やはり捻くれボッチにはまともな青春ラブコメが存在しない。 (武田ひんげん)
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序章
こうして比企谷八幡は雪ノ下陽乃と出会う。


今回からスタートです。
頑張っていくので応援よろしくお願いします。


俺…比企谷八幡は総武高校の3年生であり、クラス内では友達を作らないボッチであった。もうここまで来ればプロボッチと呼んでもいいだろう。まぁ、こんな死んだ魚のような目をしていたら誰も近づかないだろうが。

今俺は現国の平塚先生に職員室に呼び出されていた。なぜ呼び出されたかというと…

 

「比企谷、これはなんだ?」

「作文…ですけど?」

「ですけど?ではないだろう。これは作文と言えるのか?」

「作文じゃなかったらなんなんですか?」

「はぁ…」

 

とため息をついた平塚先生はあろうことか俺の書いた作文を読み始めた。

 

「青春とは幻想であり、夢である。

青春を謳歌せし物は常に幻想を見ており、常に周りより自分達の方が上という勘違いをしている。

彼らは青春の2文字の前ならば、どんな強引なことでもさも自分達が正しいかのように振舞っている。

彼らは自分達よりも立場が下のいわゆる非リア充たちをまるで自らが支配者かのように動かそうとする。

そうして彼らは立場が下の者たちの意見なんかお構いなしに楽しもうとする。

仮に立場が下の者が意見を言おう物ならば彼らはその意見を総動員で抑えようとする。

そうして彼らは自分達の立ち位置が上であると見せつけている。

そんな彼らは現実を見ようとせずに楽しくて楽な幻想しか見ようとしない。

しかしそれを指摘したところで彼らはそれを認めないだろう。

すべては彼らのご都合主義でしかない。

…結論を言おう。

青春を楽しむ愚か者ども、砕け散れ。」

 

 

「…、わかったかね?比企谷」

「何がですか?」

「はぁ、いったいどういう神経をしたらこんな作文が書けるんだ?」

「いえ、ただ俺が思っていることを書いたまでですが?」

「喧嘩を売っているのか君は?」

「い、いえ」

 

平塚先生から鉄拳が飛んできそうな気配がしたので、慌ててフォローに入った。あ、鉄拳と言っても画用紙使って、こんなものはいやだ、というネタをする方じゃなくて闘将星野仙一とかの方の鉄拳な。そんなこと誰でもわかるわ。俺一人でボケとツッコミができるくらいボッチを鍛えてるんです。

さて話は脱線してしまったが本題に戻すが、平塚先生は俺の作文に納得していないようだ。これは書き直して提出ルートだろう。

と、俺が次はなんの作文にしようかと迷っていた時に唐突にとある人物がやってきた。

 

「あ、静ちゃーん、遊びに来たよー!」

 

そこに現れたのは俺の同じ学年にして、眉目秀麗、成績優秀で音楽、運動も得意。 おまけに対人能力も高く、いつも周りにはお付きの人達が沢山いるような、リア充の最先端にいるような女性、雪ノ下陽乃だった。

 

「こら陽乃、いつも言ってるが気軽に職員室に来るもんじゃない」

 

という平塚先生。どうやら雰囲気的に考えるとこういうことは日常茶飯事みたいだ。

 

「いいじゃなーい、ひまなんだもぉーん!…あれ?静ちゃん、その子は?」

「彼は比企谷だ。お前と同じく3年生だぞ」

「えー?こんな子いたっけなー?」

 

そら気づかれないでしょ。だってボッチだもの。すると雪ノ下陽乃はまるで俺を商品の品定めするかのよう目でジロジロ全身を見て、

 

「私は雪ノ下陽乃ね、よろしく!」

「は、はあ」

 

満面の笑みを浮かべて握手を求めて来たので思わず返してしまう。というかなんだろうなこの感じは。なんというか、この笑顔は作り物というか裏がありそうと言うか、気を抜いたらいけないような、なんだか底知れぬオーラを感じるような…。これがリア充なのか?いや多分違うだろう。こんな人を巻き込むような、人を引き付けるようなオーラを出せる人間はそうそういない。

俺は少し気づいた気がする。なぜ周りにたくさんの人が集まってくるのかが。

そんなカリスマ性の塊みたいな人から話しかけられたことのない俺は、正直キョドってしまっていた。

そんな俺の姿をみて雪ノ下陽乃は

 

「なーにガチガチになっんのー??ほらそんなガチガチにならなくてもいいからー」

 

思いっきりキョドってるところがバレてしまった。ちくしょう、長年のボッチ生活で身につけた俺の得意技、感情を表に出さないが通じない敵がいるとは…。

まあ学年…いや、学校一の人気者がいつも日陰にいるボッチの俺の目の前に現れたらどうすればいいかわからないだろ…。

そのまま軽く固まってしまっていると、

 

「比企谷、彼女は雪ノ下陽乃だ。陽乃は見ての通り目立つから君でも知っているだろ?それに陽乃はいつもこの調子なんだ。だから私も困っていてな」

 

しかし、平塚先生はまんざらでもないような感じで言っていた。俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

俺は雪ノ下陽乃と馴れ合う気もなかったのでさっさと立ち去ろうとしたら、雪ノ下陽乃はあろうことか先生の机の上に置いてあった俺の作文を読み始めた。

……。

 

と、読み終わったのか雪ノ下が顔を上げると、ニヤリと笑って、

 

「君、面白いね。気に入っちゃった」

 

というと満面の笑みを見せてきた。しかし俺にはなにか裏で企んでいるように見えた。

俺は再び逃げようとしたが、雪ノ下にがしっと腕を掴まれてしまった。ふえぇー逃げられねーよー…。

 

「雪ノ下、あまりいじめないようにな。それとそいつは腐っているからそこもよろしくな」

 

平塚先生…。というかその流れだと俺は一体どうなるんだ?とにかく俺は今この場から逃げたいのが本望だが、腕をがっしりと雪ノ下に掴まれていてしかもなかなか離してくれない。

 

「はーい静ちゃん。じゃ、比企谷くん、お話しよっか♪」

 

雪ノ下はそういって職員室を出た。もちろん俺の腕を掴んだまま…。

…この先どうなるかこわいよぉぉー…。

俺はなにか未知の恐怖を感じていた。

 

 

続く

 




さてようやくシリーズスタートです!
今回から頑張っていこうと思います!
この作品は原作と設定を変えてみました。まず雪ノ下陽乃が総武高校3年生で、比企谷八幡が陽乃と同じ学年ということ。ただ、ボッチには変わりはありません。もう安定ですからねー。
話数的には15話まで頑張ってみたいと思います。あくまで目標なので前後する可能性もありますが、とりあえず15話以上を目指します!
あと次回更新は6月6日の13時頃を予定しています。
あとよければ感想などもどんどん下さい!
応援よろしくおねがいします!



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比企谷八幡は雪ノ下陽乃とお話をする。

40分遅れとなりました。本当に申し訳こざいません。


俺は今雪ノ下陽乃と一緒に本校舎から少し離れた特別棟4階にある空き教室にいる。空き教室にはよく学校行事なんかで使われている長机が一台あって、パイプ椅子が二台置いてある。俺と雪ノ下はちょうど机を挟んで教室にある椅子に向かい合う形で座った。

 

「じゃ比企谷君お話しよっか(ニコッ」

「は、はあ…」

 

お話ってなんだよ。こえーよ、ちょーこえー。一体何されるか全く分かんねーよー…。八幡ピンチ。

 

「ねえ比企谷くんってなんでそんなに私のこと警戒してるのかな?」

「え?あ、いやその…」

 

俺の心の中まで見るとかちょーこえーよ。なんで心の中まで見てくるんだよ。サイコメトラーかなにかか?

そんなギラギラした目で見ないでー。俺ボッチだからそういうの苦手なんです…。

 

「私わかるよーなんで警戒してるのか…」

「な、なんですか?」

 

顎に手を当ててうーんと、しばらく雪ノ下は考えると、

 

「うーん、わかんない!」

 

わかんねーんかよ、と心のなかでつっこんでおく。

 

「ねえ、比企谷くんはなんであんな作文書いたのかな?」

 

雪ノ下は表情を興味津津なこどものような顔にしながら聞いてきた。

おっとその質問着たか。多少は予想できていたが。

 

「なんでいわなきゃいけないんだ?」

 

今までビビってばかりので少し強気で出てみた。ある程度予想できた質問だし、準備が出来ていたから。

すると雪ノ下は笑みを浮かべて

 

「へえーそんな口聞くんだァー」

「わるいか?」

 

おれは調子に乗ってさらに悪態をついた。…ちょっと怖いけど、伊達にぼっちやってきてないんだ、このくらいどうとでもないさ…。

 

「でも、いってもらうよ」

 

雪ノ下はモノすっごい満面の笑みをうかべていってきた。その笑みは言わないとどうなっても知らないと言わんばかりの笑みだったのとこれ以上怖い思いはしたくなかったので言うことにした。

 

「自分の意見をいったまでだよ。あのとおりおれは青春について自論を言ったまでだよ。」

「ふーん…」

 

含みのある笑みを浮かべた雪ノ下は

 

「君気に入った。これからも私とお話しなさい」

 

命令口調で言ってきた。もちろんその時も笑みは浮かべていたがその笑みはノーと言わせないような笑みだった。どんだけ笑顔に種類あるんだよ。リア充てそんなもんなのか?

おれはもちろんイエスといった。だってこわいんだもん!

というわけで翌日から俺は雪ノ下陽乃とお話をすることになった。

 

 

――――――

 

「あ、お兄ちゃんおかえりー」

「おうただいま」

 

家に帰ると妹の小町が出迎えてくれた。小町は中学三年生で今年受験生だ。うちの家は両親が遅くまで帰ってこないことがおおいので、こうして小町が夜ご飯をつくってくれる。

 

「ねえお兄ちゃん今日おそくない?」

「ああ」

「なにかあった?」

「え?いやちょっと先生に呼ばれててな」

 

ご飯を食べながら俺らは他愛もない話をしていく。いつもどおりだ。

俺はそのあといつもどおり風呂に入ってねることにした。今日は疲れた。ゆっくり眠れるだろう。

それにあしたからは雪ノ下とお話しないといけないし…。

俺の平和なぼっち生活が崩れていくのを身に感じながら俺は眠りついた。

 

 

続く。




まずすみません予定時刻から遅れてしまいました。本当にすみません。
お詫びもかねて今日の6時にもう一話投稿します。
急いで書いたので誤字脱字等々あるかもしれませんがすみません。
それに文章数がすくないです。次回からは絶対このようかことがないようにします。

では6時に会いましょう。


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比企谷八幡は雪ノ下陽乃から逃げることはできない。

俺…比企谷八幡は今まで友達を作らないいわゆるボッチだった。そんな俺は今日一日の授業がおわり、教室内はリア充共が今日どこに行くだの、カラオケに行くだの、話しているのを尻目に教室をいつもより早足で出た。廊下にはまだ沢山の人が残っていたが俺には全く関係ない。とにかく速く帰らなければという思いが俺を焦らせていた。

いつもよりも数倍早足で歩いてそうして無事下駄箱まで降りてこれた。よし、ここまでは順調だ。

それから靴を履き替えて日が落ちてきて少し黄色掛かった外に出たら俺の勝ちだ。

よし、靴も履き替えた。あとは下駄箱からでるだけ…

 

「あれー?どこにいくのかなー?」

 

後ろから悪魔の声が聞こえてきた。悪魔の声の持ち主雪ノ下陽乃は、ゆっくりと俺のところに歩いてくる。その歩いている様はダースベイダーの登場曲が似合うほどに恐ろしかった。

俺は動くことができずにただやってくるのを待っていた。

 

「さて、なんで帰ろうとしてるのかな?」

「え、えーと…」

 

俺はこの人から逃げるためにわざわざ終礼が終わった途端にそそくさと帰ろうとしたのだったが、作戦は失敗におわった。ゲームオーバーのBGMが脳内で流れる。

そう、俺は負けたのだ…。

ということで俺は(強制的に)昨日初めてやってきた特別棟の空き教室へと連れていかれた。

 

 

――――――

 

 

特別棟は部活関連の教室や部室が入っている棟だ。昨日は余りにも余裕がなかったため良く見ることはできなかったがこう見たら特別棟は4階建て。

中に入るとずらっと教室が並んでいる。その教室の名前のプレートを見ると、陸上部だの、サッカー部などの王道系部活の名前や、~同好会などのサークル的な感じなのもあった。

俺たちは最上階の4階の一番階段から遠い端の教室に入る。

中に入ると文化祭などで使われている長机とパイプ椅子があり、俺たちは昨日と同じように座った。

 

……。

座ったはいいが、話すこともないししばらく沈黙が流れた。

俺はボッチ生活が長いのでこういう時の対処法なんて知らないし、適当にスマホをいじっていた。

しかしあまりに沈黙が続いているのでちらりと雪ノ下のほうをみると、本を読んでいた。

……こう本を読んでいるところを見たらすごく画になっている。雪ノ下自体はこうして改めてみるとやっぱり美しい。大きな目、鼻筋が通った鼻、艶をおびた唇、サラサラとしたセミロングの髪…。

おっといかんいかん、2分ほどつい見とれてしまっていた。しかも雪ノ下に気づかれてしまった。

 

「なーに、さっきからジロジロみてるのかなー?」

「え?なんのこと?」

「2分くらい前からみてるよね?」

 

バレてましたー。しらを切っても仕方がなかったので、

 

「つい見とれてしまって…」

 

思いっきり正直にいってしまった。やばい、身がまえないと、キモイの一言に対して…。

しかし、雪ノ下は

 

「あははー正直だねー。でも、私そういうこと良く言われるんだー♪」

 

キモイという一言もなかったのでよかったと少しホットしてしまった。

まあ、雪ノ下はずっと明るいところにで続けているだろうからそういうことを言われ続けたんだろうな。

それに見た目も美しいからな。

その会話が終わったあと、再び沈黙が生まれてしまった。

というかこんなに沈黙が多いのになんで俺ここにいるんだろうと思ってしまっていた。というか、なんで雪ノ下はもともと俺とお話する予定じゃなかったのか?なのにこんなに沈黙ばっかりでいいのか?

俺は思った疑問をぶつけてみることにした。

 

「なんで雪ノ下は俺をここに呼んでるんだ?」

 

ほんとに疑問に思ったことなので素直に聞いてみた。

すると雪ノ下はうーんと顎に手を当てて考えたあとに、

 

「なんとなく、ここに置いときたくて、かなー?」

 

おい、お話どころかモノ扱いかよ…。まじか俺とうとうボッチどころか人間扱いもされなくなったのかよ。

と完下の、チャイムがなったので帰るしたくを始める。

すると雪ノ下は

 

「明日は逃げずにここに来ることね?そうじゃないと…わかるのね?(ニコッ」

 

脅されました。明日は必ずきます。

 

続く




今日は2連投です。

次回も、頑張って書いていきます!
応援よろしくおねがいします!

次回投稿は6月8日の17時です。


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一章
比企谷八幡は徐々に日常を受け入れていく。


季節は五月中旬。五月は暦の上では春になる。春というと出会いやなんやで有名な季節。

今までボッチでやってきた俺にもついに出会いがやってきた。

…暴君との出会いが…。

あの時、平塚先生に職員室に呼び出されなければ、暴君と出会う事などなかった。

しかし時は残酷だ。俺は出会ってしまったんだ…。雪ノ下陽乃に…。

 

「比企谷くん、お話しよっか♪」

 

…悪魔の囁きだった。

 

 

――――――

 

 

あの日以来、俺は放課後毎日逃げ出さずにこの空き教室にやって来ている。まるで部活生みたいだ。なぜ来ているのかの理由はひとつ。雪ノ下陽乃とお話をするためだ。

 

…と思っていたらやはり単にお話だけではなくて、ほぼ毎日平塚先生に頼まれて雑用をやったりなんかしている。その雑用というのも結構あって、簡単な仕事から、生徒が触れてもいいの?という書類の整理までさせられる。まるで便利屋だ。しかも雪ノ下はよく雑用の途中で逃げ出したりするし…。

結局、俺が一人でやってることの方が多い。…まあいいけどさ。

それでも平塚先生と雪ノ下はなんだか普通の先生と生徒の関係ではない気がする。雑用を押し付けれるような関係だし、二人がよく話しているところをみる。

 

しかし今日は、雑用を押し付けられることもなかった。まあ、それもそのはず実は来週には中間考査が控えている。

ということなので平塚先生からテストまでは試験勉強をしていいから雑用は与えないと言われた。まあ、三年生だから進路の方もあるしな。

ということで今、俺たちはガリガリと自主勉強をしている。

 

…カリカリ…。

シャーペンの音が響く。ちらりと見ると雪ノ下は数学の課題のドリルをしていた。それにすごくスラスラ解いている。しかもサボりたいやつがついやってしまう答えを見ながら書いているわけではなく自力で…。

しかもチラリとやってるところが見えたけど、数Bのベクトルのところだぞ。俺全く解けないのに…。ハイスペックすぎだろ…。

とおもっていると、

 

「ん?どうかした?」

「ん?あ、いや別に…」

「なにか言いたげな目をしているけどなぁー。……あ、分かった!私にイジメられたいとか??」

「んなわけねーだろ。俺はMじゃない」

 

…毎日こんな会話があるんです。しかもそういうことを聞いてくるときの雪ノ下の顔は、イタズラを仕掛けた子供のような顔をしている。ホント、コイツはなんというか、こうやって毎日絡み出してわかったことなんだが、雪ノ下はとにかく俺をいじってくるんだ。だけどその一方でいつも向けてくる完璧な笑顔の裏にはなにかがあるというか。俺は雪ノ下みたいな人間を見ると、そいつの裏を探りたいんだ。だけど正直裏が読み取れないんだ。ここ1ヶ月ほど絡んでいるんだが、まったく隙を見せない…。そこが俺は気になって仕方ないんだ。…雪ノ下の本当の姿とはなんなのだろう…と。

それからもう一つ、雪ノ下に聞きたいことがあった。

 

「お前ってさ、数学すごいできるのか?」

「ん?なんでそう思ったの?」

「え?だって今やってるそれって数Bのベクトルのところだろ?しかもそれをスラスラ解いてたし」

「え?比企谷くんは数学とかできないの?」

 

わざとらしくニヤニヤした顔で雪ノ下はそう聞いてきた。…ちくしょう悔しい!でもできない!

 

「顔ができませんっていってるみたいだけどー??」

「うるせ」

「あっはははー。怒った怒ったー♪」

 

心の中まで読まれた。俺の心は簡単に読まれるのにな…。雪ノ下のほうを見るとまだニヤニヤしている。そうですよ、俺は数学は苦手ですよ。おかげで俺は文系だと学年2位だが、理系分野となると下の方だ。

 

「比企谷くんの数学はどの位の点数なのかな?」

「…この前の学年末は学年で下から十番目」

「…え?ほんとに?」

 

うわー引いてるわー。ドン引きしてるわー。ま、そらそうでしょうね。数学が出来る人からすれば数学なんて公式覚えてそこに数字当てはめるだけじゃん、とかいってるけど、その公式が覚えられねーんだよ!。しかも当てはめても違う答えになるんだよっ。

すると雪ノ下は何かを決断したように指をパチンとならすと、

 

「よーし!私が数学教えてあげよう!」

「…はい?」

「言った通りだよ。私が数学教えてあげるの♪」

「いや、いいから。覚える気もないしそもそも数学できる気しないし、やる気もない。数学できなくても生きて行ける」

「また変な屁理屈こねてる。ほんと君は面白いなー♪でも、そこまで言われると逆に教えたくなるなぁー。…いいのかい?数学学年一位の私が直々に教えて上げるっていってるのに?」

 

雪ノ下は完璧な小悪魔的笑顔を浮かべて誘ってくる。小悪魔的笑顔って何だよ。あ、あれかまるで小町が俺になにか物を買ってほしいってオネダリしている時のあの笑顔みたいか。並の男ならその笑顔に即オッケーしてしまうんだろうが、俺は家に小町がいて鍛えられているので惑わされない。

…しかし、学年一位はきになる。まじか、学年一位に教えられたら…。

 

「あれー?どーするのかなー?一位だよー?」

「……ぐ、わかった。教えてくれ」

 

俺は誘いを受けることにした。まあ学年一位だからな。

 

「人にものを頼むときは言い方ってのがあるんじゃないー??」

 

また意地悪な笑顔をうかべて…。く、だがボッチな俺にはなんの苦痛もない。

 

「お願いします。俺に数学を教えてください」

「心の奥底からいいなさい。(ニコッ」

「…」

 

こえーよその完璧な笑顔。…こえーよ。

 

「…こんな数学ができない卑しい私目にどうか数学を教えてください」

「…はい、よくできましたー♪」

 

パチパチと拍手してたたえてくれた。どうだ、これがぼっちの底力だ…。

すると雪ノ下は手をパンとたたいて、

 

「じゃ、早速はじめよっか。どこがわからないの?」

「え?あ、えーと…」

 

と、俺はテスト範囲でわからないところを聞いていく。といっても、たくさんあるけどな。たくさんどころかほぼ全部か。

 

「…。比企谷くん、おおすぎない?」

 

それもそのはず、テスト範囲ほぼ全部がわからなかったのだ。さすがの雪ノ下も引いている。

 

「でも、できるようにしてあげる。私が教えるんだから90は目指さないとね(ニコッ」

「は、はい」

 

だからその完璧な笑顔やめてよ、何考えてるかわからないよ…。

 

――――――

 

 

雪ノ下は完全下校のチャイムがなるまでみっちり教えてくれた。

しかも意外にも教え方が上手い。教えてくれたところが今日一日でかなりわかった。まぁ、家に帰って復習もしないとな。

と、テキストをカバンに片付けてると、

 

「比企谷くんて理系全般苦手だよね?」

「ああ。理系はまじでわかんね」

「じゃ、物理とかも?」

「…ああ」

 

と、雪ノ下はしばらく顎に人差し指を当てて少し間をあけると、

 

「よしわかった。明日からテストまで教えてあげる!」

「え?」

「え?じゃないよ。理系教科を教えてあげるの。比企谷くんこのままじゃ落第するし、それに比企谷くんは意外に飲み込みが速いから楽しいし♪」

「当たり前だ。学習能力は鍛えてるからな」

「いいよー。飲み込みが早い子はえらいぞー」

 

というわけで俺は雪ノ下に勉強の世話をしてもらうことになった。

 

 

――――――

 

 

それから俺は毎日雪ノ下に勉強を教えてもらった。もちろん文系の勉強もしながら、理系はわからないところを聞いた。

雪ノ下の教え方は相変わらず丁寧でわかり易かった。やっぱりコミュニケーションが取れるやつってそういうのも得意なのか?…いや、単に雪ノ下のスペックが高いだけだろう。

 

そして迎えた試験日。一週間のうち中間テストは月曜から水曜まであって、テストの答案が残りの2日間で帰って来るというシステム。

俺は文系のみならず、雪ノ下に教えてもらった理系科目にはいっても、筆の勢いはとまらなかった。

 

…そして、テストが帰ってくると

 

数学96点

物理98点

 

特に教えてもらった2教科がかつてない高得点をたたき出した。ちなみにほかの教科も軒並み80以上連発。

それをみた雪ノ下も

 

「お、ノルマ達成できてるねー。えらいえらい」

「おう、お前のおかけだ。……その、あ、ありがと…な」

「どういたしまして(ニコッ」

 

と、完璧笑みをうかべるが。でも、いつもより柔らかい印象を受けた。

ちなみに雪ノ下のテストは全て95以上だった。理系に関しては数学も物理も100だった。…ありえなくね?

 

「なあ、雪ノ下」

「ん?なあに?」

「…、ほ、放課後ってあ、あいてるか?」

 

俺にしてはがんばって言えたと思う。こう人を誘うというのはトラウマがあるから…。あれは中学の時、勇気をだして友達を遊びにさそったら、まるで無かった事のようにスルーされた。黒歴史おもいだしちゃったよ。でもあれはこたえたなー…。無視って怖い。

でも、俺はずっと教えられてばかりだったからお礼がしたかった。

 

「ん?あいてるけどなんで?」

「いや、お礼がしたくて…」

「ふーん…」

 

と、雪ノ下は出会った時のような査定するような目で俺の方をみた。

 

「…いいよ、なにしてくれるの?」

 

真顔でそんなことを言ってきた。笑顔を絶やさない人が急に真顔になると怖いよねー。

でも、こんなとこで怖気付いていたらだてにこの1ヶ月雪ノ下と絡んでいない。

 

「いや、そっちがなにかなにか要求してきたらそれでいいけど」

「…ふーん」

 

……。

しばし沈黙が流れる。

 

と、

 

「…わかった。じゃ、お買い物に付き合って」

「わかった」

「あ、ただし」

「ん?なんだ?」

「今日の放課後じゃなくて、明日でいい?」

「…え?」

「ふふっデートみたいだねぇー。たのしみかな??」

 

うりうりと俺を肘で小突きながら、ニヤニヤして雪ノ下がこっちを向いてきた。だが甘いな、だてにボッチやってきてないんだ、こんなの本気で捉える訳が…

 

「そ、しょんなことないじょ?」

 

…はい、思いっきりキョドりました!しかも噛んじゃいました☆

なんかめっちゃ楽しみにしてるみたいになったじゃないか…。

すると雪ノ下は、

 

「うんうん、君はおもしろいなぁー。明日が楽しみだねー♪」

 

子供がイタズラしているような笑顔で言ってきた。

てか明日が楽しみってよくあるフラグじゃね?…おっといかんいかん、そんなわけあるわけ無い。あんなのは出来過ぎたラノベに過ぎない。ボッチなめんなよー。

とにもかくにも明日が思いやられる…。

 

 

 

続く

 

 

 




さて4話目ですね。
なかなか書くの大変ですしエピソードとか考えるのも大変ですねー。でも、そこが楽しい!
でも、今作書いてると日本語力がたりないなー…とおもってしまうことがしばしば。頑張らねば

さて、次回からはお買い物編ですね。一体どんなことが起こるのか楽しみにしておいてください。

感想などどんどんお待ちしております!

次回投稿は6月10日の17時です。


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比企谷八幡は付き合わされて。

翌日

 

俺はショッピングモールに向かって歩いている。昨日、俺は勉強を教えてもらったお礼に何かをしたいと言って、ならばということでお買い物についていくことになった。その帰りがけに雪ノ下から、

 

「じゃ、明日の10時に幕張のエオンのメインゲートにきてね♪」

 

なので徒歩で向かっているんだが、今更ながら遠いな…。最寄駅からバスが出ていたんだがそれを無視して歩いたのが間違いだった。

ちらりと時計を見ると9時45分。少し余裕を持って出て正解だったな。

と、目的地がみえて…きたけど…。

デカっ!とにかくデカッ。少し離れていてもその大きさがわかってしまう位大きな建物だった。聞いてみれば日本最大級らしいのだが、想像以上だった。

さすが千葉だ…。素晴らしいよ千葉…。

 

 

――――――

 

 

「はぁ、ついた…」

 

建物が見えてから10分後ようやくメインゲートに到着。時刻を見ると9時55分を回っていた。ギリギリか。

メインゲートはでっかくエオンの看板がついていて周りにはちょっとした植物や、ベンチが並んでいた。エコを考えてるだけあって力が入っているな。

そしてメインゲートの入口の横に、圧倒的な存在感を放っている女性がいた。

道行くひとがチラチラと見てしまうような見事な美貌を持った雪ノ下陽乃は、俺の方を見ると

 

「あ、比企谷くーん、おそいよおーー!」

 

大声をあげるなよ、目立つだろ…。ぼっちは密かに生きていたいのに…。

 

「もー比企谷くん、遅刻だよー」

「え?まだ9時56分ですけど?」

 

時計を確認しながらいうと、雪ノ下はむくれて、

 

「女の子と遊びに行く時はかならず30分前には来ておくべきなんだよ〜」

 

えそうなの?そんな早く出なきゃいけないの?

俺的にはまず時間ギリギリまでまって、本当に約束した場所に来ているか確認するのが普通かと…。

 

「なにかいうことはー?」

「え?あ、そ、その…悪かった」

「んー。まぁ、よろしい。じゃ、早速行こっか」

 

ということで、出発…。

俺はとっとと建物に入ろうとすると、グイッとすごい力で腕を引かれた。え?なんかまずったか?

 

「もぉー、先にとっとと入っていかないの。こういう時は横に並んで歩くのー」

 

と、雪ノ下は横に並んできた。しかも腕も組んできた。

ちょ、ちょちょっと待ってよお兄ちゃん。腕を組んで来ることはないんじゃないですか??しかも柔らかくて大きい物も当たってますし…。

あ、お兄さんじゃなくてお姉さんか。そんなことどうでもいいわ!

 

「ちょっと?腕を組んで来ることはないんじゃね?」

 

できるだけ平静を装って言った。

 

「そっかー、比企谷くんはまだそこまでできないかー。じゃ、仕方ないねー」

 

腕は解除してくれたけど、横並びは継続なのね。

 

 

――――――

 

 

ショッピングモールの中に入ると、土曜日なだけあって若者や家族連れがたくさんいた。…学校のやつに会いませんように…。

その中で雪ノ下はものすごく目立っていた。雪ノ下の振りまいているオーラ、容赦端麗な姿をみた人々は振り帰る。そいつらは俺の方を見ると、冷たい視線をおくってくる。…つらいわー。

 

「あ、あそこにいこーよー」

 

と言ってやってきたのは洋服の専門店。ただし、女性物をあつかっている専門店の。

 

「お、おい、こんなところに俺が入っていいのか?」

「ん?あー大丈夫大丈夫♪」

 

雪ノ下は俺がキョドってるところをからかうように笑っている。だけどここはやばい。と、俺が店から出ていこうとしたらものすごい力で腕を掴まれた。やばいって、助けてよぉー…。

といっても助けてくれる人などいるはずもなかった…。

 

…ふええー回りからの視線が痛いよ…。そんな中ギャル風の店員がやってきた。

 

「いらっしゃいませー。どの服をお探しですかー?」

「んーちょっと夏に向けてのを探してるんだけどー」

「なるほど、それからそちらの男性は彼氏さんですかぁー?」

「んーまあそんなところ?(ニヤ」

「違います。全くそんなのではありません。誤解しないでください」

「比企谷くんたら照れ屋さんなんだからー」

「うっせ」

 

雪ノ下がからかってきて俺が全力で否定する、そんなやりとりをしていると店員が、

 

「ふふふ、仲がよろしいんですねー。ではごゆっくりとー」

 

といってその場から立ち去っていった。…絶対誤解してるよなあの感じ。それもこれもすべて雪ノ下のせいだ…。

ちらりと雪ノ下のほうを見ると、近所の悪ガキがいたずらをしているような笑みを浮かべていた。

…ちくしょう、またコイツの思い通りにからかわれて

しまった…。

 

そのあと、雪ノ下は真面目に服を選んでいた。俺は外に

出よう(逃げよう)としたが、その度に腕をガッチリと掴まれてしまって逃げれなかった。…ボッチにはつらいよぉー…。

 

「ねえねえー、この服似合うかなー」

 

雪ノ下は薄手の黄緑のカーディガンと長めの白のスカートを見せてきた。正直似合うと思った。だけど、俺にはファッションなんてのは良く分からないので詳細には理由は言えないので、

 

「あー似合う似合う」

「ねえこのスカートどうかな?」

「おう、にあってるよ」

 

こう言うしかなかった。こういう時ってあるよなー。小町とかも「お兄ちゃん似合ってるかなー?」なんて聞いてくることがあるけど、俺からしたらどう答えていいのかわからないんだよな。なのでここは適当に似合うよーとか言っとけば大丈夫。

 

「もぉー!そんな適当に言わないでしっかり感想いってよー!ほらほらー」

「ていわれても、俺はよくわかんねーから」

「比企谷くんはファッションについても勉強しなさい。ポイント減点だよー」

 

いつからポイント制になったんですかね?

雪ノ下は膨れっ面をしたが、不覚にもその顔を可愛いと思ってしまった。…はっ、いかんいかん、なんて邪なことを考えているんだ!煩悩を捨て去れーぇい。

とか、一人で葛藤していると、いつの間にかさっき選んでいた服を購入していた。しかも、見てないあいだにも何着かいつの間にか買っていた。

さて、さっさとこの店を出ようかね、とおもっていたら、雪ノ下は俺の目の前に紙袋を突き出してきた。

…なるほどね、俺にもてと…。

 

「おー、わかってるねー。今のはポイント高いよぉー♪」

「そらどーも」

 

なんだかお付きみたいになってますけどね。もしかして今日一日これで行くのか?ま、勉強みてくれたお礼だしな。

 

 

――――――

 

 

時刻は11時を少し回ったところだった。すると雪の下は、

 

「ちょっとはやいけど、お昼にしよっかー。…あ、あそこのスタボに入ろうよー」

 

と指さしたのは女神のマークのついた某カフェチェーン店だった。あそこって日本全国にあるんだよな?そういえばつい最近にようやく鳥取に一号店ができてこれで日本でスタボがない県がなくなったんだよなー。鳥取県民におめでとう。

 

中に入るとお昼前なのでそこまで客がいなかった。俺たちは外に面している窓側の席に座った。たったの数時間しか経っていないのに無駄に疲れた俺は座ると同時に、ふぃーとおっさん臭い声がでてしまった。

 

「比企谷くんおっさんみたいー」

「うっせ、つかれたんだよ」

「へえー、それって誰のせいかな?」

「お前のせいだよ…。あんな所に連れていきやがって」

「いやー、あそこに行ったら比企谷くんがどんな反応するかとおもってさー♪」

こいつめ、楽しんでやがったな…。

まあ、小腹がすいていたのでそれは水に流す。頼んだメニューは俺はコーヒーとホットドックを、雪ノ下はコーヒーと卵サンドを頼んだ。

 

俺はコーヒーがくると、いつものように大量のシロップとミルクと砂糖を掛ける。俺はMAXコーヒーという甘さの塊のようなコーヒーを愛飲していて、自宅にケースがあるくらい甘党なんだ。

それを見た雪ノ下は、

 

「うわーそんなにかけちゃうの…」

「わるいか?」

「正直ひくなー」

「俺はこれが好きなんだよ。家にはまっ缶がケースである」

「ふーん…」

 

なんで含みのある笑いをするんだよ、こえーよ。ちなみに雪ノ下はブラックで飲んでいた。…なんか似合う。イッタラ殺されるけどね!

 

うん、やっぱりうまいな甘いのは。

そこでふと、疑問に思ったことを聞いてみた。

 

「なあ、このあとどうするんだ?」

「んーとね、映画みにいくよ」

 

 

はい?

 

 

続く




さて、のんびりですね。
のんびりすぎかも…。
日本語力のなさを嘆く今日この頃。
それからエオンとスタボは実名で書くとまずいかなとおもって一文字ずつ変えました。

これから平日は17時更新でいきます。
よろしくおねがいします。


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二人は少しづつ距離を詰めていく。

続きです。


昼飯をたべながら俺は気になることがあった。

時計をみると11時30分。まだ時間はあるので、この後一体どこに行くのかが気になって聞いてみたら…

 

「んーとね、映画みにいくよ」

「…はい?」

「まだ時間あるでしょ?それにちょっと見たかった映画があってねー」

 

しれっと言ってきた。たしかにこの中には映画館入ってるけど、それに映画なら2時間くらいは時間立つけども。

 

「で、なんの映画みるんだ?」

「それはー、行ってからのおっ楽しみー♪」

「…へいへい」

 

そういうと、俺と雪ノ下は立ち上がってお会計へと向かった。

 

 

二階にある映画館までもちろん横並びで歩いていた。

俺は先に行こうとしたんだがまたしても腕をガッチリとね…。

俺はその最中にちらりと横を歩いている雪ノ下を見た。

…横目だけども。

朝とかは余りにも大変で説明できなかったが、雪ノ下の今日の格好はすごく清楚な感じだ。白のワンピースに明るい黄緑のカーディガン。すごく雪ノ下に似合っていた。

すると、俺の視線に雪ノ下が気づいて、

 

「なーに盗み見てるのかなー?キモイよっ♪」

 

キモイをそんなトーンで言われたのは初めてだわ。今までは声は低くテンションは最悪な感じでキモイとは言われてきたけども。…黒歴史思い出してしまった…。

 

 

――――――

 

 

ようやく映画館に到着したのはいいが、時間がお昼なのにもかかわらず、客、特にカップルが多かった。俺はそれを見た瞬間回れ右をして引き返そうとしたが、またしてもありえない速さで腕をガッチリとホールドされた。

 

上映時間が迫っていたのでいそいで列にならぶが、その列がカップルで溢れてる溢れてる。それもそのはず、今から見る映画というのは少女マンガが原作の恋愛物。

なのでカップルとかで見に来る奴らが多いのも納得ができる。

しかしぼっちな俺はそんなものに今まで縁も無かったし、見ようともしなかったので今の気分は未知の領域に踏み込んでいるような感じがしている。すごいそわそわする。

 

「ねえねえ比企谷くん、今の気分は??」

 

からかうような感じで聞いてきた。それもキョドっている俺を見てニヤニヤしながら。

 

「最悪だよ、なんでこんな映画見なきゃいけないんだ」

「もう来ちゃったんだからおそいよー。…あ、進み出した。ほらほらいくぞー!」

 

そういいながら雪ノ下は腕を組んできた。それも今までのようにガッチリホールドではなく、恋人がするようなやさしい感じのやつで。

そして、再びキョドっている俺を見て雪ノ下はニヤニヤ笑っていた。

 

 

――――――

 

 

「えーと、この辺の席かなー」

 

俺達の席は、前から見ても後ろから見てもど真ん中の席だった。

 

――――――俺陽――――――

 

横並びだけ図で説明。

 

「事前にとっておいてよかったー。最高のポジションねー♪」

「なあ、かえりたいんだ―――」

「さぁ、気合を入れて映画をみよう!」

 

無視ですか… でもヤバイってここの席は。めっちゃ目立つし、ボッチにとっては公開処刑みたいなものだって…

俺たちが座ってから5分後くらいに映画が始まった。といっても最初の方は劇場内の注意事項とか、ほかの映画の宣伝とかだけど。

あれ長いよなー。本編始まるまで10分くらい余裕でとるよな。測ったことないから正式にはわかんないけど。

と、ようやく本編が始まった。

 

 

――――――

 

 

「おい、まてよ!」

「なによ?あんたなんで――――――」

 

……。正直きついなー。俺はあんまりこの手の映画を見ないので正直つらい。というかこんなのありえねーだろ。現実的じゃない。なんだよ、むっちゃこいつら青春してるし、運がいいし、ラッキーだし、イケメンだし…

おおっといけねいけね愚痴が。と、となりをちらりとみると…

 

「スー…」

 

…なんで寝てんだよ。お前が誘ってきたんだろうが。

しかもめっちゃ気持ちよさそうに寝てるし。

…てか、こうやってみると雪ノ下はやっぱり美人だな。きっと今までこの容姿とあの表の性格で世の男や、人々をトリコにしてきたんだろうなー。いや、トリコというか支配かな?

