魔法のあくせられーた (sfilo)
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一方通行は少し柔らかくなっています。


 軌道上防衛兵站輸送システム、通称S5と呼ばれる輸送弾殻に詰め込まれた一方通行。彼は今からの戦いに緊張感を抱いてはいない。オティヌスと呼ばれる世界最悪と、共に行動する上条当麻との戦闘は、まさに死闘そのものである。しかし彼は戦場に指定された座標から随分と遠ざかることとなる。

 

 

『システムエラーを確認。工程000358から001693までの作業中断。太陽風の影響が想定よりも大きいため、射出を一時中断します』

 

 無機質な人工音声は、一方通行に現状の報告と現在進行形の作業を伝える。

 

「あァ?なんだってンだよ、こンな時に」

 

 一方通行の思念が口から飛び出す。彼とてS5に到着してそうすぐ発射できると思ってはいなかったが、エラーが出ることは考慮してなかった。しかし、直ぐに作業は再開され、カウントダウンが始まる。

 

『再計算終了しました。カウントダウン開始。3、2、1、射出します』

 

 一方通行の体に負担がかかることはなかった。ベクトル操作の点からではなく、輸送弾殻の構造的な仕組みによって身体への負担は軽減されている。人工衛星ひこぼしⅡ号から飛び出してから約20秒ほど経った時、事態は急変する。突然、内蔵された機材のあらゆる箇所からブザー音が鳴り響く。

 

『緊急事態、大気圏突入の速度が想定よりも大きいため、水の固定化に影響が発生しました。一方通行様の能力による再固定が必要となります』

 

(なンだ?元々コイツはテラフォーミング用って話しか聞いてねェぞ。不具合がこんなに大きい物を学園都市が採用するわけがねェ。となると学園都市外部からの攻撃もしくはオティヌスとかいうヤロォの仕業か)

 

 どの道関係ない。

 彼は首元のチョーカーのスイッチを入れる。そして水分子の再固定を行うため外壁に手を触れた。大気圏突入に向けて、気体と変化していきそうな水の分子間に対し、ベクトル操作を行い、液体の状態を維持する。

 

『ご協力感謝いたします、一方通行様。これより地表へ衝突いたします。お怪我をなさらないため、ベクトル操作による身体への負担軽減をおすすめします』

 

 一方通行が首のチョーカーで反射を開始した瞬間、彼が乗っていたポッドは水面に激突した。

 

***

 

 光井ほのかと北山雫、彼女らは魔法科高校への合格に向けて、魔法の練習と勉学に励んでいた。彼女らの勉学環境は、暑い夏を快適に過ごすため、雫の別荘に来ていた。

 2人は浜辺で入試問題に課される魔法の練習を行っていた。

 

「あー、なかなか上手くいかないなぁ」

 

「まだ時間はある。夏に完成させる必要はどこにもない」

 

 試験に課されている魔法は一つではない。ほのかの半諦めのような声が、さざめく波にかき消されそうだった。すると彼女の瞳に流れ星のようなものが映る。

 

「ねえ、見て雫。あれ何かしら」

 

 雫がほのかの指差す方向を眺める。そこには細い飛行機雲がはっきり映ってる。次の瞬間、今までの安穏とした海岸からは想像もつかない暴風が、彼女たちを襲った。襲ったといっても吹き飛ばすほどの威力ではなく、強めの風程度ではある。嫌な予感を感じ取り、雫は練習をやめ、別荘へ戻るよう提案した。

 

***____

 

一方通行は自分の乗る機械が沈んでいってることに気が付いた。彼は自身の体の周りを囲んでいる特殊合金の側壁をまるで紙屑をクシャクシャにするかのように裂いていく。落下点からそれほど沈んではおらずせいぜい30m。彼の能力により海面まで上昇するのに5秒もいらなかった。

辺りを見渡せば一面海...というわけでは無かった。小さな小島がありそこにはポンとたっている家もある。

一方通行にとって現在の目標は上条当麻との接触かつ自らの敗北である。彼が海のど真ん中でぷかぷか泳いでいるという単純な事は一切ない。

取り敢えず水面を蹴って大きめの住宅へと足を向けた。

浜辺に着いた一方通行はチョーカーのスイッチを切り杖をつき始める。低緯度地帯に来たのだろうか、夏のような日差しが彼を照りつける。海水からあがった時に水をすべてはじき飛ばしたため、彼の体は決して濡れたりはしていなかった。

 

 

(クソったれめが、アイツの座標を事前に聞いておけばよかった。手元に何もねェぞ)

 

 

現在位置を特定しようにも判断材料が見当たらない。本当の孤島のようだと判断した。

いろいろ考えているうちに家の玄関に到達した。見渡す限りチャイムのようなものはない。一方通行はドアノブに手を掛ける。だが鍵がかかっており外側から開けることは出来なかった。

 

 

(なんだァ?こんな小島の別荘みてェな場所に鍵かける必要があンのか。それとも中に人がいるって可能性もあるなァ)

 

 

かつての悪党とは決別した一方通行にとって無関係の人間を巻き込むのには抵抗があった。出来れば穏便に済ませたい。

という訳で彼は大人しく玄関の扉をノックした。

反応はない。

もう一度ノックするが鍵が外される気配はない。

彼は仕方ないと考え扉を無理矢理引き剥がす。ベリベリというような音はなく金属の金具部分のみを破壊し中へ侵入する。

するとそこには女性物の靴が3足揃えてあった。

 

 

(これは今この家ン中にいるって訳か。どうする)

 

 

彼は自分の靴を脱ぎ一番手前の扉を開く。

そこには二人の少女が楽しく会話しているのが見て取れた。

 

 

***

 

 

二人の少女にしてみれば恐怖であることに間違いはなかった。突然目の前に現れた白髪赤眼の白い人物。外国人と見るにはあまりにも異質である。

動揺している二人に対して黒沢は部屋の中の戸棚から拳銃を取り出し一方通行に向ける。

 

 

「両手を後頭部に当てて後ろを向き、そして膝をつきなさい!!」

 

 

緊急事態に慣れたように淡々と侵入者に警告する。

対する一方通行はどうだろうか。彼は全く動揺しておらずまるで日常茶飯事の事かのように嘆く。

 

 

「ワリィな、突然侵入したことについては謝るが物騒なもン構えてンじゃねェよ。俺は聞きてェことがあってここまで来たンだ」

 

 

一歩一歩近づいてくる一方通行に黒沢は身の危険を感じ拳銃に指をかける。

風船を思い切り割ったような音が雫とほのかにも聞こえ、泣きそうになるほのかがそこにいる。

黒沢が放った銃弾は一方通行の反射膜にぶつかりそのまま拳銃の銃口へと戻っていく。そして銃口に戻っていった弾丸は拳銃を突き抜け壁へと突き刺さる。

身体満足の一方通行を見て呆然としていた黒沢は一方通行に首を捕まれ気絶してしまった。

彼は生体電気の流れを操作し一時的な行動の制限を黒沢に与えた。

 

 

「お二人さンなら話を聞いてくれるか?」

 

 

脅しのような文句に近い言葉は二人を硬直させた。

 

 

***

 

 

ソファに座る一方通行と雫とほのか。

 

 

「お前らに質問がある。ここはどこだ」

 

 

「お、小笠原の聟島列島です」

 

 

ほのかのか弱い声が部屋に透き通る。

 

 

「よし、だいたい把握した。てめェらの周りに上条当麻っていう人間見なかったか?ウニ頭の日本人でアホみてェなツラの人間だ」

 

 

「ここは私の別荘。誰も近づいてこない、あなたを除けば」

 

 

雫は相手を見定めるほどの眼力はないが自分の態度はしっかり定めて発言している。隣のほのかはガクガクと震えが止まらない。

 

 

「まァいい。ここがお前の別荘でさっき俺に弾打ち込んンできた奴が使用人ってとこか。さっきから気になってンだがカレンダーの2094年の8月3日ってなンだ?100年後の年でも表してンのか?」

 

 

「何を言ってるの?今は2094年であってる」

 

 

一方通行は一瞬目眩がしたように思えた。いくら宇宙における相対的な時間の差を考えても100年近く差ができるとは思えない。

しかし彼の目の前の少女は嘘をついているようには全く見えない。それどころかこちら側の心配をしているかのようなことを話してくる。

 

 

「それじゃこっちから質問。あなたの名前とここにいる理由」

 

 

ほのかが使い物にならないという状況で雫が一方通行に投げかける。

そこで一方通行は一つの悩みができた。本心を伝えるとか上条当麻の討伐とかの問題ではない。

彼女を信じるかどうかという問題だった。

 

 

「俺の名は一方通行。ここにいる理由はそうだなァ、海面に落ちた時にたまたまこの家を見つけたからだな」

 

 

「それじゃあ一方通行は宇宙からやってきた宇宙人?」

 

 

「面白い発想だな。残念だがそンなことはねェよ。人工衛星から目標座標に吹っ飛ばされただけだ」

 

 

ほのかはこの話で完全に気を失ってしまった。



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ある程度時間が経った。ほのかが気絶し黒沢が目を覚まさない二人だけの空間には言葉が飛び交う。今の時代はどのようなものなのか、超能力とは一体どんな能力なのか等。

一方通行はこれからどうすればいいのか全くわからなかった。自分がここに入って来れて話を聞いてくれたのは不幸中の幸いだろう。

暴力的なものを振るったのは不可抗力とする。

雫がある提案をしてきた。

 

 

「一方通行はこれからどうするつもり?」

 

 

「そォだな、ここに置いてくれるなら助かるが無理なら別にいい。この世界の情報を集めながら旅するしかねェだろ」

 

 

「わかった、黒沢さんに話しておく。部屋は後で教えるから。それよりベクトル操作って何?」

 

 

一方通行からしてみれば日常の中の一部であるものを説明するのにさほどの苦労はない。それよりも彼が不思議に思ったことは、別世界に飛んだと思われてもミサカネットワークに接続できることだった。いくら彼女らが数多くいようとも流石に世界を超えたネットワークなどありえるはずもない。

彼はそこに自分が元の世界へ帰る手掛かりがあるのだろうと確信している。

 

 

「あァ、少し待て。それよりもいいのか?どこの誰か知らン人間を連れ込ンで不安じゃねェのか」

 

 

「別に。だって人工衛星から降りてきた人なんて世界に何人といないし、移動手段もないでしょ?なら困ってる人は助けてあげるべき」

 

 

(そォじゃねェよ...まァいいか)

 

 

思っていたことと別のことの心配をされていた一方通行は額に手を当てて項垂れた。

チョーカーに手を当てて現在の電源の残量を調べる。能力活動時間は約20分。雫に能力を説明するのには十分なほどだった。

 

 

「よし、浜出ろ」

 

 

***

 

 

二人をベッドに寝かせてから浜辺へと向かっていく。

 

 

「一方通行は足が悪いの?」

 

 

「足っつゥより脳ミソだな。鉛玉ぶち込まれてからは杖なしじゃ歩けねェな」

 

 

杖をつきながら歩く一方通行に疑問を持った雫が質問する。返ってきた答えは想像もしていないようなものだった。

なんだかんだで浜に着き一方通行は砂の上にストンと座った。

そこで彼は雫の魔法を初めて見た。見せてくれと頼んだわけではないがこの世界の魔法というものを体験させてくれるらしい。一方通行は魔法と呼ばれる現象を解析するために首筋に手を当てる。

浜に転がっていた石ころが振動しパキリと音を立てて割れていた。

 

 

「これが振動系の魔法。一方通行ってこれよりもすごいことできるの?」

 

 

「まァそンな地味なことは普通やンねェけどな。リクエストでもあンなら聞いてやるよ」

 

 

彼はこの世界の魔法の仕組みを見ただけで半分ほど理解してしまった。結局学園都市製の超能力に似たことをやっていた。自分だけの現実のようなものをリアルな世界に出力する装置がCADに変わっているだけ。

だが半分はわからない。世界の何に作用し物理的現象に結びつけているのかが見当もつかない。

 

 

「じゃあ砂の城作ってみてよ、私振動の固定が上手く出来ないんだ」

 

 

「ほらよ」

 

 

一方通行は砂浜に手を突っ込み軽く腕を振る。 この腕の振りによるベクトルを操作し周囲の砂をも操っていく。彼は脳内に絵本に出てくるような普通の城を想像し現実世界へと引っ張って来る。

ほんの数秒で50センチ程の砂の城が完成した。

 

 

「出来たぞ、ってなんで俺の顔見てンだよ。なンか付いてンのか?」

 

 

「ううん、別に。でも凄いね。一方通行の能力は多分BS魔法に分類されると思う」

 

 

「そンなンどォでもいい。俺ァ疲れた。部屋に戻って寝させてもらうぜ。二人の説得頼ンだ」

 

 

一人で別荘に帰っていく一方通行を雫は虚ろな瞳で眺めることしか出来なかった。

 

 

***

 

 

雫が部屋に眠っていたほのかと黒沢をどうにか説得し一方通行の一時的な滞在の許可を得ることに成功した。ほのかはブルブル震えながら首を縦に振り、黒沢はやや反抗気味ながらも雫お嬢様の言うことならばと言うことで納得してもらった。

 

 

「雫、叔父様にこのこと話したの?そろそろこっちに向かって来るって昨日電話にあったよね」

 

 

完全に忘れていた。仕事の合間を縫ってやって来るということは昨日の電話で言われたばかりだった。

キッチンの向こうで料理をしている黒沢に聞いてみると

 

 

「雫お嬢様が匿ったのですからそれなりの責任を果たさなければなりませんよ」

 

 

こう言って取り合ってくれなかった。恐らく一方通行の反射を体験し関わりを持たないようにでもしているのだろう。

料理が完成し雫は一方通行を食卓に呼んだ。彼は気だるそうに杖をつきながらスッと指定された椅子に座った。

 

 

「「いただきます」」

 

 

「ッチ、いたァだきます...」

 

 

何も言わずに食べようとした一方通行をじっと見る雫の視線に耐えられなくなった一方通行は小声で呟く。視線なんぞにベクトルは存在しない。

 

 

「その...一方通行さんの髪の毛と眼って生まれつきなんですか?」

 

 

「いや、能力の副作用ってとこだな。余分な紫外線やらいろンなもンを反射してたらこうなった」

 

 

ほのかの箸が止まる。紫外線を反射出来ると言ったらこの夏、そして一方通行の目の前には女性がいる。結構羨ましがられた。

一方通行の語りは少しばかり続く。

 

 

「そうは言っても面倒なもんだぞ。一度こうなったら自分の意志で元に戻すことは出来ねェ。反射が半永久的に作用するから普通の生活にも戻れねェ」

 

 

出された食事を全て食べ今まで休んでいた部屋に戻ろうとする一方通行にまたもほのかが話しかけてくる。

 

 

「あの、その服暑くないんですか?今日はそんなに暑くなかったみたいですけど明日からはもっと暑くなりますよ」

 

 

「そうだね、一方通行にも合う服探しておくから心配しないで」

 

 

雫の優しさを無下にするように一方通行は背中から伝える。

 

 

「別に心配いらねェ。能力である程度は調節出来る。それにてめェらに飯に寝床に色々やらせてもらってる以上要求するもンだなンざァねェよ」

 

 

そしてゆっくりと部屋から出ていった。

食事中の彼女らは手早く食べ終え食後のゆったりとした時間を過ごしている。

 

 

「どうして雫は一方通行さんを家に泊めることにしたの?」

 

 

「なんか可哀想だったから。ほのかが気絶して色々話してるうちに話し方からわかった」

 

 

「そうなんだ、私はまだ怖いかな。睨まれた時なんか殺されるんじゃないかってぐらい」

 

 

「それよりお父さんになんて伝えればいいか一緒に考えてよ。そろそろ来るって言ってたから明後日ぐらいには来そうだし」

 

 

2人は休憩後に勉強しその後風呂に入った。一方通行とあったストレスやら心配事がありいつも以上の入浴になっていた。

風呂からあがった雫は一方通行に入浴していいという事を言おうと彼の居る部屋に行きノックする。返事が返ってこない。それ故ドアノブに手をかけ扉を開くとそこにはベッドの上で横になる一方通行の姿があった。

雫は忍び足で一方通行のところへ寄り寝顔を拝見する。

口調や不機嫌そうな表情がない今の一方通行は男と判断するには十分な証がないほど顔が整っている。

 

 

(真っ直ぐ泊めてくださいって言えればいいのに。素直じゃないなあ)

 

 

そんなことを思っていると一方通行は目をパチりと開き雫の顔をじっと見つめる。

対する雫も一方通行の顔を見ながら焦った内心を隠すように丁寧に言う。

 

 

「お風呂空いた。入っていいよ」

 

 

夏で月光が窓から差し込んでいる部屋に独特の空気が流れる。

しかしそんな空気を無視し一方通行は首元のチョーカーのスイッチを入れてこう言った。

 

 

「すまねェ、もう一回言ってくれ。なんつってるか聞こえねェ」

 

 

雰囲気ぶち壊しである。

 

 

***

 

 

翌朝、一方通行は少し遅い時間に目覚めた。覚醒前の脳を揺さぶり窓から外の景色を眺める。学園都市には人工の湖など色々な自然が存在したが、やはり天然のものには敵わない。

ゆっくりと体を起こしベッドの脇に掛けておいた杖をつき顔を洗いに行く。洗面所の場所は昨日トイレに行ったので分かっており雫に聞く必要はない。

洗面所で顔を洗い終えリビングルームに向かっていると朝から騒がしいほどの会話が聞こえた。

 

 

(朝っぱらからうっせェな。少しは黙って動けねェのかよ)

 

 

そう思案しながら扉を押すと一方通行の知らない男性がそこにはいた。彼は一方通行を見るとすぐさま駆け寄って来る。

赤い目や白い髪を軽く視界に入れ、その後は服や杖に目を向けている。

 

 

「君が一方通行だね。今さっき雫に聞いたばかりだよ。突然で申し訳ないんだけれど、君が乗ってきた宇宙船について詳しく話してくれるかい?」

 

 

雫の父親、北山潮は一方通行に友好的とは言い難い話し方であった。



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3

北山潮の話では昨日この別荘の周囲に飛来した物体の詳細を調査しに来たらしい。なんでも飛来した物質が人工衛星で確認できず飛来したらしいという情報を頼りにしたのだが、潮は自分の娘の近くということもあって誰よりも早くこの案件に手を出した。

 

 

「雫からある程度の話は聞いたよ。君を泊める理由や君がなぜここにいる訳とかね。それよりも重要なのは君の事が世間に広まれば君はあらゆる意味で目立ってしまうだろう。そこで提案なんだが君が乗ってきた宇宙船の情報を私たちに提供してくれるのなら君を匿う努力をしよう。悪い話ではないだろう?」

 

 

姿かたちが人間そのものでも宇宙からやってきた人物となれば世間は正しい認識を絶対にしない。それならば情報提供の話に乗り今後の生活を考える方が有用であろう。

一方通行は出されたコーヒーを軽く飲み自分のこれからを想像する。帰る手段が確立出来ない以上この世界に滞在する他ない。それには個人情報や金が必要になってくる。

この潮という男はそこまでするほど一方通行に何かを思っているのか、様々な疑問が湧いてくる。

手元のコーヒーが底をつきそうな時一方通行は立ち上がり潮に言う。

 

 

「分かった。だが俺が乗ってきた輸送弾殻は調べられる状況かわかんねェぞ。なンせ着水と同時に引き剥がして俺は出てきたし、学園都市製のもンなら外部に解析される事に対しては細心の注意を払っている」

 

 

「心配いらんよ。私は娘に会うためにここに来たようなものだ。仕事なんぞ二の次だ」

 

 

「そォかい。今から弾殻持ってくるがそれでいいのか?」

 

 

潮やその周りにいた女性達は驚くような顔をしていた。

彼らは宇宙船と聞いているので何トンもある物だと思っている。実際はもう少し軽いが一方通行には関係ない。

 

 

「あ、ああ、実は調査船を今朝横浜を発たせたところなんだ。君が乗ってきた宇宙船を操作することができるのなら話は早い。すぐに持ってきてもらうことにしよう」

 

 

一方通行はその承認を受け外の様子を確認する。快晴の絶好の海水浴日よりとも言える夏の日に冬服で別荘を飛び出る。

浜辺に杖を刺しながら自分が落ちてきた方向を確認する一方通行。昨日飛行したある程度の時間と方角から逆算し、海中に存在する輸送弾殻の在処に目星を付ける。

そうしていると動きやすい夏の格好をした雫とほのか、それにダンディズムに影響されたような服装をした潮が揃ってやって来る。

 

 

「どうやって持ってくるのか見たくてね。調査船は午後に到着する予定だからゆっくりやってくれて構わないよ」

 

 

潮の興味津々な様子から一方通行は面倒臭さを感じ取る。

 

 

「帰ってくる時に邪魔になンねェ所にいろよ。輸送弾殻で潰されましたじゃァ話にならねェ」

 

 

そう言うと彼は首のスイッチをオンにする。彼の周りの現象が全て手に取るように認識できる。ベクトルを中心とした様々な現象を頭の中で計算し弾殻が飛来した場所を特定する。

 

 

「すぐ戻ってくる。テメェら本当に潰れても知らねェぞ」

 

 

彼の背中から白い翼が出現する。

彼が自らのコントロール下に置くことができたのはごく最近だった。以前は特定の条件下でのみ使用することが出来たが、現在では発生するベクトル方程式を組めるため何ら問題はない。

その姿を背後にいる3人にはこの世の物と思えないという表情をしていた。雫がその正体について一方通行に聞こうとした時、彼は振り向かずに水平線へ飛んでいった。

 

 

***

 

 

取り残された雫らは先程の現象を未だに信じられないようであった。魔法では説明のつかない現象。BS魔法だとしてもあまりに恐ろしい。

 

 

「雫、彼は空を飛ぶことができるのかい?私は砂の城を一瞬で作れる程の振動系のエキスパートと聞いたんだが」

 

 

「私も知らない。そもそも砂の城を作れる振動系魔法は使えそうって言っただけだし、エキスパートとは言ってない」

 

 

「そうだったな。それよりも彼は一体何者なんだね。空を飛ぶことが可能なのはわかったが、あの白い翼があまりに奇妙過ぎる。本当に人間であるかを疑うよ」

 

 

大変な人物を匿うことになってしまったと若干の後悔に唇を苦く噛むも事態は変わらない。

 

 

「でも多分空を飛べる事は能力の一環に過ぎないんだと思う。昨日の話を聞く限りベクトル操作はあくまで付加価値だって言ってた。本質は別の所にあるけど教えないって言われたし」

 

 

そう、彼の能力の本来の姿は現象を観測し理論値を叩き出す事のできる人間の脳を超越した演算能力にある。彼も自覚しているがこの能力がこの世界に存在する魔法という現代科学に通用するかどうか、一方通行はまだ試していない。

 

 

「いいかい2人とも、よく聞きなさい。彼の事は絶対に他言してはならないよ。こんな能力は世界のパワーバランスを崩壊させかねない。わかったね?」

 

 

2人は軽く頷き事の重要さを確認する。

すると一方通行が飛んでいった方向から白い物体がこちらに向かってくる事が判明した。明らかに一方通行であり、彼の右手には体の大きさの1.5倍程の機械らしいのもが付随している。

靡いていた風がいきなり強風になり一方通行の味方をする。彼は海面ギリギリを飛行し着陸する少し前あたりから海の中へ足を突っ込む。減速体勢に入り砂浜に丁寧に着陸する。比較的目立たない場所に弾殻を置きその後首元のチョーカーの電源を切る。

 

 

「こんなとこでいいのか?俺が回収してきたのは塊の方だ。周りに散らばった細かいチップとかは置いてきたぞ、あンなもン回収したところで解析もできやしねェ。拾ってきた奴も出来るか知らン」

 

 

「宇宙船を操作するわけじゃ無かったのか。何と言うか君は規格外だな。その翼も自分の能力なのかい?」

 

 

「まァそうだな、詳しくは言えねェがそんな認識で問題ない」

 

 

一方通行は能力を使って飛行していた時のことを思い出す。代理演算させているミサカネットワークの方向ベクトルを感じ取れた。学園都市や元の世界にいるときは自分の周りを囲むようにネットワークが張り巡らされ方向性を感じる事は不可能だった。しかしここではある一方向から電磁波が感じ取れた。

大きな収穫である。一方通行の予想では妹達は一箇所に集められているか代替演算装置がそこにあるかの二つだった。

部屋に戻り疲れを癒すためにベッドへ向かおうとした一方通行は潮に止められる。

 

 

「君の今後の事を話しておこう。準備や仕事は何事も早い方がいいだろう」

 

 

男二人でのビジネストークが始まった。今後どのような生活をどうやって送っていくかなどである。

 

 

***

 

 

時は流れ2095年4月3日、一方通行は雫の家の前で情報端末を弄りながら彼女を待っていた。その隣には一高の制服を着たほのかもいる。

 

 

「雫、遅いですね。一方通行さんは起こしに行ったりしないんですか?」

 

 

「バカ言ってンじゃねェよ。別々の家用意してもらってンのに何で俺がそこまで面倒見なきゃなんねェンだよ」

 

 

一方通行は潮と様々な契約を行った。まず一つに戸籍の確保。潮の親戚にあたる人物の養子につかせることで公用の身分を確保し、住居や生活費は潮からの援助金によって賄われる。

その代わり一方通行は輸送弾殻の情報と自らの能力を潮に売った。弾殻の情報は取り出しがほぼ不可能ではあったが、一方通行の能力は破格の値段で売れた。

しかし最も重要な契約は別にあった。それは『雫とほのかのガード』という内容だった。自分の娘や娘同然の子供の身の安全を確保したいという思惑と、一方通行の行動を制約するという形でこれ以上に相応しいものはなかった。これにより一方通行は秋から冬にかけて現代魔法の知識と魔法技術を会得し魔法科高校に入学することが出来た。

彼に得意魔法というものは一切ない。満遍なく丁寧に技術を習得していった為あらゆる分野で高評価をつけられるレベルである。さらに彼は現代魔法と自らの能力の区別をはっきりとさせた。そこに曖昧なベクトルは存在しない。

すると玄関から雫が正装で小走りでやってきた。

 

 

「ごめん遅くなって。ほのかの制服凄い似合ってるよ」

 

 

「雫もとても似合ってるね。それでも一方通行さんは制服着ないんですね」

 

 

「黙ってろ、キリキリ歩けねェのか。それに服なンざァ何着たって変わんねェよ。それなら自分の好きなもン着た方がまだマシだ。テメェらは制服で過ごすのがそんなに好きなのかよ」

 

 

一方通行は首元のチョーカーと両こめかみに繋がれた電極を有しており、さらに杖を使用しなければ歩けないという事情を鑑みて学校に申請して制服着用の義務を解除してもらっている。

実際は制服でも何ら問題はないのだが一方通行の好みのブランド以外着たくないという願望が半分以上である。

 

 

「だって一方通行杖ついてるんだからキリキリ歩いても意味ない」

 

 

「あンまり人を馬鹿にしてると殺すぞテメェら」

 

 

「わ、私を巻き込まないで下さい!」

 

 

雑談をしながら一高の門までやってきた。そこには多くの新入生と送ってきた保護者などが数多いる。その中でこの三人はとても目立っている。しかし三人というよりその一人に目線は大量に集まる。

制服ではない真っ白なパンツにフード付きの真っ白な薄いコート。髪も色がほとんど抜けたような白さ。その全体的な白さに表れる二つの赤い球。

 

 

「さっさと講堂にいくぞ、入学式に遅れても知らねェぞ」

 

 

一方通行の言葉が刺さる。

講堂では半分以上の席が埋まっており三人が一緒に座れるというような奇跡的な事は起こらない。一方通行は状況をすべて見渡せる一番後ろの席を取ろうとする。

そこに雫やほのかのような現代知識に富んだ人間からのアドバイスがある。

 

 

「一方通行さん、1科生はなんだか前みたいですよ。そんな雰囲気私好きじゃないですけど」

 

 

「いや、俺ァ後ろの席に座るぜ。前の方に2人座れる席があンだろ。そこに座っとけ」

 

 

そう言うと1人階段を上っていく。その途中途中であらゆる方向から異物を扱うかの様な視線を体中に受ける。

 

 

「何あれ、制服も着ないって余程ヤバイ奴なんじゃないの?」

 

 

「1科か2科かもわからないよね。でも二階へ行くってことは2科生なんじゃないの。2科のくせに制服も着ないでよくこの高校に来れたわね」

 

 

非難の声も聞こえるが一方通行には一切聞こえない。今は鼓膜に入ってくる空気の振動を全て反射するように設定している。

一方通行が身につけた新しい技術、魔法の能力への応用のおかげで少しばかり演算能力を取り戻している。元々能力が使えなかった原因は脳の破壊による演算行使の不可であり、一方通行はネットワークに代理させることで能力を発現出来る。

そこで代理させる演算領域を魔法演算領域に代替させる。あらゆるベクトルを操作するというまでにはいかないが、異能力者程のレベルにまで到達できた。なお魔法式や起動式を必要としない一方通行自身の演算結果が現象としてあるため魔法の行使という訳ではない。そのためサイオンに干渉することは一切ない。

一方通行は自分が座れそうな席を確保し壇上を見る。学園都市の一方通行は学校の行事に参加するというのは小学生以来なので何をするのかほとんど覚えていない。

色々なことを考えているうちに彼は爆睡してしまった。

 

 

***

 

 

目が覚めた。周りには誰も居なくなっている。ほのかや雫は既に講堂の外に出ているのだろうか。若干不安になり席を立とうとした時何やらずっと横で口をパクパクしている女子生徒を発見した。

 

 

(なんでコイツ口パクしてンだよ)

 

 

そう思った彼だが自らの能力の影響であることに気付くとすぐに鼓膜に覆い被さっていた反射膜を取り除いた。

 

 

「もう入学式は終わりましたよ。まったく、入学式に制服を着用しない生徒がいると報告を受けましたが事情があるのですか?」

 

 

一方通行の知らない人間であった。花形の紋章を見るに1科生だろう。彼はポケットに入っていた許可証を提示しすぐにその場を立ち去る。

外には人だかりが出来ておりその通りを進もうとしたが億劫に感じ彼は端末で雫に連絡を取った。

 

 

「オイ、テメェら今どこにいる。ほのかも一緒なんだろォな」

 

 

『うん、そうだけど、ほのかはなんか熱くなって危なげだから帰らせるね』

 

 

「熱くなったァ?よく分からねェが先に帰るってことか」

 

 

『じゃあね』

 

 

一方通行は2人のガードであり身を守らなければならないがそれが最重要とは考えていない。彼が入学する訳は情報の入手も理由の一つにある。

IDカードを交付してもらい辺りを見渡す。そこには先程まで存在した大きな一塊はとうに消え去っており道幅に余裕が出てきている。塊がなくなったとはいえ人がいる事には変わりはない。そんな中彼は一人で帰っていった。

翌日になると一方通行の端末に1つのメールが入っていた。潮からである。一方通行が捜索を依頼していた建築物が見つかったというものである。彼が探していた建物というのは、こちらの世界にやってきてから感じているあるネットワークを放出している物で、添付されている画像を見ると窓が全くないビルのようなものであった。

一方通行は既視感を感じる。

学園都市に存在している統括理事長の住処にそっくりだった。



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たくさんのお気に入り、評価、感想ありがとうございます。


学園都市の統括理事長の姿を一方通行は見たことがないがこの世界に自分を飛ばした以上、その人物にも世界を移動する方法が存在するのだろうか。

しかしそんな思案をする時間はなかった。

手元の時計に映った時間を考えると学校に行かなければならない。

一方通行は1年A組に在籍している。学校にはアクセラレータとい名前で登録しているので席は一番前だった。

ほのかと雫は登校までは一緒だがその後はほとんど別々の行動だった。一方通行にとって彼女ら2人は保護対象者であるが流石にずっと見てやるほど過保護ではない。

学園都市では過保護になり過ぎていたのではあるが。

昼食も一方通行はトレーの上に乗った定食など食べることは出来ずサンドイッチのような軽食で済ませる。

しかしどこに行っても彼の容貌は目立つ。同級生だけでなく上級生でさえ廊下ですれ違えば必ず二度見してしまう。しかし彼は既に慣れていた。学園都市にいた頃はほぼ研究所か裏路地しか居なかったが、こちらに来てから普通の人間と同じような生活をしている。そのため見られる事には抵抗がない。

オリエンテーションが全て終わり彼はまた二人を探した。昨日のように先に帰っているという連絡はないので一緒に帰る予定である。これは別に一方通行がこだわっているということではない。潮との契約上彼女らの身の安全を確保しなければならないので半強制的にである。

ほのかと雫は総代の女生徒との何やらゴタゴタに巻き込まれている様だった。一方通行が端末で連絡するも彼女らからの反応はない。

仕方無く騒乱の中心へ一方通行は向かっていく。

 

 

「どうしてそんなに二人の仲を引き裂こうとするんですか!?」

 

 

一方通行は痴話喧嘩か?と感じた。集まりの 近くによるとその様な雑言が聞こえてくる。

 

 

「僕たちは司波さんに相談することがあるんだ!ウィードごときが僕たちブルームに口出しするんじゃない!」

 

 

何やらとてもヒートアップしていると一方通行は感じる。そして雫の元へと辿り着く。それから痴話喧嘩(?)を邪魔しないように小声で彼女に尋ねる。

 

 

「なァ、ブルームとかウィードとかって何なンだ?それと今日はこのまま帰ンのかそれともどっか寄るのかどうなンだ」

 

 

対する雫も小さな声で一方通行に答える。

 

 

「1科生と2科生の違いを差別的に表現したもの。校内で使うのはあんまり良くないんだけど、あの人はその、頭に血が上ってるみたいだし」

 

 

そォか、と一言頷き事の次第を見届ける。一方通行にとっては彼らの喧嘩などどうでも良く、ほのかと雫を早く帰らせたいという思いが募る。

しかしその思いとは裏腹にもっと事態は悪化していく。

 

 

「そんなに僕達が優れているとが知りたいのなら教えてやるよ!」

 

 

その少年は手元にCADを構える。サイオンが帯び始め起動式が読み込まれる最中彼の手のCADが宙を舞う。

 

 

「この間合いなら身体を動かした方が早いのよね」

 

 

2科生の女性が警棒でCADを吹き飛ばす様を一方通行は観察する。

 

 

(そりゃァそンな距離なら警棒の方がはやェだろ。そもそも魔法なンざかなり突出した才能が無けりゃァ戦闘で使えねェ代物だしな)

 

 

CADを吹き飛ばされた学生を見て続々と自分のCADに手を掛ける1科生をほのかは許せなかった。そこで彼女は自らの魔法でこの場を収めようと起動式をいち早く展開する。

そこに一方通行は外部から飛んでくるサイオン弾のベクトルを感じ取る。その目標座標はちょうどほのかのCAD付近。彼は一瞬で首元の電源を入れ弾丸とほのかの間に移動する。

さらにほのかの手首に触れ、起動式に対し自らのサイオンをほのかの流したサイオンとは逆ベクトルで流し込む。

ほのかの起動式が霧散すると同時に一方通行の左腕に接触したサイオン弾が、ビデオの逆再生のように射出された方向へと同速度で戻っていく。

しかしサイオン弾を射出した場所と射出した人物の座標が異なっているため、その反射された塊の影響を受けることはなかった。

 

 

「オイ、サイオンぶっ飛ばすのもいいが目標が違ェだろ。そこの糞ガキ狙え」

 

 

割り込んだ一方通行の低い声がサイオンの飛んできた方向へと響く。その声の先には二人の女生徒がいた。

 

 

「やめなさい、自衛以外の魔法使用は犯罪行為に当たります」

 

 

発言主は七草真由美である。一高生徒会会長でありその発言の重みはその場の全員に伝わる。その場の殆どの人間は会長の重圧に屈す形で動けなくなっている。

 

 

「1-Aと1-Eの生徒ですね。ついて来てください、事情を聞きます」

 

 

それに対し深雪の側に立っていたある男子生徒が軽く一礼し意義を申す。

 

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました。森崎一門のクイックドロウを見学させていただく予定だったのですが、あまりにも過激すぎた為手が出てしまいました」

 

 

すると真由美の隣に立つもう一人の女生徒、渡辺摩利は男子生徒を見て失笑する。

 

 

「ではなぜ1-Aの生徒が攻撃性の魔法を発動しようとしていた?」

 

 

「思わず手が出てしまったんでしょう。反射的に起動式を組み上げるなんて流石1-Aと言ったところでしょう。それに攻撃性の魔法と言ってもただの目くらまし程度の閃光魔法です。それほど大きな被害には至らないと判断しました」

 

 

違和感しか沸かない会話だが矛盾している所は摩利から見ればこれと言ったところはない。彼女は不満げに男子生徒を見つめるが彼の一言で事態は収束する。

 

 

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

 

 

凝り固まった場の空気がゆっくりと流れ出そうな時に真由美は緊張感をもう一度高めて白い怪物に向けて発する。

 

 

「わかりました、ですが問題はもう一つあります。攻撃性のある魔法を発現したそこの男子生徒、あなたに弁明はありますか?」

 

 

一斉に一方通行の方へと視線が差し込む。場の緊張により大体の生徒が彼を見つめるだけに留まっている。

 

 

「サイオンぶち込ンで来たお前が何言ってンだ?そもそも俺が魔法を使った証拠はあンのかよ。そこの分析が得意な男にでも聞いてみろ。なァ、俺の周りにサイオンの乱れか起動式の存在が確認できたか?」

 

 

周囲の人間は生徒会長への言葉遣い、いや目上への言葉遣いではない事で驚いていた。質問を投げかけられた男子生徒、司波達也は先程の記憶を蘇らせ真由美に向かって回答する。

 

 

「先程は彼の隣の生徒が魔法を展開しようとしていたためそちらに集中していました。自分には良く分からない事です」

 

 

一方通行の舌打ちは雫にだけ聞こえた。彼はここまで事態が酷くなることを予想していなかった。そのため安易に能力を使ったことを後悔する。

 

 

「わかりました、では他の生徒は解散して下さい。私のサイオン弾に干渉したそこの男子生徒はついて来てください。事情を伺います」

 

 

そう言うと場の雰囲気はガラリと変わり緊張感はほとんど無くなっている。一人の生徒を生贄にして身の安全を確保する高校生など怖いばかりではあるが。

二人の生徒に連れていかれる一方通行は、先程魔法を発動しようとしたが警棒でCADを吹き飛ばされた男子生徒の耳元で彼にしか聞こえない音量で囁く。

 

 

「オマエ、あンまりふざけた真似してると殺すぞ」

 

 

森崎は一方通行が通り過ぎると緊張の糸が切れたかのように地面に崩れた。

一方通行は杖をつきながら真由美の隣を歩く。彼女は一方通行の歩幅になるべく合わせるよう ゆっくりと歩いている。

 

 

「あなたの名前ってあくせられーた?でいいのよね?」

 

 

真由美の自信が無さそうな声で一方通行に質問する。

 

 

「あァ」

 

 

「さっきの魔法の事は生徒会室に行ってからでいいけど、その髪の毛って地髮なの?」

 

 

「あァ」

 

 

「その目も?」

 

 

「あァ」

 

 

「摩利ー、アッくんがつれなーい」

 

 

その隣を歩いている摩利の腕に抱きつき愚痴を零す。

その様子を見て一方通行は先程の様な緊張感のある空気を懐かしく思った。

摩利はいつものことなのか軽くあしらいながら躾ける。

 

 

「早速あだ名をつけおって、いつもいつも私を困らせるな」

 

 

一方通行には未だに慣れない表側の感覚。ある程度緊張感を持って欲しいと心の中で願いつつ生徒会室へ向かう。

強制的に連れてこられた一方通行は生徒会室のテーブルへと座らせられる。杖をテーブルにかけ首元のチョーカーに触れる。

 

 

(活動限界は16分弱ってとこだな。ここ最近充電する時間も無かったし仕方ねェ)

 

 

真由美の周りには男子生徒1名と女子生徒4人が一方通行と対面に位置している。不機嫌な一方通行のイライラを察している小さな少女は先程から瞳に涙を貯めている。

 

 

「それでは先程の魔法の行使について事情を聞かせてもらいます」

 

 

仕事モードに入った真由美の数々の質問に答えていく。事件の概要をある程度聞いた後、彼女は一方通行をここに呼んだ本当のことを話してくれた。

 

 

「本当はアッくんを呼んだ理由は他にあるの」

 

 

「なら最初からそう言えよ。テメェら頭湧いてんのか?」

 

 

「会長、彼の言動には問題が見られる点が多過ぎます。制服着用義務免除書の撤回をするべきではないでしょうか」

 

 

男子生徒、服部副会長が一方通行を睨みながら真由美に提言する。対する一方通行はそのようなものは気にしない。副会長の指図を受けるような女性には見えなかったからだ。

 

 

「はんぞーくんは少し静かにしてて。で、本題なんだけど今年の風紀委員の人選がまだ済んでいないの。アッくん成績は1年生の中で一番いいからお願いできないかしら」

 

 

一方通行は魔法の筆記試験において全科目満点をとっている。実技では自分の演算領域に制約を抱えているため上限は既に決まっている。

だが問題はそんなところではない。一方通行は雫とほのかの護衛を請け負っているため余計な時間を取られたくなかった。

 

 

「ハンッ、俺の体見てもそンなこと言えンのかよ。杖なしじゃァ歩けねェ、そんな体で風紀委員なんざァ出来っこねェ」

 

 

「それもそうだな、だが我が風紀委員としてその目上への言葉遣いは、些細ではあるが問題だろう」

 

 

一方通行はこれまで敬語というものを使ったことがない。使う必要がなかったし何より使う相手がいなかった。自分から敬意を払いたいという相手もいなかったし、敬語を使えと言ってきたクズ共は全員薙ぎ倒してきた。

だがここではそうも言っていられないだろう。

 

 

「あァわかった、なるべく努力する」

 

 

「それじゃまた風紀委員考えなきゃいけないのー、摩利、私もう疲れた」

 

 

一方通行は話す事も無くなり生徒会室を出ようとするが突然真由美が彼に全体重をかけて抱きつく。いきなりのことで対応することができず杖と体全体で背後から抱き着く真由美に耐える。

 

 

「アッくんって本当に男の子なの?肌すべすべだし髪の毛もすごく綺麗、顔立ちもすごく整ってて女の子みたい」

 

 

「いきなり寄って来ンじゃねェよ!こっちは杖で体支えなきゃならねェのによォ!」

 

 

一方通行の体がグラグラと左右に揺れる。しかしそのことを気にせず真由美は彼の顔にさらりと手を触れる。それを振り払おうと杖をついていない方の手で何とか抵抗するがどうにもならず、とうとう真由美が飽きるまで立っていることにした。

数分経ち、やっと一方通行から魔の手が離れる。するとすぐに生徒会室から立ち去る。

 

 

「アッくんまた遊びに来てね~」

 

 

生徒会室を出た一方通行は2度と行くまいと思い自宅へ向かった。



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5

凄い数のお気に入り、PVありがとうございます。
魔法科高校の優等生ネタ入ります。


ほのかは涙目になっており雫に慰められていた。しかしそれではいけないと思い2科生で自分たちを庇ってくれた人達に近づき礼を言う。

 

 

「あの、さっきはありがとうございました。お兄さんのおかげです」

 

 

「お兄さんはよしてくれ、同じ1年生じゃないか」

 

 

達也は謝りに来た二人の生徒に対して頭を上げるよう言う。深雪もほのかの魔法の事情を知っているのか彼女を責めはしなかった。

 

 

「よかったら駅まで一緒にどう?」

 

 

1科生と2科生の垣根を越え交流が深まっていく。

帰り道は大所帯になり様々な話が沸き上がる。エリカのCADの事や、深雪のデバイスのメンテナンスを行っているのが達也という事など驚くことが多々ある。

そんな中達也は先程のある生徒の疑問をほのかと雫に投げかける。

 

 

「それはそうと二人の隣にいて生徒会長に連れていかれた生徒は大丈夫なのか?」

 

 

「一方通行なら多分大丈夫。後で連絡するし」

 

 

雫が即答する。達也達には一方通行という名前は全く馴染まない。外国人のような名前でなく何か文字を弄った読み方のように聞こえる。

 

 

「ねえ、そのアクセラレータって人は雫とほのかとどういう関係なの?」

 

 

エリカのちょっかいをかけるような口調で話しかける。ほのかは顔を真っ青にし俯き、雫は表情を変えず答える。

 

 

「従兄弟」

 

 

即答である。レオや美月らはそのことに疑問を持つ。

 

 

「それにしてもよお、アイツの格好なんかすごくねーか?制服も来てねぇし足悪いのか分かんねえけど杖ついてるし、いろいろと規格外だぜ」

 

 

「でも彼の使った魔法凄かったですよね、あの速度のサイオンを弾くような式を一瞬で組み上げる技量は流石です」

 

 

美月の一方通行を褒めるような言動に達也から見た出来事を彼らに話す。

 

 

「いや、あれは魔法かどうかわからないよ。CADを必要としない魔法であってもサイオンは体から必然的に漏れる。それでも彼からはそれが感じられなかった。仕組みはわからないが随分と珍しい技術のようだった」

 

 

その辺りで駅に着き7人は解散しそれぞれの家に向かっていった。

 

 

***

 

 

自宅に戻った一方通行は自分のベッドに寝転がり首元の電源を外し充電しようとする。その間彼は一般人よりも遥かに劣る運動能力と判断力がある状態になるため仮眠することにした。予定起床時間にアラームをかけ、機械に夕食を作るよう設定し瞳を閉じる。今日あった出来事を思い出そうとするが上手くいかない。魔法演算領域を代替するが本物の前頭葉の機能には敵わない。

30分後彼は目覚め充電途中の電源を首にはめバスルームへと足を運ぶ。能力で汚れや雑菌を全て弾くことができるが、シャワーを浴びるという精神的爽快感は得られない。そのため彼はなるべく風呂に入ったりシャワーを浴びるようにしている。

 

 

(雫には連絡した。生徒会からの邪魔ももうねェ。今日がいい機会だな)

 

 

熱めのシャワーを頭上から流しながら考える。

それは窓の無いビルの調査のことだった。潮に頼んでも未だに進展がなくそろそろ自らが行って正体を見定める必要があると思っていた。

風呂から上がり肌や髪に付着する余分な水分をバスタオルで拭き取り、用意してあった着替えを身に纏う。マンションに鍵をかけエレベーターで1階まで降りる。現在の時刻は23時30分でコンビニはまだ開いている。

彼は缶コーヒーを買うために一番近くにあったコンビニへと移動する。

コーヒーを買い終え飲みながら徒歩で移動する。もうしばらくして周囲の人間が寝静まったら能力を使って飛行する予定である。

 

 

(あのビルに何があるってンだ?エイワスがいるとは思えねェし、そもそも学園都市特有の虚数学区を媒介として出現してるわけだから無理だな。となると...)

 

 

思考途中に一方通行の端末に一報が入る。内容は住所で宛先は不明である。彼にとって全く知らない場所であったため今は窓のないビルが最優先と考える。

周囲の音が響かなくなり深夜0:30となる。彼は首元のチョーカーに触れ自らの背中に白い翼を生成する。

 

 

(この翼出す度にあのメルヘンヤロォを思い出すな)

 

 

彼は一瞬のうちに上空へと駆け抜ける。

窓のないビルは大きな私有地の中にぽつんと立つ不可解な立地をしていた。人工林や整備された芝などはなく無造作に生い茂る雑草が一面に染まっている。

窓のないビルの手前に着陸した一方通行は杖をつき空を見上げる。先程までは地上の光が多く見上げても明かりが多少あったが、ここでは人工光がほとんどなく夜空には星が浮かび上がる。

彼がビルに向かって歩いていくと雑草が彼に絡みついてくる。侵入者対策の一つだろう、と彼は考え再度電源を入れ一気に駆け抜ける。

ビル手前まで来たが案の定入口はない。学園都市と同じ構造のビルであれば彼に侵入する手立てはない。

周囲を見渡すと一つの石碑が見えた。その石碑に書いてあることに彼は驚き、悲しい現実に直面する。

 

 

『アレイスター・クロウリーここに眠る』

 

 

学園都市統括理事長の名が刻んであり、既に死亡していると見える。

 

 

(オイオイ嘘だろ?学園都市の存在を誰も知らねェクセにコイツだけは一丁前に生きた証を残してやがる。ならこのビルは何なンだ、ミサカネットワークとは異なる物を未だに発し続けてるぞ)

 

 

世界移動は一方通行が経験している事件とは別次元の問題であり、あまりにも異質過ぎて彼に計算の余地を与えない。元の世界へと戻る手段を考察するための参考になるものが1つ崩壊する。今日の衝撃が大きすぎて彼は今夜一睡もすることが出来なかった。

 

 

***

 

 

入学式が終わり一週間程経つと部活への勧誘が始まる。九校戦という一大イベントがあるため、どの部活も新入生を一人でも多く獲得しようと様々な手段を企てる。

そんな時でも一方通行の心持ちは全く変わらない。昼休みの周りの生徒が慌ただしい。そんな様子を重い瞼を釣り上げながら観察する。

すると雫が一方通行に話しかけてくる。彼のたいそう嫌な顔を気にせず言葉をぶつける。

 

 

「今日の放課後から部活の勧誘あるけど一方通行は何の部活に入るか決めた?」

 

 

「別に強制じゃねェだろ、それに二人のお守りしなきゃならンのにどうしろってンだよ」

 

 

興味がなさそうに答える一方通行はそう言うと自分の席を立ち外へと出かける。何処へ行くのかと雫に聞かれるも彼は曖昧に答えるだけだった。

昼休みに入ってすぐ話しかけられ、一人で考え事が出来ない今の彼にとって安息の地を求めるのは必然であった。食堂では人が多く誰も座ってない室外のベンチに座る。

思い出すのは昨日の事。元の世界へと帰るヒントを失った彼は新しく帰る方法を模索する気力が無くなっていた。なにしろアレイスターがこの世界にも実在していた証拠があるので彼が干渉しようと思えば出来るのだろう。しかしそれが半年以上も行われない様子を見ると、彼が一方通行に手を出す事が出来ない状況にあるのをすぐに察せる。

 

 

「隣いいか?」

 

 

思考に耽っていた彼の耳に男子生徒の言葉が響く。声の主は先日の魔法騒動を大きくしなかった第一人者の男だった。

 

 

「勝手にしろ」

 

 

一方通行は自分の手元にある缶コーヒーを適当に振りながら答える。隣にすとんと座る生徒は一方通行に自己紹介をする。

 

 

「俺の名前は司波達也、1-E在籍だ。この前はすまなかった。どうしても嘘がつけなくてな、生徒会長には俺から弁明しておくよ」

 

 

「別にいい、あの後生徒会には説明して何もなかったからな。それより本題があンだろ?言ってみろよ」

 

 

一方通行は達也の心を見透かしたかのように流れるように話す。それを聞いた達也は驚く様な表情はせず、そうか、と頷き話し始める。

 

 

「お前は一体何者なんだ?知り合いに素性を調べさせた、しかしそこから出てくる情報は何一つない」

 

 

険しい顔の達也に比べ一方通行は笑っていた。この質問が来ることを予め知っていたかのように、遂には顔を手のひらで抑えながら質問に答える。

 

 

「ッたく、随分笑わせてくれるな。お前の中じゃァ俺はブラックボックスで何が悪い?世の中には知る必要のないものもあるンだぜ」

 

 

「答える気はないか、別に今はいいが深雪に危害を加えるような事があれば俺はお前を殺す。不穏な言葉だが忠告はさせてもらうぞ」

 

 

そう言うとベンチから立ち上がり校舎の方へ戻っていく達也に一方通行は背後から口元を歪ませる。

 

 

「お前今までで何人殺してきた?俺の予想だと大体50人ってとこか、あンま無茶するもンじゃ無いぜ」

 

 

***

 

 

放課後、いつもの学校の通りには多くのテントが並び新2,3年生が帰宅しようとする1年生を待ち構えている。放課のチャイムがなる前から準備が始まっていたためほとんどの生徒は強引な勧誘を避けることは出来ない。それは1科生であっても2科生であっても変わらない。

雫とほのかは深雪が生徒会の事情が忙しい話を聞くと机で校庭を眺めている一方通行の所へやって来る。

 

 

「私達、部活を見て回るので先に帰ってもらっていいですよ。じゃ雫、行こう」

 

 

元気がいいと思いつつ自分のこれからを想像する。勧誘の様子を見る限り相当激しい。こんな中では能力を使わなければまともに歩く事もできないだろう。しかし先日の魔法の出来事を思い返すと安易に能力を使うのは得策ではない。

そう思うと勧誘が終わる最終帰宅時間まで時間を潰すことが最もいいと判断する。魔法理論関係の書籍を端末で開いて知識を蓄えながら昼休みの出来事を振り返る。司波達也の司波深雪へ危害を加えたら殺すという文句。その目には絶対にやるという意志より、そう決まっているからそうしてるという義務感を感じられた。

そんな時外の一団が小爆発を起こした。小爆発といっても取り囲んでいた中心人物に強引に突破されたようだ。興味が無い一方通行の瞳に火が宿る。

ほのかと雫が2人の何者かに捕まり高速で舗装された通りへ移動していく。その状況に彼がいたわけではないがどう見ても任意ではない。

彼は潮との契約で動いたわけではない。未だに自分と付き合ってくれている雫とほのかに対し、ほんのちょっとの善意が彼の心に芽生えていた。

窓の格子に手をかけ能力を開放する。まだ1-Aに残って雑談していた生徒達は一方通行が何をするのか分からない。ガラスの窓と格子があらぬ方向へと曲がっていく。ガラスは一切割れていない。

人が通れるほどの大きさの穴を一瞬で開け、そこから飛び降りる。能力による補正を受け身体へのダメージは一切ない。それどころか着陸した時の位置エネルギーのベクトルを反転させ自らを上昇させるためのエネルギーへと活用する。

空へと活動範囲を広げた一方通行は雫たちの場所の捜索を始める。同じ1-Aの生徒が一方通行の飛び出た窓から彼を見ている。そんなことを知りもせず一方通行は上空を飛び回る。

すると2人のスポーツウェアを着用しスケートボードに乗った人間を発見した。彼らの腕には雫とほのかが抱えられており、その後ろを渡辺摩利が追いかける様子も見える。

 

 

「ヒャハハッ!見つけたぜ、鬼ごっこでも始めるかァ!!」



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6

総合評価1000達成ありがとうございます。


路上を走行していたのは萬屋と風祭という一高を卒業したバイアスロン部のOGである。彼らは新入生を勧誘する時期にこの学校に遊びに来ていた。そこで後輩の摩利にいたずらしようとして今に至る。

しかしいたずらで済めば良かったものが一方通行の琴線に触れる。

走行中の2人は背後にいる摩利のことなど既にどうでも良かった。それよりも摩利の上空を飛行する生徒に目がいってしまう。一般人よりも遥かに強力な魔法の資質を持っている彼女らであってもあんな真似は出来る筈がない。

 

 

「颯季!あの化け物から逃げれる!?」

 

 

空を舞う白い翼の一方通行との差は徐々に詰まってきている。

一方通行は彼ら以上の速度を出して飛ぶことが出来るが、旋回による学校の施設破壊を防ぐため速度を落としている。

 

 

「無理!2手に別れるのが一番!」

 

 

そう言うと目の前のT字路で左右に別れる。萬屋が左へ風祭が右へ、それに次いで一方通行が左へ、摩利が右へと進路を変える。

萬屋はハズレくじを引いたと思った。摩利ならば地上に干渉する魔法でいくらでも妨害が可能だが、空の追っ手は違う。こちらから仕掛けることは出来ず、向こうを振り抜く事しか出来ない。

一方通行の飛行速度が上昇していく。だが萬屋は一寸手前で進路を変更する。一方通行はこれに対応出来ずそのまま突き進む。

 

 

(何よあれ!?空を飛べるBS魔法師だとしてもあんなに速度がでるの?でも、いい機会だし練習相手になってもらうわ)

