IS 空を翔る白き翼【更新停止】 (カンチラ)
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プロローグ

この二次創作はpixiv及びハーメルンでも公開しています。

※ 注意
まず、この作品はかなりの超不定期更新になります。
作者が気まぐれに書いているものなので、書き方も上手ではありません。
暇つぶし程度に見てくれるとありがたいです。

あと、作者は原作キャラの性格を完全に理解しているワケではありません。
○○はこんなキャラじゃない! なんてことがあるかもしれません。
もしそれが不快ならば、閲覧せずに戻って別の作品を見ることをおススメします。



昔は男性の方が偉かったらしい。

 

武士とか侍とか、重要な役割なんかは男しかなれなかったみたいだし、

 

その上で女性なんて男性に仕えて一人前っていうのが昔のあり方だったみたい。

 

けれども、ある物がこの世に現れてから、男性よりも女性の方が強くなった。

 

それの名前は『インフィニット・ストラトス』。

 

女性しか反応しない兵器で、その存在が世界を変えてしまったらしい。

 

ISというのは凄い防御力を誇り、普通の兵器じゃ傷一つ付けられないそうだ。

 

元々は宇宙を人が暮らせるようにするモノらしかったんだけれど、

 

今は兵器として使っているみたいだけど、なんでそうなってるのかは分からない。

 

女性しか反応できない欠陥があって、そして世界は女の人の方が偉くなった。

 

でも、日本で一人だけ男の人でISが使える人が出てきた。

 

名前は織斑一夏って言って、その人は偉い人とかの知り合いなんだって。

 

その人のお姉さんはブリュンヒルデっていう最強のIS乗りらしいし、

 

友達のお姉さんは篠ノ之束っていうISを作った博士って情報もある。

 

だからその人がISを使えてもおかしくないって言うのは分かる。

 

だけども、世界にもう一人だけ男の人で動かせる人が現れてしまった。

 

それはボク、天野(あまの)翔《かける》がISを動かすことができちゃった。

 

ボクは孤児院に居て、色々なお兄ちゃんやお姉ちゃんがいるし、

 

お姉ちゃんの中にはIS学園に入学が決定した人もいる。

 

なんでボクにISの適正があるのかって分かったのは、

 

友達のお姉さんが技術者で、それでISの研究所に遊びに来ていたんだけど、

 

その時に触れたISが動いちゃって、ボクもISが動かせるってことが分かった。

 

でも、ボクは10歳で知ってる人もそんなに有名な人もいない。

 

強いて言うなら友達のお姉さんが会社の部長?になっている事くらいで、

 

ボクには特別な才能とか、能力だとか、凄い知り合いとかも無い。

 

世界で二人しかいない人物で、色々な人が家に押しかけてきた。

 

けど、お母さんがIS学園の先生と話していて、ボクをIS学園に入学しないかと言った。

 

IS学園は高校で、中学校にも行ってないボクが勉強もできないし、卒業だってできない。

 

だけど孤児院に居ながら小学校に通い続けるよりは安全だと説得して、

 

それでボクはIS学園に入学することになった……

 

 

 

 

「おー、すっごーい!」

 

ボクはISの研究所の内部を見たとき、思わず声をあげた。

試作型のISが展示されてたり、戦っている映像が流れていたりしていた。

 

ボクがここ、ISの研究所に居る理由はお姉ちゃんの友達がここに勤めていて、

何か理由があってお姉ちゃんはここに訪れなくちゃいけなかったらしいんだけれども、

お姉ちゃんは一緒にどう? って誘ってくれたら一緒に来ていた。

 

「お~、見て見てかーくん。やっぱISって凄いんだね~

 見たこと無いのも入ってる~、さっすがIS、技術力が違うね~」

 

ボクの友達の一人、稗田(ひえだ)美奈《みな》ちゃんはISの内部分を見て喜んでいた。

機械とかが凄く好きで、美奈ちゃんのお姉さんと一緒に機械を作ったりしてた。

ちなみに、かっくんって言うのはボクのあだ名。翔だから『かーくん』らしい。

 

「しかしISの戦闘はホントに凄いなーマジで。…お、二人とも見ろよ!

 あそこでIS同士が戦ってる映像流れてるぞ! やっぱカッコイイなぁー!」

 

ISの戦闘を見て喜んでいるのはボクの一番の友達、辰己(たつみや)スバル。

ボクはスバってあだ名で呼んでいる。スバはISの事が凄く好きらしい。

なんでもモンド・グロッソというISの世界大会をいつか見てみたいらしい。

 

ボクはISに乗って空を自由に飛び回れたらな、っていつも思う。

一度は空を飛んでみたいと思うのは人類の夢だってお姉ちゃんも言ってたし…

 

「ISに乗ってみたいなぁ……」

 

ボクは独り言を呟く、ISに乗って空を飛んでみたい。

たった一度だけでいいから、少しでもISに乗ることができたら…

 

「にゃはは、翔くん。ISは女性じゃないと乗れないんだよ?」

 

猫みたいな笑い方でボクに話しかけるのは野々原(ののはら)(あかり)お姉ちゃん。

明お姉ちゃんはボクの5つ上のお姉ちゃんで、よく遊んでくれていた。

 

「でもさ、明姉。この前男でIS乗ったヤツいたよな?

 そうしたら『もしかしたら俺も』って感じするじゃん?」

 

スバは明お姉ちゃんに反論する。

この前、男の人がISに乗るという前代未聞の物凄い大事件が起きた。

それはテレビでかなり大々的に放送され、知らない人はいないとも

白騎士事件と同じくらいの知名度となった。

 

「まぁ、多分その人が偶然特別なだけで普通は女性しか反応しないからねー」

 

「くっ…俺に主人公補正があれば…!」

 

相変わらずスバは意味の分からないことを言っている。主人候補生?

スバと明お姉ちゃんが話をしていると、茶髪のお姉さんが話しかけてくる。

 

「ISの起動はできないけど、触ってみる? もしかしたら動いちゃうかも?」

 

近くにいた白衣を着た美奈ちゃんのお姉さん、稗田(ひえだ)美香(みか)お姉さん。

普段はメガネをかけてなくて、視力も普通並にはあるのだそうだけれども、

こういう時にはメガネをかけて、そして何故か必ずと言っていいほど白衣を着てる。

メガネはななにかと機能的で便利なメガネらいけど、ボクにはよく分からなかった。

美香お姉さんはスバにISに触れてもいいと言ってきた。

 

「はい! 触る触る!」

 

当然、スバはそれに食いついた。そして素早く近くにあったISに触れた。

適合者がISに触れるとISは光り、そしてその情報が頭に流れてくるらしい。

しかし、スバがどれだけ触ってもISは光らず、その姿を保ったままだった。

 

「やっぱ起動しないかぁ~…」

 

「あはは、やっぱそれが普通の反応だよねぇ。ほら、ISはこうやって起動するのさ」

 

と、明お姉ちゃんがISに触れる。

するとISは光りを放ち、明お姉ちゃんがISを使用できるという証明になった。

 

「おぉ~、私も動かせるかな~?」

 

ゆったりとしながらこちらに向かってくる美奈ちゃん。

美奈ちゃんはISに触れると、ISは光りを放った。

 

「やった~、私も動かせることが出来るのだー、いえ~い」

 

むふふ、と笑う美奈ちゃん。

スバはそれを見て悔しそうな表情をした。

皆ISに触っているからボクも触ってみたくなった。

 

「ボクも触っていいですか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

にっこりと美香お姉さんは笑って答えてくれた。

ボクはISに近づき、そっとISに触れた。

…すると、ISは光り輝き、ボクにISの適正がある事を教えていた。

 

「……え?」

 

「なん…だと…?」

 

「お~、かーくんもIS動かせるんだ~」

 

「これって、翔くんも…!」

 

自分でも今起きている事実がよく分からなかった。

あまりにも突然に、ボクは『普通』じゃなくなってしまった。

 

 

 

 

ボクがISを動かしたということは一気に社会に知れ渡った。

会社で適正検査とかをやって、注射とかしたり、偉そうな人とかが来たり……

とにかく色々あって帰ってきた時にはもう五時だった。

途中まで美香お姉さんが送ってくれたけど、恥ずかしいから途中で別れた。

 

大きいお家の門の前に立っている、ここがボクの家。

本当のお家じゃないけれども、今はここに住んでいる。

門を開けて、玄関のドアを開けると、お母さんが居た。

 

「お帰り、翔くん」

 

「ただいま、お母さん」

 

「ねぇ、翔くん。ちょっと一緒に来てね。大事なお話があるから」

 

「う、うん……」

 

ボクはお母さんの後に続いて居間に入っていく。

普段なら居間には水城お兄ちゃんが居るはずなんだけど、いない。

その代わりに黒いスーツを着てビシッとした人がソファーに座っていた。

座ってる人はこっちをジッと見て、お母さんに質問した。

 

「その子が…?」

 

「えぇ、翔くんです。自慢の息子の一人ですよ」

 

お母さんは自慢げに胸を張ってボクを自慢する。

それが恥ずかしくってボクは顔を真っ赤にして視線を下に向けた。

 

「さ、翔くん。隣に座って」

 

お母さんはボクをソファーに座るように言った。

それに言うとおりにしてスーツ着た人と向かうように座った。

 

「それで、例の話ですが……」

 

「えぇ、やっぱり本人が直接聞くのがいいと思ってね。

 千冬ちゃん、翔くんに最初から教えてあげてくれるかしら?」

 

「はい、分かりました。初めまして、天野くん。

 私の名前は織斑千冬と言い、IS学園で教師をしている。

 まず君はISについてはある程度は知ってるのだろう?」

 

黒いスーツ着た人は怖そうな声でボクに話しかけた。

怖そうな声と目つきで凄く怖くて、少し怯えてしまった。

 

「は、はい…ISは女の人しか使えないって…

 それで、男のボクが動かしちゃって、大変な事になっちゃったって美香お姉さんが…」

 

美香お姉さんに聞いたことを織斑さんに言った。

 

「その通り。だから君は世界から狙われるだろう。

 何せ、世界で二人しかいない男性IS適合者だからな」

 

「はい…」

 

「それでだ。私の弟、織斑一夏はIS学園に入学する予定だ。

 IS学園はどこの国にも所属せず、外部からの接触から守ることが出来る。

 君がIS学園に入学すれば自分の身を守ることになるだろう」

 

「…あの、IS学園って高校ですよね…?

 ボク、学校でもそんなに成績は良くないですし…」

 

「それについては、私からも聞きたいわねぇ。千冬ちゃん?」

 

お母さんが織斑さんに質問してきた。

織斑さんはお母さんに名前で呼ばれて少しムッとして返事をした。

 

「その件ですけれども、IS学園には天野君一人だけに職員を割らせられず、

 今年の一年生と同じ教室で勉強してもらうことになります。

 成績に関しては問題はありません。ただし、18歳になるまで卒業は出来ませんが…」

 

「え…じゃあ、7年くらいIS学園に通学しなきゃいけないんですか?」

 

「あぁ、その方が安全だと学園側は判断している。

 どっちにしろ、単位が足りずに卒業できないがな」

 

「…七年も、学園に……」

 

「翔くん、別に私たちや友達と一生会えなくなるわけじゃないのよ?

 ここからIS学園は近いし、日曜日にでも会える気になったらいつでも会えるわよ?」

 

…帰ってこようと思えばいつでも通える距離だとお母さんはボクに説明してくれた。

でも、本当にボクがIS学園に行っても大丈夫なのかな……?

 

「…世界でも限りのある男性IS適合者だ。

 恐らく、天野君には専用機が与えられることになるでしょう」

 

織斑さんがボクに専用機が与えられる、と言ってきた。

……専用機って何だろう?お母さんに聞こうとしたら先にお母さんが説明してくれた。

 

「専用機っていうのはね、個人で使用できるIS……

 つまり、世界で翔くんだけのISを持つことができるの。

 専用機は良いわよ~?量産機よりも凄く良いし、自分の翼を持ったみたいで」

 

……自分だけの翼を持った感じだってお母さんは説明してくれた。

ずっと前から空を飛べたらなって、思ってた。

空に憧れて、空を飛ぶ鳥の存在を知ると、ボクは鳥になりたいって思った。

鳥は自由に空を飛ぶことが出来て、凄く羨ましかった。

 

……ボクはISを使えて、空を飛ぶことができるようになるんだ…!

 

「ふふふ、それじゃあ決まりね」

 

ボクの自然と微笑んでいた表情に気づいてくれたのか、お母さんは何も聞かずに言った。

 

「それじゃあ、ここにサイン……名前を書いてくれ」

 

織斑さんはスッと紙を取り出し、机の上においた。

そして名前を各場所に指を指し、ペンを差し出した。

ボクはペンを取り、その空欄にボクの名前を書いた。

 

……こうしてボクはIS学園に入学することになった。

 

 

 



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01 クラスメイトはほぼ女性

「全員揃ってますねー。それじゃあSHR(ショートホームルーム)始めますよ~」

 

教壇に立っておっとりとした声で教室にいる全員に伝える。

このクラスの担任の先生、おっとりした雰囲気の山田(やまだ)真耶(まや)先生。

日本人なのに髪の毛が緑色なのはワカメでもたくさん食べたからなのだろうか?

 

ボクは小学生でIS学園に入学した。左右を見ればその事実を実感することができる。

座っている席は一番右側の廊下側で、左に視線を向けるとお姉さんたちが沢山いる。

そのお姉さんたちの視線はなぜか一人の男性、織斑一夏さんの方にいってるけれども。

これから少しずつでいいから織斑一夏さんと仲良くなれるといいなぁ。

なにせ、世界でたった二人だけの男性IS適合者なのだから……

 

「はい、それじゃあ天野翔くん。自己紹介をお願いします」

 

「は、はいっ」

 

ボクは山田先生に急に名前で呼ばれて驚いたような声で返事をしてしまった。

ガタッと勢いで席を立ち、ボクはクラス中に見えるように右を向く。

当然、クラスの中にいるいるお姉さんたちの視線はボクに集中した。

 

「あ、天野(あまの)(かける)って言います、えっと……」

 

自己紹介の言葉は事前に色々と考えておいたけれども、

ボクは思っていた以上に緊張していて考えていた言葉が出せなかった。

 

「その…皆さんとは年齢も性別も違いますけど、

 一生懸命に頑張っていきたいので、よろしくお願いします…」

 

途中で恥ずかしくなって少しずつ声が小さくなっていたけど、最後までなんとか言い終えた。

お姉さんたちはボクの自己紹介が終わると拍手をしてくれた。

ホッと安心してボクは席に座り、クラスのお姉さんの自己紹介が終わっていく。

そして、今注目されている男の人、織斑一夏さんの番がやってきた。

 

……でも、先生が何度も名前を言っても返事をせず、無視をしていた。

 

「織斑一夏くん。織斑一夏くんっ」

 

先生は全く反応しない織斑さんに大きな声で名前を呼ぶ。

 

「は、はいっ!?」

 

その大きな声に織斑さんは驚いたようで、裏声で返事をした。

周りにいるお姉さんたちはクスクスと笑っていて、

織斑さんはその声を気にしてるのか、そわそわとしていた。

 

「あっ、あの、お、大声だしちゃってごめんなさい。

 お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね!

 でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。

 だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな?だ、ダメかな?」

 

ぺこぺこと何度も頭を下げて、眼鏡が落ちそうになるくらい謝る先生。

ボクはなんとなーく、あの先生が今謝っている気持ちは分かる。

たしかに、自分のせいで相手が不快な感じになってしてしまうのはボクも嫌だ。

 

「いや、あの、そんなに謝らなくても……

 っていうか自己紹介しますから、先生は落ち着いてください」

 

「ほ、本当? 本当ですか? 本当ですね? や、約束ですよ。絶対ですよ!」

 

山田先生は織斑さんの手をぐっと握り締める。

それに対して織斑さんは顔を赤くしていた。

 

「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

自己紹介をした後、織斑さんは頭を下げる。

だけど、周囲にいるお姉さんたちをチラッと見てて、なぜかそのまま立ち続けていた。

もしかするとまだ何かを言い続ける気なのかな?

 

「…………」

 

織斑さんはしばらく黙り続け、教室はしんと静かになった。

そして、深呼吸をした後に言った言葉は……

 

「以上です」

 

何も無いのかよっ!

がたがたっとクラスの全員のほとんどずっこけた、ボクもずっこけた、誰だってずっこける。

 

「あ、あのー……」

 

先生は涙目で『もっと無いんですか?』と訴えている。

しかし、織斑さんの側にもう一人の先生……

あの人は家に来てた人、織斑さんだったかな?

織斑さんは織斑さんの…この言い方だと紛らわしいなぁ。

学校の先生だから織斑先生ってことだ。

言い直すと、織斑先生が織斑さんの頭をゴツンッと殴った。

 

「げぇっ、関羽!?」

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

この女の人にしてはちょっと低い声、

そして喋り方と言い、間違いないだろう。

 

織斑先生と担当の先生、どうやら担当だと思ってた先生は副担当だったみたいだ。

それで、織斑先生は教壇の上に立ち、全員に向けて言い放った。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たちを一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。

 私の言う事はよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。

 私の仕事は弱冠十五才を十六才まで鍛えぬくことだ。

 別に逆らってもいいが、私の言う事には聞け。いいな」

 

すると織斑先生のファン?と思う人たちが騒ぎ始めた。

ファンの人がいるくらい、織斑先生は有名な人なんだろうか?

 

「キャ―――――ッ! 千冬様、本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

 

高い声で騒いでるからちょっとうるさくて、ボクは耳を塞いだ。

織斑先生は鬱陶しそうに、ため息をつくように言った。

 

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。関心させられる。

 それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

先生がクラスの中にいる先生のファン?の人にため息をついた。

けれどもファン?の人たちはそれでもキャーって騒いでいた。

 

「きゃあああああっ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」

 

「でも時には優しくして!」

 

「そして付け上がらないように躾をして!」

 

この人たちの言っていることはよくわからないけど、

とりあえず何か変な人たちなんだなーって事は分かった。

 

「で? 挨拶も満足にできんのか、お前は」

 

「いや、千冬姉、俺は―――」

 

織斑さんは織斑先生にバンッと殴られる。

あの発言からして、やっぱり織斑さんは織斑先生の弟だったみたい。

 

「織斑先生と呼べ」

 

「……はい、織斑先生」

 

そして織斑先生の先ほどの発言で、織斑先生と織斑さんが姉弟だって事が決定付けられた。

ファンの人たちはその事実を今知ったらしく、その事でこっそりと話しをていた。

 

「え……? 織斑くんって、あの千冬様の弟……?」

 

「それじゃあ、彼が『IS』を使えるっていうのも……」

 

「ああっ、いいなぁっ。代わってほしいなぁっ」

 

中には代わってほしい人もいるみたいだ。

そこまで織斑先生が有名だなんて全く知らなかった。

スバはISのことに詳しいから、後で聞いてみようかな。

 

教室がざわざわとしたまま学校のチャイムが鳴った。

とりあえず織斑先生がこの場を静めるように言う。

 

「さあ、ショートホームルームは終わりだ。

 諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。

 その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。

 いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

分かっても分からなくても聞いてなくてもとにかく返事をしろと言う先生。

それじゃあ、問題が分からなかった時に聞けないんじゃないかな?

 

「席に着け、馬鹿者」

 

そういえば、織斑さんはその場に立ったままだった。

織斑先生はそれに突っ込みを入れるかのように織斑さんの頭を容赦なく叩いた。

バシィッ! と鋭い音がこのクラスのチャイム代わりになった。

 

 

 

 

 

 

「あうぅー……」

 

やっと一時間目が終わり、10分休みが始まった。

授業の内容もちょっとくらいなら分かるんじゃないかなと思ってたけど、

わけもわからず、何を言っているのかさっぱり分からなくて、、

まるで魔法の言葉で話してるんじゃないかなと思うほどだった。

 

ボクが机に顔をおいてダラーっとしてると、

偶然にも同じクラスになった明お姉ちゃんと美香お姉さんがボクの辺りに来た。

 

「おいっす! 翔くん、初の授業はどうだった?」

 

「翔くん、どこか解らないところでもあった?」

 

「うー…何も解らなかった…明お姉ちゃんと美香お姉さんはわかるの?」

 

「当たり前よぉ!」

 

明お姉ちゃんは胸を張って自信満々に答えた。

これだけ自信満々に言い張れるのだから、きっと授業内容は本当に解るんだろう。

 

それからちょっとして、織斑さんは誰かと一緒に教室から出て行く。

すると、ざわざわっと周囲の人たちが騒がしくなる。

ただでさえ騒がしかったのに、何故か急にもっと大きな声で話し始めた。

 

「…どうしたんだろ?」

 

ボクは明お姉ちゃんと美香お姉さんに聞いた。

すると、美香お姉さんが納得したような声を出す。

 

「……あぁ、なるほどね」

 

「どういうことなの?」

 

「あぁ、コレはアレだ。話題になってる人物に既に接触した勇者がいるって感じだ」

 

「……?」

 

明お姉ちゃんは結構な確率でボクに説明してくれることはある、

けれどもその説明が何を言っているかボクには理解できない時がある。

今、まさに明お姉ちゃんが何を言っているのかボクには理解できなかった。

 

「ほら…IS学園はISの特性上、普通なら女の子しか使えないでしょう?

 でも、今年は男の子が二人動かすことができてIS学園に入学したの。

 ほとんどいるのは女の子でしょう?だから男の子が珍しいの。

 その男の子が初日から女の子とお話してたらどうなるかな?」

 

「…えっと、珍しいから話しかけようとしたけど、

 先を越されちゃった……って感じでいいの?」

 

「そうそう、大体そんな感じよ」

 

美香お姉さんの説明はとても分かりやすい。

ボクの友達で美香お姉さんの妹の美奈ちゃんは、

ちょっと勉強するのが苦手で、テストとかの成績も悪かった。

それで美香お姉さんは美奈ちゃんに教えている内に教え方が良くなり、

最終的にはものすごく説明が分かりやすくなってたりしていた。

 

「チクショー、私の説明も上手くなったと思うんだがな」

 

「う……ご、ごめんなさい…でも、ちょっと分からなくて……」

 

明お姉ちゃんの説明を理解できず、謝るボク。

もしかして今ので明お姉ちゃんが怒っちゃったかも…

そう考えると、ボクは明お姉ちゃんにすぐに謝った。

 

「い、いやいや、翔くんは悪くないよ~、なんつーか、私の方こそゴメンね!」

 

明お姉ちゃんは逆にボクに謝ってくる。

むしろ、明お姉ちゃんが怒ってなくてよかった。

明お姉ちゃんはボクの頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。

 

「えへへ……」

 

頭を撫でられて、すごく気持ちがいい。

明お姉ちゃんは昔からボクのことを知ってるから、

撫でられるのも慣れてるからか、すごく気持ちがいい。

 

そのままもうちょっとだけ頭を撫でてほしかったのに、

学校のチャイムが鳴ってしまったので、明お姉ちゃんの手が離れた。

 

「それじゃ、また後でねー」

 

「うん、それじゃあねー」

 

明お姉ちゃんと美香お姉さんは自分の席に戻っていく。

…そしてまたワケわからない授業を受けなきゃいけない。

ボク、本当にやっていけるのかなぁ……

 

 



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02 一夏お兄ちゃん

「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、

 枠内を逸脱したISを運用した場合は、刑法によって罰せられ――」

 

山田先生はすらすらと教科書の内容を読んでいく。

けいほうとかこっかのにんしょうとか、言っていることがよくわからない。

やっぱり普通の小学生のボクが高校に飛び級しちゃうのは早すぎたんだ。

果たしてボクはIS学園を無事に卒業できるんだろうか?

今更になって、ボクは将来に対して不安を感じるようになった。

 

「織斑くん、何かわからないことがありますか?」

 

山田先生は織斑さんに質問している。

織斑さんは何やらごにょごにょと何かを言っている。

 

「わからないところがあったら訊いてくださいね。なにせ私は先生ですから」

 

山田先生はえっへんと言いそうな感じになっている。

ここで織斑さんはとてつもない爆弾を投下した。

 

「先生! ほとんど全部わかりません!」

 

…織斑さんは本当に高校生なんだろうか?

確かに、ボクもほとんどどころか、全部分からないけど……

 

「え……ぜ、全部、ですか……?」

 

山田先生は先ほどまで頼れそうな雰囲気を出していたけれど、

今はそんな雰囲気は無く、また泣きそうな表情をしている。

 

「え、えっと……織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はいますか?」

 

ボクは黙って手を挙げる。

横にいるお姉さんがボクが手を挙げたのに気づいて次々とボクの腕に視線が集中してる

……そんな気がしてならない、体から嫌な汗が沢山でてくる、もう帰りたい。

織斑さんの表情は、なんだか変に例えると世界で自分が一人になったと思ったら、

もう一人いて人間の有り難味を感じているって感じの顔をしているかもしれない。

 

「…織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 

教室の端っこで授業の様子を見ていた織斑先生が織斑さんの前へ立った。

 

「古い電話帳と思って捨てました」

 

バアンッ!織斑先生は手に持っていた黒い板のようなもの織斑さんの頭を思いっきり殴る。

 

「必読と書いてあったろうが、馬鹿者。

 あとで再発行してやるから一週間以内に全部覚えろ。いいな?」

 

「い、いや、一週間以内であの分厚さはちょっと……」

 

「やれと言っている」

 

「……はい。やります」

 

織斑は最後に織斑先生の眼光に負けちゃったみたいに見える。

…そして織斑先生が僕の前に歩いて来た。

 

「天野、まさかお前まで捨てたなんて言わないよな?」

 

その織斑先生の放つ鋭い眼光にボクはちょっと泣きそうになる。

 

「捨ててないです、中は…その、ちょっとしか……」

 

かなり小声で先生に言った、全部は覚えられていないって知られたくなかった。

頭を叩かれると思って、ボクはすかさず目を閉じて両手を頭の上に乗せて、

織斑先生の攻撃に耐えようとしてみた。けれども、いつまでたっても頭を叩かれない。

目を開けて織斑先生を見てみると、呆れた様子でボクにこう言った。

 

「私はお前が重要な資料を捨てる馬鹿者かどうか知りたかっただけだ」

 

と言って織斑先生はボクに言った。

 

「天野は特別な事情があってこの年齢でIS学園に入学した。

 だがこれだけは覚えておけ。ISはその機動性、攻撃力、制圧力と、

 過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば

 必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。

 理解ができなくても覚えろ。そして守れ。

 お前がこの学園に入学している以上、この学校の規則には従ってもらおう」

 

「は、はい……」

 

織斑先生の声は威圧的で怖かった。けれどもどこか優しい感じも同時に感じた。

 

「………」

 

織斑さんはそれを黙って聞いている。

 

「え、えっと。織斑くんに天野くん。わからないところは授業が終わってから

 放課後に教えてあげますから、頑張って? ね? ねっ?」

 

山田先生は涙目になりそうな声で、ボクと織斑さんに言った。

 

「はい。それじゃあ、また放課後によろしくお願いします」

 

「あっ…ぼ、ボクも放課後に……お願いします」

 

ボクは山田先生にペコリとお辞儀をした。

山田先生もボクの行動に続いてお辞儀をした。

そして織斑先生はさっきまでいた教室の端っこへと移動していった。

 

 

 

 

 

 

二時間目の授業が終わり、ボクは織斑さんと話しかけようとしてみた。

IS学園の中では唯一の男同士だし、仲良くなって見たかった。

自己紹介とか聞いてると怖そうな人じゃなさそうだし、話かけても大丈夫かな?

織斑さんは授業で疲れちゃったのか、机の上でぐったりとしている。

 

「…あのー……」

 

消えそうな声でボクは織斑さんにに話しかけてみる。

織斑さんはボクが何か言ったのに気づいて、視線をボクの方に向けた。

けれども、ボクの身長が小さかったからか、髪の毛の先っちょしか見ていなかった。

織斑さんは目線を下に向けて、やっとボクの存在を確認できたようだ。

 

「……?」

 

でも、ボクの顔を見ても今一パッとしない表情をする織斑さん。

…もしかして、またボクは女の子として間違われているのかもしれない。

 

「あの、えっと、実はボクも男なんですけど、その……」

 

「も、もしかして…二人目の男性IS適合者で小学生って噂の…?」

 

「はい…ボクはちゃんとした男です」

 

織斑さんはボクのことを女の子だと思っていたようだった。

ボクは周りの人たちから『男の顔に見えない』って言われることがよくある。

……できればきちんと男として見てほしいんだけどな。

 

織斑さんはボクを男だと知った瞬間、

さっきまでやや暗かった顔がぱぁっと明るくなったような気がした。

 

「そっか、同じクラスだったんだな。

 俺は織斑一夏、同じ男同士だし、仲良くやっていこうぜ」

 

「はい。よろしくお願いします、織斑さん」

 

ボクは丁寧に織斑さんに返事をした。

織斑さんは優しそうな人でよかったなぁ……

 

「そんなに硬くならなくてもいいよ。

 数少ない男同士なんだからさ、一夏って呼んでくれよ」

 

「う、うん……い、一夏……お兄ちゃん」

 

一夏さんは優しそうだし、一夏さんの言ったとおりに男同士だし、

これからお世話になるかもしれないのだから、もっと仲良くなってみたい。

それに、ボクは孤児院にいて年上の人にはよくお兄ちゃんとか言ってたし、

お兄ちゃんって呼んだほうがボクにとっては呼びやすかったから。

 

「お、お兄……?」

 

「い、嫌なら言わないから。いや、言わないですから……」

 

「いや、別に嫌じゃないぞ?それじゃ、よろしくな、翔」

 

「あっ……よ、よろしく。一夏お兄ちゃん!」

 

一夏お兄ちゃんはボクにお兄ちゃんと言うことを嫌いじゃないと言ってくれた。

それがボクにとっては嬉しかった。IS学園でお兄ちゃんができるなんて思ってなかった。

 

「おう! これからは一緒に頑張ろうぜ!」

 

「うんっ!」

 

一夏お兄ちゃんは右手を差し出して、握手を求めてきた。

ボクは両手でそれを握って、一夏お兄ちゃんに応えた。

 

「ま、まさかこれが男同士の友情…!」

 

「イイねぇ、実にイイよ」

 

「薄い本が厚くなるわね……」

 

握手をした時、周囲がなぜかざわついた。

男同士で握手をすることがそんなに変なことなんだろうか?