セミロングの髪の毛は良い匂いを発していて…ていかん!変態になっていた!

と、気づけば雪ノ下は起きていた。

……えーと、やばくない?

雪ノ下はジト目をしていた。

 

「比企谷くん、なーにこっちをジロジロみてるのかな?」

「え、えーと…」

「しかも髪の毛の匂いかごうとしていたよね?」

 

そこまでばれてたのかー。やばいってこのままだとまた俺の黒歴史に一つ追加されちゃうよぉー…

 

「何かいい訳は?」

「…ありません」

 

雪ノ下は一転ニコッと笑っていってきた。俺はその笑みを見た瞬間に寒気がしてきて怖かったので正直に言った。笑顔って時として凶器になるよな。

 

「うむ、正直はよろしい。てかさ、比企谷くん」

「ん?」

 

そういうと、雪ノ下はニヤニヤしながら、

 

「私の顔ずっとみてたけど、どんなこと考えてたのかな??」

「え??な、なにいってんだ?」

「私わかってるよー、比企谷くんの視線ずっと感じてたんだもん」

 

わりかし最初の方から起きとったんかい。あーまた黒歴史が増えていく…

 

「ねえねえー、黙ってないでほら、いっていって!」

「え、あ、えーと」

 

雪ノ下は急かしてくる。好奇心旺盛な感じの笑顔でいってくる。

 

「…その、か、かわいいって、…お、おもってた…」

 

…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!と心の中で叫んだ。…死にたい!なんて恥ずかしいことなんだ。また黒歴史いきやぁーー!

またニヤニヤと笑顔を浮かべているだろうと、ちらりと雪ノ下を見ると、暗くて良く見えないが、少し顔が赤くなっている…気がした。

 

「え?そ、そう?…ふ、ふーん…」

 

え?なんかちがうくね?この感じは…

 

「あ、比企谷くんまたキョドってるー!ほんとに見てて面白いなー」

 

すると表情をくるりと変えてそう言ってきた。すぐ表情とか変えれるよなー。

はっ!そこで俺は気づく。こんなやりとりど真ん中でしてたらめっちゃ目立つじゃん!

と思って周りを振り返ったら、俺らのことなんか気にしていなかった。

それどころかイチャイチャしたりしているカップルがたくさんいた。…みんな何してんだよ。

 

すると映画がいつの間にエンディングに達していた。席をチラチラ立つ人々が増えていた。俺たちも席を立って退出することにした。

 

 

――――――

 

 

映画館を出た俺たちは外のベンチで少しゆっくりしていた。…疲れた。正直な感想。映画かんであんな恥ずかしいことになるなんて…。

 

「いやー楽しかったねー!満足満足」

「疲れた」

「そんなおじさんみたいなこと言わないのー!」

 

チラリと時計をみると3時を回っていた。

すると雪の下も時計を見ながら

 

「あ、そろそろ別の予定の時間だ。じゃ、ひきがやくん、この辺でお開きしよっか」

「わかった」

 

そういうと雪ノ下は立ち去っていこうとする。と、俺はここでふと思い出したことがあった。

 

「おい雪の下!」

「なーに?」

 

雪ノ下は振り返った。その顔はいつもの仮面をかぶったものではなかった。

 

「その、あ、ありがとな。勉強教えてもらって。おかげでテスト助かったわ」

「ん?いやいや全然きにしてないよ。比企谷くんも飲み込み早かったから私も楽しかったし!じゃ、また来週ね比企谷くん」

「おう」

 

いつものように笑いながら言っていたが、その笑顔は今まで見たことない、すこし暖かい笑顔のような…気がした。

 

俺はなんだかよくわからないけど、心の中で雪ノ下陽乃という存在が徐々に大きくなっていっているような…気がしていた。

 

 

続く

 

 




日本語力ないなー自分…
自分的には甘くしたのですが皆様はどうだったでしょうか?
それと映画の席のところで説明不足かもしれません。すみません。

さて一週間が終わりましたね。休日だー!

次回投稿は日曜日の17時投稿します。
感想等お待ちしております。


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それでも日常は流れていく。

季節は梅雨に入り、毎日グズついた天気が続いていく。

今日も朝からザアザアと雨が降っている。おかげで昼休みいつもの俺のベストプレイスで飯が食えないじゃないか。ちなみにベストプレイスというのは俺が昼飯をいつも食べている場所で、海風の当たる心地よいスポットなのである。ボッチともなるとそういう場所を見つけるプロになるのだー!

…ただ単に教室にいると非っ常ーに居心地が悪いだけなのだが。

しかし今日は雨なので外にはいけないため仕方なく教室で飯を食べることに。…ごめんね、いつも俺の席に(勝手に)座ってる奴ら…

 

さて飯を食べようとしていると、教室内がざわつき出した。俺も何事かと顔を上げると、

 

……目の前に完璧なスマイルで立っている雪ノ下が居た。

 

「…あの、何をしにいらっしゃったんですか?」

「なにってただ、君とお昼を食べに来ただけだよー」

 

雪ノ下はわざとらしくやや大きな声で言った。…おいおい、やばいってそんなこといっちゃ。ほらもうコソコソ話してる奴らいるじゃん。俺ら目立ってるじゃん。

てか、絶対それが目的だろ。おれがキョドってるのを楽しむだけだろ…。ちくしょう、絶対キョドらねーぞ…

 

…ねえなんで陽乃さまがここに??ねえ、あの陽乃さまの目の前の男だれかしら??なんだあいつ、雪ノ下さんに近づきやがって…

 

めっちゃ気になるんですけど。コソコソ言ってんの筒抜けなんですけど。ボッチの習性には人のコソコソ声に敏感に反応するというのがあって、それで自分のことを言われているのかというのをしっかり聞き分けることが出来るという便利な習性だ。すごいでしょボッチって。みんなもぼっちになったら便利な習性もついてきて、自由な時間もあってお得だよ!

ただ、この場合は俺のことを言われているので逆効果しかなかった…ふぇぇー周りが怖いよぉー。

これはあれだな、吸血鬼が太陽の光をあびたら悶えるような感覚だな。つまりボッチは吸血鬼と同じような習性を持っているということだ。どこかの民話か伝説に新たに載るぞこれ。

 

そこで俺は雪ノ下に提案をしてみる。周りの目を気にしないように…

 

「なあ、と、とりあえずこの教室から出よう。ここにいたら俺の精神g――――――」

「却下」

 

即答かよ。やめてくれよそれだけは。突然光当てられて体はフラフラなのに…。もうクラス中を敵に回したぞ俺は。ボッチは敵を作らないことがメリットだったりするのに…。

雪ノ下はそんな目線なんか気にせずに弁当を取り出して俺の机に置く。それだけでもう周りがどよめく。

 

「うーん、美味しい♪」

 

美味しそうに弁当をほおばる雪ノ下。いいですねあなたは気楽で。こちらはクラス中の目線を一心に集めてるので飯なんか喉を通った物じゃないよ…

 

「比企谷くんのは美味しい?」

「あ、ああ、うん」

 

正直味どころではないのだ。人の目が多過ぎて全く味わえない。

 

「みんなわたし達のこと見てるねー。これもある意味新鮮かもー♪」

「俺は新鮮すぎて逆に怖くてさっさと教室から出たいんだけどな」

「だめだよ、出ようとしたら…わかるよね?(ニコッ)」

「わ、わなった」

 

笑顔が怖いって。なんでそんな凍えるような笑顔ができるの?おかげでちょっと噛んじゃったじゃん…

すると雪ノ下はふたたびニヤリとわらって

 

「なかなか面白いよねー、こういう中食べるのも」

「さっきもいったけど、俺は早く立ち去りたいんだが…」

「…よし、きめた!比企谷くん、明日からお昼は私と食べること、いいね?」

「はあ、少しは人の話をきいて……え?ちょ、今何言って…」

「これからはお昼も私と食べること。だって、そっちの方がおもしろそうなんだもん♪」

「おもしろそうってな…」

 

雪ノ下は無邪気にそんなことを平然と言えるが、俺的にはやばい。今日だけでもこんなに注目されてるのにそれが毎日となると俺は持たんぞ、主に心が。

すると、突然俺たちの前に三人ほどの女子生徒が現れた。その三人はおれに敵意丸出しの目を向けながら、

 

「陽乃さま、これはどういうことですか?」

「なぜこのような見知らぬ男とお昼を?」

「…消えろ消えろ消えろ…」

三人はそれぞれ非難の声を上げる。というか最後最後!発言がおかしいだろ。一人だけ発言の質がちがうだろ…

 

「なにって、この子とお昼を食べてるだけだけど?」

 

ケロッとした表情で言う雪ノ下。…いや、そんなこといったら更にこの人達の表情が…。ふえぇーこわいよぉー…三人ともそんなに睨まないでぇー…

 

「それから、これからはこの子とお昼を食べることにするから」

「「「っ!?」」」

 

おいおいそんなこと言わなくても…三人が固まってるじゃねーか。しかもプルプル震えてるし…

 

「っっ!てことは…もうわたし達とお昼は食べないと…?」

「そ、そんな、陽乃さま…」

「横の男消えろ、失せろ、この世から消え去れ」

 

おいおい、泣いちゃってるじゃねーか。どんだけ雪ノ下に執着してんだよ。てか最後の奴やばいだろ。こえーよ、俺の命の危機だよ!最後のやつなんかすでに涙をながしているどころか、目が俺と同じかそれ以上に死んでるし…

 

すると雪ノ下はその三人に向かってとびきり完璧な笑顔をむけて、

 

「大丈夫よ、あなた達とお昼は食べないけど付き合いが消えるわけじゃないわ。だから安心しなさい…」

 

俺からみたら仮面を完璧に被っている笑顔を見た彼女達は、まるで女神にあったかのように表情をガラリと変えて、

 

「は、陽乃さま…」

「陽乃さま、私感動していますっ!」

「女神さま…」

 

よかった、最後の奴も落ち着いたみたいだ。これで俺の命の危機は脱したな。

その三人は俺たちの前から立ち去っていった。俺はホッと一息…じゃない、なんでホッとしてんだ!まだクラスの奴らがいるじゃねーか。あいつらが濃すぎですっかり忘れてたわ。

チラリと周りを見ると、こっちを見ている奴らはいるが、数がだいぶ減っていた。というか人の数が減っていた。きっとさっきのやりとりのせいだろう。

 

キーンコーンカーンコーン

 

いつの間にか昼休みの終わりのチャイムが鳴り響いた。

こんなに時間が早く立ったのは初めてだ。

 

「じゃ、比企谷くん、また放課後ねー♪」

「お、おう」

 

ようやく立ち去って行った。というかこれからお昼はあいつと食うのか…。放課後も合わせて半分はあいつと過ごすことになるのか…

 

 

 

――――――

 

 

 

放課後、俺はいつものように特別棟空き教室にいた。あれから俺は毎日のように通っている。まぁ、相変わらずよく平塚先生に雑用やらなんやらを押し付けられるんだが。

それと、雪ノ下と平塚先生は仲がいいのかよく二人で他愛もない話をしている。いつもこういう感じだ。

俺のいる意味ってなんなんですかね?これはあれだな、友達と思ってたやつと二人で話してて、その後にそいつの友達が何人かやってきてそいつらが話しているところに首を突っ込もうとしたら「え?何お前まだいたの?」

て言われるレベルだな。ソースは俺。

最近俺はこういうことが多い。もちろん雪ノ下が話し掛けてきたら話すが、自分からは行かない。しかしなぜだか逃げようとすると引き止められる。俺には理由がわからない。

 

すると雪ノ下は席から立ち上がった。どうやら教室に忘れ物をしたようで、この部屋から出ていった。

すると、平塚先生は俺の元にきて、

 

「どうだね?雪ノ下は」

「さあ。ただ仮面をかぶってるということはわかります」

「ほほぉ、そこに気づくことができるのは凄いことだ。あいつの仮面は完璧だからな」

「そうっすね」

 

と、平塚先生はくすりと笑うと、

 

「しかし、最近は仮面が少し剥がれた雪ノ下を見ることがあるんだよ。本人は気づいてないのだがね」

「へえー、そうなんですか」

「気づいていないのかね?君は」

「なんのことですか?」

「…あいつは君といるときによく仮面が剥がれかけているんだよ。気づけなかったかね?」

 

平塚先生は少し神妙な顔になって俺に話しかけてきた。

 

「俺といるときに?いや、あいついっつも俺の事からかったりして遊んでますけど?しかもとびきり完璧な笑顔とか見せますし、あれは仮面をかぶっているのではないですか?」

「いや、君と話しているときや君といる時、ほんとに一瞬だが仮面が剥がれている時があるのだよ。おそらく本人も無自覚だ」

 

…そう言われたら少し心当たりがあった。映画館の時、俺はあいつの素の表情を見た気がする…。

平塚先生は少しニコッと笑って、

 

「やはり君にあいつを預けて正解だ」

「いや、最初言ってたことと逆ですよ?」

「ハッハッハ、君は記憶力がいいのだな」

「嫌なことはずっと覚えているので」

「うむ、やはり君は面白いな。…君のような存在がいてよかったよ…。おかげで雪ノ下がいい方向に向かっている」

 

平塚先生は暖かい笑顔を俺に向けてきた。俺は気恥ずかしくなって顔を背けた。

 

「おっと、いかんいかん、このあと仕事があったんだった。じゃ、私は失礼するよ」

 

というと教室から出ていった。

…雪ノ下の仮面が剥がれている時があるか…。

人には誰しも仮面がある。どんなやつでも仮面を被って、自分を偽って生きている。リア充なんてのはきっとそうなのだろう。自分を偽って、表面だけの付き合いで毎日笑いあっている。しかしそれは正しいのだろうか。俺はリア充になったこともなる予定もないからわからないから考える必要もないのだが。

 

そんなことを思っていたら、雪ノ下が帰ってきた。

 

「あれー?静ちゃんは?」

「平塚先生なら仕事があるとかで出ていったぞ」

「そっかー」

 

と、雪ノ下は俺の前に座ると、

 

「ねえねえ比企谷くん、今日のお昼楽しかった?」

 

ニコニコしながら聞いてきた。お前わざと言ってるだろ…

 

「楽しくねーよ。なんであんな公開処刑みたいなことされなきゃいけねーんだ」

「そうかなー?私は面白かったけどなー」

 

こいつはホントにそういうの好むよな…

俺をいじめるのそんなに楽しいの?ボッチだからっていじめていいってわけじゃないからね?

それから、俺は昼休みからきになっていたことを聞いてみた。

 

「なあそういえばさ、昼休みにいたあの三人組はなんなんだ?」

「あーあの子達ね、あの子達は私と今までお昼を食べていたグループの中の下級生の子達よー」

 

一体どれだけ大きなグループなんですかね。しかも同級生のみならず、下級生まで掌握しているの?あれなの?雪ノ下陽乃教でも開くつもり?

 

「でもいいのか?その子達と食べなくても」

「あーいいのいいの、あの子達は気にしないで。それよりも私は比企谷くんとお昼を食べたいだけだから」

 

雪ノ下は笑顔もなく淡々と言った。なんというか残酷な感じというと悪い言い方になるが。…もしかしたらこれが平塚先生の言ってたことなのか?

 

と、雪ノ下は表情をガラリと変えてニッコリしながら、

 

「ねえねえ、そんなことよりさー――――――」

 

このまま完全下校のチャイムがなるまで俺と雪ノ下はおもに雪ノ下が喋っていく。

こんな日常が毎日続いていた。

 

 

 

続く

 




今回は日常風景を書いて見ました。
時期的には一応6月中旬あたりになりますね。


それから感想や評価の方ありがとうございます。今後共よろしくおねがいします。
次回投稿時間は6月16日の17時です。
明日からまた一週間が始まりますね。がんばりましょう!


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夏休みは長いようで短い。

夏休み前編スタートです。


夏休み、リア充どもは暑さなんかお構いなしに海に行ったりプールに行ったりして遊び、そのほかの奴らは細々と暑さに耐えながら家にこもったり塾に行ったりする。夏休みというのは自分の現在の立場がはっきりとする時である。

もちろんボッチでカーストでも最下層にいる俺は、家のリビングでクーラーに当たりながらソファーでダラダラとしていた。もちろん三年生なので受験勉強も忘れていないが。一方の小町は献身的に掃除機を掛けていた。

 

「おーいお兄ちゃん、そこ邪魔だよどいて」

「…」

「…聞こえてる?ごみいちゃん、一緒に吸い込むよ」

「…」

「…ほんとに吸い込むよ?」

 

そういうと俺の上に掃除機のヘッドを載せてきた、スイッチはオンで。当然俺の服は掃除機の吸引力によって引っ張られる。

 

「すいません。いまどきます」

「うむ、よろしい。そういう素直なお兄ちゃん大好きだよ☆ あ、今の小町的にポイント高い♪」

 

最後のはいらねーだろ。ま、ちょうど良かった。このタイミングで勉強を始めよう。いや、このタイミングしかない。もし今逃せば俺は今日一日中ソファーでゴロゴロするところだった。小町に感謝。

 

ということで勉強をはじめる。今日は理数系をやろうと思う。…理数て雪ノ下から教えてもらったんだよな。実はあれから一週間に一回くらい理数系の勉強を教えてもらっていた。雪ノ下は教え方が上手くて俺でもこうして自主勉強できるレベルに達している。

そういえば夏休みになってからは雪ノ下と会っていないな。まあ電話番号とかも知らないし、雪ノ下と会うということは俺の貴重な夏休みが短くなるということで…

と、突然ティンコロティンコロと携帯の着信音がなる。

…え?俺の携帯に着信?ありえねーだろ。俺の連絡先を教えた奴なんて小町とかだけだし。…まさか詐欺とか?俺そんないかがわしいサイトとか見たことねーぞ…

着信画面を見てみると、見知らぬ番号からだった。…あ、これ確定ですわ。

俺は無視をすることに決めた。

 

…ティンコロティンコロ…

…ティンコロティンコロ…

…ティンコロティンコロ…

 

あれから10分たったが、何回か中断をはさんで何度も掛かってきた。さすがに俺もしびれを切らして電話に出ることにした。

 

「…もしもし」

「…あ、比企谷くーん、やっとでたー。もぉーどれだけ待たせるのー??」

「…どちら様ですか?」

「えーひどーいー」

 

正直分かりたくない。てかなんで電話番号知ってんだよ。俺教えたことねーぞ??

 

「てかなんで俺の電話番号しってんだ?雪ノ下」

「それは、ひ・み・つ♪」

「…」

「あーなんでそんな反応するかなー??」

「…きるぞ?」

「あー、そんなことしていいんだー… どうなっても知らないよー?」

「なんだってんだよ?」

 

なぜだか含みのあることを言ってきた。コイツの場合なにをしてくるかわからないので一応聞いてみた。

 

「んーまあそれはあとでわかるよー」

「は?」

「それよりも比企谷くん、今から出てきてくれない?」

「は?いやだ」

「そういうと思ったよー。でも、絶対に出てこないといけなくなるからねー♪」

 

え?どゆこと?なんだ最後のセリフ、すごい気になるんだけど…

 

「それじゃ、またあとでねー比企谷くん♪」

 

プープープー

電話が切れた音が鳴る。…なんなんだ?絶対に出てこないといけない?どゆことだ?

とりあえず、俺はこの出来事でやる気を完璧に失ったのでリビングに降りていった。

 

リビングに降りると小町が誰かと電話をしていた。こんな時間に誰が電話してくるんだ?

小町は誰かとの電話がおわるとこっちの方を向いて、

 

「ねえ、お兄ちゃん、今日何があるか知ってる?」

「は?…なんもねーだろ」

「はぁーなにもしらないんだね… 今日はなななんと!お祭りがあるのでーす!」

 

パチパチと拍手している小町。

 

「てことで、お兄ちゃん、いくよ!」

「は?やだよ、なんで祭りいかねーといけねーんだ?」

「…だめ?」

 

やめてーその上目遣い。かわいいから、断れなくなるからー!

 

「…わかった、いってやるよ」

「わーい、お兄ちゃん大好きっ!あ、今の小町的にポイント高いっ!」

 

最後のがなければいいんだけどな…

だけどこんな可愛い妹がオネダリしているんだ。お兄ちゃんとして行かないといけねーだろ!

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

…結論から言おう。祭りは存在した。それもかなり大きな祭りが。そして今俺は小町と祭りに来ている。小町は浴衣を着てきた。…正直かわいい。水玉が入った浴衣は小町にとてもにあっていた。そして会場に着くと小町が、こっちに来てと誘導してきた。俺はその誘導についていくと、

 

「ひゃっはろー比企谷くんー!」

「元気か?比企谷」

 

 

小町が俺を連れてきた場所には浴衣を着た二人の女性がいた。一人は雪ノ下陽乃、もう一人は平塚先生。

 

「あの、なんでお二人ともいらっしゃるんですか?」

 

…なんで?なんでいるんだ?俺は小町に誘われて祭りに来たはずだぞ?俺は小町のために、小町と回るために祭りに来たはずなのに、なんでこの二人がいるんだ?

 

「私達も祭りを楽しみに来たんだよー♪」

 

雪ノ下はいつもどおり笑顔を浮かべてそう言ってくる。俺にはその笑顔の裏にとんでもない黒いものが見えてる気がするんですが?気のせいですか?いや、気のせいじゃない。

とゆうかなぜ小町はここに誘導…はっ、まさか…

 

「おい小町、まさかお前…」

「えっへへへー」

「あまりにも比企谷くんがノリが悪いから妹ちゃんに頼んで連れてきてもらったんだー」

「いや、問題はそこじゃなくて、なんで小町の電話番号を知ってるかだろ。お前と小町に接点なんて…」

 

そうだ。なんでこいつは小町のことを知っているんだ。そこが最大の問題点だ。

 

「あのね、実はこの前総武高校のオープンスクールに行った時に知り合ってね、それで雪ノ下先輩が私のところに来てお話しようっていってきてそれからお知り合いになっちゃってー」

 

うそだろ、小町までお前は手を出すのかよ…

俺の心のよりどころまで蝕んでくるなんて… 一体何考えてるんだ雪ノ下は?

 

「ね?電話でいってた大変な事になるって意味がわかった?」

「十分にな」

「これにこりたらこれから電話がかかってきたら…わかってるよね?」

 

どこのヤンキーだよ。なに?俺パしらされたりするの?ボッチだけじゃなくてパシリにもなっちゃうの?

 

「とにかく、こんなところで立ち話もなんだ、祭りを楽しみにいこうではないか」

 

平塚先生が切り出してきた。というかなんで先生がここにいるんですかね?

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

流石に大きな祭りだけあって人でごった返していた。

 

「人多いねー」

「そうだな、そこら中にはカップルもイチャコライチャコラ…」

 

ちょっと平塚先生?なんだか心の声が漏れてますよ?

そういえば平塚先生はまだ独身だと言ってたな。それで一回大泣きしてたなー… 美人でスタイルもいいのにアラサーになって独身とか…へブッ!

 

「…おい比企谷、なにか失礼なことを考えていなかったか?」

「い、いえなにも…」

 

平塚先生に腹パンされた… てか心の中読取るとかサイコメトラーかよ。

 

「う、うわー、人多いねー、何も楽しめないよー」

「そうだな、なんでここに来たんだろうか…」

 

小町は残念そうにしていたが俺はもっと残念だ。妹が行きたいからと祭りに来たらこの二人までいて、しかも俺の小町に対する愛情まで利用されて… お兄ちゃんの心はボロボロだよ。

 

と、一際大きな人波がおきた。…やばいやばい、もみくちゃにされる。俺はなんとか安全なところにいたのだが、残りの三人は揉まれてしまっていた。あ、そうだ小町、小町だけでも助けねーと。

と、横にいた小町の手を見つけた。姿までは見え無かったが、よかったまだ何とか助けられる。

とおもって手を引っ張ると、

 

「いたたー。たすかったー。あれ?比企谷くん、どうしたの?」

 

雪ノ下の手だった。…あれー?小町の手だった筈なんだけどなー?横にいたのも小町だったし雪ノ下は前を歩いていたはずだったんだけどなー??

と、メールが入る。差出人は小町だった。

 

「「お兄ちゃん大丈夫ー?小町は大丈夫だよー!とにかくはぐれちゃったから仕方ないから別行動になるねー!お兄ちゃん一人でしばらく頑張ってー!」」

 

…小町の安否は確認できた。すると雪ノ下が、

 

「あちゃーはぐれちゃったねー。静ちゃんも無事みたいだし、小町ちゃんは?」

「小町も無事みたいだ」

「そっかー。…仕方ないね、私達で回ろっか!」

「…あ、ああ」

 

ということで、俺たち2人で祭りを回ることになった。

…小町、早く戻ってきてくれ…

 

 

 

続く

 

 

 

 

 




さて、夏休みに入りました。次回はこの続きになります。
ところでちゃんと伝わっているでしょうか?日本語力がないので伝わっていないところがあるかもしれません。
これから頑張っていきます!
すみません浴衣の描写を忘れてましたね。すみません。くわしい描写は次回期待してください!



次回投稿は6月18日の17時です。
評価や感想の方もどんどんください!
これからもよろしくおねがいします。


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高い所から見る花火はとても綺麗。

俺は小町と祭りに来たはずだったのだが、その小町が雪ノ下陽乃とつながっていて、そのおかげで雪ノ下と平塚先生も加えて祭りを回ることになった。

祭りはとても人が多くて楽しめるようなものではなかったが、その途中後ろから人波が起きてしまった。

その後いろいろな経緯を経て現在に至る。

 

「さ、屋台をまわっていこうかー」

「…おう」

 

雪ノ下と二人きりになってしまった。まあ、小町や平塚先生は無事みたいだし、その二人が見つかればいいのだが…

 

しかしそう上手くはいかなかった。祭りは人だらけで、探そうにしても誰が誰だかもわからないし、会場が広いので探そうにしてもなかなか上手く探せない。

 

「こりゃ、あの二人を探すのはむずかしいな」

「うん、そうだねー」

 

あの二人(特に小町)が心配だ。平塚先生は大人だから大丈夫だとしても小町はまだ中学生だ。流石に心配になる。ということで、小町にどこにいるのかとメールを送ると、

 

「「小町は先に帰るねー。いまモノレールだから。じゃお兄ちゃん、後はがんばってね☆」」

 

あいつ帰りやがった。…ま、そっちの方が人も少ないし、安全でいっか。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

雪ノ下はどこに行っても注目される。ここでもそうだった。

紫色の浴衣に水仙の模様が入った浴衣はどこか大人の色香を醸し抱いていた。

 

「ねえねえ、あそこのたこ焼き食べたーい!」

 

そんなこというもんだから、周りの目は俺を睨む目に変わる。…ボッチはつらいよ…

 

俺らは雪ノ下のリクエスト通りたこ焼きを買うために屋台に並んだが、既に結構並んでいて買えるまでに時間がかかりそうだった。

 

「結構並んでるねー…」

「ああ、しばらくかかりそうだな」

 

たこ焼きはソース掛けたりかつお節掛けたりするから前には進んでいるがスピードは遅かった。

結局俺たちは並び始めてから10分後に買うことができた。

俺はちらりと時計を見ると時刻は20時20分だった。ここに来たのが18時位だから軽く2時間は回っていた。

 

「もうすぐ8時半だな」

「え?もう?花火始まっちゃうじゃんー」

 

たしか小町が言ってたが花火の時間が20時45分だったからあと15分か。

 

「なあ、花火見ないで帰りたいんだけど」

「え?なんでー?」

「いやだって、花火まで見たら帰りのモノレールが混雑するだろ?それがいやなんだよ」

「…花火見るよ」

「いや、俺の言ったこ――――――」

 

言い切る前に雪ノ下は強引に俺の腕を引いて歩き出した。…おいちょっと、二つの柔らかいものが当たってますよ…

 

「おいどこ行くんだ??」

「ひ・み・つ♪」

 

なにちょっと小悪魔っぽい笑顔って見せてくるんだよ。ほんといろんな表情もってるなー…

 

 

 

 

――――――

 

 

 

「さ、ここでみよう!」

「え、ここ入っていいのか?」

 

連れてこられたのは、関係者以外立ち入り禁止と書かれた高層ビルのだった。その入口の所にたっていた警備員のごついおじさんからこちらを睨まれたが、雪ノ下がそのおじさんと少し話すと、今までの強面から一転ニッコリとした表情で俺たちを通してくれた。…雪ノ下って何者だよ。

俺たちはビルの屋上へとむかった。

 

「なあさっき通してくれたけど、お前ってなにかの関係者なのか?」

「まあ、ちょっとねー。それよりも、ここ良くない?すごい見晴らしいいよ!」

「あ、ああ、すごいなここ…」

 

一転景色を見るとそれはすごいものだった。ビルの屋上にあるせいか周りに障害物はなく、夜景も綺麗だった。

そしてちょうどいいタイミングで花火が打ち上がり始めた。

 

高いところから見る花火はとても綺麗だった。今まで地上から見ていたが、ビルの屋上、正確には50階から見る景色は凄かった。

 

…ふいに、ちらりと横の雪ノ下を見ると、花火の光と雪ノ下のシルエットが見事にマッチしてすごく美しい雰囲気を醸し出していた。花火が光る度に雪ノ下の表情が見えるが、その表情はなんだか切ないものだった。

 

と、雪ノ下がこっちを見る。俺と目が合う。

俺はなんだかドキドキしている。決して階段を上った時のドキドキではないことは分かっていた。

しかし、花火が光る度に見える雪ノ下の顔を見ているとすごくドキドキしてしまった…

 

「…なんでこっちを見ているの?」

「あ、え、えーと、た、たまたまだよ」

「ふふふ、キョドってるよー?」

 

その時の雪ノ下の表情は暗くて良く見えないが、花火が光る度に見える僅かな表情はいつものからかうような完璧な笑顔ではなく、やさしい微笑みだった。

 

「…お前、そんな顔できるんだな」

「…え?そう?どんな顔してた?」

「なんかこう、いつもと違う笑顔だったぞ」

 

はっ!ここで俺は我に帰った。何恥ずかしいセリフ言ってるんだよ。

 

「…そうか、いつもと違うか…そうか、そうなんだね…」

 

雪ノ下の表情は暗くて見えなかったが、声色にいつもの勢いはなかった。

 

その後はなんだか気まずくなって話すことはなかった。

そして花火が終わった。時計を見たら9時だった。三十分しかたってないのに1時間くらいたっている気分だった。

 

そして、俺たちは無言のままエレベーターで一階まで降りていった。

 

一階まで降りたら雪ノ下がこっちを振り返って、いつもの完璧な笑顔を見せて

 

「今日は楽しかったねー!花火も綺麗だったし」

「お、おうそうだな」

「…じゃ、また二学期ね。夏休みのうちは私にも用事があるから電話とかかけないから安心しなさい。じゃ、またね比企谷くん!」

 

そういうと雪ノ下は帰っていった。

今日はなんだか変な気分だ。帰って寝よ…

 

 

 

続く

 

 

 




次回投稿は6月20日の17時です。
感想等ありがとうございます!
これからもがんばっていきます!


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こうして雪ノ下陽乃は比企谷八幡と出会う。

side陽乃

 

夏休みも終わりを迎える頃、私は実家にいた

毎年夏休みはこんなものだ。家の用事でほとんど実家にいる。

私の実家はかなり裕福だ。父は県議員と建設会社社長をしている。

そして母は、とても野心深い人だった。

 

「陽乃、準備は出来た?」

「うん」

 

私は今から父の関係者があつまるパーティーに出席することになっている。毎年こんな感じだ。今も父からお呼びがかかって、出ることになった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

パーティー会場にはいろいろな人達がいる。

県議から父の会社の取引先の人から沢山の人が。

私は小さい頃からこのような場所に連れていかれた。雪ノ下家長女としてこうして表舞台にたっていた私はいつの日か自分に嘘をつくようになった。

本当の自分なんてなんなのかを私は忘れてしまっていた。

だってこの会場にいる人たちはみんな表だけしか見ていない。そこにあるのは表では笑顔を見せていても、裏では様々な陰謀が渦巻いている場所だ。

そんな環境にいたら私もいつの間にかそうなっていたのだ。

私は私自身でも外すことのできない鉄壁の仮面をつけている。そして完璧な笑顔も自然と出るようにまでなっている。

 

と、父が壇上の上にたってしゃべり出した。

 

「みなさま、パーティーに起こしいただきありがとうございます。わたくし共は――――――」

 

父はしゃべり続ける。時折笑顔に、時折真剣な眼差しでしゃべり続けた。

そしてしゃべり終わったあとから私の役目がはじまる。

 

「娘の陽乃です。いつもパーティーにご出席いただきありがとうごさいます」

 

このようなことを今から軽く30回は言う。それが私の役目だ。今までもそうだったし、これからもそうなのだろう。

 

私はいつものように完璧な笑顔を見せて回っていく。

昔から大人達と接してきたのでもう慣れた。仮面もはげない。

 

学校生活でもそうだった。周りの生徒たちは私に近づいてくる。まあ私が醸し出しているカリスマ性によってきているのだが。

私は学校で友人は作るが、その友人たちは表だけの関係だ。私自身そう望んでいるし、彼らもそれで満足だろう。

彼らは私の本心に気づくことはない。表しか見ないのだから当然だ。

 

しかし、そんな中ある先生が私の裏に気づいた。その先生は私に裏があるということに気づいて、その裏を的確に理解している。

今まで私は先生たちにも表しか見られていなかったし見破れなかったと思う。

だけど、その先生、平塚静先生だけは私の裏を見破ることができた。

 

「雪ノ下、私はお前のことをわかっている」

 

なんともストレートな言葉だが、そのときの平塚先生の表情は真剣そのものだった。

私はその時平塚先生は私のことをわかってくれる数少ない人だと理解した。

それから私は、親しみを込めて静ちゃんと読んでいる。最初は嫌がっていたけれども、だんだんそれで通っていった。

それが私が高校二年生の時だった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

それから私と静ちゃんは放課後特別棟にある空き教室で放課後にお話をしていた。

といっても、静ちゃんにも仕事があるので週に一度ほどだが。

静ちゃんは私のことをしっかり見てくれる。だから私は静ちゃんのことを少しずつ信頼していった。

今ではたまに静ちゃんの好物のラーメンを食べたりすることもある。それだけの中だった。

 

そしてある日、私は静ちゃんに会いにいくために職員室に行った。

その時、ある男子生徒が静ちゃんと話していた。

私はそこに割り込むことにした。

 

「静ちゃーん、遊びに来たよー!」

「こら陽乃、いつもいってるが気軽に職員室に来るんじゃない」

「いいじゃなーい!暇なんだモーん!…あれ静ちゃん、そのこは?」

「彼は比企谷だ。お前と同じく3年生だぞ」

 

私はそんな子知らなかった。まあ、ついてくる取り巻き以外は私は知らないんだけどね。

 

私はその子を観察することにした。

…背はそこそこ高いね。顔は、いいほうだけど、その目は腐っているね。…うん、なかなかいいじゃない。

 

「私は雪ノ下陽乃!よろしくね!」

「は、はぁ 」

 

私は完璧な笑顔を浮かべて握手を求めた。

するとその生徒は握手には応じたけど、なんだか私を疑り深くみている。若干緊張しているような面持ちだったが、それでも私を疑っているようにみえた。

…へえ、私をそんなふうに見れるなんてなかなかやるじゃない。

私はからかうことにした。

 

「なーにガチガチになってんの!」

 

ふっふっふ、心の中で反撃だよ!

と、静ちゃんは私のことを彼に紹介していた。

と、そのあいだにふと目に入った作文をみた。

…へえ、なかなかやるじゃない

私はその驚異的な作文をみてこの子を気に入った。

 

「君面白いね、気に入っちゃった」

 

彼は逃げようとした。けど私は彼の、名前は比企谷だっけ?その子の腕を掴んだ。

 

「じゃ、比企谷くん、私とお話しよっか!」

 

私はこの子のことを知りたいと思って空き教室に連れていくことにした。

 

これが私と彼の出会いだった。

 

 

続く

 




今回は陽乃の過去編と八幡と陽乃の出会いの陽乃目線ということです。
中途半端なところで終わったので、次回は続きからになります。

次回投稿は6月22日の17時です。
感想評価等よろしくおねがいします。


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雪ノ下陽乃は期待に答えようとする。

前回の続きからスタートです。


side陽乃

 

 

私と比企谷くんは放課後毎日のように集まった。というか、私が比企谷くんを逃げさせないようにしたと言ってもいい。

私はよく比企谷くんをからかった。

 

「ねえー比企谷くん、今日一緒に帰らないー?」

 

ずいっと顔を近づける。その時の比企谷くんの反応がおもしろいのよ。

 

「は?なんでだよ。ひ、ひとりでかえれるだろ、んなもん」

 

必死に隠そうとしているが、焦りがモロ出てるよ比企谷くん。

 

でも、放課後あつまるといっても無言の時間が多い。だって毎日集まっているから話のネタも尽きてくる。ましてや比企谷くんはまったく話のネタを持っていない。

そのかわり捻くれだけは天下一品だった。

 

「ねえ、比企谷くんってかっこいいよね」

 

私の本気に見える言い方の冗談を言ってみた。大抵の人はなにか面白い反応をするんだが、

 

「えなに?なんの冗談だ?」

「ただ思ったまま言っただけだよー」

「あんまりそういうこと言うな。うっかり惚れそうになる」

「じゃ、メロメロにしてあげよっか!」

「…なに?ぼっちの心を弄んで後で笑いものにする気?」

 

私はこの時本気で笑ってしまった。どんな笑い方をしたかはわからないが、とにかく笑ってしまった。だって面白いんだもん。こんな反応した子を初めてみたから…

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

私が会場に戻るとパーティーは終わりかけていた。

私は少し休憩するために会場から出て部屋に戻って休憩していた。そのあいだにいろいろ回想していたら時間がたってしまった。

 

パーティーが終わったあとに私は父から呼び出された。

私が父から呼び出されるというのはよくあることだ。

 

ノックをして父の部屋に入ると、父は腕を組んで背を向けてたっていた。

 

「なんの用?お父さん」

「陽乃、二学期にはいると文化祭があるんだよな?」

「うん、それがなに?」

「文化祭の実行委員になって文化祭を成功させろ。お前の手でな」

「またお母さんの指示?」

「…そうだ」

 

大方そうだろうと思った。母はいつも自分の決めたことを従わせようとする人だ。そして今回の文化祭のこともそうだろう。

いつも私はその要求を受けてきた。その度に成果は上げてきた。

そのおかげもあって私は両親から期待されている。そして今回も。

 

「わかったわ。必ず成功させるわ」

「ああ、期待している」

「では、失礼します」

 

私は父の部屋から出ていった。

…期待ねぇ…

あんまりして欲しくないんだけどなー。結構期待される側も大変なのに…

あ、そうだ、いいこと思いついちゃった!