 

 

一方ほのかと風祭は摩利と魔法の攻防を繰り返していた。だが風祭が摩利に捕まりそうになる場面が増えてきており、直に捕まるだろうと予測される。

本来風祭は萬屋とのコンビネーションが得意であるため、一人きりだとどうしても本来の実力を発揮出来ない。

すると前方から萬屋が走ってくるのが見える。その背後には先程追ってきている白い翼は見当たらない。萬屋がCADを取り出し摩利の進行を妨害する魔法の起動式を読み込ませる。

その時、既に一方通行の罠に掛かっていた。

起動式を読み込ませながら走行し萬屋と風祭が一方向へ逃げようとするが彼らの足元からボードが離れている。

一方通行が彼らの体を掴み空へと駆けて行こうとしていた。

能力発現時の彼に重力、摩擦力、抵抗などのあらゆる物理法則は適用されない。2人の体を両手で抱き先程までの空というフィールドへ連れていく。

 

 

「ちょっと、勧誘してただけじゃない。なんでそんな...ひっ」

 

 

萬屋は自らの下に映る景色を見て驚愕する。魔法科高校が非常に小さく見える。

 

 

「心配すンな、酸素やら必要な空気は圧力を無視して下から運んできてる。テメェらはそこの2人が落ちねェようにしっかり捕まえておくことだな」

 

 

「お願い、降ろして。私高いところダメなの...」

 

 

風祭の弱々しい声が一方通行の耳に入るが基本的に無視する。さらに彼は留まっている状態からまた飛行を始める。

 

 

「もうダメ...あっ...」

 

 

風祭は空を自由に飛びまわる一方通行の腕からすり抜けそうになるが彼はがっちりと掴む。だが風祭が抱き抱えていた雫は重力に逆らえない。

腕からすり抜け地面に落下していく中一方通行は舌打ちをしながら彼女の元へと駆け抜ける。

雫は一方通行の体に抱きつき身の安全を確保する。

数秒後、一方通行達は一高の敷地内に戻ってくる。非常に大きな速度で落下してきていたが彼の能力、ベクトル操作により抱き抱えている彼女らに身体的ダメージはない。

そこへ先程まで鬼ごっこを続けていた摩利がやって来る。

 

 

「風祭、萬屋!観念して新入生を離せ」

 

 

「わかった、わかった、あんな事されたらもう何にもしない」

 

 

一方通行は呆然としているほのかと珍しく顔を赤らめている雫を近くのベンチに座らせる。ほのかは、お星様綺麗などと意味の不明な事を呟いていた。

 

 

「OGだからって迷惑かけるんじゃない。風祭を連れてさっさと帰れ」

 

 

摩利に促され風祭に肩を貸しながら萬屋はバイアスロン部の後輩の元へと歩いていく。その様子を確認した後摩利は一方通行に近寄る。

 

 

「おい、過度な新入生勧誘を止めたのには感謝するがあれはやりすぎだ。それに何だその魔法、翼を生やして空を飛ぶなんて真似誰にでもできる物じゃないぞ」

 

 

一方通行は首元に手をかけ杖をつき始める。能力制限状態になり今までの感覚が嘘のように消え去る。

 

 

「うるせェ、誰がどんな魔法使おうが関係ねェだろ」

 

 

彼の先輩に対する悪態は未だに治っておらず摩利はそうか、と首を左右に振りながら自分の乗っていたボードを片付けようとする。

 

 

「その言葉遣いは治らんようだな。まあいい、今回は萬屋と風祭を止めたことに免じて風紀委員委員長として罰はなしにしてやる。私のいないとこでやったら確実に懲罰委員会行きだからな、これに懲りたらあんなに派手な魔法は使うなよ」

 

 

そう言ってその場を離れていく。一方通行はフンと鼻を鳴らし放心状態の二人の元へと足を進める。

 

 

「オマエら、あンまり俺の手煩わせンじゃねェよ。こっちだってそんンに暇じゃねェ」

 

 

「ただの勧誘だし大丈夫だった。それよりもあんな高い所から落とされた方が怖い」

 

 

「ハッ、なかなか出来ねェ体験だろ。それよりほのかを起こせ、そこの部員共に話あンだろ」

 

 

バイアスロン部の後輩たちは一方通行に近寄れない。自分たちもあんな真似されてしまうかもしれないという考えに陥っている。

一方通行はチョーカーの残存電力を確認しバイアスロン部がほのかと雫に話しかけやすいように離れた場所へ移動する。

缶コーヒーを買いに行き彼が戻った時には既に話が終わっていた。彼女らはバイアスロン部に入ることになっていた。一方通行も誘われたが、杖をつかなければならない体に鞭打ってまでやる事ではないと遠慮した。

彼はすぐに帰ろうとしたがバイアスロン部が次のデモンストレーションが始まるというので雫に連れられる。その途中狩猟部の手助けなどをほのかと雫はしていたが、一方通行は興味が無いように無視してデモを見ていた。

翌日、一方通行は眠い瞳を開いて学校へ行く。今日は用事があるため雫達よりも早めに家を出る。

学校に着き彼が立ち寄るのは図書館だった。彼の図書館に寄る目的は現代魔法の標準を知ることだった。彼がこの世界に来てから魔法の理論や基礎部分は学んだが、何が流行りで何が普通の魔法なのかはいまいち確認できない。彼の能力によるこの世界での擬似魔法は先日体験したように、あまりにも異質で多くの組織に狙われると判断した。彼自身が狙われるのは問題ないが、周囲の人間に被害が及ぶのは最悪である。

図書館に存在しているデータ書籍を自らの端末へインポートする。持ち出し禁止でデータの移行が出来ないデータであっても彼は自らを変換器にして端末へと流し込む。それが終わるとちょうど授業開始前のチャイムが鳴る。

 

 

「おい、一方通行少し来てくれ」

 

 

昼休み前の授業が終わってのんびり窓の外を眺めていた一方通行に教室に入ってきた摩利が話しかける。当の一方通行は窓の景色を堪能するため能力によって音を完全に遮っており摩利の声は届かない。そこで彼の肩に手をかけようとした摩利だが、寸前にこちらを振り向きものすごい形相で睨みつける一方通行に戸惑う。

 

「真由美がお前に用事があるそうだ」

 

 

空気の振動の反射を解除した彼は素直に従う。内心抗ってもどうせ放課後辺りに彼女の餌になるなら早めの方がいいと考えている。

廊下を歩いていると摩利が話題を振ってくる。

 

 

「君はどうして呼ばれたと思っているんだ?」

 

 

「さァな、どうせ気まぐれだろ」

 

 

杖をついている彼に合わせる摩利は口元に手を当ててフフっと笑う。

 

 

「君はほとんどわかっているんだろう?昨日注意した私が君の元へと行った時点でだいたい把握しているはずだ。まあそう言う私もただ呼んで来いと言われただけなんだがな」

 

 

「そォかよ」

 

 

一方通行が生徒会室の扉を空ける。そこには服部以外のこの前の生徒会メンバーに司波兄弟がいた。

 

 

「アッくん、こっちこっち〜」

 

 

真由美がトコトコと小走りで近づき一方通行の手を取って自分の席に座らせる。その光景は他の役員には新鮮なものである。

対する一方通行は怠そうな体を無理やり動かし真由美について行く。

 

 

「今日はなンだよ、さっさと用事言え、じゃなきゃ帰るぞ」

 

 

「今日はちゃんと用事あるの!いいから座って座って」

 

 

渋々座り周りを見て司波達也を発見する。この前の事で疑問に思う一方通行はその隣の少女を見ると納得がいった。

 

 

「オイ、司波。この前オマエが言ってた妹がコイツか。なかなかの上玉じゃねェか」

 

 

「深雪、彼が一方通行というんだ。同じクラスだから深雪の方がわかると思うけど」

 

 

そう言うと深雪は丁寧なお辞儀をして一方通行に挨拶した。

 

 

「それはそうと、アッくんにお届けものが届いているの。本来なら学校への郵送物はチェックが入ってから本人に渡すんだけど、アッくん宛のは見たことのない鍵がかかっているから呼んだってわけ。はいこれ」

 

 

真由美の持ってきた縦30cm横10cmほどの大きさの長方形の金属箱が一方通行の目の前に置かれた。

 

 

「一応生徒会で中身を確認しなきゃいけないからここで開けていってね」

 

 

そういう真由美は一方通行の隣に立ち何が出てくるかワクワクしていた。他のメンバーも昼食を食べながら一方通行の箱を気にしている。

そのうち一方通行が箱に手を乗せるとピーというブザーが鳴る。

 

 

『おはようございます、一方通行様。こちらは学園都市統括理事会からあなた様宛の郵送物です。先程の接触による一方通行様本人の確認がとれましたので開封作業に移ります。離れて下さい』

 

 

一方通行以外の誰もがその光景を疑った。銀色のただの箱がAIを持っているかのように一方通行に話しかけている。

そんなことも知らずに郵送物はカチャカチャと音をたてて中身を出現させる。

 

 

『お待たせしました、一方通行様。今回は現地での特別調査のためこちらをご用意致しました、超微粒物体干渉吸着式マニピュレータでございます。以降ピンセットと称します。では説明に移らせてもらいます。今回は上条当麻殺害を命じましたが途中より任務の変更がございました。それはそちらの世界の構造把握と魔法という現象の解明であります。統括理事長ご自身の命令のため破棄は出来ません。さらに』

 

 

「いちいちうるせェ、要点だけ話せ」

 

 

一方通行のドスの効いた声が箱からの声をかき消す。

 

 

『承知したしました。では肝心な点だけお話いたします。今回の目的は先程言いました。そのため一方通行様には魔法を独自の観点から観察しレポートを提出していただきます。それが確認でき次第、一方通行様を回収しに参ります。回収部隊はグループを再編成したものとなります』

 

 

「打ち止めは安全か?」

 

 

一方通行の気がかりはそこしかない。そもそもこの世界にやって来たのは何らかの偶然だと思っていた彼は学園都市の手の平に踊らされていた事に腹を立てる。

 

 

『勿論でございます。今回の任務は強制ではありません。ですがレポートを提出しない限り回収部隊を送り込めませんので...他にご所望の機材がございましたら伺いますが何かありますか?』

 

 

一方通行は唇に手を当て苛立ちを最低限に押さえ込んでいる。この世界に来て半年以上。接触がなかった学園都市が今更何の用だと思いきや魔法の解析。全てに怒りがこみ上げる。

 

 

『では無いという事でよろしいですね。なお一方通行様の端末に正式な文書とピンセットの詳しい操作内容、学園都市からの連絡の方法などが後に送られますのでそれをご確認下さい。ではさようなら、一方通行様。この箱の処理は能力による粉砕、または圧縮を行ってください』

 

 

銀の箱が停止したと同時に一方通行の心に火がつく。



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7

銀箱の会話が終了すると一方通行は目の前のピンセットを掴み取り右手にはめる。以前土御門が操作していたので彼にも一応扱い方は分かる。ピピッと電子音が響いた直後ピンセットのモニターに空気中の分子などが映し出される。そこに滞空回線は存在しない。彼は少しながら安心した。

 

 

「悪ィな」

 

 

その場を立ち去ろうとする一方通行に達也は立ちふさがる。

 

 

「色々と不可解なことがあるがそのピンセットとやらは一体なんだ?」

 

 

周囲の人間の代弁を行う達也、そんな様子にうんざりし無視して生徒会室を出る。誰もその動きを止めることは出来ない。なぜなら止めれば何が起こるかわからないほど一方通行の怒りは激しいからだ。

彼が去った生徒会室にあまり普通ではない空気が漂う。

 

 

「摩利、さっきの話どう思う?」

 

 

一方通行の隣に座っていて今はその席に座る真由美は摩利に対して話しかけるがほとんど全員に話しかけているのと同じだろう。

 

 

「なんだかぶっ飛び過ぎてよくわからん。だがこの世界の構造把握というワードだけは気になるな」

 

 

うーんと唸る真由美は達也へ言葉の船を渡す。

 

 

「なんとも言えませんね。学園都市とあったので筑波方面の関係者かと思いましたが、今のあそこにあれほどの開発力は残っていません。それに自分の知り得る限り統括理事会など存在しません」

 

 

すると先程出て行った一方通行がまた戻ってきた。銀箱を取りに戻ってきたらしい。その箱にピンセットを収納し箱ごと抱える。

 

 

「アッくん、学園都市って何?」

 

 

真由美はいつも通りのテンションに持っていったが周りの誰もが無理やりだと気付く。対する一方通行はギロリと眼球を動かす。赤の瞳が真由美に突き刺さる。

 

 

「関係ねェ、別にお前らに迷惑かけねェよ」

 

 

彼は未だに落ち着いていない。いくら学園都市の闇に深く関わっていたとしてもここまで予想できる者はなかなかいない。彼の心は揺れ動く。

再度生徒会室を出て廊下をゆっくりと歩く。その間様々なことを思い浮かべる。別に悪い場所じゃなかった。この世界にやって来て打ち止めの事や様々な事が心配だったがこの世界に馴染めている頃だった。いきなり任務を与えられて理不尽だと思う。だが帰る手立ては今の所それしかない。

1-Aに戻り一人でじっくり考える。雫やほのかを見捨てて元の世界へ帰るか、ここに残って彼女らの護衛を続けるか。悩むぐらい彼の中で二人の存在は大きくなっていた。勿論打ち止めのことが最優先であるのは間違いない。しかし出来ればこの二人も守っていきたい。

一方通行の心は揺れる。

そんな中授業開始のチャイムが鳴った。

授業中も教師の言葉は彼をすり抜けていく。どちらを取るか、学園都市かこの世界か。

彼は悩み続ける。

 

 

***

 

 

いつの間にか放課後になる。雫とほのかは帰ろうと思い一方通行を誘う。

 

 

「一方通行さん、今日はもう帰りましょう。特に用事がある訳でもないですし」

 

 

彼は軽く頷き席を立つ。左手には杖が、右手にはケースがあり両手が塞がっている一方通行に雫は疑問を抱く。

 

 

「朝からそんな荷物持ってたっけ?」

 

 

「まァな、それよりどォすンだ。外は昨日みたいに多勢いるぞ」

 

 

入る部活が決まった2人であっても上級生は強引に勧誘してくる。

そこへ赤髪の生徒がほのかに話しかける。

 

 

「アレ?2人とも今帰り?」

 

 

少女の名前は明智英美、正確にはアメリア=英美=明智=ゴールディという名でありクォーターである。彼女は昨日狩猟部の出来事でほのかと雫と出会った彼女らの友人である。友人らからはエイミィと呼ばれる。

 

 

「あっ、エイミィ。いや、どうやって帰ろうかなって」

 

 

「あーっ、外すごいもんね。あれ?まさかそこの人って一方通行!?」

 

 

一方通行はチラリと彼女の方を見る。彼より少し背の低い少女である。

 

 

「こちらは明智英美、私達はエイミィって呼んでる。で、こっちが一方通行」

 

 

雫が2人にお互いの紹介をしている。一方通行はエイミィの事など興味がなさそうに雫に話しかける。

 

 

「で、どうやって帰るか手段は決まったのか?俺は最終下校時刻まで待っても別に構わねェ」

 

 

「誰か隠密系の魔法使えない?」

 

 

エイミィが提案する。隠密系とはその名の通り意識を逸らしたり姿を隠したりする魔法である。雫はほのかが得意ということを知っておりその案に乗る。対するほのかは魔法を勝手に使うのはルール違反だと言いつつも、その案に乗るしか安全に帰宅する手段がなかったので仕方なくやることにした。

3人はほのかが発動する魔法に隠れて移動する。

 

 

「少し待て」

 

 

一方通行が先を歩く3人の女性に言い止める。彼は掴んでいた収納箱に開くよう命じる。生体電気や特殊な電磁波を記号として用いている銀箱は中からピンセットを排出させ、その箱自体は掌に収まるほどの大きさの板になる。

ピンセットを装着した一方通行はほのかが展開していた魔法で出来た鏡のようなものに触れる。

 

 

「一方通行、そのグローブ何?」

 

 

雫の問いに答えず彼はモニターを眺める。ずらりと並ぶピンセットが掴んだ物質の中にエラーが突如映し出される。ピンセットで測定不可能な物質が混じっているようだ。恐らく学園都市で製造されているためこの世界の値に対応していないらしい。

 

 

(サイオンを感知出来るのか?ありゃァ非物質粒子のはずだぞ。それともアイツらの科学力が心理的現象に干渉できるほどになっちまったのか?)

 

 

一方通行の手元に魔法の基礎となる仮定を覆してしまうような検証結果が表れる。しかし実験を繰り返し確実となるデータが無ければ証明は出来ない。そうであるが彼に証明する必要性は全くない。

不明なデータを放置して掴んだすべての物質の判別が完了した。それが終わると一方通行はほのかに進んでいいことを伝える。

進んでいると前には風紀委員、司波達也が空気弾を避ける様子が垣間見得る。

4人はその光景に興味津々で生徒同士の揉め事を見続ける。その影響かほのかの発動していた魔法がいつの間にか消えており、多くの上級生から彼らが追いかけられたのは言うまでもない。勿論その中には一方通行も含まれている。

足が棒になるほど立っていた一方通行は自室に戻るとピンセットの入っていた箱を机の上に乗せる。そしてある決断をする。

 

 

***

 

 

一方通行の知らない所で闇は渦巻く。

 

 

***

 

 

それからは特に変わらない生活があった。ほのかや雫は一方通行に対し多少の遠慮らしきものがあるが当の本人は気にしていない。

彼女らが気遣う理由は一方通行の悩みとは無縁のところにある。エイミィ、雫、ほのかの3人は風紀委員司波達也に対し不条理な魔法による攻撃をする犯人探しに躍起になっている。そのため一方通行には何も言ってない。

だが彼、一方通行は何となくそのことを知っていた。犯人探しをしていることを知っているのではなく、危なっかしい事態に首を突っ込んでいるという感覚があるだけ。

それでも彼女らを止めることは出来ない。いや、止めようと思えば無理矢理にでも止めることは出来るが、それ以降の彼女らの行動を予測できなくなる。それで一方通行は3人を見守ることにし、非常に危険な時にだけ干渉しようと考えた。

そう思い今日も彼は端末で雫の現在位置を確認しながら図書室で魔法関連の書籍を読み漁る。(断じてストーカーではない)すると彼女の位置が学校外へと移動していた。すると仕方なく読んでいた本を放置し部屋から出る。

外は既に部活勧誘が終わっており平然としている。あれほどの賑わいを懐かしむように端末を利用し歩いて追いかける。

とぼとぼと歩いていると学校の監視システム外に出た。人よりも歩くスピードが遅い一方通行にとって人を追いかけるという作業は割に合わない。ここで雫の移動が収まった。止まっているようである。その間に追いついて何をしようとしているのか尋ねる予定だった一方通行は隣の道路を駆け抜けるバイクで感づいた。

かつて世界、学園都市の暗部を渡り歩いてきた彼にとって裏と表の世界の区別は人一倍自信がある。チンピラ以上組織以下の雰囲気がバイクの周りを包んでいるのがはっきりとわかる。どこの世界でも闇はあるのかとため息をつきバイク集団の進行方向を確認しそちらへ向かう。

裏路地に入る。一方通行の様々な思い出が蘇る。このような裏路地は悪事を行うのに格好の場所である。それは彼自身身に染みている。

奥へ進んでいく途中爆音が彼の耳に刺さる。先程のバイクのエンジンかと彼は思い少し危機意識を持つ。

 

 

***

 

 

雫、ほのか、エイミィの3人は剣道部主将、司甲を追いこの裏路地にやって来てまんまと彼の誘導に陥れられた。周りにはライダースーツとヘルメットを着用した数名の大人。

 

 

(合図したら走るよ、いいね)

 

 

雫は冷静気味にエイミィとほのかに伝える。囲んでいるライダーには聞こえていない。

 

 

「我々の計画を邪魔する奴には消えてもらおう」

 

 

雫が彼らの隙をついて2人の手を引く。途端に追って来るがエイミィの攻撃性のある魔法とほのかの閃光魔法が炸裂する。しかしこのまま逃げ切れるわけではなかった。

男の一人が手袋を外し指輪の効力を発動する。

 

 

「ふふ、苦しいだろう?これが司様からお借りしたアンティナイトによるキャスト・ジャミングだ。これが存在する限りお前達は魔法を使うことは出来ない」

 

 

3人は地面に伏し立ち上がる気力が湧かない。そんなことより頭が割るような振動に耐えるのに精一杯であった。

 

 

「よし、手筈通り我々の計画を邪魔するものには消えてもらおう」

 

 

アンティナイトの指輪を手にした男がナイフを取り出す。

 

 

「オイオイ、俺が到着するまでトドメ刺さなかったのは褒めてやるよ、クズ共。まァ逃げるのが最適だとは思うがなァ」

 

 

杖をついて歩いてくる一方通行は現場の惨状に目を張る。そこまでではない。彼がこれまで経験してきた裏路地の戦闘ではとても可愛い部類に入る。

 

 

「なんだ貴様、コイツらと一緒に始末してやろう」

 

 

男が指輪の出力を上げる。地面に倒れている少女達は耳を塞ぎアンティナイトの効果をなるべく受けないようにする。対して一方通行は気に触る事でもないのか何もせず歩いてくる。

 

 

「ふん威勢だけの愚か者め、やれ」

 

 

男の周りにいた仲間達もナイフを取り出し一方通行に迫っていく。そしてその内の一人が彼にナイフを突き立てる。

悲鳴が裏路地に鳴り響く。これは決して一方通行のものではない。ナイフを突き立てた1人の男の腕の骨が2本とも折れており、あらぬ方向へと腕が曲がっていた。筋肉だけでは腕を支えられない。

 

 

「そういや言ってなかったな、実は俺も魔法師なンだよ」

 

 

目の前の仲間の腕の異常な曲がりを確認するリーダー格の人間はアンティナイトの指輪の出力を最大にする。

 

 

「これでどうだ!貴様も魔法は使えまい!」

 

 

指輪を突き出し一方通行に向けて発射するが目標はそこにはいない。

 

 

「これがアイツらの魔法を使えなくしてる奴なのか。貰ってくぞ」

 

 

標的は既に男の背後に立っていた。そして指輪に手をかける。一方通行はそのまま外そうなどとは最初から思っていない。指輪の付いていた中指に触れそのまま引きちぎる。音などしなかった。

 

 

「あああああ!!」

 

 

「うるせェな、騒ぐンじゃねェよ。オマエも裏の人間なら指の一本位詰めてみろ」

 

 

そう言うと一方通行は男の顔の筋肉を操り口を塞ぐ。悲鳴を上げたくても出来ない状況に男の精神がついていかず気絶してしまう。

一方通行は魔法が使えない根源の指輪を粉々に砕く。その直後ナイフが飛んできた。恐らく直接的な攻撃は危険だと判断した仲間が飛び道具ではどうだと思ったのだろう。しかし飛んできたナイフは投げた本人にそのまま返ってその腕を傷つける。

そんなことを気にせず一方通行は飛んできたナイフの方向に突き進み2人の男に軽く触れる。そのベクトルを操作しトラックが突っ込んだ様な衝撃を与える。これにより裏路地の壁にクレーターを作り気絶させた。

腕を折られた最後の1人は逃げ出そうとしたが一方通行ではなく裏路地に入って来た一校の生徒、司波深雪に止められる。彼女の魔法によりノックダウン状態になり事件現場は整然としている。

不審者の行動不能を確認した一方通行は首元のチョーカー型電極のスイッチを切る。




アクセラさんはフェミニストじゃないよ!!


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8

これが本来の投稿ペースです。


コンクリートの地面に転がっていた少女達は深雪と一方通行の姿を見てやっと立てた。酷かった頭痛が治まり普通に行動できるようになっている。

彼女らは深雪と一方通行に感謝の言葉を述べる。

 

 

「貴女達が無事でよかったわ」

 

 

深雪は3人に癒しの言葉を与える。

その間一方通行は襲撃者の仲間が来ないか表通りを見渡す。

 

 

「実はね、警察に届ける事はしないで欲しいの。ちょっと大事にしたくない事情があって。でも被害者である貴女達が訴えようとするなら私は止めないわ」

 

 

「監視カメラにも撮られてないし必要ない」

 

 

深雪はその後歩いて帰っていく少女らを見送る。見えなくなったのを確認し周囲様子を確認する。

 

 

「貴方はいつまでそこにいるんですか?」

 

 

倒れた男の上に座っていた一方通行に話しかける。

 

 

「オマエこそいつまで居るンだよ。クズ共の処理班でも呼ぶ為にアイツら帰したンだろ。オマエもさっさと帰れ」

 

 

一方通行は杖を利用して立ち上がる。そして中指が消えている男を裏路地の奥の方へと蹴飛ばす。

 

 

「待って下さい、この4人の身柄はこちらで預かることにしました。どこへ連れていくんですか?」

 

 

「どこって、すぐそこだから安心しろ。用事もすぐ終わる。後血が苦手ってンなら俺の方見ンなよ」

 

 

一方通行は蹴飛ばした男の元へ歩いていく。能力を使い男を覚醒させる。覚醒直後はグラグラと頭を揺らしていたが、一方通行の姿を見た途端後ろへ下がる。しかしそこには壁しかなく退路はない。

 

 

「オマエに聞きてェ事があンだよ。全部話すンなら俺は何もしねェ、どうする?」

 

 

「ふ、ふざけるな!誰がお前なんかに話すか!」

 

 

「そうかそうか、ロシアの時みてェに番外個体がいる訳でもねェしやっぱりこっちの方が俺には似合うな」

 

 

病人のような白い腕が男の腕に触れる。その瞬間触れた表皮に一方通行の指が食い込んでいく。

 

 

「やめろおおお!」

 

 

「話す気になったか?それでもヤメル気はねェがな」

 

 

皮を突き破り肉まで到達する指を彼は止めない。そろそろ骨に当たりそうだと思った時ものすごく早い口調で男は叫ぶ。

 

 

「本当に話す!話すからその手をどけてくれええええ!!」

 

 

一方通行はつまらなそうに男の腕から手を離す。自分の腕が辛うじて付いているのを確認しながら男は壁に寄りかかる。顔からは生気が伺えない。なんとか生きている状態である。

 

 

「で、オマエ個人でアイツらを狙ったわけじゃァねェだろ。組織の名前は?」

 

 

「ぶ、ブランシュだ」

 

 

「ブランシュねェ...今回襲った目的は?」

 

 

男はうずくまって顔を上げない。

 

 

「オイ、聞いてンのかクソヤロォ、さっさと話せ」

 

 

「ふひひひ、ふふははははは!」

 

 

突如笑いだした男の様子に一方通行は呆れた。

 

 

「使いもンになんねェな。リーダー格がこンなンじゃァ他の人間も大概だな。つまんねェ」

 

 

笑う男を放置し深雪に引き渡す。杖をつき電極の残量を確認しながら帰ろうとすると彼女が一方通行にことばを投げかける。

 

 

「貴方にはまず感謝します、私の友人達を救ってくれてありがとうございます」

 

 

「感謝される筋合いなンざねェよ。元々アイツらのお守り任されてる身だからな」

 

 

一方通行と潮との契約上やらなければいけないことをしたまでであり一方通行は特に何とも思ってない。

そう、いつもなら。

今の彼は学園都市との関係に障害を持っている。その為雫達にいつも以上気にかけている。この事は本人も自覚している。なるべく早急に自分の立ち位置を確立させ余計な因子を消しておきたい。

そんな思考を頭の片隅に押しやり一方通行は深雪に先程手に入れた情報を照合する。

 

 

「オマエ、ブランシュっつう組織知ってるか?さっきのクズが言ってた組織なンだが」

 

 

深雪は多少の驚きがあったが表情には出さない。彼女の予想では一方通行がここまで事件に食い込むことは無かった。雫達と一緒に帰るのだろうと考えていたのだ。

 

 

「反魔法国際政治団体の事です。魔法師優遇措置や社会的差別を無くそうとしている団体です」

 

 

「そンな事聞いてるわけじゃァねェ。本部と戦闘規模、どれぐらいのランクに位置してンのか聞いてンだよ」

 

 

深雪は一方通行の考えが危険である事はすぐに察した。

しかし自分では何も出来ない。彼女は自身の兄、司波達也に固く言いつけられていた。

 

 

『一方通行との過度な接触は控えるんだ』

 

 

理由はわからない。しかし彼女の兄にも思惑が何かあるのだろう。深雪は何も知らないと言うと一方通行はすぐに帰っていった。

周りの監視カメラの様子を確認し彼女はある師に電話をかける。

 

 

『もしもし、深雪くんかな?それにしても珍しいね、何かあったのかい?』

 

 

電話声の主は九重八雲という坊主の男。彼は九重寺の住職であり司波兄弟の師匠であり古式魔法の伝承者であるといういろいろな経歴を持っている。深雪は彼に雫達を襲った男達の身柄の確保を頼んだ。何故なら一瞬だけアンティナイトを使用した形跡を確認出来たため、普通の暴漢ではないと判断したからである。

 

 

「ありがとうございます、先生。それともう一つ調べて欲しいことがあるんですけれど」

 

 

『なんだい?言ってごらん』

 

 

深雪は兄からの言いつけを申し訳ないと思いながら心の中で無視する。

 

 

「一方通行という一高の生徒なんですが詳しい情報を調べて欲しいんです」

 

 

電話の向こうで一瞬の間が空く。

 

 

『ははっ、君達兄弟は本当に似ているんだねぇ』

 

 

「どういうことですか?」

 

 

深雪は兄のことを話題にされ少し顔を赤らめる。

 

 

『実は達也くんからもその一方通行っていう生徒を調べて欲しいって連絡が少し前にあったんだ。今日連絡する予定だったけどまずは君に話しておこうか』

 

 

兄と同じことを考えていた。彼女の頭の中では嬉しさ半分不安半分混じり混じっている。不安の原因は自分が感じた不気味な一方通行の能力。嬉しさの原因は兄と思考が同じであること。

 

 

『本名、本籍は存在してたけど改竄されてたから意味は無いね。中学3年の時に転校してそれから一高に進学している。ここで不思議だったのが転校前の学校が不明な点だった。いくら調べても何も出てこない』

 

 

「それはおかしいんじゃありませんか?いくらランクの高いセキュリティで守られた人間の情報でも最低限は出てくるはずです。中学までの記録が無いなんて」

 

 

『そうなんだよ。そこが怪しすぎる。そう思って調べていったらね、ある噂に辿りついたんだ』

 

 

ある噂?と深雪は一方通行に関する情報を頭の中で整理してみる。彼に関するものといったら最近の1科生の間のものが浮かぶ。

一方通行は翼を用いて空を飛ぶことが出来る。

新入生を部活に勧誘する際、窓ガラスを変形させ飛び降りたと思ったら空を飛んでいた。これを目撃していたAクラスの生徒は証言している。

 

 

『去年の夏、深雪くんは覚えているかな?』

 

 

「夏、ですか?申し訳ありません、世間事情は疎いもので」

 

 

『隕石騒ぎ、覚えてない?』

 

 

深雪は昨年の出来事を思い出した。日本付近に落下した隕石のこと。政府による詳しい調査が行われたが、落下時に粉砕してしまったと言われた。

 

 

『そう、彼の本籍が登録されたのもその時期だし全てがそこから始まっているんだ』

 

 

「それでは一方通行というのは宇宙人という事なんでしょうか?」

 

 

宙からやってきた人間にソックリな生物、一方通行。彼女にはそう思えている。

 

 

『ーん、それはわからないなあ。噂程度の情報源だし一つの仮説って感じかな。こんなところかな、暴漢達を回収する手筈は整えたし彼に関する情報も終わり。それじゃあ達也くんにもよろしく伝えといてね』

 

 

深雪はその場でお辞儀をする。電話でも相手に見えない礼を払うのは日本人の特徴だろうか。

 

 

***

 

 

翌日には襲われた少女らは何ともないように生活出来ていた。彼女らは一方通行が助けたことには感謝しているが、使った魔法には詳しく聞こうとはしなかった。他人の魔法に関して踏み込んだ聞き込みは現代においてマナーの善し悪しを問われる。

対する一方通行は学校で昨日砕いた指輪の破片を眺める。どういう理屈で魔法を妨害していたのかわからない。学校にある様々な論文ではサイオンジャミングを作り出すと言われているが、彼はそれを信じようとしない。なぜならジャミングを発生させていたならば、彼自身の演算領域に多少なりとも影響が出るはずである。

昼、突如学校内に大きな声が響いた。その原因は校内放送の音量を調節し忘れたらしい。

放送の内容は2科生への差別撤廃らしい。

馬鹿らしい。

一方通行は単純に思う。差別など本人が気にしなければなんとも無い問題である。彼の人生において差別など常にある。(差別よりも区別ではあるが)人が集まればそこに優劣は必ず存在する。仕方の無いことである。

放課後、彼の端末に一つのメールが入っていた。差出人は統括理事会で内容は以下のものだった。

 

 

『ピンセットの情報によるレポートをこちらで確認。明日の16:00にグループを送り込むので帰還してください』

 

 

頭をガツンと殴られたような衝撃に襲われた。彼が思っていた報告書は正式な文書であるが、統括理事会当人はピンセットを使うだけで良い判断していた。彼が本当に感じたのはそこではない。

明日帰還ということだった。悩み悩んでいた彼の気持ちを全く汲まない上層部の判断は彼をバッサリと切っていく。

今の彼の周りには誰もいない。雫もほのかも彼が守りたい人間は部活に行ってしまっている。

たった一人の教室でエリザリーナ独立国同盟で打ち止めを救えなかった気持ちに似たものを味わっていた。



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9

一方通行回収日の午前8時。彼はピンセットを手に持ち学校へと向かう。登校途中雫にまたグローブを持っているなどと言われたが彼は気にしない。別れの挨拶もいらないだろう。

学校に着き彼は端末を確認する。昨日以降学園都市からの連絡は一つもない。恐らく変更は無いのだろう。しかし場所などの指定が無いため放課後彼はどうしていいのかわからない。仕方なく暇を潰すため討論会というものに顔を出そうと思った。

1科生と2科生の差別に関する討論会らしい。この世界に来て、この学校に入学して間も無い一方通行にとっては関心のない問題である。

放課後、睡眠不足の彼は重い瞼を支えながら講堂の席に座っていた。討論会はずっと真由美の独壇場、とまでは言えないが議論の仕組みを確実に把握している彼女の有利に進んだ。疎らな拍手の中彼の端末が震える。

 

 

「あァ?誰だ」

 

 

席から立ち上がりながらピンセットを持ちながら電話に出る。両手が塞がってしまい上手く歩くことができない。

 

 

『土御門だ、もうそろそろ着くんだがお前はどこにいるんだ?結標の座標移動は具体的な見取り図が無いからそう安々と使えない』

 

 

「でっけェ建物あンだろ、そこだそこ」

 

 

『りょーかい。で、長い休暇の感想はどうだにゃー。俺も舞夏と一緒に半年ぐらいゆっくりしたいぜい』

 

 

一方通行は土御門のテンションの切り替えの速さに一瞬ガクッと体が傾いた。杖をついていない方の肩を利用し端末を挟み会話を続ける。

 

 

「お前は何も変わってねェのかよ。俺の仕事の間にサクッと殺されてればいいのによォ」

 

 

『ははっ、そう言うな。こっちだと打ち止めと番外個体、その他諸々は何も変わらず過ごしているよ。一方通行は特別な仕事って言ってあるから安心しろ』

 

 

通話を切ると自分の席には戻らず壁に寄りかかり討論会の続きを眺める。すると突然講堂内に轟音とガラスが割る音が鳴り響く。視線をそちらの方に向けると自然とは思えない気流が発生している。周囲のベクトルを観測する一方通行は何が起きているのかすぐに分かった。

魔法で気流操作してるのだと。

席から立ち上がった幾人もの生徒が予め予測していたかのような動きを見せる風紀委員に取り押さえられている。

佇んでいた一方通行に風紀委員である森崎が話しかけてきた。

 

 

「お前足が悪いだろ。避難するならあの出口からだが手伝う必要はあるか?」

 

 

「いや、別にいらねェ。それより何が起こってやがる」

 

 

森崎はホルダーに入っていたCADを取り出し周りを見ながら説明する。学校にテロリストがやってきたこと。そして学校のある壁が破壊され、そこに教師らが消火活動を行っているということ。そして風紀委員や自衛できる者などはテロリストを取り押さえているらしい。

一方通行はそのことを聞いてすぐにバイアスロン部が練習している場所へと足を向けた。彼女らが狙われないという保証はない。以前のようにアンティナイトを使われれば彼女らは抵抗出来ないし、魔法を無力化されていなくとも物理的な攻撃では女性にとって大きなものとなる。

講堂を抜ける途中で雫の位置情報を端末で確認する。

外を出た途端、彼は跳んだ。純粋なジャンプ力だけではない、重力による規制をも無視し校舎を飛び越える。ありえない滞空時間の中彼は遠くに存在する二人の姿とその他生徒、更にそこへ走っていく作業着を着た男を捉える。

一方通行着陸直後、テロリストの体は真っ二つに割れてしまった。人間の構造上耐えられない衝撃が加わり皮膚が裂けてしまったのである。

そんなことを気にすることはなく彼はバイアスロン部の中で怯えていたほのかを見い出す。

 

 

「ケガねェか?」

 

 

伸縮性のある杖を引き伸ばし電極のスイッチを切る。周りにいた生徒は一方通行に近寄ってこない。

 

 

「ったくつまンねェ、テロリスト共の強襲と聞いたがこれほどにまでクズだと元悪党として情けなく感じるぜ」

 

 

「一方通行、その男はどうなってるの?」

 

 

雫は自分に襲いかかってきた男の安否を憂う。一方通行の足元には赤黒い液体と臓物が散らかっている。そこには生命の脈動というものは既に存在していなかった。

 

 

「それよりもオマエらは避難しろ。そこの生徒連れて端末通りに動け。そうすりゃァ命は助かるだろ」

 

 

「貴方はどうするの?」

 

 

「俺かァ?俺は」

 

 

「元の世界へ帰る。そうだろ、一方通行?」

 

 

時代遅れな制服を見に纏う金髪でサングラスをかけた男、土御門元春は歩きながら気軽そうに答える。

 

 

「またテロリスト!?こうなったら!」

 

 

女生徒がCADを構えるよりも早く行動できたのは土御門だった。

 

 

「結標、俺から前方10メートル人数は7人。中心にいる一方通行を除いて...飛ばせ」

 

 

一方通行はほのかと雫の肩に触れる。直後、彼ら3人以外の人間は虚空へ消えた。文字通り一方通行の周りには雫とほのかしかいなくなっていた。2人は周りを見渡すが誰もいない。対する一方通行は誰がどんな能力を使ったのか既に分かっている。

 

 

「あら、一方通行、お久しぶり。酷い性癖はまだ治ってなかったのね」

 

 

「結標さん、人の性癖というものはそう簡単に変わるものではありませんよ。現に貴女のショタコン疑惑はまだ晴れていないんですし」

 

 

テロリストが襲撃している最中とは思えないほど軽やかな会話が弾む空間。グループというのは元々こういう部隊なのだ。

 

 

「お疲れ様です、一方通行。こちらの世界もなかなか素晴らしいものですね。学園都市とは違う先端さを感じますね」

 

 

グループの一員、海原光貴は涼しい顔を変えずいつものスーツ姿で一方通行に話しかける。

 

 

「それより飛ばした奴らは何処にやった?壁とかに突っ込んでる訳じゃねェだろ?」

 

 

「安心しなさい、比較的安全な所に飛ばしたわよ。それはそうとその子達なんなの?誘拐でもしたの?」

 

 

結標の後ろで土御門と海原はクスクスと笑っている。土御門は我慢出来ないようで顔に手を当てながら声を漏らす。

 

 

「何笑ってンだシスコンヤロォ、血の繋がってる奴と一線超えるなンざ正気じゃねェよ」

 

 

なんだとぉ、と一方通行に近づいていく土御門を海原ら間に入って2人の怒りを鎮める。

そんな状況にほのかと雫は頭が追いつかない。二人が消えた現象を現代魔法で説明する事は難しい。雫の頭には一方通行が元々住んでいた世界の事だといち早く思いつく。

 

 

「一方通行、この人達は誰?」

 

 

この一言は土御門の笑いの沸点を大幅に超えるものだった。

 

 

「ハッハッハッッ、一方通行、一方通行だってよ。フルネームで呼ばせてるなんてとんだ性癖の持ち主だぜぃ」

 

 

「黙ってろクソヤロォ!次変な事言ったらそのグラサンごとテメェの眼球潰してやるぞ!」

 

 

一方通行に代わって海原が雫達の前に立って説明する。

 

 

「どうもはじめまして、海原光貴と申します。私達は一方通行を連れて帰るよう言われた者でして」

 

 

「連れて帰るってどういうこと?一方通行は元の世界に帰るの?」

 

 

雫は海原に食いつく。彼女は一方通行から何も聞いておらず当の事実に戸惑う。

 

 

「ええ、まあ。彼も仕事でこの世界に来ている訳ですし本来の場所で生活してもらうのが一番かと思いますが、なにか不都合でもあるんですか?」

 

 

「そこまでにしておけ海原、しっかりとした説明はコイツがやるだろ。それより一方通行回収も終わったしこの世界で最後の仕事といきますか」

 

 

そうですね、と言って海原は雫達から離れていき3人の元へと駆け寄る。一方通行と土御門の喧嘩は終わったので険悪な空気など流れていない。

最後の仕事とというワードに一方通行は疑問を覚え土御門に事情を聞く。

 

 

「にゃー、俺達が相乗りしてきたテロリストの駆除だにゃー。この世界の事はこの世界に任せればいいのに上はそんな事微塵も思ってないんだにゃー。どうせ恩を売り付けて後で交渉を優位に進めるためだろう」

 

 

一方通行はそれを聞いて学園都市の本格的な世界侵略が始まると予測した。恐らく既に航空基地や人工衛星、物資を運ぶ大型の潜水艦など様々な軍用物を持ち込んでいるに違いない。

しかし彼に戦争を止める手段など持ち合わせていない。能力は学園都市上層部に制限をかけられている状況であり、これが無くては彼の戦闘能力は著しく低下する。話術に関しては問題外である。

取り敢えずは、

 

 

「クズ共の掃除か、オマエらが乗り込んで来た場所を覚えているんだろォな?」

 

 

「任せなさい、すぐに飛ばしてあげるわ」

 

 

雫はその時の一方通行の白い後ろ姿を忘れることは無いだろう。誰かを守るという使命を持つ者の背中は誇張され大きく見えるのだ。

次の瞬間、4人の姿は消え失せた。

 

 

***

 

 

トスッと同時に着陸するグループ。周囲には魔法を駆使して戦う生徒と重火器を使用して戦うテロリストに分かれていた。しかし学校側の体勢が整ってきた今テロリストに勢いはなくなっていた。もう勝負は決していると見たほうがいいだろう。

 

 

「オイ、土御門。鎮火作業の方が忙しそうだぞ」

 

 

「心配するな、今から忙しくなるぞ。ほら見てみろ」

 

 

そういった後彼らは多くの生徒に囲まれた。多くと言っても12,3人なのだが、それでも囲まれていることに変わりはない。皆CADをこちらに向けている。

 

 

「一方通行、すまん。テロリストと一緒に来たからなんか敵に思われてるみたい」

 

 

土御門の軽い発言に3人はハァとため息をつく。それでも事態は変わらない。

すると囲んでいた輪の外から数人が現れる。

 

 

「お前達も学校を襲撃した人間の仲間だな。大人しくして、って一方通行、もしかしてお前が手引きしたのか?」

 

 

風紀委員長の摩利は驚いた表情をしている。その後ろには服部、十文字も厳戒態勢に入っていた。

 

 

「これは面倒だにゃー。結標、これなら俺達と向こう、どっち飛ばすの楽かにゃー?」

 

 

「それ聞く必要あるの?断然こっちに決まってるじゃない。で、どこまで飛ばせばいい訳?」

 

 

一方通行は周囲を見渡す。視線を上の方に寄せると校舎の屋上が目に留まる。

 

 

「屋上でいいだろ。どォせテロリストの根本ブチ壊す為に本拠地まで行くンだろ。それと土御門、これお前が持っとけ」

 

 

そう言って一方通行は手で握っていたピンセットのケースを土御門へ放り投げる。

 

 

「一方通行聞いているのか?その周りの人間は誰だ?」

 

 

「言っても無駄だ。アイツはお前を見ていない。それより取り押さえるぞ」

 

 

十文字の合図で囲んでいた人間のうち5人程が中心に駆け寄る。体に強化魔法をかけ、他の囲んでいた生徒はCADを中心に向けて取り逃しが無いように見張っている。

だが結標の能力はこの世界で絶大な効果を発揮する。

中心へ飛び込んでいった生徒達は彼ら自身ぶつかり合い標的を捕まえられない。

 

 

「どこだ!」

 

 

そんな様子を4人は空間移動した屋上から眺める。一方通行はさっきまでいた場所から目を移し小型トラックが並ぶ駐車場を見る。

 

 

「なんだ一方通行、仕事をすぐに終わらせたくなるサラリーマンみたいじゃないか」

 

 

「そンなンじゃねェよ。ザラッと見た感じだと装甲車が見当たらねェ。本気でこの学校潰せると思ってんのか、テロリスト共は。それに戦闘員が雑魚過ぎて学生相手に負けてンぞ。こりゃただのママゴトじゃねェか」

 

 

「言ってやるなよ、一方通行。テロやる奴らがまともな戦力持ってると思うか?そもそも調べた限りこの学校を転覆させる戦力は学園都市だとレベル5が2人位必要だろう。そら、仕事再開だ」

 

 

夕焼けの綺麗な空に一方通行の視線は移る。



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10

少し無理矢理感あります。
すみません。


一方通行達グループは一高から少し逸れた脇道に入っていた。海原は一定期間ブランシュに潜入していたため彼らの行動マニュアルはすべて手の内にある。

 

 

「ええと、現在は廃棄されていた工場に本部があるようです。どうします?」

 

 

海原は端末を弄り情報を釣り上げてくる。それを聞いた土御門はある作戦を立てた。作戦と言ってもグループが対テロリスト用の何時もの対処法だった。それは結標の座標移動で戦場のど真ん中に一方通行を送り込み敵を一掃する。零れた者たちは土御門で対処する。

グループ全員はその案に乗った。実際一方通行のバッテリーが残っている現段階でこれ以上の良案は浮かばないだろう。

断続的な座標移動で3人は廃工場へと飛び立つ。

 

 

***

 

 

保健室に壬生が横になっている場所で達也はテロリストの本拠地へ攻め込む作戦を皆に提示していた。風紀委員長の摩利と生徒会長の真由美は当校の安全が確実に確保出来るまで待機となり突入する生徒は決まった。

扉を開け外に出ようとする達也がドアノブに触る前に勝手に扉がスライドした。そこに立っていたのはスーツ姿の青年、海原光貴だった。その姿を見た瞬間摩利と十文字は警戒体勢に入る。

 

 

「申し訳ありません。私、海原光貴という者です。少しお話よろしいでしょうか?」

 

 

柔らかな物腰で説明口調な態度に全員は不信感を覚える。

 

 

「俺達は少し急いでるんで会長に伝えてくれませんか?それにここに侵入できる辺り貴方はテロリストだと思われていても仕方ないと思いますよ?」

 

 

では、と言って廊下に出ようとする達也だが海原の一言でその場の全員が驚愕する。

 

 

「テロリストですか。本日ここにやって来た彼らの本拠地ははずれのバイオ工場で名前はブランシュ、リーダーの名前は司一でしたね」

 

 

「どうしてそこまで知っている?」

 

 

十文字は海原に詰め寄る。巨体の彼が青年に近づくと大きな威圧感を海原にもたらす。それでも彼は決して態度を変えない。

 

 

「いえ、調べたらそう記されてあったので。それより私の話聞いて頂けませんか?それに私はテロリストではありません。当局が発行したIDカードも持っていますし」

 

 

ほら、と胸ポケットからパスポートのようなものに挟まったカードを提示する。ドアから出ようとした達也達は素早く戻ってくる。

 

 

「理解が早くて助かります。では初めに貴方達が廃工場に行く必要はありません」

 

 

「それはどういうことだ」

 

 

達也の言葉が部屋に突き刺さる。

 

 

「私たちの特殊部隊が既に乗り込んでいます。今頃行っても時間の無駄でしょう。それにこちらの部隊の姿を見せたくありません」

 

 

「成程、高度な軍事機密に関わるほどの特殊部隊が既に乗り込んでいるという事か。だが我々とてこの事態に深く関わってる者として終末を見なければならん。行くぞ」

 

 

十文字の後に続き幾人の生徒が保健室から出て行く。その様子を眺め終わった海原はやれやれと手首を振った。

そこへ残っている摩利はCADをいきなり向ける。

 

 

「悪いがお前の話を信用出来ない。ブランシュが襲ってきた時お前と一方通行、その他2人が同時に私達を牽制した。十文字は廃工場に行かなければならなかったからお前を見逃したが、私はお前から詳しい事情を聞かねばならん」

 

 

グループが本拠地へ襲撃を行う前、一方通行を回収する時にばったり出会ったことを海原は思い出した。彼は結標の座標移動を利用しその場から立ち去ったのだが、彼女からして見れば敵対行動だったのだろう。

海原は学園都市から潜入してきた時に持って来た拳銃が腰ポケットにあるのを確認しながら摩利に答える。

 

 

「信用出来ないですか。では我々の目的をお話します。私達はグループという組織に属しております」

 

 

「そのグループというのの目的は何ですか?」

 

 

摩利の隣にいた真由美が会話に混ざり込む。

 

 

「グループは基本上層部から送られてくる任務をこなしていきます。今回の私の目的は戦争激化の阻止、それと貴方たちとのラインを繋ぎたいと考えています。ですがこの二つの目的は我々の上層部の意向に反していてそう簡単にこなせるものではありません」

 

 

「戦争の激化を阻止するだと?今の世界に小さい紛争はあるがそれほど大きな戦争は起こっていないぞ。どこも停戦状態だ」

 

 

「今のこの世界での戦争ではありません。私達がやっきた世界とこの世界との戦争です。時間がありません。詳しい事は一方通行に聞いてください、お願いですから信じ」

 

 

海原の体が虚空に消えた。対峙していた摩利や真由美は場景に驚く。現代魔法でテレポーテーションは確立されていない。それゆえ目の前で起こった現象が何を元にしているのかさっぱりわからない。

廊下から出てあらゆる方向を目で探したが見当たらない。

彼女らは十文字からの連絡を待つ以外になかった。

 

 

***

 

 

「オイ、結局海原はどこ行ったンだ?」

 

 

工場での一仕事を終えて缶コーヒーを口にしている一方通行は土御門と結標に尋ねる。山道の中彼らは徒歩で移動している。

 

 

「知らないぜい。上から指令があったんじゃないのか」

 

 

「まあ関係ないわよ。元の世界に帰るのに支障はないわ。それよりもう帰りましょう。長い間ここにいるのは何かと不味いし」

 

 

「そうだにゃー。じゃまたな一方通行、引き続き学校生活楽しんでろこのやろー」

 

 

一方通行はたいへん驚いた。なにせ今日帰るか帰らないかで随分悩んでいた。それが今になってなかったことになる。

 

 

「待てよ、俺を回収するためにオマエラがこっちに来たンじゃねェのか」

 

 

「それがだな、急遽中止になった。取り敢えずオマエの持っていたピンセットの回収だけが俺達の残った仕事になったんだよ。悪いな、引き続きこの世界の調査頼むぜぃ。んじゃ結標、頼む」

 

 

空へ飛んだ彼らが元いた場所に目をやる。そこには何も残っていない。しかし一方通行の心には深い疑心が残る。ここで彼を回収しない理由と海原だけ別行動をとっていたこと。上層部が絡んでいるとすれば、こちらからアクションを起こすしか判断材料を入手する手段はない。

杖をつきながら潮から間借りしている家に戻る。その途中一高の脇を通りかかったが既に騒ぎは収まっており修復作業が進んでいた。雫とほのかにグループのことを聞かれると思いながらトボトボと一人で帰るのであった。

 

 

***

 

 

水槽のような大きな液体の入った筒状のガラス管に入った人間、アレイスター・クロウリー。学園都市統括理事を統べる権力者であり20世紀最大の魔術師でもある人間は新たな世界へと目を向けている。それは別次元、別世界線上に存在するこの世界とは異なる法則を持つ世界。この人間がある世界にレベル5を送り込んだのには確かな理由が存在する。プランの最終行程に必要な鍵が眠っている。

そう、ただそれだけの為に別世界に侵攻しある鍵を確保する。必要予算など考えたことはない。どれだけの命が無駄になるか考えたことはない。学園都市の力を全て放出し鍵を奪う。

アレイスターの口元がつり上がる。それを確認し人間の脳波を感じ取った生命維持装置は指示通りに動く。

するとそこへ一報が入る。

 

 

『なかなか機嫌がいいようだな、アレイスター。目的の物は見つかったのか?』

 

 

人工的に作られた声がアレイスターの耳に入る。

 

 

『いや、見つかりはしないが似たものは見つかった。これで本物へのアクセス権を手に入れる』

 

 

『ふん、この世界に存在しないものを作ろうとせず元々ある世界からとってくるという発想など思いつきもせんよ。それより一方通行を連れてこなくてよかったのか?あちらの世界の技術、魔法と呼ばれるものの数値化は既に済んだのだろう?』

 

 

人工的な声の合間合間にすぱーっという葉巻を吸う音が交じる。アレイスターは別に嫌煙者ではないので全く気にしない。

 

 

『ああ、数値化は済んだ。対抗策も練ってある。一方通行をそこに取り残した理由はある意味保険だ。鍵にアクセスできなかった場合彼に開けてもらう。どうやら我々の世界は向こうで異物として扱われる。だが向こうの時間感覚で1年を超えようとしている彼には異物反応が起きない。これを利用しない手はない』

 

 

『成程、私はそのうち向こうに行くことになるのかね?』

 

 

アレイスターが自らの手を顎に当て、手術服が液体の中を揺れる。

 

 

『必要であればな。可能性はあると考えてくれ』

 

 

通信が切れる。水中で静かに笑うアレイスターは全てを察しているかのように呟く。

 

 

『ふふっ、首を洗って待っていろよ、魔法師共。私を挑発した事を後悔させてやる』




これにて1部終了です。


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2
10.5


自宅で寝ていた一方通行が玄関のチャイムに気づいたのは稀でもなく偶然だった。彼が玄関に設置されたカメラからその様子を覗き込む。そこに映っていたのは3人の少女だ。北山雫、光井ほのか、明智英美。いつもの制服姿ではなく私服だった。かく言う彼はいつもと変わらない白の衣装。そこで彼は先日した約束を思い出した。

 

 

「「魔法理論の勉強を見て下さい!」」

 

 

これを聞いた時一方通行はビビった。頭を下げて願われる事など彼にそんな経験値はなく、しかも学校の机にのんびりと外の景色を眺めている時にいきなりだ。

 

 

「次の定期考査に向けて勉強するから教えて」

 

 

雫が本筋を教えてくれた。彼にとって学習するということは苦ではない。しかし教えたことは一度もない。それでもいいかと彼女らに聞くと大喜びしていた。実は深雪に同じことを頼んだのだが彼女は兄とともに勉強するということで断られてしまったらしい。そんな中白羽の矢が立ったのが一方通行だ。理論分野において一学年の中でトップであり実技もまあまあいい。

 

 

そんな約束。場所は一方通行自宅で集合時間が午前10時だったようだ。そんなことをいちいち覚えていない彼は取り敢えず自宅に招き入れた。

 

 

「お邪魔しまーす、って何この缶コーヒーの残骸は!?」

 

 

英美の大きな声が部屋に響き渡る。

部屋のゴミ箱には入りきらなくなった缶コーヒー、テーブルの上にも缶コーヒー、あらゆる場所に缶コーヒーが置いてあった。種類は一つだけではない。2,3種類のコーヒーが廃棄されている。

