鋼の英雄 〜異世界へ行く〜 (いーずー)
しおりを挟む

プロローグ

 

 

  日本が夏と呼ばれる季節に差し掛かる酷く蒸し暑い頃

 

 

 

 恐ろしくやる気のない眼をした男が八畳一部屋のボロとは言えないが新しくもないアポートで、今日もせっせとゲームに勤しんでいた。

 

 

 ーーそれが俺、武蔵 卓也であるーー

 

 24歳 フリーター、黒髪短髪と恐ろしく普通顏にやる気のない眼が特徴と言えば特徴のどこにでもいる日本男児の筈。そろそろ将来について不安が出てきたが「まぁ、何とかなるだろう」と持ち前の漠然とした楽観思考で唯一の趣味であるゲームをプレイしている。

 

 

「あぁ〜やっとここまで来たかぁ。」

 

 

 首をコキッと鳴らしながら、ついぞ言葉が溢れる。

 

 

 平日の昼間っから絶賛プレイ中なのは、新世代三人称ロボットアクションゲーム「OperationDearName」(通称「ODN」読み方はまんま「おでん」だったりする)

  全世界で累計1000万本以上売れ記録的な大ヒットとなったこの作品は、ストーリー・操作性・グラフィックは世界最高峰とされ、オンライン対戦なども超充実し間違いなく次世代に名を残す傑作である。

 内容としては、突如地球に侵略してきた未知の敵「A=T(見た目まんまロボット)」と人々との戦いを描いた物語なのだが……

 

 

 敵である「A=T」の素材から作られた人工知能(AI)搭載人型兵器兼主人公「FG-01」を操作し世界を救う為の戦いに参戦していくことになるんだが……

日本が占領されてたり戦場が臨場感満載だわハードだわ主人公が完全ロボだわから重厚なストーリー展開だったりするんだけど、生まれたての「FG-01」が物語が進むに連れて成長していく姿にどれだけの人が人生を狂わされたことかっ!

 

 

 

 

 …とまぁ、そんなこんなで"10周目"になるラスボス戦に突入する所である。

 

「いつ見ても気持ち悪いなぁ〜。」

 そう呟き、画面へ眼を向ける。

 

 画面には見るだけでSAN値が減りそうなビジュアルをした異形な物体が映し出されていた、相対するは我らが「FG-01」、凡そ2mもの鈍い銀色の身体にカメラアイからは青い光が漏れている。

 

 

「流石にこれだけ繰り返すと楽に勝てるわなぁ。じゃあそろそろ11周目にっ……!?」

 

 

 

 武蔵が止めを刺そうとした瞬間、突如画面が光を放つ

 

 

 

「はぁ!?何だこりゃ?ちょっと今まで見たことないパターンだぞ…!」

 

 光は収まる所かどんどん強さを増していき、眼を手で隠しながら武蔵は声を荒げた

 

 

「…おいおいおいっ!嫌な予感がすっ」

 

 

 最後まで言い切ることなく言葉が途切れる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーこの瞬間、武蔵 卓也 はこの世界から消えたー

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が収まった後に武蔵の姿はどこにも無かった。

 




ファンタジー世界に行くロボットが見たかっただけです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

転移して異世界編
Operation.1 確認と遭遇


外見について追記しました


「うぅ……」

知らない間に眠ってしまったのだろうか、俺はゆっくりと身体を起こす。どうやら長いこと寝てしまったようで視界がボヤけている。

 

 

 

<<起動を確認、モニターへ接続を開始>>

 

 

 

おぉ…段々と視界がクリーンになって来た……のは、良いんだが、地面??俺はいつの間に外で寝てたんだ???

 

 

<<同機を確認。破損・エラーチェックへ移行>>

 

 

ゆっくりと身体を起こし周囲の状況を確認する。所々ヒビが入り蔦に覆われた建造物、大小様々な木々が生え太陽の温かな光が辺り一面を包んでいた。どこか神秘的な印象さえ感じる場所であった。

 

 

「<<システムオールグリーン、問題ありませんマスター>>」

 

「っ!?だ、誰だ!」

突如声が聞こえ俺は咄嗟に身構えた。

問いかけつつ、左右に眼をやるが人影など何処にも見当たらない。不思議に思いつつも、立ち上がろうとしたのだが

 

 

 

「<<如何致しましたかマスター>>」

再び先程の声が"頭の中"で、聞こえた。その事実に俺は動きを止めた。寒気を感じつつ震える声で問いかけた。

 

 

 

「ど、どちらさまでしょうか?」

声が出たことを素直に褒めて欲しい、正直めちゃくちゃ頑張った。

 

 

「<<私は人工知能(AI)搭載人型兵器プロトタイプ、個体名"FG-01"と、呼ばれております>>」

 

 

はっ…?なん、だと……!

なんだとっー!!??

あの、メカ萌えを大量量産し人類史上初ロボットのグラビアという恐ろしい物(良い意味で)を生み出す原因となった我らがAIドル(誤字にあらず)と言ったか!?

言ったのか!?!?

 

 

最初は信じられずボケーっとしていたが、徐々に言葉を飲み込んでいった。事実を認識した際、興奮し過ぎてのたうちまくっていたが何とか落ち着きを取り戻した、世界憧れの彼女(俺の中では女性のイメージ)と話しているんだ夢じゃないとしても嬉しい仕方ないね。

 

 

 

 

そして現状の確認含め色々と話をし判明したことが

 

・2人とも例の光から後のことが解らず、気づいたらここに居たこと。タイミングとしてはやはりラスボスにトドメを刺す直前らしい…ゲームの世界って本当にあったのね……

・今居る場所が地球の何処なのか判らないということ、まぁこれは足で調べるしかないな。

・これは夢じゃないということ、流石にリアル過ぎますわ普通気づくわ。

 

 

そして最大の問題が……

 

 

 

「…つまり俺達の身体が融合?結合?くっついちゃってるって事か??」

 

「<<肯定でありますマスター>>」

 

「正しく機械の身体に2つの頭脳って感じかぁ。…さっきから気になってたんだが、その"マスター"って何?」

 

「<<現在、あらゆる機能の優先権は"ムサシ タクヤ"つまり貴方にあります>>」

 

「はぁ、だからマスターかぁ…」

 

「<<肯定であります>>」

 

「さいですか……」

訂正することを早々に諦め身体のチェックに入る、彼女は意外と頑固な所があると俺は"知っている"からだ。

 

 

先ずはゆっくりと立ち上がってみる、おぉ!目線が高い!元々は170cmだったが今は彼女と同じく2mぐらいあるな。

続いて腕を動かしてみる、…やはり問題なく動くな。見るとメタリックな色をした装甲が腕を包んでいる、腕だけでなく全身を装甲に覆われているようだ、しかし、何かを着ている様な感覚はなく正しく身体の一部という感じだ。

 

 

 

 

 

 

思う所が全くないわけではないが、まぁ良いだろう。

腰には無骨な"ブレード"と"ハンドガン"、左腕には大きめの"シールド"がくっついている。これは最終ステージで俺が選んだ装備だ、一見貧弱だが慣れればかなり使いやすい。

 

 

 

 

そして、恐るおそる顔に触れてみる。

通常「FG-01」は当然のことながらフルフェイス、顔の装甲が破壊されても人間の顔なんてあるわけない。公式ではだが…同人では知らん。24年連れ添った顔に特別愛着はないが、流石に顔まで人間辞めるのはちょっとなーっと。

 

指で突いてみるとプニっとした弾力が返ってくる、今更ながら感覚とかはあるんだな。

はぁーっと、大きく息を吐く何か安心したわ。

 

 

 

手足の指も5本ずつあるしゲーム上のデザインと同じく、見た目だけなら鎧を着た人間に見えるだろう。

鎧を着てるって時点でおかしいが…

 

 

 

 

これ首から下はどうなってるのかと、そんな事を考えていると

 

 

 

 

 

「<<マスター、大型の生命体がこちらに接近中です>>」

 

 

 

 

アイジスからの警告。

安心も束の間、明らかに周囲の空気が変わった

 

「っ!お、大型の生命体?人間じゃ…ないよな。どんな奴か解るか?」

 

「<<判別できません、データベースには未登録です。戦闘体系に移行します>>」

 

 

判らない…だと?どういうことだ??

考えるが纏まる前に俺の顔が装甲の様なもので覆われていく。傍目から見れば、いつもの彼女の様な姿になっているんだろうと漠然と理解した。

 

 

 

 

ナゾの建築物に隠れ影から様子を伺っていると、前方の木々の間からその"ナニカ"が飛び出してきた

 

ライオンによく似た顔と身体、だが、目は左に2つ右に3つタテガミは触手のように動き身体にはコウモリの様な翼が生えていた

 

 

 

その姿は異形、地球では、いや俺がやってきたどのゲームでも見たことのない生物がそこにはいた

 

 

 

 

「なんだよ…これ……!」

 

 

 

 

 

 

 

そこは地球とはかけ離れた世界、正しく異世界と呼ばれる場所であったのだが、この時の俺は知るよしもない

 




俺ロボットになっちゃったよぉ!
サイボーグではないですロボットです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Operation.2名前と洞窟と

その生物との距離は3m程だろうか、

それでも内心冷や汗が止まらない。

 

 

「(うおぉぉ!?何あれ!何ぞこれ!?気持ち悪い死ぬっ絶対死ぬって!)」

 

「<<マスター落ち着いて下さい>>」

 

「(っ!そ、そうだな…悪い)」

 

若干落ち着きを取り戻しつつ即座に行動に移れるよう集中する、勿論ヒビリまくりであるが。

 

 

 

 

「(…?襲ってくるかと思ったけど、何もしてこないな)」

異形の生物は偶にこちらに視線をやるが、特に興味がないようでその辺をウロチョロしている。

 

 

 

「<<恐らく我々を捕食対象と認識していないのでは>>」

 

「(な、なるほど?。)」

確かに、俺からは人間特有の"匂い"や"生気"は感じられないだろう。ただし、こちらが行動を起こせば関係なくおそってくるだろうが。

 

 

 

やがて満足したのか、のそりのそりと元来た道を引き返して行く。そして、5分10分過ぎた頃だろうか…ガシャガシャと音を立てて顔を覆っていた装甲が元に戻る。

 

 

 

「何だったんだ…さっきの生物?いや、モンスターは??」

 

「<<解りません。地球の生物データベースに登録はありません>>」

 

当たり前だ、あんなのが普通に闊歩している地球なんて流石に嫌である。

直前までやっていた「ODN」の敵はロボットオンリーだからモンスター的なのは出てこない。俺はてっきり「ODN」の世界に転移してしまったと思っていたのだが、その考えは間違っていたのかもしれない。

 

 

 

 

「なぁ、これからどうするべきだと思う?」

 

「<<移動を推奨します、救援が来る見込みは限りなく低いかと>>

 

 

「まぁ、そうだよな…留まるよりは行動するべきかぁ。仕方ない、か…"アイジス"何かあったらフォロー頼むな!」

 

 

「<<マスターその"アイジス"とは何でしょうか>>」

 

 

「ん?ああ、"FG-01"だと呼び辛いから、"アイジス"。由来は邪悪や災厄から守ってくれる防具の日本名。」

安直過ぎるけど、他に考えつかないしなぁ。でも大切なことだと思うし、うん。

と、無理やり納得させる。好きなロボットを意識したのは秘密である

 

 

 

「<<名前…アイジス…確認しました。宜しくお願いします、マスター>>」

 

 

「こちらこそ宜しく、アイジス。」

 

 

 

 

俺達は建築物をのあった広場を後にして、辛うじて道と呼べる獣道へと歩きだす。

頼れる相棒は居るし怖くは、あまり、ない。締まらないなぁと苦笑しつつ未知の世界への一歩を踏み出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

森の中を歩き続けること約2時間、その間ただただ穏やかな時間が流れていった。つまりー

 

 

「街どころか、人っ子ひとり居やしない…!」

どこまで行っても森、モリ、もり!いい加減見飽きたよぉ泣

 

 

「<<正確には歩き始めてから1時間47分です>>」

 

と、相方からのステキな突っ込みに癒されつつ?腰と背中に付けられた"2丁"のハンドガンを見る。

 

 

 

武器やパーツなどは通常、倉庫と呼ばれる空間に収納されゲームでは戦闘中の武器変更はできなかった。が、何故かこの世界では自由に出し入れすることができた。

目の前に浮かぶディスプレイから収納されているモノを選択し出していくのだが、新たにハンドガンを1丁追加するにとどめておいた。

まぁ「ODN」最大の特徴たる、あるシステムを駆使できればこの限りでもないんだが……それは機会があればだな。

 

 

 

 

これで現在の装備は

腕に着けるタイプの大きめのカイトシールド「W18」を左腕に、右腰と背中にはハンドガン「MK.XIX」を1丁ずつ、そして左腰には近接武器「高周波ブレード」だ。

なぜこのような装備なのかというと、、、練習もなしにライフル系統を使う自身がなかった為である。

 

ハンドガンならまだマシかなぁ、なんて。

むろん素敵ヘルメットは装着済みです

 

 

 

 

 

 

 

「<<マスター人型の生命体と思わしき反応があります>>」

 

 

っ!?ようやくか!

期待と若干の不安を胸にアイジスへ声をかけた。

 

 

「ほ、方向と数は?」

 

「<<このまま直進すれば接触します。数は、人間と思わしき反応が5つ>>」

 

 

 

念願の人間に会える…!そうすれば、きっとこの世界のことについて色々聞けるだろう。

はやる気持ちを抑え更に声を出そうとしたが……

 

 

 

 

 

「<<それ以外の反応が20です>>」

 

 

 

 

 

…その言葉を聞いた瞬間 猛烈に嫌な予感がした

気のせいであれば良いなと思いつつも脚は速くなっていく。地面を抉りながらも疾風の様に走る、集団が居る方向へと走る、走るー

 

 

 

やがて森の少しだけ拓けた場所に辿り着くと、岩でできた天然の洞窟が見える。

 

 

 

「<<接触まで30m、目標は前方の洞窟内部です>>」

 

 

 

洞窟に入る手前で速度を落とす、

分かっていたけど息ひとつ乱れないとはビックリだわ

 

 

なるべく音を立てないように、内部へと進入していく。全体的にやや暗めだが今の俺には関係ない

 

 

「(まだヤバい状況だと決まったわけじゃない…皆んな仲良くキャンプファイアーとかやってるだけかもしれないし)」

 

 

 

そんな事欠片も思っていないのに、ここに来て謎の発想である

 

 

 

「<<マスター、キャンプファイアとは何かの作戦名でしょうか>>」

 

 

そしてこの発言である。

やだっ何この天然かわいい子

 

 

 

少しホッコリしてしまった所で明かりが見えてきた、手頃な岩の影から覗き込んでみるとどうやらそこは広場になっているらしい。

 

 

 

無駄によくなった眼と耳で捉えたのは、

広場にある木製の檻、その中から聞こえる泣き声。そして中央の大きな篝火と醜悪極まりない人型のナニカ

 

そのナニカは形状こそ人型だが、顔は焼け爛れたように垂れ下がり目は濁りきりギョロギョロと周囲を見渡している。鋭い牙を覗かせる口からは止め処なくヨダレが撒き散らされている

そこに、身体は緑色で布切れのような腰布をつけているとあればあのモンスターしかいないだろう。

 

 

 

「ゴブリン…なのか。」

 

 

驚愕と諦めと真剣さが混じったような呟きが漏れてしまう。

 

 

「アイジス、残念ながら予想があたったよ。…ここは奴等のキャンプファイアー場だったらしい。」

 

 

クールにジョークでも飛ばすつもりだったが、顔は見事に引きつっていた。




メインヒロインはアイジスさんです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Operation.3 少女と英雄と

"わたし"が目を覚まし、真っ先に感じたのは身体の痛みだった。

堅い床で寝ていたのか節々に鈍い痛みがある。

 

(あ、あれ?…いったい何があったんだっけ、ここはどこ??)

 

記憶はモヤがかかった様にハッキリしない

周囲を見渡すとどうやら檻の中のようでわたしの後ろには何人かの人が眠っていて、そして轟々と燃える火に照らされて誰かが…

 

 

「ひぃ!?」

 

 

咄嗟に口を押さえました。

人間だと思ったそれは醜悪な顔をしたモンスターだったからー

人類の敵、下位の部類でも人1人なら簡単に殺せる怪物 その中でもとりわけ残忍な、ゴブリンと呼ばれるモンスターがわたし達の周りに居ました。

 

 

「きゃああぁぁぁぁ!!??」

 

 

わたしの声で起きてしまったのか後ろの誰かが甲高い悲鳴をあげます、そんなっ大きな声を出したら…

 

 

「グギャギャグギャッ!」

こちらに気づいた数体のゴブリンが向かって来ました。そうだ、街の近くで突然こいつ等に襲われてーー

 

 

1体が、檻の中へゆっくりと入ってきました。

 

「グギャッ」

 

真っ直ぐわたしの方へと歩いてきます

 

「あ、ああ……。」

ぶるぶると身体が震えて

逃げなきゃいけないのに、言うことを聞いてくれません。

 

 

「ダメよ!ダメ…この子達には手を出させないわっ!」

 

そう言って、わたしを守るように女性がゴブリンの前に立ち塞がりました。

街で先生と呼ばれる人です、綺麗で優しくていつも皆のことを大切にしてくれる素敵なひと。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

悲鳴が聞こえ、先生は弾き飛ばされてしまう。

どうやら気を失っただけのようでホッとしたのも束の間

目の前にはゴブリンの顔が

 

「あぁ…い、いや…...」

逃げようと何とか後ろを向くも、襟首を掴まれてしまう

他の皆が、わたしを引っ張ろうと手を伸ばしてくれていましたがその手は届くことなくわたしはズルズルと檻の外へと引きずられていった。

 

 

「ああぁぁ!?やだヤだ嫌だよぉ!助けてっ!誰か助けてっ!!」

 

 

みっともなく泣き叫んでしまいましたが、

だって わたしは未だ14年しか生きてないんです!こんな所で死にたくなんてないっ

 

 

だが、大きな火の前に放り出され

ゴブリン達はニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながらこちらを見ている。

どうやら先ずは痛めつけて遊ぶつもりらしい

 

 

 

「う、うぁ…」

 

痛みと恐怖で涙が滲む視界で、ゴブリンがもつ棍棒がゆっくりと上げられた

 

 

半ば呆然とその光景を見つめーーいよいよ振り下ろされるなと、目を見開いた時

 

 

目の前のゴブリンが

突然 銀色の脚を横腹に受けて吹き飛ばされました。

 

 

えっ、っと気の抜けた声をだしているとふわりっとした感覚がわたしを包みます

 

どうやら誰かに抱きかかえられているらしい。

恐るおそる横を見ると、

 

 

炎の光を浴び 銀色に光る鎧

不思議な、でも綺麗な鎧に身を包んだ人がそこにはいました。

 




圧倒的スローテンポっ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Operation4.初戦闘と救出と

気づいたら飛び出してた…

 

 

俺はいたいけな少女に乱暴しようとしていた不届き者に前蹴りを食らわせ、少女を脇に抱える。

 

 

 

「すまん!我慢できなくて、ついやっちまった!」

 

「<<いえ、適切な判断かと思われます>>」

 

相棒には肯定されたし、此処までやっちまったんだ。

腹をくくるかね!

 

 

 

周囲は突然の乱入者に混乱しているようで皆固まっていた。

 

檻の前まで文字通り一足飛びに移動し、少女を優しく中へ放り込む

この娘達をこのまま逃がしてあげたいが、檻なので当然出入り口は一つしかなく守りやすくそして中に纏まって動かないでいてくれた方が色々と"やりやすい"から仕方がない。

 

 

 

唯一の出入り口を塞ぐように仁王立ちし、腰と背中のハンドガンを引き抜くと感覚を確かめるようにしながら両手を握る。

 

 

ゴブリン達もようやく混乱から回復したようで敵意とヨダレを振り撒きながらこちらへ走ってくる。

 

 

 

さぁ、初戦闘だっ

1番近いゴブリンの胴体に照準を合わせトリガーを引くっ

重い発砲音が響くと紫色の体液を飛び散らせゴブリンが吹き飛んでいく。

 

 

吹き飛んでいった仲間を呆然と見ている隙を逃さず、更に数体に銃弾を浴びせる。

 

「(ガンシューティングでギャラリーが出来るほどやりこんだ武蔵さんを舐めるなよ!)」

俺がトリガーを引くたびに紫色の花が咲き乱れる。

兎に角、近い奴から照準を合わせていく

 

 

「<<マスター、左側から2体来ます>>」

 

「りょーかいっ…!」

軽く視線を向け、左腕だけで迎撃する。

胴体と頭に1発ずつ食らわし、1体は沈黙させるが弾切れをおこしてしまった。

 

内心ヒヤッとしたのだが、マガジンの入れ替えが自動でされる。

どうやら手動でしなくても良いらしい…さすがアイジスさんっ

 

リロードが終わると同時にもう1体の頭を吹き飛ばす。

 

 

「すまん、助かった!」

 

「<<問題ありません。マスター、正面から3体です>>」

 

「あいよっ!」

両腕を正面に戻し左右バラバラに獲物を撃ち抜く。余った1体は両方からお見舞いしておいた。

 

 

 

その後も、アイジスの的確なサポートを受けて順調にゴブリン達を倒していく。

一定の距離から近寄らせず一方的に蹂躙していった。

 

全て撃ち倒すまで10分とかからなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして誰も居なくなった…。」

そんなわけは無いが、一先ずの脅威は去った。

 

 

「<<周囲に反応はありません、お疲れ様でした>>」

 

「(お疲れ様。ありがとうな、お掛けで助かったよ。)」

 

頼れる相棒に声をかけ気持ちを落ち着ける、素人の俺が此処まで出来たのは間違いなく彼女のおかげだからな。

 

 

 

 

「(弾薬の残りはどうだ?)」

 

「<<そちらも問題ありません、弾薬のストックはご存知ですか>>」

 

「(あー…うん、そうだったわ。表示しきれないくらいだもんね……。)」

 

ミッションをクリアすれば弾薬やパーツが増えるシステムだったんだが、まぁ伊達に?10周はしていない。

40発程度なら消費したうちにも入らないってか

 

 

 

「(弾薬は問題なし…まぁ、パーツもカンストしてるしいざとなれば"作れば"いいか。)」

 

以前にも軽く触れたが「ODN」最大の特徴、それこそが"作製能力"の高さである。

獲得したパーツから、敵の身体から、果てはそこら辺に落ちている石、あらゆるモノを材料に武器を道具を自分をカスタマイズしていくのだ。

その自由度の高さが広く愛された理由の一つだろう。

 

勿論、この世界でも使えることは道中確認済みだ、

肩の辺りから機械の触手が出た時はビックリしたけどっ

 

 

 

 

「(今のところ大丈夫そうか、うん…問題は……。)」

ゆっくり振り返ると気絶した女性とーー怯えた眼をした少女達が目に入る

 

「(まぁ、ですよね…)」

 

「<<対応は御任せ致しますマスター>>」

 

「(アイジスさんっ!?)」

支援を断られたことに驚愕しながら、どうしようもないのでトボトボと檻の中へと入っていく

 

 

 

「あーキミたち?ちょっと聞きたいんだけどいいかな。というか、言葉通じてる??まいねーむいずむさーし……マズイな、これじゃ何処から見ても怪しい奴じゃあないか。」

 

 

 

身振り手振りを交え何とか意思疎通しようとぱたぱた手を動かしたりしていると、そういやヘルメット(と呼ぶことにした)着けたままだったことを思い出しガシャガシャと収納。

 

 

その様子をポケーッと眺める少女達

何となく居心地悪くてぽりぽり頬をかいていると、

 

 

 

先程放り投げてしまった少女が立ち上がり

 

 

 

「あ、あのっ 助けてくれてありがとうございました!」

 

眼をバッチリ合わせた後、凄い勢いで頭を下げた。綺麗な長い金髪に整った顔立ち…って、いまーー

 

「……言葉、通じてるな。」

 

「<<肯定であります>>」

 

 

 

「ど、どうかしましたか?」

 

 

「い、いや、何でもないんだ。所でキミ、ケガはないか?」

 

 

「は、はいっ大丈夫ですっ。」

 

 

「なら良かった。その女性も…うん、大丈夫そうだな。」

 

 

アイジスさんが一瞬で診てくれた結果、ただ気を失っているだけだという事だ。

 

 

「?」

 

 

「何でもない。あ〜っとーー此処は危険かもしれないから移動したいんだけど、良いか?」

 

 

「あっ…えっと。」

 

言い淀み後ろの3人を見る……2人は双子かな?赤いショートカットによく似た顔をしている、そしてもう一人は青い髪を一括りに結んでいる。

 

 

それにしてもカラフルな髪色だ…さすが異世界(確定)

皆同い年くらいかなぁー、よく似たゆったりめの服装に身を包んでいるし。あ、もしかして学生さん??

