東方生還録 (エゾ末)
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平凡の終わり

読み専だったのですが、ふと思いついたので
投稿してみました!
 初投稿なので読みやすさは保証できませんが
ゆっくり見ていってください!!


 

 

 おれの名前は熊口生斗、高校2年生のピチピチ17歳だ。

 たとえ男だとしてもピチピチということは適応されるはずだとおれは思う。

 まあ、そんなことよりもまず、おれがこの人生で望んでいることを聞いてもらおう。……それは“平凡”だ。平凡ということは実に素晴らしいことだとおもう。

 平凡に学校へいき、そして就職、平凡な家庭を築き、なにも事件にもまきこまれず寿命で生涯を終える。これに対してつまらないやつとか、夢がないとでも思われるかもしれない。けれども結局は平凡が一番だとおれは思う。アイドルとか芸人などの不安定な所に就職するより公務員や一般企業に就職するほうが絶対にいいと思うんだ。

 けれどもおれだって一部の理想や非日常を過ごしてみたいと思ったりもする。さっきといってることと矛盾しているかもしれないが仕方がないことだ。だって17歳だし。今堅物みたいな話し方しているけど実際そんな真面目ちゃんキャラじゃないし。べ、別にカッコつけているわけじゃない!自分の理想について語るためのキャラ作りだ!……ごほん、話がずれた。おれだってたまには非日常を味わってみたいといのもなくはない。一番酷かったのは中学3年の時、受験勉強の休憩中に読んだ漫画に感化され、そのキャラの真似事ばかりをしていた。今ではそれもほとぼりが冷め、そんなことはしなくなったが、いまだにその名残で髪型はオールバックだ。それだけでもおれが中3のとき、どれだけ頭おかしかったのか分かるだろう。

 

 ……まあ、そういうことで別に平凡がいいからといって非凡が嫌というわけではない。

 しかし、だからといってずっと非凡がいいというわけではない。優先順位はあくまで平凡だ。

 そもそも非凡を望むというのは平凡を…………

 

 

「もういい加減現実逃避をやめんかい」

 

「……はい」

 

 はい、もう現実逃避はやめます。口調も元に戻します。

 これ以上もう”叶えられない理想“を語っても意味ないし。

 今おれに現実逃避するなと言ったのは神様らしい。

 見た目は60代半ばの老人。なんかそれらしい杖を持っている。そしてなんでおれが現実逃避をしていたかというと…。死んだからです、はい。いやぁ、まさかちゃんとした橋だと思って安心して渡ってたら底が抜けて20メートル下の岩に頭をぶつけてお陀仏になるなんてな。アハハハ!…………笑い事ではないな。

 そこで終わったな、おれの人生。と思っていたらいつのまにか純和風な部屋にいて、そこに神様がいたっていうのが今までの流れ。いや、ほんと死んだとは思わなかったな。最初の方嘘だと思って抗議してたけどおれが死んだ世界での自分の死体を見た瞬間そんな気もうせたけどね。かわりに現実逃避してたけど。

 

 

 

「まあ、君は運が悪かったけど、ワシに出会えたことに関しては世界一幸運と思ってもいいぞ。地球上で一人という確率を引き当てたというのじゃからな!」

 

「そ、そうなんですか?もしかしてこれまで彼女できなかったり週に2回は弁当を忘れたり初めてやることはだいたい失敗したりするのはこのときのために幸運をためてたからなんですね!」

 

「いや、それは君の努力次第だとおもうんだが…」

 

「あ、そうですか……」

 

 

 全部努力次第か……はあ、彼女ほしかったなぁ。できればナイスバディなお姉さんとか……

 

 

「ま、それも今日限り!だって君は生まれ変わるのだから!!」

 

「それってまさか…………生き返らせてくれるんですか!?」

 

「んまあ、確かに生き返らせるが……それとはちょっと違う。君は転生するのじゃ!」

 

「転生!?」

 

 

 なんてこった……転生ってつまりラノベとかでよくあるやつだよな?異世界とかに行って、魔王を討伐してこい的な。

 確かにそれも楽しそうだけど……やっぱり元の世界で生き返りたいな。

まずやだよおれ、魔王なんかと戦うのなんて。

 

 

「元の世界に返してください」

 

「いきなり転生することを拒否してきたな、そんな奴はじめてじゃ……しかしそれじゃあつまらん。せっかくの暇つぶ……転生なんだからもっと波乱万丈な人生の送れる世界にいかせてやる」

 

「いや、あんたがつまらないとかはどうでも……ていうか今なんか暇潰しって聞こえたような……」

 

「気のせいじゃ。ま、とりあえず適当な場所に転生させるから。平凡な所になるかどうかは君の運次第じゃな。あ、それともし危険な所に転生した場合の予備としてなにか能力を授けよう。ご要望は?」

 

 

 ああ、おれの意見はガン無視ですか、そうですか。なんだこの神。

 ……いや、でも待てよ。今この神はおれになにか能力を授けると言ったよな。もしその能力がチートレベルの物だったら…………うん、その世界で快適ライフが待っているかもしれない。だってチートなら逆らうやつもいないだろうし、なにもしなくても強いわけだし。

 ……うんうん、それも悪くないかもしれない。よし、じゃあここはそこにいる老神にどでかいのを頼んでみようかな。この流れなら大抵のことは許容してくれそうだしな。

 

 

 

「まじですか!?それじゃあ、神さ……」

 

「っていっても君に決定権はないけどね。どうせ神になりたいとかチートじみたこというんだから」

 

 

 駄目だった!?

 

 

「まあ、それはワシがきめておくよ。…………さて、そろそろ時間じゃの。それでは君の幸運を祈るよ」

 

「え?!時間って…………うわあぁぁ!!?!」

 

 いきなりおれの足元に大穴が空いた。

 勿論、足元に空いたということはおれが踏みとどまる事は出来ないわけで。

 そのままおれは為す術もなく大穴に落ちていった。

 

 ……たぶんこれが転生というやつなのだろう。なんと物騒な。

 結局あの神はおれになにをしてほしかったんだ?理由がわから…………いや、さっきのあの神の失言からして暇潰しの可能性が高いな。

 ……たく、神の癖に人の命を弄ぶなよな。

 

 

 まあでも、また生きるチャンスを与えてもらったんだ。それに関しては感謝しなくちゃな。

 

 さて、これからおれの第2の人生。不安だが、行ってみるか!

 

 

 

 ……能力ぐらい教えてほしかったけど。




読んでくださりありがとうございました!
次話はついに東方世界にいきます。


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1章 【月へ行く前の人達との交流】
1話 サバイバルなんてできないぞ……


2話目投稿です。



 

 

 目が覚めたら森の中にいた。しかも真夜中。正直少し怖い。ていうかなんで神はおれをこんなところにスポーンさせたんだ?普通村とかの近くだろ。

 

 

 と、内心神にたいして文句を言っていると頭に違和感があることに気づいた。

 なんだ?頭に何かがついてるような……

 

 

「あれ?取れない。感触からして眼鏡っぽいけど………

 ってこれサングラスじゃないか。なんでついてんだ?」

 

 なんとかして取れない眼鏡っぽいなにかを動かして目の方へ掛けてみるとグラサンだということが判明した。

 お、中々イカすグラサンじゃないか……ってそうじゃない!

 おそらくあの神が送ったものだろう。よくよくみれば服装も登山用の服だったのがドテラに黒のT シャツにかわっている。なぜにドテラ?神の趣味?あ、でも暖かいな、これ。布団にくるまってるみたい。

 

 ふむ、中々神も嬉しいことをしてくれるじゃないか。グラサンにドテラ。格好的には全然合ってないが、どちらも気に入った。

 

 そうおもいながらおれはグラサンをいじってみる。

 すると、おれはとんでもないことに気づいた。

 

 

「え、え?グラサンが取れない!?」

 

 

 そう、何故かグラサンが耳の方にくっついていて、外そうにも外れないでいた。

 おいおい、何かの冗談か?年中グラサンをつけるのなんて流石に御免だぞ……

 

 

「はあ……てかほんとに何処だよここ。」

 

 

 こんな真夜中の森に放り出されてさ。神はおれにサバイバル生活をしろといってんのか?

 したことなんてないぞ。ずっと温室暮らしだったわけだし。

 それにサバイバルをさせるのなら何かしらの備品を用意してくれる筈だろ。グラサンとか服は用意してるんだから。

 そう推測したおれは辺りを見渡す。

 しかし周りに見えるのは木や木や木、もはや木しかない。サバイバル用品なんて見る影すらない。

 

 ……おい、これはどういうことだ。本気のサバイバル生活をしろってか?備品から作れってことなのか?

 それは流石に酷すぎるだろ……

 

 あ、もしかしたらポケットとかにあるかもしれない。まあ、淡い期待だ。まずポケットの中に入っているものなんてたかが知れてる。

 まず、着てる分、なにかが入っているか肌に当たる感触でわかるはずだ。だけど、さっきからちょこちょこ動いているが、全然そんな感触はしない。

 つまりだ、おれのポケットの中にはサバイバル用品は入っていないということになる。

 でももしかしたら、なにかが入ってるかもしれない。そう淡い期待を残しつつ、おれは一応、ズボンのポケットに手を突っ込んでみる。

 すると_________

 

 

 

「お、紙!」

 

 

 1枚の紙が入っていた。もしかしてサバイバルの基本とかが載ってる説明書か?

 

 

「……て、これ手紙か。なになに、宛先は……神?」

 

 

 神からの手紙?なんだ、能力についてとかか?あ、もしそれについてだったら嬉しい。この意味わからん場所から脱出出来るかもしれないし。

 

 よし、それなら十分見る価値がある。

 夜中なので見えにくいが目を凝らしたら何となく見えるな____

 

 

『これを読んでいるということは無事転生に成功したようじゃな。転生ってするのは簡単だけど成功する確率って実はかなり低いから少々心配しておったんじゃ。確率で言うとざっと40%ぐらい。

 まあ、それはおいといて、実は君に言い忘れてたことがあるんじゃ。それはな……ワシが満足したら元の世界に戻してあげるということじゃ!事故前まで時を戻してな。

 あ、それと能力は君がゴキブリのようにしぶとく生きられるようなやつにしたから。

 PS.君のかけているグラサンは絶対にとれないし、壊れないから安心せい』

 

 

「うん。苛立ちと嬉しさが同時に込み上げてきた」

 

 

 割合で言うと怒り:嬉しさ=8:2で。

 なんだよ成功率40%て?!そんなの聞いてねーよ!

 なに、下手すりゃおれ消滅してたの?あのとき少なからずあんたに感謝してたのに!?

 ……まあ、成功したのなら良しとしよう。今度会ったら文句いってやるけど。

 あと元の世界に帰れることに関してはとても魅力的だ。

 だって一回死んだのにまたやり直せるんだぞ?今もそんな感じではあるけれど、この世界が平和だとは限らないからな。

 

 でもどうやったらあの神に満足させられるのだろうか。全く検討もつかない。

 あの神が口を滑らせてた通りなら単なる暇潰しだろうし。あの背徳的な神を楽しませるのは少し癪だな……

 それになにがグラサンは取れないから安心せいだ!寝るときとか邪魔だろうが!

 ん?そういう問題じゃない?いや、問題だ。おれは寝ることが大好きだからな。少しでも睡眠を妨害するものはないほうがいい。

 

 まあ、とにかくそれに関しては置いておこう。

 とりあえず能力だ、能力。なにがゴキブリだ。あの黒光りしたやつの能力て……いや、まてよ。まさかあのゴキブリがでてくる大人気漫画みたいなのか!?おれの能力って!

 

 

「そういえばなんか力がみなぎっているような感じがするぞ」

 

 

 ふむ、嫌なことばかりではないということか。さて、どんな能力か書かれていなかったことに不満はあるが、試すにはちょうどいいかもしれないな。こんな人影も糞もない森の中、おれがなにをしようと知られることはないんだからな。

 

 ということで真夜中だけど力試しを行うことにした。まずは木の目の前に立つ。よし、いまの力のみなぎっているおれなら行ける気がする、そんな気がする。前の人生じゃ木を思いっきり叩くという行為は、ただの馬鹿がするようなことだが、いまのおれは一味も二味も違う。もしかしたら三味もちがうかもしれない。だって神に能力を授けてもらったんだからな。

 まずはその能力がパワー型かどうかを調べる。

 もしパワー型なら思いっきり木を叩いた場合、木は木っ端微塵になるとおもう。

 予想ではな。

 おれ的にはパワー型がいい。だってあまり深く考える必要もないから楽だろうし。

 

 よし、善は急げだ。さっそく試すか!!

 

 

「うおりゃぁ!!」

 

 

  バキッボキッ

 

 

 うん、嫌な音がした。まず木は……おお、折れはしていないがくっきりとめり込んだ後がある。予想を遥かに下回った。

 だけど前のおれだったらめり込む事すら叶わなかっただろう。ふむ、でもこれがパワー型の能力だったら泣くな、おれ。

 

 それと殴った右腕は………………見なかったことにしよう。決して自分の右の中指が青黒くなって感覚がなくなってなんかいない。うん。そうだな……

 

 

「痛っ!?え、マジか!?絶対これパワー型の能力じゃない!痛い痛い痛い!!」

 

 ちょ、マジで痛い。なんだよこれ、強く叩きすぎてしまった!おそらく、変な木の出っ張りに中指が当たったから折れたんだ。

 くそ、殴るところをちゃんと確認して殴るんだった!

 

 

「うっぐ……!」

 

 くそ、この止めどない、無限にやって来るような痛みはなんだ……

 助けを呼ぼうにもこんな森の中、しかも真夜中に人がいる可能性なんて0に等しい。まず、この世界には人は存在するのか?

 もしそうなったら詰むんだが。本格的にサバイバル生活を送る羽目に……てか、この指の施術法すらしらないんだけど!

 お願いします!神様仏様!だれかこの森に医療技術を持っているグラマーなお姉さんが来ますように!

 

 ……いや、無理か。神があんなだし……

 くっ、ほんとにこの痛みをどう沈めれば……

 そう思っていると草を踏む足音が此方に近づいてきているのが聞こえた。

 

 

「誰かいるの?」

 

「だ、誰だ?」

 

 

 まさか……ほんとに人が来た!?

 もしかしてあの神が気を利かせてくれたのか!……いや、あの神はあり得ないな。たぶん仏様がおれを助けてくれたんだ。ありがとう、仏様。

 

 でも本当に運がいい。ここで人に会えるなんてな。

 後は今声を発した人に道案内をしてもらえれば……

 

 と、その声の主の方を振り返ってみた瞬間、おれは絶句した。

 

 …………うおい、なんだこの超絶美人は。髪は銀色の三つ編みで、容姿は整った骨格に透き通るような白い肌。まるでテレビ画面からそのまま出てきたかのようだ。

 服は、うん。赤青が趣味ですか?ナイスセンスしてますね。まあ、それを着こなせているこの美女はおれがこれまであった女の人のなかで一番の美女だ。しかもグラマーときた。

 ほんと仏様、ありがとうございます。もう死んでもいいぐらい満足です。

 

 と、いきなり現れた美人さんにみとれていて忘れていたが今中指折れてるんだった。

 

 

「す、すいません。ここら辺に病院ってありませんか?」

 

 

 スっと右腕を背中に隠しながら美女に聞いてみる。こんな美女の前でカッコ悪い姿は見せられない。

 

 

「貴方怪我してるじゃない。ちょっと見せなさい。

 診てあげるわ」

 

「え?」

 

 

 まじか、なんで隠したのにわかるんだ、この人?観察眼が凄いな。

 そう思っていると美女はおれの側まで来て、隠していた右手を取り、折れた中指を診始める。

 あ、この人の髪、良い匂い……

 

 

「大丈夫、これぐらいならここで治せるわ」

 

「あ、はい……」

 

 

 なんか信じられないがこの美人さんが言うと安心するな。ていうかこの人、美人な上に応急処置の仕方までできるのか?……もはやパーフェクトだよ。パーフェクトレディだよこの人。

 

 

「……っう」

 

 

 と、安心しきった状態でいると、中指をいきなり掴まれ、無理矢理まっすぐさせられた。かなり痛い。え、これ正規の治し方じゃなくない?

 そして、痛みに耐えていると、なにかわからない緑色のドロッとした液体を中指に塗られ、包帯に巻かれた。乱暴過ぎる……

 と文句を言いそうになったが急に痛かった中指の痛みがすーっと軽くなってきた。

 

 

「え……これは?」

 

「まだ動かさない方がいいわ。痛覚は今塗った薬で消えてるけど骨はまだ完全にはくっついてはいないから」

 

 

 どんな塗り薬だよ、聞いたことないよそんな薬。

 もし後から酷い副作用が出るとか言われてもおかしくなさそうだな。

 まあ、でも処置を施してくれたのは事実だ。素直に礼を言おう。

 

 

「こんな赤の他人のために……ありがとうございます。

 あ、おれの名前は熊口生斗っていいます」

 

「どういたしまして。私は八意××。永琳とよく呼ばれているわ。」

 

 

永琳……良い名前だなぁ。いや、それよりも今永琳さん何て言ったんだ?

 

 

「え?いまなんていいましたか?」

 

「……決まりね。」

 

 そういうと永琳さんは無言でどこからか取り出したか分からないが弓を構えてきた。

 ___え?決まりってなに?なんでいきなり弓を構えてきたの?

 

 

「な、なんですか?!」

 

「私の名前を聞き取れなかったでしょ?あれは私達の国の人々でしか言えない言葉。つまりそれを聞き取れなかった時点で貴方は余所者よ。ま、それは大体予想できてたけれどね。」

 

 え、えぇ……余所者だからって、えぇ……

 いきなり死んじゃうやつかこれ?

 この世界にきてまだ1時間も経ってないぞ……




1話続いて読んでくださった方。ありがとうございます!


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2話 未来都市かよ!

 

 ……空の奥の方が薄く明かりが出始めた頃、おれは先程会った永琳さんに弓を突きつけられていた。

 てこれってピンチなんじゃないか。

 まさか此処が永琳さんの国の領地の中だったとは……あ、でも領地があるということはこの辺りに町とかがあるということだ。

 ここでなんとか永琳を説得できればサバイバル生活をしなくて済むかもしれない。

 でもいきなり弓を向けてくる相手を説得できるのか?

 おれにそんな話術なんてないぞ……

 それに今、平気そうにしてるけどかなりびびってる。脇汗が滝のように出てるよ……本当に滝のようにはでてないけどな。

 

 

「それじゃあ貴方に質問するけど、いいわね?」

 

 

 質問?……もしかして永琳さん、最初からそのために矢を引いてるのか?

 確かに得たいの知れない余所者を何もなしに問いても答えてもらえないかしらばっくれる可能性がある。

 おれはそんなことはしないんだけど……たぶん、用心深いんだろう、この人は。

 もし敵でも、いつでも対処できるし、脅しの手段としても使える。まあ、妥当な判断であることは確かだよな。やられてる身としてはたまったもんじゃないけど。

 

 

「拒否権はないんでしょ?まあ、拒否するつもりはありませんが。隠すことなんて全くないし」

 

 

 取り敢えず、永琳さんがおれにどんな質問をするのかが気になる。本当はおれがこの世界の事を聞きたいが、今はそんなこと聞ける状況じゃないしな。

 

 

「そう。じゃあ1つ目ね、なぜこんな森にいるの?しかもこんな時間に」

 

「それはおれが聞きたいですよ。いつの間にかここにいたんですから」

 

 

 これは事実。なんでこんなところにいるんだか……自分で初期位置を設定できるのなら絶対にこんな場所にはしない。あ、でも永琳さんに会えたことに関してはこの初期位置としては悪くなかったかも。

 

 

「へぇ……じゃあ2つ目、此処にかなり大きい光が発生したの。なにかしってる?」

 

「あー、わかりません、さっき目覚めましたから」

 

 うん、嘘は言ってない。光がなぜ発生したかは大体予想つくけど、光が出たことは今知ったんだし。それにその光が発生する経緯まで尋ねられて話したら鼻で笑われるか頭いってんじゃないか?みたいな顔されるだけだろうし……

 

 

「こんなところに寝ていたの?よく食べられなかったわね」

 

「えっ?食べられるって?」

 

 

 食べられるって……おれが?

 

 

「あら、妖怪をしらないの?とことん不思議な人ね、あ、でも人間ではない可能性もあるかしら」

 

「妖怪?!って、に、人間ですよ!貴方にはこの姿の何処が妖怪なんですか!?顔か!顔なのか?」

 

 

 ていうか、妖怪て……この世界はそんなお伽噺に出てくるような奴が出てくんのか?

 目玉親父とか実際に存在するのか、少し見てみたい気もするな……いや、実際に出てこられても困るが。

 

 

「ほんとに知らないのね。妖怪にも人型がいるのよ。でも心配は要らないわ、貴方には妖力は感じられないもの。つまり人間ってことね」

 

「よ、よかった……妖力ってのは知らないけど……じゃあなんで弓をまだこっちに向けてるんですか」

 

「だって貴方”普通じゃ無い“もの」

 

「な?!失敬な。健全純粋ピチピチ17歳ですよ!」

 

「神の放つ光が急に発生した場所にいて、住所不明、なぜ此処にいたかすら分からない、サングラスに神力を感じる、そして服のセンスがない」

 

 

 んな! この人、自分の服のセンスを棚に置いといて人の服を馬鹿にするなんて……ていうかグラサンに神力があるのは十中八九あの神せいだろう。

 

 

「確かに考察してみるとおれかなり怪しいですね……

 あ、でも最後に関しては貴方に言われたくないです」

 

「あら、貴方もこの服の魅力がわからないのね。ま、そんなことはどうでも良いのよ。

 取り敢えず貴方を連行するわ。貴方がツクヨミ様に対して不満の持つ神の間者の可能性があるし」

 

「ツクヨミサマって人が誰なのか知りませんけど……まあ、別にやましいことがあるわけでもないしおとなしく連行されときます。」

 

 ツクヨミサマ……どっかで聞いたことあるような名前だな……ま、いっか。

 

「話が早くて助かるわ。じゃあ」

 

 と永琳さんが俺の両手を縄で縛ってきた。

 ……もう、大胆なんだから。

 

 

「縛りプレイですか?」

 

「……」ドガッ

 

 

 無言で殴られた。痛い……冗談に決まってるじゃないですか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~30分後~

 

 

 永琳さんの国に着くまで、ここの世界について色々教えてもらった。

 妖怪のことや妖力、神力のこと、ちなみに人間は霊力を持っているらしい。おれも持っているのかと聞くとどうやら持っているらしい。しかも結構な量あるらしかった。

 でもそのせいで、もし危険因子ではなかった場合訓練施設へ送ると言われた。

 くそう、帰る家がないなんて言わなければよかったな。

 まあ、確かに安心できる場所に住まわしてもらえるのは嬉しい。でも訓練かぁ、訓練やだなぁ……

 

 そんなことを思ってると物凄いでかい壁が見えてきた。……なんか某巨人駆逐マンガみたいな壁が見える。え?ここには巨人もいるの?!つーかデカ!こんなの始めて見た。当たり前っちゃあ当たり前だけど。

 こんなでかい壁、そうそうあるもんじゃない。

 

 

「この壁、でかいですね……」

 

「ふふふ、これぐらいで驚いてちゃあこの先持たないわよ」

 

「え?中にはなにがあるんですか!?」

 

「それは見てからのお楽しみ」

 

 んー、かなり気になる。まあ、とりあえず入ってみるか。

 

 壁の中に入る途中、門番らしき奴に捕まったけど、永琳さんがいたのでなんとか難を逃れた。永琳さん……門番の人が見た瞬間、頭下げまくってたけどいったいどんな大物なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うわー、なんだこの未来都市すげー。

 ビルがすごい並んでる、前世のおれが住んでた所も都会だったけど、こんなの見たら月とスッポン並みにちがうぞ。なんだよあの光る球体、なんだよあの空中に浮いてる映像……未来都市かよ。

 

 

「ふふ、驚いたわね。目がすごい見開いてるわよ」

 

「これは流石、いや、凄すぎますよ。こんなの始めてみました。あの重力ガン無視の車とかどんな原理でできてんですか」

 

「教えてもいいけど、貴方じゃ理解できないわよ」

 

「そんじゃいいです。すごいけど内部構造までは知る気なんてないし」

 

 やべーなこれは、ほんと目の見開きが止まらない。つーか永琳さんってほんと何者なんだ?見る人全員頭下げたりしてる。

 

 

「永琳さんって、一体何者なんですか?」

 

「薬師よ」

 

「薬師ってこんなに偉いんですね……って、絶対他にもあるでしょ!」

 

「秘密よ。まあ、この国に住むことになったらいずれわかると思うわ」

 

 

 この国に住む、つまり訓練施設へ送られるってことか。普通な暮らしが出来たらそれで良いんだけどな。

 

 

「かなり気になりますね、あ、あと聞き忘れてたんですけどおれって何処に連行されてるんです?」

 

「ツクヨミ様のところよ。貴方が危険因子かどうかをあの方に判断してもらうわ」

 

「へえ、ツクヨミサマってそんなに偉いんですか?」

 

「ええ、あの方は神よ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 

 なんか神って聞いてもあまり良い感じはしないんだよなぁ……

 だって始めてみた神があれだったわけだし……

 でもおれってすごいな。たった1日にして、神の2人も会うなんて。

 

 ……でも真偽を問われるのは別に嘘はないのになんか緊張するな。

 例えるなら別に悪いことしてないのにパトカーが通ると身構えてしまうような感じ。

 

 

 

 まあ、なんとかなるだろう。前世でもそうやって困難を乗り越えてきたんだ。

 




次話からはちょくちょくオリキャラがでてきます。


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3話 ツクヨミ様スゲー

 

 

 未来都市みたいなところに入り、重力ガン無視の車に乗って1時間程経った。外は結構明るくなっており、辺りには人が賑わい始めている。

 うわー……すんごい人いるな。ファンタジー感0だ。

 そして、他の住居の一際デカイ屋敷みたいなところに連れられた。

 

 

「さっきまで車酔いしてたのにこれ見たら酔いが吹っ飛びましたよ」

 

「酔ってたの?道理でずっと遠くを眺めてたのね。てっきりこの国を観察してるのかとおもってたわ」

 

 国って言うよりどっかの都市かなんかだと思うんだけど……

 あ、でもよくよく思えば昔、日本は所々に小国を作って戦争してたって言うし、ここもそんな感じなのかな?昔どころではないけどな。

 

 

「それじゃあ中にはいるわよ」

 

「こんないかにも金持ちが住んでそうな家にはいるのは始めてですね、わくわく」

 

「可愛い女の子とかがそういうこと言うのはまだ分からないでもないけど貴方のような人がわくわくなんて擬音を言うとゾッとするわ」

 

「オラ、ワクワクすっぞ」

 

「なんだかわからないけどそれは言ってはいけない言葉よ」

 

「おれもそう思います」

 

 じゃあなんでいったんだって思っただろ?でもこれは定番かなにかでしなければならない状況だとおれは思ったんだ、後悔はしていない。

 

 そうどうでもいい雑談をしながら、奥へ入っていき、他とは違う、豪華な装飾の施された襖の前まで来た。

 

 

「この先が、ツクヨミ様のいる神の間よ」

 

「ここが……」

 

 

 なんだか、ただちょっと豪華なだけの襖だというのに、かなり威圧感がある。これが本来の神の重圧ってやつか……

 

 そんなことを思っていると、永琳さんが躊躇う事なく、襖を開けて入る。

 それにつられて、おれもツクヨミサマの部屋へと入った。

 

 その部屋は殿様が居そうな所で、当然、襖の前よりも威圧感のある場所だった。

 その威圧感に圧倒され、おれは一度唾を呑み込んだ。

 

 そしてその部屋の奥にいたのは永琳さんがおれに会わせると言ったツクヨ、ミ……サ……

 

 ………………。

 

 

「ひ、非リア男子の敵がいる。」

 

「非リア?よくわからないけど失礼なことを言いますね。」

 

 其処にいたのは文句なしの美青年だった。なんだよあれ、金髪なのにそれが自然に見えるほどの容姿。男女関係なく10人中10人が振り向くぐらいのイケメンだ。なんか無性にあの顔を一発殴ってやりたくなってきた。

 こういう顔に恵まれた奴って、良いよなぁ。なにもしなくても女からキャー素敵ーとチヤホヤされるし、少々の努力だけで食っていける。

 ほんと羨ま……妬ましい。

 

 ……まあ、とりあえず今の失言に対して謝っておこう。この人、神だし。無礼だから殺す!って言われたらたまったもんじゃないしな。

 

 

 

「あ、すいません。心の中で思ってた事がつい漏れました」

 

「そ、そうかい。……ところで永琳、この人があの神光の正体ですか?」

 

「おそらく。

 あの辺りには妖怪の姿はありませんでしたし。いや、あったとしても彼の神光に恐れをなして逃げだした可能性もありますが」

 

 永琳さんがそう言ってからこれまでの経緯を語った。そしてどうやら、偉いらしい永琳さんがあの森にいたのは、あの森特有の薬草を取りに行くついでに、ツクヨミサマに光についての調査を頼まれたかららしい。

 なんでお偉いさんの永琳さんが一人で真夜中の森を歩いてた疑問がちょっと解決した気がした。

 まだ疑問に残るのは、なんで女一人で来たかということだけど。それぐらい腕に自信があるのだろうか?

 

 

「なるほど、確かに変な人ですね。しかし、この人からは妖力も神力も感じられない、少々他の者より霊力が多いぐらいですか。」

 

「変な人ってなんですか……あ、そういえばまだ名前いってませんでしたね、おれは熊口生斗っていいます。以後お見知りおきを、ツクヨミサマ様。」

 

「ツクヨミサマ様?!僕は月読命です!様が1つ多いですよ!」

 

「あ、そうなんですか」

 

 なんか変な名前だと思ったらサマが余計だったのか。なんか腑に落ちたな。

 

 

「まあ、いいでしょう。……さて、大体の事情はわかりました。生斗君、君は神に弄ばれている可能性がありますね。しかもそのサングラスに付属されている神力を見る限りは私の知らない未知の神です。しかし邪神の類いのものではないので安心してください」

 

 

 おお、よくおれがあの神の暇潰しだってわかったな。

 流石は神って所か。

 

 

「サングラスでそんなことまでわかるんですか?すごいですね、ツクヨミ様って」

 

「まあ、神ですからね。まあ、君が僕達に害があるわけでは無いことがわかったことですし、この国にいることを認めましょう。永琳の話を聞く限りでは帰る家なんてないんでしょう?」

 

「え……いいんですか?」

 

「ええ……あ、この国での最低条件に満たしてませんでしたね、ちょっと来てください、生斗君」

 

「あ、はい」

 

 そう言って近づくと額に指を当てられた。うわ、ツクヨミ様の手、かなり冷たい。一瞬身震いしてしまった。

 と、そんなどうでもいい感想を頭の中で述べていると、ツクヨミ様の指が光りだし、10秒ほど経った後、その光は消えた。

ん、これってどういことなのか?なんかの儀式?

 

 

「むっ……!!これは……」

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、なんでもないです……」

 

 

 何だろう……一瞬ツクヨミ様の顔が険しくなった気がしたんだけど……

 

 

「……取り敢えず君の穢れを消しました。これで君もこの国で暮らせる資格を獲られましたね」

 

 

 穢れというのが何なのかわからないがこれでようやく此処に住めるってことだな。

 なんかさっきのツクヨミ様の反応が気になるけど。

 

 

「それじゃあ永琳、生斗君の編入手続きをお願いしますね」

 

「はい、ツクヨミ様」

 

「え?なんの編入手続きですか?」

 

「此処に来るときいったでしょ?訓練施設へ行かせるって。だから士官学校への編入手続きをしにいくの。霊力をこんなに持ってる人って珍しいし」

 

 

 そ、そういえば!……完全に忘れていた……

 訓練やだなぁ……

 なんとか訓練施設にはいけないという口実を作ってやり過ごせないだろうか。

 

 

 

「霊力霊力って言ってますけど、おれ霊力なんて使ったことなんてないですよ?」

 

「あら?それを扱えるようにするために士官学校へいけばいいじゃない」

 

「いや、でも全く使ったことがないっていうのも問題ですね。……よし、特別に僕が少し後押ししましょう」

 

「え、なんですか?……て、うわ!?!」

 

 

 ツクヨミ様がいきなりおれに向かってなんか光る玉を放ってきた。え、攻撃か!?やばいやばい、神の攻撃なんて食らったら絶対死ぬ!避けなければ!

 そう判断したおれは避けようとしたが一歩遅く、無惨にも、おれの顔面に命中した。

 

 

   ポフッ

 

 

 …………。

 

 軟らかかったね、うん。焦ってた自分が恥ずかしい。

 光る玉はおれの顔面に当たるとポフっと音をたてると拡散して、消えていった。

 そして、その光る玉がきえると、おれのなにかが外れたような感覚がした。

 

 

「え?なんか急に体中にオーラみたいなのがでてる!?」

 

「それが霊力よ、ツクヨミ様が今貴方の力が”使えない“という固定概念を壊したのよ」

 

「え?神ってそんなこともできるんですか?」

 

 

 すげー!神すげー!流石だ!あの老神とは大違いだ!今なら木をワンパンでへし折れる気がするぞ!

 

 

「いや、これは僕の能力ですね。まあ、これで不安要素は消えました。生斗君、これからは僕の矛となり、そしと民の盾となって頑張ってください!」

 

「どうせおれには拒否権なんてないんでよね、わかります」

 

 

 さて、なかば無理矢理士官学校へおくられることになったけど此処にいられるなら文句は言えないな。それに今、おれのテンションは最高潮だ。

 

 今ならなんでもできる気がする!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 

「あれほどまでの穢れを見たことがなかった……あの生斗という名の人間、あれほどまでに生命が濃い人間を見るのは初めてです。僕の力を持ってしてもあの生命の穢れを消すことができなかった……」

 

 

 生斗本人の穢れを消すことができなかったので彼の周りの穢れだけを消すことで、周りの人間に穢れを撒き散らすということがないようにはしましたが。

 

 こんな現象、初めてです……もしやそれも私がまだ知らぬ神の仕業なのでしょうか……

 

 

「まあ、それもこれから考えるとしましょう。」

 

 

 もしも彼がこの国に害を及ぼす事があるのならば僕が消すのみです。

 そんなこと、なければ良いのですが……

 

 

「それにあのサングラス、穢れを祓うときに取ろうとしたのに、外れなかった」

 

 

僕の神力でも外せなかった未知の神の神力が付属されたサングラス。

つくづく興味が絶えませんね。今度、姉上に聞いてみましょうか。

 

 

 



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4話 ゴリラの嘘つき!

 

 

「編入試験は10日後らしいわ」

 

「試験とかあるんですか!?」

 

「当たり前よ、只で入れるとはおもわないことね」

 

 

 ツクヨミ様と別れてから士官学校のところまで行った後、永琳さんが編入について調べて来るまでにかかった時間はたったの15分。

 まさかツクヨミ様の家が士官学校の隣だったとは……しかし試験って何だよ。おれは試験と言うものは嫌いなんだ。だってほら、こう……試験って言うだけで手汗が酷くなるくらい緊張すんだよ。

 

 

「で、10日間の間貴方の住むところについてだけど」

 

「あ、そういえばそうですね。何処の公園で野宿すればいいんですか?」

 

「流石に私もそこまでは鬼畜ではないわ。

 編入までは私の家に来なさい。歓迎するわ」

 

「え?永琳さんも野宿なんですか!?」

 

「そんなわけないでしょ。いい加減そのつまらない冗談を止めなさい」

 

「はい、すいません。…………て、え?永琳さん家に泊まるんですか?!それって色々危ないんじゃ……」

 

 

 こんな美女と同じ屋根の下で暮らすなんて……おれの理性が持つか不安だぞ。

 

 

「ええ、いちいちホテルとかに泊まらせるのも面倒だし、まだ此処には慣れてないでしょう?

 丁度明日から2日間仕事が休みだから、案内してあげるわ」

 

「えぇ、悪いですよ。そんな迷惑かけられません」

 

 

 只でさえ、指を治してもらっている上に編入試験の手続きまでしてもらったんだ。これ以上、永琳さんに迷惑をかけるわけにはいかない。

 

 

「いえ、ここ最近実験とか仕事とかでストレスたまってたしいい気分転換ですることだしそんなに迷惑ではないわ」

 

 

 気分転換に男を家に泊める…………物凄く如何わしいな…………いや、永琳さんがそんな不純なことでストレス発散をするわけない!

 あ、でももし今おれが想像してしまったストレス発散法を本当にしているのなら、おれはいつでも大歓迎ですよ!

 まあ、冗談だけど。命の恩人とも呼べる人に欲情なんてするわけにはいかない。

 ん?今誰かおれの事チキン野郎って言った?

 

 

「……わかりました。永琳さんがそういうのなら、お言葉に甘えます」

 

 

 そう、欲情なんてしないのなら、別に泊まっても良いじゃないか。

 うん、そうだそうだ。それぐらいの抑制ができないでどうするんだよ。

 

 ……よし、取り敢えず洗濯係を積極的に請け負うことにしよう。

 

 あ、でもやっぱり女性と一つ屋根の下で暮らすってかなり恥ずかしいな。これまで彼女いなかったおれにとってはかなりハードルが高いような気がする。

 ……まあ、気にしないようにしよう。相手は大人だしたぶん大丈夫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が完全に消えた頃、おれは永琳さん家にお世話になることになった。

 やはり、お偉いさんの永琳さんの家は大きかった。

 執事みたいな人とかもいるし。これならおれ一人ぐらい泊めても問題ないだろうな。

 いや、がっかりなんてしてない。洗濯係になれなかったからってがっかりなんかしていないからな!

 

 ……そして永琳さんと別れた後、執事に連れられ、おれが一時の間宿泊することとなる部屋まで案内された。

 その後、執事から申し付けなどの説明を受けた後、おれはその部屋にはいる。

 うわ、ここも中々広い。学校の教室並みにあるぞ。

 

 でも、こんな広い部屋だと逆に落ち着かないな。

 そんなことを感じつつ、部屋の端にあるキングサイズのベッドに腰を掛ける。

 

 

「はあ、疲れた」

 

 

 そのまま、ベッドに仰向けの状態で倒れる。

 うお、このベッド柔らか!マシュマロみたいだ。マシュマロさわったことないけど。

 

 

「……なんか今日だけでいろんな事があったな」

 

 

 そしてベッドの上で今日一日のことを考えてみる。

 まず、橋から落ちて死に、何故か神に転生させられ、馬鹿なことして右の中指折れて、永琳さんに会って、未来都市に連れられてまたもや神にあって訓練施設へ手続きしに行き、こんな豪邸に泊まる事になった。

 

 一日にどんだけイベントがつまってんだよ!って大声だしそうになったが、他の人の迷惑を考え、心の中だけで留めておく。

 ほんとこれ、夢なんじゃないか?話がぶっ飛びすぎてる。

 いや、夢なら指が折れた時点で気付く筈だ。実際にかなり痛かったし。

 あ、そういえば忘れてたけどおれの中指って今どうなってんだ?

 

 …………。

 

 え、もう治ってるんだけど……指を何度も開け閉めしても全然痛みがない。副作用とかで体になにか異常がでたりとかすらない。

 ……永琳さんってほんと何者なんだ?

 まあ、そんなことは後々本人に聞けば良いか。

 それに明日は永琳さんに色々なところを案内してもらう予定だからさっさと寝よう。ああ、あんな美人と買い物なんて、明日が楽しみで仕方がない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~朝~

 

 

 おれの寝坊のお陰で予定より30分近く遅れて、永琳さんと出掛ける事になった。

 遅れたのは仕方ない、今日が楽しみであまり寝れなかったんだから。

 

 ……ふむ、時間的には前の世界の日本と同じ感じか。

 今は……9時過ぎぐらいか。

 

 

「今日は何処にいくんですか?おれ的にはゆっくり出来るところがいいんですけど」

 

「うーん、そうねぇ。本当は綿月家のところにいって貴方に綿月大和総隊長を会わせようと思ったのだけれど」

 

「え、いやですよ。行きたくないです。断固として拒否します」

 

 

 何が楽しくて会いに行かなくちゃいけないんだ。総隊長ってあれだろ?軍でも上の方の人のことだろ?絶対怖い奴だ、おれの勘がそう、呟いてる。

 

 

「あら、意外な反応ね。貴方としては未来の上司なんだし、会っといたほうがいいんじゃないの?」

 

「いや、絶対ゆっくりできないじゃないですか!おれは平凡と布団を愛しているんです。めんどくさいことを自ら起こすことなんてしたくありません!!」

 

「……とんだ怠け者ね」

 

 

 怠け者で結構!前に親から『お前の前世絶対ナマケモノ。これは確信をもっていえる』なんて言われるくらいおれは興味ないことはめんどくさがるんだ。自分でいってて悲しくなるけど!!

 

 

「じゃあ、図書館へ行きましょう。あそこは静かだし」

 

「あ、いいですねそこ。おれのためにあるようなもんですよ、図書館なんて」

 

「その理屈だと静かな場所全てが貴方のための場所になるわよ」

 

「冗談です」

 

 

 

 

 

 おれは今、あの時図書館に行くことになった事を後悔している。

 この言葉だけで大体は理解してくれるだろう。

 

 

「八意、この子がツクヨミ様がいってた子か?依姫と同じくらいだな」

 

 

 はい、何故か図書館に綿月なる総隊長さんがいたんですよ。畜生……

 

 

「コンニチハ、来週カラオ世話ニナリマス。熊口生斗トモウシマス。」

 

「はははは!そんなに緊張せんでいい」

 

「明日、大和隊長の家を訪ねようと思ってたのだけれど、手間が省けたわね」

 

 

 結局いってたんかい!!ていうかこの人でかくない?2メートルの巨体に服の上からでも分かるほどのごつごつとした筋肉。そして顔の彫りが凄い。まるでゴリラみたいだ。

 

 

「生斗君っといったかね?君には聞きたいことがあるんだが……」

 

「はあ、答えられる範囲ならいくらでも……」

 

 

 それから質問攻めされた。まあ、それくらいならまだ良かったんだけど……おれが予想だにしていなかった最悪の一言をこのゴリラは言い放った。

 

 

「どれ、どれぐらいの腕前か見てやろうではないか。外へでたまえ」

 

「ええ!!?」

 

「なに、これから訓練生となるから腕試し程度ぐらいだから。気楽にいこうじゃないか」

 

 

 このあと二時間くらいぶっ通しで組手をさせられた。腕前をみるだけじゃなかったのか?!全然気楽に出来なかったし!

 

 

 

 とりあえず今日ゆっくりする予定は見事にぶち壊れたことは確かだと言うことだ。

 畜生……明日は絶対一日中寝て過ごしてやる!

 



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5話 朝飯は1日の原動力だよな

 

 

「そういえば熊口君、実は娘も今度の編入試験を受けるんだ。仲良くしてやってくれ」

 

 綿月隊長がおれとの別れ際に言った一言。あんなゴツい人の娘って……いかん、その子もゴリゴリなのしか想像できない。

 

 まあ、そのことについては深くは追求しないでおこう。

 もしかしたら親がゴツくても、娘は美少女って可能性もあるんだし。でもなんでその娘が今頃編入試験なんて受けるんだ?入隊試験は結構前に終わったって聞いたんだけど……

 その疑問について、帰る途中に永琳さんに聞いてみると____

 

 

「ああ、あの子、入隊試験のこと忘れてずっと修行してたのよ。」

 

 

 うん、ゴリゴリな人の可能性がうんと羽上がったぞ。修行で入隊試験すっぽかすて……

 

 

 

 

 と、そんな会話をしてからもう9日が経った。ついに明日は編入試験だ。

 永琳さんは仕事の合間を縫って、おれの霊力操作について教えてもらったりした。

 最初は試験なんてやる気なんてほぼ皆無だったんだけど永琳さんが____

 

 

「もし合格できなかったらこの国には必要ないと見なされて追放されるから」

 

 

 と脅された。これはさすがに焦った。

 まあ、そんな感じで9日をグータラしたり霊力操作の練習したり筆記テストの勉強したりグータラしたりしてた。

 はい、勿論グータラする度に永琳さんに叱られました。

 でも、グータラしている時間はおれにとって至福の時間でした。

 

 

 

 霊力操作については永琳さんいわく、かなり上手いらしい。

 そんな実感は微塵もないけど。競争相手とかいないわけだし。

 でも褒められるのは確かに嬉しい。しかもあの永琳さんにだ。あまり長い間一緒にいたというわけではないが、永琳さんがどれぐらい凄いのかは十分に分かる。

 分厚い資料を流し読みぐらいの速さで読んで、完璧に理解していたし、勉強で分からないことを聞いたら、その答えの解説だけでなく、それに類似した事まで事細やかに説明されたりした。

 これ以上言うと限りがないので、この辺にしておくが、兎に角おれが言いたいのは、永琳さんは本当にパーフェクトな人だということだ。

 そんな人から褒められたら普通の人ならどうする?

 勿論、照れる筈だ。

 だが、おれは少し違った。

 何故なら、おれは変な癖があったからだ。

 

 

「すごいんですか? え、まあ、おれぐらいになるとこれぐらい楽勝かな? なんちゃって!」

 

 

 と、褒められると調子に乗って、自画自賛してしまう癖があった。

 

 勿論の事、その場を凍りつかせたのは考えるまでもない。

 

 ……うん、自分の癖の事、完全に忘れていた。自重せねば、いや、ほんと……

 

 

 

 

 さて、この9日間のことを振り返るのはこの辺にして、取り敢えず今日はもう寝よう。明日はついに試験日だからな。

 大丈夫、いつも通りしていればなんとかなる。永琳さんも合格()できると言ってくれたんだ。合格()できると。

 

『は』の部分を強調して言われていたが、永琳さんが言うなら間違いないだろう。 

 いつも通りにやればいけるんだ。よし、おれなら行ける!

 そう、自分に自己暗示しながら、おれは瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん、全然寝れなかった。

 鏡をさっきみたら目が充血してましたよ。

 くそう、やはり自己暗示しながら寝たから余計にプレッシャーがかかったのか……

 そして今はまだ太陽が顔を出していないのに試験会場まできてしまった。永琳さんからは意識が高いわねって言われて調子に乗ったけど、実際はただ寝れなかっただけです。

 

 

  グゥ~

 

 

「腹減ったな……」

 

 

 そして朝飯を食べるのを忘れたのはかなり痛いな。

 朝飯は1日の原動力っていうぐらい大事な物なのに……でもここから永琳さんの家に戻るのも面倒だし……

 うう、人の三大欲求の一つを忘れるくらい緊張していたなんて……これは重症だな。

 

 

「あの……」

 

「ん、はい?」

 

 

 永琳さんの家に戻ろうかどうかを迷っていると、後ろから誰かに話しかけられた。

 ん、誰だろうか。おれに話しかけてくる奴なんて……

 そう思いながら、話しかけてきた人の方向を向いてみると、そこには、見知らぬ美少女が、不安げな表情をしながら此方を見ていた。

 え、誰だよこの女の子。おれの知り合いの中でこんな美少女なんていないぞ。

 髪はロングでで頭に黄色いリボンをつけてある。肌は化粧をしているかのように艶やかで、目は少し気強そうなつり目だが、逆に美しさに磨きがかかっている。

 え?なんか腰に結構デカイ木刀ぶらさげてるんだけど……まさか、余所者のおれを始末するための刺客か!

 

 

「間違ってたらすいません。貴方、熊口生斗さんですか?……あと何故構えたんですか?」

 

「あ、はい。正真正銘の熊口生斗です。あと何故構えたのかは貴方が一番わかっている筈だ」

 

「何も分からないのですが……父上の言った通り変わった方ですね」

 

「え、父上?」

 

 

 いやいやまさか。なんか前にあのゴリラに娘がいるってのは聞いたけどまさかね。

 こんな美少女があのゴリゴリの娘なわけないだろ。きっと、執事の孫とかそんな感じな筈だ。あのゴリラ以外の知り合いとなるとあの年老いた執事ぐらいだし。

 

 

「あ、私まだ自己紹介してませんでしたね。

 私の名前は綿()()依姫。貴方が先日会った綿月大和隊長の娘です」

 

 

 ……綿、月?

 

 

「あの、ちょっとごめん。今名字をよく聞き取れなかったんだけど。あと父上って?」

 

「聞こえなかったのですか。すいません、私の声が小さかったばかりに……

 んーと、名字は綿月で、父上は熊口さんがこの前図書館で会った綿月大和という名前の人です」

 

 

 マジカヨ。本当にまじか。聞き間違いと思ったけどまじだった。

 父はゴリゴリ、娘は美少女って漫画の世界だけだと思ってた……どうやったらあのゴリラからこんな可憐な美少女が産まれるんだよ! 遺伝子詐偽だ!

 

 

「ああ、依姫さんね。綿月隊長から聞いてたよ。自慢の娘だって」

 

「え?父上がそんなことを!? いつも何も褒めてくれないから不安だったんです……教えてくれてありがとうございます!」ガシッ!

 

「……え? いや、どういたしまして?」

 

 

 うわ、いきなり両手掴まれてお礼されたから少し仰け反ってしまった。

 ……ていうかあれだけでこんなに喜ぶとは。これまであまり親から褒められてなかったのか?

 それだったら褒めてやれよ、あのゴリラ……

 

 

「それにしても熊口さんって意識が高いんですね!まだ日も昇ってないのに試験会場にくるなんて!」

 

「依姫さんこそ来てるだろ」

 

「はは、実は眠れなかったんですよ。もし明日落ちたらどうしようって」

 

 

 うわ、おれと同じ理由じゃないか。もっとも、あっちはおれと違って目は充血してないが。

 

 

「依姫さんも緊張するんだ。実はおれも寝れなくてな。寝れなすぎて目が充血するくらい」

 

「え、元からではないんですか?」

 

「なわけないだろ!? 常時目が充血してるって恐怖でしかないぞ!」

 

「あ、すいません。目が赤いからそのサングラスで隠しているのかと思ってました」

 

「酷い!」

 

 

 中々心に刺さることをいってくれるじゃないか……

 

 

「疑問に思ってたんですが、父上が言うにはそのサングラスはとれないということでしたが……それって本当なんですか?」

 

「ん、グラサンのこと? ああ、とれないよ。おれも取ろうと思ってたんだけどくっついて取れないんだよ。無理矢理とろうとしたら頭ごと引っ張られて痛いし」

 

 

 いや、ほんとなんでだろうな。

 あ、そういえば永琳さんがなんかよくわからない液体で耳の表面を溶かして取ろうとしてきたときはほんと焦ったな。あのときは泣きかけた。

 

 

「不思議ですね……」

 

「おれはあんなゴツい人から依姫さんが生まれたことについてのほうが不思議だ。

 あとなんだその目は。どうやっても取れないぞ。だからその取りたそうな手を退けてくれ」

 

 

 

 

 まあ、そんな雑談をしているうちに人が集まってきた。

 空をよくみれば日も照り始めている。

 

 よし、ついに始まるのか。おれの今後の生活のかかった戦いが!!!

 

 そう思っていると、門の中から、受け付け用紙を持った試験官の人が出てきた。

 

 

「はーい、編入試験希望者の人は証明書と受験番号を見せてくださーい。」

 

 よし、証明書ももってる。受験番号は確か六桁で

 1243……1243………1243…………

 

   ………………。

 

 

 ……あれ?

 

 

「受験番号わすれたぁぁ!!!?」

 

 

 このあと全力疾走して受験会場から永琳さんの家を往復してなんとか受験受付に間に合った。

 あと依姫さんと永琳さんに同じように呆れたような顔をされた。

 

 くそ、永琳さんの家に戻るのなら最初から戻って朝飯を食べておけばよかった!!

 

 



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6話 あれ、依姫さん。ほぼ満点じゃ……

 

 テスト前に全力疾走したおかげで、緊張がいい具合に取れた。まあ、その代わりに、服が汗で濡れて気持ち悪くなったが。ドテラもこういうときに保温機能を発揮するなよな……

 

 まあ、受付終了1分前だったが、無事間に合ったことにはかわりない。本当にギリギリだったけど…

 

 

「よく間に合いましたね。てっきりもう諦めたかと思いましたよ。」

 

「ぜぇ、はぁはぁ、こ、こんくらい……朝飯、前だ!」

 

 

 朝ごはん食べてないから本当に朝飯前だ!

 

 

「とりあえず席に着きましょう。もうすぐ筆記が始まりますよ」

 

「あ、あぁ」

 

 

 筆記については少し自信がある。なんてったって、永琳さんからテストの出題傾向の高い問題を選出してもらって、そこを中心に勉強したからな!

 

 

 

 

 

 

 

 ~3時間後~

 

 

 うん、やばい。テスト直前に全力疾走したせいか、勉強した半分は吹っ飛んでた。幸いにも語群問題だけだったから、勘で解いても当っている可能性があることだ。おれの勘に頼るしかないな。

 

 

 これはもう、実技で何とかするしかないじゃないか……

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 実技は午後からなので昼飯とる時間があるらしい。

 

 …………そんなの聞いてない!見事に昼飯忘れたよ!!朝飯どころか昼飯すらありつけないなんてもう完全に詰んだよ。永琳さんの家に戻ろうにも試験が終わるまで会場から出られないらしいし……

 

 もう最悪だ。腹減りすぎて力がでない。

 

 

「あれ?熊口さん、弁当を持ってきていないんですか?」

 

「あ、依姫さん。そうだよ、見事に忘れたよ。力がでないことこの上ないよ」

 

「そうなんですか……」

 

 

 と、依姫が考えるように、持っていたバッグから弁当箱を取り出した。

 

 

「私ので良かったらあげましょうか?」

 

 

 そう言いながら弁当を差し出してくる依姫。

 

 うおい、まじか依姫さん!!なんて良い子なんだ!!

 良い意味で親の顔が見てみたい!……見たことあるが。

 

 そう思いながらおれは差し出された弁当を受け取ろうとしたが、寸での所で、受け取ろうとした手を止めた。

 

 ……ちょっと待てよ。もしここで依姫の弁当を貰ったら、依姫の昼飯はどうなるんだ?おそらく、依姫の食べる分の昼飯が無くなる。

 あの依姫のバッグのへこみ具合を見て、もう1つ弁当があるということはなさそうだし……

 

 ……本当は喉から手が出るほど欲しいが、これは受け取るべきではないな。

 

 

「……いや、それは依姫さんが食べた方がいい。おれのせいで依姫さんが試験に支障がでたら、悪いし」

 

「そうですか……確かにそうかもしれませんね」

 

 

 うん、これでいいんだ。飯は食べられなかったが、これが正しい選択のはず。おれは間違ってない……

 はあ、腹減ったな……

 

 

「うーん…………あ!これはどうですか?」

 

 

 少し考えていた依姫がなにかを思い出したようにバッグの中をあさり、その中からカ〇リーメイトみたいな固形物の入ってそうな袋を取り出した。

 

 

「これはいつも私が非常時になったときに予備として常備している非常食です。それでも食べる機会が全然なかったんで、よかったら食べてください!」

 

 

 なっ…………!!!

 

 

「依姫さん……あんたって人は……!」

 

「え?!な、なんで泣いてるんですか?!」

 

 

 あれ?何でだろう、目から涙がでてくる。

 ……そうか、わかったぞ。初めて女の子に優しくしてもらったことに感動しているんだ!

 永琳さんのは大人の人からの優しさだから種類が違う。

 ……とりあえずこれ以上見苦しい所を見せるわけにはいかないし、グラサン掛けるか。

 

 

「すまん、ちょっと感動してただけだ」

 

「そ、そうなんですか」

 

 

 このあと、美味しく頂きました。依姫様、ありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~1時間後~

 

 

 ついに本命の実技試験が始まった。実技には能力やら霊力の使用を許可されているらしい。

 

 んーと。おれはB運動場だから依姫と別れるな。

 あ、ついでに依姫にさん付けはやめてほしいとの事なので呼び捨てになった。心の中ではずっと呼び捨てだったけどな。

 

 ……とりあえず霊力について復習をしておこう。

 永琳さんが言うには、霊力を体に纏ったりすると身体能力が著しく上がるらしい。それも局所的に集中した箇所は霊力の量によっては大岩すら砕く程の力を発揮するとも言っていた。

 本当かどうかは試したことないから知らないけど、それが本当なら人の域を越えてるな。

 まあ、霊力操作は9日間してきたから大体はできる。試すにはちょうどいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 ~50メートル走~

 

 

 さっそく足に霊力を集中させてみる。

 うお、なんか足がとてつもなく軽くなった!

 凄いな……これならいつも以上にタイムが縮むかもしれないぞ。

 

 他のやつらの平均を見てみると大体6秒後半くらい。やはり、兵士希望なだけあって皆速い。

 おれの前世での最高でも7秒前半だったから、もし霊力あっても速さが変わらなかったら、下位は免れないな……

 

 

「位置について、よーい」

 

「えーい!やるしかない!!」

 

 

 足がこれまでの中で最高潮に軽いんだ。たぶん速くなってるだろう。たぶん、うん、たぶんな!

 

 

 

「!!」パアァン!

 

「……!!」

 

 

 ドドドドドドッ!!!

 

 

「え、あれ?速!え?なんだこれ!?」

 

 

 

 予想を遥かに越える速さで、おれの足は回転しているぞ!?

 あ、やべっ、転ける!……いや、後5メートルほどだ。そのまま突っ込めばなんとかつけるぞ!

 

 

「ごはぁ!?」

 

 

 おれは足の回転についていけず、そのままゴール地点まで盛大に転けた。

 いってぇ……なんだあのスピード……まるでおれの足じゃ無いようだったな。

 

 

「…………3秒05?!」

 

 

 と、自分の足の速さに驚いていると、ストップウォッチを持っていた人が、これでもかというぐらい、目を見開かせて、そう呟いた。

 ……はい?3秒?そのストップウォッチ壊れてるんじゃないのか?

 

 

「すっ、すげー」ガヤガヤ

 

「3秒代なんてここ5年はでてないらしいぞ」ガヤガヤ

 

「ああいうやつが隊長とかになるんだな……」ガヤガヤ

 

「つーかなんでこけてんだよ。ダセぇー」ガヤガヤ

 

 

 

 なんか奥の方から色々言われてるが気にしないでおこう。気にしたらあの癖が出てきてしまう。

 

 

「予想以上だな……霊力ってすごい」

 

 

 

 

 

 それからは凄かった。握力検査では腕に霊力を集中させてやると握力計が測定不能になり、ボール投げではボールが運動場を飛び抜けてツクヨミ様の家まで飛んでいったり、反復横跳びでは100回を越えた。

 霊力の恩恵があまりなかったのは体力で、霊力を使いすぎたせいもあってか、自己ベストタイムを出すことは出来たが、他と比べるとあんまりという結果だった。

 あと柔軟系も駄目だったな。

 

 だとしても他の奴と比べればかなりの差があった。何でだろうか……他も霊力を使えないわけではないのに。

 ……霊力操作が関係しているのだろうか?永琳さんも上手いと言っていたし。

 そのことについて後日、永琳さんに聞いてみると__

 

 

「その通りよ。同じ霊力量であってもその扱いが出来るのと出来ないのとでは雲泥の差があるもの。

 分かりやすい例で言うのなら、同じ怪力をもつ者同士が戦うとしましょう。ただの殴り合いでは完全な互角、それでは決着がつかない。そうなった場合、どれで勝敗を決すると思う?武術?戦闘経験の差?……そう、どっちも正解よ。力が互角な場合、勝敗を決するのは、戦闘による技術、つまり知識が多い者が勝つの。

 だから今回、霊力操作を覚えた貴方は、何も教えられていない他の受験生より優位だったのよ。

 まあ、霊力操作以外にも、他のより霊力が少々多いのもあるでしょうけど」

 

 

 と、分かりやすい例まで出して教えてくれた。

 ほんと、教えてと1言ったら2~4は教えてくれるよな、永琳さん。勉強になります。

 

 

 

 

 

 ま、でもこれならまず落とされることはないだろう。試験結果が出るのが楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ~次の日~

 

「結果が届いたわよ」

 

「え?早くないですか?昨日テストしたばかりですよ」

 

「編入試験受ける人は60人くらいだったから早く済んだんじゃない?」

 

 まあ、いいか。とりあえず封筒をもらって開けてみる。

 お、なぜか2枚あるな。

 取り敢えず1枚目を見てみるか。

 

 

『結果

 

   熊口生斗 様 は合格判定基準に達している

 

   ため  合格  とさせていただきます。

 

   クラスは A クラス です。       

 

 

 

 ツクヨミ 様 からのコメント

 

 合格おめでとうございます。あと君が投げたボールが僕の盆栽を直撃したんですよね。いつか覚えてろよ』

 

 

 あ、合格か。やった………………ツクヨミ様、誠に申し訳ありませんでした!!!

 

 

 

「よかったじゃない。Aクラスって士官学校の中でもトップクラスの所よ。あと貴方、なにやってるのよ……」

 

「え、そんなところいやですよ。普通のクラスがいいです。あとあれは不慮の事故です」

 

「上の決定だから無理ね、諦めなさい。もう1つの意味で」

 

「はあ、調子に乗らず霊力だしまくらなければよかった……」

 

 

 あのツクヨミ様を怒らせてしまうなんて……次あったら殺されるかもしれない。

 

 

 

 …………取り敢えず、もう1枚の方をみてみるか。

 

 

 

『 

   今編入試験 総合順位

 

  『筆記100』

  『実技200』

 

  1位  綿月 依姫  299

  2位  熊口 生斗  235 

  3位    ∥    214    

  4位    ∥    195     

 

                    』

 

 

 やはり、親も親なら子も子だな、うん。

 あ、でもおれも2位か。すげーな。

 

 …………全然喜ぶ気になれないけどな!

 




無事、生斗君も合格できましたね。


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7話 考え方を変えたら得したな

 

 

 編入試験を受かってから一日経った今日この頃。

 おれは依姫が編入前に一度どんなところ見てみたいと、永琳さん家まで来ておれを引っ張ってきた。なので今、おれと依姫は士官学校の敷地内にいる。

 ついでに依姫も同じAクラスらしい。まあ、エリートのクラスって言ってたし、依姫がAクラスに行くのは当然か。おれが行くことになったのは少し不思議だが。

 

 

「なあ依姫、なんでおれまで一緒にいかなくちゃいけないんだよ。眠むいんだよ、寝せておくれよ。家でごろごろさせてくれよ」

 

「熊口さんは気にならないんですか。ていうかもう12時です!来週から私達も此処の訓練生ですよ、もっと兵として自覚を持ってください。それに彼処は八意様の家であって熊口さんの家ではありませんよ!?」

 

「本当のことを言うとちょっとは気になってはいる。でもあくまで優先順位はだらけることなんだ。それに永琳さん家ってなんか寛げるんだよ。なんというか、安心感がある」

 

「……はあ、八意様がおっしゃっていた通りの人でしたね……

 まあ、それでもついてきてもらいますけど」

 

「まあ、もう着いてしまったしな。おれは1歩も足を動かしてないのに」

 

「私が引きずって連れてきましたからね」

 

 

 

 永琳さんが言うにはおれが依姫にとっての初めての友達らしい。なぜこれまでの友達がいなかったのかを聞くと、やはりあのゴリラ親父の影響らしい。

 いつも修行やらなんやらさせらてたり、父親が総隊長ということで周りには同年代と同等の扱いをしてもらえなかったり、力を持つゆえか周りからの期待の眼差しを向けられたとかのせいで、それが重みとなって軽い鬱になり、一時の間、地下に引きこもってずっと修行をしていたそうだ。

 その間での話し相手が姉か両親や永琳さんだけだったと聞いた。

 

 だからこんなに絡んでくるんだろう、依姫は。

 初めての友達て……結構責任重大だな。……と言っても、この世界じゃおれの同年代の最初の友達も依姫になるんだけどな。

 

 

「改めてみると凄いよな、どれだけ金かければこんなになるんだか」

 

「運動場がABCと3つあるらしいですからね」

 

「それにしては校舎はいたって普通だな」

 

「1年~4年生のクラスがそれぞれ5クラスあるから…………教室だけで20部屋。確かに普通ですね」

 

 

 と、パンフレットを見ながら依姫が答える。

 パンフレットってそんなことまで書いてんのか……

 

 

「なあ、一つ聞きたいんだけど。」

 

「なんですか?」

 

「あのA運動場の先にあるでかい建造物はなんだ?」

 

「んーと、あれは……体育館ですね」

 

「え、あのスタジアムが?嘘だろ!?」

 

 

 あのスタジアム、軽く東京ドームより大きいぞ……

 

 

「いいえ、ここのパンフレットに書いてありますよ、ほら」

 

「……ほんとだ……あんなに大きくする必要性あるのか?」

 

「私に聞かれても……」

 

 

 それから一年Aクラスのところにいってみた。生憎丁度マラソンをしているようで、クラスには誰もいなかったが。会ってみたい気もしたがいないのなら仕方がないな。

 まあ、そのあとは適当に依姫とブラブラした。

 

 

「それじゃあ、帰りますか」

 

「あ、ちょっとまって。そういえばツクヨミ様に用があるんだった。着いてきてくれないか?」

 

「え?なにかあるんですか?」

 

「編入試験の時おれが投げたボールがツクヨミ様の家の盆栽に直撃したらしい」

 

「なにやってるんですか…………ああ、あれはそういうことだったんですね」

 

「ん、なにが?」

 

 

 なんだか嫌な予感……

 

 

「私が試験を受けたAコートってツクヨミ様の家から近いじゃないですか」

 

「ああ、そうだったな」

 

 

 近いもなにもA運動場とツクヨミ様の家は隣接していた筈だ。

 

 

「それで、私達が長距離走で走っている途中、急にパリーンって音がして、そのあとにツクヨミ様の絶叫が響いてきたんですよ」

 

「うお、まじか」

 

「それからは大変だったですよ。一時試験は中止になって試験官の人達が青い顔してツクヨミ様の家へ走っていきましたし」

 

「…………」

 

 

 ま、まじか……おれ、知らないうちに試験の妨害までしてたのかよ……

 

 

「どうしたんですか?」

 

「…………なあ依姫、おれの顔、今どうなってる?」

 

「……青い顔してますね。汗もすごいです」

 

 

だよなぁ。今のおれの顔色なんて鏡見なくてもわかる。

 

 

「やっっちまっったぁぁ!!!」

 

「ははは……自業自得ですね」

 

 

 

 このあと、ツクヨミ様の家にいくことをやめ、永琳さんの家に全力疾走で帰ろうとしたが、依姫に羽交い締めをされてしまい、渋々行くことに。

 結局、重い足取りでツクヨミ様のお宅へ謝りに逝くことになってしまった。

 くそう、あのとき思い出さなければ家でのんびりできていたのに!!なんで面倒事をさっさと済ませた方がいいかなと浅はかな考えをしてしまったんだ!!!

 ……だが、もう過ぎてしまったことにはかわりない。腹を括るしかないな。

 

 

「あの……死んだかのような顔してますよ」

 

「ああ、心配ない。おれは大丈夫だ、綿月が心配することではない。」

 

「え?」

 

 

 皆は自分が死ぬっと思った出来事を体験したことがあるのだろうか。おれは少なくても三回ある。

 1つ目は橋から落ちたとき、あれは死ぬって思ってほんとに死んだことであったが。2つ目は永琳さんによくわからない液体を顔に塗られかけた時だ。

 

 

「く、熊口さん?え、どうしました?急に固まって……」

 

 

 あの時は、永琳さんに恐怖を感じた。あの液体、地面に1滴零れただけなのに1メートル近く地面を抉っていたし。そして3つ目、それが今回のことである。これはもう死ににいくようなものだ。今おれは処刑台へ向かう死刑囚のような気分でいる。

 まだ罪を犯しているわけでは……いや、ツクヨミ様の私物を壊しているんだ。それだけでも死に値するほどの______

 

 

「しっかりしてください!」

 

「ぶへっ!」

 

 

 思いっきり木刀で腹を叩かれた。物凄く痛い。

 どうやらまた現実逃避をしていたらしい。ありがとう依姫、止めてくれなかったら1日中フリーズしていただろう。

 

 

「すまん依姫、ちょっとばかし現実逃避していた」

 

「もう……ちゃんと誠意をもって謝ればツクヨミ様も許してくれますよ。あの方も鬼じゃないんですし」

 

 

 確かにあの温厚なツクヨミ様だ。手紙で敬語になっていなかったからかなりびびったが、依姫の言う通り誠意をもって謝れば許してもらえるかもしれない。

 

 

「そうだな…………よし、覚悟を決めた!いまから全力でツクヨミ様に謝ってくる!」

 

「その意気です!」

 

 

 覚悟を決めたときはその瞬間に行動に移した方がいい。何故なら、時間が経つにつれ、その覚悟は薄れていくからだ。ほら、勉強するぞ!って決めたけどその数分後に、やっぱ良いやってなるのと一緒だ。

 

 自慢じゃないがおれは決心が鈍るのが早い。特に自分に関しては、だ。今回はツクヨミ様に関してだから、決心が鈍るのは遅いと思うが、延ばせば延ばすだけ確実に鈍っていく。

 いずれやらねばならないのなら今のうちにやっておくのが吉だ。

 

 そう考えたおれは早速、ツクヨミ様に謝るべく、長い廊下を全力疾走し、ツクヨミ様の部屋の前まで来た。

 

 

「ふん!」ドン!

 

「なっ!?生斗く……」

 

 

 よし、ツクヨミ様発見!

 こういうのは勢いが大事だ!

 まずおれは豪華な襖を開ける。

 そしてそのあとツクヨミ様に有無を言わさずすかさず土下座。

 勿論、遠くでは意味がないので一気にツクヨミ様の前まで跳躍してそのまま土下座する。

 

 これぞ、ジャンピング土下座だ!!

 

 

「ツクヨミ様ぁぁ!!ほんっとうに申し訳ございませんでしたぁぁ!!」

 

 グシャベチャ

 

「ああああああああ!!!」

 

 

 ん? 着地した時、なんか変な音が……それにこの手を地面についた時についた黒い液体は……

 

 

「ぐぐぐ……盆栽のみならず僕の書き物まで踏み潰しましたね……」

 

 

 あ、そういうことね。つまり今おれはツクヨミ様の書いた物の上にいると。そしてこの手についた黒い液体は墨汁と……

 

 はい、終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このあと四時間ガチ説教を受けて漸く許してもらいました。

 ふむ、周りをよく見ることも大切だということを学んだな。



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8話 女子勢の反応が酷い

 

 

 はあ、遂にこのときが来てしまった……

 ん?何が来たんだって?編入に決まってんだろちくしょー!

 昨日まで永琳さん家でぐだってたのが夢のようだ。

 もう……永琳さん家で暮らすこともできなくなるのか。これからはむさ苦しい男達と共に青春もへったくれもない灰色の人生を送る羽目になるのか……いや、一応依姫もAクラスだ。灰色と断定するにはまだ早い。

 

 

 おれが入ることになった陸軍防衛士官学校は全寮制らしい。良く言えばいちいち学校までいく必要がないと言うこと、悪く言えば心を休ませられる場所がなくなるということだ。

 なぜ、心が休まらないかと言うと、抜き打ちで夜中に叩き起こされたりして荷物検査とかがあるらしい。なんでそんなことすんのかと永琳さんに聞くと、緊急で防衛任務とかに駆り出されるときがあって、そのときに準備していなかったら大変なことになるということだった。た、確かに正論だ。

 だけどおれはそれに関してはかなり不満である。おれがされるとむかくつランキングの堂々第2位に入るのは睡眠妨害だ。1位はなんだって?そんなの自分で考えろ!

 まあ、そんなこと考えている間に士官学校にいく時間になってしまった。

 

 

「永琳さん。今日まで本当にお世話になりました」

 

「ほんと、お世話したわよ。他人の家であそこまで図々しく居座られるなんて思わなかったわ」

 

「うぐっ…………すいません。」

 

「まあ、嫌ではなかったわ。いい気分転換になったし。また休みの日にでも来なさい、歓迎するわ。私がそのとき居るかどうかはわからないけど」

 

「ハハハ! 永琳さんが留守でもくつろぎますよ、おれ」

 

「貴方、ほんといい根性してるわね。まったく冗談に聞こえないのだけど……」

 

「まあ、時間もそろそろだし……行ってきます! 永琳さん。」

 

「はいはい、いってらっしゃい」

 

 

 このとき永琳さんが母親のように見えたのは秘密である、本当に。

 そんなこと口に出したら大変なことになる。

 前にお母さんみたいですねと言った時、毒薬飲まされそうになったからな……

 

 

 

 

 

 

 永琳さんと別れてから士官学校へ向かう途中、依姫と会った。そういえば永琳さん家に迎えにいくって、ツクヨミ様に説教されたあとに約束していたんだった。完全に忘れてた。

 まあ、ツクヨミ様の精神的に辛くなる説教を受けてなかば放心状態だったのだから仕方がない。

 

 

「ついに私達も訓練生ですね! はあ、緊張します!」

 

「依姫はそんなに緊張しなくていいんじゃないか? すぐ適応できるさ」

 

「む、何を根拠に言ってるんですか。フレンドリーさでいえば熊口さんの方がすぐ適応しそうじゃないですか」

 

「お、そうか? いや、そうかなぁ……やっぱりそうかぁ? おれってそんなにフレンドリーかなあ、それって褒め言葉? いやぁ、まいっちゃうなぁ~!」

 

「前言撤回します。フレンドリーではなくウザいです。」

 

 

 はい、すいません自重します。いやぁ、知らない人からスゲーとか褒められるとかなら結構我慢出来るんだけど友達とかに褒められるとつい完全に調子に乗ってしまうんです。しかし、それは止められませんね。性分だから。

 

 

 そんな他愛もない会話をしながら歩いて20分後、ついに士官学校の門前に着いた。

 

 

「ついに、着きましたね……あと一歩で士官学校校内です。ここは一緒に訓練生として初めての一歩を踏もうではありませ…………」

 

「めんどくさい」

 

 

 長々と依姫がなんか言ってるので、おれは足早に門を潜った。

 

 

「ああ!! 折角一緒に初めての校内に入ろうって言ったのに!」

 

「もう何回も入ってるだろ」

 

「訓練生としては初めてですよ!」

 

「そんな細かいことは気にすんな。そんなんじゃ男に嫌われるぞ」

 

「それって男と女逆なんじゃ……」

 

「そんな細かいことは気にすんな。そんなんじゃ男にき…………」

 

「繰り返さなくていいです!」

 

 

 取り敢えず一年校舎のAクラスに向かおう、こんな不毛なことを言い合っても意味はない。殆どおれのせいだけどな。

 いやぁ、依姫を弄るのは楽しいなぁ。

 

 

 

 

 

 まずAクラスについて語らせてもらおう。

 えーと、まずは……うん、男子の数が少なすぎる。クラス30人中5人しか男子がいない、おれを合わせても6人。

 おれの想像していたむさ苦しい男達じゃなかったのはいいが、ここって訓練生の中でも指折りの人達が集まるクラスなんだよな? 男子頑張れよ。

 

 あとおれのときと依姫のときの自己紹介したときの温度差が激しかった。 

 

 

 おれの場合____

 

「おれの名前は熊口生斗。チャームポイントはこのグラサン! 神すらも取ること諦めたこいつは、その名の通り固く結ばれてるんだ! いわば一心同体!! まあ、そういうことだからよろしくな!」

 

 男子勢「おお、あいつおもしれーな」

 

 女子勢「え、何いってんだこいつ。きも」

 

 

 盛大にやらかした。特に女子の目。塵をみるかのような目をされて泣きかけた。

 

 

 一方、依姫の場合は____

 

「私の名前は綿月依姫といいます。新参者ですが気軽に話しかけてくださると私としても嬉しいです」

 

 男子勢「え、あの有名な綿月大和隊長の娘?! 全然似てねー、遺伝子詐偽だ!!」

 

 女子勢「キャー!ステキー!サインしてー!」

 

 

 

 どうだこの温度差。おれとは雲泥の差だ。特に女子。

 あと男子勢、おれもそう思う。

 

 はあ、よく考えればなんだよあの自己紹介……おれ頭おかしいんじゃねーのか?

 なんだよグラサンと一心同体て……確かに事実ではあるけれど。実のところ言うと体に引っ付いている訳ではないんだけどな。

 たぶんあの神の神力でくっついてるだけだ。

 まあ、そんなこといっても信じてくれるわけないか……

 

 

 いきなり調子に乗って出鼻をくじく結果となった自己紹介になったが、これからの行いで挽回するしかないな。

 男子勢の反応は悪いわけではなかったし。

 

 これまでの経験上、なんとかなったことなんてないがなんとかなるだろう、うん。そう考えてないとやってられない。

 

 それに無駄になんとかなりそうな気がするのは、きっとグラサンのお陰だろう。

 

 …………自分でいってて意味がわからん。



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9話 脇役決定かな

 

「おーい」

 

「ん、なんだ?」

 

 午前の授業がいきなり基礎体力作りになり、長距離を走ることになった今日この頃。運動場を3周(約6㎞)の3セット(18㎞)を1時間で走らされたせいでおれの足はパンパンだ。明日はきっと筋肉痛になるに違いない。

 そして午後からは座学があるらしい。

 頭に入ってくる気がしないのはおれだけだろうか?

 そう絶望しながら食堂へ向かっているとAクラスの男子と思われる二人組に話しかけられた。

 

 

「お前、熊口生斗だろ?今日自己紹介で盛大にやらかしてた」

 

「ああ、そうだけど。あとそれに関しては触れないでくれ。おれも反省してるんだ」

 

「あ、ああ、わかった。」

 

「で、なんの用だ?えーっと……」

 

「あ、まだ名乗ってなかった。

 俺の名前は小野塚歩って言うんだ。よろしくな」

 

「ぼ、僕はトオルってい、言います。」

 

 

 ほうほうこのお二方もイケメンではありませんか。妬ま……羨まし……やっぱ妬ましい。

 まず小野塚の方はいかにも体育会系の体つきで伸長が高い。190㎝はあるんじゃないか?そして整ったゴツい顔つきで髪は短髪の黒色あと凛々しい黒色の目をしている、なんか雰囲気からして兄貴っぽい。

 トオルの方は焦げ茶(黒:茶の割合で言うと8:2)でこちらはちょっと幼い感じの童顔で、目はパッチリ二重、身長はおれよりも少し低いくらいか…………ショタ好きの女子とかにかなりモテそうだな……

 それに比べておれときたら……一重、グラサン、細眉。

 外見を口だけで説明したらただの不良じゃねーか。

 

 

「ん?どうした?後ろなんかに隠れて」

 

 

 2人について考察をしていると、トオルがさっと小野塚の後ろに隠れた。 

 なっ……まさか生理的に無理的な奴か!?

 

 

「ああ、すまんな。こいつ人見知りが激しいんだよ。まあ、馴れれば大丈夫だと思うから仲良くしてやってくれ」

 

 

 ほう、よかった。トオル、おれのことが本当に生理的に無理なやつだったら枕を濡らしてたな。もっとも、おれは寝るときに枕を使わんが。

 

 

「へえ、そういえば今名前しか言ってなかったけど、名字はなんていうんだ?」

 

「あ…………それは……」

 

 

 と、見るからに顔が青ざめるトオル。

 嫌なことでも思い出したのだろうか?

 

 うん、これは聞かない方がいいやつだな。おれは優しいからそんなに深追いはしないから安心しな。

 

 

「ま、まあ、取り敢えず仲良くしような。小野塚、トオル」

 

「ああ」

 

「よ、よろしく」

 

 

 

 

 

 

 そしておれと小野塚とトオルで食堂に行き、昼飯を食べてることにした。

 その昼飯中、なんでおれに話しかけてきたのか2人に聞いてみた所、衝撃の事実が発覚した。

 

 

「なんで生斗は持久走のとき霊力を使わなかったんだ?」

 

「え?皆つかってたのか?」

 

「ああ、お前以外全員霊力纏って身体強化させて走ってたぜ。まあでもずっと使ってられるほど操作はできないから、途中途中解いたりしてたけどな」

 

「生身でよく間に合ったね、ぼ、僕だったら途中でダウンするよ……」

 

「うおおぉ!!ミスったー!」

 

 

 最悪だ、あの時みんなやけに速いなぁと思ったんだよ!クラスでぶっちぎりの最下位だった理由がやっとわかった気がする……つーか先に教えてくれよ。

 

 

「……余計な体力を使ってしまった…………」

 

「ははは、どんまい」

 

「…………ぷっ……ふふ…」

 

「小野塚!トオル!お前ら笑いやがったなこの野郎!罰としてお前らのデザートよこせ!」

 

「うわ!やめろ!このプリンは俺が最後の楽しみにしていたやつなんだ!」

 

「や、やめて!」

 

 

 はっはっはっはっ!おれを笑ったのが運の尽きだな!

 後ろの方で女子共が「サイテー」とか言ってるような気がするが気にするものか!

 

 

「あ、でもトオルは可哀想だから小野塚のだけで我慢するか」

 

「な、なんでだよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 取り敢えず食事も済んだし、残りの休み時間をどう有意義に過ごせるかを考えよう。

 

 あ、そうだ。

 

「なあ、散歩しないか?」

 

「ああ、いいぞ。まだここの場所とか良くわかってないんだな。

 よし、散歩がてら案内でもしてやるか!」

 

 

 いや、ここら辺のことはこの前依姫と下見行ったときに覚えてるから良くわかってないことはないんだけどな。ただ、ゆっくり落ち着ける所が分かるならそこを案内してもらいたい。

 そう小野塚に聞いてみると____

 

 

「ん~……そうだなぁ。図書室とかはどうだ?」

 

「そこにはいい思い出がないので止めときます」

 

 

 ほんと……あの時はゴリラのせいで死ぬかと思った。飼育員の方もしっかりとゴリラを檻に閉じ込めておいてほしいもんだ。

 

 

 まあ、流石にここにはあのゴリラもいないだろうし大丈夫だろう。

 ここ、学校であるわけだし。

 

 ということで結局図書室にいくことになった。

 

 

 

 

 

「あれ?生斗君。ここで会うとは奇遇だね。そういえば前もこういう場所で会ったような……もしや本が好きなのか?」

 

 

 おい、居やがったよこのゴリラ。

 そういえばさっきおれが言ってたことって完全なフラグだったじゃないか。ビンビンに立ててしまってたよ!そして速やかに回収しました。

 

 綿月なる隊長さんはまた調べものをしにここへ来たらしい。前も図書館で調べものしに来たって言うけどいったい何を調べているのか聞いてみると___

 

 

「ちょっとした調べものさ」

 

 

 と、はぐらかされてしまった。

 そんなこといって、実はエロ本でも探してたんじゃないのか?ほら、学生の時、隠し持っていたエロ本を図書室の何処かに隠したとか。

 

 はたして、あのおじさんはどんなエロ本を隠していたのだろうか……ゴリラ大百科とか?

 

 

 まあ、別にいいか。

 ゴリラの好みなんて興味ないし。

 

 

 取り敢えず前のように突如訓練になることはなかったが今度会ったとき訓練してやると言われた。

 今後綿月隊長には会わないようにと祈るしかないな。

 まずは二度と図書館には近づかないようにしよう。

 

 

 

 

「生斗って綿月隊長と知り合いだったんだな……」

 

「僕なんてサインして貰ったよ」

 

「おれにとっては関わりたくない相手なんだけどな」

 

 

 まあ、もうこれから図書室、図書館は絶対行かなければいい、と思う。

 

 

  キーンコーン

 

 

 お、予備鈴がなったな。

 もうすぐ授業が始まる時間帯になったってことか。

 

 

「お、あと5分で授業が始まるな。少し刺激は強かったがいい暇潰しになっただろう」

 

「そうだな。んじゃ、教室行くか」

 

「だな」

 

 

 そういっておれと小野塚が教室に行こうとすると、急にトオルが____

 

 

「待って!あっちの方角のマーケットでハイジャックがあってる!!相手は4人、女の子を人質にとってる!」

 

「は?どうした急に」

 

「なに?!よし、わかった!今すぐ向かう!!」

 

 

 とトオルが叫び、小野塚がその声に反応して一瞬にして姿を消した。

 そしてその消えた場所にはナイフが落ちてきた……

 

 え?いま何が起こった?

 

 

 状況が理解できないおれは、ただただ口をポカンと開けることしかできなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後で聞いたことによると、どうやら士官学校より少し離れた場所のマーケットでハイジャックが行われたとのこと。そしてさっき捕まってた、小野塚の奇襲のお陰で。

 なんでそんなことができたかと言うと能力のお陰らしい。

 

 まあ、簡単に説明すると

 トオルの『危険を察知する程度』の能力でハイジャックがあったことを察知し、それを聞いた小野塚が『交換する程度』の能力で自分とハイジャック犯のナイフを入れ換えて奇襲したらしい。

 ナイスコンビプレイじゃないか。

 おれの予想では今回の行動はこれで初めてではないな。妙に手慣れていたし。

 

 ていうかなんだよ、二人とも主人公みたいじゃないですか。何だよおれ、ただの脇役かよ……

 

 

 

 そういえば能力っておれにもあるらしいんだよな。……ほんとどんな能力なんだろ。出来ればかっこいいのがいいな。

 

 

 まあ、授業には遅れ、先生に大目玉を食らった。

 小野塚とトオルは勝手に事件に飛び込んでいったことに関してはかなり激怒されていた。

 そりゃそうだわな、下手すりゃ死んでたかもしれないんだし。

 




やっと編入しましたね。次話までは話はあまり進まないと思います。


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10話 こんなに魅力的でない悪妹はいない

注意!今回は生斗君がブラックになります。





 

 編入から1ヶ月が経った。色々と大変だったけど今となってはいい思い出……っと、余裕ぶってはいるが実のところを言うと全然余裕じゃない。

 

 

「明日から体力テストと能力テストと筆記があるからなぁー。しっかり体作っとけよ。あと勉強も忘れんなー」

 

 

 そう、テストである。やばいな、体力と筆記はなんとなしにできるけど能力テストて……いまだに開花してねぇよ。なんだよ神、能力付け忘れてんじゃないのか?あるんならいい加減開花しろや。

 

 

 能力者はこの国でも希少らしいが、Aクラスの皆の大半は何かしらの能力を持っているとのこと。持っていないのはおれと何人かの女子だけである。正直気まずい。だっていまだにおれ、女子からの評判悪いし。

 因みに何人かの女子の中に依姫は一応入っている。なぜかというと依姫は能力を持ってはいるけど、まだ使いこなせていないらしいからだ。

 それで一回家を半壊させたことがあるとか。……どんな化け物級の能力なんだ……おれもそんな能力ほしい。

 

 

「はあ……なあ小野塚。能力持っていない奴は何を受けるんだ?」

 

「ん?なんだ、生斗は能力を持ってないのか。俺の妹と同じだな」

 

「え、お前に妹がいるのか?」

 

 

 なんだかゴリゴリな予感……

 

 

「知らなかったのか?出席簿に書いてあるだろ。

 小野塚影女って、それが俺の妹の名前だ」

 

「ほう、知らなかった」

 

「とりあえずさっきの質問についてだが……確か能力持っていない訓練生は霊力操作のテストっていってたぞ」

 

「おおそうか、あんがとよ」

 

 小野塚の妹か、あいつの妹ってだけでゴツいイメージしか沸かない。これが偏見だってことはわかってるんだけど……。まあ、そんなの会ってみないと分からないしな!

 取り敢えず明日の試験勉強をしよう。

 そう思いながらおれはベッドの上で熟睡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日のテスト。筆記(三教科)に続き体力テストが終わって昼飯を挟んだあと、霊力操作の試験場へ向かっていた。

 

 んーと、小野塚が言うには、黒髪でサイドテール、あとつり目って言ってたよな。

 それで綿月体長と同じぐらいのマッチョだったら悪寒がとまらなくなるな。

 そして、ついに小野塚の言っていた特徴に全て合致する人物を見つけた。

 そいつは依姫と話しながら歩いており、おれの想像を遥かに越えている人物だった。

 

 

「ゴツくない……だと」

 

 そう、ゴツくなかったのだ。

 ……つーかここの国の人って美男美女が多すぎやしませんかね?

 はい、お察しの通りかなりの美少女でした。顔は人形のように小さく整っていて黒髪のサイドテール、目は小野塚(兄)に似た凛々しい目をしている。身長は結構小さい。小野塚(兄)に身長を全部取られたか。かわいそうに……

 

 

「ねえ、あんたが依姫の言ってた友達?」

 

「え?ああ、そうだけど」

 

 

 うおっと!?こっちからコンタクトをとるつもりはなかったのに相手から近づいてきたぞ。じろじろ見ているのがバレたか。女って自分に向けられる視線に敏感だって聞くし……つーか依姫はどこへ行ったんだ? いつの間にかいなくなってるし……

 正直初めての人と話す話題なんて殆んどないぞ。男なら下心全開トークで盛り上がるんだが……

 

 

「ふぅーん、そういえばあの馬鹿とつるんでいたわね、アンタ」

 

「んーと、馬鹿と言うのは歩のことか?」

 

「それ以外に誰がいんのよ!それ以外にあんたと喋る奴なんていないでしょ、このぼっち!」

 

「……あ?」

 

 

 あ、おれこいつ嫌いだ。なんだよ、いきなり人をぼっち呼ばわりしおって。

 なに?おれが君に何をしたって言うんだ。

 

 

 ……うーん、こういうやつにはお灸を据えたいな。この我儘なお姫様……いや、じゃじゃ馬は人をいきなり罵倒した。

 おそらく、これが初めてではない、と思う。

 どうせこれまでも今のように男子を不快にさせてきたんだろう。

 いや、でもまだ完全にそうと決まったわけじゃない。もう少し様子を見て_____

 

 

「ていうかアンタなんなのその髪の毛とグラサン。正直全然似合ってないしキモい」

 

 

 あ、駄目だ。こいつは絶対にこれまで幾度となく人を不快にさせてきた極悪犯だ。

 グラサンとおれが似合わないわけないだろうが。

 

 

 

 おれはこれを宣戦布告と受け取ったからな。

 

 

 

「ほうほう、こんなおチビさんにはこの”大人“の魅力が分からないようだな」

 

「な、なんですって!今私のことを子供扱いしたわね!!このキモグラサン!」

 

 

 よぉし、こいつはやっぱり小さいことがコンプレックスなようだな。これからこれを重点的に責めてやる!生斗君を怒らせるとどれぐらい怖いか教えてやる。

 

 

「お子ちゃまは悪口のネーミングセンスも子供っぽいんですねぇ~…………なんだとコラこのドチビ、おれは馬鹿にされても構わんがこのグラサンを悪く言うのは聞き捨てならねぇぞ」

 

「はん!なにそれ意味わかんない。なにがグラサンの事を悪く言うなよ、所詮ただの紫外線から目を守るだけの代物でしょ!」

 

「便利だろうが!しかも紫外線カットだけじゃない!目の形にコンプレックスを持っている人でもかっこよくできるし、日光によって目が開けづらいときでも使える!

 グラサンは目にとってとても優しく、心強い味方なんだよ!」

 

「は?なに急にグラサンについて力説してんのよ!キモ!あんたなんてグラサンと結婚してグラサンと子供でも作っとけば!」

 

「グラサンと結婚できるわけないだろうが!あ、でもグラサンが付喪神になって、それが女の子だったらできる…………痛!!?」

 

「きゃ!?」

 

 

 おふ、急に後ろから木刀で殴られた。

 凄く、凄く痛い……

 折角この女をたたきのめして(口喧嘩で)やろうと思ってたのに

 

「こら!二人とも!なんで私がいない間に喧嘩してんですか!熊口さんに至っては訳のわからないことを口走っているし!」

 

「だって依姫ぇ~、このグラサンがぁ~」

 

 

 なっ!?こいつ、泣きやがった………………

 え、なに……これっておれが悪いの?殆どおれ、悪くないよな?ちびとか言ったけどそれ以外はグラサンのことしかいってないよな?

 

 

「……お、おれは謝らないぞ」

 

 

 これで謝ったら負けな気がする。

 もしかしたら嘘泣きかもしれないし。

 

 

「……熊口さん、まさかこの子の事『チビ』って言いましたか?」

 

「え?……あ、ああ言ったぞ」

 

「この子、小さいという理由で昔、いじめられていたんですよ?」

 

「はい?」

 

 

 いじめられていた?こいつが?……いや、この塵ならありえるか。性格ひん曲がってるし。

 

 でも悪いことをしたのかもしれない。過去の精神的な傷とはそう簡単には消せないものだ。……と、前にテレビで見た気がする。

 それを抉るような行為をおれはしらずのうちにしてしまっていたんだな…………

 

 

「うぅ……」ヒッグ…

 

「……」

 

 

 ……グラサンの事を馬鹿にされたことにはいまだに怒りがおさまっていないが、ここは謝った方がいいだろう。

 

 

「すまなかった。過去を抉るようなことをして……」

 

 

 

 そういっておれは頭を下げた。

 

 

 すると____

 

 

 

     ボガッッ!!

 

 

「いだ!?」

 

 

 後頭部に衝撃が来た。

 こ、この衝撃は……殴られたのか?

 

 

「はははー!これぐらいで泣くわけないじゃんこの阿呆!」

 

 

 そう言いながら廊下の奥へと走って逃げていく小野塚の妹、影女。

 

 

「……」ビキビキ←血管が浮き出る音

 

「熊口……さん?」

 

 

 

 

 

 ……おれ、あいつ、嫌いだわ……

 

 

 

 

 そのあと、本気で霊力操作のテストを頑張った。

 そしてなんと霊力操作のテストで依姫を抜かして一位になった。

 

 あのときの仕返しにとドヤ顔を影女にしてやるととても悔しそうな顔をしていた。

 

 はっはっはっ!ええ顔じゃええ顔じゃ!!

 

 って、いかんいかん。ブラック生斗君が出てしまったか。

 

 自重せねば。



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11話 1年目 調子には乗りすぎないように

 

 

 

 テストが終わってから数日経った。

 

 今日も今日とで教官のありがたいがとてつもなくつまらない授業を半ば聞き流しながら受けていた。

 

 そんな授業の終わり。おれは今日一番の衝撃的なことを教官の口から聞かされた。

 

 

「はい、今日の授業は終わりだー。

 あと明日は飛行訓練を行う。危険な訓練だからくれぐれもふざけたりしないように」

 

「やったね、生斗君!ついに僕達も空を飛べるんだよ!」

 

 

 え?空って……あのおれ達の真上にあるあの壮大な大空のこと?ていうかどうやって空を飛ぶんだよ……意味わかんねーよ、なんか機械とか装着して飛ぶのか?

 そんなのできるわけ…………いや、この国ならできそうな気がする。だって物理法則無視した車や、子供の誰もが一度は羨むレーザー銃だってあるんだ。そんなのあっても不思議じゃないな。

 まあ、そんなの明日になったらわかることだし別にいいか。

 

 

 それとさっき空飛べるんだよ!!と無邪気にはしゃいでおれに言ってきたのはトオルである。

 うん、最初の方はちょっと敬遠気味にされてたけど徐々におれと話してくれるようになって、今では感情を露にして話してくれる程までに仲良くなった。

 

 うん、ここまで長かった……完全に馴れてくれるまで1ヶ月半もかかったよ…………まあ、そんなの今となっては笑い話で済まされる程度の事だ。

 終わり良ければ全てよしだ。

 

 

「まあ、そうだな。空を自由に飛べるっていいよな。どこぞのネコ型ロボットにお願いしないと自由に飛べる気がしないけど」

 

「ネコ型ロボット?なにいってるんだ。あんな市販のどこにでも売っているような孤独な人のための精神ケア製品に頼んだところで空を自由に飛ばしてくれるわけないだろ」

 

 

 小野塚君。君はたぶん本当のロボットのケア製品のことを言っているんだと思う。でももしその言葉が故意的にいっているのだとするなら全国のドラ〇もんファンを敵に回すことになるぞ。ついでにおれもドラえ〇ん好きだから敵になる。

 

 

「まあ、確かにありえないな。取り敢えず今日の授業も終わった事だしのんびり日向ぼっこしながら駄弁ろう」

 

「……もう暗くなり始めてるんだが。ていうか生斗、お前の行動って、見かけによらず年寄りだよな」

 

 

 年寄りとは失礼な。まだまだピチピチ18歳ですよ。お、18歳といえば18禁コーナーの中に入れる年頃じゃないか。

 よし、今度の休日に学校抜けてレンタルビデオ店に行こう。場所なんて全く知らないが。

 

 

「今から夕食だよ。早く行こうよ」

 

「あー、今はまだ腹には余裕があるんだよな」

 

「それはお前が俺がトイレに行ってる隙に俺の昼飯勝手に半分食ったからだろ!お陰で俺は腹ペコだ!!」

 

「そんなの気にすんな」

 

「ならお前は日向ぼっこにでもいけばいい。代わりに夕飯は貰っとくぞ」

 

「ちょっ……!?」

 

「人の飯を勝手に食べることは気にしないんだろ?お前は落ちてゆく夕日を眺めながらひもじい思いでもしとくんだな!」

 

「すいません、今度お詫びします」

 

「それでよし」

 

 くう、やっちまったな。これが墓穴を掘るということか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~次の日~

 

 

 ついに疑問に思ってた飛行訓練の時間がやってきた。

 今、Aクラスの皆は、C運動場に来ている。勿論、体操服姿でだ。

 ふむ、この学校の体操服、全体的に黒いが、所々に蛍光色の線が通っていて、少しお洒落だ。

 

 

「これから飛行の仕方を教える。

 まずは、霊力を体全体に纏わせろ。そして、以前、教えた『物を霊力で纏わせて操る』のと同じ要領で己を浮かせるんだ。自分を人間だと思うな。無機質の()と思うのがコツだ。」

 

 

 ほう、意外と単純なんだな。

 前の授業で確かに物(ボール)を浮かせる訓練があった。これは、霊力操作が上手くないと、浮かばせることも難しい訓練らしかったが、永琳さんから驚かれるほど霊力操作に長けてるおれは、皆がボールに霊力を纏わせるのに悪戦苦闘している中、軽々とボールを浮かせ、挙げ句には教室全体に移動させまくって遊んだ。因みに霊力操作で操っているボールで影女に嫌がらせをしたら、先生に怒られた。

 

 他にも浮かばせたり、少しだけ移動させたりしているやつもいたが、ボールを移動させるときにそいつとボールの間に霊力の糸が繋がっていた。

 どうやら、その線でボールに霊力の供給をしているらしい。そうでもしないとすぐにボールが落ちてしまうとのこと。

 だけどおれはそんなことをしていない。だってもっと簡単な方法があったからだ。

 その方法はいたって簡単。元から霊力をボールにある程度纏わせておけば一定の間は浮かばせる事だ。

 この方法は移動させればさせるほどボールに纏わせた霊力は減っていくが、霊力糸を繋がらせて移動させるよりかは楽なはずだ。

 

 ま、今のは全部永琳さんから教えてもらった事なんだけどね。永琳さんの家にお世話になっていたときに、霊力操作が上手いからと、そこを重点的に教え込まれたのが、こういうときに役に立った。

 

 

 なんかずるをしているように見えるが、これはおれの努力の賜物だ。予習をしているのと同じことなのだ!ははは!あのときの優越感は計り知れなかったな!

 

 

 

 …………んとまあ、そういう訓練が以前にあったってことだ。

 んで、今回はその応用みたいな物だな。永琳さん、自分を浮かせるなんて教えてくれなかったから、おれもこれに関しては予習なるものをしていない。

 

 しかも自分を浮かせるんだ。拳ぐらいの大きさのボールを浮かせるのとはわけが違う。

 これは相当訓練しないと出来そうにないぞ……

 

 

「まあ、今回は足が浮くぐらい出きれば上出来だ」

 

 

 ほら、教官もそう言ってる。やはり飛ぶというのはそう簡単にはできないようだ。

 

 まあ、霊力を身体に纏わせるぐらいはやっていたので、浮くぐらいは出来るだろうな。

 よし、皆ももう浮く練習を始めてるし、おれもやるか!

 

 

 

 

 

 飛べました。しかも一発で。現在、おれは皆が苦戦している中、1メートル近く宙に浮いていた。

 

 

「なんだよ、飛ぶのってこんなに簡単なのか」

 

「お、おぉ!」

 

 

 教官が驚いたように感嘆の声をあげる。

 

 

「流石は霊力操作校内1位と言ったところか…… 」

 

「くそ!あんな奴なんかに負けてられないわ」

 

 

 くくく、影女のやつ、むきになって何度もジャンプしてやがる。そんなんじゃいつまで経っても飛べないぞ?

 

 

「ほらほら、お前らも熊口訓練生に負けないように頑張れー」

 

「「「は!」」」

 

 

 はあ、なんて優越感。皆が必死で飛ぼうと頑張ってる中、おれはその名の通り空の上から高みの見物を決め込んでる。

 

 

「ふむ、もう少し飛べそうだな」

 

 

 まだ縦横無尽には動けそうにないが、上に上がるだけなら出来そうな気がする。

 

 よし、いっそのことこのこいつらが米粒サイズに見えるくらいまで飛んでみるか!

 

 そう考えたおれは身体に纏わせた霊力を増やして、上にいくように念じてみる。

 ボールを動かすときは『この方向に動け!』って念じればその通りに動く。

 今のおれじゃ人間ぐらいの大きさじゃ、念じたぐらいじゃ簡単には操作が出来ないので、取り敢えず一番簡単な上にいくように頑張る。

 上にいくだけなら今のおれでも念じれば出来るからな。

 

 

「あ、ちょっと待て熊口訓練生!」

 

 

 なんか教官が言っているようだが無視。どうせ勝手な事をするなとかそんなところだろう。

 

 

「ーー~!!」

 

 

 ほうほう、どんどん皆が小さくなっていく。

 人が塵のようだ!……なんちゃって。

 そしておれはついに雲を掴めるほどの高さまで飛ぶことに成功した。

 

 

「うう、なんか寒いな……」

 

 

 雲のあるところまで来ると寒気が凄い。

 でもまあ、凍え死ぬ程ではないから良しとしよう。

 

 

 ……ほう、上空から見るとこの国の大きさが容易に分かるな。

 あの巨大な防御壁って、国全体を囲んでるんだな……

 それにしてもこの国の周りはなんかあれだな。森しかない。

 森、森、森。緑が豊かに広がってらっしゃる。

 

 

 中々いい景色だ。このまま日が暮れるまでここにいてもいいが、授業は午前中までなんだ。一時したら戻るとするか。

 

 

 と、その前にちょっと降りよう。ここはちょっと肌寒い。

 

 そう思い、おれは少しだけ高度を下げようとした。

 しかし、そこでおれは重大な事を思い出した。

 

 

「あれ?降り方わかんない」

 

 

 そう、()()()降り方がさっぱりといっていいほどわからなかった。

 念じれば確かに上に上がることは出来る。しかし、他の右左下は、全くといっていいほど操作できなかった。

 

 そのことを忘れておれはこんなところまで上がって来てしまった。

 

 

 とんだ馬鹿野郎だ……最初浮いたときに真っ先に確認してたのに、一瞬で忘れるなんて……

 

 いや、危険だが降りる方法は確かにある。

 自分に纏っている霊力を解除すればいいのだ。だが、そうすると重力により物凄いスピードで地面まで落ちることになる。

 それじゃあ地上にいる皆にスプラッタをお見せしてしまう。

 地面に着地する瞬間に霊力を纏って少し浮けば大丈夫かもしれないが、そんな高等技術おれが出来るとは到底思えない。

 

 

「どうしよう……」

 

 

 やっぱりあれか、調子に乗った罰ってことか?いや、罰にして重すぎるだろ。

 このままじゃ霊力が尽きてどのみち落ちることになる。

 今こそおれの才能が爆発して自由に空を飛べるようになればいいんだが……

 

 

 いや、ほんと、どうすればこの状況を脱せますかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この10分後、鬼の形相をした教官に救助された。

 

 勿論、そのあとこっぴどく叱られ、午後の座学で先生の問いに全てあてられるという罰を受けました。

 

 今後、調子に乗った行動は取らないようにしないとな……

 



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12話 2年目 教官、余計なことしないで

 

 

 士官学校に入ってから1年が経つ。

 そう、1年である。

 1年生は基本的に体力作りの基礎を叩き込まれる。

 1年のうちにしっかりと土台を作り、2~4年のときに崩れないようにするためだ。

 つまり、体力面で言えば、1年生が一番辛いのだ。

 その1年を乗りきったおれは、言わば勝ち組と言っても過言ではない。

 だってさ、毎日限界まで身体を痛め付け、時には気絶し、時には泣いたりする者もいたんだぞ。

 リタイアする者も3名いた。そんな中、おれは頑張った方だとは思わないか?

 

 ん?サボってたりしてたんじゃないのかって?

 

 …………。

 

 

 ……するわけないだろ。おれを誰だと思ってるんだ。

 たまに寝坊したり、具合が悪いと保健室に行ったとかしかないぞ。

 

 ま、というわけでおれは地獄の1年を乗りきった訳だ。これからは悠々と過ごさせてもらうか。

 頑張れ!現在マラソンをしている1年生達!

 

 

 

 よし、それじゃあそろそろ教官の話を聞こうか。

 

 現在おれらAクラスは東京ドームより大きいスタジアムの中にいる。

 基本的にこのスタジアムは雨の日や集会、後は特別授業でしか使われない。

 だけど今日は快晴、雨の降る気配なんて微塵もなかった。

 なのに珍しく使っている。

 それに加えて教官の隣にいるフードを被った大男。物凄い嫌な予感がする。

 お願いだ、あの大男が教官のボディガードでありますように!

 

 ……そんなおれの希望も教官の次の発言に、無惨に打ち砕かれたが。

 

 

「今日からお前らも2年生になることになる。なので今回は特別講師として綿月総隊長に来てもらった。お前らのこれまでの1年もの間どれだけ成長したのか見てもらうために無理いって来てもらったんだ。来てくださった綿月総隊長にみんな感謝するように」

 

 

 そう言うと、隣にいた大男は、フードを服ごと脱いで、顔(と上半身)を露にした。

 

 

「うむ、皆も知っていると思うが私は綿月大和だ。今回は君達の実力を直に見てどの部隊に配属したらいいか、この者は将来この国にとって重要な人物になりえるか等を判断する。存分に頑張ってくれたまえ」バサァ!

 

 

 

 

 おいぃぃ!!教官無理言ってこさせなくてもいいよぉ!!!

 

 なんてこった。折角一年もの間会わないよう図書室には近づきすらしてなかったのに……

 このゴリゴリゴリラの恐怖を……あの時受けた二時間耐久の地獄を繰り返す羽目になるというのか……!

 

 ああ、思い出すだけで嫌な汗が止まらない。

 実力を見るにはこれが手っ取り早いとか言って、いきなり一対一のタイマン勝負仕掛けられて散々ひどい目にあった。今ではあそこまでボコボコにはされないと思うけど……

 

 ていうか、もしかしてまたタイマンやるぞとかは言わないよな?

 いつものおれらの訓練の見学とか言わないよな?な?

 

 

「さて、いちいち訓練風景を見ていても本当の実力はわからん。

 なので今回は私と一対一で戦ってもらう。そっちの方が手っ取り早いしな!」

 

 

 あ、これフラグ回収したやつだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしておれたちAクラスの皆と教官 綿月総隊長との一対一のタイマン勝負が始まった。

 

 

「四番 小野塚歩です!よろしくお願いします!!」

 

「ん?ああ、君は去年ハイジャック犯を捕まえた子か、期待しているぞ」

 

 

 タイマン勝負が始まって1分。このクラスでも上位にたつ小野塚(兄)と綿月隊長が戦うことになった。

 え?前の1、2、3番はどうしたかって?確か全員秒殺されてたな。

 あまりの早業で忘れそうになった。

 

 

「うおお!!」

 

 

 小野塚が雄叫びをあげながら能力を発動。綿月隊長の着けていたリストバンドと自分を交換して急接近する。

 初見ならばまず相手は動揺して、初撃を受けてしまうはずだが____

 

 

「ぐはぁっ!?」

 

「ふむ、急に現れたからつい強めにやってしまったな。すまん」

 

「…………」

 

 

 綿月隊長には無意味。難なく対応し、小野塚の殴打を避け、お返しにと腹にめり込むほどの蹴りをかました。

 そして蹴りが命中した小野塚は5メートル付近の壁まで吹き飛ばされ、そのまま壁に寄りかかりながら泡を吹いて気絶している。

 

 …………死んでないよな?

 

 小野塚に続いて、次々とAクラスの皆がやられていく。

 トオルや影女も為す術なく地面に這いつくばっている。

 

 

 

 そしてついに、編入組のおれと依姫以外、Aクラスは全滅した。

 

「……熊口さん頑張ってください」

 

「あ、ああ」

 

 

 不安げにエールを送ってくれる依姫。

 いや、頑張るもなにも瞬殺されるイメージしかわかないんだけど……

 

 

「……31番、熊口生斗。よろしくお願いします。」

 

「おお、ついに来たか!熊口君。あれから1年経ったがどれくらい成長したかね?」

 

「ええ、もちろん。霊力操作に剣術とね。まあ、1年前のお返しに一矢報いますよ」

 

「むっ、言うじゃないか。これは楽しみだな!」

 

 

 そう、おれはこの1年、実は依姫から剣術を習っていた。

 なぜか剣術に関しては飲み込みが早いらしく、剣術はAクラスでは依姫の次いで2番目に上手い。

 そして全てやることは平均並みだったおれが見つけた特技の一つであった霊力操作の応用で霊力剣を生成。これを綿月隊長に向ける。

 

 一矢報いるか……おれの前の連中はゴリラに傷1つとして与えていない。

 与えるどころか攻撃を当てることすら出来ていないのだ。

 おれがそんな相手に一矢を報いることが出来るだろうか?

 この霊力剣、切れ味はまあまああるが、すぐに壊れるし……

 

 

「む!たった1年で霊力をここまで操れるのか!期待通りだ」

 

 

 そう言って戦闘狂みたいに笑う綿月隊長。

 はあ、やりたくないしめんどくさい。でも手を抜いたら十中八九痛い目に遭う。

 なんか知らないけどこのゴリラに期待されてるみたいだし……

 応えることはできなさそうだが、一応やってみるか!

 

 

「いきます!」

 

「来い!」

 

 

 そう言うとおれは綿月隊長に向かって肉薄する。

 その途中、おれは()()()()()のために、右手に持っていた霊力剣を綿月隊長に向かって投げつける。

 

 

「そんなひょろっちい速度で当たるか!」

 

「わー避けられたーどーしよー」

 

 

 と、完全な棒読みになったが、バレていないだろうか。

 投げた直後におれはまた霊力剣を生成する。

 霊力剣の良いところはここにある。霊力が続く限りいくらでも生成できるのだ。

 

 そのまま綿月隊長の側まで来たところで、おれは斬りかかる。斬り方でいうなら袈裟斬りだ。

 決して下手くそではない剣筋。そう依姫から評価された。

 その袈裟斬りを綿月隊長は両腕に霊力を集中させて剣を掴む。

 掴む両手には血が滲む気配はない。霊力で防いでいるのだろう。

 そして顔がにやついてる。恐らく、おれが『そんな馬鹿な!?』っていう感じの驚愕の顔になっているからだろう。なんか腹立つな。

 そんな呑気な事を思っていると、綿月隊長は両腕で剣をそのまま身体を捻らせながら回し蹴りをしてきた。

 

 勿論、剣を握られたままのおれは綿月隊長が身体を捻らせると同時に浮いた。

 このままではやられる。

 そう考えたおれは相手の足が脇腹に当たる刹那、おれは霊力を脇腹に集中して防御しようとする。

 しかし綿月隊長の回し蹴りは予想を遥かに上回る威力でおれの霊力の壁を砕き、おれの脇腹にぶち当たる。

 

 

「ぐふっ!?」

 

 

 おれは軽々しく吹き飛ばされた。

 う……痛い。骨は……ぎりぎり折れてないか……

 

 

「ふむ、こんなものか」

 

 

    ドサアァ

 

 

 蹴られた地点から5メートル先ぐらいに落ちた。

 あ、くそ……動けない。

 

 だが、おれが動く必要はもうない。

 

 

「それじゃあ次でラスト…………!!」

 

 

    ザクッ

 

 

 

「う……なに?!」

 

 

 今日始めてみる綿月隊長の驚いた顔をみた。

 ふふ、さっきこのゴリラが笑っていた理由がわかった気がする。

 隙をついたときの相手の驚愕の表情。それを見るとついにやけてしまう。

 

 何故綿月隊長が驚いているのか。

 それは背中を斬られていたからだ____

 

 

 おれが最初に投げた霊力剣によって。

 

 

 仕組みはいたって簡単。投げつける時、霊力剣がすぐに消滅しないように霊力を多めに込め、ゴリラが油断しているところの背後を斬りつけるという作戦。

 見切られるかもと思ったが、案外いけたようだ。

 

 まあ、そういうことで____

 

 

「まさかここまで霊力の操作に長けているとは……」

 

「……一矢報いましたよ」

 

 

 有言実行はできた。これ以上求めることはなにもない。

 だからもう手放してもいいよな?意識を。

 

 もうおれ、眠たいんだ。眠いとは少し違うけどな。

 

 そしておれは、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「すごいですよね、熊口君。まさか投げた霊力剣を操作して、父上が回し蹴りをした隙に斬りつけたんですから」

 

「依姫か?まあ、それにしてもこりゃ、一本取られたな!少しずるっぽかったが、油断した私が悪い!ここは素直に称賛するべきだな!」

 

「私もそう思います」

 

「んま、それはおいといて、だ。Aクラス最後となったが、早速始めるか?」

 

「はい!32番綿月依姫!行きます!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このあと、依姫とゴリラの戦いは白熱し、気絶から目覚めたやつらはおおいに盛り上がっていたらしいが、おれは気絶していたので見れなかった。

 

 なんか損した気分だな…………

 



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13話 3年目 ついにおれにも……!

自分は霊力のことをハンターハンターの念みたいな感じとして扱っています。



 

 

 

 この世界に来てから2年が経つ。

 ゴリゴリゴリラ(綿月隊長)に一撃で負けたおれは、この1年の間にまた力をつけた。その代表的なのが、霊力操作の強化だ。

 

 1つは霊力の消費を極限まで抑えて操作することに成功した。

 例えば霊力剣について言おう。霊力剣は手放すと操作するときにどんどん霊力が消えていくが、その消費を極限まで抑えることにより、長時間手を離して霊力の供給を断っても、霊力をあまり消費させないので霊力剣の質を落とさずに操作できる。

 と言っても、折れたり、1時間ぐらい操作し続けると消滅する。

 質が落ちないのは大体30分ぐらいだろう。

 

 

 それに霊力操作は身体強化なども含まれる。

 2つ目は部位強化の速度を上げたことだ。

 部位強化とはその名の通り、一部分に霊力を集中して強化することだ。

 以前、あのゴリラに蹴られたとき、咄嗟に脇腹に霊力を集中したが、十分に集中させきれなかった。

 それに習っておれはいろんな部位に霊力を十分に集中させられるように普段はしないような努力をし、ついに防御しようとした時にはそこに100%の霊力で防御できるようになった。

 ……まあ、フェイントで他を攻撃されたり、他の部位の同時攻撃されたら、100%では防御できないが。

 

 

 後は、霊力剣を生成する要領で霊力障壁を作ることが出来るようになったぐらいか。

 

 まあ、今のところはこんな感じに己を鍛えていっている。

 もっと強くならないとならないとな。

 

 何故おれが力をつけようとしているのには理由がある。

 それは力がなければ平穏な暮らしなんか出来ないからだ。前世の世界でいうなら頭がよくないといけない。頭が良くなければ良い会社につけないしそうなれば生活も苦しくなってゆっくり暮らせなくなる。この世界……というよりここの士官学校では力が強い者ほど高い位の地位につける。

 

 だからおれは力をつけようとする。平穏な生活を送るためにな!

 

 

「ということで自主練しよう」

 

「「ええ?!」」

 

 小野塚とトオルに未知の生物を発見したみたいな顔された。

 え、なんで!?

 

 

「おい、今のは幻聴か?このサボりの常習犯から自主練しようなんて聞こえたんだが……」

 

「た、たぶん幻聴だよ!自習レンタカーしようぜっていったんじゃない?」

 

「うおい、二人とも何いってんだ!確かに訓練の日によく寝坊してるけどサボってはないぞ!

 あとトオル、お前に至っては何いってるのかわからん」

 

 

 なんだよ!こっちがやる気になったってのにその反応は!

 やる気なくすぞ?折角やる気になったおれがやる気なくしちゃうぞ?

 

 

「えーと、俺らは構わんが本当にするのか?生斗お前すぐ弱音吐くだろ。」

 

「いつお前がいつもやってるトレーニングするって言ったよ。霊力操作だよ霊力操作!!」

 

「え?でも生斗君、それは君が一番上手いじゃないか。教官ももう教えることはなにもないって言ってたし」

 

「そうなんだが……おれは長所をとことん伸ばしたい質なんでな」

 

 

 出来ないことを無理にやろうとせず、まずは自分が得意とするものを伸ばせってよく聞くことだろ?

 

 

「ほうほう、しかしそれだとアドバイスできることがかなり少なくなってくるな……ていうかどんな特訓をするんだ?」

 

「ああ、この前霊弾を打つ訓練をやっただろ?あれを短時間で大量に生成することと、霊弾の種類を増やそうかと」

 

「霊弾を一気に放出する?そんなことしたら直ぐに霊力がつきるぞ。結局は俺がやってるトレーニングと同じぐらいキツいぞ?」

 

「まあ、別に楽して強くなろうなんて甘えた考えはしてないさ。

 あと霊弾の種類に関してはなんとも……取り敢えず霊弾作るときに練り方変えたりしてみる」

 

「成る程な……まあ、ともかくホールを借りて自主練するか!」

 

 

 そう小野塚の掛け声をいったあとおれらはホールに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~男子寮地下ホール~

 

 

「じゃあまず霊力を大量に出す練習からだな。最初に5個ずつ霊弾をあの的にだして20セット、つまり100個出すことにしよう」

 

「わかった」「うん」

 

 

 100個か……おれ的には一気に50個ずつだしていきたいんだけど小野塚はたぶんおれらの霊力量を考えて言ったんだろう。

 それなら従わない理由なんてない。

 

 

 

 

 

 ~5分後~

 

 

 き、キツい!なのにあと半分もあるだと?!霊力はまだあるけど出すときに体力がこんなに要るとは……正直なめてた!くそう!

 

 

 ~さらに5分後~

 

 

「はあ、はぁ、ぜぇぇ……」

 

「はあ、はぁ、やっと終わったね……」

 

「お、お前ら……あと5分休んだら、またこれを、やる、ぞ」

 

 ええええ??小野塚さん。スパルタ過ぎるよ……

 

 

 

 

 結局このあと4回もやった。霊力はまだギリギリ残ってるけど体力がもう底を突き抜けて地獄まで到達していた……

 いやだってさ、1回目で肩で息していたのに、2回目以降なんて何度妥協しそうになったことか……

 もうこれぐらいやったんだからもうやめてもいいんじゃないか?とか。

 

 

「これは、俺がいつも、やって、るトレーニングよりも、キツいな」

 

「僕もう霊力が無くなったよ……もう一歩も動けない」

 

「ま、まあ、次は技術、練習だし、大丈夫、か……」

 

 

 疲れているのはおれだけでは無いようだ。トオルに至っては仰向けの状態で倒れながら、滝のように汗をかいてる。

 

 

 

 取り敢えず20分ほど休憩することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~20分後~

 

 

「もうここを使用できる時間が少なくなってきたしさっさと始めようか」

 

「そうだな」

 

「僕も参加したいけど霊力がもうないから見とくよ」

 

 

 よし、風呂の時間まで残り1時間。この間に新しい霊弾を作ってやる!!

 

 

「……まずはいつも霊力を練っている方向と逆にやってみるか」

 

 

 

 

 

 

 ~30分後~

 

 

「うん、全然見つからないな」

 

「俺もだ」

 

 くぅ、どうしようか。

 全然良い考えが思い浮かばない。

 

 今回の発見と言えば霊弾を伸ばすとレーザーみたいになると言うことだけだ。

 でもこんなの誰だって出来るしな……

 

 

「う~む、なにかないのだろうか……水、無理。火、無理。土、無理。雷、無理。つーか形質変化はともかく性質変化はもう能力の域だし無理か…………」

 

 

 霊弾の性質はなんだろうか。 

 霊力の塊を飛ばして相手にダメージを与える。

 このとき、霊力を練ると攻撃力が上がる。練るときは霊力を小さな粒子だと考えて練るのがコツとか。

 

 

 うーん……いっそのこと霊力を大量の粒子に変化させて撃ってみるか?

 

 やってみる価値はあるな。

 

 

「よし……」

 

「ん、生斗。なにか分かったのか?」

 

「いや、試してみたい事が出来てな」

 

 

 まずは粒子のイメージをして大量に小さな玉を作り出す。

 

「うわ、なんかうじゃうじゃしてるぞ?」

 

「よし、これに膜を張って」

 

 

 この大量の粒子を閉じ込めるための膜を優しく包むように張る。もし膜より硬くすると威力が落ちるかもしれないからな。

 

 そして膜で包んだ粒子弾を先にある的に向かって撃つ。

 

 その弾が的に着弾すると____

 

 

    パサアアアァァ……

 

 

 膜が割れ、粒子が霧散した。

 

 

 …………ん?

 

 

「うーん、なんかユニークだが威力がないな」

 

「ちょっと待てよ……」

 

 

 今の霧散、見覚えがある。

 

 ____そうだ、爆発の時、あんな感じに散っていた。少し散るのが遅かったが、あんな感じに爆発していた。

 

 

 活路が開けた気がするぞ!

 

 

「ん?、またやんのか?」

 

「小野塚、少し黙っててくれ」

 

「お、おう」

 

 

 もう1度粒子を作る。先程より少なめだ。

 それをさっきより少し硬めに作った膜で囲み、粒子を動き回らせる。

 粒子を中で暴れさせ、膜に当たるごとに乱反射するように……

 

 

「うおお、なんだその霊弾、なんかめっちゃぼこぼこしてるぞ?!」

 

「……できた」

 

 

 小野塚がぼこぼこしていると言っているのは、恐らく、粒子が膜にぶつかっているからだろう。

 

 よし、これを的に向かって撃ってみるか。もしこれで霊弾より威力が高ければ、まあ()()成功と言ったところか。

 

 そんな呑気な事を考えつつおれはぼこぼこ弾を的に向かって撃つ。

 

 そしてそれが的に着弾すると____

 

 

     ドガアアアァァァァァァン!!!

 

 

 

 大爆発が起こり、的は跡形もなく消し飛んだ。

 

 

「……あれ?」

 

 

 え、ちょっと待てよ。なんだ今の威力?

 なんで的が消し飛んでんだ?あれ、鉄製だぞ。これまで幾度となく霊弾を耐えてきた的がなんで鉄屑になってんだよ……

 

 それほどまでにこのぼこぼこ弾の威力は高いというのか?

 

 

「すごい……」

 

「な、なんだこれは?!」

 

「お、おれもこんなにすごいとは思わなかった……」

 

 

 どういう理屈であんな爆発が起きたのかは知らないが、これは嬉しい誤算だ。

 これは必殺技レベルの技だ!

 

 

「こりゃ必殺技になるな!やったじゃねーか!!お前の必殺技ができたんだぜ!」

 

「そうだね!これは必殺技に名前をつけないとね!なんて名前にするの?」

 

 

 あら2人とも、自分のことのように喜んでくれてるじゃない。

 ありがたい限りだ。

 仕方ない。二人の要望に答えて、おれがナイスな名前をつけてやろう!

 

 

「そうだなぁ……ダイナマイトアルティメットボンバーストライクインパクト。ていうのは?」

 

「「却下」」

 

「ええ?!」

 

「ほんと……生斗君のネーミングセンスを疑うよ」

 

「確かに」

 

「ひ、酷い!?」

 

 

 なんか全面否定されたんだが……

 

 ま、まあこれでおれにも必殺技ができたわけだ。これで能力を持ってる奴に少なからず対抗ができるぞ!

 

 

 

 因みに技名は『爆散霊弾』になった。……そのまんまじゃねーか。

 



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永琳さんとお話し

メタ発言注意。
それが嫌な方はブラウザバック推奨です。


 

 

 今日は週に一度の休日である。

 毎日毎日国の周りの巡回や書類とかの整理やらしたりして疲れた。精神的にも、身体的にも。

 何故かたまに訓練やらなきゃいけないし

 ……もう働きたくない。1日中ぐーたらしたい。

 

 でもなにか癒しが、癒しがほしい…………

 

 

 

 ……あ、永琳さんの家行こう。

 

 

 

 

「ということで癒されに来ました~」

 

「貴方……毎週来てない?」

 

「やだな、月に2回ですよ、もう2日の休みはツクヨミ様の家にいます」

 

「ほんと、貴方、神をなんだと思ってるの?」

 

「人に希望を与えてくれる存在です!」

 

「う、完全に的外れではないから反論しにくいわ」

 

 

 まあ、なんだかんだ言って永琳さんはおれをもてなしてくれる。

 ほんとええ母さんや…………

 と思った瞬間永琳さんに睨まれた。

 おっと、そういえば永琳さん、お母さん扱いされるの嫌だったな。

 声に出してないのになんで察知出来るんだ……

 取り敢えずしらばっくれよう。

 

 

「お、お母さんなんて思ってませんよ」

 

「……思ってるじゃない」

 

 

 はあ、と永琳さんが溜め息をした後、何事もなかったように客間まで案内してくれた。

 あれ?いつもなら注射器とかだして脅してくるのに……なんか悪いものでも食べたんじゃないのか?

 よし、後で聞いてみよう。

 

 

「とりあえず座って…………それじゃあ何話しましょうか?」

 

「そうですね……あ、この前依姫が能力の練習付き合ってる途中に、死にかけた話でもしましょうか?」

 

「死にかけったて……あの娘もお茶目なのねぇ」

 

「そのお茶目で死にかけましたよ、おれが」

 

「あら、貴方なの?」

 

 

 それからに2時間ぐらい雑談した。

 おれは訓練生のやつらのことを、永琳さんは薬の研究のことやこの国での出来事とかを話してくれた。

 いや、国で起きたこととか確かにわかるけど薬についての議論をおれにしても何もわからないんだけどな。

 

 

「そういえば永琳さん、今日、なんだか元気がありませんよ。何かあったんですか?」

 

「ああ、貴方にもわかるのね。

 これは重症かもしれないわ」

 

「いや、おれがわかったのは早期発見かもしれませんよ?軽症の可能性だってあります」

 

 

 そうに違いない! おれが永琳さんの微妙な変化に気づけないわけがない!

 

 

「はあ、まあいいわ。別に隠すことではないし、教えても」

 

「え、もう元気がない理由について検討がついてるんですか?」

 

「ええ。()()以外にここまで落ち込むことはそうはないわ」

 

 

 この国の賢人とまで呼ばれる程の人が頭を抱えるほどの悩み……一体どんなのだろうか。

 はは、もしかしたらこの国全体に関わる重大な事だったりしてな。

 

 

「はい、じゃあカモン!愚痴なら聞くだけなら聞いてあげますよ!」

 

「そういうところに関してだけは貴方を拾って良かったと思うわ……」

 

「だけ、は余計でしょうよ」

 

「余計じゃ無いわよ」

 

「余計です」

 

「……はあ、はいはい余計よ、余計。愚痴を聞いてくれる相手以外にもちゃんと役に立っている事はあるものね。自分のだした塵をちゃんと持って帰るとか」

 

「例えがちっちゃすぎる!? 他にも沢山あるでしょ!」

 

「ごめんなさい……私の頭脳ではこれ以上の事が思い浮かべられないわ」

 

「なに、国の頭脳と呼ばれる永琳さんがお手上げになるほどおれの良いところは見つからないの!? なら今から良いところをみせましょうか? 今洗濯カゴに入っている洗濯物(下着も含む)の洗濯とか!」

 

「それは本当にやめてちょうだい」

 

 

 いや、そこはしてみなさいよと言ってくださいよ。ほんとにしてたのに……

 

 

「それで、話を戻しますが、今何に頭を抱えてるんですか?」

 

 

 取り敢えず話題を戻す。閑話はここまでだ。あ、でも閑話というならもっと駄弁ってても良いような……

 そういえば閑話休題の意味って前に調べてみたらどうでもいい会話(余談)を戻すという意味だったんだよな。『それはさておき』とか。今度ルビを使って閑話休題と書いて、それはさておき、と読むようにしようかな……てこれは流石にメタいな。以後、本編では使わないようにしよう。でもこれ、番外編だから許してね!

 

 

「はあ、また考えなくてもいいどうでもいいことを考えていたでしょう。しかも今、やってはいけないことをしたような気分だわ」

 

「え?よく分かりましたね(やってはいけないことって十中八九メタ発言のことだよな……ほんと、これからは使わないでおこう)」

 

「貴方の考えていることがまるわかりなのよ。ちゃんとした話をしているときも、あ、他のこと考えているなって分かるし」

 

「まじっすか」

 

 

 そ、それは新事実だ。まさかバレていたとは……あ!そういえば前に上司が話してるときにやたらと睨んできたのはそのせいか! 話を聞いていないのがバレバレだったのかよ……

 

 

「も、もういいじゃないですか、その話は。そろそろ永琳さんの苦難を聞きたいです」

 

「そうね。ちょっと水をさしてしまったわ」

 

 

 そうだそうだ。今のは永琳さんが曲げたんだからな、話題を。

 発端はおれのメタ発言なんだけどな……

 

 

「私が今、頭を抱えているのは大きく分けて2つよ」

 

「2つ、ですか。因みにその中におれは入ってますか?」

 

「生憎ね。道端に転がっている石に悩みを抱える人はそうはいないわ」

 

「ん? 今おれのこと凄い酷い例えしてませんでしたか?」

 

「したわよ」

 

 もう、永琳さんったら。照れ隠しにいちいちおれをディすらないでくださいよ~。

 

 

「永琳さん、照れ隠「……まず一つ目の事なのだけれど」……あ、はい」

 

 

 あ、無理矢理話題の軌道を修正したな。

 まあ、確かにまた話がおかしな方向にいきかけたから仕方ないか。

 たぶん、そのまま話してたら宇宙の神秘について話してたんじゃないか? ……いや、流石にそこまではないか。

 

 

「蓬莱山家の令嬢、姫の教育係になったことね」

 

「え? あの姫さんとこの娘のですか? 凄いじゃないですか、ただでさえ顔を見せないあの蓬莱山家の娘の教育係なんて」

 

 

 蓬莱山家はこの国でも権力を持つ貴族だ。

 顔を見た人は殆どおらず、幹部クラスでやっと面識ができるらしい。

 娘が出来たとは噂で聞いてはいたがまさかその世話係を永琳さんがしていたとは……

 ていうか娘を見たってことは親の顔も見てるってことだよな?

 一体どんな顔なんだろう……隠そうとしているということは相当凄い不細工なんじゃないだろうか。

 

 

「今貴方が考えていることが大体分かったわ。

 安心しなさい。親子ともども大層な美人よ」

 

「ふ、ふぅん、そうなんですか」

 

 

 永琳さん凄い。よくおれが思ってたことを言い当てたな……

 

 

「それと、手をあげて喜ぶようなものじゃないのよ。教育係をするということは」

 

「なんでですか?美幼女のお守りなんてご褒美以外何物でもありませんよ」

 

「それは貴方個人の考えであって、私には苦痛でしかないのよ。薬の研究が出来ないし、他の仕事も減らずにいつも通りだし、設計のこともあるし……」

 

「仕事減ってないんですか」

 

「基本家でもできることが大半だからということでね。でも仕事自体はそんなに問題ではないのよ。私のプライベートがないということが問題なの。これじゃあろくに薬の研究が出来やしない」

 

「プライベートで薬の研究て……他にすることとかないのかって言いたくなりますね」

 

 

 そういえば休みの日に永琳さんがどこかに出掛けるところとか1度も見たこともない。

 もしかして永琳さんは引きこもりの道に1歩足を踏み込んでいるんじゃ!?

 

 

「貴方今、失礼なこと考えたでしょ」

 

「考えましたよ」

 

「……ふーん」

 

 

 いや、ちょっ、その目やめてください。恐いです。

 ……くっ、さっきのお返しをしようとしただけなのに!

 

 

「まあ、その事は追求しないでおくわ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 ふう、永琳さんのおしおきはほんと酷いからな。しかもおれの場合、()()だから加減というものがないし。

 

 

「それじゃあ話を戻すけど……1つの問題としてプライベートがないのだけれど、一番の問題は姫にあるのよ」

 

「娘さんに問題が?」

 

 

 娘といっても生まれたのは5年前と聞いたんだが……そんな小娘になんの問題があるんだろうか。

 

 

「無理難題の、我儘を言われるのよ」

 

「あー、子供の言うことぐらい聞いてあげましょうよ」

 

「じゃあ貴方はこの世に存在しない物を取ってこいと言われて取ってこれる?」

 

「……そのお子さんはどんな無茶ぶりを要求しちゃってんですか」

 

「だから困ってるのよ」

 

「……どんまい!」

 

「なんかイラッと来たわ」

 

 

 いや、だってこれは他人事だし。おれがかけられるのなんて励ましの言葉だけだしなぁ……

 まあ、今のは自分でもうざいなぁとは思ったよ?

 

 

「はい! じゃあ二つ目いってみよう!」

 

「なんか……貴方に話したところでただ苛立ちが増すだけのような気がするわ」

 

「ふふふ、そんなことはありませんよ。現におれは楽しんでます」

 

「人の不幸で楽しむなんて悪趣味ね」

 

 

 いやいや、永琳さんと話すことが楽しいんですよ、おれは。

 

 

「はあ……それじゃあご要望通り二つ目を話すわ」

 

「お、来ました!」

 

 

 永琳さんほどの人物に頭を抱えさせる二つ目の要因。

 一体どんな災害なのだろうか。

 

 

「月移住計画についてよ」

 

 

 …………はい?

 

 

「え? 今、なんていいましたか?」

 

「だから月移住計画よ」

 

「いかん、永琳さんがついにおかしくなった」

 

「頭かち割るわよ、薬で」

 

「薬で頭かち割れるもんなんですか?!」

 

「薬の中に血を吸うと大きくなって成虫になる寄生虫をいれてそれを飲ませればいずれ頭やら身体中の中から出てくるわ」

 

「頭だけの問題じゃなかった?! ていうかかち割ってないじゃないですか!」

 

 

 いや、そんなことにつっこんでる場合じゃない。

 月移住計画? なんだそれ。聞いたことないぞ、おれ。

 いやでも永琳さんが嘘を言うのは考えがたいし……

 

 

「取り敢えず、今は信じることにします。

 ……で、月移住計画でなんで永琳さんが頭を抱える事態に陥ってるんですか?」

 

「月移住計画の要となるワープ型固定装置の設計を任されたからよ」

 

「ワープ?」

 

「簡単に言うと瞬間転移のことよ。それを使ってここから月へ飛んでいこうという考え」

 

「へ、へぇ」

 

 

 そんなSFみたいな事できんのかな……いや、永琳さんなら出来そう。

 でもなんで上の人らは永琳さんに頼んだのだろうか。

 普通薬師に頼まないだろうに……

 

 

「我儘姫の教育係だけでなく国の一大プロジェクトの要の設計も任されるというダブルショッキング。普通の人ならノイローゼになりますね」

 

「私も軽めに鬱気味よ」

 

「んな馬鹿な。さっきから遠回しにおれを弄りまくってるじゃないですか。せめて疲れ気味程度ですよ」

 

「それは貴方が決めることではないと思うのだけれど」

 

 

 いやぁ、見る限りじゃ、ねぇ……

 

 

 それよりも月に移住するのか、この国の人達。移住する中におれも入ってるのかな? 入ってなかったら泣くな、おれ。

 ていうか月って酸素あるのか? いや、この国の事だ。そんな前提のこと処理済みの筈だ。心配する必要は無いだろう。

 

 

「ていうかそんなに忙しいならこんなことしてる暇ないんじゃ……」

 

「そうね、貴方が来るまでずっと転送装置の設計図作ってたんだけど。邪魔をされたのよねぇ、誰かさんに」

 

「まあ、息抜きにでもなるでしょう」

 

「それって自分で言うこと?」

 

「気にしない気にしない」

 

「まあ、息抜きになったのは事実だし……ってもうこんな時間じゃない。お昼ご飯食べていく?」

 

「さすが永琳さん! 丁度お腹が空いてきていた所だったんですよ! さっすがそんなところに『年期』が入ってる~!」

 

「さて、寄生虫入りの薬は何処に仕舞っていたかしら?」

 

「ごめんなさい!」

 

 

 このあと薬入りでない昼飯を食べた。

 うん、とても美味しゅうございました。

 

 それよりもなんで永琳さんは年の話になるとこう、攻撃的になるんだろうか……なんか面白いからそこをイジってしまうではないか。

 まあ、殆どの確率で脅されたりして土下座する羽目になるけど。

 

 



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14話 4年目 痛みは感じなかった

 

 ついに士官学校卒業まで残り1年(正確には半年)となった。

 

 

 おれのいる士官学校の卒業試験はかなり難関らしく、月に1度ある試験の合格基準に達していないと、すぐ留年となるらしい。

 留年になると、Aクラスの場合他のクラスへと移動になるので留年者はクラスにいないが…… 

 

 もう5度もその試験が行われている。

 なんとか修行の成果もあり、どれも合格基準に達しているが、今回は少し危ない。

 

 だって今日、卒業試験一番の山である『野外試験』があるからだ。

 

 その試験は3~4人1組の8組で編成され、片道50㎞ある一本道を往復する試験だ。

 これは運が必要でもある。運が良ければ妖怪とかと会わずに終える事が出来るが運が悪ければ妖怪の群れに出くわす事もある。

 一応、一本道の回りには試験官が配備されているが、敢えて素通りさせるらしい。 

 それでもし訓練生が危なくなったら助けに入るが、もし助けに入った場合、その訓練生は失格、つまり留年になる。

 しかし、例外もある。その例外とは『大妖怪』のことだ。

 大妖怪は中級妖怪よりも何10倍も強く、兵士が束になっても勝てない。

 この国で勝てるのはあのゴリラとツクヨミ様くらいらしい。

 この国の中には即死武具があるらしいが、それはまだ開発段階でまだまだ不安定要素が多く、暴発する可能性が高いとのこと。完成するのは100年後だとか。

 だから武装した兵士が陣形を組んで挑んだとしても、それを一瞬にして崩す力を大妖怪は持っているので、出会ったらすかさず逃げなければならない。

 まあ、出会ったらそこでおしまいだけどな。

 

 ……話を戻そう。

 その例外である大妖怪が出た場合、試験官はただちに本部に連絡、訓練生達を速やかに国内へと避難させ、厳戒体制をとる。

 

 それほどまでに大妖怪とは恐ろしい存在だということだ。

 

 まあ、遭遇する確率は5%にも満たないと言われているし、たぶん大丈夫だろう。

 

 

 

「んーと、あ、俺は生斗と同じ1班か」

 

「お、これは心強い。」

 

 

 そして現在、Aクラスの皆は国を覆う壁の外へと出ていた。

 もうすぐ試験が始まる。

 班決めは試験当日に発表させ、今知ることができた。

 

 おれはついてるぞ。Aクラス総合成績2位の小野塚(兄)と一緒の班なんて!

 ん?おれのクラスの順位はなんだって?

 9位だよ。なんだ、なんか文句あんのか?霊力操作と剣術は1、2位を争う成績だが、どうしても筆記が足をひっぱって微妙な成績になってる。

 

 

「じゃあ取り敢えずあと二人の所に行ってリーダーを決めないとな」

 

「いやいや、リーダーて。小野塚に決まってるだろ」

 

 

 

 とはいったもののもしかしたらあと二人の奴らが小野塚を認めてない可能性もあるからと、一応聞きにいった。

 ああ、早く終わらせて永琳さんかツクヨミ様の家で寛ぎたいな……

 あ、言うのを忘れていたが、学校の休みは大抵永琳さんかツクヨミ様の家にいってる。永琳さんは兎も角、何故ツクヨミ様の家に行ってるのか。理由は簡単、居心地が良いからだ。特にあの神聖な感じがいい。前までは威圧感があってリラックスなんて全くできないと思っていたが、いざ慣れれば威圧感なんてどうってことはない。

 たまにツクヨミ様からお叱りを受ける以外は居心地は最高な空間だ。

 

 

 ……て、今こんなこと考えている場合ではないな。試験に集中しなければ。

 

 

 

 

「よし、それじゃあこの試験の最終確認をするぞ。

 まず一本道の折り返し地点にある証明バッチを確保してもう一つのルートの一本道を通り、今ここにいる地点まで戻る。

 もし、途中で妖怪に遭遇した場合は各自排除、そして自分達では対処しきれない大妖怪が現れた場合は戦闘は避け、予め渡させた通信機で教官に連絡した後、直ちに撤退する事。_____これくらいだな」

 

 

 結局リーダーは小野塚がする事になった。まあ、妥当だろうな。

 今は試験の最終確認中だ。

 

 

「小野塚、もうすぐ教官の話が始まるぞ」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 おれらは1班なので一番最初に外に出ることになっている。

 1班30分ごとに出発するようになっているのでそうそう他の班と会うことはない。だからもし妖怪と出くわしても班員でなんとかするしかない。

 まあ、おれともう二人はともかく小野塚の能力を使えば仲間ぐらい簡単に呼べるんだけどな……

 

 

「それでは、試験を開始する前に、今回、試験の監督官であられる綿月総隊長からの激励を頂く」

 

 

 そう言って、即席で作られた壇上の上に、ゴリラが立つ。

 この試験は大変危険なため、この国でも屈指の実力者が見張りをする。

 前回は永琳さんが監督官をしたとか。

 

 なので、もし訓練生が大妖怪に出くわしても、少しの間時間を稼いでもらえれば助けに来てもらえるということだ。

 監督官は予め中間地点でスタンバってるらしいからな。

 

 

「んー、ごほん。私から言えることは1つだけだ。

 君達がこれまでの3年間、培ってきた技術を遺憾無く発揮し、ここまで戻ってくることを祈っている。それだけだ、以上!」

 

「「「はい!」」」」

 

 

 

 なんともまあ、ベタな事を言うもんだ。

 でも、あの化物ゴリラがバックでいてくれるなら、もし大妖怪にあっても安心だ。

 心置きなく試験に集中できる。

 

 

「それでは、第1班、配置につけ!」

 

 

 そして試験が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~30分後~

 

 

「妖怪って案外少ないんだな」

 

「油断は禁物だ、慎重に行こう」

 

 

 今のところ、妖怪を発見、及び排除したのは2匹。

 どちらも虫のような妖怪だった。

 おれ自体、実物の妖怪を見るのは初めてだったが、レプリカの妖怪やら映像で見てきたので、慣れていたので、問題なく倒していく。

 

 この試験は意図的に試験官が妖怪を呼び寄せてくるようだ。

 やはり楽にこの試験を突破はさせてくれないということだ。

 たまに妖怪を呼び寄せるための笛の音が聞こえてくる。

 恐らく、あの音でこの一本道に誘き出すように仕向けているのだろう。

 

 

「この調子なら楽勝ね!」

 

 

 と、班員の一人である女子が言う。

 だめだな、調子に乗り始めている。

 

 

「おいおい、フラグ立てるようなことを言うなよ……」

 

 

 もう一人の班員の男子が女子の発言を咎める。

 何故かこの班、男子率が多いんだよなぁ……

 はあ、女子と二人だけの班がよかった……数的に二人は無理だけどな。

 

 ……っていかんな。おれもこの試験を楽観視し始めている。

 そんな事を思っているとろくなことが起きないんだ。考えないようにしよう。

 

 

「よし、中間地点まであと半分だ!気を引き締めて行くぞ!」

 

 

 お、半分って事はもう25㎞も走ったのか。

 まあ、それもそうか。霊力で足を強化してから体力を持たせるような走り方でも十分に速い。

 それに体力自体も毎日走らされていたんだから嫌でもついてるし。

 

 

 

   ピイィィィ~

 

 

「またあの笛か。おい皆、妖怪の接近に注意しろ!」

 

 

 くそ、また試験官のやつが誘きだしてきたか。

 もし中級妖怪が現れたら手こずる可能性が高い。

 できれば雑魚妖怪が来てくれればいいが……

 

 

 

   ボキイイィィィィィィ!!!!

 

 

「きゃああ!」

 

「うわ!?なんだ?」

 

 

 笛が鳴った数秒後、木がへし折れたかのような轟音が辺りに鳴り響いた。

 

 ……やばい、とてつもなく嫌な予感がする。身体中から汗が出てくる。

 

 

「お前ら、走るのを一旦止めろ」

 

「え、なんだ生斗。何かあるのか?」

 

「嫌な予感がするんだ」

 

 

 来る。速くはないが歩いて此方に近づいてくる。

 禍々しい何かが、おれ達に向かって歩いてくる!

 

 

「おい小野塚、お前通信機持ってたよな。今すぐ本部に連絡してくれ」

 

「は?!生斗お前、連絡してしまったら俺ら留年になるんだぞ!」

 

「いいから早くしろ!でないと手遅れになる!」

 

 

 そう言いながらおれは小野塚の腰に掛けてある通信機に手を伸ばす。

 しかし____

 

 

「駄目よ!私はこの試験、落ちるわけにはいかないの!」

 

 

 と、おれが取ろうとしていたのを察知した女子が、通信機を横取りする。

 

 

「おい、早くそれを渡せ」

 

「駄目っていってるでしょ!落ちたらあんた、責任とってくれんの?」

 

「死人が出るよりかはましだ!」

 

 

 やばいやばい!早く連絡しないと本当に手遅れになる!

