、なるほど。住居と繋がってんのな」

 

 

 

 

 

結衣「すいませーん!」

 

 

 やはりというか何と言うか。こういう事に物怖じしない由比ヶ浜が、真っ先に社務所に入り声を上げた。

 

 しかし帰ってきたのは、シーンとした静けさのみ。

 

 

結衣「……あれ?」

 

雪乃「反応がないわね」

 

丹生谷「奥の住居に引っ込んでるんじゃないの?」

 

結衣「う~ん……すいませーん! 誰か居ませんかー!!」

 

 

 先程よりも更に大きな声で由比ヶ浜が呼びかけると、ようやく奥から「はーい」と控えめな返事が帰ってきた。

 

 少女のものだろうか。どこか幼さを感じさせる声だった。というか、どこかで聞いたことが有るような……。

 

 しかしその記憶を辿るよりも先に、パタパタと足音が近づいてくる。

 

 

??「すいません、お待たせしました。ただ、今は宮司が寝込んでいて、祈祷などは受けられないんですけ……ど……?」

 

 

 長い黒髪を後ろで結わえ、小さな巫女服に身を包んだ少女の姿を見た瞬間、俺は目を見開いた。

 

 雪ノ下も同様だろう。由比ヶ浜などは、「ふへ?」とアホ丸出しの声を上げている。

 

 

 

 唯一、丹生谷だけが、俺達の様子に訝しげな表情を浮かべていた。

 

 

??「……はち、まん?」

 

八幡「……ルミルミ?」

 

留美「ルミルミゆーな、キモい」

 

 

 クリスマス以来のぞくぞく感が、俺の背中に走った。

 

 どう考えてもご褒美です、本当にありがとうございました。

 

 

 




ストックがだんだん無くなってきました……。
尽きる前に、なんとか最新話書き上げないと……。


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第十話

 

 

モリサマー「…………いたい」

 

八幡「俺だって痛かったわ」シャコシャコシャコシャコ…

 

モリサマー「もうちょっとゆっくり走ってくれない? 傷に響くんだけど」

 

八幡「二人乗りしてんだぞ? ある程度スピード出さねーとバランス取れないだろうが」

 

モリサマー「フッ。不浄王ともあろう者が軟弱ですね」

 

八幡「…………」クイッ

 

 

――ガタガタガタガタッ

 

 

モリサマー「あ、ちょっ、わざと舗装されてない道をあだだだだだ! 痛い痛いおしり痛い!」

 

 

     ▽

 

 

――キキッ

 

八幡「着いたぞ。降りろ」

 

モリサマー「ううぅ……」スタ…

 

八幡「足首はどうだ?」

 

モリサマー「足よりおしりが痛い……」

 

八幡「なんだ、捻挫じゃなくてちょっと捻っただけか」

 

モリサマー「そうみたいね……」フミフミ

 

八幡「態々乗せてくる必要もなかったんじゃねぇか……」

 

モリサマー「むっ……悪かったわね」

 

八幡「まぁいいや、小町は……居ないな、靴がない。騒がしくなくてちょうどいいか。取り敢えず、手当してくから上がってけ」

 

モリサマー「え? ええ……」

 

八幡(初めて同年代の女子を家に招くわけだが。……コイツ相手だと、ビックリするほど何も感じんな)

 

モリサマー(普通の家っぽいけど……どっかに秘密の地下室とか会ったりしないのかしら。コイツの目、絶対人間のそれじゃないし)キョロキョロ

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

留美「ウチにまつわる由来?」

 

八幡「ああ」

 

 

 ここじゃ寒いからと奥の茶の間に通され、俺達五人はコタツを囲んで座り込んでいた。

 畳の間にコタツと灯油ストーブ。そして籠に乗せられたミカンに煎餅と、冬における古き好き日本の茶の間が完璧に構築されている。

 

 さすが神社、侮れない。

 

 

留美「何でそんなの調べてるの……?」

 

 

 トポトポと急須のお茶を湯呑みに注ぎながら、訝しげにルミルミが訪ねてくる。

 ちなみに巫女服だけでは冷えるようで、今は肩に半纏を掛けていた。ちょうかわいい。

 

 

八幡「お前、冬の祭りの件ってなにか聞いてる?」

 

留美「……留美」

 

八幡「え?」

 

留美「こないだも言ったじゃん。ちゃんと名前で呼んで」

 

八幡「……ルミルミ?」

 

留美「キモい。留美」

 

 

八幡「…………る、留美?」

 

 

雪乃「通報しましょう」

 

丹生谷「そうね、一刻の猶予もないわ」

 

八幡「何でだよ!」

 

 

 普通に名前呼んだだけじゃん! そりゃちょっと気恥ずかしくてキモい感じにドモっちゃったけれども!

 

 後、お前らいきなり意気投合してんじゃないよ。

 

 

結衣「ヒッキー、マジキモい……」

 

 

 うるさいぞ由比ヶ浜。お前の「キモい」じゃ全然ゾクゾク来ないよ。むしろ、キモがり方が本気過ぎてちょっと泣きそうです。

 

 

留美「まぁ、お祭りのことは知ってる。今日もなんか話し合いがあって、帰ってきたきりお父さん寝込んじゃったし……」

 

結衣「え、あの中に神主さんも居たの?」

 

雪乃「まぁ、当事者ですもの。居てもおかしくはないでしょう」

 

留美「……?」

 

八幡「あー、つまりだ。俺らも今日の話し合いを見学してたんだよ。一色って奴から依頼を受けてな」

 

留美「一色って、町内会長さん?」

 

八幡「直接依頼を持ってきたのは、その孫娘だな。俺らの後輩だ」

 

留美「ふ~ん……後輩……」

 

 

 相槌を返しながら、お茶を注ぎ終えた湯呑みを「どうぞ」と俺達の前に置いていく。

 

 

結衣「ありがとー」

 

留美「いえ。ミカンとお煎餅も、好きに食べてください」

 

丹生谷「あ、いやいや。話し聞かせてもらうのはコッチなんだからお構いなくー」

 

八幡「え?」

 

 

 妙にオバサン臭い丹生谷の言葉に、既にミカンの皮を剥きだしていた俺の指が止まった。

 

 

丹生谷「アンタ……」

 

雪乃「賤しいわね……」

 

八幡「ばっかお前、だってコタツにミカンだぞ? 食べないわけには行かねぇだろうが。むしろ様式美的に、食べないと失礼に当たるまである」

 

雪乃「貴方の言っている理論が、全く持って理解できないのだけれど」

 

結衣「あははははは……」

 

 

 雪ノ下の横で笑って誤魔化してるけど、由比ヶ浜も煎餅に手伸ばそうとしてたのしっかり見てたからね?

 

 

留美「別に、遠慮しなくていいですから……。八幡、私にも一個頂戴」

 

八幡「ん? おう」

 

 

 丁度剥き終わったミカンを一切れ摘んで、ルミルミに差し出す。

 すると何故だかルミルミはキョトンと目を瞬かせた。そして僅かな逡巡の後、なにを思ったか俺の指から直接、パクリとミカンを頬張った。

 

 ……え、ヤダ何これ。何なのこの胸の高鳴り……。

 

 

丹生谷「もしもし、警察ですか?」

 

八幡「おいバカやめろ。やめてください本当にお願いします……」

 

留美「むぐ……籠から取ってって意味だったんだけど……」ハムハム…

 

 

 あ、そうだったの……?

 

 

結衣「ヒッキー……」

 

雪乃「本気で塀の中に入りたいのかしら、ペドヶ谷君は……」

 

 

 由比ヶ浜と雪ノ下の視線が、過去最大の冷たさを記録していた。

 

 はい、そうですね……。今のは僕も、本気でイケナイ思いを抱いてしまったと反省しております……。

 

 

雪乃「まぁいいわ……話を戻しましょう。鶴見さん、私達が受けた依頼は、今回のお祭りにおける争いの解消よ。争いの原因は聞いているかしら?」

 

留美「まぁ、大体は……」

 

雪乃「ならそこは省いて、まずは私達の考えた解決案を話しましょう」

 

 

 そうして雪ノ下の口から語られた俺達の案に、ルミルミはいくつか質問を返しつつも、最終的に納得したように頷いた。

 

 

雪乃「私達が神社の由来を調べているのは、そういう理由からよ。なので出来れば、話を聞かせてもらいたいのだけど」

 

留美「ん……私も、一応聞かされてはいますけど……。そこまで詳しく覚えてるわけじゃないから……」

 

結衣「そっか。でも神主さんは寝込んじゃってるんだよね」

 

留美「帰ってきてからずっとうなされてます」

 

 

 どうでもいいけど、何で他の奴には敬語なのに、俺だけタメ口なんだろう。

 

 

雪乃「そう……。では日を改めた方が良いわね」

 

留美「あ、でも、これから年末年始に向けてバタバタするから……」

 

結衣「ああ、神社だもんねぇ」

 

雪乃「となると、話を聞けるのは三箇日を過ぎてからかしら……」

 

丹生谷「それだと、流石に遅くない?」

 

八幡「まぁ、ちょい厳しいな……」

 

 

 次の会合も、おそらく三箇日を過ぎてから間を開けずに行われるだろう。

 だとすれば、それまでに案を纏めるというのは難しくなる。

 

 

留美「今日の夜、お父さんにもう一度詳しく聞けば、私からでも話せると思う」

 

 

 

 ルミルミの言葉に、俺はフムと考え込んだ。

 

 どうせ聞くなら、他の奴ら全員で聞いたほうがいいだろう。

 となると場所が問題だ。年末年始の準備があるのなら、またここにゾロゾロ来られても迷惑だろう。

 

 公民館の小会議室は、明日すぐ貸してくれと頼んでも難しいだろうか……。そもそも金とかかかんのか? 借りたこと無いからわからんな。

 

 

八幡「奉仕部の部室って、冬休み中でも使えんのかね?」

 

雪乃「どうかしら。平塚先生の許可さえ降りれば、大丈夫だとは思うけれど」

 

八幡「おま……じゃない。あー、留美。うちの高校まで来てもらうことは出来るか? 勿論、送り迎えはちゃんとするぞ」

 

留美「平気。八幡の高校って、総武高でしょ? うちのお母さんが勤めてる学校だし」

 

八幡「え、そうなの?」

 

結衣「あ、もしかして家庭科の鶴見先生?」

 

 

 由比ヶ浜の言葉にコクリと、ルミルミは頷いた。

 

 なんとまぁ奇妙な縁ではあるが、好都合だ。それなら、勝手にうちの娘を連れ出しただの何だの問題になる事もないだろう。

 

 後は平塚先生の許可さえ降りれば、と雪ノ下を見やれば、既に電話をかけて何やら話をしているようであった。

 

 流石、行動が早い。

 

 

雪乃「はい……はい……。分かりました、では詳細な時間が決まりましたらまた連絡します。はい、有難うございます」

 

 

 ピッ、と携帯を切り、雪ノ下がこちらに向き直る。

 

 

雪乃「許可が降りたわ。問題ないそうよ」

 

八幡「おー。んじゃあ、丹生谷。そっちの連中にはお前から連絡頼むわ」

 

丹生谷「わかってるわよ。雪ノ下さん、連絡先の交換してもらえる? コッチから行ける人数が決まったら連絡するから」

 

雪乃「え? ええ……」

 

 

 丹生谷の言葉に、雪ノ下が珍しく戸惑いの表情を見せた。

 

 さもありなん。俺と匹敵するボッチ力を持った雪ノ下だ。連絡先の交換などロクにしたこともあるまい。

 

 

丹生谷「赤外線は受け取れる?」

 

雪乃「せ、せきがいせん? 受け取る?」

 

結衣「はいはーい。ゆきのん、ちょっと貸してねー」

 

 

 と、あからさまに狼狽え出した雪ノ下に、由比ヶ浜がすかさず助け舟に入った。

 携帯を手渡し、こっそりと胸を撫で下ろす雪ノ下。雪ノ下雪乃の貴重な安堵シーンである。

 

 あ、やべ、見てんの気付かれた。超睨まれたんですけど……。

 

 

結衣「はい、オーケー。丹生谷さん、あたしとも交換しよ」

 

丹生谷「ええ」

 

 

留美「八幡。迎えに来るんでしょ?」

 

八幡「ん?」

 

留美「来る前に連絡欲しいから、アドレス交換して」

 

八幡「え゛?」

 

留美「LINE使ってる? それなら『ふるふる』が楽なんだけど」

 

 

 ライン? ふるふるってなぁに? なにを振るの? ふられるのなら超得意なんだけど、それじゃダメなの?

 

 もうスマホ渡すか? いや年下の女子小学生相手にそれは流石に……あ、畜生雪ノ下目ぇ逸しやがった!

 

 ……た、助けてー! ガハえも~ん!! 

 

 

 



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第十一話

ハーメルンの住民たちは、ちょっと台本形式に対して偏見を持ち過ぎじゃないですかね。
台本形式ってだけで0評価入れられるのは、流石にちょっと切ないよママン。

けど逆に、「敬遠してたけど読んでみたら面白かった」って感想を貰うと凄くニヤニヤします。
いいぜ、台本形式が地雷ってんなら――まずはその幻想をぶち壊す!



モリサマー「や、やめなさい何をしようというのですか……」

 

八幡「……」

 

モリサマー「クッ、殺しなさい! 辱めを受けるぐらいなら私は死を選――」

 

八幡「んじゃ遠慮無く」プシュッ

 

 

 

 

 

――あ゛あ゛ああああ~~~~~!!

 

 

 

 

 

モリサマー「ううぅ……ホントに……ホントに遠慮無くやるんじゃないわよぅ……」ポロポロ

 

八幡「傷口の殺菌はちゃんとしとかんといかんだろうが。ほら、左腕も出せ」

 

モリサマー「あ、ちょっと待ってまだ心の準備がああ゛あ゛~~~~~~!!」

 

八幡「一々大袈裟なんだよ……。後は鼻の頭と……額も擦り剥いてんのか。前髪が邪魔だな。確かこの辺に小町のが……ああ、あったあった」

 

 

――パチンッ

 

 

モリサマー(……髪留め?)

 

八幡「ほれ、目ぇ瞑れ」

 

モリサマー「え? あちょまっ」プシュッ

 

 

 

 

 

――ぬわああああああ~~~~~!!!

 

 

 

 

 

モリサマー「ううぅ……このような陵辱を……!」プルプルプル

 

八幡「例えネタでも、小町に聞かれるとシャレになんないからやめてくんない?」

 

モリサマー「小町?」

 

八幡「妹だ」

 

モリサマー「へー………………」

 

八幡「妹は目、腐ってないぞ」

 

モリサマー「なな、何も言ってないでしょう!?」

 

八幡「めっちゃ狼狽えてんじゃねぇか。まぁそんな訳で小町が帰ってくると面倒だから」グイッ

 

モリサマー「え?」

 

八幡「帰れ。足が平気なら一人で大丈夫だろ」グイグイグイッ

 

モリサマー「ま、待ちなさい! まだこの不夜城の探索が――」

 

八幡「知らん知らん、つーかさせるかそんな事」ガチャッ、ポーイ

 

モリサマー「わたた! くっ、この私に対してなんてぞんざいな扱いを……!」

 

八幡「じゃあな」バタン!

 

モリサマー「あ!」

 

 

――ガチャッ

 

 

モリサマー「ああ!? 鍵を! タイムラグ無しに鍵をかけた!? すごく感じ悪い!!」

 

 

モリサマー「ううぅー…………くそぅ……くそぅ……」トボトボトボ…

 

 

モリサマー「………………あ」ピタッ

 

 

モリサマー「……髪留め、付けたまんまだ……」

 

 

     ▽

 

 

小町「ただーいまー♪ ってうわぁ!?」

 

八幡「おー……小町お帰りー……」グッタリ…

 

小町「……お兄ちゃん。なんで床で寝てんの……?」

 

八幡「ああ……。お兄ちゃん、ちょっと重たいモノ受け止め損ねてな……」

 

 

小町「はぁ?」

 

八幡「最初はなんて事なかったんだが、何かだんだん腰の痛みが酷くなってきて……。まぁアレだ……取り敢えず、シップ貼ってくんない……?」

 

小町「うわぁー……その年で腰痛めるとか……それはちょっと小町的にポイント低いわぁ……」

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 翌日、俺は約束通り神社の石段下までルミルミを迎えに来ていた。

 

 

留美「八幡、おまたせ」

 

八幡「おう。来たか」

 

 

 弄っていたスマホから顔を上げ、振り返る。

 

 当たり前といえば当たり前だが、今日のルミルミは巫女服姿ではなく、極普通のコートを羽織り、もこもこマフラーで口元を覆っているという出で立ちだった。べ、別に残念がってなんか無いんだからね!

 

 後ついでに言えば、何やら大きめのバスケットを右手に下げていた。

 

 

八幡「何持ってきてんだ? それ」

 

留美「ん。お弁当。お母さんが、皆と食べなさいって」

 

八幡「ほー……」

 

 

 パカっと開けられた蓋の中身を除いてみれば、三段重ねぐらいの重箱と、幾つかのタッパがバスケットに詰められていた。

 

 家庭科教諭お手製の弁当となれば、中々に期待できるかもしれない。

 

 

留美「あと、お父さんの抜け毛が危険で危ないからホントにお願いしますとも言ってた」

 

八幡「お、おぅ……ソレは……責任重大だな……」

 

 

 弁当の対価は、同じ男の俺にとって余りにも重たく、切実な懇願であった。

 

 

八幡「ま、まぁ……取り敢えず行くか」

 

留美「あ」

 

 

 ヒョイとルミルミの手からバスケットを取り上げ、歩き出す。

 

 すぐ左に付いて来るルミルミの足取りは、パタパタと少しだけ忙しなかった。小町と歩くときよりも、速度をちょい下方修正。

 

 ついでに、バスケットを右手から左手に持ち替える。

 

 

八幡「危ないから歩道側を歩きなさいな」

 

留美「あ、うん。…………八幡、なんか女の子の扱いに慣れてない?」

 

 

 HAHAHA、面白いジョークだ。

 

 

八幡「慣れてるのは妹の扱いだ。俺のお兄ちゃんスキルはパッシブだからな。年下の手の掛かりそうな女の子、を条件に自動発動すんだよ」

 

 

 一色相手にまで暴発するのは少々困りモノだがな。

 

 

留美「ふーん、そうなんだ。蹴っていい?」

 

八幡「え、なんで?」

 

 

 はちまんなんか悪いことした? してないよね?

 

 

     ▽

 

 

 総武高の校門あたりまで来ると、ちょうど反対側から丹生谷たち他校の連中を引き連れて歩く、一色の姿が見えた。

 どうやら、ここまで連中を案内してきたらしい。

 

 よお、と軽く手を上げると、何故だかドンヨリとした恨みがましい視線を向けられた。

 どこかで見た目の色だなーと思い起こせば、今朝洗面台の鏡で見たばかりである。一色の目が腐っていた。

 

 

八幡「何だ、どうかしたのか?」

 

いろは「……それ、先輩が聞きますか?」

 

八幡「なにが?」

 

いろは「うわぁ、マジ自覚ねぇ……」

 

 

 一色の目の腐敗がますます深まっていく。いや、ホント意味がわからんのだが。

 

 

いろは「……昨日の夜、うちのハゲ従兄弟から『総武高まで案内してくれ』って電話がかかって来たわけですが」

 

八幡「ああ」

 

誠「ハゲじゃねぇよ! 坊主だよ!」

 

 

 一色いとこ(名前忘れた。でも多分こんな名前だった筈)のツッコミは全員が華麗にスルーした。

 

 

いろは「その時初めて、今日奉仕部で集まりが有ることを私が知った事実を、先輩はどう思いますか?」

 

 

 瞬間、一色の背後に居た全員が、サッと耐えかねるように目を逸らした。

 

 いや訂正。唯一黒めぐりんさんだけは、あいも変わらずほんわか笑顔のまんまである。

 この人ひょっとして、本家めぐりんよりもめぐりん力高くない? ほんわか強度が並大抵じゃないよ。

 

 

八幡「…………」

 

 

 ソレはソレとして、顎に手を当てて昨日の出来事を思い返してみる。

 

 確かあの時、雪ノ下は平塚先生に連絡して、丹生谷にはあいつの高校の連中に連絡を頼んだ。由比ヶ浜は……あ、アイツアドレス交換に勤しんでただけじゃん。

 

 

八幡「ああ、ホントだわ。誰もお前に連絡してないわ」

 

いろは「何でですかー!!!」

 

 

 一色が爆発した。

 

 常日頃よりリア充爆発しろと願っている俺だが、こういう爆発の仕方は面倒くさいので止めてもらいたい。

 爆発する時は俺から3㎞以上離れて、リア充達の多くいる雰囲気の明るい場所で爆発しよう。八幡との約束だぞ。

 

 

八幡「仕方ないだろ、由比ヶ浜はわりとアホなんだ。ちょっと忘れてたぐらいで、アイツを責めるのは良くないぞ」

 

いろは「今責めてるのは先輩ですよ! 結衣先輩がアホなのは知ってますけど、先輩がちゃんと連絡しといてくれればよかったじゃないですか!」

 

八幡「いや、お前の連絡先知らんし」

 

 

勇太(知らないんだ)

 

誠(知らねぇのかよ)

 

丹生谷(まぁコイツだしね……)

 

六花・七宮((流石は孤高の不浄王!!))グッ

 

くみん(お昼寝日和のいいてんきだなぁ~)ホワホワ

 

 

いろは「じゃあいいですよ! 交換しますよアドレス! 今まで目が怪しすぎて粘着が怖かったから躊躇してましたけど!!」

 

八幡「お前は本当に交換しようという気があるのか……?」

 

いろは「何が不満なんですか!」

 

八幡「不満しかねぇよ。まぁいいか。今回の件で、何だかんだで必要になりそうだし……」

 

 

 ポケットからスマホを取り出しロックを外す。

 

 新学期始まったら、生徒会の面倒事に呼び出される危険もあるが、そうなったら着拒しよう。

 

 

八幡「で、どうやって交換するんだ? LINE? ふるふるか? ふるふるだな?」

 

いろは「いやまぁ、ふるふるでいいですけど……何でそんな得意気なんですか?」

 

八幡「べ、別に覚えたばっかで使ってみたかったとかそんなんじゃ無いんだからね!」

 

留美(使ってみたかったんだ……)

 

丹生谷(使ってみたかったのね……)

 

いろは(何この先輩キモい)

 

 

 



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第十二話

前回の前書きに対して、思いの外たくさんの反応を頂いて、ちょっと驚いております。いやはやいろんなご感想、有難うございます。
けどまぁ実のところを言えば、低評価自体はそれほど気にしているわけでもなかったりします。非常にありがたいことに、それ以上の良い評価をもらってますし。

実際に僕が言いたかったのは、後半の二行「その幻想をぶち壊す」の部分でありまして。台本形式には台本形式なりの表現方法や面白さがあるだよってことをまぁこのSSで示せたらいいなぁと思う次第なのであります。



 

【中間考査 順位張り出し掲示板前】

 

 

――ワイワイガヤガヤ、ワイワイガヤガヤ

 

 

 15位:丹生谷 森夏

 

 

モリサマー(……初めて10番台に入ったわ)

 

 

黒髪女子「うそー順位下がったー!?」

 

メガネ女子「ふ……アタシはまずまずね……」

 

黒髪「ちょっと、アンタ全然勉強してないって言ってたじゃない!?」

 

メガネ「え、してないよ? マジ全然してないし?」

 

 

モリサマー(現代文の成績が上がったのが大きかったわね。いきなり4位だし。別にいつも通りの勉強しかしてないのに何でだ……ろ?)