 

「…あ、一夏お兄ちゃん。そういえば……」

 

そういえば、これから家に帰るの?

と言おうとした途端に、近くにいた金髪のお姉さんが話しかけてきた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

でも、IS学園に入学する前、お母さんから色々なことを聞いた。

今の社会は女尊男卑って風潮で、男より女が偉くなったみたい。

だから、女の人が偉そうでも怒っちゃいけないってお母さんから聞いた。

 

この金髪のお姉さんも、その女尊男卑の人なのかもしれないって……

もしかしたら、ちょっと違うかな?とも思ったけれども……

でも、この人がちょっとだけ偉そうにしただけであんなことになるなんて…

今のボクには、知る由も無かった。



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03 セシリアさんにごめんなさい

「ちょっと、よろしくて?」

 

「へ?」

 

「はい?」

 

突然話しかけられて、ボクと一夏お兄ちゃんは頓狂な声を出した。

 

「まぁ! それが人に何かを聞く態度ですの?

 わたくしに話しかけられるのですから、それ相応の態度もあるのではなくって?」

 

「………」

 

この金髪のお姉さんは、なぜかボク達に対して上から目線だった。

多分、この人はお母さんが言ってた女尊男卑を意識している人なんだろう。

 

「悪いな、俺、君が誰だか知らないし」

 

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを?

 イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

 

多分、このセシリアさんが言うのはISで偉いほうの人らしい。

なにやら難しいことを言ってて何がなんだか分からなかった。

 

「あ、ちょっと質問していいか?」

 

「ふん。下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

「代表候補生って何?」

 

一夏お兄ちゃんがとてつもない事をセシリアさんに聞いてくる。

その言葉を聞いていたクラスのお姉さんのほとんどがドタドタとずっこけた。

 

「あ、あ、あ……あなたっ! 本気でおっしゃってますの!?」

 

「おう。知らん。っていうか翔、なんでずっこけてるんだ?」

 

一夏お兄ちゃんは素直にセシリアさんに知らないものは知らないと言った。

でも、いくらなんでも代表候補生が何か聞くのはどうかと…流石にボクでも知ってる。

 

「信じられない。信じられませんわ……極東の島国というのは、

 こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ。常識……テレビが無いのかしら…?」

 

セシリアさんはさっきまでボクと一夏お兄ちゃんに怒ってたけれども、

一夏お兄ちゃんによるまさかの発言によってか、逆に冷静になっていた。

 

「一夏お兄ちゃん、代表候補生っていうのは、国の代表になりそうな凄い人なんだよ」

 

「そう! その子の言うとおり、国の凄いエリートなのですわ!

 全く、まだあなたよりもこの子の方が可愛げがありましてよ!」

 

ボクが説明すると、さっきまで落ち込みそうだったセシリアさんは、

急にピーンと背筋を伸ばして、さっきまでの偉そうな態度になった。

そして一夏お兄ちゃんに人差し指をピンッと指しながら言った。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、

 クラスを同じくすることだけでも奇跡、幸運なのよ! それを理解して頂ける?」

 

「そっか。それはラッキーだ」

 

「…馬鹿にしてるのですの?」

 

なぜかセシリアさんは馬鹿にされていると思っていた。

自分で幸運だと言っていたのに、なんだかよく分からない。

 

「大体、あなた方はISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。

 世界で二人しかいない男でISを操縦できると聞きましたから、

 少しくらい知性さを感じさせるかと思っていましたけど、期待はずれですわね」

 

「俺に何かを期待されても困るんだが」

 

「ふん。まぁでも? わたくしは優秀ですから、

 あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ」

 

全然優しくない態度ですよー…なんて言ったら怒られるに違いない。

だからボクは何も言わずに黙っていた。

 

「ISのことで分からないことがあれば、まあ……

 泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。

 何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

なぜかセシリアさんは唯一の部分を強調して言った。

入試で唯一という部分が一夏お兄ちゃんは気になったのか、セシリアさんに言う。

 

「入試って、あれか? IS動かして戦うってやつ?」

 

「それ以外に入試などありませんわ」

 

「あれ? 俺も倒したぞ、教官」

 

「は……?」

 

セシリアさんは信じられないような声を上げる。

実際、ボクも一夏お兄ちゃんが教官を倒したなんてちょっと信じられない。

ボクもやったけれども、ISを宙に浮かせるのに精一杯で、

その間に色々されて……浮いてるだけで負けてしまったから。

 

「わ、わたくしだけだと聞きましたが?」

 

「女子ではってオチじゃないのか?」

 

すると、セシリアさんからピシッと氷の割れたような音が聞こえた。

幻聴であればよかったのに、なぜか今日はセシリアさんの心の音が聞こえてしまったようだ。

 

「つ、つまりわたくしだけではないと…?」

 

「いや、知らないけど」

 

「あなた! あたなも教官を倒したって言うの!?

 それとこの子はなんでさっきから何も喋りませんの!?」

 

急にボクに話題を振ってくる。

怒っているし、何を言っても怒るかもしれない。

 

「うぅ……ごめんなさい……」

 

ボクは無意識に謝ってしまった。

セシリアさんはボクの態度にムッと怒ったように見えた…

 

「あぁ、多分倒したと思うぞ」

 

「多分!? 多分ってどういうことかしら!?

 それと謝らないでくださいな! 私が聞きたいのは―――」

 

「えーと、落ち着けよ。な?」

 

「これが落ち着いていられ―――」

 

しかし、ここで学校のチャイムが流れる。

これから三時間目が始まるため、席に座っていなければならない。

 

「っ……! また後で来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

 

セシリアさんは納得できないようで、また一夏お兄ちゃんに来ると言っていた。

一夏お兄ちゃんもめんどくさそうだったけれども、

ここで断るとまためんどくさいことになりそうだったので、黙って頷いていた。

 

 

 

 

 

 

「お前ら、席に着け。授業を始めるぞ」

 

織斑先生が教室に入り、三時間目の授業が始まった。

 

「さて、授業を始める前に再来週に行われるクラス対抗戦の代表者を決めなければな」

 

と、織斑先生は授業を始める前に何か代表を選ぶらしい。

その代表者とは何かを織斑先生は説明を始める。

 

「クラス代表とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、

 生徒会の開く会議や委員会への出席……まぁ、クラス長だな。

 ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。

 今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。

 一度決まると一年間変更はないから、そのつもりでな」

 

織斑先生が説明を終えると、教室がざわつき始めた。

そして、クラスのお姉さんたちが挙手をし、推薦する。

 

「はいっ。織斑くんを推薦します!」

 

「私もそれがいいと思います!」

 

「折角だから、私はこの翔くんを推薦するぜ!」

 

「私も翔くんを推薦しま~す」

 

ボクと一夏お兄ちゃんの名前が次々と挙がっていく、勘弁して……

一夏お兄ちゃんを見てみると、最初は他人事のような顔をしてたが、

次々と名前が挙がっていくと、自分の事だと自覚したのか…

 

「お、俺!?」

 

「織斑、席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか? いないのなら――」

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

机をバンッと叩いてセシリアさんが立ち上がる。

もしかすると、クラス代表になってくれるかもしれない。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!

 わたくし、セシリア・オルコットにそんな屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

クラス代表になってくれるかもしれないと言ったけれども、

なんていうか…セシリアさんは男の人が嫌いなんだろうか?女尊男卑ってだけで?

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。

 それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!

 わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、

 サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

…なんていうか、物凄い悪口を言っている気がする。

それと、後で聞いたけれどもイギリスも島国らしい。こんなの絶対おかしいよ。

 

「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

確かに、クラスの中で代表候補生はセシリアさんだけだけども……

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、

 私にとっては耐え難い苦痛で―――」

 

ここで、一夏お兄ちゃんから氷を叩いたような、カチンという音が聞こえる。

今日は心の効果音がよく聞こえる日だなー…なーんて思う暇もなく、

一夏お兄ちゃんはセシリアさんに対して喧嘩を売ってしまっていた。

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

「なっ……!?」

 

一夏お兄ちゃんは『つい言っちまったぜ!』みたいな顔をしていた。そんなに余裕は無いけど。

おそるおそる後ろを振り向くと、そこには怒り爆発なセシリアさんがいた。

 

「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱してますの!?」

 

当然、セシリアさんは一夏お兄ちゃんに対してかなり怒っている。

 

「決闘ですわ!」

 

バンッと机を叩くセシリアさん。

後で聞いた話、決闘をするには手袋を投げなければならないらしい。

 

「おう。いいぜ。四の五のいうよりわかりやすい」

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い……

 いえ、奴隷にしますわよ」

 

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

 

「そう? 何にせよ丁度いいですわ。イギリス代表候補生の

 このわたく、セシリア・オルコットの実力を示すいい機会ですわね!」

 

「ハンデはどのくらいつける?」

 

「あら、早速お願いかしら?」

 

「いや、俺がどのくらいハンデをつけたらいいのかなーと」

 

すると、一夏お兄ちゃんが言うとクラスのほとんどの人がドッと笑い始める。

……よく見て見ると、明お姉ちゃんと美香お姉さんは笑っていない。

むしろ、この光景に呆れているようにみえる。

 

「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」

 

「男が女より強かったのは昔の話、今は違うよ」

 

「織斑くんは、それは確かにIS使えるかもしれないけど、

 流石に代表候補生相手にそれは言いすぎだよ」

 

確かに、ISに乗りなれた人に対してISの素人がハンデをつけるのはおかしい。

一夏お兄ちゃんもそれで納得したみたいだ。

 

「…じゃあ、ハンデはいい」

 

「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、

 わたくしがハンデを付けなくていいか迷うくらいですわ。

 ふふっ、男が女よりも強いだなんて、日本の男子はジョークセンスがありますのね」

 

なぜかセシリアさんはご機嫌なようで、

今にも鼻歌でも歌いそうにご機嫌であった。

 

「ねー、織斑くん。今からでも遅くないよ?

 セシリアに言ってハンデ付けてもらったら?」

 

一夏お兄ちゃんの斜め下の女の人が話しかけてくる。

 

「男が一度言い出したことを覆せるか。ハンデは無くていい」

 

「えー?それは代表候補生を舐めすぎだよ。それとも、知らないの?」

 

「あ、そうだそうだ! はいはーい! ちょっとセシリアさんにお頼み申す!

 クラス代表を決めるのは決闘で翔くんも参加するんスよね!

 そん時に翔にハンデ与えてやってくんないかね。大丈夫かな?」

 

突然、明お姉ちゃんが席を立って大声でセシリアさんに言い始める。

やっぱり、セシリアさんも突然すぎて驚いているようだった。

 

「なっ……あなた、いきなりなんですの!?」

 

「あっ、ゴメンね。とりあえず自己紹介しとく!

 私は野々原 明! 翔くんと一緒の孤児院出身で私は姉!」

 

すると、周りのお姉さんたちはざわつき始める。

 

「え…? 翔くんって孤児院にいたの?」

 

「翔くんが弟かぁー…いいなー」

 

「あの子、テンションおかしくない?」

 

ざわつき始める教室を沈めるように織斑先生が言う。

 

「あー…コホン。それでだ、野々原が言うにも一理ある。どうだ? オルコット」

 

「えぇ、構いませんわ」

 

セシリアさんはボクに対してハンデを付けることを許可してくれた。

……でも、明お姉ちゃんがいうハンデはなんだろう?

 

「…それで、ハンデの内容はなんですの? 主力武器の使用制限でしょうか?」

 

「いーや、翔くんに加えてもう一人追加して戦ってほしいんだけど」

 

「えぇ、相手が一人増えても問題ありませんわよ」

 

「それじゃあ、織斑くんと一緒に戦ってくれね?」

 

明お姉ちゃんが突然、突拍子もなく突然な事を言い出した。

いきなり、本当にいきなり何を言っているのだろうか?

 

「なっ!? ちょっと待……」

 

「黙れ、馬鹿者」

 

一夏お兄ちゃんも驚いて席から立ち上がった。

しかし、立った瞬間に織斑先生が一夏お兄ちゃんの頭を叩いた。

 

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜日。放課後、

 第三アリーナで行う。織斑と天野とオルコットは用意をしておくように。

 それでは、授業を始める―――」

 

そして、織斑先生は何事もなかったかのように授業を始めた。

……なんで明お姉ちゃんはボクを一夏お兄ちゃんと組むようにしたのかな…?

 



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04 気になる同居人

放課後になり、ボクは美香お姉さんに勉強を教えてもらっていた。

 

美香お姉さんの説明は、少なくとも山田先生よりも分かりやすかった。

だけど、解りやすい説明であっても、ボクには少ししか理解できなかった。

 

ISは元々は宇宙開発用だったとか、兵器としての性能が凄いって事は分かった。

一夏お兄ちゃんは山田先生と一緒に勉強していたけど、何が何やらと言った感じだった。

 

今日の勉強はもうこの辺りで終わって、美香お姉さんと山田先生は先に帰っていった。

ボクと一夏お兄ちゃんは勉強で疲れてしまって、しばらく座ったまま動けなかった。

教室の周りには、放課後にも関わらずにボクと一夏お兄ちゃんの姿を一目見ようと、

別の学年の人たちが大量に押し寄せていて、あまり出たくない状況だった。

 

「うう……意味が分からん…。何でこんなにややこしいんだ……?」

 

一夏お兄ちゃんは勉強が全く分からくって机にグッタリとしていた。

ボクも一夏お兄ちゃんと一緒の体勢でぐでーっとしていた。

 

「ね、ねぇ…一夏お兄ちゃん……」

 

「ん? どうした?」

 

「ボクたち、セシリアさんに勝てるのかな?」

 

ボクは正直に思うと、とてもじゃないが勝てるとは思えない。

実力がどのくらいあるのかは分からないけど、唯一入試で教官を倒したって言ってるた。

ボクの時は倒せなかった。それどころか浮くことで精一杯だった。

最も、一夏お兄ちゃんは倒していたらしいけれども……

弱気なボクの反応に対して一夏お兄ちゃんは強気な姿勢を見せる。

 

「あと一週間はあるんだ。それまでに出来る事を出来るだけやって、

 それで当日になったらとにかく足掻けるまで足掻いて見るしかないさ」

 

一夏お兄ちゃんの言葉も、あまり勝算があるような事は言っていない。

…だけど、どうしてだか。一夏お兄ちゃんはセシリアさんに勝てる気がする。

なんとなく、ボクが勝手にそう思っているだけだけど。

 

「ああ、織斑くんに天野くん。まだ教室にいたんですね。よかったです」

 

教室で一夏お兄ちゃんとぐでぐでしていると、

山田先生がボクと一夏お兄ちゃんを探していたようで、ボクたちに話しかけてくる。

 

「二人の寮の部屋が決定しました」

 

山田先生はボクと一夏兄ちゃんに番号が書かれた鍵を渡してきた。

ボクが貰った鍵の番号は1011と書かれてあってボクの部屋の番号を示していた。

 

「俺の部屋、決まってないんじゃなかったですか?

 前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど?」

 

「えっと、たしかボクもそんな感じでしたけれど……」

 

普通なら女子高の寮を、男子二名を女子寮に入れるのはかなりの問題がある気がするけど…

IS学園は色々安全だって聞いてるし、寮だと何かと便利なんだろう。

 

「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理に

 変更したみたいなんです。……二人とも、政府から聞いてますか?

 

すると、山田先生はボク達の耳元でこっそりと耳打ちしてくる。

ぼそぼそと耳元で喋っているから、凄いくすぐったい。

 

「そう言うわけで、政府特命もあって、とにかく寮に入れるのを最優先したみたいです。

 一ヶ月もすれば個室のほうができますから、しばらく相部屋で我慢してください」

 

「…あの、山田先生、耳に息がかかってくずぐったいのですが……」

 

一夏お兄ちゃんがボクが言いたかったことを言う。

それに対して山田先生はなぜか顔を赤くして過剰に反応した。

 

「あっ、いやっ、これはそのっ、別にわざとではなくてですねっ……」

 

「いや、わかってますけど……。それで、部屋はわかりましたけど、

 荷物は一回持ち帰らないと準備できないですし、今日はもう帰っていいですか?」

 

「ボクも荷物持ってこなきゃいけないんですけれども……」

 

ボクはIS学園に入学する前に、あらかじめ荷物はある程度はまとめていて、

旅行用のかばんに入れてるのを持ってこれば自分の最小限の物は大丈夫のはず。

 

「あ、いえ、荷物なら――」

 

「私が手配しておいてやった。ありがたく思え。

 天野は母親が既に用意していたようだぞ、感謝しておくんだな」

 

「ど、どうもありがとうございます……」

 

「まぁ、生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう」

 

織斑先生、随分と大雑把ですね。

一夏お兄ちゃんは他にも色々と必要なモノはないのだろうか?

 

「じゃあ、時間を見て部屋に言ってくださいね。

 夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。

 ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。

 学年ごとに使える時間が違いますけど……

 えっと、その、織斑くんと天野くんは今のところ使えません」

 

「え、なんでですか?」

 

「アホかお前は」

 

「一夏お兄ちゃん、女の人と一緒に入りたいの?」

 

「あー……」

 

そうだった、と言わんばかりに思い出したような声を出す一夏お兄ちゃん。

ボクと織斑先生はそれに突っ込んで、山田先生はなぜか慌てていた。

 

「おっ、織斑くんっ、女子とお風呂に入りたいんですか!? だっ、ダメですよ!」

 

「えっ? 一夏お兄ちゃん、やっぱり女の人と一緒にお風呂に入りたいの?」

 

「い、いや。入りたくないです。ってか翔、やっぱりってなんだ、やっぱりって」

 

「ええっ? 女の子に興味が無いんですか? そ、それはそれで問題のような……」

 

一夏お兄ちゃんがそういうと、なぜか山田先生はそんな風に反応した。

その言葉を聞いていたお姉さんたちは何かぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた。

 

「織斑くん、男にしか興味ないのかしら…?」

 

「それはそれで…いいわね」

 

「織斑くん攻め×翔くん受けの薄い本はよ」

 

「言いだしっぺの法則というものがあってだな」

 

やっぱり、このお姉さんたちが何を言っているのかわからない。

お姉さんたちと同じ歳になれば分かるのかな?

 

「えっと、それじゃあ私たちは会議があるので、これで。

 織斑くん、天野くん。ちゃんと寮に戻っていてくださいね」

 

そう言って織斑先生と山田先生は教室を出て行く。

教室に残っているのはボクと一夏お兄ちゃんだけ。

最も、教室の周りにはたくさんのお姉さんたちがいるのだけど。

 

「なぁ、翔は何号室なんだ?」

 

「うんっとね…1011って書いてあるよ」

「そうなんだ。俺は1025号室だし、途中までは一緒だな。一緒に行こうぜ」

 

「うん」

 

一夏お兄ちゃんはボクに対して手を握れるように手を出してくれた。

ボクは一夏お兄ちゃんの手を握って部屋へ行った。

 

 

 

 

 

 

一夏お兄ちゃんと手を繋いで歩いていくと、

ボクの部屋である1011と書かれていた部屋の扉の前に来ていた。

 

「あ、ボクの部屋はここみたい」

 

「そっか、俺の部屋と近いな。

 この距離なら俺か翔が遊びに来ても大丈夫だな」

 

一夏お兄ちゃんはまた遊ぼうと誘ってくれた。

ボクはそれが嬉しくって、喜んでさよならをした。

 

「う、うん! それじゃあ、またね! 一夏お兄ちゃんっ!」

 

「おう、それじゃあなー」

 

ボクは一夏お兄ちゃんに手を振って別れた。

ドアに貰った鍵を入れて、部屋の中に入った。

 

部屋の中は凄く豪華な造りだった。

小学生の頃に行った修学旅行のときに止まった部屋と同じようなものだった。

ベッドは凄く大きいし、テレビも大きいし、色々と大きかった。

 

「…あら、同室の人かしら?」

 

部屋に入って、シャワールームの方から聞こえる声。

その声はボクにとってとても聞き覚えのある声で……

 

「ごめんなさい。シャワーを浴びてたの。

 私、稗田美香。よろしくね……あら、翔くん?」

 

シャワーを浴びていたからか、バスタオルを体に巻いて体は濡れていた。

そして、バスタオルが体を隠し切れてないのか……胸がとても大きかった。

 

「あ、あの、美香お姉さん、その……」

 

「…! ご、ごめんねっ! すぐ着替えてくるから!」

 

ボクが美香お姉さんに言おうとしたら、

美香お姉さんが顔を真っ赤にしてシャワールームへと急いで入っていった。

シャワールームからゴソゴソと着替える音がして、美香お姉さんが着替えてきた。

ちらり、とドアから少し顔を出してボクを見てくる美香お姉さん。

 

「さ、さっきはゴメンね。私はてっきり同室の人は女の子だと思って……」

 

「う…ボクの方こそゴメンなさい…その、あの……」

 

ボクは美香お姉さんに謝ろうとしたけど、

美香お姉さんはボクの唇に人差し指をそっと触っていた。

 

「翔くんが謝る必要はないのよ? ねっ?」

 

相変わらず、美香お姉さんは本当に『お姉さん』って感じがした。

明お姉ちゃんは孤児院にいるときからずっとお姉ちゃんだけれども、

なんていうか…明お姉ちゃんはお姉ちゃんというよりも、

ちょっと年上の仲のいい親友って感じだったからなぁ……

 

「これからよろしくね、翔くん」

 

美香お姉さんはぺこり、とお辞儀をした。

ボクもそれにつられてぺこり、とお辞儀を返した。

 

一緒に暮らす人が知ってる人でよかった。

知らない人だと色々と遠慮しちゃうし、凄く気まずくて仕方ない。

でも、知っている人で仲のいい人で本当によかったと心底思う。

美香お姉さんは優しいし、同じ部屋だと勉強も教えてくれるかもしれない。

 

「えへへ…よろしくお願いします」

 

ボクはつい笑いながら美香お姉さんに挨拶をする。

美香お姉さんは微笑んでボクの頭を撫でてくれた。

その手つきは優しくて、とても気持ちがいいものだった。

 

撫でられ続けていると、安心して眠たくなってくる。

このまま眠ってしまったら美香お姉さんに迷惑かけてしまうかもしれない。

だから一度は撫でるのを止めて欲しいと言おうとしたけれども、

美香お姉さんは全てを見透かしているようで、撫で続けるのをやめなかった。

 

今日はもう疲れたみたいだから、今日はもう眠りなさい。

着替えとか、衣服を畳んでおいたりするのは私が全部しておくから。

と、美香お姉さんは優しく言っているように感じた。

 

本当はこのまま起きて、荷物を片付けなきゃならないのだけど、

結局、ボクは睡眠欲に負けてしまい、片付けなどを美香お姉さんに押し付けてしまった。

 



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05 決闘に向けて

「ん……?」

 

目が覚めると、そこはいつもの見慣れた天井ではなかった。

ここはIS学園の寮内で、ボクはこれからこの部屋で暮らしていくことになるんだ。

 

「おはよう、翔くん」

 

寮は基本的に二人部屋らしく、ボクの同居人は美香お姉さん。

部屋を見渡すと、荷物…と言っても少ない荷物が入った旅行ケースは片付けられていた。

 

ふと、着ている服に違和感を感じて、服の袖を見る。

見慣れた青いチェック柄のパジャマで、ボクがよく着てたパジャマだ。

当然、持ってきた荷物の中に入ってた服の一つだった。

 

「あ…美香お姉さん、おはよ~……」

 

起きたばっかりであまり頭が回らず、

とりあえずボクはおはようと返した。

 

「さ、翔くん。早く着替えて朝ごはん食べましょう?」

 

うふふ、と上品に笑う美香お姉さん。

とりあえずパジャマのままでは恥ずかしくって学食にはいけない。

最低でもジャージには着替えておきたいけれども、

ジャージに着替えるよりは、そのまま教室に行ける制服の方がいい。

でも、どっちにしても……

 

「あの、美香お姉さん。その……見られてると、着替えられないよ?」

 

「あっ…ご、ゴメンね! それじゃ、外で待ってるから!」

 

美香お姉さんが部屋にいたら、恥ずかしくてパジャマを脱ぐこともできない。

そのことに気づいた美香お姉さんは顔を真っ赤にして部屋から出て行った。

パジャマから制服に着替えようとする、制服は綺麗に畳まれてあった。

 

 

制服に着替えた後にパジャマを畳み、ちゃんと鍵を持って部屋を出た。

美香お姉さんと途中で会った明お姉ちゃんと一緒に食堂へ向かった。

IS学園の食堂はとても大きくて、メニューが物凄くある。

様々な国の人もいるから、それぞれの国の人にあった人のご飯もある。

つまりは、大きくて多国籍なメニューのある豪華な食堂だってこと。

 

ボクは和食セットを頼んで、食堂にある場所に座った。

右に美香お姉さんが座って、左に明お姉ちゃんが座ってボクがはさまれるような形になった。

 

なぜかボクに話しかけようとしていたお姉さんたちがガッカリしていた。

理由はよくわからないけれど、多分欲しかったデザートが無かったとかそんな感じだろう。

明お姉ちゃん曰く、落ち込んでいるのはそういうことらしい。…多分。

 

 

 

 

二日目の授業の三時間目、相変わらず授業の内容が分からないまま進んでいった。

とりあえず先生が黒板に書き込んでいる内容をノートに書き写してはいるけれども、

書いてあることが全く理解してないからノートに書いても無駄なんじゃないかと思ってきた。

 

「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、

 操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。

 また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に

 操縦者の肉体を安定した状態へ保ちます。

 これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ―――」

 

「先生、それって大丈夫なんですか? なんか、

 体の中をいじられているみたいでちょっと怖いんですけれども……」

 

クラスの中のお姉さんが心配そうに先生に質問した。

確かに、あのISの中に入り込んじゃうような感覚はなれないし、

もしかすると自分がISに取り込まれちゃったんじゃないかと感じたりもする。

 

「そんなに難しく考える必要はありませんよ。

 そうですね、例えば皆さんはブラジャーをしてますよね?

 あれはサポートこそすれ、それで人体に影響は出るということはないわけです。

 もちろん、自分にあったサイズのものを選ばないと、形崩れしてしまいますが――」

 

そこで、山田先生は一夏お兄ちゃんと目が合って、それでボクを見た。

一回きょとんとして、すぐに顔を真っ赤にして慌てて一夏お兄ちゃんに説明した。

 

「え、えっと、いや、その、お、織斑くんと天野くんはしませんよね。

 わ、わからないですよね、この例え。あは、あははは……」 

 

山田先生はごまかすように笑っていた。

それで、なぜか周りにいるお姉さんたちは胸を隠すような仕草をしている。

 

「んんっ! 山田先生、授業の続きを」

 

「は、はいっ」

 

織斑先生は咳払いをして山田先生に授業を進めるように注意した。

それでさっきまであった変な空気も元通りの普通の授業の空気になった。

 

「そ、それともう一つ大事なことは、ISにも意識に似たようなものがあり、

 お互いの対話――つ、つまり一緒に過ごした時間で分かり合うといいますか、

 ええと、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします」

 

この事を後で美香お姉さんに聞いたら、

ISは操縦者にぴったりと動くように成長するみたいなんだって。

 

「それによって相互的に理解し、よい性能を引き出すことになるわけです。

 ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」

 

「先生ー、それって彼氏彼女のような感じですかー?」

 

山田先生が説明をし終えると、すぐにクラスのお姉さんが挙手して質問した。

 

「そっ、それは、その……どうでしょう。私には経験が無いのでわかりませんが……」

 

山田先生は顔を赤くしてもじもじしながらうつむいた。

お姉さんたちはきゃっきゃと男の人と女の人についてを話し始めた。

 

途中で山田先生が一夏お兄ちゃんをジーッと見ていた。

それに一夏お兄ちゃんが気づいて質問するけど、

なぜか山田先生は慌ててなんでもないと言っていた。

 

そんなことをしている内に、授業を終えるチャイムが鳴った。

 

「あっ。えっと、次の時間では空中におけるISの基本制動をやりますからね」

 

山田先生は次の授業の内容を予告して教室から出て行った。

するとドッと一夏お兄ちゃんのところにお姉さんたちが群がった。

ざわざわと聞こえる声の中で、『もう出遅れるわけには行かないわ!』

なんて声もあった。何を出遅れるのかは分からないけれども。

 

ちなみにボクの周りに明お姉ちゃんと美香お姉さんがいて、

なぜかそれでお姉さんたちはボクの周りに来てなかった。

 

「休み時間は終わりだ、散れ」

 

一夏お兄ちゃんの頭を織斑先生が叩いた。

その音にクラスのお姉さんは過剰に反応して、席に座った。

 

「ところで織斑、天野。お前らのISだが準備まで時間がかかる」

 

「へ?」

 

「…はい?」

 

「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

 

「…??」

 

「あの、専用機って、もしかして……?」

 

一夏お兄ちゃんは何を言っているかわからないといった様子だったけど、

織斑先生はボクと一夏お兄ちゃんに専用機を与えられるという感じみたいだ。

 

「せ、専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」

 

「つまりそれって政府からの支援が出るってことで……」

 

「ああ~。いいなぁ……私も専用機欲しいなぁ…」

 

クラスのお姉さんたちは専用機について羨ましがっている様子だった。

一夏お兄ちゃんは何がなにやらといった様子であった。

すると見かねた織斑先生がため息をつくように一夏お兄ちゃんに対して言った。

 

「教科書の六ページ。音読しろ」

 

「え、えーと……『現在、幅広く……」

 

一夏お兄ちゃんは教科書に書いてある内容を皆に聞こえるように言った。

ボクは何を言っているかわからなくって、後で美香お姉さんに聞いてみた。

 

1、ISのコアは世界に467機しかないこと。

2、コアは篠ノ之博士にしか製造できないけれども、もう博士はコアを作っていない。

 

簡単にまとめると、こんな風になった。

 

「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか…?」

 

一人のクラスのお姉さんが織斑先生に質問した。

すると、織斑先生は答えちゃあいけないような質問に答える。

 

「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 

織斑先生はあっさりと言っちゃあいけないようなことを言う。

すると、クラスのお姉さんたちは授業中にも関わらず篠ノ之さんの周りに集まった。

 

「えええええーっ! す、すごい! このクラス有名人の身内が二人もいる!」

 

「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」

 

「篠ノ之さんも天才だったりする!? 今度ISの操縦教えてよっ」

 

クラスのお姉さんは篠ノ之さんの周りに集まって色々なことを聞き始めた。

篠ノ之さんは最初は無表情のような感じだったが、次第に怒っているような……

 

「あの人は関係ないっ!」

 

大声でクラス中に怒鳴るように叫んだ篠ノ之さん。

突然の大声でボクはちょっと驚いて小さく声をあげた。

周りにいた人たちも目をぱちくりとしていて、困惑したような表情をしていた。

 

「…大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何も無い」

 

篠ノ之さんは謝ったあとで、顔を窓の方へと向ける。

周りにいたお姉さんたちも散り散りになって自身の席へと座った。

 

「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令を」

 

「は、はいっ!」

 

山田先生も篠ノ之さんのことが気になるようだったけれども、

あんな態度でも一応先生なのだから、授業を始めていた。

ボクも授業をするような態度に切り替えて授業を受けた。

 

 

 

 

授業が終わってお昼休み、これからお昼ご飯を食べようとした時間にセシリアさんが来た。

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

相変わらず、セシリアさんは偉そうなポーズをとって話しかけてくる。

イギリスの紳士(後で聞いたけど淑女っていうらしい)は全員こんな感じなんだろうか?