 

 

「いいから早くそれを渡____」

 

 

 焦ったおれは無理矢理、女子の持つ通信機を奪い取ろうとした。

 

 取ろうとした。取ろうと。

 

 

 しかし、取ることは叶わなかった。

 目の前にいた女子の周りに、一瞬眩い光が通過した後、姿が跡形もなくなっていたからだ。

 

 

「え?」

 

 

 え、え?今、何が起こったんだ?

 状況が上手く読み取れずおれは辺りを見回してみる。

 すると、女子が立っていた位置から先が、何かが通った跡があり、その先にある木々が大きく抉り取られていた。

 

 

「おっほ~、我ながら俺様の妖弾は威力が高いなぁ~」

 

 

 聞き覚えのない声が静まったこの空間に聞こえる。今の声でわかる。

 今この場から消えた女子は、跡形も残さず死んだ。

 

 

 …………もう手遅れか。

 

 

「小野塚……」

 

「ああ、どうやら俺らは詰んだ状況にいるらしい。

 生斗、すまん。あのとき俺が躊躇わなければまだましな結果になるはずだったのに……」

 

「過ぎたことだ。それにどうせ追い付かれていたしな」

 

 

 そんな会話をしつつ、おれは声の主の方へ顔を向ける。

 そこには禍々しいオーラを隠しもせずに放つ大男が片手で、試験官らしき頭部を持った状態で立っていた。

 上半身裸で、ズボンは所々破けており、局部を隠しているので精一杯であった。つまりほぼ全裸。パンツ一丁と言っても過言ではない。

 しかし、胸板等に森林のように生える毛によりほんとに裸か?毛の服でもきてんじゃないのか?ていうぐらい毛がそこらじゅうに生えている。

 あと一番の特徴はやはり頭に生えている2本角。あれだけでこいつが人間じゃないということがわかる。

 肌の色もなんか赤いし、耳も尖っている。

 人型の妖怪は初めてみるな……

 

 

 

 さて、どうしようか。此方の通信手段は途絶えた。

 頼みの試験官も、現在アンパン○ンが新しい顔を交換されたあとの古い顔と同じになってるし……

 ていうかあんまりあれは見るもんじゃない。精神的にきつい。

 

 

 

「くくく、なんか耳障りな音がするもんで来てみればなぁ~。

 たまには山を下りてみるもんだぜ!」 

 

 

 はいはい、つまりアンパン○ンの古い顔のせいなんですね、分かります。

 くそ、なんてタイミングの悪い!

 

 

 …………いや、でもまて。ここから本部か中間地点までどちらも25㎞、もし呼べたとしても結局時間がかかる。

 あ、最初から詰んでたんだな、おれら。

 あのオーラは間違いなく大妖怪に匹敵するだろう。

 これまで妖怪なんて見たことなかったが、あのゴリラと同じような気迫を感じる。

 おれの予想は間違っていない、と思う。

 

 

「ここはもう、駄目元で逃げるしか……」

 

「うわああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 と、急に喚き声をあげながら男子が妖怪と反対の方向へと一目散に逃げていく。

 

 

「くっ……!」

 

 

 ずるをされたような感じだったが、おれも男子に続いて妖怪の方と反対に逃げようとした。

 

 

 

 ____が、それは止めた。

 

 

 もし、おれらが逃げたら、後の班の奴らはどうなる?

 

 おそらく……いや、十中八九巻き添えを食らう。

 

 おれらはどうせもう逃げられない。

 おれには特殊能力はないし、今一心不乱に逃げてる男子も口から火を吹くぐらいだ。

 辛うじて小野塚は逃げられる。

 

 ……小野塚の能力はほぼ瞬間移動だ。それを使えば……使えば…………あ、そうだ!

 

 

 

「小野塚、お前、中間地点にいる綿月隊長を呼んできてくれ」

 

「は?どうやって……って俺の能力でか。最近使って無かったから忘れかけてたぜ」

 

 

 小野塚の『交換する程度』で、射程距離ギリギリで転移し続ければ、すぐに着くことができるだろう。

 そして中間地点でスタンバってる綿月隊長に応援を要請すればすぐに駆けつけてくれるはず。

 あのゴリラの事だ。3~5分以内にはここまで来ることができるだろう。

 その3~5分の足止めさえ出来れば、おれらは助かる()()()()()()

 小野塚が応援要請するまでを考えるともう少しかかるか。

 

 いや、大妖怪相手に3~5分なんて時間を稼げるだろうか?もう一人の男子は戦意喪失、敵前逃亡をはかっている。

 それが悪いとは言わない。だって既に仲間が一人殺させてるもんな。

 

 でもだからこそ、これ以上被害を出すわけにはいかない。

 おれまで逃げたら、後に来るやつらにまで被害が出る。

 

 足の震えは止まらないが、やるしかないよな。

 

 

 

「おれがここであの化物を食い止めるから早く行け」

 

「はあ?!おまっ、なにいって……」

 

「お前にはわかるだろ。こうするしかないって」

 

 

 賢明な小野塚ならわかるはずだ。おれより成績優秀なんだから。

 

「あ!」

 

 

どうやら気づいたようだ。

 

「……お、おい、確かにそのやり方が一番被害が出ない。

 しかしお前が____」

 

 

「なあ、小僧ども。もうそろそろ動いてもいいか?」

 

 

 と、小野塚がなにか言いそうになっているところで、それを律儀にずっと待っていてくれた妖怪さんが苛立ちを押さえながら話しかけてきた。

 

 

「もう猶予はないぞ。早く行け」

 

「くっ……生斗、本当にすまない。どうか生き残ってくれ」

 

 

 そういって小野塚は姿を消した。

 小野塚の立っていた位置には先程まで無かった一本の小枝が落ちている。

 これと自分を交換したのか…

 

 

「あーあ、二人も逃げちまったか。んで、お前さんは逃げないのか?」

 

「……逃げられないんだよ。ていうか何故追わない? お前ほどの実力者なら今から追って殺すのも容易いだろ」

 

 

 実力者って言ってもまだ少ししか見れていないけどな。

 

 

「ん? そりゃあ俺様も腹が減っていたら逃げたやつらを追うさ」

 

「ふうん。因みに先程まで何の食事を?」

 

「こいつの身体」

 

 

 と、右手に持っていた試験官の顔を見せてくる。

 ……気持ち悪! せめて全部食ってやれよ!

 

 

「俺様は少食だからなー。一匹食べたら満足しちまうんだ」

 

「へぇ、じゃあ森へおかえり」

 

「おいおい、食後の運動をしないと駄目だろ?」

 

 

 

 あらそう? おれなんて飯食ったらそのまま布団でぐーたらなんだけど……

 ていうか戦うことは避けられそうにないな。

 

 

「んじゃ、それに付き合ってあげましょうかね。それじゃあ最後に。

 さっきの質問と同じだ。なんであの二人を逃がした?食後の運動なら皆とやった方がいいんじゃないか?」

 

「ありゃあ駄目だ。敵前逃亡するやつなんて運動にすらならない。

 ま、でもお前をぶっ殺したら追いかけていたぶってやるがな!」

 

「ああ、そうかい。そりゃあ物騒なことで」

 

 

 どうやら後回しにしてくれるらしい。

 願ったり叶ったりだ。

 

 

「なあ、もう攻めてもいいか? さっきから動きたくてウズウズしてんだよ」

 

 

 そう言って妖怪は手に持っていた生首を茂みの方に放り投げる。

 

 

「おっと待たせてしまってたか。どうぞご自由に」

 

 

 軽口の時間稼ぎももう限界か。

 まあいい、これでも中々稼げた筈だ。

 でも怖いな、大妖怪がおれに向かって来るんだぞ。手のひらの汗も、足の震えも止まらない。

 

 ここでテンパっては駄目だ。これまで苦労して身に付けてきた技術が無駄になる。

 これまでの全てをぶつけるつもりで挑めばいいんだ。

 

 ……て、いつものおれじゃないな。

 いつも通りやりゃあいいんだ。

 相手に思ったような動きをさせないように。

 

 

「よっしゃあ、いくぜぇ」

 

 

 と、準備運動で屈伸をしていた妖怪が言う。

 

 はあ、痛いのは嫌だが、おれがやるしかないんだ。

 我慢してやろう。

 あ、帰ったらあの逃げた男子に飯奢らせてやる。

 

 

 

「!!」

 

 

 そしてついに妖怪が此方に向かって攻撃を仕掛けてきた。

 妖怪は攻撃の射程距離におれが入るように肉薄してくる。

 想像しているのより遥かに速い!

 

 

「おらぁ!!!」 

 

「うぐっ……!」

 

 

 あっという間におれの間合いに入ってきた妖怪は攻撃してくる。

 それをギリギリで霊力障壁を使って防御。障壁は無惨に割れたが、威力を抑えることに成功し、腕で受け止めることができた。

 危ない……あいつの腕が一瞬消えたかと思ったぞ……

 

 

「ほう、今のを凌ぐか。ま、今のは軽いジャブ程度だがな!」

 

 

 そうか、だから速いのか。

 ジャブは威力を殺す代わりに物凄く速く、格闘技では最速の技って言われているらしいからな…………ってジャブで障壁ぶっ壊れてたんですけど? 威力馬鹿みたいに高いじゃないか。あんなの、1発でも食らったら、その部位吹き飛ぶだろうな。

 

 

「でもお前、いつまでも俺様の手を掴んでいて…………ちっ」ヒュン

 

 

 

  ドガアアァァァァン!

 

 

「くそ、避けられたか」

 

 

 なんか妖怪が言いかけていたがお構いなしに必殺技の爆散霊弾を撃ち込んだ。

 それを察知した妖怪は強引におれの手を振り払い、後ろに回避し、爆散霊弾の着弾を避ける。

 そのお陰で霊弾は地面に着弾し、爆発。地面にクレーターを作るだけに留まった。

 

 くそ、先手必勝だと思ったんだが。でも奴が避けたってことは、この技は有効だってことは分かったな。もう使わないが。

 あ、因みに爆散霊弾の生成は初期に比べてかなり早くできるようになっている。

 大体1秒あれば1つのペースぐらいか。だから接近戦にはあまり役に立たない。

 接近戦では0.~の世界だからな。そんなところで爆散霊弾なんて生成してたらぼこぼこにされる。

 それに近くで着弾するとおれにまで被害が出る。

 今回は大妖怪相手だからダメージ覚悟でやったというのに避けられるし、おれの近くで爆発したから爆風で飛んできた石が腕やら腹やらに当たって痛いし。

 今回は完全にやり損だ。相手に拘束を解かれつつ、おれにだけ爆風によるダメージを負った。

 

 あまり爆散霊弾を多発するのは避けた方がいいな。

 はっきりいって今生成できたのも妖怪が油断して隙を作ってくれたから出来たわけだし。

 

 

 

「中々面白いじゃねーか。食後の運動にはもってこいだな!」 

 

 

 ふむふむ、今のを見て怖じけつかないか。

 着弾した跡のクレーターは決して小さいものではないのに。

 

 

「ま、お前はもうその技を使えねぇ。いや、使う暇を与えねぇ」

 

 

 そんなの分かってる。おれだって使うのは避ける。

 それにもう、爆散霊弾の役目は完了したようなもんだ。

 今の爆音で近くにいる奴らに危険を知らせることも出来たからな。

 

 

「よっしゃ、気を取り直すぜ!」

 

 

 そう言ってまたもや此方に向かって突進してくる。

 

 おれはそれに反応し、霊力剣を生成。迎え撃つ構えをとる。

 

 

「ふんっ!」

 

「なに?!」

 

 

 おれとの距離が10メートルを切った辺りで、妖怪は地面を抉るように殴った。

 すると、その抉り飛ばされた地面は殴るられたことにより、瞬時に軟らかい土となり、飛ばされた先にいるおれに向かってくる。

 

 目潰しか!

 そう判断したおれは、土がかからないように霊力障壁を展開、土自体には攻撃力など皆無なのでぶつかった後、地面に落ちていく。

 

 

「え?」

 

 

 しかし土がぶつかってきたことによりほんの少しの間、前が見えなくなっていた。

 それを逃さなかった妖怪は、姿を眩まし、土が落ちきる頃には完全に見失ってしまった。

 

 

「(くっ、何処だ…………!?)」

 

 

 このとき、おれの経験が役に立った。

 小野塚の事の組手でよく瞬間移動で後ろに立たれ、不意を突かれていた。

 もしかしたらあの妖怪も……と。

 そう考えた瞬間、おれは横に転がるように避けた。

 

 その後1秒も経たないうちに、特大霊弾がおれの真横を横切った。

 

 これは、さっき女子を跡形もなく消した……

 

 

「ああくそ、あと少しだったのになぁ」

 

 

 

 よ、よかった……もし小野塚と組手の訓練をしていなかったらおれも消し炭になっていたかもしれない……

 

 勿論、今特大霊弾(妖怪だから妖弾か)を出したのは、おれの斜め後ろにいる妖怪だ。

 へらへらと笑いながら此方を見ている。

 

 

「まるで玩具をみているような目だな」

 

「ん、玩具じゃないのか?」

 

「お前がそう思っているのならおれは玩具でいい。ただ、取扱説明書を見ないと怪我するぞ」

 

 

 そう言いながら立ち上がる。くそ、転がったから砂が大量についてやがる。

 

 

「へぇ、そりゃ是非見てみたいもん……だな!」

 

 

 砂を落とす暇もなく、妖怪はおれの足めがけて蹴りを入れようとして来る。

 まずは機動力無くしに来たか。

 

 

「ほっ!」

 

 

 先程より遅かったお陰で跳躍することにより下段蹴りを回避。妖怪の蹴りはブオン! と音を鳴らしながら空を切った。

 おれは跳躍したまま飛び、妖怪との距離をあける。

 

 ふむ、やはり何度見ても凄まじいな。1度食らったらそれでゲームオーバーになりそうだ。とんだ無理ゲーかよ。

 

 

「へへ、折角攻撃のチャンスをやったってのにスルーかよ」

 

「は?」

 

 

「俺様がお前の足を蹴るとき、かなり隙があっただろ。それに速度も遅めてやった。

 なのにお前はそれをスルーした。この意味が分かるか?」

 

「? どういう意味だ」

 

「お前は二流だっていってんだよ。一流ってのは常に相手の隙を見て攻撃する。

 お前はただ避けることばかりを考え、俺様の隙を突こうという気がない。試してみて正解だったな」 

 

「んーとつまり、攻撃のチャンスをみすみす逃すようなやつは一流ではないって言いたいのか?」

 

「そうだ」

 

 

 そうか……別におれが一流だなんて自惚れたことはないからいいんだけど。

 でも面と言われると来るものがあるよな……

 

 

「で、お前は何が言いたいんだ?」

 

「カスと戦っても運動にもならない。ましてや弄ぶ気にもな。」

 

「つまり?」

 

「お前を今すぐ殺して、次の獲物を探しに行く」  

 

 

 へえ、つまりさっきとやることは変わらないって事ですね。

 いや、変わるか。さっきまで相手は追撃をしてこなかった。

 もしされていたらとっくにおれは死んでいただろう。

 でも、こいつの言い草ならおそらく、次からは追撃も加えてくる。

 ……やばいな。

 

 

「……」シュン!

 

 

 改めて身を引き締めていると妖怪の姿がぶれ、そして消えた。

 

 くそ、あいつの移動速度が速すぎて目が追い付かない。

 

 

 

「んぐっ!?」

 

 

 霊力剣を前に構えていると、横腹に衝撃が走った。

 その瞬間、おれは吹き飛ばされ、宙に浮く。

 

 

「くくく、死ね!」 

 

 

 その吹き飛ばされている最中、突如として現れた妖怪が、右腕をおれに向かって振り下ろそうとしていた。

 

 

「~~ー!!?」

 

 

     ドゴオォォォォン!

 

 

 

 そしてついに振り下ろされた拳はおれの鳩尾に綺麗に命中し、地面に叩きつけられる。

 自分でも驚くほどの声にならない悲鳴がおれの口から発せられた。

 

 

「ぐ……かはっ」

 

 

 一撃目はもろに食らった。が、痛みはしない。

 だが、二撃目はだめだ。咄嗟に霊力で防御しても、あっさりと貫かれ、おれの鳩尾まで到達した。

 おそらく、おれの内蔵は今スクラップ状態だろう。

 身体の中にある空気が全て吐き出した感覚に陥る。

 

 

「あ……あ、……」

 

 

 声すらでない。横腹から暖かいものが溢れてきやがる。

 

 

 こりゃ駄目だ、死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 こんなにもあっさりなのか。

 これまで、強くなろうとする努力はしてきた。何度も霊力が枯渇するまで自主練した。体力だってきついのを耐えながら頑張ってつけてきた。

 

 その結果が、これだと。

 これまでの努力が、あの妖怪の食後の運動ごときの為に終わっていいのか?

 そんな筈ない。折角転生して、新しい人生をやり直すことができたのに、こんな終わり方なんて認めるものか。

 せめてあいつに……あのデカブツに一泡ふかせてやる!

 こんなところで、ただただ死を待って無駄死にするぐらいなら、少しでもこいつに傷を与えて、後に戦う奴らの負担を軽くしてやる。

 

 

「はぁ……ふぅ……は……」グラ

 

「お、たったのか? 結構全力で殴ったんだがなぁ」

 

 

 勿論効いた。効きすぎた。今だって呼吸がままならない。

 だが、受けた直後に比べれば、多少はできる。

 

 受けた瞬間が異常だったのだ。今はどれも少し安定してきた。

 やはり100%の霊力で腹を防御したのは正解だったか。

 何故か今は、痛みはない。立ったときにみたが横腹から大量に出血している。

 もう、おれは長くないんだろう。

 そう思わせるのには十分な量の血が溢れていた。

 

 でも今はそれでいい。痛くないのなら、それを利用してやる。

 

 

「何故倒れない? その血の量、立つのがやっとだろう」

 

 

 返事はしない。できない。

 まだ正常に呼吸が出来ていないからだ。

 

 

「まあいい。その戦いによる信念、敬意に称する。

 次は楽に死ねるように一撃で終わらせてやるぜ」

 

 

 来い。おれは今、そっちに行けるまでの体力は残っていない。

 今、有り余ってんのは、霊力と、お前に一泡吹かせてやるという意思だけだ。

 

 

「はあ……はひゅ……!」

 

 

 そしておれは今ある霊力の半分で霊力弾を生成した。

 

 

 

「ふっ、それがさっきの爆発する弾だったら恐ろしかったが、それ、ただの通常弾だろ? そんなの、何発受けようが関係ないぜ?」

 

 

 いいから早く来い。今にも意識が飛びそうだ。

 

 

「くくく、二流だが、面白い。このゲーム、乗ってやる。馬鹿正直に真っ正面から、そのみみっちい弾を全て避け、お前に止めを刺しにいってやるよ!」

 

 

 どうやら乗ってくれるらしい。避けてくれるなんてありがたい。

 そのまま突撃されてたらほんとに詰んでた。

 

 

 そしておれは先に弾幕を妖怪に向かって放つ。先に動かれたら予定がずれるからだ。

 

 

 ちょっと遅れて走り出した妖怪。

 そのスピードは凄まじく霊弾を一つ一つ避けながら確実に近づいてくる。

 身のこなし方が上手い。流石は大妖怪だ。

 

 

「は、は、……」

 

 

 やばい、霊弾を1個1個出していくごとに意識が遠退いていく感覚がする。

 いや、強く保て。最後にお見舞いしてやるんだろ?

 そう自分に言い聞かせ、意識を保つ。

 

 

「はあ、穴だらけだなぁ!こんなの、目を瞑っても避けられるぜ!」

 

 

 なら目を瞑って避けろや。と、心の中でつっこむ。

 どうやら、つっこむぐらいの気力は残ってくれているらしい。

 

 確かにおれの弾幕は穴だらけだ。 

 

 

「ほら、もうすぐついちまうぞ?」

 

 

 霊力も残り少なくなってきた。

 くそ、あんなに弾幕の練習したのにもう切れるのか。少し乱撃しすぎたな。

 だが、もういい。あいつが乗ってくれているのは悪いが、回避不可の弾幕を張らせてもらおう。

 

 

「なに!」

 

 

 急に目の前に蟻一匹も通れない弾幕を張ったことに妖怪は驚いた。……が。

 

 

「反則だぞ」バアァン!

 

 

 拳を一振りさせただけで、妖怪の周りの弾幕は消し飛ぶ。

 

 

「あーあ、興が冷めた」

 

 

 怒らせてしまったか。まあ、無理もない。

 それに怒らせた方がこちらとしては都合がいい。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

 そのまま霊弾が当たるのをお構いなしに突っ込んでくる妖怪。

 ああ、来るか。もうじきおれは死ぬのか。

 なんか2度目だからあまり恐怖とかはないな。

 まあ、今回は前のような無駄死にって訳じゃないしいいか。

 

 

 

 

 

 そしてついに、妖怪はおれの元まで来て________

 

 

 

「消えろ!」

 

 

 蹴りをかましてきた。

 これを食らえば、おれは間違いなく死ぬ。

 

 

 

 でもありがとう、これを待ってたよ。

 

 

「……!?」

 

 

 待っていた。相手がおれの側まで来てくれることに。そしてこいつが、周りを確認せずに攻撃しに来てくれたことに。

 

 

 

 

 おれは、妖怪の足がおれの頭部に到達した瞬間、地面に生成しておいた5つの爆散霊弾を爆発させた。

 

 

 

 

 

 




なんか文字数10000越えしたんですが……


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15話 出るタイミングわかんねぇ

 

 おれはこの世界にきてから1年に1回は必ず見る夢がある。その内容はというと、はっきり言ってなにもない。

 その夢を最初に見たのはこの世界に来て最初に寝た日だ。

 ただ真っ黒な空間に自分がいて、その真っ黒な空間の唯一の明かりとして蝋燭が3本ある、ただそれだけ。

 それ以上のことは何もなく、いつの間にか目が覚める。それが2年目にも同じように見た。

 変化があったのは3年目、蝋燭が1本増えて合計4本になっていた。

 そして4年目、この夢をつい先週にみた。でも蝋燭は増えることもなく4本のまま。

 なんでそんな意味のわからない夢の話をしているのかと言うと、今、絶賛その夢をみているからだ。

 

 なんで死んだのに夢なんか見てるんだろうね、不思議だ。

 そしてなぜか蝋燭の数が1本減って3本になってるし。……なんでだろうか。

 もしかしておれが死んだからか?

 ぼこぼこにやられて、最後は爆散霊弾で自爆だもん。

 逆に死んでいない方がおかしい。

 もしそれが理由で減ったのなら、後の3本はどう説明する?

 死んだら蝋燭が1本減るってことはもう3本消すには後3回しななければいけなくなる。

 いや、人生そんなにあってたまるか。馬鹿か。

 もしそれならおれの命はと3個あることになるぞ。

 

 ……いや、でも確かにあの神が言ってたゴキブリみたいにしぶとく生きられる能力を与えたって言ってたのにも、なぜか死んだのに夢を見ているってのにも辻褄があう。

 いや、まじか?おれ、命複数持ってたっていうのか?

 もし今のおれの推理があっているのならまだおれは死んでいないことになる。

 

 

『ご名答~、その通りじゃよー』

 

 

 む、この声はここの世界におれを送り込んだ張本人ではないですか。

 なんでおれの夢にでてきてんだよ……

 

 

『本当はいつでも会話とかは出来るんじゃがの。直接脳内に語りかけておる。

 でもこれ、中々脳に負担がかかるから多用は出来ないんじゃよ』

 

 

 聞いてもないことまで教えてくれるなんてご苦労様です。

 おれからは絶対に語りかけないけどね。

 

 

『まあ、わしも滅多には語りかけんから安心せい。

 あ、あとさっきの君の考察、大体はあっておるぞ。』

 

 

 ま、まじかよ。本当におれの命、複数あんのかよ……

 ……って事はあのとき、刺し違える覚悟はあんまり意味なかってことかなのか!?

 

 

『ぶっちゃけ、その通りじゃ。わしも見ておったが、君が一泡ふかせてやる!って死ぬ覚悟をしていたのを見て腹を抱えておったわ』

 

 

 おいこら神、人の覚悟を笑うもんじゃないですよ。

 

 

『まあ、君の考察に着色するなら、蝋燭の増える条件じゃな』

 

 あ、そういえばなんですか?増える条件って。

 

 

『それは5年に1度じゃな。あと上限は10』

 

 

 え?でも前に増えた時は3年目だったんですけど。

 

 

『それは前世の続きから始めたからの、3年目で君は何歳になった?』

 

 

 あ、20歳ですね、立派な成人男性だ。今は21歳だけど。

 

 

『そうじゃ。この世界にきて、サービスとして17年分の歳を取らせて転生させたからの』

 

 

 え、なんでそんなことを?

 

 

『なんじゃ?前の身体のまま転生したかったのか?首が逝ってるあの状態で』

 

 

 いや、まあありがたいんですけど……

 

 

『ま、歳を取らせたからと言って君の肉体が衰えるってことはないがの』

 

 

 そうなんですか?

 

 

『ああ、能力の恩恵での。それに寿命がないときた』

 

 

 そ、そんなオマケもついてたのか!!めっちゃ良いじゃないですか!……でもそれって戦闘向きじゃないですよね。

 

 

『まあ、確かにこの能力は普段の戦闘には使えんが、ある裏技があってな。それをするとかなり強くなることもできるんじゃ。君がいつも化物ゴリラと思っている綿月隊長とやらや、君を殺したあの鬼が束になっても倒せないような強さになることもできるんじゃ』

 

 

 え、あの妖怪って鬼だったんですか……

 ……ってそれよりもそんなに強くなれるんですか!!おれの能力!

 

 

『使い方次第じゃがの』

 

 

 ほうほう、これはめちゃくちゃ良いことを聞いた。

 あ、そういえばおれってまだ生きてるんですよね?

 

 

『ん?ああ、もちろん』

 

 

 それじゃあこの夢に覚めたら生き返ってるってことですか?

 

 

『まあ、そういうことになるな。生き返る時、死ぬ前に負った傷とかは全部リセットされているから安心せい。あ、服もサービスで直しておくから』

 

 ありがとうございます。

 それじゃあ戻りますか。皆に心配させるわけにはいかないし!

 

 

『おおそうか……あ、ちょっと待ちなさい。生き返る前に今の状況を見ておいてやる』

 

 

 いや、もう戻るから良いですよ。ねえ、神?

 

 

『…………うわぁ……』

 

 

 え、なに神?なんで今小声で引くような声をあげたの?おれに不安を与えようとしてきているんですか?

 

 

『……早く戻ってあげなさい、それじゃあ』

 

 

 え、ちょっ、教えて……

 

 

 と、急に頭が朦朧としてきた。夢から覚めるのだろうか。

 ていうかなんで神、教えてくれないんだろうか……

 

 

『あ、そうそう君の能力の名前は『生を増やす程度の能力』だから』

 

 

 え、そのままじゃね? ていうか今言うことかよ……

 

 そう思いながらおれは意識を覚醒させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 意識が覚醒すると、薄暗い森の中にいた。

 んーと、確か死ぬ前、一本道にいた気がするんだけど……

 もしかしてあのときの爆風でおれ、吹き飛ばされたのか?

 

 

「ぐすっ……うぅ……」

 

 

 と、考えていると、あまり遠くない所で啜り泣く声が聞こえてきた。

 え、なに? いきなり幽霊とか出てくるのか? 来るなら来い、相手になってやる。

 取り敢えず出てきた瞬間爆散霊弾を顔面にぶっ放すか。

 

 そう思いつつ、ゆっくりと啜り泣く声のする方へと近づいてみる。

 すると______

 

 

「熊口さん……なんで……」

 

 

 依姫さんがどでかいクレーター(と言っても半径5メートルぐらい)の真ん中で泣いていました。

 あ、あまり一本道からは離れていなかったのか。

 

 それよりも依姫、なんで泣いているのだろうか……

 

 あ、よく見たらクレーターの端の方にゴリラと小野塚がいる。何故か二人とも暗そうな顔をしているな。

 ていうかゴリラの下になんか肉塊が転がってんだけど……まさかあの鬼ってことはないよな?

 

 

「依姫、悲しむのは分かるがもう戻ろう。」

 

「父上!何故そう冷静でいられるのですか! 大切な仲間を失ったのですよ!」

 

「ああ、○○隊員、△△訓練生、そして熊口君は大切な仲間だ。特に熊口君は己を犠牲にしてまで、お前らを守り、戦い抜き、大妖怪に致命傷を与えた」

 

「それなら!____」

 

 

「だからこそ、ここでくよくよしておく訳にはいかんのだ。もうすぐ夜が来る。夜は妖怪の時間。我々がここにいるとどんどん妖怪が群がってくる。そうなったらいくら私でもお前らを守りきれる自信がない。

 折角熊口君に救ってもらった命だ。それを無下にして、ここに残っておく方が、彼には報われないんじゃないのか?」

 

「それでも、父上がそんなに冷静でいられるのか理解できません……熊口さんは大事な仲間でもあり、親友でした。それなら、せめてここに残り、彼の亡骸を集めた方が、私は報われると思います」

 

 

 え、なに、なにが起こってんの? 急に親子喧嘩みたいのが勃発しだしたんだが……あと依姫、亡骸もなにもおれ、ここにいますよ? 亡骸ではなく生骸がここにありますよ?

 

 

「それは翌朝、捜索をする」

 

「その間に妖怪に持ち拐われたらどうするんですか!」

 

「依姫! 綿月隊長の言う通りだ! 一旦戻ろう、皆待ってる!」

 

「皆だって全員の帰還を望んでいる筈です!それが亡骸であろうとも!」

 

 

 ん、ちょっと待てよ。

 これってまさか、おれのことでもめているのか?

 おれの亡骸を捜索するかしないかで。

 それで賛成派が依姫で、反対派がゴリラと小野塚。

 

 依姫……そういえばおれのこと、親友って言ってくれてたな。

 依姫! おれもお前が一番の親友だ!

 

 

「もういいです!父上も小野塚君も、そんなに薄情だとは思いませんでした! 私一人で探します!」

 

「依姫!!」

 

 

      パチン!

 

 

 うわぁ……ゴリラが依姫にビンタしたよ。

 

 

「父、上?」

 

「私だって、悲しいさ」

 

 

 そう言って叩かれた事に驚いて呆然としていた依姫にゴリラが抱き寄せた。

 

 

「だがな、依姫に、彼の死に姿を見せたくないんだ」

 

「え?」

 

「あのとき爆発、中間地点からでも轟音が鳴り響いてくるほどの大爆発だ。あれほどの爆発を間近で受けた熊口君の姿は、おそらく無惨なものだろう。もしかしたら、亡骸すらないかもしれない」

 

 

 ありますよー、亡骸ではないけど。

 

 

「その姿を見て、依姫が……私の娘が荒れる姿を見たくないのだ。

 私はこれまで、親友を失った者を腐るほど見てきた。中には立ち直る者もいたが、立ち直れず、除隊した者もいた。」

 

「……」

 

「熊口君は死んだ。だが、我々の中で熊口君を忘れない限り、彼は永遠に生き続けるのだ! 我々の心の中で!」

 

 

 うわ、何処かで聞いたことのあるような事言ってらっしゃる。

 ベタすぎるよ……

 

 

「しかし、死体を見てしまうと心の中の熊口君が死体となって見えてきてしまう。

 だからこそ、依姫には亡骸を見てほしくないのだ」

 

「……うぅ……はい、分かりました」

 

 

 そう言って依姫はゴリラの胸の中でしくしくと泣き始めた。

 よ、依姫、おれのために泣いてくれるのか……!

 おれ、生きてるんだけど……!!

 

 

「さあ、帰ろう」

 

「はい、父上……小野塚君、すいません、お見苦しい所を見せてしまって」

 

「いや、いいさ。依姫の言ってることも分かるしな」

 

 

 そして3人はゆっくりと帰路へと歩いていく。

 

 え、ちょ……この状況、物凄く出ずらいんだけど。

 折角喧嘩も終わってさあ帰ろう! って時に喧嘩の原因となったおれが登場してみろ。

 折角の立ち直って前を向いていこうぜ! って空気がぶち壊れるぞ。

 

 

「ちょっと待て、そういえばさっきから、あの茂みから気配がするんだが」

 

 

 と、歩く足を止めて、ゴリラがこちらの方に指差す。

 お、おい! お前から空気を壊しに行くつもりか!

 

 

「折角の空気をぶち壊しにするつもりかよ」

 

 

 小野塚がそう呟きながら、警戒をし始める。

 いや、おれも壊したくはないよ!

 

 

「さっさと倒して帰りましょう。今は一刻も早く、部屋に籠りたい気分ですし」

 

 

 依姫も腰にぶら下げていた真剣を抜き、此方に向けてくる。

 

 

 …………どうしよ。このまま潔く出てしまおうか?

 

 

 

「俺が今から、あの茂みにいるやつと交換しますんで、ここに奴が現れたら、一気に叩いてください」

 

「おう、任せておけ」

 

「はい」

 

 

 おいおい、なにやら物騒なことをいい始めてるぞあいつら。

 ……いや、待てよ。小野塚とおれが交換されるってことは、彼処におれが現れるってことだよな?

 それならそこで「やあ、こんにちは!」なんて気軽に話しかければあの二人も気づいてくれるんじゃ無いだろうか?

 あの化け物親子だ。攻撃を寸前で止める事ぐらい朝飯前だろう。

 

 

「それでは行きます!」

 

 

 そう言って小野塚は能力を発動させた。

 

 おれの視界が一瞬ぼやけ、新たに見え始めた瞬間、目の前には握りしめられた拳があった。

 

 

 あ、やべっ。

 

「あ!」

 

「うがああ!?」

 

 

 咄嗟に霊力を腕に集中して顔を守ったが、流石は綿月隊長。

 軽く茂みの方まで吹き飛ばされた。

 

 

「っいで!」

 

 

 そして木にぶつかって漸く止まることができた。

 ……いってぇ……おれの腕、今どうなってる?

 

 

「熊口君!」

 

 

 と、奥の方からゴリラの声が。

 流石に今ので気づいてくれたか。おそらく、綿月隊長も殴る瞬間におれだと気づいて、咄嗟に威力を弱めてくれたんだろう。

 でなければおれなんかが防御しきれる訳がない。

 

 

「熊口さん!」

 

 

 そして茂みから出てきたのはゴリラではなく依姫。

 木にもたれ掛かっているおれに抱きついてきた。

 お、おっふ依姫さん……胸当たってます。

 

 

「よかった、無事で……」

 

 

 依姫、耳元で囁かないで。勘違いしてしまう。

 

 

「せ、生斗。お前……!」

 

 

 次に茂みから出てきたのは小野塚。こいつは泣き目になりながらおれを見て驚いている。

 おお小野塚、お前もおれのために泣いてくれるか。

 おれの亡骸を捜索するのに反対だったから薄情な奴かと思っていたが、違っていたようだ。

 

 

「よ、よお、さっきぶりだな」

 

「……!」

 

 

 取り敢えず話しかけてみると、小野塚が無言で抱きついてきた。

 お、おい小野塚さん……むさ苦しいから離れてくれ。

 抱きついてくるのは可憐な美少女だけで十分です。

 

 

「く、熊口君。何故生きているんだ?」

 

「おれが生きてちゃまずいんですか?」

 

「そんなわけないだろ!」

 

 

 そして最後に茂みから出てきた綿月なる隊長が、豪快に抱きついてきた。

 おいゴリラ! お前は本当に抱きついてくるな! やめてくれ!

 

 

「どうやって君が生きているかなんて今はどうでもいい!

 君がここに存在している、それだけで充分だ!」

 

 

 耳元で大声を出さないでくれ、綿月隊長。

 鼓膜が破けてしまう。

 

 

「いや、ほんとごめん。出るタイミングが分からなかった……」

 

 

 まあ、おれのことを思ってくれているのは確かだから嬉しい。

 おれって中々幸福者だなぁ。

 

 そう、美少女一人、むさ苦しい男二人の計三人に抱擁されながら思うのであった。

 

 



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16話 前世より長くこの世界にいるな

 

 あの事件から20年が経った。

 あのとき、Aクラスの皆はおれが死んだと思って門付近で殆どが泣いていた、正直嬉しかった。

おれのことで泣いてくれるくらいの存在だってわかったから。まあ、3分の1はもらい泣きだって言われたけどな……たぶん照れ隠しだろう、うん。きっとそうだ。因みに影女は泣いていたが、それはもう一人死んだ女子の方への涙だった。

 

 それで死んだと聞かされていたおれが門まで帰ってきたとき皆目を丸くしてたな。え?なんで生きてんの?って顔で。

 

 あとあの鬼は綿月親子で倒したらしい。

 といっても、おれの爆散霊弾によって致命傷を負わされていたから、楽に倒すことが出来たとか。

 

 

 まあ、そんなことも全てが悪かったことではない。だって能力が判明したからな。

 

 

『生を増やす程度』の能力。これは5年周期で命を増やすことができるとても便利な能力だ。

 今、ストック(命)は7つある。ん?20年間に1度も死んでないのかって? あれから1度も死んでませんよ、そんな何度も死んでたまるか。

 

 まあ、そんなことより神が言ってた綿月隊長やあの鬼をも越える能力と言ってたが、それについてはもう検討はついてる。

 ただ使う気にはなれない。いや、むしろ使いたくない。なぜなら、それにはとてつもない代償があるとわかったからだ。

 おそらく、これを使うときは本当にピンチの時だけだろう。つまり最終兵器というやつだな。

 あまり使いたくはないが……

 

 

 

 

 それじゃあ、20年の間にどのようなことがあったか話そう。

 

 

 

 まずおれは部隊長になった。すごいだろ?

 おれの下に沢山の部下がいるんだ。皆生意気だがつるんでて楽しい奴らだ。

 

 

 まあ部隊長になったことで国の南側を任されることにはなった。

 依姫は副総隊長となり、ゴリラの右腕となっている。

 あ、そういえば依姫の姉の豊姫さんは幹部だったよな。豊姫さんはいい人だ。

 よくおれらが警備をしている途中にお菓子の差し入れを貰ったりする。自分の仕事をサボって。おれもサボろうかな…………

 まあ、そんなことしたら部下に示しがつかないからしないけど。

 

 

 

 あと小野塚もおれと同じ部隊長となり、トオルは能力を活かして門の見張りを任されている。

 ついでに言うとトオルはあの影女と付き合ってるらしい。

 やめとけっていったけどトオルは聞く耳を持たず、こんなことまでいってきた。

 

 

「結構可愛いところもあるんだよ」

 

 

 そう言われたとき、おれはそんなわけあるか! って怒鳴ってしまい、初めてトオルと喧嘩した。

 

 

 それと驚きなのが、この国の皆、恐ろしく寿命が長いということだ。おれは能力で不老だから歳はとらないが、皆も20年も経っているのに全然歳をとっていないように若々しい。

 それについては穢れとかいうものが関係しているらしく、月に行けば穢れを完全に取り払われ、もっと長く生きられるとのこと。

 

 

 さて、これからが本題だ。

 今言った月に行くというのは前々から予定されていたものだ。

 その『月移住計画』が、今年の終わりに実現するらしい。

 永琳さんが前に言ってた転送装置の設計図を元に色々な事が行わられ、遂に去年、転送装置が完成して今年の末に、住民の移動を開始するといことだそうだ。

 その転送装置はどでかい半円状の門の形をしたワープゲートで、その中を潜れば目的地の月まで行けるとの事だ。

 しかし、その転送装置は見た目に反して、あまり同時に転送させることは出来ず、1度に転送出来るのは多くて十数人程度らしい。しかも、その時の装置の具合にもよっては同時に転送できる数が一桁まで減ったりと、未だ不安定要素があるのだとか。

 その不具合を払拭するために年末に大移住をすると決定したらしいが、その不具合を直すのは少し難しそうだな。

 今じゃ、半ば諦め状態で、その日に同時転送できる数を測定する装置まで作られているぐらいだし。

 

 

 まあ、その不具合が起きなければ3日で大移住は完了するだろうってなところだ。

 因みにおれらは最後に転送される予定だ。もし転送中に妖怪が攻めてきたら大変だからな。

 そして全員の転送が完了した後、本部にある時限爆弾が作動し、この国の技術をまるごと抹消するって訳だ。

 そこまでする必要はないと思ったが、技術者側からしたら、真似られるのはたまったもんじゃないらしい。

 

 

 そんなこんなで着々と月移住の計画が進められている。

 映像で何度か月の景色を見たことがあるが、とても美しく、月から見る地球はぜっけいだったな。

 それに月での生活がどんなものか気になるし、是非いってみたいな、というのがおれの考えだ。

 

 今は色々な建物を建築業の人達が月で建設中だから、移住の時になれば、おれ達が住めるぐらいには出来上がっているだろう。

 少し楽しみだ。

 

 

 

 ま、取り敢えず地上に居られる最後の8ヶ月間。名残惜しみながら過ごすとしましょうかね。

 

 

 

 

 




今回の回は短いながらも、結構重要な回です。
特に月移住の所についてです。
もし、この後の話が分かりにくかったら、この回を読み直してみるとわかると思います。


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17話 してやられたりってな感じが……

 

 

 おれは今、訓練場にいる。

 士官学校のとは別の、正隊員専用の訓練場だ。この正隊員専用の訓練場は時間制で使える時間がきまっており、今はおれの隊がつかえることになっている。

 なので絶賛、部下達の訓練の指導をしている最中だ。

 

 

「ほれほれぇ、あと5周だ。がんばれー」

 

「ちょっ、熊さん、きついっす! 乗らないでください!!」

 

 

 訓練の内容はというと、訓練場の周り50周マラソンをしている。

 おれは空を飛びながら部下たちが走っているのをついていくだけ。(今は部下に背負わせてるが)

 この上なく簡単だ。高みの見物決めてればいいんだからな。

 いやぁ、教官ってこんなに楽なんだなぁ。

 ……というのは冗談で。指導側も色々と面倒なんだ。資料やらなんやらをまとめたりして。

 指導側になってからは身体的というより精神的に疲れることの方が多くなった。

 だからこういう体を動かす機会にこそ、ストレス解消を行わないとな!

 

 

「これも訓練の一つだ、無駄口叩かず走れ。

 一番には褒美としておれが1日、ご主人様! ってご奉仕してやる」

 

「「「えぇぇーー」」」

 

「おいこら、冗談だから。

 だから露骨に皆ペース落とすんじゃない! あと御崎、お前はおれを抱えて全力ダッシュだ」

 

「ええ! なんで俺が?」

 

「お? おれのドキドキワクワク剣術指導を受けたいのか?」

 

「全力で走らせてもらいます!」

 

 

 まあ、見た感じの通りの部隊だ。減らず口をよく言うし生意気だけどなぜか恨めないような奴らだ。

 ついでに今おれを抱えて全力ダッシュしているのは御崎茂。おれの部隊のエースだ。取り敢えずこいつはこの中でも一番真面目なやつなんだけど、おれに対してかなり生意気だからいつも皆よりきついメニューにしている。

 これに懲りたらもう生意気な態度は取るなって言ってるのに翌日にはケロってしてまたおれにちょっかいを出してくる。

 最近、御崎がドMなんじゃないかと疑い始めている。

 

 まあ、今はそんなことどうでもいいか。

 今は訓練指導に集中しないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、皆無事走り終わったな。後は各自ストレッチをして終わるように」

 

「はあ、はあ……熊さん、俺らこれから飲みに行くんですけど、一緒にどうですか?」

 

 

 皆が水分補給をしたりストレッチをしている中、御崎がおれに話しかけてきた。

 お、こいつ元気だな。

 

 

「馬鹿言え、おれが行ったらお前らの分まで支払わなきゃいけないだろうが」

 

「ちぇっ、けちだなぁ」

 

 

 ほう、御崎よ、その見上げた根性は認めてやる。ご褒美としてアイアンクローを食らわしてやろう。

 

 

「あいだだだだだだ!?冗談です!冗談だから手を放してくださいぃぃ!!」

 

「これに懲りたらおれの前で悪態はつくな。」

 

 

 そう釘を刺して額をつかんでいた手を離す。

 

 

「し、死ぬかと思った……」

 

「話を戻すが……飲みに誘うって言うのは普通、上司であるおれがやる事なんだぞ」

 

「じゃ、じゃあ誘ってくださいよ!それなら文句はないよな!なあ、みんな!」

 

 

 おおお! と部下達が活気つく。お、こいつら元気だな。もう50周走らせてやろうか。

 

 

「それになあ、お前。一人ならともかく、この人数だぞ?おれの懐を考えろよ」

 

「なにいってんすか熊さん。あんた溜め込んでんでしょ?知ってるんですよ!なんてったって熊さんがよく行く八意様から聞いたんですからね!」 

 

「な、なに!?」

 

 

 いつ話したんだ?! 永琳さんってこの国でも中枢にあたる人物だからそう簡単には会えない筈なのに! (おれはちょくちょく会ってるが)

 

 

「おい御崎、お前まさかそれを聞いておれを飲みに誘っているんじゃ無いだろうな?」

 

「え!?……んな、んなわけないでしょ馬鹿だな~。俺はただ純粋に熊さんと酒を飲み交わしたいだけですって~」

 

 

 そう御崎が言うと部下達もうんうんと頷く。

 今の御崎の慌てぶりようは黒だな。

 そしてそれに便乗した他全員も黒。こいつら全員でおれの懐をスタイリッシュにしたいようだな。

 だが生憎、おれは基本カードだ。元々スタイリッシュだからそんなことされる必要はない。

 

 

「まあ、別に行ってやらん事もない」

 

「まじっすか!」

 

 

「お前らが奢ってくれるのならな」

 

「え″っ!?」

 

 

 くく、そっちがその気ならこっちにだって手段はあるんだ。

 ほら、純粋におれと酒を飲み交わしたいと言った手前、やっぱりいいです。とは言えないだろ。

 

 

「いや、ちょっ、それ、熊さん、気前無さすぎなんじゃじゃないっすか?」

 

「だってなぁ、別におれ、飲みに行く気なんてさらさら無かったのに御崎君がどうしてもって言うからなぁ」

 

 

 ふははは!どうだ!これでお前らは退路は決められた!

 おれを誘うのを止めるか、おれを奢るか、だ。

 勿論、こいつらのことだ。前者だろう。

 まあ、それでもおれは即家に帰れることだし、嫌なことなんて無いしな!

 なに、付き合いが悪いって?

 おれは元々そういうやつさ!

 

 

「……うぬぅ……わかりました!俺らで熊さんの分奢ります!」

 

「なにっ!?」

 

「なんで熊さんが驚いてんすか……」

 

 

 いやはや、まさかおれの予想が外れるとは……

 

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

「いやいや、だから言ったでしょ。純粋に熊さんと飲みたいって」

 

「ふーん」

 

 

 

 怪しい、実に怪しいぞ。なにか企んでるんじゃ無いだろうか?

 例えば飲むだけ飲んで、最後に『熊さんおなしゃす!』とかいって奢らせるとか……

 

 

「熊さん、疑ってますね、今。」

 

「この状況で疑わない方がおかしい」

 

 

 あんなあからさまに動揺されて疑わないやつは完全な阿呆だ。

 

 

「はあ、熊さん。俺らとの付き合いはその程度だったんすか?何年間一緒にいると思ってんすか!」

 

「2年だが」

 

「2年も一緒でしょ!それなのに最初の歓迎会以外、1度も皆と飲みにいってないじゃないですか!」

 

「ん、まあ、確かにな」

 

 

 そういえばそうだっけ。いつも訓練終わったら適当に雑談して帰ってたか。

 ……ん?よくよく思うとおれ、付き合いかなり悪いぞ?

 

 

「だから今日こそ!熊さんと飲みたいんです!!」

 

 

 御崎の発言に同意するかのように頷く部下達。

 

 

「お、お前ら……」

 

 

 こいつら、そんなことを思っていたのか……

 

 

 

 

 これは、上司としてやらなければならない事だな!

 

 

「はあ、仕方ないな。行ってやるか。勿論、おれの奢りでな」

 

「まじっすか!」

 

「ああ、お前の演説に免じてな」

 

「よっしゃああ!熊さんありしゃす!」

 

「「「「ありしゃす!」」」」

 

 

 ふふ、可愛い奴らめ。

 

 どうせ今の演説も上っ面だけのものだってことは分かっている。

 が、おれも思うところもあるしな。特に付き合いの悪さについて。

 だから今日は特別に騙されてやるか。

 言っておくが普段の熊さんはこんなにチョロくはないからな?

 

 

 

 

 

 このあと、部下達が調子に乗って、これでもかと言うほど食べたため、おれがこれまで貯めていた貯金の殆どが無くなりました。食べ放題にしときゃ良かった……

 

 取り敢えず明日の訓練は国の周りを100周程度走らせることにします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 今日は綿月家に招待された。ふむふむ、最近依姫が忙しかったから会ってなかったんだよな。

 ま、副総隊長なんて職についてるわけだからしかたないんだけどな。

 おれですら週1でしか休みがないし。

 

 

「よ、依姫。1ヶ月ぶり。」

 

「久しぶりです、熊口君」

 

 

 前までさん付けされていたが、今では君付けだ。

 なんで呼び捨てで呼ばないんだろうな。まあ、そこら辺は人によるから別に指摘はしないが。

 

 

「あら、生斗さんじゃない」

 

 

 あら、豊姫さんじゃない。こんな広い屋敷の玄関で会うなんて偶然にしてはすごい確率だわ。

 ……恐らくインターホンの音につられて来たな。

 豊姫さんとは、士官学校から出たときに知り合った。

 まあ、依姫の紹介でな。

 豊姫さんはよくおれの隊の壁の上で警備しているときとかに差し入れをくれるからありがたい。

 たぶん、おれの部下はおれよりも豊姫さんに慕っているぐらいだ。たまに部下達と飲みに行くみたいだし。

 完全におれより付き合い良いよな、この人。

 

 

「よ、豊姫さん。1()()ぶり」

 

「え? 1日、ぶり?」

 

「あ、生斗さん!?」

 

「お姉様、これはどういうことですか? まさか、また仕事をサボって熊口君の隊の邪魔をしようとしているのでは……」

 

「もう! 生斗さんが余計なこと言うから!」

 

 

 と、ピューという効果音がついてきそうな走りで屋敷の中へ逃げていく豊姫さん。

 あ、しまった。昨日豊姫さん、サボっておれんとこの部隊に来たんだったな……

 

 

「あ、待ちなさい! 今日という今日は許しませんよ!!

 あと熊口君、教えてくださりありがとうございます。それとお姉様がご迷惑お掛けしました!」

 

「いやいや、豊姫さんにはいつもお世話になってるから迷惑じゃない」

 

 

 いまの声が聞こえたかどうかは知らないが依姫も猛スピードで豊姫さんを追いかけていった。

 

 

 ……さて、綿月家の玄関前で置いてけぼりにされた訳だが……

 

 これは中に入るべきなのだろうか?

 いや、こんな広い屋敷に一人で入ったら迷子になりそうだ。

 それにまだ依姫にどんな用件で呼ばれたのか聞いてないしな。

 ここは待っとくしかないな。

 取り敢えず門番の人となんか議論でも展開でもしておくか_______

 

 

 

 

 

 

 ~30分後~

 

 

「いや、おれ的にピンクだな。それにリボンは欠かせない」

 

「あー、確かにリボンはいいですね。しかし、それはあまりにも王道すぎやしませんかね? 黒にピンクリボンなんてどうでしょう」

 

「いや、それも王道じゃないか?

 いや、まあ王道だこらこそ良いところもあるけどな。おれのだとピュアっぽくて_____」

 

「すいません! 熊口君。すっかり遅れてしまいました!」

 

 

 門番と議論を交わしていること30分。

 漸く依姫と首根っこ捕まれてしくしく泣いている豊姫さんが現れた。中々時間がかかったな。まあ、この無駄に広い屋敷の中じゃ見つけるのも一苦労だろうけど。

 

 

「ところで熊口君、今、門番さんとなんの話をしていたのですか?」

 

「ん? プレゼントボックスの色についてだけど」

 

 

 まあ、この話以外にもどんなグラサンが好みなのかとか話し合ったけどな。

 

 

「あ、そうですか」

 

 

 ん、なんだ? 依姫が急にほっと一息ついたけど……

 

 

「まあ、熊口さんがそんなこと口にするはずないですよね」

 

「ん? どういうことだ?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 

 そう言われると気になるんだよなぁ……

 でもおれは紳士だからな。相手が嫌がることを無理に追求はしないのだ。

 

 

 

 

 

 

 それからおれ達は客間へいき、優雅にティータイムと洒落こむことになった。

 

 

「そういえばなんでおれってここに呼ばれたんだ?」

 

「あ、そうでしたそうでした。お姉様の一件で忘れかけるかけるところでした……」

 

「あら、ただ遊びに来たってわけでは無いのね」

 

 

 おれも最初はそう思ったけど、依姫がそんな理由で呼び出すのはかなり珍しいからな。なにかあると思った方が普通だ。

 

 

「実はツクヨミ様と八意様にクレームが私にきましてね。あまり用もないときに家に来んな、だそうですよ」

 

「それはできない。だってどっちもおれにとって第一の家だからな」

 

 

 第二が今おれが住んでる家。

 

 

「っと、言うと思うからって、ツクヨミ様と八意様が言ってたのでちゃんと対策はとっています」

 

「あん?……あ」ガシッ

 

 

 なに?! いつの間に後ろにメイドが!

 そして腕と足を縄で椅子に縛られ、四肢が動かせない状態になってしまった。

 

 

「ということで今からこしょぐりを私が1時間します。

 その間に熊口君が参ったをしたら私の勝ち、1時間耐えきったら熊口君の勝ちで、金輪際私はツクヨミ様と永琳様の家に行くことに関して口出しはしません。しかし負ければ用事がないとき以外出入りをしないことを誓ってください」

 

「あ、私もやるー」

 

 

 くそ! 罠だったか! あのとき門番と話さずに帰ればよかった!

 ……しかし、もうその選択は出来ない。

 もし、この縄をほどいて逃げようなら問答無用でしばかれる。豊姫さんの実力がどれほどまでなのかわからないが、あのゴリラの娘であり、依姫の姉さんだ。強いに決まってる。

 そんな二人から逃げられる自信なんてない。

 どうする……これまでこしょぐりなんてされたことないから、どれほど辛いのかが、いまいちわからない。

 だが、もう腹を括るしかないようだ。

 だって二人の目が、獲物を狩る目をしている。指もうねうねと捻って、こしょぐりをする準備運動をしている。

 逃げることは不可能。ならば耐えるしかないということだ。

 

 

「仕方ない! いいだろう、その勝負乗ってやる。その代わり、おれが勝ったら絶対に邪魔するなよ」

 

「わかってます」

 

 

 よし、言質はとった。後は耐えるだけだ。

 なぁに、あのとき、鬼から受けた痛みに比べたら微々たるものだ。

 そんなおれに耐えられないわけがない!

 

 

「さあこい!」

 

「いきます!」

 

「それじゃあ私は脇からせめるわ~」

 

 

 そんなところをせめたって効くわけがないだろ!はっはっはっは!

 ……あれ? え、かゆっ、え?

 

 

 

 

 

 

 _____30秒で参ったしました。この二人、なかなかテクニシャンだよ…………

 

 

 



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18話 酔ってるのか?

 

「よし、永琳さんの家行くか!」

 

 

 1週間前、綿月姉妹との戦いに敗れたおれはツクヨミ様と永琳さん家への出入り禁止を出されたが、そんなのお構いなしに今日行くことにした。

 

 

「着いた!」

 

 

 徒歩でおれの家から10分と丁度いい所に永琳さん家がある。なので散歩がてらによることもしばしば。結構な確率で居ないけどな。

 

 

「えーいりーんさん! あっそびっましょ!」

 

 

 返事がない。ふむふむ、今日は居ないのか。ならば仕方ない、勝手に上がらせてもらうとするか!

 そう思い、システムロックの解除に勤しみ始める。

 すると、ドアが勝手に開いた。

 お、まだ解除してないのに開くなんて、やっぱり永琳さんいたんじゃないか!

 

 

「やっぱり居たんじゃないです……ぶぐはっ!!?」

 

 

 玄関を覗いた瞬間、正拳突きを食らった。うぐっ……痛い……

 

 

「貴方、用事以外はこないんじゃなかったの?」

 

「うぐぐっ、し、失礼な! ちゃんと用事があってきましたよ!」

 

 

 う、やばい、永琳さんの目に光がない!完全に怒ってる!怒られるようなことは……まあ、したけども。今もしているけども!

 

 

「へぇ、どんなのかしらねぇ。大体予想はついてるけど」

 

「ここで寛ぐという用事です!」

 

 永琳さんの目の光が一層暗くなって無言で携帯を取り出した。

 な、誰に電話する気だ?!

 

 

「あ、依姫? ええ、私だけど…………ええそう。性懲りもなく来たわ…………わかったわ。いまから来るのね、ん? どんな罰がいいかって? そうねぇ、くすぐり参ったなしの二時間耐久はどうかしら。よし、これで決まりね。……それじゃ」カチャ

 

「あ、あの……今のって……」

 

「ええ、依姫よ。今から此方に来るって」

 

「おいとまさせていただきます!!」

 

 

 全力で逃げました。もうこしょぐりなんて嫌だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそう! なんだよ永琳さんのケチ!! もういい、ツクヨミ様んとこに行ってやる!!!」

 

 

 ということでツクヨミ様の家へ来ました。なんだけど……

 

 

「あのー、門番。なんで扉が完全に閉じているんですか?」

 

「え? ええ、ツクヨミ様から直々に来られて、誰もいれるなと仰せつかったんですよ。

 あと、グラサン掛けている奴が現れたら追い払えと…………あ! グラサン掛けた奴!! 帰れ!」

 

「んぐぅ! もう此処まで知られていたか!」

 

 

 仕方ない、おれが密かにツクヨミ様の家に作っておいた隠し通路を通って意地でも中に入ってやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ここだな」

 

 

 そして今おれは士官学校の中のツクヨミ様の家に接している部分(A運動場)の柵の前にいる。

 

 

「んーと、ここら辺に穴が…………あった!」

 

 

 よしよし、訓練生時代に密かに掘っていた穴はまだ健在だな。

 後はここを通ればツクヨミ様の家の庭に着くぞ。

 

 

「よっと……ぶぱぱふぁ?!」

 

 

 降りたら水が溜まっていた。くそ、暗くてよく見えなかった!

 一瞬の出来事に理解が追い付かなかったおれは無様に水を大量に飲みこんでしまう。

 

「げほっ、けほっ……」

 

 

 何とか飛んで抜け出すと_____

 

 

「生斗君、何故神の家の庭に穴なんて作ってるんですか?」

 

 

 ツクヨミ様がいました。

 ものすんごい怖い顔をして。

 あー、庭の端の方に掘ってたのにバレてたのか……

 

 

「…………あの、いや……はい、ごめんなさい。へへ」

 

「生斗君には少し神についてなんなのかきっちりと教えてあげないといけないようですね。

 その身にきっちりと刻み込んであげましょう!!」

 

 

 あ、これはアカンやつやわ。ツクヨミ様、本当にごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~壁の上~

 

 

「はあ……」

 

 今、おれは南側の壁の上で森を眺めている。

 なんかみんな冷たい。おれ、悲しい。

 

 

「ほんと、なんで依姫って私に厳しいのかしら」

 

「……豊姫さん、それは貴女が仕事をサボってるからです」

 

 因みにおれが来る前から豊姫さんはいた。

 無論、仕事をサボって。

 

 

「折角此処にきて生斗さん達に差し入れを持ってきたのに……骨折り損のくたびれ儲けとはこの事ね」

 

「別に苦労なんてしてないじゃないですか。苦労から逃げるために此処へきてるんでしょ?」

 

「あら? 此処まで来るのも大変なのよ、人目につかないようにこっそりと来ているんだから」

 

「そういえば前々から思ったんですけどなんでいつも他の隊じゃなくおれの隊に来るんですか?」

 

「そんなの決まってるじゃない。サボりに来ても皆喜んで迎いいれてくれるからよ」

 

「まあ、確かに皆豊姫さんのこと慕ってますからねぇ」

 

 

 何故かおれよりもな。

 

 

「はあ……それに比べておれと来たら……部下達には奢らされ、友人には騙され、信頼している人に出入禁止食らうし」

 

「前の2つはともかく、最後は仕方ないんじゃないかしら?」

 

「……なんで?」

 

「貴方はあのお二方に依存し過ぎだからよ。逆にあの2人にあそこまでできる方が凄いのだけど」

 

 

 そう? ツクヨミ様も永琳さんも優しいけど……今日はかなり酷かったが。

 

 

「あのお二方も、生斗さんに自立してほしいのよ……」

 

「自立て……おれはあの2人の子供じゃないんだから」

 

「みたいなものでしょ?」

 

「……否定はしません」

 

 

 まあ、ツクヨミ様はともかく、永琳さんはこの世界でのお母さん的ポジションにいるけどな。

 

 

「ま、親離れできるいい機会だと思いなさいな。そしたら彼女とかも出来るかもしれないわよ?」

 

「余計なお世話です」

 

 

 彼女……んん、欲しいような、欲しくないような……やっぱり欲しい。

 

 

「さて、そんなことよりも……このお菓子、どうしようかしら」

 

「話題の切り替えが凄いですね」

 

「実際に今問題にすべき事は、この大量に余ったお菓子をどう処理すべきかよ」

 

「あ、そうですか」

 

 

 つまりおれの自立に関しての事は二の次って事か。

 

 

「ならもう、二人で食べちゃいませんか?」

 

「この量を?」

 

「全部とは言いません。保存できるものは残して、今食べなきゃいけないものを食べて、後のお菓子はうちの部隊のロッカーに放り込んでおきましょう」

 

「あ、いいわね。それなら次にロッカーに来た子達も喜ぶわ」

 

 

 どうやらおれの提案に乗ってくれるようだ。

 

 

「んじゃ、何処で食べます? ここだと少し寒い気がするんですが」

 

 

 壁の上だから当然だけどな。今も若干肌寒い。

 ドテラのお陰でおれはそんなではないが、豊姫さんは今薄着だ。下手したら風邪を引いてしまうかもしれない。

 

 

「いえ、ここで落ち行く太陽を見ながら菓子をかじるのも乙かもしれないから、ここで食べましょう」

 

 

 おお……豊姫さん、中々のロマンチストだったんですね……おれはそんなのより部屋でぐだりながら食べる方がいいと思うんだけど……

 うん、ロマンの欠片もないな、おれ。

 ここはぐっと我慢してここで付き合うとするか。

 

 

「はあ、わかりました。豊姫そんの提案にのりましょう。

 ……でも寒くないですか?」

 

「んー、少しね」

 

 

 そうか、だよなぁ……いくら怪物一家だとしても寒いのは寒いか。

 

 

「んじゃ、おれの着てください。温いですよ」

 

「あら、いいの?」

 

「いいですよ。こんなので良ければ」

 

 

 と言っておれはドテラを脱いで渡す。

 

 うぁ!? 思った以上に寒いぞ!

 

 

「それじゃあお言葉に甘えて……ありがとね」

 

「いいいえ、いえ、そそんな、ととうぜぜんの事をしたたまでですす」ブルブル

 

「……返しましょうか?」

 

「大丈夫です!」

 

 

 いかんいかん、折角のおれの紳士っぷりが台無しになるところだった。

 男なら我慢だ我慢!

 

 

「あ、そういえばお酒も持ってたのよね。それを飲めば少しは温かくなるかも!」

 

「お酒?」

 

 

 なんで差し入れにお酒? とつっこみたくなったが、聞かないでおく。

 

 

「あれ~、こんなところに酒のつまみがあるぞ~?」

 

「あからさま過ぎる! 絶対にここで飲む気だったでしょ!」

 

「まあ、細かいことは気にしないの。結構高かったのよ、このお酒」

 

 

 はあ……今日が休日で良かった……もし今日あいつらがここにいたら、十中八九酒盛りしだすぞ。

 一応おれの上司の豊姫さんに頼まれてんだから断れないとか言い訳をして。

 そんなことになったら流石に豊姫さんを依姫につきだすけどな。

 

 

「ま、今日のところは目を瞑ります。次からはお酒とか持ってこないでくださいよ?」

 

「はいはい、分かってるわよ。はい、コップ。お酌してあげるわ」

 

 

 と、豊姫さんが大きな袋から酒瓶を3つほど出しながら、コップを差し出してくる。

 

 …………はあ。

 

 

「……ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから二時間位二人でお菓子を食べたり酒とお菓子をつまみつつ、二人壁の上で色々な話で盛り上がっていた。

 

 

「それで? 実際のところ生斗さんって付き合ってる人とかいるの?」

 

「いませんよそんなの! なんでかねぇ、こんな良い男を放っておくなんて!」

 

「ははは、そのサングラスが威圧的で近寄りづらいんじゃないの?」

 

「このグラサンがあるからこそおれがあるんです! 考えても見てください! もしおれにグラサンを取ったら何が残ります?」

 

「生斗さん」

 

「か~! そうきたか~!」

 

 

 なんか自分でもわかるほど酔ってるな、おれ。

 

 

「まあ、私にフィアンセがいなかったら生斗さんと付き合っても良かったんだけどねぇ」

 

「愛のないお付き合いはごめんです!」

 

「あら、フラれちゃった」

 

 

 豊姫さんは美人だ。道を歩けば老若男女全員が振り向くほどな。

 おれが今、サシで飲んでいるだけでも奇跡に近いかもしれないくらいだ。

 そんな人から付き合ってもいいと言われれば舞い上がるのは不可避だろう。

 だが、豊姫さんにはフィアンセがいる。

 ここで喜んでもただただ虚しくなるので、喜びを無理矢理抑え込んで否定の意思を示す。

 はあ、なんでおれは彼女に恵まれないんだ……

 

 

「くそう、トオルなんだよトオル! なんでお前だけ彼女いんだよ! 小野塚とおれの3人で彼女作らない同盟結んだじゃん!」

 

「(なんだか愚痴っぽくなってきたわね。まあ、楽しいから良いけど)」

 

 

いかんいかん酒に任せて、友人の悪口を言いそうになった。

話題をかえなければ。

 

 

「それより豊姫さん、最近奴らの様子はどうなんです?」

 

「ん?」

 

「おれの部下の事ですよ。たまにあいつらと飲みに行ってくれてるんでしょ?なんかそこでおれの愚痴とか言ったりしてませんか?」

 

 

 この際だ。あいつらがおれの事を本当はどう思っているのか豊姫さんに聞いてみよう。酒の席だ。豊姫さんに甘えてつい本音を漏らしてしまうはず。

 

 

「ああ、あの子達の事ね。確かに生斗さんの事を『グラサン似合ってない』とか『訓練もうちょっと優しくしろー』とかは言ってたわね」

 

「ほう」

 

 

 こりぁよくある愚痴だな。

 愚痴の内容次第じゃお仕置きするつもりだったが、それぐらいなら許容範囲に入ってるから見逃してやろう。

 おれって器が広いな!

 

 

「あ、でも最後は皆、貴方の部下で良かったって言ってたわよ」

 

「……それは豊姫さんが穴埋めに言った事ですか? それとも本当の?」

 

「ふふ、どうかしらね」

 

 

 何故そこで言わないんだよ……気になるなぁ。

 

 

「お、豊姫さん、空じゃないですか。お酌しますよ」

 

「あ、ありがとねぇ」

 

 

 はあ、久しぶりにいい気分だ。たまにはこうして飲むのも良いかもしれないな。

 そう思いながらおれは豊姫さんのコップに酒を注ぐ。

 ついでに酒瓶を置いた手をそのまま菓子をつまみ、口に持っていき、頬張る。

 あー、久しぶりに甘味の菓子を食べた。

 たまには糖分を取らないとな。そこまで甘いもの好きではないが。

 

 

「豊姫さん、見てくださいよ。もうすぐ日の入りですよ」

 

「あら、ほんと。綺麗だわ」

 

 

 この美しさは前の世界とあまり変わらないんだなぁ。

 そういえば四季もちゃんとあるし。

 もしかしたらこの世界はおれが前にいた世界と類似しているのかもしれないな。

 

 

「…………お姉様、熊口君………何やってるんですか…………?」

 

 

 

 あ、やばい。今一番聞きたくない人の声が後ろの方から聞こえてきた。

 

 さっきまで酒で赤くなっていた顔が一気に青くなっていくのがわかる。豊姫さんの方を見ると全く同じ状況なのがわかった。

 くそう、なんでだよ……折角落ち行く夕陽をみながら感動に酔いしれようとしていたのに!

 

 あれ、豊姫さんが目で訴えかけてきているぞ?

 なになに、指で合図を送るから両方向から逃げよう?

 よし、乗った! と、親指を立てて合意する。

 

 

「なに二人でこそこそしているんですか?」

 

 

 豊姫さんが人差し指、中指、薬指の3本の指を後ろに見えないように立てる。

 

 そして、薬指を閉じ、次に中指を閉じ、最後に________

 

 

 

 _______人差し指を閉じた。

 

 

 

 今だ!!

 

 

 

「逃がしませんよ!」

 

「ぐは!?」「きゃあ!?」

 

 

 おれと豊姫さんは両方向から同時に逃げようとしたが一瞬にして首根っこを捕まれた。

 

 

「お姉様?何故此処にいるんです?仕事はどうしたんですか?

 あと熊口君、あのときの約束はどうしたんですか?もう、用事がないときはツクヨミ様と八意様の家には行かないんじゃなかったんですか?」

 

「「あ、あのぉ……」」

 

「……」

 

「「ごめんなさい。テヘッ!」」

 

 

 このあと3時間位説教されました。

 ん、待てよ。ツクヨミ様のと合わせると合計6時間ぐらい今日正座させられてるぞ?

 どうりで足が異常なほど痺れているわけか……



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19話 自分のことは棚に上げないように

 

 

 月移住まで残り10日前に事件は起きた。

 

 

「トオルが重体?!」

 

『ああ、この前巡回中に妖怪の群れに襲われたらしい』

 

「なんでだ?トオルは危険を察知できるんじゃなかったんじゃないのか?」

 

『いや、トオルの能力だって万能じゃない。

 危険を察知できるのは異変が起きた場所の半径50メートルまでだからな。事前に察知できていればこんなことなかったんだが……』

 

「そうか……で、トオルは無事なのか?」

 

『ああ、今は永琳様に治療してもらっている。

 しかしかなりの重症だから目覚めるのは月に着いた後らしいな。俺が頼んでトオルは転送日を初日にしてもらうつもりだ』

 

「ああ、だろうな」

 

 

 今の会話のとおりトオルが妖怪に襲われたらしい。その事を電話で小野塚に聞かされたとき肝が冷えた。

 死んでしまったのかと思ったけどどうやら重症ですんだらしい。

 それに永琳さんに治療してもらってるのなら安心だな。

 兎に角、明日休みだから早速見舞いに行かないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 小野塚との電話があった次の日。

 おれはトオルの見舞いに行くために病院へ来た。

 そのあと受付の人と話してトオルの部屋を教えてもらい、トオルのいる病室まで行く。

 

 

「おーい、トオルー、見舞いに来た…………ぞ……」

 

「げっ糞グラサン」

 

 

 最悪、糞(影女)が居やがった。そういえばこいつトオルと付き合ってたな……ほんと、トオルの趣味には理解が出来ない。

 

 

「まるでミイラみたいにぐるぐる巻きにされてるな……」

 

「……そうね」

 

 いつもならさっきこいつが言った糞グラサンって言葉だけで喧嘩に発展していたけど、今はそんなこと気はない。

 それもそうだろう、病室の中で、しかも怪我人のすぐ側で暴れでもしたら大変だしな。……何しろ気分が乗らない。

 

 

「……う、うぅ…………」

 

「お?!トオル!」

 

「奴等が…………来る……!……皆逃げ……うぅ」

 

「トオルが目を覚ましたぞ!」

 

「いいや、それをずっと言ってるのよ。たぶん無意識のうちに言ってるのね……。それほど恐ろしかったのかしら」

 

 

 え、そうなのか!?っと言いそうになったがどうにも引っ掛かることがあった。

 まずそれまで恐れていたことに関してだ。

 おれ達はこれまで何回もこの国から調査のために出ていた。その出た回数分以上に妖怪と遭遇していた。

 殆どは返り討ちにしたけど何回か食われそうにもなったり、殺されそうになったりもした。

 その時は流石におれと小野塚もトオルと同じようにうなされていたが、その時のトオルは寝ているとき一度もこんな風にうなされていた記憶はない。

 なのに、今回はこんなにもうなされている。

 いや、一人で妖怪の群れに遭遇したんだ。何もなくてもうなされるのはわかるからなんとも言えないが……

 それともう一つ不可解な点がある。トオルが言った『皆逃げ……』の部分だ。トオルが妖怪に襲われたとき確か一人だったはずだ。それで食われそうになったところに丁度他の見回りの班のやつが見つけて助けたらしい。

 それなのに何故皆逃げろなんて言うのだろうか。

 まさかこれから起こることに関しての危険を皆に知らせようと無意識に言ってるのか……

 そのことを聞こうにも当の本人は意識不明の重体で聞けない。……まあ、全部おれの勝手な推測だけど……

 

 

 そのあと10分程、トオルの部屋で過ごしてから出た。

 おれがあの影女と密室で10分もなにもせず過ごしたのはある意味奇跡かもしれないな。

 まあ、トオルがこんな状態なんだ。するはずもない。

 

 

「ま、取り敢えずトオルが無事でよかった」

 

 

 おれの推測もどうせ杞憂で終わるだろう。

 考えるだけ無駄だ。

 

 

 

 

 しかし、おれの考えていた推測が杞憂でなかった。

 それを知るのは月移住2日目だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『妖怪接近中!妖怪接近中!直ちに一般市民の方は転送装置の前に集合してください!』

 

 

 そう機械的な声のアナウンスが国の中で流れ続ける。

 どうやら、月移住2日目にして、妖怪の群れがこの国に向かって攻めてきているらしい。

 なんてタイミングだ。まるで計ったかのように。

 もしかしたら月移住の情報が妖怪側に漏れている可能性がある。

 どうやって情報を掴んだかは知らないけどな。

 そんなことを考えている暇はない。

 

 おれを含め、部隊長以上の奴らは緊急会議に出席を命じられている。

 急がなければ!

 

 

 

 

『さて、諸君。君らはこれから一般市民が安全に転送が終わるまで命をかけてもらうことになる』

 

 

 

 モニター越しから坦々と話すなんか偉い人。

 1度見たことがあったが、どんな人物かは忘れた。覚える必要もないと思っている。

 だってこいつ、おれらが今から命を張るって時に自分だけさっさと月に逃げた臆病者だからな。

 臆病者だと思っているのはおれだけではないらしく、隣にいる小野塚を含め、殆どの者が眉を寄せて上官の話を聞いている。

 

 

『綿月大和総隊長が戦場での指揮をとり、綿月依姫副総隊長が_____』

 

 

「なあ、生斗。なんか妙だと思わないか?」

 

 

 偉い人が色々指示をしているなか、隣にいた小野塚が話しかけてきた。

 

 

「ああ、タイミングが悪すぎる。まるで此方が引っ越しをするのを分かってたみたいにな」

 

「いや、それもあるんだが……何故指揮をとっているのが副総監なんだ?」

 

「それになんの疑問が?」

 

「おおありだ。総監と副総監で派閥ってのがあってだな。

 それで今指揮をとっている副総監は過激派でな。一体何を考えているのよくかわからん。なにかよからぬ事を考えている可能性があると俺は考えているんだが……」

 

『小野塚歩部隊長!!』

 

「は、はい!?」

 

『さっきから何度も呼んどる。

 __小野塚歩部隊は市民の誘導を任せる。』

 

「は、はぁ!?」

 

『反論は受け付けん。頼んだぞ』

 

「……くっ」

 

 

 小野塚、あのなんか偉い人に目をつけられてるな。

 ていうかあいつ、副総監なのか……過激派か。

 なんだか匂うぞ。糞以下の匂いがプンプンとな。

 もしかしたら小野塚は今回の妖怪のこの襲撃はあの副総監と関係していると思っているだろうな。

 でも今は正直、()()()()()()

 今はこの状況を打破する事が先決だ。

 

 そしてそれを退けられるかもしれない可能性をおれは持っている。

 おれの能力があればな。

 

 

「あの、すいません。」

 

『なにかね、熊口生斗部隊長』

 

「おれの部隊が出撃する順番、最後にしてもらえませんか?」

 

『何故だ?』

 

「理由は……言えません」

 

 

 言ったら絶対に反対されるからな。

 

 

『話にならん。この状況に臆したか臆病者め。熊口生斗部隊は最初の出撃とする』

 

 

 いや臆病者て……そりゃあんただろ。

 

 

「待ってくださいな」

 

 

 と、早々に諦めて次の手を考えているとゴリラが異議を唱えた。

 

 

「熊口生斗部隊長の出撃を最後にしてやってくれませんかね?」

 

『……はあ、なんでかね?綿月大和総隊長』

 

「この者がただ臆したからと言って出撃を最後にして欲しいといったわけではないと私はおもうのですが……だろう?熊口君」

 

「え?まあ、そうですけど」

 

 

 あんたたちにしたら少しマイナスかもしれないことだけどな。

 

 

「本人もこう言っております。ここは1つ、彼の要望に答えてやってはくれませんかね?」

 

『……』

 

 

 綿月隊長……なんていい人なんだ。これまで(20年)ゴリラなんて思ってすいません。

 

 

『はあ、わかった。綿月大和総隊長に免じて熊口生斗部隊長の部隊を最後にする』

 

「ありがとうございます」

 

 

 ふう、ゴリラ……綿月隊長のお陰でなんとかなったな。

 

 

『それでは、各自戦闘準備を整えるように!解散!』

 

「「「「「は!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「なあ、生斗。なんでお前、あのとき最後にしてくれって頼んだんだ?」 

 

「あ?……ああ、ちょっとやりたいことがあってな」

 

「なんだ?やりたいことって」

 

「ふっ、今はそんなことを話している場合じゃないだろ。

 あ、おれあっちだから」

 

「お、おう……あ、生斗!」

 

「なんだ?」

 

「なんか他人任せで悪いが……俺の分まで頑張ってくれ……!!」

 

「……なんも悪くねーよ。任せとけ」

 

 

 

 

 

 

 さて、これで覚悟は出来た。

 

 やっと、この国に()()()ができる。

 

 

 

 

 



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20話 ツクヨミ様しつこいっす

 

 

「僕に何か用ですか? 生斗君。まさかこの期に及んで僕の家でまたぐーたらしようと?」

 

「いやいや、そんなわけないじゃないですか」

 

 

 会議が終わり、部下たちのところへ行く前にツクヨミ様のところへと寄った。

 勿論、頼み事があるからだ。

 

 

「ちょっと頼みたいことがあるんです」

 

「…………なんですか?

 僕にあの妖怪の群れと戦えと?それをしたいのは山々なんですが、今殆どの力は月へ移動させているのでただの足手まといにしかなりませんよ?」

 

「いや、だから違いますよ!神様に戦わせるなんてそんな無礼許されるわけないじゃないですか」

 

「……これまでの僕への行いを改めてからその事をいいなさい」

 

 

 確かにそうだけど!

 

 

「まあ取り敢えず頼みたいことがあるんです!」

 

「はいはい、なんですか?今僕に出来ることならなんでもしますよ」

 

「はい、それは________です。」

 

「!?……それは、生斗君。正気ですか?」

 

「正気もなにもこの方が最も有効的な手段じゃないんですか?」

 

「しかし、それを出来るのは君次第です。それを実現できるだけの力を持っていない今ではそれを了承出来るわけありません」

 

「『今』はね。おれの能力を使えば大丈夫ですよ」

 

「確か『生を増やす程度』の能力でしたね。確かに便利な能力ではありますが戦闘には丸っきしなんじゃ…………まさか!」

 

「そう、そのまさかです。おれの命を皆に捧げます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとかツクヨミ様に了承を得ることができた。後は御崎達だな。

 

 

「それでは、作戦の概要を説明する」

 

 

 御崎達の所へと行き、作戦の説明をする。

 

 まず第一陣として綿月隊長を含めた精鋭部隊が国から少し離れたところで迎撃、依姫を含めた第二陣はそれの取り零した妖怪らの排除。

 後の何陣かはその補助として部隊長の指示で出撃する。

 おれらはその最後の陣で出撃のため少しばかり時間が余る。

 と言っても30分程度だけどな。

 一般市民の転送の完了まで、旧式を入れても三時間はかかるらしい。

 つまりおれらは最低でもその間、数えきれない数の妖怪さんらの相手をしなければならない。

 それに市民の転送が終え、おれら兵が転送装置まで行くのに足止めとしてどこの隊かがしなければならなくなる。

 つまり、この戦いで大勢の仲間が死ぬ。

 普通に考えたらな。

 

 

「説明は以上だ。なにか質問があるものはいるか?」

 

「あの……熊さん?」

 

「なんだ御崎?」

 

「なんで俺らにビールを渡してるんです?」

 

 

 そう、今、おれは説明しながら皆にビールの入ったジョッキを皆に配っていた。

 

 

「なーに、前祝いだ。この戦い、一人も死なずに月へ行ったっていうな」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 

 そう御崎は言うと、そのまま黙って俯く。

 いつもの御崎ならここで変なボケをかまして場を和ませるんだけどなぁ……

 まあ、こんな状況だし、仕方ないか。

 

 

「はいはい!辛気くさいのは止めろ。皆いつもの元気はどうした?このビールはいつもケチケチ言ってる熊さんの奢りだぞ?」

 

「熊さん……そうっすよね。いつも通りにやればなんとかなるよな!これまであんなにきつい訓練を耐えてきたんだから!そうだよな!皆!」

 

「「「お、おう!」」」

 

 

 おう、こいつらチョロいな。ちょっと言っただけでいつものテンションに戻りおった。

 

 

「それじゃあ乾杯しましょう!」

 

「おお、そうだな」

 

 

 よし、それじゃあ……

 

 

「乾杯!」

 

「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

 

 そう言って皆ごくごくとビールを飲み干していく。

 

 

「そうだそうだ、皆飲め飲め!」

 

「あれ?熊さんは飲まないんすか?」

 

「あん?いや、おれは良いわ。おれの分も飲むか?」

 

「ええ?まさか熊さん。俺らに焚き付けるだけ焚き付けて自分はまだビビってるんじゃないんすか?」

 

「ん、まあな」

 

 

 もうそろそろか。あれは()()()らしいからもう効き始めるだろうな。

 

 

「おーい!皆~!熊さん妖怪にビビってるってよ!」

 

「おいおい、恐れてるのは妖怪にではないぞ?」

 

「ん?なら何にビビってるんすか?」

 

 

「お前らが死ぬことが、今おれが恐れていることだ」

 

「え、熊さん、なん、て…………」ドサァ

 

「……」

 

 

 やっと効いたか。即効性の()()()。ビールの中に仕込ませてもらった。

 

 

「な、んで…………?」

 

「すまん、おれはお前らには死んでほしくはないんだ。

 それにな。

 お前らの十字架を背負って生きるなんて御免なんだわ」

 

「そん、な…………」ガクッ

 

 

 一応、辺りを確認してみる。おれらがいつも使っているロッカーには屈強な男共がぐーすかと眠っている光景が瞳に映った。これが全員美少女だったら眼の保養になるんだけどなぁ……

 

 

 

「……やれやれ、本当に生斗君。神になんてことさせてるんですか。永琳の研究所から薬をくすねさせるなんて」

 

「ほんとすいません、ツクヨミ様。

 それと、こいつらのこと頼みます」

 

「わかりました…………生斗君。最後に君に聞きたいことがあります。」

 

「なんですか?」

 

「生斗君。君は……なぜそこまで僕達、いや、この国の民のためにそこまで()を懸けることができるのですか?」

 

「難しい質問ですね……」

 

 

 命を懸ける……はっきりいってしまえば、これが最善と思うからやるだけで、本当に命が懸かったときはそこまで…………いや、それじゃああの鬼のときのことに関して辻褄が合わないな。

 んー、どうしてだろう……やはり性分としか言いようがないな。

 仲間を助けたい。その為なら己を犠牲にしても構わない。

 うん、自分で言ってて恥ずかしいな。

 でもそれだと辻褄が合うんだよなぁ……何故かそういうときだと、勝手に体が動くし。

 おれ、前世でそんな特性あったっけ?

 まあいいや。ツクヨミ様には考えていることをそのまま言えばいい。

 

 

「おれは、恩返しがしたいんですよ」

 

「恩返し……?」

 

「はい、恩返しです。

 おれが森でさ迷っている時、永琳さんが助けてくれました。

 もしあのとき、永琳さんが現れなかったら、おれは為す術なく妖怪に食べられていたでしょう。

 おれが身寄りがないと知り、ツクヨミ様がこの国の在住を認めてくれました。得たいの知れないおれなんかをね。

 こんなおれにこの国の皆は優しく接してくれました。

 ゴリ……綿月隊長、依姫、小野塚、トオル、豊姫さん、部下達。

 この国の人達に優しくしてもらった分、次はおれが返す番です」

 

 

 こんなところだろう。一応、これもおれの本心。

 なんか語っちゃったな。恥ずかし!

 

 

「……僕達は、充分に返してもらってますよ」

 

「そう言って貰えるだけでありがたいです。でもそう思っているのなら出入り禁止なんかにしないでください」

 

「自立を促すためですよ」

 

「わー、豊姫さんの言っていた通りだー」

 

 

 取り敢えず軽口を叩いてちょっとしんみりした雰囲気を和ませてみる。

 

 

「ははは……それで、話を戻しますが」

 

「あ、はい」

 

 

 流石ツクヨミ様。一瞬にして場の空気を戻した!

 

 

「公的には、貴方のやろうとしていることには賛成です。命を代償にした力は絶大な物です。身体の負担を考えなければ凌ぐことも可能でしょう」

 

「でしょ?」

 

「しかし、私的には絶対に止めてほしいことです」

 

「……」

 

 

 そうか……だけどもう後戻りは出来ないんだよなぁ。

 部下達眠らせちゃったし。永琳さんの薬だから叩いても起きないだろう。

 

 

「もう後戻りは出来ないですよ」

 

「力の大半を月に移した今の僕でも、この者達を起こすのは容易いですよ」

 

「あ、ちょ、それはやめてください」

 

 

 ていうかツクヨミ様。何おれの考えていること読んでるんですか!?

 

 

「はあ……」

 

「まあツクヨミ様、今生の別れじゃないんだし」

 

「生斗君……君、しんがりも受け持つつもりですよね?」

 

「そうですけど」

 

「転送装置はしんがり以外の隊が転送されるとき、その最後の隊が5分後に時限爆弾の作動するように設定されます。もし時間を見誤れば君は月にいけないのですよ?」

 

「それも知ってます」

 

「それまでに君は戻れるという自信はあるんですか?」

 

 

 しかも戻るときに妖怪を転送装置の近づけないようにしなければならないと言う、面倒極まりない配役だ。

 いつものおれなら絶対に受け持たない。

 

 

「んー、そこは分かりませんが。何とかなるでしょう」

 

 

 実際、おれがやろうとしていることは不確定要素が多数に含まれている。

 ツクヨミ様いわく凌ぐことは可能だと言っていたが……

 

 

「まあ、今は一刻も争うことだし、おれはそろそろ行きます。もう第四陣ぐらいは出ていることでしょうし」

 

「っ…………そうですか。本当にやるつもりですか?」

 

「覚悟はもうできてます」

 

「……」

 

「んじゃ、ちょっくら行ってきます」

 

 

 時間が惜しい。早く行かなければ。

 そう思い、おれは走り出す。

 

 

「待ってください!」

 

「ん?なんですか?」

 

 

 ツクヨミ様……まだ止めるんですか?

 

 

「生斗君……君は、この国へ恩返しの為に命を代償にして戦うのですよね?」

 

「そうですけど……」

 

「その括りの中に、僕は入っていますか?」

 

 

 なんだ、ただの愚問か。 

 

 

「勿論、入ってますよ」

 

「そうですか……わかりました。すいません、引き止めてしまって」

 

「いいえ……それでは!」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

 

 そう言っておれは妖怪達のいるところまで駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「生斗君、僕も覚悟を決めました」

 

「君が僕に恩返しをする義理なんてありません。だって僕は君に沢山のものをもらっているのですから」

 

「だからその恩を、返さなければですね」

 

 

「さて、生斗君に恩を返すため、この国の民を無事月に移住させるため__そして己の罪を償うため、僕も命を懸けるとしましょうか」

 



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21話 自業自得ってやつか

 

 

 おれは、第二陣がいる壁まで来たとき、絶句した。

 

 

「な、なんだこの量……綿月隊長はどうしているんだ!?」

 

 

 妖怪達の群勢が国の壁を壊そうとかなりの数が押し寄せていた。

 取り零したじゃ言い訳にならないほどの数の妖怪が、うちの兵らと戦闘を行っているが、はっきりいって此方が明らかに劣勢だ。壁にヒビが入り始めている。

 まだ空を飛んでる妖怪らは対処しきれてはいるが……

 

 

「依姫!依姫は何処だ!」

 

 

 この状況で依姫はどうしているんだ?あいつのことだ、ここで呆気なくやられるということはまずないだろう。

 

 

「熊口部隊長!」

 

「お前は……◎○部隊長!」

 

 

 おれの呼ぶ声に反応したのは依姫ではなく、おれと同じ階級の部隊長だった。

 

 

「熊口部隊長、貴様の部隊は何処にいるのだ!」

 

「そんなことは後だ、依姫は何処だ?」

 

「なに、綿月副総隊長を探しているのか。あの方は今、第一陣の様子を見にこの先にいるぞ。今はこの場の指揮は私が一任されている。そんなことよりお前_____」

 

「ありがとよ!」

 

「なっ!?待て熊口部隊長!!」

 

 

 マジかよ、あんな妖怪の群れの中、突っ込んで第一陣のいるところまで向かったって言うことかよ……

 まあ、空の方は大分空いてるからいけないこともないが……

 

 くそ、依姫までもあっちの方に行ったか。

 まあ、おれも最初から彼処まで行くつもりだったから、問題はないか……いや、あるな。

 この二陣のところでこの量だ。もしかしたらもう第一陣は…………

 考えるのはよそう。あのゴリラと精鋭部隊だぞ、そんなまだ10分程度しか経っていないのにもう全滅なんてあり得るわけがない!

 

 そんな事を思いつつおれは空を飛び、妖怪の群れに突っ込む。

 

 

「ぎゃぎゃぎゃぁぁぁ!!」

 

 

 気色悪い奇声をあげながら襲いかかってくる百足型妖怪を霊力剣を生成して、切り捨てながら持てる限りのフルスピードで空を飛ぶ。

 

 流石に多いな。今のおれの霊弾じゃ雑魚妖怪を撃墜させる程度の威力しか出せないし、中堅の妖怪はおれの霊弾を無視して攻撃を仕掛けてきやがる。

 

 

「死ねえぇぇ!」

 

「お前がな!」

 

「ぐぎゃぁぁ!?」

 

 突っ込んできた人型の妖怪の突進を体を捻らせながら避けつつ、その回転を利用しながら斬りつける。

 手応えはあった。今のは致命傷ものだな。人型を斬るとき、気色悪い感触がするからな。斬るとき少し嫌悪感が生まれるから、たぶん斬れてる。

 そう自己完結しながらおれは見向きもせず霊弾をばらまきながら飛び続ける。

 

 

「まだか?」

 

 

 そんなに第一陣と第二陣との距離は空いてないはず。それに妖怪の数がどんどん増えてきている。

 もうすぐなはずだ。ていうかどんだけ妖怪いんだよ!居すぎだろ!軽くこの国の人口越えてるぞ……

 

 

「「「「きいぃぃぃぃやあぁぁぁ!!」」」」

 

「うるせぇ!!」

 

 

 次は団体で遅いかかってきたか。

 大勢でかかってきてもらった方が此方としてもありがたい。

 そう思いながらおれは()()に爆散霊弾を生成し、固まって襲ってきた妖怪共に着弾させる。

 

 すると、そこにいた妖怪共のところに大爆発が起き、無惨に四肢が吹き飛び、胴体は跡形も無くなる。

 我ながら恐ろしい威力だ。

 並の中堅妖怪でも一撃だな、こりゃあ。

 それを霊弾を作るのと同じぐらいすぐに生成出来るようになったおれ、最強だな!ははは!

 

 ……うぷっ、流石に妖怪共でも四肢がバラバラに吹き飛ぶ光景を見たら吐き気が……

 笑って誤魔化しは出来なかったようだ。

 

 

「……ってあれ……ゴリ……綿月隊長!」

 

 

 いかんいかん、いつもの癖でゴリラって言いかけてしまった。

 ……ってそれどころじゃない!

 綿月隊長がボロボロになりながらも戦っている。しかも一人で。

 精鋭部隊はどうしたんだ?

 

 

「綿月隊長!」

 

「誰だ!……熊口君か!」

 

 

 彼方も此方に気づいたようだ。

 器用にも妖怪の顔面を殴り、吹き飛ばしながらこっちに近付いてくる。

 

 

「何故君がここに?」

 

「色々ありまして……それより精鋭部隊と依姫は?」

 

「ああ、依姫なら後ろの方で戦ってくれている。

 精鋭部隊は…………」

 

 

 と、俯く綿月隊長。

 ……まじかよ、精鋭部隊、全滅したのか。

 ていうか綿月隊長、俯きながら妖怪を屠って言ってるよ。

 そのせいで落ち込んでいるのかどうかよくわからん。

 おれとしてはあまり精鋭部隊とは関わった事がないからよくわからんが。

 

 

「そうですか。いつの間にか抜かしていたんですね」

 

「それじゃあ私の質問に答えてくれ。何故君がここに_____」

 

「綿月隊長!」

 

「なんだ…………!!」

 

 

 綿月隊長がおれに問いかけようとした瞬間、地上の方からとてつもないどす黒いオーラが伝わってきた。

 

 こ、この感覚は…………大妖怪!しかも一匹じゃない!

 

 

「漸く、おでましというところか」

 

 

 お、おいおい、綿月隊長、いくら大妖怪相手でも互角以上に戦えると言っても、複数いる大妖怪相手には分が悪いんじゃないのか?

 

 

「熊口君、君は今から依姫の所に行って援護をしてくれ」

 

「まさか、一人でやるつもりですか?」

 

「私以外に止められる者がおらん。はっきりいってやりたくないが、やらねばならんのでな」

 

「まさか……」

 

「依姫を……うちの娘を、頼むぞ」

 

 

 そう言って綿月隊長はどす黒いオーラが発せられている地上まで、雑魚妖怪を蹴散らしながら降りていく。

 

 馬鹿だろ……死ぬつもりかよ。

 

 

「ああもう!そういうのは全部おれが受け持ってやるって言おうとしたのに!」

 

 

 もういい、綿月隊長らを国の中まで避難させてから使おうとしたが、こんな異常事態、作戦通りにいかないのはわかっていた。

 

 今、おれの()()()を使うしかない!

 

 

 

 切り札。と言えば聞こえは言いが、実際はただの自己犠牲だ。

 

 

 ______命を糧にする。

 

 

 漫画とかでよくある命を代償にして絶大な力を手にする諸刃の剣的な裏技。

 

 その命を捨てるような行為だが、おれは幸いにも今、7つの命がある。

 多少は無駄にしても大丈夫な身体にはなっている。

 ま、無駄ではないが。有効活用、といった方が適切か。

 

 まあ、取り敢えず、7つの命のうち、5つの命を消費するように念じてみる。

 やり方はよくわからない。だが、不思議と出来るような気がする。

 

 妖怪の攻撃を避けながら念じていると、一瞬だけ、視界がブラックアウトし、年に一度みる蝋燭が5本、火が消えるのが確認できた。

 

 これは成功したのかな?

 

 

「うぉ、ごふぉ!?」

 

「うわ、なんだこいつ、いきなり血を吐きやがったぞ!?」

 

 

 成功したと思った瞬間、全身にこれまで感じたことのないような痛みが走った。

 それに物凄い吐き気。吐いてみると、それは大量な血だとわかった。

 手足が痙攣し、空を飛ぶこともままならず、そのまま落下していく。

 

 や、やばい……こんな無防備な所を見せたら、妖怪達に…………

 

 

「あ、れ……?」

 

 

 襲われると思っていたが、その予想に反して妖怪達の動きは固まっていた。今のところ、襲われる様子はない。

 

 

「はぁ……うぐっ……あ、く……」

 

 

 痛みが収まらない。

 くそ、わかったぞ!

 器が小さすぎるんだ!

 命を代償にすると絶大な力を手にいれることができる。

 しかし、その力を抑えられる大きな器がおれにはない。

 小さい器にはその分の物しかいれることが出来ない。

 その容量を越えた物を無理矢理詰め込もうとしたら、どうなるか?

 当然、耐えきれずその器は壊れてしまう。

 

 今のおれがそんな状態だ。容量を越えた力を手にいれようとしたせいで、体が壊れかけている。

 

 こういった場合の対処法はわからない。

 

 

「んぐあっ!?」

 

 地面に落ちたおれは変な声を出してしまう。

 痛い、痛い……こんな状態じゃ、戦うなんてままならな__________

 

 

「わ、たつき、隊長?」

 

 

 落ちた先は、あのどす黒い妖気を発していた所だったらしい。

 漏れだしている妖気を隠しもしない、4体の大妖怪が、ボロボロになった綿月隊長をサンドバッグのごとく殴り付けていた。

 

 

「ああ?なんだこいつ、死にかけじゃねぇか」

 

「ん、だがなんだその霊力量は!?」

 

「死にかけとは運がいい。殺そうぜ!」

 

 

 そんなことを言っている大妖怪共。

 まさか、こんなやつらなんかに呆気なくやられたって言うのかよ、綿月隊長……

 

 

「うっ……ぐ!!」

 

 

 なんとかして立ち上がる。こんな状態になったのは、実験を怠ったのと、自分の許容量についてよくわかっていなかったからだ。

 言うなれば、自業自得。この立つのがやっとの状態で戦うしかない。

 全身を常に殴られているような感覚がし、肩も四十肩のように上がらない。

 足も腰から上に上がらない。飛べるかどうかも定かではない。

 

 だが、やるしかない!

 

 

「父上!熊口君!?」

 

 

 この声は……依姫?

 



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22話 永琳さんの薬は本当に万能

  

 

「父上! 熊口君!?」

 

「より、ひめ?」

 

 

 痛む身体には鞭打って大妖怪に立ち向かおうとすると、依姫が空から降りてきた。

 

 

「なんで熊口君がここに……しかもこんなに怪我を!」

 

「そ、んなことよりあっちだ……おれのは、自業自得、だからな」

 

 

 戸惑った表情でおれのところまでくる依姫。だが、今はおれを構ってる場合ではない。

 目の前に大妖怪が4体もいるからな。

 

 

「何故、父上が……」

 

「おそらく、突っ込んだ、ときに、奇襲を、かけられたんだろう……」

 

 

 でなければあんな少しの間に綿月隊長がやられるわけがない。

 ていうかまだ生きてるよな? 

 

 

「依姫……」

 

「な、なんですか、熊口君?」

 

「鎮痛剤が何かを……痛みを、和らげるもの、を持っていないか?」

 

「あ! あります!」

 

 

 そう言って、太股の方にあるポケットから錠剤の薬を取り出した。

 

 

「八意様が私の能力が暴走したとき用とくださったものです」

 

 

 依姫の能力……そういえばいまだに制御できずに暴走するとか言っていたな。

 

 その時にもらった薬か……ん? そういえば依姫がこの薬を永琳さんから貰ったとき、おれいたぞ。

 

 その時、この薬の効果を聞いた覚えがある。

 

 依姫の能力は『神霊の依代となる程度の能力』と言い、神をその身に宿らせ、使役するという恐ろしい能力だ。

 それにより神の力が大きすぎて、自らの身を滅ぼしてしまうのを防ぐための薬だと。

 己の依代を底上げし、神の力を受け止めるようにすると。

 

 

 それって……おれにも使えるんじゃないだろうか?

 依代を器に変え、神の力を増えすぎた霊力と解釈すれば……

 これは使えるかもしれない! そうすればこの痛みを引くことができる上、この異常な霊力を操作することができる!

 

 

「あり、がとう……!」

 

 

 大妖怪らがおれの異常な霊力量に警戒しているうちに、依姫から薬を受け取る。

 これだと依姫の能力が使えなくなるが、それはいい。

 これが成功すればあとはおれが何とかするからな。

 ていうか永琳さんスゲーな。どうやったらそんな薬を作れるんだ?

 

 

「……!!」ゴクッ!

 

 

 永琳さんの万能さに感心をしつつ、おれは依姫から渡された薬を飲み込んだ。

 

 

「おい、今あいつ、何か食べやがったぞ?」

 

「俺達を前にして呑気なものだな」

 

「やるか?」

 

「いや、もう少し様子をみよう」

 

 

 はぁ……はぁ……

 

 おお、少しずつだけど痛みが引いてきたぞ。どうやら、おれの解釈は当てはまっていたようだ。

 吐き気もないし、手足の痙攣も止まった。

 ガンガンと内側から叩いてくるような頭痛を無くなり、少しは正常に行動が出来るようになった。

 まだ肩に違和感がありはするが、剣を振るうにはあまり問題ない程度には大丈夫だ。

 

 

「はぁ、はぁ……永琳さんって、ほんと凄いよな」

 

「熊口君、大丈夫ですか!」

 

「ああ依姫の薬のお陰でな。だいぶ楽になった」

 

「気を付けて下さい。この薬、効果は二時間程度ですので」

 

「そ、そうなのか?」

 

 

 いや、まあ大丈夫だろう。有り余る力(霊力)を今は薬の効果で拡張された器で抑えることが出来ている。

 なら、中身の力を二時間以内に消費し、薬の効果が切れても溢れないようにすればいい。

 

 つまり、これから霊力の無駄使いをしまくればいいって訳だ。

 いや、無駄使いは駄目だな。ちゃんと考えて使わなければ。

 

 

「よし、霊力剣を出せるまでは治ったか……」

 

 

 実際、体にかかった負担による傷は癒えていない。

 普通に身体中が痛いし、内蔵も痛めていると思う。

 だが、さっきの痛みと比べれば耐えられないほどではない。

 これぐらい我慢しないと守れるものも守れなくなる。

 

 

「(さっきまで力士を5人ほど背中に乗っているんじゃないかというほど重かったが……今は自分に体重があるのか疑問に思うほど軽い)

 依姫、本当にありがとな」

 

「礼は後です。大妖怪らが構えてきました」

 

 

 と、さっきから静かだった妖怪達を見てみる。

 確かに、今から襲うぞってな感じに構えをとってる。

 あの4匹の特徴を見てみると……

 四足歩行の牛みたいな奴が一匹。人型で頭に角が生えている奴が二匹。最後に後ろにいるフードで顔を隠した人型の妖怪。フード妖怪がおそらく気絶しているであろう綿月隊長を拘束している。

 

 

「大妖怪4体か……」

 

 

 なんだか……前に見た鬼で見慣れているからか、それとも絶大な力を手に入れたからかーーたぶん両方ともだろう。

 そんなに絶望的な状況でもないように見える。

 

 果たして、5生分の霊力で太刀打できるかな?

 

 

「行くぜ!」

 

「……!」

 

 

 そう言ってついに、大妖怪らが行動に移した。牛妖怪が突進しつつ、後ろから角妖怪Aがついていく。

 角妖怪Bはフード妖怪と一緒に動かず、その場に留まっている。

 

 

「は、速い!?」

 

「依姫、人型の奴頼む」

 

「え、あ、はい!」

 

 

 なんか依姫が相手の動きに驚いているが、おれは他の意味で驚いていた。

 何故なら、スローで動いてるかのように遅いからだ。前に戦った鬼の動きは全く見えなかったと言うのに、あの二匹の動きがとてつもなくゆっくり見えるのだ。

 依姫は速いと言っていたが、おれにしてみればふざけてるのか?と言いたくなるぐらい遅い。

 

 これってもしかしてブーストのお陰なのか?

 取り敢えず、ゆっくり向かってきている牛妖怪の前まで歩いて近づき、横顔を蹴ってみる。

 このときおれが動いているとき、奴らはおれが見えていないのか。見向きもしない。

 そしておれが牛妖怪を蹴り抜くと、そいつの顔面だけが吹き飛び、空の彼方へと飛んでいった。

 

 

「…………は?」

 

 

 え、あれ? なんで?

 なんで顔が吹き飛んだんだ?

 確かに吹き飛ばすために蹴った。だけど相手は大妖怪。おれの攻撃ぐらいじゃ精々動きを止める程度だろうと思っていたのだ。

 だけど、その予想は外れ、天高く牛妖怪の頭部は飛んでいった。

 

 

「え、あれ? 熊口さん!? いつの間に?」

 

「なに!牛乱がやられた!」

 

 

 え、あれ、理解が追い付かない。

 

 あの依姫が速いと言っていた相手がゆっくりに見えた。そしておれの蹴りが超強くなった。

 

 ……もしかして、おれが凄まじく速くなったのか?

 それなら凄いぞ。大妖怪相手がスローに見えるほど強化された目に、一撃で仕留められるほどの威力を持った足。

 

 なんかもう、敵なんかいないんじゃね? ってぐらい凄い。

 あんなに恐怖の対象であった大妖怪共がそこら辺の雑魚妖怪と何ら変わらないように見える。

 

 

「これなら、いけるかもな」

 

 

 そう思い、おれは後ろに下がろうとしている角妖怪Aまで飛んで接近する。

 

 

「な、速っ_____」

 

 

 そして霊力剣を生成し、角妖怪Aに向かって斬りつける。

 すると、いつもなら斬ると気色の悪い感触がしていたのに、全然その感触がなく、プリンのように、首と胴体を別れさせてしまった。

 霊力剣も切れ味が凄くなってる……

 

 

 やべーな、おれ。たった数秒の間に2体も大妖怪を仕留めてしまった。

 

 

「このぉぉ! 勝ったと思ったかマヌケがぁぁぁ!!!」

 

 

 と思ったら首の切り口から斬った筈の角妖怪Aの頭が出てくる。

 ん、どうなってんだ、こいつ? てかきもっ!?

 

 

「……!」

 

「んがぁぁ!?」

 

 

 次の試しとして霊弾を5発ほど角妖怪Aに向けて打ってみる。

 すると霊弾は全発命中し、当たった箇所は全て抉りとられたかのように消え去る。

 

 

「お、おぉ?! 再生が……に、肉がねぇとぅぁ」

 

 

 肉がねぇと?再生が?

 まさか肉を使って部位を作っていたのか? そんなことありえるのかよ……いや、相手は大妖怪だ。おおいにありえる。

 それならあのとき斬った時、胴体とかの肉を使って頭部を作り出したことにも合点があうしな。

 斬り飛ばされた頭部、そこに転がってるし。

 なら一応、こいつの頭部は霊弾で消しておこう。

 

 

「それにしても霊弾もパワーアップしてたか」

 

 

 ……てことはつまり爆散霊弾も……あれは素の状態のおれでもかなりの威力を出せる技だ。

 もしこの状態で使ったら、本部に設置している核爆弾と同じくらいの威力が出るかもしれない。

 封印しておこう。仲間まで巻き込んでしまったら本末転倒だ。

 

 

「さて、どうする? おれとしちゃ、綿月隊長を返して、このままこの国から去って貰えればありがたいんだが」

 

「ほう、なめられたものだな……」

 

 

 と、フード妖怪が若干低い声で返事をする。

 怒ってんのか?

 いや、まあそうだろうな。妖怪は人間を下に見ている。特に大妖怪は人間を餌さとしか見ていない者も少なくないだろう。

 あの鬼もそうだったし。

 その餌に情けをかけられてるんだ。そりゃあ、怒りもするだろう。

 

 

「が、その情け、ありがたく受け取るとしよう」

 

「そうだな」

 

「ん?」

 

 

 あれ? 怒こってるんじゃないのか?

 

 

「なに、狙い外れたと言わんばかりの顔だな。」

 

「そりゃそうだろう。お前らで言う餌に情けをかけられてんだぞ?」

 

「くく、自らを餌と名乗るか。変な奴だ」

 

 

 フード妖怪は笑い、角妖怪Bは微妙な顔をしている。

 

 

「まあ、私らがお前の提案に乗るのは元々、今回の件で賛成ではないからだ」

 

「この国攻めをか?」

 

「ああ、主犯は今お前が殺した二人、牛乱と生蜴。私とそこにいる慧樹は反対派だった。だが、彼奴らより弱かったため、従わなければならなくてな」

 

「それをおれに信じろと?」

 

「無理に信じてもらわなくていい。」

 

 

 そうフード妖怪が言うと、自分より2倍は大きいであろう綿月隊長を軽々しく持ち上げ、此方に投げつけてきた。

 

 

「父上!」

 

 

 それを先程までずっと黙っていた依り姫が受け取る。

 

 

「いいのか? 人質を解放して。今すぐお前らを殺すこともできるんだぞ?」

 

「くく、そうなったら私の目が衰えたと諦めるまでだ。」

 

「ふーん」 

 

 

 まあ、殺る気はないけど。相手が攻撃してこない限りな。

 

 

「それでは、枷が外れた私らはおいとまさせてもらうことにしよう」

 

「ああ、おれらも急がなきゃならないんでな。さっさとどっかに行ってくれ」

 

 

 今、おれが話している間にも妖怪の進行はとまってはいない。早く行かなければ。

 

 

「あ、最後に良いことを教えてやろう」

 

「……なんだよ」

 

 

 内心嫌気がさしつつ、フード妖怪にといてみる。

 

 

「あの二人が今回の国攻めを妖怪共に焚き付けたわけだが、その二人に吹き込んだのは△▽という者だ」

 

「なに! △▽だと!?」

 

 

 一瞬だれだそいつ? と思ったが、それに反応したのは依姫だった。

 

 

「依姫、何か知っているのか?」

 

「△▽は、副総監の秘書です。ここ最近失踪しているときいていましたが……まさか裏切り者だったとは」

 

「失踪? おい、フード妖怪、その△▽はどうなったんだ?」

 

「(フード妖怪? 私のことなのか?)あ、ああ、あの二人に吹き込むと共に食われていたよ」

 

 

 なるほど、証拠は残さないと。

 ……それにしても小野塚が犯人と睨んでいた副総監の秘書。

 これは小野塚が睨んでいた通りかもしれないな。

 

 

「おい、フード妖…………」

 

「悪いがそれ以上のことは知らない。さらばだ」

 

 

 そう言うとフード妖怪と角妖怪Bは霧となって消えていった。

 

 

「まさか、国の者に裏切り者が……」

 

「そんなことより戻った方がいい。今、後ろでは大変な事になってるぞ」

 

「そ、そうですね。一刻も早くこの事を伝えなければなりませんし。それに……」

 

「綿月隊長の治療もな」

 

「……はい」

 

 

 かなりハプニングが起きたが、おれの考えていた事が実行できる。

 後は戻って()を作るだけだ。

 

 

 そう思いつつ、おれと依姫は国の方へと戻っていった。

 



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23話 妖怪に挑発は効果覿面

 

 

 国の方へ戻る途中、依姫からこんなことを聞かれた。

 

 

「熊口君……その、何故そこまで強くなったのですか?」

 

「ん?」

 

 

 そういえば依姫に聞かれてなかった。

 そうだよな……急に知り合いが意味わかんなくほど強くなったら疑問に思わないわけないよな。

 

 

「依姫は、知らない方がいい」

 

 

 が、教えない方がいいだろう。

 ていうか、依姫は知らない方がいい。

 だってこの力は、命を代償にして手にいれた力なんだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 

 ~依姫視点~

 

 

 私の親友、熊口生斗が大妖怪を一瞬のうちに2体も屠るほどの力を手に入れていた。

 意味がわからない。どうしてそこまでの力を手にいれたのか。

 そしてその力を使いこなしているのか……

 

 私も、神の力を借りなくても大妖怪一匹なら互角に戦えるぐらいに強いと自負している。

 しかし、彼は一瞬のうちに二匹だ。

 言わずもなが、私より強くなっている。

 そんな中、私は少しの嫉妬と、不安を抱えていた。

 

 もしかしたら、熊口君は禁忌の手段を使っているのかもしれない、と。

 

 彼はいつの間にか前線におり、血を何度も吐くほど重傷であった。

 それが、私が永琳様に頂いた薬を飲むと、何事も無かったかのように治っていた。

 この症状は私のときもよくあったことだ。

 神降ろしが上手くいかず、神の力が私という依代の中で暴走したとき、よくあの永琳様特製の薬を飲んでいた。その薬を飲むと神の暴走した力を抑え込むことが出来るからだ。

 

 

 熊口君は神降ろしは出来ない筈。なのに私と同じ症状があらわれている。

 急に絶大な力を手に入れたということは確かだ。……まあ、見れば一目瞭然なのだけれど。

 しかし、その手段はどんなものなのだろうか……

 

 本人に聞いても笑ってはぐらかされるだけで教えてもらえない。

 

 

 今も私に父上を持たせたまま一人で弾幕を張り、妖怪らを蹴散らしている。

 

 

 何故か胸騒ぎがする。私でない、親友になにかが起こるような、そんな気が。

 

 

「なあ依姫、こんな時で悪い……」

 

「え、なんですか?」

 

「おれ、今すごくトイレ行きたいんだけど」

 

「……我慢してください」

 

 

 よくこんな状況で気の抜けたことを言うのですね……

 

 

「いや、ほんと、考えてみたら今日1度もトイレ行ってないんだよ」

 

「それがどうしたって言うんですか!」

 

「だからさ、少しあっち向いててくれないか?」

 

「ま、まさか空中でするつもりですか!?」

 

 

 こんなふざけたことを言いながらも着実に妖怪を屠っていく熊口君。

 ……そんなことりも、なんでここでしようとしているのか不思議でならない。

 

 

「いや、だって地上は妖怪が多くて出来そうにないんだよ」

 

「だからって女である私の目の前でするなんて……」

 

 

 端からみたらただの変態だ。露出狂ともとれる。

 ま、まさか……!

 

 

「さ、流石に怒りますよ!いくら私を女として認識していないからって!」

 

「そ、そんなわけないだろ?!」

 

 

 いや、だってそういうことでしょう?女性の前で用をたそうなんて、いくら無神経な熊口君でも考えるわけないじゃないですか!

 

 

「……はあ、もういいや。まどろっこしい事は止めよう」

 

 

 そう、諦めたかのように私の近くまで寄ってくる。なにがまどろっこしい事なのだろうか……

 

 

「なんですか?」

 

 

 すると、熊口君は自分の手を私の首元に持ってきた。え、ちょっ、本当になんですか!?

 

 

「いや、ちょっとな」

 

「え_____」

 

 

 その瞬間、私の首に衝撃が走った。

 

 

「あ……くま、ぐち……君?」

 

「すまん、後はおれに任せてくれ」

 

 

 どんどん視界が薄れていき、意識が遠ざかっていくのが分かる。

 その最中、熊口君が『~~で会おう』と何か言っていたようだが、そんなことを考えている間もなく、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 ~壁の上~

 

 

「ふぅ」

 

 

 なんとか依姫を気絶させることが出来た。

 やっぱり小便するからあっち向いて作戦は失敗したなぁ。

 あ、因みに今日トイレにいってないのは本当です。 

 

 

「な、熊口部隊長!担いでいるのはまさか……」

 

「ああ、綿月隊長と依姫だ。今すぐ二人を安全な所にやってくれ」

 

「あ、ああ、わかった!」

 

 

 今指揮を取っている◎○部隊長に綿月隊長と依姫を渡す。

 

 

「あ、後綿月隊長がおれに指揮を任せると言っていた。後はおれに任せてくれ」

 

「はあ!?な、何を言っている!そんな事綿月総隊長から一言も連絡が来てないぞ!」

 

 

 来るもなにもそんなこと一言も言ってないけどな。

 これはおれの嘘だ。

 

 

「ああ、綿月隊長が倒れる前に言ったからな。そんな余裕無かったんだろう。

 それともなにか?おれが嘘を言っているというのか?」

 

 

 嘘を言っているんですけどね。

 んー、でもこれで口論になったら面倒だな。今はただでさえ妖怪が入ってくる瀬戸際まで来ていて、時間が無いのに……よし、もし口論になったら依姫と同じ手刀をお見舞いしてやろう。

 

 

「くっ……わかった、信じよう。だが、判断を見誤るなよ。1つの指令が部下の命を左右するのだからな!」

 

 

 お、あっさりと信じてくれたか。

 まあ、こんな緊急時、考えに耽っている場合ではないからな。賢明な判断だ。

 ……なんか偉そうだな、おれ。立場的にはこいつと同じぐらいなのに。

 

 

「分かってるって。部下達を無駄死にさせるようなことはしない」

 

「……ふん。この通信機を使え。この戦場にいる兵士全員の耳に装着されている小型イヤホンに繋がっている。指示をするときに使ってくれ。あと、この通信機がバイブし始めたら本部からの連絡だから見逃さないように」

 

「わかった」

 

「それじゃあ私はこの二人を安全なところへと運ぶ。後は頼んだぞ、熊口部隊長」

 

「ああ、任せとけ」

 

 

 なんとか指揮権を取ることが出来たな。

 もしごねられたら気絶させるつもりだったが、それをする必要は無かったようだな。

 

 

「さて」

 

 

 部隊長からもらったこの無駄にコンパクトな円盤の通信機。

 前に同じようなのを扱った覚えがある。

 確か横にあるボタンを押しながら喋るんだよな。

 

 

『あ~、あ~、聞こえますかぁ。

 今から◎○部隊長に代わって、おれこと、熊さんが指揮をとることになった。好きな食べ物はうどん。好きなものはグラサンだ。よろしくな』

 

 

 一応念のためにとマイクテストをしてみる。

 するとおれの近くで戦っていた兵士に___

 

 

「何をふざけているのですか!?遊んでいる場合ではありませんよ!!」

 

 

 と、怒られた。

 あ、すいません。

 だが、どうやらちゃんと聞こえているようだな。

 

 

『それではこれからの指示を行う』

 

 

 もうこの兵の数だと、ほぼ全ての陣営はでている。

 増援は見込めない。

 そんな状況のなか、おれがとる指揮はどれが最善か。

 

 

 ・現状のまま戦わせる。違う。

 このままでは一時間と経たずに全滅する。

 

 ・部隊を再編成して立て直す。違う。

 再編成するのに時間がかかる。

 

 ・特攻させ、自爆覚悟で立ち向かわせる。

 これが一番駄目だ。

 昔の日本じゃないんだから。

 

 

 おれがとる指揮はその一番駄目な指揮の真反対の事。

 つまり______

 

 

『総員、直ちに壁内へ撤退せよ。』

 

 

「「「「えぇぇぇ!?」」」」

 

 

 おれが撤退を告げると、壁の上だけでなく地上からも同じような声が聞こえた。

 

 

「なんでですか!こんなところで撤退すれば妖怪達が押し寄せてくるじゃないで……」

 

「おっと危ない」

 

「うわっ!?」

 

 

 文句を言おうとしてきた兵士の後ろに蜘蛛型の妖怪が襲ってきていたので、霊弾をお見舞いする。

 

 

「あ、あぁ、ありがとう、ございます……」

 

「戦場で余所見はあんまりするもんじゃないぞ。

 んまあ、いきなりおかしな事をほざかれたら文句言いたくなるのはわかるけどな」

 

「……自覚はあるのですね」

 

 

 おれだって素っ頓狂なことを言っているのは分かっている。

 だが、今はこの指示が最善だとおれは思っている。

 

 

「あ、ああ!?」

 

「くそおぉぉ!」

 

 

 おれの指示を聞いてからの兵士らの反応は様々だ。

 ちゃんと指示に従って撤退する者。指示を無視して妖怪と戦う者。どうすれば良いかわからず辺りの様子を見て行動する者。

 殆どがおれの指示を無視して戦っている。ちゃんと従っている奴らは殆どいない。

 まあ、全員がちゃんとおれの指示に従ってくれないと言うことは分かっている。

 ここにいる兵士は、皆この国で生まれ育った奴らだ。今のおれの指示だとこの国の人達が大勢死ぬと判断し、皆を守るために指示を無視して戦っているのだろう。

 おれは、無視して戦っている兵士を誇りに思う。自分の命を犠牲にしようともこの国の人間を守ろうとしているのだから。

 

 今、壁の上から地上で見える範囲でもこの戦場は、地獄そのものと錯覚してしまうような修羅の場だとわかる。

 地上にいる蟲型の妖怪との戦闘に敗れ、食われている者。

 これまでの戦闘により、腕を欠損してなお、支給されたレーザー銃や、剣で妖怪と戦う者。仲間の亡骸を食われないように守りながら戦うもの者。

 

 皆、倒れていく同志を悲しむ暇もなく戦っている。

 

 

 ……誰だよ、皆がこうして必死に頑張っているなか、マイクテストと表して好きな食べ物とか紹介した奴。

 ぶん殴ってやりたい。

 

 ということで取り敢えず自分の顔面を思いっきり殴っておく。するとパアァァン!となにかが破裂したような音が鳴ったようなが気がしたが気にしないでおこう。

 

 

 これ以上、ここにいる兵士を死なせるわけにはいかない。

 こいつらにだって待っている家族がいるんだ。

 おれにはこの世界に血の繋がった家族はいない。家族みたいな存在の人はいるが……

 それにおれは複数の命を持っている。今は2つしかないが、この場で死んでも後一回は生き返ることができる。

 そしておれは今、ここにいる万を越える妖怪共を食い止める力がある、と思う。--こんな大群に試したことがないからわからないが……

 

 だが、おれの考えている作戦にここにいる兵士ははっきりいって邪魔でしかない。

 一刻も早く壁内に入ってもらわないと困るんだ。

 皆を守るために戦っていることに兵士を誇りには思うが、おれの指示に従ってほしい。

 

 

 だから一刻も早く壁内に入ってもらうよう説得する必要がある。

 この場合、口で説得するのは難しい。無駄に長引くだけで、耳を貸してもらえないことは目に見えている。

 相当な口が達者な奴なら説得出来るかもしれないが、おれはそんなこと出来ない。クソみたいなボケなら無限に出てくるんだが……

 

 そんなおれが、今戦っている奴らを説得する方法。

 

 ____それは、『実力をみせつけること』。

 

 

 力のない者についていく奴はいない。力とは腕っぷしの強さだけでなく知能の高さなど、沢山の種類がある。

 良い例だと綿月隊長と永琳さんだ。

 綿月隊長は圧倒的な力をもって相手を蹂躙する力を持っている。

 それに比べて永琳さんは部下らの個々の能力を最大限にまで発揮させ、確実に敵を倒す知能を持っている。

 

 

 この二人の共通点はなんなのか。

 それは単純だ。

 

 この人なら任せられる、という安心がある事だ。

 

 今、この状況でおれはその安心をこの場にいる兵士らに与えられていない。

 それもそうだ。おれはあまり頭は良くないし、力だって、素の状態だとこの国の平均の実力に毛が生えた程度しかない。

 

 そんなの奴の命令に誰が耳を傾けるのか。

 普通は傾けない。いや、嫌でも上司命令で傾けざるを得ない時はあるだろうが……

 だが、今は命を懸けた戦いの真っ最中だ。

 戦争中に無能な上官が部下に殺されるって話をマンガで見たことがある。

 もしかしたらおれも後ろから刺されるかもしれないな。

 

 まあ、要するにおれが言いたいのは力を見せつけて、おれに従えって事だ。

 

 あ、この人なら大丈夫かもしれない! と、思わせられるような事をすればいい。

 

 五生も費やして手に入れた力だ。

 

 

 皆を納得させられるようなことが出来るかもしれない。

 やるならやろう。力を見せつけるということは敵への威嚇行為にもなる。

 一石二鳥ということだ。

 

 

「…………!!!」

 

 

 そしておれは、部下達をしたがわせるため、抑えていた霊力を全解放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、ほぼ全ての音が止んだ。剣を振るう音も、足音も、息を吐く音さえもしなくなり、皆息をすることを忘れ、壁の上にいるおれを見上げている。

 

 何故、皆がおれを見ているのかというと、それはこの、戦場を覆い尽くすほどの霊力の発生源がおれだからだろう。

 

 正直、当の本人であるおれですら驚いている。

 大妖怪を瞬殺出来るほどの力を手に入れ、調子に乗っていたのは確かだ。

 だが、ここまでとは思わなかった。この戦場は少なくても五キロぐらいの広さにまでは続いている。その範囲を余すことなくおれの霊力で満ちているんだ。

 流石五生を犠牲にした力というべきか……

 そりゃあの大妖怪共も秒殺出来る筈だ。あのときの鬼の妖力でさえ、ここまで多くは無かった。

 でもこれを見ると改めてあのときは無謀なことをしたなと実感する。

 この霊力の量、素のおれじゃ絶対に抑えきれない。もしあのとき依姫に薬を貰っていなかったら、おれの身体は耐えきれずにぐちゃぐちゃに破壊されていただろう。

 

 

「熊口、部隊長……?」

 

 

 おれの近くにいた兵士がおれの名を呼ぶ。

 その呼ぶ声は驚愕と怯えの混じった声で、恐る恐るといった感じだ。

 驚くのは分かるが、怯えられるのは予想外だな……

 

 

「熊口部隊長……アナタは、本物ですか?」

 

「はえ?」

 

 

 少し予想外の質問をされたため、変な声をあげてしまった。

 まじかよ……そこから怪しまれてんのか、おれ。

 

 

「そ、そう思う根拠は?」

 

「ここまで圧倒的な力。これまで、見たことが無いからです」

 

「ふむ、そうか……」

 

 

 今もなお、この戦場では沈黙が続いている。人間だけでなく妖怪までもだ。

 そのような状況を作ったのはおれ。正確にはおれの霊力だ。

 確かに戦場を一瞬にして沈黙させるほどの霊力の持ち主なんておれも会ったことがない。

 この兵士が怪訝に思うのも無理はない。

 だが、おれは本物だと言える。何故なら、おれにしかない“特別な物″があるのだから!

 

 

「……ふ、一般兵Aよ。お前はおれが熊口生斗という仮面を被った偽物だと言いたいのか?」

 

「い、いえ!?そ、そういうわけでは……」

 

「だが、安心しろ。おれは本物だ。そう言いきれる理由がある」

 

「……?」

 

「ほら見ろ!このグラサンを!この黒光りした艶のあるこのグラサンを!!ほら、もっと近くで見るんだ!分かるか、このグラサンはサーモントという種類でグラサンの中では定番中の定番だが、それだからこそ良いんだ!基本的に人気で、掛けやすい。シンプルだからだ。だがシンプルだからこそいいんだ。シンプルイズベスト。みんないちいち凝ったティアドロップやらフォックス(グラサンの種類)やらが良いとか言うが、おれは絶対にサーモント派だ。お前もそう思うだろ?」

 

「え、え!?あ、はい?」

 

「だろ!」

 

 

 あ、ミスった。何話してんだ、おれ。グラサンが神力で外れないということを説明しようとしたら思いっきり趣旨からかけ離れて趣味の話になってしまっていた。

 くそ、グラサンの話題になるといつもアツくなってしまう!

 こんな戦況の中なにやってんだおれ!

 

 取り敢えずまた自分の顔面を思いっきり殴る。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 またパアァァン!と破裂したような音が出たが痛みはそんなに感じないので気にしない。

 近くにいた兵士が驚き、地上にいる兵士らと妖怪は少し引き気味な顔をしているがそのことも気にしない……いかん、そんな目で見られるとやっぱり落ち込む。

 

 

「ま、まあつまりおれが何を言いたいのかというと、このグラサンは_____」

 

「死ぃねえぇ!」

 

「えるせぇ、黙ってろ!」

 

「うぎゃっ!?」

 

 

 沈黙を貫いていた妖怪の一部が危機を察知したのか地上から飛んでおれに襲いかかってきた。

 勿論殺られるわけにはいかないので、飛んでくる妖怪共に霊弾をお見舞いして、二度と口を開けないようにする。

 

 

「うっ、くぅ……!」

 

 

 地上にいる妖怪らが悔しそうな声をあげ此方を睨めつけてくるが今のおれにそんな脅しは通用しない。

 こいつら妖怪だってやらなければならないことであることは知っている。妖怪は人の畏れを具現化した存在であり、人を糧に生きている。

 その人間が大量に他の場所へと移動されたら妖怪側からしたらたまったもんじゃない。だから今回のようにどっかのお偉いさんに月へ移住するという情報を聞き、それを阻止するために戦っているのだろう。

 

 妖怪は人間を下に見ている。しかし、妖怪は人間がいなければ生きていられない。

 

 妖怪だからといって全てが悪という訳ではない。心優しく、人を食べない妖怪だって沢山いる。

 実際5年か6年か前に森で遭難したとき、助けてくれた妖怪がいた。

 おれがさっき、あの大妖怪2匹を見逃したのもこれが起因している。

 妖怪にも一応恩がある。だが、おれの計画が動き出したら、もう容赦はしない。

 恩があるとはいえ、こちらにも守りたいものがある。

 

 だからこいつらの睨んでくる目も、負い目は感じるが受け流すことが出来る。

 

 

 

「さて、演出はこれまでだ」

 

 

 いい加減この空気も薄れて、妖怪達との交戦の続きが始まるだろう。

 それならそれが始まる前に此方が行動に移した方がいい。

 そう考えたおれは円盤型の通信機を指示を仰ぐべく、口の目の前にまでもっていった。

 

 

『先程のおれの指示を無視した諸君、聞いてくれ』

 

 

 

 ざわ、ざわ、と地上がざわめく様子が壁の上から見てもよくわかる。

 

 

『総員撤退、確かにそれだけだとただの敵前逃亡だ。だが、それだからこそ最善だとおれは確信している。この発言とおれの今溢れている霊力から答えを導きだしている奴は今すぐ撤退しろ』

 

 

 この言葉に皆がなにいってんだこいつ、と言った表情に変わる。

 だが、それは言葉を理解していない疑問ではなく、理解をしているからこその疑問であった。

 

 

「熊口部隊長!? ま、まさかこの数の妖怪を一人で相手にとろうとしているのですか!?!」

 

「んあ? そのつもりだが」

 

「ふざけんなてめぇ!」

 

 

 今罵声を浴びせてきたのは兵士ではなく、壁の上にいた人狼だった。

 その罵声は静かになっていた戦場に瞬く間に響き渡り、妖怪共が額に青筋を立てながら罵声の嵐を浴びせてくる。

 

 

「お前ごときが俺達を一人で相手取る? 自惚れも大概にしとけよ! ただ少し霊力が多いだけで調子に乗りやがって……お前なんか俺達がかかれば5分もかからずに跡形も残さずに抹殺できるぞ!」

 

「調子に乗るな!」

 

「カス!ゴミ!駄グラ!」

 

 

 そんな感じに罵声を浴びせられるおれ。

 おお、想定外の反応だな。

 それほど今の発言が妖怪らにとってプライドを傷つけられたんだろう。

 妖怪って変にプライドが高いからなぁ。ちょっと馬鹿にしただけで我を忘れて殺しにかかってくる_____

 

 ……いやまて、もしかしたらこれ、使えるかもしれないぞ!

 これを利用すれば、上手くいけば被害が出ずに撤退させられるかもしれない。

 

 あることを考えたおれは円盤型の通信機の表面を触り、拡声モードにする。

 実はこの通信機、表面はタブレット型になっており、操作して色々な種類に変えることが出来る万能通信機だ。

 最初見たときスマー○フォンの円形バージョンの超最新版かと思ったな。 

 動画もとれるし、そのとった映像を浮かび上がらせて立体的に見ることも出来るし。

 

 

 まあ、そんなどうでもいい話はそこら辺のゴミ捨て場に置いといて。

 

 早速今思い付いたことをやってみるか。

 

 

 

『ならかかってこいや』

 

 

「「「「「「!!?」」」」」」

 

 

 

 おれが今やらかそうとしているのは、蜂の巣をつつくような行為だ。

 相手をキレさせて矛先をおれに向けさせる。

 あいつらはプライドが高い。挑発すれば、おれなんか簡単に倒せる! と言ってくる筈だ。そこへおれが条件をだしておれを狙わせる。おれを倒すと言った手前、踵を返すわけにもいかなくなるだろう。というかプライドが敵前逃亡を許さない筈だ。

 

 

『おれなんか簡単に捻り潰せるんだろ?』

 

「ああん?塵がしゃしゃんなよ」

 

『その塵にすくんで今まで動けなかっただろ?』

 

「っく……!」

 

『そういえばさっき、どっかの妖怪が()()()()()()()5分もかからずに倒すことが出来るとか言ってたな』

 

「その通りだ!」

 

「5分どころか一瞬だぜ!!」

 

 

 そう2匹の妖怪が言うと他の妖怪らも同意するように頷く。

 ほう、言ったな。言っちゃったな? 言質はとったぞ。

 

 

『ふーん、ならこうしよう。お前ら全員でかかってこいよ。()()()()()相手してやる』

 

「熊口部隊長!?」

 

『あ、でもそれじゃあ一人なら他の奴らは邪魔になるよな』

 

「はあ? 何言ってやがんだ」

 

 

『おれが相手になってやるから他の人間は壁内に逃がしてくれないかといってんだよ』

 

 

 そう言うと、妖怪らが一瞬驚いたような顔をした後、馬鹿を見下すような笑いをあげ始めた。

 

 

「ぐははは! つまりそういうことか。お前が俺達を挑発していたのは最初からそれが目的だったと?」

 

「とんだ茶番だ! 乗るこたあねぇ!」

 

「お前ごときにそんな時間を割いてやる暇はねぇんだよ!」

 

 

 うーむ、やはりおれは口下手だな。誘導がバレバレだったようだ。

 

 

「熊口部隊長……これについては私も妖怪共と同じ考えです。いくらなんでも無謀過ぎます」

 

 

 兵士もそれ言うか……いや、でももう後戻りは出来ないんだ。

 

 

『ん、なんだ? さっきお前らは皆でかかれば楽勝とか言っていたのにそれをしないのか? お前ら妖怪はそれでいいのかよ。絶賛今おれになめられてるぞ。

 口だけの腰抜け妖怪共ってな 』

 

 

「んなっ!?」

 

「こいつ!」

 

 

 これはもう挑発するだけして矛先をムリヤリおれに向けされるしかないな。口下手のおれでも挑発ぐらいならいくらでも言える。

 しかも今の挑発は中々効果的だったようだ。あいつらのプライドの奥深くを抉ったような気がする。

 よし、後一歩だ。後一歩でこいつらはおれに向かって来るはず。

 その間に兵士達を壁内に戻せば作戦を決行できる。

 

 そしておれは止めの一撃と言わんばかりの一言を発した。

 

 

 

『ていうかいい加減かかってこいよ。地上でわーきゃー言ってるだけじゃ女子供となんら変わらないぞ』

 

 

 

 その瞬間、地上、空中、全ての妖怪が奇声を発しながら、おれに襲いかかってきた。

 おお、恐。

 

 

 

 

 

 



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24話 情けは逆効果だってことだ

 

 

 ~壁内(避難中)~

 

 

「なあ、お前、どう思う?」

 

「は? どう思うって、何が?」

 

「熊口部隊長の事だよ」

 

「ああ、あの群勢相手に喧嘩売った人か」

 

「頭ぶっとんでるよな。確かにあそこまでの力があったら調子に乗るのはわかるけど」

 

「逆にあれがなければ俺らは今、あの馬鹿みたいな指示には従わなかったけどな」

 

「そりゃそうだそうだ。俺らの目的は妖怪を壁内に入れないこと。敵の全滅が目的じゃない。今、()()がある以上、俺らが彼処にいる意味はほぼ皆無だし」

 

「なんか俺、熊口部隊長の事、見直したなぁ」

 

「なんでだ? 今回はああいう結果に運よく収まってるけど、普通ならあの指示は愚策中の愚策だぞ。いや、論外だ。俺は逆に見損なったね」

 

「そうか? だってあの人、俺らを逃がすために一人で戦ってるんだと思うぜ」

 

「そう思う根拠は?」

 

「前にあの人の部隊の一人と飲んだことがあんだよ。その時、ふと、話が上司の愚痴の溢し合いになったんだが、途中でそいつ、熊口部隊長の事、スンゲー褒めてたんだよ。部下思いのいい人だって」

 

「にわかに信じがたいな」

 

「でもそれがもし本当なら、さっき俺が言ったことに信憑性が出てくるだろ」

 

「う~ん、確かにな。だけど本当にいるのか? 皆のために事故犠牲を厭わないなんて」

 

 

「俺も信じ難いと思うけど……その仮定が正しければ、俺はあの人を尊敬するだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「ほらほらぁ? もうとっくに5分を過ぎてるぞ。いつになったら仕留められるのかなー?」

 

 

 妖怪らが血相をかえておれに向かって襲いかかり始めてから10分が経過した。

 もうそろそろ兵士達の避難も完了する頃だろう。

 避けるのも、結構限界に近い。

 だが、反撃するのはまだ早い。まずは壁内の避難の完了を確認して、相応しいステージを作ってからだ。

 

 

「おらぁ! くたばりやがれ!」

 

 

 妖怪らの妖弾の嵐がおれに向かって来る。

 目もだいぶ強化されてるからこれくらいの弾幕なら簡単に避けられるんだよなぁ。

 

 

「逃げてんじゃないぞ!」

 

 

 弾幕の死角から不意打ちで接近攻撃を仕掛けてくる。

 死角だから目視は出来ないが、隠しきれない殺気を感じるから、避けるのも容易い。

 

 

『あー、まだか?』

 

 

 相手の攻撃を避けながら通信機で兵士達に壁内に入ったか質問をする。

 殆どの妖怪がおれに襲いかかってきてはいるが、全員という訳ではない。

 中には、おれの挑発に乗らず、避難している兵士を襲う妖怪がいる。

 

 おれの指示自体は、誰も異議を申し立てる返信をしてこなかったから、皆従って避難してくれてはくれているだろうが(もし、異議を申し立てられていたらそいつの事はもう諦める)、襲ってくる妖怪が現れれば戦うしかない。

 だから少しは遅れてしまっても仕方がないだろう。

 

 

 だが、こうしていられるのもそろそろ限界だ。

 余裕そうに避けてはいるが、実際はかなり危ない。

 流石にこの数の妖怪に攻撃を避け続けるのは無理があるようです。

 因みに反撃せずに避けているのは、相手の怒りを煽るためだ。

 避けて避けて避けまくって、相手の怒りを有頂天にする。

 少しでも敵意を国の皆ではなく、おれに向けさせる。

 これにより、大量に集結した妖怪共に、()()を仕掛けて、無力化させられれば、おれの作戦は大成功に終わる。

 だから早く避難を完了させてほしい。

 今はもう充分に挑発できた。これ以上は必要ない。

 

 

「うおっと!?」

 

 

 今は壁の上でなく、妖怪の群勢のど真ん中の空中にいる。

 つまり、四方八方から攻撃が来るということだ。

 前だけでなく、後ろ、横、下、上と神経をすり減らさなければならない。

 弾幕がやんだと思ったら大勢で殴りかかってくるし、いなしたら、その後また弾幕の嵐が吹き荒れる。

 

 連携としては雑だが、かなりきつい。

 実際何発かはもろに受けている。まあ、余りある霊力をふんだんに使って防御していたから全然いたくなかったけど。

 ただ、隊服がボロボロになるから当たりたくはないんだよなぁ……

 避けるのを止めて全部受けに回ったら、確実に全裸になる。

 流石に全裸で戦うのは嫌だ。

 

 

「くそ、この蝿共め……」ボソッ

 

 

 思わず小言で悪態をついてしまう。

 こいつらがこの国を襲う必要があるのは分かるが、流石にこれはついてもいいだろう。すんごい罵倒をしてきながら攻撃してくるんだもん。おれだって堪忍袋はそんなに大きくはないんだ。数えきれない量の妖怪から罵倒されて機嫌が良いわけがない。これで機嫌が良かったらそいつは相当な変態だ。

 

 

「(あれ、そういえば……)」

 

 

 よくよく考えてみればなんであのフード妖怪と角妖怪Bはあんなに容易く退いたんだ?

 

 人間がいないと妖怪の存在を証明できるものは居なくなる。

 そうなると妖怪は消滅する筈だ。

 なのになんでだ……

 もしかして他に手があるのか?

 この国以外の人間は猿同然らしいけど、まさかそいつらを利用するのだろうか……

 まあ、今ここで考えている暇はない。

 今は避けるのに専念しなければ!

 

 ていうか早く壁内避難完了の報告してくれよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~10分後~

 

 

『熊口部隊長! 生存者の撤退完了しました!』

 

「遅い! 遅すぎるぞ! お陰で服がボロボロになったんだぞ! ズボンも破けておれの生足がチラ見せ状態になってるぞ!? なに、男の生足なんて誰得なの!?」

 

『いや、あの、すいません……生存者の確認をしていたら遅れてしまって……』

 

 

 漸く完了の報告が来て、内心安堵したが、同時に怒りが込み上げてきたため、つい報告の通信をしてきた女隊員に当たってしまった。

 

 

「いや、おれこそすまん。当たってしまった。報告御苦労さん」

 

『はいーー』プチッ

 

 

 よし、これで作戦が決行できる。

 さっきから()()、“あれ″、『あれ』と無駄に隠すような感じに言っていたが、やることは単純すぎて、小学生でも思い付きそうな事だ。

 

 

 こいつらを霊力障壁の中に閉じ込める。

 これだけだ。

 妖怪共を一点(おれ)に集中させ、大方集まったところで巨大な正方形の障壁を作り出し、こいつらを閉じ込める。

 そのとき、おれも閉じ込められる事になるが、障壁の形を操るなんておれにとっては朝飯前だ。一人分通れる穴を開けてから出ればいい。

 

 というわけで______

 

 

「ついてこい!」

 

 

 おれは、出来るだけ閉じ込められるよう、妖怪共の密集している所へ突撃する。

 

 

「あ! 待ちやがれ!」

 

 

 案の定、おれの挑発によって堪忍袋を穴だらけにされた妖怪共はおれの後ろをついてくる。

 

 妖怪は人とは比べ物にならないくらい速いが、今のおれにとっては赤ちゃんと同じくらいのスピードで来ていると錯覚してしまうほど遅く見える。

 

 

「(よし、この辺か)」

 

 

 妖怪らの中心部まで来ると、そこはもう、妖怪の海となっており、地面が全く見えなくなっていた。

 

 お、おお、やっぱ多いな。この数じゃいくら今のおれでも全員倒せるか分からない。

 

 

『ほら遅いぞ~。さっさとこいよ』

 

 

 と、通信機の拡声機能を使って挑発及び誘導をする。

 すると、一層おれの方へ向かってくる妖怪共の速さが増した。

 単純だなぁ……

 

 

「はははは! 馬鹿め! 自ら袋叩きにされに来やがった!」

 

「これでてめぇも終いだ!」

 

「……ふぅん」

 

 

 馬鹿なのはどっちかな? そう言ってられるのも今だけだぞ。

 

 

「んじゃ、お前らが目ん玉が飛び出るほど驚く事してやろうか?」

 

「あ? …………!?!」

 

 

 条件は揃った。(条件といってもただ妖怪共が沢山集まっている場所に行くだけ)

 

 

 

 別に前振りとかは面倒だったので一気におれは、ありったけの霊力を6つの四角の障壁に変え、妖怪共の周りを囲む。

 地面の方の面は……なんとかなったな。妖怪共は急に浮き出てきた障壁に驚いて飛んだようだ。

 

 そしてこの障壁内にいる妖怪の量。

 凄いな……ざっと万は越えるぞ。

 

 

「(……よし、さっさとここからでるか)」

 

 

 妖怪共が霊力障壁に驚いて、こっちに意識が集中していない今のうちにでないと危ない。

 今はおれの霊力の半分はこの巨大障壁に使われている。

 つまり、今のおれの無双レベルは半減していると言うことだ。

 そんな中、この密室でこの量を相手にするのは分が悪い。

 ていうか負ける可能性が高い。それにこの障壁内にいる妖怪が全部というわけでもないしな。

 

 外には残党が残っている筈だ。

 おれ一人でこの防衛線を守ると間接的に豪語した手前、国の中に妖怪を侵入させるわけにはいかない。

 

 

「おいお前! 何をした!」

 

「げっ……」

 

 

 こっそりと出ようとして、障壁まで後数十メートルと差し掛かったところで、ある1匹の妖怪がおれに向かって怒鳴り散らしてきた。

 

 怒号は巨大な障壁内に響き渡り、全ての鬼の耳へと届いていた。

 その瞬間、呆けていた妖怪共は、一斉におれの方へと目線を変え、睨めつけてきた。

 

 

「お前だろ、これやったの!」

 

「くそ! この光る壁、殴ってもびくともしねぇ!」

 

 

 やばい、急いで出なければ!

 

 

「……!!」

 

「あ、こいつ逃げやがったぞ!」

 

「殺せ! こいつを殺せばきっと出られるぞ!」

 

 

 くっ、やっぱり力が落ちてる。

 四方八方からくる妖怪共がさっきよりも速く感じる。

 だが、逃げられない速さではない。

 これでもまだ素の状態よりだいぶましだ。

 素の状態なんて中妖怪ですら逃げるのにてこずるからな。

 

 

「邪魔だ!」

 

 

 前にいる妖怪には霊弾で無理矢理退かしてひたすら全力で障壁まで飛ぶ。

 後少し!