 

 

 

 現代文 1位:比企谷 八幡

 

 古 典 1位:比企谷 八幡

 

 

 

モリサマー(ああ……。アイツに厭味ったらしく添削されまくったせいだわ……)

 

 

黒髪「うー、他はともかく現文が……赤点ギリギリ……」

 

メガネ「佐藤、本とか読まないからよ」

 

佐藤「アンタだって、別に点数良くないじゃん。メガネ掛けてるくせに」

 

メガネ「メガネは関係ねぇえええ!!」

 

佐藤「うひえ!?」

 

メガネ「その言葉、貧困な連想!! メガネに対する侮辱と捉えさせてもらう!! 貴様は総35億人から成るメガネの民、眼鏡ビトを敵に回したのだ!!」ビシッ

 

佐藤「ええ!? ちょ、ちょっと落ち着いて! ていうか世の中のメガネ率そこまで高くないから!」

 

メガネ「何を馬鹿な! 人はいつだって心にメガネを――」ドンッ!

 

モリサマー「あうっ」

 

メガネ「あ」

 

佐藤「ああもう、周りを見ないから……。ごめんね、えっと……丹生谷さんだよね? 同じクラスの」

 

モリサマー「いえ、違います」

 

佐藤「へ?」

 

モリサマー「私は魔術師モリサマー。丹生谷は現し世の身を偽る仮初の名です」

 

メガネ「は?」

 

モリサマー「何を驚くのです。それは貴方も同じでしょう? 原初の眼鏡ビト、メガ・ネーよ」

 

佐藤「はい? いやいや、さっきのはコイツが適当に言ってるだけで――」

 

メガ・ネー「……よ、よくぞ見破ったわね! その通りよ!」

 

佐藤「ええ!?」

 

モリサマー「やはり。眼鏡ビト、それは太古より人の歴史を記録する観測者」

 

メガ・ネー「よ、よく知っているわね……」タラリ…

 

佐藤「え、マジ? ホントに? ホントにそんなの居るの?」キョドキョド

 

モリサマー「しかし、どのように世界のすべてを観測しているのか常々疑問だったのですが、ようやく謎が溶けました。心にメガネを持つ。眼鏡ビトとはつまり、人の深層意識に住まうアストラルの集合体だったのですね」フフリ

 

メガ・ネー「え? ええ、まぁ……な、なんかそんな感じ……かしら?」ダラダラダラ…

 

佐藤「…………ねぇ鈴木。アンタ、なんか後に引けなくなってない?」ジトー

 

 

 

八幡(……こんな往来で、何やってんだアイツは)

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 部室に着くと雪ノ下と由比ヶ浜は既に訪れており、長机を囲むように全員分の椅子が並べられていた。早めに来て準備をしていたのだろう。

 

 ちなみに入った瞬間、雪ノ下がいつもの毒舌ご挨拶で、ジャブ代わりに「ずいぶんと遅かったわね」とか言ってきたが、背後からひょっこり顔を出した一色の「すいませーん。なんせ私集合時間とかの連絡もらってなかったものですからー」のジョルトカウンターに一撃で沈められていた。

 

 一色は現在、上座のパイプ椅子にふんぞり返って、雪ノ下に紅茶とお菓子を要求している。

 

 どうでもいいがその辺で止めておいたほうが身のためだぞ一色。雪ノ下が奥歯ギリギリ鳴らしてるから――って、おやおや? その見覚えのある木炭クッキーは……。

 

 うん、安らかに眠れよ一色。

 

 

平塚「入るぞ」

 

 

 心の中で後輩の冥福を祈っていると、平塚先生が小さな段ボール箱を小脇に抱えて部室に入ってきた。

 

 

八幡「先生も来てたんですか?」

 

平塚「そりゃ来るさ。顧問としての責任がある。……特に予定もなかったしな」

 

 

 最後のつぶやきは触れると面倒そうなのでスルーしておこう。

 

 

平塚「ふむ。君たちが他校の生徒かね?」

 

勇太「あ、はい。銀杏学園二年の富樫勇太です。で、こっちが――」

 

平塚「あー、そんな畏まった挨拶は不要だよ。来訪者バッチを持ってきただけなんでね」

 

 

 そう言って、平塚先生は抱えていた段ボール箱を長机に置いた。

 

 

平塚「ひの、ふの……うん、足りるな。君たち他校生が学内を歩き回る場合は、必ずこの来訪者バッチを付けるように。雪ノ下、活動終了後にバッチを回収して職員室まで持ってきてくれ」

 

雪乃「分かりました」

 

 

 小皿に載せた木炭クッキーを一色の前に置きつつ、雪ノ下が了承を返した。

 

 ふんぞり返ってご機嫌な様子で紅茶を啜っている一色は、そのクッキーの持つ禍々しさに全く気付いていない。

 

 

平塚「では、私は職員室で待機している。何かあれば呼びたまえ」

 

 

 ピシャリと扉が閉められるのと全く同じタイミングで、クッキーを食べたのだろう一色が、ガコンと机に突っ伏した。

 

 

誠「いろはぁぁぁああああ!?」

 

六花「コレはまさか――ダークマター!?」

 

七宮「なんだって!? 世界崩壊の起因物質である暗黒結晶が何故こんなところに!?」

 

結衣「単なる手作りクッキーだよ!?」

 

丹生谷「これが……クッキー? ジョイフル本田で売ってる木炭みたいになってるんだけど……」

 

留美「コレで釘とか打てそう……」

 

結衣「うわーん、前はもっとうまく焼けたのにー!」

 

勇太「おーい、バッチ取りに来てくれよー」

 

 

 ワイのワイのと騒がしい連中を余所に、雪ノ下は素知らぬ顔でクッキーの箱にハザードマークを描いた付箋を貼っていた。

 

 

 

     ▽

 

 

いろは「酷い目にあいました……」

 

 

 トイレから戻ってきた一色は、青い顔で開口一番俺にそう言ってきた。

 

 

八幡「アイツ割と短気で子供っぽいから、引き際には気を付けたほうがいいぞ」

 

いろは「もっと早く教えて下さいよ」

 

八幡「え、やだよ。巻き込まれたくないし」

 

 

 バッ、とシャーペンを手に振りかぶった一色の手首をすかさず掴み取る。

 

 

いろは「そ・れ・が、可愛い後輩に掛ける言葉ですかー……!」グググッ

 

八幡「俺の周りに『可愛い後輩』なんぞという生き物は存在しない……!」ググググッ

 

 

 

丹生谷「ねぇ……あの二人って、付き合い長いの?」

 

結衣「ううん、割と最近知り合ったばかりの筈なんだけど……。クリスマスイベントの時、一週間くらい目を離してたら、何かああなってた……」トオイメ

 

丹生谷「あっそう……」

 

 

 

八幡「と言うか最近のお前、俺に対しては面倒臭がってあざとさすらあんま見せなくなったろうが……!」ググググッ

 

いろは「それは先輩が、何やっても『あざとい、あざとい』連呼するからで――」グググググッ

 

雪乃「いつまで遊んでいるのかしら?」

 

 

 底冷えするような雪ノ下の声に、俺と一色は揃ってピタリと動きを止めた。

 

 振り返ると、雪ノ下は満面の笑みで持って、なぜか由比ヶ浜印のクッキーの箱を小脇に抱えている。

 

 俺と一色は光の速さでひたすら迅速にパイプ椅子に腰を下ろした。

 

 

結衣「ねぇ、ゆきのん。なんでアタシのクッキーを持ってるのかな? それってどういう意味なのかな?」

 

雪乃「せっかく由比ヶ浜さんが作ってきたんですもの。皆に振る舞わないといけないでしょう?」

 

 

 デンッ、と机の中心にクッキーの箱が置かれる。

 

 

雪乃「差し当たっては、面白い発言や行動をしてくれた人に食べてもらおうと思うのだけど、どうかしら?」

 

 

 シンッ――と部室内が静まり返る。

 

 唯一、眼帯娘の口から漏れた「アカン、コレ洒落にならん奴や……」という呟きだけが、いやに室内に響いた。

 

 

雪乃「フッ……様は発想の転換よ由比ヶ浜さん。貴方のクッキーでも、使い用によってはこの様に役立てることが出来る。気を落とす必要はない、胸を張っていいわ」

 

結衣「いや、全然フォローになってないからね!?」

 

 

 

 ごもっともなツッコミである。

 

 

 




佐藤と鈴木、オリキャラではない(確認)


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第十三話


この話が台本形式とのハイブリッド的な書き方をされている理由の一つとして、『中学編と高校編を並行して描きたかったから』というのが有ります。
冒頭で話のテンポを損なわせず、中学時代の1シーンをスパッと描くのは、台本形式が一番だよなぁ、と。

ただまぁ、台本形式だけでは描けるシーンに限界があるので、高校編では割と節操無く地の文が差し込まれています。
商業作品では決して出来ないこの適当さ! けど、評価コメントで貰った「一人称パートとの繋ぎが雑」との指摘には正直返す言葉がありません! 反省!




 

 

【図書室】

 

 

モリサマー「――この世には白の世界と黒の世界が合わせ鏡のように存在し、お互いに影響を与え合っているのです。白の世界とは今私達が存在している物質世界。黒の世界とh」

 

佐藤「ねね、モリサマ。換言の接続詞ってなんだっけ?」

 

モリサマー「“つまり”や“すなわち”などです」

 

佐藤「なるほどー」カキカキ

 

モリサマー「用法としてはこうです。黒の世界とは“すなわち”精神が存在する霊性世界のことです。……聞いていますか?」

 

佐藤「うんうん、聞いてるよー」カキカキ

 

鈴木「大丈夫だから勝手に続けてー」カキカキ

 

モリサマー「……コホン。原子の結びつきにより物体が形成されるのが物質世界であるなら、霊性世界は思想の結びつきにより概念が構成される世界と言えます。そう、精神とはすなわち概念なのでs」

 

鈴木「モリサマー。この主人公の心情を述べよって奴なんだけどさー」

 

モリサマー「……7行目の文章をよく読んでください。そこに書いてあります」

 

鈴木「おおー。さんきゅー」カキカキカキ

 

モリサマー「……あ、貴方達が常々語る魂とは、生物自らの思想により構成される精神、一人称概念です。しかし勘違いしてはいけないのは、生物以外の物質、何の変哲もない石ころなどにも精神は存在するということで……」

 

佐藤「へー」カキカキカキ

 

鈴木「ほー」カキカキカキ

 

モリサマー「…………我々生物が『あれは石である』と認識し、思考することにより、『石』にも精神が宿るのです。これを三人称概念と……」

 

佐藤「マジデー?」カキカキカキ

 

鈴木「パないわー。あ、辞書貸して?」

 

佐藤「ハイよー」

 

モリサマー「…………それはそれとしてメモゴメチン星人の話をしましょう。メモゴメチン星人は耳毛が異常発達したとても珍しい種族です。幼少期でも約1.5メートルほどの耳毛をツインテールのように垂らしており、成体ともなれば耳毛の長さは5メートルにも及びます。耳毛は自在に動かすことができ、食事や移動の補助、コミュニケーション等に使われています。性行も耳毛同士を絡ませあい、イッチョメイッチョメとヘッドバンキングしながら行うという、非常にユニークな生き物なのです」

 

佐藤「わーお」

 

鈴木「たまげたわー」

 

 

――ガシッ!!

 

 

モリサマー「は・な・し・を・聞きなさいよぉぉぉおおお!!!」グググググ!!

 

 

鈴木「うるせー! こっちは現代文の宿題で忙しいんだよぉぉおおお!!」

 

佐藤「ていうかモリサマ、あんたの腕力でこんなデカい長机ひっくり返せるわけないでしょ」カキカキカキカキ…

 

 

 

 

八幡(…………あいつ等ホントうるせぇ)ウンザリ

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 あの神社には昔、一匹の美しい鶴が居たのだと。そんな在り来たりな出だしから、ルミルミの話は始まった。

 

 それが本物の鶴なのか、はたまた容貌の美しい人間の娘に対する比喩なのかは分らないが、伝承にはただ一言、『鶴』と記されているそうだ。

 

 

留美「鶴は、自分が特別だと信じていたそうです。頭が良く、美しく、他者を引きつける魅力を持った自分は、神の御使であると」

 

勇太「なるほど、つまり中二病だな」

 

六花「むっ?」

 

 

 バカップルの片割れ――なんだっけ、富樫?――が、非常に身も蓋もない事を言って自分の相方に目を向けた。

 

 

八幡「いや、神の使いとか言ってるから、どっちかっつぅと……」チラッ

 

勇太「ああ、確かに……」チラッ

 

丹生谷「呪い殺されたいの……?」ヒクヒク

 

 

 あ、やっぱコイツ卒業しきれてないわ。

 

 

留美「ちゅうにびょう?」

 

結衣「のろい?」

 

丹生谷「うっ……」

 

 

 とっても純真な瞳で首を傾げる二人に居た堪れない物を感じたのか、誤魔化すような咳払いをして丹生谷は居住まいを正した。

 やはり一般人の前で本性をさらけ出すのは躊躇われるらしい。

 

 上手い事使えば牽制には持って来いだなとか考えていたら、スッと雪ノ下が俺と富樫の前に何かを差し出してきた。

 

 

八幡「……」

 

勇太「……」

 

 

 小皿に載せられた木炭クッキーであった。

 

 

八幡「おい、雪ノ下……」

 

勇太「あの……こ、これは?」

 

雪乃「どうぞ? お上がりなさいな」ニッコリ

 

 

 ハチマンたちは めのまえがまっくらに なった!

 

 

 

     ▽

 

 

 

雪乃「時間を無駄にしたわね。留美さん、続けて頂戴」

 

留美「あ、うん……」

 

 

 得体の知れない正露丸じみた風味と口内を蹂躙するザリザリ感にグッタリとする俺達に目もくれず、雪ノ下は続きを促した。

 

 丹生谷のザマァwww面が非常に鬱陶しいです。

 

 

留美「えっと……実際に鶴はとても聡明で、何度か周辺の村を助けたこともあり、多くの村人達から慕われるようになります」

 

六花「うむ。その辺りの事は我らが見つけた死海文書にも記されていた」

 

留美「し、しかい……?」

 

六花「世界弾劾図書館の最奥、死せる知識と歴史の海に沈められてあいやすいません何でもないですごめんなさい」

 

 

 クッキーの箱に手を伸ばしかけた雪ノ下の姿に、眼帯娘は即座に言葉を引っ込めた。

 

 効果抜群過ぎでしょうよ、そのクッキー……。

 

 

六花「あの、これ、図書館で見つけた郷土資料です、はい……。なんか、土砂崩れを予見して村人を避難させたとか、野盗を口八丁で追い払ったとか書いてました。あと、亀退治とか……」

 

結衣「亀退治?」

 

留美「神社のすぐ麓、今の亀治公園がある池に住んでいたという、嫌われ者の亀の事です」

 

結衣「へー」

 

留美「全身を苔に覆われた不気味な姿をしていて、村人たちから除け者にされていたそうです。けれど亀自身は気にした風もなく、どんな悪口や暴力を受けても、堅い甲羅の中に引きこもってやり過ごし、のうのうと呑気に暮らしていたと伝えられています」

 

 

一色「はーなるほどー。嫌われ者の……」チラッ

 

結衣「除け者にされた……」チラッ

 

丹生谷「引きこもりの亀……」チラッ

 

雪乃「…………」ウズ…

 

 

八幡「ねぇ、何こっち見てんの? おい、雪ノ下クッキーは? これもクッキー食わせるべきじゃないの?」

 

雪乃「鶴見さん。話の続きを」

 

 

 ちくしょう、スルーしやがった! 

 自分もこのネタ弄りたくてちょっとウズウズしてたくせに!

 

 

留美「亀は、鶴が村人から慕われるようになった後も、ただ一人彼女を認めることなく、反発し続けます。鶴のやる事に事あるごとに難癖をつけ、邪魔をし、そして最終的には野盗とともに村を襲い、鶴と村人たちの手によって退治されます」

 

誠「へー。ホントに嫌な奴だったんだなぁー」

 

 

留美「これが、“村人たち”によって綴られた鶴のお話です……」

 

勇太「村人たちに?」

 

 

 富樫のあげた疑問の声に、ルミルミはコクリと小さく頷いた。

 

 

留美「神社にはもう一つ、鶴自身の手によって綴られたとされる手記が残されているんです」

 

 

 

     ▽

 

 

 

 その後一旦休憩ということになり、俺はマッカンを買いに部室を出た。のだが。

 

 

八幡「…………なんで付いて来てんだよ?」

 

勇太「ジュース買いに行くんだろ? 俺たち場所知らないからさ」

 

誠「あと、女子比率高すぎて残されると正直辛い……。雪ノ下さん、なんか怖ぇし」

 

八幡「あっそう……」

 

 

 まぁ、その気持ちは正直分らんでもない。

 

 

勇太「なぁ、比企谷……あ、呼び捨てでいいよな? あそこって部室なんだろ? 何の部なんだ?」

 

 

 何こいつ、中二病患ってるはずなのに何でこんなコミュ力高いの? 新種かなにか?

 中二病から進化して高二病へ至ったはずの俺はご覧の有様であるというのに、この差は何なのだろうか。

 

 

八幡「……奉仕部だ」

 

 

勇太「…………ほ、奉仕部?」

 

誠「え、何なのそれ、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんも部員なんだよな? ど、どういった意味でのご奉仕なので……?」

 

八幡「……そんなにあのクッキー食いたいのか?」

 

誠「すんません自分調子こきました!」

 

勇太「なぁ、あのクッキーの風味、まだ口の中に残ってるんだけどさ……。どうやったら、あんなの作れるんだ……?」

 

八幡「聞くな、そして想像するな……」

 

 

 人が触れてはいけない領域というものが、この世には確かに存在するのである。

 

 父ちゃんの財布の中とかな。あんだけ社畜ってあの中身ってマジ絶望しか感じない。

 

 

 

     ▽

 

 

 

――Side Girl's

 

 

七宮「キヒヴァレイも、ちょっと変わったかな? でも根っこはおんなじだね」

 

丹生谷「アイツの性根が、そう簡単に変わるわけ無いじゃない」

 

結衣「きひばれいって、ヒッキーのこと?」キョトン

 

七宮「うん、私も中学同じだったからね!」

 

いろは「あ、じゃあじゃあ折本先輩って知ってます?」

 

 

 

雪乃「……」ピクッ

 

結衣「……」ピクッ

 

 

 

丹生谷「折本ぉ?」イラッ

 

七宮「知ってるけど、なんで?」

 

いろは「クリスマスイベントの時会ったんですけどぉ、なんか先輩と妙な雰囲気だったんで。何かあったのかなぁーって」

 

丹生谷「あぁいや……それは、そのぉ……」

 

七宮「キヒヴァレイが告白して振られたんだよ」キパッ

 

 

雪乃「」

 

結衣「」

 

いろは「……はい?」

 

 

丹生谷「ちょ!? アンタ何あっさりバラしてんのよ!!」

 

七宮「え、何が?」

 

丹生谷「そういう事、軽々しく他人に話していいものじゃないでしょ!」

 

七宮「そうかな? 本人大して気にしてないと思うけど。別に本気で好きってわけじゃなさそうだったし」

 

丹生谷「そりゃそうだろうけど……」

 

 

留美「あの……八幡て、好きでもない人に告白したんですか?」

 

丹生谷「…………自分や他人の感情を、勘違いしやすい奴なのよ。アイツは」

 

七宮「どうでもいい相手には、割と適当だしねー」ケラケラケラ

 

いろは「なんかそれだけ聞くと、凄い最低男なんですけど……先輩……」

 

 

 

雪乃(ああ、なるほど……)

 

結衣(なんか、すごい納得が……)

 

 

 

丹生谷「まぁ、気の迷いってやつでしょ。実際、アイツの好みとは全然違う相手だったし……」

 

 

――ガタッ

 

 

結衣「…………丹生谷さん」グイッ

 

丹生谷「……な、なに?」

 

結衣「ヒッキーの好きなタイプとか、知ってるの……?」

 

丹生谷「いや、本人に直接聞いたわけじゃないけど……予想は付くというか……」

 

結衣「どんな?」

 

丹生谷「え?」

 

結衣「どんな人がタイプなの?」

 

丹生谷「え~っと……」

 

七宮「……」ニマニマ

 

留美「……」ジー

 

六花(話に入っていけない……)

 

 

丹生谷「…………ハァ。まぁ、アイツのタイプなんて決まってるでしょ」

 

 

雪乃「……」スススス…

 

いろは(あ、なんか雪ノ下先輩も寄ってきた……)

 

 

 

丹生谷「手の掛かる、めんどくさい女よ」キパッ

 

 

 

結衣「手の掛かる――!?」ピシャーン!!

 

雪乃「めんどくさい女――!?」ピシャシャーン!!

 

 

 

いろは「えー? なんですかそれ、わざわざそんな女好きになる人居るんですかー?」

 

 

結衣「言われてみれば確かに……!」チラッ

 

雪乃「心当たりがありすぎるわね……」チラッ

 

 

いろは「え、なんです? 何でコッチ見てるんですか?」

 

 

丹生谷「本人は否定するでしょうけど、アイツが進んで関わろうとする女って、大抵そういう人間よ。ま、私とは正反対のタイプね」

 

 

 

六花「くみん。我が魔術結社一めんどい女が何か言っているのだが、コレは突っ込んだほうが良いのだろうか?」

 

くみん「むしろ、突っ込んだら負けってやつじゃないかなぁ~」ホワンホワン

 

 

 

雪乃「そ、そう……。由比ヶ浜さんはともかく、私には全く当てはまらないわね。一安心といったところかしら……」

 

結衣「何言ってんの!? ゆきのん、めっちゃ手がかかるじゃん!!」

 

雪乃「は?」ピキッ

 

結衣「方向音痴ですぐ迷子になるし、神経質で細かいし、負けず嫌いですぐ挑発乗るし! あと意固地で意地っ張りで我が強くてところどこ一般常識が抜けててうぎゅ!」

 

雪乃「私の名誉を毀損する悪い口はこの口かしら……」ギチギチギチ

 

結衣「うぐぐぐぐ……じ、自分で自分を可愛いって言ってる時点で、めんどくさくないわけないもんー……!」プルプルプル

 

 

留美(手の掛かる女……年下だから、わがままとか言ってもそれなりに……)ブツブツ…

 

 

 

――ガララッ

 

 

八幡「うー、さむさむ……」

 

誠「うえ、何だこのコーヒー!? めちゃくちゃ甘ぇ……」

 

八幡「は? 何お前、マッカンdisってんの?」

 

勇太「イヤでもコレ、クッキーの味消すのには丁度いいな……」

 

 

結衣「あ、ヒッキー!!」ダッ

 

八幡「うお!? な、なんだよ……」

 

結衣「ヒッキーの周りで、一番面倒で手の掛かる女の人って誰!?」

 

八幡「は? 何を急に……」

 

 

雪乃「……」ジー

 

留美「……」ジー

 

丹生谷「……」プイッ

 

 

八幡(何だこの雰囲気……?)