3人が立ち止まっている所へ一方通行が奥の部屋からやってきた。カツカツと杖をつきながら歩く様子は何時もとは異なっている。頭をガシガシと掻きながら、おゥと挨拶する。

 

 

「勝手に座ってゴミは適当なとこに捨てとけ」

 

 

そう言いながら彼は1人冷蔵庫を開けて缶コーヒーを取り出す。カフェイン中毒なのではないかと雫は疑い始めた。

ダイニングにあるテーブルを綺麗に片付け勉強できるスペースを確保する。それぞれの席に女性陣は座り、一方通行は少し離れたソファに寝転がる。

 

 

「まァ勝手に勉強してろ。分かんねェとこあったら声かけろ。全部分かんねェって言ったヤツはぶん殴る、以上」

 

 

「一方通行は勉強しなくていいの?今回は九校戦のメンバー選考に繋がるから真面目にやった方がいいんじゃない」

 

 

「あァ、九校戦ってアレか、大覇星祭みてェな奴だろ。俺が出る必要なンざねェよ。それよりさっさと勉強しろアホ」

 

 

一方通行は雫の頭にチョップを入れ、ううっと項垂れる様子が見て取れる。

そこから2時間弱合同勉強が始まった。女性陣で教え合うこともあったし一方通行のところへわからない問題を持っていき教えてもらうこともあった。この2時間で最も多く質問に行ったのは意外にも英美だった。初めの頃はおずおずとしていたが一方通行の分かりやすい説明が癖になったのか何度も行くようになった。

時計が12時30分を指す頃、一方通行は立ち上がり机に向かっていた少女に話しかける。

 

 

「オイ、飯食いに行くぞ」

 

 

残念な事に一方通行は自分で料理が出来ない。それどころか彼の家には食事時に食べる物のストックが一つも無かった。家にある食料品は缶コーヒーしかない。

彼の言葉を聞いた3人は学習する手を止め外に出ていく一方通行に着いていく。

 

 

「ねえねえ、一方通行、お昼ご飯ってどこに食べに行くの?」

 

 

既に呼び捨ての英美は玄関を出た所で彼に尋ねる。街中の方へ向かっていた一方通行は振り向かずに歩きながら答える。

 

 

「俺がいつも飯食ってるとこ。別にテメェらはなんでもいいンだろ?だからそこ」

 

 

雫とほのかはその発言に驚いた。彼が外で食事をしているとこなど見たことがないためである。雫と一時共同生活を送っていた時はコンビニかファミレス、家での食事には必ず缶コーヒーと偏食が激しい。そんな一方通行に適している店などあるのだろうかと不安になっていたが、数分も歩くうちにある店の前に到着する。店にはopenと書いてある板が立て掛けてあり、中に人がいる様子はない。そんなことも気にせず一方通行はドアノブに手をかけ中へと入っていく。それに続き雫らも一緒に入っていく。

 

 

「いらっしゃーい。カウンターとテーブルどっち?」

 

 

気さくに話しかけてくる店主らしい人物が聞いてくる。テーブルで、と一方通行は言うと4人は案内された場所へと座る。

 

 

「んで、注文は何にする?お嬢さん達?」

 

 

「すみません、メニューとかってないんですか?」

 

 

ほのかが注文を聞いてきた女性店主に聞くとその女性はいつものことかのように質問に答える。

 

 

「ああ、うちはメニューなんかないよ。何でもあるからね、その分値段は高くなるけど」

 

 

「ッチ、オマエらめんどくせェな。オイ、コイツら3人昼のランチセット。俺はステーキとコーヒー」

 

 

はいはい毎度、と注文を伺うとすぐに厨房の方へ走っていった。一方通行はコーヒーが出てくるまで外の様子を眺めるのがこの店に来た時の習慣になっていた。

そんな様子を気にすることなく英美らは九校戦の話に夢中になっていた。どんな種目に出たいか、どのようなコツがあるのか、他校の注目選手は誰かなど、そんなことを話しているうちにランチセットとコーヒーが到着する。

 

 

「はいお待たせ、ランチセット3人前とコーヒー。一方通行、会計はどうすんの?まとめて払うでしょ?」

 

 

店主は一方通行がここの常連客であることを知っている。それに注文以外にも結構話しているためタメ口である。

それに対し一方通行も別に悪い気はしなかった。元の世界で話しかけてくる奴は殆どいなかったし、いたとしても一方通行の力に恐れ酷く怯えて会話にならないこともあった。(まぁ打ち止めや番外個体など彼にも親しい人間はある程度はいたが)

 

 

「4人だから2万か、ほらよ」

 

 

一方通行はポケットにしまっていた財布から一万円札を2枚手渡す。ランチセットを食べようとしていたほのかはこのやりとりで体が震えてしまった。

 

 

「一方通行さん、4人で2万ってことは1人5000円っていう事ですか?」

 

 

あァ、と軽く頷いて出されたコーヒーに口をつける。ほのかの金銭感覚で昼食に5000円はありえなかった。結構な金持ちの娘、北山雫ですら一方通行の金銭感覚に疑いを持つ。それに比べ英美は食事の挨拶をしてバクバクと食べていた。

 

 

「すごい美味しい!高級レストランみたいな場所に負けないくらい美味しいよ」

 

 

そこへ一方通行が注文したステーキが届いた。熱い鉄板の上に乗った牛肉にバターが乗っている。彼は隣に置いてあるナイフとフォークを取り出し食べ始める。

 

 

「ねえ一方通行、いつもこんな感じの食事してるの?お金なくなんないの?」

 

 

「別にテメェの親父からの金で食ってるわけじゃねェよ。つかもう潮の野郎から支援受けてねェ」

 

 

一方通行の生活は今まで北山潮との契約で発生する金銭で成り立っていた。しかし現在では北山雫、光井ほのかの両方の護衛の契約しか存在しない。なぜなら一方通行が金銭を獲得する手段を手に入れたからである。先日のテロリスト襲撃時、彼の元仲間グループに接触しこちらの世界で一方通行の口座を開かせた。そこに一方通行の金を振り込むこともさせ今では金的支援を必要としないまでになった。

 

 

「それにしてもガタガタ言うなこの鉄板」

 

 

そう言うと彼は左手で熱々しい鉄板を抑えた。そこから右手に握っていたナイフで肉を丁寧に切っていく。

異様な光景を目にした少女らはランチセットを口に運ぶのを忘れ一方通行の方を見ていた。そんなことを気にすることなく肉を一口大に切り終えた一方通行は先程まで鉄板を握っていた左手にフォークを携え肉を口に運んでいく。

彼は魔法演算領域に代替させ手のひらだけにベクトル操作膜を作っている。そのため彼の手には余分な油や熱、彼の日常生活にとって不要なあらゆる現象は無効化される。こうしたごく限られた範囲であれば能力の使用は可能である。

全員が食べ終えるまで他の客は1人たりとも入ってこなかった。その間店主は雑誌を読み耽っており、客寄せをしようとする素振りは一切見せない。3人は奢ってもらったことに礼を言う。

一方通行の家に戻り勉強する予定だった4人は寄り道することなくしっかり戻っていく。(途中一方通行が自販機の缶コーヒーを購入したことは寄り道に当たらない)

帰宅した4人、そのうちの1人は帰るなり直ぐにソファに身をだらけさせる。残った3人は洗面台で手を洗い勉強道具を置きっぱなしにしたテーブルに着席する。彼女らは食事して間も無いのであろうかすぐには学習に手がつかない。

 

 

「九校戦だけど今年の1年生はすごくレベルが高い。七草先輩たちの世代に匹敵するとも言われている」

 

 

「へぇー、それじゃ優勝間違いなしだね!」

 

 

ほのかは九校戦を長年見てきた雫の意見に付け足す。

九校戦というのは一高から九高までの学校から選出されたメンバーが繰り広げる団体競技の総称である。正式には全国魔法科高校親善魔法競技大会というものである。種目数は6つで各校から3人が出場できる。

 

 

「うちのクラスのスバルもすごいしレベル高いね」

 

 

英美も一高のレベルの高さを実感している。なにせ二年連続で優勝している実力校だ。故に今年の三年生は三連覇がかかった大事な大会となる。力が入るのはその為であろう。

 

 

「一方通行も本当に出ようとしなくていいの?」

 

 

ぐだりとしていた一方通行は首だけを動かしテーブルに向かって言葉を放つ。

 

 

「バーカ、ンなつまんねェモンに出る訳ないだろ。そもそも俺が出たら競技事態成り立たなくなるだろ」

 

 

彼の能力を使ったとすれば全ての戦略が崩れる。スピード・シューティングだとすればクレー射撃範囲内のベクトルを観測して行先を予測してしまえばそれで終わる。クラウド・ボールは気圧差を利用し風のベクトルを操作してしまえばボールは絶対に向こうに落ちる。バトル・ボードやアイス・ピラーズ・ブレイクに至っても同じだ。彼が出れる競技があるとすればモノリス・コードぐらいだろう。

 

 

「え、え、どういうこと?一方通行ってそんなに凄い魔法師だったの?」

 

 

「そうじゃない。一方通行はBS魔法師で私たちよりも特殊だから魔法が普通じゃない」

 

 

「成程、そういうことねー。それなら空飛んだっていう噂に信憑性があるのも納得」

 

 

英美や大勢の一高の生徒は一方通行の存在を未だに不思議と感じている。私服の生徒、首元にチョーカーと現代風のデザインの杖、色の抜けた白髪とウサギよりも殺気を帯びた赤い瞳。それに加え空を飛べる。この噂は元々Aクラスの中だけで信用されていたが、風紀委員長の渡辺摩利が「あいつは空を飛べる稀な魔法師だな」と発言したことにより校内全てに及んでいった。

 

 

「それよりテメェら勉強しなくていいのか?」

 

 

少女らのうわーっという叫びと共に一方通行は睡眠体勢に入った。



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11

定期考査が終了した。休みの日の合同勉強会が実を結んだのかは知らないが4人とも好成績であった。実技と筆記の総合では司波深雪がトップで2位に光井ほのか、3位には北山雫とAクラスが占領していた。実技ではほのかと雫の順位が逆転している。そして筆記では二科生の司波達也が2位でその次に司波深雪。肝心の1位は入学試験同様一方通行という結果に終わった。点数開示は行われていないが個人の元へ試験点数は教えられることになっている。そこに記されてあることに一喜一憂する彼ではない。

クラスの周りには一方通行を羨む者が多くいた。なぜなら魔法理論の授業において最前列に座ってる一方通行の様子にある。先生の説明をノートを取るなり端末にまとめたりする事はなくただ話を聞くだけ。たまに窓の外の景色を眺めある意味勉強という行動を舐めている。それであの試験結果である。天才型の人間と努力型の人間はそりが合わないのは永遠であろう。

最近一方通行は一人で帰るようになっていた。ほのかと雫は部活が忙しくなっており長い間待つのも迷惑だと言われ一人悲しく帰る。今日は図書館で一人魔法関連の資料を読み漁っていた。学園都市勢の襲撃が考えられないことも無いので彼らとは異なる科学力の象徴となっている魔法を身につけるためである。

彼の能力だけでも十分に学園都市と戦えるだけの力はあるが、それは制限されない状況下にある場合のみであり実際はあらゆる妨害が懸念される。支援が無い場合でも魔法演算領域による自由行動と敵と戦えるだけの魔法の力や重火器を使用できる体がなければ勝負にならない。幸いなことにグループにいた頃海原に拳銃の使い方は教わっており、杖をついた状態でも弾倉の入れ替えは可能である。魔法に関しても自分だけの現実を出力する過程と魔法を発現させる過程は似ているため、後はどれぐらい精度や力を上乗せ出来るかに懸っている。現在の実力は実技の考査により把握しており、そこからどの方向に特化するかどうかを判断する。

突然彼の端末が震え出す。

 

 

「あァ?」

 

 

『あ、一方通行!?お願い、早く来て!』

 

 

雫からだが何かとても焦っていた。

 

 

「場所は?」

 

 

『部活連本部で、』

 

 

一方通行はそこで電話を切る。次に自らの端末を操作し部活連本部の場所を検索する。その間に図書館から外に出る。そして部活連本部へ飛んで行った。

 

 

***

 

 

「雫?ちゃんと呼んだの?」

 

 

雫の隣に座っているほのかが小声で話しかける。

 

 

「うん、でも多分今ここにいる全員が危ないと思うからみんなに呼びかける」

 

 

ほのかは雫の言っていることの意味がわからなかった。

対する雫は挙手して意見を発する。

 

 

「すみません、言われた通り一方通行を呼び出しました」

 

 

「ご苦労だった」

 

 

雫に礼を言ったのは部活連の代表である十文字克人。大柄な体でとても圧迫感が強い。

この会議は九校戦の代表選別会であり雫が一方通行を呼んだ理由は彼が選手に選ばれたのだが会議開始時刻にまで来ていないことだった。一方通行自身は九校戦に出るつもりは毛頭ないが、生徒会や部活連の協議により選ばれてしまったため拒否権はない。

至るところから一方通行に対する非難や文句が現れるがすぐに消える事となった。

扉が開かれ白い人間が立ち尽くす。周囲を見渡し雫とほのかの姿を確認した彼は彼女らの元へと行こうとするが、途中で十文字に今日会議に来なかった理由を聞かれた。

 

 

「メンバーに選ばれたなんて知らねェ。それに俺は出るなんて一言も言ってねェ」

 

 

「しかし選ばれた以上選手の義務を果たすのが努めだろう。安心しろ一方通行、お前のその杖や身体能力を考慮した競技に選出させた」

 

 

そういう問題じゃねェよ、と言いそうになった一方通行だがここで口論していても仕方が無いので取り敢えず呼ばれた方向へと足を運ぶ。

 

 

「よし、これで全員が揃ったな。我々部活連としては一方通行をスピード・シューティングの本選メンバーに推薦する」

 

 

「そして私達生徒会は技術スタッフとして司波達也くんを推薦します」

 

 

2人の推薦意見を聞いた上級生や他の生徒は大きく動揺した。どうして2科生が、やる気のない生徒にどうしてやらせるなどと言った文句が飛び交う。

 

 

「一方通行についての説明は俺がしよう。アイツを本選に出場させる理由は二つある。一つはテストの結果と実技だ。筆記は勿論のこと実技においても優れた能力がある。本人の身体的制限が無ければ新人戦のモノリス・コードに出場させていた。二つ目は渡辺、お前が説明しろ」

 

 

「ああ、ここにいる者で一方通行の能力を知っている者は数少ない。噂で知っている者もいると思うがあいつは空を飛べる」

 

 

「それが関係あるんですか?モノリス・コードならわかりますけどスピード・シューティングでは空が飛べても無意味でしょう」

 

 

ある生徒が口を挟む。

 

 

「それを今から説明しようとしていたんだがな、まあいい。一方通行が空を飛べるということが重要なんじゃない。その空を飛ぶために用いた魔法が重要なんだ」

 

 

空を飛ぶためと言ってもBS魔法に近いヤツだろ、いや重力系かもしれないぞ、などと一方通行を対象に意見の言い合いが始まる。視線は自ずと一方通行に集まる。

 

 

「空を飛ぶために使った魔法を見せてくれないか?一方通行。それを使えば皆は納得するだろう。それだけの価値がある」

 

 

そう言われた本人は乗り気がしなかった。純粋に面倒だという事もあるがこの力は魔法ではない。ましてや超能力とも異なる次元に存在する力だと一方通行は考えている。隣に座っている雫の様子を見たがここまで大事になるとは考えていなかったのだろうか、俯き両手の小さい拳を固く握り締め何も言わない。

事態を手早く収束するには見せるのが一番簡単だろう。この際九校戦のメンバーに選ばれてしまうのは、雫にかかっているプレッシャーを素早く取り除くためには仕方がない。雫の頭を軽く撫でながら言う。

 

 

「窓開けろ」

 

 

その一言で窓側に座っていた生徒は窓を開け始めた。夕焼けが濃く優しい風が入ってくるのを肌で感じることが出来る。一方通行は自分の体重を支える杖をほのかに預け壁に寄りかかりながら開いた窓にたどり着く。

 

 

「何分飛べばいい」

 

 

「私がやめの合図をしたらやめていい。よし皆見ていろ、これが私が一方通行を推した理由だ」

 

 

窓に寄りかかっていた一方通行はくるりと頭から地面の方向へ落下していく。それを追うように多くの生徒は窓の方に駆け寄って下を見るがそこに一方通行の姿は見当たらない。

だがある生徒が彼の姿を発見した。下ではない。窓に向かって直線上にいる。白翼を肩甲骨付近から噴出させ空中を漂っている。

美しい白い翼は一度もなびかない。揚力による飛行ではなく何か違う力によって上へと体を運ぶ力が加わっている。

 

 

「よし!もういいぞ。戻ってこい」

 

 

そう言うと九校戦に選ばれた生徒は全員自分が元座っていた席に戻る。そして一方通行が窓に手をかけ翼を霧散させる。

 

 

「この力は九校戦の本選にも大きく貢献することだろう。そういう訳で十文字は一方通行を推薦したわけだ」

 

 

半ば納得という形で一方通行の問題は終了したが次に二科生、司波達也の問題が協議されたが結局は彼も実演して見れば分かるということでCADの調整をさせられた。

 

 

***

 

 

固まった出来事が終了し一方通行は家に帰るが後ろから雫がついて来た。一方通行は何も言わない。何か言ったところで雫は多分答えないだろう。恐らくあれだけ出たくないと言っていた一方通行を連れ出し、遂には本選のメンバーにしてしまった。その責任に潰されそうなのだ。

一方通行の自宅までたどり着く。彼は俯きながらついてきた雫を自宅に入れ缶コーヒーを渡す。

互いに会話はしない。

時間は流れる。

 

 

「別にテメェのせいじゃねェ。やるとなった以上仕方ねェだろ。何時までもグチグチすンな」

 

 

それだけ言うと雫を彼女の自宅まで送り届けた。

そしてその足で以前訪れたある場所へと向かった。その場所は依然として変わらず草が生い茂ったままだった。石碑は何も変わっていない。

窓の無いビル、そこの内部に何があるのか。

そんなふうに思案していると突然石碑が揺れ始め地面に階段が現れる。そこにはホログラムで表された文字が浮かんでいる。

 

 

『ようこそ一方通行。私の城に案内しよう』

 

 

アレイスターかと一方通行は思った。窓の無いビルに住んでいる人間など彼しかいない。しかし今はそれよりもこのビルに何があるのかが問題だった。

階段を進むと入口が閉鎖される。侵入者対策なのだろう。道幅はそれほど大きくなく人が2人やっと通れるぐらいだった。道を突き進む。すると部屋の壁全体が白い場所へ着く。

その中心にはとても大きいフラスコの様な物が置いてあり、その周りを見たこともない機械が埋め尽くしている。フラスコを覗いて見たが中には何も入っていなかった。すると次は彼の端末にメールがやってくる。

 

 

『下へ向かいなさい』

 

 

指図されるのは性に合わないが今はそんな事を言っていられるほどの余裕はない。大きいフラスコと周囲の機材、それに機械は未だに完成しているようには見えなかった。

下へと向かう階段を降りていくとどんどん暗くなっていった。照明がなく足元も見えづらくなってきた。階段が終了し平坦な床が現れる。気味の悪い音と共に床から淡い光が浮かび上がってくる。そして目の前に現れたのが一方通行にもはっきりと判断できた。

 

 

「嘘だろ」

 

 

黒い箱が延々と続いて並んでいる。一方通行の背中に冷や汗が流れ出す。不気味な感覚は拭えない。

 

 

『樹形図の設計者、これが意味する事を君が知らない訳はないだろ?』

 

 

一方通行は全てを理解してしまった。何故自分がこの世界、妹達の恩恵が無いこの世界で不自由なく過ごせる理由。このビルから特殊なネットワークが放出されている理由。

そして能力を発現するための代替演算を自らの過ちの象徴とも呼べる樹形図の設計者に任せていたこと。

彼は床に崩れ落ちる。杖はカラカラと音をたてて演算装置にぶつかる。彼は自らの頭を手で抑え現実を考えようとしたが諦めてしまった。そして能力使用モードにチョーカーを切り替えた途端、周りに存在するあらゆるコンピュータが唸り出した。

確定である。

一方通行は口元を歪め乾いた笑い声を吐き出した。精神的なダメージは計り知れない。悟った彼はビルから這い出る。



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12

軽い絶望を味わうがなんとか自分の家に帰ってくる一方通行。自分の行ってきた事を受け入れるという大人への階段を踏み出して入るが、あそこまでの事実をそのまま飲み込むことなど10代の彼には出来なかった。ある程度屈曲させ自分でも納得のできる形に整理し受け入れる。これが自分のやって来たこれまでの過ちに対する一種の償いであろう。

全てありのまま受け入れれば彼は壊れてしまう。自己の防衛本能が働いたと言っても過言では無い。

一方通行がチョーカーに触れる。この演算能力を維持するためには窓の無いビルに存在する樹形図の設計者が無ければならない。

 

 

道具だと割り切れ

 

 

頭の中に文字が浮かぶ。

 

 

利用できる物は何でも利用しろ

 

 

眠る前に最後。

 

 

守るためだろ

 

 

それから一方通行は7月中は学校に登校しなくなった。

 

 

 

***

 

 

8月1日

一方通行は朝早くに家を出る。九校戦の会場へと向かうバスに乗り込むためである。集合予定時間よりもだいぶ早いがそれには訳があった。それはコンビニで缶コーヒーを補充することだった。衝撃の事実が判明して以降彼のコーヒーの消費量が一段と増えた。暇さえあればコーヒーを飲むようなそんな状況に陥っていた。

コンビニで缶コーヒーを買い一高へと向かう。駐車場へと足を運ぶと大型バスが見えてきた。そこには続々と選手が入っていく様子が見て取れる。彼もそれに混じりバスに乗っていく。

空いている席に彼は座る。隣に生徒はいない。彼は床に買ってきた缶コーヒーの山をビニール袋に包まれたまま乱雑に置く。そしてそこから1本取り出し蓋を開けた途端隣にある生徒が座ってきた。

十文字克人である。体の線が細い一方通行とガタイのいい十文字だと2人で座るに丁度いいと彼は思ったのだろうか。

 

 

「選考会から学校に来なかったのはなぜだ」

 

 

周りが騒いでいるのにもかかわらず彼の声は一方通行の耳にしっかりと入っていく。缶コーヒーに口をつけ十文字に答える。

 

 

「CADの調整」

 

 

成程、と十文字は納得したのかズシリと音を立てて姿勢を直す。

別にこれは嘘ではなかった。一方通行は九校戦において能力を使用することを禁じることにした。これは自らの魔法がどれ程通用するかを試すためであり、更に学園都市の技術力がこの世界でどれほどの力を持つのか判断する為である。出場する以上勝ちに行くのは当たり前だが、能力を使用してまで勝とうとは思わない。

そのための学園都市製特殊CAD。九校戦の規定に沿ったCADのため本来の性能よりもグレードダウンしているが一方通行が使うにあたって問題は無い。学園都市では魔法の概念が薄いためテストプレイはしていないが彼は心配していなかった。このCADがこの世界では常軌を逸した物になるとはこの時点の一方通行でさえ予測できてはいなかった。

缶コーヒーをいくらか飲み干して暇を潰しているが未だにバスは出発しなかった。どうやら生徒会長である真由美が遅れているらしい。詳しい事情は彼にはわからない、そしてコーヒーに飽きてしまった。

彼は情報端末を開き設計図から3D状態に可視化されたCADモデルを映し出す。現代魔法を使いこなす魔法師がこれを見てもCADと分からないだろう。

 

 

「一方通行、それがお前のCADか?」

 

 

まァな、とだけ答えて疎らに出てくる数値を眺める。理論上では全く問題ない代物だが現実世界ではどんなトラブルがあるか分からない。そのため今表れているこの数値を鵜呑みにすることは出来ない。

ある程度時間が経ちバスが動き出した。どうやら真由美が到着したらしい。公道に入りバスの中は一層騒がしくなった。そこで彼は瞼を閉じ耳に反射膜を生成し眠る事にした。

 

出発からどれぐらい経ったのだろうか。彼が目を覚ました時には既にバスは止まっており会場近くのホテルに着いていた。バスの中には彼しか居ない。足下に置いていたコーヒー缶は丁寧に並べられていた。恐らく誰かが整理したのだろう。

目をゴシゴシと擦り視界をはっきりとさせる。快晴過ぎて部屋の中でゆったりしていたい空模様。彼は缶コーヒーを全て持ちバスから降りる。すると玄関口に真由美の姿がありこちらを認識したようだ。

 

 

「バスの中ではぐっすり眠っていたようね」

 

 

ほら、と彼女は自身の端末を取り出し画像を出現させる。その画像とはバスの中で眠る一方通行であった。

 

 

「盗撮趣味の女ってのはロクな奴がいねェな」

 

 

「待って待って、今夜は懇親会があるからちゃんと正装で来てね」

 

 

一方通行は九校戦に殆ど何も持ってきていない。今手元にあるのは端末と杖、そしてカードの3つだけだった。九校戦専用のブレザーはともかく制服などは当然持ってきていない。その旨を伝えるとため息をつかれた。

 

 

「制服着用義務を免除していたけど流石にまずいわよ」

 

 

「仕方ねェだろ。別にいちゃもンつけてくる奴なンざ無視しとけばいいだろ。俺は用事があるから、じゃァな」

 

 

ホテルの鍵を彼女から奪い取りロビーに入っていく。エレベーターへ向かう途中入学式の日に見た生徒集団が私服でいるのを見たが、彼には関係ないので受付にコーヒーのゴミを捨てるように言って部屋へ行く。

午後2時、そろそろ一方通行が予約していたCADが到着する頃なのだが端末に連絡が来ない。焦っていても仕方ないことなのでホテルの一室から出ようとする。すると一方通行がドアを開けるまでもなく勝手に開いた。そこにいたのは森崎駿だった。

 

 

「相部屋はお前か、俺の邪魔すンじゃねェぞ」

 

 

わかっている、とだけ言って部屋に備えてあった椅子に座る。彼は一方通行から見てもはっきりとわかるぐらい元気がなかった。ため息までついている。

そんな様子を傍から見て機嫌が悪くなったのか一方通行は森崎を外に連れ出す。

 

 

「着いて来い」

 

 

「な、なんだよ!パーティーはまだ始まってないぞ!」

 

 

「そうじゃねェよ。そもそもお前みたいなアホ面と一緒に行ったら笑われンだろォが」

 

 

そう言うと2人は共にエレベーターに乗った。

一階にたどり着きロビーから表に出るとそこには大型の作業車が停車していた。その後ろには普通乗用車もついて来ていた。運転手は一方通行の姿に気付いたのか運転席から降りてきて端末を差し出した。それに応じて一方通行も端末を差し出しお互いに何やら情報を交換している。森崎は何をしているのかわからずただ立っているだけだった。

 

 

「ありがとうございましたー、またのご利用宜しくお願いします!」

 

 

運転手は一礼して後ろの乗用車に乗り込むとすぐに帰って行った。空席になった運転席に一方通行は座り隣に森崎を座らせる。

 

 

「一高の待機場所って何処だ?」

 

 

「あそこだがもしかしてこの中に入っている機材全部お前のものなのか?」

 

 

「そうだ、お前を連れてきた理由は必要な機材を俺の部屋に運ぶ人間がいるから。手伝えよ」

 

 

理不尽だ、などと口走りながら車は一高の作業車の隣に自動で動いていく。一方通行はリモート設定で操作しようとしたが自動操縦モードがあったので楽をした。

大型の作業車が停止すると作業車で調整をしていた一高の生徒が周りに集まってきた。これほど大きな作業車は滅多に見られない為である。一方通行が降りて後ろの搬入口を開けようとすると話しかけてくる女性がいた。

 

 

「これは貴方のCADの為の設備ですか?」

 

 

市原鈴音。今九校戦における作戦チームに属している生徒会の人間で、一方通行は4月に面識があるだけの者だった。

 

 

「そうだな。俺のはデリケートだからこれぐらいねェと壊れちまうンだわ」

 

 

「そうですか、ではCADを見せて頂けますか?本作戦において貴方が何処まで勝ち上がれるかの判断材料にしますので」

 

 

一方通行は運転席に戻りダッシュボードに入っていた一般的なCADを鈴音へ見せる。

 

 

「お借りします」

 

 

保管しておいてくれ、と一方通行は彼女に頼み森崎を呼ぶ。

 

 

「ンじゃお前はこれを部屋まで持ってけ」

 

 

そう言うと彼は2つのアタッシュケースを森崎に突き出す。地面には一方通行がホテルまで持っていくアタッシュケースが1つ置いてある。森崎は人がいいのかどうかは分からないが2つ持っていくことにした。一方通行は杖をついているためあまり重い荷物は持てないし片手しか空いていない。

2人が並んで歩いていると片方が話し出す。

 

 

「なあ、どうして放課後の九校戦の練習に一度も出なかったんだ?」

 

 

森崎は新人戦のスピード・シューティングのメンバーである。このこと自体は誇れる素晴らしいことなのだが、隣にいる一方通行は本選のスピード・シューティングの選手。比べればどちらが選ばれる時点で優秀なのかがはっきりとわかる。そのことについて森崎は悩んでいた。純粋に喜べない。同じ学年、同じクラスに同じ種目で一段上の人間が存在する。

 

 

「色々あったンだよ、察せ」

 

 

そうか、と呟きホテルまでの道のりを歩いていく。ここで心配しても仕方が無い。新人戦で勝って評価を上げる、これが今の森崎に出来る最大の好手である。

それから数時間後一方通行はパーティーの本会場へ向かった。森崎は既に会場へと向かっているため彼一人となる。時間ギリギリという訳ではないが始まる寸前までホテルの一室にいるのは彼ぐらいだろう。会場の扉を開けると既にパーティーは始まっているようで話し声が幾らか聞こえる。コツコツと歩いていると周りから煙たがられるような色々な言葉が聞こえる。出る杭は打たれるとはよく言ったもので、彼が一高の集団に辿り着くまで声はかけられなかった。

 

 

「あ、一方通行」

 

 

雫がいち早く彼の接近に気が付いた。何時もの白い薄手の服は夏には絶対に合った格好ではない。一高ではそれが一方通行のトレードマークとなっているのもまた事実。

彼は雫を見つけこちらへと向かってくる。

 

 

「アッくん、パーティー楽しんでる?」

 

 

「ウゼェ、オッサン臭いネタで絡ンで来ンじゃねェよ」

 

 

ひどい!と言われたが全く気にしなかった。

一高集団の人間と彼は結構話した。雫やほのかが側にいて友達の友達という関係の人間が多かったが、しっかり話していた。森崎駿を弄って遊んでいたりもした。

 

 

***

 

 

そして大会初日。観客席には達也の仲間達が真由美の試合を観戦していた。1つのクレーも落とすことなくパーフェクトで試合を終わらせた時、空の上にある飛行艇からアナウンスが鳴った。

 

 

『ただ今行われたスピード・シューティングにおいてCADの不正疑惑が浮上したため一高の一方通行はCADを大会運営本部まで持ってきて下さい。繰り返します...』

 

 

その場にいた一高の応援団や達也らは大いに驚く。

 

 

「雫、一方通行はどんなCADを使用したんだ?」

 

 

「わからない、でも九校戦のために作ろうとしていたことは知ってる。お父さんに頼んでたらしいんだけど結局一人で作るとか何とかって」

 

 

次は見に行ってみようぜ、とレオが提案しその場の人間は皆一方通行の次の試合会場へ向かった。(会話の途中で不正疑惑が晴れたので)

その会場についた時には既にほぼ満席状態であった。異常だったのは見に来ていた観客の大半がスーツを着ている企業の人間だったことである。

 

 

「すごい数だな」

 

 

達也が呟く。

 

 

「先程の疑惑で興味を持った方が多勢来たのでしょう」

 

 

深雪は冷静に判断し空いている席を見つけた。そこで一方通行の入場を待つ。

 

 

「そういえば一方通行さんの得意魔法は何かあるんですか?定期テストの結果は素晴らしいものでしたよね」

 

 

「本人は公言していないそうだ。だが大会選出会議で顕にした白翼の力がどれほどの物か見ものだな」

 

 

美月の質問に客観視された評価を下す達也。するといきなり会場が沸き上がった。歓声だけでは無い。ブーイングと呼ばれる不当なコールも付いてきた。だがスーツ姿の人間たちは皆手元の機械などを弄り測定を始めていた。

 

 

「なんかスゲェな、1回戦の時になんかやらかしたんじゃねえのか?」

 

 

「ホントね。ここまでブーイングが激しい九校戦なんか初めてじゃない?」

 

 

レオにエリカは周りの空気が嫌なものに囲まれるのを肌で感じた。後ろに座っていたほのかと雫はじっと一方通行登場を見守る。彼の隣には台車を押し進めている森崎駿が付いていた。

 

 

「なんで森崎が一緒にいるんだ?アイツは新人戦じゃないのかよ」

 

 

「恐らく一方通行の荷物番だろう。本人は杖で荷物が思うように運べないから手伝って貰ってるのかもしれん」

 

 

一方通行がステージに立ち森崎が台車からアタッシュケースを7つ下ろして一方通行の背後にあるベンチに座る。

ようやく一方通行のCADの本来の姿が出現する。



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13

結構オリ設定あります。
ご注意下さい。


『さあ、始まりました!第2回戦!今回注目の選手はなんと言っても一高の一方通行。1回戦に見せた魔法とは異なるのか否や!まさに注目の一番です!』

 

 

飛行艇から鳴り響く実況チャンネルの声が一方通行にも届く。そんなことを気にせずCADを展開し始める。

 

 

***

 

 

「来るぞ、こんなCADどこの会社でも開発してないぞ」

 

 

「我々としてはあの技術をどうにか手に入れたいな」

 

 

「最後のパーティー、あれに賭けるしかないな。だが大会本部のCAD検査記録にアクセス出来れば簡単に入手出来そうだがな」

 

 

「馬鹿野郎。大会本部にはあらゆる人間が参加しているのに誰1人としてあのCADの異常性を見抜けなかったんだぞ?その時点で秘匿技術も格段に上だろう」

 

 

レオの後ろの大人はなにやら複雑な話をしていた。

次の瞬間、大量のフラッシュが一方通行に向けて放たれることになった。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

「安心しろレオ、カメラのフラッシュだ。それにしてもこれだけの技術者が見に来るなんて...アイツは1回戦の時にどんな魔法を使ったのか気になるな」

 

 

技術者としての達也の心が動き出した。

フラッシュ禁止の指示が出され皆はカメラを取り下げた。そこで見えてきたものは違和感そのものだった。

2つのアタッシュケースからは接合アームが伸び一方通行の左腕に他のケースからCADを取り付けていく。CADと呼べるのだろうか、それら同士をボルトで繋ぎ止めていく。一つ一つのCADがまるで部品のように、左腕全体に備えてある黒い鋼殻の周りを囲んでいく。

たった20秒で完成する。一方通行の体を当然のように超える大きさのライフルのようなCAD、名前は『Hs-model-CAD-14st』

学園都市製であることを示す名前Hsが取り込まれたCADであり性能は1回戦同様らしい。

前方に2つ、後方に1つ三脚が設置されておりバランスがとってある。組み込まれは部品は全てCADで接合アームもCADである。普通に使えば魔法は発現できる。

 

 

『出ましたー!!一方通行選手のCAD!全長は2mを超えるでしょうか、それにしてもCADを会場で組み立てる魔法師なんて見たことがありません。おおっと、情報が入ってまいりました。CAD検査部では彼のCADは九校戦規定に則っているそうです。そして彼が使用申請したCADの数はなんと208!!208個のCADを同時使用出来るというのでしょうか!?ともあれ早速2回戦です!』

 

 

「達也くん、これってすごくない?」

 

 

エリカの純粋な感想が述べられる。恐らく周りにいる生徒や観客にとって初めての出来事だろう。本来ならばCADは魔法師の道具であり魔法を発現させるのにあればいいというもの。しかし一方通行のCADは彼の左腕を喰い尽くしていた。いくら大型のCADがあるとはいえあれは破格である。

 

 

「ああ、俺も純粋に思うぞ。CAD組み立てなんて絶対にしない。そもそも試合場所に持ち込んでいいのがCADとちょっとした物だけだ。組み立てなんてできるはずがない。そんな常識を破ったんだ」

 

 

「でもよぉ、あのアームみたいな奴は組み立て機だろ?持ち込めないはずじゃないのか?」

 

 

「恐らくあれもCADなんだろう。CADを魔法発現のための道具だとばかり考えていた運営本部はこんな事予想していなかったんだろう。いや、俺でもこんなのは見抜けない」

 

 

ピーと青のランプが会場に鳴り響く。そこからクレーが一斉に投げ出される。大会本部も焦ったのだろうかクレーの量が異常に多かった。

それに対し一方通行は冷静に判断する。飛んでくるクレーの優先順位を決め打ち抜く順番を設定する。撃ち抜くルートを確立し規定エリアに最初のクレーが入った瞬間、観客は一斉に耳を塞いだ。

ズガガガガガガ!!と一方通行のライフルが轟音を吐き出す。それと同時にクレーを撃ち落とす範囲全体に魔法陣が何重にも重なり魔法が発現する。それだけではない。魔法陣が現れていたのは規定の範囲だけではなく一方通行のCAD自身にもかけられていた。衝撃を吸収する小さな魔法や三脚と地面を固定する魔法、空気を圧縮して弾丸へと変換させる魔法。そしてそれを音速に近い速度で吐き出す魔法。幾多もの魔法がほぼ同時に展開と終了を繰り返す。その間にもクレーはエリアに入った瞬間撃ち落とされていった。クレーが落ちる度にエリアにかけてある魔法陣が一つずつ溶けていく。それを修正しながらも一方通行のCADはうねりを上げる。

クレーが50個ほど飛び出した直後一方通行のCADに異変が起きる。

 

 

「パージ!?」

 

 

どこからか聞こえた言葉。彼の特殊CADの装甲が剥がれた。金属で出来ているCADが宙に舞い、それでも連撃は止まらない。彼の空気弾は規定のエリアにしか飛んでいかず他に逸れることは無いので、クレーは蜂の巣に飛び込んでいくように指定された空間に入った瞬間に砕け散る。

だが彼のCADがどんどん崩壊していく。残り10個と表示された時、彼は腕の黒い鋼殻を脱ぎ捨て元々握っていた拳銃型のCADをクレーに向ける。その瞬間幾重にも重なっていた魔法陣は砕け普通の空間が生み出される。後は丁寧に射撃していくだけである。目視で標準を定め引き金を引いていく。

パーン、と競技終了の合図が競技場内を駆け巡る。一方通行のスコアは100、パーフェクトであった。

 

 

***

 

 

「森崎、破片は全部拾ったか?」

 

 

競技を終えた一方通行は飛び散ったCADを集め回っていた。他人に回収されたところで解析される心配はないが、試作モデルなので学園都市に返さなければならない。森崎は集め終わったようだった。一方通行は森崎に荷物配達役を頼み自分はCADの再調整を行うため車に戻った。

森崎が何故一方通行のサポートをしているかというと新人戦のために学べるものは無いかと思ったからだが、この様子だと学ぶ必要などないようだ。

一方通行が車へ辿り着く間数多くの人間に話しかけられたが殆どを無視した。

 

 

(どォせ学園都市の技術が欲しいだけだろ。この世界ももうちっとは自分で考えろ)

 

 

心の中で唱えるが話しかける人数に変わりはない。

車に着いてからはそんな雑音は一切聞こえない。一人黙々と作業に専念した。

 

 

***

 

 

「会長、優勝おめでとうございます」

 

 

「ありがと、ところでアッくんはどうなの?白い翼使ってどうかしたとか」

 

 

一高の本部で休んでいた真由美はあずさに問いかける。

 

 

「そんなことは無いですよ。それより凄いんですよ!これは現代魔法のCADの根幹を揺るがしかねない事態なんですよ!彼のCADはですね...」

 

 

「はいはい落ち着いてあーちゃん」

 

 

すみません、と項垂れるあずさに真由美は言う。

 

 

「これから決勝でしょ?なら一緒に見に行きましょう。今日の競技は全部終わりだし心配することは無いわ」

 

 

「わあぁ、ありがとうございます会長!生で見れるなんて感激です!」

 

 

そんなにすごいのかしら、と思ってしまう真由美だが会場へついたらあずさの言っていたことが分かった。

九校戦初日最後はスピード・シューティング男子決勝。対戦カードは一高の一方通行と三高の三年生で昨年の優勝者であった。会場の席は満杯で一般観客は座るのに苦労したが、一高と三高には応援席があり余裕を持って座れた。

 

 

「達也くん、これからアッくんの決勝でしょ?」

 

 

達也の隣に座ってきた真由美は確認する。

 

 

「会長、優勝おめでとうございます。そうですね、これから一方通行の試合ですよ」

 

 

「なんだか噂によるとCADが凄いらしいわね。どんな物なの?」

 

 

彼女は自分の試合に集中していたため他の事情はあまり良く知らない。だがこの会場の満員の様子を見ると破格の物なのだろう。

 

 

「見ていればわかりますよ。百聞は一見にしかずですよ」

 

 

三高の選手が入場すると会場が大きく沸き上がる。それと同時に一方通行と森崎が入場する。

 

 

『さあ、本日ラストの試合スピード・シューティング男子決勝!対戦選手は昨年度優勝、三高の藤森隆選手とダークホース一高の一方通行選手です!ここで今一度ルールを確認しましょう。通称早撃ちと称されるこれですが決勝も対戦型で行います。両者は自分の色のクレーを撃ち抜きスコアを競います。魔法による破壊でなければ得点には至らず、規定の範囲の中でなくてはいけません。そして対人攻撃は禁止となります』

 

 

飛行艇からの長々とした説明が終わり注目は選手に移る。三高の選手は既に準備が終わっているようでCADを構えている。

対する一方通行、彼の周りには予選の時に比べ大型のアタッシュケースが置かれている。

 

 

『おお!?一方通行選手、準決勝では特殊CADではなく通常の拳銃型のCADでしたが、決勝はあの大型CADを使うようです。これを目的に今回見に来て下さった方は随分多いと思います。予選で見られたCADの分解を直して復活です!!』

 

 

観客が沸いた。最後の試合としては盛り上がりは十分。

一方通行が動く。

アタッシュケース3つから伸びたアームは他のケースに備わっていたCADらしきものを取り出し、一方通行の肩口から伸びている黒い装甲に絡みつく。繊維のような細かい機械の糸がCADと連動する。全てのケースが空になりアタッチメントの類いの物は全て備え付けられた。

 

 

『なんということでしょーか!!今回一方通行選手が使用しているCADは2回戦の時に使用したものではなく全くの新しいタイプ。機銃らしいものが、えっと...3つ、あります』

 

 

一方通行の左腕に接続された3つのCAD。CADと言うより機関銃と言った方が正しいのだろうかと思うが、今ここではそんな議論をしている場合ではない。とても細長い糸状のコードが幾束にもなりCADと一方通行を強く結びつけている。

 

 

「何あれ......ルール上問題ないっていうの?」

 

 

真由美の知らない世界が目の前に広がっていた。真由美だけではない。2回戦を見ている生徒や観客ですら唖然としている。ライフルのような形をしていた前回ならばどんな魔法が来るのかある程度予測は出来た。しかし今回の彼のCADの形式は全く異なる。3つの機関砲で何をするというのだろうか。

 

 

「会長、彼がどんな魔法を得意としているのか分かりますか?」

 

 

「テストでは満遍なくいい結果を出してるわよ。何が得意とかは無いんじゃないかしら。それより達也くん、これ本当にCADなの?私にはどう見ても兵器にしか見えないんだけれど」

 

 

「CADも魔法を発現する道具ですから兵器の一部と言っても過言ではないのでしょうか。それより始まりますよ」

 

 

試合開始前の赤いランプが点灯する。1つ、2つ、その間誰にも気付かないほど小さな音で一方通行のCADが音を刻み出す。青のランプが点灯しクレーが飛び出す。

ここで一方通行の作戦が表に出る。

『FIVE_Over.Modelcase_”RAILGUN”_ver.CAD』

学園都市の駆動鎧の1種を改良しCADに組み直した一方通行のCAD。魔法という科学的な理論を元に再設計され砲弾など無駄な部分は削ぎ落とし、魔法を使用するという前提を元にした兵器。2回戦同様幾多もの魔法式に変数を代入できるCADである。元々複数のCADを組み込み更にCADの根幹部分、感応石を一方通行自身の神経細胞をクローニング技術で新たに生み出し作った。これによりCAD同士による並列ネットワークを構築し一方通行が操作するCADは基本的に一つでいい。さらに駆動鎧の基礎的な部分を引き継ぎ人間を外部又は内部から支える仕組みがあり、代理演算や魔法式の終了などは機械がやる。

一方通行の作戦というものに戻ろう。

クレーが規定の範囲に入る前にガトリングレールガンが空気を揺らす。比喩ではない、超速度の空気弾を一瞬で大量に弾き飛ばしたため、空間内での空気の流れが乱れる。それで発生した風を一方通行は利用する。彼が狙う白いクレーと三高の選手が狙う赤いクレーが空気の流れにより恐ろしい速度で範囲に入ってくる。三高選手は見た事も無いその場の現象と一方通行の恐ろしいCADの威力に動揺したのか序盤から調子に乗れない。対する一方通行は全てを考慮していたので焦ることなく撃ち抜く。

最初の差が最後まで続いた。結果、スコアは一高:三高=100:97

スピード・シューティング男子本戦は一高1年の一方通行が優勝という形に終わった。

一方通行は今回のCADの働きに満足していた。2回戦はCADが過剰負荷により分解を起こしてしまったが、決勝戦で使った物は何も問題は無い。

迫り来る脅威に多少の抵抗が出来るだろう。



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14

スピード・シューティング優勝の肩書きを手に入れた一方通行だったが自陣に戻るとあずさに質問攻めされた。これまでまともに話してこなかった人間にいきなり話しかけられ、更にとても勢いが付いている彼女を誰も止めることが出来なかったらしい。一方通行は面倒そうに答える、殆ど適当にだ。

 

 

「一方通行さん、一生のお願いです。CADを見せてくれませんか?」

 

 

「テメェはアホか、こンな所に一生のお願いなンか使うンじゃねェよ」

 

 

一方通行のダルそうな態度が体中から発せられる。あずさの取り巻き達が何とか抑えようとするが止まらない。仕方ないので一方通行は条件付きで見せることにした。こうでもしないと夜寝られなくなると真由美に助言を貰ったからである。

 

 

「解析しようとしたら殺す、これが守れたら見せてやる」

 

 

「わかりました!絶対に解析なんかしません。と言うか見せてもらえるだけで満足です」

 

 

そォかい、とだけ呟いた一方通行は自分の作業車に案内する。あずさだけでなく真由美や他の生徒もついて来た。

 

 

「ンで、何でお前らもついて来ンだよ」

 

 

「ええー、アッくん私にも見せてくれないの?あーちゃんにしか見せないなんてずるいじゃない」

 

 

「解析なんかしないから私たちにも見せろ。あんな技術を見せられてじっとしている人間の方がおかしいだろ」

 

 

一方通行は作業車の鍵を開ける。するとそこには2回戦の時のCADと決勝で使用したCAD、それにどちらの試合にも使用した一方通行本人に着用されていた黒甲殻のCADが並べてある。黒甲殻CAD以外はアタッシュケースの状態で仕舞われており現段階では何も見えない。一方通行はそれを雑にあずさに投げつける。一瞬で反応した彼女は胸に沈めるようにアタッシュケースを抱える。それを彼女はいきなり開けようとした。その様子を見て一方通行はウンザリしたようにあずさに近寄る。

 

 

「オイ、誰も開けていいなンか言ってねェだろ」

 

 

そう言うと彼はアタッシュケースの表面をトントンと指で叩く。すると何かを感知したのかケースは勝手に開く。中に入っていたのは一方通行が基本的な操作をする拳銃型のCAD。表面は黒の塗料でコーティングされており墨のような黒々さを醸し出す。

それを手で触ろうとするあずさをまたも一方通行が止める。

 

 

「少しはじっとしてろ。CADは逃げねェよ」

 

 

一方通行は拳銃型CADを左手で掴みある部分に意識を集中して触れる。するとCADからコンピュータの基盤のような薄い板状の物が飛び出す。それをキャッチしCADとしての機能を失ったものをあずさに渡す。

それを受け取った彼女はあらゆる角度からCADを眺める。

 

 

「わぁ、これどこの会社のものですか?マクシミリアンでもないしFLTでもないですよね。やっぱり拳銃型なので特化型ですよね?」

 

 

「作ったのは会社でも何でもねェよ。それに俺から言わせてもらうと特化型やら汎用型やら区分けしてるようだがそンなのに価値はねェ。その固定概念が発想を縮めてンだよ」

 

 

作業車に積まれていた缶コーヒーの蓋を一つ開け飲みながら反応する。

 

 

「その話詳しく聞かせてもらってもいいか?」

 

 

一方通行の反応に司波達也が入ってくる。

 

 

「そもそもオマエらが開発したCAD、こりゃダメだ、欠陥品だ。汎用型は99の起動式をインストール出来て特化型は9。お前達はこの数にこだわり過ぎてンだよ。第一に汎用型と特化型に分けるの...」

 

 

「前置きはいい。本題に入ってくれて構わない」

 

 

いつの間にか一方通行の話に全員が聞き入っている。

彼は缶コーヒーを空にして作業車に腰を下ろして話を始める。

 

 

「いいか?CADの元々の役割は起動式を保存するだけの代物だ。それを魔法の高速発動の為に色々な機能を付け足してきたみたいだが、ハッキリ言って無駄だ」

 

 

「良くわからないけどCADは起動式保存に特化すればアッくんみたいなものになるの?」

 

 

「アホ、誰もそンな事言ってねェだろ。話は最後まで聞け。もう少し簡単に言うぞ。CADに役割分担させりゃいいンだよ。起動式保存用、起動式を引っ張り出す用、それぞれに特化させりゃいい。そのための複数CADだ」

 

 

飛躍した理論に着いていける人間は限られていた。大半は何を言っているの変わらない様子でいる。

 

 

「だがCADを繋げると一つのCADとして機能するんじゃないのか?それだとCADの役割分担なんて限りなく無理に近い」

 

 

「分かってねェな、繋ぐと言っても本当に繋ぐ訳じゃねェ。ネットワークを構築して機能の部分だけを繋ぐ。俺のCADのコンセプトは『人間の負荷を極限まで下げる』だからな。あらゆる計算、判断は機械任せでいい。駆動鎧の技術の応用だな」

 

 

ここで全員の頭にハテナマークが浮かんだ。駆動鎧とは学園都市の技術を集結させたものでこの世界には存在しない。一方通行はあずさの持っていたCADを返してもらうと乱雑に放り投げ作業車の鍵を締める。

 

 

***

 

 

夜の10時頃、一方通行はホテルの一階のフロントでコーヒーを飲んでいた。ある人物と待ち合わせをしていたのである。ロビーで働いている人間もいたが誰も一方通行に注意したりはしない。あくまで客なので無意味に干渉しないのが鉄則である。

 

 

「いやぁ、お待たせしました。このホテルまでのバスが終わっていたので歩いて来ちゃいましたよ」

 

 

白衣を身に纏った20代後半ぐらいの人間が一方通行に話しかけてくる。眼鏡をクイッと調整して一方通行の対面に座る。

 

 

「どうでしたか、一方通行さん。うちの技術、結構やるもんでしょ?学園都市でCAD分析して新しい物を作るなんてうちみたいな変態企業しかしませんよ」

 

 

「そォだな、ファイブオーバーシリーズはなかなかの出来だったな。アレの本物は持って来てンのか?」

 

 

はい勿論、と言って研究者は一緒に持ってきたケースを広げ一方通行に見せる。

これが学園都市の技術を最大限活用したCAD。大会で使ったものはCADの規定に合わせてグレードを下げたため性能は普通だったが今回は違う。兵器として運用できるラインまで仕上げ、一方通行専用にされたCAD。見た目は拳銃型の特化型CADに似ているが中身は全然違う。

 

 

「ここまでコンパクトに出来たのか。俺の体を利用してネットワークを構築する手段は確立できたのか」

 

 

「ええ、難点だった感応石の微調整も終了しましたし能力制限時でも十分使用できる性能になっていますよ。でもそのCADの力を本当に発動させたいなら能力使用時に使ってみればわかりますよ。あなたの演算能力が戻った時は自動で切り替わるようになっていますので」

 

 

「能力使ってる時は別にいらねェンだけどな」

 

 

男はセールスマンの様な口調で話を進めていく。

 

 

「そう言わずに使ってみてくださいよ。まぁそういう訳で商品はお渡ししました。大会で使っていたものは回収していいですか?データの解析と改良していく筋が見えるかもしれないので」

 

 

「持ってけ」

 

 

一方通行は受け取ったCADを腰のベルトに挟めながら男に言う。ロビーから出ようとした男は思い出したかのように一方通行の所へ再び戻ってきた。変な口調で話し始める。

 

 

「そういや今学園都市結構ヤバイっスよ。すんごい平和なんスよ。元裏稼業のアンタならわかると思いますけど全然ドンパチしてないんスよ。何か溜め込んでるっていうか準備してるっていうか、こっちに戻る時注意した方がイイっスよ。と言っても帰るのに統括理事長のサイン無きゃ無理なんですけどね」

 

 

非常に興味深い話を聞いた。第三次世界大戦を短期間で終結させオティヌスという新たなる脅威にも直ぐに攻撃命令を出してきた学園都市が準備をしている。あの都市が準備をしなければ勝てないような敵はいるのだろうか。

一方通行の考えられる範囲だと確実にこの世界。魔法や複雑な世界構造を完璧に把握してから攻撃を仕掛けるつもりである。魔法と類似した能力を使い攻め込もうとするだろう。

そんな風に思案しているとコツコツと足音が一方通行に近づいてくる。

 

 

「お前の事は呼んでねェンだけどなァ、土御門」

 

 

サングラスをかけたアロハシャツの金髪男、土御門元春は研究者の男と入れ替わるかのように一方通行の対面に座る。

 

 

「俺が居なかったらお前のCAD?とかいう兵器も完成しなかったんだぞ?少しは労いの言葉っていう物を知らないのか。あの男だって俺が通過申請したんだぞ」

 

 

「そォかよ、つか未だにこの世界への侵入方法が分かんねェ。アレイスターっていう奴の許可が必要らしいな」

 

 

一方通行は人工衛星から発射されここにやって来たため、土御門らグループが以前この世界にやってきた時から侵入方法を探っていた。そして研究者の男がこの世界にやってきた事で理解した。この世界へ渡るための方法は既に確立している。

 

 

「でだ、上層部からの仕事が舞い込んできた。第三次世界大戦以後俺らの事を切り離す契約を一方通行や浜面がやったようだが無駄らしい。以前と同じ様に脅迫して来たぞ、どうする受けるか受けないか」

 

 

「本当に糞野郎で真っ黒だな、断った場合矛先は妹達と打ち止めか?」

 

 

土御門にも聞こえるほど強い歯軋りが一方通行の恨みを受け止める。それに対し土御門はアッサリとした表情に軽い手振りで答える。

 

 

「そうだ、断ればどうなるか分かっているだろう。一緒に来てもらうぞ」

 

 

仕方ねェ、一言呟きホールから出ていく一方通行。彼は少し歩いたところでフードを深くかぶった男に出会った。

 

 

「ソイツはアレイスターへの新しい出入口だ。捕まれ」

 

 

瞬間移動が発動する。

 

 

***

 

 

「摩利、あれアッくんじゃない?」

 

 

真由美の部屋で本日の反省会を女子だけでしていた真由美らは窓から映る遠い一方通行の姿を確認する。暗くて見づらいがホテルの比較的低い階層にいた彼女らは一方通行の杖で判断し確定させた。

 

 

「あれは!真由美、一方通行に連絡取れるか?」

 

 