 

 

「捕まえたぞ!」

 

「ちょ!? 放せ!」

 

 後手を伸ばせば届く距離まで来たところでついに足を捕まれてしまう。

 それをすかさず逃さなかった妖怪さん方は次々とおれを壁から引き離そうと引っ張ってくる。

 

 

「(爆散霊弾を使うしかない!)」

 

 

 さっきまでは威力がすごすぎると思って封じてきていた技だが、力が半減した今なら威力は幾分かましになる筈だ。

 そう判断したおれは()()で爆散霊弾を生成し、足を掴んでいる妖怪ではなくその後ろの方にいる妖怪に着弾させる。勿論おれまで爆発に巻き込まれないようにするためだ。

 そのために少し後ろの方に着弾させたのだが……

 

 

「うわっぶ!?」

 

「「うぎゃあぁぁ!!?」」

 

 

 思っていた威力の10倍以上の破壊力を持っていた爆散霊弾は、いとも容易くおれまで爆発に巻き込んだ。……いや、正確には爆風か。

 

 

「いつつっ……」

 

 

 やっべぇ、足がもろ巻き込まれた。左足(妖怪に捕まれていた足)の感覚が無くなってるぞ……左足は赤黒くなっており、皮膚が爛れているのが分かる。救いは神経が麻痺しているからなのか、痛みがしない事だな。

 これで痛みがしたら戦うどころではない。

 

 そして、先程までおれの後ろの方にいた妖怪らは跡形もなく吹き飛んでいた。

 ほんと、規格外の威力だな、爆散霊弾。

 でなければ寿命ブーストしているのに少しかすっただけで足がこんなになる筈がない。

 

 

「と、とにかくでなければ……」

 

 

 左足なんて、痛くないのなら気にするだけ無駄だ。今飛んでるからあんまり足は関係ないしな。

 

 そしてやっとの事で障壁まできたおれは一人分通れるだけの穴を開け、そこを通って外に出る。

 後はその穴を戻せば完了。

 

 途中で妖怪が一緒に穴を出ようとしてきたが、霊弾を当てて中に吹き飛ばしておいた。

 

 

 

 

 よし、よし、よし!

 

 やったぞ! 作戦成功だ!

 妖怪の群勢の大部分の戦力を削いでやったぞ!

 

 

 今でたばかりの巨大障壁を見てみる。

 するとそこには、淡く光る強固な壁の中に無数の妖怪共が壁を壊そうとしている光景が広がっていた。

 分厚い壁だからか、中から妖怪がなにかいっているようだが、それが何をいっているのか、おれにすらわからない。まあ、どうせ罵詈雑言だろうから聞こえないのは寧ろありがたいんだけどな。

 

 

「さてさて」

 

 

 いまじゃ中から睨めつけてくる妖怪共の目が、逆に心地好い。

 おれってこんなに悪いせいかくしてたっけ?

 まあいいや。

 そんなの、事の全てを済ませてから考えればいいこと。

 

 

 

『この壁の中に入り損ねた哀れな妖怪諸君』

 

 

 万能通信機でまた拡声をし、妖怪達に聞こえるように話す。

 ほんとこの通信機、凄いよな。さっきの爆発を受けてなお無傷というね。

 

 

『おれは今から、この国を守るために全力でお前らを殺しにかかると思うが__』

 

「…………くっ」

 

「なめやがって……」

 

 

 

『おれはなるべく、殺生というものはしたくない。今から十数える内に踵を返せば、見逃してやる』

 

 

 これは本意だ。そして、最後の慈悲だ。

 今、妖怪共の大半は障壁内にいる。そしてその障壁外にいる妖怪の数は障壁内に比べても半分以下だ。

 結構厳しい数だが、おれはやるつもりだ。

 

 

『10』

 

 

 慈悲が無慈悲に変わるカウントダウンをしながら、おれは国の壁の方までゆっくりと進んでいく。

 

 

『9』

 

 

「……ふざ……る……」

 

 

 おそらく、おれの慈悲は届かないだろう。

 

 妖怪はプライドの塊のような奴が殆どだ。あのフード妖怪が異端であって、普通は一蹴されて終わり。

 だから、無理なんだろうなぁ……

 

 

『8』

 

 

「くそ!」

 

 いやぁ、でももしかしたらワンチャンあるかもしれない。だって今、敵であるおれが横を通ったのに、妖怪はくそ! 、と言うだけで何もしてこなかった。

 お、これはあるぞ? 全員は流石に無理だろうが、少しは退散してくれるんじゃないだろうか。

 

 

『7』

 

 

「おいおまえら! なに固まってやがんだ!」

 

 

 と、淡い期待をしていると、後ろの方からやけにうるさい大きな声が聞こえてきた。 

 

 

「お前らは悔しくないのかよ! こんな人間一人にしてやられて、それに情けまでかけられてやがる!」

 

「「「「!!?」」」」

 

 

『6』

 

 

「俺は悔しいぞ! 苦汁をなめさせられて尻尾を巻いて帰るのなんざ! それにこの戦争は俺たちにとって生存を懸けた戦いなんだぞ! ここで逃げたら遅かれ早かれ俺たちは消滅するんだ。

 なら、逃げるなんて選択肢、あるわけねーよな?」

 

「!! ……そうだ。これはそういう戦いだったんだ」

 

「なんで俺、あの人間の言葉を鵜呑みにしかけたんだろうか……」

 

 

 

 あー、これ。駄目な奴だわ。2~3秒前の期待はガラスのように砕け散ったな、こりゃ。

 それにあの演説をした妖怪、あいつ、大妖怪だな。力を隠しているようだが、おれには丸分かりだ。

 

 

 くそ、そういえば大妖怪があいつらだけというわけでは無かったな。

 

 うむ、超絶面倒だ。

 

 

『……んじゃ、それがお前らの答えでいいんだな?』

 

 

「当たり前だ! 粉微塵にしてやる!」

 

「貴様を殺して、あの光る壁の中にいる同士を救いだしてやる」

 

「あと人拐いもな!」

 

 

 お、そうか。確かにおれが死ねば霊力障壁は消滅する。

 てことはつまり、あいつらの標的は今、国の皆ではなく、おれになっているということになる。

 これは予想だにしていなかった嬉しい誤算だ。

 だっておれが死なない限り、標的は変わらないということであり、おれは死ななければいいだけのこと。

 ふむ、これならまだなんとか出来そうだ。

 

 

『それじゃあ妖怪共、前置きはいいからさっさとかかってこい』

 

 

 

 そのおれの声の数秒後、妖怪共は雄叫びを上げながらおれに襲いかかってきた。

 



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永琳さんそれお母さんの発想や

 

 

 私はモニターの前で後悔していた。

 何故、移住初日に行ってしまったのだろうか。もし、1日でも遅らせていたら、あの戦場での治療員としてでも役に立っていたというのに。

 幸いにも薬の材料はまだ届いていないので、薬自体は役に立ってはいるとおもうけれど……

 

 ここまで自分が無力なのかを思い知らされる。

 今からあの国に行くために、出口専用の転送装置を改造して出入口にしようにも時間がかかりすぎる。それに転送装置はまだ完全に解明されていない部分が多々ある。下手に弄れば、転送するときに五体満足でいられなくなる可能性もある。

 

 リスクが高過ぎる。

 まず、改造する段階で止められるし、どう改造するかもまだどうするかは考えていない。それにもし改造が出来たとしても安全かどうか確かめるために実験をしなければならない。

 これだけでも現実的でないことが分かる。

 

 

 …………はあ、何故あのとき一方的な転送装置の開発で妥協をしてしまったのだろう。

 その妥協の結果がこれだ。私は今、久しく苦汁をなめさせられている。

 なにもできず、ただ逃げ惑うことしか出来なかった頃の自分を思い出す。

 

 今はもう、そんなことは無いだろうと高を括っていたけど、思わぬところであったね。

 

 

 

 皆、あの国に残っている人間を守ろうと必死に守っていた。

 並の人間が見れば発狂するか吐くぐらいグロテスクな映像であっても、私は決して目を背けることはない。

 これが私の判断ミスによる結果なのだ。私の考えが甘く、この状況を予測していなかった結果なのだ。

 例え他の者が仕方ないと慰めてこようとも私は仕方ないで済ませるつもりはない。

 この目に、この映像を焼き付けて、二度と繰り返さぬよう、戒めにする。

 いつでも、最悪なことを想定して考えられるように。

 

 

 

「生斗……」

 

 

 これからの決意を固めていると、ふと20年前に森で出会った少年の名前を呼んでいた。

 

 熊口生斗。ある日突然名も無き神により降ろされた不思議な少年。性格は単純でお調子者。危機感にかけ、自らの命を軽んじている節がある。あとかなり図々しい。

 何故か私とツクヨミ様になつき、よく私の家に来ていた。

 最初は仕事の息抜きにと家に招いた事がキッカケで、私の家をさも我が家のように居着き、その図々しいしさに我慢の限界を越えた私は8か月前、出入り禁止を命じた。それでも何度も来ていたけど……

 

 それも今思うと、あの生活も悪くなかったと思ってしまう。

 思えば、私にあそこまでなついたのは依姫以来だ。しかも依姫は私をちゃんと敬い、プライベートにまで関わってくることまではしなかった。

 しかし、彼はそんなことお構い無しに、身分なんて知ったことかと言わんばかりにずかずかと私のプライベートまで入ってくる。

 

 

「本当に馬鹿なことしか考えないのだから……」

 

 

 そんな彼は今、一人で妖怪の群勢に負けずとも劣らない戦いをしている。

 生斗に向かっていく妖怪は次々と斬り捨てらりたり、霊弾による外部破壊になどによって絶命し、地上には屍の山を作りあげていた。

 これだけでも屍山血河の戦争だということがわかる。

 

 素の状態での生斗では10分と持たずにやられているでしょう。しかし、彼は今、とてつもない力を有している。

 その事については、彼があれだけの力を周りに見せつけた瞬間、どうやって手に入れたのかを理解することが出来た。

 

 命を力の糧とする、諸刃の剣。

 

 今の生斗は己を犠牲にしてまで、他人である私達を守ろうとしている。

 なるべく隊員の犠牲を払わず、尚且つ標的が自分にいくように。

 

 そんなこと、もし出来たとしても、やろうとするものなどいるだろうか。

 確かに生斗は能力上、多少命を捨てても生きていられる体質だ。

 しかし命を力に変えるということは、それ相応の負担がかかる。

 依姫の神降ろしでさえ、かなりの負担がかかるのだ。命を削る行為はそれ以上にかかる。

 

 おそらく、彼は依姫からあの薬を貰い、服用している。

 でなければ痛みと力の暴走によりまともに動ける状態では無い筈だ。

 

 

『ふぎぃゃぁぁあ!?』

 

『ぶぐごっ!!』

 

 

 もし、私の調合したあの薬がなければ、あらゆる重要気管を傷つけられたり、血液循環の過剰による血管の破裂などが引き起こる可能性が極めて高い。そんなことが起こっていれば、十中八九無駄死にで終わっていただろう。

 それほどまでに命を削るという行為は危険なのだ。

 

 そんなリスクを犯してまで私達を守ろうとしている。

 思えばあの卒業試験の時にあった事件でも今回と同じような行動をとっていた。

 

 なにが彼を突き動かすのだろうか。

 もしかしたら、普段の生活では決してみれない彼の真の姿なのかもしれない。

 性分、と言えばいいのかしら。

 根っこから善人だと言うわけではないだろうが、その根の芯の部分はきっとそうなのだろう。

 

 リスクを犯してまで仲間を守りたい。そのリスクを省みない覚悟をする決心の早さ。そこには躊躇いという文字はない。

 そこが彼の真の良いところであり、弱点なのかもしれないわね。

 

 私は彼のその『自己犠牲』の精神は好きではない。

 もっと自分を大切にするべきなのだ。でなければ、後悔することになる。貴方だけでなく、その周りの者も。

 この事は今の状況でも言えることだ。

 彼に私達の国の負担を全て背負わせてしまった。それが彼が望んだことであっても、私達にとっては絶対にしてほしくなかったことだ。

 

 人は見知らぬ者に無関心だ。

 報道で誰かが死んだと聞かされても、身近な友人が骨折したと聞かされたとでは、後者の方が関心はいく。

 

 私もそれについては例外ではない。

 

 言っては悪いが、私は顔も知らない隊員よりも、生斗に生きていてほしい。

 それは決して口に出すことはないが、本心である。

 それほどまでに、彼は私の中での友人の位は高いのだ。

 顔も知らない一般兵とは価値として比べ物にならない。

 

 

 だからこそあのような行動はしてほしくない。

 

 もっと自分に甘えていいのに……貴方がそこまで頑張らなくても、なんとかなるのに。

 

 生斗の行動は国全体としては正しい。誉め称えるべき事だ。兵が民のために命を張るのは当たり前のことなのだから。

 

 私の今の考えがエゴであることは分かっている。

 生斗に助かって欲しいというのも、結局は私にとって不利益を及ぼすからだ。

 

 

 だから、彼があんな行動をとったことを責めることはしづらい。

 

 しかし、私は叱る。彼が()()に来たら全力で平手打ちをして、そして優しく抱擁をするのだ。

 

 命を粗末にしたことに咎め、無事に生還してくれた事を共に喜び合うのだ。

 

 

 そう、生斗がワープゲートを潜って来られれば、今の考えを実現させることが出来るのだ。

 

 

『あぶね!?』

 

『ちっ! さっさと死ね!』

 

「!?」ガタッ

 

 

 いけない、いきなり椅子から立とうとしたからバランスを崩してしまった。

 

 こんな恥ずかしい所、あまり人には見られたくないわね。

 幸いにも、今いるモニタールームには私しかいない(殆どの人が、外にある大型モニターに見いっている)ので見られることはなかったが。

 

 

「八意様が取り乱すなんて、珍しいですね……」

 

 

 ……見られていた。両手で顔を覆いたくなったわ。

 

 声のする方は確かこの部屋の入口の筈だ。自動ドアだから簡単には入られるけど、その開く音に気付かなかったなんてね……

 

 一体、私の失態を見た命知らずは何処の誰だろうか。

 そう思い、声源の主の方へと顔を向ける。

 

 

「……豊姫ね」

 

「!! ……八意様」

 

 

 ドアの入口に立っていたのは綿月大和総隊長の長女、綿月豊姫だった。

 この子とその妹、依姫には教育係としてたまに教授しているから関係的には親密だ。

 なので()()()をすることはしないでおくことにする。

 でも豊姫、何故私の顔を見て驚いているのかしら?

 

 

「少し、嫉妬してしまいます。生斗さんがそんなに八意様に思われているなんて……」

 

「何が言いたいの?」

 

「ご自分のお顔を見られれば分かると思いますよ」

 

「?」

 

 

 私の顔で何が分かるのかしら。

 豊姫が何を言いたいのかいまいちわからなかった私は、手で頬を擦ってみる。

 

 ん……何か冷たい感触が。これは……水? そしてその水が流れている発生源は……眼。

 

 ……ああ、そう言うことね。豊姫の言っていることを理解できたわ。

 

 

「この事は誰にも言わないでちょうだい。勿論、生斗にも」

 

「ええ、分かってます」

 

 

 ふう、まさかこんな姿まで見せてしまうとは……それほどまでに私も冷静ではないのかもしれない。

 

 

「それよりも豊姫、私に何か用かしら?」

 

「はい、八意様。実は____」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   「『輝夜姫』が、行方不明?」

 

 

 



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25話 おれの予想は少し外れていたようだ

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 あれからどれぐらいの時間が経ったか。

 

 

「んぎぃいやぁぁ!?」

 

 

 大半の妖怪らを障壁に閉じ込めてから、奴らの断末魔を何百、何千と聞いているような気がする。

 いや、実際聞いてるんだろうな。

 聞きすぎて耳にタコができた。

 奴らにはおれが悪魔のように見えているだろう。服も妖怪らの返り血とおれの血によって赤や緑と、気色の悪い色をしているし、匂いもかなりキツい。

 まあ、おれの鼻がおかしくなったのか、臭いとはあまり感じないが。

 

 

「ば、化物め……」 

 

 

 化物に化物と言われてはおれもおしまいだな。

 

 霊力については、実はというと何度も枯渇している。その度に巨大障壁から少しずつ霊力を回収して戦っていたが、それもそろそろ限界だ。

 これ以上、妖怪らを閉じ込めている障壁から霊力を取ると妖怪らに壊される恐れがある。

 今が奴らに壊されないギリギリのライン。後は今ある霊力で、まだまだいる妖怪さん方のお相手をしなければならない。

 

 薬のことに関してももう効果は切れてると思う。

 だが、おれの器には現状で溢れるほどの力はないので、身体に異常をきたしたりとかはしていない。

 まあ、巨大障壁を全部回収したらまた身動きとれなくなると思うが。

 

 

「はぁ、はぁ、くそっ……」

 

 

 一匹も壁内に入れないといいながら、実は既に結構壁内に侵入している。

 あいつらでいうところの抜け駆けって奴だ。

 おれを殺すのを諦め、足早に人間を食ったり拐ったりしようとした奴が少なからずいたのだ。

 そいつらは当然優先的に倒したが、取り逃しが無かったわけではない。

 

 国の方を見れば、煙が上がっていたりと被害が出ていることは確かだ。

 一般人に接触される前に兵が倒していればいいが……

 

 

「はぁ……ぐっ」

 

 

 自爆によって赤黒く変色し、感覚を失った左足から出てくる血が先程から尋常でないほど溢れてくる。

 やはり応急措置だけでは長期戦は難しかったか……

 

 流石にやばい。これ以上血が溢れたら出血多量で死ぬ。

 さっきから血が少ないからか頭が回らないってのに。

 

 

『熊口部隊長! 一般人の転送が完了致しました!

 後は兵である私達を残すのみです!』

 

「そうか……!!」

 

 

 血で濡れてもなお、機能を失っていなかった万能通信機から、待ち望んでいた報告がおれの胸ポケットから聞こえてきた。

 

 

『部隊をそちらへ派遣し、熊口部隊長の身柄を保護します。お疲れでしたでしょう。後少しですので頑張ってください!』

 

「保護?」

 

 

 保護、か。それは駄目だ。そんなことをしていたらまた遅くなる。一刻も早くここから脱出しなければならない。

 まだ壊されていないとはいえ、障壁が後どれぐらい持つのかなんてわからないのだから。

 

 

「保護はいい。それよりも早くお前らも月へ行け。そこにいる最後の奴はもう、自爆装置をセットしていて良いぞ」

 

『なっ!? そこまで無理をしなくても良いのですよ! もう部隊長は充分にご活躍なされました!』

 

「まだ終わっていないから言っている。もしここにきた部隊が妖怪共にやられでもしたらまた時間がかかってしまうだろ。

 これは命令だ。おれに構わず、月へ行け」

 

『うっ……本当にそれで宜しいのですか』

 

「勿論だ。いいからさっさと行け。自爆装置の設定、忘れるなよ」

 

『……わかりました。ご武運をーー』ピー

 

 

 よし、これで良い。後はおれが国の中心部にある転送装置に行けば全てが終わる。この傷だって永琳さんがいればなんとかなるだろう。

 

 

 後は潜るだけ。それでおれらの勝ちだ!

 

 

「悪いな。そういうことだから。おれ、行くわ」

 

「俺らが、そうさせると思うか?」

 

 

 全員には聞こえていなかっだろう。しかし、おれの近くにいた妖怪共はバッチリ聞いていたようで、おれを行かせまいと包囲網をつくる。

 

 

「……ちっ」

 

 

 こりゃ参った。おれの今の霊力じゃこれを抜けるのは骨が折れそうだ。

 このままじゃ制限時間内に間に合わない可能性がある。

 

 どうしようか……このままじゃまずい展開になりそうだな。

 

 そう考えていると突如、国を囲む壁の方から閃光が走った。

 

 

「なに!?」

 

 

 その閃光は包囲網を作っていた妖怪らを瞬く間に包み込み、そしてゆっくりと霧散していった。

 すると妖怪らは目的を失ったかのように辺りをキョロキョロしだし___

 

 

「お、おい!? 急に辺りが真っ白になったぞ!」

 

「何も見えねぇ!」

 

「どうなってやがんだ!!」

 

 

 どうやら今の光は妖怪共の視覚をおかしくするものだったらしい。

 こんなこと、一体誰が……

 

 

「生斗君。君って人は本当に人を頼ろうとしないのですね」

 

「ツクヨミ様!?」

 

 

 妖怪共の包囲網を潜り抜けてきたのは、淡い光を身体に纏わせ、神々しい雰囲気をかもちだしていたツクヨミ様だった。

 

 

「なんで僕がここに? ていう顔をしていますね。勿論、生斗君を救うためですよ」

 

「なっ! そんなことのためにツクヨミ様がこんなところに!?」

 

「こんなことって……これでも大変だったんですよ? 少しでもと月から自分の力を持ってきたのですから」

 

「な、なんでツクヨミ様がそんな真似を……貴方は神なんですよ? おれ達のトップであり、月を統べるお方だ。そんな尊い方がおれなんかのために力を使うなんてするべきじゃない」

 

「君も、僕の存在をやっと理解してきたようですね。

 しかし、この場は退けませんね」

 

「……なんでです?」

 

「友人の危機を救うのは、友人として当たり前の事でしょう?」

 

「!!」

 

 

 つ、ツクヨミ、様……

 

 

「で、でも……」

 

「それは生斗君もしてきたことでしょう。僕達のためにそこまで命を張ってくれている。そんなにまで頑張ってくれている友人に手を差し伸べないで、誰が友人と名乗れようものか。

 それに今は位なんて関係ないです。地球にある撮影用のカメラは今の閃光で全て破壊しました。これから行われることは、月にいる皆には分からない」

 

 

 ツクヨミ様……おれのこと、友人と思ってくれていたんですね。

 

 

「さあ、僕の言葉に甘えなさい」

 

「いいえ、甘えませ……」

 

「因みに、君が断れば、僕と君の友情に傷がつくことになりますが」

 

「うぐっ」 

 

 

 そ、それはずるいでしょ。

 

 

「さあ、早く行きなさい。この妖怪らの目が回復しないうちに」

 

「ツクヨミ様……本当に良いんですか」

 

「さっきから良いと言っているんです。そもそも僕も、力の一部はこの地球に残しておこうとしていたんです。ここは、君達人間に出会えた運命の場所なのだから。

 だから、こうして役に立てていることは逆に僕にとって喜ばしいことなんですよ」

 

 

  …………。

 

 

「ツクヨミ様、ありがとうございます」

 

「ふふ、礼なら後です。()()

 

「はい、ツクヨミ様」

 

 

 実際は納得していない。だが、ここはツクヨミ様に甘えることにしよう。

 あ、でもその前に。

 

 

「あのすいません。最後に厚い抱擁を交わしても良いですか?」

 

「いや、それは本当に止めてください」

 

「ほら、良いじゃないですか。これも友情の一つと捉えて」

 

「君の今の姿を見てから言いなさい!」

 

 

 あ、そういえば今血だらけだったな。感覚がおかしいのか完全に忘れていた。

 

 

「まったく、こんな戦場で少しはましになったのかと思っていましたが……元は全くと言っていいほど変わっていませんね」

 

「へへ、こんな状況だからこそ自分らしくなくちゃですからね」

 

 

 これは何気に大切なことだ。殺戮を繰り返せば普通の奴は気が狂う。それが人を食う化物であっても、だ。奴らだっておれ達と同じで話すし、食事もするし、家族だっている。

 はっきりいってほぼ人間と変わらない。種が違うだけであってな。

 

 そんな奴らを千を越える数を殺ってきているんだ。

 おれだって何度断末魔をあげる妖怪に許しをこいたことか。

 全てこの国のためにと、そう自分を言い聞かせてやっていなくちゃ、今頃罪の意識で戦闘不能になっていただろう。

 

 それでもおれの心は沈みきっていた。

 これが当然のことではあるんだけどな。どんなに大義名分を掲げていようと、おれのしていることは大量殺戮だ。

 どちらかと言うと、おれは少し異常なのかもしれないな。心が沈む程度で済んでいるんだから。人によっては反乱狂になってもおかしくないというのに。

 

 その沈みきった心を照らし出してくれたのが、今現れたツクヨミ様の存在だ。

 ツクヨミ様がおれのことを友人といってくれなかったら、未だにおれの心は海底の奥底に沈みきっていただろう。

 

 それでわかった。自分らしくなければと。

 心が沈んでいたって今の状況がなんとかなるわけではない。

 罪の意識に囚われていてはいつも通りの思考なんてできやしない。

 それらがなんだ。自分で決めた結果なのだ。自分が決めたことで鬱になっていては意味がない。自分で決めたことは責任を持つ、それを実行するには自分らしくするのが一番だ。

 自分らしくあれば鬱なんて吹き飛ばすことが出来る。

 

 これがこの戦いの中でおれが学んだことだ。

 それを気付けるきっかけを作ってくれたのはツクヨミ様のおかげだけどな。

 

 

「生斗、そろそろ」

 

「はい、ここでは一時のお別れとなりますが……」

 

「ええ、そうですね。まあでも、本体の僕は現在月にいますので、またそこで」

 

「はい、楽しみにしています。それでは、また月で」

 

 

 ここにいるツクヨミ様は月にいるツクヨミ様の分身(わけみ)だ。先の話からすると、その分身のツクヨミ様はこの国に留まるつもりなのだろう。この地は国の人達とツクヨミ様が出会った思い出の場所だから。

 

 おれなんかのためだけにツクヨミ様が足止めを買ってでる訳がない。ついで程度だろう。

 

 分かっている。ツクヨミ様が本当に国の人達の事を愛していることに。

 

 だからそれを邪魔をするのは無粋だろう。ツクヨミ様はこの思い出の地を守るべく、これから戦うのだから。

 

 

 そう判断したおれは、最後にツクヨミ様の背後を見た後、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて」

 

 

 生斗をワープゲートに行かせ、僕がここにいる妖怪の相手をすることができました。

 

 

 

    パキッパキッ

 

 

 ヒビの入った結界の中にいる有象無象の妖怪らの大量発生は、僕に落ち度がある。

 この数を相手にするのも、また自分のした事による代償と受け取ることにしましょう。

 

 

 妖怪とは、人間の想像を具現化した存在。その想像は喜であり、恨であり、怒であったりと、様々存在しており、それに生物の穢れが混ざりあい、妖怪が発生する。それは1つの例であり、他にも人が妖怪になったりと色々な方法で妖怪は発生するが、僕の今言った方法で一番、妖怪は発生していると思います。

 

 

 何故その話を今しているのかと言うと、それはとても大事な事だからです。

 妖怪は人の想像と穢れによって生み出される。

 例えどんなに人が想像しても、人一人の穢れはそれぞれ大小があり、想像に比べれば、あまり多い方ではない。

 しかし、その多くなかった穢れを大量に出されるという異変が起きました。

 その異変を起こしたのは他でもない、僕自信なのです。

 

 僕が月から地球へと降り、そこにいた人々の事を愛してしまいました。

 そんな彼らの寿命はとても短く、僕にとっては瞬きをするぐらいの時間で、彼らの寿命は尽きていきました。

 それが嫌だった僕は、寿命という概念を出来るだけ無くすために穢れを彼らから取り払いました。

 

 それが今回の結果です。

 穢れを無くしたことにより、長い間生きられるようになり、沢山の子を生み、人口はこれでもかというほど増えました。

 その子らの穢れも僕は一人残さず取り払いました。

 

 その結果が今回の妖怪の大量発生の原因を作ってしまいました。

 

 増えすぎた人口の穢れを取り払ったせいで、妖怪を生む元を生成してしまっていたのです。

 

 

 人口が増えれば想像も増え、そして穢れも増える。

 

 その想像が、妖怪を否定したものであれば、妖怪が増えることはないが、生まれながらに妖怪の存在を認知している彼らにとっては、それは無理な話でした。

 

 結果的には僕の行いは妖怪を増やすきっかけを作ってしまったのです。

 それでも、僕の力があればどうとでもなると高を括っていましたが……まさかこの状況で猛威を奮われるとは。

 

 

  バキッキッ!!!

 

 

 だからこそ、この妖怪の群勢を相手にするのはこの僕です。

 己の甘い考えが生んだ罪。それを拭うのは、余所者であった友人、生斗の責務ではない。

 

 

   バキバキバキバキバキバキッ!!!!!!  

 

 

 ついに生斗の結界も破壊されました。

 この数を相手取るのは中々面倒そうだ。

 

 しかし、これは試練。ここで逃げれば、一生悔やむ羽目になる。

 

 

 やる。生斗が無事、月へと行き、尚且つこの妖怪の群勢を時限爆弾で消し去れば、罪を償う事ができる。

 

 

「くそがあぁぁ!! あの糞カス! 見つけ出して八つ裂きにしてやる!」

 

「八つ裂きだけじゃ足りねぇ! 四肢を裂いて串刺しにしてやれ!」

 

 

 どうやら妖怪らは生斗にご立腹なようです。

 まあ、その怒りの矛を生斗にぶつけることは、もう叶わないのですがね。

 

 

 

「結界から出られて、解放された妖怪の皆さんに悲報です」

 

 

 僕の声は届いているのだろうか。いや、おそらく奴らの耳には届いていないでしょう。

 

 でも、まあいい。これから言うことは確定事項なのだから。聞いてようが聞いてなかろうが、関係ない。

 

 

 

 

 

 

 「ここにいる皆、一匹残らず抹殺します」

 

 

 そう言って僕は神力を解放した。

 

 

 




ここに少し解説を。
ツクヨミが自分に罪があると言ったことについてです。
ツクヨミの思っている罪は、妖怪を増やす行為をしてなお、それを対処しなかった事です。

その尻拭いを生斗や兵士にさせてしまったため、罪の意識が芽生えたという感じです。

だからこそ、その罪を少しでも償うために、ツクヨミはしんがりを買って出たのです。まあ、他にも色々な理由はありますが。恩返しとか。



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26話 命の優先順位はおれじゃない

 

 

 空は未だに闇に覆われていた。

 だが、先程までおれがいた戦場からは目を覆いたくなるほどの光が迸り、おれが暮らしていた国からは所々が火に覆われており、空よりも地上の方が照っている。

 

 空は闇で、後ろは光、前は火の海。

 うん、混沌の世界に投げ込まれたような気分だ。

 

 

 それにしてもこの国が、これほどまでに荒れ果てていたとは……

 

 おれが取り逃した妖怪の仕業にしては被害がでかすぎる。

 まさかおれの知らないところでも妖怪が入り込んでいたのか?

 

 

『熊口部隊長! 大変です!』

 

 

 改めて国の惨状を見て軽く落ち込み気味になっていると、またもや兵からの連絡が来た。

 

 今の声の様子だと……いい知らせではないだろうな。

 

 

「なんだ?」

 

 

 万能通信機を胸ポケットから取りだし、応答する。

 

 

『ツクヨミ様が! ツクヨミ様が行方不明になられました!』

 

「あー……」

 

 

 ツクヨミ様……皆に内緒で行ったのか……いや、言ったら確実に止められるだろうな。おれだって神様が妖怪の群勢に飛び込むとか言い出したら必死で止める。

 この場合、正直なことを言うべきか、言わぬべきか……いや、言わない方がいいな。この国の人達はツクヨミ様を崇拝している。もし正直に言って私達も行きます! とか言い出したら面倒だしな。

 

 

「いや、大丈夫だ。さっきツクヨミ様と会って、先に月に行くと言っていたぞ」

 

『ほ、本当ですか!?』

 

「ああ、本当だ……それよりお前ら、まだ月に行っていないのか?」

 

 そう言うと、通信機越しからでもわかるほどの安堵の息を兵が吐いたのがわかった。

 

 

『あ、あの、それについてですが……実は蓬莱山家の令嬢が、未だにこの国にいるとの情報が先程入りまして……』

 

「なに?」

 

 

 蓬莱山家の令嬢……確か永琳さんが教育係をしていた我儘娘のことか。下の名前は知らないが、どうしてそんな子がまだこの国に……

 この国の有力者は月移住の初日に転送されたはずだ。ならば我儘娘もその例に漏れないはず。

 

 

「何故蓬莱山家の令嬢がまだこの国にいる?」

 

「それが……家出、をしたそうで」

 

「は?」

 

 

 それから聞かされたのはこうだ。

 昨日、蓬莱山家では月移住の準備の最終確認を行っており、その間、屋敷中のどこも鍵をかけていなかったという。

 それで箱入り娘であったらしいその令嬢が、月に移住することを知ってか知らずか、これを機にと家を飛び出したそうだ。

 結果、捜索はされたが昨日だけでは見つけることは出来ず、次の日に連れてきてくれと蓬莱山家の当主が言い残し、先に月へと行ったが、その数時間後に妖怪の群勢が攻めてきたことにより、それどころではなくなり、先程まで忘れ去られていたようだ。

 そしておれが妖怪達の相手をしているときにその連絡が来て、いままで捜索をしていたとのこと。

 

 

『先程、令嬢を見つけたとの連絡が来ましたが、もう少し時間がかかるとのことです』

 

「まじかよ……」

 

 

 てことはまだ、転送装置の時限爆弾の時間はまだセットされていないということか。

 

 

『熊口部隊長は今どの辺りにいますか?』

 

「ああ、今さっき壁内に入ったからもう少しかかるぞ」

 

 

 全快の時は空を飛んで2分足らずで国の中心までいけたが、今は全快とは程遠い状態だ。霊力もほぼ素の状態と大差ない量だし、左足駄目になってるし、所々妖怪によって与えられた切り傷やらが痛いし、なにより血が出すぎている。

 

 この状態だと5分かかるかかからないかぐらいだろうな。

 結構危ない状態だ。

 ここで大妖怪にでも出くわしたら、もう死を覚悟するしかないな。

 

 

『わかりました。それでは___あれ?』

 

 

 何か兵が言おうとしたが、何かに気をとられたようで、急に黙りこんでしまった。

 

 

「どうした?」

 

『ーーー、~ー!?』

 

 

 何事かと、おれが応答を求めた瞬間、通信機から声にならないような声が聞こえてきて、その後、何かが落ちるような音がした。

 

 …………どうなってんだ? まさか妖怪の襲撃を受けたのか?

 

 

「おい! 返事をしろ! 今何が起きたんだ?!」

 

 

 もし本当に妖怪に襲撃されていたとしたら大変だぞ。

 転送装置に妖怪が潜りでもしたら、月に妖怪を入れてしまうことになる。

 

 

『う、うおおぉぉぉ!!』ババババッ

 

 

 通信機から送られてくる発砲音。

 ……銃を撃ってるって事はやはり、転送装置の前で戦闘が行われているということか。

 

 これは急がないと本当にまずいぞ。これまでの苦労が報われなくなる。

 

 

『ガチャグキッ!! …ピーーー』

 

 

 そして、ついに通信が途絶えてしまった。

 

 

「くっ!」

 

 

 これは、非常にまずい事態になった。

 

 そう判断したおれは、今出せる全速力で、空を滑空する。

 

 くそっ! 思っていたより速度がでない!

 

 

 

   ダッダッダッ

 

 

「あ?」

 

 

 あまり速く飛べないことに苛立ちを感じていると、地上の方から複数の足音が聞こえてきた。

 もしかしたら妖怪が地上で走り回っているかもしれないと思ったおれは臨戦態勢に入った状態で下を見てみる。

 すると______

 

 

「はぁ! はぁ!」

 

「うわあぁぁん!」

 

「待ちやがれ! このくそアマが!」

 

 

 隊服を着た女兵士が小さな女の子を抱えながら妖怪から逃げている姿が目に映った。

 女兵士は子供を抱えているからか、あまり速くなく、今にも妖怪に捕まりそうな勢いだ。このまま放っておけば確実に捕まり、そして食われるだろう。

 

 

 …………時間がないが行くしかないだろ、これ。

 

 

 放って置くなんて選択肢、おれには出来ない。

 

 

 

「ふん!」

 

「ぐぎぃやぁ!?」

 

 

 そのまま飛行していては間に合わないと踏んだおれは、地球の重力に任せ、そのまま妖怪の目の前まで落ちていくことにした。

 

 その自由落下はかなり速く、瞬く間に妖怪の側まで来ることができた。

 そしておれはそのまま、落ちる最中に生成した霊力剣を両手に持ち、妖怪の頭部から股下まで一気に斬りつけた。

 すると斬りつけられた妖怪は無惨に真っ二つに避け、その場で倒れ伏す。

 

 

「きゃ、きゃああ!?」

 

「あ、う……」

 

 

 その光景を見た女兵士は絶叫し、女の子はあまりの酷さに気を失っていた。

 

 

「大丈夫か?」

 

「い、いや! 来ないで!」

 

 その場で尻餅をついた女兵士に手を差し伸べると、女兵士はそれを拒絶。おれを殺人鬼を見るような目で見てきた。

 

 な、なんでだ。折角時間を割いて助けたのに……

 

 あ、そういえば今のおれの姿…………妖怪とおれの血で服が赤黒かったり、緑っぽくなっていて、とてもグロテスクな状態だったな。

 そりゃビビるわな。

 

 

「おい、おれを殺人鬼だとか妖怪だと勘違いとかは止めてくれよ。おれは立派なこの国の住人だ。ほら、このグラサン、見覚えないか?」

 

「あ、いや……」

 

 

 声を掛けても、女兵士はかなり怯えていて、こちらを見ようともしない。ずっと女の子を強く抱き締めながらうずくまっている。

 よく観察してみれば、女兵士の服もボロボロで、穴もちらほら空いており、その隙間からは肌から血が垂れている。

 おそらく、さっきまでこの女の子を必死に守っていたのだろう。   

 その頑張っていたという証拠に、女の子には目立った傷は見当たらない。ていうかこの子、やけに豪華な着物を着てるな……

 

 ……ん? 豪華な? 

 

 ……もしかしてこの子、さっき連絡を受けたときに聞いた蓬莱山の令嬢か?

 それなら、住人の避難が完了したと報告されていたのに、未だにこの地に一般人がいるのにも納得がいく。

 

 よし、今のおれの予想が当たっているかどうか確かめてやる。

 

 

「うぅ、なんで私がこんな目に……あの部隊長はなにやってるのよ……」ブツブツ

 

「おい、そこの女兵士。お前にはまだ役目があるんじゃないのか?」

 

「そもそもこの子が……え?」

 

「お前が今抱えている子、蓬莱山家の令嬢だろ? その子をお前が無事、ワープゲートに潜らせるのがお前の役目の筈だ。こんなところでうずくまっている場合じゃないだろ。」

 

「え、あ……はい」

 

 

 よし、ちゃんとおれの話を聞いてくれたな。

 ふう、一早く気付けてよかった。もし蓬莱山家の事が頭に入っていなかったら未だに話を聞いてもらえなかっただろうな。

 

 

「それじゃあ行くぞ。こんなところで立ち止まっている暇はない」

 

 

 この女兵士は動けない訳じゃない。それなら別に手伝う必要もないだろう。逆におれの方が歩くのを手伝って欲しいくらいだ。まあ、飛ぶから別にいいが。

 

 

「あ、あの、貴方は……?」

 

 

 おれが行こうとすると、後ろで女兵士がそう尋ねてきた。

 ふむ、こいつはおれの事を知らないのか。まあいい。

 

 

「お前がさっき愚痴っていた部隊長だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 ~転送装置付近(国中心部)~

 

 

 漸く目的地に到着したが、その場の光景は前に見たこの場所とかなり異なる光景に成り果てていた。

 

 兵士の殆どは地に伏せ、息絶えている。首が無い者、身体中が意味のわからない方向に折れ曲がっている者、顔の原型が分からないほど破損が酷い者、もはや人の形をしていない者。

 

 沢山の死体が転送装置の前にある広場に広がっていた。

 

 

「うえ、おげ、うっぷ……」

 

 

 それを見た女兵士は吐き気を訴え、顔を地面に伏せる。

 

 

「お前はここにいろ。おれがなんとかする」

 

 

 なんとかする。そう、まだこの悲劇は終わっていないのだ。

 広場に、1つだけ、人影があったのだ。そいつはこの血が溢れまくっている所で血を一切浴びた様子もなく、凶器であろう指だけが血に濡れていた。

 

 人とは異なる尖った耳、髪は短髪で紫色、額には立派な一本角が生えている。体つきは綿月隊長とまではいかないがかなりゴツく、身長は二メートルを優に越している。

 

 おれはこいつを見たことがある。

 あのとき、妖怪共に逃げる猶予を与えたとき、妖怪共に演説をかまし、焚き付けた大妖怪、鬼だ。

 

 あれからあいつがいつくるかと危惧していたが、一向に現れなかったから忘れかけていたが、まさかいつの間にか国の中に入っていたとは……

 

 

「よお、お前を待っていたぜ、殺人鬼」

 

「その言葉、ブーメランだぞ」

 

 

 彼方は此方に気づいているようで、死体を蹴り飛ばしてきながら話しかけてくる。

 その死体を優しく受け取って、地面にそっと置き、おれは応答する。

 

 

「どうだ? 同士をこんなにされた気持ちは」

 

「なんだ、仕返しか?」

 

「そんな所だ。だが、期待外れも良いところだな。お前の反応、淡白すぎる。もっと激昂しろよ、泣き叫べよ、俺を恨めよ」

 

「そうしてほしいのか?」

 

「お前は、薄情な奴だな。俺よりよっぽど鬼だぜ」

 

 

 薄情? 何を言ってる。おれは今、凄く怒っている。折角命を懸けて守った命を、こうも容易く奪われたんだ。

 数分前まで生きていた者達が、今はただの肉の塊と化しているんだ。

 この光景を見てなんとも思わない訳がない。

 このグロテスクな光景を見ても、女兵士のように吐き気など起きない。それよりも悲しみが込み上げてくる。

 そう、泣き叫びたくなるほどに。

 

 だが、一時の感情は大きな油断に繋がる。そんな隙を見せれば、この鬼は一瞬にしておれの命を奪い取っていくだろう。只でさえ、手負いのおれしか戦える奴がいない、つまり超劣勢なんだ。そんな隙、見せられるわけがない。

 

 だから今は我慢をする。怒りを、悲しみを、今はまだ出さない、出せない。

 

 

「さて、ある奴からの情報だが」

 

 

 いつでも戦闘が行えるよう、身構えていると鬼が口を開いた。

 

 

「このどでけぇ門。これで月に行けるらしいな」

 

「……」

 

 

 この鬼が転送装置の存在を知っていても驚かない。どうせあの副総監の奴がばらしてるんだろう。

 ったく、あの野郎はなんでこんなこと仕出かしたんだろうな(まだ副総監がやったと確定しているわけではないがたぶん犯人だろう)。

 

 

「この門壊したらお前、困るか?」

 

「その前にお前を殺すだろうな」

 

「つまりそれぐらい困るってことか」

 

 

 こいつの質問の意図はこれでもかというくらい分かりやすい。

 おそらくこいつは、転送装置を壊すつもりだ。

 

 

「なあ、お前が質問したのならおれもしていいか?」

 

「答えると思うか?」

 

 

 だろうな。だが、これは聞いておかなければならない。

 

 

「この犯行は、お前一人でやったのか? それとも複数?」

 

「……!!」

 

 

 おれがそう質問すると、鬼は先程までの薄気味悪い笑みを止め、まるで鬼のような(実際鬼)形相でおれを睨み付けてきた。

 

 

「てめぇが俺の部下を皆殺しにしたんだろうが……!」

 

「ふぅん」

 

 

 わかった。それでか、こいつがこんな虐殺をしたのは。

 

 部下達の仇討ち。あいつが味わった苦しみをおれに味あわせるように。

 

 

 ……んまあ、今はそんなことに構っている場合ではない。

 こいつの発言が本当なら、こいつが一人でこの数を殺った事になる。

 つまり、まだ転送装置を妖怪は潜ってはいないということ。

 

 

「おーけー、わかった。それだけで充分だ」

 

「それじゃあ始めるか。俺とお前、どちらが生き残るか。俺の復讐はお前の死によって完遂する」

 

 

 復讐つってもお前が攻めてきたのが悪いと思うんだけどな。

 おれはただ返り討ちにしただけだ。

 

 

「何を始めるんだ……って、これは愚問か」

 

「そうだな。俺はもう待ちきれないぜ。お前の顔面を潰したくてウズウズしている」

 

 

 物騒な事を平然と口にするもんじゃないぞ。

 

 

「お前を……殺す!」

 

「……っ!」

 

 

 ついに始まったか。まあ、この事はあいつが待ち伏せしていた時点で予想はできていた。

 さて、この状況の場合、おれはどうすればいいだろうか。

 逃げても無駄、鬼の足から逃げきれるほどおれは速くないし、もし逃げたとしても令嬢と女兵士を見殺しにしてしまう。

 普通に戦っても無理、万全な状態ですら大妖怪に勝てないおれが、手負いの状態で勝てるわけがない。

 いっその事一か八か転送装置を潜るか? いや、それは論外だ。あいつがついてきて月に妖怪が侵入してきてしまう。

 

 正攻法じゃまず鬼という障害物を退かす事は出来ない。

 

 

「おらぁ!」

 

 

 そんな考えをしていると、鬼が血にまみれた手刀でおれの首元を狙って横振りに振ってくる。

 あまりの速さに若干驚きつつ、なんとか後ろに跳んで手刀を避ける。

 しかし鬼はそれだけに留まらず、追撃の殴打をかましてきたので、あらかじめ背中(鬼の死角)に生成しておいた爆散霊弾を殴ってきた拳にぶつける。

 

 そして爆散霊弾が鬼の左拳に着弾すると、おれと鬼を巻き込んで大爆発が発生した。

 

 

 

「ぐぐっ……ひ、左腕が」

 

 

 着弾地であった鬼の左腕は丸焦げとなり、皮膚が炭と化してボロボロと落ちていく。

 だが、それ以外に鬼に目立った外傷はない。爆心地の側にいたおれは霊力障壁で守ったにも関わらず、かなりダメージを受けたというのに……といっても、もはやどれぐらいの痛みだったのかなんてアドレナリンが大量に出まくっているおれにはよくわからないけどな。

 でもまあ、おれの身体中からプスプスと煙が上がっているから焦げているのは確かだな。 

 

 

「ちっ……捨て身かよ」

 

 

 それは仕方ない事だろ。地上戦ではこの足じゃ避ける手段が限られているからな。

 それなら空中戦で戦えばいいだろうということになるが、空中戦はそれはそれで縦横無尽に動き回られると厄介だ。

 相手が中妖怪程度なら多少厄介でも空中戦に持ち込んだが、大妖怪相手だとまず無理だろう。超速度で殴られまくって終わりだ。

 

 だから、それよりもましな地上戦を選んだ。

 あいつも空中戦に持ち込むつもりは無いようだし。

 

 それにおれが地上戦に持ち込んだのには他に理由がある。

 

 

「それじゃあ次は反撃の隙を与えず、一撃で仕留めてやる。お前が死んだ後、お前の血肉を貪りながら時限爆弾装置をセットしてやるよ」

 

 

 まじか。こいつ、時限爆弾のことも知っていたというのかよ。

 その場で低い姿勢になる鬼にまた質問したいことが出来たな。

 まあ、もうこいつは教えてくれるなんて事はしないだろう。

 

 

 

 さて、こいつは愚直にも突っ込んできてくれるようだ。

 足を痛めて、接近してもらわないと攻撃手段が殆ど無いおれにとっては喜ばしいことだ。

 

 いや、あいつも分かっててやっているんだろうな。本当は遠くからの遠距離攻撃の方が確実におれを殺せるってことは。

 だが、あえてあいつはそれをしない。

 自らの手で、おれを抹殺したいのだろう。その手におれの鮮血がつかないと気が済まないのかもな。

 まあ、これからお前の手につくのはおれの血ではなく、お前の血になるけどな。

 

 

「これで、最後だ!」

 

 

 鬼がおれとの距離が後数メートルとなったところで、指の方に妖力を込め、その妖力がブレードのような形に変形させた。

 

 ほう、これでおれを切り裂くつもりか。

 やっぱり速いな、大妖怪は。目で追うのがやっとだ。これはもう、使()()()()()()()()手遅れになる。

 

 

「……」

 

「んぎっ!?!」

 

 

 そしておれは残り2つあった命うち1つを使い、霊力を底上げした。これが奥の手だ。

 

 その底上げした霊力の半分を左腕に込め、これからおれの首に向かってくるであろう首元の前にやり、鬼の手刀を防御し、残り半分の霊力を右腕に込め、鬼の鳩尾を思いっきり殴り付けた。

 殴られた鬼は盛大に吹き飛び、転送装置の横にあった壁に轟音をたてながら激突した。

 ふう、なんとか上手くいったな。

 殴り付けた反動か、腕に一気に霊力を集中させ過ぎたかで、おれの腕は鬼を殴り飛ばした瞬間に血飛沫を上げているが、まあ予想は出来ていた。

 

 これがおれの最初で最後の渾身の一撃だ。

 これであの鬼が死ななければおれの負け、大人しく死を受け入れよう。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 しかし吹き飛んだ鬼は倒れたまま沈黙を貫いている。

 よし、そのまま動くな。できれば永遠に。

 

 

「……」

 

 

 勝った。中々の代償を払う羽目になったが、それも時間が経てばいずれ元に戻る。

 そのためにも早く転送装置まで向かわなければ______

 

 

 

      ボトッ

 

 

 と、おれが動かぬ鬼から踵を返し女兵士と女の子がいる所へと向かおうとした時、何かが落ちる音がした。

 

 

 ん? 今、何が落ちた? おれの足元から聞こえてきたが……

 通信機は胸ポケットの中にある。

 それ以外には特になに持ってなかったんだが……

 

 なんとなくで気になったおれは、おれの足元に落ちたであろう“なにか″を見るために足元に目線をやる。

 

 

 そしておれはすぐに視線を元に戻した。

 

 

「(おい、まじか。あいつの手刀を防御したときか? あのとき、一生分の寿命の半分を込めたのに?)」

 

 

 信じられない。そう頭の中で考えたところで、真実が、地面に落ちている“モノ″が物語っている。

 

 

 

 

 地面に落ちていたのは、何処でも見かけられるような、筋肉質の、細いが少しゴツゴツとした腕。

 だが、その腕には見覚えがある。

 それもそのはず。生まれてこの方、肌身離れずあったものなのだから。

 

 そう、おれの足元に落ちていたのは、紛れもなくおれの左腕だ。

 

 おそらく奴の手刀を防御したとき、ギリギリで腕の皮一枚のところで防ぐことに成功し、踵を返したときに動いたせいでその皮も切れ、落ちたって所だろう。

 

 ……って、なんで自分の腕を切られたってのにおれはそんな考察をしているんだ? 普通あまりのショックと痛みに泣き叫ぶだろうに……もしかしたらおれの感覚が麻痺してるのかもな。身体的にも、精神的にも。

 現に腕から切断されたことよりも、切断された腕から出る血をどう止血しようかの方が問題視しているし。

 

 

「クク……ククククっ……」

 

 

 そんなおれを嘲笑うような声が奥の方から聞こえる。

 この声の方向はまさか……

 

 

「相討ちって……所か? いや、俺の方が……ごぶぼぉぉぉ!?」

 

 

 まさか、まだ生きてやがったのか……

 転送装置の方から聞こえてくるのは、血反吐を吐きながらもなお笑みを止めない鬼だった。

 

 

「はぁ……はぁ……ありがとよ、化物。お前のこの一撃のお陰で覚悟ができた」

 

「……なにが言いたい」

 

「そもそも、仲間が死んだっていうのに俺だけ生き残るって発想が違っていたんだ」

 

 

 いや、だから何が言いたいんだよ……

 

 

「俺はもうこの場から一歩も動けねぇ。情けねぇな、群れの王が壁にめり込んだ状態から動けねぇなんて」

 

 

 お前だったのか、あの群勢のボスって。

 

 

「このままじゃお前に殺されてしまうだけだ」

 

「……そうだな」

 

 

 本当はおれももうあいつに決定打を与えられるほど力は残ってないんだけどな。

 

 

「お前が死ななければ、あっちにいった同士が報われねぇ。ならば俺の命を賭してでもお前を殺すのが筋ってもんじゃないか?」

 

「いいや、まったく。死んでいった仲間のためにもなんとしてでも生きてやれよ」

 

「いんや、それはもう無理だ。もう覚悟を決めちまったからな」

 

 

 ……まさかこいつ。

 

 

「なんだかな。同士の仇っていうのに、お前と俺、なんだか似てんだよな」

 

「どこがだ?」

 

「お前、ここの連中のためにそこまでボロボロになりながらも戦っているだろ。こんなことしてもお前自身にはなんにもメリットはないってのに」

 

「そう決めつけるのは少し早計な判断なんじゃないか? もしかしたらおれが殺すことに快感を覚えているシリアルキラーかもしれないぞ」

 

「見え透いた嘘をつく。お前、俺の同士を殺るとき、楽しそうな顔なんて一度もしていなかったぞ。どちらかというと罪から逃れようと懇願するような顔だった」

 

「どんな顔だよ、それ……」

 

 

 罪、か。確かに感じているのかもな。

 

 

「さて、軽口はこのぐらいだ。いい加減、お前を殺したい」

 

「ふぅん、どうやってだ?」

 

 

 あいつは見たところ、動けるような状態じゃない。ーーそれはおれにも言えたことだが。

 そんな奴がおれにどうやって止めを刺そうというのか。

 

 いや、予想はついている。おれとしては絶対にしてほしくないこと。

 だが、おれとあいつが逆の立場だったら、絶対にしているであろうこと。

 もしあいつの言った、おれとあいつが似ているというのが当たっているのなら、おそらくやってくる。

 

 

 

「これから俺は……己を核にして爆発する」

 

 

 

 やっぱりな……ここで自爆をすれば近くにある転送装置も無事では済まないし、その近くにいるおれも、そして瓦礫の隅で隠れているあの二人も当然巻き込まれる。

 そうなれば、一貫の終わり。あいつの復讐は成功に終わる。

 

 それはさせない。やらせるわけにはいかない。なんとしてでも月に行くんだ。

 

 

「させると思うか?」

 

「やるさ、もう準備は出来てる」

 

「……まさか! このお喋りは自爆の準備の時間稼ぎだったっていうのか」

 

「気付くのがおせぇんだよ」

 

 

 なんてこった……ただの脳筋野郎と思っていたのに一杯食わされた。

 くそ、あわよくばそのままなにもしてこないでもらおうとおもっていたおれが甘かった。

 

 どうすればいい? おそらく奴はおれが妙な動きをした瞬間、自爆するだろう。

 命を代償にした力は絶大だ。その事は身に染みて感じている。

 それを一度の、一瞬の爆発に使ってみろ。この辺りは更地と化すだろう。しかもその自爆による衝撃で、国の中心部にある時限爆弾(核爆弾)が誘発される可能性だってある。そんなことになれば助かる見込みはさらに絶望的になる。

 

 だが、奴の自爆を止める手だてを、おれは持っていない。

 

 

「熊口部隊長!」

 

 

 と、どうすれば突破口を作ることが出来るか脳内の知識を総動員させて考えていると、女兵士がおれを呼ぶ声が聞こえてきた。

 お、あいつ、おれの事やっと分かったのか。

 

 ん? ていうか声がどんどん近づいてくるぞ。

 

 

「……っておい! こっちに来るな!?」

 

 

 振り返ってみると、そこには此方まで近づいてくる女兵士の姿があった。背中に女の子を乗せて。

 

 

「ほう、連れがいたのか。」

 

 

 そしてあいつは女兵士達の事気づいていなかったのかよ……

 

 

「熊口部隊長、今です! あいつが動けないうちにワープゲートまで行きましょう!」

 

「馬鹿か! おれらの話を聞いてなかったのかよ!?」

 

「え、っと、すいません。遠かったのでよく聞こえてなくて……」

 

 

 やばい、妙な動きをすればあいつが自爆を____

 そう危惧したおれは恐る恐る鬼の方へと顔を向ける。すると……

 

 

「いいぜ、そこの女二人はワープゲートに通してやってもいい」

 

「!?」

 

 

 予想外な返答が返ってきた。

 

 ま、まじかよ。情けをかけてくれるのか? 仲間の仇に?

 

 

「ほ、ほんとか? それなら__」

 

 

 いや、待て。本当にあいつがこいつらを見逃してくれるという確証はあるのか?

 あの鬼はおれを恨んでいる。本当は口も聞きたくないだろうに時間を稼ぐためだけにその相手と話したりもしている。

 

 もしかしたら、見逃して殺るといいつつも、いざ転送装置に潜らせようとした瞬間に自爆するという可能性は充分にある。

 その方が、よりおれに絶望感を味あわせることが出来るからな。

 上げて落とす。単純だが人の心を折るにはかなり有効的な手段だ。

 

 

「おい、お前」

 

「な、なんでしょうか?」

 

 

 兎に角、あいつの言うことは信用できない。ていうか信用してはいけないんだ。

 

 

「月に行ってさ。おれの友人に会ったら伝えておいてくれないか? 『少し遅れる』って」

 

「なっ!? それはどういう事ですか! まさかあの妖怪の言葉を信じるんじゃ……」

 

 

 こいつは本当に的はずれなことばかりを考えるな。

 まあ、そう考えられても仕方ない言い方だけど。あいつに感づかれ無いようにすることができて、おれの友人らに送るメッセージを送れる言い方だと、これぐらいしか思い付かない。

 

 

「いいから黙っておれの話を聞け」

 

「でも!」

 

「命令だ。黙れ」

 

「……ぐぅ」

 

 

 今女兵士に構っている暇はない。

 一刻も早くこの二人を月に行かせる。おれに出来るのはこれぐらいだ。

 二人がおれの所へと来てくれたのは幸運だった。来てくれたおかげで、なんとか全滅せずに済むのだから。

 

 まあ、もうおれが死ぬことは確定したんだけどな。この状況で助かる方法なんて、おれの足りない脳じゃこの二人しか助からない。

 

 

「この事件の発端は副総監の秘書だ。そして副総監が黒幕である可能性が高い。このことを月に行ったら報告してくれ」

 

「え?! 副総監がですか!?」

 

「しっ、声が大きい」

 

 

 今はあの鬼に刺激するようなことをしてはいけない。

 奴は今やいつ爆発してもおかしくない爆弾なんだから。

 

 

「ん、うぅ……」

 

 

 おっと、女兵士の大声で女の子が起きてしまったようだ。

 

 

 

「ひ、ひっ!?」

 

 

 そしておれを見てまた気を失いかけたようだ。

 まあ、起きたら目の前に片腕を失ったボロボロの成人男性がいたなんてトラウマものだろうな。

 

 

「丁度良かった。お嬢さん」

 

「うっ……」

 

「お、お嬢様……この方は味方です」

 

 

 丁度話しておきたいことがあったので女兵士におぶされている女の子に話しかけて見ると、やはりというべきか、顔を女兵士の背中に埋めて身を隠し、拒絶の意思表示をしてくる。

 

 ふむ、なんかちょっと心が傷ついたが先程までの出来事で元々ボロボロになってるから結構平気でいられるな。

 まあいい、このまま話しかけるとしよう。

 

 

「お嬢さん、家出したんだってな」

 

「……」

 

 

 女の子は身を隠したまま動じない。だが、構わず続ける。

 

 

「お父さんとお母さんに迷惑はあまりかけるもんじゃないぞ」

 

「……うるさい……」

 

 

 お、一応おれの話は聞いてたようだ。でも説教だと勘違いしたのか若干低い声で返答してきたな。

 まあ、おれはただ説教をしたいからこんな時間を割いてるわけじゃない。

 

 

「箱入り娘なんだってな。これまで外に出たことがないって本当か?」

 

「……」

 

「そりゃ嫌だろうな。おれだって家出するかもしれない」

 

「……!」

 

 

 自分のやったことに賛同してくれた事が嬉しかったのか、女の子は少しだけ顔を覗かせてきた。が、やはりおれの格好があまりにも酷いのかすぐにまた顔を隠してしまう。

 

 

「だけど、君のまわりにだって頼れる人がいるじゃないか。ほら、いただろ? 教育係の永琳って人」

 

「……うん」

 

「あの人はちゃんとお嬢さんを見てくれてる。たまにおれ、あの人と会ってるけど、その度にお嬢さんの話を聞くぞ」

 

 

 殆どが無茶ぶりな我儘による愚痴だったが。

 

 

「ストレス解消のための我儘ばかりをするのではなく、たまには他の我儘をいってみな。たぶん、永琳さんなら叶えてくれる」

 

「え?」

 

「外に出てみたいんだろ? それぐらいの我儘なら、永琳さんなら融通を効かせて出かけさせてもらえるってことだよ」

 

 

 これからこの子は月に行く。それなら少しでも永琳さんの負担を軽減させる。それがおれの目的だ。

 

 

「だから、これからは今回のような家出とかはするなよ?」

 

「……うん、わかった」

 

 

 アドバイスをもらった女の子は、少しだけ恐怖の眼差しを解き、おれに顔を見せ、ぺこりと頭を下げる。

 ふむ、こんな純粋な子を見るとおれの傷ついた心が癒える感覚がする。事実、切羽詰まったこの状況にもかかわらず、おれは和やかな笑みを溢してしまっていた。

 

 

「それじゃあ、女兵士」

 

「(女兵士って私のこと?)は、はい」

 

 

 伝えることはもう伝えた。言い残すことは無いことはないが、あまりにも長くなりすぎるので無いにカウントする。

 

 

 

「これからお前らは、おれがあの鬼と話終えたらゆっくりと転送装置まで行け。おれの方は振り返るなよ。時間の無駄だからな。

 そして決してお嬢さんを離すな。何があってもな。」

 

「熊口、部隊長はどうなるんですか……?」

 

「さっきも言ったろ? 『少し遅れる』って。心配するな。後で必ず行く」

 

「ほ、本当ですね!! 熊口部隊長は今や英雄なのですから、生きてもらわねば困ります!」

 

「いや、独断行動やら職権乱用やらで処刑されそうなんだけどな」

 

「そ、そんなことにはなりませんよ! いや、皆がさせません!」

 

「まあ、そんなことよりもだ。とにかく、今おれが言った通りのことをしろ。お前はそれを実行していれば良いんだ」

 

 

 そろそろあの鬼も待つのも限界みたいで、笑みを浮かべながらも目は此方を睨み付けていた。

 

 

「わかった。お前のお言葉に甘えて逃がさせてもらおう」

 

「おう、やっとか。返事がおせぇんだよ」

 

 

 あの鬼にも聞こえるような声量で先程の返事をすると、あいつは満面の笑みで応答した。

 

 ……あいつ、絶対になにか企んでるな。わかってたけど。

 

 

「よし、行け。決して令嬢を離すなよ」コソッ

 

「はい」コソッ

 

 

 そして遂に女兵士が転送装置へと歩きだした。

 

 

 これで奴が仕掛けてくれば、おれがそれを止める。その名の通り命を懸けて。

 

 

 一歩、また一歩と転送装置に近づいていく女の子を背負った女兵士。

 途中、女の子が不安げな顔でおれを見てきたが、おれは彼女の顔をみないようにし、無視を決め込む。隙を見せるわけにはいかないからな。

 

 

 そして女兵士と転送装置の距離が残り半分になったところで、あいつが口を開いた。

 

 

「なあ、そういえば俺ってこう言ったよな?」

 

「……なんだ?」

 

「ワープゲートに通してやってもいいってな。だけどよ、俺は別に()()()とは言ってないぜ?」

 

「まさか!」

 

「その通りだ。自分の無力さを悔いながら死ね、殺人鬼!」

 

 

 そう言って鬼は自爆しようとした。

 

 

 

 

 

 しかし、鬼はそれを途中で止めた。

 

 

 それは何故か。答えは簡単だ。

 

 鬼が自爆しようとした瞬間、おれがその場で倒れ、先程までいた筈の女二人の姿が消えていたからだ。

 

 

「お、お前……何をした?」

 

「……」

 

 

 返事はしない。いや、出来ない。今のおれに顎と舌を動かせなんて10トンのおもりを空中から顔で受け止めろといってるようなもんだ。

 

 

 

 あいつが途中で自爆することは分かっていた。

 だからおれも覚悟を決めた。

 

 最後のストック、最後の命、それを代償にあの二人を一気に転送装置の所まで吹き飛ばした。

 

 勿論、吹き飛ばしたときに衝撃を和らげさせるようにあの二人におれの霊力を纏わせた。

 

 

 おかげでなんとか成功し、あの二人は転送装置を潜ることが出来た。

 

 そしておれの命は尽きた。

 身体はもう一ミリも動きはしないし、視界は掠れ、頭もぼーっとしてきた。

 息が出来なくなり、若干苦しいような気もしたが、すぐにそれすらも忘れるかのように消えていく。

 

 

「くそっ! お前、なんだその顔は!! 勝ち誇ったような顔をしやがって!」

 

 

 なんだよあいつ、まだ自爆しないのかよ……

 ほぼ死体と変わらないおれを見て怒鳴りつけてくるなんて。

 

 

「くそ、くそ、くそ! どうせ俺を苛つかせるようにわざとそんな演技をみせてるんだろ! ああもういい! お前のその存在ごと抹消してやる!」

 

 

 良かった。自爆してくれるんだな。危うく予定がずれる所だった。

 

 

 

 

 

 ああ、もう駄目だ。意識を刈り取られていってる。

 

 

 トオルは大丈夫として、小野塚は無事に月へ行けただろうか?

 依姫と豊姫さん、あとゴリラも無事なのだろうか? 

 

 永琳さんは初日に行ってたから大丈夫だろう。

 

 

 ああ、また永琳さんやツクヨミ様の家でのんびりしたかったなぁ……

 

 

 まあいいや。これはおれの望んだ結果だ。悔いはない。

 永琳さん、ツクヨミ様、綿月隊長、依姫、小野塚、トオル、豊姫、後部下達。

 

 これまでありがとう、楽しかった。最高の24年間だったよ。

 

 

 

 

 

 

 そして、おれのぼやけた視界が光に覆われたとき、おれの命は完全に消滅した。

 

 

 

 

 



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1章完了時点登場人物 

 

 熊口 生斗(くまぐち せいと)

 

 種族 人間

 性別 男

 能力 《生を増やす程度の能力》

 性格 マイペース、単純

 

 『概要』

 

 本編の主人公。しかし主人公とは思えないほどのグータラっぷり。いつもグラサンをかけている。

 実は一人でいることはあまり好きではなく、常に誰かと一緒にいる。

 そのこともあって1章では永琳やツクヨミの家に入り浸っていた。

 これだけを聞くとただの寂しがりやのマダオだが、1章の終わり辺りでは仲間思いな一面を見せたりする。大事に思っている仲間になら命を投げ出す覚悟がある。

 戦闘中のときのみ、頭の回転が速い。

 最後の最後で命のストックが尽き、絶命。

 

 

 

 

 『身に付けているもの』

 

 グラサン~まず神のせいでとれない。神力が込められている。しかし取れないといっても本人は気に入っているようで、文字通り肌身離さずにかけている。基本的に頭の方にかけているが、寝るときや泣くときは目の方にグラサンをもっていく。

 

 

 『能力について』

 

 <1章>

 

 5年ごとに命が増える。上限は10。

 上限が越えることは決してなく、達すると命は死んで減るまで増えることは無い。

 

 

 <2章から>

 

 20年ごとに命が増える。上限は10。

 一生は60年で寿命があり、寿命が来ると2日間仮死状態になる。しかし、寿命ではなく殺されたり、自殺して死んだ場合、2日間仮死状態になることはなく、すぐに生き返る(能力での自殺は不可)。

 

 寿命を削って得られる力は絶大。10年分の寿命を代償にすると元の力の10倍強くなる。

 

 

 『技』

 

 《霊力剣生成》~文字通り。霊力を形質変化させ、剣の形にしている。切れ味は霊力を込めれば込めるほど増す。常に光っている。

 

 《霊力障壁》~これも文字通り。霊力を形質変化させ、障壁にしている。壁は半透明で少しだけ光っている。

 

 《爆散霊弾》~生斗の力には似合わないほど威力を誇る霊弾。大妖怪に深傷を負わせるほどの破壊力がある。

 地面に着弾すると広範囲に砂煙等があがるので戦いの合間にワンクッション置きたいときなどに故意的に地面に撃つときがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 神

 

 種族 神様

 性別 ???

 能力 ???

 性格 好奇心旺盛

 

 

 『概要』

 

 主人公の生斗を転生させた張本人。転生の輪に入ろうとしていた主人公をてきとうに引っ張ってきて自分の暇潰しにと生き返らせた。

 

 生斗があまりにもグータラし過ぎて、なにもアクションを起こさないとき、決まって現れる(生斗の魂を自分の神域に連れてくる。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 八意 永琳

 

 

 生斗が転生されて初めにあった。冷静沈着で殆ど一人でなんでもできる。

 生斗を自分の家から出禁にしたりしている。

 しかし生斗のことはなんやかんやいって大切な家族だと思っていたりする。

 1章の終盤ではモニターで生斗が妖怪の群勢に一人で飛び込んでいって命を犠牲にしていることに驚きと怒り、そして悲しみを覚え、生斗が月に来たとき説教するつもりであった。

 

 

 

 

 月読見(ツクヨミ)

 

 種族 神様

 性別 男

 能力 ???

 性格 温厚

 

 

 月の神。天照大御神の弟であり、須佐之男命の兄。(だが、今出した二柱は今作品にはでない。)

 

 元々、月から降りてきたときに見かけた人間達(都の人々)から色々あって崇拝され、一時期地球で過ごすことになった。

 そして、その人々を愛すようになり、月へ連れていきたいと思うように。

 丁度人々も穢れによる寿命を無くしたいと思っていたので月移住計画を発案した。(発案はしたがその設計などには全く参加はしていない。あくまで人間達だけの力で月に行かさせるため。←なんにでも神に頼ってしまってはいずれ堕落すると考えたから。)

 

 生斗と初めて会ったとき、神力を纏っているグラサンに興味が湧いたので生斗の在住を認めたが、それのお陰で生斗から散々自分の趣味を邪魔されることとなり、うんざりしている。

 が、内心、毎週のように家へ来る生斗にたいして呆れながらも嬉しく思っていたりする。

 

 元々、誰にでも敬語を使い、あまり怒らない性格だが、生斗には結構キレる。

 

 本来の力は絶大で神の中でも最高クラスの力を持つ。月移住のときに力の殆どを月に還していたため、妖怪の群勢を相手取るには力不足となっていた。しかし、これまでの自らの怠慢によるつけが回ってきたと結論付け、しんがりを自ら買ってでた。

 

 

 

 

 綿月 依姫

 

 

 生斗の最初の友人。父のことが重荷となり一時期引きこもった事がある。

 武術の才に恵まれ、士官学校の編入試験から卒業試験までの全て総合成績1位をとっている。まだ能力を使いこなせていない。

 よく、嫌がる生斗と剣術での模擬戦をしており、戦績は50勝46負と勝ち越している。

 くすぐりのテクニシャン。

 

 

 

 

 

 綿月 豊姫

 

 

 生斗の部隊によくサボりにくる。部下からは生斗より慕われているんじゃないか?と思うぐらいに好かれている。

 今作品では少ししか出すことは無かったがそれなりに生斗と交流はある。

 まだ能力の存在に気づいていない。

 くすぐりのテクニシャン。

 

 

 

 

 

 綿月 大和

 

 種族 人間???

 性別 男

 能力 無し

 性格 単純 

 

 

 依姫、豊姫の親であり超人。筋肉が凄まじい。会うたびに生斗にありがた~い訓練を教示する。

 複数の大妖怪相手に単独で突っ込み、深傷を負ったが、命に別状はない。

 

 

 

 

 

 

 小野塚 歩

 

 種族 人間

 性別 男

 能力 《交換する程度の能力》

 性格 完璧主義

 

 

 いつも生斗と行動を共にしていた一人。

 編入してきた生斗に声を掛けようとトオルに提案したりもしている。

 責任感が強い。妖怪の群勢の時間稼ぎを生斗が任されたときに共に戦うといった。(結局自分の任務を放棄することが出来なかったため、手伝えなかったが)

 自らを敵の所有物と交換して奇襲をかけるのが得意。

 

 生斗が一人で妖怪の群勢と戦っていることを知り、自分も行こうと暴れだしたが、ツクヨミに気絶させられ、そのまま月へと送られた。

(ちなみに小野塚という名字はあの死神とはなにも関係ありません。)

 

 

 

 

 

 トオル

 

 種族 人間

 性別 男

 能力 《危険を察知する程度の能力》

 性格 臆病

 

 

 いつも生斗と行動を共にしていた一人。 

 重度の人見知りで生斗に慣れるまで中々の時間を要した。

 月移住の十日前に妖怪に襲われ、妖怪の群勢が攻めてくることを察知出来なかった。

 

 襲われてから意識不明の重体になったがなんとか生還する。

 目覚めたとき、すでに月にいたが、そこに生斗という存在が居なかったのを知り、落胆する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 小野塚 影女

 

 種族 人間

 性別 女

 能力 なし

 性格 我儘

 

 

 小野塚歩の妹。生斗とは顔を合わせる度に喧嘩をする。

 トオルの彼女でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 御崎 茂

 

 種族 人間

 性別 男

 能力 ??

 性格 大雑把

 

 

 生斗の部隊のエース。生斗のことを『熊さん』と言うぐらい親しく思っている。実は豊姫に恋心を抱いていた。

 妖怪の群勢に一人で突っ込んだ生斗に悲しさと尊敬の意を感じ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼(その1)

 

 

 大妖怪。戦闘狂。生斗を二撃で致命傷を与えた。

 触れるだけでその箇所を抉りとるほどの威力をもつ妖弾を持っているが、乱発はできない。

 鬼(その2)の友人だった。

 

 

 

 ◎○部隊長

 

 

 部隊長。依姫に代わって戦場の指揮を任されていた。生斗に指揮を代われと言われたとき、内心安堵していた。

 依姫と綿月大和隊長を月へと連れていった。

 

 

 

 △▽

 

 

 副総監の秘書。大妖怪らに月移住についての情報を漏らした。

 結果、今回のような戦争が起こった。

 情報を漏らした後、食われて絶命。

 

 

 

 副総監

 

 

 生斗や小野塚の睨んだ通り今回の戦争の黒幕。

 月へ移住するのは高位の者(初日に移住する者)だけで充分だと考え、2日目に妖怪が攻めてくるように仕向けた。

 結果、依姫と女兵士の証言により、色々と画策していたことが発覚し、地上へと島流しにされた。戻される予定はない。

 

 

 

 

 大妖怪四人衆

 

 

 各々が、一撃必殺の技を持っている。牛型の妖怪は頭突きのとき、角に塗りつけた猛毒を相手の体内に入れ、戦闘不能にし(綿月隊長はこれにやられた)、角妖怪Aは自らの身体を相手の体内に侵入させ、窒息させる。

『角妖怪Bとフード妖怪は後に登場する(かも)なので言及はしません。』

 

 

 

 

 女兵士

 

 

 蓬莱山家の令嬢の保護の任を受けた隊の一人。元は20人近くいたが、取り零しで入ってきた妖怪の襲撃により、一人まで減ってしまい、絶望しているところで令嬢を発見。令嬢を月まで送ることが仲間への弔いと思い、決して令嬢を見捨てなかった。

『裏話・本当は死んじゃう予定でした』

 

 

 

 蓬莱山家の令嬢

 

 

 輝夜。箱入り娘。月に行った後、親と永琳に大目玉を食らう。

 

 

 

 鬼(その2)

 

 

 妖怪の群勢の頭。妖怪達を生斗に向かわせたくせに、いざ妖怪達が返り討ちにあうと、生斗のせいにする責任転嫁野郎。

 生斗を絶望を与えた後に殺すことが目的でワープゲート付近にいた兵士らを皆殺しにする。

 結果、大半の兵士を失うことになる。

 待ち伏せをしているところで、やってきた生斗を見て、勝ちを確信していたが(ボロボロだったため)、隙を突かれ、内部組織の殆どを木っ端微塵になるほどの殴打を受け、再生不可の致命傷を負う。

 最後の足掻きで女兵士らを使って生斗を奈落の底に落とそうとしたが、それも失敗し自棄になって生斗を道連れに自爆した。

 結果的には生斗の思惑通りの結末となったが、復讐は果たせたと言っても過言ではない。

 

 

 



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2章 【諏訪子&神奈子さんとの交流】
第一話 其処には幼女がいた


今回は生斗君の能力の回と言っても過言ではありません。


 

 

「ん、ここは……?」

 

 目が覚めると、見覚えのある純和風な部屋にいた。

 あれ……おれ、命を使い果たして死んだんじゃなかったっけ?

 それにおれの身体……さっきまでの瀕死の身体とは売って変わって、五体満足で傷1つない。服装もあの血だらけの隊服ではなく、あの世界に行ったときに身に付けていたドテラ、黒T、ジーンズになっている。

 

 まさか……戻された?

 

 

「お、起きたか」

 

「あ、神」

 

 

 其処にいたのはこちらも見覚えのある顔と声、しわくちゃな顔で神様っぽい杖を持っていて、額と頭のとの境が分からないくらいハゲが進行している。

 

 

「今わしに対して失礼なこと考えていなかったか?」

 

「いや、全然…………ではないです」

 

「正直すぎるのも罪と言うことを自覚しなさい」

 

 

 どうせ、嘘ついてもばれるんでしょうよ、神なんだし。

 

 

「ともかく、どうじゃ? 皆を救った気分は」

 

「はぁ……全然優れませんよ」

 

「まあ、最後の最後で死んだしのう」

 

「……」

 

 

 おれが死んだことはどうでもいい。皆が無事なのかが心配で気分は優れてないんだ。

 

 

「自分のことよりも仲間の心配か。つくづく変わった奴じゃ」

 

「仲間の安否を心配するのは当然のことでしょう?」

 

「普通の人間は他者より己の身の方が可愛いものなのじゃよ」

 

「?」

 

「まあ、心配しなさんな。君の知り合いは全員無事じゃよ。皆君が月に来なかったことに悲しんでいたがの」

 

「……そうですか」

 

 

 そうか、皆無事だったのか……良かった。おれの死は無駄じゃなかったってことか。

 しかも皆、おれのことで悲しんでくれるなんて、嬉しい限りだ。

 ……あれ?前にも同じようなことが思ったような。

 

 

「んじゃ、この話は置いといて」

 

「おれとしちゃ、まだ聞きたいことが山ほどあるんですが……」

 

 

 転送装置は壊れたのかとか、時限爆弾はどうなったとか……

 

 

「まあ待ちなさい。その事も追々話すから。」

 

「はあ……」

 

 

 さっきからナチュラルに心読まれてるんだけど。なにこの神、おれにプライバシーの権利はないってか。いっそこのことため口で話してやろうかな。

 

 そう心の中で愚痴っていると神がゴホンと咳を鳴らしながら睨みつけてくる。

 あ、ため口はするな、ですか。はい、わかりました。

 

 

「……ごほん。取り敢えず、おめでとうといっておこう。君は試験に合格した」

 

「は?」

 

 

 試験? 合格?

 

 

「本当に君が転生するに相応しい人間なのかをの」

 

「それってどういう……」

 

「わかっとるじゃろ。あの戦況の中、君がどういう行動を取るかによって、これからの君の処遇は決まっていたんじゃ」

 

 

 処遇って……まさかあれ、試されていたのか?

 

 

「そうじゃ。もしあのとき、尻尾を巻いて君が月に逃げていたら、即座にここに肉体を戻して地獄に叩き落としていた。が、君はそれをしなかった。それどころか己の命が尽きるというのに、躊躇わず人を救うために使った。

 満点じゃ。花丸をやってもいいほどにな」

 

「は、はぁ……そりゃどうも」

 

「ただ、事故犠牲が過ぎるのは看過できん。もう少し己を大切にしなさい。少しぐらいなら利己的に動いても誰も文句はいいやせん」

 

 

 結構利己的に動いてたと思うんだけどな。

 

 

「因みに、もし君があの世界に転生しなかった場合の運命を説明すると、2日目以降あの国に滞在していた殆どの者が死んでおった。君がいつも心の中でゴリラと罵っていた者も含め、君の知人のほぼ全てがな。依姫とやらはどちらにしろ無事だったようじゃが」

 

「ま、まじですか」

 

 

 おれ、中々凄いことしてたんだな……あのときは国の皆を助けたいと思う一心だったからそんなこと考えてなかった……

 

 

「しかも君の仮定していた事の殆どは的中しておる。途中わし、君が予知者に目覚めたのかと思ったぐらいじゃ」

 

「あれ、それってつまり……」

 

「君の仮定つまり、あの戦争の黒幕、女の子が令嬢であること、そして大妖怪の自爆によって核爆弾の誘爆。全てその通りじゃ。ただ1つ、ツクヨミ様がどうしてしんがりを買ってでたのかについてのは外れていたがの」

 

「いやでもそれ、ちょっと考えればわかることでしょ?」

 

「まあ、確かにそうじゃが……あの場でそう冷静に考えられるのは相当なことじゃよ」

 

「……なんか、やけにおれの事褒めますね。何か裏があるじゃないですか?」

 

「いやいや、別にやましいことはない。純粋に凄いと思って言っておるんじゃ。わしでも普通、君のような行動、とれないからな」

 

「ふぅん」

 

 

 ……まあ、神がおれの機嫌を窺うような事する必要なんてないしな。

 

 

「あ、ああ、そういえばあと1つ、疑問に思ったことがあるんじゃが」

 

「なんですか?」

 

「何故、女兵士に皆へ『少し遅れる』なんて言えと言ったのじゃ? あのとき既に君、死ぬ覚悟が出来ていたじゃろ」

 

「あー、あれですね。あれは皆を悲しませたくないからです。1度前に自爆して死んだことがあるでしょ? あのときの依姫達の顔をもう、してほしくなかったんですよ。それにほら、おれ、命が複数あるってあいつら知ってるでしょ。だからもし月に行けなかったとしても生きてる可能性があるって思わせられるじゃないですか」

 

「……そうか」

 

 

 後、女兵士が食い下がってきそうだからってのもあったけどな。

 

 

「だが、実際君は死んでるがな。もしその事が発覚した場合、もっと悲しませる事になることは忘れないように」

 

「はい、わかってます」

 

 

 まあ、そうだよなぁ。悪いことをしてしまったかもしれない。

 

 そういえばおれ、このあとどうなるんだろうか。そしてここに呼ばれたのもよくわからない。ただおれを褒めるためだけにここに来させたんじゃあるまいし。

 

 

「まあ、余談はこのへんにして……花丸100点の君に、選択肢をあげよう。実際これが本題じゃ」

 

「選択肢?」

 

「君が今、気になっていたことじゃ___

 またあの世界に転生するか、それとも君のいた元の世界に帰るか。この選択肢をな。本当はこれ、特例なんじゃぞ? この選択肢、君が死んでいなかったらのものだったんじゃから」

 

「え……」

 

 

 元の世界……っておれが17年間暮らしていたあの世界か?

 

 

「あれ、ちょっと待ってください。元の世界って事は、神は満足したってことなんですか?」

 

 

 前にそう手紙で書いてあった。戻してくれるってことはつまりそういう言うことなんじゃないだろうか。

 

 

「いや? ちっとも」

 

「はい?」

 

「言ったじゃろ、これは試験だって。君が試験に合格した時点でこの選択肢は元からする予定だったんじゃよ。嘘ついてすまんかったの」

 

「あ、そっすか」

 

 

 そうか、そうなのか……元の世界に帰るか、それとも今の世界でまた生き返るか。

 

 

 いや、これ。迷う必要なんてあるのだろうか?

 

 

「今いる世界にまた転生させてください」

 

 

『少し遅れる』。本当はただの虚言だったが、それを事実にすることが出来るかもしれないんだ。

 その約束を守るためにも、おれはまたあの世界に行く。

 それにもう、元の世界よりこっちの方が長く生きてるしな。

 

 

「ほう、これはまた、予想通りの回答じゃの」

 

「そうでしょうね」

 

 

 神も分かりきっていたというような顔をして、にやりと口端を吊り上げた。

 

 

「……あいわかった! それではまた君をあの世界へと転生させよう! 次は今回のような特例はないから気を付けるんじゃぞ!」

 

「は、はい」

 

 

 そして神は満足そうな笑みをしながらおれをまた転生させてくれると宣言してくれた。

 よし、また永琳さんや皆と会えるぞ!

 

 

「よし、そうと決まったらペナルティを申し付けるとするかの!」

 

「はい?!」

 

 

 と、おれがあの世界に転生できることに喜んでいると神がそんな事を言ってきた。

 ぺ、ペナルティてなんで!?

 確かに罰則を与えられるような事はしたけど、さっきの雰囲気的にないでしょ、普通!

 

 

「勿論ペナルティはあるじゃろ。実際はもうそのままあの世に行くはずだった君の魂をまた呼び戻したんだから」

 

「くっ……」

 

 

 ……仕方ない。これは甘んじて受けるしかないな。折角救ってもらった命なんだ。少しぐらいの罰は受ける。

 ()()()()()はな。

 

 

「内容はというとな____能力の劣化じゃ!」

 

「却下で。他のをお願いします」

 

「君に拒否権なんぞない。甘んじて受けなさい」

 

 

 いや、だって能力の劣化て……これから生きていくなかでそれは中々キツい。せめてこれから何かしろとかのミッション的なやつが定石だろ。

 

 

「そんなもの、わしに通用するとは思わんことじゃ」

 

 

 また勝手に心を読んでんじゃないよ……

 

 

「では、劣化内容を説明しよう____」

 

 

 

 神の言った『生を増やす程度の能力』の劣化内容はこの3つだ。

 

 

 ・命の増える周期が5年から20年へ

 

 ・寿命ができる(60年)

 

 ・寿命がくると2日間仮死状態になる

 

 

 かなり劣化されました。せめてこの3つのうち1つにしてほしかった……

 

 

 

「神の鬼! あんたはあの八つ当たり鬼と同類だ!」

 

「なっ!? 神に向かってなんて口を叩いておる!! 無礼じゃぞ!」

 

「そういえばあんた、なんでおれの頭にグラサンをつけたんだよ! せめて取れるようにしろよ!」

 

「なぬぅ! 自分だってそのグラサン気に入っておるくせしてよく言いおるわ!」

 

「ぐっ、確かに……いやでも取れないのはおかしいだろ!」

 

 

 なんだかイラついたので神に対して文句をいうと、なんか口喧嘩に発展した。

 まあいい、これまでのこの神のしてきた理不尽に対する文句を全部吐いてやる!

 

 

 因みにこの口喧嘩は30分近く続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーー

 

 

「さて、能力の劣化も終わったことだし。もうそろそろ転生させるとするかの」

 

「……はい」

 

 

 

 結局口喧嘩は神が劣勢と感じ取ったのか、神の鉄槌(物理攻撃)を食らわしてきて無理矢理終わることになった。

 現在、おれの頭には大きなたんこぶができている。頭がかち割れたかと思った……

 流石は神といったところか。老けて舐めてかかっていた……

 ていうか何故かグラサンを取ってくれなかった。何故か、本当に何故か。

 

 

 

「あ、そういえば2つ、言っておくことがある」

 

「なんですか?」

 

「今このまま転生させるとこれから物凄い間、人間のいない生活を強いられることになるから、ちょっと時代を弄らせてもらっといた」

 

「なんですかそれ!?」

 

 

 物凄い間ってのがどれくらいなのかはわからないが、人一生分以上あるってことは神の言い方的にわかる。

 

 

「それともう1つ、わしが転生させるのは地球であって月ではない。故に君が転生しても君の知る友人とは会えない可能性がある。それでもよいか?」

 

「ふっ、愚問ですね。なんとしてでも会いますから、その心配は要りませんよ」

 

「やけに自信ありげじゃの。なにか策でもあるのか?」

 

「いいえ? まったくありませんよ」

 

「聞いたわしが馬鹿じゃった……」

 

 

 おれに月へ行くような技術なんて持ってるわけないじゃないか。

 持っていたとしても材料がないしな。

 

 

「それじゃあ、そろそろ転生させようかの」

 

「さっきとほぼ同じこと言いましたね」

 

「いいんじゃよ、そんな細かいことは気にするんじゃない」

 

 

 さて、転生させる場所は地球であって月でない。

 つまりまた一から始まるといっても過言ではない。

 でも、それでいい。

 

 あの世界にいれば、またあいつらに会えるかもしれないんだから。

 

 

 

「んじゃ、健闘を祈るよ」

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

「……なんじゃ?」

 

「また転生するってことはまた生存率40%のハードルを越えなければならないということですよね?」

 

「そうじゃが」

 

「もしおれが残り60%に引っ掛かった場合、命1つでなんとかなりますか?」

 

「いんや、ならんよ。君の能力は魂を改造して作ったものでの。その魂から新しく肉体を構築しておるんじゃが、転生に失敗した場合、その魂すらも抹消されるからそのまま君という存在は消滅する」

 

「転生やめます。一生此処にいます、これからは宜しくお願いしますね」

 

「さっさと行けい」

 

「おわっ!?」

 

 

 すると前に転生したときと同様、おれの足下に穴が開いた。

 一瞬驚いたが、すぐに冷静になる。

 ふふ、今のおれは空を飛べるんだ。こんなもの飛べば落ちることは……

 

 

「ぶべっ!!?」

 

 

 と、宙に浮こうとした瞬間、おれの頭にタライが落ちてきた。

 只でさえたんこぶの出来ていた頭部に落ちてきたので、予想以上の激痛がおれを襲い、空を飛ぶことをやめてしまった。

 

 そのせいで、おれはそのまま穴に落ちていき、そしておれの意識はプツっとTVの電源が切られるように失った。

 

 

 

 

 

 

 

「これからもわしを楽しませておくれよ。彼のような人間は珍しいからのぅ……今後が楽しみじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

「ごぼっ!?」

 

 

 神によって転生され、失った意識を覚醒させた瞬間、呼吸が出来ず、目を開けられなくなっていた。勿論、身動きもとれない。

 

 

「(なんだよこれ!? なんなんだよこれ!!)」

 

 

 なに、今おれの身に何が起きてる!? まさか転生に失敗したのか?

 いや、失敗したらおれの存在は消滅するらしいからそれはないはず……ならこの状況はなんなんだ?! 何かにのし掛かられているような感覚は…………

 

 まさか……おれは、なにかに押し潰されているのか?

 だったらそれを退かすしかない。ていうかこの考えが合っていないとおれ、詰む。確実にまた死ぬ。

 

 そしておれはおれの上全体にのし掛かっているなにかに向かって爆散霊弾(極小)を放つ。

 

 

   ゴゴッ

 

 

 なにか崩れたような感じがした! いけるぞ!

 

 効果的と分かったら、後はやり続けるだけだ!

 そう考えたおれは霊弾をとにかく連続で放ち続けた。

 

 

「ごふッ(うおおぉぉ!!)」

 

 

 そしてついに、穴が開いた。その穴からは光が差し込んできて、おれの顔を照らす。……うっ、眩しい。

 

 ……ていうか、ここ、土の中だったのかよ。

 光が入ってきたことによって漸く気づけた。

 

 土の中だとわかったのなら話は早い。さっさとここから抜け出そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ…………ふぅ」

 

 

 そして5分後、漸く全身を地中から抜け出したおれは一息つく。

 

 ふむふむ、なんでだろうな。なんで、地中にいたんだろうか……

 

 まあ、取り敢えず____

 

 

 

「あの神ぃ!! なんで地中に転生させてんだよ! 馬鹿なの? 馬鹿でしょ! おれを窒息死させたいのかあいつ!! 絶対に許さないぞ!!!」

 

 

 今もおれの事を見ているであろう神に文句を言いまくる。

 これで少しでも鬱憤を発散してやる!

 

 

 

「……私になんか恨みでもあるの?」

 

「え?」

 

 

 神に対して文句を言いまくっていると、後ろから声がした。

 

 そして、おれは声の主の方へ向くと其処には____

 

 

 

 

 ____金髪で変な帽子を被った幼女がいた。



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第二話 決して汚くないよ、おれ

 

 

「私になんか恨みでもあるの?」

 

 

 急に背後から現れた妙な帽子を被った金髪美幼女が恨み云々とか言ってきた。恨みがあるのかって……おれが恨んでるのはあの神であって幼女にではない。勘違いにもほどがある。

 

 

「ないけど?」

 

「惚けても無駄だよ。この耳ではっきりと聞いたから。ここらにいる神なんて私の他にミシャグジ位だしね」

 

 

 何を急に言い出すのやら。ミシャグジ? なにそれナメクジかなんかの仲間? おれ、あんまりナメクジ好きじゃないんだよなぁ。ほら、ぬめっとした感じがなんかな。

 

 

「いや、お前が何言ってるのかちっとも理解できない」

 

「だーかーらー! あんたが土から土竜みたいに出てきて急に『あの神ぃ!絶対に許さん!』って言ってたじゃん!」

 

「ああ、あれ? 違う違う。神といっても他の神だから___ていうかお前自分のこと神様なんて言っちゃう残念系の子だったんだな」

 

「あんたこの国に不法侵入した割に私の事を知らないの?」

 

「知らないもなにも今目覚めたんだけど」

 

「そんなわけないでしょ!ここは洩矢の国、んで私はこの国の神だ。だからこの国全体に警戒網を張ってたんだけどそれを掻い潜って侵入してくるなんて間者としか思えないんだよ。しかもここの湖は私の神域、気付かないはずない」

 

 

 そう言って腕を組む自称神様。んー、この子が神か……まあ、それっぽい雰囲気はでてるけど。

 と、幼女神に対して考察していると、その幼女の背後の茂みから草を退ける音が聞こえてきた。それに疑問を抱いたおれはそこへ目を向けると____

 

 

「うわっ、気色悪!!」

 

「え!? 何?!」

 

「気色悪いとは失礼な」

 

「あ、ミシャグジ」

 

 

 こいつがミシャグジかい! 何だよその頭まるで男の象徴の先っぽの部分みたいじゃねーか。しかも全体的に真っ白で血管みたいのが浮き出てきてて気持ち悪い。ナメクジの仲間と思ったら全然違ったよ! 存在モザイクだ!

 

 

「まあそれは兎も角、洩矢様。こやつは恐らく昔から此処にいたと思われますぞ」

 

「え___ミシャグジ、なんでそんなことあんたがわかるの?」

 

「それは私が昔、排便を埋める場所を探していたときのこと。丁度こやつがいる場所付近に埋めようとしたところ、なにか人並みほどの黒い塊があったのです。どうやら既に先客がいたようだと思い埋め直したのですが……」

 

「おいこらミシャグジ。何私の神域に汚物埋めようとしてんだ」

 

「す、すいません! …………と、取り敢えず私が言いたいのはこれまであった黒い塊がこやつに変わったということは……」

 

「……!!!それってまさか!?」

 

「そうです。こやつは____

 

 

 

 

 

 

 _____排便が突然変異した化物なのです!!」

 

 

「んなわけねえぇぇだろぉぉぉ!!」

 

 

 

 取り敢えず存在規制の鳩尾をぶん殴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「ま、まさかミシャグジが一撃でやられるなんて!さ、流石は排便の怪物!」

 

「次それいったら幼女とはいえ許さないからな」

 

「ごめんごめん。ていうか幼女っていうな! 私はこれでもあんたよりは歳上だよ!!」

 

「……もしかして合法ロリ?」

 

「ん、今なんか言った?」

 

「い、いやなんでも」

 

 

 こんなこと言ってもわかるわけないか。

 

 

「んま、お前が神って事を信じといてやるよ」

 

「む、絶対信じてないでしょ!!」

 

「うんや、実際は本当に分かるよ。よく見ればお前から神力が出てるのわかったし。神様なら長生きしていたって不思議じゃないしな」

 

「へぇ、私の神力がわかるんだね。ミシャグジを一撃で気絶させるといい、普通の人間じゃ無いことは確かだね。まず問題視してなかったけど私を目視できるだけでも凄いことだし」

 

「なに、ちょっと特殊な普通の人間だ」

 

 

 目視できない? なに、この幼女、そういう感じの神なのか? まあいいや、おれ見えるし。

 

 

「土からでてきた時点で普通ではないよ。あと特殊なのに普通って矛盾してるじゃん」

 

「ちょっと人の枠から外れただけって言いたかったんだけどな」

 

「取り敢えず聞かせてもらいたいことが沢山あるからうちの神社まで来てよ。茶ぐらいは出すからさ」

 

「おお、ありがたい。ちょうど喉が乾いてきた所だったんだ」

 

「それじゃあ其処で気絶してるミシャグジ持ってね」

 

「え」

 

 

 それは罰ゲームかなにかですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、おれは幼女に連れられて神社に来た。

 その途中でみたこの国の住民らしき民家を幾つか見られたが……なんというかTHE ド田舎だった。屋根が藁で作られた家に稲を保管する高床式倉庫、竪穴式住居なんかもあった。後は田んぼが見渡す限り続いている。田舎というより昔の世界にタイムスリップしたような気分だ。

 そしてそんな住居より一際大きい神社の客間みたいなところで連れられ、これまでの経緯について話した。

 

 

「ってことはつまりこの時代より遥か前に世界を征服していた邪神を駆逐すべく立ち上がった者達の一人としてあんたがいて結局その戦いには敗れ戒めに頭に黒い眼鏡を永遠に掛けさせられて土の中に封印されたってこと?」

 

「そのとおり!」

 

「…………嘘だよね」

 

「はい、すいません……」

 

 

 物凄い睨まれた。全然怖くないけど。

 だって未来都市とか言っても絶対信じてもらえないでしょ。こんな弥生時代みたいなところでさ。

 

 

「うーんと……実は昔、妖怪と戦っている途中で爆発に巻き込まれてから記憶がないんだよ。目覚めたらいつの間にか土の中にいたし」

 

 

 嘘はいってない、はず。これが相手に理解できる範囲。

 妖怪がここにもいるのかは分からないが、世界が変わっていないのならばいる筈だ。

 

 

「ふーん、記憶がない、か。じゃあなんで土から出てきたとき私以外の神に怒ってたの?」

 

 

 なんか幼女に尋問されるのってなんか変な気分だな。

 

 

「それはおれの知り合いに神がいてな。そいつに理不尽なことをされたのを思い出して怒りがこみあげてきたんだよ」

 

「へえ、だから私の神力とかもわかったんだね」

 

「そうゆうこと」

 

「まあ、嘘はいってないみたいだね。まだ言ってないこともあるだろうけど」

 

 

 流石は神、わかっていらっしゃる。

 

 

「そういえばこっちにも質問があった」

 

「ん、なに?」

 

「なんでおれが起きたときあの湖にいたんだ?」

 

「それは簡単、ちょうど彼処で昼寝しててね、そしたら急に土の中から霊力が膨れ上がったのを見て急いで其処に向かったのさ」

 

「そうか、神も案外気楽でいいな」

 

「うん、結構楽しいよー……んーと」

 

「あ、まだ名乗ってなかったな。おれの名前は熊口生斗、チャームポイントはこのグラサンだ。よろしく」

 

「ぐらさん? まあいいや、私も名を教えてこうかね___

 

 

 ____私は洩矢諏訪子。土着神だよ」

 

 

 

 これがおれと諏訪子との最初の出会いだった。

 

 



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第三話 掃除きつい

 

 

 おれは諏訪子という見た目幼女の土着神と色々話した後、兵としてこの国に居ることを許された。

 

 

「いいのか?急に出てきたおれなんかを兵にするなんて」

 

「生斗と話してたら大体の印象がわかったし別に大丈夫だよ」

 

「……因みにどんな印象?」

 

「面倒くさがりで、すぐ調子に乗る黒眼鏡土竜」

 

「最初の2つは認めるが土竜は絶対に違うから! ていうか全然良い印象もたれてない!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、そんなこともあって現在おれは、諏訪子の計らいにより住まわせてもらうこととなった空き家の掃除の真っ只中である。

 

 

「うわっ!天井叩いたら埃の雨が降ってきた!?」

 

「……なんかよく見ると神秘的だね」 

 

「なわけあるかい! って諏訪子いたのかよ。見てないで手伝ってくれよ」

 

「ちゃんと私のこと洩矢様と敬ってくれたら考えてあげる」

 

 

 こ、こいつ! おれが全然敬って無いことを不満に思ってやがるな。おれの信仰対象はツクヨミ様だけだから無理だな……ん、信仰対象に対してかなり無礼なことしてたじゃないかって? おれはいつも敬意をもってツクヨミ様と接していたから大丈夫だろう、うん。

 

 

「いや、最初の印象のせいでなんかなぁ」

 

「へぇ、信仰しなかったら祟られるかも知れないのに?」

 

「ああ、なんか言ってたな。諏訪子が統括しているミシャグジは少しでも気を悪くすると祟る迷惑な神だって」

 

 

 ほんと、ただただ迷惑なやつである。ただでさえ見た目で迷惑かけてんのに……

 なんでもここの民はそれの影響で諏訪子のことを畏敬に思っているらしい。 

 

 

「あれ?それじゃあなんでおれ祟られてないんだ?」

 

 

 一旦空き家(今はおれの家)からでると、ふと疑問が浮かび上がってきた。

 あんな腹にグーパンをかましたのになんで祟られていないのだろうか。もしかしてもう祟られてたりしているのか?

 

 

「あー、たぶん祟る前に気絶したからだと思うよ。私が此処に来る前にミシャグジ起てたけどかなり怒ってたし。『あやつ、神になんたる無礼をしてくれたな!必ず然るべき報いを与えてくれる!!』ってね」

 

「……はあ、それじゃあ出会い頭にまた腹パン食らわせるしかないな」

 

「素直に謝るという選択肢はないの?」

 

「いや、だって最初に急に汚物扱いしてきたあいつが悪いし」

 

「相手は神だよ……」

 

「そういう面では神人平等なんで」

 

 

 もう神もツクヨミ様で慣れてるしな。

 

 

「本当、生斗って肝が座ってるね……」

 

「命知らずっていいたいのか?まあ、確かにそうだろうな」

 

 

 まあ、死んでも生き返るけど。いつの間にかストックも限界値の10貯まってるし。

 

 

「……命は大事にするべきだと思うよ。人の命は短いんだから」

 

「確かにな。人はすぐに老いる。おれが言える立場ではないけど」

 

 

 おれがそう言うと諏訪子の表情が少し暗くなったのを感じた。……神は人とは違い、信仰される限り消滅しない。これはツクヨミ様から聞いたことだ。おそらく諏訪子は尽きることのない寿命のせいでこれまで沢山の人との死に携わって来たんだろうな。暗い顔をしているのは。

 

 

「ま、そんな辛気くさい話も終わり!さっさと掃除済ませよう!」

 

「お、手伝ってくれるのか!」

 

「いや、其処の田んぼで蛙と戯れとく。というより神に掃除なんて頼むもんじゃないよ」

 

「そういう面では神「それはもう聞いた」はい……」

 

 

 仕方ない。さっさと掃除なんて終わらせてのんびり昼寝でもしますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局三時間近くかかってしまった。掃除器具もあまり揃ってなかったのもあったがただおれん家が他の家よりなんかでかかったのが一番の理由である。まあ、土の中にずっといたせいか体がなまって思うように動かなかったのもあるが。

 

 なんで他よりでかいのか現在縁側でおれより先にくつろいでいる諏訪子に聞いてみると___

 

 

「ここは元々村長が住んでたんだけど死んじゃってねぇ。それで使われなくなったの」

 

 

 と、事故物件だということを知らされた。おい宿主、そういうのはもうちょっと早く報せるべきだぞ。

 

 あと、なんで結構でかいのになぜ他の人とか住まなかったのかというと、実は此処に住んでいた村長は急に現れた妖怪に襲われてこの家でぐちゃぐちゃになって死んでいたらしい。勿論その妖怪は諏訪子の所にいる巫女に退治されたらしいが殺された村長の姿があまりにも気持ち悪すぎて誰も寄り付かなかったと言うことだ。

 ……べ、別にここ、怖くなんかないよ。どうせもういないんだし……

 

 

「まあ、今後の生活に影響するわけでもないしいいか……」

 

「ほうほう、切り替えも早いんだねぇ」

 

「それもおれの長所でもあるしな」

 

 

 それから夕暮れになるまで昼寝することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあそろそろ帰るよ。明日からは農作業を手伝ってね」

 

「え?!おれそんな事やったことないぞ。つーか何処の畑ですればいいんだよ」

 

 

 まずなんで農作業をおれが……

 

 

「大丈夫大丈夫、ここの皆優しいから教えてもらえると思うよ。あと畑の場所は明日うちの早恵が来るからついていってね。ついでにいっとくけど早恵に手を出したら許さないから」

 

「だすか!」

 

 

 はあ、明日から労働しなきゃならないのか。

 あとさっき諏訪子が言ってた『早恵』というのは諏訪子んとこの巫女だ。滅茶苦茶美少女だけどちょっと変わった子だった。でも一応礼儀正しくていい子だったな。

 ……ま、だからって手を出すわけないけどな!

 

 取り敢えず今日の分だけもらっておいた食料をたべてさっさと寝るか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ~夜中~

 

 

「……………………寝れない」

 

 

 昼間寝てたの忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四話 これが握り飯……だと!?

 

 

  チュン チュン

 

 

 窓の隙間から光が差し込み、おれの顔を照らされたことにより、おれは重たい瞼を開け、目を覚ました。

 

 

「………ん、朝か___って、まだ日差しがちょっと見えてきたぐらいか。寝よ」

 

 

 一度布団から顔をだし、日の見える方を向くとまだ辺りが薄暗いことが分かったため、また布団の中に顔を埋める。

 

 ああ、布団の中最高……やっぱ朝の布団は格別だな!

 

 と、心の中で布団の素晴らしさに感動していると、玄関の方から引き戸を叩く音が鳴った。

 

 

 ドンドン

 

 

 ……誰か来たのか?いや、昨日の諏訪子との会話からすると早恵ちゃんか……なんと間の悪い。せっかく二度寝と決め込もうとしてたのに。

 

 仕方ない、でるか……

 そう思い布団からでようと毛布を退けた瞬間、おれは衝撃を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「熊口さぁん? 居るのはわかってるんですよ。無断で入りますからねー…………熊口さん! 何してるんですか!?」

 

「ぐっ、早恵ちゃん……」

 

 

 玄関の戸を開け、入ってきたのは案の定、諏訪子のとこの巫女、東風谷早恵ちゃんだった。

 そして開けっぱなしにされたおれの部屋を見て早恵ちゃんは驚愕の声をあげる。

 早恵ちゃんが驚くのも無理はない。現在布団の中にくるまって蛹状態になっていたのだから。

 

 

「もう、なんて格好してるんですか! 早く出てきてください!」

 

「無理だな。布団出たらめっちゃ寒かったんだから。でたら凍え死ぬのが目に見えている」

 

「いや、まだ暖かい方ですよ。これからどんどん寒くなっていきますし。もう皆起きて稲の収穫を始めてます。さっさとこの服に着替えて行きましょう」

 

 

 と、THE農民みたいなボロ衣を差し出してくる早恵ちゃん。

 は? まだ暖かい方、だと……。この寒さ、軽く前世での冬レベルで寒いんだぞ。これ以上寒くなったら凍え死ぬ、冗談抜きで。

 

 

「なあ」

 

「はい?」

 

「おれってさ。実はハムスターなんだよ」

 

「は?」

 

「ハムスターっていうのは寒さに弱い動物なんだ。おれはその中でもジャンガリアンって種類で10℃を下回ると凍死してしまうんだ」

 

「……」

 

「分かってくれたか? だからな、この布団から出るとおれ、死ぬんだ。だから仕事をするのは____」

 

「熊口さん」

 

「ん?」

 

 

 おれがなんとか布団からでないよう説得していると早恵ちゃんがおれの目の前に来た。

 

 

「何訳のわからないこと……」

 

「えっ?ちょっとまって早恵ちゃん!」

 

 

 そして足を大きく後ろにあげて___

 

「言ってんですかぁ!!!」

 

「ぐあぁぁ!?!」

 

 

 そのまま蛹状態になっていたおれの腹に思いっきり蹴飛ばしてきた。

 

 え? 布団があったから威力は軽減されてたけどくっそ痛い。これは世界に通用するストライカーを目指せるレベルだ。

 

 そう馬鹿なことを考えていると早恵ちゃんが此方に来て、また足を後ろにあげて第二撃を____

 

 

「ってわかった! でるから!! お願いだからやめてくれ!!」

 

「最初からそうしていれば良かったんですよ」

 

 

 

 あかん、早恵ちゃん怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーー

 

 

 

 

「うう、蹴られた腹が痛い」

 

「自業自得です」

 

「もっと平和的に解決できたと思う。うん、絶対にできた」

 

「諏訪子様には遠慮なんてしなくていいから、と言われているので」

 

「遠慮無さすぎだろ!」

 

「ほらほら、無駄口叩かないで作業に集中してください。動けばおのずと寒さは無くなりますよ。」

 

「もう結構暖まってきたけどな!」

 

 くっ、自分はしなくていいからってのんびりお茶なんか飲みおってからに。早くこんな作業終わらせてやる!

 

 現在おれは稲の収穫をしている。稲を収穫するとき、石包丁なるものを使うらしい。しかしおれは自力で刃物を生成(霊力剣など)できるので使わなかった。なので村の人から教わるということはしなくて済んだ。説明とか聞くの結構めんどくさそうだったし。

 収穫というだけあってかなりの量があり、少し、いやかなり絶望しかけたがここでおれの脳が働いてくれたおかげで結構スムーズに進んでいる。

 

 どんな事をしたのかというと、まず、人並みの大きさの大鎌を霊力で生成。初めて作ったので少しいびつになったが問題ない。そしてその鎌を霊力で強化した腕で思いっきり稲の根元付近に振りかぶる。はい、完了。単純だが、かなり有効的で、綺麗に稲の根本を切り取ることができているし、一振りで石包丁の作業5分分は稼げている。

 これを何回も何回も繰り返している。尋常じゃないくらい疲れるが、これがてっとり早いから続けている。でもこれフルスイングしないと稲が綺麗に刈り取れないんだよな。さっき力抜いてやったら刈り損ねた稲とかでてきたし。

 

 

「いやー、凄いですね。熊口さんってこんなこともできるとは。少し見直しました」

 

「そうか? こんなの頑張れば誰でも作れるぞ」

 

「……自慢ですか?」

 

「自慢だ」

 

「見損ないました……」

 

「……見直されてから約5秒で帳消しにするおれってある意味凄いと思わないか?」

 

「確かに凄いですね。誉められたもんじゃないですけど」

 

 

 まあ、確かにな。でも霊力操作についてはおれの自慢できるものの一つなんだよな。今は月にいる皆の中でも群を抜いて霊力操作上手かったし。もしかしてこれもう一つのおれの能力なんじゃね? 、と思ったけど霊力剣を作れるぐらいならちらほらいたから違うということがわかったけど。

 あと自慢できるのと言えば剣術とグラサンぐらいだな。

 

 

「はあ、こんな駄弁ってたら昼飯に間に合わないな」

 

「ほんとは一日かけてするものなんですけどね」 

 

「まあ、後半分もないしさっさと終わらせるか!」

 

 

 昼飯持ってきてないけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 ~1時間後~

 

 

「はあぁぁ、疲れたぁ。手のひらに豆ができたの久しぶりだぞ」

 

「お疲れ様です。熊口さん」

 

「……結局手伝わなかったな」

 

「いえいえ、熊口さんが刈った稲を回収する作業は手伝いますよ」

 

「げっ、それもあんのかよ」

 

「まあ、取り敢えずお昼ご飯にしましょう」

 

 

 そう言って早恵ちゃんは風呂敷から木箱を取り出した。

 ま、まさか?!

 

 

「早恵ちゃんが作ってくれたのか?」

 

「? はい、そうですけど」

 

 

 やった! 美少女が作った弁当だ! これまで作って貰ったと言えば永琳さんくらいだったし、永琳さんのはちょっと違う、家族的な人から作ってもらった感じだったからな。

 

 

「これです! 残さず食べてくださいね!」

 

 

 そう言って早恵ちゃんは木箱の蓋を開け、作ってきたという弁当の中身を露にする。

 

 

「おお! ありが…………と……う?」

 

 

 そして木箱の中から姿を現したのは、おにぎりでもおかずでもなく、未知の物体であった。

 

 ____ん? なんだこの緑色のスライムみたいな形状の物体は。

 

 

「なにこれ?」

 

「握り飯です」

 

「いじめ?」

 

「そんなわけないでしょ!? 一生懸命に作ったんですよ!!」

 

「いや、はは……」

 

 

 どうやったら握り飯がどろどろの緑のスライムになるんだよお!!!米はどうなったんだ!!! 早恵ちゃんの手は握ったものをスライムにすんのか!!?

 

 

「……もしかして嫌でした?」

 

 

 な、上目遣いだと?!しかも目に涙を浮かべているというコンボ。

 もしかしてこれ食べなきゃいけないやつなのか? 正直食べたくない。しかし、だ。もしおれがこの握り飯(謎)を食べなかったらどうなる? おそらく、いや確実に嫌な雰囲気になる。もしかしたら泣かれるかもしれない。もしそうなったら諏訪子から殺されてしまう。十中八九。

 ……くっ!男ならやらなければならないときがあるんだ!

 

 

「ふん!」バチーン!

 

 

 男を魅せるため、生きるため、そして覚悟を決めるため、おれは己の頬を両手でひっぱたく。

 

 

「きゅ、急にどうしたんですか!? 頬をいきなり叩いて……」

 

「気合いを入れ直したんっ、だ!」

 

 

 そういいつつおれは早恵ちゃんが持っていた木箱の中にある握り飯(謎)をとる。

 すると手から握り飯(謎)がどろどろとこぼれ落ち、地面を汚していく。

 くっ、これ本当に握り飯か? 心なしか落ちたのが地面を少し抉ってるように見えるんだけど……

 

 ああ! 覚悟を決めたんだろ! ここで怖じ気づく訳にはいかない!

 

 そう、自分に言い聞かせ、息を止めつつ一気に口の中に放り込んだ。

 

 

「んぐっ!?!!?」

 

 

 なんだこれは?! 息を止めてるのにくっそまずい! この世のものとは思えない! やっべ、吐きそう。いかんここで吐いたら食べた意味がない!

 

 

  ゴックン

 

 

 吐きたい衝動を必死に抑え込み、なんとか喉を通すことが出来た。なんと早恵ちゃんの握り飯は後味までも最悪で、最早動物の死骸を生で食べた方が余程美味しいんじゃないかと錯覚してしまうほどであった。

 ここまで不味いものは生まれて初めて食べた……

 

 

「急にがっつくなんて、そんなにお腹がすいてたんですね! 大丈夫です。まだまだ沢山ありますよ!!」

 

 

 え? 早恵さん? まだ私にそんな劇物を食べさせる気ですか? ……もしかしたら美味しいんじゃないかと淡い期待をしてたけど見た目通りの不味さだったし。でもここでやめたらさっきの苦労が……

 

 

 

 

 結局、緑スライム握り飯を3つ食べた後おれは気絶した。

 

 

 あの握り飯は食べ物ではありません。毒です。

 

 



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第五話 お化けってこんなだっけ?

 

 

 洩矢の国に来て1週間が経ち、漸く畑仕事にも慣れてきたおれは、最近あることに頭を抱えていた。

 

 

  ガタッガタッ スゥー スッス

 

 

「(……またか)」

 

 

 草木も眠る丑三つ時。いつもこの時間帯になると今のような奇怪な音がおれの寝室の隣の庭に響いてくる。

 

 

「(はあ……おれお化けなんて信じてなかったんだよなぁ。でもこう毎日聞こえてくるってもう偶然とは言い切れないし……)」

 

 

 ほんと、ミシャグジと同じぐらい迷惑だ。折角の睡眠という至福のひとときを過ごしていたというのにいつもこの音のせいで起こされる。

 もうそろそろキレてもいいですかね? おれ、平等主義者だからどんな奴に対しても怒っちゃうよ?

 

 

   ガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

 

 …………。

 

 

 ……やるしかないな。

 

 そう決意したおれは静かに布団から出た。そして____

 

 

「いっつもうるせぇんだよ!!!!」

 

「きゃあ?!」

 

 

 堪忍袋の尾が切れたおれは音がなっている方、つまり縁側の方角に霊弾を10発放った。

 お陰で障子が駄目になってしまったが今はそんなの関係ない。なんか悲鳴が女っぽかったけどそれも関係ない。睡眠妨害はおれがされるとむかつくランキング第二位に入るんだ。……て前にも同じこといってたような気がするが気にしない。

 

 

「さて、殺されるよりもされると嫌な睡眠妨害をやらかした罪深き重罪人にどんなお仕置きをしようか」

 

「殺されるよりも嫌なことはないと思いますよ……」

 

 

 使い物にならなくなった障子を跨いでいると、音を出していた張本人が庭の壁によたれかかった状態で反論してきた。

 ……やっぱり女だったか。髪は黒のロングで白装束を着ている。こちらも早恵ちゃんに劣らずの美少女だ。そして頭に三角頭巾をつけてて脚の先の方がぼやけて見えない。

 なんかいかにも幽霊ですよって主張しているような感じだな。

 

 

「さて、お仕置きの前に尋問だ。なんであんな迷惑な音をだしていた?」

 

 

 しかも明日はお隣さん(300メートル先)から頼まれた妖怪退治に行かなきゃいけないから早起きしなきゃいけないんだ。だからなんとしても今日中にこの騒音という眠りの外敵を駆除しなければならない。

 

 

「か、構ってもらいたかったんです……」

 

「はあ? そんなことでかよ。普通に話しかければいいじゃないか」

 

 

 構ってもらいたいって……幽霊にしては可愛らしい理由だな。てっきりただ困らせたいからではないのか。

 

 

「だって怖がられるかもしれないし……」

 

「今のお前の姿を見て怖がるやつなんていないと思うけど」

 

 

「それって幽霊として駄目じゃありません?」

 

 おれのいた世界じゃ真っ黒な瞳から血を流しながら「助け、てぇえ!」みたいな命乞いを言って地を這いずって追いかけてくるのに、今めり込んでいる幽霊は姿は同じだが、全然違う。目はちゃんと白黒はっきり(黒色ではなく緑色だけど)してるし血もついていない。ていうか生きている人となんら変わらないんだが。

 

 

 

 まあ、そのあと幽霊と色々話した。

 

 まず名前は『翠』。なんでも生前は村長だったとか。……てことはここで妖怪に殺されたのって翠のことだったのか。

 そして翠は浮遊霊らしい。あれ?と思った人も少なくないだろう。実際浮遊霊とは自分が死んだことを受け入れられないで現世にさまよっている霊のことを言うが翠は自分が幽霊と自覚している。その疑問について聞いてみると

 

「妖怪に殺されたのはわかっているんですけど自分が死んだなんて信じられるわけありません!!」

 

 と、矛盾な解答が返ってきた。

 まあ、自分でもよくわからないらしいがそんなことはおれにとってはどうでもいい。

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあお仕置きをして寝るか」

 

「え、やっぱするんですか?」

 

「当たり前だ。ここに来てからずっとお前の音に悩まされ続けたんだからな」

 

「だって、私が浮遊霊になってからというもの、何度か来た人達全員私のこと恐がって近寄ってこなかったんですよ!そんな寂しい日々の中、ここに住むと貴方が来たときはもうメチャクチャ嬉しかったんですから!」

 

「なのに全然自分の存在に気づいてもらえなかったから気づいてもらおうとあんな音鳴らしてたのか?」

 

「そうです」

 

「おれが起きてる時にしろ!!」

 

「だってだってぇ!丑三つ時が一番気分が上がるんですよ。だからなんから石とかで遊んだり走り回ったりしたくなってついつい大きい音をだしてしまうんです。」

 

「おれの気分は最悪だ!つーかおれに気づいてもらうためじゃなかったのか?!」

 

「ああ、それもあります。」

 

 騒いで気づいてもらえたらラッキーってか!一石二鳥ってか!!

 つーかこいつ浮遊霊じゃなく騒霊なんじゃねーのか?!

 

 

「……もういい、寝る。色々と疲れた。お仕置きは明日だ。」

 

 そういい、おれは自分の布団のなかに入った。

 

「ちょっとー、遊びましょうよ」

 

「煩い寝させろ」

 

「むぅ……」

 

 

 ああ、静かになった。やっと眠れる……

 

 

 

 

 

 ~ちょっとして~

 

 

 チュン チュン

 

 

「(え?あれ?)」

 

 なんか小鳥の声が聞こえる。ま、まさか!?

 

 そう思いつつおれは布団から飛び起きた。うわっくそ寒い。

 

 今着ている寝間着の上にいつもおれが着ているドテラを身にまといつつ破れた障子を越えて庭に出てみると。

 

「……日が出始めてやがる」

 

 くそおおぉぉぉ!結局あれから30分程度しか寝れてねぇ!?

 

「あ、起きたんですね、熊口さん。でももう私眠いんで遊べませんよ」

 

「寝せるわけねーだろ」

 

「え、まさかあの今夜は寝かさないぞ☆的なあれですか?!熊口さんがそんなことを言うなんて……正直引きます。近づかないでください」

 

「よぉーし、これからお仕置きといきますかぁ」

 

 寝られなかった分のストレスをこいつに当ててやる

 

「え、まさか性的なお仕置きですか?!」

 

 と、翠が少し後ずさった

 

「なあ、翠」

 

「……な、なんですか?」

 

「こ・ろ・す★」

 

「ヒィィ!誰か助けてぇー!?」

 

 

 その日早朝、幽霊の悲鳴が村中に響き渡った。

 これは後に洩矢の国の七不思議に載ることとなったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、傷物にされた……」

 

「おい!誤解を生むような言い方をするんじゃない!ただのお尻ペンペンだろうが」

 

「美少女のお尻を触るなんてとんだ変態ですね!」

 

「まだ叩き足りなかったか?」

 

「ひぃ!ごめんなさい!!」

 

 

 はあ、結局今日全然眠れなかったよ……これから妖怪退治に行かなきゃならないというのに、これじゃあ出没地点に行く前に倒れそうだな……

 




今回の最後に出てきたお尻ペンペンの方法ですが、実際は生斗君は手でたたいていません。
木の棒で叩いていました。ペンペンというよりペシペシですね。


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第六話 底無しにも程がある

 

 

「それじゃあよろしく頼むよ」

 

「はいはい、わかりましたよ」

 

 

 今日おれはお隣さんに頼まれていた妖怪退治に行くこととなっている。

 なんで妖怪退治をしなければならない状況になったのかというと実は結構めんどくさいことが重なったためである。

 まずここ最近この国の近くの森林に妖怪が多発しているのが事の発端で、2日前に妖怪に子供が襲われるという事件が発生した。その子供はギリギリのところで早恵ちゃんが助けたらしいがそれのせいでこのままでは放っておけないということとなり、つい昨日妖怪退治として早恵ちゃんが森に妖怪退治へと赴いた。しかしその森には大妖怪がいて、あえなく返り討ちにされて退散したらしい。

 大妖怪が現れたということで国内の村々での大会議となった所、お隣さんがおれに頼めばいいんじゃないか、と余計なことを言ってくれたお陰でおれが妖怪退治をする羽目になってしまった。

 

 はあ、くそ。この前皆の前で力を見せびらかさなければよかった…………

 

 大体大妖怪なんておれに倒すことができるのか? 命を使えば難なく倒すことは出来ると思うが、はっきり言って命を使うという行為はあまりしたくない。以前に使ったことがあるが、あれは耐え難い苦痛を伴う。命1つを使ってもおれの器では溢れる可能性は高いだろう。

 だから使うのは最後の手段、それこそ詰んだと思った瞬間のみに使おう。

 本当はそのような状況になるかもしれない場所なんて行きたくはないんだけど……

 まあでも、ここの人達からは良くしてもらってるし、恩返しぐらいはしなきゃな。本当にヤバイと思ったら全力で逃げるけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーー

 

 

「さて、と。ここがよく大妖怪がでる所か」

 

 

 ほうほう、これはなかなか。妖怪にしては良いところにいらっしゃることで。

 現在おれは昨日早恵ちゃんが大妖怪と出くわしたという場所に来ている。

 そしておれはそこへ来て思わず感嘆した。何故ならそこは沢山の花が咲いていたからだ。

 今が旬な花々が咲き乱れている。花の独特な匂いが鼻につくがそんなこともお構いなしにおれの瞳は眼前に広がる花畑に魅了されていた。

 まさかこんな森のど真ん中にこんな絶景が広がっていたなんて……

 

 

「ぎゃあぁぁ!!! 助げでぐれぇぇ!!」

 

「ん!? 誰だ!」

 

 

 と、あまりにも美しい光景にみとれていると、後ろの方から叫び声が聞こえてきた。……ちっ、折角の絶景も今の薄汚い声で台無しだ。

そう悪態をつきつつ、おれは後ろを振り返る。すると傷だらけの蜘蛛型妖怪が必死に逃げている姿が目に写った。

 は、なんだ? なんであの蜘蛛は傷だらけで此方に向かってくる? 戦意は感じられない。心の底から助けを求める声だったし……

 そう此方へ向かってくる妖怪について考察していると、その妖怪の後ろから傘を前に構えた緑髪の女性がいることに気付いた。

 

 

「さあ、死になさい!」

 

「うわっ! やべっ!?」

 

 

 そして彼女は殺害宣言を言い放つと、構えていた傘の先端から極太レーザーが放たれた。

 なんとか目視していたおれは横に逸れて回避したが、傷だらけの蜘蛛妖怪はあえなく極太レーザーに巻き込まれていった。

 

 

「こりゃあの妖怪も助からないな……」

 

 

 回避したついでに茂みに隠れて観察したが傷だらけの妖怪はたぶん跡形もなく消し飛んだんだろう。レーザーが通りすぎた箇所には跡形も残っていなかった。 まずレーザーの衝撃で地面が抉れて即席の一本道が出来上がってる。

 こんな妖怪初めて見た。即死の妖弾を出すやつなら見たことあるが、あんな極太のレーザーを見てしまったらあんなのがとてつもなくショボく見えてしまう。

 

 

「(まさかあの女が早恵ちゃんをこてんぱんにした妖怪か? はっきり言って勝てる気がしないんだが……)」

 

 

そう思いつつ、彼女の姿を考察する。まず違和感が半端じゃない。この国の人達の誰一人として着ていない赤のチェックの服装にカッターシャツ、日傘なんかもある。ただ物凄い美女だってことは分かる。出るとこは出ていて引っ込むところは引っ込んでる。まさに理想のボンキュッボンだ。容姿も肌白い肌に深紅の瞳、それに癖のある緑の髪が合わさって妖艶な雰囲気をかもちだしている。

 

 

「まったく、……張り合いのなかったわね」

 

「(うん、戦闘狂である線も浮かび上がってきた)」

 

 やべぇよ、あのレーザーは流石のおれの障壁じゃ防ぎきれないぞ……逃げるか。気付かれていないうちにさっさと逃げてしまった方が絶対に良いだろ。これはおれの手に負えられる相手ではないぞ。

 

 

「それで、今そこの茂みに隠れた人間。出てきなさい」

 

 

 うわぁ、バレてたー。逃げられる確率ぐんと下がったー。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。おれは別……にぃ!?」

 

 潔く出て、極力相手の機嫌を損なわないよう、穏便に済ませようとしたら、容赦なく極太レーザーを撃ってきた。

 次は反応が遅れたため避けることは諦め、霊力の障壁を作った。だけどそれも1秒程で霊力障壁は決壊した。だが、その隙に避けることには成功した。

 なあ今の、あいつ全く溜める素振りを見せてなかったよな。それでこの威力かよ……いや、最初から撃つことを前提に溜めていたのか? もし本当にノーモーションで撃てるのならばおれは完全に詰むことになる。お願いだ、おれの予想が当たっていますように!

 

 

「驚いたわ。完全に決まったと思ったんだけど」

 

「いや、おれも死んだと思った」

 

「ふふっ、少しは骨がありそうね」

 

 

 怖!! あの女の人はただ笑っているようだけどおれからしてみれば薄気味悪いだけだ。顔は誰がどう見ても美少女の部類に入るというのに……

 

 

「貴方って熊口生斗でしょ?」 

 

「え、なんで知ってるんだ?」

 

 

 おれはこの女のことを勿論のこと知らない。知ってる妖怪と言えば鬼か異形系妖怪だけだ。

 

 

「昨日巫女が私のところに来たとき教えてもらったのよ。黒いなにかを頭につけている奴が私より強い!ってね」

 

 

 昨日の巫女? 黒いなにか? 黒いっていうとグラサンのことだよな。そして昨日の巫女っていうと____

 

 

「早恵ぇぇぇ! あのやろう!!! 売りやがったな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ~一方その頃~

 

 

「それで、馬鹿にされたからついカッとなって生斗の事いっちゃったの?」

 

「はい……すいません。『人間もこんなものなのね。がっかりだわ』っていわれてついムキになってしまって……」

 

「まあ、でもそのお陰で助かったんでしょ?」

 

「でもそのせいで熊口さんが生け贄に……」

 

「いいよいいよ。たぶん大丈夫でしょ」

 

「そんな根拠が何処にあるんですか?!」

 

「ん、なんとなく」

 

「いってきます!!」

 

「あ、ちょっと早恵!?まだ怪我が治ってないよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ始めましょうか!」

 

「もうやだ!!」

 

 日傘をもった女性(たぶん妖怪)がおれに向かって

 肉薄してきて、傘を振り回してきた。

 それをおれは霊力剣を生成して止めた。

 

「ほんとにそれで戦うのか?」

 

「これをただの日傘だとは思わないことね!」

 

 まあ、たしかに普通の日傘から極太レーザーなんてでないけどな。

 

 そう思っていると次は殴ってきた。

 ふ、こんなちっちゃい拳で何ができるというんだ。

 と、ちょっと油断したおれが馬鹿だった。霊力剣で受け止めようとした直後おれは吹き飛ばされた。

 

 

「ぐわっ?!」

 

「油断大敵よ!!」

 

 くそ!なんであんな細い腕からこんな威力が出るんだよ!!

 もしこれ自分の手とかでガードしてたらポッキリ折れてたかもしれんな……

 

 っと飛ばされながら考察していると目の前に妖怪が現れた。

 

「これで、終わりよ!」

 

「な、めるな!」

 

 そして日傘を思いっきりおれに振りかぶってきた。

 それをおれは霊力剣でギリギリで受け流す。しかしその反動でおれは地面に叩きつけられた。

 なんなんだいったい!威力もさることながらスピードも早いて!

 こりゃ勝てる気がせんぞ……

 

「ああもうやけくそだ!攻めまくってやる」

 

「あら、貴方に攻められるかしら?」

 

 地面に叩きつけられてすこしバウンドして空中に浮いた拍子におれは手を使って回り、そのまま妖怪の脚に切りつけた。

 

「っつ!中々やるわね」

 

「こっちの方は得意でね」

 

 

 

 

 さて、急に始まったバトルだが、何回も言うが勝てる気はしない。それは今切りつけたときにわかった。だって切った場所少し切れて血が少しでたぐらいだもん。それに対しておれの作った霊力剣は刃先がボロボロになっている。

 

 これははっきり言って無理ゲーです、はい。

 もし死んだら早恵ちゃんを一生恨みます。死んでも生き返るけど……



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第七話 新しい発見!

今回は三人称視点と早恵ちゃん視点です。


「はあ!」

 

「おりゃあ!」

 

現在、生斗と女妖怪が死闘を繰り広げている。

しかし見れば誰もがわかるほど劣性にたたされているのは言わずもがな生斗の方である。

最初の方は生斗の独特な剣捌きに遅れをとっていた女妖怪だが、それも時間が経つに連れて慣れていき、今では攻める側となっている。

 

「(このままじゃいずれ殺られる…………“あれ”を使うか?

でもあれ多すぎて脳が回らなくなるからあまり使いたくないんだけどなぁ)」

 

「さっきから貴方は何を考えてるの?そんな暇あったら避けるのに専念した方がいいわよ!」

 

「うおっと!?このぉ!仕返しだ!!」

 

「またそれ?」

 

少し距離をとり、生斗が策を練っている最中に女妖怪が妖弾を放ってきた。それを間一髪で避け、お返しにと爆散霊弾を女妖怪に向けて放つ。速度は普通なので難なく避けられてしまったが代わりに着弾した瞬間大爆発を起こし、数十メートル先にまで土煙が上がった。

 

 

「(よし、この間に策を固めて……!!!?)」

 

土煙に紛れて身を隠し、策を固めようとした瞬間、極太のレーザーが生斗の真横を通った。

 

「見ぃーつけた!」

 

「くそ!考えてる暇はないか!!」

 

運良く当たらなかったが代わりに土煙はすべて吹き飛ばされ、生斗の居場所が女妖怪にバレてしまった。

 

「もういい!脳をフル回転させてでもこの状況を打開してやる!」

 

「できるのかし、ら!?」

 

女妖怪が生斗に肉薄した瞬間、急に現れた6つの霊力剣に道を阻まれた。

 

「まさか、手に持っていないのにそれを扱えるなんてね。しかも6つ、普通の人間じゃ一つですら扱えないでしょうに」

 

「ふ、修行の成果さ!あんまりしてないけど」

 

女妖怪が思わず感心したのは無理もない。元々、霊力で剣を生成することは高度な技術を必要とする。それをいっきに6つ、今生斗が右手に持っているのを合わせて7つ生成していることになる。しかしそれだけではこの女妖怪は『へぇ、珍しいわね』程度しか思わない。

ならなぜ感心したのかというと、それは6つの霊力剣が持ち主の手によって操作されているのではなく、空中に浮いており、それを操作していたからである。

実を言うとこれは昔、綿月隊長に傷をつけたときに使った技の強化版である。あのときは一つ操る程度が限界で、しかも操作している間生斗はそれに集中して充分に動けなくなっていた。しかしそれも綿月隊長との戦闘の後、サボりを多少加えながらこの技の特訓をしていた。

そのお陰か今では6つなら同時に違う動作をしたりしても自分自身で充分に動けるまでに成長した。

 

「(左右に3つずつ、右手に一つ。これは少し面倒ね……)」

 

「ふっ、驚いたか。これはおれが編み出した技『アルティメットシックスエクスカリバー』だ!!」

 

「…………」

 

「どうだ!」

 

「……言ってるのはよくわからないけど、それはたぶんダサいと思うわ」

 

「……な!?」

 

因みに右手に一つ持っているのでシックスではなくセブンになるはずである。

 

「まあ、名前は兎も角それが厄介なのは確かね」

 

「まあな」

 

「ま、負ける気はしないけど」

 

「そんなのおれにだってわかる!」

 

 

この会話のあと第2ラウンドが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早恵side

 

 

私は今何を見ているのだろうか。こんなにも激しい戦闘を見たのは始めてだ。

 

取り敢えずさっきまでの私の行動について振り返ってみよう。

 

 

まず、諏訪子様と話したあと神社を飛び出して昨日ボコボコにされたあの日傘をもった妖怪がよく出没する場所に向かった。

その途中、昨日私が負けた一番の敗因となった極太レーザーの音が村の出口付近に聞こえてきて、冷や汗がとまらなくなった。

 

そして森の中を捜索している途中、大爆発が昨日来た場所付近で起こり、急いでそこに向かった。

 

それで茂みの方について見てみると、6本の光る剣と右手に持っている剣を自在に操り、あの妖怪に攻めいっている熊口さんの姿があった。

 

 

これまで熊口さんの実力は見たことがない。1度村の皆の前で力がどれくらいなのかを見せていたことぐらいだ。しかもあの光る剣とか他に色々なものを霊力操作によって生成しているぐらいだった。

 

そのせいもあってか、私は熊口さんの加勢をせず、ただどれくらいの実力か知りたくなった。

普通、大妖怪相手に人間一人で立ち向かうことは無謀だ。しかも今回に限っては私がこれまで戦ってきた妖怪の中でもっとも強かった相手だ。これまで巫女として妖怪を沢山倒してきたが開始五分で膝を地面につけることになったのも勿論始めてだ。

 

それなのに今戦っている熊口さんは一向に倒れない。それにどこか余裕そうな感じすらしている。

それを不満に思っているのか少しあの妖怪も不機嫌になっていたがすぐにそれも消えて満面の笑みを浮かべている。正直怖い。

 

 

 

 

 

そして10分程経過したとき、ついに熊口さんが勝負にでた。

なぜか爆発する霊弾を5つほど妖怪に撃ち、それを避けた瞬間に熊口さんが特攻した。それは無謀ではないのかと思った。

当然妖怪はまっすぐ来る熊口さんに向けて極太レーザーを放つ。なんであんなに早く撃てるのかはわからないが……

そしてそれは熊口さんに向けて一直線に来る。いつ避けるのかと思ったが熊口さんは一向に避けない。

そしてついに熊口さんに極太レーザーが当たった。

一瞬悲鳴をあげそうになったが寸でのところで止めることができた。理由は簡単、極太レーザーが何かに当たったような音がしたあと消えていったからだ。

え?!なんで消えたの?!と思ったがそれはあの妖怪を見てわかった。

 

なんと妖怪の後ろにいつのまにか光る剣があり、妖怪の背中を切っていたからだ。

 

いつの間にそんな事をしていたの?!

 

 

「ふう、賭けはおれの勝ちだな」

 

「く、いつの間に私の後ろに……?」

 

「簡単簡単、おれが特攻しているようにみせて注意をおれの方に向けただけだ。その隙に霊力剣を生成してアンタの後ろに忍び込ませたのさ」

 

「ふん、これぐらいで勝った気にならないことね」

 

「まあ、今のレーザー止めるのに相当な霊力使っちまったしな。」

 

「あら?もう終わりなの?」

 

「おれとしちゃあ、さっさと終わりたいんだけどな……つーかなんで急に襲ってくるんだ?」

 

「そりゃあここら辺は私の縄張りよ。それなのに最近雑魚妖怪がよく入ってくるからイライラしてるのよ」

 

「ん?それってつまりストレス解消に付き合わされてんのか、おれ?」

 

 

 

ん?今の会話に少し疑問がでてきた。

 

 

「ちょっと待ってください!」

 

兎に角その疑問に答えてもらうべく私は茂みから飛び出した。

 

「うわ!?早恵ちゃん?!っておい!早恵ちゃんのせいでおれが……」

 

「ちょっと黙っててください!!」

 

「えぇぇ?!」

 

「誰かと思えば昨日の巫女じゃない。また性懲りもなくやられに来たの?」

 

「違います。そうじゃなくてここらによく出ると言う妖怪の事です!なにか知りませんか?」

 

「ああ、あの雑魚共ね。なんか彼処の村の人間を襲おうってことで集まってたわよ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「まあ、そいつら全員まとめて消し炭にしたけど」

 

「え?!」

 

「別にアンタたちのためじゃないわ。集まってた場所が私の花畑だったからよ」

 

「え、でも……」

 

申し訳なさでいっぱいだ……間違って関係のないこの妖怪に手を出してしまうなんて……

 

「ってことはアンタはおれらの村に手を出さないんだな?」

 

「ええ、興味ないわ……いや、今日興味沸いたわ。貴方にね」

 

そういうとこの妖怪は熊口さんに向けて微笑んだ。そして熊口さんの顔は青くなった。

 

「ってことは私の出番はないと言うことですね!わかりました!!帰ります!」

 

「え?!ちょっとまって早恵ちゃん!!おれも帰る!」

 

「待ちなさい。まだ勝負は終わってないわよ」

 

私と一緒に帰ろうとした熊口さんの頭をがっしりと妖怪が掴んだ。

 

「大丈夫ですよ。偶然とはいえ私達の村を助けてくれた人なんですから!殺されはしませんよ」

 

「……早恵、後で覚えてろよ……」

 

後ろからドスのきいた低い声が聞こえた気がするがたぶん幻聴だろう。

 

 

そして私が村の入り口付近についた時に極太レーザーが空に向けて放たれていてどこか聞いた声のある人の悲鳴が聞こえたけどそれも幻聴だろう。

 

取り敢えず熊口さん頑張って!

 

 

 




今回でた
アルティメットシックスエクスカリバーは
名前がちょっとあれなんで
諏訪子か早恵ちゃんに決めてもらおうと思っています。
なので今後技が出ても
アルティメットシックスエクスカリバーという名前は
でないと思います。


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第八話 以外と優しかったな

 

「……は!……ここは?」

 

起きたらベッドの上で見慣れない洋風な部屋にいた。

あれ?おれさっきまで妖怪と戦っていたような…………あ!そういえばあのときあの妖怪の極太レーザーをもろに受けたんだった!それにしては目立った外傷がない。確かに受ける直前おれは全ての霊力を防御に回して受け止めたがそれ程度じゃ無傷で済むはずがない。

 

「ま、まさか!死んだのかおれ!?!」

 

心の中で念じて確認してみる。…………

 

「よし、10個あるな。」

 

「と、するとなんで傷がないんだろうか……」

 

「あら、起きたの?」

 

「うわ?!」

 

考えに耽っていたせいで妖怪の接近に気づけなかった。

 

「ふふ、なんで傷がないのか疑問に思っているんでしょう?

大丈夫よ、私が治したから」

 

「は?なんで治したんだ?妖怪なら普通食うか殺すはずだけど……」

 

「貴方のような人間を見たのは初めてなの。こんな珍しいの殺すなんて勿体ないじゃない?」

 

「はは、それは良かった……でもアンタ本気を出してなかっただろ」

 

「それは貴方も一緒でしょ?」

 

「まあ、そうだけどさ。おれの場合リスクが大きいんだよ」

 

「あら、冗談でいったのに本当だったの?それじゃあ家からでてまたやりましょ」

 

「え?!」

 

「ふふ、冗談よ。外傷はないけど内臓の方はかなり痛んでいるからあまり動かない方がいいわ」

 

く、この野郎。まさか弄ばれてるのか、おれ……

 

「で、気になったんだけどここってアンタの家?」

 

「ええ、そうよ。まあ、季節が変わればまた何処か花があるところに行くけどね」

 

「へぇ、旅人か?」

 

「まあ、そんな感じよ。花があるところを転々としているわ」

 

「花が好きなんだな」

 

「花妖怪だから当たり前なんだけどね」

 

「……」

 

「なによその顔」

 

「いや、ちょっと驚いただけだ。てっきり戦闘のためならなんでもやる残虐妖怪だと思ってた」

 

「……ほんとに殺すわよ?」

 

「ごめんなさい!」

 

まあ、おれを助けてくれた辺りからそんなんじゃないのは薄々気づいてたけどな。……まあ、おれを怪我させた張本人だけどね。

 

「それじゃあ名前を教えてくれないかしら?

 

私は風見幽香。花妖怪よ」

 

「ああ、おれの名前は熊口生斗。人間さ」

 

そういうと幽香はおれをみて満面の笑みでこんなことをいってきた。

 

「熊口生斗ね。わかった。一生忘れないわ」

 

これは喜ぶべきなんだろうか?確かに美女からこんなことを言ってくれるのはかなり嬉しいことなんだけど……でもその笑顔が新しい玩具を見つけたみたいな顔をされていたら全然嬉しいとは思えない。

 

「そ、それじゃあもう日も暮れてきたしかえるとしようかなぁー!」

 

「ええ、そうね」

 

「え?!?」

 

「え?驚くところかしら?」

 

「いや、てっきりここから出られるとでも思ったのかしら?、と言われて戦闘に持ち込まれると思ってたんだけど」

 

「……それもいいわね」

 

「ごめんなさい!」

 

本日二回目の土下座!!!

 

「冗談よ、今の貴方とやっても楽しめそうにないし。それに……」

 

「それに?」

 

「デザートは後に取っておく方なの」

 

そういわれた瞬間、おれは震え上がった。

 

「へ、へぇ、でも妖怪って長生きなんだろ?そんなに待っていたらおれ死んでるかもよ?」

 

「ふふ、私を騙せるとでも思ったかしら?貴方、命を複数持っているんでしょう?」

 

「え!?なんでそれを!?!」

 

「さっきこの部屋に入る前に貴方の独り言が聞こえたのよ。もしかしてと思って聞いたけれど図星のようね」

 

「……」

 

くぅ、またしてやられた……!こいつ読心術のスペシャリストなんじゃないのか?……て今回はおれが独り言で呟いていたのが原因か……

 

 

「それじゃあまたいつか会いましょう。たぶん私あと一ヶ月もすれば他の処に行くから暫く会えないけど」

 

「はは、おれとしちゃあ命をすり減らずに済んでよかったよ」

 

「ふふ、今回は許すけど次あったときは本気を出しなさいよ?じゃないと次は本気で殺すから」

 

「……精進します」

 

 

 

この言葉を最後におれは新しい知り合いの妖怪、風見幽香と別れて家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~生斗の家~

 

 

 

「さあて、今日はさっさと寝て明日あの野郎にお仕置きしないとなぁ!」

 

「はあ、やめた方がいいと思いますけど」

 

「止めるな翠、男にはやらなければならないことがあるんだ。」

 

「ま、まさか!早恵ちゃんに性的な事をしようと……!!そんなことさせませんよ!」

 

「お前……なぜいちいちおれを変態扱いしたがるんだ?」

 

「現に変態じゃないですか!私のお尻を何回も触ってきたくせに!」

 

「あれはお仕置きだ!しかも直接触ってない!棒でケツバットを10本程度しただけだろう!」

 

「乙女に何て事を?!とんだ屑ですね!!」

 

「ああもう!ただでさえ体がくたくたなのにお前のせいで精神的にも疲れたわ!」

 

そう言っておれは毛布の中にくるまった。

 

「ちょっ、熊口さん?」

 

「…………」

 

「何無視してんですか変態!」

 

「…………」

 

「もう!早く出てきてください!」

 

「…………」

 

「え、熊口さん?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「う、うぅ、なんで寝てしまうんですか……」

 

「…………(うん?)」

 

「……私はただ、話し相手が欲しかっただけなのに……」

 

「……(おいおい……)」

 

 

ちょっと無視したらどうなるかと思って布団の中にくるまって隙間から翠を観察していたらいつの間にか泣いていた。

 

「(まじか。これぐらいで泣くか?……普通)」

 

「うう、一人ぼっちはもう嫌……」

 

「(うわ、そういえばこいつ死んでから1度も誰ともまともに話せていないとか言ってたな。たぶんそれが関係しているんだろうか……)」

 

くぅ、人を泣かせるなんておれはなんて最低な奴なんだ……

 

「すまん!泣かせるつもりは無かったんだ!」

 

布団から飛び上がって取り敢えず翠に謝った。

そうした瞬間翠は泣き止み

 

「ふふ!騙されましたね!私の泣き真似に!!」

 

「……」

 

「凄いでしょう!」

 

こいつ……

 

「よおし!またケツバットでもするかなぁ!」

 

「やめてください、お願いします」

 

 

 

影女といい、この世界の人はみんな泣き真似が上手すぎるだろ!!



