地上を翔るもの (魂代艿)
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1:「プロローグ」※

※まあまあシリアス注意報。次話からシリアル……もとい、シリアヌになる……はず。

【警告】:挿絵あり。苦手な方はご注意ください


 ——この世界には、天使と呼ばれるものたちがかつて存在しておりました。

 

 その姿は、人の目に映ることはありませんでしたが、文献によるとそれはそれは美しいものであったそうです。

 

 白い大きな翼に、きらきらと輝く黄金の輪。

 

 翼は彼らに天を駆ける力を与え、光輪は聖なる力を彼らに宿したといいます。

 

 

 ——ですが、そんな彼らの姿を知る者は、現在この世界には存在しません。

 

 

 

 あるとき。この世界には、大きな厄災が降り掛かりました。

 

 幸いとして、人口が大きく減ることはありませんでしたが、それでも多くの命が消えたと言います。

 

 人間界が大きく揺れる中で、天使達の住まう天使界も、ただではすみませんでした。

 

 何故そのように断じることができるのか?

 

 それは、以前まで人々に手を貸していたという天使達が、その時期を越えてからまったく姿を現さなくなったからです。

 

 その姿は、元々私たちには見えないものでしたが、いつもその存在を知らせるように、彼らは必ず何らかの痕跡を残していきました。

 

 それが、その時期を境に現れなくなったというのです。……それらを踏まえれば、彼らが姿を消していたのだという推測は有力なものと言えることでしょう。

 

 

 

 しかし、あの厄災の中で、彼らはどのようにして動いていたのか。どのような状況に陥っていたのか。

 

 それは我ら人間には知り得ないこと。

 

 知ることができなかったこと。

 

 

 

 結果として、彼らは我らの記憶の中からも忽然と消えてしまいました。

 

 我らに残されたのは、ただひっそりと佇む、謎の石像と、そして何者かに助けられてきたという、漠然とした記憶だけ——

 

 

 

 ——そして、とある人物が、天使の代わりに我らを救ったという、事実だけでした。

 

 

 

 天からおちてきたという彼女は、その周囲にいた人物たちにとっても、不思議な存在だったといいます。

 

 瑠璃色の髪に、宝石のように美しい翡翠のごとき瞳。

 

 どこからかあらわれ、人々を救い続けてきた彼女は、その容姿も相まって、言葉だけ遺されていた『天使』そのものだと囁かれます。

 

 

 ——そんな彼女についた呼び名は、『天青石の使徒』。

 

 

 天使の存在が信じられ、そして消えていったという時を共にしてきた彼女は、一体天使とどのような関わりがあるのでしょうか——……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——そんな内容が綴られていた本を、私はぱたりと閉じた。

 

「……」

 

 そしてこっそり、頭を抱える。気持ち的にはいわゆる『/(^o^)\ナンテコッタイ』というような感じだ。

 その拍子に手に抜けた髪が絡み付いて、それを視界にうつしてはまたげんなりする。

 ……その髪は、相も変わらず鮮やかな瑠璃色だ。

 

「……はあ」

 

 ——誰だよ、こんな本、書いたやつ!

 

 そんな風に心の中で叫びながら、私……フェリアスナ・レフィルは項垂れた。

 現在、セントシュタインの宿屋の中、ルイーダさんの酒場にて絶賛落ち込みタイムである。

 ちなみに、落ち込みタイムを発動させた原因は、いわずもがな目の前に転がっているこの本だ。

 

『天使の存在解明』

 

 どこか神聖な印象を植え付ける表紙だけ見れば、一見まともなこの物質。

 これは以前、名前だけ聞いて食いついた私が道具屋さんに頼んで取り寄せてもらったものである。

 表紙を見て「これは期待できそうだ」とわくわくしたものだったが、最終的には表紙を開いてもの数分で叩き付けられた。

 なぜなら、最初こそまともであったものの、第一章の半分も行かずしてある言葉が繰り返されるようになったからだ。

 普通の人にとっては、まあ「ふーん」程度にしか思えない単語である。いや、この頻度からして「好きなのかな?」くらいは思うだろう。それでも、まあそんなに気にするものでもない。

 ……だけど、私にとっては違うのだ。……私にとっては。

 だって、その言葉は……

 

「……あらどうしたの? 『天青石の使徒』様?」

「その名で呼ばないでくださいッッ!!」

 

 ……私の異名だから!!

 

 バッと顔をあげた先でくすくすと笑っているのは、言わずと知れたこの酒場の主。ルイーダさんだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 いつも通りの豊満な体と切れ長の瞳は人々を魅了するものがあるが、見慣れた私がそんなものに引っかかるわけもなく。

 構わず睨みつけてやれば、「おおこわいこわい」と肩をすくめられる。

 ……その様子に、私は溜め息しかでなかった。

 まあほとんどいつもやっていることだ。嬉しくないけど。まったく私の意思は絡んでませんけども。まーるーでー楽しくもなんともないですけども!

 ……文句の一つも言いたいものだが、目の前でくつくつ笑うルイーダさんはすべてわかってやっている、ということを理解している今、突っかかるのは相手の思うつぼ。なので、大人しく口を噤んでいるのが良策である。

 ……まあ実際は「疲れるから相手したくない」が本音なんだけどね。

「あら、もういいのかしら?」

 もっと相手にしてもいいのよ? とばかりにカウンターに肘を乗せて微笑むルイーダさん。煽りよる。そのポーズと台詞という二重の意味で。……しかし彼女は周りに構って欲しそうな男どもがいることには気づいているのだろうか? ……いや、きっとこれについても確信犯なのだろうけど、それに気づいても彼らがもっと哀れに思えるだけだ。得などない。……やはり彼女は中々質の悪い性格をしている。

「いいもなにも、毎日やってればさすがに飽きますよ」

 いつまでやってるんですか、これ。と呟けば、またくつくつと笑い声。まったく、笑い事ではない。私的にはさっさと忘れてしまいたい呼び名だというのに、彼女のせいでまるで忘れることができないのだ。解せぬ。

「いいでしょう? それくらい。……それに私にはなーんで嫌がるのか、さっぱりわからないのよねぇ?」

「うそつき。わかってる癖に」

 それ以上性格の悪いと確信させる言動はしないでほしい。正直お腹いっぱいだ。

 ……それにもう彼女とは三年以上の付き合いだ。私がある事情から『天青石の使徒』と呼ばれるようになってからもおおよそ三年、その頃からほぼ通い詰めている私と彼女の付き合いはそれなりに深いものだとは思っている。毎日顔を合わせている私の知り合いほどではないが、ここ近年の彼女については大体理解できているつもりだ。

 ……まあ、彼女は初めて出会った頃からこのような性格だったけど。なんだかんだ言って彼女だけは、どれだけ顔を合わせても変わらない。

 

 溜め息をつきつつ本当にあなたは変わりませんね、とこぼしてみれば、「酒場の店主が大きく変わっちゃったら、みんなびっくりするでしょ?」とすげなくかわされてしまった。

 私が聞きたいのは、そういうことではないんだけど。

 

「そういえば、勇者さまはずーっとこの酒場に入り浸ってるけどもう冒険はしないの?」

 

 ……おっと。頬を膨らませて拗ねていたら、そんな風に彼女に問われてしまった。

 勇者さまいうな、と真っ先に突っ込みを入れつつ、その問いに応える。

 私は勇者などという崇高な存在ではない。

「……別に、もうしないとは言いませんが、進んではしませんよ」

 そもそも私の場合、冒険しようにも、もうこの世界は粗方まわり切ってしまっている。

 あの日、ある方を救ってから三年、大切な同胞たちが天へ昇って三年。……その間、『かつて天使だった』私は、天使界を救うと言う旅の目的を失ってなお足を進めることを止めなかった。

 やっていたことは人々の悩みを聞いたり、それを解決したり。その中には宿屋を運営している顔なじみの少女、リッカの願いや、目の前で佇んでいるルイーダさんに関わるものもあったが、それを経ても私の歩みが止まることは無かった。

 そのおかげか、今ではすっかり練度はカンスト気味で「それ以上はちょっと……」とまで神父には言われ、転職しようにも大神官様には苦笑される始末。まああの頃は尋常じゃないくらい戦っていたから仕方が無いが、今となってはそのせいでやることがまるでないのだ。

 だから現状、どこぞのダメ夫のように酒場に入り浸る状態になっているのである。

 

 その事情をあんたは理解しているだろうと睨みをきかせてみれば、やれやれとばかりに首を振られた。相変わらずの扱いと言えばそうなのだが、仮にも元勇者というのならばもう少し敬ったっていいじゃないか、と思わなくもない。

 

「別にあなたの行動に制限をつけるわけではないけど。……もう少し、他にもやってもいいんじゃないかしら?」

「……他に、って、なんですか」

 