 

 

目線を向けるとまだ恐怖が抜けきってはいない様子だが、しっかりと頷いてくれた。

 

「「僕たちも、それがいいと思うよ。」」

 

「私は、貴方の判断に従おう。」

 

「わ、わたしも同じです。」

 

 

上から双子、ポニーテールの子

最後に金髪の子も同意してくれた。

 

 

「それなら、早速行こう。この人はーー俺が背負っていくから安心してくれ。」

 

 

 

この場所は肉体的にも精神的にもよくないだろう…今は彼女達のことだけを考えて早々に洞窟を後にしよう。と、気絶した女性を背負うと洞窟の外へと向けて歩き出した。

 




初戦闘ならこんなモンだろうと思いました。徐々に酷くなる予定


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Operation5.帰還と家族と

気絶した女性を背負い俺と少女達は北へと歩く。洞窟から出たのはいいが、どうも彼女達にも今いる場所が判らないとのことで適当に歩いている。

 

 

適当にとは言ってもゴブリン達の足跡を表示して、それを辿っていたりする。

闇雲に進むよりはマシだろう

 

 

 

 

そういえば、彼女達の名前を教えてもらった。

金髪の子が「エルマール」、双子の元気っぽい方が

「エミリー」で眠たそうなのが「アメリア」、青い長身のポニ子が「リリィーナ」だ。

ちなみに背負っている金髪女性は「オリヴィア」というらしい。

 

彼女達はやはり学生で同い年(14歳)、実習の一環で外にでていた時に襲われたようだ。

 

 

 

この世界についても色々と判った。

曰く、今いるのがこの世界最大の「フォーマル大陸」という所のイースト地方 ポタニカという街の近くらしい。

曰く、地球と同じように大小様々な大陸があり、海により繋がっていて獣人や魔族とかもいるらしい。

曰く、この世界に名前はないが信仰されている神の名をとって「フォーマルハウト」と呼ぶこともあるらしい。

 

 

「獣人とか魔族とかとは争ってたりはしないのか?」

 

 

「む、むかしはそう言ったこともあった様なんですが、ここ100年以上戦争とかはないそうです。」

 

 

小さな事件ならあるんですけどね、とまだ慣れないのか照れを残しながらエルマールが言った

 

 

「ムサシって大人のクセにそんな事も知らないんだねっ!」

 

「エミリー!お前はまた失礼なことをっ」

 

 

「あー、リリィーナそんな気にしなくて良いぞ?畏まられる方が苦手だしな。」

流石に子供に強くあたるようなことはしない

 

 

「さっすがムサシィ〜話がわかるぅ〜。」

 

 

ペシペシと腰の辺りを叩かれたので、やや乱暴に頭を撫で返す。髪の毛さらさらだな

 

 

「すまないなムサシさん、こらアメリア!調子にのるんじゃないっ。」

 

 

ま、まぁ彼女達と打ち解けられたようで何よりかな?

エルマールがこちらを見てた気がしたので頭を優しく撫でておいた。

 

 

「<<リリィーナからはマスターと似た波長を感じます>>」

 

「(それは苦労人ってことかなっ!?)」

 

 

 

特に襲撃もなく、こんな感じで騒がしくも移動していくと見憶えのある場所に着いたのだろう彼女達が俄かに活気づいた

 

 

「あっ!アメリア見て!ここ街の近くの丘だよっ」

 

「本当だぁエミリ〜やっと着いたねぇ〜」

 

「お前たち離れたら危ないだろっ!」

 

 

「「やだーリリィーナお母さんみたーい」」

 

「誰がお母さんだぁーー!」

 

 

双子とお母さん(仮)は安心したのか前以上に元気にふざけあっている、その顔は皆んな笑顔だ。

 

小高い丘を登ると景色が開ける。

俺達が見下ろす先には大きな城壁、その中には数え切れない程の木組みの家。そして一際目を引くのが太陽の光を反射して建つ大きな建物。

 

 

 

「本当に、帰ってこられたんですね……ムサシさん、ありがとうございますっ」

 

 

エルマールが泣きそうな顔で感謝してきたがそっと頭を撫でたら輝く様な笑顔を見せてくれた。

…女の子は笑顔が一番だな

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

そして現在、城門前。

当然の如く兵士に止められた…

 

 

「止まれっ!この辺りで見かけない姿だが、貴様いった」

 

 

「叔父上!」

 

重そうな鎧に槍と盾を持った門番っぽい男が2名。2名のうち顎髭を生やした30代くらいの男の方を見た途端、相手が言い切る前にリリィーナが飛びたした

 

 

「り、リリィーナ?本当にリリィーナなのか!?」

 

「はい、正真正銘リリィーナ・ガルシアです!叔父上、ご心配をおかけしました。」

 

 

門番さんはリリィーナの叔父らしく、リリィーナの登場に大いに驚いている。

そういえば名字聞いてなかったな…ガルシアって言うのか

 

 

「アンソニーさん!」

 

「「アンソニーおじさん!」」

 

他の少女達もアンソニーと呼ばれた男の元へと走っていく。

 

「エルマール!エミリーとアメリアもっ!皆、無事だったのか!それに、あんたが背負ってるのは…おぉやっぱりオリヴィアさんじゃないか!気を失ってるみたいだが大丈夫なのか!?」

 

 

余程興奮しているのだろう早口に質問される、大丈夫だと伝えると明らかにホッとしていた。

 

 

「そうか…おいっ!この事を急ぎ団長に知らせろ。…皆んなすぐにでも家へ帰りたいだろうが、少し着いてきて貰えるか?」

 

 

騒ぎを聞いて駆けつけた別の兵士へ指示を出すと、俺達は門に併設されている彼らの休憩所へと案内される。

 

 

道中、オリヴィアさんが目を覚まし混乱した彼女に首を絞められた…苦しくも何ともなかったけど普通の人なら窒息してたんじゃないかな(震え

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんどぉにずみませんでしたぁ〜!」

 

休憩所の中は簡素な作りで椅子と机が置いてあるのみであった。全員が座ったタイミングで、改めてアンソニーさんとオリヴィアさんへ事情を説明する。

終わったと同時にオリヴィアさんに猛烈な勢いで謝られた。

 

 

「まぁあんな体験の後じゃ誰だってそうなる、先程のことは気にしないでください。」

 

「<<マスターはお人好しですね>>」

 

 

その後もすみませんすみません、と泣きながら謝ってくる彼女を何とか宥める。アイジスさんや、悪いことしてないのに罪悪感が半端ないんだ…

 

 

「成る程、な。気づいたらあの森に居たと…その話は後で詳しく聞くとして、先ずは礼を言わせてくれ。」

 

 

そう言ってアンソニーさんは頭を深々とさげる

 

「ありがとう。あんたが居なかったらオリヴィアさんとこの子達は死んでたかもしれない、兵士ではなく個人として礼を言わせてほしい。本当にありがとう…!」

 

 

アンソニーさんはどうやら良い人の様だな。オリヴィアさん同様慕われているのが分かる、それにしても……

 

 

俺の思考を中断させたのは近付いてくる足音、かなりおおきな音を立てながら何人かがこちらへ走っている様だ?

 

 

 

「リィリィィーナァァァァァァアアアア!!!」

 

 

 

リリィーナの名前を大声で叫びながら立派なちょび髭にスキンヘッドの巨人が現れた、いや、部屋に入ってきた

巨人の後に続いてワラワラと人が入ってくる。

 

 

「エル!エルマール!」 「あぁエミリー!アメリア!」

 

 

彼女達の家族だろう目に涙を溜めて娘の前へと走ってきた

 

 

 

「父上!?」

 

「お母さん!お父さんっ!」

 

「「おと、さん…ぐ、苦しい…!」」

 

 

皆、抱き合い涙を流して無事の再開を喜んでいる。巨人も泣いている。

アンソニーは、何故かあちゃーという顔をしているが潤んだ目で微笑んでいる。

 

 

「<<マスター>>」

優しい声が聞こえる

 

 

「あぁ…アイジス、そうだな。」

微笑みながら目の前の光景をみる。彼女達と同じように涙は"もう"流せないが…この世界で出来ることもあると、そう思えた。

 

 

 

ある程度落ち着いた所で再度オリヴィアさんの泣き謝罪が始まりどの家族も快く受け入れたり、ご家族の方に取り囲まれて感謝を伝えられたり、世間話が始まったり、巨人(この街の兵士たちのトップらしい)に抱きしめられたりした。

あのちょび髭め、俺は男に抱きつかれて喜ぶ趣味なんてないぞ!

 

 

その際、色々と話を聞きたいから明日の昼ごろ此処まで来て欲しいと言われたが、まぁ予定も特にないし別に良いか。

 

 

 

 

「ムサシさん、この度は本当にありがとうございました。」

 

 

この人達は筋肉ムキムキなのがトムさん、金髪美人なのがアベリィさん。エルマールのご両親である。

 

 

「いえいえ、もう充分受け取りましたよ。それより娘さんを早く休ませてあげて下さいね。」

 

何だかんだ結構無理をしてるだろうしな

そんな話をしているとエルマールが俺に聞いてきた。

 

 

「む、ムサシさん!あの今日は泊まるところとか、きまってないですよねっ!」

 

 

「あー、…そういえばそうだったな。」

どうしようか、お金持ってないし最悪野宿かなぁ

 

 

「あ、あの…よければ!わたしの家に泊まっていきませんか?ムサシさんさえ良ければですけど、…泊まってくれたら嬉しいなぁ…なんて……。」

 

「おぉ!エル、それはいい考えだ。どうですかムサシさん、ウチは宿屋だし部屋なら空きがある。もちろん今回のお礼ってことで代金は入りません。」

 

 

「いや、そこまでお世話になるわけには…。」

 

 

「私からもお願いします。きっとエルも喜びますわ。」

 

 

お、お母さんっ!と何故かエルマールが顔を真っ赤に

しているが、さてどうするか。

 

 

「<<私は御三方の提案に同意します>>」

決まりだな。

 

 

「判りました。それでは申し訳ないですがお世話になります。」

 

 

そう言って頭を下げた。

正直かなり内心ホッとしている

 

 

「ムサシー!暫くこの街にいるんでしょ?今度案内してあげるから、また後でねっ」

 

「ばいばーいムサシぃ〜。」

 

「ムサシさん、また色々と話をしよう。次会えることを楽しみにしている。」

 

 

 

 

最後に、リリィーナとエミリー・アメリア達に挨拶をし俺達は一路エルマールの自宅兼宿屋へと向かうことにする。

 

 

 

 

 




ファンタジーにチョビ髭ハゲは必須


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Operation6.推測と準備と

パラパラと頭の上から破片が落ちる…俺こと武蔵 卓也(24歳)は現在、壁に埋まっている。というかめり込んでいる

 

 

状況を説明する為に時間を遡ろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この"ポタニカ"の街に着いた翌日、俺達は約束どおり昨日の休憩所に向かって歩いていた。

 

 

 

「ムサシさん、ムサシさんっ。この街の市場は王都を除けば1番大きいと言われているんです!何でも揃う凄いところなんですよっ」

 

えへへ、とハニカミながらエルマールが色々と教えてくれる。宿を出る際、不慣れな俺の為に案内役を買って出てくれたのだ。休憩所までの順路はデータに登録していたのだが、彼女の気遣いが嬉しかったので有難くお願いすることにした。

 

 

「(王都かぁ、やっぱりお城とかあるんだろうなぁ。1度見てみたいな)」

 

 

「<<私も目視で確認したことが有りませんので強い興味があります>>」

 

アイジスもこう言ってるし機会があったら行ってみよう。

 

 

 

 

「こんなに店があると、何処に行けばいいか迷いそうだな。エルマール、後でオススメの店とか教えてくれるか?。」

 

 

「はいっ!勿論です、わたしのおすすめはですね…」

 

 

昨日よりも明るく感じるのは気のせいではない、今のエルマールの姿が本来の彼女なんだろう。

 

 

 

そんなエルマールの服装はというと

 

肘までの茶色いジャケットに白いワイシャツ、下は膝までの黒いパンツ。女の子らしさを感じながらも活発な印象をも与える服のチョイスだ。

長い金髪と合わせて正直、とてもよく似合っている…昨日も思ったけどこの娘は将来美人になるだろうなぁ

 

 

 

 

ちなみに俺の今日のファッションは、「倉庫」から防弾防刃仕様の茶色いマントを出してアーマーの上から羽織っている。腰には念のためのブレードとハンドガンを1丁、背中にカイトシールドを背負っている。

 

思ったより鎧を着けてる人や武器を持った人が多く歩いているので、余り目立っていないようで良かった。良く見るとかなりメカメカしいんだけどね…

 

 

たわいもない話をしていると、休憩所まで着いてしまった。

 

 

「おぉ来てくれたか。わざわざ済まないな、中に団長がいるから入ってくれ。エルマールは…此処で俺と留守番だ。」

 

 

どうする、と視線だけで問いかけるとここで待っていてくれるとのことなのでアンソニーさんに任せて俺は1人で中に入る。

 

 

「よぉ待ってたぜ」

 

 

中に入ると昨日の巨人(団長)が声をかけてくる。その他には温厚そうなおじさんとオリヴィアさんが居た。

 

 

「えーと、お待たせしました。」

 

「<<お待たせしたのでしょうか>>」

 

時間の指定とかなかったから良いとは思うよ?

適当に返し、同じく席に座る。

 

 

「よし、全員揃ったな!知ってるとは思うが、俺の名前はローガン・ガルシアだっ!可愛いリリィーナの親であり、ついでにこの街を守っている兵士達の長でもある。ムサシとか言ったな?娘が世話になったなこの礼は必ずするから楽しみにしておれっ!」

 

 

 

ガーハッハッハッって、笑っている巨人改めローガンさん。どんだけ娘が好きなんだよ…!今の仕事をついでって言い切ったぞ。それと隊長じゃなくて団長なんだなと不思議に思うが、あれか、局長みたいなもんか。

 

 

 

 

 

 

 

「僕の名前はオリバー・ポタニカ。位は侯爵、一応この辺りを治めている領主だ。それと学園の理事長のようなこともしている、まぁそっちは形だけみたいになっちゃってるんだけど…とにかく、あの子達を救ってくれてありがとう。僕に出来ることなら何でも言ってくれ。」

 

 

 

温厚そうなおじさんは領主だった。えらくフランクだなぁと思ったが非公式な場だからね、っとウインクしながら言われた。

領主とか言われてもイマイチぴんとこないのは現代人だからだろうか?オリバーさんと握手を交わすと、次はオリヴィアさんみたいだ。

 

 

「改めましてっ、私はオリヴィアと言います!オリバー様が理事長を務めています学園に最近赴任してきました。この度は本当にありがとうございまじだぁ!!」

 

 

あちゃーやっぱりダムが決壊しちゃったか…オリヴィアさんを宥めて俺も自己紹介をした。

異世界から来たというのと身体のことは伏せたが、それ以外はほぼ伝えてある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずローガンさんが切り出した

 

 

「さて、昨日の事件だがぁ…オリヴィア、お前さんの責任は大きい。まず第一に安全に対する配慮が足りなさ過ぎる!こいつが居なけりゃ下手すれば全員死んでた所だぞっ!」

 

 

ローガンさんの言葉にオリヴィアさんは顔を青くして俯いている。

 

 

 

「オリヴィアくん、君の良いところは人を疑わないことだろう。」

 

でもね、とオリバーさん

 

「時には疑問を持つことも大事だ。考えることをやめてはいけない、君は教師なんだからその事は憶えておいて欲しい。」

 

 

 

オリヴィアさんがはい…と小さく震える声で返事をした。涙を流さないように堪えているのが痛々しいな

 

 

 

 

「(さて、そろそろ助け船をだしますか。)」

 

 

「<<周囲に人の反応はありません>>」

 

 

「(あいよー)…それでお2人共、本当の所は?」

ローガンさんとオリバーさんにそう聞くと。

 

 

 

「「巻き込んでしまって本当に申し訳ない(なかった)!!」」

 

 

心底申し訳なさそうな顔をしてたからこんな事だと思ったわ。一応言っとかなきゃいけなかったんだろうなぁ

突然の謝罪にオリヴィアさんがあたふたしているのは置いとく。

 

 

「で、その心は?」

 

 

「…学園の授業では通常、実習のような外に出る場合には僕か校長の許可が必要だ。だが、僕達は許可を出すどころか話すら聞いていないんだよ。」

 

 

真面目な顔でオリバーさんが語り出すのは、今回の件

の裏…大人の裏事情ってやつか。

 

 

 

 

 

「これだけならまだしも、冒険者や兵士の方々…"何かあった時"に対処できる人を1人もつけないのはおかしい。こちらに来て間もないオリヴィアくんならルールを知らなくても無理はないが、いきなり外での実習は頼まないよ。…明らかに誰かの意図がある。」

 

 

「ウチの奴等も、正式な書類があったてーから通しち待ったらしい。そんなもん、そんじゃそこ等の奴じゃ用意できねぇだろう。もちろんオリヴィアの嬢ちゃん含めて、な。」

 

 

 

「その理由にも検討はついているんですね?」

 

 

「あぁ、目的は僕とローガン…もしくはこの街自体だろう。エルマールは僕の姪だし、リリィーナはローガンの娘。エミリーとアメリアも大商人の娘だ、もし彼女達が死んでいたら最悪の事態になっていただろう。」

 

 

オリバーさんとエルマールは親戚だったのか、気づかなかった…エミリーとアメリア、あの2人も中々に凄いんだな。

 

 

 

「<<やはり、精神的な動揺と混乱を狙っていたのですね>>」

 

「(あぁ。まぁ、"下準備"としては効果的だからな。)」

 

 

 

俺としては詰めが甘いと感じるが、何とも言えない。

危険であることには変わらないだろう。

 

 

 

「その…黒幕の目星はついてるんで?」

 

 

「君は落ち着いているね…。オリヴィアくん、一体誰から書類を受け取ったのかな?」

 

 

「あっ…えっと。カレブ・キャンベル子爵様から、です。」

 

 

オリヴィアさんがおずおずと答える。漸く事態が呑み込めてきたようだが困惑の表情だ。他の2人はやっぱりかと言う顔をしている、さっきのは確認という感じだったのだろう。

 

 

「最近の男爵はあまり良くない噂を聞く、できれば彼の事は今日中に片付けたいんだけど…今は信頼できる人手が足りていない。ムサシくん、良ければ協力してくれないだろうか?」

 

オリバーさんが力を貸してくれと提案してきた。

一応は信頼してくれているのかな?

 

 

「<<如何致しますかマスター>>」

 

「(おつかいクエストは嫌いだけど、今回は乗るしかなさそうだな…それで良いかアイジス?)」

 

「<<肯定であります>>」

 

 

 

 

「オリバーさん、微力ながら協力しましょう。ですが、今回の報酬は後で考えます。それでもいいですか?」

 

 

 

「ああ、僕に出せる物であれば問題ない。それで宜しく頼むよ。」

 

 

再度オリバーさんと固い握手をする。

するとローガンさんが立ち上がり俺の背後へ

 

「あれだよな〜どの程度のモンなのか試さないとだよなぁ〜。おぉ!そうと決まれば行くしかないな!」

 

 

襟首を掴まれズルズルと引きづられていく

「HQ!HQ!撤退を許可してくれ!」

 

「<<撤退は許可できません>>」

 

 

笑っているオリバーさんと呆気にとられているオリヴィアさんを残しガーハッハッハッと外へ連れられていった

エルマールは止めようと頑張ってくれたが叶わずちょこちょこ着いてきた、アンソニーさんは最初姿が見えなかったが気づいたらエルマールの横にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして冒頭に戻る。

 

近くの訓練場だという場所でローガンさんと対峙した直後に拳が飛んできて、訓練場を囲っている壁にめり込んでいたわけだ。

あれ、現実に戻って来ちゃった…

 

 

 

 

アーマー凹んでないかな、大丈夫かな

 

 

「<<損傷は軽微です>>」

 

 

「むっ。どうするか…格闘技とかやったこと無いぞオレ。」

 

 

「「<<マスター、銃器の使用を推奨します>>」

 

 

「悪いが今回は無しだアイジス、怪我をされると色々と不味い。」

 

 

 

 

それに今回は腕試し、相手が武器を持ってない以上こちらも使うことはできない。なので装備も倉庫の中だ

 

 

「おいしょ!っと」

 

力を込めて壁から抜け出すと頭を振って破片を落とす。ゆっくり歩いてローガンさんの前に立つと目を睨む、俺より頭1つ分高いので見上げる形になってしまうが

 

 

 

「アレを食らって立つたぁ随分と頑丈だな!ガーハッハッハッ!!」

 

 

若干イラっときたので笑ってる所へ前蹴りを食らわすと同じく吹っ飛んでいく。

 

 

「<<素晴らしいキックです>>」

 

「そいつはどうも!」

 

追い討ちをかけるために未だ煙が立ち込める方へと走り出す。咄嗟にサーマル(熱線映像)に切り替えるが見当たらない!

 

 

「いない?一体どこに…」

 

「<<上空に反応あり>>」

 

「上かよっ!」

 

 

何時の間にか真上には右腕を振りかぶったローガンさんがいた、ナイスだアイジス

 

 

 

「死ねや!オラァ!!」

 

おい!死ねって言いやがったなこのハゲ!!

殴りかかってきた右の拳を左の手の平で受け止める、強い衝撃はあるがそれだけだ。

そのまま相手の拳を握りしめ地面へと叩きつける。一応逆の方向へも叩きつけておく。

 

 

「まだ、やるかい?」

 

 

「いいや、止めておこう。流石にこれ以上は支障が出ちまう。」

 

 

勿体無いがな!っと豪快に笑いながら言うがこっちとしては堪ったもんじゃない。

 

 

「<<お疲れ様でした>>」

 

「あぁ…ありがとうアイジス。」

 

 

 

 

漸く終わったとホッとしていると訓練場の入り口からエルマールとアンソニーさんが走ってくる。

 

 

 

 

「ムサシさん!お怪我はありませんか!?壁にドカーンって当たってましたがっ」

 

 

 

身振り手振りで聞いてくるが、可愛いくて笑いそうになってしまう。

 

「大丈夫だよ。俺の事よりローガンさんを心配してあげてな。」

 

 

 

「ローガンだ、その変な敬語もいらんから普通に喋れ。エルの嬢ちゃん、俺に何時ものヤツかけてくれ!」

 

 

 

「エルマール、この馬鹿兄貴はほっといてもいいんじゃないか?」

 

 

何時ものことなのかアンソニーさんは呆れ顔だ。ホント似てない兄弟だな

 

 

 

「いや、でも。悪気はないですし…ローガンさんジッとしててください。」

 

 

 

何時ものやつ?と疑問に思っていると目をとじたエルマールから淡い光が溢れ出す。

 

「"ヒール"」

 

彼女がそう呟くと"ローガン"の身体を光が包む。光が収まった後、擦り傷があった場所は綺麗さっぱり何もなかった

 

 

 

「お、おぉ!魔法だ…魔法だよ、これっ」

 

「<<魔法、大変興味深いです>>」

 

俺達が感動に震えていると呆れたような顔のローガンがやってきた。

 

 

 

 

「お前さんは何を感動してるじゃい…。ほれっ、これを受け取れ。」

 

 

 

そう言って黒いカードを投げてきた。眺めてみるが特に何もない

 

 

「そいつは一部の権力者が発行できる特別なギルドカードでなぁ、そいつがあれば色々な所で融通してくれるという便利なもんだ。昨日と今回の件での頭金ってことでオリバーが寄越した、一応金も入れておいたから、ヒマな時にギルドへ顔をだせ。」

 

 

 

「また厄介そうなもんを…まぁ、ありがたく受けっておくよ。」

 

金もないしなぁ。

もらったはいいが、この世界の物は倉庫に収納できないんだよなぁ…とりあえず腰に引っ掛けておこう、うん。

 

 

 

するとグイッと肩を組まれた。

エルマールとアンソニーさんが話しているのを確認するとローガンが小さく声を出す。

 

 

「やっこさんの所へ襲撃をかける、今夜だ。お前さんには先んじて中へ潜入し証拠になりそうなものを抑えて欲しい、なければ子爵本人でもいいぞ。時間差で正面から俺と兵士が突入する。どうだやってくれるか?」

 

 

まぁ妥当な作戦か、明らかに潜入とか向いてなさそうだし。それ以外にも理由はあるだろうが問題ない

 

 

 

「潜入することはなるべく、誰にも知られない方がいいんだよな?」

 

 

「あぁ、"何処から"漏れるかわからんからのぅ」

 

 

「"あんた達"の方は大丈夫なのか?」

 

 

「…何とも言えんが俺とアンソニーがいるからある程度は問題ない、だが俺たちだけだと逃す確率もあがっちまう。」

 

 

 

「成る程ね…。」

 

答えは決まってる。できることはやろうと決めたんだ、やってやろうじゃないか

「<<マスターの意思を支援します>>」

 

 

「引き受ける。どうなるかは判らんが、俺(達)がやってみるよ。」

 

 

 

細々としたことも決め、準備もあることだし一旦エルマールと宿へ帰ることにする。

 

 

 

いそいそと部屋へ戻り準備を進める事にする……。

 

 




ロボとサイボーグの違いとは何か…いやロボだ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Operation7.機体と潜入と

時刻は夜の8時、俺たちは準備を済ませ再び休憩所へと戻ってきた。ちなみに、この世界の日時は元の世界と同じで365日24時間だったりする。

 

 

既に居たローガンへ挨拶もそこそこにある物を渡す。準備した物の1つ、通信機だ。倉庫からパーツを出して作製してきた、アイジス曰くこの街なら何処に居ても繋がるとのことだ。

今回の作戦で活用できるだろうから、ローガンへ使い方を教え込む。

 

 

「お前さんは何でこんな魔道具を持ってやがるんだ…。ま、まぁいい。おいムサシ、そろそろ行けそうか?」

 

 

「問題ない、他の兵士には間違って俺を斬らないように言っといてくれ。」

 

それだけ告げると、

ヒラヒラと手を振って夜の闇へと紛れていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子爵の屋敷までは特に何事もなく到達できた。

 

潜入する前に今回の装備の確認だが、装甲をギリギリまで薄くし動き易さと特殊機能が使えるよう調整した

潜入用に作った機体「FG-Sneak」で行くことにした。今まで使っていた「FG-Proto」だが、構成を記憶してあるので好きな時に換装できる。

 