 

「まぁ? 一応勝負は見えてますけど? 流石にフェアではありませんものね」

 

「…なんで?」

 

「あら、ご存知ないのね。いいですわ、庶民のあなた方に教えて差し上げましょう。

 このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……

 つまり、現時点で専用機を持っているのですわ!」

 

ビシッ!という効果音が流れるようなかんじでボクたちに人差し指を向けた。

 

「へー」

 

「…馬鹿にしていますの?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

セシリアさんが怒ったような声をしているから、つい謝ってしまった。

 

「いや、すげーなと思ってだけだけど。どうすげーのかはわからないが」

 

「それを一般的に馬鹿にしてると言うのでしょう!?」

 

セシリアさんはバンッ! と机を思いっきり叩いた。

 

「あ、あわわわ……け、喧嘩しないでください……」

 

ボクはこのままだと一夏お兄ちゃんとセシリアさんが喧嘩をしてしまいそうで怖かった。

だから、やめてほしいと思って言ってみた。

セシリアさんははっとして冷静になったような感じになった。

 

「…こほん。わたくしは喧嘩してるのではなくってよ。

 話を戻しますけど、さっきも授業で仰っておったでしょう。

 世界でISは467機しかありませんわ、つまり、

 その中でも専用機を持つものは全人類六十億超の中でも、

 エリート中のエリートなのですわっ!」

 

「そ、そうなのか……」

 

「そうですわ」

 

「人類って今六十億越えてたのか……」

 

「そこは重要ではないでしょう!?」

 

バンッとまた机を叩くセシリアさん。

一夏お兄ちゃんって、もしかしてワザとやってるんじゃないかな?

 

「あなた! 本当に馬鹿にしてますの!?」

 

「イヤソンナコトハナイ」

 

「だったらなぜ棒読みなのかしら…?」

 

一夏お兄ちゃんは本当になんでだろうというような風であった。

素でこれなんだったら、一夏お兄ちゃん凄いです。

 

「なんでだろうな、箒」

 

ここでなぜか篠ノ之さんに話題を振った。

篠ノ之さんはギラッというような効果音を出して睨んできた。怖い。

 

「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね」

 

セシリアさんは篠ノ之さんに矛先を向けた。

篠ノ之さんもセシリアさんに向けて思いっきり睨んだ。

 

「妹というだけだ」

 

「う……」

 

セシリアさんは篠ノ之さんの眼力に怯み気味だった。

ボクはあの目で睨まれたら多分泣いちゃうかもしれない。凄く怖いし。

 

「ま、まぁ。どちらにしてもこのクラスで代表にふさわしいのは

 わたくし、セシリア・オルコットであるということをお忘れなく」

 

…なら、セシリアさんがクラス代表になったらいいんじゃないかな?

一夏お兄ちゃんは推薦されてクラス代表になりそうなんだし、

ボクはクラス代表をやっても……はっきり言うと自信が無い。

 

セシリアさんは腰に手を当てながら去っていった。

なんていうか、ポーズをとりながら歩くなんてモデルさんみたいだった。

 

一夏お兄ちゃんは篠ノ之さんと一緒に食堂へ行こうとしていた。

その前にクラスメイトが一夏お兄ちゃんを誘おうとしていたけれども、

篠ノ之さんが一夏お兄ちゃんを投げた。それはもう見事に投げた。

 

さっきまで一緒に行こうとしていたクラスの人たちはそそくさと退散し、

恥ずかしながら、ボクもそそくさと退散して明お姉ちゃんと美香お姉さんと一緒に行った。

 

 

 

 

IS学園には戦闘を行うための大きなアリーナがある。

学校の案内する本を見ると、全部で七つくらいあるらしい。

最も、アリーナの部分とかは今も作られているらしいので、増えてくみたいだけど。

ボクは今、第二アリーナを借りていて明お姉ちゃんと美香お姉さんに教えてもらうことにした。

一夏お兄ちゃんと一緒に練習できないのが残念かなぁ……

 

「じゃあ、量産型のISも借りたし、訓練しよっかー!」

 

目の前にあるのは日本の量産型IS『打鉄』だった。

江戸時代とかの昔に日本の使っていた鎧、甲冑を模したようなその姿。

灰色をした現在の甲冑は目の前でボクが乗るのを待つように座っていた。

 

「…でも、借りたのは一機しかないよ?」

 

「あー、大丈夫、大丈夫!」

 

そう言って明お姉ちゃんは耳に付けていた藍色のイヤリングを、

美香お姉さんは左手の小指につけた指輪をボクに見せてきた。

 

「…それは?」

 

ボクは二人に聞いてみた。

そうしたら、二人はお互いの顔を見ながらにししっと笑った。

 

「じゃあ、翔くんが驚くようなことをしてあげる」

 

「展…開ッ!」

 

二人の見せたアクセサリーが一瞬輝き、光が二人の姿を包んだ。

1秒もかからないうちに、二人はISを身にまとっていた。

 

「…それって、もしかして専用機…!?」

 

「そう! 私たちは何を隠そう、代表候補生だったのだぁぁ!」

 

「な、なんだってー」

 

明お姉ちゃんが嘘をついているのはボクでもわかった。

棒読みみたく言っちゃったけど、特に問題はないと思う。

 

「違うわよ。私の叔父さんがIS研究の会社をしているのは知ってるでしょ?

 私はISにちょっと詳しいからIS関連の仕事を手伝っているんだけれども、

 IS学園に入学するならついでにデータ採集しようって事で専用機を渡されたの」

 

そうなんだ。今始めて知った。

だから明お姉ちゃんはあの時、ISの研究所にいたんだ。

そこにボク達がついていって、そこでボクはISを起動させた。

 

「とりあえずさ、翔くん。まず打鉄を装着してみようよ」

 

「そうね。時間も限られてるし、早くやりましょう」

 

ボクは打鉄に入るように装着した。

当然だが、ボクは普通のお姉さんたちより体が小さい。

けれども打鉄はボクの体にピッタリとくっつく様に調節された。

 

「おぉ~…すごいなぁー」

 

ボクはISにピッタリと装着された感想を正直に言った。

 

「ま、翔くんにも専用機が用意されるっていうしね。

 次期に私たちの仲間入りってワケだね!」

 

「さ、翔くん。これからISの操縦方法を教えるよ」

 

「はいっ!」

 

ボクは打鉄を使って明お姉ちゃんと美香お姉さんと一緒にISの操縦訓練をした。

それ以外にも射撃の方法とか、接近戦の方法なども教えてもらった。

これでセシリアさんとある程度は戦えるようになれればいいんだけど…

 



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06 VSブルー・ティアーズ

あれから一週間、ボクは明お姉ちゃんと美香お姉さんの二人から

ISの勉強と操縦訓練を手伝ってもらい、ついに決闘の日を迎えた。

 

「ねぇ、明お姉ちゃん…ボク、セシリアさんと戦えるかなぁ…?」

 

「決して諦めるな、自分の感覚を信じろ。翔くん。

 ……ま、宙に浮いたりとか移動するのはできるでしょう?

 とにかく、とことんやってみるしかあるまい!」

 

「う、うん…とにかく、やってみるよ」

 

「そういえば、明お姉ちゃんはボクと一夏お兄ちゃんと一緒に戦おうって言ったの?」

 

「あー、アレね。私たちは織斑くんと翔くんに専用機を与えられるってことは知ってたし、

 まぁ一石二鳥ってヤツだ。まぁぶっちゃけると織斑くん一人で勝てるとは思えないからね」

 

「お、織斑くん天野くん織斑くん天野くん織斑くん天野くん!」

 

ぱたぱたと山田先生がこっちに走ってきて…

…転んだ、なんだかおっちょこちょいで、美奈ちゃんを見ているみたいだった。

 

「山田先生、大丈夫ですか?」

 

一夏お兄ちゃんは山田先生に手を差し伸べる。

それを見た篠ノ之さんはなぜかムッとしていたりする。

山田先生は転んだにも関わらず、慌てていた。

 

「山田先生、とりあえず落ち着いてください。はい、深呼吸」

 

「は、はいっ。す~~は~~っ、す~~は~~っ」

 

「はい、そこで止めて」

 

「うっ」

 

一夏お兄ちゃんは山田先生に息を止めるように言った。

すると山田先生は息を本当に止めた。

酸欠で顔を真っ赤にしてぷるぷるしている。

 

「……ぷはぁっ! ま、まだですかぁ?」

 

「目上の人間には敬意を払え、馬鹿者」

 

織斑先生はガツンッと一夏お兄ちゃんの頭を殴った。

もはやこの光景はIS学園の日常と化していた。

 

「千冬姉……」

 

バアンッ! と再び一夏お兄ちゃんの頭を叩く織斑先生。

一夏お兄ちゃんは何回叩かれれば許されるのだろうか?

 

「そ、それでですね! 来ました! 二人の専用機が!」

 

……おぉ、ついにきたんだ。ボクと一夏お兄ちゃんの専用ISが。

自分だけの翼。明お姉ちゃんとお母さんはそうやって説明していた。

 

ずっと昔から空を自由に飛びたいと思っていた、翼を持ちたいと考えていた。

そして自由な空へと羽ばたきたいと、いつか思っていた。

 

今、ボクは自分だけの翼を得ようとしているんだ。

 

「織斑、天野、すぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。

 アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でものにしろ」

 

「……え?」

 

「この程度の障害、男子たるもの乗り越えてみろ、一夏」

 

「翔くん。キミも幼いながらにして一匹の狼だ!乗りこなせ、困難をモノにしろ!」

 

「とりあえず、早くアリーナへ行ったらいいんじゃないかしら?

 セシリアさんも結構待たせているようですからねっ」

 

「え? え? なん……」

 

「あ、あのぅ…いきなりは、ちょっと……」

 

「「「「「「早く!」」」」」

 

この場にいるお姉さんたちの声が同時に重なった。

ゴゴゴ…と地面から鈍い音がして、ピットの搬入口が開いた。

 

そこからゆっくりと出てくる二つの『白』があった。

 

白、それ以外にはなにも無い真っ白な白がそこに二つ、存在感を放っていた。

 

「これが……!」

 

「ボクたちの、専用機……!」

 

一夏兄ちゃんは自分の専用ISに驚くような声をだした。

 

「はい!織斑くんの専用IS『白式』です!

 天野くんの専用ISの名前は『天翔(あまかける)』ですよ!」

 

ボクの専用機、天翔……!

一夏お兄ちゃんの白式と同じ真っ白のISで、ボクの専用機。

機体名がボクの名前と似ているのがちょっと恥ずかしい。

 

ボクはいつもISに乗るように背を任せるように座り…装着した。

一夏兄ちゃんは織斑先生から乗り方を教わってISを装着した。

 

「翔くん。大丈夫? 気分とか悪くなったりしない?」

 

「うん、大丈夫。いつでも行けるよ」

 

ボクは一夏お兄ちゃんと一緒にアリーナへと飛び出そうとしていた。

しかし、篠ノ之さんは不安そうな顔をしていて何かを言いたそうにしていた。

 

「箒」

 

「な、なんだ?」

 

「行ってくる」

 

「あ……あぁ。勝ってこい」

 

一夏お兄ちゃんは篠ノ之さんとカッコいいやりとりをしていた。

ISを使って後ろを見ると明お姉ちゃんが何かに期待してそうな顔をしていた。

 

「翔くん…鳥になってこい!」

 

「…うん!」

 

ボクは親指をグッと立てて、アリーナの中へと飛び出して行った。

 

 

 

 

「あら、逃げずにきましたのね」

 

セシリアさんは相変わらず偉そうな態度で話しかけてくる。

どうも腰に手を当てるのがセシリアさんの固定されたポーズらしい。

 

ボクのISはセシリアさんの専用機であるIS、

『ブルー・ティアーズ』の詳細なスペックデータが表示された。

……正直、何がなんだか分からないんだけど……

とりあえず、背中にある翼のようなものは特殊な武器だってことは分かった。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

「チャンスって?」

 

「チャンス……ですか?」

 

「そう。わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。

 ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、

 今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」

 

「え……ゴメンなさ―――」

 

「そういうのはチャンスとは言わないな」

 

ボクは謝ろうとしてたけど、一夏お兄ちゃんの声でかき消された。

 

「そう? 残念ですわ。それなら――」

 

――警告! 敵IS射撃体制に移行。トリガー確認、初弾エネルギー装填。

 

「お別れですわね!」

 

キーン、という高い音がセシリアさんの持つライフルから出される。

それと同時に最初は一夏お兄ちゃんに、そして次にボクに撃ってきた。

 

「うわっ!?」

 

最初に一夏お兄ちゃんを狙ったのがボクに対しては幸運だった。

だから、ボクはかろうじてセシリアさんの攻撃を回避することができた。

明お姉ちゃんと訓練したときに、散々銃で狙われていた。

だから、射撃に対してはある程度対策をとることができた。

最も、接近戦にはほとんど何もできなかったけれども……

 

「さぁ、踊りなさい! わたくし、

 セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

 

セシリアさんはエネルギーを発射するライフルを使って、

ボクと一夏お兄ちゃんを狙ってくる。狙い方が凄く上手いのがわかる。

 

「そ、そうだ! 武器、武器出さないと…!」

 

ボクは天翔から武器を取り出そうとする。……でも。

 

「…ない」

 

武器が、無い。

量産型の打鉄やラファール・リヴァイブに乗ったとき、武器の出し方は覚えてる。

でも、この天翔には武装の類のものが一切無かった。

 

「い、一夏お兄ちゃん。ボク、武器が無いんだけど……」

 

「そ、そうなのか!? 俺もブレード一本しか無いんだが……」

 

「…えぇー?」

 

「中距離射撃型のわたしに、近距離格闘装備で挑むだなんて……笑止ですわ!」

 

普通に考えると、ボクたちには勝てる見込みは無い。

けれども、一夏お兄ちゃんはニヤッと笑いながらこう言った。

 

「やってやるさ!」

 

 

 

 

「―――二十七分。二人同時とはいえ、持ったほうですわね。褒めて差し上げますわ」

 

「そりゃどうも……」

 

セシリアさんはボクたちに対して挑発してるとしかいえないセリフを言う。

シールドエネルギーもほとんど無いし、外見もほとんどボロボロになっていた。

 

「このブルー・ティアーズを前にして、

 複数かつ初見でこうまで耐えたのはあなた方が初めてですわね」

 

セシリアさんは周りに浮いていた四つの自立起動兵器を撫でる。

その自立起動兵器はフィン状の部分に直接特殊なレーザーを発射する銃口が開いていた。

自立起動兵器の名前もブルー・ティアーズと言うのですごく紛らわしい。

 

「では、閉幕と参りましょう」

 

セシリアさんは笑いながら、右腕を横にかざした。

すると自立起動兵器のブイルー・ティアーズ……以降ビットが四機、

ボクと一夏お兄ちゃんに向けて二機づつ襲い掛かってくる。

 

「ひぃっ……!」

 

ボクはそのビットから放たれるレーザーを辛うじて避ける。

けど、今のボクにはセシリアさんの攻撃を回避することしかできない。

 

「左足、いただきますわ」

 

セシリアさんは一夏お兄ちゃんに向けて銃口を向ける。

今の一夏お兄ちゃんなら一撃くらい耐えるくらいのエネルギーは残ってるけど、

ここで攻撃を受けてしまえば、ビットとの連携攻撃であっという間に負けちゃうだろう。

 

「ぜああああっ!」

 

一夏お兄ちゃんは一気に加速し、セシリアさんと思いっきりぶつかった。

その衝撃でセシリアさんのスナイパーライフルの照準は逸れて、攻撃を免れた。

 

「なっ…!? 無茶苦茶をしますわね。けれど、無駄な足掻きですわっ!」

 

セシリアさんは一夏お兄ちゃんと距離をとり、空いていた左手を横に振った。

すると、さっきまで動いてなかったビットがボクと一夏お兄ちゃんに襲い掛かってきた。

 

ボクは二機のビットの攻撃を辛うじて避ける。

そうすると、一夏お兄ちゃんが周囲を回っていたビット一機を切り裂いた。

バコンッ! と機械の爆発する音が聞こえ、ビットは空中で爆発した。

 

「なんですって!?」

 

セシリアさんはビットが攻撃されたことに驚く。

その隙を狙って一夏お兄ちゃんはセシリアさんに向けて斬りかかったが、

後方に回避したが、追撃するように右手に持っていた剣を振りかざした。

 

その攻撃もセシリアさんは回避したが、ボクからビットが遠ざかり、

一夏お兄ちゃんに向かって一機のビットが向かっていった。

今、ボクの相手をするのは事実上ビット一機のみ。

 

「この兵器は毎回お前が命令を送らないと動かない! しかも―――」

 

一夏お兄ちゃんはまるでそこにビットが移動するのを知ってたかのように、

付近を飛んでいたビットを右手に持っている剣で切り裂いた。

 

「その時、お前はそれ以外の攻撃をできない。

 制御に意識を集中させているからだ。そうだろ?」

 

「………ッ!!」

 

セシリアさんは右目尻がピクピクッと動く。

一夏お兄ちゃんの言ったことを肯定しているようだった。

 

…それにしても、一夏お兄ちゃんは戦いながら相手のクセを理解したんだ。

ボクも何度か攻撃を回避してたけど、そんなことには一切気づかなかった。

そんなところに気がつく一夏お兄ちゃんは凄い…

 

(もしかしたら…勝てるかもしれない!)

 

初めてISを使った戦闘で勝てるかもしれない。

そんな期待が、ボクの中で膨らんでいった。

 

「行くぞ、翔っ!」

 

「う、うん!」

 

ボクは一夏お兄ちゃんと一緒にセシリアさんに向けて突撃した。

少なくとも、殴っても蹴ってもIS同士なら少しくらいダメージが入るはずだ。

 

「―――かかりましたわね」

 

にやり、とセシリアさんの口元が上がるのが見えた。

……その表情と言葉に凄い不安を覚え、後退しようと思ったが、

セシリアさんの腰部から広がっているスカート状のアーマーの突起が外れ、動いた。

 

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは六機あってよ!」

 

セシリアさんのブルー・ティアーズに直接装備されたビットの銃口は

こちらに狙いを定めている。それの攻撃はレーザーではなく、火力の高いミサイルだった。

 

そして、ボクと一夏お兄ちゃんの前で大きな爆発を起こした。

視界は爆発の衝撃を視覚化した色を超えて白く光り、その光にボクは包まれた。

 

 

 

 

システム、オールグリーン・・・・・・

 

 

無段階移行(シームレス・シフト)の正常反応の確認・・・・完了。

 

 

所有者:天野 翔

 

 

付近にISの存在を確認、解析を開始します。

敵IS解析中・・・・・・完了、機体名『ブルー・ティアーズ』

味方IS解析中・・・・・・完了、機体名『白式』

 

 

現時点の天翔の特殊武装・・・・・・無し。特殊武装の生成を要求。

 

 

ブルー・ティアーズよりスターライトMkⅢをコピー・・・・・完了。データを保存します。

ブルー・ティアーズよりブルー・ティアーズをコピー・・・・・完了。データを保存します。

白式より雪片弐型をコピー・・・・・・・・・エラー、拡張容量(バススロット)が足りません。

 

 

雪片弐型のデータを収集中・・・・・・完了、複製を開始します。

雪片弐型を複製中・・・・・・・・完了。

 

 

天翔専用特殊装備『白雪(しらゆき)』生成完了。

 

 

―――フォーマットとフィッチングが終了しました。確認ボタンを押してください。

 

 



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07 セシリアさんとの決着

誤爆して先に8話目を投稿してしまいました。
感想でそのことを指摘してくれた人がいたのですが、
なぜか自分は勘違いしてタイトルの数字を間違えてるだけだと勘違いしてしまいました。

申し訳ございませんでした。


 

―――フォーマットとフィッチングが終了しました。確認ボタンを押してください。

 

(え…? な、何?)

 

ボクの頭の中に直接、データが送り込まれてくる。

それと同時に目の前に現れたウィンドウ。

ウィンドウの真ん中には確認と書かれたボタンがあった。

 

ボクはそのまま確認のボタンを押す。

そうしたらボクの中に入ってきたデータが整理整頓されていた。

 

金属を擦るような高い音が頭の中に響く。

でもその音はうるさくなくって、むしろ居心地がいいように感じた。

すると、ボクが使っていた天翔は光の粒子になって消え、

光はボクの体を包み込むように集まり、そして新たな姿を現した。

 

「これは……」

 

「本当の、姿…?」

 

一夏お兄ちゃんも同時に似たようなことが起こっているらしい。

 

新しくなったからか、さっきまで受けていた傷も無くなっていた。

さっきまで無かった部分などが現れ、その変化を形として表していた。

 

「ま、まさか……一次移行!? 

 あなた方は今まで初期設定だけの機体で戦っていたんですの!?」

 

そっか、今のセシリアさんの発言でこの状態が何なのかは分かった。

これで天翔はボク専用のISになったって事だ。

今、ボクは初めて自分自身の翼を得ることができたんだ。

これ以上に嬉しいことはほかに無いだろう。

けれども、それと同じくらいにボクの天翔には嬉しい変化が起こっていた。

 

(一つだけだけど、武器がある……!)

 

さっきまで無かった武器の一覧表に、一つだけ武器がある。

白雪(しらゆき)』と名前のついている刀の装備を右手に展開した。

 

その刀は柄の部分しかなかったが、柄から白い光の刃が現れる。

ビームで作られた刀は白く輝き、雪のように美しかった。

 

「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

 

「ありがとう、天翔……ボクをパートナーとして選んでくれて……」

 

過去に辛いときがあったとき、ボクは空を眺めていた。

自由に空を飛んでいる鳥類が羨ましくて、鳥になりたいって思ったこともある。

でも、これでボクは自由に空を飛ぶことができる『翼』を手に入れたんだ。

 

「俺も、俺の家族を守る」

 

「ボクは選んでくれた天翔の為にも……」

 

「……はぁ? 何を仰って……」

 

「とりあえずは、千冬姉の名前を守るさ!」

 

「僕は選んでくれた天翔の為にも負けられない!」

 

ボクはまだ小学生だし、クラスの誰よりも未熟な存在だ。

けれども、天翔はボクの専用機でも、立派なISだ。

意思を持っているISに見っとも無いことをする分けにはいかない。

 

……というか、今になってボクの専用機の名前について疑問を持った。

ボクの名前そっくりで、なんだか自分の名前を呼んでいるようで恥ずかしい。

 

「というか、逆に笑われるだろ」

 

「あはは…ちょっと恥ずかしいかな」

 

「だからさっきから何の話を…あぁ、もう! 面倒ですわ!」

 

セシリアさんは腰部にあるビットにミサイルを再装填した。

そのビットは一機ずつボクたちの方向へと襲い掛かってくる。

 

(動きが見える……!)

 

ボクに襲い掛かってくるビットを手に持った白雪で切断する。

真っ二つになったビットは爆発し、粉々になって消えた。

 

セシリアさんに向かおうとするが、セシリアさんも後方に下がって距離をとる。

もっと、速く近づかないと、ボクの攻撃は避けられちゃうだろう。

 

――――瞬間的に、一気に加速する感覚!

 

ボクの体は一瞬でセシリアさんの前に移動した。

右手に持っていた白雪を使ってブルー・ティアーズの装甲を切り裂く。

 

「なっ……!?」

 

一瞬、ボクがセシリアさんの目の前に現れたこと。

そしてボクに攻撃を受けられたことに怯んで動きを止めていた。

 

一夏お兄ちゃんが後方から迫ってくる。

右手に持っている白い刀は大きな力強い光を放っていた。

 

「おおおおおおっ!!」

 

ボクは一夏お兄ちゃんが攻撃できるように、左側へと移動する。

そしてさっきまでボクがいた場所には一夏お兄ちゃんの姿があった。

右手に持っていた白い刀で思いっきりセシリアさんに斬りかかる!

 

攻撃は少し装甲を切り裂いただけだったが、その攻撃力は凄まじく、

ほとんど満タンだったブルー・ティアーズのエネルギーを削っていった。

威力はまさに一撃必殺、そして試合の終了を告げるブザーが鳴り響き―――

 

『試合終了。勝者――織斑一夏、天野翔』

 

ボクと一夏お兄ちゃんの勝利が決まった。

 

「やったな、翔!」

 

「やったね、一夏お兄ちゃん!」

 

ボクと一夏お兄ちゃんはセシリアさんに勝ったことを喜んでハイタッチした。

その瞬間、第三アリーナから歓声の声がワーッと聞こえた。

 

こうして、ボクと一夏お兄ちゃんの初戦闘は見事に勝利で決まった。

 

 

 

 

「おぉ~、やったなぁ…翔くん!」

 

アリーナの内部を写していたモニターを見て、明は喜びの声を上げた。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)か~……かつてブリュンヒルデが愛用してた技術だね」

 

その言葉に千冬はムッとした表情をし、明に威圧的なように話した。

 

「それは皮肉か? 野々原」

 

「いえいえ、そんな気で言ったんじゃないんですよ。

 それより美香、いつの間に瞬時加速(イグニッション・ブースト)なんて教えたの?」

 

美香は黙ってモニターを見てのだが、その言葉を聴いて明の方へと視線を向けた。

 

「え…明が教えたんじゃないの?」

 

「えっ」

 

翔のIS訓練をしたのは明と美香のみ。他の人に教わったことは無いと本人は言っていた。

だが、誰にも教えられていない技術をぶっつけ本番で使用していた。

 

(…私たちが一切教えてもない操縦技術を本番で使うだなんて…翔くんなぜは使えたんだ?)

