大学という場所は彼の周囲の環境をガラリと変えた (さくたろう)
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わたしの大学生活がはじまり、そして再会する。

はじめましてさくたろうと申します。

アニメと原作のいろはが可愛すぎて衝動で書いてしまいました。
SS初心者でいろいろひどいところがあるかもしれませんがお付き合いいただけると幸いです。

よければ感想やご意見をいただけると今後の参考になるので嬉しいです。


 

桜舞い散る4月

わたしは無事に大学に進学した。

 

 

正直高校生活は、2年までは楽しかったけど3年は憂鬱だった。楽しくなかったと言えば嘘かもしれないけど何か欠けてるような気がした日々だった。

 

 

 

たぶん……、ううん、理由はわかってる。先輩が卒業したからだ。

3年前に生徒会長の件から先輩と知り合って、先輩が卒業するまでわたしの2年間はとても充実していたと思う。

葉山先輩に告白して振られた後から……、もしかしたらその前からかもしれない。

わたしは自分でもわからないくらい先輩のことを好きになっていった。先輩はひたすらわたしをあざとい後輩としかみてなかったかもですけどねー……

 

 

それでも先輩と過ごした日々は本物だったと思う。

奉仕部に遊びに行った日々や生徒会を手伝いにきてくれた先輩(わたしが無理やり手伝わせていた)との日々はわたしの中でそれはとても大切な思い出になっていた。

 

 

結構本気でアプローチをかけたりしたと思うんですよねー。

ほとんどがあざといでスルーで正直凹んだ日もあったりしましたね……

それでも毎回必ず付き合ってくれる先輩にわたしの好感度は上がる一方だったし、意外とわたしは単純なのかもしれない。

 

 

先輩たちの卒業式の日は、自分たちの卒業式以上に素で泣いてしまい、先輩に苦笑いされましたっけ。

泣き顔見せたくなくて、最後に挨拶できなかったのはわたしの人生の汚点とすら言いたいレベルだったかな。

あれで死ぬほど後悔して先輩が忘れられなくて、大学まで追いかけるきっかけになったのは間違いないと思う。

 

 

先輩の大学や学部とかは平塚先生が教えてくれた。なんだかんだこの先生には1年の頃からお世話になってるし、本当に感謝してます。(早く誰かもらってあげてくださいよー)

 

 

そんなわけで、高校生活最後の1年間を憂鬱にしてくれた先輩にしっかりと責任を取ってもらうため、先輩を追いかけて同じ大学に進学したのである。

 

正直、先輩の行った大学舐めてましたすいません。

3年が憂鬱だったっていうのは受験勉強ばっかりしていたっていうのもあるかもしれない……

これだけ努力して先輩を追いかける後輩のわたしってかわいいー、なーんて思っちゃったり。

まあでもこんなにかわいい後輩が自分を追いかけて大学に進学するなんて先輩は幸せものですよー?

 

 

入学して早々、何人かにアプローチされたけど、今は正直彼らを相手にしてるほど暇じゃなくて、早く先輩に会いたいっていうのが一番だった。

講義中もそんなことばっかり考えてしまい、声をかけられたりしても、先輩のいうあざといわたしを出すのを忘れてたと思う。

まずは先輩の情報集めないとかなぁ……、何の講義受けてるかとかサークル入ってればすぐみつけられるんだけどなぁ……

 

ただ、先輩のことだからぼっちだろうし探すの大変だなぁ。サークルとかも入ってなさそうだしね。

そんなことを考えているとまた講義が終わる。

こんなのでわたしこの大学の講義についてけるのかな!? これはもう早く先輩見つけ出して今の状況を打破しなければ……!

 

お昼になるとわたしは大学で知り合った友人の白楽碧と学食に向かう。

大学に入り、あざとい自分をあまり出してなかったわたしは意外と女ウケがよく、高校の時に比べ、女友達が多い気がする。

 

中でもこの碧は頼れる姉御キャラで一緒にいると落ち着くし、割とユーモアのある子だと思う。

まだ出会って数日だけれどもう出会ってから結構経ってる気分になる。

碧が男だったら惚れちゃってたかもしれない。

 

この大学に入った本当の理由も碧には伝えている。

だからだろうか、わたしがキョロキョロしているのを見て、碧がニヤケ顔で聞いてくる。

 

 

「今日も例の先輩探してるの?」

 

 

「ん?うんー。一応ね。割と目立つからすぐ見つかると思ったんだけどなぁ……」

 

 

「えー、でも聞いたイメージだとそんな目立つような感じはしないよ? むしろ目立たないんじゃないの?」

 

 

「んー、容姿はちょっとイケメンってだけで確かにそんなに目立つ感じじゃないんだけどね。なんていうのかな? 負のオーラっていうの? それが滲みでてて、それを象徴するかのような死んだ魚の目をしてるんだー」

 

 

「あんたのその話聞くとさ、好きで追いかけてきたんじゃなくて、何か恨みがあって、それを晴らすために追いかけてきたようにみえるよ……」

 

 

「恨みかー。若干それもあるかもねっ。でも先輩にはそれ以上に感謝してるし、こんなに好きになったのは先輩が初めてでやっぱりそれは本物なんだと思う。」

 

 

若干照れながら答える。あざといわたしをだしてるときは気にならないんだけどなぁ。素のわたしは意外と純情なのかもしれない。

 

 

そんな話をしながら今日の昼食の食券を買い、空いてる席を探してると、集団で食べていた人たちが食べ終え、席を立ちこちらに向かってくる。

 

 

 

その集団の先頭の男は若干の猫背でアホ毛があり、死んだような魚の目をしてブツブツ文句を言っている。

 

 

何を言ってるかまでは聞き取れなかったが聞いたことのある声だ。

やる気のなさそうなダルい感じの声……

 

 

目の前の彼が『彼』であることに確信したわたしはここしかないと思い、彼の前に立つ。

 

 

わたしを避けようとして下を向いてた顔が正面を向いた瞬間、わたしは精一杯の笑顔で彼を呼ぶ。

 

 

 

 

「せーんぱいっ、お久しぶりですねー!」




最後まで読んで頂きありがとうございました。

一応1話目ということでほとんど八幡といろはの絡みはないです。
2話目以降をいろは視点でいくのか碧視点でいくのか考え中です。
ほとんど妄想内容なので気軽に読んでもらえると嬉しいです


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再会し出会い、そして戦いが始まる

前回の続きです

今回はいろはす視点ではなく、前回出てきた白楽碧視点での物語となります。

気づいたことや意見がありましたら是非教えてください。


いろはが満面の笑みで例の先輩に挨拶をすると男の人がゆっくり口を開く

 

 

「一色…か?なんでお前ここにいんの?」

 

 

「ちょっとせんぱーい。なんでってひどくないですかー?先輩を追いかけてきたんですよー!」

 

 

「いや、そういうのいらねえから…お前文系志望だったの?初めて知ったぞ」

 

 

「そうですねー、言ってなかったですもんねー。というかせんぱい、1年ぶりに会った可愛い後輩に対しての反応がそれだけですか?なんかショックなんですけどー…」

 

 

「自分で可愛い後輩とか言っちゃうあたりあざとい、あいかわらずあざといな」

 

 

「あざとくないです!というかこんなかわいい後輩に追いかけられるなんて幸せ者じゃないですか?先輩の人生で普通ならありえないイベントですよ?だからもっと嬉しがるべきです」

 

 

「あーはいはい、本当あざとかわいいよ一色」

 

 

「あざとくないですよー!」

 

 

頬を膨らませてそう言う。あれ?いろはってこんなあざとい感じなの?っていうか初めて見るんだけどこんな表情…しかもあざといのはあざといかもしれないけどすっごい可愛い。わざとらしさがないからなのかな。

そんなこの子を見てあーほんとこの先輩のことが好きなんだなーと思う。

 

久しぶりに大好きな先輩と絡んでるいろははいつもウチらといるときよりも可愛く、まるで恋する乙女そのもののようだった。

 

でもそんなこの子も今は先輩の後ろの人たちが気になって仕方ないみたい。

聞いた話だとこの先輩は高校時代ぼっちだったみたいだし、それが大学では再会していきなりグループの先頭で歩いてるし困惑してるのかなー。

なんかちゃっかり女の人までいるしね!これはライバル登場なんじゃないー!?どうするいろは・・・!

 

 

「ところでせんぱーい?後ろの方たちはお友達ですかー!?わたしてっきり先輩は大学でもぼっち生活してるのかと思ったのに…なんか先輩の嫌いなリア充みたいですよ?あ、もしかしてパシリとか?」

 

 

ちょっとあんた再会早々その絡みは流石に可愛そうだよ・・・

しかもその人あんたの好きな人だよね?ずぶといなーこの子。

そう思うと先輩の方もそう思ったらしく、

 

「お前の方こそ再会早々完全に俺のメンタルブレイクしにきてるよね?そっちの方がひどくない?俺泣いちゃうよ?」

 

 

「えーでも先輩がこんな集団の先頭で歩いてるとかやっぱり想像つかないですし、なんかあると思っちゃうのが普通じゃないですかー?」

 

 

「ああ、それは確かにな。まあ俺もそれに関しては同意せざるを得ないわ」

 

 

ああ、同意しちゃうんだこの人。なんか聞いてた通りちょっと捻くれてるのかな?ただの残念さん?

 

 

というか私も含め先輩の後ろの人たちもこの会話についていけず完全に蚊帳の外なんですがそれは…!

あっちの女の人なんか笑ってるけどなんか怖いんですけど!?ずっといろはのこと見てるし。

それに関してはいろはは完全に無視というか気にしてない感じだし。

私が少し戸惑っていると周りの友達?たちが

 

「ヒッキー高校でボッチってほんとだったの?」「はっちーがぼっちとかやっぱり信じられないかも」

などの反応があった。

 

 

「みなさん先輩のお友達ですか?初めまして先輩の後輩の一色いろはです!いつも先輩がお世話になってますー!こんな捻くれてる先輩と友達なんてみなさんとても親切なんですね。なんかわたし感動しちゃいました!」

 

「あ、こっちはわたしの友達の白楽碧っていいます!」

 

 

なんかついで程度に紹介されたんだけど、どうしよう。

 

ニコッと微笑みながらいろはが挨拶すると先輩がふてくされた様に答える。

 

 

「お前の挨拶なんか小町っぽいな、やっぱりあざといキャラってどこか似るんだろうか。あとこいつらは友達っていうよりなんていうの…アレだアレ」

 

友達をアレ呼ばわりってどうなんですかね先輩。あれ?もしかして本当に友達ではない??

 

 

「そういえば小町ちゃんも今や総武高校の立派な生徒会長ですよねー。わたしが会長のときも生徒会でいろいろ手伝ってくれて助かりましたよー」

 

 

「そうなんだよな流石俺の妹というか、まあ兄の俺が言うのもなんだがあいつ以上の適任者探すほうが難しいだろうな。というかうちの高校って男子が生徒会長だったことあるのだろうか…」

 

 

「うわー、せんぱい大学生になってもシスコン全開ですか。若干、いえかなりひきます…というか気持ち悪いです」

 

 

「いや小町天使だし仕方ないだろ。そういえば生徒会でもそうだが高校生活でもだいぶ小町のこと面倒見てくれたらしいな。ありがとうな一色感謝してるぞ」

 

 

「いえ、小町ちゃん可愛いですし当然ですよ…というかいきなり褒めて私の好感度あげる作戦ですか?すいません、先輩にいきなり褒められるとかただ調子狂うだけなんで…それにこれ以上あがりません」

 

 

「俺は小町に対する感謝の気持ちを述べただけでなんでまた拒絶されてんの俺?通算何回目だよ…」

 

 

先輩に感謝されたこの子は恥ずかしくなったのか少し頬を染め俯く。

しかもさあんたこれ以上あがりませんってもうすでに好感度MAXじゃん…

ギャルゲーなら告白イベントで既に落ちるレベルなんですがそれは…

先輩もよく聞こうよあがらないとは言ってるけど否定はしてないよこの子。

しっかし照れてるこの子本当かわいいなー。これは素で照れてるんだよね?こんなかわいい照れ方見たことないんだけど。

 

いろはと先輩の絡みが落ち着くと、先輩の後ろの人たちが今度はウチらに挨拶してきた。

最後は先ほどからいろはのことをずっと見てた女の先輩の挨拶だ。

 

 

「初めましていろはちゃん!私ははっちーの友達の金沢美智子って言います。はっちーには学校生活でいろいろと助けてもらったりしてるうちに仲良くなったんだよー。よろしくね」

 

 

『初めまして金沢先輩。これからよろしくお願いしますねー。先輩って優しいから【誰にでも優しくしちゃう】ところありますよね』

 

 

あれ?いろさん若干笑顔がひきつってますよ?大丈夫?さっきの先輩に対する笑顔どこいった?

これは完全に金沢先輩のこと敵視してるなーこの子…まあわからんでもないけれど。

 

 

「いろはちゃんははっちーとはすごい仲好さそうだね。なんか普通の先輩後輩の関係以上って感じ!ちょっと妬けちゃうなー。あ、でもいろはちゃんはっちーとは1年ぶりなんだっけ?大学に入った頃のはっちー懐かしいなぁ。あれから大分はっちー変わったんだよね」

 

 

あれ?あれ?金沢先輩の方もなんか言い方に棘がありませんかね…これ完全にお互い敵認定しちゃったやつだ。しかも金沢先輩って見た目結構レベル高いし、好きな人のことを知らない空白の時間をライバルは知ってるのって結構来るよね。頑張れいろは!

 

 

「というか一色たち飯食いに学食きたんじゃねえの?食べなくて平気なのか?そろそろ時間やばいぞ」

 

いきなりの先輩の言葉で私も気づく。ヤバイもうこんな時間じゃん…たしかにウチらはここにご飯食べに来てたのにまだ席取りの段階じゃん…しかも先輩たちが座ってた席取られてるし。

まあいろはも久しぶりに先輩に会えてよっぽど嬉しかったんだろうな。時間忘れるくらい…

お腹が空いてしょぼくれてる私に気づいたのかいろはが先輩たちに挨拶した。

 

「あ、じゃあわたしたちこれで失礼しますね!せんぱい今日連絡するんでメールみてくださいね…?」

 

 

上目遣いで先輩にお願いするこの子あざとすぎる…!

 

 

「いやほらお前のそういうのなんかろくなことなさそうだしさ、今日はちょっとアレだアレ」

 

 

「…本物」

 

 

先輩が拒否気味に答えたあといろはが何かぼそっと呟いたけど何を言ったのか聞こえなかった

だけどその言葉に先輩だけは反応したのかいきなり挙動不審になった。

あ、これなんか弱みでも握ってるのかこの子…

 

 

「あ、あれなんか今日すっごい暇だわー。誰かメールとかくれないかな、今日は俺ずっと携帯いじってるわ。メール来たら即返信、これ紳士の嗜みだよな、うん」

 

 

「ですよねー、じゃあ先輩ちゃんと返事くださいね?後で連絡しますので!それではまたー」

 

 

そう言ってウチらは先輩たちのグループと別れやっと昼食にすることになった。

 

あぁ…お腹すいた

 

 




最後まで読んで頂きありがとうございました。

今回は友人の白楽碧目線で書かせていただきました。


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そして彼女は動き出す

前回に引き続きオリキャラ碧目線です。
睡魔と戦いながら書いたのでもし誤字脱字がありましたら教えていただけると幸いです。

なんか書いてるうちにいろはってこんな感じだっけと思いつつ、まあ大学生だし物語から3年たってるしいいんじゃないかなという思いで書いてます。


席を探すとタイミングよく2人分の席が空いたのでそこで昼食をとることになった。食券は既に買ってあるのであとは荷物を置いて並ぶだけである。

 

今日は白ごはんにお味噌汁!そして無料のきゅうちゃんてきな漬物である。決してダイエットとかではない。私はダイエットっていうのはしたことがない。

ならなぜこんなメニューなの?って聞かないで!決してご飯60円お味噌汁30円で90円でお昼が済むとかそんな理由ではない。なんとなく漬物とご飯でいいかなって思っただけなの。

 

あぁいろはそんな目で私を見ないで…

 

 

「はい、これあげるよー」

 

 

そう言いながらおかずをくれるいろは。

あらやだなんで天使がこんなところに??

 

食べながらさっきの先輩が例の先輩か確認する。

 

 

「そういえばさ、さっきの先輩が例の先輩でいいんだよね?」

 

 

「うん、そうだよー。雰囲気ちょっとだけ柔らかくなったかもしれないけどやっぱり先輩は先輩だったなぁ」

 

 

あぁあれで少し良くなったんだ…高校時代はどれほどだったのだろう。

というかいろはさん先輩の話になった途端ニコニコになるってどんだけ好きなんですかね。

 

 

「でも確かに顔はそんなに悪くないね、若干目が死んでるけど」

 

 

「でしょでしょー!あの目だけで相当損してるよねー。でも正直先輩の外面はどうでもいいかなー。先輩の凄いところは中身の部分だしねー!」

 

 

「なるほどねぇ…」

 

 

 

正直さっきのやり取りだけではこの子のいう中身というものがどれだけ凄いものなのかわからないよ!むしろ中身微妙そうなんですが!?

などと言おうとしたけれどあんまりにもこの子が笑顔で語るものだから言いそびれちゃったよ!

いや、そんなニコニコ笑顔で語るこの子にそれを言ったら怖そうだから言わなかっただけなんだけどね…

 

 

「でも先輩が大学でまさかグループに所属してるなんて思わなかったなぁ」

 

 

いろはがそう呟く。でも見た目はそこまで悪くないし(死んだ目以外)まあ多少残念な雰囲気漂わせてたのはあるけどそこまで孤立するような人なのだろうか…

まぁ1度挨拶しただけだし私がこれだけの情報であの人を評価するのも間違っているのだろう。でもあんた好きな先輩本当ボロクソ言うわね…

そう思ってると聞いてもないのにいろはさんが語り始めました。

 

「なんていうかねー、わたしの先輩の大学のイメージってやっぱりぼっちで寡黙に講義受けてる感じなんだよねー。確かによく知ればあの頃みたいにあの人と付き合える人たちも中にはいるかもだけど。でもそのための第一印象が先輩はとんでもなく悪すぎるしぃ。むぅ…高校と大学の違いなのかな?周りが先輩を評価する環境が変わったってことなのかな…」

 

 

「高校の時どんだけ評価されてなかったのよ…」

 

というか付き合える人いたにはいたんだね。

 

 

「完全に評価されてなかったわけじゃないんだよね。少なくともわたしは先輩のこと評価してたし?むしろ評価というか別の感情が途中からわたしを支配したというかですね…」

 

 

あーはいはいそこニヤけない、(´っ•ω•c`)しない。可愛いなこんちくしょう。

 

 

「なんていうかよく知らないと先輩のいい所ってわかりにくいんだよね!大抵の人はよく知らないうちに勝手なイメージを決めつけちゃうんだと思う…そんなことはないのにね。でもわたしもよく知れたのは本当にたまたまだし、今思えばあれは運命的な出会いと呼べなくも…」

 

 

なんかこの話してるとずっとこのこニヤけてそうだし気になったことさくっと聞いてしまおう。

 

 

「でもさー、そんなに好きならなんで高校時代に告白しなかったの?」

 

 

私がそういうと、いろはは先ほどまでの表情が消え、どこか切ない表情に変わりゆっくり口を開く。

 

 

「うん、まあねぇ。いろいろあったんだ。いろいろ。正直本当にそれはずっと考えてたんだぁ。でもあの頃はなんていうか先輩の回りには近づけるけど手が届かないっていうのかな?わたしじゃどうにも入りきれない…ううんあの3人はたぶんあの3人だからこその本物…なんかちがうなぁ…だめだぁ…」

 

 

私の質問にいろはは答えようとしつつ、自分でもうまく言葉で言い表せないのか、途中から自分で言いながら頭を抱え始めた。

そんな光景を見て何か必死に説明してくれようとしてるのは伝わってきた。

まあ質問に対しての答えはさっぱりだけどねっ!

 

頭を抱えフリーズしちゃったいろはを再起動させ、昼食を済ませて午後の講義に向かう。

 

出会ってからいつも真面目に受講してたいろはは今日はずっと携帯とにらめっこしてる。どうやら先輩に送るメール文を考えてるらしい。

 

 

「こう…」「んー違う…」「あーでもこっちのほうが…」「いや…」

 

 

メール一通送るのにどんだけ悩むのいろはさん。中学生の頃を思い出しちゃうんだけど?!

 

 

「できた!」

 

 

どうやらメールが完成したらしいので横目で内容を確認させていただこう。この講義暇だしね!

 

 

『せ~んぱい(*´∀`*)可愛い後輩からのメールですよ?

 あれぇ?今わたしからメール来て嬉しがってます?

 わかりますよー可愛い後輩からメールなんか来ちゃったりしたら喜んじゃうのが男の子ですよね!

 それでなんですけど、今週の金曜日って先輩空いてますか?お願いしたいことがあるんですよー!

 あと返信は早めでお願いしますね☆』

 

 

女の私からみたら若干ウザイんじゃないのこれと思うメールを送信しやがりましたよこの子。

こういうメールって可愛いから許されるんだよね?

男にただしイケメンに限るっていうのがあるように、女にもただしかわいこちゃんに限るっていうのがある。

 

私知ってる!

 

 

数分後いろはは携帯から目を離さずじーっと見てる。

ご主人の帰りを待つ忠犬ちゃんかな?うちの愛犬のぷうたみたいだ。

 

十数分後どうやらまだ返信が来ないらしい忠犬いろはちゃんの頬が膨らんでいるよ?ちょっと機嫌悪いのかな?それでも携帯をじっと見つめる忠犬いろは。

 

そしてそのまま講義が終わる。どうやらメールは帰ってこなかったらしい。完全に不機嫌になってしまったいろはを私が落ち着かせる。おーよちよち悪い先輩ですねー。

 

次の講義のために移動してるとどうやらメールが返ってきたらしい。横目で盗み見るスキルを発動させる。

 

 

『悪い、今気づいた

 金曜は無理だ』

 

 

やっば!先輩やっば!私が言うのもなんだけどこんだけ可愛い子からの(まぁ若干ウザイ内容の)メールに対してこれだけで済ませる先輩カッコイイ…

 

脳内で冗談を言い、うわぁ絶対これ機嫌悪くなるやつだと思ってたけどそうでもなかった。むしろ素直に返ってきて喜んでるように見える。

またメールを打ち始めるいろは。

 

 

『なんですかその今気づいたって( *`ω´)焦らしプレイですか先輩のくせに生意気です!

 そんなんで効果あると思ってるんですか?甘いんじゃないんですか?

 金曜無理ってなんでですか?どうせ暇じゃないんですか?

 こんどは早く返信くださいよー?』

 

メールを送り終えたいろははふぅ…と一息ついてこちらを向いたので目が合ってしまった。

しまったー!!私の横目で盗み見るスキルが看破された?!

 

 

「盗み見は良くないよ碧ちゃん?」

 

 

ニッコリとした表情で放たれたその言葉はとても怖かったです。まる

 

それから数分後、今度はすぐにメールが返ってきたらしい。

別に見たいなら普通に見せてあげるよって言われたから私もそのままメールの内容を覗く。

実は見てもらいたかったんじゃないのあんた。

 

 

『お前の中で俺どんだけ暇人なんだよ。いや割と暇人だけど。

 金曜は金沢たちの飲み会強制参加

 土曜なら』

 

 

おうふ、先輩それはいけませんよ。好意を寄せてくれてる相手に他の女の子との飲み会報告とかダメ!絶対!

そもそもこの先輩はいろはに好意を抱かれてることをちゃんと認識してるのだろうか…うん、してなさそう。

 

 

「あんにゃろ…」

 

 

なんか聞こえた…聞かなかったことにします。

 

 

『では仕方ないですね、土曜日でいいですよ!土曜日○○駅に10時でお願いしますね?

 それとわたしも金曜日のその飲み会参加したいなぁって思うんですけどー?

 先輩の後輩として先輩が大学でどんな人たちと付き合ってるのか気になるじゃないですか(^ω^)

 小町ちゃんとの話のネタにもなりますし!

 あともう一人来たいって子もいるんですよ!聞いてもらってもいいですか?』

 

 

これもう一人って確実に私だよね?ん?私行きたいなんて言ったけ?あれこの年でボケてきたのかな…

そんなことを考えてると早速メールが返ってきたようだ。

 

 

『大丈夫だそうだ

 場所決まったら連絡するわ』

 

あれれ?私も確定になっちゃった感じ?どうしましょう。

でもまぁなんか面白そうだしこの子の観察がてらに付き合ってあげるとしますか!

 

その後も先輩とのメールのやり取りは続いてるらしいが私は疲れたので少し寝ようと思う(講義中です)

あぁそういえば…

 

 

「金沢さんってたぶん先輩のこと好きっぽいよね?結構可愛いし強敵じゃない?」

 

 

「うーん…確かに可愛いけど全然かな?高校の時に比べたらね!」

 

 

そう言ったいろはの顔は、あざとさはまるでなく素の笑顔だったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字やここおかしいぞ?っていう点がありましたら教えて頂けると幸いです。


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そして二人は夜の街に消える

飲み会でのお話になります。
ベッタベッタな展開になりそうです…
なかなか展開を考えるのが難しい…



 

 

やって参りました金曜日!

あれからいろはは今日を楽しみにしてるみたいで周りの友達も気になったようだ。

 

 

「いろはなんか良いことあったの?」

 

 

「えー?なんで?特に何もないよ?」

 

 

「いやいや、特に何もないには見えないよあんた…昨日からずっとウキウキしてるじゃない?」

 

 

「そうかな?別になにもないよねー、碧?」

 

 

「へ?うん、そうだね。うん何もないんじゃないかな?」

 

 

あんたいきなり私に振るなし!誰がどう見てもテンション上がってるし、なんか化粧とか気合い入ってるじゃん。そりゃみんな怪しむわよ…

 

んーそういえば飲み会なのはいいんだけど私たち未成年だよね。むしろ先輩たちもほとんど未成年なのでは…

大丈夫なのあのグループ。

(いやまぁ私も家とかではこっそり飲んだりすることもあるのだけれど、流石にお店で飲むとか初体験になりそうでドキがムネムネ…)

 

 

「いろはー、今日暇?なんか同じ高校の先輩から合コン誘われたんだけど一緒にいかない?」

 

 

「ごっめーん、今日は大事な用があるから行けないんだぁ。また今度誘って!」

 

 

「そっかぁ、残念。碧はどう?」

 

 

何??合コンですと?ちょっと興味あるのよね。高校時代はそういうのしたことなかったし。

The大学生って感じするよね。合コン。

でも今日はいろはの方の飲み会あるしなぁ。でも私いる必要もないし合コン参加してもいいのでは…

 

そんなことを考えていると殺気を感じたのでそちらを向くといろはさんが笑顔で私を凝視しています。ああ怖い。

どうやら強制参加は免れないらしい…

 

 

「ごめん、私も今日は遠慮しておくね。次回は絶対いくから!間違いなく!」

 

 

「んーあんたら行かないと結構きついけど仕方ないか…また今度ね」

 

 

本当はそっち行きたかったのよ。ごめんね。

まあでもいろは観察するのも楽しそうだしいいかな。

 

 

金曜日は講義も少なく、2時半には終わったので、いろはと飲み会の開始時間まで時間を潰すことに。

ていうかこの子講義終わってからそわそわしすぎでしょ。何回鏡見てんのよ。まだ時間あるのに…

でもなんだろう、これも全部先輩によく見られたいための努力なんだろうなって思うと素直に可愛いと思う。

こんな子にこんなに思われてる先輩…幸せ者ですよ。

 

 

「いろはってお酒飲めるの?」

 

 

私はちょっと気になったんで尋ねてみる。一応同い年だし、まだ大学入学して間もないのでこの子のお酒の強さを知るわけもないので…

 

 

「うーん。普通じゃないのかなぁ?実はまだお酒飲んだことないんだよね」

 

 

そんな(。・ ω<)ゞてへぺろ♡みたいな顔してもダメです。ていうかこの子お酒飲んだこともないのに飲み会行きますとか言ったの?どんだけ攻めるのよ。

若干不安になってきたんですけど…

なんか危ない未来しか見えないんですけど…

 

 

「あんたよくそれで飲み会行きますとか言ったね…」

 

 

「だってせっかく先輩と遊べそうだし…それにもし酔っても先輩が介抱してくれそうじゃない?!むしろさせるし」

 

 

すっごい目を輝かせて言うこの子をもはや止められる者はいないと察した私はそうだねと頷くしかできませんでした。まる

 

 

話し込んでたら飲み会の時間になったのでお店に移動することに。大学近くの飲み屋さんなので場所は割と近い。

18時集合で時刻は17時50分。お店の前に先輩たちを見つけて合流。

 

 

「みなさん今日はよろしくお願いしますー」

 

 

合流してすぐに比企谷先輩の隣に移動するいろはさん流石です。

 

 

「ん、じゃあ集まったし中入るか」と比企谷先輩が声を掛けお店にGO!

 

 

どうやら今日は仲の良い4人と私達2人の6人での飲み会らしい。

座敷の席に比企谷先輩が座るとササッと隣に座るいろは。対面に金沢先輩が座りその隣に私が座ることに。

 

 

「じゃあみんな何飲む?最初生でいいか?」

 

 

隣の中原先輩がみんなに尋ねる。

 

 

「いろはちゃんと碧ちゃんは何飲む?」

 

 

金沢先輩に聞かれたので生でと答える。

 

 

「いろはちゃんは?」

 

 

「わたしも同じので大丈夫だと思いますー」

 

 

だと思います?アルコール初にビールはどうなのか…まあでも面白そうだし黙っておこうっと。これも作戦かもしれないし、うん。

あと若干敵意だして答えるのはやめようねいろはさん?

 

 

「「「「「「かんぱーーーーい」」」」」」

 

 

結局みんな最初は生で乾杯することに。

お店で飲むビールは家で飲むよりも美味しかった。

くぅ~やっぱりビールは最高だぜ!!!やだ私ったらおっさん臭い…

 

 

「うぇ~、せんぱいビールあんまり美味しくないですー」

 

 

「えぇ、お前なんで頼んだの…」

 

 

「いやだってみんな同じのですし、美味しいんだと思うじゃないですか!」

 

 

「ちょっと待て一色、お前もしかして飲んだことない?」

 

 

「今日が初めてです!」

 

 

「マジかよ…なんでそんな自身たっぷりなんだよ。んーじゃあとりあえずそれやめて別の頼めば?」

 

 

「何かオススメありますかー?先輩のオススメならなんでもいいですよ」

 

 

「サワー系でいいんじゃないか?ほれピーチとかなんかフルーツ系の。あざとい感じだし。」

 

 

「むー。なんですかそのあざとい感じって。でもなんかおいしそうですしこれにします」

 

 

しばらくするとピーチサワーがいろはの前に置かれる。

 

 

「あっ、これ美味しいですね!これなら何杯でもいけそうですー」

 

 

「何杯でもって…お前今日が初めてなんだからあんま無理に飲むなよ?終わった後めんどくさそうだし」

 

 

「その時はお願いしますねーせんぱい」

 

 

「だが断る」

 

 

なんかこのやり取り微笑ましいなぁ。でもこれってなんだろうカップル的な感じじゃなくて…

 

 

「ふふっ。なんか二人仲良いよねー。兄妹みたい。」

 

 

それです!金沢先輩の言葉がドンピシャだった。でもそれって良いのかな?若干挑発してるように思えるなぁ。

 

 

「あぁ、まあこいつ俺の初めての後輩だし確かに一色相手だと小町用スキルが出ることが多いな。二人目の妹のようなもんかもしれんな。小町の方が断然可愛いけど」

 

 

「うわぁ。またシスコンアピールですか…流石にその言い方はポイント低いですよせんぱい」

 

 

しばらくそんな感じのやり取りを見ている私。なんか保護者みたい。

ちょっといろはのテンションが落ちたのがわかる。確かに好きな人に妹認識されてるって結構来るものがあるよね…

実際恋愛対象に見られてないのかなって思っちゃう気がする。私がいろはの立場ならそれは悲しいな。

こういうのって相手に意識させたら勝ちっていうしちょっと協力してあげますかねー。

 

 

「いろははこんなこと言ってますけど大学入ってから私と話すとき比企谷先輩の話題ばっかりなんですよー?」

 

 

ふっ。これでちょっと意識するはず…!若干いろはがこっち睨んでいる気がするけどそんなことは気にしない。

 

 

「えっ…俺どんだけ一色に文句言われてるわけ?陰口は結構辛いんだぞ?」

 

 

んー失敗したようですね。(。・ ω<)ゞてへぺろ♡

しかしなぜこの先輩は自分の話題というと-方向に考えてしまうのだろう。

 

 

「なんで陰口前提なんですかー。そんなこと言いませんよ。それに言うときはせんぱいに直接言います!本当にせんぱいは鈍感捻くれ男ですね」

 

 

「えー…なんで怒られてるの俺」

 

 

いろは怒ってるなー。っていうかこの子飲むペース早くない?大丈夫?

先ほど比企谷先輩が頼んでくれたサワーはもう飲み終わり、既に2杯目のマンゴーサワーも飲み終わりそうだ。

 

 

「いろはちょっとペース早くない?もうちょいゆっくり飲んだろうがいいんじゃない?」

 

 

「えー、ペースってなぁにー?これ美味しいからもっと飲みたいよー。あ、せんぱいのこれなんですかー?」

 

 

この子若干酔ってますよね?大丈夫ですかね?先輩もなんかめんどくさそうにいろはのこと見てるし。

 

 

「お前大丈夫?ちなみにこれはカルーアミルクだ。まあ簡単に言うとコーヒー牛乳の酒みたいなやつだな。飲むなら注文するか?」

 

 

「んー。注文は大丈夫です!これもらうので」

 

 

そう言うといろはは比企谷先輩のカルーアミルクを一気飲みした。

 

 

「えへへー飲んじゃいました。なかなかおいしいですねぇ」

 

 

「飲んじゃいましたじゃねえよ。それ俺のカルーアミルクなんだけど?」

 

 

若干怒り口調なものの比企谷先輩顔赤くなってますよ?お酒のせいかな?