カラーリングは黒で統一し、メインアイは赤。

武器は、左腿にサウンドサプレッサー付きの「MK22 Mod0」改良済みなので(サプレッサー含め)強度も上がっており、音もほぼ消音レベルだ。

腰には「高周波ナイフ」恐ろしい切れ味の近接武器、この2つのみである。

 

 

 

さーて、確認も終わったしそろそろ行きますか。

「<<ミッションスタート>>」

 

 

子爵の屋敷はぐるっと高い塀に囲われている、門の所には子飼いの兵士がおり正面からは厳しそうだ。

 

 

一先ず門番から見えない所から、ジャンプで塀の上へと登る。城壁レベルになると1回では無理だがこの塀の高さなら余裕だ。

 

 

潜入用「FG-Snake」の性能のお陰でほぼ音もなく塀の中へと降りることができた。

 

巡回の兵士をやり過ごし屋敷裏口の横へと移動する

 

 

 

「<<スキャンを開始します>>」

 

アイジスに屋敷をスキャンしてもらい、集めた情報を統合しディスプレイに屋敷の見取り図を展開する。

レーダーと合わせると、何処に誰がいるかが丸わかりだ

 

 

「(この2階にいる2人が怪しいかな?)」

 

 

「<<可能性は限りなく高いでしょう>>」

 

 

「(よし、そこへ向かおう。見つからず尚且つ迅速に行動しよう。アイジス、諸々のサポートは任せるよ。)」

 

「<<了解、お気を付けて>>」

 

 

心強い相棒の返事を受け、早速裏口の鍵を特殊機能"解除"で開ける。これが特殊機能の1つ、トラップや鍵を解除できる機能だ。

 

 

 

念のため目視で確認してから中へと入る

「(ここは食堂か…さて、先ずは階段へ行くか。)」

 

 

「<<ルートを表示します>>」

 

階段へのルートが左上の所へ表示される、案内に従い慎重に動き出す。屋敷の中は魔道具?なのか光が常に灯っていて明るい、これは注意が必要かな。

 

 

「<<進行方向より3名接近してしきます>>」

 

「(了解っ、この部屋の中は?)」

 

「<<生命反応ありません、クリアです>>」

 

 

素早く近くの部屋へ入り様子を伺うとそのまま通り過ぎて行った。最悪、潜入(物理)になるかもしれんが気をつけていこう。

 

 

 

その後も上手く物陰に隠れたり部屋を通り抜けたりしながら階段へとたどり着いた。

 

 

「(此処が1番見つかる可能性が高いよなぁ)」

 

「<<間も無く先程の方達が戻ってきますが、如何しますか>>」

 

「(そりゃ、勿論こうするのさ)」

 

 

 

そう言って壁に張り付いて上へと移動していく。これも特殊機能だ、壁や地面問わず張り付いて移動することができる。

 

誰かが見ていたら間違いなく気持ち悪がられるだろうが動きで2階へと到達した。

 

 

 

 

2階に巡回している者はおらず、スムーズに目的の場所へとたどり着く。壁に小さな穴を開け部屋の中へと触手をのばす、勿論カメラ付きだ。そして俺は扉付近で待機していると…

 

 

 

 

「馬鹿者!失敗しただと!?わざわざ儂が手を回してやったというのに…書類も!魔餌も!どれだけの危険を犯したのか判っておるのかっ!!」

 

 

 

「こちらとしてはアンタの指示通りに動いただけなんだが、周りくどい事をせずサッサと殺しときゃ良かったんだ。」

 

 

 

「えぇい黙れ!貴様の様な奴に儂の崇高な思考が理解できるものかっ。高が小娘5人始末もできんくせに!まぁよい…直ぐにあの、生意気なオリバーを……」

 

 

 

 

これ確定ですわ(遠い目

「<<良かったですねマスター>>」

 

うん、ありがとう…

取り敢えずローガンへ連絡しよう、触手は伸ばしたまま扉から離れる。

 

 

 

「こちらアルファ、HQ応答を頼む。」

 

 

「うぉ!?ムサ…あー、アルファ?こちらえーちきゅー…面倒くせぇなーおいっ!とっとと状況を説明しやがれ!!」

 

 

 

「はぁ…、子爵は黒だ。俺は今から確保しに行くから適当に突入してくれ、以上。」

 

 

「判りやすくて良いじゃねぇか!こっちは任せておけっ!」

 

 

ガーハッハッハッと、ローガン。通信機渡す人選ミスったなぁ…

 

「<<ノーコメントです>>」

 

 

 

 

「…アイジス、戻してくれ。ーー15秒後に突入する」

 

 

「<<了解、戦闘態勢へ移行します>>」

 

 

 

ガシャっとヘルメットが装着されメインアイから赤い光が漏れる。腿からMK22を引き抜き、準備完了。扉を蹴破り中へと入る

 

 

 

中には肥った豚顏の男と、細身で髑髏顏の男がいた。

挨拶がわりに2人の膝を撃ち抜いておく。

 

 

「ぎゃぁぁぁあああ!?わ、わしの脚がぁ!儂の脚がぁああ!!」

 

「ぐう…!?だ、誰だっ!」

 

 

 

 

肥った男は痛みに耐えられずのたうち回っているが、髑髏顏の方は悲鳴もあげずこちらを睨んでいる。

 

 

 

「今晩は、名乗るつもりはないからーー大人しくしてろ。…あんたが子爵さん?」

 

銃口を髑髏顏の男に向けつつも、目線は肥った男へ。

 

 

「そ、そうだ!儂がカレブ・キャンベル子爵だ!貴族の儂にこんな事をして、た、タダで済むと思うなよっ!!」

 

 

そーかそーか、とツカツカ近づいていき両手から電気を流して先ずは髑髏顏を気絶させる。…これが特殊機能その3、これを喰らうと2日は寝たきりらしい。

次に子爵へと近づいていく。

 

 

「ま、まてっ!金が欲しいんだろ?んー?それとも女か!好きなだけやるから助けあばばばばば」

 

 

同じ様に気絶させて制圧完了。慈悲はない

 

 

「ローガン、こっちは無事終わったぞ。」

 

 

「うぉお!?ムサシか!速えなもう終わったのか。終わったならとっとと戻ってきてくれい。」

 

 

 

帰還命令が出たので、適当に返事をしてから2人を肩に担ぎ部屋を後にする。来た時とは違い正面玄関から出ることにする。

両手が塞がってるので"仕方なく"蹴破り外に出るとビックリした顏のアンソニーさんがいて、入れ替わりで屋敷の中へと入っていった。

 

 

 

俺は、門の近くにローガンを発見したのでそちらへ歩いて行く。

 

 

「お届け物でーす。」

ドサリと荷物…もとい担いできた2人を降ろす(落とす)。

 

 

 

「おぉムサシ、待ち兼ねたぞ!……なぁ、こいつ等大丈夫なのか?偉くグッタリしとるが。」

 

 

 

むっ、電流下げたし体調も一応確認もしたから問題ない筈なんだが。

 

 

 

「そんな事よりも、俺の役目は此処までで良いか?」

 

 

「むう、そうだなーもう充分か。…今回は世話んなったなぁ、この礼は後日してやるから首を洗って待っておれっ!」

 

 

 

ガーハッハッハッって、礼の言い方がいちいち怖いわこのおっさん!

 

 

 

 

お許しも出たので宿へと帰ることにする。が、誰にも言わずに窓から出て来てしまったので、部屋に着くまでが潜入ミッションです。

 

 

 

 

「<<戦闘態勢を解除します。お疲れ様でしたマスター>>」

 

 

「あぁ、アイジスもお疲れ様。」

 

 

 

 

 

 

 

そして帰った俺たちは、あっさりとエルマールに見つかり24歳にもなって叱られてしまった…

 




あの動きの為だけに階段をつくった


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Operation8.ギルドと邪神と

 

 

カレブ・キャンベル子爵を捕まえてから2日が立ったー

 

 

オリバーさんやローガンは後処理でかなり忙しく、子爵(元)の回復を待つ間は買い物をしたりエルマールにオススメの店を教えて貰ったりと、ゆったりとした時間を過ごすことができた。

 

 

 

 

「すんませーん!ギルドカード?の確認をしたいんですが…どうすればいいですかねー」

 

 

「<<どうすれば宜しいですか>>」

 

 

今日は朝からギルドに来ている。後回しにしていたブラックなカードの確認しにやってきたのだ。わ、忘れてたわけじゃないぞ後回しにしてただけで(震え

 

 

 

 

 

 

「はい、ギルドカードの確認ですねー。どのギルドでしょうか??」

 

 

「…どのギルド?」

 

 

 

 

金髪猫耳の受付嬢に詳しく話を聞いた。ちなみに獣人族は獣の特徴を有していて、魔族はそれ以外。例外として精霊族と呼ばれる種族がいるらしいが、彼等は特殊らしい。かなりアバウトだが大まかに区別しているから問題ないらしい。種族による差別もないので普通にこの街でもよく見かける。

エルフは人族だ、まだ見たことはない。

 

 

 

 

話が逸れたが、美人な受付嬢曰くギルドは「冒険者ギルド」「商業ギルド」「職人ギルド」の3つからできていて、討伐や護衛など戦闘を行う人なら冒険者ギルド。市場など商店の経営をしている人は商業ギルド。物を作ったり研究する人が職人ギルド。と言ったように目的別に分かれているらしい。

 

 

 

「自分で作って売りたいのなら"商業ギルド"と"職人ギルド"を兼任することもできます。そして今いる所が総合ギルド…要は初めて来た方への案内所ですかねー。」

 

 

 

「<<成る程。ですが私達が何処に行けばいいか判りませんね>>」

 

仕方ないので貰ったカードを出して聞くことにする

 

 

 

「すんません。このカードなんですが…」

 

 

「ぶっ、ブラックカード!?」

 

 

 

俺のカードを見た途端、受付嬢が大きな声を出す。その声に同じフロアに居た人が一斉にこちらを見ると、同じくカードを見て「ブラックだ…」「本物か!?」「ザワザワッ」している。

 

 

 

「<<素晴らしい注目度の高さです>>」

 

 

「(やっぱり厄介な物だったか…。)」

初対面で何つー物を渡すんだっ。受付嬢の顔がひきつってるぞ

…アイジスさんは嬉しそうだ。

 

 

 

「こ、こちにゃは冒険者ギルド、ですね。冒険者ギルドへは彼方から行けます、が、落し物とかじゃー」

 

 

「ないですね。」

人の視線が痛いので、余り長居をしたくない。すたこら冒険者ギルドへ向かう

 

 

 

 

 

 

「ぶ、ブラックカード!?!?」

 

 

冒険者ギルドでも同じことが起こったが、今度は少しはふくよかなおじさん職員だった。

2度目なので華麗にスルーしつつ話を進める

 

 

 

「それで、このカードについて確認したいんですが。」

 

 

「は、はぁ…少々お待ちください。」

 

 

カードを渡すと変な道具にカードを置くおじさん。あれ、魔導具かなぁ

 

 

「…では、お名前と此方に手を置いてください。」

 

 

言われるがままに手を置くと何やら光だした

 

 

「<<発光を確認。マスター爆発物の危険性があります>>」

 

「(その危険性は限りなく低いから!大丈夫だからっ)」

 

 

爆発することもなく、無事に登録することができたようだ。そして、基本的なカードの使い方と冒険者ギルドについて教えて貰った

 

 

冒険者ギルドはランク制でFランク〜Sランクまであり、クエストを完了させたりでギルドポイントを集めていくと段々と上にいける。掲示板に貼ってある同ランクのクエスト、もしくは指名依頼を受けるか、倒した魔物をギルドに持って来れば良いとのこと

 

カードは、色々表示されることとランクによってカードの色が違うらしい。ブラックはSランクでも中々成れず殆ど居ないと言われた。

 

 

この世界でもブラックカードは特別なんだね

 

 

 

現在の内容は

 

名前:ムサシ タクヤ<<冒険者ギルド>>

ランク:ーー

クエスト:なし(非表示)

ギルドポイント:ーー(非表示)

残高:100万G(非表示)

 

 

 

1G=1円と換算してくれ。100万Gとか景気良すぎだろ!気軽にポンっと出す金額じゃないぞ(震え

非表示にできる所はしといた。ちなみにこのカード本人しか使えないから安全なんだと

 

 

 

「これ以上の事は私ではちょっと…ギルド長に聞いてみませんと。ムサシさんが来たらお呼びしろと仰ってたので、お時間宜しければ会っていかれますか??」

 

 

まだ何かあんのかい…若干げんなりしつつも取り次いでもらいギルド長の待つ部屋へと行くと

 

 

 

 

「ガーハッハッハッ!よく来たな!待っておったぞいっ!!」

 

 

 

出会い頭に殴ってしまった俺は悪くないと思う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「で、何でローガンがここに居るんだ?あんた兵士の取り纏めじゃなかったのか。」

 

 

「実はなぁ、ここのギルド長がちと長旅に出ててな、俺が代理を任されているのさっ!」

 

 

「人選ミスだろう!」

 

「<<人選ミスですね>>」

 

ほら2体1だからこっちの勝ち!全くギルド長は何を考えているんだか…

 

 

 

「まぁまぁ、彼だってやればできる男なんだよ?やればだけどね。」

 

失礼するよ、っと言いながらオリバーさんが入ってきた。

 

 

「なんでオリバーさんが、ここに?」

 

 

「ムサシ君を探しててね、エルに聞いたらギルドに行ったって言うから慌てて追いかけてきたのさ。いやー行き違いにならなくて良かった。」

 

 

「あぁ、オリバーさん。ブラックカードの件ありがとうございました。」

 

貰い物だし一応お礼は言っとかなきゃな。

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

「えっ??」

 

 

「<<笑うポイントなのでしょうか>>」

俺、可笑しなこといったかな???

 

 

 

 

「…ローガン、僕は彼にギルドカードを渡してくれとしか言ってないけど?」

 

 

「言ってたなぁ、だからコイツに合うギルドカードを渡しといてやったぜ!」

 

 

 

オリバーさんが頭を抱えている…取り敢えずローガンをもう1発殴っておく。

 

 

 

「ま、まぁいい。それよりもムサシ君本題に入ろうか。」

 

 

 

「本題…カレブ・キャンベルのことですか?」

 

 

「その通りだ、ローガンは既に知っているが彼の体調が喋れるくらいには回復してね。色々と"お話し"してきたからその報告にね?」

 

 

報告で領主が来るのか…まぁ、余り聴かせられる話じゃないか。俺は良いのか?いいのか

 

 

 

「彼奴の屋敷から見つかったのは禁止品の"魔餌"や、その他の横領・収賄・脅迫果ては盗賊団との繋がり……それら全ての証拠を見せたら、面白いぐらいに喋りやがったぜっ!」

 

 

「彼の目的は領主になりこの街を支配すること。そして彼の信じる神の教えを広めることだったらしいよ。」

 

 

 

彼の信じるってことはフォーマルハウト以外の神様ってことか。

 

 

「ふてぇ野郎だぜ!寄りにもよってアレを神様扱いするんだからよ!」

 

 

「アレ?邪神的な奴ですか??」

 

 

「そう言えなくもない、かなぁ。」

 

と、オリバーさんは一旦区切った後説明してくれた。

 

「元々昔から魔物やモンスターと呼ばれる生物はいたんだけどね、20年前を境に新種の魔物が現れはじめたんだ。その魔物っていうのが、なんと言えば良いのか…色々な生物を混ぜ合わせたような、兎に角、異形で嫌悪感を与える見た目でね……。それ等を生み出していると言われているのが彼の言う神だ。」

 

 

 

「新種は面倒くせぇし気持ち悪いやつばっかなんだよなぁ。その親玉を見たってやつの話じゃ、デカイ身体に脳味噌と触手を混ぜたこれまたヒデー見た目なんだってよ!」

 

 

うげっー想像したら気持ち悪くなりそうだわ。でも、ソレを知っているような気がする…アイジスなら判るだろうか?

 

 

 

 

 

「<<マスター御忘れですか>>

 

何かを忘れているような

 

 

 

 

「<<アイツの名前は>>」

「王都に居る"巫女"が神託を受けたらしくてね、その名前は」

 

 

 

 

嫌な予感がする

 

 

 

 

 

「<<アトラック=ナチャです>>」

「アトラック=ナチャと言うらしいよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づいたら両手に力が入り目を見開いていた

 

 

 

アイジスは戦場で、俺はゲームを通して。この世界では絶対に聞くはずの無かった名前

 

 

アトラック=ナチャ

 

 

 

 

「ODN」最後のボス。

全ての元凶と迄言われる災害

 

 

 

 

 

いるのか

 

 

この世界に?

 

 




銅貨、銀貨、金貨、王金貨があります。
銅貨=10G
銀貨=1000G
金貨=10000G
王金貨=1000000G
お金は活躍しないので大雑把です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Operation9.決意と勇気と

ここからアイジスは壊れていきます(良い意味で


アトラック=ナチャ

 

 

 

 

 

 

「ODN」の世界でのラストボス

出自・生体・目的等は一切不明。

この名前は科学者により架空の神から名付けられた。

 

 

突如日本に現れ、亡国へと追い込む。そして他の国々へも侵略を開始する。

 

 

 

 

 

 

「<<アトラック=ナチャは周囲のモノを取り込み、より強く効率的な兵を製造していたようです。その影響で日本は金属や機械などの一切が見当たらなかったのです>>」

 

 

 

そうなのか…ゲームでは知りえない事もアイジスは色々と教えてくれた。改めて、彼女の生きてきた世界がちゃんと存在しているのだと感じさせられた。

 

 

 

 

 

 

 

報告会が終わり宿へ帰ってきた俺たちは、先程聞いた名前…アトラック=ナチャについて話し合っていた。

 

 

 

 

「<<ヤツがこの世界に居るのならば、止めなければ危険です>>」

 

 

「それは判っているが、20年前だぞ?それに何処にいるかも解ってない!」

 

 

 

「<<それでも、私は行かねばならないのです。私はその為に作られましたから>>」

 

 

「アイジス…」

 

 

硬い決心に言葉を失う。この世界では数日、"日本"でも精々何百時間しか一緒に戦ってない相棒を前に俺はーー

 

 

「…アイジス。俺は帰れるなら元の世界に帰りたい。残して来た家族もいるし、友達もいる。だけど今はそれ以上にーーお前が大切だ。」

 

 

 

「<<マスター…>>」

 

 

 

「アイジスが居なかったら俺は絶対に死んでた、何度も頼ったし助けられた。感謝してる!力になってやりたい!…だから1人で背負いこむなーー俺とお前は正しく、一蓮托生だろ?」

 

 

 

「<<マスターっ>>」

 

 

「見つけても死んでるかもしれないし、どうなるのかも分からない。でも…それでも俺と一緒に居てくれるか?」

 

 

 

「<<ーー肯定でありますーー>>」

 

 

 

「そうか。なら…」

 

 

 

 

決意を胸に覚悟を決める。

 

「これからも宜しく頼むぞ相棒っ!」

「<<此方こそ宜しくお願いします、マスター>>」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして大きな目的が決まった。

更に相棒との絆も深まり何処から行くかーとか何日後に此処を出るかーと話をしていると、扉がコンコンっとノックされた

 

 

 

 

 

「エルマール…?」

 

「<<申し訳ありません、お伝え忘れていました>>」

 

話に夢中だったから仕方ないので特に問題ないよ、っと答えておく。

 

 

「ご、ごめんなさい。こんな夜遅くに…そのぉ」

 

 

何か言いづらそうにしているので、優しく先を促すと

 

 

「…この街から、出て行っちゃうんですか?」

 

 

そう涙目で聞かれた。

あー聞かれてたのか…

 

 

 

「<<撤退します>>」

アイジスさん!?早速1人にしないでっ

 

「<<申し訳ありません。私には遂行不可能なミッションです>>」

ぐぬぬぬっ…!アイジスさんにも不可能なコトがあったか…

 

 

 

「…ムサシさん。」

 

 

ぽりぽりと頭を掻きながらエルマールの眼をしっかりと見る。

 

「聞いてたのか?」

 

 

「ごめんなさい。少しだけ…」

 

 

「あぁ別に良い。困る事じゃ、ない……そうだな…もうすぐ俺はこの街を出て行く。」

 

 

 

「アイジスさんと一緒に、ですか?」

 

 

 

あ、やば

「あ、アイジスぅ?何だそれは〜?」

 

俺はロボットやぞ!何で声が震えてんだ(震え

 

 

 

 

「さっきアイジスさんっていう人と話してたんですよね。」

 

 

 

 

「えーと、それはぁ……スマン、秘密だ。」

別に話しても良いのだが、今は止めておいた方がいいな。混乱しそうだし、何となくそんな気がする

 

 

「そうですか…」

 

 

悲しそうな顔で俯きしばし沈黙、しかし顔を上げた時には何かを決意した表情で大きく息を吸ってー

 

 

 

 

「私も連れて行ってくださいっ!」

 

 

 

 

……。

「<<……>>」

 

 

 

 

 

 

「はぁ!?」

「<<…これは予想外です>>」

 

 

 

「駄目ですか??」

 

 

 

 

 

 

「(どうするアイジス?)」

 

「<<私はマスターの判断にお任せします>>」

つまり丸投げか。丸投げなのな…

 

 

 

「り、理由を教えて欲しい。一緒に来たいという理由を。」

 

 

「わ、私ももう14歳ですしこの街を出て広い世界を勉強したいと思って…そ、それにムサシさんを信頼してますからっ!」

 

 

顔をやや赤らめながらもハッキリと言い切るエルマール。それに対しての俺たちはと言うと…

 

「(ど、どうしようか。文化の違いはあれど凄く真っ当な理由だぞ!)」

 

結構混乱していたりした。

 

「<<しかしマスター、私達に着いてくるのは危険では?>>」

 

「(確かにな。いくら異世界といえどそれは流石に…)」

 

 

 

「あー、だが俺に着いてくるということは大変危険なことだ。いつ死んでもおかしくない旅なんだぞ?」

 

 

「危険がない所なんてありませんっ。む、ムサシさんこそ知らないことばかりで…近くで見てて危なかっしいです!」

 

 

「うぐっ!?」

「<<これは痛い所を突かれましたね>>」

 

危険と隣り合わせの住民は言うことが違いますわ。この娘出会い頭に死にかけてたもんな……説得力が違う

 

 

彼女にゆっくりと近付き目線を合わせ、頭に手を置いてやる。

 

 

「……エルマール、君の気持ちは分かった。だからこそ、両親や周りの人達とよく話して決めて欲しい。それでも一緒に来たいようならばーー3日後の朝、此処を出る時一緒に来て欲しい。」

 

 

 

そう言って今日はもう部屋に返す事にする。わかりました!と元気に返事をして戻っていくエルマール。さてさて…どうなることやら

 

 

「<<完全に負けてましたねマスター>>」

か、勝ち負けじゃないから(震え

 

 

 

 

静かに夜は更けていった




親の許可をとれれば連れてっても良いんじゃないかと思っています(適当


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間.旅立ちの前に

主発迄の2日間は準備と、知り合った人達への挨拶回りに費やした。

 

 

 

 

 

 

 

先ずはオリバーさんにアポを取るため自宅兼職場のお屋敷へ行ってきたがその規模は、小ちゃい城だあれは。アイジスも感心していた

 

 

その豪華さにしばし呆然としていると少しの時間なら今会えるとのこと。元々長居するつもりは無かったので執事さん?の後に続いてガシャガシャ歩いていく。

 

 

 

大きな部屋で暫し待つと、オリバーさんが入ってきた。

 

 

 

「やぁ、ムサシ君。キミが訪ねてくるなんて珍しいね。」

 

 

「お忙しい所失礼します。実は……」

 

 

 

俺たちとアトラック=ナチャの関係は伝えずに、ヤツを探すこととその為に明後日、この街を離れることを伝えた。オリバーさんは最初こそ驚いていたが、どこか納得した雰囲気で話を聞いてくれていた。

 

 

 

 

 

「そうか…私達があの話をしてから、キミの様子が変だから気になってはいたんだ。あえて理由は聞かないが、もう決めたことなんだね?」

 

 

「…はい。」

 

眼を逸らさずに頷く。するとオリバーさんは微笑んで

 

 

「わかった、と言っても最初から僕に止める気はないよ。その代わりじゃないけど、他の街に着いたらギルドには顔を出して欲しい。"そのカード"があれば僕からの伝言が何処にいても届くからね。」

 

 

 

返そうと思っていたのに先手を打たれてしまった…これじゃ返せないじゃないかっ

 

 

 

「…判りました。何かあったら直ぐ飛んで来ますから。」

 

 

 

期待してるよ、と笑うオリバーさんと固い握手をする。

 

「そう言えばっ…」

 

何か思いついたようで、オリバーさんが席を離れて本棚へ行く。帰って来た手には2冊の本があり此方へ渡して来た。

 

 

「これは…?」

 

「餞別って言うほど大した物じゃないけど。新種を除いた魔物が載っている"魔物図鑑"とアトラック=ナチャを目撃したという冒険者の冒険談だ。良ければ貰っていってくれないかい?」

 

 

前回の報酬ってことで有難く頂戴し感謝を伝える。やっぱり良い人だな。

思わぬ収穫にホクホク顏で俺たちは屋敷を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だと!?ムサシてめぇ…この街を出たきゃ、俺を倒してから行けや!!」

 

ローガンはいつも通りローガンだったので、思いっきりぶん殴っといた。

 

 

 

その後はアンソニーさん、オリヴィアさん、リリィーナ、エミリーとアメリアにもそれぞれ挨拶しておいた。

 

 