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

side八幡

 

1ヶ月近くある夏休みが終わり今日は始業式だ。

といっても早速授業が午後まであるのだが。

最初の日なんだから午前中だけで終われよー、と言う奴の声がチラチラと聞こえたが、俺は授業があっていいと思う。俺達は受験生なんだ。一日でも時間は無駄にしたくないしその分授業がすすんで自習の時間とかが後に増える。

 

時間はポンポン進んでいってあっというまに放課後に。

俺はいつもどおりに特別棟へ向かった。

 

ガラガラ

教室に入るとまだ誰も来ていなかった。これもいつもの光景だ。

俺は正直少し緊張していた。夏休み花火を一緒に見たとき、俺は雪ノ下に恥ずかしいことを言ってしまったから。

それから夏休み中たまにそのことを思い出してよく悶えた。黒歴史に一つ刻み込まれたよ。

そういうわけで俺は雪ノ下に何をされるかという恐怖と、なんだか恥ずかしい思いが共存した気分で座っていた。

すると俺がついてから五分後くらいたったころ、

 

ガラガラ

 

「ひゃっはろー!」

「…うっす」

 

雪ノ下が元気良く入ってきた。…全くいつもどおりだ。いや、まだ油断してはならない。これからなにかされるかもしれない。

すると、いつの間にか雪ノ下俺の席のところで立ち止まっていた。

…おいおい、まじで怖いことされたりするの?

すると、雪ノ下はいつもどおりの笑顔を浮かべて

 

「比企谷くん、君は文化祭実行委員会に入りなさい」

「…は?」

「だからー、文化祭実行委員会にクラス代表として参加しなさい、いいね?」

「いやいや、唐突過ぎて処理不可能なんだが?」

「いやだから、言った通りのことだよ?」

「いやいや、ボッチにとってはそういう目立つことはわざわざ自分から死にに行ってるのといっしょなんですけど?」

「大丈夫だって、私がいるから!てことで決定ね、比企谷くん」

「いや、勝手に決められても…」

 

そんなことを言ってると、平塚先生が教室に入ってきた。

 

「おい、お前たちなにを言い合っているんだ?ドアが空いてるから外まで聞こえてきたぞ」

「えーとね、比企谷くんを文実に入れようとしててねー」

「なるほどな…」

 

俺は目で先生に訴えた。入りたくないと。

 

「…おい比企谷、そんな腐った目でこっちをみるな。

ということで比企谷、その腐った目と根性を治すために文実にはいれ」

「…はい?」

「はい?じゃない。はいだろ?それに陽乃もいるのだろう?それに文実担当は私だ。心配することはない」

「あの、俺は入りたくないんですが…」

「てことでよろしくね、比企谷くん♪」

「いやだから、俺は――――――」

「私も最初からお前は入れるつもりだったからな。入らなくとも無理やり入れるまでだ」

「あの、俺の意志ってないんですかね?」

 

こうして俺は(無理やり)文実に入らされてしまった。

 

「大丈夫だ。文実といっても裏方の仕事が主だ。表舞台に出るのは文化祭実行委員長だけだ。安心しろ」

「はぁ…」

 

ま、それならよかった。裏方ならなんとかなりそうだからな。

すると雪ノ下は真面目な顔になって平塚先生に、

 

「実行委員長、私がやってもいいかな?」

「…まあ、無理なことはない。ただ、一度文実で集まった時に決めるからその時に改めて聞くからその時にしてくれないか」

「わかったわ」

 

…雪ノ下がいつもの笑顔ではなく、真面目な顔になってそんなことをいうとは。なんだ?それだけ実行委員長になりたいということか?そういうことはみんな避けたがることなのに。

俺には雪ノ下の考えてることが理解出来なかった。

 

 

 




さて11話ですね。
自分の日本語力が足りないのでわかりづらい描写があるかもしれません。
なんとか残り頑張って書き上げていきます!

次回投稿は6月24日の17時です。
感想等よろしくおねがいします。


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こうして文化祭は静かに始まる。

帰りのHRの時間にうちのクラスでは文化祭のことについて話し合っていた。

 

「では、文化祭の実行委員を最初に決めたい思います。男女一人づつなので、立候補する人は挙手をおねがいします」

 

前にたってクラス委員の男子生徒がそういうと、大抵は目を逸らしたりしていた。

その中で俺はゆっくりと手を挙げた。

…クラスの中が異様な雰囲気になる。なんであいつが?とかびっくりしたとか、あいつ誰だよ的なコソコソ声までバッチリ聞こえてきた。

 

「え、えーと…ひ、ひきたにくんでいいのかな?手を挙げたということは、そういうことでいいのかな?」

「ひきがやだけど、そういうことだ」

 

名前の読み間違えるなよ。ボッチにはよくあることだな。クラスで関わりを持たないから人々は名前を呼ぶことがない。よって名前を忘れて、もしくは名前を知らないことが多い。ウチのクラスの場合は後者が大多数みたいだけどな。

 

「えーと、男子は決まったので女子で誰かやってくれる人いませんか?」

 

女子はなかなか手が上がらない。まあ、男子が俺だからってのもあるだろう。ごめんね俺で。

 

「あの、誰もいないなら私やります」

 

そういって手を挙げたのは、クラスでも真面目なキャラで通っている黒縁メガネを掛けた地味な印象の女子生徒、名前は澤口?だったかな?

 

「あ、では女子の方は澤村さんということでいいですか?」

 

あ、澤村だったわ。前にたっている委員長がそういうとクラスの全員が頷いた。

 

「よーし、きまったな。じゃ、文実委員はこのあと放課後に早速会議室に行ってくれ。じゃ、おわるぞー」

 

先生がそういうと終礼がおわり解散となった。

俺はさっさと会議室に向かった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

会議室につくと、もうすでに何人かの生徒がいた。会議室の中は入口から見て逆のコの字型になっていた。俺は

その中でも一番端っこの席に座った。

するとその俺の横に澤村さんが座ってきた。

 

「あ、あの、比企谷君だよね?えーと、よろしくね」

「ああ、よろしく」

 

簡単な会話を済ませた俺たちにはしばらく無言が続く。すると、俺の目の前に、

 

「ひゃっはろー比企谷くん!ちゃーんと約束守ってくれたんだねー」

「まあ、あれだけ言われればな」

「えらいえらい。あ、静ちゃんきたよー」

 

そういうと雪ノ下は俺の隣に座ってきた。

そのタイミングで平塚先生がこの学校の生徒会長の城廻と一緒に会議室に入ってきた。

 

「お前らこれで全員かー?私が文実担当の平塚だ。よろしくなー」

 

凛々しい声で言う様はとてもかっこいいと思ってしまった。

 

「文化祭実行委員会をサポートする城廻です。よろしくおねがいします」

 

こちらはゆるふわな雰囲気を醸し出していた。この生徒会長はおそらく校内ゆるふわランキングで堂々の一位を取るほどのゆるふわ系女子城廻めぐり。俺たちと同じ3年生で、雪ノ下と並ぶ校内有名人である。

 

「早速だが、文化祭実行委員長を決めたいと思う。仕事内容としては会議で物事を決めたりする時に中心になってまとめたりすることだ。誰か立候補するやつはいないか?」

 

平塚先生はそういうとこっちの方を見てくる。正確には雪ノ下を見ているのだろうが。

と、雪ノ下が手を挙げて、

 

「私がやります」

 

雪ノ下が凛々しい声でそう言った。その声には迫力がこもっていた。

 

「実行委員長は雪ノ下てことで異論はないか?……ないな、では実行委員長は雪ノ下ということで決定だ。雪ノ下、前に出て来い」

 

雪ノ下は前に出てくると、

 

「文化祭実行委員長になりました雪ノ下陽乃です。皆さんよろしくお願いします」

 

というと、いつもの完璧な笑顔を浮かべた。

…パチパチパチと、どことなく拍手が起こった。カリスマ性のある人ってこの人の事なんだろうと思った。

 

「ということで雪ノ下、後はお前と委員達にに任せた。好きなように文化祭を作り上げるといい」

 

というと平塚先生は、机に座って事務作業らしきものを始めてしまった。

 

「えーでは、早速文化祭の取り組みについて決めたいと思うけど… ねえ生徒会長ちゃん、毎年スローガンとかから決めてるの?」

「うん、そのとおりだよ」

「じゃ、スローガンから決めて行こっか!なにか、いい案がある人いるかな?」

 

……誰も手を挙げない。

 

「うーん、さすがに挙手する人はいないかー。じゃ、私が考えたものを発表してもいいかな?」

 

そういうと皆が頷いた。

 

と、雪ノ下はホワイトボードに書き始めた。

 

「「総武と言えば、踊りと祭り!同じ阿保なら踊らにゃSing a song!!」」

 

…なんというか、すごいな。これを考えつくのはまたすごいな。

すると生徒会長が

 

「これでいいと思う人は拍手を〜」

 

というと、皆は拍手をした。

 

「では、これで決定です〜。では雪ノ下さん、次の議題

を」

「ありがとね、生徒会長ちゃん。じゃ、次は個々の役割を決めたいと思いまーす」

 

ということで、役割が振り分けられた。

ちなみに俺は澤村と一緒に記録雑務となった。俺にぴったりの仕事だ。

 

「比企谷君、よろしくね」

「おう」

 

この会話さっきもした気がしたんだが。

全員の役割が振り分けられたところで雪ノ下は時計を見ながら、

 

「じゃ、今日は時間もそろそろ来たしこれでお開きにしたいと思いますー。明日から頑張っていきましょう!では解散!」

 

と雪ノ下がいうと皆が会議室から出ていきだした。

俺もここから出ていこうとしたら、

 

「ちょっと比企谷くん、何帰ろうとしてるの?」

 

雪ノ下に呼び止められた。え?なに?まさかこの後特別棟にいけってことか?

 

「なんのようだ?俺は帰りたいんだけど?」

「もーいじわるー。わかってるくせに」

 

うりうりと肘で小突いてきた。…ちょっとはずかしいんですけど。横にいた城廻生徒会長とかぽかんとした顔で見てくるし。

 

「…今日も集まるのか?」

「そうよ…といいたいけど、集まれそうにないんだよねー。これから文実関係で忙しくなりそうだから」

「なるほどな。わかった、これから文実がある間は集まらないということで。じゃ」

 

今度こそ帰ろうとしたら、また腕を掴まれて引き止められた。

 

「…なんだ?」

「あのねー、比企谷くんに頼みがあるんだけど」

「頼み?ロクでもないたのみなら即断るけど」

「大丈夫、そんなんじゃないから。えーとね、君にはこの文実で私の補佐もやって欲しいの」

「…は?」

 

いやいや、もう俺には役職が与えられてるんですけど。

 

「その…だめかな?」

 

え?なんか雪ノ下がか弱い乙女風の雰囲気をだしてる。こいつこんな雰囲気だせるのか?いや、ちがう。きっといつもどおりの演技だ。並の男なら簡単に引っかかるくらいなクオリティーだが、鍛えられた俺は簡単には引っかからないぞ。

 

「そんな雰囲気出しても無駄だぞ」

「えー冷たーいー。やっぱり比企谷くんには通じないかー」

「だてにお前と絡んでねーよ」

「でも、やってもらいたいんだよ、…本気で」

 

雪ノ下はさっき委員長に立候補した時みたいな真面目な表情でそう言ってきた。

…さすがの俺でもそんな表情されたら、

 

「…本気だな?」

「うん」

「…わかった。さすがにそこまで言われたら断れねーよ」

「ありがとー!相変わらず素直じゃないけどねー」

「うっせ。とりあえず、俺は何をすればいいんだ?」

「明日から本格的にスタートだから、今日はかえっていいよー」

「わかった。じゃ」

「うん、また明日ね、比企谷くん」

 

ということで、俺は文化祭実行委員長補佐になった。

というか、雪ノ下はなぜあんなに文化祭に力を入れるのだろう。

そりゃ、みんな成功とかはさせたいというのはわかる。でも雪ノ下は事前に平塚先生に自ら立候補するほど力を入れていた。

俺はそこに引っ掛かりを覚えていた。

 

 

 

続く

 

 




さて12話ですね。
今回からは文化祭編になります。
日本語力不足により描写がわかりづらいところがあるかもしれません。
それから城廻めぐりが登場ですね。設定は変えてますが。

次回投稿は6月26日の17時です。
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文化祭の準備はこうして進んでいく。

委員長の雪ノ下を中心に文化祭の準備は順調に進んでいった。

俺も記録雑務としての仕事をしっかりこなしていた。

そして気づけば文化祭まで残り一週間となった。

 

「みんな、文化祭まであと一週間だよ!がんばっていこう!」

 

今日も雪ノ下の掛け声で文実が始まる。これは毎日の定番になっていた。

雪ノ下はその頭の良さと回転の速さを生かして的確な指示を与えていた。

その姿をみて他の者たちも頑張っていた。

クラスの手伝いに行くものは最初の方はいたが、だんだん少なくなっていって今では一人もいなかった。

 

カタカタカタカタ

 

「これもよろしく」

 

カタカタカタカタ

 

「これも」

 

カタカタカタカタ

 

「これよろしくね」

 

今日もこうして雑務をこなしていく。横にいる澤村さんも同じく雑務をせっせとこなしていた。

 

「今日なんだか多いねー」

「だな。一週間前だからみんなバタバタだからな。この一週間はこうだろうな」

 

雪ノ下を筆頭としてみんな忙しく動いている。そこには少し緊張が漂っていた。

 

と、雪ノ下が立ち上がって、

 

「みんな、ちょっと聞いてもらえるかな?みんなよく頑張ってくれてるし、このままだと絶対文化祭は成功するよ!だから残り一週間はクラスの出し物とかの方に行きたい人がいたら行ってもいいからねー。ここにいるみんなも楽しめる文化祭にしなくちゃね!さあ、がんばっていこう!」

 

しかし、みんなはびっくりするくらい作業に熱中していった。そこにはクラスの手伝いに行こうとするものはいなかった。

みんなはわかっていた。ここにいる中で一番頑張っているのは雪ノ下だと。

的確な指示を下しながら、自らも膨大な数の仕事をこなしていた。クラスの手伝いにもいかずに涼しい顔で仕事をこなしていた。

雪ノ下がしっかりとした雰囲気を出しているのでみんなはせっせと仕事ができている。だから今さらこの雰囲気を壊すようなことはしたくなかった。

みんなは雪ノ下を改めて尊敬するような雰囲気になっていた。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

完全下校チャイムがなる三十分前になった。

 

「よーし、今日はこれで終わりだね。比企谷くん、作業状況はどうなってる?」

「順調だ。このままのペースで行けば十分当日に間に合うだろう」

「わかった。なら明日は当日の個々の裏方の仕事分担を決めていきます。じゃ、明日も頑張ろう!」

 

その声を最後に解散となった。

俺は少し仕事が残っていたので、その仕事を終わらせてから帰ることにした。

解散後、教室に残っているのは俺と雪ノ下のみとなった。

ちらりと雪ノ下のほうを見ると、ずっとパソコンの前で作業していた。

もしかしたら順調に作業が進んでるのって雪ノ下がこうして解散後も残って仕事をしているからなのか?

俺は気になったので聞いてみることにした。

 

「なあ雪ノ下、もしかして今までこうして放課後残って仕事していたのか?」

「うん。委員長は仕事量が多いからこうして残らないと終わらないのよ」

「そか」

 

雪ノ下は視線を再びパソコンに戻したので、俺も自分の仕事に戻ることにした。

 

その後二人は会話をすることなく、完全下校のチャイムが鳴るまで残って仕事をした。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「よーし、みんな今日も張り切って頑張っていこー!」

 

次の日も、いつもどおり笑顔を見せながら雪ノ下の一言で文実がスタートした。

クラスの手伝いには誰一人行かずに全員揃っていた。

俺もすっかりなれた記録雑務の仕事をテキパキとこなしていく。この数日間で俺の雑務スキルすげーアップしだぞこれ。

 

カタカタカタカタ

会議室の中にはパソコンを叩く音が鳴り響く。誰一人として私語をせず、会話も仕事関係の簡単なものしかなかった。

 

仕事に熱中していたらあっという間に解散の時間となった。

 

「みんな今日もお疲れ様ー。明日もよろしくねー!」

 

その声を合図に解散していく。

しかし俺は残っていた。

 

カタカタカタカタ

雪ノ下は解散後もパソコンとにらめっこしている。

俺も仕事が残っているので残っていた。

 

カタカタカタカタ

雪ノ下の無機質なキーボードを叩く音が響く。

と、雪ノ下が顔を上げて、

 

「ねえ、比企谷くん」

「なんだ?」

「なんでじっと座ってるだけなの?」

 

そう、俺は今パソコンとにらめっこしているのではなく、ただ単に自分の席に座ってるだけだった。

 

「え?仕事が残ってるからだよ」

「仕事してないじゃんー」

 

雪ノ下が不思議そうな顔でそういってくる。

 

「仕事はこれから入るんだよ」

「え?どういうこと?」

「お前の仕事が残ってるだろ?」

「…え?」

「だから、お前の仕事の記録を取るのが俺の仕事だってことだよ。だから、その、お前が放課後残るなら俺も残るってことだよ」

 

雪ノ下はしばらくぽかんとしたあと、なにか納得したような表情になった。

そして、その後満面の笑みを浮かべて

 

「そういうことなら、しっかり仕事しなさいよ、比企谷くん!」

「おう。当然だ」

 

 

 

 

続く




さて、文実も着々と進んでますね。
次回投稿は6月28日の17時です。

感想などよろしくおねがいします。


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ついに文化祭が始まる。

文化祭当日朝

 

「みんなここまでお疲れ様。ついに文化祭当日を迎えれました!今日はみんなで楽しんでいこう!」

 

会議室での雪ノ下の挨拶も今日で最後だ。いつもの笑顔を浮かべながら雪ノ下が挨拶をしていた。

雪ノ下を筆頭に凄くいい雰囲気で文実は進んでいって、昨日の段階で事務仕事は全て終わっていた。

 

俺たちは体育館に移動して最後の仕事、文化祭の運営に入った。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

体育館には全校生徒が入っていて少しざわざわとしていた。

俺たちは昨日行ったリハーサル通りに自分の持ち場に移動した。

 

開会式がはじまるまで無線でお互いの状況を測っていた。

 

「こちら入り口、生徒全員が体育館に入ったことを確認。どうぞ」

「こちらステージ脇、会長と雪ノ下さんの準備ができました。どうぞ」

「こちらステージ、生徒全員が整列したのを確認。どうぞ」

 

裏方の準備は完了した。後は会長と雪ノ下が出てくるだけだ。

 

「会長、でまーす」

 

と言う声とともに会長が登場してきた。

 

「みんなー!文化してるかー!」

 

城廻生徒会長がいつもの声よりも少し勢いがある声を出していた。

会場のボルテージはどんどん上がっている。

 

「では、この文化祭の準備をしている文実の委員長、雪ノ下さんの登場でーす!」

 

と言う声とともに雪ノ下がステージに登場した。

その颯爽と歩いてくる様はまるでスターの登場だった。

さっきまで湧いていた生徒たちも、なにかすごいものを見るかのような目で見ていた。

 

「みなさん、私が文化祭実行委員長の雪ノ下陽乃です。今日ここまで、文化祭を盛り上げるためにたくさん頑張ってきました。今日は皆さんぜひ楽しんでください!さあ、みんなで文化祭のスローガンを行ってみよう!総武といえばー」

「「踊りと祭り!」」

「同じアホなら踊らにゃー」

「「Sing a song!」」

 

生徒のボルテージは一気にマックスになった。雪ノ下は完璧な笑顔を浮かべながらステージからさっていった。

 

と、無線から雪ノ下の声が聞こえてきた。

 

「ねえねえどうだった比企谷くん??」

「どうって、最高だったよ。生徒のボルテージもMAXになったし」

「ありがとー!ということでみんなもがんばっていこう!」

 

こうして文化祭が始まった。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

開会式が終わった後は、文実の仕事は校内を交代制で見回ることくらいだった。

そして俺の番が終わり、俺は自由に校内を回ることになった。

といっても、ただ散歩みたいに出店にはいらずブラブラしていると、

 

「あ、比企谷くん!なにしてるの?」

「え?ブラブラしてるだけだけど。ていうか仕事は?」

「もうほとんどないんだよー。だから今暇してるんだー」

 

そうかそうか。で、なんでニコニコしてんの?ほんと怖いよ。

 

「ねえ比企谷くん」

「な、なんだ?」

 

まさか絶対ないよね?そんなことはないよね?

流石に騙されないぞ!おれは訓練されたぼっちなんだ。

 

「一緒にまわろっ!」

 

…ほんとに来ちまったよ。け、決してき、期待してたわけじゃないんだからねッ!

…今死ぬほどキモかったわー。まじやべーわー。

 

「…まじで?」

「うん!」

 

やばいって、もう絶対ノーと言わせない顔してるって。こわいよぉー…

ということで、回ることになりました。

 

ザワザワザワザワ

歩くだけでざわつく。それもその筈、俺の横キープですからね雪ノ下さんは。そら周りの目が痛いですよ。

 

「みんな私達のことみてるねー!ね、比企谷くん!」

「あ、あぁ、そうだな…」

 

正直逃げたしたかった。だって怖いんだもん。ボッチにはきついんだもん!

 

そのあいだも雪ノ下は、

 

「あ、あのハニトーたべたーい!」

 

「あ、綿あめ食べたーい!」

 

「ねえねえ、あの射的したーい!」

 

…なに?俺たち付き合ってんの?リア充だろこの会話。勘違いしてもいいの?

そのあいだも周りはざわついていたが。

 

と、そろそろ文化祭一日目が終わりかけていた。

その時、雪ノ下が真剣な表情をみせて、

 

「ねえ、明日も一緒に回るからね。わかった?」

「は、ひゃい」

 

え?なにされんの?怖いんだけど。また奢らさせるのか?

とにかくその表情を、みたらなにか怖かった。

 

 

 

続く




今回は時間の都合で短くなってしまいました。すみません。
次回投稿は6月30日です。

応援よろしくおねがいします!


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俺にとっての青春はなんなのか疑問に思いながら。

文化祭二日目

 

「みんな、今日で文化祭も文実も最後の日。張り切って大成功させよう!」

 

雪ノ下の朝の挨拶も今日で最後。ここまでみんなで頑張ってきた文実の皆もなにか感慨深い物があるような表情で雪ノ下の話を聞いていた。

 

昨日の一日目は生徒のみの文化祭だったが、二日目は一般客もはいっての文化祭である。校内には昨日以上に人が溢れている。

今日は開会式はなく、午後の閉会式で締めくくるというスケジュールだ。

なので、閉会式までは昨日と同じように交代で警備をしながら空き時間で校内を回れる。

 

しかし、今日の俺は警備のシフトが入っていない。つまりは一日中暇という事になる。

暇というなら小町でも連れてこようとしたが、小町はなんだか急用ができたとかで文化祭に行こうとしなかった。…まさかな。

時計を確認すると9時半をまわっていたので、とりあえず俺はボッチスポットのうちの一つ、屋上に逃げ込もうとしたが、

 

「あーれー?比企谷くん、どこに行こうとしてるのかなー?」

 

はい見つかりました!作戦失敗!

雪ノ下はニコニコしながらゆっくりと近づいてくる。その様はまるで魔王のように。

 

「昨日約束したじゃーん、明日も一緒に回ろうって。なのになんで逃げようとしてたのかなー?」

「あ、いやえーとあれだ。一人で回る文化祭もまた文化祭の醍醐味っていうだろ?あれだよ、あれ」

「まーたそんな言い訳して」

「てことで、俺は一人で回ってきて――――――」

「だめ」

 

即答かよ。俺には人権はないんですかね?

 

「じゃ、いこうか比企谷くん。今日は時間があるから沢山回れるねー!」

 

そういいながらさりげなく腕を絡ませるのやめてくれませんかね?俺の心臓も爆発するし、まわりの視線も爆発するので。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

俺達二人は校内をブラブラと回っていた。その間に降り注ぐ周囲からの目は尋常ではなかったが…

これからのことを想像するとキリがないので、できるだけ気にしないようにすることにした。

 

「あ、劇があるんだー。体育館でもうすぐあるんだってー!ねえねえ、見に行こうよー!」

「へいへい」

 

俺達は通りかかった時に見つけたクラスの劇を見ることにした。

劇の題材はロミオとジュリエットを自分達流にアレンジしたものらしい。

とりあえず体育館の中に入って席に座ることにした。

体育館の中は一般生徒や一般人も入っていて席は結構埋まっていた。

俺達は空いていた後ろのほうの席に座った。

周りにはカップルもいたし、友達同士で見に来たと思われる生徒もいた。

そいつらはこっちを見ると、驚いたような目をしていたが、カップルなどはすぐに自分たちの世界に入っていった。…さすがリア充、砕け散ればいいのに。

 

「こら比企谷くん、その腐った目でリア充砕け散ればいいのにとか思わないの」

 

…あなたはエスパーですか?俺の心の中をのぞきこまないでください。こえーよ、超こえーよ。

 

 

 

「ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」

「ジュリエット、どうして君はジュリエットなんだ…」

 

スイスイと進んでいって最後の感動の場面まできた。どうやってジャンプしたんだよ、って思ってる奴はひねくれてるなー。まあ俺もだけど。

と、となりにいた雪ノ下の方をちらりとみると、怖いくらい真顔だった。いつもとは想像できないほど感情のない顔をしている雪ノ下をみて、俺は言葉を失っていた。

と、雪ノ下はこっちに気づいたのかにっこり笑って、

 

「どうしたの?私の方を見て」

「あ、いやなんでもない」

「…私の方をじっと見つめているように見えたけど」

「あ、その、雪ノ下の顔がすごい真顔だったから、驚いただけだ」

「…ふーん」

 

というと再び劇に視線を戻した。俺も視線をもどしたが、もう劇はフィナーレに差し掛かっていた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「うーん、なかなか面白かったねー」

「まあまあな」

 

俺達は体育館を出て再びブラブラしていた。ほんとに何もせずとにかくブラブラと。

 

「あ、あそこでやってるお化け屋敷面白そう!いくよ比企谷くん!」

 

というと、俺の意見なんか聞かないで俺の腕を引っ張ってお化け屋敷をしているクラスの所に行った。

 

お化け屋敷は小体育館に作られていた。さすがに教室だけじゃ大きさが足りないからな。文実で許可だしたんだよなー。

 

 

中に入ると、本格的な雰囲気で作られていた。無人の一軒家をモチーフにして作られているようで、中に入ると薄暗い奇妙な雰囲気だった。

 

コツコツ

と、俺達2人の靴の音しか聞こえない。…おいおい、これ結構こえーな。

雪ノ下は顔は笑っていて楽しそうにしているが、俺の腕を掴む力はいつもより強かった。…ちょ、そこまで強くされると柔らかい物が…

と、

 

「うがぁぁぁぁぁぁあ!」

 

前から老人が襲ってきた。おいおい、このオバケ生きている人間だよな?本格的すぎないか?

雪ノ下の腕の力がさらに強くなった気がする。…え?もしかししてこいつ…

 

と、またも前から、

 

「うひゃぁぁぁぁぁぁあ!」

 

今度は老婆が襲ってきた。すると雪ノ下から、

 

「きゃあっ!」

 

と悲鳴を上げると同時に腕の力が尋常じゃないほどに強くなった。ちょ、そこまで強いと腕折れるって。

雪ノ下のほうを見ると、涙目になっていた。まるで子猫のように。

…え、こんな雪ノ下見たことないんだけど。いつもの態度と行動からは全く想像できないほどの姿になってるんだけど。…やばい、こっちまで変な気分になってきた。

でも、この状態の雪ノ下をほっとくわけには行かず、

 

「雪ノ下、大丈夫か?」

 

なるべく平静を装って聞いてみた。すると雪ノ下は涙目で、

 

「え?比企谷くんは怖くないの?」

「あぁ、大丈夫だよ。こいつらはなんだかんだで人間なんだ。それに、こいつらよりも怖い人間を見てきたんだ」

「それってどんな人間?」

「あ?そりゃ決まってるだろ。まあ今からする話は友達の友達の話なんだが、そいつがある日気になった子に告白したら振られて、その次の日に黒板にでかでかと告白されたこととか、告白するときに言ったくさいセリフとかを暴露されてたりとかな…」

 

こ、この話はあくまで友達の友達の話だからな?俺の話じゃないからな!

すると雪ノ下はクスクスと笑って、

 

「ふふふっ、比企谷くん、それって自分の話じゃないの?」

「ちがう、友達の友達の話だ」

「ふふっ。でもありがとう。おかげで気持ちが少し晴れたわ」

 

そのセリフを言ったあとの雪ノ下の表情は、今まで見た中で一番美しいものだった。

俺の心の中でなにか変な気持ちが渦巻いていく。…まさか、この気持ちって…

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

なんとか俺たちはお化け屋敷を抜け出して再び廊下を歩いていた。時計を見るともう13時だった。閉会式まで後一時間だった。

雪ノ下も時計を見ながら、

 

「あ、もうこんな時間だ。ごめんね、私そろそろ準備しなくちゃ」

「おう、わかった。じゃ」

「あ、まって比企谷くん」

「なんだ?」

「今日の後夜祭、また回ろうよ」

「…わかった。いいぞ」

「うん、じゃまたあとで、…比企谷君」

 

そういうとニッコリとしながら立ち去っていった。

 

…ふと俺はさっきのお化け屋敷のことを思い出した。

あの時見た雪ノ下の表情は今まで見たことがなかった。あんな表情もするんだなと思うのと同時に、なにか別の気持ちも生まれていた。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「みなさん、文化祭は楽しめたでしょうか?今年の文化祭は大成功です!これもみんなのおかげです!ありがとうございます!それから――――――」

 

閉会式で雪ノ下委員長が最後の締めの挨拶をしていた。

俺達文実メンバーはその様子を舞台裏で見守っていた。その時、平塚先生が俺の肩を叩いてきた。

 

「どうしました?平塚先生」

「…比企谷、ちょっとこい」

 

え?俺なにかしたっけ?先生もなんか神妙な雰囲気出して、なんか怖いんだけど…

 

俺たちは人目につかない所まで来た。平塚先生は神妙な雰囲気で話し始めた。

 

「なあ比企谷、お前陽乃になにかしたか?」

「はい?え、いやなにもしてないですけど」

「ほんとにか?」

「はい」

 

雪ノ下関連の話?え、なんでそれを平塚先生から?

 

「…なあ、比企谷、この頃陽乃が変わったとは思わないか?」

「え?どういうことですか?」

「言った通りだ。最近の陽乃はであった頃と比べて変わったとは思わないのか?」

 

雪ノ下が変わった?雪ノ下は変わることなんてあるのか?

…いや、ちがう。最初に比べたら雪ノ下の表情とかは変わったと言えるのか?よく思い返したらあの夏祭りの時も、今日の文化祭の時も――――――

 

「…かわった…んですかね?あいつは」

「外野から見ていた私も最近になって気づいたんだ。あいつは変わっているんだよ。いい方向にな」

「…」

「なあ、比企谷、君もそろそろ変わったらどうだ?陽乃も変わってきているんだ。君も変わることができるはずだ」

「変わることはできるんですかね?俺は」

「当たり前だ。人間誰でも変わることはできる。それは君も同じだ比企谷。まあ、どう変わるかは君次第だ」

 

というと、平塚先生は立ち去っていった。

…俺は平塚先生の言葉を心の中で反復させていた。

 

「人間誰でも変わることができる。それは君も同じだ比企谷――――――」

 

…おれは変われるのか?

今心に抱いている様々なことを思い返しながらおれは体育館に戻った。

 

 

続く

 

 

 




次回投稿は7月2日です。


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この違和感の正体について俺は考えた。

「人間誰でも変わることはできる。それは君も同じだ、比企谷――――――」

 

俺は誰もいない特別棟の空き教室でその言葉を何度も繰り返し脳に響かせていた。

辺りはすっかり暗くなり、後夜祭のメインともいえるキャンプファイヤーがグラウンドにあった。今頃リア充共はキャンプファイヤーの周りでイチャイチャとしているだろう。外に耳を傾ければ、グラウンドで騒いでいる生徒たちのどんちゃん騒ぎが聞こえてくる。

 

そんな中俺は電気も付けずに、ただ月明かりだけが教室を照らしている中一人でいつもの席に座っていた。

そういえば、雪ノ下と後夜祭行くって約束してたな。

でも今の俺は、すごく人と会いたくなかった。

ずっと独りでとにかくボーッと月明かりを見ていたい気分だった。

今頃雪ノ下は俺を探しているのかもしれない。

それか、俺がいないと見るや他の雪ノ下を崇拝している奴らや平塚先生と後夜祭を楽しんでいるかもしれない。

いや、恐らく後者の方だろう。何といったって雪ノ下は文化祭実行委員長として、今年の文化祭を盛り上げた張本人だ。周りの先生達からもここ数年で最も最高な文化祭だったと賞賛を浴びていた。雪ノ下は主役として後夜祭を回っているはずだ。こんな俺みたいなボッチに構うことなどないはずだ。

 

雪ノ下は文実で必死に頑張っていた。文化祭をなんとか成功させたいという気持ちは文実全員が感じていた。そして全員が一体となって文化祭を開催できた。

しかし、俺には一つ気になることがあった。雪ノ下の文化祭への入れ込み方は尋常ではなかった。何かにとりつかれているかのように文実の仕事をしている雪ノ下に俺は引っ掛かりを覚えていた。

俺が放課後雪ノ下と残っていた時も、二人の間に会話はほとんどなく、ただキーボードを打ち込む音だけが響いていた。

 

俺は記録雑務だったので雪ノ下の仕事一件一件に目を通すことができたが、その内容はとても素人には処理できない案件ばかりだった。

某有名バンドグループや、今話題になりつつあるお笑い芸人の招聘など、先生でも処理できるかわからないような案件を雪ノ下が一人でこなしていた。

 

俺は雪ノ下がよく倒れなかったと思う。大人でも倒れてもおかしくないような仕事を学生である雪ノ下が行っていたんだ。

なにがそんなに雪ノ下を突き動かしていたのか俺にはわからない。だけど、その理由を知りたい俺もいた。なぜ俺はこんなにも雪ノ下のことを知りたいと思ってしまうのか、俺自身でもわからなかった。

 

ふと時計を見ると、夜の8時半を回っていた。いつの間にかグラウンドから聞こえてきたあんなにうるさかった声が聞こえなくなっていた。恐らく解散しているのだろう。

そういえば文実で最後の片付けがあったんだったな。でも俺はここから動く気力がなかった。サボリと思われてもいいや、俺は存在を消しているボッチだからな。

 

と、廊下から靴音が聞こえてきた。…多分平塚先生だろう。おれが文実の仕事サボっているから校内を探し回っていたのかもしれない。

やれやれ、動かなければいけないのか。しかしそれでも、足に漬物石が乗ったかのように全く動けなかった。

 

コツコツコツコツ

だんだん靴の音が近づいてくる。なぜか俺はなんだかホラー映画を見ているような気持ちになっていた。

と、俺の居る教室の前でピタリと止まった。

ちょっとやめてくれよ平塚先生、ほんとにホラーみたいですって。

 

ガラガラガラガラ

 

「…比企谷くん、やっぱりここにいたんだね」

 

「…え」

 

そこにいたのは平塚先生ではなく、雪ノ下だった。

暗くて表情まではみえなかったが、その声色にはすこし怒りが込められていた。

 

「え、じゃないよ。まさか約束忘れたわけじゃないよね?」

「…」

「はぁ、だんまりかー。何があったかは知らないけど、レディをずっと待たせるのは良くないよ?」

「え?ま、待っててくれてたのか?」

「当たり前じゃない、私が約束したんだから。まあ、すっぽかされちゃったけどね」

 

そういうとごく自然に雪ノ下もいつもの俺の向かいの席に座った。

 

「…なあ、どれくらいまっていたんだ?」

「後夜祭おわるまで」

 

俺は申し訳ないと言う気持ちで溢れていた。すこしでも雪ノ下が軽いとおもっていた自分を責めた。雪ノ下はそんなやつじゃない、雪ノ下はなんだかんだ言って約束とかはちゃんと守るやつだって。この数ヶ月間近くで雪ノ下を見てきたのに、そのことを忘れて勝手に被害妄想に入っていた自分はとても惨めだった。

 

「…悪かった」

「いいのよ。それはそれで外から後夜祭見れて楽しかったし。それに比企谷くんも何かあったっぽいから」

 

雪ノ下は少し優しい口調で言ってきた。それに俺は少し安心した。

 

「そう見えるか?」

「当たり前よ。私との約束をすっぽかして、こんな真っ暗な教室で独りでいるんだもん。何かあったって思うのは当然よ。で、なにがあったの?」

 

雪ノ下は優しく言ってくる。俺は雪ノ下に無性にすがりたくなっていた。なぜだろう、俺は雪ノ下の前ならなんでも話せる気がする。なぜだ?