 

 

結衣「いいから、誰!?」

 

八幡「いやまぁ……面倒で手が掛かるっつったら、小町か、一色か……」

 

 

いろは「ッ!」

 

 

八幡「――あ、いや違うな。ダントツが居たわ」

 

結衣「だんとつ!? それって誰――」

 

 

 

 

 

八幡「平塚先生」

 

 

 

 

 

「「「「「は?」」」」」

 

 

 

 

八幡「だから、平塚先生だよ。正直、あの人の人生が今後どうなるか俺、気が気じゃねえんだけど。早く誰か貰ってやってくんねぇかなぁ……。このままだと、俺が貰っちゃいそうでホント怖い……」

 

 

 

 その後しばらく、部室内はなんとも言えない空気に包まれた。

 

 

 

 



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第十四話

戀のLite6話の佐藤、ちょうかわいい。
こんな普通の子が、この後モリサマーに毒されて病弱キャラ演じちゃったりするのかと思うと、とてもとてもゾクゾクします。



【図書室】

 

 

佐藤「やっとおわったぁ~……」

 

鈴木「こっちもぉ~……」

 

モリサマー「ようやくですか……」パタン

 

鈴木「やー、ごめんごめん。まぁ助かったわ」

 

佐藤「帰りになんか奢るね。私ちょっと辞書戻してくるー」

 

 

――トテトテトテトテ

 

 

佐藤「えーっと、確かこの辺り……に?」

 

八幡「ん?」←本棚の隙間から覗く腐った瞳

 

 

 

 

 

――ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!

 

 

 

 

 

モリサマー「!?」

 

鈴木「今の、佐藤の声?」

 

モリサマー「まさか、メモゴメチン星人の異星間交流の対象に――」

 

鈴木「いや、今そう言うのいいから。ちょっと佐藤ー?」テクテクテク

 

佐藤「す、すずき? で、出た! 出たのよ!」ガクガクブルブル

 

鈴木「何が? ごきぶり?」

 

佐藤「違う、幽霊よ! いや、ゾンビ? 貞子? と、とにかくそんな感じのこの世のものとは思えない腐った瞳が、そっちの本棚の隙間から覗いていたのよ!!」

 

鈴木「はぁ?」

 

モリサマー「腐った瞳……コチラ側からですか?」チラッ

 

 

 

八幡「……別に……いつもの事だし……悲鳴あげられるぐらい、気にしてねぇし…………」←体育座りでブツブツ言ってる

 

 

 

モリサマー(あぁ、なるほど……)

 

鈴木「アンタ何馬鹿なこと言ってんのよ。見間違いかなんかでしょ」

 

佐藤「で、でも……!」

 

 

モリサマー「見間違いではありませんよ」

 

 

佐藤「え?」

 

モリサマー「佐藤。貴方が見たのは、灰色世界の住人です。白でも黒でもない。本来存在し得ない、灰色の世界の」

 

佐藤「はいいろ?」

 

鈴木「また始まった……。そんなの居るわけ無いでしょうに」

 

モリサマー「そんなもの居ない。居るわけがない。その認識こそが彼の者を形作るのです。地面の土を取り除けば、そこには“何もない”穴が出来上がる。否定、拒絶により形作られる虚数世界。認識外の集合体。そこには何も存在しないという、存在。もとより存在しないものを殺すことは叶わず、故に不死者の王。矛盾の肯定者、それこそが灰色世界の住人なのです」

 

鈴木「あー……ちょっと何言ってるのか分からないですね」

 

モリサマー「分かりました。では実際にお見せしましょう。ちょっとそこの本棚の隙間を覗いてみてください」

 

鈴木「は? こう?」

 

モリサマー「ええ、そのまま居てください」スタスタスタ……ガシッ

 

八幡「え、何? 何でお前頭掴んで――」

 

モリサマー「えいっ」グキッ

 

八幡「ぐえ!」ギョロッ

 

 

 

 

 

――ぎいぃぃいいいゃあぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!

 

 

 

 

 

鈴木「いたぁああ!! ほんとに何か居たぁぁああ!!」ガクガクブルブル

 

佐藤「でしょ!? 見えたでしょ腐った目が!!」ナミダメ

 

モリサマー「フフフ……どうですか? この世ならざる世界を覗いた感想は」ドヤァア

 

八幡「感想は? じゃねぇよッ」スパンッ

 

モリサマー「あ痛っ!」

 

 

佐藤・鈴木「「へ?」」

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

雪乃「では熟女好きヶ谷君達も戻ってきたことだし、話しの続きを聞きましょうか」

 

八幡「待て雪ノ下、それは俺だけじゃなくて平塚先生の悪口にもなってんだろ」

 

雪乃「…………よく考えればそうね。ご免なさい、私とした事が失言だったわ」

 

八幡「頼むよホント、俺に言われたぐらいならシェルブリッド一発撃ってスッキリするだろうけどさ。同性のお前らに言われたら、またマジ泣きしちゃうだろ……」

 

雪乃「ええ、そうなるのは私も本意ではないわ……。以後気をつけましょう」

 

 

 

丹生谷「マジ泣き、した事あるの……?」

 

結衣「うん、前クラスメイトの子に、結婚の事言われて……。泣きながら帰ってった……」

 

丹生谷「平塚先生って、さっきの人よね? すごい美人だったけど……」

 

結衣「うん、美人でスタイルもいいんだけどね……何でかなぁ……」

 

六花「あの人はウチのプリーステスと同じ匂いがする」ニョキ

 

丹生谷「十花さんと?」

 

結衣「ぷりす……誰?」

 

丹生谷「この子のお姉さんよ」

 

六花「私と勇太との関係を知ったとき、お姉ちゃんってば内心チョー焦ってて自室で――」

 

勇太「ア、リッカ。ソレイジョウ、イケナイ」

 

 

 

雪乃「それじゃ鶴見さん。続きをお願いできるかしら?」

 

留美「あ、はい。ちょっと待ってください……」ガサガサ

 

八幡「なんだそれ?」

 

留美「鶴の手記を訳したやつ」

 

八幡「ほー」

 

 

 

留美「え~っと、じゃあ鶴が初めてこの地にやってきた時の手記から……『家の都合で京の都からこんな田舎に飛ばされるハメになった。親父の後ろ盾だったお偉いさんがちょっとやらかして立場が悪くなったから、国司の任期過ぎたあともコッチに残って土着するつもりらしい。死ね、藤原マジ死ね。つかここマジなんもないんだけどー。近所にいるのも学のないブッサイクな土人ばっかで、話合いそうなの一人も居ない。試しに道端に居た泥まみれの娘達に話しかけて、お気に入りの螺鈿細工とか見せびらかしてやったら「ひゃー!」とか叫んでんの。マジウwwwケwwwるwwwwwww。終いには私の事「天女! 天女!」言い出したから、コッチも「いえー、天女いえー」と適当に話しあわせといた。割といい暇つぶしになった』」

 

結衣「待って、留美ちゃんちょっと待って」

 

 

 ルミルミの口から語られだしたあんまりといえばあんまりな内容に、たまらず由比ヶ浜が待ったをかけた。

 

 

留美「何ですか?」

 

 

 キョトンと首を傾げるルミルミ。

 え、止める理由わかんない? ホラホラ、周りの皆もポカーンとしてるよ? ホントに分かんないの?

 コレがジェネレーションギャップというやつなのだろうか。

 

 

結衣「何っていうか……えっと、そのね。なんて言ったらいいかな……」

 

雪乃「……今の非常に頭の悪そうな文章は、いったい何かしら?」

 

留美「お母さんが現代語訳したものですけど」

 

 

 訳したの鶴見先生かよ! え、あの先生そういうキャラだったの?

 平塚先生と違って、凄くおっとりした家庭的な感じの印象だったのに! 平塚先生と違って!

 

 

結衣「……ホントに?」

 

留美「はい。鶴の本性をとても良く表現していると、お爺ちゃんとお婆ちゃんも絶賛してました」

 

雪乃「そ、そう……。遮ってしまってごめんなさい。続けて頂戴……」

 

留美「では……」

 

 

 

     ▽

 

 

 

 ※以下、鶴のはっちゃけた日常の数々を御覧ください。

 

 

 

○月○日

 

 今日も今日とて土人共をからかいに行く。

 こないだ話をした娘共が、私が天女だという噂を流しているらしく、土人共はこっちの適当な発言に一々ナイスなリアクションを返してくる。親父はこっちで働く根回しのためにほうぼうを歩きまわり、滅多に家に帰ってこないので、割とやりたい放題だ。まさにフリーダム!

 

 今日の標的は村の男共だ。京に居た頃は余所の男と顔を合わせるのもNGだったので、彼奴らの生態にはとんと詳しくない。

 キクとネネ(こないだの娘)の話しによれば、スケサクという男が村一番のご立派なモノを持っているらしい。つーかアイツら男の裸見たことあんのかよ、生意気な。

 田舎娘に負けちゃいられんといざスケサクのもとに。田んぼの畦道を歩いていると、野良仕事をしている男どもは、決まって手を止め呆けた視線をこちらに送ってくる。ゆ☆え☆つ!

 

 スケサク発見。顔が芋っぽい。超芋っぽい。体格も小柄だし、コイツがホントにんな大層なものを持っているのか?

 まぁ、実際に見てみなければなんとも言えないか。しかしどう確認したものかと悩んでいると、右太ももに大きな痣があるのを見つけた。聞いてみると、いつの間にか出来ていたとのこと。これ幸いとやたら神妙そうな顔で黙りこんでやると、スケサクがオロオロしだした。ウケる。

 ついで、最近腰や背中に妙な痛みはないかと聞いてやると、「ふぇぇ、なしてわかんのぉぉ……」と言った感じで顔を青くしだした。毎日野良仕事やってりゃ、誰だって痛くなんだろうよ。

 こうなればコッチのもんである。呪いだ悪霊だと適当な事言って、調べるためにちょいと服を脱げと言ってやるとあっさり全裸になりおった。チョロい。

 つーかこいつマジデカかった。あんなんホントに入るの? ていうか男のってあんな構造になってんのな、グロい。

 

 まぁひと通り眺めて知識欲も満たせたので、これから二日間、朝の夜明け前に裸で踊って月に祈りを捧げ、それ以外は部屋に篭って出ないようにしなさいと言っといた。

 後日キク達に聞いてみると、マジ裸踊りかましていたらしい。あと、「ほんまに体が楽んなっただー」と喜んでいたそうだ。うん、そうだね。二日間ゆっくり休んだからね。

 

 

 

 

 

○月△日

 

 キクとネネが私の着物を着てみたいとか言い出した。

 何言ってんだこいつ等身の程知れよと思いもしたが、まぁ二人とも私の手駒として色々動いてもらってるしなぁ。仕方が無いので一番の安物を貸してやる事にした。

 取り敢えず徹底的に湯浴みさせて泥を落とし、着付けしてやる。ついでだからと化粧まで施してやったらあらあらまぁまぁ。

 何だよやーるじゃーん。お前らやればできる子じゃーん。もともと素材は悪くなかったんだなー。

 

 二人とも超騒いでキャーキャー言ってるので、おっしゃ下界に繰り出すかー、と三人で村を練り歩く。

 私らを見た村人は、相変わらずマジ爆笑もんのリアクションを返してくれるので笑いを堪えるのが辛い。

 二人の両親とか腰抜かしてるし。「おらの娘どうなっちまっただー!?」とパニクっていたので、「解脱して天女になってん。あたしがさしたってん」と言ったことを適当にえらく勿体ぶった言葉で伝えてやった。

 キクとネネも、最近は私の“ノリ”というものを理解してきていたので、「お父様お母様、今までお世話になりました」とか涙ながらに語ってんの。いいぞ、もっとやれ。

 

 家に帰った後、三人大爆笑で床を転げまわった。丁度良いので、二人とも本気で使用人として雇うことにしよう。

 

 

 

 

 

×月◇日

 

 昨日、大雨と土砂崩れが起こった。それ自体はまぁ、村の被害も少なく済んでよかったのだが、問題はその後だ。

 と言うのも一週間ぐらい前、ちょーっとムカつくババアが居たので、「お前マジ覚悟しろよそのうち水害とかで襲われるからなマジだぞマジ」と軽く脅してやっていたのだ。

 その直後にこの土砂崩れである。内心ビビっていたババアは大雨とともに周りの村人と逃げ出していたので被害ゼロ。

 村人たちは、私が土砂崩れを予見して村を救った大騒ぎ。米やら野菜やらを山ほど持ち寄って屋敷を取り囲む始末である。

 

 「あたし、ヤバくね?」背後のキクたちに目配せする。「ヤバいっす、マジヤベぇ」「ていうかパない。ちょうパない」二人も目で語っていた。

 やっぱヤバいかー。うん、ヤバいなー。パないなー。この身に受ける信仰心がマジヤバい。超気持ちいい。

 

 こうなったらアレだ、アレ。行けるとこまで行っちゃうかー。よし決めた。私は――

 

 

 

     ▽

 

 

 

留美「『――新世界の神になる!』」

 

 

 

丹生谷「……………………………………………………糞女ね」

 

留美「ウチの神社が、千年以上もひた隠しにしてきた鶴の本性ですから」

 

 

 ルミルミの言葉に、そりゃ村人にはバラせんわなぁと全員が頷いた。

 

 

 



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第十五話

 

 

佐藤・鈴木「「…………」」ポカーン

 

八幡「くそ……首マジいてぇ……。ていうか、アンタ等もあんま図書室で騒ぐ――」

 

 

 

鈴木「ま、まさか――」

 

佐藤「モリサマの言ってた不死者がホントに居たなんて!?」

 

 

 

八幡「…………え?」

 

モリサマー(あ、固まった)

 

 

 

鈴木「ちょ、どうすんのよどうすんのよモリサマー!? アンタが呼び出したんでしょ!」ユサユサユサ!

 

佐藤「ヒィィイ!? こ、こっち見てるぅう! すいませんすいません成仏してください成仏してください」ユサユサユサユサ!

 

モリサマー「いやあのそこまで本気で信じられるとさすがにどう対処していいか困るっていうかあぁぁゆらさないでえぇぇ……」ガックンガックン

 

 

 

八幡「なんかもう……どうでもいいや……」ドンヨリ…

 

モリサマー(なんか超凹んでる)

 

八幡「あと十分で図書室閉めるから……それまでに出てってくれ……」トボトボ…

 

 

鈴木「あ……」

 

佐藤「立ち去った……」

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

勇太「ていうか、亀はいつ出てくるんだ……?」

 

留美「この後しばらく、鶴たち3人のアッパラパーな日々が続きますけど」

 

雪乃「カットで」

 

 

 にべもなく斬り捨てた雪ノ下の言葉に、ルミルミがショボンとした視線を向けた。

 

 実はお気に入りだったのかよその話。

 

 いやまぁ、面白いと思うよ確かに。

 

 VIPに『ウチの神社の伝承がカオス過ぎる件』とかスレ立てして連載すれば割と人気出るんじゃないかなっ。

 

 

留美「じゃあ、亀が関わってくるところからにします……」

 

 

 

     ▽

 

 

 

X月X日

 

 今日なんか妙な奴を見かけた。

 サイズの合わないでっかい毛皮を被った奴で、顔に泥で変な化粧をしていた。

 ウチの麓にある池のすぐそばに住んでるっぽいのだが、今まで見たことがなかった顔だ。

 ネネに聞いてみると、普段ずっと山に篭って猟をしている変人らしい。

 亀とか何とか呼ばれているが、詳しいことは知らないとのこと。何か知らんけど妙にネネがビビッていた。

 まぁいい、他の村人たちはほぼ私の信者になったし、次のターゲットは奴にしよう。

 

 

 

X月X日

 

 なにあぃつあたくしさまのことはなでわらぃやがったんですけどちょぉむかつくんですけどぉー。

 

 ……まぁいい。明日もうちょい本気出す。

 

 

 

 

X月X日

 

 ………………次ぎ会ったら亀殴る。

 

 

 

 

X月X日

 

 かめころす

 

 

 

 

X月X日

 

 か、かめっ、がっ、かかがめがか――ッかめぇぇぇええええええええええええええええ!!!!!!!

 

 

 

     ▽

 

 

 

八幡「亀と何があったんだよ」

 

勇太「軽い錯乱が見受けられるな……」

 

いろは「錯乱って言うか、病んでません?」

 

留美「この辺りから暫く、殴り書きのこんな文章ばかり続きます」

 

雪乃「資料にならないわね……」

 

 

 雪ノ下さんお決まりのこめかみを押さえるポーズ出ましたー。

 

 

留美「詳細は分かりませんけど、大雑把な出来事なら分かる資料はありますよ」

 

 

 雪ノ下の指摘を予想していたのだろう。

 そう言ってルミルミは、鞄から新たなクリアファイルを一つ取り出した。

 

 

雪乃「それは?」

 

留美「鶴が書いていた『絶対に許さない目録』です。書かれている九割は亀の事ですけど」

 

結衣「鶴って千年以上昔の人なんだよね!?」

 

留美「まぁ、時代を先取り? 的な感じじゃないかと」

 

八幡「いや先取りにも程があんだろ……。一種の文学的なオーパーツなんじゃねぇのこれ……」

 

六花「オーパーツ!?」ガタッ

 

七宮「ムー大陸の遺産!?」ガタタッ

 

八幡「うお!?」

 

 

 急に身を乗り出してくんじゃねぇよ、ビックリしちゃうだろ。

 

 

勇太「ええい、いちいち反応するんじゃありません!」

 

六花「しかし、オーパーツの危険性は勇太も熟知しているはず!!」

 

七宮「そうだよ! もしかしたらアーカム財団が介入してくる恐れも――」

 

八幡「スプリガンより先に、目の前の脅威を認識するべきだと思うがな……」チラッ

 

 

雪乃「……」ニッコリ

 

 

六花「お、おう……」

 

七宮「き、今日のところは、この位にしておこうか……」

 

勇太(この二人が、こんなにすぐ大人しくなるなんて……)ジーン…

 

 

 

 

結衣「ねぇいろはちゃん。今の会話、意味わかる……?」

 

いろは「いえ全然ー……。何時もならまた先輩の妄言かって聞き流すんですけどー……」

 

丹生谷「オーパーツっていうのは『場違いな工芸品』って意味よ」

 

 

結衣・いろは「「へ?」」

 

 

丹生谷「より詳しく言うなら、『当時の文明、技術では製造不可能』とされる発掘品の事ね。スプリガンは財宝の番人である妖精の事だから関わりは分るけど、アーカム財団って何かしら? クトゥルフ神話によく出てくるアーカムって架空都市はあるけど、財団ではないし……」ペラペラペラ

 

 

結衣・いろは「「…………」」ポカーン

 

 

丹生谷「漫画か何かのネタかしr――って、は!? あ、いや、今のはその……ちがくて……」ワタワタ

 

結衣「ほへー……丹生谷さんって物知りなんだねー」

 

丹生谷「え……?」

 

くみん「うんそーなのー。モリサマちゃんってば、いろんな事知ってるんだよー」ポヤヤ~ン

 

丹生谷「あは、あははは……。まあ、ね……(死にたい……)」

 

いろは「…………(この人って、実はあっち側の人間なんじゃ……)」

 

 

 

 

留美「取り敢えず、絶許目録読んでいいですか?」

 

雪乃「そうね……一先ず聞いてみましょう」

 

誠「つーか内容が気になって聞かずにはいらんねッス!」

 

八幡(いつの間にか一色いとこが、雪ノ下に対して下っ端敬語使うようになってやがる……)

 

 

 

     ▽

 

 

 

X月X日 亀

 私が声をかけてやったのに鼻で笑いやがった。絶対に許さない。

 

 

X月X日 亀

 近づいたら犬をけしかけられた。めっちゃ吠えられて怖かった。絶対に許さない。

 

 

X月X日 亀

 後ろから飛び蹴り食らわせようとしたら避けられてケツから落ちた。泣きそうになった。絶対に許さない。

 

 

X月X日 亀

 村を歩いていたら会うやつら全員に「お尻大丈夫ですか?」と声をかけられた。こないだの事が何故か村全体に知れ渡っていた。絶対に許さない。

 

 

X月X日 亀

 夜中に亀んちの庭先で人一人がすっぽり収まるくらいの穴を掘っていたら、いきなり後ろから突き落とされた。私はまだ何もしていなかったのに。絶対に許さない。

 

 

X月X日 亀

 すっぴんを見られた。絶対に許さない。

 

 

X月X日 亀

 アイツのお陰で足を怪我して山で遭難しかけた。オマケに私を「重い」等とのたまいやがった。絶対に許さない。

 

 

X月X日 亀

 試しにちょっと弓を引かせてもらったらオッパイに弦があたって死ぬほど痛かった。アイツ爆笑してやがるし。絶対に許さない。

 

 

X月X日 亀

 鹿肉の最後の一切れを食べやがった! 絶対に許さない!! 絶対にだ!!