 思ってみない言葉が聞こえて、思わず問いにならないような問いを返してしまった。他に、って……私にできるものは、大抵こなした後なんだけど……。

 そんな考えを見透かしているのか、彼女は少し困ったように眉をおろした。珍しい。最近はあまり見ていない表情だ。

 ふと思い出すような頃から彼女は何事も気にせずいうような状態だったので、今のように言いよどむのは中々珍しい。……と、思う。

 どこか言いづらそうにこちらを見据える瞳には、何も知らない私の顔が映っていた。

 

 ……一体どうしたんですか、そう問おうとして。

 

「……また、仲間を作って冒険してみようとは、思わないの?」

 

 

 

 ——私は、表情筋の使役権を、手放してしまったようだ。

 

 慌てて取り繕うも、どこか苦い彼女の表情から、みられちゃったなーと心の中で苦笑する結果となってしまった。……先ほど、自分はどんな顔をしていたのだろうか。そんなに苦々しく思うほど、間抜けだった? ……とにもかくにも、そこまで自分がこんな問いに動揺するだなんて。驚いてしまう。

 ……そんなにも、私にとってこの質問は、衝撃的なものだったの? と、ふと心の中でこぼれた言葉。

 あまりにも自覚の無いその言葉に、ようやく目の前で会話をしていたことを思い出した。

 

「あ……いえ、ごめんなさい。……変な顔しちゃったみたいですね」

 脈絡もなくそう言ってしまった私に、彼女は顔をくしゃりとゆがめて、「……いいえ、大丈夫。……いつも通りよ」と一つ、嘘をついてくれた。

 彼女のその言葉に、何とも言えない申し訳なさが募るも、「そうでしたか」と笑って返す。

 彼女も、苦い笑みを浮かべながら「ええ、悪かったわね。……今のは忘れて頂戴」と告げた。

 

 以前から、たまにこのようなことが起こる。

 ……その理由を、私は覚えていない。

 

 その後たわいもない話をして店を出て行った私は、いつも通りに背筋を伸ばした。

 ルイーダさんや、その隣にいたリッカたちが、どんな表情を向けていたとも考えずに。

 

 

 

 

 

「仲間、仲間……か」

 

 その言葉を、久々に口にした気がする。

 どうしてあのような反応をしてしまったのかがわからず、一人もやもやしながら街を歩く。

 衝撃? 驚いた? ……どうして動揺した?

 あの問いについての答えが見つからなかったから? ううん、違う。もう答えなんて、最初から用意されてあるのだから、迷う必要はないのに。

 

 ……なのに、なんであのとき、私は動揺してしまったのだろう。 

 

 

 

 ……仲間なんて、私には関係のないものなのに。

 

 

 

 

 

* ・ * ・ *

 

 

 

 空が翳り始めている。

 

「……いけない、このままだと雨が降ってしまう」

 

 今にも泣き出しそうな空。それにくしゃりと顔を歪めて、考える。……旅慣れていない僕らには、中々につらいものがあるだろう状況。

 ……どうすればいいだろうか。

 このままのペースでは、今日もまた野宿は確定だ。それだけならまだ我慢できる。が……状況が状況なだけに溜め息は尽きない。……僕たちの体力についても、そうだけど……外出の経験すら少ない彼らにとって、ここ数日歩き通しで野宿と言う状況は大分堪えているはずだ。

 

 はやく、はやく街へと辿り着かなければならない。彼らのためにも。

 

 ……しかし、目的の街は遥か遠くにある。歩いて数日もかからない距離にはあるけれど、今の僕らには果てしなく遠い位置にあるように思えてしまう。

 ……ああ、どこか、雨風のしのげる場所へ行かなくては。……せめて、木々が覆い隠してくれる場所へ。彼らが休めるところへ。

 

「兄貴、」

「大丈夫……」

 僕がなんとかしてみせるから。

 そう言って微笑むも、自分を何故か慕うこの人は心配げな表情を浮かべるだけだ。先日であったばかりの素性も知れぬ男だが、不思議と弱みを見せる恐怖は感じない。この状況が、それどころではないほど切迫しているように感じているからだろうか。

 それと同時、もぞもぞとポケットの中から、見慣れた姿が顔を出す。……チュウ、と一つ鳴いて視線が合う、その小さな姿は。……やはり不安げに揺れていた。

 大丈夫。……大丈夫だから。

 

「……僕が、なんとかしてみせるから」

 

 

 

 皆を守るのは、僕の役目だから。




用語説明
主人公:フェリアスナという名前があるものの、大体アスナと略されるかわいそうな人。なんか色々事情があるっぽい。

ルイーダさん:言わずと知れた酒場の人。今作ではボンキュッボーンなダイナマイトボディの美女がその枠を担当している。多分異性からはあらぬ目で見られているけど気にしてない。なんか色々知ってるっぽい。

リッカ:酒場がある宿屋の店主な人。肩書きに似合わず見た目は普通の女の子。一行しか出番がない。

謎の人:最後の方に出てきた男の人。何か色々気負っている様子。ポケットにトーポ!

子分:謎の人を兄貴と読んでみたものの、一話から不安要素しかなくて実際苦労しているだろう男の人。多分頭突きされたら色々刺さる。


作者から一言:サイトの仕様に慣れなさすぎて色々とちりましたがよろしくお願いします

【報告】H27.7.5 挿絵追加


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2:「某虫の死体処理くらい嫌だ」

最初だけシリアス注意報。
中盤以降はシリアス? 知らない子ですね。


 今日は、いい天気だね。

 だからきっと、今夜はお師匠さまも、みんなも、あの人も。空から見ていてくれる。

 

「——みんなは、『星空の守り人』になったんだ……」

 

 だから、私は地上を、人間を守る。『地上の守り人』として、命を燃やすの。

 そうしたら、きっとあの人も微笑んでくれるはず。

 

 

 ……あれ、あの人って、誰だっけ。

 

 

 

「……す、な……アスナ!」

「……っわ! さ、サンディ?」

 

 突然耳に届いた馴染みのある声に、体が跳ねる。……びっくりした。目を白黒させつつ、その声の方向へと顔を向ける。

 するとそこには予想通り、小さな身体に小さな羽をつけた、妖精のような姿の少女。

 ……ああ、やっぱりサンディか。

「びっくりさせないでよー……」

「びっくりもなにもないんですケド! さっきからずぅう〜〜っと声かけてんのに気づかないなんて……仮にも勇者サマが、一体どうしたってワケ?」

 あ……ずっと声かけられてたのか……そりゃ、こんなに怒ってるわけだ、と納得する。無視されてたようなもんだもんね。怒られるのも仕方ない。

 私は少しバツの悪い顔で、頭をかく。視界の端で、彼女の綺麗に巻かれた金髪が風に揺らめいた。とても小さな身体なのにそこにはあらゆるセンスが集まっていて、トレンドの最前線を突っ走っているなーというのんきな感想がこぼれ落ちる。そしてそれを拾ってしまった彼女は「ふふん、いいっしょこれ。人気ブランドの新作! この違いがわかるなんて、あんたやっぱりわかって……って、チガウ!!」と見事なセルフ突っ込みを見せた。さすがサンディ。伊達に三年間、私と生活を共にしていない。

 ……とまあ、これ以上答えを返さないとそんな付き合いであってもさすがにキレられてしまうので、正直にこたえることにした。

「いや、ちょっと考え事してた。……別に他意はないよ?」

「他意があったら袋だたきにしてるし。……ってまたぁ!? またあんたは考え事してたの?」

 まったく、よく飽きないねえ〜……とあきれたような声が耳に届く。いや、ほんと悪いとは思ってるって。……ホントかなあ? なんていわれてしまえば返す言葉も無いのだけどね。

 なんでっていえば、実際反省はしていても、次回に活かせていないからだ。実は、こんな感じのことは一度や二度どころじゃない、何回も起こしてしまっているのである。それを「しゃーない、まー次回はちゃーんと気をつけてよねー?」で済ましてくれる彼女は菩薩かってくらい優しいものだ。その次回に全く活かせてない、ふがいない天使でごめんなさい。

 そう呟きつつ軽く頭を下げれば、「いーっていーって。それよりちょっと話あるんだけど聞いてくんない?」と頭を上げさせてくれる彼女は、本当にできた相棒だ。

「……もちろん聞くけど。どうしたの?」

「そうそう。アタシ、ちょーっとこれから行かなきゃいけないところがあってサ。しばらくいなくなるけどダイジョーブ?」

「あ、そうなの? 私の方は大丈夫だけど……」

「オーケイ? ちょっとどころかダーイブ不安だけど、まあアンタなら大体なにがあっても大丈夫だよね! じゃあ、いってきまーす!」

「え、あちょ、サンディ!?」

 そういって彼女はすぐに飛んでいってしまった。……ちょっと前言撤回。彼女はやはり自由奔放だった。しばらくいなくなるならもう少しゆっくりしてけばいいのに、あの子は……。