焦った様に真由美に言葉をかける摩利。理由も分からずに突然言われた本人はなんの事だか判断出来なかった。

 

 

「ああ、もういい。そのまま一方通行を見張っていてくれ」

 

 

「そんなに焦ってどうしたんですか、渡辺先輩」

 

 

深雪が不思議そうに摩利に尋ねる。

 

 

「隣にサングラスかけた男がいるんだがアイツは四月のブランシュの時にもいたんだ。間違い無い!」

 

 

その言葉に反応したのかその場にいる全員は窓から一方通行を凝視する。すると次の瞬間元いた場所には誰もいなかったかのような空間が作り出された。

 

 

「やっぱりそうだ、一方通行と一緒にいたあの男。アイツはテレポート出来る」

 

 

「テレポートですって!?体ごと移動する魔法なんて無理よ。崩壊してしまうわ」

 

 

摩利は真由美に無理と言われても自分の考えを曲げなかった。

不可解な出来事を転とし夜は更に深まる。



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15

オリキャラ出ます。


異空間のような場所へと転移した一方通行。彼が見た光景はすぐ様日常のようなものに移り変わる。だがこれを日常と言っていいのだろうか。

巨大なビーカーに揺れている人間の姿を見たことは無かった。一方通行の顔が歪む。

 

 

『はじめまして、一方通行。私は学園都市統括理事長のアレイスター・クロウリーだ』

 

 

その言葉を聞いた瞬間一方通行は首元にあるチョーカー型電極の電源を入れたが反応がなかった。カチカチと何度も入れ直すが能力が解放されない。

 

 

『悪いが君の能力は取り上げているよ。ベクトル操作は厄介だからね。それで本題に入るが君に新しい仕事を与えたい。何、そう警戒することは無い』

 

 

一方通行は信じようとしなかった。苦い汗が滴り落ちる。

それに対し男にも女にも見えるアレイスターは淡々と命令する。

 

 

『今回君にやってもらいたいことはオーストラリアの事実的占拠。鎖国状態に近いあそこは我々の拠点になり得る。そこで反学園都市勢の力を削ぎ落として欲しい』

 

 

一方通行は不可解に思う。学園都市の力があれば軽く一都市位は瞬時に制圧できる。それなのに自分を動かす必要性があるのだろうか、それ程厄介な事案があるのだろうか。左手の人差し指を唇に当てじっくり考えるが検討もつかない。

 

 

『安心したまえ、行くのは君だけじゃない。君を援護する者も一緒について行く。君の隣に既にいるだろ?』

 

 

一方通行が知らない間に既に立っている大男を発見した。能力が使えないとはいえ周囲のベクトルをある程度感知できている一方通行が気付かなかった。

男は青系のゴルフウェアを連想させるような長袖の服を着ていて見る限り筋肉隆々である。

 

 

『男の名はフレーラ、学園都市の技術を用いて造られた魔術人間だ』

 

 

魔術人間だと?と一方通行は不可解な言葉に理解が追い付かない。一応魔術という単語の意味とどういうプロセスを踏んで発動させるのかはわかっている。しかし能力者に魔術は使えない。特異な能力を持たない人間が特別な人間に憧れ自分達もそうなりたいと願い努力した証が魔術である。

 

 

『男について詳しく説明するとするか。彼の体は特殊合金で出来た骨組みにタンパク性の表皮に筋肉、そして君と同様樹形図の設計者とネットワークを繋いでいる。後方のアックアと言っても分からないだろうがフレーラはその男を完全に模倣した存在だ。作戦が開始される頃には後方のアックアのデータを君に渡しておこう。模倣人間だから自我のようなものは後方のアックアをベースにしている。向こうの世界と渡り合うためには能力だけでは不足だと思ってね。なにか質問はあるか?』

 

 

一方通行は隣にいる男に目をやる。そこにはっきりした意思はなくでくの坊が立っているような気がした。暗い部屋の中では細かい表情までは見えないが強ばっている様な気がした。

 

 

「能力者は魔術が使えねェはずだぞ」

 

 

細かな場所にケチをつけるような口調で話す一方通行の様子を予知していたかのように、薄く口を曲げながらアレイスターは話しかける。

 

 

『誰も能力者とは言っていない。機械の体に機械の脳を埋め込み特定の環境下で育てたサイボーグに似たような物だ。しっかりと聖人としての力も使えるし聖母の能力も受け継がせた。まあ、データは当時の物だからある程度力に不足気味なところはあるかもしれんが問題ないだろう。アスカロンも理論値を再算出しこちらの技術で再現したからな。不足はない』

 

 

一方通行にとって訳の分からない言葉が飛び交うが既に遅い。

こちらに一緒に来たフードを被った男が一方通行の体に触れ一瞬で目の前の光景が塗り潰される。

 

 

***

 

 

飛んだ先は何処か平坦な土地だった。辺りにはぽつぽつと家が建っている位の田舎だった。

 

 

「で、俺は何も聞いていないンだがオマエはなにか聞いているのか?」

 

 

どこへ行けばいいのか分からない一方通行は立ち止まりフレーラの様子を伺う。

 

 

「今は午前1時であるな。貴様は人間だろう、その家で休んだ方がいいだろう。朝になったらやることをすべて話すのである」

 

 

そう言うとフレーラは一番近くにあった一戸建ての住宅に押し入り無造作にドアを開ける。その後ろを着いていく一方通行は少し罪悪感があったが眠気が強く半分どうでもよくなっていた。中に押し入ったフレーラはすぐ目の前にあったソファを力技で平にし一方通行のためのベッドを作る。

 

 

「休みたまえ、周囲の警護は私に任せるのである」

 

 

サンキュと意図しないが一方通行の口が回る。しかしそんなことを気にしておらずすぐに睡魔に襲われた。

翌朝、一方通行は美味そうな匂いに釣られて目を覚ます。すると食用のテーブルにフレーラと年老いた老夫婦が談笑しながら朝食を口にしていた。一方通行の目覚めに気づいたフレーラは顔を洗ってくるよう洗面所へ案内する。

帰ってきた一方通行をテーブルへ連れてフレーラは老夫婦に向かってきちんとした挨拶をする。

 

 

「私の名はフレーラ、そしてコイツの名は一方通行である。勝手な振る舞いを許して欲しい」

 

 

その言葉を聞いて白に染まった髪の毛の老男は気さくな笑みを浮かべながら話す。

 

 

「別にいいよ、こんな辺鄙な所に外人さんは来ないからね。旅の話でも聞かせてくれりゃ立派な宿泊料だ」

 

 

朝食はフレーラの空想話で盛り上がっていった。

食事を終え後片付けも終わりこの家を出る直前フレーラは老夫婦に忠告をした。

 

 

「都市の中央にはなるべく近づかない方がいい。これから内乱が起こるだろうがすぐに収まる。5日程は家でゆっくりしているのが良いのである。それでは元気で」

 

 

一方通行とフレーラは家を発ちぽつぽつと歩いている。雪は降っていないが彼らの周りの人間はオーバーを羽織っている。対する彼らだが寒さを感じるような機能を停止させているフレーラと薄手のコートの真価を発揮した一方通行の服により体温は保たれている。

 

 

「さて本作戦の内容はオーストラリアの主要都市の戦力壊滅である。現在我々がいるキャンベラの軍部を攻撃し北上していく予定だが問題は無いな」

 

 

キャンベラを北上していくということは最終的にケアンズまで行くのだろう。そう判断した一方通行は問題ないと言った。

 

 

「では手始めにキャンベラを落とすか。飛ばすのである」

 

 

コンクリートで平に均された地面を水面上を滑るかのように走っていくフレーラの動きに合わせて一方通行も能力を開放する。互いに恐るべき速度で街の中心へと突っ込んでいく。

放射状に作られた計画都市を粉々に砕きながら走行し中心部にやって来た2人の前に装甲車が並んでいる。腐っても魔法を操る国家の一つということであろうか、周りの歩兵はライフル銃ではなくCADを構えている。

 

 

「私が装甲車を破壊しよう。貴様は隊列を飛び越え本部を叩いて来い」

 

 

フレーラは自らの影から3,4m程ある大剣を取り出す。彼のトレース元の後方のアックア、別名ウィリアム=オルウェルの手にしていた武装。名はアスカロン。全長50フィートもある大龍を殺すために計算され尽くした霊装である。しかしその霊装は後方のアックアが使用していたものでフレーラが今使っているのはそれを学園都市の技術で再現、改良を加えたものである。

『Hs-Ascalon』

霊装としての最低限の機能を残しながらも現代製の合金や特殊繊維を活用して作られた兵器。HsSSV-01''ドラゴンライダー''に似た構築をしている。大剣を兵器として開発したのではなく、フレーラとアスカロンを一体として考え編み出された兵器。故にアスカロン単体では効力を発揮せずただの鉄の塊になる。

そんな兵器を手に持ちフレーラは既に装甲車を踏み潰していた。歩兵らが対応すること無く薙ぎ倒していく。

それを確認しながら一方通行は戦闘集団を飛び越え大統領府へ突っ込んでいく。何故大統領府と分かるのか、それは事前に情報端末で確認していたからである。それはともかく大統領府はもぬけの殻であり一方通行は舌打ちをする。杖をつきながら外を見ると殆ど制圧し終わっていたようだ。フレーラの働きだけでなく学園都市の駆動鎧もクーデターの中心地で活躍していた。既に学園都市の軍勢はこの地に乗り込んでいるらしい。

 

 

***

 

 

富士で行われている九校戦の3日目。一方通行の不在を気に留める者は多少はいたがそれよりも渡辺摩利のバトル・ボードでのクラッシュが一高に大きく影響していた。明日から新人戦ということもあり出場する1年生は休養を取るよう命じられた。それでも摩利の元へ見舞いに来る人の数は絶えない。達也が事故検証の結果を伝えていると全員の病室に設置された備品のテレビが突然映った。

 

 

「なんだ?こんな事初めてだな」

 

 

全員が画面を見ると世の中の酷さが痛烈に分かる。

 

 

『本日午前10時過ぎ、鎖国状態に近いオーストラリアは緊急声明を発表しました。国内のクーデターが軍事力を上回り対処出来ないと言うことで周辺国に協力を要請した模様です。そしてクーデターを起こした組織は自らの名を学園都市と名乗っており、目的はオーストラリアの制圧のため巻き込まれたくなければ無闇な干渉は控えるべきとこちらも声明を発表しています。続報が入り次第報道していきます』

 

 

どうやらこのテレビは情報必要性を判断し勝手に映すように出来ているのだろう。

オーストラリアでクーデターと言う大きなテロップの下に書かれている文に真由美はしっかり反応した。

『学園都市』

一方通行にピンセットという機械を渡した謎の組織であり現在オーストラリアへ侵攻しているもの。何か関係があるのかと思っていると突然摩利が画面に向かって指さす。

 

 

「誰かこのニュースもう一度見せてくれないか」

 

 

達也は構いませんよ、と言ってテレビに触れいろいろと弄る。

 

 

「ねえ、摩利どうしたの?やっぱり学園都市ってことはアッくんに関係があるのかしら」

 

 

不安そうな顔付きの真由美だが摩利はテレビに夢中になる。

 

 

「これでいいですか?」

 

 

現行のテレビは録画機能というものはなく全て一時的に保存されるようになっている。そのハードディスクから先程のテレビニュースを映し出す。

同じ内容が繰り返されキャスターの背後には地元のジャーナリストが撮ったであろうキャプチャ画像が流れるように出現する。

 

 

「ここだ!止めてくれ」

 

 

摩利は達也に頼むと彼はすぐに画面を止めた。映っているのは装甲車がクシャクシャに潰された様な跡と共に映る一般大衆の画像だった。

 

 

「摩利、一体何が映ってるっていうの?魔法の痕跡なんて見当たらないわよ」

 

 

違う、そうじゃない、摩利と達也の声が重なった。

 

 

「画面の左端を見てみろ。これで全てがはっきりする」

 

 

摩利の一言で部屋にいる人間の半分は気付いた。

見覚えのある物が映し出されている。

一方通行が使用しているであろう杖とそれを利用している人間の白い服と白い腕だった。



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16

説明回


オーストラリアの首都キャンベラを統括したと言ってもまだ終わりではない。人口が最も多いシドニーや他の中心都市を破壊して指示者を潰さなければクーデター成功とはいえない。

アスカロンを地面に突き刺し小休憩を取るフレーラと一方通行。次の都市に向けて移動の準備をしている。

 

 

「充電は終わったのか、一方通行」

 

 

自らの体からコードを伸ばしているフレーラが一方通行に問いかける。彼の体は機械で出来ているため動力源は電気であり、一方通行のチョーカー型電極へ電力を送っていた。

 

 

「終わったな。これで30分は持つ」

 

 

一方通行からコードを返してもらうと自らの体内に仕舞い込むフレーラ。

一方通行は辺りの光景を見て回る。破壊されているのは殆どが軍部所有の建物や兵器。今は学園都市の無人兵器が残存兵力を叩き潰しているのだろうか、未だに轟音は鳴り止まない。だが2人の戦闘時よりは静かになっている。

魔法を使用されても無条件に突っ込んで目標物を破壊する一方通行。

戦場における的確な判断で周りの無人兵器を操作し、自らの大剣と魔術で戦場を圧倒するフレーラ。

学園都市勢力の中で知恵を持つ者は彼ら2人しかいなかった。

外部の知恵を持つものはこの世界において排他される存在である。誰が定義付けた訳でもなくこの世界の理として成り立っている。その為世界からの圧力に耐えうることが可能な者だけを学園都市は侵入させることが出来る。長時間の潜入は現在のところ一方通行にしか出来ない。彼が必要ないと感じて無意識のうちに反射しているベクトルの中に排他しようとする力がある。学園都市はそれを研究しようとしたが彼らの世界ではそんなもの観測できるはずも無い。その為ピンセットを使い現場の力場を調べたが何も検出されない。結果として一方通行に頼る他なかった。

フレーラが今の形を維持できているのは半人間という曖昧な存在であるためだ。学園都市の計算では長時間の滞在は許されないがある程度の期間は自由に動くことが可能という。

最後にグループがやってこれた理由、これはナノマシンによる保護である。だがナノマシンが圧力に耐えうる時間は12時間も無い。

このような様々な条件下で一方通行とフレーラは働かなくてはならない。

 

 

「では掃除を再開しようか」

 

 

突き刺した大剣を影に仕舞いスクッと立ち上がるフレーラ。それに呼応して一方通行も杖を利用して2本の足で立ち上がる。

 

 

「次はシドニーである」

 

 

無表情で戦闘地域を指定した。現在のシドニーはオーストラリアで最も多い人口を誇っており中核都市に位置する。キャンベラから辿り着くまで様々な妨害が彼らを襲ったが殆どを無視し無人兵器に任せた。一方通行に向かってくる魔法はすべて反射膜のおかげで一方通行には無害であり、フレーラは自身の肉体を魔術で強化しつつ水を操るルーンの魔術で飛んで来る魔法を薙ぎ倒していく。

猛軍の勢いで侵攻する学園都市勢にオーストラリア政府は為す術なしといったところだった。ニュージーランドや周辺の東南アジア諸国に応援を求めたものの、海上には学園都市の要塞が瞬時に建てられ無闇に近づくことが出来ない。

自動操縦の機械がオーストラリア近海を埋め尽くし他国からの支援を打ち切りさせ、大きな空母らしきものから陸上用の自動駆動鎧が侵入する。更にはHsAFH-11という無人攻撃ヘリが離陸しオーストラリアを襲う。

一方通行はそんな様子を第三次大戦の記憶を蘇らせながら見ていた。

周りの魔法師は魔法の効かない一方通行に銃器で対応しようとするが、銃弾を跳ね返され逆に大きな損害を受ける羽目になった。

シドニー到着寸前、フレーラは一方通行に停止の指示をする。不可解に思い前方を見る一方通行、そこには隊列の組まれた大規模な軍団が存在していた。

 

 

「少々厄介であるな、自動機械共は残党処理で後方を駆っているのだが、貴様に任せても良いか」

 

 

仕方ねェ、と一方通行はスイッチを再度入れコンクリートの地面に手を付ける。するとゴゴゴというの地鳴りが辺りに響き地面が割れる。地震では絶対に起こらないような地割れが整った隊列の足元にまで及ぶ。避けようにも地面が割れるスピードが異常に早いため中央にいた分隊は跡形もなく消え去る。数々の悲鳴が聞こえるがそれらを無視し一方通行はフレーラの後に続く。

彼らがやってきたのはシドニー中心に存在する銀行。ここの貸金庫に用があるらしい。2人は誰も居なくなったカウンターを飛び越え奥に進む。銀色の光景を目にしても彼らは感動することは無い。ただ標的を見つける。

 

 

「ここであるな」

 

 

汗一つかかないフレーラは227と番号の付いた金庫にたどり着く。肉体強化の魔術により破壊力を増した腕で無理矢理こじ開け中身を確認する。そこにあったのは輝かしい程大量にある宝石群だった。

 

 

「こンな宝石のためにオーストラリアにまでやって来たってのかよ」

 

 

一方通行は溜息を吐きながら床に座る。するとフレーラは目標物を発見したのか一つの赤いルビーの様な宝石をつまみ取り他を床に投げ捨てた。

 

 

「一方通行、これが私達が探し求めた物の一つ、賢者の石である」

 

 

古今東西賢者の石という物はある種都市伝説的な意味合いが深かったが、この世界では魔法式を保存するという役割を担う遺品の意味を含む。それとは別に学園都市でも賢者の石の研究を独自に進めていた。構成成分は不確定だが長い年月をかけた文明物の品であることは確実であって、効力は育まれた文明によって異なるらしい。天然の能力者を原石と呼ぶように天然に能力を発する遺物を賢者の石と呼んでいた。

フレーラは石を一方通行に渡す。

 

 

「貴様が管理しているといい。学園都市の目的はそれではないが本来の目標物を確保できなかった場合はそれが必要になる。くれぐれも無くすことは許されん」

 

 

石を手にした一方通行は賢者の石が持つ異様な力を肌で感じることが出来た。何か電磁波のようなゆっくりと穏やかであるが確実に身を圧迫する力。不思議な力を解析しようとするが次なる目的地へとフレーラに促された。

とは言ったものの現在の時刻は16時を過ぎたところであり次の目的地であるブリズベーンまでは非常に距離があるため夜を越すのはキャンベラに決定した。その間にも学園都市の自動機械達はオーストラリアの一般兵を掃討していく。

フレーラと一方通行はオーストラリア国内で顔が割れていないらしく満室気味のホテルに宿泊することが出来た。恐らく周りの自動機械の印象が強すぎて生身の人間が活躍していることなど知らないのだろう。食事はついてなかったがこんな非常時でもコンビニは開いていた。クーデターと言っても実際に被害を受けているのは国軍とそれを匿う市民らであり、学園都市の兵器に敵として認識されない限り攻撃されることは無い。それが段々と明らかになるにつれオーストラリア市民は軍隊の居場所などを密告するようになり学園都市の侵攻は思いの外進んでいた。

 

 

***

 

 

こちらは新人戦一日目の夜、勝利の話題で賑わっていた一高だがある噂が他校の間で広まっていた。それは''一方通行の新人戦出場について''である。一高としてはエントリーさせていないので何度も一方通行の新人戦出場を否定してきているのだが、あれほどのCAD技術を持つ一年生が本戦のみ出場ということはあり得ないなどと言った不愉快な噂が止まることは無かった。それに付け加え本人が何処にもいないという事態で本人からの否定の言葉を貰えないのも原因の一つであった。真由美達は現在一方通行の部屋にいる。テレビに映ったのが彼であるかどうかの手掛かりやどこかに行った形跡等を探していた。ついでに森崎も手伝っている。

 

 

「何も無いわね、これだけ私物が少ないと手がかりなんてあるのかどうかの判断すら難しいわね」

 

 

ベッドの上に並べられた一方通行の私物は少しの衣服とカードの入った財布だけだった。

真由美はこんなものから一方通行の足取りを辿る事など無理だと言って雫にあることを頼んだ。

 

 

「北山さん、アッくんに連絡はまだつかないのかしら」

 

 

「ダメですね。何度も何度も電話しているのですがコールも鳴らずに切れてしまいます」

 

 

侵攻当初の一方通行にはオーストラリアにおけるジャミングが影響しており、殆ど外部との通信は行なえない。だが現在では学園都市の侵略兵器が新たな通信網を敷いており通信は行えるが、そんな事は一般人はともかく現地に住んでいるオーストラリアの人々ですら知らない。

 

 

「それじゃ私にアッくんの連絡先教えてくれない?私から連絡してみるから」

 

 

そう言うと雫はアドレスを真由美に送り一方通行の捜索は解散となった。

その後夕食をとった真由美は自室で一方通行に電話してみることにした。もちろんテレビ電話の様な相手の顔が見えるタイプである。二、三のコールがなった後ツッと画面が切り替わる。

 

 

『あァ?』

 

 

「え、えっ、アッくん?」

 

 

繋がるとは思ってなかった真由美は驚き焦った。

 

 

『用がねェンなら切るぞ』

 

 

ムスッとしたような顔でハンバーガーらしきものを食べている姿が画面に映る。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!今どこにいるの?みんな心配してるわよ」

 

 

何とか意識を切り替え一方通行の居場所を聞き出そうとする真由美、それに対し彼は興味が無さそうに指に付着したソースを口で舐め綺麗にしながら話す。

 

 

『オーストラリア、つかもう俺の出番ねェンだ。ならどうしようと俺の勝手だろ』

 

 

病室での摩利の予想は的中した。何をしているかは真由美にはわからないが一方通行は確実にオーストラリアに居る。身勝手な理論に振り回されそうになるが、真由美の頭はそう簡単に騙されない。

 

 

「そういう訳にはいかないの。九校戦に出場し学校の代表である以上貴方には団体行動の義務が課せられるわ。今すぐに戻って来いとは言わないけれど早いうちに戻って来なさい」

 

 

キリッとした仕事モードの真由美だが一方通行はこれでも興味を示さない。すると一方通行の映った真由美の画面に新たな人影が現れる。茶髪で白人の男だった。

 

 

『これがこの時代の通信媒体というものか。失礼』

 

 

男が端末に触れた瞬間画面がブラックアウトし通信が途切れた。恐らく情報を制御されたのだろうと真由美は考え次の事態を予測しながらベッドに沈んだ。

 

 

***

 

 

「オイ、他人が話してる時は割り込ンじゃいけないって習わなかったのか」

 

 

ハンバーガーを全て飲み込みフレーラに言う。

 

 

「それについては謝罪しよう。しかし私は貴様の護衛を兼ねている。貴様の情報が漏洩する事を防ぐためには通信をこれ以上させない事が賢明と判断し先程の行為に走ったのである。潜入は今の貴様にしか出来ぬことなのだ」

 

 

一方通行は長々と話すフレーラに飽き始め大きな欠伸とともに少々の涙を流す。

 

 

「つまらん事を言ったな、今日はもう休むといい」

 

 

一方通行と真由美はほぼ同時に睡眠に入った。




フレーラの名付け元はアックアの魔法名です


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17

新人戦2日目、大会は5日目であるが現在の一方通行には全く関係ない。朝から爆撃音で目が覚める。ベッドからゆっくりと起き上がり身支度を整えると外に出る。そこには既にフレーラが待っておりブリズベーンへと向おうとしていた。フレーラが言うにはシドニーでの抵抗は既に殆ど無く軍はケアンズへと最終陣地を敷いたらしい。そして自動兵器は既にシドニーを発ちブリズベーンへと侵攻している。道中の妨害も苦になるほどではなく順調らしい。そんな話をしながら一方通行とフレーラは人間の出すべきではない恐ろしい速度で進撃していく。

ブリズベーンの穏やかな朝は幻影かのように昼からは地獄絵図のようだった。とは言ってもそれはオーストラリア側の軍人にとってであり、一般市民は自宅に潜んでいるだけでよかったようだ。軍の戦車は学園都市の滑腔砲によって粉々になり海からの支援は海上要塞により期待出来ない。オーストラリアが音を上げるのは時間の問題に近かった。

一方通行達は侵攻先を変えた。あまりにもオーストラリア侵略が簡易であったのでフレーラと一方通行はケアンズに向かうことになった。学園都市のヘリ、六枚羽を改造し人が乗れるようにし全速力で移動する。

約3時間飛びっぱなしだった。そして爆弾の投下の様に六枚羽から二つの影が地上へ落下した。二人を降ろした六枚羽はオーストラリア側の攻撃が届かない位置に着陸し待機する。

地面に大きなクレーターを作った一方通行は軍の施設の方向を向く。キャンベラにあったものよりは小さいがオーストラリアの戦力をここに集結させているらしく、展開される戦闘は今までの中で最大となるだろう。それでも一方通行にとってやることは変わらない。ここを壊滅させ帰還しとりあえず休みたい。そんなくだらない願いが今の一方通行の原動力となっている。

施設が破壊し尽くされるのにそう時間は必要なかった。

 

 

「これで終いかァ?一通りブッ潰してみたがよォ」

 

 

爆炎の中から体一つで何事も無かったかのように歩き出す一方通行。彼の体に焼けた跡は一切無くゴミすら付着していなかった。

雨も降らず快晴であったため施設のあらゆる所で火災が起きていて、鎮火設備が全く機能しないほど破壊し尽くされていた。

一方通行と別行動をとっていたフレーラから連絡が入る。内容は六枚羽の元へ戻ることだった。彼、学園都市の目的が達せられたのだろうか一方通行に対する指示はこれで終わりだった。

一方通行が着いた時には六枚羽は既に発着出来る状態で待機していた。その手前でフレーラはズンと立っていた。

 

 

「殲滅したか。では任務完了だ、すぐに貴様を日本に返そう」

 

 

プロペラ音が酷い状態でも地面を媒介し声が伝わってくる。機械の体で特殊な振動でも起こしているのだろう。二人を乗せた六枚羽は機体を傾かせ学園都市勢の機体が集まる近くの都市へと移動する。

そこは既に戦闘が終了しており一般市民が街を歩き回るまで機能していた。オーストラリア侵攻といっても政治能力までは潰していない。軍事力をひたすら削ぐことで抵抗力を無くし服従せざるを得ない状況に追い込む。これが学園都市のやり方の一つである。

地方の広い公園に六枚羽が降りる。砂が辺りに散らばり周囲の光景が消え去る。ヘリから降りた2人は公園のベンチに座る。男二人でベンチに座るというのは少し奇妙だが今は致し方無い。

 

 

「貴様は日本に戻ってこれを九島烈という人物に渡してくれ」

 

 

フレーラが一方通行に手渡したものは一つのディスクだった。何が入っているのか聞かなかったが一方通行は大体の予想はついていた。

九島烈、九校戦のオープニングセレモニーで微弱な魔法で選手を驚かせた人物であり、十師族の家の人間。一方通行はこの程度の人物評価しか出来なかったがあの微弱な魔法はつまらないとしか思えなかった。能力制限状態の彼でも周囲のベクトルをある程度観測できる。そこに引っかかったため周りの人間が驚いていることに驚いた。

ディスクを手に取り少し経つと突如目の前にフードを被った男が現れた。瞬間移動系の能力者で現在のアレイスターの窓の無いビルへのアクセス権を持っている人間。彼が一方通行の手を取り目の前が暗転する。

 

 

***

 

 

飛んだ先は一方通行の宿泊していたホテルだった。時刻は午後3時、日本とオーストラリアは時差がほとんど無いため体に異常は感じられない。森崎と同室だが彼は今ここにいない。

そんな中フード男が初めて一方通行に声をかけた。

 

 

「これから必要になったら俺が飛んでくる。そして何時でも学園都市と連絡が取れるように端末にこの数字を入力しておけ。以後指示があるまで自由だそうだ」

 

 

これだけ言ってすぐに姿を消した。一方通行はフード男の能力が学園都市の力でサポートを受けていることを確信した。地球レベルの距離を飛ぶ能力など人間の脳では不可能。目標座標を視認出来ないしそれだけの距離を正確に把握する事など人間では出来ない。恐らく学園都市の衛星の力と一方通行同様、樹形図の設計者の力を借りて能力を運用しているのだろう。

一方通行は丁寧に畳まれたシーツの上に転がり今日使ってきた能力を電力で補う。その間腰のベルトに仕舞っていたCADを外し着替えを始める。オーストラリアは冬で薄手のコートが丁度良かったがそろそろ日本でも一方通行の服装は違和感を感じる。そのためブランド物のパンツと灰色の長袖を着用する。この格好だとチョーカーが丸見えとなるが日常生活に支障はない。

すると突然腹の音が鳴る。一方通行は九校戦の会場に屋台があったのを思い出しバスで向かうことにした。

大会会場は大きく盛り上がっていた。新人戦2日目ということで今はアイス・ピラーズ・ブレイクの試合中だった。

 

 

「このピリ辛チキンと黒胡椒チキン、カードで」

 

 

一方通行は多くある屋台のうち肉を出している店にしか興味はなかった。彼が野菜を食べてるところなど身内でも少ないだろう。同居人といた頃は強制的に直されたらしいが。

 

 

「はい、毎度。兄ちゃんも応援かい?今は今年注目の1年、司波深雪って子が出てるはずだよ。見てきたらどうだい」

 

 

気さくな屋台の主人に軽く挨拶して買ったばかりの熱いチキンを口の中に放り込む。そんなことをしながら歩いていると試合会場のゲート前まで来てしまった。一方通行は九島烈の所へディスクを渡そうと思ったが、どこにいるのかわからないため今日は諦めた。そこで今やっている試合を観ようとゲートをくぐる。

そこは歓声というかなんと言うか多くの感情が混じった会場だった。じっくりと見てみると司波深雪がステージ上で相手を圧倒し終わったところだった。一方通行にはよくわからないが自陣の氷柱を一つも倒さないで勝つことは凄いことなのだろう。そんなふうに淡々と評価してもう一つの黒胡椒チキンを口にした瞬間、突然後ろから声を掛けられた。この状況では人が多過ぎてベクトルを感知してもほとんど無視して来た。これが仇となってしまった。

 

 

「貴方が一方通行ですか?初日の試合見ましたよ、モノリス・コードにも出るんですよね?頑張って下さい」

 

 

にこやかな顔をしたスーツ姿の男からいきなりの応援エール。突然のこと過ぎて上手く判断出来ない。そういう訳で相手を無視しているかのような態度でやり過ごすことになった。振り返って試合会場を再び見ると選手らは帰宅しようとしていた。今日の試合はこれで終わりらしい。

屋台で食べ物を買うだけに外出したというのは気分が些か悪いためバスが出るまでの間に少し散歩をして帰った。

夕食時、一方通行は食堂へ向かおうとする。特段に食べたいというものは無いが屋台で食べた物が少しキツかったため飲み物が欲しかった。丁度良く今は一高が使える時間らしい。

食堂のドアを開けた途端、森崎も同時に扉に手をかけていたらしく彼は前のめりになった。転ばずにいたのは幸いだろう、しかしすぐに体勢を立て直し一方通行が歩いてきた通りを早歩きで辿っていった。

 

 

「あァ?何なンだよ」

 

 

呟きながら食堂に入る一方通行は注目の的だった。それもそのはず、二日目から姿を見せず今になって現れたのだ。それにオーストラリアにいたであろうと推測している人間もいる。

視線を気にすることなくドリンク置き場を見つけコーヒーを選択する。アイスコーヒーを片手に持ち空いているテーブルに腰をかける。そこに一人の男子生徒、司波達也が近寄って来た。彼は一方通行の向かい側に座り話しかけた。

 

 

「今まで何処にいたんだ?雫や会長が心配してたぞ」

 

 

無表情に近い顔から上辺だけの言葉が一方通行の耳に入ってくる。それに対し彼は状況を一瞬で判断したのか、杖を利用し立ち上がりながら口を動かす。

 

 

「話あンだろ、いいぜ付き合ってやるよ」

 

 

テーブルを後にし一方通行と司波達也、それに続いて司波深雪もついて来た。それに対して一方通行は何も気にかけなかった。

ホテルの外、月も表に出ず辺りは真っ暗な闇に包まれている。3人の距離はそれほど離れていないが、互いの顔をハッキリと認識できる明るさではなかった。

 

 

「オーストラリアで展開していた学園都市とかいう組織の仲間なのか?」

 

 

後ろからいきなり本題に入ってくる達也に一方通行は笑みを浮かべる。真っ直ぐ過ぎるというのが単純な感想だった。

 

 

「俺が答えたところで何が変わる?確認でもしたいのか」

 

 

歩きながら後ろを見ない一方通行。それに対し達也も答えていく。

 

 

「いや確実な証拠は無い。テレビにお前の姿らしきものを見つけてな。それに4月の件で海原という人間が俺達に接触してきた。個人的に調べたが行き着く先は全て学園都市だった。今の筑波にそれほどの力がある筈が無い......一体お前は何者なんだ?」

 

 

フフッと一方通行が薄気味悪く笑う。月明かりが差し込んで彼の白い体が光を反射する。

そこにあったのは白い翼。しかし翼と表現していいのだろうか、鋭利な羽先がいくつも司波兄弟の周りを囲んでいる。首筋に今にも突き刺さりそうなほど近い距離。

達也は特殊な眼を保持している。暗くて分からなかった等という言い訳は通用しない。彼は隣に立ち尽くしている深雪の肩を抱き安心させる。

すると一方通行の白翼が一瞬で霧散する。夏の夜に降り注ぐ粉雪のように空中を舞う。

 

 

「世の中人に聞いて全部分かるほど甘くはねェ」

 

 

彼はカツカツと杖を鳴らしながら深雪の側をこの世界に来て結構伸びた白い髪の毛を揺らしながら通り過ぎる。

辺りには静けさが支配していた。



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18

遅れました。
多分このペースかと、しかも少し短いです。


大会6日目、新人戦3日目。暑くもなく穏やかな気候で試合が開始される。オーストラリアでの仕事も終わり九校戦も出場する試合が無い一方通行は比較的ゆっくり出来る身分だった。彼の目覚めは午前8時、他選手と比べるととても遅いが別に問題は無い。朝食を終えた後フレーラに渡されたディスクをポケットにしまい雫が出場するという試合会場行きのバスに乗り込む。

一方通行は会場に到着すると人が多過ぎて少し気分が悪くなった。一般客が多く高校関係者や運営側は対応に追われているようだった。これに嫌気がさし九校戦のトーナメント表を見て雫が決勝戦へ行くことを信じ、九島烈が観戦している試合会場を探す。なるべく早めに終わらせたいと思っていた。

いろいろ検索してみても九島の場所は分からないのである程度予想して機会を待った。

昼前の会場、そこはアイス・ピラーズ・ブレイクの予選が次々に行われ選手らが競技をしているが、観客の数は少ない。昼時なのだからであろうか、これを利用して一方通行は自分の席を手に入れ試合を眺める。特に見入る試合は無かったがいい暇潰しにはなったようだ。

決勝戦が始まる前、人が混み出した。その機会を見計らって一方通行は最も警備の多い特別観戦席を目指して移動する。九島は日本屈指の魔法師であることは確かでありそれに比例して警備も多くなるはず。こんな単純な予測で行動する。

警備員を一方通行の能力で無効化し終わり観戦席の扉を開く。ザル警備とまではいかないが能力を開放した一方通行に対しては何の効果も発しない。部屋の中には椅子に座る九島老師が驚きもせずに試合会場の方を眺めていた。

 

 

「何用かね?」

 

 

ゆっくりとした声で一方通行に聞く。その言葉を聞きながら彼はドアの鍵を締め老師の側に寄ると一つのディスクを言葉を加えながら手渡す。

 

 

「学園都市からの土産だ、中身は俺にも分からねェ」

 

 

背後に立つ一方通行の姿を一切見ることなく手元にやってきたディスクを眺める九島。仕事を終え部屋から出ようとする一方通行を老師は止めた。

 

 

「折角だからここで決勝戦を見ていきなさい」

 

 

その言葉に別の意味が含まれているのかどうかよく分からないが、決勝戦を見る座席を確保出来ていなかった一方通行はその言葉に甘えた。

決勝が始まる、目の前で氷柱が整えられていく。

選手の入場と共に老人と若者の雑談が始まった。

 

 

「時に一方通行君、君は学園都市と言ったが筑波の方じゃない。オーストラリアで現在侵攻している方の学園都市で間違いないのかね」

 

 

老師の隣の余った座席に座り試合場を見ていた一方通行は頬杖をつきながら口を動かす。

 

 

「あァそうだな、それがどうかしたのか」

 

 

目の前では氷炎地獄という魔法が展開され美しい光景を醸し出している。それに対し雫は氷の温度を一定に保つために情報強化の魔法をかける。

 

 

「もしかするとその代表はアレイスター、彼なのかね?」

 

 

互いの魔法が侵食し拮抗状態を生み出している。客観的に見ると平衡状態であろうが当人たちはそう思っていなかった。

 

 

「そォだな、合ってる」

 

 

雫が手元に拳銃型のCADを出現させレーザーのような魔法を発現させる。

 

 

「そうか、今ここで君を殺せばアレイスターの計画は頓挫するだろうが私にそのような力はもう無い。はてさてどうしたものか」

 

 

ニブルヘイム、領域内の物質が個体へと変化していく。温度が下がり続けているのだ。雫の魔法力では対応しきれていない。

 

 

「アイツと何があったのかは知らねェ、だが俺から言わせてもらうと抵抗できる力がねェンならさっさと降参することだな。無駄な労力はかけたくねェ」

 

 

一時の緊張が弾け再び深雪の氷炎地獄が試合場を覆う。今まで冷却されていた物が瞬時に高温に晒された。氷柱は凄まじい音を響かせながら崩れていく。

女子新人戦アイス・ピラーズ・ブレイクの優勝者は一高の司波深雪に決定した。

試合が終わり一方通行は部屋から出ようとする。老師はそれを止めることもせずじっと眼前の空を眺めていた。

オーストラリアで頼まれた最後の仕事を終え本当にゆっくり出来る時間が出来た。地面に転がる九島の部下達を越えて試合が終わった観客席に一息つく。ぞろぞろと入ってきたゲートへと帰っていく人間とは逆に一方通行は黙って見ている。何を見ているのかというとオーストラリアで手に入れた賢者の石。紅蓮のような輝きを放つが今の一方通行はその価値の大小がわからない。

立ち上がりホテルへ戻ろうとすると目前に二人組の男がいた。

 

 

「初めまして、僕は第三高校一年の吉祥寺真紅郎です」

 

 

小柄な方が先に挨拶してくる。

 

 

「俺は同じ第三高校、一条将輝だ。お前は第一高校の一方通行で間違いないな」

 

 

一方通行は何も答えない。相手どうこうというよりいきなりの出来事で面倒に感じる。そのまま睨みつけていると相手から言葉が出てくる。

 

 

「僕達は明日のモノリス・コードに出場します。貴方は出場するのですか?」

 

 

「オマエらは何か勘違いしてるようだが俺は一切出る気はねェ」

 

 

そこへ将輝は割って入ってくる。

 

 

「本選のスピード・シューティング、あの時のCAD使用者と戦えると思ったんだがな。残念だ、行くぞジョージ」

 

 

そう言って一方通行に対し軽く礼をして彼らは遠のいていく。その背中を見て一方通行はうんざりしたような気分に陥る。先日の見知らぬ男からもモノリスに出場するのかと聞かれ今もこれである。

彼は明日真由美達にこの煩わしい事情の説明を求めようと思い今日は帰ることにした。

本大会の7日目、この日も朝から猛暑という訳ではないが夏本番というような暑さを発揮していた。この日の一方通行は夏のムシムシとした暑さに耐えかね部屋のエアコンを利用し涼しい環境で朝食を食べていた。バイキングには行かずに近くのコンビニで買ってきた弁当にコーヒーという生活習慣に悪そうな物が多かった。

ホテルを出て会場近くにある一高本部を目指す。日光が激しく照っているが紫外線を反射している一方通行の体に日焼けの跡は一切残らない。バスに乗ってすぐに目的の場所についた。時刻は11時になろうとしているところだった。本部の中には作戦を立てる生徒や試合が終わった生徒が休んでいたりしていた。

その中へ一方通行は一歩踏み出す。

空気が変わる。和やかに雑談していた生徒も本日の新人戦のモノリスの作戦を再考案していた生徒も、一方通行が放つプレッシャーを直に浴びる。機嫌が悪いという訳ではないが昨日から聞きたいことがあった彼は無意識に威圧感を出していたのだろう。おどおどしている他の生徒を気にかける様子もなく空いている椅子に座る。

そこへ会場に行っていたのだろうかわからないが一高のトップ魔法師らが帰ってきた。それを見るとすぐに一方通行は自分の質問を投げかける。

 

 

「何か俺がモノリスに出るっつゥ噂あンだけどよ、どこが出して回してンだ。まさかとは思うがオマエらが選手登録したとかそンなマヌケな話じゃねェだろォな?」

 

 

不満をぶつける様なぶっきらぼうな態度で近づいていく一方通行。

 

 

「あー!!アッくん!帰ってきたなら連絡してって言ったでしょ、一昨日からいるっては聞いてたけど姿見せないから心配したじゃない!」

 

 

不満そうな一方通行の態度というものは真由美には全く効果はなかった。それどころか逆に彼が捲し上げられ杖が後方へと若干移動する。体のバランスが危うくなったが杖についていたジャイロセンサーが彼のバランスを取り戻す。

 

 

「本当に心配したのよ?取り敢えず座って話しましょう。うちの高校のモノリスまで時間はあるわ」

 

 

真由美がそう言うと元々一方通行が座っていた椅子の近くに真由美と一緒にいた十文字、摩利も同時に座る。

そしてすぐに一方通行は予測される質問の答えを叩きだす。

 

 

「まずはオマエらが考えてる事に返答してやる。俺がオーストラリアにいたのは事実だ。そこでやっていたのは学園都市勢の手伝いみたいなもンだ。学園都市については教えらンねェ、自分で調べろ」

 

 

立て続けに話す一方通行についていけたのは十文字だけだった。いや、彼はついていったのではなく早々に聞くのを諦めていた。

そして再び一方通行が話し出す。

 

 

「でだ、俺が聞きてェのはモノリスに俺が出場予定なのは何でかっつゥ話だ。昨日は三高の二人組に聞かれて一昨日は知らねェ研究員、流布が速すぎる」

 

 

一高側もその問題を注視していた。勝手に広まるデマというものを止める確実な手立ては今の所何も無い。であるから噂を止めるようなことはせずに出場メンバーを運営委員に通知し後は何もしなかった。

 

 

「それは私たちも困っていたの。でももう大会本部には出場する選手の名簿は渡したから安心してちょうだい。それに試合はこれからだからこれで変な噂も止まると思うわ」

 

 

納得したような顔で一方通行は一高本部の液晶をのぞき込む。試合開始まであと2時間ほど、彼は缶コーヒーを買いに行こうと席を立ちポケットからカードを取り出す。

 

 

「アッくん?何か落ちたわよ」

 

 

カランという音と共に一方通行のポケットからカードとは違うものが地面に転げ落ちる。

赤い鉱石の様だが眩く日光を反射している。澄んだ光が内蔵されている光源のように輝かしい。

落ちた石を拾い再び出口へ向かう一方通行だがそれに真由美が着いて来た。どうやら彼女は一方通行がコーヒーを買いに行くのに興味があるらしい。

外へ出た一方通行と真由美、陽射しが照っていて暑苦しい光景が眼前に広がるが、一方通行本人はオーストラリアへ行った時の服装で見ている方が暑くなってくる。

 

 

「ねえねえアッくん、さっきの綺麗な宝石って何なのかな?」

 

 

一方通行の周りでウロチョロする彼女を彼は嫌そうな素振りを見せずに答える。

 

 

「ありゃフレーラから預かってる代物だ」

 

 

フレーラ?と真由美の頭の上にハテナマークが浮かび上がるのが予想できる。そんな小動物のような愛嬌が一方通行に向かってくるが彼は動じずコーヒーを購入する。

昼食時間も彼は一高本部でコーヒーを飲んで時間を潰していた。別に部屋に戻っても良かったのだが、モノリスというものを見てみたいという単純な興味が湧いた。

 

 

「始まるわよ」

 

 

何故か隣に座っている真由美に声をかけられ映った映像に目を向ける。スタートの合図が鳴る。

次の瞬間誰も予想していないことが起こった。森崎らがいたスタート地点の建物が崩壊したのだ。唖然とした表情が部屋中を包む。瞬間空白が生まれるがそれも束の間、全員が慌ただしく動き回る。

不吉な予感が一方通行の脳内を駆け回った。




遅れた理由は














遊戯王です、すみません


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19

遅くなりました。


崩落した瓦礫群から森崎ら3人が担架に乗せられ救急治療室へ運ばれていく。その映像を見ていた一方通行は慌ただしく動いている周りの生徒に目を配る。本部に行くという生徒や情報収集に勤しむ生徒、様々だった。空になった缶コーヒーをゴミ箱に捨て事後の放送が流れているテレビに目をやる。事態は非常に厳しいようだった。その時向こうで話していた雫と深雪が彼の元へとやってくる。

 

 

「一方通行、九校戦にいたんだね。元気にしてた?」

 

 

モノリスの事故と今まで姿を見せなかった一方通行への不満が両方彼にのしかかる。皮肉めいている。しかしそのような子供っぽい態度であっても一方通行は気にしない。

 

 

「あァ、森崎達が事故ったらしィな。運が悪いな」

 

 

心にも思ってない事、とは確定出来ないがあっさりとした言葉がスラスラ出てくる。

彼女らと話していると突然一方通行が呼び止められる。彼を呼んだ相手は十文字克人であった。彼は一方通行に一緒に運営委員本部へと行くように言い、連行していった。能力を使えば容易に振り解ける腕だが一般人に能力の使用は極力避けている(使う時には容赦はしない)ので仕方なくついて行った。

本部と呼ばれるホテルのある階に十文字と一方通行はエレベーターで向かう。その間互いに口を動かすことはしなかった。本部へ着くと運営委員やら重役などが待ち受けていた。

 

 

「失礼します、第一高校の十文字にこちらが一方通行です」

 

 

「わざわざすみません、では早速今後のことを話しましょうか」

 

 

運営委員の中でも若い役員が彼らを席につかせ話し合いが始まった。内容は今後の一高のモノリスチームの事から始まった。マニュアルでは不戦敗にして退場させるのが通例だが、レギュレーション違反が過ぎるのと運営委員の不手際もありどう判断するのか定まっていなかった。

そんな中委員から一つの提案がなされる。

 

 

「十文字君、私は君達に代替チームを編成させ明日にプログラムを移してもいいと思っている。ただその代わりメンバーに一方通行君を入れるのが条件だ」

 

 

何故一方通行が条件なのだろうか。そう思った十文字は委員に尋ねるとその委員は苦笑混じりに理由を話す。

 

 

「いやぁこっちにも少し事情があるんだよ。日本のCAD企業の大半から一方通行のCAD技術の公開を迫られていてね。何時もはそんなこと出来ないって跳ね除けられるんだけど今回は向こうの数が多過ぎる。強引にも盗んでこようとした輩も出てきたわけだしね、昨日に。そこで一方通行君を出場させて企業の人間達を黙らせたいと思ったわけだ」

 

 

自分たちの仕事を増やしたくないと言うことだろう。そんな事を聞いているうち一方通行にどうかという願いが出された。

 

 

「しかしが一方通行を新人戦のモノリス・コードに出場するには身体的障害があります。これを考慮して自分達は出場させなかったんです。そちらの事情も分かりますが一方通行には少し厳しいかと」

 

 

十文字は言い分を上手く回避して自由なメンバーでのチームの再編成を申し込むが相手は強情である。

 

 

「分かってますよ、ルールも少し変えます。ですから何卒お願いできませんかね?」

 

 

これでは交渉にならない。そう考えた十文字は隣で会話をずっと聞いていた一方通行に視線をやる。何一つ変わらないその赤目は何を見据えているのだろう。

 

 

「一方通行、どうする。俺からはもう何も言うことは無い。お前が出るのであればチームを組もう、だが出たくないのであればそれで構わん。新人戦を放棄しても総合優勝は十分に狙える」

 

 

ここに来て一方通行に選択権が渡る。

既に決まっている。

 

 

「俺が出れば目障りな糞共がいなくなるのか」

 

 

「は?あ、君のCADを狙う人間という事か。ああ、努力はするよ。君が出ればそういう輩はいなくなるだろう」

 

 

この一言が欲しかった訳ではないが見合う回答は得られた。彼は十文字に残りのメンバーを決めて来いと命令する。その言葉で十文字は部屋から退出し一方通行は委員とルールの編集を行った。

 

 

***

 

 

ルール改正(一方通行用)を終えた一方通行は部屋から出てコーヒーで一息つく。彼がモノリスに出場しようと思ったきっかけはいくつかあるがその中でも有力なのは自らの新CADの調整。オーストラリアでは自分の能力だけで掃討していたが、いつ学園都市に樹形図の設計者を止められるかわからない。そのためいつでも魔法が使える状態にしておかなければならない。

次に有力なのは彼に突っかかって来た司波達也、一条将輝、吉祥寺真紅郎、この3人の能力を見ておきたかったという事。この世界に来て未元物質の様に能力の隙を突かれるということはまだ無いが、いつそれが起きてもおかしくはないと思っている。一方通行が見立てたこの3人には多少の可能性が残っている。今の一校が一年で司波達也を出さない訳がない。心配事の芽は早めに摘むべきである。

缶コーヒーをゴミ箱に放り投げ運営本部のホテルを後にする。

時刻は既に午後3時を過ぎていた。CADの動作を確認するためホテルに戻る。

そして数時間後、調整に時間をかけ首のチョーカーとの接続も確認した一方通行に連絡が入る。内容はメンバーの決定と作戦会議をするため集まれということだった。彼は部屋の扉を開け指定された部屋に移動する。

杖を利用して移動した後彼は部屋へと入る。そこには同じ一年という枠組みの人間がいる。しかし一科生は誰もいなかった。

 

 

「意外と早かったんだな、一方通行」

 

 

部屋に入った途端達也に嫌味?を言われる。彼の周りにはいつしか見た生徒がいる。

一方通行は記憶の片隅を再生させる。入学当初の真由美に連行された時に一緒にいた二科生だ。

 

 

「で、残りのメンバーはどっちだ。モノリスは3人で一チームだろ」

 

 

一方通行の目の前には男性が2人いて片方は先程思い出した人間達に含まれる。

 

 

「吉田幹比古という名前だ。安心しろ、実力は保証する」

 

 

達也が紹介すると紹介された人物が一方通行に握手を求めてくる。一方通行は無下にすることもなく杖を利用していない左手で応答する。その他にもレオ、エリカ、美月という人間を紹介された。

 

 

「早速で悪いんだがある程度の作戦は考えておいたんだが問題はあるか?幹比古には説明したが一方通行、お前はディフェンスの役割を担ってもらう。オフェンスは俺、幹比古は遊撃だ」

 

 

一方通行に向けられた達也の言葉、一方通行自身が考えていたよりよっぽど頭が切れるようだった。彼は適当に頷き部屋に備わっている椅子に腰を下ろす。

 

 

「アンタって結構面倒見がいいのね、雫から聞いたけどあの子の世話係なんでしょ」

 

 

エリカが一方通行に話しかけてくる。どうやら彼は雫の目に見えない攻撃を受けているらしい。何かした覚えはないが確実に被害はある。

エリカの声をあっさりと受け流し達也に自身の役割を再度確認する。

 

 

「それじゃ俺はもう寝る。別にここにいても意味ねェ」

 

 

残りのメンバーの確認が出来ただけで十分に感じていた一方通行はやる気のなさそうな顔をしながら扉に手をかける。

 

 

「CADの準備はいいのか?スピード・シューティングで使ったCADを使うなら再調整するぞ」

 

 

達也にCADを見せるように促された一方通行だがそれを断り一人退出する。

その直後あらゆる道具を持ち込んであずさが部屋に入ってくる。

 

 

「これがウェアに防護服です。ってあれ?一方通行さんはどこに行ったんですか?彼の分も用意したんですが」

 

 

達也は彼女に礼を言い一方通行は既に部屋を出ていった事を伝える。その言葉を聞いた彼女は残念そうに肩を落とす。

 

 

「そうですか...初日のようなCADが見れると思ったんですが残念です。それじゃあ一方通行さんは何のCADを使うんでしょうか」

 

 

疑問を頭に浮かべるあずさに達也は大人のように優しく教える。

 

 

「準備は出来ているらしいですよ。それよりも幹比古、CADの調整をするぞ」

 

 

あずさが持って来た機材が揃ったことにより調整が始められる。慌ただしく動く部屋の中であずさは一人不安を抱えていた。

 

 

(一方通行さんの作業車って無くなってるよね。結構前から見当たらないし、どうするんだろう...)