 

 

X月X日 亀

 生まれてはじめて作った私の手料理を不味いと言いやがった。絶対に許さ――

 

 

 

 

 

六花「はいストップ。コレちょっとストップ」

 

 

 唐突に制止の声を上げた眼帯娘に、全員がどこと無くウンザリとした色を含んだ眼差しを向けた。

 とは言え、別に彼女自身を鬱陶しいと思ってのことではない。いや、実際問題としてこいつの普段の言動はすこぶる鬱陶しいのだが、今全員が辟易しているのは別のことに対してであろう。

 

 

六花「アイス・エンプレス議長。発言を許可していただきたい」

 

雪乃「私はそんなけったいな名前ではないし、言いたいことも正直予想はつくのだけれど。まぁいいでしょう、言ってみなさい」

 

 

 そんなセリフを吐く雪ノ下にしても女帝的な高飛車度がなんかいつもの三割増し(八幡調べ)であり、実はコイツ眼帯娘共に影響されてきているんじゃなかろうかという思いが拭えないものの、それも今この場で論じるべき事ではないだろう。

 

 今重要なのはただひとつ。この場にいる全員が共通して抱いている唯一の思い。つまりは――

 

 

六花「…………これ、後半から単なる惚気じゃねーか!!」

 

結衣「あ、やっぱり!? やっぱりそうだよねコレ!!」

 

丹生谷「聞いててなんかイライラするんだけど……」

 

いろは「これ絶対山でなんかあったんですよね? パターン過ぎません?」

 

くみん「私知ってるよぉー。こういうの、『つんでれ』さんっていうんだよねー?」

 

 

 源氏物語(ハーレムラブコメ)どころかツンデレまで生まれてたとか、平安時代始まりすぎだろJK……。

 

 

 





はいストック付きました。

ただまぁ、最新話は現状七割がた書きあがっていて、どうしても書けずにずっと詰まっていた部分を昨日どうにか越えられたので、明日最後の日刊更新にはなんとか間に合うかなぁ、という状況です。

間に合わなかったらごめんなさい……。



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第十六話


どうにか書き上がりました、正真正銘の最新話。
最後の日刊更新です。ストックが尽きたため、これ以後は更新速度ががくっと落ちますが、まぁのんびりとお待ちください……。



 

 

 結局それは全て、私が招いた事だったのだろう。

 

 自分に都合の悪いことからは目を背け、自分に都合の良いように周囲を回した。

 

 彼と周囲の人間達との確執には気づいていたし、私であればそれを解消できたかもしれない。少なくとも、改善させるだけの力はあったように思う。

 なのにそれをしなかったのは、ひとえに私の自尊心からくる見栄と、幼稚な独占欲からであった。

 

 彼に対する自分の好意を、周囲に、何より彼自身に対して大っぴらにすることが怖かった。

 その一方で、実際の彼という人間を、自分だけが知っているという事実が心地よかった。

 

 

     ▽

 

 

 私の首に刃を突き付け、男が背後で狂ったように叫び声を上げる。

 残った野盗はたったの5人。それを取り囲み、20人近い村人たちが手にした農具や野盗から奪った武器を突きつけていた。

 問題は、その取り囲まれている中に、私と亀の二人も含まれていることだ。

 

 作戦は、うまく行ったと言ってよかったのだろう。

 野盗の大半は、亀の手引によって誘い込んだ罠にかかり、命を落としたか捕らえられた。

 残った数人も、取り囲んだ村人によって問題なく捕らえられるだろう。自分が、捕まりさえしていなければ、だが。

 

 村人たちが口々に罵りの言葉を吐く。

 半分は野盗に対して。そしてもう半分は、亀に対して。裏切り者。恥晒し。

 

――違う、と。

 喉の奥から迫り上がりそうになる言葉を、どうにか堪える。

 

 村人たちには、亀が野盗の仲間となり、あえて村に誘い込んだということは話していない。

 信用されていない自分の行動よりも、純粋に私の予言だと伝えたほうが村人たちは信頼するだろうと亀が言ったからだ。

 そして、盗賊たちに対しても、亀のことはまだバレていなかった。今ここで声を上げれば、一番身が危うくなるのは亀自身だ。

 

 どうしよう。どうすればいい? まとまらない私の思考を置き去りに、事態は刻々と進んでいく。

 私の体を盾にして威嚇し、野党たちは村人の包囲をどんどん掻き分け、ついには村の境界線である小川の側まで来ていた。

 突き当たった小川に押しつぶされるようにして、野盗を取り囲む包囲が崩れる。その間隙を突き、野盗たちは一気に橋の上まで飛び出した。

 

 ああ、駄目だ。この橋を越えられたら、そのまま野盗たちは逃げ遂せてしまう。

 その場合の私の命運は、正直予想したくない。普通に殺されるのなら、まだマシな方だろう。

 

 

――亀……。

 

 

 最後に。何の策もなく。ただ縋るように私が目を向けたのと同時に。

 獣のような悲鳴が、耳を突いた。

 

 脇腹から血を滲ませ、よろめくように亀がこちらに近づいてくる。

 その向こう側で、刃先に血のついた槍を持ったネネが、訳が分からないとでも言いたげな呆けた表情を浮かべていた。

 刺された、の? ネネに? 何で、アンタが?

 

 

「テメェ、ら……よくもやってくれたなァあ!!」

 

 

 怒りの咆哮を上げながら、亀は野盗の手から引っ手繰るように、私の胸ぐらを掴み上げた。

 そのままの勢いで、手に持った短刀を亀が振り上げ――

 

 

「バカ、ヤメろ!!」

 

「――ぁ」

 

 

 視界の半分が、真っ赤に染まった。熱く焼けるような血の感触を首元に感じながら、体がゆっくりと橋から落下していく。

 訳も分からず伸ばした手の先で、亀がゆっくりと背を向ける。

 

 その背中から、何本も何本も槍の穂先が突き出てくるのを目にした瞬間、衝撃が背中を襲った。

 

 

「かは――ッ」

 

 

 息が詰まる。ただ、痛みはそれほど無かった。浅いとはいえ、小川の水がクッションになったのだろう。

 ケホケホと咳き込みながら体を起こしたところで、ふと気づく。痛みは、無かった。背中も――首元からも。

 

 バシャリと、少し離れたところで飛沫が上がった。

 音がした方向へ視線を向けるが、暗くてよく見えない。ただ、誰かが倒れている事だけは分った。

 

 

「…………かめ?」

 

 

 パシャパシャと。川底を這うようにして音の方向へと進んでいく。

 近づけば近づくほど、川の色が変わっていくことに気付いたが、理性がその意味を理解することを拒絶した。

 

 頭上では、今だ野党と村人たちが争う喧騒が響いている。

 すぐ近くの筈なのに、私の耳には何処か遠くの出来事のように聞こえた。

 

 やがて。真っ赤に染まり切った川の中で。

 色と表情を失い、何処とも知れぬ虚空を見上げて横たわる亀の姿が、はっきりと見えた。

 

 

「かめ……かめ……?」

 

 

 名前を呼びかけながら、彼の体を揺する。

 すると虚空を見上げていた彼の顔がゆっくりと傾き――その視線は、そのまま私の顔を通り過ぎて、川底まで落下した。

 

 それ以上は、いくら体を揺すっても、声をかけても、彼が反応を示すことはなかった。

 その目が私を見ることはなかった。その口が、私に対する皮肉を紡ぐこともなかった。

 

 血を、止めないといけないのだろうか? けれどどうやって止めたらいいのかわからない。幾つも幾つも空いた体の穴の、いったいどれから塞げばいいのかわからない。

 体だけじゃない。左の手首からも、今だ止め処なく血を流し続けている。

 その手が、私の胸ぐらを掴んだ手だということに思い至った時、私の首元に張り付いた血の正体を知った。

 

 知りたくもなかったのに。

 

 

「かめ……ねぇ、亀ってば…………」

 

 

 神様ならば、この血を止めることができるのだろうか?

 神様ならば、時間を巻き戻してやり直すことができるのだろうか? あの橋の上から。野党を罠にかけた時から。亀と出会った時から。亀が、村人たちに疎まれる前から……。

 

 けれど私は神様ではない。神様などでは、なかったのだ。

 

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 

留美「……これが、鶴の手記に書かれていた、亀との顛末です。これ以降の事を書き記した手記は見つかっていません」

 

結衣「……亀さんのことに対する誤解は、結局解けなかったってことなのかな……?」

 

雪乃「村人が伝えている伝承から察するに、そうなんでしょうね」

 

いろは「じゃあ鶴は、亀の真実を伝えなかったってことですかー? なんかスッキリしませんけどー」

 

八幡「そうとは限らんだろ。前にもどっかで言ったけど、こと――」

 

丹生谷「言葉でいくら言ったって、信じたくないことを、人間は信じたりなんてしないわよ。ましてや、亀を殺したのは、村人達なんだから……」

 

 

 

雪乃「……」

 

結衣「……」パチクリ

 

 

 

丹生谷「……な、なに?」

 

結衣「あ、ううん! 何でもない!」ブンブン

 

 

勇太「えっと……とにかく、この話が鶴御神社の祭りの起源、ってことでいいのか?」

 

留美「あ、はい。野党を退治した後、村人たちは鶴への感謝と皆の無事を盛大に祝って、それが今でも毎年続いているんです。ただその時に、鶴は亀が住んでいた場所には誰も近づかないようにと命じたそうで……だから、お祭りの時も亀治公園は使われていないんです」

 

雪乃「そう。ではこの話から、何かイベントを考えましょう。正直、あまりお祭り向けのイベントを考えることに向いた話とは言えないけれど……この際、少々こじ付けのようになっても仕方ないでしょうね」

 

いろは「じゃあ、取り敢えずアイデア出しですか?」

 

雪乃「そうね。ただその前に、班を二つに分けましょう」

 

いろは「二つにですか?」

 

八幡「伝承のまとめ役か」

 

雪乃「ええ」

 

結衣「どーゆうこと?」

 

八幡「神社由来のイベントを提案するなら、伝承の説明もせにゃならんだろう。ただ、正直この手記をそのまんま出すのはな……」

 

雪乃「そう。一般に公開できるものとして、短くまとめ直す必要があるわ。表現や内容も色々とその……オブラートに包んで、出来ればA4の用紙一枚に収まる位が理想的ね。比企谷君、お願いできるかしら?」

 

八幡「良いけど……俺一人か?」

 

雪乃「執筆と校正の二人組が理想ね。私がやってもいいけれど……」

 

勇太「いや困る! それは困るぞ! 雪ノ下さんにはコイツらの抑え役――もとい、まとめ役をやってもらわないと!!」

 

六花「む……」

 

雪乃「まぁ、そうでしょうね……」ハァ…

 

八幡(……アイツも苦労してんだろうなぁ)

 

 

七宮「じゃあ、モリサマーがいいよ」

 

丹生谷「は?」

 

 

誠「まぁ、俺らの中じゃ一番文系得意だしな。学年主席だし」

 

丹生谷「ちょ、何を勝手に……」

 

雪乃「そういうことならお願いしたいわね。正直この内容を端的にまとめるとなると、それなりの能力が必要でしょうし。ウチの他の人員は……」チラッ

 

 

結衣「」サッ

 

いろは「」ササッ

 

 

雪乃「あまり適任とは言えないから……どうかしら?」

 

丹生谷「いや、私は……」

 

七宮「なに悩んでんだか。得意でしょ? こういうの」

 

丹生谷「七宮……」

 

 

七宮「それにね。これは、モリサマーがやるべき事だと思うよ」ボソ

 

丹生谷「ッ――モリサマー言うな……。わかった、やるわよ……」

 

雪乃「そう。助かるわ」

 

 

八幡「……決まりか? なら、ノーパソ借りるぞ」ガタッ

 

雪乃「ええ、好きに使って頂戴。必要なら持ち帰っても構わないわ」

 

八幡「そりゃ助かる。あと、留美。手記やら何やらの資料一式借りていいか?」

 

留美「あ、うん」

 

八幡「そんじゃまぁ、俺らは端っこでやってるから……。アイデア出しよろしく」

 

丹生谷「…………」

 

 

 

     ▽

 

 

 

八幡「で、どっちがメインで書く? こういうの慣れてるのは、お前だろうけど」

 

丹生谷「私は無理……。この話を客観的に書ける自信、私は無い……」

 

八幡「……あっそ。んじゃ俺が書くわ」

 

丹生谷(……私は……何でコイツと、こんな普通に会話してんだろ……)

 

 

 



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第十七話

 

ソフィア「君が噂の魔眼使いだね!」ビシッ

 

八幡「いえ人違いです」キパッ

 

 

ソフィア「……」

 

八幡「……」スタスタスタスタ…

 

ソフィア「………………魔牙突滅(まがつめ)!!」ビュンッ

 

八幡「痛いッ!? なんでシャーペン投げてくんの……!?」

 

ソフィア「フッ。流石にその程度では大したダメージにならないようだね」

 

八幡「いや痛かったよ? 背中だからよかったけど、顔とか当たったら危ないからね?」

 

ソフィア「けど……魔牙突滅‐覇炎式ならどうかなッ」ジャキ

 

八幡「いや赤ペンに変わっただけじゃねぇか。お前それ、ワイシャツにインクとか付いたらクリーニング代請求するからな」

 

ソフィア「………………ま、まぁ今日の所はこのぐらいにしておこうか」

 

八幡(……どうやら金はあんま持ってないらしい)

 

 

ソフィア「そういえば名前がまだだったね。私はソフィ――」

 

八幡「あ、結構ですこれから先も特に関わりたいとは思わないんでそれじゃさよならまた会わないようにしましょう」スタスタスタ

 

――ガシッ

 

ソフィア「わたしはソフィアリングエスピィサターンナナセェエエエエ!!」ズルズルズルズル

 

八幡「ええい離せお前みたいなのはもう十分間に合ってんだよ……!」

 

 

 

 

モリサマー(え? だ……誰あれ……?)コソコソ

 

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 

雪乃「さて、イベントのアイデア出しなのだけれど……先ずは、その…………ブレインストーミングから始めようと思うのだけど……どう、かしら……?」

 

いろは「……」

 

 

眉間に皺を寄せ、非常に言い難そうに紡がれた雪ノ下の言葉に、一色があからさまに「何言ってんのこの人」的表情を雪ノ下に向けた。

 

 

勇太「ブレイン?」

 

七宮「精神攻撃系かな?」

 

六花「ありうる」ウンウン

 

 

 うん、そうだね。割とその認識は正しいかな!

 高い意識力の持ち主が操れば、神話生物並にSAN値をゴリゴリ削ってくるまである。

 

 

いろは「あの、雪ノ下先輩…………正気ですか?」

 

雪乃「言いたいことは非常によく分かるわ、一色さん……。私自身、ここまで自分の判断を懐疑的に思うのは初めてよ……。けれど、企画を考える上での取っ掛かりとしては、ブレインストーミングと言うのは確かに有効なのよ……」

 

いろは「まぁそうなのかもしれませんけどぉー…………」ゲンナリ

 

誠「ていうかその……ブレーン……ストーミング? ってなんだ?」

 

雪乃「ブレインストーミング。集団でアイデアを出し合うことを主題とした、会議方式の一つよ。ブレインストーミングを行う際には、これから言う四原則を守ってもらう必要があるわ」

 

 

 そう言って立ち上がり、雪ノ下はホワイトボードのペンを手に取った。

 今更気づいたけど、アレどこから持ってきたんだろう。まぁ、平塚先生にでも頼んだのだろうが。

 

 

雪乃「一つ目。判断・結論を出さないこと。これは自由なアイデア抽出を阻害しないためのルールね。どのアイデアが良いかどうか、実現可能かどうかなどを考えるのは、次の段階の話で、ブレインストーミング内ではその手の意見はタブーとされるわ。

二つ目。自由奔放な考えを歓迎すること。一つ目のルールにも関わってくることだけれど、実現性の有無などは考えず、とにかく斬新でユニークなアイデアを出すことが重要視されるわ。

三つ目。質よりも量を重視すること。様々な角度から多くのアイデアを出すことを意識して頂戴。極端な話、つまらないと思うようなアイデアでもいいわ。そのアイデアから逆転の発想をすることで、面白いアイデアが生み出されることだってあるのだから。

最後、四つ目。アイデアを結合し、発展させること。別々のアイデアをくっ付けたり、一部を変化させることで、新たなアイデアを生み出すことが推奨させるわ。要は、他人のアイデアに便乗しなさいということね」

 

 

 スラスラと解説を語りながら、ホワイトボードに要点をまとめていく。

 さすがユキペディアさん。まるで本家ウィキペディアからコピペしてきたかのようなわかりやすさである。

 

 

雪乃「概要としてはこんなところね……。理解できたかしら?」

 

誠「まぁ……なんとなくは……」

 

六花「大丈夫だ。問題ない」

 

 

 眼帯娘が非常に不安をあおる返答をした。

 雪ノ下も同様の思いを抱いたのだろう。非常に疑わしげな目を向けているが……。

 

 

六花「つまり、手数重視のコンボゲーだから取り敢えずレバガチャプレイして、ゲージが溜まったら即ブッぱしろということだろう」

 

 

 ヤベェ、なんだこの要約超わかりやすい。え、なにこの子、実は割と頭いいの?

 

 

雪乃「れ、ればがちゃ? ぶっぱ……?」

 

勇太「おお、なるほど!! すげぇ良く分った!」

 

誠「あーそういうことかー! それなら出来そうだわー」

 

 

 戸惑う雪ノ下をよそに、男連中二人も納得の声を上げる。

 

 いかん、こうなるともう『ブレインストーミング』が格ゲーの名前にしか聞こえてこない。

 ラスボスは多分、巨大化した玉縄が手だけをヌルヌル動かして攻撃してくるのだろう。やだ何それトラウマになりそう。

 

 

雪乃「ま、まぁいでしょう……理解できたのなら、早速始めましょうか。議題はシンプルに、お祭りのイベント内容について――」

 

 

七宮「ハイ!!」ビシィッ

 

雪乃「…………ど、どうぞ?」

 

 

七宮「これから皆さんには殺し合いをしてもらいます」

 

 

雪乃「」

 

結衣「」

 

いろは「」

 

 

 わぁー、のっけから良いジャブ打って――いやジャブどころじゃねぇなこれ。シャイニングウィザード並の大技だわ。

 

 

勇太「あ、いや! た、多分、騎馬戦とか! そういう感じの合戦イベントって言いたいんだと思うぞ!!」アセアセッ

 

雪乃「な、なるほど……。亀の最後である野盗との戦いになぞらえたイベントであれば、理解できるわね……」

 

結衣「て、テレビでも、『戦闘中』とか『逃走中』とか、そういうゲーム感覚の番組あるしね!」

 

 

六花「まさか、万能の願望器である聖杯をめぐるバトルロワイヤルがこの千葉の地で――!?」

 

 

勇太「そ、そうだな! 景品とかあると盛り上がるよな!」

 

いろは「…………」チラ…チラ…

 

 

 やめろ一色、こっちを見るな。残念だが俺は手助けできん。

 …………よかった、俺そっちのグループじゃなくて。

 

 

七宮「如何にも。己の力の全てを賭し、サーヴァントとともに戦場を駆けるのだ!」

 

 

雪乃「さ、サーヴァント? ぺ、ペアでゲームに参加するということかしら……?」

 

結衣「あ! く、クジ引きでペア決めとか、楽しそうだよね!」

 

 

 すごいなー。雪ノ下も由比ヶ浜も、とってもよくがんばっているなとおもいました(小並感)

 

 

六花「しかしそれだけの数の令呪をどうやって――まさか、疑似令呪である偽臣の書を量産するということか!? しかしあれは一度きりの使い捨て――となれば戦いのカギを握るのは、それの奪い合い!」

 

七宮「まさに愉悦!(訳:それある!)」

 

 

勇太「ええっと……は、鉢巻とか、そういうのを奪い合うって……感じかな……?」

 

 

六花「切り札となる宝具は――」

 

雪乃「…………」

 

七宮「本来の七種以外にも新たなクラスを用意して――」

 

結衣「…………」

 

六花「イレギュラーエネミーである二十七祖の参戦――」

 

いろは「…………」

 

七宮「真祖ふ○っしーも隠しキャラに――」

 

勇太「…………」

 

 

 その後――

 

 いい加減限界に達した雪ノ下が、『約束していた焼夷の菓子(ユイガハマのクッキー)』を二人の口にぶっ込み、ブレインストーミングは一旦終了した。

 

 

 



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第十八話

このSS書いててちょっと失敗したなぁ、と思うこと。
凸守がなかなか出せねぇ……。


――シュッ……プスッ!

 

 

ソフィア「痛ッ――何奴!?」

 

モリサマー「精霊の呼び声が聞こえました……」ユラリ…

 

八幡(タキシード仮面様!? ……じゃないね、モリサマーだね。分かってたよ。ていうか何なの、シャーペン投げるの流行ってるの?)

 

 

ソフィア「フッ……魔眼使いの仲間かい?」

 

モリサマー「馬鹿なことを。私は魔術師モリサマー。400年の時を生きる、精霊の代弁者。このような不浄なる者と相容れる存在ではありません……」

 

八幡(そっかー。じゃあ寄ってこないで欲しいんだけどなー……)

 

モリサマー「貴方も勘違いしないことですね、キヒヴァレイ。別に助けた訳ではありません。しかし、貴方を滅するのは私の役目……。このような所で勝手にやられては困るのです」

 

八幡「ベジータかお前は……(うーん違うなー。そういうタイプのツンデレは求めてないなー)」

 

 

ソフィア「魔術師風情が、この魔法魔王少女に敵うとでも?」

 

モリサマー「愚かな。精霊とともにある私は、自然の権化ともいえる存在。この地球(ガイア)そのものを相手取るに等しい行いであると知りなさい」

 

ソフィア「君が地球なら、その地球を支配する運命にある者が魔法魔王少女さ!」

 

 

八幡(中二病同士の戦いって、基本的に言ったもん勝ちなんだよなぁ……。さて、今のうちに帰――)

 

??「あのー……」

 

八幡「ふぇい!?」ビクゥッ

 

鈴木「なに、今のキモイ声……」

 

佐藤「ちょっと鈴木! えっと、ごめんなさい。こないだ図書室にいた人ですよね……?」

 

八幡「は、はぁ……そうですけど……」キョドキョド

 

佐藤「あの時はスイマセンでした……。勘違いしていたとはいえ、色々と失礼なこと言って……」

 

八幡「いや別に……き、気にしてねぇから……(何この子、普通すぎてなんか怖い……)」

 

鈴木「やー、あんまりにも目がキモかったから私も取り乱しちゃってさー。ていうかなんでそんな目腐ってんの? 病気?」

 

八幡「うるせえよメガネ、レンズに指紋つけんぞ」

 

鈴木「お前それやったらマジぶっ殺すからな」

 

八幡(あ、こいつは割と変な奴だよ! なんか安心する!)

 

 

鈴木「ところで……」

 

八幡「あん?」

 

 

 

ソフィア「カイザード・アルザード・キ・スク・ハンセ・グロス・シルク!」

 

モリサマー「取り返しなく!! 我が血に触れる獣を支配する。支配者は収奪を命じ、獣は武器を捨て家畜となれ!」

 

 

 

佐藤「あれ……何やってるの?」

 

八幡「あー……」

 

 

 

ソフィア「灰燼と化せ、冥界の賢者、七つの鍵を持て、開け地獄の門!」

 

モリサマー「我が名、悪夢にだけ囁かれ、生ある時には聞こえず、煩悶の鉄杭だけを残せ。ああ哀れ、剥ぎ取られた地の四つ足。お前にはなにもない――」

 

 

 

八幡「まぁ、なんだ……」

 

 

 

ソフィア「七鍵守護神(ハーロ・イーン)!!」ウオオオオオ!!

 

モリサマー「さしあたっては慈悲がない!!」ドリャアアア!!