これは意識させれたんじゃないの?私の手助けは不要だったというわけね…いろはす恐ろしい子。

でも大学生にもなって関節キスくらいで顔赤くなる比企谷先輩ちょっと可愛いですね。

 

 

「また注文すればいいじゃないですかー?美味しかったのでわたしも同じお願いします」

 

 

「いやね?そうじゃなくてね?まあいいわ…じゃあ注文するぞ」

 

 

それからいろははカルーアミルクが気に入ったのかずっとカルーアミルクを飲んでいる。

まああんまり強くないし初心者にはちょうどいいのかもしれないね。

 

 

「そういえばせんぱいたちはどういうグループなんですかー?というか何で知り合ったんですか?」

 

 

「私たちは文芸サークル仲間って言えばいいのかな?はっちーいつも読書してるしそれで誘ったのよね」

 

 

「へー。せんぱいがサークルに」

 

 

「はっちー編集者目指してるらしいんだけど、そのための勉強を兼ねてみたいな?うちのサークルから編集者になった先輩結構いるからねぇ」

 

 

「へーせんぱいが編集者…編集者…?」

 

 

いろはは何か引っかかったのか一人でブツブツ言っている。

 

 

「なんだよ悪いのかよ…もうこの話はやめやめ。大体金沢がしつこく誘いまくったからだろ」

 

 

比企谷先輩が照れくさそうにそう言う。

 

 

「そうだっけー?まあ確かにそうかもね?」

 

 

「そうだろ。入ってくれるまで毎日毎日先輩と一緒に勧誘しにくるし」

 

 

「あははー。あったねそんなこと。でも入って良かったでしょ?」

 

 

「まあな。実際の編集者になった先輩からアドバイスとかも聞けるし。ただこういう飲み会はめんどくさい。家で寝たい」

 

 

なるほどこの人は誰にでもこんな感じなのか…

というかいろはさん少しばかり目を離したすきに本格的にダウンしてるっぽいんですが???

 

 

「せんぱ~い、なんかふらふらします。あれー?せんぱいがふたりいます。もうひとりふえたら何ももんだいないのに…」

 

 

ちょっとわけのわからないことを言い始めたんだけど!

 

 

「おいおい、お前初めてなのにとばしすぎなんだよ…そろそろ帰るか?」

 

 

「せんぱいがかえるならかえります~。かえらないならまだのみましゅ」

 

 

何この可愛い生き物いろいろヤバイ…ましゅって何ましゅって。

というか不安的中だなぁ。なんかあんまりお酒強そうには見えなかったし…

いやでもこの子のことだからこれも全て演技…?

 

 

「せんぱーい、せんぱーい」

 

 

横にいる比企谷先輩にやたらすり寄るいろはを見ると演技にも見えるけれど表情が完全に酔っぱらっているそれなのでそろそろ帰った方がいいですねこれは。

 

 

「あー、仕方ないけど、白楽さん?一色のこと送ってってもらえる?」

 

 

え?私ですか?!この流れで私ですか?今の流れどう考えても比企谷先輩が送る流れなのでは?

 

 

 

「いやでもたぶんこれ比企谷先輩が送らないと帰らなそうですよ…?それに女の子二人で夜道は危険ですし」

 

 

「…それもそうか、仕方ないか。悪い金沢少し先に出るわ。一色のこと送ってくる。っとその前にトイレ」

 

 

トイレに向かおうと立ち上がる比企谷先輩の足にしがみ付くいろは。

 

 

「せんぱいどこいくんですか?わたしもつれてってくださいよー」

 

 

うわー上目使いでめっちゃ比企谷先輩のこと見てるよ…これは流石に反則である。

 

 

「トイレだよトイレ。行ったら送ってやるから少し待ってろ」

 

 

はーいと返事をするいろは。これは送るの一苦労だろうなぁ…

いろはとの飲み会は少し考えるようにしよう…うんそうしよう。

 

そんなことを考えていると比企谷先輩がトイレから戻ってきた。

 

 

「ほら一色いくぞ」

 

 

「ふぁあい」

 

ふぁあいって何ふぁあいって。

それにしてもなんだかんだ送ってってあげる比企谷先輩は優しいなあと思います。

 

そうして二人は夜の街に消えて行くのであった。

お店でるまで比企谷先輩にしがみ付いていたいろははこの後どうするのかなぁと思いつつビールを飲む私であった。




最後までお付き合いありがとうございます。
次回はいろはす視点で行きたいと思います。
理由はあれがあれなので
グループメンバーもうちょいだしたほうがいいかなと思いつつ、こいつらはモブだしいらないかなーと思ったり。
もはや題名に意味があるのかなと自分でも不安になっていってます


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そして後輩と二人きり

前回いろはす視点で書くとか言ってましたが今回はヒッキー視点になります。

一応これ単体でも読めるように書いたつもりではありますが上手くまとまってないかもしれません。

感想や気になったことありましたらよろしくお願いします!


 

 

春の夜風は心地よい。

一人ならそんなことを思いつつ、酔い覚ましがてらに歩いて帰っているところだろう。

 

とりあえずこいつどうしよう……

 

大学の飲み会で先ほどでろんでろんに酔った一色いろはが俺にくっついている。

こいつと再開したのはつい最近で、まさか同じ大学に進学しているとは思わなかった。

確かに関東だし、うちの高校から同じ大学に進学する可能性は低くはないが、俺の記憶にある一色の学力はそこまで高くなかったはずである。

相当勉強したのだろうか、この大学で何かやりたいことでもあったのだろう。

 

いずれにしても高校時代の知り合いに再会というのは悪くない。

一色は俺の高校時代の唯一の後輩であるし、再会したときは驚きの方が強くはあったが、久々のあざとい挨拶は正直かわいかったのは認めねばならない。

 

 

「…一色大丈夫か?」

 

 

「…………」

 

 

へんじがない、ただのしかばねのようだ。

 

 

「一色、起きろ。お前んちどこだ」

 

 

「ありぇ、おはようございます。しぇんはい…」

 

 

…何この可愛い生物。

つうか酔ってるせいか顔が赤く目がとろんとなっていてヤバイヤバイヤバイ。

 

 

「目を覚ませ一色。お前んち教えてくれないと送っていけねえんだよ」

 

 

「おきてますよー。でもわたしの家遠いですし、今日はせんぱいのおうちに帰りましょう」

 

 

ちょっと待って。何言っちゃってるのこの子。

こんな状態のお前俺の家に入れたら何が起こるかわからねえぞ、主に俺の八幡が起きちゃう。

いや今のは無しで。

 

 

「早く行きましょうよ~。なんかフラフラします」

 

 

待て待てだからって抱きつくな、やめろ、いい匂い、近い、可愛い。

しかもこいつ少し大人っぽくなってるというか、ちょっと見ない間に色っぽくなりやがって…

しかし、一色のやつマジでフラフラだし今のこいつに聞いても無駄のようだし仕方ないが今日は俺の家に連れて行くしかないか…

断じてやましい気持ちがあるわけではない。

このまま放置するのは流石に可愛そうだし、家が遠く、今の一色に道を聞きながら家に送るのは得策ではないと判断した結果だ。

 

幸いなことに今住んでる場所はこの飲み屋の近くのアパートなので徒歩で十分な距離である。

しかしそれも俺一人の場合であり、今もなお俺の左側に抱きつきながら意識を失いかけてる一色が一緒の場合は少々骨が折れる。

 

 

「せんぱ~い。おんぶしてください。おんぶ~~」

 

 

「あぁ、しかたねーな。ほれ早くしろ」

 

 

一色におねだりされて俺の108の特技の一つおんぶが発動してしまった。

これも小さい頃の小町をよくおんぶして身につけてしまった特技なだけに年下に強請られると発動するみたいだ。

しかしこいつ軽いな…

でも背中に当たる感触は柔らかい…ってこれは違う違います。

 

 

「やっぱりせんぱいは優しいです…」

 

 

おいやめろそんな言葉耳元で囁くな。ドキッとしちゃうじゃねえか。てか意識はっきりしてませんかね?

一色を背負って歩きながら答える。

 

「対小町用スキルが発動しちまっただけだよ」

 

 

「うわ…やっぱりシスコンだ」

 

 

「ほっとけ……」

 

 

「でも意外でした…せんぱいのことだから大学でもぼっち生活してるとおもったんですけどね。ちゃんと友達いるみたいで安心しましたよ。」

 

 

「まああれを友達と呼べるものかはわからんがな。あの場所を利用しているだけとも言える」

 

 

「素直じゃないですねーせんぱいは。金沢先輩ともいい感じそうじゃないですか」

 

 

「なんでここであいつの話題がでてくるんだよ。あいつとはなんでもねーよ」

 

 

「せんぱいがどう思ってるかわかりませんがあの人はせんぱいに好意を抱いてると思いますけどね。見てればわかります」

 

 

「お前は恋愛博士か何かか」

 

 

「せんぱいだって気づいてるくせに…」

 

 

「………」

 

 

一色の言いたいことはわかる。

正直俺もあいつの好意には気づいてる。そこまで鈍感じゃないし、この1年間でのあいつの接し方を見てればわかる。奉仕部での経験もあるしたぶん勘違いではないだろう。でもだからと言って俺がそれを受け入れるかと言えばそれはまた別の話だ。

サークルに入るきっかけを作ってくれた恩もあるし、あいつのおかげで大学生活が悪くないものだと思った。

しかしそこに恋愛感情があるかと言えば実際の所ほとんどないだろう。それは昔3人で過ごしたあの環境に近いものだ。

 

とても大切で失いたくない本物…だけれどそこにあの二人のような恋愛感情は俺にはなかった。

でも俺は知ってしまったから。俺とは別の感情…いや本物をあの二人は求めているのだと。

それから逃げてしまった自分がいるのだと。

 

 

「似た状況なら知ってるしな。お前に指摘されるとは思わなかったが」

 

 

「ずっと3人を見てきましたから」

 

 

そう告げた一色の声ははっきりとしたものだった。

 

実際一色は奉仕部にとって平塚先生を除けば一番近い存在なのだろう。

だからこそ再会してからのこの短時間で気づいたのだ。

 

 

「やっぱりお前はすごいよ」

 

 

「………」

 

 

へんじがない、ただのしかばねのようだ。(二度目)

 

 

まったく素直に関心したらこれである。やはりこいつに関してはよくわからん。

だが俺に影響を与えた一人であることは間違いない。

 

眠ってしまった一色を背負いながら自宅の玄関をあける。

ちょと掃除しとけばよかったな。

1LDKの間取りのアパートは1人暮らしには十分なスペースであり、逆に広すぎて物を結構その辺においてたりする。

決して掃除がめんどくさいというわけではないです。

 

電気をつけると明るさで一色が目を覚ましたようだ。

 

 

「一色はベッドで寝とけ」

 

 

「うーん、せんぱいどこで寝るんですか?」

 

 

寝ぼけてるのか酔ってるからなのか、それとも演技なのか一色の発言に力がない。

 

 

「俺はその辺で寝るから気にすんな」

 

 

「じゃあせんぱいもベッドでねましょ~ほらほら~」

 

 

「はぁ!?」

 

 

一色のいきなりの提案で素で大声だしちゃったじゃねえか。何この子馬鹿なの?いくら俺が理性の化け物と言われててもこんな可愛い子と一緒に寝たりしたら間違いが起きても不思議じゃねえぞ。

 

 

「だが断る」

 

 

これでいい。まったく年頃の女の子がそういうこと言うんじゃありません。

 

 

「ぶーぶーせんぱいの甲斐性なし~チキンー」

 

 

こいつまだ酔っぱらってるだろ…あー朝になったら本人に今言ってること言いたい。

 

それに…

 

まぁ今はやめておこう。真面目な話を今の一色にしたところで無意味だろう。

 

 

「いいから寝ろ」

 

 

聞き分けのない一色の頭に俺の108の特技の一つであるチョップが発動する。

これもよく小町にしたなー。

 

 

「イタッ…せんぱいがぶった~~~~」

 

 

「酔っぱらいは早く寝ろ」

 

 

「酔ってないです!普通ですよ!普通!」

 

 

「酔ってるやつはみんなそう言うんだよ。これマメな」

 

 

「せっかくせんぱいの家にいるんですからお話しましょうよ~」

 

 

「お前どうせ明日には忘れてるから。そんなに話したいなら明日起きてからにしろ。それなら付き合ってやる」

 

 

「え?なんですか付き合ってやるって。なんでそんな上から目線で口説かれなくちゃいけないんですか。わたしはちゃんとお互いが対等な感じで口説いてほしいんで今のじゃダメですごめんなさい」

 

 

「はいはい。わかったから今日はもう寝るぞ。俺も今日は疲れた、おやすみ」

 

 

そう言って部屋の電気を消す。

 

 

「むぅ…おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠れないんだよな…

同じ部屋に女の子と二人きりで意識しない方がおかしいだろう。

 

寝息が妙に気になる。

 

自分で言っててなんだが一色を一人の女性と意識しているということなのだろうか。

高校時代は可愛い後輩だとしか思ってなかったんだけれどな。

久しぶりに会った一色は可愛い後輩と言うのは何か違う気がした。その何かが何なのかは今の俺には分からないが俺が少し変わったように一色もまた変わったのだろう。

 

まぁ今はもう考えるのはやめよう。今日は疲れたしそろそろ寝よう。

寝息も落ち着いたし。

 

 

「おやすみ、一色」

 

 

そう言って俺も眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後までお付き合い頂きありがとうございます。
次回も引き続き二人のお話にする予定です。

感想やアドバイス等お待ちしております。


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そして先輩と二人きり

更新遅くなりました。すいません。

今回はいろはす視点でのお話にになります!
上手く書けているかわかりませんが最後までお付き合い頂けると嬉しいです。


 

「んっ…、う~ん」

 

 

「やっと起きたか」

 

 

「せん…ぱい?おはようございます」

 

 

何故先輩が。

そして何か料理してる。なんか料理してる姿の先輩カッコイイなぁ。

 

……ん。あれ。あれあれ??でもちょっと待って。今どんな状況ですか?なぜ目覚めると先輩が?思い出して私。

 

昨日先輩たちの飲み会に行って初めてのお酒(本当は先輩と一緒だったため)にテンション上がってしまってどんどんお酒を飲んで…

その後どうしたんでしたっけ……

 

 

「ちょっと待ってろ。もうすぐできるから」

 

 

携帯を見ると時刻は午前9時。どうやら先輩は朝ごはんを作ってくれているようです。

 

 

「あ、はい。なんかすいません」

 

 

「別に一人分作るのも二人分作る一緒だから気にすんな」

 

 

待っている間に昨日の記憶を呼び起こすことに必死になる。

途中で酔っ払った私を送ってくれようとした。先輩に家に泊めて的なことを言った気がする。

それにおんぶとかもしてもらった気が。

 

失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。

 

少しづつ思い出してきたせいか、すごい恥ずかしい。昨日の私何してるの本当。お酒の力って怖い。

恥ずかしさで蹲っていると朝ごはんが完成したようだ。

 

 

「ほれ、できたぞ。朝だし簡単なもんだけど。それと体調どうだ?二日酔いとかないか?」

 

 

軽いサラダにスクランブルエッグとベーコン、食パンがテーブルの上に。

 

 

「ありがとうございますー。ちょっと頭がズキズキするくらいですねー」

 

 

「それが二日酔いっつうんだよ。コーヒー淹れるけど飲むか?」

 

 

「あ、はい頂きます。せんぱい料理できるんですねー。意外です」

 

 

「まぁ一人暮らしだし多少はな」

 

 

先輩の作った朝食は素直に美味しかった。流石元専業主夫志望で1年以上一人暮らししているだけのことはありますね。

そういえば先輩今は編集者目指してるって言ってた気がするけどあれってもしかしてあの時のことがきっかけだったりするのかなー。

 

 

「ごちそうさまです。朝食美味しかったです!食器洗いはしますね」

 

 

「あーいいよ、気にすんな。まだだるいだろうし休んどけ」

 

 

そういうたまにでる優しさずるいです。

 

 

「なんですかどうしたんですか。せんぱいにしては優しくないですか?一晩泊めてもらいましたしこれくらいさせてくださいよー」

 

 

「いや別に普通だろ……優しさの塊みたいなところあるしな俺。むしろ俺の半分は優しさでできているまである。まあしかし一色がそこまで言うなら頼むわ」

 

 

「はいっ♪お任せあれ!」

 

 

「そういう無駄アピールいらないから」

 

 

私の渾身の笑顔をそれだけで済ましますか。ちょっとへこむんですけど。というか別にあざとくないですし!!素直に感謝の気持ち込めただけですし!!

 

 

「無駄ですと!?む、無駄じゃないですよー!ていうかあざとくないですしむしろせんぱいのそういうところのほうがあざといですし!」

 

 

前にも同じセリフを言ったような気がしないでもないけど気にしない気にしない。

でも本当先輩の方があざといですし!!反則ですし!!

 

 

「なんで俺があざといんだよ……、ったく。それで一色は今日どうするんだ?」

 

 

「えー、せっかくせんぱいのおうちにいるのでもう少しこの時間を堪能しようかと」

 

 

「いやいや、堪能できるほどこの部屋何もないから」

 

 

「いえ、別にせんぱいと一緒にいられるだけでいいんですよー」

 

 

笑顔で返したのはいいけれど何かすごい恥ずかしくなってきました。なんなんですかこれ。というか先輩も何か返してくださいよ。気まずいじゃないですか!!

先輩をチラ見すると少し俯いていて表情が見えない。だけど耳のあたりが少し赤くなっているのがわかる。

あぁ、この人も照れてるんですね……

 

 

「……お前そういうのあざとい」

 

 

「あざとくないです!まあ暇ですしお話でもしましょうよー」

 

 

「いや俺が暇ってなんでわかるんだよ。まあいいや」

 

 

「そういえばせんぱい編集者目指してるんですねー。それってあの時のわたしが言ったことがきっかけだったりしますか?」

 

 

「全然ちげえよ。単純に編集者のことを調べる時間があってそれで俺に合ってるかもなって思ったんだよ。それに給料もいいしな。むしろそこが一番の理由でもあるが」

 

 

こういうところは全然変わらないんですねこの人。でも働く意志がある時点で変わったと言えるんですかねー。

 

「なんですかそれ。不純な動機ですねー」

 

 

「まあ職探しなんて結局そんなもんだろ。そういうお前は何か決めてたりするのか?」

 

 

「せんぱいが編集者ならわたしも目指してみますかね?まあ最終的に数年腰掛けたあと寿退社が夢です!」

 

 

「いや何それ理由じゃないし。というかお前が編集者とか一色の学力わからんが普通にしてたらなれないぞ。狭き門だしな。だからこそ俺もそれなりに今から試験対策なり何なりしているわけで」

 

 

「えー、じゃあせんぱいわたしに教えてくださいよー?」

 

 

「いやいや、そんな余裕ないっての。自分のことだけでいっぱいなんだから」

 

 

「ぶぅ~。せんぱいのケチ。卑怯者。捻くれ。八幡」

 

 

「だから八幡は悪口じゃねえよ!!……まぁそのなんだ。本気で目指すならたまになら見てやるよ」

 

 

え?だからなんで先輩はそういう優しさたまに見せるんですかね。そういうのが反則なんですよ。本当にずるいです。

 

 

「俺のためにもなるしな。人に教えるということは自分にも教えるということだしな。言葉にして伝えるとこで改めて分かることもあるし、自分がちゃんと理解していないと教えられないからな。ととあるレジェンドのじいさんが言ってたしな」

 

 

「は?レジェンド?」

 

 

え?何言ってるんですかこの人?大丈夫ですかね?

私は怪訝に思いながら尋ねた。

 

 

「いいよもう今のは気にすんなよ」

 

 

「はぁ、そうですか。まあじゃあ本気で目指すんでせんぱいよろしくお願いしますね?」

 

 

「本当かよ……」

 

 

「あ、そういえばせんぱい!今って4月じゃないですかー?4月といえばなんだと思います?」

 

 

「急になんだよ。4月だし花見とか?」

 

 

「せんぱい馬鹿ですか?わたしに関係することですよ」

 

 

「いや知らねーし馬鹿って言うな。一色に関係すること?……あぁお前4月誕生日だっけそういえば。確か16日だよな…ってもうすぐか」

 

 

むむ……。ちゃんと覚えてくれてるんですね。日にちまで。

なんというかそれだけで素直に感動してしまう自分がこんなに乙女だったのかと思うと少々恥ずかしいんですが。

ほんとずるいなー先輩は。

日にちまで正確に覚えてるとかポイント高いですよ先輩。

 

 

「ちゃんと覚えててくれてるんですね」

 

 

「ぼっちは記憶力はいいからな」

 

 

「今のせんぱいがぼっちとか他のぼっちの人に失礼ですよ?というわけでですねせんぱい16日暇じゃないですかー」

 

 

「いやお前が暇とか知らないし」

 

 

「いやわたしじゃなくて先輩が16日暇ですよね?」

 

 

「いやその日は俺は家であれしなきゃいけないんだよ」

 

 

「暇ですね」

 

 

ニコッと笑顔でそう言うと先輩は顔を引き攣りながら「暇です」と了承してくれました♪

でもひどいですよね先輩。こんな可愛い後輩の笑顔を見て顔を引き攣るとか。どんな環境で育ってしまったらそうなるんですかね!私が先輩を育てなおしてあげないとだめですかね。

 

 

「じゃあ16日はデートしましょう。もちろんせんぱいの奢りで♪平日なのが残念ですが17時くらいに最寄りの駅で待ち合わせで」

 

 

「いや誕生日くらい仲いいやつとか俺じゃないやつと遊べよ」

 

 

「わたしはせんぱいとがいいんですよ?」

 

 

ここまで来たんです今日はとことん攻めてやりましょう。この鈍感ニブチン野郎にはこれくらいでも足りないくらいです。まあ先輩の鈍感は実は敏感だからこその反動のようなものだと思いますが。

 

 

「お前よくそんな心にもないことを……」

 

 

「顔赤いですよせんぱーい。可愛い後輩に誘われてドキッとしちゃいましたか?でもせんぱいと過ごしたいのは本当なんで誕生日はよろしくおねがいしますね?」

 

 

「一色……、お前も顔赤いぞ。まあそんだけ誘われたら行かないわけにもいかないか。可愛い後輩の頼みだしな」

 

 

そう言いながら先輩は右手で私の頭を撫でてくれた。え?ちょ、な、何してるんですか先輩というか恥ずかしいんですが!いやすごい嬉しいですけど……!

 

 

「せんぱい!?」

 

 

「わりぃ、なんか一色見てたら小町を思い出してつい反射的に撫でちまった」

 

 

「いえ別に謝る必要はないんですけど、むしろそのままずっと撫でて欲しいというかなんというか……」

 

 

途中から自分の声がすごく小さくなっていってしまった。だって流石に恥ずかしいですし。

でもこういうのは今まではなかったし少しは先輩に近づけたということなんですかねー。

 

先輩とおしゃべりしていたらいつの間にかお昼の時間になっていた。

先輩はというと少し前くらいから睡魔に襲われたらしく、テーブルに顔を突っ伏して寝てしまっている。

そんなに私とのお喋りに疲れたんですかね?失礼しちゃいますね本当。

まあ私も流石にシャワーも浴びてないので今日はこの辺で失礼しますかねー。

 

昨日と今日はありがとうございますね先輩♪

寝ている先輩の横顔に軽いキスをして部屋を後にする。

ちょっと攻めてみました♪

 

 

 

「はやく16日にならないかな~」

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。


感想、誤字脱字等おかしなところありましたら教えていただけると嬉しいです。


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そして誕生日当日

前回のお話から誕生日まで勧めました。
前回同様いろはす視点になります。
閲覧3万人やお気に入りが300超えました!本当にありがとうございます。
これからもゆっくりマイペースですが投稿していきますのでよろしくお願いします。


「「「いろは、誕生日おめでとー!」」」

 

そう言って挨拶してくれるのは友人の碧たちだ。

先輩の家に泊まった日から数日、今日は4月16日私の誕生日。

え?誕生日ネタ遅くない?すいません作者がSS書き始めたのがつい最近でして……

 

あのあと碧にどんなことがあったとかいろいろ聞かれたりめんどくさかった。

もちろん先輩頬にキスをしたことは黙ってる。言ったらめんどくさそうだし、というか泊まったって言っただけですごいめんどくさかったし……

先輩とはあの日以降、1度だけ合って少し勉強教わった。編集者への道は長そうです……

 

っと、そんなことは置いといて朝から友人たちが誕生日を祝ってくれるのは素直に嬉しなぁ。

 

「じゃあ今日はいろはの誕生パーティーでもしようよ!」

 

「いいね、いいね♪私たちの奢りでいいよん!飲みに行こ♪」

 

友人Aちゃんが提案パーティーの提案に他の子も賛成してくれる。

みんなの気持ちはすっごい嬉しい……、でも今日だけはどうしてもダメなの!

私の今日の予定は既に決まっている。この前先輩の家にお世話になった時に必死に取り付けた予定が。

まあこのことは碧にしか言ってないんだけどね~(。・ ω<)ゞてへぺろ♡

言えない理由としては単純に恥ずかしいというのが第一、それにこのことは実るまで秘密にしておきたい。先輩紹介したらもしかしたらライバル増えるかもしれないし?いやまぁ私と勝負出来る子なんてそうそういませんけどね?

 

「ごめんね~みんな。今日はちょっともう予定入っちゃってるんだぁ。今度誘って?ね?」

 

「しょーがないなぁ。ちなみに予定ってなぁに?もしかして彼氏とか!?」

 

「ち、ちがうよ~。高校時代の友達がお祝いしてくれるっていうからさぁ」

 

「ふぅん。男?男でしょ!」

 

しつこい、しつこいよ!そりゃ先輩が彼氏ならどれだけ嬉しいことか……

というか男と遊ぶっていうのは決まってる感じなんですかね。

 

「いやいや女の子だよ~。前から言われてたから今回はそっち優先でね。ごめんね~」

 

私がそう言った時の碧のニヤニヤした顔が若干イラっとしたのは秘密♪

まあ内緒にしてくれる碧には感謝しなきゃね。

 

「でもいろは可愛いのにそういう話全然ないよねー、一昨日だって告白されてたじゃん?割とイケメンだったのにもったいないよ」

 

「う~ん、わたし今はそういうの興味ないっていうか……、それに顔とかより中身重視だから」

 

「へぇ~。まぁ彼氏欲しくなったら言ってよ!合コンセッティングするし!いろはならすぐすぐ!」

 

「うん、ありがとっ。あ、パーティーには行けないけどプレゼントなら喜んで受け取るよ?」

 

「うわぁ、それは汚い、いろはす汚い!」

 

「その言い方はいろはす(水)がダメみたいで良くないと思うんだけど!?」

 

「じゃあ学食とカフェくらいみんなで奢るよいこいこ!」

 

お昼に奢ってもらう約束を交わし午前中の講義を受けていく。

正直今日の講義は全く頭に入ってこない。夕方からの先輩とのデート?が控えてるし、楽しみすぎてドキドキして眠れないかったんですから……、本当にこういうところ中学生ですかね私は。

 

結局午前中の講義は居眠りしていたら終わったようだ。

先輩の夢を見ていたなんて誰にも言えない。

 

「また、比企谷先輩の夢でもみたの?」

 

ニヤニヤしながら聞いてくる碧。なんなんですか碧ちゃんエスパーか何かですか?

と言ったものの数日前に一度講義中に寝てしまい、その時先輩に告白されてキスをする夢を見た。

もう少しでキスというところで碧に起こされた私は寝ぼけてて「先輩は?」みたいなことを言ってしまい碧にあっさりバレてしまったわけで。

その時の寝顔もバッチリ保存されていたのは言うまでもない。

そんなことで私が講義中寝ていると大体先輩の夢を見てたの?とか聞かれるようになっちゃったんですけどね。

 

「もう~違うよ。今日は別に何も見てないし……」

 

しばらくは寝たらこのネタでいじられるんだろうなぁと思いつつ、先輩の夢は見たい。いやまぁ講義中寝るなよって話なんですけどね。

 

午前の講義が終わり、みんなで学食に行くことに。

今日は奢りなのでAランチで。普段なら昼食にこんなお金かけないけれど今日はまぁ奢りですしいいですよね?

 

みんなでわいわい喋りながら食べていると先輩から1件のメールが来た。

 

『お楽しみのとこ悪いけど今日17時に行けそうにないから18時でもいいか?』

 

お楽しみ?もしかして近くにいるんですかねこの人。それならわざわざメールじゃなくて声かけてくれれば良いのに。

そう思い私はキョロキョロと先輩を探す。私の先輩探索スキルを舐めないで欲しいところですね。

ざっと遠くの方を見回しても見当たらないので今度は自席の周辺を探すといた。

近い。近いというかもはや私の後ろにいる。何してるんですかねこの人。

 

テーブルメンバーを見るといつもの人たち金沢先輩の姿もある。どうやら向こうのメンバーは私たちに気づいてたようだ。

後ろの先輩にしか聞こえないように小声で話す。

 

「せんぱい18時からってどういうことですか?楽しみにしてたんですけど~?」

 

「ちょっとサークルの用事でな。1時間遅れるけど必ず行くから。ダメか?」

 

「ん~それなら仕方ないですね。あっ私も行っていいですか?手伝いますよ?それに先輩のサークル入りたいですし」

 

「あー、聞いてみるわ」と言い、先輩はグループの方へと戻った。

 

昼食をすませ午後の講義を受けていると

 

『大丈夫だと。講義終わったら○○○に来てくれ』と先輩からメールが来た。

 

午後の講義を全て受け待ち合わせ場所へと向かう。先輩はもう来ていたようで他にもいつもの人たちが待機している。

 

「うっす」

 

やる気のなさそうな挨拶をしてくる先輩。ん~こんな可愛い後輩が現れたんですからもうちょっとテンションが上がった感じの挨拶できないものですかね。先輩には無理か……

 

「お待たせしました?今日は何をやるんですかね?」

 

「新入生用のサークル勧誘ポスターが完成したからそれの貼り付けだよー。うちの大学結構敷地広いでしょ?だから毎年この時期はどのサークルもポスターの場所取りで大変なんだぁ」

 

金沢先輩が説明してくれる。あれ?私は先輩に聞いたんですけどね~。

まぁいいですそんなポスター貼り生徒会の頃に何回も経験してますし、さっさと終わらせて先輩とデートに……!

 

実際作業自体はそんなにかかりませんでした。それと同時にサークル参加の申し込み書もササッと書いてしまい、これで私も晴れて先輩と同じサークルの一員です♪

サークルに入りましたって言った時の先輩の顔はめんどくさそうでしたけど!

 

せっかくなので先輩と大学から一緒に駅まで行くことに。別れ際に金沢先輩が先輩に何か言っていたようですけど無視です無視。

 

「まぁ、そのなんだ、手伝ってくれてサンキューな」

 

ボソっと先輩が呟く。って先輩から素直に感謝の言葉が!?あれ今までこんなことありましたっけ?

 

「いえいえ、わたしも早く終わらせて遊びたかったですし~winwinですよ」

 

「しかしお前が本当にうちのサークル入るとはな」

 

「だから言ったじゃないですか。本気ですって。信じてなかったんですか~?」

 

「いや、信じてなかったわけじゃないんだけどな、一色が編集者ってなんか似合わないな」

 

むぅ失礼しちゃいますね。それを言うなら先輩だって……、いや、先輩は似合ってますね、意外と。

 

「まぁいいんですよ、どうせ寿退社するまでの腰掛けなんですからー。相手みつからなかったらせんぱいがもらってくださいね♪」

 

「……あざといろはすあざとい、嫌だよめんどくさそうだもん」

 

ふ、先輩照れてるのバレバレですよ、顔赤いです。

ここは攻めあるのみ。

コホン、んん、と咳払いをしつつ、喉の確認完了。ちらっと上目遣いで先輩を見つめ切れ切れの声で口を開く。

 

「先輩は、私じゃ、……ご不満、ですか?」

 

「………いやまぁ、不満てことはない、むしろ嬉しいまである。まぁ本気ならな」

 

「ふぇっ!?」

 

それは反則なんですけど……!

何言っちゃってるんですかね。あ、ヤバイです、絶対今顔が真っ赤になってる。

……なんか負けた気しかしないんですけど、あざといっていうか若干チャラいんじゃないんですか先輩。

 

「せんぱいのくせに生意気です……、ところで今日の予定は決まってるんですか?」

 

「ん、あぁ、とりあえず夕食にするか」

 

「あー、いいですね。でお店はどこですか?」

 

「ふっ、今回はしっかり予約してあるぞ。金沢が教えてくれたからな」

 

何ドヤ顔で言っちゃってるんですかしかも自分で考えてないですし!?