 

「…ずっと、考えていたんだ。今回の文化祭のこととか――――――」

 

俺は気がついたらほとんど全てを話していた。恐らく三十分ほど。その間雪ノ下はだまって俺の話を聞いてくれた。

でも、俺は平塚先生から言われたことはまだ口にしていなかった。

 

と、雪ノ下はいつもより優しい笑顔を浮かべて、

 

「…ねえ、比企谷くんて変わったよね。前はこんな感じじゃなかったもんね」

「…へ?変わった?おれが?」

「そうよ。前までならここまで弱みは見せなかったよね。前までなら弱さを必死で隠していたというか…」

 

変わっただって?俺が?しかも雪ノ下の言っていることは正しいと思う。前は自分の中だけに閉じ込めておいて、人には絶対言わなかったと思う。なのに、雪ノ下の前ではボロボロと言ってしまった。

なぜだ?疑問が駆け巡る。…いや、もしかしたら心の奥では気づいてるかもしれない。でもそれは勘違いかもしれない。

そして話を聞いている時の雪ノ下の表情や、その前後の会話の時の雪ノ下の表情は優しいものだった。もしかしたらそれが平塚先生の言っていた、変わったということか?

俺は疑問を感じながら口を開いた。

 

「でも、俺はよくわからないけど、雪ノ下は変わった…のかもな。だって、俺の話を聞いているときとかの表情はすごい優しくて、心を和ましてくれるというか。出会った時とかにはなかった表情というか…」

 

俺は言っていてすごい恥ずかしくなって言葉が続かなくなった。雪ノ下はそんな俺を見てやはり優しい笑顔を浮かべて、

 

「変わった、かー。比企谷くんから見たらそう思ったの?」

「あ、あぁ」

 

まあ正式には平塚先生から言われるまでわからなかったけどな。でも、平塚先生に言われたとおり確かに俺といるときはなんか雪ノ下は違う気がする。

 

「でもね、比企谷くん」

「なんだ?」

「私は自分でも思ってるんだ。私は変わってるって」

「そうなのか?」

 

「うん。君といるときにね、いつも思うんだ。ほかにも君のことを考えると…」

「…え?」

 

「…比企谷くん」

 

気がついたら雪ノ下は俺の目の前にいた。

 

「…雪ノ下」

「…陽乃って呼んで」

 

「…陽乃」

 

俺は今になってわかった。…あぁ、俺は雪ノ下…いや陽乃に惚れているんだと。

 

「…俺、陽乃のことが好きだ」

「…私も、そうみたい…八幡」

 

そういうと、俺達は唇を重ねた。

その後、二回も、三回も。濃厚なキスもした。

とにかく、お互いを求めあっていた。

 

 

 

続く




次回投稿は7月4日の20時です。


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二章
こうして比企谷八幡は雪ノ下陽乃を受け入れていく。


電気もつけていない暗い教室。

月明かりだけが頼りのその教室で、俺は陽乃だけを見ていた。

 

…。

ただお互いを見つめ合うだけの時間。

 

「比企谷…八幡君」

「なんだ?」

「私でいいの?」

「…いいみたいだ」

「ふふっ、何その答え」

「この状況を飲み込めてないんだよ…」

 

やばい。陽乃に告白してOKをもらった後に何回かキスをしたってところから、すごい現実離れした状況に脳が追いついていない。あまりにも俺にとってありえない所まで来ている。

 

「ねえ、あの告白ってホントの気持ちだよね?」

「…そうだ」

「じゃ、もう一回キスしよ…」

「…いいぞ」

 

俺達はもう一度キスをした。今日何回目かって言われたらもう覚えてないけど、それでも今日一番の濃厚さのキスだった…

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

俺達が学校を出ようとして時間を見たら夜の10時を回っていた。まだ職員室には灯りがついていたので、見つからないようにこっそりと出た。

ちらりと陽乃をみると目が合った。

 

……。

お互い気まずくなった。なんだか恥ずかしいな。改めてなんか恥ずかしいな。言葉のボキャブラリーすくねーな俺。

 

「ねえ、さっきさ、どさくさに紛れて八幡て言ったけど、これからも八幡でいいのかな?」

「いいんじゃねーの。お、俺も陽乃って呼んでたからな…」

「じゃ、ほんとに私たちって彼氏彼女の関係になったんだね…」

 

そうなんだな。なんだかんだあって結局そういう関係になったんだな。

最初にあった時にはまさかこうなるとは思わなかった。

こんな捻くれボッチに本来訪れるハズの無かった事が起こっているんだな。人生なにがあるかわからない。

 

「八幡」

「なんだ?」

「私ね、八幡といるとなんか自分が分からなくなるんだ」

「…そうなのか?」

 

「私は今まで自分を作ってきたの。いろんな人が求めている自分を、雪ノ下陽乃という人間を自分で演じて来たんだよ。でもね、最近八幡といるとそんな自分が分からなくなってきたの。私も初めての経験だからよくわからなくて…」

 

「…陽乃、それは本当の自分をみせてるんじゃないのか?俺になら素の自分を見せれるってことなんじゃないのか?」

「…そう、なのかな?…いや、そうなんだと思う。私は八幡の前でなら演じた自分じゃなくて、素の雪ノ下陽乃で居ることが出来るんだね」

「そうだ。だから、俺の前では…素の陽乃でいてくれ」

 

我ながら恥ずかしいセリフだと思う。前までならここで捻くれたセリフしか言えなかった。俺も変わってきているってことなんだろう。

 

「…八幡、キスして」

 

陽乃は泣きそうな顔をしていた。こんな表情も今まで見たことのない顔だった。

陽乃は今まできっと辛い思いをしていたんだと思う。

みんなの憧れの雪ノ下陽乃を演じているというのは、すごく大変なんだと思う。

俺も出会うまではそれが雪ノ下陽乃だと思っていた。だけど、今目の前にいる雪ノ下陽乃はか弱い一人の女の子だった。

 

目の前に目をつぶった陽乃の顔が迫っている。

その目からは涙が流れていた。

 

「陽乃」

「なに?」

「安心しろ、これからは、その、俺がお前のことをわかってるから。俺が守ってやるから安心しろ」

「…そんなこと言われたら、もう頼りまくっちゃうよおぉ…」

 

俺達は、路上のど真ん中で再びキスをした。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

sign陽乃

 

家に帰った私は、すぐさま部屋に戻った。

私は今とても幸せな気持ちだった。比企谷…八幡くんのことが好きだって気持ちでいっぱいだった。

そして彼は私の素を受け入れてくれた。それはとても嬉しいことだった。

でも、私自身なにが素の姿なのかは完全にわかっていなかった。今まで何十年と演じてきた雪ノ下陽乃は自分でも外れない仮面のようだった。

でも、八幡といるとその仮面が剥がれるかもしれない。そして、わたし自身も自分の素を知れるかもしれない。

そう考えると、なんだか、顔がにやけてくる。

 

コンコン

 

「陽乃、いるか?」

「…お父さん」

「ちょっと来なさい」

 

そういうと父は部屋から出ていった。

まあ、今回の文化祭のことだろう。私は仕方なく体を起こして父の部屋に向かった。

 

 

父の部屋に入ると、

 

「陽乃、文化祭のことだが聞いたぞ」

「うん」

「大成功だったそうだな。お母さんもよろこんでいる」

「ありがとう」

「今日は疲れただろう、部屋に帰ってやすめ。詳しい話は明日しよう」

「わかりました。じゃ、おやすみ」

「おやすみ」

 

父は私を気遣ってくれたのかすぐに話を終わらけてくれた。

 

私は部屋に帰るなり、どさりとベッドに倒れた。

疲れたけど、私は幸せを噛み締めながら眠りについた。

 

 

続く

 

 

 




今日は忙しかったので、文が少ないです。すみません。

次回投稿は7月6日の20時です。


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そのきっかけは過去にあって、今まで続いている。

side陽乃

 

これは私が初めて人前に出た日…

みんなの望む雪ノ下陽乃が作り始められた日。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「陽乃、いくぞ」

「はーい、パパ」

 

私は、父に連れられてあるお偉いさんがたくさん招待されているパーティーに行くことになった。

 

「ねえねえパパ、今日はどんなことがあるの?」

「今日は…そうだね、楽しいことがあるかもしれないね」

 

当時小学校に上がったばかりだった私は無邪気だった。

まだ何も知らない、只々純粋な女の子だった。

 

車を走らせること30分。パーティー会場に到着した。

私は裏の結構広い控え室につれてこられた。

 

「陽乃、挨拶の練習はしたかな?」

「うん!」

「じゃ、いってごらん」

「えーとね。私は雪ノ下家の長女の雪ノ下陽乃です。皆さんよろしくおねがいします!」

「よーし完璧だ。よくがんばったな」

 

そういうと父は頭を撫でてくれた。

 

「それじゃ陽乃、ここで待ってるんだ。おとなしくしてるんだぞー。」

「はーい。ねえ、ママは?」

「ママは後からくるよ」

 

そういうと父は控え室から出ていった。この場に残ったのは私一人だけ。

私は子供らしい好奇心でいろいろ気になることがあったが、父のいう事をきいておとなしくしていた。

 

すると父が出ていって数十分後、私の家のメイドの女の人が私を迎えにきた。

「陽乃ちゃん、こっちにいらっしゃいー。お父さんも待ってるから」

「はーい!」

 

そういうと私は控え室を後にして、パーティー会場に向かった。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

パーティー会場のドアをくぐると、レッドカーペットが父と母の元まで続いていた。

カーペットの上を通っていくと、父に手を引かれて壇上の真ん中までつれてこられた。

 

そこからの景色は一生忘れない。

会場が一望できるそこからみた光景は、気品がある大人たちがたくさんいた。

私はそれを見て正直、怯えていた。

今まで同年代の子、もしくは先生くらいしか大人を見ていなかった私にとってその人達は、あまりに違いすぎた。

 

「皆様紹介いたします。この子が長女の陽乃です」

 

父がそう発したのは耳では聞こえたが、脳までは入ってこなかった。

そうしてると、今までずっと動いていなかった母が、

 

「この子は初めて人前に出てきて少し緊張しているようです。ほら、陽乃、自己紹介なさい」

 

「は、はい。ゆ、雪ノ下家の長女の雪ノ下陽乃…です。よろしくおねがいします…」

 

いい終えると会場から拍手が巻き起こった。当時の私にはなぜ拍手が起こったのかまったく理解できていなかった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

壇上での挨拶を終えると、私は父と母に連れられていろんな人にあった。

 

「やあ、初めまして陽乃ちゃん」

「は、初めまして」

「おや、まだ緊張しているようだね」

「はい、初めてなのでこの子も緊張しているのでしょう」

 

そういうと大人同士で笑い合う。

私には何が面白いのかわからなかった。

 

 

いろいろ回っているうちに私は学習していた。

あぁ、ここは私が普段いる世界と違うんだなと。これが大人の世界なんだなと。

私には笑いあっている大人達が心の奥底から笑っている様にはみえなかった。

これが大人の世界なんだ…

 

私は小学一年生ながら悟ってしまったのである。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

私はその後も定期的に何度もパーティーに連れていかれた。

回数をこなしていく事にだんだん慣れてきていた。

 

「どうも、雪ノ下陽乃です。よろしくおねがいします」

「おや、しっかりした子だねー。よろしくね、陽乃さん」

 

わたし達は笑いあった。でも、心の奥底からの笑いではなく、表面上の物であった。

 

 

 

私は学校でも、同じ振る舞いをしてしまっていた。

いつの日か先生から、

 

「陽乃ちゃんは大人みたいだねー」

「そうですかー?」

「なんだか、一人だけ小学生じゃないみたい。周りの子達とはなんだか違うね、陽乃ちゃんは」

 

先生はニコニコしながら言ってくれたが、私にはその笑みは表面上の物にしか見えなかった。

 

 

その頃から私は本当の自分がだんだん分からなくなっていった。

周りからは私の名前を呼んで後ろをついてくる取り巻きが増えていったし、先生達からは頼られるようになった。

いつしか、周囲が求める雪ノ下陽乃になっていった。そのころには純粋だった私は綺麗さっぱりなくなっていった。…いや、単に忘れてしまっただけかもしれない。

 

その後、中学、高校と進学していっても同じことが続いていった。

取り巻きはどんどん増えていく一方だった。私はその中でも、求められてる雪ノ下陽乃を作り上げていった。

そしてパーティーでは、そこでも求められている雪ノ下陽乃を作っていった。

 

そうして、どこでもその場で求められている雪ノ下陽乃を何個と作っていった。そうしている中で本当の私はどんどん消えていった。

 

でも、それも比企谷八幡くんのおかげで本当の私を思い出せそうな気がする。彼なら本当の私を見つけてくれる…

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと午前9時だった。

今日は文化祭の代休なので学校はない。

とりあえず私は、ベッドから起き上がって父の部屋に向かった。

 

 

コンコン

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

「陽乃、昨日はよく眠れたか?」

「うん」

「そうか。それよりも、文化祭は大成功だったそうだな。有言実行とはこのことだろう」

「ありがとうございます」

 

「お母さんは今日はいないから伝言を伝える。お母さんはニコニコしていたよ。それから、期待どおりにやってくれてよかったわ。私は満足しているわ。と、いっていた」

 

「お母さんらしいね」

「ああ」

「なら、私は戻るわ」

「あ、まて陽乃」

 

父は私を引き止めると、優しい顔で、

 

「よく頑張った。これからは少しのんびりするといい」

 

「ありがとうございます」

 

私はそういって父の部屋を出た。

 

のんびりね…。てことはしばらくパーティーとかないってことか。

ちょうど良かったかも。私は本来の私をみつけようとしている最中で、作り物の私を思い出したくはなかったから。

 

さてと、とりあえず八幡に電話しよっかなー♪

 

 

 

続く

 




次回投稿は7月8日の20時です。


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番外編~雪ノ下陽乃の誕生日記念~

今回は番外編ということです。
ただ、誕生日との関係性は薄いです。ただの番外編と思って見てください。興味無い方は飛ばされてもストーリーに影響はありません。
あと、過度の期待はしないでください。こういう番外編専用の面白いストーリーは書けません。なのでどうか温かい目でご覧下さいm(_ _)m


「さて、お話の途中ですが私の誕生日を祝いたいと思いマース!どんどんぱふぱふー」

「…あの、突然過ぎて何言ってるかわからないんだけど?」

「ちょっと空気読みなさいよね空気を!」

「へいへい」

「とにかく、誕生日ということなんだけども、この世界では7月7日はとっくに過ぎてるんだよねー」

「そうだな、文化祭も終わったからな」

 

「なので、今日は私たちの歴史を見よう会としまーす!」

「なんだよ歴史って。なに?俺らなにか発見したか?」

「ちがうちがうそうじゃなくてー、私たちが出会ってから今日までを振り返ろうっていう企画!」

「…それほんとにやるの?」

「てことでスタート!」

「はあ…相変わらず強引だな…」

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「青春とは幻想であり、夢である。

青春を謳歌せし物は常に幻想を見ており、常に周りより自分達の方が上という勘違いをしている。

彼らは青春の2文字の前ならば、どんな強引なことでもさも自分達が正しいかのように振舞っている。

彼らは自分達よりも立場が下のいわゆる非リア充たちをまるで自らが支配者かのように動かそうとする。

そうして彼らは立場が下の者たちの意見なんかお構いなしに楽しもうとする。

仮に立場が下の者が意見を言おう物ならば彼らはその意見を総動員で抑えようとする。

そうして彼らは自分達の立ち位置が上であると見せつけている。

そんな彼らは現実を見ようとせずに楽しくて楽な幻想しか見ようとしない。

しかしそれを指摘したところで彼らはそれを認めないだろう。

すべては彼らのご都合主義でしかない。

…結論を言おう。

青春を楽しむ愚か者ども、砕け散れ。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「ほんと、初っ端から飛ばしたねー!」

「まあ、これは俺の偏見が随分書いてあるからな」

「あら、偏見って認めるの?」

「まあな、俺だって変わってるんだ」

「でもこれはないなー。ほんと捻くれてるね!」

「褒め言葉として受け止めておくよ」

「はいはい…じゃ、次のシーンいこっか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

俺…比企谷八幡は今まで友達を作らないいわゆるボッチだった。そんな俺は今日一日の授業がおわり、教室内はリア充共が今日どこに行くだの、カラオケに行くだの、話しているのを尻目に教室をいつもより早足で出た。廊下にはまだ沢山の人が残っていたが俺には全く関係ない。とにかく速く帰らなければという思いが俺を焦らせていた。

いつもよりも数倍早足で歩いてそうして無事下駄箱まで降りてこれた。よし、ここまでは順調だ。

それから靴を履き替えて日が落ちてきて少し黄色掛かった外に出たら俺の勝ちだ。

よし、靴も履き替えた。あとは下駄箱からでるだけ…

 

「あれー?どこにいくのかなー?」

 

後ろから悪魔の声が聞こえてきた。悪魔の声の持ち主雪ノ下陽乃は、ゆっくりと俺のところに歩いてくる。その歩いている様はダースベイダーの登場曲が似合うほどに恐ろしかった。

俺は動くことができずにただやってくるのを待っていた。

 

「さて、なんで帰ろうとしてるのかな?」

「え、えーと…」

 

俺はこの人から逃げるためにわざわざ終礼が終わった途端にそそくさと帰ろうとしたのだったが、作戦は失敗におわった。ゲームオーバーのBGMが脳内で流れる。

そう、俺は負けたのだ…。

ということで俺は(強制的に)昨日初めてやってきた特別棟の空き教室へと連れていかれた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「まず最初に、なんで逃げようと思ったのかな?」ボキボキ

 

「エ、エート」

「しかも、心の中で結構悪口言ってるよね?」ベキベキボキボキ

「ア、アノー」

「どういうことかな?は・ち・ま・ん?」メキメキメキメキ

「た、たすけて小町…」

 

「ねえ、許して欲しい?」

「は、はい」

「ならなんでもひとついう事聞いてもらうからね?」

「は、はい…」

「ならよろしい。じゃ、つぎいこっか!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷くんの数学はどの位の点数なのかな?」

「…この前の学年末は学年で下から十番目」

「…え?ほんとに?」

 

うわー引いてるわー。ドン引きしてるわー。ま、そらそうでしょうね。数学が出来る人からすれば数学なんて公式覚えてそこに数字当てはめるだけじゃん、とかいってるけど、その公式が覚えられねーんだよ!。しかも当てはめても違う答えになるんだよっ。

すると雪ノ下は何かを決断したように指をパチンとならすと、

 

「よーし!私が数学教えてあげよう!」

「…はい?」

「言った通りだよ。私が数学教えてあげるの♪」

「いや、いいから。覚える気もないしそもそも数学できる気しないし、やる気もない。数学できなくても生きて行ける」

「また変な屁理屈こねてる。ほんと君は面白いなー♪でも、そこまで言われると逆に教えたくなるなぁー。…いいのかい?数学学年一位の私が直々に教えて上げるっていってるのに?」

 

雪ノ下は完璧な小悪魔的笑顔を浮かべて誘ってくる。小悪魔的笑顔って何だよ。あ、あれかまるで小町が俺になにか物を買ってほしいってオネダリしている時のあの笑顔みたいか。並の男ならその笑顔に即オッケーしてしまうんだろうが、俺は家に小町がいて鍛えられているので惑わされない。

…しかし、学年一位はきになる。まじか、学年一位に教えられたら…。

 

「あれー?どーするのかなー?一位だよー?」

「……ぐ、わかった。教えてくれ」

 

俺は誘いを受けることにした。まあ学年一位だからな。

 

「人にものを頼むときは言い方ってのがあるんじゃないー??」

 

また意地悪な笑顔をうかべて…。く、だがボッチな俺にはなんの苦痛もない。

 

「お願いします。俺に数学を教えてください」

「心の奥底からいいなさい。(ニコッ」

「…」

 

こえーよその完璧な笑顔。…こえーよ。

 

「…こんな数学ができない卑しい私目にどうか数学を教えてください」

「…はい、よくできましたー♪」

 

パチパチと拍手してたたえてくれた。どうだ、これがぼっちの底力だ…。

すると雪ノ下は手をパンとたたいて、

 

「じゃ、早速はじめよっか。どこがわからないの?」

「え?あ、えーと…」

 

と、俺はテスト範囲でわからないところを聞いていく。といっても、たくさんあるけどな。たくさんどころかほぼ全部か。

 

「…。比企谷くん、おおすぎない?」

 

それもそのはず、テスト範囲ほぼ全部がわからなかったのだ。さすがの雪ノ下も引いている。

 

「でも、できるようにしてあげる。私が教えるんだから90は目指さないとね(ニコッ」

「は、はい」

 

だからその完璧な笑顔やめてよ、何考えてるかわからないよ…。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「まさか理系科目があんな状態とはね…」

「仕方ないだろ分からないものはわからないんだよ。だいたい数学してなんの意味がある?将来πとか計算するか?ベクトルとかいるか?」

「あーそれ、数学出来ない人のいい訳だー」

「うっせ」

「教えてもらえなかったらどうするつもりだったの?」

「諦める」

「ほんと八幡らしいわ…」

「だろ?」

「でも、教えてもらって嬉しかったでしょ?」

「…」

「もう八幡ったらー!うりうりー」

「わかったから頬をツンツンするのやめろ」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

映画館にて

 

「スー…」

 

…なんで寝てんだよ。お前が誘ってきたんだろうが。

しかもめっちゃ気持ちよさそうに寝てるし。

…てか、こうやってみると雪ノ下はやっぱり美人だな。きっと今までこの容姿とあの表の性格で世の男や、人々をトリコにしてきたんだろうなー。いや、トリコというか支配かな?

セミロングの髪の毛は良い匂いを発していて…ていかん!変態になっていた!

と、気づけば雪ノ下は起きていた。

……えーと、やばくない?

雪ノ下はジト目をしていた。

 

「比企谷くん、なーにこっちをジロジロみてるのかな?」

「え、えーと…」

「しかも髪の毛の匂いかごうとしていたよね?」

 

そこまでばれてたのかー。やばいってこのままだとまた俺の黒歴史に一つ追加されちゃうよぉー…

 

「何かいい訳は?」

「…ありません」

 

雪ノ下は一転ニコッと笑っていってきた。俺はその笑みを見た瞬間に寒気がしてきて怖かったので正直に言った。笑顔って時として凶器になるよな。

 

「うむ、正直はよろしい。てかさ、比企谷くん」

「ん?」

 

そういうと、雪ノ下はニヤニヤしながら、

 

「私の顔ずっとみてたけど、どんなこと考えてたのかな??」

「え??な、なにいってんだ?」

「私わかってるよー、比企谷くんの視線ずっと感じてたんだもん」

 

わりかし最初の方から起きとったんかい。あーまた黒歴史が増えていく…

 

「ねえねえー、黙ってないでほら、いっていって!」

「え、あ、えーと」

 

雪ノ下は急かしてくる。好奇心旺盛な感じの笑顔でいってくる。

 

「…その、か、かわいいって、…お、おもってた…」

 

…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!と心の中で叫んだ。…死にたい!なんて恥ずかしいことなんだ。また黒歴史いきやぁーー!

またニヤニヤと笑顔を浮かべているだろうと、ちらりと雪ノ下を見ると、暗くて良く見えないが、少し顔が赤くなっている…気がした。

 

「え?そ、そう?…ふ、ふーん…」

 

え?なんかちがうくね?この感じは…

 

「あ、比企谷くんまたキョドってるー!ほんとに見てて面白いなー」

 

すると表情をくるりと変えてそう言ってきた。すぐ表情とか変えれるよなー。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「あーこういうこともあったなー」

「そうだな」

「うん…」

「…」

「「…」」

 

「え、映画館面白かったよね?」

「そ、そうだな…」

「次いこっか…」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

高いところから見る花火はとても綺麗だった。今まで地上から見ていたが、ビルの屋上、正確には50階から見る景色は凄かった。

 

…ふいに、ちらりと横の雪ノ下を見ると、花火の光と雪ノ下のシルエットが見事にマッチしてすごく美しい雰囲気を醸し出していた。花火が光る度に雪ノ下の表情が見えるが、その表情はなんだか切ないものだった。

 

と、雪ノ下がこっちを見る。俺と目が合う。

俺はなんだかドキドキしている。決して階段を上った時のドキドキではないことは分かっていた。

しかし、花火が光る度に見える雪ノ下の顔を見ているとすごくドキドキしてしまった…

 

「…なんでこっちを見ているの?」

「あ、え、えーと、た、たまたまだよ」

「ふふふ、キョドってるよー?」

 

その時の雪ノ下の表情は暗くて良く見えないが、花火が光る度に見える僅かな表情はいつものからかうような完璧な笑顔ではなく、やさしい微笑みだった。

 

「…お前、そんな顔できるんだな」

「…え?そう?どんな顔してた?」

「なんかこう、いつもと違う笑顔だったぞ」

 

はっ!ここで俺は我に帰った。何恥ずかしいセリフ言ってるんだよ。

 

「…そうか、いつもと違うか…そうか、そうなんだね…」

 

雪ノ下の表情は暗くて見えなかったが、声色にいつもの勢いはなかった。

 

その後はなんだか気まずくなって話すことはなかった。

そして花火が終わった。時計を見たら9時だった。三十分しかたってないのに1時間くらいたっている気分だった。

 

そして、俺たちは無言のままエレベーターで一階まで降りていった。

 

一階まで降りたら雪ノ下がこっちを振り返って、いつもの完璧な笑顔を見せて

 

「今日は楽しかったねー!花火も綺麗だったし」

「お、おうそうだな」

「…じゃ、また二学期ね。夏休みのうちは私にも用事があるから電話とかかけないから安心しなさい。じゃ、またね比企谷くん!」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あー花火綺麗だったねー…」

「そうだな。場所も良かったしな」

「そうだね…」

「なあ陽乃、この時何を思っていたんだ?」

「え?あーこの時ね… まあ、なんというか、色々かな?」

「なんだよそれ…」

「乙女には秘密もあるのでーす!」

「どこが乙女なのやら…」

「なにかいった?」ベキベキ

「い、いえ…」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

その声を合図に解散していく。

しかし俺は残っていた。

 

カタカタカタカタ

雪ノ下は解散後もパソコンとにらめっこしている。

俺も仕事が残っているので残っていた。

 

カタカタカタカタ

雪ノ下の無機質なキーボードを叩く音が響く。

と、雪ノ下が顔を上げて、

 

「ねえ、比企谷くん」

「なんだ?」

「なんでじっと座ってるだけなの?」

 

そう、俺は今パソコンとにらめっこしているのではなく、ただ単に自分の席に座ってるだけだった。

 

「え?仕事が残ってるからだよ」

「仕事してないじゃんー」

 

雪ノ下が不思議そうな顔でそういってくる。

 

「仕事はこれから入るんだよ」

「え?どういうこと?」

「お前の仕事が残ってるだろ?」

「…え?」

「だから、お前の仕事の記録を取るのが俺の仕事だってことだよ。だから、その、お前が放課後残るなら俺も残るってことだよ」

 

雪ノ下はしばらくぽかんとしたあと、なにか納得したような表情になった。

そして、その後満面の笑みを浮かべて

 

「そういうことなら、しっかり仕事しなさいよ、比企谷くん!」

「おう。当然だ」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「…この時ね、私嬉しかったんだ」

「え?」

「だって、今まで一人でずっとしてたからなんかさみしいというかなんというか… だけど、八幡は残ってくれるかなって思ってたんだ。でもそんな都合のいいことはないと思ったんだけどね、八幡は最後の一週間だけだけど、残ってくれた」

「やっぱり、お前もそういう思いだったんだな」

「わかってたの?」

「当たり前だろ、だてに毎日お前を見てるんだ。当然見てたらわかるさ」

 

「…八幡」

「なんだ?」

「この時からね、八幡のことが私ね…その…き、きになってたのかも」

「…(なにこのしおらしい子、可愛いんだけど…)」

 

「…このあと、告白までいくんだけど、この時もう気持ちはついてたんだと思うよ」

「陽乃…」

「八幡はどうなの?」

 

「俺は… もしかしたらそうなのかもな…」

「曖昧だなー。八幡らしいけどね」

 

「まあな」

 

「ねえ八幡、私達この先どうなるのかな?」

 

「…それはわからん」

「だよね。わたし達だもんね。今までいろんなことを経験してきたわたし達だからね」

「ああ」

 

「でも、変えていけるよね?今までと違ってさ、八幡がいるしね」

「そうだな。おれも陽乃がいるからな」

 

「がんばろう!2人で!」

「そうだな!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「さて、誕生日記念もこれで終わりです。といってもなんかつまらないと感じた方もいるかもね…」

「そうだな、しかも時間過ぎてるしな…」

「つまらないと感じた方ごめんね!」

「すみません」

 

「ねえ八幡、さっきなんでも一ついう事聞くっていったよね?」

「え?あ、ああ」

「じゃ、おもしろいこといって?」

「…はい?」

「いって」

「は、はい」

 

「こほん… 我々は社畜である」

「なにそれどゆことなの?」

「だから、社会で生きていくにはどんなときでもペコペコとかしなきゃいけないだろ?ちなみに学校内でも同じようなことがある。カーストが高い奴らが低い奴らをまるで手駒のように扱う。タチの悪い無茶ぶりしたり、めんどくさいことを押し付けたり…」

「学校のやつは一部の話しじゃん」

「でも、その一部のやつは辛い思いをしているんだ。俺たちはバランスをとっているんだよ。人間だれでも優劣を付けたがるだろ?だれもが自分より低いやつを見て自分を安心させてるんだよ。俺らはそうやってクラス内のバランスをとってるんだよ。感謝してほしいくらいだ」

 

 

「はいはい。さて、これから物語は後半に入っていくんだけど、八幡なにか一言ある?」

「俺に振るなよ… ま、がんばるか」

「八幡の口からがんばると言う言葉がでるとはね…」

「お前のおかげで言えるようになったんだよ」

「もう八幡たら!」ドンっ

「痛っ!たく、力加減しろよなー」

「女の子にそんなこといってはいけませーん」

「はいはい…」

 

「てことで、これからもどんなことがあろうとも頑張っていきます!てことでこれからも応援よろしくおねがいします!それじゃ!」

 

 

「(誕生日ほんとに関係なかったな…)」

 

 

 

 

 

 

 

 




時間過ぎてしまいました。すみません。
それと誕生日まったく関係ありませんでしたね。期待はずれと思ってしまった方すみません。


次回投稿は7月10日の20時です。


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文化祭の後の彼らの関係性は当然変わっていく。

20時までに投稿できず申し訳ありません。


目を覚まし、時計を見たら朝の10時だった。

カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。カーテンを開けると、空は真っ青の清々しい快晴だった。

と、携帯を見ると、

 

「うわ…陽乃から10件も不在着信が来てる…」

 

俺は本能的に悟った。あ、これはやばいと。そして今すぐ電話しないと取り返しが付かないと思うや、すぐに電話のコール音をならした。

 

プルルルル

 

「…もしもし?」

「もしもし」

「あ、あのー…その、陽乃」

「私が何回電話したと思ってる?」

「えと、10回ほど…」

「何か言うことは?」

「ごめんなさい…」

 

電話をしながら土下座をしてしまった。社会人とかが電話しながらペコペコしてる理由がわかるわー。

 

「…ま、よろしいでしょう」

「ありがとうございます」

「それでね八幡、なんで私が何回も電話したと思ってる?」

「え?なんで?」

「まあいいわ。とりあえず11時に駅前に来てねー。それじゃ!」

「おい、ちょ、まっ…」

 

プープー

電話が切れた音が聞こえてきた。

とゆうか最後は一方的に切られてしまったが、駅前に来てってどういうことなんだろうか。

とにかく、11時まで時間がないので、急いで準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ふうー、なんとか10時40分にはついたぜ…

急いだかいがあったぜ。

と、陽乃を探していると、

 

「だーれだっ!」

「うおぉい」

 

突然後ろから両手で目隠しをされたから、江頭風の声でちゃったじゃん。はずかしいよ。

 

「…陽乃だろ?」

「せいかーい!」

 

陽乃は両手を離すと、俺の前に回り込んだ。…近い近い。

 

「ちょっとおそいぞー八幡。前に行ったじゃん、三十分前には来ないといけないって」

「いや、あの時間だからこれが限界なんだよ」

「いい訳しない!って言いたいけどまあ今回は見逃してあげる」

 

そういうと、俺の手を握ってきた。

 

「え?な、なんだ??」

「え?なにって、手をつなごうとしただけだけど?」

 

疑問系で返してきてるけどあなた、顔は悪い顔してますぜ。絶対わかっててしただろ。俺がこういう反応するって。

というか今日の陽乃の格好は白いワンピースに茶色のサンダルという格好で、すごい陽乃ににあっていた。

まわりの目も当然気になるわけで、そこで俺が手をつなぐとその目が痛いものになるんだよな…

まあ、これからはそういうのにも慣れないと…

 

「なあ陽乃、今日はどうするんだ?」

「まあ、それはお楽しみで♪」

 

そういうと、手を繋いだまま駅の中に入っていった。

どこか遠くにいくの?

 

 

 

電車内

ガタンゴトン

 

「人が少なくてよかったな」

「まあ、一応平日だからねー」

 

俺は今日が代休というのを忘れていた。平日の昼の電車内はがらんとしていた。

 

「ねえ八幡」

「なんだ?」

「今日どこに行くと思う?」

「検討つかねーよ。買い物とか?」

「ちがーう」

「じゃどこだよ?」

「ヒントはねー、デートスポットとしては王道の場所かな?」

「え?…あ、まさか…ディスティニーランド?」

「惜しい!シーでしたー!」

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

というわけでやってきましたディスティニーシー!

平日なので人は少ない。俺にとってはそれが何よりだった。

しかし、同じく代休の学校があるのか、高校生くらいのカップルは何組かいたが。

 

「よかったな、人が少なくて」

「見る所そこ?ま、私も少ない方がいっぱい回れていいけどねー」

 

ちなみに俺にとっては人生初のシーだった。そんな情報どうでもいいか。

 

「じゃいこっか」

「お、おう」

 

もちろん手を繋いで俺たちは歩き出した。

 

 

陽乃に連れられて最初に来たのは、キャラクターをモチーフにしたジェットコースターだった。

幸いにも人はほとんど並んでおらず、ほんの十分ほどで乗れるようになった。

 

「楽しみだねー、八幡」

「そ、そうだな」

 

俺こういう系苦手なんだけどなー。そういってはみたが強引に連れてこられたんだけどなー。

 

はーい、スタートしますよー!いってらっしゃーい!

 

そうアナウンスが流れると、コースターがスタートした。

 

うわ、ついに始まったよ… こえーよ。やばいって。

とおもっていたら、最初の方は室内を割とゆっくり目で動いていて、心にも余裕があった。周りには様々なキャラクターがいて、メルヘンに作られていた。

 

「わー、可愛いー!ねえねえ八幡、そう思わない?」

「そうだな。なかなかいいな」

 

俺は少し余裕が出てきていた。なんだ怖くないじゃんと。

と、出口が見えてきた。まあこの作りだ、大丈夫だろ。

 

「きたきた、ここからが本番だよ、八幡!」

「そうだな…え?」

 

やばくね?ちょっとこれ高くないかい?やばいって、これメルヘン路線じゃないの?なに本気出しちゃってんの??う、うわ、あー!

 

その後はもうとにかく、頭がパラダイスだった。意味がわからないかもしれないが、とにかく頭がおかしかった。

 

「きゃーーー!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぉあ!!おぉぉぉぉーーーー!」

 

あかんってこれあかんって!本格的すぎやろーがー!うぎゃーーー!はやいはやいはやいーー!

らめらめらめーーー!

 

 

「…八幡、おわったよ?」

「え?」

 

気がつけばもう終わっていた。しかし立とうとしても、足に力が入らない。

非常に情けないが、俺は陽乃に支えられながらベンチまで移動した。

 

「ねえ、大丈夫?」

「ぁ、ぁぁ」

「…ちょっと休憩しよっか。さすがに刺激ありすぎたかな」

 

もうあかんわ。今日このあと乗り切れるかな…

 

 

 

 

続く




次回投稿は7月12日の22時です。


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甘いというのは砂糖以外にも種類がある。

やばい、やっぱり絶叫系は苦手だ。最初は行けるかと思って油断したのが間違いだった。

 

「まだきつい?八幡」

「…もうちょっとまってくれ…」

 

あれから10分ほどたったが、まだ体調が戻ってこない。どんだけ弱いんだよ俺の体。ベンチに俺は力弱く座っていた。

 

「ねえ八幡」

「なんだ?」

「膝枕、してあげようか?」

「…え?」

「ほらほら、おいでー」

「あ、ちょっ…」

 

あーれー、なんだか陽乃の膝の上に頭が着陸したぞー。そのまま膝枕されてるぞー。

…なに頭なでてるのー?ちょっと気持ちいいじゃん…

やばいわ、なんか眠くなって…

 

 

 

「ちょっと?八幡おきて」

 

気がついたら頬をペチペチ叩かれていた。

 

「ん?どした?」

「なにねてるのよー!」

「は?寝てねーぞ?」

「なにねぼけてるの?三十分は寝てたのにー」

「は?うそだろ?」

「ほんとよ」

 

 

そういえばウトウトはしてたが、まさか寝てたのか?全く自覚ないわ。

 

「でも、八幡の寝顔可愛かったなー!」

「…なにいってんだよ」

「またまた恥ずかしがっちゃってー!このこのー」

「はいはい」

 

「で、この後どうする?」

「なんでもいいぞー。帰るとかでもな」

「うん、帰るはなしで」

「はいはい。で、どうする?」

「あのね、行きたいところあるんだけど、八幡には刺激あるかもなんだけど」

「ん?絶叫か?」

「いや、そのタワーオブテラスってのなんだけど…」

 

あーたしか、建物の一番上から一気に急転直下のやつか。

 

「…お前が乗りたいならいいぞ」

「え?大丈夫なの?」

「大丈夫だろ」

「…そう。ならいこっか!」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「とうちゃーく!どんどんぱふぱふー」

「おい、人多過ぎないか?」

「もー!折角気にしないどこうとおもったのにー!」

 

いやいや、なんで1時間待ちなんだよ。ここだけ多過ぎだろ。

てか、俺が寝てるあいだに一気に客が増えたんだな。来た時より、三倍は増えてるぞ。

しかもほとんどカップルだし。どんだけ人気なんだよここ。

 

「とにかく、あと1時間がんばろう! 」

「…帰りたい… 」

「そういわず頑張ってまとう!」

 

周りはカップルだらけ。俺らもカップルだけど、やっぱり居心地が悪いわー。今までまったくこんな状況なったことないからなー。

 

「ねえ八幡」

「なんだ?」

「わたし達ってこの先どうなるのかな?」

「何いきなりいってんだよ」

「…なんでもない」

「…まあ、何もないとは言えないけど、心配することはない。何かあってももう俺たちは一人じゃないんだからな」

「…八幡」

 

陽乃は俺の肩に寄りかかってきた。そこには、周りなんか気にならないくらい自分たちの世界が広がっていた。

 

「ねえ八幡」

「なんだ?」

「変わったよね八幡って」

「そう見えるか?」

「見えるよ。今までなら捻くれたこと言ってるもん」

「…そうだな。俺も変わることができるんだな」

「素直な八幡って可愛い」

「…はずかしいこというなよ」

「もぉー顔真っ赤にしてー!」

「お前のせいだろ…」

 

なんでこうこいつは恥ずかしいことが言えるんだよ。あーなんかほんと恥ずかしいわ…

 

「ねえ八幡」

「…なんだ?」

「ふふ、呼んだだけー」

「…はい?」

 

なあ、今さらだけどこいつってこんなキャラなのか?外面と中身のギャップが激しいんだけど。

まじか、こんな陽乃誰にも見せたくねー。やばいわ、俺意外に独占欲強いのか?