 一瞬にして消えてしまった弾丸のような少女に脳内で苦言を呈しつつ、私はこれからの予定を組み立てていく。今日もいつも通りのんびりするつもりだったが、サンディの姿を見て気が変わったのだ。どこかに足を伸ばすのも悪くないかもしれない。

 それにしたって行く場所がなければ始まらないけど……そういえばあそこの新婚さんのところには子供が生まれたんだっけ……あ、道具屋のおばさんが頼み事したいとか言ってたっけなあ。そこまで考えて、思いついたどちらの案件も、こことは離れた大陸絡みだったことに気づく。

「最近ずっとセントシュタインにいたからなあ……」

 少し遠いが、たまには他の大陸に遊びにいってもいいかもしれない。これまで足を伸ばすと言っても、せいぜいベクセリアに墓参りをしにいくかエラフィタ村に花見をしにいくか程度の距離しか動いていなかったのだ。

 久々に、他の大陸で知り合った人たちに会いにいくのも悪くはないかもしれない。……そう考えて、ふと指先に何かがあたったことに気づく。

「ん……? あ、」

 ……見てみたら指先に当たったのは先ほど読んでいたあの本だった。……ああそうだ、

「作者の名前控えとこう……見つけたら絶対ぶっ飛ばす」

 先ほど軽く流し読みしてみたが、結局内容は天使云々よりも『天青石の使徒』に関する話ばかりだった。

 ……私に対する嫌がらせか。

 天使ときいて、せっかく取り寄せたのに。……いろいろな意味で恥ずかしい上に、思っていた内容がまるでなかったため、結果的に大損だったのだ。明らかにタイトル詐欺だし。……うん、これは本人からの苦情ということで殴りにいっても問題ないだろう。

 

 サンディも数日間留守のようだし……特に問題は無い。よし、用事を済ませた後、本の筆者殴り込みの旅に出ようじゃないか。

 

「よし。それほど用意するものもないし……まずはサンマロウへ行こうか」

 

 そういいつつ、腕に刻まれた術式を起動させる。……かつてまだ世界が荒れていたときに、セレシア様からいただいた転移魔法、『ルーラ』の術式だ。

 この世界の人間には扱えないといわれるそれは、女神セレシア様の手によって『天上の気』を持つ者には扱えるように改良された代物で、どんなに遠いところでも一瞬にして連れて行ってくれる。今でも重宝している魔法の一つである。

 この大陸の中ならば歩いて移動するのだが、さすがに他の大陸となるといちいち箱船を呼び出すのも面倒なので、この希少な術式を利用させてもらっている。……便利なのは便利だけど、そればかり利用して移動しているときは少し体重が気になるところだ。

「『起動』——『出発地:セントシュタイン』『到着地:サンマロウ』『詠唱:我を願う地へと送り届けよ。ルーラ』」

 起動し、腕から浮かび上がった術式は魔力を込めるとともにぐるぐると巡りだす。それとともに出発地と到着地の座標を定めると術式は動きを止め、あとは詠唱を待つ状態へとシフトする。……実はこの魔法、ルーラだけは長年人間の手にわたっていなかったため、座標固定やら詠唱やらかなり発動方法が古典的でめんどくさかったりするのだ。もちろんその分、文句無しの能力を秘めているのだけど……とまあ、そのために、戦闘中に発動することは中々難しい。……集中力使うし。

 とりあえずセレシア様に許可をとりつつ研究者たちに術式を見せ、人間達への実用化と短縮化をはかっているものの、中々うまくいかないのが現状だ。人生、そううまくはいかないものである。

 でもまあ当初はもう少し長かった詠唱が、ここまで短くできたあたりでまあ儲け物だろう。そうなんとなく研究の成果を誇りつつ(研究していたのは研究者たちだが)、詠唱をすれば……術式は私を包み込み、身体は宙に浮く。そしていつも通り、遥か遠くの地へと運んでくれる。

 

 ——そのはずだった。

 

 

「……っ、ん?」

 詠唱したあとルーラの術式は、すぐに指定の地へと術者を運んでくれるはずだった。なのに、どういうことなのか……術式が激しく波打っているじゃないか。こいつ、荒ぶってるぞ……

 その上、本来ほとんど消費されないはずの魔力が、ぎゅんぎゅん吸われていっている。……これは何事? こんなこと、一度もなかったのに——

「もしかして、これ、まずい状況……?」

 もしかしなくとも、まずい状況である。

 ……何故メラだのヒャドだの色々な魔法が発展しているこの世界で、ルーラだけが伝えられなかったのか? ……それは、発動に失敗すれば大惨事は免れない代物だと神や天使の世では伝えられているからだ。

 物質転移というものは、本来世界の理に反したものだと聞いた覚えがある。使えば使うほど、この世界そのものが歪んでいく代物なのだと。……それを防いでいるのが、魔力という摩訶不思議な力であり、それを代わりに捧げることで歪んだ箇所を修正しているのだと。

 ……そして、他の魔法たちも暴走することはままあるわけだが、この魔法が暴走した暁には……色々な方向へ動こうとした力に引っ張られ、身体が四散する、か……あるいはどこともわからない、次元すら越えた場所へと飛ばされてしまうか……という、どちらを選んでも悲惨な結末が待っているという。

 そう、以前学者に教えられ、「厳重に扱うように」と指摘されたことを、今私は思い出した。……思い出して、しまった。

 

 ……いくら私が人外そのものだったとしても、さすがにこれは、……まずくない?

 

 

「いや、まずいどころじゃなくて、死ねるわ……」

 

 

 そう呟いたとしても現実はどうにかなるわけでもなく、無情にも術式の波が私を覆い隠したのだった……。

 

 

 

 *・*・*

 

 

 

 激しい剣撃の音が鳴り響く。

 

「——はっ……!」

 

 視界は森の中であり、更に空は雨雲に覆われているとあって、お世辞にも良好とはいえない状況。

 それでも、やらなければならない。

 

「……貫、けぇえッッッ!!」

 

 ギィイイン!! と、強い音が鼓膜を突き通していく。手応えは、あるにはあるが……硬い。あまりにも、硬すぎる。

 くそ、こんな状況でさえなければもっと立ち回れるというのに。あまりにも状況が悪すぎた。

「ぐ……!?」

 肩の方に衝撃。ぴり、とわずかな痛みが脳内を駆けていく。……腕が使えなくなるほどの怪我では無さそうなので、そのまま放置するが、もちろん状況は好転しない。……あまりにも分が悪い。思わず舌を打つ。

 

「兄貴ッ! ここは引くでがす!」

「……ダメだ、もう逃げ場が無い……」

 

 見えづらいが、気配は感じる。……奴らは()たちを囲んでいる。逃げたとしても、回り込まれるだけだ。

 ……どうすればいい? ……自分はいい。でも、守らなければならない人たちがいる。

 ……せめて彼らだけでも、逃がさなくては。

 

「陛下、姫様……ッ」

 

 ——どうか貴方達だけでも。……お逃げください……!

 

 敵の身体に渾身の一撃を食らわせ、隙をなんとか作らせて……俺はそう叫ぼうとした。彼らを逃がすならば、この瞬間しかない。

 そう確信し、口を開く。……数瞬後に、相手の腕に貫かれる未来を脳裏に浮かべながら——

 

 

 そんな時だった。

 

 

「——そ、そこ! どいてっくださああああああっぃい!!」

 

 

 ——こんな森の中で、何故か頭上から叫び声が響いたのは。

 

「っへ!?」

「な、なんでがすか!?」

 俺も、共に戦っていた男——ヤンガスも、更には魔物達でさえもその声の方向——つまり、頭上へと視線を向けてしまう。

 戦闘中にも関わらずこのような隙を作ってしまうのはかなり致命的なのだが……今回はそれに助けられた。

 

 なぜなら……声の主は、どういうわけか空から落ちてきて。……俺たちだけではなく、魔物達の行動まで止めてしまったからだ。

 

「あ、兄貴っ!? そ、空から女の子が!!」

 どうしやしょう!? と派手に動転するヤンガスに、同じく混乱しつつもとりあえず数歩後ろに下がる指示を出す。そして自分もそのまま後ろに下がってみせる。……明らかに少女がおちてくるのは、自分たちが立っていたこの場所だったからだ。普段なら受け止めるが、ちょっとさすがにこの勢いで落ちてくるのをキャッチするのは……どう、考えても、……無謀と言うかなんというか。

 ……正直下手したらこちらも死んでしまいそうな勢いで落ちてきているので、とりあえず害を受けぬように後ろに避けるのが適作だと考え、このような行動を選んだのだった。……最悪少女の方は教会にでも運んでおけば、きっと後はどうにでもなってくれるだろう。あー、冷静に指示できている自分、偉い。本来なら現実逃避でもしているような状況だ。なんとか一部だけにそれを留めた自分、ほんと偉い。