 

 

 

 

「あんな勝利で勝ったと思うなよ、お前らは機体性能で勝ったに過ぎない」

 

帰還した瞬間に織斑先生に怒られるボクたち、

せっかく代表候補生に勝ったのに、もうちょっと褒めてくれてもいいのにな……

 

ちなみに、ボクの専用機となった天翔は待機状態と呼ばれる状態になっていて、

ISの専用機は小さなアクセサリーになって携帯できるようになっている。

ボクの天翔の待機状態は白いハートマークに白い羽が生えたペンダントだった。

なんだか、女の子がつけるようなアクセサリーでちょっと恥ずかしい……

 

「えっと、ISは今待機状態になってますけど、

 二人が呼び出せばすぐに展開できます。

 ただし、規則があるのでちゃんと読んでくださいね。はい、これ」

 

山田先生はどさっと音がするとてつもなく分厚い本をボクと一夏お兄ちゃんに渡してくる。

ちょっと中身を開いてみると、薄いページがぎっりしりと詰まっていた。

……本当に暇になったときに読んでおこう。

 

「結果はどうにしろ今日はこれでお終いだ。帰って休め」

 

「それじゃ、帰ろうか。翔くん」

 

「うん。またね、一夏お兄ちゃん」

 

「おう、じゃあな」

 

ボクは一夏お兄ちゃんと手を振って別れた。

明お姉ちゃんと美香お姉さんと並んで歩いていた。

 

「ねぇ、翔くん。さっきの戦いで瞬時加速(イグニッション・ブースト)…いや、

 凄く加速した技術を使ってたけれども、あれってどうやったのかな?」

 

さっきの戦いの最後辺りで一瞬でセシリアさんの前に加速したあれ……

瞬時加速(イグニッション・ブースト)っていう結構カッコイイ名前がついてるんだ。

 

「えっとね、一気に近づこう! って思ったら、なんか出来ちゃって…」

 

あの時はISに身を任せて操縦したら出来た、といった感じだった。

ボク自身、なんで加速したのかはよくわからない。むしろそういう物かと思ってた。

 

「…そんな急に出来るものだったかしら? 加速にしても操縦者の技術と……」

 

美香お姉さんはブツブツと独り言を言い始めた。

ポケットからメガネケースを取り出し、中に入っているメガネをかけた。

 

「あー…美香ったら、研究モードに入っちゃって…

 ま、部屋まで無意識に歩いていくし、問題ないよね」

 

明お姉ちゃんはボクの隣を歩きながら、ため息をつくように言った。

 

 

 

 

「では、一年一組代表は織斑一夏くんと天野翔くんに決定です。

 あっ、一夏くんと1繋がりでいい感じですね!」

 

山田先生は嬉しそうに喋っている。その理由はわからない。

ただ、そんなことよりも聞きたい事がいくつかある。

 

「先生、質問です」

 

先に質問したのは一夏兄ちゃんだ。

多分、今回も質問の内容は一緒だろうな。

 

「はい、織斑くん」

 

「なんで代表が二人もいるんですか?」

 

やっぱり、質問の内容は一緒だった。

 

「誰もクラス代表が一人とは言っていないぞ。

 それに織斑、お前に何かあったときは天野に対応してもらう事になる。

 言うならば、天野はクラス副代表と言ったところだな」

 

「それじゃあ、翔を代表に――」

 

バンッ!と鋭い音が一夏お兄ちゃんの頭から聞こえた。

何気なく一夏お兄ちゃんはボクにクラス代表を押し付けようとしてたけども…

 

「織斑、小学生相手にクラス代表を押し付けるな

 それにお前らはオルコットに勝った。それを忘れるな」

 

一夏お兄ちゃんは頭を手で押さえ、何で勝っちゃったんだ…と、後悔している。

ボク自身も、この結果にはちょっと納得がいかない部分があるし、

副代表みたいなことはセシリアさんの方が適任な気がする。

 

…それに、ボクがクラス代表をやれるなんて思えないし……

ボクは織斑先生に叩かれる覚悟で言ってみた。

叩かれるのが怖くて小声だったけれども……

 

「あ、あの…ボクよりもセシリアさんの方が適任だと思うんですけれども」

 

「そんな事はありませんわ!」

 

セシリアさんはがたん、と席を立った。

相変わらず腰に手を当てているポーズが様になっている…けど、いつもそのポーズだなぁ…

しかし、セシリアさんの態度はどこか嬉しそうに見えた。

 

「お二人の実力は素人とは言えわたくしには敵わなかったものですわ。

 ですから、クラス代表になるべきなのは一夏さんと翔さんですわ!」

 

…どうも、クラス代表を辞退しますと言っても受け入れてくれなさそうだった。

 

「いやあ、セシリアは分かってるね!」

 

「そうだよねー。せっかく世界で二人だけの男子がいるんだから、

 同じクラスになった以上は持ち上げなきゃいけないねー」

 

「私たちは貴重な経験を積める。

 他のクラスの子に情報が売れる。一石二鳥だね、織斑くんと天野くんは」

 

……そんな簡単に情報を売っちゃっていいのかな……?

 

「そ、それでですわね」

 

コホンと咳払いして、セシリアさんはあごに手をあてた。

相変わらず、何をしてもポーズをとっているように見える。

 

「わたくしのように優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな人間が

 ISの操縦を教えて差し上げれば、それはもうみるみるうちに成長を―――」

 

バンッと机をおもいっきり叩く大きな音が聞こえて、体をビクッと振るわせた。

その音を出したのは篠ノ之さんで、セシリアさんに対して怒っているようだった。

 

「あいにくだが、一夏の教官は足りている。私が、直接頼まれたからな。

 ISの操縦を教えるのならば、天野にでも教えているんだな」

 

篠ノ之さんはやけに『私が』というところを強調した。

やたらと主張したけど、その部分が大事だったりするのかな?

ギラリと物凄い目でセシリアさんを睨んでいたけども、

セシリアさんはそれに怯まずに、むしろ誇らしげに言った。

 

「あら、あなたはISランクCの篠ノ之さん。Aのわたくしに何か御用ですか?」

 

「ら、ランクは関係ない! 頼まれたのは私だ。い、一夏がどうしてもと懇願するからだ」

 

どうしても一夏お兄ちゃんは篠ノ之さんに訓練してほしいらしい。

なぜか篠ノ之さんが必死に言っているだけだけれども。

 

「え、箒ってランクCなのか……?」

 

「だ、だからランクは関係ないと言っている!」

 

「座れ、馬鹿ども」

 

織斑先生は篠ノ之さんとセシリアさんの頭をバシッと叩いた。

いつ聞いてもその音は痛そうな音を出し、殴られた人の表情も凄く痛そうだった。

 

「お前たちのランクなどゴミだ。私からしたらどれも平等にひよっこだ。

 まだ殻も破れていない段階で優劣をつけようとするな」

 

流石の偉そうなセシリアさんも、織斑先生の前では黙っていた。

何かを言いたそうな顔をしていたけれども、結局は何も言わなかった。

 

「クラス代表は織斑一夏と天野翔。異存は無いな」

 

クラス全員が一丸となって答える。ボクと一夏お兄ちゃん以外は……

 



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08 訓練、墜落、就任パーティ

四月ももうすぐ終わりそうな時期、そろそろIS学園にも慣れてきた。

とは言っても授業には全くと言って良いくらい付いていけないけれども…

 

でも、ISを使って動かす訓練をするのは楽しくて少しずつだけど覚えていった。

最近では明お姉ちゃんや美香お姉さんだけでなく、セシリアお姉さんも一緒に教えてくれる。

代表候補生だからなのか、解説とかは説明口調でちょっと解りにくかったけども、

一緒に戦っていると、どうやって動けばいいのかをはっきりと教えてくれた。

 

今日は個人での練習じゃなくて、授業でISの訓練を受けていた。

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらおう。

 織斑、オルコット、天野、野々原、稗田。試しに飛んでみろ」

 

前にも言ったけど、明お姉ちゃんと美香お姉さんは専用機を持っている。

けれども、二人は代表候補生じゃないし、あまり自慢げに言ったりしてないから、

二人が専用機を持っているという事実を知らない人たちもいた。

知らない人たちはなぜ二人の名前が呼ばれたのかわからずボソボソと喋っていた。

 

織斑先生に言われ、セシリアお姉さんと明お姉ちゃんと美香お姉さんは専用機を展開した。

 

 

明お姉ちゃんの専用機、音時雨(おとしぐれ)の外見はスマートな感じで、

脚部に特殊なスラスターを装備していて、背中にも大きいブースターが装備されている。

 

素早い動きで敵を翻弄する、いわゆるスピードタイプのISだ。

ちなみにカラーリングは藍色で、ちょっと黒い青色みたいな感じの色をしている。

 

 

美香お姉さんの専用機は戦女(いくさめ)・弐型《にがた》の外見はとても大きい。

普通のISの2倍ほどある手足で、そこには無数のミサイルの発射口が隠されている。

 

スピード重視の音時雨とは対なる存在で、戦女・弐型は攻撃力と防御力が高い。

あまり素早く移動することができないのが弱点だけれども、

とても強力な武装もたくさん入ってて、どれもこれも威力が大きいものばかり。

重厚的の外見のとおりで、量産型を使って攻撃してもエネルギーはあまり減らなかった。

 

 

「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ」

 

織斑先生に早くしろと言われ、ボクは急ぐようにISを展開しようとした。

……けれども、ISは展開されなかった。

 

「集中しろ」

 

織斑先生の声も怖くなってくる。早くしなくちゃ……

ボクは胸元にあるアクセサリーを両手で握って、神様に祈るようなポーズをとった。

 

(来て、天翔……!)

 

心の中で、天翔に展開するように願った。

胸元にある待機状態の天翔は白い光が放ってボクの体を包み込んでいく。

 

これがISの展開で、一瞬で天翔の装甲がボクの体を包み込んだ。

天翔を展開して、地面からちょっとだけ宙に浮いていた。

一夏お兄ちゃんもさっきまではISを展開してなかったけれども、

ボクと同じくらいのタイミングで白式を展開していた。

 

「よし、飛べ」

 

先生に命令されて、セシリアお姉さんが一番最初に飛んだ。

 

「二人とも、先に行くねー!」

 

「お先に失礼しますね」

 

その次に明お姉ちゃんと美香お姉さんがほぼ同時に飛んだ。

 

「あう、待ってよ~……」

 

その姿を見てボクも後を追うように飛んだ。

一夏お兄ちゃんぼけっとしていたが、はっと我に返って最後に飛んできた。

あまり飛ぶのに慣れていないのか、性能上では白式はこの中で二番目に速いはずなのに、

明らかにこの中では一番遅いし、少しだけグラグラと身体が揺れているようだった。

 

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。

 自分がやりやすい方法を模索するの方が建設的でしてよ」

 

セシリアお姉さんは一夏お兄ちゃんが飛び方に苦労してるのを察して、

自身に合った飛び方を学んだほうがいいと説明していた。

 

「そう言われてもなぁ。大体、空を飛ぶ感覚自体あやふやなんだよ。

 そもそもこれ、なんで浮いているんだ?」

 

「説明しても構いませんが、長いですわよ?

 反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの」

 

「わかった。説明はしなくていい」

 

一夏お兄ちゃんはとっさに断った。

多分、聞いてもよく分からないと感じたんだと思う。

 

「そう、残念ですわ。ふふっ」

 

セシリアお姉さんは楽しそうに微笑んだ。

学校に入学したばっかりの時は凄く怖かったけれども、

あの時戦ってからなぜか優しくなってボクにとってはお姉さんみたいな感じで接してくれた。

 

「ISが浮いてるのって重力を自分で作って浮いてるからねー。

 私のブースターも浮くためじゃなくて加速する為にあるんだよね」

 

「そう。通常の兵器と違って『自力で推進力を造っている』から必要ないのよ」

 

明お姉ちゃんと美香お姉さんも会話に入ってくる。

あまり難しい話でよくわからないけど、美香お姉さんが簡単に教えてくれたことを言う。

 

「えっと、確か自分で移動できるように重力を作っているんだっけ?」

 

「そう、かなり大雑把に言えばそれで合ってるのよ」

 

ふふふっ、と嬉しそうに笑う美香お姉さん。

その笑顔につられてボクもにこり、と笑っていた。

 

「それでですね、一夏さんと翔さん。

 よろしければまた放課後に指導してさしあげますわ。そのときは三人だけで―――」

 

「一夏っ! いつまでそんなところにいる! 早く降りて来い!」

 

突然、篠ノ之さんの怒鳴り声が通信回線に流れた。

いきなり言われたから少しだけ驚いてしまった。

 

下を見てみると、そこには山田先生のインカムが篠ノ之さんに奪われてて、

相変わらず山田先生がオロオロとしている様子が見えた。

 

「ISは元々宇宙での活動を元に作られたものですからね……

 何万キロ先の星の光を見ることができるのですから、この距離なら見えて当然ですね」

 

美香お姉さんは調度いい感じに説明をしてくれた。

けれどもその口調はどこか悲しげで、寂しそうな感じがしたような…

 

「よし、急降下と完全停止をやってみせろ。目標は地表から十センチだ」

 

「了解です。では皆さん、お先に」

 

と言ってセシリアお姉さんはすぐに地上に向かって行った。

地上にぶつかる寸前、というところで機体を回転させ、見事地面に着陸した。

散々自慢しているイギリスの代表候補生の称号は伊達じゃないというワケだ。

 

「じゃ、次は私たちだね」

 

と、続くように明お姉ちゃんと美香お姉さんも地上へと落下していく。

そして二人もセシリアさんと同じように地面の寸前で機体を回転し、着陸した。

 

「一夏お兄ちゃん、先に行ってるね」

 

と、一夏お兄ちゃんに断りを言っておき、ボクも地上へと移動した。

9メートル、8メートルと地上がボクの目の前にどんどん近づいていって……

 

「ひゃっ…」

 

ボクは怖くなって途中で移動するのを止めて、地上に降りてしまった。

 

「何をしている、地表より二メートルは離れているぞ」

 

織斑先生が背後に鬼を見せるように迫って来た。正直に言えば怖い。

 

「あ…うぅ、その、急に地面が近づいてきたら、怖くなって……ごめんなさい」

 

ボクは頭を殴られると思って頭を抑えるように隠したけど、

いつもやってる織斑先生のゲンコツは飛んでこなかった。

 

「いいか、専用機を持っている以上、地面に墜落するという事が少なからずともある。

 そういった状況にも耐えられるよう、今から訓練を―――」

 

織斑先生が話している途中で、突然空から何かが降ってきて、大きな衝撃と土埃が舞った。

多分、降って来た…いや、墜落したのは多分一夏お兄ちゃんだろうけど、問題は……!

 

「明お姉ちゃん! 美香お姉さん!」

 

一夏兄ちゃんの墜落してきた場所に明お姉ちゃんと美香お姉さんがいた事だ。

大きく開いたクレーターにボクは急いで向かって、土埃が晴れてボクが見たのは…

 

「…………」

 

明お姉さんはISを展開してて無事だったけれども、上半身が地面に埋まっていた。

まるでギャグ漫画みたいな光景に思わず絶句してしまった。

 

…いや、明お姉ちゃんの埋まり方もおかしいっていうのもあるけど、

問題は……一夏お兄ちゃんが美香お姉さんの胸に顔を埋めているということだ。

 

「―――ッ!」

 

「あ……」

 

美香お姉さんは顔を真っ赤にしてぷるぷると身体を震わせている。

一夏お兄ちゃんは事故とはいえやってしまった行為に対して顔を真っ青にした。

 

「織斑くんの……ヘンタイぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

一夏お兄ちゃんは半ば叫ぶように謝り、その場からとっさに離れた。

刹那、美香お姉さんの専用機である戦女・弐型の全身にあるミサイルハッチがカパッと開き、

70近い全ての発射口からミサイルが一夏お兄ちゃんに向けて放たれた。

 

「ぎゃあああああああっ!」

 

一夏お兄ちゃんは空中へ逃げるも、ミサイルの追尾性能が非常に強く、

最終的には全弾命中、再び落下するハメになった。

 

「ほぎゃああ! な、なんか勝手にシールドエネルギーが減っていくんですけど!」

 

なぜか一部のミサイルが地面に埋まった明お姉ちゃんにも向かっていった。

その攻撃は無慈悲にも明お姉ちゃんを襲うが、それでも地面からは抜けない。

 

「全く、面倒なことをしおって……

 織斑、武装を展開しろ。そのくらいは自在にできるようになっただろう」

 

織斑先生は一夏お兄ちゃんが落下した場所へ行き、そして武装を展開するよう命じた。

 

「は、はぁ」

 

「返事は『はい』だ」

 

「は、はいっ」

 

と、織斑先生に言われて一夏お兄ちゃんは武器を展開するように構えた。

そして手に光が集まり、その光は一夏お兄ちゃんの唯一の武器である雪片弐型の形を作った。

 

「遅い。0,5秒で出せるようになれ」

 

しかし織斑先生は厳しい。まだまだ早く展開しろとの事だ。

 

「続いて天野、武装を展開してみろ」

 

「は、はいっ!」

 

ボクはいきなり指名されて、思わず驚くように返事をした。

天翔の唯一の武器である白雪をボクは展開する。

柄を右手で握った瞬間、白いエネルギーの刃が出てくる。

 

「遅い。もっと素早く展開できるようになれ、いいな」

 

「……はい」

 

「次にセシリア、武装を展開しろ」

 

「はい」

 

続いてセシリアお姉さんは武装を展開するポーズをとり、手にはライフルが持っていた。

あれを見てみると、ボク達の武装の展開は遅かったなと実感できた。

 

「さすがだな、代表候補生。――ただし、そのポーズはやめろ。

 横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ。正面に展開できるようにしろ」

 

「で、ですがこれはわたくしのイメージをまとめるために必要な――」

 

「直せ。いいな」

 

「――、……はい」

 

織斑先生に強く言われてセシリアお姉さんは何だかしょんぼりとしていた。

いっつも強気なセシリアお姉さんだけど、流石に織斑先生に強気な態度はとれないのだろう。

むしろ、この学園内でそんな行動を取れる人がいたら勇者だと思う。文字通りの意味で。

 

「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片付けておけよ」

 

織斑先生は無慈悲な感じで一夏お兄ちゃんへと告げる。

 

ボクは一夏お兄ちゃんに(一方的に)任された仕事を手伝いをしようとしたけど、

美香お姉さんに無言の笑顔で連れ去られて、一夏お兄ちゃんと話すこともできなかった。

昔からエッチな話とかは苦手だったみたいだし、あの件で完全に怒っちゃったのかもしれない。

……それにしても、何か忘れているような気がするけど何だったっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~い、誰か抜いてくださいよ~」

 

 

 

 

「というわけでっ!織斑くんと天野くんクラス代表おめでとう!」

 

ポン、ポンとクラッカーが鳴る音が食堂に響く。

一年生が使う食堂はお姉さん達で一杯になっていた。

 

壁を見てみると『織斑一夏&天野翔クラス代表就任パーティー』

なんて書かれた紙がおっきく貼られてあったし……

そんなに男子が珍しいのか、それともそれを理由にして騒ぎたいのか…

もしかするとどっちも同じ理由だったりするのかな?

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、

 織斑一夏君と天野翔くんに特別インタビューをしに来ました~!」

 

お~と周りが盛り上がる。なんで盛り上がるのかは知らないけど、

やっぱりIS学園の中では男子が珍しいのからなのかな?

インタビューを受けること自体、この学園にはあまり無いのかもしれない。

 

「あ、私は二年の(まゆずみ) 薫子(かおるこ)。よろしくね。新聞部やってまーす。これ名刺ね」

 

ボクは渡された名刺を受け取る、名刺を受け取る事なんて初めてだ。ちょっと嬉しい。

 

「ではまず織斑君! ずばりクラス代表になった感想を、どうぞ!」

 

そう言って音を録音する機械みたいなのを一夏お兄ちゃんに向けた。

 

「えーと……」

 

一夏お兄ちゃんはしばらく黙った後、少しだけコメントをした。

 

「まぁ、なんというか、がんばります」

 

「えー。もっといいコメントちょうだいよ~。俺に触れるとヤケドするぜ、とか!」

 

新聞部の人はそういう風にコメントを求めていいものだっけ?

 

「自分、不器用ですから」

 

「うわ、前時代的!」

 

ボクは一夏お兄ちゃんが何を言っているのかちょっとよく分からず、首を傾げる。

 

「じゃあまあ、適当にねつ造しておくからいいとして、

 次に翔君! 同じくクラス代表になった感想をどうぞ!」

 

と言って機械をボクの口元にグイッと近づけてくる。

 

「あ、えっと……ボクはまだ小学生でしかも男性でかなり場違いですけど…

 えっと、その…副代表とは言え、選ばれたからには頑張りますので、お願いします」

 

パチパチパチ、と周りの人が拍手をしてくれた、正直に言うと嬉しい。

 

「ありがとうね、翔くん。これでいい記事が書けるよ」

 

と言って新聞部の先輩はボクの頭をわしゃわしゃとナデナデしてくれた。

ナデナデしてくれるのは嬉しいけれども、先っちょの部分に触れられると……

 

「ひやぁっ!」

 

「えっ? ど、どうしたの?」

 

「あ、あの…この、ぴょんって出てるのに触ると、変な声出ちゃうから……」

 

ボクは新聞部の先輩に言うと、その人は物凄い勢いでメモ帳にペンを走らせていた。

 

「なるほどなるほど…アホ毛が敏感っと……」

 

「…アホじゃないもん……」

 

「え……えっと…それじゃあ、その、毛が敏感っと……」

 

新聞部の先輩はメモ帳に再びペンを走らせた。

 

「ああ、セシリアちゃんもコメントちょうだい」

 

そして、思い出したかのようにセシリアお姉さんにコメントを求めていた。

 

「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方ないですわね」

 

と言いつつも満更でもなさそうだ、なんだか嬉しそうな表情をしてる。

 

「コホン。ではまず、どうしてわたくしがクラス代表を辞退しかたというと、それは――」

 

「ああ、長そうだからいいや。写真だけちょうだい。」

 

「さ、最後まで話を聞きなさい!」

 

自分で聞いておきながら…割と明お姉ちゃん級の自由度を持っているように感じる。

 

「いいよ、適当に捏造しておくから。よし、織斑くんに惚れたからってことにしよう」

 

「なっ、な、ななっ……!?」

 

セシリアお姉さんは顔を真っ赤にするが、怒っているようには見えなかった。

むしろ、どこか喜んで嬉しそうな……よく分からない。

ボクはセシリアお姉さんが何を思って何を感じてるのか理解できなかった。

惚れた、と言ってるけれどもどういう意味なんだろう?

 

「なにを馬鹿なことを」

 

「そ、そうですわ! 何を持って馬鹿としているのかしら!?」

 

一夏お兄ちゃんに対して怒るセシリアお姉さん。

 

「だ、大体あなたは―――」

 

「はいはい、とりあえず三人で並んでね。写真撮るから」

 

「えっ?」

 

セシリアお姉さんは意外そうな声を出す。

 

「注目の専用機持ちだからねー。スリーショットもらうよ。

 あ。握手とかしてるといいかもね」

 

「そ、そうですか…そうですわね」

 

顔を赤くして、もじもじするセシリアお姉さん。

ちらちらと一夏お兄ちゃんとボクを見てくる。写真を撮られるのを緊張してるのかな?

 

「専用機持ちなのに注目されてない私たちって……」

 

「そんなものよ、明。私たちは代表候補生じゃないからね」

 

明お姉ちゃんはへこんでいて、それを美香お姉さんが慰めていた。

二人とも同じ専用機持ちなのになんでインタビューされないんだろ?

 

「あの、撮った写真は当然いただけますわよね?」

 

「そりゃもちろん」

 

「でしたら今すぐ着替えて―――」

 

「時間かかるからダメ。はい、さっさと並ぶ。ほら、翔くんも早く」

 

そう言って、新聞部の先輩はボクとセシリアお姉さんの手を引っ張った。

ボクは一夏お兄ちゃんとセシリアさんの真ん中に立った。

 

「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は~?」

 

「え?えっと……2?」

 

「な、70くらい?」

 

「ぶー、74.375でしたー」

 

ボクの答えは結構近かった。

というか、気がつけばボクたちの周りにクラスメート全員が写真の中に写るようにいた。

…明お姉ちゃんと美香お姉さんまで写るように入っていた。

美香お姉さんは無理矢理明お姉ちゃんに引っ張られて写ったようだけれども。

 

「なんで全員入ってるんだ?」

 

一夏お兄ちゃんがクラスのお姉さんたち全員が入ってきたことについて尋ねる。

でも、その前にセシリアお姉さんが怒ったように言う。

 

「あ、あなたたちねぇっ!」

 

「まーまーまー」

 

「セシリアだけ抜け駆けはないでしょー」

 

「クラスの思い出になっていいじゃん」

 

「ねー」

 

クラスのお姉さんはセシリアさんを丸め込むようなことを言った。

 

「う、ぐ……」

 

セシリアさんは何かを言いたくても言えないような苦悶の表情をしている。

それをクラスのお姉さんたちはにやにやしながら見つめていた。

 

「よしよし、翔くん。インタビューお疲れ様。

 翔くんが好きそうなケーキ持ってきたけど食べる? ケーキ好きだったよね?」

 

写真を撮り終えた後に、明お姉ちゃんは色々なケーキを乗せたお皿を持って来た。

 

「うんっ、食べるー!」

 

目の前にあるケーキを食べたくて、目をキラキラとして元気よく返事をした。

言ったら笑われるかもしれないけれど、ボクはケーキとか甘いものがとても大好き。

 

「はい、あーん」

 

明お姉ちゃんはフォークで刺したケーキをボクの口元に持ってきた。

 

「あーん♪」

 

ボクは出されたケーキを口で咥え、食べた。

食べたケーキがとても美味しくて、頬を緩ませていた。

 

…このとき、ボクは気づいていなかったけれども、

ボクがケーキを夢中で食べている時の表情でほとんどのお姉さんたちが鼻血を出して倒れ、

その光景を移した写真がかなりの高値で売られていたことに気づくのはかなり後のことだった。

 

 



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09 怒涛の中国代表候補生

「おはよー、一夏お兄ちゃん」

 

「おはよう、翔」

 

すぐそこで一夏兄ちゃんと出会って一緒に歩いていた。

道中ですれ違うお姉さん達が少し顔を赤くしてたけど、何かあったのだろうか?

 

「なぁ翔。まだあの時の…えーっと」

 

「美香お姉さんのこと?」

 

「そう、その事だけど…まだ怒ってた?」

 

授業中に一夏お兄ちゃんが落下しちゃったとき、

運悪く明お姉ちゃんと美香お姉さんがいる場所に墜落してしまい、

明お姉ちゃんはどうしてか上半身が地面に埋まって、美香お姉さんは胸を揉まれてしまっていた。

Hなことが苦手な美香お姉さんは暴走して全力で一夏お兄ちゃんを攻撃した後、

表情には出さなかったけれども内心は物凄く怒ってるように感じた。

 

「う~ん、詳しい事は何も言ってなかったけれども…多分、もう怒ってないと思うよ?」

 

「そうなのか?」

 

「…多分」

 

ボクが言った言葉に確実な自信は無い。

ただ、美香お姉さんなら頑張って謝ったら許してくれると思う。

 

それからちょっと歩いて教室にたどり着き、教室の扉を一夏お兄ちゃんが開く。

クラスの中の皆は扉の音に気づいてこっちを向く、この瞬間がどうも慣れそうにない。

次々とクラスのお姉さん達がボク達に朝の挨拶を交わし、

その中で一人のお姉さんがボク達に話しかけてきた。

 

「おはよー織斑くん、天野くん。ねぇねぇ、転校生の噂聞いた?」

 

「え? 聞いてませんけれども……」

 

「転校生? 今の時期に?」

 

一夏お兄ちゃんはちょっと不思議そうに言った。

今の時期って転校生が来るには変な時期なのかな?

 

「そう、何でも中国の代表候補生なんですって」

 

「ふーん」

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら?」

 

クラス唯一の代表候補生、セシリアお姉さんはいつも通りの態度で接してくる。

相変わらず腰に手を当てていて、どこか偉そうな感じなのがいつも通りだ。

 

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」

 

ふと気づけば側に篠ノ之さんが立っていて、一夏お兄ちゃんに話しかけてきた。

クールで侍のような感じで、可愛いよりもカッコいいという珍しいお姉さんだ。

 

「どんなやつなんだろうな?」

 

一夏お兄ちゃんは転校生がどんな人なのかと興味を出してくる。

確かに、どんな人が転校してくるのかは興味ある。もしかすると代表候補生なのかもしれない。

 

「む…気になるのか?」

 

篠ノ之さんが一夏お兄ちゃんに聞いてくる。

けれど、その言葉はどこか不満そうな感じだった。

 

「ん?あぁ、少しは」

 

「ふん……」

 

すると篠ノ之さんはなんだか機嫌が悪くなったように見えた。

 

「今のお前に女子を気にしている余裕があるのか? 来月にはクラス対抗戦があるというのに」

 

「そう!そうですわ、お二人とも。クラス代表戦に向けて実戦的な訓練をしましょう。

 なにせ、このクラスの中で『代表候補生』なのはわたくしだけなのですから」

 

セシリアさんはやけに代表候補生という事をかなり主張するように言った。

と、今のセシリアさんの発言で気になるところがあったから、聞いてみることにした。

 

「あれ、そういえば…ボクと一夏お兄ちゃんって同じクラス代表なんだよね……?

 そうしたら、クラス代表戦はボクと一夏お兄ちゃんのどっちが出るの?」

 

「当然、一夏だろう」

 

「一夏さんに決まってますわ」

 

篠ノ之さんとセシリアお姉さんはボクの質問に即答で答える。それも同じ内容だった。

 

「な、何で!? 別に翔でも問題ないと思うんだが…」

 

二人が同じ意見だったからか、一夏お兄ちゃんは反射的に答える。

 

「まさか貴様、小学生に戦わせるつもりか?」

 

「そうですわ! ここは確実に勝つよう一夏さんに出てもらわないと!」

 

「うん、ボクも一夏お兄ちゃんに出てほしいの…ダメかな?」

 

一夏お兄ちゃんの服の袖を少しだけ引っ張って顔を見上げる。

なぜか顔を赤くしてたけれども、どうやら納得してくれたみたいだ。

 

「まぁ、やれるだけやってみるか」

 

「やれるだけでは困りますわ! 一夏さんには勝っていただきませんと!」

 

「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」

 

「うん、ボクも一夏お兄ちゃんにはぜひとも優勝してほしいなっ」

 

このクラス代表戦で優勝したクラスには、学食デザートの半年フリーパスが配られる。

…ここの学食はとても美味しくて甘いものも凄くおいしい。

でも普通に頼むと高いから、半年も無料になるのはとても嬉しい。

だからぜひとも一夏お兄ちゃんに優勝してもらいたい。

 

「今のところ専用機を持っているのは1組と4組。勝機なら十分あるわよ、織斑くん!」

 

と、クラスのお姉さんが解説してくれた。説明ありがとうございます。

 

「――その情報、古いよ」

 

と、今の空気を壊すかのように誰かが教室の入り口から誰かが話しかけてきた。

 

「二組は代表候補生がクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

腕を組んで片膝を立ててドアに立っていた人は…

ツインテールで……身長がちょっと小さい人だった。

 

「鈴……?お前、鈴か?」

 

「そうよ。中国代表候補生、(ファン) 鈴音(リンイン)。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

「何格好付けてるんだ? すげえ似合わないぞ」

 

「んなっ……!? なんてことを言うのよ、アンタは!」

 

この口調からして、一夏お兄ちゃんはこの人の事を知ってるのかな?

昔友達だったのが、偶然ここで出会ったとかだろうかな?

