真・恋姫†夢想~三国乙女大乱!流星に乗ってきた最強の弟子~ (TE)
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BATTLE.1 流星

他にも投稿していますが無性に書きたくなったので投稿してみました。

楽しんで頂けたら幸いです。

宜しくお願いします。


とある町に武術を極めた豪傑が集まる梁山泊が存在した。

そこに武術の才能が一切ない普通の高校生白浜兼一が転がり込んで数年、彼は様々な困難を乗り越え達人の領域まで到達するのであった。

そんな兼一は現在何をしているのかと言うと___

「ここはどこなんだあああぁぁぁぁ?!!」

荒野のど真ん中で叫んでいた。

真・恋姫†夢想~三国乙女大乱!流星に乗ってきた最強の弟子~

「すぅ~~、はぁ~~」

とりあえず、なぜ僕がこんな荒野の中一人でいるのかを整理していこうかと思う。

確か警察の本巻さんから梁山泊に依頼が入ったんだ。

●~~~~~~~~~~~●

その依頼内容は闇の武器組が美術館にある『何か』を狙っているからそれを死守して欲しいとのこと。

『何か』というのは、警察も何を狙われているのか分からないらしい。

何故ならばその美術館には武器になるものは無く、古代にて使用されていたと言われる生活用品が並ばれているのだ。

武器組の意図が分からず、その情報自体信憑性が無い。迷った師匠達は僕と師匠の剣と兵器の申し子、香坂しぐれさんと一緒に警備をすることになった。

偽の情報で錯乱させて来る可能性があったので、念の為に近隣にある闇の武器組が狙いそうな場所に他の師匠達が警備している。

僕としぐれ師匠が警備を始めてから数時間後、本当に闇の武器組が現れたのだ。

その数は20人以上、僕としぐれ師匠はすぐに応戦して奴らを捕らえた。

実力からして憲兵レベル。もしかしたら本陣が他の場所に突入しているのかと思い、携帯電話で連絡を取ろうしたら只ならぬ気配を感じた。

僕としぐれ師匠がその気配を感じた方へ向くとそこには7人の男達がいた。

そいつらのオーラはまさに達人級、そして各々武器を所持していたがその内の1人、他の6人とは別格のオーラを宿らせていた。

「久しぶりじゃねえか、剣と兵器の申し子とその弟子」

「お前・・・は・・・!」

「ミハイ・シュティルベイ!?」

別格の男を見て僕としぐれ師匠は驚愕した。

その男は闇の武器組の頂点に君臨するといわれる8人、八煌断罪刃(はちおうだんざいば)の1人、死神と踊る武王ミハイ・シュティルベイだった。

「生きて・・・いた・・・のか?」

「勝手に殺してんじゃねぇよ。まあ、俺は死神と仲が良いからな!死んで地獄に落ちても生き返っちまうかもな!」

「そんなバカな・・・」

否定したいところだがムエタイの師匠アパチャイさんの例があるため強く言えない。

とはいえ状況的にはやばい。達人級が6人と特A級の達人がいるとなるとしぐれ師匠はともかく僕がやばい。

僕も達人級ではあるがミハイと渡り合えるほど自惚れてはいない。

どうにかして近隣にいる師匠達に報告しないと・・・

「長居は出来ねえからお目当ての物をさっさと頂いて行くぜ!」

「っ!?」

「兼一!」

ミハイがしぐれ師匠ではなく僕に向かって大鎌を振るってきた。

僕はなんとか手甲で防ぐ。

「あの時よりは成長しているみたいだな」

「ぐっ・・・」

「お前の相手・・・は僕・・・」

「そうはさせないぞ、剣と兵器の申し子よ!」

「じゃ、ま・・・」

他の6人の達人がしぐれ師匠と対峙する。

あれ?これってかなりやばい状況じゃ・・・

「先の憲兵たちでお前らの実力は見せてもらった。やはり剣と兵器の申し子は厄介だからまずはお前から始末することにしたんだよ!」

「なに!?」

ミハイが僕を殺した後、7人がかりでしぐれ師匠と戦うと言うのか、なんて卑怯な奴らなんだ。

「そうはさせないぞ!何としてでも、しぐれさんが奴らを倒すまで時間を稼いでやる」

「そう上手くいくかな?」

「うおおおぉぉぉっ!!」

受身になったら一瞬で終わってしまう。だから僕は先手先手と攻撃を仕掛けた。

しかし、ミハイは僕の攻撃を大鎌で簡単に防いでいく。ミハイの表情には笑みを浮かべていた。

その瞬間、首筋に悪寒を感じた僕は両腕を首の左右を守るように上げると大鎌が手甲に当り火花が散った。

「今のを防ぐか・・・。少しは楽しめそうだぜ」

「くっ・・・」

危なかった!!

あの大鎌でどうやったらしぐれさん並のスピードが出せるんだ!

恐怖センサーが発動していなかったら今頃首と胴体がさよならしていたよ!

「次はこんなのはどうだ?」

「おおおぉぉぉっ!」

ミハイが連撃を仕掛けてくる。

目で追えなくはないスピードだ。だが、体が付いていけるかどうかは分からない。

そんな時こそ心を落ち着かせるんだ。明鏡止水、激流に身を任せる岩の如し!

「おおっ!」

「流水制空圏3号!」

僕は何とかミハイの連撃を紙一重でかわしていく。

相手の目を見て気を読み相手の気持ちになるんだ。そうすればなんとかかわせる。

「すげぇじゃねえか!おらっ!もっとスピードを上げていくぞ!!」

ええっ!?

これよりさらにスピードが上がるの!?

今でも精一杯なのに!?

「そうは・・・させ・・・ん・・・!」

「ぬおっ!?」

「しぐれさん!」

ミハイの横から達人級6人と戦っていたしぐれ師匠が割って入った。

助かった。何とか耐え切ったぞ・・・

「兼一・・・あいつらを任せた・・・ぞ?」

「・・・はい?」

しぐれ師匠の言っていることがいまいち理解出来なかった僕はしぐれ師匠が来たであろう方向を見てみると、少し肩で息をしているものの無傷で立っている6人の達人たちがいた。

って、ちょっとしぐれさん!?

倒して来てくれたんじゃなかったの!?

「予想以上に強かった・・・から手間取っちゃ・・・った」

「そ、そんな・・・」

と言う事はしぐれ師匠が予想以上に強いと評価する達人と僕は1対6の戦いに挑まなければならないって事ですか?

「まあ・・・今の兼一なら・・・なんとかなる・・・・・・・・・・・・かも」

「し、しぐれさん!?今まで聞いた事のないくらいの溜めと小声はなんですか!?」

不安だ。これ以上にないほどの不安が僕に襲い掛かってきたぞ。

「ちっ・・・おい、お前ら!もう少しぐらい足止めは出来なかったのかよ!」

「ふざけるな!予定ではお前がその餓鬼をさっさと殺している筈だったろうが!」

「お前が遊んでいたのが悪い。我々の本来の目的を忘れるな!」

ミハイの不満の言葉に他の達人たちが反論する。

本来の目的、この美術館にある何かの強奪だ。そんなことは絶対にさせない!

「ではしぐれさん。僕が出来る限りあいつらを足止めします。その間にミハイを・・・」

「うん・・・。わか・・・った!」

「おっと!」

しぐれ師匠の言い終わりを合図に僕としぐれ師匠がお互いの相手へと駆け出した。

「鉄騎(ナイファンチ)初段!」

6人の中央に潜り込んだ僕はすぐさま攻撃を仕掛ける。当りはしたが防がれたり、鎧のせいで致命傷までには至らなかった。

「自ら飛び込んでくるか!命知らずめ!」

6人の中で一番でかい大男がさらにでかい刀を振り下ろしてきた。

あの武器は斬馬刀か!

「カウ・ロイ!」

振り下ろした斬馬刀をギリギリで交わすと同時に相手の首を掴み膝蹴りを喰らわせた。

「ぐおぅ!まさか反撃してくるとは・・・」

「次は俺だ!」

次は槍を持った長髪の男が槍で突いてくる。

よく見たら先が蛇みたいにくねくねと曲がっているこれは蛇矛か!

「烏牛擺頭(うぎゅうはいとう)!」

突いてきた槍を蹴りに見たてながら槍を押さえ、男の腹部へと頭突きを喰らわせる。

「うぐっ!?」

「喰らえ!」

次は刀を持った男が上段で斬りつけてくる。

「白刃流し!」

僕は刃の側面に捻りきった拳を入れると同時に一気に捻り上げ、筋肉のパンプと螺旋の力で刀を払い、その勢いのまま拳は男の顔面へと突き刺さる。

「ぐほっ!?」

「しゃしゃしゃ!」

坊主の男が刀ではなく両刃についた剣で思いっきり振り回してくる。

「一本背負い!」

僕は流水制空圏で懐に潜り込み男の腕を掴むと肩に背負って投げつける。

「ガハッ!?」

5人の内、3人にダメージを与えたけど、すぐに立ち上がってくる。

やっぱりそう簡単には倒れてくれないな・・・。

ん?『5人の内、3人』?

おかしい。僕が対峙していたのは6人だった筈・・・まさか!?

まさかの事態が発生してしまった。

奥の方から何かが割れる音が聞こえる。

すると曲刀を持った男が何かを持って此方に向かってくる。

「お前ら、固まれ!」

ミハイの言葉に全員が動き、僕としぐれ師匠から離れた位置へと移動する。

「それが・・・お前達の・・・目的か?」

「鏡?」

手にしていたのは古い鏡。

あの鏡がミハイ達になんの価値があるのだろうか?

「とうとう揃った。これから俺達の時代が始まる!破滅と滅亡の時代がな!!」

なんだ?

ミハイ達が何かを取り出したと思ったら盗まれた鏡と同じ物であった。

「あの鏡から・・・変な気を・・・感じ・・・る」

「えっ?」

しぐれ師匠が何かを呟いたかと思ったら、ミハイ達が持つ鏡が光りだした。

一体何が起こっているんだ?