 そんな風に人知れず自分を褒めていれば、その間に少女は無事不時着をかましたようだった。派手な音を鳴らしつつ、土煙がむわっと巻き起こる。自分たちもその異様な衝撃で軽く吹っ飛ばされてしまった。……ついでとばかりに砂煙の先に目を向けてみれば、悲惨な叫び声が聞こえてくる。油断していた魔物達は、その勢いに巻き込まれてしまったようだ。……かわいそうに。

「……今は空から女の子がおちてくるような時代なんだな……」

 初めて知ったよ、と呟けば、あっしも初めて知ったでがす、と惚けたようにヤンガスが呟き返した。

 ヤンガスでさえも引き気味な現状。……ああ、やっぱり現実逃避せずにはいられなかった。

「……魔物は、どうなったんだろうな?」

「……確認、するんでがすか?」

 そんなに嫌そうな顔をしなくともいいだろう、ヤンガス。……俺だって正直嫌だ。某害虫いらっしゃいな感じの、入ってしまったらベトベトに足を取られて終了な手のひらサイズの小屋の中を直視するくらいに嫌だ。嫌すぎて言葉がちょっと意味不明になるくらいに嫌だ。嫌ったら嫌だ。

 ……ああ、でも見ないわけにはいかないよな……。と、どことなく黄昏れた視線を砂煙方面へと向ける。……なんで俺はこんな某黒い虫の死体を処理するときみたいな気持ちになっているんだろうか。訳が分からない。俺たちは先ほどまで魔物と死闘を演じていたのではなかったのか。

 本当に、なにがどうしてこうなった。

 頭を抱えつつ、意を決してふらふらと土煙の中を進む。……若干足を取られたと思ってみてみれば、地面には大きなクレーターができていた。……少女一人が落ちてきたんだよな? 隕石が降ってきたとかじゃないんだよな? 自分の記憶すら疑わしくなってきた。

 急激に冷えていく身体に気づきつつもなんとか気を奮い立たせて、その中心部まで足を動かす。正直ホラーだった。ここで魔物達の姿が残っていたら尚のことホラーだっただろう。魔物達はどうやら絶滅していたようで、その姿が視界に映ることはなかった。……これほど魔物達の死体が光になって消えていくことを感謝した日はない。

 

 ……と、なると、問題なのは降ってきた少女だが。

 

「……正直生きているかも疑わしいだろ」

「生きてるんで勝手に殺さないでください」

「!!?」

 

 独り言に返ってきた声に対して異常なほど身体がびくついて、そのことにもビビるし少女が生きていたことにもビビった。もう散々だ。どう責任を取ってくれるんだ。

 そんな見当違いな思考をぐるぐる回しつつ、おそるおそる声の方向へ視線を向けてみれば、そこに人影のようなものを見つける……人と断言できないのはご愛嬌だろう。

 気を取り直して、こわごわと声をかけてみる。

「……大丈夫、ですか」

「……ええ、思っていたよりかは、大丈夫です……」

 

 ……あ、本人も予想外だったんだ。

 

 なんだか、色々なものがぶっ飛んでいった気がした。

 

 




真の副題は「親方ァッ! 空から女の子が!!」
用語説明
主人公:ルーラに失敗してしまった主人公の名折れ。
サンディ:ドラクエ9に出てくるナビゲーター枠の妖精少女。いわゆるギャルっ子。原作では主人公を振り回しまくる面があるが、本作では少しだけ控えめに。原作のネタバレをすれば、実は妖精ではない。
謎の人:苦労人。
子分:真の副題の一部を叫んでくれた。

魔物達:串刺しツインズをイメージしていたが名前が出る前に死亡。不憫。

作者から一言:閲覧、お気に入りありがとうございます。
H27.12.22 一部文を追加。シナリオに変化はないです。


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3:「天使根性に毒された存在らしい」※

 本文でもお久しぶりみたいなこと書いてるけどお久しぶりです。
 近況? テストとバイトに突然現れたメテオがどごーんと当たってパ-ンしてくんねえかなあって考えてます。

【警告】:挿絵があります。苦手な方はご注意を。


 どうもみなさんおはこんにちは。フェリアスナ・レフィルです。

 なんだかこんな風に振り返るのも久しぶりな気がします。

 

 ……というのも、それだけこの数日間が濃かったっていうことなんだけど。

 

「アスナさん、そろそろ出発しますよー」

「あ、はーい。すぐ行きます」

 

 遠くからかけられた声に、私はひねりの無い返事をする。そして、手に持っていたものを纏めつつ服のポケットに突っ込んだ。

「すいません、待たせました」

「いえ、それほど待ってませんよ。……では行きますか」

 そろそろ街につきます、と呟きながら、赤いバンダナをしっかりと頭に装備した青年が目前を歩いていく。目にも鮮やかな山吹色の布が、ひらひらと宙に踊った。

 ——彼の名はエイト。この大陸で出会った、物腰柔らかな青年だ。

 赤いバンダナを頭にしばり、群青色のシャツの上に山吹色の上着を羽織った彼の背には、鞘に納まった剣がある。……そう、彼はいわゆる旅人だ。肩にひっさげたショルダーバックをごそごそいじりつつ、一度辿り着いたことがあるという近くの街へ道を示してくれている。その動きは存外、隙がない。

 ……といっても彼は旅人経験は乏しいらしく、その分まごつくことも多いのだけどね。それに、隙がないといっても一般的な盗賊などを相手に考えた話であって、魔物相手にはひよっこもいいところといった感じだ。そんなわけでこの街へ案内してもらうこの期間だけだが、初歩的な野営の仕方を教えたり、危うい時にはこっそり助力したりなど、色々手を貸したりしている。

 

「……」

 

 ——と、ここまで話してみたが。

 どうしてこれまで一人旅をしてきた私が、彼らと行動を共にしているのか。……というか、街へ案内ってなんだ。あんた世界中旅してきたんだから、そんなものしてもらわなくたってわかるだろ——みたいな疑問が残ると思う。

 しかし、もちろんこれにも理由があるのだ。私には正直どうにもできない理由が。

 

 ……それを説明するために、少し前まで振り返ってみよう。

 時は数日前、そう。……私がルーラを暴走させたときまで遡る。

 

 

 *・*・*

 

 

 ルーラを暴走させ、あふれる膨大な魔力にのみこまれた私はあの後——気がつけば真っ白い空間に立っていた。

 

 

 ……え、いや、なんで真っ白い空間? と思うことだろう。私もそれには同感だ。正直この状況に対してなにがどうしてこうなっているのか判断もつかなくて、その時は混乱したものだった。……いつの間にか立っていたそこは、上も下も、どこもかしこが白く染められていて、壁はおろか天上すらない。あからさまな異空間として、ひっそり存在していたのだ。

 

 ちなみにここに来たことがあるのかという話だが、もちろん私は行ったことはない。ルーラの特性上、一度足を運んだところにしか転移できないはずなのだが……そのことが、更に謎を深めた。そもそも、天上があるかもわからないこの場所に、転移しろというほうが無理な話なのである。通常、このような異空間には、転移魔法が弾かれる結界が張られているためだ。……実際気配を探れば、そのような空気が漂っていることを確信できる。

 経験上、ルーラやリレミトといった魔法を発動させることは不可能だろうと悟る。これではここがダンジョンだったとしても、魔法を活用して引き返すことはかなり難しいだろう。結界の術式を見つけ出して破ればまた別の話だけれど。……結界術式に関しては神話レベルの代物だからなあ……セレシア様でさえもいじくるのには手間がかかると言っていたから、私には少々荷が重い。

 閑話休題。

 ……とりあえず、やはりここに辿り着いたのは、魔法の暴走が原因と考えるのが妥当だろう。考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる現状だ。

 

「……あー術式省略しなけりゃよかったなあ……」

 

 まあ、後悔しても後の祭りなのだけど。

 溜め息をつきつつ、とりあえず私はこの空間を進むことに決める。……通常の場所ならばむやみやたらと歩き回るのは愚作と言えるが、この状況ではそんなことは言っていられない。唯一の頼みの綱であるサンディすら不在なのだ。……ただここにとどまっているより、自分から動いた方が万が一にも備えることが出来るだろう。

 自分は、これでも探索については人並み以上にこなしているつもりだ。動きながらの方が警戒するに易い。

「……」

 息を潜めることもなく、堂々と道を歩いていく。……どうせこんな場所だ。見つかってしまえば、もはやその時はその時であるし、そもそも隠れるような場所どころか壁もないのだ。それなら、気を張って体力を消耗するより存在を主張していたほうがいいだろう。

 どちらにせよ、状況を動かさなければならないのだし。むしろむこうからやってきてもらえるほうがありがたい。

 そう考えつつ、とにかくひたすらに先の見えない道を進んでいった。

 

 ……そうしてどれだけ歩いただろうか。

 

 

 私の目前には、醜悪な魔物の顔が……ではなく、ただぽつりと()が存在していた。

 

 

「……扉?」

 