 

 

***

 

 

新人戦5日目、モノリスの試合会場は大いに荒れていた。一高の特例措置のせいでもあるが問題は中身。本戦のスピード・シューティングに出場しそれ以降全く姿を現さなかった一方通行が出場するとあり、席はまだ会場前なのに満席になっている。さらに観客を驚かせたのは対一方通行用ルールである。事前に公表されているらしくパンフレットを片手に持つ観客が数多見られる。

一高対八高の試合が始まる。

ディフェンスの一方通行はモノリスの付近に棒立ちしている。プロテクションスーツなど着ていないしヘルメットも付けていない。彼の能力の前ではどんな防護服も敵わない。

それをモニター越しに見る大勢の人間はいくらルール変更でも無茶だと思った。さらにパンフレットには一方通行に対する殺傷ランクは無視されており、どんな攻撃が来るのか分からない。

 

 

「彼が出るって聞いたけどこんな無茶苦茶ルールじゃないと出ないっていう神経はおかしいわ」

 

 

雫の隣に座っていた深雪は一方通行に対し多少の心配を寄せる。それを雫は余り心配視していない。

 

 

「大丈夫だよ、深雪。一方通行は絶対に負けない」

 

 

頑なに持つその意志はどこからやって来るのか聞きたかった深雪だが、モニターでは彼の兄がモノリスにコードを撃ち込んだ。

試合が続くにつれ八高のオフェンスが一高のモノリスに辿り着く。一高の専用席からは直視できる場所にモノリスと一方通行が存在している。

次の瞬間オフェンスからモノリスへ鍵となる術式が飛んできた。それを見て一方通行は何もしない。モノリスが鍵を読み込み開かれる。

 

 

「やる気あるのか!真面目にやれ!」

 

 

他の一高の応援団からヤジが飛ぶ。それと同時に一方通行に対し彼の行動を止めるべく圧縮空気弾を何発も飛ばす。その術式が展開されてるのを流し目で確認した一方通行はやはり何もしない。展開された魔法を応援席にいる大勢の人間は確認できる。誰もが一方通行のやる気の無さにイライラし飛んできた魔法も当たるだろうと確信していた。

事実一方通行に空気弾は直撃した。否、彼の反射膜に直撃した。固定位置から魔法を発動し空気弾を撃っても移動しなかったオフェンスは空気弾をもろに喰らう。

観客席にいるCADの技術者や他に魔法に精通する玄人も目を疑った。飛んでくる魔法を対処する魔法はいくらでもある。しかしそのまま魔法を跳ね返すとなると術式は限られるし、何より相手の魔法を逐一解析して反射魔法を構築しなければならないので現実味が無い。しかし目の前で起きた事は何で証明できるのだろう。

そんな観客の様子をやっと気づいた一方通行。

 

 

「やっぱり音切るのはハンデが過ぎるな。結局人間狙ってくるのかよ」

 

 

寝起きのように魔法を発現したことすら記憶が定かでは無い。無意識下の出来事である。

しかし彼のチョーカーは作動していない。だが反射が適用されている。その理由は彼の完成形CADのおかげだった。CADを適用している限り一方通行のベクトル変換能力を元来の10分の1だがチョーカーの電極を使わずに発動することが出来る。ただし制約として魔法としてこの世界にベクトル変換能力を出現させるため、サイオンが常に放出されている状態にあり枯渇が心配される。そして本来の力を十分に発揮できるわけではないので、大質量やエネルギーが大きくなったものなどは対応出来るかどうか不明である。

だがそれでも今はこれでいい。

自らの空気弾を喰らい痛みを我慢していたオフェンスに一方通行が触れたモノリスが飛んで来る。その直後被害者の視界は真っ黒になった。

応援席、そこは驚きと恐怖の渦に巻き込まれていた。飛んで来た魔法を無効化したことはまだ認めよう。だが一方通行が触れたモノリスが飛んでいくことをどう説明しよう。式は展開された、だが余りにも異常過ぎる。視線が一方通行に移っているうちに達也がコードを入力し勝利する。

喜びよりも不安の方が大きかったのは言うまでもない。




このペースかと


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20

控え室は達也らにそわそわした幹比古は一言言えない環境であった。そこに一方通行の姿はない。彼は缶コーヒーを買いに行ったきり戻ってこないのである。そこに入って来た真由美らは一方通行が戻るまで試合会場を言うのを待っていた。

数分の後にやってきた一方通行の姿を確認し試合会場が市街地ステージであることを伝える。その旨を聞いた一方通行はある判断を下した。

 

 

「オイ、司波、幹比古、作戦変更だ」

 

 

その言葉は何を意味するのか。丁寧な判断が出来ない達也はその言葉を丸呑みする。

 

 

「俺がオフェンス、お前ら2人はディフェンスだ」

 

 

「市街地でお前がオフェンスをする理由を聞きたいんだが」

 

 

達也は頭に血を巡らせる。一方通行の思惑は一体何なのか。

 

 

「この地形なら俺の力を十分に出し尽くせる」

 

 

手元にあるCADをカチャカチャと弄りながら理由を説明する。力を十分に出せると言ってもレギュレーションに違反するような事は出来ない。廃ビルをすべて倒壊させるというようなことは絶対にやってはいけない。

そんなことも知らない達也は別に一方通行の提案を無視する理由もないのでその案を採用する。

 

 

***

 

 

一高対二高の試合が始まった。中継を見ている試合会場の人間は先程の対八高戦よりも多くなっていた。もちろん理由は一方通行と司波達也、両人の活躍を見るためである。新人戦のデバイス関係で他校を圧倒した司波達也。本戦スピード・シューティングにおいて固定概念を崩壊させた一方通行。

しかし試合が始まったのにも関わらず一高モノリス付近にはチーム全員が集まっていた。

 

 

「次の作戦は一方通行がオフェンスのはずだけど動きは全くないわね」

 

 

深雪が兄と一高の行く末を心配する。一方通行がオフェンスという情報は控え室にいた彼女が知っていたわけであり、隣にいた雫、ほのかは一瞬青ざめた様な顔つきをしてしまう。それを見逃さなかった深雪はどうかしたのか尋ねる。

 

 

「え、何でもないよ。ただオフェンスが一方通行なら二高の人が心配だと思っただけ」

 

 

ほのかも似たようなことを言うので不思議に思った深雪だがパネルに進展が見られた。

一高モノリスに接近してきた二高のオフェンスがオフェンスなのにモノリス付近で待機していた一方通行に捕まった。暴れる二高の選手を構うことなく首を掴み軽々と持ち上げる。

 

 

『モノリスは何処だ?』

 

 

相手チームの人間を捕まえてモノリスの場所を尋ねるというようなことは今まで無かった。なぜなら尋ねても答えるわけがないし尋問をやればルール違反で終了である。

しかし一方通行は尋問に近いある種の方法で情報を引き出す。

 

 

『答えねェンならそれでいい。無反応でも構わねェ。俺の言葉を聞いているだけでいい。脳が勝手に判断してくれンだからなァ』

 

 

ニタリと笑った一方通行は演算量を大幅に増量させるためにCADと共にチョーカーのスイッチを入れる。

この瞬間CADの開発者が言っていたことを思い出した。能力発現と共に使えば本当の力を手に入れることが出来る。全盛期に及ぶ演算能力を手にした一方通行はロシアで身に付けた技術を披露する。

人間の生体電気とホルモン量様々な情報を質問時と質問後で比べ脳から直接情報を読み取る。ベクトルを操る能力が本領ではない。観測、再算出し限りなく本物に近い値を叩きだすのが本当の能力。番外個体が電気的信号を読み取った時と同様一方通行もその真似をする。

そして場所がわかった一方通行は空中で気絶していた相手選手のヘルメットを脱がせ、自身の電極を切り当ビルの屋上へ上がる。

目標位置まで6棟程ビルが連なっていた。しかし屋上の一方通行はそんなことを無視して飛び上がる。走り幅跳びでもしたのだろうか、それほど軽い感覚で一方通行はビルを通り越していく。

観客の大勢は一方通行の足元に展開された起動式に頭を悩ませていた。あれ程小さな魔法式で何故あんな跳躍力が身に付くのだろう。それに着陸した一方通行には傷一つない。魔法でいくら衝撃力を吸収できたとしても、体を屈めるということぐらいする筈である。しかし彼はそんなことはしない。いつの間にか出した杖で体を支えているだけ。勿論屋上には下の階へと至る階段などない。彼は自身を支えていた杖を収縮させ邪魔にならないように収納する。

次の瞬間彼の足下に魔法式が展開されコンクリートが崩壊する。このような小さな破壊はレギュレーションに違反しない。

CADを片手に握りながらゆっくりと歩きモノリスを探していく。

その様子を三高陣地で見ていた2人は予想されなかった展開に酷く驚いていた。

 

 

「ジョージ!ここ1年の魔法実験を調べ上げるんだ。俺は古式魔法関連を当たってみる」

 

 

彼らのサポートをする生徒もずっと検索端末とにらめっこをしている。検索対象は勿論一方通行。しかし出身中学や一高における情報など基本パラメータしか浮かび上がってこない。一高対八高の試合を見て司波達也を意識していたが、二高との戦闘において注目すべき対象は移った。

魔法の根幹的な部分が欠如している。将輝が一方通行の魔法を見て初めに思った感想はこれに尽きる。反射魔法は現代魔法においても適用される機会はあるが、それは向かってくる術式が分かっている場合のみ。

それに加えありえない程小さな起動式で発現できる魔法の力。サイオン量もそれほど消費しないだろう。

寒気が彼の背中を走り抜ける。

そして三高全体の活動が盛り上がっていく。

相反して静かな一高応援席。ディフェンスの様子も映し出されているが、軽い足取りでモノリスを探す一方通行の姿が映し出された画面の方が大きい。

 

 

「雫、彼の魔法は一体何なの?加重系で括るには余りにも異質だわ」

 

 

その質問を聞いて彼女は頭を悩ませた。一方通行の魔法に関していつかは聞かれると思っていた。しかしそれに対していつもははぐらかしてきたが限界が近い。ほのかの顔を窺ったが画面を見ていてこちらに気付かない。隠しきれなくなったら伝えていいとは一方通行に聞いている。しかしここで一方通行というカードを切るべきなのだろうか。迷っている雫だが一目深雪を見ると気持ちがすぐに傾いた。

 

 

「一方通行の魔法はBS魔法、これは前から言ってたよね」

 

 

「ええ、でも学校では一般的な魔法も使える貴重な能力なんでしょう」

 

 

「うん、一方通行に元々備わってる能力はベクトル操作。自身に触れたベクトルを全て操作する能力」

 

 

現代魔法にもベクトルを操作する魔法は存在する。しかしそれは対象を指定する。だが自身に触れた全てのベクトルを操作するとはどういう事だろうか。

深雪が思案していると後ろからエリカが話に突っ込んでくる。

 

 

「それってさあ絶対無敵ってこと?」

 

 

単純に考えればそういう事。軽く頷いた雫は視線をパネルに移す。

 

 

「ベクトル操作ってそんなにすげぇのか。初めて知ったぜ」

 

 

「バーカ、アンタには出来ないわよ。いい?ベクトル操作って簡単に言うけど演算量が尋常じゃないのよ。分かってる?」

 

 

何故か言い合いになるエリカとレオを片目に深雪は視線を移す。そこにはモノリスを目の前に歩行する一方通行の姿が映っていた。

 

 

『うおおおおおおおおおお!』

 

 

二高のディフェンス2人は真空刃のような飛来物を飛ばし抵抗するが一方通行には敵わない。そっくりそのまま返ってくるので避けるのに精一杯である。

それに対して一方通行はモノリスにコードを打ち込み羅列された文字を審判委員に報告する。その間も攻撃系の魔法が一方通行を襲うが反射の膜の影響を受ける。そのためコードを報告する前に反射された自分の魔法でディフェンスが自滅してしまった。

サイレンが鳴り試合終了の時間となる。

一高の試合が終了した時観客全員は確信していた。一方通行の魔法反射能力は絶対である。背後から狙ったとしても決して破ることは出来ない。この対策をしない限りモノリス・コードは一高が優勝してしまう。先見の眼差しが無いものはここで判断を終えるだろう。しかしある席では先を見据えていた者がいた。

 

 

「藤林、彼はオーストラリア侵攻軍の筆頭だったか?」

 

 

藤林と呼ばれた可憐な女性は端末から必要な情報を抜き取り答える。

 

 

「ええ、オーストラリアの監視カメラに映っている人物とほぼ一致します。先生...これはどういう事でしょうか」

 

 

彼女の端末に映る情報、キャンベラを崩壊する2人の人間。このうちの一人が日本にいる。入国審査が昔よりも驚くほど厳しくなった日本で違法入国などすぐに捕まってしまう。しかもオーストラリアから来たとなれば入国するのは一手間二手間かかるだろう。それなのに日本にいる。

 

 

「我々もオーストラリアから協力を仰がれたが今は手出し出来ん。それにしてもこんな人材が日本の高校に隠れているとは驚いたものだな。それにアイツと同じ高校の1年とはこれは運命の悪戯に思えるな、ん?どうした藤林」

 

 

隣で端末に釘付けになっている女性を見て今まで話していた山中は疑問に思う。

そんな彼女が見ていた映像は恐怖という単語で塗り替えられる、そんな一言で表せた。シドニー、キャンベラとオーストラリアの重要都市が2人の人間によって崩壊されていく様を監視カメラを通して確認する。

 

 

「改めて思いますがやはり彼を確保した方がいいと思います。彼の能力は危険過ぎます」

 

 

地面を割って大量のオーストラリア軍人を地の底へ陥れた光景を山中に見せながら彼女は呟く。

 

 

「そう言うがな、これだけの証拠があるのにも関わらず我々に何の指令が来ないのだ。どうすることも出来ないだろう」

 

 

正体不明の白い人間を分析しながら2人は彼らの部下の話に移った。

そんな外部の様子を気にしない一方通行は試合終了後端末に連絡が入っていることに気付きボタンを押す。

 

 

『一方通行、能力を使うのはいいが既に多くの人間にバレているぞ。お前には重要な作戦が残っているんだ、それまで捕まるような事は避けてくれ』

 

 

何時ぞやの空間移動者の声だった。

 

 

「ハン、お前に連絡が取れれば一瞬で離脱出来るンだから別に構わねェだろ」

 

 

電話口の向こうから溜息が聞こえたがそれを無視する一方通行。

 

 

『まあいい、お前にはまだ仕事が残っているという事を自覚してくれ』

 

 

ここで通話が途切れた。一方通行は試合で消費した電力を補おうと充電できる場所を探し歩き始めた。




20で九校戦終わらせようと思いましたが無理でした


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21

決勝戦へと進んだのは一高と三高の2校だった。対戦する場所は草原ステージ。その場所へと両選手は入場する。司波達也の2丁拳銃を当たり前のように感じる観客だが、未だに一方通行の特異な魔法には違和感を感じている。

ブザーが鳴り試合開始の合図が観衆に響き渡る。その時点から砲撃戦が始まった。だが一方通行は身動き一つしない。砲撃戦を行っている張本人、司波達也の魔法を吟味しながらモノリスを守る。

今回の作戦はオフェンスが達也、ディフェンスが一方通行、幹比古というフォーメーションだった。もしも達也が戦闘不能になったら一方通行が出るという立ち位置である。そのため今動く必要は無い。

対する三高も初めは将輝が達也と対峙しているがある事に疑問に思っていた。

 

 

(どうして一方通行が出て来ないんだ。ディフェンスに奴が居るならジョージでは無理だ。早くコイツを倒して援護に行かないと)

 

 

空気弾の魔法が発動されるが達也の術式解体で防がれてしまう。

そんな様子を傍から眺めていた一方通行。彼はサイオンを視覚的に認識する術は無いので何が起こっているかは魔法的には分からない。しかしCADを起動させている今、周囲のベクトルを感知して二人の攻防の様子を調べる。そんな流暢に構えていると向こう20メートル先に以前見かけた背の小さい方の生徒が立っていた。両者が戦闘を開始する。

吉祥寺の作戦は単純だった。彼の予見では一方通行がどんな魔法を使っているか分からない。しかし先程の試合で放たれた魔法をすべて返しているとは思わなかった。

 

 

(大質量かつ多角的な攻撃、これが僕の作戦だ!)

 

 

吉祥寺の魔法、『不可視の弾丸』が一方通行を囲むように展開される。計32発、レギュレーション無視だが一方通行に対しては関係がない。土埃が彼の体の周りを囲む。

観客は将輝対達也を見ている者と一方通行対吉祥寺を見ている者に分かれていた。その内の一部、真由美は煙が晴れた一方通行の姿を確認し唖然としていた。

無傷、傷一つつかない白い体の一方通行を見て一高本部にいた幹部らは驚きを顔に示す。向かってきた魔法が全て同じと言っても方向が異なるので防御しづらいし、『不可視の弾丸』と言う目に見えない攻撃魔法をいとも簡単に凌いで見せた。

 

 

「これでまだあの時に見せた白翼を見せていないでしょう?一体何者なの?」

 

 

真由美の言葉はすぐに映像にかき消された。達也が将輝の空気弾の直撃を受けたのだ。しかし彼は倒れない、すぐさま腕を伸ばし指を鳴らす。空気の振動が会場を支配する。

一条将輝が倒れた。三高の軸となる人間が負けた。これは達也達にとって大きな利点となる。だがそれと引き換えに達也は暫く動けない状態になっていた。それを見た幹比古は吉祥寺への反抗を開始する。

ある観客席、そこには白衣を着た研究者らしい女性とそのペットだろうかゴールデンレトリバーが佇んでいた。

 

 

「いやー先生、あれが魔法ですか。エイドスやらイデアやら凄いことになってますね」

 

 

双眼鏡を装備し試合会場を見つめながら女性は虚空に呟く。それに対応したのか、人口音声がゴールデンレトリバーの方から発せられた。

 

 

『まあ学園都市に無いものが存在する世界だからこちらの物理法則が適用するとも限らない。学園都市のDD社は既に魔法関連の報告書を上げているようだし解析もまもなく一段落つくだろう』

 

 

「私の発言は無視ですか、そうですか」

 

 

夏の日差しを気にすることもなく日照化の中ある犬からの講義は続く。

 

 

『一方通行にはこの世界の役割が確立している。アレイスターは連れ戻せと言ったが不可能だろう。それよりも私が気にしているのはあの司波達也という男だ。君も見ただろう、一瞬で体の傷を回復する能力。あれも魔法だというのならこの世界の人間は全員不死身か?』

 

 

「それはないと思いますよー。対戦相手の一条将輝って人は普通に倒れてますし特殊な能力なんじゃないですかね。」

 

 

それもそうか、と言葉を吐き出す。周りの人間は驚いている様子はない。

そのペットの飼い主である木原唯一は双眼鏡を外し手元に置いてあった飲み物に口をつける。

 

 

「先生もどうです?」

 

 

結構、と言い試合を見ている。吉祥寺が一方通行を突破出来ず幹比古が攻撃するという2対1の構成になっていた。

 

 

『勝負ありと言ったところかね。一方通行の能力にを打開する手立てがないと見える。それに一高のもう一人の生徒もなかなかの魔法使いじゃないか。さあ唯一君、こちらの世界の『木原』を集めるまでもう少しだ、急ごうか』

 

 

満足したように席から離れる2人。彼らは一方通行を回収せずにゲートを抜けるとワーッという歓声が湧き立つ。

その音に紛れある人物が接近してきた。

 

 

『我々からのメッセージは届いたかね?九島烈』

 

 

何かしらの擬態魔法を使っているのか周りの人間は彼が九島烈だとは認識出来ていない。木原唯一は興味が湧いた木原脳幹の邪魔をしないよう一歩手前に下がり彼らについていく。

 

 

「ああ、勿論。君達の世界の事もこっちで出来る限り調べているよ。アレイスターは元気かね?」

 

 

脳幹の歩くペースに少しの戸惑いも見せない老師だがそんなことを気にしている状態ではない。

 

 

『元気にやっているさ。最近は体の3分の1を削られて帰ってきたが何とかなっているよ。勿論君の知るアレイスターではないがね。二十年戦争、第三次世界大戦、これらにカモフラージュしてこの世界のアレイスターを殺したなんて魔法師は信じるのだろうか』

 

 

九島は答えない。彼が活躍した大戦はたった一人の人間を殺すためだけに用意された舞台であることも、20年に渡り追い詰め死体も確認したこと。頷くこともしない。

それに関係なくどんどん饒舌になっていく脳幹の口の動きは止まらない。

 

 

『魔法、君達は科学力の結晶のように扱っているが本質は未だに分かっていない。まあ我々も調査し始めてすぐだから同じだがね。だがその力の代償を払っているということに気づいているのだろう?』

 

 

ピクリと九島の眉が動いた。それを見逃す程脳幹は甘くは無い。

 

 

『迎えがすぐそこまで来ている。今日はこれでサヨナラだな、九島老師。またいずれ会うだろうが、その時はこんな穏やかな状況ではないだろう』

 

 

そう言うと彼は助手の唯一に合図し一緒に九島から離れていく。それを見送った九島は口にする事が出来ない焦りと不安に悩まされる。

 

 

***

 

 

試合の結果として優勝したのは一高だった。怪我を負いながらも健闘したので治療が必要な生徒が2人ほどいたが、取り敢えず勝ててよかったというのが一高全体の考えだった。その中でも唯一怪我をしていない一方通行、彼は試合が終わってせかせかと動く周りの様子を眺めていた。達也の怪我の治療や幹比古の治療などが一時的にではあるが控え室で行われる。すると彼の隣に生徒会長、七草真由美が座ってくる。

 

 

「何だよ、怪我人の世話でもしてこいってオイ聞いてンのか?オマエ、オイやめろ...やめろって言ってンだろ!!」

 

 

いきなり体をペタペタと触られ真由美の体をどかそうとするが能力を使用していない現在、若干年上の女性よりも筋力が劣っている彼に思った以上の力はなかった。彼女のような一般に近い人間に対して反射を適用するのは彼の考えに些か反する。そのまま真由美は触りながら一方通行に質問する。

 

 

「怪我は無いみたいだけど魔法痕も全くないわね。三高のカーテナル・ジョージからあれだけ『不可視の弾丸』を受けたのにどうして何も無いのかしら」

 

 

それを確かめるだけなら別に触らなくても、と2人の小さい争いを遠目で見ていたあずさ。

一方通行は真由美の悪手が緩まった一瞬を見計らいその場から逃げ出す。

 

 

「会長、一方通行に構い過ぎです。彼も嫌がっているでしょう、控えて下さい」

 

 

冷たい目線と睨み付けるような厳しい視線で生徒会会計かつ九校戦の作戦の担当でもある鈴音は真由美を叱る。それに彼女は無茶苦茶な理論で反論しようとした。

 

 

「だって」

 

 

「言い訳は聞きたくありません」

 

 

バッサリと意見を切り鈴音は去っていった。

この光景を控え室にいた生徒は皆当然だと感じていた。

 

 

***

 

 

丁度同じ時間帯、場所は違うといえどもこの試合結果に悩まされる集団がいた。

 

 

「クソッ、一高が優勝しただと?ふざけるんじゃない。これでは総合優勝も一高だぞ」

 

 

円卓を囲んだある1人の中華系の男が机を叩きながら暴言を吐く。それに呼応するかのようにリーダー格の男は一つの提案をした。

 

 

「こうなっては仕方が無い、これから先の事を考えよう。私はプランδ、プランγの同時実行を提案する」

 

 

周りの人間からは驚きとそれしかないのかという呟きが聞こえる。誰も異を唱える者はいなかった。というよりもうこれしかないという諦めの意思もあるのだろうか。

 

 

「我々の損失を上回る価値のある人間を確保し本部に持ち帰り我々の活躍をそれで隠す。対象は一方通行、現代魔法史上初となる反射魔法を随時展開出来る人間だ」

 

 

彼らは一方通行を利用し自らの命を長らえさせるつもりだった。

 

 

「それがプランδ、プランγは大会自体を中止させることだ。一方通行を捕らえた後そのジェネレーターを再利用し大会を進行不可能な状態までに破壊させる。これで我々が支払う金額は最小限になる。我々が生き残るにはこれしかない」

 

 

焦ったように額に一つの滴を垂らしながら早口に説明する。周囲の人間は頷いたり額を手で抑え半ば諦めているように思われる。

 

 

「実行は明日、こちらのジェネレーターを殆ど投入する。我々の護衛に少し残し他は全て一方通行確保に稼働させる。いいな?」

 

 

そこに1人の幹部らしき人間が意見を上げる。

 

 

「一方通行は反射魔法を随時展開出来るはずではなかったか?それなら対抗策はしっかりあるんだろうな」

 

 

苦汁を舐めたような顔をするリーダーは苦し紛れに返答した。

 

 

「分からない、反射魔法がどの程度の範囲まで及ぶのかは全く予想がつかない。では一体は大会を崩壊させるのに専念させる」

 

 

まともな返答では無かったが質問者は安心してしまった。それほどに彼らは追い詰められていたが、彼らは明日理解してしまうだろう。

手を出した人間は人間と呼べるに相応しいかどうかを。




ルビ振りってした方がいいでしょうか?


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22

優等生キャラ出ます。よくわかんないという人は説明するので新規キャラと考えてもいいです。


新人戦モノリス・コード優勝という大層なことをやってのけた一方通行、彼はある場所へと向かっていた。真由美からの拘束から抜け出してやってきた場所はある医療室。彼は目的の部屋番号を探す。するとその番号が近くなるにつれ何やら騒がしくなっていた。病院内では静かにするのが当たり前だという彼でも守れる常識を頭に思い浮かべるが、別に嫌な思いはしない。

部屋番号304、その扉を開くと大勢の女生徒に囲まれた2人の男を発見する。その中で1人一方通行に気がついた女生徒がいた。彼女は彼に恐怖を抱かず普通に話しかけてくる。

 

 

「初めまして、貴方が一方通行ですか。私一色愛梨と申しますの、以後よろし」

 

 

「黙ってろ、聞いてねェのにゴチャゴチャと話すんじゃねェ」

 

 

愛梨の顔が真っ青になり棒立ち状態のところを無視し彼は餌に群がる蟻のような塊に腕を突っ込む。そしてチョーカーのスイッチを入れると彼の腕の周りに広い空間ができる。その反動に押し寄せていた女子生徒らはあちらこちらへよろめき、倒れる生徒もいた。

 

 

「お前は...一方通行...」

 

 

周りの彼らも気づいたのか白い髪赤い瞳、異様に白いその姿に尊敬の眼差しを向ける人間もいた。そんな視線を無視し彼は将輝に対し命令する。

 

 

「オイ、テメェが信頼できる人間以外部屋から出せ。さっさとしろ」

 

 

半規管に未だ影響が残っている将輝だったが一方通行の言う通りにする。そしてこの病室に残ったのは一条将輝、吉祥寺真紅郎、一色愛梨、十七夜栞、四十九院沓子の5人だった。

一方通行は残った人間に次の命令をする。

 

 

「オマエらが持つ情報端末を全部病室から出せ」

 

 

「一体何なんですの!?突然上がり込んできて......」

 

 

ヘビに睨まれたとはこの事だろうか、一方通行の鋭い視線が愛梨の言葉を遮る。そこへ将輝は大人しく一方通行に従うように促し全員の端末が室内から消え去る。

それを確認した一方通行は驚くべき行動をとる。室内にある医療機器を全て破壊していった。周りから見れば異様な光景であったのは間違いない。何故なら彼は素手で機械を壊しているからである。それも電気的に壊しているわけではなく物理的に粉々に潰している。室内に機材の破片が散らばり病室とは思えなくなったような雰囲気を醸し出す。

全機材を破壊し一方通行は空いているベッドに腰を掛けて将輝に初めに注意する。

 

 

「俺が今から話すことは絶対に他人に話すな、わかったか」

 

 

将輝らが頷く前に一方通行はポケットから取り出したある物体を将輝の方へ放り投げる。それを見事キャッチした彼は手の中で光る宝石をじっと見つめる。単純な宝石だと思った将輝だが一方通行の言葉でその価値は跳ね上がる。

 

 

「賢者の石、俺が判断した訳じゃねェがそう言われている代物だ」

 

 

その一言を聞いて吉祥寺は自らのベッドからいきなり飛び出し将輝の手にある宝石を眺める。それに続いて女生徒らも将輝の元へと駆け寄る。

すると疑問に思ったのだろうか、吉祥寺は一方通行にあることを尋ねた。

 

 

「一方通行、この賢者の石は何処で手に入れたんだ。僕の見た限り聖遺物に間違いない、こんなものは一介の高校生が手に入れられるようなものじゃない!」

 

 

聖遺物を見た興奮と先程まで敵同士だった感情が混ざり合い激しく憤る吉祥寺だったが、一方通行の落ち着いた態度とハッキリとした説明で次第に落ち着きを取り戻す。

 

 

「まず何故俺がオマエらにこれを渡したのか説明してやる、よく聞け。今の一高には俺を注視する人間が多い。ソイツを調べようと思っても必要な機材が揃えられねェ。もう一つアテがあるがそこには絶対に預ける事は出来ねェし、コイツらにバレたら全てが終わる。ンな訳で白羽の矢が立ったのがオマエ、吉祥寺だ」

 

 

一息ついて再び話し始める。

 

 

「少し調べたがオマエなら調べられる。そう判断した。出土先は詳しくは言えねェ、だがその石を調べるのに必要ってンなら教える。研究内容もオマエらにくれてやる。割といい条件だろ」

 

 

そう言って一方通行は端末を開きながらまた指示をする。彼の端末は特別仕様なのでこの場で使っても問題は無い。元々彼らの端末を外に出したのは学園都市や他の組織からこの話を聞かれたくないためである。今一方通行が使っているものは完全なオフライン仕様のもので傍受される心配はない。

一方通行が個人的な範囲で調べ上げた賢者の石に関する情報が入った端末。これを吉祥寺に手渡す。

 

 

「何かあったら俺に連絡しろ。可能な限り俺も手伝う。アドレスはその中に記されてる、巻き込ンだのは俺だが抜けてもいい。その時はここで話した記憶を消させてもらう」

 

 

軽い脅迫をする一方通行だったが三高の5人は退くつもりは無い。気迫だった様子を確認した一方通行、彼は振り向かずに部屋から出ようとする。途端、この中で最も背の小さい四十九院沓子、彼女が一方通行の手を取ろうと自身の手の先を伸ばすが不可解な現象が起きる。

触れられない。

腕が勝手に避けていくようにあらぬ方向へと突き進む。

 

 

「やはりお主、この部屋に入ってきてからずっと魔法を発動しておるの。それ程に危険な物なのかのぉ?その聖遺物とやらは。それともお主自身に危険が迫っているのか、はてさて......」

 

 

杖をつきながら一方通行は舌打ちをする。感づかれたくなかった。だが彼は言い訳も何も言わず、すぐに立ち去ってしまった。

彼が部屋から退出し無惨な機材が置き去りとなった病室、将輝と吉祥寺は既に賢者の石についての議論を交わしていた。

対する女子生徒側は沓子の先程の行動を疑問視する。

 

 

「沓子、さっきの一方通行とのやり取りはどういう事?サイオンの乱れも何も感じなかったわよ」

 

 

「あれはじゃな、ほとんどわしの直感じゃ。この部屋に入って来てからあやつは常に周りを監視するような目で見ていたのじゃ。そこで探りを入れてみたのじゃがまさか当たるとは思いもせんかった」

 

 

栞は沓子の言葉に納得する。古式魔法を操り神道を主とした彼女の思考のプロセスは不解明だが、彼女がそう言うのならそうなのだろう。

その後は一方通行に追い出された女生徒群が部屋の惨状に驚き丁寧に掃除するのを将輝は申し訳なさそうに見つめていた。その間も愛梨は棒立ちのままだったのはよほどショックが大きかったのだろうか。

 

 

***

 

 

翌日、一方通行は雫に起こされた。睡眠時間をデタラメにとっている彼にとって起床時間は定まっていない。部屋には入院している森崎がいないため1人である。覚醒していない頭を抱え入口のドアを開ける。

 

 

「おはよう、一方通行。今日は深雪の応援に行くから準備して」

 

 

寝起きのせいかいつもより覇気がない一方通行は軽く頷きベッドへと潜り込んでいく。それを阻止するかのように雫は彼の腕を引っ張る。

 

 

「わかったわかった、取り敢えず手ェ離せ。ったく人が寝てる時に起こしにきやがって、テメェにンな権利ねェつうの」

 

 

そう言って一方通行は雫が部屋の中にいるのにも関わらず着替え始める。慌てて部屋から出ようとした彼女だったがその必要はなかった。何故なら着替えはすぐに終わりいつもの一方通行に戻っていたからだ。

 

 

「行くか」

 

 

顔が赤くなっていないかどうか心配しつつも彼女は一方通行の隣を歩いていく。彼の白さに赤は美しく映えていた。

一方通行と雫が会場についたのは深雪の試合が始まるギリギリ前だった。その場には司波グループとでも言うだろうか、いつものメンバーが一同に固まっていた。一方通行はその集団の1番端に座ることにした。

試合はすぐに始まった。一方通行には良くわからないが深雪はリードされているらしい。しかし終盤飛行魔法を発動し試合会場を大いに沸かせた。

飛行魔法はココ最近公表された技術であり会場はあらゆるところで様々な感情が渦巻いている。

第二試合、深雪が出ている試合が終わり飛行魔法についての議論が会場を巡っているのに対し一方通行の隣に比較的大柄な男が立っていた。その男は無言のまま一方通行に対し拳を振り上げる。鳴り響く爆音は騒ぎに騒いでいた観客を一瞬で静かにさせるほどだった。

男は自らの腕に違和感を感じた。確実に殴っているのだが右腕は肩口から骨が飛び出て拳は使い物にならない程粉々になっている。それに対し全くの無傷で首元に指先を当てている白い悪魔は独り言のように呟く。

 

 

「そろそろ来ると思ってた、こうやって勝手に他人の生活に干渉しやがって。学園都市の暗部程じゃねェがテメェらもそこそこのクズ野郎だな......死ね」

 

 

杖越しに立ち上がる一方通行に対し危険信号を感じ取ったとのか残った左腕で拳を突き出すが先程同様、血液が噴き出し両腕から力が抜けていく。それを見計らったのかは知らないが彼は大男を蹴り上げる。すると常識では有り得ないくらい飛んでいった。蹴り上げる瞬間彼は男にかかる重力を小さくしている。

その光景を周囲の人間は唖然として見ていた。口出しする事は出来ない。今の一方通行の琴線に触れれば何が起こるかわからない。だが彼らも一方通行の能力に若干だが巻き込まれる。彼を中心に周囲から空気が流れ、風が発生する。だが自然発生する風とは全くの異質である。

一方通行の背中から二つの翼が生える。それは白とは違う半透明な竜巻、その竜巻は4本に倍増する。そして彼は自らの杖を収縮させ邪魔にならないようにし脚にかかっていた力のベクトルを操作し浮上する。

上空では両腕が使用不能となった男が漂っていた。焦っている様子は見られない。一方通行はその様子を不審に思ったが関係が無いと無視し男に近づく。その男は自らの足で一方通行に抵抗しようとしたが無駄だった。軽く掴まれ膝を逆方向に曲げられた。苦痛が脳内を駆け巡るが判断は冷静であった。掴まれ再起不能となった足を軸とし回し蹴りを繰り出す、だが一方通行の反射の格好の的となっている。両腕両足が使い物にならない状態となりながらも男の頭はとても冷静だった。自らの慣性を中和しつつ一方通行を地面側に押しやり潰そうと考えたのだ。異常なスピードで落下していく。

対する一方通行はそのような考えなど無視して男の上に乗り更に速度を加速させる。慌てたように抵抗してくるが既に地面は近い。

試合会場外でジェネレーターを確保していた独立魔装大隊の3人は上空の異質さを感じ取る事は出来なかった。彼らのすぐ傍に飛来物が落下しその衝撃が彼らにも伝わってくる。

 

 

「藤林、何が起こった!?」

 

 

土埃が舞い上がる状況では確認する事は出来ない。だがその埃は飛来物を中心に一気に晴れる。

独立魔装大隊の目には恐ろしい光景が映っていた。

コンクリートのガラクタに沈んだ捕まえた男に似た人間と、それを細い脚で踏み躙る全身真っ白で先程の土埃の中心に居るのが嘘のように白い。

だがその中の紅い瞳はこちらを見据えていた。

 

 

「雑魚が何人いたって無駄なンだよ、さっさと塵になれゴミ共」




少し更新速度が遅くなると思います。

ps.猿死ね、氏ねじゃなくて死ね。WRまで引退します。


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23

少し遅くなりました。


グチャグチャとは言わないが身体機能を失った体を越えて一方通行は立ち上がる。それを警戒し臨時の戦闘体制を整えた3人だったがあまりにも遅過ぎた。

恐るべき速度で一方通行は捕まっている17号に突き進み指を食い込ませる。抵抗する手段のないジェネレーターは体をピクピク動かすだけ、ベクトル操作の力によりその男の体内を流れる血液が反転した。

その動作にいち早く反応した真田だったがその場を離れるので精一杯だった。それに続き柳と藤林も一方通行と距離をとる。

傍から光景を見た彼らは異常な事態を再確認する。空中から水滴を垂らし地面に着地した時のような水の拡散、それに似たことが赤い血液で起きたのだ。その中心にいた一方通行は依然として白いまま。食い込ませた指を肉塊から離し白い悪魔は辺りを見渡す。襲ってきた大男とは異なるところに属していると思われる3人がこちらを窺っていた。

一方通行は襲って来ない3人を見て彼を襲った人間側ではないことを確信する。ピリピリとした空気感が彼らを包むが、それを無視して彼はチョーカーの電源を切り杖をつき始める。遺体の事など一切気にせず自分がいた観客席へと足を進める。

それに対し足が棒のように固く動かなくなっている3人は驚きのあまり話すことも出来なかった。一方通行の姿が消え去り体を圧迫していた何かがスッと下りるように体が軽くなる。

 

 

「あれが一方通行か......」

 

 

柳は彼の後を追ったりはしない。今の彼では手も足も出ないだろう、そのことを完全に自覚しているのでやるべき事をやる。

周囲に封鎖線を敷きこの一画に立ち入り出来ないようにする。その間彼らは一方通行のことを調べていた。

 

 

「野放しにしておいていいのか?殺人であることに変わりはないだろう。彼から事情を聞くことは出来るはずでは?」

 

 

真田は一方通行のプロフィール情報を端末で眺めながら2人に言うが藤林から意外な事実を知らされる。

 

 

「無理ですね、警察が介入する手段を持ち合わせていません。政府高官から抑えられています」

 

 

驚くべき情報、一方通行が国の上層部から支援を受けている事。だがこれだと納得がいく。一般プロフィールしか情報が流されていないことやこれだけ暴れても公安がいち早く動かない。軍用基地で行っているということで後者はいまいち説得に欠けるが。

続けて藤林はさらなる分析結果を伝える。

 

 

「それに独立魔装部隊の権限を用いても不可能だと思います。こちらの秘匿主義もありますが彼にかかっているプロテクトが異常です。一見したところ普通のセキュリティに思われますが、私個人の観点からすると彼の情報は常に改変が行われています。考えられません」

 

 

機械情報に疎い真田と柳は詳しく聞くことにした。

 

 

「わかるように言いましょうか、ハッキリ言って彼の情報を操作している何かしらの機構は資産をドブに捨てているようなものです。情報を常に改変するということはそれだけ高性能なコンピュータ或いは電子系魔法を常時働かせなければなりません。逐一情報を発するのであれば何も問題はありませんが人間の発する情報など予測できません。ですから運用費が尋常じゃない、よって彼を匿う組織は政府高官とは別の国家規模相当であると考えた方が妥当です」

 

 

呪文のように繰り返された藤林の言葉に頷くだけで2人はジェネレーターの操作に移った。

所変わって一方通行、彼は彼を襲った男を殺した後自席に戻ろうとしていた。試合会場内は既に人が疎らになっていた。それもそのはず試合は終わり、試合が終わってある程度時間が経ったのだ。一方通行は歩く速度が一般人よりも早いとは言えないため時間もかかる。

ではなぜ一方通行が試合を鑑賞する席へと戻ってきたのか、それはCADを置いてきてしまっていたからだ。腰に挿していたが空へと駆け上がった拍子に落としてしまっていた。

入口のゲートから階段を上り一段落つき手すりに寄り自分がいた席を確認する。そこには未だ1年生の集団が存在していた。

席の近くに来るとエリカがいち早く気付き一方通行を心配する。

 

 

「アンタさっき襲われたみたいだけど大丈夫だったの?急に空飛んでっちゃうからビックリしたわ」

 

 

「別に心配いらねェ」

 

 

他の心配する声や視線を無視し彼はCADを拾い席から離れる。決勝戦は夜に近い時刻に行われるためここにいても仕方ない。

一足早く自室に戻り昼食を済ませようとしたが雫とほのかに捕まって完全な自由行動をすることが出来なくなってしまった。

 

 

***

 

 

同時刻、ジェネレーターを送り込んだテロ行為を企む集団は全員が席についたまま息をしていなかった。一方通行の驚くべき戦闘力への畏怖や独立魔装部隊に確保され悔しがっている様子では無い。

生命として息をしていないのだ。

同ビルから出てきた1人の女性、木原唯一は現代ではあまり見られなくなったスマートフォンと呼ばれる携帯端末を耳に当てる。

 

 

「先生の言う通り一方通行にちょっかいを出した人間は皆殺しにしておきました。増援部隊の方もそろそろ処理される模様です」

 

 

『御苦労、こちらも見込みのある木原は全員確保したつもりだ。ではここで解散としよう、君はジェネレーターの始末が確認され次第帰還してくれ』

 

 

分かりました、と日本人特有の携帯を用いても礼をする態度をみせ上司との連絡を終わらせる。

この作戦は本来は無かったのだが、一方通行のイレギュラーを極力減らすため追加されたものだった。唯一自身この作戦は既に遅過ぎたと見ている。

 

 

(一方通行関連のイレギュラー阻止って遅すぎるでしょ。この世界に飛ばされた事が判明するまで何日かかったと思ってんのか......それに時間の流れが早いこっち側で事態を考えてる人間が少な過ぎ、こんなんじゃいつまで経っても一方通行をサルベージすることなんて出来ないじゃん)

 

 

彼女の思惑道理にいっていない現状を嘆いてはいないが不満気な様子である。しかし気分を切り替え現在の戦闘地域へ移動する。

その夜に訪れた襲撃者が先に襲撃されていたのに気付くにはまだだいぶ時間があった。

 

 

***

 

 

日付は飛んで九高戦最終日、前日のうちに総合優勝が確定していた一高だが、本戦のモノリス・コードも優勝し自他ともに認める優勝校となった。多くの選手が活躍し多くの名場面が彼らの記憶に刻まれる。

そして夕方からホールで始まる後夜祭、始まる時刻ではないが既に多くの生徒や企業の人間が姿を見せていた。そんな場面にも人が集まる場所は限られている。司波深雪、彼女の周辺には多くの著名人や知る人ぞ知る有名人が連なっていた。

しかしそんな時間はあっという間に過ぎて学生のみのダンスパーティーが催される。このダンスパーティーのために用意された演奏者らが自らの楽器を引き始めると、男女の生徒同士手を取り合い次々に踊っていく。

そんなパーティーが始まった直後に一方通行は部屋の扉を開いて中に入る。その周辺の人間らはいつもと違う彼に対し道を譲った。

その入場に気付いた司波達也は彼の元に近寄る。

 

 

「お前もちゃんと来るんだな」

 

 

皮肉ではないが少し友情のようなものが混ざったような軽い挨拶を繰り出す。一方通行はいつもと違い車椅子を操作し場がゆったりとしていた壁際に移動する。

 

 

「別に来て悪い訳じゃねェからな、それよりテメェは踊らなくていいのか?何の為に此処にいるのか分からねェな」

 

 

お前に言われたくないと心の中で思ったが、今の一方通行を再確認するとそんな心も何処かへ行ってしまった。車椅子の人間に踊れと言うのは酷だろう。

そんな雑談の中一方通行突然話題を変える。

 

 

「今暇だろ、ほのかと踊ってやれ。そこにいるからテメェが誘え」

 

 

それだけ言うと一方通行は手元にあったグラスを手に持ち人混みの中へと消えていく。

この様子をチラチラと見ていたほのかを無下にも出来ず達也は終始一方通行に踊らされたと感じてしまう。

それを片目で眺めた後一方通行はあるテーブルへと向かう。そこには一高とは異なる制服、赤が印象的な三高が集まっていた。その中に他の高校の人間見受けられたが、彼が目的としている人間はすぐに見つかった。

 

 

「ん、一方通行か。なんだその車椅子は」

 

 

吉祥寺は人の塊を掻き分けてこちらへ向かって来た。周りの生徒は一方通行の姿を見るとあまり接触しないよう距離をとる。そんな事は気にせず一方通行は吉祥寺に話しかける。

 

 

「杖の調子が悪くてな、元々踊る気も無かったし別にいいだろう。それより夏の間に1回テメェの研究室を覗いておきたい。暇な日があったら連絡しろ」

 

 

それだけ言うと一高の雫が達也と踊っているのを見た一方通行は帰ろうとした。別に嫉妬という訳ではない、雫に用事があったのだが、ダンスを止めてまで言う必要性のない小さな事だったので諦めたのだ。

しかし魔の手はすぐそこまで迫っていた。

扉を蹴飛ばし開けるが車椅子が前に進まない。レバーで遠隔操作型の車椅子だが人間が取っ手を捕まえている間は無効化される。

 

 

「何帰ろうとしているの?お姉さん寂しいわ」

 

 

捕まってしまった、今の彼は無防備に近い。真由美という一方通行が苦手?としている人間は彼を祝賀会へと運んでいく。

夜はまだまだ騒がしい。

 

 

***

 

 

ほぼ同時期、学園都市のあるマンションで一悶着があった。

 

 

「ずるいずるいずるいー!ってミサカはミサカは番外個体に不正アクセスを試みる!ぎゃー!?反撃されるなんて思いもよらない事実だったり、ってミサカはミサカは意外な事実に驚いてみたり」

 

 

騒がしいというか特徴的な口調の幼女は彼女とそっくりの顔付きをした背の高い女性の足にしがみつく。その対象となった女性は鬱陶しいと思いながらもその監督者、芳川に助言を求める。

 

 

「ミサカだって行きたくて行く訳じゃないんだからさー、それにあの人は仕事でどっかに行ってて今回はそれの確認だけでしょ?別にミサカじゃなくてもいいと思うんだけど」

 

 

キャリーケースを上位個体の生贄に捧げボスッとソファに身を投げる。

 

 

「他の個体は調整が終わってないし最終信号は連れていけない。貴女が適役なのよ」

 

 

仕方ないと呟き生贄に捧げていたキャリーケースを奪い返し玄関に辿り着く番外個体。

 

 

「んじゃいってきまーす、お土産は期待しててね☆」




誤字脱字あったら教えてください。


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3
23.5


遅くなりました。


九高戦が終わり生徒らに夏休みが訪れる。九高戦に出場した選手らには課題の減量等の特別措置が施され、残りの夏休みを比較的ゆっくりと過ごせるようになっている。

葉山のマリーナ、夏のある間魔法科高校一年のあるグループは北山雫という少女が所持している小笠原の別荘に厄介になる予定である。集合時間まで少し時間があるがクルーザーには予定の人員はほぼ揃っていた。

 

 

「それでは私はここで失礼するよ、君達も楽しんでいきたまえ」

 

 

北山雫の父親北山潮はポートから乗用車に乗りそそくさと移動する。それと入れ替わるように最後の1組がギリギリではあるが集合時間に間に合った。タクシーから出てくる一人の男の名は一方通行。夏だというのに真っ白な薄手のコートに白いパンツという格好をしていた。この世界では約一年の歳月を過ごした学園都市最強の超能力者。暗部から卒業した身ではあるが一年経っても平穏の味は慣れないらしい。卒業したと言っても完全に離れきってはいないが。

そして後部座席から出てきたもう1人の女性、学園都市第3位の超能力者、御坂美琴のクローンである番外個体。ピンクのアオザイを身に纏いプロポーションの良さが目立つ。元々は一方通行を殺すために製造された個体だったが、複雑な事情があり今はある警備員の元で世話になっている。この世界には一方通行の様子を伺うために少し前の日にやって来た。彼が海へ行くというのを聞いて駄々をこねて着いて来たらしい。そのことを雫には事前に伝えていたので物資に関しては問題は無い。

一方通行は杖をついているためその逆の手に軽い荷物を持ち番外個体はキャリーケースを引きながらやってきた。

 

 

「遅れて悪ィな」

 

 

荷物をクルーザーに乗せ雫へ挨拶する一方通行、その隣に荷物を引っ張ってきた番外個体もいる。

 

 

「ミサカの荷物にアナタの物も入ってるんだから持ってくれてもいいのに」

 

 

「テメェを1人で放っとくと何しでかすか分かンねェから連れてきたンだよ。ッたく勝手にやって来て随分といい身分だな」

 

 

そんな事言うなよー、と番外個体は右腕の肘で一方通行の体をガシガシと突っつく。よろけつつも彼女の攻撃に耐える一方通行に雫は不思議そうに尋ねる。

 

 

「その人が貴方の言ってたもう一人追加するっていう人?」

 

 

「よろしくねー☆ミサカここに来るの初めてだからわからないこと多いかも。あっ、ミサカのことはミサカって呼んでね、この人の事は白モヤシって言うと尻尾振って喜ぶよ」

 

 

そう言って番外個体は自身の能力の象徴である電気を用いて一方通行のチョーカーを操作する。すると彼はその場に倒れ込みなにやらモゾモゾと動き回る。

 

 

「ありゃりゃ、上位個体に教わった秘技がうまく使えないなぁ。初めてだし仕方ないか、それで雫、荷物ってどこに置けばいいわけ?」

 

 

床に這い蹲う一方通行の存在を無視し自らの荷物の置き場を尋ねる番外個体に雫は少々驚きを隠せない様子でいた。数秒したら元に戻していたためいたずらに過ぎないがあまりにも悪質すぎる。

フェリーの上で番外個体は魔法科高校の各々に挨拶をし回った。それが終わると船の上で寝そべっている一方通行の隣にやって来る。手元には2つのアイスコーヒーがグラスに入れられていた。

 

 

「はい、アナタの分。ミルクとか要らなかったでしょ?」

 

 

「ワリィな、って何でテメェ隣に寝転がるンだよ」

 

 

固定されたパラソルの日陰にはもう一つチェアが置かれており番外個体はそこに座り海を眺めていた。学園都市では海を見る機会は全くと言っていいほど存在しないため興味津々であった。一年前の一方通行もそのような気分になった事はあったが、現在ではそれが当たり前となった様な気がしてならない。

 

 

「あの子結構いい子だね。初対面のミサカにも色々誘ってくれる優しい子、悪道に染まったアナタは耐えられたのかな?」

 

 

「何時だったかテメェに話したよな。突っぱねることは簡単だが受け入れる努力をしなくちゃならねェ。俺とオマエじゃ質は違うと言えども表に出るには何とかなるもンだ」

 

 

ストローから黒い液体を口に含みながら隣を見ると彼女は広々とした海に夢中だった。

 

 

「聞いちゃいねェのか」

 

 

「聞いてるよー、まぁ今のアナタは学園都市にいた頃のアナタと全然違うね。ネットワークに繋がらない今の状態が長く続いたらミサカ、どうにかなっちゃうかも☆」

 

 

ウゼェと感じた一方通行だったがその先の思考は停止された。船の揺れが収まりどうやら別荘のある島に着いたらしい。

媒島、一方通行が学園都市から飛来した時に一番近かった島であり雫とほのかと出会った島。浜に降りると美しい砂が敷き渡っていた。他の連中はさっさと着替え海に行くらしい。

 

 

「おうおう兄ちゃん、ミサカの買った水着さっさと出せよ。いつまでも荷物に持ってると変態野郎として歴史に名を残すぜ」

 

 

彼は手に持っていた鞄を番外個体の方に投げつけるが彼女は軽い身のこなしでひらりと回避してしまう。落ちた鞄を手で拾い早速別荘に行って着替えるようだ。

一方通行は白い薄手のコートを来たままビーチに陣取る。パラソルが既に立っていたのでそこを利用させてもらった。

初めにやって来たのは男性陣だった。既に寝転んでいた一方通行に驚いた3人だったがその内の2人は早速泳いでいく。

ほぼ同時刻、別荘内では女性陣が着替えに手間取っていた。特に番外個体は初めて着用する水着であり手際が悪かった。しかしそれを着替えが終わった雫は手伝っていた。

 

 

「雫ありがとー。水着って実際には着たことないからよく分からないんだよね」

 

 

豊満なバストに美しく引き締まったくびれが周囲の目を引きつける。腰から下は薄いロングスカートを着用しており御坂家の美脚は見えないのが悔やまれる。

番外個体が一方通行に支払わせたサンダルを履こうとした時エリカに声をかけられた。

 

 

「ねぇミサカ、ミサカって一方通行の彼女とかなの?」

 

 

興味津々なエリカに対比してビクリと肩を震わせた雫を番外個体は見逃さなかった。彼女の頭の中は悪意に染まっている。ミサカネットワークから悪意を特に引き出す個体であるが、ネットワークがなくてもイタズラ好きの少女であることに変わりはない。

 

 

「ミサカとあの人はヤリ合った仲だよ☆」

 

 

空気が凍りつく。別に深雪が冷却魔法を使ったわけではない。意味深な一言を放り投げ番外個体は1人パパッとビーチへ向かう。

青い海が一面に広がる光景は学園都市では見ることが出来ない。騒いでいる番外個体を一方通行は無理矢理落ち着かせる。それに続いて多くの少女らが浜辺に到達する。彼女らはコート姿の一方通行に心底驚いていた。真夏の暑い日に着用する服装ではない。しかし彼女らが驚いたのは1つでは無かった。何時も仏頂面で何を考えているか分からなく、鋭い視線で相手を見つめる赤い瞳を持つ少年が徹底的に弄られていた。番外個体が一方通行をからかう光景は新鮮であり、先ほど番外個体が言っていた特別な関係と言うのは本当かもしれないと思う女性もいた。

 

 

「ヘイヘイヘーイ、ビーチバレーしようぜ。負けたチームは今夜はミサカの奴隷だぜ☆」

 

 

男子陣を他所に女性陣は別荘暮らしを満喫していた。

時は夕食、午後に少しアクシデントがありほのかと達也はいつもと異なる様子であることを一方通行は肌で感じた。別にベクトル操作能力を使ったわけではなく、人並みの感覚でも分かるぐらい明らかであった。

1人バーベキューの肉のみ食していたところに雫がやって来た。別荘に来てから一方通行が1人になることはほとんど無かった。(常に番外個体が嫌がらせや冷やかしをしていたため)杖を利用しながら立って食べるわけにはいかなかったので椅子に座っていた一方通行、そこに雫は昼に番外個体から聞いたある情報の信憑性を確かめる。

 

 

「ねえ一方通行、ミサカとどんな関係なの?ヤリ合ったって?」

 

 

周りにいた人間は一気に咳き込む。その中で番外個体だけはお腹を抱えて爽快な顔をしている。

 

 

「あァ?どうせアイツの事だから適当にヤリ合ったって言ったンだろ。俺の嫌がることが趣味って言っても過言じゃねェからな」

 

 

「えー、ヤリ合った仲じゃん。忘れたのか?このこの〜」

 

 

一方通行と番外個体以外は彼らを直視していない。猥談に似た会話をするには些か夜が更けていない。そんな番外個体の様子から一方通行はあることに気付いた。

 

 

「テメェ、まさかロシアで殺り合ったことについて言ってンのか?紛らわしい」

 

 

ロシア?と雫の頭の上にハテナマークが飛び出るが一方通行は気にせず注意する。

 

 

「適当なコト言ってンじゃねェ。あン時みてェにその腕へし折るぞ」

 

 

「怖い怖い、ミサカも一応妹達の一員なんだぜ?少しぐらい甘めに見ておくれ」

 

 

一方通行の矯正も効かず再び食事モードに入った番外個体は口に食物を咥えながら雫の肩に腕をかける。そして耳元で囁くように唇を動かす。

 

 

「まぁこれも嘘だけどね☆」

 

 

ボスッと言うような擬音が似合う様に顔を赤くした雫を見て番外個体は更に気分が湧き上がっていく。いつもは上位個体を弄って遊んでいた彼女はこの世界の玩具を手に入れたらしい。

このイタズラ娘とエリカは気が合うようで楽しそうに雑談している。美月も雫程ではないが番外個体の餌食になっている。

この日のメインイベントが終了し先に湯を頂いた一方通行は浴衣姿で浜辺を彷徨く。周りには誰もおらず涼し気な波の音が彼の体を包み込む。少し進むとビニールシートを被った金属物体が目に入った。それは一方通行がこの世界にやってきた時の乗り物である輸送弾殻。どうやら潮の研究施設に持っていったのは内部の重要そうなもので外部の骨組みは置きっぱなしにされている。

そこで彼は様々なことを思い出す。この世界に来てから雫やほのかと言った守るべきものをしっかり守れているのだろうか、元の世界に置き去りにした打ち止めのこと、異世界生活に干渉してくる学園都市のこと。この時間軸だと約一年が経っており本当に色々あったものだ。今の暮らしを悪いとは思っていない、しかしいつかはこの世界とも決着をつけ元の世界へ帰らなければならないだろう。

なぜなら彼は学園都市第1位の能力者であるから。

眠気に身を委ね彼の体は別荘へと移動していった。




次は禁書新刊とSPWRのせいで遅くなると思います


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24

ここで一つある話をしよう。世界を渡るということはどういう事か、特に難しい問題ではない。ある空間に一定の力を加えつつ軸をねじ曲げてホールを生み出す。この表現が私が最も適切に伝えられる表現であることに違いはない。ではその異空間の先に繋がっているものは一体何なのか、ブラックホール?無?そうではない。
我々と同じ世界が広がっている。
これが世界を渡るということ。初めて完成したこのシステムを利用し似たような世界が幾多もある事を示したのがある研究員だった。彼はある機関に属していた訳でも特別優秀だった理由でもない。偶然、偶然にも出来てしまった。そして成り行きで事を進めとうとう異世界の住人になってしまった。
そんな隠居生活に似た実態の彼が元の世界のために動き出そうとしていた。
三矢元
この世界の日本において力を発揮する十師族の一員であり兵器ブローカーとしての身分を持つ。
そんな彼の仮面を剥ぎ取り真の姿で学園都市統括理事長、アレイスターの前に対面する。


「こんな老いぼれに何用かね、アレイスター」


『プランにお前が渡った世界を組み込む。準備は万端だ、働きに期待してる』


衝突に言われたことだが三矢自身悪い気はしなかった。丁度十師族という肩書きに飽いていたころだった。


「具体的な計画を教えてくれ」


『全国高校生魔法学コンペティション、これに侵攻しようとする中華系のテロリストに便乗する。お前からは様々なバックアップを頼みたい』


「成程、取り敢えず隠蔽工作辺りから始めればいいのか。他には人員確保と機材関連か。学園都市側の装備はどうする」


『今回は任せる。詳しくは後で詳細を知らせる』


その言葉を発した瞬間、三矢元の隣にはフードを被った少年が佇み世界が暗転した。
気が付けば自身の書斎に腰を下ろしている。隣にいた少年の姿も見えない。深呼吸をして自分自身を落ち着かせる。和風の部屋を見回し一人の部下を呼び寄せて秘密裏にある部隊を整えさせる。