なんか嫌な予感がする。

「次に会った時、それがお前達の最後だ・・・」

この光が治まった時、何か大変な事が起きる。そんな予感が・・・

「兼一!?」

「うおおおぉぉぉ!!」

僕は全力で走った。

そして一番近くにいた短剣を持った男に襲いかかる。

「山突!カウ・ロイ!烏牛擺頭!朽木倒し!最強コンボ1号!!」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

綺麗に技が決まり、手にしていた鏡を奪い取る。

よく分からないけどこれがなければ・・・

「ちっ・・・。まあいい。お前も来い、乱世時代でまた会おうじゃねえか!」

「えっ?」

手にしていた鏡がさらに光り始める。それが僕の体を包み始める。

「兼一!?」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

しぐれ師匠の僕を呼ぶ声と目の前が光で包まれたと同時に僕は意識を失った。

●~~~~~~~~~~~●

「で、今に至る訳だけど・・・」

さっぱり分からない。僕が気を失っている間に何が起きたのであろうか・・・。

「考えても仕方ないか・・・。とりあえず近くの町に言って情報収集しますか・・・」

僕は走り出した。

ここが一体どこなのか、そしてミハイ達が言っていた乱世時代とは一体何なのかを調べるために。

所変わって平和となった三国時代。

蜀・魏・呉はそれぞれ手を貸しあって新たな時代を刻もうと日々頑張っている。

そんな中、各国にある書簡が送られていた。

~蜀~

「はわわ~、ご主人様!桃花様!」

「ん?」

「朱里ちゃん、どうしたの?」

書簡整理していた蜀の王劉備こと桃花と現代日本からやって来て三国を平和へと導いた天の御遣い北郷一刀。

「こ、これを読んでくだしゃい!」

慌て入ってきたはわわ軍師諸葛亮こと朱里が一つの書簡を差し出した。

桃花がそれを受け取り読んでみると表情が険しいものへと変わった。

「ん?何が書いてあるんだ?」

「・・・うん。これなんだけど」

桃花に渡されて一刀も読んでみる。

その内容が・・・

七つの流星がこの地に舞い落ちる。

六つの流星はこの地を滅ぼす災厄。

各々が一国を落す力を宿す。

残りの一つは最後の希望。

その身に宿すのはこの時代には似つかない信念を持つ者。

新たな乱戦時代が始まる。

占い師 管輅

「これはまた・・・」

平和になったのにまた乱戦時代が始まると言う予言。

正直、予言であるから信じたくはないが無下に出来ない理由があった。

「管輅って確か俺がこの地に降りることを予言した人だったよな?」

「うん。もしかしたら本当に起こるかもしれないよ」

一刀が来ることを予言していた管略。信憑性は少なからずある。

そして、確信に至るまでそう時間はかからなかった。

「ご主人様!大変です!空になにやら無数の流星が!?」

「「「!?」」」

関羽こと愛紗の言葉に3人はすぐその場から外へと飛び出した。

~魏~

「・・・なるほどね」

「華琳様?」

管略からの書簡を読んで険しい表情をしている少女は魏の王曹操こと華琳、それを心配した猫耳フード軍師荀彧こと桂花。

「桂花、蜀と呉に緊急三国会議を行うように伝えなさい。良いわね?」

「は、はい!わかりました!」

華琳の命令にすぐ行動に移ろうと扉へと駆け寄ったがその瞬間、もの凄い勢いで扉が開かれた。

「華琳様!大変です!?」

入ってきたのは左目に眼帯を付けた女性。夏侯惇こと春蘭であった。

「ちょっと!いきなり扉を開けないでよ!危ないじゃない!」

「ん?桂花、どうしてそんなところに座っているのだ?」

「私が扉の前にいてあんたが急に扉を開けたからびっくりして倒れちゃったのよ、この脳筋!」

「何だと!貴様が扉の前にぼけっと突っ立ってるのが悪いんだろ!」

「なんですって!?」

「落ち着きなさい、二人とも。それよりも春蘭。私に何か報告があるのではなくて?」

二人の言い争いに見かねた華琳が二人を止め、春蘭に話を促せた。

「は、はい!兵からの伝達で空から流星が7つ流星が現れたとのことです!」

「・・・・・・」

春蘭の言葉に険しい表情へと変えた華琳は席を立ち、窓を開けて空を見上げた。

華琳の目からも確認できた7つの流星。なぜだか分からないが嫌な胸騒ぎを感じるのであった。

~呉~

「ふぅーん・・・」

「雪蓮、どう思う?」

同じように管略からの書簡を読んだ呉の王孫策こと雪蓮と呉の軍師周瑜こと冥琳。

「そうね。すぐに対策を立てるべきなんじゃないかなって私は思うわね」

「そうか。私は予言は信じないのだが・・・。雪蓮のそういう時の感はよく当たる。蜀や魏にも話をしてみるか・・・」

ぶつぶつと呟く冥琳。しかし、雪蓮は書簡を持ちながら思い耽っていた。

「(強い猛者が現れるのは私としては嬉しいんだけど嫌な予感がするのよね・・・。6つの厄災。それがどれほどのものなのか・・・。そして1つの希望って・・・)」

「雪蓮様、冥琳様!大変です!」

慌てた様子で入って来たのは黒髪の女の子周泰こと明命だった。

「落ち着け、明命。何があった」

「は、はい!先ほど流星が観測されました!」

「・・・あら!」

雪蓮は予言がまさか今日とは思っておらず少し驚いた声を上げる。しかし、明命の報告はまだ終わっていなかった。

「その内一つの流星が此方に向かって来ているとの情報です!」

「なんだと!?」

明命の報告に思わず立ち上がってしまう冥琳。変わって雪蓮はゆっくりと立ち上がり明命に指令を出した。

「明命!各武将に兵達を揃え臨戦態勢を取らせなさい!私達もすぐに向かうわ!」

「ぎょ、御意!」

「雪蓮?」

幼い頃から知っている冥琳は雪蓮の今まで見たことのない行動に戸惑いを見せる。

そして、それがどういうことなのかすぐに理解した。

厄災はそれ程に強力で心に余裕を持たせられない状況であると。

「行くわよ、冥琳!」

「御意!」

二人はすぐに部屋を飛び出した此方に向かってきている第一の災厄から国を守るために。




如何でしたでしょうか?

実は平和になる前からのお話も考えたりしています。

投稿のしやすさ的にはこちらがやりやすかったのでこっちにしました。

感想頂けたらとても嬉しいです。

次がいつ投稿するかわかりませんが宜しくお願いします。


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BATTLE.2 一人目の災厄

浮かんで来たんで頑張って書いてみました。

気に入って頂けると幸いです。


「さて、適当に走ってみたけど町らしき所は見当たらない」

さっそく詰んでしまった。

川すら見つからないし・・・

「どうしよう・・・。ん?」

腕を組んで考えていると微かに金属音が聞こえる。しかも、誰かの叫び声が聞こえてきた。

よくわからないけど行ってみよう!

兼一の場所から何キロか離れた場所に2人の女性と女の子。それを囲むように複数の武器を持った男達が立っていた。

「失せろ、盗賊共!我が斧に斬られたいか!」

1人の女性が盗賊たちに手に持つ斧を振り回して牽制している。この女性は華雄、真名は不明。

「か、華雄!そんな奴らさっさと始末するのじゃ!」

「そうですよ!パパ~っと倒しちゃってください~!」

「うるさい!黙っていろ!」

華雄の後ろに隠れている2人は、女の子の方が袁術こと美羽、女性の方は張勲こと七乃であった。

華雄は自分任せで何もしようとしない2人に怒声を上げて黙らせる。

華雄は盗賊たちに睨みを聞かせ、斧で威圧する。

盗賊たちもその気迫に押され手を出せずにいた。

いつもの華雄なら盗賊など数分で倒せるだろう。しかし、華雄は今手を出せない状態であった。

「(今、私の斧は寿命が来てしまっている。当然だ。金が一切ない今、武器を整備させることなど出来るわけがない)」

よく見てみると華雄の斧は所々に亀裂があり、後なん振りかしたら壊れてしまうまでいっていた。

「(武人としてはあるまじき行為だが仕方あるまい・・・)」

武器が大事でも金がなければどうしようもない。

華雄はどうしようもないことを考えても仕方ないと判断し、さらに威嚇を強くする。

これで盗賊達が引けばよし、引かぬなら覚悟を決めなければならない。

「なあ。こいつ凄い気迫なのにどうして斬りかかってこないんすかね?」

「ん?よく見たらあの武器かなりボロくないか?」

「!」

武器を使っての威嚇行為が仇となり、華雄の異変に気づかれてしまう

「お前ら、あの女の武器はボロボロだ!大したダメージは与えられない筈だ!」

「突撃!」

「「「うおぉぉぉ!!」」」

男たちは一斉に襲いかかる。

華雄の武器金剛爆斧はすでに限界。しかし、そんな事言っている場合ではない。

「くらえ!!」

「「「ぎゃあっ!?」」」

一振りで複数の盗賊を吹き飛ばす。

しかし、深いダメージを与えられず盗賊達はすぐに立ち上がった。

「な、なんじゃと!?」

「華雄さん!?何してるんですか!」

「ちっ・・・」

驚く美羽と七乃。華雄はやっぱりかと言った表情だった。

「やっぱりオンボロ武器で致命傷は喰らわねえ。やっちまえ!」

「くっ・・・!」

華雄は盗賊の猛攻に防戦一方。斧で防ぎ、薙ぎ払いを繰り返した。

しかし、とうとう限界が訪れた

「なっ!?」

「華雄さんの武器が壊れちゃいました!?」

「なんじゃと!?」

華雄の武器は破壊され絶対絶命の危機へと陥った。

「ここまでか・・・」

「な、何を諦めておるのじゃ!?」

「そうですよ!戦ってください!」

「武器も無しにどう戦えと?すまないな、2人とも」

そういうと観念した華雄は地面に座り込んでしまう。武人の誇りか、目を瞑って自分の末路を待つ。

「潔いいじゃねえか。お望み通り殺してやる!死にやがれ!」

「・・・・・・」

盗賊の剣が華雄へと振り降ろされる。

痛みと死への恐怖か盗賊の声を聞いたと同時に瞼をさらに硬く瞑った。

「・・・・・・・・・・・・?」

いつになっても来ない衝撃に華雄はゆっくりと瞼を開いた。

そこには盗賊が振り降ろしたであろう剣が目の前にある。

何故止まっているのかと思ったが、視界をさらに広げることでその理由が分かった。

振り降ろされた剣を片手、細かく言えば左手の指3本で止められていた。

盗賊達よりも随分と若く、明らかに盗賊の仲間ではない事が理解出来た。

「て、てめえ!何しやがる!?」

「それはこっちの台詞だ!このスカポンタン!!」

危なかった。

途中で悲鳴が聞こえたから全速力で走らなかったら間に合わなかった。

 

「て、てめえ!何しやがる!?」

この銀髪の女性を斬ろうとした男が僕に怒声を浴びせて来た。

そんな男の態度に少しむかついた。

「それはこっちの台詞だ!このスカポンタン!!」

「ヒイッ!?」

あっ!