 

「せんぱい、デート中に他の女の子の話はポイント低いんですけど……」

 

「い、いや俺一人で決めるよりいいだろ。まあ確かに今言う必要はなかったな、すまん」

 

ふむ、今日の先輩は素直ですね。いつもこれくらい素直ならいいんですけどね。私が言うのもあれですけど。

 

しかしこれは私も素直にならないとだめですね♪

そう思い先輩の左腕にしがみ付き頭を肩につける。

うん、カップルみたいだ。今日はこれで行こう。先輩が何か言ってるようですが無視で。

 

「あのぉ、一色さん?周りの視線痛いから……。これぼっちににはきついから。まじ」

 

「デートならこれくらい普通ですよ、せーんぱい?」

 

ぶつぶつ文句を言う先輩を無視し歩いていくとどうやら目的のお店に到着したようだ。

外装からおしゃれな雰囲気を漂わせるお店は今日のような特別な日にはぴったりなのかもしれない。

お店の名前は「SHINO'S TOKYO」どうやらフランス料理のようです。予約席に案内され席に座る。

正直こんないい所に先輩と二人きりで食事というのは想像してなかったのでちょっと笑ってしまう。

 

「何?なんかおかしかったか?」

 

「いえ、先輩とこういうお店で過ごすなんて予想してなかったのでつい」

 

「まあ俺もここまですごい店だとは思わなかったしな。財布大丈夫かな……」

 

「最後の台詞はポイント低いですよ……」

 

こんなところでもいつもどおりの先輩にすこし安心しつつ、注文していく。

二人共お勧めの「うずらの詰め物 リゾットと卵 〜生意気小僧風〜」を注文。

しばらくすると料理が運ばれてくる。

 

「うっわぁ、すっごい美味しそうですねせんぱい!」

 

「お、おう。早速食べてみようぜ」

 

そう言って二人共ナイフでうずらを切ると中から卵とリゾットが流れてくるそれをうずらのお肉と合わせて食べる。

やわらかいリゾットの味わいとこれはキャベツだろうか、シャキシャキっとした触感がなんともいえない味わいで頬が蕩けそうだ。

 

「んん~~~~!すっごい美味しいですよこれ!こんなの今まで食べたことないです!」

 

「美味いなこれ、リゾットだけどこれはなんだろうな親子丼に似てる気がする。うずらの肉もしっかりしててさらに野菜の触感がそれを引き立ててる」

 

「あー、親子丼ってなんかわかります!お肉も美味しいですしこの卵との相性も最高ですね!」

 

料理に大満足したあとは元々予約してくれていたんですかね、ケーキが運ばれてくる。

ケーキもとても美味しかったしポイント高いですよ先輩♪

 

「すっごい美味しかったですね~」

 

「あぁ、まさかあそこまでとはな。喜んでくれて何よりだわ」

 

「また来ましょうね♪せんぱい?」

 

「ん、んんまぁ財布に余裕があったらな……」

 

「もぅ~、そこはそうだな、また来ようぜくらい言って欲しいですー」

 

「うるせー高いんだよ学生なめんなよ」

 

「ふっふっふ。編集者になったら簡単にこれますよきっと」

 

そう言いまた先輩の左腕にしがみつく。

 

「おい、だから恥ずかしいからやめてくれませんかそれ」

 

「今日一日くらいいいじゃないですかー?次はどこいきますかー?」

 

「はぁ……、そうだなぁなんかしたいことねーの?」

 

「そこはせんぱいが決めてくれるとポイント高いんですけどね。せんぱいとならなんでも楽しいので」

 

そう言うと先輩の左耳が赤くなる。ふっ、照れてますね先輩♪

 

「だーかーらそういうのがあざといんだよ……。久しぶりに卓球でもするか?」

 

「あっ、いいですねーやりましょう!今日は負けませんよ?」

 

「はいはい、じゃあ今日も何か賭けるか?」

 

「いいですねー、じゃあわたしが勝ったら今日はせんぱいのおうちにお泊りで♪」

 

「はぁ?なんだよそれ」

 

「えーだってぇここからだとわたしの家遠いですし、それにこんな可愛い子が泊まりに来るとかせんぱいにとって得でしかないですよ?」

 

「いやいや…お前にこられるとゆっくり休めないんだよ。こないだだって…い……り…ス…てくる…」

 

ゆっくり休めないってことはそれなりに私のこと意識してくれてるんですかね。最後の方は小声すぎて何言ってるか聞き取れませんでしたが。

 

「えー何か言いましたか?」

 

「なんでもねえよ、まあ俺が勝てばいいだけのことだからな。さっさとはじめるぞ」

 

ふふふ、先輩は知らない。私が去年球技大会のために(本当はまた先輩と卓球する日が来るようなきがしたから)去年結構な頻度で卓球練習していたことに。

 

「じゃあいきますよー」

 

ゲームが始まり、私は実力を隠しながら続けていく。先輩は前にやった時と大して変わってないと判断し、適度にポイントをわたしにくれる。

現在ポイントは11-10

私が1点リードでマッチポイント。先輩はここからでも挽回できると踏んでるらしく表情に余裕がある。

ここで私は去年卓球部の人から教わった横回転サーブをする。先輩のレシーブは回転のせいか高く浮き絶好のスマッシュボールこれをしっかり狙い……

 

「死ねぇ!」

 

スマッシュは見事にきまり12-10で私が勝利した!

 

「おいおいいつの間にあんなサーブ覚えてたんだよ」

 

「せんぱいを倒すために特訓したんですよ~。約束通り今日はせんぱいのおうちにお泊りしますね!」

 

「はぁ、いいけどさぁ。お前着替えとかどうすんの」

 

「ご心配には及びません。こんなこともあろうかとしっかり持ってきました!」

 

そう言ってお泊まりセットを先輩に見せる。

 

「お前最初からウチくる気満々じゃねーか」

 

「そ、そんなことないですよ……、たまたまです」

 

嘘です、本当は最初から泊まる気しかありませんでした(。・ ω<)ゞてへぺろ♡

だってこうしてかないと全然進展ありそうにないですし、一応敵というか邪魔な存在というか金沢先輩みたいな人もいるわけですから?攻めれる時に攻めていかないといけないわけで……

 

「じゃあわたし疲れましたしそろそろ帰りましょう!」

 

「おーおつかれ。じゃあなあ」

 

何帰ろうとしてるんですかねこの人。たった今泊まりに行くって言ったじゃないですか。

 

「せーんぱい」ニコッ

 

「ひっ、わ、わかった。帰ろうぜ」

 

ふふん、それでいいんです。まったく少しは慣れて欲しいものですね。

この前は酔ってしまってあまり先輩の家にいたという実感がないので今日はしっかり堪能します!

 

帰り道も先輩の腕にくっついていると急に先輩が「少し寄ろうぜ」と公園に行くことに。

 

「あー、そのなんだ。一色、誕生日おめでとう。これ一応プレゼント。気に入らなかったら付けなくてもいいから」

 

え、いきなりなんですか、っていうか今ここでですか。不意打ちすぎるんですけど!

 

「あ、ありがとうございます……。開けてもいいですか?」

 

「お、おう」

 

先輩に渡された箱を開けると中にはピアスが。

 

「まぁそのなんだ、何あげていいかも良くわからんかったしな。この前お前ピアス付けてたし。それなら似合うかなと思ってな」

 

「う、嬉しいです!これ一生大事にしますよ!ありがとうございます!」

 

「いやなに、喜んでくれたならいいんだ」

 

「せんぱいもこういうのを渡せるんですね~ポイント高いです♪」

 

「ったく、一言余計だ」

 

そう言って私のおでこを指で弾く。痛いです。

 

「じゃあ、その、なんだ、帰るか」

 

「はい♪」

 

また私は先輩の腕にくっつき二人並びながら先輩の家に向かう。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想や誤字脱字ありましたら教えて頂けると嬉しいです。

もうなんかこの二人付き合ってんじゃねえの、っていうか早く付き合えよと思いながら書いてます。
自分で出しておきながら金沢?誰それ?お呼びでないんだけど?みたいな感じです。まあぶっちゃけいろはす可愛すぎて他なんてどうでもいいんだよみたいな!


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そして裏側では

今回はほとんど八色でてきません。すいません!
ほぼ?オリキャラのみになります。

八色期待していた方申し訳ないです。先に謝っておきます。



4月16日

 

いろはが比企谷先輩とのデートのため私たちと別れた後、私たちは街で遊んでいた。

今ごろいろはは比企谷先輩とよろしくやってるのかなぁ。

ちょっと見たかったな。あの二人ってどんなデートするんだろ。一方的にいろはが比企谷先輩のこと連れまわしそう。

うん、容易に想像できる。いやむしろそんな感じしか想像できないまである。

 

私以外の友人はいろはが今日好きな先輩とデートしていることは知らない。もちろん私から言うつもりもない。

別に他の子たちを信用していないわけではないのだけれどねっ。いろはの想いが上手くいったのならちゃんとみんなにも報告すると言ってるし。

 

「せんぱいを紹介してライバルが増えるのは困るし、どうせわたしが勝っちゃうからその時みんなに申し訳ないし」

 

ちょっと困りながらも自信をもって言った一言だったと思う。少し照れていたいろはすマジあざとい小悪魔。

そんなに競争相手増えなさそうだけどなー。これ言うと怒りそうだから言わないけどね☆

 

まあでもいろはがあんなに夢中になるあの人に興味がないわけでもなく、特に高校時代のいろはのライバルの話とか聞いてたらそのころの話とか聞いてみたいな~なんて思ったりもしたわけなのですよ。

 

だって傍目からみてもいろははかなり美人の方に入るし、あの計算尽くされた可愛さ、元い、あざとさの前では敵はいないと思ってしまうわけで。

そんな彼女がライバル、強敵、ラスボスたちっていうほどの女の子とか同性としては凄く興味あるわけなんですよね!

まあいろはは教えてくれないけれどね。ケチっ。

 

私がそんなことを考えて歩いてると友人たちがいろはの話題を持ち出す。

 

「いろはって合コンとか来ないし、男関係の話題ってあんまりださないよね」

 

「あーわかる。あんなに可愛いのになんか引っかかるよねー。彼氏いるって雰囲気ではないんだけどね。ああいう子って彼氏いたら雰囲気でわかるし!」

 

「でもたまに恋する乙女みたいな表情するときあるよね~」

 

「「それある!!」」

 

これ言わせたかっただけでしょ作者。

まあ実際主に講義中だろうか、物思いに耽っているいろはの表情は可愛い。

というか私あの子のこと可愛い可愛い連呼してるけど別にそっちの趣味はないからね?

 

「あれは絶対恋してると思うんだ私。推測だけど今日も実はそれ関連だと読んでる」

 

あんたたち意外と鋭いなー。なんて思っていると見慣れた女の子とアホ毛がピョンっと伸びている猫背の男性が一緒に歩いているのが見える。

亜麻色の髪の女の子が猫背の男性の腕に抱きつき寄り添いながら歩いてる。

 

あれ絶対あれだよね!?いや確かにこの辺でデートするって言ったらここら辺にいる可能性もありましたけど!?なんてタイミングでいんのよ……

 

というかあの二人なんなの?付き合ってるの?付き合ってないよね?普通にカップルに見えるんだけど?本当リア充爆発しろ。なにがボッチうんぬんなんでしょうね?街中でイチャつくなー?

 

しかし、これはどうしたものか。

 

幸い、他の子たちはまだ二人に気づいていない。そもそもみんなは片方を知ってはいるが男性(比企谷先輩)を知らないわけでもしかしたらこのまま気づかないことも考えられるわけで。

下手にアクションしないほうがいいかな……、いいよね?

と思っていた時期が私にもありました。まる

 

「ねえねえ、あれいろはだよね?」

 

「え?何々?あー本当だ!あれ?一緒にいるの誰?っていうか男じゃん!」

 

「だよねだよね!あれ女の子じゃないよね?しかも寄り添っちゃってるし」

 

「あー……、いやでもここからだと本人かわからなくない?他人のそら似みたいな?」

 

我ながらこれは厳しい。というかここでフォローすると私まで怪しくなるじゃん!

 

「いやいや、あれどう見てもいろはでしょ(笑)碧何か知ってそう」

 

ジトーっと睨まれる私は「あははは……」と目を逸らすしかなかった。

 

 

 

結果的に言うと私は話さなかった。

友人たちがそんなことよりいろはを尾行しようと言ってそのまま尾行することになったからだ。

友達である私たちにわざわざ嘘をついた罰で仕方のないことらしい。

仕方のないって……、めっちゃノリノリですやん。こんなはしゃいでるの私初めてみたんですけど?

まぁ私も多少なりと二人の様子は気になっていたし?尾行も吝かではない……。うん、いろはごめん☆

 

二人はどうやら卓球をするらしい。私たちはばれない様に、尚且つギリギリで声が聞こえる位置に陣取り二人を観察する。途中店員さんに注意されたのは内緒☆

 

「いろはすごい楽しそうだねー」

 

「うん、あんな顔見たことないよね。あの男の人って彼氏かな?」

 

「友達に寄り添わないでしょ?あれは彼氏だね。秘密にしてたんだよきっと」

 

「これは話してもらうしかないようですねぇ♪」

 

「い、いろはの片思いかもしれないし、まだ彼氏とは決まってないんじゃないかな~?」

 

こんなフォロー無意味だと思いつつ、い、一応ね。

 

そのあとすぐ向こうから「死ねぇ!」という声が聞こえてビクッっとなった。あれ?ばれた?!

と思ったけれどどうやらいろはがスマッシュを決めてどうやら終わったらしい。

 

「そろそろ時間もあれだし、今日は解散しない?」

 

ばれるとまずいし、早く退散した方がいいと思った私がそう言った直後、いろはがとんでも発言をする。

あんた声でかいよ……

 

「せんぱいを倒すために特訓したんですよ~。約束通り今日はせんぱいのおうちにお泊りしますね!」

 

「「「「お泊り!?」」」」

 

全員がお泊りという言葉に反応しもうテンション上がりまくりで……

 

「あやつ、やりおる」

 

「リア充爆発しろ……、私なんてこの間の合コン失敗したのに」

 

「わ~これは事情聴取とらないとだ♪」

 

いろは南無。私はそう心の中で呟き、合掌する。

 

そのあと二人は寄り添いながら消えて行った。

 

私以外は今日のことでいろはに何を質問するかやら説教だやら言う話し合いをすると居酒屋に向かっていった。

私は疲れたのカフェで一休みすることに。

 

 

 

そしてまた見知った顔の女性に出会うのであった。

 

 

 

私がカフェでコーヒーを飲んでいると「碧ちゃんだー。こんばんわ♪」と挨拶された。

声の主に振り向くとそこには金沢先輩が立っていた。

 

「こんばんわ、金沢先輩。先輩もお一人ですか?」

 

「うん、さっきまで友達といたんだけどねー。ある現場目撃しちゃってね」

 

ある現場ですか……、奇遇ですね私も目撃しましたよ。これあれですよね間違いないですよね。

 

「あはは……、いろはと比企谷先輩ですか……」

 

「そうそう、もしかして碧ちゃんもみちゃったんだ?」

 

「友達と目撃しちゃいましたね」

 

「同じだね~。私以外は今日のこと知らなかったからみんな見たとき興奮しちゃってさ。これはあいつに問わなければならない!とか言ってなんか作戦会議してるよ今」

 

あはは、っと答えた金沢先輩の笑顔は楽しそうだった。

 

「まったく同じ状況ですね。でもいいんですか金沢先輩?あれもうほとんどカップルですよ?」

 

「ん~何が?」

 

この人……、私の言っている意味くらいわかるだろうに。存外食えない人なのかもしれない。

 

「いやなんというか~、金沢先輩も比企谷先輩のことす、す、好きだと思ったんで、あとから来たいろはに取られちゃうのは面白くないかなって思ったわけです」

 

好きって単語がなかなか言えないとか意外と私って純情?流石に狙いすぎか。てへ

 

「碧ちゃん言うね~。そうだね~。ここじゃあれだし一杯付き合わない?先輩奢っちゃうよ?」

 

碧知ってる!先輩の一杯付き合わないか?って一杯だけのことじゃないの!場合によっては潰されちゃうの!

 

まぁでもこの時の金沢先輩の目をみたら断れなかった。私も知りたいことあるし丁度いい。

 

「いいですねー。女子会ですか♪大学生って感じします」

 

金沢先輩はふふっと微笑んだ。

二人で居酒屋に向かう。

 

少し意外だった。金沢先輩みたいな人なら居酒屋っていうよりBARとか行くのかな?と思ったりしてたからである。

でもよく考えたら前の飲み会も居酒屋で主催は金沢先輩だったし、この人は居酒屋の方が好きなのだろう。

 

「お酒飲むときってワイワイしたいんだ。だから私はこういう雰囲気の居酒屋が好き」

 

あっれ~。私心読まれてるかな?

 

「私もこの雰囲気好きです」

 

「じゃあとりあえず乾杯しよっか」

 

「「かんぱ~い」」

 

女子大生で大ジョッキの生を飲む。うん。言わないで。

 

「美味しいですねー」

 

「やっぱりこれだよね♪」

 

お通しと注文したおつまみを食べながら金沢先輩は口を開く。

 

「うんとね、碧ちゃんは私が彼を好きだと思ってるんでしょ?」

 

「そうですね、まあいろはもそう思ってると思います」

 

「確かに私はハッチーのこといいと思ってるけど、私のは恋愛感情じゃないよ?」

 

「その場合いいっていうのはどういうことになるんですか?」

 

「そうだね。友情に近いかもしれない。若しくはただただほっとけないのかもしれない」

 

友情か……。異性間での友情。これは本当にあるのだろうか。

 

「ハッチーってね入学当初は今以上に目が腐ってたんだ。私はその目に惹かれた。なんでこの人入学初日からこんな目をしているんだろうって。それから気になってねー、いろいろ話かけたんだ。いつも読書してるし、私も本好きで将来出版社とかに入れたらいいなって思ってるしね。ここきっかけにして近づけたらなぁなんて思ったりもした。」

 

それもはや恋じゃないんですかね!って突っ込もうしたけど今は話を聞き続けよう。

 

「でね、無理やりサークル参加させた後の初めての飲み会かな。先輩たちに1年生はすごい飲まされてハッチーべろんべろんになっちゃったんだ。その時初めていろいろ聞けた。高校の卒業式のあとの春休み、二人の女の子に告白されたこと、自分の出した答えは本当にあってるのか、彼女たちを傷つけただけだったんじゃないかって。ほとんど二人の自慢話だったのもあるけどね。正確には…人だけど」

 

きっと二人の女の子とはいろはがよく言うラスb、ライバルのことだろう。最後ちょっと聞き取れなかった。

 

「なんかその時のハッチーすごくてねー。まああの時の1年生は大抵先輩に潰されてトラウマみたいなの掘り起こされて共通意識みたいのが芽生えちゃったのかな?それが今のグループなんだけどね。まあハッチーの場合話聞いた感じ答えは何も間違ってないし、問題なのはその後何もしてないってことだと思うけど」

 

ところどころ暈して喋ったのはこの人も何かその時掘り起こされたのだろう。なんてことを考えた。

 

そして思い出したように彼女はまた口を開く。

 

「あとね、ハッチー限界超えるとおもしろいんだ……、ぷぷっ。あれ、いろはちゃん、に聞かせて、あげたいっ」

 

何やら笑いを堪えている。ちょ、ちょっとーめちゃくちゃ気になるじゃないですか!!

 

「まあそれが私がいろはちゃんと戦う気がない理由かな?あれを聞かされちゃうとね~~。というか私はハッチーに幸せになってもらいたいんだと思うんだよね。で、それをできる子がやっと追いついてきてくれたというか。だから私は協力するしたまにはぶつかってみたいと思う。いろはちゃんは私のことあまり知らないと思うけど、私は彼女をよく知っているから」

 

そう告げる金沢先輩の表情はとても素敵だと思えた……、ただ理由というには少しわからないところがあったけれど。

 

「あ、でもこの話は内緒だよ~。あ、ハッチーお酒で潰すのは協力するけどね♪」

 

あはは、と笑いまたお酒を飲む。

 

今夜は帰れなさそうだ。




最後まで読んでくださいありがとうございました。

次回はまた八色出していくのでよろしくお願いします。
今回はオリキャラがほとんどということで自分で書いててもなんか難しかったです。


よかったら感想などあると嬉しいです。


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誕生日の夜は

投稿遅くなって申し訳ありません。
一応今回は誕生日の日の続きとなっております

話がなかなかすすまない(´・ω・`)


 

 

「とうちゃく~♪ただいまですっ」

 

先輩とのデートを終え、私たちはマイホームに帰ってきた。(なんか同棲みたい。てへ)

 

「何それあざとい。というかここお前んちじゃないから」

 

「あざとくないですよ!別にただいまくらい言ったっていいじゃないですかー」

 

「狙いすぎなんだよ、お前は素の方が可愛いと思うぞ?」

 

「また、あざとって、ふぇっ!?」

 

本当にこの人は不意打ちが得意だ。しかもそれが効果は抜群で急所を狙ってくるから卑怯である。

 

「あ、いや、そのな、あざといのに比べたらってことだ。深い意味はないからな。勘違いするなよ」

 

「か、勘違いってなんですかツンデレか何かですかわたしがせんぱいに好意を持ってるとでも思ってるんですかねそっちのほうが勘違いです!」

 

ちょっと負けた気がして悔しいので早口で否定する。これなら何言ってるかわからないでしょう。

 

「お前よくそんな長く喋って噛まないな。俺もう疲れたし横になるから一色はベッドつかっていいぞ」

 

なんかすごく興味なさそうに言われたんですけどー……

 

というかですね先輩。二十になる男が1個下の後輩を部屋にあげてそのテンションはどうかと思うんですよね。

いや確かに私が無理やり先輩の家に来た感はありますけど。

自分で言うのもなんですが高校時代より綺麗になりましたし?

スタイルというか胸だって結衣先輩までは無理ですが多少は大きくなってるんですよ……?

前回は不覚にもお泊まりしたのに全く記憶がありませんが今日は体調も良好ですし、お酒も入っていないので十分にポイント稼ぎにいきたいんですけどー。

だけれどそこで私は思った。よく酔ってると間違いが起きやすいと聞くけど、酔ってる私は間違わなかっていうことは、これって今の状態だともしかして前回よりも厳しい戦いなんですかね……

 

でも関係を進展させるのにお酒の力を借りるっていうのは何か違う気がするしなぁ。

それは果たして本物といれるのかな。

 

あぁ~もぅっ!なんで私一人でこんなに悩まなくちゃいけないんですか!これが惚れた弱みってやつですか、そうですか!

 

はぁ……、なんか疲れたなぁ。

さっきまで割と良い雰囲気だと思ってたのは気のせいだったのだろうか。

私としてはせっかく先輩と二人きりなのだし、もうちょっと先輩とお話ししたりしたいけれど先輩はそう思っていないと思うと途端に悲しくなる。

どれだけ私は先輩のこと好きなんだろう。

 

こんな状態で眠れるわけないじゃないですか、もう……

それに卓球で少し汗かいたし、とりあえずシャワー借りよう。

 

「せんぱい、シャワーお借りしていいですか?」

 

「あぁ、いいぞ。そういや卓球で汗かいたしな」

 

ちゃんと返事は帰ってくるんだ。寝てるのかと思った。

 

先輩に一言告げシャワーを浴びる。

ここで先輩が毎日シャワーを浴びてるんだなぁと思うと少しだけ恥ずかしくなる。

そもそも私は先輩にどう思われているか知らないけど男の人の家に遊びに行くこと自体、つい最近の先輩の家に来たのが初めてなわけで、緊張だってしてるのに……

先輩は緊張とかそういうのまったくしてなさそうだし、もしかして慣れてるのかな。

雪ノ下先輩や結衣先輩が先輩の家に行ったりしたこと聞いたことあるし、大学に入ってからの先輩を私はまだあまり知れていない。金沢先輩にだって先輩はある程度気を許している部分もあると思うし、あの人もここに遊びに来たことはあるんだろうなと思うとどんどん負の方向に考えが進む。

 

「あれ……、おかしいな、なんで、こんなに、悲しいんだろ……」

 

さっきまであんなに楽しかったのに気づけばシャワーを浴びながら私は涙を流していた。

先輩の存在が遠い。

こんな気持ちになるためにここに来たわけじゃないのに。

 

少し気持ちを落ち着かせ、浴室からでる。

しまった……。替えの着替えの入ったバック玄関だ。

今先輩に声をかけるのは少し気まずいしどうしよう……

 

少し悩んでいると不意に扉の開く音が。

 

「一色、お前のバッ……!?!?」

 

「へっ!?」

 

バタンと扉が閉められ外から先輩の声が。

というか今完全に見られた?あれ、あれ……

 

「わ、わりぃ……、何も持たずに入ったからバック持って置いといてやろうと思って。すまん」

 

「い、いえわたしも今それを頼もうかと思ってたんで……、その、すいません」

 

「あ、ああ、じゃあ俺戻るわ……」

 

バックから着替えを取りだし、急いで着替える。

 

ヤバイヤバイヤバイ。主に心臓が。落ち着け私。扉が開かれたのは一瞬だ。如何に私がまったく隠してなかったとしても流石にあの一瞬で全てを見るのは不可能に近い……はず。

 

あーーもう顔が熱いよぅ……。

 

「平常心、平常心……」

 

自分に言い聞かせリビングの方に向かう。

 

「え、えっとー、シャワーありがとうございましゅた」

 

噛んじゃったーーー!私のアホバカドジマヌケ!これ完全に動揺してるのばれるじゃん!

 

「い、いや、気にしゅんな」

 

先輩も噛んだーーー!あれ、この人も動揺してます?

あんなに素っ気なかったのに?ちょっと嬉しいかも?

 

「先輩、後輩の裸を見て動揺してるんですか?噛んでますよ。キモイです!」

 

少しいつもの自分を取り戻してきたかもしれない。

 

「うるせー、お前だって噛んでただろ。それに一瞬だったし全然見えてないから。ホントだから」

 

先輩はプイッと顔を背けながら答える。先輩のくせにその仕草可愛いんですけど、というかあざといですそれ。

さっきまで落ち込んでいたのに先輩と少し話してるだけでこうも嬉しくなるとは……

我ながら先輩のこと好きすぎでしょう……

 

「まだ、誰にも見せたことのない私の裸を見た罪は重いですよ、せんぱい?」

 

「いや、だってあれは不可抗力だし。というか初めてって意外だな」

 

「やっぱり見たんじゃないですか!言い訳は聞きたくありません、責任取ってください。しかも意外ってなんですか!こう見えてわたし身持ちは堅いんです」

 

「こう見えてって言っちゃってるじゃん。とりあえず責任ってなんだよ……、俺のできる範囲でにしてくれ」

 

「責任は責任ですよ?それに先輩にしかできないので大丈夫です。ただまだその時ではないので今は貸し1つということで」

 

さすがにこれを理由に一気に攻めることはしない。これが理由で私の願いが叶うほど先輩は甘くないことくらいわかってる。

だからもっと良い関係になった時にこれを使わせてもらいますよ、先輩。

 

でもここで何もないのも味気ないなー。

 

 

あっ、いいことを思いついた。

 

「せんぱい、髪を乾かしたいんですけど」

 

「あー、ちょっと待ってろ」

 

先輩は部屋からドライヤーを持ってきて私に手渡そうとする。よし、ここまでは作戦通り。

私はそれを受け取らない。

 

「せんぱいどうしたんですか?早く乾かしてくださいよ」

 

「は?俺がすんの?自分でやれよ」

 

「はぁ、私先輩に裸を見られたことサークルで言っちゃいそうだなぁ」

 

「わかりました。やらせていただきます」

 

勝った。完全勝利だ。

 

先輩はドライヤーの電源を入れ私の髪に当てる。

ただ私の髪には触れようとしない。

 

「せんぱい、ただ当ててるだけじゃ中の方乾かないんですけどー」

 

そう言うと先輩は「はぁ」とため息をつきながら手で私の髪を触りながら乾かす。

自分で言っておいてあれだけど、これちょっと恥ずかしい……。

先輩の手は優しくて、撫でられているような気分になる。これ凄い気持ちいいんですけど、ずっとこうしてたい。

 

 

 

「ほら、もう大丈夫だろ」

 

先輩の言葉で心地のよい時間は終わりを告げる。でもまだだ。まだ終わりじゃない。

 

「ありがとうございます。せんぱいも汗かいたんですしシャワー浴びた方がいいですよ?」

 

「え、なに?臭う?」

 

別にそこまで臭ってはいないのだけれどここで臭わないと言ってしまうと終わってしまう。

 

「自分ではわかりにくいですからね。浴びた方がいいです。間違いないです」

 

そう言うと先輩は仕方ないかと浴室の方に向かった。

 

 

しばらくすると先輩が戻ってきた。もちろん髪の毛は少し濡れている。

さて作戦の実行に移りますかねー。

 

「あれれー?せんぱい、まだ髪の毛濡れてますよ。ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃいます」

 

「あー、そうだな。一色、悪いけどドライヤー取ってくれ」

 

どうやら先輩は気づいていないようですね。これから自分が何をされるか……、ふふっ。

 

「はーい、じゃあわたしが乾かしてあげますね♪」

 

「へっ?いやいい、自分でやるから」

 

ふっ、先輩は断れる立場の人間じゃないんですよ?

 

「裸……」

 

「お願いします……」

 

「よろしい。では可愛い後輩がせんぱいの髪の毛を乾かしてあげましょう!」

 

ドライヤーをつけて先輩の髪の毛を乾かす。意外と綺麗な髪の毛だなぁこの人。

触ってて気持ちいい。単純に先輩に触れられているっていうだけでテンションも上がる。

というかこれってあれですよね、ただの友達同士だったら絶対にしないですよね?

顔が少しにやけるのがわかる。

 

 

「……もうよくね?」

 

女性に比べると男性の髪はすぐ乾くのでいいな、なんていつもは思ったりするけど今日はなんでこんなにすぐ乾いてしまうのだろうという気持ちでいっぱいです。

 

「ふふっ、せんぱい気持ちよかったですか?」

 

「あー、まあなんだ、その、悪くはなかったな」

 

乾かした髪をガシガシと掻く。

これは照れてますね。少しは意識させれただろうか。

 

「せんぱい照れてます?顔赤いですよ?」

 

「そりゃ照れるだろ。まだ俺だからいいけど他の男なら勘違いしちゃうぞ」

 

こんなの先輩以外にするわけないじゃないですか。あと先輩は少しくらい勘違いしてください。

 

「まぁせんぱい以外の人にやるつもりはありませんからね♪」

 

「本当あざといなお前……、もう寝るぞ」

 

そう言ってすぐに顔を背けた。だけどその前に先輩の顔がさっきより赤くなっていたのを見逃さなかった。どうやら作戦は大成功らしい。

 

少しだけ満足して私は先輩のベッドに向かう。枕に染みついた先輩の匂いが鼻孔を擽る。

 

 

 

 

「おやすみなさい、せんぱい」

 

 

 






最後まで読んでくださいありがとうございました!
前回の投稿から結構あいだ空いてしまいすいません(´・ω・`)
ではよければ感想や評価をしていただけると嬉しいです!


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彼女は宣言し、彼は一歩踏み出そうとする

このお話で4月のお話は終わります。
次回は5月か夏の話にしようと思います。
4月の話に2ヶ月もかけてしまった……


 

 

「「「いろは、おはよー!!!」」」

 

誕生日の次の日先輩の家に泊まりそこから通ってきたと思われるいろはに友人たちが元気いっぱいで挨拶をする。

 

「ど、どうしたのみんな……、朝からやけに元気すぎない?」

 

「そんなことないよ~!ねぇみんな♪」

 

うわー、これはいろはさんもう逃げられませんねえ……

 

「いろはさぁ、みんなに何か言うことない~?」

 

「えー?なになに?あ、昨日ね友達に誕生日プレゼントもらったんだけど見て!これ可愛くない?」

 

えへへ~と、すごい緩んだ表情で私たちに比企谷先輩にもらったと思われるピアスを見せてきた。

惚気てるなぁこの子。私たちが誰からもらったか知ってるとも知らず……、いろは南無

 

「うわ~~、かわいいね!しかもいろはにピッタリじゃん!」

 

「でしょ!でしょ!こんなにセンスのいいものくれるなんて正直思ってなかったんだけどねー。なんかそういうところがあざとい……って違う違う。高校時代からの友達だからわたしにぴったりの買ってくれたんだよ、うんうん」

 

この子隠す気あるの本当。半分くらい自分で漏らしてるからね……、さすがに私もフォローできないし。

 

「さてさて、じゃあ積もる話はお昼にいろいろ聞きますかー、みなさん♪」

 

「「そうだね~♪」」

 

いろはは「え~、なになに。みんなどうしたの~?」と緩んだ表情でいるがこれが午後どうなるか私としても多少なりと興味はあるので楽しみに取っておくとしよう。

 

そして午前の講義が終わり、みんなで学食に向かうことになった。

講義中いろははずっと「えへへ~」とニヤけながらピアスに触れていたが、そこは多めに見てあげよう。うん、私って優しい。

 

しかし、やはり学食はこの時間混んでるなぁ。ぎりぎり5人座れる席を確保し、食券を買って並ぶ。

そしてみんなが準備出来たところで尋問タイムの開始である。

頑張れいろは!負けるないろは!

 

「で、いろはちゃん?私たちに何か言うことあるよね~?」

 

「え、なになに?本当わかんないんだけど……?」

 

「ほうほう、この子はまだシラを切る気ですよ、姉御……」

 

「仕方ないですねえ……。あれを見せちゃいますか」

 

そして友人の一人がスマホを取り出し、昨日撮った二人で歩いている写真を見せる。

 

「えっ!?」

 

まさか昨日のデートを撮られていたとは思いもしなかったいろはは言葉が出ない。

 

「いろはさん、これはどういうことですかね~?昨日は確か高校時代の女友達と遊ぶって話だったよね?」

 

ゴホッゴホッっと後ろの方から咳き込むのが聞こえる。私たちうるさかったかな……?

 

「え、えっと……、こ、これは……、そ、そうこの子ね、男装趣味があるんだよ!いやだなぁ、私も昨日知ったんだけどね?大学に入って何かに目覚めちゃったみたいなんだよー。」

 

いろは、その言い訳は辛い、辛すぎるよあんた……

後ろ姿ではあるけど完全にいろはが比企谷先輩にベッタリくっついている。

これは普通に見たらその辺にいるカップルだ。

 

「ふ~ん、その割にはなんかやたらくっついてるよね?見た目完全にカップルなんだけどなぁ」

 

「ほ、ほらそれくらいなら女友達同士なら全然するでしょ?特にその子とは仲良かったしさ?」

 

や り ま せ ん。

どんだけ百合百合してるのよ。

 

「というかね、私たちこのあとも尾行してたんだよね、卓球やってるいろはも生き生きとしてたね~」

 

「はぅっ……」

 

言葉に詰まったいろはは何故かこちらに救いの眼差しを向けてくる。

いや無理、この状況は私一人で助けるには不可能だからね?だからいろはさん……、思いっきりゲロっちゃおう♪

 

「ということで本題です。いろははこの人とどういう関係なの?やっぱり彼氏?昨日はこの人の家に泊まったんでしょ?」

 

「えっ、なんでそれも知ってるの?って、……もしかして聞いてた?」

 

「バッチリ!ね~?」

 

「「ねーー」」

 

おーおー、いろはさん顔真っ赤ですね。ちょっと可愛いな。

 

「えっと、その人は高校時代の先輩で、今はこの大学にいて同じサークルの先輩です」

 

「それでそれで?」

 

「みんなが思ってるようなあれじゃないんだけどなぁ……、まだ付き合ってないし……」

 

「まだ?ってことはいろはは付き合いたいんじゃないの?」

 

こやつ墓穴を掘ったな……。まあ大分気が動転してるみたいだし仕方ないのかも?