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第九話 諏訪子との追いかけっこは壮大だな

はい、エゾ末です。いやぁ、部活が終わってのんびり皆と駄弁ってたらですね、まさかの7時を越えてたんですよ!まだ明るいし6時位かと思ってたんですが全然違いました笑

さて、こんなどうでもいい話はおいといて今回は初登場以外殆ど出ていなかった諏訪子との日常会話です。
あとちょっと早恵ちゃん回もあります。


「いやぁ、やっぱ神のいる所は落ち着つくなぁ」

 

「いや、急に来て何くつろいでんのさ。ここは神を敬う所、つまりここでは私を敬う場所だよ、用がないんなら帰った帰った!」

 

 

今日おれは用があって諏訪子んとこの神社にお邪魔している。

ん?何の用だって?そんなの早恵ちゃんの説教に決まってるじゃないか!あの娘が幽香におれの事を言ったから強引に戦う羽目になってしまったんだ!……まあ、正体が分からなくても幽香なら襲ってきただろうけど……

でも後で幽香から聞いた話だと自分より格下の相手は手加減したり、いたぶったりするらしい。つまり早恵ちゃんが個人情報を漏らさなければ手加減されている内に逃走したりそこの隙をついたりすることができたんだ。

 

この罪は重いぞ……

 

 

と、邪なオーラを出しながらきたせいかおれが来る前に早恵ちゃんが『なにかとてつもなく嫌な予感がします!』と言って神社を後にしたらしい。

 

くそっ!逃げられた。

 

 

「まあ、どうせ暇だったしいいんだけどね。でも出会い頭にミシャグジを倒すのはやめようね。」

 

「いや、そりゃあ今回は無理があったぞ。

来たら急に『貴様ぁぁ!!この前はよくもやってくれたなぁ!!!』って突進してきたんだから仕方ないでしょ。正当防衛だ。それにこいつ、夢に出てきそうだから怖いんだよ」

 

 

「まあ、確かにミシャグジが夢に出てきたら次の日はずっと鬱な気分になりそうだね」

 

「も……洩矢様…………ひどい……」

 

「うわ、起きてきた!?」

 

「き、貴様は……生かして…………お……けん。いつか……必ずや……天罰を下し……てやる……」

 

「ミシャグジよ、ごめんな」

 

「ふん、今頃……謝った……所で時既に…………おそ、しいぃ?!」

 

「ほんと、ごめん。」

 

なんか祟られそうだったので首トンした。ふ、許せ、ミシャグジ。

 

「うわ、つーかこれって漫画の中だけだと思ってたわ……」

 

「あーあ、しーらない。ミシャグジって嫉妬深いから敵に回すと厄介だよぉ。まあ、ミシャグジの最後に言ったように時既に遅しだけどね」

 

「ま、諏訪子が取り繕ってくれればなんとかなるさ」

 

「見事なまでに他力本願だね!」

 

「まぁーな!」

 

「いや、胸を張って言えることじゃねーよ」

 

いて!……ジャンプして頭を叩かれてしまった。

 

「……もう、無理すんなよ」

 

 

「な、?!まさか身長の事か!このぉ!気にしていることをいいよってぇ!」

 

「ははは!叩けるもんなら叩いてみろ!」

 

「上等だ、表にでな!」

 

 

このあとこの国全土に渡っての追いかけっこが始まった。

 

く、昨日の痛みがまだ残っていたから結構きついな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  早恵side

 

 

「ふふ、ここなら見つからないでしょう」

 

 

現在私は熊口さんから逃亡しています。理由は簡単、私が熊口さんの情報を妖怪に漏らしてしまったこと。

 

今日たぶん説教しに来るだろうと重んじて受けようとしたけど、神社に続く階段を昇ってきてる熊口さんのドス黒い気配を感じてしまい、思わず逃げてしまった……

 

そして今、私は熊口さんの家の中にいます。

 

ふ、何故態々熊口さんの家に来たかというと答えは簡単、普通追いかけている相手がまさか自分の家にいるだろうなんて思わないでしょう?それが私の狙いです。

 

 

「ふう、ここならいっときは安心ですね。」

 

「早恵……ちゃん?」

 

「え?…………あ」

 

私しかいないはずの家なのに急に後ろから私を呼ぶ声がした。

 

それに驚いて私は咄嗟に後ろを向くと

 

 

 

 

 

 

 ________2年前妖怪に殺された私の妹、東風谷 翠がいた。

 

 

「あ、ああ、翠?」

 

「久し振り!早恵ちゃん!!」

 

「なんで生きてるの?!」

 

「いや、今は幽霊なの、」

 

「ま、まあそうだよね……翠はあのとき……」

 

「もう!そんなことはいいんだよ!取り敢えずお話しましょう!」

 

うう、涙で翠がよく見えない……でも嬉しい。二度と聞けないと思っていた妹の声が聞けたんのだから…… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラ

 

「はあ、疲れたぁ。」

 

くそぉなんなんだよ諏訪子、あいつめっちゃはえーよ。怪我人をいたわってくれよ、まったく。

 

そう心で諏訪子に悪態をつきながらおれは家に帰ってきた。

 

すると玄関先の客間の方からすすり泣く女の声が聞こえた。まったく、また翠のやつがおれをからかってやがるな!

 

 バシーンッ!!

 

 

「もうその手には引っ掛からん…………ぞ?」

 

おれは障子を思いっきり開けて驚かせてやろうとそれを実行したらその中にいた翠と早恵ちゃん!?が一緒に泣いていた。

 

「え?そんなに今の怖かった?」

 

「「ちげーよ」」

 

泣いてる二人にツッコまれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーとつまり?お前ら双子で霊力に恵まれた早恵ちゃんの方が諏訪子んとこの巫女になって霊力が凡人以下だったが人望が厚く、皆を導く能力があったため村長になった。ってことか?」

 

「「はい、大体はそれで合ってます」」

 

「いやあ、まさかお前らが姉妹だったとはな。それにしても似てなくないか?」

 

「はい、実は私は捨て子だったんです。でも早恵ちゃんのお母さんが私を拾ってくれて東風谷家の養子になったんです。結局はお母さんも病気で亡くなって私も妖怪にやられて早恵ちゃんを一人にさせてしまったんですが……」

 

 

「ほう……それは悪い事を聞いてしまったな……」

 

「いえいえ、元を辿れば熊口さんがここに住んでくれたお陰でまた翠と会うことができたんです。もう感謝してもしきれません」

 

「あ、そうか?……でもお前らおれが来たときなんで泣いてたんだ?たぶんだけどおれが帰ってくるより結構前に会ったんだろ?」

 

「え?ずっと話してましたよ?ねぇ」

 

「はい、確かに。ずっと楽しいお話をしていましたよ」

 

「え、すすり泣く声しか聞こえなかったんだけど」

 

「幻聴ですよ、それじゃないなら耳がイかれてるだけとか」

 

「耳をあの妖怪と戦ったときにやられちゃったんじゃないですか?」

 

「お前ら……!」

 

 

姉妹揃っておれをディスりやがって。まあ、いつも通りの二人になったし此方の用事も済ませようか。

 

 

 

「それじゃあ感動の再会についての事はひとまず置いといて、

ひとまず俺にとっての本題に入ろうか」

 

「あ!」

 

「ああ、早恵ちゃん。君だよ君、それにもうひとつ

 

 

 

 

 

 ________なんで不法侵入してたんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいぃ!!!」

 

 

 

 

 

 

そのあと日が暮れて諏訪子がおれん家に来て早恵ちゃんを回収するまで説教は続いた。

 

んん、おれって説教の才能あるんかな?いつもは説教される側だけど。

 

 

 

 




はい、東風谷姉妹について少し疑問に思ったであろう事を説明しておきます。
それはズバリ!早恵ちゃん初登場の時、生徒君の家に上がったとき何故翠は現れなかったのかということです。
これについてですが翠は基本的午前中は寝ているからです。翠の活動時間は主に昼ごろから始まります。
それで今回早恵ちゃんが来たのが午後2時ほどだったため会うことができたということです。

いらない説明だったかもしれませんが一応書きました。


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第十話 うるさい、寝れない

人の平均的な睡眠時間は大体6~9時間と言われている。

 

なんとなく調べてみたときは7時間23分くらいだったか?そのくらいで働き盛りの人ほど睡眠時間は少ないと書いてあった。

 

さて、ここでおれはこの国に来てからのことについて考えてみようと思う。

3日前までおれはこの家にいる幽霊、東風谷翠の騒音のせいで初日以外度々真夜中に起こされていた。そしてその日はついに我慢の限界に達し、こらしめてやった。

 

 

2日目。3日前の時翠のせいで1時間くらいしか寝れなかった。

そして幽香と会い、ボコボコにやられた後、気絶した。これで睡眠時間を稼げたと思ったが全然疲れと痛みがとれてなかったし、眠気もとれてはいなかった。それで家に帰って寝ようとしたが、それを翠に邪魔をされ、5時間も寝れなかった。

ちょっと翠を恨んだ。

 

 

昨日。眠気が凄かったがそれよりも早恵ちゃんに文句を言いたかったのでいつも通りに起きた。たぶん早恵ちゃんが怯えるほどのオーラを出してた半分は寝れないことに対してのストレスが占めていたと思う。つまり翠のせい。

そして昼になって少し眠気が無くなったときに諏訪子と追いかけっこをした。

程よい汗とは程遠いほどの汗をかいた。かなり寒むかったのにな。

そして家に帰ってちょっと早い就寝としようとおもっていたが、ここで問題発生。

家に早恵ちゃんと翠がいた。そして姉妹だった。

驚いたおかげで眠気が少し吹っ飛んだ。なので早恵ちゃんに説教を日が暮れるまで垂れてしまった。

そして諏訪子が迎えに来て、そして諏訪子も翠がいたことに驚いていた。

これまではよかった。これまでは。

なぜか諏訪子と早恵ちゃんが泊まることになった。おいおい、神が神社離れていいのかよ……

場所も広いから泊まるスペースはあったのだが布団が3つしかなかった。

そのせいでおれは地べたで寝る羽目になったのだが、もう眠いしいいかと思った。しかしここでまさかのガールズトークが大音量でおれの部屋まで届いてきた。ここでおれは選択肢が出てきた。

1 部屋に乗り込んで怒鳴る。

2 黙ってみんなが寝るのを待つ。

 

このときおれは考えた。もし1を選んだ場合、確実にあの姉妹から変態扱いされるだろう。もしかしたらおれが女子の部屋に乗り込む変態ということが噂になり、おれのここ10日間積み上げてきた村の皆の信用が水の泡になる可能性がある。

それは嫌だった。なのでおれは2を選んでしまった。

何故このときおれはもう一つ、他の選択でおれの部屋から怒鳴るというのがあった。それをあのときに思い付いていればあんな頭に響く女子共の声を我慢しなくてすんだのかもしれない。

たぶんあのとき眠気があるのに寝れないという生き地獄を味わっていたおれは単純な事しか考えられなくなっていたんだな……

ガールズトークは真夜中の2時近くに終わった。

 

 

そして現在。

諏訪子と早恵ちゃんが寝たと同時に翠がおれの部屋に来た。

おれの顔を見るなり

 

「起きてたんですか?うわぁ……私達の会話を盗み聞きするなんて最低ですね」

 

と罵って来やがった。誰のせいで寝れなかったと思うんだ!しかも今の状態じゃ向かい側の部屋の声を聞き取ろうなんて無理がある。あのとき雑音にしか聞こえなかったんだから。

 

 

そしておれが言い返さないことを良いことにずっとおれの隣で罵ってきた。

……なんでこいつなんかに人望が集まったんだ?人の睡眠を妨げる害にしか思えないんだけど……

 

もう怒鳴る気力もないおれはただ頭に透き通る翠の声をBGM にして寝てやろうと奮闘したが結局寝れなかった。

翠はおれが応答しなかったお陰か、一時間程したら部屋を出ていった。

 

「(はあ、やっと眠れる……睡魔よ。待たせたな、さあ行こう!)」

 

そう思った瞬間障子が開かれる音がした。……ああ、睡魔がおれを突き放してきた……

 

誰だ!っと言わんばかりに顔だけを障子が空いた方に顔を向ける。今おれの目は寝れていないせいで充血している。たぶん今俺の顔を見た人は少しビビるだろうな。

 

そして空いた障子の先にいたのは……諏訪子だった。

 

「あれぇ?生斗の部屋だったのぉ。ごめんね、起こしちゃって」

 

そう言って諏訪子は障子を閉めた。

 

「間違えただけかい……!」

 

眠くてツッコむ気にならなかったのになぜかツッコんでしまった。本能?

 

そしてツッコまなければよかったと後悔した。

おれの声を聞き取ったのか翠が勢いよくおれの部屋に入ってきた。

 

「やっぱり起きてたんですね!さあ!お話しましょう!!」

 

「で…………でてけぇえぇぇ……」

 

最後に振り絞った声とともにおれは意識が飛んだ。

たぶん睡眠不足によるものだろうな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……まだ夜か」

 

起きたら辺りがまだ暗かった。昼過ぎまでは寝ているだろうと思っていたがほんの2時間程度しか寝てなかったのか……

 

「やぁーと起きた!もう早恵ちゃんと諏訪子様帰っちゃいましたよ!」

 

と、起きたのを察知したのか翠が部屋に入ってきた。……なんだこいつ!おれが起きたと同時に入ってくるなんて……

 

「あ?まだ夜じゃないか」

 

「はあ……もう貴方が気を失ってから丸一日経ってますよ。」

 

「え?」

 

「つまり今は次の日の夜中ってことです。」

 

「まじかよ……」

 

そんなに疲れが溜まってたのか!……やべーな

 

「まったく、体調管理も自分でできないなんて、とんだ駄目人間ですね!」

 

「なぁ……一ついっていいか?」

 

「なんです?」

 

「殆どお前のせいだからなぁ!!」

 

 

 



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十一話 急に要求してくる奴な

はい、いつもネタに困るとオリキャラを登場させているエゾ末です。
今の挨拶からわかる通り今回もオリキャラでます。
うーん……オリキャラ出しすぎているような……
確実に原作キャラより多く出てますし。

ついでにこの作品を書き始めて1ヶ月経ちました!


諏訪子が祀られている洩矢の国に来てから1年が経った。

まあ、翠がおれの睡眠を妨害すること以外はゆっくりと過ごす事ができた。

 

どんなことを1年間を過ごしていたかというと、主に畑の手伝いをしていた。後は散歩とか昼寝とか諏訪子んとこの神社でゆっくりしてたな。

ん?今思ったけどおれって兵としてこの国に居させてもらってたんだよな。振り返ってみると兵っぽいことまったくしてなかったじゃん。

 

「と言うことで今、おれは神社の門番をしている。」

 

「いや、別に大丈夫です。」

 

今おれがせっかく稀にしかでないやる気を見事に踏みにじってきたのはこの神社の巫女、早恵ちゃん。

 

「ん、そうか」

 

大丈夫だと言われたので門の前に座った

 

「ええぇ、そこにいられると参拝客がここを通る時に妨げになります!入るなら入る、出るなら出てってください!」

 

 

「あーもう!……ならどうすればいいんだよ。」

 

「そうですねぇ……ここ周辺の巡回はどうですか?」

 

「あ、それだ」

 

よし、これからの事が決まった。早速実行だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、熊口さん。散歩かい?暇なら明日わしの畑を手伝ってくれんかね?」

 

 

「お、熊さんここを通るなんて珍しいね。いつもと違う道で散歩してるのかい?」

 

 

「うわぁ!熊さんだ!遊ぼー」

 

 

 

 

 

畜生。これただの散歩や。皆に仕事だって言ってるのに全然信じてもらえない…… 

 

このままじゃ兵として駄目だ。もっとこう、妖怪をやっつける様なことをしなければ。

 

「ちょっと失礼していいかな?」

 

でも幽香のような妖怪とかは勘弁だな。まあ、あんなのがごろごろいるわけないけどな。いたらこの世界崩壊する。

 

「ちょっと尋ねたいことがあるんだが……」

 

あーもう、うるさいなぁ。考え事してんのに。

 

おれはそう思いながら後ろから声がしたので向いてみると、そこには高貴そうな服を着ていて、腰には一本の刀をさしており、長い茶髪を紐で束ねている美少年がいた。くそ!なんだこいつは!!泣きぼくろなんかありやがって!取ってやろうか!?

 

「あー、はいはい。なんですか?人が折角考え事しているところを邪魔してきた人」

 

「人の話を無視して考え事している方が失礼だと思うが……」

 

「まあ、そうだな。で、何の用?」

 

自分でもわかるくらいに冷たい反応で相手を急かした。

 

「あ、ああ、洩矢諏訪子という祟り神がいる神社をしらないか?そこに用があってな」

 

「うーん……そうは言ってもアンタ、見るからにここの者じゃないだろ?ここに来た理由を教えてもらわなきゃはい、そうですかって言って教えるわけにはいかないな」

 

「そうか……」

 

そう言ってこのイケメンはなにか悩んでいた。……だけど1分くらいした時「まあ、いいか」と呟いた後、教えてくれた。

 

 

「私は大和の国の使者の南方道義という。この書状をこの国の神、洩矢諏訪子に渡しにここへ参上した。」

 

「ふーん、大和ねぇ」

 

知らね

 

 

「まあ、手紙を渡すだけならいいか……諏訪子の神社があるのはここを真っ直ぐいって大木があったらそこを右に曲がれ、そしたら階段があるからそこを登ってけばいずれつくだろう」

 

「すまんな」

 

そういって道義と名乗った大和の使者はおれが言った方向へ歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局それらしい事しなかったなぁ」

 

道案内以外ほとんどいつも通りだった。まあ、気長に行くとしようかな

 

「腹減ったし帰ろ」

 

最近は翠と交代制で夕飯を作っている。なんで幽霊の翠が食事をするんだ?と思ったが食べても食べなくてもどっちでもいいらしい。なら食うなと言いたいけど早恵ちゃんとは段違いにご飯が美味しかったので言わなかった。

 

「熊口さん!」

 

うわ、噂をすれば早恵ちゃんが空から来たよ。

 

「ん、どうしたんだ?」

 

「ちょっと来てください!大変なことになったんです!」

 

「だからどうしたんだって」

 

「兎に角!」

 

そう言うとドテラの襟を掴んでそのまま空に飛んだ。

 

「ぐぇっ!?」

 

急に上がられたせいでちょっと首が絞まってしまった。

 

「もう、一体なんだってんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うことで生斗、どうすればいい?」

 

「……知らん」

 

 

うわあ、何てこった。まさかあの時道を教えたあいつがまさかこんな爆弾を持っていたとは……いや、物理的な爆弾ではないよ?

 

 

「要するにこの手紙にはこの国を渡せって書いてあるんだな。」

 

「そうだよ、普通他の国とかなら突っ返すけどまさか大和の国とはねぇ」

 

「ん、大和の国がなんだって言うんだ?」

 

「最近他の国々をバンバン攻めて勝っている武力国家みたいな処だよ」

 

「つまり戦争大好きな国ってことか」

 

なんて奴に道を教えてしまったんだ……

 

因みに大和の使者である道義は諏訪子が帰ってほしいと言われてそのまま帰ったらしい。

 

「それで?降状すんのか?」

 

「そんなわけない!この国を渡してなるもんか!」

 

「ふーん、そうか。てことは戦争するか?そうしたらここのやつらもかなり死ぬぞ」

 

「うっ、それは……」

 

「ま、おれもどうすればいいかわかんないけどな」

 

「わかりました!!」

 

「うわっ!?なんだ?」

 

さっきまでずっと部屋の奥で黙っていた早恵ちゃんが急に飛び上がった。

 

「一対一でやればいいんですよ!そうすれば此方にも勝ち目があります!!」

 

「おいおい……それができたら苦労しねーよ……」

 

ん、でも早恵ちゃんにしては良い考えではあるな。どうすればそれを実現できるかは大和の国次第だけど

 

 

「でも大和の国が自ら勝率を下げる様な事をするかなぁ」

 

「まあ、諏訪子の言う通りだな」

 

「あーうー、でもそれ以外良い考えが思い付かないよぉ」

 

「取り敢えず此方もそういう書状を出したらどうだ?」

 

「まあ、それもそうだね。ってことで生斗、大和の国に言ってきてね」

 

「は?」

 

「だってこの国の中でもかなりの実力者だし」

 

「いや、だからってなんでおれなんだよ」

 

 そんなめんどくさい事したくねーよ

 

「だってもしかしたら大和の国で襲われるかも知れないじゃん。それなら一番生存率の高い人を行かせた方がいいよ」

 

まあ、それもあるな……普通なら捨てゴマとかをやったりとかするんだけど諏訪子の場合はそんなことしないしな……疲れるけど諏訪子のそういう人を大切にするということは好感が持てるしな。

 

「まあ、仕方ない。行ってやるか、めんどくさいけど死なないし」

 

「そういうのを死亡ふらぐ?っていうんだったよね」

 

「こら!そういうことを言うんじゃない!」

 

 

という感じでおれは大和の国に行くことになった。諏訪子の言うような物騒なことにならなければいいけど……



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十二話 初めての遠出ですな

UA 3000越えました!!!有り難うございます!




「そうえば初めてこの国以外の所にいく気がするな……」

 

大和の国からの返事として諏訪子が書いた書状をおれが渡しにいくことになった。

書状の内容をざっといってみると降状はしない。戦うなら代表者の一対一の一騎討ちをする。とのことだ。はっきり言ってこんな無茶苦茶な事を言って了承されるはずがない。良ければ追い返されるか、悪ければ見せしめに殺される事だってある。まあ、そんな対応をされればおれもそれ相応の対応をするけどな。

 

「はい、これ。大和までの道のりの地図と行き帰り合わせて4日分の食料ね」

 

「うわ!おもっ!?諏訪子の2倍はあるんじゃないか?」

 

「ま、そんなもんでしょ」

 

「疲れるの嫌なんだけど……」

 

「まあ、こんな面倒な事を頼むのも本当は気が引けるんだけどね……

取り敢えずありがとう。無茶を引き受けてくれて」

 

「気にすんな。おれも全然ここに来てそれらしい事していなかったしな」

 

「まあ確かにねぇ」

 

「それじゃあそろそろ逝くとするかな」

 

「はい、気をつけていってらっしゃい」

 

 

さて、これから2日間ただただ歩く作業がおれを待ち構えているし

まったり行くとしますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりな、こうなりそうな気がしそうだったもん。おれは驚かないよ。」

 

「逃げるな人間!大人しく捕まれぇ!!」

 

洩矢の国をでてから現在、つまり五時間の間の出来事について話そう。

 

まず1時間目、休憩してたら低級妖怪の群れに襲われた。その時は力が有り余っていたので難なく撃退した。

そしてその30分後、中級妖怪が5体ほど不意打ちで攻撃してきた。ギリギリで避けることに成功したが冷や汗で服がびしょ濡れになり、少しの間不快な気分になった。ついでに不意打ちをしてきた中級妖怪どもは少し怒ったので爆散霊弾で撃退した。今おれの使う爆散霊弾は力を少し強めれば中級妖怪なら一撃で倒せるくらいの威力はあり、今回も5発で全滅させることが出来た。

 

さて、ここまではまだマシだった。まだ、時間に間があったんだから。

どんなことがあったかというと5分おきに妖怪の群れがおれを襲ってきたんだよ、畜生!

 

なので倒すのが面倒になったおれは現在、出てくる妖怪どもを軽くあしらいながら逃げている。

 

「はあ、空まで追いかけてくんなよ……」

 

「ぐへへ、今日の飯は上物だぜ!」

 

「さっさと捕まえようぜぇ!!兄貴!」

 

今おれを追いかけているのは羽がついている少しグロテスクな妖怪。たぶん兄弟だろう。

 

「ぐへへへ!!油断したな!」

 

「ぐっ、あぶね!?」

 

グロテスクと罵ったお陰か不意に妖弾を放ってきた。

もう、この妖怪兄弟ども、めんどくさいことをしやがる。こんな弾幕避けるの面倒くさいんだぞ……

 

「どうしたぁ?人間!!このまま逃げてたら俺と弟の合成兄弟最強無敵★妖力弾の餌食になっちまうぜぇ!」

 

「ん?なんか親近感が湧いたぞ」

 

「何訳のわからんことをいってるン……だぁがはっ!?」

 

「弟ぉ!!?」

 

「ふん!」

 

「ぐほぇっ!?」

 

「あ、アンタは道義か?」

 

もうそろそろ逃げるのが面倒になったので妖怪兄弟を倒そうとしたとき、弟の方から急に道義が現れ、瞬く間に抜刀、それと同時に弟の方の妖怪の体が横に真っ二つになった。

そして兄の方が弟の急な死に、大きな隙を見せた瞬間、道義が物凄い速さで肉薄し、そのまま首を切り取った。

 

「大丈夫か?旅の者……と、貴方は昨日の……」

 

「ああ、まだ名前いってなかったな。……熊口生斗だ。取り敢えず助けてくれてありがとうとでも言っておくか」

 

「まあ、善意でやったことだ。……と、少し疑問があるんだが、何故熊口殿はこんな森の奥地にいるんだ?」

 

「ああ、それは諏訪子からこの書状を渡せって言われたんでね。なんで現在大和の国に向かってるんだ。」

 

「……そうか。だがここは大和の国とは全然違う方向だぞ」

 

「え?!」

 

慌てて諏訪子から貰った地図を見てみる。たぶん今いるおれのいる場所がこの森で、大和の国がここだからて…………うわぁ、かなり正規ルートから離れてるよ。

 

 

「ん?それじゃあなんで道義はこんなところにいるんだ?」

 

「ああ、私はここの薬草に少し用があってな。帰り道に少し寄っておったのだ」

 

「ああね」

 

だから一日おいて出てきたのに追い付けた訳か。

 

「あ、そういえば道義は大和の国なんだよな。ならこの書状渡しといてくれないか?」

 

「それは無理だ。そう言うのはちゃんと国の者が渡すのが礼儀だ。それを他国の、しかも敵に成るやも知れん相手に書状を渡すなんて途中で捨てられたりしても文句は言えんぞ」

 

「そ、それもそうだな」

 

軽めに説教されてしまった。

 

「まあ、道案内はしてやってもいい。ここから大和の国への近道を知っているんだ。ついてくるか?」

 

「あ?そうか。それじゃあついていこうかな。……でももう日も暮れてきたし出歩くのは少し危険な気がするんだけど……」

 

「むっ、それもそうだな。それでは今日はここで野宿をするか」

 

 

はあ、今日は疲れた。さっさと寝よ。道義もおれとは敵になるかもしれない相手だけどさっきのおれが逃げてたのを見て実力はあまりないと判断したらしい。結構遠慮なくおれの向かい側で寝ている。甘く見られたもんだ。まあ、そこで力を見せびらかそうとは思わないけどな。もしかしたら使えるときがあるだろうし。

 

 

 

 

 

…………さっさとこんな旅終わらせて家で寝たいな……

……翠がいるから安眠できるかどうか不安になってきた。



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十三話 おれに勝てると思ったか!!

はい、今回神奈子登場です。


「ふぅ、やっとついたか……」

 

「まあな。……取り敢えずようこそ、大和の国へ」

 

 

昨日野宿をしてから次の日。おれと道義は森を出て、近道とやらを通って大和の国へ来た。

 

「へぇ、広いもんだな」

 

「当たり前だ。ここを何処と心得ている?」

 

「はいはい。そんな堅物キャラぶらなくていいから。

取り敢えずこの手紙誰に渡せばいいんだ?」

 

「そ、そんなこともわからず此処へ来たのか!?」

 

「だって仕方ないじゃん。急遽決まってそのまま軽い準備してから出たんだから」

 

「それでもここら周辺の国なら誰もが知っているお名前であるんだぞ……」

 

「知らんもんは知らん!おれをそんじゃそこらの常識人と思うなんてお門違いだぜ!」

 

「なぜ怒鳴られたのかは知らんが……いや、怒鳴りたいのはこちらの方だぞ!わが主である神奈子様の名を知らぬ無礼者など」

 

「ん、神奈子様っていうのか。よし、いこう」

 

「あ、こら!私の話を聞かんか!」

 

「ほらほらぁ、さっきからここの通行人が不愉快がっているよぉ~。……通行の妨げになってるのを気付きなさい。」

 

「くっ、宮司である私がここまでこけにされるとは……」

 

 

ぎゃはははぁ!愉快愉快!!……道義には悪いがおれはいつもいじられるよりいじる方なんだ。それなのに最近は早恵ちゃんや翠にいじられっぱなしでストレスが溜まってたんだ。なのでちょっと発散させて貰った。

……我ながら屑だと思うがおれは気にしない!

 

 

 

そのあとおれは道義に連れられて大和の国の奥の方にあるかなり大きい神社の前まで来た。

 

「さて、案内はここまでだ。後は自分で行けるだろう」

 

「ああ、別に案内を頼んでなかったのにあんがとな」

 

「ふっ、気にするな」

 

 

そしておれは門の前に立ちこう叫んだ。

 

「たぁぁのぉもぉぉぉ!!!!!まいねーみんぐいず生斗 くまぐぅちぃ!! 書状を持ってきたので開けてくださぁぁぁいぃ!ってぃだぁ!?」

 

「…………」

 

顔真っ赤にして額に青筋をたてた道義が無言でぶん殴って来た。

やべ、ふざけすぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくくっ……それで?くくっ……私んとこの神社の前で奇声を発していた不届きものというのはこいつか?……くくっ……」

 

「神奈子様!何を笑っておるのですか!!こんな無礼者、晒し首にしてもまだ足りぬほどの事をしでかしたのですぞ!」

 

「まあまあ、いいじゃないか道義。そんな怒らなくても」

 

「お・ま・え のせいなんだからな!それよりもなぜくつろいでいる!!神の御前なのだぞ!!」

 

「ほう、熊口生斗といったか。なかなか肝が据わってるねぇ」

 

「よく言われます」

 

 

まあ、現在は無事、神奈子様の処へいくことが出来たが、実際は結構色々あった。

まず、おれが叫んだ瞬間、神社の中からめっちゃ兵が出てきておれを取り押さえようとして来た。捕まる道理もないので空を飛んでそれを回避。中から出てきた兵は空を飛べないようで悔しそうな顔をしていた。なぜかそれが滑稽だったので指をさして笑ってたらいつの間にか後ろにいた道義が抜刀して切って来た。

それに気づいたおれは霊力剣を生成して間一髪で受け止めたけど……あれは危なかった。まさか抜刀してくるとは……

まあ、そのあと神社の中から強大な神力が感じられておれ以外の皆がひざまずいた。なんなのだろうと思ってたら中から神奈子が出てきてそのまま祭壇のあるところまで呼ばれたという感じ。

 

 

 

 

「さて、ここに来たのは返事を貰えるということかな?洩矢の使者よ」

 

「よくご存じで。取り敢えずこの書状をお聞きください。」

 

 

そういったあと、おれは諏訪子が書いた書状を読み上げた。

 

 

「ふざけた書状だな。こんなの我らが受けるとでも?」

 

「道義には聞いていない。おれは今神奈子様に聞いているんだ」

 

「……」

 

「どうですか?」

 

「確かにふざけた事を言っているな。普通ならこんなのは破り捨てる」

 

やっぱりか……

 

「だが、最近は国攻めばかりしていて兵たちも疲弊している。少し休ませたいとも思っていたところだったんだけど」

 

「そ、それなら!」

 

なんてグッドタイミングなんだ!緊張して損したぁ

 

「ああ、受けてやらんでもない。しかしただそちらの申し出に応じるのではつまらないしねぇ……」

 

と、神奈子さんは道義を見て……

 

 

「よし、決めた!私んとこの宮司である南方道義を打ち負かすことが出来たらこの書状の件について了承してやるとしよう!!」

 

「「ええぇぇぇ!!!?!?」」

 

道義とハモった。まあ、そりゃそうだろうな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在おれは大和の国の中心部にある広場で道義と睨みあっている。

観客はこの国の民。殆どが『道義様~』『あんなやつやっつけてぇ』と道義コールが飛び交っている。

はあ、イケメンめ。必ずや滅してやる。

 

「これから模擬戦を開始する。時間は無制限。どちらかが気絶するか参ったをしたらそこで試合終了とする。

 

それでは!始めぇ!!!」

 

 

「ああ、くそ。めんどくさいことになったな!」

 

「無駄口叩いている暇があるか。一瞬できめてやる!」

 

そう言って道義は一瞬で消えた。

はあ、瞬間移動系の能力か。まあ、妖怪ブラザーズのときにも見せびらかすように使ってたしたぶん合ってるだろう。

そういうのは……

 

「とっくに攻略済みだ!」

 

「なっ?!」

 

後ろに回り込んでいたであろうことを予測し、回し蹴りを放ったら見事クリーンヒットした。

 

「な、道義様の瞬間移動が見切られたぞ!?」

 

「そんなことができるのか?!」

 

ふふ、皆おれが何故今のが反応できるのかというと、実は小野塚との対戦で対処法はばっちしなのだ!はっはっはぁ!

 

まあ、要は瞬間移動するとき、移動する場所がちょっと歪むからそれを見極めてるだけなんだけどな。今回は何処にも歪みが無かったからたぶん後ろだろうと予測したけど。

 

 

取り敢えずこの対処法のことを道義にそのまま説明してやった。

なんで態々相手に教えるのかというとちゃんとおれにも策があっての事だから気にしないでくれ

 

「くっ、なら私のこの剣でお前を切り刻んでやる!」

 

「ばーか。能力が見切られた時点でお前の負けは決定してるんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、くそっ。何なんだいったい……」

 

 

「なんだあいつ……!?道義様が全く歯が立たないなんて……」

 

今、道義は満身創痍なうだ。それもそのはず、おれが出した『玲瓏・七霊剣』(早恵ちゃん命名)により両方向から繰り出される7つの剣を防ぎきれず、傷だらけになっているんだから。

 

「お前は自分の力を過信し過ぎてんだよ。だから自分の能力を誰構わず見せびらかした。それがお前の一番の敗因だ、道義。」

 

「神奈子様。申し訳ありません……」

 

「さて、この勝負はどちらかが参ったというか、気絶させないと終わらないんだよな」

 

「な、私は決して参った等しない!」

 

「ん、そうか」

 

「ぐはっ?!」

 

取り敢えず刃を潰した霊力剣で頭をぶっ叩いた。

まあ、死にはしないだろう。

 

「しょ、勝負あり!」

 

「「「「ワアァァァァ!!!」」」」

 

一気に歓声とが上がった。

 

 

 

「よくやった、道義よ。」

 

「お、神奈子様。大丈夫ですよ。気絶させただけですから。」

 

「見れば分かる……まあ、あっぱれだった。約束通りこの書状について了承しよう。」

 

「ありがとうございます。」 

 

 

よし、おれの仕事は終わりだ!……後は諏訪子次第だ。

まあ、大丈夫だろう。

取り敢えず風呂に入って早く寝たい。



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十四話 え、帰してくれないの?

ついに総話数が40話突破しました!
ここまで続けられたのも皆様が見てくれたおかげです!!


「よし、帰るか!」

 

昨日、道義との勝負に勝ったおれは宿屋で一夜を過ごし、今日帰ることにした。

そして現在、おれは大和の国の門の前で優越感に浸っていた。

 

役目を終えるとこんなに開放感があるんだなぁ。例えるなら勉強を全然してないのにテストでまあまあ解けたときみたいな感じだ。まあ、そのテストは大抵予想の遥か下なんだけどね。

 

「っぐええっ!?」

 

と、前世の世界での失敗談のことを考えていたら後頭部から衝撃がきた。

 

「一体っ……なんだってん……だあぁ?!」

 

またもや頭に衝撃が来て、おれは意識が薄れていった。その意識が飛ぶ瞬間、おれを殴ったであろう輩の声がした。

 

「よし!連れて行け!!」

 

「は!…………しかしこんなことまでする必要があったのでしょうか?」

 

「昨日の道義様との戦いを見ただろう。だから試して見たのだが……どうやらそこまで大物では無かったようだな。あともしそうであっても手っ取り早く済んでいいだろう」

 

 

 

この声は…………たぶんここの兵士だろうか?

つーか上司っぽい奴!手っ取り早いてなんだ手っ取り早いて!!

 

そう上司っぽい奴に悪態をつきながらおれは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚めたら神奈子さんのいる部屋にいた。まあ、予想はしてたよ。

 

「いやぁ、すまないねぇ。こんなことになってしまって」

 

「いや、悪いのはおれを連れてきたやつらですよ、神奈子さん。あとおれを連れてきた上司っぽい奴は後で一騎討ちを仕掛けます。」

 

「おお、それは困るな。私の国の戦力が削られてしまう。それに連れてこさせた者は道義の弟子だった奴なんだ。それなのにその師匠を無傷で倒されたのが気に食わなかったのもあるんじゃないか?」

 

「はあ、そんな事で気絶させられたのかよ…………

まあ、この話はおいておくとして。

 

神奈子さん、なんでおれを連れてきたんですか?おれ的にはもう帰りたいんですけど」

 

まさか昨日の約束やっぱ止めた。とかはないよな!?

内心この事で汗をかきつつ、おれは神奈子さんの返答をまった。

 

「酷いことを言うねぇ。まあ、悪い話じゃないさ」

 

「ほうほう」

 

「熊口生斗よ。私が洩矢の神。洩矢諏訪子との一騎討ちが終わるまでこの国に居てもらう」

 

「はえ?!」

 

なんで態々敵地にいなければならないんだよ。昨日と今日とで思ったけどここの皆おれを見るなりヒソヒソ話をしたり睨み付けられたりするから居心地最悪なんだけど。……まあ、宿屋のおっさんはやさしかったけど

 

 

「断る。……といったら?」

 

「熊口は断れない、いや、断らない。」

 

「断らない?」

 

「もし断った時は昨日の約束はどうなるんだろうな。まあ、頭の良い熊口には容易い事だとは思うが」

 

「……くっ」

 

「分かってくれたようだな。それじゃあこの首飾りを掛けてくれない?」

 

「一つ聞いていいです?なんでおれをこの国にひきとめるんですか?別にあの約束通り諏訪子を行かせますよ。ちゃんと一人で」

 

「いやぁ、そういうことじゃないんだよねぇ。…………と、話はここまで。取り敢えず付けてくれ。」

 

「はいはい、わかりました。っと。……それでこれは何なんですか?」

 

「契約みたいなものさね。これで熊口は私との約束を守らなければならなくなった。」

 

「いや、別にそんなことしなくてもここにいましたよ。」

 

「それは昨日の約束を無効にすると脅されたからだろう?」

 

「そ、そうですけど」

 

「私は一度した約束を破るような真似はしたくないんでね。しかし熊口にここに居てもらわなければ面白いことができないから少し嘘をついてしまったのさ」

 

「嘘だったんですか?……それでもその嘘をつき通せば結局はこの首飾りをつけさせる必要なんて

なかったくないですか?あと面白いことてなんですか!?」

 

「それは保険。もしかしたら私の心情を読み取ってわざと了承したふうに見せている可能性があったからね。あと面白いことは私と洩矢の神が戦う日までのお楽しみさ」

 

お楽しみってなんだあああぁぁ!!

取り敢えず話に戻ろう。

 

「そんな読心術を持っているわけないじゃないですか。それも神の」

 

「くくっ、まあいいさ。取り敢えずこれから宜しく。」

 

神奈子さんが俺のところにきて前に出してきた。

 

「はいはい、わかりましたよ」

 

前に出された手を握り握手をした。

 

 

 

 

 

 

「お楽しみってなんだ…………」

 

「いい加減諦めな……。」

 

「それじゃあおれの心の中に出来たしこりが取れないんですよ!」

 

「はあ…………仕方ないねぇ。それじゃあ一つ教えてやろう。

 

 

『洩矢の神との関係が深いほど面白味が増す。』

 

……あちゃ、ほぼ答えをいってしまったようなもんだ」

 

「いや、そんなこと言われても分かりませんよ。なんですかそれ。おれ諏訪子とはそんな関係なんかじゃないですよ。第一おれはロリコンじゃない。」

 

「ろりこん?……まあ、別に好い合っている仲とは限らないけどねぇ。家族愛とかそういうの」

 

「ああ、そういうことですね」

 

「まあ、教えるのはここまで。後は自分で考えな。それでもわからないときは1週間後まで我慢するんだね」

 

「ぐおぉお!!!絶対解いて見せるぜぇ!」

 

「その意気その意気」

 

 

 

結局おれは諏訪大戦までそのことについて分かることは無かったとさ。

 

ほんと、あーゆーことだったのね……

 

 




神奈子の台詞がわからない。どうしよう。


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十五話 おれは師匠って柄じゃない

「お願いします!!」

 

「断る」

 

急にこんな場面をお見せして申し訳ないと思う。

絶賛せがまれ中なんだ。何を誰にせがまれてるかって?

道義に弟子にして修行を手伝ってくれってせがまれてんだよ!

 

「あのときの熊口殿の剣捌き、私は感動しました!1本ならまだしも7本もの光る刃を自在に操るあのお姿。いつ思い出しても胸の高鳴りがおさまりません!」

 

「誉められるのはうれしいんだが…………こんな所で頼まれても困る。」

 

そう、ここは神奈子さんとこの神社の門の前だ。今日はなんとなく神社に行きたい気分だったので行ってみれば門前で道義が待ち伏せして今の状況が完成したのである。

 

「これまでの無礼は謝ります!ですからお願いします!私めを弟子にしてください!!!!」

 

「話を聞け。あと断る。」

 

「洗濯や食事の用意等の家事もしますから!」

 

「こ、断る」

 

ちょっと魅力的だな……

 

「お金も出しますから!」

 

「いらん。帰れ」

 

「ほう。お金に執着しない方でしたか!ますます尊敬します!!」

 

「そうだろう!」

 

「なので弟子にして下さい!!」

 

「だが断る」

 

「ぐぬぬぅ……」

 

「大体なんでいちいち辛い修行なんて自分からしようとするんだよ。おれなんて言われなければ絶対にやらないぞ」

 

ほんとそうだよ。人に言われる以外で修行をするときとか大抵気が向いた時ぐらいだし。

 

 

「全ては神奈子様のためでございます。神奈子様は私が生涯忠誠を誓ったお方です。その忠誠を誓った神奈子様を守るためならばこの身を捨てても構わないと思っております。しかし一昨日の熊口殿との戦いで自分がどれだけ無力なのか実感しました……これでは神奈子様をお守りするどころか足手まといになってしまいます。そうならないためにも私は強くならねばならないのです!」

 

「演説おつかれさまです。あんたが神奈子さんへの忠誠心が凄いのがわかった。でも鼻息荒くして俺に近づいてくるのはやめろ。はっきりいって恐怖でしかない。」

 

「おや、気づかぬうちに興奮していましたか。失敬失敬」

 

「まあ、なんと言われようと修行なんて真っ平ごめんだけどな」

 

「んな殺生な!?」

 

「修行?いいじゃないか!熊口、手伝ってやんな。」

 

「え?!神奈子さん?!」

 

「神奈子様!ありがとうございます!!」

 

急に後ろから現れた神奈子さんが修行手伝ってやれと促してきた。

 

「い、いやですよ。いくら神奈子さんのお願いでも……」

 

「なんで断る必要がある?ここ一週間は暇だろうに」

 

「めんどうだからです。」

 

「…………命令だ。道義の修行を手伝え」

 

「なっ!?神だからっておれは屈しないぞ!!」

 

「よおし、言うことが聞けないのなら勝負で決めようじゃないか!」

 

「望むところだ!人間の恐ろしさをその身をもって思い知らせてやる!!」

 

「あのぉ、神奈子様、熊口殿。私をおいていかないでください……」

 

 

このあと神奈子さんとの腕相撲で惜しくも負けてしまい、道義の師匠をやる羽目になってしまった。

 

「熊口殿、いや、師匠!これからは宜しくお願いします!」

 

「手抜きは許さないからね」

 

「はいはい、わかりましたよ。やればいいんでしょ!あと神奈子さん!今回はちょっと調子悪かっただけですから!次は負けませんよ!!」

 

「敗者の言い訳ほど見苦しいものはないね!」

 

「ごもっともです!」

 

二人に笑われた。くそぅ。

 

「取り敢えず道義。この国50周走ってこい。」

 

「わかりました!師匠!!」

 

そういって道義は走り去っていった。……おいおいまじか。

 

「笑ったことに対してのイタズラとしてちょっとした冗談のつもりでいったんだけど……」

 

「道義の辞書に冗談という字はないからね。」

 

「でしょうね」

 

 

そのあと道義が走るのをぼぉーと見た。そして途中で倒れた。……少し悪いことしてしまったな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  一方その頃

 

 

生斗が道義の国50周マラソンを見ているとき、諏訪子のところに一騎討ちの説明の書状が届かれていた。

 

 

「え…………生斗が……死んだ?」

 

「はい、誠に申し上げ難いのですが使者の生斗様は神奈子様の宮司、南方道義様との戦いにより、命を落とされました。」

 

「道義とか言うやつを呼べ!いますぐに!!」

 

「現在道義様は重症のため呼ぶことができません」

 

「別に重症でもいい。祟るだけだから」

 

「そういうことならば余計連れてくるわけにはいけません!」

 

「なら、もういい。帰れ」

 

「はい、わかりました。」

 

そういって大和の国の使者は帰っていった。

 

 

 

 

「諏訪子様!あんなに大声をあげてどうしたんですか!?」

 

大和の国の使者が帰った直後、諏訪子のいる部屋に早恵が入ってきた。

 

「うぅ……ぃとが……、、んじゃっ……た…」

 

「え?」

 

「生斗が!死んじゃっだの!私が行がぜだぜいで!私のぜいなの!」

 

「え?!熊口さんがし、死んだ?!?」

 

「う″ぅん……」

 

「え……えっ?いや、え?だってこの前だってへらへらしながら散歩してたんですよ?それが……なんで……」

 

「ごめん……私のせいで…………」

 

「す、諏訪子様のせいじゃ、ありませんよ……悪いのは大和の国です。……そうです、大和の国が悪いんだ!」

 

 

 

今回大和の国の使者が誤った情報を諏訪子に聞かせ、生斗を自分の国に留まらせたのはこれが目的だった。

 

諏訪子は自分が使者として生斗を行かせたことに対して悔やみ、いずれその悔やみが怒りに変わり、それを大和の国、神奈子に向けさせ本気を出させる。

それが神奈子の目的。国をかけた勝負でも本気を出しきれない者がたまにいる。しかしそんな輩でも自分の親しかったものを奪われると本気をだす。憎しみを抱えながら……

 

神奈子は憎しみが一番本気を出させられると考えている。

この事から神奈子は実は幽香と負けないくらいの戦闘狂なのかもしれない。

 

 

さて、洩矢の国では生斗は死んだと言うことになった。そんな中、生斗とあったときみんなどんな反応をするのだろうか。

 

もしかしたらその反応をみるのも神奈子の目的だったのかもしれない……

 




三人称視点難しいです。



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十六話 勝手に殺してんじゃねぇぇ!!

今回は諏訪子VS神奈子の対決ですが
殆ど戦闘シーンはありません。


「くくっ、ついにこの時が来たね」

 

「あんたが八坂神奈子?その後ろに担いでいる御柱はまさか武器だったりするの?……まあ、そんなの使っても私は負けないよ」 

 

 

ついに諏訪子と神奈子さんが戦う日が来た。

場所は洩矢の国と大和の国の中間地点にある森に囲まれた平地。現在二人は平地のど真ん中でなにか喋っている。かく言うおれは森の茂みに隠れて観戦中である。

 

なぜか諏訪子の顔が暗いが、たぶん国を賭けた戦いだから緊張してるんだろう。

 

 

 

「もし私が勝ったら南方道義の処へ連れていけ」

 

「いいよ。勝ったら……ね!!」

 

 

お、始まったか。

二人の神は勢いよく空へ飛び、雲の上まで行って見えなくなってしまった。なんで雲の上にいって見えなくなったのに戦闘が始まったのかがわかったのかと言うと雲の上から眩しいくらいの閃光と轟音が鳴り響いているからだ。

 

 

「これじゃあ観戦しに来た意味がないじゃん」

 

「え?誰かいるんですか?」

 

ありゃ、懐かしい声が聞こえたな。

今いる茂みの近くで洩矢の国でよく聞いていた声がした。

 

「おーい、早恵ちゃ~ん。ここだここー」

 

「え?!この声は……熊口さん!!?まさか幽霊の囁きなのでは?!」

 

「こらこら、誰が幽霊だ。翠と一緒にすんな」ドスッ

 

「いてっ、……て熊口さん!?生きてたんですか?」

 

「バリバリ生きてるわ!」

 

取り敢えず幽霊扱いされたので茂みから不意討ちとしてチョップをかましてやった。

そしたらやっと早恵ちゃんがおれの事を認識して急に地面にへたりこんだ。

 

「良かった……生きてたんですね。てっきり…………もう会えなくなるかと……」

 

「おいおい!?なんで泣いてんだよ?なにかあったのか?!」

 

「は……はい、じ……実は________」

 

 

 

それからおれは早恵ちゃんから大和の使者の事について教えてもらった。

 

「フムフム、なるほど。大和の使者がおれが死んだとデマを流してそれをお前らは信じたんだな?」

 

「はい…………遺品として黒眼鏡があったのでてっきり信じてしまいました。」

 

「ああね。…………なあ、一回叫んでいいか?」

 

「どうぞ。」

 

「あんがと」

 

そういっておれは大きく息を吸って

 

「かあぁなあぁこおぉぉぉぉ!!!!!勝手におれを殺してんじゃねえぇぇぇ!!!!!!!」 

 

うん、かなり大きい声が出たな。隣にいた早恵ちゃんも耳を塞いでたのに尻餅ついてたし。

 

それと今回おれが死んだとデマを流させたのは十中八九神奈子さんだろう。だってグラサンなんて今の技術じゃ作れそうに無いしな。家とかもまだ土と木材だけで作っているぐらいだし……それなのに作れるなんて今の技術といえば神ぐらいしかいないだろう。

 

「熊口さんがこんなに声を出しているの初めて見ました。」

 

「そりゃあ自分を勝手に死んだことにされてたらこれぐらいはでるだろう」

 

「それもそうですね!」

 

 

神奈子さんが面白いことがあると言ったのはこの事だろう、たぶん。

実際はあの雲の上に殴り込みに行って神奈子さんをぶちのめしたいところだけど……流石に真剣勝負に水を差す真似はしたくないので止めておこう。

 

「そういえば熊口さん。いままで何処へ居たんですか?」

 

「ん?大和の国」

 

「え?!大丈夫だったんですか?!変なことをされたんじゃ…………」

 

「変なことはされちゃいないけど変なことなら起きたな」

 

道義を倒したらなぜか巫女からスッキリした顔でお礼を言われたこととか、道義が倒れるまで走らせたら巫女からスッキリした顔でお礼を言われたこととか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっくそっ……ごめん、生斗……仇をとれなかったよぉ……」

 

「ふぅ、少し危なかったねぇ」

 

お、二人が降りてきた。どっちもボロボロだな。今の言葉から諏訪子は負けたようだ……

 

 

「おーい諏訪子ぉー、仇なんてとらなくていいぞー。おれ生きてるから」

 

「え?!幽霊!?」

 

 

 

またそのパターンかい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあと早恵ちゃんとほぼ同じような会話をしたあと諏訪子はおれが生きていることを信じてくれた。

 

 

「さて、神奈子さん。おれになにか言うことがありますよね?」

 

「な、なんのことかい?わわ私は知らないよ」

 

「よし、諏訪子次はおれも加勢するから一緒に神奈子さんを伐とうぜ」

 

「わ、わかったから!……すまん!!洩矢の神に本気を出させるために熊口を利用してしまった!」

 

「……この戦闘狂め!」

 

「なっ!確かに今回のことは悪かったがそんなこと言うまではないだろう!?神を嘗めているのか!」

 

「ほう?やるんですか?神である神奈子様が人間ごときとやるんですか?」

 

「やってやろうじゃないか!」

 

 

なぜかこのあと神奈子さんと押し相撲をすることになった。 

勝敗はおれの勝利。負けた神奈子さんは膝を地面に落として悔しそうにしていた。あと諏訪子と早恵ちゃんの顔はひきつってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数日後 洩矢の国にて~

 

 

「いやぁ、まさか民が私の事を反対するとはねぇ」

 

「皆祟り神である私の事を畏れているところもあるからそう簡単に変えられないんだと思うよ。」

 

「それもそうだな……さて、どうしたものか……」

 

今の会話からわかる通り、洩矢の国の皆は神奈子さんがこの国の神になることを反対した。ついでに諏訪子は最初神奈子さんを少し嫌っていたが、今では結構仲良しになっている。

ふむ、ちょっとめんどくさいことになったな。この問題はおれ的にも少し嬉しいことではあるんだけど……

だって信仰を得られない神は存在できなくなるらしいからな。これで諏訪子が消滅したら嫌だし……

 

……さて、それもふまえて考えて良いことを思いつけないだろうか……

 

 

「ここはいっそ二人で神をやってみれば?」

 

 

と、なんとなくてきとーに言ってみる。

 

 

「んー、そうしてもいいんだけどねぇ…………いや、出来るかも知れない」

 

「え?出来んの?」

 

「普通はこう言うのはありえない事だけど少し思考をかえれば出来ないことないね」

 

「確かに」

 

「ふーん、それってどんなの?」 

 

 

 

まさかのおれが言ったただの思い付きで発した言葉から洩矢の国の方針が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか表向きで神奈子さんがここを統治してその裏で諏訪子が実質的政を取り仕切るなんてなぁ。」

 

「へへーん!すごいでしょ!」

 

「確かにすごいんだが……神奈子さんは大和の国を出てもよかったんですか?」

 

「ああ、私は彼処の国を統治しているわけではないよ。私は天津神の尖兵さ。」

 

「え?!そうなんですか!?ならなんであんなでかい神社であんなふんぞりかえってたんですか?」

 

「あれは元々私の部屋さね。もっと大きいところはあるよ。」

 

「てことはまだ神がいるってことですか?」

 

「ああ、結構いるね」

 

「諏訪子、無謀なことをしようとしてたんだな。おれら」

 

「確かにねぇー」

 

 

まさかまだ神がいるとは…………

大和おそろしや……

 

 

まあ、こういうこともあって神奈子さんが洩矢の国に来た。そして勿論この数日後道義も来ることになった。

 

一週間大和の国に滞在したが、やっぱりわが家が一番だ。

睡眠妨害するやつがいなければ……



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十七話 結婚かぁ……

やっと2章のタイトル通りに進みますね。
あと2~3話ぐらいで2章完結です。


「師匠!!どうにかしてください!!」

 

「うお?!どうした、道義?」

 

おれん家の縁側で寝転びながら日向ぼっこをしていたら急に道義が庭に入ってきた。

 

「何故かここの巫女と諏訪子様から睨まれるんですよ!?巫女の方は兎も角、諏訪子様からは祟りの念をおくられてくるんです!」

 

「睨まれるくらいならまだマシだろ。おれなんてミシャグジから追いかけ回されるんだぞ。……でもまあ、あの二人がそんなに敵意を向けてくるなんて……なにかしたんじゃないのか?尻を鷲掴みしたとか」

 

「な、早恵ちゃんになんて事をするんですか……ってきゃあぁ!!太陽眩しいぃぃ!!!」

 

急に部屋からでてきたのは勿論元ここの家主の翠。たぶんおれの言った冗談を真に受けた様子。そして苦手な太陽の光を直で受けて悶絶している。

 

「な、なんだこいつは?!しかも私はそんな破廉恥な事などしはしません!!!」

 

「ああ、冗談でいったからな。あとそこで転げ回っているのは、幽霊だ。」

 

「は?」

 

「まあ、太陽が苦手で睡眠妨害が趣味の悪質な幽霊とでも思っておけばいい。」

 

「な!悪質とな!そんなものこの世に留まらせる訳にはいきません!即刻成仏させてくれる!!」

 

そういって道義は刀を抜刀して翠の方に向けた。

 

「ああもう!いいから!取り敢えず諏訪子達の事を考えよ「目があぁぁ!目があぁぁぁ!!?」うるさい!!」

 

「そうですね……」カチャッ

 

 

もう、折角さっきまでまったりゆったりと過ごしていたのに……やっぱり弟子なんて取るもんじゃなかった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 神社周辺にて(諏訪子がいつも遊んでいる湖付近)

 

「ということで、神奈子さんに相談に来ましたぁ」

 

「急になんだい?私をここに呼んで」

 

「いやあ、ちょっと道義が諏訪子と早恵ちゃんに敵意を向けられていて、なんかあったんじゃないかなぁと思って」

 

「ああ、道義が諏訪子と早恵から睨まれるわけかい?恐らく私のせいだろうね」

 

「え、なにゆえですか!?神奈子様!!」

 

「いやぁ、熊口が死んだと嘘の情報を流したときに、道義が決闘の時に殺したっていっちゃったんだよね。おそらくその時に出来た嫌悪感が未だに張り付いているのかもしれない」 

 

「神奈子様ぁぁ……何てことを……実際は師匠に傷をつけることすら出来ず惨敗したと言うのに……」

 

「まあ、つまりはどうすればいいんだ?」

 

「もう染み付いちまったもんだからねぇ。交流を深めるしかないんじゃない?」 

 

「そ、そんなぁ……近づこうとした瞬間逃げられるのにぃ……」

 

「ふぅむ…………ま、なんとかなるだろう。じゃあなぁ」

 

「ちょっ、まってください!師匠!助けてくださいよ!」

 

「師匠なら一肌脱ぐぐらいしないと駄目じゃないかい?」

 

「元々は神奈子さんのせいなんですからあなたが助けてあげてくださいよ」

 

「ぐっ、それを言われると何も言えない……」

 

「ということでじゃあ!」

 

そういっておれは湖から出ようとした。……出ようとしたんだ。でも真横に御柱が通りすぎた。

 

「……何もしないんじゃないんですか?」

 

「なに、何も言えないとは言ったがなにもしないとは言ってないよ」

 

「師匠!神奈子様!どっちも頑張ってください!」

 

「なにいつものように戦う感じになってるんだよ!やらんぞ!絶対にやらんぞ!だって面倒だから!」

 

「熊口はいつも断る理由はそれだね!ま、いつも私が勝って結局する羽目になってるしいい加減諦めたら?」

 

「だから今日はそんな気分じゃないんだってば!昼寝したいんだよ!!明日にしろよ明日。そしたら手伝う可能性はあるから!」

 

「男に二言はないね。……じゃあ道義。今日は我慢してくれ。」

 

「……わかりました。(またあの雰囲気の中で過ごさなければならないのか)」

 

「ということで!じゃあな!」

 

そういっておれは今度こそ森をでた。……取り敢えず明日の言い訳を考えておかないとな

 

  ドガッ

 

「ギャッ!?」

 

そんなこと考えてたら頭に御柱がクリーンヒットした。

まさか神奈子さん、おれの思っていることがわかるのか?!

 

「御免御免、なんとなく投げたら当たっちゃったみたいだね。」

 

「……気を付けてくださいよ」

 

な訳ないか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  次の日

 

 

おれん家に道義は来なかった。

 

「来ると思って言い訳考えてたんだけどな」

 

「言い訳なんて小物臭い事昨日ずっと考えてたんですか?とんだカス野郎ですね!」

 

「翠うるさい」

 

 

 

 

 

 また次の日

 

 

おれは少し不安になったので神社へ足を運んだ。

そしたら思ってた光景とは違うのがおれの前に写った。

 

「道義さん、あーん」

 

「あ、有り難う」

 

「なんだ、道義。全然大丈夫そうじゃないか。早恵ちゃんに食べ物をあーんしてもらえるなんて」

 

「し、師匠?!」

 

「熊口さん?!」

 

思ってた光景とは全然違うな。もう早恵ちゃんベタベタじゃないか。

でも早恵ちゃんからあーんはされたくないな。確かに美少女の部類に入る早恵ちゃんだが、そのあーんする食べ物がもう未知の物体だからされたくない。……まあ、おれがされるはずがないが。

 

「んじゃ。おれは帰るわ。無駄な心配だったようだし、二人の邪魔なんて無粋なことはしないよ」

 

「あ、有り難うございます。師匠」

 

 

 

 

 

 

そしておれは神社をでた。その降りる階段の途中、諏訪子に捕まった。

 

「ねえ、生斗。あの二人どう思う?」

 

「まあ、取り敢えずあいつらが仲良くなった経緯を教えてくれ」

 

「それもそうだね」

 

そしておれは仲良くなった経緯を聞いた。

まずおれと別れたあと、神奈子さん経由で二人を集め、道義が二人に面と向かっては話し、無事仲良くなったらしい。

そして昨日、仲直りの印として作った早恵ちゃんの未知の料理を文句も言わず完食して美味いとまでいい、いっきに好感度が上昇。食べたあとの散歩に出かけた二人は帰った頃には早恵ちゃんは落ちてたらしい。

 

「まあ、道義は、『顔だけ』は格好いいからな」

 

「生斗は皮肉を言う時点で性格不細工だね」

 

「な、なにをぉ?!おれは顔は普通、内面超絶イケメンをモットーとしているんだぞ!」

 

「いや、知らないよそんなこと」

 

「……まあ、最初の諏訪子の質問にたいしてだけど……お似合いじゃないか?美男美女だし」

 

「そっかー、やっぱりそう思うよね……はあ、ついに早恵も嫁入りかぁ……」

 

「嫁入りて……まだ早いんじゃないか?」

 

「そんなことないよ、ここでは普通14歳くらいで結婚してるしね。早恵ももう19歳だから遅いくらいだよ」

 

「14歳とか……はやくないか?!」

 

「まあ、そういうのもあって早恵ももういい歳だし結婚を考えているんだよ」

 

 

 

その諏訪子の言葉は2年後に叶う事になり

道義と早恵ちゃんは結婚した。

 

ふむ、そういえばおれそんなこと全然考えていなかったな。

相手は……………………いないな、なんか悲しくなる。

 



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十八話 幸せはすぐに過ぎ去るな

洩矢の国に神奈子さんと道義が来てから30年が経った。もう道義も早恵ちゃんももう結構な歳になっている。皺もすごいぜ。ついでに言うと神奈子さんと諏訪子は神なので歳を殆どとっていない。翠は死んでる。

それと道義と早恵ちゃんの間には子供ができて今では早恵ちゃんの代わりに新しい巫女となっている。

 

まあ、30年経ったからっておれの生活スタイルはかわらんが。今も神社の階段に座ってお茶を飲んでるし。

 

「ねぇ、せいとぉ。一つ聞いていい?」

 

「なんだい?枝幸ちゃん。」

 

今おれを呼んだのは今代の巫女、東風谷枝幸・8歳。おれの後ろをいつもついてくる可愛いやつだ。

 

「なんでせいとは歳をとらないの?」

 

「ん?いや、歳はとってるよ。ただおれの能力の関係上若いままだけどね。ちゃんと寿命もあるし」

 

「ふぅーん。ということでだっこして」

 

「それが目的か!」

 

「眠いの」

 

はあ、可愛いやつめ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  道義&早恵の家にて

 

「師匠、すみません。うちの枝幸の我儘を聞いてもらって」

 

「いや、いいさ。別に嫌じゃないしな」

 

「そうですか」

 

「………………」

 

「ん、どうしました?」

 

「道義、老けたなぁ」

 

「人は普通、老いるものです」

 

「む、おれが普通じゃないみたいじゃないか」

 

「ははは」

 

最近は早恵ちゃんや翠に影響されてか道義までおれをからかうようになっている。

ほんと勘弁してほしいよ。ストレスたまっちゃうぜ。

 

「あれ?熊口さん来てたんですか?」

 

「おお、早恵ちゃん。老けたなぁ」

 

「いきなり失礼じゃないですか?!」

 

よし、鬱憤発散完了!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  湖にて

 

枝幸ちゃんを道義&早恵ちゃんの家に送り届けてから暇になったので湖に向かった。

 

その向かう途中、聞きなれた声の主が妙な歌をカエルと歌っているのが聞こえてきた。

 

 

「ケロケロー・カエルは緑がとくちょー」

 

ゲロゲロー

 

「でも実際はいろんな色あるー」

 

ゲロゲロー

 

「ケロケロー・カエルはヌメヌメしてるー」

 

ゲロっゲロ

 

「ケロケロー・口から胃を出して洗うカエルー」

 

ゲーロォロォ

 

 

「いや、グロいわ!!あとカエル達!ほんとに胃を出すんじゃねぇ!」

 

グエっグェ

 

「あ!生斗!折角私とカエル達の大合唱をしていたのに!」

 

「もうちょっとセンスのある歌詞を作ってから歌え!!」

 

「なっ!この歌の良さが分からないなんて言わせないよ!!」

 

このあと歌についての議論を30分間程した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばもう早恵もあんなに歳をとっちゃったねぇ」

 

「ああ、なんか悲しくなるな」

 

「まあ、人の命は短く儚いもの。仕方ないことだね。」

 

「それで?諏訪子はいつになったら大きくなるんだ?」

 

「ふふーん!今に見てな!あと10年もすればボンキュッボンな体になってるから!」

 

「それ10年前にも聞いたわ。」

 

「ぐぬぬぅ。…………というより生斗だって全然変わってないじゃん!」

 

「それは能力の関係上な。それに寿命もある。後29年ぐらいだな」

 

「え!自分の寿命がわかるの?」

 

「ああ、前に言った神から教えてもらったからな」

 

「その神は神失格だね。人の寿命を教えるような真似は神の間では御法度だからね」

 

「まあ、あいつは元々神だと思ってないからな。おれ」

 

「でも、生斗も後少ししたら亡くなるんだね……」

 

「いや、確かに寿命はあるけどまた生き返るよ」

 

「え?!?」

 

ああ、そういえばもうこんなに経つのに能力の事は全然話さなかったな。

 

おれの能力は『生を増やす程度』の能力。今10個あるから一度死んだぐらいじゃいなくならんよ」

 

「はは……それは凄いね。つまりはまだ一緒に遊べるってことだよね!」

 

「まあ、そうだな」

 

「よかったぁ。ずっと神奈子としか長い付き合いができないと思った」

 

「神奈子さんも良いところあるじゃないか。ご飯を炭に替える芸当とか見せてくれるし」

 

「お米が勿体ないよ」

 

「それもそうだ!」

 

「まあ、見てて飽きないところはあるね。神奈子も」

 

 

このあと諏訪子と二時間程度雑談して、そのあと水切りで勝負した。

まあ、始めてやったからおれが勝てるわけないんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分家にて

 

 

「いやぁ、今日は色々なところ回って疲れたぁ」

 

「お陰で私は暇でしたけど」

 

「お前もたまには外へ出ろ」

 

「太陽嫌いです。……あ!良いこと思い付いた!!」

 

「ん、なにを?」

 

「熊口さんの後ろにいる守護霊さんと私を代わってもらいましょう!そしたら外にでても忌々しい太陽の影響はなくなります!」

 

「え?!」

 

思わず後ろをみた。しかし誰もいなかった。

 

「無駄です。幽霊である私しか見えませんから!」

 

「ならなんでお前は見えるんだよ……」

 

「そんなの知りません!!」

 

「ああそうかい」

 

つか、ずっと後ろに守護霊いたんかい!

 

「あ、はい、そうですか。有り難うございます!」

 

「ん、どうなったんだ?」

 

「ええ、快く了承してもらいました!なんかあなたの守護霊が『こんな野郎とは一刻も早く別れたかったんだ。サンキュー』なんていってましたよ。」

 

「うおい、どんだけおれ嫌われてたんだよ」

 

「知りませんよ、そんなの。……それよりこれからはよろしくお願いします!熊口さん」

 

「……幽霊ってそんな簡単に変われるものなのか?」

 

「私にもよくわかりませんがなんかできるみたいですね!」

 

「本人すら知らなかった?!」

 

 

取り敢えず翠がおれの守護霊になった。

まあ、別に困ることではないし別にいいか。



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十九話 神、もう少しゆっくりさせて

 

 

「ん………て、またか」

 

「久しぶり」

 

「誰だお前」

 

 

 久しぶりに純和風の部屋にいた。またここか……

 そしていつもの皺だらけの老人かと思いきや、ちっちゃな男の子がいた。

 

「いや、わしじゃよわし。神じゃ」

 

「おれの知ってる神はしわくちゃの額と頭の境が分からない老人だから。こんなちびっこではないです。」

 

「ああ、これか。これはなぁ…………イメチェンじゃ!!」

 

「整形どころの問題じゃないよ……それ」

 

「実際どんな姿でもよかったんじゃがな。気分転換に男の子に変わったら天使のみんなにチヤホヤされていい気分になったからそのまんまになっておるんじゃ」

 

「おいこら、エロジジィ。それでも神かお前。」

 

「羨ましいか?」

 

「う、羨ましくないわ!」

 

 

 くそぅ、正直羨ましい……

 てかなんだよこの神、なんでもありかよ……ふざけやがって。

 

 そう、半ば拗ねながら手をズボンのポケットに突っ込もうとする。

 しかし、それはなされなかった。

 

 ……あれ?

 

 

「え? え!? おれの腕がない! ……ていうか体も足もないぞ!!?」

 

「やっと気づいたか」

 

 

 な、なんで!? まさかおれ、透明人間になったのか!!

 

 

「なわけないじゃろ。この空間に君の肉体ごと連れていくと、彼処へ戻したときに成功率が下がるからの。魂だけを連れてきたんじゃ」

 

「え、それってどういう……」

 

「そのままの意味じゃ。肉体込みと魂のみとじゃ、転生させたときに成功率が変わる。肉体込みだと、40%、魂のみだと95%ぐらいかの」

 

「95%!? 高っ!」

 

 

 なんだよそれ、ほぼ成功じゃん!

 

 

「だから魂のみをこっちに呼び寄せたんじゃ(実際は話す“だけ″なら生斗が寝ているときにできる)」

 

「ならなんであのとき肉体ごとおれをこの空間に……」

 

「君の肉体があの世界に残っておらんかったからじゃ。だからこの空間に魂を持ってきて、肉体を再構築させた」

 

「あ、そうだったんですか」

 

 

 確かに、あのときの爆発に巻き込まれりゃ、肉体の一つも残らないわな……

 

 

「それで、なんでおれを呼んだんですか?」

 

 

 とにかく、この話はこれ以上続きそうもないので、早々と本題にいくよう促す。

 

 

「ああ、ちょっと2つほど文句がいいたくてな」

 

「ん?なんか文句言われるような事しましたっけ?」

 

「あるから呼んだんじゃ」

 

「じゃあなにを?」

 

「まず一つ…………

 

 能力つかえよおぉぉぉぉ!!!!!」

 

「ええ?!そんなこと!?」

 

「そんなことじゃないわ! つまんないじゃろ! 使う場面なんていくらでもあったじゃろ! ほら、花妖怪のときとか!」

 

「いやぁ、もう能力は使いたく無かったんですよね。痛いし」

 

「馬鹿もん! それで死んだら意味ないじゃろが!」

 

「痛っ!?ぶつことはないでしょ!?」

 

 

 くっ、痛みには慣れてるはずなのに拳骨だけはいつになっても慣れない……

 

 

「はぁ……実は能力の劣化をしてから、君が能力を使わなくなるじゃないかと薄々感じていたが、本当に使わなくなるとはな」

 

「気づいてたんですか」

 

 

 わかってたんなら、今おれを殴らなくてもよかったんじゃないか?

 

 

「確かに、君の身体じゃ一生分の力でも手に余る代物じゃ」

 

「わかってるならおれの身体をもう少し丈夫にしてくださいよ。一生分ぐらいは耐えれるぐらい」

 

「無理じゃ。ローリスクハイリターンなんぞつまらんからな。それに人並み以上に強化は一応しておる。どんなものかは教えんが」

 

「神のけち!」

 

 

 強化してるって……全然された感がしないんだが。

 

 

「そこでじゃ。少しだけ改良を施してやろうと思う。いやぁ、神様優しい~! ほら、敬え」

 

「……少しだけですか?」

 

「……贅沢言うんじゃない」

 

 

 だって前は大幅に劣化されたし……

 

 

「ごほん! では、能力を少しだけ改良してやる。ちょっと来なさい」

 

「? はい」

 

 

 来いといわれても今のおれは魂だけなんだけどな。

 ん? そういえばなんでおれ、さっき殴られたんだ? おれの肉体は今、ここにはないのに。

 そう疑問に思いながら神の近くまで行くと、ショタ神は小さい手でおれに触れてきた。感触的に首辺りか……

 って、え?! おれの身体ないのに触られた感触がある!?

 

 

「なぜ触れられるんですか?」

 

「なに、魂でもわしぐらいになれば触ることも可能なんじゃよ……それよりも、完了じゃ。改良してやったぞ」

 

 

 そういって手を退かす神。やっぱりこの人、なんでもありだな。

 

 

「で、何を改良したんですか?」

 

「なに、寿命ブーストを年単位にしてやっただけじゃ」

 

「……と、言いますと?」

 

「これまで、一生単位でしか使えなかった能力を、寿命である60年を切り分けて使えるようにした。つまり、最小で一年単位で寿命ブーストを使えるようになったというわけじゃ」

 

「お! それってめちゃくちゃ良いじゃないですか! 身体の負担もかなり軽減できるし!」

 

「そうじゃろう。太っ腹じゃろ?」

 

「うっ……」

 

 

 心の中でけちけち言ってたのバレてたか。まあ、口にも出してけち! って言ってたけど。

 

 

「それじゃあ、能力の改良も終えたことだし……もう1つの文句を言わせてもらおう」

 

「そういえばまだありましたね、そんなの」

 

 

 もういいだろ、めんどくさい。

 

 

「それじゃ! その面倒くさがりな性格に文句が言いたいんじゃ!」

 

「えぇ、これはもう仕方ないでしょ。性分なんだし」

 

 

 最近じゃ緩やかな生活をしているからか、前より遥かに面倒くさがりになってるんだよな、おれ。

 

 

「旅に出ろ! 今すぐ旅を出てわしを楽しませるんじゃ!」

 

 

 ……旅? 無理だな、断ろ。

 

 

「そ、それはおれの勝手でしょう」

 

「……わしは何のために君を転生させたのかな?」

 

「なんか試験って言っていたような……」

 

「違う! 暇潰しじゃ!」

 

「え、えぇ……」

 

「試験はあのとき既に終わっておる! 君があのときこの世界に転生すると言った時点でもう、単なるわしの暇潰しと化しとるんじゃ!!」

 

 

 ま、まじかよ……

 

 

「それでじゃ。その暇潰しが今、潰すことすらなっておらんのじゃ。何でだと思う?」

 

「おれがずっと洩矢の国にいるからですね」

 

「そこでた。何もイベントの起きない国に居座るのではなく旅に出ると言うのはどうかね?」

 

「確かにずっと洩矢の国に居座ってても平凡なイベントぐらいしか起きない。大きいのを起こすには旅をして各地を回った方がいいのはわかる。」

 

「じゃろ?」

 

「だが断る!!」

 

「な!?」

 

「おれは平凡が好きなんです。折角手にいれた生活。手放すわけがないでしょ!」

 

「むむむぅ~。そういえば君は極度な面倒くさがりじゃったな」

 

「今頃気づいたんですか?」

 

「いや、会って二日目ぐらいで気づいたがな」

 

「なら分かるでしょ? おれが旅なんかしたくないと」

 

 

 今の生活を潰されてたまるか。

 

 

「まあ、これは最後の忠告のつもりでいったんじゃ。だが、それも無意味とわかった今、強行手段に出るとしよう」

 

「な?! 神とあろうものが一般人のおれに何をしようと!?」

 

「ほりゃ」

 

「いでっ」

 

 

 杖で頭を叩かれた。少しだけ痛い……

 

 

 あれ? おれ今さっきまで神と何の話をしてたんだっけ? いや、それより……

 

 

「なんか旅に出たくなってきた」

 

「じゃろ?」

 

「うおぉ!!なんか未知の世界へ飛び立ちたくなってきたぞ!いける!おれは行けるぞぉぉ!!!」

 

「よし!そのいきじゃ!それじゃあさっさと起きて旅へ行ってこい!!」

 

「はい!わっかりましたー!」

 

 そういっておれは起きるべく念を込めた。

 ……おう、意識が朦朧としてきた。もうすぐ覚めるぞぉ

 

 

 

 

 

 

「術少し強すぎたな、こりゃあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで旅に出ることにした。」

 

「急に起きてどうしたんですか?!」

 

「いや、なんか急激に旅立ちたくなった」

 

「私は嫌ですよ!早恵ちゃんと別れるなんて……」

 

「ん?翠は残ればいいだろ」

 

「いや、この前守護霊になったじゃないですか」

 

「そうだったな」

 

「そんなことより!私は反対です!みんなと別れるのは嫌です!!」

 

「なら言うが、いずれ早恵ちゃんも寿命で死ぬぞ」

 

「なっ?!」

 

「発想をかえるんだ。旅に出て、早恵ちゃんと別れることにより永遠に早恵ちゃんは心の中で生き続けられるんだぞ」

 

「それは早恵ちゃんが亡くなった後でも……」

 

「死に際を見た後にそんなこと思い続けられるか?」

 

「た、確かに……」

 

 ふふ、なんとか説得出来そうだな。我ながら屑な説得の仕方だが、今はそんなことはどうでもいい。今すぐにでも旅に出たいんだ。いちいちそんなことに時間をとっている暇などない!!

 

 それから30分の説得により翠を納得させることに出来た。

 

「それじゃあ準備も出来たし、皆に挨拶にいくとするか」

 

「それもそうですね!わぁー、海というもの見てみたいですねぇ~」

 

 翠を説得するときに海のことや火山の事とか色々いったらその気になってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  早恵ちゃん&道義の家

 

 

「そうですか……旅に出るんですね。随分と急ですね」

 

「まあ、確かにな」

 

「せいと。どっか行くの?」

 

「ん、そうだよ」

 

「じゃあね!」

 

 なんか枝幸ちゃんさっぱりしてる!?

 

「師匠の決めたことに口だす事などしません。どうかご無事で!」

 

「ああ、道義も元気でな」

 

「早恵ちゃん!」

 

「うわ!翠!?なんで熊口さんか出てきたの?!」

 

「そんなことより、最後にお話しよう!」

 

 取り敢えず少し長くなりそうなのでおれは翠を置いて神社へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  神社

 

 

「え?!生斗、旅にでちゃうの?!」

 

「そうだ。でも大丈夫。いつか会えるさ」

 

「そうかい。まあ、親は子供の巣立ちを祝うものさね。笑顔で見送ってやんな。諏訪子」

 

「…………それもそうだね!それにいつか会えるんでしょ?」

 

「まあな。……って、おれは諏訪子たちの子供か!」

 

「ふん。やっと出ていくのか。清々する」

 

「……ミシャグジか。お前とも長い付き合いだったな」

 

 そういいつつおれはミシャグジの前に手を出した。

 

「……ふん」パシッ

 

「あ、こら。そこは手を叩くところじゃないだろ!」

 

「そんなの知るものか!」

 

「ははは!やっぱミシャグジと生斗は仲が良いね!」

 

「それもそうだ!」

 

「諏訪子様!私はこやつと仲など良くはありません!!」

 

「そうだそうだ!」

 

 まあ、確かに喧嘩するほど仲が良いというけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洩矢の国(出口前)夜明け前

 

 

 

「翠。準備出来たか?」

 

「はい。もう大丈夫です!」

 

「そうか。それじゃあいくか!」

 

 そういっておれは荷物を背負って門を出ようとした瞬間、後ろから大きな音が出た。ん?なんか聞いたことがあるような音だな。

 そう思いつつ後ろを振り向くと

 

 

 

「うわぁ、キレイですねぇ」

 

「ああ、綺麗な花火だ。」

 

 特大の花火が上がっていた。聞いたことのある音ってこれだったか。  

 

「諏訪子たちも粋なことするなぁ」

 

「そうですね」

 

 そしてその花火が消ようとした瞬間、二発目が打ち上がった。

 

 それを見た瞬間おれは小さな声でこういった

 

「ああ、またな」

 

 二発目に上がった花火は文字だった。そしてこう書かれていた。

 

 ____『またね』

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?思ったけど夜明け前にあんなド派手なの打ったら近所迷惑やばくないか?」

 

「もう!折角いい感じだったのに全部ぶち壊しです!」




2章完結です!!


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2章完了時点登場人物

 

 熊口 生斗

 

 

本編の主人公。めんどくさがりだが一応主人公属性を持っている。グラサンを馬鹿にされるとキレる。2章ではあんまり良いところなし。ミシャグジが天敵。

一億年以上土の中に埋まっていた。

 

 

 『技』

 

 

《玲瓏・七霊剣》~背後に六本の剣、ならびに右手に一本の剣持ち、その7本の霊力剣を自在に操る技。全て同じ動きをするのなら何十本、何百本でも操れるが一本一本が全て他の動きをしつつ、本体も攻撃に徹するのでかなりの集中力と精神力が伴う。最長15分間維持ができる。

空中に浮いている一本で達人の域の力があるので相手は六人の剣の達人とそれ以上の者一人、計七人を同時に相手することになるので接近戦ではまず距離をおいた方が良い。それだと言うのに道義は突っ込んでいったため、格好の餌食となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 洩矢 諏訪子

 

 

土着神。ミシャグジらを統括し、洩矢の国を治めている。

生斗のことを良き友人と思っている。

生斗が死んだデマを流されたときは本気で道義を祟り殺そうとした。

神奈子とも最初の方はぎくしゃくしていたが酒をのみ交わしたことで友好な関係になっている。

原作の東風谷早苗は諏訪子の遠い子孫だが実はまだこの段階では東風谷家と諏訪子は血縁関係はない。

 

 

 

 

 

 

 

 ミシャグジ 

 

 

こちらも土着神。土着神の頂点である諏訪子の下で信仰を集めている。ちょっとグロテスクな外見をしている。生斗が天敵。ミシャグジは一柱だけでなく、何柱かいるのだが、全員生斗に出会い頭に気絶させられているので、全員生斗のことが嫌い。生斗が出ていったとき、洩矢の連中のなかで唯一清々していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東風谷 早恵

 

 

 種族 人間

 性別 女

 能力 《奇跡を起こす程度の能力》

 性格 天真爛漫

 

 

洩矢神社(まだ守矢ではない)の巫女。神奈子と一緒に洩矢の国に来た道義と婚約している。見た目は髪が黒い以外、東風谷早苗とほぼ同じである。

枝幸を31歳のときに出産する。

そして驚くことなかれ、枝幸を初めて抱いたのは早恵でも道義でもなく生斗だ。

未知の食べ物を作るスペシャリスト。

 

 

 

 

 

 

 風見幽香

 

 

花の妖怪。花のあるところを転々と移動しながら旅をしている。そして偶然寄った荒れ地を花畑にしている最中に生斗と出くわした。とてつもなく強く、生斗が戦う前から勝つことを諦めるほど。生斗の命2個分並みに強い。(10年=10倍 一生『60年』=60倍 二生=生斗の120倍は強い<120倍強いがあくまで生斗は技術で戦ってきているので完全な圧倒されるということはなかった>)

 

 

 

 

 

 

 東風谷 翠

 

 

 種族 幽霊

 性別 女

 能力 《霊の種類を変える程度の能力》

 性格 好奇心旺盛

 

 

洩矢の国にある空き家に住み着いていた幽霊。幽霊といっても色々な種類がある。本編では言及されなかったがいくつもの霊体に変えることができる。やろうと思えば怨霊や付喪神にもなることが可能。しかし、生霊や先祖霊にはなれず、全ての霊になれると言うわけではない。太陽の光を直に浴びると何故か悶絶する。

太陽の下を歩きたいという願いから生斗の守護霊になる。

その浅はかな考えのお陰で100年以上一緒にいる羽目になった。

家の中で妖怪に惨殺された過去がある。

あと、中々ゲスい。生斗以外にはとても心優しいが、生斗にだけは辛辣。

 

 

 『強さ』

 

純粋な殴り合いなら生斗より強い。だが、あまり人の前で戦う事はせず、生斗が寝ている間に(たまに)妖怪退治をしており、一応は守護霊の役割を果たしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南方 道義

 

 

 種族 人間

 性別 男

 能力 《時空を直線に移動する程度の能力》

 性格 几帳面

 

 

神奈子のとこの宮司。宮司とは簡単に言うと巫女らをまとめる神社の長であり、最高の神職。

大和の国にいた頃、女子供に絶大な人気があったが、一部の巫女からは嫌われている。

能力については文字通りの意味で、己がいる位置か20メートルまでなら瞬間移動ができる能力。この能力で瞬間移動した位置に障害物があった場合、自分の体が障害物に接している部分が時空間に飛ばされるため、使用には注意しなければならない。

神奈子の命令により、生斗と戦うことになったのだが、見事に完敗、生斗に傷をつけることすら出来なかった。そういうこともあってか、生斗に頼み込んで弟子にしてもらっている。(が、まともに剣術を教えてもらったことは1度もない)

早恵と婚約しており、34のときに枝幸の父となる。

ちょっと偏食家。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八坂 神奈子

 

 

大和の国にいる、天津神の尖兵。天津神とは高天原から降りた神の事。勝負癖があり、相手に本気を出させるためなら手段を選ばないところがある。今回で言うと生斗をデマで死んだことにして諏訪子らの怒りを買った。

生斗との疑似勝負では50勝47負と勝ち越している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 東風谷 枝幸

 

 

 種族 人間

 性別 女

 能力 ??

 性格 甘えん坊、面倒くさがり

 

 

本編では殆ど登場しなかった早恵と道義の子供。結構な生斗ちゃん子で、よく生斗の後ろをついていっていた。

生斗が洩矢の国を出たときも平気そうな顔をしていたが、次の日に泣き喚いていて二人を困らせている。

そういうこともあってか親の早恵と道義よりも生斗の性格に似ており、とても面倒くさがりである。諏訪子のことを『諏訪ちゃん』と呼んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その他登場キャラ

 

 

 風見幽香にマスパで殺された妖怪

 

 妖怪ブラザーズ(ネーミングセンスのない技を多数持っていた。道義により二人とも死亡)

 

 洩矢の人々

 

 大和の人々

 

 神(生斗の旅を促す。なぜか老人の姿ではなく、美少年に変身していた)

 

 

 

 

 



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3章 【鬼達と妖怪の山の奴らとの交流】
1話 やり過ぎたZE ☆


今回から3章突入です!


 

旅を始めて五時間が経った。現在森の中。そしておれはここに来て漸く重大なことを思い出した。

 

「……なあ」

 

『はい、なんですか?』

 

「思いきって飛び出したのはいいけどさ。

 

 _______おれら、何処へむかってるんだっけ?」

 

『ええぇぇぇ!?!決めてなかったんですか!?!!』

 

そう、何故か神と夢の中で話してから急に旅に出たくなって洩矢の国をでたけど、まったく行き先を考えていなかった事に今頃気づいた。

因みに現在翠はおれの中に入っているため心の中で話している。でもおれの方は口に出さないと分からないらしく声に出して会話している。つまり他からみれば独り言を言ってる変な人にみえるんだ。だからおれから出ろと言ってるんだけど『太陽があるから嫌です!!』と言われたためそのままでいる。まあ、今のところすれ違う人なんてこれっぽちもいないからいいんだけど。

 

 

「まあ、取り敢えず行き先を決めるついでに少し休憩しようかね」

 

『朝から歩きっぱなしですもんね。まあ、私とすれば久しぶりの外を馬車に揺られながら観光している気分なんですけどね』

 

「おい、だれが馬車だ」

 

 

取り敢えず行き先を決めよう。…………んーとここら辺の地形についての地図は…………

 

「地図忘れたぁ!?!」

 

『……何やってんですか』

 

くそっ!荷物管理を怠ってしまった!つーかなんだよ荷物の中身、食糧ばっかじゃねーか!しかも玄米が7割を占めてるし!!

 

 

「はあ、どうしようか……」

 

『一度戻ればいいじゃないですか』

 

「いや、あんなに凄い演出された後に忘れ物しましたーって戻れるか?」

 

『いや、大丈夫だと思いますよ?どうせやっぱ生斗だなぁ、て皆思うだけだと思います。』

 

「おい、お前らの中でのおれの評価が今無性に気になりだしたぞ」

 

『知りたいですか?』

 

「いや、お前のはいい。どうせ変態屑野郎だろ」

 

『正解です!』

 

「……分かっていても実際に言われると結構傷つくな…………」

 

『取り敢えず!一先ず帰りましょうよ!』

 

「んーー、まあ、そうだな」

 

と、夜明け前からずっと歩いてきた道をUターンして帰ろうとした瞬間……

 

 

「んんんー?今人の声がしたんだが……」

 

 

草むらから角を生やした妖怪が出てきた。

 

「(やべっ!?)」

 

 

あれは一度感じたことのある妖力に似ていた。たぶん角もあるからしてあの種類で間違いないだろう……

 

  ____鬼。

 

一番最初に戦い、破れた相手と同種であり、おれの知っている中で2番目に驚異と感じている妖怪だ。ん? 一番はなんだって? そんなの幽香にきまってるだろ。

 

取り敢えず鬼が出てきたと同時におれはすぐ近くにあった木の裏側に行き、鬼の死角になるように隠れた。

 

「あれぇ? 気のせいだったか……」

 

『熊口さん、あれって……』

 

「あれは鬼だ。あと逃げ切るまで翠、お前は黙っておいてくれ」

 

『はい……あ!?熊口さん後ろ!』

 

「ん?」

 

「なぁーに独り言いってんだ?」

 

「なっ!?」

 

 

まじかよ。気配は完全に消してたぞ! しかも声なんて真正面からでも聞き取りづらいぐらいの小声で言ってたのに……

 

「まあまあ、人間。そんなに緊張しなくていいぜ。」

 

「はっ?」

 

「今ちょっと暇だったんだよ。だからちょっとした暇潰しをしねーか?」

 

「ほう、どんなの?」

 

「どちらかが死ぬまでの殴り合いだぁ!」

 

「うお!?」

 

 

やべっ、いきなり殴ってきたよ。まあ、避けたけどな。

 

 

「ほう、今のを避けるか。これは当たりを引いたかもなぁ」

 

「ああ、もう。めんどくせぇ!」

 

「俺は楽しいぜぇ!」

 

くそ! なんで妖怪はこうも好戦的なんだ。……ん、でも待てよ。発想を変えてみればいい機会かもしれないな……

 

 

『熊口さん!?大丈夫ですか?』

 

「ん、ああ大丈夫だ。ちょっと試したいことがあったんだけど……丁度いい。鬼に通用するか試してみるか」

 

「ふん! また独り言か! 正直気持ち悪いぜ!」

 

「まあ、そうだけど……さ!」

 

「んぐ!…………なかなかやるなぁ」

 

 

一先ず距離を取るために霊力剣を5本ほど生成して鬼の方へ飛ばした。

3つは壊されたが残り2つは見事鬼の足と顔に切り傷をつけることに成功した。

 

 

「それじゃあ、長引かせるつもりはないんでさっさと試しますか!」

 

「はん! 今ので勝ったつもりか?」

 

 

取り敢えず鬼の言葉は無視して能力を発動した。

まあ、寿命10年ほど使ってみるか。

これは神から改良してもらったものだ。年単位で寿命を使うことができる。器の小さいおれにとってはありがたい改良だ。

そしておれは10年分の命を使うように念じてみる。すると____

 

 

「ぐっ!心臓いてぇ……」

 

 

心臓が鷲掴みされたような感覚に陥った。

くそ、10年分でこの痛みかよ……

 

「独り言の次はなんだ?」

 

「あ、ああ、お前を倒す準備だ。」

 

「はん? なにいってんだおま…………え?」

 

 

鬼が驚くのも無理はない。出した本人であるおれですら驚いているんだから。

まず威力を試そうと爆散霊弾を10個ほど生成したつもりが、なぜか数えきれないほど生成してしまっていたのだ。たぶん100個以上はできてるだろう。

 

「神、こりゃあ改良しすぎや……」

 

 

これ、以前の劣化をチャラにするほど改良されてるような気がするんだけど……

 

 

「ふ、ふん! たかが人間が作った弾だ! いくらでも来いや!」

 

「ただの霊弾ではないんだけどな…………取り敢えず受けてみな」

 

 

といって3個飛ばした……つもりが30個飛んでいってしまった。

 

 

「ふん!こんな…………ぐは?!!」

 

「どうだ?!」

 

「いや?!……ちょ?!!?まっ……て! つっ強い!?つーか!?……おお……いぃぃ!!?」

 

「あちゃあ、やり過ぎたかなぁ。っとちょっと逃げよう」

 

鬼に向かっていった爆散霊弾が全て着弾したあと、そこにすんごい大爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおーい。生きてるかぁ?」

 

 

爆発が収まった後、おれは鬼の生死の確認にきた。…………うわぁ、着弾地点にクレーターができてる……

 

「くふっ…………まさかここまでとはな……。人間をなめすぎてしまった俺の……負けか……」

 

無事か。

ていうか今の鬼って丈夫だなぁ。初めて戦った鬼は爆散霊弾3発程度で致命傷を与えられたってのに。

取り敢えずもう戦う気がないらしいので後ろに待機させてあった残りの爆散霊弾を消した。

 

 

「そ、それにしても……おめえ、つえーな」

 

『私もビックリしました!』

 

「まあ……な!」

 

誉められていい気分になったので決めポーズをしながら返事した。

 

 

「へぇ、あんたがこのクレーターを作ったのかい?」

 

「まあ、そうだけ……ど!」

 

 

鼻が伸びているのを感じずつ、またもや決めポーズをするおれ。

 

「しかも蓮義をここまでボロボロにするなんて……人間って凄いね!」

 

「だろ!…………ん?」

 

誉められて調子に乗って気づいていなかったが、おれは一体誰に誉められているんだ?

そう疑問に思い、倒した鬼の方を見てみる。ん? なんか怯えているな、そんなにおれが怖いか?

 

『熊口さん! 横ですよ横!』

 

翠にそう言われたので右を見てみる。……うん、木が生い茂っているな。

 

『左です!』

 

それを先に言えよ。

ちょっとイラッとしつつ左を見てみると……

 

 

「あれ? だれもいないぞ」

 

 

誰もいなかった。

 

 

「あんた、私を馬鹿にしてない?」

 

「うわ?!」

 

 

と思ったら下に角を生やした幼女が下にいた。なんか瓢箪持ってる。

 

 

「鬼?」

 

「ああそうだよ! それにただの鬼じゃないよ! なんと! 私は伊吹萃香なのさ!」

 

「いや、知らねーよ。」

 

「まあまあそんなことはどうでもいいよ! それよりも____

 

 

________私と戦わない?」

 

 

「____うん。断る☆」

 

どうせ見た目幼女だろうが鬼は鬼。強いに決まっている。絶対にやるもんか

 

 




今回は少し中途半端な終り方をしましたね。


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2話 戦わないってば!

 

現在おれは、地図を取りに戻るために洩矢の国へむかっている。それだけなら半日で済む話なので別にいいんだけど、あることのせいで半日では済まない事態に陥りそうになっている。

 

「ねぇー、戦おうよぉー。もし私に勝ったら″いいこと”してあげるからぁ」

 

「あああああ! うるさい! やらないっていってるだろ!!」

 

それは見た目幼女の鬼に戦えとせがまれていることだ。お願いの仕方だけを見ると、まんまただの幼女なのだが頭に生えている2本の角と言っている事が物騒なのでとても幼女だとは思えない。

 

「むぅ、私の体じゃ不満だってのかい?」

 

「″いいこと”ってそういうことかよ!…………いやいや、そうだとしても断る!」

 

『あれ? 変態屑野郎な熊口さんならノリノリで引き受けると思ってたんですが』

 

 

取り敢えず翠の事は無視する。

 

 

「じゃあ、勇儀は? あいつの体はもうすんごいよ!」

 

「……………………いや、無理だ。」

 

『あー! 今の間はなんですかぁ!? やっぱり熊口さんは助平ですね!』

 

 

うるせぇ! ナイスバディな女の人にときめかない男はいねーんだよ!

 

 

「むぅ、だめかぁ」

 

「まずお前、今さらっと知り合いを売ったな。」

 

「いいよ、どうせ私が勝つし。」

 

「ほう、やけに自信ありげだな」

 

「だって人間なんかに負ける鬼なんて普通いないよ。」

 

「今さっきいたんだけど」

 

「あいつもまあまあ強い方なんだけどねぇ。ま、私には遠く及ばないけど。まあ、それでも普通鬼は人間なんかに負けるはずがない。なのに今さっきあんたのお陰でその固定観念は崩れ去ったのさ。」

 

「だから?」

 

「その崩した張本人に興味が湧いてね。だから戦ってみようかと」

 

「結局それかい!」

 

「ほらほら! 私があんたと戦おうとしている理由を教えたんだ! あんたも腹括りな!」

 

「言ってることが無茶苦茶だ! 理由とかお前が勝手に言っただけじゃねーか!」

 

「はあ、めんどくさい男だねぇ」

 

「……面倒事が嫌いなだけなただの人間ですよ」

 

「ははは! 鬼を姑息な手を使わずに倒せる奴が普通の人間なわけないじゃないか!」

 

「普通の人間だって…………ば?!」

 

 

急におれの目の前に幼女鬼が現れた。あれ? さっきまで後ろにいたはずなのに……しかも思いっきり殴るポーズ取ってるし! これはヤバイ!?

 

 

「うお?!」

 

 

ぎりぎり体を捻らせて回避することに成功した。

 

 

「へぇ、反射神経もいいとは」

 

「急に何すんだ!」

 

「もう、頼むのもめんどくさくなってねぇ。これなら有無もなく戦うことができるでしょ?」

 

「おれが逃げることは考えてないのか?」

 

「鬼の足に人間が勝てると思うかい?」

 

「それもそうか」

 

 

いつかこうなるだろうとおもったがこうも早く来るとは……

取り敢えずここを切り抜けることを考えよう。

見てみればあの鬼幼女から尋常じゃないぐらいの妖力が溢れでているし……

まだ10年分の力はあるしなんとかなるかな?

 

 

「ああ! 先手必勝! 爆散霊弾!!」

 

「うわ!?」

 

いっきに爆散霊弾を鬼幼女にむけて放った。

これに乗じて逃げよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………いつみてもすごいな、あれ」

 

またもや大爆発。もう結構な距離になっていると言うのに砂煙がもうこっちにきてるし……

 

 

「いやぁ、危なかったねぇ。流石は鬼を倒しただけはある」

 

「えっ!?…………んぐうぅぅ!!?」

 

 

いつの間にか後ろにいた鬼幼女に思いっきり背中を殴られた。

威力が凄いせいかおれは吹き飛ばされ、木にぶつかったのだがその木は折れて、その先にある岩にぶつかって漸く止まることができた。

 

 

「体も丈夫とはね。普通の人間なら原型を留めないよ。私の本気の一発だし」

 

「なんで…………本気でやる、んだ……よ」

 

「ん? 試してみたかったからさ」

 

 

いかん、意識が朦朧としてきた。殴られた背中は感覚が無くなっている。

いや、たぶんこれ内蔵逝ってるな、これ。

 

…………やばいな。体のどこも動かない。

 

 

「ああ、でももう駄目だね。あと少ししたらあんたは死ぬ。まあ、私の本気の一発を受けきったんだ。誇っていいよ」

 

『熊口さん!大丈夫ですか?!?』

 

「……」

 

ああ、くそ。たぶん死んでもすぐ生き返れるだろう。でももしだ。おれが生き返れると言うことがあいつにバレたらどうなると思う? おれの予想だと命のストックが切れるまで遊ばれ殺されるだろう。

 

 

 

 

それは嫌だ。

 

 

 

仕方ない。残りの寿命をつかってでも勝って逃げるしかないな。

 

 

「一生ぐらい…………くれてやる!!」

 

「ん、断末魔?」

 

 

残りの19年分の寿命を使用。

その瞬間、さっきまでの傷が無かったかのように痛みが無くなった。寿命ブーストの痛みも……ない! 殴られたお陰で痛覚が麻痺しているからか? ……いや今はそんなことどうでもいい。

 

身体は……動く! よし、一発で決めてやる!

 

 

「あれ? な、なんで動けるの」

 

「さて、何ででしょう?」

 

「え?…………んぐっ?!?」

 

自分でも分からない程の速さで鬼幼女の横へ回り込み、横腹に蹴りを放った。

ヒュー。これまたよく飛ぶな。

……ていうか飛びすぎな気が……死んでないよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、気絶しているな。……本気で蹴ったのに傷がちょっとしかついてないじゃん。少し自信無くすな……」

 

 

飛んでいった先まで見に行ってみると、そこには横たわったまま動かない鬼幼女の姿があった。今おるが言った通り、少し傷ついてるぐらいで目立った怪我はない。ただ気絶しているだけだ。

 

 

『熊口さん。どうしたんですか!? さっきまで満身創痍だったのに……』

 

「ああ、それはな。おれの能力……な…………ん……だ……」ドサッ

 

『え? 急に倒れてどうしたんですか?!』

 

 

あれ、体が言うことをきかない。能力をつかいすぎたか?

 

……いや、思い出した。

 

「寿命……尽きた、ん…………だった」

 

あの神が余計につけてた設定のことをすっかり忘れてた。

あの神め、余計な真似をしおってからに……

 




すいません。今回はいつも以上の駄文でした。


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3話 ああ、あれか。

ああ、心地がいいな……こんなに気持ちよく寝られるのは久しぶりだな。…………あれ?ちょっとまてよ。おれさっきまで鬼幼女と戦ってたような…………

 

 

「うお!」

 

という腑抜けた声を出しながらおれは飛び起きた。

あれ?!なんでおれ布団の上で寝てるんだ?まずここはどこ?私は誰?……いや、おれは熊口生斗くん。永遠の17歳だ!!

 

と、どうでもよくてくそ寒いことを言う前にまず、本当にここ何処だ?どっかの家の中みたいだけど……

 

『熊口さん!起きましたか!!』

 

「あ、翠か。さっきぶり」

 

『全然さっきじゃないですよ!熊口さん、2日間ずっと寝ていたんですから!』

 

「やっぱりか……」

 

『え?』

 

神の言ってた設定通りだな。

 

「それよりここは何処だ?」

 

『あ、そうだった!熊口さん逃げてください!』

 

「ん?何でだ?」

 

『だってここは鬼のい「おお、起きたかい?」えってあああ!』

 

「逃げろって言ってた意味が分かったよ……」

 

翠の話を聞いている途中、障子を開けていつぞやの鬼幼女が入ってきた。

 

「逃げる?別にもう襲ったりはしないよ。」

 

「そうかぁ?」

 

「鬼は嘘なんか言わないよ。…………たまに言うかもだけど」

 

「まあ、そんなのはどうでもいい。それよりなんでおれはこんなところで寝てたんだ?もしかして……いや、もしかしなくてもお前の仕業だよな?」

 

「ご名答。私があんたをここまで運んでやったのさ。感謝しな」

 

「はあ、確かに感謝するけどさ。そんなことおれにする必要あったか?おれが言うのもなんだけど放っとけばよかったのに」

 

「なんだい、つれないこというねぇ。一度拳をぶつけ合った仲じゃないか。仲良くしようじゃないか」

 

「鬼の友達判定基準がおかしいことは分かった」

 

「鬼は強いやつが大好きなのさ。特に鬼を打ち負かすことができるぐらいのやつがさ」

 

「今背筋がゾッとした」

 

「でもどうしようかねぇ。勇儀には申し訳ないことしたねぇ。売っちゃったよ」

 

「ん?もしかしてあの賭け事のこと続いてたのか?」

 

「当たり前じゃないか。」

 

「いや、いいよ。別に賭けのことなんか。別に勇儀って人(鬼)はいらない」

 

「ほう。勇儀が滅茶苦茶良い体してるってわかっててフるのかい?」

 

「いいっていってるだろ!」

 

「………………まさか、枯れてる?!」

 

「枯れてない!」

 

別に女性の体に興味がないわけではない。ただその相手がどうせ『鬼』だから怖いだけだ!

 

「あーあ、勇儀もかわいそうだね。知らないうちにフラれるなんて」

 

「お前がフラせたんだろ」

 

 

「まあ、いいや。それじゃあ早速人間。鬼の里へ行こうか」

 

「さようなら」

 

「まてまて、早々に帰ろうとするんじゃない!傷もまだ癒えてないだろ?」

 

「大丈夫です。もう治ってます」

 

正確に言うなら一回死んでリセットされたんだけどな!

 

「あれ?本当だ。あんた本当に人間!?」

 

「人間です、失礼な。とりあえず帰ります」

 

「ていってももうここ鬼の里の中なんだけどね」

 

「うおいぃぃぃ!!」

 

「まあまあ、私の伊吹瓢をちょっとあげるからさ。機嫌直しな」

 

そういって鬼幼女はどこからか取り出したかわからないがお猪口を出して瓢箪に入っている液体を注いでおれに渡してきた。

 

「いや、なんだよこれ!酒か?子供が酒なんか飲むんじゃありません!」

 

「失礼な!これでも結構生きてるよ!まあ、取り敢えず飲みな!うまいから!」

 

「そうか?」

 

毒は入ってないよな?さっきまで鬼幼女も何度か話ながら飲んでたし…………いや、鬼と人間の体のつくりを一緒にするのは……

 

「ああ、もう!なにためらってるんだい!さっさと飲みな!」

 

「あ、ちょ?!……ぶべっ!?!」

 

 

飲むのを躊躇していたらお猪口を鬼幼女にぶんどられておれの口に無理矢理入れてきた。

そして、その酒を飲んでみたらびっくり。度数が滅茶苦茶高かったのだ。口に含んだ瞬間にわかった。そしてこれを飲むのは危険すぎると判断しておれは酒を吐いた。

 

「あーあ、勿体無い。折角の酒が……」

 

「ごほっげほっ……なんだその酒……おかしすぎるだろ!」

 

「やっぱり、そういうところは人間と一緒なんだね。てっきりこういうのも人間離れしてると思ってたけど」

 

「普段酒なんて呑まないんだから仕方ないだろ……」

 

「まあ、兎に角!詫びはしたんだ。大人しくついてきな!」

 

「全然詫びではなかったけど……まあ、いいか。でも条件がある」

 

「なんだい?」

 

「もう戦わないからな」

 

「え?!」

 

「え?!っじゃない!まさか鬼達のところへ逝かせて戦わせる気だったのか?」

 

「そうだよ」

 

「帰ります」

 

「冗談だってば!ただ皆にこんな人間がいるって見せびらかしに行くだけだよ」

 

「どうせそんなことしたら『どれ、俺が腕前をみてやる』とかいってやる羽目になるんだろ」

 

「あ、あるかも」

 

「大体おれは自衛のために力をつけてきたんだ。別に力を見せつけるために鍛えてきた訳じゃない」

 

「ならさ、私の奴隷として紹介させてよ。ほら丁度ここに鎖あるし」

 

「もっと嫌だ」

 

見た目幼女に鎖で縛られて連れられる見た目青年て……どんなプレイだよ!

 

「んー、どうしようか」

 

「そんな悩むならさっさとおれを開放させてくれよ」

 

「嫌、私に初めて勝った相手だもん。意地でも自慢してやる」

 

「……もういや」

 

 

なんでこうなったんだ。おれはただまったりゆったりと旅をしたいだけなのに。なのになんで旅を始めて早々に一部のトラウマのある鬼と出くわし、捕まっちゃうのだろうか。

 

大人しく洩矢の国にいればよかった……

 

 

 



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4話 もう戦い疲れたよ……

「はあ、なんでおれはこういうときの運は最悪なんだ」

 

「よし!私が勝ったんだから言うこと聞いてもらうよ」

 

結局じゃんけんで行くかどうか決まることになり、見事パーで負けてしまった。 

 

「それじゃあ、行こうか!人間」

 

「ああ……そういえばまだ名前を言ってなかったな。おれの名前は熊口生斗。チャームポイントはこのグラサンだ。」

 

「ん、生斗っていうのか。私の名前は一度いったよね?」

 

「あれ、なんだっけ?……確か果物だったよな」

 

「伊吹萃香だよ!」

 

「そうだった。おれの好きな果物と同じ名前だったな」

 

「すいかって食べ物なんて聞いたことないよ」

 

ん?まさかこの世界ではスイカはないのか?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、こいつが萃香の言ってた奴かい?」

 

「ああ、そうだよ!私に勝つぐらい強いからね!」

 

 

家を出てしばらく歩いたところに集落みたいな所についた。そこで皆角を生やした奴等がおれを興味深そうに見てきて正直落ち着かなかった。そしてある一軒家のなかに萃香がノックも無しにはいると、そこには頭に一本角を生やしたナイスバディなお姉さんがいた。……たぶんこの人が勇儀という鬼だろう、

 

「やあ、人間。私の名前は星熊勇儀っていうんだ。よろしく」

 

「ああ、おれは熊口生斗だ。グラサンを馬鹿にしたら許さないからな」

 

「へぇ、鬼を前に屈しないとは。さすが萃香が認めただけはあるね。…………よし、表へでな!」

 

「あ、もう帰っていいってこと?ならさようなら~」

 

「なわけないでしょ。戦おうっていってるんだよ」

 

「おい、萃香。おれは戦わんといったはずだ」

 

「まあまあ、別にがちの殴り合いをしようっていってる訳じゃないんだ。ちょっとした余興さね」 

 

「同じことをいって急に殴りかかってきた奴をおれは知っている」

 

「…………そんなことはしないよ」

 

 

でも鬼と余興か……まさか力比べとか?腕相撲は嫌だぞ、おれの腕がへし折れる未来しか見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼の集落・広場

 

 

「ルールは簡単、私がいま持っているこの盃を奪うことができればあんたの勝ちだ。」

 

「へ?そんなんでいいのか?」

 

「ああ、簡単だろ?」

 

「まあ、それでいいんならおれは問題ないけど……」

 

「(勇儀のやつ、生斗を試してるんだ。どれぐらいやれるのかを……)」

 

「よし、それじゃあ。萃香、頼むよ」

 

「ん、ああ。よし、それじゃあ行くよ

 

 

 

 

 

 

 

  始め!!」

 

 

そう、萃香がコールはしたが、おれは相手の出方を見るために動かずにいた。が、勇儀も同じようで動かないようだ。

 

 

「どうしたんだい?早く来な」

 

「そっちこそ来いよ」

 

「いや、私はあんたが来るまでここを動かないよ」

 

「ん、そうか。それならありがたい」

 

そういっておれはその場に座り込んだ。

 

「な?!なめてるのかい?」

 

「いや、作戦会議」

 

「そ、そうかい。だいぶ肝が据わってるねぇ……」

 

「そりゃどうも」

 

 

んーと、あれをこうしてああさせて。……それに注意を引き付けてそこを決め手のあれでどかーんしてしゅんといってゲット。 

よし、完璧だ。

 

「よし、それじゃあ行くか」

 

「へ?まだ10秒もたってないよ。いいのかい?」

 

「おお、もう完璧だ。失敗する気がしねぇ」

 

「ほう、たいした自信だ!その自信、軽くへし折ってあげるよ!!」

 

そういいながら勇儀は手を前に出して指をくいくいさせて来いっと挑発してきた。

 

「言われなくても行ってやるよ」

 

「言ってないけどね!」

 

そう言いつつおれは勇儀へ接近した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇儀視点

 

 

萃香が絶賛及び、勝ったという人間、熊口生斗の実力を見たくなった私は試す意味合いを込めて余興を提案した。その内容に納得してもらえたので内心安堵している。だって萃香が言うにはどんなことにもめんどくさがる面倒な奴と言われてたんだ。断られる覚悟で言ってみたんだけどなんとか上手くいったようだ。

そして現在、熊口のやつが私に向かって肉薄してきた。

 

 

「玲瓏・七霊剣!」

 

「うお!奇怪な技を使うねぇ!なかなか面白いよ」

 

「ええ……まじかよ」

 

急に熊口の後ろに6つの光る剣が発生して私に向かって切りつけてきた。全部の剣が的確に私の死角を作らせるように誘導されており、そこを熊口本人が手に持っている剣で切りつけてきたので多少の傷を省みず熊口の持っている剣をへし折った。お陰で浮いている剣に少々切られたが背中を思いっきり切られるよりかはましだ。

 

「完全に決まったと思ったんだけど……」

 

「いや、浮いてるその剣に肩を切られたよ」

 

「服が少し破れただけじゃないか」

 

「鬼の肌をなめない方がいいよ」

 

「それももう知ってる!」

 

そう言いながら熊口は後ろに浮いている剣を自分へと還元したあと、周りに霊弾を5つほどつくった。

 

「ほう、お次はなんだい?」

 

「ちょっと危ないただの霊弾さ」

 

「つまりなにか細工してるってことか」

 

「ご想像にお任せします!」

 

そういって霊弾を放ってきた。うーん、みたところただの霊弾なんだけどねぇ……

 

そう思いつつ最低限の動作で霊弾を避けようとしたが、それが間違いだったことに次の瞬間気づいた。

 

 ドガアァァァァァンン!!!!!

 

 

「くっ!そういうことかい!!」

 

私の横を通りすぎる瞬間、霊弾が光りだし、そして爆発した。それをギリギリかわすことに成功はしたが、耳が少しやられた。キーンと甲高い音が片耳に鳴り続けている。

危なかった……流石にあれをくらうのは危険すぎる。

 

 

「ありゃ、避けたか。流石は鬼、反射神経が神がかってるな」

 

「なっ?!」

 

と、避けた先に大量の光る剣があった。これはマズい?!

 

「ふん!」

 

 

思いっきり腕を振りかぶり、風圧で剣をすべて弾き飛ばした。

 

「まだまだあるよぉ」

 

「この!」

 

お次は少し大きい霊弾がきた。しかしさっきの剣よりだいぶ遅いので余裕で避けられる。

さっきの爆発のこともあるので大幅に避ける。

 

「ああ、無駄だよそんなに接近したんじゃ避けようがない。」

 

「くっ?なんだこれは?!」

 

さっきと同じように霊弾が光ったと思えば中から大量の霊弾が飛び出してきた。

一発一発はたいした威力ではないが数が多すぎる! 目が開けられない!?

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、やっと収まったか」

 

「はい、おれの勝ちだ」

 

「え?……あ」

 

 

いつの間にか私が持っていた盃が熊口の手に渡っていた。

 

 

「……ふふ」

 

「ん?どうした?」

 

「……ふふ、ふははははっ! いいねぇ! 私の敗けだ! やるねぇ、熊口!」

 

「あ、ああ(そのくせかすり傷以外たいしてダメージを負ってないじゃないか……)」

 

 

熊口、あんたは最高だよ、気に入った!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんでこんなことになってるんだ?」

 

「いっただろ? これは余興だって」

 

 

そう勇儀が答える。

一体どんなことがいま行われているかというと……まあ、宴会だ。

おれと勇儀の勝負をつまみに酔った鬼たちがいつの間にか場を埋め尽くしていて、勝負がついたと同時に宴会になった。

 

「うーん、私とやったときはもっと強かったんだけどなぁ……」

 

いや、萃香よ。それは寿命を使ったからであって、今回の戦いは割りと本気だったんだよ……

 

「なに?まだ本気をだしてなかったのかい?それじゃあ今からがちの殴り合いをしようじゃないか!!」

 

「無理」

 

「熊口ならそう言うと思った」

 

「なら言うな」

 

「まあ!兎に角!折角酒があるんだ、飲まないと損だよ!!」

 

「あ、ちょまっ!?おれ酒弱いって!」

 

 

このあと10秒後ぐらいで酔い潰れたことを記しておく。萃香、鬼の酒をおれに呑ませんな。喉が焼けるから……

 

 

 



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5話 みんな元気かなぁ……

50話突破!!


 

『…………あれ?いつの間にか寝てましたか』

 

「…………全くでてこなくなったと思ったら寝てたのか……」

 

『うわ?!熊口さん酒くさ!!』

 

「うわ……まじか。つーか翠、お前嗅覚神経通ってたのか」

 

『当たり前じゃないですか!生きてるんですよ!』

 

「いや、死んでる」

 

なに意味のわからんことをほざいているんだか。

 

「ああ、いかん。二日酔いだよ、これ……頭痛い」

 

『大丈夫ですか?』

 

「ああ、水を飲んで休んどけばなんとか」

 

 

今おれは勇儀の家の一室を借りて休ませてもらっている。ついでに今は夕方、昨日の宴会からもう一日近く経っているが、一向に頭の痛みがひかない……

 

『それじゃあ少し”出て“お水持ってきますね』

 

「おお、頼む……」

 

そういうと翠はおれの背中から出てきた。後ろなのでおれからはわからないが他から見れば異様な光景が映ってるだろう。

男の背中から美少女が這い出てくる光景…………一部のやつには受けそうだな。おれはそんなことないが……

 

「それでは!」

 

「なるべく早くな……」

 

さて、翠も言ったことだしごろごろしておくか……寝ようにも頭痛くてそんな気がしないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

「熊口さぁ~ん」

 

「ん、翠戻ったか……って勇儀……」

 

「人ん家に女を連れ込むなんて案外熊口も大胆だねぇ」

 

戻ってきたと思えば勇儀に首根っこ掴まれた翠が現れた。

 

「いや、そういうのじゃないから。守護霊だよ」

 

「なんだ、やっぱり幽霊だったのか。初めて見たよ」

 

「何度もいってたじゃないですか!」

 

「いや、遭遇した瞬間に『幽霊です!!』って言われても信じられるわけないだろ」

 

「私は見てたよ。生斗の背中から這い出てくるこの女の姿を」

 

「「うわ?!萃香(さん)?!」」

 

え?どこから出てきたんだ?!今目の前に萃香が発生したように見えたんだけど……

 

「なんだい、萃香。またストーカーじみたことしてたのかい?」

 

「ストーカーとは失礼だね。鬼の酒を飲んで潰れた生斗の事を見守ってやってただけだよ」

 

「いや、それならなんで姿を現さなかったんだよ……」

 

「ん、生斗がたまに独り言を言うからどんなのか気になってね。どんなのか調べてみようと思ったんだ」

 

「おいおい、看病する気0じゃねーか」

 

「看病するなんて一言もいってないよ」

 

それはそうだけどさ……

 

「やべぇ、頭痛が……ちょっと横になるわ」

 

「あ、熊口さんお水です。」

 

「ん、ありがとう」

 

「…………」

 

「…………」

 

「な、なんだよ」

 

「いや、お似合いだなぁって思って」

 

「まさか恋仲だったり?」

 

「「いや、それはない(です)」」

 

「ほら、息ぴったり」ニヤニヤ

 

「これはこれは……」ニヤニヤ

 

「ああもう!もう寝るから出てってくれ!!!」

 

 

「「熱いひとときを~」」

 

「煩い!!」 

 

 

なんだ一体、おれはそんな目で翠を見たことなんてないぞ!

取り敢えず二人を追い出しといた。……ああ、くそ、大声だしたせいで余計痛くなりやがった……

 

 

「熊口さん……」

 

「ん、なんだ?」

 

「ま、まさか私を性的な意味で食べようと萃香さん達を追い出したんですか?!」 

 

うわ、がちで引いた目でおれを見てきやがった!?そんなわけないだろうが!

 

「な分けないだろ……次そんなこと言ったら物理的な意味で襲うぞ」

 

「あ、すいません……」

 

睨んで答えたら安心したように謝罪を述べた。おいこいつ、本気でおれが性的な目でお前を見てたと思ってたのか!?

 

「お前がおれに性的な目で見てほしいならもうちょっと大人な雰囲気をかもちだしな」

 

「一生このままでいいです」

 

「ならよし」

 

よし、これで翠の不安を取り除いた事だし、寝るか。頭痛いけど頑張れば寝れるはずだ。

 

「おやすみ」

 

「お休みです。私は萃香さん達の所へいってますんで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、やっぱり寝れないな。」

 

辺りはもう暗い。ちょっと奥の部屋では話し声が聞こえているがたぶん翠達だろう。

 

寝れはしなかったが頭の痛みはだいぶ引いてきた。

……一人になれるのは久しぶりだな。いつも翠か誰かと一緒にいたし。

 

「ああ、そういえば月にいったあいつら、元気してるかなぁ……」

 

もうおれにとっては何十年、あいつらにとってはもう何年か数えるのも面倒なぐらい会ってない。久しぶりに会いたいな……永琳さんやツクヨミ様、ごりごりおじさん(綿月大和隊長)、依姫や豊姫、

小野塚やトオル…………あとついでに教官。

 

「あいつら寿命が恐ろしく長いからたぶん生きてるよな、うん。いつか会えるさ」

 

そういいつつ、障子をあけて縁側にでて、月を眺めた。

 

「やっぱ月は綺麗だな。羨ましいよ、あんなところへ住めて……まあ、今の生活に不満があるわけではないけどさ」

 

月には行けなかったがその代わりにまた新しい繋がりができた。月に行けなかったことは惜しかったけどそこまで後悔はしてない。

 

「さて、痛みも引いてきたし皆のところへ行こうかな」

 

 

そういっておれは縁側から部屋に戻って、萃香達のいる部屋へ向かった。

 

 

前の事をいつまでもだらだら思ってたって良いことは殆どない。今を楽しまなければ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………旅にでてからは戦ってばかりで全然楽しくなかったけどな!!

 

 




あれ、後半ちょっとシリアスな感じになっちゃったりしました?
急に過去の話をするのは、なんとなくこれまで生斗くんが昔の事を振り返ってなかったので少しは入れさせてみようと思い書いてみました。


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6話 萃香とただ駄弁るだけの話だな

「良い天気だねー」

 

「ああ、こういう日は外で日向ぼっこしたい気分だ」

 

「私は外で一汗書きたい気分だよ」

 

「どうせ決闘だろ。おれには理解できん」

 

 

現在おれは勇儀の家の縁側で萃香と喋りながらくつろいでいた。

ついでに言うともうここ(鬼の里)に来てから1週間になる。本当は二日酔いが治った次の日に旅に出ようと思っていたのだが、鬼達にそれを阻まれてしまった。なんで邪魔するのか聞いてみると

 

「こんな面白人間、私達が逃がすわけないだろ?」

 

 

と、おれの意思をガン無視され、ここに残ることになった。唯一の救いは旅に出る原因となった(旅に出たい欲求)が無くなったことだな。もしそれがいまだにあったらフラストレーション(ほぼ欲求不満と同じ意味)がオーバーヒートしてたな。

例えるならばお腹が減ってるときに自分の大好物が目の前にあるのに椅子に縛られて食べられないというのがずっと続くのと同じような感じだ。

 

 

「そういえば翠は?遊ぼうと思ってるんだけど」

 

「今は寝てる。まずこんな太陽が出てるときに翠はでないけどな」

 

「う~ん、確かにそうかも。前、翠が生斗から出た状態で寝てたときに外へ連れ出したら『きゃあぁぁ!?助けて!し、死ぬぅ!?!』て言いながら悶絶してたからね」

 

「だから最近寝るとき必ずおれの中に入るのか」

 

「まあね、…………いや、生斗は私に感謝した方がいいよ」

 

「は?」

 

「だって翠の寝顔を独り占め出来るんだよ!」

 

「見ても何の得もしない。一度見てみたことはあるけどかなり酷かった。腹を掻きながら鼻提灯をつくってたし、たまに寝言で『変態!あっち行け!このゴキブリみたいにしぶとい奴め!!』とか意味のわからんこと言う」

 

「……最初の二つはもうおっさんそのものだね。ってやっぱり生斗も見てたじゃないか」

 

「最初だけです」

 

「こら、こっちを向いて喋らんか」

 

そりゃあ、美少女の寝顔を見たいと思うのは男子の全国共通の願望だとおれは思う。見て失望したけど……

 

「まあ、取り敢えず今日″は“ゆっくりしようかな」

 

「今日″も“の間違いじゃないのかい」

 

「間違ってない。はずがない。昨日まで男どもに『兄貴!どうやったら勇儀姐さんに勝てるか教えてくれぇ!』て言いながら追いかけ回されたんだぞ」

 

「なんだい?私はてっきり鬼ごっこしてるかとおもってたよ」

 

「ごっこではないからな。モノホンの鬼から追いかけられてんだから」

 

「スリルがあるでしょ?」

 

「ああ、正に鬼の形相で追いかけられたんだからな。

……つーかなんで勇儀をそんなに倒したいんだろうな、男衆達は」

 

「あー、それはね。実はちょっと前に女の鬼を馬鹿にしてた奴らを全員勇儀がぶちのめしたんだよ。それからは女の鬼を罵る奴はいなくなったけど代わりに男衆の目標が勇儀になったんだよ」

 

「勇儀すげーな……マジ尊敬します……いろんな意味で」

 

「うんうん、同種が褒められるのも悪くない」

 

そうか?おれは人間が褒められても別になんともおもわないんだけど……

 

「なあ、萃香……」

 

「ん、なに?」

 

「ずっと思ってたんだけど、その瓢箪ってなんだ?ずっと飲んでるけど……」

 

確かあの中の酒はかなり度数がきつかったはず…

 

「ん?これは伊吹瓢っていうんだ。ここから酒が無限に出てくるから重宝してるよ」

 

「む、無限?!あの度数が凄まじいやつがか?」

 

「まあ、『酒虫』のエキスを染み込ませて水を酒にかえてるだけなんだけどね」

 

「酒虫?聞いたことないな……それに水を酒に変えるのなら別に無限って訳じゃ……」

 

「別になにもないところからいくらでも出るっていった訳じゃないよ。それに私の能力を使えば無限に出てるのとほぼ同じ感じだしね」

 

「あ、そういえば萃香の能力ってなんなんだ?」

 

「うん?別に教えてもいいけど。でも私だけが教えるってのもねぇ……」

 

「あ、そうか。教えてほしいか。ならば教えてやろう!おれの能力は『グラサンをかける程度』の能力だ!!」

 

「な、なんだってー!!?…………って馬鹿野郎」

 

いだっ!?萃香から拳骨を食らってしまった。なんと言うことだ……頭がかち割れそう

 

「グラサンってあんたが今頭につけてる黒眼鏡のことだろ?そんなのじゃ能力とはいわないよ」

 

「だからって殴ることはないだろ…………うわっこんなに大きいたんこぶ初めて見たぞ」

 

「それは私も思った。……兎に角生斗の能力を教えな。そしたら私の能力を教えてあげるよ」

 

「う~ん、別に教えても良いんだけどさ……」

 

 

もし言った時恐いんだよな。この前萃香と戦った時寿命を使ったのも能力がバレるのを恐れて使った訳だし。

………………仕方ない。おれの誤魔化しテクを見せてやるか!

 

 

「実はな、おれには封印されし「実はね、生斗は普通の人間より、生気が濃いんだよね」魔物が……ってえ?」

 

「それでさ、私が生斗に負けたあと何故か生斗の生気が少し減ってたんだけどさ」

 

「へ?」

 

「それと生斗の能力ってそれに関係してるよね?普通の人間にはありえない現象だし」

 

「……」

 

まじか、そこまでわかんのかよ、この鬼幼女は……

こりゃ下手な言い訳したら頭かち割られるな

 

「…………確かにそれはおれの能力に関係しているな」

 

「やっぱり。それじゃあ教えてもらおうか」

 

「まあ、いいけど別に。それにもう殆どバレてるしな。でも条件がある」

 

「なんだい?」

 

「能力の事を聞いた後に戦おうとか言うな。わかったな?」

 

「ん、それは私の楽しみを奪うつもりかい?」

 

「…………やるつもりだったのか?」

 

「能力次第ではね」

 

「教えるのやめよ。萃香の能力がどうしても知りたい!ってわけじゃないし」

 

「ええ!?お願いだよぉ、教えて」

 

「上目使いしても無理だ。おれは無意味な戦いはしたくないんだ」

 

「楽しいじゃないか」

 

「それは鬼の理論、おれの理論は平和が一番」

 

「むむぅ……」

 

これでいい。取り敢えずここを抜け出してそこら辺の木の上で寝るとしよう

 

「いいの?私に能力を教えないとなにかと都合が悪いんじゃない?」

 

「ん、なにが?」

 

「翠にいつも生斗が寝顔を見てるよって教えるよ?」

 

「なっ!?いつもはみてない!一度だけだ!」

 

「そんなの翠が信じると思う?」

 

「……!!」

 

た、確かにそうだ。翠は小さな事でも脳内で着色して変態とかいうぐらい頭がどうかしてる奴だ。それでもしおれが寝顔を覗いたとバレればもう永遠に虫けら以下の扱いをされるに違いない!

 

「くっ……!」

 

「どうだい?あんたは私にこのことを言った時点でこの勝負負けてたのさ」

 

と、萃香が腰に手をあて、ない胸を見せつけるかのようにのけぞった。……こいつめ!せこい真似しおって!

 

「言わせない方法があるな」

 

「なんだい?私に能力を言う気になったのかい?」

 

「じゃんけんだ。」

 

「は?またかい」

 

「もし萃香が勝ったらおれの能力を教えてやる。代わりにおれが勝ったら萃香の能力を教えろ、そして翠の事を他言無用で頼む」

 

「私は2つかい?」

 

「勝てば良いだろ?鬼ならそんなみみっちい事を気にするな」

 

 

「そうだね!どうせ私が勝つんだから!」

 

「また、ない根拠をよくいえるな!よし、このじゃんけんの使い魔がお前をぶちのめしてやろう!」

 

「それじゃあいくよ!」

 

「「じゃ~んけぇ~ん」」

 

 

このあとおれは無惨に敗北しました。くそ!あのとき使い魔じゃなく暗黒黒魔神とかいっていればよかった!……ん?そんなの関係ないって?あるさ、たぶん。

 

 

 

 

 

そしておれは萃香に能力の事を教えた。そしたら萃香が

 

「それじゃあ壊しても治るってことだね!」

 

と、物騒極まりないことを言い放ったけどおれは気にしない。

 

 

 

思えば今日は萃香とただずっと駄弁ってただけだったな……

 



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7話 妖怪の山へ行け?無理です

「妖怪の山?なにそれ」

 

「ああ、なんか天狗が支配する山らしくてね。面白そうだから乗っ取ろうって事になったのさ」

 

「鬼の思考回路がよくわからん。なんで面白そう=攻めようって事になるんだよ」

 

「だって天狗だよ?強そうじゃないか。」

 

 

いつもの縁側でだらだらしていたら急に萃香が出てきてこんな話をしてきた。やっぱり萃香の能力はチートじみてるな。因みに萃香の能力はおれが能力を教えたときになぜか教えてくれた。

 

 

『密と疎を操る程度』の能力。要するに物を萃めたり散らしたりできる能力らしい。自分の能力はなるべく教えない方が良いと言うのに萃香はウキウキとした表情をしながら色々見せてくれた。

まず、自分を散らしたり巨大化したりでっかい岩を萃めて俺に投げつけたり、きわめつけにはブラックホールみたいのを作り出して皆を引き付けたりしたりもしていた。

 

はっきりいって万能過ぎますね、これは。なんだよ俺の能力、リスクを負わなきゃ強くなれないとか……

まあ、別に不満がある訳じゃ……やっぱあるな。かなりある。

 

 

「それで?それをおれに話してなんになると思ってるんだ?」

 

「うん、大有りさ。生斗には妖怪の山へ行ってこの書状を届けてもらう」

 

「…………行くとおもう?」

 

「これはもう会議によって決まったことだよ」

 

「鬼の会議なんてどうせ『妖怪の山面白そうじゃね? 攻めようぜ攻めようぜ! いいねぇ!』的な感じだろ」

 

「…………流石にそれはないよ。ちゃんと四天王と鬼子母神とで決めたことさ」

 

「はあ?茨木さんも賛成したのかよ」

 

「説得するのに時間がかかったよ……まあ、してたのは勇儀なんだけどね」

 

「で、なんでおれが妖怪の山なんて名前からして恐ろしそうな所へ行かなきゃいけないんだよ」

 

「いやぁ、ここらの鬼は強いやつが現れると目的を忘れて暴れまわるようなやつしかいなくてね。そこで冷静沈着で物事を的確に判断できてグラサンがとても似合う生斗様に頼もうって事になったんだけど」

 

「お?おう。そうかなぁ?おれってそんなふうに見えちゃう?そうかぁ、おれってそんなふうにみられていたか…………よし、良いだろう!この書状を妖怪の山へ持っていってやろう!」

 

「うんうん、天魔ってやつに渡してきてねぇ(なにこれ、ちょろすぎる!)」

 

 

よし、このグラサンが良く似合う冷静沈着なおれがこのミッションをなんなく遂行してやるぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しまった」

 

おもいきって飛び出したのはいいけどちょっとやっちまった感があるな。

まず翠を置いてきた。そして食糧がない。妖怪の山への地図は萃香から預かった手紙と一緒にあったので辛うじて大丈夫だった。

戻ろうか…………でもこの地図によるともう着いたんだよなぁ。後は天魔って言う天狗を探せばいいんだけど……

 

 

「うーむ、まず天魔ってどんな奴なんだろうか……」

 

「天魔様はこの妖怪の山、及び我々天狗界のトップだ。」

 

「うん、ご丁寧にどうも」

 

「礼には及ばん、どうせすぐに消え行く者のなんてな」

 

「そうかそうか。……まさかとは思うけどおれの背中に突きつけている剣をどうするのかな?」

 

そう、今現在ちょっと面倒な状況だ。急に後ろからおれの独り言に介入してきたと思えば剣を突きつけてきたんだ。なんだよこいつ、背中に翼なんて生やしおって。なんかかっこ良さそうじゃねーか

 

「侵入者には容赦するなと仰せつかっているのでな。悪く思うな」

 

「はあ、なんて攻撃的なやつなんだ。…………けど、

 

 

 

おれと剣術で勝負するのはちょっと危ないんじゃないか?」

 

「ふん、ぬかせ。もう勝負はついてい…………っ!」

 

ずっと後ろで構えられるのも気分が悪かったので取り敢えず爆散霊弾を牽制で放ってみた。そして避けられるかと思っていたけどまさかのクリーンヒット。まじかい……

 

「が……はっ」

 

「おいおい、まじかよ。折角おれの剣捌きを見せてやろうとしたのに」

 

「くっ……この……この私が、人間ごときに負けるなんて……あ、ありえない!」

 

「今現在負けているじゃないか。それにもう休んでおけ。もう立っておくのも辛いだろ」

 

「それは…………哨戒天狗として、の……プライドが!……許さない……、のだ」

 

「はあ、じゃあおれは行くな」

 

食糧もないから今日中に終わらせたいんだよな……

 

「な、○○がやられているぞ!」

 

「なに!?あいつは哨戒天狗の中でも上位に入るんだぞ!」

 

「あの人間がやったのか!」

 

「殺せぇ!あいつを生かせておくか!」

 

「○○の敵討ちだ!」

 

うおい、空から犬耳やら翼を生やしたやつやらが大量に来たぞ…………

まさかこれを相手にしろってことですかね?

 

 

「あ、あのぉ、わたくし、天魔という天狗を探しているのですけど……」

 

「な!?まさか天魔様の命を狙っておるのか!!」

 

「なおさら生かせておけんぞ」

 

「殺せぇ!」

 

あ、駄目だこれ。話を聞いてもらえる気がしない。

 

「面倒だけどやるしかないか…………おら、(たぶん)天狗ども、相手してやるから『一人ずつ』かかってこい」

 

「一斉にかかれぇ!!!」

 

「「「「「うおぉぉ!!!」」」」」

 

「一人ずつって言っただろうが!」

 

ああ、くそ。仕方ない。精神的にきついが七霊剣で相手してやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ……やっと終わった」

 

「くっ……殺せ」

 

かなり時間がかかったが全部撃破することに成功した。代わりにすんごい疲れた。体力的にも、精神的にもな。

 

「ま、まさか傷一つつけられないとは……」

 

「ふん、刃の部分を潰してやったんだから感謝しろ」

 

「なっ、まさかハンデまであって負けたと言うのか……」

 

「く、我が生涯に、取り敢えずたくさんの悔いあり……!」

 

「おい、なんかそれどっかで聞いたことあるぞ」

 

しかも悔いあるんかい!

 

「取り敢えずおれは行くぞ。さっさとこの手紙を渡して帰りたいんだ」

 

「くっまて!…………くそ、動けん」

 

「そこで大人しくしてな」

 

「それは貴方よ」

 

「ぐえっ!?」

 

 

急に首辺りに物凄い衝撃が来た。あ、これは気絶もんだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん~、あれ?ここどこ?……つーか腹減った」

 

「おい!天魔様の御前で無礼であるぞ!」

 

「ん?天魔って……」

 

あら、両手両足縛られてるな。つーか今、なんか読んでるのが天魔かな?なんか他の天狗より着飾ってるからたぶんそうだろう…………ってあれおれが渡そうとした手紙じゃないか。

 

「ん、……起きたか。侵入者よ」

 

「あ、こんにちは」

 

「挨拶などいらん。それよりお主に聞きたいことがあるのだ」

 

「おあ、はい、なんでしょう」

 

「この書状は鬼の物で間違えないのか?」

 

「ああ、はい。そうです。その書状を渡すのがおれの役目ですね」

 

「あの悪名高い鬼が人間なんぞにこの書状を託すとは……堕ちたな」

 

「がはははっ!天魔様の言う通りですな!」

 

まさか鬼の悪口を言ったのか?後々困ることになるぞ……

 

「さて、本題だが……これにはここの山を来週に乗っ取りに行くと書いてあるのだが」

 

あ、そのまま書いちゃってるんですね。

 

「ああ、はい、たぶんそうだと思います」

 

「ふむ、これを無効に出来ることはできないのか?」

 

「いや、無理だと思いますよ。もう皆ヤル気満々でしたし」

 

おれが里を出ていく途中とかもうお祭りムードだったし

 

「そうか……それならば仕方ない。宣戦布告と行くか」

 

「はい?」

 

「この者の首を切り落として鬼の里へ放り投げておけ」

 

「承知致しました」

 

 

え?まじかよ。

おれ、首切られちゃうの?

ちょっとまて、殺されて体が離れてたらおれどうやって再生するんだろうか?ちょっと気になるが絶対に試したくはないな……



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8話 拘束…………

ヤッホー皆元気にしているかい?僕は勿論元気じゃないよ。

なんでかって?それはね、…………今から処刑されるからだよ!

 

 

「ここでいいだろう」

 

「ハッ」

 

現在おれは妖怪の山の山頂付近にある広場のど真ん中に座らされていた。

どうやらここで殺されるらしいな。まあ、そんな簡単に殺されはしないけど。なんか手首と足首に縄をして拘束している。でも実際おれにそれは効かないんだよなぁ…………

 

「ほら、首を出せ。一思いに切ってやる」 

 

「はいはい」

 

ふう、今すぐにでも抜け出してもいいんだけど結構な量の天狗がおれを囲ってるからな。

ここは我慢。皆が一番油断するタイミングは切られる瞬間、そこを狙う。

 

 

「愚かなる侵入者よ。お前が鬼どもとの戦の狼煙だ。悪く思うなよ」

 

そう、天魔が言ったあと、刀を持った方の天狗が刀を上にあげ、

 

 

 

降り下ろした。

 

 

 

 

いまだ!!

 

「なっ!?」

 

 ドガガガガガガッッッ

 

「生憎、手を縛ったぐらいで安心されちゃあ困る。おれの脳は見えない手の役割もあるんだからな!」

 

ギリギリのところで六つの霊力剣を生成し、降り下ろされた刀を受けとめ、それと同時に取り敢えず沢山の爆散霊弾を地面に着弾させ、大爆発を起こさせた。

 

 

「ふっ、やっぱり皆いきなり広場が爆発したことに戸惑ってるな」

 

 

勿論爆発したとき、大量の砂埃があがる。それに乗じておれは縄を剣で切り、そのまま飛んで逃げた。

ふふっ、作戦通りだな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、やっとこの山からでられるぞ…………って危な!?」

 

「なっ!?」

 

山の麓まであと少しというところで後ろから急接近してくる何かを感じ、咄嗟に横にそれると、さっきまで飛んでいた場所に剣が通った。

あ、あぶねぇ、もし避けてなかったらおれR18指定されちゃってたぜ。

 

 

「なぜ避けられた?」

 

いま刀を降り下ろした本人であろう天狗が訪ねてきた。

 

「そりぁ、悪寒がしたから………………っていまそんな事言ってる暇はない。ばーい!」

 

「逃がすと思ってるの!」

 

しつこいなぁっと思ってたけどこの女天狗、速いな。結構本気で飛んだのに一瞬にして前に立ち阻まれた。くそぅ、早くいかないと追っ手が来るってのに……

 

「逃げるのは…………無理そうだな」

 

「ふっ、流石に人間でも私の速さがわかるようね。

 

私は射命丸 文。天狗の中で最速の烏天狗よ。」

 

「ふーん、ご丁寧にどうも。おれは熊口 生斗だ。」

 

「別に貴方の名前は聞いてないわ。どうせすぐに消えるのだから!」

 

「それ、よく負けるやつが言う台詞だからあまり使わない方がいいぞ!」

 

さっさと終わらせてここを去らなければ。はあ、くそ、めんどい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……なかなかやるなぁ」

 

「ふん、人間にしてはよく粘ったわ。ま、これでおしまいよ」

 

ちょっと、不味い状況だな。まさか射命丸が風を操れるとは……

思った以上に速い。

それに爆散霊弾も無駄にでかい音をたててしまうから使うにも使えないし。一体どうすれば…………

 

「ふふっ、焦ってるようね。それじゃあ私に一生かかっても勝てないわよ」

 

「あ、そうか」

 

「え?」

 

さっきから焦りのせいで技が単調になっていたのか。これは致命的なミスをしでかしてたな。

 

そう思うとおれは自然と頭の中が冷静になっていくのがわかった。

 

「敵のアドバイスされるのはなんか変な感じだったが……あんがとよ、射命丸」

 

「ふん、どうせ私には勝てないのだからそれぐらいは許容範囲よ」

 

 

取り敢えず玲瓏・七霊剣を発動。これで何とかして見せてやる。

 

 

「地獄へ落ちなさい!」

 

「来い!」

 

よし、射命丸から来るようだな。滅茶苦茶速いが目でギリギリ追える範囲だ。

今回もタイミングが大事だ。チャンスは一瞬。相手が斬りつけてくるのをおれが止めた瞬間だ。

 

 

「ふっ!」

 

「いまだ!」

 

「えっ?……きゃあ!?!」

 

 

ふん、かわいい声だしおってからに。兎に角成功したようだ。

さて、どんなことをしたのか疑問に思っているだろう。答えは簡単。6本の剣で拘束しました。

 

やり方は単純かつタイミングが重要視される。まず、飛んできた射命丸からくる斬撃を右手に持っている霊力剣で防御。このとき射命丸は剣に風を纏わせているのでかなりの速度があるから受けとめるのも一苦労だ。でも、それがあってかいつも射命丸は一度剣を降り下ろした後、少し隙がでる。それが今回の狙い目。そこに6本の霊力剣を首、腕、胴体、脚、に配置し、身動きを取ろうとすると自然に切れる感じになっている。

そしてさっき射命丸がかわいい悲鳴をあげたのは、…………これはまあ、ミスです、はい。一瞬の隙を逃すまいとちょっと焦ってしまって霊力剣の一本が予定の位置より大幅にずれてしまい、射命丸の股下付近に言ってしまい、スカートを貫いてしまったんだ。

不幸中の幸いなのは丁度股下を通ったから肌を傷つけて無いところか。

 

あ、それと別に故意にやった訳じゃないから。そこ、勘違いしないで。

 

「くっ、この変態!なぜ斬らない!!こんな辱しめられるぐらいならいっそ斬られた方がマシよ!」

 

「いや、やめてください。変態じゃないです。あと、別に殺し合いをしに来た訳じゃないから斬る必要なんてないだろ」

 

「くっ……」

 

汚物を見るような目で見られちゃったよ。……でもまあ、これは翠で慣れてるからもう大丈夫だ。うん。

取り敢えずグラサンを目の方にもっていって泣いてるのをばれないようにしよう。

 

「それじゃあおれは先に行く。射命丸はいっときそうしてもらう。またこられたら厄介だからな」

 

「こんなもの!私の風で吹き飛ばして……」

 

「やめとけ、その剣には結構な霊力を込めてある。そう簡単に壊せはしないし、下手するとお前にまで被害がくるぞ。股とか」

 

「くそっ、こんな変態に何もできないなんて!」

 

「いい加減爆散霊弾ぶつけんぞこのやろー」

 

よし、念のために霊力剣をもう10本ほど追加して更には爆散霊弾も追加してやろう。これでもし風で吹き飛ばそうとしたときに射命丸自身も吹き飛ぶことになるからな!我ながら鬼畜だな!!