 

 

 

八幡「……新しいオトモダチと、遊んでんだろ」

 

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 

雪乃「一度、お昼にしましょうか……」

 

 

 床に倒れ伏した問題児二人の中心で覇王のごとく佇む雪ノ下の言葉に、異論をはさめる筈もなく全員が頷いた。

 まぁ普通に腹は減っていたので、反対する理由もないのだが。もう一時過ぎてるし。

 

 

丹生谷「あんた、全然手動いてなかったけど、ちゃんと書いてるの……?」

 

 

 来る途中にコンビニで買っておいたサンドイッチとマッカンをイソイソと取り出していると、不意に丹生谷がいぶかしげに声をかけてきた。

 ノートPCで立ち上げているメモ帳を見やると、驚きの白さが画面いっぱいに広がっている。

 

 マッシロシロスケ出ておいでー、出ないと目玉をほじくるぞー。この画面を見られると俺が雪ノ下に目玉をほじくられかねないので、そっとディスプレイを閉じた。

 

 

八幡「問題ない。午後から本気出す」

 

丹生谷「つまり、全然進んでないわけね」

 

 

 なぁに余裕ですよガハハハーとか返そうかと思ったが、明らかに死亡フラグなので止めておいた。

 

 目の前のジトッとした視線から逃れるように顔を逸らすと、ルミルミが例のバスケットから重箱とアルミホイルに包まれたオニギリを机に並べている。

 その蓋をパカッと開いた瞬間、おおーと小さな歓声が上がった。

 

 

留美「これ、お母さんが皆でって作ったものなので……遠慮せずに食べてください」

 

誠「すげー。ウチの母ちゃんのオール冷凍食品とは大違いだ……」

 

くみん「おいしそうだね~」ホワホワ

 

 

勇太「おーい、二人とも起きろ。飯だぞー……」ユサユサ

 

六花「ううぅ……クッキーは……クッキーはもう食べられません……」

 

七宮「お腹いっぱいなんです……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 

勇太「あ、あの七宮までもがキャラを捨てて……だ、大丈夫だ、ちゃんとおいしそうな弁当があるから!」

 

 

雪乃「流石、家庭科教師ね……」

 

いろは「え、そうなんですか?」

 

雪乃「彼女は、うちの鶴見先生の娘さんよ」

 

いろは「あー、そういえば苗字同じでしたねー」

 

 

結衣「はぁー。私もこういうお弁当作ってみたいなぁー……」

 

 

 瞬間。部室内がシンと静まり返った。

 ふらふらと起き上ろうとしていた中二病患者二人も、再びバタンと床に倒れ伏す。

 肩がフルフルと震えているところを見るに、おそらく死んだフリのつもりなのだろう。いやクマじゃねえけどな。

 

 先程までの和やかな雰囲気はどこへやら。

 ゴクリと生唾を飲む音さえ躊躇われる緊張の中で、唯一雪ノ下だけが静かな微笑みとともに口を開いた。

 

 

雪乃「そうね……。それじゃあ、一口サイズで簡単に口に放り込め――摘まめるモノを作ってきてもらおうかしら」ニッコリ

 

結衣「それ絶対別の用途で使うつもりだよね!?」

 

 

 いやもう、ほんと勘弁してください……。

 蹂躙系SSは、読む人によっては地雷認定されちゃうんだからね!?

 

 

 

     ▽

 

 

 

 昼食も終わり、再び二班に分かれての作業となった。

 

 

雪乃「少しやり方を変えましょう」

 

 

 そう言って雪ノ下が企画班に提示した方法は、二人一組で10分を持ち時間とし、ホワイトボードに順番にアイデアを書き連ねていくというものだった。

 似た系統のアイデアは近くに並べて書き、別のアイデアから連想したものは黒い線で繋げる。組み合わせることができそうだと感じたアイデアは赤い線で繋げる、というものだ。

 

 なるほど、このやり方なら一部の声が大きい者(約二名)に会議を席巻されることもないし、アイデアの連想や組み合わせを視覚的にイメージしやすい。

 おそらくブレインストーミングにマインドマップ的な手法を組み合わせたのだろう。

 合体技カッコイイ! メドローアとか超燃えるよね。でもロト紋の合体魔法はちょっと名前がダサいと思います。

 

 なかなかに興味を惹かれる方法だったが、流石にこれ以上自分の手を止めていると、またクッコロ(クッキーでコロッと逝かされるの略)されかねないので、大人しく目の前のディスプレイに集中することにする。

 つってもコレどうまとめよう。マジ難易度高いんだけど……。

 

 

丹生谷「描くエピソードをある程度取捨選択してみたから、ちょっと見てもらえる?」

 

八幡「え? お、おう……」

 

 

 やだ、モリサマーさんったらぼーっと資料見てるだけだと思ってたのに、ちゃんとお仕事してたのね。サボってたの俺だけかよ。

 え? 黒めぐりんさん? あの人はあれだよ、空気清浄機みたいなもんだよ。空気の様な存在感を持つ俺があのホワホワ感に癒されているから、多分間違いない。

 

 

丹生谷「ていっても、このままのエピソードは使えないと思うけど。ある程度の改変というか、創作が必要よね……」

 

八幡「そこなんだよな。どこまで創作が許されるのか、正直感覚が掴めん。まぁ、世の伝承やらなんやらなんて、割と突拍子のないもんばっかだし、開き直っちまって良いのかもしれんが……」

 

丹生谷「とにかく一度書き上げて、神主さんに見てもらえばいいでしょ」

 

八幡「えぇー……。ダメ出し受けて書き直しとか正直めんどいんだけど……」

 

丹生谷「アンタが私にそれを言ってくれるわけね……」ヒクヒク…

 

八幡「いや、あれはお前が好きで書いてたもんだろう。俺は悪くない」

 

 

 いつだかの光景とは逆の立場ながらも。

 否応なく懐かしさを感じさせるそのやり取りに、丹生谷はどう思っているのだろうかとふと疑問に思った。

 

 らしくない感傷だと自分でも思いながらも、朱書きが加えられた鶴の手記に目を落とす丹生谷の顔をちらりと盗み見る。

 けれど、心理は読めても感情は理解していないと平塚先生からもお墨付きを頂いている俺に、そんなものが分かる筈もない。

 分かる筈もない、のだが――。中学時代の俺は、コイツの考えがわからずに悩むなんてことが、果たしてあっただろうか?

 

 記憶にはない。当時は気にもして居なかっただけかもしれない。

 今となっては、その判別さえつかなかった。

 

 



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第十九話

何をトチ狂ったかOculus Riftを衝動買いしてしまい、色々遊んでて遅くなりましたスイマセン。
あと、暑さに頭をやられたのかスプラトゥーンとWiiUを衝動買いしやがった友人も原因の一つです。何あれチョー面白いんだけど俺もほしい。買っていいですか? だめ?

まぁもし次話も遅くなったらそれは友人のせいです。『僕は悪くない!』




――ピンポーン……

 

小町「はーい!」トテテテテー

 

八幡「…………」ペラ…ペラ…

 

 

――トテトトトトトト……ガチャッ

 

 

小町「お兄ちゃーん、またなんかシューキョーの人来たから相手おねがーい」

 

八幡「またかよ。小町ちゃん。ちゃんと相手確認してからドア開けなさいって、お兄ちゃんいつも言ってるでしょ……」

 

小町「えーだってウチ、テレビドアホン無いし。覗き穴はなんか気持悪くなるからヤ」

 

八幡「ったく……」テクテクテク…

 

小町「ヨロシク~」ヒラヒラ

 

 

――ガチャッ

 

 

八幡「スイマセン、ウチ仏きょ――」

 

モリサマー「セイレーンを喚び出しに行きますよ」

 

八幡「」

 

 

モリサマー「…………」

 

八幡「…………」

 

モリサマー「セイレーンを喚び出しに」

 

八幡「ウチ仏教徒だから」スッ

 

 

――ガツッ!!

 

 

八幡「くっ、爪先をドアに――!?」

 

モリサマー「フッ、バカバカしい。不浄王たるアナタに信仰などあるぁああああイタタタタ痛い痛い痛いドアドア!! ドアァァアア!!?!」

 

八幡「ビーチサンダルでんな真似する奴が居るか阿呆め!!」グググググ…!!

 

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 

雪乃「だからなぜそうやって、戦いを無理やりイベントに組み込もうとするの……!」

 

六花「知れたこと、闘争とは人の本能!! これ以上に血沸き、肉躍るイベントなど存在し得ない!」

 

 

 あれから数時間。会議は未だ混迷を極めていた。

 

 

 

八幡「うーあー……文章が収まりきらねー……」

 

 

 そして一方、俺の頭は混乱を極めていた。

 うわーん無理だよー、これ以上文字数削れねえよー。帰りたいよー、帰って寝たいよー。

 

 

いろは「やっぱ恋愛関係ですって。恋愛成就だのなんだの言って適当なイベントでっち上げれば鉄板ですよ」

 

結衣「でも鶴と亀のお話って、最終的に悲恋じゃない?」

 

いろは「そこはアレですよ、先輩がいい感じにアレンジして伝承を纏めてくれれば」

 

 

 おいふざけんな一色、これ以上ハードル上げんじゃねえよ。

 こっち既にいっぱいいっぱいなんだよ……。

 

 

丹生谷「ちょっと。よそ見してんじゃないわよ」

 

八幡「んなこと言ったってこれどうしろっつんだよ。エピソード削って詰めに詰めて、今だ目標の文字数を倍近くオーバーしてんだぞ? 無理だろこれ、どう考えてもバグってる。サポートセンターに電話しよう」

 

丹生谷「何処に連絡するってのよ……いや、本気で泣きそうな顔してんじゃないわよああもう! ちょっとこっちでもチェックしてみるから、貸しなさい……」

 

 

 丹生谷の言葉にノートPCをくるりと反転させて差し出し、俺はバタリと机の上に突っ伏した。

 そのまま思考を半ば停止させ、ボケーっと雪ノ下たちの会議の様子を眺める。

 雪ノ下の威嚇! 眼帯と魔法魔王少女は呪文を唱えた。うちゅうの ほうそくが みだれる! 企画会議は次元の狭間に飲み込まれた! うん、だいぶ頭が膿んでいるね。

 

 雪ノ下考案のブレインストーミングもどきにより、ホワイトボードには多数のアイデアが所狭しと並べられている。

 現在はそれを元に、実際に行う企画をまとめようという段階らしいが、中々に難儀しているようである。

 つーかそっちの男二人、仕事してねえだろ俺と変われ。

 雪ノ下もなんか、二人の中二言語をほぼ完ぺきに理解してきてるし、通訳の必要もなくてとっても楽そう!

 

 

雪乃「大概にしないと永久凍土の海に沈めるわよ……!」

 

七宮「面白い、やって貰おうか!」

 

 

 あ、訂正。理解っていうか感染ってる、ちょっと感染ってるよコレ!

 どうしよう。このままでは今後の雪ノ下の人生に、重大な汚点を残しかねないが――まぁ材木座(ワクチン)があるし、大丈夫か。

 見た目が整ってるやつの中二病はまだ許容できるが、これが材木座レベルとなるともう見てられなくなる。

 軽度の感染者なら、奴の有様を見た瞬間に己の現状を客観視し、すぐ正気に戻ってくれることだろう。

 

 うむ、そう考えれば何の問題もないな。材木座も偶には役に立つものである。

 憂いも消えたところで脳みそを侵食してきた眠気に、俺はそのまま身を委ね――

 

 

丹生谷「寝たらアホ毛引っこ抜くから」

 

 

 る訳にもいかないようだった。

 

 

 

     ▽

 

 

 

 結局、企画案と伝承共に、今日中にまとめ上げることはできず、空が赤みを帯びてきたところで一旦お開きとなった。

 

 

雪乃「続きは日を改めるしかないけれど……どうしたものかしらね。明日以降は本格的に年末に入るということで、流石にこの部室も使わせてもらえないらしいわ」

 

 

 まぁ生徒だけでの校内の使用が認められていない以上、仕方のないことだろう。いくら教師といえど、年末年始まで学校に来いというのはさすがにブラック過ぎる。部活の顧問とか、放課後や休日が潰れるくせに手当殆どつかないらしいしな。

 教師にだけは絶対になりたくないとおもいました。まる。

 

 

六花「ならば次は、我らのホームにお招きしよう」

 

 

 如何したものかと眉根を寄せる雪ノ下たちに対し口を開いたのは、案の定というべきか眼帯娘だった。

 

 

勇太「いや、うちの部室はなおさら無理だろ。クリスマスの時だって、許可下りなかったんだぞ?」

 

六花「魔術結社は無理でも、私と勇太の共同ベースなら問題ない」

 

勇太「ウチにこの人数をか?」

 

 

 うん? と。その言葉に、俺を初めとした総武高メンバーwithルミルミは揃って首を傾げた。

 

 

六花「ダイニングテーブルを端に寄せれば、リビングに十分おさまるはず」

 

勇太「まぁ……確かにいけるか? でもなぁ……」

 

 

いろは「あー、すいません。ちょっといいですかぁー……?」

 

勇太「え? な、なに?」

 

 

 若干緊張した様子で答える富樫に、眼帯娘がムッと顔を顰めた。

 まぁ、一色も見た目だけ見れば可愛いからね。男子高校生なら仕方ないね。それよりもだ。

 

 

いろは「あの、お二人ってひょっとして――」

 

丹生谷「この二人同棲してるわよ」

 

 

 ――ざわっ! 俺たちの間に電流奔る!

 

 

勇太「ち、違う! 事情があって六花が居候してるだけだ!」

 

雪乃「そ、そう……。ということは、ご両親も一緒に暮らしているということかしら? だとすれば、さすがにこの人数で訪れることは躊躇われるわね」

 

勇太「あ、いや……両親は海外赴任してるから、いないけど……」

 

八幡「やっぱ同棲じゃねえか」

 

 

 ペッ! と俺は床に唾を吐き捨てた。いやフリだけど。

 つーかホント何なのこいつ、俺の知ってる中二病と違う。死ねばいいのに。

 

 由比ヶ浜と一色はヒソヒソと何やら囁き合っているし、雪ノ下は絶対零度の視線で富樫を射抜いている。

 横からボソッと、「流石高校生……」とかいう呟きが聞こえたが、それは違うぞルミルミ。同棲なんぞかましている高校生は漫画やラノベの中だけで、現実には存在しない。つまりこいつ等は二次元の存在ということだ。

 

 なんだ、人類はすでに二次元キャラを現実世界に召喚する技術を得ていたのか、素晴らしいな。

 

 

八幡「おい、取り敢えず蒼龍か川内連れて来いよ。お前はお呼びじゃねえよ」

 

勇太「何の話だよ!? いや待ってくれ、違う、両親はいないが妹は一緒だから!」

 

八幡「どうせ血が繋がってないんだろ? 死ねよ。もしくは死ね」

 

勇太「死ぬしか選択肢が無い!? いや実の妹だよ! ちゃんと血も繋がってる!!」

 

六花「む、そうだな。樟葉には事前に連絡しておいた方がいいだろう。ちょっとメールする」

 

勇太「気にするべきはそこか!? お前もちょっとは弁明なりなんなりしろよ!!」

 

六花「しかし樟葉にはいつも家のことで世話になっているし、最近はキメラの子達についても尽力してもらっている。事前連絡は当然のこと……」

 

勇太「そういう事じゃなくて!!」

 

 

結衣「キメラって?」

 

七宮「邪王真眼の使いm――」

 

丹生谷「単なる飼い猫よ」

 

くみん「あのね、こないだ六匹も子猫を産んだんだよ~? かっわいいんだぁ~」ポワンポワン

 

 

――カツーン……、と。

 

 単にボールペンが落ちただけだというのに、その音は凍えるような鋭利さでもって、部室内に響き渡った。

 

 

雪乃「なん……ですって……?」

 

勇太「え……?」

 

雪乃「なんなの……? あなた、ホントにナンナノ……?」

 

勇太「え? いや、えっと……え?」

 

 

 戸惑う富樫を意に介さず、身を乗り出した雪ノ下の両手が、グワシとその襟を掴み上げた。

 

 

雪乃「七匹の猫に囲まれて暮らすだなんて、アニメや、お伽話の中だけの話でしょう? 何故それを現実でやってるのかしら? ねぇ、どうして? なんで?」

 

勇太「い、いや、確かに珍しいかもしれないけど、別にそれぐらい飼ってる家は他にも居るんじゃ……」

 

雪乃「居ないわよ、私の周りには居なかったわよ。居てたまるものですか、そうでしょうねぇ?」ユサユサユサ

 

勇太「あ、ちょ、揺らさないで、襟が……」

 

六花「…………」ポチポチポチ…

 

 

 そんな黒髪ロング美少女に詰め寄られる彼氏の横で、眼帯娘は全く我関せずな様子で携帯をポチポチ打っている。

 え、俺たち? 被害が及ばないように端っこに避難してますよ?

 

 

丹生谷「……雪ノ下さん、猫好きなの?」

 

八幡「ああまぁ……。割と重度の、な……」

 

 

 好きって言葉で片付けていいものなのかどうか、ちょっと自信ないけどねっ。

 

 

雪乃「第一アナタ学生でしょう? 両親も居ないのでしょう? 何故それで飼えるのかしら? どうやって飼っているのかしら? 昼間の世話は? ねえ?」

 

勇太「そ、それはキメラが割と賢くて……。トイレの躾とかも勝手にしてくれるし……餌も、最近は戸棚を開けて勝手に……」

 

雪乃「そんな猫が現実にいるわけ無いでしょう……!? 妄想も大概にして頂戴……!!」ガックンガックン!!

 

勇太「ヒィィィイイ!? す、スイマセ――ごめんなさ――許し――」

 

 

――ピロリンッ

 

六花「……ふむ。樟葉から許可は取れたが……どうする?」

 

雪乃「行くに決まっているでしょう!!?」クワッ

 

 

 そういう事になった。

 

 

 




はいまぁそのなんですか。ゆきのんが居る以上、このイベントは外せないかなと思いましてですねハイ……。
あとまぁ樟葉も出したかったですしねハイ。話あんま進んでないけど仕方ないよねハイ。

え、小町? もう、お爺ちゃん何言ってるの。中学生編に出てるでしょっ!


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第二十話


なんか中途半端なところで終わってますが、なんとか日曜日中に上げたかったので、ここで投稿。
遅くなってしまって申し訳ありません。苦情は前回前書きで述べたとおり、全て友人にお願い致します。

んじゃちょっとイカってきますね!(反省皆無)



 

【駅前】

 

 

鈴木「で。何だかんだ言いつつも、結局来たわけね」

 

八幡「うるせぇ。ちょっとやりすぎたんだよ……」

 

佐藤「やりすぎ?」

 

鈴木「何を?」

 

八幡「それは――」

 

モリサマー「三人とも、無駄話はそれくらいに。そろそろ電車の時間ですよ」スタスタスタ…

 

八幡「……おい待て」ガシッ

 

モリサマー「…………何か?」

 

八幡「お前がドアで足痛めたっつうから、ここまで自転車で送る羽目になったんだぞ。何で普通に歩いてんだよ」

 

モリサマー「決まっているでしょう。精霊の加護による治癒です」

 

八幡「嘘か、嘘をついたのか。仮にもまぁ一応辛うじて女子という分類に含まれるかもしれないお前を怪我させちまったと苦悩する俺の罪悪感をもてあそんだのか」

 

モリサマー「か、辛うじてって……アンタあたしを何だと思ってんのよ……」

 

佐藤「あ、素が出た」

 

ソフィア「ハイハイ、そろそろ本気で電車出るから行くよー。キヒヴァレイ早く自転車おいてきなよ」

 

八幡「いや、コイツが怪我してないなら俺がいく理由ねえだろ……」

 

鈴木「往生際悪いわねー。女子4人と海行けるってんだからもっと喜びなさいよ」

 

八幡「え、女子? 佐藤以外は、お前ら女子モドキだろ?」

 

鈴木「アンタのその、佐藤に対する評価の高さは何なのよ……」

 

八幡(相対評価です)

 

佐藤(なんか疎外感を感じる……)

 

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 

雪乃「ここ、ね……」

 

 

 最寄駅から徒歩10分ほど。

 一色いとこの案内に従いやってきた団地の一室の前で、雪ノ下はゴクリと唾を飲み込んだ。

 いや、どんだけ気合入ってんだよコイツ。

 

 そんな雪ノ下とは対照的に、由比ヶ浜は俺の背後に隠れるように縮こまり、うーうーと小さな呻き声をあげていた。

 何この子どうしちゃったの、発情期? て、ああそう言えば――

 

 

八幡「お前、猫嫌いとか言ってたっけ?」

 

結衣「あ、いや、別に嫌いな訳じゃなくて……。ちょっと苦手なだけ……」

 

八幡「違いがイマイチ分らんが。駄目なら、無理しなくていいと思うぞ?」

 

結衣「ううん、大丈夫だから。ホント」

 

八幡「あっそう……」

 

 

 そう言われると、これ以上は何も言えない。

 まぁ本人が大丈夫と言っているのだから、無理やり帰らせることもないだろう。

 

 雪ノ下が緊張した面持ちでインターホンを鳴らす。すると、トタトタと駆けてくる足音が聞こえた。

 

 

――ガチャッ

 

 

六花「来たか、異郷の漂流者達よ。ようこそ、現実と幻想の狭間に佇む我――」

 

雪乃「そういうのはいいから、さっさと入れて頂戴」

 

六花「ア、ハイ……」

 

 

 有無を言わせぬ雪ノ下の迫力に、眼帯娘はスゴスゴと体を退ける。

 玄関に置かれた靴を見るに、銀杏学園側のメンバーはもう既に来ているらしかった。

 

 雪ノ下が真っ先に靴を脱ぎ――しかしそれでもきちんと靴を揃えて脇に並べてから――イソイソと中に入っていく。

 その後に続く一色コンビ。ちなみにルミルミは、流石に家の手伝いをしないといけないとの事で、今日は不参加だ。

 

 

いろは「雪ノ下先輩……?」

 

 

 由比ヶ浜と一緒に脱いだ靴を揃えていると、背後から一色の戸惑ったような声が聞こえた。

 振り返れば、なぜか雪ノ下がリビングの扉を開けた状態で固まっている。

 何やってんだ? と声をかけようとした時だった。

 

 

――み~

 

由比ヶ浜「ひう!?」

 

 

 雪ノ下の足に顔をこすり付ける様にして、小さな子猫が顔をのぞかせた。

 ああなるほど、と納得。そしてこの後の展開も予想できた。

 またキャラ崩壊ですか雪ノ下さん。最近ちょっとペースが速すぎて読者もちょっと胸やけ気味――おや?

 

 

雪ノ下「……失礼するわね。少し遅れたかしら」

 

 

 こちらの予想に反して、雪ノ下は子猫に構うことなく、するりとリビングに足を踏み入れた。

 

 

いろは「…………」

 

 

 ゴロンと廊下に寝ころんでウネウネ体を動かしていた子猫(誘い受け)をひょいと抱き上げながら、一色がこちらに目を向けてきた。

 

 どうしたんですかあれ?

 いや、俺に聞かれても知らんよ。

 

 肩をすくめて返す。

 一色は首をかしげつつも、「おじゃましまーす」と雪ノ下の後に続いていった。

 

 

八幡「…………で。お前はどうすんの? 帰る?」

 

結衣「や……だ、大丈夫だし……。うん……ダイジョウブ……」

 

 

 あ、そう? ホントに? ならそろそろコートの裾から手を放して、もうちょっと離れてくんないかなー。

 流石にそろそろ俺の胸がドギマギしすぎて、ソウルジェムの穢れがヤバいことになってきたんだけど。

 魔法男子どぎか☆マギカ! 童貞男子高校生の妄想力はきっとエントロピーの肥大化も克服できるはず。そのまま30過ぎると、魔女じゃなくて魔法使いになっちゃうけどね!