 

「うぅ……。確かに私はその先輩のこと大好きだよ。大まかに言うと高校1年の冬くらいからずっと片思いしてる。大学も先輩を追ってきたんだ。高校の時に想いを伝えられなくて後悔したから……」

 

また後ろのほうからゴホゴホと咳き込む音がさっきよりも大きく聞こえる。なんだろうそんなうるさいかな私たち。

 

「それでこないだ再会して、昨日誕生日だからってデートしてもらったの。それが大学で初デート、だから付き合ってもないよ。私は今すぐにでも付き合いたいけど」

 

もうバレてしまったのならといろははどんどん自分の気持ちを友達たちに言っていく。私しか知らない秘密がなくなるのはちょっぴり淋しい気持ちもあるけど、共有できる嬉しさもある。

 

「それで昨日は何か進展なかったの?家に泊ったんでしょー」

 

「いやぁ、それが先輩ひどいんだよ?家に着くなり疲れた寝る、だもん。流石に悲しくなって泣きそうになったもん。私って先輩にとってそんなに魅力ないのかなって……」

 

「えー、本当に!?いろはと一つ屋根の下にいて何もしないとか……、あたし男なら絶対襲う自信あるよ!」

 

「あはは……、ありがと。まぁでもそこがまた先輩らしいと言えばらしいんだけどね。……それにそのあとしっかり相手してもらったし」

 

やっぱりハート強いなぁ。というかポジティブって言えばいいのだろうか。そして最後が声が小さくて聞こえなかった。

 

「まぁあと3年あるし、気長に攻めていくよ。最終的に隣にいれたら私の勝ちだしね♪」

 

ニッと笑って私たちにそう言ういろはの顔はどこかあざとく、だがその口調は真剣な雰囲気をまとっていた。

こういうところは本当にこの子の凄い、いや長所なのだろう。不覚にもその表情に見惚れてしまった。

 

「じゃあそろそろいこっか!」

 

友人の合図で全員が席を立つ。

午後の講義も頑張るとしますか!

 

 

 

 

* * * * * * *

 

 

 

 

いろはちゃんたちが席を立った後、私たちは彼を見つめる。

顔を真っ赤にさせて「こっちみんな……」と恥ずかしがっている男は先ほど後ろの席で話題に上がっていた比企谷八幡だ。

 

いろはちゃんたちは気づいていなかったようだけれど、私たちはさっきの会話の一部始終ばっちり聞いていた。流石に本人が聞いてるとは思ってないだろうし、あれはいろはちゃんの本音とみて間違いない。

流石のハッチーでもそれくらいはわかるでしょう?

 

「で、ハッチーはどうするの?」

 

私は優しく彼に尋ねる。

 

「どうって……、別に今すぐどうしようとか俺にはやっぱりまだわからん。」

 

「おいおい、せっかくあんなに可愛い後輩がお前のこと想ってくれてるんだぜー?ハチも答えてやれよ」

 

男子勢はイケイケムードでハッチーを煽る。でも彼はそう言われるときっと萎縮してしまうのだろう。

 

「まぁまぁ、ハッチーにはハッチーなりの考えがあるんじゃないの?」

 

「今すぐにあいつの気持ちに答えるのは無理だ。俺自体混乱してるし。ただ一色といるのが楽しいと感じる自分がいることは理解してる。それは高校時代もそうだったし。ただ、それがあいつが俺に抱く感情と同じかって言ったらそれはまだわからないんだ。それで急いでしまって間違って、今の関係を壊すのが怖いんだよ……」

 

これは彼の言い訳だ。彼はまた同じことを繰り返そうとしてる。そんなのはだめだ。

 

「ハッチー、私は恋愛感情って人それぞれだと思うんだ。だから必ずいろはちゃんと同じ想いをもたないといけないわけじゃないと思う。それにハッチーだって本当はわかってるはずだよ?」

 

「……?」

 

「雪ノ下さんと由比ヶ浜さんの時もそうやって違うと思って答えをださなかったんでしょ?それであなたは後悔した。私はあなたに後悔だけはしてほしくないよ。間違わない人間なんていないよ。1度間違ったならそれをちゃんと次に生かせばいいんだよ。人ってそうやって成長していくんじゃないのかな?」

 

ちょっとお説教になってしまっただろうか。私も人のこと言える立場じゃないんだけどな……

 

「はっ……、それもそうなのかもな」

 

少しは彼のモヤモヤをとれたのかな。少しは君の力になれた?私はね君の力になることを選んだんだよ。だって君が彼女を好きなことは知っているから。

 

「じゃあこれからはもうちょっと頑張っていこうね、ハッチー♪」

 

 

 

 





最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想、や誤字脱字等ありましたら教えて頂けると嬉しいです。
週一ペースですがこれからも書いていきたいと思っていますのでよろしくお願いします。



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彼と彼女の距離

いつも読んでいただきありがとうございます、
今回は5月編になります。
まあ5月編といってもGWくらいしかネタがないんですけどね!

UA50000、お気に入り600ありがとうございます!かなり嬉しいです!


 

5月だ。GWだ。

私たちは今、静岡のキャンプ場に来ている。

メンバーはいつもの先輩のグループと碧だ。先週、金沢先輩がみんなを誘ってキャンプしようなんて提案したのがきっかけ。

 

私としては大学生になって初めてのGW、先輩と二人きりで何かしたいな、なんて思っていたけれど意外にも先輩がキャンプに参加するとのことなので私もぜひ、と参加した。

碧がいるのは金沢先輩が直接誘ったみたいで、1年生が私だけだけということを考えてくれたのだろう。この人気が利くし。

まぁ、二人きりじゃないにしてもGWを先輩と過ごせるというのは私的にも嬉しいので良しとしよう。

 

GWということもあってキャンプ場は結構な人で賑わっていた。

お昼前にキャンプ場に着いた私たちはコテージに荷物を置き、バーベキューの準備をする。

私と金沢先輩と碧は野菜の下処理、先輩たち男子はその他の準備と近くの川で魚釣りに別れて作業する。

 

どうせなら先輩と一緒に準備したかったな。

 

「ハッチーと準備したかった?」クスッと微笑みながら聞いてくる金沢先輩。

 

どうやら私は顔に出していたらしい。うーん、私もまだまだですね。

 

「そ、そんなことないですよ?むしろこういう準備は女の子同士やった方が楽しいじゃないですか!」

 

「棒読みで言われても説得力ないよ、いろは。ていうか目線がずっと一定方向見つめてるし」

 

む、碧ちゃん余計なこと言わないでいいんだからね?

というか私そんなに先輩のことみていたのだろうか。

 

「男の人たちがちゃんと準備してるか見張ってるだけだよー!」

 

「たちって言う割にはさっきからずっと比企谷先輩しか見てないんですけどねぇ」

 

確かに我ながらこの言い訳はどうかと思う。というか碧も私のこと観察しすぎだし!どんだけ私のこと好きなの?百合展開はないよ?諦めてね?

 

「いろはちゃんは本当にハッチーが好きなんだね」

 

「美智子さんもそう思いますよねー」

 

「ねー」

 

この二人は……。私の誕生日あたりから急に仲良くなってるんだよなぁ。いつの間にか名前で呼んでるし……

たまに二人で今みたいに私をからかってくる。本当いつの間に仲良くなったんだろう。

今日のバーベキューに碧を呼んだのも私への気遣いじゃなく、ただ単に金沢先輩が碧と遊びたかっただけなんじゃないかと思うレベル。

 

「もぅ……、無駄口叩いてないでさっさと準備終わらせちゃいましょうよ」

 

「「はーい」」

 

はぁ……、仲がよろしいことで。

お喋りをしていたせいかだいぶ作業が遅れていたようだ。男子たちの方の準備は終わったららしく先輩がこちらに向かってきた。

 

「俺ら終わったけどお前らまだ終わらないの?」

 

「もうすぐ終わりますよ!なんですか嫌味を言いに来たんですか?」

 

突然だったのでちょっと嫌な返ししちゃったな……

 

「はぁ……、嫌味の一つも言いたくなるだろ?お前らずっと喋ってて作業してなかったじゃん」

 

う……、バレてる。

 

「えー、ハッチーそんなに私たちのこと見てたの?私たちって言うかいろはちゃんのこと見てたのかな?」

 

「きっとそうですよー、ずっととか言っちゃってますし。あの言い方はずっとこっち見てないと言えませんもん」

 

今はこの二人が味方でよかったと思う。というか先輩ずっとこっち見てたんですか?誰見てたんですか私ですか流石にそんなに見られてたと思うと恥ずかしいんですけど。

そんなことを考えながら先輩の方を見ると若干頬を染めて頭を掻いている。

 

「ば、ばっかお前らがちゃんと準備してるか見張ってただけだよ」

 

なんかさっきも同じような台詞聞きましたねこれ。

金沢先輩と碧は爆笑してるし……。先輩も言い訳するならもうちょいマシな言い訳してくださいよね?

 

「あ、そうだ」

 

何があ、そうだなんですかね金沢先輩。変なことでも閃いちゃいました?却下ですそれ。

 

「もうこっちの作業終わるからさ、ハッチーといろはちゃん魚釣りに行った人たち呼んできてよ」

 

オーケー……、金沢先輩グッジョブ!その提案ナイスすぎますね。賛成、もちろんそれ賛成ですよ。疑ったりしてすいませんでした!

 

「わっかりましたー!それじゃあ先輩行きましょう!あ、ゆっくり向かいましょう急ぐ必要ないですし、せっかくの自然を満喫しながら歩きましょう!ほら先輩早く!遅いですよ!」

 

「ゆっくりなのか、早くなのかはっきりしてくれよ……」

 

口では行きたくなさそうにしているが私の歩くペースにしっかり合わせてくれる。こういうところがあざとい……、いや……、好き。

 

「せーんぱい、綺麗な景色ですね」

 

「ん……、まぁ都会にいたらあんまり見れないよな。こういう景色眺めながらマッ缶とか飲めたら最高だな」

 

「ふふっ……、そう言うと思って持ってきましたよ?」

 

いきなり私の肩に先輩が手をかける。

近い、近いです先輩!!自分から先輩にくっつくのは慣れてるけどいきなり先輩の方から近づかれると心の準備が……!

 

「でかした一色!!やっぱりこういう大自然で飲むならマッ缶一択だよな。一色もマッ缶の良さに気づき始めたか……。俺はうれしいよ」

 

なんだ……、マッ缶に興奮しただけですか。いや、知ってましたけどね?べ、別に勘違いなんてしてないんですからっ。

 

「あ、あのですねせんぱい、興奮しているところ悪いんですが近いです……」

 

「……っ。わ、わりぃ」

 

「い、いやせんぱいにそうされるのは嫌じゃないんですけどいきなりは心の準備ができてないわけであとこう人が多いところだとさすがの私も恥ずかしいのでもう少しムードのある場所で二人きりの時におもいっきり抱きしめてくださいお願いします」

 

「お、落ち着け、お前の言ってることめちゃくちゃ恥ずかしいことだから、しかもそれ断ってないし、なんか俺誘われてるし」

 

うわぁぁぁ!!!

何言っちゃってるんですか私馬鹿ですか死にたいんですかこんなん思いっきり告白してるようなもんじゃないですかまずいまずいまずいどうしようあわわわわ……

 

「せ、せんぱいがいきなり肩なんて掴むから思ってもいないことを言ってしまったんですあれは本心じゃないんでごめんなさい」

 

よ、よしこれでなんとか誤魔化せるでしょう、先輩ですし。

 

「お、おう。まぁあれだ。いこうぜ」

 

「は、はひ」

 

うん、噛んでしまった。動揺してますね、こんな私どうよう?

すいません今のなしでお願いします。

 

若干の気まずさのまま魚釣りに行った人たちと合流してみんなのいる場所に戻る。

 

「さぁ、じゃあみんなそろそろはじめましょ!」

 

金沢先輩の掛け声でバーベキューを始める私たち。ちなみにやっぱり最初の飲み物はみんなビールだ。

 

どんどん焼かれていく肉を男子たちは次々と奪いあっていく。やっぱりこのくらいの年齢の男子の食欲は凄まじいものがある。

先輩が美味しそうに食べてるのをみるとこっちまで幸せになってくるなぁ。

好きな人が美味しそうにご飯を食べているところを眺めてるのってなんかいいですよね。

 

「いろは、見すぎだよ」

 

ボソッと私の耳元で呟き、にやっとこちら窺う碧。

別にいいじゃん!先輩がいるからこのキャンプ参加したわけだし?

でもそうやって指摘されるのはやっぱり少し恥ずかしいわけで、ついつい反発したくなるよね。

 

「見てない、先輩なんてこれっぽっちも見てない」

 

「いや、私先輩のこと見てるなんて言ってないし。そっか、そっかどこ見てるのかな~、と思ったら比企谷先輩を見てたのかー」

 

なんか最近やたらからかってくるなーーー、ちょっとばかり悔しいんですけど。碧に好きな人できたら絶対からかってやる。私は堅く決意した。

まずは一発反撃してあげるとしよう。

 

「というか碧は私のこと見すぎだからねー?どんだけ私のこと好きなの?百合?百合なの!?私には先輩っていう心に決めた人がいるから無理だからね」

 

「な、なんでそれで百合になるの!?私はただ比企谷先輩を見てるいろはを観察するのが面白いだけだし!」

 

「へー」

 

「その返しされると何も言えないんですけど!?」

 

「ぷっ……、「あはは」」

 

なんだかんだ碧とのこんなやり取りも好きだ。これだけ私が自然に話せるのも先輩と碧くらいだし。

 

「……ありがとね」

 

「な、何いきなり!?なんか怖いんだけど」

 

「べつにー、ただなんとなく。それより私たちもお肉食べようよ、もうなくなっちゃうよ!」

 

さぁお肉争奪戦に私たちも参戦だ!

 

 

 

 

 

バーベキューを終えた私たちは今日泊まるコテージでのんびりしていた。

私はちょっとばかりお酒を飲みすぎたらしく気分が悪いなう……、

う~ん、もうちょっとお酒強くなりたいなぁ。

ベランダで風にあたっていると頬に冷たいものがあたりビクッとなる。

 

「ひゃぁっ!?」

 

「ビビりすぎだろ……、ほれ、水でも飲め」

 

本当こういうところ好きだ。いつもは離れようとするのにこういうときはしっかり傍にいてくれる。

こんなのずるいですよ、先輩。

 

「せんぱい……、いきなりそれは誰でもビビります。えと……、お水ありがとうございます」

 

んっ、と頷く先輩の手にはマッ缶。本当に好きなんですね。

 

「楽しかったですね、せんぱい」

 

「まぁ悪くはなかったな」

 

「本当素直じゃないですねー」

 

「素直な俺とかみたいの?」

 

うーん、それは見たいような見たくないような?

 

「まぁせんぱいはせんぱいですしね。私は来てよかったと思ってますよ……?」

 

「そうか、まぁあれだ……。俺も来てよかったよ」

 

あれ……?なんかいい雰囲気じゃないですかね?これ言っちゃう?いや待て私。雰囲気に飲まれちゃいけない。いやでもここで言わないでいつ言うの?

 

今でしょ!!

 

「……あの、せんぱ「いろはーーー!!キャンプファイヤーするよーー!!」

 

うん……、碧のバカアホドジマヌケ八幡。空気読んで!!

……いや、でも今言わないでもいいか。むしろ今は言うべきではなかったのかもしれない。碧ナイス。

 

「楽しそうーー!やろやろ!ほらせんぱいも行きますよ!」

 

「わかった、わかったから引っ張るな!つかお前さっき何言おうとしたんだ?」

 

「別に何でもないですよ!まぁそのうち必ず言いますのでそれまでは秘密です」

 

私は先輩の手を取りキャンプファイヤーをする場所に向かった。

 

 

 

 

キャンプファイヤーって私たちだけでやるんじゃないんだ……

最初に思ったのはそれだった。

私たちが碧の案内でキャンプファイヤーの場所に行くと大勢の人がそこにはいた。

どうやらここのキャンプ場でのイベントらしい。思った以上に規模が大きい。

家族連れやカップル、私たちのような大学生と思われる集まり、様々な人たちがキャンプファイヤーの周りを取り囲む。

 

「なんかすごいね……」

 

「うん……」

 

大学生二人の感想とは思えない。でもこの光景をなんかすごい以外で表せる気がしなかった。

しばらく先輩と碧、三人で眺めていると金沢先輩たちがやってきた。

 

「そろそろ戻ろっか。温泉あるらしいからいろはちゃん、碧ちゃんいこっ!」

 

「いきましょーっ!」

 

本当仲いいな二人。まぁ私も温泉には興味あるし付いていこう。

コテージに一旦戻り、着替えを取って温泉に向かう。

そういえば私って修学旅行以外でこういう旅行みたいなのってなかったなぁ。だからだろうか同級生の碧はともかく金沢先輩とお風呂とか少しだけ緊張する。

 

「いろはちゃん肌綺麗だねー。羨ましいなぁ」

 

「本当なんでこんなに綺麗なんですかねこの子。でも美智子さんも綺麗ですよ!」

 

いやいや、あなたたち二人も私から言わせれば全然綺麗だしね!?

大差ないんですけど?というか二人共私より大きい……。

 

「ぐぬぬぬ……」

 

「いろは、どったの?」

 

「言わないで……、私は負けたんだ……」

 

「「……?」」

 

いや、二人してそうやってキョトンとした顔でこっちを見ないで!一人で気にしてるの悲しくなるんで!私だって高校性の時に比べたらしっかり大きくなってるんだけどなぁ。

 

「先輩も大きい方が好きなのかなぁ」

 

「ハッチーはそんなの関係なしにいろはちゃんならいけると思うよ!」

 

しまった。思いっきり心の声が漏れていたようだ。というか金沢先輩完全に私の悩みが胸だって気づいてますよね?さっきのキョトンは確信犯ですよね?

 

「金沢先輩最近私のこといじりすぎですよーー!」

 

「いろはちゃん可愛いからついつい弄りたくなっちゃうんだ。ごめんねっ」

 

いつかこの先輩に仕返ししてやるんだと意気込む私だった。

 

露天風呂の温泉は都会の夜空とは違い星がよく見える。

こんな夜空を先輩と眺めたいと思っているとどうやらまた顔に出ていたらしく、二人がニヤニヤこちらを見ている。

 

「……また顔に出てました?」

 

「「バッチリ!」」

 

二人の息もバッチリだね!もうやだこの二人!!

そんなに温泉に浸かってたわけじゃないのに顔が火照って仕方ないので二人より先にあがることにした。

 

先に着替え、コテージに戻ろうとすると先輩がいた。

 

「ほれ」

 

マッ缶を投げてくる先輩。これ先輩が飲むために持ってたんじゃないのかな、なんて先輩の方を見ると手にはもう1本。この人一人で2本も飲む気だったんですかね。流石にそのうち病気になりそうなんで辞めた方がいいですよ。

 

「……頂きます。……やっぱり甘いですね。でも美味しいです」

 

「だろ?風呂上りのマッ缶は最高なんだよ」

 

ニッと笑顔で答える先輩に見惚れてしまった。

 

「せんぱい、笑顔に合似合わないです。キモイです」

 

「お前……、いきなりキモいとかひどくない?俺じゃなかったら泣いてるぞ?」

 

「キモイですけど……、嫌いじゃないですよ?」

 

「そういう台詞上目遣いでいうのやめような、あざとい」

 

ちっ、これもダメですか。本当どうやったらこの人落とせるんだろう。

 

「さて、戻ろうぜ……」

 

「そうですね~」

 

というか先輩何しにきたんだろ?男子の方ってこっちと別方向だし。先輩のことだから散歩でもしていたのだろうか。

そのまま二人共無言でコテージに戻る。コテージに着くまでやはり先輩は私の歩くペースに合わせてくれる。

私たちって周りからどう見えるんだろう?先輩後輩?カップル?

……カップルだったらいいなぁ。

 

コテージに戻った私は先輩と別れ自分の部屋に戻る。

ふかふかのベッドにダイブし、今日を振り返る。

なんだかんだ今日は楽しかったなー。明日は何するんだっけ……

そんなことを考えながら目を閉じると私は思考のスイッチを切って眠りについた。

 

 

 

 

 




最後まで読んでくださいありがとうございます!
最初5月ネタ全く思い浮かばなくて一気に8月まで進めてしまおうかと思ってました!
というかこの二人あれでまだ付き合ってないとか本当もうね、さっさと付き合えよっていうね。


それでは良かったら感想、評価等よろしくお願いします!


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私の計画

投稿遅くなりすいません(´・ω・`)
エアコンが壊れてアタマクルックルーであまり書けてませんでした。
内容も今回短いです。
次回は頑張る予定ですのでよろしくお願いします!



 

夏休み8月上旬、私は今、先輩と千葉に帰るため電車に乗っている。

実家に帰るためなんだけど。まぁ実家に帰省すると言っても私たちの場合、東京から千葉と大した距離じゃないんだけどね。

碧たちも夏休みは帰省するので私も一人残っても仕方がないので帰省することにした。

なんてのはただの口実みたいなもので本当は先輩が千葉に帰るからなんだけど……

 

先輩、夏休みは帰るんですか?なんて聞いたら即答で帰ると返ってきた。

まぁシスコンの先輩としては長期休みは実家で小町ちゃんと過ごしたいんだろうと思っていたし、これは大体予想ができたことだ。

 

ただ私としては先輩が実家に帰るとなると私も付いていく必要がある。まぁその理由はあとで言うとして。

今回、先輩が実家に帰るということで、当初私が考えていた計画を少し変更することにした。

まずは計画を実行に移すにあたって、彼女の協力が必要になるので連絡をすると快く承諾してくれた。

次に材料だ。なるべくなら好みのものがいいけれど……。まぁそこは大体というかわかってるつもりだしあれでいきたいとおもう。

 

……とりあえず一通り準備のための計画を頭の中で再確認して一段落する。

隣に無理やり座らせた先輩は寝息をたてて眠っている。寝顔は本当にただのイケメンな気がするなぁ。

これは単純にこの人に惚れているからそう見えるだけなのだろうか……?そんなわけではないと思うんだけど。

先輩と二人隣同士で座って電車に乗っている。こんな些細なことでも今の私には幸せを感じるには十分だ。

 

「せんぱーい」

 

「………」

 

……よく寝ているようですね。

 

寝ていることを確認して人差し指で先輩の頬を突っつく。

うん、気持ちいい。うりうりー。

 

「……んっ。……」

 

突かれたところをぽりぽりと掻く先輩を見て微笑む。

 

しばらくすると目的の駅に着く。

 

「せんぱーい、着きましたよー。おきてくださーい」

 

「……ん。おう。……あれ?お前もここでいいの?」

 

「わたしも久しぶりに小町ちゃんに会いたいですし、一度挨拶してから家に帰ろうかなと」

 

「そうか。まあ小町も喜ぶだろうしいいけど」

 

二人で電車を降り、先輩の家に向かう。

 

「そういえば先輩って実家にはよく帰るんですか?」

 

「長期休みは帰るけどそれ以外はあんまり帰らねえな。一回普通に帰ったことがあったけどその時のなんで帰ってきたんだっていう雰囲気がな……」

 

うわぁ……。少しだけ可愛そう。というか普通にそう言われて落ち込む先輩の姿が思い浮かんでしまう。

そんなくだらない話を先輩の家に着くまでしていた。

 

「とうちゃ~~く!」

 

「いや、到着なのはいいけどなんでお前俺の家知ってるの?」

 

「え?だって私ちょくちょくこの家来てましたし」

 

先輩が大学に入学した去年、私は小町ちゃんと遊ぶため何回かこの家を訪れたことがある。

小町ちゃんに許可を得て先輩の部屋にも入ったことあったりもする。

卒業アルバムなんか見せてもらった時は、ちゃっかりその写真を写真に撮って保存なんかしてるけどこれは秘密にしておこう。

 

「ささっ、先輩、久しぶりの我が家なんですからお先にどうぞ~」

 

「なんでお前が仕切ってんの……、まぁいいや、ただいま」

 

先輩がただいまと言うとリビングの方からタタタッと駆け足で小町ちゃんが迎えに来る。

 

「おう、小町ただ「いろはさんいらっしゃいませーー!こんなごみぃちゃんと一緒だと疲れませんでした?ささっどうぞどうぞリビングの方におかしと飲み物あるんでくつろいでくださいっ!」

 

「わぁ、ありがとう小町ちゃんー!お邪魔するねー」

 

「いえいえ、お邪魔だなんて。むしろこの家にずっと居てもいいんですよ?」

 

いきなり何言ってるのこの子……。い、いや、私的にそれは全然ありだけどね?でも物事には順序がね?

そんなやり取りをしていると後ろからボソボソっと声が。

 

「あ、あの……小町?俺も結構疲れてるんだけど?」

 

「えー、お兄ちゃんどうせ電車の中でいろはさんの相手もしないで寝てたでしょ。そんなごみぃちゃんが疲れてるはずないじゃん」

 

流石小町ちゃん……先輩の行動を完璧に読んでる。恐ろしい子……

 

「一色……なんか小町に言ったの?」

 

「言ってないですよ!先輩のことなんて小町ちゃんには全部お見通しってことですね。そもそも私を無視して寝てた先輩がいけないんです」

 

その通りと小町ちゃんがドヤ顔で頷く。

本当はこのままこの家でのんびりと過ごしたいのだけど今回はそうもいかない。何もなければ長期休み中ずっとここに居座りたいまであるんだけどね?

 

とりあえず先輩がリビングでくつろぎ始めたので私は小町ちゃんに耳打ちして小町ちゃんの部屋に行くことに。

小町ちゃんに相談してとりあえず準備などは私の家ですることにした。

ここでするとすぐバレそうだしね。

 

私は買い物があるので先に先輩の家を失礼し、自分の家に帰る。

途中近所のスーパーで必要なものを買っておく。

こちらの準備は出来たので家で少し休憩しているとインターホンがなったので多分小町ちゃんだろう。

 

「いろはさん。お邪魔しますー」

 

「いらっしゃい小町ちゃん。ごめんねぇわざわざ……」

 

「いえいえ!未来のお義姉ちゃんのためならこの小町、なんでも協力しちゃいますよ!」

 

笑顔で私にそう言う小町ちゃん。本当に可愛い。この子が義妹になったらいいなぁなんて思ってしまう。

いや、私も考えが飛躍しすぎだ!まずは先輩に想いを伝えなくちゃだし、今のところ全然進展ないし……

 

とにかくだ。まずは明日に向けてこれを作らなければ。

ほかの予定はちゃんと決めてあるし。私の得意なことで先輩を振り向かせてやるんだ。

 

「よしっ、じゃあ小町ちゃん一緒に作ろうっか!」

 

「ラジャーでありますっ!お義姉ちゃん♪」

 




最後まで読んでいただきありがとうございます
感想等ありましたらよろしくお願いします


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彼の誕生日を私は祝福する

八幡誕生日おめでとう!!

というわけで八幡誕生日のお話です。
前の話が短かったので今回今までで一番頑張った気がします!
もしかしたら後で少し修正するかもしれません。




 

今日は計画実行日だ。

 

 私は計画通り電話で先輩を呼び出す。

 

 何回かコールしているけど出る気配がない。まだ寝ているのか、単に出ないだけなのか。小町ちゃんに連絡しようかな、なんて考え始めていたらやっと先輩が電話に出た。

 

『……何?』

 

「せんぱい、今日暇ですよねー? 私もたまたま今日は暇で退屈してるんでー、一緒に遊びに行きましょう」

 

『お前、よくこんな暑い日に外に出ようと思うな……。俺今日は家でいろいろとすることあるんだけど』

 

 またこの人は……。少しくらい私に付き合ってあげようとかそういう気持ちはないのかなぁ。

 それに今日誘ってることの意味も少しくらい考えてほしい。

 

「先輩に予定がないことは昨日小町ちゃんに確認済みなので無駄な抵抗はやめてくださいね?」

 

『はぁ……。わかったよ。とりあえず俺はどうすればいいんだ?』

 

 ちょっとちょっと先輩! ため息は流石に酷くないですかね?仮にもJDブランド引っさげた可愛い後輩が休日に遊びに誘っているわけで、そこまで露骨にため息されると流石の私でも傷つくんですけど!?

 

 ……まぁでも断られないだけましか。なんだかんだ来てくれるみたいだし。少しムカッとするけど。

 

「そうですねー、とりあえず千葉駅に12時集合でいいですか?」

 

『はいよ』

 

 本当にこの人は返事も素っ気ないなぁ。でもとりあえず先輩を家から引きずりだすことには成功したわけだし、私も準備しなくちゃ。

 

 時計を見ると9時を少し過ぎている。準備して千葉駅には余裕で間に合うかな。しっかりと身支度を整えて姿見鏡で確認。夏ということもあって今日は少し露出度をあげていく。水色のロングノースリーブに合うようにスカートを合わせる。

 

「ふっ、完璧……」

 

 鏡に映った自分を見て呟く私。いやこれで惚れない男とかいないでしょ?

 

 いるんだけどね……

 

 しかし今日は、いや、今日もめげずにグイグイいかないと。しっかりと気合を入れて家を出る。

 

 

 

 今日は私の方が先について待っていようと思って時間より30分前に千葉駅に着いた、着いたんだけど何故か先輩が既にいるわけで……

 

 なんでいるの!? せっかく私が先に待ってて先輩が来たら「せんぱい、おそい~~!」って言ってやろうとしたのに……!

 

 むぅ……。

 

 これじゃなんか負けた気分だ。実際そんなことはないのだろうけど。

 でもまぁ先輩が早く来て待っていてくれてることは素直に嬉しい。私に早く会いたかったわけではないだろうけど。小町ちゃんが急かしてくれたのかな?

 

 さて、とりあえず待たせるのも悪いし、行くとしますか。先輩に気づかれないように後ろから忍び寄り、肩をたたく。

 

 振り向いた先輩に満面の笑みで挨拶をする。

 

「せ~んぱいっ! どうしたんですかー、早くないですか。あ、もしかして私に会うのが楽しみだったとか?」

 

 すると先輩は少しジト目でこちらを見据えながら

 

「いや、小町に急かされただけだし。あとお前も十分早いだろ。何、俺にそんなに早く会いたかったの?」

 

 むっ……、先輩のくせに生意気な返しですね。というか本人を前にして妹に急かされたから早く着たってどうなんですか?

 でもまぁ先輩? 今の発言は先輩のミスですね。遠慮なく利用させてもらいますよ。

 

「そうですね……。わたしはせんぱいに、早く、会いたかったんですよ……?」

 

 ……決まった。流石にこの上目遣いでこの台詞は男心擽るでしょ! さらに先輩の腕にくっついて攻める、このダブルの攻めに耐えれますかね?