都合よくオリヴィアさんとアンソニーさんが一緒にいたので街を出ることを伝えておいた。

アンソニーさんには追加で「攻め過ぎても駄目ですが、言葉にしないと伝わらないことって…ありますよ。」と言うと分かりやすいくらい顔を真っ赤にして「そうだな」「しかし…」とぶつくさ言っていたがまぁ大丈夫だろう。

 

オリヴィアさんは相変わらずハテナ顏をしていたが。余談だが、この2人交際経験ゼロで互いの好意に気づいていないのである。次来るまでに進展してると良いなぁ

 

 

 

エミリーとアメリアは偶然街で会ったので街を出ることを話すと

 

「えー!ムサシ居なくなっちゃうの!?そんなの聞いてないよっ。」

「え〜ムサシィ〜許されざる行為だよぉ〜。」

 

2人してぶつくさ言っていたが、また帰ってくることお土産を用意して置くことを伝えるとコロっと態度が変わり

 

「「買い物はウチの店でして行ってねっ!」」

 

 

最終的には宣伝までしていった…商魂逞しい双子だ(震え

 

 

リリィーナのことを聞くと訓練場にいるとのことなので向かうことにする。

 

 

 

 

 

「そうですか…ムサシさん、改めてありがとうございました。またこの街に来た時は精一杯歓迎させてもらいますので覚悟しててくださいっ。」

 

リリィーナには歓迎楽しみにしてるってことと、頑張れお母さんと伝えておいた。

感動したのか全身をプルプルさせて

 

 

 

「誰がお母さんかーーー!!」

 

と流石に怒られたので、スタコラサッとにげて来た。

挨拶回りは大体終わってしまったので宿に帰りがてらギルドでお金をおろして買い物を済ませてしまうことにする。

 

 

行くのは勿論エミリーとアメリアの父親が経営している店だ。大きな店で基本何でも売っている、旅に必須な物も置いてあるので此処で揃えてしまう腹積もりだ。

 

 

店主のトーマスさん(エミリーとアメリアの親父さん)に事情を話すと必要な物を用意してくれたしかも定価より安く。この前のお礼だと言われ、悪い気がしつつも承諾することにした。

 

 

用意して貰った物は、寝袋、大きな布、毛布、食料エトセトラえとせとら

 

やや大荷物になってしまったが問題ない。料金を支払い礼をしてから宿へと帰ることにする。

結構高いものとか買ってしまったので残り90万G。それでもまだまだ余裕があるけどね。

 

 

 

 

部屋に荷物を置いてから、トムさんとアベリィさんの所へ行く。この2人にもお世話になったからちゃんと挨拶しておかないとな。

 

 

 

 

「そうですかぁ…エルがそんな事をねぇ。」

 

 

俺から話すべきでは無いとも思ったけれども、話しておいた。が、あの子も大人になったなぁって凄くほのぼのしておる。なんでさ…

 

 

「俺は彼女が行くと言うなら…連れて行くのはやぶさかでもなくもありません。ですが、ご両親とも話し合うべきだとも思いましてね。」

 

 

「…判りました。私達もあの子と話しをしてみたいと思います。」

「ムサシさん、わざわざありがとうございます。」

 

 

…何か楽しそうというか、悪い顔してないか?気の所為ということにしておこう。何か怖いし

 

 

「い、いや!こちらこそ何時もお世話になりっぱなしで…本当にありがとうございました。」

 

 

「ふふ…ムサシさん、私は貴方と一緒だというから落ち着いていられるんですよ?ムサシさんならエルを任せられると思っています。」

 

「おいおい、そこは私達だろう。」

 

「勿論、貴方のことを忘れたことなんて片時もありませんよ。」

 

「おまえ…」

 

「あなた…」

 

 

「えっと、お邪魔しました。これで失礼しますね。」

 

何か2人だけの空間が出来上がりつつあったので、そそくさと撤退する。

 

 

「…あの子のこと、宜しくお願いしますね。」

 

 

去り際、そう言って2人が微笑んでいた気がした。この人達には叶う気がしないなぁ…なんて

 

俺たちは部屋へと帰ってきて、そしてベッドへと寝転んだ。

 

 

 

「なぁ、アイジス。」

 

「<<如何致しましたかマスター??>>」

 

「アイジスはエルマールが着いて来たいと言ったら…どうする?」

 

「<<最終的には彼女のしたい様にさせます。そして>>」

 

「そして?」

 

「<<全力で守ります>>」

 

「…だな。」

 

 

余り深く考えるのはよそう、元より楽観的な性分だ。きっと何とかなるさ、うん

 

 

 

「この街の人達は優しいな。」

 

 

「<<肯定であります。本当に温かい方ばかりです>>」

 

 

「また、帰ってこような。」

 

 

「<<宣言した通り、飛んで帰ってきましょう>>」

 

 

 

 

そうだな、と笑いながら暗くなった街並みを見つめ続ける

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Operation10.旅立ちと…

 

そして旅立つ日の朝、俺たちの姿は馬車の前にあった。この街から王都までは若干離れているので馬車で近くの街まで行き、そこからはのんびり歩いて行くつもりだ。

馬車はオリバーさんが手配してくれた、あの人には頭があがらないわ。

 

 

 

 

「皆さん、お世話になりました。また遊びに来ますねっ!」

 

 

 

朝早い時間だと言うのにオリバーさんとエルマールを除いた皆が見送りに来てくれた。集まってくれた皆に感謝を伝えて1人1人握手をしていく。

 

 

「<<どうやら、彼女は来ていない様ですね>>」

 

 

「そのようだな…。」

 

 

 

 

辺りを見渡してもエルマールの姿は何処にも見えない。見送りくらい来てくれると思っていたけど、どうなったんだろうか。皆んなもチラチラ何か気にしているようだし

トムさん夫婦に聞いてもニコニコしてるだけで教えてくれないんだよなぁ…

 

 

「それじゃあそろそろ…」

 

 

別れの挨拶も一通り済んだ所で後ろ髪ひかれる思いで馬車に乗ろうとするが

 

 

「あー!そうだムサシっ!えーと、アレ忘れてない!?アレ!」

 

 

「アレって何だエミリー。」

「<<心辺りはありませんね>>」

 

何か忘れてたかと一旦戻る。

 

 

「ムサシィ〜忘れっぽ〜い。アレだよねリリィーナァ〜?」

 

 

「わ、私に振るのか!?ムサシさんそのーアレとはだな…そう!お土産ことだ!まだ皆の欲しい物を聞いていないだろうっ!?」

 

 

 

お土産?確かに聞いてなかったなぁ。お土産といったら俺は食べ物だったな、地方限定のお菓子とか大容量のやつを買ってたりした。

 

「<<私はエリアの安全や情報を持ち帰ってましたね>>」

 

それお土産ちがうよアイジスさん。いや違わないのか?

 

 

 

「ガーハッハッハッハ!それなら俺は強い奴か、良い武器を頼むぜいっ!!」

 

ローガンを皮切りに次々自分の欲しい物を伝えてくる。リリィーナは同じく武器、エミリーとアメリアは珍しい物、大人な皆さんは何でも良いですよーとのことだ、優しい。

 

 

「<<お土産とは何でも良いのですか?>>」

うん、今度一緒にお土産見にいこうね。

 

 

 

そんな話をしてそろそろ行こうかと思った後ろをむいた時

 

 

「……さーん」

 

「ん?」

 

 

良くなった"耳"が声と軽快な足音を捉えた、誰か走ってこちらへ来ているようだ。

後ろを振り返ると、力強く地面を蹴り手を振りながら近づいてくる金髪の女の子が

 

 

「エルマールっ!?」

 

 

「ムサシさんっ!」

 

 

 

思いの外勢いがついてたので、腕で優しく抱きとめると、綺麗な金髪がフワリと舞う。

 

 

 

「えへへ、遅くなってすみませんでした。」

 

 

「全く…来てくれないのかと思ったぞ。それで、答えは出たのか?」

 

 

「はい…」

 

 

エルマールは胸の前で祈るように手を組むと、真っ直ぐ眼を見て来た。

 

 

 

「私の考えは変わりません、色々な場所に行って色々な人とあって…それも全部ムサシさんと一緒に。だからムサシさん、私を連れて行ってください!」

 

 

 

強い決意と若干の不安を顔に滲ませて、ダメですかっと訴えてくる。だが、生憎…俺(おれたち)の答えは既に決まっている。

 

 

「<<肯定であります。マスター>>」

ありがとうアイジス(相棒)。

 

 

 

 

「エルマール…俺で良ければ一緒に行こう。早速主発だが、準備はいいな?」

 

 

 

「はいっ!勿論ですっ。」

 

 

 

 

花が咲いたような笑顔で頷き、周りに別れの挨拶をする。「やっと来たか!」「全くヒヤヒヤしたぞっ」「お土産よろしく〜」と言われていたので皆知ってたようだ、1名違うこと言っていた気がするが。

 

 

 

「エルマール…偶には帰ってきて、顔を見せるんだぞ。」

「辛い時もあるだろうけど…身体に気をつけてね。」

 

 

 

 

「お父さん、お母さん…。」

 

 

 

抱き合って別れを惜しんだ後は先に馬車に乗っていた俺がエルマールの手を取り中に引っ張ってやる。

 

 

 

 

「それじゃあ、行ってきますっ!」

 

 

 

ポタニカの人に別れを告げ、馬車が主発しても見えなくなるまで手を振った。

 

 

 

 

 

さぁ目指すは王都だっ!

 

 




ポタニカ編はあっさり終わりです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間.それぞれの場合

 

ー武蔵 卓也の場合ー

 

 

 

 

 

 

肉体は精神に作用する

 

 

 

 

この世界に来てから最初の夜、好意に甘え宿でボーッとしていたのだが…人のいる街に着いて安心してしまったのか様々なことを考えてしまう。

 

 

幸いなのか疲労感も眠気も感じることは無かったので、時間はあった。

 

 

 

 

何故この身体になったのか。何故この世界に来てしまったのか。

正に神のみぞ知るとでも言うのか…考えたところで判るはずもないが思考は止まらない。未練も後悔も無いとは言わないが、喚き散らしたところで何かが変わる筈もない。ならば今を見据え生きるべきだろう、そして出来ることなら元の世界に帰りたい。

 

 

 

…日本にいた頃から達観している、と言われていたけど此処まで冷めていたのだろうか。

 

それに、ゴブリンを殺しても何も感じなかった。ただ必要な事をした…それだけだ。状況が状況だし、最初に出会ったのがアレだったのもあるかもしれないが、それでも、なあ。

とは、言ってもあんなモンスターがウロウロしている世界だ、今は有り難く活用させて貰うことにしよう。

 

 

止め処なく思考が流れていくが…詰まる所、重要なのは心の在り方なんだろう。

 

俺は心までマシンになるつもりはない。敵には容赦するつもりはないが、何も感じず何も考えずじゃあツマラナイし駄目な気がする。

 

 

 

 

街に着いた後、家族に会った時のあの子達の笑顔を見て心から良かったと思えた。彼女も言葉は無かったが俺と同じ気持ちだったのだろう、多分、きっと、いや絶対。

 

 

 

 

その気持ちは大切なモノなんだろう、だからこの力はそう言うことに使うべきなんだろう。

まぁ、全てを救うこと何て俺にはできないが、関わった人たちに出来ることはしてやりたい。好意には好意で返すのが"人間らしさ"って奴だろう?

 

 

 

 

精神は肉体に作用する

 

 

 

 

 

 

俺はあの世界で「英雄」と呼ばれた彼女(アイジス)に笑われないように、自分"らしく"生きて行こうーーと、異世界での初めての夜に誓った

 

 

 

 

 

 

ーエルマールの場合ー

 

 

 

 

 

あの人と出会ったのは薄暗い洞窟でした。

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

そんな気の抜けた声をだしてその光景を眺めていた。吹き飛ぶゴブリン、わたしを抱きかかえる銀色の鎧。

 

 

 

 

「ごめん!我慢できなくて、ついやっちまった!」

 

鎧から男の人の声が聞こえる。誰かに謝っているのかな?

返答は無かったけど、鎧の人は少しだけかがむと檻の前までジャンプしたっ

 

強い風圧に眼を閉じるけど着地したときの振動はほとんど感じられなかった。次に何をするのか考える間もなくポイッと放り投げられた

 

 

うぅ、お尻がちょっといたかった…。

 

 

「「エルマール!」」「良かった!エル、無事でよかったぁ!」

 

 

皆んながぎゅっと抱きしめてくれる。そのぬくもりに安心していると、さっきわたしを庇ってくれた先生のことを思いだす。

 

 

「先生っ、オリヴィア先生はっ!?」

 

 

「安心してくれ、気を失ってるだけだ。」

 

 

わたしたちのすぐ後ろに先生の姿が見えた、本当に気を失っているだけのようだ。

 

 

「よかったぁ…!」

 

 

本当に良かった!念のため回復魔法をかけようとすると

 

 

 

ダァン!

 

 

 

という大きな音が洞窟内に響き渡りました。ビックリして音のした方を見ると、先程の鎧の人がわたしたちに背中を向けて立っています。再びダァン!という音が響くと1匹のゴブリンが突然吹き飛んで行きましたっ

手に持った魔道具でゴブリンたちを倒しているようです。次々と倒れていくゴブリン…最後の1匹を倒すと、鎧の人はゆっくりとわたしたちに近づいて来ました。

 

わたしたちが見つめていると、突然…

 

 

 

「あーキミたち?ちょっと聞きたいんだけどいいかな。というか、言葉通じてる??まいねーむいずむさーし……マズイな、これじゃ何処から見ても怪しい奴じゃあないか。」

 

身振り手振りまでつけてすっごいフレンドリーに声をかけてきた!ーー大きな鎧姿の人がわたわたしてると何か面白いかも

 

やがて何か思い立ったのか動きを止める。すると、兜がどこかへ行ってしまった!あの鎧も魔道具なんだっ

 

 

 

兜の下には短い黒髪と吸い込まれそうな"青い眼"。その綺麗な眼に見惚れていると、鎧の人が頬をかいた。

 

 

 

はっ、と我に帰ったわたしは咄嗟に立ちあがると

 

 

 

 

「あ、あのっ 助けてくれてありがとうございました!」

 

 

そう言って頭をさげた。

これが、わたしとムサシさんの出会いでした。

 

 

 

 

 

そのあと、街に帰るまで色々な話をしました。

ムサシさんーームサシ タクヤさんは、気づいたらこの森に居たと行っていました。

 

世界の名前とか今いる場所はどこだーとか獣人とか魔族のこととか色々。んー、ムサシさんはとっても遠いところから来たのかな??

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん!お父さん!」

 

 

無事に街へ帰ってきたわたしたちは、それぞれの家族と再会を果たしていた。

わたしは両親に抱きしめられ安心してしまい、思わず泣いてしまいました…

 

 

 

「ムサシさん、この度は本当にありがとうございました。」

 

 

お父さんとお母さんがムサシさんにお礼を言っている。もう帰らないとだよね、むー。

 

 

あっ、そうだ!

 

 

 

「む、ムサシさん!あの今日は泊まるところとか、きまってないですよねっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗くなりはじめてきた道を歩く、わたしたちは何時もの道を若干1名にとっては初めて歩く道を。

 

 

 

「もうっ!お母さんってば変なこと言って!」

 

 

わたしは隣りを歩く母親に、少し怒りながら言う

 

 

「ふふふ、貴女があんなこと言うなんて珍しかったからつい。でも、良かったでしょう?」

 

 

ちらりと、お父さんと話しながら歩く黒髪の男性を見る。身長が高くて綺麗な眼の人

 

 

「うっ、それは…そのぉ…そうだけど……」

 

 

あらあら、とお母さんは笑っている。もー!何で笑うの〜

でも、少しだけ真面目な顔になってお母さんは言った。

 

 

「エル。もし貴女がこの人の力になりたいと、一緒に居たいと思える人ができたら…迷ってはだめよ。」

 

 

お母さんの言ったことはよく分からないけど、きっと大切なことなんだと思う。

 

そんな話をしている内に家に着いてしまった、あまり時間はたってないけど凄く久しぶりに感じる。

 

 

 

「ただいまー!」

 

何時ものようにそう言いながら家へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

ムサシさんは不思議な人だった。

ムサシさんが家に来てから初めての夕食のときは一口めは恐るおそるな感じだったけど、とても美味しかったのか二口めからは「美味しい、美味しい」って言いながら食べ進めて、その後もたーくさんおかわりしてた。

 

 

その次の日には、なぜかローガンさんと戦ってたりもした。あの大きなローガンさんを片手で持ちあげたりして凄く力持ちなんだなぁって思ったけど、そんなムサシさんがわたしの魔法をみて「凄いっ!」って言ってくれたのは嬉しかった。えへへ

 

 

 

その他にも、街を案内したり一緒に買い物をしたり…色々なところをまわった。

ムサシさんはことあるごとに驚いていたり楽しんでいたりで面白かった。こんな日がずっと続けば良いなぁと思ってたけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは判っているが、20年前だぞ?それに何処にいるかも解ってない!」

 

 

部屋を通りかかった時に偶然聞いてしまった声。ムサシさんはアイジスさんって人のことをとても大切にしていてーーしかも、この街から出ていってしまうって…

 

 

 

気がついたらドアをノックしていました。

 

 

 

 

「…この街から、出て行っちゃうんですか?」

 

 

 

そう聞くとムサシさんは困ったような顔で、でも真っ直ぐにわたしの眼をみて話してくれました。

 

そして、もうすぐこの街から出ていかなければならないことを教えてくれましたが…アイジスさんについては答えてくれませんでした。

 

 

 

「わたしも連れて行ってくださいっ!」

 

 

咄嗟にそう叫んでいました。なぜこんなことを言ってしまったのか本当はわたしも判らなくて…

 

 

 

「……エルマール、先ずは両親と周りの皆とよく話してくるんだ。その上で本当に一緒に来たいようならばーー3日後の朝、一緒に来て欲しい。」

 

 

怒ることも否定することもなく、ムサシさんはわたしの頭を撫でてそう言いました。優しい人、困らせちゃったのかなぁ…と後になって反省。

 

とりあえず今日は部屋に帰ることになりました、明日は、お父さんとお母さんに相談してそれからーー中々眠れませんでした…

 

 

 

 

翌日、夕食を食べ終わった後

 

「お父さんお母さん、話があるのっ!」

 

 

そう言って、お父さんとお母さんに昨日の夜のことを話した。2人とも驚いた様子もなく黙って話を聞いてくれた。

 

 

「そう…それで、エルはどうしたいと思ってるの?」

 

 

「行きたい、と思う。でも足手まといになるって分かってるしムサシさんを困らせたくないとも思って…」

 

 

「そうだなぁ、彼にも目的があるだろうしなぁ。ムサシさんは何て言ってたんだい?」

 

 

「お父さんお母さんと周りの皆に話してきなさいって。それでも行きたいのなら2日後の朝、一緒に来て欲しいって。」

 

 

「そうかぁ…。」

 

とお父さんはアゴに手をやります。

 

「彼が良いのなら私達は何も言わないよ。14歳はもう立派な大人だ、自分で考えて好きなことをすれば良い。でも…エルはお父さんやお母さん、この街の皆と別れて本当に後悔しないかい?もう会えないかも知れないんだよ。」

 

 

旅に出たらこの街に帰ってこられないかもしない…皆と会えないかもしれない……でもそれは、この街にいてもいつか起こることだろう。この間だってムサシさんが居なければわたしはきっと死んでいたし家族にも会えなかったてん

 

 

あーもう判んないよっ!混乱したわたしは勢いよく立ち上がりビシッとお父さんを指差す。

 

 

「わたしはムサシさんと旅に出たい!この街には必ず帰ってくる!それじゃダメ!?」

 

「え、えーと……良いんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?やっぱりそれで良いんじゃないのかな??詰まるところ理由(ワケ)なんてそれしか無いんだから。

ムサシさんをまた困らせちゃうかもだけど…うんっ決まり!

 

 

「お父さんっお母さんっ!わたしはムサシさんと一緒に居たいから行くね!」

 

 

「ふふっ、そうね。折角の人生なんだから、貴女がしたいこと全部やりなさい。」

 

お母さんはそう言って頭を撫でてくれました。お父さんは…

 

 

 

「ところでエル、学校はどうするんだい?」

 

 

「あっ」

 

 

ど、どうしよぉ〜。や、やっぱり退学するしかないよね…

 

 

「あなた」

「ごめんなさい。ふっふっふっ…エル、これを見なさい!」

 

 

 

お父さんが持っていたのはシンプルな黒と金の装飾を施した綺麗な短剣。

 

 

「これはなに?」

 

 

「これは特別卒業証だよ。成績優秀な人にあげる早めの卒業証ってところかな?オリバーからのプレゼントだよ。」

 

 

「えっ!?そんな、わたしにっ?」

 

 

「エル、貴女が頑張った成果だから…別に身内贔屓じゃないから心配しないで。貴女は、中級回復魔法も使える自慢の娘なんだから。」

 

 

安心させるように微笑みながらお母さんはわたしに言った。

 

 

初級回復魔法と呼ばれるヒール(治療)、キュアポイズン(解毒)、キュアパラライズ(麻痺解除)しか使えなかったけど、この間中級回復魔法のオールヒール(一定範囲内の複数人を治療する)を使えるようになった。

わたしたちぐらいの年齢で中級を使える人は中々いないらしい。先生が驚いてた

 

 

「それに、鞘から抜いてごらん。エルの名前が彫ってあるから。」

 

 

短剣を鞘から引き抜くと、薄っすら青色の刃に「エルマール=ポタニカ」の名前が彫ってあった。

 

 

「兄さんは姪バカなんだから…」

「あらあら」

 

お父さんがやれやれっと言った様子で頭をふっている。お母さんは笑ってる

 

 

「お父さん、"ポタニカ"って…これ貰って本当に良いのかな?」

 

 

「大丈夫。でも"いざという時"に使うんだよ。」

 

そう言ってわたしの頭を撫でてくれました。

 

 

「明日は、準備と皆さんに話をしてきましょうね?」

 

「うんっ!」

 

 

…。

 

 

「そういえば、なんでお父さんが卒業証持ってたの??」

 

「エル、今日は遅いから早く寝なさいっ。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日はオリバーおじさんを始めお世話になった人や学園の友達。それとリリィーナ、エミリー、アメリアと話をしてきた。皆驚いていたけれど、何処か納得していた様な?

 

 

本当はムサシさんとも話をしたかったんだけど、朝からどこかに行っちゃったから話せてない…うぅ当日に断られたら気まずいよぉ〜

 

 

 

 

 

そして、旅立ちの日の朝

 

 

 

 

 

寝坊しました!

 

 

「わーー!何でだれも起こしてくれないのぉー!?」

 

ワタワタと慌ててブーツを履きいつもの服、シャツに茶色の上着と黒のパンツを着ると昨日準備した荷物を持って事前に聞いていた主発場所へと走ったーー

 

 

まだ行かないでぇ〜!

 

祈りが通じたのか遠くからムサシさんと皆んなの姿が見えたっ

 

 

 

 

「ムサシさーん!」

 

 

 

 

朝のポタニカの街を駆け抜けていく

 

 

 

 

 

 

 




エルマールがアホの子っぽくなってしまった…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間.とある双子の日常

悪ふざけ回


 

「エミリーとっ!」「アメリアのぉ〜」

 

「「スクープでポタニカー!」」

 

 

「皆んなが気になっている、僕たち双子の日頃の活躍をお届けします!」

 

「僕たちが〜気になる疑問を解決てきなぁ〜」

 

 

 

 

 

 

 

「アメリアって、偶に声が間延びしなくなるよね!」

 

「気のせい。」

 

「あっはい。」

 

 

「それではぁ〜張り切っていってみよ〜う。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

case1.ムサシの場合。

 

 

「ムサシィ〜の鎧の下ってどぉ〜なってるのかなぁ〜」

 

「確かにっ!鎧姿しか見たことないよー!」

 

 

ということで早速調査です!本人に聞いてもはぐらかされるしこれは秘密の匂いがしますなぁ

 

「<<その通りです>>」

 

「アメリア?何か言った??」

 

「え〜何も〜。」

 

気のせいかな?おっ!ムサシを発見っ、尾行しまーす!

 

「(ふむふむ、ターゲットは今日も鎧を着てますなぁ!)」

 

「(だねぇ〜どうする〜??)」

 

 

もちろんこうします!

両手で水の入った桶をもって…

 

 

「手がスベったー(棒)」

「きゃ〜よけてぇ〜(棒)」

 

 

そぉい!2人してムサシ目掛けて水をかける、演技もしたしバッチリだね☆

 

 

「な、なんだっ!?」

 

よし、命中!狙い通りずぶ濡れになった!凍えてしまーえっ

 

 

 

「これはすぐ身体を温めなきゃいけないナー(棒)」

「風邪ひいちゃうナ〜(棒)」

 

 

頭からずぶ濡れになったムサシは僕たちの姿を見て驚いている

 

 

「え、エミリーにアメリア。何やってるんだ??」

 

 

あなたの秘密を暴きにきました!

 

 

「あっ!偶然にも公衆浴場がー!(棒)」

「入るしかないなぁ〜(棒)」

 

 

そう!流石のターゲットもお風呂に入る時は鎧を脱ぐはず…完璧な作戦だね!

 

 

「何なんだ?風呂に入れば良いのか??」

 

 

「Yes!ささっ僕たちは外にいるから遠慮しないでっ。」

「ゆっくり温まってきてねぇ〜。」

 

 

 

 

此処まで来ればほぼミッションコンプリート!この公衆浴場は紳士淑女に代々受け継がれし覗きポイント、つまり詰みであるのだ!