 

 

「んじゃ!」

 

「えっ!?ちょっまってよ?!これは流石に酷いんじゃない!?」

 

「大丈夫、おれは男女平等だから。男だろうが女だろうがそれぐらいする」

 

「それ全然大丈夫じゃない!」

 

ふん、知ったことか。どうせあの速さだ。さっきおれを気絶させたのも射命丸だろう。あのときの仕返しだ。

もし違ってたらごめんなさい。

 

そうおもいつつおれは妖怪の山を離れていった。

結構暴れていたのによく他の天狗にバレなかったな……

 

 

 

 

 

 

 

「ん、そういえばなんで天狗なのに鼻長くなかったんだろう?何人かはいたけど……」

 

 

鬼の里へ帰る途中、そんな疑問が浮かんだ。おれ、これまで天狗の鼻は長いってイメージがあったんだけど……

 

「まあ、今度鬼が侵略した後に射命丸にでも聞くかな」

 

まともに口を聞いてくれないと思うけどな!

 

 

 



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番外 やらなかったネタ

はい、今回はこれまで1章と2章で書かなかったネタです。まあ、悪く言えばボツネタですね。

別に見なくても本編とは関係ないので飛ばしても大丈夫です。

※今回のみ台詞形式です


 

 

 1章

 

 剣術訓練終了後の休憩中

 

生斗「…………依姫、あれはいかんだろ……おれの腹にスパーンて音をたてながらたたっきってきたよ。うぷっ……昼食ったのがあがってきた……」

 

小野塚(兄)「おいおい、こんなところで吐くなよ」

 

生斗「思ったけどおれらっていつも吐いてるんだよな」

 

小野塚(兄)「ん、どういうことだ?」

 

生斗「だってさ、おれらいつも空気を吸っては吐くだろ」

 

小野塚(兄)「ああ、確かにそうだな。それは人間の生命活動として大事なことだからな……で、だからどうしたんだよ」

 

生斗「ならさ、今おれがリバースしてもそれは人間の生命活動として大事なことだとは思わないか?」

 

小野塚(兄)「なわけないだろ。トイレいけよ」

 

生斗「やべぇ、……もう出そう」

 

小野塚(兄)「おい、やめろ!吐くならもっと別の場所で………おい、なんで俺の方を向いてるんだよ!!?」

 

生斗「み、道連れだ……」

 

小野塚(兄)「俺お前に悪いことしたか!?あ、や、やめろ……いやあぁぁぁ!!」

 

 

 

ボツ原因・剣術訓練をどうやってかけばいいかわからなかった。

    ・汚い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂にて

 

 

生斗「なんでいつもグラサンをしてるかって?それは取れないからだな」

 

トオル「へぇ、なんでなの?」

 

生斗「んー、わからん。神のみぞ知る、だな」

 

小野塚(兄)「ほう、それなら俺の能力で取って見せようじゃないか」

 

生斗「いやぁ、流石に小野塚の能力でもできないと思うぞ」

 

トオル「それじゃあやってみたら?」

 

小野塚(兄)「よし、じゃあ試してみるぞ」

 

生斗「やれるもんならやってみな」

 

 

 

 

 

 

依姫「こ、これはいったいどういう状況なんですか?なんで熊口さんが小野塚さんを『逆』肩車してるんですか?」

 

生斗「依姫、助けて。取れない」

 

小野塚(兄)「…………」

 

トオル「ま、まあ、サングラスは取れたんだし良かったじゃないか」

 

生斗・小野塚(兄)「「よくない!!」」

 

 

 

ボツ原因・汚い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2章

 

 

 翠初登場時

 

 

生斗「いっつもうるせぇんだよ!!!!」

 

ハゲ散らかしたおっさん「ふむ、急に攻撃とは手荒な真似にも程があるのではないか」

 

生斗「…………」

 

半裸のおっさん「なにかね?私達になにかついているのかね?」

 

生斗「……なに、このおっさん達」

 

マッチョなおっさん「むっ、ただのおっさんではないぞ。みよ!この肉体美!!」

 

生斗「…………(悪夢だ……)」

 

 

 

ボツ原因・おっさんにはしたくなかった。

    ・汚い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日常回でしようとしたやつ

 

 

ミシャグジ「このやろぉぉぉぁ!!今日こそ祟ってやるぅぅ!」

 

生斗「させるか!くらえ!!爆散霊弾!!」

 

ミシャグジ「ぐおぉぉぉ!?!?」

 

生斗「ふん、おれに向かってこようなんて十年早いんだよ」

 

ミシャグジ「くっ、ま、待っていろよ……」ドサッ

 

 

 

 

 十年後

 

ミシャグジ「ぐおぉぉぉ!!!!十年たったぞぉ!!次こそ祟ってやる!!」

 

生斗「覚えてた!?」

 

 

 

ボツ原因・どっかのネタ

    ・汚い

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 森にて兄弟妖怪と戦った道義のところ

 

 

道義「ふん!」

 

妖怪弟「ぐはぁ!?」

 

妖怪兄「弟ぉぉ!?!」

 

道義「お前もだ!」

 

妖怪兄「させるかぁ!」

 

道義「え?うわあぁ!?」

 

生斗「うわぁ……きたねぇ。妖怪(兄のほう)のやつ、変な液吐き出しやがった。急にカッコつけて現れた道義くん、どんまい」

 

道義「…………お風呂入りたい。もう戦いたくない……」

 

生斗「戦意喪失した!?」

 

 

 

 

ボツ原因・道義の性格が変になった。

    ・汚い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 諏訪子が生斗に書状の返事を持っていかせるところ

 

 

諏訪子「だってもしかしたら大和の国で襲われるかも知れないじゃん。それなら一番生存率の高い人を行かせた方がいいよ」

 

生斗「いや、めんどいからやだ」

 

諏訪子「生斗は他の人に行かせてもしもの事があってもいいの?」

 

生斗「そんなことより寝たいです」 

 

諏訪子「お願い!一番生還率が高い生斗にしか頼めないの!」

 

生斗「やりたくない」

 

諏訪子「…………ミシャグジに寝込みを襲わせるよ?」

 

生斗「喜んで行かさせてもらいます、諏訪子様」

 

 

 

ボツ原因・生斗の性格とちょっと違う

    ・汚い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大体こんな感じですね。実際はまだあったのですがどわすれしたりしたので思い出したら書こうかなとおもいます。

 

 

こんな変な回を見てくださった皆様ありがとうございました!



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9話 あ、圧倒的だぁー!

「やあ。……よく無事で帰ってこれたねぇ」

 

「勇儀、これが無事に見えるか?」

 

「なに、ただ服がボロボロになっただけで目立った外傷はないじゃないか」

 

「そ、それはそうなんだけど……」

 

 

日が暮れ始めた頃、鬼の里に帰ってきた。そして里の入り口には勇儀がいた。

どうやら待っていてくれたらしい。おれが帰るのを待ってくれるなんて、滅茶苦茶優しいではないか!

 

そして現在、おれと勇儀は家へ帰る途中だ。

 

「で、天狗達の様子はどうだったかい?」

 

「ああ、書状を渡した後、首を切られかけたよ」

 

「ほうほう。まあ、妥当な対応だろうね」

 

「ほぉ~う、それをわかってておれに行かせたと言うことかな?」

 

「やっぱり頭脳明晰で物事を的確に判断できる熊口に任せるのが適任だとおもってねぇ」

 

「あ?そ、そうかぁ?やっぱおれってそんな風に見えちゃうか。やっぱりな、自分でも薄々気付いてたんだ。」 

 

「そうさ(萃香のいうとおり滅茶苦茶ちょろいじゃないか…………これをうまく使えばまた熊口と戦うことができるかも…………ふふ)」

 

「うっ……なんか今悪寒がしたんだけど」

 

「気のせいさね」

 

いや、絶対今した。一瞬勇儀の目が獲物を刈る獣の目をしたのをおれははっきりと見た。

 

 

「ま、取り敢えず今から宴会だ。ほら」

 

と、勇儀の指差す方をみれば広場で鬼達が酒を飲み交わしている姿が見えた。

 

「え、帰ってるんじゃなかったのか?」

 

「妖怪の山乗っ取りの前祝いさ、ほら彼処の方に萃香と翠もいるよ、行ってきな」

 

「ん、勇儀はどうするんだ?」

 

「ああ、私は今から鬼子母神のところへいって報告しに行くよ」

 

「はあ、面倒だな」 

 

「ま、それが終わればすぐに来るさね、さ、萃香がこっちに気付いたようだね。」

 

「生斗!おかえり!」

 

「うお!?萃香」

 

萃香と結構な距離があったと言うのにいつの間にかおれの後ろにいた。うーむ、やっぱり萃香の能力は便利だな。小野塚と道義がかわいそうになるな……

 

 

「じゃあな、勇儀ぃ」

 

「ああ、またすぐに来るよ」

 

そういって勇儀は鬼子母神という鬼全ての母とやらのところへ向かっていった。

 

「ほら、おかえりの印として私の酒をあげるよ~」

 

「おいおい、萃香、お前の酒は洒落にならんでしょ」

 

「あれぇ?翠はバリバリ飲んでたんだけどねぇ」

 

「え!?」

 

翠が?咄嗟に翠がさっきいた場所を見てみる。

…………うん、鬼達の間接をきめていらっしゃる、ありゃあ完全に酔ってるな。

翠は酔うと誰彼構わず間接をきめてくるからな。初めて翠が酔ったときのことはよく覚えている。おれだけじゃなく諏訪子と神奈子の腕まできめたからね、あいつ。

しかも尋常じゃない力できめてくるから下手すれば折れるからな……

 

「あー、男衆どもだらしないねぇ………まあ、私もきめられたときは正直焦ったけど」

 

 

「こらぁー!かかってこんかい野郎共がぁ!!!お前らキ○タマついてんのかボケナスぅ!」

 

 

「ありゃ完全に酔ってるな、口調が完全におかしい」

 

「生斗はあんな悪酔いはしないのにねぇ」

 

「おれとあいつを一緒にするな」

 

おれは酒が弱い方だから飲んだらすぐ寝てしまうからな。ん?他の主人公とかは悪酔いとかして大暴れとかして面白いって?悪かったな、主人公体質じゃなくて!!

 

「んじゃ、この度数がよっっっわぁ~いほぼ水と大差ない酒で乾杯しようか」

 

「…………お前らからすればそうだけどおれにとっちゃ丁度いいんだよ」

 

「まあまあ、ほら」

 

「ん、あんがと」

 

盃を貸してもらい、萃香にお酌してもらう。うん、見た目幼女と飲むのは犯罪くさいが、今はそんなものはない。気にせず飲もう

 

「んじゃ乾杯」

 

「乾杯」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、宴会後にも関わらず鬼達は妖怪の山に総攻撃をしかけた。 因みに翠は案の定二日酔いになったのでおれの中で寝ている。

 

 

 

まあ、感想を言うと圧倒的だったな。速さと団結力で防衛をしていた天狗達にたいして、鬼達はそれを全て力でねじ伏せていった。大天狗とやらも出てきていったが、それも鬼の四天王達に呆気なくやられていた。

おれは傍観してただけだからよくわからなかったけど一番善戦してたのは射命丸だったんじゃないかな。

唯一鬼と渡り合えてたし…………

 

 

「どんまい、射命丸。」

 

「あ、変態!助けなさいよ」

 

そして現在、鬼達諸々天魔のいる屋敷にいったのを確認した後、射命丸が木に引っ掛かっているところに来た。

 

 

「変態じゃないっていってるだろ。つーか一人で降りられるだろ」

 

「力が入んないの!ほら、この私が頼んであげてるんだから変態は大人しく従っていればいいの!」

 

「…………」

 

カッチーン、こいつめ、言わせておけばいい気になりやがって。目にもの見せてやる。

ということで射命丸の周りに無数の霊弾を生成した。

 

「なっ!?」

 

「さて、射命丸君。今ならこの私を変態といったことを許してあげないことはない」

 

「だ、だからなによ!」

 

「まあ、許してあげないこともないが…………『目上の人』にたいしての礼儀を伝授させてもらおうか」

 

「ふん!人間の言うことなんてだ、誰が耳を貸すもんですか!」

 

「いつまでそうやっていられるかな?」

 

 

実際おれも目上の人に対しての礼儀はなっちゃいないが、たぶん大丈夫だろう。おれがこれまでツクヨミ様にたいしての礼儀を教えてやればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間、鬼達が天魔の家から撤収するまでおれの個人レッスンは続いた。うむ、我ながら上出来だ。やや洗脳ぎみになったけど

 

 

「わかっかね?射命丸」

 

「はい!熊口先生!目上の人には敬語を使う、そして目上の人だからって頭をペコペコするだけでなく、時には図々しくすることが大切ということですね!!」

 

「そのとおり!」

 

 

うん、ちょっとやり過ぎたかな?昔永琳さんから習った洗脳術をやってみたけど効果覿面だったな。

自分でも驚くほどだ。おれにはこんな特技があったなんて!

 

「熊口先生!そろそろそこらじゅうに張り巡らされてる弾幕を解いて私を助けてもらえませんか?」

 

「お、それもそうだな」

 

そういっておれは霊弾を消して射命丸の服に引っ掛かっていた木の枝を折って射命丸を下ろした。

 

そうした瞬間

 

「いだっ!?」

 

急に頭に衝撃が来た

 

 

「ばーか!あんたの言うことなんか誰が聞くもんですか!一昨日来やがれ!」

 

 

そう、射命丸がいい、物凄いスピードで飛んでいった。

 

 

「……………………」

 

 

んーと、これは……

 

 

 

「や、やられたあぁぁぁ!!」



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10話 ガハハ!これで逆らえないだろ!

ほんと、1週間ぶりの更新ですね。
なぜか妖怪の山の回のネタガ思い浮かばなかったんですよね。
この先の章とかおもいついてるのに……



「荷物は持ったかい?」

 

「荷物っつったって翠ぐらいしかいないしな」

 

『誰が荷物ですか!』

 

「ふむふむ、それじゃあ出発しようかね」

 

 

妖怪の山を制圧してから1週間が経った。そして今日、鬼達一行は鬼の里から妖怪の山へとお引っ越しすることになり今から出発するところだ

 

 

「んじゃいこうか。彼処には因縁の相手がいるからな」

 

『あ、その人と仲良くなれそうです』

 

「なんでや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、疲れたー。」

 

「なんだい、もう疲れたの?根性なしだね」

 

「いや、勇儀。お前らの荷物もってやってるからだからな、疲れたのって」

 

 

そう、荷物がなかったおれは何故か多すぎて持ちきれない鬼達の分を持っていってあげてる。

ただ持つだけなら別に平気なんだけど鬼達の持ちきれない分の量があまりにも多かったため霊力を操作して荷物を浮かして持っていってるから結構疲れる。

…………つーかなんで鬼の里、荷馬車とかないんだよ。それぐらい作っとけよ……

 

 

『熊口さーん、頑張れー(棒読み)』

 

「なんで棒読みなんだよ、翠」

 

『別に応援する気なんて無かったので』

 

「ならすんな!」

 

『一応荷物運んで疲れてるから美少女の声援で疲れを吹き飛ばさせてあげようかと』

 

「自分で美少女っていうもんじゃないぞ」

 

「私は今翠と話してるって分かるからいいけど端からみるとほんと頭おかしい人みたいに見えるから控えた方がいいよ」

 

と、霧状になっていた萃香が顔だけだして指摘してくる。

いや、顔だけ浮かんでるように見える萃香の方が頭おかしい…………いや、気持ち悪い奴に見えるからそれは控えた方がいいと思います。

 

 

「あー、くそ、喋ったせいで余計疲れた。」

 

「ほらほら、あと少しだから頑張んな」

 

実際いまやってる霊力操作ってほんと精神的にきついんだよ。だからあまり喋りたくない。……妖怪の山につくまで喋らないでおこうかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、やっとついた……」

 

「ん、そうだね。それじゃあ私は天狗達のところへ行くから」

 

ついに着いた。もうほんと疲れたよ。着いたと同時に荷物らに張らしていた霊力を解除し、ドサドサっと音を立てて荷物が落ちていく。それを鬼達があんがとさんといいながらひろっていった。

因みに家の事に関して天狗に一任されており、たった1週間で今いる鬼の人数分の家をたててもらっている。

やっぱそこは妖怪。人と比べて作業効率が速すぎる。

まあ、この前の鬼と天狗の会議に参加したとき『河童』という種族がでてきてたからもしかすれば河童に作らせている可能性があるけれども……

 

 

「あ、生斗!あんたの家があるよ!」

 

と、またもや顔だけを出現させた萃香がおれの家を見つけたと騒ぎだした

 

『そうなんですか!早くいきましょう!』

 

なんで翠も興奮気味なんだよ。……まあ、新しい家というのは確かにどんなのかウキウキするけれども……でもおれこれでもかなりの年数生きてるからそんぐらいじゃウキウキなんてしなくなったんだよなぁ。

 

「んと、ここか」

 

そう思いつついつの間にかちゃんと体も出現させた萃香の案内についていくと『熊口』と刻まれた表札が玄関前につけられた家があった。

 

「……なぁ」

 

「ん、なんだい?」

 

「あの扉になんか物騒な貼り紙があんだけど」

 

そう、何故か玄関ドアになんか貼り紙があって、そこには十中八九あいつからのメッセージが書かれていた。

 

『あんた、熊口生斗って言うのね、覚えたわ。まあ、この前のことは許してちょうだい。私が悪かったわ。だから今回あんた……生斗のために私が河童と協力して建築したわ。住み心地には保障するからのんびりとくつろでいってね』

 

「なんだい、全然物騒じゃないじゃないか」

 

「いや、あるだろ。絶対この家なにか仕組まれてるよ。射命丸のやつがこんな文を本気でかくわけがない」

 

『あ、射命丸って言うんですね。…………まあ、兎に角入ってみましょうよ!』

 

「んー、入りたくないけど入らないと寝床に困るしなぁ……」

 

 

入りたくないけど仕方がない。行くか 

 

と、玄関ドアを引く。

 

「あれ、開かない」

 

「なんやってんの。横に開けるやつだよ、それ」

 

「あ、ミスった」

 

ドアノブがあったから間違えてしまった。そう自分で自分に言い訳をしながらドアを横に開けた。

 

「ん、玄関を見る限りは至って普通だな」

 

と、玄関の中に入った瞬間

 

 

 

   ズボッ

 

「ズボ?」

 

あれ?いきなり地面の感触がなくなったぞ?

 

 

「え、ぐわぁっ!?!」

 

お、落とし穴だ!しかも結構深いな。お陰で尻への衝撃が凄かった。

くそ、やっぱりなにかありやがった!

 

「射命丸、あいつは許さん。」

 

『なんででしょうか。痛がってる熊口さんを見ると気持ちがスカッてします』

 

「翠、お前も許さん」

 

 

射命丸め、おれを怒らせるとどうなるか教えてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日後

 

 

「ごっほん、それでは記念すべきおれの部下達よ、これからはよろしく頼む」

 

はい、鬼達が天狗の上司になったとのことだったのでついでにおれも上司にしてもらった。

もちろんのこと天魔や大天狗だけでなく大多数の反対意見が来ていたがおれが萃香や私に勝ったと勇儀がそういったら反対意見がパッとなくなった。うん、鬼が言うとここまで効果があるとはな。

 

そして天狗達の上司になったおれは部下がほしいと天魔に図々しくねだったところ5人の部下を用意された。男四人女一人。くそ!全員女が良かった!

 

 

「なんで私もはいってんのよ!?」

 

「上司に対する口の聞き方がなってないぞ、射命丸。そしてお前のその質問に対しての応答だが、それはおれが直々にお前を指名したからだ」

 

「なんで指名なんかしたのよ。わ、私はな、なにもしてないわよ」

 

「ふむふむ、おれの家の玄関に落とし穴を作られたりテーブルが爆発したり頭上から急にタライが落ちてきたりしたけど?」

 

「そ、それがどうしたっていうんですか?」

 

「よし、オーケー。わかった。じゃあこれから射命丸以外の四人はかえっていいよ。今回は顔合わせとして呼んだだけだったし」

 

『はい、わかりました!』

 

うむ、いい返事だ。

 

「え?私は!?」

 

「射命丸、お前は特別指導だ。まずはおれん家のなかに仕掛けられていた罠全部味わってもらう」

 

「…………」

 

 

おれん家をトラップハウスにした罰だ。

ていうかこのために天魔に部下がほしいとねだったんだからな。ふふふ、これで射命丸もおれを罵倒することはできないだろう!

 

『熊口さんってたまに屑いですよね』

 

翠うるさい!

 



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11話 不満があるならここから出ていけ!……いや、嘘です

 

「なんで私がこんなことを……」

 

「つべこべ言わず手伝え……って殆どお前のせいだからな!」

 

「熊口様、この米俵はどこへ置けばよろしいのですか?」

 

「ああ、土間の端にでも置いといてくれ。あと別に様付けなんてしなくていいぞ」

 

 

今日、おれと部下5人は来たばかりのおれん家の大掃除をしていた。なんで来たばかりで荷物もほとんど持っていなかったおれの家を大掃除する羽目になったのかと言うと昨日、射命丸におれが受けた罠を体験させようとしたら射命丸が暴れだしたため、家の中で乱闘が始まってしまったせいだ。お陰で家の中がしっちゃかめっちゃかになってしまったため、急遽部下達に掃除を手伝わせることになった。

ついでに昨日の乱闘は途中で参加してきた萃香がおれと射命丸をノックアウトして終了した。

お陰で天井にでかい穴が二つもできたよ、新築らしいのに……

 

 

「おーい、修理班。そっちはどうだ?」

 

「はい!完璧とまではいかないものの、目立たないまでには修繕しました!」

 

「ほうほう、それぐらいできれば十分だ。

 

んじゃ、これが終わったら鍋でも食うか!」

 

「まだお昼にもなってないのに鍋なの?そこはおむすびとかにしなさいよ」

 

「8人分作るのは面倒だからな。それにくらべて鍋はただ具材を放り込むだけで済むから楽だし」

 

「8人?6人じゃなくて?」

 

「ああ、今日萃香の奴が昼に来るらしいからな。あとは翠の分」

 

「「「伊吹様!?」」」

 

おっとぉ?何故か皆萃香の名前を出した途端怯えだしたぞー

 

「あぁー!そういえば今日用事があったー!」

 

「うぐっ、急にお腹が…………」

 

「あ、俺も」

 

「あ、足つったー!!帰らなきゃ!」

 

「おいこら、4馬鹿兄弟。嘘なんかつくんじゃない」

 

「「「ぶべっ!?」」」

 

逃げそうになった部下である4人の周りに霊力壁を出現させて行く手を阻む。

つーか最後の奴足つったとか言ってるくせに普通に玄関に向かって走っていこうとしたからな。もっとマシな嘘つけよ……

 

「い、いやだー!熊口様の部下になれば鬼の無理難題を受けなくて済むときいて入ったのに!」

 

「鬼の支配よりも人間の言うことを聞いてた方がましだと思ったのに!」

 

「なんか楽そうだと思ったから部下になったのにー!」

 

「なんとなくはいったというのに!」

 

「おいこら4馬鹿、ついに本音を漏らしやがったな」

 

しかも全部しょうもない。

確かにあいつら(鬼達)は気性が荒くて無茶ぶりとかさせてくるけど、酒でも与えてれば上機嫌になってアルハラされるだけですむやつらばかりだからな。畏敬に思いすぎだと思う。

 

「大丈夫だよ。萃香は基本的には酒呑んでるだけの酔っぱらいだから」

 

「いやいや熊口様!貴方も一度戦ったことがあるのでしょう?私も一度鬼が攻めてきたとき一戦交えましたが一瞬にして吹き飛ばされました。もう勝負云々じゃない。勝負ですらなかったのです!」

 

「しかも俺は見ました。同士が次々と吹き飛ばされていくなか、狂気に満ちた笑顔の伊吹様を……」

 

「しかもほら!みてください!実力だけならば天狗の中でも五本の指に入る射命丸が泡を吹いて気絶していますよ!」

 

「うわ、ほんとだ……」

 

さっきからなにも話さないと思ってたら気絶していたのか、こいつ。てか射命丸って結構凄い奴だったのか……

 

 

「ま、取り敢えず萃香にたいしてどれだけ恐れているのかはわかった。おれも戦ったことがあるからお前らの気持ちはわからんでもない」

 

「でしょ!」

 

「だけどそれはお前らが強くなろうと努力してこなかったつけが回ってきただけじゃないのか?(実際自分はあまり努力してない)」

 

「「「え?」」」

 

「だから、お前ら妖怪は寿命がこれでもかというぐらい長いだろ?なのになんでそれを活かそうという努力をしない。おれはしてきたぞ。強くなるために努力してきた(嘘)。」

 

「し、しかし種族という壁が……」

 

「それがどうした。その理論が本当に正しいとおもってるのか?じゃあなんで天狗よりも弱い種族のおれが鬼に勝てたんだ?(神からもらった能力)」

 

「うっ、それは……」

 

「それはただたんに熊口様に才能があったんじゃ」

 

「……はあ、別におれに才能があった訳じゃあない。ただ長生きして色々な技術を吸収していっただけだ(実際技術面に関しては都のところで止まっている)」

 

「そ、それってつまり…………!!」

 

「そう、お前らも長生きを活かして努力していけばいつかおれのようになれるってことさ!」

 

「「「な、なんだってー!?(なりたくねぇー!!)」」」

 

「ま、生斗くんの力説コーナーはこの辺にして飯にするか!ほら、射命丸起きろ」ベシッ

 

「ブツ!?!」

 

よし、射命丸にビンタを食らわせることが出来て少しすっきりした。兎に角鍋を作ろうかな。もうすぐ翠も起きるころだろうし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4馬鹿天狗たち

 

「なあ」

 

「なんだ、晩天」

 

「さっきの人間についてのことだが……」

 

「私も思う部分がありました」

 

「ああ、俺もあるぜ」

 

「「「熊口って本当に伊吹様と星熊様に勝ったのか?」」」

 

「やっぱり皆もそうおもったか」

 

「これは試す必要性があるな」

 

「いまからあの人間がここに来たら四人で奇襲しようぜ」

 

「確かにそうですね。しかし人間一人に四人も必要でしょうか?」

 

「いや、あれでも文を倒すほどの実力はあるようだし、これでいいだろ」

 

「そうだな。それじゃああいつが来たら奇襲だ」

 

「「「おー!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鍋が出来て皆の元に持っていってたら4馬鹿が急に攻撃してきた。

なんでかはわからなかったがほんとなぜか攻撃してきやがった。

咄嗟の反応で霊弾を放ったつもりだったけど、最近のずっと使ってたのもあって爆散霊弾を間違えて放ってしまった。

 

お陰で四人とも撃沈。そして吹き飛んで壁を突き破って他の部屋へいってしまった。……大きな穴が4つできたよ。

 

「に、人間って、こんなに強か、ったけ?………」

 

と、部下の一人がそういって意識を手放した。

 

 

いや、こいつらほんとなんなんだよ。

取り敢えず起きたら壁の修繕やらせるか。



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12話 ただでは転ばないってか、射命丸よ

 

「ほら、これをこうやって……はっ!…………とこんな感じだ。ほれ、やってみろ」

 

 ドサァァ…………

 

「「「無理です!」」」

 

「なんだよ、折角やってやったのに」

 

 

今日はおれの部下(4馬鹿&射命丸)におれの剣術を披露している。

 

なぜそんなめんどくさいことをしているのかというと、実はこの前4馬鹿がおれに一瞬でやられたことが原因だ。

おれに瞬殺されたことにより4馬鹿はおれをなぜか尊敬するようになり、よくつっかかってくるようになった。

それで今回、4馬鹿がおれにどんな剣捌きかみたいと鼻息荒くしてつめよってきたので仕方なく見せている。因みに射命丸は呆れたように4馬鹿をみている。

あとさっき部下達に見せたのはただ単に玲瓏七霊剣をだして木を切り刻んだだけだ。まあ、それで木は無惨に倒れたが……でもさっきあいつら無理っていってたけど天狗ならこれくらいできるとおもうんだが

 

「妖怪だろ、こんぐらいやってみせろ」

 

「いやいや、木を倒すだけなら兎も角剣を作り出すなんてこと到底できないっすよ」

 

「もう能力の域ですよ!」

 

「ふん、こんなの使わなくても支給の剣でどうとでもなるわ」

 

「射命丸、この霊力剣をなめちゃいけないぞ。いちいち腰にかけたりして持ち運ぶ必要もないし霊力が尽きない限りいくらでも生成できるからかなり便利なんだぞ」

 

 

それに霊力を込めれば込めるほど強度も増すしな。

 

 

「っていっても私あまり剣とか使わないしねぇ」

 

「なにいってんだ。おれと戦ったときバリバリ使ってきただろうが」

 

「あ、あのときは手っ取り早く済ませようとして使ってただけよ」

 

「それで負けるとか……ぷっ、お笑い様だな!」

 

「くっ……!この!ここであんたの息の根を止めてやる!」

 

ほう、こいつ。そんなにおれを下に見てたというのか?これはちょっと心外だな

 

「お、やるか?別に戦ってもいいけど次おれにまけたらため口厳禁だからな?」

 

「別にいいわ、どうせ私が勝つんだから!でも私だけかけるのもなんだしもし私が勝ったらあんた一生私の下僕ね!」

 

「はあ?!なんだよそれ、ずるいぞ!それじゃあ追加でおれが勝ったらもうおれん家の掃除を毎日しろよ」

 

「なっ!あんただけズルい!それなら私は…………」

 

 

 

 

 

それからなんか色々出しあって結局こんなにかけるものが増えてしまった。

 

 おれ・下僕になる

   ・妖怪の山を裸で10周

   ・天魔の前で下ネタをいう

   ・天狗たちの前で『僕は変態です!』と暴露

 

 

 射命丸・敬語を使う

    ・おれん家を毎日掃除

    ・4馬鹿分の哨戒任務をする

    ・萃香に挑発する

 

 

 

なんかおれのかける方がハードルが高いような気がするがまあいい、勝てばいいのだ。部下に負ける上司は上司じゃない。

 

 

 

「それじゃあ始めます!」

 

と、4馬鹿の一人が合図を送る。場所は前おれの処刑場にされた広場。戦うのならもってこいだ。

 

『ずっと黙って見てたんですがなんで戦う羽目になってるんですか……』

 

翠よ、そんなの決まってるだろう。天狗の鼻っ柱を折るためだよ!勿論物理的にな!!

 

 

「始め!」

 

「ふん!」 

 

と、4馬鹿の合図とともに射命丸が扇子のようなものを取り出して横に振った。

するとそこから風の弾、風弾が5、6個出てきた。

 

 

「これかぁ」

 

あれは結構めんどくさい。風弾の周りには風が纏ってあるのでギリギリで避けたら皮膚や服が切れてダメージを食らうし普通の霊弾で対処するとそこから鎌鼬が起こったりと色々付属効果がついてる厄介な弾だ。

 

これを対処は大まかに避けるか鎌鼬がおこる範囲よりも大きい技を出すかだ。

 

 

「ほいっと」

 

爆散霊弾も出すまでもないし、これが罠だとわかっているので『わざと』上に飛行して風弾を避ける。

すると____

 

「これで終わりよ!」

 

「だろうと思ったよ」

 

「なっ!?……ぐふっ!」

 

 

案の定罠だった。おれが上に飛行するとともにそれの何十倍の速さでおれの後ろにまわってきて扇子を降り下ろそうとしてきた。

それを予測していたおれは少々射命丸の速さに焦りながらも振り向かずに後ろへ爆散霊弾を2発放った。

……今の音からして見事命中したようだ。

 

 

「な、なんで今のが分かった……の?」

 

おお、流石は実力だけなら天狗の中でも五本の指に入るらしい射命丸だ。足がおぼつきながらも立っていられるとはな

 

「んなの簡単だ。お前の風弾が左右に避けられないれないような配置になってたからだよ。少しの傷を躊躇わないで突っ込むのもよかったんだけど面倒だからお前の罠にわざと乗ってやったわけ」

 

「く…………それじゃあ、なん……で私が後ろに来るとわかって……たの?」

 

「それも簡単。速さに自信がある奴は大抵相手の背後を取りたがるもんだ」

 

良い例が小野塚と道義だな

 

 

「それじゃあ続きを始めるか!」

 

「え、ちょっとまって!?まだ完全に治ってな……」

 

「そんなの知るか!」

 

「こ…………のろくでなし!!」

 

『ろくでなし!!』

 

 

翠、お前はだまってろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇ、文がなす術なくやられたぞ……」

 

「さすが熊口様だ!」

 

「私達とは格が違う!」

 

「すんげーなぁ」

 

「いやぁ~誉められてもなにもでないぞ~、いや、でも仕方がないか!だっておれ強いらしいからな!!」

 

「「「…………」」」

 

おっと、いつもの悪い癖が出てしまった。

 

取り敢えず今回も射命丸との勝負はおれの勝ちになった。まあ、当然の結果かな?

 

 

『射命丸さんの体が埋まってる!?どう戦えば顔だけ残して土に埋まらせることができるんですか!?』

 

「ん、てきとうにいたぶったらこうなった」

 

「この…………絶対、に殺して……やる」

 

『殺害予告されちゃってますよ』

 

「いやぁ、よかったねぇ。こんなことするなら私も誘ってよ」

 

「「「伊吹様!!?」」」

 

と、萃香が広場の奥の方から歩いてきた。またいつもの覗きか?

 

 

「おお、萃香か。丁度良かった。射命丸、約束だ、しろ」

 

「え…………ちょっと今は……」

 

「かけただろ?」

 

「ん、約束ってなんだい?」

 

「うっ…………覚えてなさい、あんた!!」

 

「敬語使え敬語を」

 

それもかけたでしょうが

 

「やーい、萃香!幼女!酒ばっか呑んでるから身長も胸も伸びないんだよ!」

 

おお、言いおったよこいつ。しかも言っちゃあかんやつも言いおった

 

「………………ほおぉう?埋まった状態でよくそんな事が言えるねぇ。見直したよ」ゴキッゴキッ

 

「え、あのぉ、今のは……はい、言葉の綾というもので……」

 

「覚悟はいいかい?」

 

「…………生斗さん、助けて……」

 

「……すまん」

 

おれなんかじゃあこの状態の萃香を止められる気がしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

この日女天狗の叫び声と女鬼の怒鳴り声が

妖怪の山に鳴り響いたそうだ。

 

 

 

 

 

 

『いやぁ、あんな状態で射命丸さんにあんなこと言わせるなんて、ほんと熊口さん最低ですね。軽蔑します』

 

「いや、おれもあそこまで射命丸が萃香に言うとは思わなかった。せめて″ほら、かかってこいよ”ぐらいかと思ってた」

 

「へぇ、あんたがこの天狗にあんなこと言わせたんだぁ」

 

「へ?」

 

と、後ろからボロボロの射命丸の首根っこ掴んだままの萃香がいた。

……やべーな

 

 

 

「流石は天狗の上司だ」ニコッ

 

「……だろ」ニコッ

 

「んじゃ、部下の失態は上司である生斗が責任をとらないとね」

 

「…………」

 

「んじゃ、殺ろうか」

 

「…………」ダッ

 

「あ、逃げるな!!」

 

 

ここは逃げるに限るぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このあと呆気なく捕まり萃香に酷い目にあわされた。いや、ほんと酷い目にあった。……とんだとばっちりをくらったよ……

 

『ほんとザマァないですね』

 

翠、今日の夕飯抜きな

 

『えぇぇ!?』



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13話 翠、近づくな危険!

はい、ダラダラしながら書いてたらもう3章も13話になりましたね。
いい加減章の話数を減らさないと最終回になるまでに200話越えてしまう(^_^;)

あ、因みに最終回はもう考えてあります。3章の最終回は微塵も考えていませんが……


「河童?」

 

「はい、河童です。今度会いにいきやがりませんか?友人を紹介したいんです」

 

「……罠がありそうだな」ボソ……

 

「ギクッ)いえいえ、なんにもありませんよ」

 

「…………」

 

 

今日、なぜか4馬鹿分の哨戒任務(前話参照)を終えた射命丸がおれん家にきた。家の掃除(前話参照)は朝にやったのになんでだろうかと思ったけどどうやら友人の河童を紹介したいらしい。

因みに射命丸も流石に約束は破らないようでちゃんとおれにたいして敬語を使っている。一応

 

 

「まあ、おれは別に構わないけど哨戒任務はどうすんだよ」

 

「なので明日この時間にまた来るので準備しておいてください」

 

「この時間て……」

 

 

もう夕暮れだぞ……なんでそんな時間帯に会いに行かなきゃいけないんだ

 

「うーん、河童ってのは気になるけど別に見たいって訳じゃないから止めとく」

 

「え!?見ましょうよ!熊口さん!」

 

「翠、なぜそんなに興味津々なんだよ」

 

「…………えっと……」

 

あ、そういえば射命丸には初めて見せたな。……というよりずっと居間にいたのに紹介してなかったおれが悪いか

 

「ああ、すまん射命丸。紹介するのが遅れたな。

こいつは翠っていうんだ。おれの守護霊」

 

「え?!守護霊!!?はじめてみました」

 

「ふふーん、すごいでしょ!そして射命丸さん!ずっと貴女をこの屑の中から見てましたよ!さぞお辛かったろうに」

 

「み、翠!?」

 

「翠さん!わかってくれますか!私の苦労が!!」

 

「はい!この屑の悪行には私も常々頭を抱えてきましたから!」

 

おいこら射命丸、苦労もなにもお前がおれとの勝負にのって仕事を増やしただけでしょうが。それと翠、悪行てなんだよ、悪行て。別に悪いことなんてしたこと…………ほんのちょっとしかしてないぞ

 

「兎に角話は戻すけどおれはパス」

 

「ええ!だから見に行きましょうって!ほら、未知の生物ってなんかワクワクしませんか?」

 

「生憎、もうそんな歳じゃないからな」

 

「見る限りじゃ十代後半ぐらいじゃないですか」

 

「射命丸、人を見かけで判断するもんじゃないぞ」

 

「いや、人間は見かけ相応に歳をとってるじゃないですか」

 

「そりゃ普通の人はな」

 

「つまり熊口さんは異常な人って事ですよね」

 

「流石翠さん!それとしか考えられませんね、第一普通の人間が妖怪に勝てるわけありません」

 

「……お前ら、おれを弄って遊んでないか?」

 

「「いいえ、滅相もない」」

 

こいつら……

 

「つーかおまえらがいちいち話を脱線させるから全然進まないじゃないか」

 

「あ、そうそう。兎に角生斗さん、明日来るんで準備しておいてくださいよ」

 

「だから行かないって……」

 

「わかりました!それじゃあ熊口さん!河童といえば胡瓜です、明日早速取りに行きましょう!」

 

「おいおい話を勝手に進めようとするんじゃ「それじゃあ!また明日!」ってこら射命丸!」

 

翠の了承を得たのを確認したとともに射命丸は居間から一気に外へ飛んでいってしまった。

 

「ささ、夕飯を作ってください」

 

「はあ、仕方ない。今日はおれの当番だったよな?」

 

取り敢えず夕飯を作ろうかな。

ついでにいうけど一応ご飯については当番制で、一日交替でどっちが作るかを決めている。

昨日は翠が作ったので今日はおれが夕飯を作る番というわけ

 

「んじゃ、鍋でいいよな」

 

「一昨日もそれじゃなかったですか?」

 

「大丈夫だ、今日は豪勢に猪の肉もある」

 

「なにが豪勢ですか。兎に角鍋はもう飽きました。他のにしてください!」

 

 

んな、贅沢な。猪とか仕留めるの面倒なんだぞ。まず妖怪の山とかあんまりいないから一回他の山とかにいかなきゃいけないし。

まあ、しかたない。この前釣った魚を干したやつでもだすか……

 

「あ、煮干しはあまり使わないでくださいよ。出汁に使いますから」

 

「え……」

 

それじゃあ夕飯どうしたらいいんだ。おれのご飯のレパートリーって殆どないというのに……

 

 

「ええい!猪の肉をそのまま焼いてやる!」

 

「そのまま!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まさかただ焼いただけなのにまあまあ美味しいとは……」

 

 

うーん、これに砂糖と醤油と料理酒があれば最高だったんだけどなあ。それよりも焼き肉のタレがあった方が楽だけどね。こんなところにあるわけがないのだけれど

 

「さて、それじゃあ風呂とするか」

 

「あ、沸かすの忘れてました」

 

「まじか」

 

こういうときはどうしようか…………そうだ!

 

「翠、酒あるか?」

 

「?ああ、たぶんあったと思います」

 

「それじゃあそれを玄関前に置いといてくれ」

 

「え、それってどういう…………ああ!」

 

翠も気づいたようだ。 

そう、萃香をおびき寄せるための罠として玄関に酒を置くのだ。

萃香の能力があればすぐに風呂ができるからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんでこうなった」

 

「さあ」

 

「ほら!熊口の旦那も飲もうや!」

 

 

二升分のお酒を玄関先に置いて30分ぐらい待っていたら賑やかな声が聞こえたので外へ出てみれば鬼達が集まって宴会をしていた。…………なんでだ?

 

 

「あ、熊口!」

 

「お、勇儀。丁度良かった。なんでおれん家の前でこんな、ばか騒ぎがあってるんだ」

 

「ああ、それはあんたんとこの前に酒があるってんで酒の飲み比べをあそこのやつらがし始めたのが発端らしいよ。それでどんどん鬼が酒をもって集まってきて今の騒ぎが起こった、と私は聞いたよ」

 

「まじか」

 

萃香を釣る罠のつもりでおいた酒が原因だったというのか!

 

二升瓶だけで宴会を始めるとは……鬼、恐るべし……!!

 

 

「ささ、熊口も飲みな!」

 

「いや、ちょいまってくれ、まだおれと翠風呂にはいってないんだよ」

 

「ん?翠ならあそこでもう飲んでるよ」

 

「え……」

 

勇儀が指差した方を見ると翠が一升瓶をがぶ飲みしているところが映った。

 

「いかん、今翠に近づいたら関節極められるぞ」

 

「あ、彼処で痴漢をするので有名な鬼が翠に近づいていったよ」

 

「ほんとだ…………あーあ、例のごとく関節極められてるよ。馬鹿だなあいつ」

 

 

 ボキイィィッッッ!!!

 

 

「なんか今凄く嫌な音が鳴ったんだけど……」

 

「まあ、仕方ない。痴漢なんてしようとしたあいつが悪い」

 

「痴漢云々じゃなくこのままじゃ近づいていった奴ら全員やられるぞ」

 

「へぇ……それじゃあ止めないといけないじゃないか、熊口」

 

「ん?」

 

「あんたの守護霊が暴れてんだ。それを止めるのはあんたの役目だと思わないかい?」

 

「思わない」

 

「男ならさっさと行ってこい」

 

「おい…………ぐはっ!?」

 

 

思いきっり背中を蹴られて吹っ飛ばされた。

 

 

  ドサァ……

 

 

「いてて……」

 

「なんじゃワレぇ、わたしぃとやりあぉってかぁ?」

 

「…………」

 

 

目の前に翠がいた。まじかよ……

と、勇儀の方を見てみると腹を抱えて笑ってやがった。……こいつ、やっぱり余興のためにおれを翠のところに連れていきやがったな!

 

  ガシッ

 

「え?」

 

「つっかまーえたぁ」

 

腕をがっしり捕まれた

 

「おい、やめろ……」

 

「せぇ~の!」

 

「や、やめろおぉぉぉ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日

 

 

「で、なんで生斗さんは右腕に包帯なんかしてるんですか?」

 

「翠にやられた。」

 

「どうせセクハラでもしたんでしょ。生斗さん変態だから」

 

「いや、ちげーよ」

 

 

酔った翠に十字固めされたのち、参ったってタップを何回もしたのに聞かずに限界突破されたんだよ

 

 

「んじゃ、今日の夕方また来ますのでよろしくお願いしますね」

 

「え?いきたくないんだけど」

 

 

なんで腕折られた次の日に河童にあいに行かなきゃいけないんだ……



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14話 部下の不満を解消させるのも上司の仕事

文視点→生斗くん視点→文視点の流れです。




「なあ、腕を折られた次の日に亀の甲羅を背負ってて頭に皿がのってる変人妖怪になんで会いに行かなくちゃいけないんだよ」

 

「そんなこと言いつつ結局来てくれてるじゃないですか。それとなんなんですか?生斗さんの河童への印象」

 

「翠が二日酔いでいけなくなったからな」

 

「そんな理由じゃ言い訳にはなりませんよ」

 

「『私の代わりに河童を見に行ってどんなのだったか教えてください』ってさ。まったく、人の腕折っといてよく言えるよ、あいつ」

 

「ほうほう」

 

 

と、私こと射命丸はいま話している変態の言葉に相づちをうつ。

本当はこんな奴に敬語なんて使いたくないんだけどこの前の闘いで不意をつかれて負けたせいで敬語を使う羽目になっている。

…………なんでなの?普通天狗は自分の目上には逆らわない。それは私が生まれて初めに教えられたことだ。そういう環境で育ったため、私はこれまで上司の天狗に逆らったことなんて一度もない。タメ口なんてもっての他だ。

……それなのに私は上司になったあいつに反抗し続けている。

こいつが人間だから?……いや、人間と言えどあいつは大天狗様にも負けず劣らない程の実力がある。その実力は2度戦った私が身をもって知っている。

それなのに、あれだけの実力を持っているというのに私はなぜあいつにちょっかいをだすのだろう?

 

それについて昨日私はずっと考えていた。

そして考えた末、あるひとつの答えが導き出された。

それは_____

 

__________羨ましいから。

 

 

つまり嫉妬である。

なぜあんなやつに嫉妬しているのかはすぐにわかる。

相手の機嫌を伺ったり、辛い仕事を一言の愚痴を漏らせずに延々とやらされず、自由気ままに旅をしているあいつがどうしようもなく羨ましいのだ。

 

だからつい、私はあいつにちょっかいをだしているのだろう。

 

実際のところ上司に無礼を働く行為は天狗の社会では極刑に処されるのだがあいつの場合、天狗の上司だということに不満をもつ天狗達(天魔様を含む)が少なくないため、極刑に処されることはない。

それを利用して私は嫉妬の対象である熊口 生斗に反抗をしつづけている。(半分はストレス解消)

 

…………もうやめよう。こんなことをしていてもただ醜いだけだ。

羨ましいからその対象の足を引っ張る。ただの屑やろうじゃない、そんなの。

確かに初対面であんな最低なことをされたりもしたがそれについてはもう緩和されつつある。だから私にはあいつに反抗する理由はもうなくなることになる。

 

これで最後。ここをちょっと先にある広場に待ち構えている河童達と連携して一斉に嫌がらせをする。

 

これが終われば私はあいつーー生斗さんに逆らうことはなくなるでしょう。

 

それがたとえ苦痛だったとしても。だけどそんなの大丈夫だわ。これまでセクハラやパワハラをしてくる上司にだって歯をくいしばって我慢してこれたのだ。

 

今回も大丈夫でしょう…………

 

 

「ん、どうしたんだ?急に黙りこんで……」

 

「あ!いえ、何でもありません。ささ、行きましょう!」

 

 

 

 

 

 

======================

 

 生斗視点

 

 

 

 

「ここの草原にいるのか?」

 

「はい」

 

 

森のなかを歩いて10分程度。おれと射命丸は森を抜け、草原にでた。

草原といっても、処刑場にされた広場よりかは小さく、すこし先にはまた森が広がっている。

これはっ草原って呼べるのだろうか?いや、入り口付近に『草原』とかかれているから間違いない。

 

ん?まてよ、おれの記憶が正しければ草原って

木々がまったくない、草に覆われた大地だったようなきがするんだけど。

もしそうなのなら周りに木々が所狭しと立ち並んでいるここははたして草原と呼べるもんなのだろうか?

 

 

「では、私はここで。」

 

「え、なんでだよ」

 

草原についてかんがえてたら射命丸がここを立ち去ろうとした。

 

「ここの河童は臆病者が多くてですね。複数人で来られると恐がって近寄ってこないんです」

 

「は?まじか。…………てまてよ、お前河童と知り合いじゃなかったのか?」

 

チッ「はい、一応知り合いなんですがやはり複数人だと恐がってしまうようで。まだ話すようになって間もないですし」

 

なんか舌打ちされたんだけど……

 

「……はあ、仕方ない。んじゃ、おれそこらの茂みで見ておくから射命丸があってこい」

 

「え!?あ、いや、生斗さんが会ってきてください。河童と直で話し合えるチャンスですよ」

 

「えー……」

 

まあ確かに後で翠からどんな話をしましたか?とか言われるとき言葉につまるからなぁ。

 

「わかった。じゃあ射命丸が茂みで隠れといてくれ」

 

「はい!」

 

 

何故か射命丸は満足そうな顔で返事をした。

ほんと、こいつなんなんだろうな。

 

取り敢えず河童のことに集中しよう。

さて、全身緑色で背中に亀の甲羅を背負っていて口が鳥と同じくちばしで頭に皿をのせた河童はどこにいるだろうか?

もしかすれば天狗の時と同様で見当外れなのが来るかもしれないな。

 

 

 

「……___の」

 

「ん?」

 

なんか奥の木の方から声が聞こえた気がする。河童か?

 

 

「いけー!!」

 

「うわ!?」

 

聞こえた方の気に向かって草原?の真ん中付近まで行き着いたところで全方向から青色の服を着ていて帽子を被った5~6人はいるであろう少女が一斉に飛びだして来た。

 

 

「冷た!」

 

 

後ろから冷たい何かが付着した。なんだ?と思って背中を触ってみてみると水だということがわかった。

それを確認しているうちに飛びたしてきた少女がおれの頭に落ちてきた

 

「うぶっ」

 

なんとか倒れそうになるのをこらえ、頭に引っ付いた少女を引き剥がして後ろを見てみるとバケツをもった少女がいた。

さてはこいつがおれに水をかけたんだな!

 

「えい!」

 

「うぎゃあぁ!!?」

 

バケツをもった少女の方へ近づこうとしたら次は足を誰かに蹴られた。

そして少し体勢を崩したところを少女が骨折している右腕を思いっきり叩いてきた。

 

 

「こ、このやろう……」

 

「とどめです!」

 

「な?!射命ま…………うわあぁぁぁ!?」

 

 

つうに堪忍袋が切れそうになったおれの背後から社命丸が大竜巻を起こして俺を吹き飛ばした。

 

 

やっぱりなにか企んでたか!このやろう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またもや文視点

 

 

 

空は星空が瞬き、月が真っ暗の地上を照らし、うっすらと私達を照らしてくれている。

そんなとき、私に向かって生斗さんが核心をつく質問をしてきた。

 

 

「なあ、射命丸。おまえ、なんか悩んでることはあるのか?」

 

「…………」

 

「ずっと黙ってきたがおれもお前がなにか悩んでたのかはわかる。伊達に長い間生きてきてないからな」

 

「別にありませんよ、そんなの」

 

「そうか…………じゃあ質問を変えよう。なんでおれによくちょっかいをだしてきたんだ?」

 

「…………そ、それは生斗さんが初めてあったときに私のスカートを破ったからですよ!」

 

「ほんとにそうか?ならなんで今少し間があったんだ?」

 

「!?」

 

「お前、つかれてんだろ?」

 

「そりゃあそうですよ。いつも四人分の哨戒任務をまかせられてんですから」

 

「いや、そういう意味じゃなくて。精神的な意味でだよ」

 

「は?」

 

「そのまんまの意味。溜まってたんだろ?これまでろくに自分のやりたいこともできず、上司にはよくいびられて、それでもお前は文句を一つも言えずにひたすら我慢してきたんだろ?」

 

「な、なんでそれを?!」

 

「ああ、あの4馬鹿からお前の生い立ちは聞いたよ。」

 

「……あいつら!」

 

「それで。これまで天狗の上司からいじめられた分をおれで解消しようとしてたのか?」

 

「いや!…………いえ、はいそうです。生斗さんをストレスを解消の対象としてみてました。

でも、今回ので最後にします。これからは生斗さんに反抗をしたりは一切しません。」

 

 

 

「いや、いい。これまで通りちょっかいをだせ」

 

「え?」

 

「お前がこれまで抱えてきたもん、全部おれで吐き出せ。

それが上司であるおれにできることだ。」

 

この人はなにをいってるの?

 

「な、なんで…………そんなことできません!」

 

私はもう貴方に逆らわないと決めたのだ。もう変えることはしない

 

「遠慮なんかするな。それにさ、おれ、お前のことをすごいと思ってるんだよ」

 

 

「……?」

 

「だってさ、上司だからってだけで好き勝手する天狗に文句を一切もいわずに我慢してきたんだろ?

おれにはそんなこと耐えられない、上司を訴えた後グーパンするぜ、きっと」

 

なんで生斗さんは私を褒めているの?そんなこと褒められたことじゃない。他の天狗達だって私を哀れな顔で見るだけ。労いの言葉すらかけてくれない。

 

 

「で、でも、わ、私は」

 

 

言葉を出そうにも口が上手く回らない。何でだろう。こんな感情初めてだ。

褒められるというのはここまで嬉しいことなの?これまでどれだけ頑張ってきても誰からも褒められたことがない。それなのにこの人まっすぐな顔で私のことを凄いと言ってくれた。そう……いってくれるだけで凍りついていた私の心が溶けていく感覚に陥る。

そして、頬から何かが流れ落ちるのがわかった。

 

 

「おいおい、泣いてんのか?」

 

「だっ、て……褒めら、れるのは……初めて、で」

 

 

これまでのことを思いだし、必死にこらえてきた涙がたかが外れたようにあふれでてくる。

恥ずかしい、泣いているところを見られるなんて……

これまでやってきたことが報われた。生斗さんの一言のお陰で私の苦労してきたことが報われたのだ。

 

それゆえか流れ落ちる涙はいまだにおさまることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5分後

 

 

結局私が泣き終えるまで生斗さんにまってもらった。

恥ずかしいけど、それ以上になにかが吹っ切れた気がして気分は清々しい。

 

 

「それで?これからはどうすんの?」

 

「はい、これからもいつも通りさせてもらいます」

 

「ふむ、それでいい」

 

 

「それで……1つお願いがあるんですが……」

 

「ん、なんだ?」

 

 

「もうそろそろ紐を解いてもらえませんか?もう頭に血が登ってきてそろそろ危ないです」

 

そう、私が泣いていたときもずっと木に吊るされていたのだ。

勿論河童達と私が生斗さんを叩きのめした罰として。

 

あの襲撃のあと、生斗さんの逆鱗に触れたようであの爆発する弾を乱射されてやられてしまったのだ。

お陰で河童達と私は気を取り戻した時には木に吊るされていた。

 

 

「ん、なにをいってるんだ。イタズラも度が過ぎればお仕置きの必要があるだろう」

 

「もうしませんから~」

 

「無理だな。今回のでおれの腕が余計痛んだからな。そこの河童とやらと同じくもう少し反省していろ」

 

「この鬼!」

 

「鬼は萃香だ」

 

 

 

 

 

ありがとうございます。生斗さん。貴方のお陰でこれまで溜め込んでいたものがスッキリしました。

 

 

そして___これからもよろしくお願いします。

 




あれ、生斗くんと射命丸を仲良くさせようかなと思ったら
なんかシリアスなかんじに…………

実際はもっとお気楽なかんじにしようと思ってたんですが……


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15話 昼飯ぐらいゆっくり食べさせて

にとりが登場するらしいです。
時系列的にどうかと思いましたが後悔はありません。


 

 

「それで、なんでお前までおれん家で昼飯食ってんだよ。仕事中だろ、お前」

 

「別にいいじゃないですか。私にだって昼御飯を食べる権利ぐらいあります」

 

「よくない。おれが天魔にいろいろ言われんだぞ」 

 

「そんなことより射命丸さん、醤油取ってください」

 

「あ、はい翠さん」

 

 

 はあ、なんでこうなったんだか。

 

 この前の一件により、射命丸がおれにたいして容赦がなくなった。前からもだけど……

 今日も4馬鹿の稽古を手伝った後、翠が起きてくるとともに食事の準備を済ませ、昼飯を食べようとしたら射命丸が障子を破っておれん家に突っ込んで「お昼御飯食べに来ました!」とか言ってきたからな。あれはさすがに拳骨もんだわ。

 

「なあ、そういえば哨戒任務とか言うけどさ。

 実際のところ妖怪の山に侵入してくるもの好きな輩とかそう来なくないか?」

 

「来ましたよ、ついこの前」

 

「ん、来たのか」

 

「はい、貴方達です」

 

「うおい、おれらがここにきてもう2ヶ月近く経つぞ。全然来てないじゃないか。もう哨戒の意味ないじゃん」

 

「確かに哨戒はあまり役に立ってないかも……って、実際哨戒は白狼天狗の役目で烏天狗である私は報道が主な役割な訳で……妖怪の山以外のことをいろいろ調べたりするのが私の本来の仕事なんですよ。」

 

「そ、そうなのか?」

 

「まあ、熊口さん。天狗の社会にもいろいろあるんですよ。それより熊口さん塩とってください」

 

 そういうもんなのか?

 

「…………あんまりかけすぎんなよ」

 

 と、台の上にある塩を翠に渡す。

 

「……よし、ちゃんとした塩ですね。この前熊口さん、塩と砂糖を間違えるというベタな展開を繰り出しましたからね」

 

「わざとじゃねーよ」

 

「あ、そういえば今日、ちゃんと河童を紹介しようと思って連れてきたんですよ」

 

「え、ほんとですか?」

 

「あれ?さっきお前おれん家に突っ込んだとき一人じゃなかったっけ?」

 

「ずっと玄関にいますよ」

 

「まさか…………放置してたのか?」

 

「はい。いま、思い出しました」

 

「ちょっと上がってもらってきます!」

 

 

 そう翠がいい、席をたって玄関の方へ走っていく。

 まあ、適切な判断だな。

 

 

 そして程なくして聞きなれない声の悲鳴が聞こえてきた。

 あ、これは玄関の落とし穴に引っ掛かったやつだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「いやぁ、まさか自分で作った罠に引っ掛かるなんてねぇ」

 

「お前か、おれん家改造したのは」ガシッ

 

 

 と、青髪でツインテール以外前あった河童達とそう変わらない格好の少女のこめかみを掴む。

 

 

「い、いや提案は文だよ!?」

 

「あれは私も良いことをしたと実感しています」

 

「射命丸このやろう」ガシッ

 

 治りかけている右手で社命丸の頭を掴む。

 ていうか自分でも思うけど治りが早いな……まだ折られて1週間ほどしか経ってないのにな。

 

 

「ふっ、所詮は人間。地力では私達を傷つけることすらできな……いってイダダダダ!?え、ちょ、離してください!」

 

「あ、頭がつぶれるー!?」

 

 ふん、人間だって霊力を操作すれば鬼ほどではないが妖怪並みに力をだすことだって可能なんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「あー、死ぬかと思った……初対面で脳天締めされたのはこれが初めてだよ」

 

「お前らがおれを弄るからだ」

 

「確かに痛そうでしたね。まあ私はされ過ぎてもう慣れましたが」

 

「どんだけ煽ってたんですか……翠さん」

 

「もう数えきれないです」

 

「おかげでおれの堪忍袋はボロボロだ」

 

「まあ、それは良いとして「良くない!」自己紹介がまだだったね。私の名前は河城 にとり。発明が大好きな工学者だよ!あんたは熊口っていったよね」

 

「ん、名前をしってんのか。それより工学者か…」

 

 

 まあ、見るからにエンジニアっぽいバッグ持ってたから予想はできていたけどな。 

 発明が好きってことはまさか背負っているバッグには発明品とかがつまっているのだろうか。

 

「ん?この中身が気になるの?」

 

「ああそうだな」

 

 

 いつの間にかバッグに目がいっていたか。

 

 

「この中身はね___んーと、工具や材料、あとは自分でもよくわからない謎の物質かな」

 

「最後の以外はわりと普通だな。最後がもう危ない匂いがぷんぷんだ」

 

「なんですか!謎の物質って!是非見せてください!」

 

「おい、翠。好奇心旺盛なのはいいけど今回は本当に危なそうだから止めとけ。急に猛毒ガスを噴射してくるかもしれないぞ」

 

「……流石にそんなものはいれないと思いますよ、生斗さん」

 

「ま、そんなことよりも今食事中だよね!私も食べていい?ずっとそこにある胡瓜の糠漬けが気になってしょうがないんだ!」

 

 あ、全然河童っぽくないと思ってたけどそこは同じなんだな

 

「ああいいぞ、それ勇儀から貰ったものなんだ。味は保証できると思うぞ」

 

「ほんと!それじゃあ手洗って来る!」

 

 

 なんか騒がしい子だな、おれとは馬が合いそうにない。ん? おれは比較的静かな方の人間ですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 ~昼飯後~

 

 

「それじゃあ私は本来烏天狗はしないはずの哨戒に行ってきます」

 

「ほんと、部下の本領が発揮できないような仕事につかせて部下の力を活かさせないなんて上司として失格ですね!」

 

「はいはい二人ともうるさい」

 

「んじゃ私も帰ろうかな」

 

「ん、帰るのか?」

 

「だってこのあと萃香様が来るんでしょ?恐れ多いよ」

 

「まあ、そうだな」

 

 

 鬼って直接被害のない河童からも恐がられてんのか……

 

 

 そう思っていたら二人は早々に壊された障子の先にある”縁側″をでて帰っていった。

 うん、あとで障子直さなければな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「そういえば最近、射命丸さん明るくなりましたね」

 

「ん、そうか?」

 

「前はなんか思い詰めてたような感じでした。熊口さんが射命丸さんを見てないときとかどこか暗い顔をしていたんですけど最近はそういう顔を見えなくなったんです。

 熊口さん、なにか知ってませんか?」

 

「そうか」

 

 

 どうやら吹っ切れてくれたみたいだな。これはおれ、上司っぽいことできたんじゃないか?

 

 

「ん、なんでにやけてるんですか?気持ち悪いですよ」

 

「ふっ、さて翠。これから散歩でもいくか!勿論おれの中には入んなよ」

 

「……殺す気ですか?」

 

「いや、まだだな。そういえばこのあと萃香が来てから仲良く三人並んで散歩しよう」

 

「結局入れてくれないんじゃないですか!死にますよ、私!!?」

 

 



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翠の考察『一項目』

今回は三章の振り返りみたいなものですね。
ただの振り返りなのでギャグは殆どいれませんでした。

見たいかただけどうぞ。

次話は翠の考察『二項目』になります。


 

私の名前は東風谷 翠。生きていた頃は洩矢の国の中のいくつかある村の1つの村長を勤めていました。

しかし、無惨にも気色の悪い妖怪に惨殺された私は浮遊霊として殺された家で一人寂しく死んでいました。そして現在、なんかいろいろあって熊口 生斗という変態でグータラかつ、屑な人間の守護霊をすることとなっています。

 

 

 

 

そんな私が鬼の里から妖怪の山での振り返りをさせてもらいたいと思います。

 

あ。日付とかは覚えてなかったのでその日に起きた出来事のことについてのタイトルを日付代わりとして見てくださいね!

 

 

 

 

 

 

 

 

======================

 

 

 ・鬼と名乗る幼女との遭遇

 

 

急にとち狂ったように『旅いきたい!旅、いきたい!』と言う熊口さんの口車にのせられ、早恵ちゃんたちと別れる羽目になったこの日、この屑はとてつもない失敗をおかしました。

 

なんだとおもいます?

それは勿論。旅に出るときには必要不可欠の地図をわすれてきたんですよ!!

 

しかも旅用の鞄の中には玄米ばかり。まったく、旅をなめすぎだと思いますね。

 

そこで私は一度洩矢の国に帰るよう提案し、熊口さんもそれを承諾、つまり帰ることが決定しました。

 

 

しかし、帰ろうとしたところにまさかの妖怪に遭遇してしまいました。

しかも鬼というとても恐ろしい種族だそうで、熊口さんは急いで身を隠しました。

あの慌てたような熊口さんの顔、初めてみましたね。

まあ、そのあと隠れたにも関わらずあっさりと見つかり、戦闘へ持ち込まれることになりましたが。熊口さん、哀れ!

 

そのとき初めて熊口さんの戦闘を見たのですが……その、なんというか~、……はい、少し、いや、かなり見直しました。

ただグータラするだけの駄目人間だと思っていたのですがその熊口さん像が一気に崩れ去りましたね。

もう30年以上の付き合いだというのに……

 

 

まあ、そのあと無事襲ってきた鬼を撃破。見事熊口さんが圧勝しました。

 

なんか戦い方がただ特殊な霊弾を撃ちまくって大爆発を起こすという単純な方法だったのですが爆発の規模が凄まじかったですね。

ちょっとした茸雲が出来てましたよ……

 

 

しかしそんなことに感心する暇もなく、新たな鬼が姿を現しました

 

 

それが萃香さんとの初めての出会いですね。

 

 

そのあとはお察しのとおり、熊口さんと萃香さんが戦うことに。

 

さっきの鬼もそうだったときのようにまた勝つだろうと思っていた私でしたが、まさかの展開。

 

熊口さんが一撃で地に伏しました。

 

殴られた熊口さんは勢いよく吹き飛び、そのまま一本の大木と激突、そこで止まると思いきや、大木はへし折られ、熊口さんはまだ奥の方へ吹き飛び、結果、ぶつかった大岩に大きなヒビをつけることにより、漸く静止しました。

 

流石の人間離れした熊口さんでも今の攻撃は効いたようで一応喋られるけれど体はピクリとも動かず、このままでは死んでしまう状態に追い込まれていました。

 

私もこのとき勿論のこと焦りましたが、あらかじめ熊口さんの能力は知っていたので混乱状態にまではならずに済みました。

 

でも熊口さんが死ぬのはあまりみたくはありませんでした。

もう30年以上もの付き合いの友人の死に目を生き返るとわかっていても見たくはなかったからです。

 

しかし、今熊口さんの外へ出れば忌々しき日光が私に牙を向くことに。

実際のところ日光は私にとって無害なはずなのですがなぜか直接浴びてしまうと過呼吸になったり意識が朦朧としたりするので私の天敵であることは確かなのです。

 

 

それについて一瞬熊口さんの外へ出ることに躊躇いを感じましたが、ここは森、日陰は五万とあったので

意を決して外へ出ることにしました。

 

 

が、まさかの熊口さんが立ち上がりました。

あのときは本当に驚きましたね。あの攻撃から察するに熊口さんの重要器官のいくつかはダメになっているはず。

それなのに熊口さんは立ち上がり、萃香さんの背後へ一瞬にして回り込みそのまま蹴りをかましました。

 

 

その蹴りは凄まじく、萃香さんは力なく天高く飛んでいきました。

そして暫くして気絶した萃香さんが落ちてきて、熊口さんの勝ちが決まりました。

 

 

このときの私の感想は圧巻の一言でしたね。

先程まで満身創痍だった熊口さんが一撃でそこまで追い込んだ相手をお返しと言わんばかりに一撃でノしたんですから。

 

しかし萃香さんが気絶しているのを確認した熊口さんはそのまま旅を続けるのかと思いきやその場で倒れました。

た、確かにあの怪我で無理をすればそうなりますよね……

 

今すぐにでも助けようかと思ったのですがまさかの事態。

熊口さんが倒れた場所が日光で照らされていました。

 

このままでは私が出てきたところで役立たずになるだけ……

でも急がないと熊口さんが死んでしまう。

しかし焦っても出られないことは変わりがないので大人しく太陽が傾くのを待つしかありませんでした。

 

 

 

しかし、太陽が傾くまで待つという行為が鬼が起きてくるまでに傾くのかという博打の選択でもありました。

 

 

 

 

結果、あえなくその博打は失敗し、萃香さんは目を覚ましました。

 

ああ、このままでは熊口さんが殺されてしまう……

と、落胆していましたがその私の考えとは反対の行動を萃香さんは起こしました。

 

「この人間凄い!起きたら勇儀に自慢しにいこう!」

 

といったのです。

 

え?負けた腹いせに殺したりとかはしないんですか?

と、あのときは思いましたけど、現在萃香さんと話すようになってからはそんな小物のようなことを萃香さんがするわけないとわかりましたが……

まあ、兎に角熊口さんが殺されるということはありませんでした。

逆に包帯などを巻いたりして介護まで萃香さんはしたりしていましたし。

 

まあ、このときすでに熊口さんは死んでいたらしく、介護の意味とかは殆どなかったようですが……

 

 

 

 

まあ、これが熊口さんと私が、妖怪の方々と友好を築くようになったキッカケの出来事でした。

 

 

 

 

 

 



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翠の考察『二項目』

さて、この話が終わったら
日常回を少しはさんで3章完結です。
話の終わりにはいつもの人(神)に登場してもらいましょう。
あまり出したくはないんですが仕方ありません。
あの神がいなければ生斗くんずっとそこに居座って話が進まなくなりますからね笑


さて、私の考察が二項目めになりました。

まあ、考察といってもあのときに起きた出来事を思い出しているだけなんですがね。

 

ではでは、あのときの出来事を振り返ってみましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 ・鬼の襲撃からの生活

 

 

 

熊口さんがなんかボロボロになりながらも天狗の長である天魔という天狗に萃香さんからもらった書状を渡してから次の日、鬼たちが妖怪の山へと襲撃に行きました。

 

そこでなんであの面倒くさがりの駄目人間である熊口さんが書状を自ら届けにいったかというと

まんまと萃香さんの口車に乗せられたらしいです。

萃香さんいわく、『冷静沈着』やら『グラサンがとても似合う』など、褒め言葉になるような単語を適当に並べていったら調子よく『俺に任せとけ!』て言ってろくに準備もせず飛び出したとのこと。

 

お陰で私をおいてけぼりにしていきましたし。ていうか熊口さん、褒められるだけで思考回路が麻痺する癖、いい加減直した方がいいですよ?

 

 

 

で、襲撃のことについてですが、実はあんまりはっきりと覚えてないんです……

 

襲撃前夜にも関わらず宴会を楽しんだのが失敗でしたね。

調子に乗って記憶が飛ぶぐらい飲んでしまいました。

そして次の日、なぜか半数以上の鬼が片腕が折れるという悲惨な状況となっていました。

たぶん、前夜に宴会なんかするから喧嘩とかして怪我したんでしょう。

 

怪我した鬼たちが私を怯えるような目で見てきているようでしたが気のせいでしょうね。私なんかに鬼を怯えさせるような力なんてないですし

 

 

 

 

 

 

 

 

そして負傷しているにも関わらず元気いっぱいに暴れまわった鬼たちは妖怪の山の乗っ取りに見事成功しました。

 

そのあと何日かして鬼たちと一緒に私と熊口さんは妖怪の山へ引っ越すことになったのですが

襲撃当時の惨状が広がってましたね。

木々は無惨にも倒れたり、所々に地面が抉れたりしてとても激しい戦いだということが見ていないわたしでもわかりました。

 

 

それからはまあ、のんびりと過ごしましたね。

最初の方は熊口さんと喧嘩ばかりだった射命丸さんも今では軽口を叩く程度で友好的な関係を築けていますし、

熊口さんがよく『4馬鹿』と評している、陽天さん、昼天さん、夕天さん、晩天さんの四人とも熊口さんに稽古つけてもらっている風景を見てみたり

たまに七人で食卓を囲んだりもしました。

 

こうしていると昔早恵ちゃんとおばちゃんと3人で暮らしていたときのことを思い出しますね

もうかなり昔になるんですが……

 

 

 

 

 

======================

 

 

こうして改めて思い出してみると旅をしていた時間が半日もありませんね。

なにが『旅いきてぇー』ですか。

私の目的である海なんて全然いってないじゃないですか!!

 

とまぁ、少し熊口さんに不満があったのですがそれも遠い記憶。

 

 

 

 

 

 

もうここに来てから百年近くたちましたからね。

時が過ぎるのは早いものです。

私は死んでいるので寿命なんて無いんですが

熊口さんが老いもせずにずっとそのままの状態のことにも少なからず驚いています。

 

まだ熊口さんの能力を知らなかった鬼や天狗たちは

『え?なんでまだいきてんの?』と驚愕していましたね。

 

 

そして気になるところの百年間のことですが、別に変わったことはあまりありません。

 

鬼や天狗と酒を飲み交わし、家でのんびりしたり、

たまに忘れていた罠に引っ掛かる熊口さんを罵倒して、周期的に来る萃香さんや勇儀さんと熊口さんが模擬戦をしているところを見学したり、

宴会のあと、腕が折れる人が多数でる謎の現象がおきたり

射命丸さんと他愛もない話で盛り上がったり……

あといつもの四人と熊口さんがひそかに読んでいた春画を見せしめに燃やしたりもしました。

 

 

 

いやぁ、熊口さんも春画とか見るんですね。てっきり枯れてるのかと思いました。

 

 

まあ、色々ありましたが今もかなり楽しいです。

でも最近熊口さんが浮かない顔をし始めました。

『もうそろそろでないとなぁ……またあいつがでてくるし……』

たど意味深なこともいっており、

『翠、もうそろそろ準備しておいてくれ』

とも言っていました。

 

もしかして半日しかやっていなかった旅を再開するのかと思いましたが、どうやらその予想は当たっているようです。

 

折角みんなと仲良くなったというのに別れるのは辛いです。

でも私には決定権がありません。

熊口さんの守護霊なのですから。

何気に熊口さんとは一番長い付き合いです。日頃熊口さんに対する罵倒などが酷いですが大切な友人なので私も熊口さんが旅にでるのならついていこうと思います。

 

もしかすれば海にいけるかも知れないですしね!

 

 

 

 

 

 




はい。百年たちました。
いつものカットですね。
仕方ありません、いつのまにか3章15話こえてましたもん


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16話 やっぱ来るんだよなぁ

 

 

「やあ」

 

「はあ、こっち魂をこっちにもってきたってことは………まさかまた旅出ろとかは言いませんよね?」

 

「当たりまえじゃないか。もう100年も待ってやったんじゃよ。わしにしては長いほうだとは思わんかね?」

 

「やっぱかぁ~」

 

 

妖怪の山に来て100年が経った。

そして案の定いつもの神が痺れを切らしておれの魂を自分の神域(和室とほぼ変わらない)に引っ張ってきた。

 

はぁ、なんでこの神はおれにゆっくりさせてくれないんだろうか?

 

 

「何をいっておる。100年もゆっくりしてたじゃないか」

 

「勝手に人の心を読まないでください」

 

「仕方ないじゃろ、神なんだから。君の思っていることなんて手に取るようにわかる」

 

「あんたに読まれていると思うと気色悪いんですよ」

 

「なぬ?!神に心を読まれているのが気色悪いじゃと?」

 

「まあ、そんなどうでもいい事話すよりもっと大事な事があるでしょ」

 

 

「むぅ……まあ、そうじゃな。

わしがここに魂を呼んだのはさっき君がいった通り旅に出てもらいたいからじゃ」

 

「え~、嫌、というより無理ですよ。神もわかってるでしょ?今おれ天狗の上司やってて勝手に抜け出すなんてそう簡単には出来ないんです」

 

「夜逃げしろ」

 

「無理」

 

哨戒天狗に一発でバレるわ。

 

 

「そこんところは天狗の長にちゃちゃっと頼んでさぁ」

 

「つーかなんでそんなにおれに旅させたがるんですか?

ちゃんと神のいった通り能力使ったし定期的に鬼とかとも戦ってるし」

 

「いやぁ、確かにそれについてはありがたいと思ってるよ。実際バトル展開が今回は多かったから100年も待ってあげてたわけだし」

 

「ならまだいいでしょうよ」

 

「でものぅ」

 

「なんですか」

 

「はっきりいって飽きた。鬼との勝負も最近じゃ手の内がどっちも分かっているようで同じような戦い方になってるし、天狗のほうも飯食ったり修行を手伝っているだけだし。

それ以外の時とかグラサンかけながら鼻くそほじってねっころがっているだけじゃろ」

 

「鼻くそは余計です」

 

「ま、ということで頼んだよ。

なんかいろいろ準備があるだろうから3日待ってやろう。」

 

「3日!?」

 

「それを過ぎたら強制的に元の世界に戻すから」

 

「え?!」

 

 

元の世界て……まだ月に行った皆と再会できてないぞ。それなのに戻るのは嫌だ……

 

あ、神がにやけてる。恨めしいぐらい目がクリクリしてやがる。昔はハゲ散らかしたジジィだったくせにぃ……じゃなくてそうか、神め……おれがこの世界のことが気に入ってることがわかってて脅しの材料に使ってきやがったのか!

 

 

「さあ、魂をそっちに返すからさっさと旅に出るんじゃよ」

 

「勝手なことばかりいって……」

 

「まあ、別に旅に出るといっても君の守護霊がいるから寂しくなる訳じゃないじゃろ。ほら、かなり美人だし」

 

「顔はよくても性格は最悪ですよ、あいつ」

 

「くはは、本当にそうかな?もしかすると君が思っているほど彼女は悪いやつではないかもしれんぞ?」

 

「ないない。100年経った今でもおれに対する罵倒が尽きないんだから」

 

「君らの夫婦漫才、いつも楽しみにしてるよ」

 

「夫婦じゃない」

 

「おや、100年以上も共にしているというのに……そこらの夫婦よりずっと密な関係だと思うのだが」

 

「神、あんた本当におれらの事見てましたか?そんなこと一度とたりとも無かったじゃないですか」

 

「ふむ、それもそうじゃったな。

 

まあともかく、次はここに呼ばれないような旅を送ってくれ」

 

「……はい」

 

 

そう言った瞬間、前と同じように頭が朦朧としてきた。

この感覚、あまり好きじゃないんだよなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

======================

 

朝、起きて早々射命丸と4馬鹿がおれん家に来たので早速旅に出ることを伝えることにした。

 

 

「ということで旅に出るわ」

 

「はいはい、寝言は寝て言いましょうね、生斗さん」

 

「そうっスよ、熊口様!旅に出るだなんていわないですださいよ!」

 

「私達四人で大天狗様に勝るほどの力を手にすることができたのも熊口様のお陰なんですよ!」

 

「そうだそうだー」

 

「どうせまたいつものきまぐれですよね?」

 

「お前ら……」

 

 

4馬鹿……そんなに慕ってくれてたか……!射命丸は論外。

 

 

「まあ、私は前々から言われてたことだから別に驚きはしないんてますけどね」

 

「そうだったな、翠。」

 

そういえば翠にはもうすぐ神が言いに来るだろうと思って先に旅の支度しとけって伝えといたんだよな

 

 

「え、てことは本当に旅に出るんですか?!」

 

「まあな、前は半日で終わったし。そろそろ再会しようと思って」

 

「でも、そしたら私達はどうなるんですか?」

 

「ん、そらなら天魔に頼めばなんとかなるだろ。お前らも随分と強くなったししたっぱなんかじゃなくなるかもな」

 

「いえ、俺らは熊口様の部下が良いんです!」

 

「「「そうです」」」

 

「うおう……」

 

おれの思っていたより信頼が厚かったよ。なんだか恥ずかしい気分だ

 

 

 

「んー、でもなぁ~……出ないとおれの存在が……」

 

「え、?どういう意味ですか?」

 

「あ、いや、何でもない。取り敢えずおれは旅に出る。異論は許さん、これは最後の上司命令だ」

 

 

なんだか長引きそう立場を利用してこの場を切り抜けることにした。

 

そしたらみんな不満そうな顔をして此方を見てくるのでなんだか居心地が悪くなった。なんだか面倒だこら早々に天魔のいる屋敷に出掛けて旅に出る事を伝えにいこうかな。

 

因みに昔、おれを斬首刑に処した天魔は代替わりとなり新しい奴が天魔となった。

しかもそいつは少し関わりがあって、たまにお茶する仲だったから色々と話しやすい。

お陰で我儘をよく聞いてもらったりもする。ほとんどがしょうもないことばかりだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天魔視点

 

 

私の名前は秋天。天狗の長である天魔だ。

私が天魔に就任したのは50年前、前天魔であった明徳様が突然病に倒れ、御臨終したのがキッカケであった。

天魔になったときはとても嬉しかった。この私が妖怪の山に住まう天狗達の頂点に君臨できたことに。

 

しかしその喜びも束の間、長であると共に仕事が山のようにでてきた。

 

主に哨戒の現状報告や、妖怪の山周辺の書類の管理、鬼による被害の削減など、いろいろな事が私の背にのし掛かってきた。

 

そして、仕事外のことでも頭をかかえることがある。

 

 

その代表が熊口の我儘だ。そして今日、哨戒の現状報告の書類をまとめている最中、奴はきて、

急に旅にでるとぬかしてきた。

 

 

 

「で、春画採集の次は旅に出るから部下の事をよろしく頼む、ですか。」

 

「うん、そうだよ、秋天。て、春画についてはお前もノリノリだっただろうが」

 

「ごほん、私は天狗の長ですよ。春画など興味ありません。それと職場では私の名前は出さないでください」

 

「嘘つけ、このエロ天狗。みんなで春画見てたときお前が一番鼻の下伸ばしてただろうが」

 

「げ、幻覚ですよ……」

 

 

この人は……いつも私のペースを狂わしてくる。

初めて会ったときだってそうだった。

自分で言うのもなんだけど仕事に忠実で何事にも積極的に取り組む私の噂を聞き付けてやってきた熊口が私にちょっかいを出してくるようになったのが最初の出合いだった。

それからは休憩中の茶屋で出くわしたり、哨戒任務をしっかりと遂行しているか見回りをしているときに熊口とその部下達で変な動きをしているところを発見したところを見つかって私まで変な動きをする羽目になったりと

熊口とあってからろくなことがない。

 

 

 

 

 

 

でも、良いやつではある。

 

私が今の妻と婚姻を結ぶ時などは一番に喜んでくれたり、たまに鬼達とする宴会の時も天狗達に被害があまり来ないように鬼達の目を熊口の方へ向けてくれたりもする。

 

そして仕事上の関係であまり他の天狗と親しくなれない私の話し相手をしてくれる数少ない友人でもある。

 

 

「なにぼーとしてんだ。秋天」

 

「だから天魔と呼べと……」

 

「別に良いだろ。この部屋、無駄に広いわりにはお前以外居ないんだから」

 

「だからといって今は仕事中です。」

 

「はいはいわかりましたよ、天魔様。…………で、おれの我儘、聞いてくれるか」

 

「はい、勿論了承しませんよ」

 

「え、しません?」

 

「はい、了承なんて絶対にしません。天狗の社会から抜けるということは全天狗の敵になると言うこととほぼ同義です。

私は熊口を敵にするのは友人として嫌なのです」

 

それに友人であるから反対するだけではない。はっきりいって熊口の部下達は落ちこぼれ達だった。

射命丸は確かに優秀だが、上司との付き合いが悪かった。

そして白狼天狗の四人は天狗の中で最底辺の力しか持っていない落ちこぼれ兄弟。

 

しかし今では射命丸はかなり友好的になり、白狼天狗の四人組は4対1とはいえ大天狗に勝るほどの力を手にしている。

それもすべて熊口による指導のお陰だ。

天狗達の密かで行われている《上司にするなら誰が良い?》のランキングで十年連続で一位を獲得しているほどだ。

だから天狗の発展のためにも熊口を手放すわけにはいかない。

 

 

「はあ?敵て、なるわけないだろ。」

 

「熊口の気持ちの問題ではないのです。これは天狗の掟です。」

 

「……はぁ、何でかなぁ」

 

「ほら、私の部屋の目の前にいる君の部下達も安堵していますよ。よかったですね」

 

「は?」

 

 

と、熊口は後ろの方へ振りかえる。すると襖の間から見ていた5人が慌てて襖を閉めた。

 

「あいつら……ついてきてたのか」

 

「いいじゃないですか。愛されてるってことですよ」

 

「そうかぁ?……」

 

「それでは私は仕事に戻りますので。くれぐれも妖怪の山を出ていこうだなんて考えないでくださいよ」

 

「うーむ」

 

「ん、どうしたんですか?」

 

「仕方ない、秋天」

 

「?」

 

「じゃあな!縁が会ったらまた会おう!あと射命丸と4馬鹿も元気でな!」

 

「え!?」

 

 

いきなり熊口が障子を突き破って外へ出ていってしまった。

 

……まさか!

 

 

「そこのもの達出てきなさい!!」

 

「は!天魔様!」

 

そういうと襖のさきで隠れていた熊口の部下達がでてきた。

 

「今すぐ全天狗、及び鬼達に報せなさい。熊口が妖怪の山から出ていこうとしていると」

 

「「「「御意!」」」」

 

 

そして熊口の部下達は熊口と同じように障子を突き破って出ていった

 

 

「…………普通に玄関から行けよ……」

 

そういうところは熊口に似てきているな……あいつら。

 

と、そんなことよりも私も行動に移さなければ。

萃香様にもこの事を伝えればすぐに熊口も見つかるはず……

 

絶対に逃がさないぞ、熊口。我々天狗の発展のためにも、そして友人としてもな!




天魔さん、最終話前に登場でしたね笑
次話かその次の話で3章完結です


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17話 締まらない終わり方だったな

「で、天狗達からの追跡を断つために私ん家に逃げ込んできたっこと?」

 

「そ、翠を連れてくるのに結構手間取ってしまってさ。さっさと山を出ようにもでられなかったんだ」

 

「な!?何人を荷物呼ばわりしてんですか!」

 

「実際荷物みたいなものだろ」

 

「失礼な!あなたの守護霊ですよ!しゅ・ご・れ・い!」

 

「守護霊なのに守ってもらったことないんだけど……」

 

「はいはい。うちで喧嘩するんじゃない、生斗」

 

「すまん、萃香」

 

 

今の会話からわかる通り(わかるよな?)おれは萃香ん家にいる。

勿論天狗達からの追跡を断つためだ。

 

たぶん天魔の指示で哨戒天狗達がおれを探しに来るはずだ。

しかもその中に千里眼っていう遠くのところまでバッチリと見える奴もいるからすぐに見つかる。

 

が、ここは鬼達の住宅地が並ぶ場所。千里眼をもつ天狗も鬼の許可が無ければ見ることは許されないのだ!

 

 

つまりここは隠れ蓑としては絶好な場所だ。

因みに最初は勇儀ん家にいったんだけど生憎留守だったんで萃香のうちに行った。どうせ勇儀のことだからそこらへんの癒着屋台でつぶれてんだろ。

 

 

「はぁ。でも旅ねぇ……実際私も反対なんだよねー」

 

「え、なんでだよ」

 

「生斗が最初に鬼の里に留まった理由はなんだったかい?」

 

「えーと、確か……『こんなイケメンで心優しい才色兼備な人間を私達が放っておくわけがないだろ』だったっけ?」

 

「全然違う」

 

「あまりにも盛りすぎです。特に性格なんて中年のオッサンと同じじゃないですか」

 

「だ、だれが中年のオッサンだ!そんなに歳はとってないぞ、おれ!」

 

「いや、充分にとってるでしょ。少なくても中年のオッサンの何倍かは生きてる」

 

「クソジジィですね!」

 

「おいこら、翠。おれがもしそうならお前はクソババァだからな」

 

「はん、誰がオバサンですか!こんな美少女のどこがオバサンですって?」

 

「あーうるせーうるせー。幽霊の声なんて雑音にしか聞こえませーん」

 

「私も頭に黒眼鏡がこびりついてる奴の声なんて蝉の声よりもうざったい雑音にしか聞こえませーん」

 

「……あんたらどっちもうるさいよ。

隠れる気あんのかい?」

 

「あぁ、そうだった。完全に忘れてた」

 

「だろうね」

 

「話が脱線してましたね」

 

「お前が脱線させたんだろうが」

 

「熊口さんですよ」

 

「いいや、翠がおれの事をオ「いったん黙れ」……はい」 

 

「で、どこまで話したっけ?」

 

「んーと、萃香さんが熊口さんの旅を反対していることからですね」

 

「ああ、そうだった。私達が昔あんたを引き留めた理由についてはおいといてさ。

なんで旅なんて出ようとするのさ。今の生活になにか不満でもあるの?」

 

「…………いや、全く不満なんて無いんだけどさ。

でもやらなくちゃいけないんだ。『この世界』で生きるためにもな。

1種の呪いなのかもしれない。でも決して解かれられない呪縛、そういうものが」

 

「な、なに急に意味深なこといってんですか。どこか頭でもうったんですか?」

 

「な訳ないだろ」

 

「ふぅーん。もうかなりの年月共にしている中でお互い理解してると思ってたけど……まだなにか隠し事があったんだね」

 

「まあな。でも別に隠してたわけじゃないぞ。お前らにとって関係のないことだから喋ってなかっただけだ」

 

「現にこうやって関係があることに発展したじゃないか。

熊口の言う『解けない呪縛』とやらが」

 

「いやー、まあ、確かに関わったな……」

 

 

うむ、ちょっとミスったかな。ここは適当に嘘をいってればよかったな。

少々面倒なことになってしまった……

 

 

「はぁ……まあいいよ。私に、というより私達に隠し事があるといっても誰でも1つや2つ言いたくない事はあるしね。私もない訳じゃないし……深くは詮索しないことにするよ」

 

「そうか。そうしてくれると助かる」

 

「(私も初耳だったんですが?!熊口さんに秘密があるなんて……後で問いただしてみよう)」

 

 

う、なんか翠から良からぬ気配が!?

 

 

 

 

「それでどうするの?私の分身から見てみたけど妖怪の山を抜けるのは生斗じゃ難しいよ。結構厳重にそこらじゅう見張られてる。

それにみんなになにも言わずに出ていくのは無粋なんじゃない?」

 

「山を抜けるのはなんとかなる。それに一言についてはちゃんと用意してる。ほら」

 

 

と、おれは着ているドテラの内側にある収納袋(所謂ポケット)から一通の手紙を取り出した

 

「手紙?……それも1つだけって……てきとうすぎやしないかい?」

 

「何をいってる。おれがかしこまって長文を一人一人に書くなんて面倒なことするわけないだろ」

 

「……そりゃそうか、生斗だもんね」

 

 

え?納得されちゃったよ。本当は皆の分を書く時間がなかったからなのに……

 

「まあ、生斗が旅にでたら皆を集めてから見てみるよ」 

 

「え、なにそれ超恥ずかしい。そんな大層な事は書いてねーよ」

 

「だろうね。どうせ即興で書いたんでしょ」

 

バレた!?

 

「まあ、でもないよりはましか……本当は生斗がここを出ることを天狗と一緒に止めたいけど……生斗もなにやら事情があるみたいだからね、邪魔はしないでおくよ。

あ、でも手伝いはしないよ。やるなら自分で何とかしな」

 

「はいはい。わかってるよ、そんなこと。

勇儀によろしく伝えておいてくれ」

 

「勇儀もこんな日に馬鹿だねぇ。昨日屋台で朝までのんで今も自分家でグースカ寝てるからね」

 

「やっぱか……んじゃ、翠。おれの中に入ってくれ」

 

「わかりました。

……それじゃあ萃香さん、またいつか会いましょう!」 

「じゃあね、翠。あんたは私にとって大事な友人だよ」

 

 

萃香の言葉を確認すると共に翠はおれの中へと入っていった。

 

「んじゃ、俺もいくわ。ここからは正面突破で突き抜けるからな」

 

「そうこなくっちゃね」

 

「なんだよ、なんか元気ないなぁ」

 

「そりゃそうでしょ。100年もの付き合いだった友人と別れるんだよ。いつもどおりでいられる方が異常だよ」

 

「なぁに、どっちもそう簡単には死なない体をしてるんだ。

生きていればいつかは会えるだろうさ」

 

「″月にいる人達″にもかい?」

 

「……どうだろうな。まあ、会えるといいな。」

 

 

一応萃香たちにはおれがこの世界にきてからの話をおおまかにだけど話している。

月にいる皆のことや洩矢の神のこととか。

 

洩矢の国は兎も角月の皆の事は誰も信じてくれていないので今萃香が言ったのも冗談でのことだろう。

 

 

 

「またな」

 

「うん、たまには顔見せなよ。」

 

 

そう言葉を交わし、おれは部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふへぇ、こんな道があったんですね…………って正面突破するんじゃなかったんですか!?』

 

「はぁ、この道を正面突破してるじゃないか」

 

 

現在おれは誰も通らないような隠しルートを低空飛行している最中だ。

 

この道はかなり木の密集がすごすぎて殆ど通り道がなかったんだけどつい最近唯一通れる場所を見つけた。

このルートはまだ誰にも教えていないのでたぶんばれないだろう。

 

 

でも1つだけ欠点があるんだよなぁ……

それは今いるところを抜けた先にある。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?生斗。こんなところに来てどうしたの?……て、そういえば文達があんたのこと探してたよ」

 

「あ、ああ。にとり」

 

 

くそ、いたか。しかもにとりがいるというね……

 

そう、隠しルートを抜けた先にあるのは河童達が住む玄武の沢があるんだ。

 

もう妖怪の山は殆ど抜けたも同然なんだけどまだ天狗の目が届かない場所ではないので早く行かなければならない。

いつもなら世間話でもするんどけど今はそんな悠長なことしてる暇はない。

 

 

「それで?盟友である生斗、妖怪の山から出ていくって本当?

天狗の長である天魔様も直々にここへ来たんだけど」

 

 

げ、天魔も動いてんのかよ。……これはさっさと出た方がいいな

 

 

「ああ、そうだよ」

 

「へぇ……そうなんだ。私としてはまだいてほしかったんだけどなぁ。河童の技術革新ができたのも生斗のお陰だったし」

 

「まあな」

 

技術革新に貢献したっていっても前世の記憶を引っ張り出してそのまま伝えただけなんだよな

 

「でも盟友の決めたことだし、とめないよ。

それに生斗、そんな簡単に死なないでしょ?ゴキブリみたいな生命力持ってるし」

 

『もはやゴキブリ以上のしぶとさですね』

 

「まあ、おれより生命力を持った人間はこれまでみたこと無いけどな」

 

 

「それじゃあ、これ」

 

「ん、なんだこれ」

 

 

にとりがポケットから取り出したなにかおれに渡してきた。

 

これは……ゴム手袋?一見してみるとどうみてもゴム手袋にしかみえない。

 

 

「ほら、前に生斗『剣をずっと握ってると手が痛むんだよなぁ。特に冬とか』っていってたじゃん。

だから作ったんだ!

ほんとは今度渡そうと思ってたんだけど」

 

「お、そうか。ありがとな」

 

「見た目とちがってかなり頑丈で衝撃を吸収するようし柔軟性もある。あと耐水性だよ!」

 

「うお、まじか」

 

こんなゴム手袋にそんな効果が!

 

「ありがたくもらっとくよ。お礼は……」

 

「いいよ、今度会ったときに胡瓜の1本でもくれれば」

 

「そうか。それじゃあ帰ってこなくちゃな」

 

「うん、それじゃあまたね、生斗。胡瓜のことわすれないでよ」

 

「にとりちゃん!またね!」

 

「うわ、翠もいたの!?……うん、翠もまたね。

良い旅を」

 

「んじゃな」

 

 

よし、それじゃあ行くとするか。神にいわれてた期限より少し早いけどまあいいだろう。

ウダウダ期限ギリギリまで居座ったって二日後にはでなくちゃいけないんだ。

早くするに越したことはない。

 

そんなことを思いつつおれは妖怪の山を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 次の日 妖怪の山 元生斗の家

 

「あー!なんで私が寝ている間に行くんだ!」

 

「はぁ、行っちゃったかぁ」

 

「くそ、私がもう少し遅く玄武の沢にいっていれば……」

 

「生斗さんがいないとなんだか寂しいですね」

 

「熊口様との稽古、たのしかったなぁ」 

 

 

現在、元生斗の家にはこれまで関わった妖怪達が集まっていた。

 

メンバーでいうと、勇儀、萃香、天魔、射命丸、4馬鹿、にとりである。

 

 

「はぁ、でも生斗。手紙のひとつも残していってなかったね。まあ、私は生斗が行く前に話したからいいんだけどさ」

 

「それですよ!なんで友人である私に『じゃあな』だけだったんですか!」

 

「天魔様、縁があればまた会おう、とも言ってましたよ」

 

「お前らは良いじゃないか。私に至っては顔すら会わせられてなかったんだよ」

 

「それは勇儀が寝落ちするまで呑んだのが悪い。

 

…………それよりも河童がいってのに反論していいかい?

ちゃんと生斗、手紙残してるよ、ほら。一通だけだけどね」 

 

と、萃香は服の中から1枚の手紙を取り出した。丁寧に折られた紙には『みんなへ』と書いてある。

 

「あ、あったんですか……」

 

「でも一通だけ?」

 

「まあ、あの面倒くさがりな熊口様ならやりそうっすね」

 

「まあ、読んでみなよ、萃香」

 

「ああ、分かったよ。んーと」

 

 

と、折られていた紙を開いていき、萃香はそこに書かれている文章を読み始めた。

 

 

『あー、うーんと。妖怪の皆さん。こんにちは、生斗です。

 

 

「なんでいきなり自己紹介?」

 

「シッ!黙って聞きなさい!」

 

 

それじゃあ取り敢えず言い訳をさせてくれ。無論手紙のことでな。

本当は皆の分を書こうとしたんだけどどっかのエロ天狗がおれを捕まえるために指名手配してきたので書く時間がなかったんだ。

文句があるんならその天狗にしてくれ。

 

 

「誰がエロ天狗だ!」

 

「あ、やっぱり天魔様なんだ……」

 

 

それじゃあ取り敢えず皆に一言ずつ言ってこの文章を終わりとする。

 

 

萃香、勇儀。ほんとお前らは戦闘が好きだよな。正直いってかなり迷惑だった。

……まあ、でも陽気で裏表のないお前らはとても付き合いやすかったよ。

これまで友人でいてくれてありがとう。

 

 

「生斗……」

 

「……こっちこそありがとう」

 

 

 

秋天、お前には謝りたいことがある。

結婚式の時だ。余りに調子にのってしまって爆散霊弾をそこらじゅうにばらまいたのは本当にごめん。

 

 

「……大丈夫ですよ。萃香様達の方が被害がでかかったですから」

 

 

 

あと、秋天の大事にしていた盆栽、障子破って逃げるときに壊しちゃった、ごめん。

 

 

「あの野郎!」

 

 

(陽、昼、夕、晩)天、お前らも強くなって嬉しいよ。別に暇潰しに稽古を付き合ってただけだったのにな。

 

あ、ちゃんとお前ら稽古のあとは風呂はいれよ。いつも稽古終わったあと寝落ちしてるからな

 

 

「「「「入ってますよ(っすよ)!」」」」

 

 

射命丸、お前との出会いは最悪だったな。

ほんと、部下にしたときはちょっかい出させないようにするためだけだったんだけどな。

まあ、それが今でもちょっかいは出されてるけど前ほど悪質じゃないから許してやろう。おれがしてもいいって言ったしな。

まあ、取り敢えず新しい上司がきてもちゃんとしとけよ。

悪戯をしていい上司はおれぐらいだからな

 

 

「ちゃんと人を選んで出してますよ……」

 

 

にとり、まあ、お前の開発には驚かされるものばかりだったな。

これからも凄いのを開発してくれ。

 

あ、でも流石におれを実験台にするのはやめてくれよ?

前に実験台にされたときは大爆発が起きたからな。あのときは死ぬかと思った

 

 

「ああ、あのときのね……生斗なら死なないと思って無茶な構造で全自動人型人形を作ったのがいけなかったね」

 

 

 

と、まあ、真面目に書くと恥ずかしさで死んでしまいそうだったのでボケをはさんだ手紙になったけど皆満足してくれたか?

 

 

ま、取り敢えず家を出るっていっても

ここを一生出ていくって訳じゃないからおれん家を 残しておいてほしい。

勝手なお願いだけどな。

 

 

それじゃあ、いつか土産話をもって帰ってくる!

 

 

 

「ほんと、ふざけてかいてんのか真面目にかいてんのかよくわからない文だったね」

 

「読んでるこっちが笑ってしまうよ」

 

「まあ、それも生斗らしいからいいんじゃないですか?」

 

「よぉし!俺らももっと強くなって熊口様に負けないような剣豪になろうぜ!」

 

「そうですね!いまでも熊口様には手しか出せない状態ですし」

 

「勝てる気しかしない」

 

「うえー、勝つぞー」

 

「まあ、生斗に言われたからには世紀の大発明をしなくちゃね!」

 

「熊口め、今度あったら盆栽を弁償させてやる……て、いつになるかわかりませんけどね」

 

 

 

 

 

「それじゃあ私達も解散しようかね」

 

「あ、ちょっとまって。まだ文章が続いてた!」

 

「「「え!?」」」

 

「んーと……」

 

 

 

あ、最後に言い忘れてたけどおれん家の釜戸の中にある飯、食べておいてくれないか?勿体ないしな

 

 

「「「「「……それ。手紙で言うことじゃないだろ……」」」」」




はい、書きながらどうしようか迷った挙げ句、
変な感じな終わり方となりました。

手紙の所なんて本当は書くつもりじゃなかったんですけどね……

取り敢えず次回からは新章です!


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3章完了時点登場人物 

 熊口 生斗

 

 

本編の主人公。一応主人公属性を持っている半マダオ。霊力量は中級妖怪よりちょっと多い程度だが、能力と技術活かし、大妖怪とも渡り合える程の実力を持つ。実は技の関係上、頭の回転は戦闘においてのみ常人を遥かに上回るほど速い。(でなければ玲瓏・七霊剣を扱うことすらできない)

最近はツッコミ役になることが多くなり、頭を抱え始めている。

文、4馬鹿の上司。

 

 

 『技』

 

 

《霊剣拘束》~その名の通り。いくつもの霊力剣で相手の身動きをとれないようにする技。無理に動くと切れる。実際のところ霊力剣でなくても鋭利なものならばなんでもいい。この技が決まると相手は身動きがとれないため、そこに爆散霊弾で爆撃するのが定石。

この技をするにはタイミングと生斗から5メートル以内にいないと成功しない。失敗して避けられると大きな隙をつくってしまうため、あまり使われることがない。

 

 

 

 

 

 

 

 東風谷 翠

 

 

生斗の守護霊。守護霊になって数日で生斗と旅に出ることになったため、滅茶苦茶後悔していたが、今では生斗の守護霊になって良かったと思い始めている。

誰にでも優しく、妖怪の山でも人気があった。生斗にだけは毒舌。

 

 

 

 

 

 伊吹 萃香

 

 

鬼の中でも最高レベルの実力をもつ。後に四天王の一人として数えられる。

暇潰しに鬼の里の外を散歩しているときに生斗と遭遇。ワンクッション挟んだ後、戦闘になる。一撃で生斗を戦闘不能にまで追い込んだ。

その後、生斗が寿命ブーストを使い、不意をつかれ、敗北してしまったが、純粋な殴り合いになると生斗の一生を賭けても倒せない。

 

 

 

 

 

 

 

 星熊 勇儀

 

 

こちらも鬼の中では最高レベルの実力を持つ。力比べで勇儀に勝てる者は妖怪の山には存在しない。勿論の事純粋な殴り合いなら萃香にも勝つが、能力使用ありだと萃香には勝てない。

鬼に総じて言えることがとても気さくで強い者が大好き。逆に嘘つきで弱い者には容赦がない。

余興にて生斗に一杯食わされた後、生斗の事を気に入っている。

妖怪の山乗っ取りの時、一番暴れていた。

生斗が旅に出たとき、家で爆睡していたため、顔を合わせることがなかった。そのためか、癒着屋台に行くのを少しだけ自重するようになる。

 

 

 

 

 

 

 射命丸 文

 

 

天狗の中では5本の指に入るほどの実力を持つ。だが、1度も生斗に勝てたことがない。初めて生斗とあったときかなり優位に戦っていたが油断したところを霊剣拘束により拘束され、敗北する。その際にスカートを破かれたため、一時期生斗のことを変態と呼んでいた。生斗が妖怪の山の山に来た当初は嫌っており、タメ口だった。ストレス発散の対象でもあったがそのストレスを生斗の一言により解消されたため、それ以来、友好な関係になっている。が、仕事のストレス発散の対象が生斗であることは変わらない。

生斗が出ていった家に住むようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4馬鹿『 陽天 昼天 夕天 晩天 』

 

 

4つ子の白狼天狗。全員口調は違う。陽天は口数が少なく、昼天が相槌ばかりうつ。夕天はデスマス口調。晩天が主に話している。

4人とも最初の方は人間である生斗や翠のことを下に見ていたが、呆気なく負かされたため、生斗の弟子入りを志願する。因みに翠には組手で4人とも負けている。

100年もの年月を経て、4人でなら大天狗にも勝てるようになるまで成長する。しかしいまだに文には勝てない。

生斗が最後に残していった手紙に不満がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 河城 にとり

 

 

河童であり、文の友人。胡瓜が好き。とても親しみやすく、翠とも仲良し。翠にとって早恵に続く二人目のタメ口で話す相手。

よく生斗を被験体にしていた。別れの時、生斗にゴムの性質によく似た手袋を渡す。

 

 

 

 

 

 天魔『秋天』

 

 

 種族 天狗

 性別 男

 能力 ??

 性格 温厚

 

 

天狗の長。実力は天狗の中でもトップクラスだが、鬼子母神どころか四天王にすら勝てない。前天魔とはあまり仲の良い方ではなかったが人望が厚く、天魔という最高職を任されることとなった。ちょっとムッツリ。生斗とは良き友人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その他の登場キャラ

 

 

 茨木 華扇(間接的にほんのちょっとだけ登場)

 

 鬼子母神

 

 蓮義(生斗にボロ負けした鬼)

 

 河童の集団

 

 明徳(前天魔。生斗が妖怪の山を出る50年前に急病により死亡)

 

 神(飽きたという理由で生斗に旅を促す)

 



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4章 【仙人と太子達との交流】
壱話 久しぶりに普通?の人と会った。


評価が減ってかなり落ち込んでる作者です。

まあ、そんなことより4章開幕です!


「なあ、翠~」

 

『なんですか………バカドジクソ野郎』

 

「いや、ほんとなにも持たずに手ぶらで妖怪の山にでちゃった事は謝るって……だからいい加減機嫌なおしてくれよ」

 

『もう3日もなにも食べてないんですよ!それもこれも熊口さんのせいなんですからね!』

 

「あー、おれん中で叫ばないでくれよ……頭に響く」

 

 

そう、おれはまたしでかしてしまった。前も旅に出たときに地図を無くしたり食糧が玄米だけだったりと酷い有り様だったが、今回はそれすらない。

あるのは今身に付けている衣服とグラサン、あとにとりからもらったゴムみたいな感触の手袋だけである。

 

最初それに気づいたのは妖怪の山を出てすぐのことだった。

そのときも翠は大激怒したがすぐに村が見つかるだろうという安直な考えで怒りが収まったんだけど

それから今日(3日間)まで食糧が木に生えていた木の実だけの状態で歩いたのだが村どころか川すら見つからない状況に陥っている。

 

でも今は人が補整したであろう歩道を歩いているのでもうそろそろどこかの村につく、はず……

 

 

 

 

 

 

      ぐうぅ~

 

 

「いい加減狩猟とかやろうかな……」

 

ただひたすらゴールの見えない道を歩くより狩りをした方が手っ取り早く飯にありつけるはずだ。

 

 

「……はぁ、お腹が空きすぎて頭の回転が悪いな」

 

『私だってお腹空きましたよ……』

 

「つーか手に力がはいんねぇ……」

 

と、歩道の脇にある木にもたれかかる

 

「ここまでひもじい思いをしたのは初めてかもな……」

 

 

いかん、視界が霞んできた。おれ、餓死すんのかな?

いや、前世の記憶ではなにも食べなくても3日程度じゃ死なないっていってたっけ?

 

 

「でもなんだか眠いな……」

 

『そりゃ3日間寝ずにずっと歩いてたんですからね少しぐらい休んだ方がいいですよ』

 

「あ、そうだったっけ?」

 

ずっと腹減った~て思いながらぼーと歩いてたら不眠不休で歩いてたのか……凄い集中力だな!……そりゃ疲れるわ。

通りで足の節々が痛むと思ったんだ。まず翠もそのこともうちょっと早く教えてくれよ……

 

 

「んじゃ、ちょっと寝るわ。夕方になったら教えてくれ」

 

『分かりましたよ、そのまま永眠とかはやめてくださいよ』

 

「おやすみ、良い人生だったぜ」

 

『はいはい、さっさと永眠してください』

 

さっきといってたこと違うくない!?

 

まあ、取り敢えず寝よう。疲れた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------------

 

 

 

 

生斗が一時の仮眠をした10分後、人や妖怪が頻繁に歩くことによって自然にできた歩道を歩く一人の老人がいた。

 

「誰かのう……ここらじゃ見かけない顔じゃ」

 

その老人は道の端で木にもたれかかって寝ている生斗に懐疑な視線を向ける

 

「むむ!こやつ、かなり衰弱しておる。脚も傷だらけじゃないか……」

 

この草木のない歩道に出るまで生斗はずっと道なき道を歩いていた。おそらくそのときにできたであろう傷を老人は見つけ、すぐさま持っていた布を生斗の両足に巻いた。

 

「このままでは傷口から菌が入ってきて危険だ

……まずは村の医師に診てもらわねばな」

 

と、老人は軽々しく生斗を持ち上げ、背中でおぶった。

 

 

「待っていなさい、すぐに助けてあげよう」

 

 

そんな一部始終を見ていた翠は

 

『こ、こんな優しい方がいたんですね……あ、涙が出てきた』 

 

 

感動の涙を流していた。

 

 

 

 

 

----------------------

 

 

 

 

 

「……ここどこだ?」

 

 

目が覚めると木でできた天井が映った。

 

うーむ、さっきまでこんな人工物のへったくれもない青空の下(厳密には日陰だけど)で寝ていたというのに……

 

「……あれ?足に包帯が巻かれてる」

 

じっとしていても何もならないので取り敢えず体を動かそうと立ち上がろうとした時、漸く足に包帯が巻かれていることに気づいた。

そういえば道なき道を無理矢理歩いたから痛かったんだよなぁ

……今思えばなんで空を飛ばなかったのか疑問に思えてくる。まあ、腹が減って頭が回らなかったんだろうな……

 

 

「家の中といい、包帯のことといい、どうなってるんだ」

 

 

『…………ん、熊口さん起きたんですか?』 

 

 

「あ、翠、お前も寝てたのか?」

 

『はい……あ、でも今熊口さんが疑問に思ってるであろうことなら知ってますよ』

 

「家のことか?」

 

『勿論!熊口さん、貴方は幸運に恵まれていますよ、あんな優しい御老人に助けて頂いたのですから』

 

「御老人?……うん!?この匂いは!」

 

翠が言った御老人とはもしかしておれを助けてくれた人なのか?

 

いや、そんなことより今おれのいる部屋にまで漂ってくるこの匂いは……

焼き魚だ!!

ここ数日木の実以外口にしていないおれにとっては

我慢ならない匂いだ!

 

 ガラッ、ドタドタドタ!!

 

あまりにもお腹が、空いていたおれは今出せる力を振り絞って走り、焼き魚の匂いのする方へむかった。

 

 ガターンッ!

 

そしてついに魚を焼いているであろう部屋の障子を思いっきりあけた

 

 

「いきなりだけど焼魚を俺にくれないか!!」

 

 

本当にいきなり登場しているな、おれ。

 

うむ、おれが入った場所はどうやら居間のようだ。真ん中に囲炉裏があるからたぶん魚を串刺しにして火にかざしてたんだろう。

 

そしてそこにいたのは急に出てきたおれに驚いている女性だった。

 

髪は青でボブカットにされていて頭の上らへんには∞の形に結ってある。天女の絵でよくみる髪型だな……服も青を基調としたデザインでできているところを見ると青がとってもお好きなようだ。

 

あ、この人左腕に包帯してる。怪我してんのかな?

 

 

「貴方……足大丈夫なのかしら?」

 

「え?ああ、別に大きい怪我はしてないからな」グゥ

 

「そう、それと別に魚ならあげてもいいわよ。元々貴方にあげるためのものもあるし」

 

「まじか!ありがとな!」

 

そういっておれは天女みたいな格好の女性の所へかけより串刺しにされていた焼き魚を差し出されたのでそれを受け取り、おもむろにかぶりついた。

 

「おぉ……食べ物のありがたみを感じる……」ムシャムシャ

 

「あの人のいってたよりだいぶ元気ね。これなら別に助けなくても良かったんじゃ……」

 

「んなほとはいほ!(んなことないぞ!)

はほままひゃいふれがひひてたふぉ!(あのままじゃいずれ餓死してたぞ!)」

 

「食べながら喋るものではなくてよ」

 

「わはっへる(わかってる)」

 

「その時点ではまだわかってないわ」

 

 

んまい!ここまで焼き魚が美味しいとは!魚の身は、二、三口噛めばすぐに喉へ通しても問題ないぐらいまでに柔らかい。それに程よくふりかかっている塩加減も絶妙なのも重なって口の中で楽園が広がっているように思えるほどこの焼き魚は美味なるものだった。

 

これじゃあ差し出されていない魚に手を出しても仕方ないよね。この女性も元々おれにあげる用って言ってたし。

 

『熊口さんだけズルいですよ!」ズウゥン、バシッ!

 

「きゃあ!?人から人がでてきた!!?!」

 

「あ、翠!人が食ってたの勝手に奪うな!」

 

「私だってお腹減ってるんです!あなたのせいでね!」カプッ

 

「畜生!」

 

「…………え?え!?なんで貴方も驚いてないの!?何、私がおかしいっていうの?」

 

 

あら、翠の登場で女の人を混乱させてしまったようだ。

 

「ああ、すまん。こいつ一応おれの守護霊なんだわ。」

 

「しゅ、守護霊って……普通人には見えないはずじゃなかったかしら?」

 

「私は特別なんです!」

 

「とのことです。実際には本人もわかってないってことだな」

 

「へ、へぇ……世界は広いのね……私のいた国では霊的なものは見えれどここまではっきりと人間の形をした霊は初めてだわ」

 

私のいた国?ってことは他の国から来たってことか?

確かにそれなら服装が少し中国っぽいのも納得できる。

 

「そうですかそうですか!そんなに珍しいですか。

まあ、それもそうでしょうね。こんな美形な顔なんて100年に1度生まれるか生まれないかの存在なんですから!存分に見るがいいですよ」

 

「まあ、確かに美しい顔をしてるけど……」

 

「翠、物凄い勘違いをしてるぞ。

珍しいのはお前の顔じゃなく存在だ。」

 

 

翠ってよく自画自賛するよな……誰に似たんだか。

 

ん、おれじゃないのかって?な訳ないだろ。

おれは謙虚に生きてるぜ。

 

 

「まあ、取り敢えず腹も膨れたことだし助けてもらったお礼でもしましょうかね」

 

まだ全然食べられるけどな

 

「あら、助けたのはわたしではなくてよ?

貴方を助けたのは今でかけている人よ。

私もあの御老人に一昨日怪我しているところを助けて頂いたばかりですの」

 

「へぇ、それであんたの左腕にも包帯が巻かれているんだな」

 

「そうですわ。だからそのお礼にと焼き魚を貴方の分もついでにと焼いていたのだけれど……」

 

「あ……」

 

「綺麗に全て食べ尽くしましたね……」

 

「釣り、中々大変でしたわよ?」

 

「…………滅茶苦茶美味しかったぜ!」

 

「内蔵除くの、結構大変でしたわよ?」

 

「……ごめんなさい、釣ってきます」

 

「よろしい」

 

「頑張ってくださいねー、熊口さん」

 

「こら、おまえも食っただろうが!」

 

「一本だけですよ、残りは全部熊口さんが食べたじゃないですか」

 

「うぐっ……反論ができない」

 

「貴方、熊口って言うのね……」

 

「あ、そういえばまだ自己紹介がまだだったな。

おれの名前は熊口生斗。グラサンが似合う人間だ」

 

「私は東風谷翠。熊口さんの守護霊を百年程度やってます。」

 

「百年!?まさか貴方も!…………まあ、いいわ。

 

 

    私は霍青娥(かくせいが)。仙人よ。」

 

 

 

この日、この女性、霍青娥との出会いによっておれは歴史上でも有名な人物に会うことになろうとはこのときのおれには想像もつかないことだった。

 

まあ、そんなことよりもまずおれを助けてくれた人にお礼をちゃんと言わないとな。

あと釣り。

 



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弐話 釣れないと思ったら……

更新遅くなってすいません!


「いやはや、軽傷で良かったよ。お主を見つけたとき痩細って衰弱していたからてっきり悲惨な目にあったのかと……」

 

「いや、ほんと拾ってくれてありがとうございます。お爺さんに助けてもらえなかったらたぶん餓死していましたよ、たぶん。」

 

 

日がくれ始めた頃、おれを助けてくれた老人が帰ってきた。

見た目はそこら辺にいるご老体と何ら変わらないほど痩せているのによくおれを担いで家まで運んでくれたな。めっちゃ良い人だ!今頃寝っころがって暇潰しにおれを見ている元お爺さんの神とは大違いだ。

もうこの人とあの神、交代した方がいいんじゃないかな

 

 

「あ、これお礼です。さっき釣ってきた魚です」

 

「こら、これは貴方が私が釣ってきたのを食べた分のでしょ。それに殆ど私が釣ったやつじゃない」

 

「細かいことは気にするな」

 

 

ついでに日が暮れる前には魚を釣り終えている。

いやーあんなに魚が釣れるとは思わなかったなー(棒)

 

 

「おや?よく川のあるところかわかったな。ちょいとここらから離れていて見つけづらかったろうに」

 

「あ、うん。そこにいる青娥に教えてもらったから大丈夫でした……」

 

「♪」

 

「?なんで疲れきった顔をしているんだね?もう休むか?」

 

「あぁ、はい。そうします……」

 

『疲れましたもんね、今日。私はあんまり疲れてませんけど』

 

 

お、釣りに結局ついてこなかった翠さんもおれが疲れているってことがわかったか。そうだよ、疲れたよ。もう……!

 

 

……そう、今おれが言ったのからわかる通り実はこのお爺さんが帰ってくる前の間に色々な事があった。

 

勿論今、おれの隣で優雅に茶を飲んでいる(自称)仙人こと、霍青娥がおれにいろいろとちょっかいを出したのが原因である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

 昼過ぎのこと

 

 

 

「それじゃあ早速釣りへ行ってもらいましょうか」

 

「いや、ちょっと待ってくれよ。釣りっつったっておれ河川やら湖やらがある場所なんて知らないぞ」

 

「問題ないですわ。私が知っているもの」

 

「あ、そうですか」

 

 

ああ、面倒だなぁ。釣りなんて百年近くやってないぞ。

 

最後にやったのは確か……諏訪子の神域の湖でやったな……あのときは諏訪子にキレられて拳骨くらったのを覚えているから間違いない。あれ、よくよく思えば萃香のよりも重かったな。流石神だ。

 

「熊口さん、いってらっしゃい」

 

「おい、翠。まさか本当についてこない気か?」

 

「いやぁ……流石に私も疲れましたし、お風呂にも入りたいですし……」

 

「あ!そういえばおれも風呂に入ってない……」

 

そう思い、腕の匂いを嗅いでみる。

3日以上入ってないから相当臭いだろうと思いつつ嗅いでみたがなぜか全然臭くなかった。

 

「あら、貴方ならあの人に拭いてもらっていたわよ。というか服が変わっている時点でわかるでしょ」

 

「あ、うん。ほんとだ、着心地が似てたから気付かなかったよ」

 

「そう、熊口さんは入る必要はありませんけど私にはあるんです。なにしろずっと熊口さんの中に居たんですから!」

 

「んー、はいはい。わかったよ、置いていけばいいんだろ」

 

 

くそぅ、本当はおれも暖かいお風呂に肩まで浸かってぷは~良い湯だなぁって言いたかったぜ。

でも釣りに行かないで入ろうとすると『自分は仙人だ!』とか言っちゃうお年頃の青娥が怒るから無理だし……

そんなことをおもっていると翠は居間を後にして風呂場を探しにいった。

……あの急ぎようだと本当に風呂に入りたかったんだな

 

 

「んじゃ、釣り初心者の力、見せつけるとしますか」

 

まあ、翠がついてきても日光がでてる今じゃあんまり役に立たないし別にいいか。

 

よし、それじゃあまずは玄関と釣具探しだ!

 

「あ、別に玄関からでなくてもいいわよ。あと釣具もここに揃えてあるわ」

 

「なんで用意周到なんだよ……」

 

おれが魚を食いつくすってこと想定済みだったってか!

 

「……ていうか玄関から出なくていいってどういうことだ?」

 

「(ふふ、この男、さっき私が仙人って言ったとき完全にながしてきたからね……ここは仙人であることを証明するために一つ、術を見せて驚かせてあげましょう)そのままの意味よ。私が『玄関を作ってあげますわ』。」

 

「は?意味がわかん…………はい!?」

 

 

え?おれ目がおかしくなったのかな?

青娥が立ち上がってなにもない所に歩き出してなにをするのかと思ったら壁が急に円形型に壁が無くなってしまった。円形型に開いた壁の先には木々が顔を見せている。

 

お、おいまさか恩人の家の壁を吹き飛ばしたんじゃないだろうな!?

 

 

「心配しなくても大丈夫。少しすれば……ほら」

 

「うわ、元に戻った!?」

 

 

何がどうなっているんだ……急に壁が消えたと思ったら元通りに壁が出現したんだけど

 

 

「ふふふ、驚いているようね。そう、これは仙人が使えることのできる術の一つよ。

因みにこの(のみ)で穴を開けたわ」

 

「は、はぁ。そりゃすごいっすね……」

 

 

まさかこの女、本当に仙人なのか?おれの思ってた仙人のイメージとかけ離れてんだけど……

 

 

「……やっぱりおれがあんたのことが仙人であることに半信半疑だったのを不服におもって技をみせびらかしたのか?」

 

「まあ、そんな感じよ……ていうか貴方、半信半疑どころか、全く信じてなかったでしょう」 

 

「そりゃあ私は仙人だ!って言われても信じられる訳がないだろ。大体仙人とか年老いた人がなるもんだと思ってたし」

 

雲に乗った白髪だらけのお爺ちゃんが念仏唱えている感じだったしな、おれの想像してたイメージ。

 

「今なんかとても心外なこと思われた気がしたんですけど」

 

「気のせい気のせい。よし、じゃあ青娥の力を見せびらかされたことだし、さっさと行こうぜ。日が暮れるぞ」

 

「見せびらかされたって……私はただ仙人であることを証明したかっただけですわ」

 

「本当のところは?」

 

「仙人であることを主張したかった……ってなに言わせるの!」

 

「うわぁ……本当に自分で言っちゃう人いたよ」

 

「の、ノリに付き合ってあげただけですわ!!」

 

「いい加減行こう!」

 

「無視しないで!」

 

 

結局玄関から出ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 道中

 

 

「そういえば貴方、なんで道端で倒れていたの?」

 

「あ?ああ、そうだな。んー、簡単に言うなら逃げ出したってのが正しい言い方なのかな」

 

「もしかして……家出?」

 

「いや、家出では無いな。旅だ。ただなにも持たずに出たから食べるものが無かった」

 

「馬鹿ね」

 

「うっ……そういう青娥はどうなんだよ。左腕怪我しているようだけど」

 

「ああ、これ?実はこの地に道教を広めようとしてちょっと前にここじゃない村に行ったことがあったんだけどね……見事に返り討ちにあいましたわ。『我等は神道に崇拝す者だ』やらなんやら言われて殴られたりして」

 

「ひ、酷い話だな」

 

「あら、てことは貴方、道教を広めてくれるますの?」

 

「いや、なんでそうなるんだよ。道教やら神道とかおれにとっちゃどうでもいいし。」

 

「道教を知らないの?!」

 

「知って当たり前みたいな反応されても困るんだけど」

 

「仕方ないわね。仙人である私が直々に教示してあげますわ。

___________道教とは儒教、仏教に並ぶ中国三大宗教の一つで」

 

「え?」

 

「漢民族の土着的であり伝統的な宗教なの」

 

「おいって」

 

「そして道教の『道教』のところの意味はしんにょうの部分が″終わり″を意味していて『首』の部分は始まりを意味していて____」

 

「ちょちょちょまってくれ!おれの脳みそが全然ついていけてない!お願いだから道教について語らないでくれ」

 

「いやいや、こんなの基礎中の基礎にすらなっていないわ。これからもっと深く道教の素晴らしさを教えてあげようかと……」

 

「いや、ほんと。これ以上聞いても頭を通りすぎるだけになって青娥が説明しても全く伝わらないから」

 

「貴方、ひょっとして馬鹿?」

 

「それは心外、興味がないからわからないだけ」

 

「それでは道教について話しの続きを始めたいと思います」

 

「ごめんなさい。僕が馬鹿なだけです。」

 

「仙人に嘘は通じませんことよ?」

 

「あ、はい……」

 

 

はぁ、勉強なんて士官学校『1章参照』以来全然してこなかったからなぁ……

というより、やっぱ青娥って中国から来たんだな。まぁ、見た目とか名前とかで何となくそんな感じはしていたんだけどな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 川にて

 

 

「うわぁ、水が透き通っていて綺麗だな」

 

「そうでしょう。私もこの川を見つけたとき感嘆しましたわ」

 

「んじゃ、早速釣りを始めるか」

 

 

こんなに水が綺麗だったとはな。前世では環境汚染とかでおれん家周辺の川の殆どが濁っていたからな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「釣れないなぁ」

 

「……まだ5分しか経ってませんことよ。」

 

「だって釣れないとさぁ、つまんな…………いや、待てよ。釣れないってことは……」

 

「?」

 

「その間ゆっくり出来るってことじゃないか!!」

 

「そこ!?」

 

3日間何故か歩き続けたりしていたせいでゆっくりする時間なんてなかったからな。

ここはゆっくりまったりと川のせせらぎでも聞きながらのんびりしようじゃないか!

 

 

 

 

 5分後

 

「……」

 

「お、引きが良いですわね。これは当たりかしら?」バシャバシャ

 

 

 

 10分後

 

「…………」

 

「これで5匹目、よく釣れるわね……」

 

 

 

 15分後

 

「………………」ズゥ~ン

 

「ふぅ、もう魚入れの中がいっぱいになったわ。こんなには食べないし生態系にも影響が出るだろうから何匹か逃がしてあげましょうか」

 

 

「ナンデ……」

 

「え?なにかいったかしら?」

 

「なんで青娥ばっかり釣れるんだよぉ!!!!!」

 

「……ま、まぁ、運がなかっただけじゃない?」

 

「何故だ!なぜ隣にあるおれの餌には目もくれず青娥のばっかり食べるんだコンチクショウ!流石に釣れなさすぎるとムカつくわ!」

 

「あ、餌……もしかして貴方の、餌だけ食べられてるんじゃない?」

 

「あ」

 

 

と、竿をあげて針部分を水面から浮かしてみる。

すると案の定、青娥のいった通り餌がきれいさっぱり消え去っていた。

 

 

「とても時間を無駄にした気分だ………」

 

「ま、気を取り直して頑張りましょう」

 

「つってももう夕暮れだぞ。もうそろそろ帰らないと。

おれを助けてくれた人に会わなきゃいけないし」

 

「それもそうね。それじゃあ最後に貴方が釣れたら引き上げるとしましょう」

 

「だな」

 

 

 

そのあとすぐにこぶりだが魚を釣ることがおれは青娥とともに来た道を引き返すことにした。

 

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

「お爺さん。本当にありがとうございました。このご恩は明日こそ、改めてかえさせてもらいますよ」

 

「いやいや、別に恩を売るために助けたわけではないよ。ただ私が助けたいから助けただけだ」

 

 

うっ……涙が出そうだ。ここまで優しく接してくれたのは編入試験のとき、昼飯を忘れたおれに依姫がカ○リーメイトみたいのをくれた時以来だ……

 

 

「んじゃ寝ます」

 

「おやすみ。ゆっくり休むんだよ」

 

「それでは、私も寝ます、お爺さん。お休みなさい」

 

 

そんな優しさを身に染み込ませつつおれは起きたときいた部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「熊口生斗……謎の多い人間ね」

 

 

あの類いの人間は初めてね。まず人間の体内から守護霊が出入りするなんてまあまあ生きている私からしても始めてだったわ

 

「ふふ、少し予定変更といこうかしら。都に行って太子との交渉の前にまずあの男に興味が湧いたわ」

 

 

さて、どう試してあげようかしら?

もし期待外れに死んでしまってもキョンシーにしてあげれば万事解決よね

 

「明日が楽しみね……生斗」

 




道教については完全にwikiを見ながら書きました。
道教わからん……


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参話 面倒だけど行くしかないか

青娥視点です

あ、あと今回『遷さん』って名前が出てきますが生斗を助けたお爺さんの名前です



「さて、どうしようかしらね……」

 

 

熊口生斗という不思議人間が老人に拾われて3日経った。

もう殆ど腕の怪我も完治してきたのでここからおいとましようかと考え始めてる。目的もあるし……

 

しかしねぇ。まだあの男の実態を掴めていないのよねぇ……だからまだここを出るわけにはいかない。

 

彼がきて次の日、取り敢えず試すという意味合いで影から色々してみた。

落とし穴をしかけてみたり、霊弾を彼に向けて撃ってみたり、小妖怪を彼とでくわすように仕向けたりもした。

 

結果。落とし穴には見事に引っ掛かり、霊弾も綺麗に頭に直撃して、小妖怪には軽くいなして森へ帰していた。

 

「なんだ、青娥。箸が止まってるぞ、考え事なら食ったあとにしとけ」

 

「あ、ごめんなさい。(貴方のことを考えてたのよ)」

 

 

あれほどおかしな人間は見たことがないわ。

落とし穴を引っ掛かったのは兎も角、加減したとはいえ霊弾を頭に直撃して無傷なんて普通の人間にはあり得ないわ。

それに小妖怪のこともそうだ。

人間は妖怪を畏れるもの。小妖怪ならばまだ普通の人間でも対処できる程度の力しかないのでまず間違いなく排除されるはず。

それに(種族の違いもあるが)小妖怪でも人を殺し、食せば妖怪としての格が上がる。そんな危険因子、目の前にいるのならそれを消す絶好のチャンスだというのに……彼は殺さずに逃がした。

 

ただの馬鹿か大妖怪になろうとも勝てるという絶対の自信があるのかどっちなのか、それすらもよくわからない。

 

 

「はぁ、私がなにかに固執するなんて何年ぶりかしら……」

 

私は家族を騙し、捨て去って仙人となった。

父が山に籠るほど道教に熱中し、そして家に残した本から私も道士への憧れがでた。

それから霍家に嫁入りしたのだけれど諦めきれず結局、自分が死んだと偽装して仙人への道へ進んだ。

 

そのせいもあって私は邪仙と呼ばれる部類にはいる。

しかし、邪仙であっても仙人は仙人。その時の私の高揚感は計り知れない。

そして今、そのときと同じぐらいに私はワクワクしている。

未知のものへの興味、やはりいつまでたってもこれによる興奮は抑えられないわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の中心部付近

 

 

「やっぱり手っ取り早いのは彼に戦わせることだと思うのよねぇ」

 

なんとなくよった村の中心部で私はあの男の事を知るために思考を巡らせている。

 

妖怪と戦わせようにも小妖怪以上のものになると私にも誘導させづらくなって面倒だし……

 

 

「はぁ、いっそのこと私自らが戦おうかしら」

 

 

いや、相手の実力がわからない今、無闇に戦うのは得策ではないわ。

知り合いとはいえ、勝負には容赦ない人だったら危ないからね

 

 

 

「ねぇ、知っているかい?最近ここ付近で子供が連れ拐われているらしいわよ」

 

「知ってる知ってる!今日も村の有力者が集まって対策会議しているって専らの噂だわ」

 

 

彼のことについて行き詰まっている最中、道の端っこで雑談をしている奥様方の声がきこえてきた。

 

……子供を拐う妖怪?

 

「ちょっと失礼してよろしいかしら。その話、詳しく聞かせてもらいません?」

 

「あら、貴方は遷さんのとこの……」

 

「霍青娥と申します」

 

 

ふふ、良いことを思いつきそうだわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ここね……)」

 

 

現在、私は屋根裏にいる。理由は勿論奥様方の言っていた会議の内容を盗み聞きするため。

 

 

「村からでた子供が行方不明になるという騒動が多発しているわけだが……遷さん、どうするんです?」

 

「そうだな。子供達が無事でいてくれればいいんだが……」

 

「それもあるけれど……いい加減元凶の妖怪を仕留めないと。このままじゃこの村の子供が全ていなくなるかもしれませんのだぞ」

 

「(ほうほう、これはお困りのようね…………いや、これはまたとない好機かもしれないわ!)」

 

ある思案を思いついた私は今いる屋根裏に鑿によって穴を空け、皆が囲んでいる丸い大机に着地した。

 

 

「急に現れて申し訳ありません。

しかし今のお話で私に良い案がありますのでついでしゃばってしまいましたわ」

 

「な、何者だ!?」

 

「青娥さん?なぜ貴方がこんなところに……」

 

流石に急に現れたので会議に参加している殆どの人が驚いているようね?ま、そんなことお構い無しに話をつづけるけど

 

 

「今回の件、私と生斗に任せてもらいませんでしょうか?」

 

「「「は?」」」

 

「青娥さん!?これは貴方たちには関係のないことだ!貴方たちが命を危険に晒すことははいのだぞ!」

 

やはりこの老人、優しいのね。自分の村の事が大変な事態になっているというのに私達の心配をしてくれるなんて……

でもそれはいらぬ心配よ。私だって命を賭けるなんてまっぴらごめんだし。

それに今回のは私の作戦の駒になってもらうだけだから逆に受けさせてもらわないと困るのよね

 

 

「私と生斗はそこにいらっしゃるお爺さんに命を救ってもらいました。しかしそのご恩、いまだに返しきれていません。

なのでどうか、私と生斗に今回の件を任せてもらえないのでしょうか?」

 

「だから別に恩を売るために助けた訳じゃ……」

 

「いいじゃないか遷さん」

 

「!?」

 

「どちらにしてもこの村には屈強な男はいない。ここでどれだけ会議をして対策をしようと結果は同じこと。元凶を絶たなければ……!」

 

「しかし……」

 

「賭けて見ましょうよ!遷さん!私は昨日、あの生斗という人の剣捌きを見せてもらいました!

あの剣捌き、私がこれまで生きてきた中で見たことのないほど美しく、かつ繊細でした!あの人ならば必ずや元凶の妖怪を抹殺してくださるでしょう!」

 

 

なにそれ、私それ見てないわ!羨ましい……

 

 

「むむむぅ~」

 

「お爺さん、私からもお願いです。大丈夫、私は仙人です。そこらの人間より丈夫にできておりますし強いです」

 

「その仙人というものがよくわからないんだが………」

 

「今さっき見せてあげたでしょう」

 

「……部外者に村の事を任せるのはどうしても気が引けるのだが……」

 

中々しぶといわね……仕方ない

 

「お願いします!私はお爺さんに……いや、この村に恩返しがしたいのです!部外者である私を心暖かく迎えてくれたこの村に!」

 

「遷さん……この人もこんなにも言ってくれてるんだ。任せてみないか?」

 

「うむぅ…………わかった。今回の件を青娥さんと生斗くんに任せることにする。しかし、これだけは約束してくれ。

 

 死ぬなよ!」

 

「そんなの、百も承知ですわ」

 

 

このときの私はとても満面の笑みを浮かべただろう。

頑固なお爺さんを説得できたのだから。

ふふ、これで彼の実力が解るわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 森の中

 

 

「んで、なんでついでにおれまで行く羽目になっちゃってんの?

仙人さん一人で事足りると思うんですよね」

 

「あら、か弱い女の子を一人で数も強さもわからない妖怪と戦わせるつもりですの?」

 

「お前が勝手に約束したことじゃねーか……ったく」

 

「あら、あんまり怒らないのね。貴方の守護霊には遠慮なくアイアンクローっていう技を繰り出してたくせに」

 

「そりゃ今回があまりにも理不尽だったらお前にもくらわせてたよ。でも今回は子供達の命がかかってるんだ。呑気に昼寝している場合じゃないしな。あ、あと翠は今お爺さんのとこで昼寝してる」

 

「ねぇ、思ったのだけれど貴方の守護霊、全然貴方のことを守護してないわよね?」

 

「おれはあいつを守護霊とは思ってないからな。」

 

 

それよりも子供達の命がかかっているから……ね。

普段では見られない正義感ね。

3日だけの仲だけど彼がかなりのグータラだってことはわかっている。

やはり生斗には色々楽しめそうなものがあるわね

 

 

「それでは、いきましょうか。妖怪退治」

 

「もう行ってる最中だけどな」



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肆話 この変態め!

「ここが例の妖怪がよく出没する場所よ」

 

「ふぅん、森の中にこんな広場があったのか」

 

「元々は子供達の秘密基地とやらに使われていたらしいわ。」

 

 

おれと青娥は今、村の子供達の奪還及び元凶の妖怪の退治をしに犯人らしき妖怪の目撃情報が多い森に来ている。そして今の会話からわかる通り元凶の妖怪のテリトリーに足を踏み入れたところだ。

 

 

「ていうかなんで子供しか拐われてないんだ?」

 

「私に聞かれてもお答えしかねる質問だわ」

 

「まあ、そうか」

 

 

うーむ、まあ、確かにそんなのは犯人を追い詰めてから聞き出せばいい話だろうな。

 

 

 

「それでは、ここからは手分けして捜索することにしましょう」

 

「は?何でだよ。相手の戦力がわからない今、無闇に分散するのはまずいだろ」

 

「それはそうかもしれないけど……ほら、時間は限られているじゃない?日が沈めば捜索が出来なくなるし、子供達も(生きていたら)怯えながら私達の助けを待っているのよ。」

 

「そ、そうか」

 

戦力を削ぐのはあまり気は進まないが青娥の意見にも一利ある。

もし子供達が今無事であったとしてもそれが明日まで続くという保証はどこにもない。

 

 

「でもいいのか?おれは兎も角青娥は一人で」

 

「相手の心配より自分のことを心配した方が良いんじゃない?私は仙人であってそこいらの妖怪なんかには負けないわ。それにいざとなれば鑿を使って逃げればいい事だし」

 

「あ、そうか。ならいいか」

 

「今の質問をしてくるってことは私の案を了承してくれるってことかしら?」

 

「まあな。確かに効率を考えると手分けして探した方が良い」

 

「わかったわ。(ふふふ、上手くいったわ)

それでは私はあっちの方を探すから生斗はそっちの方を探してくれない?」

 

と、青娥が西と北の方に指を指す。

青娥が西でおれが北、つまりそのまままっすぐか

 

 

「わかった。みつけ次第派手な霊弾を打ち上げてくれ。

出来るだろ?この前おれの後頭部におもいっきり当ててきたんだから」

 

「あら、バレてたの。ごめんなさいね」

 

「言うのがおせーよ。」

 

 

はあ……んじゃ、探すとするか。できれば妖怪に出会わず子供だけ見つけられればいいな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 西side

 

 

よし、今の段階までは予定通りだわ。

あとは後からこっそりと彼を追いかけていればいずれは元凶と出くわすでしょう

 

 

「では、もう少ししてから追いかけるとしましょう……」

 

 

そんなことを思いつつ私は笑いをこらえた。

 

 

「こうも自分の計画通りにことが運ぶと良いものね」

 

 

彼が元凶の妖怪と接触すれば私がずっと気になっている彼の戦闘がみられる。

そしてその戦いが始まればもう私にとっての計画は成功したも同然。

もしその戦いで彼が死んでも私がその死体を拾ってキョンシーにして使ってあげるし、勝ったのなら村の人々に感謝される。

どっちに転んでも私に不利益な事はないわ。

あるとすれば彼が負けた場合、死体を拾ったのち、そのままトンズラする事で村の人達に恩返しが出来ないことぐらいかしら?

 

まあ、そんなことも私ならすぐに忘れるでしょう。

取り敢えず一応私がいるところも妖怪の縄張りの可能性もあるから息を潜めておきましょう。

私が元凶の妖怪に出会ってしまったら計画に支障をきたすからね 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 北side

 

 

 

「おーい、聞いてるー?やっぱり幼女って良いよなぁ心も体も綺麗だし、なにより胸がね!」

 

「……」

 

 

変なやつに絡まれちまったよ、おい。

なんだこのロリコンは……なんか急に茂みから出てきたと思ったら急にロリやショタについて熱く語り始めやがった。

 

なんなんだよコイツ。妖怪か?妖怪なのか?いや、妖怪だろこいつ。

外見はただの優男(勿論弱々しい意味で)だけど耳尖ってるし……

 

 

「おいおい、折角この僕が幼女について熱弁してやってるのに無視かい?」

 

 

いや、どうみてもこいつ犯人だろ。うざいし、妖怪だし、ロリコンだし……

 

「おれ、別に子供とかに興味ないから。それにもっと大人っぽい女性の方が魅力的だろうが」

 

「!!…………そうかい。やっぱり君も僕とはわかりあえないようだ……」

 

「は…………!!?」

 

 

おれの前にいた変態が突如姿を消した。

 

 

『僕の縄張りに入ってきたからてっきり同志かと思っていたけど、どうやらちがったようだ。残念、その怪しげな眼鏡、同種の匂いがプンプンしてたのに……』

 

「?!おい!何処にいる!」

 

 

なぜか森全体に響き渡るように変態の声が聞こえてくる。

そのせいで奴が何処にいるか掴めない。

くそっ、あいつは一体なんなんだよ!

 

 

『もし同志ならこの先にある理想郷(エデン)へ連れていってあげようとしたけど……

まあ、いい。邪魔物をこの先へは行かせるわけにはいかないからね。ここで死んでもらおう!』

 

 

「ちっ!やっぱりお前が犯人か!」

 

 

畜生!子供達だけ見つけられればいいやとかフラグを立てたのがいけなかった!

そんな遅れた後悔をしつつ、霊力剣を生成して臨戦態勢に入る。

 

 

 ボウゥオォォン!!!

 

「ぐっ!?」

 

 

なんだ?滅茶苦茶煩い音とともに誰かに腹を殴られたような衝撃が来たぞ?!

 

 

『くくくっ、どうやら混乱しているようだね』

 

 

「くっ……!」

 

たぶん変態が遠くから撃ってきたものだろう。

 

それならと遠距離戦に持ち込もうとしたおれは霊弾の弾幕を放った

 

『無駄無駄ぁ~。そんな〔小さい音〕じゃ僕に掠り傷1つつけられないよぉ』グオォン

 

「……あがっ!?」

 

次はアッパー、顎をおもいっきり殴られてしまった。

 

い、いかん……一瞬意識が飛びかけたぞ……

 

 

『あらら~、折角だした光る剣もなくなっちゃったねぇ』

 

くそ、集中力が切れてしまったせいで霊力剣を維持できなくなって消滅してしまった。

さっきの攻撃でまだ脳も正常に動いてくれない

 

「く、そ……どうなってんだ?」

 

『くく、教えないよー』ブゥン!

 

「うぉ!」

 

『!?なぜ避けれた?』

 

「はぁ……はぁ…」

 

あぶねぇ……足がおぼつかなくてふらついたら偶然避けられた……

 

 

『まあ、いい。次でトドメだ!』

 

 

よし、漸く脳が正常になってきた。だけどあの変態は次でおれを仕留めるらしい。

つまりいままで遊ばれてたってことか……腹が立つな

 

『サヨウナラ。』ブウゥゥン!!

 

「!!!」サッ

 

『……な!また避けた!?』  

 

 

わかったぞ。てかかなり簡単だったな、こいつの攻撃の攻略方法。

 

 

「お前の攻撃、滅茶苦茶煩い」

 

 

『はぁ!?』

 

 

「だからお前が攻撃するときブオォンやらブウゥンやらいって煩いんだよ。こんなの簡単に避けられる」

 

『な、なにをいってるんだ!?僕の体当たりは”音速”なんだよ!音が煩いからって人間がどうこうできる訳がない!!』

 

「馬鹿いえ、人間を舐めるな。現におれに避けられてるじゃねーか」

 

『し、信じられない……』

 

「ふぅ……んじゃお前の攻撃を攻略したことだし、さっき殴られた分の仕返しと行こうか」

 

『ふん!馬鹿め!今の君に僕を倒すことなんてできやしないよ!

なんたって僕は今、《音》なんだから!』

 

 

「音?」

 

『(あれ?驚かないの?……まあいいさ。)そうさ、だから物理攻撃は僕には全く効かない。それに速さも音速だから君は僕から逃げることなんて絶対にできない!』 

 

「音…………音、ねぇ」

 

それなら攻撃するとき音が煩いのもわかる。そういえばここの周りに耳を澄ましたらスゥーンって音が聞こえてくるし。たぶんその音が奴の本体なんだろう。

 

ん?ちょっと待てよ?そういえばさっきあいつ……

 

 

 『『無駄無駄ぁ~。そんな〔小さい音〕じゃ僕に掠り傷1つつけられないよぉ』』

って言ってたよな?

 

小さい音じゃ……掠り傷1つつけられない……?

 

あ、なんかわかったかも。こいつを倒す方法。

 

『なんだい?急に黙りこんで……諦めて大人しく僕に殺される覚悟ができたの?』

 

「……んなわけねーだろ」

 

 

んじゃ、突破口かもしれないのも見つけたことだし、いっちょ派手なのやりますか!