つい気当たりを強めにぶつけてしまったから気絶しちゃった。

まあ、これで他の人たちが逃げ出してくれれば良いんだけど・・・

「こ、この野郎!お前らやっちまうぞ!!」

「「「うおぉぉぉ!!」」」

駄目でした。

確かにぶつけたのは斬りかかっていた男だけだったけど、少しは怯んでもらいたいよ。

でも、反省させるには少し痛い目にあってもらった方が良いのかな

「岬越寺師匠直伝!岬越寺無限轟車輪(こうえつじ むげんごうしゃりん)」

「「「ぎゃああぁぁぁぁぁぁ!!??」」」

数分後。

「ふうっ・・・」

「痛え!痛えよ!?」

「おい、バカ!動くな!」

「なんで動けねぇんだ!?」

数十人いた男達は自分の腕と足が味方の腕と足によって関節が極められている。

男達は必死に叫ぶけどそれは無意味だ。この技は外の人からでなければ外す事は出来ない。

でも、少し時間がかかっちゃったな。岬越寺師匠だったら数秒なのに数分かかってしまった。

「とにかく、あなた達はしばらく反省していなさい」

「く、くそ~!?」

「とりあえず3人とも、ここから離れましょう」

「むっ?何故だ?」

「あちらの方向からこの人たちの仲間と思われる集団が此方にやってきます。戦闘を避けるため移動しましょう」

僕は指差しながらそう言うけど3人には見えていないらしく、目を凝らしながら見ていたが分からず首を傾げていた。

まあ、確かに約10キロくらい離れているから見えないかな?

「なぜ逃げる?貴方ほどの腕前だったらあんな奴らの仲間などすぐに倒せるだろう?」

「僕は無駄な争いは避けたい主義なんですよ」

銀髪の女性の言うとおり倒せると思うが無駄に時間を費やしたくない為そういった。

男たちから少し離れ、追いかけては来ないであろうところで話を切り出した。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。僕の名前は白浜兼一です」

「私の名前は華雄。で、こっちの二人は袁術に張勲だ」

「わらわが袁術じゃ。先ほどよくやってくれたぞ!誉めて使わすのじゃ!」

「私が張勲です。この度は助けて頂きありがとうございます~」

女の子の袁術ちゃんと女性の張勲さんがお礼を言ってくれる。なんかこの名前どこかで聞いたことがあるような・・・?

「私からも礼を言わせてほしい。ありがとう・・・」

「いえいえ!僕は当然のことをしたまでですよ」

「わらわはお主が気に入ったぞ!お礼にわらわの家来にしてやるのじゃ!!」

「命の恩人に対してもその態度のでかさ。流石です、美羽様」

「そうじゃろ、そうじゃろ!」

「すまない。あいつらの言うことは無視してくれてかまわん」

申し訳なさそうな表情で謝ってくる華雄さん。なにかと苦労していそうだなぁ

「私としても貴方は命の恩人だ。何かお礼をしたい。何でも言ってくれ」

「えっ!?でも、僕はそんなつもりで助けたじゃないので・・・」

「しかし、何もお礼をしないのは武人の恥だ。何でもいい言ってくれ」

真剣な目で言ってくる華雄さん。この目は意地でも譲る気はないな。

「でしたらお言葉に甘えて。実は僕、絶賛迷子中でして近くの町まで案内してもらいたいんです」

「なんだ?そんな事で良いのか?」

少し不満そうな表情をする華雄さん。僕としてはこのお願いが一番助かるので問題ない。

「確かここから一番近い町は呉の国の町ですね」

「呉じゃと!?」

袁術ちゃんがびくっと震えながら驚く。

呉?それって確か三国志にある国の名前だったような・・・

「嫌じゃ嫌じゃ!孫策のいる国など行きたくないぞ!?」

「美羽様。気持ちはわかりますけど、私たちとしても護衛の華雄さんが武器を無くして役立たずになった今、戦力になるのは白浜兼一さんだけです。もし、ここでお別れしてしまったら、今度こそ盗賊に襲われて○○○されたり、△△△されて、□□□なんてされちゃうかもしれませんよ?」

「ぴいっ!?そんなの嫌じゃ!?」

張勲さん、小さい女の子になんて事言っちゃってんですか!?

しかも、張勲さん、袁術ちゃんの怯える顔を見てとても嬉しそうだし!?

「なので、白浜兼一さんを案内しつつ、護衛してもらい、その後は町でばれない内に華雄さんの武器を調達してすぐに逃げる。これが最善の策かと」

「むう~。わかったのじゃ。白浜兼一とやら、特別に町まで案内してやるのじゃ!感謝するのじゃぞ!」

「お礼の筈なのに感謝させようとするなんてさすが美羽様!」

「ぬははっ、そうじゃろそうじゃろ!もっと誉めてたも!」

なんかとても残念な二人だな、そう思っていると華雄さんが黙りながら頭を下げてくる。

苦労しているな、この人。

とは言え、案内してくれるのはありがたい。それに三人の会話で気になる事が何点かある。

一つは三人の名前。

華雄・袁術・張勲。この名前は確か三国志に出てくる名前だ。最初は何かの冗談かと思ったんだけど本当っぽいし。

二つ目は真名と呼ばれるものについて。

三国志の名前なんだからここは中国でほぼ間違えないと思う。でも真名と言うものが何なのか、どうにも簡単に口に出してはいけないような気がする。

三つ目は二人が言っていた町について。

確かに張勲さんは呉の町と言っていた。そして袁術ちゃんのあの怯え様。確かに歴史では袁術は孫策に討ち取られるとあった。もしかしたらそれに関係しているんじゃないか?

とりあえず、町に案内してもらっている間に聞いてみよう。

僕はそう思い三人に付いて行くのであった。

一つの流星が町のすぐ傍に落ちたことを確認した雪蓮たちは兵を出陣させて配置させていた。

「まだ光っているわね・・・」

「あれは一体何のでしょうか?」

「分からん。だが、決して油断するな」

先陣としてやってきたのは、雪蓮・思春・明命の部隊。

最初は呉の王である雪蓮が出るのを反対されていたが、雪蓮の今までにない真面目なお願いに冥琳たちが折れる形となった。

三人から少し離れた位置には流星が落ちたであろう場所に光り輝く物体があった。

「雪蓮様、兵たちを動かしますか?」

「もう少し様子を見ましょう。何が起きるか分からないし・・・」

「雪蓮様、思春様!光が治まってきます!」

明命の言葉に二人はすぐに視線を光のほうへと移す。

明命の言う通り、光が治まっていく。そして薄っすらとだが人影が確認できた。その瞬間、三人に緊張が走る。

そして光が無くなる頃には、その人影が完全に確認できた。

性別は男で容姿は頭は坊主で服装は真っ白な服、そして手には両刃剣を持っていた。

「兵たちよ!あの男の周りを包囲するように陣形を整えろ!」

「待って、思春。私が行くわ」

武器を持ってるのを確認した思春が警戒し、兵たちを動かそうとしたがそれを雪蓮が止める。

そして、雪蓮は護衛も付けずに男の方へと歩き出した。

「雪蓮様、危険です!止めてください!?」

「大丈夫よ。ちょっとお話をするだけだわ。それに大人数で囲んだりしたら相手が怯えちゃうでしょ?」

そう言って雪蓮は男の方へと歩みを進めた。

思春と明命にはそう言ったが、雪蓮は他に危惧していたことがあった。

「(それか、大暴れして襲い掛かってくるのどっちか・・・)」

予言を知っていた雪蓮にとってここまでは予言通りな為、その後の続きにあった国を滅ぼす災厄・最後の希望。

そのどちらであるのかが分からない以上下手に手を出せない。いや、どちらにしても手を出せない状態でもある。

「(さて、どちらでしょうかね・・・)」

雪蓮は残り数メートルの場所で止まり男を見る。その男は雪蓮を見て一切動かない。何を考えているのかも雪蓮には分からなかった。

「こんにちは。私はこの国の王孫策。あなたは一体何者なのかしら?何が目的?」

「・・・・・・」

男は何も答えない。その沈黙が雪蓮の精神を削り取っていく。

「・・・・・・」

「?」

男がすっと剣を持っていない方を動かして雪蓮を指差す。その指差した方向は自分の顔から少し離れていたことに気づき、辿ってみるとそれは自分の腰につけていた武器であった。