 

 

 

「…なんで風呂に来てんだろうか、俺は。」

 

 

素早く覗きポイントまで移動する。ムサシは丁度身体を洗っているようだ

 

 

「(ついにやったよアメリア!)」

 

「(やったねエミリ〜)」

 

 

僕たちは抱き合って感動を分かち合うとタイミングを測り

 

 

「「せーのっ!」」

 

 

覗いた先には

 

 

 

「朝風呂も嫌いじゃないけどな〜。」

 

 

 

銀色の光を反射して

 

 

 

「泡立ちが良くなった気がする…なんちて。」

 

 

 

鎧を着たまま身体を洗っているムサシの姿がそこにはあった。

 

 

 

 

「「なんでじゃあぁぁぁぁぁああああ!!!」」

 

 

「うおっ!?」

 

 

 

この後めちゃくちゃ説教された…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「うぅ…あの時はヒドイ目にあったねアメリアぁ。」

 

「エミリィ〜思い出したら足がいたいよぉ〜。」

 

 

 

でも!僕たちは諦めないぞっ

そこに秘密がある限り!

 

 

 

 

「「ぜーったい脱がしてやるからなー!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある馬車の中

 

 

「うおっ!?」

 

「む、ムサシさん突然どうしたんですか??」

 

 

寒くはないんだが身体がブルッとした

 

「いや…急に寒気が……?」

 

「風邪かもしれないですね、だいじょうぶですか?」

 

 

風邪ひかないと思うんだけどなぁ、とボヤキながら腕を摩るムサシであった。

 

 

「<<おしまい?>>」

 

 




本編でこの子ら出すと会話がドンドン増えてきて話が進まなかった…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間.ムサシの野暮用

珍しく戦闘回


 

ムサシとエルマールを見送った俺は、アンソニーを連れてギルドの倉庫へ来ていた。

 

ここは冒険者から買い取った魔物や素材を保管しておく場所だ。

そして倉庫の真ん中には巨大な獅子が"2体"横たわっている。最も、約3mの全長に5つの目、蝙蝠の羽根のような物までついているうえに1体は銀色のタテガミが無かったりするが。

 

 

「ローガン、こいつが?」

 

 

「あーそうだ。あの野郎、とんでもねぇもんを残して行きやがって!」

 

 

 

獅子の顔と胴体に蝙蝠の羽根がついたマンティコアと呼ばれる魔物は居るが、目は2つだしタテガミは銀色ではない。ーーこいつは新種だ。

 

 

粋なことをしやがる、と口角が上がっていく。

 

 

新種は厄介な能力を宿していることが多く、Bランクの冒険者でも通常1人では挑まない。Aランクでも初見の相手ならソロは避けるだろう、強い弱いじゃなくそういう類いの奴だ。それを1人で、しかも2体とはなぁーー本当に面白ぇことをしやがる。

 

そして新種は通常の個体よりも高値で売れる、爪の鋭さ毛皮の耐久性などが何故か優れているからだ。

 

 

 

「素材を売ればかなりの高値がつくな…ローガン、彼は何て言ってたんだ?」

 

「後は任せる、だとよ!世話になった礼だからと言ってやがったが…普通金も受けとらずに丸々残していくかいっ」

 

 

アンソニーも苦笑を隠しきれないようだ。こいつの言う通り牙やタテガミや魔核・討伐報酬だけでかなりの金額になるだろう。

魔核というのはアレだ、魔導具を動かすために必要な物で魔物の体内に必ずあるものだ。強い魔物、ランクの高い奴ほど魔核が大きかったり色が濃かったりする。

 

 

「さて、どうするかぁ…」

 

商業ギルドと職人ギルドがうるせぇだろうな、とこの2体を見ながら考えてた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

話は旅立ちの日の前日に戻る。

朝日が顔を出し始めたころ、俺の意識は現実へと戻っくる。…別に現実逃避していたわけじゃないぞ、仮想空間で彼女(アイジス)が体験した戦場や俺の記憶にあるゲームでの戦闘をシミュレートしてただけだ。

余談だが子爵の屋敷へ行く前にも行ってたりする。

 

 

「アイジス、どうだ?」

 

軽く伸びをしながらアイジスに声をかける。身体をほぐす必要などないが、気分が大事なのだ。

 

 

 

「<<登録は全て終わりました。確認しますか?>>」

 

 

「そうだな…例のやつだけ頼む。」

 

 

俺がアイジスに頼んでいたのは、オリバーさんに貰った"魔物図鑑"に載っている魔物をデータとして登録すること。これによって何時でも魔物について調べることが出来る。

そして、もう一つの頼みごとが…この世界に来て最初に出会った魔物についてである。

 

 

「マンティコア、は似ているが違うよなぁ。他に類似している魔物も見当たらない。となるとやっぱり…」

 

「<<新種の可能性が非常に高いでしょう>>」

 

 

「だろうな。」

 

 

 

一応変異って可能性もあるが、マンティコアに上位種や亜種は"今のところ"見つかってはいないし可能性としては低いだろう

 

 

「まぁ、その辺りは確かめて見れば判るさ。」

 

 

そう言って立ち上がり、何時ものマントを羽織ってから部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺たちは奴と遭遇した森に来ていた。

新種とやらの脅威度を調べるためだ。旅に出たら相対することもあるだろうし、ポタニカの街の為にも倒せるならば倒しておいた方が良いと考えたからだ。

勿論、ヤバそうだったら迷わず撤退するが

 

 

「先ずは最初にいた遺跡みたいな場所を目指そう。アイジスは索敵を最優先、何かあったらすぐ教えてくれ。」

 

 

「<<判りましたマスター。どうかお気を付けて>>」

 

 

「あぁ、ありがとな。じゃあ頼むぞ相棒(アイジス)!」

 

 

「<<了解>>」

 

 

俺たちは森へと進入して行った。

前回この森を通ってきた時と違い、目的の場所も分かっているのでかなりのペースで進むことが出来た。

その間もアイジスによる索敵は行われていて、数回ゴブリンと遭遇したが先手を取ることが出来た。ウチの相方はハイスペックですから

 

 

 

 

そして目的の場所へとたどり着いた。開けた空間に朽ちた建築物

 

相変わらず蔦に覆われた謎の建築物、昔は神殿か何かだったのだろうか?魔物が増えてきて使われなくなったとか。

 

 

「<<マスター目標と思われる反応捉えました。こちらへ接近しています>>」

 

 

おっ、ちょうど来たみたいだな。やはりこの広場は奴の徘徊コースだったか

 

 

「わかった、引き続き行動を監視してくれ。戦闘に突入したらサポートを優先、索敵は最小限で頼む」

 

 

先ずは目の前の相手に集中する、増援がきたらその時はその時だ。

 

 

「<<了解です>>」

 

 

ゆっくり広場の真ん中へと歩きながら装備を確かめる。ヘルメットは展開済みだ

今回の構成は「FG-Proto」に大型自動拳銃(ハンドガン)MK.XIXを腰と背中、高周波ブレードを腰にカイトシールドW18を左腕につけている。まぁ、いつものだ。ーー追加装備をもう2つ追加しているがこれは念の為

 

 

2丁の大型自動拳銃(ハンドガン)をそれぞれの手に持ち構える。

 

 

「<<まもなく接触します>>」

 

 

のそりと木々の間から目標の奴が現れた。5つの目、触手の様なタテガミ…久しぶりだな。

 

とりあえず挨拶がてら足を目掛けて撃ちこむ。重い発砲音の後に2発の弾丸が発射される。音に反応したのか躱されてしまったが

 

 

「グルルルルルルッ!」

 

 

しっかり敵認定された。臨戦体勢か…

 

 

「さて、やるか相棒(アイジス)!」

 

「<<戦闘開始です>>」

 

 

 

MK.XIXを撃ちながら奴を中心に円を描くように動く。向こうも銃弾を避けつつこちらへ近づいてくる、何発か当てたが途中で弾が止まってしまい効果が薄い。

 

 

どんな皮膚してんだっ!こちとら鉄も撃ち抜く特別仕様だぞっ!

 

「<<恐らく強靭さと柔軟さを兼ね備えているためでしょう。銃との相性は悪い様です>>」

 

 

冷静な解説ありがとう!流石ファンタジーってことか

 

チッと舌打ちをして右手をブレードへと持ち替える。左手は牽制で銃弾を撃ち続けるが、それを無視して飛びかかって来た。

 

それを横へと避け、首を狙ってブレードを振り下ろす。自慢のタテガミごと斬り飛ばしてやるっ

 

 

キィン、と突如高速回転し始めたタテガミによってそれは弾かれてしまった。

 

 

「うぉっ!?」

 

弾かれた勢いそのままに、距離をとる。

回転している様はまるでチェーンソー、首回りどうなってんだ…

 

 

低空を滑空し再び襲いかかってくる。空も飛べるってか

 

 

「こなくそっ!」

右の爪を左腕につけたシールドで弾く。体勢を崩した所に回し蹴りを決め吹き飛ばすと、建築物を巻き込んで転がっていった。

 

力では負けていないようだが、タテガミに触れ装甲が少し削れてしまった。シールドは装甲よりも希少で硬い金属でできているので大丈夫だろうが、回転の勢いに負けそうだ。

 

モクモクと煙が立ち込める中、足に何かが絡みつくと強い力で引っ張られすっ転んでしまう。見ると奴のタテガミの一部が絡みついており、そのまま引き寄せられてしまう。

 

 

「そんなコトも出来んのかよっ!?」

 

「<<マスター!>>」

 

アイジスが奴の眼にターゲットマーカーを出す。成る程な!

奴の目に銃弾を撃ちこむ、狂いなく瞳に吸い込まれていき5つある内の1つを破壊する。

 

 

「グルァッ!?」

 

その痛みに堪らず拘束がとけた。素早く立ち上がり体勢を整える。アイジスに礼を言うと切り札を1つ切ることにする。

 

 

「そろそろ決めるぞ。アイジス、追加ブースター起動。」

 

 

「<<了解、起動します。>>」

 

 

その言葉と共にキュイーンと音がして随所に追加されたブースターが起動する。これは機体からのエネルギーを燃料に高推力を得られる追加装備である。

出力し続けることによりホバー移動もできたりする。

 

 

「グォオオオオオオオッッ!!!」

 

目を潰されて怒ったのか、大音量の咆哮をあげる。普通の人間なら耳を抑えるレベルだが俺は調節されて聞こえるので大したことはない。

 

 

左手のMK.XIXを背中に戻す。

キュィイィィ、という音の後にブースターが点火する。通常の倍以上の速度で距離を詰める、途中タテガミを伸ばして攻撃してきたがサイドについているブースターを吹かし回避する。

そしてタテガミを再び伸ばす前に奴の目の前まで移動すると、ブースターの勢いを乗せてブレードを額に突き刺す!

 

 

「グルォォォオオオオ!!??」

 

「うぉい!?」

 

 

苦悶の声とともに、何か口から紫の煙吐いてきやがった!毒っぽいがもろに浴びてしまって大丈夫だろうか?

 

 

「<<装甲共に変化なし、問題ありませんマスター>>」

 

 

硫酸とかじゃなく毒なら大丈夫なんだろう、しかし、往生際が悪いっ

 

 

「選択、フラググレネード。ピンを抜いて右手に。」

 

「<<了解です>>」

 

 

俺は未だに毒の霧を出している奴の口を足と腕で広げる。

 

「ぐおぉ!?」

 

 

そして中にグレネードを放り投げると今度は口を無理やり閉じる。ドンっという衝撃と共にゆっくりと巨体が倒れる。

 

 

 

ブレードを引き抜き様子を伺うが反応はなく、完全に沈黙している様なのでブレードは腰に戻しておいた。

 

 

「まぁ…なんとかなったか。」

 

 

「<<そうですね。お疲れ様でした、マスター>>」

 

しかし多才な奴だったなぁ…このタテガミ何かに使えないかな?

思いたったら吉日、倉庫からデカイ片刃の斧を取り出す。これも近接武器で一方はハンマーの様になっていて、叩き潰す叩き切る2つの使い方ができる武器だ。

 

 

「アイジス、これの刃の部分にタテガミをつけられるか?」

 

「<<やってみましょう>>」

 

 

そう言うと首の付け根、肩の辺りから機械の触手が伸びてタテガミの取り外しと武器の作製に入る。

 

 

 

こうしてできたのが、片方がハンマー片方が斧の様な形状でチェーンソーみたいに回転する極悪武器ができてしまった。

 

 

 

「<<マスター!大型の反応がこちらに接近してきます>>」

 

「っ!?」

 

 

アイジスの警告に身構えると、現れたのは先程倒した奴と瓜二つの魔物。こっちはいきなり臨戦体勢だ

 

 

「2体いたのか…。」

 

「<<如何しますかマスター?>>」

 

 

こちらに飛びかかってこようとしたので跳んだ瞬間に、肩の辺りがカシャっと開いて中から閃光弾が発射される。追加装備その2だ。

 

奴はマトモに見てしまい、地上に落下し悶えている。

俺は先程作った斧を握ると

 

「さて、こいつの試運転と行きますかっ。」

 

「<<了解です、マスター>>」

 

 

もう1体と戦闘を開始した

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

とある馬車の中

 

 

 

「それで、後処理がめんどくさくてローガンさん達にあげちゃったんですか?」

 

 

「あぁ、まぁそうなるのかな。」

 

 

俺はポリポリと頬をかきながら言った。

 

 

「はぁ…ムサシさんって何だかローガンさんに似てるところありますよね。」

 

「<<その通りです>>」

 

 

「あれっ!?俺の評価ヒドくない?」

 

 

 

馬車はガタゴト進んでいく。

 

 

 




ローガン「身体ん中めちゃくちゃじゃねぇかっ!」
ブースターはロボットに必須。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

主要人物・用語紹介

 

 

 

 

・武蔵 卓也

本編の主人公。24歳、フリーター。自宅でゲームをしていた所、画面が光りだし気づいたら異世界でロボットになっていた。性格は面倒くさがりやで何処か達観しているが、基本的にはお人好し。ロボットになった影響で聴覚、視覚その他感覚を調整できるようになり、睡眠・食事は必要なくなる。必要はないが食事や睡眠(PCで言うスリープモード)を摂る時もある。

身長も元は170cm程度だったが、現在は約2mで黒髪青目。(機体構成時のメインアイの色によって目の色が変わるが、本人は気づいていない。)

 

 

そして殺すこと傷付けることに躊躇いを感じなくなっていることに気づくが、善悪の区別を間違えなければ良いだろうと割り切っている。

自身を見失わない為と元々の性格も相まって、出来る範囲での人助けはしていくつもり。身内に甘い

 

最近の悩みは顔の皮を剥いだらメカメカしい見た目になるんじゃないかという事と、サイボーグなのかロボットなのか曖昧になりそうな事。

 

 

 

 

 

 

 

・「FG-01」アイジス

メインヒロイン。武蔵がプレイしていたゲーム「ODN」の主人公。敵の機体から作られた自立型人型機動兵器でAIが内蔵されている為、自身で考え行動することができる。侵略者との戦いでは常に最前線で戦い、人類を勝利へと導いてきた。転移した影響で武蔵と身体が融合してしまい、その後機能の権限が武蔵へ移行したので主にサポートへ回ることに。

特技は作製。バラして混ぜて動かすことが得意、頼めばなんでも作ってくれるし、ある程度の事はやってくれるが戦闘以外での対人は苦手ですぐ撤退する。

 

 

何故、武蔵とアイジスが転移してしまったのか明かされる日が来るのだろうか……

 

 

 

 

 

・エルマール ポタニカ

金髪長髪の少女。14歳 145cm。素直で心優しい少女でありポタニカの住民から愛されている。武蔵から将来確実に美人になると言われる程の美少女だが、彼女の本質はその性格の良さにある。残念な所も多いが裏表がない前向きさは美点であると言える。

トムとアベリィの娘でありオリバーの姪。旅立ちの前に、オリバーからポタニカの苗字を名乗ることを許される。(死亡率の高いこの世界では、貴族や王族の血縁の者がその家に何らかの形で入るもしくは関わることは特別珍しくない)

 

光属性に適性があり、特に回復魔法の才能は飛び抜けている。現在は初級魔法のヒール・キュアポイズン・キュアパラライズの他に中級魔法のオールヒールが使える。

 

 

 

 

 

・オリバー ポタニカ

この地方の領主で、位は侯爵。穏やかな人柄と先を見透す先見の明で広く人々に愛されているが、意外と容赦のない人物。馬鹿なことをする貴族に頭を悩ませている。実は結婚していて子供もいるが姪のエルマールも自分の子供のように可愛がっている。エルマールが旅立ち、結構ヘコんだ。

エルマールへ苗字を名乗ることを許す。

 

困った時はオリバーさんが大体何とかしてくれる。

 

 

 

 

 

 

・ローガン ガルシア

ちょび髭ハゲの巨人。筋肉隆々でゴツくてデカイ、性格は豪快で大雑把だが頭が悪いわけではない。

男爵家に生まれ、現在はポタニカを守護している兵士たちの纏め役をしている。若い頃に冒険者をしていた関係で団長と呼ばれ親しまれている。

結婚しており、娘のリリィーナを溺愛する余りしばしば暴走する。

 

 

 

 

・アンソニー ガルシア

ローガンの補佐をしている、ガルシア家の次男坊。槍の達人。兄とは違い真面目で細かい所に気を配れるが恋愛には非常に疎い。オリヴィアのことが気になっているようだが…

 

 

 

 

 

 

・リリィーナ ガルシア

青髪ポニーテールで、同世代の中では身長が高い。ローガンの娘。性格は明るく豪快な面もあるが、根は真面目で周囲に振り回される苦労人。皆んなのお母さん的存在。

 

 

 

・エミリー

赤いショートカットの髪に活発そうな顔、アメリアの双子の姉。底抜けに明るい元気っ子、周囲を引っ掻きますことが得意で何時もリリィーナに怒られている。

 

 

 

 

・アメリア

赤いショートカットの髪に眠たそうな顔、エミリーの双子の妹。間延びした口調と適当な対応で何時も周囲をヒヤヒヤさせては、リリィーナに怒られている。

 

 

 

 

 

・トム

ポタニカにある宿屋の主人でエルマールの父親。ポタニカ家の五男坊として生まれる。長男のオリバーが家を継ぐことは決まっており、五男の自分は家を出て冒険者になる。そしてアベリィと出会い結婚、溜めていた資金で宿屋を経営し現在に至る。

実家との仲は良好であり、頻々に遊びに行っている。

 

 

 

 

・アベリィ

トムの妻でエルマールの母親。若かりし頃は冒険者だったがトムと出会い結婚、引退しトムが経営する宿屋の女将になる。

 

 

 

 

・オリヴィア

エルマール達が通う学校の新米教師。余り落ち着きがないが親しみ易くまた対応も丁寧なので生徒たちに親しまれている。戦闘能力はない。

 

 

 

 

 

 

・フォーマルハウト

異世界の神の名前であり、世界そのものを指すこともある。

 

 

 

 

・アトラック=ナチャ

武蔵がプレイしていたゲームのラスボス、アイジスの宿敵。目的・生態等は不明、周囲にある物を取り組み自分の為の兵士を作っていたとのこと。

 

 

 

 

 

 

 

・魔法

属性がありそれぞれ、火・水・風・土・雷・光・無である。回復魔法は光属性に含まれおり、それ以外は光魔法と呼ばれている。無属性はアイテムボックスや身体強化などのどの属性にも当てはまらないもの。

初級・中級・上級・最上級があり、魔法の難易度によって区別されている。

 

 

 

 

 

・ギルド

冒険者ギルド、商業ギルド、職人ギルドの3つに別れており、14歳以上であれば誰でも登録することができる。魔導具によりギルド間の連絡ができるため離れていても指名依頼を出すことが可能になっている。

 

 

 

 

 

・魔導具

魔物の核となっている部分、魔核の魔力を動力源に様々な機能を追加した道具。魔力のない人間でも使用することができる。

 

 

 

 

 

・魔物

魔力が特別高くなっている所から自然発生する異世界特有の生物。気性は荒く人類に害をなすものが殆ど。魔物から採れる素材や魔核は武器や防具、魔導具や日用品に至るまで幅広く活用されており必要悪的な存在となっている。

 

 

 




今の所の設定だったりします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王都編
プロローグ


第2章開始です。


 

ポタニカの街を出発してから比較的整備された街道を馬車は走る。そして馬車の中は穏やかな時間が流れていた。

 

 

「ムサシさん、この後の予定はどうするんですか?」

 

 

「あぁ、先ずはこの先の村で1泊する予定だ。そこから王都へは徒歩で向かうから、途中で野宿する予定だ。」

 

 

「野宿ですか…。」

 

 

「もしかして、野宿イヤだったりするか?」

流石に女の子だもんなぁ

 

 

「そんなことないですっ。外で寝るのってワクワクしますよね!でも…」

 

 

少し言いづらそうにエルマールは呟く。

 

 

「その…慌てて寝袋とか忘れちゃって……」

 

 

「そうかぁ…」

 

何か急いで来てたもんな。寝坊してしまったみたいだが詳しい事は教えてくれなかった。

 

 

「む、村に着いたら買いますから!心配しないでくださいっ。」

 

 

「大丈夫だぞ。」

 

 

「えっ?」

 

ポカンという顔をするエルマール。

 

「だから大丈夫だって、ほら。」

 

そう言って"倉庫"から寝袋を2つ出して見せてやる。

 

 

「わっ!わわっ。…ムサシさん良いんですか?」

 

 

「予備で持ってたやつだから気にしないでくれ。」

 

 

何でもないような表情でエルマールに言う。まぁ実際のところは

 

「<<彼女の為にわざわざ2つ用意した甲斐がありましたね>>」

 

アイジスさん、それ本人に言っちゃダメだからねっ。

 

「<<…承知しました>>」

 

あれ?何か不服そう。反抗期?ねぇ、反抗期なの??

 

 

「ムサシさん凄いです!アイテムボックス持ちだったんですねっ?」

 

「えっ!?あ、あぁ…まぁ、そんな感じかなぁ。」

 

 

アイジスと(脳内で)戯れていたので、ビックリした。

エルマールがキラキラした目で俺を見ているのが、居た堪れない。

 

アイテムボックスとは空間の狭間に物を入れられる的なアレ(魔法)だ。

無論俺たちのはアイテムボックスとは違う。今迄この世界の物は"倉庫"に入れることができなかったが、手を加えることで自由に出し入れできることが分かった。

例えばだが、肉なら焼くとか枝なら折るとか状態を変化させれば大丈夫の様だ。…どの程度までなら変化に入るのかは要研究だな。

この寝袋も職人(アイジス)の手?によりカスタマイズされており、触り心地と使い勝手が向上している。

そしてテントは耐久性に加え、エアコンが追加されたことにより夏でも冬でも快適に使える様になった。

と、話が逸れてしまったが

 

 

「そういう事だから、必要な物はアイテムボックス(倉庫)に入ってるからエルマールは気にしないで大丈夫だ。」

 

 

「あっ、はい!ありがとうございますっ。」

 

うむ、アイジスじゃないけど用意しておいて良かった。

 

 

 

 

 

「<<マスター、此方に接近する反応があります>>」

 

「(っ!?魔物か?大きさと方向は分かるか??)」

 

 

話している最中、アイジスから警告が飛ぶ。ーー先ずは相手の正体を探る

 

 

「<<大きさ凡そ2m、人間の反応ではありません。左前方から接近してきます、接触まで3分です>>」

 

 

魔物の可能性が高いか…

 

 

俺は御者に馬車を止めるよう声をかける。

 

 

「ムサシさん、どうかしたんですか?」

 

 

「何かが此方に近づいてるようだ。魔物かもしれないからエルマールは馬車から出ないように、俺は少し外を見てくるよ。」

 

 

「ま、魔物ですかっ。でも、ムサシさんはどうして分かったんですか?」

 

 

「あー、今夜にでも説明するよ。」

 

今はそれで勘弁してほしい、と頭を撫でて外に出ていく。

 

 

「…はい。気をつけてくださいっ。」

 

 

 

ヒラヒラと手を振ってそれに答える。さて、外に出て来たもののどうするか…

 

 

ふむ、と左前方を見ると深い森が広がっている。

あっ、そうだ。アレを使ってみたいな

 

 

「アイジス、EML-02を出してくれ。」

 

「<<了解しました>>」

 

 

すると、アサルトライフルG11に似ているがそれよりも銃身は長く大きくよりメカメカしい見た目の銃が出てくる。

このEMLシリーズは所謂"レールガン"である。電磁誘導により物体を加速させ打ち出す装置だが、それを兵器に転用した物だ。距離の短縮や安定化に成功したとの事だがさっぱり解らん。

とにかく、チャージが必要で連射は出来ないが貫通力に優れた武器であると言うことだ。

 

 

「<<チャージを開始します>>」

 

銃身に当たる部分が赤く発光しチャージが開始される。触ると熱いらしいので普通の人は要注意だ。

 

 

「グオオォォ」

 

 

バキバキッと木々の間から現れたのはやはり魔物だった。筋肉隆々の体に赤い皮膚。あれはオーガか…此方に気付いたな。

 

 

「何てこった!?はぐれオーガかっ!兄さん気をつけr」

 

 

「<<チャージ完了しました>>」

 

完了の声が聞こえたので御者のおっさんの声を遮ってオーガ目掛けてEML-02を発射する。

反動と共に長い銃身から弾が吐き出される。

 

発射された弾はオーガの胸を貫通し木を何本か破壊しながら森の中へと消えた。

 

 

 

 

ドォォンと音を立ててオーガが倒れる

 

「……。」

 

御者のおっさんは言葉を失っているようだが、はて?