 

「……っ、ち、近い、近いから、あんまくっつくな。お前はあれなの? 必ず俺の腕にくっつかなくちゃいけない理由でもあるの?」

 

 顔を真っ赤に染めて私がくっつくのを阻止しようとしている先輩。

 

 ふっ……、先輩がいけないんですよ? 私が攻める口実を与えてしまったのだから。

 

「えー、なんでですか。私はせんぱいに会いたくて会いたくて仕方なかった気持ちを表現してるだけですよー?」

 

 夏で二人とも肌を露出してるため、肌と肌が触れ合う。少しばかり恥ずかしいけど、これくらいしないとこの人は意識してくれないと思うしなぁ……

 

「わかった、わかったからあんまり近づかれると歩きにくい。さっきのは俺が悪かった。だからもう少しだけ歩きやすい感じにしてくれ」

 

 ちっ……、意気地なしの先輩め。腕組みくらい私の誕生日のときだってしたのに。

 まぁ今日は先輩に楽しく過ごしてもらうのが一番の目的だし、少しくらい言うこと聞いてあげよう。腕組みはするけど。

 

「じゃあこれくらいでどうですか?」

 

「腕組みはするのかよ……。まぁそれくらいなら……。んで、これからどうするんだ? 悪いけど俺何にも予定とか決めてないぞ」

 

「流石に当日に誘ってそんなこと期待はしてないですよ。今日は一日、私が決めた予定で過ごしますっ。それではレッツゴーです!」

 

 私は先輩を誘導するように歩き、まず最初の目的地であるカフェに向かった。

 

 懐かしいカフェ……。先輩と一度デートで来たことのあるこの店は、3年前と変わらぬ佇まいをしていた。

 

「あれ……? ここって昔一色と来たことあったよな?」

 

 ……意外だ。先輩にとってデートなんてたぶん人生で数回くらいしかしたことないだろうから印象に残っているかもしれないけど、それでも3年前に1度だけ来たことのあるこのお店を覚えていてくれたことは素直に嬉しい。そういえば昔、ぼっちは記憶力は良いって言ってたのは本当だったのかな。

 

「よく覚えてましたね先輩。今のいろは的にポイント高いですよ?」

 

「記憶力はいいんだよ……。それと小町の真似すんな。本当あざとい」

 

「……むぅ。先輩のくせに生意気ですね」

 

「なんなのそれ。とにかく入ろうぜ。外暑い」

 

 まったくこの人は……。ムードなんかありゃしない。

 

 店内の内装も昔来た時とほとんど変わっていない気がする。

 案内された席につき、メニューを広げる。

 

「先輩は何にしますか?」

 

「ん、そうだな、昼飯だとしたら普通にパスタにするわ」

 

「そうですねー、じゃあ私もパスタにします」

 

「デザートとかは頼まないのか?」

 

「あっ……、そうですね、今日はパスタだけにしておきます」

 

「ふ~ん」と先輩が呟く。確かにこのカフェで私がケーキとかデザート系を頼むと思うのはわかる。

でも今日はここでケーキを食べるわけにはいかないわけで……、いや本当は食べたいけどね。

 

 注文を済ませて先輩と軽くお喋りをしているとパスタがテーブルに置かれる。

 

「わぁ、美味しそうですねー! 先輩、先輩、写真撮ってもらいましょう」

 

「え、やだよ。なんでまた写真撮らなきゃいけないんだよ」

 

「ほら先輩、店員さんも困ってますから! 早くです」

 

 店員さんが不安そうにこちらをチラチラ見ている。あれ? この店員さん見たことある気がする……

 

「今回だけだぞ……」

 

 そう言った先輩は、写真が撮りやすいように少し私の方に寄ってくる。耳のあたりが少し赤いのは黙っておいてあげようかな。

 

「では、いきますよー」

 

「ほら、先輩、ピースですピース」

 

 先輩にピースサインを促す。少し照れながらもピースをしてくれる先輩。そして2,3度シャッター音がした。

 

「ありがとうございますー」

 

 私がそう言うと店員さんが

 

「いえいえ、幸せそうで良かったです。また是非いらっしゃってくださいね」と応えてくれた。

 

 あの人、3年前の時と同じ人だったのかな……

 

 カフェで昼食を済ませた後、私たちは、少し街をぶらぶらしてから、次の目的地である水族館に行くために電車に乗る。

 

 

 電車に乗り、しばらくすると目的の駅に到着する。駅前の噴水広場から見える観覧車は日本最大を謳うだけあって間近で見るととても大きい。あの観覧車に二人で乗って、先輩と景色を見るなんてのも悪くない。先輩の柄じゃないか。

 

 私たちはそのまま水族館の方へ向かう。入館前に元々用意しておいた入場券を渡し入館する。

 

「なんでお前入場券なんて持ってるんだ?」

 

「たまたまです、たまたま」

 

 本当は先輩のために用意していたものだけどそんなことは言わない。

 

 入館して間もなく目の前には大きな水槽が広がる。そこにはサメがいた。ツマグロと表記されているけれどこれ見た目サメだよね? 全然マグロ感ないけど。もっと可愛い魚のほうがいいけど横にいる先輩はどうやらテンションがあがっているようだ。

 

「おぉ、サメ! サメだぞ、一色! 懐かしいな……」

 

 ……意外。先輩ってサメ好きなんだな。でも確かに小さいころとか魚図鑑とかずっと眺めてそうではあるかも。でも最後の言葉の懐かしいなってどういう意味だろう……

 

「先輩、せっかくだから写真でも撮ります?」

 

「何? 撮ってくれるの? よし、じゃあ頼む!」

 

 そう言うと私にスマホを渡す先輩。いやいや、私的に一緒に撮りましょうっていう意味だったんですけどね? わからないよね先輩には!

 

「では、預かります。えーっと……」

 

 周りを見渡す。ちょうど近くに手が空いてそうな人がいたのでこの人にしよう。

 

「すいません、写真撮ってもらってもいいですか?」

 

「あ、いいですよー。えーとお二人の写真を撮ればいいですか?」

 

「はい! なるべくサメが一緒に写るようにお願いします」

 

「わかりました」と男性は写真を撮る位置に移動してくれた。私はすぐに先輩の横に並ぶ。

 

「ねえ、俺一人で良かったんだが」

 

 まーたこの人は!

 

「ぶー、いいじゃないですかー、せっかく二人で来てるんですから、一緒に撮りましょうよ。というかそういうこと直接口に出すのどうかと思いますよ?」

 

「だってお前これ恥ずかしいだろ。というかさっきも写真撮っただろ」

 

「あれはあれ、これはこれです! では先輩撮りましょう。せっかく撮ってくれるって言ってる人がいるんですから」

 

 そのまま先輩にピースを促し、男性がスマホで写真を撮ってくれた。あとであの写真もらわなきゃだ。待ち受けにしよう、そうしよう。

 

「先輩、その写真くださいね?」

 

 ん、とスマホを私に渡してくる先輩。……これはあれですか、私に自分で送っとけってことですかね。それならそれでいいでしょう。これ待ち受けにしてやれ。そのまま画像を自分に送り、先輩の待ち受けにしておいた。気づいたらどういう反応するかな?

 

「はい、ありがとうございます。では次いきましょうかー」

 

 次に目に留まったのは周囲に比べて地味な水槽。中にはちょっとキモイ魚が泳ぐでもなくただ漂うようにふわふわしてた。解説を読んでみる。

 ナーサリーフィッシュ、泥で濁った川の中で、あまり泳ぎ回らず生活している……昔の先輩みたいだ、そう思うと若干この魚が可愛く見えてきた……気がする。チラっと先輩の方を見ると、何故か私の心が読まれたように口を開く。

 

「全然似てねえから。名前も似てない。まぁこの魚の生き様はまさに理想だけどな」

 

 やっぱり似てるじゃないですかね。

 

「別に私何も言ってないじゃないですかー。次行きましょう、次」

 

 そのまま移動するとたくさんの人が集まっている場所についた。どうやらふれあいコーナーのようだ。ふれあいかぁ、魚とふれあうのもいいけど本当はもっと先輩とふれあいたいな……

 

「せっかくだから行ってみるか?」

 

 珍しく先輩の方から誘ってきたので一瞬反応が遅れた。

 

「……ふぇ? あ、あぁ行きましょう! 私、魚と触れ合いたいです!」

 

 コーナーの水槽を覗き込むと、そこいたのはまたもやサメだった。ちょっと? これ先輩が来たかっただけなんじゃないの!? 魚と触れ合うよりもそっちに意識がいってしまった。まぁ今日は先輩に楽しんでもらえればそれでいいから、これでいいんだよね。

 

 しばらく先輩と一緒にふれあいコーナーで遊んだあと、今回私が行きたかったぺんぎんを見に行くことになり、若干の駆け足で向かう。

 

「せんぱい、せんぱい! ペンギンですよ、ペンギン。可愛くないですか!」

 

 あーもう、なんでこんなにペンギンって可愛いの? 人類の癒しでしょ、この生き物、可愛いなあ。

 

「あーはいはい、ペンギンを可愛いって言ってる一色可愛いぞー」

 

 はい? ……あぁ、この人私がそういう狙いで可愛いと思ってるのか、まったく失礼ですね。

 

「先輩、私は本気で可愛いと思って言ってるんですよ?」

 

 割と本気で睨んでいた気がする。だってペンギン本当に可愛いもん!

 

「そ、そうなのか、すまん、俺が悪かった」

 

「わかればいいんです、わかれば。ではそろそろ行きましょうか」

 

 その後も先輩と一緒に水族館内を歩き回り、気づけば一周していた。

 

「どうします? もう一周しますか?」

 

「いや、流石に疲れた。そろそろ出ようぜ」

 

「それもそうですね、では私お土産買ってきます」

 

 そのままお土産コーナーに行き、自分の分と先輩の分のストラップを購入する。

 

「お待たせしました、では行きましょうか」

 

 水族館をでるとさっき買ったお土産を先輩に渡す。

 

「先輩、これ今日のお土産です、つけてくださいね?」

 

「サメか……。さんきゅ、あとでつけておくわ」

 

 よし、成功だ。サメのストラップなら先輩もつけてくれるかなと思って買った甲斐があった。

 

 日が暮れ始めたのでそろそろ最終フェイズに移行する。むしろこれが目的だったまである。協力者である彼女にもメールで連絡をしておく。

 

「先輩、そろそろ帰りますかー」

 

「おう、まぁあれだ、なんだかんだ今日は楽しかったぞ」

 

 だからこの人は……、急に素直になるのやめてっ……!

 少し照れて顔が熱くなってるのがわかる。先輩はこれでお終いだと思っているようだがまだ続きがあるのだ。それを終わらせるまで私は帰らない。いや、終わっても帰らない可能性あるんだけどね……?

 

「私も楽しかったですよ? それじゃいきましょうかー」

 

 照れ隠しでそう言うと、二人で帰りの電車に乗る。先輩が降りる駅に到着するとまたな、と言い電車から降りる。普通ならこのまま私は電車に乗って家に帰るわけだけど、今日は違うので先輩と一緒に降りる。すると先輩は少し戸惑った様子で私に尋ねてくる。

 

「なぁ一色、お前の降りる駅ってここじゃないよな?」

 

「……? あれ? 言いませんでしたっけ? 私も今から先輩のお家にお邪魔する予定なんですよー」

 

 そう、私は今から先輩の家に行ってしなくちゃいけないことがあるのだ。これを終えるまでは家になんて帰れないし、帰りたくもない。

 

「いや、初耳なんだけど……。つかもう時間も時間だし帰った方がよくない? 親御さんも心配するぞ?」

 

 予想通りすぎる反応ですね先輩。

 

「親になら今日は遅くなるか泊まってくるって言ってありますので心配いりませんよ?」

 

「お前……、大体ちゃんと誰の家に行くとか言ったのかよ。いいの? 年頃の女の子を男の家に泊まらせて。お父さん悲しむぞ」

 

「大丈夫ですよー。親には後輩の小町ちゃんの家に行くって言ってありますし! 小町ちゃんから親に連絡も言ってますしね! 嘘はついてないですよねー?」

 

 そうだ。私の親は小町ちゃんと面識があるし、小町ちゃんが昨日家に訪れたときに今日のことは伝えてある。だから私は嘘はついていない……よね?

 

「嘘はついてないけどそこに俺の存在がないのは問題じゃないのか? つうか小町の許可がある時点で俺に発言権はないわけだけど……」

 

「そうです! だから先輩にあれこれ言う権利はありません。なので一緒に帰りますよ、先輩」

 

「好きにしてくれ……」

 

 すると先輩が私が腕を組みやすいように左腕を少しこちらに差し出す。

 なんですかこれ? あざといんですけど?

 

「先輩も大概あざといですね……」

 

「どうせくっついてくるんだろ……。早く帰ろうぜ」

 

 なんですか、なんなんですか俺お前のことわかってんだよ的なことですかね確かにくっつくつもりだったけどそう言われとくっつきにくいんですけど!

 

「先輩、自意識過剰すぎますよ? 私がいつでも先輩にくっつく思ったら大間違いではありません」

 

「間違いじゃねえじゃねえか……」

 

 私が先輩にくっつきすぎて先輩に耐性ができ始めているのだろうか。ムムム……、これは少し攻め方を変えるべきなのか……

 ならばこんなのはどうだろうか。

 

「えいっ」

 

 先輩が差し出している腕を無視し、先輩と手をつなぐ。んー、腕組みより恥ずかしい気がするのはなんでだろう。

 

「ちょっ、お前何してるの?」

 

 よしよし、動揺してますね先輩。

 

「えっ? こっちの方が歩きやすいと思ったんですけど……。ダメ、ですか……?」

 

 お得意の上目遣いを使い、猫なで声で尋ねる。

 

「い、いや、ダメじゃないけど……というかこっちの方が恥ずかしいんだが」

 

「ダメじゃないならいいじゃないですかー! 奇遇ですね、私もこっちの方が恥ずかしいです」

 

「じゃあ離れ「嫌です」

 

「はぁ……」

 

 私の言葉で諦めたのだろうか、先輩はゆっくり歩きだす。

 

 気づけば私たちは、先輩の家の前に到着していた。道中二人共、気恥かしさからか会話もなく歩いた。せっかくの先輩との時間を会話しながら過ごしたかったけれど、まぁ手をつなぐことができたし良しとしよう……

 

「……流石にもういいだろ」

 

 先輩は繋がれている手に目線を向ける。

 

「あっ、そ、そうですね……」

 

「ん、誰もいないのか。あー、そういえば親二人とも今日は帰り遅いって言ってたな……」

 

 家の明かりはなく、留守のように思える。まぁ小町ちゃんはいるんだけれど。

 

「鍵は開いてんのかよ……。無用心すぎんだろ」

 

 扉を開け、玄関の明かりをつける先輩。私はそのあとについていく。そしてリビングの扉を開けて明かりをつけた瞬間だった。

 

「お兄ちゃん、誕生日おめでとー!」

 

 小町ちゃんがそう言ったあとにクラッカーを鳴らす。それに続き、私も後ろで準備していたクラッカーを鳴らす。

 

「せーんぱい、誕生日おめでとうございますー!」

 

「なっ……。お前ら……」

 

 驚きつつも、状況を理解したのか、少し顔が赤くなる先輩。これはサプライズ成功かな? というか今日が自分の誕生日だということをわかってれば、ここまでサプライズにもならない気がするけど……。変なとこ鈍感な先輩らしいといえばらしいのかな。

 

 とにかく、先輩のこの表情をみれば、私の計画は成功したのだろう、素直に嬉しい。

 

「ささっ、お兄ちゃん、今日の主役はお兄ちゃんなんだから早く席について!」

 

「お、おう……。つかお前らいつの間にこんなこと考えてたんだ?」

 

 どうやら先輩はまだ混乱しているらしい。

 

「先輩が夏休みに実家に帰るって言ったじゃないですかー? あの時からですよー、それを聞いたあとに小町ちゃんに連絡して、今日の計画を立ててみました。帰らないなら帰らないで、違う計画を立てるつもりだったんですけどね」

 

 席に着いた先輩のもとに、昨日小町ちゃんと作った特製のコーヒーケーキを持っていく。

 

「えへへ、どうですか先輩、小町ちゃんと作った特製のコーヒーケーキです」

 

「へえ……、美味そうだな。流石小町だ」

 

 ちょっと! なんでそこ小町ちゃんだけなんですか!

 

「はぁ……、本当ごみぃちゃんはごみぃちゃんだね……。これはいろはさんがお兄ちゃんは大学生になってもマッ缶飲んでるし、どうせならお兄ちゃんの好きな味のケーキにしたい、って言って作ったんだよ? 小町はほんの少しお手伝いしただけ」

 

 小町ちゃん……。フォローは嬉しいんだけどそれは言わないでぇぇ……! 本人に聞かれるともの凄く恥ずかしいからっ!

 

「い、いや、冗談だから、冗談。一色もありがとうな。食べてみてもいいか?」

 

 先輩が言うと冗談に聞こえませんからね?というか冗談言えるんですかあなた。

 

「むー、こういうときに冗談はやめてくださいよ。私だって傷ついたりするんですからね? じゃあ切り分けますね」

 

 私は、準備したナイフでケーキを切り分け、先輩、私、小町ちゃんにケーキを分ける。

 

「ではどうぞ召し上がれ」

 

 先輩がフォークを手に取りケーキを口に運ぶ。……どうだろうか、私は先輩の好みをちゃんと理解してケーキを作ることができたかな? 感想が待ち遠しいようで若干の怖さもある。もし、先輩の口に合わなかったらどうしよう。聞きたいけど聞きたくない、そんな気持ち。

 

「……一色」

 

 真剣な眼差しでこちらを向く先輩。

 

「これめちゃくちゃ美味い。味もしっかりコーヒーの風味があるし、甘さも俺の好きなちょうどいい甘さだ。お前がお菓子作りが得意なのは知ってたけどこれはパティシエなれるレベルだと思うぞ」

 

「おお、あのごみぃちゃんがちゃんと褒めてる……。良かったですね! いろはさん」

 

「う、うん」

 

 ……嬉しい、嬉しい嬉しい嬉しい。この人にそう言ってもらえることが嬉しい。他の人の感想なんていらない。この人にそう言ってもらえただけで私は、今までお菓子作りをしてきた価値がある。

 好きな人に自分が得意としていることを褒めてもらえることが、こんなにも嬉しいだなんて……

 

「……一色? どうしたんだ?」

 

 気づけば私は涙を流していた……。心配そうに見つめる先輩。そんな顔しないでください、これは嬉し泣きですから。

 

「な、なんでもないです! ちょっと目にゴミが入っただけです!そ、そうだ先輩、私から先輩に誕生日プレゼントです!」

 

 泣いてるのを必死に誤魔化しながら、用意しておいたプレゼントを先輩に渡す。これ誤魔化せてるのかな?

 

「いいのか? ありがとうな」

 

「いえいえ! 私も誕生日祝ってもらえましたし、そのお礼も兼ねてです。開けてみてください」

 

 私に促されてプレゼントの箱を開ける先輩。

 

「腕時計か、いいのかもらっちゃっても?」

 

「先輩のために選んだプレゼントなんですからいいに決まってるじゃないですかー。本当はアクセサリーにしようかなと思ったんですけど、先輩のことだから恥ずかしがってつけてくれないかもしれないと思いまして、身に着けるもので普段から使えそうな腕時計にしました」

 

 お揃いのリングなんてのも考えたけれど、付き合ってもいないのに流石にリングを渡したら先輩は拒みそうだったしね。いつか付き合ってお揃いのペアリングとかしたいけど。

 

「サンキューな。大事に使わせてもらうぞ」

 

 先輩がそう言うと、小町ちゃんが次は私の番ですねと先輩にプレゼントを渡す。

 

「じゃじゃーん! お兄ちゃん、可愛い妹からのプレゼントは、な、な、なんと! 温泉旅行の招待券です! 日頃大学生活で疲れてるんじゃないかなぁ、なんて考えた小町は、お兄ちゃんの疲れを癒せるようにこれに決めたんだよ? 」

 

「おぉ、小町もありがとうな。……ってこれ2枚あるけど?」

 

「え? そりゃそうだよお兄ちゃん。だってペアの招待券だもん」

 

 何言ってんの? 当然でしょ、と小町ちゃんが言うと、先輩が困ったように口を開く。

 

「いや、ペアとかの招待券渡されてもだな……。俺一緒に行く相手いねえし。あっ、小町が一緒にいくのか」

 

「いや、小町は行かないよ。お兄ちゃんと温泉旅行とかつまんないもん。というかごみぃちゃん本当に一緒に行く人いないと思ってるの? 目の前にいるじゃん」

 

 小町ちゃんがそう言うと二人ともこちらに視線を送る。え? 私? こ、小町ちゃん? い、いや、先輩と二人きりで旅行とか願ってもないことだけど……! というかこの兄妹は本当に人の不意を衝くのが上手いな……。

 

「……お前一緒に行くか?」

 

 へ? 今なんて言ったのこの人。一緒に行くかって聞いてきた? あの先輩が? 私はてっきり、どうせ一色は俺とは旅行なんて行きたくない、やらなんやら言うと思ったのに……

 

「い、嫌ならいいんだ、誰か他のやつ探してみるし」

 

「い、嫌なわけないじゃないですか! いきます! いきますよ! あ、でも別に先輩と二人きりで旅行が嬉しいとかじゃないですからね? 私は温泉が好きで行きたいだけですから、そこのところ勘違いしないでくださいね!」

 

 はぁ、はぁ……、また余計なことを言ってしまった気がする……

 

「まったくこの二人は……。これは小町も苦労しそうだなぁ」

 

 呆れ声で呟く小町ちゃん。うぅ……なんかごめんなさい。

 

「その旅行券は、期限1年くらいあるから別にいますぐ行く必要ないよ。二人が行きたいと思ったら行けばいいんじゃないのかな?」

 

 なるほど、1年かぁ、じゃあ今すぐっていうよりはちゃんと計画を立ててかな。

 

「そんじゃまぁ日程はゆっくり決めようぜ」

 

「そうですねー」

 

「じゃあとりあえずご飯食べましょう! 今日は小町のスペシャルディナーですよ~。お兄ちゃんのために愛情込めて作ったんだからね? あ、今の小町的にポイント高い!」

 

 でた本家! やっぱり小町ちゃん可愛いなぁ。

 

「でもさ、普通飯ってケーキの前じゃね?」

 

「細かいこと気にするお兄ちゃんには食べなくていいのかな?」

 

「いや、俺のために作ったのに俺食べれないのってどうなの? 泣いちゃうよ?」

 

 この二人のやり取りを眺めているのは楽しい。私もいつかこのやり取りに混ざれるようになりたいな。本当の家族に……

 

 ではでは、と小町ちゃんが料理をテーブルに並べる。私も準備の手伝いをする。昨日準備しておいたお酒も先輩に渡す。あ、もちろん自分の分も用意してますよ?

 

 「では改めてお兄ちゃん(せんぱい)誕生日おめでとう~! かんぱーい!」

 

 3人で食べる夕食はとても楽しい時間だった。気づけば時刻は20時を過ぎていて、若干酔ってしまった私はやっぱり泊まることに。まぁ最初から帰るつもりはなかったんだけどね。

 でもまぁ今日は1日楽しすぎて、今更ながら疲れが出てきた私は、早めに寝ることにした。小町ちゃんに頼み布団を引いてもらい、電気を消して横になる。

 

 「先輩、今日は楽しんでもらえたかな……」

 

 口では楽しかったと言ってもらえたけれど、やっぱり少しだけ不安になる。

 その時、部屋の扉が開かれた。小町ちゃんかな?私はそのまま反応せずにいた。すると扉を開けた人が呟く。

 

「一色、起きてるか……?」

 

 ……先輩だった。今更反応するのも少し恥ずかしく、そのまま寝てるふりをする。

 

「もう寝たのか……。まあ今日は結構動いたしな。あのな、今日は本当に楽しかったぞ、たぶん人生で一番楽しかった誕生日だった。ケーキも本当に美味かったし、プレゼントも大事にする。だから今日は本当にありがとうな……」

 

 寝たふりをした私にそう言うと、静かに扉を閉めた。

 

 本当にこの人は……。そういう事はちゃんと面と向かって言ってくださいお願いします。あ……、今の言われたことってほとんど直接言われたことだった。なんだ……私が気にしすぎてただけだったんだ。

 

 先輩の言葉に安心したのか、私はそのまま眠りについた……

 

 

 

 こうして長い一日が終わった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回ガッツリ書いてみたんですけどいかがでしたでしょうか。感想等あればぜひぜひお願いします。本気で喜びます!


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彼と彼女は当たり前のように二人で消える。

前回の話で温泉旅行を楽しみにしてくださってる人がいたんですが今回は温泉旅行の話ではありません!
温泉旅行は一応大事な話にしようと思ってます。
頑張って書くつもりなので楽しみにしていてください!


 大学生活で初めての夏休みが終わり、今日から後期が始まる。しかし、今日来ると明日また休みなわけで、どうせなら来週まで休みにしてくれればいいのに。

 それにしても、今年の夏休みは実家に帰省していたせいか、いろは達とは遊ぶ機会がなかったなぁ。来年はみんなでどこか遊びにでも行きたいな。

 九月の中旬になってもまだ夏の暑さは残っていて、大学内の冷房が心地よい。久しぶりにみんなに会えると思って普段よりも早く大学に着いた私は、ロビーにある椅子に腰掛け涼んでいた。

 

「あぁ、今日はもうここから動きたくないなぁ……」

 

「何、おっさん臭いこと言ってんの?」

 

 声のする方へ顔を向けると、いろはが立っていた。

 

「おはよー、碧。テンション低いねー」

 

 そりゃ九月の中旬だってのにこの暑さはテンション下がるよ。逆になんであんたそんな笑顔なの?

 

「逆になんであんたはそんなテンション高いの?」

 

「えー、そりゃ大学始まれば先輩と会える時間増えるし? これがテンション上がらなくてどうするの!」

 

「へー」 

 

 あー、はいはい。何この恋する乙女。朝から私には眩しすぎるんですけど……、からかう気力もない私は適当に相槌を打つ。

 

「でねでね、先輩の妹の小町ちゃんがね、先輩の誕生日に温泉旅行のペア券くれたの! すごくない? このチャンスものにするしかないよね!」

 

 温泉旅行かぁ……。温泉旅行!?

 

「え、それって何? 二人だけで泊りがけ?」

 

「もちろん!」

 

 二人だけで温泉旅行って……いろはさん大人の階段上ってしまうの? あれ、でもいろはと先輩って既に同じ部屋で泊まったりしてるんだよね? なんなのこの二人の関係は……。しかし、比企谷先輩もよくいろはと二人で行く気になったなぁ。まだ付き合ってないんだよね? おかしくない? もう付き合っちゃいなよ……

 

「まだ時期は決めてないんだけどねー。私的にはクリスマスがいいかな、なんて思ったりしてるんだよね。クリスマスに先輩と二人きりの旅行……」

 

 やっば、マジやばい……。何この子めちゃくちゃにやけててかわ、いや……キモイ! うっかり可愛いなんて言いそうになったけどさ、これいろはの容姿じゃなかったら完全にただのヤバイ人だなんだよねぇ。

 

「二人とも早いねー、おはよー」

 

「「おはよー」」

 

 涼香たちが来たので私たちは一限目の講義にみんなで向かう。

 

「そういえばさっきさー、いろはの先輩、私たちの前にいたんだよー」

 

「えっ、嘘! ちょっとなんで教えてくれないのーー!」

 

「いや、いろはいなかったし……」

 

 すごい食いつきようですね、いろはさん。涼香たちの前ってことは、ちょうどいろはが危ない笑顔振りまいてた時か……

 

「ところでさ、今日いろはと碧暇? 暇だよね? ね?」

 

 何々、どうしたの急に。涼香が今日の予定を聞いてくる。

 

「んー、今日はサークルも休みらしいし、特に用事ないけど……、碧は?」

 

「私も予定はないかなぁ……何かするの?」

 

「今日さー、合コンしようと思うんだけど二人足りないから碧といろは来てっ!」

 

 なんですと!? 合コン? 合コンですか、ついに私も合コンデビューしちゃうのか! 涼香グッジョブ! ……あれ、でも私は良いけどいろははどうなんだろ? 比企谷先輩という想い人がいるのに行くのかな。

 

「合コンかぁ。んー、あんまり興味ないんだよね」

 

 そりゃそうだよねえ。今のいろはには比企谷先輩がいるし、まだ付き合ってないけど他の男には全く興味ないだろうしなぁ。

 

「いろはは自分だけが良ければそれでいいの!?」

 

 グイグイいくね涼香……どんだけ必死なの、いや私も行きたいけどさ?

 

「えぇ!? い、いやそんなことないけど……でもなんか先輩のことが好きなのに合コン行くのも気が引けるし……」

 

「まだ付き合ってないんでしょ? お願い! 今回だけでいいから私たちを助けると思って! 碧もほらお願いして」

 

 ええーっ、ここで私に振るの? まってまって。いや行きたいけど……

 

「いろは、今日だけ悪いけど付き合ってくれないかな?」

 

 みんなの期待の眼差しに負けていろはに頼んでしまった……。ごめんね、いろは。

 

「うぅ……、碧がそういうなら……。でも私何もしないからね?」

 

「大丈夫、大丈夫! むしろ何かしたらいろは人気でて私たちが困るから!」

 

「じゃあ、今日だけだよ」

 

「「「やったー!」」」

 

 どうやらいろはの合コン参加が決定したらしい。でも合コンかー……、楽しみだなっ。なんか大学生っぽいし、やっぱり一度は経験してみたいよね。そういえば相手の人たちってどんな人たちなんだろう。

 

「相手の人たちはどんな人たちなの?」

 

 私が思ったことをいろはが代わりに聞いてくれた。

 

「んとね、一応この大学の二年生だよー。私のサークルの先輩が幹事で向こうも友達集めるって言ってた」

 

 へー、この大学の先輩かぁ。確か涼香って陸上サークルだっけ。その友達ってことは体育会系なのかな? 筋肉質な男の人っていいよね……。

 

「集合場所と日時は?」

 

 もし時間に余裕あるなら気合い入れていきたいしねっ。ちゃんと聞いておかないと。

 

「18時に○○○のお店に集合だよ」

 

 オーケーオーケー、そこなら割と近いし、一度家に帰って気合い入れなおせるね。

 

 講義中、私たちは今日の作戦を練っていた。勉強? いま大事なものは合・コ・ンです!

 

 まず整理すると、涼香は同じサークルの先輩が好きらしい。ならばその先輩を狙うというのは野暮だ。とすると、残りの四人の中でいい人を見つけるということになるわけだが、いろははやる気ないし、残りの二人との戦いになるわけか。頑張ろう。というかさっきから私ガツガツしすぎてない? 大丈夫かな。ほ、ほら、ちまたで私百合疑惑あるから、ここいらで男の人に興味のある普通の女子大生アッピしておかないと、ね? ね?

 

「それじゃまたあとでねー」

 

 今日は一日中合コンの話で終わってしまった気がする。まったくもうみんな楽しみにしすぎなんだから! 学生の本分は勉強なんだからそれを忘れちゃいけないのに……なんて言うわけないでしょう? さて私も早く帰って準備しないとねっ。

 

 家に帰っていつもより少し、ほんの少しだけ気合いを入れて準備する。気づけば時間ギリギリになっていたので慌てて家をでて、そのまま待ち合わせ場所に向かう。

 私が待ち合わせの場所に行くと既にみんな集まっていた。

 

「みどりおっそーい!」

 

 涼香が顔を膨らませながらぷんぷんしている。何あんた。そんなキャラだっけ? どこのいろは? 

 

「ごめん、ごめん!」

 

「大丈夫だよ、こっちもまだ一人来てないからね」

 

 優しげに答えてくれる男性。写真で見せてもらった涼香の想い人だ。なんだ、結構いい人そうじゃない。涼香なかなか見る目あるんじゃないの?

 

「とりあえず店に入って待っていようか」

 

 涼香の想い人の言葉で最後の一人を店内で待つことになった。というか男の人が遅れるってどうなの? よろしくないよね、きっとろくな奴じゃない。そのまま先に飲み物を注文しようとみんなでメニューを見ていると、最後の一人がやってきた。

 

「……男だけの飲み会って聞いてたんだけど……」

 

 どこかで聞いたことのある声。アホ毛がピョンと跳ねて死んだ魚のような目をしているその男はいろはの想い人、比企谷先輩だった。

 

「何これ?」

 

「合コンっていったら絶対お前来ないだろ、だから男同士の飲み会ってことにしておいたんだよ」

 

 向かい側の男性がそう答える。うん、この先輩が進んで合コンに来るとは確かに思えない。

 

「はぁ……、つかなんでお前までいるんだよ……」

 

 そう言うといろはの方を向く比企谷先輩。

 

「せ、先輩こそなんでこんなところにいるんですか!」

 

 おー、おー焦りすぎでしょいろは。小動物みたいで可愛いな……

 

「今の話聞いてたろ、嵌められたんだよ……」

 

「そんなこと言って、女の子と飲めるのを実は期待してたんじゃないんですか!」

 

「んなことねえよ……、大体お前も俺の質問に答えろよな。なんで合コンなんて来てんの? やっぱりゆるふわビッチなの?」

 

「なっ……、私だって友達にどうしても来てくれって頼まれてきただけですから! 先輩みたいに下心があってきてるわけじゃないです!」

 

「まぁまぁ、八も一色さんも落ち着いて。とりあえず乾杯しようか」

 

 何この夫婦、もう結婚すれば?夫婦喧嘩は余所でやってくださいお願いします。みんなの視線が二人に集まっていることに気づくと、比企谷先輩はそこで会話をやめて席に着く。

 

「ねぇねぇ、あの人っていろはの好きな先輩だよね……?」

 

 涼香が耳元でそう呟く。耳弱いんだからやめてっ!

 

「うん、まさかここに来るとは思ってなかったんだけど……。比企谷先輩の交友関係が謎」

 

 全員が席に着くと注文していた飲み物とお通しが到着し、涼香の想い人の先輩が音頭をとり、合コンが始まった。

 

 涼香は意中の先輩と話を始めてる。それはまぁわかる。ただ、納得がいかないのはいろは、なんでそんなに男子に囲われてるの! 開始早々にいろはの周りに残り(比企谷先輩を除く)男性陣が囲う。いや、確かにいろは可愛いけれどさ! いろはは困ったような表情を浮かべながら男性陣の質問に受け答えをしてる。それを横目で見る比企谷先輩を私は見逃さなかった。この表情はなんだろ……? 嫉妬かな? 嫉妬じゃないよ。嫉妬だよ! やだ、ちょっと可愛いんですけど比企谷先輩っ。これは嫉妬っていうよりやきもち? こういう比企谷先輩を見るのは珍しいかも。

 

「あ、いろはちゃんグラス空いてるねー、次何飲む? お酒は何が好きなの?」

 

 一人の男性がいろはに尋ねていろはが答えようとした時だった。

 

「おい、一色、カルーアミルクでいいか? 注文するけど……」

 

「え、えっと、はい、お願いします」

 

 急に比企谷先輩に声をかけられて軽く動揺しているいろは。てか今のはあれですかね、いろはのことは俺の方が知ってるんだぜアピールですかね!? 思った以上にあざといぞ、この先輩。

 

 他の男の人たちは、比企谷先輩の挑発にむっとしたのかそのままいろはと会話しようとしている。

 

「俺地元埼玉なんだけどさー、いろはちゃんは地元どこなの?」

 

「千葉だよな」

 

「あ、千葉なのかー……、そっかそっか」

 

 いろはではなく、何故か比企谷先輩が答える。いろはもそれに「ですねー」と同意して会話はそこで終わる。だが男の人も諦めずになおも会話を試みる。

 

「いろはちゃんは誕生日いつなのかな?あ、ちなみに俺は七月なんだー」

 

「四月だぞ」

 

「へ、へぇ~……」

 

 あー、これはあれですねぇ。完全に比企谷先輩が邪魔しに入ってる形ですね、これは嫉妬してますわ。いろはもそれに気づいたのかさっきより表情が良くなって「そうなんですよ~~」とか調子のいい感じで答えてる。それでも諦めようとしない男の人に対して私は、軽く敬意を表する。が、がんばれ……

 

「い、いろはちゃん少し早いけどさ、クリスマスの予定とかある?俺今フリーなんだけどさ~」

 

 この人も懲りずに攻めるなぁ……クリスマスなんてまだ三か月以上も先だろうに……

 

「あ~、えーと……」

 

 流石にいろはもどう断るか悩んでいるようで返事を返せないでいると、また比企谷先輩が答える。

 

「クリスマスは温泉旅行いくんだろ?」

 

「ふぇ!?」

 

 いきなりの先輩の言葉にめちゃくちゃ動揺しているいろは。クリスマスに温泉旅行って、今日の朝の話を比企谷先輩は聞いていたのだろうか。そういえば涼香たちの前にいたとかなんとか言ってたっけ……

 

「そ、そうなんですよー、なのですいません……」

 

「そ、そっかぁ……」

 

 流石に諦めたようだ。というか比企谷先輩妨害しすぎじゃないですか? まるでいろはの父親か何かってレベル。いや、単純にこれは彼女に言い寄る虫を駆除しているような感じか……

 

 しかし、あまりにも比企谷先輩が妨害しているためか、いろはの周りの空気が若干重い。比企谷先輩どうにかしてくださいよーー! 私がそう思いながら比企谷先輩の方を向くと、こちらに気づいて少し申し訳なさそうにしていた。

 

「わりぃ、俺そろそろ帰るわ……」

 

 席を立つ比企谷先輩。

 

「えっ……?」

 

 いろはが反応する。そして少し考えた後、口を開く。

 

「あ、わ、私も帰りますー。すいません!」

 

 そう言ってお金を私に渡し、ぱたぱたと早足で比企谷先輩に追いつく。

 

「先輩、先輩、今日なんか疲れちゃったんでまた泊めてください!」

 

「あー、いいぞ」

 

「え? なんか今日の先輩やけに素直じゃないですか?」

 

「いや、だってお前断っても来るだろ」

 

「それはそうですけどねー」

 

 あのー……お二人さん、そういうのはお店出てから話しませんか? こっちに丸聞こえなんですけども……。周囲に目をやると、私以外の人がみんなぽかーんとした表情で二人を見ていた。まぁそりゃそうなるよね。

 

「あ、あのさ、あの二人って付き合ってるのかな?」

 

 先ほどまでいろはに話しかけていた男性が聞いてきたので私は事実を伝えてあげることにした。

 

「付き合ってません!」

 

「いや、でもだって、今日泊まるとか」

 

「付き合ってません!」

 

 そうだ。あの二人は付き合ってない。そりゃ傍から見ればそう見えなくもない、いや、むしろ完全にカップルと言っても過言ではない。だが付き合ってないのだ。周りもそりゃ戸惑うよね!