「その武器の名前は?」

「これ?私の母、孫堅から受け継いだ物。名は南海覇王(なんかいはおう)よ」

教えてあげると男の表情が笑みへと変わった。その笑みは雪蓮から見たら狂気のものに思えてしまう。

しかし、それは間違えではなかった。

「良い。早速お目当ての物が見つかった。」

「何ですって?」

「俺の目的は貴様の持つ武器。そして___」

男が頭が雪蓮の足元まで落ち、両刃剣を逆手に持って後ろに空いた手を前に出して構えをとった。

「ここにいる奴らを皆殺しにする♪」

「!!??」

今までに無いほど悪寒が雪蓮に襲い掛かった。

身体全身、細胞の一つ一つが叫びだす。

こいつはやばい!逃げろ!と、それと同時に雪蓮は叫ぼうとした。

思春、兵たちを連れて城へ戻れ!とそう叫ぼうと振り向いた瞬間、雪蓮の目に最初に映ったのは狂気の笑みを浮かべた男の背中だった。

ついさっきまで自分の前にいたのにいつの間にか追い越されて後ろにいる兵たちの所まで一直線。そして、思春と明命も追い抜き、その次に映ったのは大切な兵たちが血飛沫を上げながら宙を舞う光景であった。

「しゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ!!」

次々と呉の兵たちが男の手によって斬り飛ばされていく。思春と明命も雪蓮と同じように驚愕の表情だった。

目ではわかっていた。男が振り向いた雪蓮を追い越して此方に向かって来ていたところを。そしてその男の表情が狂気の笑みを浮かべて殺意を持っていたのをはっきり見て取れた。

しかし、身体は動けず、動いたのは男が二人を追い越した後のことだった。

「しゃしゃしゃ!泣き叫べ!苦痛で顔を歪めろ!」

次々と兵を切り倒して行く男の名前はゲイス・ガルシア。闇の武器組である。

弱者を斬るのが大好きで何も出来ずにただ悲鳴を上げて斬られる弱者の表情が堪らなく快感に感じている姿は玩具で遊ぶ子供のようであった。

そんな姿からか『狂乱遊戯』という異名で呼ばれている。

「しゃしゃしゃ!」

「止めなさい!」

「止めろ!」

雪蓮と思春がゲイスを止めるために背後から斬りかかる。ゲイスはなんなく受け止めたが、二人の攻撃はそれだけでは止まらなかった。

「「うおおおおおおぉぉぉぉ!!」」

二人でゲイスを囲み、回るようにして攻撃を仕掛ける。ゲイスの狙いを一つに絞らせない為と少しでも時間を稼ぐための動きだ。

「兵の皆さん!急ぎ撤退して下さい!息のある人がいたら一緒に連れて行って下さい!!」

「「「応っ!!」」」

明命は兵たちの誘導作業を行っている。ゲイスの標的は兵たちだった。さっきの様子で考えるとゲイス一人で全滅の恐れがあったため雪蓮が下げさせるように命令したのだ。

「・・・・・・」

「(どうしたのかしら?)」

撤退していく兵たちを見てから俯いてしまうゲイル。

俯いたままでも雪蓮と思春の攻撃を防ぐ実力は流石とも言える。

「ふざけ・・・」

「ん?」

「ふざけんじゃねえぞ、糞があぁぁぁぁぁぁ!!」

ゲイスがきれた。それはまるで玩具を取り上げられた子供のようである。

しかし、溢れ出す気迫は鬼そのもの。思わず、思春の動きが止まってしまう。

「思春!」

「死ね!!」

「しまっ!?」

動きが止まった思春にゲイスの剣が襲い掛かる。気迫に呑まれ動きが止まってしまった。思春は身動きが取れない。

「しゃ!?」

「!?」

「無事か?策殿、思春!」

 

「祭!」

ゲイスは思春の横顔から通った一本の弓矢によって攻撃は阻止される。

三人から少し離れた場所には明命とゲイスを止めた矢を放った黄蓋こと祭がいた。

「不意を狙い、さらには虚を付いたつもりじゃったのだが、それでも防がれるとはのう・・・。策殿と思春の二人掛りでも倒せん訳じゃわい」

「獲物が増えた・・・。まずはあいつからだ」

「明命!気をつけなさい!狙われているわ!!」

「えっ!?」

「しゃしゃしゃ!!」

雪蓮の言葉と同時に動き出すゲイス。明命はすぐに武器を持ち構える。

「そうはさせんぞ!」

「はあっ!」

「喰らえ!」

祭の弓矢、雪蓮と思春の挟撃を仕掛けるが、ゲイスは全てを潜り抜け明命の目の前へと辿り着いてしまう。

「しゃしゃしゃ!」

「くっ!はあぁぁぁ!」

明命は自分では敵わないことは百も承知だ。しかし、せめて一太刀、掠り傷でもいいからゲイスに喰らわせてやりたい。

そう思った明命は刀を決死の覚悟でゲイスに振り下げる。

しかし、ゲイスは剣で刀を振り上げて明命の刀を弾く。その反動で明命は刀を手放してしまった。

そして、ゲイスは振り上げた武器をそのまま振り下げて明命を襲う。

「うおおおおおぉぉぉ!!」

「しゃ?」

「・・・えっ?」

思春は挟撃に失敗してもすぐに走り出していた。そして、ゲイスが明命に武器を振り下ろす直前に到着するが己の武器で止める余裕がない。だから、思春はゲイスの武器と明命の間に入るように飛び込んだのだ。

 

その結果___

「「思春!?」」

「し、思春さまあぁぁぁぁぁ!!?」

思春はゲイスの武器によって背中から斬られてしまった。




如何でしたでしょうか?

途中で力尽きて続きが書けていませんが頑張ります。

感想や評価お待ちしております。


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BATTLE.3 暴走と武人の誇り

まだ3話目ですが、一番文字数が多いです。

叫び声が多いからかな?

楽しんで頂けたら幸いです。


「うおおおぉぉぉぉ!!」

 

斬られた思春だったが、彼女は庇った明命を突き飛ばしその反動でゲイスに斬りかかる

 

「しゃしゃ!?」

 

「喰らえぇぇぇぇ!!!!」

 

致命傷になる攻撃だけは防ぎ、肩や腕、足を斬られても思春は止まらずゲイスの腕に一太刀を与えた。

 

「しゃああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ぐふっ!?」

 

「思春様!?」

 

ゲイスは思春の腹部に突きを繰り出した。

思春は武器で突きを防ぐがその反動で明命の下まで吹き飛ばされてしまう。

 

「思春様!?思春様!!」

 

「・・・・・・」

 

吹き飛ばされた思春を抱え声をかける明命。しかし思春の返事はない。

防いだ突きの衝撃で気絶してしまったようだ。

だが、ゲイスから受けた傷から血がどんどん流れていく。かなり危険な状態であった。

 

「うおおぉぉぉ!」

 

「しゃ!?」

 

「雪蓮様!?」

追い討ちをかけようとしていたゲイスだったがそれを雪蓮が止める。

 

「明命・・・!思春を早く連れて行きなさい!」

 

「は、はい!」

 

「祭、あなたも!」

 

雪蓮の言葉に明命はすぐに従い、思春を背中に抱えて走り出した。

祭にも同じように下がらせようとしたが祭は首を振ってそれを拒否した

 

「君主を一人置いて引く訳に行きませんぞ。そんな事したら堅殿に会わせる顔がない。安心せい、手は出さん。思う存分暴れるがよい」

 

「・・・ええ」

 

「しゃあ!てめえ、またもや俺の獲物を___なぜ笑っている?」

 

思春と明命を取り逃がしたことに怒り出すゲイスだったが目の前にいる雪蓮を見て表情を変えた。

雪蓮は笑っていたのだ。この状況で笑っていられる理由がゲイスにはわからなかった。

 

「(笑っている?私が?)」

 

自分で確認する術はないがゲイスの言う通り笑っているのだろうと思う雪蓮。

 

なぜ笑っているのか。

 

兵を大勢殺され、部下の思春も斬られた。

笑う要素など何一つない。しかし雪蓮は笑っている。

 

雪蓮の戦乱時の願いは大切な呉の民が平和に暮らせる国にすること。

それは三国協定により見事に果たす事が出来た。

雪蓮自身も毎日を笑って過ごしている。

 

しかし雪蓮の中には獣が存在した。

もっと戦がしたい。

もっともっと強い者と戦いたい。

もっともっともっと殺し合いがしたい。

修羅が、良く言えば戦闘狂という名の獣が暴れ出そうとしているのだ。

 

「(落ち着け、落ち着くのよ。私は今、民の為にみんなの為に戦うの!決して自分の欲求を満たすためじゃ・・・)」

 

「しゃしゃしゃしゃ!」

 

雪蓮の武器とゲイスの武器がぶつかり合い、火花が散る。目の前には殺気を全開にぶつけてくる自分より強い猛者。これ程の環境が今まで一度足りと感じたことが無かった。

 

「(気持ち良い・・・。ダメってわかってるのに・・・。我慢が出来ない・・・)」

 

ゲイスの猛攻に防ぎきれずに身体の至る所に傷を負う。それすらも快感に感じ始める雪蓮。ダメなのはわかっている。しかし、雪蓮の我慢は限界に達しようとしていた。

 

「策殿!?」

 

「死ねええええぇぇぇ!!」

「・・・もうイっても・・・良いよね?」

雪蓮は祭の声とゲイスの声、ゲイスの武器から感じる殺気と死への恐怖を感じたのを最後に頭の中で何かが切れた音が聞こえた。

「があああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「しゃ!?」

 