 

 

 

「…やり過ぎたかな?」

 

「<<適切な処置かと思われます>>」

 

 

 

 




エピローグが無いことに気がついた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission01.村に着いたんだが

2015.6.23 内容を追記しました


その後は特に何事もなく村へとたどり着くことが出来た。御者のおっさんが騒いでいたが魔導具のおかげと言うと納得してくれた。エルマールも納得していた。

 

 

 

この世界の将来を憂いつつ、馬車と御者のおっさんに別れを告げる

 

 

 

 

 

別れを告げた後、俺たちはゆっくりと村の中へと入っていく。

 

 

 

「村って言うからもっと小さいもんだと思ったけど、意外としっかりしてるんだな。」

 

 

「この村は王都とポタニカの中間にあるからですよ。他の村とかはこんなに大きくないです。」

 

 

 

聞いた話なんですけどね、そう言って微笑むエルマールと一緒に村を歩く。

 

 

村の規模はポタニカ程ではないがそこそこ大きく、簡単な柵の様なもので周囲を囲っている。エルマールの言葉にそんなもんなのかと深くは考えずに、とりあえず宿をとろうと宿屋へと行くが…

 

 

 

 

 

 

「「人が一杯で泊まれない??」」

「<<泊まれないのですか>>」

 

 

 

「はい、申し訳ありませんが…。」

 

 

 

 

宿の主人にそう言って断られてしまった。仕方ないから他の所へ行ってみるか。

 

 

 

…その後他の宿へ行ってみたが部屋がないからと断られてしまった。

 

 

 

 

 

「なぁエルマール…。こういう事は、その良くあるのか?」

 

 

「何か催しものとかあれば……でも、何かあったかなぁ。」

 

うー、とエルマールは考え込んでしまう。すると通りかかった商人のような男が声をかけてきた

 

 

 

「おや、もしや宿に泊まれなくて困ってらっしゃる?」

 

 

「え、えぇ。どこの宿も人が一杯で…、何かあったんですか?」

 

 

 

少々面食らいつつ聞くと、商人風の男は声を潜めて言った

 

 

「あぁ、ご存知ないのですな。…実は王都で疫病が流行っているみたいでして、皆この村で足止めをくっているのですよ。」

 

 

「え、疫病っ!?」

 

 

男はしっかりと頷く。

驚きは少なかったが、疫病か…医学が発達しているわけじゃ無さそうだし、やはりそう言うのもあるのか。

 

 

 

「(魔法で何とかならないもんなのかな?」

 

 

「<<難しいでしょう。ウイルスだけを殺す魔法があれば可能でしょうが>>」

 

 

 

 

 

儘ならないものだ。はぁ、しばらく王都には入れないか…

 

 

「教えて頂き、ありがとうございます。エルマーr」

 

 

男に礼を言い、仕方ないから野宿でもしようと言おうとしたが突如馬に乗った騎士っぽい人達が6名程現れ言い切ることはできなかった。

 

 

 

「我々は王都騎士団"ホワイトランス"だっ!商人の方々、済まないが集まって頂きたい!!」

 

 

騎士っぽいじゃなくて騎士だったのか…

隊長みたいな人が大きな声を出し、その声に何だなんだと人が集まってくる。充分に人が集まったところで先ほどの騎士がまた声をあげた。

 

 

「既に知っている者も多いと思うが…王都で疫病が発生し、食料や日用品が圧倒的に不足しているのが現状だ。それでだ、諸君等の中でそれらの物で在庫があるものは教えて欲しい!言い値で買おうっ」

 

 

 

動揺は一瞬、騎士の言葉を聞いた商人の目の色が変わる。頭の中で色々な計算をしているのだろうかーー商魂逞しいとはこのことだ。

 

 

 

 

さて、ここに居ても仕方ないが…どうするか。

 

 

「ムサシさん…その、何とかできないですか?」

 

 

「そうさなぁ…何とか、か」

見てみないとなんとも言えないが、薬がないと治せない類だと厳しいだろう。最悪の手段がないこともないが…使わないに越したことはないだろうし。

 

 

 

 

 

 

そんなことを話していると、騎士の1人が急に苦しみだす。

 

 

 

「お、おいっ!?一体どうしたんだ!」

 

 

 

その騎士は馬から落ちてしまい、苦しそうに呻き声をあげる。

 

 

「うぅ…ぅ…」

 

 

慌てて先程の隊長らしき人が駆け寄って助け起こして名前を呼ぶが、意識が朦朧としているようで反応がない。

 

 

 

 

「な、なぁあれって…」

 

 

商人たちが倒れた騎士を指差して言う。

 

 

 

 

「疫病じゃないのか…?」

 

 

 

その呟きに辺りが騒然となる。波紋の様に広がったソレは人々に恐怖を植え付け、口々に「疫病だ!」とか「逃げろっ!」という罵声が聞こえ場は混乱に包まれた。

 

 

 

 

「む、ムサシさん…!」

エルマールが不安そうな顔で見てくる。しっかりと目をみて頷き、心配するなと頭を撫でる。

 

 

 

 

「アイジス、行けそうか?」

 

「<<やれるだけやってみましょう>>」

 

 

 

 

出来ることはするつもりだが、ヤバそうなら迷うつもりはない。

エルマールに離れていろと合図を出して、ゆっくりと倒れた騎士へ近づいて行く。

 




オリバー「エルマァァァァァルゥ!!??」
後日疫病の事実を知りました笑


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission2.分かったんだが

 

「皆、落ち着いてくれっ!」

 

 

騎士団の隊長…(隊長でいいか)が周囲を落ち着かせようと声を荒げる。

場は依然として混乱し、人々が逃げ惑う。他の騎士達もどうしていいか分からずオロオロしている。

 

そんな中、辺りのことなど我関せずで倒れた騎士の元へと俺は歩いた。しかし、隊長さんが正面から肩を掴んできたため歩みは止まった。

 

 

 

 

「おいっ!貴様、何をするつもりだ。」

 

隊長さんは30〜40歳で力に満ち溢れた顔の渋いオッさんだ、いきなり近づいてきた俺を警戒しているのか。余り時間をかけたくはないが…

 

 

「<<カードを使ってみては?>>」

 

 

おぉ、それがあったか。権力を振りかざすみたいで好きじゃないが、緊急事態だ。

倉庫からブラックなカードを取り出し、隊長さんに手渡す。

 

効果は抜群で「ぶ、ブラックっ!?」と言ったきり手元のカードを眺めて動かなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

その間に、倒れた騎士へと近づきお姫様抱っこで抱える。空気を"見て"も感染はしないようだし、取り敢えず落ち着いて診れる所へ…と思ったけど何処も入れてくれないよなぁ。

 

 

ちょいちょいと、手招きでエルマールを呼ぶ。

 

 

「何でしょうか?」

 

 

「彼を安静にできる所へ運びたいんだが、何処か良い所ないか?」

 

 

「安静にですか…」

 

 

うー、とエルマールが考え込んでしまったが復活した隊長さんが助け舟を出してくれた。

 

 

「それならば、私たちの馬車を使えばいい。荷物は積んでないから充分な広さがあるだろう。」

 

 

運搬用の馬車か、それなら大丈夫だろう。隊長さんのお言葉に甘え慎重に騎士を運んでいく。俺たちが乗ってきた馬車よりも大きいがシンプルな作りの馬車の中へ鎧を脱がせた騎士を寝かせる。

他の騎士たちは隊長さんの指示で馬車の周囲に待機することに

 

 

 

「アイジス。」

 

「<<了解しました、スキャンを開始します>>」

 

 

そう声をかけると、機械の触手が伸びてきて騎士の身体へと上から下に光を浴びせていく。

エルマールと隊長さんが驚いていたが、今は無視だ。

 

 

 

「何か見つかったか?」

 

 

「<<肯定であります。彼の体内からは毒素が検出されました。引き続き解析を行います>>」

 

 

「頼む。」

 

 

「<<少々お待ちください>>」

 

 

 

 

 

原因の特定を待つ間2人に、症状の違いなどを聞いてみる。

 

 

「さて、彼の体内から毒が見つかったんだが疫病とは違うのか?」

 

 

 

「色々聞きたいことはあるが、ふむ…疫病にかかると突如苦しみだし呼吸は荒く意識は朦朧とし、そして異様な程体温が低くなる。間違いなく今王都で流行っている疫病だが…解毒魔法は効かなかったと聞いているが、病気ではないのか?」

 

 

 

「その可能性が高いかもしれん。」

 

 

魔法も万能ではないらしい、ウイルスは微生物らしいし解毒魔法が効かないのかもしれないな。

 

 

 

「なにかの毒なら、なんで魔法が効かなかったんでしょうか?」

 

 

エルマールが最もな事を聞いてくるが、それは解析次第だろうか。

 

「それはもう少しで分かる、と思う…どうだアイジス。」

 

 

「<<完了しました>>」

 

 

終わったみたいだ。空中に立体映像が表示され、彼の身体の構造が青色で映し出している。その中に赤い色が流れて来たーーこれが毒素か。2人はポカーンと口を開けてそれを見ている。

 

 

 

出ている先をずーっと辿っていくと、どうやら首辺りから出ているようだ。急いで騎士の首を見ていくと5mm〜10mm位のカサブタがあった。

 

 

 

「…いや、カサブタじゃないな。コイツは、種…か?」

 

 

 

「「たね??」」

 

 

拡大し、ソレがどんな形状や働きをしているのかを見る

 

 

「あぁ、植物の種のような物が彼の首に引っ付いて毒を生み出してる。…どうやらコイツが原因のようだ。」

 

 

 

「えっ!これが!?」

 

マジマジと首の黒くなっている所を見つめる。

俺の目にはコイツがカサブタやホクロの類いじゃないことがハッキリと見えている。彼の体内に向かって根のようなものが生え、毒素を排出している。そんなんあったら怖すぎるだろう

 

 

「<<その様です。除去しない限り解毒は難しいのでしょう。如何しますかマスター?>>」

 

 

「無理矢理取ることはできるか?」

 

 

触手が種のような物にプニプニ触れる。反応は無いようだ

 

 

「<<可能です、上部の黒い所さえ除去できれば毒素の排出は止まるでしょう。その際、根の部分が多少残るかも知れませんが害はありません>>」

 

 

それなら大丈夫そうか…その後は要経過観察だな。俺がとってもいいが隊長さんに任せよう、念のため素手で触らないように小さい布を渡す。

 

 

「むっ!コレは抜けないなっ。…上だけ切り離せば良いのか?」

 

 

黙って頷くと隊長さんはナイフを取り出した。そして種を引っ張り根の部分が露出すると、ナイフを使って器用に切り離した。

引っ掻いて取れそうだと思ったが、かなりお堅いやつらしいな。

 

 

「エルマール、解毒魔法を。」

続けて体内の毒素を取り除こう

 

 

 

「は、はいっ。"キュアポイズン"」

 

 

エルマールが唱えると、騎士の身体が淡い光に包まれた。すると穏やかな呼吸が戻り、騎士は意識を取り戻した。

 

 

「ジャック!意識が戻ったのか!?」

 

 

「うぅ…隊長、おれはいったい…?」

 

 

「後で説明する。だから、今はゆっくりと眠れ。」

 

 

隊長さんがそう言うと、ジャックと呼ばれた騎士は目を閉じ寝息を立て始めた。

その様子を安心した顔で見つめる隊長さんと、何故か涙ぐんでいるエルマール。

 

 

「<<体内の毒素反応、消失しました。お疲れ様ですマスター>>」

 

 

 

「(俺は何もしてないよ、ありがとうアイジス。)」

脳内で1番の功労者に礼を言う。

 

 

「エルマールもお疲れ様。よく頑張ったな。」

 

 

えへへ、と嬉しそうに笑う彼女がとても可愛かったので頭を撫でておいた。

 

 

 

 

そして3人で隊長さんが持った布の上にあるソレを見る。

 

 

 

「コレが原因とは信じられんな…。」

 

 

隊長さんが信じられないといった顔で呟く。エルマールも横で頷いている。

 

 

「魔物じゃないんでしょうか?」

 

 

「詳しく調べて見ないと何とも言えないかな。こう言った事に覚えはあるか?」

 

 

「ないな。」「わたしもありません。」

 

 

異世界でもイレギュラーな事態ってことか。なら、コイツの大元が何か調べないといけないな…

この種だが、ケースに入れて倉庫に入るか試すと無事入ったのでそのまま俺が預かることにする。

 

 

 

「君たちが居てくれて助かった、本当にありがとう。」

 

 

 

 

隊長さんが俺とエルマールに胸に手を当て軽く頭を下げながら謝辞を述べてくる。騎士たちの感謝の仕方なんだろうけどカッコイイなぁ

 

 

「気にするな。それよりこの後はどうするんだ?」

 

 

「そうだな…。」

 

話しながら馬車から出ると、既に日は傾いていた。うおっ!もうこんな時間かっ

隊長さんは少し悩んでいたが、

 

 

「…明日の朝一に出発して、王都へ帰る。飛ばしていけば昼前にはつけるだろう。」

 

 

流石に夜の行軍は止めたらしい。この村で1泊し明日帰るようだ。

 

 

「君たちはどうする?出来れば共に来てくれると心強いのだが。」

 

 

「あー…どうする?」

 

 

「わたしは、ムサシさんが良ければ行きたいです。」

 

「<<特に問題ありません>>」

 

 

 

「そうか。隊長さん、俺たちも同行させて貰うよ。」

 

 

2人の同意も得られたし、結局は行く予定だったからな。

 

 

「本当か!おぉそれは良かった!では明日の朝、迎えに来よう。私たちはこの馬車の近くにテントを張るが、君たちは何処の宿に泊まっているんだ?」

 

 

 

「「あっ」」

 

隊長さんの一言に俺たちは宿が取れなかった事を思い出す。

 

 

 

結局、俺たちも野宿することにした。




種は縫い付けられたボタンのイメージ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間.旅立って初めての

 

 

旅に出てから初めての夜

 

 

 

魔改造を施したテントの中で、俺たちは明日に向けた準備をしていた。しかしまぁ旅に出て初日に疫病騒ぎとは、この世界に来てから色々巻き込まれ過ぎじゃないか?

 

「<<そう言った現象を"ラッキースケベ"と呼ぶと聞きましたが?>>」

 

 

「…もう一回言ってくれるか?」

 

 

「<<このラッキースケベ>>」

 

 

 

それは違うっ、何か違う!!アイジスはそんな事言う子じゃないっ!誰だウチの子に変なこと吹き込んだやつは!?

 

「アイジスさん、その使い方は間違ってるから忘れなさい。ちなみにだけど…誰から聞いた?」

 

 

「<<アダチ軍曹ですが…了解です、修正しておきます>>」

 

 

アダチ軍曹とはアイジスとよく行動を共にしていた亡国日本の軍人であり、飄々とした性格にオタク気質の男だ。この男、変なことをする常習犯で「何かあったらアダチの所為」と言うのが周囲の認識である。

アダチぃいいいい!?やっぱりあの野郎かぁ!!

 

 

俺の脳内でアダチ軍曹が爽やかな顔でサムズアップしている絵が浮かんだ。

 

ガンガンと頭を床にぶつけ、アダチに対して怒りを燃やしているとエルマールが帰ってきた。

 

 

「ど、どうしたんですか!?大丈夫ですか?」

 

 

「い、いや、何でもない。それよりどうだった?」

 

 

本気で心配されたので手で大丈夫と示し、慌てて話題転換をする。

 

 

「あっ、すごく良かったです!まさか外でお風呂に入れるなんてっ。」

 

 

「だろう?喜んでくれて良かったよ。」

 

 

 

上手く話を逸すことが出来たようだ。

 

 

このテントにはエアコンの他に風呂が付いていると言うかつけた。アイジスさんが。

 

元々このテント自体が空間拡張という空間を広くする魔法がかけられた魔導具だ、なので外の見た目と中の広さとのギャップが激しい。

スペースがかなり確保出来たのでアイジスさんが魔改造した結果、エアコン完備・バストイレ別というキッチンとベッドが無いことを除けば住みたいくらい快適な物件になってしまった。時間があればその辺りも何とかしたい

 

部品は倉庫の中にあったパーツや小型ジェネレーター、水は魔導具を使って生み出している。

 

 

 

「<<このテントがあれば宿に泊まる必要は無いのでは?>>」

 

 

その通りなんだけど、宿って何か惹かれるじゃん。

 

 

 

「こんな凄いテント、高かったんじゃないですか?」

 

タオルで髪を乾かしながらエルマールが尋ねてきた。彼女はゆったりめの寝間着に着替えており、備え付けのソファーにチョコンと腰掛けている。

 

んー値段かぁ、テント自体は空間拡張の機能しか付加されてなかったので実際はあまり高くない。

 

 

 

 

「そうでもないぞ、トーマスさんがかなり安くしてくれたからな。」

 

 

エルマールにはトーマス商会で買ったと言ったし、トーマスさんが安くしてくれたのも事実だし。まぁ嘘は言ってない。

 

 

 

 

「流石トーマスさんですねっ。」

 

お風呂に入れるのが余程嬉しいようで。本人の知らない内に評価が上がっている。

 

 

 

 

「それで、ムサシさんは何をしているんですか?」

 

 

「ん?あぁ、明日の準備を少しな…そうだ、エルマールにこれを渡そうと思ってたんだ。」

 

 

 

ほいっとエルマールにシンプルな花のデザインのイヤーカフを手渡す。はてなという顔をするエルマールに耳につけるよう促す。

 

耳に挟み込むようにつけると、キュイーンガシャっと音がして動いても外れないよう固定される。

 

 

「<<聞こえますか?>>」

 

「わっわっ!」

 

 

突如聞こえた声に、キョロキョロと周囲を見渡して声の主を探すが見当たらない。アイジス、っと呼びながら肩の辺りをノックすると機械の触手が出てエルマールの目の前まで移動する。

 

 

「<<初めましてエルマール、私はアイジスと申します>>」

 

 

「あ!初めましてっエルマールです!」

 

 

ワタワタしながらもしっかり挨拶を返すエルマール。チカチカとセンサーを光らせて喋るアイジス。

 

 

「本当にアイジスさん…ですか?」

 

 

「<<間違いありません。アイジスと、そうマスターに名付けて頂きました>>」

 

あれ、自慢気なのは気のせいかな?気に入ってくれてるなら良かったけどね。

 

 

「わぁ!わたしアイジスさんとずっと話してみたいなぁって思ってたんですけど、姿が見えなくて…。」

 

 

「<<私もエルマールと話ができて嬉しいです>>」

 

 

「えへへ、わたしも嬉しいです。あの、アイジスさん!ますたーってムサシさんのコトなんですか?」

 

 

「<<肯定であります。私の全てを委ねています、ゆえにマスターです>>」

 

 

「す、すべてを…!」

 

 

和気藹々と楽しそうに会話をする2人。

ヤバい、ガールズトークに巻き込まれた男子の気分だ。正しく今の状況なんだがな。

 

 

その後、この世界とは違う所から来たことやアトラック=ナチャの事それと俺たちの身体のことも伝えておいた。主にアイジスが…この2人凄く仲良くなってて何か辛い……いや、良いことなんだよ?

 

 

 

「そうだったんですか…ムサシさんもアイジスさんも大変ですね。」

 

 

「色々なことに巻き込まれてるが、まぁ退屈よりはよっぽど良いさ。」

 

 

「<<それにマスターやエルマールと出会う事が出来ましたから>>」

 

 

何でも無いように肩を竦めて言うと、アイジスも嬉しいコトを言ってくれる。

 

 

「でも…全てが終わったら、2人とも元の世界に帰っちゃうんですか?」

 

 

 

不安そうに聞いてくるが、俺たちはポンっと頭に手を乗せ安心させる様に撫でる。

 

 

「確かに1度は帰りたいと思っているが、もう会えないって訳じゃないだろうさ。」

 

「<<マスターの言う通りです。心配ならば同行しては如何ですか?>>」

 

 

 

「ほんとうですかっ!」

 

 

 

「えっ?」

 

 

「<<勿論です。安心して下さい>>」

 

 

「えへへ、ありがとうございます。」

 

 

 

「あ、うん。未だ帰れるかどうかも分かってないから、この話はまた今度な。」

 

 

話が変な方向に行きそうだったので一旦置いておく。

 

 

「何にしても、改めてこれから宜しくな2人とも。」

 

 

「はいっ!よろしくお願いします!」

 

 

「<<宜しくお願いします>>」

 

 

 

 

その後もワイワイと騒ぎながら

異世界の夜は更けていく…

 

 

 

 




大体アダッチィーの所為


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission3.到着したんだが

旅に出て初めての夜に野宿をしてーーそして朝が来た。

 

 

 

 

「おはよう。よく眠れたか?早速で済まないが、準備が終わり次第出発しようと思う。」

 

 

 

「あぁ、分かった。…エルマール、ほら準備するぞ。」

 

 

「は〜い。」

 

 

 

「<<洗面所は彼方ですよ>>」

 

 

 

「ありがと〜。」

 

 

 

昨日言った通り、夜が明け始めた頃に隊長さんが俺たちのテントに来た。はふ〜と寝ぼけているエルマールを風呂場の横にある洗面所に追いやると、俺も準備をすることにする。

 

と、言っても隊長さんが来る前にある程度の準備は終わらせてたから寝袋や細々した物を倉庫にしまうくらいだ。

 

 

「朝早くから済まないな。…しかし、このテントも凄い。あぁ、君たちを詮索するつもりはないから安心して欲しい。」

 

 

「そうか?まぁ、気にしないでくれるのは助かる。それで、出発したら真っ直ぐ王都へ?」

 

 

「ああ、その積もりだ。何か問題でも?」

 

 

「いや、それならコレを渡して置こうと思ってな。薄手だが丈夫な素材で作ったグローブと器具だ、種に触るときはコレを使うと良い。」

 

 

大きめの袋に入れられたのは強化ゴムで作られたゴム手袋、直接触れることもなく手の動きも阻害しない1品だ。昨日寝ずに作った

 

 

「ありがたい、有効に使わせて頂こう。」

 

 

そうこう話している内にエルマールが帰ってきた。しっかり目は覚めたみたいで、外着に着替えてある。

 

 

 

「お待たせしました!さっきは恥ずかしいところを見せてしまって…」

 

 

 

「<<昨日、就寝するのが遅かったのが原因と思われます>>」

 

「まぁ、気持ちが昂ぶって寝付きが悪かったんだろう。普段と違う所も見れたし問題ないさ。」

 

 

「うぅ〜気をつけます…」

 

 

イベント前のあるあるだ。エルマールに貴重品以外はテントに置いといて大丈夫だと伝えると、それならもう出発できるとのことだ。

 

 

「ところでムサシさん…わたしたちは何で王都に向かえばいいんですか?」

 

 

「あっ」「<<考えていませんでしたね>>」

 

しまった…馬とか乗れないから、最悪俺だけ走って行くしかないのか。そう本気で考えていたがどうやら走らなくても良いらしい。

 

 

 

「はっはっはっ、何の心配をしているか知らないがもう1台馬車を用意してあるから安心して欲しい。君たちとジャックは馬車に乗って王都へ向かって貰う。」

 

 

 

 

 

「それはありがたいが、彼は大丈夫なのか?」

 

 

 

「ああ、体力的には問題ないし寧ろ君たちが近くに居てくれた方が良いだろうと思ってな。」

 

 

「そうか、こちらとしても経過を観察できるなら助かる。…テントを片付けたら馬車に乗ろうか。」

 

 

「はいっ!」

「<<了解です>>」

 

 

 

このテント、そのまま倉庫へ仕舞うことができたので大して時間はかからなかった。大きさに制限が無いのか検証してみないとだが、それよりもテントを仕舞う際に隊長さんが遠い目をしていたのが気になる。

 

外に出ると、隊長さんの言うとうり馬車が2台用意してあった。

 

 

「あの状況で、良く物資を集められたな。大変だったんじゃないか?」

 

 

「そうでも無い。あの騒ぎでも商人が幾人か残っていてな、馬車ごと買い取ってきたのさ。」

 

 

中々に高かったがな、と朗らかに笑う隊長さん。

俺たちは全ての準備が終わったので馬車へと乗り込み、出発を待つことにする。馬車の中に入ると1人の男が寛いで座っていた。

 

 

 

 

 

 

「よっ!お2人さん。隊長から話は聞いてるぜー、俺はジャック=モンドってんだ。ジャックって呼んでくれ。昨日は世話になったみたいだな!」

 

 

片手を挙げて挨拶してきたのは昨日の騎士(ジャック)だった。歳は20〜30代で男性にしてはやや長めの金髪を後ろで束ねたワイルド系イケメンだ。昨日と同じく鎧はぬいでいる。それにしても男臭いイケメンだ、隊長さんも爽やかイケメンだったしこの騎士団イケメンしか入れないのかよ。

 

 

 

 

「(爆ぜろイケメン)」

 

「<<了解しました。爆破シークエンスを構築します>>」

 

「(待って!アイジスさん今のなし!キャンセルでっ)」

 

「<<中止ですか…残念です>>」

 

 

 

アイジスは何で残念そうなんだ…?