 まあしかしですね、今日の合コン、二人を観察しすぎて、私何もしてないんですけど!? なんなの本当、私何のために来たの? あの二人のイチャつくのなんてもう見飽きてるのに! 私に新しい出会いをプリーズ!

 

「すいません、飲み放題のお時間終了となります」

 

 店員さんにそう告げられ、私の初めての合コンは、いろはと比企谷先輩の夫婦漫才を見て終わったのであった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
少しずつ感想や評価が増えてきてとても嬉しいです!
それでは感想等ありましたらよろしくお願いします


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私は彼の家に泊まり込む

このシリーズも15話ですね。
前回の話が9月の話でしたが、今回は八幡の誕生日SSの関係上、書けなかった話を書いてみました!
時期的に7月になりますね、それではどうぞっ


 七月、私たち一年にとって大学最初の試験が控えてた。

 うん、どうしよう……正直碧たちとふざけすぎて、まともに講義聞けてなかった私にとってこれはピンチ、ホントにピンチなんだよね……。このままじゃ赤点で単位が取れなくて留年なんてこともあるかもしれない。そんなことになったら先輩になんて思われるか……嫌われる? いや、多分あの先輩のことだからそれで私を嫌いになったりはしない……よね? でも物凄い上から目線で馬鹿にされそう……

 

「あぁぁどうしよぉぉぉ……」

 

「どうしたのいろは? なにかお悩みかな? お姉さんに相談してごらん?」

 

 後ろから陽気な声で話しかけてきたのは友達の碧。私がこんなに必死で悩んでるのに、なんで一緒にふざけてたはずの碧はこんなに呑気にしてるの? むう……。

 

「碧、試験は大丈夫なの?」

 

「試験……? あぁ大丈夫、大丈夫。私基本は一夜漬けだしね、大学受験もそれでなんとかなったし!」

 

 天才? 普通の学期末とかならわからなくもないけど、大学受験を……しかもこの大学はレベルは低くない、むしろ私立大学の中ではトップクラス。それを一夜漬けでとかどういうこと!?

 ……でもまぁ今はそれどころじゃない。碧の頭が私の予想以上だったのは嬉しい誤算だし。

 

「ねぇねぇみどりぃ~……べんきょう、おしえて……?」

 

「うぐっ……あんたのそれ卑怯だから……男なら確実に落ちてるよ……」

 

 ふふんっ、当然だよっ。でも碧もすごい効いてるじゃん! やっぱり百合……?

 

「でも私はいろはに勉強は教えないよ?」

 

「な、なんでよー! 私たち友達じゃん! おーねーがーいー」

 

「友達だから私に教わるよりいい方法を教えてあげる。むしろなんでこんな簡単なことをいろはが気づいてないか不思議だけどね?」

 

 んん……? どういうことだろ、碧に教わるよりいい方法……? あっ……そうか。

 

「どうやら気づいたようですねいろはさん! そうだよ、せっかくなんだし比企谷先輩に教わればいいんだよ。せっかく同じ学部で同じ学科なんだからさー、この手を使わない手はないんじゃないの?」

 

 碧、天才! まあ私も今気づいたけどねっ。確かにこれなら先輩と一緒にいれるし、勉強もできるしで一石二鳥だよね。なんでこんな簡単なことにすぐ気づかなかったんだろ。そうと決まれば早速先輩にメールをしてっと……

 

 

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送信者:いろは

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タイトル:Re:せんぱーい……

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添付ファイル:

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本文:せんぱーい、やばいです

やばいです……(´;ω;`)

 

試験勉強したいんですけど

私一人の力じゃ厳しいんです!

助けてください˚‧º·(˚ ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥ )‧º·˚

 

 

 

     -END-

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 よし……とりあえずはこれで大丈夫かな? どうせ先輩のことだから返事が来るまでしばらくかかるだろうし気長に待とうかな。

 

 一限目の講義の教室に入り、携帯を取り出すと新着メールが一件来ていた。まさかあの先輩がこんなに早く返信するなんてありえないと思いつつ、少しだけ期待をしてメールを見ると期待通り先輩からのメールだった。

 

 

―――――――――――――――

送信者:先輩

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タイトル:Re:Re:せんぱーい……

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添付ファイル:

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やだ

 

 

     -END-

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 うん、非常に先輩らしいメールですね……。なるほど、なるほど? そういうこと言っちゃいますか。いいですよ、ならばこちらにも考えがあります。

 それから一限目の講義が終わると、私はすぐにとある人物に電話をする。電話の相手は、まるで私からの電話を待っていたかのようにワンコール目で電話に出る。

 

『おはよう、いろはちゃん。ハッチーから聞いたよー』

 

 ふふっと声を漏らす金沢先輩。GW中に先輩で困ったことがあったら助けてあげると言われていたので、ここで私はこのカードを切ることにした。

 

「それじゃあお願いしてもいいですか……?」

 

『うん、まかせてー』

 

 そのままお礼をして電話を切る。ひとまずこれで大丈夫なのかな? でもどうやって説得するんだろ……。あの人も何か先輩の弱みを握ってるのかな? ……握ってそうだなぁ。まぁもし成功したらあの人には何かお礼しなきゃかな。

 午前中の講義が終わり、私たちが学食に向かうと入口には先輩が立っていた。

 

「おい、一色、お前卑怯だぞ。金沢使うとか反則すぎんだろ……」

 

「はて? 先輩は何を言ってるんですか? あ、ちょうどいいので先輩勉強教えてくださいよー。前に本気だったら教えてくれるって言ったじゃないですか」

 

 そうなんだよね、先輩は前に教えてくれるって言ったのに、さっき断るとかひどいんですけど!

 

「いや、それは編集者になるための勉強だろ? 試験勉強は日頃ちゃんとしてれば問題ないはずだろ。それを切羽詰てるってことはお前まともに講義受けてねえだろ。それは自業自得だ」

 

 うぐ……これは正論すぎて言い返せない。

 

「まぁでもあれだ。金沢にたのま、いや脅されたし見てやるよ……言っとくけど今回だけだからな。次からは試験勉強は自分でやれ」

 

 っつ~~~! ありがとうございます金沢先輩っ。これは今度ちゃんとお礼しなくちゃっ。

 

「それじゃ今日から先輩のおうちで勉強会ですね! 私お泊まりセット持っていきます!」

 

「はい? なんで俺んちでやるんだよ……」

 

「え? 先輩もしかして私の家でやりたいんですか? いえ、確かに先輩なら私の家に来て泊まったりしてもいいですが流石にいきなりそれは難易度高いと言いますか次回までに心の準備をしておくのでそれまで待ってください」

 

 い、言い切った……、うん、もはや何の断りも入ってないな私。完全にデレデレですねこれ。

 

「お、おう……。とにかくだ、勉強なら大学の図書館とかでもいいだろ? 別に俺の家でやる必要はないだろ」

 

 もう! いい加減察してくださいよ! あなたの家で先輩と二人で過ごしたいんですよ、言わせないでください、恥ずかしい。

 

「それじゃ、間に合わないんですよ、先輩、私ピンチって言いましたよね? 徹夜覚悟でこれから勉強しないとまずいんです。あっ……安心してください先輩、その間は私が先輩のためにご飯とか作ってあげます、どうですか可愛い後輩が作るご飯食べたくないですか?」

 

 先輩は少し考えたあと「はぁ……」とため息を吐き、先輩の家で勉強会をすることに了承した。まぁ金沢先輩がバックについてる時点で、私の案を断ることはできないんだから抵抗なんて無意味なのだっ。

 

「……で、いろは……いつまで二人でイチャついてるのかな? 私たちお腹減ったよ」

 

 あっ……すっかり碧たちの存在を忘れてた。というか周りの人たちがチラチラこっちを見てるしなんか恥ずかしいんですけど。

 

「い、イチャついてないから! ね、先輩!」

 

「お、おう……」

 

 あーもう、ちょっと照れないでくださいよ! キモイです、でも好きです!

 ニヤニヤと碧たちが先輩と私を見る。流石に恥ずかしいのでもうこの場を離れよう。先輩とは後でいくらでも絡めるんだしっ!

 

「そ、それじゃあ私たちお昼まだなので、また後でっ」

 

「おう」

 

 先輩と別れて私たちは食堂に入る。今日は日替わり定食を選んだ。毎日おかず変わるし、A、Bランチより安いんだもんいいよねっ。

 

「それにしても、あんなやり取りしててまだ付き合ってないんだもんいろはたちの関係ってなんなんだろうね」

 

 そう言われて考える。確かに涼香の言うように今の私たちの関係ってなんだろ? 私は先輩のことが大好きで、先輩も私のことを嫌いではないはず……だよね?

 

「んー、ぼっちな先輩に構ってあげる可愛い後輩?」

 

「ハッ」

 

 うわっ、碧に鼻で笑われたんですけど!

 

「そうじゃないでしょ、ぼっちだった先輩を好きすぎて構って欲しい後輩でしょ?」

 

「ちょっ、何言ってるのかな碧ちゃん……?」

 

「いやいや、別にもうみんな知ってるし照れるところなの?」

 

 いやね? 流石に人にそう言われるのと自分で好きだと宣言するのはちょっと違うんだよ? 人に指摘されるとやっぱりちょっとだけ恥ずかしいわけでして。

 

「もうなんでもいいからっ! 私先に行って席取ってる!」

 

 私は、恥ずかしさを隠して食べかけの日替わり定食を一気に掻き込んでみんなより先に学食をあとにした。

 

 午後の講義をいつもより真面目に受けると、意外と時間の流れが早く感じるもので、気づけば今日の講義を全て終えていた。私は一度帰宅して先輩の家に泊まるための荷物をまとめる。何日泊まるかわからないし用意は多いほうがいいと思って少し大きめの鞄を持って家を出た。

 

 先輩の家に着き、呼び鈴を鳴らすと、だるそうな声が中から微かに聞こえる。玄関の扉が開くと先輩が声のとおりだるそうに迎えてくれた。……迎えてくれてるのかなこれ。

 

「お邪魔しまーす」

 

「本当にお邪魔してるよな」

 

 この先輩本当にひどいですね! せっかくのニコニコ笑顔での挨拶もこの人にはまるで効果がないようだ。

 

「とりあえずなんか飲むか? コーヒーなら今淹れるけど」

 

 毎度毎度思うけど先輩、その一度私を不安にさせてからの優しい対応は狙ってやってるんですか? 不本意ながら効果抜群なんでやめてください。……やっぱりやめないでください。

 

「頂きます……」

 

 先輩がキッチンに向かったので私はテーブルに試験勉強の準備をする。テーブルには先輩のノートが何冊が置いてある。表紙の文字をみると今私たちが受けてる講義のノートのようだ。

 

 こうやってちゃんと準備してくれてるところとかホントあざといんですよね……

 

「ほれ、それ飲んだら始めるぞ」

 

 コーヒーを淹れ終えた先輩が戻ってきた。

 

「あ、はい。先輩は真面目にノートとかとってるんですね」

 

「ぼっちは自分でノートとらなきゃ助けてくれるやつがいねえんだよ」

 

 なるほど、納得してしまいましたよ。でも大学での先輩はぼっちじゃないし助けてくれるでしょうに。

 

「そうかもしれないですけど今の先輩はぼっちとは呼べないと思いますよ?」

 

「例え今現在ぼっちじゃなかったとしても、今まで培った習慣つうのはすぐには抜けないの。少しは俺を見習って自分でノートとることを覚えろ。人のノート写すとか本来なら最低だぞ。今回だけは多めに見て写させてやるけど次からはちゃんと自分でとれよ」

 

「はーーい」

 

 まぁ実際先輩の言うことは正論だし、いやぼっちだからの件は正論とは呼べないけどね? これからはちゃんとノートとるとしますかー。

 先輩のノートはとても綺麗にまとめられていた。よく考えたら先輩の字をちゃんと見るのは初めてかも。先輩ってこういう字を書くんだなぁ、字が上手い人ってかっこいいよね、先輩はそれ以外もかっこいいけど。

 

 何ページか写し終えて次のページを開くと、それ以降真っ白のページが続いてることに気づいた。今ちょうど私たちが受けてる部分以降が書かれてない。去年だけなかったってことはないからおかしいなと思い、さらにページをめくると何枚かの紙が挟まっていた。その紙は先輩の字とは違う字で書かれたノートをコピーしたものだった。

 

「……先輩、これなんですかね?」

 

 私は先輩のノートに挟んであったコピーを見せる。

 

「なんだよ……あっ」

 

 今「あっ」って言いましたよね? 「あっ」ってなんですか。

 

「これはあれだ、あれ。ノート忘れた時に俺が別のノートでまとめたのをコピーしたんだよ」

 

「でもこの字、先輩の字じゃないですよね? もっとこう女の人の字っていうか。これ金沢先輩のコピーしたんじゃないですか?」

 

 大学で交流してる先輩と仲がいい女性なんて限定されてる。つまりこれは先輩がノートをとらなかったのを金沢先輩に助けてもらったということになるわけで、さっきまでの説教はなんだったんでしょうかねぇ、先輩? 何かカッコイイこといろいろ言ってた気がしますが。

 

「ぼっちでもたまには疲れてる時があんだよ……」

 

 はいー、開き直り入りましたー! これじゃあ私のお願いは断れないですよねー、せ・ん・ぱ・い?

 

「ぼっちの先輩でもそうなんですもん私がノートとってなくても仕方がないですね」

 

「いや、それは違うだろうが。はぁ……まぁいいや……とりあえずお前はそのままそれ見ながら勉強しろ。それでわからなかったことがあったら聞いてくれ」

 

「はーい。ではではせんぱいっ、よろしくでーす」

 

 最近やってなかった敬礼をやってみたんだけど。……ちょっと恥ずかしいですねこれ。

 

「変わらないな、お前」

 

 ふっと鼻で笑われた気がしたけど、そんなに嫌な気分にはならなかった。むしろ目は私を見ながらもどこか違うところ……過去でも見ているような気がした。

 

 グゥー……

 

 しばらく勉強をすると、時刻も七時に差し掛かろうとしたところで先輩のお腹がなった。

 

「腹減ったのか? 休憩するか」

 

 グゥー……

 

 先輩のお腹がなった!

 

「いや、私は平気ですけど。先輩がお腹すいたなら何か作りますよ」

 

「いや、さっきからお前のお腹なってるじゃん」

 

 この人にはデリカシーって言葉がないんですかね!? そこはさり気なくスルーしたりしてあげるのが紳士ってもんじゃないんですか!

 

「あぁ……一色、俺腹減ったんだけど、何か作ってくれない?」

 

 そうですかそうですか。先輩お腹減ってたんですかー、私はそんなに減ってないんですけど先輩がお腹すいたなら仕方ないですね。私の手料理を披露すると気が来ましたか。

 

「仕方ないですねー。では食材は用意してきたので台所をお借りしますね」

 

 私は持ってきた食材で料理を始める。ここは王道で攻めるべきかで悩んだ結果、肉じゃがに決めた。男の人って好きでしょ? 肉じゃが。お味噌汁も同時進行で作り始め、できたのは八時を少し過ぎた頃だった。流石にお腹空きすぎてやばいです……

 

「先輩、できましたよ~。いろはちゃんスペシャル肉じゃがとお味噌汁ですっ。どうぞ召し上がれ」

 

「おぉ、さんきゅう。普通に美味そうだな」

 

「当たり前ですよ、これには私の愛情がたっぷり入ってますからねっ」

 

 ふふん、これで先輩のハートも鷲掴みですよ?

 

「美味いな、だがまだ小町の方が上だ」

 

 …………はい? 先輩? ここで小町ちゃん出しちゃいます? 流石にそれは私でもドン引きというか、何も言えないんですけど?

 

「でもこの味噌汁は毎日飲みたいくらい美味いよ」

 

 ……そ、そんなお味噌汁を褒められたくらいで浮かれたりしないんですからね!? どうせなら肉じゃがを褒めてくださいよ! 肉じゃがを!

 

「先輩は本当に捻くれてますね……どうせならお味噌汁じゃなくて肉じゃがのほうを褒めてほしいんですが」

 

 私がそう言うと、何やら俯いてぼそぼそと呟く先輩。残念ながら内容までは聞こえなかった。けれど先輩の耳が少しだけ赤く染まっていた気がしたので何か恥ずかしいことでも言ったのかもしれない……聞きたかった!

 

「ごちそうさん」

 

「お粗末さまです」

 

 二人共夕飯を済ませて試験勉強の第二ラウンドが開始された。二人でテーブルに向かい、先輩が先に座る。それに続き私は今度は先輩の横に座った。

 

「……なんで隣に座ってんの?」

 

「え? 先輩わからないんですか? 向かい合って座った場合、ノートの内容とか確認してもらうのに向きが反対になって見にくいじゃないですか! 先輩が見やすいようにという私の優しさなんですよ?」

 

「いや、そういう優しさはいらないから、戻ろうな?」

 

「い・や・で・す」

 

「はぁ……わかったよ……その代わりあんまりくっつくなよ」

 

 なんですか、なんですか先輩、照れてるんですか? これ言ったら強制送還されそうなんで言いませんけど。

 先輩の了承をもらったところで今度こそ本当の第二ラウンドが開始された、されたのだけれど、久しぶりに本気で勉強した疲れと、お腹いっぱいご飯を食べたせいで急に眠気が襲ってきた。第二ラウンド開始後二十分くらいたったあとだった。

 

 隣の先輩をみると、既にあぐらをかきながら眠っていた。それを見て私の眠気はさらに加速したので、先輩に責任をとってもらうためにテーブルをどかして先輩のあぐらに自分の頭を乗せる……案外気持ちがいいもので、横になった私はすぐに眠りについてしまった。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

しかし、この二人いつになったら付き合うんですかね……こんなのもう確実に突き合ってるレベルなのに!





毎回感想は何度も読ませていただいてます。本当にありがとうございます!

それでは感想や評価等お待ちしております(`・ω・´)


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私と彼のハロウィン

どうもご無沙汰しております。さくたろうです。

ちょっと短編に浮気したり仕事が忙しかったりで投稿が少し遅くなりました。

9月は少し忙しい時期なので、ちょっとだけ投稿間隔が空くかもしれませんが、途中で終わることはしないのでよろしくお願いします(`・ω・´)

次回は11月文化祭ネタ
そして12月クリスマスになるかと思います。
シリーズとしては12月か1月で終わる予定でして他にアフターと八幡1年生時のことを書こうかなぁと思っております、はい


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送信者:いろは

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タイトル:Re:せんぱい!

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添付ファイル:

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今日大学が終わったら先輩の家に

お邪魔するので予定入れないでく

ださいね(੭ु ›ω‹ )੭ु⁾⁾♡

あ、どうせ先輩に予定なんてない

と思いますけど(・ω<)☆

 

あと、お菓子も用意しておいてく

ださいね(๑˃̵ᴗ˂̵)و

 

 

     -END-

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「これでよし、っと……」

 

 十月三十一日、今日は世間で言うところのハロウィン当日。

 先輩はハロウィンなんて興味ないだろうけど、私にとっては先輩の家に遊びに行ける口実にもなるし、このイベントはしっかり活用させてもらいましょう。

 とりあえず、大学に行く前に用意していた衣装をバッグに詰め込み、ついでにお泊まりセットも持って大学に向かう。

 

 

 大学に着くと、先に来ていた碧に声をかけられた。碧は最近は朝が弱いようで、気だるそうに挨拶をすると、ため息をついた。でも朝が弱い割にはいつも大学には一番乗りなんだよね。それよりも最近、碧のおっさん化現象が進んでいるような気がするんだけど、まぁ口に出すとめんどくさそうだし触れないでおこうかな……。そんなことを考えつつも、私は今日の先輩とのことが楽しみで、陽気に挨拶を返していく。すると、なぜそんなにテンションが高いのかと尋ねられた。まぁ隠しても別に意味ないことだし言ってもいいかな……

 

「まぁねぇ、ほら、今日ハロウィンだしさ? せっかくだから先輩の家にお菓子もらいに行こうと思って!」

 

「あぁ、なるほどなるほど。それでそんなバッグがパンパンなのですね? ちょっと見せてごらんなさいよ」

 

 先輩のネタを出すと急にテンションが高くなる碧。というか口調おかしいけどどうしたの? 完全にふざけてる感じですよね、碧さん?

 

「……いろは、あんたこれ着るの?」

 

 そう聞いてきた碧の顔は、少しだけ引き攣っている。なんというか、母親が娘を心配しているような表情といいますか……そんなにおかしいかな? この衣装……

 

「え、なんかおかしかった?」

 

「いや、おかしいというか……やたら露出度高くないこれ」

 

 碧の言うとおり、今回私が選んだ小悪魔衣装は、上半身は胸元が大きく空いていて、下はショートパンツでおしり部分にはしっぽのようなものが生えている。露出度は確かに高めかもしれない……いや、改めて見ると中々に露出度高いかも、これ……。さっきまでは平気だったけど、碧に言われて少し恥ずかしくなってきた……。で、でもこれくらいしないと先輩だし……

 そんなことを思っていると、碧は少しニヤけながら全部お見通しですよ、と言わんばかりの表情でこちらを見てくきた。もうなんなのこの顔。あぁ……、あのニヤケ顔に軽くビンタしたいっ!

 

「まぁまぁ、そんな怖い顔で睨まないでよ? 私はいろはが順調に前に進めてるみたいで嬉しいだけなんだからさ……?」

 

 順調に前に進めてる、か……。本当にそうなのかな? 

 この前の合コンの時の先輩は、今までとは少し違う感じがしたけど。……そういえばあの時、クリスマスに温泉に行くって先輩言ってたっけ……。あの後、先輩の家についてからは、お互い少し気まずい感じになってすぐ寝ちゃったから、その話はしてないんだよね。

 

「いろは、携帯鳴ってるよ」

 

 どうやら考え事をしていたせいで携帯が鳴っていることに気づかなかった私は、碧に教えられて携帯を手に取る。先輩からのメールみたいだ。

 

 

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送信者:先輩

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タイトル:Re:Re:

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添付ファイル:

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了解。

菓子ならもう買ってある。

 

 

 

 

     -END-

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 相変わらずそっけないメールの返しですね、この人は……。しかし、お菓子をもう既に用意しているとは、それいろは的にポイント高いですよ? たまたま用意していたのか、それとも今日がハロウィンだと知ってて用意したのか。気になるところだけど、それを確認する度胸はちょっとない……かな。

 どうやら私が先輩のメールを見てるあいだに、涼香たちも来たようで、私たちは揃って一限目の講義へと向かった。

 何事もなく一限目を終えると、金沢先輩からメールが来ていた。

 

 

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送信者:金沢先輩

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タイトル:こんにちわ(。・ω・。)

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添付ファイル:

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いろはちゃん、今日サークルで文

化祭の出し物を決めたいと思うん

だけど来れるかな?

そんなに時間掛からないと思うか

ら、その後ハッチーとも遊べると

は思うな٩(๑❛ᴗ❛๑)۶

 

 

 

     -END-

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 そっか……、もう文化祭の時期なんだなぁ……。先輩との文化祭は二年の時以来だなぁ。まあ、それも高校最後ということで、雪ノ下先輩と結衣先輩のために私は、そんなに先輩とは一緒に過ごせなかったもんね。となると、これが先輩と目一杯過ごすことができる初めての文化祭になるってこと!?

 そう考えると、私の胸が高鳴るのが自分でもわかった。本当に私は……どんだけ先輩のこと好きなのだろうか。

 それはそうとして……なんで金沢先輩は、今日私が先輩と遊ぶっていうこと知ってるんですかね? エスパーかなにかなのだろうか、いや、単に私がわかりやすいだけかも。

 この様子だと先輩もサークルに顔出すと思うし、私が行かない理由もないかな。

 

 

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送信者:いろは

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タイトル:了解です(`・ω・´)

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添付ファイル:

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講義が終わったら向かいますね!

 

文化祭とても楽しみなんで頑張り

ましょうね(>ω<)

 

 

 

 

     -END-

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 こんな感じでいいかな? 金沢先輩への返信を済ませて次の講義に向かう。

 それから特に変わったこともなく、今日の講義を終えた私は、少し時間が早いけどサークルの集合場所に足を運んだ。

 私が一番乗りのようで、集合場所にはまだ誰の姿もなかった。そういえばサークルのこういう集まりに参加ってあんまり行ってなかったかも。いつも先輩が行くときにくっついて行く感じだったし、金沢先輩たち以外の人達とはあんまり交流もなかったもんなぁ……

 携帯を弄りながらほかの人たちを待っていると、先輩と金沢先輩たちがやってきた。いつも通り仲が良さそうで、高校時代の先輩を知っている私にとっては、やはりグループに溶け込んでいる先輩というのは想像できなかったことで不思議な感覚だ。

 

「うす、早いな」

 

「こんにちは、いろはちゃん!」

 

 相変わらずテンションが低い先輩と優しく挨拶してくれる金沢先輩。

 

「先輩方こんにちはですっ」

 

 その後、しばらく先輩たちと談笑しつつ、サークルメンバーが全員集まると、文化祭の模擬店の出し物などの話し合いが設けられた。とりあえずとして決まったのは出店をしようということらしい。でもなんの店にするかで揉めている。私としては先輩と過ごせるのならなんでもいいのだけれど、上級生たちは何やらこだわりがあるようで、決まるまでに思いのほか時間がかかってしまった。

 結論から言うと、私たちのお店はラーメン屋台になった。誰の意見かは言わないでおくけど、普段、いや、こういう時に絶対発言しないような人が何故か乗り気で、この日、この提案を掲げ決めるまでに持っていった。でもラーメン屋台とかセットとか大丈夫なのかな? 

 とりあえず、今日は解散ということで話し合いは終わった。そのまま先輩と一緒に帰ろうとしたけど、このままだと先輩が玄関を開けて、そこにコスプレをした私が「Hapyy halloween!! Trick or treat」という台詞を言って、先輩の反応を楽しむというシチュエーションができないことに気づいた。うーん、それは少しまずいなぁ……

 

「一色、帰らねえの? うちくるんだろ」

 

 私がどうしたらこのシチュエーションに持っていけるか考えていると先輩から声がかかった。

 ていうかいきなり先輩から声かけるとかドキっとしちゃうじゃないですか心臓に悪いんでやめてくださいお願いします。……やっぱりやめないでください。

 

「あ、ハッチー、ちょっといろはちゃんと話があるから先に帰っててもらっていいかな? そんなには時間かからないと思うから」

 

 金沢先輩が私に話? なんですかね……?

 先輩は「わかった、じゃあ先に帰るわ」と言いその場を離れた。あ、これもしかして……?

 

「その大きなバッグ、今日のためのでしょ?」

 

 本当になんでわかるんですかねー。まぁそのおかげでさっきのシチュエーションを実行できそうですし、流石金沢先輩と言いますか、よく見てるなぁ、この人。 

 

「あはは、バレてましたか。なんでわかるんですかね?」

 

 金沢先輩はニッと笑いながら「去年の私もそんな感じのことをしようとしてたからかな?」と話す。この人もそんなことするんですねー。と、というか誰にしようとしたんですか! 先輩にですか、やっぱり敵なんですか!?

 

「別にそういうつもりでしようとしてたわけじゃないよ? 安心してね。それにしようとしてたのはハッチー以外のみんなでだから」

 

 どうやらまた顔にでてたようですね……。うーん、仮面を被るのが得意なはずなんだけどなぁ、どうも大学に入ってからはそんなこともないようだ。これも全部先輩が影響しているのかなぁ。

 それからしばらく金沢先輩と雑談をして、「そろそろ行っても大丈夫じゃないかな?」という金沢先輩の言葉で私は先輩の家に向かった。

 

 もう十一月ということもあり、日が沈むのが早い。私はとりあえず先輩の家の近くのコンビニのトイレで着替える。流石にこの季節にこの格好で先輩の家まで行くのは辛いので……いや、夏でもダメだよね、これ、その上に上着を来てそれから先輩の家に向かった。

 

 先輩の部屋の前に来た私は上着を脱いでコスプレ衣装になる、とそこで先輩の隣の部屋の玄関が開かれた。部屋から出てきた男性がこちらを凝視してくるのが凄く恥ずかったので、これは先輩に責任をとってもらうしかないですね……

 呼び鈴を鳴らすと部屋の中から「はいはい」と声が聞こえ玄関が開かれる。

 

「Hapyy halloween!! Trick or treat!! せ~んぱいっ」

 

「おまっ!? こいっ!」

 

 先輩は一瞬驚いた表情をしたあと、すぐに私の腕を掴んで部屋に連れ込んだ。え、なんですか? これ私が襲われちゃうパターンですか?

 

「お前、なんつー格好してんだ……」

 

「えー、可愛くないですかこれ? 先輩を驚かそうと思いまして」

 

 うーん、私が思っていたような反応はしてくれないようですね……失敗しちゃったかなぁ。怒った口調のあとに先輩が一息つき、今度はすこし照れた表情を浮かべながら口を開いた。

 

「いや、そんな格好で外にいたら危ねえだろ……そ、その、お前は可愛いんだし、少しは気をつけろ」

 

「えっ……?」

 

 先輩、最後の台詞もう一度お願いします! 録音したいんで。

 というか先輩、私のことを心配してくれてるだけなんですね。まったく本当に捻デレさんなんですから……そう思うと自分でも気分が良くなったのがわかった。

 

「と、ところで先輩、お菓子ください! 今日はハロウィンなんです! お菓子、もらえないと……悪戯、しちゃいますよ?」

 

 大きく空いた胸元を見せつけ、お尻から生えてる尻尾を右手に持ち、ふりふりと回しながら上目遣いで先輩を見つめる。

 

「わかったからその上目遣いで言うのやめろ、あざとい。今コーヒー淹れるから待ってろ」

 

 そのまま席を立ちコーヒーを淹れに行く先輩。むぅ……、しかし、今の私の台詞には少し自信があったんだけどなぁ……まったく動揺しないと言いますか、流石先輩と言いますか。

 

「あっちっ!」

 

「どうしたんですか、先輩!」

 

 大きな声が聞こえたので先輩の方に駆け寄ると、先輩がコーヒーをこぼしていた。というかカップに溢れるほど入れすぎていたんですかね、一つのカップにコーヒーがたぷたぷに入っている。

 

「すまん、ちょっとぼーっとしてた」

 

「しっかりしてくださいよ、先輩~」

 

「いや、お前のせいだから」

 

 私のせい? なにかしたんだろうか、まったくもって記憶にないですが。

 残ったコーヒーを淹れ終え、私たちは席に着き、先輩が用意しておいたお菓子の箱を開ける。

 

「ほらよ、ザッハルトルテだ。美味いらしいぞ」

 

 あの、先輩……それザッハトルテです。なんですか、ザッハルトルテって、誰かも間違ってましたねそういえば。

 

「先輩、それザッハトルテです、ザッハルトルテではないです。なんですかそれ」

 

 私がそう言うと「えっ、そうなの?」と本気で驚いていた。

 先輩の用意していたザッハトルテはとても美味しくて二人で食べるとすぐになくなってしまった。

 

「ふぅ……」

 

 コーヒーを一口飲んだ先輩はひと呼吸すると、カップを持ちながら先輩は立ち上がり、ベランダの窓を開けて外に出る。

 私もつられて外に出て先輩の横に立つと、秋の夜風がとても気持ちいい……

 ベランダから見える夜空に輝いた月がとても綺麗だった。

 

「先輩、月が綺麗ですね……」

 

「…………っ、そうだな……」

 

「先輩、どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもない……月が綺麗だな……一色」

 

「それ私が今言ったんですけど……?」

 

 先輩の耳元が赤く染まった気がしたけれど、なぜそうなったのか私にはわからなかった。それから先輩は黙ってしまい、静かな時が流れる。先輩と二人だとこんな時間もとても愛おしく思い、横にいる先輩の肩に頭を預けた……

 

 

 

 その日の夜、私は夢を見た。寝ている私にそっと優しく口付けをする先輩……。先輩は優しく頭を撫でてくれてそれがとても心地よかった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

自分のシリーズってなんか毎度八幡が登場するのが遅い気がする。まあいろはと碧視点だし仕方ない部分もあるんですかね?