 そう、そこにあったのはまさしく扉としか言いようの無いものだった。

 ただ、状況がおかしい。扉があることにはあるのだが、そこにやはり壁はなく、扉はただ置物のような状態でそこに立っているだけなのだ。それも、周りの風景は相も変わらず真っ白。ぶつかるところもなければ曲がるところもない、まっさらな空間。

 扉以外になにもない。……罠として訝しむほうが当然といえる状況だった。

 

「……でも、まあ……調べないっていう選択肢はないんだけど」

 

 ……ああ、そういや独り言、増えたなあ。なんて、しょうもないことを心の中で呟く。

 もしかすると、この扉に触れた瞬間見えない何かに貫かれるかもしれない。いや、そもそもこの扉自体が倒れてくるかもしれない。……もしかしたら、いやこれは。こうなるかも、いやちがう。色々な悪い予感が、脳内を駆け、荒らしていく。

 こんな空間に一人きり。倒れたとしても助けてくれる存在はない。独り言を呟くのも、最後になるかもしれない。

 ……それでも私は、手を伸ばすことをやめなかった。……目前に突き出す黒いドアノブ。それはこんなに白い空間に囲まれているにも関わらず、光の反射一つしない、黒そのもので。……嫌な予感がするなあ、と思いつつ——ついに私は、そのドアノブを握った。

 

 

 ——刹那。体がぐいと、前へ引っ張られる。

 

 

 握っただけで、特になにもしていないはずの扉が勝手に開いたのだと気づいたのは、何秒後だっただろうか。反射的にノブから手を離し、受け身をとろうとする。しかし、床に触れるはずの腕は一向になんの感触も示さなかった。

 ……扉の先はひどい段差なのかな。

 そう推測した私は、咄嗟にとる受け身を変更する。この間、数秒にも満たない。それは、これまで嫌でも体験してきたものに対する受け身で。……体がすべてを感知する。風を切る音、感覚。そして、青臭い緑のにおい——

 ——既視感を、感じた。

 

「……っ、!!」

 

 目の前を見据えれば、そこにあるのは、青。

 

 白に包まれた、青空だった——

 

 慌てて下をみれば、眼前に広がる緑、緑。……ああ、私はまた、落下していっているのか……まさかここまできて、また経験するとは思わなかった。そう諦めに似た思いが脳内を駆けるも、実際はそれどころじゃない。

 こうしている間にどんどん地面との距離をつめているのもそうだが、木々の切れ目に、人の影を見てしまったのだ。……慌てて声を張り出す。彼らは私の存在に気づいていないようで。……巻き込むのは、あまりにも忍びなかった。

 この状況に於いても他人を心配するのは、長年培ってきたお人好し天使根性によるものなのかもしれない。

 

 

「——そ、そこ! どいてっくださああああああっぃい!!」

 

 

 森に大きく響いた声は、しっかりその意図を伝えてくれたようだ。人影はすぐに離れてくれた。落下予定地点で魔物らしき影がおろおろしているが、知ったことか。

 私は魔力を練って、術式をいくつも展開させる。……もちろん、このまま落下したらひとたまりもないからだ。いくら体が頑丈といえど、三度目はないだろう。これまで幾度もなく空から落とされてきた天使として、何故かそう直感していた。

 ……しかし、どういうわけか魔法は発動しない。このときに限ってか。最悪かよ。そう心の中で吐き捨てながらも、もっと最悪なことに私は気づいてしまった。……その感覚は、転職したときに覚えていた魔法がつかえなくなったときのそれとまったく同じで。

 

 ——くそ、どうすればいいんだ。転職なんて今回してないのに、魔法が使えないとか。……仕方ない、力技で衝突を緩めるしか……っ!

 

 その時の私は、かなり必死だった。……まあ、生死がかかってるんだから当たり前だけど、そのせいでつい、やらかしてしまったのだ。

 魔力をまた練って、術式を展開せずに、今度は手から放出させるように練ったものを思いっきり吐き出させる。ついでに魔力で体をコーティング。後者に限っては気休め程度にしかならないが、何もしないよりかはまだましだろう。……魔力操作はお手の物だ。これは経験によるものなので、職に依存しない。よって威力は通常そのままだ。

 ド、ゴン! 派手な音をして放出した魔力は地面との衝撃と拮抗して、私に対する衝突の勢いを緩めてくれる。おかげさまで、なんとか私は無傷で地面に降り立つことができた。

 特に問題はない。体にも支障をきたす出来事はもう起こっていないようだし、減ったのは自分の魔力だけだ。

 

 ……ただ、少し、やりすぎだったという、こと以外は。

 

「……あ。」

 

 自分の魔力のせいで、地面に大きなクレーターが出来ていたと気づくのは、それから数秒後のことである。

 

 

 *・*・*

 

 

 その後なんやかんだでそこに立ち尽くしていた青年……エイトさんと、その彼の舎弟(?)らしいヤンガスという男の人と話すことになり、落ちてきたことについてはぼかしつつ「現在地がわからない」と言った結果、なんと街まで案内してくれることを約束していただけたのだった。

 彼らも天使根性に毒された存在らしい。……いや、案内することに旨味はないだろうから、打算的ではないんだろうけど。……そうと信じていたい。

 とまあ、ともかく、彼らがお人好しなおかげで、私はわざわざ街を探さずともどうにかなることになったのでした。ちゃんちゃん。

 ここまでで回想終了だ。

 

「……それにしたって、兄貴は物好きでがすねえ。こんなおっさんと、更に馬姫さまを連れてるってのに。空から落ちてきた嬢ちゃんまで連れて……」

「なにをヤンガス! 貴様わしとミーティアを愚弄する気か!」

 

 ……と、何やら横で口喧嘩をしているようだ。

 とげとげ帽子をかぶった山賊風の丸まるとしたおじさん(おっさん)と、馬車の御者台で枯れ葉色のフードをかぶった老人らしきひと。……前者が先ほど名前を出した、ヤンガスという人だ。

 かなりいかつい顔の人で、腕や頬に傷跡がある。荒くれ者、といった印象が強い。……が、それはぱっと見というだけの話で、基本的にまんまるボディだし、先ほども言った通りどういうわけかエイトさんを兄貴として慕っている面が強いのでそれほど怖いというわけでもない。

 ……カラコタ橋、まあ荒くれ者の町にいそうな感じで危険っぽいけど、私単体であっても負ける気はしないからさほど警戒はしていなかったりする。

 後者はトロデという方で、何故だかわからないがどこぞの国の王様みたいな物言いをする人だ。フードをずっとかぶっていて顔は見えないのだけど、小柄なのと思ったより面白い人物だということはよくわかる。

 馬車をひいている綺麗なお馬さん(女の子らしい)のことをどうやら溺愛しているようで、ミーティアと名をつけて常に様子を気遣っているようだ。その呼び名は「姫」で、本当にまるでお姫様か、というような待遇を受けている。……エイトさんが彼らを呼ぶ名も「陛下」「姫様」なので、中々絡み合った事情がありそうな予感がしたり。……まさか、本当に王様じゃないよね。そんな、セントシュタインの王族じゃないんだから……実際はそんなに、王族ってお目にかかれるものじゃないはずだし……。

 

 とても悶々とするが、とりあえずエイトさんのパーティはそんな感じで構成されている。といっても、戦うのはエイトさんとヤンガスさんだけで、お姫さまとトロデさんは隠れているんだけどね。本当に王族か。

 

「まあまあ陛下、もうすぐ街につきますから落ち着きましょう? ヤンガス、喧嘩はだめだよ」

「……むぅ。ちと言い足りぬが、エイトが言うのであれば仕方あるまい」

「……兄貴が言うなら、我慢しやす」

 

 ごちゃごちゃ陰で繰り広げられていた口論は、エイトさんの諌めるような声で終着する。それは優しく窘めるような声ではあったが……エイトさんの立ち位置が中々に謎だ。実質三人で旅をしているこの人たちだけど、一番トロデさんが偉いように見せかけて、実はエイトさんのほうが地位が高かったりするのではないだろうか。相変わらずよくわからない方々だ。

 

「あ、アスナさん。すいません、騒がしくて……」

「いえ、大丈夫ですよ。この数日間で慣れてしまいましたし」

「あはは……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 苦笑いのエイトさん。気持ちはわからないでもない。……一応まとめ役として、さすがにこのやり取りに思うところはあるのだろう。だってこの二人、毎日どころか一日に三回は口喧嘩しているし。私にも一応おまとめ役については経験があるので、身内でない客人がいる中、このようなやり取りを毎日のように仲間がしていたら、さすがにちょっと気まずいかな、なんてすぐに想像できてしまう。

 こう考えると、中々に彼の立ち位置は不憫である。……部外者の私に憐れまれてる時点で、諸々かわいそうだ。

 