 

「時に翔くん。リーダーにあるべきに能力とは何か知ってるかい?」

 

「ひゃあっ!?」

 

明お姉ちゃんがいきなり現れて声を出したからビックリしてしまった。

 

「人の上に立つのに必要なのは人を纏めるカリスマ性、

 野生ではそれ以上に危険を察知する事も重要になるんだよ」

 

と、明お姉ちゃんはあの小さいツインテールの人の後ろを指差した。

明お姉ちゃんが指していた人物とは……このクラスの担当の織斑先生だった。

 

「おい」

 

「なによ!?」

 

あの小さい人は織斑先生の手に持っていた出席簿で思いっきり殴られた。

バシンッ! とかなり痛そうな音が教室に響いた。

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん……」

 

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口をふさぐな。邪魔だ」

 

「す、すみません……」

 

小さい人はすごすごとドアから離れていく。

 

「さて、何か言われる前に自分の席に座りますかね」

 

と、明お姉ちゃんは自分の席に座っていく。

多分、このまま突っ立っていると織斑先生に叩かれてしまうからだろう。

 

「またあとで来るからね! 逃げないでよ、一夏!」

 

「さっさと戻れ」

 

「は、はいっ!」

 

小さい人は二組へ凄い勢いで走って帰って行った。

わたわたと逃げるように感じたけど、そんなに織斑先生が怖かったのかな?

 

その後は当然の如く、普通に授業が行われたけれども、

セシリアお姉さんと篠ノ之さんが授業中に織斑先生に頭を叩かれていた。

何か考え事をしてて、上の空のような感じはしたけれども……

流石に織斑先生がいる授業でその行為は自殺行為だと思う。

 

 

 

 

「お前のせいだ!」

 

「あなたのせいですわ!」

 

「なんでだよ……」

 

午前中の授業が終わってお昼休みになった。

一夏お兄ちゃんとお昼ごはんを食べようとしたけれども、

なぜか篠ノ之さんとセシリアお姉さんが一夏お兄ちゃんのせいだと言っていた。

それが何のせいなのかはと一夏お兄ちゃんが聞くと黙っちゃうし……

 

「まあ、話ならメシ食いながら聞くから。

 とりあえず学食に行こうぜ。翔、一緒に来るか?」

 

「う、うん……」

 

篠ノ之さんに睨まれながらも、一夏お兄ちゃんの隣に行って一緒に歩く。

その後をクラスメートのお姉さんがゾロゾロついてくる。まるでピ○ミンみたいだ。

 

券売機の前でちょっと悩んで、とりあえず親子丼を選んだ。

食堂に来るたびにどれを頼もうか悩んじゃうくらいの種類があって、

一日の食事がとても楽しみになってきている。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

とある漫画ならドンッ☆って感じの効果音が出そうな感じで立っていた転校生。

その人の名前は忘れちゃったけど……中国とかその辺りの代表候補生だった気がする。

 

「まあ、とりあえずそこをどいてくれ。食券だせないし、普通に通行の邪魔だぞ」

 

「う、うるさいわね。わかってるわよ」

 

小さい転校生の人は立ってた場所から邪魔にならない場所に移動した。

その人はラーメンを頼んでいて、お盆の上に乗っけたままだった。

 

「のびるぞ」

 

「わ、わかってるわよ! 大体、アンタを待ってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!」

 

なんだか理不尽な発言をする。

まるで怒りっぽくなった明お姉ちゃんみたいだった。

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年前になるのか。元気にしてたか?」

 

「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」

 

「どういう希望だよ、そりゃ……」

 

転校生の人と一夏お兄ちゃんは仲が良さそうに話している。

実際に仲がいいから楽しそうに話してるんだけれども……

それを良しとしなかったのか、篠ノ之さんとセシリアお姉さんは怒りを我慢してるように見える。

 

「あー、ゴホンゴホン!」

 

「んんんっ! 一夏さん? 注文の品、出来ましてよ?」

 

篠ノ之さんとセシリアお姉さんはわざとらしくセキをした。

それで一夏お兄ちゃんは頼んだご飯を受け取って、どこか空いてる席を探していた。

 

「向こうのテーブルが空いてるな。行こうぜ」

 

一夏お兄ちゃんは空いているテーブルを見つけ、

そこに座って食べるようにボクと周りにいるお姉さんたちに言った。

ボクは適当な席に座って、頼んだ親子丼を食べ始める。

ここが高校ということもあるから、量もそれなりに多くて食べるのに時間がかかる。

……ただ、ボクが何かを食べてるときにお姉さんたちが顔を赤くするのはなぜだろう?

 

「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」

 

「質問ばっかりしないでよ。アンタこそ、

 なにIS使ってんのよ。ニュースで見たときびっくりしたじゃない」

 

再び二人は仲が良さそうに話している。

なぜかそれを良く思ってない篠ノ之さんとセシリアお姉さん。

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」

 

「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの方と付き合っていらっしゃるの!?」

 

二人はテーブルをバンッと叩きそうになるような勢いで聞いた。

周りのお姉さんもそれは気になるみたいで、聞き耳を立てていた。

 

「べ、べべ、別に私は付き合ってるわけじゃ……」

 

「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼馴染だよ」

 

「………」

 

「…? 何睨んでるんだ?」

 

「なんでもないわよっ!」

 

顔を赤くして一夏お兄ちゃんへ怒る転校生の人。

よくわからないけど、なんだかよく怒る人みたい。

 

「幼馴染……?」

 

篠ノ之さんは変な言葉を聞いたって感じで不思議に思っていた。

そういえば話で聞いたけど、篠ノ之さんも一夏お兄ちゃんとは幼馴染なんだっけか。

 

「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのが小四の終わりだっただろ?

 鈴が転校してきたのが小五の頭だよ。

 で、中二の終わりに国に帰ったから、会うのはちょうど一年ぶりだな」

 

幼馴染と言っても、二人は今日の今まであったことがなかったようだ。

 

「で、こっちが箒。ほら、前に話したろ?

 小学校からの幼馴染で、俺の通ってた剣術道場の娘」

 

「ふぅん、そうなんだ」

 

転校生の人はジロジロと篠ノ之さんを見る。

篠ノ之さんもギラッと転校生の人を睨みつけた。

 

「初めまして。これからよろしくね」

 

「あぁ。こちらこそ」

 

二人は挨拶をするが、その視線はバチバチと火花が散っているように見える。

どうして一夏お兄ちゃんの周りにいるお姉さんは仲良くできないのかな?

 

「んんんっ! わたくしのことを忘れてもらっては困りますわ!

 中国代表候補生、凰鈴音さん?」

 

「……誰?」

 

「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表、

 セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存知ないんですの!?」

 

「うん。あたし他の国とか興味ないし」

 

「な、な、なっ……!?」

 

セシリアお姉さんは自分自身のことを知らないというのが、

なんだか凄くショックだったらしくって顔を真っ赤にした。

 

「い、い、言っておきますけど、わたくしはあなたのような方には負けませんわよ!」

 

「そ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」

 

ふふん。と得意げに転校生の人は自信満々に言う。

それにしても、代表候補生っていうのは戦闘訓練もかなりしているらしく、

かなり自信満々に勝つ、と宣言してようだった。

 

「………」

 

「い、言ってくれますわね……」

 

篠ノ之さんは黙ってご飯を食べている。

セシリアお姉さんはぷるぷると震え、手をぐっと握り締めていた。

 

「一夏」

 

転校生の人は一夏お兄ちゃんを呼んだ。

すると一夏お兄ちゃんはドキッとしてたような気がした。

 

「アンタ、クラス代表になったんだって?」

 

「お、おう。成り行きでな。ここにいる翔も一応そうだけどな」

 

「翔って誰?」

 

「いいや。そこで親子丼食べてるのが翔。世界で二番目にISを動かせたっていう小学生」

 

一夏お兄ちゃんはボクを指し、転校生の人は目を丸くして驚くように質問した。

 

「…え? もしかしてアンタ男なの?」

 

「は、はい…男ですけれども…」

 

やっぱり、この人も最初はボクを男として見られていなかったみたい。

どうして女の子として見られちゃうのかな? 

 

「ふーん、そうなんだ……」

 

「え、えっと……あの、その……」

 

「鈴でいいわよ。苗字だけで呼ばれるのは逆に嫌だから」

 

「は、はい……えっと、初めまして、鈴さん…」

 

「う……よ、よろしくね、翔」

 

鈴さんはなぜか顔を赤くしていた。

……もしかして、怒らせちゃったのかな?

でも、怒るならさっきみたいに大声で怒鳴るから怒ってはいないのかもしれない。

 

「あ、あのさぁ。その調子だとISにも慣れてないんでしょ?

 暇なときにでも、ISの操縦を見てあげてもいいけど?」

 

鈴さんは一夏お兄ちゃんから顔をずらして視線だけで一夏お兄ちゃんを見つめる。

なぜか先ほどの態度とは違って、なんだか歯切れが悪いように見えた。

 

「そりゃ助か――」

 

一夏お兄ちゃんが鈴さんに対して助かる、と言おうとした瞬間にテーブルがバンッと叩かれる。

 

「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは『私』だ」

 

「あなたは二組でしょう? 敵の施しはうけませんわ!」

 

ギロリ、と二人は鈴さんを思いっきり睨みつける。

その表情がかなり怖くて、ボクは関係ないのだけれども思わずびくりと身体を震わせた。

 

「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでよ」

 

「か、関係ならあるぞ。私が一夏に『どうしても』と頼まれているからだ」

 

なぜか篠ノ之さんは『どうしても』の部分をやたらと強調した。

『どうしても』頼まれたことに何か意味があるんだろうか?

 

「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然ですわ。

 あなたこそ、後から出てきてなにを図々しいことを―――」

 

「後からじゃないけどね。あたしの方が付き合いが長いんだし」

 

「そ、それを言うなら私のほうが早いぞ!

 それに一夏は何度も家で食事をしている間柄だ。付き合いはそれなりに深い」

 

それになぜか反論する篠ノ之さん。

先ほどから二人がなぜこうして必死になっているのかがよくわからない。

大きくなったら理解できたりするんだろうか?

 

「家で食事? それならあたしもそうだけど?」

 

「いっ、一夏っ! どういうことだ!? 聞いていないぞ私は!」

 

「わたくしもですわ! 一夏さん、納得のいく説明を要求します!」

 

どうして二人は怒ったのか? 家で食事をすることくらい普通のことだと思うけれども。

一夏お兄ちゃんは二人の変な態度で聞いてきた質問を普通に答える。

 

「説明も何も……幼馴染でよく鈴の実家の中華料理屋に行ってた関係だ」

 

「な、何? 店なのか?」

 

「あら、そうでしたの。お店なら別に不自然なことは何一つありませんわね」

 

むしろ、なんでお店だったら不自然じゃないんだろうか?

聞き耳を立ててたお姉さんたちもホッとした雰囲気を出している。

 

「親父さん、元気にしてるか? まあ、あの人こそ病気と無縁だよな」

 

「あ……。うん、元気…だと思う」

 

一夏お兄ちゃんが鈴さんのお父さんのことを聞くと、

鈴さんの表情は曇り、浮かない顔をして曖昧な返事をする。

 

「そ、それよりさ、今日の放課後って時間ある? あるよね。

 久しぶりだし、どこか行こうよ。ほら、駅前のファミレスとかさ」

 

「あー、あそこ去年つぶれたぞ」

 

「そ、そう……なんだ。じゃ、じゃあさ、学食でもいいから。つもる話もあるでしょ?」

 

「――あいにくだが、一夏は私とISの特訓をするのだ。放課後は埋まっている」

 

「そうですわ。クラス対抗戦に向けて特訓が必要ですもの。

 特にわたくしは専用機持ちですから? ええ、一夏さんの特訓には欠かせない存在なのです」

 

さきほどから二人は一夏お兄ちゃんと特訓することをやけに強調して、

まるで一夏お兄ちゃんと鈴さんを二人っきりにするのが嫌みたいだった。

 

「じゃあそれが終わったら行くから、空けといてね。 じゃあね、一夏!」

 

鈴さんは食べていたラーメンのスープを飲み干して、

一夏お兄ちゃんの返事も待たずにさっさと片付けに行った。

 

「一夏、当然特訓が優先だぞ」

 

「一夏さん、わたくしたちの有意義な時間も使っているという事実をお忘れなく」

 

二人はとにかく一夏お兄ちゃんと特訓したいらしく、かなり強く言った。

さっきから一夏お兄ちゃんに何も聞かずに勝手に予定を決めてるみたいだけれども…

 



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10 放課後の訓練

転校生の鈴さんが一夏お兄ちゃんと関わりが判明してドタドタと騒がしかった学校も、

放課後の5時頃になればその騒がしさも薄れ、朝に比べると静かになっていた。

それでも、あの三人がいる場所はどこでも騒がしくなっちゃうわけで……

 

今日は美香お姉さんと一緒に第三アリーナでISの訓練をする予定だった、

けれどもそこには一夏お兄ちゃん、篠ノ之さん、セシリアお姉さんの姿があった。

 

「あ、貴方達、どうしてここにいるんですの!?」

 

セシリアお姉さんはボク達と篠ノ之さんがいる事に驚いている。

ボク達は偶然だけれども、篠ノ之さんは多分一夏お兄ちゃんを待っていたんだろう。

 

「私は元々、一夏に頼まれていたからだ」

 

と、篠ノ之さんは答える。たしかセシリアお姉さんと戦うとき、

一夏お兄ちゃんは篠ノ之さんと剣道の練習ばっかりやってたんだっけ。

 

「私たちは偶然、ここで訓練をしようと思ってたからですよ」

 

と、美香お姉さんはセシリアお姉さんと一夏お兄ちゃんに言う。

 

「折角ですから、明も呼んで三対三でやってみませんか?」

 

美香お姉さんは篠ノ之さんとセシリアお姉さんと一夏お兄ちゃんに提案をした。

 

「あら、チームでわたくしに挑もうというのですか? よろしいですわよ」

 

「まぁ、どちらにせよ訓練には違いないな。問題は無い」

 

「じゃあ、ちょっと待ってくださいね。明を呼んで来ますから」

 

美香お姉さんは携帯電話を持ち、明お姉ちゃんに電話した。

 

「もしもし、明? 今からISのチーム戦やるんだけど、明も来てくれる?」

 

『唐突だなぁ、美香。私今ネトゲやってて忙しいんだよね……

 久しぶりの経験値二倍イベントだし、逃したくないんだよねぇ』

 

「あら、ならいいわ。折角翔くんと私と明で織斑さん達と戦おうと……」

 

『あ、ゴメン。やっぱパソコンぶっ壊してでも今すぐ行くわ』

 

「はい、それじゃあね」

 

ピッ、と通話を切る美香お姉さん。

 

「私、登場!」

 

颯爽と明お姉ちゃんがアリーナへ到着した。一分も経ってない気がするんだけど…

ともかく、明お姉ちゃんが来たからこれでチーム戦が始められることになった。

 

ボク達は専用機を展開してアリーナ内へと移動した。

敵はセシリアお姉さんと篠ノ之さんと一夏お兄ちゃん。

味方は美香お姉さんと明お姉ちゃん。

ちなみに、二人の専用機は対なる存在で、お互いを支援する為に作られた機体だと言ってた。

 

お互いにISを展開してアリーナの中への中心へと移動し、いつでも勝負できる状況になる。

 

「じゃあやろう、一夏お兄ちゃんっ!」

 

「おう! 望むところだ!」

 

ボクと一夏お兄ちゃんとの掛け合いでこの試合は始まりを告げた。

 

「うおおおおっ!!」

 

雪片弐型を持ち、こっちに突撃してくる一夏お兄ちゃん。

 

「馬鹿者! いきなり突っ込んでどうする!」

 

「そうですわ! この場合ですと、もっと様子を見て……」

 

突撃する一夏お兄ちゃんの行動を間違っているという二人。

もう後に引けないのか、一夏お兄ちゃんはそのまま突撃してくる。

 

『待って、翔くん。ここは私に任せてみて。

 今の武装は接近武器だけなんでしょう? しばらくは後方に下がってて』

 

個人秘密通信(プライベート・チャンネル)で美香お姉さんから連絡が来る。

ここは美香お姉さんに任せてみて、ボクは少し後退をする。

 

「敵に向かって突撃するだけじゃ駄目だよ、織斑くん!

 もっと相手の行動を予測して、回避行動をいつでもとれるようにしないと!」

 

美香お姉さんのIS、戦女・弐型の装甲からミサイルの発射口がカパッと開く。

そしてそこから現れる実態の無い、エネルギーだけのミサイル。

これは戦女・弐型に搭載された第三世代型の兵器で、その名もエネルギーミサイル。

その武装の名前は『雨霰(あめあられ)』。美香お姉さん自身が設計した兵器のようだ。

 

戦女・弐型の全身にある発射口からワイヤーフレームで形成されたミサイルが発射される。

一度、一夏お兄ちゃんが落下して美香お姉さんの胸を触ったときに発射したことがあった。

三人はミサイルの射線上から回避し、そのまま攻撃する態勢に戻ろうとしたけども、

ミサイルはロックオンされた三人の後を追うように旋回し、追尾してきた。

 

「まさか…エネルギーで形成された攻撃に誘導性能があるんですの!?」

 

まさかエネルギーの塊が誘導するとは思わなかったらしく、

三人は慌てながらミサイルから逃れようと移動していた。

 

「なっ―――」

 

「ほ、箒さん! どいてくださ―――」

 

セシリアお姉さんと篠ノ之さんが逃げ回っていると、

二人の移動する場所が偶然にもぶつかってしまった。

 

けれども、あのミサイルの弱点は威力が低いこと。

量産型でも多少食らっても大丈夫なくらい威力が低かった。

 

「……くっ、セシリア! 何をしている!」

 

「それはこっちのセリフですわ! 箒さんこそ私の逃げ道に―――」

 

篠ノ之さんとセシリアお姉さんは喧嘩をし始めた。

それを好機と思ったのか、明お姉ちゃんが二丁の銃を二人に向けて撃つ。

 

「いいのか? 仲間割れしちゃって。私は喧嘩に横槍を入れちゃう人間だぜ?」

 

明お姉ちゃんは二丁の銃を持って主に篠ノ之さんを狙い撃つ。

喧嘩をしていたからなのか、かなり大雑把に狙ったはずの弾丸は全て当たっていた。

 

ちなみに、明お姉ちゃんの持っている銃器系のほとんどは美香お姉さんの手作りで、

大体明お姉ちゃんが無茶振りで頼んで、美香お姉さんが実用も兼ねて作ってるらしい。

 

今持っている拳銃は右手に持っているオートマチック式の緑色の銃『風神』、

左手にもっている黄色いリボルバー式の銃が『雷神』という名前をしている。

 

『私はこのまま篠ノ之さんを抑えてるから、二人は任せる!』

 

『わ、分かったよ、明お姉ちゃん』

 

『オッケー、翔くんの援護は任せて!』

 

「皆さん、わたくしのことを忘れているのではなくって!?」

 

セシリアお姉さんの背後にあるビット『ブルー・ティアーズ』全機をボクたちに向けてくる。

ビットの一部がボクの周りに飛んできて、ビームを放ってくる。

そこから一夏お兄ちゃんが雪片弐型を握り締め、ボクに突撃してくる。

 

「だあああああっ!!」

 

「翔くんッ!」

 

一番近くにいた美香お姉さんが大きな斧のようなものを使って斬撃を防ぐ、

それと同時に脚部の装甲が一部開き、至近距離でミサイルを放った。

 

「はああっ!!」

 

美香お姉さんは持っていた大きな斧を振りかぶり、一夏お兄ちゃんに向けて攻撃した。

続けて肩の装甲からミサイルをもの凄い速さで発射する。

威力は低くてもその連携攻撃は白式のエネルギーを一気に削り、

ついに白式のエネルギーはゼロになった。

 

「一夏! 何をやっている!」

 

篠ノ之さんは一夏お兄ちゃんを心配するどころか、

逆に罵った。確かに倒れるのは早いけれども……

 

『私はセシリアさんを攻撃するわ。翔くん、援護としてビットの破壊をお願いできる?』

 

『う、うん…! やってみるよ』

 

美香お姉さんからビットを破壊するように頼まれる。

やれる自信は無いけれども、お願いされたからやれるだけやってみる。

 

「これはどうですっ!」

 

戦女・弐型の腰部の装甲の一部が外れ、そこから二つの大きなガトリング砲が姿を現した。

その大きなガトリング砲をセシリアさんに向けてそれを発射する。

 

「くっ……!」

 

セシリアお姉さんもその攻撃をくらい続けるとまずいと思ったのか、

ビットの攻撃をやめ、手に持っていた『スターライトMkⅢ』を使い、狙撃する。

……だが、別方向からセシリアさんに向けて弾丸が放たれた。

 

弾丸を放ったのは、さっきまで篠ノ之さんと戦っていた明お姉ちゃんだった。

篠ノ之さんは既にシールドエネルギーが無くなり、地上で動かなくなっていた。

 

右腕に持っている銃、風神を使ってセシリアさんに向けて発射し、

続けて左手にもった雷神を発射して次に風神と交互に使って発射する。

 

「さぁ、クライマックスだぜ!」

 

明お姉ちゃんは二丁の銃をISに収納し、新しくミサイルランチャーを取り出した。

 

「チェックメイトだ!」

 

明お姉ちゃんが叫び、そのミサイルランチャーの引き金を引いた。

その先端からミサイルが二つ飛び出し、セシリアお姉さんに誘導していく。

美香お姉さんが出したエネルギーミサイルとは違い、実体を持ったミサイルであった。

 

「くっ…!」

 

セシリアお姉さんはそのミサイルを回避しようとするが、

中々振り切れず、最終的にはミサイルに当たり、エネルギー切れとなった。

 

この勝負はボクと明お姉ちゃんと美香お姉さんの勝ちで決まった。

 

 

 

 

無段階移行(シームレス・シフト)起動・・・・・・・・OK。

 

 

付近に存在するIS分析中・・・・・・・完了。

機体名『打鉄』解析中・・・完了。

機体名『音時雨』解析中・・・・・・・完了。

機体名『戦女・弐型』解析中・・・・・・・エラー、解析できません。

 

 

機体の武装を確認中・・・・・完了。

 

 

音時雨より風神、雷神、ミサイルランチャーをコピー・・・・・・完了。

戦女・弐型より雨霰、M134、ハルバードをコピー・・・・・・完了。

 

 

一定の条件を満たす武装の情報を入手しました。

新たに武装を生成しています・・・・・・完了。

 

 

新装備、多使用型拳銃(マルチスケール)土神(つちがみ)』生成完了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前のせいだ!」

 

「あなたのせいですわ!」

 

「またか……」

 

なぜか篠ノ之さんとセシリアお姉さんはさっきの戦闘で負けたのは一夏お兄ちゃんが原因だと言う。

一夏お兄ちゃんはこの光景を見るのは今日で二度目らしいけれども……

 

「こんな様子だとクラス代表戦で勝てないぞ! 来い! 鍛えなおしてやる!」

 

「このままでは無様にも負けてしまいますわ!

 わたくしが勝てるように指導してさしあげます!」

 

一夏お兄ちゃんはセシリアお姉さんと篠ノ之さんにズルズルと引きずられていった。

多分、まだまだ訓練を続けるつもりなんだろう。

 

「か、翔ぅ~…助けてくれ~……」

 

「ごめん一夏お兄ちゃん、ボクまだ死にたくない」

 

今の二人を止めるとなると、必死にならなければ止められないだろう。

 

「翔くん、お疲れ様。これで天翔も強くなったはずよ。

 もしかしたら新しい装備も出来てるかもしれないから、確認してみてくれる?」

 

ボクは天翔の武装一覧表を開く。

すると、白雪だけだったハズなのに、一つの武装が追加されていた。

さっき明お姉ちゃんが使っていたようなハンドガン。

多使用型拳銃っていうのがよく分からないけれども……

ともかく、射撃武器を使えるようになったのはとても嬉しい。

 

「天翔はね、色々な人と戦ったり、協力したりすると成長していくの。

 だから、できるだけ色々な人と沢山戦った方が強くなるのよ。分かった?」

 

「うん!」

 

ボクの天翔は戦えば戦うほど強くなる…

それは、なんだかボクが強くなるようでとても嬉しかった。

怖いけれども、もっと戦えるように頑張ろう…

そして、天翔と一緒に強くなっていこう――――

 

 



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11 鈴さん怒りの宣戦布告

随分と遅くなりましたが、続きです。


 こんにちは。トラブルメーカーの野々原明です。自覚してます。もう五月という月に入り、入学式から一ヶ月がたったんですね。翔くんがIS学園に入学するという事実を知ったときはどうなるかと思ったけど…まぁ何にせよ、翔くんは愛されキャラだし、翔くん自身も馴染んできたようだ。人気はクラスの中には納まらず、学校中にその愛くるしさは広まっている。邪険に感じる人は少なく、それらの人物も何かしらの嫌がらせをする気配は無い。今のところIS学園のマスコットとして可愛がられているのが翔くんの現状だ。

 それに翔くんは専用機である天翔を成長させようと躍起になっている。強くなるように努力するのはいいコトだな。間違いない。私たちは翔くんと美香と一緒に訓練しようとしたらまた織斑くん達とまたバッタリ出会った。翔くんと織斑くんは羨ましいくらい仲が良い。男同士ってそんなに良いものなのか…許せん。箒とセシリアは織斑くんの訓練方法で言い争っている、お前ら少しは譲り合えよ。

 

「一夏お兄ちゃんも訓練するの?」

 

「あぁ、クラス代表戦は負けられないしな」

 

 織斑くんは翔くんの頭を撫でた。畜生、それは私の役目だ、役割を奪うんじゃねぇ。翔くんはえへへ…と嬉しそうな表情をしてぽっと頬を赤らめた。マジ可愛い。

 

「…どうしてまたあなた方がいらっしゃいますの?」

 

 セシリアさんがマジ切れる五秒前だ、理由は織斑くん関連なのだろうけど。ぶっちゃけ翔くんはアンタら程べっとりじゃないし、第一抱いてる感情が違うし…

 

「そうだ。翔も一緒に訓練するか?」

 

「いいの? でも……」

 

「ん? 別に遠慮しなくたっていいんだぞ? なぁ 箒、セシリア」

 

 そこで二人に聞くのかよ木偶の坊。もうコイツ女に刺されて死ぬ未来しか見えないんだけど。

 

「う、ぐぐぐ…だ、大丈夫だ、問題無い」

 

「べ、別に問題はありませんわよ…」

 

「そっか、それじゃあ一緒にやるか」

 

 そっかじゃないだろ、バカかコイツは。

どう考えても大丈夫じゃないだろ、もうちょっとは配慮してやれよ! 織斑くんはそのままビットの扉を開け、中に入っていく。

 

「待っていたわよ、一夏!」

 

 ピットに入ると、誰か知らない空気の読めそうにない声が聞こえた。そこには噂の転校生、凰鈴音がいた。最初文字見るとふーりんねって読むのかと思ったよ。つまり風鈴、日本の夏に定番のアレかと思ったよ。冗談抜きのガチでね。

 

「貴様、どうやってここに―――」

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ!」

 

「あたしは関係者よ、一夏関係者。だから問題無しね」

 

 それを言ったら私はともかく翔くんも関係者のような気がするけど…翔くんは織斑くんの側で風鈴の出す雰囲気に怯えている。当の本人である風鈴はなぜかドヤ顔、少しは自重しやがれ。

 

「ほほう、どういう関係かじっくり聞きたいものだな」

 

「盗人猛々しいとはまさにこのことですわ!」

 

 箒とセシリアは突拍子も無く現れた風鈴にブチ切れる。勝手に切れるのはいいけど、翔くんを怯えさせたら私がお前らを脅かすからな。

 

「で、一夏。反省した?」

 

「へ? なにが?」

 

「だ、か、らっ! あたしを怒らせておいて、申し訳なかったなー、とか仲直りしたいなー、とかあるでしょうが!」

 

「いや、そう言われても……鈴が避けてたんじゃねえか」

 

「あんたねぇ……じゃあなに、女の子が放っておいてって言ったら放っておくわけ?」

 

「おう」

 

「…なんか変か?」

 

「変かって……ああ、もう! 謝りなさいよ!」

 

「だから、なんでだよ! 約束覚えていただろうが!」

 

「あっきれた。まだそんな寝言いってんの!? 約束の意味が違うのよ! 意味が! あったまきた。どうあっても謝らないというわけね!?」

 

「だから、説明してくれりゃ謝るっつーの!」

 

「せ、説明したくないからこうして来てるんでしょうが! それじゃあこうしましょう! 来週のクラス対抗戦で、勝ったら負けたほうに何でも一つ言うことを聞かせられるってことでいいわね!?」

 

「おう、いいぜ。俺が勝ったら説明してもらうか」

 

「せ、説明は、その……」

 

「なんだ? やめるならやめてもいいぞ?」

 

「誰がやめるのよ! あんたこそ、あたしに謝る練習をしときなさいよ!」

 

「なんでだよ、馬鹿」

 

「馬鹿とは何よ馬鹿とは! この朴念仁! 間抜け! アホ! 馬鹿はアンタよ!」

 

 風鈴と織斑くんの痴話喧嘩なげーよ、説明するこっちの身にもなってくれよ。ここで織斑くん、マジ切れしたのか全人類の女性を敵に回す。っつーか朴念仁って言葉を知らんのか織斑くんは。気になる単語が出たら辞書を引けよ。

 

「うるさい、貧乳」

 

 織斑のバカが言った瞬間に風鈴はISを部分展開し、バカの顔の隣を殴った。ほんの少しだけグラグラと、ピットの中が揺れる程の破壊力で殴ってた。

 

「言ったわね……言ってはならない事を言ったわね!!」

 

 風鈴はバカの顔の隣に出来たクレーターから腕を引っ張る。

 

「い、いや、悪い。今のは俺が悪かった。すまん」

 

 バカは自分が言い過ぎたと自覚してるのか風鈴に謝る。しかし風鈴は聞こうともしない。

 