それでは感想等ありましたらよろしくお願いします。


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私たちの祭りが始まる

どうもさくたろうです。

文化祭のお話になりますが、思った以上に文量が多くなりそうなために2部構成にさせてもらいました!


 十一月、いよいよ私たちの大学の文化祭当日。

 碧たちはサークルには入ってないので適当に遊びに来るって言ってたっけ。

 私はというと、文芸サークルでの出し物であるラーメン屋台の準備をしている。

 

「いろはちゃん、これ着てもらえるかな?」

 

 そう言った金沢先輩が手に持っているのはメイド服。え? なんでメイド服なんて持ってるんですか? というかなんで金沢先輩メイド服着てるんですか。

 ニコニコ笑顔で「早く、早く」と言われるけど、こんなとこで着替えれませんから! それにメイド服とか……あ、でもちょっとだけ着てみたいかも。これ着て先輩に言い寄ったらどんな反応するかな?

 

「きっと喜ぶと思うよ?」

 

 心を読むの本当にやめてもらえませんかね? さっきからずっとニコニコしながらこっちを見てるし……これってあれなのかな、前にあった貸しをこれで返せってことなんですかね……。それなら断れないんですけど。

 高校時代の先輩もこんな感じだったのかなと思いつつ、更衣室に向かい、金沢先輩に渡されたメイド服に着替える。ラーメン屋台にメイドっているんですかね……。

 

「わー! いろはちゃん凄い似合ってるよ、ほらハッチー見て!」

 

 私がメイド服に着替えて屋台に戻ると、ちょうど先輩もその場で休んでいた。どうやら屋台の方の準備を終えたのかな。金沢先輩に言われてこちらを振り向くと、一瞬目を大きくさせていたけどすぐに目を逸らされた……

 なんなんですかね、そんな露骨に目を逸らしますか普通……

 先輩に目を逸らされたのが悔しくて、そのまま先輩の方に詰め寄る。

 

「……ご主人様……なんで目を逸らすんですか……?」

 

 うん、自分で言ってても中々恥ずかしいですねこれ。

 言われた先輩はどうやら私以上に恥ずかしかったらしく、耳まで真っ赤になっていた。どうやら効果はあったようですね!

 

「はい、そこー、イチャついてないで最終確認するよ~。いろはちゃんと私、あと二人がメイド服での接客、ハッチーたち男子は屋台の仕事ね。わかったかな?」

 

 あ、やっぱりそうですよね。この格好で接客するためにメイド服渡されたんですもんね。もしかしたら違うんじゃないかなと期待した私が馬鹿でした!

 ため息をつくと誰かに肩を叩かれた。金沢先輩だ。

 金沢先輩は、私の耳元に口を近づけ、内緒話するかのように話しかけてきた。

 

「いろはちゃんとはっちーは午後からフリーだからそれまでは頑張ってね?」

 

 午後からフリー? ていうことは午後からは先輩と一緒に文化祭を楽しめるってことですかね! よっし、気合入ってきましたっ!

 

「なぁ、一色……、あー……、えーと……お前午後暇か? もしあれだったら一緒にまわらねえ?」

 

 …………え?

 あれ? 今、目の前にいるこの人なんて言いました? 私の聞き間違いじゃなければあれです、あれ……、えっと先輩の方から誘ってくれた? 本当に? ドッキリとかじゃないよねこれ。そこからカメラもった碧たちが出てくるとかないよね……

 

「え、えっと……こちらこそ、お願いしましゅ……」

 

 噛んでしまった……、いや、ていうか先輩のせいですし! いきなり誘ったりするから、不意打ちなんて卑怯じゃないですか……何ですか彼氏気取りですかどうぞ気取っちゃってくださいお願いします!!

 てか何笑いこらえてるんですか、そんなに私が噛んだのがおかしいですか。悔しい悔しい悔しい……! 後で覚えておくんですね……

 

 

 

 それから間もなくして開始のアナウンスと共に今年の文化祭が幕を開けた。

 

 

 学祭でラーメン屋台なんて人が来るのかな、なんて思ったけどどうやら杞憂だったみたいだ。ラーメンの味も評判がよく、時間が経つにつれてお客さんが増えていく。それを見ながらニヤニヤと麺を茹でる先輩、ちょっとキモイです。どうせ「俺の作ったラーメンにひれ伏せ!」とかくだらないことでも考えているんですよ、あの人。っと、よそ見してる場合じゃなかったかな。女子メンバーもお客さんが増えていくにつれ、接客の仕事が増えていく。しかも、メイド服を着てるせいか、やたらと話しかけられたりするから困ったものだ。まぁ、メイド服のおかげでお客が来ているところもありそうだし仕方ないかもしれないけど。

 

「いろはちゃ~ん、こっちお水ちょうだーい!」

 

 忙しいんですからお水くらい自分でやってほしいんですけどねー。しかも酌みに行ったらやたら話しかけられるし……

 

「……チッ」

 

 ん、なんか今どこかから舌打ちが聞こえた気がするんですけど? 音の出処を出処を探そうと周りを見渡すと、さっきまでニヤニヤしながら麺を茹でていた先輩が今度はこっちをずっと睨んでるんですけど、なんですかねあれ。先輩の睨みにびびったのか、絡んできた男子学生の人は大人しくなった。ふむ、これは感謝しときますか。先輩の方に駆け寄り、「先輩、ありがとうございますね?」と一言伝えると、「いや、別に」と照れくさそうに返事をしてくれた。

 

 昼時になり、お客もさらに多くなってきた。

 なにやら後ろの方から笑い声がする。

 

「いろは……、あんたっ……何っ、そのかっこ……」

 

 振り向くと、碧たちが必死に笑いを堪えながらこっちを見ている。……あ、見られたくなかったのに……。というか碧、笑いすぎじゃない? もう堪えきれてないんですけど?

 

「あ、碧ちゃん、こんにちはー」

 

 金沢先輩も碧に気づいたようでこちらに近づいてきた。

 

「美智子さん、こんにちは!」

 

「ちょうど人手が足りなかったんだ! これ着て手伝ってもらえるかな……?」

 

 金沢先輩がそう言うと「えっ!?」と驚いてこちらに助けを求める碧。ふっ……いい気味っ。必死で断ろうとしている碧だけど、金沢先輩が碧の耳元で何かを呟くと、「はぁ……なら仕方ないか」と納得し、涼香たちも巻き込んでメイド服を持って更衣室に向かっていった。

 

「じゃあいろはちゃん、もう大丈夫だからハッチーといろいろ回ってくるといいよー」

 

 おっと、もうそんな時間ですか。せっかくの文化祭だしお言葉に甘えるとしますかね。そのまま金沢先輩に挨拶してメイド服を着替えようとすると「あ、でも本当に大変な時は呼ぶからそのままでいてね」と言われたので、仕方なくそのままでいることに。このままの格好って結構恥ずかしいんですけどね……

 先輩も終わったようでこちらに向かってきた。

 

「そ、そんじゃあまぁ……いくか?」

 

「あっ、は、はい!」

 

 先輩と二人でラーメン屋台を離れようとしたとき、ぱたぱたと碧が走ってくる。メイド服意外と似合ってるし……しかも、胸元が揺れ揺れでわざとやってんの? と疑いたくなる。……あ、こけた。半泣きになりながらもこちらまで向かってくる。なんでそんなに慌ててるのこの子。

 

「はぁ、はぁ……、いろは、これ……」

 

 碧から手渡されたのはカップルコンテストの参加書類だった。って、え?

 こちらを向き、グーサインをする碧、いや、グーじゃないし! そもそも先輩とはまだカップルじゃないんだけど? 何これ嫌味?

 

「大丈夫、あんたたちなら絶対優勝するから! あと店番変わってあげてるんだから拒否権はないからね?」

 

 え、え、え? 何が大丈夫かわからないんだけど……? でも私たちの代わりに働いてもらってると言われたら断れないわけで……

 

「……わかったよ」

 

「よっし、頑張ってね! 賞品はペアのブレスレットだってさ! イニシャルも入れてくれるらしいよ」

 

 ペアのブレスレット……先輩とお揃い……うん、これは頑張ろう。でも先輩が参加してくれるかが一番の問題だけど。

 とりあえず、まずは先輩との文化祭を楽しむとしよう。今の時刻は十二時を回ったところ、カップルコンテストの受付が二時だからまだ時間はあるかな。

 

「先輩、とりあえずどうしますか?」

 

 どうせ先輩のことだから特に予定は立ててないんだろうなと思うと、意外にもすぐに返事が返ってきた。

 

「ん、とりあえず一時からのライブみないか? チケットあるんだよ。それまでに昼飯食べようぜ。石窯で焼いてるピザがあるらしいんだけどそこでどうだ?」

 

 ほう、ライブですか。……ってライブ!? 今年って確かやなぎなぎさんで、人気高くてチケットの入手困難なはずじゃ。先輩、一体どうやって入手したんだろ。しかもお昼の選択もなんかちょっとだけレベルアップしてるし。とりあえずライブは確か一時間はかからなかったはずだし、この予定で問題なさそうですね。

 

「そうですねー。じゃあそれでいきましょう! あとライブ終わったら私に付き合ってくださいね?」

 

「ああ、いいぞ。じゃあ行くとするか」

 

 それから私たちは石窯で焼き上げるピザのお店に行き、それぞれの注文を済ませる。先輩がマルゲリータで、私がシーフード、メニューの写真はどれも美味しそうで、決めるのに二人して迷ってしまった。

 

「楽しみですね、先輩っ」

 

「そうだなー……でもまぁ、所詮学生の作るピザだからそんなに期待してもあれだが」

 

 先輩、今の発言はポイント低いですよ……まったくもう。

 

 しばらくすると、接客の男の人が二枚のピザを運んできてくれた。写真よりも実物のほうが美味しそうに見える。どうやら先輩も同じ意見のようだ。予想以上の出来だったのか驚いてる先輩の表情は眺めていて楽しい。

 二人で「いただきます」と言い、お互いの品を口にする。パリッと香ばしく、具材との相性も良くて本当に美味しい。先輩の顔も満足げで、どうやら納得のいく味だったらしい。せっかくだし先輩の方も食べてみたいな。

 

「先輩、先輩、せっかくなのでひと切れ交換しませんか?」

 

 私がそう言うと「ほれ」とひと切れ手に取り差し出してくる。ふむ……「えいっ」と先輩が持ってるピザをそのまま口に含む。ちょっと照れてる先輩の顔が愛おしい。

 

「ほら、先輩も私もピザどうぞー?」

 

 手にとったピザを先輩の方に差し出す、ただしピザから手は離さない。まぁ、文句言って食べないんだろうけど……と思ったときだった先輩が何も言わず、そのまま私が手に持っているピザを食べ始めた。

 

「せ、先輩? な、な、なにしてるんですか?」

 

「え、いや、お前がどうぞって言ったんじゃないの?」

 

「いや、言いましたけど、そこはいつもなら文句のひとつやふたつを言うところじゃないんですか!?」

 

 急にいつもと違う事されるとドキドキしちゃうって何回言えばいいんですかね? 

 

「文句言ってもどうせ食べさせられるだろ? なら言うだけ無駄な労力を使うからな。うん、こっちも美味いな」

 

 なんか先輩にしてやられた気分だなと思いつつ、先輩の顔を見ると顔が真っ赤になっていたので良しとしよう。

 

 二人で食事を終え、私たちはライブ会場に向かった――

  




最後まで読んでいただきありがとうございます!

できるだけ早く後編の方あげれるようにがんばります!



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そして私たちの祭りが終わる。

どうもさくたろうです!

文化祭後編になります!


 それから私たちがライブ会場につくと、既に大勢の人が集まっていた。

 

「すっごい人ですねー!」

 

「ん、そうだな。まぁ、人気歌手だしな」

 

 それにしても先輩がライブって意外。人が多いのは好きじゃないはずなのになぁ。確かに私もやなぎなぎさんの曲は好きなのでこれは嬉しいからいいんだけど。

 

「そういえば先輩はどうやってチケット入手したんですか? 確か人気ありすぎて入手が難しいって聞いたんですけど」

 

「あー、あれだあれ、知り合いにこういうの入手できるやつがいてな。まぁ、俺この人の曲好きだし、せっかくだから頼んでおいたんだよ。そしたらたまたま二枚手に入ったって言うからお前もどうかなって思ってな。本当たまたまだ、たまたま」

 

 何回たまたま言うんですかねこの人。それに先輩の知り合いって言ったら割と限られて……そうでもないか。大学に入ってからの先輩の交流関係の広さは私じゃ把握できてないし。合コンの時がいい例だしなぁ。

 

「でも私もやなぎなぎさんの曲好きだったので誘ってもらえて嬉しいですよ。ありがとうございますね、先輩」

 

 実際、私もやなぎなぎさんの曲は好きだし、特に「春擬き」が好きで、あの歌詞を聞くと高校時代を思い出す。奉仕部の部室で先輩が二人に言った言葉……

 あれから先輩は「本物」を見つけることができたのだろうか。……私は先輩にとっての「本物」になりたい。

 

「一色、どうかしたのか?」

 

 どうやら難しい顔をしていたらしい。先輩が心配そうにこちらを見てそう言った。

 

「……先輩ってほ「それでは、今からやなぎなぎさんによるライブを開催しまーっす!」

 

 タイミング悪いなぁ。

 司会の男性の言葉で会場のボルテージが一気に上がる。隣にいる先輩も少し興奮気味でステージの方に目をやる。ステージの端からやなぎなぎさんが現れて、挨拶をする。挨拶中、そういえばこの人の普段の声初めて聞くなぁとか、意外と可愛いなぁとかそんなことばかり考えていた。横を向くと、さっき以上に興奮している先輩、こんな顔もできるんだ。

 挨拶が終わり、やなぎなぎさんが歌い始める。ファーストシングルのビードロ模様から始まり、次々に歌っていく。ユキトキを歌っているとき、先輩は懐かしい過去を振り返るような、どこか儚げな表情をしていた。それからもライブは続き、最後に春擬きを歌い始める。

 曲を聴いてると思い出す懐かしい高校時代……、あの日、あの場所で先輩たちの会話を聞いてから私は、隣にいるこの人に惹かれたんだ。横目で先輩を見ると何かの決意を固めたようなそんな表情をしていた――

 

 

 

 やなぎなぎさんのライブが終わり、私たちは会場を後にした。先輩が珍しく饒舌になり、感想を私に語りだすのがなんだか微笑ましくて、そんな時間がとても幸せだった。

 時刻は二時ちょっと前、私たちは次の目的地に向かう。

 

「なあ、ところで次って何するんだ?」

 

 目的地に向かう途中、先輩から質問される。

 んー、ここで本当のことを答えると先輩のことだから出てくれないだろうしなぁ。さて、どうしたものですかね。何か上手く先輩をだま、説得する方法……、餌で釣る方向でいこうかな。

 

「ちょっとしたイベントに参加しようかなと思いまして。その賞品がなんとですね、マッ缶一年分らしいんですよ! ただそのイベントは二人じゃないと参加資格がないらしいんですよー。先輩のことだから出たいと思って」

 

「そんなイベントあったか? 日程にあるこの時間のイベントってカ「今日!! 急遽決まったらしいんです! だから急ぎましょう、先輩!」

 

 先輩の言葉を遮り、手を握って目的地まで連れて行く。どさくさに紛れて握った手は、初めて手を繋いだときのように少し汗ばんでいたけど、先輩が照れてるんだなと思うとなんだか少しだけ嬉しかった――

 

 

 

 コンテスト会場に到着し、参加者の列に並ぶと、やはりというか参加者の人たちが集まっている。周りがカップルだらけなわけで少し場違い感がしてきた。リア充爆発しないですかね? 

 

「……一色これってカップルコンテストだよな?」

 

 流石にここまで来たら言い訳しても無意味なわけでして、それなら潔く本当のことを言ったほうがいいかな?

 

「で、です」

 

「帰る」

 

 先輩は方向転換して歩き始める。それを止めようと襟裏を掴むと「ぐえっ」と気持ち悪い声をあげる。

 

「……何すんだよ」

 

「せ、先輩が帰るとか言い出すからですよ!」

 

「だってお前、これカップルコンテストだよ? 俺らカップルじゃないだろ。まず参加資格がない」

 

 うぐっ、それはそうですけど。

 

「せっかく碧に参加書類もらいましたし、というか店番変わってもらってるんで借りは返さなくちゃいけないんですよ! だから……お願いします、せんぱい……。わたしと一緒に、でてもらえませんか……?」

 

 私が先輩を見つめながらそう言うと、少し困ったような表情を浮かべた後、「はぁ……」とため息を吐いて口を開いた。

 

「わかったから、そのあざといのやめろ」

 

 言いながら私の頭に軽いチョップを入れる先輩、そんなに今のあざとかったですかね? いやまあ狙いましたけど。というか段々雑になってませんかね、扱いが! 

 お返しに先輩の頭を叩いてやろうと、ちょっとだけ背伸びをし、先輩の頭を狙ったけどバランスを崩して先輩に抱きついてしまった。

 

「「…………」」

 

 少しの沈黙の後、周りからの視線や「おーやるなぁ」なんて声で我に帰り、恥ずかしさのあまり抱きついた先輩から離れる。

 

「あ、す、すいません……」

 

「お、おう……」

 

 きっと今の私の顔は真っ赤だ。多分先輩も――

 

 

「次の組の方ーお願いしますー」

 

 どうやら私たちの番のようだ、あれから少し気まずくなってしまってお互い無言で列に並んでいたけど、それも終わりのようで一安心。

 係員に参加書類に名前を書いて提出すると、男女別の部屋で待機ということで先輩とは別の部屋に移動する。部屋に入ると携帯電話を預けるように言われ、持っている携帯を預ける。その後、質問用紙のようなものを渡された。待っている間に書いていて欲しいとのこと。

 

 質問用紙を書き終えてしばらくすると、係員の人に会場へ案内される。出場者が全員揃うと司会の人が挨拶をし、カップルコンテストがいよいよ始まる。

 

 このコンテストの参加者は三十二人、十六組で争う。ステージに上がると大きな板があって、腕一本くらい入るような穴が十六個ほど空いている。

 

「それではルール説明です! これから彼女さんたちには、板の向こう側に行き、自分の腕を空いている穴からこちらに出してもらいます。彼氏さんはそれを見て、自分の彼女だと思う手を握ってください! 間違えた場合、誰か一人が正解するまで次の手を握ることができません。勝ち抜けた上位八組が準決勝に駒を進めます! なお身につけているアクセなどは外してもらいます」

 

 司会者からの説明が終わり、私は板の向こうに案内される。

 でもこれってあれじゃないのかな、向こう側の人が間違って私の手を握るってこともあるんだよね? うわっ、それは嫌だなぁ……、先輩、頑張ってくださいよ?

 

 板の向こう側から司会者の「それでは始めっ!」という声が聞こえた。

 合図と共に向こう側から足音がする。一人一人自分の彼女の手を探しているんだろう。

 開始して一分もしないくらいに私の手が握られた。このちょっと手汗をかいた手を……私は知ってる。

 

「比企谷さん、正解です! まずは初戦をトップ通過!」

 

 板を回り込んで先輩の方へ駆け寄る。

 

「先輩遅いですよー、下手したら私の手を違う人に握られちゃうところだったじゃないですか!」

 

「いや、トップだっただろ? なんで貶されてるの俺」

 

「そんなことより! 私を心配させた罰としてこれが終わるまでの間、私の手が誰かに握られないように手を握っててください」

 

「え、何それ……」

 

 最初は嫌そうな顔をしていた先輩、でも私がしつこく手を握ろうとするのに観念したのかそっと手を差し出した。その手を握って満面の笑みを先輩に向けると、ちょっとだけ照れくさそうにしていた――

 

 トップで準決勝に進出した私たちはそのまま他の組が彼女の手を握るところをみていた。ドヤ顔の彼氏が別の人の手を握っていた時は思わず鼻で笑ってしまった。

 しばらくして残りの準決勝進出者たちが出揃い次に進んだ。

 

 準決勝――司会の人から先ほどと同じようにルールが説明される。どうやら準決勝は早押しクイズ形式らしい。彼氏と彼女に分かれてお互いがどれだけ理解しているかチェックするというもの。なるほど、さっきの質問用紙はこのために書かされたようですね。決勝進出組は三組。つまりここで半数以上が落とされるというわけですね。

 

 司会者が壇上に上がり問題を出し始める

 

「それでは始めたいと思います。四問正解したカップルはその時点で決勝戦進出が決まりますので頑張ってください! まずは彼女の方に問題です! 彼氏の好きな飲み「マックスコーヒー!」

 

 司会者が問題を最後まで言う前に答える。司会者が私の彼氏である、あっ、彼氏役である先輩の質問用紙をみて答え合わせをして「正解!」と叫ぶ。

 

 ふっ、こんなの楽勝じゃないですか。この調子なら決勝に上がるのは余裕そうですね。リア充何かに負けてたまるもんか。

 

「では第二問です。次は彼氏さんに問題です! 彼女の得意なりょ「肉じゃが」

 

 今度は先輩が司会者が問題を言い終わる前に答える。もちろん私は正解を知っているわけで、それが当たっていることは知ってるわけで。さっきと同じように司会者が答えをを見て「正解!」と叫んだ。

 肉じゃがを書いたのは前に先輩の家で披露したからだけど、書いてよかったなぁ。

 

「比企谷、一色カップルが今のところトップです! それでは第三問、彼女さんたちへの出題! 彼氏が世界で一番愛し「小町ちゃん!」

 

 こんな問題簡単すぎますね! ここで私って言うと絶対不正解なわけで、先輩が愛しているといえば間違いなく小町ちゃんだ。

 司会者がが先輩の質問用紙を見て答え合わせをする。

 

「一色さん、不正解です! そこは自分の名前を言っておくべきでしたねー。不正解の比企谷、一色ペアは次の問題で一回休みです」

 

 あれ? 間違った? 絶対小町ちゃんだと思ったんですけど……。ふと、先輩の方を見ると一瞬目があった気がしたけど、すぐに先輩は司会者の方を向いてしまった。

 一度の休んだあと、また私の番からスタートする。

 

「それでは第五問! 彼氏の将来のゆ「編集者!」

 

 よっし、流石にこれは当たったでしょ!

 

「正解です! これで比企谷、一色ペアは決勝戦進出リーチになりました。では第六問! 彼氏さんに出題です! 彼女が今一番楽しみにしていることはなんでしょう!」

 

 これは問題が難しい……私はもちろんあの事を書いたけど、楽しみとか漠然としすぎている。周りのカップルもまだ誰も答えない。

 

「……旅行」

 

 先輩が小さな声で何かを呟いた。

 

「はい、比企谷さん、もう一度大きな声でお願いします!」

 

「温泉旅行」

 

「……正解っ! 比企谷、一色ペア、またもやトップで決勝戦進出! これは優勝候補の大本命になるかーっ!」

 

 わーっと歓声が鳴り響く。問題に集中していて気づかなかったが周りを見渡すと大勢の人がこのコンテストを観戦していた。

 それから残りの決勝進出組が出揃い、決勝戦へと進んだ。

 

「それではお待ちかね、決勝戦を行いたいと思います! ルールは簡単、これから順番に私が各カップルに質問をさせて頂きます。それを答えてもらい、最終的に会場にいる百人の審査員にどの組みが一番良かったのかを選んでもらいます!」

 

 それから各カップルに質問がされていく。順番的に最後の私たちは他のカップルの質問の答えを参考に聞いていく。質問は大体、惚気話をしてください的なことで、ここまで残っているだけの事は有り、他のカップルは中々の甘いエピソードを語っていく。

 

「それでは一色、比企谷ペアに質問です、まずは一色さん。最近、彼氏を惚れ直した瞬間はありますか?」

 

 惚れ直した瞬間ですか。うーん、もう常に惚れ直してる感じなんですけどね……

 

「そうですねー。先輩と一緒にいるともう常にトキめいているんですけど、やっぱり先輩の誕生日にデートしてケーキを作ったんですけど、それを普段は滅多に褒めたりしてくれない先輩が、寝ている振りをしている私に、感謝の気持ち言ってくれて、それが本当に嬉しくて惚れ直しちゃいましたかね」

 

 隣から「起きてたのかよ……」とかいう声が聞こえたけど聞かれてたのがよっぽど恥ずかしかったのか俯いてしまった先輩。

 

「なるほどなるほど、それでは比企谷さんに質問です。最近彼女が可愛いなと思ったことを教えてください」

 

 俯いたままの先輩は少し考えた後、口を開く。

 

「そうっすね、まあ、こいつといると毎回可愛いと思うことだらけなんですけど、最近だったら泊まりに来たとき寝言で『せんぱい……せんぱい……』とか言って人の枕を思いっきり抱きしめてたことですかね、正直あれにはやられました」

 

 え、え? 何、私そんなこと言ったりしてたんですか!? い、いや、これはあれですね、勝つための先輩の策略であって、実はそんなことなかったんだぜ! ってやつでしょ? 私がそんなこと言うわけな……くもなさそうで否定できない……

 

「なるほど、なるほど。みなさん中々の惚気っぷりですなあ。それでは最後にお互いのことをどれくらい好きか答えてもらいましょう。まずは一色さんお願いします」

 

 どれくらい好きかですか。正直言葉では言い表せないくらい好きなんですけど。

 

「そうですねー、高校一年生のころから今までずっとかた、好きで、まだ付き合ってなかった先輩を追いかけて同じ大学に入るくらいは大好きで、これからもできることなら一生一緒にいたいなって思ってます!」

 

 再びわーっと歓声が鳴り響く。そんな良い事言いましたかね?

 

「では最後に比企谷さんお願いします!」

 

 先輩は一度深呼吸をし、何かを決意したような表情で口を開いた。

 

「正直、どれくらいこいつのことを好きかとかを言い表せる気がしない、……それでも一色のおかげでいろいろと変われたこともあるし、大学で再会してから一緒にいる時間がどんどん増えてって、一昨日より昨日、昨日より、今日って着々と俺の中の一色が大きくなってくるのがわかるくらいには好きだ」

 

 ……先輩にしては大分喋った気がしつつ、これがもし本音だったらなと思うと、私は恥ずかしさのあまり顔を伏せた。

 

 それから審査員の百人がボタンを押してどのカップルが一番良かったか選んでいく。

 司会者がステージの中央まで歩いてきて結果を発表する。

 

「投票結果が出ました! 一位は五十二票で比企谷、一色ペアです、おめでとうございます! 会場の皆様は盛大な拍手を! それでは比企谷さん、一色さんステージの前にお越し下さい」

 

 そう言われて中央の方に向かう私たち。歓声がすごくて「いろはちゃーん!」なんて声も聞こえる。

 

「では優勝者のお二人です! もう一度盛大な拍手を! 二人にはペアのブレスレットと二泊三日の旅行招待券が贈られます」

 

「「え?」」

 

 二人して同じ反応をしてしまう。旅行券がついてくるのは意外だった。小町ちゃんのもあるし、これどうしますかね……

 

「それにしても比企谷さん、一色さんの服装は比企谷さんの趣味ですか? 羨ましいですね~」

 

 ……? 言われて気づいた……そういえばラーメン屋台からずっとメイド服のままだった……、なんだか急に恥ずかしくなってしまって先輩の後ろにかくれる。

 

「い、いやこれはサークルのラーメン屋台での服装なんすよ……」

 

 司会者がなるほどなるほどと相槌をうち、そこでインタビューが終わり表彰式が行われた。

 表彰式中、「比企谷変われー」などの言葉も聞こえたけれど、まあ変わらせる気はないです。

 

 無事に表彰式を終えた私たちは、ラーメン屋台に向かった。途中、回れていなかった出店などを先輩と一緒に徘徊しながら文化祭を楽しんだ。やっぱり文化祭と言ったら出店のイメージありますもんね。

 

 ラーメン屋台に着くと碧と金沢先輩が出迎えてくれた。

 

「いろはー、お疲れ! で、どうだった!? 優勝できた?」

 

 碧の質問にVサインで答える。それを見た金沢先輩が先輩に「良かったね」と言うと先輩は恥ずかしがりながら頭を掻いていた――

 

 

 

 慌ただしかった文化祭も終わり、疲れた私はそれを理由に今日も先輩の家に泊まることにした。もはや断ることをしなくなった先輩、なんだか嬉しいんですけどちょっとさみしいですね。

 帰り道、文化祭の荷物をさり気なく持ってくれる先輩の姿にクリスマスイベントのことを思い出す。

 ふと、先輩が口を開く。

 

「なあ、一色……。クリスマス空いてるか? 一緒に旅行にでも行かないか」

 

「……ぜひっ」 

 

 

 

 

 

 そして私はクリスマスに告白しようと決意した――

 

 

 

 




どうも、最後まで読んでいただきありがとうございます!
次回でこのシリーズも最終話の予定です。

なんというかSSを書いたのもこの作品が処女作なので、終わりが近づくと嬉しくもあり、ちょっと寂しくもありますね。

では最終話の方もよろしくお願いします!


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先輩と二人きりの旅行

どうもさくたろうです。

「大学という場所は彼の周囲の環境をガラリと変えた」シリーズ最終話となります。

今回で遂に完結。これが私の処女作なのでなんというか感慨深いです。
文化祭が個人的に甘くしすぎてこの最終話どれくらい甘くかけたかわかりませんが一生懸命書きましたんでよろしくおねがいします


 クリスマスイブ、大学も冬休みに入った私と先輩は、小町ちゃんにもらった旅行券を使い、二人で旅行することになった。先輩と旅行っていうとGWに長野に行ったことを思い出すけど、今回はあの時とは違い、私と先輩以外は誰もいない。

 そう、二人きりである。……ふふ……。おっといけない、あまりの嬉しさで意識してないと顔がにやけてしまいそうだ。先輩ににやけた顔を見せたくはないのでしっかりと気を持ち、表情を作らないと!

 

「なあ、一色」

 

 ふと先輩から呼ばれる。なんですかね?

 

「お前、さっきからずっと顔にやけてるけどなんかあったのか?」

 

 あっれー? 自分で気づかないうちからにやけてたんですかね、私は。なんかそう考えると凄く恥ずかしいんですけど。というかずっとにやけてる私の顔を先輩は眺めていたんでしょうかね? 

 

「先輩、それは遠まわしに俺さっきからずっとお前のこと見つめてたんだけどって意味ですかね? 先輩に見られるのは嬉しいですけどそこはもうちょっと私が可愛らしい表情のときにお願いしますというかピンポイントで私がにやけてるときの顔を見られるのは恥ずかしいのでやめてください」

 

「ば、ばっか! ずっと見ていたくて見てたわけじゃねーよ。いつもならいろいろ話かけてくるお前が黙って窓の外眺めながら真面目な顔になったりニヤついたりしてるのが面白かっただけだ……それに別に恥ずかしがることないだろお前どんな顔してても可愛いしな」

 

 私のいつもの早口でなんとか誤魔化そうとするも、珍しく早口口調で返される。てか何どさくさに紛れて可愛いとか言っちゃってるんですか! そういうのは面と向かってはっきり言ってくれないと困るんですけど。いや、早口ではありましたけど、面と向かってはっきり言ってましたねこれ。あーもう、先輩、ずるいよぉ……

 

 まだ目的地に到着すらしていないのに、早くも告白したくてうずうずしてしまう。それも先輩が一々私に好意を持っていることを教えてくれているような気がするのが悪いんです! というか男なら自分から告白してくれないですかね、いやまあ、先輩が私を好きかどうかまだわからないですけど。まあもし、先輩が私のことを好きでいてくれても私の方が先輩のこと好きなんですけどね、いえ大好きなんですけど。

 

「お、着いたみたいだぞ」

 

 しばらく先輩とのお喋りを楽しんでいるとどうやら目的地に着いたらしく、バスが駐車場に停る。私たちは後ろの方の席だったので他の乗客者の人たちがほとんど降りたあとに降りる。最初の目的地であるひがし茶屋街、城下町の風情があって通行人に着物を来た人が多く見られる。

 

「先輩、先輩、着物姿の人がたくさんいますよ!」

 

「子供かお前は」

 

 珍しい光景に小学生みたいな感想を述べるとつっこみをいれられる。だって着物可愛いと思ったんだもん。

 

「お、あそこで着物のレンタルやってるみたいだぞ?」

 

「え、本当ですか? 着てみたいです!」

 

「そんじゃ、まずはあそこに行ってみるか」

 

 私たちはそのまま着物屋さんに向かい、中に入ると店員さんが優しく出迎えてくれた。お勧めの着物を選んでもらって着付けをしてもらう。その間先輩は外で今日のプランを考えておくらしい。先輩が自分からデートプラン的なものを考えてくれるなんてちょっぴり……いや、すっごい嬉しいですね。

 

「できましたよ、とってもお似合いですね」

 

 着付けが終わって鏡の前に立つ、自分で言うのもなんだけれど、わりと似合っているんじゃないかな。この格好を見たときの先輩の反応が見たいなんて思った。

 

「ふふっ、彼氏さんもきっと惚れ直しちゃいますね」

 

「ふえっ? あ、そ、そうだといいんですけどね」

 

 いきなりの店員さんの言葉に動揺してしまうとは情けない。いや、まずまだ先輩彼氏じゃないんだけどなぁ。でも上手くいけば今日彼氏に……えへへ。

 お礼を言ってお店をあとにする。入口の外に先輩の姿が見えたので駆け足で向かう。

 

「せんぱーい。あっ!」

 

 感想を聞こうとしたとき、先輩の目の前でつまづいてしまい転びそうになったところを抱きかかえられた。

 

「慌てすぎだろお前」

 

「えへへ……だって先輩に早くこの着物姿見せたかったんですもん。どうですかね? 似合ってますか?」

 

 そう言って先輩の前でくるんとターンしてみせる。

 それを見た先輩は頭を掻きながら少しだけ俯いた。これは照れてるやつですね! 可愛いいろはちゃんの着物姿に見惚れてしまったんですね、きっと! 先輩のことだから本当のことは言わないだろうけどこの仕草がその証拠っ。

 

「まあ、そのなんだ……予想以上に可愛い、というか綺麗だな。すげえ似合ってるぞ」

 

 ふぁっ!? 真っ向から褒められた……ですと……

 あまりの予想外の言葉に私は固まってしまい、先輩の感想に対しての反応ができなかった。

 

「なんで聞いてきたお前が照れてんだよ。俺まで照れちゃうんだけど?」

 

 そんなこと言われても先輩が悪い。いや、悪くないんですけど悪いんです!