 ……あ。ちなみにだけど、上で言われている通り、私の名はアスナで通している。これはこの場に限らず、セントシュタインだとか各場所でも変わらない。……本名はもちろんフェリアスナ・レフィルなのだけど、天使の名前は普通の人間からしたら少しまどろっこしいとかつて指摘されたので、それ以来本名は名乗らず愛称で名乗ることにしている。

 ……まあ公式の場とかでは不敬にあたりそうな話だけど。そもそも、私人間じゃないし。これまでだって何も言われなかったんだし。特に問題ないかなー、なんて、最近はほぼ開き直っていたりする。

 

 

「……そういえばなんですけど、アスナさんは街についたあと、どうするんですか?」

 

 おっと。少し思い起こしていたら声をかけられていた。純粋に疑問と言った感じで、エイトさんがこちらを覗き込んでくる。きょとんとしたどんぐり眼だ。ぱっちりさんだね。

「私は……そうですね、とりあえず元いた場所を探してみます。どうやら変なところを通ってしまったようなので、少し大変かもしれませんけど」

 一応、以前彼らに元いた場所——セントシュタインを知っているかどうか訊ねてはみたが、知らないと返されてしまった。もしかしたら別の次元に来てしまったのかと思ったけれど、出てくる魔物などは見知った存在が多かったので、彼らにはとりあえず別の大陸? といった方向で話してある。

「それは……女の人一人で、危険じゃないですか」

「大丈夫ですよ、多少は旅の心得がありますし」

 まあ……しばらくは素手で奮闘しなければならないんだけど。実はルーラが暴走したときに、武器と道具袋をどこかへ飛ばしてしまったみたいなのだ。なので私は今、お金もなにもないただの無一文児状態である。

 そんなわけで、戦闘は基本的に彼らにお任せだ。さすがに一人になったら戦うけど……魔物の強さとか、観察は必要だったしね。……言い訳とか言うなよ。

 

「……それでも、うーん……」

 

 エイトさんは納得できないようだ。この人、やっぱりお人好しなのかもしれない。彼らにも、なにか目的があるみたいなのに。……ここはきっぱり断っておくべきかな。

 迷惑かけるのも悪いし、なにより私も望んでいないから。申し訳ないけど。

 

「大丈夫ですって。ある程度はなんとかなりますからね。……ほら! 街が見えてきましたよ」

 

 軽く話を逸らして、目前を指差してみせる。そこには、壁に囲まれた街の姿があった。

 ……あれがトラペッタ。私が来たことのない、正真正銘初めての街。

「あ……本当だ」

 エイトさんも見上げて、やっと気づいたように目を瞬かせる。そうとう深く考え込んでいたようだ。あんなに目立つ壁に気づかないなんて、案外ぼんやりさんなのかもしれない。

 ……とぼうっと彼の方を見ていたら、突然彼の丸い瞳が細められた。

 

「……? どうしたんですか」

「……煙が立ってる」

 

 彼の視線に導かれて、再度壁に焦点を定める。……よくよく見れば、青い空に黒いもやのようなものが一直線に立ち昇っていた。

 ……火事、だろうか。なんだろう、……とても嫌な予感がした。

 




恒例の用語説明(キャラ)
主人公:戦闘中は馬車の中。援護は木の枝を投げて気を逸らせるくらいなものなので、最近やばいなー、太るかなあと考えている
エイト:どんぐり眼。たびたびアスナのことを「不時着したのにまともだ」「不時着したのに野営の仕方教えてくれた」「不時着したのに」と考えては頭を振っている。
ヤンガス:原作通り年頃の娘っ子が苦手なので彼女の相手は兄貴に任せっきり。時々不時着したときの衝撃を思い出しては首を振って記憶から打ち消す。
トロデ:フードをかぶっているのに騒ぎすぎてたびたびはずれる。
ミーティア:ここら辺の草おいしいな。

用語説明(補足)
天使:お人好しのお助けマン。困ってる人を助けるアソパソマソ的存在。ただし見えない。実際はただ優しいわけではなく、オーラを集めるため打算的に人助けをしていた。世知辛い。
三度目はない:9の世界において、既に主人公は二回ほど空から落下し、生死の境を彷徨う羽目になっている。水の中に落ちるからまだいいものの、流石に地面にガツンは死ねる。
魔法が使えない:転職すると、その職業の呪文が使えなくなる。ちなみに、武器だけは極めれば他の職で使えるし、スキルで覚えた特技に限ってはこちらも他の職で行使可能。
セントシュタインの王族:こいつらに限らずドラクエの王族って、王族の自覚ないんじゃないかなあとか思う。アポなしで謁見できます。
セレシア様:説明忘れてたけど9の世界におけるマジもんの女神さま。ギャルっ子サンディと割と仲良し。父親が行方不明。
白い空間:○神と●の部屋ではない。
魔法使えない感じにする結界:しかし ふしぎな ちからに かきけされた!

作者から一言:ちなみに前々話くらいに言ってた雨空についての対策は、アスナさんが軽ーくエイトさんに助言したおかげでなんとかなりました。突然の旅でエイトさんも頼りないのはしょうがないよね、ってお話。
 閲覧、お気に入りありがとうございます。

【報告】H27.7.2 用語説明を訂正・セントシュタイン王族についての補足文追加。知らん人はわからんたとえでした。他、本文の言い回しを訂正しました。
 H27.7.5 挿絵追加。ちなみに左にあるのは馬車です。見えぬ。


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4:「原産地? そこら辺の地面です」

 どうも。お久しぶりです。バイト先の店長が変わったり変わってもブラックだったりして死んでたらこんなに経ってました……
 というのはおいといて。今日は8日、ということで、8つながりーの18時に投稿してみました。
 ちょっと推敲が足りないので、あまりにも酷かったらあとで直しにくるかもです。


 石壁に囲まれた街、トラペッタ。

 店はにぎわい、人々の明るい話し声が所々で飛び交う平和な街並み。

 

 それを眺めつつ、私は石畳を踏みしめ先を行く。

 

「……ここの住人も、元いた世界の人たちと変わらないんだなあ……」

 

 甲冑を身につけていたり、変にぼろい格好をしていたり。旅人といった風貌の男性が、あてもなくふらふらとしていたり。

 ……この世界も、人間というものは変わらないらしい。

「ということは、やっぱり星のオーラとか出るのかな。それでも天使は見かけないし……放置されてるんだったらもったいないかも」

 少し考えて、ぽつり。言葉を零してみる。

 そしてその後、はたと気がついた。この世界にはセレシア様がいないわけだから、そもそも集める必要がないのかもしれない。

 あーでもない、こーでもないと、人に聴き取れない程度の声で呟きつつ、ふらふらと街を見て回る。……人々は楽しそうに話し込んでいるが、この当たり前のように存在している平和に感謝することはないんだろうか。元の世界では誰かしら天使や王様などに感謝していたから、平和を当たり前のように感受しているその姿は、なんとなく慣れないものだ。

 

 そのままぐるりと街を一周してみた。賑わう街の風景。そこには人間に感じられる違和感なぞなく、けれど天使だけには感じられる違和感が点在している。

 天使像は影すらもなく、他にもやはり天使の痕跡は存在していなかった。……この世界には天使が存在していないのかもなあ、とか、心の隅で思う。……薄々気がついてはいたけれど、なんとなく複雑な気分だ。

 

 ……大切な人たちの、存在を否定されたような気がして。

 

 意味もなく眉を顰めていると、道具屋さんの看板が目に映る。おっと危ない危ない、目指していた場所だ。考えることに熱中しすぎて通り過ぎるところだった。……雑念をぱっぱと振り払って、小走りでそちらに向かってみる。

 

「いらっしゃいませ。お嬢さん、なにをお求めかな?」

 

 愛想良いターバンを巻き付けた店主が、お品書きをさりげなく差し出して、にんまりと問いかける。これぞ商人魂か。

 こっそり関心して、私はそのお品書きを覗き込みつつ、とりあえずの用件を告げることにする。何かを買うか買わないかは手に入れた金額で決めよう。ポケットを探って、中に入っていたものをすべてカウンターに並べてみせる。

 

 そう、今回ここを訪れたのは他でもない、金銭調達のためなのだ。

 ……前にも言った通り、今の私は身につけていた装備品はあるにしろ、他は何も持っていない無一文児。薬草どころか盾も武器もないのだ。素手で戦えなくもないとはいえど、魔物が存在するこの世界ではあまりにも不用心である。

 それに、積極的に戦わないにしろ、情報を集める為には先立つものも何かと入り用になるだろう……あまり考えたくない話だけど、人間とは全員が親切なものと限らないものなのである。

 

「すいません、先に買い取りを頼めますか?」

「あー、買い取りね。大丈夫ですよ。……品はこちらでよろしいですか?」

「ええ、問題ありません」

 愛想良くそういいつつ、指で品を示し頷く。営業スマイルはお手の物だ。人懐っこい笑みを意識しつつ商談を持ちかける。

 並んでいるのはここ数日間で得た素材たちだ。エイトさんたちと行動を共にしているときに採取したものだけど、街に近い場所にあるなし関係なくすべてが立派にそろっていた。エイトさんたちの様子を見るに、もしかしたらこの世界には採取という概念がないのかもしれない。割と入手難度の高いものも取れるのに……もったいないと思う。

 

 ちなみにお品物はめざめの花、ルビーの原石、夜の帳に毒牙の粉とまあまあなラインナップだ。実は鏡石だとか魔力を帯びた土だとかも採取できているのだが、今回は売りに出さないことにしておく。

 そんなに長い距離じゃない割にはそれなりによい素材たちを手に入れることが出来た。カマエルさえいればほくほくものなのに、何とも残念なものである。

 

 ……さて、どれだけ金を得られるかな?