こうして図らずともジャックを2度救ったわけだ。余談だがエルマールにこの会話は聞こえて無かったりする、プライベートチャンネル的なやつだ。

 

 

 

 

 

 

「コホン、じゃあ改めて武蔵だ。宜しく頼む。」

 

「エルマールです!体調はもう大丈夫なんですか??」

 

 

片手を挙げて何事も無かったようにジャックへ返す。エルマールは丁寧に頭を下げて挨拶した。

 

 

「おー、まだ本調子じゃないがオチオチ寝てもいられないからな…心配してくれてありがとよ!」

 

 

全快という訳ではないようだが、調子は悪くないようだ。

 

 

「えへへ良かったですっ。」

 

 

「その調子なら問題ないだろうが、何か違和感を感じたら教えてくれ。」

 

 

「へへっ、そん時はまた頼むぜムサシ」

 

 

「考えとくよ。」

 

 

冷たいこと言うなよ〜と絡んで来たので蹴っ飛ばしといた。な、何かノリが若いな…

 

 

 

「<<この2人相性が良さそうですね>>」

 

「何か楽しそうですよね〜。」

 

 

肩を組んで来ようとするジャックを押しのけているとそんな会話が聞こえた。…まぁ、こう言うノリも嫌いじゃないぞ?

 

 

「まあまあ、ここは親睦を深めるとおもっグホッ!」

 

 

「<<良い一撃です。対象は完全に沈黙しています>>」

ワイワイ騒いでいると隊長さんが入ってきて、ジャックの脳天に一発お見舞いする。

 

 

 

「ジャック、お2人に迷惑を掛けるんじゃない。…そろそろ出発するが大丈夫か?」

 

 

「あ、ああ。俺たちは大丈夫なんだが、コレは良いのか?」

 

 

「この馬鹿にはこれ位で丁度いいんだ、気にしないでくれ。」

 

 

 

 

エルマールが「ジャックさーん!」と名前を呼びながらヒールをかけているが、まぁ何時もの光景なのだろう。多分…

 

御者台へと顔を出すと、馬に跨った隊長さんが号令をだしていた。

 

 

 

 

 

「皆の者!我等はこれより、急ぎ王都へと帰還する。だが、道中警戒は怠るな!」

 

 

「「「はっ!」」」

 

 

「では、出発っ!!」

 

 

その合図で騎士達も一斉に馬と御者台に乗り込むと、王都を目指して出発する。

前に2人後ろに1人で馬車2台を挟むような陣形で進んでいく。

 

 

 

順調に進む中、御者を担っていた騎士が荷台に座っている俺に声をかけてきた。

 

 

「なぁ、あんた。」

 

 

「ん?ああ、俺のことか。どうかしたか?」

 

 

 

声をかけてきたのは、20代半ば位の力強い眼に褐色の肌をした女性の騎士だ。

 

 

 

「あんたがムサシだろ?私は"イザベラ"ってんだ。一応礼を言っておこうと思ってね…隊長に聞いたけど、あのバカの事だけじゃなく王都の人々の為に力を貸してくれてありがとう。」

 

 

 

「どういたしまして。王都の人たちも治せるか解らないから、まだ油断は出来ないけどな。」

 

 

 

「はっ!確かにね…。だけどあんたしか頼れるものがないんだ。解決してくれたら私に出来るコト何でもしてやるから、精一杯頑張りなよ!」

 

 

 

そう言って魅惑的な笑みでウインクしてきた、お姉さん系かこの人は。

 

 

 

 

「<<マスターが嬉しそうですね>>」

 

「ムサシさんはああ言うのが好きなんですかね?」

 

 

 

 

外野がヒソヒソ騒いでるが、気にしないことにする。

 

俺が女性騎士と話していると、目を覚ましていたジャックがズンズンと御者台に近づいてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「おーいイザベラ!"バカ"って誰のことだっ!」

 

 

「そんなの、昨日ぶっ倒れたバカのことに決まってるでしょーがっ」

 

 

「やっぱり俺のことじゃねぇか!?」

 

 

「だからそう言ってるじゃないかこのバカっ!」

 

 

 

 

ギャーギャーとジャックとイザベラの間で口喧嘩が始まってしまった。エルマールとアイジスは何やら自分たちの世界に入ってしまっているし…何なんだこの混沌とした空間はっ!

 

その後は1度休憩した後、再び王都へと急ぎ馬を進めると何とかお昼前には王都へと辿りつくことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ…」

「<<これは見事ですね>>」

 

 

 

 

 

今俺の目の前には王都の街並みが広がっている。ポタニカの街よりも立派な城壁の中に立ち並ぶ大小様々な建物。そして一際目を引くのが、白で統一され美しさと頑強さを兼ね備えた大きな建物ーー城だ。

…俺もアイジスも初めて生で見るソレに感動を覚えていた。以前来たことがあると言っていたエルマールも城を見て、いつ見てもすごいと惚けているようだ。

 

 

 

 

 

「何だ?ムサシは王都に来るのは初めてなのか。」

 

 

「そのようだな、私も初めて見た時は似たような反応だったよ。」

 

 

 

 

くっくっくっ、っと笑いながらジャックとイザベラの2人が俺の前へと来る。

 

 

 

 

「まぁ、アレだなこんな時に何だが…」

 

 

 

コホンと咳払いを一つして、手を広げる。

 

 

 

 

 

「「ようこそ、王都ファマスティンへっ!」」

 

 

 

 

 

 

こうして俺たちは王都へと到着したのである。

 




ティンと来た。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission4.何とかなりそうなんだが

王都ファマスティン

雄大な自然に囲まれた人族の王が治める都市。人族発展の礎を作ったともいわれる程歴史が古く、その規模はフォーマル大陸最大を誇る。

 

華やかな王都の街並みは活気に満ち、様々な人種・業種の人で溢れている。いや、溢れていた。

 

今は人々が家に閉じ籠り、人っ子ひとりいないのでは無いかと錯覚してしまう程人気を感じられなかった。

 

 

 

 

 

「なんと言うか…廃れてるな。」

 

「<<人が居ませんね>>」

 

「ですね…。」

 

 

「ハハハ…普段は全然違うんだがな。」

 

 

俺たちの感想に隊長さんが寂しそうに言う。

 

 

 

 

王都の門まで来た俺たちは隊長さんのお陰で無事に中へと入ることが出来た。現在は倒れた人たちが集められているというギルドの施設へ隊長さん、ジャック、イザベラの3人と俺(とアイジス)とエルマールで向かっている。

 

 

「そういえば、他の人等は何処に行かせたんだ?」

 

 

「彼等は騎士団本部へ報告に行かせたよ。それが終わったら他の団員を連れて戻ってくる手筈だ。」

 

 

「騎士団へ?何故だ??」

 

 

 

「おいおいムサシさんよぉー」

 

 

分かってねぇな〜と言う顔でジャックが話に加わってきた。

 

 

「王都の騎士団って言っても俺たちの所属してる"ホワイトランス"だけでも11の隊があるんだぜ?物資のこともあるし報告しないで好き勝手やるわけにゃいかんのよ。」

 

 

 

ドヤ顔で此奴(ジャック)に説明されてムカついたので、デコピンで沈めておいた。

 

 

 

 

「あんた等も大変だな…。」

 

 

「それはコイツのこと?」

 

 

イザベラが笑いながら尋ねてきた。

 

 

 

「それも含めてだな。まぁ、問題ないなら良いさ。」

 

 

未だに悶絶しているジャックを置いて通りを歩いて行く。暫く歩くとギルドの施設に着いた…のだが、

 

 

 

 

「施設というより唯の倉庫だな。」

「<<倉庫ですね>>」

 

 

「それは言わない約束ってやつよ…。」

 

 

 

本来は魔物の素材を解体・保管する場所であるそこを仮の隔離施設にしているようだ。

 

 

「多少のことなら診療所で何とかなるから有事の際にしか使われない処置と言った所だ。」

 

 

「今がその有事と言った所か。」

 

 

「ということは、苦しんでる人がたくさん居るってことですねっ。ムサシさん早く行きましょう!」

 

「<<マスター急ぎましょう>>」

 

 

 

「ああ、行こうか。」

 

 

 

エルマールとアイジスに促され施設の中に入っていくと…

 

 

床に寝かされた大勢の人が居た。皆呻き声をあげ、荒い呼吸を繰り返している。そして苦しそうに「みず…」「み、…みず」と呟き、一様に水を求めていた。

 

 

この光景に隊長さんとイザベラは顔をしかめ、エルマールは口を抑える。ジャックは顔を青くしているが、自身の時を思い出しているのだろ。

 

 

「<<エルマール大丈夫ですか?>>」

 

 

「う、うん。平気だよっ。」

 

 

アイジスの問いかけにエルマールが気丈に答える。しかし、急に声を出すから隊長さんたちがびっくりしているぞ。

 

 

「分かった。だが無理はしてくれるなよ?」

 

 

「はいっ!」

 

 

返事を聞いてから1番近くに寝ている女性の側でしゃがむと、「アイジス」と一声かけてからスキャンを開始する。

この女性は魔族だろうか?紫色の肌に角が生えている。その彼女の上から下へと触手が光を当てていくと、初めて見たジャックとイザベラが驚いていたが無視。

 

 

 

「<<スキャン終了です。解析の結果ほぼ100%同じ症状でしょう>>」

 

 

「そうか…。種はどこに?」

 

 

「<<手首の辺りです>>

 

 

今回は2回目なので重要なポイントのみのスキャンだ、かなりスムーズだ。

 

失礼、っと言ってから女性の手を持って手首を見るとーーあった。一見するとカサブタの様な諸悪の根源が

 

 

 

「うぅ…」

 

 

苦しさからか女性が俺の手を掴んでくる。彼女の手から冷たい感触が伝わってくるのが分かる。

 

 

「安心してください。俺が必ず助けますから。」

 

 

ギュッと彼女の手を握り返すと、隊長さんに種を取り除くよう指示を出す。

 

 

「…やるぞ?」

 

 

「ああ、…頼む!」

 

 

俺の渡したグローブをしっかりと着け、ついでに渡したピンセット擬きで慎重に種を除去していく。ブチッという音と共に種が切り離されると、すかさずエルマールに解毒をかけてもらう。

 

 

 

「……どうだ?」

 

 

 

魔族の女性を包んだ温かな光が収まった後にはーー先程と明らかに違う様子の彼女がいた。穏やかな呼吸に体温も戻ってきているのが確認できる。

 

 

「<<解析完了、オールクリアです。…お疲れ様でしたマスター>>」

 

 

 

「問題なし、彼女はもう大丈夫だ。」

 

 

 

 

「「「はーーっ」」」

 

 

全員一斉に安堵の声を出す。

 

 

 

「やったぜ!おいっ、やったぞムサシ!」

 

 

「ムサシさーん!やりましたよっ!」

 

 

 

「…ああ、その様だな。」

 

 

ジャックに頭をガシガシとされエルマールに抱きつかれるが、俺も思わず力が抜けてたのでされるがままにする。

 

 

「隊長!落とさないでくださいねっ!それ落とさないでくださいね!!」

 

 

「わ、分かっている!す、すまんが早く助けてくれないか!?」

 

 

 

「おっと悪いわるい。」

 

 

強化ガラスでできたケースに種を入れる。灰皿みたいな形だなコレ。

 

 

「後は種を燃やせば完了だ。そのままでも大丈夫だと思うが、まぁ念のためだな。」

 

 

 

「おっと、火魔法なら私の出番だね。この中に出して良いのかい?」

 

 

 

「ああ、ひと思いにやってくれ。」

 

 

「そうかい…燃えな"ファイア"」

 

 

イザベラが初級火魔法を唱えると種を中心として火柱が立つ。そういえばエルマール以外の魔法って初めて見たわ、おぉ凄いなージャックの髪が燃えてるぞ。

 

アチー!っと転げ回っているジャックを放っておいて全員にグローブとピンセット擬きを配る。

 

 

 

「手順は分かったな?種の場所を教えるから、皆んなは隊長さんと同じ手順で除去してくれ。この中で解毒魔法が使える者は?」

 

 

 

「えっと…わたしだけ、ですかね。」

 

 

 

「あー…隊長さん??」

 

 

エルマール以外皆一様に首を振る。割とポピュラーな魔法ではないのか?

正直そこまで考えてなかった…

 

 

 

「一応手配はしている。が、何時到着するかまでは…」

 

 

 

「そうか…助かる。エルマール、済まないが応援が来るまで頑張れるか?」

 

 

 

「はいっ!任せてくださいっ!」

 

 

「<<エルマール、無理はしないでください>>」

 

 

大丈夫ですよ〜、と頼られるのが嬉しいのかエルマールは張り切っている。

 

隊長さん、イザベラ、復活したジャックもやる気満々だ。

 

 

 

 

「さて、いっちょやりますか。」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission5.援軍が来たんだが

今回は短め


 

「ここかっ!!」

 

 

ばたばた音が聞こえたかと思うとバンッ!と勢い良く倉庫の扉が開かれ、騎士が雪崩れ込んでくる。

 

 

 

 

「ああ!た、種が落ちてしまったぞ!?」

 

 

 

「お、おちおちおお落ち着いてください隊長!!」

 

 

 

「バカ野郎!もっと静かに入ってこいよっ!」

 

 

 

突然の音に驚いた隊長さんが種を落としてしまい慌てる隊長さんとイザベラ、入ってきた騎士をぶん殴るジャック。何だこのカオスは…俺もエルマールも作業の手を止めてこの光景を眺めていた

 

落とした種を見つけふーっと息を吐いてから隊長さんが応援に駆けつけた騎士たちへと声をかける。

 

 

 

 

「よく来てくれた…一同整列!」

 

 

「「「「ハッ!」」」

 

 

中に入ってきた20人程の騎士が隊長さんの声で列を作り足を開いて整列した。先程のことは無かったことにするつもりらしい

 

 

 

 

「なぁ、これで全員なのか?」

 

 

「そんな訳ないだろ、外で30人くらい待機してるってーの」

 

 

 

隊員の人数についてジャックにヒソヒソ聞いてみると、50人は居るとのことで意外と多いことに驚いた。

 

 

 

 

「他の隊はどうだ?」

 

 

「ハッ!準備が整い次第こちらに人を向かわせるとのことです!」

 

 

隊長さんは俺たちと一緒に王都へ来た騎士と話し終えると、騎士たちに向き合い仁王立ちする。

 

 

 

「既に聞いている者もいるかもしれんが…これは疫病ではないっ!全ての原因はこの小さな種にある。これこそが王都を苦しめて来たモノだ、だが我々はここにいるムサシ殿の協力を得てコイツを取り除くことに成功した!皆は治るのだ!!」

 

 

 

聞いている騎士たちの目に強い光が宿り拳が硬く握られる。…もしかしたら、彼等の身内にも被害者がいるのかもな

 

 

 

「いいか!手先が器用な者、解毒魔法か火魔法が使える者はムサシ殿の指示に従え!それ以外の者は患者の所在を把握するか、できるだけ多くの人をかき集めてこい!」

 

 

 

「「「はいっ!!!」」」

 

 

「よし!第3部隊、王都を救うぞっ!!」

 

 

「「「おうっ!」」」

 

 

 

 

それぞれが気合を入れ今度は一斉に分かれる騎士たち…外に行く者、逆に中へと入ってくる者、俺の前に3列で並ぶ者。ふむ、どうするか…

 

 

取り敢えず患者の1人の周りに集まって貰いやりながら説明することに。

 

 

「よし、じゃあ全員見やすい所に。…いいか?この黒いカサブタみたいな奴が原因だ、コイツが身体に毒を流し続けいる。だから解毒が効かない。つまりだ、コイツを除去してから解毒の魔法をかける。そして、この容器に入れて燃やす。此処までは大丈夫か?」

 

 

「センセ〜カサブタとの違いが分かんねぇよぉ〜」

 

 

「いい質問だジャック。俺はお前が器用な奴等に入ってるのが分からんが…まぁ見てろ」

 

 

そう言いながら器具で種を引っ張る

 

 

「こんな風に引っ張るとだな、根の様なモノが見える…これが見えたらナイフで切り離せば良いだけだが、念のためこのグローブと器具を使えよ?」

 

 

全員がしっかりと頷くのを確認した後、エルマールに頼もうとして止めた。

 

 

 

 

「済まないが、誰かこの人に解毒をかけてやってくれ。」

 

 

 

「ムサシさん?わたしがやりますけど…」

 

 

 

「さっきから休みなく魔法を使ってただろう、人も来たから少し休憩していると良い。」

 

 

「で、でも…」

 

 

「<<エルマール無理はいけません、マスターの言う通り今は休むべきだと進言します>>」

 

 

「…はい。お2人ともありがとうございます。」

 

 

 

「こちらこそ、だよ。お疲れ様…よく頑張ったな。」

 

「<<ゆっくり休んでください>>」

 

 

頭を撫でて労ってやると、エルマールは嬉しそうな顏をした後部屋の隅に座った。

直ぐに目を閉じると…やはり疲れが溜まっていたらしく、眠ってしまったようだ。

 

騎士の1人に解毒の魔法をかけて貰い種を燃やして貰うとイザベラに声をかけた。

 

 

 

「イザベラ、彼女を何処かで寝かせてやってくれ。」

 

 

「ああ、ここで寝かせて置くのも可哀想だね。ギルド職員の休憩室があるからそこに連れて行くよ。…全く、小さいのに凄い娘だね。」

 

 

「まぁ、ポタニカ自慢の子だからな。」

 

 

そうかい、とイザベラは笑いながらも彼女を起こさないように抱きかかえてその場を後にした。

そして俺は騎士たちに向き直ると、

 

 

 

「さて、手順は分かったな?俺もサポートするが全部は見きれないから種の位置は気合で探せ、以上だ。」

 

 

 

そう締めくくった。

 




眠気には勝てなかったよ…ピザ食べたい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission6.何か来たんだが

ギルド倉庫の中は戦場の様にバタバタしていた。

 

 

 

「種…落とさないように…慎重に…!」

 

 

「この人何処にも見当たらないんだけど!」

 

 

「ああ…これは背中だな、ほら。」

 

 

 

あれから隊長さんの部隊と協力して作業に当たっているが、いかんせん患者の数が多過ぎる。連れて来られそうな人は此処に運んでいるので数が減った気もしない。もっと人手が欲しい…そう考えているとガシャガシャという音の後に勢いよく扉が開かれる。

 

 

 

「クリスっ!!」

 

大きな声と共に現れたのは他と比べると豪華な鎧を着てしっかり兜までかぶった騎士。

 

 

 

「ああっ!?た、種が…種が落ちてしまった!!」

 

 

 

「「「た、隊長!?」」」

 

 

 

「だから静かに入れって言ってんだろうがぁ!」

 

 

 

突然の大きな音に再び種を落としてしまう隊長さんに、豪華な騎士にドロップキックをかますジャック…何だこのカオスは(震え

 

 

「<<皆さん仲が良いですね>>」

 

 

 

隊長さんがふーっと長い息を吐き、立ち直った豪華な騎士へと何事も無かった様に声をかける。

 

 

 

「スティーブ!…まさか君が来るとは思わなかったよ。」

 

 

 

「あ、ああ。僕たちは北門に向かう途中でね、クリスが治療法を見つけたと言うから一応顏を出しておこうと思って。」

 

 

兜を脱いだスティーブと呼ばれた騎士が隊長さんと会話を交わす。スティーブさんは金髪を短く切った優しそうな顔立ちだ。年齢は隊長さんと同じ30代くらいかな

 

 

 

 

「何だ、援軍かと思ったぞ…何かあったのか?」

 

 

 

「まぁ数名置いてくから援軍でも間違いじゃないが、実はな…」

 

 

 

スティーブさんが声を潜めて隊長さんに耳打ちする。

 

 

 

「…北門に魔物の群れが…」

 

 

「…なんだとっ、大丈夫なのか?…」

 

 

周りに聞かせられないのか、ヒソヒソ会話する2人

 

 

「<<私たちにはしっかり聞こえていますが>>」

 

「(それは言わない約束だよアイジスさん。)」

 

 

 

この身体なら騒がしい所でも小さな音を聞き取れる。そんな耳?で聞こえた会話を纏めると、

 

 

 

 

「(北門に新種の魔物の群れが来て、4番隊が迎撃に当たっているが苦戦してるので、スティーブさんたち1番隊が援護に向かうところって感じか?)」

 

 

 

「<<その様です。嫌なタイミングですね…如何しますかマスター>>」

 

 

 

「(そうだな…)」

 

 

 

俺は隊長さんとスティーブさんの近くへ歩みよると、2人に声をかける。

 

 

 

「ちょっといいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、ギルドの倉庫を離れて城壁の上へあがる階段を登っていた。北門の話を聞いた後、スティーブさんの部隊に同行したいという旨を伝えたところスンナリ許可が出たのでこうして北門へと赴いた。

隊長さんたちは倉庫でお仕事中だ

 

 

 

 

「もうすぐ上に着くが、大丈夫かい?」

 

 

 

「ええ、問題ありません。…スティーブさんご迷惑お掛けして申し訳ない。」

 

 

「ハハッ、スティーブで良いって言ってるのに。それに全然迷惑じゃないさ。」

 

 

「はぁ、それは何故?」

 

 

「クリスが君を信頼してるってことと、僕自身も君に期待してしまってるからさ…さぁ、着いたぞ!」

 

 

 

スティーブさんに続いて階段を上りきると城壁の上へと着いた。俺たちが来た方とは違いやや荒れ果てた荒野が広がっている、約10mの城壁からの景色は中々に壮大で見惚れてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「これは…凄い眺めだな。」

「<<これはコレで味がありますね。マスター、後で見て回りましょう>>」

 

 

 

感嘆の言葉を漏らし、後で城壁の上を一周することをアイジスと約束する。

 

 

 

 

 

 

「喜んで貰えたようで何よりだよ。…4番隊はあっちか、合流しよう。」

 

 

 

軽く周囲を見渡すとすぐに20人程度の鎧姿の集団が見えたのでそちらへと移動する。こちらに気づいた騎士たちが敬礼のようなポーズをとると、150cmくらいでやたら軽装備な赤髪の少年?が声をかけてきた。

 

 

「ケッ!誰が来るかと思ったら1番隊の隊長様かよ。」

 

 

 

「そう言うな、今は何処も人手が足りていないんだ。」

 

 

 

「あー例の疫病とやらの所為でか。ウチの隊のやつも何人か動けなくなっちまったし、嫌になるぜ…」

 

 

会って早々悪態を吐く赤髪の少年、それをスティーブさんは笑って流している。

 

 

 

「な、なあ…この少年は誰なんだ?」

 

 

 

「しょうっ!?」

 

 

あれ?俺のひと声にスティーブさんが吹き出し少年は目を見開いて固まってて、周りの皆さんがプルプルしている

 

「<<マスター、何か様子が変ですよ?>>」

 

 

アイジスと不思議だわぁなんて話していると…あぁそういうことかもと思い、ポンっと手を打つ

 

 

 

 

 

「済まん、女の子だったか?」

 

 

 

「「グハァッ!?」」

 

 

 

ま、周りが吹き出したぞっ!?隊長さんに至っては完全に崩れ落ちてるし、彼?彼女?は顔を赤くしてプルプルしている。

 

 

 

 

「む、何か変なこと言ったか??」

 

 

 

「お、俺様は男だっ!!それに22だぞっ、が、ガキ扱いすんじゃねぇ!」」

 

 

 

 

「22歳!?それにしては小さく…そうか、俺の身長が伸びたのか。」

 

「<<マスター、彼は平均と比べても低いようです。顔も大変可愛らしいですね>>」

 

 

「そうだな、可愛い顔してるな。あっ」

 

 

「「あっ」」

 

 

 

つい声に出てたみたいで、それを聞いた少年が腰につけた剣を抜く。か、完全に目が据わってる…

 

 

 

「全員ブッ殺すっ!!」

 

 

 

 

剣を片手に暴れ回る少年と逃げ回る一同。

城壁の上がワーワーギャーギャー騒がしくなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、暴走した彼を何とか宥めることに成功した俺たちは自己紹介含め情報の共有をする。

 

 

 

「ふぅ、全員落ち着いたな?ムサシ、この赤髪の"青年"が4番隊隊長のリアムだ。リアム、彼が3番隊の報告にあった協力者のムサシだ。2人とも仲良くな。」

 

 

 

リアムと呼ばれた彼は体力切れで床に座っていた。

 

 

「はぁはぁ……全く、テメェの鎧はどうなってんだよ硬すぎだろ…。」

 

 

「まぁ特別製だからな。それより魔物は大丈夫なのか?」

 

 

俺の問いにリアムが床にへたり込んだまま城壁の外を見ろと促す。

 

促されるままスティーブさんと一緒に覗くと、城壁に植物の魔物がギチギチとへばりついているのが見える。70匹くらいの花と蔓で作った人型みたいなのが城壁や門をペシペシ叩いている光景はある種異様だった。

 

 

 

 

 

「何とまぁ…」

 

「<<ある意味凄い光景ですね>>」

 

 

 

 

 

「まぁまぁ力も強ぇし、オマケに剣も槍も弓矢も効果が薄くてよぉー。奴さん火魔法が苦手みたいなんだが、生憎と人数がな…それで適当に燃やして逃げてきたってわけさ。」

 

 

 

「成る程、奴らは何を?」

 

 

 

「さぁ?ずーっとあんな感じさ。中に入ろうとしてんのか何なのか、俺様には分からんし興味もねぇな。」

 

 

 

 

2人の会話を聞きながら俺は観察を続けていた。やはりアイジスのデータベースに登録はない、新種の魔物の様だ。

 

 

 

「ムサシ、どうだ?」

 

 

 

「ココからじゃさっぱり分かりません、新種ってことは間違いないみたいですが。」

 

 

 

 

頭を振りながら一旦淵から離れる。

 

 

 

「分かんねぇのかよ!」

 

 

 

「ああ、だから確かめに行ってくる。アイジス、植物系だからアレを使うぞ。」

 

 

「<<装置タイプの方で宜しいですか>>」

 

 

「ああ、両腕に頼む。それと10m位なら大丈夫そうか?」

 