 

「せ、先輩がいきなり柄にもないようなこと言うからですよ!」

 

「何それ、はあ……、まあ、とりあえずいこうぜ。この先に上手い甘味カフェがあるらしいんだよ」

 

「甘味カフェですか。いいですね、いきましょー!」

 

 そう言うと先輩が左手を差し出す。ん、この手はなんですかね?

 

「先輩、この手は?」

 

「ん、あ、いや、お前のことだから手でもつなぐもんかと……悪い、今のなしで」

 

「わー、わー! 繋ぎます、繋ぎますから!」

 

 先輩から手を繋ごうとするとか反則すぎますよ。

 先輩は普通に繋ごうとしていたようだけど、それだとなんか先輩に負けた気がしたので無理やり恋人繋ぎにしてみた。繋いだ手は少し湿っていて表情には出してないけど少し緊張しているのがわかった。いえ、私もドキドキしてるんですけどね?

 慣れない草履で歩くのも、先輩がいつもよりゆっくりと歩いてくれているおかげで安心して歩けている。こういうところがやっぱりこの人は優しいんだなと思う。

 

 少し歩くと目的の甘味カフェにたどり着いた。中に入るとショーケースの中に様々なアイスが入っていてどれも美味しそう。

 二人で注文して二階に上がりお座敷に座る。先輩と私はアイスもなかセットを頼んだ。最中とアイスが別々になっていて自分でもなかにアイスをよそってあんこ、白玉などを一緒に入れて完成。

 

「いただきますっ」

 

「いただきます」

 

 ん~~っ美味しい! もなかのパリパリとした食感に玉露の風味と適度な苦味、そこにあんこなどの甘味も加わって何とも言えない美味しさ。もう今日はこれだけでも満足した感じがする。先輩の方を見ると先輩も非常に気に入ったららしく、頬にアイスをつけながら黙々と食べている。……ふむ、これは定番ですがあれをやりますか……

 

「先輩、アイスついちゃってますよ」

 

「ん、まじか、どこ?」

 

「唇の左の方です」

 

 先輩は私からみて右の方を拭いている。

 

「あ、すいません、私からみて左でした」

 

 そう言って先輩についてるアイスをひょいっと人差し指で拭き取り、それを口に含みにっこりと微笑んでみた。

 正直恥ずかしくてアイスの味とか忘れそうなんですけど、今のは先輩の味がしたきがする、たぶん。

 

「あはは……一度やってみたかったんですよねこれ、思った以上に恥ずかしいですね……」

 

「やられた方はもっと恥ずかしいぞ……」

 

 先輩の顔が真っ赤になってるのを見てしてやったと思ったが、私も顔がめちゃくちゃ熱いのできっと同じように顔が赤くなってるよねこれ。

 それから二人とも熱くなってしまった顔を冷やすようにアイスを黙々と食べた。

 

 アイスを食べ終え店を出てしばらく歩くと「茶屋美人」というお店が目にとまった。

 

「入るか?」

 

 私が気になっているのを気づいたのか先輩にそう聞かれる。せっかくだから入ってみようと思い、返事をして先輩と中に入ると、店内にはアクセサリーや化粧品などが並んでいた。

 目にとまったのは化粧品。金箔いりのボディーケアとか一体どんななんだろう。あ、ハンドクリームもいいなぁ。

 

「これほしいのか」

 

 気になった商品が先輩の手に取られる。

 

「ほしいっていうか気になった感じですかね」

 

 そう言うと先輩がハンドクリームを二個とボディーケアを手にしレジに向かう。

 

「え、先輩、どうしたんですか?」

 

「ん、欲しそうな目で見てたからな。まあ、小町の土産のついでにだ」

 

 そのまま会計を済ませる先輩。先輩からこういう行動されると調子が狂うと言いますか……今のままでも、私の好感度メータはMAXまで溜まってるのにそれを突き抜けようとしてしまう。さり気なく小町ちゃんにもお土産買ってるし、小町ちゃんの代わりに言うけど、いろは的にポイント高いです。

 

 

 しばらく茶屋街を回り、いい時間になったところで私たちはレンタルしていた着物を返し、今日の宿泊場所である温泉旅館「喜翆荘」に向かった。

 

「うわー、先輩みてください! 景色がすっごい綺麗ですよ!」

 

 喜翆荘は絶景を見渡せる高台に立地していて景色がとても綺麗だった。大正浪漫あふれる建物は文化財的価値の高い歴史あるものと先輩が教えてくれた。喜翆荘は一度は旅館を閉じたらしいんだけど、先代の女将さんのお孫さんがもう一度再開させたそうだ。

 旅館の玄関に赴くとその女将さんが出迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。二名でお越しの比企谷様ですね。私は女将の松前緒花と申します」

 

 優しく微笑んで出迎えてくれた女将さんは若くてとても可愛らしく、髪の色は私と同じ亜麻色。なんかちょっと親近感が湧いてしまう。

 チェックインを済ませると女将さんが部屋に案内をしてくれる。波の間という札のあるお部屋に入る。

 

「おー、いいお部屋ですね!」

 

「そうだな」

 

 本当にいいお部屋だ。窓から見える景色も綺麗で言うことない。

 

「ありがとうございます、では夕飯の時間になりましたらお料理をお持ちしますのでそれまでごゆっくり」

 

 そう言って女将さんは部屋を後にした。部屋に残ったのは当たり前だけど先輩と私の二人。

 

「え、えと、何しましょうか?」

 

 あれ? なんで私少し緊張してるんだろ。

 

「ん、とりあえず温泉にでも入るか」

 

「そ、そうですね!」

 

 二人で温泉に入る準備をして部屋をでる。温泉の場所までの通路を探していると女将さんが通りかかって話しかけてきた。

 

「あ、温泉にお入りになるんですか? でしたらそちらの通路を右に曲がってまっすぐ行った先にあります」

 

 微笑みながら教えてくれる女将さん、本当に可愛らしいな。お礼を言って女将さんが教えてくれた通路を進んでいく。途中、先輩がトイレに行ってから行くと言ってたので私は先に行くことにした。どうせ男湯と女湯は別だし先に行ってても問題ないよね。

 想像よりも小さめの脱衣所で服を脱ぎ、タオルをもって温泉へ。身体を軽く流して露天風呂に浸かる。冬の金沢ということもあって露天風呂から見える景色は雪が降った跡などが残ってそれも綺麗に見える。

 

「ふぅ……」

 

 ちょうどいいお湯加減で思わず息を漏らす。旅の疲れが癒されるといいますか、気持ちいい。温泉で気持ちよくなりぼーっとしていると、扉の開く音が聞こえた。他のお客さんが来たのかな。

 ぺちぺちという足音が近づいてきて、止まる。

 

「な、なんでお前がここにいんの?」

 

 声の主は先輩だった。いや、先輩こそなんでここにいるんですかね?

 

「そ、それはこっちのセリフです! 先輩こそなんでこ、こ、ここにいるんですか? はっ、もしかして久しぶりに私のあられもない姿を見たくて犯罪まがいのことしたんですかそれならそうと言ってもらえればもしかしたら今日の夜なら見せたかもしれないですけど流石にこんな人のきそうな場所でそれは恥ずかしすぎるのでごめんなさい!」

 

「い、いや、落ち着け、深呼吸しろ。これは何かの手違いだからとりあえず俺は出て女将さんにでも聞いてみる」

 

 そのまま脱衣所に向かおうとしたとき扉の向こうから女将さんの声が聞こえた。

 

「お湯加減はどうですか?」

 

「お、女将さん、あ、とってもいいです! 景色も綺麗で温泉も気持ちいですし最高です!」

 

 流石にこの状況を見られるのはまずいと思ったのか、私が答えてるあいだに先輩は温泉にダイブして潜っている。これ完全に危ない人ですけど大丈夫ですかね?

 

「そうですか、ありがとうございます。うちの家族風呂はお客様に好評なんですよ。お二人で旅の疲れを癒してくださいね」

 

「は、はい」

 

 はい? 家族風呂? 言われてみれば確かにここ入口一つしかなかったし、私もさも当然のように入ったけど女風呂とは明記されてなかったようなあったような……

 というか女将さんの気遣いが辛いっ! 

 

「ぶはぁっ、行ったか?」

 

 ようやく潜り終えたのか先輩が浮上してきた。さっきのやり取りを聞いてなかった先輩は、そのままお風呂を出ようとする。

 

「あ、先輩、ここ家族風呂らしいんです……だから先輩がここに来たのも間違いじゃないみたいです……」

 

「はぁ? 家族風呂……? ……あの女将さんか」

 

 先輩もどうやら気づいたようでそのままブツブツと文句を言いながら再びお湯に浸かり始めた。あ、普通に入るんですね?

 

「先輩」

 

「ん」

 

「気持ちいいですね」

 

「だな」

 

「景色も綺麗ですよ」

 

「おう」

 

 あれー? なんですかねこれ。いや、私もおかしいんですけどね? 先輩の答え適当すぎませんか? そう思って先輩の方を見ると何か計算式のようなものをぶつぶつと言いながら私とは逆の方向を向いていた。

 あ、これ完全に先輩が変なことを意識しておかしくなっちゃったパターンだ。

 こんなときに後ろから抱きついたら先輩はどんな反応をするのだろうか。もちろん抱きつく私も恥ずかしいけど、その反応を見たい方が勝って先輩に恐る恐る近づいていく。先輩は未だになにかブツブツと呪文のようなものを唱えていて、私が近づいていることに気づいていない。距離が近づいたところで後ろから思いっきり先輩を抱きしめる。飛びついた拍子にタオルが落ちた気がしたけど、今ここでそれを気にしたら私のほうが危険なのでこれは考えないことにした。

 

「ふぁひゃい!?」

 

 先輩から今まで聞いたことのないような悲鳴にも似た叫びが聞こえる。

 

「あ、あたってるから、一色、お前……」

 

 あ、やっぱりタオル落ちてた……一瞬タオルに気を取られてる間に抱きしめているはずの先輩の体がお湯の中に沈んでいく。あれ? 先輩? せんぱーーい?

 

「ちょ、先輩、大丈夫ですか!?」

 

 急いで沈んでしまった先輩を引き上げ外に出す、先輩は気絶してしまっていて返事がない。鼻からは血が流れている。あ、これ私がやらかしちゃったやつかな。

 気絶した先輩を脱衣所まで運び、私は浴衣に着替えて女将さんにお水をもらいに走った。

 

「あら、比企谷さん、どうかなさいましたか?」

 

「す、すいません、お水をいただけないでしょうか? せ、旦那がのぼせちゃったみたいで……」

 

 あれ、私なんで先輩のこと旦那とか言ってるんだろう? あ、そうだ、きっと私も気が動転しているんだ。ていうか家族風呂なんかに私たちを案内したこの人が悪い。いや、やっぱり私が主な原因ですね。

 

「え、大丈夫ですか? 人を呼んでお部屋まで運びましょうか?」

 

「あ、いえ、今は落ち着いているので、しばらく休んで部屋に戻ります」

 

 女将さんは「そうですか」と言い、水を持ってきてくれた。渡されたお水を手に持ち先輩の待つ脱衣所に向かう。脱衣所に戻ると先輩はまだ横になっていた。先輩のそばに座り、横になっている先輩の頭を自分の膝に乗せる。しばらくその格好で先輩の顔を眺めていると意識を取り戻して目をゆっくりと開けた。

 

「おはようございます、先輩」

 

「ん、一色か……あれここどこだ?」

 

「先輩、露天風呂で気絶したんですよ、覚えてないですか?」

 

「……なんかあんまり思い出せないな。ところでなんで俺は膝枕されてるわけ?」

 

 どうやら先輩はなんで気絶したのか覚えてないようだ。いやまあ、私のせいだから覚えてない方がありがたいんですけど、ちょっと覚えてて欲しかったのもあったり。

 

「優しくて可愛い後輩のいろはちゃんが先輩を看病してあげてたんですよ。はい、先輩、お水ですよ」

 

 先輩に水を渡すと喉が渇いていたのかゴクゴクと一気に飲み干す。

 

「はー、さんきゅうな。なんか生き返ったわ」

 

「いえいえ、そろそろ夕食の時間ですしお部屋に戻りますか」

 

「そうだな」

 

 まだちょっとふらふらしている先輩を抱えながら部屋に戻る。先輩に抱きつくことはあっても、先輩にこうして寄りかかられるのは初めてだ。

 部屋に戻って二人でまったりとしていると夕食が運ばれてきた。海の幸と山の幸のどちらも贅沢に使われていて見た目も綺麗で美味しそう。

 

「そういえば今日って俺ら昼食ってなかったよな」

 

 言われてみれば確かに。お昼ぐらいに食べたといえばあのもなかアイスくらいで、ご飯はたべてなかったっけ。

 

「じゃあ夕食はいっぱい食べましょうね、いただきますっ」

 

「おう、いただきます」

 

 二人ともやっぱりお腹が減っていたようで、いただきます以外に感想を言い合うこともなく、無言で食べ続ける。お刺身、天ぷら、お肉料理、どれも美味しくて自然と箸が進む。

 あっという間に二人とも食べ終えてのんびりしていると、女将さんが料理を片付けに来た。

 

「夕食の方はどうでしたか?」

 

「すっごく美味しかったです! ね、先輩」

 

「だな、天ぷらは最高でした」

 

「ふふっ、ありがとうございます。み……、板長もそう言ってもらえて喜んでいると思います。お二人はこのあとはどうなさるんですか?」

 

 このあとか~。時計を見るとまだ寝るには早い時間だし先輩とせっかく二人きりなんだから何かしたいな。

 

「もしよろしければ、散歩でもしてみるのはどうですか? このあたりの夜の冬景色はとっても綺麗なんですよ?」

 

 散歩か……景色の綺麗なところでそのまま告白。……うん、それありですね!

 

「じゃあ先輩、お散歩しましょう!」

 

「ういうい」

 

「では、お気を付けていってらっしゃい、あ、そうですね、外は寒いので上着はちゃんと来てくださいね」

 

 女将さんはそう言って部屋を後にした。私たちも上着を着て部屋を出て玄関に向かう。外に出ると冬の夜、やっぱり少し寒い。

 

「先輩、少し寒いですね」

 

「まあ冬だしな、こんなもんだろ」

 

 そこはまた手を出したりして一緒に温まろうぜ! 的なことを言って欲しかったんですけどね。

 言ってはもらえなさそうなので横を歩く先輩の腕にそのまま抱きつく。うん、やっぱり温かい。

 

「こうすると温かいですね」

 

「まあな」

 

 女将さんの言ったとおり高台からの景色は夜の街のライトの効果で昼とはまた違って綺麗だ。

 そのまま上を向くと今度は綺麗な星空が見える……と思ったけど見えなかった。あれ? おかしいな、こういうところならきっと星空がすっごく綺麗で「わぁ、先輩星が綺麗ですね」と言ってそこから先輩が「ああ、だけど星よりもいろは、お前のほうが綺麗だよ」とかいう展開を楽しみに……いや、妄想してたんですけど。

 

「雪だ」

 

「え? あ、本当ですね!」

 

 星の見えない空から、少しだけど雪が降り始めた。ホワイトクリスマスだ……。ここだ、ここしかない、この完璧なシチュエーションで告白して先輩と結ばれる。そう思って一世一代のチャンスをものにしようと先輩を呼ぶ。

 

「しぇ、しぇんぱい」

 

 あぁぁぁぁ……噛んだ……もう死にたい。なんでここにきて噛んじゃうんですかね私は!

 

「ん、どうした?」

 

「あ、あのですね、えーっと……私、先輩に言いたいことがありまして……」

 

 いざ告白となるとやっぱり少し躊躇してしまう。昔一度だけ告白したときは意外とあっさり言えたはずなのに……。もし先輩に振られたらと考えてしまうとこの先が中々言葉にできない。

 

「……一色、ちょっと待ってくれ」

 

「え?」

 

 待つって何を……?

 

「あのな、俺が先に一色に言いたいことあるんだわ。聞いてもらっていいか?」

 

「い、いいですけど……」

 

 先輩の真剣な眼差しに断ることはできなかった。なんだろ、真剣な目をしている先輩は今まで何回か見たことはあるかもしれないけど、この目は真剣だけど何かを怖がっているような……。

 もしかしたらと、先輩も私と同じ気持ちでそれを伝えようとしてくれているなんて考える。

 

「……」

 

 先輩は何かを言おうとしてるけど、まだそれは言葉にされてなくて二人のあいだに沈黙が続いた。

 

「あの……先輩?」

 

「あーもう、すまん、やっぱ一緒に同時に言いたいこと言い合わないか?」

 

 先輩、それは先輩らしいですけどなんというか本当に先輩なんですね。

 

「わかりました……それじゃあいっせーのーでで言い合いましょう」

 

「オーケー、わかった」

 

「それでは……いっせーのーで」

 

「好きだ! っておい! お前言ってねえじゃねえか!」

 

 ……先輩が何か怒ってるけど耳に入ってこない。もしかしたらと思って出来心で私は言わずに先輩の言葉だけ聞いたけどなんて言ったっけ……「好きだ」そう言ってくれたんだよね?

 あまりの嬉しさと今までの思いが叶い、涙が溢れ出てきて止まらない。先輩はそんな私を見ておどおどとしている。そんなに困ったような顔しないでくださいよ、先輩。

 

「せ、先輩……私も好きです、大好きです!」

 

 涙が少し収まってきたところで先輩に対する返事をすると同時に先輩の胸に思いっきり抱きついた。先輩が私の頭を優しく撫でてくれるととても嬉しくて、そんな先輩の顔が見たいと上を向くと先輩の唇が数センチのところに。

 

「先輩、キス……しませんか?」

 

 そう言って少し上を向き、瞳を閉じる。先輩の吐息が少しずつ近づいてきて、唇に柔らかい感触を得た――

 

 

 

 こうしてクリスマスイブの夜、私たちは結ばれた。二人で恋人繋ぎをしながら旅館に戻ると「おかえりなさい」と女将さんが笑顔で迎えてくれる。それがなんだか暖かくて、さっきのことを思い出して涙がこみ上げてくる。

 やっと、やっと先輩と結ばれた……こんなに嬉しいことはないから……

 急に泣き出した私を先輩と女将さんは心配していた。先輩は女将さんから「大事な子を泣かせちゃダメですよ?」と怒られてた。

 部屋に戻ると布団が引かれていていつでも寝れるようになっていた。

 

「今日はもう寝るか」

 

 そう言って布団に入ろうとする先輩。でも今日は先輩と一緒に寝たいと思って「先輩と一緒に寝てもいいですか?」と訪ねた。

 

 私の言葉のあと先輩は黙って何かを考えているようでそこから一言も喋っていない。

 

「せ、先輩? どうしたん「わかった」

 

 何かを決意したように布団の方に向かっていき照明を薄暗くする。

 いそいそと浴衣を脱ぎ始めた先輩の身体はお風呂の時もみたけれど運動部じゃない割には筋肉もあって、ちょっぴりたくましい。浴衣を脱ぎ捨てた先輩は下半身の布切れ一枚だけの姿となった。あれ? なんでこの人脱いでるんですか? いろはわからない。

 

「あんまじろじろ見んなよ……流石にはずいんだが」

 

 恥ずかしそうにそう呟く先輩。いや、じゃあなんで急に脱ぎだしたんですか!

 先輩はもじもじとしながら私の方を向いている。あれ? なんかちょっとかわいいんですけどこの人。

 

「お、お前も早く脱げよ」

 

 へ? あ……。

 先輩のその言葉でようやく理解した。先輩はたぶんさっきの私の一緒に寝たいというのをそういうことだと認識したんだ。それでたぶんこうなってる……うん、間違いないですね。てか先輩わりと大胆ですね……

 

「えっと……私はただ、先輩と一緒に添い寝とかの感じで……寝たいなと……思ったわけでして……」

 

「へ……?」

 

 私の言葉に先輩は完全に機能停止してしまい布団の上に体育座りし始めた。

 ふるふると震えながら何か言いたそうにしている。

 

「し……し……」

 

 薄暗い部屋でも先輩の目がいつもより光を失っているのがわかってしまう。

 

「死にたい死にたい死にたい」

 

 ちょっと! 死ぬのは待ってくださいよ! 先輩に死なれたら私泣き崩れるんですけど。

 

「わ、わあー! ちょっと待ってください! 今のはなしで! 私がいけませんでした、誤解を生むような発言をしてしまって」

 

 このままだと先輩に新しいトラウマを与えてしまいそうでどうしたらいいのか考える。というか先輩も私の言葉で準備するってことはやっぱりしたい気持ちはあったって事なんですかね?

 

「せ、先輩はしたいんですか?」

 

「したいかしたくないかで言えばしたいに決まってるだろ。男だぞ」

 

「はぁ……そういうものですか」

 

 まあ、もう付き合ってるわけだし、私も先輩とやっと結ばれて嬉しい気持ちでいっぱいで、今日が初めてになるならきっとそれはいい思い出になるよね……

 

「わかりました、先輩……その、よろしく、お願い……します。言っときますけど、私初めてなので、もし何かあったときは……責任、とってくださいね?」

 

「善処します……」

 

 それから私たちは初めての夜を過ごした――

 

 

 

 

 窓から朝日が入り込み目が覚める、先輩の腕枕のおかげでぐっすり眠れたみたいだ。先輩はまだ寝ているようでスースーと寝息をたてている。先輩の肌に触れたいと思い背中のあたりをそっと撫でると「んっ……」と声がして先輩のまぶたががゆっくりと開いた。

 

「おはようございます、起こしちゃいましたか?」

 

「いや、おはよう……」

 

 意識が覚醒して昨日のことを思い出したのか少し照れながら挨拶をしてくれる先輩。この人かっこいいし、優しいけど本当はそれ以上に可愛いんじゃないかと今更ながら思ってしまった。

 

 帰りの仕度をしてロビーに向かうと女将さんが立っていた。

 

「お帰りですか?」

 

「はい、今回はいろいろとありがとうございました」

 

「いえ、よかったらまた来てくださいね」

 

 女将さんの言葉に二人で同時に「はい」と答えると女将さんは嬉しそうな顔をして私たちを見送ってくれた。

 

「また来ましょうね、先輩」

 

「そうだな、はいって言っちまったしな」

 

 今度はいつになるかわからないけどこの旅館にはまた来たいと思った。それこそ新婚旅行とかでもいいかもしれない。無論、相手は私の横で一緒に歩いてくれている先輩と。

 




「大学という場所は彼の周囲の環境をガラリと変えた」シリーズ最後まで読んでいただきありがとうございます。

一応これでこのシリーズは完結となります。最初は軽い気持ちで書いてみようと思ったのが始まりでしたが気づけば3ヶ月もこのシリーズやってたんですね。やっと結ばれた八幡といろは。というか本当になんでこいつら今まで付き合ってなかったのっていうね。


第一話のブクマが400を達成したのはとても嬉しかったです。読んでくれた方、ブクマをつけてくれた方本当にありがとうございます。
一応なんですがアフター、番外編のお話を少し考えてはいるのでいつになるかわかりませんがそれも書けたらなと思っております。

「八幡、雪乃、由比ヶ浜のお話」「八幡が大学4年の話」「二人が結婚してからのお話」 このあたりはいずれ書きたいですかね。


それでは最後に感想や評価などの方よろしくお願いします


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そして彼は就活で苦労している。

アフターです!
ちょっと1話で収めようと思ったら長かったので続きも書くかもしれませぬ


 先輩と付き合って初めての夜を過ごしてから、一年ちょっとの月日が流れ、私は大学三年生になった――。

 あれから先輩の家に遊びにいく頻度が増えて、今は同棲なんてしちゃったりしてる。別に一緒に住んでいるからって日頃からイチャイチャしてるわけじゃなくて、そっちの方がなんていうか……。こう、お互いにとっても楽だから、ね? ほら、先輩って私がいないといろいろ駄目駄目だし、自分で言っちゃうのは恥ずかしいけど、私も先輩といないと、他のことに集中できなかったりすることもあったりするし。

 そんなわけでなんとか先輩を説得して、今は二人で先輩のアパートで一緒に生活してる。1LDKだし、広さ的には問題ないからね。

 

「ただいま……」

 

「あ、先輩、おかえりなさい」

 

 夕飯の準備をしていると先輩はとても疲れた顔をして帰ってきた。その様子を見て、ああ、今日も駄目だったのかな、なんて思ってしまう。

 成績の良かった先輩は三年の秋くらいから就活を始めていて、今まで何社も受けたんだけど全滅。そのせいか、最近の先輩の目は前よりも濁りが増しているように感じる。なんというかそれが原因なら不憫だなぁ……。

 

「先輩、○○○から通知来てましたよ」

 

「ん、さんきゅ。中見た?」

 

「さすがに先輩より先に見ようとは思いませんよ」

 

「そっか、じゃあ見てくるわ」

 

 そう言うと先輩は部屋に向かい、私は夕飯の準備の続きに戻った。

 焼いていたハンバーグにほどよい焦げ目がついてくると、後ろからさっきよりも低い声が聞こえる。

 

「一色ぃ……また落ちた……」

 

 ……ああ、また駄目だったんですね……。

 

「つ、次はきっと大丈夫ですよ! 先輩ならきっと受かります!」

 

 料理をしている最中だったので振り向かずにそのまま励ますと、後ろから優しく抱きしめられこてんと肩に先輩の顎が置かれる。

 最近、不採用通知が来た日はこうして甘えてくる先輩。急にはびっくりするけど、これで先輩が癒されるならいいかな、なんて思ったり。私も先輩に抱きつかれるのは嫌いじゃないし。……ていうか大好きだし。

 

「いい匂いだな……」

 

 ちょっ、唐突にこの人は何言い出すんですかね。

 

「いきなり匂い嗅がれるのは恥ずかしいんですけど……。それに、今日結構汗かいちゃってますし……」

 

「え? いや、料理の匂いなんだけど。今日はハンバーグか」

 

 …………ですよねーー。もちろん知ってましたよ? さすがにそんないきなり先輩が私の匂いを嗅いでいい匂いだななんて言うわけないもんね? 先輩のばーかばーか。

 

「あれ、一色さん、なんか怒っていらっしゃる?」

 

 不安げに覗き込んできたので、頬を少し膨らませて先輩から顔を背ける。

 

「先輩が料理中にいきなり抱きついてくるのが悪いんですよ。なんですかもうお前は俺のものアピールですかそれは嬉しいですけどそういうのはちゃんと内定もらってからにしてくださいごめんなさい。……あっ」

 

 これ言っちゃ駄目なやつだ……。

 慌ててたせいで今の先輩には禁句となっている言葉を放ってしまい、おそるおそる振り返ると先輩は涙目になっていた。

 

「す、すいません。そんなこと全然思ってないですからね? 先輩に抱きつかれたのがちょっと恥ずかしくて少し慌てちゃったといいますか……。それに私は既に先輩のものですし!」

 

「そうだよなぁ……。就活し始めて半年以上経つのに一社も受かってない男なんてお断りだよな……」

 

 ああ、またいじけちゃった……。

 

「ほ、ほらハンバーグもうすぐできますよ! 元気出してください!」

 

「……なんか手伝うことあるか?」

 

「じゃあできたら呼ぶので運ぶの手伝ってもらえますか?」

 

「わかった」

 

 うーん、これは相当参ってるなぁ。出版社って狭き門とは聞くけどここまで難しいものだったんだ……。

 とぼとぼと部屋に戻っていく先輩を見ながら来年ある自分の就活が不安になってきた。まあでも、私の場合、先輩っていう永久就職先があるからそこまで問題じゃないかもしれないけど。

 明日休みだし、先輩の気分転換に一緒にどこかいこうかな。うん、それがいいかな、そうしよっと!

 

「先輩、できましたー」

 

「うい」

 

 しばらくしてハンバーグが出来上がり、先輩を呼ぶとさっきと変わらず元気のない様子で料理を運んでいく。

 

「それじゃ、いただきます」

 

「いただきます」

 

 料理を運び終え、二人で向かい合い、いつものようにいただきますと言って食べ始める。

 けれど、本当に落ち込んでるみたいで先輩の箸は進みが遅い。料理を作った身としてはちょっと悲しいなぁ。

 

「先輩、ご飯食べるときくらい楽しそうな顔してくださいよー? せっかく先輩のために作ったんですからね?」

 

「わりぃ、一色の料理はめちゃくちゃうまい。でもこれを俺が食う資格があるのだろうか……」

 

「なんですか資格って……。先輩は私の彼氏なんですからね。堂々と私が作った料理食べてくださいよ」

 

「……俺に一色と付き合う資格なんてあるんだろうか。もっといい男と付き合った方がお前も幸せかもしれないぞ」

 

「先輩、それはさすがに怒りますよ? 付き合うのに資格なんて必要ないです! 私は先輩が好きなんです! 好きで好きで仕方ないんです。ずっと一緒にいたいんです。それに先輩以上のいい男なんて私は知りませんから」

 

「すまん……。最近ひどすぎだな俺」

 

 その言葉を発した先輩の表情に影がさしていく。

 

「今の先輩は根詰めすぎなんですよ。少しは気分転換したほうがいいです! というわけで休日は一緒に出かけましょ! 私が先輩をリフレッシュさせてあげますから!」

 

「でも、明日は面接の書類とか書こうと思ってたんだが」

 

「面接と私どっちが大事なんですか!」

 

「いや、一番大事なのはお前だけど」

 

 ちょっと、急に真顔でそんなこと言わないでくださいよ。凄い嬉しいですけど……照れちゃいますよ。

 

「そ、そうですか……。それじゃ今週の休みは私に付き合ってください、ね?」

 

「わかった。じゃあ今日は風呂入って寝るか」

 

「はーい」

 

 ご飯を食べ終えて、お風呂の準備をして一緒に入る。

 先輩に優しく髪を洗ってもらうのが最近私の流行で、それからお礼に先輩の髪を洗ってあげる。最初は恥ずかしがってた先輩も今は洗っている最中は気持ちよさそうにしてくれる。

 

「先輩疲れてるみたいですし今日は身体も洗ってあげますよー」

 

「い、いやそれは自分で洗うから……」

 

「いいから、いいから、遠慮しないでくださいよ。何今更照れてるんですか!」

 

「わかったよ……。それじゃ頼むわ」

 

「はーい、任されました!」

 

 ボディーソープをタオルにつけて先輩の背中をごしごしと洗っていく。ときどき先輩がくすぐったそうにしているのが少し面白くて自然と笑みが溢れた。

 

「先輩、気持ちいいですかー?」

 

「ん、気持ちいいぞ」

 

「じゃあ、次はこっち向いてください」

 

「へ?」

 

 後ろを洗い終わったので今度は前を洗ってあげようと思ってそう言うと先輩から素っ頓狂な声がでた。

 

「へ? じゃないですよ。向いてくれないと前洗えないじゃないですか?」

 

「さすがに前は自分で洗うからいいって……」

 

「遠慮しないでください! ほら! ……あっ」

 

 無理やり先輩を前に向かせると、下半身を隠していたタオルがひらりと落ちて――。

 

「先輩……なんですかこれは」

 

「いや、これは生理現象だから。仕方ないから! だから自分で洗うって言っただろ……」

 

「わ、わかりました。じゃあ前は自分で洗ってください……。それと今日は駄目ですからね?」

 

「いや、何も言ってないだろ俺」

 

 む、そういう言い方されると何か引っかかりますね。

 ……となれば。

 

「えいっ――」

 

「うおっ!?」

 

 ちょっと悔しかったので、前を向いて身体を洗い始めた先輩に後ろから思いっきり抱きついてみた。

 

「えへへ~、……こういうのはお嫌いですか?」

 

「……いや、嫌いじゃないけど。……というか好きだけど」

 

「素直な先輩、好きですよ?」

 

 少し照れた先輩の顔をこちらに向かせて見つめ合い、ゆっくりキスをした――。

 

 

 *   *   *   *

 

 

 結局というかなんというか……あれからその、えっと……、二人で楽しんでしまったので、もう一度身体を洗って一緒にお湯に浸かる。いや、ほんとに今日はするつもりなかったのに……。

 だんだんと気分が良くなってきて自然と鼻歌が零れる。

 

「そろそろあがりましょっか」

 

「おう」

 

 十分に温まったので二人でお風呂をでて、一緒に身体を拭き先輩の髪にドライヤーをあてる。

 髪を洗うのもそうだけど、先輩の髪を触るのがどうやら私は好きみたいだ。

 

「先輩」

 

「ん?」

 

「元気だしてくださいね? 先輩なら絶対大丈夫ですから」

 

「ああ、頑張るわ。なんか今日はごめんな」

 

「いえいえ、落ち込む彼氏を慰めるのも彼女の仕事ですからっ!」

 

 胸を張ってそう言うと、先輩は「さんきゅ」と言いながら微笑んだ。

 

「じゃあ、先に横になってるな」

 

 言うと、先輩はベッドに向かった。さっきとは違い、曲がっていた背筋が少し真っ直ぐになっていた気がして、それがなんだか嬉しかった。

 それから私も自分の髪を乾かしてベッドに向かうと、余程疲れてたのか既に先輩はすうすうと寝息を立てていた。

 

「今日もお疲れ様です、先輩」

 

 先輩の頭を優しく撫でながら唇におやすみなさいのキスをする。

 久しぶりに休日を先輩と一緒に遊んで過ごせるのが嬉しくて、遠足の前日のようになかなか眠れなかった――。

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっとなよなよした八幡にしてみました。まあ就活ってこれくらい大変ですし多少はね……?


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