急に雄叫びを上げた事で怯んだゲイス

その隙を見逃さず斬りかかった雪蓮その一太刀は今までに見たことのない様な鋭さと速さで振り抜く。

ゲイスですら防ぐので精一杯で、さらにはあまりの威力に遠くまで弾き飛ばされてしまった。

「ガアァァァァァァ!!」

「なんて荒々しい動の気。しかも暴走してやがる・・・」

雪蓮の豹変ぶりを冷静に分析するゲイス。今まで剣を前に出して構えていた雪蓮はゲイスと同じ様に剣を逆手に持ち姿勢を低く構えている。

その姿はまるで猛獣。ゲイスもまるで空腹で暴れる虎と対峙しているような感覚だった。

「ガアッ!」

「しゃ!」

雪蓮がゲイスに襲いかかる。ゲイスもそれに対応するがお互いの実力が拮抗しており、有効打が当てられない。

「策殿・・・」

雪蓮の豹変に驚きはしたが過去にも暴走した事はあった。しかし、その過去のものと比べると全く違う事にも祭は気付いていた。

だからこそ、心配だった。何か取り返しのつかない事態が起こってしまうのではないかと。

そんな祭の心配はよそに戦況が動く。それは雄叫びを上げてはいるも剣を落とし、身体は膝を付いてしまっている雪蓮がいた。

「しゃしゃしゃ!どうやら限界のようだな!」

「グオアァァァァ!!」

「なかなか楽しめたぜ。さすがは孫策と言ったところか?」

満足しているのかにたりと笑うゲイス。そして、まだやれるんだと主張しているみたいに雄叫びを上げる雪蓮。

雪蓮はゲイスとの戦闘でかなり消耗していた。そこからの動の気の暴走で雪蓮の身体はさらに傷付き限界を越え、まるで糸が切れた人形のように崩れ落ちたのだ。

「これが三国時代で有名な孫策が持つ武器南海覇王・・・。いいね~。沢山の人の血を吸っているのがわかる。こいつは良い剣だ。気に入った」

「ガアッ!アアァ!」

「お前には感謝するよ、孫策。お礼に俺がこの剣で殺す第1号にしてやるよ!」

ゲイスは南海覇王を振り上げると雪蓮に向けて振り下ろされた。

「白刃流し!」

「ぐぼっ!?」

「なっ!?」

遠くにいた祭だけが見えていた。

ゲイスが振り下ろした南海覇王を弾き、そのまま顔面へと拳を減り込ませる。1人の男の姿を。

「白刃流し!」

「ぐぼっ!?」

華雄さんに案内され僕の目から町が見えた時だった。

町から少し離れた場所に二人の女性と一人の男が対峙していたのが分かった。

女性の方はわからなかったけど、男の方は見覚えがあった。

その男は美術館で襲撃してきた闇の武器組の一人だ。

僕は全力で走り、闇の武器組が剣を振り下げる直前で間に合った。

不意打ちで白刃流しを決めてやったけど関係ない。僕はこいつを絶対に許さない。

「ぐっ・・・テメエは史上最強の弟子!なぜこk」

「うおおぉぉぉ!」

僕は相手の言葉を待たずに攻撃を仕掛ける。

「ティー・ソーク・トロン!ティー・ソーク・ボーン!ティー・ソーク・ラーン!拳槌打ち!最強ショートコンボ!」

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!!??」

「この坊主頭!お前は絶対に許さないぞ!」

関係のない人たちをこんな・・・。これ以上犠牲者を出さない為にもこいつはここで倒す。

「ちいっ!これは形勢が不利だな。引かせてもらうぜ」

「逃がすか!」

「おっと!良いのか、活人拳?あいつを放っておいて?」

坊主頭は僕の後方を指差す。振り向いてみると膝を付き、苦しそうに頭を抱えている桃色の髪をした褐色肌の女性がいた。

動の気が暴走で精神が壊れかかっているのか?確かにこれ以上放っておける状態じゃない!

「あばよ、史上最強の弟子。ちなみに俺はゲイス・ガルシアだ。覚えておけ」

僕が振り向いて女性の方へと向かったと同時に名前を名乗り、姿を消した。

あんな奴、坊主頭で十分だ。それよりも彼女の容体が心配である。

「近づくな!!」

「うわっ!?」

近付こうとしたら、もう一人の女性に矢を放たれ行く手を阻まれる。

「貴様は何者だ!先程の輩の仲間か?」

「ち、違います!僕は白浜兼一という者です。性が白浜、名は兼一、字と真名はありません!」

「むっ?字と真名がない?まるで蜀にいる天の御遣いみたいな・・・」

僕を警戒している女性は僕の自己紹介を聞いて考え込む。

正直なところ時間がない。荒っぽいけどまずは危険な状態の彼女を気絶させてから話をしよう。

「ガアァァァァァァッ!」

「うわっ!?」

「グルルルルルッ!!」

近づこうとしたら彼女の方から近づいて来ていきなり殴りかかってきた。

僕はなんとか避け、彼女は態勢を崩し両手を突いて僕を睨んでいる。

大変だ!

あの状態はアドレナリンの過剰分泌によって痛みや疲れを感じていない。

それに動の気の暴走で精神が飲み込まれているから彼女の近づく人は全て敵と判断し襲い掛かってしまう。

「策殿、ご無事か?」

「・・・・・・」

もう一人の女性が仲間の安否を気にして近づいてしまう。

それも仕方ない。この世界にはアドレナリンという言葉、意味を知っている訳がない。

彼女たちは何千年も前の人だからだ。

僕は華雄さん達に町まで案内されている時にこの世界が僕の知っている世界ではないこと。あの鏡のせいで僕はタイムスリップ、もしくはパラレルワールドに潜り込んでしまったのだと結論に至った。

突拍子な話だけどその結論だと全てが説明つく。

奴らの目的も少しだが分かってきた。

とりあえず、まとめるのは後にしよう。今は目の前のことに集中しなければ

「近づいちゃダメだ!離れろ!!」

「ガアッ!」

「なっ!?」

暴走している女性は手元にあった剣をいつのまにか持っており、起き上がるのと同時に仲間の女性に斬りかかった。

「ぐっ・・・!策殿、正気に戻ってくだされ!」

「グウルアアアアアアアアア!!」

仲間の女性は弓でどうにか剣を防ぎ、声をかけるが暴走した女性は止まる事無く勢いを増して斬りかかる。

「ガアッ!」

「しまっ!?」

「させるか!」

暴走した女性は仲間の女性の弓を弾き飛ばして首に向けて振り抜く。

僕はなんとか仲間の女性を横から掻っ攫い事なきをえた。

「大丈夫ですか?」

「う、うむ。すまない、助かった」

「彼女は今、自分の力に飲み込まれかけています。近づくのは危険です。ここは僕に任せて頂きませんでしょうか?」

「し、しかし・・・」

「大丈夫です。傷つけたりはしません。少し気絶してもらうだけですから」

「・・・・・・」

やっぱり急に現れた人に仲間を託すのは難しいか?

でも、そうは言ってられないし。こなったら強制手段に及ぼうか?

「わかった!お主を信じよう!」

「えっ?」

あれ?意外とすんなりOKが出たぞ。

僕が戸惑っていたのを感じてか女性は言葉をかけてくれる。

「お主の目を見て嘘を吐いておらぬのはわかる。それにワシでは恐らく今の策殿を止めることは出来ん。興奮して暴れることはあったが、あそこまで理性が飛んだ虎のように暴れることはなかったからのう・・・」

仲間の女性は僕の肩に手を置き、真剣な表情で言葉を続けた。

「すまないが暴れ馬、いや暴れ虎な君主を頼む。別に傷つけたって構わん。思う存分やってくれ」

「は、はい!わかりました!」

よ、よし!許可はもらった。女性なので傷つけたりはしないがこれ以上負担をかける訳にはいかないので全力で行こう。

「グルルルル!」

暴走した女性は僕を警戒してか凄い形相をしながら睨みつけている。それはまるで、人を何人も食べている虎のようだ。

「行くぞ!」

「ガアアアアッ!!」

僕と女性は同時に飛び出す。

先手は彼女で剣を僕に振り下ろす。

「真剣白羽取り!からの真剣白羽折り!」

「ガアッ!?」

僕は彼女の武器を破壊した。

彼女は周りを見渡して武器を探したがどこにもない。諦めた彼女は無手戦闘へと切り替えたのか構えを変える。

「グオオオオオオオオオッ!!」

「ここだ!!」

彼女が飛び上がって襲い掛かってくるタイミングで、僕も飛び上がった。

「暗外旋風締め(あんがいせんぷうじめ)!」

「!?」

僕と彼女が交差し、着地すると僕はすぐに彼女の元へと向かう。

何故なら彼女はすでに意識がないからだ。

倒れ込む彼女を抱えてもう一人の女性の所へ向かった。

 

「なんとか無傷で抑える事が出来ました」

 

「確かに無傷だが・・・。お主、白浜と言ったな。策殿と交差した瞬間に何をしたのだ?ワシからは全く見えなかったのだが・・・」

 

この暗外旋風締めは組み付いた時に急速な回転を加え、強いGでブラックアウト状態にしてからコンマ一秒で締め落とす技。危険な技だけど宣言通りに無傷で彼女を止めることに成功した。

 

「えっと、それはいずれ話します。失礼ですが、貴女は?」

 

「おおっ、ワシは黄蓋じゃ」

 

「黄蓋さん、ですか・・・」

 

やっぱり僕の知ってる歴史とはかなり異なっている。

華雄さんから聞いた話では戦乱は終わったのだから赤壁の乱も終わっている筈だ。

 

やはりこの世界はタイムスリップより、パラレルワールドの線が有力かな。

いや、この事は後で考えよう。坊主頭が暴れたという事は怪我人も沢山いる筈だ。

一人でも多く助けないと!

 

「すみません、黄蓋さん!お願いがあります!僕を城へ連れて行って頂けませんか?」

 

「・・・それはもちろん構わん。お主はさっきの奴と何か関わりがあるようじゃから話を聞きたいしの」

 

「もちろんです。でも、その前に坊主頭に怪我を負った人たちの場所に案内してください」

 

「むっ?何故じゃ?」

 

「僕は医者です。救える命は一つでも多く救いたい」

 

これは嘘ではない。僕は武術以外にも師匠から色々と学んできた。

 

その一つが医術だ。

 

僕は医者としても達人な岬越寺師匠と針治療のエキスパートの馬師父二人の指導の元、僕は普通の医者以上の知識と技術を身につけた。

 

僕としては教わる事に少しの抵抗があったけど損は無いため教わったけど僕も色々と人間辞めてるな、と思ったのは秘密である。

 

「分かった、お願いしよう。ワシも兵達を一人でも多く救いたいからの。しかし、案内したいのじゃが肝心の馬が逃げてしまったみたいでな。歩いて案内になる」

 

確かに周りに馬がいない。恐らく坊主頭とこの気絶している女性の殺気で逃げてしまったんだろう。

でも、それじゃあ間に合わない人がいるかもしれない。

 

「では僕が走ります。黄蓋さんは僕の背中に乗って下さい!」

 

「なんじゃと?何をバカな事言っとんのじゃお主は?」

 

どうやら僕が人2人を運んで馬より速く着くわけないだろと言いたいみたい。

 

「早く」

 

「仕方ないのう・・・」

 

僕は言うよりも行動で説明した方が早いと判断。背中を向けで黄蓋さんに乗るよう急かす。

黄蓋さんは渋々背中に乗る。よし、急ごう。目指すはあの大きなお城だ!