 

 ……いかん、何か下セカのアニメ見て原作まとめ買いしてしまったせいで、さっきから脳内独り言のベクトルがちょっとおかしな方向に向いているな。ちょっと自重しよう。

 

 

 

     ▽

 

 

 

勇太「すまん、流石にクッション足りなくてな」

 

八幡「別に構わん」

 

 

 一つだけ差し出されたクッションをそのまま由比ヶ浜に手渡し、床に直接胡座をかいて座る。

 

 

結衣「あ、ありがと……」

 

いろは「先輩って、そういうことは自然にしますよね」

 

八幡「妹の教育の賜だ。流石は小町、賞賛していいぞ」

 

いろは「そこでわざわざ妹さんへの賞賛を求めるところは、ちょっとキモ過ぎて無いですねー。総じてマイナスです」

 

 

 先ほどの子猫を膝に乗せてじゃれ合いながら、一色はバッサリと切り捨てた。

 あれ、オカシイなー。妹思いの兄って単語だけ聞けば、かなりの高ポイントのはずなんだけどなー。

 まぁ小町ポイントもいろはポイントも、今のところ還元方法が全く明示されていないので、マイナスだろうがどうでもいいのだが。

 

 相も変わらず俺の背後に隠れるようにして座った由比ヶ浜からモゾモゾと距離を取りつつ、グルリと室内を見渡す。

 12畳ほどのリビングは物も整頓されており、そこそこの広さではあるのだが、流石に10人の人間が座るには少々手狭だった。丹生谷などは、床ではなく端に寄せられたダイニングテーブルの椅子に座り、気だるそうに頬杖を付いている。

 オマケに噂の子猫六匹が、ミーミーと鳴きながら室内を所狭しと駆けまわっているため、体を動かすにも注意が必要だった。

 うっかり猫を踏んづけたりした日には、雪ノ下からどれほどの罵詈雑言を浴びせられるか。正直想像もしたくない。

 

 

八幡「ああ、そういやこれ。一応途中で飲みもん買ってきたから」

 

 

 そう言って、お茶やらジュースやらのペットボトルと、紙コップの入ったスーパーの袋を富樫に渡す。

 

 

勇太「ああ、悪い。金払うか?」

 

雪乃「結構よ。場所を提供してもらっているのだし、それぐらいはこちらで持つわ」

 

勇太「なら遠慮無く……。けど、床に置いとくと猫が倒すから、欲しくなったらコッチのテーブルで飲むってことで」

 

 

 ペットボトルをダイニングテーブルに並べながら言った富樫の言葉に、各々が了解の意を示した。

 

 

雪乃「それでは時間も限られているし、早速始めましょう」

 

 

 そうして、いつも通りの落ち着いた声音で、雪ノ下が全員に告げる。

 いや、ホントどうしたのこいつ。これ本物? そりゃキャラ崩壊も大概にしろとは思ってたけど、こんだけ子猫に囲まれて何の反応も示さないってのも、それはそれでキャラ崩壊だよ?

 って、あ……。こいつ、目瞑ってますわ……。え、もしかしてこの部屋入ってからずっと閉じてんの?

 しかし当然ながら耳まで塞ぐ訳にはいかない。側で猫の鳴き声が聞こえるたび、その体がピクピクと反応していた。なんかちょっとエロい。

 

 

雪乃「一色さん、次の会合の予定は聞いてきたかしら?」

 

いろは「あ、はい。えーっと、年が明けて一月五日に予定してるみたいですねー」

 

雪乃「そう。ならいよいよ持って、今日中に企画案を決めないと間に合わないわね……。今日決めて一月三日までに企画書の作成。四日なら、鶴御神社も少しは落ち着いているでしょうし、内容を確認してもらってから当日に望めるでしょう。比企谷くんたちの方は、間に合いそうかしら?」

 

八幡「え、こっち? ああ、まぁ……うん。そうね、まぁちょっとアレだけど……その、アレじゃない?」

 

丹生谷「ちゃんと間に合うように書かせるから、安心して」

 

八幡「オイなんでお前が答えるんだよ」

 

雪乃「そう、ならそっちは一月二日までにお願いできるかしら? こちらの企画書と一緒にまとめたいから」

 

八幡「あれ? ねぇ俺の話聞いてる? 俺なんにも答えてないんだけど?」

 

丹生谷「一月二日ね。分かったわ」

 

 

 オカシイなー。何で締め切りって作家の了承なく決められちゃうの?

 

 

雪乃「ただ、今日は貴方達二人にも企画案の会議に参加してもらいたいのだけれど、いいかしら?」

 

八幡「まぁそれはいいけど……結局今、どんな案が出てんの?」

 

雪乃「それなら、この間出た案を私の方でまとめた資料が――」

 

 

 傍らの鞄に手をのばそうとしていた雪ノ下の体が、ピタリと動きを止めた。

 資料を取り出すため、うっかり目を開いてしまったのだろう。

 その視線の先。鞄をクッション代わりにして丸まっていた子猫が、み~、と小さく鳴いて雪ノ下を見つめ返していた。

 

 あ、これ詰んだね。 

 

 

 



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第二十一話

うるさい男なら黙ってマウスホイールくりくりしろ!
……ところで、マウスホイール弄る所作って、どことなくエロチシズムを感じますよね。


【海の家】

 

 

八幡「……」ズルズルズルズル…

 

八幡「…………うん。不味い」

 

八幡「やっぱ微妙に伸びたラーメンこそが、海の家の風物詩だよな……」ズルズルズル…

 

 

――ドタタタタタ!!

 

 

佐藤「比企谷君!」

 

八幡「うおぉ!?」

 

佐藤「ちょっとこっち! こっち来て早く!」ガシッ

 

八幡「え、ちょ、な、なに? ていうか、手、離して……」キョドキョド…

 

佐藤「モリサマーが倒れた!」

 

八幡「えー……」

 

 

 

     ▽

 

 

 

モリサマー「…………」グッタリ…

 

八幡「…………何やってんのお前」

 

モリサマー「ふっ……恐らく私が……セイレーンとの契約を結ぶことを恐れ……黒の世界の者たちが妨害を――」

 

海の家のおばちゃん「熱中症だね。首と脇の下冷やしときな」アイスノン!

 

モリサマー「うひぇひぃ!?」ビクゥッ

 

鈴木「あ、すいませんー」

 

おばちゃん「で?」

 

佐藤「へ?」

 

おばちゃん「注文は?」

 

佐藤「あ……えっと、じゃあ焼きそばを……」

 

鈴木「んー……ラーメン」

 

ソフィア「カレー!」

 

おばちゃん「あいよ」

 

モリサマー「わ、私は……カキ氷を……」

 

おばちゃん「アンタはポカリがぶ飲みしてな」

 

八幡(流石に手馴れてんなー……)

 

 

 

     ▽

 

 

 

おばちゃん「お待ち」ドン、ドン、ドンッ

 

鈴木「あ、ども」

 

佐藤「お箸とってー」

 

ソフィア「ホイさっ」

 

 

「「「いただきまーす」」」

 

 

佐藤「……」チュルチュル…

 

鈴木「……」ズルズル…

 

ソフィア「……」パクッ

 

 

佐藤「具が無い……」

 

鈴木「伸びてる……」

 

ソフィア「粉っぽい……」

 

 

モリサマー「ぽ、ポカリ……おかわり……」

 

八幡「へいへい……」

 

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

 硬直したままの雪ノ下をよそに、子猫は小さく欠伸をすると、その小さな前足をタシリと彼女の膝に乗せた。

 そのまま、のんびりとした動作で膝上にのぼり、ミー、と雪ノ下の顔を下からのぞき込む。

 

 

雪乃「ひ……ひきっ、比企谷君……ッ」

 

八幡「いや、俺に助けを求められてもな……」

 

 

 縋る様な目でこっち見てきてますけど、あなた全然抵抗してませんよね?

 ここで気を利かせて猫を退かそうものなら、言葉とは逆に親の仇でも見るような眼で睨まれそうな気がする。

 

 そうこうしているうちに子猫の鳴き声につられたのか、他の猫たちも寄ってきて雪ノ下の周りを取り囲みだした。

 

 

雪乃「あ……ああ……あああ……ッ」

 

 

 スリスリと猫に体を擦り付けられるたび、熱に浮かされたような声を上げ、体をピクピクと痙攣させる雪ノ下。

 その妙な艶めかしさに、ゴクリと唾を飲み込んだ富樫に対し、眼帯娘が底冷えのする様な声で「勇太……?」と声をかけた。

 

 

勇太「あ、い、いや、違うぞ六花……」

 

六花「……ちょっと、奥の部屋でお話ししようか」ガシッ

 

勇太「ま、待て! ホントそんなやましい気持ちで見てたわけじゃ――あ、ちょ、引っ張らないで、ジーパンの中で引っかかって立てな――頼むからポジションチェンジする時間を!!」

 

六花「ええから来いや」ズルズルズルズル…

 

勇太「いだだだだたああああああああ!!!」

 

 

 悲鳴を上げながら引きずられていく富樫の惨状を想像し、股間がキュンッと縮こまってお行儀用正座した。やったね緊急回避だ!

 後ろで由比ヶ浜が「引っかかる……?」と首をかしげているが、頼むから俺に聞いてくるなよ。

 聞くなら一色か丹生谷にしなさい。あいつら何か気まずそうに目線逸らしてるから多分気づいてる。

 

 そんな茶番劇の間にも子猫たちによる雪ノ下攻略戦は続いていたようで、一匹の猫がそのお腹をヨジヨジとよじ登っていた。由比ヶ浜と違い城壁代わりの“返し”が無いうえ、上り進めるたびに雪ノ下の体が後ろへ後ろへと倒れていくため落城は時間の問題だろう。

 そしてその予想が覆されることもなく、頂上まで踏破した子猫がペロンとその鼻先をなめた瞬間――

 

 

雪乃「ひうっ」

 

 

 雪ノ下は力を無くしてコテンと背後に倒れた。雪ノ下陥落。

 子猫たちは自らが勝ち取った地の領有を主張するように前足の肉球でモミモミと踏み均し、お腹や胸、膝上など思い思いの場所で丸くなる。

 一匹などは雪ノ下の瞼の上で目隠しでもするかのように、グデーンと胴体を伸び切らせてくつろいでいた。

 

 

雪乃「…………比企谷君」

 

 

 身動ぎ一つせず、雪ノ下が口を開いた。

 

 

八幡「……なんだ?」

 

雪乃「カバンの中のクリアファイルに人数分の資料があるから、みんなに配ってもらえるかしら」

 

八幡「……その体制のまま続ける気か?」

 

 

 この子頭大丈夫かしら?

 

 

雪乃「体面を気にするなど愚かなことよ。目が覚めたわ。姉の背中や、母からの視線を気にして生きて来たかつての私は、なんと滑稽だったのかしら。何かあなたと由比ヶ浜さんに依頼しないといけないことがあった気がするのだけれど、いったい何だったのか忘れてしまったわ……。まぁ思い出せないということは、もう必要ないことなのでしょう。ああ、体が、心が軽い……。分不相応な借り物の外套を脱ぎ捨てたかのよう。今なら年明けに貴方と由比ヶ浜さんをダシに姉さんに呼び出された先で母に遭遇したとしても、即座に奥襟掴んで大外刈り決めれる気がするわ……」

 

八幡「そ、そうか……」

 

 

 なんか知らんがこの瞬間、長文タイトルで損をしているともっぱら噂のとある間違った青春ラブコメストーリーが色々台無しなグッドエンドを迎えた気がした。

 有りのまま見せつけるにも程が有るんですけど、何なのこの雪の女王。

 

 

雪乃「もう何も怖くない」

 

 

 それは死亡フラグだからやめときなさい。

 

 

 

     ▽

 

 

 

 その後、両手両足をガムテープで拘束され、顔面に『暗黒ブタ野郎』と書かれた紙が貼り付けられた状態の富樫が眼帯娘に引き摺られて戻ってきたところで、会議は開始された。

 

 

八幡「資料は行き渡ったか? それじゃ早速――」

 

富樫「あれ!? え、待って、ちょっと待って普通にはじめるの!? 俺のこの現状に対するリアクションとか、なんと言うかこう、救済処置的なのは!?」モゾモゾ

 

八幡「いや、雪ノ下の二番煎じ見たいな格好で出てこられても」

 

誠「ああ、正直インパクト的にも弱いしなー」

 

富樫「え、二番煎じ? どういうこと、雪ノ下さんも縛られてるの?」

 

 

 まぁ、身動きができないという点で言えば同じようなものだろう。

 なぜそこに過剰反応したのか理由は定かではないが。ええほんと、まったく分かりませんよ?

 

 

富樫「くっそぉ、張り紙が邪魔で何も見えない!!」ジタバタジタバタ!!

 

六花「だまれ、“きょせい”するぞブタやろう」フミッ!!

 

富樫「グエッ!」

 

六花「まったく……。ところで私からも一つ言いたいのだが」

 

八幡「あん?」

 

六花「…………それ、クッキーちゃう?」

 

 

 ゆっくりと雪ノ下を指さした眼帯娘の口から、極めて異を唱えがたい正論が投下された。

 

 

七宮「…………そうだね。会議中にふざけた格好でいるのは良くないよね」

 

 

 いつも通りのニコニコ笑顔で後を続ける七宮。

 しかし、薄らと開かれた瞼から覗く瞳は、まったく笑っていない。

 

 

雪乃「な、何を言っているのかしら。この体勢であろうと、会議をするのには全く問題な――」

 

いろは「あ、雪ノ下せんぱーい。この資料、誤字がありますよー?」ペラッ

 

雪乃「え?」

 

いろは「ほら、ここですよここー。あれれー? その状態じゃプリント見ることも出来ないですねー?」

 

雪乃「ぐぐぐ……い、一色さん、あなたまで……」

 

結衣「ゆきのん……」

 

雪乃「ゆ、由比ヶ浜さ――」

 

結衣「ゆきのんは、あたしのクッキーにヒドイ扱いをしたよね……」

 

雪乃「由比ヶ浜さん!?」

 

 

 あ、実は根に持ってたのね由比ヶ浜……。

 

 

六花・七宮「「ギルティ、ギルティ、ギルティ、ギルティ!!」」

 

 

 指を突き付けた中二コンビの口から、揃って判決が下される。

 味方だと思っていた親友からのまさかの裏切りに、さしもの雪ノ下も反論の言葉を失い、ダラダラと顔から脂汗を垂らすのみだった。

 もはや逃げ場などどこにもないだろう。いやはや、見事な死亡フラグ回収っぷりである。

 

 

結衣「まぁ、今日はクッキー焼いて来てないんだけどねー」テヘヘッ

 

六花・七宮「「え゛?」」

 

 

 と思いきやさらに場をひっくり返す由比ヶ浜の一言。

 雪ノ下がホッと胸をなでおろすのが気配で感じられた。

 うん、けどね雪ノ下さん。あなた猫に乗っかられてるから見えないでしょうけどね……

 

 

結衣「ごめんねー。けど代わりに……」ゴソゴソ…

 

 

 由比ヶ浜さんったら、とってもいい笑顔浮かべてるんですよ?

 

 

結衣「キョウハ、タマゴヤキヲ、ヤイテキタカラ」

 

雪乃「いやぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 由比ヶ浜がカバンから取り出した弁当箱をパカッと開いた瞬間、ザザザァー!! と津波の前兆のごとく、一瞬にして周りの人間が距離を取った。

 

 

結衣「ゆきのんのリクエストだったもんね、一口サイズで簡単に摘まめる物って」ニコニコ

 

 

 

丹生谷「た、卵焼き……? アレが……?」

 

七宮「わ、分らないよ……。確かめたくない……」

 

六花「ダークマター以上の闇の力を感じる……」

 

勇太「あ、あのー……俺はいつまで放置されるんでしょうかー……」

 

 

 うるさいぞ富樫空気読め。

 

 

雪乃「ゆ、ゆい……ゆいがはまさん……」

 

結衣「なぁに?」

 

雪乃「そ、それは……本当に卵焼きなの……?」

 

結衣「うん、そうだよ?」

 

雪乃「それにしては何だか匂いが……ひ、酷く、鼻の奥がツンとするのだけれど……」

 

結衣「そう? あ、もしかしてゆきのんって猫アレルギーだったんじゃない? それで鼻がおかしくなってるとか!」

 

雪乃「ち、ちがう……そんな訳ないわ……ペットショップや、猫カフェでも、アレルギーなんて出なかっ」

 

結衣「えいっ」

 

 

――ぱくっ

 

 

雪乃「~~~~~~~~~ッ!!?!?! がッ――がふっ……ぉ……ぉご……ぁ……ッッ」ビクンビクンッ

 

<ミャ~!?

<フミャミャ~!?

 

 

 尋常ならざる様子で体を痙攣させてのたうつ雪ノ下に驚き、寛いでいた子猫たちが方々に逃げ散っていく。

 

 

結衣「あれ? ゆきのん美味しくなぁい? うーんごめんねー、失敗しちゃったかー」

 

 

 そんな雪ノ下の横で、由比ヶ浜は笑顔のままテキパキと弁当箱を片付け、カバンに締まった。

 

 

結衣「さ、皆。そろそろ真剣に、企画決めよっか」

 

 

誠「…………由比ヶ浜さんが一番怖ぇ」ボソッ

 

 

 一色イトコの呟きは、我が身の安全のため聞かなかったことにした。

 

 

雪乃「ひ、ひき……ひきが……くん……」ピクピク…

 

八幡「なんだ、雪ノ下……」

 

雪乃「みず……みずを……ちょうだい……」

 

八幡「へいへい……」

 

 

 

丹生谷「………………」

 

七宮「……どっかで見た光景?」

 

丹生谷「うるさい……」

 

 

 




次こそ会議進めます……


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第二十二話

すんません、更新遅いのはいつものことですが、いつも以上に遅れてしまいました。
第二十二話、ようやっとのお届けです。



ソフィア「天上の光を今この身に――喰らえ神滅の! 天蓋落とし(エンジェルフォール)!!」ズバシィッ!!

 

鈴木「ほいっ」ポインッ

 

ソフィア「なっ、返しただって!?」

 

佐藤「いや、普通にレシーブしただけでしょ……」トスッ

 

鈴木「あたーっく」バシッ

 

ソフィア「バカなぁぁああああ!!」グハァッ!

 

 

――ワイワイガヤガヤ! キャッキャウフフ!

 

 

八幡「…………」ボケー

 

モリサマー「……アンタは遊ばないの?」グテー

 

八幡「いや、水着持ってきてねえし」

 

モリサマー「海の家に売ってたわよ?」

 

八幡「ばっかお前水着とか口実だよ。女子三人の中に入っていけるかよ、言わせんなよ恥ずかしい」

 

モリサマー「あっそう……」

 

八幡「特に佐藤がきつい。普通すぎて怖い」

 

モリサマー「アンタのその対応、佐藤割と傷ついてるわよ?」

 

八幡「そう言われてもな……。ところでお前、何時ものキャラどうした」

 

モリサマー「今日は何かもう疲れた……」

 

八幡「あっそう……」

 

モリサマー「…………いや、違う。今のなし。キャラとかそういうのじゃなくて、精神の乱れにより一時的に精霊とのバイパスが途切れて、前世の人格が表層に現れなくなっただけで――」

 

八幡「いや、いいから。もうわかったから」

 

モリサマー「そ、そう……」

 

八幡「…………」

 

 

――アハハハー!

――ウフフフー!

――キャッホーイ!

 

 

モリサマー「…………私も泳ぎたい」

 

八幡「大人しく寝てろ」

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

雪乃「そ、それでは……ぅっ……改めて、会議を始めましょう……」

 

 

 10分後。

 今だ青い顔ながらも、どうにか喋られるまで体調が戻った雪ノ下がそう切り出した。

 

 

雪乃「先ずこれまでに出た案を――て、何をしているのかしら、貴方達は……」

 

六花「いや、ちょっと互いの力を封じる封印の儀式を……」カキカキ

 

七宮「流石に、アレを食べるのはあり得ないかなって……」カキカキ

 

 

 お互いの左手の甲にマジックペンで奇妙な紋章を描きながら、二人が答える。

 まぁ、中二キャラを演じないための理由付けが必要ということであれば、実際に効果的なものなのだろう。

 

 

丹生谷「由比ヶ浜さん、その“タマゴヤキ”っていくら払ったら作ってもらえるの? 食わせたい奴が一人いるんだけど」

 

結衣「そういうことのために作ったものじゃないからね!?」

 

くみん「いくら凸ちゃん相手でも、それは可哀想だよぉ~……」

 

丹生谷「くみん先輩も眠気覚ましにどうですか?」ニッコリ

 

くみん「今日だけは寝ないように頑張るからお願い止めて」

 

誠「くみん先輩がほんわかキャラを投げ捨てた!?」

 

勇太「すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。風……何だろう吹いててきてる確実に、着実に、俺たちのほうに」

 

 

いろは「先輩、何言ってんですかあの人……」ヒキ…

 

八幡「ネットのコピペネタだから気にするな」

 

 

雪乃「まぁ真面目にやってくれるのなら文句はないのだけれど……。終わったかしら?」

 

六花「うむ……は!? 私は今まで一体何を!?」

 

七宮「うう……何か、長い夢を見ていたような……」

 

八幡「記憶まで封印してんなよめんどくせぇ……」

 

雪乃「もういいから始めましょう……。今までに出た案については、手元の資料を見て頂戴」

 

 

 言われるまま、雪ノ下から渡された資料をざっと流し見る。

 コンサート、演劇、ミュージカル、リアル鬼ごっこ、ジャンケン大会、バトルロワイヤル、お祭りコン(街コンのお祭り版)、巨大迷路、サバイバルゲーム、宝探し、大告白大会、人狼ゲーム、攻城戦、かくれんぼ大会、お昼寝選手権、リアル脱出ゲーム、にゃんにゃんショーetc……。

 

 なるほど。出来る出来ないは別として、面白そうな案はいくつか上がっている。特定人物の趣味丸出しのものも多数あるが、得てしてそういうもののほうが興味を惹かれるものだ。

 しかしそれはそれとして、だ。

 

 

八幡「これ、神社の伝承とどう絡めんの?」

 

雪乃「そこなのよね……」

 

 

 こめかみを指で押さえながら、雪ノ下がため息交じりにつぶやく。

 やはりそこがネックになって企画がまとまらないらしい。

 

 

勇太「単純に絡めるだけなら、やっぱ演劇とかミュージカルか?」

 

丹生谷「お祭りのイベントで劇ってどうなの? 合わなくない?」

 

いろは「お祭りで皆賑やかに騒いでる中で演劇やっても、セリフとか聞き取りにくそうですよねー」

 

雪乃「そうね……。お祭りのイベントという点を考えれば、この二つは案から外すべきかしらね……」

 

八幡「とりあえず、こういう感じの消去法で案絞るか?」

 

雪乃「そうしましょうか。となるとまずは――」

 

丹生谷「そうね、消去法でいえば――」

 

勇太「パッと目に付くものなら――」

 

結衣「えっとまぁやっぱり――」

 

 

「「「「「「バトロワとサバゲーと攻城戦は無しで」」」」」」

 

六花・七宮「「ちょっと待って」」

 

 

 この場にいる大多数の人間が口を揃えて述べた意見に、案の定の二人が声を上げた。

 

 

雪乃「…………なにか?」ニッコリ

 

六花「いや、その……」

 

七宮「えっと、あの……」

 

雪乃「どうしたの? 意見があるなら聞くわよ? これらのイベントを伝承とどのように絡め、子供連れの親子でも楽しめるようどう実現するのか、詳しく聞かせて頂戴」

 

六花「ぐ……」

 

七宮「うく……」

 

六花「ぐぐ……ぐぅぅううう! し、鎮まれ! 鎮まれ我左腕よぉぉおおおお……!!!」

 

七宮「今暴発しては全てが終わる!! 今はまだ……まだその時じゃないんだぁぁあ……!!!」

 

 

いろは「わー先輩、封印効いてるっぽいですねー」

 

八幡「そだな」

 

 

 心底どうでもよさげなフラットな一色の声に、同じく投げやりな返答を返してやる。

 つーかこいつ等、コレがやりたかっただけじゃね?