 

「ねえ八幡」

「…なんだよ」

「ふふっ、なぁーんでもなぁーい」

「…」

 

やべー可愛すぎる。言葉失うわ。何この可愛いの、ほんとに陽乃?俺の中で作られてた陽乃が崩れさっていくんだけど。

 

これ、すぐ一時間すぎるな。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

ふうー、回ってきたぜー…

あのあと結局同じようなやりとりをしていたらほんとにあっという間に順番が来た。

あますぎたわー。昔のコンビニスイーツぐらい甘かったわー。

 

「じゃ、いこっか八幡♪」

 

陽乃はそういって腕を組んでくる。…やばいって、二つの柔らかいものを押し付けるな。

あ、ニヤつきやがった。絶対わざとだな…

 

 

さあ、スタートです。

 

アナウンスが流れると、ついにスタートした。

陽乃はウキウキしてるが、俺はヒヤヒヤしていた。

ジェットコースター系ではないけど、やっぱり絶叫系だからビビっていた。

ということで、脳内実況始めます!

 

さーて始まりました、上に徐々に上がっているぞ!

おおっと、止まったぞ。もう最上階かー?

いやちがう!前のスクリーンになにかキャラが映し出されたぞー。

おっと、また上がり出したー。おお、とまったぞー。

あ、窓が開いた。外の景色が丸見えだー!綺麗だな。

横を見たら陽乃も魅入っている。やばい、可愛いって思っちゃったよ。

おおっと、窓が閉じた。もう少し楽しみたかったぞー。

さぁ、このあと、ん?降りだし…え?ちょ、まってーはやいって、急転直下すぎるだ…うわぁぁぁぁぁぁ!ぎゃぁぁぁぁぁ!はやい、ばやいってぇーーー!ふえぇぇーーん、こわいよぉお!

 

 

 

「あの、八幡大丈夫?」

「ぁ、ぁぁ」

 

はい、またこういう状態になりますた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「…もう絶叫は金輪際いかん…」

「…ごめんね八幡」

 

もうだめだ。二度と乗らないようにしよう。

でも、この膝枕は最高だ。またしてもらってるけど、心地よすぎる。また乗るのもいいな。どんだけ気が変わるの早いんだよ。

 

「ねえ八幡」

「なんだ?」

「夜のパレードが見たいんだけど、それまでどうする?」

「…寝たい」

「膝の上で?」

「…ああ」

「…もう、しょうがないな。じゃ、おやすみ、八幡」

 

やばい、心地よすぎるわ。まわりの目なんか気にならないくらい心地よい。ああ、もうまぶたが…

 

 

 

続く




日間ランキングトップ20に入ってることにびっくり。
正直かなり驚いています。

次回投稿は7月14日の22時です。

これからも応援よろしくおねがいします。


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甘いというのはコーヒーにも対応する。

パチッ

目を開けると、まず夕焼け空が目に入ってきた。綺麗なオレンジだ。そして、陽乃の覗き込んだ顔が目の前に見えた。

 

「おはよう、八幡」

「あぁ、おはよう」

 

まだ寝ぼけていた脳が本格的に動き出した時、俺はもう夕方になっていることに気づいた。

 

「あ!今何時だ??」

「5時半だよ」

「…まじか。何時間寝てた?」

「だいたい2時間くらいかな?」

「…まじか」

 

寝すぎだろ俺。いくら陽乃の膝枕が気持ちいいからってさすがに寝すぎたわ。

 

「ねえそう言えばさ八幡」

「ん?」

「まだお昼食べてないよね」

「…あ、そういえばな」

「遅いけど食べに行こっか。ていってもカフェにだけど」

「わかった」

 

そういって立ち上がって行こうとしたが、膝枕してもらっていたとはいえ、体勢が悪かったのか、ベンチの硬さにやられたのか体中痛かった。

 

「あいたたたた」

「ふふふ、八幡おじいちゃんみたいだね♪」

「うっせ、体中いてーんだよ」

「あんなとこで寝るからよー」

「それは、お前の膝枕が気持ちよかったからで…」

「そ、そんな真っ直ぐ言われるとさすがに…」

 

そういうと陽乃は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。夕焼け空のせいかもしれないが。

 

「ねえ、マッサージしてあげようか?」

「は?いやいいって、大丈夫だから」

「遠慮ぜずに、ほらほらー」

 

そのままグイーンとベンチに逆戻り。

 

「おい、さすがにこれは…」

「大丈夫よ。それよりこっちに背中向けて八幡」

「…はいはい」

「私こう見えてもマッサージには自信があるんだ」

 

グイッ

…おおっ。やばい、これはなかなかや。うん、気持ちええわー。やべーわー、ちょーやべーわー。

あ、コリの部分にちょうど…

 

「いたたたたたっ!」

「あ、強すぎた?」

「強すぎだよ…肩壊れるだろ」

「ごめんなさいね。てへっ!」

「…」

 

ぶりっ子がするてへっ、とは全然違うガチ目にかわいいてへっを見た俺は許すことにした。俺どんどん陽乃の虜になってるな…

 

 

その後はすごい気持ちいいマッサージをしてくれた。ツボを的確についたマッサージは、気持ちいい以外の言葉を全て失わせた。

 

「ああー気持ちいい…」

「ほんと?じゃもっと気持ちよくしてあげる…」

「あんまりそういうのは…あ、やばいそこそこ、やべーわ…」

 

もうだめだ。また膝枕して欲しい気分になってきた。

おっといかんいかん、昼飯を食べに行かねば…

 

「なあ、気持ちよくてもっとして欲しいけど、昼飯食べに行かないか?」

「あ、そうだね。すっかり忘れてたよ」

「じゃ、いきますかね。よっこいせっと」

「なーに親父臭い声出してんのー」

 

そういいながらも腕を絡ませてくる陽乃。でもすっかりなれてしまったが。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

俺達はカフェに入ることした。そこはここのキャラをモチーフにした可愛いカフェで、至る所に人形が飾られていた。

店内は少し込み合っていたが、俺たちが入った途端に一つ窓側の席が空いたので運良く座ることができた。

店内には昼間みたようなカップルでいっぱいだった。

 

「ふうー、なにたのもっかなー。というか、お昼ご飯って時間じゃないから軽食にしよっかなー」

「そうだな。ホットコーヒーと卵サンドにしよう」

「じゃ、私もそうしよ。すいませーん!」

 

「はい、お待たせしました。ご注文をどうぞ」

 

「ホットコーヒーと卵サンドを二つずつで」

「かしこかしこまりましたかしこー」

「え?」

「かしこまりました」

 

なんかQちゃんのネタが聞こえた気がしたが気のせいだろう。…うんたぶん。

 

「たのしみだなー、パレード!」

「そうだな」

「でも、人多そうだねー」

「そりゃパレードだからな」

「八幡、わかってるよね?」

「…なにが?」

「はぐれないようにするためにはあれをするしかないよー」

「…ああー、てかお前最初からそのつもりだろ?」

「あ、バレちゃった?」

「バレバレだよ」

 

「あの、お待たせしましたー」

「あ、ども」

 

店員の女の人がすこし遠慮がちにいってきた。まあそりゃあんな会話してたら声かけづらいよな。

とりあえず俺はホットコーヒーにガムシロップ&砂糖&ミルクをふんだんに入れ始めた。

 

「…ねえ八幡、入れすぎじゃない?」

「普通だろ」

「八幡にとっては普通でもわたし達にとっては普通じゃないんだけど…」

 

俺は甘甘コーヒーをすする。…あー美味い。甘さがいいわー。

 

「ねえ八幡、それ甘くないの?」

「全然」

「ねえ、ちょっと頂戴」

「は?なんで?」

「気になるのよー」

「…はいはい」

 

一口陽乃がコーヒーをのむ。しかも俺が飲んだとこと同じところから飲んでいた。

 

「おい、わざとだろ?」

「あっま!甘すぎでしょー…」

 

無視ですか。まあそうだろうけど。

 

「それがうまいんだよ」

「本当に甘いのが好きなんだねー」

 

 

俺達は雑談をしながら軽食をすませ、とっととパレードに行くことにした。当然腕は組んだまま。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「うわー、人多いね!」

「まあ、人気だからな」

 

パレードは予想通り人が多かった。何度もいうが、カップルだらけである。

 

「あ、ちょうど始まるみたい。でもここからじゃあんま見えないなー…」

「しゃーねーだろ。ま、なんとかなるだろ」

「そうだねー」

 

パレードが始まると、いろんなキャラクターがパレード専用車?に乗って手を振っていた。

陽乃も必死に手を振っていた。陽乃って意外とこういうの好きなのな。

 

「ミッギーマウズー!ほらほら、八幡も手を振って!」

「は?やだよ」

「ほらほら、ミッギー!」

 

強引に手をふらされた。なんかやっぱ恥ずかしいよなこれ。

 

「楽しいなーパレード!」

「そうか?俺は人が多過ぎるとおもうが?」

「それがパレードだよ!まあそんなこと言わず楽しもう!」

 

陽乃はほんとに楽しそうだ。ここのところずっと文化祭とかで楽しむ余裕とか無かったからな。その分のストレスを発散している気分だった。

なんだかおれもテンションがだんだんハイになってきて、気づいたら手を振っていた。

 

「…なんか八幡が手を振っているのって、似合わないね」

「うっせー。いいだろたまには」

「…うん、そうだね!」

 

俺たちは最後までこうしてテンションアゲアゲのままパレードを終えた。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「終わっちゃったねー」

「そうだな」

 

俺達は帰りの電車に乗っていた。

満員電車を避けるということでダッシュで電車までいったらなんとか座ることができた。それでもギチギチだけど。

 

「ねえ、楽しかったよね? 」

「あたりめーだろ。それにお前が楽しそうで何よりだ」

「え?」

「だって、文化祭ずっと頑張ってて、楽しむ余裕なんてなかったろ?だから今日一日でストレスを発散できたかなと」

「あーそういうことか。まあ今日でストレスは発散できたやよ!ありがとねー」

「おう」

「まあでも、文化祭の時、八幡が放課後残ってくれなかったらもっとストレスたまってたとおもうなー…」

「え?なんだって?」

 

声が小さくてまったくききとれなかった。すると陽乃は顔を赤くさせて

 

「なーんでもないよ!あ、私次だ。じゃまたね八幡!」

「おう、またな」

 

手を振りながらお別れするさまはもう、ただのカップルにしか見えなかった。

俺にはまだ実感はつかめてなかった。

 

 

 

続く




次回投稿は7月16日です。


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体育祭でも雪ノ下陽乃はリーダーになる

文化祭も終わって時間に余裕ができるのかと思いきや、陽乃は今度は体育祭実行委員長に抜擢されてしまった。そしてその流れで俺も委員入りすることとなった。

そして今は文実の時と同じ会議室に他の体育祭実行委員と共に集まっていた。

文実の時より少し人が少ない気がした。しかし会議室に集まったメンツを見ると、文実メンバーしかいなかった。

それだけ今回の文化祭の評価が高かったようだ。実際のところ、生徒をはじめ、一般客にもかなり受けが良かったようだ。

そして、顧問の先生はこちらも引き続き平塚先生。

なんだか文実がそのまま引き継がれたような感じで、アットホームな感じで集まっていた。

 

「えー、皆さん初めまして、じゃなくてお久しぶりです!今回も私が委員長を務めることになりました。文化祭の時に比べて時間はないけど、みんな体育祭も成功させていこう!」

 

ニッコリと陽乃は笑った。俺は久しぶりにその仮面笑顔を見た気がする。最近は仮面をかぶっていないであろう笑顔を見ていたから。

陽乃のその笑顔で委員たちのやる気が入ってきているようだ。

 

「みんな、生徒会長である私も精一杯お手伝いさせていただきますねー。じゃ、みんな頑張ろう、おー!」

 

ゆるふわ生徒会長もいたのか。もうこれでほぼ文実だな。

 

 

――――――

 

 

体育祭の準備期間は文化祭の時より準備期間は少し短い。まあ文化祭に比べたらマイナーイベントではあるが。

 

「競技についてなんだけど、とりあえずリレーとかは自動的に入るけど、それ以外は生徒たちで決めるということになります。なので、どんどん手を挙げて意見を言ってください」

 

「はい!私は借り物競走はどうでしょうか。みんな盛り上がると思います」

「うん、すごくいいと思うねー。みんなが楽しめると思うよ。ではほかの意見はありませんか?」

「はい!僕は演舞をしたいです!演舞はすごくかっこよくて、皆が盛り上がると思います」

「うんうん、確かに男の子達のそういう姿ってかっこいいよねー」

 

後ろでは城廻生徒会長がせっせとホワイトボードに意見を書いていた。

その後もどんどん意見が上がってくる。みんな二回目ということで変な緊張とかはないようだ。そんな中まだ意見を言っていないどころか一言も喋っていないやつがいた。

それはお察しの通り俺です!心ではこんなに喋ってるのに口には全く出していません!あいかわらずの絶好調ボッチである。

 

すると、タイミングを見計らったかのように陽乃がこっちを向いて、

 

「色んな意見が出てきたけど、八幡はどの意見がいいと思う?」

「…え、俺に振るか?」

「もちろんだよー。八幡の意見を聞かないと」

 

そういうと皆が一斉にこっちを向いてきた。やめろそんなに見るんじゃない。

 

「比企谷、予算のことも頭に入れて言ってくれよ」

 

平塚先生も俺にしゃべるように促してくる。…仕方ないな、ようやく口を開くか。

 

「…借り物競争とかいいんじゃないか?練習期間もほとんどいらないしな。借り物については文化祭の時に意外と使えそうな道具があったからな。それから棒倒しもいいと思う。棒なら倉庫にあるし、これも盛り上がるしな。逆に厳しいと思うのは演舞だ。衣装の問題もそうだし、最大の問題は時間にある。あれはおそらく時間がかかるはずだ。はたして期間内で完成できるかが疑問だ。チアリーディングも同じ問題だ。俺が思ったことはこれくらいだ」

 

長々と話してしまったが、メンバーはびっくりした顔をしているものがたくさんいた。それよりも恐らく皆が気にしているのは、俺が陽乃に意見を求められたことと、陽乃が俺のことを下の名前で呼んだことだ。視線が痛いよ。

 

「詳細にありがとう。さすが八幡だね!」

「どうも」

 

ニコッと笑ったけど、その笑顔はいつものやつじゃないよね?俺といる時の笑顔だよね?まあ幸いみんなは違いに気づいていないだろうが。

 

「まあ、八幡の意見も参考にしながら後の詰めの作業をこれからしていこうと思います。みんなもどんどん賛否両意見言っていいからねー。それから明日スローガンを決めようと思うんだけど皆明日までにスローガンを一人一人考えてきてくれるかなー。よろしくねー。それじゃ今日はここまで。お疲れ様でした」

 

そういうとぞろぞろと陽乃をはじめとして会議室から人が出ていく。おれも出ていこうとしたら、平塚先生から止められた。

 

「私があの時言ったこと、わかったか?」

「…ええ。なんとなくですが」

「変わっているだろうあいつは」

「そうでしょう」

 

「なあ比企谷、君も変わってきているんだよ」

「そうですかね?」

「自覚をしているのではないのか?正直にいっていいんだ」

「…少しはしています」

 

実際は少しではないのだが。でも自分でも疑問に思うことがあるからな。ほんとに変わってるのか。

 

「まあ、君は陽乃と一緒で手がかかるからな」

「先生はどうして俺たちに構うんですか?」

「どうしてだろうな。まあ、一つ言えるのは君たちを見ていると楽しんだよ」

「…楽しいですか?」

「そうだ。おっといかん、私は仕事が残っていたのだった。それじゃひきがや、気をつけて帰りなさい」

「うっす」

 

平塚先生は恐らく俺たちを見捨てることはないんだろうな。ホントいい人だと思う。それだけに未だに未婚というのがね…

 

 

続く

 

 

 




次回投稿は7月18日の22時です。


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気持ちというのは誰しも抱いているものである。

体育祭実行委員会は順調に進んでいた。

スローガンもきめて、競技もきめていよいよ準備の段階に入っていた。

ちなみに結局競技は、借り物競争と棒倒しと演舞をすることになった。演舞に関しては言いだしっぺが責任をもって管理するということなので採用された。

あとはリレーなどもあるのでそこそこ盛り上がるだろうということになった。

ちなみに仕事は文実の時よりもだいぶ軽いようで、陽乃が放課後残るということもなかった。

 

カタカタカタカタ

パソコンのキーボードを叩く音が会議室の中を支配しているこの空間はまるで文実を思い出すかのようだった。まあメンバーもメンバーだしな。

 

「これ、よろしくね」

「はいよ」

 

文実メンバーだった男子生徒から書類を渡される。ちなみに俺の役割は相変わらずの記録雑務だった。まあ俺のテリトリーだからな。誰にも渡さんぞこの仕事は。

 

カタカタカタカタ

…喋ってるやつもいないし、みんな真剣に仕事に打ち込んでいた。本当にこいつらは真面目に打ち込むな。それとも陽乃がリーダーとしてまとめてるからなのか?でも陽乃の影響は少なからずあるはずだ。

 

「あ、もう時間だ。じゃみんな今日もお疲れ様ー。体育祭までこのままがんばっていこう!」

 

そういうとゾロゾロと会議室から出ていく。俺も流れに乗って出ていこうとしたら、

 

「八幡、まってよー」

「ん?なんだ?」

「一緒に帰ろっ!」

「…えなんで?」

「むー、いいじゃーん、減るもんじゃないしー!」

「いやだって、他の奴に見られたら恥ずかしいだろ」

「気にしないでいいじゃーん、わたし達は付き合ってるんだからっ!」

 

陽乃はからかうような笑顔を終始浮かべながらそう話しているが、俺としては笑顔なんか全く気になっていなかった。もちろん誰かに見られたら恥ずかしいのもある。だがそれ以前に、陽乃の後ろにいる平塚先生の表情が怖すぎて笑えない。なにその無表情、てか目死んでますって、俺と同じくらいに死んでますって。

 

「…あー、気をつけて帰るように」

「あ、静ちゃんありがとねー、ばいばーい」

 

何を脳天気にいってますのあなた。平塚先生の表情見てから言ってくれよ。

 

「さあ、さっさと帰ろう!」

 

そういうと強引に左腕に腕を絡ませてきた。俺は外国人がよくやるお手上げポーズを右腕だけで体現すると、陽乃は引いた表情をしていた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「あー、俺チャリとってくるから腕離してくんね?」

「腕離さなくても取りに行けるでしょ」

「…いや、取りにくいだろ」

「理由はそれだけ?」

「…」

 

もうだめだ。俺は本格的に諦めることにしよう。てかこれは恥ずかしいよ。すれ違う生徒はヒソヒソ話をはじめるし。

結局自転車置き場まで腕を組んだままやってきた。

 

「おい、さすがにチャリ取る時くらい離してくんね?」

「だめ」

「…おい」

「あっはは、八幡こわーい」

 

怖いといいながらニヤニヤしているところはまるで子供のようだった。ほんとにこいつってこんな性格なのか?

とりあえず、腕を離してくれたのでチャリは取りやすくなったので良しとしよう。

 

俺たちは2人で帰るが、当然その道のりも大変だ。陽乃はやっぱり目立つとして、おれもその流れで目立ってしまうのは仕方ない。だが、ヒソヒソ話が偶然にも聞こえたときは萎えてしまった。

 

「…ねえ、あの美人さん綺麗ねー。でもその横にいる男はだれかしら?目が死んでてあぶないわねー」

 

…もうなれてますからね。は、八幡平気だよ?傷ついてないよ??

 

「ねえ八幡」

「なんだ?」

「気にすることはないからね?」

「あ、ああ」

 

…しんど。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

俺達はなぜか公園に行くことになった。陽乃が強引に連れてきたからだ。当然腕くんだままで。

俺達は公園のベンチに座っていた。俺のてにはマッカンが握られていた。

 

「ふぅー、そろそろ冷えてきたなー」

「そうだね、もう秋だもんね。それよりもさ、そのコーヒー甘くない?」

「全然まったくこれっぽっちも」

「本当八幡は甘党だね。この前のデートのときもコーヒー甘くしてたしね」

 

陽乃はブラックコーヒーを飲んでいた。なんか似合うな。

 

……。

 

俺達は会話があまりなかった。お互いに二人でいる時間を楽しんでいるような、そんな感じだった。

そんな時間がしばらくたったとき、

 

 

「ねえ八幡」

「なんだ?」

 

陽乃がいつになく真剣な表情になって、

 

「私たちって付き合ってるんだよね?」

「あ?そうだろ?」

「…だよね。ねえ、八幡は私のこと好き?」

「当たり前だろ」

「そうだよね。私も八幡のことが好きだよ」

 

陽乃の表情はこころなしか影があるような気がする。一体どうしたんだろう。俺がなにかしたのか?

 

「おい、なにか俺悪いことしたのか?」

「え?そんな全然そう言う事じゃないよ」

「なにかあるのか?話くらい聞いてやるぞ」

「…いや、なんでもないよ」

「…そうか」

 

なんだか暗い雰囲気になってしまった。一体どうしたんだろう。

 

「ねえ八幡」

「どうした?」

「私は、君のことがすきだからね」

「…そうだな」

「だから――――――」

 

俺たちは薄暗くなってきた公園の中でキスをした。

そのキスはなんだか愛情を貪っているような、そんな感じのキスだった。

 

 

続く

 




次回投稿は7月20日の17時です。

投稿時間を元に戻したいと思います。これからもよろしくお願いします。


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体育祭は安全に行われるべきだ。

体育祭当日

 

グラウンドに全校生徒が集合して開会式が行われていた。今日の気候は運動会には適さない蒸し暑かった。その影響と、校長の長い話などで生徒たちの気力はあまりなかった。

 

体育祭の準備はすべてがうまく行った。予定通りにすべての作業がおわって今日を迎えれた。

 

「では、第一種目に入ります。競技は千葉最速は誰だ?炎のリレー合戦です」

 

たかが一高校で最速だからって千葉最速にはならないのかというツッコミは置いといて。

 

よーい、パン!

 

一年生が走り始めた。

 

「おおっと、赤のタスキの子がリード、それ以外は少し遅れたー!」

 

実況にも熱が入っているようだ。朝から元気いいな。

てか、やっぱり体育祭が始まるとテンションが低かった生徒も暑さを吹き飛ばしてエンジンが掛かってきたようだった。

 

「赤がそのまま逃げ切ったー!赤が最速だー!」

 

実況テンションたけー。ついていけねーわー。

俺は何をしているかというと、グラウンドで記録をとって本部に持っていくという仕事をしている。しかも記録を取る場所から本部までが遠い。こりゃ倒れないようにしねーと。

 

その後も一年生の残りと二、三年生が次々と走っていった。実況のテンションは高くて、生徒たちのボルテージも上がっていったが、俺を含めて裏方の仕事のやつらは暑さに早くもバテていた。

 

 

「では、続きまして第二種目、男子の熱さで千葉を盛り上げろ!棒倒しじゃい!です」

 

ただでさえ暑いのに、熱さを加えるっていったい何度になるんだよ。あつさ次第じゃ、アフリカを超えるぞ。

 

まあ、俺もこれは参加しているのだが。といっても男子全員だけど。

 

先陣を切って一年生が戦いを始める。

うぉーーーー!!

 

「さーて、男子の野太い掛け声と共にスタートです!おおっとこれはすごい!男子がもみくちゃになって、これはやばいげふっ!」

「ちょ、ちょっと、鼻血ださないで!」

 

実況席の方も大変そうだ。だいたいこれ見て鼻血だすとか完全にあっちの人だろ。

 

「ふっ。さーて、入り乱れる男子たち。おおっとひとつ倒れたー!それによって押し倒されていく男子げふっ!」

 

もうあいつ退場させた方がいいんじゃないの?あとなんかい鼻血出せばいいんだよ…

 

 

2年も白熱した戦いが待っていた。各所で棒が倒れて行くと共に実況席でも鼻血を吹き出していた。いったい誰が実況してんだよ。声からして女子だとは思うが。

 

そして俺達3年の出番がやって来た。もうみんなボルテージも上がって異様な雰囲気だった。俺たちが各棒の場所に着いた時、

 

よーい、パン!

 

うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

すげっ!てかやばいっ!男の雄叫びと共に各勢力がぶつかりあっていく。3年はやっぱり気合が違った。やばいってこれは。

 

「うぉーー!こ、これは、だ、男子たちがくんずぼくれずげふっ!」

 

本日二桁目の鼻血を吹き出した実況も興奮のたたかいの幕があいた。

 

もうそこからは無茶苦茶だった。殴る蹴る有の戦場だった。これあぶないぞ。怪我人どころか大怪我してもおかしくないぞ。

教師たちは興奮を少しでも抑えようとしたが、生徒の耳には聞こえるはずもなく、興奮は更に高まっていった。

俺はなにも出来ずに自陣の棒のところで突っ立っていた。だって棒にたどり着く以前にそこに至るまでのところで戦闘が起こりまくってるから、ここが一番安全なのである。

チラリと横をみると、何人か棒に張り付いていた。そこには棒倒しというのが目的ではなく、ただ単純に戦闘しか存在しなかった。

 

でも、俺達の平和もそう長くは続かなかった。運悪く、俺達の棒の奴らが負けてしまい、敵が大勢攻めてきた。

敵の数は多数。一方こちらは10。勝負は見えていた。

にも関わらずそいつらは手加減なしにやってきた。お前ら勝負は見えてるんだから手加減してくれよ。このままじゃ怪我人でるぞ…

 

そんな心の叫びなんか聞こえるはずもなく、とうとうやってきてしまった。

うぉぉぉぉぉぉっ!

あ、だめだ。一斉に敵が押し寄せ、為すすべもなく圧倒されて棒を支えることが出来なくなった。

鬼畜すぎるだろ。こんなの勝てるわけねーし。

と、その時、

 

「あぶない!」

 

誰かが叫んだ声が聞こえた。俺は後ろを振り返ると、

棒が目の前に迫っていた。

 

「うおっ!」

 

とっさにガードをしようと腕を出したが、重たい棒をそれで防ぐことはできずに、

バキッ

嫌な音がした。その勢いのまま頭に

ガンっ

あ、いかん、目の前が真っ暗に…

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

――――――俺は森の中のキャンプ場にいた。

なぜかわからない。とにかく周りには木ばっかりで、俺たちがいるところだけが開けた場所になっていた。横には妹の小町がいた。辺りは暗く、電灯だけが頼りの状況だった。周りには小学生くらいの子供が何十人かいた。

 

―――はーい、今から肝試しをしまーす!

若い大人の女の人がそう叫ぶと、俺たちの周りにいた子供達がゾロゾロと女の人についていった。俺たちもいこっか、といってそいつらについていった。

 

―――暗い夜道を進んでいく。いわゆる肝試しだった。

周りの子供達がキャッキャっと騒いでいる。小町も俺の手を力強く握ってきた。

と、

突然先頭を歩いていた女の人の懐中電灯が切れた。

きゃーーーーー!

子供達が叫んでいる。唯一の明かりがなくなったのでみんなパニックになっていた。

自分達がどこを歩いているのかもわからず、子供達は叫ぶことも出来なくなっていて、あたりが静かになっていた。

俺たちは何が襲ってくるかもわからずにただ恐怖が渦巻いていた。

とにかく俺は小町の手をひたすら強く握っていた。

と、俺はバッグの中に懐中電灯があることを思い出した。

そして懐中電灯を付けると、あたりには子供達が居なくなっていた。女の人も。

まさか、暗い夜道を歩いたのか?そういえば、女の人がこっちです。とかいっていたような気がする。おいおい、大の大人がその判断は違うだろ。それで子供達を遭難させたらどうするつもりなんだよ。こういう時は俺みたいに懐中電灯を持ってる奴がいるかもしれないから、あの人が真っ先に落ち着かないといけないのに。

 

と、そこに一人の女の子がやってきた。その子はどうやら俺たち以外にこの場に残っていた唯一の奴らしい。賢明な奴もいるんだな。

そいつは子供離れした容姿をしていた。雰囲気も子供とは思えない。

その子は俺に向かって、

 

「あら、私以外にも賢明な子供がいてよかった!」

「そうだな」

「とにかく、ここにいない子達を探さないといけないわ。あなたには懐中電灯があるし、ここは幸い一本道だから、遭難もないしね」

「そ、そうだな。とにかくそうしよう」

 

こうして、俺と小町とその女の子で残りの子供達の捜索がはじまった。




次回投稿は7月22日17時頃です


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三章
俺の夢は妄想なのだろうか?それとも。


あたりは暗闇に包まれ、懐中電灯の明かりだけが頼りのこの状況。俺は小町の手をしっかり握って歩いていた。

他の子供達はどこかへ消えてしまったが、俺たち以外に唯一同い年くらいの女の子がいたので、俺たち三人で残りの奴らを捜索していた。

しかしあたりには人の気配はなく、ただ大きな木しかなかった。

小町は横で怯えるようにして俺の手を握っているので、お兄ちゃんとしてカッコ悪くないようにふるまっていたが、内心はそうとうビクビクしていた。何と言ったってまだ小学生なんだ。怖いのは当然だった。

 

「ねえ、君って小学生なの?」

 

横にいる女は落ち着いた様子で歩いていた。

 

「そうだよ。君はどうなの?」

「私も小学生よ。6年なの」

「…そうなんだ。俺も6年だ」

 

とても同い年にはみえなかった。あの大人の人よりもこっちの方が大人に見える。

 

「そっちの女の子は?」

「ああ、こっちは妹の小町だ」

「ふーん」

 

なんかコイツといたら落ち着いてきた。目の前にしっかりした雰囲気の奴がいるとこうなるんだな。

 

……。

無言のまま歩いていく。はぐれた子供達を見つけるためにひたすら歩く。

無言のまま歩いていると、また少し不安になってきた。小町も相変わらずに手を強く握ってきた。俺は不安を紛らわすために横の女の子に話しかけてみることにした。

 

「なあ、お前なんであの時あの場所にとどまっていたんだ?」

「あの時下手に動くよりも、留まって懐中電灯とかの灯りになるものを探すべきと思ったの」

「よくそんな判断できたな… 」

「冷静になれば自然と浮かぶものよ♪」

 

♪なんかつけて当たり前のように言ってるけど、小学生がそんな判断できないだろ普通。俺もギリギリ判断できたけど。やはりボッチはこういう時落ち着くことができるんだな。学校でも精神は鍛えられているからな。

 

「この判断をあの女の人もできたらいいんだけどね」

「そうだな…」

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

しばらくあるいていると、開けた場所に辿りついた。そこには小屋があった。大きさはコンパクトな平屋だろうか。まあ良くテレビとかで見る小屋と思ってくれて構わない。

 

「ここにいるかもしれないわ」

 

そういってドアを開けると、

 

「ひいっ」

 

小さな悲鳴が聞こえた。明かりで照らすと子供達と女の人もいた。みんなビクビク震えていて懐中電灯で照らすと、みんな安心したような顔をした。

 

「みなさん、無事ですか?」

「え、ええ。あの、助かったわ」

 

大人の女の人は俺たちが来て安心しているようだが、普通あなたが俺たちの立場じゃないといけないんだけどね。

てかこの人以外に誰かいなかったっけ?そう、お化け役の人達とか。

というと、小屋の外に多数の人の気配がした。

俺と横にいた6年の女の子はドアのほうを見ると、

どんっ!というドアを開ける音とともに、

 

「お前ら無事か!」

 

長い黒髪の別の女の人が男らしい風貌で入ってきた。その服装は迷彩柄のいかにも軍服で入ってきた。

その後にも同じく軍服をきた男の人が二人、女の人がもう一人入ってきた。

子供達を初めとしてみんなが少し怯えていた。すると頼りにならない女の人が、

 

「ちょ、ちょっと!どういうことなんですかあー!」

「なにって肝試しだが?」

 

 

話によれば、懐中電灯が切れたのも、この小屋に向かったのもすべて計画のうちだったようだ。もっとも頼りにならない女の人には伝えられていなかったようだが。

当初その人に伝えられていたのは、この道をとにかく進んでいってその先にあるこの小屋の中にあるお札をとって戻ってくるということだったらしい。ちなみに、お化けは出てくる予定はなく、雰囲気でこわがってくれということだったらしい。

ただ、もし懐中電灯が切れたりしたらその時はとにかく事前に伝えられていた道をまっすぐ歩いてこの小屋にたどり着いてくれということだった。だからあのときにどこかに歩き始めたのか。

 

「そんなことなんでしたんですか?」

 

横にいた女の子は当然のことを聞いた。それに答えたのは、一番最初に入ってきた黒髪ロングの男らしい女だった。

 

「なにって、決まっているだろう!そこにいる女、山本が原因よ!」

 

…は?

 

「山本はねー、私よりも年下の癖に、彼氏とかいっぱい作って、いっぱい捨てて、挙句に私と仲良かった男を寝どったのよ!ううっ!私の恋かえせー!」

 

あんた子供の前で何叫んでんだよ。教育にわるいだろう!しかも理由が子供にわるいだろう!

すると、頼りない女の人が今までのゆるふわ系雰囲気を一変させ、

 

「えー、ただ先輩があの人をさっさと落とさなかったからじゃないっすかー」

 

おい、キャラ変わってみんな怖がってるぞ。本性見せるなよおい。

男らしい女の人は泣き崩れてしまった。なんだか小学生ながら、大人の汚い一面を見た気がする。

横にいる冷静な女の子は真顔でそのシーンを見守っていた。…なんかこわい。

 

俺はそこから目をそむけると、御札をみつけた。あれが例のおふだか。…それを見た瞬間、なんか普通のお札の雰囲気じゃないような気がした。それは横の女の子もそう思ったようだった。

 

すると、

 

――――――おま…はこ……らふ…にな…

 

ぬ?なんか脳に声が響いてきたような?横の女の子をみると、同じく声が聞こえたようで、セミロングの髪を少し揺らしていた。

 

――――――おまえはこれ……こう…なる

 

まただ。どこからか脳に響かせるように声が聞こえてきた。

そして今度ははっきりと、

 

 

――――――おまえはこれからふこうになる

 

はい?なんだこの声。横の女の子も聞こえたようで、びっくりした目でこっちをみてくる。そこには冷静さを失いかけていた。

 

――――――いまからじょじょにふこうになる…とくにろくねんごにふこうになる…

 

それっきり声は聞こえなくなった。え?6年後に不幸になるってどういうことだ?ちょうど俺は高校3年生か。

横の女の子は少し動揺しているようだ。とにかく、これは信じるべきなのだろうか。ただの幻聴なのだろうか?いやこの子も聞こえているようだったし、でも、俺ら以外は聞こえていないようだし。

 

それを疑問に思っていたが、元の場所に戻るということなので、俺達はついていった。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

エンジンの音が聞こえてきた。祭りとかにある簡易型の電灯があるベースキャンプにもどってきた。

 

「ねえ、さっきの声、きこえた?」

 

セミロングのずっと横にいた女の子が不安そうな目で聞いてきた。

 

「あ、ああ、お前も聞こえたのか?」

 

いまさらだが、少しキョドりながらもこいつとはなぜか話せる。ほかの奴には怖くて話しかけれなかったのに。

 

「あれって、どういうことなんだろうね…」

「さあ…」

 

ほんとにどういうことなのだろう。

 

「ねえ、君の名前を聞いてなかったね」

 

その子は気分を変えるという意味も込めて聞いてきた。

 

「俺の名前は比企谷八幡だ」

「そう。私の名前は――――――」

 

と、いいかけたところで、その子は俺の後ろをみた。なんだろうと俺は後ろを振り返ると、

 

目の前に電灯が迫っていた。

 

誰かの叫ぶ声が聞こえる。小町の声と、その子の声をききながら俺の意識はブラックアウトした。

 

 

 

――――――ん、はちまん、八幡!

 

 

俺がパチッと目を覚ますと、オレンジがかった白の天井が目に入った。そのあとに泣き顔の陽乃が目に入ってきた。

 

「八幡!大丈夫??」

「あ、ああ。ここはどこだ?」

「病院よ!」

 

ああーそうか、だんだん思い出してきた。俺はたしか体育祭で棒が腕と頭にあたったんだったな。腕は骨折しているようで、包帯で巻かれていた。

 

「なあ、俺はどれくらい寝てたんだ?」

 

こういう時ってまる何日寝てたとかあるんだよな。

 

「え?半日よ?」

 

え?そんくらい??そういえば、夕方みたいだな。オレンジ色が窓から差し込んでいる。

そういえば夢の中でも頭にあたったよな。これが夢の中の不幸ってことか?というか俺あんなこと忘れてたのか?それとも妄想なのか?もし妄想じゃなければ今高校3年生だから、不幸ってことだよな?

それから、腕にあたったのに気絶するほどに頭に棒があたるって、おかしいことだよな。あたりどころが悪かったのだろう。これも不幸ということなんだろうか?