 

「黄蓋さん!揺れると思うので舌を噛まないようにとしっかり掴まって下さい!」

 

「う、うむ・・・」

 

「行きます!」

 

僕は黄蓋さんの返事を聞いて思い切り走り出した。

 

「ぬおおおおぉぉぉ!?」

 

黄蓋さんの驚きの声を耳にしながら僕は後を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思春様・・・思春様・・・」

 

「思春・・・」

 

場所は呉の医療室の一室。

そこにはゲイスによって重傷を負った思春が眠っており、そのベッドの前で膝を付き涙を零しながら思春の名前を繰り返す明命と雪蓮の妹孫権こと蓮華の姿があった。

そしてその二人の後ろには呉専属の医者がいる。

 

「背中に負いました切り傷からの出血は止まりました。しかし、容体は悪くなる一方。原因は分からず我々では手の施しようがありません・・・」

 

「そんな・・・」

 

「なんとかならないのか?」

 

「せめて甘寧様が目を覚まして容体を聞ければ原因を特定出来るかもしれないのですが・・・」

 

医者はそう言うが、明命が思春を医療室に運び込むまで思春はうなされるだけで一度も目を覚ましていない。

 

「思春様、お願いです。起きて下さい!」

 

「明命・・・」

 

「嫌ですよ・・・。このままお礼も言えずにお別れだなんて・・・」

 

明命に思春を身代りにさせてしまった責任がのしかかる。

斬られるが自分であれば良かったのにと頭の中で何度も何度も繰り返す。

 

蓮華はそんな明命にそっと肩に手を置いた。

しかし、何も声をかけられなかった。自身も悔しさで言葉を出せないのだ。

 

姉の雪蓮の命令とはいえ、自身の側近をこんな目に遭わせた者を捕らえにいけない自分の無力さ。

明命の話では雪蓮と祭が2人がかりでも危ういとの事。もしかしたら大切な人がまた死んでしまうのではないかと、不安が頭によぎる。

 

「ゴホッゴホッ!」

 

「!?」

 

「思春様!?」

 

いきなり思春が咳き込むと同時に血を噴き出した。そして薄っすらと思春の目が開く。

 

「思春!思春!」

 

「れ、れ・・ふぁ・・さま・・・?」

 

蓮華の呼び掛けに耳を近付けなければ分からないくらいの大きさで思春は返事を返す。

 

「み・・みん・・・め・・いは・・?」

 

「明命なら無事よ!」

 

「思春様!私は、思春様のお陰で怪我はございません!」

 

「それよりこれ以上喋ってはダメ!」

 

明命の声が聞こえてか薄っすらと笑みを浮かべた思春は蓮華の言葉を無視して話し出した。

 

「れ・・んふぁ・・ま。お逃げ・・さい。あ・・の・・お・・とこは・・・すぐ・・に・・・やって・・・きま・・す」

 

「な、何を言ってるのそんな事出来る訳ないじゃない!」

 

「思春様!諦めないでください!」

 

思春の言葉に明命が励ましの言葉を捧げるが思春はゆっくりと目を閉じ、言葉を述べる。

 

「明命・・・、お・・まえ・・にさ・・・いごの・・・たの・・みが、ある」

 

「そんな!?最後だなんて・・・」

 

「わ・・たしは・・・もう・・・もた・・ない。だか・・ら、蓮華・・さ・・まを・・まか・・せる」

 

「思春様・・・」

 

自分の死を受け入れ願いを託す思春に悲しみの涙が溢れ出す明命。しかし、思春のお願いはそれだけではなかった。

 

「みん・・めい、おまえ・・・の手で・・・わ・・たしを・・・殺し・・て・・くれ」

 

「!?」

 

「思春!?」

 

自らの命を絶つようにお願いする思春に2人は驚愕する。

 

「わ・・・たしは・・あん・・な、おとこの・・・手で・・しぬ・・わけ・・・には・・・いかん。せめて・・もの・・ていこう・・・だ。みん・・・めい、武人・・としての・・・願い・・・だ・・・」

 

「思春様・・・。しかし!」

 

「・・・明命。思春のお願いを聞いて上げて」

 

「えっ・・・」

 

まさかの蓮華からお願いされ固まる明命。蓮華は涙を堪えながらも話し出した。

 

「思春も悔しいのよ。何も出来ずにこのまま命を失う自分に・・・。だから、せめて悔しい気持ちを残さずに死なせて上げて・・・」

 

「・・・分かりました」

 

震える蓮華を見て覚悟を決めた明命。背中に背負った刀を抜き振り上げる。

 

「ありが・・とう・・・・・・。すまない・・・」

 

「思春様・・・良い眠りを!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てえええええええええええええええええっ!!!!」

 

『!?』

 

もの凄い勢いで開けられたドアと同時に響き渡る一人の大声。

あまりの大声に中にいた全員の動きが止まる。

全員が一斉に振り向くとそこには兼一がいた。

 

「はあ・・・はあ・・・待って・・・ください・・・」

 

やけに息が荒い兼一。しかし部屋にいる蓮華は我に返り思考を巡らした。

 

呉の国に現れた男

 

呉の兵をたくさん斬った男

 

思春を斬った男

 

姉、雪蓮と祭が戦っている筈の男

 

そして、目の前にいる「返り血」を浴びた見知らぬ男

 

これらのキーワードから導き出された答えは一つだった。

 

この男が全てを狂わせた

 

「貴様があぁぁぁぁぁぁ!」

 

蓮華が腰に下げた剣を抜いて兼一に襲い掛かる。

 

「止めい!」

 

「祭!?」

 

それを遮るのは雪蓮と一緒に戦場に残った祭だった。

止めららた蓮華は唖然とするがすぐに切り替える

 

「何故あなたがここに?姉様と一緒じゃ・・・」

 

「話は後じゃ。白浜殿、頼む」

 

「はい!ちょっとごめんね!」

 

既に息を整えた兼一は蓮華の横をすり抜け明命を軽く押し退けて思春の前で座り込む。

 

「き、貴様!思春にちか__」

 

「落ち着きなされ、権殿!白浜殿は敵では御座らん!」

 

「な、なに?」

 

祭の言葉に動きを止める蓮華。それを見て祭は話し出した。

 

「彼は、国を襲った男を退き、暴走した策殿を止め、さらには怪我をした兵達の治療をして下さった。言わば彼はこの国の救世主とも言えよう!」

 

「な!?ね、姉様は無事なのね・・・」

 

「ええ。多少怪我をされたが自室で寝かせて冥琳を付かせております」

 

「そう・・・良かった・・・」

 

一つの心配事が無くなり少しは気持ちが楽になった蓮華

 

「そして、兵の治療が終わったと思ったら急に走り出しての。どうやら死にかけておる思春に気づいたのじゃろう」

 

「思春・・・!」

 

祭の話に夢中になっていた蓮華は思春の方へと振り向くと兼一は思春の身体に触れて何かを確かめていた

 

「・・・専属の医者はもう打つ手はないと言っていたわ。あの男で何とかなるの?」

 

「分かりませぬ。じゃが、腕は確かじゃ。あれ程の腕前は華佗殿とはるやも知れん」

 

「あの五斗米道と・・・」

 

それならもしかしたら、そう思っていると再びドアが思いっきり開かれた。

 

「お待たせしました!!」

 

「み、明命?」

 

「ありがとう。そこに置いといて」

 

「はい!」

 

兼一の指示に従い明命は何かの入った壺と小刀を兼一の横に置いた

 

蓮華と祭は何かと思い兼一の後ろに回り、手元に置いてある物を確認した。

 

針と糸、そして明命が持ってきた壺と小刀。薬、薬草らしき物はなく何をするつもりなのか全く理解できなかった

 

「むっ?明命、これはまさかワシの酒壺じゃ・・・」

 

「あ、はい。あの方から酔いやすいお酒を持ってきてと言われたので一番近かった祭様の部屋にあるお酒を拝借致しました!」

 

「なん、じゃと?」

 

明命の言葉に固まる祭。緊急時とは言え大事な物が無くなるのはショックが大きかった。

 

「お前、その道具とお酒で何をしようと・・・?」

 

「手術です。この方は、肋の骨が折れて肺に突き刺さっている状態です。なので切開して治療を行わなければならないんです」

 

「切って人を治すと言うのか?そんな事聞いた事がないぞ?」

 

確かに三国時代にはそんな手術の技術がある訳がなく、兼一の言葉を信じられずにいる。

 

「一刻を争います。彼女を救う為、皆さんは部屋の外で待っていて___」

 

「や・・めろ・・・」

 

「思春!」

 

兼一の言葉を遮るように声を出す思春。

兼一は驚いた。喋るだけで激痛が走るのに喋ろうと力を振り絞っている事に。

 

「もう・・てお・・くれ・・なのは・・・じ・・ぶん・・・でも・・わかる・・・。だ・から・・・」

 

「ふん!!」

 

「うっ・・・!?」

 

「思春!?」

 

兼一が思春の首元に針を刺した。するとがくりと思春は気を失った。

それを見た蓮華が驚きの声を上げる。

 

「武人の誇りは僕にもわかる。死に様は自分で決めたいものだ。でも、だからこそ彼女はここで死んでいい人じゃない」

 

「・・・お前なら救えるのか?」

 

ぼそりと何とか聞こえる声で蓮華は兼一に問う。

 

「もちろん」

 

「信じて良いのだな?」

 

「この命、誇りに賭けても!」

 

「・・・・・・・・・」

 

蓮華の目から涙が溢れ出す。思春の誇りを優先した蓮華。

それはもう諦めたから、助けられないと判断したから。

しかし、救えると真っ直ぐな瞳で言う男白浜兼一の言葉に何故だかわからないが信じられた。

 

思春は助かる。諦めなくていい。その安心が蓮華の心のダムを決壊させたのだ。

 

「白浜殿。思春を頼みますぞ」

 

「お願いします!思春様を救ってください!」

 

「お願い・・・思春を・・・助けて・・・」

 

「任せて下さい!」

 

3人の想いを自信満々に返事した兼一は手術を開始した。




この後の続きどうしようかな・・・

全然考えてない。

まあ、頑張ろう・・・

感想と評価お待ちしております!