 

 そっと店主の顔を除き見れば、どことなく悩ましげな顔をしていた。

「いかがされました?」

 様子を見るに、かなり悩んでいるようだ。ならばとそっと問うてみる。すると、

「……これ、一体どこで手に入れて来たんだい?」

 見たことも聴いたこともないんだけど、と、なんともまた困ったような声が返って来た。……オウフ。まさか存在すら知られていないとは、予想外だ。外で拾って来たんだけどな……この世界の住人達は本当に素材採集をしないのか、それともこの街の人たちが知らないだけなのか……ともあれなんにせよもったいない。

 とまあ、知らないなら知らないで仕方が無いので、とりあえず大まかな説明をしてみることにしよう。物を知らないままじゃ交渉が成立するわけないし。……原産地についてはどうするかって? そこら辺の地面です、なんて不興を買いそうなので、そこは誤摩化すつもりだけど。

 

「……詳しくは内緒です。でも、そうですね……これらはあまりこちらの方々には馴染みの無いものかもしれないので、軽く品物の説明をさせてください。使いどころはそれなりにありますし……得はしても、損はしないはずですよ」

 

 胡散臭く聞こえてはいないだろうか。“内緒”という単語に、一瞬店主の眉が動いたような気がしたけど、不安になって来た。……まあそもそも胡散臭い話ではあるんだけど。こちらの世界の人にとっては特に。不安になりつつ、詳細を語り始める。

 

「……右から順に、めざめの花。ルビーの原石と、夜の帳。そして、毒牙の粉と呼ばれています。めざめの花はその名の通り目を覚ます効能があります。ルビーの原石もそのままですね。磨けば装飾品に使えるでしょう。夜の帳は加工の仕方にもよりますが、良い装備品を作れます。毒牙の粉は、その名の通り触れた相手を麻痺させる能力がありますが、少量ではかなり弱いのでうまく加工してやってください。……使い方によっては、すごいものに化けます」

 

 心の中で「まあそんなに強い武器にはならないんだけど」と付け足しながら、にんまりと微笑む。ビジネスは強気で行かなければならない。特に今私は無一文児なのだし、手加減は無用だ。容赦なく利点だけを相手に叩き付ける。

 店主に ???の ダメージ ! コマンド?

 そんな殺伐とした思考を浮かべつつも、私は店主の様子を伺ってみる。与えられたダメージは、果たして……んん、返事がないな、考え込んでいるみたいだ。おそらく、見たことも無い、実際にそうかもわからないものを目前にして、他に持ち込まれる前に手に入れるか、無駄なリスクを回避するかを天秤にかけているのだろう。

 まあね、自分の利益が優先に決まっている。考え込むのは仕方ないよね! 薬草とか、他の武器とかならあっさり決まっていたんだろうけど。……そのことを考えると、なんだか申し訳なくなってくるなあ。

 

 様子を見るに、まだ結論を出すには時間がかかりそうだ。少しの間だけども、私もなにかしら考え事でもしておこうかな。

 

 ——そのまま私は、なんとなくエイトさんたち一行の姿を思い起こす。あの奇抜な三人組……特に、奇抜な三原色を持つ少年をあっさり忘れられるわけもなく、ビジュアル自体はあっさり思い起こすことに成功する。

 ……あ、でも顔は少しぼんやりとしているかな。……どんぐり眼ってことは覚えてる……けど、ヤンガスさんやトロデさんたちと比べて大人しめな印象を受けるから、最も大切であろうそこだけがうまく思い出せないや。ああ、ごめんよエイトさん。イメージの中に漂う顔なし青年に向かって、ぺこりと頭を下げた。

 

 ——そういや、話していなかったが、彼らとは街についた時点で別れた。私は今後の方針を固める為の拠点が欲しいという意味でこの街に来たのだが、もちろん彼らにもこの街に訪れた目的と言うものがあるらしく、ここからはそれぞれ別行動、という形になったのだ。

 ……まあ、そもそも街まで案内する、という名目で行動を共にしていたんだから、当然と言えば当然なんだけど。それにしたって、あの三人組はあまりにも印象が強い方々だった。これから先、どうなるかは見当もつかないが、彼らのことは最後まで忘れないだろう。

 もしかしたら、またどこかでご一緒する機会があるかもしれない。彼らの目的が何かは知らないけど、どうやらこの大陸にはしばらくいるようなので、その可能性はなきにしもあらず、といったところだろうか。

 

 ……と、そこからこの大陸についてへ思考が跳んだところで、店主の視線がこちらへ向けられた。なんとか買うか買うまいかの葛藤は終着したようだ。……さて、どうなるのやら。

 

「……どうですか?」

 店主さんは一度「うぅむ」と唸ってから、少し間を空けて、こう言った。

「……ええ。そうですね。買い取りましょう……合計で2300Gでどうですか?」

 やりぃ! どうやら買い取ってくれるようだ。値段も、量の割に多い。……未知のアイテムというのもあってか、多めに見積もってくれたようだ。有り難い。おそらくまったく知らないアイテムというのもあって、この値段なのだろうが。

 ……とはいえ、知っている限りではあるが相場より少し高め程度におさめられているのだから、さすがである。賞賛の拍手をこっそり送っておこう。

「それで良いです。ありがとうございます」

 即座に返答して、笑顔を向ける。最低限物をそろえられればいいだけだしね、つりあげる必要はないだろう。交渉成立だ。

 にんまりと手を差し出せば、店主はどこか疲れたように袋を差し出した。

「……ふう、はい。ではこちらが2300Gになります」

「はあい」

 そのまま重たい貨幣を受け取って、ついでに一礼してみる。突然の一礼に、店主さんは目をぱちくりしていた。ふふ、どや。ダーマの塔で鍛えられたおじぎの角度は美しかろう。……って違うか。

「見慣れない素材を買い取っていただき、ありがとうございました〜。機会があれば、次もお願いします」

 台詞を添えなきゃただの変な人になってしまう。表面に出さないよう、あわてて取り繕って声を吐き出す。店主さんは、ああ、こちらこそと声を漏らした。……ふう、まあこれでいいだろう。そろそろおいとましようか。

 そう考えて、また一つ言葉を紡ごうと前をむいた。

 

 そんな時だった。

 

 

 

「……あの、そこに立てかけてあるものって、なんですか?」

 

 ——私がそれ(・・)と、出会ったのは。




用語説明

主人公:3話の冒頭くらいで素材収集してたことに気づいた人います? いないか。
三原色男:信号カラーとも言う。「顔覚えてないってry」「ちょ」

店主:不憫。ゲームならメモくれる。

素材たち:9の世界ではフィールド上に素材が落ちている。ぶっちゃけ単品だとそんなに高く売れない。
天使像:その街or村の守護天使の名前が刻んである像。担当が変わると勝手に変わる。尚、像の見た目はまるで担当の天使たちには似ていない。
おじぎ:しぐさの一つ。9では通信プレーが出来るので手を振ったり踊ったりジャンプしたりできる。その中で、おじぎはダーマの塔の扉を開く為に必要。綺麗な角度で行わなければ開かないらしい。


作者から一言:閲覧ありがとうございます。字数の問題で一度区切りましたが、実際は七千越えてました。スランプいえーい。
 ただそのわりにはまるで進んでいません。次の次あたりで若干動け……ばいいのですが……。
 とりあえず、片割れの次話は割と早めに更新する予定です。少々お待ちを。

【訂正】H27.10.8 やはりというか細かい部分を手直ししました。内容は変わってません。


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5:「興味を抱いてなにが悪い」

 前話の片割れですなう。推敲に手間取りました。五話です。


「……あの、そこに立てかけてあるものって、なんですか?」

 

 すぐに立去るつもりだったのに……気がつけば私は、その立てかけてあるものについて、店主に訊ねてしまっていた。

 ……今まで気づかなかったなんて。ここまで私は緩んでいたのか。そう考えてしまうほどに、それはこの場において、異質なものだった。以前の私だったら、絶対に気がついていただろう、それ。……一度気がついてしまっては、もう目を離すことが出来ない、圧倒的存在感を放つ、それは。