「今の『は』!? 今の『も』よ! いつだってアンタが悪いのよ!」

 

 風鈴小娘のトンデモ理論である。バカは焦ってるのか何も言わない。

 

「ちょっとは手加減してあげようかと思ったけど、どうやら死にたいらしいわね……いいわよ、希望通りにしてあげる。――全力で叩きのめしてあげる」

 

 風鈴は明らかにブチ切れてる表情を作ってバカを睨み、ピットから出て行った。バカは明らかに言いすぎたって感じを出してるし、翔くんはオドオドしてる。うむ、風鈴がブチ切れて翔くんがビクビクしてるみたい。心のケアは任せろーバリバリ。

 

「い、一夏兄ちゃん…あの、えっと、仲直りできるよ……」

 

 翔くんはバカを励ましている、健気で可愛い。

 

「ありがとな、翔……」

 

 バカは翔くんの頭を撫でる。私が八つ当たりするとしたら貴様の存在を滅ぼしていた所だ。翔くんの尊大な心に感謝するがいい、バカめ。思う存分翔くんで癒されるがいい。……ただ、バカに頭を撫でられる翔くんを睨む箒さんとセシリアさん。風鈴の一件で怯えているのにこれ以上ビビらせるような真似はしないで、マジで。

 

 

 

 

 今日は鈴さんが一夏お兄ちゃんに怒ったりしたハプニングがあったけど、一夏お兄ちゃんたちはあのままアリーナ内で篠ノ之さんとセシリアお姉さんと訓練してた。ボクたちは結局、別のアリーナを使って訓練をするつもりなんだけれども……

 

「ねぇ、明お姉ちゃん……」

 

「どした? 翔くん」

 

 明お姉ちゃんはボクの頭をやたらとナデナデしながら聞いてくる。聞きたいことがあるけれども、もしかしたら物凄く怒られてしまうかもしれない。

 

「そ、その……もしかしたら、凄く怒っちゃうかもしれないし、とっても失礼な意味なのかもしれないけれども……」

 

「ん、別に怒らないよ? 何でも言ってみ?」

 

「あの、あの時一夏兄ちゃんが言ってた…ひにゅうん? って、なぁに…?」

 

 その一言で鈴さんが思いっきり怒るんだから、皆怒っちゃうかもしれない。でも、その言葉を言っても明お姉ちゃんも美香お姉さんも怒らなかった。

 

「翔くん、貧乳っていうのはね……明の事を言うのよ」

 

 美香お姉さんが言った瞬間に明お姉ちゃんはISを展開して美香お姉さんを殴った。けれども美香お姉さんもISを展開し、明お姉ちゃんの攻撃を受け止める。そのまま続けて明お姉ちゃんはパンチを連続して出し、それを美香お姉さんは受け止めた。ISを展開しているせいなのか、殴っている腕と受け止めている腕の残像がいくつも見えた。

 

「フン。突き(ラッシュ)の速さ比べか……」

 

 これから絶対女の子の前では貧乳とは言わない、言ったら命は無い。心からそう思った。

 

 

 

 

 試合当日、ボク達は篠ノ之さんとセシリアさんと先生と一緒の場所で、ピットにあるリアルタイムモニターで試合を見る事になった。

 

「凰さんの専用機……こうりゅう?」

 

「こうりゅうじゃなくって…シェンロンって読むみたいよ?」

 

「ドラ○ンボールで出るあれ?」

 

「それじゃないのよ? ……まぁ私も思ったけど」

 

「ボクも……」

 

「私としては文字の最初に鉄を付ければ最強に……」

 

「……まぁ、それもあるかもね」

 

「漫才はそこまでにしておけ、試合が始まるぞ」

 

 織斑先生の厳しそうな言葉でボク達はパッと会話を止めて、アリーナ内部を映すリアルタイムモニターに視線を移動させた。鈴さんのIS『甲龍(シェンロン)』はセシリアお姉さんのブルー・ティアーズと同じく、第三世代型の兵器で、両肩にぷかぷかと浮かんでいる装備が見える。それにはトゲトゲした装甲が装備されていて、あれに当たるとすごく痛そうだ。

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

 二人はアナウンス通りに規定された位置まで移動する。そして……試合開始のブザーが鳴り響き、その音が終えると同時に一夏お兄ちゃんは鈴さんに襲い掛かる。鈴さんはそれを大きい青竜刀…とはとても言えない。斬馬刀を魔改造したようなモノを出して二本をくっ付け、それを軽々と扱って一夏お兄ちゃんの攻撃を防いだ。バトンのように青龍刀を振り回し、一夏お兄ちゃんはそれを防ぐのに精一杯みたいだ。

 一旦距離を取ろうとしたのか、一夏お兄ちゃんは鈴さんから離れようとした。けれども鈴さんの浮いている両肩の部分の装甲が開き、その姿を露出させた球体は光を放つと同時に一夏お兄ちゃんは『吹き飛ばされた』。一夏お兄ちゃんは体勢を立て直した瞬間、もう一度吹き飛ばされた。

 

「なんだあれは……?」

 

 篠ノ之さんは鈴さんの放つ正体不明の攻撃に疑問を抱いていた。その疑問に答えたのは同じ代表候補生であるセシリアお姉さんだった。

 

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾で打ち出す――――」

 

 篠ノ之さんは一夏お兄ちゃんが心配なのか、不安そうな感じが漂っている。衝撃砲を喰らった後、一夏お兄ちゃんは白式の唯一の武器、雪片弐型をグッと握り締める。

 覚悟を決めたのか、キッと鈴さんを真剣に睨みつけた。普段見せない表情に鈴さんは驚いたのか少し動作がぎこちない気がしたが、

青龍刀をクルクルと振り体勢を立て直した。その一瞬の隙を見て、一夏お兄ちゃんが瞬時加速を使って鈴さんの倒そうとした……けれどもその刃は当たらず、鈴さんの寸前で止まる事になった。突然の爆発音、それと同時にアリーナ内に土煙が舞う。

 

「え……?」

 

 突然の出来事にボクの頭は処理が追いついていなかった。アリーナ内の煙が晴れると、そこには……

 

 

 黒に限りなく近い灰色をした『全身装甲(フル・スキン)』のISがそこにいた。

 

 

 美香お姉さんがいうには、全身を装甲で包まれたISはありえない、と言っていた。ISは防御にシールドエネルギーがあるし、

防御特化になっているISも大きなシールドはあるけれども、全身を装甲にしてまで防御特化にする必要はないと言っていた。だから、目の前に現れた''異型''の存在がとても恐ろしく感じた。

 

 ―――そうだ、一夏お兄ちゃんを助けないと……!

 

 そう思った瞬間に、再び爆発音が鳴り響いた。パラパラと天井だった部分が細かく降り注ぎ、何かが『落ちてきた』所を見る。

 

「―――え?」

 

 何かが天井から『降ってきた』。それだけで普通じゃないと言うのに、振ってきたのは全身装甲(フル・スキン)のIS、

それも一夏お兄ちゃんたちを襲ってるのとは全く違う別の形をしていた。

 アリーナの中で一夏お兄ちゃんたちを襲っているのは全身装甲という部分を除けば普通に見える。だけど、目の前にいる敵は胴体や顔の部分は普通なんだけれども、両手と両足が非常に大きく、まるで殴るために造られたかのような姿形をしていた。

 その降ってきた全身装甲は顔に光を溜めてレーザーを放つかのような行動に移った。もし、その行動が攻撃をする前の予兆だとして、その攻撃の射線上には―――!

 

「ダメッ!!」

 

 ボクはとっさに天翔を展開し、美香お姉さんを庇うように抱きしめる。美香お姉さんはISをとっさに展開していたけれど、回避するような仕草は無かった。さっきまで美香お姉さんがいた場所に大きなレーザーが放たれ、アリーナの内部まで大きな穴が開き、そのシールドまで貫通していた。

 全身装甲のISはボクたちが回避した先へ先回りして、その大きな腕でボクと、抱きしめたままの美香お姉さんをアリーナ内部へと吹き飛ばした――

 



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12 侵略者との対決

「なっ……!?」

 

 突然の出来事に、明はついていくことができなかった。いきなり天井が爆発し、そこから全身装甲のISが現れた。ソイツは美香に強力なビーム攻撃を放つが、翔くんが間一髪で助ける。だが、その際に高威力すぎるビームがアリーナの中まで穴を開けてしまう。そこに全身装甲はチャンスと思ったのか、翔くんと美香を殴り、もう一体の全身装甲のいるアリーナ内部へと吹き飛ばしていった。

 

「翔くんっ! 美香!!」

 

 私はとっさに音時雨を展開し、翔くんと美香を助けようとした。だが、進入する途中でアリーナのバリアーが再生され、内部に侵入することが難しくなってしまった。

 

「先生っ! バリアを解除してください! 二人を助けないと…!」

 

「そうですわ! わたくしにISの使用許可を! すぐに出撃できますわ!」

 

「そうしたいところだが…これを見ろ」

 

 織斑先生は携帯型端末を持ち、そのデータを私たちに見せてくる。

 

「遮断シールドがレベル4に設定……!? しかも、扉が全てロックされて―――あのISの仕業ですの!?」

 

「そのようだ。これでは避難することも救援に向かうこともできない」

 

 マジかよ、こっちから助けることも向こうから逃げることもできないとは……翔くん、美香、頼むから無事でいてくれ……!

 

 

 

 

「えっ…翔!?」

 

 突然の爆発、そしてアリーナの中に現れたのは翔と美香、そしてもう一体の全身装甲。最初に現れた全身装甲と戦っている最中に起きた出来事であり、想定していない状況であった為、一夏は驚き、動きを止めてしまった。

 

「くっ、増援ってワケ…!? あぁ、もう! これ以上手間を増やさないでほしいわね! アンタ達! 止まってると的にされるだけだから動き続けなさいよ!」

 

「は、はいっ!」

 

「わかりました!」

 

 美香は鈴の言葉を聞き、その場から動き回った。翔も動き回るが、敵機からどこか違和感を感じていた。

 

「とりあえず、コイツは私たちが片付けておくからそっちは頼んだわよ!」

 

「分かりましたっ!」

 

 翔は鈴に対して返事をする。そして翔と美香をアリーナ内へと投げ入れた全身装甲のISへと向かっていく。

 

「そうだ、武器……!」

 

 天翔の武器は白雪だけでなく、新たに射撃武器が追加されていたことを翔は思い出す。そして翔は新たに生成された武器、土神を展開した。

 

「ロックオンは確か、敵を狙えば勝手に出してくれる…!」

 

 翔は取り出した銃を敵に向け、構えた。すると天翔は敵に向けて自動的に腕が動いた。これがロックオンしている状況なんだ…!翔は躊躇わずに引き金を引いた。だが、全身装甲のISは発射された銃弾を巨大な腕で防御した。その大きな腕自体が巨大な盾となっているらしく、与えたダメージは無いに等しかった。

 

「そんな!?」

 

「翔くん、ここは私に任せて!」

 

 美香は戦女・弐型の武装である装甲のミサイルハッチを開かせミサイルを発射した。

 

「さぁ、逃れるものなら逃れなさいっ!」

 

 戦女・弐型の一部から緑色のワイヤーフレームのミサイルが発射される。70もの数を放ち、それらは一気に全身装甲のISへと向かっていくが、全身装甲のISはそれらのミサイルを腕で『叩き落した』。

 

「嘘っ!?」

 

 その行動に美香と翔はかなり驚いていた。なぜなら、実体を持たないミサイルがただの腕で落とされたのだから。

 

「くっ…雨霰があんな腕に落とされるなんて、屈辱的だなぁっ…」

 

 美香は視界を少しだけ下に向け、とても悔しそうに言う。雨霰の中では最高傑作で、思い出の武装であることを翔に語っていた。

 

「…私たちだけの装備じゃあ、遠距離装備でこの相手をするのは無理ね…なら!」

 

 と、敵ISに向けて瞬時加速(イグニッション・ブースト)を試してみる。巨大で愚鈍な相手ならば近づいて少しダメージを与えては離れていく戦法が有効だと感じていた。だが、瞬時加速で近づいた途端に相手は両手両足のブースターを使い、美香が近づこうと思っていた場所から即座に移動してしまった。

 

「なっ!?」

 

 愚鈍そうな外見で、瞬時に動くことのできる敵に美香は驚きを隠せなかった。

 

「翔! 大丈夫か!?」

 

「ちょっと一夏! アンタ人の心配をしてる場合!?」

 

 一夏はこんな状況でも翔を心配し、逆に鈴に心配されてしまった。そんな状況の中で一夏と翔は敵である全身装甲の相手に違和感を感じた。

 

「……なぁ、こいつらの動きって何かに似てるんじゃないか?」

 

 と、一夏はこの場にいる全員に声をかけ、敵が何かに似ていると言い出す。

 

「何かって何よ? コマとかいうんじゃないでしょうね」

 

「こっちはただ殴ったりビームを撃つだけ…近づこうとすれば逃げられるし、瞬時加速で近づいても、結局は避けられてしまいますし……」

 

「あー、なんていうかな、昔自動車メーカーが造ってた人型ロボットいたろ?」

 

「……そんなのいたの?」

 

「あ、翔は知らないか……なんつーか、あいつら機械じみてないか?」

 

「ISは機械よ」

 

「いや、そう言うんじゃなくてだな。えーと…あれ、本当に人が乗ってるのか?」

 

「う、うん…ボクも何となく感じてたけど、もしかしてロボットじゃないのかな?」

 

「……そんなこと、ありえない。ISは人がいなくちゃ動かないのよ。でも、あのISの動きは人が乗っているような動きじゃないわよね……」

 

 二人はあのISが機械であるということを薄々感じていた。

 

「それに、ボクたちが話してると何もしてこないよ?」

 

「…ううん、でも無人機なんてありえない。ISは人が乗らないと絶対に動かない。そういうものだもの」

 

 鈴と美香は目の前の敵が無人機だということに信じられない様子であった。ISは人が動かさないと動かない、彼女たちにとってそれは当たり前のことであったが、彼ら二人はISの知識が浅く、それでいて無知だからか相手の事を知ることが出来たのだろうか。

 

「一夏ぁっ!」

 

「翔くんっ!」

 

 四人で敵の情報を探っていると、放送室から二人の声がアリーナ内へと響き渡る。放送室の方から聞こえたのは、箒の必死な声と明の激励する声。

 

「男なら…男なら、そのくらいの敵に勝てなくてどうする!」

 

「この程度の敵で何立ち止まってるんだ! 天翔の為に負けられないんじゃないのかっ!」

 

 まずい! とっさに翔は敵の様子を見る。二体の全身装甲は放送室へと視線を向けた。このままビームが発射されれば、明と箒は無事じゃ済まされない――――!

 

 二人を助けるにはここで一気に倒してしまうのが一番だろう。だが、全身装甲を一撃で倒す方法は一夏の零落白夜しかない。どうしたら、あの敵を倒すことができるのだろうか――――

 

 

 

 

 

 

無段階移行(シームレス・シフト)起動。

 

所有者の危険を感知、新規武装を生成します・・・・・

 

敵ISを解析中・・・・・完了、名称『ゴーレム・技の一号』『ゴーレム・力の二号』。

 

解析したISの武装を解析中・・・・・・完了。

 

現在の状況に最も適した武装を生成中・・・・・・・・・・・・完了。

 

新装備『ウィング・フェザース』生成完了。

 

 

 

 

 突然、天翔から新武装の生成を終了したと表示されたウィンドウが現れる。それと同時に新武装『ウィング・フェザース』の使い方が頭の中に流れ込んでくる。これは、セシリアさんのブルー・ティアーズと同じBT兵器だ……!とっさにボクはウィング・フェザースを展開する。その武装は白い羽のようで、とても綺麗なものだった。

 

「行って! 『ウィング・フェザース』!」

 

 ボクは背中に展開されたウィング・フェザースを六機全てを全身装甲へと向ける。ウィング・フェザースは『ビームウィング』、『ガトリングウィング』、『ミサイルウィング』と三種類あり、それが二機ずつあった。一斉にボクたちが相手をしていた全身装甲へ向けて一斉射撃の体勢をする。だが、敵はそれに気づいたのか両手足にあるスラスターを使って回避しようとしていた。

 

「逃がしは…させません!」

 

 回避しようとする敵に対して美香お姉さんは再びミサイルを発射させた。だけど、そのミサイルは先ほどまで使っていたのとは違い、色が緑色から青色に変わっていた。全身装甲はそれを気にすることなく普通に叩き落そうとするけれども、先ほどとは威力が違い、全身装甲はその衝撃で地面に叩きつけられた。

 

「翔くん! お願いっ!」

 

 敵が動けなくなったその瞬間、待機させていたウィング・フェザースで一斉に攻撃をする。

 

「たああああっ!!」

 

 一斉射撃を続けながらボクは白雪を展開して敵に向かって突撃し、白雪を振りかざした。巨大な右腕で防御されて、白雪での攻撃はあまり効いてはいなかった。

 

(もっと、もっとっ!)

 

それでも白雪で攻撃するのを止めずに、そのまま斬り続ける。

自然と腕に力を入れ、無理矢理にでも刃で押し込むようにしていた。

 

「はあああああっ!!」

 

 すると、白雪の刃である白いエネルギーは大きさと輝きを増しす。少しの間だったけれども、その影響なのか、敵の巨大な右腕は切断されていた。

 

「やっ、た………」

 

 敵ISのシールドエネルギーが0になり、ウィング・フェザースの弾も切れた。先ほど輝きを増していた白雪も、エネルギーが切れたのか白い刃がなくなる。そのことを認識すると同時に、ボクの身体に疲れが物凄い勢いで流れ込んできて、ISで浮いているどころか立っていることすらできなくなって、その場に倒れこんだ。

 

 

 

 

「…これで、終わったのね……」

 

 突如現れた無人機二機の内、こっちに引き付けた一機をなんとか倒すことができた。全ては翔くんと、その専用機の天翔のお陰と言っても過言ではないだろう。なぜなら、私はほとんど何もしていないのだから。した事と言ったら足止めのみ。

 

「翔くん……は、きっと疲れちゃっているのね」

 

 新たに生成された武装『ウィング・フェザース』はBT兵器、ブルー・ティアーズを元に天翔がコピーし、自己流に改造した武装なのだろう。だが、本人が動きながらBT兵器も同時に操ると精神的に疲れてしまうという欠点がある。天翔もその弱点は拭いきれなかったようで、翔くんもそれで眠ってしまったのだろう。BT兵器を無理矢理使って疲れてしまっても、特に後遺症がでるワケでも無い。だから翔くんが無事だという事実を確認して、とりあえず安心しきっていた。

 

「「一夏っ!」」

 

 突如響き渡る篠ノ之さんと鈴さんの声、悲鳴じみた声を聞いてふと我に返った。

 

 ―――そうだ、早く二人を助けに行かないと!

 

 無人機は右腕が切り落とされているが、それでも攻撃の手を休める様子を見せない。急いで応援に向かおうとするも、織斑くんは無人機とかなり近く、ここで雨霰を撃とうものなら織斑くんもろとも巻き込んでしまう。加速して織斑くんを射線から弾き飛ばすことも戦女・弐型の機動力では不可能―――こうしている間にも、少しずつ時間は流れっていって、今にもビームが放たれようとした。……だが、その瞬間に客席からブルー・ティアーズが四機、無人機に向けて狙撃した。その全ての攻撃は敵に命中し、ボンッと小さな爆発を起こして落下していった。これで私たちは二機の無人機を相手に勝利した事になる。

……と、今の瞬間まではそう思い込んでいた。――敵ISの再起動を確認! 警告! ロックされています!――と、私たちが倒した無人機が今にも起き上がり、私に向けビームを放とうとしていた。無人機だから、シールドエネルギーが0になっても攻撃を続ける気だ……!

 

「こうなったら……!」

 

 私は戦女・弐型に入れていた武装の内の一つ、通称盾殺し(シールド・ピアース)と呼ばれるパイルバンカー『瓦割(かわらわり)』。一撃しか打つことは出来ないが、当たればシールドエネルギーの大半は持っていくだろう。そんな威力のあるこの武装でシールドエネルギーが0の相手に打ったらどうなるか?

当然だが、装甲を貫いて搭乗者を殺めてしまうだろう。それは勿論普通のISの話だが。相手は無人機、完全に機能停止にさせるには原型と留めなくするかコアを破壊するのみ。普通なら世界に数個しかないコアを破壊するだなんてバカな真似はしないだろう。……だが、私にとって今の状況はとても都合がよいものだった。私は右腕に展開された『瓦割』の杭は三メートルもあり、貫通させるには十分な長さがある。その先端をコアがあると思われる背部へと貫通するように向け、躊躇いも無く打ち込んだ――

 



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13 戦いが終わって

実はちょっと書き溜めてました。
まだちょっとあるのでしばらく投稿が続くと思います。


ふと気がつくと、目の前にボクの部屋の天井があった。

目を覚ますと左右から明お姉ちゃんと美香お姉さんがボクの顔を除いていた。

 

「目が覚めたんだね、翔くん。それにしても今日は大活躍だったね~」

 

「あれ? ボク、どうなったんだっけ……」

 

「敵を倒した瞬間に翔くんが倒れちゃって、そのままぐっすり眠っちゃったのよ」

 

…そういえば、天翔の新しい武装『ウィング・フェザース』で、

あの全身装甲のISを倒したんだっけか? 最後の方は意識が曖昧でよく思い出せない。

 

「一夏お兄ちゃんは大丈夫なの……?」

 

「えぇ、1時間くらい前に目が覚めたって織斑先生が言ってたわよ」

 

美香お姉さんが一夏お兄ちゃんが無事だと伝える。

よかった……とりあえずホッと一安心した。

 

「それでね、翔くんが倒れちゃった理由なんだけれども、

 BT兵器はすっごく集中しなきゃ扱うことができないのよ。

 翔くんはさっきの戦いで集中しすぎちゃって倒れちゃったの。

 だから、全部を動かすには訓練しなくちゃいけないの。わかった?」

 

「うん」

 

あのときは無我夢中でボク自身でもよく分からなかった。

けれども、一斉に使えば敵ISを倒すことができると天翔から教えてもらった。

 

それだけじゃない、白雪の刃が輝きを増して大きくなったのも、

まるで天翔がボクに力を貸してくれるような感じだった。

 

「さてと…翔くんが無事に目を覚ました事を織斑先生に伝えなきゃならないから、

 戻るのが遅くなるかもしれないけれど、ちょっと行ってくるね」

 

「ついでに私も一旦部屋に戻るわ。パソコンつけっぱだから消さなきゃならないし」

 

「あ、うん。わかった~」

 

美香お姉さんと明お姉ちゃんはそう言って部屋を出て行った。

これから特にすることもないし、もう一回寝よう。

身体に疲れが溜まってるときは寝るのが一番だと一夏お兄ちゃんも言ってたし。

ボクはベッドに横になって、眠る為に目を閉じた。

 

 

―――――コンコン。

 

ドアがノックされる音で目が覚める。

ノックの音は小さかったけれども、ボクの眠りも浅かったから小さい音で目が覚めた。

 

「はいはーい、どなたですか~?」

 

お布団で横になっていたボクは身体を起こして、ドアへと向かう。

起き上がるときに少しだけクラクラとしたけれども、多分問題は無いと思う。

ボクからしたら少し高いドアを開けて、その先にいたのは……

 

「…鈴さん?」

 

「ちょっといいかしら? 今日の事で話がしたいんだけど」

 

「あ、はい。大丈夫ですよ」

 

「…その、今日はありがと。アンタ達がいたおかげで何とか一体を倒せたんだしね」

 

鈴さんはなんだか照れくさそうに言う。

ボクだけで倒したわけじゃないけれども、それでもお礼を言われると嬉しい。

 

「……でも、一夏お兄ちゃんと鈴さんがいなかったら、

 ボクたちもやられてたかもしれないから…こちらこそありがとうございました」

 

鈴さんにぺこり、とお辞儀をしてボクからもお礼を言った。

 

「うりゃっ」

 

「ふにゃっ!?」

 

頭を上げた瞬間、鈴さんは何を思ったのかボクの頬っぺたを両手でつねった。

 

「お~、やっぱ結構柔らかいわね」

 

「ふぁ、はにふるんれふか~っ」

 

何するんですか、と言おうとしたけれども頬っぺたを引っ張られて上手く喋れなかった。

ボクが講義の声を出したからか、鈴さんはボクの頬っぺたから手を離した。

 

「い、いきなり何するんですか?」

 

「ガキンチョの癖して生意気にも敬語なんて使ってるからつねった。

 あとついでに柔らかそうだから引っ張ってみた。文句ある?」

 

「…えっと、普通逆じゃないですか? 敬語使わないで生意気っていうのは解りますけども」

 

「だ~か~らっ、そういうトコが生意気だって言ってんのよ!」

 

再び鈴さんはボクの頬っぺたを引っ張ってグリグリと弄った。

さっきから鈴さんはボクのどこが生意気だって言ってるけど、思い当たるフシが無い。

 

「ら、らはらふぁっひはらあにほひっへぇぇ」

 

「アンタさ、もっと甘えたっていいんじゃないの?

 変に気を使わないで子供らしく無邪気になってもいいんじゃない?」

 

鈴さんは再びボクの頬っぺたから手を離す。

 

「あう…その、ごめんなさい……ボク、そんな…」

 

再びごめんなさい、と鈴さんに謝ろうとすると、

鈴さんはボクの頭を撫でながらこう言ってくれた。

 

「アンタさ、自信が無いからそんな弱気になっちゃうのよ。

 だからいつまでたっても人に気を使っちゃうってワケ。

 実力はあるみたいだし、もっと堂々としたらどうなの?」

 

「で、でもボク、皆さんと比べると実力なんて……」

 

「それじゃ、自信がつくまで練習したらいいだけの話じゃない。

 な、何なら一夏のついでにアンタも一緒に教えてあげてもいいけど?」

 

「え…? いいんですか?」

 

「言っておくけど、一夏のついでなんだからね!

 べ、別にアンタを鍛えるのはオマケ! 本命は一夏なんだから!」

 

鈴さんは腕を組んでぷいっと顔を逸らしてしまった。

普段のボクなら怒らせてまたゴメンなさいって言うかもしれない。

けれども、今の鈴さんの行動は照れ隠しにしか思えなかった。

 

「ありがとう! 鈴お姉ちゃんっ!」

 

ボクはそれが嬉しくて、鈴お姉ちゃんにお礼を言った。

 

「…っ、じゃ、じゃあこれからちゃんと毎日来なさいよ!」

 

鈴さんは顔を真っ赤にして逃げるように去っていった。

それと入れ替わるように明お姉ちゃんと美香お姉さんが来る。

 

「翔くん、お待たせ~」

 

明お姉ちゃんの手にはなぜか昔のゲーム機が持ってあった。

 

 

 

 

それから夕食を食べ終え、ボク達は三人でゲームをやっていた。

どうして64なのか、しかも初代のマ○パなのかはよくわからないけど…

 

「よっしゃー! 美香のスターは頂いたー!」

 

「フフフ、テレサでスターを奪うなんていい度胸してるじゃない」

 

相変わらず、明お姉ちゃんはゲームがすっごい上手だ。

だからボクも美香お姉さんも明お姉ちゃんにやられっぱなしだった。

 

「おっ、大砲でスターのマスのすぐ目の前に飛んだよ。めずらしー」

 

「でもコイン無いんでしょう?」

 

「…さっきミニゲームで明お姉ちゃんに勝ってたらなぁ」

 

さっきから明お姉ちゃんが強すぎて敵わない。

こんな風にスターを入手しようにもミニゲームはほとんど明お姉ちゃんが勝ってしまう。

ボク達のコイン入手経路は青いマスか一人ミニゲームだけだ。

 

「こりゃあ今回も私の圧勝ですかなぁ~?」

 

ワザとらしく明お姉ちゃんはボク達に挑発してくる。

実際に孤児院でもサバゲだろうが対戦するゲームだろうが事があるごとに勝ってた気がする。

 

「翔くんと稗田さん、いますかー?」

 

玄関から山田先生の声が聞こえるが、ミニゲームが開始する直前の画面に映り、

ボク達は移動するにしてもまだ移動できない状態だった。

 

「このミニゲームで負けたら出るってのはどうかな?」

 

「それじゃあそれにしよっか」

 

「オイこら待てよお前らこれ3対1のミニゲームだし、

 私がフルボッコにされる大魔王の役割の虐めミニゲームじゃねぇかよ

 それにどうやって勝敗つけるんだよ二人で先生を出迎えるつもりかよ」

 

「明が行けって言ってるのよ、言わせないでよ恥ずかしい」

 

「今酷い虐めを垣間見た」

 

「いるんですかー? 入りますよー」

 

山田先生も山田先生で勝手にマスターキーを使って部屋に入らないでください。

 

「山田先生、どうしたんですか?」

 

「はい。お引越しです」

 

「私が?」

 

「いえ、稗田さんがですよ」

 

明お姉ちゃんはどうしたらそんなリアクションがとれるんだろう。

まぁ、今のは素で天然な発言だったかもしれないけれど。

 

「そう、ですか……」

 

美香お姉さんは少しだけ悲しそうな表情をしていた。

…ボクもできれば美香お姉さんと一緒の部屋がいいなぁ……

でも、美香お姉さんが引っ越すなら、ボクはどうなっちゃうんだろう?

 

「あれ? 山田先生、ボクは一夏兄ちゃんと同じ部屋じゃないんですか?」

 

「あ、はい。それは今後に……」

 

「……そうなんですか、それじゃあ早くしましょうか」

 

と、美香お姉さんは言い、64の電源を消した。

 

「ムワァァァァァァァ! 私の勝っていたプレイデータが……」

 

「どっちにしろ完全クリアしてたんだし、別にいいでしょ?」

 

「我が黄色の貴公子は戦場に散った……じゃあ、美香の引越しを手伝うとしますか」

 

「切り替えが早いわね。明のそういう所が私は好きよ(弄りやすくて)」

 

「そっかー、私も美香のことが好きだぞー(弄りやすくて)」

 

何だか二人が思っていることが重なっているように見える。

一夏兄ちゃんにも言えることだけど、心が悟られやすいのかな?