 

 

雪乃「では満場一致で除外、と……」

 

 

 シャッと、手持ちの資料に斜線を引いていく雪ノ下。こいつに至っては何かリアクションを返してやる気もないらしい。

 中二病患者の扱いを心得つつありますね。さすがの学習力です。

 

 

六花「…………にゃんにゃんショーとかも、意味わかんなくね?」ムクッ

 

七宮「そうだね。伝承と全然関係ないよね」ムクッ

 

雪乃「な!?」

 

 

 あ、こいつ等勝利を諦めて道連れを選択しやがった。

 

 

六花「ふ、なにか意見があるなら聞こうか!?」ドヤッ

 

七宮「にゃんにゃんショーと伝承を、果たしてどう絡めるのかな!? ていうか『にゃんにゃん』て響きがちょっとアレで、お祭りにふさわしくないんじゃないかな!!」ドヤヤッ

 

雪乃「ぐぬぬ……」

 

 

 立て続けの指摘に、雪ノ下が歯噛みして呻く。まぁ、伝承についての意見はもっともなものだし、雪ノ下も返す言葉はないだろう。

 あと、『にゃんにゃんショー』については、俺もちょっと思ってました。

 それにしてもだ。

 

 

八幡「こないだから思ってたんだが、雪ノ下の奴、結構あの二人と打ち解けてるな……」

 

結衣「ああ、うん。二人とも、ゆきのんにいくら怒られても全然めげないから」

 

いろは「罵倒も毒舌も、全然気にしませんしねー。それどころか、ああやってやり返してきますし。神経図太いですよねー」

 

八幡「なるほど……。まぁ図太さで言えばお前も人の事言えんと思うが」

 

いろは「失礼な。こーんな可愛い後輩のどこが――」

 

 

雪乃「く……まぁ良いわ、受け入れましょう……。他にベントとしては……この『お祭りコン』というのも、正直どうかしら……」

 

いろは「えー、何でですかー!?」

 

雪乃「何でって、貴方ね……」

 

いろは「いいじゃないですか、お祭りコン! 伝承だって極論言えばちょっと悲劇的な恋バナですし、適当に絡められますよー!」

 

雪乃「それは極論過ぎでしょう……。それに子供が参加できないでしょう……」

 

いろは「でもー!」

 

 

八幡「ほれ見ろ、図太いじゃねえか……」

 

結衣「あははは……」

 

 

誠「巨大迷路も無理じゃね? 流石にこんなの作れないだろ……」

 

雪乃「まぁそうね、無しでいいでしょう」

 

いろは「ジャンケン大会ってショボ過ぎません?」

 

丹生谷「同感。さすがにこれが通るとは思えないわ」

 

結衣「ねぇねぇこの人狼ゲームって、いったい何なの?」

 

六花「よくぞ聞いてくれた!」

 

七宮「説明しよう! 人狼ゲームとは――!!」

 

くみん「あのぉー、お昼寝選手権はぁ……」

 

「「「「「無し!!」」」」」

 

くみん「(´・ω・`)」

 

 

 



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第二十三話

やったよ一週間以内更新!
まぁその分ちょっと短いんですけどね……。



 

八幡「今日から二学期……か……。二学期……いや、え、ホントに? ホントに二学期? 実はまだ夏休みなんじゃないの……?」テクテク…テクテク…

 

八幡「だってこの暑さは夏だろ……どう考えても夏だろ……。体感的に言えば八月中旬ごろの暑さだ。間違いな――」

 

佐藤「あ、比企谷君……おはよう……」

 

八幡「え!? お、おう佐藤か……おは……よう?」

 

佐藤「……ケホケホ……どうか……した?」

 

八幡「………………佐藤。少し、聞きたいことがあるんだが……」

 

佐藤「え……? 何……?」ケホケホ…

 

八幡「何で腕に包帯巻いてるんだ……?」

 

佐藤「これ……? 昨日ちょっとぶつけて……骨にヒビが……入っちゃって……ほら、私……体、弱いから……」ケホケホ…

 

八幡「何で喋りが途切れ途切れなんだ? あとなぜいちいち咳き込むんだ……?」

 

佐藤「ちょっと体調が……すぐれなくて……。ほら、私病弱……だから……」ケホケホ

 

八幡「……何で……何で唇を……紫に塗ってるんだ……?」

 

佐藤「え……? 唇は元からだよ……? ほら、私って生まれつき……病弱だから……」ケホケホ

 

 

――ツカツカツカ……ガシッ!!!

 

 

佐藤「え? え? 何でいきなり頭掴ん――」

 

八幡「どうすれば治る? 頭か? 頭を叩けばいいのか? 斜め45度からか?」

 

佐藤「いや、そんな昭和のテレビじゃあるまいし!?」

 

八幡「その辺にハンマーはないか?」キョロキョロ

 

佐藤「死んじゃうからやめて!」

 

八幡「ならドライバーは? 昔壊れたラジオを遊びで分解して組み立て直したら、奇跡的に直った経験がある。ネジはどこだ? むしろ足りてないから壊れたのか?」

 

佐藤「ああ、違う! なんか扱いが今までと全然違う……!!」

 

八幡(何でこいつちょっと嬉しそうなんだ……)

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

勇太「大分案も削れたな……」

 

雪乃「そうね……まぁここからが大変なのだけれど」

 

 

 何処までも現実的な雪ノ下の言葉に、全員が疲れたようなため息を漏らした。

 さもありなん。取り敢えず駄目なところをひたすら論っていけばいい消去法は楽なものだ。人間誰しも、良いところよりも悪いところのほうが目につきやすい。

 しかし案が絞れたところで、現状残っているものを神社の伝承とどう結びつけるのか、というアイデアは未だ一つも出ていないのだ。

 

 

八幡「まぁ一旦休憩にしようぜ……。便所借りていいか?」

 

勇太「ああ、玄関のすぐ隣にあるから」

 

 

 富樫に軽く礼を返して、リビングから出ていく。言葉通り、トイレは玄関のすぐ左にあった。

 一応他人の家なので鍵を掛け、小さい方の用を足していると、ガチャリと玄関の開く音が聞こえた。

 

 

??「ただいまぁー……。はぁ、重かった……」

 

 

 え、誰?

 

 

??「あ、お兄ちゃん今トイレ入ってる? なら荷物リビングまで運んでー」

 

八幡「え? お、おう」

 

 

 “お兄ちゃん”という言葉にパッシブスキル『千葉の兄』が発動し、脊椎反射で返答した。

 バッカお前バッカ、これどう考えても富樫の妹じゃん! 暴発しすぎなんだよこのスキル!

 

 しかし了承してしまった以上無視するわけにもいかない。手を洗い恐る恐るトイレのドアを開けると、玄関に座り込んで靴紐を解いている小柄な背中が伺えた。

 その傍らには、パンパンに膨らんだ買い物袋が二つ置かれている。

 

 

八幡「えっと……これ、運べばいいのか……?」

 

??「うん、ペットショップで安売りしてる猫のエサがあったからまとめ買いしちゃって。流石に7匹になるとエサ代もバカになんないよ……」

 

 

 どうやら結び目が堅いらしく、うんしょうんしょと靴紐と格闘しながら声が返ってくる。今だに俺が兄だと信じ込んでいるらしい。

 これ幸い。気付かれないうちにさっさと運んで、リビングで知らんぷりしていようと買い物袋に手を伸ばしたところで、見覚えのあるエサ袋が目についた。

 

 

八幡「あ、これ大丈夫か? 俺もこないだ買って来たら、カマクラが腹壊して小町にめっちゃ怒られたんだけど」

 

??「ええ!? そうな……の……?」

 

 

 ピシッと。反射的に振り返った少女の顔が、俺の瞳を見た瞬間に固まった。

 

 

??「…………」

 

八幡「…………」

 

 

 しばしの沈黙。

 やがて少女はゆっくり顔を戻すと、何を思ったか解きかけていた靴紐をもう一度結びなおし、テク、テク、テクと玄関の扉に張り付く様に後退した。

 

 

八幡「あ、いや、待って。話を聞いて――」

 

??「お、お兄ちゃんの、お友達、ですか……?」

 

八幡「いや違う」

 

 

 今度はエクストラスキル『孤高のボッチ』が暴発した。

 ちょっと!? 俺のスキルさっきからどうなってんの!? そこは嘘でもいいから友達って言っとけよ! 妹さん涙目で傘立てから傘掴みだしたよ、警戒心MAXだよ!!

 

 

??「ううううちお金無いです! 両親海外だから仕送りで生活してて……あ、違う、両親居ます! お父さんとお母さんもうすぐ帰ってきます!! すぐ、ホントすぐ!! 今もう下まで来てるかも!!」

 

八幡「あ、あの、落ち着いて……? なんか誤解してるようだけど――」

 

??「ひいぃ!!?」

 

 

 何とか警戒を解こうと両手を上げた俺に対し、少女は悲鳴を上げて反射的に傘を振り回した。

 カツンと、その先っぽが靴箱の上に置かれていた花瓶に当たる。

 

 

八幡「ちょ、あぶねぇ――!」

 

??「きゃ!」

 

 

 慌てて飛び出し、少女の頭上に落下しようとしていた花瓶を抑える。しかしつけ過ぎた体の勢いを殺しきれず、ドンと玄関の扉に手をつき、体と扉で少女を挟み込むような体勢になった。

 

 あ、はちまんしってるよ! はちまんものしりだもん! これ、『壁ドン』っていうんだよね!!

 ……何だこれ。もういっそ殺せよ。

 

 

??「あ……あわ……あわわわわわわわわ」

 

雪乃「ちょっと比企谷君。あなたさっきから何を騒いで――」ガチャ

 

 

 そんな俺の願いが届いてしまったのかどうか。雪ノ下がリビングから顔を出し、俺たち二人の姿を捉えた。

 

 

雪乃「…………」

 

 

 パチパチと瞬きした後、雪ノ下は沈痛な面持ちで目を瞑り、目頭を指で押さえるようにして暫しマッサージを続けた。

 もう一度目が開かれる。おそらく、先程と同じ光景が移ったことだろう。なんせ花瓶抑えてるから俺動けないし。

 そのまま五秒ほどもこちらを凝視しただろうか。やがて雪ノ下は何を語るでもなく静かにリビングに引っ込むと、今度は携帯を片手に戻ってきた。

 

 

雪乃「もしもし、警察ですか? すいません、すぐ来てください。今ここに痴漢が――」

 

八幡「待て雪ノ下よく見ろ! 右手! 俺の右手の先! 花瓶があるだろうが!?」

 

??「はわ……は……はひ…………はひゅぅ~……」

 

 

 俺の必死の弁解を他所に、名も知らぬ少女は顔を真っ赤にしてクルクルと目を回し、玄関先にへたり込んだのだった。

 

 

 




くずは! 超絶かわいいよくずは! くずは! くずは!!

それはそれとしておそ松さんが予想外に面白いですね。個人的には今のところ今期イチオシです。



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第二十四話

 

 

鈴木「ふひゃひゃひゃひゃひゃ!! むらッ……むらさきッ……唇むらさきってwwww……ひー、ひー……な、何やってんのアンタwwwwww」ピクピクプルプル

 

佐藤「いや……私って病弱だから……」ヒクヒク

 

鈴木「そんな話聞いたことねーwwww!! クラスの大半がインフルエンザに掛かって学級閉鎖になった時も、あんたピンピンしてたじゃんwwwwwwww!!」

 

佐藤「………………」ビキビキビキ…

 

ソフィア「にーっはっはっは! まぁまぁ、何かのきっかけで体質が変わるなんてよくあることさ!!」

 

 

八幡「…………どうしてこうなった」ゲンナリ

 

モリサマー「いや、だから。貴方が原因でしょう……」ジトリ

 

八幡「俺が何したってんだよ……」

 

モリサマー「自分で考えなさい。……佐藤、貴方のその変容は霊的因果の可能性が見られますね。少し見せてください」スタスタスタ…

 

八幡「…………」

 

 

 

     ▽

 

 

 

八幡(俺のせい……何でだよ? 確かに佐藤の事はちょっと避け気味だったけど、それであんなキャラ作りまですることないだろ……)テクテクテク…

 

八幡(今まで、普通の女子は俺が話しかけただけで、あからさまに嫌な顔してたじゃねえか……。だから佐藤に対してだって……)

 

 

??「あれ、比企谷じゃん」

 

 

八幡「え? あ……お、折本……?」

 

折本「何その反応、ウケる!」

 

八幡(ウケねぇよ。つかクラスでもトップカーストのコイツが、何で俺に話しかけてきてんの……?)

 

折本「比企谷帰んの? ファミレスは?」

 

八幡「は? ファミレス?」

 

折本「うん。夏休み明けで久しぶりじゃん? だから、ちょっとファミレスで集まって皆で夏の思い出とか語ろって。結構クラスの全員にメール回ってたと思うけど、比企谷来てないの?」

 

八幡「いや……知らねぇけど……」

 

折本「ふーん。まぁでも同じクラスなんだし、来れば?」

 

八幡「い、いいよ……。呼ばれてもねえのに……」

 

折本「そう? んじゃあ次集まりがあったらアタシが連絡したげるよ。メアド交換しよ?」

 

八幡「え!? あ、ああ……」ゴソゴソッ

 

八幡(あ、あれ? 交換ってどうやってすんだっけ……?)カチカチ…カチカチ…

 

折本「何もたついてんの、ウケるんだけど! ほら貸してみなって」ヒョイッ

 

八幡「あ」

 

折本「……っと……ほい、交換完了」

 

八幡「あ、ああ……わりぃ」

 

折本「んじゃまたねー」ヒラヒラ

 

 

八幡「………………」ボー…

 

 

八幡(俺が……自意識過剰だったのか……?)

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

勇太「えっとまぁ、改めて……」

 

 

 コホンと一つ咳払いし、富樫は傍らに座る少女を指し示した。

 

 

勇太「妹の樟葉だ」

 

樟葉「は、はじめまして。よろしくお願いします……」ペコリ

 

雪乃「ええ、初めまして。雪ノ下雪乃よ。総武高校で奉仕部という部活の部長をしているわ」

 

樟葉「奉仕部……? ボランティアとかそういう事をする部活ですか?」

 

雪乃「似てはいるけど、本質は別ね。飢える者に魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える。私たちがやっているのは、そういう活動よ」

 

六花・七宮(今の言い回し超カッコいい……)

 

勇太「へー、そういう部活だったのか」

 

樟葉「お兄ちゃんも知らなかったの?」

 

勇太「いや、俺もこないだ知り合ったばかりだし……。奉仕っていうから俺はてっきり……」

 

雪乃「てっきり……なにかしら?」

 

六花「…………」

 

勇太「あ、いや……何でもないです……」

 

 

 二人分の冷め切った視線に晒され、誤魔化す様に富樫は視線を逸らした。

 後に続く言葉は概ね予想できたが、まぁ追い打ちはかけまい。今富樫からの心証を悪くする行為など、自殺行為もいいところだろう。

 

 

八幡「まぁその、なんだ。さっきはすまなかった……」

 

樟葉「あ、いえ! 私も勘違いしちゃって――」

 

八幡「決してわざとじゃない、事故だったんだ。だから頼む、富樫。見逃してくれ……!」ズザッ

 

勇太「何でいきなり土下座!? しかも俺に対して!?」

 

樟葉「ええー…………」

 

 

 俺が十数年の生涯を掛けて磨き上げてきた至高の土下座を前に、富樫兄妹は何故か揃ってドン引きの表情を浮かべていた。

 

 

八幡「え、だってお前今頭の中で『いかに俺を苦しめ抜いて抹殺するか』を考えてるんだろ……?」

 

勇太「考えてないよ! どういう思考回路でその結論に達した!?」

 

八幡「もし仮にお前が小町に同じ行動をしたとして、先ず俺が考えるのは『死体の処理方法』なんだが……」

 

勇太「怖い!? いやいや普通そんなこと考えないだろ……」

 

八幡「…………お前それでも兄貴か? ほんとに千葉県民?」

 

勇太「いやいや、ちゃんと生まれも育ちも千葉だか……ら? ……あれ? 千葉……だっけ? 千葉……うっ、頭が……!」

 

 

 急に呻き声を上げ、頭を抱えだす富樫。

 また中二ネタかよめんどくせぇなあと思いつつ目を逸らすと、丹生谷を初めとした銀杏学園の面々もなぜかしきりに首を捻り「千葉……のはずよね?」「まぁ、実際千葉にいるし……」「引越しした記憶ないし……」と、戸惑いの呟きを漏らしていた。

 何だろう、このネタはこれ以上引っ張っちゃいけない気がする。そう思った矢先、雪ノ下がわざとらしく咳払いを上げた。

 

 

雪乃「とにかく……ウチの部員――いえ、備品が迷惑をかけたわね。私からも謝罪するわ」

 

八幡「いや、せめて人間扱いはしてくれませんかねぇ……?」

 

 

 ひょっとしたら雪ノ下も俺と同様の思いを抱いたのかもしれない。少々強引な話の転換に、こちらも乗っかって突っ込みを入れる。

 

 

樟葉「いえ、ホントに大丈夫ですから。私も、今日人が来るって聞いてたはずなのに、忘れてましたし……」

 

雪乃「そう? 彼を訴えるつもりなら、良い弁護士を紹介するけれど」

 

八幡「何で鎮火し掛けてる火事を再燃させようとするの? 事故だって散々説明したよね?」

 

いろは「トラウマにとかなってませんかー? 先輩の目、見ても平気でいられます?」

 

八幡「いやお前、いくら俺の目が腐ってようがそこまで――」

 

 

 言いながら妹さんに目を向けると、ちょうど向こうもこちらを見ていたらしくパチリと目が合う。

 瞬間、ヒッと引き攣った様な悲鳴を上げ、真っ赤な顔で目を逸らされた。

 

 

八幡「………………」

 

いろは「………………」

 

 

 え、マジで? 俺の目って、トラウマにまでなる程だったの……?

 そして一色は、何でゴミを見る目でこっちを見てくるの?

 

 

結衣「樟葉ちゃん、大丈夫だよ。ヒッキーは別に怖くないから」

 

樟葉「え……?」

 

 

 そんな怯える少女の肩をポンッとたたき、優しく諭すように由比ヶ浜が声をかけた。

 おお、流石ガハマさん。空気を読み、調和を愛するアホの子。その慈愛に満ちた笑顔にうっかり惚れそうになっていると、何故か急速にその瞳から光彩が消え去り、スッと後ろ手に持っていたタッパを差し出した。

 

 

結衣「ほら、エサをあげてみて? すぐに大人しくなるから……」カパッ

 

八幡「お願いします、殺さないでください……」

 

 

 タッパから“タマゴヤキ”を摘まみ、恐る恐る差し出してきた富樫妹に対し、この日二度目の土下座が炸裂した。

 

 

 

     ▽

 

 

 

雪乃「会議を開きましょう」

 

 

 その言葉とは裏腹に、なぜか雪ノ下が立ち上がり由比ヶ浜と一色に目配せをした。

 二人はコクリと頷きを返し、スススッと椅子に座る丹生谷に近づくと、その腕を両脇からガッチリとホールドして立ち上がらせる。

 

 

丹生谷「え?」

 

雪乃「小鳥遊さん」

 

六花「うむ」

 

 

 名前を呼ばれただけだというのに、全て心得たと言わんばかりの表情で小鳥遊がリビング奥の部屋へ繋がる襖をスッと開いた。

 どういう事なの? お前らいつの間にそんな熟年夫婦みたいな意思疎通方法身に着けたの?

 

 

丹生谷「え、なに? ちょっ、なんなの……!?」ズルズルズル…

 

 

 訳が分からず戸惑いの声を上げる丹生谷を問答無用で引き摺っていく雪ノ下たち。

 四人はそのまま奥の部屋へと消えていき、ピシャリと襖は閉じられた。

 

 

八幡「………………どゆこと?」

 

六花「そっちは知らなくていい話だから」

 

 

 無意識に漏れた疑問の声も、即座に小鳥遊にシャットアウトされる。

 襖の奥からは微かに「さきほ……樟葉さん……ん応について……」「たぶ……吊り橋こ……的な……」「未経験の出来ご……一時的に意識……るだけ……」「いや、な……私までここに……」「今そういうの良いから……」といった声が漏れ聞こえてくるが、流石に断片的過ぎて詳しい内容は分らなかった。

 

 

誠「あー……どうする?」

 

八幡「いやまぁ……時間もねえし、俺らだけで考えるしかねえだろ……」

 

勇太「だな……」

 

樟葉「お兄ちゃん。結局これ、どういう集まりなの?」

 

勇太「ああ、毎年冬に鶴御神社で祭りがあるだろ?」

 

樟葉「うん」

 

勇太「色々あってその祭りでやるイベントを考えることになってな。ただ、お祭りの由来になってる鶴と亀の話があって、それに合わせたイベントがなかなか決まらないんだ……」

 

樟葉「あ、その話なら知ってるかも。小学校の時、郷土研究の授業で聞いた覚えあるよ」

 

六花「甘いな樟葉。学校で教えられる歴史など、所詮仮初のモノに過ぎない」

 

樟葉「かりそめ……?」キョトン

 

六花「うむ。というのも……」

 

 

 人知れぬ真実を語るという、中二的に美味しいポジションを虎視眈々と狙っていたのだろう。富樫妹に対して、この間ルミルミから聞いた伝承をノリノリで語りだす小鳥遊。テンションが若干ウザったいが、中二病に対する抑止力が別室に引っ込んでしまった以上、会議を引っ掻き回されるよりは大分マシだろう。

 あちらは放っておいて、改めて現状残っているイベント案を見直してみる。

 

 まずコンサート。一番無難で、一番面白みのない案である。伝承を元にした歌でも作ってやれば、一応の体裁は整うだろう。それが盛り上がるかどうかはさておいて、だが。

 

 次にリアル鬼ごっこ。まぁ、大人数が参加できるようルールを工夫してやれば、子供も気軽に参加できてそれなりに盛り上がる気はする。準備も楽そうだし、そう悪い案ではないだろう。伝承とどう絡めるのかという案は全く思い浮かばないが。

 

 あと、大告白大会。伝承において、鶴が亀との関係を隠していたせいで起きた悲劇だ、ということを考えれば、無理やりつながりを主張することはできるかもしれない。しかし俺としては、そこはかとないリア充臭が感じられるこの案はあまり通したくない。爆発しろ。

 

 リアル脱出ゲームは、個人的に一番興味をひかれるイベントだ。最近よく耳にするようになった体験型エンターテイメントで、要は謎解きゲームと思っていい。閉じ込められた部屋の中に隠された様々な暗号やパズルを見つけて解き明かし、制限時間内に部屋から脱出を目指す、といった感じのものだ。

 参加は基本的にグループ単位、という俺にとって致命的ともいえる制限のおかげで、実際にやったことはないが。

 ただまぁこれに関しても、いったい何から脱出すんだよって話である。

 宝探しも同様だ。面白そうではあるが、伝承との繋がりがない。話の中で分りやすいお宝でも出てきてればちょうどよかったのだが……いっそその辺をでっち上げるか? いや、それはさすがに――

 

 

六花「――というわけだ。コレがあの神社に纏わる鶴と亀の真実」

 

勇太(凄い端折ってたけどな……)

 

樟葉「へー。そんな物語が隠されてたんだ……」

 

 

八幡「――あ」

 

 

 富樫妹が何気なく漏らした言葉が、最後に残ったパズルピースのようにピタリと嵌まり込んだ。

 あー、そうかそうか。何も見つけてもらうのは、『物』じゃなくても良いんだよな。

 

 

八幡「イベント案、思いついたわ」

 

 

 俺が挙げた言葉に、その場にいた全員が「え?」と振り返った。

 

 

八幡「謎解きと、宝探し。参加者には『物語』を探し出してもらおう」

 

 



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第二十五話

 

 

八幡「…………」ジー…

 

 

鈴木「ちょっとモリサマー……。アイツどうしたの? 携帯見つめたまま全く動かないんだけど……」ヒソヒソ…

 

モリサマー「私にだって……分からないことぐらい……あります……」クッ…

 

鈴木「キバヤシかあんたは」ヒソヒソ…

 

 

――ピロリン

 

八幡「――!?」ガバッ

 

 

佐藤「なんか……もの凄い反応したけど……」ケホケホ…

 

ソフィア「メールが来たみたいだね……」

 

 

八幡「…………」カチカチ…ピツ

 

《なにそれウケる!》

 

八幡「……ッ」パアァァ…!