 ——それは、長年旅して来た私でも見たことのない、不思議な形をした……武器(・・)だった。とても長い——しかし槍とも違う、反った刀身を先の方にうずめた、片刃の武器。

 ……いや、先の方……とは少し違うか。刃の長さは全体の半分に少し満たない程度の長さ。どちらかと言えば、槍というよりかは剣に近いような姿をしていた。とはいえ、剣というには、全体の長さに比べてもその刃は少し短いように見える。判断に困る、中々見ない長さだ。

 ……よくよく見れば、そのすぐ下には小さなガード……鍔がついている。やはりこれは剣、なのだろうか? 少し頼りないように見えるけど、一応ガードとしての役目は果たしてくれそうだ。

 残りの部分は革紐や太糸が巻き付けられ、そこを持って振り回すことができるようだった。しっかりと結びつけられているのが見て取れる。

 全体の長さは……おおよそ私の身長と同じか、それ以上。つまり1.5メートルを優に越えてそうだ。……鍔がかなり小さいのは、通常の剣とは違い中距離での戦闘を想定しているからだろうか? ……だとしても、かなり奇抜なデザインだけど……。

「……」

 ……ふむ。総合的に考えると、この剣らしきものは突くよりも切る方向へ特化した、槍? と判断すべきなのかな。とりあえず、私はそう結論づける。

 ……観察すればするほど、奇妙な部分が浮き彫りになる不思議な武器だ。これ以上見ててもきりがない。

 ……それに、おそらくこの武器の本質は、別にある。

 だって、私は知らない。ここまで色々世界を見ておきながら、その点に於いて、この武器に勝るものを、見たことが無いのだ。

 

 ——こんなに、潤沢で清浄なオーラを持つ、存在は。

 

 店主は、私の問いに対して、また困ったような表情で頬をかいた。……困らせてばかりで申し訳ないな。

 

「……ああ、それはですね。……情けないんですが、私にもわからないんですよ」

「……わからない?」

 予想外の返答に、私もまた何とも言えないような表情を浮かべてしまう。

「ええ。……刃の美しさといい、薄さといい、業物には違いないのでしょうが……なにぶん、他に見たことの無い代物でして。……武器屋へ持ちかけても買い取れないと断られてしまい、私も現状始末に困っているのですよ」

「……ほう」

 なるほど。見つけて引き取ったはいいものの、これが実際なんなのかわからないため、肝心の買い取り手がいない……と。そういうことか。

 それならこの扱いも頷ける。

 通常、ここまで清浄なオーラ……気を放つ物はどこかの神殿にでも飾られているものだ。オーラの内包量も、これまで見てきたそういう存在以上だし、通常ここにあってよい物では、ない。

 ……少なくとも今みたいに、テントの端に立てかけられるような代物では。

 ……ああ、でも、買い取り手がいないということは、この武器はずっと、ここに立てかけられたままなのか。

 こんなに美しいのに。……こんなに清らかなオーラを持っているのに。ずっとここに置いておくなんて……。

 

 ……もったいない。

 ここに武器を買いにくる人は、いないだろうし。ここ、道具屋だし。そもそも、オーラ云々の前に、こんな奇妙な武器、手に取る人間なんて早々いないし。

 …………うーん。仕方、ない。

 私は頭の中に、一つの案を浮かべる。……それは、この美しいものを、しかるべき場所へと届けるという案だ。

 ……どうせ先の見えない旅路だもの。目的が一つくらい増えたってどうってことはない。

「……あの、一度手に持ってみても?」

「……!? あ、はい、それはもちろん大丈夫ですが……」

 うろたえる店主に感謝します、と述べつつ、私はその武器に近づいて触れてみる。

 ——え? 触れんのかって? いいじゃん触るくらい。それに、天使は清浄なオーラを好むし……一応、私だって、一冒険者だし?

 

 まあ、案についてもそうだし、オーラについても気になるけど——見たことの無い武器に興味を抱いてなにが悪い!

 

「……わ、」

 ……んん、近くで見ると、よりいっそう綺麗な代物だ。これは……清浄な上に、まっすぐな青緑色……気高いオーラ。この武器の持ち主は、さぞ美しく高潔な心をお持ちだったのだろう。

 刃も滑らかで、刃こぼれ一つないくせに鋭利だ。片刃というのはあまり馴染みがないが、それを含めてあまりある完成度。

 完璧だ。

 ……しかし、その上で最も問題となるのは、重量だろう。なるだけしかるべき場所へ連れて行くつもりだけど……この武器は、ぱっと見ただけでも私と同じか、それ以上の長さがある。それ相応に重量も強くのしかかってくるだろう、

 果たしてこれを携えつつ、この先の見えない旅路を乗り越えられるだろうか。

 

 そう考えて、ひとまず立てかけられているその剣を、そっと抱えてみる。

 万が一持てなかった時の為に、慎重に。

 

「……ぃ、しょっと」

 

 ぉっ……と。危ない、危ない。予想以上の重みに一瞬腕が揺らぐものの、なんとかバランスをとることに成功する。

 ……腕にかかる重量は、予想通りと言っていいのか……いや、言えないか。……とりあえず、かなりのものだった。比較するなら、通常使われる剣の、そうだな……二、三倍くらいの重さだろうか。

 少なくとも、一般受けする武器としては失格と言える重さだろう。うん、重い。ここまでとはさすがに予想していなかった。

 私が普段使っていた剣でさえ一般に流通している剣からしてみれば重くて長い方だったのだが、これはそれを優に越える重さだ。持てなくはないものの、なんのバフも無い状態で振り回すには、少し厳しい。

 ……うーん、魔法でアシストすれば振り回せる程度にはいけるだろうか……。

 ……いや、そもそも私の筋力から考えれば、この重さくらい慣れてないとはいえそれなりに振り回せるはずなんだけど。冷静に考えるとこの状態は、おかしい。

「……うーん……」

 ……推測するに。やっぱり魔法といい、筋力といい、この世界に来てからステータスが下がっているみたいだ。土地勘も無い、魔物の強さも、この世界の人たち全体の強さも知らない。そんな中でのほぼ0からスタート。

「……たはは」

 ……困ったもんである。

 とはいえ、転職したとき、あるいは転生したときに比べれば、ステータスの下がり具合はそこまでではないようで、この調子ならレベルさえ上がればそのうち楽に取り回しがききそうだ。細かいところは後で確認しないといけないけど。

 ……そもそもこの武器とは、しかるべき場所へ移動させるまでの付き合いだ。あまり戦闘に持ち込むことは想定してないし。なんとかなるだろう。

 

 ……よし。買いだな。

 頭を回すこと約数秒、どうにかなると確信した後に、目を丸くする店主へ声をかける。

 

「これ、買い取らせていただきたいのですが……どのくらい出せばよろしいでしょうか?」

 

 どうせかなりかかるだろうし、金稼ぎついでにレベリングもしてしまおうと考えつつ訊ねれば、店主はどことなく惚けたような顔でこちら見る。

 まるで何か、得体の知れないものでもみたような顔で。

 ……あの? そう声をかければ、店主はハッとしたような表情になり、しかしその後また魂が抜けたような顔になって、ぼそりと答える。

 

「……どうせ売れませんし、先ほどお渡しした金額の半分でよろしいですよ」

「え!? 本当ですか!?」

 昼の往来に、底抜けに明るい歓声が響き渡った。

 

 

 後に、とある商人は街の住民たちへこう囁く。

 

 ——これまで誰も持ち上げることのできなかった武器を、軽々と片手で持ち上げた、少女(ばけもの)がいた——と。

 




用語説明

主人公:重いと言いつつ片手で持つことができる。場合によっちゃあ、ぶん回すことだって不可能じゃあ無い。
「ただちょっと勢いがそがれるけどね、まあ一時的に引き取っただけだし、なるだけ使わないようにするよ」
怪力。
店主「とんでもない化け物を見た」

謎の武器:片刃でとんでもなく大きい。刃の長さは中心より少し短い程度で、つまり柄の方が長い。こちらの言葉を借りるなら、『限りなく剣っぽいけど用途的には斬ることに特化した槍』。なにやら清浄なオーラを持った存在と縁がある様子。
オーラ:視覚ではとらえられない、一種の雰囲気。らしいが、天使である彼女には見えるらしい。天使的な存在は清らかなのがお好き。
神殿に飾られてそう:祀られてそう、の間違いだけど天使的には飾ってるようにしか見えないらしい。哀れ神官。
バフ:おググりよ!
少女(ばけもの):トラペッタという、序盤も序盤な街に突如彗星のごとく現れた異世界の勇者。数回カンストを経験し、数回転生もした。ステータスも元々人間でないこともあいまって、レベルさえ上げればこの世界の裏ボスでさえもワンパンで仕留められるかもしれない——そんな可能性を秘めた存在を、人はワン○ンマン予備軍と呼お察し

作者から一言:文の密度が。
 お気に入りありがとうございます。日々感謝です。


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