 

「それで、私はどこの部屋に引っ越すんですか?」

 

「はい、えーっと……1089号室です!」

 

山田先生はなぜか自身満々に答えた。

それに一番過剰に反応したのは明お姉ちゃんだった。

 

「あれ、そこ私の部屋じゃん! 最近一人部屋は寂しいと思ってたんだー」

 

「……ここからが本当の地獄ね」

 

美香お姉さんは『これから地獄に行ってきます』って感じの表情だった。

でも、二人とも仲がいいんだし、大丈夫だよね……?

……あれ、美香お姉さんがちょっと心配になってきた。

 

 

 

 

さっきまで隣のベッドで美香お姉さんが寝ていたのに、今は誰もいない。

そのせいか部屋は二人でいたときより広く感じていた。

でも、逆に広すぎて一人で寝ているのがとても寂しい……

布団に横になって頑張って寝ようとすると、玄関からノックをする音が聞こえる。

 

「誰だろ……?」

 

ボクは起き上がり、玄関に向かって扉を開ける。

ドアをノックしていたのはさっきまで同室だった美香お姉さんだった。

 

「ねぇ、翔くん。最後に一緒に寝ていいかな…?

 もう既に寮長とは話がついてるし、許可は出てるから……」

 

「う、うん……」

 

美香お姉さんは部屋に入って、ボクのお布団に入ってくる。

……え、一緒に寝るってそういうことなの…?

 

「あ、あの、美香お姉さん…?」

 

「なぁに?」

 

「その……一緒に寝るっていっても、一緒のお布団で…?」

 

「そうよ。……それとも、嫌?」

 

「う、ううん。嫌じゃないけど…なんでだろう、って思って……」

 

「ふふふ……ちょっとだけ思い出を作ろうと思ってね」

 

美香お姉さんはクスクスと笑った。

それの笑いはなんだか怖いんだけれども、それと同時に惹きつけられるような感じだった。

 

「ねぇ、翔くん。美奈ちゃんのことは好き?」

 

「え…? うん、好きだよ」

 

いきなり、美香お姉ちゃんは美奈ちゃんのことが好きかどうかを聞いてきた。

もちろん、その答えは好きだって答えた。

だって、一緒に遊んでくれるし、いっつも一緒だし……

 

「それでね、翔くん……来月にさ、学年個人別トーナメントがあるんだ…

 もしもの話なんだけれども、私がそれに優勝したらとしたら――――」

 

美香お姉さんは息を呑んでボクに決心をするように言った。

 

 

 

 

「―――私のことをお義姉さんと呼んでくれないかしら?」

 

 

 

 

 



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14 心の傷跡

今回は完全にオリジナル展開です。


 謎の無人機がIS学園を襲ってから数日後、一夏と翔はいつものようにISの模擬戦を行っていた。明と美香はとある都合で来られず、今はセシリアと鈴に見てもらっている。

 

「一夏お兄ちゃん、いくよー!」

 

「おう! どこからでも掛かって来い!」

 

 翔の元気な声がアリーナ内に響き、その声が開始の合図となった。一夏も言葉に応えて雪片弐型を持ち、構えた。

 

「行って! ウィング・フェザース!」

 

 翔は背中に新しく生成された新装備『ウィング・フェザース』を展開し一夏に対して攻撃を開始する。三つ種類がある中で最も威力の高い二機の『ガトリングウィング』が一夏に目掛けて飛んでいった。

 

「やっぱり、最初にガトリングを近づかせてきたか!」

 

 一夏は接近してきた『ガトリングウィング』二機を難なく雪片弐型で破壊する。『ガトリングウィング』は威力が高いが命中精度がかなり低い。その為、相手に近づければ近づけるほど命中力が増し、シールドエネルギーも大きく削ることが可能だ。だからこそ、一夏は最初に『ガトリングウィング』を接近させることを予想させる結果になった。

 

「行くぞっ!」

 

 一夏は翔に向かって瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、間合いを一気に詰める。

 

「やっぱり来ると思ってたよ。一夏お兄ちゃん!」

 

 だが、翔もまた一夏の行動を予測していた。一夏が向かった先に翔はおらず、翔は後方へと瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行い、一夏の握る雪片弐型による斬撃を回避した。

 

「いくよ!」

 

 翔は唯一の射撃武器『土神』を構え、一夏にロックオンをする。右手の人差し指に力をいれ引き金を引いた。一発、二発、三発と次々と一夏に向けて撃ったものの、その内当たったのは二発のみであった。

 

(やっぱり、『今の状態』じゃあ当たらないかぁ)

 

 心の中でぼやく。今の土神の状態は攻撃重視に設定されており命中精度が低い状態となっている。

 

(土神、威力重視から命中重視に設定変更!)

 

 翔は心の中で土神の状態を変更するように設定した。かちり、と音がして土神は威力重視から命中重視になったが、外見上は何も変わったりはしていない。

 

「今度はさっきみたいに外さないよっ!」

 

 土神を一夏に向けて発射すると、六発の弾丸を撃ち込み、発射して命中した弾は四発となり、大きな声で宣言した通りに命中精度は上がっている。

 

(っ…さっきよりは当ててきたな、だけど、この程度の威力なら食らっても問題ない…!)

 

 だが、命中重視にすると威力が足りなくなる欠点がある故にシールドエネルギーは減っておらず、このまま一夏のシールドを0まで削るとなると長期戦に持ち込む必要があった。

 

(参ったなぁ。近づいたら勝てないし…)

 

 翔の使える近接型の武器『白雪』があるものの、、一夏の攻撃を受けてしまえばそれで訓練は終了し、翔は負ける。

 

(やっぱり、白式相手には遠距離で削っていくしかないよね)

 

 白式を展開した一夏に勝利するには『ウィング・フェザース』等の遠距離攻撃を利用して勝利する他に方法は何一つ無いと考えている。

 

(…でも、ボクはまだ完全にウィング・フェザースを扱い慣れてないし…)

 

 肝心のその武装はここ最近新たに生成された武装であり、完全に使いこなせてはいない上、ブルー・ティアーズとは違い使用者と共に動けるものの精神力を使って動かしている為、下手をすればそのまま意識を失い数日は目を覚まさない危険な部分もある。

 

(新しく作られてた『アレ』を使おうかな)

 

 ここで翔は天翔が新たに生成した武装の存在を使おうと考えた。あの時の襲撃してきた時に天翔は『ウィング・フェザース』を戦闘中に生成していたが、その時の戦闘が終了したときに、天翔はまた新たに武装を生成していた。

 

(今まで使ったことないから、使い勝手はわからないけど…)

 

 鈴の使用する甲龍(シェンロン)の第三世代型兵器『衝撃砲』と美香の専用機である戦女・弐型のエネルギーミサイル『雨霰』をコピーし、無段階移行(シームレス・シフト)機能によって新たに生成された武装。

 

「それじゃ、新しい武器を試させてねっ」

 

「え? 新しい武装が作られてたのか?」

 

「うん! あの時の無人機の戦いで出来てたみたい! 『龍撃弾(りゅうげきだん)(フェオン)!」

 

 翔は新たに生成された新装備『龍撃弾(りゅうげきだん)(フェオン)』を展開した。白い球体で両肩にぷかぷかと浮いており、装飾品の類は一切無く、まん丸とした綺麗な球体そのものだった。

 

「行くよ、一夏お兄ちゃんっ!」

 

 白い球体である『龍撃弾(りゅうげきだん)(フェオン)』は緑色に光り、光った瞬間にエネルギーを作り出し、そして何の音も出さずに攻撃は『放たれた』。一夏は見えない攻撃に被弾し、そのシールドエネルギーを削った。

 

「なあっ…!?」

 

 新たに生成された武装『龍撃弾・風』は簡単に説明すると『見えないミサイル』であった。流石に雨霰同様の誘導性能は得られなかったが、見えない分厄介さが増している。発射されるミサイルは小型で複数発射できる為、どこにミサイルが発射されるか、それが見切れなければ回避するのはかなり難しい武装であった。

 だが、威力はさほど高くなく、多少なら当たっても大丈夫な程度であった。

 

(多少なら当たっても問題ないけど、撃ってくる量が多すぎる! なんとか回避できればいい、何か法則か撃ってくる場所の条件はないのか!?)

 

 一夏は初見でセシリアがブルー・ティアーズを扱う方法を見極めていたが、今回の見えないミサイルは見極めるのが難しく、防戦一方になっていた。

 

(こまま行けば勝てる。けど……)

 

 このまま『龍撃弾・風』を連射していれば勝てる試合だが、衝撃砲とは違い、エネルギーを消費して見えないミサイルを発射する武装であり、エネルギーが切れてしまえばミサイルを発射することはできずに、ただの白くて丸い球体をぷかぷかと浮いている飾りになってしまう。

 

(これじゃあ勝てない。ならウィング・フェザースを使うしかない)

 

 翔は既にそれを理解しているため、攻撃を止めて残っているウィング・フェザース、『ビームウィング』と『ミサイルウィング』を一夏に向け、攻撃する。

 

「…? どうした、翔。あれで攻撃しないのか?」

 

「あれね、もうすぐエネルギー切れちゃうから…」

 

「そうなのか。なら翔に近づくことができるな!」

 

 一夏はウィング・フェザースの攻撃を難なく回避して、一機破壊していく。まだ翔はウィング・フェザースを完全に扱いなれておらず、ましてやセシリアのように死角を狙うことはできなかった。BT兵器を扱うのに必要なのは『集中力』であり、例えるならば右手で丸を描いて左手で三角を描くような集中力が無ければ、動かすのは難しい。年齢の差もあり、まだ精神的にも未熟である翔が完全に扱うのには数年の歳月が必要となる。

 

(…? 天翔、もしかして新しい武装を造っているの?)

 

 だが、それも普通のISならではの話。翔が完全に扱えない理由はただ一つ、扱える程の集中力を持っていないからである。だが、その集中力をコンピューターで補助できたとしたら?天翔の最大の特徴である無段階移行(シームレス・シフト)が発動し、この問題を解決できる新たな装備を開発する機能を開始し、生成完了した。

 

「これは……」

 

 翔の頭上に黄金色に光る輪が現れる。『フェアリーリング(妖精の輪)』と名づけられたそれは天使の頭にある輪であった。フェアリーリングの機能は翔が完全に扱いきれないBT兵器を補佐する役割を持ち、翔の代わりとしてAIが自動的にウィング・フェザースを動かす装備であった。

 

「これでどうかな、一夏お兄ちゃん!」

 

 生成された瞬間にその武装の特徴と使い方は翔の頭に流れ込んでくるため、その使い方は生成された瞬間に解っていた。使い方は『命令するだけ』である。

 

「行って! ウィング・フェザース!」

 

 ウィング・フェザースへ命令をし、一夏へ向けて攻撃を仕掛けた。

 

「んなっ!?」

 

 先程とは比べ物にならない程に機敏な動きをした動きで一夏を翻弄する。

 

「……だけど!」

 

 だが、一夏は向かってくるウィング・フェザースの攻撃を紙一重で回避し、そして一機破壊していく。

 

「さっきよりも動きが機械的みたいだぞ、翔!」

 

 AIで動かしているのが瞬時にバレてしまい、それが仇になってしまったようだ。機械的な動きになったウィング・フェザースの攻撃を掻い潜って翔の目の前までに接近していた。一夏の扱う雪片弐型が翔の頭上にある『フェアリーリング』が破壊され、一夏を狙っていたウィング・フェザースの動きがぴたりと止まった。

 

(…今だ!)

 

 だが、翔は一夏が雪片弐型を振りかざした隙を逃さなかった。土神を威力重視に変更し、動きが止まったウィング・フェザースの照準を目の前の一夏に狙いを定めた。全ての攻撃が命中した白式のエネルギーは0まで削られ、今回の訓練は翔の勝利で決まった。

 

(やった……ッ!?)

 

 翔はふらり、とISに乗っているにも関わらずに身体が少し震えた。模擬戦とはいえ、戦闘が終わったから気が抜けたのだと、翔はそう思っていた。けれども実際にはそうではなく、土神の仕様変更とウィング・フェザースを同時に操ったが故に起こった立ちくらみであった。

 ――この無茶が、すぐ後に悲劇を起こす引き金になることは誰も想像していなかった。

 

 

 

 

 

 

 訓練が終わって、ボクと一夏お兄ちゃんは同じピットに戻った。一緒に戻った理由はこっちのピットの方が更衣室に近いからだ。戻ってくると早速、セシリアお姉さんと鈴お姉ちゃんが一夏お兄ちゃんに指摘を始める。

 

「一夏さん、先ほどの戦闘ですけれども……」

 

「瞬時加速も読まれてるじゃん? だから……」

 

「り、鈴さん! 今はわたくしが一夏さんに説明している最中なのですよ!」

 

「いいじゃん別に、それで瞬時加速のタイミングは……」

 

 こんな感じで、二人は喧嘩しちゃって結局一夏お兄ちゃんは無視されていた。一夏お兄ちゃんは二人をなだめようとする。

 

「二人とも、その辺に……」

 

「一夏は黙ってて!」

「一夏さんは黙っていてください!」

 

 と、こんな風に怒られてしまう。なんで二人は仲良くないんだろう?特に一夏お兄ちゃんのことに関すると凄く喧嘩しているように見える。

 

「…なぁ翔、時間かかりそうだし、先に着替えててくれないか」

 

「え? 一夏お兄ちゃんは?」

 

「…俺はな、多分」

 

 一夏お兄ちゃんが全てを言う前に二人が口を挟んだ。

 

「一夏! 元々アンタの為に見てあげてるんだからちゃんと聞きなさいよ!」

 

「そうですわ! きちんとわたくしのアドバイスをお聞きになってください!」

 

「だから、私が―――」

 

「な?」

 

「う、うん。わかった」

 

 今までの経験上、二人の会話内容からして長引くことはよくわかった。当然のことだけど一夏お兄ちゃんも簡単には帰れそうになかった。

 ピットを出て更衣室へ向かおうとした途端――

 

「あ、れ…?」

 

 突然、頭がクラクラとして真っ直ぐに歩くどころか、立つこともできなくなった。その場にしゃがみ込んで、クラクラとする頭を押さえ込む。

 

「だ、大丈夫か?」

 

 一夏お兄ちゃんは不安そうに心配してくれる。倒れそうになった身体を一夏お兄ちゃんが支えてくれて倒れることはなかった。

 

「うん…もう、大丈夫だよ。ちょっと疲れちゃったみたい」

 

 一夏お兄ちゃんに身体を抱きとめられると、さっきまでのフラフラとした感覚は消えていた。もう大丈夫だと、一夏お兄ちゃんに返事をする。この感覚は、前に無理矢理ウィング・フェザースを使ってしまった時と同じで、今日も無理に使っちゃったのか同じように頭がフラフラしてしまった。

 

「…そうか。でも無理はするなよ?」

 

「大丈夫だよ、ちょっと疲れただけだもん」

 

 事実、さっきまでフラフラだったのに今は問題ない。ボクはこのままピットから出て、更衣室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 あれから長々と説教され、挙句の果てには2対1で訓練することになってしまった。そんなにどっちつかずで曖昧な態度をとっていた俺が悪かったのか? かといって、どっちかに味方をすれば片方が怒るし、八方塞である。それが今やっと終わって更衣室で着替えるところだった。相変わらず男子二人が使うには広すぎて、逆に落ち着かない感じがしてならない。

 

「ふぅ…それにしても、相変わらず広いな」

 

 本来なら俺と翔の存在がなければ別の女子が使用してたであろう更衣室。その大きさは男二人で使うにはあまりにも大きすぎた。ISスーツを脱ぎ、制服に着替えながら、なんとなく翔のことを考えていた。初見の人には恥ずかしがって人見知りになる翔だけれども、翔は知り合った人と仲良くなると男でも女でも関係なく甘えてくる。実際、セシリアと鈴のことを姉と呼び始めた時から翔は二人に甘え始めた。…しかし、10歳とはいえ少し甘えすぎじゃないなんじゃないか?普通なら女子とのスキンシップをもう少し恥ずかしがるような気がするが……その割には着替えるときは俺に裸を見られるのが恥ずかしいのか、わざわざ離れて着替えていて、妙にシャイなところがあったりする。制服に着替え終え、このまま部屋へ戻ろうと出口へと歩いていく。この無駄に広い更衣室を出ようとした時、目の前に翔が現れた。

 

「あ…一夏お兄ちゃん」

 

「ん? どうしたんだ? 忘れ物でもしたのか?」

 

「あ、うん……ISスーツ置いてきちゃったし、シャツは着忘れちゃうし…」

 

 翔は何やらボーッとしてて、目もとろんとしてて眠たそうに見えた。……今はまだ八時だし、翔はいつも九時に寝てるから、寝る時間には少し早い。

 

「なぁ翔、どうしたんだ? 様子がおかしいぞ?」

 

「ふぁ…そう、かな? ……えっと、ちょっと眠い、かも…」

 

 どこか誤魔化すように言ったが、翔はこういう子だって事を既に知っている。甘えるときは男女構わずとことんスキンシップしたりするが、逆に困ったことや嫌な事については中々言わず、逆に気を遣っていた。どうせ俺たちに甘えるのなら、とことん甘えたっていいのに。そのまま翔はふらふらとしながら使っていたロッカーへと移動する。

 

「あれ、翔。制服の背中の部分、破けてるぞ」

 

「…え、本当?」

 

 翔の制服の背中部分は何かに引っかかって切れたのか、破けてしまっていた。随分と切れてしまっており、覗こうと思えば素肌が見えるほどだった。

 

「そのままじゃまずいから、縫っとくよ。丁度ソーイングセット持ってたし」

 

「……! い、いやっ。いいよ、大丈夫だから」

 

「気にするなって、ほら」

 

 制服の破れてしまったを縫おうと、針と糸を取り出して切れてしまった部分を見た。

 

「……!」

 

 俺は見てしまった。翔の身体についている不自然な傷跡を。翔の身体についている傷跡は自然についてしまうものじゃない。タバコを押し付けたような火傷の痕、殴られたかのような痣がそこにはあった。

 

「あ……や、嫌……!」

 

 俺がその傷跡を見てしまったからか、翔は涙目になって、俺を怯えた目で見てくる。次の瞬間、普段の翔からは想像できないほどの力で突き飛ばされた。そして涙目になりながら、更衣室を走って出て行ってしまった。早く翔を追いかけなければならない。だけどロッカーに頭をぶつけ、意識がグラグラするほどの衝撃を受けてしまい、追いかけられるようになった時には既に翔の姿は見失ってしまってしまった…

 

 



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15 明かされる過去

 翔は逃げるように走っていた。大好きだった兄と慕っていた一夏にこの体の傷痕を見られたこと。こんな身体をしているボクは嫌われるに違いない、と勝手に思い込んでいた。

 だが、それでも一夏お兄ちゃんには嫌われてほしくないと翔は考えていたが、翔にとってこの身体を見られたら一夏だけでなく、クラス全員に嫌われてしまうと、そう思い込んでいたため、再び一夏と仲良くなれることを諦めていた。

 この身体の傷痕を知っているのは、この学園の中だと明と美香のみ。翔は自然と明と美香の部屋、1089号室前に来ていた。ドアを弱々しくノックをして、中に明か美香がいるかどうかを確かめる。

 

「はいはいはーい、どなたですかー?」

 

 明の独特な明るく、そして能天気で聞きなれた声が翔の心を安心させる。

 

「ん? か、翔くん! どうしたの!? 誰かに虐められたの!?」

 

 涙目の翔を見て、血相と態度を変える明。普段はふざけている彼女にとっても、翔が泣いているときは常に真面目になっていた。

 

「あ、明お姉ちゃん…!」

 

 いつもの変わらない、翔にとっての唯一無二の姉である野々原明。翔にとって姉と呼べる存在はたくさんいるが、明という姉の存在はただ一人だけだった。

 自身の身体のことも知っていて、この事について相談しても態度を変えない人物。翔は明に安心感を覚えて、さっきまで泣くのを耐えていたが、それは今ここで決壊した。

 

「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

 翔は明に抱きついて、大声で泣き始めた。明は何も言わずに、その場で翔を優しく抱きしめる。

 そのまま翔を抱きかかえ、ベッドへ運んでいって落ち着くまで抱きしめていた。翔はしばらく大声で泣き叫んだ後、明の身体をぎゅうっと強く抱きしめた。明は翔を優しく抱きしめて、頭を撫で続ける。

 そのまま抱きしめ、撫で続けていると翔は落ち着きを取り戻し、明の顔を覗き込んだ。真っ赤に晴れ上がった目、目尻にはまだ涙が溜まっており、頬には涙の跡が残っていた。

 

「翔くん、落ち着いた?」

 

「……」

 

 翔は何も言わなかったが、首を上下に動かして明の言葉を肯定した。

 

「言いたくないことだったら、無理に言わなくていいからね……」

 

 明はそのまま優しく翔の頭を撫で続ける。翔はこのまま明の胸で眠りたい衝動に駆られるが、そうだと自身の不安は解決しない。

 

「その、ね……ボク、一夏お兄ちゃんに嫌われちゃうかもしれないの……」

 

 今にも消えそうな小さな声で明に言った。だが、明はなぜ一夏が翔のことを嫌ってしまうのか理解できなかった。

 

「どうして織斑くんに嫌われちゃうと思ったの?」

 

 明はそっと、優しく翔に問いかける。翔はさきほど何があったのかを明に小声で伝えた。

 

「あのね……一夏お兄ちゃんにね…ボクの、身体を見られちゃったの…こんなの普通じゃないよね? 気持ち悪いよね? もう会いたくないよね…?」

 

 少しだけ涙を流しながら翔は明に告げる。明はそれを聞き、ショックを受けたけれども平常心を持ち、翔に優しく言い聞かせた。

 

「私は翔くんの身体のことを知ってるけれども、それでも私は翔くんの事が大好きだよ。会いたくないだなんて思わないし、むしろ毎日会いたいよ。だからさ、織斑くんも翔くんのことを嫌ってないよ……」

 

 翔は明の言葉を黙って聞いていた。胸元で涙目な上に上目遣いをしている翔は普通の明ならば暴走するレベルであったが、今は状況が状況であるために、明の理性はかなり自制していた。

 

「ね? 今日はもう遅いから、織斑くんに会ったときに聞いてみよっか」

 

「うん……」

 

 真っ赤な目を細めて、明を抱きしめる力が一層強くなった。明はそんな翔を愛おしそうに抱きしめて、再び頭を優しく撫で始めた。

 そうしていると、スースーと翔の小さな寝息が聞こえてくる。さっきまで大声で泣きながら明日に一夏と会うことに不安を持っていた翔だが、寝てしまえば大人しくなるもので、誰もが見ても可愛らしい寝顔をして眠っていた。

 

「ただいまー……あら、翔くん来てたの?」

 

 この部屋の同居人である美香が部屋に戻ってくる。美香は翔が明に抱きついて眠っている姿を見て、微笑ましく感じていた。

 

「あぁ、うん。ちょっと訳ありで泣いてちゃっててね……相談に乗ってたんだ。それでさ、ちょっと翔くんのことを見ててくれない?」

 

 明は抱きついていた翔を美香に手渡すように差し出した。美香もスッと翔を抱きしめて、背中を軽くぽんぽんと赤子をあやす様に軽く叩いた。翔は明に抱きついていたのにいきなり離されて、泣きそうになるが、新たに美香に抱きついたことで、再び落ち着きを取り戻していた。

 

「えぇ、分かったわ。……理由はどうであれ、無茶はしないでね」

 

「分かってるよ、美香。そんじゃ、行ってくる」

 

 明は玄関の扉を開けて、走るように出て行った。

 

 

 

 

 

 

 織斑一夏は必死になって走っていた。先ほど不可抗力とは言えども、翔の傷痕を見てしまった。翔はそれにショックを受け、一夏を突き飛ばして走り去っていった。そのことを謝りたくて、そして翔のことを聞きたくて探し回っていた。部屋には行ったが戻っておらず、寮の辺りを我武者羅に探しているだけだった。

 

「……ねぇ、織斑くんよ」

 

 必死で探している、後ろから明が一夏を呼び止めた。

 

「あ…えっと、野々原さん、翔が……」

 

「知ってるよ。翔くんは美香の部屋でぐっすり寝てる」

 

「それじゃあ…」

 

「いや、翔くんが落ち着かないと会わせる訳にはいかないね。不安定な状態で会わせても同じことの繰り返しだよ。大丈夫だよ、明日になったら落ち着いて、織斑くんを見ても逃げたりしない。このまま休ませておこう。…その間に話したい事もあるしね」

 

 明は一夏の言葉を遮り、翔の今の状態を説明した。明日になれば大丈夫だと聞いて安心する。

 

「場所を変えようか。ここじゃあゆっくり話せないからね。織斑くんの部屋に行っていい?」

 

「あぁ」

 

 本人の了承もきちんと得て一夏の部屋へ向かう途中。

 

「あら、一夏さんに…明さん?」

 

 道中、二人はセシリアとであった。二人は普段の雰囲気と違い、困惑する。

 

「お二人とも、どうかなさいましたか?」

 

 普段なら一夏と明が一緒にいることに嫉妬して一夏の部屋まで無理矢理にでも付き添ったりするのだが、真面目な雰囲気を察してか今感じている疑問を二人に聞いた。

 

「…あぁ、ちょっと翔くん絡みの話でさ…もしよかったらセシリアも聞いてくれない? 少しでも味方は多いほうがいいからさ」

 

「…わかりましたわ。わたくしも同席させていただきます」

 

 明が言った翔絡みの話。そして二人の雰囲気から察して真面目なことなのだろうとセシリア考えた。彼女にとって翔は弟のような存在であり、とても大事に想っている。翔の力になれるのならと思い、明の話を聞くことにした。

 廊下を歩いていると、一夏の部屋の前に鈴が立っていた。何かブツブツと小声で何かを言っているが、距離があるので何を言っているのかわからない。

 一夏は自身の部屋の前でブツブツ言ってる鈴に何も思わず声をかける。

 

「何やってんだ? 人の部屋の前で」

 

「ひゃっ!? い、一夏!?」

 

 話しかけられるとは思わなかったのか、不意に突然話しかけられて鈴はビクッと体を跳ねた。そして話しかけた一夏の姿を見て顔を赤らめるが、後ろにいたセシリアと明の存在が彼女の顔をムスッとさせる。

 表情の変化とその意味を察した明はこのままでは面倒なことになると思い、会話に割り込んだ。

 

「ちょっと翔くんの事で問題があってね。あまり誰かに聞かれてもまずいって事で織斑くんの部屋で話をしようって事になったんだ。よかったら鈴も話を聞いてくれない?」

 

「…へ? 翔に問題?」

 

 鈴は明の話を聞いてきょとんとした。なぜなら翔が何か問題のある行動を起こしてしまい、それでこれからの教育方針を話し合うようなものだと考えていた。だが、翔はあまり悪いことをする性格ではないと理解しているので、明の言葉と自身の考えが矛盾していた。

 

「あれ、さっき味方は多いほうがいいって言ってなかったか?」

 

 一夏は先ほどの明の言動の矛盾を指摘する。

 

「誰かに聞かれたらマズいのは本当。二人が大丈夫なのは翔くんが『姉』と呼んでるからかな。翔くんは好意を持つ人にはそういう風に呼ぶから」

 

「そうなのか。なら早く部屋に入ろうぜ。噂好きの人に聞かれたらあっと言う間に広がっちゃうしな」

 

 一夏は早く部屋に入るように催促した。部屋の主である一夏がドアを開け、部屋の中に次々と入っていった。四人は自然と輪になる形で床に座り込み、明が最初に口を開く。

 

「まず織斑くんに聞くんだけど、翔くんの身体の傷…見みちゃったんだね?」

 

「…あぁ」

 

「傷…ですか?」

 

「それってどういうことよ?」

 

 事情を知らない鈴とセシリアはまず翔の身体の傷について質問する。

 

「翔くんは私と一緒の孤児院なのは知ってるよね? …翔くんは私のように事故で両親を亡くしたワケじゃないんだ」

 

「それって…つまり、翔は……」

 

 一夏が声に出して自身の考えを言おうとした途端、明の声に遮られる。

 

「アンタ達が考えてることで合ってる。翔くんは両親に虐待されて孤児院(ウチ)に来たんだ」

 

「なによ、それ…!」

 

 鈴は拳を握り締め、怒りを露にしている。だが、明はそれを無視して話を続ける。

 

「最初にウチに来たときは挙動不審で人間不信。目の下に隈が出来て痩せこけててさ、何かあったら即座に『ごめんなさい』って言ってた。感情なんて恐怖と悲しみしか知らなくて泣いてばっかりだったね」

 

「…ッ! ふざけんじゃないわよ! どうして翔がそんな風になるまで酷い目に遭わなきゃならないの!?」

 

 怒りで興奮した鈴が立ち上がり、今にも誰かに襲い掛かりそうな形相で明に問いかける。

 

「落ち着いて、鈴」

 

 それに対して明は冷静そのものであった。その対応が鈴の怒りに油を注ぐことになった。

 

「落ち着けるわけないでしょ! 大体なんでアンタはそんな冷静に話せるのよ!?」

 

「翔くんがウチに来たのは二年前くらいの話だし、本人もほとんど忘れかけてる。…それに元凶である『本当』の両親ならもうこの世にいない」

 

「…え」

 

 その言葉を聞いて鈴は先ほどの怒りは無くなり、明と同じように冷静になる。

 

「元凶に対して全く怒りが無いわけじゃない。けれども今、翔くんが今を楽しんで笑っていられるならそれでいいな、って思ってさ」

 