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BATTLE.4 朝稽古

「う、う~ん・・・」

何だろう。とても身体がだるいわ。

頭は痛くないから酒の飲みすぎと言う訳じゃないみたいだけれど・・・

私は身体を起こして周りを見渡すと自分の寝室である事は理解した。

そもそも私は何時の間に眠ってしまったのかしら?

えっと・・・覚えているのは、さぼろうとしていた私を捕まえた冥琳と一緒に政務をしていて、管輅から送られてきた・・・___ああっ!?

そうだ!流星に乗ってやってきた男と戦ってたんだわ!

でも、確か私と祭以外は全員撤退させて男と一騎打ちして・・・駄目だわ。そこからの記憶がない。

殺気や緊迫した空気に興奮してたのは覚えてる。でもそこからの記憶が飛んでいるわ。

私はあの男にやられたの?

と言う事はここは天国なのかしら?

でも身体には包帯が巻かれているし、ここは私の部屋だから違うようね。

じゃあ、祭が仕留めた?

でも私が邪魔しないように釘刺したし、一騎打ちを邪魔するような人じゃない。

そもそも、あの男の実力じゃ横槍を入れても簡単に裁かれてしまうでしょう。

「ああ・・・。考えれば考えるほど分からなくなってきたわ。とりあえず、外に出て冥琳か誰かに話を聞くしかないわね」

そう結論に至った私は立ち上がり部屋から出ようとするとあることに気づいた。

「あの男に切り傷や当身を受けたし、起きた時はかなりだるかったのに意外と楽に立ち上がれたわね?」

手当てが良いのかそれとも自分の考えすぎなのか。私はそんなに気にする事はせず真相を確かめるべく部屋を出た。

「あら?」

勘で誰か居そうな場所へ歩いてきたけど何やら楽しそうな事をしている2人を見つけたわ。

一人は明命ね。武器を手に斬りかかっているみたいだけど、もう一人の・・・見慣れない男(蓮華よりちょっと上くらいかしら?)はそれを避けている。

でも、ただ避けているだけじゃないみたい。斬りかかる明命に時折殺気をぶつけて動きを止めているわ。

しかも、その殺気は明命にだけ当てられているから周りに居る猫達が逃げる事無く、丸くなって眠っている。

私でさえ注意して見ていなければ気づけない。それだけであの男の強さがわかる。

どうしたのかしら、私。とても戦いたいと思っている。

ぱっと身はそんな強そうに見えない男。天の御遣いの方が強そうに思えてしまう。

でも、心の奥底から全力で戦いと言っている。私の身体はいつの間にかここまで我慢が出来ない身体になってしまったのだろうか・・・。

私の手元には武器はない。それでも関係なかった。武器がなければこの爪がある。

私はあの男に襲い掛かるために全身に力を込めた。

早朝、兼一と明命は2人で修行を行っていた。

事の始まりは、兼一が思春の手術を無事に終わらせて一息ついた後のことだった。

「私に稽古をつけていただきませんか!」

「えっ?」

兼一の前に正座でお願いする明命。

さすがの兼一もいきなりの事で状況がよく分からなかった。

「えっと君は?」

「あっ!申し遅れました!私は周泰と申します!」

「あっ、うん。僕は白浜兼一、よろしくね」

「はいっ!」

お互いに自己紹介をして満面の笑みを浮かべる明命。さっきは鬼気迫るような表情をしていたので安心した兼一。

「えっと、さっき僕に稽古をつけてくれとお願いしてたようだけど・・・」

「はい!祭さまから白浜兼一様はかなりお強いとお聞きしました。ですので私に強くなるための稽古をつけて頂きたいのです!」

祭と言うのは恐らく黄蓋の事であろうと判断した兼一は話を続けた。

「いやいや、僕なんてまだまだだよ」

「ご謙遜を!思春様を斬ったあの男を一人で撃退させたのですから!」

またもや真名であろう名前で話す明命に戸惑うが、先ほど手術した女性の事だろうと判断した兼一。

「ありがとう。でも君は僕に稽古を受けなくてもかなりの実力者だってわかる。それでも僕に稽古を受けたいのはどうして?」

「・・・私は動けませんでした」

「えっ?」

理由を聞かれて俯いてしまう明命は小さな声で話し出した。

「私は男に斬られそうになった時、思春様に庇われた時、身体が動けませんでした。私は男の殺気に飲まれ足が、身体が竦んでしまいました」

地面に水滴が落ちる。

明命は思い帰り、自分の情けなさに涙を流していた。

「私はもうあんな風にならない為にも強くなりたいんです!」

「・・・・・・」

兼一は目の前の光景に見覚えがあった。梁山泊で空手部の先輩にやられて師匠達に自分の力の無さを嘆いたときによく似ていたのだ。

「君は力を手にしてあいつに仕返しをしたいのかい?」

「・・・それもあるかもしれません。でも!」

明命が俯いていた顔を上げて兼一の顔を真っ直ぐな瞳を向けながら話した。

「それ以上に!私は変わりたいんです!守られる側ではなく、守ってあげる側に!そのためには力が必要なんです!」

「・・・君は僕とよく似ている」

「えっ?」

「僕も非力な自分に、何も出来ない自分に泣いたものさ」

それはまだ数年ほど前ではあるが、とても懐かしく思う兼一。その話を聞いて明命はとても信じられない顔をしていた。

「白浜兼一様ほどの実力を持ってしてでもですか?」

「・・・人間誰しも最初から強いわけじゃない。努力して自分の信念を貫き通した人が強くなる」

「信念・・・」

「そして周泰ちゃんは僕に頭を下げてまで強くなりたいという信念がある。僕はそれに応えたい」

「では!」

明命の信念に兼一。それを理解した明命はとても嬉しそうな表情に変わる。

「明日から稽古を始めよう。僕も出来る限り協力するよ」

「本当ですか!?」

「でも条件、というか約束があるんだ。これだけは絶対に守ってほしい」

「約束?」

「うん。_______こと。どんなことがあってもこれは守って欲しい。出来るかな?」

「・・・はい!必ず!」

「ありがとう、周泰ちゃん」

約束を守ると約束した明命に頭を撫でながらお礼を言う兼一

「明日から頑張ろう、周泰ちゃん」

「・・・・・・」

「・・・?周泰ちゃん?」

「・・・・・・はっ!?」

さっきまで元気よく返事をしていた明命がいきなり黙り込んでしまい頭を傾げる兼一。

それと同時に明命の頭から手を離すと少し物足りなさそうな表情をしながら兼一の手を見つめていた明命。すぐに正気に戻った明命は顔を真っ赤にしつつ話し出した。

「し、白浜兼一様!わ、私のことはみ、明命とお呼び下さい!」

「・・・それって真名だよね?良いのかい?」

「は、はい!白浜兼一様はお師匠様になられるお方。是非とも真名で呼んで頂きたいのです!」

「・・・わかった。僕は真名が無いから白浜か兼一、好きなほうで呼んでくれていいよ。これからよろしくね、明命ちゃん」

「は、はい!宜しくお願いします!兼一様!」

こうして明命から真名を授かり、明命に稽古をつけることになった兼一であった。

約束通り、明命ちゃんと稽古を行っている訳なんだけどやっぱりと言うか当然と言うか、かなり筋が良い。

僕よりも全然才能があるし、飲み込みも早い。でも話を聞いて見たら鍛錬の殆どが組手との事だ。

岬越寺師匠が言ってたけど昔の人は筋トレが必要の無いくらい組手を行っていたらしい。

こんな僕よりも若い女の子が僕以上に組手を繰り返して妙手のレベルまで到達できるなんて本当に感心させられる。

そんなことを明命ちゃんに言ってみたら「そんなことありませんよ」と嬉恥ずかしそうに笑顔で答えていた。そんな明命ちゃんを見て可愛いなと思ったのは仕方の無い事だと思う。

ちなみに稽古は僕の修行も兼ねていたりする。

明命ちゃんに自由に攻撃してもらい、僕はそれを避けて時折に気当りをぶつけて慣れさせる。

明命ちゃんが動けなくなってしまった原因は殺気による気当たりに打ち負けてしまった事だと思われる。

だから気当りに打ち負けないようにするためには、受け流す技術と慣れだ。

僕も昔は師匠達に気当りで気絶させられていたからよく分かる。簡単な対処方法は相手の気当り以上に強い気当りをぶつける事だけどそれは今の明命ちゃんには難しいから、気当りを受け流す技術を教え、身体で染込ませて慣れさせるのが今回の稽古の目的だ。

少しずつだけど刀で気当りを受け流し始めている。それを動きながら出来ればほぼ完璧である。

「明命ちゃん。次はもっと強く気当りを当てるからね」

「はい!宜しくお願いします、兼一様!」

「・・・えっと、出来れば『様』は止めて欲しいんだけど」

「だ、ダメでしょうか?」

いや、ダメと言うわけではないんだけど女の子に様付けされるのはどうも違和感があるんだよね。

でも上目遣いで泣きそうな瞳をされてしまえば断れるわけもなく・・・

「いや、まあ、明命ちゃんの好きに呼んでくれて構わないよ・・・」

「はい!ありがとうございます、兼一様!」

自分の意思の弱さが恨めしく思う。

まあ、このまま稽古を続けたい所だけどちょっと問題があるんだよね。

明命ちゃんは気づいてないけど廊下の柱に一人隠れて此方を見ている。

見ている分には問題ないんだけど、まあちょっと挨拶しておこうかな?