 

 

続く、




次回投稿は7月24日17時頃です



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彼は事実と夢のことを考え出す。

骨折したので入院することになった俺は、病院の個室でただぼーっとしていた。

病院のさほどおいしくない昼食を食べてゴロゴロしていると、眠気が襲ってきた。

こういう生活をしてからもう一週間たった。

そんな寂しいぼっちな俺の見舞いにくるのは、小町とそれから陽乃だった。

陽乃に関しては学校帰り毎日病院によってくれる。小町は何日かにいちど、洗濯物を回収しに来てくれるので、陽乃がくるのはとてもうれしいことだった。

 

それでも一人でいる時間の方が圧倒的に長いので、その間に色々なことを考えるようになった。まあ元から一人で思考するのはかなり多かったが、最近は授業が無い分、余計に増えた。

でも、くだらないことばかりを考えてるわけではない。陽乃がどういうお土産を持ってくるかとかの極めて重要なことである。…そこまで重要じゃないかこれは。

でも、その中でもあの夢のことを多く考えるようになった。

あのことは夢とはいえ、ものすごくリアルなことだった。実際には忘れているだけで実在した出来事だったとか、あの少女は誰かのかとか、最後に脳内に響いてきたあの声は一体なんなのか、そして、不幸になるというのはなんなのかなどを考えていると、時間がたっていく。そういうことを考えて暇を潰していた。

考えれば考えるだけ妄想ができる。そんな能力を手に入れた比企谷八幡なのであった。

 

コンコン

 

ドアをノックする音がきこえた。ああ、もうそんな時間か。

 

「どうぞ」

 

カラカラ

 

「八幡体調大丈夫?」

「ああ、もう気持ちは最高なんだがな」

 

ニコニコしながら陽乃がお見舞いに来るというのはもう定番だった。

 

「おう比企谷、体調はどうだ?」

「あ、平塚先生どうも。腕以外の体調はいいんですけどね」

 

今日は見舞い客が二人も来た。平塚先生はここに来るのは初めてだった。

 

「八幡、りんご食べる?」

「ああ。サンキュ」

 

そういうと、陽乃はカバンからりんごが入った容器を差し出した。これもいつものことで、俺は毎日陽乃が剥いてくれた美味しいりんごを食べていた。

 

「りんごは切ってから鮮度が落ちていくから急いで持ってきたんだけど、どう?」

「…うまい。最高だ」

 

陽乃いわく、青森産の最高級りんごなんだとか。俺ら庶民には滅多に味わえない上物だ。

 

「静ちゃんも食べる?」

「ん?いいのか?」

「いいよいいよー。ささどうぞ」

「それじゃお言葉に甘えて」

 

平塚先生がりんごを口にすると、目を見開いて、

 

「んー!旨いなこれ!」

「でしょ!美味しいのを持ってきてるんだよー!」

「ふむ、こんなりんごが毎日食べられて、比企谷は幸せ者だな」

「はははは」

 

実際幸せだよ。もうそれはそれは。すると、さらに俺を幸せ者にすることを陽乃が言ってきた。

 

「ねえ、あーん、してあげよっか?」

「…へ?」

「だから、食べさせてあげよっか?」

「…は、はい?」

「もうつべこべ言わない。はい、あーん」

 

りんごを口の前に持ってこられた。これは無言の圧だ。陽乃はニコニコしている。平塚先生は…うん、すっごい羨ましそうな顔してるわ。

さすがに俺も断れるような心は強くないので、口を開けた。

 

パク

 

「…うまい」

 

りんごもうまいんだけど、あーんによって魔法が掛かったような、もう一言で表すと、めっさうまい!

 

「はい、あーん」

「あーん」

 

やばい、病みつきになりそう。 気がついたら、残り全部のりんごをあーんによって食べさせてもらった。

なんだか餌付けされてるような感じだったが、美味しかったので有りだな。

 

ブーブーブー

 

「あ、電話かかってきちゃった」

 

陽乃は着信画面をみると表情が強ばった気がした。そのまま小走りで病室から出ていった。

 

陽乃が病室から出ていったのをみると、平塚先生は俺のベッドの近くの椅子に座った。

 

「怪我はどの位で治るんだ?」

「医者によれば、完治は二、三週間だといわれました」

「そうか…すまないな比企谷」

「なにがです?」

「あの棒倒しの時、もうすこし我々がしっかりしていれば、あのようなことは起こらなかったはずだ。これは我々教師の失態だ。すまない」

 

平塚先生は心底申し訳無さそうに言ってきた。

 

「大丈夫ですよ。あの時俺もよそ見をしていたので俺のせいでもあります」

「比企谷…ほんとにすまない」

「いいですよ」

 

……。

その後お互いに少し沈黙が流れた。

 

 

「…陽乃、遅いですね」

 

5分ほどたったが、陽乃はまだ帰ってこなかった。荷物はここにあるので家に帰ったというのはないだろうが、それだけ長電話なんだろう。

 

「なあ、比企谷」

「はい?」

「君は…陽乃の家のことを知っているか?」

「え?まあ多少は」

「多少…か。そうか。比企谷は知っておいた方がいいのかもしれないな」

「どういうことです?」

 

俺がそう聞くと、平塚先生は神妙な雰囲気を出した。

 

「陽乃の家は少しめんどくさいんだ。まあ私もあいつから聞いた話しか知らないがな」

「どういうことです?」

「…陽乃はな、昔から両親の期待を背負ってきたんだ。もちろん雪ノ下家の長女でもあるからな。だけどな、あいつには妹が居るんだ」

「え?」

 

そんな話はきいたことなかった。陽乃に妹がいるなんて一度も。

 

「まあ知らなくて当然だ。あいつは今妹とは絶縁状態なんだからな」

「…どういうことです?」

「…妹のことを愛しすぎたのだよ。だから妹はあいつのことを避けるようになった。やがてほぼ絶縁になった」

「愛しすぎたって、どういうことです?」

「陽乃がいうには、可愛がりすぎたと言っていたんだがな。詳しくは話してくれなかった」

「…」

 

俺はまず陽乃に妹がいることを知らなかった。そんな話は出たこともなかった。

 

と、ちょうどそのタイミングで陽乃が帰ってきた。

 

「ごめーん、電話長くなっちゃった。…ちょっと家から呼び出しがあって、もう帰らなきゃ行けなくなったの。じゃ、八幡また明日くるね!静ちゃん、またねー」

 

そういうと、急ぎ足で病室を出ていった。

 

「じゃ私も帰るよ。お大事に」

「はい」

 

平塚先生も帰っていった。二人が帰ったことによって再び病室に沈黙が流れた。

 

 

 

続く

 




次回投稿は7月26日17時頃です。


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彼女の悩みは一般人の悩みとは質が違う。

side陽乃

 

八幡の病室を離れ、電話可能な休憩室まできたところでようやく電話にでた。

 

「もしもし、なに?お父さん」

「陽乃、すぐに帰ってきなさい」

「…どうしたの?」

「…お母さんが呼んでいるんだ」

「…なにがあったの?」

 

幸い休憩室には誰もいなかったので心置きなく話せるのはよかった。でも、なにか嫌な予感がする。しかも電話でわざわざ呼び寄せるくらいだからよっぽどのことだというのは明白だった。

 

「…詳しくは帰ってから話そう。ただ…」

「ただ?」

「あまりいい話ではないだろう」

「…そう。わかった。帰るわ」

「わかった。今どこにいるんだ?」

「総武総合病院」

「…わかった、迎えをよこすよ」

 

ツーツーツー

 

…電話が切れる音が聞こえている。なんだか胸がしめつけられるような苦しみが沸き起こってきた。すごく胸糞悪い気分だった。

私はその気分を紛らわすために、自販機のブラックコーヒーを飲むことにした。このにがさが私の今の気分にはちょうど良かった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「ごめーん、電話長くなっちゃった。…ちょっと家から呼び出しがあって、もう帰らなきゃいけなくなったの。じゃ八幡、また明日来るねー」

 

そういって私は病室から、病院から出てきた。

病院からでると、車を待つあいだ、静ちゃんも出てきたので挨拶だけをして車を待った。その後しばらくして家の車がやってきた。

 

 

車の中で私は考えていた。母が何をいうかを。この時期だから進路関係だろうか?それとも縁談系だろうか?恐らく進路の関係だろう。どちらにせよ、私にとってあまりいい話ではないのは明白だった。

そう考えていると、あっという間に家に着いた。

 

 

家に帰ると、父が迎えてくれた。

 

「お帰り陽乃」

「ただいま」

「さあ、いこう」

 

そのまま、母の部屋にまで連れていかれた。それほど急ぐことなのだろうか?いや、ただ単に母の期限を損ねないようにしているだけだろう。

 

ガチャ

 

「入るぞ」

「…ただいま、お母さん」

 

母は部屋のソファーでくつろいでいたが、ただだらけているだけではなく、やはりそこにはばらの花が似合うような可憐さがあった。

 

「陽乃、お話があるわ」

「なに?」

 

母はいつもどおりニコニコしながら、

 

「貴方の進路のことなのだけれどね」

「うん」

「貴方には海外の大学に行ってもらうことになったから」

「…え?」

「もう決定事項よ。よろしい?」

「ちょっとまって、海外って、どこの?」

「イギリスの大学よ」

「…そんな、なんで海外なの?国内じゃだめなの?」

「決定事項よ。理由はしらなくていいわ」

「…少し考えさせてください」

「考えるも何も、決定事項なのよ?わかってるわね?」

「…はい」

 

海外って、それってもう八幡に会えないってこと?そんなの嫌よ。折角私は自分を取り戻そうとしてるのに。彼のおかげで。

 

とにかく私は気分最悪のまま部屋に戻った。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「…陽乃、どうした?…おい、陽乃?」

「え?あ、なに?」

 

私は病室でいつものように八幡といた。でも、心はどこかへ行ってしまっていた。

 

「おい、お前様子変だぞ。どうした?」

「いや、なんでもないわ」

 

笑顔を浮かべているはずだ。いつもどおりの。私にはあのことを彼に伝える必要があると思う。だけど、言おうとすると、喉に引っかかるようになかなか言葉として出てこなかった。

 

「…そうか。お前も大変なんだな」

「え?なにが? 」

「昨日なにかあったんだろう?」

「…」

「昨日あんなに慌てて帰ったんだ。そして、今日はなにか心ここにない感じだ。…あの後なにかあったんだろう?」

 

ほんと、なんでもお見通しなのね。それとも顔にでてたのだろうか?

 

「まあ、言いたくなければいいんだけどな」

「…うん」

「ただ、あんまりひとりで考え込みすぎるなよ。まあ俺が言えたことじゃないが、折角、その俺がいるんだからもう少し頼ってくれてもいいんだぜ」

 

彼は恥ずかしそうにそのセリフを言っていた。…やっぱりなんだかんだで頼りになるわね。でも、まだ言えない。こんなに優しくしてもらっても、どうしても喉から言葉が出なかった。

 

 

続く




なんだかんだで続いてきましたね。なるべくマンネリ化は防ぎたいですね。

次回投稿は7月28日の17時頃です。


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平塚静はやはりサプライズな存在だ。

sign八幡

 

終業式まで残り一週間となった12月のとある木曜日。外は寒く、あたりはクリスマスムードに包まれていた。俺と陽乃は一緒に学校から帰っていた。

実はこれは久しぶりで、最近は受験関連のことでスケジュールがあわず、昼休みいつものベストプレイスで2人で昼食を食べたりはするが、一緒に帰ることは少なかった。

昼食を食べてるときや、一緒に帰っている時に思うことがあるのだが、陽乃は俺といるときなにか考えているような、なにか言いたげな雰囲気を出している。でも、今までなにか言われたことはない。もちろん、他愛もない世間話程度は喋るのだが。

そして今もなにか考えているような雰囲気だ。表情がこころなしか暗い。でも、なかなか思い切って聞くことができない。前に聞こうとしたら陽乃からやんわりと断られてしまってから、なにか触れてはいけないような話の気がするからだ。俺もなかなか踏み出すことが出来なかった。

 

二人の雰囲気がどんどん重くなっていく。今日の帰りは世間話すらなかった。

そのままいつもの場所まで陽乃を送った。陽乃はそこから迎えの車に乗って帰るのだ。

 

「じゃ、八幡、またあしたね」

「おう」

 

これが今日の帰りで初めての会話だった。そのまま陽乃は黒のリムジンに乗って帰っていった。俺はそれを見送ると、いつもより数倍速いペースで自転車をこいだ。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

次の日、俺と陽乃は平塚先生から特別棟のあの空き教室に呼ばれた。

最近受験関連のことでここに来ることはほとんどなかった。陽乃もなんか忙しいみたいだからな。

ということで俺は久しぶりにいつもの位置の椅子に座っていた。

 

ガララッ

 

「よお」

「ひゃっはろー八幡」

 

陽乃は笑顔を作ってはいるが、声のトーンは少し低かった。

陽乃は俺の正面の椅子に座るが、いつもの数倍俺の顔をじっと真顔で見ている。時折下を向いたりしながらも、ひたすら真顔で俺のことをガン見していた。

でも、なにか言いたそうにしているのには確信が持てた。ここ数日の陽乃の行動や、雰囲気から俺は察していた。でも、そこまでしても言えないことなのだろうか?一体こいつなにを言おうとしているんだろうか?

 

ガララッ

 

そんな時、教室のドアを開ける者がいた。俺達はドアの方をみると、

 

「おお、そろってるな。この画をみるのは久しぶりだなー」

 

俺たちを呼んだ平塚先生が入ってきた。いつもどおり白衣を着て、勢い良く入ってきた。

 

「…うす」

「久しぶり、静ちゃん!」

 

俺はいつもどおりテンションの低い挨拶だった。でも陽乃は、文だけ見ればいつもどおりに見えるが、実際はいつもの勢いはなく、明らかに空元気に見えた。

 

平塚先生は俺達の近くに立つと、

 

「どうだ?受験勉強の方は?」

「まあ、ぼちぼちと」

「比企谷の志望はたしか、国立の文系大学だったかな?」

「はい」

「陽乃は…たしか理系だったかな?前々回の進路希望調査だと」

「…え?あうん」

 

?なんか妙に歯切れが悪いな。いつもの元気がない。

それに前々回?前回は?

 

「前回は未提出のようだが、陽乃、どうしたんだ?」

「…ただ、忘れてただけよ。今度出すわ」

「そうか」

陽乃に限って忘れることってあるのか?まあたしかに人間なら誰しも忘れることだってあるが、そんな大事なものをこの陽乃が忘れるなんて思えなかった。

 

その後平塚先生を筆頭に他愛もない話をしていく。陽乃も徐々に元気を取り戻していった。

すると陽乃に電話がかかってきたので、陽乃は教室を出ていった。陽乃が徐々に遠ざかっていくのが靴の音から察した。

すると、平塚先生がこっちを向いて、

 

「なあ比企谷」

「はい?」

「陽乃…なにかあったのか?」

「いや、俺は知りません。おれも気になってました」

「そうか、やはりお前も知らないのか…」

 

平塚先生も付き合いが長いだけあって陽乃の異変に気づいていたようだ。

 

「俺的にはなにか隠し事をしているように見えるんですよね。最近一緒にいるときもそんな雰囲気を出しているんです」

「隠し事…ふむ、比企谷が言うなら信憑性が高いな」

「そうですか。それは喜んでいいんですかね?」

「大絶賛だよ。しかし隠し事か…」

「そうですね。そういえば陽乃は進路希望出してないんでしたよね?」

「そうだ」

「もしかしたら関係があるのかもしれませんね、それと」

「…かもしれんな」

 

一体なにを隠しているんだ陽乃は?俺は日に日に気になっていった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

しばらくしたら陽乃が帰ってきた。そのままさっきの席に無言で座った。

座ったのをみると、平塚先生が、

 

「さて、では本題に入るのだが、君たち今週の土日は空いているかね?まあ比企谷は空いているだろうが」

「ちょっと?俺が年中暇人みたいになってるふうに言わないでくださいよ」

「え?事実でしょ?」

 

くっ、陽乃から止めを刺された。否定できないけど。

 

「陽乃は?」

「今週は空いてるよ」

「わかった。それでな、君たちは今受験に向けて猛勉強をしているのだろう。だけど息抜きも必要じゃないか?」

「え?いや大丈夫ですけど」

 

俺は否定した。勉強っていっても自分のためだし、いい大学にいくには勉強しかないし。

 

「まあまあそう言わずに。それでな、土日を使ってとある場所に行ってもらう」

「え?どこですかそれ?」

「まあそれはいずれ分かることだ。まあひとつヒントを与えるとすれば、受験関連だ」

「…はあ」

 

皆目検討つかない。一体どこに連れ出すんだ?今日は金曜日なので、明日と明後日のことになる。

すると、陽乃がこの会話の中で初めて口を開いた。

 

「ねえ、その場所って遠い?」

「まあ、遠いな。あちなみに、電車移動になるからな。安心しろ、お金は私が全て払う」

「え?ちょっと待ってください。あなた一体どこに連れ出すんですか?」

「だから、それは行ってからのお楽しみだ」

 

ちょっと、不安になってきたんですけど。どういうことだ?なんか遠くに行くような雰囲気だけど。

 

「てか、もっと早く言ってくださいよ」

「仕方なかったんだ。ここ数日忙しかったからこうして時間が取れなかったんだよ。申し訳ない」

 

ほんとに申し訳なさそうに言ってきたので、もう気にするのはやめた。

「とりあえず、明日の9時に総武駅にきてくれ。そこからいろいろあるから、しっかり旅行の用意をしてくるように」

もう旅行というフレーズには触れないことにした。薄々察してたしね。

 

「じゃ、わからないことがあったら電話してくれ。あ、比企谷の電話番号を知らなかった。教えてくれ」

 

俺が平塚先生に電話番号を教えると、平塚先生は教室から出ていった。

その後俺達も2人で帰っていった。

そのあいだ、二人のあいだに会話はほとんどなかった。

 

 

 

続く

 

 

 




次回投稿は7月30日17時頃です。


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平塚静はいい人だ。

土曜日

 

荷物が詰まった重たいボストンバッグを道路に置いて、陽乃と共に総武駅前で平塚先生を待っていた。

時刻は9時になった。10分前から待っていたので、少し肌寒くなってきた。

 

すると、俺たちの前に1台のバンがとまった。

 

「待たせたな君達。さあ乗ってくれ」

 

荷物を詰めて、俺と陽乃は2列目にすわった。

 

「9時5分か。君達寒かっただろう?またせてすまないね」

「大丈夫よ」

 

車の中は特に喋ることもないので、静かだった。

 

「あの、どこにいくんですか?」

 

俺はまだ知らされてなかった行き先について尋ねると、

 

「まだいっていなかったか。群馬の方にいく」

「群馬、ですか?なんでまた?」

「まあ黙ってついてこい」

 

そのセリフはなんだか男気がこもっていた。先生、かっこいいっす。

 

そういえばなんだか陽乃の様子がここ数日おかしい。車の中でもそうだった。いつもならなにかしらちょっかいをだしてくるはずなんだが…

おれはこの機会にチャンスがあれば聞いてみようと心に決めた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

車に揺られること3時間。高速道路をおりて下道を通っていた。

途中でサービスエリアによって買ったおにぎりをほおばりながら平塚先生が運転するさまは家族のお母さんだった。本人にいったら泣き出して運転に支障がでるだろうから言わないが。

というか、平塚先生をいじっておかないといけないくらい退屈だった。おまけに陽乃は喋らないし。まあおれは静かな方がいいが。

 

しばらくすると、山の中に入っていった。

群馬のとある峠が舞台の漫画作品に出てきそうなくらいな標高の高い山に入っていった。

 

ブオォーーン

 

山を登っていく様は走り屋そのものだった。バンで、荷物が多いのに、キレキレの走りで山を登っていく。

俺らはとにかく横に揺れーる揺れーる。すごいGを感じてるわー。

車酔いするやつはもう車内で吐いてるレベルだぞこれ。

 

どうやら目的地に着いたようで車がようやく停止した。

平和は守られたよ…

 

「さあついたぞ」

「…どこですかここ?」

「ここはなー、私が学生の頃来た場所なんだよ」

「へえー」

「ここって静ちゃんの思い出の場所?」

 

ここにきてようやく陽乃が口を開いた。笑顔も浮かべていたが、俺には無理してつくっているように見えた。絶対なにか隠してるのは見え見えだった。

ふとここで疑問に思う。あの雪ノ下陽乃とあろうものが、なにかを明らかに隠している風に見えてるのがすごく変だった。陽乃のことだ、こういうことは誰にもわからないように隠し通すやつなんだが。それともたんに俺が陽乃と付き合ううちに気づけるようになっただけか?

いや、平塚先生も気づいていた。てことは陽乃が――――――

 

「ちまん?はちまん?八幡?」

「ん?あ、なんだ?」

「だから、もう静ちゃんがあるきだしたからいくよ!?」

「あ?ああそうだな」

 

俺達は黙って平塚先生のあとを追った。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

連れてこられたのはとある神社だった。

 

「ねえ静ちゃん、ここは?」

「ああ、ここは私が昔大学受験を控えた時にお参りした神社なんだよ」

「なんでまたこんな山奥に?」

「ここは結構地元では有名な神社でな。太宰府天満宮みたいに人が多いわけでもないから地元民には人気のスポットなんだよ」

 

平塚先生はしみじみそう語っていた。

 

「受験の結果はどうだったんですか?」

「あ?ああ、合格したよ、第一志望に。だから君達にも合格してほしいから連れてきたんだ」

「平塚先生…」

 

俺はすこし感動していた。そこまで生徒のことを思ってくれていて…

これで彼氏さえできれば…ぐほっがっ!

 

「…比企谷、失礼なことを考えるな」

「…はい」

 

あなたはエスパーですか?こえーよあとこえーよ。

 

 

続く

 

 

 




次回投稿は8月1日17時頃です。
46分遅れてすみません。


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彼と彼女は幸せなのだろうか。

神社は普通の神社よりも狭かった。社務所と本殿がある程度の簡素な神社だった。

 

パンパン

 

三人でならんでお参りをしている。受験関係の神社ということは、俺にとって敏感に反応するところだったので、神だのみなどの類のものをあまり信用しない俺でも少し力をいれてお願いしてみた。

 

お参りが終わると、車を置いているところまで俺たちは戻ることにした。

 

 

「そういえば、この後どうするんですか?」

 

俺は気になったことを聞いた。大荷物を持ってきたからこのまま帰るとは思えなかったからだ。

 

「このあと東京から新幹線に乗るんだ。いってなかったかね?」

「はい?聞いてないですよ?」

「ああ、すまないな」

「いったいどこにいくの?」

「また私の縁のある地にいくんだがな。ちょっと遠いんだ。とりあえず車に乗ろう」

 

そういうと先生は車に乗ったので俺たちも車に乗ることにした。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

再び東京に戻ってきた俺達。車の中で先生から言われたのは東京駅から新幹線に乗って京都まで向かうということを聞いていた。

 

時間は午後四時だった。まだお昼を食べていなかったので、俺達は東京駅の駅弁を食べながら新幹線が来るのを待っていた。

 

「八幡、あーんしてあげよっか??」

「…はい?」

 

突然なにを、いいだすんだ?なんの前触れもなくそんなこと言ってくるなよ。平塚先生をみろよ!リア充死ねどころか、口から魂抜けかけてるぞ。

 

「ほら、口あけて、あーん」

「…」

 

えらく強引に迫ってくる陽乃。顔はすっごい不自然なほどの美しい笑顔を浮かべながら。

俺はその迫力に負けてしまって、口をあけてしまった。

 

「おいしい?」

「あ、ああ」

 

なんか陽乃キャラがぶれてないか?今日は特に。車ではすっごい雰囲気最悪で、今は気持ち悪いくらい機嫌がいい。

 

「はい、あーんっ」

「あ、あーん」

 

その後弁当の中身がなくなるまであーんされ続けた。なんだか餌付けされてるような気分は悪くなかった。だけど、平塚先生がその間に寂しく一人で弁当を食べていたことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

ようやく新幹線がきた。ここまで長かったぜ…。

というか平塚先生が全部持つとはいってたけど、三人分の新幹線代とかはバカにならないんじゃ…?

 

「あの、先生大丈夫なんですか?」

「ん?なにがか?」

「お金ですよ。バカにならないんじゃ?」

「大丈夫だ。金ならあるからな」

 

その理由が、わかる気がする。それを聞いたが最後、俺は恐らく悲しむことになるだろう。

 

新幹線の席は、俺と陽乃が隣同士で、その前に先生が一人という順番になった。

 

新幹線に乗るなり、陽乃は窓側にいる俺にもたれかかってきた。

 

「おい、なんだ?」

「なんだじゃないよ。…だめ?」

 

うっ、上目遣いでみてくるなよ。ドキドキするだろ…

 

「ねえ、八幡」

「なんだ?」

「…ううん、なんでもない」

「そうか」

 

俺は陽乃の髪の毛から臭ってくる柑橘系のいい匂いと、柔らかい体にかなりドキドキしていた。

やめてって、俺の心臓を爆発させる気かこいつ??

こころなしかすっごい密着してくるし。

と、腰の方に手を回してきた。まるで俺にしがみつくように。

 

「…八幡、好きよ」

「…ここでいうなよ」

「ふふっ、いいじゃないどこでも」

「俺の心臓と羞恥心が持たない」

「壊しちゃっても、いい?」

 

小悪魔系の笑顔でそう言ってきた。もうだめだ。こんな笑顔を見せられちゃ…

そうして俺たちの顔が迫って…

 

「んっ」

 

軽く口付けをした。

 

「えへ、どう?」

「あ、ああうん」

「ふふっ、壊れた?」

「あ、あん」

 

ちょっとあかんくねこれ?いややべーわー、これやべーわー。

あーあーあー!と叫びたい。

 

と、陽乃がさらに俺に寄りかかってきた。と、

 

すーすー。

 

規則正しい寝息が聞こえてきた。あ、寝たのか。ほんと荒らすだけ荒らして寝るなんてな。

ちょっと寝顔を見たい気分になったので、すこし見ることにした。

 

…整った顔、艶やかな唇…

男を誘惑させるには充分な条件が揃っていた。

 

しばらくしても、すーすー、という寝息を聞きながら寝顔を見ていた。

おっと、なんか俺も眠くなってきた。

俺は徐々に眠りの世界に入っていった。

完全に入る寸前に陽乃の口から聞こえた寝言がある。

 

「…ごめんね…八幡…」

「え、?」

 

ほぼ眠りに入りかけていたので真意を脳で考える前に、俺は深い眠りに入った。

 

 

続く




次回投稿は8月3日19時頃です。


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歴史のある街でも、平塚静は変わらない。

「八幡、おきなさい」

「う、うーん…」

 

うっすらと目を開けると、陽乃の顔がドアップで迫っていた。

 

「…なんだ?」

「もうつくよ、京都に」

「え?あ、ああ。ん?京都?京都でなにをするんだ?」

「静ちゃんの思い出の場所だって。もう京都だからおきなさい!」

 

まだ寝たいと言う思いがあったが、ほかの乗客も手荷物を片付けだしたので、俺も降りる準備を始めた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

京都駅に降り立つと、さすがに人が多かった。

人に押しつぶされそうになりながら、なんとかロータリーまで出てきた俺達一行。

 

「うーん、久しぶりだなー京都は」

「で、なにがあるんですか京都には?」

 

あまりにももったいぶるので、俺はまだ聞いてなかった真意を聞くことにした。

 

「ここは私が大学4年間をすごした地でな。思い出に残ってるのだよ」

「え?それだけですか?」

「まあ最後まで聞け。ここには君達にすごく関係のある場所があるんだよ」

「わたし達の?」

「うむ。だから君達をそこに連れていく。だが、今日はもう遅いから一泊する。駅前のホテルを予約してあるんだ」

ホテルまで、俺たちは徒歩で移動することになった。

京都の街はなんだか歴史風情を損なわないようにということで、茶色の建物がおおかった。ローソンも茶色ってのは本当なんだな。

 

歩いて五分ほどでホテルについた。

周りにもたくさんホテルがある中の一つの白いホテルに俺たちははいっていった。

「予約していた平塚だ」

「少々お待ちください。……はい、確認が取れております。三名様でよろしかったでしょうか?」

「うむ」

「わかりました。ではお部屋の方は503号室が平塚様。504号室が雪ノ下様。505号室が比企谷様でよろしいでしょうか?」

「うむ」

「ではお部屋までホテルマンの方が御案内いたします」

 

受付の綺麗な女の人を見ていると、陽乃からものすごい笑顔で横腹を抓られたので、すっと、目を逸らした。

だって怖いもん笑顔が…

 

「お荷物、お持ちいたします」

 

そのホテルマンは男の人だったので、陽乃は元通りの表情に戻った。よかったー。

 

部屋の中に入ると、ベッドが一つあり、あとはテレビとシャワールーム、それから小さな備え付きの冷蔵庫があった。

少し疲れたのでのんびりとベッドで寝そべりながらテレビを見ることにした。

でも、面白いテレビがなかったからスマホをいじろうと開くと、小町からメールが来ていた。そのメールは、

 

「「お兄ちゃんがんばってね!陽乃さんとの仲が深まるように遠くから応援してるからねっ!」」

 

…寝るか。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「うーん…」

 

目を覚ました俺はスマホを見たら三十分ほど寝ていた。

もう七時になっていたのでそろそろお腹が空いたのでなにか食べようと部屋の外に出たら、

 

「あら八幡、ちょうどよかった。今呼びに行こうとしてたのよ」

「そうか。俺もちょうど腹減ってたんだ」

「外で静ちゃんが待ってるわ」

 

陽乃は自然と腕を絡ませてきた。

そのまま外に出たら、

 

「…ふうむ、イチャイチャするのは構わんが、なるべく慎めよ」

「はぁーい!」

「…すみません先生げほっ!」

「…さあいこうか」

 

ごめんなさい先生。そういう意味で言ったんじゃ…いや、そういう意味でいいましたごめんなさい。

 

 

連れてこられたのは和食の店だった。

 

「ここは有名なところでな、一度連れてきたかったんだ」

「へえー」

 

店の壁とかには、有名なサスペンス女優や、サスペンス帝王とかのサインが貼ってあった。

 

一つ一つのテーブルが個室になっていて、中に入るとお座敷になっていた。

俺と陽乃が並んで座って先生が俺の前に座った。

 

「メニューは勝手に運ばれてくるからな。この店で一番美味しいやつだから安心しろ」

「はい」

 

素っ気なく対応したけど、心の中ではすごく楽しみにしていた。京都の本場の和を楽しんでみたいからだ。

 

「お待たせいたしました。前菜にございます」

 

まず、前菜が運ばれてきた。今回はフルコースなのかな?

 

「あ、生ビールを一杯たのむ。メインと一緒に持ってきてくれ」

「かしこまりました」

 

ビール飲む気かよ。そのままどんどんすすんでいって愚痴大会とかにならないといいけど…

 

ちょうど前菜を食べ終わった頃、再びガラリとドアがひらいた。まるでタイミングを見計らったかのようにきたので、俺は驚いていた。これぞおもてなし!

メインの料理が運ばれてきた。メインはお刺身からお肉まで豪勢なものだった。これ相当高いんじゃ…

 

「それではごゆっくりお楽しみくださいまし」

 

店員が出ていったタイミングで俺は平塚先生に、

 

「あの、これ相当高いんじゃ?」

「まあ気にするな。それより食べようじゃないか!美味しいぞここは」

 

ぷはーっと、一緒に運ばれた生ビールを美味しそうに飲みながら言っていた。ほんとに愚痴大会になりそうな予感…

 

「ねえ、あんまり飲ませないようにしないとね…」

 

ここで、陽乃がこそっと耳打ちしてきた。陽乃も感じているようだな。今日は飲むと。

 

 

 

一時間後。

 

 

「まぁーったく!なんでどいつもこいつも結婚、結婚、結婚っ!」

「まあまあ先生。あまり騒がないように…」

「うるさいっ!あんたたちもイチャイチャとっ!」

 

平塚先生の愚痴大会が始まったのは言うまでもない。

 

 

続く

 




次回投稿は8月5日19時頃です。


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彼と彼女の関係はこのまま…。

結局平塚先生の愚痴大会につき合わされて、ホテルのロビーに帰ってきたのは、食事を始めてから二時間後の10時だった。

 

「じゃ私は静ちゃん寝かせとくから」

「わかった」

 

酔いつぶれてまともに立つこともできず、陽乃の肩を借りている状態の先生はなんだか見ていられなかった。

俺は気分転換にコンビニに行くことにした。

 

 

俺は中に入って、雑誌コーナーで立ち読みすることにした。

俺は普段ほとんど読まない週刊誌を手に取った。気分転換にたまにはいいか。

 

書いてある内容は芸能人関連のゴシップ記事やらで、正直あまり俺的に面白くなかった。

本を閉じようとした時、ふと目の前に気になる記事が見えた。

 

「「京都のとある寺で怪奇現象?突然聞こえる誰かの声?」」

 

その記事は8行ほどの小さな記事だった。俺は普段ならスルーするようなタイトルにもかかわらず、なにか気になりその記事に目を通した。

 

「「噂によれば、そのお寺の外れにある山小屋で聞こえるらしい。そしてその山小屋に入ると誰か人の声が聞こえるらしい。現に何人かが入ったらしいが、聞こえた人と聞こえなかった人がいるらしい。そして、その声が何を言っていたかというのは詳しくはわからないが、とにかく声が聞こえたらしい。気になる人はぜひ行くことをオススメします!」」

 

…どうせ嘘記事だろ。この手の記事は嘘がほとんどなんだよな。見て損したぜ。

一応、一緒に乗っていた山小屋の写真を見ると、なんだか見たことがあるような感じがした。

俺は週刊誌を本棚に戻して、ドリンクコーナーに移動した。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

マッカンがなかったので、いくつかのマッカンの代わりの甘そうなコーヒーとパンを持って自分の部屋まで戻ってきた俺は京都のテレビ番組をみながらボーっとしていると、部屋のドアがノックされた。

 

「はい」

「私よ。あけて」

 

俺は素直にドアを開けると、陽乃は少し疲れた顔をしていた。きっと平塚先生がめんどくさかったんだろうな…

 

「ふぅー、疲れたー。ほんと静ちゃんたら、あの後も愚痴言ったのよー。三十分くらい」

「それは…ご愁傷様です」

「なによー、人ごとみたいにー。そのコーヒー一つ頂戴。甘いものがほしいわ」

「ほい」

「ありがと」

 

俺と一緒にベッドに座って、陽乃はコーヒーを開けた。コーヒーを開けて、ごくごくと飲むその姿を俺はガン見してしまった。

 

「…どうしたの?」

「え?いやなんでもない」

「でもじっと見てたよね…。あ!もしかして、見とれてたとか?」

「…そんなわけないでひょ?」

 

のぉーーーっ!噛んでしまったー!これでバレバレじゃん!見とれてたってことがっ!頭壁に打ち付けたいー!

 

「…なにしてんの?」

「なにって?頭を壁に打ち付けてるだけだけど?」

「いや、だからなんでそうしてんの?」

「煩悩を打ち捨てるためだ」

「…ふーん」

 

陽乃はそういった後に、一際にやっと嫌な笑みを浮かべると、

 

「えいっ!」

「ちょ、おまえなにしてんの??」

 

陽乃は俺の背中に抱きついてきた。ちょ、まってこれはやばい。その、当たってるって、背中に柔らかい二つの物がっ!