 

『またさっきの霊弾かい?そんなんじゃ僕に掠り傷1つつけられはしないよ』

 

「果たしてこの霊弾がただの霊弾だと思うか?」

 

 

そう、今、おれは後方に爆散霊弾を20個ほど生成した。

実際おれの寿命ブーストがない状態での爆散霊弾の生成はこれが限界だ。んま、足りるだろう。

 

 

   大爆発を起こすだけなんだから

 

 

 

「それじゃあ」

 

と、おれは手をあげる。それに呼応するかのように爆散霊弾は上空へ飛んでいく。

 

『な、なにをする気だい?』

 

「んー?それは味わってみてからの」

 

 

そしておれは手を下ろし……

 

 

      「お楽しみだ!」

 

 

霊弾を着弾させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ボガアァァァァァァンンン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ……」

 

 

ちょっとやり過ぎた。前に鬼にやったときよりも凄い爆発を起こしてしまったよ……

自分は巻き込まれないように撃ったけど衝撃波やら石やらが飛んできて結局おれ自身もボロボロだ。

んま、グラサンは無傷だけど

 

 

 

「な、なんで……ぼ、くの弱点が……爆音だって、わかっ、た?」

 

「ん、お前生きてたのか?」

 

 

と、おれの前にさっきおれを散々弄んだ変態が出てきた。

自分でいうのもなんだけどあれでよく生きてたな。鬼じゃあるまいし……んまあ、物理攻撃は食らわなかったようだから大丈夫なんだろう。

服もあんまり汚れてないし

 

 

「僕の、し、質問にこた、えろ!」

 

「んあ?弱点のことか?そんなのお前が墓穴を掘っただけだろうが。

小さい音じゃ掠り傷1つつかないって……

なら大きい音ならどうなんだって話だろ?」

 

「くそ……僕の、僕の理想、郷が……!!」ドサッ

 

 

ついに力尽きたのかその場で変態は倒れた。

 

 

「さっきから思ってたけど理想郷ってなんだ?」

 

「り、理想郷とは……」

 

なんだ、まだ生きてたのか

 

「幼児が沢山いる、空き家の、こと、だ……よ」

 

「一旦黙って気絶しとけ」ボガッ

 

「ぐえっ!?」 

 

おっと、思わず殴ってしまった。

 

 

 

 

 

「……ま、取り敢えずおれの仕事完了ってとこかな?」

 

 

そんなことをいいつつその場に座り込む。

 

はあ、服も体もボロボロだ……早く家に帰って風呂に入りたい。

あ、あと顎の治療だな。




因みに今回でた変態は男女両方いけるタイプです。


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伍話 先越された!

久しぶりですね。
遅れましたが伍話更新です。



「凄い…………なんなの?あの爆発……」

 

茂みに隠れ、生斗の戦いを見ていたときに思わず出た感嘆の呟き。

今はもう戦いは終わり、倒した妖怪の上に彼が座っている状況が続いている。

 

 

「やはり私の目に狂いはなかった。

彼は強い。あんな威力の霊弾、くらったら仙人の私でも軽傷では済まないわ……」

 

 

勝負事態はあまり長引きもせず肉弾戦にもなりはしなかったのだけれど……相手の言動の違和感をいち早く察知できる洞察力、相手の奇怪な術に決して屈しない精神力、相手の能力を見抜き、即座にそれの弱点をつく技をだせる応用力。

その少しの戦いの中でもこれだけの戦闘分析ができた。

 

今の戦いにおいて私は確信した。

 

 

 

 

 

 

 

  彼には仙人になれる素質がある。

 

 

 

きっと素晴らしい仙人になれるわ。

ふふ、道教を広めるため、太子様と接触しにこの地に足を踏み入れたのだけれど……思わぬところで掘り出し物と巡り会えたわね

 

 

 

「おいこら変態。いつまでそこでへばってんだ。さっさと子供たちのいる小屋に連れていけ」

 

 

おっと、私が生斗を仙人にする計画を練ろうとしていたらなにか話しているわね。

まぁ、別に計画に関しては焦ることではないし耳を傾けて見ましょう。

 

 

「う……嫌だ…ま、まだ誰も(性的に)食べていない新品なんだ……それに…ま、だ仲間も集まって、いない!これじゃ、あ僕の野望を達成、できない!だ、だから絶対に、おしえ、るもんか!!」

 

 

な、なにこの変態……

 

 

「……そうか。因みにその野望ってなんだ?」

 

「この世の全ての少年少女を(性的に)食べることだ!」キリッ!

 

「この世の全ての少年少女のためにお前を殺さないとな」ドガッ

 

「いぢゃい!?」

 

 

良い判断よ、生斗。でもこういう輩には鉄拳制裁ぐらいじゃ済まないと思うのよね。まぁ、拳骨食らわせたときにあの妖怪、舌を思いっきり噛んでいたから良しとしましょう。

 

 

「くしょう!しちゃかんじゃっちゃじゃにゃいか!(くそう!舌噛んじゃったじゃないか!)」

 

「いや、聞こえないから。もう少し滑舌よく喋れよ……つーかなんでそんなに涙目なんだ?」

 

「だきゃりゃ!しちゃかんじゃっちゃんじゃって!(だから!舌噛んじゃったって!)」

 

「ああもういい、喋るな。お前は黙って小屋まで案内しろ。まぁ、ここ一本道だから案内いらないかもだけどな。

あとさっきお前が言っていた通りなら共犯者はいないんだろ?」

 

「どうきゃな?(どうかな?)」

 

「あ、今のはなんとなく聞こえた。」

 

 

著しくあの妖怪の滑舌が悪くなっているわね。舌噛んだ拍子にちょん切れたんじゃない?

 

と、そんなことを思っていると生斗は立ち上がり、妖怪の着ている服の奥襟を持って妖怪を引きずりながら前へ進んでいった。

 

 

「はなしぇ!ぼきゅをだりぇだとおもっちぇる!(放せぇ!僕を誰だと思ってる!)」

 

「滑舌が絶望的に悪い変態」

 

「かちゅぜちゅがわりゅくなっちゃのはおまえのしぇいじゃろ!(滑舌が悪くなったのはお前のせいだろ!)」

 

 

いや、ほんと悲しくなるぐらい悪くなったわね、あの妖怪。

舌噛んだぐらいであそこまで悪くなるものかしら?

 

と、そんなどうでもいいことに頭を使っている暇はないわ。

まずは先回りして子供たちのいるであろう小屋を見つけなくちゃ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「やっぱ案内要らなかったな」

 

「ふぅ、やっと舌が治ってきた。やはり僕の自然治癒力は最強だね!」

 

「いや、うるせー」

 

 

おれが今話している変態と戦った場所からただひたすら真っ直ぐ行ったところに小屋が見えた。

因みに現在、変態はあらかじめ用意していたロープで縛っている。まあ、縛っていてもまた音になられたらすぐ抜け出されるんだけどな

 

 

 ガヤガヤ

 

 

「あれ?小屋の中が騒がしいな」

 

「ま、まさか僕がこのへんな眼鏡かけた奴に負けたことを察知して皆泣いてくれているのか!?」

 

「なわけねーだろ。つーか長い。……て、ちょっと待てよ。今おれのグラサンのことを何て言った?」

 

 

 ガチャ

 

「あ、ドアが開いた」

 

「おー!やはり皆僕が帰ったのを察知して態々出迎えてくれると言うのかい!?」

 

「誘拐犯を出迎えるやつなんてそうはいないだろ……」

 

 

でもなにかおかしい。誘拐されたとすれば普通なにかで縛られていたりドアを閉められたりして出られないようにしているはずだ。

そして誘拐した張本人が家の目の前にいる。

この小屋ははっきりいってボロ屋だ。外の声も丸聞こえなはず。

もし鍵が閉まってなくて拘束もされていないとしても今でるのは馬鹿としか言いようがない。まぁ、今回はおれがこいつを叩きのめしたから一応大丈夫なんだけどな。

 

と、今ドアを開けた奴に対して心の中で馬鹿にしていると、そこから見覚えのある人物が出てきた。

 

「!?」

 

「こんにちは、お二人さん」

 

「青娥!?」

 

 

え、なんで青娥が小屋から出てきたんだ?

 

 

「ここが子供達が誘拐された場所で間違いないわ。今は皆泣きつかれたようでぐっすりと眠っているようだけど……で?今貴方が紐で拘束しているのが今回の?」

 

「ああ、犯人だ。」

 

「そう、いかにもやらかしそうな顔ね(知ってたけどね)」

 

「くそ!仲間がいたのか!……こうなったら!!」シュウゥン!!

 

「なっ!?」

 

 

くそ、また音になりやがった!

 

 

『ははは!ほら、あの爆発する弾でも撃ってきなよ!』シュゥーーー

 

「ああ、言われなくても撃ってやるよ!」

 

「やめなさい生斗!今あれを撃ったらこの中で寝ている子供達にまで被害が及ぶわ!!」

 

「……あ」

 

ん?てかおれ、青娥に爆散霊弾見せたことあったっけ?

まあいいや、今そんなこと考えている場合じゃない。

 

『そういうことさ!つまり君たちは僕に対しては無力!』

 

「ちっ……」

 

思わず舌打ちしてしまう。くそ、これじゃあ攻撃手段がない……

 

『ふっ、普通なら君たちをいたぶってやろうとしたけど流石に今回は疲れたから見逃してやる。

感謝するんだね!』シュゥゥゥゥン___

 

 

と、捨て台詞を吐いた変態の音が遠ざかっていった。

どうやらまた戦うことはないようだ。

 

「はぁ、今日は疲れたな。服はボロボロだし顎殴られたところいまだにいてーし……」

 

「まぁ、結果的には子供たちも全員無事だったことだし、良かったじゃない。」

 

「まあな」

 

「それじゃあ早速小屋の中にいる子供たちを背負って帰りましょうか。」

 

「そうだな、帰るか」

 

 

そうおれが言うと青娥は小屋の中に入らずそのまま帰路の方を歩いていく

 

「おい、ちょっとまて青娥。まさかお前、この中にいる子供達を運ばない気か?」

 

「重労働は男がするものよ。ほら、つべこべ言わずに運びなさい」

 

「おれ、一応怪我人なんだけど……」

 

「私も探し疲れて足がくたくたなの。子供一人運ぶほどの力は残ってないわ(嘘)」

 

「仙人なのに?」

 

「仙人の前に一人の乙女よ?」

 

「はぁ……そーですか。わかりましたよ、運べばいいんでしょ運べば」

 

はぁ、口論することさえ面倒だ。さっさと皆を連れて帰るか。

 

そしておれは以前鬼達の荷物を運んだときと同じ要領で子供たち一人一人を霊力で囲い、浮かべた。おお、中々いたな。10人はいるんじゃないか?

 

 

「んじゃ、帰るか」

 

「やはり凄いわ……そんな高等技術、私でも一人か二人が限界だわ」

 

「そうか?コツを掴めば結構楽だぞ」

 

 

さて、さっさと帰ってこの子達の親を安心させてやるか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?おもったけど青娥、何にもしてなくね?

 

 

「気のせいよ」

 

「心を読むな」



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番外 月の同窓会

リクエストが来たため番外をだします。語り部は小野塚(兄)です 

リクエストについてですが随時受け付けているのでいつでもしてほしい回があればいってください!
出来る限り出したいと思います。


※番外の時は台詞形式です。


 月の都 綿月邸一室

 

 

小野塚(兄)「えー、今回は士官学校第50期生の同窓会にお集まり頂きー、誠にありがとうございます。司会を務めるのは私、小野塚 歩がやらせていただきます。」

 

モブ「敬語なんてらしくねーぞ」

 

モブ「挨拶なんていいからさっさと乾杯しましょー!」

 

 

小野塚(兄)「ごほん、こういうのは形からなんだよ。いいから黙って聞いとけ」

 

一同「「「かんぱーい!」」」

 

小野塚(兄)「おい!?」

 

 

 

今日、俺達士官学校50期生の同窓会がある日だ。

参加者は一人を除いて全員が参加、といっても皆の予定を会わせるようにしたからな。本当はここにもう一人来る予定だったんだけど……

 

そんなことを思いつつ、部屋の中心部にいた俺はとぼとぼとシャンパンのある台へ行く。

そんな中、俺に近づいてくる一つの影があった。

 

トオル「勝手に始めちゃったね、皆」

 

小野塚(兄)「トオルか……あいつら、もう酒が回ってるんじゃないのか?」

 

トオル「仕方ないよ。久しぶりに皆で集まったんだから」

 

小野塚(兄)「まあな……確かこの前皆で集まったのって……5000年ぶりか?」

 

トオル「5100年じゃなかったっけ?」

 

小野塚(兄)「そうだったっけ?んまぁ、そんなことどうでもいいか。

それよりトオル、お前んとこ、子供が産まれたんだろ?羨ましいなぁチクショウ」

 

トオル「はは、おかげで影女にいつも尻にしかれてるよ……羨ましいなら歩も結婚すれば良いじゃないか」

 

小野塚(兄)「相手がいないんだよ!」

 

トオル「……どんまい」

 

小野塚(兄)「くそぅ、俺だけ行き遅れてるじゃねーか……」

 

 

そう、俺にはまだ子供どころか彼女すらいない、何故か!

トオルも依姫も豊姫もその他全員が結婚を果たしていると言うのに俺だけしていない。

つまりこの場にて未婚者は俺一人。50期生の中でも俺ともう一人しかいない。

もう一人が誰かって?当然生斗に決まってんだろ。あいつが結婚するはずがない……いや、出来るはずがない!俺はそう信じている

 

 

依姫「なにか考え事ですか?」

 

小野塚(兄)「依姫か。俺に話しかけてくるなんて珍しいな」

 

依姫「ええ、そうですか?私としては結構話している方だと思うんですけど」

 

小野塚(兄)「年に一度喋るか喋らないかぐらいなんだけどな」

 

依姫「まぁ、そんなことはどうでもいいでしょう。

それより小野塚君。仕事の方は順調ですか?」

 

小野塚(兄)「順調もなにも月の女神の屋敷の警備ぐらいだしなぁ。はっきりいってやりがいがない」

 

依姫「嫦娥様の警備なんてそこらの兵に任せられる事なんかじゃないですし、凄いと思いますよ?」

 

 

今の会話の通り、俺は今、月の女神であり不老不死の薬を飲んだ罪人、嫦娥様が幽閉されている屋敷の警備が俺の主な仕事だ。因みに不老不死の薬は飲んだだけでこの月では重い刑に課せられる。今のところその薬を飲んだのは嫦娥様、そして蓬莱山 輝夜の二人だ。嫦娥様は幽閉されることでここに留まることは出来ているが蓬莱山輝夜は近々地上へ流刑に処されることとなっている。

 

とまぁ、そんな話はおいといて……なぜ俺が部隊長だというのに警備員なんてしているのかと言うと

それはとても単純な事だった。

 

平和、だからだ。お陰で兵士であった俺らはあまり必要となくなり、そういう仕事はこの月にいた玉兎達に任せられることとなり俺らは再就職先に悩んだ時期もあった。

 

 

依姫「それにしても……なぜ今頃同窓会なんて開いたんですか?」

 

小野塚(兄)「いやほらさ。この前生斗が地球で生存していたってことがわかっただろ?」

 

依姫「ああ、ツクヨミ様がダメもとで天照大神に捜査を頼んだらそれに当たる人物を見かけたっていう……」

 

 

そう、ツクヨミ様が姉である天照大神に生斗が地上にいるのかと聞いたら、『変な眼鏡を掛けた人物ならつい最近私の治める国に来ましたよ』との返答が来た。それを聞いた月の都の皆は早速使者を送ったりもした。

 

依姫「あ、大体わかりましたよ。天照大神の治める国に使者を送った時、熊口君が帰ってくるって思って今回の同窓会を企画したのでしょう?」

 

小野塚(兄)「せ、正解だ。」

 

 

まぁ、結果的には生斗はもうとっくにその地を離れていて居場所がわからず、使者を送ったことが無駄になったわけだが。

 

 

依姫「……熊口君、早く帰ってきてもらいたいですね」

 

小野塚(兄)「……ああ、そうだな」

 

 

俺はもう何億年と生きている。だからその分数えきれないほど色々な経験をしてきた。しかしそれらの記憶の大部分は忘れてしまった。

 

 

けれども、生斗と過ごした25年間の記憶は今でも鮮明に覚えている。

 

トオルと3人で馬鹿やったり、居酒屋で愚痴り合ったり、時には下らないことで喧嘩したりもした。

 

はぁ、懐かしいな。生斗のグラサンと俺を交換したら生斗の額に俺の下半身がくっついて取れなくなった思い出しただけでも笑いが込み上げてくる事件とかあったなぁ……

 

依姫「それに、今熊口君が帰ってきたら都全体が凄いことになりますよね」

 

小野塚(兄)「あ、確かにな。あいつは『英雄』だからな」

 

 

生斗は自分の身を犠牲にして俺らを救ってくれた。

もしあいつがいなければロケットが出る前に妖怪どもに壊されていたかもしれない。

そういうこともあって生斗は月の民からは『生ける英雄』として語り継がれ、玉兎教育用の歴史の教科書には大々的に載せられてもいる。

 

その場にいなかった玉兎達でさえ、あの妖怪の軍勢を一人で戦っている生斗のムービーを見て、あいつを尊敬する者も少なくはなかった。

一時期はグラサンブームも巻き起こって道端を歩く人々の殆どがグラサンをかけていた時期もあったくらいだ。

 

小野塚(兄)「いや、ちょっとまてよ。もし生斗が帰ってきたら……」

 

依姫「?」

 

 

生斗が帰ってきたら未婚者俺しかいなくなる可能性があるぞ!?

 

生斗月に着く→皆から手厚い歓迎をされる→生斗の勇姿に惚れた女が現れ、告白される→告白されたことのない生斗は思いやがって即OKする。→結婚!!

 

これは不味いぞ!生斗が帰ってくる前に結婚していなければ行き遅れが俺一人になってしまう!!

 

 

依姫「何となくですけど……小野塚君、とても下らないことを考えていますね」

 

小野塚(兄)「いや、決して下らなくなんかないぞ!

……てそれよりトオルは何処いったんだ?さっきまで一緒にいたんだけど」

 

 

依姫が来てから全然トオルが喋らないなぁとおもったらいつの間にかトオルの姿がなくなっていた。

 

 

依姫「ああ、それならあっちで……」

 

小野塚(兄)「……はぁ、影女のやつ。また悪酔いしてやがる」

 

 

依姫の指を指す方を見てみると酔った影女にトオルが酒を無理矢理飲まされている光景が目に写った。

トオル、あいつ滅茶苦茶酒に弱いからもう酔いつぶれているようだな

 

 

依姫「それでは、私はこれで。」

 

小野塚(兄)「ああ」

 

 

よし、依姫とも話したし。俺も早速日頃のストレスを発散させるとするか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5時間後

 

 

小野塚(兄)「それじゃあ今回のところは解散だな」

 

モブ「またやりたいねー」

 

モブ「あ、でも次やるときはあれだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

皆「「「「生斗が帰ってきたらだな(ね)」」」」

 

 

小野塚(兄)「皆……」

 

 

やはり、皆も生斗の事を忘れてなんかいなかったんだな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな感じで俺らは今も平和に暮らしている。だから生斗、何年、何十年、何百年、何千年でも待つ。

 

だから必ず帰ってこい。次は全員出席の鍋パーティーだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一方その頃

 

 

生斗「ヘっくしゅ!」

 

文「なんですか?生斗さん、くしゃみなんかして」

 

生斗「誰かがおれの噂をしてたな。たぶんおれの熱烈なファンだろう」

 

翠「いや、そんな人いるわけないじゃないですか。自惚れるのも大概にした方がいいですよ」

 

晩天「俺は尊敬してますよ!熊口様!噂するほどじゃないけど!」

 

生斗「お前は一言多いいんだよ、4馬鹿その1!」

 

晩天「晩天です!」

 




どうだったでしょうか?
今回は同窓会という形にしてしまったため、ツクヨミや永琳を出すことが出来ませんでしたが……

あと、最後のでわかる通り時系列は生斗が妖怪の山で暮らしている時ぐらいです。


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陸話 お、おれはなんて事を……!

初めてラッキースケベを書いたような……



「眠い……」

 

『起きたそばからなにいってんですか』

 

おじいさんの家の一室、今はおれが借りている部屋でおれは目を覚ました。うん、お布団最高。ずっと入っていたい。

 

……つーかこれ、久しぶりの二日酔いだ。

ん~と、おれの記憶が正しければ確か昨日は子供達を全員無事に送り届けたおれと青娥に親の方々が泣いて喜んでそのあと村全体で宴会になったんだよな。

そのあと青娥となにか喋って……

あれ?おれ青娥となに話してたんだっけ?

記憶が曖昧でどんな内容か思い出せない。

 

 

「ま、寝ればいつか思い出すか」

 

と、布団の中に再度入り込む。うん、おれの体温によって暖められた布団の中はほんっとーに最高だ。

 

そんな事を思いつつ大の字になって布団の暖かみを身体全体に行き渡らせようとした瞬間、なにか布団の中で見覚えのない感触がした。

 

 

 ぷにっ

 

 

「ん、なんだこれ?」

 

手の甲になんだか柔らかい感触が……ん?こんなところにシリコンなんて置いた覚えなんて……

て、ちょっとまてよ。こんな時代にシリコンなんてあったっけ?その前にあったとしても自分の布団の中にシリコンなんかいれるわけないし……それになんかいまおれの手の甲にある柔らかい物体には温もりが感じられる。

でもなんだ……手の甲にある柔らかい物体は……おれがこれまで生きてきた中で一番柔らかいかもしれないぞ。

こんな柔らかいもの、触ったのは初めてだ。

 

 

そんなどうでもいい感想を述べつつ柔らかい物体のある方向を向いてみるとそこには……

 

「ふふ、朝から大胆なのね……」

 

「…………」サァァ←酔いがさめる音

 

『変態……』

 

青娥さんがいました。そして触っていたのは青娥さんのピーーでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~現実逃避中~

 

 

皆さんは性というものに関心があるだろうか?

いや、関心がなければ子供なんか作れないしエロ動画サイトなんかも存在しない。

そんな性についてだがおれは永き時を経て結構薄れていた。

だから別に同じ部屋に女の子と二人きりだろうが襲ったりなんかは決してしない。翠が良い例だ。

しかし、おれは薄れているとはいえ、完全に枯れているというわけでもない。

10年か前、妖怪の山で秋天(天魔)や4馬鹿と揃って春画(エロ本)の鑑賞会を開いたりもしている。

結局あの結末は春画が浮世絵で全然興奮もしなかったし、秋天の嫁さん、射命丸、翠の3人に見つかり、天狗達に晒し者にされたあげく、目の前で燃やされるという悲惨な事になったわけだが……

と、話がそれてしまった。

つまりおれには性こそは薄れているものの……

 

 

 

「あら、これの続きはしないの?」

 

「シマセンヨ、ハハハ。……スイマセン」

 

 

もういや、なんなのこの仙人……なんでおれの布団の中にいんの?なんでピーー触られたのに平気でいられんの?なんで受け入れ体勢なの?!

 

 

「……昨日はあんなに積極的だったくせに」

 

「…………マジデスカ」

 

 

なんなの!?昨日のおれはなにが積極的だったのぉぉ!???

つーか青娥服着てるよな?もしそういう行為を酔っぱらってしたとしたならば普通マッパ(全裸のこと)のはずだよな?!

いや、まてよ……そういう行為をしたあとに着直した可能性だって……

て、ああああ!!ややこしい!?本当昨日のおれになにがあったんだぁぁぁ!!!

 

 

「責任、とってくださいね……」

 

「…………」プシュウゥゥゥ

 

「あら、また寝るのかしら」

 

 

まじか、おれ、酔ってる間に童貞卒業してたのか……

そんなことを想像してしまい、色々なことが一気におこって脳内での処理が追い付かなくなったおれの頭がオーバーヒートして意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

「いやぁ、まさか熊口さんがこんなにうぶだったとは」

 

「ちょっとした冗談でいったのに……」

 

「うわぁ、熊口さんの頭から湯気がたってますよ。これで鍋とかできるんじゃないですか?」

 

「あらほんと。そんなに恥ずかしい事だったのかしら?」

 

「意識を放置するぐらい恥ずかしかったんでしょうね。私の知る限りじゃ熊口さん、童貞ですし」

 

「へぇ……(これは使えるわね)」

 

「まずは起きたら謝らないとですね」

 

「絶対に怒るわよね、生斗」

 

「いやいや、大丈夫ですよ。もし怒ったとしても青娥さんの胸を揉んだことを盾にすれば一瞬で黙りこみますから」

 

「それもそうね」

 

 

 

_____________________

 

 

 ~村の周辺(夕方)~

 

 

「よくも騙したなぁぁぁ!絶対に許さんぞお前らあぁぁ!!」ズドーンッバーン!!!

 

「ねぇ?!怒らないって言ったわよね!?」

 

「なんでですかね?!もしかしたら熊口さんの逆鱗に触れてしまった可能性があるかもしれません!」

 

「もしかしてじゃなくて確実に触れてるわよね!確実に彼の逆鱗に触れてるわよね!!!」

 

「おれの純情を弄びやがって!お前らが灰になるまで爆散霊弾撃ち続けてやるからな!!!」バババババッ

 

「あの爆発する霊弾の名前、『爆散霊弾』っていうのね!……てそれどころじゃない!今は逃げなきゃ!」

 

「くっ、熊口さんがグラサンのこと以外でこんなに怒るなんて……こんなこと初」バーン!ピチューン…

 

「翠!?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば昨日おれになんか青娥いってなかったか?昨日の記憶が曖昧で忘れてしまってさ」

 

「ええ、そういうことならいつでも教えてあげるわよ。教えてあげるけど……その前に私を木に吊るすのをやめてくれたらね」

 

「いや、無理だ」

 

 

現在、翠と青娥はおれの純情を弄びやがったので人気のない場所で木に吊るしている。

流石に晒し者にするのは躊躇ったからだ。

 

それにさっきまで二人を追いかけてたのが村の近くでしかも爆発音を盛大に鳴らしまくったせいもあって村の人達に今の姿を見せるわけにもいかない。

だって昨日村の子供達を救った一人の青娥が木に吊るされてるのを見たらどう思う?

しかも吊るしてるのも救った一人という……

そういうこともあって村外れで吊るすことにした。

 

 

「あーあ、折角の髪が台無し」

 

「良いじゃないか。アフロヘア」

 

「良くないわよ」

 

 

因みに青娥と翠はおれの爆散霊弾をくらって頭がちりちりになっている。

青娥の方は気にしているがほら、翠は気にしてなんかないじゃないか。口から煙だして気絶してるけど

 

 

「ま、教えてあげるわ」

 

「おう」

 

やっと本題にはいったか。昨日、青娥がおれに言っていたことがなんなのか

 

 

「生斗。”不老不死″に興味はない?」

 

「ん?ないな」

 

「そう、やはり人間ですものね。長くいきたいと願うのは誰もが…………え?ないの?」

 

「あ、ああ、不老不死なんて興味ないな」

 

まずおれの能力も不老不死みたいなもんだしな。

まぁ、不老可死だけど

 

「不老不死よ!死ぬことも衰える事もないのよ!?」

 

「いや、おれ別にそんなこといいし。それにおれ、若く見えるかもしれないけどもう何百年といきてるぞ」←(本当は億単位で生きてる)

 

「ま、まさか貴方。仙人なの?」

 

「は?仙人なわけないだろ。仙人なんて噂でしか聞いたことないし。本当にいるだなんて青娥とあって初めてわかったわけだし。」

 

「信じられない……仙人でもないのに肉体が衰えず何百もの年を生きられるなんて……いや、そういえば前にも同じこと言っていたような……最初はちょっとした冗談と思っていたけど……でもそしたら彼の強さにも納得がいく。あんな力、普通の人間で20年ぐらいじゃ身に付けられる訳がないもの……」ブツブツ

 

「おーい、なに独り言いってんだ?」

 

「あ、いや、なんでもないわ。……それで、話は戻すけど。不老不死には興味はないのね」

 

「ああ」

 

「(ふぅ、まさかこの口説きが通じないとはね……)もう、回りくどい事は無しとするわ。

 

生斗……貴方、仙人になりたくはない?」

 

 

「そうか。不老不死に興味はないかとか聞いてきたのはそのためか」

 

「そうよ」

 

「確かに前に青娥が仙人について話してきたときは少し魅力的に感じたこともあった。霞を食べることができて、食費が浮くし、壁抜けとかもできるらしいしな」

 

「それなら……!」

 

「でもな。おれは仙人にはならない」

 

「え、なんでよ!?仙人いいじゃない?」

 

「だって_________

 

__なんかめんどくさそうじゃん?」

 

 

おれは気長に過ごせればそれで良いんだ。仙人なんてなる必要性はないしな。

 

 

 




ちょっと中途半端な終わり方となりましたね。



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漆話 青娥、こいつやりやがった!

 

「……」スタスタ

 

「……」スタスタ

 

「……」スタスタ

 

「……」スタスタ

 

「……」ズサッ

 

「……」サッ

 

「……おれの後ろをついてきたって仙人にはならないぞ」

 

 はぁ、これはどうすればいいんだろうか。

 昨日青娥からの仙人の勧誘を断って以来、ずっとつけられているような気がする。

 

「あら?私、別に仙人になってほしいからってついてきているわけではなくてよ」

 

「ならついてくんな!」

 

「あ!」

 

 

 なんだか面倒だったので空を全力で飛んで青娥をまいた。現に今、青娥に構っているほど暇じゃないしな

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 はぁ、逃げられたわ。

 

「まぁ、これも想定の範囲内ね」

 

 ちょっと早いけど次の段階へと進もうかしら。

 あ、その前にあの、老人に挨拶しなきゃね。生斗には残念だけどもう二度と彼と会うことはなくなるけど……まあ、別に大丈夫でしょ。

 

「まずは昨日来た人の家に片っ端からお邪魔するとしましょうかね」

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の近くの森

 

 

 

『熊口さん、やっぱり気づいてたんですね。』 

 

 青娥から逃げられたことを確認し、近場の森の中に着地すると、おれの中から翠が話しかけてきた。

 

 

「気づくも何もあからさますぎだっただろ、あれ」

 

『それにしてもなんで熊口さんなんかを追いかけてるんですかねぇ。』

 

「そりぁ、仙人の勧誘のためじゃないのか?」

 

『もしくは胸を揉まれた腹いせか』

 

「うぐっ、あれはただの事故だ」

 

 

 それにしてもどうしたもんか。青娥のやつ、おれが仙人にならないといってから行動が変だ。

 急にいなくなったかと思えばいつの間にか隣にいたりするし、なんか独り言言うし……

 

 

「まぁ、そんなことおれが考えてもなんにもならないか」

 

 

 取り敢えず青娥のことは後にしよう。

 

 

 

 それよりももっと重要な事があるんだ。

 

 たぶん、おれがこの世界に来て初にして最大の悩みだろう。

 

 

「はぁ、どうしたもんか……」

 

 

 

 

 

 

 

 実はおれ、この村の女衆に求婚されたんだよな。

 

 

 

 

 

 なんでおれなんかに求婚の願いが来ているのかというと、それはおれが妖怪を退治できる数少ない人間らしいからだ。

 このご時世、少しでも自分の子孫を残そうとより強い者と結婚したいと思うのが普通らしい。

 それで、今回あの変態を倒したことがきっかけで親共々、おれと結婚すればより強い子孫が残せるってことで昨日、村中の女の子達が親を連れておじいさんの家に押し掛けてきた。

 

 いや、嬉しいよ。おれなんかと結婚したいと思われてんだから。

 

 ……でもなぁ

 

 

「うーん……」

 

『ほんと、昨日はいろいろありましたねー。熊口さんからは追いかけ回されたり、気に吊るされたりと。挙げ句には熊口さんなんかの目当てに女衆が押し寄せてきたり』

 

「皆もやっとおれの魅力に気づいたんだよ。思いしったか」

 

『思い知ってません。ただこの村の女の人たちの目が腐ってるだけですよ』

 

 あれ?

 

「なんだ?なんか不機嫌だな、今日のお前。いつもならおれを罵倒して嘲笑うくせに」

 

 

 長年一緒にいるからこそ分かる。今日の翠は不機嫌だ。今のがいい例だ。調子良いときはほんとこれでもかというぐらいおれを馬鹿にしてくる癖に機嫌が悪いときは逆におれを罵倒しなくなる。

 

 ……今改めてそう思うとずっと不機嫌であってほしいとおもった。

 

 

『わかってたんですか?それをわかってて私と話すなんて熊口さん、ドマゾですね』

 

「どちらかというとSだ!」

 

 

 と、下らない会話を翠とする。はぁ、翠と話してる時が気楽でいい。

 気を使わなくて済むからな。昨日の女の子達と話しているときはなんだか気を使って疲れたし

 

 

「お話し中の所失礼するわね」

 

「げっ、青娥。いつの間に!?」

 

 

 いつの間におれの後ろに青娥がいた。

 うわぁ、恥ずかしい。今の翠との会話、端からみたらただの独り言に見えるからな。

 

 

「それじゃあ急にだけど出発しましょう」

 

「は?」

 

 

 え、なにが?何処に出発するんだ?

 

 

「ふふ、今貴方、何処にいくんだ?って顔してるわね」

 

「いや、そりゃするだろうよ。急に出発するなんて言われても」

 

「まぁ、行くところは私がこの国に来て最初から決めていた場所よ。つまり厩戸皇子のいる都よ」

 

「う、厩戸皇子?!」

 

 

 厩戸皇子ってまさかあの厩戸皇子か?

 前世でも厩戸皇子といえば物凄く有名だった人物だ。

 

 

 

 だってあの[聖徳太子]の生前の名前だったんだから。

 え?てかこの世界にも聖徳太子なんていたんだ……

 

 

「って、待てよ。なんでおれまでその都までいかなくちゃいけないんだよ」

 

「そんなの決まってますわ。生斗は私の次期、弟子候補なんだから」

 

「いや、弟子になるって一言もいってないから。勝手に決めんな」

 

 

 実際は聖徳太子がどんな顔だったのか少し気になる。

 でも流石にそれはめんどくさい。

 だってあの聖徳太子だぞ?おれの予想では護衛とかがあるから顔を見ることさえできないだろう。

 まぁおれや青娥ならそれぐらい少し手間はかかるが突破することは出来るだろう。でもそこまでしてその聖徳太子の顔を見たいとはおもわないんだよなぁ……

 

 

「あ、でももうあの村には帰れないわよ」

 

「え?なんでだ。」

 

 

 青娥は何をいってるんだ?村に帰れないもなにもこれから求婚についてどうするか考えようとしてたのに。

 

 

 

 

 と、そんなことを思っていると、青娥からとんでもない発言が耳に聞こえてきた。

 

 

「だって私が貴方と既成事実をでっちあげて村中の女衆に喧嘩うってきたもの」

 

「えええぇぇぇぇぇ!?!?!!?」

 

 

 えええぇぇぇぇぇ!?!?!!?え、え、え?なにしてくれちゃってんのこの人!!?

 

 

「なんてことしてくれたんだよ!!」

 

「あら、一緒に同じ布団で寝たのは事実じゃない」

 

「いや、確かに同じ布団では寝たよ!?でも青娥が勝手に入ってきただけだろ!おれ全然関係ないじゃん!つーかなんでお前おれを巻き込むようなことしてんの!?」

 

「……だって」

 

「ん?」

 

「確実に貴方を都に連れていくなら手っ取り早いと思って」

 

「お、おいまじか。青娥お前、そんなことのためにおれと既成事実をでっちあげたのか?」

 

「そうよ。……あ、それとも本当に既成事実を作ってもいいのよ」

 

「いらん!!」

 

 

 なんてこった……青娥、こいつ、とんでもないことをしでかしやがった

 

『でもよかったじゃないですか。嫁選びする必要もなくて』

 

 翠、こいつ笑うの堪えてるな?声の出し方でわかるぞ

 

「……翠よ、おれは元から皆断る気だったんだぞ。」

 

 

 ここは真面目に答えて翠の笑うのを止めてやろう。

 

 

『え、なんでですか?求婚してきた女の子の中にも可愛い子もいたのに』

 

「おれはな、強いから結婚したいとか上っ面だけのは嫌なんだよ。やっぱり結婚とは両方が分かち合い、この人となら一生ついていってもいいと思う人同士がするものだとおれは思うんだよ」

 

『く、熊口さんにしてはすごくいいこと言いますね……でも熊口さん。年齢=彼女いない歴の貴方がそんなことをいってもなにも心に響くものなんてないですよ。

 なにいってんだこの童貞は、ってぐらいにしか思われません』

 

「う、うるさい翠」

 

「やっぱり、翠と話していたのね……ま、そんなことより急いだほうが良いわ。じきにここも……「いたぞ!彼処だ!」ちっ、バレたようね」

 

「ん?なんだ?」

 

 

 村の方面から男衆が走ってきた。ん?なんだろう。

 

 

「なに突っ立ってるの?早く逃げるわよ」

 

「は?なんで逃げなきゃいけないんだよ!?」

 

「さっき村の女衆に喧嘩うったっていったでしょ?売ったせいで皆から追いかけられるようになったのよ!捕まればなにされるかわからないわ!」ダッ

 

「お前、どんな喧嘩の売り方をすれば村の男衆に追いかけられるようなことになるんだよ!」

 

 

 そう文句を言いつつ走っていった青娥の後を追う。

 

 ああもう最悪だ!青娥とあってからろくなことがない。

 こいつのせいで急に村を出なくちゃいけなくなるとは……まだおじいさんに挨拶すら出来てないのに!!

 

 

「……青娥、後で覚えていろよ!」

 

「ふふ、望むところですわ!」




超無理矢理に村を出ることになりましたが取り敢えず次からは都にいきます。
本当はもう少しゆっくりやって成り行きで行く感じにしたかったんですけど流石に遅すぎるかなと進めました。


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捌話 優しいだろ?

「何処へ行ってるの?そっちは都から反対方向よ」

 

「うるさい!青娥の言うことなんか二度と聞くか!」

 

 

青娥の策略により、何故か村から逃げたおれは青娥とは別行動をとろうとした。

このままこいつと一緒にいたらなんかヤバそうだからな!これ以上の面倒事は勘弁だ。

 

 

「でも貴方、また手ぶらじゃない。食料とかどうするの?」

 

「はっ!?……で、でも青娥だって手ぶらだった……て」

 

「手ぶらではなくてよ」

 

 

な、なんでだ。さっきまで走って逃げていたときはなにも持っていなかったというのに……

 

 

 

「こんなこともあろうかとあらかじめ村の外れに荷物を纏めてたのよ。妖怪に荒らされてなくて良かったわ」

 

「……お前」

 

青娥のやつ、もしや初めからあの騒動を起こすつもりだったのか……

 

「それにほら、あのとき子供達を助けたときのお礼のお金もあるわよ」

 

「なっ、なんで青娥が持ってんだよ!」

 

「貴方、貰うとき寝てたでしょ。だから後で渡すっていって預からしてもらってたわ」

 

「なら返せよ」

 

「どうしようかしら?……そうねぇ、私の弟子となって仙人の道に歩めば渡してあげても……」

 

「絶対に無理」

 

「そう、それなら一緒に都に行ってくれれば返してあげるわ。」

 

 

なんでだよ!っと言いたい気持ちを抑える。ここで言いあいしても青娥にはなんか勝てる気がしない。くそぅ、本当はさっさとおさらばしたいのに……でも二度とあんなひもじい思いはしたくない

 

「はぁ、……わかったよ」

 

ここは大人らしく引き下がるほうが良いだろう。どうせこれからの行き先なんて考えてないしな。

 

 

『言い合いで負けるからって最初から諦める熊口さん……ぷぷっ、カッコ悪いです』

 

翠はちょっと黙ってろ。

 

 

「それよりも青娥、なんでおれを仙人にならせたいんだよ?」

 

これは青娥がおれを仙人に誘ってきてからずっと疑問に思ってたことだ。

 

 

「そんなの……素質があるからに決まってるでしょう」

 

「……は?」

 

た、たったそんだけ?

 

「だから素質があるからよ。磨けば光る原石をみすみす逃すようなことはしたくないの。」

 

「そ、それだけのためにおれと既成事実をでっち上げて村からわざと追い出させたのか!?」

 

「まあ、他にも理由はあるけど……だいたいはあってるわ」

 

 

おいおい、まじかよ………そんなことのためにおれは振り回されたってのか。

 

 

「で、でもそれでもおれは仙人になんかならないぞ。死神の影に怯えながら生きるのなんて嫌だしな」

 

「100年に1度だけよ?」

 

「それでも!」

 

 

はあ、しかたないか。青娥と会ったのが運の尽きと捉えるしかな……これまでだってそうやって生きてきたし。(何度かは死んでるけど)

 

 

「で?都ってのはどこなんだよ?」

 

「だからさっきから逆だっていってるでしょ?最初から私の言うことを聞いていれば良かったのに」

 

「うっ、そんなのお前がおれを村から追い出させたのがいけないんだろ」

 

『もう、いちいち口答えなんかせず黙ってついていけばいいのに……』

 

「なんで翠はそんな淡白でいられるんだよ?」

 

『確かにあのおじいさんは優しかったですけど……ほかの人には驚かれるだろうと思って姿見せていませんでしたし……だから交流なんてほぼ皆無だったんで別に大丈夫ですね』

 

「くっ……ここにはおれの味方はいないのか!」

 

「よくわからないけど……労いの言葉をかければいいのかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ~山道~

 

 

「なあ、もう暗くなってきたんだけど」

 

「そうねぇ、それじゃあ今日はここで野宿しようかしら」

 

「あ、私野宿初めてです!」

 

 

現在山のなかの道を歩いている。が、もう日が暮れてきたのでここで野宿することに。因みに翠はおれからでて一緒に歩いている。

 

 

「火を焚くのは……要らないわね。丁度良い温度だし、光なら生斗がいるし」

 

「まあな。……でもこんな山の中に光なんか出したら妖怪達が群がってくるんじゃないか?」

 

「それも……」

 

「大丈夫ですね!」

 

「……ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうことか!!」

 

「ぎゃははは!こんな山のなかで火なんか灯すから悪いんだぜ!」

 

「食べてやる!」

 

 

くそ!大丈夫だと言われて疑問に思ってたらこういうことか!!

てかなんでおれが妖怪の相手しなくちゃいけないの!?

 

 

「おらあぁ!!」

 

「くっ、ほら!」

 

「ぐえっ!?!」

 

 

ハイエナのような姿をした妖怪の一匹が俺に向かって爪で引っ掻きにきたので足払いをし、態勢の崩れたところに顔面に霊弾を放ち、気絶させる。

 

くそ、あとだいたい5体ぐらいか……

 

「翠と青娥、後で覚えてろよ!!」

 

「考える暇があるなら俺らの腹の中に収まれよ!」

 

「楽になれるぜぇ~?」

 

「なるわけないだろ!犬っころ共!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドガーンッ!!

 

 

「なんだかあっちの方が騒がしいですね……あ、この干肉、味が染みてて美味しい」アムッ

 

「そう?それ一応非常食なんだけどね。あ、あと明日には都に着く予定だから」

 

「だからご飯を作らないんですね。」

 

「だって面倒だもの。火をいちいちつけないといけないし」←(霞で充分だからあまり料理をしない)

 

「それもそうですね。まあ、食べられないよりかはマシです」

 

 

   アトデオボエテロヨ!! グワァ~…クソックッテヤル!

 

 

「あ、今熊口さんの声が」

 

「だいぶ危なさそうね」

 

「ま、大丈夫でしょ。熊口さんですし」

 

「まあ、確かに彼に任せると不思議な安心感があるしね」

 

「そうでしょう!」

 

「なんで貴方が胸を張ったのかはわからないけど……そういえば翠って昔から生斗の守護霊だったの?」

 

「あ、はい。そうですよ。前はハゲ散らかしたおじさんが熊口さんの守護霊だったんですが色々あって私が守護霊をすることになってます。」

 

「へぇ、守護霊って交代とか出来るのね……」

 

「いや、普通は出来ないらしいですよ。私は特別らしいので交代出来たらしいんですが」

 

「やっぱりただ者では無かったわね……」

 

「でも酷いんですよ、熊口さんって!私が守護霊になってから間もなく、私の故郷から旅立ったんですから!」

 

「え、そうなの?」

 

「そうです!それで旅に出たと思ったら鬼にあったりして妖怪の山という所に行ったりして大変………………」

 

「ん?どうしたの?」

 

「いや、妖怪の山にいた人達の事思い出してたらなんだか懐かしくなって……まだ出てから1週間も経ってないのに……」

 

「まあ、思い出とはそういうものよ」

 

「へへ、そういうもんですかね。そういえば青娥さんは昔どこにいたんですか?」

 

「私?……そうねぇ、ここから遠い所よ。まずあの村から南に____」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

「キャンキャン」ザザザザ

 

「クゥ~」ザザザザ

 

 

「ハァ、ハァ……やっと追い返せたか……」

 

 

ちっ、少し服が切れたな。まあ、放っておいても神が勝手に新調してるから大丈夫だろう

 

 

「よし、取り敢えずあいつらを説教しなければ!」

 

 

もっと他に方法があったのになんでおれを見張りにさせたんだ。見張りをさせるにも交代とかあるだろうに……

 

 

「ごらー!翠、青娥!二人ともよくもおれ……を…」

 

「……ん~…………」スゥ~……

 

「…………」スゥ…スゥ…

 

 

怒ろうとしたら二人とも寝息をたてながら寝ていた。

 

……はぁ、これじゃあ怒りづらいだろ……

 

 

「……おれも寝るか」パチ

 

 

と、呟きながら霊弾(ライト代わり)を消失させ、辺りを暗くする

 

 

「今日だけは許してやる」

 

そういっておれは青娥の持ってきていた荷物から毛布を取り出して二人に被せてあげた。

 

 

 

 

 

 

ん?ちょっとまてよ。今のおれ、優しくないか?

 

 

「……優しくなんか……ありませんよぉ……」ムニャムニャ

 

 

「おいこら翠、お前起きてんだろ」

 



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閑話 翠は強い子

はい、閑話です。ネタが思い付かなかった逃げの策です。
……というのは冗談で、そういえば翠の過去や実力についてあんまりかいてかったなぁっと思い、今回だしました。




「熊口さん、お休みなさい」

 

「ああ、お前も早く寝ろよ」

 

 

満月の夜、いつも通りの会話を終え、熊口さんは眠った。

 

私の名前は東風谷翠、熊口さんの守護霊をやってます。

 

まずは私のことをよくしってもらうために昔の事を話したいと思います。

 

 

 

________

 

私は生前、とても気持ち悪い妖怪に四肢をもがれ、絶命しました。その時の痛みは今でも忘れません。まあ、今ではそんな悲惨な記憶も過去のものと捉えて、克服したのでどうってことはありませんけど……

 

そして天に召されるはずだった私はなぜか生前暮らしていた家にいました。

勿論もがれた四肢はくっついています。

もがれたときに出た血は綺麗になくなっていました。

もしかしてあのとき殺されたのは夢?……だとその時には思いましたが、それは私の姿を見る限り現実だということがわかりました。

生前の肌は小麦色だったというのに今では白く透き通っており、着たこともないような白装束を着ていて、足の先の方が薄く消えかかっていたのです。

 

このとき、初めて私は本当に死んだのだと理解しました。

……しかし、なぜか悲しみはあまりありません。

生前、無理に顔を作り、相手の機嫌をうかがいながら生活をして、村長に勝手に抜擢され、したくもない仕事をさせられる。

同じ年頃の子ならもう結婚しているというのに私は孤立無縁、楽しいことなんてあまりなかったのです。楽しかったといえば義姉の早恵ちゃんと一緒にいたときぐらいでした。

 

だから死んだと実感したとき、悲しみよりも解放感が上まってましたね。

 

 

でもそんなのも束の間、私は孤独になりました。

 

困ったことに直射日光に当たると胸が鷲掴みされたかのように苦しくなり、過呼吸に陥ってしまい、まともに動ける状態ではなくなってしまったのです。

そして一番の問題は家から出られなくなったことです。庭なら辛うじて出ることは出来たんですがそれ以上出ようとしても体が拒否反応を起こし、結果、でられないということになったのです。

 

その理由から私は家から出ることを諦めました。

 

そして少し経ち、ここに一人の女性が住居を構えにきました。

 

私は久しぶりに人を見て、歓喜しました。

心が踊るのを押さえられなかった私は早速、夜中にその女性に声を掛けました。

____自分が幽霊だったことを忘れて。

 

勿論その女性は悲鳴をあげ、その家から慌てて逃げていきました。

失敗した……もうちょっと慎重にいけば……

後悔をしても既に遅く、その日を境に私のいた家は幽霊屋敷として、敬遠されるようになりました。

 

 

それから2年の月日がたった頃、熊口さんがきました。

私は次は慎重にと、その時起きていた時間(夜中)にこっそり気づいてもらえるように熊口さんの部屋の前で騒音を鳴らしました。

結果、キレられて吹き飛ばされましたけど……

これだけでもわかるとおり、熊口さんはほかとは明らかに違いました。実はあの女性が逃げたあとも何人かはこの家に住みに来ました。勿論皆私を見るや否や、一目散に逃げていきましたけど……

それだというのに熊口さんは私を吹き飛ばすだけでなく、姿を見ても全然怖がらなかったのです。

それどころか「お前の姿を見て怖がるやつなんていねーよ」なんていってきたりもしました。……いや、結構いましたよ……

 

 

 

 

 

しかし、その熊口さんが来たことによって、私の死後の人生に灰色以外の色がつき足され始めました。

 

孤独からの解放、ちょっと大きくなった早恵ちゃんとの再会、皆でお泊まり会、熊口さんの守護霊になる、鬼との遭遇、妖怪らのいる山に行く、文さんや天魔さんたちとの交流、そして別れ、仙人の青娥さんと会い、一緒にお色気作戦をしかける。

 

今、パッと思い出しただけでもこんなに思い出がありました。

 

それもすべて、あのとき熊口さんと会えたからです。

あれが所謂『転機』というものなんでしょうか?

 

 

 

 

そして急になんで私の過去を話したのかというと、それは私が熊口さんに対して多大な恩があるということです。

それなのにいまだに返せている気がしません。

勿論こんな美少女が旅のお供をしてあげてるんだから多少の恩は返せているとは思うんですけど……

 

やはり、『今回』の『妖怪退治』をすれば返せるのでしょうか……

 

 

 

 

 

 

「さて、いきますか」

 

 

熊口さんと会う前は夜中に活動をして朝に寝ていたんですが、今では熊口さんにあわせるように夜に寝ているからこういう寝る前の運動は眠気がついてくるからあまりしたくないんですけどね。

 

 

そんなことを思いつつ熊口さんの部屋を後にし、家の外に出た。

 

 

「やっぱり、私の勘は当たってましたか」

 

「誰だお前は?」

 

 

そこにはあきらかに人間とは異なる、異形な形をした妖怪がいた。

過去を振り返った途端にこれがでるなんて運が悪い。

異形な形の妖怪は今でも苦手なんですけどね……

 

 

「けけけ、どうやら只者ではなさそうだな」

 

「ええ、幽霊です」

 

「ほう、幽霊というのは食べられるものか?」

 

「たぶん、食べられないと思いますよ」

 

「そんなのはお前を食ってから決めてやるわ!」

 

 

そういいながら変な形をした妖怪は私に肉薄し、体の一部から鋭利な物体を飛び出させてきた

 

 

「……!」スッ

 

「いまのを避けるか」

 

 

急に来たので驚いてしまい、頬に少掠らせた。

掠った頬に一粒の血が流れる。

 

「あーあ、女の子の顔に傷をつけましたね、貴方。熊口さん並みに最低です」

 

「ああ、いまから身体中傷だらけにしてやるよ!」ズサアァ!

 

 

ほんと、気持ち悪いですね。

お次は身体中から一寸ほどの針を大量に飛ばしてくるとは……

 

 

「ま、こんなのは効きませんけどね」

 

そういって私は右手をあげ、障壁を作る。これは熊口さんのやってた霊力障壁を真似たものです。

 

 

 カカカカカカカカカカカカカカカカカカ

 

「なに!?」

 

 

  カカカカカカカカカカカカッッッ

 

「……っ」スッ

 

 

中々多いですね。しかし止めきれない量じゃない。

 

 

 カカカカカカツ……カツ…カツン…………

 

 

そして針の弾幕が5秒ほど続いた後、漸く攻撃が止んだ。

 

 

「この程度ですか?貴方の実力は」

 

 

一寸ほどの針の幕はあえなく障壁の前にひれ伏した

 

 

「ちっ、嘗めるな!小娘!」

 

「こう見えても何百年と死んでいるんですけどね、ヘドロ針ネズミ」

 

 

さて、次は接近してきますか。身体中に針を出したままの突進。

 

あまりにも単純、そして愚直な選択ですね。遠距離が効かないからと相手の能力もわからず無闇に突っ込むなんて

 

 

「熊口さんならとっくに死んでますよ、貴方」

 

「うるせ…………ぇげはぁ!?」

 

 

私と妖怪の距離が間近に迫ったところで土の中に仕込んでおいた霊弾が発動、妖怪の顎みたいなところに命中した。

 

 

「な、なぜだ。こんなの仕込んでおく暇など……」

 

「いいえ、ありましたよ。貴方が無駄に多くばらまいた針を防御しているときにね」

 

「そ、そうか……!?」

 

「そして、もうひとつの霊弾が……」

 

「な!……!」

 

私の声を聞いて妖怪が慌てて下を向き、防御の構えに移る。

はあ、これだから底脳は……

 

 

  ガツン!

 

 

「んぎゃ!?!」ボガン

 

 

 

 

妖怪に呆れつつ後頭部に全力で殴った。

どんなに非力な人でも、霊力を纏えば常人以上の力を発揮できる。それを後頭部に思いっきり殴り付けたのだ。無事なはずがない。事実顔が地面にめり込んだ。

 

 

「……敵前に余所見をするなんて……もうひとつの霊弾を仕込んでるなんて嘘を真に受けるからいけないんですよ」

 

 

「あ…がっ……」

 

「あ、まだ意識があるんですね」

 

「こ、小娘ぇ……こ、ころ、殺してやる……」

 

顔が地面にめり込んだまま、しかも満身創痍の状態でそんなことを言われても全然恐くないです。

それに____

 

「私、死んでますよ?」

 

 

 

そういって私は妖怪の顔面に霊弾を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よし、死んでいますね」

 

妖怪の体が変な形をしているため、死んでいるかどうか確かめづらかったですね。

まあ、それについてはどうでもいいでしょう。

 

 

はあ、それじゃあ、この妖怪をそこら辺の森に捨てにいきますか

 

 

「あ、今日このヘドロを見つけた場所に捨てましょうか!」

 

 

今日、この妖怪が熊口さんのいる家を襲おうとしたのがわかったのも昼に私がこの妖怪を森の中で狩人のような目をしてこちらを見ていたのでわかったのです。

あ、この気色悪い妖怪、今日来るな、と。

 

 

「ふあぁ、眠たいですね……」

 

 

さっさと布団の中にくるまって寝たいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~朝~

 

 

「なあ、翠。昨日なんか騒がしくなかったか?なんだか眠れなかったんだけど……」モグモグ

 

「気のせいですよ。それにほら、ご飯を口に入れながら喋っちゃいけませんよ。この前青娥さんにいわれたばっかりじゃないですか」

 

「おお、そうだったな。あ、そういえばお前の顔に傷なんかあったか?」モグモグ

 

「ほら、また食べながら喋る!熊口さん、まるで昨日の底脳妖怪みたいですね!」

 

「妖怪?」

 

「あ!……いや、なんでもありませんよ。ただ熊口さんの事を生まれたての幼児と同じくらいの知能しかないと言いたいだけです」

 

「おまっ、バカ野郎!流石に幼児以上の知能はあるわ!」

 

「……つっこむ所そこですか?」

 

 

 

 

ふう、危うくバレる所でした。

昨日のしたことしかり、これは私の密かな恩返しなんですから。まあ、ただの自己満足ですけどね

 




あれ?翠の設定が生斗くんよりもしっかりとしてる……
なんだよ主人公、設定とかただの運がいい高校生じゃん……


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玖話 家臣になんてならないぞ

 

「着いたわ。あそこに見えるのが太子のいる都よ」

 

太陽が顔を出す頃に出発して、昼が過ぎた頃に漸く都に着いた。

はあ、たった1日の旅ではあったけどなんか疲れた。

 

 

「よし、それじゃあお別れだな。さっさと金返せ」

 

「はいはい。わかってますわよ」

 

 

あれ?やけにあっさりだな。

そんなことを思っていると青娥は荷物の中から小袋を取り出し、おれに渡した。

 

 

「本当にいいのか?一応この都には何日かいると思うが一時すればまた出るぞ?」

 

「なにをそんな確認をしてくるのかしら?私はただ約束を守っただけですわよ」

 

 

た、確かにそうだけど……なんか裏がありそうだな……

 

 

「まあ、取り敢えず返してもらうぞ。」

 

「ええ、それでは私も太子のいる屋敷にお邪魔してくるとしますわ」

 

 

と、青娥は都へ入る門へと進んでいく。

 

あれ?本当になにもないのか?あいつの事だからどうにかしておれを聖徳太子のところへ連れていきそうなのにな。

ま、いっか。自由行動が取れるならそれに越したことはない。

 

「青娥、短い間だったけどじゃあな!」

 

「……再见」

 

 

ん?今なんていった?……まあいいや。中国語かなんかだろう。

 

そんなちょっとした疑問を抱きつつおれは門を潜るために歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「再见とは″また会おう”という意味よ、生斗。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~街道~

 

 

     ガヤガヤ

 

 

「ん~、人が賑わってるなぁ」

 

 

客引きの声、人が会話している声、店の縁側で笑いあっている声。これは皆がいなければできないことだ。

これまで守矢の国やつい最近までいた村ではここまで活気のある感じはなかった。

妖怪の山も確かに沢山いて煩かったが、彼処は違う。皆人間じゃない。

 

『なんで青娥さん、すんなりと熊口さんとわかれたんでしょう……』

 

「そんなのおれが知るかよ」ボソボソ

 

人が沢山いるのであまり他には聞こえないよう小さな声で翠の質問に答える。

 

 

『そうでしょうか?私が思うになにか絶対裏があると思いますよ?』

 

「確かにそれはおれも思ったけど……でもそれを考えたっておれにできることなんかないだろ?」ボソボソ

 

『確かに……熊口さんポンコツですし。』

 

「翠!……お前なぁ……」

 

一瞬怒りそうになったけどここは人が沢山いる。ここで大声出したら迷惑極まりないので怒りたい気持ちをぐっと抑える。

 

 

『あれ?今なら熊口さんの悪口言い放題では……!』

 

「翠、もしそれを実行したらお前を今すぐおれの中から出すからな」ボソボソ

 

 

はあ、翠はなんでこうもおれを苛つかせようするんだか……もしかしてMなのか?

 

 

 

     グゥ~

 

 

……そんなことよりもまずは腹ごしらえだな。まだ昼飯食ってなかったし。

 

 

「んーとどこか店でもあるか……な……!!」

 

 

あ、あれは!!!

 

 

『熊口さん、どうしたんですか?』

 

「うどん屋だ!!」

 

紛れもない!あれは前世、週一で店に通うほど好きだったうどん屋だ!!

 

 

「よ、よしここで昼を済ませよう」

 

 

と、自分でもわかるぐらい挙動不審ぎみに店の暖簾を潜る。

 

何百年ぶりだ?うどんを食べるなんて……

 

 

「らっしゃいませぇ!」

 

「うわっ!?」

 

と、大きな声をだす店員。あまりにも大きな声に思わず後ずさりをしてしまう。

 

「ご注文は?」

 

「あ、うーんと……」

 

と、カウンターみたいなとこの上にうどんの名前の書いてある札をみて思案する。

 

 

「んっと、じゃあきつねうどんで」

 

「かしこまりましたー!」

 

 

いや、煩い。なんでこうも大声なんだ。

 

 

「はあ……」

 

と、カウンターから少し離れた場所に座る。

 

ああ、お腹空いた。ここのうどんはどんな味なんだろうか?楽しみだ。

 

「貴方、ここへ来るのは初めてなのですか?」

 

「え?あ、ああ」

 

「やはり……」

 

 

ひとつ席を置いたところに座っている人から話しかけられる。

一体誰だれなんだろうか……そんな疑問をを抱きつつ声のした方向を見る。

 

そこには頭巾を被り、顔があまり見えないようにされており、眼鏡をかけている女の人がいた。

女かどうかは外見ではわからないけど声からしてたぶん女だろう。

 

 

「それで、おれになんか用?」

 

「いや、特に理由があったわけではないんですが……いや、本当はあります。…………貴方はなぜそこまでも欲が変なのですか?」

 

「は?」

 

なんだ?急に……

 

 

「貴方は普通の人より欲が欠損している。今もうどんを楽しみにしているように見せて本当は布団の中でだらけたいと思っているでしょう!」

 

「な、なんでそれがわかった!?」

 

なんだこの女!?

初対面だってのにこの人はなにを言ってくるんだ!つーかなんでゴロゴロしたいってわかったんだよ……

 

 

「そして貴方、本当に人間なんですか?」

 

「へ?」

 

「貴方には生のしがらみが全く感じられないのです。普通の人間ならば少しでも長く、若く生きたいと懇願するのに。そして私も……」

 

「いや、知らねーよ。ていうかおれも生のしがらみがないって訳じゃないぞ。現に死にたくないと思っている」

 

「嘘。私を騙せるとでも?貴方は友のためなら死んでもいいと思っている」

 

「な、なにいってんだ……」

 

ほんと、この女はどうしたいんだ?意味がわからん。

というかなんかへんな気分だ。心を見透かされている、そんな気分……

 

 

「今貴方、私に嫌悪感を抱いたでしょう?まあ、確かにそれは私が急に貴方の欲を読んだから仕方がないでしょう」

 

「いや、おれはまずなんで赤の他人のあんたがおれに突っ掛かってくること疑問を覚えてるんだけど……」

 

「それは……」

 

 

と、急に考えにふける頭巾を被っている女の人。

 

 

 

「おまちどうしましたー!」

 

「あ、はい」

 

と、頼んでいたきつねうどんがくる。

おー、美味しそうだ!

 

 

「わかりました。私が貴方に突っ掛かった理由。

ずばり!私は貴方に興味を持ったのです!」

 

「いや、なんでだよ」ズルズル

 

「話している最中に食べるのはやめなさい。

……ごほん。なぜわたしが貴方に興味があるのかといえば、やはりその欲の変質さ。並の人間に大きい欲は欠陥しているのに正義感は並の人間の何倍以上もある」

 

『え!?熊口さんに正義感なんてあったんですか!?』

 

「あるわこのやろー」

 

「ん?どうしたんですか?」

 

「いや、なにも……」

 

「そうですか……それで、話を戻しますが。私は貴方のその異質な欲に興味を持ちました」

 

 

薄々だがわかった。こいつの言う欲は能力のことだろう。

たぶん人の欲を見る事ができる。そしてそれを理解する。

 

 

「普通なら簡単に人の理解をできる私が異質な欲の貴方を理解しきれていない」

 

「つまり、なにが言いたいんだ?」

 

「こういう者を私は探していました……どうか私の家臣になってください!」

 

「無理だ。飯の邪魔だからどっかへ行ってくれ」

 

 

よくわからないけどこれは確実に厄介事がおこる。

断らないのが得策だな。

 

 




ついにあの人が登場しました。格好についてですが、頭巾を被って眼鏡をかけているのはお忍びだからです。


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拾話 痛覚神経働けよ!

 

 

「はあ、なんでこうなったのか」

 

「そんな悠長なことを言ってる暇はあるのですか?」

 

 

 おれと頭巾ちゃんは今、都から少し離れた草原へ来ていた。

 なんでこうなったのかと言うとおれがこの頭巾ちゃんに家臣になれといわれ、それを丁寧?にお断りしたせいだ。

 

 

「貴方の手に少しですが中指と薬指、そして小指に豆ができていますね。これは正しく剣を扱っている証拠。」

 

 と、急にいいだし、色々あってこの草原へ連れてこられ、勝負しろと宣戦布告された。いや、したくないんだけど。

 あ、因みに現在、翠はお昼寝中だ。

 

 

 

「私が勝てば家臣になってもらいます。」

 

「え?なんで戦う感じになってんの?嫌だよ、おれしたくない。」

 

 

「そういえば貴方、刀を持っていませんね。仕方ない、私のを貸してあげます」

 

「いや、だから!」

 

「満更でもないんでしょう?否定から入っていますが。私にはわかっていますよ、既に貴方が戦闘態勢にはいっているのが」

 

「……入ってない」

 

「見え透いた嘘を」

 

 

 無意識のうちに取っていたか。おれも大概だな。

 

 

「はあ、別に戦闘狂って訳じゃないんだけどな」

 

「それは乗るってことですか?」

 

「もしおれが勝ったらうどん奢れよ」

 

「そんなものでいいんですか?」

 

「いいよ。どうせそんなに長引くことじゃないんだし」

 

「随分と余裕ですね。(ただのはったりじゃない。本当に彼は安定している……)」

 

「あと、別に刀は貸してもらわなくて結構だ。こっちで用意できる」パッ

 

「ほう」

 

 と、おれは霊力剣を生成する。ふぅ、久しぶりに純粋な剣術勝負か。

 

 

「貴方、只者ではないようですね。此方も本気で行かせてもらいますよ」バッ

 

 

 そういって頭巾ちゃんは頭に被せていた頭巾をとった。

 

 

「お、お前の髪型……ツンツンしてるな……」

 

「……癖毛です。気にしないでください」

 

 

 なんか獣耳みたいな髪型だった。ていうか思ってたより幼い顔だな。てっきり30代ぐらいの顔かと思ってた。

 

 

「それでは、この小石が地面に落ちるとともに始めます。いいですか?」

 

「そんなのいいからさっさと始めようぜ?」

 

 

 そして獣耳髪の女の子は小石を投げ、そして____

 

 

 

 

 

 

 ____落ちた。

 

 

 

「いきます!」

 

 

 と、女の子は無駄にカッコいい鞘から刀の刀身をだしながら肉薄してくる。

 ……おもってたより早いな

 

「やあ!」

 

「ぐっ……!」

 

 女の子がそのままおれに向かって袈裟斬りを仕掛けてくる。それをおれは霊力剣で防御。それにより少しの間生まれる剣と剣のぶつかり合い。

 

 

「おりゃ!」ドガッ

 

「うっ……」ドサ

 

 

 そこの僅かな隙をつき、足払いをかける。それにより女の子は軽々と転ける。

 

 そこへおれはすかさず霊力剣を女の子に向かって振る。

 しかし女の子もただ倒れるだけでなく回転して地面の着地地点を変え、おれの追撃を避け、地面に衝突した衝撃をバネにおれの足を斬りつけようとしてきた。それをおれは飛んで避け、少し距離を置いた。

 

 

「中々やるな。今避けなかったらおれの足切断されてたかもな」

 

「私こそ、あのとき体を捻らせてなかったら只じゃ済みませんでしたよ」

 

 今の身のこなしかた、これだけでもあの女の子が強いことがわかった。少なくても道義より強い。

 

 

「しかし私は皇族であり神童と呼ばれている身。この七星剣に誓って負けるわけにはいかないのです!」

 

 

 そんな掛け声とともに女の子がまたもや肉薄してくる。

 

「中々気合いが入ってるな。」

 

 

 こりゃあ手加減なんて考えないほうがいい。本気でやらないとこっちがやられそうだ。

 

 

「はあ!」

 

 お次は突きをしてきた。今のは危なかった……寸でのところで避けることが……

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 できたと思ったら背中に衝撃がきた。

 

 

「くっ、鞘か!!」

 

 

 後ろを見ると鞘があった。おそらく突きで避けたところを左手に持っていた鞘で背中を叩いたんだろう

 

 

「余所見をしてる場合ですか!」

 

「な、めんなよ!」

 

 またもや女の子は突きを仕掛けてきたのでおれは避けずに霊力剣で弾く。

 しかしその弾かれた反動でそのまま女の子は回り、また斬りつけてくる。

 それをおれはしゃがんで避け、さっきのお返しにと突きする

 

 

「んっ!」カキンッ

 

 だけど左手に持っている鞘で防御される。

 くそ、あの鞘邪魔だな……

 

 

「仕方ない、一本増やすか」

 

「……!!そんなのありですか……」

 

 

 どうにか一本で済ませようと思ったけどこれじゃあ決着がつくのに日が暮れる。そう判断したおれは玲瓏七霊剣のうち、一本を追加した。これで二刀流。おれは左手に剣を持つと″変”になるから持たず空中に浮かせる。

 

「この技は脳に負担がかかるがその分厄介だぞ」

 

「……そんなこといってもいいんですか?」

 

「いいさ」

 

 

 そういって次はおれが女の子に接近、そして斬りつける。女の子はそれを刀で受け止めるがそこにできた隙を逃さず、空中に浮いていた霊力剣がお腹を斬る。

 

 

「ぐっ……」

 

「刃は潰してある。斬っても血は出ないだろ」

 

「くっ、私に情けをかけてるのですか……」

 

「いや?さっきからの話だとお前、中々偉いご身分そうだから傷つけたらめんどくさそうだなあっと思って」

 

「そんなもの、必要ありません!次は刃を潰さずにきなさい!」

 

「……やれやれ」

 

 

 確かに勝負事に情けをかけるのは強者にとって屈辱でしかないらしいからな。おれには全くないけど、かけてもらえるなら存分にかけてほしい。

 

 

「んじゃ、続きやるか」

 

 

 おれはまたさっきと同じ方法をしようと女の子に接近する。

 

 

「一流には二度同じ手は通じないんですよ?」

 

「……な!?」

 

 

 そしてまたおれが斬りつけ、それを受け止められたところに霊力剣で斬りつけようとしたところ、そこにおれの隙ができたようで受け止めていた刀を引っ込めた女の子が押し寄せる二つの剣を軽やかに避け、おれを斬りつけた。

 その動きに少し反応が遅れ、おれは避けることができずに刃がおれの腹の肉を切断した。

 

 

「くっ……あ、あぶねぇ。かすった……だけか……」

 

「ちっ、あと少しだったのに……(あれ?完全に斬った感覚があったのに……)」

 

 

 や、やばい。あれは完全に斬りにきた感じだ。もしあのとき完全に斬れていたら……考えるだけでも恐ろしい……ていうかあいつ、おれを家臣にするんじゃなかったのか?完全に殺しにきてるよ……

 

 

「貴方のその浮いている剣、それに集中しているせいで本体である貴方に隙ができていた。その技は今回の戦いにおいて役たちそうもないようですよ?」

 

「ああ、確かにこの腹の傷はこの霊力剣に集中していて、そしてまた斬れると油断したからできたものだ。……だからな」

 

「……?」

 

「おれはこれから、一切の油断をしない。次で決めるぞ!____『玲瓏・七霊剣』!」

 

「なっ!?」

 

 そしておれは剣の切り札、玲瓏七霊剣をだした。この技は一度に6つの剣がそれぞれ別の動きをして、まるで意思を持っているかのように斬りつける。これは多大に脳に負担がかかるため、長時間維持することが出来ない。15分が限界だな……しかし、この技を破られたことは一度としてない。←(幽香に攻略されかけた事を忘れている)

 

 

「七つの光る刃……美しい…………いや、今は勝負の真っ最中!これしきの事で負けてたまるか!」

 

「いくぞ!!」

 

 

 そしておれと女の子はそれぞれ相手に向かって走りだし、決着をつけるため、剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _______________________

 

 

 ~夜中~

 

 

「あれ、ここは?」

 

「都の中だ。といっても街道だけどな。」

 

「そうですか……私は、負けたのですね」

 

「ああ」

 

 

 あのあと、結局女の子はおれの玲瓏七霊剣を破ることは出来なかった。粘ってはいたものの、手数の差が激しく、女の子の持っていた刀を弾き飛ばした後、おもいっきり斬りつけて気絶させた。

 そして現在、女の子をおぶって都の中を歩いている。

 

 

「貴方、やはり刃は潰したままでしたね」

 

「まあな。別に殺しあいって訳じゃないし」

 

「まあ、今回は許しましょう。現にもし刃を潰されてなかったら私は死んでいましたし」

 

「だろ?」

 

「……ところで、今何処へ向かっているのですか?」

 

「ん?うどん屋」

 

「え?」

 

「え?じゃない。約束しただろ。勝ったら奢って貰うって」

 

「あ、そうでしたね。でも今は……」

 

「そういえばまだ名前いってなかったな。おれは熊口生斗、人間だ」

 

「あ、はい。私は豊聡耳神子(とよさとみみのみこ)。家臣にならないというのなら素性は教えられませんが、皇族です」

 

「ふーん、神子か」

 

 

 豊聡耳ってのはなんか聞いたことがあるけど……まあいっか。

 

 そして、漸く昼に行ったうどん屋にたどり着いた。

 

 

 

「あ、彼処だ……ってもう閉まってんじゃん」

 

「でしょうね。もう辺りも暗いですし」

 

「はあ、それじゃあどうし……ようか……ね?……」ドサッ

 

 

 あれ?

 

「え?大丈夫ですか!?」

 

「ありゃ、なんで、だろうな」

 

 なんでおれ、倒れたんだろう……ていうか体に力が入んない。

 

「あ、貴方!お腹の傷が!!」

 

「え?……あ」

 

 

 原因はこれか。かすっただけと思ってたけどどうやら思いっきり抉られていたらしい。ここから血があふれでている。

 

 

「なんかぼーっとするなぁ、て思ってたら……これだったんだな」

 

「そんなこといっている場合ですか!?」

 

 

 おれの痛覚神経の無能さに腹がたつよ、まったく。麻痺してんじゃねーのか?

 

 

『ふあぁ、よく寝た……げっ、もう夜じゃないですか』

 

 

 翠、今頃起きたのか……ていうかよくあんな戦闘が行われている中眠れたな。

 

 

「早く!早く治療しないと!!」

 

「あ……そうか?別にしなくても……」

 

「なにいってるのですか!これは私の責任!貴方を必ず助けます!」

 

『え?今どんな状況なんですか……って熊口さんお腹から緑色の液体が……!!』

 

 赤色だ馬鹿野郎。こんなときにふざけている場合かっての……

 

「必ず、救ってみせます!人々を導く者として!」

 

「え……あ、はい。……よろしく」

 

『まあ、頑張ってください。死なないことを祈ります』

 

 

 

 ……はあ、中々めんどくさい事態になった気がする。

 

 そんなことを思いつつおれは意識を手放した。

 

 

 



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拾壱話 あ、生きてた

いやぁ、壱と弐のところを弌と弍にしていました。




 

「熊口さーん、起きてー」ベシベシ

 

 

おぼつかない視界の中、三角頭巾を頭につけた肌白い女の子が此方の頬を何度も叩いてくる姿が見えた。

 

 

「ん~、あと2日は寝させて……」

 

「2日!?せめて1秒にしてください!」

 

「1秒は短すぎだろ……」

 

 

どうやら気絶していたらしい。……ん?ていうかここどこだ?つーか翠も普通に出てきてるし。

 

 

「どうせ単純な熊口さんならここが何処かとか疑問に思ってるんでしょ?仕方ない、この私が教えてあげます。

ここは神子さんの屋敷です。そして熊口さんは丸一日寝ていました」

 

「あ、そ。翠、教えてくれるのはありがたいがなんでいちいち罵ってくる?」

 

 

と、起き上がろうとしてみる

 

 

「いででっ!……なんだ、一回死んでなかったのか」

 

「はい、残念ながら」

 

「おい、なにが残念ながらだ」

 

 

どうやら死んでないらしい。死んだら一度リセットされて傷ひとつ無くなるからな。

んー、別に10個もあるから一回ぐらい死んでもいいんだけどなぁ……ってそれは流石に嫌だな。生き返るからって死んでもいいって発想は良くない。

 

 

「腹に包帯巻かれてる……ていうか服も変わってるじゃねーか」

 

 

いつものドテラに黒T、青ジーンズの格好ではなく、浴衣に着替えさせられてる。

うむ、誰が着替えさせたのか気になるところだ。

 

 

「いやぁ、それにしても驚きましたよ。熊口さんが戦った人がまさかあの人だったなんて……」

 

「ん、誰なんだ?」

 

「ほら、あの人ですよ!青娥さんが言ってた……」

 

「ん、それって「入るわよー」……え」

 

「あら、起きてたの?」

 

 

ま、まじか。急に襖を開けて青娥が入ってきた。

なんで青娥がここにいるんだ!?

 

 

「翠、生斗の具合は?」

 

「ええ、良好ですよ」

 

「なんで青娥が?」

 

「ん?そんなの決まってるじゃない。愛しの生斗が倒れたって聞いたから急いできたのよ」

 

「……嘘つけ」

 

「あら、バレましたか。でも全部が嘘って訳じゃなくてよ?」

 

「はいはい」

 

 

さて、どうしたもんか。腹痛いし青娥きたし……良いこと全然ないな。

 

 

「それじゃあ、私は太子にこのこと伝えにいくわ」

 

「……は、太子?」

 

ちょっと今聞き捨てならないこと聞いたような?!

 

 

「え、生斗知らないの?貴方が戦った相手、

厩戸皇子よ」

 

「…………え、本当?」

 

「本当よ」

 

「…………」

 

 

マジデスカ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

「この度はすいませんでした」

 

「エ、ハイ、ダイジョブデス」

 

 

なんでだよ……厩戸皇子って男じゃなかったのか?いや、歴史の教科書にも男で嫁もいたって書いてあったし……

もしかしてこの世界ではおれのいた世界とは歴史上の人物がまた違うのか?

これは今度寝たときに神に聞いてみるしかないな……

 

 

「熊口さん、白目向いてますよ」

 

「エ、……は!いかん、現実逃避するところだった!」

 

「現実逃避する要素ありましたか?」

 

 

そりゃあるだろ。戦ってた相手がかの有名な聖徳太子だったんだから。

もしあのとき大怪我させてたらと思うと……

 

 

「それよりも生斗。やっぱり貴方なら来ると思ってたわよ。こんなに早く来るとは思っていなかったけど」

 

「おれは元々来るつもりはなかったんだけどな……」

 

「私も驚きました。まさか仙人の青娥と生斗が知り合いだったなんて……でも一番驚いたのは生斗から翠が出てきたところでしたが」

 

「あのときはものすごい悲鳴をあげてましたよね」

 

「い、いや、あれを驚かない人なんていませんよ」

 

 

どうやら神子は翠ともう話したことがあるらしい。

 

 

「んで?その太子様がなんでうどん屋なんかにいたんだよ。いちいち屋敷でなくても食えるだろうに」

 

 

「そ、それはですねぇ。ちょっと庶民の気分を味わってみようと思いまして……民の気持ちもわからず束ねることなど出来ないと私は思っているので」

 

「だから変装なんてしてたんだな」

 

「そうです。しかしその途中で寄ったうどん屋に貴方が来て……」

 

「それで突っ掛かってきたと?」

 

「はい。私には『十人の話を同時に聞くことができる』。それは人の本質、そして欲を読み取ることが出来るのです。そうだと言うのに貴方の欲が異質でつい……」

 

「……そうか」

 

 

欲が異質と言われて良い思いはしないがたぶん本当のことだろう。確かにおれは命を軽んじてる部分があるしな。

 

 

「それで?神子はこんなことしてる暇あるのか?仕事とかあるはずじゃ……」

 

「あ、そうでした。今日までに目を通さないといけないものが…………すいません、それでは私は失礼します。」

 

 

そういって神子は部屋から出ていった。駆け足で行ったあたりかなり立て込んでいたようだ。

 

 

 

 

「はあ……さて、どうしたもんかね」

 

「ふふ、貴方も今日からここに住むでしょ?私が言えば直ぐに住めるはずよ」

 

「いや、なんでだよ。住まねーよ……ていうか青娥、貴方″も”ってことはお前、ここに住むのか?」

 

「ええ、今日から住み込みで太子とその部下二人に道教を教えることになりましたわ」

 

「ま、まじか」

 

 

そんなことになっていたとはな。そして青娥がどうやって神子と接触できたのかも気になる。

 

「どうやら表向きでは仏教を進め神子さん達は道教するそうですよ?」

 

「そんなの知るかよ。仏教や道教なんておれは興味はない。」

 

「ふふ、いずれ興味が湧くわ」

 

 

何処からそんな自信がでてくるんだか……

 

 

 

「それじゃあ、私も行くとするわ」

 

「あ、そうか?んじゃな」

 

「ええ、またね」

 

 

ん、ちょっと待て、聞きたいことがあった。

 

 

「青娥、一つ聞きたいことがあるんだが。」

 

「ん?なに?」

 

「おれの服着替えさせたのって誰だ?」

 

「ああ、それね。……私よ」

 

「は?」

 

「だから、私よ」

 

「へ?!」

 

「おっと、早く行かなきゃ。それじゃあね~」

 

 

と、おれが少しの放心状態になった瞬間に青娥は部屋からでた。

 

え!?ちょ、まってくれよ!青娥がおれの服を着替えさせてたのか!?

 

 

 

「!!」バッ!

 

 

と、悪い予感しかしなかったおれは急いで毛布をはいで、下半身の方を見てみる。無論、パンツが履いているか確かめるためだ。

 

そして見たその先には________

 

「『冗談よ、騙された?』?」

 

と書かれた紙があった。

 

 

「ぷぷぷ……やっぱり熊口さん、服のこと気にしてたんですね。そうだろうと思ってあらかじめ置いておいたんですよ」

 

「み、翠……貴様……!」

 

「え、ちょ!?発案したのは青娥さんですよ!?」

 

「同罪だ!!」

 

 

と、痛む体に鞭打って立ち上がる。

 

 

「こ、ここは逃げるが勝ちです!」サッ!バタン

 

「あ、こら逃げるな!……ぐっ、くそ、腹の傷が……」

 

 

くそぅ、またあの二人にしてやられた……絶対に許さないからな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにおれを着替えさせたのはゴリゴリのおじさんだったらしい。

おう……意識手放してて正解だった

 

 

 

 








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拾弐話 観察という名の覗きだろ

あの二人が登場です。
因みに仲はあんまりよろしくありません。


 

 

とある日、突然屋敷に太子様によって運ばれた者について私(と阿呆)は太子様の休憩しているところを見計らって質問をした。

するとその質問の答えはあまりにも理解しがたいものであった。

 

 

 

「私はあの者に敗けました」

 

 

そう太子が告げた時、私こと蘇我屠自古は驚愕した。

え、なぜ太子様があんな畜生に敗けたなど嘘をつかれているのかが理解できない。

 

 

「我には判りませぬ!何故太子様がそのような見え透いた嘘をいっておられるのか!」

 

 

うわ、隣の阿呆と同じ考えだった。最悪。

 

 

「嘘などではありません。現に今私に巻かれている包帯の部分は、前の戦いの時に斬られ、負傷しています」

 

「あの者の方が重症ではありませんか?」

 

私も太子様に対しての疑問を問いてみる。

 

「あの者……生斗は、刃を潰して私と戦っていました。」

 

「「な!?」」

 

 

あの畜生、そんな無礼まで働いていたのか!真剣勝負に情けなど相手にとっては屈辱の極み、ましてや太子様にその行為をしでかすなど切腹ものだ。……まあ、太子様に刃を向ける時点で切腹ものだけれども……

 

 

「許せぬ!あのなまとという奴!我が葬ってくれよう!」

 

 

阿呆はひとまず黙ってろ。それに今太子様『せいと』って言ったのに何故『なまと』なんて間違えるんだ。

 

 

「待ちなさい、布都。生斗に危害を加えてはいけません」

 

「な、何故止めるのじゃ!?太子様!あのような無礼者、さっさと始末して……」

 

 

「生斗には、傷が治り次第貴女達の剣術指南役になってもらいます。」

 

「「は、はあぁ~!?」」

 

 

また阿呆と言葉が被ってしまった。でも仕方ないだろう、あまりにも意味のわからない事だからだ。私と阿呆があの畜生の剣術指導を受ける?死ねるぞ。

 

 

「あんな無礼者の指導なんてきかねますぞ!我、そんな事するぐらいならば死にますぞ!?」

 

 

なんなの?何この阿呆、もしかして私の心読めてんの?なんで私の思ってたことと同じこと言う。そんなに私の事が好きか?もし本当に好きなら死んでくれ。

 

「反論は受け付けません。頑張ってください。二人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~生斗の部屋の目の前(縁側)~

 

 

「なんであんたまで来るの?あっち行け、そして乗るな」

 

「うるさいぞ屠自古!気づかれてしまうであろう!」

 

「……いや、あんたの方がよっぽど煩い」

 

 

現在私(と阿呆)は生斗という輩の部屋の前にいる。

当然、観察するためだ。

私は不本意であれ、太子様の言うことならばどんな無理難題であろうと受ける自信はある。

今回もその類い、ということでどんな輩か観察をするのだ。

 

 

「ふふふ、この懐刀であやつを葬って……」

 

「おいこら阿呆、太子様のおっしゃった事をもう忘れたのか。危害を加えるなと言っていただろ」

 

「あ!忘れておった!!」

 

「煩い!」

 

『ん~?誰かいんのか?』

 

 

くそ、この木偶の坊のせいで計画がパーになるところだった。

 

 

「おい布都、お前は一旦どっかへ行け。できれば土の下」ボソボソ

 

「なんでじゃ、土の下はおぬしが行け。そして我がここを見張る!」ボソボソ

 

 

はあ、この野郎、なにドヤ顔してんだ。ドヤ顔する要素ひとつもないだろ。何故した?何故ここでした?

……いけない、この阿呆に付き合ってる暇なんて無い、兎に角観察だ。

そう思いつつ私は障子をほんの少しだけ開け、部屋の中を見た。

 

 

「な!あの無礼者、女を連れ込んでおる!許せぬ!」ボソボソ

 

「いや、あれは守護霊らしい。昨日直接会って話したから分かる」ボソボソ

 

「それは真か!?是非とも我とも話してもらいたいものじゃ!」ボソボソ

 

 

ほんとこいつ煩い。どっかいってくんないかな?邪魔にしかなってないんだけど……

 

 

「なあ、翠。水もってきてくれよ」

 

「それぐらい自分でとってきてくださいよ」

 

 

おっと、阿呆に集中している間に中の二人が話始めた。ここは聞いておかねば……

 

 

「いや、おれ怪我人。動けない。おーけー?」

 

「動けないというなら一回死ねば良いじゃないですか。痛みも無くなりますよ」

 

 

なんか物騒極まりないぞこの守護霊!?

 

 

「いやぁ、別にいいんだけどなぁ」

 

 

そしてあの男も肯定してる!?!

 

 

「それに熊口さん、お手洗い行くときいつも普通に動いてるじゃないですか」

 

「まあ、そうだけど……めんどいんだよ」

 

「はあ、このマダオが」

 

 

私の視点からだとこの守護霊、物凄く毒舌なんだけど……

 

 

「仕方ないですね。この超絶美人で心優しい私が注いできましょう」

 

「本物の超絶美人で心優しい女の子は自分の事を自画自賛なんてしないぞ」

 

 

もっともな意見だけど……あの守護霊、それを言えるだけの顔は整ってるからあまり正論には聞こえない……

 

 

「なあ屠自古、あの守護霊……」

 

 

やはり布都も思うか、あの守護霊が毒舌だと言うことを……

 

「かっこよくはないか!」

 

「は?」

 

なにいってんの、この阿呆。

 

 

「このご時世、女は男よりも下になっておるというのにあの守護霊は男に対しても全く臆することなく罵倒しておるのじゃぞ!太子様ですら女だと不便だからと男と成り済ませているというのに!」

 

「シッ!煩いぞ!」

 

 

こいつ、学習というものを知らないのか?

もしそのせいでバレたらお前のもっている懐刀で刺すからな。

 

 

と、そんなことを思っている間に、反対側にある襖を開け、守護霊が何処かへいってしまった。おそらく水を注ぎにいったんだろう。

 

 

「はあ~」

 

 

一人になった途端、男は背筋を伸ばし、気の抜けた声を出す。

 

 

「あ、そういえば翠、井戸までたどりつけるんだろうか。まだ日が照ってんのに」

 

 

ん、この男、さっきの守護霊の身を案じているのか?少し感心するな。

 

 

「ま、いっか。取り敢えず寝よ。こんなにぐーたらできるのなんてそうは無いんだし」

 

 

そういって男は布団の中へ潜り込む。

 

 

「あやつ、もしかして駄目な奴なのでは」ボソボソ

 

「いや、ただ動けないから休んでいるだけでしょ」ボソボソ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~5分後~

 

 

「熊口さーん、貴方私を殺す気ですか?よく思えば井戸外にあるじゃないですか」

 

「あ、やっぱりそうだったか。ま、いいだろ。おれ眠たいから寝るわ」

 

「そうですか。それじゃあ夕飯はいりませんね」

 

「何故そうなる!?夕飯時は起こしてくれよ!?」

 

「えー……あ!そうだ!熊口さん餓死しましょうよ!それなら自殺より長く生きられるし食費も浮きます!翠ちゃんないすあいでぃあ!」

 

「いや、お前殴るぞ。餓死がどれだけ辛いとおもってんだよ。もし次そんな質の悪いこといったら太陽の下、物干し竿に吊るすからな」

 

「ちょ、ちょっとした冗談ですよ。ほんとにするわけないじゃないですか。だからお願いします。それだけは勘弁してください」

 

 

うん、やっぱりこの二人の会話、どこかしら狂気を感じる……特に守護霊。

 

 

「す、すごい。流石は守護霊じゃ!」ボソボソ

 

「……あんたの脳内であの会話がどう聞こえてんのか気になってきた」ボソボソ

 

いや、やっぱみたくない。どうせ脳内お花畑なんだろ、どうせ。

 

 

「んじゃ、寝るわ」

 

「お休みなさい」

 

 

お、どうやら寝るようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ私も少し寝ましょうかね」

 

暫くして、男の寝息が聞こえてきた頃、守護霊も寝ると言い始めた。

そうか、それならこれから観察してもあまり意味無いか。

 

 

「それじゃあ我らも戻るとするか」

 

 

それもそうか。と、私が障子を閉めようとしたとき、思いもよらない光景を見てしまった。

 

 

 

「「きゃあああああああぁ!!!?!?」」

 

 

「うわ、なんだ!!?」

 

 

守護霊が、お、男の中に入っていってる!?

 

 

「どうした、お前ら!?」

 

と、私と布都の叫び声に驚いた男が起きて障子を開けてきた。

 

 

「あ、屠自古さん」

 

「あ、あぁ」

 

 

守護霊はまだ男に下半身が入って上半身だけの状態で私の名前を呼ぶ。

 

 

「ふ、布都!」

 

そういえば一緒に叫んだ阿呆をみてみる。

…………あ、泡吹いて気絶してる。

 

 

「おいおい、どうしたんだよ。なんでこんなところで叫んだりなんか……って翠か。お前、一旦出ろよ」

 

「はーい」

 

 

と、入りかけていた体を出していく守護霊。い、異様だ……

 

 

「で?なんでお前はおれの部屋を見れたんだ?障子は閉まってたはずだけど」

 

「そ、それは観察するため………」

 

「え?」

 

「え?」

 

「……あ」

 

 

 

あ、言ってしまった。

 

 

 



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拾参話 そんなの聞いてない

言い合いにて青娥に勝るものなし!

今話は前半に前話の続きと後半は生斗と翠のイチャイチャ回です。


 

 

「______と言うわけだ」

 

「ふむふむ、なるほど。神子からおれに剣術を習えと言われ、その下見としておれの部屋を覗いていたと言うことか」

 

「な!……太子様の名をきやすく呼ぶでないぞこの阿呆!」

 

「阿呆はお前だ布都、少し黙っていてくれ、できれば一生」

 

 

はあ、折角の昼寝がお釈迦になってしまった。それもこれもこの二人組のせいだ。もしこれが夜中だったら間髪いれずに爆散霊弾かましてたぞ。

 

 

「んで、そんなことよりもお前らに聞きたいことがあるだけど」

 

「「ん、なんだ?」」

 

 

この二人、仲悪いように見えて実は良いんじゃないか?

 

 

「いや、おれ。お前らに剣術を教えるなんて初めて聞いたんだけど……」

 

「え!真か!?」

 

 

うわ、この子……布都っていったっけ?……滅茶苦茶嬉しそうな顔をしてきたな。

 

 

「しかし私達は太子様の命令なので知らなかったの一言では退く事はできないな」

 

「屠自古!いちいち余計なことは言わなくていいのじゃ!あやつも知らぬと言っておるのだしさっさと戻ろうぞ!」

 

「つーかまずおれ、この傷癒えたら此処出るから」

 

「よし!」

 

 

なんだこの子、おれの事嫌いなのか?まあ好かれるような事はしてないけど。

 

「それは初耳だ、太子様に報告しなければ……」

 

 

おいおい、神子の奴、いつの間にそんな話をしてたんだ?

 

 

「あらあら、寂しい事言うのね、生斗」スゥ

 

「……青娥か。なんで態々壁を抜けて入ってくる。普通に開けて入れよ」

 

「あ、青娥殿」

 

 

あー、めんどくさいのが来たぞ。

 

 

「なに面倒なのが来たぞっていうふうな顔をしてるの。それより伝言よ」

 

「はいはい、どうせ神子からだろ。もうそのパターンは読めてる」

 

「正解、ここにいる二人の剣術指導をお願いですって」

 

「答えは勿論無理。この怪我治ったらすぐに出る。面倒事は御免だ」

 

 

道義しかり4馬鹿しかり……なんでおれが来るところ来るところで剣術を教えなきゃいけないんだ。

 

 

「そんなことをいっていいの?折角神子から救ってもらったというのに。その恩を返さないなんて……人としてどうかしら?」

 

「あ?それはおれが勝ったから……」

 

「もし神子が敗けたことを悔しみ、倒れた貴方を置き去りにしていたら……」

 

「!?」

 

「もし神子が性格がねじ曲がっていたら」

 

「……」

 

「もし貴方が刃を潰して情けをかけていたことに苛つきを感じていたら____生斗、貴方死んでいたわよ」

 

「くっ……た、確かに……」

 

 

それもそうだ。あのとき神子は自分より大きいおれを態々担ぎ、血で服が汚れることなど気にせず、此処まで運んできたと翠に聞いた。

もし神子が今青娥の言った例のように人間性がなければおれは遅かれ早かれ死んでいたかもしれない……

 

 

「わかったでしょう?貴方には返さなければならない恩がある。」

 

「…………」

 

 

これは弁明できない。正論過ぎる。

 

 

「……はあ、わかった。教えればいいんだろ?」

 

「流石は青娥殿!見事こやつを論破してくれましたぞ!」

 

「布都、あんたさっきまで教わるの嫌がってなかったっけ?」

 

「そ、そうじゃった!?」

 

 

はあ、もう少し此処にいることになってしまったな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________________

 

 

 ~夜中~

 

 

「結局また青娥さんに言い合いに負けましたね~」ニタニタ

 

「(う、うぜぇ……)」

 

 

翠が物凄いにやけ顔で反対向きで寝転んでいるおれに近づいてくる

 

 

「しかも完敗!言い返す事すらできてませんでした!」プヒャ―

 

「(無視無視)」

 

 

こういうときの翠の絡みはほんとにウザいんだ。ここは寝た振りを決め込むのが最善の策ってことは長年の付き合いでわかっている。

 

 

「悔しくないんですか?え?」

 

 

うわ、こいつおれの耳元で囁いてきやがった。い、いかん、握りしめた右手が翠の顔面に向かって発射しそうだ……

 

 

「……あれー、寝たんですか?いつもならここで激怒するのに」

 

 

翠、お前もしかしてMなのか?そんなにおれから怒られたいか?

 

 

「……はあ、つまりませんねぇ。」ドサッ

 

 

「…………っ!?」

 

と、そんなことを言いつつおれの怪我してる胴体を枕代わりにして寝転ぶ翠さん。くそ、一瞬声に出す所だった……

 

 

 

「う~ん、無理に熊口さんを起こすと酷い目にあうし……下手すると殺されちゃうし……あ、私死んでるので別に大丈夫か!」

 

 

大丈夫じゃねーよ!つーか暗い事いって開き直んな!

 

 

「くーまぐーちさぁーん!おーきてー!」ドンドンドンドン

 

「ぐがががが!?」

 

 

や、やめろ!?怪我してる腹叩くな!痛い!痛いから!

 

 

「あ、これ楽しい」ドンドン

 

「やめろぉぉ!!」バサッ

 

 

たまらず起き上がる。この野郎……おれが動けないからって調子に乗りやがって!

 

 

「あ、熊口さん起きてたんですね」ニタッ

 

「……しまった」

 

 

さて、ここで問題だ。翠は実は寝る必要がないらしい。そしてさっきまでおれの悪口を言って暇を潰そうとしていた。いつもならここでおれが怒って終わるのだが、今は安静の身。激しい運動ができない。そんななか、翠の前に起きている姿を見せてしまったということは……

 

 

「ふふふ、熊口さん。私の暇潰しに付き合ってもらいますよ」

 

「断る!」

 

 

少しでも離れようと廊下へ出ようとする。しかしやはり怪我人であるおれはそこまで早く出ることができず、呆気なく翠に捕まってしまった。

 

 

「こらこら熊口さん、怪我人なんだから安静にしないと駄目ですよ?」

 

「……なら、静かに寝させてくれ」

 

「無理です。観念してください」

 

「…………」ダッ

 

「あ!待ってください!」

 

 

傷が開くのを省みずおれは走って部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________________

 

 

「なに夜中で騒いでおるのだ。しかもおぬしは怪我人であろう。安静にしておれ」

 

「そうですよ。なんで逃げようとしたんですか?」

 

「…………」

 

 

くそ、途中で布都とでくわしたせいで捕まってしまった。あと翠、逃げたのはお前が理由だからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このあと、布都と翠がなぜかおれの部屋でお喋りを始め、あまり寝ることができなかった。他の部屋でやれと言ったが二人は揃ってそれを却下。なんで却下されたのかというと……

 

 

「嫌がらせじゃ!」

 

「嫌がらせです!」

 

 

お前ら治ったとき覚悟してろよ。

 

そう心に誓いながら布団の中に潜り込むおれであった。

 

 




ついに総話数が80話を越えましたね。
ここまで長かった……(まだ半年)


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拾肆話 演技力を上げたい……

 

 

おれが聖徳太子……豊聡耳神子の住む屋敷に来て5日が経った。いまだにおれは布団の上での生活をしている。

 

はっきり言おう。最高だ。

なにもしなくても飯は食べられるし、一日中ゴロゴロしたって誰からも咎められない。……はぁ、ここは天国か?

 

 

「熊口さーん、暇です。なにか話してください。ほら、この前話した月に行った人達の話とか」

 

「お、それなら我も聞きたいぞ!あの話は奇天烈過ぎて逆に面白いのじゃ!」

 

 

こいつらがいなければもっと最高なんだけど……

つーかなんだよこいつら、なんで態々おれの部屋に来る?嫌がらせにも程があるだろ。

 

 

「お前ら、どっか行けよ。真っ昼間から人の部屋でぐーたらしやがって……」

 

「熊口さんだってぐーたらしてるじゃないですか」

 

「おれは怪我人だからいいんだよ。一緒にすんな」

 

「ふん、どうせもう治りかけてるのであろう?あまりにも元気すぎやせぬか」

 

「なわけないだろ。結構深くまで斬られたんだぞ。運よく内臓を傷つけなかったにしろたった5日で治るわけ…………」

 

そうそう、いくら腕が折れても数日で治ってしまうおれの身体でも今回は流石に1ヶ月は絶対安静だろう。

 

そう思いつつおれは包帯で巻かれた自分のお腹を擦ってみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________え?

 

 

「…………」サスサス

 

「ん?急に黙りこんでどうしたのじゃ?」

 

「お腹をずっと擦ってるってことはまだ痛むって事ですか?」

 

「……え?あ、そうかなぁ~!うん、痛いよ!うん!痛い!ははは!」

 

 

あっれ~?どうしよう。

 

怪我、もう治っちゃってる……

 

 

 

 

____どどどどうする。何てことだ。このままじゃ今までの天国ライフから剣術を教えなければならないというめんどくさライフになってしまう!

 

そ、それは嫌だ。折角掴んだ安らぎの時、手放す訳にはいかん。

幸い翠と布都はおれが腹が治っていることに気づいてない。これならこのままやり過ごせる。

 

 

「仕方ないですね。布都ちゃん、屠自子ちゃんの所にいきましょう」

 

「うむ、療養中の者の前で騒ぐと太子様にお叱りをうけるしの。あ、でも屠自子の部屋は嫌じゃ。外へ行こうぞ」

 

「私を殺す気ですか?」

 

「おうおう、いいからさっさと出ていけ」

 

 

よかった。二人ともおれの部屋から出ていってくれるようだな。

 

そして翠と布都のどちらも立ち上がり、襖の方へ歩いていく。

 

「それじゃ、熊口さんお元気でー。あ、悲しい顔をしても行きますからね。」

 

「いや、悲しい顔なんてこれっぽっちもしてねーから」

 

「嘘だー。美少女二人が出ていくんですよ?少なからず寂しいはずですよ」

 

「清々する、いいからさっさと行け」

 

「冷たいですね」

 

「冷たいのう」

 

と、襖の前で立ち止まる翠と布都。おい、さっさと行ってくれよ…………

 

 

「……もしかして熊口さん、私達をこの部屋から一刻も早く出したい理由があるんですか?」

 

「……!!?」ギクッ!

 

 

や、やばい!あまりにも的確な質問に驚いてしまった!

……くそ、今のおれの動作のせいで翠の顔が怪訝な顔つきになった。これはちょっとめんどくさいことになりそうだぞ……

 

 

「なんじゃ、おぬし。なにか隠していることでもあるのか?」

 

「いや、別に……」

 

「熊口さん、今の動作。なにか隠している証拠ですよね?」

 

「……ないって」

 

「ふむふむ、あくまでもしらばっくれるつもりですね」

 

「うむ、そうじゃの。でも男など単純じゃ、どうせ春画でもこの部屋に隠しておるのだろう。どれ、我が見つけてやろうぞ!」

 

と、検討外れな事をいって部屋を探索し始めた布都。

……こいつ馬鹿か?いままでおれトイレ以外にこの部屋を出たことなんてないというのにどうやって春画を買いに行く事が出来るって言うんだよ。

 

(と、今、熊口さんは思っているでしょう。安心しきった顔で分かります。おそらくなにか、もっと重大な…………あ、まさか)熊口さん!お腹の怪我、もう大丈夫なんですか?」

 

「!?!!?……いや、うん。痛いよ!今お前らにつきあってるせいで余計痛くなったよ!」

 

「(ははーん、さては熊口さん。お腹の怪我、もう治ってるんですね。そういえば昔、なぜか折れてた腕が2~3日でなおってましたし、たぶんもう完治してるんでしょう)でも心配ですね。少し見せてもらってもいいですか?」

 

「いや、いいから。さっさと布都連れてどっかへいってくれ!」

 

 

くそ、なんだよ翠のやつ。こういうときに限って心配してくんなよ……

 

 

「……はぁ、仕方ないですね。」

 

「ああ、早く出てい……」

 

「布都ちゃん!熊口さんを捕まえておいてください!」

 

「任された!」ガシッ

 

「な!?」

 

まさかの急襲、なぜか息の合ったコンビネーションを見せた二人は翠の掛け声と共に布都がおれの後ろに回り羽交い締めを決め、動きを止めにかかる。

ちっ、動くのが一瞬遅れて捕まってしまった……

 

 

「ふふふ、ちょっと確かめるだけです!貴方の怪我が本当にまだ治っていないのかどうかを!!」

 

「な、なにぃ!?」

 

 

こいつ!!気づいていたのか!ま、まさか布都も気づいていながらわざとあんな馬鹿な事を言ったのか!?それなら今の俊敏な動きにも腑に落ちる。

 

「なんと!こやつ、仮病だったのか!?」

 

あ、知らなかったのか。

 

「ほら!観念してお腹を見せなさい!」

 

「や、やめろ!おれに近付くんじゃない!」

 

 

く、どうするか……このままじゃおれの快適ライフが…………

 

 

「ほれほれぇ~、どう足掻こうが我が抑えている限りおぬしに自由など訪れぬぞ?」

 

くそ!見かけによらず力がつよいぞこいつ!

ど、どうすれば…………

……は、そうだ!!

 

 

「いいのか布都!お前のむ、胸がおれの背中に当たってるぞ!?」

 

 

「え…………きゃ、きゃあああぁぁ!!!?」

 

 

嘘、ほんとは当たってなんかない。

やっぱ布都は馬鹿だな、よく見ないで叫ぶなんて。

つーか煩い、耳元で叫ぶな。

 

……よし、拘束は解けた。このあとどうするか……あれしかないか

 

 

「うっ、布都に捕まれたせいで腹が……」

 

 

と、うつ伏せになる。そして腹を誰からも見えないようにする。

その後、ちょっとだけ包帯をほどき、治った腹に少しだけ小さい霊力刃でほんの少~しだけ切る。

……おう、ちょっとくすぐったいような痛いような感覚が……

まあ、取り敢えずこれで準備完了。包帯を結び直してうつ伏せの状態を止める。

 

 

「今なんかもぞもぞしていましたけどなにしてたんですか?」

 

「いや、ちょっと腹を擦ってただけだ。」

 

 

怪訝気な顔で質問してくる翠。ふふふ、気づいてないな……おれが細工していたことに!

 

 

「くっ、おのれ……我の胸を触るなど無礼な行為をしでかすなんて……死して償え!」

 

 

と、後ろでなんかいってる布都ちゃん。

 

「いや、胸実際当たってねーから。自分で当てないように締めてただろ」

 

 

「問答無用!!」

 

「うわ!?」

 

 

なんだよ、いきなり殴りかかって来んなよ!?反射的に立って避けてしまったじゃないか!

 

 

「まだまだぁ!!」

 

「な、やめろってこら!」

 

 

避けられたことに余計腹が立ったのか何度も殴りにかかってくる。

 

「ん、ちっ、当たれ!なぜ当たらぬのじゃ!」

 

「そ、れは戦闘、経験の、差だろ!」

 

 

挙げ句には蹴りまでかましてくる布都。

いい加減諦めろよ!?

 

 

「熊口さん」

 

「なんだ翠?今取り込み中なんだが……うえ!?今のは危なかった!」

 

「ちっ、後少しでおぬしの脳天に我の拳が届く所だったというのに……」

 

「……動けてますよね?」

 

「は?なんだって?」

 

「余所見をするでない!」

 

「少しは怪我人を労れお前は!」

 

「怪我、治ってますよね!!」

 

「え?怪我が治ってるって?………………あ」

 

「あ」

 

 

え~と、うん、これは~……言い訳出来ないかなぁ。

 

……いやしかし、ここで諦める訳には……

 

 

「ほら、アドレナリンというやつだよ!」

 

「あどれなりん?なに意味のわからないこといってるんですか。」

 

「ほ、ほら!包帯に血がついてるだろ!」

 

 

さっきおれの仕込んだ血だ! 

 

 

「ふん!」

 

「ごへっ、?!」

 

 

翠から急に腹パンされた。い、痛てぇ……

 

 

「ほら、今殴りましたけど悶絶するほどじゃなかったでしょう?もし治っていなかったら想像を絶する痛みで悶絶するはずです」

 

「あー!痛い!やっべぇー!し、死ぬ!み、翠なにしやがるんだ!!」

 

「…………」

 

「……見苦しいのう、いい加減白状した方が身のためじゃぞ」

 

「うっ……」

 

 

どうする……他に手は!?……駄目だ、言い訳をしたらこいつらに襲われる。それに無抵抗じゃないといけないが、そんな我慢出来るわけがない、袋叩きなんてごめんだ……

でもどうすれば……逃げる?駄目だ。気絶のふり?駄目だ、叩き起こされる。多少無理矢理にでもこいつらを追い出す?絶対に無理だ!!

 

 

あ、これ駄目だ。詰んでる。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、おれは怪我がなおっていることを白状した。

そしたら二人はハイタッチをしておれを見下すように見てきた。

……なんだこいつら、人を弄んでそんなに楽しいのか!!




今回生斗くんがお腹を切ってその感想が『くすぐったいような痛いような』とか、いってましたが実際は普通に痛いです。カッターで指を切るより痛いです。


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拾伍話 おれにだって誇りはある

 

「あーんと、じゃあ剣術について教えようとおもいまーす」

 

 

まったくやる気のないおれの声とともに剣術指導の時間が始まった。

くそ、おれの異常な回復力と翠と布都を恨んでやる!

 

と、そんな過去の事を思い出すのは一端やめにして……

現在、おれは布都と屠自古に剣術を教えるべく、屋敷の庭にでている。勿論布都と屠自古も一緒だ。そして初めての授業ということもあって神子が縁側から見学している。因みに翠は神子の後ろの方で太陽の光に怯えながら一緒に見学中。

 

 

「はあ、ついにこの日が来てしまった……まだ怪我をしていれば良いものを」

 

 

布都め、あからさまに嫌な顔をしてくるな……おれだって嫌だよ!

 

 

「布都、お前がなにもしなければおれはまだ布団の上の生活を楽しめていたんだぞ……」

 

「ふん!我は事実を証明しただけじゃ!」

 

「そんなどうでもいい話は後にしてくれない?時間が惜しい」

 

 

うむ、確かに屠自古のいうとおりだ。こんな馬鹿と話したって口喧嘩になるだけだ。

 

んじゃ、パッと教えて後は自習って形にして終わらせるか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~~5分後~~

 

 

「こうやって……こう!」ブゥン!

 

 

取り敢えず士官学校時代にしていたようにやる。

 

 

「ほら、おれが今やったように真似してみろ」

 

「……」

 

「……」

 

 

あら?二人とも動かないぞ。もう反抗期か?まさか布都なら兎も角屠自古までしてくるとは……

 

 

「なんだ、もうやる気がなくなったのか?」

 

「……いや、今のをやれと言われても……型というよりは舞いじゃの」

 

「まったく、出鱈目な動きだ。やってられん」

 

 

と、屠自古が踵を返して屋敷の方へ帰っていく。おいおい、まじですか……

 

 

「待ちなさい、屠自古。勝手に抜け出すことは私が許しません」

 

その歩を神子が制止させる。

 

「お退きください太子様!私は幼少の頃、護身術の1つとして剣術をたしなんでいた時期がありました。なので多少なりも剣術には心得があります!なのにあの者のしていることは全くの出鱈目、規則性など皆無、教える気などさらさら無いように感じます。そのような者に教えてもらうなど時間の無駄の何物でもありません!」

 

 

お、おう……凄い言われようだ。なんか心外だな……面倒だったが一応真面目に教えてたつもりなんだけど……

 

 

「私も今の生斗の動きをみて一瞬そう思いました。構えは普通、五行の構えが基本であるのに生斗の場合、手ぶらから一瞬の間に光る刃を出現させ唐竹を決めています。

しかしこのやり方が生斗なのです。戦った私だからわかるのです。規則性など無く、それでいて奇想天外な動きをして相手を翻弄する。これが彼のやり方です」

 

 

まあ、神子が言っていることは殆ど合ってる。おれは昔、鬼に敗けて以来正規通りの動きをしても本気の殺し合いでは役に立たないと実感し、完全な我流に変えた。

 

 

 

「そ、それでは……あの癖の多すぎる動きをどう習得すれば……」

 

「まあ、確かにあれは癖の塊のようなものです。しかし、『美しい』動きをしているでしょう?」

 

 

お、美しい?神子ちゃん嬉しいこといってくれるじゃあないか。まあ?おれの剣技は美しい舞いだろうな!

 

と、こんな布都すら黙りこむほど真面目な空気の中ふざけたことを考えているおれ。

 

 

「…………」

 

「……はぁ、それほどまでに彼の剣術に不満を持っているのですね」

 

「…………はい」

 

 

「仕方ありませんね…………生斗、此方に来てください」

 

 

うわ、神子が此方に来いと促してきた。ええ、嫌だなぁ……

そう思いつつ渋々神子のところに行く。

 

 

「それでは屠自古、これから生斗と模擬戦をしなさい。それで貴女が勝てば私からいうことは何もありません。しかし、生斗が勝ったら黙って生斗の教授を受けること。わかりましたか?」

 

「え、えぇ!?ちょ、神子勝手に決めるなよ!そんな面倒なことしたくねーよ!」

 

「おい!太子様に馴れ馴れしくするな!」

 

 

いや、でも戦うなんて面倒なことほんとに御免なんだけど……

 

 

「ふん、話は早いな。ようは屠自古と熊口が潰しあって疲弊している間に我が二人に止めをさせばいいのであろう?」

 

「布都ちゃん、今の話聞いてました?」

 

 

いつの間には神子の後ろでいつの間にか移動していた布都と翠がなにやら雑談している。

くそ、こいつら他人事だからって呑気にしてる……元はと言えばおまえらのせいなんだからな!

 

 

「はあ……仕方ない。太子様のご命令とあればやるしかあるまい。

_____熊口生斗。貴様を負かし、私の剣術の仕方が正しいということを証明してやる!」

 

「……あ、はい……そうですか」

 

 

これは……断れないやつだな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

「それでは模擬戦を始めます。どちらかが一太刀浴びせた方時点で終了とします。」

 

 

中々広い庭のど真ん中で神子が坦々と模擬戦についての説明をしている。

 

おれと屠自古はお互いに向き合った状態で制止、その真ん中に神子がいる状態だ。

 

 

使うのはこの木刀のみ。おれの得意な数で押しきる戦法は使えないわけだ。

純粋な剣術の勝負。長年今の剣術で生き延びて来た。こういう模擬戦で負けたことなんて依姫以外にはいない。まあ、今回も大丈夫だろう。

 

 

 

「それでは_____始め!」

 

 

そしてついに神子の掛け声とともに火蓋が切って落とされた。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

あれ?動かないぞ?

 

 

「来ないのか?」

 

「相手の出方を伺うつもりだったのだけど……なるほど、お前も私と同じ考えだったか」

 

 

お、そうだったのね。別におれ伺うつもりではなかったんだけど……いつもの癖で先手を相手にあげちゃうんだよなぁ、おれ。

 

 

「そうか……」

 

「……」

 

 

少しの沈黙が続く。

 

 

「……」

 

「……」サッ

 

おれが棒立ちで突っ立っていると、ついに痺れを切らしたのか屠自古は中段の構えをとる。

 

 

「……」ジリジリ

 

「ん、そんなちょびちょび動いてないでさっさと斬りにかかってこい」

 

「煩い、黙れ」ジリジリ

 

 

中段の構えを崩さず少しずつ前進してくる屠自古。

……はぁ、しゃあないか。

 

 

「……」ズサッ

 

「……!」

 

 

相手が来ないのなら此方から。相手の出方なんて待ってられるか。

 

 

「(こいつ馬鹿か?なぜ構えもせず私の方へ前進してくるんだ……布都以上の阿呆としか言い様がない。……そのままかたをつける!)」

 

「……」ズサッズサッ

 

 

ついにおれは屠自古の間合いに入った。その瞬間_____

 

 

「!!」シュン!

 

 

屠自古は突きをかましてきた。……はあ、こいつ。なんて愚作を……突きは捨て身の技だぞ。ここで使うような技じゃない。

 

 

「ふん!」スッバシッ!

 

「!?……くっ」

 

予め突きか袈裟斬りを予想していたのでおれはそれをなんなく避ける。

そしておれは突きをしたことにより隙を作った屠自古の手を蹴りあげ、木刀を離させる。

 

 

「……決まりですね。」

 

 

神子がその光景をみてそう言う。……いやいや、待てよ。

 

 

「神子、まだ終わりじゃないだろ?まだおれは屠自古に一太刀浴びせてないぞ?」

 

「……!!」

 

「それはそうですけど……これはもう……」

 

「情けをかけるつもりか愚か者!そんなものいらん!さっさと斬れ!」

 

 

屠自古が今のおれの言ったことに猛抗議してくる。

 

 

 

「おいおい、まさか今ので終わったつもりか?おれはまだ木刀を振ってすらいないぞ。

それにな、屠自古。おれはお前に情けをかけたつもりで模擬戦の続行を志願した訳じゃない。」

 

「なんだと?」

 

 

そんなもん決まってる。

 

 

「おれがお前の言う剣術をおれの我流で捩じ伏せ、初めて勝ちと言えるからだよ」

 

 

おれにだって剣術には誰にも負けない自信があるし誇りだってある。それが例え邪道であったとしてもだ。だから貶されて黙っておくわけにはいかない。おれは屠自古をこの木刀のみで倒す、そしてそれがこれまで培ってきたおれの剣の道を証明することになるんだ。

 

 

「くっ……確かにお前の言ってることは正しい。しかし、お前は後に後悔することになる。模擬戦を続行したことに……」

 

「ってことはまだ続けるってことか?」

 

「やる他ないだろう!」

 

「わかりました。それでは取り直しましょう。」

 

 

よし、次からが本番だ!

 

 

「いくぞ屠自古!」

 

「こい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

「……来いよ」

 

「そっちこそ来たらどうだ?」

 

「ほら、先手を譲ってやるから」

 

「お返しする。そちらに譲ろう」

 

 

最初と殆ど同じじゃねーか!!

 

 

 

「さっさと動け屠自古よ!そして疲弊するのじゃ!我が楽にしてやる!」

 

「熊口さんも早く動いてください!そして無様に負けてください!」

 

 

おい、外野ども煩い。

 

 



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閑話 “口”喧嘩ではないよな?

はい、クリスマス(もう過ぎていますが)ということで閑話です。(4章に入ってから閑話が多いような……)
とか言いつつも全くクリスマスとは関係のないお話となっております。

因みに今回は三人称視点ちゃんがメタ発言を結構言いますのでそう言うのを見たくないと言う方はブラウザバック推奨です。



 

 

 さてさて、おはようこんにちはこんばんは!三人称視点です!

 今話は主人公である生斗さんではなく、この私が語り部を務めさせていただきます。

 

 ということでいきなりですが今回の本題について話そうと思います。

 

 _____ずばり!生斗さんと翠さんの口喧嘩についてです!

 

 これまで、幾度となく生斗さんと翠さんの他愛のない口喧嘩を生還録を見てくださっている皆様は見てきていますでしょうが、今回は三人称視点の私が実況者となり、二人の口喧嘩に合いの手を加えていこうと思います!

 さてさて、あの二人の事だから今日も懲りずに口喧嘩をしている事でしょう。てことで早速見に行ってみようと思います!!

 

 

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 ~生斗家~

 

 

 あー……え~と。

 

 

 

「…………」チーン

 

 

 少し遅かったようですね。もう翠さんが物干し竿に吊るされて気絶していました。

 

 

 

 ______________________

 

 

 take2

 

 

 ~生斗家~

 

 

 さてさて……気を取り直して後日、お次は満を持して早朝から生斗さんの家を覗きに来ました!ふふふ、まだ太陽が見え始めてそう時間は経っていないはず。今は冬なので太陽が見え始めるのは夏に比べて大分遅いのですがおそらく生斗さんは寝ているでしょう。だって仕事なんてこれといってしていないわけだし……たまにあの4馬鹿の剣術を教えているぐらいですかね?まったくこれだから_____

 

 ……ごほん。生斗さんの仕事のなさについて愚痴ろうとしましたが今はそんなことしている暇はありませんね。折角寒いなか厚着をしてまで覗きに来たんですから早速(こっそり)家のなかに入って見ましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 

 生斗さんの家は半罠屋敷です。少し大きめの家を河童に建てさせたのも当時私が生斗さんに嫌がらせを…………と間違えました。当時完璧美少女の射命丸文という天狗の星が生斗さんに嫌がらせをしようと河童と協力し、罠屋敷を完成させました。

 

 

 なので生斗さんの家はなにも玄関以外からも入ることが出来るのです。

 

 例えば今私のいる生斗さんの家の木の壁の前にいます。足元に自然にできたであろう傷がある以外なんの変哲もありません。しかし、そんな木の壁も今言った傷がついている部分を2、3回ほど蹴ってみると_____

 

 

    スゥ……カタッ

 

 

 と、どこからか音をたて、変哲もなかった壁に長方形に切れ目ができ、少しずれました。

 よし、これで入れますね!

 

 

 そう思いつつ、生斗さんの家の中へ音を極力たてないように入っていきます。

 

 そして漸く生斗さんの部屋までたどり着くことができました。

 おそらく寝ているでしょうから今のうちに天井にでも隠れて見てみようと思ったのですが、それじゃあつまらないし、見えにくいので襖越しからみることにします。

 

 よし、見る位置も決まったことですし覗きを開始しようと思います。

 そして私が襖を少し開け、生斗さんの部屋を覗いてみます。

 

 

「ん~……」

 

 

 あ、起きていたんですね。

 覗いてみるとそこには布団から上半身だけ起こしていつものグラサンとやらを目の方へ掛けている生斗さんがいました。ふむ、予想が外れましたがこれは好都合。これなら用事が早く済みそうですね!

 私もこんな冷え込む中、わざわざ早起きしてここまで来たおかげで眠たいから助かります。

 

 

「……朝か。……おーい翠、朝だぞ。今日はお前が当番なんだから起きてごはん作ってくれ」

 

 

 と、誰もいない部屋のなか、生斗さんがそう呟く。そうすると一時して、生斗さんの背中から翠さんがのろのろと出てきました。

 これはいつみても少し衝撃的ですね……

 

 

「はぁい……わかりました……熊口さん、朝ご飯は雑草と泥水でいいですかぁ?」

 

「食えるか!ていうかそんなの料理とは言えないぞ」

 

 

 と、朝からボケをかます翠さんとそれを寝起きであろうとキレの落ちない生斗さんのツッコミがでる。

 朝からこんな漫才を自然とやってのけてたんですね、この二人……

 

 

「うぅ……仕方ありませんね……作ってあげるとしますか」

 

 

 そう翠さんがゆっくりと立ち上がり、私のいる場所とは違う襖を開け、台所の方へと歩いていく。……生斗さんの毛布にくるまりながら。

 

 

「おいおい!なに奪ってんだ!?寒いだろ!」

 

「熊口さんの温もりが残ってて少し不快ですが暖かいのでよしとします」

 

「感想を聞いてるんじゃない!返せ!」

 

 

 この二人、朝から結構飛ばしてきますね。もしかして私や4馬鹿とかと一緒にいないときっていつもこんな感じなんですかね?

 

 ま、取り敢えずもうそろそろ場所を変えた方が良いですかね。次は居間を見える位置に移動せねば!

 

 そう思いつつ私は襖をそっと閉めるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「熊口さん、今日の予定はなんですか?」

 

「毎日同じことを聞くな。今日も特にやることはないな」

 

「熊口さん、食べている最中に話すものではありませんよ?」

 

「お前が聞いたんだろうか!」

 

 

 現在、生斗さんと翠さんは朝ご飯をとっています。何度か翠さんのご飯を食べさせてもらったのですがあれはかなり美味でした。なんであれだけの食材であそこまで美味くできるのか疑問に思えます。

 ちなみに私は予め用意していたおにぎりを食べ、空腹をまぎらわせています。

 はぁ、早く喧嘩してくれませんかねぇ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさま」

 

「はい、お粗末様でした」

 

 

 結局何事もなく朝ご飯を食べ終わった二人。意外にもちゃんと食べ物への感謝の印を示す生斗さん。

 

 

「それじゃあお皿洗ってきます」

 

「ああ、おれも手伝うぞ」

 

「別にいいです。」

 

「こらこら、人の厚意は甘えとけ、これは生斗さんからの教訓だ」

 

「厚意には甘え尽くすってことですか。なるほど、駄目人間ですね」

 

 

 この二人は普通の会話を知らないのでしょうか?今のただお皿洗いについて話しているだけなのに一癖も二癖も違う会話になってるんですけど……

 

 

 

 

 

 

 結局二人は揃って皿を洗うことになりました。

 

 

「……」ジャー

 

「……」フキフキ

 

 

 どちらも沈黙のまま、お皿洗いを進めていく。ふむ、後ろから見るとなんだか夫婦に見えなくもないですね。

 

 生斗さんがお皿を洗い、それを翠さんが拭いていく音だけが台所に響く。なんだかこの音、落ち着きますねぇ……

 

 

 ……ってなにほんのりしてんですか私は!?今回私はこの二人の口喧嘩を実況するために忍び込んだというのに!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~~昼頃~~

 

 

「はあ!」

 

「よいしょ!」

 

「いえや!」

 

「ほおっと!」

 

「皆で同じ行動をとるな、四人なんだからそれを活かせ。一人一人違う斬り方をして相手を惑わせろ」

 

 

 結局昼頃になっても二人は喧嘩をすることなく、今は昼ご飯を食べたということで食後の運動とばかりに生斗さんは4馬鹿の稽古を手伝っている。翠さんは縁側の日陰で見学中。

 

 

「ぐわぁ~」

 

「うぐっ……」

 

「んが?!」

 

「げへっ?!」

 

 

 そして生斗さんに4馬鹿全員が仲良くやられ、地面に倒れこむ。

 

 

 

「ふぅ、中々疲れたな」

 

「くっ……4人ともよく頑張りましたね!皆良い動きをしてましたよ!」

 

「翠の、姉さん……」

 

「こんな私達にもお優しいお言葉をかけてくださるなんて……」

 

「か、感動だ」

 

「嬉し泣きしてきた……」

 

 

 翠さんの一言で4馬鹿は感動して頬を赤く染める。照れてんのね。

 

 それをみた熊口さんはおれは?おれは?と言いたいように自分に指をさしている。

 それに気づいた翠さんは一瞬嫌な顔をしつつこう言いはなった。

 

 

「すごいですねーやっぱり熊口さんの剣術は奇怪な動きをして動きが読み取りづらいでーす(棒読み)」

 

「おい翠、なぜ棒読みなんだ」

 

 

 あからさまに誉める気のない声での誉め言葉。翠さん、どんだけ生斗さんのこと誉めたくないんですか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~~夕方~~

 

 

 やばいやばい、仕事をサボって一日中観察しているのに全然喧嘩しないですこの二人。するとしても軽い言い合いぐらいで全然本気の口喧嘩に発展するということがありませんでした。

 こ、このままではタイトル回収が……

 

 

「はあ、やっぱり風呂は良いなぁ。ふやけなければずっと入っていたい」

 

 と、お風呂上がりの生斗さんが言う。

 

「ほんと、お湯を体全体に浸すなんて考え、思い付きましたね。生前では考えられませんでしたよ。まあ、気持ちいいから良いんですけど」

 

 

 確かに生斗さんがやっているお湯を溜めてその中に、体を入れる洗い方を最初に教えてもらったときは驚きました。最初は水が勿体無いと思ってたのですがいざ入ってみると体の芯から暖まる感じがしてとても気持ちよかったです。あれから私も生斗さんと同じやり方で体を洗うようになりましたからね。 

 

 はあ、私もお風呂に入りたくなりました。しかもお昼なにも食べてないのでもうそろそろ私の胃袋が限界に達しそうですし……

 

 

 今日は帰りますか。また後日改めて出直すとします。

 

 

「そういえば昨日から射命丸のやつ見ないな」

 

「あ、ほんとですね。いつもなら昼頃に来るのに……」

 

 

 確かに最近ある用事があって射命丸さんは生斗さん達と会うのを控えていますね。さて、いったいどんな用事なんでしょうねー……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 take3

 

 

 ~5日後~

 

 

「おい、翠お前……いっちゃいけない事をいってしまったな……」

 

「お、来るんですか?こんなか弱い美少女に暴力を働こうってんですか?」

 

 

 きたきたきたきたぁ!!ついに来ました!あれから5日間バレずに覗き見をしてついに喧嘩が始まろうとしています!ついに、ついにタイトル回収ができます!!

 冒頭で行った通りこれからは私こと三人称視点が実況を務めさせていただきます!

 

 

「大丈夫、躾に関しては男女平等だから」ガシッ

 

「あう!?」

 

 

 出ました!生斗さんお得意の空中脳天締め!相手の顔面をを鷲掴みにし、指先の力だけで相手を持ち上げ、握力によって締め付けるじわじわと痛みを増幅させていく格闘技です!

 

 

「ふふ、その程度ですか?」

 

「くっ」

 

 

 しかし翠さん効きません!私も何度か生斗さんの脳天締めを受けたことがありますがかなりの激痛でした。それなのに翠さんは全く動じることなく不適に笑っております!痩せ我慢なのか?!いや、違う!あれは痛がっているのを我慢している顔ではない!本当に余裕を持っている顔です!私にはわかります!

 

 

「私がこれまで何度熊口さんからこれを受けてきたと思っているんですか?」

 

 

 と、誇らしげに言う翠さん!

 生斗さんは怒ったときにしか脳天締めをしません。つまり翠さんはこれまで幾度となく生斗さんを怒らせているということです!

 なので今の発言は全然誇らしくはありません!!

 

 

「ならこれはどうだ?」ギリリ

 

「!?……うぐっ……」

 

 

 そしてついに生斗さんも奥の手、霊力による身体強化を使ってきました!流石の翠さんもこれには苦痛の顔を隠せません!

 

 

「……!」ブンブン

 

「うお、急に暴れ始めやがった!」

 

 

 あまりの痛さに暴れて腕を顔から引き離そうとする翠さん!空中で身体が動き回り翠さんの浴衣がはだけていく!下着見えちゃうんじゃないんですかあれ?!

 

 

 

「抵抗しても無駄だ!がっちりと入ってるからな!」

 

 

 そんなサービスシーンを見事に逃している生斗さん!どんまいです!

 しかしさすがに辛そうだ!翠さんの顔も限界寸前です!動きもどんどん激しくなって一刻も早く手を振りほどこうと奮闘しています!

 

 

「い、いまです!」ドゴッ

 

「……あぎっ!?!?」ドサッ

 

 

 な、何てこったー!!

 翠さん絶対絶命と思いきや!暴れて動いていた身体の勢いを利用してそのまま生斗さんの急所におもいっきり蹴りをかましました!

 痛い!私は女なので男特有のあの痛みはわかりませんが見ているだけでも痛いです!あの生斗さんも白目向いて倒れこんでいます!

 

 

 

「ふぅ、苦しい戦いでした」

 

 

 倒れ伏している生斗さんを見ながら勝ち誇った顔をする翠さん!全く罪悪感がないようにみえます!

 さてさて、今回の口喧嘩?の決着もついたことなので早速インタビューに行きたいと思います!

 

 

「翠さん!」

 

「え?!……あれ、文さん。なんで家の中から出てきたんですか?」

 

「文さんではなく三人称視点です。あと家の中から出てきたのは色々な事情です……と、そんなことよりも今の感想をお聞かせください!」

 

「今のって私が生斗さんの○○をおもいっきり蹴ったことですか?あのときはスカーっとしましたね」

 

「それもありますが違います!生斗さんとの喧嘩についてです」

 

「それですか……んまあ、今回の喧嘩はいつもより長く、辛い戦いでしたが無事、勝利を掴むことが出来ました。この事を種に熊口さんをいびっていこうと思います」

 

「流石翠さん!常人の感想より斜め上を行く感想ですね!どうもありがとうございました!!」

 

 

 ついに終わりました!1週間の苦労がついに実を結びました!

 さ、早く帰ってこれまで溜め込んでいた食材を使って豪勢な夕食にしましょうかね……

 

 

「おい……まて」ガシッ

 

「え?」

 

 

 と、帰ろうとしたその瞬間、誰かから頭を鷲掴みにされました。……ま、まさか_____

 

 

「生斗さん!?」

 

 

 急所を蹴られ、気絶していた筈の生斗さんが内股になりながらも立っていました。

 

 

「射命丸お前……1週間無断欠勤したよな?なんでこんなところにいる……昨日おれがどれだけ秋天(天魔)に叱られたか……覚悟はできてるよな?」

 

 

「あー、え~と……」

 

 

 これはちょっと危険な感じが……取り敢えず弁明しておきましょう。

 

 

「私は射命丸ではなく三人称視点です!」

 

 

 

 このあとお叱りを受けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回なんと最長の5000文字越えでした笑

本当はちゃんとクリスマスにちなんで生斗が皆にプレゼントを配ろうと奮闘するお話にしようと思ったのですが書いている間にクリスマスが過ぎていったのでやめました。


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拾陸話 おいおい、知らなかったのか?

はい、活動報告にて今年はもう書かないといいながら書いちゃいました。テヘッ☆

ということで拾陸話です。どうぞ!


 

「はあ!や、たあ!」

 

「おっと、ほい」カツッカッカッ

 

 

あれから何分が経過したか……結局おれが屠自古に先手を譲り、受けに回っている。

ん?なんでおれが受けに回ってるかって?そんなの決まってるだろ、屠自古の剣術を全て見切って格の違いを見せつけるためだ。ふふ、今屠自古の苛ついてる様、滑稽だ!!

……あれ?おれ今屑っぽい顔してない?

 

 

「熊口さんの屑ー!ちゃんと戦えー!」

 

「逃げてばかりじゃ何も始まらんぞ阿呆!」

 

 

と、あそこにいる馬鹿二人組からの罵声が聞こえているが無視無視。

 

 

「こら、二人とも静かにしなさい!」

 

 

そして二人とも神子に叱られてやんの。ざまみろ。これまでおれを弄った罰だ!

 

 

「いい加減!木刀を振れ!」

 

「お前がおれを本気を出させるような攻撃をしてきたらな~」

 

「ちっ……!」

 

 

実際そうだ。屠自古の剣は止まって見えるほど遅い。これまで窮地を乗り越えてきたおれからすればよくこんな有り様で喧嘩を売ってこれたなと逆に感心するほどだ。

これなら別に剣術指導を施してない射命丸の方がよっぽど強い。

 

 

「いいか?剣を振るときは力み過ぎると逆に遅くなるんだ。もっと力を解して、斬る!って時に思いっきり力を込めるんだ。そうすれば今よりかはましになる」

 

「敵の指図など受けん!」ズバァ

 

「はあ……」ヒョイ

 

 

こいつ、聞く耳を持たないな。たぶんおれに避けられすぎて頭に血が上ってんだな、きっと。

 

 

「んじゃ、お手本を見せてやる」

 

 

しゃーない。まだ振るつもりは無かったが相手が血が上っては格の違いを見せつけてもあまり意味はない。ここはおれの渾身の一振りを見せつけて、我に帰らせるか。

そう思いつつおれは屠自古から一旦距離をとる。

 

 

「あ、逃げるな!」

 

 

さて、こういう場合は居合いが定番だが、生憎おれは抜刀術というものがあまり得意じゃない。いや、得意云々の前に抜刀する刀がない。だってその場で霊力剣を生成して斬りつけてんだよ?抜刀も糞もないじゃないか。だから今からおれが見せるのは『唐竹』。上から下へ斬るやり方だ。別に袈裟斬りでも良かったがこっちの方がなんかカッコいいだろ?

 

 

「見とけ屠自古。これが本物の斬り方だ!」

 

「(自分で言ってて恥ずかしくないんですかね、熊口さん)」

 

「(な、なにが始まるんじゃ!?まさかあやつ、逃げるつもりか!?)」←的外れ

 

「(あの構えは袈裟斬りか唐竹。あのとき、私との戦いでさえ本気を出していなかった生斗の必殺の一振り……いったいどんなものなのか……)」

 

「何をする気だ!」

 

「まあ、みとけ」

 

 

おれの予想だとたぶん空を切る音が凄まじすぎてここら一体に大風が吹くだろうな!

 

 

_____よし、いくか!! 

 

そう覚悟したあと、おれは思いっきり木刀を振り下ろした。

 

 

 

 

      「……!!」フオォン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       …………シ~ン…………

 

 

あれ?何も起こらないぞ?かなりの霊力を木刀に込めたし、自分の持ってる技術を詰め込んだ。

それなのに少しの風も巻き起こらず『フオォン!!』の音だけ?

 

え、え、えぇ……物凄く落ち込むんだけど……つーか恥ずかしい、あんなになにかある感だしといて何もないとか恥ずかしい過ぎる……よし、取り敢えずグラサンを目の方に持っていって恥ずかしさをまぎらわしておこう。

 

 

「く、熊口さん……」

 

「なんだ翠、またおれを馬鹿にすんのか?」

 

 

するならしろよ、今のおれには翠の罵声なんて聞き流せるぐらい落ち込んでんだ……

 

 

「違います!前を見てください!前!」

 

「えぇ~、なんだよ。前には何もないぞ。奥に屠自古がいるぐらいで……」

 

 

翠が珍しく驚いたような顔をしてきた。

なんだよ一体……と、前の方を見てみる。すると……

 

 

「え……」

 

 

え、どういうこと?なにこれ……

 

 

「空間が……」

 

「歪んでる?」

 

 

そう、空間が歪んでいた。なんかおれの目の前に真っ直ぐ、つまりおれが今『唐竹』というやり方で斬った箇所だ。

_____ってことはつまり……

 

 

 

「お、おれすげぇ!!え!まじか!空を斬るどころか空間斬っちゃったよ!!」

 

「……す、凄い」

 

「なんか喜び方が苛つきますが……たしかにこれは凄いとしか言いようがありませんね……」

 

「な、なにが起こったのじゃ!?なぜあやつの目の前が歪んでおる!??」

 

「……くっ……」

 

 

なんだこれ……えぇ、おれ、こんなこと出来たのか!これまで一回も試した事なかったから気づかなかった……

 

 

       シューン……

 

 

あれ?歪みが消えた……元に戻ったのかな?

 

 

「おい、お前……」

 

「なんだ、屠自古。もう負けを認めんのか?それはおれが認めないぞ。」

 

「いや、負けを認めた方がいいのはお前の方だ。右手に持ってる木刀を見てみろ」

 

「は?何を言って…………おう」

 

 

なんてこった。木刀の半分が綺麗に無くなってる……ま、まさかおれが今やったのが原因なのか!?

確かに空間を斬ってるんだ。並大抵の耐久力じゃ折れても仕方ない……うん、どうしようか。これじゃあ満足に戦えないぞ。……でもまあ、これぐらいの長さなら行けるか。

 

 

「ま、いっか。ほら、かかってこい」

 

「なっ……お前まさかその折れた木刀で私とやりあうつもりか!」

 

「ん、そうだけど」

 

「私を舐めるのも大概にしろ!」

 

「そう思うなら倒してみろ。おれからしてみればちょうどいいハンデだと思うが」

 

 

相手が剣の達人なら兎も角、幼少の頃にちょっとかじった程度のやつに負ける気なんてしないからな。

 

 

「ちっ……本当にそのままでやるつもりか?」

 

「あたぼうよ。」

 

「…………」

 

 

おっと、急に屠自古のやつが黙ったぞ。

あ、わかったぞ。あれだな、ちょっと静かにした風に見せて『なら致し方ない。死ねぃ!』とかいって攻撃してくるやつだな。昔、諏訪子のおやつ勝手に食べたときそんな感じだったのを覚えてる。

 

 

「……なら仕方ない」

 

 

お、予想通りだ!

 

「私の敗けだ。お前の言う通りにする」

 

「は?」

 

なんでだよ!ここは激昂して襲いかかってくるのをおれが華麗に一本とるというシチュエーションが破綻するじゃないか!

 

 

「無理だ、おれの剣術を披露できてない」

 

ここは当然否定の意思を示す。

 

「そんな折れた木刀では満足してその剣術を披露も出来ないだろう。それに十分すぎるほどに伝わった。私に″剣術では”勝ち目はない。だから降参する」

 

 

な、なんて勝手な……少なからずおれ、馬鹿にされたこと傷ついてるんだぞ?

 

 

「でもおれは認める訳に……」

 

「いいじゃないですか、生斗。屠自古が負けを認めているのならそれを受け入れても」

 

「いや、でも……」

 

と、おれが屠自古の負けの申し出を断ろうとしたら神子がそれを阻んできた。

 

「そうだそうだー!熊口さん大人げないですよー!」

 

「ん、なんじゃ翠殿。生斗は大人じゃなかったというのか?」

 

「ええ、布都ちゃん。あれの精神年齢は幼児以下です」

 

「おいそこの馬鹿二人、お前らは3日ぐらいおれの前に姿を現すな」

 

 

ったく、あいつら神子の後ろで言いたい放題言いやがって……

 

 

 

「はあ、仕方ない。今回は仕方なく屠自古の申し出を受けてやるか。」

 

「そうしてくれるとありがたい」

 

「でもな屠自古、お前は明日から剣術の指導はさせん」

 

「……え?」

 

「はっきり言ってお前に剣術の才能がない。だから霊力操作について教えてやる」

 

 

 

霊力操作は剣術と同じくらい得意だ。屠自古には剣術の限界が知れているのが今回、少しやりあっただけでわかる。だからこその方向転換、強さは剣術だけではないんだ。屠自古を強くするなら基礎中の基礎、『霊力操作』を教えるのが妥当だとおれは判断したのでそれを提案した。

 

 

「霊……力?なんだそれは?」

 

「は?」

 

 

と、おれがなんで屠自古に霊力操作を教えるのか頭のなかで説明していると急に屠自古から予想外な事を聞かされた。

 

 

「おい、まさか『霊力』を知らないのか?」

 

「知らん、太子様は知っておりましたか?」

 

「いいえ、初めて聞きました」

 

 

 

おいおい、まさか神子も知らないってのか……それなのにあんなに強かったのか……

 

 

「我も知らんぞ!なんじゃ霊力とはなんぞや!」

 

 

うん、布都。お前は予想できてた。

 

それにしても_____

 

 

「こりゃ、最初の方から教えなきゃなぁ……」

 

 

面倒な事になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ、そういえば青娥も霊力扱えてたよな?ならあいつに教えさせた方が良くないか?

よし、そうしよう。今は青娥のやついないようだが帰ってきたら取っ捕まえて教えさせよう。おれが楽するためにもな!!

 

 

 

 

 

 



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拾漆話 蹴るのはやめて

すいません。サブタイトル書き忘れていました。


 

 

昨日、屠自古との剣術勝負をした後、おれはあの空間を歪ませた『唐竹』を何回か試してみた。

まずわかったのは彼処の空間の歪みは1分程たつと元に戻る。そしてその空間に入れたということ。これが一番の発見だった。物(翠が密かに集めていた綺麗な石)を一度歪みの中へ入れてみると物は空間がはいっていくとともに見えなくなった。そのあと、空間が元に戻ってからちょっと場所を変えてもう一度『唐竹』をし、その歪みの中に手を突っ込んでみると、中には先ほど入れた物(翠の石コレクションの中で一番綺麗な石)があった。

つまりこの歪んだ空間の中は共通していることになる。もし、その空間にもう1つの別空間がそれぞれあったのなら、場所を変えたらその空間には物(翠が寝ているときに枕元に置いていた石)はないはずだからだ。

今回、それがわかったが、本当にその空間が共通しているのかは完全にははっきりしていない。本当はちゃんとその空間ごとに別空間があるのかもしれない。

もしかしたら、いつもおれが旅するとき準備不足が原因で痛い目にあってるから、あの見た目は子供、その化けの皮を剥いだら老いぼれのおじいちゃんの神が気を利かせてくれたのかも知れない。それだったら感謝しなければならない。だってこの前なんて準備不足で餓死しかけたからな。

 

 

でもなぁ……

その空間歪み、かなり便利だけど物凄く霊力使うんだよなぁ……

 

まあ、上限としては5回。それ以上やったら腕が上がらなくなる&霊力が空になるという最悪な状態になるのでこの技はあまり戦闘に使うことはないだろう。

そしてなんで限界のことを知ったのかというと……

 

 

「やっべぇ……腕がくそ痛い。てか体が怠い……」

 

 

その限界まで試したからです、はい。

もう昨日のことなのに未だに疲れが残っている。

なんでだろうな、傷とかはすぐに治りやがるくせに……

 

 

 

「おーい、青娥ー。いないか~?」

 

 

いい加減、空間歪み斬りの説明なんて止めよう。考えるだけで疲れてくる。あ、でも名前とか考えとかないとな。なにがいいかなぁ……そうだ!マスターグレイトスラッシュだ!よし、我ながら良いセンスしてるな!これまで小野塚とトオルやら早恵ちゃんやらが爆散霊弾とか玲瓏・七霊剣なんて名前つけてきたけど今度はおれが決めたぞ!(※後に翠によって改名されます)

 

 

まあ、それは置いといて……

今、おれは重い足を鞭打って青娥を探している。勿論、霊力操作の授業を代わりにしてもらうためだ。

 

だけどさっきから無駄に長い廊下を歩き回ってるってのに青娥の姿は一向に見つからない。

 

 

「もしや町の方へ行ったのか?」

 

 

そうなったら困る。あまりこの屋敷から町までそう遠くないはないけど、そこから青娥を捜すとなると屠自古達の授業に間に合わない可能性がある。

 

 

『熊口さん、さっきから何を探しているのかと思ったら青娥さんですか?』

 

「そうだけど……てか部屋出るとき青娥を探すって言ったよな?」

 

『寝ぼけてました』

 

 

いっそ一か八か町に行ってみようかと迷っていたら、翠が話しかけてきた。

 

 

『青娥さんなら昨日、熊口さんが寝ている間に来ましたよ?』

 

「え、まじ?」

 

『まじです。その時少し話したんですが、今日青娥さんも布都ちゃん達に道教についての講義をするって言ってましたよ?』

 

 

ちょっとまて……ってことはつまり今いないのってまさかこの屋敷の何処かでもう講義してるからなのか?