「おはようございます、孫策さん」

「っ!?」

「あ、あれ?兼一様?」

今にも飛び出しそうな姿勢をしていた孫策さんがもの凄い勢いで距離を取った。

僕は孫策さんの背後に回り込んで挨拶をしただけ。気配を消していたので僕の声を聞くまで気づかれなかったみたい。

稽古を再開して攻撃を仕掛けようとした明命もいきなり居なくなった僕を探している。

それほど早く僕は孫策さんの背後に移動したことになる。

「あっ!けんい___雪蓮様!?」

周りを見渡して僕を見つけたと同時に孫策さんも視界に入り驚愕の表情をしている明命。

いきなり君主が現れたら驚くのも無理はない。

でも、問題は孫策さんの状態だ。少しだけど動の気が溢れ始めている。なぜかは分からないけど落ち着かせないと

「なぜ私が隠れていることに気づいたのかしら?」

「えっ?それはあなたの視線を感じたんです。見ている分には構わなかったのですが、途中から殺気に変わってて。そう言えばちゃんとした顔合わせはしてないと思って挨拶をと」

「そう・・・」

孫策さんが笑みを浮かべてこっちを見ている。

あっ、この笑顔は強者を見つけたときのバーサーカーさんによく似ているな。

バーサーカーさんに似ていると言うことはつまりそういうこと(戦闘狂)なのかな?

「落ち着いて下さい、孫策さん!下手したら傷口が広がりますよ!」

「・・・あら?この手当てはもしかして、あなたがしてくれたのかしら?」

「は、はい。そうですけど?」

「ふうん・・・」

なにやら僕が巻いた包帯を見て考えている孫策さん。手当てはちゃんと施したから問題は無いはずなんだけど?

「えっと何か問題でもありましたか?」

「ううん・・・。問題ないわ。全然痛くないし・・・」

「それは良かった」

本当に良かった。

岬越寺師匠には手当ては自分が怪我していた事を忘れてしまうくらいがベストだと言ってたからね。

「だから、今どれだけ動けるかを確かめてみたいのだけれど・・・。あなたが相手してくれないかしら」

でも、孫策さんの提案が予想外だった。よくよく考えてみたら岬越寺師匠の手当てが完璧すぎて最初は動けても途中で怪我の影響が現れて、やられかけた事がいくつかあったけ?

まあ、無理した僕が悪いんですけど。

無理する患者で申し訳ございませんでした岬越寺師匠!

というか可笑しいでしょ!状態知るために戦えって!

医者の立場である僕からしたら今すぐにベッドに戻ってもらわないと!

しかも、今の孫策さんだと怪我を気にせず全力で襲い掛かってきそうだ。

鎮圧しようにも病人だし手荒な事はしたくないし・・・

「雪蓮!何をしている!」

どうしようかと考えていると孫策さんの真名を大声で呼ぶ女性が現れる。

あの人は確か周瑜さんだ。

凄い剣幕で孫策さんの目の前まで歩み寄り、その孫策さんの耳を思い切り引っ張った。

「痛い!痛い!痛い!冥琳、痛い!」

「お前と言う奴は!見舞いに行ったら姿が無くて、慌てて探し回り、ようやく見つけたと思ったら恩人になに喧嘩を売っているんだ!」

「ううっ~~・・・?恩人?」

周瑜さんの言葉に食いついた孫策さん。

何だろう?嫌な予感がする・・・

「彼は白浜兼一。流星に乗ってやってきた男に斬られそうになったところを助けてくれたのだ。それだけではなく、その男を撃退し暴走したお前を鎮めてくれたそうだ」

「へえぇぇぇぇ~」

周瑜さんの話を聞いて僕に興味津々な表情を向けてくる孫策さん。

もしかしなくてもこれは逆効果でなかろうか?

「それに怪我をした雪蓮を治療し、暫くは絶対安静と言われた。だから、大人しく寝室に___」

「冥琳。悪いけどそれはできないわ」

「・・・なんだと?」

「もう興奮が治まらないの・・・。今すぐこの子と戦いたい・・・」

やっぱりか・・・。動の気がさらに激しく揺れ始めている。このタイプを鎮めるにはあの手しかないかな。

「わかりました。お相手致しましょう」

「なっ!?」

「本当!!」

ぱあっと満面の笑みを浮かべる孫策さん。僕はこの人の表情は暴走時と気絶時の時しか見たことなかったけど、笑うと意外と可愛いんだな・・・。

それ以外はクールで綺麗なイメージだからギャップが激しい

「ええ。条件付ですが」

「条件?」

「はい。孫策さんの全身全霊を込めた一撃を僕が受け止める。簡単な内容ですが、やってみれば意外と興奮が治まると思いますよ」

こういうタイプは時間をかければかけるほど動の気が増して手をつけられなくなる。だから一番最初に全ての力を吐き出させて落ち着かせようって訳。

「ふうん・・・。良いわ!それはそれで面白そうだし!」

「おい、雪蓮!私はまだ良いと言っていないぞ!」

「周瑜さん。大丈夫ですよ、ここは僕に任せて下さい」

「だが・・・」

周瑜が孫策さんを心配している気持ちは十分に伝わってくる。

でもそんな周瑜さんの気持ちを無視して準備を始めた孫策さん。

「離れてなさい、冥琳、明命。思いっきり行くから!」

「くっ・・・。白浜殿、すまないがあのお転婆娘を宜しくお願い致します」

「あの、兼一様!頑張って下さい!」

もう止められないと判断した周瑜さんは僕に頭を下げて、その場を離れた。

明命が僕の目の前に立って応援の一言言って離れていく。

「あなたの名前は確か白浜兼一だったかしら?」

「白浜か、兼一で良いですよ」

「それじゃあ兼一。本当に思いっきり行くわ。受け止めた手が吹き飛んじゃうくらい思いっきりにね!」

「いつでも良いですよ、孫策さん」

「わかったわ!・・・・・・・・・はあああああぁぁぁっ!」

孫策さんが拳を固めて自分の力の全てを宿らせる。

これは油断できない。僕は気を引き締めた。

「うおおぉぉぉぉぉ!!!!」

「はあっ!」

孫策さんの全力の拳を僕は左手で受け止める。

その威力は一般人が受けたら手が吹っ飛ぶだけではなく、その勢いで腕の骨が粉砕され、間接が曲がってはいけない方向に曲がって目も向けられない悲惨な状態になっていただろう。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

お互いに何も喋らない。僕は孫策さんがまた暴れださないかと不安でいっぱいだったりする。

「・・・くうぅぅぅ~~!!すっきりした!!」

両腕を上げて身体を伸ばす孫策さん。その表情は晴れやかなものであった。

どうやら上手くいったみたい。僕の憶測だったけど当ってよかった。

「それは良かったです。滅多に振るえない全力を出せたから予想以上にすっきりしたのでは?」

「ええ!それもあるけど兼一の実力がはっきりとわかったのも大きいわ!」

「えっ?」

「兼一って変わった気を持っているのよね?なんというか気を抑えていると言うか、留めて気を巡らせているというか、今までで一度も見たことないわ。だから、どれくらい強いのかとても気になってたの!」

とても満足そうに話す孫策さん。

孫策さんが言っているのは恐らく動の気の反対、静の気の事を言っているのだろう。

確かに僕は孫策さんみたいに感情を爆発させ、精神と肉体のリミッターを外して本能的に戦う動のタイプとは、真逆の心を落ち着かせて闘争心を内に凝縮、冷静かつ計算ずくで戦う静のタイプである。

でも、この時代にそんな区別が出来ていたとは思えない。恐らくこの人の直感でそう思わせたんだろう。

「それに受け止めるときに私の拳が潰れないようにしてくれたわね?兼一がどういう人柄なのかも十分理解したわ!」

凄いな。どうやら僕も密かに試されていたみたいだ。

「うんうん。今ので複数のもやもやが消えて本当にすっきりしたわ。ありがとうね!」

「いえいえ。満足して頂けたようで良かったです」

「ええ、本当に良かった。すっきりしたところで申し訳ないが、少し私の話を聞かないか?雪蓮?」

「・・・・・・」

ぎぎぎっと首を錆びてしまった人形のようにゆっくりと首を向けた孫策さんの先には鬼・・・いや般若の顔をした周瑜さんがそこに居た。

「・・・白浜殿。何か失礼な事でも考えておりませんでしたかな?」

「とんでもございません!」

周瑜さんもかなり勘が良いみたいだ。

「い、痛たたたたっ!さっきの一撃で拳を痛めちゃったわ。兼一、治療するために私の部屋に行きましょう!」

「嘘を吐くな、雪蓮!先程の話はちゃんと聞いていたぞ!白浜殿、雪蓮を捕まえろ!」

「あ、はい」

僕は周瑜さんの言うことに従って孫策さんを捕まえる。

目の前に居てくれたおかげで簡単に捕まえることに成功した。

「ちょ、ちょっと兼一!何で冥琳の言うことをそんな素直に聞いちゃうのよ!」

いや僕としては今の周瑜さんに従わないと僕の身も危ないと感じました。

「ありがとうございます、白浜殿。少々お待ち頂けますかな?このお転婆娘を叱ってまいりますので」

「い、嫌あああああああぁぁぁ!?」

周瑜さんは孫策さんを連れてどこかに行ってしまった。

 

「えっと・・・。稽古の続きしようか?」

 

「あ、はい。宜しくお願いします」

 

残された僕と明命ちゃんはとりあえず邪魔された稽古の続きを再開するのであった。

ちなみに雪蓮さんは稽古が終わっても来なかったので様子を見に行ったら周瑜さんだけではなく孫権さんにも怒られていたのを僕と明命ちゃんが目撃したのは余談である。




予定では、もう少し進める筈でしたが予想以上に文字数が多かったので区切ってみました。

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