「そうね。…ゴメン、怒鳴っちゃって」

 

「大丈夫、気にしてないから」

 

 怒りで興奮して立ち上がっていた鈴はその場に座り、感情に身を任せて怒りを表したことを明に謝罪した。明はそれを気にしないと言って許す。

 

「でも、どうしてその事実を隠していたのですか? 教えてくれたのでしたら、もっと翔さんの身体の傷を見ないように気をつけられたものの…」

 

「それなんだけれども、まず順を追って話さなきゃね。実は翔くんってウチに来るまで孤児院を二回くらい移動してるんだ。その理由が『身体の傷を見られらから』なんだよね」

 

「…その、どうして身体の傷を見られたからという理由で移動したんですの?」

 

 理由がわからず、セシリアは明に質問する。この質問にも明はただ淡々と答えた。

 

「身体の傷が気持ち悪いって虐められてたらしい。だからトラウマがあるんだろうね。『身体の傷を見られると嫌われる』って具合に」

 

「そう、だったんですの…」

 

 事実を知り、再びセシリアは黙り込む。

 

「勿論、私たちはそんな事気にしないで受け入れたよ。けれども一人『同情』で翔くんに接した人がいるんだけど、翔くんがその人に懐くまでかなり時間がかかったんだ」

 

「ですから、今まで黙っていたのですね…」

 

「そんな環境だったからなのか、翔くんは善悪を見極めるのが得意なんだと」

 

「ねぇ、結局翔は大丈夫なの?」

 

「大丈夫。今の状態は一時的なショックというか、トラウマというか…翔くんが落ち着いたらちゃんと織斑くんが嫌いじゃないって言ってくれれば……織斑くん?」

 

 先ほどから一言も喋らず、それに疑問を抱いた明は一夏を見る。一夏は手を握り締め、顔を俯かせながら言った。

 

「……関係無い」

 

「え?」

 

 そして伏せてた顔を上げ、明と目を合わせた。

 

「傷があるとか無いとかそんなの関係無い。翔がどうであれ、俺は絶対に翔を守る。…今までも、そしてこれからもこの気持ちは変わらない」

 

 一夏は真剣な眼差しで明の顔を見つめた。守ると宣言した彼の言葉に昔の自分を重ねた。

明にも昔は誰かを守りたい気持ちがあって―――

 

「――ッ! と、とにかくっ…翔くんの事は大丈夫だから、じゃあねっ!」

 

 即座に立ち上がり、部屋から逃げるように出て行った。突然の明の行動にぽかんとする三人は、どうして明が突如去っていったのかは解らなかった。

 

 



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16 突然の襲撃

「ふぁ…美香お姉さん…?」

 

 先ほどまで眠っていた翔だが、抱きついていた人物の違和感を感じて目覚める。翔は眠そうな表情をしながら美香の顔をじーっと見つめていた。

 

「あら、ごめんね。起こしちゃったかな?」

 

「明お姉ちゃんはどこ行ったの…?」

 

 翔は明がいないことに不安を覚え、美香に訊ねた。美香は優しく微笑んで翔を安心させるように言う。

 

「明はね、大切な用事があるって言って出かけていったの。翔くんのことが嫌いになったりとかじゃないからね」

 

「うん……」

 

 頭を撫でつつ、翔のことを優しく宥め始める。翔も美香に優しく頭を撫でられ、嬉しそうに微笑んだ。

 

「翔くん、今日は一緒に寝ようか? 寮長の織斑先生に許可とれば……」

 

「ありがとう、美香お姉さん……でも、もう大丈夫だから」

 

 翔はごしごしと両手で涙の後を拭き取り、美香にもう大丈夫だと言い、抱きかかえられてた手をそっと離すように触った。

 

「…そっか、もう大丈夫なんだね。また不安になったりしたら、いつでもこの部屋に来てもいいからね」

 

「うん、ありがとう、美香お姉さん」

 

 翔には明日への不安、一夏が翔の事を嫌っていないかどうかの不安はあるが、それでもさっきまでの落ち込みに比べると随分と明るくなり、気分も軽やかになっていた。パタパタと歩き、部屋から出て行く前に一礼して、それから出て行った。

 

「……私も、翔くんみたいにすぐに泣きやめたらいいんだけれどね」

 

 美香は元気になった翔を見て、その感想をそっと呟く。両親に愛されずとも、周囲の人に愛されて成長していった翔。そのおかげで元気に笑うことのできる、普通の子供になることができた。けれども、一度傷ついた子供が愛されたからと言って普通に戻るとは限らない。事実、明の暮らしている孤児院では愛されても傷ついたままの子もいる。

 

「やっぱりダメだなぁ、こんなに引きずっちゃうなんて……」

 

 美香は窓際へ移動して空を見上げた。今の時間は7時、すっかり空は暗くなり、星と月がこの地を空から照らしていた。自身の専用機の待機状態である左手の小指の指輪ぐっと握り締める。

 

「どうして、思い出しちゃうんだろうなぁ…」

 

 目を潤ませて暗くなった空を見上げそっと誰にも聞こえない声で呟く。

 

「――――…」

 

 声は誰の耳にも届かず、外の暗闇に溶け込むかのように消えていった。

 

「ただいまー。今戻ったけれど、翔くんは?」

 

「…あら、おかえり明。翔くんならもう大丈夫って言って部屋に戻ってったよ」

 

 先ほどまでの行動が無かったかのように振舞う美香。明も普段の彼女の態度に何の疑いを持たなかった。

 

「そっか。そういえば美香、あの時くれた武装なんだけどさぁ、なんであんな武器渡したの」

 

「…明、数週間前に言った事覚えてる?」

 

「え? …えーっと、スキヤキ食べたい? って言ったような…」

 

 全く見当違いな発言に呆れて物も言えない美香。だが明はそんな美香の態度を気にしておらず、きょとんとしたままだった。

 

「私は『一撃必殺級の火力が出る武器が欲しい』って言ってたような気がするんだけど?」

 

「あっ…」

 

 と、過去に自分が言った発言を察する明。美香はその発言に好かったようで、ニコニコと笑顔のまま指をバキバキと鳴らし、殴る準備は万端ですと言っているようだった。

 

「あわわ…わ、私翔くんの事が心配だから様子見てくるわ!」

 

 殴られる寸前、と言ったところで明は逃げるように部屋を出て行った。

 

「あっ、こら!」

 

 部屋から逃げていく明に怒るものの、既に部屋から出て行ってしまった後だった。

 

「全く、もう…」

 

 明の行動に不満を感じつつも、その馬鹿げた行動や憎めない性格のおかげで、落ち込んでいた美香の心は晴れ、先ほどの暗い気持ちは無くなっていた。

 

「…ありがとう、明」

 

 

 

 

 

 

 さっきは私の機転で翔くんのことを心配していることを理由に美香から逃げてきたけど、よく考えたら結果オーライだったかもしれない。あの状態の翔くんはいわゆるネガティブになっちゃった状態だから、そうなった翔くんは色々と遠慮しちゃうからね…ただでさえ遠慮気味だって言うのに……もっと甘えてもいいのにな。例えばもっと甘えたいとか抱きしめたいとかとか…色々と頼まれたいですなぁウッヒョーそれでお姉ちゃん大好きとか言われたらたまらねぇなぁ! 最高だぜ! 織斑先生の折檻も怖くねぇ!

 

おっと、話…いや、思考か? ともかく逸れてしまった。ともかく、翔くんはもしかしたら寂しがっているかもしれないと言う事だ。これから翔くんの部屋に行って極力出来れば泊まっていこうと考えていた。

 

目の前には翔くんがいる部屋の番号が見えた。いいね、こういう気がついたら目の前にあったぜっていうのは。手抜きとも言うがそれは単純に技量が足りないのだ。既に翔くんが泊まっている部屋の鍵は複製してあり、ちゃんと寮長の許可も取っている。どこだかに仕舞ってある鍵を取り出そうと、ポケットの探り、鍵を握り締めた時――

 

 ボン、と何かが爆発するような小さい音がかすかに耳に届いた。

 

 最初は何かが爆発したのかなー程度にしか考えていなかった。けれども、その音が聞こえてきた場所は――目の前の部屋からだった。

 

「翔くん! 大丈―――」

 

 急いでドアを開け、最初に見えたのは―――

 

 

 

――――紫色の装甲をしたISが、翔くんを抱えて破壊された壁へ向かって飛んで行った。

 

 

 

「待てっ! 翔くんをどうするつもりだ!」

 

 すぐに私はISを展開し、すぐに後を追いかけた。

 

『美香っ! 翔くんが誘拐された! このまま逃がすと見失う! だから美香は先生に伝えてくれ! 私は後を追いかける!』

 

『…! わ、わかった。先生方には伝えておくから、翔くんの事をお願い!』

 

 これで私が見失わなければ応援が駆けつけてきて、翔くんは助かるだろう。……そう、私が今目の前にいる相手を見失わなさえしなければ、だ。簡単に、かどうかは知らないが、セキュリティが万全であるIS学園に侵入し、その上で翔くんのことを誘拐したのだから、もしここで逃してしまったら――

 いや、そんな失敗した時の事なんて考えるよりは、相手を追うことだけを考えるんだ。

 

「逃がしてたまるか!」

 

 私の専用機『音時雨』は速度に特化したISだと美香から聞いていて、現状で存在するISで出すことのできる最高速度はトップクラスだと言っていた。だが、私が追いかけている敵の速度も私が出せる速度とほとんど同じに感じる。

 ……敵は一体何者なんだ? どうして翔くんを誘拐したんだろうか? 敵を追いかけていくと、ビルが立ち並ぶ街中の上空を飛行していた。かなりの高度だし、空も暗くなっているから気づく人はいないと思うが…

 

 

―――警告! 未確認のIS三機からロックオンされています―――

 

 

「…!」

 

 突然、私のISがロックオンされ、狙われているとの警告音が鳴り響いた。とっさに回避行動をとり、その場から離れるように移動した。その瞬間、私がいた場所に向けてビームと実弾の一斉射撃が放たれた。

 

「な…!?」

 

 そこへ現れたのは、打鉄一機とラファール・リヴァイブ二機を装備した女性三人。外見を見ると日本人の顔ではないが、その表情は明らかに私に敵意を持っている。

 

「ここから先は一歩も通さん」

 

「これ以上追跡させるわけにはいかないので……」

 

「…黙って堕ちろ」

 

 そう言い、目の前に立ちふさがった三人は銃口をこちらに向け、何の躊躇いも無くその手に持っていた銃の引き金を引いた。こうしていく間にも、翔くんを誘拐したISとの距離は離れていく。

 

「くそっ…私は翔くんを助けなきゃならないんだ! そこをどけ!」

 

 武器を展開し、目の前にいる三人の敵に向けて銃口を構えた。

 

「残念だが、あの少年は我々に必要なのだ」

 

「すみませんねぇ。でも私たちにも彼が必要なんですよ、こんなことをしてでもね」

 

「……そういうことだ」

 

 敵は問答無用で私に一斉に攻撃をしかけようとした、との時だった。

 

 一機の敵が何も無い衝撃を受けて吹き飛ばされた。

 一機の敵が最新鋭のBT兵器の攻撃に翻弄されていた。

 一機の敵がワイヤーフレーム状のミサイルの攻撃を受けた。

 

 後ろから遅れてきた増援は、私がよく見知った顔が揃っていた。

 

「明っ! 早く後を追って!」

 

 いつも聞きなれた声、見慣れた顔。けれども敵の攻撃を防ぎながら全身に装備されたミサイルを使い、闘う姿はその姿が凛々しく見えて普段よりも逞しく見える親友。

 

「一夏! 明! アンタたちは早く後を追いなさい! 二人の機動力ならさっさと追いつけるでしょ、早く!」

 

 最近知り合った織斑の通称セカンド幼馴染。高火力の近接戦で相手を圧倒し、見えない砲撃で敵を翻弄している。

 

「そうですわ! ここは私たちに任せて早く行ってください!」

 

 クラスで最初に問題を起こしたイギリスの淑女。彼女の操るブルー・ティアーズの攻撃は並大抵の人間では全てを回避するのは難しく。現にブルー・ティアーズに狙われている敵はぎこちなく回避しようとしては被弾していた。

 

「ありがとう、皆…!」

 

「逃すと思いますか?」

 

 打鉄を展開している女性一人が私へ銃口を向ける。だが、白い機体がそれに向かって突撃していく。

 

「くらえっ!」

 

「…!」

 

 だが、その斬撃は間一髪のところで回避されてしまうが、その回避行動のお陰で私たちは先へ進むための道が空いた。

 

「行くぞ、明!」

 

「分かった!」

 

 私と織斑は最大速度を出してこの場を離れ、翔くんを連れ去ったISの後を追いかける。ISのハイパーセンサーのおかげで、距離はかなり離れているものの、まだ見失ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 最高高速で敵を追いかけ、段々と都会から離れた山へと入っていく。人の気配は無く、まるで妖怪の類のものが出そうな雰囲気であった。敵は廃墟と思われる場所へと降りた。私たちも降り、敵がどこにいるか、もしかしたら翔くんがどこかにいないかを確認する。

 

―――見つけた、翔くんだ!

 

 翔くんは廃墟の柱の部分に縄で縛られており、なぜかその上から毛布が掛けられてあった。胸元には本来あるべきである翔くんの専用機の待機状態であるアクセサリーが無かったが、それは翔くんのすぐ目の前の壁に掛けられてあった。

 

「翔―――!」

 

 織斑は翔くんに向かって助けようとするが、目前にビーム状の紫色の爪が現れ、地面が抉れた。突如現れたそれに織斑は間一髪で避けるものの、完全には回避できず少しダメージを受けていた。

 

「くっ……どこだ!?」

 

 織斑は必死になって相手を探すが、誰もいない。私も辺りを探してみるけどどこにも姿が見当たらない。

 

「まさか、光学迷彩(ステルス・アーマー)…!?」

 

光学迷彩(ステルス・アーマー)?」

 

「呼んで字の如く透明になれる装甲ってことだよバカ!」

 

 敵の姿が探知できずに苛立ち、バカの織斑に思わず大声で怒鳴りつけ、再び現れた紫色の爪の攻撃をかろうじて回避する。

 

「くそっ…姿を現せ!」

 

 バカは敵の姿が見えないのに苛立っているのか、見えない敵に向けて叫んだ。だが、当然敵は姿を現すことなく、そのまま透明になりながら攻撃を続ける。

 

 落ち着け私、こんなときは落ち着くんだ。確か、美香の話によると光学迷彩もまだ完全では無くて……ISに搭載することでやっと透明になるコトが出来る装置を開発したと言っていた。

 

 ―――ん? ちょっと待てよ。確か美香から聞いた話だと、光学迷彩は確かに『IS』を透明にすることは成功した。けれども、操縦者自身を透明には出来ずに、未だ未完成の域を出ないと言ってたはず。……なら、目の前にいる敵は何者だ? 操縦者ごと透明になる技術が既にあったのか?

 

「……そこだ!」

 

 敵の攻撃が見えた瞬間、織斑は攻撃をギリギリ回避しただけでなく、敵に向けて攻撃をしていた。ここで初めて敵のシールドエネルギーが削れた。

 

「やっぱり、お前は攻撃する寸前に紫色の粒子が極僅かに出る! それも軌道上に粒子は残るから…!」

 

 再び織斑は回避行動を取り、そして再び攻撃を当てた。言われてみれば確かに紫色の粒子の軌道が見える。零落白夜が発動してるならば、かなりのダメージを負ったはず。

 

「それに、これだけ言っても武器を変えないということは…他に武器が無いんじゃないか?」

 

 …確かに、そうだ。普通これだけ言われれば普通なら武器を変えて攻撃する。さっきからおなじ武器しか使ってこないのは、やっぱりそれしか武器が無いからなんじゃないか?

 その言葉で観念したのか、透明になって隠していた姿を現した。

 

「ようやく姿を現したな」

 

 織斑はこの時を待ちわびたかのように言う。私たちの目の前に現れたのは、紫色の装甲に身を包み、無機質な目をした少女だった。

 



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17 野々原 明

 目の前に現れた敵は当たり前だが女性で、まるで無機質なようで機械のような目をした少女であった。外見から判断すると、もしかして翔くんと同じくらいの年齢なのではないだろうか? 敵が装備しているISの形状は量産型機ではなく、恐らくは専用機だ。紫色の装甲を纏って両手両足に最小限の装甲があり、胸部と腰部、肩と攻撃が当たりやすい部分に重そうな装甲が追加されている。エネルギーがなくなってもある程度は防御するための配慮だろうか?

 

「………」

 

 姿を現しても相手は何も言わず、黙って新しく銃器を展開した。

 

「…まさか、姿を消して威力の低い銃を使ってた理由って…その銃しか透明になることが出来なかったからってワケ!?」

 

 私のその考え方は当たっていたらしく、敵は先ほどに比べると威力の高い弾丸を放つ。

 

「くそっ…織斑ぁ! さっきみたいにやっちゃってよ!」

 

「言われなくても、分かってる!」

 

 被弾覚悟で織斑はお得意の瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って近づくも、肝心の敵はそれを読んでいたかのように上空へと移動して回避した。

 

「バカ! 何外してるのさ!」

 

「……次は当てる!」

 

 織斑は次は当てるとかほざいていやがる。私は個人秘密通信(プライベート・チャンネル)を開いて通信する。

 

『おいバカ。アンタの瞬時加速(イグニッション・ブースト)はかなり読まれやすいんだってーの」

 

『だったらどうしろって言うんだよ?』

 

『それを今から説明してる暇は無いよ! 私が囮になるからその隙にやっちゃいな!』

 

『あっ、おい!』

 

 私は近接用ブレードを展開し、敵に向かって加速した。敵も同じく、近接用のブレードを展開して私の攻撃を受ける。上手く攻撃を切り返し、そしてすぐに後退していく。

 

『今だ、織斑!』

 

『ぐっ……分かった!』

 

 織斑はそこで瞬時加速を使い、零落白夜で敵を沈めようとするが、敵の反応はとても素早く、あの織斑の瞬時加速まで回避してしまった。

 

『なんだよアイツ! チートしてるんじゃないだろうな!? ともかく、あの反応速度じゃダメだ。織斑、もっと私に合わせろ!』

 

『……なぁ、明さんはどうしてそんなに荒れてるんだ?』

 

『は? 荒れてねーし! 今は目の前の敵を……』

 

『……明っ!』

 

唐突にバカから名前で叫ばれる。あのバカのうるさい声も正直聞きたくないのだが、今はとにかく我慢するしかない。私は個人秘密通信(プライベート・チャンネル)の通信を切り、再び戦闘を開始しようとするが…

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 目の前にはISスーツを着た織斑が浮いていており、白式は展開していなかった。周囲の風景は…なんだか電子機器の中にいるような雰囲気を出していた。

 

「なぁ、明。どうしてそんなに苛立っているんだ?」

 

 織斑は私に質問してくる。さっきまでの焦っていたような態度はなく、落ち着いたものだった。

 

「…早く、翔くんを助けたかったんだ。…また。失ってしまいそうで怖かったんだ」

 

「…また?」

 

「そう。私は織斑くんがあの時言ったみたいに、翔くんを守っていたい。…けれども、私は守りたい気持ちが強すぎて…失敗したことがある。悔やんでも悔やみきれない程のね…」

 

 自分より弱い誰かを守り続けていたい。それは過去の私が抱いていた感情で、それは私の『最大の過ち』であった。

 

「……私が孤児院にいる理由って、両親が事故で死んじゃってさ、それで入ったんだ。そん時私は7歳くらいで、正直両親が死んだなんて認めたくなかったさ……でも、みんなと暮らしていると、そんな事も忘れちゃって普通っぽくなってきたさ」

 

 私は誰にも語りたくなかった過去、これは一番仲が良い美香にも話していない。けれども今、この織斑になら話してもいいんじゃないかって気持ちが出てきた。

 

「最初に一番仲良くなったのはマナって子でさ、私より二歳年下なんだよね。その子と仲良くなったんだけれども、今はもう…」

 

「…まさか」

 

「うん。翔くんが入ってくる前に…自殺したよ」

 

 織斑は絶句する。それもそうだろう。私が殺したようなものなんだから……

 

「マナちゃん体が弱い上に内気な性格だから、クラスで虐められてたんだ……正直、二歳の力の差もあって私がマナちゃんと一緒にいる時は絶対守っていたの。自分より弱い子供を守って、優越感に浸ってたんだよ」

 

 織斑は黙って私の話を聞き続けている。

 

「私がいない時は虐められててさ、それもかなり酷くなってたんだ。できるだけ一緒にいるようにしたけど……年齢が違うからずっと一緒に居られない。それで完全に守りきることなんて出来なくって、こっそりと影で虐められていたんだ」

 

「それで、どうして…」

 

「うん。ある日に孤児院で飼ってる猫が殺される事件が起きたんだ。一番可愛がっていたのがマナちゃんでさ、それがきっかけになって……」

 

「…………」

 

 織斑は黙って聞いていてくれる。

 

「それから分かったんだけど、虐めっ子グループが猫を殺していたって分かったんだ。私はソイツらに抗議したけれども、証拠らしい証拠も無くって結局は泣き寝入りさ。…最も、命を二つ奪っておいて謝罪しようが賠償しようが…命は帰ってこない」

 

「そういうことだったのか……」

 

「今でも怖いんだ。翔くんが何かの拍子でいなくなってしまうのが…それと、あの時織斑が言った事場…守るだなんて簡単に言うなって思ってた。だから尚更焦ってイラついてたのかもしれない」

 

「だから、あの時…」

 

「うん。昔の私を見てるようで辛くなって逃げ出した。ねぇ織斑、アンタにとって守るってどういうこと? 私のように優越感を得たいからってわけじゃないんでしょ?」

 

 織斑は私の質問に対して、一切の迷いも無く私に告げる。

 

「俺もさ、両親がいなくて千冬姉に養われてきたんだ。千冬姉には守られっぱなしでさ、第2回モンド・グロッソの時に誘拐されたんだ」

 

「え…?」

 

 第2回モンド・グロッソ……そのときを忘れるわけが無い、忘れるはずが無い。あの時、日本代表だった織斑千冬が決勝戦を棄権した理由って、まさか……

 

「まさか……」

 

「あぁ、千冬姉は俺を助けるために決勝戦を棄権して助けに来てくれたんだ。俺が誘拐されていなきゃ、今頃千冬姉はモンド・グロッソに二連勝できたっていうのに…」

 

 織斑の言った言葉は重たかった。なぜなら世間ではその事が公開されていないからだ。理由は分からないが、公開してしまえば織斑は世間に批判されてしまうではないだろうか?

 

「守るっていうのは、助けた後に守り方を教えるっていうのも、俺自身は守る内の一つだと思っている。千冬姉が、俺に剣道を教えてくれたように……」

 

 ぐぐっと手を握り締めて語る織斑。守るのは誰かを守るだけじゃない、か…それをもっと早く知っていたら、私はどうなってたのかな…?

 

「…明、まだ浮かない顔をしてるけれども、まだなにかあるのか?」

 

 織斑は普段は女子の好意に気づかないものの、今日はなぜか私の気持ちに気づいていた。変なところで鋭い男だな。もっと好意を抱いてる女子にその鋭さを使ってやればいいのに。

 

「………実はさ、まだ話に続きがあってね。実は虐めっ子グループのリーダー格はとある会社の社長の息子でさ、親の七光りで偉そうにしてたり、実際アイツが起こした事件とかはもみ消されてるみたい。…だからあの時のお母さんの…家族の悔しそうな顔は未だ覚えてるよ……」

 

 そう。これだけで終わっておけば私は別の意味で救われていたかもしれない。

 

「しばらくして、なぜか虐めっ子グループは解散していったんだ。聞いた話によると、虐めっ子の親の会社が倒産していたんだって。取り巻きは虐めっ子から色々と物を買ってもらえるから絡んでいただけで、財布が無くなった虐めっ子からどんどんと取り巻きが離れていったのさ」

 

「それって……」

 

「うん。虐めっ子はかなり嫌われてたから、逆に虐められてた。マナちゃんを殺した復讐だと思って、マナちゃんにされた事以上に虐めてた。…それである日、アイツは犬を飼っていることを知ってさ。私は猫を殺されたから、復讐だと思って…何の躊躇いも無く殺した」

 

 この事を思い出すたびに自分はなぜあんな事をしてしまったのか、後悔しか出てこない。

 

「そしたらさ、その元虐めっ子が自殺した。そのとき初めて分かったんだ。私は間接的に人殺しをしたって事を…アイツを殺すことでマナちゃんは喜ぶと思ってた。けれども違った、なんだか私がマナちゃんを殺したようで……」

 

 マナちゃんを中途半端に守り、その優越感を得ることで満足していた。でも結果としてはマナちゃんを殺してしまうことになってしまって…復讐の機会もあったけど、それを実行したらそれはマナちゃんを殺した方法と同じなんだってね…

 

「…これで話は全部。聞いての通りで、私は最低な人間なんだよ」

 

「確かに、明のやったことは許されない。けど、それは子供の頃にやったことで、明はもう十分に反省してる。それに明だって言ってたろ? 翔は善悪を見極められるって。最低な人間だったら翔も明のことを大好きだって言ったりしないんじゃないか?」

 

「…そう、なのかな?」

 

「それに、俺は明を幻滅したり、失望したりしない」

 

「…っ」

 

 ――ずっと怖かった。この話を聞いて嫌われてしまうんじゃないかって。だから、誰にも言えなかった。でもなぜか一夏には話すことができた。話を聞いても一夏は失望したりはしない、と言ってくれた。

 

「ありがとね、一夏。アンタのお陰で結構楽になったよ」

 

 ずっと、心の中で詰まっていた心の霧が晴れていくように感じた。罪は消えなくても、気はとても楽になった。

 

「それじゃあ、話し合いも終わったし……行くか!」

 

「あぁ、さっさと助け出してしまおう!」

 

 私の心の中で突っかかっていた罪の意識。私が犯した罪は決して消えることは無いが―――もう大丈夫。

 

「「今助けるぞ! 翔!」」



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更新停止のお知らせ

タイトルの通り、読んで字の如く更新停止します。

活動報告にも書いたのですが、ぶっちゃけ飽きました。

今までは暇つぶし程度に作っていたのですが、他に暇をつぶせるものを見つけたためです。

更新停止とはありますが、また設定を見直して新作を書くつもりでいるので、

もしよろしければそっちの方も見てくれると嬉しいです。

 

 

 

とりあえず今考えていることをここに書いていきます。

べ、別に文字数が足りなくて投稿できなくて書いたわけではないですよ(震え声

 

主人公の年齢と容姿、名前については一切の変更はありません。専用機も同様です。

ただ、性格の方はなんと言ったらいいのか、昔(今この投稿してる作品)の場合は、

『無理矢理子供っぽいことをしてて違和感を感じるし、書いてて楽しくない』性格のような気がします。

だから自分の欲望のままに『可愛い子供』であって書きやすい性格に変更してると思います。

もしかしたら昔の方がよかったという人が出るかもしれませんが、モチベの維持なので勘弁してください。

 

他の姉二人、はっちゃけてる方の姉である明は名前を変更します。

まあほぼ決まってはいるのですが、変更する可能性も考慮して新しい名前は書きません。

性格もほぼ変わらず…だが、ごちうさを見てから『姉』に対する見方が変わったかも。

もしかしたら『常に暴走してる感情むき出しのココア』みたくなるかも……

専用機の名前変更、性能についてはほぼ変わらずにいます。

 

次に落ち着いてる姉、美香ですが名前は変わらず苗字のみの変更となります。

一番設定が変わったキャラだと思います。ただ、出番がでるまで空気気味。

専用機も(実は)設定を変更せず、そのまま行こうと思います。

ちなみに妹は美奈(みな)で姉が美香(みか)ですが共通点があります。わかりますかね?

答えは新作版の苗字を見たらわかると思います。

(ちなみに、これに気づいたのは私も偶然。名前はそっくりな名前をテキトーにつけただけで共通点はこじつけなんて黙ってりゃわかりませんよね)

 

ストーリーについては、ワールドパージ編を無かったことにして、そこからオリジナルを続けていく

形になると思います。

そこで鍵となっていくのはやはりうちの子たち、特に三人の内一人はストーリーの核を握っています。

核となる人物は三巻までの話で伏線をばらまいていくのでもしかしたらわかる人にはわかるかも?

あと、クロエ・クロニクルは無かったことに。犠牲になったのだ……(いるにはいるけど

 

オリキャラの人数は多分20人くらい、話の核になるのは五人くらい?まだ決まってません。

原作キャラと関わりのあるキャラが数人いるし、日常パートで出てくる人も含めてます。

ISに全く関わらないキャラが大半ですが、これ許されますよね…?

キャラの数も曖昧なので、一概にこのくらいとは言えませんが…アドリブで増えるなんてよくあることです。

 

上記で書いた話の核になる五人、主人公と姉二人は勿論ですが、残りの二人。

実は最初期の電童との二次創作の時点で最初っから考えられてたキャラでした。

ただ少し設定が変わっただけで、ほぼ何も変わってません。

 

【忘れてたが追記】

実は感想で『前回の展開の方がよかった』という感想を頂きました。

なのでとある部分は『2パターン』に分けるような事になると思います。

正規ルートと分岐ルートみたく『こっちの展開じゃ後の展開矛盾しね?』という事になると思いますが、

それはあくまで分岐は分岐なんだと考えて見てくれると嬉しいです。

要は自己満足です。

 

 

 

ちなみに、この作品については削除しません。

新作と見比べてここ変わったなーみたいな感じで見てください。

少ししたらタイトルを変えて小ネタまとめみたいなのを投稿するかもしれません。

 

 

 

 

…ちなみに、活動報告を投稿してから五ヶ月は経ってるんですよね。

忘れてたんです、許してください! なんでもしませんから!



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