「さあ三矢元、三矢家当主として最後の仕事だ」


喝を入れ身が引き締まった。


「取り敢えずオマエら生き埋め」

 

 

真由美があずさの梓弓によって静まった環境が一瞬で崩れさる様子を映し出していく。ハスキーな声の主は既に天井付近へ移動していた。

生き埋め、この言葉の意味を理解するのにはそう時間は必要なかった。天井の白い人間は飛行魔法を使っているような感じで悠々と空間を漂いながら力を発揮する。

次の瞬間、天井が吊り下げられた糸が切れたかのように落下した。逃げることも抵抗することも許されない。

彼の宣言通りコンペティションの会場は生き埋め現場となった。だが宣言を聞いている者はおらず一方通行の姿を確認した人間はいなかった。彼は光の屈折率を利用し姿を消していた。

 

 

「抵抗するものを皆殺しにしてきたか、一方通行」

 

 

あァとつまらなそうに返事をする杖をついた男、一方通行は先日まで一緒にいたフレーラに返事をする。2095年10月30日、横浜に中華系テロリストが日本の都市を襲う事を事前に察知した学園都市側はオーストラリアを統治していたフレーラ、魔法科高校に属していた一方通行、それに追加し学園都市製駆動鎧を投入することを決めた。目標はこの世界全体の魔法師と呼べる人材の削減、並びに学園都市の力を誇示し表舞台でもある程度活躍できるようにするため。その理由があって駆動鎧の大規模展開は中華系テロリストが後退し始めた時に投入する予定となっている。日本側と中国側両方の力を削ぐために投入のタイミングが肝となっている。

崩壊したコンペティション会場を見切りフレーラは一方通行を連れある場所へと案内する。

 

 

***

 

 

「深雪、大丈夫か?」

 

 

天井崩落寸前、司波達也は自身の分解魔法で落下してくる瓦礫群を分解しようとした。しかし天井がまるごと落下してきたため分解すれば周囲に被害が及ぶ。そのため身を呈して深雪に覆いかぶさったのだがいつまで経っても衝撃がやって来ない。

顔を上げるとそこは地下世界のように真っ暗だが中腰にならず立って歩けるほど屋根が遠くにあった。実はドーム状の天井構造だったためポッカリと空間ができている様だった。更に幸運なことに地面と接触している部分には人は誰1人としていない様子で血は流れていない。

 

 

「大丈夫です。それよりもこれは一体」

 

 

「原因はともかく敵の襲撃が始まった。今は避難するのが優先だ。取り敢えず外に出よう」

 

 

壁を部分的に分解し日差しが暗い空間に入り込む。天井崩落が一瞬だったため、梓弓の効力が発揮したままパニック状態に陥ることなく順に外に出ていく生徒達。他の魔法科高校の生徒達も壁を壊して外へ出ていく。そこから生徒らは先程の七草の指令通り各自シェルターや輸送船に向かって行く。

その中で一高の生徒はある一画に集まり今後の動向を話し合う。

 

 

「会場自体を爆破してくる下劣なテロリストですがそんな事を言っていられる余裕はありません。ここは一刻も早く避難するべきかと」

 

 

鈴音は自分らが作り上げた作品のことをスッパリ諦め人員を優先する。

 

 

「ここからならシェルターが1番安全だと思うんだがどうだろう」

 

 

摩利は誰もが思っていることを口にする。ここは地上を渡りシェルターに避難するのが一番安全だろう。点呼し人数を確認して避難を始めようとする集団だったが達也は皆にある事実を突きつける。

 

 

「聞いてください、この会場を破壊した人間の事をここで言っておかなければなりません」

 

 

「外部からの爆発で崩落したんじゃないの?」

 

 

足を止めたエリカはテロリストの工作で会場が沈んだと思っている。そんな中、真由美は苦痛の表情をしていた。達也は彼女の能力範囲に犯人がいたことは知らない。だがもし知っていたとしても彼の行動に変更はない。

 

 

「いや違う。もし奴らが破壊しようとするならあれ程綺麗に天井は落ちてこない。それに崩壊寸前俺は見たんだ......一方通行、アイツが天井を叩いていた。飛行魔法を使っていないし破壊する時にも魔法が発動した様な気配はなかった。だがこんなことが出来るのはアイツしかいないし現に今ここにいない」

 

 

達也の特殊な眼から逃れることは出来ない。いくら体を透過させ他人の視線をくぐり抜けても情報という存在を隠すことは出来ない。

驚く周りの人間を他所に達也は話し続ける。

 

 

「ですからもし一方通行を発見した場合迂闊に近づかないで下さい。あくまで推測ですが学園都市の介入が見られます」

 

 

驚きの連続であったが更なる驚きが待っていた。一高集団付近に軍用車両が並ばれる。警戒心を持った人間もいたが降りてくる人を見て真由美はこの警戒心を解いた。

 

 

「響子さん?どうして」

 

 

「お久しぶりね、真由美さん」

 

 

2人は古くからの知り合いであるが今はそんな状況ではない。そしてその背後からは風間玄信がやって来て早速命令を下す。

 

 

「国防陸軍少佐、風間玄信です。所属は置いておくとしてでは早速特尉、国防軍規則により貴官に出撃命令が出ている。任務に当たってもらう」

 

 

周囲の人間は彼の真実に唖然としていたが風間は立て続けに言葉を繰り出す。

 

 

「本任務において貴官がやるべき事はテロリストの鎮圧であるがそれだけではない。藤林君、説明して上げなさい。それと特尉の地位には守秘義務が付随する。国家機密法に属すことを理解して欲しい」

 

 

「では伝えますね。主な作戦内容は中華系テロリストの鎮圧ですが、特尉にはこの特殊な状況を鑑みてテロリストの鎮圧において大型機械兵器の対処を任務とします」

 

 

達也は何も言わずにその任務を受け友人らを残し軍と共に行動を開始する。それに合わせるかのように深雪は彼の枷を外す。

残った一高の生徒等は大所帯である。しかしその場に留まっては敵の格好の的となり得る。仕方が無いのでこの大人数を2つに分け行動することとなる。周囲には魔法師としての能力が高いものを中心とし中央には一般生徒を囲うような陣を張る。しかし事態はそう安々と進んではくれない。

何か来る気配を感じた真由美が声を上げようとしたが時は既に遅い。この集団の周りを機械兵器が取り囲んでいた。

しかし明らかにこの世界の物とは異なる。人間に着せる機械などこの国で発達していない。

それでは目の前にあるのは一体なんだ。真由美は自身で判断出来はしない。

人間サイズの機械の塊に見えるが脚部が異常に太い。上半身のスリムな姿は一体どうしたのか。ジリジリと近づいてくる訳では無い、かと言ってこちらとの距離を遠ざけるわけでもない。ある一定の距離感を保っている。

その均衡を一つの機械、駆動鎧が打ち砕く。彼らの集団の目の前に配置されてあった脚部の太い駆動鎧はゆっくりと近づいてくる。それを警戒し集団の前衛はCADを取り出しいつでも魔法を発現出来る状態にするが、それと同時に駆動鎧が両腕を上げてある音声を発する。

 

 

『こちらに敵対の意思は無い。北山雫、彼女を探しに来ただけである』

 

 

当の本人は何故自分が探されているのか身に覚えが無かった。その発言を聞いた藤林はゆっくりと近づいていく。

 

 

「響子さん!大丈夫ですか?」

 

 

真由美の制止をほんのりと避けて3mの距離まで接近していく。そこで彼女とその後ろにいた生徒等はテクノロジーの真髄を垣間見る。

目の前の駆動鎧が開いた。胸から鋼殻が剥がれ中身が見えてくる。

そこには何も無かった。本来人間が入るスペースが見えるが完全な無人兵器。そのくせ人間的身体をしているので厄介極まりない。

 

 

「それであなた達はどうして雫さんを探しているの。今は私たちと行動して軍が保護しています。理由を聞かせてください」

 

 

『彼女と光井ほのか、両人の回収を命令されている』

 

 

そう言って胸を閉め始める。藤林には奇妙な申し出にしか思えなかった。容易く信じていい訳では無いが保護している彼女らの意見を聞かなければならない。2人を呼び寄せ対面させる。

 

 

「もしかして学園都市?」

 

 

雫は一方通行から彼の成り立ちなどを彼と初めて会った日に全て聞いている。先程の時司波達也が学園都市の介入が予想されると言うのを聞いて、彼女等を守るために一方通行が派遣してきたのかもしれない。

それを踏まえて更に要求する。

 

 

「私達よりも魔法があまり使えない一般人や生徒を優先して避難させて欲しい。貴方の体内に人間1人は入るんでしょ?なら貴方が率いている部隊で避難させてあげて」

 

 

駆動鎧は固まる。彼に与えられた使命は2人の回収しかない。そこで外部に判断を任せることにした。

 

 

(こちら一方通行関連人員回収班、一般人の避難優先を条件に回収することが可能だが時間が足りない)

 

 

通信環境は既に整っているためすぐに返事が来た。

 

 

(回収は次回に回す。即時撤退して体制を立て)

 

 

指揮官からAIに命令が届く前に現場の駆動鎧は氷漬けにされる。深雪の魔法ではなく藤林の電子制御によりハッキングを受けたのだ。

一高集団を囲っていた20名程の駆動鎧は一斉に飛び立つ。1を犠牲にして多を残す学園都市にしては当たり前の行為ではあるがあまりにも判断が速過ぎる。それだけ学園都市の側は藤林のハッキングスキルを危険視したのだ。

 

 

「ごめんなさいね、外部と通信しているのが分かったからあなたの行動自体を封じさせてもらったわ。まあもう聞こえていないのでしょうけど」

 

 

彼女はほのかと雫を集団の中に帰し部下に駆動鎧の回収を指示する。しかし流石は学園都市と言えばいいのだろうか、情報漏洩を恐れる科学技術の発展はおぞましい。外部との通信が途絶えた駆動鎧は自身の周りを特殊なミストで覆う。

それを抱えようとしたある部下はそのミストに影響され精神を支配される。特殊な化学薬品と濃度を調整した物質により人間の脳を支配する。そして駆動鎧の体内に組み込む。これで通信が途切れても人体に流れる生体電気や血流、バイタルを観測し即座に操縦者に仕立て上げる。

異常な脚部から繰り出される爆発的なジャンプ力でその場を切り抜ける。

 

 

「た、助けてくれ!体が...体が飲み込まれる!!」

 

 

顔面を覆う仮面がある兵士の表情に被さる前に聞こえた悲鳴だがこれに対して藤林はどうすることも出来なかった。相手との距離が非常に大きい、更にあの機動力をどうにかするのが先決である。

 

 

『敵対の意思は無いと言ったのにどうもこの世界は狂っているな』

 

 

体内から兵士の装備していた銃などが吐き出される。着込むのに邪魔なのだろう。一瞬だけ男の姿がちらりと見えたが両腕脚を駆動鎧に拘束され何かが出来る状態では無い。

駆動鎧のAIは続け様にこう言う。

 

 

『この男を貰っていこう。貴様らが我々と敵対した証としてな、そこの女、この世界の日本軍に通達しておけ。我々学園都市はこれからテロリスト、魔法師、日本軍一切差別すること無く殲滅する。悪戯でしたなんて言い訳はもう通用しないぞ』

 

 

機械兵器の駆動鎧はビルを伝って集団の見える位置から遠く離れていく。

その後自らの失態で部下の身を危険に晒した藤林は唇を噛み千切れそうな強い力で怒りを堪えた。




時系列は後で調整していきます

ps.脳幹先生、なんで死んでしまったん


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25

部下を連れ去られた藤林に彼を救う暇は与えられない。まずは真由美ら一高の生徒を安全に避難所へ移すこと、これが最優先となる。だが駅前広場に驚くべき光景が映っていた。

中華系テロリストの直立戦車がある機械を取り囲んでいた。中央に潜んでいたのは直立戦車と同じくらいの大きさだが構造が明らかに違う。直立戦車の場合あくまで人間が操縦することを前提にした構築だが中央にある機械はどうだ、カマキリのような構造で人が乗るスペースなど考えられていない。

 

 

「ひとまず隠れましょう」

 

 

大所帯だがビル影に隠れることは可能である。なるべく見つからないように移動している最中広場で戦闘が始まった。今までは相手の様子を見ていたようだが直立戦車が本格的に動き出す。重火器をカマキリのような機械に向かって吐き出す。爆音が広場を中心に響き渡り土煙が辺りを覆う。だが中心には何も無く取り囲んだ味方の直立戦車に砲撃が直撃していた。カマキリのような機体はどこへ行ったのか、周囲を見渡す戦車は気付かないうちに撃破されてしまう。

それは連立するビルの屋上、相手の座標をコンピュータ処理し風向き、風速など様々な条件を計算に入れ爆撃が始まった。先程の重火器よりも音というより衝撃波がものすごい勢いで広場近くの建物のガラスを粉砕していく。

生徒集団の悲鳴はその衝撃波にかき消された。声にならない。空気が掻き乱され音を伝える振動が他人まで届かないのだ。

広場には地面が抉れた形跡と円形の砲撃痕が残され稼働している装置はどこにも無い。対するビルの屋上のカマキリは機体の周囲に取り付けられたレンズや電磁気を利用したセンサーで周辺を見渡す。そして生命反応が感じられないと判断するとカマキリは飛び立って行った。

衝撃波から体勢を立て直すのにはそう時間はかからないが一般生徒は泣き崩れる生徒もいた。

 

 

「真由美さん、ここは今すぐにでも野毛山の陣内に避難した方がよろしいかと。今やテロリストよりも学園都市の兵器に注視すべきです。直立戦車をいとも簡単に粉砕できる兵器、連射された砲撃を人間に向けられればどうしようもできません」

 

 

「そうですね、ですが私はここに残って逃げ遅れた人のために輸送ヘリを呼ぶつもりなのでここに残ります。普通の生徒を野毛山に避難させてください」

 

 

それに対しいくつかの生徒も残ると言い出し聞かない様子だったので、それ以外の生徒を避難させるように真由美は言った。

そこにある人物がやってきた。千葉寿和、千葉エリカの兄であり現役警部の立派な立場を持つ。彼がエリカに声をかけようとした時、空が唸る。

黒い巨体が空を走り抜ける。空気を掻き分け時速7000kmを超えた速度で横浜上空を駆け巡った。それと同時に黒い巨体、HsB-02から落下物が東京湾に飛来する。あまりにも速すぎる飛行に対応できる者がほとんど居なかった。制空権は今の所学園都市にあるようだ。

巨体の騒音に邪魔された兄弟間の会話が継続される。

 

 

「エリカ、お前に渡したいものがあるんだ」

 

 

「何よ」

 

 

ぶっきらぼうな態度にも和寿は気にしない。

 

 

「大蛇丸、使い手がこういう時に使ってやらなきゃ可哀想ってもんだろ。ほら」

 

 

ズシリとした重量感が彼女の両手を占める。千葉家の最終兵器と言っても過言ではない武装デバイス、彼女の愛刀が手元にあることで頬の筋肉が緩む。自らの筋肉の緩みに気付いたのか、彼女は大蛇丸を受け取る前の表情に戻り適当な礼を言う。

視点は移り光景は広場に移る。

 

 

「これは酷いな、直立戦車に乗っている人間が生きているのか?」

 

 

摩利の呟きにその場にいた残った一高生は完全に同意した。円形に刳り貫かれた戦車が呆然と立っている。抵抗する暇もなかったのだろうか機銃には発射された跡がない機体も存在していた。

彼らはくまなく探したが生存者はいなかった。搭乗者の遺体も刳り貫かれているものが多く酷い有様だった。

力のある生徒は直立戦車の残骸を片付け他の生徒は市民の誘導や情報の把握に努めていた。

そんな中雫は状況が安定してきたので、一方通行に教わった特定のコードを端末に入力する。緊急時に伝わるように設定された番号だったがいつまで経ってもコールは途切れない。それもそのはず、現在この地域は一般回線はすべて遮断されているため普通の連絡手段は通用しない。だがずっと鳴り続けたコールは終わりを迎える。

 

 

『北山雫さんですね、こちらは一方通行を以前まで雇っていたグループ、という集団の連絡係をしていた者です。1度だけこの回線を使用でき応えられる範囲で要望をお聞きしますが、いかが致しましょう』

 

 

一方通行とは異なる男の声が聞こえてきたのでびっくりした雫だが以下のように要求した。

 

 

「市民が逃げ遅れてます。何か安全に移動させる手段はありませんか?」

 

 

取り敢えずは人命が最優先である。駅前の広場では怪我をしている人もいる。それに対し少し悩んだような時間が空き返答がやってきた。

 

 

『わかりました、そちらへこちらのヘリを貴女に貸しましょう。現在位置はこちらで把握しております。ヘリが到着したら行き先を指定して下さい。市民の避難が終了次第返却してもらいます』

 

 

取り敢えずヘリの用意は出来た。

 

 

『...は?わかりました...、すみません、非常に申し訳ないのですが輸送用のヘリが稼働中ということだったので他のヘリになりました。乗員制限は多少厳しいですが往復させれば問題ないかと思います。後、その場にチームリーダーも同時に搭乗させておきますので何かあればご連絡下さい』

 

 

そう言うと通話は切れ彼女の端末は使い物にならなくなっていた。

ヘリの用意ができたことを真由美らに知らせている内にすぐに次の部隊がやって来ていた。やって来たのはテロリスト側の直立戦車、対峙する3人、深雪、レオ、エリカは3輛の戦車に怯えることなど一切なく戦闘を始めていた。

 

 

***

 

 

「おっ、久しぶりだな。なんだ?また軌道上防衛兵站輸送システムでも使いたいのか?駄目だよダメダメ、カーゴに入れる物体を見たところじゃ完全な兵器だし、一方通行の時とは状況が全く違うんだよ」

 

 

地球での環境に耐えられなくなる代わりにこの世とは思えない美貌を手に入れた天埜郭夜。少女は学園都市で極めて珍しいブレインという立場にある。立場は学園都市にあっても住んでいる場所は地球外、ひこぼしⅡ号の無重力生体影響実験室に閉じ込められ暮らしている。そんな彼女はある人物と会話をしていた。

 

 

「それにさこの前使って行き先が異世界でした、なんて報告聞いた時は心底驚いたよ。どうせそれも計画通りとか言うんだろ?はいはい、そりゃよかったですねー、んで何回も言わせんよ。使用は無理、内容物はこっちで預かっておく。こりゃ駄目だね、学園都市に置いてたらそのうち誰か使っちまうだろ?」

 

 

そんなことを言いながら彼女はある提案でことを済ませる。

 

 

「そんな君達に大サービスだ、監視してやるよ。今の横浜を宙から監視してやる」

 

 

ブレインの脳は酷く冴えていた。

 

 

***

 

 

その頃駅前広場では迎撃チームが小休憩をとっていた。直立戦車を退治しある程度は安全を確保できている。しかし油断ならない状況、2機の直立戦車が再びやって来た。

 

 

「また来たか!やってやるぜ」

 

 

意気込むレオだが彼らの目の前で直立戦車は攻撃対象をレオ達ではなく後方のある物体に向けていた。

バラバラというようなヘリの音ではない。一般航空機クラスの速度を保って移動できる怪物ヘリコプター、HsAFH-11通称『六枚羽』がヘリコプターとは思えない速度でビル間を駆け回る。あまりの速度に直立戦車は対応出来ていない。しかし六枚羽の方は的確に戦車を敵因子と判断し、両翼付近に付随している関節付きの羽で一斉に掃射する。

爆撃と言っても過言ではなかった。道路の片隅に止まっていた乗用車などはボコボコと膨れ上がり燃料に引火し爆発する。ある程度の弾丸に耐えうる設計の直立戦車は歯が立たなかった。六枚羽が使用する弾丸は摩擦弾頭と呼ばれる物で、それは弾丸に特殊な刻みを入れることで空気摩擦を利用し着弾した場所から焼き尽くすと言う恐ろしい兵器。

レオ達が出る出番はない。比喩ではなく直立戦車が一瞬にして溶けた。

六枚羽は2機あったが攻撃していたのは1機だけ、もう1機の方は未だガラクタが残る駅前広場に着陸しようとしていた。地上では手信号も何もしていない、だが六枚羽にそのようなものは必要ない。周囲の障害物を自動的に判断し着陸するのが難しい場合にはジャイロを利用し超低空飛行状態のまま滞空することが可能である。

着陸してきた戦闘ヘリに驚いたのは1人や2人ではない。一高の生徒も驚いている。

 

 

「これテロリストのヘリじゃないわね。かと言ってうちのヘリでもないし少し様子を見る必要があるわね」

 

 

真由美の判断に従いプロペラが止まったヘリコプターに近づく者は誰も居なかった。

黒い隔壁が開かれると中からは1人の少女が降りてきた。彼女はこの世界の衣装感とは全く異なる対極に位置する。パンクな服装に白いコートをフード部分だけ被り手にはビニールのイルカの人形を携えている。高校生よりも1回り小さい。

 

 

「あァ?警戒され過ぎだろ。せっかく来てやったのによォ」

 

 

黒夜海鳥、12歳の少女であるが学園都市では『新入生』という立ち位置から『卒業生』への仕返しを考え実行した。今はアイテムの管理下に置かれているが今回の作戦で招集されたらしい。

雫は少女の前に躍り出る。

 

 

「あの、学園都市の方ですか?」

 

 

深雪やエリカはビクッと肩が震えた。先の脚部の太い駆動鎧も学園都市側、ならば同じ学園都市と言うことは敵対しているのだろうか。そのような不安が駆け巡る。それに対し黒夜はあっさりと認め次のように指示する。

 

 

「でオマエの要望だと一般市民の避難だっけ?ッたく暗部もクソッタレだな、自分らはテロリスト共とは違い市民を助け平和維持に貢献しますって、ハンッやることが見え見えなンだよ」

 

 

訳も分からず狼狽えていた雫だったがそれを無視し取り囲んでいた一高集団に命令する。

 

 

「オラ、久々の人道的作戦だ!さっさと市民を詰め込め詰め込め!コッチは早く殴り合いに行きてェンだよ!」



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26

そんなに進みません


「さっさと積み込め、こちとてボランティアじゃねェンだよ」

 

 

市民を物資同様に見なす黒夜の態度は甚だしいものだったが、今はそんなことを言っている場合ではない。優先された市民らが軍用ヘリへと運び込まれる。乗員限界を迎えたヘリは即座に浮上する。上空の敵のことなど一切気にしない。何故ならもう1機の六枚羽が護衛としてついているからである。

六枚羽を見送った黒夜は突然自身の右腕を雫に向ける。そこには揺らいだ空間が存在するが一高生徒らは何があるかわからない。

 

 

「ヘェー、逃げないンだ。私がテメェを助けに来たって言う証拠は何処にも無いのに信じるのか......つまらねェの」

 

 

窒素爆槍を雫の顔から退けつまらなそうに瓦礫の上に座る黒夜、彼女は学園都市側の状況をアッサリと話し始める。

 

 

「北山雫?だっけ、今最も危険な人物としてマークされてるよ。理由を聞きたい?」

 

 

膝の上にイルカのぬいぐるみを乗せながらニタニタと健康的な歯を見せる黒夜はとても楽しそうである。

対する雫はこくりと首を縦に振る。が、周りからは少し非難があった。

 

 

「ねえ雫、本当に信じていいの?ヘリのこととか今の貴女のこととか色々複雑なんじゃない?」

 

 

深雪の思いやりのある言葉、雫はヘリに関することは全面的に信用している。一方通行の関わることで嘘がないとわかっているからである。だが最も危険な立ち位置にいるということがどういうことか知りたい。そんな感情が今の雫を動かす。

 

 

「第一位のことは知ってる?まァこの世界じゃ一位って言ってもわからないか。一方通行のことだよ、一方通行。アイツを動かすためにはアンタが必要なンだよ」

 

 

一方通行の名前が出てきた瞬間、雫の顔にはなんとも言えない汗が浮かび上がる。

そして事件の前の一方通行の姿が雫の頭に描かれた。

 

 

***

 

 

アイネブリーゼ、達也らがよく利用する喫茶店。論文コンペで忙しくなる前、最後にといつもの8人はお茶を楽しもうとしていた。いつもの四人掛け席二続きが空いていないらしくカウンターでコーヒーを飲もうとしていた。

 

 

「いらっしゃい、あれ?カウンター席なんだ、てっきり先に一方通行君が来てたから一緒に飲むものだと」

 

 

先に一方通行が来ている、こんなことはこの喫茶店に通い始めてから誰1人として経験したことのなかったことだった。こちらからはその席を覗くことが出来ない。

 

 

「マスター、一方通行もよくここに来るんですか?」

 

 

純粋な疑問を投げつける美月に顎髭を慣れた手つきで触りながら質問に答える。

 

 

「いや、ここ最近だよ。初めは全身真っ白でちょっと怖かったけど慣れたね。君達が結構会話に出してる一方通行君だとすぐにわかったよ」

 

 

蒸らした豆を専用の容器に入れながら無駄話は続く。そうしているうちに一番奥の四人席からスーツ姿の女性と彼女のペットらしいゴールデンレトリバーが出てくる。この店は基本ペットの入店を禁止している店ではない。それにマナーのなっている者を追い出すのはいかがなものだろう、その飼い主である女性はカウンター席の制服姿の8人にチラリと目をやる。そうしてすぐにカランと音をたてて店から出ていった。

 

 

「マスター、この店ってペット入店ありなんですね。さっきこっちにお辞儀してくれた犬がいましたよ」

 

 

多少興奮気味のほのかは手元のカップで両手を温めながら話しかける。マスターは8人全員にコーヒーを出して結構暇なのだろうかいつもより饒舌に先程の客のことを話し始める。

 

 

「あまりにも酷い時は無理だけどさっきのお客さんのゴールデンレトリバーは特に礼儀正しいからね。ここだけの話、あの犬はコーヒーを好んで飲むんだ。あんな姿初めて見たよ」

 

 

へえー、と関心するように頷いていると先程女性が出てきた席から一方通行が退出する。カウンター席のいつものメンバーを気にすることなく紙幣をテーブルの上に置く。流れるように喫茶店から出て行ったため誰も話しかけることは出来なかった。無論雫もである。

 

 

「ありゃりゃ、また行っちゃったよ」

 

 

マスターはテーブルに置かれた千円札をレジに仕舞いながら残念そうにとりあえずレシートを吐き出させる。

 

 

「呼び止めてきましょうか?」

 

 

この一言は一方通行の介護人の様な雫ではなく司波達也の口から出てきた一言だった。それに対しマスターは首を横に振りながら軽く拒否した。

 

 

「いやそこまで大事じゃない、と言ったら嘘なんだけど別にいいかな」

 

 

***

 

 

「オイ、聞いてンのか?話続けるぞ、でだ、今学園都市のこの世界に来ている勢力は大きく分けて2つある。1つはオマエ、北山雫を殺して第一位とこの世界との関わりを無くし強制的に元の世界へ連れ出す奴ら。これに対抗してるのは第一位の暴走を恐れ取り敢えずはオマエを殺さないで経過を観察する組織。まァ元々一方通行回収が大元にあったンだがどういう理由か分断した。それでも学園都市の真の狙いは他にあるだろうと私は睨ンでいる」

 

 

重要なポジションにいることをいまいち頭で理解しきれない雫の表情を見て黒夜はウンザリした顔付きになる。

 

 

「なンで私が説明役しなきゃならねェンだよ。こういう役割は他の奴に任しちまえばいいのによォ」

 

 

一部だけ金色に染まった髪の毛を弄りながら話を続ける。

 

 

「つまりだ、学園都市の連中は最初からテロリストを壊滅させることなンて眼中にねェンだよ。北山雫を生かすか殺すか、これしか考えてねェ。私らが一般市民を助けたはあくまでクリーンな学園都市を演じるためにすぎねェ。鍵はテメェだ」

 

 

話し疲れたのか黒夜は立ち上がりぐぐっと腕を伸ばす。12歳という若々しい肉体がパンクな服装の合間合間から覗いて見える。

周りで聞いていた深雪らは戸惑うことしか出来なかった。たった1人の少女のために制空権を確保し地上戦であまりにも有利な場面を作り上げる。一般生徒らには考えもつかない。

 

 

「それでアンタはどっちの味方なのよ」

 

 

エリカの低い声が周囲に響く。ヘラヘラと笑いながら黒夜は彼女に近づいていく。

 

 

「どっちだと思う?まァここに降りてきてすぐに殺さない時点でわかってると思うけどにゃーん。さてさてやることやりますか」

 

 

彼女は口元に手を当て大声で叫ぶ。

 

 

「シルバークロース!!出番だぜ!!」

 

 

周りの人間はその叫び声よりも次に起きた出来事に目を疑った。瓦礫の山に異なる力が働いた空間が出来上がる。学園都市の簡易世界転移装置の仕業である。異質な穴から出てきた物はバイクに乗った機械、駆動鎧だった。

HsSSV-01『ドラゴンライダー』いかなる環境下でも即時な部隊展開と敵勢力の排除を目的とするために作られた第三次大戦に投入される筈だった駆動鎧。しかしあまりにも早く終結してしまったため表舞台に出ることは無かったが、シルバークロースを追い詰めるために浜面仕上が乗りこなした機体。それを今はやられた側、シルバークロースが着こなしている。

異空間から飛び出してきた機体は広場を一周して速度を落とし黒夜の眼前で停止する。カチャリと機体とスーツが離れ搭乗者がドラゴンライダーを放置し降りてくる。

 

 

『ハロー、一高諸君』

 

 

黒いライダースーツにゴテゴテとした機材を付随しているのにも関わらず不思議と違和感を感じさせない。同系の駆動鎧とは多少異なる装置を設けているのだろうか、完全に外部との接触を絶っているそのスーツは黒夜の頭に手を乗せる。

 

 

『しっかしいつまで経ってもガキのまんまなんだな、女の子は成長期が男子よりも少し早いとあるがお前の場合は成長期がなさそうだ』

 

 

なにおう!と窒素爆槍を発動させ殴りかかる黒夜を華麗に回避し足を引っ掛け転ばせる。

 

 

『黒夜に大体の話は聞いたのか?』

 

 

元仲間で現在も共に行動する少女を置き去りにし相手のリーダー格の人間、七草真由美に尋ねる。

 

 

「え、ええ」

 

 

『ならすぐにでも行動しようか。乗れよ北山雫、安全が確保できるまで死なせない』

 

 

ドラゴンライダーの後部ハッチからシルバークロースが着用している駆動鎧よりも一回り小さい駆動鎧を出す。このドラゴンライダーは二人乗りが可能な構造であった。このスーツを出されたが雫は彼女の頼んだヘリがそろそろ来るということを知っていたし、それに仲間を見捨てて1人だけ安全な場所にいることを許せないでいた。

 

 

「私はみんなと一緒に脱出します。すみません」

 

 

そう言って黒夜らから離れて深雪や仲間の元へ移動した。

強制することは出来た、新型の脚部が異常に太い駆動鎧の素体確保のように無理やり中身に閉じ込めて機能することが可能だった。だがシルバークロースはそれをしなかった。何故なら彼の体を覆っているセンサーや多角カメラがそれを捉えていた。

司波深雪、彼女のいつでもシルバークロースを殺せるような瞳を機械を通してはっきりとわかっていた。ドラゴンライダーに乗った状態なら振り切れるかもしれなかったが、降りている以上この駆動鎧の性能は逃げ切るのにはあまりに貧弱。

 

 

『そうか、だが我々も君の命を守ることが仕事なわけだし、黒夜お前が彼らの護衛についてくれ』

 

 

「はァ?この世界のクズ共の掃除がしたいのに、なンで」

 

 

不満そうに瓦礫で遊びながらシルバークロースに当たる。

 

 

『ゴミ共の掃除なら護衛してても余裕だろ。ドラゴンライダーじゃ護衛なんて無理、それとも殲滅に特化したお前の能力じゃ守ることが出来ないのか?』

 

 

煽りを入れながらシルバークロースはドラゴンライダーに跨る。スロットを回しエンジンを温める。

 

 

『というわけでこの餓鬼が君を守ってくれる。君達よりも年齢も背も小さいが戦闘力は馬鹿にしない方がいい』

 

 

ロシア用に改造されたドラゴンライダーは市街地バージョンに変更されたので、最高速度は制限されているが小回りが効くようになっている。ビル間を滑るように抜けていき目に見えなくなる。

残された大勢はもうすぐやってくるヘリが来るまで場を繋ぐ。場を繋ぐと言ってもテロリスト集団の兵器は見当たらない。幹比古の探知魔法や美月の眼にも映らない。

周囲を警戒しているうちに雫のハウスキーパー、黒沢が操縦する輸送ヘリが近くまでやってくる。途端黒い雲、よく見ると蝗の大群が空中を漂う。エンジンやローターに絡むと着陸に失敗する恐れがあるため迂闊に広場に近づけない。

雫が自分のポーチからCADを取り出し除去する魔法を発動しようとしたが、暇つぶしの道具を見つけた黒夜は彼女の肩に手をやる。

 

 

「黙って見てな、この世界に来てから調子も確かめたいし」

 

 

彼女の持っていたイルカのぬいぐるみが内側から食い潰される。そこから大量の腕が伸び黒夜の上半身に接続されていく。ギチギチと音をたてながらビニールのような表面は肌色で覆われた金属が隠されている。

数にして約数百、だが今回はこれで十分。

ヘリコプターが接近してくる前に蝗の大群に向けて腕を広げ大気を操る。空気の四分の三を占めている窒素、これを操るということは空気全体を操ることに等しい。

窒素爆槍が黒い雲を引き裂く。

 

 

「吹っ飛べ!!」

 

 

空気の槍同士が混ざり合い一つの塊と化した能力の結晶は黒雲を上空から引き剥がした。




彼岸強いし楽しいんじゃ
EMEmは氏ね


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27

新キャラ?


その頃、一緒に行動していた一方通行を見失ったフレーラは1人殲滅にあたっていた。彼にとって敵かどうかは必要なことではない。学園都市に有益な人間は敵であっても生かすしそれに反していればどれだけ乞うてきても無慈悲に殺戮する。

今回全駆動鎧の指揮をとっているのは彼ではない。上層部の運用専門の人間が指示を出している。故に今回は膨大な戦力の塊である彼ですらコマの一つに過ぎない。その役割はこの世界の軍事力そのものを削ぐこと。

他の指示されている駆動鎧はなるべく人員を生かし正義の味方学園都市を演じるようにされている。しかし単独で行動できる大戦力のフレーラは汚れ役のような、取り敢えず戦闘意思を持つものに対しては容赦しない。

戦場の様子を生身の体で味わうためテロリストの攻撃でボロボロになった市街地を歩き回る。逃げる人々も隠れる人々もいない。ただテロリストの猛攻に対し市民兵らが後退するのが見える。

戦闘開始

脳内であらゆる演算を行い最適な戦闘スタイルを実行に移す。弾き出された結果、彼は己の影から3mは余裕で超えるメイスを取り出す。そして足裏に魔術を発動させ高速移動を可能にし爆心地へ飛び込む。

否、フレーラが飛び込むから爆心地となる。ビル群は倒壊し義勇兵とテロリスト、両者を巻き沿いにし破壊の限りを尽くす。メイスを一度振るうだけで機械の兵器共は壁に叩き付けられる。

まずは大型の機械をメインターゲットとする。これだけ大きい敵であれば容易に薙ぎ倒すことが出来るだろう。

 

 

「ふん、無様だな」

 

化成体を形成して攻撃する大陸側の古式魔法や東ヨーロッパで使用された旧式の直立戦車はフレーラの敵ではない。アスカロンを使用するまでもなくテロリスト側をいとも容易く制圧する。

この光景を目の前で繰り広げられ日本の義勇兵とそれを指揮する十文字克人は思いもよらぬ支援に感謝する。

だが現実は違った。あまりにも無慈悲である。初めから無抵抗な姿をフレーラに見せていれば一般市民として認識され見逃したかもしれない。しかし抵抗するために魔法を使用し戦闘行為を行っていたことは事実、フレーラの猛進は止まらない。

価値の見い出せない魔法に用はない。

棍棒を体の回転に合わせて勢いよく振るう。安堵しきった市民は事態を脳で確認する前に生を失う。一瞬で異変を感じることが出来た十文字は多重障壁魔法、ファランクスを発動させ衝撃を小さくする。勿論完全に止められる訳では無い、勢いを殺し後は肉体に負担をかけメイスを体で受け止める。

 

 

「ほう、なかなかやる人間がいるな」

 

 

止められたメイスを手放し軽くなった身体で手放されたメイスを叩き割る。これに体重をかけていた十文字は一瞬重心が崩れる。その隙を突いてフレーラは魔術による高速移動で懐に深く入り込み拳を突き上げる。

だが入った感触はしない。すぐ様フレーラのメイスを止めた者から離れ状況を確かめる。ガードされている、これは事実。

 

 

「障壁魔法か?この異質な感覚」

 

 

この時十文字は焦っていた。敵の動きに完全に合わせることが出来ていない、いくら何でも速過ぎる。先程ファランクスを発動できたのも偶然に近い。まともにやりあったら確実にこちらが負ける。

思考は一瞬にして停止させられた。

フレーラは己の拳をコンクリートで覆われた舗装道に叩きつける。地震に似た振動が十文字を初め義勇兵に届く。

そして改めて敵の姿を確認すると先ほどとは異なる、背後に透明な物体を従えながら一歩一歩近付いて来る。

 

 

「肉弾戦など本来戦場では起こり得ない、何故なら接近する前に全てが決着するからである。だが超能力や魔術、それに魔法が蔓延った世界ではこんな常識は通用しない。何が言いたいのか、それは......遠距離攻撃が得意でない戦闘員はほぼいないという事だ」

 

 

透明な物質、水道管から引き上げてきた水が凶器と来て飛散する。目標は義勇兵と十文字。

 

 

***

 

 

北山家のヘリが着陸出来るほど大気は綺麗にかき消された。魔法が何だろうが窒素を操り消してしまえば問題は無い。窒素爆槍というレベル4程度の能力を持つ黒夜は能力向上のために接続されたビニール質の義腕を取り外し、持ち運びできるサイズにまで小さくする。元々イルカのぬいぐるみに包まれて存在するレベルで小さくなるので無理矢理押し込むような感じではない。

気流が一瞬乱れたがヘリが墜落する程大きな乱れは発生しなかった。

黒夜自身この世界に来てからの能力の調整がこれで完成したようなので、暴走も何も気にすることなく操ることが出来る。

この巨大な力、魔法師の卵である一高の生徒らにはあまりにも強大な印象を植え付けた。彼女が窒素を操って空気の槍で掃除をした事実を認識できない今、不可解な機械を体に接続し大規模な爆撃を行ったとしか理解出来ない。

そして力を行使した当の本人はヘラヘラと口元を緩め笑っている。暗闇の五月計画で脳に移植された一方通行の攻撃性の由来、その残虐性や破壊の快感をも受け継いでいる。

満足したような黒夜にレオが近づいて不格好な質問をする。

 

 

「オイ、黒夜?だったか、今の魔法どうやったんだよ」

 

 

小さな子供を扱うように接してきたことに対し腹が立った彼女は己の拳をレオの鳩尾に沈み込ませる。両腕で腹を抱えながら地面に倒れ込む男の姿に侮蔑した眼差しを向ける。

 

 

「テメェ今私のことをガキだと思っただろ。人を見た目で判断する甘ちゃンに教えることなンざ何もねェよ」

 

 

すると彼女は空の様子に気がつく。駆動鎧よりも薄い多機能型のスーツを着込んだ人間がこの広場を囲っている。彼らは日本の軍隊らしい。だが黒夜からしてみれば暗部の匂いが辺りを漂っている。非人道的な実験や倫理観を無視した兵器の運用というような極悪の道を突き進んでいるような暗部の香りではない。フラットな匂い、表に出てこない戦闘部隊のようなスパイ映画に出てくる隠された部隊のような感覚である。

比較的浅い、学園都市の暗部を経験している黒夜にはディナーにおける料理のような重量感はない。香り付けのバジルのような薄い暗部の感覚。

これがこの世界と学園都市の違い。

人道的な魔法関係の研究に勤しむこの世界と科学の力をすべて利用し尽くし世界を知ろうとした学園都市の違い。

だが今はそんなことを気にしている必要は無い。上空の円陣が見方のものとわかればすぐ様ヘリに残った市民らを搭乗させる。これで市民は全員乗った、六枚羽に向かわせた場所へ同じく向かわせる。しかし上昇し始めたヘリはすぐに地上へ引き返すこととなる。上空の状況が芳しくない。

戦闘が始まっていた。独立魔装大隊の相手はテロリストのような比較的安易な敵ではない、本格的かつこの世界において未知なる技術を用いて戦闘を行う集団、学園都市。この北山雫回収強行組が広場の場所を認知したのだ。

しかし戦況をリアルタイムで確認できるようなハイテク技術を確保しているのにも関わらず、何故脚部の異常な駆動鎧の襲撃から時間がかかったのか。それは強行組が学園都市のサポートを十分に受けていなかったからである。上層部の大半は一方通行の暴走を恐れ慎重になりつつある。そのため衛星からの情報を彼らは手にすることが出来なかった。

それで仕方なくくまなく潰していくという機械が最も得意とする分野で敵を探すことになる。これでとうとう見つかってしまった。

彼らが確認したヘリに対しては攻撃は行わない、それよりも対象はムーバルスーツを纏った魔法師部隊。

世界の音をかき消す程の爆撃の応酬が始まる。先手を打ったのは学園都市のレールガン群だった。細かに狙う必要は無い、ビルごと他の建物ごと大隊を消しされば良いこと。破壊の嵐が独立魔装大隊を襲う、特に魔法力が高位でない隊員は毎分4000発も発射できるレールガンに蜂の巣にされた。

この部隊の特徴は司波達也の魔法による無限とも言える残機であったがこの特徴をうまく潰しているのが学園都市だった。もしレールガンを直撃した兵士を彼が魔法により蘇生させようとするならば彼を喰らい、彼が兵器群を攻撃しようとするものなら他のレールガンが彼の仲間を食い尽くす。勿論自力でこの爆撃を耐えうる力を持つ者もいるが、音速に近い砲弾をどうにかする力は皆にはない。

だがこれを大黒竜也は力押しで解決する。味方を信じ学園都市の兵器の破壊を最優先とする。状況が好転したら仲間を救出しに行く。

だが学園都市もこの動きは既に予測済みだった。ある程度レールガンが削がれたらすぐに退却していく。カマキリの羽のようなパーツがうねりを上げ彼方へと飛行していく。あまりにも素早い退却行為に不信感を拭えなかった司波だったが、今はそんなことより部隊の治癒に行かなければならない。

仲間達を治癒しているところに柳が彼に近づく。

 

 

「特尉、してやられたな。敵部隊の損害とこちらを比べればあちらの方が大きいが大小よりも厳しいものをやられた」

 

 

「そのようですね」

 

 

特筆する感情を有さない達也には仲間を失った悲しみは理解出来るが自身はそれを持つことは無い。

損害の大小、傍から見れば機械兵を三分の一ほど削いだ独立魔装大隊の方が有利に思えるがこちらは2名死亡している。この部隊は不死身とも言える達也の魔法のおかげで非常識な制圧力と戦闘力を誇る。この部隊の稼働根幹が直撃されたのだ。即死の攻撃から蘇生させる手段は今のところ存在しない。

対して上空での戦闘をヘリの中で過ごした真由美らは嵐が収まったのを確認し空を見上げる。即座に隊を整えた柳らの力量は素晴らしく護衛体制は既に整っていた。

雫、黒夜と一般市民を乗せた北山家のヘリ、一般市民だけを乗せた七草家のヘリ、そして一高の戦闘を得意とする者が乗り込んだ七草家の戦闘ヘリ、それぞれ避難場所を目指し飛び立つ。

安堵の表情が輸送ヘリ内を埋め尽くす。頬の筋肉が緩み泣き出す者までいたが雫は未だに安心していない。安全域まで到達するまで襲撃が終わるとは限らない。

空から横浜の街を眺めてみた雫はそのおぞましさに声を失った。ビル群は壊滅的な被害を受けている、それに現代的な建物は尽く破壊されていた。復興にどのくらいかかるのだろうか、そんなふうに思案しているといつの間にか地上は降りていた。

 

 

***

 

 

東京郊外、学園都市にも存在する窓の無いビル。この世界では一方通行の代理演算や仲介人であるフードを被った空間移動者の補助演算を行う樹形図の設計者が設置されている。周りをコンピュータで囲まれた空間の中に1人の人間は能力を起動していた。

あの一方通行を輸送した時のように、学園都市の兵器や人員を大量に輸送した時のように、そして北山雫を特定の座標に配置するように。

学園都市の生命線の一つといえるフレーラよりも命令コードが優先される学園都市最高の空間移動能力者、亜空転移(トランスポート)はアレイスターからのパズルを確実に埋めていく。彼女にしか知らないピースは着実に嵌っていく。




とりあえず横浜編は完結させます。
ステイツ編は考え中です。


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28

遅くなりましたすみません
全部Emってヤツが悪いんだ


「お嬢様!!お嬢様は何処へ!?」

 

 

輸送ヘリの内部から忽然と消えた彼女の雇い主の娘を必死に探す黒沢、しかし見当たるわけがない。その時背後の鉄板がガラリと開いた。

 

 

「どォした、さっきからそンなに騒いで」

 

 

黒夜はダルそうな声で操縦席を見渡し彼女の騒いでいた原因を理解する。保護対象が消えたとなってはこのヘリにいる理由がない。彼女の判断はとても素早かった。

 

 

「ハッチを開けろ、一瞬でいい。嬢ちゃン助けに行ってやるよ」

 

 

何も言わずに理解した黒沢は市民にヘリにしっかり捕まるよう機内放送を利用し、その数秒後後部ハッチが開かれる。突風が入ってきたにも関わらず、黒夜は壊滅気味の都市の上空から飛び降りる。

恐怖心は多少あるが自身の能力を信用している。投げ出された体から両腕を地面方向に突き出し窒素爆槍を放つ。勿論これだけで威力が相殺される訳では無い。適度なタイミングで的確に重力に反発していく。ボス、ボスと放たれた槍達はすぐに消えていくがその分降下速度は小さくなっていく。

極めつけは付近のビルに体を押し付け窒素爆槍で無理矢理侵入する。体が多少傷ついたが今現在問題になるほどではない。

彼女はビルを降りながら手元の携帯電話でシルバークロースに連絡を取る。

 

 

「シルバークロース!北山雫の現在座標は!?」

 

 

『焦るな、既に向かっている。あのブレインめ、この事態を予測していたと思うのが当たり前みたいな感覚で連絡しやがって。人工衛星に住んでるからって調子乗ってるんじゃないか』

 

 

地上を爆走するドラゴンライダーは転々とする北山雫を最短ルートを通って追いかけている。駆動鎧に表示されている座標が飛び飛びなのは空間移動系の能力者が作用しているからであろう。

 

 

『ダメだ、追いつけない。奴ら連続してテレポートしてる!とりあえずお前をこのバイクに乗せる、話はそれからだ!』

 

 

黒夜は彼の意見を聞き指定されたとおりに道を駆け抜ける。

 

 

***

 

 

真由美達を乗せたヘリはベイヒルズタワー周辺の異形を美月が察しそれを幹比古が確認していた。勿論彼らはほぼ同時刻に浮上した雫のヘリの様子などわかるわけが無い。

魔法師協会本部の異変と共に彼らは中華系テロリストの侵攻があるのを全員が目で見ることが出来る。彼らはその侵攻を止めるべくヘリをヘリポートに着陸させ戦闘態勢に入る。

しかし幻想は儚くも崩れ去る。

魔法師協会の建物前で戦っている戦闘員やテロリスト、乗用車などを駆使して作られたバリケード、中華系の戦略兵器、全てが灰となる存在が戦闘の中心にいつの間にか存在していた。

フレーラ

学園都市が確保している兵器の中でも随一の破壊力を持ち圧倒的力差で戦場をこじ開ける開拓者。その存在に呂剛虎は恐怖心を抱いた。戦場で勝てるかどうかではない、逃げ切れるかどうか、こちらの方に重点がいってしまっている。

無言で佇むフレーラだったが止まった戦況が動き出した瞬間彼の姿は消えた。両陣営は不思議に思ったが今はそんなことを気にしている場合ではない。目の前に集中する魔法協会の戦闘員は敵陣の異変をすぐに察した。

大将である呂剛虎が先程現れた男に一方的に嬲られていた。反撃を繰り返そうにも絶対に許さないフレーラの体勢はバランスのとれた異常さを纏う。武器も持たず拳で呂剛虎のプロテクターを砕いていく。魔法による強化をしているのにも関わらず問答無用。周辺の歩兵らは既に退却の真似事を始めているようだったが、フレーラの戦闘による衝撃波が彼らを襲う。

グタリとフレーラの腕の中で力尽きた大男を片手で放り投げ、魔法師協会を目指す。バリケードが建物を囲んでいるがそんなものは関係ない。自分の影から排出したアスカロンを握り締め大きく一振り、爆撃が日本の戦闘員を襲う。

ヘリポートから降りてきた一高の援軍は協会前の惨状に目を疑った。自動車が炎を高く燃えており酷く焦げた部分が多数見られる。

 

 

「何よこれ......さっきまで戦っていたじゃない。私たちが到着するまで誰かが終わらせたってこと?」

 

 

真由美の呟きが緊張感を一層高める。

コツコツと階段を上る音が聞こえる。全員が身構えた先にはゴルフウェアの様な洋服を身にまとい、戦闘行為をしていたようには思えない外人がゆっくりと足を進めてくる。

 

 

「貴様らも義勇兵か?」

 

 

単純な疑問、フレーラにとって目の前の少年少女らは敵ではない。別に戦場にいるからと言って無差別に殺戮する訳では無い。戦力は削ぐだけで彼らはいまだに力を見せていない。

 

 

「ひとつ伺います、ここでは戦闘があったようですが貴方は何をしたのですか?」

 

 

敵か味方かもわからない大人に丁寧な口調で現状を聞く。フレーラは自分の名前を告げもせず聞かれたことにだけ答える。

 

 

「ああ、あれは戦闘行為などとは呼べん。ただのママゴトに過ぎんよ。ん?貴様らはもしかして魔法科第一高校の生徒か。運よく逃げ切れたのか、その命無駄にするべきでは無い。立ち去れ」

 

 

威圧感、戦場の空地を飲み込み自分のフィールドを展開するフレーラの実力は確かだった。脚が震える真由美だったがここで無抵抗のまま通すわけにはいかない。

その様子を掴み取ったフレーラは1つ余興を思いつく。

 

 

「よかろう、協会前で戦おうではないか。私もそこまで急いでいる訳では無い。次の作戦段階に移行するには時間がいくらかある。知り合いが一高に籍を置いているんでな、暇潰しにはなるだろう」

 

 

真由美、摩利、花音、五十里、レオ、エリカ、幹比古、全員はこの施設を死ぬ気で守らなければならない。協会手前の広い場にいる人間はほとんどと言っていいほど動いていない。守るという行為、動けるのは7名、深雪は内部の最終ラインで待機している。

つまりこの絶望的な戦力の塊を魔法師の卵数名で処理しなければならない。全員が目を配り大体の作戦を考えている間、フレーラは炎上している兵器や機械群を手当り次第広場から投げ捨てる。焦げた跡が無ければいつもの魔法協会の有り様。

 

 

「一方通行の馴染みだ、軽い暇潰し程度でいいだろう。オイ!例の物を送れ」

 

 

誰に向かって言っているのか分からなかった一高生徒だったが広場には以前見た穴が開いた。そう、シルバークロースがドラゴンライダーに乗ってやって来た時の穴。そこから出てきたのは脚部が異様に太い駆動鎧。顔面には機械的なパーツはない、そこにあるのは生身の顔。大人の男、更に軍人であることを忘れたように泣き叫び助けを求める。

 

 

「助けてくれええええ!!体が、体が動かないんだ!」

 

 

異空間の穴が閉じ元の状態へと戻る。

北山雫強襲部隊の一員であった駆動鎧に体を喰われた目も当てられない軍人。肉体の自由は機械によって奪われ脳波や他の人間特有な機能さえ残っていればいいものの、精神性を奪わない卑劣な構造。植物人間を機体の内部に入れても機能する特殊な性能の駆動鎧はその醜い顔面を金属の蓋で覆い戦闘の構えをする。

その醜態に一高生徒は学園都市の高度な技術と得体の知らない倫理性の損ないを感じた。この世界でもマッドサイエンティストと言う異常性極まりない魔法研究者は確かに存在する。しかしそれを推奨している訳では無い、むしろしっかり人道的な研究に力を注ぐよう指導される。

学園都市は逆。飛び抜けている者には莫大な金を積んでも研究させる。それが非人道的、非倫理的であっても変わりはない。それがSYSTEMへの手がかりとなるからである。

駆動鎧が横への飛跳体勢をとる。上部への行動を制限する代わりに左右の移動を加速させる。そのため脚部はあらゆる部分がカチャカチャと開いたり閉じたりする金属板が動く。

 

 

「では始めようか、頑張りたまえ一高諸君」

 

 

フレーラが手の平を叩くと駆動鎧は一直線に進む。しかし向かっている方向は一高集団ではない。フレーラに向かって飛び込む。予期しない出来事と同時に彼に接触した爆音が同時にエリカ達の耳を襲う。

 

 

「あがぁ......ぐぁぇ」

 

 

駆動鎧の内部から赤黒い液体が垂れ流される。それでもフレーラへの対抗をやめない駆動鎧は太い脚部を回転させ回し蹴りを繰り出す。それに対し手刀を水流関連の魔術で鋭利に尖らせ足の付け根から切断する。

 

 

「ふっ、どこかの誰かが外部から操作したか。構わんよ、余興が潰れてしまったのは残念だがな」

 

 

文字通りくしゃくしゃになった駆動鎧を中身ごと引き裂き大男は戦闘体勢をとっていた真由美らに向き合う。

絶望が始まる。

 

 

***

 

 

レオはこの状況に体が震えていた。武者震いでもあるし恐怖心からくるものもある。それはともかくこの魔法協会の防衛、自分に出来るのだろうか。雰囲気というか漂っているオーラが軍人に似ている。それは戒律が厳しいため鋭く研ぎ澄まされたナイフのような感覚ではない。柔軟にすべてを受け入れそれでなお壊すような、対象が定まった破壊ではなく無差別に取り敢えず壊す。

 

 

「では参ろうか、まずはそこの男か。相性がそれほどいいとは思わんが仕方ない」

 

 

レオに向けられた攻撃意思に固まる一高生らは対応しようとレオを中心に一層構える。しかし遅い。否遅いのではない、フレーラの高速戦闘が速過ぎるだけであって彼らは自身の最高のスタイルを貫いた。

 

 

「フン!」

 

 

フレーラの拳が魔法展開中のレオの体を貫く。彼の肺から空気の塊が吐き出る。同時に赤い液体も多少口から飛び出ている。彼に突き刺さった拳を横に振りレオはコンクリートの地面を転げ回る。

 

 

「せやぁ!!」

 

 

フレーラの一瞬の隙を突いて大蛇丸を振り下ろすエリカだったが、彼女の予想に反して彼は防御態勢を取らなかった。力一杯振り下ろす大剣は男の身体を貫く。

そんなことは無かった。接触した部分の服が多少切り裂かれ薄い表皮が現れるが傷はつかない。

 

 

「それで終わりか?」

 

 

疑問が頭の中で巡り回り次に何をすればいいのか判断出来なくなった。エリカは大蛇丸が避けられたりガードされたりするのは予測していた。しかし無防備状態のこの男に攻撃しても全く効いていない。一旦体勢を整えようと半歩後ろに下がった瞬間、目の前のフレーラが大型バイクで轢き殺される。

ガリガリガリガリガリ!!と金属どうしが擦りつけ合い火花が飛び散りながら一高生とフレーラの距離は大きくなっていく。

 

 

『ヤバイな、ドラゴンライダーの最高速度で轢いても死なないなんて。流石は学園都市の3大凶器、こんな火力じゃ押せないか』

 

 

フレーラを轢いたバイクからいつの間にか降りていた操縦者、シルバークロースは駆動鎧に包まれたまま一高の倒れているレオを担ぐ。それと同時に一緒に同乗してきた黒夜が人造アームから窒素爆槍を展開させ、ドラゴンライダーと正面衝突している男に真上から莫大な空気を叩きつける。

 

 

「何やってンだテメェら!!さっさと逃げる準備しろ!フレーラに敵対するなンざ馬鹿のやることだ、はやく建物の中に入れ!」

 

 

現時点から数百メートル先、フレーラは減速したドラゴンライダーを弾き、摩擦熱で溶けてしまった肉体を気にしながらも黒夜達を敵視する。

そして黒夜は真由美らに向かいさらに言葉を投げつける。

 

 

「フレーラに敵対しやがってよォ、オマエら死にてェのか?私ら学園都市の連中だって絶対に喧嘩売らねェのに、ったくよ。やっぱし呼ンどいて正解だったぜ」

 

 

フレーラがこちらへ爆速してくる寸前彼の足が止まる。それは上空に訪れた白い悪魔(てんし)によるものだった。




ちなみに3大凶器
フレーラ、脳幹、恋査


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29

全部EMって奴が悪いんだ

メリークリスマス


背中の竜巻を霧散させコンクリートの地面に両足で着陸する。それと同時に首元のチョーカーの電極をオフの状態にして杖を突きながらゆっくりと歩いて来る。

 

 

「いつの間にかいなくなったと思ったらこういう時には現れるのか、一方通行」

 

 

肉片が剥がれ上半身は筋肉よりも機械が表面に表れており、人造人間であることがよりはっきりとわかる。

そんな姿を目の当たりにしても全く動じない一方通行はそれよりも足が固まって動かない一高の集団に目を向ける。向こうは何か言いたそうだったが気にすること無く彼は話し始める。

 

 

「プラン通りか?」

 

 

フッとフレーラの焼け焦げた顔面が笑みを浮かべる。全てを知っているかのような満足げある微笑みだった。

 

 

「分かっているなら話は早い。貴様も分かっているだろうがここから先は守りながら戦うなどと言うふざけた幻想は通用しないぞ?」

 

 

一方通行の左腕が前方へ伸びる。そして指を軽く捻ると先にいたフレーラの体がポート際の海水に突っ込んでいく。

左手を握ったり開いたりする一方通行は自分の能力の状態を確認し、フレーラが飛んでいった方向とは逆にいる一高の集まりと黒夜シルバークロースの学園都市組に向かっていく。

 

 

「テメェから連絡入った時には驚いたがまァ、雫が連れ去られたのは確からしいな」

 

 

彼等が絶対に敵に回したくない凶悪な存在を指先一つで軽く吹き飛ばしてしまう一方通行の強さに全員は驚いている。そんな彼らを気にすること無いにしても一方通行はフレーラの言った通り彼らを守りながら闘うことは出来ない。故に対応策を取り始めた。

杖を突きながらまたも左腕をゆっくりと伸ばし倒れているレオを中心として半球を作り出す。透明で真由美ら囲まれた当人達からは見ることが出来ないが確実に存在する防御膜。一方通行の体中を包んでいる反射膜を応用した能力の産物であり、彼の超能力は魔法と一体化することにより新たな次元へと昇華した。

膜が完成したと同時にフレーラが海水から上がってきた。着地と同時に地面が抉れ彼の総重量の大きさを物語る。わずか10メートル先、一触即発の事態であるがフレーラ自身飛ばされた疑問が解消しきれていない。故にある程度探ることにした。

防御膜の中では気絶していたレオの意識を取り戻そうと応急的な回復魔法が彼にかけられていた。それと同時にシルバークロースの駆動鎧を用いてバイタルの測定なども行っていた。彼が確認した限りこの膜を内側からこじ開けることは出来ない。恐らく一方通行の能力の制約が切れなければ外からも中からも開けることは出来ないだろう。

そうしているうちにガハッと大きく咳をしながらレオの意識が回復する。エリカや幹比古が彼の容態を気にするが真由美や摩利はそれを気にしていられる精神状態ではない。透明な壁で隔たれた向こう側には怪物同士の戦闘が今始まろうとしている。それに目を向けるしかない。

 

 

「いきなり私を吹き飛ばすとはそれほど彼女等の安全を確保したかったのか?一方通行」

 

 

挑発を入れるフレーラに対して一方通行は何も言わない。冷静に判断しいつ攻撃を仕掛けるか迷っている。

 

 

「しかしそこのNo.7の七草真由美に一つ聞きたいことがあってな。どうしてそこまで一方通行を信用することが出来るのかね。私には理解出来ない」

 

 

突然話題を振られた真由美は一瞬焦ったが一方通行が学校の一員である事などを理由に上げた。

それを聞いたフレーラは鼻で笑う。下らないと小声で呟き一方通行を指差し続ける。

 

 

「学生であれば無条件で信用していいのか?一方通行のことを良くも知らないでよく言えるな。コイツが行ってきたあらゆる非道を目の当たりにすれば話は変わるかもしれんがな」

 

 

事態を察した一方通行は先程同様フレーラを吹き飛ばそうとしたが高速移動で回避されてしまう。

 

 

「一方通行はこれまでに約1万人もの人間を殺してきたのだ。それでも無条件に信じると言うのかね?」

 

 

最悪に近い事態が一方通行を襲う。フレーラ単体での戦闘は何とかなりそうだった。しかしこのように仲を割いていき身内からの妨害が始まるとどうしようもない。そしてここで彼らを殺しフレーラに専念しようとすると北山雫の周りの世界を壊してしまうことになる。

やるべき事はひとつ、プラン通りであろうと無かろうとフレーラを叩く。

 

 

「時間稼ぎは済ンだか?テメェの話にウソはねェがそれがどうした。屑鉄の塊になる予定のアンティークなンざ今更用もねェよ」

 

 

首元のチョーカーの電極をオンにする。残電量は能力使用であれば12分、学園都市特製CADと樹形図の設計者からの支援を最大限利用することが出来れば戦闘可能時間はもっと延びる。しかし学園都市本部から電波支援を止められれば戦力は遥かに劣ることになる。幸いフレーラと衛星が繋がっていないことを鑑みるとある程度の時間は最大戦力で戦うことが出来るだろう。

目的は北山雫を確保した学園都市との交渉権利をもぎ取ること。

科学製の天使と宗教製の天使がぶつかり合うのに時間は必要ない。

 

 

***

 

 

一方通行の認めた大量殺戮に言葉も出なかったエリカらは彼女らを守るシールドから二人の戦闘を見ていた。

別次元、今までやってきた事が余りにも粗末に感じる位2人の激突は想像を超えていた。フレーラと呼ばれている大男の背中からは8本の液体の様な翼が飛び出ており、一方通行からは両肩から飛び出る白翼。そして極めつけはなんと言っても彼の頭上から浮かび上がっている天使の輪。

互いの体は接触しないものの翼と翼の叩きつけ合いや引きちぎったり根こそぎ奪っていく。そうして失われた翼は補充されると共に残骸は儚く霧散していく。互いに触れた部分を削っていくため周囲の地形は変形していく。

 

 

「何よ...これ、私達は何も出来ないって言うの?」

 

 

戦闘光景を唯なる眼差しで見つめていた真由美は思わず口に出してしまった。自分は十師族の一員であるのにも関わらずこの騒乱を和らげることは出来ない。そして安全地帯で見ているだけの自分に腹が立っている。他のメンバーもほとんど同じ気持ちだった。目の前の状況をどうにかする力が欲しかった。

 

 

「真由美、今はそんなことを考える必要は無い。一方通行が作ってくれた空間で万全の準備をすることだけを考えろ。いつこの膜が破れてもいいようにな」

 

 

肩に置かれた手は微かに震えている。摩利も悔しいに違いない。

グシャアアアアアアア!!