 

 

「くそぉ!もっと早く起きればよかったぁ!」

 

 

ガクッとおれは足から崩れ落ち、尻餅をつく。

 

 

「翠……なんで早く教えてくれなかったんだよ!」

 

 

『だから何を探してたのかわからなかったからですってば……何度同じこと言わせてんですかこのポンコツ!』

 

 

いやポンコツて……あと何度もっていうけど今ので2回目だからな……

 

 

はあ……まあ、翠の悪口なんて聞き飽きたし、無視するか。

……んじゃ、青娥達のいる部屋を探すか。今やってるのかどうかは分からないけど町中を探すよりかはましだろ。

そもそも町までいくのが怠いし……いや、ほんと。ただ単に外に出るのが面倒とか言うニート的な発想ではないから。霊力尽きてて霊力剣すら生成が儘ならないくらい重症だから外に出ないだけだ。

 

 

『ん?今なにか言い訳をしましたか?』

 

「してない。断じてしてないぞ、決して、いや、ほんとだから。信じて」

 

『…………』

 

 

こいつ……疑ってるな。つーか翠、お前勘が良すぎるだろ。なんでおれが心の中で言い訳してるってわかったんだ…………あ、言い訳じゃないです。

 

 

「なんか座ったら立ちたくなくなったな……」

 

 

ごて~とその場に寝っ転がる。

ふぅ……やっぱ聖徳太子の屋敷ということあってか床がピッカピカだ。これなら寝っ転がっても汚れたりはしないな。廊下の床がひんやりしてて気持ちが良い……あ、眠たくなってきた。

 

『行儀が悪いですよ……ていうかここで寝る気ですか!?ただでさえ眠たそうな目なのにさらに眠たそうな目になってますよ!熊口さん、青娥さん捜すっていってたじゃないですか!』

 

「んあ、そうだった。忘れるところだった」

 

『ったく……』

 

「グラサンかけないと光が眩しくて寝れないな」

 

『そこじゃない!!』

 

 

なんだよ翠……さっきからおれの中からぎゃあぎゃあと……おれは寝たいんだよ、寝させろよ。睡眠欲は沢山ある欲求のなかでも頂点にあたる三大欲求の1つなんだぞ。それを阻むということは食欲、性欲に関することを邪魔するのと同じことでもあるんだぞ。

それに今翠がしているのは睡眠妨害だ。それはおれの『されて嫌なランキング第2位』だから。

本当ならば翠をおれから叩き出して外へ放り出したいことだが今回は翠も正論を言ってるから放り出すのはやめといてやろう。だからもう黙ってくれ。寝れないから

 

 

 

「あら、こんなところで眠るのは行儀が悪いんじゃなくて?」

 

 

ん、この声は……

 

 

「青娥か……眠いから喋りかけないでくれ」

 

『なんで捜してた青娥さんがいるのに睡眠を優先してるんですか!?なにか用事があったんじゃなかったんですか!?』

 

 

煩いなぁ……翠の声、おれの中から直に聞こえるから無駄に大きく聞こえるからあんまり叫ばないでくれよ。

 

 

「ほら、起きなさい。ここで寝てたら神子に怒られるわよ」

 

「うぅ……中からも外からも喋りかけてきやがる二人とも黙っててくれ……」

 

「中?……ああ、翠のことね」

 

 

ああ、もう喋るのもめんどくさくなってきた。霊力空にしたことなんてここ最近無かったからきついんだな、きっと。捜してた青娥を見つけても頼む気力すら湧かない。まあ、湧かないのは青娥と喋ると決まって長引くからだけどな……

 

 

『……』ノソッ

 

 

のそ?今脳内にそんな音が聞こえたんだが……

 

 

 

「あら、翠。出てきたのね」

 

「はい、ちょっとこの駄目人間に渇をいれようと思いまして」

 

 

ん?今翠からとんでもないことが聞こえたんだが……

 

 

 

「さっきから注意してやってんのに……」

 

 

あれれ、おれの瞼の先で何が起こってんだ?

 

 

「散々無視を決めこむなんて……」

 

 

あ、このパターン経験があるぞ!早恵ちゃんに思いっきり蹴飛ばされた時もこんな感じだった!(2章第4話参照)

そんな悪い予感がしたので重い瞼を開けてみた光景は……

 

 

「良い度胸してるじゃないですかぁ!!」ドゴォッ!

 

「ぐふはぁ!?」

 

 

翠の足がおれの腹にめり込む瞬間だった。あれ、翠の足って薄くて見えなかった筈なのに……

まあ、そんなとよりもこの蹴りは……うん、姉妹揃って全国にいけるストライカー目指せるぞ、これ。……おえ、吐きそう……

 

 

「ごほっ……ごほっ……ぐっ……痛っでぇ!」

 

 

蹴られたおれはそのまま横にあった襖を突き破り、着地したもそのまま転がって先にあった障子を壊し、漸く止まることができた。

まさか蹴られて2部屋先まで飛ばされるとは……翠、お前恐ろしい。そこらの妖怪よりもお前が恐ろしくてたまんないよ、おれ。

 

そう思いつつ腹を抑え、悶絶する。端から見ればただ痛みをまぎらわすように転げ回っているが脳内では中々おれ、冷静なんです。

 

 

「せ、生斗!?」

 

「なんだお前、入るのならちゃんと開けて入れ」

 

「なんじゃ!曲者か!?……って阿呆だったか。何故転げ回ってるのかはしらんが滑稽じゃの!」

 

 

そして突き抜けた先の部屋には神子さん、屠自古ちゃん、阿呆の3人がいました。……おい。

 

 

「あらあら、生斗。張りきりすぎて障子を突き破るなんてせっかちなんだから」

 

「青娥……お前、おれが蹴飛ばされたのみてただろ……」

 

 

おれによって破壊された障子から青娥とまだ足りないと指を鳴らしている翠が来た。

 

 

「……どうやら、今回は生斗か悪いようですね」

 

 

と、漸く痛みが引いてきたところで神子がそう言い出した。

 

 

「お、よく分かりましたね」

 

「私には貴方達の欲が見えますから。この状況から誰が悪いのかなんてすぐにわかります」

 

「ふふ、そうね。それじゃあ皆も集まってることだし……するのよね?授業」

 

「え、なんで青娥が知ってるんだ?」

 

「神子から聞いたわ。それについでだし私も受けようかしら?興味あるし」

 

 

 

おい、ちょっとまて。おれ、青娥に代わってもらうおうとしてたんどけど

 

 

「ちょ「熊口さん!」え、はい?!」

 

「授業、しますよね?」

 

と、目の光が暗くなった翠が問いかけてくる。いかん、完全にキレてる……ここ最近面倒だからと無視気味になってたからかな……

 

 

「いや、おれは……」

 

「しますよね!」

 

「や、やります!」

 

「それで良いんです」

 

あ、やべ。翠の大声にびびって思わず肯定の返事をしてしまった……

 

 

「ふふ、尻に敷かれてるわね……」 

 

「そうですね……私も授業とやらを受けてみましょうか。時間もまだ余裕がありますし」

 

「まじか……」

 

 

くっ……なにか手は?ここからおれが今すぐに睡眠がとれる状況は!…………ないですね。はい、諦めます。

 

 

「えっと、それでは……熊口さんの霊力操作教室を始めます……」

 

 

はあ、くそ。あのとき寝らずに青娥に頼んどけば良かった……そしたら少なくてもこんな痛い目にあわずに済んだのにな……

 

 




はい、もうすぐ4章も終盤にはいる……んですが実はそれに関して重大な報告があります。
読んでくださった皆様にはご足労お掛けしますが、私のユーザーページの活動報告欄の『生還録4章について』の方を見てくださると光栄です。そこに4章の終盤について書いてあります。どうかご協力お願いします!


あ、あと生斗くんが主人公のオリジナル作品
『兄とおれと従姉と従妹』を投稿しました。興味がある方は是非どうぞ!




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拾捌話 真面目な話はあまりしたくない

3話分の文字数……!(7500文字)

翠の挿絵書きました。3章完了時点登場人物にあります


 

おれが神子の屋敷に来てから1年が経った。最初はさっさと出ていくつもりだったが、何気に居心地が良いのと屠自古や布都に霊力について教えることになったため留まることに。お陰で今じゃ皆滅茶苦茶強くなり、神子に至ってはこの前本気の勝負で負けかけたからな……正直驚いた。もう神子とはあまり戦いたくないな、負けそうで怖いもん……でもまあ教え子の成長を自かに感じられたから良しとしよう。

 

 

 

取り敢えずそこら辺の話は置いといて。

この1年の間に色々あった。

まず布都が仏像が嫌いなこと。この事を知ったおれはその日のうちに集められるだけ仏像を集め、布都が寝ている間に布団の周りに仏像を置き、次の日の朝に反応を見てやろうとした。そして次の日、布都の悲鳴が聞こえた。やってやったぞ!っと思いながら布都の部屋に行ってみると…………そこには仏像を自分の部屋ごと燃やしている布都の姿があった。

あのときは本気で焦った。思っているより火のまわりが早く、屋敷燃え尽きるんじゃないかと覚悟したが、給水所から布都の部屋が近かったお陰でなんとか消火することができた。

そのあとおれと布都は仲良く神子にこっぴどく叱られたけどな……

 

他にも神子がお面作りが趣味だったり、布都と屠自古の姓が物部と蘇我で、本来は敵対関係であり、二人で共謀して物部氏を滅ぼしていたりと中々凄いことをしていたりとたった2年間であの3人の深いところまで知った。

青娥はいまだによくわからん。

 

 

まあ、つまり言いたいのは今の状況がなにかと充実しているということだ。

布都と翠のコンビに悪戯したり、神子の作っているお面で遊んだり(後で神子に怒られるけど)、のんびり縁側で日向ぼっこしたりと、妖怪の山にいた頃とあまり変わらない生活をしている。

 

それじゃあ今日はなにをしようか。今日は授業をする日でもないし一日中暇だ。久しぶりに神子んとこの仕事場を茶化すもよし、町を散歩するもよし、部屋でだらだらするもし。

……あ、そういえば今日神子も書き物以外用事がないとか言ってたし茶化してやるか!

 

 

 

 

 

今日も今日とてなんら変わらない生活を。しかしずっと変わらない生活はありはしない。必ず、いつか変わる日は来る。結婚などの嬉しい変化もあれば死という悲しい変化もある。

 

 

そんな当たり前のことをおれは妖怪の山での生活により麻痺していたんだ。

 

 

人はいずれ死ぬ。それが何十年後の話だろうと……

 

 

 

 

 

 

_____それを思い出す日はそう遠い未来ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

 

「で、暇だからとまた私の部屋で暇を潰しにきたのですか?」

 

「いやいや、暇潰しって訳じゃないぞ。暇潰しってのは暇な時間を無駄に使うことを言うんだ。おれは神子と過ごす時間を無駄とは思ってない。つまり暇潰しじゃあない!」

 

「また屁理屈を……」

 

 

この者……生斗が私の住む屋敷に来てから一年の年月が経つ。彼の異質な欲に興味を抱き、何だかんだでこの屋敷に留まってもらっている。

本来ならば少し話した後帰ってもらう予定だったのだけど私はそうはしなかった。何故そうしなかった?するわけがないでしょう、あんな魅力的な人。

道教を教えを受けている青娥との関係があり、霊力という未知の力を使うこなし、私が求める不老不死に最も近い存在。

そしてなによりの理由は彼といると落ち着くから。

 

私は能力のせいで聞く気がなくとも相手の本質を見抜いてしまう。

殆どの人間は欲にまみれている。これは自然の事、逆に欲のない人間など存在しないのだから。

 

といっても欲のある人でも色々な種類がいる。布都や屠自古のように自分より私に尽くす忠誠心の塊のような人間もいれば、自分がよければなんでもいいなんて思う利己主義者もいる。

そういうものほど私とは関わり合おうとはしない。当たり前だ、自分の汚れた欲が相手に見抜かれるのだ。会いたくもないだろう。

 

しかし自分の本質を見抜かれたくないのは汚れた欲をもつ者に限らず殆どの人が嫌なはず。

そういうこともあって幼少の頃、私はこの能力を露見するようなことはしなかった。今は摂政になり、知られても直接虐げられるようなことは無くなったのでいいのだが、それでも裏では愚痴を言われたり、心の中では虐げている者はいる。

 

それが嫌だった私は屋敷に信頼のできる者だけを招き入れている。

 

なら、なぜ生斗をこの屋敷に招いているのか。それはもちろん、私の(能力の)ことを嫌ってはいないからだ。……というより、彼は誰に対しても平等に接している。どんなに偉かろうがどんなに顔が醜かろうがどんなに忌み嫌われた力を持っていようが彼は気にしていない。口では罵っても心の奥底ではそんなことは微塵も思っていない。

 

 

そこが彼の魅力。その魅力は一緒にいるだけで落ち着くことができる。最近では彼といるときが癒しになってもきているほどだ。

 

だから今日、生斗が私の仕事場に来てくれたのは本当は嬉しい。

 

嬉しいことなんだけれど……

 

 

「……」ジィ~

 

「……あの、真顔で私を見つめるのはやめてもらえませんか?」

 

「なんだ、変顔がよかったか?」

 

「そういうことではありません」

 

 

このように私の仕事の妨害をしてくるから、素直に嬉しいという気持ちを伝えることができない。もしそんなことを言えば調子に乗っていつも以上に妨害を加えてくるだろう。

 

 

「ほら、みろ神子手の親指だけで立ってるぞ!凄いだろ!」

 

「どうせ身体を浮かせているのでしょう?というより私の部屋で暴れないでください」

 

「もっと驚けよ~」

 

 

はあ……生斗は何が楽しくて仕事の邪魔をしてくるのだろうか……まあ、大体の予想はついているけれど。

 

 

「はあ、わかりました。一旦休憩するとします」

 

「んあ?続けてもいいんだぞ?」

 

「貴方がいなくならない限り進みそうにないので休みます」

 

 

少し構ってあげれば満足して帰るでしょう。

早く済ませて仕事に戻れるよう頑張らねば!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、なにを話しましょうか」

 

 

作業机を隅の方へ退け、座布団を二つ用意し、その1つに私は腰を下ろした。

 

 

「んー、そうだなぁ……」

 

 

そしてもう1つの座布団に腰を下ろし、なにを話そうか腕を組ながら考える。

 

 

「あ、そういえば神子達仙人の修行の方はどうだ?なれそうか?」

 

「……ええ、青娥からはなることはできると言われました」

 

「おおそうか!よかったな!」

 

「しかし……」

 

「ん?」

 

 

「なることができるのは何十年後との事です……」

 

「ん?なにか問題でもあるのか?」

 

「……あります」

 

 

勿論その理由が無かったのなら別に老いた身体でも受け入れよう。しかし私は一刻も早く仙人になり、”人間の呪縛″から早く解かれたい。いきなり暗い話になるけど仕方がない、生斗には私の考えることを知って欲しい。

 

 

「私は何故人間には死という残酷な運命を背負い生きなければならないのか不満で仕様がなかった。」

 

「あ?……うん、そうだな」

 

「神には寿命などなく、信仰させる限り生きることができ、妖怪も又然り、寿命という概念はあるもののその長さは人間の遥か上をいく。……そう、人間一人一人のこの世に留まる期間が短すぎるのです」

 

「ま、まあな。妖怪なんて100年経ったくらいじゃ見た目なんてそうは変わんないし」

 

「私は少しでも長く民の繁栄に貢献したい。そして人の寿命という呪縛から解かれたい。そのためには一刻も早く仙人となりたいのです」

 

「……」

 

 

私の話に合いの手をしていた生斗は私の話が終わるとともに目を閉じて黙りこんでしまう。なにか考えているのでしょう、無理に急かすのもなんだからここは相手が話し出すまで私も黙ることにした……生斗の意見についても聞きたいし。

 

 

そして1分ほど経ったとき、ゆっくりと目をあけた生斗は口を開いた。

 

 

「神子、なんか焦っているようだから忠告しておく。

急がば回れ。急ぎすぎると失敗するぞ」

 

「それって……」

 

「つまり焦りすぎるなってことだ。まだまだ、時間はあるんだ。気長にいこうぜ」

 

「……」

 

 

人の何百倍も生きてる人に言われたら余計慌てなければいけないような気がしてきた。

 

 

 

「まあ、その話はもう終わっていいだろ?おれはこんな辛気くさい話をしに来た訳じゃないからな」

 

「……それもそうですね。すいません、急に変な話にしちゃって」

 

「別に。おれは一向に構わないぞ。相談があるならいつでも相手してやる。少しぐらいは役に立てるかもだぞ、伊達に長生きしてないからな」

 

「じゃあ今から……」

 

「今は駄目。おれは今楽しい話を欲している」

 

「自分勝手ですね」

 

 

まあ、確かに今は止めておこう。

 

どうせ、もう実行するのだから。

つい昨日、不老不死をもたらすという”丹砂“を手に入れた。これさえ飲めば、手っ取り早く仙人になることができる。

 

 

 

 

 

もし苦痛から解き放たれた私はどう思うのだろう……

 

超人となり、本当の意味での人々の上にたったとき、どう思うのだろう……

 

生斗や青娥と同じ土俵にたてたとき、私は二人にどんな言葉をかけるのだろう……

 

 

考えるだけでも楽しみが込み上げてくる。

そうだ、もしこれが成功したら布都と屠自古にも飲ませよう。あの二人も私に尽くしてくれる大事な家臣だ。長き時を一緒に歩むことに不満なんてない。

 

 

 

「それじゃあなにから話すか。……あ!そういえばこの前おれが寝てたときに_____」

 

 

私が考え事をしていて黙っていると、生斗が前に起きた出来事を話し出す。

 

 

もし、今のままの私だったらこの話も何十年程しか聞けないだろう。

生斗の話は中々興味のそそる話が多い。聞いていて飽きないほどだ。

 

それも私が仙人になればいつでも、聞けるようになる。彼が私の統治する国にいてくれるのならば……

 

 

 

「_____生斗」

 

「水溜まりをみたら…………ん、どうした神子?」

 

「これからも、よろしくお願いしますね」

 

「??……お、おう。よろしくな」

 

 

と、この先長い付き合いになるだろうと予想した私は前置きに生斗に礼を言った。

 

 

 

 

 

 ーーーー

 

 

このときの私は愚かだった。

目先の欲に手を伸ばしてしまったがため、罰を受けてしまったのかもしれない……

このとき、生斗の助言を真に受けていたら、青娥を騙さなかったら……もしかしたら違う結果になっていたのかもしれない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________

 

 

「はあ……」

 

「ん、青娥殿。ため息などしてなにか悩んでいるのか?」

 

「いえ、屠自古。なんでもないわ」

 

 

 

私が神子らに道教を教え始めてから1年が経った。

神子らの成長は凄まじく、私の教えたことをどんどん吸収していき、普通ならば10年かかるのをたった1年で修得した。これならば彼女らの寿命が来る前に仙人になることは可能だ。

 

ふふふ、やはり私の目は確かだったようね。あとは生斗にもなってもらえたら言うことはないのだけど……

 

 

「おーす、屠自古いるかー?……て青娥もいんのか」

 

「なんだ、熊口生斗。お前が私の部屋に来るなんて珍しいな」

 

「生斗、今私を見た瞬間嫌そうな顔をした理由を是非とも教えてもらおうかしら」

 

 

噂をしていればなんとやら。襖を開けて入ってきたのはなぜか断固として仙人にはならないと言う生斗。

 

 

「いやぁ、神子ん所にいってたら追い出されちゃってさ。暇だから暇そうにしてるであろう屠自古のとこに来たって訳。あと青娥、なんでおれが嫌そうな顔をしたのかは己の胸に語りかければ自ずとわかるはずだ」

 

「いや、帰れ。それに私は暇じゃない。今青娥殿に頼んで道教を教わっているんだぞ」

 

 

己の胸に語りかける……駄目だわ、生斗にちょっかい出している以外心当たりがない。

じゃあ一体なんで生斗は私を見ると嫌な顔をするのかしら……いや、だからってちょっかいはない。たまに寝ているところに忍び込む程度の優しいものよ?そのぐらいで嫌がるなら生斗はまだまだ初ってことになるわ。流石に何百年以上も生きてるっていうのに純情を保つのは至難の技、もはや尊敬に値するわ。……あ、でもこの前確か翠が生斗は童て……

 

 

「やめろ青娥、今お前が考えていることがなんなのかはわからないがそれ以上今考えていることをやめろ」

 

「あら生斗。いつの前に神子と同じ能力を習得したのかしら?」

 

 

まさか生斗に心を読まれるとはね。

 

 

「青娥殿、この馬鹿は放っておいて、さっきの続きをお願いできないか?」

 

「ええ、もちろんよ。そういうことだから生斗、暇潰し目的なら布都と翠がさっき遊んでいたからそっちに行きなさい」

 

「やだよ、おれはあいつらみたいに幼稚じゃない」

 

「確かに幼稚じゃないが馬鹿だろ」

 

「は、はぁ~?馬鹿じゃないし!天才だし!おれが天才だと見抜けないなんてお前の観察眼どうなってんの!?」

 

「そうムキになるところを見ると馬鹿でもあり幼稚ね」

 

「だな」

 

「幼稚じゃねーし!少なくてもあの二人よりかは!」

 

 

まあ、生斗はただ単純なだけなのよね。

1年という短い付き合いだけど生斗の性格は大体把握することができる。ていうか彼の性格がわかりやす過ぎてあの老人の家で過ごしていた間には大方見当はついていたけど。

でもその裏表のない性格だからこそ神子も生斗の事を気に入っているのかもしれない。隣にいる屠自古と廊下を無邪気に走り回っている布都も表では良くは思ってないように見えるが裏では霊力について教えてもらったりしたこと等に感謝しているようだし。

 

 

「馬鹿で幼稚……もはやあの阿呆と同類じゃないか。良かったな、これでお前も晴れて脳内お花畑という称号を得たぞ」

 

「そんな不名誉でしかない称号なんていらん!」

 

 

……感謝……しているわよね?

 

 

 

 ガターーン

 

 

「ぐわぁ!?」

 

と、生斗の後ろにあった襖が急に倒れ、生斗は襖に押し潰されてしまった。

 

「くっ!翠め!ちゃんばらに蹴りは無しと言ったであろう!」

 

 

そしてその襖の上には、ちょっと話題に出た布都がおり、なにやら翠に文句をいっている。

 

 

 

「へへへ、すいません。長物なんてそう扱ったことがなかったものでつい足が出ちゃいました」

 

 

と、廊下の方から翠が顔を覗かせる。

どうやら追いかけっこから木の棒を使って打ち合いをしていたようだ。

 

「貴方達、廊下でそんなに暴れていたら、鬼の形相をした神子が来るわよ?」

 

「青娥殿の言う通りだ!阿呆は兎も角翠殿も暴れるなんて……」

 

「げっ、屠自古……なにか嫌な匂いがすると思えばここは屠自古の部屋だったか……翠!ここは一刻も早く退散しようぞ!」

 

そう言った後、布都は倒れた襖を蹴って廊下の奥へと走っていった。

 

 

「あ、ちょっ……すいませんでした!」

 

そして翠も一言謝罪をして布都が走り去っていった廊下を走っていく。

 

 

「……あの二人、嵐のようだったわね」

 

「確かに……」

 

さて、襖の下敷きになっている生斗は今どんな顔をしているのだろうか。ちょっと倒れた襖を退かして見てみようかしら。

 

そう思い、倒れた襖に近づいてみると_____

 

 

「……」ノソノソ

 

 

生斗自ら立ち上がった。額に血管が浮き出ており、それだけでも怒っていることがわかる。

 

 

「屠自古、青娥。ちょっと用事ができたから席外すわ」

 

 

いつもより低い声で言う生斗。あー、これは相当怒っているわね。

 

 

「行ってこい!あのわからず屋にキツいの一発かましてきてくれ」

 

 

屠自古はなぜか笑みを溢しながら退室を促す。笑っているのはおそらくこれまでの鬱憤を張らすことができるからだろう。なにかと屠自古も苦労しているようだし。

 

「やり過ぎないようにね」

 

 

取り敢えず私も一応声をかけておく。無駄だろうけど。

 

私がそう言うと生斗はおう、と返事をして廊下の奥へと姿を消していく。

 

 

 

その後、程なくして若い女性二人の悲鳴と鈍い音が2回ほど鳴り響いてきたが私は気にしない。

 

 

「……ったくあいつがここに来てから騒がしくなって堪らないな」ガタガタッ

 

 

そういいつつ屠自古が倒れた襖を直す。幸いにも少しへこみができたぐらいで目立った傷はついていないようだ。

 

 

「ふふ、そうね。でもまあ賑やかな方がいいじゃない?」

 

 

静寂と喧騒。日によっては静寂を取れど、基本は喧騒、少し騒がしい方が良い。

だけど屠自古は予想が外れたように驚いた顔で此方を見ていた。

 

「あら酷い。私だって賑やかな方が良いんですわよ」

 

「……いや、すまない。私の勝手な青娥殿の印象では静寂の方が好んでいるのかと」

 

「……因みにその印象とは?」

 

「厄介事を裏で手を回してその成行を影でこっそりと見ながらほくそ笑んでいる印象」

 

「偏見だわ。私がそんな悪役みたいなことするわけないじゃない(←参、肆話参照)」

 

 

と、暫し他愛のない話に花を咲かせていると、ふと、今朝見た光景が私の脳裏を過る。

 

 

 

_____丹砂を神子が持っていたことだ。

 

 

もしかしたら神子はあれを仙人に手っ取り早くなれるという都合の良い代物だと勘違いしているのかもしれない。

 

あれはただの毒だ。私が神子らに渡した教本にはあれを飲んで仙人になったと書かれているが、実際は毒に犯され、やむを得ず”尸解仙“となり、事なきを得たのだ。

 

もし神子があれを飲もうならば忽ち神子は体を毒で犯され、数日のうちにこの世を絶つだろう。

 

まあ、それもそれで彼女を尸解仙にしてしまえば手っ取り早いのだけど……

尸解仙になるには長い年月お天道様を見ることはできない。

早くて百年、長くて千年以上かかる気の遠くなるような年月を眠ることとなる。

そう考えると普通に修行をして仙人になった方が良い。

まず、尸解仙は仙人の中でも格が下だ。私の弟子ならちゃんとした行程を経て仙人になってもらいたい。

 

だから神子がもし丹砂を服用するようなことをさせてはならない。

今朝はちょっとしか見れなかったけど後で神子のところへいって問い詰めようかしら。

弟子の間違いを正すのも師匠の定め。面倒だけど行くしかないわね。

 

 

「どうした?青娥殿。にやついた顔をして」

 

「あら、笑っていたかしら?」

 

 

なんで笑ってしまったのだろうか?

 

…………もしかしたら久々に面白いことが起こりそうだからと無意識に笑ってしまっていたのかも知れないわね。良い展開でもないのに笑うなんて……我ながらどうかと思うわね。まあでも体が勝手に反応するのだからしょうがない。

 

さてさて、抜け駆けしようとしている太子様にどんな罰を与えてあげようかしら?

 

 

「青娥殿、そんなに良いことでもあったのか?」

 

「ふふ、そうかもね」

 

 

丹砂が不老不死をもたらす薬だと私が神子らに渡した教本には書いてあるが毒薬とも記されてある。いくら神子が不老不死に一刻も早くなりたいと思っていても躊躇うはず。

その間にお仕置きを2,3個でも用意しておこう。

太子をお仕置きするなんて人生で2度と体験できることではないし。

 

 

「ふふふ……」

 

「……」

 

 

と、堪えていたが思わず笑みが溢れた。

それを見た屠自古がなんとも言えないような微妙な顔をしてきた。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「……いや、やっぱり私が思っていた青娥殿の印象は間違っていなかったなと思って」

 

「…………な、なにも企んでないわよ」

 

 

屠自古の私への印象、今言われるまで気づかなかったわ。

 

やはり屠自古の言った印象、私に言えることかも知れないわね……自重せねば。




ははは!こんなに時間をかけておいて
最終回までかけませんでした!ぐだりました!途中でぐだりました!

神子さんのとこまでは真面目にやろうとしたんですが……


はい、ということで次話ぐらいが多分4章最終回となります。投票してくださったお二方には感謝しております!
……まあ、同率だったのでどちらも取り入れるという事となったのですが……


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拾玖話 んじゃ、準備するか

あの……すいません。終わりませんでした。
次話こそ……次話こそ終わります!


 

 

「神子の屋敷からでろ?」

 

「そうじゃ。目を覚めたら直ぐに荷物をまとめて屋敷から出ろ。」

 

 

ある日の夜。俺が就寝するとともに

もはや見慣れた和式の部屋を来た。どうやらまたおれの魂を神のいる所へと連れてこられたようだな。

 

そして呼んだ本人の開口一番がこれ。ふざけてるのか?

 

 

「神、まだ1年しか経ってないんですよ?なんですか、妖怪の山で100年も過ごしたから神子の屋敷は1年で我慢しろってことですか?」

 

「いや、そういうわけではないんじゃが……」

 

 

何故か悩んだような顔をする元老けた老人の美少年。あまりのカッコよさから仕草の一つ一つに輝きを持ってるかのようだ。うん、ムカつく。そのスカした顔に1発キツいのをお見舞いしたいところだ。

 

「……神に対して失礼だとは思わんのか」

 

「あ、そういえば神、おれの考えてることがわかるんですね。ならもう口に出していっていいですか?」

 

「失礼な態度と分かっていても悪びれない君の神経の図太さにはもはや尊敬に値するのう……」

 

 

お、褒められた。悪口言われて褒めるなんて……もしかして神ってM?

 

 

「最近君、あの守護霊の口悪さが移ってきてないか?もしくは毒されたか」

 

「翠と一緒にしないでください。あいつはおれなんかよりもっとえげつないこと言います。例えば見た目は子供、中身はクソジジイ。その名も_____」

 

「仏の顔も三度までということわざを知っているじゃろう?」

 

「はいすいません自重します」

 

 

くっ、日頃のストレスの掃け口にしようとしたのがバレたか。

 

 

「神をストレスの掃け口しようとは……ああもうよい!話が一向に進まん!」

 

「話なんてしませんよ。まだおれはあの屋敷を出る気はありませんから」

 

「あ!最初からそのつもりで話を逸らせたんじゃな!そうはさせんぞ」

 

「されてましたけどね」

 

「煩い!」

 

 

珍しく神がご立腹のようだ。おれのせいだけど。

 

 

 

「……ごほん、まあ君があそこに残りたいのはわからないでもない」

 

「でしょ」

 

「だから今回は任意じゃ。出ていくなら出ていく。出ていかないのならそれでもいい」

 

「……?」

 

なにをいってるんだ?出ていかなくてもいいのなら絶対に出ないぞ、おれ。

 

 

「だがワシが勧めるのは出ていく方じゃな」

 

「それは神は平凡より非凡が好きだからでしょ」

 

「ふむ、確かに好きじゃが今回は違う」

 

「?どういうことですか」

 

 

どうせ神のことだから平穏な生活を見るのが飽きたから旅を促して来てるのかと思ったけど、今回もそうなんじゃないのか?

 

 

「ワシはなぁ……あんまり悲しいのは好みじゃないんじゃよ」

 

「は?悲しい?」

 

 

さっきから神は何をいってるんだ……全然読めない。まず悲しいのが好みじゃないなんて急に言われてもなんて返せばいいかわからない。

 

 

「ま、そういうことじゃ。」

 

「そういうことじゃって……勝手に自己完結しないでください」

 

「覚悟があるのならワシは君があの場に残ることを拒む事はせん。だが、ワシ的には出ていってもらいたい」

 

「はあ……」

 

「まあ、ワシと君との仲じゃ。君がいる世界の住人の誰よりも古い仲のワシの頼みを聞いてくれないはずがないじゃろう」

 

「はい、わかりました。留まることにします」

 

「ワシと君はその程度の仲なのじゃな……」

 

 

自分の都合で折角築いた生活をぶち壊しにしてくる神の頼みなんて聞いてやる道理はない。転生させてもらったことには感謝しているがそれ相応にぶち壊しにされたんだ。敬語を使ってあげてるだけでも有難いと思ってほしい。

 

 

「いや、確かに君に対して酷い扱いをしてることは認めるが、流石に敬語をつかってあげてるってのは違うんじゃないかの?」

 

「ついでにプライバシーのへったくれもない。侵害すぎる」

 

「こいつ!ついに声に出しおった!」

 

 

 

そのあと、久しぶりに神と軽い口喧嘩をした後、屋敷に留まると神に伝えておれは目覚める事にした。

 

「知らんぞ!本当に知らんからな!ワシの忠告したことに従っておけばよかったと後悔することになることは明白じゃぞ!」

 

 

と、気が遠くなっていくなか、神が諦めず抗議を続けていたがおれは気にしない。

 

悲しいのは好みじゃない。神が言ったその言葉に引っ掛かるものがあるがもしかしたらヤバイ状況にでもなるのだろうか。まあ、敵云々なら幽香や鬼達が攻めてくる以外ならなんとかなるだろう。気楽に構えるとするか_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________________

 

 

『太子様!太子様!お願いです!目を覚ましてください!!』

 

『なぜこんなことに……我はこれからどうやって生きていけば……』

 

『私があのときもっと注意深く見ていればこんなことには…………!』

 

 

神……あんたが好みじゃないってそういうことだったのか。うん、おれも悲しいのはあまり好きじゃないよ。まさかこんなことになるなんてな……

 

 

 

 

 

 

事の発端は今朝だった。

 

 

魂を戻され目が覚めた後、おれは布団の中でごろごろしていた。いつもならそうしていると翠から罵声を浴びるのだが、この日はおれの中に翠は居なかった。おそらく布都の部屋に泊まったのだろう。

そう気楽に考えつつ、朝飯が来るのを布団のなかにくるまりながら待っていた。

 

___でもいくら待っても朝飯が来ることはなかった。

 

いつもなら朝食を取りに来なかった場合、使用人の誰かがおれの部屋に持ってきてくれたいたんだけど今日はいくら待っても来る気配はなかった。

でも、部屋の外からはドタドタと慌てたような足音がさっきからなり続いている。

そして腹を空かせたおれは朝から騒々しいなと文句ついでに厨房へと布団にくるまりながら向かっていると、使用人の一人がおれの向かう反対方向から走ってきている姿が見えた。

 

「おい、走ってると神子に叱られるぞ」

 

使用人が走っているのを咎めると使用人は1度おれの前で止まり、焦った声でおれに……

 

「熊口殿!何を馬鹿な格好をしておられるのですか!……いや、そんなことより……!」

 

馬鹿な格好と言われ、今の格好が少し恥ずかしくなったが、そんな羞恥心も使用人の次の一言で消え失せた。

 

 

 

「太子様が毒に犯されました!!」

 

 

 

その瞬間、頭が真っ白になったとともに布団がおれの身体から滑り落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

大急ぎで神子の部屋に行くとそこには人だかりができていた。それを押し退け、神子の部屋に入るとそこには布団の中で目を瞑る神子とその周りに屠自古と布都、青娥、翠がいた。屠自古と布都は神子の布団にしがみついて泣いている。

 

 

神子は毒を盛られた訳ではないらしい。自分で毒を飲み、犯されたとのこと。

なんでそんな馬鹿なことをしたんだと青娥を問い詰めると、本当は毒なのに不老不死をもたらすと伝われていた丹砂を飲んだせいだと説明された。

青娥は前から神子が丹砂を所持していたことを知っており、それを没収したらしいんだがどうやら神子は丹砂を複数所持していたようで、この状況に青娥は悔しそうに唇を噛んでいた。

たぶん、神子と自分への怒りからだろう。強く噛み締めすぎて口の端から血を流していた。

何度もボソボソと『私があんな単純なことに気づかないなんて……』と言っていたのでおれの解釈はあってるだろう。

 

結局、今日は青娥が神子に何らかの治療を施していたが神子は起きることはなかった。

 

 

 

 

 

 

そして現在、あまり寝付けないおれは縁側に座り、黄色く輝く月を見ながら遥か向こうにいる旧友達のことを思い出していた。

 

 

小野塚やトオルは今も元気にしているだろうか?おれが地上にいた時間自体は200年程度だが、何分土の中に埋もれていた期間がある。その間は神の発言からしてかなりの時間が経過していると思う。

 

あいつらとは25年程度の付き合いだったが、今でもおれのことを覚えているだろうか。忘れられていたらなんだか悲しくなる……

 

 

 

おそらく、神子は尸解仙になる。仮死状態となり、永い時を経て依代に憑いて仙人となるのが尸解仙のなり方だ。

永い時がどれくらいなのかというと100年~1000年と曖昧で正確にはいつ尸解仙になれるのかはわからないらしい。

おれが今月の皆を思い出しているのはこれが原因だ。いつかまた会えるとはいえ身近な人が何百年以上も会えないなんて寂しい……洩矢や妖怪の山の皆は確実に元気にしているので別にいいんだが。

 

 

 

 

「熊口さん。そこで何をやってるんですか?」

 

 

と、後ろの方から声がかかってくる。声からして翠か。

 

 

「どうした、布都の所で寝てるんじゃなかったのか?」

 

「布都は……今は寝ています。私はちょっと夜風にあたろうと出てみたんですが……まさか熊口さんに会うなんて、今日はほんとに厄日です」

 

「……はあ……」

 

 

今は翠の毒舌にも全然苛々しない。そもそもそういう気分じゃない。

チラッと翠の顔を見てみたが目元が腫れていた。どうやら翠も布都と一緒に泣いていたらしい。

おれが翠の顔を見て、今の考えを察知したのか、翠はの隣に来て腰を下ろし、不機嫌そうな口調でおれにこんなことを聞いてきた。

 

 

「熊口さんは……神子さんがもう長くないのを知っているのに泣かないのですね」

 

「……」

 

 

そういうことか。翠は神子が尸解仙になることを知らないらしい。まあおれも青娥に聞くまでは尸解仙の存在すら知らなかったんだけど。

 

 

「男は、泣かない生き物なんだよ」

 

 

ここは少しカッコつけてみる。

 

 

「友人のために泣くぐらいの気概はあると思ってたんですが……熊口さんの友人に対する感情がどれぐらいなのかはよくわかりました。」

 

 

どうやら翠は他の意味で捉えてしまっているらしい。うん、カッコつけるんじゃなかった。

ていうか翠、こいついつも以上に不機嫌だな。まあ、仕方のないことだが。

 

 

「翠、もうそろそろ旅の準備をしとけ。」

 

「……貴方って人は!!今そんなことを言っている場合ですか!!」

 

 

翠が珍しくご立腹のようだ。もしかしたら人を怒らせる才能が目覚めたのかもしれない。

 

 

「私は……友人として神子さんの最期を見届けるつもりです」

 

「……」

 

「あのときみたいに貴方の口車に乗ってしまい、早恵ちゃんの最期を見れなかった、ということは嫌ですから」

 

 

……口車?なんか語弊があるような……

まあ、いい。実際に翠が早恵ちゃんの死に際をみれなかったことを後悔していた事は知っている。

ただ、翠は今勘違いをしている。

 

 

「翠、神子は死なないぞ。いや、死んでも生き返るか」

 

「…………!!……なにをいってるんですか?神子さんは熊口さん見たいなゴキブリ並みの能力はないはずですけど。嘘をつくのならもっとましなのにしてください。趣味悪いですよ」

 

 

おう、翠さんがちギレだ。なんだよ、おれ嘘なんかついてないぞ。もういっそのこと尸解仙になることを教えようか。別に隠すことでもないし……

 

 

「あのな翠……実は神子……「ふん!」ぐあっ!?」バキッゴーン…

 

 

尸解仙の事を話そうとしたら顔面を殴られ、吹き飛ばされてしまった。

え、えぇ……

 

「もう口を開かないでください。これ以上ふざけた事を言ったらなにするかわかりませんよ」

 

「……」

 

 

そういって翠が立ち上がって何処かへ行ってしまった。今の状況では翠の姿を目視することはできないが、足音からしてあってるだろう。

 

 

 

「いや、平手打ちならまだしも……」

 

 

改めて思う。なんでビンタじゃなくグーパンだったんだろうか。女の子なら普通ビンタだろ。なぜ殴った、なぜおれの顔が壁にめり込む程の威力で殴った。もしあのとき霊力で防御してなかったら首折れてたぞ……

 

 

「はあ、どうしたものか……」

 

 

顔にめり込んだまま、おれはこれからの行動について考える。

 

神子が尸解仙の儀式をし終えるまで残るべきか、それともすぐにでも旅に出るか。

すぐに旅に出るというのはおれもあまりしたくない。だけどいずれ出る羽目になる。おれは神子の客人だ。表向きでは神子は亡者扱いになるため客人であるおれがいつまでもこの屋敷に残るということはできない。

 

……はあ、神子から相談されたときもっと聞いてやればよかった。

なんだよ、『おれは今楽しい話を欲してる』て……そんな馬鹿なことを言ったこの前のおれをぶん殴ってやりたい。ついでに神子も。

 

 

「生斗、貴方なにやってるの?」

 

「んあ?その声は青娥か?できたら抜くの手伝ってくれ」

 

 

考えに耽っていると青娥の声が聞こえてきた。……おう、こんな姿を見られてちょっと恥ずかしいおれがいる。

 

 

「はあ……神子のみならず布都も馬鹿げた事をしたってのに……比較的まともな貴方までも馬鹿な事しているなんて、頭が痛くなるわ」

 

「おい、ちょっと待ってくれ。これはおれが悪いんじゃないんだ。誤解だ。青娥ならわかるはずだ。おれが急に壁に頭をめり込ませるなんて奇行に走るわけ…………は?布都が馬鹿げた事をした?」

 

 

 

あの阿呆なら年中馬鹿げた事をしているけど……神子が大変なときにそんなことするか?まず、あいつは翠と一緒に今日ずっと泣いていたはずだけど…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まじかよ……あいつ、短い付き合いとはいえおれに一言も無しにいったのか……」

 

「そうね……でも布都はこういってたわよ。

『どうせまた会うんじゃから別に別れなど言わんでよかろう』って」

 

「……そうか……まあ、あいつらしいな」

 

 

どうやら、布都は尸解仙になるらしい。

早とちりも良いとこだ。青娥から尸解仙の事を聞いてすぐにそれを実行したそうだ。

 

青娥は流石に止めたらしいが、何度言っても聞かなかったそうで、結局青娥が折れて尸解仙の儀式を施したとのこと。

 

その聞かなかった理由が『太子様が安心して尸解仙になれるようしなければなるまい』。つまり尸解仙の儀式の実験台になると自ら志願したんだ。

あいつはいつもどこか……いや、沢山抜けてて脳が幼児レベルの悪戯娘だったが、神子にたいしては心の底から忠誠を誓っている。

だからこその実験台だろう。それを聞いたとき、おれは布都にたいして初めて尊敬の意を抱いた。

 

 

儀式は無事成功し、依代もちゃんと長持ちするもので、安心だと、青娥が言っていた。

 

……おれが部屋でぼーっとしていた間にこんなことが起こっていたなんてな……

 

 

「屠自古はどうしたんだ?」

 

「ええ、あの子もいずれなるって言っていたわ……はあ、折角の優秀な初弟子達が尸解仙になるなんてね」

 

 

と、青娥が深いため息をする。

 

 

「あれ、ちょっとまてよ。布都が尸解仙になったってことは……青娥、その時翠も側にいなかったか?」

 

「?……ええ、いたわよ」

 

 

……てことは翠のやつ、神子が尸解仙になるってことを知ってたのか。

なのに最期がどうとかって……しかも布都は『今は』寝てるともいった。

 

もしかしたらあいつ、まだ割り切れていないのかもしれないな。いつか会えるといっても1度は死ぬんだ、わかっていても普通は割り切れなんかしない。

あれ?それならなんで翠、おれが死んだときはなんともないんだ?

……ああ、おれの場合もう何度も体験しているから慣れたんだろう。うん、きっとそうだ。

 

 

 

「それで、本題なんだけど」

 

「あ?……ああ」

 

 

まだ、本題に入っていなかったのか……

 

 

「神子が先程目覚めたわ」

 

「……ほんとか!」

 

「ええ。それで神子から伝言よ」

 

「なんだ?」

 

 

神子が目覚めた。良かった……もう何も話せず儀式になるのかと心配していたが、その心配も無事に解決した。

それで、青娥に伝言を頼むなんて……よほど神子の身体はボロボロなんだろう。

 

 

「『早朝、私の部屋に荷物をまとめて来てくれ』だそうよ」 

 

「…………そうか」

 

 

荷物をまとめてっということはつまり、そういうことなんだろう。

 

 

「はあ……わかった。」

 

「私としては貴方にも尸解仙になってもらいたいのだけど……それは神子に反対されそうね」

 

「だな、おれも反対する」

 

 

おれも出来れば神子が尸解仙の儀式が終わるのを見届けてから旅は出たかった。

でもまあ、神子のことだ。なにか理由があるんだろう。明日それについて聞けばいい。

 

 

そう思い、おれは手に霊力を集中させ、壁から頭を引っこ抜く。

 

 

「青娥、このあと一杯どうだ?今日は眠れる気がしないし」

 

「そうね……別に構わないけど、まずは止血からね」

 

「お……あ、そうだな」

 

 

引っこ抜いて初めて気づいた。頭からダラダラと血が出てきている。

翠のやつ、どんだけ本気で殴ってんだよ……

 

 

 

まあ、仕方ない。この痛みも酔って忘れるとするか!

 

 

 

 

 

 

 



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弍拾話 翠、おれの癖よくわかったな……

 

 

 

神子の毒盛りしたり、布都がいつの間にか尸解仙の儀式を終えてたり、なんか翠にぶん殴られたりと、今日1日だけでいろんなことがあった。

しかも全てが悪い事。本当にやめてほしい。

なんでおれはこうも不幸に見舞われるんだか……

 

 

「生斗、翠、来ましたか」

 

 

と、いつものような張りのある声とはかけ離れたか細い声で話しかける神子。

見るからに衰弱しており、目の下にくまができている。あの立派だった獣耳のような癖っ毛もしおれてるし、布団から上半身を起こしているだけでもぷるぷると震えていてつらそうだ。

 

 

「青娥から聞いたと思いますが、私は尸解仙になります」

 

 

神子の言った通りこの事は昨日のうちに青娥から知らされている。

当の本人も神子の隣で頷いてるし。

 

 

 

昨日、珍しく酒に溺れたくなったおれは青娥と二人だけで酒盛りをした。

まあ、結局どうしても明日のことが不安になり、全然酒も進まなくて、全然酔えなかったが……

 

そして今日、荷物を纏めて1年前に覚えた次元斬りで開けた異次元空間に入れ、仮死状態になった布都の隣で体育座りをして寝ていた翠を叩き起こして神子の部屋まで来た。

たぶん、今日の昼頃にはこの屋敷からは出るだろう。

 

 

 

「公の場では私は亡き者と扱われます。

そうなると生斗と翠、貴方達には……」

 

「わかってる。この屋敷から出ろってことだろ?」

 

「……はい、本当にすいません」

 

 

そう言って神子はおれ達に頭を下げる。

 

 

「おいおい、太子様とあろう御方がおれなんかに頭を下げるなよ」

 

「……」

 

 

 …………。

 

 

「神子、そういえばなんでおれに荷物の準備をしろと言ったんだ?」

 

「それは……」

 

 

大体神子が言いたいのは分かる。おれだって神子と同じ状況ならそうする。

 

 

「生斗、翠、貴方達には私が生きている姿だけを見てもらいたい」

 

「……神子さん……」

 

 

ずっと暗い表情で黙っていた翠が漸く口を開く。

 

 

「私の死んでいる姿を見せてしまうと、もしかしたら貴方達に重荷となってしまうかもしれない……そんなのは嫌」

 

つまり…………

 

 

「生斗、翠、貴方達には私が尸解仙になる前にこの屋敷から出ていってもらいたいのです」

 

「……」

 

「勝手なのは分かっています。しかし、どうか私の我儘、受けてもらえませんか?」

 

 

 

…………はあ、ここで我儘とか言っちゃうか。反則だろ、それ……

まあ、最初から受けるつもりだけど。

 

 

「ああ、わかった。翠もいいよな?」

 

 

翠は昨日、死に際をちゃんと見てあげたいと言っていた。だから少し反対しそうで恐いんだけど……

 

 

「……神子さんが看取られたくないというのなら、私はそれを尊重します……私も……また神子さんと元気な姿でお話したいですし」

 

 

どうやら翠も神子の気持ちをわかってくれたらしい。

 

 

「二人とも……ありがとうございます」

 

 

と、またも頭を下げる神子。……もうおれからいうことはあるまい。

 

 

「それじゃあ生斗、貴方、いつ出発するの?」

 

そして場の空気を読んで、傍観者と化していた青娥が口を開く。

 

「ああ、今日中には出る」

 

「今日?……別に今日で無くてもいいんですよ?」

 

 

流石に驚くか。

確かに神子は荷物を纏めて来いとは言ったが、日にちの指定はしていない。

これは完全なおれの早とちりだ。しかし_____

 

 

「いや、今日出るわ。だって神子、お前おれらが出ていき次第、尸解仙の儀式をするんだろ?」

 

「え?ええ、そのつもりですけど……」

 

「それなら尚更だ。神子、お前今、無理をしてるだろ?」

 

「!!……いえ……いや、はい……」

 

 

一瞬反対しようとしたがおれに対して下手な嘘をついても意味がないと自分で思ったのか、1拍おいて肯定する神子。

 

 

「今こうやって上半身を起こしているだけでも辛いだろ」

 

「……」

 

「そうやっておれらがいると神子に迷惑かけてしまう。なら、早くこの屋敷から出た方がいいだろ」

 

「……そうですね。確かに生斗の言うことには一理あります。しかし私は先程我儘を聞いてもらった身、それぐらいのことなら大丈夫ですよ」

 

 

……んー、どうしたものか。神子の言葉に甘えてもいいんだけど……いや、駄目だ。今の神子の状態を見ろ、こんな状態の神子に負荷をかけさせるわけにはいかない。

 

 

「……あ、そうだ」

 

「どうしたのですか?」

 

「我儘というより約束だったんだけどさ」

 

 

約束?といった感じにキョトンとした表情をする神子。

そりゃそうだもんな、1年前のことだし、おれも今まで忘れていた訳だし。

 

 

 

「『うどん』。”今度会ったとき“奢ってくよ」

 

 

「……あ!」

 

 

 

どうやら神子も思い出したようだ。

そう、おれと神子は最初出会ったとき、賭け事をしたんだ。

おれは神子の家臣に、神子はうどんを奢るという賭けを。

 

 

「今度……ですか。ふふ、かなり後になりますね

……生斗、それまで待ってもらえますか?」

 

「おう、楽しみに待ってる」

 

 

漸く神子も笑ってくれた。

よし、そうでなきゃな。暗い別れなんて真っ平ごめんだ。

やっぱり最後は笑って仕舞ったほうがいい。

 

 

 

そしておれはグラサンを目の方に持っていき、別れを告げた。

 

 

「それじゃあ……神子、青娥、そろそろ行くわ」

 

「はい、それではまた、仙人になったときに会いましょう」

 

「私としては少し不満だけど、これで暫しのお別れね。はあ、結局貴方を仙人の道を歩ませられなかったわね……」

 

 

ふ、仙人になったところでおれにメリットはないからな。

 

そんなことを思いつつ、おれは立ち上がり、襖に手をかける。

 

……ん、あれ?

 

 

「翠、どうした?」

 

一向に立ち上がらない翠が、不満げに正座したままだった。

 

 

「熊口さん、先に玄関まで行っていてください。後から行きますから」

 

「ん?……ああ、わかった」

 

 

たぶん、翠も神子らに言いたいことがあるんだろう。

それじゃあおれは屠自古に軽く挨拶してくるか。

 

 

 

__そう思い、おれは神子の部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

「翠、どうしたの?」

 

 

青娥が翠に対して疑問を唱える。

私も気になる、なにか言い残したことでもあるのだろうか……

 

 

「神子さん、布都は神子さんが尸解仙になることに対する恐怖心が少しでも柔げられるようにと尸解仙の儀式を神子さんが起きる前にしました」

 

「……はい、私も先程知りました。」

 

 

その行動だけで布都がどれだけ私のこと思ってくれてるのかが、能力を使わずして感じられる。

 

 

「布都は……布都は……あれから眠ったように安らかな顔をしていました。おそらく無事に成功したんだと思います……」

 

「……」

 

「だから……安心して尸解仙の儀式をしてください!」

 

 

そうか、翠は布都ととても仲が良かった。だから親友の行為を尊重してほしいということなんでしょう。

翠、おそらく私よりも長い時を生きている(死んでるが)というのに、これ程までに無垢な子なんだろう。

 

 

「ふふ、態々教えてくれてありがとうございます」

 

 

 

私がそう言うと、翠は安心したように安堵の表情を浮かばせた。

どうやら今のことを言いたくて残ったようだ。

そして漸く元の顔になった翠が私と青娥の顔を見て、軽く頭を下げる。

おそらく時間を取らせたことによる謝罪だろう。そんなことをしなくてもいいのに……

 

頭を上げた後、翠は決心したような顔つきで口を開いた。

 

「神子さん、青娥さん、1年という短い間でしたがお世話になりました。

また会える日を楽しみにしています!」

 

「はい、私も楽しみにしています」

 

「元気でね、くれぐれも風邪には注意しなさい」

 

 

そして、翠は漸く立ち上がり、襖を開けて、出ていこうとした。

が、出ていく前に、こちらの方を振り返った。

 

 

「あ、ついでなんですが……

熊口さんがあのサングラスを掛けるときって

寝るときか”泣いてるのをばれないようにする“時だけですよ」

 

 

そう、最後に告げて、翠は襖を閉めた。

 

寝ているときと……泣いているとき?

そういえばさっき出ていく前にかけていたような……

 

思わず青娥の方を見ると、青娥も同時に私の顔を見た。

そして_____

 

「……ぷふっ!」

 

「……くふっ!」

 

 

私と青娥は顔を見合わせ、思わず笑いが溢れていた。

 

 

 

「ほんと、私は良い友人に恵まれましたね」

 

「そうねぇ、でもあんな人達、そうはいないと思うわよ?」

 

「そうですね、運が良かったのかも知れません」フサッ

 

 

そう言って私は上半身を下ろし、布団に横になる。

 

 

「さて、これから大変になるわよ。貴方の代わりの太子を用意しないといけないし」

 

「それについては適当で良いですよ。政策については私が指示しますので」

 

 

さて、そろそろ眠たくなってきた。

少しの間、眠ることにしよう。

 

 

 

 

「青娥、眠たいので少し睡眠をとろうと思います」

 

「……あらそう、残念ね。おやすみ、”豊聡耳様“」

 

「ふふ、なんですか……急に……」

 

 

もう限界かもしれない、寝よう。

 

今日はまだ始まったばかりなのに疲れた。

でも、具合は最悪だけど、気分は晴々としている。

なんだか良い夢が見られそうな気がする。

 

そんな夢への期待をしながら、私はそっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、尸解仙の儀式を始めようかしら。

依代は……この宝剣でいいわね。神子にはうってつけだし」

 

 

 

 

 

 




本当(原作で)は神子が布都に頼んで尸解仙の儀式をやったのですが……ちょっとかえました。
あと、最後神子が死んだ風な感じに寝ましたが、本当に寝ただけです。


それでは、4章完結です!


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5章 【スキマ・輝夜姫との交流】
①話 なんだこの頭のおかしい金髪ロリは!


 

 

 ~浜辺~

 

 

  ザザアアーー……

 

 

 

「海、綺麗だな」

 

『……そうですね』

 

 

 神子らの屋敷から出てからもう100年以上経つ。

 旅に支度した分の食糧はとうに尽き、今では村を転々として回り、労働力と引き換えに食糧を分けてもらい、飢えをしのいできた。

 

 そして今、翠の当初の目的である海に来ている。

 

 が、ハイテンションになることは決してなかった。

 なんでだと思う?神子達と別れたから?いや、それはもう百何十年という気の遠くなるような年月の中で緩和されてきている。

 

 ならなぜか。その答えは後ろにいるやつが知っている。

 

 

「さあ!私と正々堂々戦って食われるか、それとも戦わずして怯えて逃げた挙げ句食われるか、どちらか好きな方を選びなさい!」

 

「……」

 

 

 この辺りに海があるという情報を入手したおれは翠に行ってくれとせがまれたので仕方なく行くことになったのだが……その道中、おれの後ろでなにかいっちゃってる紫色のゴスロリ衣装を着た金髪ロリがおれの前に現れ、食わせろと言ってきたので、それを無視したらここまでついてきた。

 お陰でテンション駄々下がりだ。

 

 

「なんだよ、食わせろって。なにか?物乞いかなにかか?生憎あまり手持ちは多くないんだが」

 

「違うわよ!貴方を食わせろっていってんのよ!」

 

 

 なんと物騒な。こいつ、やっぱり妖怪か?……まあ、見る限りでは姿が完全に村の人達と比べて浮いてるし、妖怪っぽいけど……

 つーかそのゴスロリ衣装、どこで手に入れたんだよ。なんかお姫様が寝るときにつけてそうな帽子(ナイトキャップだっけ)もお洒落っぽく被ってるし。

 

 

「あのなぁ、食べるのなら別に人間じゃなくても良いだろ。ほら、彼処の茂みに兎がいたぞ。取って食えば良いじゃん」

 

「え!ほんと!……いや、人間の言葉なんて信じられない!これまでだって散々騙されたんだから!」

 

 

 ほうほう、つまりこれまで人の言葉を信じてたってことか。なんと、間が悪い。

 

 

「それにほら、海の中には沢山の生物がいるんだぞ?それを塩焼きにして食べてみろ。旨いぞ~」

 

「!!……」ジュルッ

 

 

 お、このロリ、涎を垂らした。さては相当腹が減ってるな。

 仕方ない、戦うのも面倒だし干し肉でもやって追っ払うか。なんかちっちゃいくせに中々の妖力を感じるし。

 それにおれは今、海の景色に集中したい。

 翠はもうおれと金髪ロリを無視して海の景色を楽しんでるだろうし。

 

 空間を斬るのは少々疲れるが一回ぐらいならそうは負担にならない。やるか……

 

 結論に至ったおれは手のひらに霊力剣を生成した。

 

 

「なに!?急にやる気になったの?」

 

「違う」

 

 

 そして、おれは少しロリから離れた後、おれは持ってる技術を注ぎ込んだ渾身の一振りをなにもない空間に向かって斬りつけた。

 

 すると、その部分には切れ目ができ、少しすると、紙が剥がれたかのような別空間ができる。

 

 

「なっ……!!」

 

「驚いたか?これがおれの実力だ」

 

 

 普通の人が見たら大体の人は度肝を抜かす。この少女も例外ではなかったようだ。

 

 と、少し自分の技に自惚れていながら干し肉を探していると、呆気にとられていた少女が聞き捨てならないことを言い放った。

 

 

 

「私と同じ能力!!」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「ほら、凄いでしょ!」

 

 

 少女の横に現れたのは異次元といっても過言ではないほどの異質な空間がぱっくりと割れていた。割れ目の端にはリボン見たいのがついており、そこだけ見たらおれの裂け目よりお洒落に見えるのだが、空間がおかしい。

 おれの空間は裂け目から見る限り真っ暗だ。奥の方がなんか火が灯っているかのような明かりが見えるが、全部入る気にはなれないので正体はわからないままだが……

 それと比べて少女の裂け目から見える光景は、真っ黒な空間に大量の目玉がこちらを見てくる、居るだけで精神的に病みそうな空間だった。

 

 

『うわあ、すごいですね。中身はあれですけどすんなりと空間を割りましたよこの子。

 ぷふ、熊口さんの渾身の技がこういともたやすく繰り出されるなんて……熊口さんざまぁ!としか言いようがありませんね』

 

 おい翠、お前の喉元潰して2度と正常に話せないようにしてやろうか?

 おれだってショックだってのに……

 

 

「まさか同じスキマ妖怪だったなんてね。私一人だけだと思ってた……全然妖力が感じられなかったから分からなかったわ。

 私の名前は八雲紫って言うの。以後、よろしく」 

 

「スキマ妖怪?なんだそりゃ。箪笥の隙間とかに潜むあの黒光りしたやつの仲間か?」

 

「なわけないでしょ!!……あれ、貴方妖怪じゃないの?」

 

「なわけないだろ。人間だろどうみても。」

 

『あ、でも熊口さんみたいな妖怪、いそうですよね』

 

 

 翠、それはどんな妖怪を思い浮かべて言ったのかな?怒らないから言ってごらん?

 

 

「くっ!また騙された!だから人間は信用できない!」

 

 

 ……はい?

 

「まてまて、今のは完全にお前の勝手に勘違いしただけだろ。おれは別に嘘はついてないぞ。ここ大丈夫?おちびちゃん」

 

「しらばっくれても無駄よ!私だって学習するんだから!それに私はおちびちゃんじゃない!こう見えても50年は生きてるのよ!貴方より年上よ!」

 

「たった50年?何百年と生きるおれにしては欠伸をしている間に過ぎないな!」

 

「あ!また嘘をついた!人間が何百年も生きられるわけがないじゃない!」

 

「ちょっと特別なんだよ、おれは。」

 

 

『特別というより……おかしい?』

 

 

 ちょっと少しの間黙ってて翠、気が散る。今はこの頭のおかしいおてんば娘を論破してやらないといけないんだ。

 

「あーもう!こうなったら貴方を食べて憂さ晴らしよ!そうよ、最初からこうしていればよかったんだわ。人間なんかの言葉に耳を傾ける必要なんてないじゃない」

 

「……え」

 

 

 あ、やべ、なんか少女が急に戦闘体勢に入ったんだけど……

 

 くそ、当初の目的を忘れてた。おれは戦うのが面倒だからとこの少女に干し肉を恵んでさっさと追っ払おうとしてたんだった。

 

 

「ま、まて。少し話し合おう。ほら、干し肉上げるから裂け目をいっぱい出すのはやめてくれ」

 

「なに?今更怖じ気づいたの?でももう遅いわ。貴方は私を怒らせた。それだけで貴方は万死に値するのよ」

 

『そうだぞー!やれー!そしてぼこぼこに負けるんだー、生斗ー』

 

 …………。

 

 

 あー駄目だ。少女は聞く耳を持ってくれないな。

 

 ……幼女相手だからって舐めてかかったのが悪かったのかな……

 

 仕方ない、少しビビらせてやるか。

 

 

「なあ、少女よ」

 

「紫よ」

 

「……紫よ、お前、これまでにどれぐらい戦ってきた?」

 

「?……ここの辺りの妖怪となら大体は……後はたまに来る陰陽師を襲ったぐらいね。……ねえ、この質問にはどんな意図があるの?」

 

「なーに、紫がただのお山の大将かどうか確かめただけだ。」

 

 

 今のを聞く限りではこの辺りで一番を張ってる妖怪だろう。幼女のくせに。

 

 

「つまり、なにがいいたいの?」

 

「お前が本当にやる気なら。おれがお前がこれまでに築き上げた自信を打ち砕こうと思ってな!」

 

 

 そう言っておれは威嚇するかのように今持ってる霊力を全解放した。

 辺りはおれの霊力の風圧により、浜辺の砂が舞い上がり、演出としてはバッチリだ。

 ……これでビビってもらえれば完璧なんだけど……

 

 

「……!!!……へぇ、人間にしては中々じゃない。でも、どうやらお山の大将なのは貴方の方かもしれないわよ?」

 

 

 ……おれの作戦は見事に失敗したようだ。

 紫がそう言うと、紫からこれまでに戦ってきた幽香や、萃香などの大妖怪と大差ないほどの妖力が滲み出てきた。

 

 

 

「…………」

 

「あらあら、あまりの恐怖心に言葉もでないかしら?」

 

 

 クスクスと強者の余裕とも見れる笑いがあちらから聞こえてくる。

 

 ……んー、どうしよ。完全にやっちゃった。

 海に行こうだなんて考えなきゃ良かった……

 

 

『熊口さん、終わったと思ってるようですけど、たぶん行けますよ』

 

「は?」

 

 翠が急にいけるとか言い出した。

 え、なんでだ?

 

『ほら、よく見てください。確かに妖力は大妖怪並みですが……あれ、どう見ても隙だらけですよ』

 

「……あ、確かに」

 

 

 よく見ると、紫は単純なミスがいくつもあった。

 まず足元が砂浜だというのに足をつけている。

 砂浜は足が埋もれたりと、中々動きが面倒になる。こういった場合は軽めに浮いた方が戦うときは楽だ。

 これから見ると紫はおそらく、遠距離で攻めるタイプで、だから浮く必要もないからこれまでの癖で砂浜に足をつけているんだろう。

 まあ、見るからに接近戦が得意そうに見えないけど……

 

 取り敢えず、紫は戦闘経験は浅いとおもう。だって戦闘経験が豊富な奴は普通、遠距離が得意だろうとか相手に分析されないように務めるからな。

 おれの場合は霊力剣を生成した時点で接近戦が得意だとバレてしまうが……

 

 ま、兎に角、戦闘経験が浅い奴は総じて奇襲に弱い。これはこれまでのおれの経験から言えることだ。

 いっちょ、奇襲が得意な生斗さんが本物の戦い方とやらを教えてやるか。

 

 

「ほら、かかってきなさいよ」

 

「ならお構い無く」

 

 

 まず、おれは奇襲に使うにはもってこいの技として爆散霊弾を3つ放った。よし、このあと妖弾で相殺されたらその時の砂埃に紛れて……

 

 

「なに?牽制のつもり?たった3つじゃ牽制にすらならないわよ。こんなもの避けるまでもないわ」

 

 

 

 え、おま、馬鹿……

 

 

 

       ボガアアアアアンンン!!!

 

 

 

 そして紫の身体に着弾すると共に、3つの爆散霊弾は派手に辺りを吹き飛ばした_____

 

 

 

 

 いや、ほんとこの幼女馬鹿じゃないの?普通わざと受けるなんて事しないだろ……

 

 




はい、紫さん登場です。
しかも幼女として。お転婆な感じにしてみました。


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②話 優しいのは子供に限ってじゃない

 

 

 辺りは、月の光に照らされてはいるが薄暗く、潮の香りが少し鼻につく。

 しかし、そんな欠点を忘れてしまうほど、夜の海の景色は素晴らしかった。

 月の光に照らされた海は、表面に映し出している。それだけでも見事な光景だというのに、ゆらゆらと動く波が、月の光によって輝き、まるで星屑が海の中で光っているかのように錯覚させられる。

 この光景、なんとも神秘的。

 これこそ本当の目の保養だな。おれの語彙力じゃ、この程度でしか表現しきれないのが、本当に素晴らしい景色だ。

 前世で1度、浜辺での日の入りを見たことがあるが、あのときは辺りが真っ暗で、全然感動というものがなかったが、視力が霊力やらで強化された今は、その絶景をとらえることができる。

 

 いやー、凄い。昼の海も良いけど夜の海も良いよな。なんでこれまで海にいくのを後回しにしていたのか、不思議に思う。

 

 

 そんな感動と後悔をしていたおれの横で、翠がこう呟く。

 

 

「熊口さん、なにも見えないんですけど。景色もくそもないですよこれ」

 

 

 どうやら翠はこの絶景を見ることができていないらしい。

 ん?何故だろうか……おれはばっちし見えてんのに……もしかしたらおれの目が超人級なのかもしれないな。いや、冗談でなくもないかもな。射命丸のあの動きを()()対応できる時点でほかとは違うし。

 思えばおれの身体、普通の人と違うところが幾つもあるし……怪我がすぐ治ったりとか、あんまり痛みを感じないとか、戦闘中、やけに頭の回転が早くなるとか………………十中八九神の仕業だろうな。前世でそんな超人属性なんて無かったし。

 

 

「熊口さーん、霊弾で辺りを照らしてください」

 

 

 あ、あとおれの霊弾が他の奴が出す霊弾より輝度が大きいところか。霊弾1個でLED並みに光る。持続させるために霊力を送り続けなければいけないのだが、それもあまり面倒もかからないので、中々便利だ。

 ……ていうか翠、お前が海に行きたいっていうから来たのに、なんでこうもつまらなそうなんだよ。

 

 

「はあ……ったく、まあいいか。こんな絶景を見られたのも、お前が行きたいって言ったお陰だしな」

 

 

 それもそうだ。元々、おれは海なんて興味はなかった。

 ……ていうかこの世界に海があるのかどうかすら、わからなかった。でも、妖怪やら神やら歴史上の人物が性転換等で生きていたりと、日本昔話のような世界観だから、ある可能性がないって事はないだろうなとは思っていた。事実あったし。

 

 ……まあ、話は戻すが興味のなかったおれに、見る機会を与えたのは翠だ。少しぐらいの我儘は聞いてもいいだろう。辺りを少し照らすだけだし。あ、でもそしたら野良妖怪が明かりを目当てに近づいてくるかもしれない。そしたらその対処は……おれだよな。

 そう考えるとめんどくさいな……戦うのなんて面倒だし、気分が乗らないし。

 大体霊弾が無くても月明かりがあるからそれで十分だろ。翠、我儘言ってないで我慢しろよ。

 

 とまあ、自分に不利益が発生するからと、心の中で我慢しろと、最初に思ったことと逆のことを言ったが、おれもそろそろちゃんとした明かりが、ほしいと思っていた頃なので、仕方なく霊弾を生成した。

 

 

「おお、明るい。」

 

「大体、幽霊なのに目が悪いって。お前、そんなんじゃ誰一人として脅かすことなんてできないぞ」

 

「はあ?なにいってんですか!私は別に人を脅かすような事なんてしませんし、そもそも幽霊なら皆目が良いなんて熊口さん、偏見ですよ!それだからいつまでたっても一重なんです」

 

「お、おい、今お、おれの目の事は関係なな、いだろ。なんだ翠、ひょっとしておれに喧嘩売ってんのか?買うぞ?その喧嘩、買っちゃうぞ?」

 

「……熊口さん。一重、気にしてたんですね」

 

「……眠たいだけだ。開くときは開く」

 

 

 これまで誰からも触れられなかったから、全然耐性ができてなかった……

 

 

「ほうほう、これからの熊口さんへの罵言ボキャブラリーが増えました」

 

「よし買った!今すぐ喧嘩を始めようじゃないか!」

 

 

 まさか光によってきた妖怪とではなく、翠と戦闘になるのが先とはな。少し強敵だが、問題ない。今すぐとっちめてやる!

 

 

「……う~ん……」

 

「「あ」」

 

 

 おう……あんまり煩くしたもんだから、起こしてしまったようだ。

 

 

「ここは………」

 

「やっと目が覚めたか。」

 

 

 こいつが自ら馬鹿なことをして、勝手に気絶したから、別に放って置いてよかったんだが、なんかかわいそうだったので、一応看病をしてあげた。流石のおれでも、怪我している幼女を放って置くほど屑ではない。

 本当は面倒だから放ってさっさと移動しよう。なんて微塵もおもってないぞ、決して。

 

 

 

「な、貴方は!……あれ?」

 

 

 と、漸く自分が今着ている服がゴスロリ衣装ではなく、おれのドテラになっていることに気づく紫。

 

 

「なんで……服が……」

 

「ああ、あのときの爆発でお前の服がボロボロになったからな。着せといてやった。温かいだろ?」

 

 

 神がおれがこの世界に来るときにいつの間にかくれた服だ。実はこのドテラ、物凄く保温性が高く、これひとつで冬を乗り切れられるんじゃないかというぐらいだ。しかもこれ、破けたり汚れたりしても、1日経ったらいつの間にか元通りになるという洗濯、裁縫要らずの超ハイテクドテラだ。だから家の中以外では肌身放さず着ていたんだが……流石に服がボロボロになって肌がちらほら見えてしまっていたので、着させている。これなら幾分か見えずに済むだろう。

 

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 起きた瞬間は憤怒していた紫だったが、自分が看病されていた事に気づいたようで、少し大人しくなる。

 

 

「私思ったんですが……」

 

「ん、なんだ?」

 

「熊口さんって……子供に甘いですよね」

 

「は?」

 

 

 何をいってんだ翠は?おれは当たり前の事をしているだけだぞ。

 

 

「だって熊口さん。枝幸ちゃんに甘々で気持ち悪かったですし」

 

「あ、あれは枝幸だけで……」

 

「思えば妖怪の山でも、子供妖怪に遊んでと言われて、嫌々言いながらも結局遊んであげてたし」

 

「いや、だってそれ……」

 

「普通の妖怪が襲ってきたらぼこぼこにするのに、子供妖怪のときは軽くいなして森に帰していましたし。今回は例外ですが」

 

「それはあの妖怪の……」

 

「私、聞いたことがあるんです。枝幸ちゃんが家に遊びに来て、喜んでた挙げ句、遊び疲れて寝ていた枝幸ちゃんの髪を撫でながら『可愛いやつめ……』って言ってたのを!あのときは悪寒が止まりませんでした!」

 

「いやぁ!やめて!わかったから!おれは子供好きだって認めるから!もうそれ以上言わないで!!」

 

 

 なんてこった……あの時の事見られてたのか……ていうか翠、お前それに200年以上前の事だぞ。なんで覚えてんだよ……

 

 

 

「ね、ねえ貴方……貴方に質問をしたいことが3つあるのだけど……」

 

 

 と、おれと翠の会話を静かに見届けていた紫が口を開く。

 

 

「なんだ?もしかしてまた再戦しろとかか?嫌だぞ、絶対にやらないからな」

 

 

 最初はちょっと妖力の多いだけの妖怪だと思ってたら、まさかの大妖怪並みの妖力を持っていたからな。戦うなんてまっぴら御免だ。もし紫が無理矢理にでも戦いに持ち込んできたら、速攻で逃げる。

 全力で勝ち逃げしてやる。

 

 

「いや、それもあったけど今はその事じゃないわ。だから構えるのはやめて」

 

 

 ん?違うのか。逃げる準備して損した。

 

 

「それで、私の質問、受けてくれるかしら?」

 

 と、さっきまでおてんば娘のような面持ちだった紫の顔が神妙になる。これってまさか、真面目な話なのかな? 

 

 

「まあ、別にいいぞ」

 

 

 少し気になったので質問にこたえることにする。

 隠すことなんてそんなに無いしな。

 

 

「1つ目、貴方の名前を聞かせてくれない?」

 

「あ、そういえば言ってなかったな。おれは熊口生斗。ちょっと長生きな()()だ」

 

「……人間?」ピクッ

 

 

 なんだ翠、なんで今おれが人間って言ったとき反応したんだ?

 

 

「熊口生斗…………何処かで聞いたことのある名前ね。

 まあいいわ。それじゃあ二つ目。さっきから話しているそこの綺麗な女性はだれ?」

 

「あ、私、この子好きです」

 

「お前はちょっと黙ってろ。……ああ、そういえばあのとき居なかったな。こいつはおれの守護霊だ。昼はおれの中にいて、夜になると出てくる。」

 

「翠です!」

 

「守護霊……見るのは初めてね。生気も感じないし霊っ事は本当のようね」

 

 

 ほう、紫はそんなことまで分かるのか。

 

 

「それで、3つ目なんだけど……」

 

「おう」

 

 

「なんで貴方……生斗は、私に止めを刺さなかったの?」

 

「は?」

 

 

 止めを刺さなかった?なんでおれが紫を止めを刺さなきゃいけないんだ。

 

 

「だって……私は妖怪、そして生斗は人間。人間は普通妖怪を畏れるもの。それ故に人間は、色々な手を使ってでも私達を殺しにかかってくる。

 今回、油断したとはいえ、負けてしまった私は、始末されてもおかしくないのに……」

 

「……」

 

 

 ああ、そういうことか。つまりは、なんで、恐怖の対象である妖怪の私を看病したのかって、疑問に思ってるんだろうな、こいつは。

 

 

「……はあ」

 

「え?」

 

 

 おれは、あまりにも呆れた質問に思わずため息をする。

 そして紫は何故おれがため息をしたのか疑問に思っている様子。

 

 

「あのなぁ。お前にこれまで何があったかは知らないけど。人間皆が妖怪を畏れているとは思うなよ。妖怪にだって人間と同じで色々な奴がいる。戦闘狂で危ない奴もいれば、酒好きで友好的な奴もいる(そいつも戦闘狂だけど)。人間と同じように群れを作って集団生活している奴もいれば、変態だっているんだ。ここまで来るともう人間とそう変わらないだろ?」

 

「……」

 

「妖怪がぁ、とか人間がぁとかじゃない。おれが畏れるのは、戦闘狂とツクヨミ様だけだ!」

 

「え?」

 

 

 おっと、ツクヨミ様は余計だったか。いや、ほんと怖いんだよ、ツクヨミ様って……

 

 

「……ねぇ、それってつまり、私は生斗にとって恐るるに値しないってこと?」

 

「ああ、はっきりいってただの幼女だと思ってる」

 

「……妖怪として駄目だと思うんだけど、それ……」

 

 

 そう言いつつも少し安堵をしたように、頬を緩め、その場に座り込む紫。……え、今のどこに安堵する要素あるの?

 

 

「……実はこれまで、私……殺意しか向けられたことがなかったの」

 

 

 そして紫は、坦々と話し出す。

 

 

「人間からは勿論の事、他の妖怪達からすら、私の凄まじい能力を持っている故に恐怖し、私が幼いうちにと襲ってきた。」

 

 

 凄まじい能力て……それ、自分で言うか?

 

 

「だから今日、驚いたの。私が生斗の前に現れたとき、畏れて逃げ出すのではなく、めんどくさそうに無視して行った事に」

 

 

 だって実際、面倒だったし……

 

 

「めんどくさそうに接してくる態度への苛つきの反面、嬉しかった。私を恐れない人間に会えたのが」

 

 

 ほう、嬉しかったのか。あの態度で。へぇ、だからあのとき、調子に乗っておれの爆散霊弾をわざと受けたのか……いや、それはただおれの事下に見てたからか。

 それに紫、お前のその言葉だけ聞くとおれ、ただの命知らずな奴になってるぞ……

 

 

「だから、食べるのは止めたわ。それに種族は違うけど隙間仲間だもんね。」

 

「隙間仲間?」

 

「ほらこれよ。生斗もだせるでしょ?」

 

 

 と、隣に裂け目をつくる紫さん。

 

 

「……まさかそれの事を隙間って呼んでんのか?」

 

「ええ、そうよ。」

 

 

 な、なんで空間の裂け目の事を隙間なんて呼んでるんだ?おれにはちっとも理解ができない。

 

 

「ま、そういうことで今日のところはこのぐらいで勘弁してあげるわ」

 

「なんでおれがやられたみたいな感じになってんだよ。」

 

 

 まあ、でも事実危なかったかもな。もし紫が馬鹿じゃなかったら、負けていたのはおれかもしれない。

 

 

「ということで……」

 

「ん、なんだよ」

 

「生斗を食べない代わり……何か食べ物を恵んでくれない?ここ最近、なにも食べてないの……」

 

「……」

 

 

 そう言いながらお腹を押さえる紫は何ともひもじく見えた。

 …………んー、どうしようか。……まあ、この前寄った村で、妖怪退治して結構な量の食糧をもらったしいいか。

 それに元々干し肉をあげるつもりだったし。

 

 

「はあ、仕方ねーな……」

 

 

 と、おれは霊力剣を生成し、構えを取る。そして唐竹をしようとしたとき_____

 

 

「やっぱり熊口さん。子供には甘いですよねー」

 

「!?」

 

 

 このとき、集中がきれて、空間斬りを盛大に失敗したのは言うまでもない。

 




中途半端に終わりました。
さて、今回、色々な事実が発覚しましたね。
ドテラの性能とか生斗が子供好きだったりとか……

あれ、何気に重要回だったりして?



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③話 変態よ、また性懲りもなく……

 

『今回は見逃すけど、今度あったら覚悟しなさい!』

 

 

2ヶ月程前、紫がそんなことを言って、スキマの中に入って姿を消した。

まるで嵐のように去っていった紫だったが、嫌な嵐ではなかったとおれは思う。

何故なら、いずれ大妖怪になるであろうあいつに、借りを作れたからだ。

あいつはあんなことを言ったがおれに恩を感じているはずだ。だって飢えているところを助けたんだからな。おれの備蓄していた食糧の大半を、平らげたんだ。干し肉だけのつもりがね……もしあんなに食べたのに恩を感じないなんてないはず。

もし恩を感じていないのならあいつは人間じゃない。……いや、あいつ妖怪か……

ん、なに?恩着せがましいだって?……なに言ってるんだ。少しでもおれの生存率を下げる危険因子を減らすためならなんでもするぞ。

 

 

 

「熊口さん、それじゃあ今日もよろしくね。はいこれ、道具はここに置いとくから」

 

「はい、わかりました。今日はこの辺りの雑草の処理を済ませればいいんですね?」

 

 

そして現在、おれはある村で暮らしている。

紫のお陰で食糧難になったおれを養ってくれた良い村だ。

村長が村に貢献することを条件にと2年程の滞在を許してくれたので、おれはその条件を飲むことに。今では空き家を貸してもらい、村長の使いから頼まれる依頼をこなしていく毎日だ。

本当は家でずっとごろごろしたいのだが、流石にそれだと村から追い出されそうなので、態度には出さないが、渋々と依頼をこなす。

 

それで今日は畑にする平地の草刈り。今日はいつもより面倒らしいが、普通の人と違って霊力を操作できるおれにとっては、()()()()面倒な作業ではない。

……まあ、だからといって面倒な事には限りないだけどな。

 

「はあ……」

 

家から出ていく村長の使いを見送った後、おれはため息をする。

神子達の屋敷から出て、なんだかおれ、だらける事が出来る機会が少なくなってる。

まあ、代わりに健康的な生活を送れて、戦うときに必要な体力もつけることが出来るから良いんだけど……それでもおれはだらける時間が欲しい。一日中布団の上で過ごす生活がしたい。

現に翠は今、おれの中でのうのうと寝ている。たまにはおれの代わりに働けっての……

 

 

「でも、やるしかないよなぁ」

 

 

翠に文句を言っても、あいつは昼間外に出ることが出来ない。夕飯を作ってくれるだけましか。翠の飯、何気に美味いし。

それならば、さっさと済ませた方が良いだろう。この村に住まわせてもらってる分、働かなきゃいけないし、面倒事は先に済ませたいしな。

そう思いおれは玄関にある靴を履き、外に出ることにする。

 

確か、村外れにある竹林の右辺りって言ってたよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「ここか。」

 

 

確かに雑草が凄いな。確かに近くに川が流れてるし、土地も申し分ないぐらいの広さはある。

 

 

「いや、これ。全部おれにやらせる気なのか……」

 

 

広さは申し分ない。と言うことは、その申し分ない広さのある土地の整地をおれ一人でしなければならないということだ。

爆散霊弾で辺りを爆破してもいいんだけど、それだと爆破音とかで村の人達が騒ぎになるかもしれないし……

 

いっそのこと焼き払うか?……いやいや、それは流石に駄目か。そんなことしたら隣の竹林に燃え移るかもしれないし。

 

 

「きゃあぁぁ!!」

 

 

と、草刈りをどういう風にすればいいか考えていると、悲鳴が聞こえてきた。

なんだ?割りと近く……というより竹林の方から女の子の悲鳴が聞こえたんだけど……

 

ん~、なんだか面倒な事が起こる予感。でも聞いてしまったからには、助けないと駄目か。

そう思っていると、悲鳴がどんどん近づいてきて、ついに、その発声源である女の子の姿が見てとれた。

 

 

「なんで追いかけてくるのよ!?あっちにいって!」

 

「何を言ってるんだい!君のような大和撫子を、この僕が逃がすと思うかい?君はこれから僕の嫁として毎日良い思いをするんだ!」

 

「…………」

 

 

竹林から出てきたのは、必死で逃げる少女と、前に1度、会ったことのある変態だった。

 

 

「おっほ~い!捕まえたぞ!ほーれ、大人しくするんだ!」

 

「うぅ……どうしてこんな目に……誰か……あぐっ!?」

 

 

彼方はおれに気づいていないようで、変態が少女を捕まえ、少女が抵抗しようとしたがそれを変態が押さえ、手刀で気絶させた。

 

 

…………うん、爆散霊弾を使う機会がでてきたようだ。

 

 

「……」トントン

 

「ん?なんだい?今僕は忙しいんだ…………あ」

 

 

変態が少女を連れ去ろうとしているので、無言で肩を叩いてみる。

すると漸く気づいた変態はおれを見るなり顔を青くさせた。

まあ、おれというよりおれの後ろに配置している爆散霊弾に青くさせているんだろうが。

 

 

「な、なんで君がここに……?」

 

「さあな。それよりもお前、今何担いでんの?」

 

「ははは……迷子になった少女を保護しようとしただけさ」

 

「……はは、おれ、さっきの一部始終見てたぞ。嫁にするんだってな」

 

「うん……は!?」

 

「……」

 

「……」ダラダラ

 

 

暫しの沈黙が続く。そして5秒ほど過ぎた瞬間____

 

 

「……!!」ブウゥゥゥン!!

 

「……!!」バアァァァン!!

 

 

変態が少女を置いて音になって逃げるのと、おれが爆散霊弾を地面に着弾させたのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「ちっ、逃げられたか」

 

 

結局あと少しの所で変態を逃がしてしまった。

ほんと、逃げ足の速い奴め……

まあ、お陰でこの辺りはクレーターだらけになり、草1つとして残さない地帯になったからよしとしよう。後は平地にするようにすれば今日の仕事は終わりだ。

 

取り敢えず襲われていた少女の所へ行こう。もう起きているだろうか?

 

 

「……」スゥ…スゥ…

 

「まだ寝てんのか……」

 

 

倒れている少女の所へと戻ると、寝息をたて、寝ていた。

はあ……起こすか。ここに寝られたら困るし、風邪引くだろう。

と、少女の顔を改めてみる。

 

うおい、かなりの美少女じゃないか。

この前会った紫もかなりの美少女だったが、この少女はまた別な、純粋な美を求めた極地的な容姿をしている。例えるなら大和撫子の更に上をいった存在。

人形のように整った顔、土で汚れていても尚、その美しさは顕在で、逆にその汚れが美しさを際立たせている。

 

……確かに幼女好きなあの変態が成人とはまだ言えないが、中学生位の年頃のこの少女を嫁にするっていうのも頷けるな。

 

ま、それはおれには関係ないけど。

 

そしておれは寝ている少女の目の前まで行き、容赦なく頬をぺしぺしと叩いた。

 

 

「おーい、起きろー」ペシペシ

 

「……う……む……」

 

 

中々起きないな。……少し力を込めるか。

 

 

「風邪引くぞ」ベシベシ

 

「…………痛い!?」バッ!

 

 

お、漸く起きたか。

 

 

「何すんのよ、あんた!」

 

 

と、怒り心頭な少女。透き通るような白い頬は、おれに往復ビンタを受け、少し赤くなっている。

 

 

「いやそりゃお前、ここで寝ていたからだろ」

 

「は?寝てたって……あ!」

 

 

そして少女は何かを思い出したようで、途端に震えだした。

 

 

「たしか私は……あのとき、変態に襲われて……」

 

 

そう呟きながら少女は辺りを見回す。おそらく、あの変態が近くにいないか探してるんだろう。 

 

 

「安心しろ、あの変態は追っ払ったから」

 

 

しかし、少女は安心する様子もなく、呆然と立ち尽くしていた。

ん?なんだ?

疑問に思い、おれも辺りを見回して見ると……

 

 

「あー……」

 

 

辺りがおれの放った爆散霊弾でクレーターだらけになっていたことを忘れてたな……

 

 

「と、取り敢えずこの事は気にしないでくれ」

 

「寝ている間にこんなになってるのに、気にしないなんて出来るはずがないじゃない……」

 

 

それもそうだ。おれも起きたら辺りがこんなになってたら同じ反応をするだろうな。

 

 

「ま、まあさっきもいったがあの変態は追っ払ったから」

 

「そうなの?」

 

 

と、此方に顔を向ける少女。

 

 

「ああ、その時にちょっとここらいったいをこんなにしてしまったけどな」

 

「これ、貴方がやったのね……」

 

「まあな。んで、なんでお前……」

 

「お前ではないわ。輝夜っていうちゃんとした名前があるわ」

 

 

輝夜?輝夜って名前、前に何回か聞いたことがあるような……まあいいや。

 

 

「んで、なんで輝夜は追いかけられてたんだ?まあ大体はわかるけど」

 

「……!!そういえば!?」

 

 

と、急に慌て出す輝夜。なんだ?

 

 

「お爺様が大変なの!一緒に来て!」

 

 

そう言うと輝夜はおれの腕を掴んで竹林の方へ走り出す。

お爺様?誰だろうか……いや、それより……

 

 

「あ、ちょっ、なんでおれを引っ張るんだよ!」

 

「ちょっと!抵抗しないでよ!黙ってついてきて!」

 

 

 

いやいや、なんか余計な仕事が起きそうなことをなんで態々おれがしなければならないんだよ……

 

 

 

 

 

 




何気に輝夜さん登場です。


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④話 邪な考えはなるべくしないようにな

 

 

輝夜という、どこかで聞いたことのあるような名前の美少女に(無理矢理)連れられ、竹林の中へと足を踏み入れていた。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 

少女とは思えないぐらいの強い力で、おれの腕を掴みながら走る輝夜。

お爺様が!?……とか言ってたし何かあったのだろうか。もし悪いことがあったとしたら十中八九あの変態の仕業だろう。

 

う~む……それだとなんだか、あのとき仕留め損なった事に、申し訳なくなってきたぞ……

 

仕方無い、整地の事もあるが、お爺様とやらの捜索を手伝うことにしよう。さっきから輝夜、竹林の中でウロウロして、全然見つかる気配がないしな。

そう考えたおれは目に霊力を集中する。これで少しは視力が上がって、捜索しやすく…………あれ、彼処の方に、お爺様らしき人が倒れてるんだけど……今のおれの決心を返せ。あっさり見つかりすぎだろ……

 

 

「おい、もしかして彼処に倒れてるのが、お前が探しているやつか?」

 

「え?何処にいるの!?」

 

 

そう言って輝夜は辺りをキョロキョロと見回す。

あれ、こいつ見えないのか?

まあいいや、今は視力について考えている場合じゃない。

そう判断したおれは、先程まで走っていた方向の少し斜めに走り出す。

 

 

「あ……ちょっと待ってよ!」

 

 

おれが走り出すとともに輝夜もつられて走る。

今回は緊急を要する事態では無さそうだ。外傷は見る限りでは見当たらないし、呼吸も安定している。

遠くからじゃそれぐらいしかわからないが、たぶん無事だ。

 

そう思いながら走っていると、ある疑問が浮かび上がってくる。

 

……あれ、おじさんとの距離、中々遠くない?

走って漸く気付いた。霊力で強化した足で走っているのに、まだおじさんとの距離は縮まらない。

なんか距離感が掴めないぞ……

おかしいと思ったおれは目に集中していた霊力を解いてみる。

すると______

 

 

「うわ、全然見えねぇ……」

 

 

おじさんが倒れている方角は奥の方が竹の影で薄暗く、霊力なしの視力じゃ全然見えなかった。

……すげぇな、霊力。どんだけ水増ししてくれてんだよ。

思えばおれって、結構霊力に依存しているな。霊力剣やら霊弾やら身体強化やら照明やら……もし、霊力が扱えなかったらおれ、ここまで生きてこられなかったかもしれない。

そういえば霊力が使えるようになったのって……ツクヨミ様がなんか概念やらを無くしてくれた時からか。

なんだ、ツクヨミ様のお陰か。何気に重要な事してくれてたんだなぁ……あ、これはもう敬うしかないな。ツクヨミ様ありがとう!

 

 

 

「おっと、やっとか」

 

 

霊力の便利さと、ツクヨミ様への感謝を改めて感じていると、おじさんを目視できるくらいの距離まで近づいていた。

その姿を見るやいなや、後ろで走っていた輝夜は走る速度を上げ、おれを越し、おじさんの元へとたどり着く。

……あれ?今おれの足、霊力で強化されてんのになんで越されたんだ?

いや、今はそんなことを考えてる場合じゃないな。

 

 

 

「お爺様!私です!」

 

 

うつ伏せに倒れているおじさんを、仰向けにして顔を近づけながら応答を求める輝夜。

 

 

「大丈夫だ。たぶん寝ているだけだろ」

 

 

輝夜よりちょっと遅れて到着したおれはおじさんの腕をとり、脈を確認しながら安心させるように言う。

よし、脈も安定してる。おそらく驚いて気絶したんだろう。

 

 

「ほんと!ほんとなの!?」

 

 

さっきから煩いな……まあ、知り合いの安否がわからなかったから、慌てるのも無理もないけど。

 

 

「よかったぁ~」ヘタッ

 

 

肩の荷が降りたかのように、尻餅をつく輝夜。どうやら、本当にこのおじさんの事を心配していたらしい。

 

 

「取り敢えず、このおじさんを運ぼう。地べたで寝させるよりかはましだろうからな」

 

「あ、うん、わかったわ」

 

 

やっと落ち着きを取り戻した輝夜は、1度深呼吸をし、呼吸を整え、その場に立ち上がる。

それに続きおれはおじさんをおぶりながら立つ。

見かけによらず重いな、このおじさん。

 

 

「私が持とうか……?」

 

「いや、いい。こういうのは男の仕事だ」

 

 

これでこいつに持たせたら、こいつはなにやってんだ、女の子に持たせて、と近所の人に言われるかもしれない。近所の人が見ていなくても、おれが同じことを自分で言う。

 

 

「ありがとう……見ず知らずなのに、こんなことまでさせてしまって……」

 

「なに、人が倒れているのを助けるのは当然の事だろ。お前が気にすることじゃない」

 

 

あ、いまおれ、かっこいいこと言った。

 

 

『ありきたり、20点』

 

 

げっ、起きてきやがったか。

 

 

『ふあぁ、起きた直後に臭い台詞聞かされたので、また眠たくなりました。お休みなさい』

 

 

翠、お前それ、ただ二度寝したいだけなんじゃないのか?

 

 

「それじゃあ、うちまで案内するわ」

 

「あ、うん、わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________________

 

 

 ~道中《竹林》~

 

 

「ねぇ、そういえば貴方の名前を聞いてなかったんだけど……」

 

 

竹林を二人で歩いていると輝夜がそんなことを聞いてきた。

 

 

「あ?いってなかったっけ?」

 

「うん」

 

 

そうか、言ってなかったか。

なんか慌ただしかったから言うのを忘れていたな。

 

 

「ん~とだな、おれは熊口生斗だ。頭にかけてるのはグラサンと言って、目を保護するのに役立つ道具だ」

 

「熊口、生斗……?」

 

 

おれが名乗ると、輝夜は怪訝な顔つきとなり、急に手で顎を撫でながら考え始めた。

……ん?確かに熊口生斗ってここじゃ少し珍しい名かもしれないが、そんなに考え込むほどか?

 

 

「どうした?」

 

「え?あ、いや、どこかで聞いたことのあるような名前だなぁっておもって」

 

「そうか?おれが言うのもなんだけど、熊口生斗って名前、そんなにいないと思うぞ」

 

「いや、そういうのじゃなくて……」

 

 

う~む、なんだろうかなぁ。もしかして妖怪の山での噂がここまで広がってたりしてな。

『目撃!人間が妖怪と共同生活!?』的な。……ないな。まず、妖怪の山に普通の人間が入って無事で済むとは思えない。鬼に見つかれば玩具として遊ばれ、天狗に見つかれば問答無用で殺されるだろう。河童は……なんとか生きられそうだな。尻子玉をとられなければの話だけどな。

 

 

「まあ、いいわ。そんなことを今考えても仕方のないことだわ。それよりも今は生斗に礼を言わないと」

 

「……さっきも言ったが、おれは当たり前の事をしているだけだぞ」

 

 

いや、実は違うんだけどな。礼を言われたらつい調子に乗ってしまって、失言してしまうのが怖いからだ。特にこんな美少女に礼なんか言われたら、十中八九だらしない顔になるだろう。

今はこの美少女には、『優しくて強いお兄さん』という印象を持ってもらうことが大事だ。

ん?そんな印象を持たせてなんになるのかだって?

あるさ、きっとなにかある、はず。

逆に人に良い印象を持ってもらいたい事の何が悪いんだ。確かに、周りの顔ばかりを伺って自分を見失う奴もいるだろう。だからどうした、それも人付き合いを上手く渡るために必要なスキルだろ。見失ってしまうと言うなら、人付き合い以外の所で頑張れば良い。まず、自分を見失わないようにするには、これなら他の奴に負けない、っていった特技を見つけることが大事なんだ。絵を描いたり、勉強したり、運動したりして身につけ、自分にとって誇りと言えるものとしていく。そうすれば自ずと________

 

 

あれ、おれはさっきから何を考えてんだ?

いかんいかん、完全に脱線していた。なにが、自分を見失うだ、今そんなこと全然関係ないじゃん。

こんな講釈垂れたが、結局はただ、美少女に良いかっこを見せたいだけだし。

仕方無いだろ、思春期なんだから。

……ん、思春期なんてとっくに過ぎてるだろ、だって?

ばーか、おれは永遠の17歳なんだよ。

 

本当は、これまで会った美少女達にも同じように、カッコつけたかったが、出会いが出会いなだけに、本性をすぐにバレるし……弓突きつけられたり、土から出てきたところをみられたりとか。

 

 

「いい人なのね」

 

 

はいきたー、いい人なのね発言きましたー。これまで、散々駄目人間とか阿呆とか変態とか言われ続けて、悪口耐性のついてしまったおれに、ついに良い人イメージを付着させることが出来たぞ!

 

 

「そ、そうかぁ?」ピクッ

 

 

あ、駄目だ、顔が腑抜けていく感覚がする。

それに気付いたおれは、咄嗟に左手で顔を覆う。

……ふぅ、悪い癖だ。ここであんな顔を見せたら、これまでの苦労が水の泡だ。これまで、あの顔で褒められたことなんて1度としてないからな。皆引くんだよ、何故か。

……おっと、左手を離したせいで、おじさんの体勢がずれてしまったな。戻さないと……

 

 

「それで、なんでおじさんが倒れていたのか、聞かせてくれないか?」

 

 

大体の予想はつくが、輝夜の家に着くまでの時間稼ぎにはなるだろう。

 

 

「うん……私とお爺様で竹を取っていた時にね______」

 

 

それから輝夜に聞かされたのは、ほんと、想像通りの展開だった。

おじさんと輝夜が竹取りに出掛けていた最中に、あの変態と遭遇。

輝夜の容姿に惚れたあいつは求婚を要求。それを断ったら、おじさんを気絶させたあと、輝夜を連れ去ろうと追いかけて、おれのところまで来たそうな。

てか、あいつロリショタ選だったじゃねーか。なんで輝夜を狙ったんだよ。もしかして100年の間に趣味でも変わったのか?それか、輝夜があまりにも凄い容姿だったから、変わったのか。

 

まあ、あいつの趣味なんてどうでも良いか。グラマーな女性が好きなおれとは、一生分かり合えないだろうし。

……はあ、久しぶりに永琳さんの胸にダイブしたい……着地まで成功したことはないんだけど。いつも直前で後頭部に肘打ちを食らわされる。

 

 

「うっ、なんか悪寒がしたんだけど……」

 

「気のせいだろ」

 

 

女って凄い。久しぶりに邪な事考えたら、すぐに察知されたよ。

なんかセンサーでも持ってるんじゃないか?

 

 

「ん?あれか?輝夜の家って」

 

「あ、そうよ。ちょっとお婆様を呼んでくるわ」

 

 

女の恐ろしさに若干ビビっていると、おれが今住んでいる家と、同じぐらいの大きさの家が見えてきた。

その家を見ると輝夜は、お婆様とやらを呼びに走り出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事におじさんを届けたあと、おれはおばさんにお礼を言われながら、山を下りた。輝夜の住んでいる家が山にあったからな。

そして家に着くと、家の前に顔を真っ赤にした村長の使いからこっぴどく怒られた。

……あの平地、クレーターだらけにしたままだったな。

明日までに直さないと。

 

 

 



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⑤話 試されてたのかぁ

 

 

「熊口殿、どうか用心棒として、わしらの屋敷へと来てもらえませぬか?」

 

 

 輝夜という少女と会って2日後。おれはなんとか荒れた(荒らした)土地の整地を済ませ、今晩の夕飯となる魚を釣るため、整地した土地の付近にある川で釣りに興じていた。

 

 そして食料確保に勤しんでるおれの前に現れたのは輝夜がお爺様と呼んでいた人物。つまりおれが助けた奴だ。

 そのおじさんが、来週京の都の屋敷に居を移し、輝夜を高貴な姫君にするらしい。その用心棒に妖怪を退いたおれの腕っぷしを買い、勧誘にきたとか。

 いやぁ、まあ、おれは確かに人間の中では腕っぷしは強い方だと思うよ?ええ、なんたって何百年もいきてるんだかな!

 おっと、心の中で自惚れるのはこれくらいにしておこう。

 

 

「なんでおれを勧誘するんですか?腕っぷしが強いのなら京の都にも沢山いますよ」

 

 

 京の都には1度寄ってみたことがある。いやぁ、彼処は中々広かったよ。しかも陰陽師なんてのもいたからね。正直びびった。本当に存在してたんだなぁ、ああいうの。まあ、妖怪とかが出てくる時点でいるとは思ってたけど。

 しかも陰陽師の妖怪退治の現場を隠れて見に行ったこともある。なんか呪符を使ったり、お経みたいなのを唱えたりして、摩訶不思議だったな。だってお経唱えてたら、妖怪の足場に紋章が浮き出てきて、急に妖怪が溶け出すんだもん。いきなりスプラッタをぶっこんできたからちょっと吐きかけてしまったし。

 

 

『ほんと、なんで熊口さんなんかを用心棒にしたいんでしょうか……もしかして、頭がボケて正常な判断が取れなくなっているのでは?!』

 

 うるせー翠。おれを起用するのはいたって正常な判断だよ。

 少なくてもそこら辺の奴よりかは強い自信がある。

 

 

「実は……姫が熊口殿にどうしてもというもので」

 

「は?」

 

 

 姫って輝夜のことか?

 

 

「ていうかおじさん、お金とかどうするんですか?京にある屋敷ってどこも高いと聞いたんだが」

 

「金銭関係なら心配ご無用。少し前、黄金を山のように手にいれましたから」

 

「や、山!?」

 

 

 山のようにて……何処でそんな大金を手に入れたんだよ……

 もしおれがそんな大金を手にいれたらどうしようか……取り敢えず新築して今よりましな布団を購入したいな(なんで旅出るとき布団を持っていかなかったんだろうか……)。今なんて布一枚敷いてるだけで、ほぼ床で寝ているのと変わらないし。

 あとは日々をゆったりと過ごすぐらいか。…………うん、おれの欲は地味で味気ないな。どこまでいっても最終的に安定な暮らしを求めてしまう。

 

 

「ちょっと考えさせてくれませんか?」

 

「え?」

 

 

 取り敢えず一旦考えさせてほしい。急にそんな話を持ち込まれてもな……

 

 

「……分かりました。それでは明後日のこの時間に、また来ます」

 

 

 そう言っておじさんは川辺を後にした。

 

 

 

 

 

 

『熊口さん、なんであのお爺さんの提案を渋ったんですか?今よりましな生活ができそうですよ?』

 

「まあ、確かになぁ」

 

 

 確かに今よりかはましな生活が見込める。だけどなぁ……なんかあやしいんだよな。この前おじさんの家見たとき今おれが住んでる家と同じぐらいの大きさだったし。あ、でもおじさんを家の中まで運んだとき、高そうな羽衣とかあったな。

 

 

「おっ、きたきた!」

 

 

 そんなことを思ってると、釣竿に手応えがあることに気づいた。

 よし!今日は調子がいいぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~家『夜中』~

 

 

「結局釣れたのは3匹だけですか……」

 

「仕方ない、今日は調子が悪かったんだ」

 

「……熊口さんって釣りの才能ないですよね」

 

 

 そう言いながら焼き魚をかじる翠。……こいつ、文句を言うなら自分で釣ってから言えってんだ。

 ていうか0匹よりかはましだろ。逆におれは3匹も釣れた自分を褒めたいね。

 

 

「はあ……」

 

 

 そういえばおれって、この世界に来てからあまり食べなくなったなぁ……今なんてこの魚1匹だけでも満足できる。流石に限界まで腹が減ってたら別だけども。

 

 

「翠、お前がもう1本食べていいぞ」

 

「ええ、あまり味がかかってないからあまり食べたくないんですけど……」

 

「贅沢言うな、食えるだけでありがたいと思え」

 

「そうよ、食べられるときに食べなきゃ損よ」グウ…

 

「ほら、この子を見習え」

 

 

 ったく、本当は翠は食事を摂る必要がないのに、食べさせてやってるんだ。文句を言う資格はないと思うぞ。

 

 

「え……?」

 

「それより生斗、その魚、食べないのなら私が貰ってもいい?」ダラー

 

「ああいいぞ。おれもお腹一杯だしな」

 

「え?、え?」

 

「ありがとう!いただきまーす!」

 

 

 そう言って囲炉裏の周りに串刺しにしていた焼き魚を食べ始める輝夜。ほらほら、こういう風に美味しそうに食べる方が、取ってきた側からしたら嬉しいもんだ。

 

 

「く、熊口さん?そこにいるとてつもない美少女は誰ですか?!」

 

「ん?」

 

 

 美少女て……翠、また自分のことを美少女とかのたまってんのか?

 

 

「いや、そこ!今焼き魚を美味しそうに頬張ってる子ですよ」

 

「あ?…………うお!輝夜?!なんでうちにいんだよ」

 

 

 ほんとだ……いつの間にか一人増えてた。

 

 

「はひひょうふ、おひいはまふぁらひょははふぉへるふぁ(大丈夫、お爺様から許可は取ってるわ)」

 

 

 なにいってるのかさっぱりわからん。一気に食べすぎだ、骨を詰まらせるぞ。

 

 

「……そんなことより」ゴクンッ

 

「?」

 

「そこにいる女の人は誰?生斗と会ったときは見なかったんだけど」

 

 

 そこにいる女の人?……ああ、翠か。そういえばあのときおれの中で寝てたな。

 

 

「私も聞きたいです。いつの間に熊口さん、こんな美少女と知り合いになったんですか?」

 

「まあ待て……んーと、取り敢えず自己紹介を二人でしろ。」

 

「あ、はい。……私は東風谷翠って言います。一応熊口さんにとりついている幽霊、厳密には守護霊です」

 

「幽霊?……嘘は良くないわよ。……まあいいわ。私は輝夜、あの山に住んでる翁と嫗の娘よ」

 

 

 む、翁?これも何処かで聞いたことのあるような単語だな……

 

 

「嘘じゃありませんよー、ほら見てくださいよこの足、半透明でしょ?」

 

「は?……あ、ほんとだ……幽霊ってこんな感じなのね」

 

 

 いや、そんなんで信じんのかよ。ていうか翠、おれと初めて会ったときは足がぼやけて見えてなかったのに、いつの間に見えるようになるまでなった?

 

 

「そんなことよりも輝夜、なんでお前がおれん家にいんだよ。おじさんが心配してるんじゃないのか」

 

「それはさっきいったはずよ。お爺様から許可は取ってる」

 

 

 さっきって、焼き魚を頬張ってた時か。

 

 

「んじゃ、なんで来た?」

 

 

 ていうかなんでおじさんは許可したんだ?夜に男のいる家に独りでに入ってくるなんて襲って下さいって言ってるようなもんだぞ……

 

 

「んー、なんかお爺様が行けって言ってねぇ。何を考えてるのかしら?」

 

「おじさんが?」

 

 

 どんどん謎が増えていくぞ……なんでおじさんから輝夜に行くように命じたんだ?

 

 

「熊口さん、邪なことはしないように」

 

「するか、逆にこれまでそんなことしたことあったか?」

 

「春画……」ボソッ

 

「……100年以上も前の事だ。」

 

 

 こいつ、中々昔のことをよく彫り上げてくるな。

 

 さて、それじゃあどうするか。風呂は今の生活じゃ無理だから、体を拭くくらいしかないからすぐ終わるし。

 

 

「んじゃ、お前らは身体洗ってこい。おれは片付けをしておくから」

 

「はーい」

 

「……覗かないで下さいよ」

 

「覗いてほしいのなら、もうちょっと魅力的な身体になってから言え、まな板」

 

「なっ!セクハラですよセクハラ!」

 

 

 はいはいうるせーうるせー、とっとと行け。

 そう思いつつ二人に布を渡す。

 そして二人は体を拭きに居間から出ていく。

 

 

「はあ、めんどくさいなぁ」

 

 

 翠だけならまだしも一昨日会ったばかりのやつの面倒まで見なきゃいけないなんて……今度おじさんにあったら怒ってやる。

 

 

「取り敢えず屑を集めて捨てるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりましたよー」

 

「さっぱりしたわ」

 

「そうか、それじゃあおれも拭きにいくか」

 

 10分ほど経ったぐらいに、二人が居間に戻ってきた。

 風呂も入るわけでもないからそんなに長くは無かったな。もし風呂だったらかなり長風呂だからな、翠って。

 

 そんなことを思いながらおれも居間をでる。

 

 

 ガサッ

 

 

「ん?」

 

 

 なんか外に人の気配がした気がするんだが……まあいいか、今現れたところで、男の裸なんて見てもなんの特にもならんだろう。今現れたかどうかは知らないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~就寝時~

 

 

「それじゃあ寝るぞ」

 

「なんか寝る前に衝撃的なところを目撃してしまったせいで、寝れる気がしないんだけど……」

 

 

 まあ、翠がおれの背中から入っていったからな。初めてのやつは大抵驚く。

 あのクールぶってる屠自古は女の子らしい悲鳴をあげ、布都に至っては口から泡吹いて気絶したからな。

 

 

「さて、輝夜。ここには布団と呼べるものは1つしかない。これがどういう意味かわかるか?」

 

「え?……そ、それってもしかして」ドキドキ

 

「そう、すまんが輝夜は床で寝てくれ」

 

「え……えぇぇぇ!?」

 

 

 なんか予想外だと言う風な声をあげる輝夜。

 

 

「そこは、その、二人で一緒に寝ようとかじゃないの!?」

 

「なんだ?二人で寝たいのか?」

 

「嫌よそんなの!」

 

「だろ?だからおれが寝る」

 

『熊口さんさいてー』

 

 

 言ってろ。

 

 

「うっ……分かったわ。泊まらせてもらってる身だもの。贅沢は言えないわ」

 

 

 と、悲しそうな顔をする輝夜。

 

 …………ん~……

 

 

「冗談だよ、輝夜がそこで寝ろよ」

 

「え?」

 

 

 流石に女の子を差し置いておれが布団で寝るのもな……冗談のつもりが少し面倒な感じになってしまったな。

 

 

『本当は冗談じゃなかったんじゃないんですか?』

 

 

 ………………冗談に決まってるだろ。

 

 

「あ、ありがとう」

 

 そう言って輝夜は敷かれている薄い布団に入る。

 

 

「気にすんな。ほら、さっさと寝るぞ」

 

 そう言っておれはずっと天井付近に出していた霊弾を消滅させる。

 

 

「うわ、暗くなった。」

 

「当たり前だろ、光が無くなったんだから」

 

 

 よし、じゃあ寝るか。そう思い、おれは壁に寄りかかる。最近は野宿でよく座って寝ることが多いから、あまり苦にはならない。起きたら腰が少し痛いぐらいか。

 

 

「お休みなさい」

 

「ん?……ああ、おやすみ」

 

『お休みです』

 

 そしておれは目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~深夜~

 

 

「ん~、うーん……」

 

「……ん?」

 

 

 もう夜更けだろうか。おれは輝夜の唸り声で目を覚ました。

 

 

「うっ、寒っ!?」

 

 

 起きてみるとかなり冷え込んでいた。この時期にこんなに冷え込むなんて珍しいな。

 

 

「うーん……」ガクガク

 

 

 そうか、輝夜が唸ってるのは寒くて震えてるからか。

 ……はあ、めんどくさいなぁ……

 

 

「……」スゥ

 

 

 ここまでする必要なんて無いんだけどな。

 唸られるのも面倒だから、おれが着ているドテラを毛布代わりに羽織らせた。

 

 

「う……ん……」

 

 

 着せると、輝夜は先程まで寝づらそうにしてあた顔が嘘かのように気持ち良さそうな寝顔になった。

 さっきまでおれが着ていたから暖かいだろ。

 もし翠にやったら絶対に後から「熊口さんの体温が残ってるなんて不快です!」とか言ってきそうだな。

 まあ、寝てるから問題ないか。

 

 

「……うぅ、寒っ」

 

 

 ふう、どうするか。今は上半身黒T1枚だ。かなり寒い。

 

「ま、寝れるだろう」

 

 

 寒いと思っているから寒いんだ。寒くないと思えば寒くないはず。

 

 

「熊口殿」

 

 

 ん?なんか今誰かに呼ばれたような……

 

 

「熊口殿!」

 

 

 気のせいじゃない、確実に今誰かに呼ばれた。

 

 

「……誰だ?」

 

「わしです!(みやつこ)です!」

 

 

 造……確かあのおじさんの名前だったよな。

 なんでおじさんがここに?

 そう思い、顔をあげると、玄関におじさんが後ろに屈強そうな男を二人連れて立っていた。

 

 

「なんでおじさんがここに……」

 

「話は外でしましょう。」

 

 

 おじさんは小声でそう言い、外へ出ていく。

 ……なんか面倒そうな予感が……

 と、思いつつもおじさんに従い、おれも外へでる。

 

 

「この度は、姫を泊めていただき、ありがとうございます」

 

「そのことですが……なんでもおじさんが輝夜にここへ泊まるように命じたらしいじゃないですか、何故ですか?それに後ろの男二人組は?」

 

「はい、この事については本当に申し訳ありません。今朝にも言った通り、姫が熊口殿をどうしても用心棒にしたいと申されたのですが……」

 

「いってましたね……」

 

「そこで、無礼ながら試させていただくことにしたのです。本当に熊口殿が信用に当たる人物かを」

 

「おいおい」

 

 

 つまり、おれが輝夜に変なことを本当にしないか、ずっと見張ってたって事か?

 

 

「……てことはつまり、そこにいる男二人は……」

 

「はい、もし熊口殿が姫を襲うようなことをしたときに停めて貰うために雇いました。」

 

 

 はぁ、結構なことで……  

 

 

「しかし、そのような事をする必要は無かったようですね。熊口殿は信用できる」

 

「はあ?……ありがとうございます?」

 

 

 喜んでいいのか?

 

 

「そこでもう一度お願いします。

 どうか!姫の用心棒になってくれませぬか!」

 

「それは今朝も言った通り、少し考えさせてほしいと言ったのですが……」

 

「貴方ほど信用できるものなどいません!」

 

「過大評価し過ぎじゃ……」

 

「いいや、これは正当な評価です。見ましたぞ、わしらを襲った妖怪を退いた跡地を。あれほどまで大地を揺るがす輩はわしの生涯で見たことがありませぬ!」

 

 

 まあ、確かに爆散霊弾の威力は凄いよなぁ。おれ自身の力とは不相応な威力がでる。

 

 

「どうか!!」

 

 

 こんなにも頼み込まれるなんてな……なんでおれなんかを……

 

 

「はあ……わかりました。その申し出、受けることとします」

 

 

 まあ、別に渋る必要もないしな。ちょっと怪しかったから延ばしたが、こんなおじさんがおれを騙すようなことはしないだろ。ていうかまずおれを騙しておじさんが得する事なんてないしな。

 

 

「ありがとうございます!本当にありがとうござます!」

 

「いえいえ、こちらこそ。こんな自分をここまで評価していただき、ありがとうござます」

 

 

 まあ、いっか。これで今よりましな生活が出来るだろう。

 

 

 

 

 




翁と嫗って男の老人と女の老人のことを言うらしいのですが、輝夜の自己紹介ってあれであってるのか少し不安です……
あと、翠がたまにセクハラとかボキャブラリーとか昔の人が使わないような事を言ってるのは生斗くんが言ったことを真似て覚えたものです。他の人は使わないようにしています。


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⑥話 同情するのは美少女に限ってじゃない

 

 輝夜がうちに泊まり、おじさんからの申し出を受けた日から1週間が経った。

 明日、京の都へと引っ越しをする。あ、勿論おれがこの村を出るって事は村長に言ってある。なんか働き手が減るとかで、渋られたが……

 

 京の都までこの村から徒歩で1日近くかかるという。その上、輝夜を駕籠に乗せて運ぶからもっとかかるらしい。

 つまり、どうやっても夜にも歩く必要がある。おれはその夜間に出てくる妖怪の退治を任されているので、夜は寝れないんだよな……だから今日のうちにたっぷり寝るとしよう。

 なんかどのルートで行くか相談があるから家に来てくれと言われていた気もするが、そんなの気にしない。

 おれの中で睡眠は三大欲求の中で頂点に君臨する。その睡眠を夜中という一番眠たい時間帯で寝れない苦痛を味わうんだ。今日ぐらい一日中寝たっていいだろ。

 ……うん、とんだ屁理屈だな。

 ……はあ、まあ、了承したからにはその分働かないとな。

 本当は嫌だが、起きないと。

 

 

「……」

 

 

 と、思いつつも出られないのが布団の魅力だ。薄くてあまり布団とは呼べない代物でも、十分に効果を発揮する。

 布団の怖いところはここにある。寝ていたときの温もりを捨てるのが、勿体無く、あと1分だけ寝ようと心の中で誓い、その1分という猶予が過ぎると、まだ時間があるからと、もう1分寝ても大丈夫かと思い始める。

 確かに1分はあまり長い時間とは言えない。しかし、たかが1分、されど1分だ。その引き延ばしが後に命取りになる。

 1分、1分と、引き延ばしていく事に、1分を数えるのが面倒になる。ならいっそのこと5分後に起きればいいんじゃないか?

 という発想が出てくる。それを採用してしまうと、後は転落、その5分間に酔いしれているうちに、睡魔が己の意識を刈り取っていく。

 そうなるとどうか。そう、寝過ごしてしまう。

 そして後悔する。ああ、折角早く起きたのに……と。

 

 まあこの事に関しては、自分の欲に勝てば問題のない話だが、それができれば苦労しない。

 

 現に今のおれがそうだ。頭では分かっているのに身体が言うことを聞かない。完全に欲に負けている。

 

 笑うなら笑え、欲に負けた弱者とでもな。そんなこと言われたら、『おれは欲に忠実なだけだ』と負け犬の遠吠えをしてやる。

 

 

「(よし、ということで……あと1分だけ寝よ)」

 

「……はあ、駄目人間ここに極まりですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _____________________

 

 

 

 ~翁と嫗の家~

 

 

「この道は広い草原でもし妖怪が襲ってきてもすぐにわかります。そしてこの道だと、少し遠回りになりますが、民家も多く、妖怪との遭遇率は殆どありません。最後にこの道だと……雑木林を通り、かなり妖怪の目撃情報があるのですが、近道です。」

 

「ほう」

 

 

 おじさんの家に、少し遅れつつ行くと、そこには輝夜の姿がなかった。どうやら村の近くにいる子達と遊びに行っているらしい。

 おじさんいわく、これからは高貴な姫君にするために、今のような遊びなんてさせられないという。つまり、これからは外で走り回ることは、殆んどないということだ。

 そんなことが出来るのも、今日が最後だと思うとなんか可哀想だな。

 

 と、それよりもおじさんが言っていたことのおさらいをしよう。

 まず3つのルートがある。

 1つ目が草原、見渡しができ、敵の察知がしやすい。

 2つ目は民家が多数ある通り、遠回りだが、妖怪との遭遇は殆んどない。

 3つ目が雑木林、近道だが、妖怪と高確率で遭遇。

 

 ……んー、この場合だと悩む必要なんてないんじゃないか?

 

「ここは草原から行った方がいいのでは?」

 

「うむ、わしも最初はそう思ったのですが……」

 

「ん、なにか問題でも?」

 

「はい、実は……ここ最近、この草原付近に盗賊が住み着いたと知らせが来たもので……」

 

「盗賊?」

 

「なんでも、集団で行動しているとか。これだと熊口殿と、あの二人の男どもでは被害が抑えられない可能性があり、あまりこの道を行くのは……」

 

「盗賊って言っても人間でしょう。妖怪と比べれば楽なもんだと思いますけど」

 

 

 人間と妖怪を比べるのは良くない。おれのような、霊力を扱えるのならまだしも、普通の人間じゃあ、中級妖怪にすら勝てないだろう。弱小妖怪ですら、大人でやっと倒せるくらいだし。

 

 

「わしが言っているのは強さではなく、数です。団体でかかってこられては、いくら熊口殿と言え、取りこぼしてしまう可能性があります」

 

「その点は心配ご無用。おれに考えがあります」

 

 

 妖怪には簡単に壊されるから、これまであまり使わなかった(寿命ブーストがあったら別だけど)が、人に対してなら結構有効的だ。

 

 

「はあ、そういうのなら信じますが……お願いしますよ?」

 

 

 信じていると言いつつも怪訝気な顔つきのおじさん。

 まあ、そうだろうな。会って1週間程度のやつを完全に信じきる奴は相当な目利きのある奴か馬鹿ぐらいだ。

 

 

「任せておいてください。」

 

 

 遠回りなんて御免だ。おれの睡眠できる時間がなくなる。

 妖怪が出没するところは論外。妖怪だって単独で行動するやつだけじゃない、群れで行動する奴だっているんだ。しかも夜に現れる奴は狂暴なのが多い。人間の枠を越えた存在が群れでかかってこられたら、今おれが考えている策はほぼ無意味だからな。そしたら皆を守るのは難しくなる。

 

 

「それじゃ、失礼します。明日の夜明け前にまた来ますから」

 

「わかりました。どうか、お願いします」

 

 

 

 よし、明日も早いしさっさと寝るか。

 まだ日が照ってるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~村~

 

 

 やっぱり寝るのもなんだったので、村の周りを散歩することにした。

 

 

「あ、熊口さん」

 

「おお、こんにちは」

 

 

 すると、いつも村の仕事を頼みに来ていた使いの人と出くわした。

 

 

「そういえば聞きましたよ?明日ここを出るんですね」

 

「あ、はい、そうですね。山に住んでるおじさんから用心棒として雇われまして」

 

「それなんですがね。知ってますか?あの翁がいきなりお金持ちになった理由」

 

「?……それは知りませんでしたね。知ってるんですか?」

 

 

 そういえば知りたいな。この口ぶりだとこの人、知ってそうだし。

 教えてくれるだろうか。

 

 

「ご存知なかったのですか……実は翁が持っている黄金、()()()からでてきたそうですよ」

 

「光る竹?」

 

 

 なんて非現実的なんだ。光る竹て……そんなので大金持ちになれたら苦労しない。

 

 

「おっと、急がなければ。

 それでは、私はこれから畑仕事にいきますので」

 

「畑ってこの前おれが整地した?」

 

「はい、この度は感謝しています。1週間はかかると思ってたのに、2日で終わらせるんですから」

 

 

 なんだ、今日中にやれってことじゃなかったのか。まあ、あんな広い土地を1日でやれとか、鬼畜にも程があるけどな。

 

 そのあと、使いの人と軽い挨拶をしてから別れた。

 

 

「ここまでこいよ!」

 

「おいまてよごろう!」

 

 

 と、少し遠くから子供の声が聞こえる。

 そこへ顔を向けてみると、そこには男の子達に紛れて遊んでいた輝夜の姿があった。

 ……めっちゃ浮いてる。男しかいない中に美少女がいるんだから、浮くのは当然だろうけど。

 

 

「ちょっと待ってよー」

 

 

 無邪気な笑顔が子供らしい。

 どうやら追いかけっこをしているようだ。

 ……こんなことが出来るのも子供の時までだよな。

 でもこういうのも今日までらしいんだよな、輝夜は。高貴な姫君とやらにするために習い事を、一日中やらされると聞いた。……不憫だよなぁ。おれだったら1日目から逃げだすだろう。

 それを止めてやろうにも、雇われた身としてはどうすることもできないし。

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 そう思っていると、輝夜が小石につまづいて盛大にこける。

 うわぁ、顔面からいったぞ、今。

 

 

「はあ……」

 

「えっ……?」

 

 

 起き上がろうとする輝夜の周りに霊力を纏わせ、起き上がらせる。

 

 

「おーい、どうしたんだ?」

 

「あ、うん。なんでもない」

 

 

 そう言って輝夜は男の子達の後を追うように走っていく。

 ……はあ、仕方ない。もしあいつが挫けそうになったら、支えてやるか。おれにはそれぐらいしかしてやれることはない。

 

 ……もしかしたらおれは、輝夜に同情しているのかもな。子供ながらに不自由を要されるということに。

 ……ま、たまには輝夜と遊んでやるか。

 

 

『熊口さん、やっぱり子供好きですよね。』

 

「翠お前、起きてたのか……」

 

 

 ずっと黙ってたから寝てるのかと思ったぞ。

 ていうか、何が『やっぱり』ってなんだよ。

 

 まあいいや。取り敢えず今は散歩だ。今日でお別れの村を改めて見回ることにしよう。

 そう思い、おれは散歩を再開した。

 

 

 



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⑦話 まあ、見かけ倒しだったよな

今回はほぼ番外編みたいなものです。
輝夜を駕籠に乗せた生斗御一行と盗賊の親玉の戦闘回ですね。


 

 ~夜中(草原)~

 

 

「くそ、なんだこの透明な壁は!」

 

「開けろ!びびってんじゃねーぞ!」

 

 

 と、盗賊共の怒声がおれの障壁越しから聞こえてくる。

 解くかばーか。悔しかったら自力で破ってみろ。鬼ならワンパンで破ってくるぞ。……おっと、ならず者の人間と酒好き妖怪を比較するもんじゃないな。

 

 現在、おれ達は引っ越しのために、京の都へと向かっている。

 その道中、盗賊と出くわした。

 この事に関しては事前に予測していたことだったので、ちゃんと対策はしている。

 

 何をしているのかというと、これは至って簡単なことだ。

 俺らが歩いてる周りに霊力障壁を生成しているだけ。これは昔、妖怪の群勢に足止めとして使った手だ。あのときは命ブーストがあったから、妖怪共に突破されなかったが、素の状態でやったら、簡単に壊されるだろう。だから妖怪がよく出没する近道をしなかった。

 

 妖怪にはあまり通じない手だけど、普通の人間にはかなり効果的だからな、これ。

 

 

「この!この!」

 

「煩い、輝夜が起きるだろうが」

 

「うぎゃっ!?」

 

 

 霊力障壁に少し穴を作り、その間から霊力弾をぶつけて盗賊を黙らせる。

 夜中だってのにギャーギャー煩いんだよ。

 やっと輝夜が騒ぎ疲れて寝たってのに……もし起きたらおれが直々に障壁からでてボコるからな。

 

 

「す、凄い。親父さん、こいつは一体何者なんですかい?」

 

「わしが雇った凄腕の妖怪退治屋じゃ」

 

 

 別に妖怪退治屋ではないんだけどなぁ……

 

 

「くそっ、こうなったら()()を呼ぶしかない!」

 

「ああそうだな!()()ならきっとこの見えない壁を壊してくださる!」

 

 

 ん、今親分って聞こえたような……いや、そりゃいるだろうな。親玉ぐらい。

 どんな奴かは知らないが、もし霊力を操る奴だったら少し面倒だな。

 おれの作る障壁は範囲が広がるほど防御力が落ちる。

 人一人分を守るくらいならば中級妖怪レベルでも5、6発の攻撃は耐えられる。だが、今は輝夜を乗せた駕籠を中心に皆が入りきるまで伸ばしているため、かなり防御力が落ちてる。これだと弱小妖怪の攻撃でやっと耐えられるぐらいだ。

 そこに霊力を操る奴が現れたら、障壁を突破される可能性がある。

 ……まあ、そんなのが現れたらおれが相手をするが。

 勝つかどうかは別として。

 

 

「おうおう、なんだこの光るのは?いかにも財宝がありそうじゃねーか!」

 

 

 と、考えていると親分らしきやつがずかずかと現れる。

 光るって言うのは霊力障壁のことだ。これ、中は透け透けの癖に、淡く光ってんだよな。こんな夜じゃ目立つことこの上ない。

 

 それに困った。今、障壁を指で突っついている親分らしき奴。かなりの手練れだ。見ただけでもわかる。

 綿月隊長と負けず劣らずの巨体に、傷だらけの顔。その見かけに恥じないような禍々しいオーラが滲み出ていて、いかにもボスキャラって感じだ。よし、こいつはゴリラ2号と名付けよう(勿論1号は綿月隊長)。

 それに他のやつと比べて霊力が明らかに多い。おれと同じ……いや、それ以上ある。

 ……はあ、こんな逸材なら、盗賊じゃなくとも食っていけるだろうに。

 

 

「なんだお前ら、こんな薄っぺらい()に手間取ってんのか?」

 

 

 障壁を膜扱いか。今の言い方、少しムカッときたぞ。

 

 

「はい、すみません、親分。でもこれ____」

 

 

    ボキッ

 

「あっ、が……」

 

「でも、じゃねよ。言い訳するやつは大嫌いなんだ」

 

 

 お、おう……子分の一人の首をへし折りやがった、こいつ。

 なんて非人道的なんだ。言い訳が嫌いだからって殺すことあるか?

 

 

「ひ、ひぃ」

 

 

 障壁の中にいるおじさんや使いの人達は絶句する。

 そりゃあ、顔面を殴っただけで首が折れたんだから、驚くのも無理はないよな。

 

 

「おいおい、部下は大切にしろよ」

 

「ん?……ほう、お前がこの膜を貼ってる奴だな。見ただけでもわかるぜ。」

 

「ほう、それぐらいはわかるんだな」

 

『ていうか熊口さんは、首が折れてる人の姿を見ても驚かないんですね』

 

 

 なんかもう、慣れた。本当は慣れない方がいいんだろうけど。ていうか翠も悲鳴1つあげてないじゃねーか。 

 

 

「ほら、さっさとこの膜から出てこいよ。それとも俺様が壊してそっちへ言ってやろうか?」

 

 

 なんだこいつ。なんでおれを呼ぶ?さっさと壊したほうがあいつにとっては得なんじゃないのか。

 

 

「……わかった」

 

 

 そう疑問におもいつつもゴリラ2号に従い、障壁からでる。

 

 

「さて、ここで遊戯をしようじゃねーか。」

 

「急になに言い出してんだ?」

 

「なに、お前にも悪い話じゃねーぜ。勝負は簡単、俺様とお前さんが倒れるまでの殴り合いだ。」

 

「なにが悪くないだ。体格的にも思いっきりおれの方が不利じゃないか」

 

「ふっ、だが、お前は受けるしかないぜ?もし受けないのなら、今すぐにでもお前の貼ってる膜をぶち破って、俺様の部下達にお前が護ってる者らを襲わせてもいいんだからな」

 

「……ちっ」

 

 

 こいつ、さては戦闘狂だな?

 自分の強さに絶対の自信を持ってるんだろう。鬼達もそうだから、その可能性はある。

 

 

「おれが勝ったらどうするんだ?」

 

「おっ、受ける気になったか。……そうだな、今すぐこの場から離れて、2度とお前らを襲わないと誓ってやろう」

 

「なら、お前が勝ったら?」

 

「お前らを皆殺しにして、身ぐるみを剥ぐ」

 

 

 物騒だな。でもその条件の場合、おじさん達の命運はおれに任されることになる。

 それでもいいのかと、おじさんのほうへと振り向くと___

 

『お願いします』

 

 

 と、目がそう強く訴えかけていた。

 

 その目からは、おれ全てを任せると覚悟しているようにも感じる。

 

 ……はあ、こんなことになったのも、おれがこの道にしようなんていってしまったのが原因なのに……なんでおじさんはおれを責めないんだ。輝夜を危険な目に遭わせていると言うのに……

 

 仕方ない、期待には応えるか。

 なーに、これまで何度も修羅場を潜り抜けて来たんだ。これぐらいの危機、口笛吹きながら乗り越えてやる。

 口笛吹けないが。

 

 

『まあ、負けたら私がこんな筋肉の塊、ぶちのめしてやりますよ。あ、でも本当に負けたら熊口さんの顔面蹴り飛ばしますから』

 

 

 はいはい、分かったよ。要は勝てばいいんだろ。

 

 

「おいお前ら!手を出すんじゃねーぞ」

 

 

 と、ゴリラ2号が部下達に言う。

 ……よかった。おれが障壁の中にいないと盗賊の攻撃によって受けたダメージを補整できないから、現段階では、部下共でも、あの障壁を壊せる。

 それについてずっと不安だったが、それもこのゴリラ2号のお陰で解消された。

 

 

「最後に質問だが、蹴りは使っていいのか?」

 

「ん?ああいいぜ。だが、武器は無しだ。それだとすぐに終わっちまうからな」

 

「わかった」

 

 

 仕方ない。相手の土俵で戦ってやるか。霊力剣は使えないのはかなり痛いが、だからといって負けるとは思わない。

 こういう自信家の奴ほど、隙が多いからな。

 

 

「よし、それじゃあ始めるか。お前からきていぜ」

 

「ああ」シュッ

 

 

 いつもは後手にまわるおれだが、今回は剣術勝負ではないからプレイスタイルを変える。

 

 

「ほう、中々速いな。だが、ただ突っ込んでくるだけじゃただの猪だぜ」

 

 

 喋ってる暇はあるのか?そうおもいつつ、ゴリラ2号に向かって肉薄する。

 

 

「おらぁ!」

 

 

 そして、ゴリラ2号の攻撃範囲まで入った時点で、ゴリラ2号はおれに向かってなぐりかかる。

 それをおれは跳躍し、回転しながらそれを避ける。そのままゴリラ2号の巨体の上までいき、体を前に1回転させながら、殴った際にがら空きになった頭に踵落としをかました。

 

 

「ぐふっ!!?」

 

 

 よし、ダメージはあるようだ。

 だが、こいつ、僅かにだが、頭の方に霊力を集中させて、防御している。

 完全に決まったと思ったんだけどな。

 

「「「おおー!」」」

 

「「「親分!?」」」

 

「くへへ、中々やるじゃねーか。やっぱり、俺様の見立て通りだな」

 

 

 ふむ、効果は薄い、か。普通なら脳が揺れて正常な動きなんてとれないはずなんだけど。

 

 

「んじゃ、次は俺様の番だぜ!」

 

 

 そう言ってゴリラ2号はおれに向かって、技術もへったくれもない殴打を浴びせてくる。それをおれは紙一重で避けていく。

 動きが単調すぎる。こんなの目を瞑っていても避けられるぞ……

 それに次は俺様の番て……これはRPG かっての。お前の番なんて無いんだよ。

 

 

「ふん!」

 

「ぐっ……!」ボギッ

 

 

 殴るときに疎かになっている脇腹に蹴りを入れる。

 ふむ、今の感触、肋いったな。

 

 

「くへへへ!いいぜ!こんなの初めてだ!」

 

「そうかい、それはどうも」ボカッ!

 

 

 お次は顎を殴る。それにより少しゴリラ2号の動きが止まる。

 その間におれはゴリラ2号の身体を何度も殴る。

 1発1発殴る毎に、拳が肉にめり込む感触がするから少し不快感があるな。

 

 

「これまでどんな奴でも一撃で屠ってきた!」

 

「まあ、そうだろうな」

 

 

 おれでもこいつのパンチを受けたら只じゃすまない。まあ、受ける気なんて更々ないが。

 そう思いながらゴリラ2号の腹に飛び蹴りをし、吹き飛ばす。

 

 

「相手になりませぬな。熊口殿が圧倒的に優勢じゃ」 

 

 と、おじさんが遠くからそう呟く。まあ、そうだろうな。

 これまで技術で生きてきたからな。ただ単に暴力で全てを手に入れてきたやつとは違う。

 まあ、幽香は別格だけどな。あいつの場合、おれの攻撃を受けながら不適に笑って「こんなものなの?」と余裕をかましながら挑発してくる。

 

 

「くへへへへへ!お前は確かに強い。俺様が血反吐をはくほどな!」

 

 

 と、そう言いながらふらふらと立ち上がるゴリラ2号。

 なんだこいつ、タフだなぁ。てかやっぱり予想通り戦闘狂だな、こいつ。

 

 

「だが、お前は負ける。俺様を本気にさせたんだからな!」

 

「あー、はいはい。さっさとかかってこい」

 

 

 負けるやつの台詞って大体こんなのが多いんだよなぁ。

 

 

「ふふ、そんなことを言ってるのも今のうちだぜ!俺様の本質はこの鍛え抜かれた脚にある!俺様の最高速度についてこられた奴はこの世に誰一人としていない!」

 

「あっそ」

 

 

 なんか余裕があるなぁと思ったら、それがその余裕の理由か。

 でも速さ。速さねぇ……

 

 ゴリラ2号は、満面の笑みで、脚に力を込めている。少し遠くにいるおれにすら聞こえてくる筋肉が軋む音。あれからトップスピードでおれに攻撃を仕掛けてくるわけか。

 

 …………よし、あれを逆に利用してやるか。

 

 

「いくぜ!!!」

 

 

 そしてゴリラ2号は、その場から消えた。

 ……こちらへと向かってきているな。

 

 うん、速さ世界一を豪語するぐらいには速い。

 だが________

 

 

「すまんが、おれに速さだけで挑むのはあまり得策じゃないぞ」

 

    ボゴオォォッッッ!!!

 

「ぐぶはぁぁ!?!」

 

 

 おれは、そのまま突っ込んできたゴリラ2号の顔面に膝蹴りをかました。

 対面から来るあいつのスピードにより、おれの膝蹴りの威力は倍増。見事にゴリラ2号は身体を1回転させ、顔面から地面に倒れる。

 ふむ、やっぱり霊力による視力強化は凄いな。

 ゴリラ2号の動きがはっきりと見えた。速さはそのままで、合わせるのに苦労したけどな。

 

 

 

「!!……っつ……」

 

 

 くそ、膝蹴りをしたとき、あいつのスピードの反動で、右足がいかれてしまったようだ。

 思わず地に手をつける。

 奴は…………

 

 

「…………」

 

 

 よし、気絶しているようだ。

 

 

「ふぅ、どうやらおれの勝ちのようだな」

 

 

 少し期待外れな気もするが、これぐらいで済んでよかった。

 もしこいつがチートレベルだったら確実に終わったからな。

 

 

 

「「「親分!しっかりしてくだせぇ!」」」

 

 

 

 そう言いながら子分達がゴリラ2号に近づいていく。

 

 

 はあ、これなら遠回りした方がよっぽど良かったな。

 そうおもいながら、おれは霊力杖を生成しながら、皆のいるところまで歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、騒ぎで起きてきた輝夜が騒ぎ出して、全然ゆっくりできなかったことは蛇足か。

 

 

「ねえー、暇ー!生斗、なんか芸やって」ポカポカ

 

「痛っ!?なんでピンポイントで右足を叩いてくる!」

 

 

 





活動報告にて生還録で重大な発表があります!


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⑧話 嫌な予感は大体当たる

 

 

 

 盗賊団をノしてから半日、ついに京の都へと着いた。

 縄で縛って拘束していた盗賊共を兵士に突きだした後、おじさんが匠に建てさせたという屋敷へと到着した。

 その屋敷は、神子の屋敷よりかは少し敷地は小さいが凄く立派だ。こういうのを寝殿造りっていうのか? 寝殿造りは普通貴族が住んでる屋敷らしいが、おじさんはそこんとこどうしてるんだろうな。おれには分からないが……

 

 

「ねぇ見て生斗! 庭がこんなにも広いわ!」

 

「そうだな。あ、ほら、池もあるぞ。橋がかかってる。」

 

「魚いますかね?」

 

「私見てくる!」

 

 

 現在、おれは輝夜と翠の3人で屋敷を探検している。

 そして庭にある池を見て興奮した輝夜が裸足のまま池へと駆け出していった。

 

 

「翠、輝夜が池に落ちないようについていってやれ」

 

「池の周りが日向しかないので無理です。熊口さん行ってください」

 

「骨の折れているおれは彼処まで行くのにも一苦労なんだ。翠行け」

 

「私を殺す気ですか? 熊口さん、行きなさい」

 

「縁側から下りて庭石という足元が不安定になる物が敷き詰められた庭をどうやって歩けと? 翠、さっさと行け」

 

「……」

 

「……」

 

 

 こいつ、がんとして行かない気だな。輝夜がどうなってもいいってか?

 

 

「えい!」バシャアァン!

 

「輝夜!?」

 

「輝夜ちゃん!?」

 

 

 と、おれと翠が、睨み合いをしていると、庭の方から水が弾ける音がした。

 何事かと振り返ると、そこには池に落ちた輝夜の姿が____

 

 

「「輝夜(ちゃん)! 今助けるぞ(ます)!!」」

 

 

 こうしちゃ居られない! 輝夜が池で溺れてしまう!!

 

 そう判断したおれは足が折れてるにも関わらず縁側から走って向かおうとした(翠も同じ考えらしく、輝夜の元へと駆け出していた)。

 が、縁側を跳んで庭に着地した瞬間、折れていた足が物凄い音を立てた。

 

 

「ぬおおおぉぉぉぁぁぁああ!?!!」

 

「きゃぁぁぁ!! 死ぬ! 胸が、締め付けられるうぅぅ!!」

 

 

 おれはあまりの激痛に悲鳴をあげる。そしてお日様に照らされた庭へと飛び出した翠も悲鳴をあげ、もがき苦しんでいる。

 

 

「貴方達……なにやってるの?」

 

「か、輝夜ぁぁ……無事、か?」

 

「いやそれ、私の台詞」

 

「あ、ふ、たす、助けてぇ」ピクッピクッ

 

 

 情けなく地面に倒れ伏すおれらに声をかけてきたのは、衣服を濡らした輝夜。

 どうやらおれらが助けなくても無事だったようだ。

 ていうか今、おれらの方が助けてほしい。

 

 

「そこの池、私の身長でも足が届くくらい浅瀬だったのよ。しかも透き通るように綺麗な水だったもんで、つい飛び込んでみたの。気持ちよかったわぁ」

 

「そ、そうか……うぐぐっ……」

 

「……」ブクブク

 

「……あの、翠大丈夫なの? 泡吹いてるけど」

 

「だ、大丈夫だ。いつものことだから」

 

「いつものこと!?」

 

 

 このあと、おれと翠は使用人に救助され、輝夜は池に飛び込んだことでおじさんに叱られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 ~2日後~

 

 

「もう嫌! 書き物なんてつまらないわ!」

 

 

 そんな声が静かだった屋敷に響き渡る。

 

 

「また姫が癇癪を起こされましたか……」

 

「今日だけでもう3回目だぞ。これじゃあ昼寝も出来やしない」

 

「わしの部屋で昼寝をしようとしているのもどうかとおもうのですが……」

 

「あ、すいません。一人だと少し悲しいもんで」

 

「(寂しがりやなのだろうか)左様ですか」

 

 

 輝夜が癇癪を起こすのには理由がある。

 勿論、今の輝夜の声でわかると思うが習い事だ。

 女房に書き物や巻物の読み方、琴の練習等、色々な事を一日中教え込まれているため、よく輝夜は先程のように癇癪を起こしている。

 

 余程退屈かつ、面倒なんだろうなぁ。

 

 

「そういえば熊口殿、貴方宛に書状が届いておりましたぞ」

 

「おれ宛?」

 

「はい、どうやら先日突きだした賊共を引っ捕らえられた事に対する礼状らしいです。中身はまだ見てませんが」

 

「お、ほんとですか?」

 

 

 そう言っておじさんは棚の中をごそごそと探し始め、1枚の封筒を手に取ると、棚を閉めた。

 

 

「これです」

 

「ありがとうございます」

 

 

 ふむふむ、この礼状、一体どんな官僚からの物なのだろうか。

 楽しみだ。もしかしたら褒美をやるとかそういうのかもしれないし。

 褒美を貰えるのならふかふかの布団か美味い食べ物がいいな。ここの飯は良くも悪くも健康的過ぎる。

 

 そう、礼状がどんなものなのか胸を踊らせつつ、書状を開封する。

 

 するとそこには流し書きされた漢字ばかりの文字がずらりと____書かれていたが伊達に何百年以上も生きてないので読めないという訳でない。ていうか天狗の字よりかは分かりやすい。あれを書けるようになるまで20年はかかったし。

 

 

「どのようなものでしたか?」

 

「あ、ちょっと待ってください。読んでますので」

 

「これは失敬」

 

 

 なになに…………んむ、回りくどい事を長々と書かれているな。面倒だ。

 簡略すると『あの賊共を捕らえてくれてありがとう。是非とも礼がしたいので私の屋敷まで来てくれ。この書状を見せれば私の屋敷に入れる。 藤原不比等』てな感じか?

 

 

 なんだこれ。礼状ていうか招待状じゃないか。

 面倒だなぁ……いちいち屋敷に呼ばないで物だけ渡せよ! と思うんだけど。

 

 

「藤原不比等!?」

 

「うおっ!?」

 

 

 礼状が招待状だったことに不満を垂れていると後ろから突如おじさんが驚愕の声をあげた。

 おじさん……後ろから覗いてくるのは別に構わないが驚かすのはやめてくれ。

 

 

「熊口殿! これは大変素晴らしいことですぞ! 不比等殿は尊いご身分である貴公子! そんな方から招待状を送られるなど、後世にまで伝えてもいいような名誉なことですぞ!」

 

「は、はぁ」

 

 

 藤原不比等ってそんなに偉いのか? ……って藤原って姓がつくから偉いか。昔は藤原姓は偉いっておれの認識ではあるからな。

 いやほんと、この世界っておれのいた世界に類似してるよなぁ。おれ、歴史とかあまり得意じゃないからメジャーなものしかわからないが。

 

 

「何故熊口殿が嫌そうな顔をしておられるのかが理解できません……」

 

「いや別におれ、名誉とかどうでもいいですし……はっきりいって行く気はありません」

 

「なっ!? なんて無欲な! 流石は…………いや、それでも行くべきですぞ。無下にすれば逆に何されるか」

 

「え? そうなんですか?」

 

「はい、彼方からすると、折角わざわざ低い身分の人間に礼をしてやると言ってるのにそれを無視するなんて許せない! という感じで怒りを買うことになってしまいます」

 

「そ、それだとおじさん達にも迷惑をかけることになりますね……」

 

「そういうことになります……」

 

 

 はあ、それじゃあ行くしかないじゃないか。おれだけの問題ならともかく、輝夜達にも迷惑がかかるというのなら話は別だ。

 

 

「分かりました。それでは早速、明日にでも行こうと思います」

 

「それがいいでしょう。存分に楽しんでいって下さい」

 

「ですが、おれは藤原不比等とやらの屋敷を知りませんし、貴公子相手の作法も心得てません。おじさんもついてきてもらえませんか?」

 

「え? わしがですか?!」

 

 

 まず一人でなんて無理だ。何をすればいいかわからない。

 せめておじさんに着いてきてもらわねば。それにもしかしたらおじさんも雇い主ということで褒美を貰えるかもしれないしな。

 

 

「はい、是非よろしくお願いします」

 

「う~む……承知した。わしも案内人として着いていきましょう」

 

「雇い主、としてで良いですよ」

 

 

 さて、なんか偉い人から招待状を受け取ったわけだが、なんだか嫌な予感がする。

 だって賊を捕まえたぐらいで尊いご身分の人が低い身分のおれに礼なんか普通するか?