 

「八幡なにしてんの?」

「煩悩を打ち捨てるためだ」

「いや、さっきよりも激しすぎでしょ?」

 

そのとおり、俺は頭が割るくらい激しく壁に頭を打ち付けていた。痛てぇー…

あまりに痛いので壁に頭を打ち付けるのはやめることにした。

 

その後は二人とも並んでベッドに座って、テレビを見ていた。

テレビ番組は正直あまり面白くなかった。関西の番組だから面白いのがあるのかと思ったのだが。

 

「なーんかつまらないねー。面白いのないかなー?」

 

いろいろチャンネルを見てみたが、どれもつまらないものだった。陽乃の顔はほんとにつまらなそうな顔をしていた。

俺はここでずっと気になっていたことを聞こうとしていた。

 

「なあ陽乃」

「ん?」

「なにかあるのか?」

「へ?なにが?」

「だからさ、お前今日なにかを話したげな感じだっただろ。ここ来てからはそんな雰囲気出してなかったけど、朝の車の中とかでさ、なにか言いたそうな感じだったから」

「…」

 

その話題を出した途端に、陽乃は押し黙ってしまった。

 

……。

 

しばらく陽乃は無言だったが、俺の方をぱっと向くと、

 

「…」

 

また無言になった。そのままお互いに見つめあっていた。俺は目を逸らしたかったが、ここで目を逸らしたらだめだと思い、なんとか陽乃の目を見ていた。

 

「…」

 

陽乃はそのまま俺の方に顔を近づけてきた。

そのまま段々とお互いの顔が近づいていって…

 

「…まてよ」

 

俺は陽乃の顔を抑えた。

 

「…なんで?」

「俺の質問に答えてないだろ?」

 

もうなにかを隠していることはわかった。そしてそれだけ言いずらいことなのだろうということもわかった。陽乃がそんなことを隠すなんてよっぽど重要な事なのだろうと思った。それだけにどうしてもその事を俺は知りたかった。

 

「…」

 

陽乃はまた押し黙ってしまった。

俺はどうしても聞きたかったので、おい、と声をだそうと陽乃の方を向くと、

 

「おねがい、絶対にいうから。でも、今は、言えない。でも、絶対に、然るべきときには、いう、から」

 

陽乃は涙目だった。声を詰まらせながら言ってきた陽乃をこれ以上追求することは出来なかった。

 

「はち、まん」

「…なんだ?」

「キス、して」

 

そのままお互いの顔が近づいていって…

 

今度こそキスをした。

その後も何回もキスをした。陽乃はいつもよりも俺を求めるように、キスをしてきた。俺もそれに精一杯答えようとしていた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

目を覚ますと、外が明るかった。

昨日は陽乃と何回もキスをして、そしてそのまま寝た。

ふと寝返りを打つと、

 

「おはよう、八幡」

「…ああ、おはよう」

 

ちなみにまだ寝ぼけていた。でも段々と頭が覚醒して行って…

 

「なっ!お前なんでここで寝てるんだ??」

「なんでって、あのまま寝ちゃったじゃない」

「え?そうだったか?」

 

そういえばそんな気がする。何回もキスをして、なんだか眠くなっていって、陽乃のお休みなさいっていう声が聞こえたような…

とにかく、マッカン飲みながら目を覚まそう。

ふぅー、うめーマッカン。

 

「八幡の寝顔、可愛かったなー」

「ぶふぅー!」

 

飲んでいたまっかんを吹き出してしまった。なにを言ってるんだあなたは。

 

「ねえ、今何時だと思う?」

「いやわからん」

「12時よ」

「…はあ?」

 

時計を確認すると、ほんとに12時だった。まじかよ、寝すぎだろ俺たち。

 

「静ちゃんもまだ寝てるみたいだしねー。起こしにいく?」

「さすがにな。ここに来た目的も果たしてないし」

「そうね、じゃ、呼んでくるわ」

 

そういって陽乃は立ち上がって部屋を出ていこうとした。

 

「んっ」

 

…出て行く間際、俺にキスをして。

 

「お目覚めのキス。これで完璧に目が覚めたでしょ?」

「…バッチリ目が覚めたよ」

「ふふ、よかった」

 

そういって、部屋から出ていった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「頭痛い…」

 

平塚先生は二日酔いに苦しんでいた。そりゃ、あんだけ飲んで、あんだけ愚痴ってたんだからな。

 

「それで、今日はどこにいくんですか?」

「ああ、寺だ。私の思い出のな」

「どこにあるんですか?」

「まあ、ここから電車で30分ほどかな」

 

俺達は京都駅から在来線に乗って目的地まで出発した。

陽乃はニコニコしていたが、時折ふと、表情が暗くなることもあった。

 

ガタンゴトン

 

電車の動く音と、車内アナウンスをひたすら聞きながら電車に揺られること30分。目的の駅についたようだ。

 

電車から降りると、華やかな市街地とは打って変わって田舎だった。

周りには田畑が広がり、平和な地帯だった。山の頂上にはわずかに雪が残っていた。

そして駅から五分ほど歩くと、

 

「え?この山に登るんですか?」

「そうだ。といってもすこしだけだぞ」

 

冬だから暑いというわけではないのだが、さっきみた雪が頂上に残っている山に登るというのを考えただけでゾッとした。

 

「寒いねー」

 

そういって、陽乃はおれの腕に絡ませてきた。しかも相当体を密着させて。

俺はあえてこっちを向いている平塚先生を見ないようにした。

 

 

そのまましばらく登ると、脇道にはいっていった。

そのまま石の階段をのぼっていくと、お寺についた。

 

「ついたぞ」

 

そのお寺は少し小さめで周りが山なので、境内には落ち葉が沢山落ちていた。

 

「ねえ、ここになんの思い出があるの?」

「ここは不思議な寺なんだよ」

「…え?」

「まあ正確にはこっちにある山小屋なんだけどな」

 

というと平塚先生は脇道にむかって歩いていったので俺たちもその後ろをついていった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

先生についていくと、山小屋があった。大きさは小さめの平屋だった。

俺はその山小屋に見覚えがあった。昨日コンビニでみたあの山小屋そのものだった。

 

「あの、ひょっとしてこの山小屋で声が聞こえる…とかですか?」

 

俺は一応聞いてみることにした。

 

「そうだが、なぜ知っているんだ?」

「え?マジですか?」

「なんで八幡しってるの?」

「昨日コンビニで週刊誌を見たんだよ。その時にここの記事が乗ってて」

「そうか…。まあとりあえず入ろう」

 

そういうと平塚先生は小屋の中に入っていった。

 

中に入ると、暖炉が目に入った。それから、

神棚とお札があった。

ん?なんか見覚えがあるぞ。はて、どこで見たのだろうか?

 

「声なんて聞こえないわよ」

「やっぱり噂なんだな」

「…聞こえるかもしれないぞ」

 

平塚先生はいつにも増して真剣な表情を浮かべていた。

 

と、

 

――――――きたか。

 

「え?」

「ん?どうしたのだ?」

「あ、いや、えーと」

 

――――――久しぶりだな、少年よ。それから…

 

「??」

 

何だこの声は?まさか、あの噂は本当なのか?

と、陽乃がさらに腕にしがみつくようにしてきた。

陽乃を見ると、明らかに動揺していた。…まさか。

 

「なあ、お前も聞こえてるのか?」

「八幡も??」

「ああ」

 

でもこの声、どっかで聞き覚えがあるような…

 

――――――さて、そろそろだな。あの時言った時まで…

 

あの時言った時まで?どういうことだ?

ん?まてよ、この声、それからこの場所、それから…

 

――――――思い出したのか?記憶はなるべく封印をしたのだがな。まあどちらにせよ後少しだ…

 

 

「ねえ…」

「ああ…」

 

――――――後少しで不幸になるが…その後は君たち次第だ…

 

 

それっきり声が聞こえてくることはなかった。

俺は思い出したことがある。そうここは、あの時の、

体育祭の日に見た夢の中の出来事にそっくりだった。いや、もしかしたら記憶がどうたらとか言っていたから忘れているだけなのか?

そういえば夢の中だともう一人のあのセミロングの髪の女の子がいたが…まさかな。

 

「ねえ八幡」

「なんだ?」

「私、ここに来たことある」

「は?」

 

これには俺だけではなく、平塚先生も驚いていた。

え?どゆことなの?

 

「私、昔来たことあるここに」

「それって、どういうことだ?」

「ここであの声を聞いた。私はその時にあの声に言われたの…」

「なにをだ?」

「んー?よく覚えてないけど、6年後不幸になる…とか」

 

あれ、それって俺が言われたことじゃ?

 

「まて、お前声が聞こえたのか?」

 

平塚先生がえらく驚いていた。まあ声を一番聞きたがっていたのはあなただもんね。

 

「うん、でもいったい声が聞こえるとなにかあるの?」

「声が聞こえると幸せになるとかという話があるんだ」

「え?でも私の記憶だと不幸だとか…」

「ふむ、そうなんだがおかしいな…。私はここで声を聞いて、幸せになるという予定が…」

 

結局それかよ。ほんと誰かもらってやってくれよ…。

 

でも陽乃と言われたことが同じとはどういうことだ?

 

「…不幸か。なるほどね」

 

陽乃はなにかを納得したような表情をしていた。そして陽乃はいつになく真剣な表情をして、

 

「あのね、実は言わないといけないことがあるの」

「「え?」」

 

俺と平塚先生は同じタイミングで反応した。

 

「…私ね、高校卒業したら…」

 

なんだ?一体何を言いたいんだ??

 

「私、海外に行くの」

 

「…は?」

「言った通りよ。ずっといいたかったんだけど…ごめんね言い出せなくてね、あはは…」

 

なにいってんだ?え?

 

「ごめんね八幡、八幡とはほとんど会えなくなるんだ…ほんとにごめんね。…不幸ってこのことなんだろうね…」

「それってどういう」

「私思い出したんだ、あの時私は小学6年生だったの。そこから6年後って…」

「…今じゃねーか…」

「うん…」

 

そんな…うそだろ?何が幸せだよ…。悲しみしかないじゃないか…。

 

「…そうか、陽乃だから君は進路希望を出さなかったのか…」

 

平塚先生でさえ知らなかったことってこれかよ…。

何だこの気持ちは…。なにかできないのか俺は??

そして俺もその、声に同じ事を言われたってことも引っかかっていた。

そういえばあの時、横にはセミロングの女の子もいたような…。そして俺もあの時は小学6年生だった。

…まさかな。そんな偶然ないよな…。

 

「とにかく、もう時間がない。電車に乗らないと…」

 

俺達はとにかく山小屋から出ることにした。一体なんなんだこの山小屋は。それからあの声に言われたこと、

 

――――――後少しで不幸になるが…その後は君達次第だ…

 

俺はこのことを思い出していた。一体あれはなんなのか?俺達に言っていることなのか?

というか、なんでこんな超常現象がおこってるんだ?訳が分からない。

 

 

俺達は無言のまま電車にのり、新幹線にのり、千葉までとにかく無言で帰った。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

家に帰ってもこの気分は変わらなかった。

小町からなにかあったのか?と聞かれたが、なんでもないとだけ言って部屋に閉じこもった。…このあと喧嘩が始まるかな…。でもそれすらどうでもよかった。

 

 

学校にいっても陽乃と話すことはなかった。お互いに何か気まずく、話せなかった。

 

そのまま終業式まであっという間に過ぎた。終業式の日、俺は放課後に職員室で平塚先生に呼ばれていた。

 

「あの、なんですか?」

「なんですかじゃないだろ。わかっているだろ?自分でも」

 

俺は目を伏せた。自分でもわかっていた、なぜ呼ばれたか。

 

「最近、陽乃と会っていないようだな」

「…はい」

「なぜ会っていないんだ?」

「それは…」

 

気まずいから…とはいえなかった。

 

「なあ、比企谷」

「…はい?」

「…捕まえないと、後悔するぞ、これから先」

 

先生のその言葉は妙に重たかった。

でも、俺にはその言葉だけで充分だった。

 

「…すいません先生。俺、もう一度話してみます」

「…うむ、お前ならそういうと思ったよ。私がいいたかったのはこれだけだ、帰っていいぞ」

「…いつもありがとうございます、先生」

「…うむ、お前も変わったな比企谷」

「え?」

「いや、やっぱり成長していくんだな、どんな奴でもな」

「それ、どう言う意味ですか?」

「そのままの意味だよ」

 

先生は笑いながら言ってきた。

 

「そういう先生も、早く結げふっ!」

「…お前はそこも成長させろ」

「…すいません」

「まったく、早く帰れよ」

 

そのまま俺は職員室を出ていった。

捕まえるか…。そうだな、陽乃としっかり話さないとな。

俺は心に固く決意した。

でも、一つだけ気になることがあった。

今日の終業式、陽乃を見ていなかった。それどころか、三日前から陽乃を見ていなかった。

 

 

 

続く




次回投稿は8月7日19時頃です。


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四章
クリスマスの夜にはサンタがやってくるのかもしれない。


世間はクリスマスムードで浮かれている中、俺はとても暗い気分だった。

それになんだかもどかしい。なぜならこの日までまったく陽乃と連絡が取れなかった。

 

「はあ…」

 

毎日ため息しか出ない。今日も電話をしたがでなかった。

一体何をしているのか、まったくわからない。

そして俺もなんでこんなに何回も電話をかけているのか。いつもなら諦めているのだが…。

 

もう夜だ。受験前だというのに全く勉強する気になれなかった。

…明日はクリスマスか…。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

家には俺以外誰もいないクリスマス。今までならなんともなかったはずなんだが、今年に限っては違うようだ。やっぱり俺の中での陽乃が日に日に大きくなっているということなんだろう。

 

「陽乃、どこにいるんだ…」

 

こうして独り言を毎日のように言っている。

もう外は暗い。部屋に戻って寝よう…。

 

ピンポーン

 

…だれだこんな時間に。無視しようかと思ったが、

 

ピンポーン ピンポーン

 

…だんだんいらついてきた。誰だ?こんなにチャイムを鳴らすのは。

 

「今出ますよ」

 

俺は不機嫌マックスの声でそういうと玄関に向かった。

 

まだチャイムを鳴らしてるのか。

 

「…はい」

 

この世のものとは思えないイライラマックスの声を上げながら玄関を開けると、

 

「やっはろー八幡ー!メリークリスマス!」

「…え?」

 

陽乃がそこにいた。その顔はニコニコしていて、俺は拍子抜けしてしまった。

 

「な、なんでお前…」

「なんでって、クリスマスだからに決まってるでしょー??」

「いやお前…」

「まあまあ。お邪魔しまーす!」

「お、おい…」

 

陽乃は強引に入ってきた。俺はいろいろ聞きたいことがあったが、それは中で聞くことにした。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「外はクリスマスムードでいっぱいなんだよー!」

「そりゃクリスマスだからな」

「やっぱりクリスマスっていいよねー」

「そうか?俺は好きじゃないけど」

「なんで?」

「だって街中うるさいし、リア充がたくさんいる」

「ふふっ、なにそれ」

 

さっきから他愛もない話をしていた。その間、陽乃はとにかくニコニコしていた。

俺は話は合わせていたが、心の奥では無性にイライラしていた。

すると、陽乃は突然ふっと表情を真面目なものに変えて、

 

「…なにか聞きたいことあるんじゃないの?」

「…当たり前だろ」

「ふーん…」

「ふーん、じゃねーよ。なんで何日間も電話無視してたんだ?」

 

俺はいらいらが爆発して声を荒らげた。陽乃はここに来てまで上から目線を貫くのかと。悪いのは俺ではない。電話に出なかった陽乃が悪いはずなのに、なぜこうまで傲慢な態度を取れるのかが分からなかった。

 

「…」

「黙ってないでなんとか言えよ」

「…八幡、落ち着いて」

 

落ち着けるわけねーよ、と言おうと思ったが寸でやめた。俺は少し冷静さを取り戻さなければならないと気づいた。このまま感情任せにしても意味がない。

 

「わかった…。でも、なんで電話に出なかったんだ?」

 

今度はすこし優し目の声で聞いた。すると陽乃は、

 

「…実はイギリスに行ってたの。ここ数日」

「え?」

「向こうでいろいろとしなければいけないことがあって、その関係で電話にも出れなかったの…。ごめんなさい」

 

俺は言葉が出なかった。俺はイライラしていた自分が恥ずかしくなった。

 

「…そうか」

 

これしか出なかった。その後お互いに黙ってしまった。

 

 

「ねえ八幡」

「なんだ?」

「ケーキ、買ってきたんだけど、食べる?」

 

何分か沈黙が流れたあと、陽乃は手荷物で持ってきたケーキの箱を差し出して来た。

 

「…おう」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

ケーキを食べたあと、俺達はテレビを見ていた。

正直全く面白くなかったけど、二人ともじっと、テレビを見ていた。

 

「…ねえ、八幡」

「なんだ?」

「イギリス、いいところだったよ」

「そうか」

 

陽乃はテレビの方を見ながら話していた。俺の方からは表情はみえなかった。

 

「イギリスの新居ね、街のなかにあってすごく雰囲気良いんだよ」

「そうか」

「人々も良さそうな人がいたよ」

「そうか」

「街中アーセナルファンばっかりだったよ」

「ロンドンに住むのか?」

「すごいね、それだけでわかったの?」

「まあな」

「大学もすごい綺麗でね、楽しそうだったよ」

「そうなのか」

「ねえ、八幡」

 

そういうとこっちを向いた。

 

「離れるのって…つらいよね?」

「…ああ、あんまりそういう経験ないからわかんねーけど」

「はは。そういうと思ったよ」

「どういうことだよそれ」

「そのままだよ。でも、やっぱり辛い…のよね」

「…」

「ねえ八幡」

「わかってる」

 

俺は陽乃を抱きしめた。抱きしめたとき、陽乃は震えていた。

おそらくこの数日俺も辛かったが、陽乃も辛かったんだろう。俺はそれにもかかわらずイライラしてしまっていた。その後ろめたさもあって、陽乃を強く抱きしめた。

 

「…痛いよ、八幡」

「あ、ああわりい…」

「許してほしい?」

「ああ」

「じゃ、わかってるよね?」

「…おう」

 

俺達の顔が段々と近づいていった。

 

 

 

続く

 

 




次回投稿は8月9日19時頃です。


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この時、この瞬間が幸せ。

俺たちはリビングでテレビを見ながらまったりしていた。

陽乃は俺の肩に寄り掛かっているので、髪の毛から発して来るいい匂いが鼻に入ってきた。

とにかくまったりと、のんびりと過ごしていた。

ここ数日、お互いにこういう時間は取れなかったのだと思う。俺は陽乃と連絡が着かなかったからなんだかそわそわしていたところがあったし、陽乃はイギリスで準備やらいろいろあったからだ。

ほんとにまったりとしている。さっきまではキスとかもしていたのだが、今は落ち着いていた。

 

「そういえばさ」

「なに?」

「京都のあの小屋のあの声、聞こえたんだろ?」

「うん」

 

ほんとあの声ってなんなんだろうか。笑い飛ばせるような感じでもないガチな感じだし、なんなんだろうな。

 

「冗談みたいな感じよねー。なんだか映画とかのフィクションを見ているようで」

「そうだな。でも現実、なんだよな 」

「ほんとよねー。ホントは後ろで誰かいってたとか?」

「それだったら静ちゃんもきこえてるはずだよー 」

「そうだな。たしか聞こえる人と聞こえない人がいるとか言ってたなー」

「そうだねー、静ちゃん必死だったもんねー」

「ほんと、誰かたすけてやってほしいよあの人を。見る度にひどくなってる気がするよ」

 

そういうと2人で笑いあった。アハハハってね。…平塚先生、すいません。

 

 

「ねえ八幡」

「なんだ?」

「キスしよ」

「ぶふぅー!」

 

思いっきり吹き出してしまった。落差がっ!会話の落差がっ!

 

「だめなの?」

「…いや、だめじゃない」

 

くそっ、そんな上目遣いで見られたら断れるわけ無いだろ…。世の男全員を虜にする目だぞ。

そうして俺たちは本日5回目のキスをした。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

再びリビングにてまったりしてる俺達。

相変わらず陽乃は寄りかかってきて、さらに腕まで絡ませてきている。

俺は恥ずかしいという思いは家の中なのでまったくなかった。それよかウェルカム状態である。

こうしてまったりとするのはいいな。しかも好きな人とまったりというのはまた一段と。

こうして二人でテレビを見ているだけなのに満足できるこの空間は幸せ以外の何物でもない。

出来ればこのままずっと…と思っているのは俺だけなのかと思い陽乃の方を向くと、陽乃はニッコリと笑った。なに?なんだか心の中で考えてたことを見透かされたような気がした。それはそれで悪くはない。なんか陽乃のものになってるよなー俺。

考えてることとかすぐ見透かされて一歩先を行かれる。陽乃はそこがすごい長けてる。俺はそういうところにも惹かれているんだよなー。やばい本格的に惚れてしまったな俺は。

でもそんな生活もこれからは出来なくなるのか?もちろんイギリスに行くんだから当然毎日は出来ない。

もしかしてほとんど、いやまったく会えなくなるなんてことはないだろうか。いや、それはないだろう。いやだが、いろんな話を聞く限り陽乃の家は普通の家とは違うみたいだからもしかしたら…。でもそうしたら俺は一体どうなるんだ?俺は一体…

 

「八幡、どうしたの?」

「え?あ、ああなんだ?」

「いや、なにか考えてるようだったから」

「ん?あ、まあな…」

「それってさ、これからのことかな?」

「え?あ、いやまあ、その」

「やっぱりね」

「いつも思うんだが、なんでわかるんだ?」

 

ここでも見透かされたので、思い切って聞いてみることにした。

すると陽乃はニヤリと笑って

 

「それは、私が八幡の恋人だからよっ♪」

「な、なっ」

 

なんて歯の浮くことを言うんだ。しかもニヤニヤしながら…。絶対わざとだろこれ。

 

「でも、冗談じゃなくてホントのことだよ。今まで間近で八幡を見てきたからこそこんなにわかるのよ。まあ今までの経験もあるけど」

「ふーん」

 

まあ確かにこうして今でも真横にいるし、今までもこうして一緒にいた。この一年間常になんだかんだの理由で横にいたのだからな。

そういえば、今もなんか経験とかいってたけど、今まで陽乃ってどんな生活を送ってきたんだろう。無性に気になったので俺は陽乃に聞くことにした。

 

「なあ陽乃」

「なに?」

「今までさ、お前ってどういう生活をしてたんだ? 」

「どういうって?」

「いやだからさ、俺と合う前とかどんな生活をしてきたんだ?ほら、お前の話とかからなんか普通の人とは違う生活をしているような感じがしてな」

「ふーん」

 

なんだよ、その含みのある声は…。なんか不気味。

 

「聞きたい? 」

「…ああ」

「そんなに聞きたい?」

「ああ」

「そうか、そうだね。八幡には話したいしね」

 

そういうと陽乃は話を始めた。

 

 

 

続く



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彼は自分の弱点にようやく気づいた。

連投です。
それと、陽乃の過去のことに関してのことは二章第二話に投稿してあるので割愛させていただきます。
今回はその二章第二話の内容を前提として進めていきます。


俺は色んなことを聞いた。

なぜ陽乃が人になれているのか。なぜ陽乃が他人に求められる自分を演じる為に仮面を被っているのか。

正直俺は衝撃と現実味のなさが入り交じった複雑な感情を抱いていた。

ある程度は予想していた答えが帰ってきた。だけど、実際に聞くとやはりすごいというか、そんな経験をしているという衝撃と、俺らのような庶民が関わることのないような内容なので、まったく現実味が沸かない、まるで映画を見ているような感覚が入り交じっていた。

だけど一つだけ俺は地に足がついた感情があった。

 

「なあ陽乃」

「なに?」

「陽乃ってさ、これからもそんな生活を送るのか?」

「え?」

 

俺は慎重にならなければいけないと思った。一つ一つ言葉を選びながらそれでも核心に触れていかなければいけない。そう思っていた。

 

「これから先もさ、そうしてこれからも仮面を被ったりして生きていくのか?」

「…仕方ないよ。それが私の宿命だもの。…あ、でも八幡の前だと違うよ!八幡の前では仮面とかなくても話せるから」

 

「そういうことじゃない。そんなプレッシャーが常にかかった状況が続いているんだ。体にもいろいろ負担がかかっているはずだ。いくら俺の前で仮面が外せるからって24時間俺が常に真横にいるわけじゃないだろう?それにイギリスにいったらもう俺と今までみたいに毎日会えなくなる。それよかもっと今よりもプレッシャーというのも掛かってくるし、それに言葉とか文化とかの違いもある。生活環境も変わる。今まででさえ負担がかかっているというのに、追い討ちを掛けるように今まで以上に負担が掛かったらお前は倒れてしまうぞ!」

 

「でもね、もう変えられないの。私はそういう運命なの。いくら好きな人が出来ようが、関係ないの。私はこうして海外に行かされようとしている。ホントは私だって…いきたく、ないのに… 。八幡とずっと一緒に居たいのに…。ごめん、わたしなんだか涙出てきちゃった。あは、ごめんねなんだか。すごいこと言ってるわ私」

 

陽乃は涙を流し始めた。陽乃が涙を流すなんて滅多にない。いや今までなかっただろう。あの時以来だ。体育祭の日に倒れた日以来だ。

いや、あの時とは状況が違う。きっとこんな感じで泣くのははじめてなんだろう。それはこの状況と言葉でわかった。

それだけに俺はすごくもどかしい気持ちだった。なんだか非力な自分がムカついた。こんなに好きな相手が悲しんでるのに。

いや、違うだろ。俺はまたそんな弱気になるのか?いつもみたいに諦めるのか?俺はそんなチンケな男なのか?違うだろ。俺は変わらないといけない。今までならきっとこのまま諦めているだろう。だけど、俺はもうそんな自分のカラを破らなければいけない。なぜならここに守らないといけない人がいるから。環境があるから。そのためなら、もうどうだっていい。どんなに醜くてもいい。だから…

 

「なあ陽乃」

「なに?」

「明日、お前の両親と話す」

「…え? 」

「だから、お前の両親と話して海外に行くの辞めてもらう」

「え、え、え?」

 

俺はさっき聞いた。陽乃の本音を。そして陽乃を守るために、俺は動き出さないといけない。

 

「な、なんで八幡、そんなこと??」

「なんでって、お前のためだよ。それと俺のためだ。俺は今までなら諦めてた。何もできないって。でも俺は変わるんだ。お前のために、お前との生活を守るために」

 

なんだかスケールが大きくなってる気がするが気にしない。

すると陽乃は、

 

「は、八幡…」

「なんだ?」

 

なんだ?引かれたか?こんなに熱くなったおれは見せたことないからな。

でも、陽乃は、涙を流して、それでも、今まで見てきた笑顔をさらに超える笑顔を見せて、

 

「うんっ!私も八幡との生活守りたいよっ。ありがとうね」

 

おれは照れくさくなって顔を背けた。だって今までで一番の笑顔だもんな。そんな顔見せられちゃ、頑張らないわけにはいかないな。

 

 

続く

 

 

 




次回投稿は8月13日の19時頃です。

前回は体調不良により投稿できずすみませんでした。

それと、side~のところをsign~と書いていたのを修整しました。よろしくおねがいします。


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決戦前にすこしひと休みしてもいいはずだ。

「でも、いったいどうするの?」

「どうって、乗り込むんだよ」

「どこに??」

「お前の両親のところに」

 

陽乃を救うために俺は決意したんだ。だから一番効果的な陽乃の両親に会って直接説得してやる、と言おうとしたが、良く考えたらそれは俺の勝手な考えで向こうの都合は全く考えていないことに気づいた。

 

「えーと、そういえば明日両親っているのか?」

「え?ああ、正月まではいるわよ」

「そうか」

 

ならよかった。これで心置きなく行ける。

 

「ねえ、ホントに明日行くの?」

「当たり前だろ」

「…わかったわ。でもうちの両親一筋縄では行かないわよ。特に母」

「…そうなのか」

 

たしかにこの陽乃を操作できるんだからそれだけ大物だってことか。こりゃ俺もなにか作戦とか立てないとな。

 

「具体的にはどういう風に母を説得するわけ?」

「それはその、考えて…あるぞ」

「…絶対考えてないでしょ」

「…はい」

 

たしかに若干勢いで言ったから考えてなかった。…いや結構勢いか。

 

「とりあえず、二人で考えましょ」

「そうだな」

 

俺達は一時間ほど話し合った。どうすれば説得できるかとか、どうすれば陽乃の気持ちが伝わるのかとか。

一時間立つと、さすがに小町が帰ってくるのでお開きとすることにした。

 

「じゃ八幡、また明日ね」

「ああ」

「…がんばろうね」

「もちろんだ」

 

それじゃと最後に言って帰っていった。2人で話し合って朝の9時に駅前集合ということにした。さて俺は明日に向けて早く寝ますかね。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ピピピッ

 

目覚まし音が鳴った。俺はそれを一瞬で止めた。なぜなら目覚ましをセットしていた7時よりも一時間早く起きたから。

今日は朝からドキドキして目が冴えてしまった。ああ、今日か。陽乃の運命は俺にかかってるんだ。

そう思うとやる気がでてきた。と同時に不安感も出てきた。もし陽乃の両親を説得できなかったらどうしようと。

まあ昨日二人で話し合ったし、そうなりそうな場合は手はあるんだけど。

とりあえず、顔をもう一回洗ってこよう。

いや、8回目か。

 

 

顔を洗って、服装も自分の中で一番しっかりしている服の制服着て、よし、準備できた。

あとはこの玄関の扉を開けるだけ。ふう、よし、いこう。

俺は待ち合わせの駅前に向かった。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

駅前にやってくると、あ、もういる。だってまだ約束の30分前だぞ。

 

「よう」

「あ、八幡、おはよ」

 

いつもは余裕の表情を見せている陽乃も珍しく緊張していた。

 

……。

 

二人のあいだになんとも言えない緊張感が漂っている。

そうだ、これから陽乃の両親の元に行くんだ。それに俺初めていくけど大丈夫かな?でも、なんか聞けないな。雰囲気的になんか聞きづらい。

 

「八幡」

「ひゃい?」

 

それだけに、突然話しかけてきた陽乃に対しての返答を噛んでしまった。

 

「なに八幡、緊張してるの?」

「…お前もだろ」

「あら?わかった?」

 

言葉では余裕綽々みたいな感じでいってるけど、手震えてるぞ。

 

「あら?あ、手が震えてるね」

「ああ」

 

俺はこんな状況にも関わらず変なことを考えてしまった。もし今この手を握ったらどうなるのだろうと。

どんな反応をするのだろうと。でも今から決戦だってのにそんなことをしてていいのかよ…。したとして陽乃はどう思うのか。でも、握ってみてー。

そして俺が出した結論は、

 

ギュッ

 

「キャッ?」

 

手を握ると陽乃が普段聞くことができない可愛い声を出した。

 

「え?なんで手を握ったの?」

 

まだ余裕をかまそうとしている。ちょっと俺はさらにいじめたくなった。

 

ギュッ

 

「へ?へ?」

 

そっと、抱きしめた。いやー、なんか小鹿みたいに震えてるなー。きっと想定外もいいとこ想定外の動きをしてきたからさすがの陽乃でも動揺しているのだろう。

 

「な、なんで急に抱きしめたりしたのかな?」

「…」

 

俺は無言のまま抱きしめ続けた。なんだか周りからの目が痛い。そりゃ、朝からこんな熱々なことをしているんだからな。ん?あつあつ?

はっ!俺今してることって結構恥ずかしいことじゃん!陽乃の反応が見てみたいがために抱きしめてみたけど、良く考えたらこれって…。

そう思うと、急に恥ずかしくなってきてぱっと離してしまった。

 

「え?ねえ八幡、どうしたの?」

「え?あ、いや、そのな…」

 

すると、陽乃はハハーンと言うような目でこっちを見て

 

「どうせ、私が震えてたから、抱きしめたりしたらどんな反応するかーとか思ってたんでしょー?」

「う…」

 

全てあってる。そんなに俺って分かり易いやつなのかなー?

そういってると、

 

んっ

 

「????」

 

キスをしてきた。ちょちょちょい!ここ駅前!しかも朝!めっちゃ人見てる!

 

「ぷはあっ!」

 

息ができひん…。

 

「これは、お返しよ」

「はあ、はあ、ひゃい…」

 

くそう、陽乃いじったら倍のイジリで返してくるのか…。くそう、今度から気をつけよ。そうじゃないとこうなるんだ。

てか俺達これから戦いが待ってるのにこんなことしてるひまないだろ。

というか、ここでじっと二人で九時までいるより、集まった段階で出発しとけばよかったのじゃないか?

 

「わたし達こんなことしてる暇なかったね。じゃ、いこうか」

「あ、ああ」

 

ああ、やられちゃったよ。脳内では冷静な判断できても実際に口開くとまだあの感触がのこってるよぉー。

大丈夫かな?俺。

 

 

 

続く




次回投稿は8月15日の19時頃です。


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彼らはついにボスの元へ乗り込む。

ひとしきりイチャイチャした俺達は、今はそんな甘い雰囲気はまったくない。緊張感が漂っていた。

というか、陽乃の両親のことは話でしか聞いてないけど相当手ごわそうだから気合を入れないといけない。

朝からあんなことしてる場合じゃなかったけど、まああのおかげで変な緊張が解けたと思えばいいだろう…。

 

陽乃の家の最寄駅は二駅ほど進んだところだったのですぐ付いた。

電車から降りると肌寒かったけど、心の中は気合十分だった。こんなに心が燃えるのは生まれて初めてだよ。

そして、陽乃が手をつないできた。ふぅ…もうすぐだな。

二人共無言で陽乃ハウスへと向かう。

と、目の前にお屋敷が見えてきた。まさか、あれか?

俺たちはどんどんその大きい屋敷に近づいていって、そしてその家の門をくぐっていった。まじか、こんな家住んでるのかよ。

門をくぐって玄関までたどり着いた。

ごくっ、いよいよか。と、陽乃がつないでいる手をさらに強く握り直してきた。ふぅ、大丈夫だ。しっかり伝えることが出来ればいいんだ。

陽乃は無言で、家の玄関を開けた。

 

「ただいま」

 

少し小さめの声でただいまというと、俺との手を離した。ふう、ほんとにいよいよなんだな。

俺は陽乃の後ろをついていく。やばいな、近づいてるのか。ここはあれだ、落ちつかないと。あくまで冷静に行かないと。

 

しばらく歩くとある部屋の前にたどり着いた。

 

「ここで待ってるわ、お母さんとお父さんが 」

「そうか…」

 

 

そして陽乃がノックをした。

 

「お母さん、お父さんいる?」

「どうぞ」

 

そして、ガチャりとなんだか重そうに見える扉を開いた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

中ではお父さんが立ち上がって迎えてくれた。

 

「やあ、待っていたよ陽乃。それから初めまして、比企谷八幡君。私は陽乃の父だ。よろしく」

「はい、あの、初めまして。よろしくおねがいします」

 

お父さんは人が良さそうな雰囲気を出していた。これがカリスマ性があるというのだろうか。

そして、その客間の真ん中にあるテーブルについているソファーに、お母さんがいた。これまた座っているだけなのにオーラがあるというか、まるでラスボスのような佇まいで、コーヒーを優雅に飲んでいた。そのお母さんはこちらをちらりと、いや、陽乃の方だけをちらりと見ると再びコーヒーを飲み始めた。

 

「話は陽乃から聞いているよ。さあ、二人共どうぞ」

「失礼します」

 

冷静に、冷静に。

俺と陽乃は奥に陽乃、ドア側に俺が二人で並んでソファーにすわった。そして陽乃の正面にお父さん。そしてお母さんは最も奥の頂点の席に座っている。

 

…。

 

少しの沈黙。

今まで俺はこの居づらい空間から逃げたいなんて思っていたけど、今はとにかく事を伝えなければ、慎重に。

この中で一番最初に口を開いたのはお父さんだった。

 

「それで、君たちの話というのはなにかな?」

 

よし、来たか。ここからだ。ここからが本番だ。

さて、俺たちは作戦通りにまず陽乃から話し始める。

 

「あのね、正直に言うと、私の進路のことで話があるの」

「ふむ、どういうことだ?」

「イギリスの留学の話なんだけどね、たしかに向こうに長期休暇の間に行ってみて、凄くいいところだったわ。でもね、私はやっぱり日本にいたいの。たしかに海外に出て勉強するというのも良いと思うわ。それでもね私はやっぱり日本に居たいの。それに…八幡と一緒にいるとすごく安心するの。たったの一年だけど、すごく楽しい一年を過ごすことができたわ。だから…私はこの生活を捨てたくはないの」

 

これは陽乃にしては随分と正直な意見だと思う。普段の陽乃ならばいろいろとけむに巻きながら意見をいうところなのだが、やはりそこは親子ということなのだろうか?

 

「…ふむ、お前が言いたいことはそれだけか?」

「…ええ 」

「そうか。では、比企谷君はたしか陽乃と付き合ってるんだったかな。何か言うことは?」

 

やはり来たか。ここまでは作戦通りだ。俺だって黙ってみているわけじゃないんだからな。

 

「…僕は、陽乃さんの意見に賛成です。僕自身陽乃さんとここまでお付き合いさせていただいていますが、陽乃さんはここまで一人で頑張ってきていました。陽乃さんの能力に疑いはありません。でも、一人で寂しくしているとこも見たことがあります。誰にも甘えられない、そんな陽乃さんの闇も見たことがあります。いつもは完璧な陽乃さんの弱いところも見ています。…たったの一年ですが、すごくお互いにとって内容の濃い一年でした。今ではお互いに支えあっています。しかし、陽乃さんがイギリスに行ってしまうと離れ離れになってしまう。僕もそれは嫌です。それに何より陽乃さん本人が日本残留を望んでいる。そして僕といることを望んでいる。これだけの理由ではダメなのでしょうか?」

 

言い切った。俺の気持ちを。ここまでは順調に来ている。後は…両親の判断だ。

 

…。

 

しばらく沈黙が流れたが、口を開いたのはずっとコーヒーを飲んでいたお母さんだった。

 

「ふむ、あなたがいいたいのはそれだけなのですね?」

 

目線が俺の方を向いていたので少し慌ててはい、と答えた。

 

「そうですか。あなた方の言いたいことはよくわかりました。でもね、陽乃」

「うん」

「あなた、随分わがままになったものね。一体どうしてかしら」

「それは…」

「まあ粗方推測はできますが。それにしてもねー、陽乃がわがままにしたあなたは素晴らしいわね」

 

これは褒められているのか?いや違うな。間違いなく褒められていない。それどころか嫌悪感を抱かれているような態度だ。

 

「まったく、うちの娘たちはなぜこうなのかしらね。わがままになって…。ついに陽乃まで。わかってるの?あなたは雪ノ下の長女なのよ?」

「ええ」

「でもいくら長女といえども、この家のトップではないわ。トップは私なのよ?わかってる?」

「ええ」

「だったら、あなたは私に忠実になるべきではないの?」

「…」

「なぜそこで黙るのかしら?陽乃」

 

二人共真顔で会話し合っている。お互いの目を見ながら。でも、最後の一言を言われてからは陽乃は目を逸らし押し黙ってしまった。そりゃそうだ、あんな冷たい目で見られたらこうなるわな。逆によく耐えてたよ。

これではっきりした。お母さんは独裁者だ。そして陽乃が忠実な部下だ。そして今はその部下が裏切ろうとしている。それに対してこの反応は当然のことだった。

もちろん作戦の中にはこういう反応が帰ってくるだろうとは予測していたが…正直予想外の恐ろしさだった。

そりゃこんな家で育てば陽乃もああなるよ。

それと、こっちに矛先が向けられるのも時間の問題だな。

 

「あなたはどうお考えなのかしら?」

 

ほら来た。ここは、俺が乗り切らないと。陽乃の分まで。

 

「…僕は陽乃さんが、この家が不憫でたまりません」

「え?」

 

お母さんは拍子抜けた表情をしていた。いや、この場にいる俺以外の全員が。当然だ。まさか、こんな攻撃的な出たしで来るとは思わないだろう。でもこれが俺のやり方だ。陽乃には陽乃のやり方があるように、俺にも俺なりのやり方がある。

全員の目線を感じながら、俺は話し続けた。

 

「もちろん、その家の方針というのはどこも違います。僕の家にも方針というのはあります。この家の方針である絶対服従、いわゆる中世によく見られた封建制によく似た方針もありでしょう。もちろんこの家ではそれが正しいことなのだという事でそれを実行してきたのでしょう。でも、時代の流れもご存知なのでしょうか?今では自由が保証されています。ちゃんと法律にも書いてあります。なのに、この家はポツンと時代から取り残されていませんか?もちろんこの家の方針にも敬意を払っていますが、あえて言わせていただきます。このままの方針でこれからも行くのでしょうか?そしてそれは果たして永遠に続くのでしょうか?僕はそうは思いません。だって、この家の方針に極似の中世封建制度は永遠に続いたのでしょうか?続いていないから今の自由が保証された世の中に変わってるのではないでしょうか?時代は流れているんですよ。それに、封建制度を敷いていると、かならず反乱が起こっています。この家ではまさに今が反乱の時です。つまりは今この状況は正しいことなのです。当たり前のことが今起こっているだけなのです。それなのに、あなたはさも俺達が間違っているとだけ主張して自分の非を認めようとしない。結論を言えば、あなたはただの独裁者なのです。自分の娘でさえ部下と同じような扱いしかしていない。少なくとも僕にはそう見えました。これで僕の主張は終わります」

 

俺の超攻撃的な強引な話が終わった。

周りをみると、陽乃とお父さんはぽかんと口をあけ、お母さんは、見るものを凍え上がらせるような冷たい目をしていた。俺は、ここで弱いところを見せてはダメだと思い、じっと、お母さんの目を見た。

 

…。

そのまま互いに真顔で見合う。

何分見合っているかわからない。とにかく真顔で見合っていた。この場には、過去最高の緊張感が漂っていた。

すると、お母さんが口を開いた。

 

「あなたの言いたいことはよくわかりました。ええ、それはよくね。貴方はとにかく私を批判したかったのね」

「…ええ」

「そう」

 

とだけいうと、コーヒーをひとすすりして、

 

「貴方の言葉には敬意なんて感じなかったのだけども」

「そう受け取るならばそう受け取ってください」

 

これは自分でも思うくらい生意気だ。でも、このくらいしないとこの人は聞かないと思う。

 

「あれだけ私に面と向かって批判したのはあなたが初めてよ。すばらしいわ」

「え、」

「褒めてるのよ」

「あ、ありがとうございます」

 

お母さんはコーヒーをもうひとすすりして、

 

「しかも、出会ってまだ数分しかたってないのにあの有様、きっと陽乃から私のことを聞いていたのでしょう。まあそれはいいとして、留学の件だったかしら?本題は」

「はい」

 

お?なんか話がいい方向に?このままだったら…

 

「あれは残念だけどもう変えられないわ」

「…え?」

「もう留学をキャンセルは出来ないわ。陽乃には前に言ったけど、これは決定事項なの」

「そんな…」

 

なんだって?それじゃ俺たちが来た意味は?陽乃をみると動揺もあるが、半ば悟っていたような目をしていた。

…うそだろ、あれだけ頑張ったのに、報われないのか…。くそっ、なにもできないのか俺は。陽乃の為になにもできなかったのか俺は…!くそっ!くそっ!