安全地帯のすぐ傍を何かが地面を抉りながら滑っていく。それは既に人間的なタンパク質を半分ほど失った人造人間、フレーラであった。彼の体は精密機械やバイオテクノロジーに対応した構造になっている。そのためある程度タンパク質は必要だが無くても十分に戦えるらしい。

 

 

「テメェ、第三次大戦の時の馬鹿げた天使の力使ってるな」

 

 

一方通行の観察眼は素晴らしいの一言に尽きる。数十秒の戦闘において敵の発する力やその起源までも推測する。対するフレーラも馬鹿ではない。彼ほどではないが体内のコンピュータとネットワークで調べることが出来る。

 

 

「そう言う貴様も面白い使い方をするではないか」

 

 

安全地帯に寄ってきたフレーラは真由美らに聞こえる距離で判断した内容をぶつける。

 

 

「賢者の石を体内に寄生させ能力を向上するか。貴様が横浜の惨劇から姿を消した理由は金沢まで飛んでいったと。白翼の維持は学園都市内でも確認されているがしかし、賢者の石の効力で座標のベクトル操作まで可能となるとは。第二プランに留めておくには勿体ないほどの力だな」

 

 

彼の上空から1本の白翼が叩きつけられるが液体の翼で相殺させダメージを防ぐ。そこに接近してきた一方通行に対し液翼を振るい場を凌ぐ。

 

 

「いくら大戦後にある程度魔術の知識を得たからと言ってそう安々と対抗策を練られるわけが無いだろう。十分な反射が機能しない以上貴様には魔術が一番良く効く」

 

 

賢者の石、フレーラがオーストラリアで一方通行に預けた物。この世界ではレリックと呼ばれ魔法への転用が期待されている品物。

次の瞬間、勝負が決まった。魔法協会の入口から出てきた司波深雪の姿を捉えた一方通行の行動は誰よりも速かった。白翼に加えて竜巻の翼を背中から放出し加速しながら深雪の元へと突っ込む。そして彼女の体を掴みつつフレーラの触手のように伸び縮みする液体を掻い潜り安全地帯へとぶつかっていく。中に深雪を手放して侵入させ自らは加速した勢いを減速させるため垂直に飛行し、その後上空へ滞空する。

 

 

「深雪さん、大丈夫?」

 

 

突然入ってきた彼女の様子を確かめるため真由美は形式的な質問をする。

 

 

「ええ、大丈夫ですけど。これは一体何なのですか?」

 

 

敵の参謀の中枢にあたる人物を対処し協会から出てきた彼女は突然のことで事態を把握出来ていなかった。

 

 

「私たちにも分からないけどアッくんが戦っているの」

 

 

深雪は一方通行に対していい印象を持っていない。兄と少し諍いがあるらしくあまりいい話は聞かない。しかし今は違う。過程がどうあろうと彼女のために一応は行動していた。

 

 

「一高生徒は助けるか、貴様が抱える物が両手に収まれば可能だがそんな事が可能か?」

 

 

神の力(ガブリエル)の力を純粋な魔術で発現させ水の翼を振るうフレーラは手加減などしない。その翼、次の瞬間全てが固体の氷へと変化してしまった。氷になってしまったことに疑問を抱いていられる状況ではなかった。一方通行の操る白翼を回避するために機械の力を用いて横に飛ぶ。

対する一方通行は上空からゆっくりと降下し先程連れた深雪の方を見る。彼女のCADが青白く光っているのが確認出来た。恐らく得意とする氷系の魔法を発動させたのだろう。ちらりとこちらを見られた。その表情は仲間として頼れる誇りのようなものが現れているように感じられた。

横に飛んだフレーラの態勢が崩れている今チャンスはここしかない。彼の体内に光る赤い宝石と左手のCADを演算機器として扱い白翼を靡かせながら爆速していく。

 

 

「フレーラァァアアアアアアアアアアア!!」

 

 

咆哮と共に人一人分の質量が機械で構成された人造人間に突き進んでいく。

 

 

ピー

 

 

小さな警報が鳴ると同時に一方通行が失速し彼の産物であった一高を守る膜が消え去った。



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30

明けましておめでとうございます
横浜編終了です
暇だったらパラサイト編もやりたいと思います


減速したとはいえ初速度が大きいため慣性の法則に従い一方通行の体はフレーラの元にまで地面に擦り付けられながら進んでいった。彼の身体からベクトル操作の防御膜が無くなったため土や血の跡が滲み出している。そしてゴロゴロと転がっていくうちにフレーラの足元でようやく止まった。

それを見ていた黒夜は理解した。彼のチョーカー型電極の残量がなくなった。一方通行を無効化するのに最も有効な手段の一つとして考えられるものだった。周囲の真由美や摩利は何が起こったのか分からない様な表情をしている。だが同時に彼女らを取り囲む反射膜が無くなったことを理解したのか、正気を取り戻したレオを中心にCADをフレーラの方に構える。

 

 

「逃げるぞ」

 

 

CADを構えている魔法師達に黒夜は口を開いた。戦う気が十分な深雪には理解出来なかった。対する最初からフレーラと対峙していた組はその言葉に理解を示すがCADを降ろしはしなかった。

 

 

「一方通行がこの有様だと言うのに貴様らは戦うというのか?」

 

 

半身の皮膚が溶けだし金属を露出させたフレーラは魔術を発動させる。自らの影から彼の最大の武器、アスカロンを取り出す。その鋭利な先端を一方通行の首筋に突きつけCADを構えた魔法師達の動きを止める。キラリと光るギザギザした龍の肉片を粉砕する部分や糸鋸が一方通行の周りを囲んでいく。

 

 

「手を出したら一方通行を殺す」

 

 

背中の天使の力の水翼はフレーラの背後で唸っている。深雪の魔法で動きを止めることが出来るがそれだけでは恐らく決定打にはならないだろう。狼狽える内にフレーラは一方通行との約束を果たす。

 

 

「これが成果だ、と言っても聞こえないと思うがな」

 

 

アスカロンを取り出した穴とは別、シルバークロースが使っていたような穴からある人物を連れる。1人は一方通行が助け出したかった少女である北山雫、もう1人はフレーラの圧倒的戦力の前に抵抗することが出来なかった十文字克人。ロープで縛られたりすることも無く2人は異様な空間から出てくる。

 

 

「ここは、ぬ...真由美か」

 

 

周りの状況を把握し捕虜の取引と判断したのか克人は大人しく従った。共に雫も彼と同様従う。

フレーラは彼らを小突き仲間の元へと移動するように促す。

 

 

「感謝するなら一方通行にするんだな」

 

 

息をしているのかよく分からなくなっている白い残骸がフレーラの肩に積まれる。軽々しく持ち上げられるのを見ると平均的な体重よりもだいぶ軽いのかもしれない。一方通行が守っていた集団との距離をじりじりと離していくフレーラは任務の遂行を確信した。いくら天使の力を止める魔法使いがあの場にいようとも一方通行の身柄という担保を手にした時点で向こうから仕掛けることは出来ない。次のステップを考えた途端、コンピュータの回路が沈んだ。既存の回路で状況を判断した所原因がはっきりとわかった。

フレーラの体を支えている胴体部分が白翼で貫かれていた。

思考するだけのコンピュータは機能しているが事態を好転させるだけの力は既に失っていた。自らの腹を抱えながら崩れるフレーラに対し肩から降りた一方通行は電極のスイッチを切り収縮させていた杖を伸ばす。

 

 

「な...なぜ......なぜ能力が使える?貴サマのチカラはそノチョーカーにイ存してイたハズ?それガな...ぜ...」

 

 

電子音が鳴り響くフレーラの体に見向きもせず一方通行は答える。

 

 

「俺の弱点を知っている人間に対して何の策も講じないアホなンざいねェよ。エラー音吐き出したからって勝手に残量0と勘違いしてくれるヤロォに言うことはねェ」

 

 

そう言う一方通行は再び電極に指を近づけ能力使用モードに設定する。そして地面に伏していたフレーラの体に触れ彼の体を粉々に砕く。学園都市から再生されないように、こちらの世界の魔法に解析されないように。

灰に近い状態となったフレーラの残骸は風に乗り宙を舞った。キラキラとした金属の粉が吹き飛んでいく。一方通行の指に付着した最後の欠片が吹き飛んだのを確認すると彼はくるりと振り返った。そこにはどこか懐かしい思いが留まっていた。

一高の生徒会を中心とする魔法協会を守ろうとした者達。一方通行が被害を出さないためにホールに閉じ込めておいたが容易く突破されてしまい意味をなさなかった。彼は体を完全にフレーラと別し雫の方を見る。

電池残量は通常モードで残り30分弱、能力を使おうものなら一瞬で行動不能になる。最後の言葉を伝えようと傷ついた体を動かす。ザッザッと瓦礫を踏み越え一方通行は深雪の目の前に来る。周囲の人間が美少女というくらい素晴らしい顔つきらしいが、美的感覚や性ホルモンの分泌以上を伴った彼にはその事が客観的にしか分からない。若干の恐れを抱く彼女を無視して彼は力強く咳き込む。その勢いで彼の口内から真紅の宝石が地面に飛び出る。異常な程の光量を六角形の立体的な構造から放出し、直視できないぐらいの眩い光は次第に薄くなり一方通行が手に取る時には光は失われていた。

 

 

「司波深雪、テメェにこれをやる。三高の吉祥寺に渡しておけ」

 

 

突然手渡された宝石を凝視する深雪に一方通行は説明を付け足す。

 

 

「それは俺が吉祥寺に調査を頼んでいた品物の一種だ。名前は賢者の石、効力は俺の使った限り能力のベースアップ、魔法関連だと処理速度の向上と......後は忘れたが取り敢えずまだ研究段階だ。それと」

 

 

口ごもり自らの頬を軽く指先で掻き真っ白いまま語る。

 

 

「雫とほのかを頼む」

 

 

それだけ口にするとふらりと体の向きを変え彼らと反対方向に進んでいく。止めようとした真由美や雫が彼を追うが杖をついている一方通行に何故か追いつくことが出来ない。走っているのに追いつかない、それどころか逆に離れていっているようなそんな感覚に襲われる。

突如あの異空間への扉が一方通行の目の前に現れる。開かれたその先にはホログラム化されたアレイスターの姿が映っていた。

 

 

『お疲れ様、一方通行。君の後ろにいる学園都市の人間は既に帰しておいたよ』

 

 

一方通行が振り返って見ると集団の中には黒夜とシルバークロースは既にいなかった。恐らく空間転移などで移動させたのだろう。

 

 

『木原脳幹と君が交わした契約内容に変わりはない。規定事項のまま全てが進む。引き返せない道を進むことに後悔は無いかね?』

 

 

男にも女にも老人にも若者にも見えるその姿から発せられる。それに答える必要は一方通行にはない。

扉の奥へと進み最後に後ろを振り返る。一年近く共にいた初めての同級生や先輩と呼べる人間が沢山いる。学校生活を多少なりとも楽しめた一方通行は唇を歪め最後に一息ついた。

 

 

「まァ悪い人生では無かったなァ」

 

 

首元のチョーカーの電極に触れ残量をゼロにする指は微かに震えていた。

 

 

***

 

 

『灼熱のハロウィン』

魔法師が歩む道の新世代の始まりとも言われる歴史的用語、機械兵器よりも魔法師の有用性を示したこの出来事は後世まで語り継がれることとなる。しかしこの歴史的出来事の場に出会した人間はこう思う者は少なかった。

学園都市、彼等が魔法の世界へ台頭してきたからである。圧倒的な科学力と超能力という魔法とは異なる技術を用いて侵略を始めたこの一大勢力は留まることを知らなかった。さらに一般的には被害を受けた横浜の修復作業を一手に担い短期間の工務期間で作業を終了させた超優良企業グループとして認められていた。これにより外部からも内部からも手出しすることが出来ず自由気ままに学園都市が活動できるようになったのだ。

そしてその魔の手は日本だけではなく各国へと飛散する。

北アメリカ合衆国、太平洋を超えて学園都市が動き出す。

 

 

***

 

 

とある学生寮、上条当麻はミニサイズの魔神オティヌスと暴飲暴食シスター、インデックスと共に冬の定番である鍋をつついていた。熱々の白菜が口の中を襲うがそれでも美味である。

 

 

 

「だぁあああああああ!!インデックス!肉ばっかり食べるなって何度言ったらわかるんでしょーか!?」

 

 

彼の箸では肉片を掴むことが出来ない。曖昧な箸の使い方のインデックスに負けるのである。ミニサイズのオティヌスは盛り付けられた自分用の鍋を食べながらそんなふざけた光景を眺める。

 

 

「お肉が私の元へとやって来るんだよ、とうま!」

 

 

ワーワーと騒がしい中夜のバラエティ番組をやっていたテレビに突然ピロリンと鳴り出す。どうやら緊急ニュースが画面を流れるらしい。当麻もインデックスも一旦肉戦争を休戦しテレビに目を向ける。そこに上条当麻は新たな騒乱を予測する。

 

 

『番組の途中ですが失礼します。ただ今入りました情報によりますと先ほど学園都市第1位の能力者、通称一方通行の死亡が確認されました。死因は能力の暴走による脳出血とされています』

 

 

あるマンションの一室、何気なく見ていたテレビに映った一方通行の顔写真に番外個体と芳川桔梗はテレビ画面に食いつく。幸いなことに打ち止めは黄泉川愛穂と共に浴室にいた。

 

 

『学園都市統括理事会の説明によりますと能力測定に失敗し暴走した模様です。これにより学園都市の能力降順が変更される見込みとなりこれに対し学園都市側は一刻も早い能力測定が必要とのコメントを発表しています』

 

 

学舎の園にある高級そうな学生寮の一室、御坂美琴と白井黒子の2人もテレビ画面に夢中になっていた。

 

 

『学園都市が被る影響は非常に大きく急速な事態に未だに今後の予測がつきません。こちらには学園都市能力開発の専門家、木原唯一さんに来ていただきました。木原さん、学園都市は今後どのような対応を取っていくのでしょうか』

 

 

『そうですね、お預かりしている大切なお子様の命が関わるを危ぶむ保護者の方も多いと思いますが今回は配慮が足りなかったと思いますね。そのためこれからは能力開発には保護者の是非が必要ではないでしょうか。今回のケースは異常であるため具体例として上げることは出来ませんが、学園都市はもう少し透明性を持った説明をしていくことが求められると思います』

 

 

白衣を着た女性のテキパキとしたコメントがスタジオ内を緊張させる。

 

 

『ありがとうございます、続報が入り次第お伝えしていきます』

 

 

そこで緊急番組は終了し先程までやっていたバラエティ番組が再開される。

そのテレビを見ていたとある病院の患者、御坂妹と呼ばれる御坂美琴のクローン体は静かに息をするように一言口ずさむ。

 

 

「上位個体が暴れだしますね、とミサカは落ち着きのないこの街に少し嫌気がさします」




バーっと駆け抜けていった感じもありますが一応終わりということで
クソエンドにしかなってませんがすみません

*追記
完結というかパラサイト編の読み込みと禁書のキャラクター確認をしたいので完結ではなく一旦終わりという感じです


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4
30.5


プロット完成しました。
随時投稿していきます。


一方通行のいなくなった世界、北山雫にとってそれは初恋の人間がいなくなった世界に等しかった。騒乱の後に彼女とほのかはすぐに一方通行の住んでいた家に向かった。彼が消えた手がかりを探すために最も近い場所だと思ったからである。しかしたどり着いた土地には売り地と記された電子プレートが小さな家に掛けられてあった。

その場に崩れ泣き尽くす雫をほのかはただ眺めることしか出来なかった。気休めの慰めなど必要ない。それが親友として出来る最大限の配慮だった。

事実を確認し帰宅しようと足を路地の方へ向けた時、突然空き家から何かが崩れる音がした。その音に反応し雫は駆け足で玄関まで到達する。ガチャリと鍵は開いていた。土足で上がるのは流石に不味いので靴を脱ぎ一方通行の部屋のリビングに走っていく。一方通行が帰ってきているかもしれない、そんな微かな希望を胸に抱き目元の涙を拭いながら走る。リビングにたどり着いたが雫の求める光景は映っていなかった。

 

 

「ぐえ......流石の上条さんでも女の子2人の体重には耐え切れないので早くどいて欲しいのですが...」

 

 

「って、アンタ!どこ触ってんのよ!」

 

 

バリバリと青白い電撃がツンツン頭の高校生を襲うが右手をかざすだけでその電撃は消え去ってしまった。

その男は雫がやってきたことに気付くと初対面であるのにも関わらず軽い挨拶を始めた。

 

 

「あ、もしかしてここの住人さん?実は聞きたいことがあって」

 

 

彼の背中に同じ顔つきをした少女らがいるのにも関わらず話しかける男子高校生は素直にすごいと思う。

雫は話しかけられた男性の背中に乗っているある少女とは知り合いだった。

 

 

「ミサカ?」

 

 

そう呼ばれた御坂美琴ともう一人上条当麻の上に乗っていた人物、番外個体は素直な返事をした。

 

 

「あれーっ、雫じゃん。ヘイヘイヒーローさんよ、この子に聞けばあの真っ白バカの居場所が分かるかもしれないぜい、ってかここ一方通行の家じゃん。幻想殺しとはいえ運がいいねヒーローさん」

 

 

真っ白バカ、そう呼ばれたのは一方通行の事だろう。上条当麻は履いていた靴を脱ぎ、玄関のところまで自力でたどり着き空いていた下駄箱に自らの靴を入れる。

 

 

「うわっ、何この缶コーヒーの量。あいつコーヒー中毒なのは話には聞いていたけどここまで進行しているとは...貧乏学生のうちでは考えられない買い溜めです」

 

 

廊下のダンボールが積まれたのを確認する上条は空いていた箱からその場にいる人数分、5つの缶コーヒーを取り出しリビングへと持っていく。一方通行ならこのぐらい許してくれるだろうと思い空いていたテーブルに腰を下ろす。既に空き家状態のこの家だが学園都市からやって来た3人はそんなことを少しも知らないので出ていこうという気がしない。

 

 

「それでだ、俺の名前は上条当麻。訳あってこっちの世界に来たわけなんだが、まあよろしく頼む」

 

 

今では見ることの少ない学ランを来ている男性に珍しさを感じる。しかしその隣にいた中学生くらいの少女、御坂美琴の服装はこの世界のドレスコードに照らし合わせるとなんとも言えないようなものだった。短いスカートはあまり好まれない。

それとは別に顔はそっくりだが目付きや身長、服装が違う番外個体は少女間の紹介をし始める。

 

 

「この人の隣にいるのが私のおねーたまの御坂美琴、で向こうは左から北山雫、光井ほのか。じゃ早速話していきたいんだけど、雫?一方通行知らない?」

 

 

パパッと手早く紹介を済ませた彼女は本題に入る。学園都市から公式的に死亡扱いとなった第1位、一方通行の居場所。番外個体が知る限り彼はこの世界の魔法調査のために学園都市から派遣された部隊の一つに与しているようだった。

番外個体の質問に先程までの光景が頭に浮かび瞼が涙で満たされ始める。

 

 

「ありゃりゃ、これはマジでヤバイかもね。あの人は本当に死んだのかも知れないよ」

 

 

「もし死んだのなら学園都市は必死に隠すと思うんだけどな。第1位の死亡なんて外部から見たら大きい事件じゃないと思うが内部の統括理事会は力を誇示するために絶対に知らせないはず」

 

 

上条当麻のこれまでの経験則から一方通行の死亡はありえないと考えている。まして打ち止めを残して学園都市の仕事をしていたこと自体不思議に思う。

泣き止んだ雫は学園都市からやって来た3人に横浜で起きた事件を全て話した。

 

 

***

 

 

北アメリカ大陸合衆国、通称USNA、この国の中枢を構成する機関の代表ら一同はある会議室に集まっていた。日本における灼熱のハロウィンの終結が確認されてから数時間、アメリカでも問題視されるレベルの騒乱であり近代兵器や魔法に関する会議を早々に開こうとしていた矢先、ある団体が訪問してきた。

学園都市

横浜における大規模作戦を魔法なしで実行し近代兵器の歴史に真新しい点をいくつも残した組織。彼らはアメリカの重役らの前にいた。人間ではない、ゴールデンレトリバー。彼は典型的な太った役人と同様にふかふかの椅子に座り話を始める。

 

 

『さて、うちのトランスポーター、結構良かっただろ?ダラスやフロリダ、ワシントンにカリフォルニアそこからこのオーストラリアに飛んできたにも関わらず気分が優れないという訳では無い』

 

 

金属製のアームから葉巻が木原脳幹の口元に運ばれる。品質の良い葉巻なのか出てきた煙にも上品な香りが焼き付いている。この犬から吐き出された煙は宙を舞い上部の通気孔へと吸い込まれていく。灰皿に残った葉巻を置きゴールデンレトリバーは本題に入った。

 

 

『君達を呼んだのには理由があってね。別に楽にしてもらって構わない、そんなに固まっていると雰囲気に流されるぞ?』

 

 

木原脳幹は重役らにある資料を見せる。それは駆動鎧のモデルダウンしたバージョンの性能値と契約書が同封されていた。内容は今後のオーストラリア統治を学園都市に任せることとこの国を囲っているアメリカ海軍の撤退。

たったのこれだけだったがアメリカの高官はこれを認めるわけにはいかなかった。魔法という分野において現在アメリカは日本に多少の劣りを見せている。それを打破しようとするために様々な試行錯誤を行ったが差はみるみる開いていく。そこで姿を現したのが学園都市であり純粋な科学力で魔法師以上の戦力を持つ。これは日本にいる工作員からの情報もあるが最も彼らに印象付けたのは天使の力とアメリカが名付けた力。

中華軍の艦隊が一瞬で壊滅する大規模な爆発の少し前、日本魔法協会のビル前で起こったある戦い。勿論アメリカ独自で調べられる範囲は限られる。日本の十師族ですらこの力の発生過程や根源となるものの解明は進んでいないだろう。

しかし学園都市は違った。データを揃え自らが開発した力だとアメリカに提示してきたのである。

 

 

「それで我々がこの提案に賛同すればこの駆動鎧とやらとフレーラと呼ばれる人造兵器のレシピをくれるのかね?」

 

 

『悪いがフレーラは無理だ。なにせ開発費が君たちじゃ賄えないしプロトタイプにして完成形のモデルだ、それが破壊された今もう一度作ることは不可能に近い』

 

 

「我々を馬鹿にしているのか!?こんな低条件でお前達が支配する海域から出ろと?騒乱を招いているのは貴様らではないか!」

 

 

別のアメリカ側の人間が吐き叫ぶがゴールデンレトリバーは全く揺るがない。

怒号が終わり会議室に静かな時間がやってくると同時に脳幹の背後にワープホールが開かれる。そこから現れたスーツ姿の男が脳幹に耳打ちする。それを聞いた彼は察しある言葉を投げ出す。

 

 

『君達がもたついている間に議会は決定を下したらしい。大統領直々に合意したそうだ。無駄骨では無かったが時間稼ぎにもならなかったな』

 

 

椅子から降りて四足歩行で虚空に入るとスーツ男と入れ替わりになった。この男には名前も戸籍もない。実験の過程で作られ廃棄されずに生き延びてしまった遺児、意図的にそうした訳では無いが結果的に学園都市の手足として働いている。疑うことを知らず科学への関心も高いため脳幹ら木原一族は助手として彼らを雇っている。

準木原と言ったところだろうか。

男は何も告げず拳を固く握りしめる。その拳は能力によって青白い炎に包まれている。

ぼっと燃える腕に気づいた高官らは必死に抵抗策を考えた。しかしポケットに連絡手段となる情報端末もないし、窓を見つけだがこれはプロジェクタによって映し出された人工的な幻影にすぎなかった。扉も見当たらない。

悲鳴は外部へ漏れることなく下の階にあるフードショップでは平和なオーストラリアが描かれていた。

 

 

***

 

四葉家、その本邸を知る者は数少ない。

 

 

『初めまして、でいいのかな?四葉真夜』

 

 

彼女のパソコンに映し出されていたのは男にも女にも年少者にも老人にも見える手術服を纏ったある人間、アレイスター・クロウリー。どのようにアクセスしたのか不明だが彼女は気にしない。

この世界におけるアレイスターの立ち位置を知る者は少ない。第三次世界大戦は連合国対アレイスター個人という極めて単純な枠組みで行われた。それでも連合国は苦戦を強いられたは力の強さを感じさせる。魔法が確立される前に謎の異能の力で世界を支配しようとした。

 

 

『君達が殺したアレイスター・クロウリーはこんな姿だったかね?それとも魔術師らしい民族衣装のようなものを身に纏っていたか?まあいずれにしてもやることは変わらない。日本の十師族に宣戦布告でもしようか、そちらの次元の私の復讐とでも考えたまえ』

 

 

淡々と述べられる人工的に作られた音声は反響する。

 

 

『最後に一つ、魔法という技術は死に絶える』

 

 

プツンと葉山の手に持つノートパソコンの画面が真っ黒になり機能しなくなる。再び電源を付けようとした執事だが真夜はその動きを制止する。

窓から見える光景にいつもと変わりはない。アレイスター・クロウリー、四葉とも因縁の深いある異能使いが再び侵攻してくる。第三次大戦の時は個人というある孤立した戦力であったため未熟な魔法でも何とか対応できた。しかし今回は異なる。魔法が発達してきているのは間違いないがそれ以上に異なるアレイスターの持つ科学力が存在している。物量で攻めることの出来る機械兵器があれだけ発達すれば魔法師は苦戦を強いられるだろう。

そんな事態にも彼女は万全を期すためある作戦を葉山に命ずる。

 

 

「あの女と交渉を再開するわ、準備をしてちょうだい」

 

 

***

 

 

思いが連なり運命は絡みつく。意図しない出来事でも必然は有り得る。アレイスター・クロウリーは魔法の存在する次元への侵攻をプランに位置づけたり、アメリカの大統領は世界を支配するために学園都市との協力を決意したり、北山雫は失った大切な人に再び会うために謎の学生らと共に行動したり、四葉真夜は世界を相手にした異能使いと再戦するためにある人物に使いを出したり、白い人間が隔壁した世界で進化を遂げたり...

科学と魔術と魔法が交差する時物語は始まる。




更新速度は低下するかもしれません。
たくさんの感想ありがとうございます!!
ps.フェルグラストラクすんごい楽しみなんで2週間ぐらい次話ないかもです。


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31

まだ導入です。


アメリカ、自由の国として名高いこの国は如何なる敵国にも勇敢に戦う強い国である。大陸東西の海岸線には多大な軍力を設置し他の軍は近づくことすら出来ないと言われている。では空からならどうだろうか。航空権を持つのはアメリカの厳しい審査に受かった会社とその機体だけであり疑わしいと判断された場合には即刻航空権は剥奪される。

なら異空間からの侵入はどうだろう。

ワープホールをこの世界で駆使する学園都市はアメリカと非公式ながらも同盟関係にある。灼熱のハロウィンの後学園都市は有名になった。だが彼らと接触を果たそうとする国は多いにも関わらず学園都市は一切を無視し自分からアメリカに接触してきた。

ホテルのある一室、学園都市のエージェントである大能力者はシャワーを浴び終わりベッドに横になっている。そして呼び鈴が鳴りある人物と共に部屋の一室へ向かう。

アンジェリーナ・シリウス少佐、同胞を殺し終えて憂鬱な気分に浸されていた彼女の元にスターズのナンバー2であるベンジャミン・カノープスが訪れた。リモコンで扉の鍵を開けると彼ともう1人知らない人間がスッと立っていた。髪は真っ黒で肩には届かないくらい短く、服装もほぼ全身黒いが隙間隙間に見える肌は対照的に白く映える。東洋人に似た髪質であり眼球は深い漆黒で沈んだような暗さを表している。

 

 

「ベン、そちらは?」

 

 

疑問を隠せないシリウス少佐はハニー・ミルクを用意していたカノープス少佐に少年の所在を確かめる。

 

 

「取り敢えずこちらを。では紹介します、総隊長と共に日本への潜入捜査を致します学園都市の人間です」

 

 

そう言われた黒髪の少年はお辞儀をした後自分から自己紹介をする。

 

 

「学園都市大能力者No.2(セカンド)です。よろしくお願いします」

 

 

差し出された右手にシリウス少佐は応えると通行は個体を認証したのかすぐに手放し自らの端末を取り出して手に入れた情報を入力する。

差し出されたハニー・ミルクを口に含みながらシリウス少佐は謎の行動に少し悩まされる。目の前のカノープス少佐はそんな少女の態度に自ら行動していく。

 

 

「総隊長、彼は非常に優秀だと聞かされています。貴女と共に行動するに何不自由ありませんので。向こうでゆっくりと羽を伸ばしてきてください」

 

 

「はぁ...羽を伸ばすと言っても特別任務なので休暇ではないですよ」

 

 

呆れたように呟くシリウス少佐を前にセカンドは割り込むように詳しい紹介を始める。

 

 

「少佐、私の能力をご存知でしょうか」

 

 

「いえ、知らないわ。それにこれから潜入任務に入るので少佐ではなくリーナ、と呼んで下さい」

 

 

「分かりましたリーナ。私の能力はメインストレージに肉体変化(メタモルフォーゼ)サイドストレージに亜空転移を有しております。肉体変化とは」

 

 

そう言ったセカンドは実演するために能力を発動させる。体の繊維がギチギチと音を立てて肉体が変化していく。そして数秒も経つと服装も髪型も姿形まるっきりリーナと同じになっていた。突然自分と瓜二つの人間が目の前に現れ驚くリーナと能力の素晴らしさに困惑と疑念を抱くカノープスがいる。

 

 

「このように私に触れた人間の姿をコピーすることが出来ます」

 

 

このように話す声もリーナそっくりだった。

 

 

「そして対象人物の観察に3日程頂ければその人間に成りすますことも可能です。リーナへの変装の場合は既に情報を頂いているので、1日行動を共にさせていただければ全てをコピーすることができます」

 

 

「た、頼もしいわね。でも自分と話すのは奇妙だから今はやめてもらって欲しいわ」

 

 

分かりました、と言った直後彼の体は元々の漆黒へと戻っていった。そして2つ目のストレージに入っている能力を伝える。

 

 

「亜空転移は学園都市専用のトランスポーターを1日に2度だけ使用することが可能です。発動タイミングはいつでも構いません。ご要望があれば私にお伝えください。あと、日本へ行くのにこの能力を使いますので飛行機は全てキャンセルしておいて下さい。同時に訪日するサポート部隊の方々も一緒に来てもらいます」

 

 

早口ながらも全て伝えたセカンドは一息つく。彼自身この任務に関して思うところはない。何故なら記憶が無いためである。気が付いたら調査書を渡され変装できるよう命じられ、学習装置で知識を植え付けられそしてこの任務。しかし逆らうわけにもいかない。自分の正体を掴むためには現時点で学園都市の言うことを聞かなければならない。

すると突然リーナに声をかけられる。

 

 

「これから共に学校へ潜入するから敬語はなしにしてくれないかしら。私の方も貴方には友人のように振る舞うわ。それとその肉体変化?随分出来がいいのね、魔法ではないように思えるけどそれが学園都市流の魔法なの?」

 

 

「了解したリーナ、これは魔法ではない。学園都市は超能力を開発しているんだ」

 

 

超能力?と指を顎に当て疑問に思う彼女に静かに答えていく。

 

 

「一人一つ持つことが出来る特殊能力のことで魔法とは違い汎用性は限りなく薄い。だが以前日本に潜入していたとある人物は魔法と超能力を噛み合わせ能力自体を昇華させたらしい。学園都市の狙いはこの繋がりの詳細を調べることらしい」

 

 

「へぇー、超能力の事はBS魔法と呼ぶのが一般的だと思っていたけれど学園都市はよく分からないわね」

 

 

深く追求してこないリーナに少しの疲れが見えたのでセカンドは早めに退出することにした。

 

 

「では日本へ向かう日時は後ほど。情報端末に私のアドレスを打ち込んでおいて欲しい。連絡はこれで頼む」

 

 

そう言うとセカンドは扉から自室へ向かう。扉を占める際に深い黒の髪の毛は光が反射し白く映えた。

ガチャリと音を立てて鍵が閉まった自室を確認したリーナはカノープスに飲み物のお代わりを頼む。

 

 

「いや〜それにしてもあのセカンドと言う人間、とても奇妙でしたね。変装の達人かと思いきやトランスポーターも使えるなんて、学園都市の技術は遥かに進んでいるんですね」

 

 

最後のハニー・ミルクをカップに注ぎながらカノープスはセカンドと言う人間を判断する。

 

 

「ベンはどう思う?彼と背後にある学園都市について」

 

 

「実のところ学園都市の動きを予測できる人間は今のアメリカにはいません。オーストラリアが彼らに統治されて3日後にようやく本国が実態を把握したことや、灼熱のハロウィンに学園都市の駆動鎧とやらが侵攻制圧した事も誰も事前に知らなかったんです。言わば実態が不明な科学組織なのです。我々と同盟関係にあると言っていますけれど十分注意した方がいいかと」

 

 

カノープスの提言は断片的な情報を得られる軍人という立場ではなかなかの鋭いものだった。本部がどこにあるかも分からない謎の組織、信じるのには未だに足りない。

翌々日、出発の準備が出来た訪日チームは軍の空軍基地に集まっていた。第1弾は総数30人近くで通信車や様々な支援物資や軍用装置が積まれた軍用車が見られる。そこで待機の指示があってから10分後、12月ということで肌寒い季節の中虚空に一人の青年が突如として現れるセカンド。

リーナは彼の現れ方が以前会った時とは異なるように思えた。一昨日はホールのような空間に入っていったのだが今回は肉体だけがこの世界に現れる。複雑なシステムがあるのだろうと思っていた所にセカンドからアメリカのチームに指示が出される。

 

 

「これだけの大人数で移動は初めてだが問題は無い。車のエンジンをかけろ。すぐに出発する」

 

 

そう言った彼は滑走路近くにワープホールを形成させる。高さは約5m、幅も5m近くのサイズで中身を覗くと真っ黒な闇に包まれている。支援部隊の多くの人間は初めて見た光景に驚きを隠せない。リーナに関しては特段の驚きはないが改めて科学力の違いを思い知らされる。

準備が出来たのを確認したセカンドは自ら先頭に立ち誘導する。その隣にはリーナがいて詳しい話を伺う。

 

 

「すまないが私の能力ではないため精度が足りない。徒歩で1km程歩いてもらう」

 

 

真っ黒だった空間はセカンドが足を踏み込むのと同時に足場と上部に白い炎のような明かりが灯る。

隣で歩いているリーナは謎の空間に少し興奮しながらセカンドへ話しかける。

 

 

「そう言えばサイドストレージに亜空転移があるって言ってたわね。あなた自身の能力じゃないって言うのと何か関係があるの?」

 

 

「ああ、そもそも学園都市の能力は一人一つと言ったが私の場合肉体変化が生まれ持った能力で亜空転移の方は他人から借りている状態にある。使用時に脳波を元の持ち主に合わせることで使えるんだがやり過ぎると脳味噌が壊れるらしい。詳しくは知らないが担当者が言っていた」

 

 

「ふ〜ん、魔法と違って超能力も難しいのね。それで日本にいる時はどんな身分で行くの?私は第一魔法科高校に留学という形で潜入する予定だけど貴方の事は心配いらないの?」

 

 

「姿形を自由自在に変えられるこの肉体があるからな。学園都市の指示通りに動くことにする。リーナは気にしなくていい、勿論君達の作戦のサポートはするが私の目的は学園都市の指示通りに動くことにある」

 

 

目を一切リーナに向けないで進むセカンドは無駄話をしている内に指定された場所にたどり着く。そして右手を突き出し縦に裂くような手振りをすると明るい光が入ってきた。薄暗く証明は小さな白い炎しか無かったこの空間から見るととてつもなく眩しく思える。初めに出ていったセカンドは周囲の安全を確認し亜空間にいるチームメンバーに許可を出す。

 

 

「ここは操業中の食品工場だ。我々は彼らと同じ従業員に見えている。だがその効果も長くは続かないので早々にこの建物から出て作戦拠点への移動をするように。これ以上移動の手助けは出来ない」

 

 

そう言うセカンドは端末を手に取りある人物へ連絡を取る。その間にサポートスタッフは軍に指示された通りの場所へ向かうこととなった。慌ただしく動く中セカンドはリーナを呼び止める。

 

 

「君とシルヴィアはマンションへ向かうのだろう?」

 

 

「ええ、持ってきた荷物の整理や通信状況を確認しなくてはならないわ。もしかして貴方も同じ部屋に住むの?」

 

 

予想が的中してしまった。セカンドの顔は全く動かないが世間から見れば10代後半の男女が共同生活を送るのは些か問題視させる。しかし今回の作戦上セカンドの肉体変化は学校での彼女の立場を危なっかしいものにしなくて済む重要な能力であり、即座に対応するためには一緒に暮らした方がいいという軍と学園都市の決定だった。それがリーナには届いておらずシルヴィアは知っていた。

 

 

「まあ作戦が終わるまでだ、何も問題はないだろう。シルヴィア、よろしく頼む」

 

 

リーナの傍にいたシルヴィアはセカンドの握手に応じ挨拶する。これで彼は彼女にまで肉体変化出来ることになった。

 

 

「では新居に向かおうか」

 

 

本日2度目の亜空転移によって彼ら3人は日本政府、十師族両方に気づかれることなく日本に潜入し作戦が始動した。専門家のサポートチームは四葉の謎の力により発見されるのはこの二日後である。




オリキャラ2人目、フレーラに続いてですが学園都市側の人間ですね。文中で彼の特徴の通り誰だかわかると思いますが多分その人じゃないです。
USNAをアメリカと表記しています。英字使うの面倒なだけなんでUSNAがいいという方がいれば直します。
一方通行が消えた世界でこのタイトルというのも悪くないと思いますので許してください。


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32

遅くなりました
話し進まないです
導入部分が書き終わらないです


彼らリーナとセカンドの初めての共同作戦は初詣に行くことだった。マンションを出る前セカンドは学習装置でサイドストレージの亜空転移を書き換えある能力に変更する。学習装置による脳への影響は考えられていない。書き込み制限があるかもしれないし脳の処理能力を超えてしまい廃人となるかもしれない。これは学習装置の実験の一環でもあった。

二人で部屋を出ると黒髪のセカンドは肉体変化を使う。着ていた服は白い薄手のコートになり白いパンツ、色が一切抜けたような白髪にそれに準ずるようなアルビノ並の白い肌、そして両眼はウサギのように赤い点が2つ並ぶ。

 

 

「で、初詣で対象の人物に姿を見せに行くのか」

 

 

凍える体から吐き出る白い息で指先を温めながらリーナに話しかける。彼女の奇抜なファッションに少し嫌な予感がしたが出発しようとすると呼び止められる。

 

 

「セカンド、顔も変えて全身真っ白で目立つじゃない。それともう少しファッションを勉強した方がいいわ。まだ出発まで時間はあるから着替えてきなさい」

 

 

どの口がいうか、と心の中で呟いた彼だったが口喧嘩をしても仕方が無いので自室に戻って着替えることにした。肉体変化で変化させた服は擬似的なもので彼の体から離れると元の服に戻ってしまう。白いタイトなコートが彼の体から離れクローゼットに仕舞ってあるロングコートを手に取る。彼のコピー元、一方通行の印象を崩すわけにはいかず全身白になったがリーナは許してくれた。

二人で歩くうちに彼の現在の肉体のモデルの話になった。

 

 

「貴方の今の姿結構奇妙だけど目立たないかしら。必要以上に目立っても問題なのよね」

 

 

「それは安心してもらって構わない。この姿は元々学園都市がこの日本に送り込んだ工作員の姿で約1年この街に住んでいたらしい。だからもしこの姿の知り合いとあった時は君は友人という扱いになるし話し方も変わると思う」

 

 

一方通行はこの世界の任務を終了させ学園都市に戻った。そう学習装置から知識を得ている。彼が現在どこで何をしていようが大能力者のセカンドには関係の無いことである。

2人はコミューターに乗りある神社へと向かうことにする。その最中にセカンドの端末が小さく震える。開いてみるとそこには書き換えた能力の使用法が書かれてあった。能力提供者が暗部の人間だったため対能力者用の使用感も記載されてある。

 

 

心理定規(メジャーハート)?何だか学園都市の超能力って読みにくい字が多いわね。どんな能力なの?」

 

 

テキストが半透明の端末から透けていたのか読まれてしまっていた。それに言われて気づいたセカンドはすぐにポケットに端末を隠したが既に遅い模様だった。

 

 

「心理定規、これは自分も使ったことがないから。まあ実験としてリーナに使ってみるか」

 

 

彼はそう言うと自らの頭に指を当て能力を発現する。現在彼女と彼の心理的距離は90、取扱説明書には好意があればあるほど0に近づくらしい。基本は100から始まり100を超えた辺りから嫌悪感や不快感を持つらしい。という訳でいきなり50にまで上げてみることにした。実践データでは恋人同士だった滝壷-浜面で20であったので友人同士位になるだろうと思っていた。するとすぐに効果は現れる。

 

 

「なにこれ?え...少し気持ち悪いわ、魔法ではないみたいだけど止めてもらっていい?」

 

 

そう言われたセカンドは能力を停止させる。

 

 

「ふっ...悪いな、お詫びと言ってはなんだが何か奢ってやろう」

 

 

能力の詳しい説明をしないでセカンドはコミューターを降りる。既に神社のすぐ手前まで来ていた。見たところ参拝客が多く人混みができている。

 

 

「日本の新年は家でゆっくり過ごすって聞いていたけれどなんだが活動的なのね」

 

 

参道の両側に並ぶ露店に目移りしながらリーナは日本の新年行事に興味を抱く。それに対してセカンドは既存の知識に沿って露店からりんご飴を2つ買いすぐにリーナの元へ戻ってきた。

 

 

「新年になるとお参りに行く習慣がある。まあ一年の抱負とかケジメの意味合いが強いな。それでこれがりんご飴、サイズの大きいキャンデーだと思ってくれればいい」

 

 

ありがと、とその飴を一口舐めたリーナは思った以上の甘さに驚きながらも寒いこの時期になかなか合うと思い舌を触れさせる。

 

 

「こんな所でいいか、任務開始と言った感じで君の仕事を始めよう。だが人が多いな、では」

 

 

セカンドはりんご飴を持っていない左手をリーナに差し出し格好つけたようにキザっぽく笑みを浮かべながら誘う。

 

 

「離れると悪いから私が手を握ろう。アメリカ人っぽくていいんじゃないか?」

 

 

「洒落てるじゃない、セカンド。初めて見た時は任務のための軍人って感じだったけど肉体変化すると性格まで変わるのね」

 

 

リーナはセカンドの左手を取り彼女の補佐と自らの体を相手に見せようと人混みに向かった。

 

 

***

 

 

「達也くん、異人さんのカップルが君を見ているようだけど。写真でも撮ってきてもらえば?」

 

 

チラついた視線に気づいていた達也に八雲が話しかける。彼が気づいているのであれば隣にいる遥も気づいているだろう。しかし彼女の視線は金髪の美少女にあったのではない。隣に並んでいる全身を白で覆ったある人物。

一方通行

 

 

「あれは、一方通行か?」

 

 

達也の視線も美少女から移り思わず口に出してしまった。横浜での一件の直後、彼の捜索を雫に頼まれたのだが一向に見つからなかった。それどころか一方通行が生活していた痕跡を丸々消すようなある団体が動いていた。個人で調べるにも限界があった。

小さい声に気づいた深雪は何も言わずに彼の視線の先に目を向ける。紛れもない白髪、コートの質は変わっているが似たようなブランドであるのには間違いない。それと同時にハロウィンの事件がフラッシュバックして来る。達也のリミッターを外している本気の深雪でも足止めにしかならなかったフレーラ、そして彼よりも一枚上手であり恐ろしい力を持つ一方通行。彼女に賢者の石を託し自らはどこかへ消え去ったあの様子は何かあるに間違いない。

彼の方を見ていた達也と深雪は次の光景に驚く。彼らの視線の先から紙飛行機が飛んできたのだ。標準的なサイズの紙飛行機は人々の上空を飛行しゆったりと達也の手元に届く。ポスリと軽い音を立てて掌に乗った紙飛行機に気付いていたのは後ろ側にいた達也深雪八雲遥の4人だった。前に進んでいた3人は気付かずに進んでいっている。それに離れないようにかつ紙飛行機のことを知らせないように着いていきながら解体してみる。

中に書いてあったのは意味不明な記号が羅列したものだった。

 

 

「達也くん、これは呪符か何かかい?」

 

 

「分かりません。ですが科学力の優れた学園都市の代物なので必ず何かはあります」

 

 

紙飛行機を飛ばした持ち主は既に遠くに見える。反対方向へ進む白髪の青年は見えなくなり手元には紙だけが残った。

りんご飴を未だに舐めていたセカンドらは神社の出入口付近まで到着した。リーナは帰るためのコミューターでセカンドに突っかかる。

 

 

「どうして紙飛行機なんか飛ばすの!?あれじゃすぐに気付かれちゃうじゃない!」

 

 

「安心しろリーナ、君の任務は完璧だった。間違いない。あの飛行機は一方通行としての役目として必要なことだ。学園都市の任務と思ってくれて構わない。それに君にもあの飛行機の有用性は十分にある」

 

 

肉体変化の能力を解き通常の黒髪で真っ黒な瞳に戻ったセカンドは端末を広げ学園都市の指示通りパスを入力しある画面を映し出す。そこには先程までいた神社の光景に監視対象の司波兄弟やその他様々なこの街の景色が映っていた。

 

 

滞空回線(アンダーライン)。さっき飛ばした紙飛行機は最後の散布になる。70nmのシリコンの塊がそろそろ街中に拡散する頃だろう」

 

 

何を言われているのかわからないリーナは怒りよりも疑問が感情を支配しセカンドに問う。彼はコミューターの終点が近い事もありマンションに着いてから説明しようとする。

ガチャリと扉を開けたリーナにシルヴィアが迎えの挨拶をする。

 

 

「お帰りなさいリーナにセカンド」

 

 

在日中のリーナを補佐するために軍が用意した人材の彼女はリーナの服装をまじまじと見ている。玄関から上がれない彼女は不思議そうにしていると隣で口に手を当てながらセカンドが彼女に呟く。

 

 

「今まで言わなかったけど、オマエの服装変だぜ」

 

 

遂に堪えられなくなったのか口から空気を洩らしながらシルヴィアの傍を通って自室へ篭ろうとした。しかしシルヴィアの左手は彼の肩に置かれ説教を始める。

 

 

「貴方達は一体何なんですか。リーナに関しては時代遅れのファッションですしセカンドに至っては全身白というふざけた服装。この格好ではターゲット以外からも注目を集めてしまったでしょう」

 

 

「いや、俺はこっちで」

 

 

そう言うセカンドは肉体変化で一方通行の姿に変化すると益々酷さに磨きがかかった姿にシルヴィアは額に手を当て大きなため息をつく。

 

 

「リーナ、本日の予定はすべてキャンセルしましょう。私が日本における最近のファッションの動向を詳しく説明しましょう。セカンドも学園都市の任務を今日はキャンセルして下さい。リーナと一緒に出歩く機会が多い貴方まで変な格好をしていたら目立って仕方ありません」

 

 

この言葉に逆らえず午後はシルヴィアの日本のファッション教室で時間を埋め尽くされた。

この指導が終わったのは夕時の6時頃だった。クタクタに疲れたセカンドとリーナは早めの夕食を摂ることにした。その場にはシルヴィアもいたのだが彼女はもう少ししてから食べるらしい。機械に作らせ待っている間セカンドは思いついたようにリーナに話しかける。

 

 

「そうだ、帰りのコミューターで滞空回線のこと言いかけていたな。シルヴィアにも言っておかなくちゃならないし今話すか」

 

 