 いや、おれがなにか悪いことした訳じゃないから晒し首とかはないだろうけど……

 

 

 

 こういうときのおれの勘って、結構当たるんだよなぁ……

 

 

 

 




いやぁ~、久々の更新です。覚えてますか?
1章を大幅に修正したのでそちらの方も見ていただけると嬉しいです。


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⑨話 扱いが雑すぎる気がする

 

 

「さあ、賊を捩じ伏せたというその力、我に見せてみよ。その全てを我が捩じ伏せてやろう!」

 

「は、はあ……」

 

 

 そういっておれに挑発してくるのは、束帯姿の陰陽師とやらだ。

 右手に無数の御札を持ち、いつでも投げられるよう投げるモーションの状態のままキープしている。

 

 

「さて、造よ。お主の予想ではどちらが勝利すると思うか?」

 

「無論、熊口殿です。あの陰陽師の実力は知りませんが、わしは熊口殿の力を信じておりますゆえ」

 

「ほう、そう言われると楽しみになってきたぞ」

 

 

 そして縁側からは、使用人達に囲まれながら庭の中央にいるおれと陰陽師を見るおじさんと藤原不比等の姿が。

 他の部屋からも襖越しから見る野次馬で溢れている。

 もしかしたら、この屋敷中が今、おれらに注目してるかもな。

 

 

 ん~、なんでこんな事になってしまったんだろうか。

 おれはただ礼をしてもらいにきただけなんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ~30分前~

 

 

「おじさん、普通礼するなら使者ぐらい送ってきて欲しいですよね」

 

「しっ! 何故不比等殿の屋敷の前でそれをいうのですか!?」

 

「おっと、口が滑った」

 

「……それで首が飛んでも知りませんからね」

 

 

 書状を見た次の日、太陽がもうすぐ真ん中に差しかかるぐらいの時間に、おれとおじさんは書状を送ってきた主である藤原不比等の屋敷まで来ていた。

 翠は輝夜の習い事を見ているとの事なので留守番だ。

 

 因みに日時と時刻に指定はなかったので、1週間後ぐらいにいこうと思ったが、おじさんに早く行っておいた方がいいと言われたので、書状を見た次の日にした。

 

 ふふふ、呼び出すなんて面倒な事をしてくれたんだ。たっぷりと遠回しに愚痴ってやる。

 ん? 遠回しに言ってないって? 大丈夫、本人の前ではちゃんと遠回しに言います、多分。口が滑らなければ。

 

 ま、そんなことはどうでもいい(?)として、いつまでも門前でたむろするのもなんなので、早速入らせてもらうとしよう。

 門番もずっと訝しげな目でおれらを見てるしな。

 

 

「待て、貴様は何者だ」

 

 

 と、持っていた長棒を門前にやり、通行を妨げてくる二人の門番。

 まあ、何もなければこういう反応を取られるだろう。

 

 よし、おじさん、出番だ! という風におじさんにアイコンタクトを送ってみる。するとおじさんはわかってくれたみたいで、おれの前に立ち、書状を掲げながらこう言った。

 

 

「藤原不比等殿から招待状を頂いたため、ここへ参った。これがその書状だ」

 

「……拝見しよう。」

 

 

 そう言って門番の一人がおじさんから書状を受けとり、確認をする。もう一人の門番は読んでいる門番の後ろから覗き見て、書状の確認をしている。

 

 そして2分くらい経った頃、門番二人が顔を見合わせ、こくりと頷き合う。

 

 

「暫しお待ちください」

 

 

 門番の一人がそう言うと、門を潜って、屋敷の中へと入っていく。

 

 

「何処へ言ったんだ?」

 

「御主人様の所へ報告に」

 

「ならなんでおれらをここで待たせる。まるで歓迎されてないみたいじゃないか」

 

「ある余興的なものをすると御主人様は言っておられました。貴方が来られたら門前で待たせ、私に連絡し、その後庭園へつれてこい、面白いことをする、と。」

 

「面白いこと?」

 

 

 面白いことってなんだ? 蹴鞠か? 

 蹴鞠ってあれ、あんまり面白そうではないんだけどなぁ……ていうか褒美が蹴鞠で遊ぶことってのは流石にないだろう。尊いご身分だぞ? 土地とかそういうのが普通だろう。

 

 

「結局またここで立ち止まることになりましたね」

 

「まったくです。眠いのを我慢してここまで来たっていうのに」

 

「行くギリギリまで寝ていましたもんね。姫の護衛もせずに」

 

「……すいません。久々のふかふかお布団に酔いしれてしまって」

 

「この都に来てからずっとですよ? しっかりしてくださいね。ちゃんと護衛代を払ってるんですから」

 

「……はい」

 

 

 くっ、愚痴ろうとしたら口を滑らせて説教をされる羽目になってしまった……おのれ藤原不比等!!

 

 いや、これは流石に八つ当たりか。

 

 

 

 

 

 

 

  ~20分後~

 

 

 

「お待たせしました。こちらです」

 

 

 すると屋敷の方からさっきの門番がでてきて、そう言ってきた。

 いや20分て……20分も門前で待たされるとは思わなかったぞ。

 

 ていうか門番がこちらですって言った方向、やっぱり屋敷の中では無くて庭の方だな。

 

 ほんと、一体何をするんだろうねー。

 

 なんかちょっと予想がついてきたけどそれは違うと信じたい。まさかね、褒美を貰いに来た筈なのに()()をしなくちゃいけない何てことはないよね。

 

 まさか、まさかね、まっさかぁ……

 

 お願いします、どうかおれの予想が外れていますように!!!

 

 

 

 

 

 

 

  ~庭~

 

 

 最近、庭に何かしらの縁があるんじゃないかと思い始めた今日この頃。

 そう、おじさんの屋敷のよりも広大な庭園を見ながら考える。

 庭の奥にある屋敷の縁側には、これでもかというぐらいの人で溢れ、その殆どが何も知らずに来たおれを見ている。

 その見る目は様々で、憐れんでいる目、品を見定めるかのような目、悪党を見る目。

 どれもがおれを歓迎しているような感じではないのは一目瞭然だった。

 

 そしてその中央には、偉そうに腰を下ろし使用人に扇子を仰いで貰っている貴公子、藤原不比等がいた。隣に束帯姿で顔を扇子で顔を隠している糸目の男? を仕えている。あいつも用心棒か何かか?

 

 

「やや、お主が熊口という者かな?」

 

「あ、はい。そうですけど……」

 

 

 そう、真ん中で胡座を崩し身を乗り出して話してきた不比等。

 

 

「ほう、お主が…………して、お主の隣に居る者は?」

 

「はっ、讃岐造と申します」

 

「造か。お主は何故熊口と同行を?」

 

「この人はおれの雇い主だからです。おれはこの人の(娘の)用心棒、来るのは当たり前では?」

 

「うむ、確かにそうだな、失礼」

 

 

 お、おう……この人、低い身分のはずのおれに頭を垂れたぞ。周りの連中も驚いてるが、されたおれの方が驚いてる自信がある。

 

 

「ごほん、不比等様。あのような者に頭を下げる必要などありませぬ」

 

 

 と、隣にいた糸目がおれにも聞こえるような声で不比等に注意をする。

 なんだ、挑発か? 沸点の高い熊さんはこれくらいじゃ怒ったりはしないぞ?

 

 

「さて、それでは本題に入ろうぞ。熊口とやら、お主は本当にあの賊を捕まえたのか?」

 

「何故そのような事を聞くのです?」

 

「質問を質問で返すものではないぞ、無礼者」

 

 

 うっせー黙ってろ糸目! あ、怒ってないよ?

 

 

「あの平原に現れた賊の頭領は人知を越えた力を持つとされており、この都では特に警戒されていた人物だったのだ。それはもう、討伐隊が組まれるほどにな。

 そんな輩をお主が倒したと聞いて少し疑問に思ったのでな」

 

「はぁ、まあそうでしょうね。普通の人間がやればあの賊には勝てないでしょう」

 

「普通の人間なら? ということはお主は普通ではないと?」

 

「いや、ちょっと変わった人間です」

 

 

 もしここに翠がいたら『変人ですね!』って言ってきそうだな。

 

 

「ふむ、思えば確かにお主にはちと、特別な“なにか″が感じられるな」

 

 

 そう言って顎を手で擦る不比等。何かを考えている様子だ。

 

 

「もういいでしょう、不比等様。回りくどいことをしていては時間を浪費するだけです。」

 

「回りくどいこと?」

 

「うむ、それもそうだな。そのためにもここへ呼んだのだから」

 

「不比等殿、何を申されておるのですか?」

 

 

 おじさんが抱いていた疑問を口にすると、不比等はうむ、と頷いて説明する。

 

 

「実は賊共に私の部下も大勢襲われたのだ。なので、その賊を捕らえてくれた熊口に礼を込めて、宴会を開こうと思ってな。勿論、主賓はお主だ。

 そこでだ、その宴会の前に余興をしようと私の隣にいる陰陽師が提案してくれてな。私はその提案に乗ることにした」

 

「提案……」

 

 

 提案とな。ふむふむ、嫌な予感しかしない。

 

 

「最近この京に設置された妖怪退治を生業とする陰陽師と、人智を越えた者。その二人の決闘を」

 

「あ、そういえば用事があったんだった! 帰らなきゃ! すいません不比等様、用事を思い出したので帰ります!」

 

 

 だろうと思った! なんか戦う羽目になりそうだなぁっと思ったら本当になるとは……

 

 しかも陰陽師て。陰陽師といえば摩訶不思議な術を使って妖怪を無差別に駆逐するような連中だぞ。なんでそんなのとおれが戦わなきゃいけないんだ。ていうかおれ人間だし! 陰陽師にとっては専門外だろ!

 そもそもなんでここに陰陽師いんの?!

 

 

「ちょ、待て、待ちなさい熊口!」

 

「熊口殿! やりたくない気持ちは分かりますがこれは不比等殿が仰られたこと! 無下にするわけには……」

 

「いや、でもおれ、戦うつもりで来たわけでは……」

 

「逃げるのか?」

 

「ん?」

 

 

 今誰だ? 挑発してきたやつ。おじさんか不比等のどちらかなら言われても仕方がないが、今の声はその二人の声でもない。そしてつり目の陰陽師でもない。

 

 

「そうだ! 逃げるのか!」

 

「折角不比等様が場所を設けたというのに!」

 

「無礼だぞ!」

 

 

 そう、今の3人からではない。挑発はその周りにいた野次馬からだった。

 おれが逃げようとしたことにより、周りの野次馬らは眉間に皺を寄せておれに野次を飛ばす。

 

 

「くくっ、確かに我から逃げたいと言う気持ちは分からんでもない。しかし、ここで貴様が逃げれば、困るのは貴様の雇い主の方ぞ」

 

 

 と、只でさえ細かった目をさらに細め、嘲笑する。もはや目を開けているのか閉じてるのかわからないな。

 

 

「こらこら、お前ら、止めなさい。みっともない」

 

 

 野次を飛ばす野次馬らを一言で制する不比等。

 ふむ、やはり尊いご身分の権力は凄いな。

 

 

「して、熊口よ。実はこやつらの言っていることは正しい。私の提案を無下にするとそれ相応のものが返ってくるぞ。またその逆も然りだ」

 

「……脅しているんですか?」

 

「それはお主の想像に任せる」

 

 

 つまり、戦わなければ処罰すると。

 

 なんて面倒な。来なければよかった……いや、行かなかったらそれはそれで処罰されそうだな。

 

 

「……1つ、聞いてもいいですか?」

 

「なんだ?」

 

「何故不比等様の屋敷に陰陽師がいるんですか? おれが妖怪かもしれないから?」

 

「いや、そうではない。この者は先程私が言った賊の討伐隊の頭目として選ばれていた者だ。今回、私がお主を屋敷に招待すると聞きつけてやって来たのだ。1度腕を拝見したが、凄まじいものであったぞ」

 

「そ、そうですか」

 

「……」

 

 

 

 つまりは、今おれをものすんごい睨んでいる陰陽師がわざわざおれと戦うために不比等を利用したってことか。

 あいつ、何が目的だ? 

 いや、どうせ考えても答えは出てこないだろう。

 そんなことよりも今は他に優先に考えなければならないことがある。

 

 あの陰陽師を倒す策をな。

 

 

「わかりました。不比等様の案、受けましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________________________________________________

 

 

 

 これが30分前までの流れ。

 そしてこれから、おれと陰陽師との戦いが始まる。

 

 

 

「では、いくぞ!」

 

「ああもう! さっさとこい!」

 

 

 今はこいつがなんでおれと戦いたかったのかなんてどうでもいい。そんなの、こいつを倒して聞き出せばいいんだから。

 とにかく、比較的無傷かつ、楽に勝てるよう脳をフル回転させるか!

 

 

 

 

 

 




陰陽師でましたね。なるべく強敵にするつもりです。


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⑩話 式神鬼神、腐敗してるね

無駄に長いです。
やはり生斗君以外だとボケにくいですね……

今回は 生斗→陰陽師→不比等 の順で視点が変わります。


 

 

「はあ!」

 

 

 そんな雄叫びとともに糸目はおれに向かって大量の御札を投げつけてきた。

 その御札は、紙で出来ている筈だというのに鋭く、直線的に、そして的確に進行方向であるおれに向かってくる。

 なんだあの紙……あいつが持っていたときはしなっていたのに投げた瞬間、硬化したかのようにピンと真っ直ぐになってるぞ。

 紙だからって安易に受けるわけにはいかないな。御札は色々な効果が付属されている場合が多い。特に封印系がメジャーだ。戦闘中に動きを封じられたら勝率は絶望的になる。

 

 

「なに!?」

 

「と、飛んだぞ!」

 

 

 受けることはまず論外。そしてスレスレで避けるのもだ。おれのようにスレスレで避ける相手に爆散霊弾を途中で爆破させたりと、危険が伴う可能性があるからだ。

 あくまでおれはローリスクな選択をする。

 

 つまり、空に飛んで御札の軌道上から抜ける。飛ぶ直前にどんな付属効果があり、どれくらいの威力があるか確かめるため、おれのいた場所には薄い霊力障壁を展開しておく。

 

 

「ほう、宙を舞うか似非超人」

 

「まさかそれ、おれのことを言ってるのか?」

 

「貴様以外に誰がいる」

 

 

 糸目は素直に驚いたような顔をして、おれのことを似非超人と宣う。

 まあ、そんなことを言われても別に気にしないけどな。おれはグラサン以外ならどう罵られても怒らない自信がある。

 ん? ちゃんと過去を振り返ってから言えって? おれは過去を振り返らない主義なんでな。

 

 

「だが、その舞いはまるで蛾だな。蝶には程遠い」

 

「うるせぇ、おれは蝶より蛾の方が好きなんだよ」

 

「貴様の趣向など興味はない」

 

 

 さて、こんな下らない話は無視するとして、霊力障壁はどうなってるかを確認する。

 

 

「(あれ?)」

 

 

 予想が外れた。おれの予想ではあの鋭い御札により霊力障壁は貫通しボロボロになるか、それとも爆発して消滅するかと考えていたが……

 そのどちらでもなく、霊力障壁に御札が5枚程度貼り付いていた程度だった。

 

 ……これはどういうことだ? 封印系? それともまた別の物か?

 さっきまであんなにも固まり、鋭くなっていた御札が障壁にぶつかった瞬間、刺さりもせずに貼り付く。

 ただ威力がなかっただけと言えばそれで済む話だが、相手は妖怪退治のスペシャリストだ。ただで済むはずはない。

 

 

「疑問に思っているようだな。この御札がどんなものなのかを」

 

「なにかあるのか?」

 

「それは身をもって知った方が早いぞ」

 

 

 誰が身をもつかよ、っと突っ込んでやろうとしたが、その直後の異変に察知したおれは、その言葉を寸でのところで飲みこんだ。

 

 

 その異変の正体がどんなものなのかはお察しの通り、御札だ。

 おれの下(地上)に貼り付いていた御札が一斉に光だし、その光はおれを囲むように円形に広がっていく。

 

 この配置は…………くそ、やられたなこりゃあ。もう逃げようとしても遅そうだ。

 

 

「ーーー閃光弾幕符」

 

 

 そう糸目が呟くと、光出していた御札から空中に向かって大量の光線が放出された。その無数の光線は次々とおれのいる空中へと放たれていく。

 

 この弾幕の密度、避けるのは骨が折れそうだ。

 

 くそ、これならあのとき札を全部爆破していればよかった!

 

 取り敢えず、目を霊力で強化しつつ避けに徹する姿勢をとる。

 

 

「ただでは避けさせぬぞ________

 

 ーーー千針札符」

 

 

 

 そう言って糸目はおれに向かって1枚の御札を投げつけてくる。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 それをなんとか身体をひねって避ける。

 

 が、その判断が間違っていた事を避けた瞬間に気付く。

 

 

 

     パサアアアァ!!

 

 

「なっ!!?」

 

 

 避けた先でまた御札は光りだし、そして散った。

 大量の鋭く尖った針を生成して。

 

 

 やばいやばい! 下からは無数の光線、上からも無数の針。

 

 こんなのおれに避けられるか? いや、無理です。おれにそんな避けテク無いです。

 くそ、やっぱりあいつ、戦い慣れしてるな。相手がどこでどうすれば嫌がるかを分かっていて、そこを的確に突いてくる。

 

 

「これで終わりだ。貴様が嘘を吐くからこうなるのだ。」

 

 

 そして糸目、あいつ何か誤解していないか? おれ、あいつに嘘なんて吐いたことないぞ?

 

 

「ちっ……これは、一筋縄ではいかないな」

 

 

 

 両方向からの高密度弾幕。避けるのはまず不可能。

 さて、この状況をどう打破しようか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 

 

「熊口殿!!」

 

 

 そう、似非者の雇い主が叫ぶ。

 それもその筈。己の用心棒が為す術べなく我の術中に嵌まり、無数の針と目を覆いたくなるほどの閃光の同時攻撃を諸に受けているのだから。

 

 我は、熊口生斗を似非者と推察している。

 あのとき、不比等様が熊口らに教えた討伐隊の件は、まだ言っていないことがある。

 実は討伐隊はこれまでに幾度となく賊共の元へ赴いては返り討ちに遭っていた。

 そしてついに賊の頭領は妖と同じ括りにいれられるようになる。

 そうなると我らの領分。討伐隊には陰陽師が含まれるようになった。

 

 そして一月ほど前、我の同僚であり、親友であった陰陽師が討伐隊の筆頭として賊のいる草原へと向かった。

 彼は接近戦は不得手であったが、それ以外は我に並ぶほどの実力をを有していた。

 負ける筈はない。そう考えた我は特に心配することもなく彼を見送った。

 

 そして数日後、討伐に行った者達が帰ってきた。その全てが遺体と化して。

 

 そう、全滅したのだ。

 身ぐるみは全て剥がされており、遺体の損傷が激しい者も少なくなかった。その殆どが打撲痕であり、武具による傷は1つとして無かった。

 特に打撲痣が多かったのは我の親友であった。

 最後まで抵抗した結果なのだろう。

 

 我は変わり果てた親友の姿を見て、復讐を誓った。

 一刻も早く親友を壊した賊を殺したくて仕様がなかった。

 彼は我の幼少時代からの友人であり、我が陰陽道に歩んだのも彼がきっかけだったのだ。我の特殊な能力を身に付けることが出来たのも彼のお陰でもある。

 

 殺すためには準備がいる。そして満を持して人員も確保しようと、次の討伐隊に志願した。

 そしてあと一日で討伐に出るという所で、ある凶報(朗報)が来た。

 

 

 _______賊共が捕まった。

 

 

 その凶報は我ら討伐隊が討伐に向け、支度をしているときであった。我の周りにいた者は歓喜し、賊を単独で倒したという人間を称賛した。

 

 その単独で倒したという人物が熊口生斗という輩だ。

 

 

 皆が歓喜し褒め称える中、我だけは奴を恨んだ。

 漸く復讐が果たせるというのに、奴が邪魔をしたせいでそれが果たせなかった、と。

 

 我の怒りの対象は熊口生斗という輩に向いていた。

 

 だが、一応奴は我の親友の仇を討ってくれた者でもある。

 なので殺してやるとまでは考えはしなかった。

 

 ただ、少しぐらい何かしなければ我の気が済まない。

 そんなときに藤原不比等という貴公子が熊口生斗に感謝をしているという情報を得た。

 

 これだ! これを利用しよう! 

 

 あることを考えた我はそれをすぐに決行した。

 

 藤原不比等を使って熊口生斗を呼び出し、そこに奴が来たところで余興と表して我と決闘させる。そこで我が熊口生斗を倒し、奴に醜態を晒させるのだ。

 

 

 結果、作戦は成功した。

 だが、人が違った。

 あんな奴が賊を倒したなどあり得ない。

 我の親友を殺った賊よりも強いはずの輩が、あんなにもひょろっちく、飄々とした奴なんて絶対にあり得ない(しかも頭に変な黒い物体を掛けている)。

 もっと凛々しく、勇ましい者でないと親友が報われない。

 こいつは似非者だ。

 本当は別の者が賊を倒したというのに、その功績をなんらかの方法で横取りした屑なのだ。

 

 そんな奴、我が粛清してやる。

 

 それも丁度今、我の攻撃により完了した。

 針と閃光の激突により、何故か煙が出てはいるが、奴はおそらく木っ端微塵になるだろう。妖ですら深傷を負わせられるほどの技だからな。

 

 

「不比等様、お分かりでしょう。彼は似非者です。あの超人を倒したものならばこの攻撃、なんなく避けられるでしょう」

 

「うむ、そうだな」

 

 

 我は煙の跡を見ずに踵を返す。

 次こそは本物を見つけださねば。

 

 回りにいた者らもこの程度かと落胆した顔をしている。

 ふん、功績を横取るからこういうことになるのだ。

 

 

「あ!」

 

 

 と、我が不比等様の所へと戻っていると、7歳ほど女子が空中を指差し、驚愕の声を上げる。

 む? あの女子の眼、紅いぞ?

 

 いや、それよりも女子が指差した方向だ。あれは確か似非者がいた場所…………

 

 

「なっ!?」

 

「よ、倒したと思ったか?」

 

 

 少し疑問に思い、振り返ってみると、そこには平然と空中に留まる似非者の姿があった。

 

 奴の頭上には何か切れ目のようなものができており、中は真黒に染まっている。そして足元は淡く光った壁のような物が円錐状に出来ていた。

 まさか、あの摩訶不思議な物で我の技を見切ったというのか?

 

 

「疑問に思うだろ? まあ、結構単純なことなんだけどな」

 

「……どうやった」

 

「簡単だ。まず頭上の空間を斬っておれの上から降ってくる針をその中にいれ、足元の方は霊力障壁を円錐状にし、光を屈折させておれの方向から起動を変えさせてたのさ」

 

 

 何が簡単なのだ。空間を斬るなど、人間の為せる業ではない。そして閃光もだ。屈折させるといっても衝撃によって耐久力は落ちる筈だ。ということはつまり、奴は力を供給し続け、あの壁を保っていたか、元からあの壁が強固なものであるかのどちらかだ。

 我の閃光は、一筋で岩をも砕く威力がある。もし後者の場合なら、我は奴の評価を見直さなければならない。

 ……いや、これだけでも十分に見直す程はあるな。

 

 

「やるな似非者。流石は横取っただけはある」

 

「横取った? なにいってんだ。あとおれ、似非者って奴じゃないと思うぞ」

 

 

 横取ったというのは我の仮説に過ぎない。

 最初はその仮説が正しいと確信していたが、今のを見せられると少し怪しくなってきた。

 ……いや、まだわからない。あんな優男が我の親友より強いわけがない!

 

 

「(その証明をして見せる! 奴を地に伏させることによって!)」

 

 

 我の他の者には使えない能力がある。

 それは御札に何かしらの付属効果を付けることだ。

 封印や呪術程度ならば陰陽道を歩む者なら誰でも出来るが、我のように閃光や針等を出すことは出来ない。普通は御札で物質を作り出す事は出来ないからだーー辛うじて爆発や水は出来るが……

 そう、我は御札に描いた絵を具現化させることができる。絵といってもほぼ暗号みたいなもので文字とさほど変わらないが。

 火を起こそうと思えば起こせるし、樹も生やそうと思えば数秒で大樹を生やす事ができる。

 

 何故使えるかは我にもわからないが、この力が有る限り、負けることはないだろう。

 実際、これまで我は幾度となく妖共を戦い、そのどれも無傷で勝利してきたのだ。

 

 あんな似非者、ここから一歩も動かずして倒してくれるわ!

 

 

「ほら、油断するなよ」

 

「くっ!?」

 

 

 そう言いながら奴は不意打ちと言わんばかりに光る玉を放ってくる。

 なんなのかはわからないが、受けるわけにはいかなかったのですかさず横に跳んで避ける。

 

 

「あ……」

 

「……ん? なんだ?」

 

「いや、なんでもない」

 

 

 一歩、動いてしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 

「ほう」

 

 

 あの猛攻を無傷で避けきるか。

 流石は人智を越えた賊を倒しただけはある。

 

 さてさて、これからどんなものを見せてくれるのだろうか。

 

 

「ほら、早く来いよ。まさか今ので怖じ気づいたのか?」

 

 

 明徳を挑発する熊口。

 この者はつくづく奇怪だ。空を飛び、光る玉を放ち、そして今、光る刀を右手に提げている。……明徳も充分に奇怪だったが。

 この二人、まだ始まって間もないが見ていて飽きはない。

 

 

「まさか。それよりも貴様、良いのか?」

 

「なにが?」

 

「ここで我に先手を譲れば、これから貴様が我に攻撃をできる好機は二度と訪れぬぞ?」

 

「あー、別にいいよ。チャンスは待つものじゃない。作るものなんだから」

 

 

 はて、チャンスとは? いや、まあいい。あやつ自身の特別な言い方なのだろう。

 

 

「ちっ…………ふん!」

 

 

 明徳はあの言葉を理解できたのか?! まるで理解して、苛つきを感じたかのような舌打ちだったぞ……

 ……明徳は、舌打ちをした後、御札を両手に一枚ずつ持ち、その二枚の御札を地面に貼り付けた。

 すると貼り付けられた御札に書かれていた印が地面にはみ出し、円状に御札を囲んでいく。

 

 

「ーーー式神鬼神」

 

 

 そして明徳がそう呟くと、御札とその周りを囲んでいた印が蒼く光だし、中から勢いよく人間とほぼ同じ大きさの鬼が二体、姿を現した。

 

 

「お、おい、まじかよそれ……」

 

「死者の霊魂を呼び起こし、我の式神とした。我ですら手に余り、完全に力を発揮させられないほどのな。

 まあ、貴様を倒す程度ならこのぐらいで充分だろう」

 

「いや、充分過ぎるだろ。なんだよ、鬼神て……お前、加減というものを覚えろよ。しかも2体て……」

 

 

 いやはや、私も驚いたぞ。まさか鬼神を呼び起こすとは……これまでそんなことが出来る者など聞いたことがなかった。

 これは流石にやりすぎではないか?

 

 

「はあ……はあ……」

 

 

 おや? 明徳の奴、疲れておるな。……いや、それもそうか。鬼神を二柱も召喚したのだ。これで疲れないほうがおかしい。

 

 

「あ……あぁ」

 

「うあぁ……」

 

「……なんかゾンビみたいだな。よく見れば所々腐敗してるし」

 

「ふ、ふん、それでも貴様を倒す事ぐらいわけない! 行け!」

 

「「……!!」」

 

 

 明徳が命令すると、二柱の鬼神は見た目に反して目にも止まらぬ速さで熊口に向かって襲いかかる。

 もはや私には目視できんな。やはり鬼神というだけはある。

 

 

「うお、速いな。っと……」

 

 

 しかし、熊口は二柱の鬼神の動きを見えているのか、二柱の殴打を手に持っていた光る刀で難なく受け流す。

 

 

「おりゃ!」

 

「!?!」

 

 

 そして殴り付けたことによって脇腹に隙のできた一柱に熊口は受け流す時に動かした重心を利用して蹴りつける。

 蹴られた鬼神の一柱の脇腹は脆かったのか、ぼろぼろと蹴られた部位が崩れていく。

 

 

「なんだこりゃ、脆いな」

 

「なっ、こいつ……我の式神の動きが見えるのか?!」

 

「鬼神っていってもあれだな。術者がこれだと報われないな。これなら普通の鬼の方がよっぽど速い」

 

「うぐっ……」

 

 

 熊口、その言い草だと実際に鬼と戦ったことがあることになるぞ……

 

 

「くっ! 狼狽えるな! 攻めて奴の隙を作るのだ!」

 

「「う、うがあぁあ」」

 

 

 明徳よ、それは二柱に特攻を命じているようなものだぞ。ここは普通、近接戦闘を避けさせるべきだ。

 

 

「ありがとう、接近戦はおれの大好物……っておわ?!」

 

「ただ突っ込ませると思ったか馬鹿者め!」

 

 

 愚策、と思いきや鬼神によって出来た死角から御札を放り、熊口に攻撃を仕掛ける。

 それを熊口は避けたが、その避けた先には先程蹴られた鬼神の足が振りかぶられる軌道上であった。

 

 

「んがぁぁ!」

 

「っう! おぉ!」

 

 

 捉えたと言わんばかりの雄叫びとともに鬼神が足で熊口を思いっきり蹴ろうとした。

 しかしまたもや熊口は己の身体を回転させながらそれを避ける。

 あやつ、凄いな。よくあれをかわすことができるものだ。

 

 

「ってまたかよ!?」

 

 

 だが、体勢を立て直そうとしたとき、鬼神らが間髪入れずに殴りかかってくる。

 それに悪態をつきながら熊口は細かく避けることを止め、空に飛ぶことによって鬼神らの猛攻を回避、難を逃れる……

 

 

「それを待っていた!」

 

「……!?」 

 

 

 と思いきや、空には無数の御札が宙を舞っていた。

 ほう、明徳の奴、熊口の動きを読んでおったか。

 

 

「ーーー爆符解放!」 

 

 

 そして宙を舞っていた御札は明徳の宣言とともに光だし、明徳の宣言した爆発が巻き起こった____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やるなぁ、特に相手を誘導するのが」

 

 

 が、2、3発は熊口付近に爆発したがそれ以外の爆発は熊口の場所とは程遠い場所で起こっていた。

 

 

「何!!?」

 

「爆発を起こせるのがお前だけとは限らないってことだよ」

 

 

 ……何が起こったのだ? 何故爆発が熊口と離れてた場所で起こったのだ。確かにあのとき、熊口の側に御札はあった筈……

 

 

「なーに、簡単なことだ。おれが御札が何か起こる前に爆発を起こして、周りにあった御札を爆風で遠くに飛ばした、ってだけだ。見えなかったか? あのとき、最初の方に爆発の煙幕、おかしかっただろ」

 

「むっ……」

 

 

 そういえば最初の2、3発はおかしな爆発の仕方だった気がする。確かに御札は爆発するまではただの紙同然だ。少しの風があれば充分に吹き飛ばすことが出来るだろう。

 しかし、熊口の奴も爆撃を操ることができるというのは驚きだ……

 

 

「あと、なんでおれがこうぺらぺらと喋っているのか分かるか?」

 

「…………なんだ?」

 

「後ろを見てみろ。あ、後ずさるなよ。()()()()()

 

 

 刺さるから? 何をいっているのか、私すら分からなかった。なのでその疑問を解消するべく、明徳の後ろの方を見るため、視線を移す。

 

 …………ほう、そういうことか。確かに少しでも動けば危ないな。

 

 

「ふん! 貴様の言う通りになどするものか! 後ろを向いた瞬間、攻撃を仕掛けてくるつもりだろう!」

 

 

 そう言って頑なにみようとしない明徳。

 

 

「明徳よ、後ろを見なさい。お主の敗けだ」

 

「なっ、不比等様!? 何を言っておられるのですか! まだ勝負はついてませぬぞ!」

 

「それは後ろを見ればわかる」

 

 

 私の言葉を聞いて渋々といった表情で漸く後ろを向いた明徳。

 そして明徳は絶句した。

 

 何故なら、背後には六本の光る刀が明徳に向けて刃を突き付けていたのだから。

 

 

「え、あ……?」

 

「動くなよ、勿論式神もだ。もしお前か式神が動いたら、そこにある霊力剣で切り刻むからな。」

 

「こ、これは、貴様がやったのか……?」

 

「おれ以外にやるやつがいるか?」

 

 

 ほうほう、あれは霊力剣というのか。手に持っているのも合わせて七本も同時に出すことができておる。そしてなによりも六本の霊力剣を手に持たずして操ることができておるとは……

 

 

「……決まりだな」

 

「お待ちください不比等様! ま、まだ終わってはおりませぬ!」

 

「それ以上動いたらお主の首が飛ぶと言われている状況で何ができる? 自爆でもする気か? 私の屋敷で?」

 

「うぐっ……」

 

 

 何も言い返すことも出来ず、ぐっと唇を噛む明徳。言い返せないということは敗けを認めたと言うこと。

 勝敗は決した。

 私は、軽めに痺れ始めていた足を動かし、立つ。

 そしてこう宣言した。

 

 

「この勝負、熊口生斗の勝ちとする!」

 

「「「「おおお!!」」」」

 

 

 そう私が宣言した瞬間、私の周りにいた部下や親族らが歓声の声をあげた。

 

 

「造よ。お主、良い部下をもったな」

 

「……」

 

「造? ……気を失っておる」

 

 

 余りにも過激な戦闘だったからか、私の隣で造は白目を向いて気絶していた。

 まあ、老体にはちと刺激が強かっただろうな。

 

 それにしても熊口とやら。この都の中でも一、二を争う明徳を倒すとは。やはりあの賊を倒したというのは本当のようだな。

 

 

 

 是非とも、欲しいものだな。あの戦力。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 

「ふぅ」

 

 

 なんとか糸目に勝つことが出来たな。

 正直危なかった。まあ、おれの機転の利く頭が働いてくれたから全部華麗に避けられたけどな! 流石おれ!

 

 と、自分を褒め称えるのはこのくらいにして、本当に糸目は面倒な相手だった。まずおれの得意な接近戦があまり出来なかったし、おれの動きを読まれているかと考えてしまうほどの予測攻撃をされてたし。

 空を飛んだのを予測されて爆発する御札を配置されてたとき、一瞬あっ、死んだ、って死を覚悟したからな。

 ま、それも爆散霊弾のおかげで逃れられたが。

 

 

「くそ、この我が……」

 

「これでわかったか? おれは似非者じゃないって」

 

 

 糸目がおれのことをさっきからずっと似非者といってきていたが、それは単にゴリラ2号を倒したのがおれじゃないって言いたかったのだろう。

 確かに、普通に考えりゃ、おれのような細身があんなゴリゴリに勝てるわけないからな。

 

 

「くっ、認めるしかないのか。こんな奴の方に我の親友が劣ってるということを……」

 

「親友が劣ってるって。まずお前がおれより劣ってんじゃねーか」

 

「なっ! 今のは少し油断しただけだ!」

 

「その油断が命取りになるんだぞ」

 

「くっ……」

 

 そうそう、さっきとかこいつ、爆発にみとれておれが生成した霊力剣の接近に気づいてなかったからな。

 実際あのとき、そのまま串刺しするつもりで放ったのに、態々背後に回してやったんだぞ。

 やっぱおれって……

 

 

「さて、熊口よ」

 

「あ、はい」

 

 

 自分の慈悲さにまた自分を褒め称えようとしていたら不比等がおれの名前を呼んだ。

 

 

「とても楽しませてくれたな。感謝する。私の身内も大層喜んでおるぞ」

 

「それはどうも」

 

 

 そんなの周りを見ればわかる。もう宴ムードになりつつあるからな。不比等が近くにいるにも関わらず酒盛りを始めているし。

 

 

「して熊口、褒美の件だが」

 

「お、なんですか?」

 

 

 そうだ! おれは元からそれが目的で来たんだ。こんな無駄に疲れる戦闘をしに来た訳じゃない。

 

 

「私の用心棒として働く、というのはどうかな」

 

「え?」

 

 

 貴公子の元で働く? 

 それって名誉な事、なんだろうか。

 いや、でもなぁ。輝夜の事もあるし、まだおじさんに雇ってもらって間もないし……

 それにこの人に着いていったらめんどくさいことになりそうだしな。

 

 

「あ、えっと、お金だけください」

 

 

 用心棒の件は無かったことにしてもらおう。

 

 

 

 

 




はい、糸目陰陽師の無駄設定のお陰で予定がずれました。本当はもう少し進むはずだったのですが……
あと明徳というのは糸目陰陽師の名前です。まあ、設定があるということは今後も登場するということです。
次回はついにあのキャラが登場です!(オリキャラじゃないよ)


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⑪話 名誉は要らないがお金は欲しい

 

 

「お金だけください、だと……?」

 

「はい、不比等様の用心棒になるつもりはないので」

 

 

 輝夜の用心棒になってからまだ間もないのにすぐに乗り換えるってのもなぁ。

 それに今の生活に不満があるわけではない。

 貴公子の用心棒なんて自慢できるほど名誉な事であると思うが、どうせそんな名誉、100年もすれば錆びれる。

 それにおれもそんなにこの都に長居するつもりもないしな。輝夜が(おじさんの目的である貴族の)嫁に行くのを見送ってからこの都から出るつもりだ。

 人に深入りしすぎるといずれ来る“永遠の別れ″が来たとき、虚しさが倍増するだけだからな。

 人と一緒にいるのは早くて1年、遅くても10年程度だ。これが歳の詐称を怪しまれないかつ、相手がその間に死ぬ確率の低い年数でもある。

 

 つまり、おれが言いたいのは目先の名誉なんか要らないってことだ。

 目先の名誉か居心地の良い暮らしかどちらか選べと言われたら躊躇なく居心地の良い暮らしを選ぶね。

 

 

「私に仕えるということは名誉なことなのだぞ。それを態々蹴るというのか?」

 

「名誉なんて必要ないんで。楽に生きることに越したことはありません」

 

「……不比等様の申し出を断るなど、貴様にできると思っているのか」

 

 

 と、後ろからノロノロと出てきた糸目がおれを咎める。

 まあ、確かに貴公子の褒美をつっぱねるのは駄目だよなぁ……

 でもここで働きたくもないし、輝夜が心配だしな……

 あいつ、中々危なっかしいからなぁ。目を離すといつも危険なことをしている。屋敷の屋根に登ったりだとか。

 

 

「ふむ、そうかそうか。名誉など不要と申すか」

 

 

 そう言って顎を手で擦りながら口角を上げる不比等。

 ん、なんで今おれを見て笑ったのだろうか? 

 もしかして、私に歯向かうなど笑止千万! 今すぐにでも処刑してくれよう! ってな感じの笑いか?

 よし、そうなったら今すぐおじさんを連れて逃げ…………おじさん倒れてる!? ふ、不比等め。流石は貴公子、やってくれるな……

 

 

「何を憎たらしげに此方を見ている? 別に熊口が嫌だというのならば引くつもりであったぞ」

 

「引くつもり?」

 

「用心棒の件だ。無理に強行して熊口が暴れ狂われたりでもしたらこの都自体が危機的状況に陥るからな」

 

「は、はぁ……しかし不比等様、おれにそこまでの力、無いですよ?」

 

「何を言っている。この都でも五本の指に入る陰陽師をほぼ無傷で倒しているではないか。おそらく、この都一の輩を連れてきたところで熊口には勝てないだろう」

 

 

 な、なんだ不比等のおれに対する過大評価は……無傷っていっても普通の戦いでは1つの攻撃で致命傷になることが多いんだ。実際、先の戦いでも糸目の攻撃はどれもおれの体に深刻な傷を負わせるのには充分な威力はあった。

 つまり、もしおれが無傷ではない場合、致命傷を受けていることになる。

 これまでの戦いだってそうだ。1度食らえば死ぬようなものばかり。だからおれも全神経を研ぎ澄まして避ける。まあ、そのおかげで今では大抵のものは避けることが可能になったけどな。特に普通の人間には目視できないほどの速さで攻撃を仕掛けてくるやつとか。例で言えば射命丸とあのゴリラ2号だな。あいつらの場合速さに絶対的な自信があるため、動きが単調になる事が多い。だから奴らの動く軌道を予測しながら避ければ大抵はいける。その予測も霊力で目を強化すれば大分楽になるしな。

 

 おっと話が逸れた。つまりはおれが言いたいのは今回での戦いで無傷以外での勝利は捨て身でもしない限り無かったって事だ。……予想外による怪我もあるけどな。例えばゴリラ2号にとどめをさした蹴りで足を骨折したとか。あ、因みに足はもう完治してる。もう骨折が数日で治るなんて当たり前の事になってきたから別に驚きはしない。おじさんや輝夜はかなり驚いてたけど。

 

 

「私も無理強いするつもりはない。褒美を受け取らぬもお主の自由だ」

 

「ん? おれ、おじさんから『身分が高い人は身分が低い人が褒美を無視したり断ったりでもすれば大層ご立腹なさる』って聞いたんですが」

 

「それを承知で断ったのか……」

 

「いやぁ、不比等様なら大丈夫かなぁっと思って」

 

「私でも人によっては今のお主の言ったような対応をするぞ」

 

 

 んー、もしその対応されてたらおれも腹を括ってたかもなぁ。

 でもまあ、さっきからの不比等の反応からして、怒る可能性は低いと踏んだからおれは断ったんだ。

 これでいきなりキレだしたらおれの目が甘かったって事だけど、やはりおれの目は正しかったようだ。

 

 

「つくづく変わった奴だ。お主といたら退屈しなさそうだな」

 

「はは、よく言われます。特に退屈しなさそうな所が」

 

「変わったの方が圧倒的に多いだろうが。妖もどきめ」

 

「はは、糸目君。負け犬の遠吠えも甚だしいよ」

 

「事実を述べただけだ」

 

 

 何を言ってるんだ。おれが他と変わってるところなんて、怪我の治りが早いのと長生きなだけだ。後は霊力操作と剣術とかそのぐらいの戦闘知識ぐらいか。

 それだけで変わってるなんて言うなんてそいつは失敬過ぎる馬鹿者だな。うんうん、充分過ぎるほど変わってます! ってどっかで聞いたことあるような守護霊のツッコミが聞こえた気がしたが気にしないでおこう。ただの幻聴だ。

 

 

「さて、話もそれぐらいにしておいて、私らも酒を飲み交わそうぞ。周りはもうお祭り騒ぎだ」

 

「そ、そうですね」

 

 

 確かに煩い。おれらの話だけ見ると静かな雰囲気のように見えるが、周りはもうドンチャン騒ぎになっている。

 何かの演舞を踊っている者や瓢箪に入った酒をらっぱ飲みしている者、飲み比べをしてダウンしている者もいる。

 正直誰のための宴なのか分かったもんじゃない。

 

 

「……ふん」

 

「ん? どうした明徳。お主は宴に参加しないのか?」

 

「我はこのような騒がしいのは好まぬ故。またご用があれば連絡を下さい。直ぐに駆けつけます」

 

「そうか。その時が来れば宜しく頼むぞ」

 

「御意」

 

 

 そう言って不比等に頭を軽く下げ、おれが入ってきた道へと歩き出す糸目。

 

 

「熊口生斗」

 

「……なんだよ」

 

 

 帰るのか、と思いきや、こちらの方へ振り返りおれの名前を呼ぶ。ん、そういえばこいつに名前で呼ばれるのは初めてだな。

 

 

「……」

 

「なんか言えよ」

 

 

 糸目は何も喋ることもなくおれの顔を睨み付ける。

 こいつはおれに何が言いたいんだよ……

 

 

「……まあいい。本当は認めたくはないが、認めるしかないのだろう。」

 

「は?」

 

「礼を言う。我の親友の仇を討ってくれて」

 

「え……あ、ああ?」

 

 

 仇って……あのゴリラ2号の事か?

 

 

「では、機会があればまた会おう、熊口生斗」

 

「お、おう。じゃあな。んーと……明徳って言ったか?」

 

「その通りだ」

 

 

 そう言って踵を返す糸目。ほんと、なんなんだよこいつ……よくわかんない奴だな。

 ん? ちょっと待てよ。糸目と明徳、糸明徳って繋がるじゃないか! ……下らないな。なんで今そんなこと考えてしまったんだか。

 

 

「ん……はて、わしは何を……」

 

「あ、おじさん」

 

 

 そういえばおじさんが倒れていたの忘れてたな。ていうかおじさん、なんで倒れていたのだろうか? 不比等の仕業ではないと思うけど……

 

 

「造よ。お主にはあの余興はちと刺激が強すぎたようだな」

 

「不比等様……は! 決着は!?」

 

「熊口の勝ちだ。良い用心棒を持ったな。正直羨ましいぞ」

 

「さ、左様ですか!」

 

「おじさん……取り敢えず倒れていた理由を教えてください」

 

 

 おじさん、起きて早々騒がしいな。不比等も苦笑いしてるし……

 

 

「まあ、その話も酒を飲みながらでも良いだろう__おいそこの者、お猪口を三つと上等な酒を持ってきてくれ」

 

「はっ、かしこまりました」

 

 

 そして不比等もいい加減酒が飲みたいらしい。さっきも飲もうっていってたからな。

 おれ、酒弱いからそんなに飲めないんだけどなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~2時間後~

 

 

「飲まないのは飲まないので結構キツいな」

 

 

 現在、おれは不比等とおじさんの酒のテンションに耐えきれず、用を足しに行くと言って逃げてきた。

 日が暮れ始めている今でも、宴が終わる気配はない。まるで鬼の宴に来ているかのような騒ぎっぷり、どんだけここの連中、娯楽が好きなんだか……まあ、娯楽が少ないのもあるんだろうけど。

 

 因みにおれも別にこういうのは嫌いではないけど、あまり知らない奴らと騒ぐのも気が引けたので、静かに見守ることにしている。

 酒を飲んでいないのは、帰るときに何かと不便になるためだ。

 

 

「よいしょっと……」

 

 

 小腹も空いていたので酒のつまみを何皿か取り、部屋の端の方に行き、腰を下ろす。

 

 

「……」ボリボリ

 

 

 そして無言でつまみの煮干しを食べる。頭の方は少し苦味があるが、別に不味くはない。

 次は枝豆と、漬物。

 枝豆の方は塩加減が絶妙で美味しい。幾らでも食べられそうだ。漬物は茄子と生姜。前世では漬物はそこまで好んで食べていなかったが、今は違う。この時代では味が濃い食べ物はあまりないが、漬物はしっかりと味がついていて美味だ。酒よりも米が欲しくなるほどにな。

 

 

「……」モグモグ

 

 

 枝豆に張り付いている薄い膜を舌を使って引き剥がす、ちょっとした暇潰し。

 ……早くも枝豆の皿が底を尽きそうだ。身のつまっていない皮だけが皿の上で山を作り始めている。

 

 

「……ねぇ」

 

 

 そういえば宴会なんていつぶりだろうか。妖怪の山にいた頃はしょっちゅうやっていたが、妖怪の山を出て以降、1度としてやってなかったからな。

 あいつら、元気にしているだろうか……ほんとは何度か帰ろうとはしたが、おれは一応群れを離れた身。鬼はともかく天狗は1度抜けた者を快く受け入れてくれるとは思わない。秋天とか射命丸とかは別だろうけど、他の奴らは皆同じではないだろう。それに天魔である秋天は立場上、おれを処罰しなければならない。

 だからおれは妖怪の山へは帰ら(れ)ない。友人に迷惑をかけられないからな。

 

 

「ねぇ」

 

 

 あ、でも諏訪子と神奈子さんの所へは1度帰ったことはあるな。

 出会い頭に諏訪子からエルボーを食らったのはまだ記憶に新しい(といっても80年くらい前だが)。どうやら全然帰ってこなかったおれに対して腹を立てていたらしい。

 神奈子さんは懐かしそうな目でその光景を眺めた後、おれに腕相撲を仕掛けてきた。久々に神奈子さんとの模擬勝負だったが、そこは男の気合いと言うものを発揮し、()()()()。うん、発揮してないね。

 そして勿論の事、早恵ちゃんや道義、そして枝幸ちゃんの姿は無かった。だが、早恵ちゃんそっくりの巫女がいたな。諏訪子がいわく枝幸ちゃんの曾曾孫だそうだ。

 あんな小さかった枝幸ちゃんに曾曾孫が……と、どれだけ時間が過ぎたかそこでおれは再認識した。

 その巫女が早恵ちゃんに似ていたからか、翠はやたらとその巫女に絡んでいた。その光景をみると、昔の翠と早恵ちゃんが楽しく会話をしている光景を思い出す。

 あの光景はなんか少し悲しくなったな。もう二度と早恵ちゃんや道義、枝幸ちゃんに会えないという事実を、改めて分からされたような気がしたから。

 

 まあ、でもおれはそれについては割り切っている。

 翠はどうかは知らないが。あいつ、大丈夫なように振る舞って自分一人で抱え込むからなぁ。

 

 

「ねぇっ!」

 

「えあ!? ……ん、なんだ?」

 

 

 と、1度諏訪子達と再会したときの事を思い出していると、いつの間にか目の前にいた赤い目をした黒髪の女の子が急に大声を出しておれを呼んだ。……なんだよ、呼ぶだけならそんなに声を荒げる必要なんてないだろ。

 

 

「さっき戦ってた人だよね! ……確か名前は~、熊口生斗!」

 

「ああ、そうだが」

 

 

 やけに興奮してるな、この女の子。鼻息荒くしておれと目と鼻の先ぐらいの距離まで顔を近づけてくるし。

 

 

「凄かった! どうやったらあそこまで強くなれるの!?」

 

「いや、別におれ、そんなに動いてなかっただろ」

 

「いやいや! あの陰陽師の猛攻を全て華麗にかわし、なおかつその隙をついて光る刀を突きつけて相手を無力化するなんて普通出来っこないよ!」

 

「そ、そうかぁ?」

 

 

 あ、いかん、癖が出る。そう思い、咄嗟に右手で口元を隠す。

 それにしてもこの子、見た目の割に戦いが好きなんだな。勝負事でここまで興奮するとは……もう2時間以上は経ってるってのに。

 

 

「生斗ってほんと凄いね! 空も飛べるし刀も出せるし強いし! 尊敬する!」

 

「お、おぉ? そうかな? おれ、そんなに凄かったっけ? まあ、そうだろうなぁ。確かに自分でも? 人間の中じゃ結構上位に入るくらい強いと自負してるよ。だって最近百戦錬磨だからな!」

 

 

 やっちまった……ついおだてられて癖が出てしまいやがった。百戦錬磨ってなんだよ。確かに最近は戦って負けてはいないが、戦う前から逃げるって事は結構してるんだよな。だからもし逃げなしで全部戦っていたら負けていた戦いもあったかもしれない…………ていうかこの前神奈子さんに完敗したし。まあ、腕相撲だけど。

 でもこれ、絶対に引かれたよなぁ。成人にならともかく、子供に引かれるのはちょっとくるものがあるんだよな……

 

 

「そうそう! もっと素直になっても良いんだよ!」

 

 

 あ、おれこの子、好きだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 ~少しして~

 

 

「鬼は強い。だからもし見かけても絶対に戦うな。全力で逃げるか、酒を出せ」

 

「でも生斗はその鬼に勝ったんでしょ?」

 

「まあな。そりゃあおれ、強いし?」

 

 

 おれはいつの間にか、赤い眼の女の子とずっと話していた。

 飲む予定もなかった酒も女の子から酌をしてもらいながら飲んでしまっている。

 なんでだろうなぁ……やっぱり自分のコンプレックスを認めてもらえたことが嬉しいからかな? 酒もいつも以上に美味く感じる。

 しかも今、酒も合間って調子乗りモードに入ってるってのにこの子は笑ってくれる。大抵のやつは苦笑いするかうざがるってのに。

 はぁ~、ほんと良い子だ。良い意味で親の顔が見てみたい。

 

 

「熊口殿、ここにいたのですか」

 

「あ、おじさん」

 

 

 そんな中、騒ぐ奴らを避けながらおじさんが来た。

 

 

「おや、そこの可愛らしいお嬢さんは?」

 

「ああ、おれのファンらしいです」

 

「ふぁん?」

 

「あ、愛好者的な事です」

 

「ああ、そういうことですか。確かに熊口殿にはふぁんとやらが出来てもおかしくありませぬからな」

 

「そうですか? いやぁ~参っちゃうなぁ。もし沢山ファンができたらどうしよ~」

 

「……何故変顔をされているのかよくわかりませぬが……」

 

「あ、はいすいません」

 

 

 しまった。おじさんにもつい腑抜けた顔をしてしまった。これが普通の反応なんだよな……

 

 

「ごぼん……それよりなんでここに来たんですか?」

 

「あ、そうでした。熊口殿が用を足しに行くと行ったっきり戻ってこないので連れ戻しに行けと不比等様に言われまして」

 

「そういえば……」

 

 

 確かにそういう口実で逃げ出していたな。

 

 

「……わかりました。戻ります」

 

 

 ほんとは行きたくないんだよぁ。不比等酒に酔いすぎてご乱心気味だし。よくそれでおれがいないことを気付いたのかは知らないけど。

 まあ、身上の人からのお呼ばれだ。行かなきゃ駄目だろう。

 そう、めんどくさげな態度満開に立ち上がりつつ、おじさんと共に不比等のいる所へと行こうとした。

 

 

「あ? なんだ、君は来ないのか?」

 

「え? いや、うん……私は、いけない」

 

 

 が、座ったまま動こうとしない女の子が、ちょっと暗い顔のまま不比等の所へ行くことを拒んだ。

 

 

「そうか。まあそうだろうな。不比等様の絡み、中々疲れるし」

 

「!! 父上の悪口を言うな!」

 

「え……父上?」

 

「……あ」

 

 

 父上……不比等……え、まじか。父上って不比等の? この子が? 全然似てないんだけど……まず不比等の奴、目とか赤くないぞ。

 

 

「お前、不比等様の子供なのか?」

 

「なに!? このお嬢さんがですか!?」

 

「え、あ……」

 

 

 口を滑らせてしまったようだな、この子。完全にやってしまったというような顔で口をぱくぱくさせている。

 不比等の子供って事を知られたくなかったのだろうか。貴公子の娘となれば自慢しても良いようなことだっていうのに……ん、ちょっと待てよ。そういえばこの子、他の貴族連中に比べると少しみすぼらしい格好をしてる。 なんで貴公子の子がみすぼらしい格好を? 何か理由があるんじゃないだろうか。それにこの子の目が赤いのに、不比等の目は黒い。そして先程会った不比等の嫁を何人か紹介されたが、そのどれもが黒い眼をしていた。

 もしかしたら、この子はその紹介されなかった妻達とはまた違う女との子なのかもしれない。紹介されていないということは紹介したくない、あるいは紹介するに値しない人物ということだ。そうなると、この子の母親は貴族でない可能性が高くなる。それなら合点がいくからな。

 そのおれの予想が正しければこの子は妾の子ということになる。

 妾の子は基本的に望まれない子だ。使用人等と行為をした結果、たまたま出来てしまった偶然(?)の産物。

 それでも一応不比等の血を受け継いでいるからこの屋敷に留まらせてもらっているということか。それゃ随分と肩身の狭い生活を強いられるよな。

 

 ……まあこれはおれのただの予想なだけであって、本当はどうなのかは知らないけどな。ただ単に不比等が子供に厳しいだけの可能性もあるんだし。

 

 

「あ、あう……」

 

 

 そんなおれの失礼な考察をしている間にも、この子は先程滑った口の言い訳が思い付かず、いまだに口をぱくぱくさせている。

 うむ、可愛らしい。

 だけど、このまま去るってのもなんだしな。少しからかってやろう。

 

 

「やや! これは失礼いたしました! まさか貴方様があの尊いご身分である不比等様のご子息であられるとは! 先程までの無礼、誠に申し訳ありません! 腹を切って詫びをしますので、どうかこのご老人の命だけは……」

 

「え!? ちょ、生斗!?!」

 

「熊口殿!? 何をいってるのですか!」

 

 

 腹を切ると言うのは少し言い過ぎたか。からかいの度を少しオーバーしたな。

 まあ、嘘だし別にいいか。あ、こういうのをブラックジョークというのか。翠の得意ネタだな。

 

 

「ていうのは冗談だ」

 

「え?」

 

「おれがちょっとの無礼ぐらいで切腹するわけないだろ。今のはちょっと君を驚かせようと思ってな」

 

「た、質が悪いよ……」

 

「まあ、ともかく。お前が不比等様の娘ってことをなんでそれを隠そうとしているのかは聞かなかったことにする。それじゃあな、お嬢さん」

 

 

 相手が嫌がることは無理に詮索しないのが紳士というものだ。

 ……いや、別にめんどくさそうだからさっさと去ろうとかそういう考えは持ち合わせてませんよ?

 

 

「んじゃ、また縁があればまたな」

 

 

 と、ぽんぽんと女の子の頭を叩く。

 んじゃ、面倒だけど不比等の相手をしてやるか。

 

 

「あの……ちょっと待って!」

 

「ん? なんだ?」

 

「まだ、名前、言ってなかったよね?」

 

「あ、そうだったな」

 

 

 結構喋ったのにまだこの子の名前聞いてなかったな。

 

 

「妹紅、藤原妹紅っていうの」

 

「妹紅か。知ってると思うが、熊口生斗だ」

 

 

 

 その後、おれとおじさんは妹紅と別れて、不比等の所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~夜(輝夜屋敷 生斗の部屋)~

 

 

「え~! 宴会したんですか!? なんで私を呼ばなかったんです?!」

 

「煩い、頭に響く……ていうかお前が輝夜の習い事見るっていって自分で留守番をすることを選んだんだろうが」

 

「うぅ、久しぶりにお酒が飲みたいです……」

 

「買ってくれば良いじゃないか」

 

「夜は何故か居酒屋空いてないし昼は外に出れないんです! そもそも私、お金持ってません!!」

 

「金はやるから行ってこい」

 

「だから外に出られないんですってば!」

 

「酒が飲みたいんだろ? 苦難を乗り越えた後の酒は旨いぞ」

 

「苦難どころか一歩外に出た瞬間歩行不能になります。熊口さん、私がそれで成仏しても良いんですか?」

 

「さっさと成仏しろや」

 

「……私、熊口さん嫌いです」

 

「安心しろ、おれもお前が嫌いだ」ゴソゴソ

 

「ん、布袋の中を探って何してるんですか?」

 

「あ? なんか目が覚めたから不比等から貰った高級な酒で迎え酒でもしようかと」

 

「持ってるじゃないですか! 嘘つき!」

 

「なにが嘘つきだ。おれは一言も酒を持ってないなんて言った覚えはないぞ」

 

「まあまあ、そんなこといいじゃないですか~。とにかく、飲みましょ飲みましょ!」

 

「いや、駄目だ。翠お前、酒癖凄まじく悪いだろ」

 

「さっき自分で買いに行ったら飲んでもいい的なこといってたじゃないですか!?」

 

「それは不可能なことだったからだ」

 

「……熊口さんってほんと屑ですよね」

 

 

 この後、結局翠と飲むことになった。

 結果は勿論のこと、酔った翠に関節を極められ、危うく右腕の骨を折られるところだった。

 ……くそ、覚悟をして酒瓶を出したけどやっぱり酒乱モードの翠はやばいな……以後、こんなことはしないようにしよう。

 

 

 

 

 




はい、無駄に長い不比等家訪問も終わりました。

妹紅についてですが、蓬莱の薬を飲む前の容姿が、黒髪だったこと以外よくわからなかったので目が紅いのはそのままにしました。

後、諏訪子達のところへ帰った話はいずれ番外編に出そうと思います。

次回は私の大好きな日常回です。


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⑫話 当初の予定とだいぶずれたな

 

 

 ~屋敷前~

 

 

「確かここだった筈だよね……

 ……ここが、()()の仕事先!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 

「ふあ~、やっぱり布団というものは最高だな。これを開発した人に会ってみたい」

 

 

 そう昼過ぎの自分の部屋で呟く。

 絶賛寝起きなんだけど気分がいい。昼過ぎまで寝るのなんて仕事がある日とかはありえないんだからな……いや、寝坊はあるからありえないことはないんだけど。

 

 今日おれはおじさんから休暇をもらっている。昨日の宴会でまだ酒が抜けていないから無理だろうというおじさんからのはからいだ。そのお陰で思う存分寝ることができたな。

 今から激しい運動をしても吐かないくらいはもう酒も抜けてる。寝る前に酒は飲んだけどな!

 

 

「起きて早々煩いですよ。折角静かに過ごしてたのに」

 

 

 と、すぐ近くの台に石を並べ、鑑賞していた翠がおれの言動を咎めてくる。

 翠、別にいいだろ。ここはおれの部屋だぞ。

 

 

「はあ、熊口さんは本当に幸せですよねぇ。昼過ぎまで寝て、そのうえ寝起きに目の前に美少女がいるだなんて」

 

「人の寝てる側で石を鑑賞する暗い女がいたら逆にびびるだろ」

 

 

 まあそんなことはどうでもいい。今日おれには予定があるんだ。

 この都を散策するという予定がな。前にもこの都には来たことがあるが、その時はまだ今のような大きくはなかった。おれがいったときは今の5分の1程度の大きさで発展途上だったからな。今はどんなふうに変化しているのかちょっと気になってたんだ。

 それに昨日不比等の屋敷から帰るとき、不比等からたんまりと御礼金を貰ったからな。そのお金で食べ歩きなんかもいい。

 休みをもらえたのなら逃す手はない。

 

 

 

「はあ……んじゃ、ちょっと顔を洗ってくるわ」

 

「はいはい、いってらっしゃい」

 

 

 ふふ、翠、おれはこのまま夜までこの部屋に帰るつもりはないぞ。

 翠を連れていったらあれ買えこれ買えって煩いからな。

 余計な出費は抑えるに越したことはない。

 

 

「っておい!? なんでおれの中に入ろうとしてんだよ!?」

 

 

 そう翠を置いてく作戦を企てつつ、襖を開けて出ようとしていたら、いつの間にか後ろにいた翠が背中からおれの中へと入ろうとしていた。もう翠の両手はおれの中へと入ってしまっている。

 

 

「別にいいじゃないですか、中に入るくらい」

 

「顔を洗いに行くだけですぐ戻ってくるんだぞ!? それだけなんだから態々中に入る必要ないだろ!」

 

「いえ、熊口さん、何か今日企んでるような雰囲気を出していたので、一応ついていきます。もしかしたらそのまま外出するかもしれませんしね」

 

「!? ……はぁ」

 

 

 おれはギクッ! ってなるのをぎりぎりで抑え込み、呆れたふうに溜め息をつく。

 くそ、なんでわかってんだよこいつ! なんでおれの雰囲気を感じ取れてんだ! まあ確かに何百年も一緒にいればわかるような気もするけど! 

 

 くっ……出鼻から予定が狂ってしまった。大抵おれの企みの出鼻を折ってくるのって翠なんだよな。もうこいつと縁切ってやろうかな……

 

 

「はあ、わかっ……『もう嫌! こんなの毎日毎日頭がおかしくなるわ!』……またか」

 

 

 今日もまた輝夜の駄々っ子が始まったか。

 

 

『やっぱり嫌ですよねぇ。休みの日もなく毎日毎日習い事ばっかり』

 

 

 そう翠の声が頭の中から響いてくる。

 くっ、こいつもう完全に入りやがったな。

 

 

「どうせまた少ししたら戻ってくだろ」

 

 

 習い事に関しては仕方ない。輝夜を高貴な姫君にするためには必要なことらしいからな。

 おれがいくら可哀想に思ってても輝夜のサボりに関与することはないってことだ。

 

 

 

 

 ……と数秒前は思ってました。

 

 

 

 何故かどんどんと走る音がこちらまで近づいてくる。逃げ回ってるのか? と、一瞬考えたが、その考えは外れ、その足音がおれの部屋の前まで来ると鳴り止み、そして障子が勢いよく開けられた。

 

 

「生斗! 匿って!」

 

「帰れ」

 

 

 そう言い放ってきたのは先程の怒鳴り声の主、輝夜。

 障子をそ~っと閉め、荒い息をたてながらおれの部屋へとずがずが入ってくる。

 

 

「お願い! このままじゃあいつが来ちゃう!」

 

 

 と、顔をおれの顔と目と鼻の先まで近づけてくる輝夜。

 くっ、顔を近づけて来るな! なんか恥ずかしいだろ!

 

 

『姫様! 姫! どこへいったのですか! 早くお戻りになってください!』

 

 

 女房の声が近付いてくる。輝夜を探しているんだろう。

 くっ、どうする? 輝夜が逃げ出したとき、いつも女房はおれの部屋に来て、姫様はいないか、と尋ねてくる。

 つまり、このままいくと女房はおれの部屋を見に来るということだ。

 輝夜を差し出すか、それとも匿うか。

 

 くっ…………ええい! 

 

 

「えっ……きゃ!?」

 

 

 やけになったおれは輝夜をすぐ近くにあった布団に押し倒した___

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「熊口様、姫様がここにきていませんか?」スゥ

 

「いや、知らないけど」

 

 

 案の定、部屋を見に来た女房に、机に肘をつけながらしらばっくれる。

 くっ、おれはなんて事をしてしまったんだ……

 

 

「あの……そこの布団が膨れているのですが。しかも黒髪が見えます。もしかして姫様では……」

 

「翠だ。昨日あいつ、夜更かししていたみたいで疲れてたからな。おれの布団で寝させているんだ」

 

「は、はあ……一度顔を拝見させてもらってもよろしいですか?」

 

 

 疑われてるな……よし、ここは軽めに脅すか。

 

 

「止めとけ、あいつは寝顔を見られるのが嫌らしいんだ。もしそれでも見るというのなら腕の一本や二本、折られる覚悟をしていた方がいいぞ」

 

『いや、嫌がるのは熊口さんにだけです』

 

「ひっ……し、失礼します」スゥ

 

 

 そう言って障子を閉める女房。

 ……ふぅ、なんとか騙せたか。

 

 

『まさか私を使って退くとは……熊口さん、後で覚悟してくださいね。勿論、腕の一本や二本折られる覚悟を』

 

 

 おっと、一難去ってまた一難ときたか。しかも避けられぬ運命ときた。よし、折られそうになったら日向に出て逃げてやろう。

 

 

「ありがとね、生斗。布団に押し倒しされたときは一瞬驚いたけど。まさか布団に身を隠させるためだったなんて」

 

「おれがお前を襲うわけないだろ」

 

『そうですね。熊口さん、ヘタレですから』

 

 

 結局おれは輝夜を匿うという選択をした。お陰で予定がどんどん狂っていく。

 

 

「んで、これからどうするんだ輝夜。いつまでもここに居座らせる訳にはいかんぞ」

 

「ん~、ちょっとだけ。もう少しだけここにいさせて」

 

「はあ……」

 

 

 出て行けっていっても結局出ていかなさそうだな。

 仕方ない、まだ時間はあるし居させてやるか。

 そういう意味でおれは溜め息を吐く。それを見て輝夜はにやけ、そのまままたおれの布団の中に潜り込む。

 

 

「おいおい、布団からは出ろよ。干すんだから」

 

「別にいいでしょ、1日ぐらい。……うわぁ、やっぱり生斗の匂いがする」

 

「そりゃそうだろ。さっきまでそこで寝てたんだから」

 

『可哀想に……きっと輝夜ちゃんは不快な気持ちを我慢して熊口さんの布団の中にいるんですね……!』

 

 

 なわけないだろ。そんな我慢する必要どこにあるってんだよ。

 

 

「な、なあ、別に無理しなくてもいいんだぞ。嫌だったら出ても……」

 

 

 何故か翠の言葉が引っ掛かったおれは、一応嫌なのかどうか輝夜に聞いてみる。

 

 

「いや? なんだか安心する匂いがするから嫌じゃないわ。前に一度嗅いだことがある気がするんだけど……」

 

「前に一度? おじさんか?」

 

「お爺様はお年寄り独特の匂いがするもの」

 

 

 お年寄り独特の……加齢臭か。どちらかというとおれの方が年寄りだから加齢臭出てそうなんだけど……まあ、輝夜の言う限りじゃおれから加齢臭は出ていないということだ。

 ……ていうか人から安心する匂いなんて言われたのは初めてだな。

 そうか? おれの匂いって安心するのか? 

 

 

『ちっとも安心しませんよ』

 

 

 いや、嘘だね。現に輝夜は安心するって言ってるしな!

 ていうか翠おれの心情読むんじゃねーよ馬鹿!

 

 

「ふ、ふーん、そうか。それなら思う存分いれば良い」

 

「思う存分? 思う存分って今いったわよね!」

 

「……あ」

 

「じゃあお言葉に甘えるわ。生斗の部屋の布団で思う存分寛ぐことにする」

 

「いや、今のは冗談だ。少ししたら習い事に戻れ。バレたらおれが叱られるんだからな」

 

 

 それに都散策の予定が……

 

 

『別にいいじゃないですか。バレなきゃいいんですよバレなきゃね』

 

 

 うるせー、お前は責任とられないからそんなことが言えるんだろ。ていうかなんで翠、未だにおれの中にいるんだよ。出ろよ!

 

 

「安心するといえば……」

 

「おい、話題を逸らしても……」

 

「生斗自身といるときも安心する」

 

「は?」

 

「いや、なんだかね。一度生斗と会ったことがあるような感覚がするの。この前が初対面だったはずのに」  

 

「おれはお前のような大和撫子の更に上をいった存在を見たことはないぞ」

 

「ほんと、何でだろう……もしかしたら前世で生斗のような人と会ったことがあるのかもね」

 

「前世、ねぇ」

 

 

 それなら可能性は無くもないな。人が死んで、記憶を消されてまた転生の輪に入り、新しい生命として転生する年月ぐらいは生きてるし。

 

 

 

と、前に得た情報を元に考察していたが、その考察するに至った輝夜の発言の前に言ったことを思いだし、その考察は一瞬にして忘れ去られた。

 

 …………そういえば今さっき、輝夜、おれといると安心するっていったか? 

 

    おれといると安心する?

 

    ()()()()()()()()()()

 

   『おれといると安心する』? 

 

 

 それってつまり、おれが()()()()()()()()()ってことなのか? おれって頼りになっちゃう?

 はっはー、だよなぁ。やっぱりおれって頼りになるんだよなぁ!

 

 

『うわ、熊口さんが調子に乗り出した』

 

 

「ははは、輝夜よ。実はおれ、これからこの都を見て回ろうしてたんだ」

 

「え、そうなの?」

 

『やっぱり、熊口さん私に黙ってそんなことをしようとしてたんですね』

 

「だからな。いっそのこと輝夜も都を見て回らないか? 輝夜お前、まだそんなに都見学したことなんてないんだろ?」

 

「え……いいの?」

 

「ああ勿論! この()()()()()熊さんがエスコートしてやる!」

 

 

 ははは、おれは何をいってんだろ……

 まあいっか。後の事は後から考えればいいんだし!

 

 

「んじゃ、おれは輝夜の顔がみえないようの蓑笠とかの準備してくるから、ちょっとそこでまってろよ」

 

「うん!」

 

 

 はぁ、そんな可愛らしく返事するなよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 ~廊下~

 

 

「はぁ、おれはなんて約束をしてしまったんだ」

 

『今頃ですか』

 

「ああ、今頃だ……なんでおれはあのとき調子に乗ってしまったんだろうか」

 

 

 輝夜を屋敷の外へ無断に連れ出そうなんて……こんなのおじさんに知られたらクビ不可避だろうなぁ……

 

 

「お、熊口殿! 丁度よかった」

 

「!?」ビクッ

 

 と、廊下の奥からおじさんの声が聞こえてきた。ふ、ふぅ、噂をすれば来ましたな。

 

 

「なんですかおじさ……ん?」

 

 

 おじさんを目に捉え、そのままおじさんに何の用か聞こうとすると、その後ろに人影があることに気づいた。

 

 

「おじさん、後ろにいるのは誰ですか?」

 

「ああ、あの子ですよ。昨日の宴にいた……」

 

「妹紅だよ! 1日ぶり! 生斗!」

 

「あ、妹紅か」

 

 

 と、おじさんの後ろから顔を出した紅い眼をした少女の妹紅。

 

 

『え、この子誰ですか? だいぶ熊口さんになついてるようですが……』

 

 

 翠、妹紅のことは後で教えるから少し黙っててくれ。

 

 

「なんで妹紅が?」

 

「どうやら一人で来たらしいんですよ。熊口殿に会いに行くために。いやはや、子供に好かれますな、熊口殿は」

 

「……も、妹紅、本当か?」

 

「うん、そうだよ。ここまで来るの頑張ったんだから!」

 

 

 よくあの道のりを一人で来れたな。見た目的にまだ小3ぐらいなのに。

 

 

「それでは、わしは失礼します」

 

「え、ちょ……」

 

 

 そう言っておじさんはふらふらと去っていく。……まだおじさんは酒が抜けきって無いのか。

 

 

「生斗! また生斗の武勇伝聞かせて!」

 

「えーっと……」

 

 

 まさかこのタイミングで妹紅が来るとは……どうする、輝夜と約束してしまったし、都の散策を取り止めにすることはできない。だからといって結構長い道のりを歩いてきた妹紅を放って置くのも人としてどうかと思う。

 

 どうしたものか。なにか、なにか良い案は…………は!!

 

 

「妹紅、今から一緒に都を散策しないか?」

 

「え?」

 

 

 いっそのこと、妹紅と輝夜と一緒に都を散策すれば良いじゃないか!

 

 

 

 

 

 




なんだか生斗君がモテモテな気が……

ま、まあとにかく! 次回はまさかの妹紅と輝夜が出会っちゃいます! 果たして、二人の関係はどんな感じになるのでしょう……


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⑬話 心を読まれるってなんか嫌だな

 

 

 ~街道~

 

 

 京の都、特に市場が密集している地域では、数えるのも面倒になる程の人が溢れかえっていた。

 

 

「いや~、やっぱ都というのもあっていろんな店があるな!」

 

「……」

 

「……」

 

 

 そんな人通りの多い街道で幾らか人通りの少ない通りを歩きながら、おれは無駄に大きな声を出して楽しんでいるように装っていた。

 

 

「どこかで飯でも食うか? なにか要望がそこにいくけど」

 

「……もう食べた」

 

「……食べてきた」

 

「お、おう、そうか……」

 

 

 しかしそんなおれの努力も虚しく、今の雰囲気は最悪だ。もしかしたら、端から見たら殺伐として見えるかもしれない。

 

 ……はあ、これはちょっと想定外だったな。

 

 

 ____あれは蓑笠を持って妹紅をともに輝夜のいる部屋へと戻った時の事だ。

 

 都を散策するという事で心を踊らせていた妹紅だったが、輝夜を見た瞬間、豹変した。

 部屋にいた輝夜を見て、まず妹紅は困惑し、おれに誰なのかを聞いてきた。

 それで話せる範囲での輝夜の事と、一緒に散策するもう一人だということを説明したら、何故か妹紅が眉間に皺を寄せ、輝夜に喧嘩を売りだした。急な出来事におれは驚き、頭の整理が追い付かない状況で、何故か輝夜は売られた喧嘩を買っていた。

 急遽行われる少女ファイト。脳が追いつかないおれ。荒れるおれの部屋。乱れる黒い髪。脳内で無駄に大きな声で観戦する翠の声。

 

 なんとか争いを止めさせ、その後騒ぎに駆けつけた女房に翠が急にご乱心になったと説明をして追い返し難を逃れたが、状況が最悪であることは変わりなかった。あと今日の散策が終わった後、翠に五体満足ではいられないほどぼこぼこにされるらしい。

 

 何故妹紅は輝夜に喧嘩を売ったのだろうか……そして輝夜もだ。喧嘩をするような奴ではないと思ってたんだが。

 

 

「ねえ、生斗」

 

 

 と、輝夜と妹紅が何故喧嘩したのかについて悩んでいると、輝夜がドテラの裾を掴んできた。

 

 

「お、なんだ。腹減ったのか? よし、要望はなんだ。高級料亭以外なら奢ってやるぞ」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

 

 そう言うと輝夜はちらちらとこちらを視線を此方に向けては外しを何度か繰り返す。

 そして数秒後、意を決したように輝夜は口を開いた。

 

 

「なんでそいつをおぶってるの?」

 

「あ?」

 

 

 そう言い放つと輝夜はおれにおぶられた妹紅を指差した。

 

 

「ふん、そんなの私が特別だからに決まってるでしょ」

 

「はあ? 頭おかしいんじゃないの。生斗は()の用心棒なの。私の方が特別に決まってるじゃない」

 

 

 自慢げにない胸をはる輝夜。

 おいおい、大声を出すな。他の人に迷惑だろ。

 

 

『なんでそんなにむきになってるでしょうねぇ、輝夜ちゃん』

 

 

 ふん、愚問だな。そんなのおれが魅力的で誰にも渡したくないからに決まってるだろ。

 ていうか翠、あのとき結局一度もおれの中から出てこなかったよな。

 

 

『いや、なんだか出にくい雰囲気だったので、つい』

 

 

 そしてナチュラルに読むな。

 

 いや、もうなにこいつ。もしかしておれと翠って以心伝心しちゃってるのか? 嫌だよそんなの。こいつとは絶対嫌。

 

 

『私も嫌です。反吐がでます』

 

 

 あーもう! 翠お前黙っとけ!

 

 

 

「うわ、ちょっ!?」

 

「退きなさいよ! 私だって歩き疲れてるんだから!」

 

「嫌だね! 私の方が歩いて疲れてるんだから絶対退かない!」

 

「引っ張ってんのは輝夜か! ちょ、危ないって?!」

 

 

 翠と以心伝心(謎)をしている合間に、輝夜が妹紅を引き剥がそうと後ろから引っ張っていた。

 輝夜、まだ歩いてからそんなに経ってないだろ……

 おれが妹紅をおぶってるのは、彼女が長い道のりを一人で歩いてきたから疲れていると思ったからだ。

 妹紅の年齢は見た目からして7~8歳程。人間であるからして見た目詐偽(例 諏訪子、紫)をしているってことはないだろう。

 そんな子が大人の歩幅で二時間近くかかる道を歩いてきたんだ。

 体力的にも考えて都の散策を歩いてこなすのは難しい。と、判断したのでおれは妹紅をおぶっているというわけだ。妹紅もおんぶされることに嫌がってる様子もなかったし大丈夫なはずだ。

 

 

「ヒソヒソ」

 

「ヒソヒソ」

 

「!!(ま、まずい。今この場で目立つ訳にはいかない!)」

 

 

 目立つと輝夜の素顔を露見させてしまうかもしれないし、犯罪に巻き込まれる可能性だって上がってくる。

 ここはなんとか策を練らなければ……

 

 

「退きなさい! 私が乗るの!」

 

「ふん! お前なんか地べたを這いずってろ!」

 

 

 妹紅、他人の事言えないが口悪いぞ……

 それにしても輝夜もおぶってもらいたいのか? いや、輝夜おまえ、見た目からして12~3歳ぐらいだろ。思春期真っ只中なのにおぶられるなんて普通嫌がるんじゃないか?

 

 んー、妹紅も退こうとしない訳だし、おれの背中も1つしか無いわけだし……

 あ、翠、お前の背中貸してやればいいんじゃないか?

 

 

 …………。

 

 

 

 読めよ! こういうときこそおれの心読めよ、おい!

 

 

『いや、なんだか面倒事頼んできそうな感じだったんで黙ってました』

 

 

 あ、読めてはいたんですね。質悪いな、こいつ……

 

 くそ、どうせ翠の事だから手伝ってはくれないだろう。聞くだけ無駄だ。

 

 

『正解です』

 

 

 ……なにか方法は……霊力を二人に纏わせて飛ばせるってのもありだけどそれじゃあ目立ちすぎるからな……

 

 

「なあ、お前ら。そんなにおぶられたいのか?」

 

「え? あ、いや、おぶられたいとかじゃなくてただ足が疲れたなぁ~、なんて……」

 

「私もただ足が疲れて動きたくなかったから退かなかっただけで……」

 

 

 そうぎこちなく返答する輝夜と妹紅。

 何故ぎこちなく答えたんだ? ……まあいい、取り敢えず二人ともつまりは疲れているってことだな。

 

 

「よし、じゃあそこの団子屋で休むか。腹拵えにもなるし」

 

「「えっ!?」」

 

『うわぁ』

 

 

 ん? 妙案だと思ったんだが二人の反応がいまいちだな。

 

 

「嫌なのか?」

 

「あ、いや別に」

 

「私はいいよ」

 

 

 んー、またしても微妙な反応……もしかして団子屋より服屋の方が良かったのか? でも服屋つっても着物ぐらいでお洒落もへったくれもないんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 ~装飾品店~

 

 

 

 腹を満たしてから改めて散策を再開した。今は装飾品を扱う露店で輝夜達が茶化しているのをぼーっと見ていた。

 ……いや、なんか疲れた。輝夜と妹紅を一緒にすべきではなかったのかもしれない。団子屋でも騒ぐし、そのおかげでおれの頭に串が2本生えたし。

 

 

 

「この髪飾り、安っぽくてあんたに合ってるよ」

 

「この手布、地味でみすぼらしい色がアナタにお似合いよ」

 

「……」

 

「……」

 

「「ねぇ生斗! これ、こいつに似合ってる?!」」

 

「ああ、どっちも似合ってるぞ……いでっ!?」

 

 

 そう言った瞬間、二人から同時に膝蹴りを食らった。なんだよ、率直な感想を言ったまでだってのに。

 

 

「なあ、もう他のところにいかないか? いつまでこの露店に留まってるつもりなんだ」

 

「だって生斗がなにか買ってくれるんでしょ? それならなるべく豪華かつ私に似合った物を選ばなきゃ……あ、あれは? あの一番奥にある髪飾り」

 

「ああ、ああいうのは貴公子様が買うようもんだ。買って欲しいのなら貴公子様と結婚するんだな」

 

「へへ、断られてやんの」

 

 

 妹紅、なんだか輝夜に対して辛辣なんだよなぁ。おれに対しては普通なのに。なんでそう突っ掛かるんだか。

 

 

「ねぇ、生斗が決めてよ。私に似合うの」

 

「あ、おれがか?」

 

 

 妹紅の態度に疑問に思っていると、その本人から自分へのプレゼントを決めて欲しいと催促された。

 んー、おれに女への贈り物を選べと言うのか。生まれてこの方、異性へプレゼントしたのは母親と、翠にぐらいだってのに。因みに翠には適当に石をやった。……ん? そういえばあいつが石を集めるようになったのっておれが石をやってからのような……やっちまったな、まさかあいつに変な趣味目覚めさせたのおれだったとは。

 

 そう翠に対して少々の罪悪感を感じつつ妹紅への贈り物を選んでいると____

 

 

「ん、なんだこれ……」

 

 

 他の品とは明らかに存在感が違う、タオル程の長さの布の織物に目を惹いた。白の生地に赤の線が引かれている。生地が薄い……これ、リボンか? なんでこんな所に……ここのところリボンをしている人なんて滅多に居なかったから、この時代には無いのかと思ってたが。

 いや、それよりもこの異様な気配だ。一見普通の織物のように見えるが、霊力で目を強化したら明らかに違うことが分かった。

 このリボン、僅かにだが何かしらの力が感じる。まるでこの前みた糸目陰陽師の御札のような___

 

 

「ん? 生斗、何ぼーっと見てるの? ……わー、この織物綺麗!」

 

「あ、妹紅!?」

 

 

 おれが妙なリボンについて考察していると、横から入ってきた妹紅がそのリボンを手に持ち、振り回し始めた。

 

 

「ねぇ生斗、これ買ってよ! 色も私好みだし気に入った!」

 

「紅白が好きなのか……ってそうじゃない!」

 

『いいじゃないですか別に。呪いの類いじゃないんだし』

 

 

 は? 翠お前何言って……

 

 

『私、忘れがちだと思いますが死霊なんですよ? これでも私、呪いについて結構詳しいんですから。あの織物についてるのは呪いではなく加護ですけど』

 

 

 加護ってあれか? おれのグラサンについている神の特典みたいなやつか? ていうか死霊だからって呪いについて詳しいというのはちょっと違う気もするんだが。

 

 

『熊口さんのグラサンについては本当に意味不明ですが、あの織物には作り主の加護がついてますね。もう1つの質問についてはのーこめんとという事でお願いします』

 

 

 ノーコメントね、はいはい。まさかだとは思うけどたまに身体が重くなったり一日中頭が痛くなったりとしたことがあったけど、実験でおれに呪いをかけてそれで呪いについての知識を得たとかではないよな?

 

 ……まあいい、呪い云々は置いといて今は加護についてだ。

 作り主の加護……糸縫い職人の加護がついてるってなんかぱっとしないな。

 

 

『加護はその製作者が相当な実力者であり、尚且つその物に強い想いが込められていなければまず付属されません。糸縫いといえどその織物を製作した方を馬鹿にはできませんよ。熊口さんじゃ永遠に物に加護なんて与えることは出来ないんですから』

 

 

 ……翠、言ってくれるじゃないか。今度試しに何か作って試してやる。もし加護がついたら翠、お日様の下でラジオ体操な。

 

 

「生斗、急に黙りこんでどうしたの? やっぱりこいつなんかに贈り物とかしたくないから?」

 

 

 と、心の中で翠の話を聞いていると輝夜が歩み寄ってきた。

 

 

「そんなわけないでしょ。あんたへの贈り物をどう買わないように仕向けるか考えてるに決まってるじゃん」

 

「はんっ、ガキが一丁前な口叩いてんじゃないわよ。冗談はその気色悪い眼の色だけにして」

 

「ああ? この私とやろうってんの? この箱入り小娘!」

 

 

 また始まったか。何回やれば気が済むんだこの二人。

 

 

「おい、店内で騒ぐな。後おれからしたらどっちも甘々の子供だからな」

 

 

 取り敢えず一旦この二人を落ち着かせないとな。さっきから店の人が鬼の形相で此方を見てるし。

 

 

「それじゃあ、生斗は買ってくれるの? これ」

 

 

 おれの意を汲んだのか妹紅が口喧嘩を止め、先程の疑問を再度ぶつけてくる。手には翠曰く加護つきの特殊リボンが携われており、上目使いでおれを見てくる。

 ……んぐっ、中々の破壊力だ。このままじゃ何かに目覚めそう____いや、おれはグラマーなお姉さんが大好きだ。危ない性癖に目覚めるわけがない。

 

 

「なあ妹紅、他のものにしないか____」

 

「お願い、私これがいいの」

 

 

 そう言って懇願するような表情をする妹紅。幼い容姿に潤んだ瞳が相俟って破壊力は絶大だ。大抵の人間ならばその可愛らしさに負け、思わず財布の紐を緩めてしまうだろう。それほどまでに今の妹紅の表情は愛しい。

 

 

 ____買ってやろうかな。

 

 

 ……っていやいや、ここは冷静に考えた上で決めなければならないだろう。一時の感情で決められることではない。

 加護がついているとはいえ、その加護がどんな効果があるのか分かったもんじゃない。もしかしたら敵意を持った者が近付いたら自動的に爆発したりとかするかもしれない。そんな不確定要素の含んだ曰く付きのリボンを贈り物としてあげるぐらいなら借金してでもこの店で一番高い装飾品を買ってやる。

 よし、そうだ。妹紅には悪いがここはガツンと買わないと言ってやろう。手持ちを全て無くす覚悟も出来た。よ、よしおれは言うぞ。この織物は買わないと____

 

 

「すいませーん、この織物1つ下さーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーー

 

 

 ~夜 生斗の部屋~

 

 

「いやはや、本当に熊口さんのロリコンっぷりには驚きました。わりと本気で引いてます」

 

「いや、違うんだ。つい御礼金を全部使ってしまったのは、あの二人のおねだりしてくる姿が可愛かったからではないんだ!」

 

 

 輝夜を一度屋敷に送り、その後妹紅を不比等の屋敷まで送ってまた引き返した後、おれは自分の甘さに頭を抱えていた。

 内容は今の翠との会話を察する事ができるだろう。

 

 妹紅のおねだりをつい承諾してしまい、曰く付きリボンを買ってしまったせいで、輝夜が妹紅に対抗。おれに簪をおねだりしてきた。その甘えてくる輝夜の姿に又もやおれは己の財布の紐を緩めてしまった。

 結果、それにまた対抗した妹紅がおねだり。またそれを輝夜が対抗。ありとあらゆる手でおれの財布を軽くさせにかかってきた。

 

 止め所はあったんだ。なのに何故だ。何故不比等からの御礼金を使い果たすまでおれはあいつらに貢いだんだ。

 まるでおれがあいつらの財布じゃないか。

 くそっ、まだ年端もいかない女子二人に鴨にされてしまうなんて! ……いや、おだてられて調子に乗ったおれが悪いんだけどさ。

 まあ、あいつら二人揃っての散策は二度としないと決意したよな。

 

 

「あ、そう言えば翠、お前に質問があるんだが」

 

「何故急に熊口さんの思ってることを的確に当てられるかですよね」

 

「それだよそれ。散策中はあまり気にしないようにしていたけど、よくよく考えると中々気持ち悪くないか?」

 

 

 何故こいつはおれの思ってることがわかるんだろうか。前まではたまにおれの思ってることを当てることはあったけど、今日のは異常だ。おれの思ってることをことごとく言い当ててきた。これはスルースキルが神がかってるおれからしても看過できない。特に翠から心を読まれるなんて最悪にもほどがある。まず口喧嘩で勝つことができなくなるし、事あるごとに悪口を挟まれてしまう。後やらしいこと考えられなくなる。

 

 

「なんでと言われてもですねぇ。熊口さんが今日起きてから自然と流れてくるんですよねぇ。熊口さんの感情が、不快にも」

 

「なにそれ気持ち悪い」

 

「まあ、一番有力な線は私があまりにも熊口さんとの一体期間が長いから心が同期し始めているって事ですかね」

 

「一体期間って、翠がおれの中に入っていく時のことか?」

 

「はい」

 

 

 一体期間が長いから心が同期し始めたって……いや、それは無いだろ。それならおれにも翠の心が読めるようになる筈だ。にも拘らずおれは翠の心を読むことは出来ない。

 大まかな感情は長年の付き合いで読めるが。

 

 

「なんででしょうねぇ」

 

「……おれはもうこれ以降、お前が心読むことにツッコまないからな」

 

「お勝手に。私も好きで心読めてるわけでは無いですし」

 

 

 はあ、もうこの件について考えるのは止めよう。悩ませるだけ無駄だ。

 

 ……それにしても今日は散々な日だったな。二人は喧嘩するし金使い果たすし歩き疲れたし翠はおれの心読むようになるし____

  ()()()()()()()()()()

 

 妙に濃い一日だな。ていうか最近疲れることが多い。変態やゴリラ2号、そして陰陽師と戦ったりと無駄に戦闘が多いし。

 妖怪の山と張るレベルだぞ、この週内戦闘回数の多さは。

 

 ああもう止めよう。考えるだけで疲れてきた。今日はさっさと寝よう。飯も妹紅を送り届けた帰りに食べたし。

 

 

「あ、熊口さん。寝る前にやりたいことがあるのでまだ寝ないで下さい。ていうか寝かせません」

 

「はあ? なんでだよ」

 

 

 もう布団も敷いてるし、歯も磨いたし身体も拭いた。寝る準備は万端なんだが。

 

 

「さて、ここで問題です。私がやりたいこととは果たしてどんなことでしょう?」

 

「迷惑極まりない深夜お喋りか?」

 

「いいえ、違います」

 

 

 そうおれの発言を否定をすると翠は此方に向かって歩いてきた。

 そのまま座っているおれの前へ来た翠はおれを見下ろし、肩に手をあててきた。

 

 

「おい、なんだよ」

 

「実は熊口さんが妹紅ちゃんを送りに出ていった後にですね。何人かの侍女の人達と会ったんですよ」

 

 

 侍女に会った? そりゃあこの屋敷には十数人もいるんだから会う確率は高いだろう。

 

 

「だからどうしたんだ。まさかその侍女からおれのことが好きって伝えてくれとでも言われたか?」

 

「自惚れもここまで来ると呆れてきますね。殴りますよ?」

 

「冗談に決まってるだろ」

 

 

 ___これはマズい。

 長年の付き合いだから分かる。翠は今、怒っている。こいつはいつも怒りの感情を表に出さないからな。出すときは大抵、今のようにおれの身体の何処かに手を置いてくるか口数が少なくなる。今回は前者のパターンか。

 

 まあ、つまりはおれが何が言いたいのかというと____

 

 

 ___今すぐこの場から離れろってことだ。

 

 

「あ、話すのちょっと待ってくれないか? 厠に行ってくる」

 

 

 ここは自然に、逃げようとしていることを悟らせないようにこの場から抜け出そう。

 なに、おれぐらいになれば人一人欺くことなんて赤子の手を捻るように簡単な事だ。

 一応女である翠はおれの厠についてくることはないし、これまでの経験上でもついてこられた経験はない。それに乗じて他の部屋で寝ればいい。

 

 ふふ、なんて機転の利く嘘をつけるんだおれは。一瞬にしてこんな法螺を吹く己が恐ろしいな。

 

 

「いや、さっき行ったばかりでしょう。『トイレは寝る前に済ませとかないとな!』と無駄にキメ顔して」

 

「……」

 

 

 うっ、なんて馬鹿な嘘をついたんだおれは。一瞬にしてバレる法螺を吹く己がある意味恐ろしいな。

 

 

「なんで今、嘘をついたんですか? いや、お見通しなんですけどね。熊口さんの考えることなんて」

 

「ほ、ほう言ってくれるじゃないか。それじゃあ今、おれが考えていること当ててみろよ」

 

「はい、今のように話題を切り換えてなんとか私に話をさせないようにしようとしてますね。ほんと、魂胆が浅はか過ぎる」

 

「うぐっ……」

 

 

 

 おれのお得意の話題変換まで読まれるとは……これで数多の面倒事を後回しにしてきたっていうのに!

 

 あ、よくよく思えばよく使ってるのならそりゃ読まれるな。

 

 

「はあ、もう面倒なんで行動から始めさせてもらいます」

 

 

 そう言い放つと、翠はおれの手首を掴み、

 

「あ、ちょっ……あがががっ!!?」

 

 思いっきり握りしめてきた。

 その握り締められた手首からめきめきと軋む音が聞こえ、今にもおれの腕と手の関節が外れようとしていた。

 

 

「ちょ、ちょっ、やめろぉぉ! 外れる! 手首外れるから! おれの手が着脱可能になっててまう!」

 

 

 翠の握力……というより純粋な力勝負ではおれでは太刀打ちできない程翠は強い。腕相撲や競走で翠に勝った試しがない程だ。スペックは鬼並み。そんな奴から手首の関節外されそうになってる。

 今すぐにでも対処しなければ! 

 と、おれが抜け出そうとする構えを取ろうとすると____

 

 

「そんな冗談が言えるのならまだ行けますね」

 

「いだだだだだだ!!?!?」

 

 

 力に任せて翠はおれを押し倒し、腕挫十字固めを極めてきた。勿論手首は強く握られたまま。

 

 

「ギブっ!ギブだって!」

 

「駄目です」

 

 

 いかん、着々とおれの腕の関節が逆に曲がっていく感覚がわかる!

 ていうかなんでこんなことされなきゃいけないんだよ!? おれなんかやったか?!?

 

 

 

「やりましたよ! さっきの話の続きですが、侍女の方々と何人かと会ったんですよ!」グググ

 

「は、話すなら少し緩めて!?」

 

「嫌です。それでですね、その侍女達からどんな反応を取られたと思います?!」ググググ

 

「知らん! 緩めろ!!」

 

「悲鳴を上げられて皆逃げだしたんですよ! 熊口さんが今朝流したデマでね!」グググググ

 

 

 その事か! 完全に忘れてた! 

 

 

「ま、待て翠! その事は謝る! 明日女房におれから言っておくから取り敢えず関節極めるの止めてくれ!」

 

「問答無用!」ググググググ

 

「がああああ!!?」

 

 

 お、折れる! 折れる! 折角この前足が治ったばかりなのに次は右腕が折れるのか!? どんだけ自分の骨折られるのが好きなんだおれは!

 

 

「どうしたのですか熊口様! ……んなっ!?」

 

 

 と、腕を折られることを半ば覚悟していたおれに天の声が聞こえてきた。

 今、おれの部屋の戸を勢いよく開けてきたのは女房だ。どうやらおれの叫び声を聞き付けて駆けつけてくれたらしい。

 

 

「女房さん、これが翠です」

 

「!?」

 

「やはり熊口様が言っておられたことは正しかったのですね……」

 

「ちょ、違いますよ!?」

 

「し、失礼します!」

 

 

 そう言ってばたんと戸を閉めて出ていく女房。あの噂好きの女房の事だ。瞬く間に侍女達の耳に届くことだろう。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 乱入者により、翠は呆然としたまま閉められた戸を眺め続けていた。

 そのお陰でおれは緩まった十字から脱け出し、極められていた腕を曲げ伸ばしし、動くかどうか確認する。

 

 

「なぁ、翠」

 

「……はい」

 

 

 そしておれは半ば放心状態の翠の肩に手を置き___

 

 

「ざまぁ!」

 

 

 全力で煽った。

 

 

 この数秒後におれの部屋で大乱闘が起こることになったのは言うまでもない。

 

 いやぁ、久しぶりに翠に一矢報えた気がするな!

 

 



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⑭話 二度とあの空間の中には入りたくない

 

 

「……起きた直後に見る光景じゃないな」

 

「素敵な場所でしょ?」

 

「悪趣味過ぎて吐きそう」

 

 

 安眠していたところに、身体を揺すられている感覚がしたので物凄いだるい感覚に襲われながらもなんとか目を開けてみると、そこには真っ暗な空間に無数の目玉が浮いているというくそ気味悪い空間が広がっていた。

 ……確かおれの覚えている限りでは、気を失うまで自分の部屋にいた筈だ。翠に顔面を思いっきり殴られてから記憶がない、ていうか気を失ったから本当に自分の部屋にいたかは定かではないが、少なくてもこんな空間に自主的に行ったということは決してないだろう。

 誰がやったのかは分かっている。昨日、おれが妹紅を送り届けた後に街道をぶらぶらしているときに偶然再会し、おれと同じように別空間を作り出すことができる人物がこの拉致の犯人だ。

 

 

「なんでおれなんか拉致ってんの? 紫」

 

 

 そう、その犯人というのはおれの目の前で屈んでいる紫だ。この気色悪い空間は前に一度見たことがあるから一目で分かった。

 

 

「言ったでしょう。明日貴方の所へ行くと」

 

「これの何処が来てるってんだ。思いっきりただの誘拐じゃねーか」

 

 

 そう言っておれは胴体を起き上がらせる。

 ったく、何がしたくて紫はおれをこんな空間に連れ込んだのだろうか。意味もなくただ連れてきたのならたぶん拳骨食らわせる。寝起きに気色悪いもんみせられたんだ。それぐらいの報いは当然だろう。

 

 

「ま、私が貴方を態々この空間に連れ込んだのには勿論のこと訳があるわ」

 

「おお、それは是非とも聞きたい」

 

「……何故握り拳を作ったのかは不明だけれど____実は熊口生斗、貴方に折り入って頼み事をしたいの」

 

「拒否していい?」

 

「聞く前からそれは酷いわよ」

 

 

 そうか、そうだよな。

 紫。紫からの相談かぁ。まだ付き合いも浅いってのに……なに、そこまでおれの事信頼してるってこと? いやまあおれって超便りになるしめちゃくちゃ性格も良いしグラサン似合ってるし? 信頼するなってのも無理な話だけどさ。流石に2、3回しか会ったことのない奴のことを信頼するってのは止めた方がいいぞ?

 

 

「なににやけてるの?」

 

「い、いやなんでもない」

 

 

 まさか褒められてもないのにあの顔をしていたようだ。紫が若干おれから離れたからわかる。妄想も大概にしておかないとな。

 

 

「話を戻してもいいかしら?」

 

「聞くだけなら」

 

 

 まあ聞く分ならいいだろう。聞くだけならな。少しでもおれの損するような事ならばお断りすればいい。

 

 

「貴方の今住んでる屋敷に住まわせてほしいの」

 

「おじさんに聞け、おれに言うな」

 

「貴方に取り持ってもらいたいの」

 

 

 おれに仲介しろっていうことか。

 

 

「なんでだ。お前におれん所に住みたいという理由を聞かせろ。もしかしておれと同棲したいとか?」

 

「そんなわけないじゃない。昨日言ったでしょう。人間というものをよく知るために、色々と研究してると。それならば身近に観察できた方がいいじゃない」

 

 

 あー、昨日なんかそんなこと言ってたな。

 おれと紫は昨日、偶然再会し、ちょっとだけ話をした。その話というのが今紫がいった人間観察だ。どうやらおれと出会って以来、人間というものに興味が出たらしい。おれと別れてからはいろんな都や村に能力を駆使して人間に化けたり不法侵入したり盗撮したりして人間について勉強してるのだとか。

 

 

「おれのとこである必要は?」

 

「少しあるわ。貴方のいる屋敷ならば合法で人間観察が出来るし、なにより貴方がいる」

 

「ん? やっぱりおれと同棲したいってことか?」

 

「殴るわよ。貴方のような人間として異質な存在と比較出来るということよ」

 

「殴っていいか?」

 

 

 確かに少しは異質かもしれないが対照実験みたいなのにおれを使うんじゃない! そもそもおれの思考はそこらの一般人とそう変わらないからな!

 

 

「それで、私の頼み事、了承してくれるかしら?」 

 

「ん? 無理に決まってるだろ」

 

「……そう」

 

 

 少し見ないうちに口調も変わって大人びた雰囲気をかもちだすようになったとしても、こんな事に頭が回らないなんて紫もまだまだだな。

 

 

「なんであの屋敷の用心棒であるおれが妖怪という危険因子を態々紹介しなければいけないんだ。もしお前がおれの雇い主であるおじさんやその身内をに傷つけたりでもしたらおれにまで被害がくるんだぞ」

 

「そんなこと百も承知よ。それを踏まえて頼んでるの」

 

 

 そう言って口に手を当てふふ、と笑う紫。

 

 

「私は貴方のこと、結構高く評価してるのよ。だから()()()頼み事と言ったの」

 

「もし他のやつになら何て言うんだ?」

 

「貴方なら解る筈よ」

 

 

 いや、まあ今解ったけども。今の紫の言い草のおかげでな。

 今の紫の言い回しからして、おれへの『頼み事』はそれ以外の者にとっては『命令』ということになるんだろう。

 やけに上からだが、それを指摘できないのもまた事実。紫の実力は知らないが妖力だけで言えば大妖怪クラス、前はこいつが馬鹿だったから勝てたが、知識をつけた今の紫には正直勝てるかどうかわからないーーたった2ヶ月ちょっとの間で変わりすぎな気もするが……

 ___話を戻すが、紫がおれに対して『頼み』と言った理由は、あいつがおれと友好的でありたいという表れなんだろう。確かに友人に対して『命令』なんか言う奴はそうはいないだろう。

 しかし、この場合だと意味合い的には頼み=命令となっていることは変わりない。

 何故なら、今のおれは紫に人質をとられている状態だからだ。

 おれが寝ている間に誘拐してきたのも、この事を気付かせる意味が大きいだろう。おれもそれで気付いたし。

 

『私なら何時でも貴方の雇い主を殺すことが出来る』

 

 おれの思い込みの可能性もあるが、最悪を想定しておいた方が万が一の時に備えることができる。

 紫が何故さっきから余裕の表情を見せている理由が分かったな。おれに断るという余地はない。

 おれの仮定が正しければな。

 

 

「さて、今の件を踏まえてもう一度聞くけど____私を貴方のいる屋敷に住まわせてくれないかしら? 勿論、ただとは言わないわ」

 

「……なあ、なんでそこまで人間に興味持ったんだ? 初めておれと会ったときなんか『人間嘘つき! 食ってやる!』って毛嫌いしてたくせに」

 

「……前にも言ったでしょう。私が人間に興味を持ったのは貴方に起因してるの。

 これまで全ての者に忌み嫌われた私に物怖じしないおかしな者を見つけたら興味も湧くものでしょ」

 

「おれ以外でも紫に対して物怖じしないやつなんて巨万と知ってるんだが」

 

「そんなことは今はどうでもいいの。私が最初に興味を持ったのは人間という種類よ。僅かな時しか生きられぬというのに貴方のような超人的な力を持てるということに心惹かれたもの」

 

 

 ……おれ、何百年と生きてるんだけど。その末に手に入れた力なんですけど。

 

 

「力を持つことに心惹かれるなんて、少し危ないな」

 

「まあそれはきっかけに過ぎないわ。それから色々調べるうちに力以外の人間の魅力に気付かされたの」

 

「ふーん、是非ともその魅力について教えてほしいね」

 

「言葉だけでは言い尽くせないほどいっぱい。それに比例して悪いところもあるのだけどね」

 

「まあ、良いところだけしかない奴なんてこの世に一人としていないだろうけどな」

 

 

 それに人それぞれ個性がある。悪いところ良いところがあるからこそ個性というものが出てくるんだ。

 

 

「さて、質問にも答えてあげたのだからいい加減貴方も応えてくれてもいいんじゃない?」

 

「んー……」

 

 

 面倒、やりたくない。というのがおれの本音。しかし話を聞く限りでは別に危害を加える心配はないように見える。

 これでもおれは人を見る目はある方だ。相手の人柄や強さなんて少し見れば分かる。他にも心情も相手の微妙な声や表情、仕草なんかでも読み取ることが出来る。

 それもこれも無駄に長生きしているが上に手に入れたものだ。

 そんなおれからしても紫が今まで発言したものはほぼ全て本心だ。どれも違和感のある仕草や声音の変化もなかったからな。

 これで間違えてたらただおれが恥ずかしい奴になるが今回に対しては多分合っている。

 なんてったって紫がおれと話しているとき、一度としておれから目を逸らさなかった。

 全然違和感を見せないから此方から出させようと紫の顔をずっと見ていたが、逆に彼方もずっと見てきたから、おれの方が恥ずかしくなって少し顔を赤くしてしまうほどにな。

 

 

「皆に危害を加えるようなことはしないよな」

 

「それをして私に利益が発生するような事は微塵もないと思うのだけれど」

 

「まあそうだけども。でも確認しておかないだろ」

 

「ということは?」

 

「……はあ、本当は了承なんてしたくないんだけどな。おれに面倒事を持ってこないという約束なら取り持ってやらんでもない」

 

「___そう」

 

 

 紫は平静を装おうとしているようだが、おれが了承すると口の端がぴくぴくと動いてるのがわかる。嬉しいなら嬉しいと素直に喜べばいいのに。ちょっと見ないうちに大分面倒な性格になったな、こいつ。

 

 

「はあ、目覚めた早々気色悪いもん見せられた挙句、妖怪を屋敷に住まわせる手引きもしなきゃいけないなんて……それだけでも今日が厄日だと確信できるな」

 

「吉日かもしれないわよ?」

 

「それだけは決してない」

 

 

 ま、おれに被害がでないのなら別にいいか。とりあえずこの精神的に病みそうな空間からは一刻も早くおさらばしたいかな。

 

 

 

 



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⑮話 フラグでないことを祈る

 

 

 紫がおじさんの屋敷に来てから一週間が過ぎた今日この頃。

 心地好い微風が髪を揺らし、眠るには最適な温度の中、おれは昼間に現れた睡魔と戦いつつ輝夜が習い事をしている部屋の前で胡座をかいていた。

 

 

「……」

 

 

 あ、駄目だ。睡魔強すぎる。後数秒もすればおれの意識は睡魔によって刈り取られるだろう。

 くっ、寝ているのがおじさんに見つかったらまたお叱りを受けてしまう。今週でもう5回も怒られてるんだ。これ以上おじさんを刺激してしまったらあの人の寿命が縮むかもしれない。

 

 

「……」

 

 

 しかし睡魔はおれの意思とは無関係に襲いかかってくる。

 強い……強すぎる! これまで幾度となく超人や妖怪と渡り合ってきた。しかしその中でも睡魔は別格だ。おれの弱味をつけこみ、着実に戦闘不能に追い込んでくる。対抗する手段は己の精神力のみ。しかしおれは睡眠がとてつもなく好きだ。抗うことなんて皆無、つまり抗う手段等ない。

 これ程の相手に勝つ手段なんてあるのだろうか? 否、無理。

 ということで寝ます。おじさんごめんなさい。出来れば見つからないように祈りながら寝ます。

 

 

「邪魔よ」

 

「あだっ!?」

 

 

 睡魔に屈服し、意識を手放しかけたところで誰かに肩を蹴られ、意識が覚醒する。

 くっ、睡魔は消えたけど倒れたときに肘打った所が地味に痛い!

 

 

「掃除中なんだがら廊下で寝ないでちょうだい」

 

「だからって蹴ることないだろ、紫。蹴り返すぞ」

 

 

 薄紅色の着物と頭巾に身を包み、腕捲りをして裾を汚さないようにした姿の紫が、今おれを蹴った犯人だろう。周りに誰もいないし、おれの発言に対して否定してないからな。

 はあ、折角おれが取り持って侍女にしてあげたのにこの仕打ち。怒ってもいいかな? おじさんから色々問い詰められて大変だったんだぞ。何処の出の者なのかとかおれとの関係性はとか役に立つのかとか。まあ、そこのところは百姓出でおれのかっこよさに惚れてついてきた健気な幼女だと言って言いくるめたから大丈夫だったけどなーーそのあと紫にぼこぼこにされたのは言うまでもない。

 

 

 

「この屋敷、中々広いから苦労してるの。そこで寝るぐらいなら手伝いなさいよ。翠は手伝ってくれてるわよ」

 

「おれ、用心棒。ここで用心してる。OK?」

 

「貴方と翠でワンセットな節があるのに」

 

「翠とおれを一緒の括りにするな」

 

 

 ほんと、あいつと一緒にいないときぐらい忘れさせてくれ。最近ではおれの心を読めるようになってますます毒舌に磨きがかかってきたからな。紫を連れてきたときなんかは特に酷く、幼女誘拐だーとかロリコン変態塵とか、ここぞとばかりに罵ってきた。おれは女に罵られて興奮を覚えるような変態ではないからただただストレスが溜まった。

 

 

「はあ、誰か私のお掃除を手伝ってくれる美男子はいないかしら」

 

「大丈夫、おれ美男子()()()()から手伝わない」

 

「ではない、と強調したのは何故かしら?」

 

「ん~、男前っていう意味?」

 

「失笑すらおきない冗談ね。奈落の底に落ちればいいのに」

 

「おい紫、まさかお前、翠に感化されてるんじゃないだろうな!?」

 

 

 さあ、といった表情で首を傾げる紫。くっ、今の環境は精神的につらい! 何か……何か癒しが欲しい……妹紅! 妹紅よ来ておくれ! おれの傷ついた精神をどうか癒してくれ!

 

 

「すいません、お稽古中なので外で騒がないで下さいませんか?」

 

 

 おれらの目の前の戸を開け、注意してきたのは輝夜のお世話係の女房だ。どうやら習い事の邪魔をしてしまっていたらしい。部屋の奥の方にいる輝夜は羨ましそうな目で此方を見ているけど。

 

 

「すいません、全て紫の責任です」

 

「即座に責任転嫁をするなんて器が知れるわよ」

 

「全然転嫁してないだろ! そもそも紫がおれを蹴り飛ばしたのが___」

 

「はあ……騒ぐのなら他所でやってください。迷惑ですので」

 

 

 そう言って女房は戸を閉めた。十中八九面倒がられたな。確かに今の流れだと口論になって長引きそうだったから、今の女房の行動は正しい。ただ、話を言いかけてた此方としてはなんだかもやもやした気分になる。

 

 

「あーあ、紫のせいで叱られた」

 

「いい大人が説教されるなんてね」

 

「お前が来なければ怒られなかった」

 

「ふふ、言い訳なんて見苦しいわよ」

 

「ほう、紫はそんなにおれにキレられたいか? いいのか? 温厚で名の通ってる熊さんがキレちゃうぞ?」

 

「また怒られたいのならどうぞ」

 

「んぐっ」

 

 

 確かにここで騒いだらまた女房に怒られる。それをわかってて煽ってきてるのならおれは紫の頭に拳骨を食らわせる。

 

 

「ちっ、さっさと掃除してこい。おれだって仕事中なんだから手伝い頼みたいなら他当たれ」

 

「職務中に居眠りしていたのに?」

 

「……あれは精神統一していただけだ」

 

「何度も首がこくこくと落ちかけてたけど」

 

 

 さすがにこの嘘は通じないか……

 

 

「ああもう、散れ散れ。見習いの下っぱがここでサボってたら先輩に叱られるぞ」

 

「そうね、こんなところで油を売ってる暇なんてなかったわ」

 

 

 そう言って床拭きを再開して去っていく紫。

 何だろうな。あいつが雑巾がけしてる姿に妙な違和感を感じる。見た目は完全に小学生が掃除しているだけなのに。

 

 

「熊口さん、結局紫ちゃんの手伝い断ったんですね」

 

「ちっ、翠か」

 

 

 後ろから突如声が聞こえたので少々驚きながらも、平然を装い後ろを振り返ると、日陰に身を潜めながら歩いてくる翠の姿が目に映った。

 

 

「舌打ちされる覚えはありませんが」

 

「覚えありまくりだろ。思い出せ、これまでのおれに対する無礼の数々を」

 

「はて、私がこれまで熊口さんになにか無礼をしたことなんてありましたか?」

 

「無礼の塊がなに言ってんだ!」

 

 

 悪口、暴力、騒音、読心。今ぱっと考えてみただけでもこれだけ出たぞ! しかもそれをする相手はおれ限定というところが尚更質が悪い。

 

 

「翠、お前な。記憶力が壊滅的に悪いのは分かったが、せめて他人にしてきた迷惑は覚えとけよ。恨み買われるぞ」

 

「大丈夫です。恨まれるようなことは熊口さんにしかしてませんから!」

 

「覚えてるじゃねーか!!」

 

「あの!! 他所にいってもらいませんか!!」

 

 

 ドンッ! と戸を思いっきり開け、怒鳴り声を上げる女房。

 その顔は真っ赤に染まり、まるで鬼の形相をしていた。

 いかん、物凄くキレてる。

 

 

「すいません……」

 

「謝罪は結構です! 此方まで騒音が聞こえないところまで行ってください!」

 

「は、はい」

 

 

 こんなに怒られるなんて意外だ。それほどまで煩かったってことなのか?

 ま、まあ取り敢えず一刻も早くここから抜け出さなければ。こういうのは素直に聞いておいた方が無駄な争いにならないで済む。

 

 

「ぷぷ、熊口さんどんまい!」

 

「貴女もです!」

 

「あ、はい」

 

 

 くく、翠のやつも叱れてやんの。

 そんなことを思いつつおれは渋々輝夜の習い部屋を後にした。

 ……確実におれ一人だったら怒られなかったよな? 仏像の如く黙ってたよな?

 なんだか納得がいかない。あの二人にしてやられた気分だ。

 

 ーーなお、後日翠と紫がこそこそとおれの邪魔をする同盟を組んでいたことが発覚したため、アイアンクローをお見舞いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 ~庭園~

 

 

「紫! 今日はお姉さんである私が貴女に色々なことを教えて上げるわ!」

 

「私と知識で勝負しようということ? 望むところよ。泣きべそかかせてあげるわ」

 

 

 とある日の昼間、おれは紫と輝夜が庭にて何かをしていたので柱の角に隠れて見守っていた。

 二人が絡んでる所なんて初めてみたから興味本位で覗いて見たが、どうやら輝夜はお姉さん面したいがために紫に自分の知識がどれぐらいあるのかを自慢しようとしているようだ。……確かに背丈的には確かに輝夜の方が上だが、紫はああ見えても50年以上生きてるらしいぞ。

 まあ、あいつが妖怪だということは伏せてるし、そんなことを言ってもただの戯言に取られるだろうけど。

 

 

「ほら、この花。紫分かる?」

 

「フヂナでしょ。これくらい常識でしょ」

 

「や、やるわね。彼処の池にいる魚は___」

 

「鯉」

 

「えっと、じゃああれは___」

 

「釣殿」

 

「んーと、あれ___」

 

「反橋」

 

 

 思った以上に紫の知識量凄いな。おれ、あの造りの亭の名前が釣殿っていう名前だったなんて全然知らなかったんだけど。

 

 

『幼児以下の底脳ですからね、熊口さんは』

 

 

 なんだよ、翠。お前はあれが釣殿だったり、反橋だったりとか分かってたのかよ。

 

 

『………………当たり前じゃないですか。私をなめないで下さい』

 

 

 おい、今の間はなんだ? 是非とも説明してもらいたいな。

 

 

「くぅ、中々やるわね」

 

「じゃあ次は私の番ね」

 

 

 そんな会話(念話?)を翠としているうちに問題の攻守が交代していた。うん、今のところ輝夜は全然お姉さんぶれていないな。全部紫に答えられてしまってる。

 

 

「あの反橋と反橋の間の___」

 

「中島……よね?」

 

「ふぅん、よくわかったわね。それじゃああの石で出来た柱のようなものは?」

 

「ん~……あ、石灯籠!」

 

「あの木は?」

 

「梅!」

 

 

 おお、輝夜もちゃんと答えられてる。おれ、今のところ二人の問題総合して鯉と梅しか分からなかったんだけど。

 

 

『私はそれに加えて石灯籠も解りました』

 

 

 つまりは3問しか答えられなかったって事だろ。

 ていうか庭だけでもこんなに多くの名称があることに驚きなんだけど。これが建造物に移ったらもっとありそうだな。頭がパンクしそう。

 

 

「ふふ、どうやら貴女を甘く見ていたようね」

 

「私も。ただの金髪の変な子だと思ってたわ」

 

 

 そう言って握手し合う二人。知識勝負で友情が芽生えたような瞬間を目の当たりにした。

 

 

「でも次はもっと難しいわよ。名称だけでなく説明までしてもらうのだから」

 

「ふふ、名称だけ覚えるなんて馬鹿のすることよ。ちゃんと作られた意義なんかも調べてるんだから」

 

 

 

「……」

 

 

 馬鹿……馬鹿、ねぇ。遠い昔、おれが訓練生だった頃、筆記テストの時いつも前日に名称だけ暗記していた記憶蘇ってきたんだけど。その時の筆記の内容なんて1つとして覚えてないのは言うまでもない。

 

 

「くっ……!!」

 

「熊口殿、何をしているのですか」

 

「子供に知識だけでなく勉学に対する姿勢までも負けたことに絶望しているだけです」

 

 

 おれがあの二人に負けた悔しさに膝と手を床につけていると、いつの間にか後ろにいたおじさんが話しかけてきた。

 何だろうな。最近皆おれの背後をとるのが流行しているのだろうか。まさか何の力も持たないおじさんにすら背後をとられるとは……さすがに警戒のしなさすぎなのかもしれない。これからはもう少し緊張感を持って行動することにしよう、と思う。うん、思うだけ。どうせやろうとしても明日になったら面倒になって止める。三日坊主にすらならない。

 

 

『三日すら持たないなんて。ほんとに熊口さんは___』

 

 

 あーあー、煩い煩い。おれは今おじさんの対応に忙しいの。

 

 

「はあ、そうですか。別に気にすることでもないと思いますが。熊口殿は熊口殿の良いところがあるのですから」

 

「お、おじさん……!」

 

 

 おそらくおれが落ち込んでるので励ましてくれようとして出たであろう即興の言葉。その何気ない言葉であれ、おれの心には奥深くまで染み込んでいった。

 

 

「おじさん、おれ____」

 

「それはともかく熊口殿。少し話があるのですが」

 

「え? あ、はい。なんですか」

 

 

 打って変わって感情のないような無機質な声をするおじさん。隠そうとしているのだろうか顔は無表情を装っているが眉がぴくぴくと痙攣している。

 え、あれ? おれ、おじさんを怒らせるようなことしたか? 思い当たる所がありすぎて霧がないんだけど。

 

 

「ここで話すようなものではないので、ひとまずわしの部屋に行きましょう。妻も呼んであります」

 

「は、はい」

 

 

 おじさん、いつになく真剣かつ恐い顔をしていらっしゃる。ここまでおじさんが真面目な表情をしているのは初めてだ。本気で不味いことをしてしまったということなのだろうか……

 

 

「あー! 蟋蟀よ蟋蟀! 久々に見たわ!」

 

「あらほんと……近くで見ると中々凄いわね。特に腹部分が」

 

「そう? 虫なんてどれもこんなものよ」

 

 

 彼方は知識対決からコオロギ観賞に変わってるし。精神年齢が子供なのか大人なのかよくわからない二人だな。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 他の部屋とあまり大差のない広さの家主であるおじさんの部屋へと入ると、中にはおじさんの妻、おばさんとその目の前に置かれている十を越える書状の山が部屋の中心を陣取っていた。

 

 

「そこへお座り下さい」

 

「……はい」

 

 

 おじさんに指示され、おれはおばさんと書状の対面に腰を下ろす。それを見たおじさんはおばさんの隣に座った。

 なんだ、本当になんなんだ。何故こうもしんみりしているんだ? ていうか書状の山がある意味が分からない。なんだ、恋文か? 噂を聞き付けた女達がおれに恋文を大量に送りつけたのか? ん、それなら納得がいくぞ。おれは不比等の屋敷で実力を見せつけてる。あの貴公子の家で、しかも沢山の見物人がいたんだぞ。噂にならない訳がない。その噂があらゆる女の子達の耳に届き、是非ともお付き合いしたいということでここに持ってきたんだろう。それならおじさんが怒ってる理由も、雇われ者なのに何故娘よりお前の方がモテてるんだという嫉妬ということにすれば合点がいく。

 いつもの冗談の筈だったのに……こんなことってあるもんなんだな。

 

 

『ないです。絶対ない。文が届いたとしてもそれはおそらく果たし状でしょう』

 

 

 おやおや、翠さんも嫉妬ですか。ははは、モテ男は辛いな~。

 

 

『っ! とてつもなく腹が立ちました』

 

 

 おれとしては爽快でしかない。

 

 

「さて、何から話しますかな」

 

 

 心の中で翠を煽っていると、おじさんが困ったように白い髭の生えた顎を擦る。

 

 

「まずは熊口殿を叱らねばならないでしょう」

 

 

 困った素振りを見せたおじさんに、おばさんは呆れたようにため息をしておじさんに助言をする。するとおじさんはそうだな、と呟き、おれの方を向く。

 

 

「熊口殿、不比等殿拝見の次の日にわしが暇を与えたときに姫を連れ出したでしょう」

 

「!!」

 

 

 何て言うことだ。何故おじさんはおれがあのとき輝夜を連れ出したことを知ってる? 確かに証拠隠滅なんて全然してないし習い事から逃げ出した輝夜が暮れまで見つからないという不自然極まりなかったし、そもそも輝夜の部屋におれが贈った装飾品の品々が大量にあるけど! もう何週間も前の事だからもう大丈夫だと安心しきっていたのに、まさかこのタイミングでくるとは……

 

 

「何故、それを……?」

 

「証拠が沢山あったからです」

 

 

 ですよね。証拠がなければこんなこと言いませんよね。

 

 

「本当は以前から薄々分かってはいたのです。しかし、どれも決定的なものではなかったので黙っておりました」

 

「……」

 

「しかし、今回この書状の()()が熊口殿が姫を外に連れ出したことを決定付けた」

 

 

 そう言っておじさんは書状の一つを取りだして開封し、それをおれの前に置いた。

 

 

「これをお読みください」

 

「はい……」

 

 

 この書状が決定的な証拠? どういうことだ。忍者かだれかがあのことをリークしたってな感じか?

 まあ、その疑問も目の前に置かれた書状を読めば解決する。

 そう考え、おれは書状を手に取り、その書状の内容を読むことにした。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 

 あ、そういうことね。はい、分かりました。____いかん、めっちゃくちゃ恥ずかしい。

 

 書状の内容はおれの思っていた通り、恋文だった。しかし、おれ宛ではなく、輝夜と妹紅宛だった。

 書状の内容を軽く説明すると___

 

『私は○○の貴族だ。とある噂で造の用心棒が絶世の美女二人連れていたということを聞き、是非ともそのお二方の片方を是非とも我が妻に迎え入れたいので、面会を願いしたい』

 

 本当はもっと堅苦しく、長々と、そして遠回しに書かれていたが、内容はざっといってこんな感じだ。

 この文を見ただけでも、おれがあの二人を連れて都散策をしていたことが一目瞭然だ。この貴族がおれがおじさんとこの用心棒だと分かったのも大体想像がつく。不比等のとこの一件だ。噂ってのは凄いものなんだな。一日で貴族の耳にまで届くのだから。確かにおれは周りの服装とかちょっとこの時代とは噛み合ってないから少し目立つし、なによりグラサンがある。おれの象徴ともいえるこのグラサンがおれが噂の人物だと決定付けられたのだろう。うん、きっとグラサンだ。

 まあ何であれ、あのときおれがおじさんとこの用心棒であることはバレてるんだ。考える必要はない。

 それよりも先程の予想がとてつもなく恥ずかしい形で外れてしまった事が問題だ。確実に後で翠に弄られる。

 

 

「この書状に書かれているのは熊口殿と姫、並びにあの不比等殿のご息女ですよね」

 

「……はい」

 

 

 言い逃れは……しない方がいいな。証拠は上がってるんだ。ここで下手に言い逃れして今の印象を更に悪くさせるようなことはしたくない。

 

 

「はぁ……やはり、ですか」

 

 

 おれがおじさんの質問に肯定すると、おじさんはまた深いため息をした。

 

 

「何故連れ出したのです」

 

「……」

 

 

 これはどう答えるのが正解なのだろうか。幾らかある回答を述べたところで、結局叱られる未来しか見えない。

 

 

「おれが連れていきたいと考えたからです。あと輝夜の息抜きも兼ねてと思い____」

 

「その息抜きで危険な目に遇ったらどうするのですか」

 

「……」

 

「姫は今大事な時期なのです。貴方の勝手かつ浅はかな行動で姫を危険な目に遇わせるのは止めていただきたい」

 

「……はい、すいません」

 

 

 うん、予想していた説教とほぼ同じこと言われた。勿論言い返すつもりはない。言おうとしてもおれの頭で考えられるのは下手な屁理屈しか思い浮かばないからな。

 それに今回の件は反省してるといえば嘘になるが、おじさんの真剣な表情を見て、罪悪感が湧いた。

 今後ああいう行動は控えるように___

 

 

「しかし、息抜きということ自体には賛成できます」

 

「は?」 

 

「ここ最近、姫は習い事ばかりで息抜きというものがあまりできていなかった。熊口殿が連れてきた紫とやらが来てからは多少は機嫌は良くなっていましたが……やはり休みを定期的にいれた方が良いのかもしれますな」

 

「そうですね、姫も熊口様と出掛けた次の日は大層機嫌が良かったですし」

 

 

 おじさんの言葉におばさんが肯定すると、二人は顔を向き合い、お互いに頷いた。

 

 

「熊口殿、次にまた勝手なことをしたら、解雇だけでは済みませぬからな」

 

「はい、以後気を付けます……」

 

 

 何故今二人が顔を見合わせたのかは不明だが、まだ説教は続行されているのだろう。ここは正直に反省しているところを見せなければ。ということでとても落ち込んでるふうに俯かながら涙ぐんでみる。

 

 

「あの、そのわざとらし過ぎる演技は場合によっては怒りを買うのでやめた方が良いですよ」

 

「……演技ではないです。今どれだけ自分が反省しているのかを体で表現しているだけです」

 

 

 馬鹿な、おれの完璧な泣き真似が見破られた、だと……!

 

 

『完璧でないから見破られるんですよ』

 

 

「はあ、熊口殿は如何なる時でも我を通しますよね」

 

「それは褒めてるんですか?」

 

 

 おれの質問に敢えてなのか答えず、おじさんは話を戻す。

 

 

「とにかく、わしの許可なく姫を連れ出さないで下さい」

 

「許可?」

 

「はい、許可です。わしの許可を得られれば外出は認めます。人目につかない場所限定ではありますが」

 

 

 認めるのか……先程おじさんとおばさんが休みの同意をした理由はそれか。怒ったのは念のため釘を刺すため。雰囲気は完全に釘を指すだけのものではなかった気がするけど……

 それにしてもおじさんはあんなことしたおれをまだ信じてるんだな。人目のつかないところなら連れ出してもいいって、もしおれが性欲の化身だったら危なかったぞ。おれがこれまでそういった素振りを微塵も見せなかったにしても、娘を男性と人目のないところに行かせようなんて、余程信じてないと出来ることではない。

 つまり、おじさんはおれの事を本当に信頼している!

 

 

「おじさん、おれ、おじさんの期待を裏切らないよう努力します」

 

「は、はあ、ありがとうございます? ……ならばこれからは職務中に居眠りしたり夜の見回りをサボらないようにしてくださいね」

 

「それはちょっと無理ですね」

 

『早速期待裏切ってるじゃないですか』

 

 

 いやぁ、夜はどうしても眠たくなってしまうからね、これは治そうにも身体がそういうふうに出来てしまってるから無理だ。夜更かしはお肌に大敵だしな!

 

 

「それはさておき、熊口殿の勝手な行動とってくれたおかげで、姫に転機を向かわせる事ができました」

 

「……? どういうことですか」

 

「この恋文の事です。少し波立っただけの噂で沢山来たのです。もう少し名を知らしめればもっと位の高い方からの恋文もいただけるかもしれませぬ」

 

 

 そうおじさんは言うと、曇りない笑みを見せる。やはり親にとって娘を貴族の嫁に嫁がせたいのだということをその笑みを見て分かる。その娘である輝夜が貴族の嫁になりたいのかは不明だが。

 

 

「ん、結果的にはおれのおかげでおじさんたちの目的に近づけたってことですよね」

 

 

「結果論を言えばそうですが、そのような偶然の産物を盾に罪を軽くしようとするのはよろしくないかと。お仕置きはちゃんとありますからね」

 

「おばさん厳しいです。おれ、悲しい」

 

 

 さすがおばさん、これまで関わりが殆どないのにおれの性分を把握してる。

 

 

「……って罰あるんですか!?」

 

「勿論です」

 

 

 最悪だ、この人達のことだから説教だけで終わるだろうなと高を括っていた。なんだ、どんお仕置きをするんだ? 肩叩き? おつかい? 介護? 最後の一つ以外ならどんとこいだ!

 

 

『熊口さん完全にふざけてますよね』

 

「わしらが与えるお仕置きはこの書状の半分の内容を承諾することです」

 

 

 そう言って目の前にある書状の束の半分ほどを横に退けるおじさん。この量の書状の承諾……なに、これ全部恋文じゃなかったの? 輝夜達に対する恋文をおれに承諾させるのはまずないだろ……もしかしておれ宛の書状なのか、これ? てことはつまり____

 

 

「なんですかおじさん達、おれに一夫多妻にさせたいんですか」

 

「「は?」」

 

 

 は? て。何を意味のわからないことを言われたときみたいな反応をしてるんだか、二人とも。だってそうだろ。恋文以外におれに書状を送る理由が見当たらない。きっと先程述べた通りありとあらゆる女の子達がおれ宛に求婚の書状を送ってきているに違いない!

 

 

「何を勘違いしているのかは分かりませんが、まずはこの書状の内容を見てはいかがです?」

 

「そうですね。如何に情熱的な内容なのかこの目で拝見しなければ失礼ですし」

 

 

 さてさて、いったいどんなことが書かれているのだろうかね。できれば写真付きだと嬉しいなーーこの時代に写真なんてあるわけないだろうけど。

 そんな期待を胸に膨らませつつ、おれは封を解き、中身を確認()()()とした。

 そう、しようとした。しかし、内容をみる文面の前に書かれていた大文字に目を奪われ、その後に書かれた文を読むことが出来なかった。

 

 

「お、おじさん、これ……!」

 

 

 その文面の前に書かれていた大文字。

 それは_____

 

 

「は、『果たし状』って書いてあるんですけど……」

 

「はい、そうですよ。今わしが渡した書状の1つを除いて全ては果たし状です」

 

 

 そう、書かれていた大文字とは、『果たし状』の4文字であった。

 はたしじょう?はたしじょうってどういう意味だったっけ? 新手の恋文かな? もしかしたら果たし状とビビらせておいて実は本文で『冗談です、ウフフ』的な女の子のお茶目の可能性があるかもしれない。いや、そうに違いない!

 

 

「うわあぁ! めっちゃ拙者と勝負しろって書いてる!!」

 

「「……」」

 

 

 勘違いの猛攻だ……恥ずかしすぎる勘違いを連発させてしまった。

 

 

『勘違いではなく妄想ですよ』

 

 

 淡い期待を持ってしまった。最近女の子達に囲まれた生活をしていたからちょっと天狗になってしまっていたのかもしれない。これ、おれモテ期きたな、と。

 その結果がこれだ。老夫婦に若干生暖かい目でみられ、翠に弄り倒され(予定)、果たし状に対する怠さが倍増した。

 

 

「おじさん、他のお仕置きにはしてもらえませんか」

 

「駄目です。あとわざと負けるのも許しません」

 

 

 鬼だ……これまで優しかったおじさんの姿は何処へやら、今おれの目の前には鬼が二人胡座をかきながら此方を睨み付けてくるように見える。

 

 

「(あああ! 本当にあの二人と散策しなければよかった!!)」

 

『痛快ですね! 女の子達を連れ出したり覗き見したりした罰が当たったってことですよ!』

 

 

 くそ! 翠の野郎ご機嫌な口調で喋りやがって! 後で覚えてろよ!

 

 

『うわっ、そういうのを世間一般で八つ当たりって言うんですよ』

 

 

 八つ当たりしてほしくなかったら挑発するな!

 

 

「頑張って下さいよ、熊口殿。果たし状を全て討ち破れば、この上ない宣伝効果となるのですから」

 

 

 おじさん、絶対にそれが本命の目的でしょ。罰が重すぎる。見てこれ、果たし状の数。軽く10通は越えてるよ。なに、下手したらおれ死ぬよ? 数の暴力って結構凄いからね?

 

 

「はあ……分かりました。本当は超絶にやりたくないんですがやります。たまには身体を動かさないと毒ですからね」

 

 

 と、ちょっと余裕げに承諾する。今心の中でやりたくない意思を全面に押し出したが、その我儘はどうせ通らない可能性が高い。無理です、勝てっこありません、と言ってもおれはおじさんに実力を知られてしまっている。それにこのお仕置きはおじさんらにとって大いに利益になる。半ば無理矢理にでも押し通されるだろう。本当にやりたくない意思を見せれば彼方も鬼ではないからやらされることは逃れられるかもしれないが、おれがここにいる理由はおじさんに孝行するためでもあるーー最初はただの気紛れだったが、この人達と接していくうちに目的が老体のこの人達に孝行をしたいと思うようになった。

 だから結局受けることにした。まあ、相手があのゴリラ2号しかり糸目陰陽師しかりの色物でなければそう手こずる事はない、たぶん。おれのこれまでの経験と知識、あとやる気があればいけるだろう。

 

 

『慢心ここに極まり。熊口さん、それやられるフラグですよ』

 

 

 此方が決心してるところに水差さないで! それっぽく捉えてしまうだろ!

 

 



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⑯話 疑うとなにもかも怪しく見えるよな

はい、今回は閑話感たっぷりの回です。


 

 

 果たし状にまみれたおれに対する書状。しかしその中に1つだけ妹紅からおれ宛にきた感謝の書状があった。

 まさに紅一点。お前ぶっ倒してやる! と息巻く書状越しからでもわかるむさい男達の中に、この前はありがとう! とても楽しかった! と書状越しからでもわかる純粋無垢で可愛らしい妹紅。これだけでおれの心がどれだけ癒され、救われたことか。

 

 

「死ねぇ!」

 

「我が剣の錆となれぃ!」

 

 

 ここ最近では翠の読心には慣れ、ストレスはあまり溜まらなくなったが、その入れ換えかのように果たし状全消化するまで休めませんが始まってしまったおかげで、全然ストレスのやつが息を潜めるということにはならなかった。

 

 

「うるせえぇ! 黙って攻撃しろ!」

 

 

 おれはただゆったりと過ごすことが出来ればそれでいいんだ。争いのない、自給自足する必要のない、ただ食っては寝を繰り返し、たまにちょっとしたイベントが起きるような、そんな日々を過ごしたいだけなのに……え? 欲張りすぎ?

 

 

「生斗、いつになく暴れてるね」

 

「鬱憤を晴らしてるんだと思いますよ」

 

「まあ、見ていて楽しいからいいんじゃない?」

 

 

 あ、そういえば縁側から見ている女三人衆ーー輝夜、翠、紫がこの前『熊口さんの悪戯しようの会』を結成していたことには驚いた。まず、その会に輝夜が入っていることだ。他の二人は入って当然の面子だが、まさか輝夜が入ってるなんて予想だにせず、輝夜が初めて仕掛けてきた落とし穴にまんまと引っ掛かってしまった。

 

 

「つ、強い……!!」

 

「こっちは四人がかりだというのに……」

 

「歯が立たない!」

 

「くそっ、こいつを倒せば楽に都一になれると思っていたのに」

 

 

 そうそう、何故おれのところに大量の果たし状が来たのかというと、はっきり言って『弱そう』というのが理由だそうだ。

 町中でおれを見た連中は、強者たる覇気の感じられない腑抜けたおれの姿を見て、こいつなら俺でも倒せるんじゃないか、と考え、今回の大量果たし状事件が起こったということを刺客ラッシュの初日にきた連中をしばいて吐かせた。

 …………ま、まあ能ある鷹は爪を隠すからな。そんじゃそこらの人間の観察眼じゃ、おれの力量を測ることなんて出来るわけない___

 

 

「弱そうで悪かったな!」

 

「ぐあっ!?」

 

 

 ええ、傷付いてますよ? はい、聞かされたとき落胆しましたもん。

 え、なに? おれ弱そうに見えるの? ほら見てよこのグラサン、威圧感たっぷりでいかにも強者感漂わせてるだろ。なんですか、貴方達の目は犬の○でもつまってるんですか!

 

 

「馬鹿野郎共! 来るなら全員来い! いっぺんに片付けてやる!」

 

「くそ! 拙者らを舐めておるな!」

 

「お主の頚を必ずや我が主に届けん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「くっ、私達の敗けだ」

 

「次こそは必ず……!」

 

 

 負け犬の遠吠えもろくにせず、そそくさと帰っていく果たし状の送り主達。

 結局誰一人としておれに傷をつけることはなかったな。まあ、おれは強いから? 所詮弱い物狙いの奴等に遅れをとられる訳ないし?

 

 

「はあ、はあ、はあ! に、二度と来んなよ!!」

 

 

 いかん、久し振りに長時間霊力剣を振り回したせいで腕がもう上がらない。

 

 

「さすがは熊口殿、あの量の刺客にものともしないとは」

 

「いや、中々疲労困憊してますよ、おじいさん」

 

 

 翠が何かおじさんに吹き込んでるな? おれは疲労困憊してなんかない。ただちょっと腕が上がらなくて今にも倒れそうになってるのと酷い目眩がするだけだ。……あれ、意外と満身創痍?

 いや、ほんと調子に乗って十数人を一度に相手するんじゃなかった。ただでさえ昨日も刺客の相手してたというのに……

 

 

「お、おじさん、おれ……やりましたよ」

 

 

 庭から彼方の縁側まで声が届いているかどうかは分からないが、一応声をかけてみる。

 いや、聞こえないだろうな。おじさん、年だし。

 

 

「生斗~」

 

 

 おじさんを少し馬鹿にしていると、おれの名前を呼ぶ声が皆が集まっている縁側から聞こえてきた。

 ……あの声は輝夜か。ちょっと声がこもっていたから一瞬分からなかった。

 輝夜も縁側からおれの活躍ぶりを見ていたが、しきたりやらで顔を晒せなかったので蓑笠に口を布とで顔を隠されており、ほぼ誰なのか分からない。

 

 

「ここに、私が作った握り飯があるわ。是非此方にきて食べてみてー」

 

 

 そう言う輝夜の手には笹の上に置かれた少し歪な形をした3つのおにぎりがある。

 か、輝夜が作ったのか……いや、まあ嬉しい。女の子の作ったものなら大抵なものは美味しく食べる。

 

 

「はあ、はあ……出来れば今は水の方がありがたいけど……ありがとな」

 

 

 そう言っておれは重い足を引き摺るようにして歩き出す。

 あ~、やっと息が整ってきた。

 普通にゴリラ2号や糸目陰陽師よりキツかったんだが。

 

 

「のろのろしてないで早く来てくださいよ。私も食べたいんですから」

 

「はいはい、わかっ……」

 

 

 翠に急かされ、ちょっと早歩きで向かおうとしたが、ある予感が脳裏に過ったおれは足を止めた。

 

 ちょっと待て。もしかして何か罠があるんじゃないか。

 以前、おれは輝夜の策略により落とし穴に落ちた。もしかして今回も____

 と、縁側までの道を辿ってみる。

 ……あ、彼処なんか怪しいぞ! 他の箇所とほとんど相違がないが、おれの目は騙されない。輝夜達の目の前の地面は微妙に他と違う感じがする! 確証は全然ないけど!

 ふっ、あいつらめ。一流に同じ手は通じないということを教えてやる。

 引っ掛かったふりをして直前で飛び退いてやる。

 それであいつらが残念がれば勝ち。それを種にあいつらをいびってやろう。

 

 完璧な作戦! ここ最近してやられっぱなしだったが、それを返すときが来たんだ!

 

 

「何そこでつったってるの。早く来なさい」

 

「(んー、遠くだと熊口さんの心読みにくいですね。ろくでもないことは確実だと思いますが)」

 

 

 よし、作戦が決まったなら実行するのみだ。

 

 

「ああ、今行く」

 

 

 そう言っておれはわざとゆったりとしたペースで歩みだす。

 これによりあいつらに苛つきを感じさせ、尚且つ罠の直前に避けるというさらに苛つきを倍増させる。これまであまり人を苛つかせるようなことをあまりしては来なかったがやろうと思えばうざったらしい行動なんて幾らでも取れる。それを覚えるだけの年月を生きてるからな。

 

 

「あ~、足痛い。ゆっくりいかないと無理だな、これ」

 

「「「(わざとらしい!)」」」

 

 

 ゆっくりだが一歩、また一歩と縁側近付いていく。

 おれの見立てではあいつらの手前よりもう少し奥に設置している筈だ。その方がおれが落とし穴に引っ掛かった時に見やすいからな。

 それをおれが飛んで避け、どや顔をする。

 うん、あいつらの悔しがる姿が目に浮かんで滑稽だ。

 

 

「……!」

 

 

 そしておれは見立てていた少し違和感のある地面まで近付いた瞬間。前に飛んだ。

 

 その光景をみて目の前にいた3人プラスおじさんは驚愕の表情に染め、おれを見ている。

 ははは! 見たか! お前らの策略は失敗に終わった!

 

 

「____あっ」

 

 

 そしてついに、違和感のない地面へと着地したのだが、その着地した足を余所見をしていたせいで捻り、バランスを崩してしまう。

 

 

「あ、ちょっ……」

 

 

 バランスを崩したおれの身体はそのまま目の前の地面に向かって急降下していく。所謂転けている真っ最中ということだ。

 あまりの一瞬の出来事におれは反応が遅れ、空を飛ぶことを完全に忘れていた。

 

 

 そしてついにおれは地面____

 

 

 

 ___ではなく、縁側の角に額をぶつけた。

 

 

 

「!!!!?!!」

 

 

 ああああああぁぁああぁ!!!

 

 突如としてくる、予想を遥かに越えた衝撃。それはおれの脳を大きく揺らし、尚且つ額の肉を切るには十分過ぎる威力を有していた。

 

 声にならない悲鳴をあげたおれはその場で額を両手で押さえながら転げ回る。

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 いっ、痛い! インパクトは普段よくしている骨折のそれとは比較にならない!

 

 

「生斗、何がしたかったんだろう……」

 

「おそらく、ろくでもないことですね」

 

「自業自得ね」

 

「熊口殿……」

 

 

 このあと、なんとか治療を受けてなんとか回復することができた。

 あと、落とし穴なんてものは元から存在しておらず、ただのおれの思い違いだったようです。つまり今回はただの自業自得。それに加え女三人衆に疑っていたことがバレ、それに関して散々弄られました。泣きたいです。

 

 あ、でも輝夜が作ったというおにぎり、ちょっとしょっぱかったけど美味しかったな。

 

 

 




現在、生還録の修正版、『生還記録』を執筆しています。
お暇な方は是非見ていってください!


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