 

 

鈴木「うッ、まぶしい! まぶしいけどキモい!」

 

モリサマー「工業排水が垂れ流された中国のドブ川に描かれる虹のような輝きが……!?」

 

佐藤「あ、あんた等……」ケホケホ…

 

ソフィア「すんごい嬉しそうだねぇ……」

 

 

八幡「…………」ポチポチ…ポチポチ…

 

 

鈴木「…………やっぱあれ、女? 彼女できた?」

 

佐藤「ゲェッホゲホ! ゲホゲホゲホ!!」

 

モリサマー「ふ、何をバカな……彼は灰色世界の不浄王ですよ? 何者とも交わること叶わない隔絶された存在が、ツガイを持つなどと……」

 

鈴木「アンタそれ、何気にスゲェ酷いこと言ってるわよね」

 

ソフィア「…………………………騙されてる?」

 

「「「……………………」」」

 

 

八幡「…………」ソワソワ…ソワソワ…

 

 

モリサマー「…………と、とにかく。様子を見ましょう……」

 

ソフィア「そ、そうだね……」

 

佐藤「急にバイトとかし出したら……要注意ってことで……」ケホケホ…

 

鈴木「美人局とかじゃないことを祈るわ……」

 

 

――ピロリン

 

《それあるー!》

 

八幡「……ッ」パアァァアア…!

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

――スパァンッ

 

雪乃「話は聞かせてもらったわ。何かアイデアが出たそうね」

 

 

 計ったようなタイミングで勢いよく襖を開き、開口一番雪ノ下はそう問いかけてきた。

 キバヤシかこいつは。

 

 

八幡「ああ。そっちのその……なんだ。会議? は終わったのか?」

 

雪乃「ええ、おそらく一過性のものであろうと判断を下したわ。要経過観察ね」

 

八幡「あっそう……」

 

 

 まったくもって意味は理解できなかったが、どうでもいいので適当に相槌を打っておく。

 

 

雪乃「比企谷君の方は保護観察処分よ。良かったわね、実刑が降りなくて」

 

八幡「あ、有罪は既に確定なんですね……」

 

 

 裁判を受ける権利すら俺には与えられないらしい。この国の司法は崩壊した!

 

 

いろは「で? どんなアイデアなんですか?」

 

 

 ヒョコッと雪ノ下の背後から顔を出し、一色が上目遣いに聞いてくる。

 相変わらずあざとい仕草が骨の髄まで染み付いてんな。こいつの骨髄とか移植するとえらい事になりそう。ちょっと雪ノ下あたりに移植してみてくんないかな。絶対適合しないだろうけど。

 

 

八幡「そう大したアイデアじゃない。イベント案の中に、『宝探し』ってあったろ。あれをやろうって話だ」

 

勇太「伝承とはどう繋げるんだ? 話の中に、宝物なんて出てこなかったろ」

 

 

 この場にいる全員の疑問を代弁す様な形で、富樫が声を上げた。

 

 

八幡「さっきも言ったように見つけて貰うのは宝物じゃない、物語だ。真実のほうのな」

 

雪乃「…………なるほど。伝わっている伝承が二つ存在することを利用するのね」

 

 

 続けられた雪ノ下の言葉に、幾人かが「あ!」と得心の声を上げる。若干名いまだ疑問符を浮かべたままの人もいますが、本人の名誉のため伏せておきますね。

 

 

結衣「どういうこと?」

 

 

 はい、伏せた意味ありませんでした。

 

 

八幡「参加者にはまず、一般的に伝わっている伝承についての資料を配布する。で、その資料の中には真実の伝承にたどり着くためのヒントが、幾つも散りばめられてるわけだ。話の矛盾点とか、隠されたエピソードが存在することの示唆とかな。それを元に、参加者は校庭に再現された村――これは簡単なハリボテで十分だと思うが、その中を探し回って、本当の伝承の断片――まぁ、エピソードか書かれたカードみたいなイメージか? それを見つけていく。この辺は、案の中にあった『リアル脱出ゲーム』の要領だな。謎解き要素を盛り込んでいこう」

 

雪乃「そうして、全てのエピソードを集めて伝承を完成させればゲームクリア、というわけね」

 

八幡「ま、そういうことだ……。ついでに利点を挙げるなら、まず祭りを楽しむ邪魔にならない。初めに伝承の資料さえ受け取れば、後は好きな時に村の中に入って調べてもらえばいいからな。出入りも自由」

 

結衣「そっか。途中で抜けて出店とか回ってもいいんだ」

 

勇太「グループでの参加もしやすそうだよな。家族とか、友達同士とか」

 

八幡「まぁ親と一緒に回れば、小さい子供でも十分楽しめるだろ。友達は知らんが」

 

丹生谷「何でわざわざそこを否定するのよ……」

 

 

 知らんもんは知らんのだから仕方がねえだろうが。

 

 

八幡「で、もう一つの利点。これがある意味一番重要かもしれんが――」

 

雪乃「両家の顔を立てやすい、ということよね」

 

 

 俺の言葉を遮り、やや得意げな微笑を浮かべて雪ノ下が答えた。

 ア、ハイ……。正解です……。ポイントとかあげた方がいいですか?

 

 

八幡「ま、まぁその通りだ。村を再現する会場の設営は雪ノ下家に、謎解きと言ったゲーム部分の構築はハンマーツインテールの……なんてったっけ?」

 

雪乃「凸守家」

 

八幡「ああそうそう。凸守家にそれぞれ協力を仰げるだろう。どちらもイベントを実現するに当たって重要な部分だし、負担も重すぎもせず軽すぎもしない、ちょうどいい塩梅だ。両家の顔を潰さず納得させる条件は、十分に満たしていると思うが……」

 

 

 どうだろう? という意味合いをこめて、俺は室内の面々を順繰りに見渡した。

 

 

誠「……いいんじゃね? イベント自体も面白そうだし」

 

勇太「ああ、伝承との繋がりもクリアしてるしな。なんせそれ自体が謎解きの題材だ」

 

結衣「うん……いいと思う!」

 

七宮「真実を見つける為の試練……心躍るね!」

 

六花「ハイ! バトル要素はありますか!?」

 

八幡「ああ、まぁ……野盗に扮したスタッフにゲームかなんかで勝てば新たなヒントがもらえるとか、やり様はあるだろ」

 

六花「ふ……パーフェクトだ、ウォルター」

 

八幡「感謝の極み」

 

 

 眼帯娘に対し、反射的にニヤリと返す。

 まさか人生で一度は返したい返答トップ5に入るこの言葉を言える日が来ようとは……。けど、ムフフンと満足そうな笑みでこっちを見てくる眼帯娘がちょっとウザいです。

 

 

くみん「決まりっ! だね」

 

 

 わーぱちぱちぱちー、と朗らかな笑顔で拍手する黒めぐりんさん。

 ほっこり……。とても暖かい気分になった。

 

 

雪乃「では、後は私の方で企画書をまとめておくわ。一色さん、当日のプレゼンは貴方にやって貰うから準備しておいて頂戴」

 

いろは「ええ!? わ、私ですかー……?」

 

雪乃「当たり前でしょう。雪ノ下家の人間である私が提案したら、纏まるものも纏まらないわ。それにそもそもの依頼人はあなたでしょう?」

 

いろは「そこのコイツ! このハゲもです!!」

 

誠「ハゲ言うんじゃねえよ! ちゃんと生えてるだろ!!」

 

雪乃「では二人でやってちょうだい」

 

 

 

切り捨てるようにそう言って、雪ノ下はやれやれと溜息をついた。

 そのままリビングの隅へとイソイソと移動したところで――

 

 

勇太「それじゃ夕飯にちょうどいい時間帯だし、近くのファミレスにでも行こうか?」

 

雪乃「え゛?」

 

 

 

富樫が上げた言葉に、雪ノ下は絶望に顔を歪めて振り返った。

 しゃがみ込んで伸ばされた手の先、ほんの数センチのところで子猫が腹を見せてウネウネと体をくねらせている。

 

 

勇太「…………」

 

雪乃「…………」

 

 

 あ、あれ? 雪ノ下さんちょっと泣きそうになってません……?

 

 

勇太「っと…………思ったけど、よく考えたらこの人数で入れるかわかんないもんな! き、今日は出前でピザでも取ろうか!? たまにはいいよな樟葉!?」

 

樟葉「う、うん、いいんじゃないかな! ピザ食べるの久しぶりだし! た、楽しみだなー!!」

 

 

 スゲェ無理矢理なテンションで叫びながら、富樫兄妹がわっほいわっほいと宅配ピザのチラシを取り出してきた。

 それに乗っかり、他の連中も「あ、あたしもちピザ食べたいー!」「や、やっぱ生地は薄生地ですよね!」「さ、サイドメニュー何がいいかなー!」等と言いつつ、全てを見なかったことにしてチラシに群がっていく。

 

 

雪乃「…………」

 

 

 そんな中、雪ノ下は真っ赤な顔で俯いたまま、プルプルといつまでも震えていた。

 

 

 




このSS書く上で何が一番悩んだかって、このイベントをどうするのかにほかなりませんでした。
ぶっちゃけコレが自分の中でまとまらなくて、時間稼ぎのために途中のエピソードちょっと引き伸ばしたまである。

結果、こういったものになりましたが……そ、そう悪い案じゃないですよね?


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第二十六話

そして話は動き出す。



モリサマー「………………」

 

八幡「………………」ズーン…

 

モリサマー「そ、そんな処に座り込んで……ど……どうかしましたか? キヒヴァレイ……」

 

八幡「………………言いたくない」ボソ

 

モリサマー「…………そ、そう言う訳にも行きません。私は魔術師モリサマー。精霊の導きを受けるガイアの護り手。不浄王である貴方が何かを企んでいるなら、見過ごすわけには――」

 

八幡「今……」

 

モリサマー「え?」

 

八幡「今、そう言うのの相手……無理だから……」

 

モリサマー「あ、そう……」

 

八幡「…………」

 

モリサマー(す、鈴木? 佐藤!? ソフィア!? あいつらこんな時に限って何でいないの……!?)オロオロオロオロ…

 

八幡「…………」

 

モリサマー「え、えっとえっと…………く、クリスタルポーション飲む? 爽やかミント味で頭もスッキリ――」

 

八幡「いらない……」

 

モリサマー「エリクサーも有r」

 

八幡「春菊だそれは」

 

モリサマー「…………」

 

八幡「…………」

 

モリサマー「…………ま、MAXコーヒー……買ってこようか?」

 

八幡「………………………………頼む」

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

八幡「…………終わった」

 

 

 カチリと。最後の一文字をキーボードで打ち込み、俺は深く椅子にもたれ掛かった。

 現在時刻は午前二時四一分。一月二日の、である。マジギリギリだった……。つか何で俺正月からこんなに働いてんの? おかしくない?

 もうヤダ、ライター紛いの仕事なんてもう絶対しない。もし仮に今後、一色から生徒会発行フリーペーパーの作成依頼が奉仕部に来たとしても断固拒否してやる!! 

 

 

八幡「とにかく、眠い……寝よう……。あ、その前に丹生谷にメールで送っとかねえと……」

 

 

 眠気にぼやけた思考を無理やりたたき起こし、メールソフトを起動してテキストファイルを丹生谷宛のアドレスに送付する。

 コレでホントに仕事終了だ。さぁ寝よう即寝よう、とPCをシャットダウンしようとしたところで、メールの着信を知らせる音が響いた。

 

 

『受け取ったわ。明日までに読んでおくから、予備校の前に会いましょう。十二時に予備校近くのサイゼで。  丹生谷』

 

 

八幡「…………」

 

 

 え、あいつ今まで起きて待ってたの? いや確かに今晩中に送るとは約束してたけど……。

 

 

八幡「……ああクソ」

 

 

 訳の分からない罪悪感に、ガシガシと頭を掻く。こんな時間まで待っていたのは向こうの勝手で、こっちはキチンと約束を果たしている。こちらが気にする必要など、何処にも無い筈だ。

 だというのに、このまますぐ布団を引っ被って眠る気には、どうしてもなれなかった。

 

 

八幡「シャワー浴びてくるか……」

 

 

 よく考えれば、まだ風呂にも入っていない。

 無駄に眠気が覚めそうな気もしたが、気分を切り替えるにはちょうどいいだろう。

 

 

――結局。布団に入って眠りにつけたのは、四時近くになってからだった。

 

 

 

     ▽

 

 

 

 サイゼに入って店内を見渡すと、窓際のテーブル席に座る丹生谷の姿を見つけた。

 

 

店員「いらっしゃいませ。一名様でよろしいですかー?」

 

八幡「あ、待ち合わせしてるんで」

 

 

 店員にそれだけ伝え、スタスタと店内奥に歩いていく。

 近づいてくる足音に、丹生谷もすぐこちらに気付いたようだった。

 

 

丹生谷「時間通りね」

 

八幡「まぁな。注文は?」

 

丹生谷「まだよ。私もさっき来たばかりだもの」

 

八幡「あっそ」

 

 

 その言葉に、即座に店員の呼び出しベルを押す。

 

 

丹生谷「ちょっと、こっちのメニュー決まってるかどうか確認してから押してよ」

 

八幡「いやだってお前、毎回ランチメニューのパスタしか頼まねぇじゃん……」

 

丹生谷「ち、中学の頃の話でしょ……」

 

 

 正面からの剣呑な視線を無視し、やってきた店員にランチメニューのドリアとドリンクバーを注文する。

 丹生谷の方はギリギリまでメニュー睨み悩んでいたが、結局意地を張るのもバカらしいと思ったのだろう。諦めたような溜息をつき、ランチメニューのパスタとドリンクバーを頼んだ。

 

 取り敢えず、と二人それぞれドリンクを注ぎに席を立つ。

 アイスコーヒーと、えっとガムシロガムシロ……

 

 

丹生谷「アンタ、未だにそんなガムシロ入れて飲んでんの……?」

 

八幡「うるせぇよ、お前こそ相変わらずの抹茶ラテじゃねぇか」

 

丹生谷「少なくとも私は、アンタみたいな非常識な飲み方してないわよ」

 

八幡「ドリンクバーにMAXコーヒーがねえんだから仕方ねえだろ。俺は悪くない、社会が悪い」

 

丹生谷「悪いわよ。アンタの目と性根と感性と生き様は間違いなく」

 

八幡「お前はなんか口が悪くなってない……?」

 

 

 なんか雪ノ下に匹敵するレベルの罵倒を浴びせられたんだけど。

 生き様が悪いってなんだよ。お前それもう、人格どころか俺の人生否定してんじゃねえかよ。

 

 

丹生谷「まぁそれは如何でもいいとして……」

 

八幡「よくねぇよお前、心の傷は体の傷よりも治りにくいんだよ? ねぇ分ってる?」

 

丹生谷「アンタが書いた伝承の纏め、一通り読んだわ」

 

 

 ついでに言うと無視が一番傷つくんですよね。まぁ常人ならの話だが。お、俺は別に全然平気だし?

 

 

八幡「なんか問題あったか?」

 

 

 問い返しながら、グラスをテーブルに置いて椅子に座る。

 

 

丹生谷「……無いわよ。上手く纏められてると思ったわ」

 

八幡「お、おう……。そうか」

 

 

 真正面から素直に褒められると、それはそれで落ち着かいない……。

 

 

丹生谷「まぁ散々待たされたことには文句言いたいけど」

 

八幡「悪かったよ。まさか起きて待ってるとは思わなくてな……」

 

丹生谷「アンタってどうせ頭の中で書くこと煮詰まらせてばっかで、全然書き進められないタイプでしょ。ああいうのは何でもいいからとにかく一回書き上げて、そこから手直しして行けばいいのよ」

 

八幡「何でんな二度手間踏まなきゃなんねえんだよ、めんどくせぇ……。書き上げたらならそこで仕事終了にしたいだろうが」

 

丹生谷「それで結局余計に時間かかってたら世話ないじゃない」

 

八幡「お前がその手法使って一晩で無理矢理書き上げたマビノギオンがどんなクオリティだったか、詳しく説明してやろうか……?」

 

丹生谷「いぃやぁあ゛ー! 今その話すんのは反則でしょうが!?」

 

 

 いきなり頭を抱えて叫び声を上げた丹生谷に、周りの客がギョッとした顔で振り返った。

 

 

丹生谷「あ…………」

 

店員「お、お客様……店内ではお静かにお願いします……」

 

 

 丁度タイミング悪く料理を持ってきた店員が、引き攣ったぎこちない笑顔でそう告げる。

 

 

丹生谷「す、すいません……」

 

店員「いえ……えっと、こちらがランチセットのパスタとドリアです……。ご注文は、以上でお揃いでしょうか?」

 

八幡「あ、はい」

 

店員「それでは、ごゆっくりどうぞ……」

 

丹生谷「…………」

 

八幡「…………アホめ」

 

丹生谷「ぐっ……」

 

 

 俺の言葉に悔しそうに歯噛みしたものの、流石に言い返しては来なかった。

 代わりにというわけではないだろうが、カバンからクリアファイルを取り出し、こっちに差し出してくる。

 

 

丹生谷「これ、一応誤字脱字とか修正しておいたから。アンタの方でもっかいチェックしといて。修正箇所は赤字にしてるわ……」

 

八幡「あいよ……」

 

 

 受け取ったクリアファイルからプリントアウトされた修正原稿を取り出し、ドリアの皿の横に置く。

 大した分量でもないし、食いながらでも十分チェックできるだろう。

 その後は丹生谷も特に口を開くこともなく、カチャカチャと食器を鳴らす音だけがしばらく響いた。

 

 

八幡「……ん。問題ねえと思うわ」

 

 

 やがてお互いに食事を終えるのを待ってから、俺は言葉とともにクリアファイルを返した。

 

 

丹生谷「そう……。雪ノ下さんにはどうするの? データ、アンタから送る?」

 

八幡「いや、俺あいつのアドレス知らねぇから。そっちから送っといてくれ」

 

丹生谷「は? 知らないの? 何で?」

 

八幡「何でって言われても、お互いに交換してねぇし。アドレスどころか、携帯の番号も知らんぞ俺は」

 

丹生谷「……アンタと雪ノ下さんって、一体どういう関係なのよ……」

 

八幡「どういう関係って、そりゃまぁ……」

 

 

 と何気なく口を開いて――その後に続く返答を自分が持っていないことに気付いて、言葉が詰まった。

 少し前の自分なら、迷うことなく「ただの知り合い」だの「部長と部員」だのと即答していただろう。けれど今の俺は……あの時、奉仕部の部室で、自分でも纏まりのつかない本音を吐露してからの、俺と、雪ノ下と、由比ヶ浜の関係は……。

 

 

八幡「……なんなん、だろうな。良く分らん……」

 

丹生谷「………………そう」

 

 

 カランと、抹茶ラテのグラスの中で、溶けかけの氷が音を立てた。

 沈黙の中、無表情で俯いた丹生谷が、ゆっくりとストローを回して弄ぶ音だけがしばらく耳を擽る。なぜだか酷く、落ち着かない響きだった。

 

 

八幡「…………そろそろ出るか」

 

丹生谷「ん……」

 

 

 予備校の開始までにはまだ少し時間があったが、丹生谷は存外素直に頷いた。

 カバンを肩に下げ、伝票片手にレジへと向かう。

 

 レジ打ちの店員に尋ねられるよりも早く、「別々で」と告げて自分の分の料金と伝票を差し出す。一色辺りならばこの行いにもグチグチ文句を言ってくるのだろうが、生憎俺とコイツはどっちが金を払う払わない等と気にするような間柄でもない。

 それ自体は今も昔も変わらないのだが――それが意味するところの本質は、随分と変わってしまっているんだろうということにふと気づいた。

 だから、如何したというわけでもないのだが。

 

 

八幡「レシートいいです。……俺ちょっと便所行ってくるわ」

 

丹生谷「ええ」

 

 

 店員からお釣りだけを受け取り、レジ左奥のトイレへと向かう。

 その扉を開けようとしたところで――

 

 

??「あれ、丹生谷?」

 

丹生谷「え? あ……朱音?」

 

朱音「うっわ、久しぶり。中学以来じゃーん!」

 

 

 背後からそんな声が聞こえてきた。

 振り返れば、丁度店内に入ってきたらしい女子高生が、笑顔で丹生谷に駆け寄っているところだった。

 どこか見覚えのある顔だ。

 誰だったろうかと用を足しながら記憶を辿ると、そう苦労することもなく思い出せた。

 丹生谷が、中学三年の頃によく一緒にいたクラスメイトだ。俺自身は会話したことはないが、遠目にあいつらが話しているところを何度か見たことがある。

 

 はぁ、と小さくため息を一つ。そして、ポケットからスマホを取り出す。手を洗った後で少し湿っている指では若干操作し辛かったが、短い文章を打つだけだ。すぐ終わる。

 

 

『予備校先行くわ』

 

 

 それだけ丹生谷にメールして。

 トイレから出た俺は、声をかけることも、アイツの顔を見ることもなく、早足に横を通り過ぎて店内を出た。

 

 




この話のお投稿から一ヶ月くらいの間、ちょっと感想への返信を頑張ってみようかと思います。
ずっと続けるのは僕ヘタレで無理なので、一時的に。期間限定で。
…………うん、何を返せばいいかわからない時は、愛想笑いか中二ネタか「それあるー」で乗り切ろう。目指せ全レス。一ヶ月持たなかったらごめんなさい。

12/27 追記
感想への返信期間、一先ず今日で終了しますー。
やはり僕には荷が重いです……。



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