 

「まだ話は終わってないわ」

「え?」

 

これ以上なにを話すのか?俺は力のない目でお母さんの目をみた。

 

「実は、留学枠がもう一つあるの。それを、貴方にあげるわ」

「…え?」

「聞き覚えが悪いわね。だから、もう一つの留学枠を貴方にあげるのよ。何度も言わせないで。たまたま二つ留学枠があって、だれも志望していなかったからの話なのよ」

 

まてよ、てことはつまり?

 

「そこって、私と同じ大学?」

 

陽乃が久しぶりに口を開いた。その目は正気を取り戻しつつあった。

 

「ええ。あなたと同じ大学よ」

「それって、つまり…」

「でも、条件があるわ」

「条件?」

 

俺も目に正気を戻しながら聞いた。すると、帰ってきた答えは、

 

「偏差値を最低65以上にしなさい」

「65…」

「その程度クリアできなければ、あなたは陽乃にとってふさわしくないわ。わかった?」

「…はい!」

 

俺は力強く宣言した。とにかく、65だ。後少ししかないけど、死ぬほど頑張ってそこまで到達してやる!

 

 

続く

 

 

 

 




次回投稿は8月17日19時頃です。


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彼らは本番に向けて歩き始める。

陽乃の家に乗り込んで陽乃の母親とのバトルが終わり、結果はとりあえず満足行く結果に終わった俺たち。

そんな俺達は今は陽乃の部屋に移動していた。

 

「なんとか終わったな」

「そうね、その代わりに八幡が大変な事になったけどね」

「そう…だな」

 

陽乃を日本に引き止めるという目的は達成できなかったけど、陽乃はそれで満足のようだった。

それなら良かったんだけどな。

 

「あ、そうだ」

「なに?」

「お前大丈夫なのか?日本の友達とか離れるんだろ?」「ああ、大丈夫よ。友達なんていないし」

「…そうか」

 

いつも誰かに囲まれてる陽乃。でもその周りにいる人間はやっぱり友達ではなかったんだな。

 

「ねえ、大学のパンフレットみる?」

「あ?ああ」

 

一通り目を通してみる。へえー、いろんな科目があるんだな。へえー、アクセスもいいし、なかなかいいところだな。

 

「八幡」

「ん?」

「明日から学校がはじまるね」

「ああ」

「なら勉強しないとね」

「まあ、幸い偏差値は文系ならほとんど足りてるし、あとは英語を詰めないと」

「そうね。だから、私が勉強見てあげるわ」

「…すまないな」

 

ふう、明日から頑張らないとな。絶対に受からねーといけないな。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

翌日から俺の勉強会がはじまった。

久しぶりにあの空き教室にやってきた俺と陽乃。

いつもの席に座って、2人でガリガリと勉強している。

でも、陽乃はほぼ完璧というので俺の勉強を見てもらっているというと言った方が正しい。

ちなみに陽乃は、試験の過去問を解いているが、英語で書いてあるのでそこで苦戦しているようだった。

おれもとにかく英語を解いているが、実際に目の前にすると厳しいかもしれない。

 

「分からないとこある?」

「ん?あ、今のところはないよ」

 

これだけの会話しかできないほど切羽詰っている状況だった。とにかく詰め込めるだけ詰め込まないと。

 

ガラララ

 

「入るぞ」

 

平塚先生が入ってきた。でも俺たちは返事をする余裕さえなかった。平塚先生と会うのはあの京都とかに行ったとき以来だったので、様子を見に来たのだろう。

 

「どうしました?」

 

俺は出ていく気配のまったくない平塚先生の方を向いた。

 

「…比企谷、留学するというのは本当か?」

「はい」

「しかも陽乃と同じところだと聞いているが」

「そのとおりです」

「そうか。だから今こうして勉強しているのか」

「はい」

「なら邪魔してはダメだな。これで失礼するよ。

あ、それから比企谷」

「はい?」

「…ほんとにいいのか?自分の意志でいくんだな?」

「…はい」

「…わかった。では失礼するよ」

 

扉をとじて平塚先生が出ていった。そうだ、俺は自分の意志で留学するんだ。

そうだと心に決めつけて、勉強に集中した。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

今日も放課後は勉強だ。

とにかく、問題文が読めるほどにまで英語を叩き込んだ先週一週間。今週からはランクアップして入試問題を解き始めた。

 

カリカリカリカリ

 

ペンの音だけが聞こえる教室内。陽乃も同じく書いている。

やってみてわかったが、想像よりも難しくないというのが感想だ。

まあ俺がハードルを上げすぎただけかもしれないが。ただ、留学の入試問題は普通よりも簡単とは聞いていたが、俺の受ける大学は有名で、さらに受ける科は大学内でも難しいところなので覚悟はしていたが、少し安心したのが感想だ。

でも油断はできない。だからとにかく絶対受かるという自信はつけとかないとな。

 

1ヶ月後の本番まできっとあっという間だろう。だから、とにかく頑張るのみだ。

最近は家でも2時間はしている。幸い俺の弱点の数学と物理とかは試験科目にないからそこは救われた。でも、英文で書かないといけない小論文はそうとうやばい。主に家では普通の科目をして、小論文は学校でわからないところは陽乃に教えてもらいながら行っていた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

のこり一週間となった試験日。だいぶ自信もついてきて小論文も陽乃に聞かなくても書けるほどのレベルになってきた。あとはとにかく書くのみ。来週に迫った試験日に向けてとにかくガリガリと勉強していた。

あと、今週の土日からロンドンに移動することになった。旅費などはすべて向こうの大学もちということらしい。それは俺にとっては金銭的にはたすかったのだが、心理的には追い詰められている。大学が出すということは俺らが期待されているということなのだろう。それを考えてしまうと俺は追い詰められてしまった。

焦りがペンに向けられた。いつもの倍の早さで字を書いている。落ち着かないと、という冷静な判断もできなかった。

とにかく目の前の文字だけしか見えない。受からないと、受からないと、受からないと、受からないと、受から…

 

「…ちまん、八幡!」

「!?」

 

陽乃の叫び声で我に帰ってきた。と同時にまわりがかなり暗くなっていた。冬だから日は短いのだが、暗くなっていくことにまったく俺は気づかなかった。

陽乃の顔は暗くて良く見えないが、かなり心配そうだった。

 

「あ、大丈夫だ。もう暗いな、帰ろうか」

「八幡」

 

そういうと、俺に抱きついてきた。

そのまま無言で俺も抱きしめ返した。ここで陽乃も震えてることに気づいた。

 

「大丈夫よ。私もそう感じてるから。八幡だけではないわ。私も怖いのよ」

「ああ」

「だから、君だけじゃない。もう一人ではないわ。だから大丈夫よ」

 

二人は強く抱きしめあった。俺はそれがとても心地よく、そして心が落ち着いていった。

 

 

続く




次回投稿は8月19日19時頃です。


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いざ、決戦の舞台へ。前編

キャリーバッグの中に筆記用具や辞書などの必需品も詰めて、何日分の衣服も詰めて重くなったキャリーバッグを持って成田空港で飛行機を待っている俺と陽乃。

俺のポケットの中には小町の作ってくれたお守りが入っている。小町だって自分の受験で忙しい筈なのにな…。お兄ちゃんは世界で一番幸せだよ。

現在時刻7時で、飛行機の出発時間が9時40分だからそろそろ搭乗手続きをしないとな。

パスポートとかもちゃんと持ってきて…あったあった。

俺たちはいよいよ出国ロビーへと向かっていった。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

めんどくさい出国手続きを終えて、機内に乗り込んだ俺達は、ファーストクラスに搭乗していた。お金の心配はないとはいえ、なんだか気が弾けるぞ。

うおっ!座った感触がやばい!ふわふわで、すごい気持ちいいー。こりゃ移動時間12時間半でも耐えきれるわー。

 

「きもちいぃー」

「ファーストクラスだからねー」

 

ああー、やばい、朝早かったから眠気が…。

 

「お客様、毛布の方をお持ち致しましょうか?」

「え?あ、はい」

 

キャビンアテンダントの人、気が利くなー。これがファーストクラスなのか??

 

「寝る気満々だね」

「いいだろ?朝早かったんだから…ふあーぁー」

「…しかたないわね。あと、時差に気を付けないといけないよ」

 

そうだった。日本とロンドンは8時間の時差があるんだった。てことは、俺たちの到着時刻はロンドン時間で土曜日14時10分か。試験日は明日だからあんまりリズムは乱さないようにしないと。

まあすこしくらいなら、ということで寝ることにした。

 

「じゃ、寝るわ」

「わかったわ」

 

てことで、俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

結局3時間ほど寝ていた。陽乃も少し寝たらしい。また寝てしまうとリズムが乱れてしまうからもう寝ないどこう。

そういえば、ファーストクラスのサービスっていろんなのがあるんだな。ちょっと頼んでみようか。

そういえばお昼時だな。お腹もすいてきたしなにか昼食がてら食べようか。

 

「陽乃、なんか頼んでみる?」

「ん?ああ、じゃなんにしようかな」

 

俺が見ている料理のメニュー表を横からのぞき込んでくる陽乃。どんどん陽乃の顔が近づいてきて…。は、はずかしいなこれだけ近づかれると…。

 

「なんにしよっかなー♪」

 

といいながらグイグイと体を押し付けてくる陽乃。くそう、絶対わざとだろこいつ。

俺がドキドキしているあいだに、陽乃はメニューを決め終わっていたので、俺も慌ててメニューを決めた。えーと…コーヒーとパンでいっか。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

すごい美味しかったな。さすがファーストクラスだ。予想を超える美味しさだった。パンもきっと厳選物なんだろうな。

 

腹ごしらえもして俺たちは入試対策をしていた。

時間もたっぷりあるし、最後の詰めをしとかないとな。

 

カリカリカリカリ

 

ファーストクラスに響くペンを走らせる音は、なかなか不格好な物だった。ファーストクラスで勉強するやつって居ないよな。大体俺のイメージだったら小説とかを足を組んで読んでるイメージがあるけど…。

 

カリカリカリカリ

 

もう目前に迫っているから二人共集中して勉強できている。…よし、完璧だ。必死に詰め込んだ甲斐あったよ。さて、次はこの教科を…。

 

 

カリカリカリカリ

 

陽乃も相当集中してるな。俺も負けないようにしないと…。

 

カリカリカリカリ

 

…。静かだ。ここには俺たち以外にも何人か人がいるけどみんな寝ているようだ。

 

カリカリカリカリ

 

よし、こっちも完璧だ。

 

カリカリカリカリ

 

うん、こっちも完璧だ。ふう、さすがに疲れたな。何時間してるんだ?…うわ、4時間もしてる。ロンドンまであと4時間くらいか。

 

「お客様、コーヒーのおかわりはどうでしょうか?」

「あ、あはい、お願いします」

 

すごいタイミングだな。ちょうどいいタイミングで来るあたり、さすがファーストクラスと言えるな。

隣をチラリとみると、陽乃はまだカリカリカリカリと勉強していた。

でも、その表情は真剣というよりも、追い込まれているような…なんというか、ちょっとやばい表情をしていた。

 

「おい、陽乃」

「…」

「おい、そろそろ休憩した方がいいぞ」

「…そうね、もうそんな時間だしね。うん、休憩しようかな」

 

陽乃が受ける科は俺よりも少しむすがしいからな。陽乃にしては余裕がないところが少し不安だけど。

 

「お待たせしました。そちらのお客様はどうされますか?」

「私もコーヒーを」

 

俺はすずっとコーヒーをすすった。…うん、うまい。砂糖もミルクもシロップもたっぷりの甘甘コーヒーは俺の心を落ち着かせてくれるぜ。きっと陽乃もリラックスしてくれるはずだ。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ロンドン到着までの時間は、リラックスがてらに雑談をすることにした。

といっても、ロンドンのことについてだけど。

陽乃の入学が決まったら住む予定のマンションから、街の様子まで。

すごくリラックスができたと思う。陽乃も笑顔だったしな。

 

そうこうしているうちに、ロンドンに到着した。

入国手続きを終えて、ロンドンの地に足を踏み入れたのは3時だった。

 

「ここがロンドンか…」

「そうだねー。あ、あっちだよ、地下鉄は」

 

街を堪能してる場合じゃなかった。とりあえず地下鉄にのって、大学近くのホテルまで移動しないと。

 

地下鉄の駅に移動すると、さすがに人がおおいな。

俺ははぐれないように陽乃の手を握った。

あまりにも自然な振る舞い、クールだぜ…。

と、心の中で自画自賛していると、

 

「いっとくけど、全然かっこよくないよ。手震えてるし」

「あ…うん」

 

全然かっこよくなかった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

車内は人がなかなか多いな。なんとか二人共座れたけど、周りの会話が英語ってのはすごい違和感があるなー。ほんとに海外に来たんだなと嫌でも実感させられるな。

横の人なんかすごい何か熱く語ってるし。英語は完璧に勉強してきたから会話の内容が分かるな。

どこかのサッカーチームのユニフォームを着ていて…あ、このチームって、ロンドンにあるアーセナルのユニフォームだ!

てか内容なんかアーセナルのことについて熱く語ってるし…。横のやつ勢いで引いてるじゃん。ここでも海外っていう感じがするな。車内で普通はこんな大声で熱く語らねーよな。

 

「目的の駅につくよ」

「おう」

 

やっとこのうるさいおっさんから離れられるよ…。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

まあまあ立派なホテルに到着して、今はチェックインを済ませているところだ。

ちなみに今からイギリスの人との会話は英語で喋っているけど、諸事情によりこちらでは日本語で書かせて頂きます。よろしくおねがいします。

…これ、誰に行ってるんだろうな。

 

「…確認が取れました。ではごゆっくりお楽しみください」

 

チェックインが終わると、ホテルマンの男の人が荷物を運んでくれた。

 

「お客様方はチャイニーズかい?」

「いえ、ジャパニーズよ」

「ああー、それは失礼した」

 

ホテルマンもこんなにフランクってさすが海外だな。でも、イギリス人といったらもっと紳士なのかと思ったけど…。時代は変わるんだな。

と、今度は俺に話しかけてきた。

 

「ジャパニーズといえば、岡崎がいいね!」

「岡崎?ああ、サッカーのフォワードの」

 

サッカー関連の会話って、さすがイギリス、サッカーの国だな。

 

「あと、麻也もがんばってるよね!」

「麻也?ああ、ディフェンダーの」

 

このおっさん、なかなか手ごわいな。

その後もサッカーの話ばかりしてきた。うーん…さすがイギリスだな…。

 

俺の部屋に到着したら、またいつかサッカーの話をしようと誘ってきたから、まあいつか適当にと返しておいた。この返しは最高だ。いつかまた適当は、一生話さないよ、という意味が込められているのだ。

 

「じゃ、また後でね八幡」

「ああ」

 

陽乃の部屋はとなりだった。

とりあえず、夜まで時間があるから勉強でもしようかな…。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

夕食はホテル外に有名なレストランがあるらしいのでそこにいった。

すこし値段は高めだったけど、すごい美味しかった。

でも、表情は硬い。やっぱり明日だからな本番は。

こういうのを楽しむのはまた今度ゆっくりと回った時に。

今は、明日に向けてのパワーを付けるという意味合いもこめて、食べておこう。

 

食べ終わって、部屋の前まで帰ってきたところで、

 

「八幡、明日頑張ろうね」

「もちろんだ」

「寝坊しないようにね」

「時差もあるし、気をつけるよ」

「うん。じゃ、おやすみ」

 

陽乃は部屋に戻っていった。さて、明日は9時起きだ。

 

 

 

続く




お知らせ

Charlotteと、もう一作品とのコラボ作品を作ろうと思っています。
それからガイル関連でも一作品作ろうと思っています。


次回投稿は8月21日の19時頃です。


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いざ、決戦の舞台へ。後編

よし、復習終わりっと。

明日に迫った入試本番に向けて、暗記科目の復習を寝る前に終えた。暗記系の科目は寝る前にやるのが効果的。

よし、もう寝よう。目覚ましもセットした。

俺は緊張もあってなかなか寝付けなかったけど、気がつけば寝ていた。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ

 

「ん…」

 

うるさい携帯のアラームを止めて、時間を確認したら、よしおっけ、9時だ。ふあーあー…目覚まさねーと。

 

俺は朝食を取るためにレストランに行こうと扉を開けたら、ちょうど陽乃がたっていた。

 

「あ、おはよう八幡」

「おう」

「レストランでしょ?いこうよ」

「おう」

 

まだ朝早いので二人共テンションは低かった。俺に至ってはまだ、おう、しか言葉にしてなかった。

 

下の階にあるレストランに行くと、何人かの人々が朝食を食べていた。

俺はホットコーヒーとロールパンを取って二人がけテーブルに座った。もちろん、砂糖ミルクシロップの3点セットも付けて。

俺が3点セットをコーヒーにまんべんなく掛けていると、

 

「相変わらず甘そうなコーヒーね」

「八幡特製超甘甘コーヒーだ。飲むか?」

「遠慮しとくわ」

 

若干引きながらテーブルを挟んで向かいに座った。陽乃の朝食はコーヒーにロールパン。同じやないかい。

しかし、ゴクゴクと飲む甘いコーヒーは最高やー。落ち着くわー。

 

「あ、八幡」

「なんだ?」

「ちゃんと復習できた?」

「おう、バッチリだ。お前は?」

「私も大丈夫よ。今日は頑張ろっね!」

「おう」

「なによー、テンション低いぞー。もっとあげていこ!」

「いや、上げれないからマジで」

 

陽乃はプレッシャーを上手く変換できているようだ。さすが陽乃、場数が違う。俺なんか甘いコーヒーを飲んで今は落ち着いてるけど、結構緊張してるんだよな。陽乃の対処の仕方は勉強になるよ。

 

俺達は朝食を済ませると、部屋に戻って最終確認をしていた。

 

「よし、筆記用具、ノート持った。あ、お守りも、それから…おっと、受験票も持ったな。よし、いこう」

 

手荷物をしっかり確認して、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

デカイな。

大学についての第一印象だった。ヨーロッパ風の外観で、何より広い。そして綺麗。

パンフレットとかで見てたけど、実物を見るとやっぱり迫力あるな。ごクリ…

 

「大丈夫よ、緊張しないで」

「あ、ああ」

 

カチカチになりかけたところで、陽乃が俺の肩をもって声をかけてくれて嬉しかった。さすがだな。

俺達はキャンパス内へとはいっていった。

 

 

「ここら辺のはずだけど…あ、あれっぽい。人が結構いる」

「あれっぽいな」

 

キャンパスの一角に人が集まっているところがあったので俺達も近づいていくと、黒人や俺達と同じアジア系の人とかがいたからおそらくここであっているはずだ。

あ、看板がある。…看板には留学生の入試会場入口と書いてあった。

 

「ついたねー」

「あ、ああ」

 

しかし人が多いな。やっぱ有名大学だから留学枠も多いんだろうな。

俺達は開始時刻の1時間前には到着したんだけど、結構人はいた。

 

…。

俺達が待っているあいだにもどんどん人が集まってきた。まあざっと100人ほどかな?

周りには友達同士でだべってる奴、ノートとかを見てる奴、じっと緊張した面持ちで立っている奴など様々だった。

俺達は、緊張した面持ちでたっていた。だって日本人だもの。

 

しばらく待っていると、案内の人がでてきた。

 

「留学生試験会場はこちらです」

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

いよいよ会場に入った。

俺と陽乃は学科が違うので試験会場も違う。

俺の学科にはそんなに人はいなかった。ざっと10人くらいかな?

たしか陽乃の学科が人気だったからそっちの方に集中してるんだろう。

 

「今から君達にはこのテストをしてもらう。よく考え、諦めないように」

 

前で試験監督が受験生の意欲を高めるようなコメントを残して問題用紙が配られた。

そして俺の元にも問題用紙がやってきた。…いよいよか。

 

「では、はじめ」

 

一斉に問題用紙に書き込み始めた。

 

 

 

カリカリカリカリ

 

ペンと消しゴムの音しか聞こえない教室内。

俺も必死に問題を解いている。

とにかく焦らず、やれる問題からしっかりやって、そしてしっかり問題文を読んで…。

えーと、何?

 

問題1、イギリス国内は3つの国が集まって出来た国です。さて、その3つの国の名前はなんでしょう?

 

これはたしか、

 

解答欄、イングランド、ウェールズ、スコットランド

 

まあこれは簡単だな。さて、次は、

 

問題2、加盟国がイングランドとウェールズのサッカートップリーグの名前は?

 

あ、これもしってるぞ

 

解答欄、バークレイズプレミアリーグ

 

どうだ、スポンサーまでいれたぞ。

さて次は、

 

問題3、イギリスの主要産業は?

 

えーと、これはたしか――――――

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

ふう、終わった。あと2教科か。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

終わったー。全部終わったー。時間飛んでんじゃね?なんて声気にしなーい。

俺は軽く伸びをして、教室から出ていくことにした。周りの奴らもほっとした表情をしていた。まあ、緊張感から開放はされたからな。

俺は試験が終わったら陽乃と待ち合わせをしているから、その待ち合わせ場所に向かった。

 

「八幡、お疲れ様ー」

「おう」

「どうだった?」

「まあ、自信はあるな」

「それならよかったよー」

「お前は?」

「私も完璧よ」

 

自信に満ち溢れた表情を浮かべていたから心配はいらないだろう。あんなにしてて逆にダメだったらおかしい、ってくらいには出来たからな。

 

「じゃ、日本に帰ろっか 」

「そうだな」

 

あとは日本に帰って結果を待つだけだ。

どうか受かってますように…。

 

 

 

続く

 

 




次回投稿は8月23日19時頃です。



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緊張を解く方法はいくらでもある。しかし彼らはこの方法しかやらない。

試験日から二週間ほどで結果が出るみたいだ。

俺はとにかくそわそわしていた。でもしっかり努力はしたんだ。自信はある。だけど、なんか不安なんだよなー。

でも受かれば陽乃と一緒に居れるんだ。その為にやってきたんだ。ポジティブになれ。松岡修造みたいに。

大丈夫だ。大丈夫、大丈夫。

 

「八幡、まだそわそわしなくていいのよ。あと一週間もあるんだから」

「いや、今の内にそわそわしてれば、いざ結果が出るときキョドらなくていいだろ?」

「…なにをいってんの」

「いや、なんでもない。ただ、これは俺なりの心の落ち着かせ方だ」

「ふーん」

 

そう、これは心を落ち着かせるためだ。そうだ、もっと落ち着かせるように勉強をしよう。そうだ、勉強をすればいいんだ。

俺はバッグの中から入試対策用の勉強道具一式を出した。

 

カリカリカリカリ

 

「落ち着かせるために勉強をする方法はなかなかいいわね。グッジョブ」

「どうした?イギリスにいったから英語が入ったぞ?」

「ずっと英語ばっかり見てたからよー」

 

カリカリカリカリ

 

お、落ち着いてきたぞ。なかなか有効だな。

 

カリカリカリカリ

 

あー落ち着くわー、いいわー、これはいいわー。

 

カリカリカリカリ

 

ふっふっふ、これだけやったんだ。俺は完璧だ。ふっふっふっ。

 

チュッ

 

!!!!??

 

「んなっ!お前・・・なにしてんら?」

 

びっくりして噛んでしまったわ!なんで急に頬にキスしてくるんだよ。

 

「だってー、八幡キモかったんだもん」

「はー?」

「勉強しながらニヤニヤしてブツブツ気持ち悪い独り言言ってたらキモいでしょ」

 

声でてたんかー。すげー恥ずかしいわー。いやいや、それよりも、

 

「だから、それとキスのどこに関係があるんだよ」

「それは、乙女の秘密♪」

「…」

 

何が秘密だよ。まったく、すげーびっくりして恥ずかしいわ。…やばい、胸の高まりが…。て、何言ってんだ俺。抑えろー。そうだ、勉強をしよう。

 

カリカリカ…

 

「んっ」

「!!」

 

な、な、な、こ、今度は唇っすか?唇行っちゃうんっすか?まじっすか?俺ヤバイっすよ、超ヤバイ!

て、何言ってんだー!やばい、パニックなってる。

 

「ぷはあ」

「はあ、はあ」

「どう?」

「…どう?じゃねーよ」

「あらら、怒っちゃった?」

「いや、怒ってはないけど、その…」

「その…なに?」

 

って近い近い。顔近いって!またキスしそうになりそうだよ。

やばい、瑞々しい唇が…。すごく魅力的な唇が…。

 

「まだキスしたいの?勉強はもうしなくていいの?」

「もちろん勉強するよ」

「キスしたいんでしょ?」

 

近いってー!顔近いってー!

あ、やばい、もうだ、だめだ、堕とされる…。

 

「んっ」

 

あ、ああ、もうだめだな。もう流れに任せよう。てか、なんで俺勉強してたんだっけ?

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

時は流れ一週間。ついに発表の日。

ごくり…。今日、決まるんだ。

やばい、やっぱり緊張してきた。あんなに対策したのに、あんなに陽乃とキスしたのに…。

思い出したら恥ずかしくなってきた。

自然と肩の力も抜けてきた。

 

「さて、いこうか」

「あう」

「あう?」

「おう」

 

あぶね、やっぱ緊張してるな。

俺たちは平塚先生の所に向かった。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「おお、きたか。来てるぞ、結果が。安心しろ、私もまだ見てないからな」

 

平塚先生は封筒を出してきた。あの中に結果が。

 

「それじゃ、開けるぞ。じゃ、陽乃からだな」

「うん」

「あ、まて」

「どうしたの?」

「二人分入ってるな。てことだ、二人一気に発表だ 」

 

まじか。くっ、なんか緊張するな。

平塚先生が封筒を開いていく。

 

ピリピリピリピリ

 

ごくり。本日何回目かの生唾飲み込み。

 

そして、

 

「これだな」

 

白い紙を取り出した平塚先生。

あの中に…。

 

その紙をみた平塚先生。

 

「ん?これは、どう見ればいいんだ?」

「え?どゆこと?」

「え、あ、そういうことか、わるい、なんでもない。それじゃ、発表する」

 

ドクン、ドクン

 

心臓の音がモロ聞こえる気がする。やばい手汗が…。

 

「陽乃、合格」

「やったー!」

「よかったな、陽乃」

「うん静ちゃん!」

 

よかった、陽乃は合格だ。俺は…たのむぞ…。

 

「さて比企谷だが…」

 

ごくり…。

 

「合格だ。おめでとう、よくやった」

「…っ!」

 

やった…やった…!

 

「八幡!よかったね!」

「ああ!やったぞ、陽乃…平塚先生!」

「ああ、よくやったな」

「よかった!八幡!」

 

ギュッ

 

力強く抱きしめあった陽乃と俺。よかった、ほんとに良かった。

 

「ったく、青春だな。そういうことは私の前じゃないところでしたまえ」

 

平塚先生すいません。でも、うれしくて、うれしくて!

 

 

続く




次回投稿は8月25日19時頃です。


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卒業式は始まりの場所。彼らはそこから未来に進んで行く。

合格。

この言葉を待っていた。ホントに嬉しい。努力が報われるとはこのことなのだろう。

あの合格発表から数週間。

俺達三年生は卒業式を迎えた。

 

~組、比企谷八幡。

 

「はい」

 

俺の名前が壇上から呼ばれた。俺は壇上に向かって歩いていく。すると周りから、コソコソ声で

 

「あいつが留学するやつか?」

「え?陽乃様だけじゃないの?」

「聞いたか?あいつ陽乃さんと同じところに留学するつもりらしいぜ」

「うわ、ムカつくー」

 

まあ予想はしていたけど、やっぱり噂ってのは広まるのが早いな。

俺は壇上に上がって卒業証書を貰い、自分の席に戻っていった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

~組、雪ノ下陽乃

 

「はいっ!」

 

陽乃が呼ばれ、壇上に上がるべく軽やかに歩いていく。

 

「陽乃様よー!すごい美しいわー」

「ほんとすげーよなー、留学とか!」

「陽乃様すごいです!尊敬します!」

 

俺と反応違いすぎやしませんかね。180度違うぞ。

もうコソコソ声どころか、普通に喋ってるやついるし。

先生が静かにしなさいと、注意してもなかなか静まらなかったが陽乃が壇上に上がっていくと、今まで静かだった奴らは勝手に静かになった。

壇上を歩いている陽乃はまるでランナウェイを歩いているかのような華やかさを持っていた。決してオーバーに言ってるわけではなく、ほんとになにかオーラをまとっていた。

 

卒業証書を貰う動作一つ一つもなにかオーラを感じる。

そのまま陽乃が自分の席に戻るまでの間、異様な静けさが体育館内に渦巻いていた。…やっぱあいつすげーな。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

ザワザワザワザワ

 

長い卒業式が終わり、最後のHRがおわったあと、体育館の外では卒業に感極まって友達同士で泣きあっている奴、笑いあっているリア充グループ、思い出のある先生と泣きあっている奴、ひとりでに泣いてる奴…って、平塚先生…。

 

「先生?何やってるんですか?」

「あ、いや、この子達も旅立ちなんだなと思ったら…うっ…」

「ちょ、先生…」

 

この人はほんとになんだかなー。こんなにいい人なのになんで彼氏ができないんだろ…げふっ!

 

「…失礼なこと考えるな」

「すいません」

 

泣いててもそういうことに対するのは相変わらず鋭いな。

 

「あら静ちゃん、泣いてるの?」

「ああ」

 

陽乃が一人でやってきた。てっきり取り巻きがついてくるかと思ったけど、取り巻きは周りにいなかった。

 

「ちょっと遅れちゃった。あの子達がなかなか離してくれなくて」

「お前も大変なんだな」

 

人気者は辛いな。よかった人気者じゃなくて。

 

「そうだ君達、もう明日なんだろ?」

「…うん」

「そうか。なんだか寂しくなるよ、君たちが居なくなると」

 

すこし涙目で平塚先生はしみじみと言ってきた。

俺はそんな先生に言いたいことをいうことにした。

 

「あの、ほんとに先生お世話になりました。いつも先生に助けてもらってほんとに嬉しかったです」

「うむ。比企谷も変わって私は嬉しい限りだよ」

「静ちゃん、ほんとにありがとね。ほんと生徒思いのいい先生だよ!ありがと」

「陽乃もほんとに変わったな。ホントに嬉しいよ」

「あ、そうだ静ちゃん、写真撮ろうよ!ほら、八幡も!」

「はいはい」

 

陽乃はデジタルカメラを取り出して、近くにいたおじさん先生に頼んで写真をとってもらうことになった。

 

 

「ほら、八幡端に寄っていかない!」

「俺は端が良いんだが…」

「ダメよ、八幡は真ん中」

「どっちかって言うと陽乃の方が主役っぽいから真ん中いけよ」

「まったく君たちは…」

 

俺と陽乃の掛け合いを笑いながら見守る平塚先生。こういう掛け合いもいつもの通りだ。

 

結局俺が真ん中で、陽乃と平塚先生が俺の横に並ぶという構図になった。てか腕組んできてるんですけど陽乃さんや。というか、ドサクサに紛れて平塚先生まで…。

 

「はい、撮りますよー」

 

長らくお待たせしたおじさん先生が間延びした声でいうと、さらにキュッと腕に力を入れてきた。…うーん、はずかしい…

 

カシャ

 

「はい、撮れましたよー」

「ありがとうございます!」

 

おじさん先生からカメラを渡された陽乃が画面を見ていた。

 

「あ、うまくとれてるよー」

「ほう、どれどれ…おお、なかなかいいじゃないか」

「ねえねえ八幡もみてよー」

「はいはい」

 

と、写真を見てみると……う、なんというか、俺が真ん中ってのも違和感あるし、それに両サイドにいる二人がすごく密着してて、俺が思ってた以上に密着してて恥ずかしいな…。

 

「女の子二人にこんなに密着されて嬉しい? 」

「…はずかしいよ。というかもう一人は先生だろうが」

「む、それは比企谷、私が女じゃないとでもいうのか?」

「い、いやそういうわけではなくてですね…」

「はあー、やっぱ年齢差かー。お前があと数年早く生まれてればよかったのになー。はあ、やっぱ年齢差がなー」

「ちょ、先生何言ってるんですか?」

 

何言ってるんだよこの教師は。ちょ、なんか変な感じになったじゃないか。大体教師なのにそんなこと生徒の前でいうなよ。勘違いしちゃうだろ。

 

「八幡は私のものだもんねー。ね、八幡」

「お、おう」

 

陽乃が俺の腕にくっついてきた。思わず俺の顔が赤くなった。

 

「まったく、そういうのは私の前でするなといってるだろ」

「そんな先生も早く彼氏見つけてくださいよ」

 

な、何行ってんだ俺!アホかアホか!言ったあとに気づいたわ。俺なに自分から喜んで地雷踏みに行ってんだよ!恥ずかしくてすこしパニックになってたからってこれはないわー。

怯えながら平塚先生の方を向くと、

 

「…そうだな、私も早く見つけなければな」

「え?」

 

そこには怒っていない、なにか澄んだ目をしていた平塚先生がいた。…そうか、平塚先生も成長したんだな…。

 

「じゃ、静ちゃん、私達そろそろ帰るね。準備しなくちゃ」

「そうか。もうお別れか…」

 

恐らく皆思っているだろう。楽しい時間はあっという間に過ぎるのだと。

こうしてお別れの時が近づいていると。

 

「君たちはもうここの生徒ではなくなるが、こっちに帰ってきた時はいつでも寄ってくれ」

「うん、こっちに来たら真っ先に静ちゃんの所に行くよ!」

「私はこれから君達がどんどん成長していくのが楽しみだよ。まあ成長過程を見守ることはできないのが残念だけどな。ははっ、母親とはこういう気分なのかな 」

「きっとそうだよ。静ちゃんは私達のお母さんだよ!」

「ええ。俺達の恩人です」

「ははっ、なんだかむずがゆい気分だな。でも嬉しいよ」

 

平塚先生はまた泣き出してしまった。それどころか陽乃も、そして俺も泣き出した。俺なんかここまで全く泣いてないから卒業式初泣きだな…。

 

「ふふっ、皆泣いてるね。私こういうことで泣いたの初めてかも」

「俺もだ」

「私もだよ」

「「「ハハハっ」」」

 

ここには楽しい笑い声が響いていた。なんか楽しい。そうか、これが青春なんだな。ボッチの俺には青春なんて存在しないと思ってた。だけどあの時、職員室で陽乃と出会ってから、あの作文を見られてから、俺の運命はすっかり180度変わってしまったんだな。ほんとに人生何があるかわからないよ。あんまり諦めるものじゃないな人生って。

 

そのあと俺たちはしばらく泣いたあと、

 

「じゃ、静ちゃん、私達は帰るね」

「ああ、がんばってこいよ!」

「うん!」

「先生も頑張ってください」

「バカ、人の心配せんでいいよ。じゃ、がんばれよ!」

 

俺たちは慣れ親しんだ学校から、平塚先生の元から去っていった。これが巣立ちってやつなんだな。

これから俺達は故郷日本を離れ、遠い異国の地で新たな生活が始まる。まったく文化も違う、そんな異国に行かなければならない。

平塚先生もいない、身内もいない、周りは外国人ばっかり、俺達にはこれからそんな生活が待っている。

それでも俺は、陽乃が居れば、それだけで安心出来る。

ちらりと陽乃をみると、ニコリと笑った。

そう、俺はもう一人じゃない。大事な人が近くにいる、そして互いに支え合える、それ以上の幸せなんて俺には必要ない。

俺は自ら陽乃の手を握った。陽乃は一瞬の驚きを見せた後、安心した表情を見せた。きっと陽乃にも不安があったのだろう。でも何度もいうけど、一人じゃなくて、二人なんだ。俺達二人で、お互いを支え合いながらこれから生きていく。

 

 

 

終わり

 




ついに終わりました!お疲れ様でした。いやー、長かったなー。
よく続きましたね、42話+番外編1話も書きましたよ。
当初の予定じゃ15話で終わる予定だったのが、いろいろあって計43話も書くことになるとは、本当に驚いています。そして台風も直撃して驚きました。
今まで応援してくださった方、この作品を見て下さった皆様、本当にありがとうございました。



さてこれからの予定ですが、近日中に新たな作品を書く予定です。どんな作品かはお楽しみに!
それからこの作品の続編を書くかもしれません。まだ書くか迷っているのですが、書くことになったら随時お知らせします。

それではみなさん、もう一度言いますが本当に作品を見て下さってありがとうございました!





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