そう言ってリビングにある大きなモニターに彼の端末情報を映し出す。そこに映っていたのは彼女らが予想にもしない光景だった。町中を行き交う人々に店で買い物をしているカップルや個人宅でゆっくりしている男性、それにトイレに籠る女性や着替えをしている集団などプライバシーを尽く無視したカメラ群から送られてくる映像がある。勿論こんな場所にカメラを仕掛けることは不可能でありバレたら責任を間逃れることは出来ない。だが70nmを肉眼で確認できる人間はいないしたとえ魔法かなにかで捕まえたとしても、妨害が入った時点で暗号化された情報は学園都市以外の組織は解明することは出来ない。

完璧な監視体制。

 

 

「まあこんな感じで常時24時間365日稼働する監視カメラ的な物を散布させたから。君達の任務にも応用できるから必要な時に言ってくれ」

 

 

紙飛行機を飛ばされた司波兄妹はこの事に気づくことは無かった。




大変遅くなって申し訳ありません。
言い訳をさせて下さい。1つ、巨神竜デッキの発売があった。色んな型で遊んで回してた。2つ、店舗代表の調整をしていた。
遊戯王関連で少し遅くなると思いますが引き続き見ていただければ幸いです。

ps.フェルグラントスリーブを買い占めた人は出て来なさい。先生怒らないから。先生6つしか買えなかった。


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33

投稿再開します


「衣服のコピーは人間の体に比べてやはり少し難しいな。現状これ以上レベルを上げることは不可能らしいし制服を着ていくか?いや、コピーできる以上勝手がいいのは当然だし...いや...」

 

 

自室のクローゼットを独り言を言いながら漁っているセカンドは本日魔法科高校に転入する手はずになっている。名目は一方通行の代理ということでの移籍となるのでリーナと同じAクラスにつくことになる。

朝食を終えた彼女は既に準備を終えているらしい。当のセカンドは結局制服を着用することに決めた。能力を知らない間に見られるのは困るし面倒だ。

 

 

「ではいってらっしゃい、リーナ、セカンド。くれぐれも問題は起こさないで下さいね。それとセカンド、リーナのことを頼みますよ」

 

 

玄関でシルヴィアの挨拶を受け2人はドアを開ける。

まずは一高の職員室に向かうわけだがリーナは自分と異なる手荷物を手にしたセカンドに気づいた。鞄ではなくアタッシュケースと手錠で繋ぎ合わされたセカンドの左手は何か不気味なものを感じさせる。

コミューターに乗り込み彼らはこれから過ごす学校へ向かうこととなった。

Aクラスの担任へ挨拶が終わり朝のホームルームで自己紹介をするとのことで職員室へ待機する2人に会話はない。少し馴染みがある程度の関係に留めて置かなければ周囲に怪しまれるためである。

数分経つと担任がやって来て一緒に教室へ行くこととなった。他の教室は廊下から中が見えないようになっていて覗くことは出来ない。あちこち目を配らせるリーナと対極でセカンドは担任の背中しか見ていない。

 

 

「ではここで待っていて下さい。呼んだら入って来てください」

 

 

教室内は雫の代わりやって来る留学生を待ち遠しく思う雰囲気が漂っていた。ガラリと開いた扉から担任が入ってきてその雰囲気が崩れたのは言うまでもない。しかしその口から留学生の紹介が始まると高揚する。

 

 

「では留学生のアンジェリーナ・クドウ・シールズさん、入って来てください」

 

 

現れた美少女に男子一同興奮を隠しきれなかった。美しい金色の髪にスラッとしたスタイル、蒼い瞳は日本人と離れて素晴らしい美しさをより際立たせる。

 

 

「ご紹介に預かりましたアンジェリーナ・クドウ・シールズです。三ヶ月の間みなさんと仲良く出来たら嬉しく思います。気安くリーナ、と呼んで下さい」

 

 

大きな拍手が彼女を向かい入れ雫が元いた席に案内され座る。これで終わりだと思った大半の生徒が次の授業の準備をしようとした瞬間、担任はもう1人の転入生を紹介した。

 

 

「もう1人紹介しなければなりません。入って来てください」

 

 

深い黒の髪の毛に瞳、対する一科の制服は白いため黒さが周囲よりもより目立つ。左手につけた手錠付きのアタッシュケースにも興味をそそられるが、バランスの整った顔立ちに白い肌の人間味の薄い感じに不思議なオーラを感じさせる。

 

 

「一方通行の代理としてこの学校に通わせて頂くこととなったセカンド、という者です。彼も学園都市の人間なのは周知の事実だと思うのですが私もそちら側の人間です。期間はどれ程になるかわかりませんが仲良くしていただけると幸いです」

 

 

紹介を終えたセカンドは一方通行の元いた席である最前列の席にゆっくりと歩いていく。そこに座るのを担任が確認すると彼らの世話を司波深雪に頼みホームルームを終えた。

 

 

***

 

 

昼食時、午前の授業は全て座学で実習がなかったせいか昼休みはリーナとセカンドを取り囲む2つの塊が出来ていた。リーナら深雪のいるグループは早速食堂に行くようで、セカンドは囲まれたA組の男女から飛んでくる質問に淡々と答えていた。その中で彼が最も親しくなったのが森崎駿という男子生徒だった。彼は一方通行とも周りよりは仲が良かったのでセカンドの不思議な感じにもすぐに慣れ校舎を案内してくれるという。

集団を解散させ森崎とセカンドは廊下を下り校舎の外に出た。寒いこの季節にも関わらずベンチで昼食を食べる男女や部活の自主錬に勤しむ集団が見られる。そんな光景を珍しく見ていると森崎から声がかかる。

 

 

「一方通行は元気なのか?」

 

 

「詳しくは知らないな。何せその代理だし前任が務まらなくなったから来ただけだからね。それよりも食堂に行かないか?そろそろ混み時も過ぎた頃だし丁度いいんじゃないか」

 

 

外の寒さに耐えられなくなったセカンドは腕を組み寒さを和らげさせ食堂へと足を向ける。

メニューは随分と多いように感じた。一般的な学食という物を知らないせいか見るもの全てが新鮮に感じられる。金髪美少女のリーナとは違い黒髪で日本人風の彼が食堂へ来たところでそれほど騒がれない、と思ったのだが大きな間違いだった。あれよあれよとあちこちで話し声が大きくなる。それもそのはずだろう。左手にアタッシュケースを握っている生徒など一高には彼しかいないし、気づいていないようだが顔面の肉体変化のモデルが結構なイケメンだったのでそれも理由になる。

注文した定食セットを運んであるテーブルに2人は着席する。昼休みも終わり時に近いため今から食事をする人より食器を片付け始める人の方が多かった。そのため食べ始めるにはなかなか居心地のいい時間帯でセカンドは気に入った。

 

 

「左手使えるのか?」

 

 

アタッシュケースに繋がれた左手は下げられたままの状態を心配した森崎は尋ねるがセカンドは何不自由なく問題ないという。胸ポケットからボールペンのような棒状の物を取り出し彼は味噌汁にそれを向けた。すると一口大に切り取られた水球が浮かび上がり彼の口の中に飛び込む。それと同時に何かの薬なのだろうか、錠剤を数個口に含める。

 

 

「これがあるからね。念動力(サイコキネシス)の応用に近い。詳しくは説明しないけどある程度のものなら動かすことが出来る代物だと思ってくれればいいよ」

 

 

そう言って浮いた一口サイズの食物を食べる姿はそれはそれで奇妙だった。だがそれ程大事な物がアタッシュケースに入っているのだろうと思った森崎はそれ以上追求することはなく当たり障りのない話題で昼を終わらせた。

彼らが学校に通うになってから数日、セカンドは学園都市から緊急の任務を与えられた。緊急と言っても自体はそれ程大事ではないらしい。出来ることならやって欲しいと言うぐらいだろう。それを受けたセカンドはリーナよりも少し遅く学校へ向かうことにした。準備が大切なのである。

その日の実習、一高の美少女同士の魔法対決をしていた頃セカンド1人実習室の見学室に向かっていた。担当の教師がいない個人での実習だったため何も文句は言われない。

リーナの負けが決まると見学室にいた自由登校の3年達はドッと深い息を吐いた。深雪に近い魔法力を持つ生徒が少ないためその珍しさと、アメリカの留学生の実力も測れた事に満足した半数の見学生徒は教室を後にする。その行為とは逆にセカンドはその部屋に入っていきある人物に接触する。

 

 

「隣、空いてますか?」

 

 

摩利と深雪について話していた真由美はいきなり話しかけられたが、営業スマイルのような態度で丁寧に了承した。話しかけてきたのは今現在話題沸騰中の転入生のセカンドという人間だった。

 

 

「司波深雪さんを筆頭に優れた魔法師が多い学校なのですね」

 

 

気付かなかったが左手には何やら荷物を持ってるのも確認できる。

真由美よりも先にセカンドに応えたのは摩利の方だった。

 

 

「君も実習の時間じゃないのか?転入早々サボりとはいい度胸だな」

 

 

「サボりと言うか貴方に用事があった理由で時間をとってくれるのなら普通に授業に出てますよ。それより七草さん」

 

 

呼ばれた真由美は不意を付かれたように若干慌てるがセカンドの方を振り向くと態勢を立て直す。

彼の口から二人が思いもしなかった事が発言される。

 

 

「あまり人様の領域(フィールド)に手を出さないで頂きたい。十師族としても学園都市と事を構えるのは避けたいでしょう?」

 

 

ゾッとした。威圧感では無い。一方通行が入学して生徒会室で荷物を受け取り以降何も話さなかったような、それに似ている。圧迫して恐怖心を植え付けるのではなく、あくまでも対等に。

 

 

「まぁこれ以上荒らされる様であればこちらも正式に対応します。今は互いにスルーし合うのが最良かと思いますよ。それにただでとは言いません。相応の対価を出しますよ」

 

 

「わ、分かったわ。父にそう伝えておくわ」

 

 

今の七草家は学園都市と対峙する程の力はない。と言うより学園都市の戦力の規模がどのくらいか判断がついていない。そのための調査をやっていた訳だがどうやら泳がされていたようだ。

深く考え込む真由美にセカンドは対価を早速渡す。

 

 

「では取り敢えず渡しておきます」

 

 

そう言ってフロッピーディスクのような薄い記憶媒体を彼女に手渡す。

 

 

「貴方達に重要かどうかは分かりませんが貴方の好きなものではあるでしょうね」

 

 

真由美が中身を尋ねる。すると彼は椅子から立ち上がり下の実習室へ向かう足を止め中身を教える。中身を他人に聞いてしまえばワクワク感がなくなると思っていた彼だったが、どうやらそのような問題ではないらしい。

 

 

「中身は学園都市で生活していた一方通行に関する情報の一部です」

 

 

では、とセカンドが空いている右手を差し出す。握手を求めていることが真由美にも分かり、それに応答し軽くタッチするような握手をする。隣にいた摩利にも同じように握手をし彼は見学室から退場していった。

 

 

「ああ、そうだ、そう上手くいった。七草真由美、渡辺摩利この2人の肉体変化は調整すれば今夜にも変身することは可能だが危ない。やるなら明日以降にしろ」

 

 

セカンドの電話の相手はこの世界の学園都市の動きの総指揮を執る上層部の一人。その人物はセカンドの担当であった。この担当というのはこの世界に渡ってきた能力者一人一人に付いて作戦を与えたりサポートをしたりする役目を持つ。

 

 

『三矢に監視させておいた甲斐があったな。次は司波兄弟とその周りにいる人間に接触しろ。出来れば肉体変化のサンプルにしておけ』

 

 

「あいあい、でだ、今亜空転移の奴はまだ窓の無いビルに籠ってるのか?」

 

 

亜空転移、学園都市がこの世界で生きていく上で最も大切な能力者だが些か性格に問題がある。

 

 

『心配しなくていい。それよりも司波兄弟には十分な注意を払え。能力がバレることは最悪仕方ないとしても我々の目的は悟られてはならない。自己暗示をかけても限度がある。餌をちらつかせても構わない』

 

 

セカンドは通話終了ボタンを右手で押し実習室の扉を開ける。授業はそろそろ終わる時間になり本日の第2戦場となる昼休みが幕を開けようとしていた。




追記:すべての話の見直しをしています。
更新はもうしばらく遅れると思います。すみません


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34

大変遅くなりました。
すみません


昼時、リーナと隣に並ぶある男子生徒の姿を2科生のエリカ達は目に映った。深雪やほのかも同席しているため1科の生徒だろうと推測し昼食を持って彼らのテーブルに近づく。するとリーナが男性を指し紹介してくれた。

男の名はセカンドと言い学園都市の留学生みたいなものらしい。

 

 

「よろしく、名前は...エリカに幹比古にレオ、達也、柴田でいいのかな?」

 

 

握手を求められた彼らは素直に応じてその後座り始めるが達也は疑問に思っていた。

 

 

「どうして俺達の名前を知っているんだ?」

 

 

「どうしてってそりゃ引継書に報告されてたから。そこには北山雫っていう名前も載ってるけど今はリーナと入れ替えで留学してるらしいね」

 

 

達也の質問に答えたセカンドは何も不思議には感じてないがどうやら相手方はそうではないらしい。一方通行という監督者がいなくなった理由も知らされてないしあまりに急な出来事のため状況を判断することは難しい。

魔法の杖でパクパク食事をしている姿は奇妙だが彼自身握手ができて満足であるため以降はリーナに進行を任せた。

 

 

「ところでリーナ、君はこの学校に来て何か面白いことでも見つけたかい?」

 

 

「そうね、ステイツでは負け知らずだったけどミユキには勝ち越せないし流石は魔法技術大国日本ね。興味が湧いてくるわ」

 

 

そうか、と尋ねたセカンドはそのまま食事を続けるが達也は引継書という単語に注目していた。

 

 

「セカンドは引継書において一方通行のことを何か知らないか?そして学園都市は一体どういった組織なんだ?」

 

 

「先日同じ事を聞いてきた青年がいたな、彼にも言ったことを繰り返すが直接会ったわけじゃないし詳しくは知らない。学園都市についてはそうだな...」

 

 

テーブルに置かれたボトルを軽く回しながら思案するセカンドに周りの興味は注がれる。この世界の住民からすれば学園都市という突然現れた科学力の優れた集団は異質も異質、情報を集める集団にとって今は学園都市の話題で盛っている。千葉や吉田と言った旧家の組織でさえ学園都市を無視出来なくなっている。

ストローから中身を吸い終えたセカンドが発した言葉は驚くべきものだった。

 

 

「模擬戦で勝ったら教えようかな。どう達也?」

 

 

ニッコリとした笑顔を見せるセカンドは冗談冗談と言う。

テーブルに飲み干したカップを置きトレーごと片付けようと立ち上がった彼にレオはちらりと見えた左腕に繋がれたケースに疑問を覚える。

 

 

「なぁ、そのアタッシュケースは何が入ってるんだ?」

 

 

「これ?君達にも見覚えがあるはずなんだけどな」

 

 

レオはその言葉を頼りに記憶を探すが覚えがなかった。

 

 

「正解は組立式CADの完成版。去年の九校戦に一方通行が使用したのはあくまで試作モデル、でその研究成果を利用して造られたのがこのCADってわけ」

 

 

その場にいた達也はこれに興味を抱く。技術者としてあれほど素晴らしい技術を完成形として世の中に出した頭脳が計り知れない。

あの時のことを思い出したのか幹比古は純粋な気持ちでセカンドにあることを尋ねた。

 

 

「でもCADなら学校に預けておかなけゃいけないんじゃないの?」

 

 

「詳しい説明するの面倒臭いから省くけど近々このCADは一般販売するんだ。そのためのモデリングとして自分が役割を担ってるから特別に許可が下りてるらしい。多分ね」

 

 

夏の一方通行がスピードシューティングで見せた複数のCADを組み合わせ高性能なCADへと変貌させた仕組みを利用した最新作のCAD。それが近日発売されるなど誰も知らない。

時間が差し迫ったのかセカンドは急ぐようにして食堂を出ていった。その機会を見計らったかのようにリーナに美雪はある質問を投げかける。

 

 

「セカンドと貴女は知り合いなの?」

 

 

「そ、そうね、同じ時期の留学生として何度か同じ説明会を受けたし顔見知りではあるわ」

 

 

機転の良さはピカイチなのか上手く理由をつけて誤魔化す。そんなことを気にしないレオはやはりさっきの彼の言動に心を惹かれていた。

 

 

「それにしてもよ、やっぱり学園都市って奇妙な組織だよな。一方通行の時もそうだったけどいい奴らなのか悪い奴らなのかわかんねえ。だってオーストラリアを占拠したのは認めてるんだよな、なのになんで他の国は何も言わねえのかな」

 

 

「オーストラリア政府も公式に条約を結んだって言ってるしその辺はなにか特別な事情があったんじゃないかな」

 

 

幹比古の公式的な見解はレオにも十分にわかっていた。しかし一般人からして見れば学園都市の飛躍は明らかにおかしい。突然現れたのにも関わらず幾多もの国や地域と次々と交易を結び、高い技術力で新たなCADまで販売を始めようとしている。

事前に来ることを察していたかのようにスムーズな対応。

ここから先の予想は完全に個人的なものとなるのでレオは慎み昼食会は解散となった。

 

 

***

 

 

その日の帰り、セカンドは奇遇なことにある人物と街中で出会った。

 

 

「なんで貴方がここにいるんですかね、亜空転移さん。最近仕事で忙しいって言ってたじゃないですか」

 

 

そう?と首をかしげる身長の足りない女性の煌めく銀髪が宙に舞う。155cm程の低い身長にこの髪の量は明らかに周囲より目立つ。地面に付くのではないかと言うぐらいの銀の束は粒子を纏っているのか丁寧な鮮やかさだった。

 

 

「亜空転移でもいいけど私にはちゃんとした須藤華恋って言う名前があるんだけれど。まあいいわ、私貴方に一つお願いがあってきたの」

 

 

セカンドの隣に並ぶと身長差が随分とはっきりとなる。

 

 

「リーナを私に紹介してくれないかしら。すっごい可愛いのね、綺麗な金髪にナイスなツインテール、自重したかのように制服では自ら目立とうとしないあの胸、ヘッヘッヘッ......」

 

 

変態性が顕になったところでセカンドは取り敢えず近場の喫茶店に移動しようと提案した。口から涎を垂れ流しそうな彼女を強引に連れ込みコーヒーを飲ませ安定させる。

須藤華恋、通称亜空転移は純なレズビアンでありかつ学園都市とこの世界の輸送関係の仕事を一手に担う転移系能力者である。異空間と異空間を繋ぐ能力は学園都市において彼女一人しか存在しておらず、大量の物資を輸送する際必ず彼女の能力が必要となってくる。少量の輸送なら学園都市の開発したトランスポーターがあるのだが基本的に使うことは無い。何故なら彼女の能力の方が遥かに便利であり緊急時にしか使う機会が無いからである。

ブラックを飲まされた彼女は気分が安らいだのか追加注文したショートケーキをゆっくりと食べていた。

セカンドはと言うと最初に頼んだ華恋と同じコーヒーをちょっとずつ飲んでいる。空になりそうなカップを覗き華恋に先程の誘いの返事をする。

 

 

「紹介って言ったってどうすればいいんですか。そもそも貴女、単独行動禁止のはずじゃないですか?一方通行がいた頃の貴女はしっかり規則に則って行動してたじゃないですか。自分が担当し始めてから問題ばっかり起こすと怒られるの俺なんですよ?」

 

 

「んあ?待って待って、この苺食べてからにしてよ。そもそも私、そんなに問題起こしてないよ?担当からも何も言われないし」

 

 

周りのクリームを綺麗に除き最後の苺を口に運び体をクネクネする姿はある種の人間からして見れば可愛らしく映るのかもしれない。しかし彼の目にはレズビアンで空間系能力で変人気質の持ち主としか思えない。

腹を括ったのかセカンドはコーヒーを飲み干し華恋に提言する。

 

 

「わかりました、紹介しましょう。ですが代わりに貴女はこれから学園都市の進行通りに動くと約束してください。貴女の後始末は私達下部組織がやっているんでその手間を省かせて下さいよ」

 

 

セカンドら学園都市の連中でさえ今のこの世界における須藤華恋には頭が上がらない。物資輸送という大動脈を断ち切られればすぐさま学園都市は存続が難しくなる。協力機関がこの世界では数少ないため今の彼女は事実上アレイスターよりも権力が上にある。

そんな様子を微塵も感じさせない小さな美少女は銀髪に似合わない茶色な瞳をパチパチさせこう言う。

 

 

「しっかたないなー、この天才美少女須藤華恋さんが本気を出してあげよう。バンバン運んじゃうよー今までの倍は運んじゃうよー」

 

 

そういう問題なのか?と疑ってならないセカンドだったがこれを機に意識改善を図れたらいいと思いそれで了承した。

 

 

「んじゃ早速君の...セカンド?の家だかに行こうか。同棲してさらにお姉さん的な存在の人もいるなんて羨ましい!私も窓の無いビルから出てどっかのお姉さんに匿ってもらおうかしら」

 

 

「冗談よしてくださいよ。さっき俺とちゃんとするって約束したじゃないですか、それぐらい守ってください」

 

 

「わかってるよー」

 

 

本当に不安な彼だが心配しても今は意味がない。取り敢えずレジにて会計を済ませ自分の家へと向かおうとした彼だったが華恋はちょいちょいと肩を叩く。

 

 

「もう暗いしさ私の能力使おうぜ。な?いいだろー?」

 

 

確かに少し暗くなってきた感じはあり、歩くのが面倒なダルイ系男子セカンドはその提案に乗った。ちょっとした小道に入り監視カメラの存在を確認しながら条件の整った環境を探す。するとすぐに監視カメラのない人気の少ない場所を探し当てられた。

 

 

「ほいじゃー行くよー。あっ、室内入るから靴脱いだほうがいいね」

 

 

そう言って靴を脱ぎながら謎の空間を作り出す。一時期セカンドに分け与えていた能力で作られたものとは異なり全体的に白く、優しい色をしていた。能力使用者によって特性が異なるのだろうかと疑問に思うのだが、ぴょんと入口に入っていく華恋の後を追って彼も足を踏み入れる。

 

 

***

 

 

ミアと呼ばれる女性がリーナ宅を訪ね女性3人で仕事の話が終わり、女子会的な雰囲気のマンションの一室。そのリビングルームに突如リーナの見覚えのある異空間が出来上がった。即座に臨時体勢に入るリーナとシルヴィ、ミアに対しその空間から現れたある少女はぺたりと素足でテーブルの上に乗り目前の少女を発見する。

 

 

「マジで生リーナだ!生リーナ、生リーナじゃん!すっごい可愛い、つーかアメリカ軍のレベル高い。やっぱりこの仕事選んで正解だったわ!」

 

 

常人の域を越えた勢いでテンションを上げる華恋に対しCADを構えるリーナに後ろからやって来たセカンドが静止の構えをとる。

同時に登場した彼の姿に困惑し始めるアメリカ側に彼は話し始める。

 

 

「邪魔したか?まぁ取り敢えず両方落ち着け。コイツは敵じゃないしそこは保証する」

 

 

取り下げたリーナのCADを見て華恋はレズビアンな瞳を真っ赤に燃やそうとしていた。



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35

事情があって遅くなりました
月2に頑張ってしたいです


「超可愛い、これだけは言わせて欲しい」

 

 

大人しくソファに座り女性3人と対面する形になったセカンドと華恋だが彼女の暴走は収まる余地はない。なので彼が進行役を務め華恋を大人しくさせながらリーナ達に状況を説明する。

 

 

「あー、なんだ、まぁこの人は須藤華恋。俺の知り合いでその......仲良くしてくれるとありがたい」

 

 

みょーんみょーんと体を左右に揺らしながらお辞儀をして挨拶する華恋に対してリーナは疑惑の目を向けざるを得なかった。日本にやって来る際セカンドが使った能力は借物であると知っている彼女、そして形状が似た能力を目にし本体が華恋であることを即座に見抜いたからである。

 

 

「それで仲良くしろって言われても具体的にどうすればいいのかしら。貴方の知り合いとなると学園都市絡みで間違いないのは確かなんでしょうけど」

 

 

口を開いたリーナは華恋を直視し状況を判断する。見た目年齢は自分より少し低い辺りだろうか、髪の毛の量が尋常じゃないことを除けば可愛らしい銀髪少女に見える。そんな少女がソファから身を下ろし素足で小走りでリーナの所へとやってくる。

 

 

「アンジェリーナ・クドウ・シールズ、貴方に会えて光栄です。先程紹介に預かりました須藤華恋と申します」

 

 

人が変わったかのように丁寧な口調になる華恋にリーナは目をパチパチさせて微妙な反応になる。しかしセカンドの方はこの少女の癖を知っているため何の驚きもしない。須藤華恋は美少女に直接会うと緊張してしまい、何故か話し方が丁寧過ぎるほどになってしまう癖があった。おそらく緊張からくるものなのだろう、だが盗撮盗聴監視などカメラや写真越しでは変態のような性格になってしまうのでこれはこれでありである。

 

 

「正式な立場で発言した方がいいでしょうか、私須藤華恋は学園都市統括理事会からこちらの世界の全てを担当している者です。政治、軍事あらゆる権限を持ち行使することが出来ます。言ってみれば私の判断一つで学園都市の動向を左右するのです」

 

 

挨拶し終わるとすぐにソファの元へと帰る華恋にシルヴィアは疑問に思ったことをぶつける。

 

 

「何故貴女は今この瞬間私たちに接触してきたのですか?学園都市におけるこの世界の情報を全て管理なさっているのならセカンドを通じて私たちのこともわかっているはずですが」

 

 

「それはリーナ、貴方個人と繋がりを必要としたからです。私の能力は強大過ぎる余り強い制約と認可コードが必要です。まあ異空間を繋げる場合の時の話ですが、それで個人的にアメリカとの繋がりを必要としまして...」

 

 

話の方向性がわからなくなっていたリーナにセカンドは裏から口添えする。

 

 

「要するに今のアメリカと学園都市の関係性は大統領と木原脳幹という須藤華恋を通じない同盟関係にある。そこでコイツは自分とアメリカ国防軍という新しいパイプを繋げようとしている訳だ。互いにメリットはある、木原一族に気付かれるのは時間の問題だがそっちの方はさほど大事じゃない」

 

 

理解しているのが場の半数にも及ばない中、華恋はメモ用紙に自分のアドレスを書き付けセカンドを伝いリーナに渡す。

 

 

「これは私の個人的なアドレスです。貴女に私に協力する意思があるのなら連絡下さい、では」

 

 

そう言った銀髪の少女は右手を軽く振る。すると空間を割いたように白い穴が開く。その中に無言のまま入っていくがセカンドは頬が真っ赤に染まった様子を見逃さなかった。

華恋が帰った後マンションの一室は緊張が解れたのか緩くなった空間になっていた。ミアは隣の部屋に帰りリーナはシルヴィアが煎れるミルクティーを待っていた。

 

 

「どう思った、リーナ?あの須藤華恋という女」

 

 

自分で用意したコーヒーを飲みながら話しかけるセカンドは随分と嬉しそうな表情をしていた。何がそんなに面白かったのかわからない彼女は素直に感想を述べる。

 

 

「この世界の貴方達をまとめているのが彼女だとすれば個人的なパイプを持てることは非常に有益だわ。だけど私個人があの人と繋がることを軍は許さないでしょうね。ひとまずアドレスは私が管理しておくことにするわ」

 

 

それを聞いた男は高笑いが止まらない。

 

 

「本気でそう思うのか、まあヤツの性格を知らない初対面だからな。アイツの本性はそこまで考えてない。ただ単にお前とメル友から始めたいだけなんだよ」

 

 

ズズーと音を鳴らしコーヒーを飲み干すとミルクティーを煎れて持ってきたシルヴィアが彼女に関する質問を並べる。

 

 

「本当にそれだけのことで能力を使ってここまで来るのですか?学園都市の行動理念が全く分かりません」

 

 

「学園都市はある人間のためにつくられた組織だからな。行動理念も何も自分のためと思ってやっていることさえ統括理事長の手のひらの上で踊らされてるだけだ。抜け出そうと思っても学園都市が存在している限りヤツの支配からは逃れられんよ。ま、気軽にメールでもしてやれ。その方がこちらにとって多少ありがたい」

 

 

一番風呂を楽しみにしていたセカンドは以降の質問に答えることはなくすぐに寝入ってしまった。

 

 

***

 

 

数日後の夜、セカンドは担当チューターの指示の元ある場所へ出向いていた。

 

 

『これより作戦を開始する。達成目標は七草家に対する学園都市個人の宣戦布告と特殊CADの最終調整のための戦闘だ。万が一にも捕まるなよ、あと肉体変化でその辺の適当な人間に化けておけ』

 

 

耳元の端末から男の声が聞こえる。責任感のない荒んだ声が脳に響く。

 

 

「お前さ、前から思ってたんだけど担当に向いてないよ。うんそうだな、向いてない。全く向いてない、と言うわけで俺はお前の言うことには従わない。新しい顧問先見つけたからお役目御免!!」

 

 

ぷつりと途切れた端末を横目にセカンドは返信も聞くことなく踏み潰す。新しい担当は既に彼を見ていた。遥か上空地球という星の引力の小さい場所、宇宙の中から彼を覗く。

指示は受けていない。だが自由にやっていい訳では無い。須藤華恋、アレイスター彼ら上層側の人間の目につくような事はやらない方がいい。

アタッシュケースの中のCADはケース開放と同時に組み上げられる。今回彼が持つのは拳銃型ではなく臨機応変に変わるタイプのモデルだった。この方があらゆる戦闘において万能感を持てる。

新しい担当の天埜郭夜の指示はこうだった。

 

 

『北山邸に潜む学園都市側の人間との接触』

 

 

本人である北山雫は現在アメリカへ留学中でありその家に住んでいるということは勝手に借りているか、もしくは彼女がアメリカへ行く前に何らかの契約をして在留しているかの2つだった。学園都市側の人間と言っても空間転移を利用してここにやってきた向こう側の人間とは限らない。協力機関のように元からこちらの世界の住人がいる場合もある。しかし彼の考えでは学園都市内の人間である可能性は低かった。この世界で長期間生存するためにはある圧力に耐える薬を服用しなければならない。界圧と学園都市は命名したその力はこの世界の中における異物を極力排除しようという力であり、逃れることは出来ない。三矢のように自力で薬を製造するノウハウを持っていたり、一方通行のようにベクトル変換を応用した使い方で防いだりなど様々対策はある。しかしそれはごく稀でセカンドのような耐性を持たない異界からの人間は薬を服用する他ない。

思案するうちに北山邸へとたどり着く。夜の0時を過ぎたこの時間帯、起きている人間は僅か。道中のコインロッカーから取り出したスリムな駆動鎧を身に付ける。暗い夜中でも視界を妨げない暗視ゴーグルが適用され生体反応を感知するサーモグラフィを起動させる。

敷地内へと足を踏み込む、だが流石は富豪の別宅、金属製の駆動鎧をセンサーか何かしらで感知したのか警報が周囲をざわつかせる。気づかれたのならば仕方が無い。そう思ったセカンドは脚力を調節し大股で走り始める。感知された人間が邸宅中をそわそわしている様子が内部カメラに映し出されるがそんなのを確認している余裕はない。

ガラスの窓を突き破り破片が飛び散る廊下で検索をかけようとした瞬間、突き当たりの扉からある人物が目に入った。

御坂美琴、学園都市第三位の電気使いとして名を馳せ常盤台中学に在籍する2年生。この姿を確認した彼はすぐに回避行動に移った。駆動鎧と彼女の能力とでは相性が悪過ぎる。電撃をいくら避けようとも一発でも当たれば故障してしまう可能性があり、一部が止まった駆動鎧など高速戦闘において使い物にならない。

破った窓から異様な体の動きで身体を外の芝生に投げ出す。だが逃げ出した先にも女子中学生の姿が見えた。否、姿形は全くそっくりだが何かしら違う。飛んできた電撃を左手のアタッシュケースで受け止めその威力を利用して距離をとる。

 

 

『成程、超電磁砲に欠陥電気か。学園都市側の人間ではなく学園都市関係者ということか』

 

 

腕、脚、胴に纏わり着く金属パーツを手早く取り外し黒のランナースーツを身に着けているセカンドは知識に植え付けられた記憶を呼び起こす。電撃使いに対して駆動鎧を付けながらの戦闘は危険である。肉体変化を利用した彼独自の戦闘方法の方がやりやすい。

 

 

「あっれ〜、パワー全開の雷撃放ったのに効いてないっぽいよ、おねーたま」

 

 

「んなことどうでもいいわよ。アンタが学園都市から絶対に接触があるって言ってから何ヶ月目かしらねぇ......それまでの間アイツと共同生活しなくちゃいけなかったし...」

 

 

二人集合し姉妹に見える。後半の方をよく聞き取れないゴニョゴニョとした感じで言い放ったがセカンドはすぐに理解出来た。幻想殺しも来ている。彼の右腕を利用すれば界圧への対抗策も出来るだろう。これによりこの世界で長期間の滞在が可能となる。

アタッシュケースを開き大型の鎌状に形態を変化させる。駆動鎧の部分的なパーツはケースにしまい真横へと放り投げる。その間にも彼女らは警戒態勢を解くはずがない。

真っ暗な闇の中に窓からの蛍光だけが庭を照らす。

 

 

「接触しろと言れたが貴様らは別だ。強制送還させてもらうぞ」

 

 

鎌の切れ先からサイオン粒子が蒸れ出る。両手で握り締め構えをとりながら彼女らの後ろの方向に視線を向ける。

 

 

「幻想殺し、それに懐に隠れたオティヌス、お前達は最重要案件に当てはまる」

 

 

2度振った鎌から飛び出す魔法による衝撃波が二人の少女に向かうが、美琴の肩を引き前に出てきたツンツン頭の少年の右腕にぶつかると破裂音と共に衝撃波は消え去る。

 

 

「よくわかんねえけど俺のことを幻想殺しって知ってるなら多分学園都市の人間か魔術師か。だけど今は一方通行のことで手一杯なんだ」

 

 

セカンドの鎌が再び振るわれる。無言のままに。



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36

この時期はいろいろと忙しいですよね


暗い夜中には光が差し込む場所が少ないため人影も出来にくい。セカンドの正体がバレていないのはこのためだろう。そもそも彼の本当の顔を知っているのか定かではない。

地面を裂きながら飛んでいく魔法を利用した衝撃波は庭の芝生を根こそぎ奪っていく。2人の姉妹は磁力を利用し避け、幻想殺しは出来るだけ敏感な反応を便りに避けてセカンドに近づき危険な時は右腕をかざしている。同時にセカンドも三人との距離を保ちながら鎌を振って逃げる。

衝撃波には魔法の属性が付与していない。そのため外から高熱にさせたり冷却させることにより炎を纏ったり冷刃とすることが出来る。

帯電させた斬撃を幻想殺しに放ったセカンドはようやく幻想殺しの対象の悪さに気がついた。この鎌状のCADは現在衝撃波を生み出す魔法式しか導入されていない。追加プログラムとして補助効果を得られるがメインとなるのは一本のみ。刃を繰り出すスピードも調節できるが幻想殺しは容易く対処し近づこうとする。更に2人の姉妹から繰り出されるミニ超電磁砲と電撃は駆動鎧を仕舞ったアタッシュケースでギリギリ防いでいる。高度な電子機器を扱うために開発されたケースは対電気性に優れているため盾としても機能した。しかし耐久値は高くはない。

彼は屋敷の外に出ることにした。監視カメラが敷き詰められた町中を逃走するリスクの方が彼らに捕まるリスクよりは軽い。セカンドが一高での姿で逃げると厄介であるためストックしてあった適当に見つけた人間の姿に変身し道路へ飛び出る。魔法による斬撃を利用して吹き飛ばした体は隣の家に駐車されていた車に飛び込まれる。

ガシャン!と鳴り響く破壊音により住民の睡眠を無理矢理中止させる。北山家のアラームで覚めなかった住民も何かの事故が起こったのだろうかと思いカーテンを開け始める。

車の持ち主は自分のものが破壊されたとあって慌てて2階から駆け下りていく。

それに気づいたセカンド、衝撃を吸収した車体を再度踏み台にし道路の方向へと足を進める。脚部のみを肉体変化で筋肉を増強させながら衝撃波を振り撒き番外個体と超電磁砲を振り切ろうとする。

 

 

「おねーさま、そこ左!」

 

 

「そこか!」

 

 

セカンドの後方から放たれた電撃に一瞬で気づき衝撃波で車を地面から浮かし直撃させなんとか防ぐ。電磁波を利用したソナー効果や、磁力を応用したビル壁を使い立体的な追跡をしてくる二人の電撃使いから避けるのには限界があった。幸いなことに幻想殺しを振り切れたのはいいとするが何時まで保つかわからない。脳に埋め込まれた通信機器であらゆる協力機関に連絡するが何一つ返ってこない。

 

 

「ックソ!強制送還なんぞニの次だ、振り切れる気がしない!」

 

 

超能力者の電撃使いがこれ程にまで厄介とは思ってもみなかった。戦闘訓練を学習装置でのみ行ってきたのが仇となったのかどうかは知らないが、実践経験のある超電磁砲は思いのほか強い。

セカンドの前方の大道路には深夜にも関わらず程々の車が走っている。信号がない場所を彼は車の進行に関係なく横切る。大鎌を振り回し衝撃波で道路を陥没させ後方の道路を断つ。急ブレーキによるスリップした車が相次いで事故を起こすが、セカンドや電撃姉妹はそれを無視するかのように大道路を通り抜ける。

ビル群が並ぶ都心の方へ逃げていくなか、彼は後方の追っ手よりも厄介なものを感じた。上空にヘリコプターが飛んでいたのである。恐らく軍または警察のものだろう、セカンドは飛行進路を予測し電撃刃を投げ飛ばす。しかし旋回性能が高いのかギリギリの所で回避されてしまった。遥か前方、何かが大群で動いているのが視力のあまり良くないセカンドにも見える。

急に立ち止まる彼に御坂と番外個体は不信感を募らせる。するといきなりだった。

 

 

「そこの2人!鬼ごっこは終いにしてちょっとこの先考えようぜ」

 

 

彼が指さした前方を彼女らも確認する。恐らく御坂美琴単体で突破することも容易だろう。しかしセカンドは学園都市がこの騒動で表に出ることは避けたい。それに誰の許可も得ずに侵入してきた御坂らもここで騒ぎを起こしたのが自分だと判明すると、北山家に在留するのが難しくなるのは明確だった。

そして一番の原因、それは番外個体の様子がいつもと違いおかしいことだった。

セカンドに歩み寄った彼女らの違和感にすぐさま気付いた。

 

 

「番外個体と言ったな、薬は全部使い切って幻想殺しの庇護下で影響を免れていたのか?」

 

 

元気が無いように御坂に肩を抱かれ軽く頷く。気力でセカンドを追っていたのだろうか、それとも姉の御坂美琴に迷惑をかけまいと踏ん張ったのだろうか。超電磁砲が丈夫なところを見ると恐らく自分の分の薬まで与えていたのだろう。

ひとまずポケットにしまっていた錠剤をセカンドは番外個体に手渡す。

 

 

「取り敢えず体の崩壊は一時的に鎮まる。だがクローン体であるお前が長期間調整を受けていない、すぐにあの医者に見てもらうのがいいだろう」

 

 

「ちょ、ちょっと、何でアンタそこまで知ってる訳?」

 

 

「なんでって学園都市から送られてきた人間が暗部であることは確実だろ。善良な人間がこんなところに潜入する必要は無い。それに...」

 

 

追加で話そうとしたセカンドだが群れの動きが頻繁になってきたので二人の脱出を優先した。手元の通信端末はピクリとも反応しない。仕方なく彼は御坂の旧タイプの携帯を借りてある番号を打ち込む。

 

 

「緊急コードを発令させた。お前達2人は今から出現するワープホールで学園都市に戻れ。俺はその事後処理に色々する」

 

 

須藤華恋が生成するワープホールには残存情報がある。測定する方法は学園都市が握っているがその他の勢力が把握しているかもしれない。この可能性が薄いがこれだけ貴重な超能力を学園都市以外から解析されるのはあってはならない。これまでも使う場合は人気のない場所やあっても問題をクリアした場合に限られていた。しかし今この状況、残った情報を周りに囲まれた警官や軍人らに触れさせることすら危険である。

突然空間上に出現した白い波紋を描いた穴を見た電撃姉妹は驚いているようだったがセカンドは何度も通った過程なのでなんとも思わない。

 

 

「何も聞かず着いた場所にいる女に事情を説明しろ。すべてその女がなんとかしてくれる。番外個体はすぐに医者に見せるべきでお前もこの世界に戻ってこない方がいい。この世界は俺達にとって不都合すぎる」

 

 

「待って!アイツ、上条当麻はどうなるの?」

 

 

「こちらで対処する。そもそも無断でこっちにやって来て何の罰則もなく帰れるだけでありがたいと思え。早くいけ、面倒だ」

 

 

2人の背を押し波紋を打ち消すように空間の異常が収まる。それと同時に彼はCADを仕舞っていたスーツケースに入っている駆動鎧を体に装備する。眼前にはデータ化された敵情報がディスプレイに映る。大鎌を肩にかけワープホールの情報が消えるまでの時間を計算させる。

約15分

その夜は眠りを妨げる爆音が都内のある場所に鳴り響いた。

 

 

***

 

 

『おはようございます、朝6時のニュースをお伝えします。初めについ先程まで都内に出現した凶悪犯についてお伝えします。深夜0時頃都内の住宅街に現れた犯人は街を破壊しながら警察からの追撃を回避し、今なお逃走中とのことで街は緊張の最中にあります。逃走途中人質をとり危険な状況にありましたが今現在病院に搬送され治療を受けています。我々メディアにはつい先程情報規制が解かれ混乱しておりますが、犯人確保のため情報を拡散させていきたいと思っております。犯人の特徴をお伝えします。身長は180cm前後で体を何かしらの機械で覆っており顔などは把握出来ておりません。もし見かけた場合にはすぐに通報しその場から逃げて下さい。警察官32名が死亡し関係者ら50名近くが負傷しており大変危険です。あっ、ただ今新しい情報が入りました!人質とされていた方は体内の血液を多量に抜かれていた模様です。先日から起こっている猟奇的殺人事件との関連があるとみていいのでしょうか...』

 

 

ニュースが流れるテレビを目にしながらセカンドは歯磨きをする。この世界にばらまいた滞空回線で集められる範囲だけある情報を集める。それは本物の吸血鬼に関するものだった。御坂らが使ったワープホールの後始末が終わって逃げる際、カモフラージュとして通りすがりの人間から血液を奪っていったのだ。だが報道では騙せていても見破られるのは時間の問題でもある。何故なら傷跡がはっきりと残っており本物の吸血鬼とはタイプが異なる。

さらに悪いことが重なり本物の吸血鬼が同じ日の夜に動いたのだ。さらにそこにはリーナ率いるアメリカ軍の部隊と一高の生徒、西条レオンハルトが居合わせていた。

だがこの犯人がセカンドの正体へと繋がることはないと確信していた。学園都市の存在にはたどり着く人間がいるかもしれないが彼の持つ肉体変化は並大抵の眼力では見抜けない。

今日のやるべき事はレオの容態を確かめ吸血鬼の性能をある程度予測し対抗策を考えること。アメリカと協力関係にある今彼らが日本に来る原因を調べることは早期解決に繋がるに違いない。

深夜の活動をしていたリーナ達のために朝食を用意する準備をしようと洗面台を離れて行った鏡にはセカンドの残像が残っていた。

 

 

***

 

 

液体に包まれた学園都市統括理事長、アレイスター・クロウリーはプランの手順の再構築を行っていた。灼熱のハロウィンで手に入れた個体『一方通行』を利用し省くことの出来るところは迷わず省いていく。

 

 

『封印が解けつつある、か』

 

 

報告書に記されたある文章を読み終え最後の文を復唱する。

 

 

『だが利用すれば......フフッ』

 

 

謎の笑みを浮かべ逆さまの人間に付属する人口生命維持装置は激しく点滅する。それに呼応したかのようにある画面がアレイスターの目の前に映し出される。料理をするセカンドの姿、町中を走り回る上条当麻の姿、そしてアレイスターと同じように液体に浸され何の反応もない白髪の青年一方通行の姿。

だがその映像に物理的に割り込むようにある人間が窓のないビル内に入ってきた。

 

 

「覗きが趣味のアンタなのはわかってるんだけどさ、うちのおもちゃに手を出すのやめてくれるかな?」

 

 

『亜空転移、君のおもちゃは手に余る。そもそもあれを内蔵するために学習装置の使用を繰り返してるのであって好きな性格、好きな記憶にするために使ってるわけじゃない』

 

 

須藤華恋は一仕事終えたついでに訪れたのだがいつまで経ってもこの空気に慣れない。すべてを飲み込みそうな奥に潜む圧倒的な力。

 

 

「でも封印が解けそうなんでしょ?私に任せてよ」

 

 

それ以上何も答えなかった。ビル内は生命維持装置の機械的な点滅を残し光を消し去った。

同じ窓のないビルの住人同士意識の繋がりがあるのかもしれない。




感想返せなくてすみません
少しずつ返していきます


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37

何ヶ月振りでしょうか、お久しぶりです。
仕事が忙しくて手がつきませんでしたが何とか、何とか仕上げました。一段落着いたのでこれ以上遅れることは無いと思いますが、すぐには速度を回復することができません。ゆっくり待っていただけるとありがたいです。


学校へ向かうセカンドだがリーナは一緒に登校しない。常日頃一緒に登校しないのではなく今日はたまたま違っただけであり、その理由も彼は知っている。恐らく吸血鬼のことで何か本部と話し合ってから家を出るのだろう。アメリカと学園都市は同盟関係にあるのだが、最近影が見えるようになっているのは彼の猜疑心の仕業ではない。

実際学園都市からの物的、人的支援は徐々に打ち切られ始めている。同盟解消というレベルではないのだが学園都市にも事情がある。

それは『魔神殺し』のためであった。

科学技術と20世紀最高峰を極めた魔術を利用した融合体である戦闘兵器、フレーラが一方通行に破壊されたことにより防衛能力が著しく低下した。木原脳幹などは攻めの戦力は十分に整っているが、戦争の基本となる防衛における戦力は本来の半分ほどになってしまう。圧倒的な火力で敵を殲滅する能力は守りに向いていない。相手の技術や力に対抗し時間を稼いでバランスを保つ防衛力こそ今の学園都市には必要なのである。

そのためアメリカよりも自組織の活力を戻す必要があった。

セカンド本人は学校へ行く途中の電話ボックスのような個室でタブレットに映っていた滞空回線の情報をまとめている。しかしこれが最後の情報収集となる事を予期していた。なぜなら閉鎖的な環境にある学園都市とは違い、周りを取り囲む壁もなく補充することが出来ないこの環境では滞空回線は次第に互いに離れていき、遂には通信可能な距離を超えてしまう。今でも最初に解き放った数ある滞空回線のうち1割ほどは砂嵐の画面に覆われている。そこには昨日の逃走劇と同時刻に起きた吸血鬼の事件に巻き込まれた人物のその後が記録されている。そのうちの1人は一高の1年E組の西条レオンハルトであることが判明していた。都内の病院に担ぎ込まれ今は安静にしているらしい。

今すぐにでも会って確かめたいことがあったが学校を休めば怪しまれることは間違いない。特に司波達也、彼には注意しなくてはならない。学園都市からの指令書や一方通行から得られた情報を基にすると、あの男には独自のコネクションがあったり一般的な魔法とは異なる系統の魔法を利用するらしい。更に情報通ということで一定の警戒を敷いた方が身のためである。

放課後の時間に行くと決めたセカンドはタブレットをしまい常時使用していた薬を服用する。精神安定剤と一方通行の能力研究から編み出されたこの世界にいるための薬である。

この所不愉快な夢に悩まされていた彼は何時もよりも多くの錠剤を手のひらに乗せる。その夢とはこういうものだった。

セカンド自身の体が肉体変化の能力に飲み込まれ元の姿を忘れてしまうという内容だった。最終的に体が端から霧散していき自分というものがなくなっていく。

多くの人間を傷つけた直後の夢だからこうなったのかはわからないが、なるべくストレスを溜めないようにするセカンドは不安要素を消し去る。

学校に着くとやはりE組の司波達也周辺は騒がしそうにしていた。たまたま目に入っただけだがレオが病院へ担ぎ込まれたという事実は彼らにも伝わっているらしい。

学校自体はいつもより早く終わり部活も停止されていた。原因はセカンドが起こした先日のテロ行為にある。しかし彼はその行為に罪の意識はない、と言うより行った事は認知できるが罪を感じる根幹の部分を学習装置により消し去ったというのが正しい。

急な事態に好都合と感じた彼はレオが運ばれたという病院へと足を向ける。監視カメラなど特に意識することなく受付窓口で尋ねてみたが思うような回答は得られなかった。恐らく情報隠蔽のために伏せてあるのだろう。ならば全ての病室を見て回るだけである。

女子トイレに入っていく看護師の後を追い個室に入ったところで一気に首を絞める。事前に一般女性のような姿に肉体変化させていたため背後を付く事は怪しまれていなかった。口から泡を吐き気絶した看護師を清掃用具に詰め込まれたホースで縛り付け、病院内専用の携帯と彼女の身分証を奪い取る。

流石に個室に監視カメラがある事はなく誰にも気づかれない。しかし変身元に親しい人間に話を振られた場合気づかれるかもしれないので、早めにレオの居場所を突き止めることにした。

一室一室点検のような形で侵入し入院している患者の中からレオの姿を探し出す。だが思ったよりも早く見つけることに成功した。集団部屋ではなく個人室を先に探したのが大きかった。ナース姿のセカンドは周りに一切怪しまれることなく部屋内に入ることが出来、検査のためと言い彼の姉を部屋から追い出す。

眠っていたレオの隣で1本の注射器を取り出す。ある程度の血液があれば研究機関に送り検査することが可能なため検査と名のつく血液採取は一瞬で終わった。彼の姉も何も気づくことなく採血は終了する。

 

 

「それでは失礼します」

 

 

彼の姉に一礼した後すぐに病室を出る。手に入れた血液をポケットに仕舞い拘束した女看護師の元へと急ぐ。幸いなことに途中で誰に見られることなく事は過ぎ去った。懐の血液容器を片手に持ち病院外へ出る。女看護師はトイレで縄を解き放置してきた。気がついた先がトイレで体に異変がなければそのままにしてしまうだろうし、仮にも何かに気づき通報なり他の手段をとったとしても手がかりはつかめないだろう。

 

 

「パラサイトに寄生されそうになった奴の血液採取に成功した。と言うかあの衰弱様じゃ何かやられたんじゃないか?」

 

 

セカンドが個人的な観測によって得られた情報を伝えながらワイヤレスマイクから返ってくる相手の反応を伺う。通話相手は学園都市の暗部の中心に位置する『電話の声』

 

 

正体不明(アンノウン)が非人間である事はこちらも想定済みだ。問題はそれをこちらの誘導で自由に操作出来るか否か、だが即座に予算が下りないのがな。魔神問題は非常に頭を悩ませる』

 

 

オティヌスの問題を処理した場合と同じようにはいかない。それに上条当麻、幻想殺しがこの世界に存在する限り学園都市のカウンターとしての機能が働かない。一刻も早く上条当麻を元の世界に戻すか魔神に対抗する術を開発するか、この二つを中心に現在の学園都市は動いているためパラサイトなどという小さな障害に構っていられないのである。

須藤華恋が本気を出せば即座に幻想殺しを元の世界に戻せるのだが彼女には彼女なりの理由があってかそれを実行しようとはしない。彼女の目的はこの世界の掌握。アレイスターに邪魔されない世界で自由になりたいようだがそんな事すらも彼の掌の上で踊らされているだけ。

電話を切ったセカンドはある地点へと向かった。そこは昨日戦闘を激しく行い通行止めになっていた主要道路であった。コンクリートで埋め直す作業が未だに続き復旧作業がなお続く。

なぜここに来たのかというと亜空転移を利用した残存情報を誰かに解析されていないかどうか確かめる必要があった。本来ならば朝早くに来るべきだったが、犯人は現場に戻るという格言の元、時間を遅らせてやってきた。その分疑いの目を避けられるが解析されているかどうかの判断は曖昧となる。

現場には作業員が中心で解析されている様子はなかった。

自宅(リーナとシルヴィも同居中)に戻ったセカンドはキッチンに入り二人の帰りを待ちながら軽い夕食をつくる。

先に帰ってきたのはシルヴィの方だった。自宅の鍵をかけたまま夕食を作っていた彼を見るなりびっくりした様子だった。

 

 

「いたのですか、セカンド。居るなら鍵をかける必要は無いのではないですか?」

 

 

彼女も夕食を作る予定だったのだろう、買い物袋に入れられた食材達が明日の朝食のために冷蔵庫へ仕舞われる。本来ならば全自動で機械達に作らせてもいいのだがシルヴィはそんな事はしない。対するセカンドの方はこちら側の機械の操作には疎く学習装置で調理法を脳に書き込み手作りした方が早い。

 

 

「まあそういうことを言わずに。実は話したいこともあったしリーナが来てから夕食にしようか」

 

 

現時刻は17時過ぎ、手早く学園都市の仕事を終えたセカンドだが料理の方は未だに一品程しか出来ていない。

 

 

「じゃあリーナが来るまでシルヴィにも手伝ってもらうか」

 

 

***

 

 

帰宅途中に部活動が停止されているというのにも関わらず勧誘の声が絶えなかったため遅れて帰宅したリーナ、彼女が玄関を開けるとそこに広がっていた匂いに空腹感が誘われる。リビングに向かってみるとそこにはエプロン姿のシルヴィといつも左手に付けているCADを外したセカンドが忙しなく動いていた。帰ってきたリーナに気づいたのかシルヴィは出迎えの挨拶をする。

 

 

「おかえりなさい、夕食までもうすぐですので手を洗って待っていてください」

 

 

「今日は暇だったんでな、ちと豪華だが自腹だから許せ」

 

 

いい匂いが鼻腔を刺激し手洗いが早くなっていることをリーナ自身気付いていない。

夕食が完成しテーブルには色とりどりの料理が並ぶ。食べ始めた3人、美味しい食事に満足しながら時間を過ごしていたリーナにセカンドの言葉が刺さる。

 

 

「昨日の夜から吸血鬼(ヴァンパイア)の捜索を始めているだろ。アレに俺も参加させろ」

 

 

突然の出来事で頭が回らなかったのか暫く口内の食べ物を咀嚼し考えていたリーナの隣でシルヴィが呟く。

 

 

「どうしていきなり参加しようと考えたのですか?こちらから要請しない限り極力協力してこない姿勢では無かったではないですか」

 

 

「こっちにも事情が出来てな、この問題を早く片付けて本部へ帰らなけりゃいけなくなったんだよ。そのために須藤華恋を動かす事も可能になった。まあ本人次第だがね」

 

 

アメリカ側の両人の頭に思い浮かべた須藤華恋という女性。亜空転移という魔法では考えられない能力を使う女性で学園都市のこちらの世界の代表。そんなトップ層の人間を動かしてまで早く日本に侵入した吸血鬼を捕まえる必要性があるのか、そんなことを考えながらスターズの総隊長としてリーナは決断を下す。

 

 

「いいわ、これからの私たちの出撃に同行しなさい。それとカレンという人間も出来れば協力して欲しいわね。あの能力があればどこへ逃げようと追い詰めることが出来るわ」

 

 

成程、と自分の食器をシンクに持っていくセカンドはリーナ達にある事実を伝える。

 

 

「あと昨日の吸血鬼と接触した人間の血液サンプルを採取することに成功した。こっちで解析してデータを後程渡す。ついでに今度学園都市主催のCAD先行販売会と展示会をやる。暇だったら見て来い、俺が使っているCAD以上のモノが見れるぞ」




仕事>遊戯王>>>アクセラ
不甲斐ない決闘者ですまねぇ


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