 

「<<問題ありません>>」

 

 

 

短いやり取りの後で装備の変更をすることに。今回は両腕の装甲と手の甲の所に、金属で出来たノズルの様なものが追加される。

 

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

「ほほう…」

 

 

 

驚いているリアムと騎士たち、何故か感心しているスティーブさんを置いて準備は完了する。

 

 

 

「じゃあちょっと行ってくる。」

 

 

「イヤイヤ、行くっ。つっても…」

 

 

 

リアムが最後まで言い切る前にヘルメットを装着し、軽く助走をつけ下へと飛び降りる。

重力に従い頭から地面へと約10m程落ちていくと、丁度よく魔物が落下地点にいたので寸前に体制を変え左膝と左腕でそのまま圧し潰すように着地した。

 

"ズドン"と重い音が響き砂埃が軽く舞う。そして砂埃が収まるとゆっくり立ち上がり両腕の装備を起動させた。下にいた魔物は完全に機能を停止している。

 

 

エネルギーを送り込むとノズルから炎が放射され地面を軽く焦がす。コレは火炎放射器と言うよりはブースター技術を応用した強力なガスバーナーに近い。

 

上手く群れの真ん中に着地できたようで360度魔物だらけで、魔物たちも驚くことなく既に臨戦態勢のようだ。

 

 

 

「<<戦闘開始です>>」

 

 

 

 

 

そして俺たちと魔物との戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

装備一覧

構成:FG-Proto

両腕:火炎放射ユニット

左腰:高周波ブレード

右腰:MK.XIX

その他:補助ブースター

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission7.植物だけじゃないんだが

 

日本に居た頃どちらかと言えば花や植物は好きだった。だが、現在進行形で嫌いになりそう…

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜならーー牙の生えた小さいラフレシアと植物の蔓でできた人型の上半身に、大根の根のような足が6本。そんな出で立ちの植物型の魔物が俺を取り囲んでギギギッと音を鳴らしているからだ…

 

純粋にキモい。

 

 

 

 

 

 

炎を出し続けながら両腕を無造作に振るい、周囲の魔物を焼き払う。

 

 

 

「やはり火には弱いか」

 

「<<その様です、かなり嫌がっていますね>>」

 

 

 

炎を浴びた魔物は火が全身に広がり倒れていき、範囲外の魔物も炎を避けるようにウネウネ後退していった。

 

 

 

「オイィ!門を燃やさない様に気をつけやがれよ!!」

 

 

 

上から聞こえてきた声に門扉が木で出来ていることに気づく。危ないあぶない…

 

 

 

この火炎放射ユニットは射程こそ15mと短いがエネルギー効率も良く、敵の熱感知を誤魔化したり緊急時の武器として使用したりと様々な使い方がある。異世界でも上手く使えば武器としてだけではなく、生活のお供としても使えそうだ。

 

 

 

左右の腕を上手いこと駆使して次々と魔物を燃やしていく。残り50匹程になったところで魔物がある程度バラけたり離れたりしてしまったので、放射を止め高周波ブレードを右手にMK.XIXを左手に持つ

 

 

視界に入っている1体めがけてMK.XIXの引き鉄をひくと、蔓を抉り身体を吹き飛ばす。

しかし、すぐに起き上がるとこちらへウネウネ向かってくる。

 

 

 

 

 

「<<銃撃は効果が薄いようですね>>」

 

 

「その様だな。アイジス、弱点を探ってくれ。」

 

 

「<<了解です>>」

 

 

 

 

ブゥンと右手に持ったブレードが微かに振動する。

そして背後から近づいて来た魔物を振り向く勢いそのままにブレードで切り裂いた。

 

 

分厚い鉄を切り裂く近接武器をいくら硬いとはいえ植物が防げる訳もなく横一文字に綺麗に切断される、が、下の部分は歩みが止まることなく近づいてきた。

 

 

 

「フンッ!」

 

 

 

片足を持ち上げ思いっきり踏みつけると、残った下の部分は地面にめり込み完全に機能を停止した。

 

 

その後も3〜4体に対して、全身に銃撃を撃ち込んだりブレードでバラバラにしたり近距離で火炎放射をお見舞いしたりした。

 

 

 

 

 

「<<マスター、彼等のウィークポイントは根の部分です。根を中心に攻めて下さい>>」

 

 

「了解っ!」

 

 

 

 

右腕を振り上げ地面を斬りながら下から両断する。そのまま奥の魔物に銃を向けると根の部分に照準を合わせトリガーを引く。

今まで銃撃では中々倒せなかったのが、今度は2発撃ち込んだだけで動かなくなった。

 

 

炎以外の弱点も発見できたので更にペースを上げて魔物を倒していくと、城門が開いて中から強い風が吹く。

余りの強さに魔物たちは吹き飛び城壁から離れていった、無論俺は微動だにせず涼しい顔で佇んでいる。

 

 

 

 

 

「ケッ!一緒に吹き飛びゃ良かったのによ!」

 

 

悪態を吐きながらリアムが、その後からスティーブさんと騎士の方々がやってきた。俺は背後へ炎を出し牽制した後、武器を腰に戻しスティーブさんたちの方へ歩いて近づいていく。

 

 

「状況は?」

 

 

 

「分からないことが多いですが、取り敢えずアイツ等の根のような部分を攻撃してください。そこが弱点です。」

 

 

 

「ハハッ流石だね、助かるよ。全員に通達っ!奴等の下部、根の部分を狙え!必ず2人1組で当たり距離を詰め過ぎるな!…行くぞ、戦闘開始!!」

 

 

 

 

あれはハルバードか?

右手にハルバード、左手に盾を構え突撃していくスティーブさん。それぞれの武器を持ち1番隊の騎士がそれに続き、リアムたち4番隊は城門の前に立ち守護する様子だ。

 

 

俺はリアムたちの方へと一旦下がろうと歩くが、その時開かれた城門から3匹の虫がこちらへと飛んできた。

 

 

 

「あん?何してんだよ…んだこりゃ、虫か?」

 

 

その内の1匹を捕まえると、リアムが怪訝な顔で覗いてくる。捕まえたのはカナブンと蚊を合わせた様な2cmぐらいの黒い虫だった、飛んでいく2匹を"よく"見てみるとやはり同じ虫だということが分かる。

 

2匹をジーっと目で追っていくと魔物のラフレシア部分に吸い込まれるように消えていった。

 

 

 

 

 

「アイジス、この虫を倉庫に入れたいんだが…原型を留めたままいけるか?」

 

 

「<<可能ですよ、早速やりますか?>>」

 

 

「頼む。」

 

 

 

 

「おぃブツブツ独り言いって大丈夫か?頭ん中見てやろうか??」

 

 

 

む、失礼な奴め。可哀想なものを見る目でみてくるリアムを無視して触手を出すと細く頑丈な針で手の虫を仕留める。

 

 

 

「うおっ!?」

 

 

 

変な声を出すリアムを置いて透明なケースに虫を入れ、倉庫にしまう。

 

 

 

 

「深追いはするな!逃げる奴は放っておくんだっ!!」

 

 

スティーブさんが声を張り上げている。

 

 

 

 

「<<マスター、敵が撤退する様です。アレを使いますか?>>」

 

 

「アレ?…あぁコレかっ!使ってみよう。」

 

 

 

光の粒子が集まり眩く輝く、光が収まった後には長く厚い銃身のスナイパーライフルが俺の手に握られている。

俺はそれを"片手"で構えると逃げる魔物に向けトリガーを引く、銀色の筒みたいな機械が発射され魔物に突き刺さると同時に落ちない様に固定、起動を始める。

それを3体に撃ち込んでおく。

 

 

遠距離特殊狙撃銃、スナイパーライフル「EG15」。この銃の特徴は弾丸を飛ばせない代わりに特殊兵器を撃ち出せることにある。

その1つがこのレーダーだ、撃ち出した先の周囲の地形を把握したり敵に撃ち込めばGPS代わりにすることもできる。

 

 

 

「<<問題なく機能しています>>」

 

 

「そうか良かった、引き続き頼めるか?」

 

 

「<<了解ですマスター>>」

 

 

ありがとう、とアイジスに感謝を告げているとスティーブさんたちが戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま、取り敢えず何とかできたみたいだ。…リアムはどうしたんだ?」

 

 

 

 

ふと先程から静かにしているリアムを見ると何故か遠い目をして空を見ている。

 

 

 

 

「さあ?綺麗な空が見たくなったとか?」

 

 

「<<中々に素敵な景色ですからね>>」

 

 

 

 

魔物を撃退できた感動に打ち震えているとか?流石にそれはないかぁー

未だ遠い目をしているリアムの頬をムニムニ引っ張り現実に引き戻してやる。

 

ちょっと痛かったのか、「何しやがるっ!」と言いながらガンガン脛を蹴られた。

 

 

スティーブさんは爆笑していた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間.作業の途中

飛ばしても大丈夫な回


 

 

魔物を撃退した俺たちはスティーブさん、リアムと一旦別れギルドの倉庫に帰って来ていた。

 

 

 

 

 

 

途中まで送ると言われたが、丁重にお断りしておいた。ルート登録は終わってるのでそうそう迷うことは無い

 

 

 

 

「さて、帰ってきたわけだが。」

 

 

 

「<<入らないのですか?>>」

 

 

 

「いや、入り辛いなぁって…。」

 

 

 

 

無事に辿り着いた俺たちはギルド倉庫の扉の前で佇んでいた。何か負のオーラ的なものを中から感じた為、こうして様子見をしているのだ

 

機械と人間のハイブリッドだからこその第6感が警鐘を鳴らしている、この中はヤバイ…

 

 

「と、言っても入らない訳にはいかないからな。お邪魔しま〜す…」

 

 

「<<お邪魔致します>>」

 

 

 

ギィと静かに扉を開けて中の様子を伺いバタンと閉めると、目頭の部分を軽く揉む。ちなみに戦闘終了と共にヘルメットは外してある

 

 

 

 

 

「<<どうしましたかマスター?>>」

 

 

 

 

「い、いや…何処かで見たような光景がだな…」

 

 

 

 

もう1度恐るおそる扉を開けてみるとーー虚ろな目をした人々があーうー言いながらも作業の手を止めずに動いていた。

 

 

 

 

 

「こ、これは…!」

 

 

「<<マスター?>>」

 

 

 

 

 

俺は口をワナワナと震わせ、冷や汗をかいた気持ちになる。

 

 

 

 

 

「アイジス、良く見ておくんだ。コレが頑張り過ぎた人間の末路だ…!」

 

 

 

 

 

 

日本にいた頃、俺は様々なアルバイトを経験した。その中でも深夜に及ぶ力仕事や永遠と同じ作業を繰り返す仕事の現場でこの光景を良く見ていた。

 

彼等はただ指定されたことを繰り返すだけの傀儡と成り果てた、生ける屍。

 

 

 

「<<成る程、これは恐ろしい状態ですねマスター>>」

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからぁ静かに入れって言ってんだろおおぉぉおおお」

 

 

 

最早何を言っているか自分でも分かっていないんじゃないかと思う、生ける屍と化したジャックが襲いかかってきた

 

俺に出来ることはコイツに引導を渡してやることだけだ…!

 

 

 

 

 

 

「ていっ」

 

 

 

「痛え!?」

 

 

 

眉間にチョップを繰り出し目を覚ましてやる、割と手加減したので多分赤くなるくらいだろう。

 

 

 

「目は覚めたか?んん?」

 

 

 

何時でもチョップ出来る構えを見せ、ジャックに問いかける。

 

 

 

 

 

 

「あ、ああ悪りぃ。同じような事が何回も起こって…つい。」

 

 

 

「つい、で人を襲うな。それで状況はどうなってる?」

 

 

 

「ハハ…見ての通り皆んな疲労困憊だ…。だけど休んでる場合じゃねぇから、こうして重い身体を動かして何とかやってるってわけさ。」

 

 

 

 

「阿呆、適度な休息は必須だぞ。隊長さん!ちょっといいか?」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「<<反応がありませんね>>」

 

 

 

 

「隊長さん?」

 

 

 

 

ヒョイっと顔を覗いてみると、隊長さんは一点を見つめたまま微動だにしない。

 

 

 

 

 

「こ、これは!」

 

 

「<<寝ていますね>>」

 

 

 

「…だな、このまま寝かせといてやろうか。」

 

 

 

 

 

何の指令も出ないんじゃ休めないわな。

俺はパンパンと手を叩くと皆んなの注目を集め、全員が俺を見たタイミングで口を開いた。

 

 

 

 

 

「注目!今から30分休憩時間をとるから各々ちゃんと休むように。焦る気持ちは分かるが、俺たちが倒れたら意味ないだろ?そういうことで解散っ!」

 

 

 

俺の声に渋々という感じだが作業の手を止め休憩に入る騎士たち。俺はその一団にイザベラがいないことに気づいたのでジャックに聞いてみることに。

 

 

 

 

 

「なぁ、イザベラは何処にいったんだ?」

 

 

 

 

「ああ、イザベラなら嬢ちゃん1人じゃ心配だからって一緒の部屋に居るぜ。とっとと、ウワサをすれば…」

 

 

 

そんな話をしているとイザベラと、背後からエルマールが部屋に入ってきた。

 

 

 

 

「ムサシさん!アイジスさん!」

 

 

 

 

「おはようエルマール、目が覚めたんだな。どうだ身体の調子は?」

「<<おはようございます、エルマール>>」

 

 

 

 

「はい!問題ないですっ。また頑張ります!」

 

 

 

 

「頼りにしてるよ。…イザベラもありがとな。」

 

 

 

 

「なにもしちゃいないさ、それよりアンタの方こそお疲れ様。」

 

 

 

 

 

「俺の方こそただ手伝っただけさ。来てもらって悪いんだが30分程休憩を入れることにしたから少しゆっくりしててくれ。」

 

 

 

 

「ああ、そうかい。今日は何だか何時もより疲れるからね…まぁ仕方ない、か。」

 

 

 

 

「あの…そのことなんですけど」

 

 

 

エルマールがおずおずと言った感じで手を挙げる。

 

 

 

「ん?どうしたんだ。」

 

 

「嬢ちゃん、何か気になるのかい?」

 

 

 

 

 

 

「えーと」

 

 

一旦区切り首を傾げながら言った

 

 

 

 

 

「何で皆さん鎧を着けたまま作業してるのかなーっ、て思いまして。」

 

 

 

 

「「「あっ」」」

 

 

 

皆そういえばと驚いた顔をしている。

 

 

 

「ムサシがずっと鎧姿だったから脱ぐの忘れてたぜ…」

 

 

「なんだと、俺の所為なのか??」

 

 

 

「あんたがその格好のまま作業するから、皆んなつられちまったんじゃないかっ!」

 

 

 

 

 

「あわわわ、何かすみませんっ」

 

 

「<<エルマールはナイスフォローですよ>>」

 

 

 

 

 

 

 

 

わーわー騒ぎながら休憩時間は過ぎていき、その後は(俺以外)鎧を脱ぎ、ローテーションを組んで全員が休めるように調整しながら作業を進めていった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission8.方針を決めたんだが

 

 

 

 

 

 

 

ソレにあるのは生物としての生存本能のみ

 

故に考えることなどしない

 

ただ生きるために今日も行動を起こす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルドの倉庫で再び作業をしていた俺たちはスティーブさんとリアムが合流したことにより、現在は手を止め休憩室の中にいる。

 

 

 

 

 

今いるメンバーは

俺(とアイジス)、エルマール、隊長さん、ジャック、イザベラ、スティーブさん、リアム、謎の女性

 

休憩室は机と椅子があるだけのシンプルな作りだが、そこそこの広さがあるので狭くはない。

 

 

 

 

 

 

「よし、皆んな揃ったな。」

 

 

 

 

「スティーブさん、それは良いんですが…此方の女性は?」

 

 

 

 

 

 

ちらっと女性を見る。

肩ぐらいの長さに揃えた茶色い髪、身体のラインが分かる程度の黒いジャケットとパンツにこれまた黒いグローブ。

スタイルの良さも相まってか女豹という言葉がしっくり来る女性だ。

 

 

 

 

「あら、誰も紹介してくれてないの?ヒドいわね。」

 

 

 

 

「そう言うな、君が来るのは予想外だったんだから。彼女はナタリー・ロバノフ、王都騎士団総長の補佐兼副総長という感じだ。そして此方が協力者のムサシ殿とエルマール殿だ。」

 

 

 

ナタリーと呼ばれた女性は悲しそうな顔をするが何時ものやりとりなのか、隊長さんは肩をすくめて紹介をしてくれた。

 

 

 

 

 

「宜しく。」「よ、よろしくお願いしますっ。」

「<<宜しくお願い致します>>」

 

 

 

 

「あら、可愛いお嬢さんと素敵な鎧の彼ね。こちらこそよろしく。」

 

 

 

 

 

 

簡単な挨拶を交わし握手をする、この鎧の良さが分かるとはお目が高い。

 

 

しかし、なんか行動に一々色気がある人だなぁ…と思って見ているとエルマールからジト目で見られアイジスから「<<あの様な女性が好きなのですか?>>」とあらぬ誤解をされた。

 

 

 

 

 

 

 

「(な、何でもないよ。)」

 

 

 

 

別に日本に居た時に会いたかったとか思ってないから、今は大丈夫ですから。

そんなやりとりを密かにしているとナタリーさんと目が合う。

 

 

 

 

 

 

「この鎧…アナタ魔導国の出身だったりする?」

 

 

 

 

「魔導国?…いや、違います。」

 

 

 

 

「そう、普通の鎧と違うからそうかと思ったけど違うのね。後で詳しく教えてくれる?」

 

 

 

 

「時間があれば構いません。」

 

 

 

俺もその、魔導国とやらについて聞いて見たいしな。

エルマールの頬が膨れてたので頭を撫でて宥めてやる。

 

 

 

 

「ケッ!何でもいいけどよぉバカやってないで、さっさと本題に入ろうぜ。」

 

 

 

 

「リアム、言葉が汚いわよ。」

 

 

 

 

「その件については後でじっくり話してくれ。先ずは彼の言う通り本題に入ろう…ムサシ、僕たちを"集めた"真意を。」

 

 

 

 

 

「イエッサー。話をする前に先ずはコイツを見て欲しい。」

 

 

 

倉庫から透明な四角いケースを取り出す。ケースの中には先程の虫が入っている。

皆んながよく見えるように、手で持って顔の前へ。

 

 

 

「あん?さっきの気持ち悪りぃ虫じゃねえか。コレが何だってんだ??」

 

 

 

「それはだな…ジャック!コイツに見覚えは?」

 

 

 

 

 

ポイッとジャックへ向かってケースを投げる、わたわたしながらも何とかキャッチするジャック。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うお!?い、いきなり投げるな!…この虫かー、う〜ん〜そうだなぁ街を歩いてる時に刺されたような…」

 

 

 

「刺された?何処をさ??」

 

 

 

「確か首の辺り、少しの間赤くなってたまんなかったわ。」

 

 

 

ポリポリと虫に刺されたであろう首の辺りを掻くジャックだが、その言葉を聞いた隊長さんとイザベラが素早く距離をとった。

 

 

 

 

 

 

「ばっ!?じゃ、ジャック……1つ聞くけどさ、首に"何か"あったってのはその1件だけかい?」

 

 

 

 

「お、おう。そうだけどよ。」

 

 

 

 

 

「ジャック、落ち着いて聞いてくれ。その虫に刺された所と言うのはココ…昨日、種を取り除いた辺りで間違いないか?」

 

 

 

 

首の鎖骨に近い所をスッと指差す、隊長さんが指し示したのは昨日ジャックの種を取り除いた場所だった。

周りがざわつく。

 

 

 

「ま、まさか…」

 

 

 

ケースの中身を見ながらジャックの顔が青ざめていく。

 

 

 

「ああ、十中八九コイツが犯人だろうな。」

 

「<<体内から同様の物体も見つかってます>>」

 

 

 

アイジスの声が聞こえるエルマールがお墨付きを聞いてビックリしているが、それよりも驚いているジャックは慌ててケースを放り投げた。

叩きつけられても大丈夫だが、周りの人に当たってもアレなので一応キャッチしておく。

 

 

 

 

「っとと…危ないだろ。」

 

 

 

「それは俺の台詞だっ!あ、あんなヤベェもん持たせやがって!!」

 

 

 

「もう死んでるから安心しろ。」

 

 

 

「だからそういう問題じゃねぇんだよぉ〜…」

 

 

 

 

 

 

怒ったり泣いたり顔を青くしたりと忙しい奴だな。そんなやりとりをしていると、次いでスティーブさんが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「僕たちも彼(ジャック)の件は聞いていたが、何というか……その、間違いないのか?」

 

 

 

「確定でしょうね。そして先程の花人間の口へとこの虫が入っていくのを俺は見ている、恐らく…そちらも何らかの繋がりがあるかと。」

 

 

 

 

「花人間ですか?」

 

 

 

「北門に出た新種の魔物のこと。」

 

 

 

エルマールが尋ねてきたので、そっと教えてやる。

スティーブさんは目を閉じて考え、他の面々…ナタリーさんも口を閉ざしている。

やがてスティーブさんが目を開けた。

 

 

 

 

「分かった、その方向性で整理していこう。敵は虫を使って僕たちを疲弊させた…花人間の役割は?」

 

 

 

 

「先発隊(むし)の回収及び…」

 

 

 

 

「餌の確保かしら?」

 

 

 

俺に目線を向けながら、腕組みをして壁に寄りかかっているナタリーさんが問いかけてきた。俺はそれに頷くと言葉を続ける。

 

 

 

「その可能性は大いにあるな。アレだけが新種とは考え辛い、手応えが無さ過ぎる…虫とワンセットと考えるのが妥当かと。」

 

 

 

 

「ケッ!弱った所を狙うなんざいい度胸してるじゃねぇかっ」

 

 

 

 

「むう、卑怯な感じがします!」

 

 

 

 

「だが、効果的ではある。問題は奴等の居城が何処にあるのか、私たちには分からないということか。」

 

 

 

 

 

「そうね…」

 

 

 

隊長さんが唸りながら言う。皆一様に難しい顔をして考えてしまっている中、俺は気にせず口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「場所なら特定してるぞ。」

 

 

 

 

 

「「「…は?」」」

 

 

 

俺たちとエルマールを除いた人たちが突然の解決にポカーンとしている。

 

 

 

 

「ん?まぁ大体の場所だがな。」

「<<皆さん如何されたのでしょうか>>」

 

 

 

 

「す、凄いですムサシさん!本当に場所が分かるんですかっ?」

 

 

 

 

「ああ、多分な。」

「<<簡易的でよければすぐ表示できますよ>>」

 

 

 

 

 

「わ〜見たいですっ」

「<<了解、表示します>>」

 

 

 

エルマールがキラキラした目で見てくるので机の上に地図を表示する。まぁ地図と言っても王都と先程打ち込んだGPSの赤い点、それが通った付近の高低差が表示されているだけの簡単なものだが。

 

 

 

 

 

「うおっ!?」

「あら」「ほほう、これは」

 

 

 

リアムは驚き、ナタリーさんとスティーブさんは驚きながらも興味深そうに見ている。

 

 

 

 

 

 

 

「私たちが今いるのがココですよねっ!」

 

 

 

 

 

「ムサシ殿、この赤い点が魔物と言うことか?」

 

 

 

 

「あぁそうだ。此処が王都で赤い点が王都に来た魔物だ、移動は止まってるっぽいから奴等の拠点で間違いないだろう。」

 

 

 

 

「赤いのが下にある気がするけど、コレは何でなのさ?」

 

 

 

 

「これは恐らく洞窟の類いだな。…ほら、こうすると分かりやすいだろ。」

 

 

 

 

「結構近くに居るんだな!やられた身としてはムカつくぜぇ…」

 

 

 

 

 

エルマールと3番隊の面々はもう慣れたんだろう、普通に質問とかしてくる。それに答えながら地形を詳しく表示させ具体的な場所を示す。

 

 

 

 

「何か…色々と面白いわね、彼。」

 

 

 

「だろう?それに、僕は信頼できると思っているよ…彼なら何かしてくれそうな予感がする。」

 

 

 

 

「貴方がそこまで言うなんて珍しい、槍が降らないように祈ってるわ。そう、じゃあ是非彼には頑張って貰わなきゃね。」

 

 

 

 

 

「何か疲れてきちまったよ……」

 

 

 

 

スティーブさんとナタリーさんが話してる横で、リアムが遠い目をしているのが気になったが多分大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

「えーと…ムサシ?この情報を信じるとして、王都からこの洞窟までどれ位かかるの?」

 

 

 

 

「そうですね…大体1時間って所ですかね。着くだけなら、内部の全体像がどうなっているのかは流石に分かりませんが。」

 

 

 

「なるほど、な。行かなければ規模は分からないということか。それならサッサと行って片付けてこよう。」

 

 

 

 

「<<その方が良いでしょうね>>」

「して、作戦は?」

 

 

 

 

スティーブさんは全員を見渡し、ニヤリと笑って言った。

 

 

 

 

「精鋭と包囲だよ。」

 

 

 

 

 

 





アベンジャーズに入りたいんですが、どうしたら良いでしょう?(震え


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission9.何かいたんだが

 

 

準備と時間は慌ただしく過ぎていった。スティーブさんたち1番隊とリアムたち4番隊、それに俺とナタリーさんを加えた面々で赴くことに。

 

俺たちだけなら直ぐに行って帰って来られるのだが、まぁ今回はそういう訳にもいかないので夜営になるかもしれないなぁ…

 

 

 

3番隊とエルマールは引き続き種の除去だ。そう決まった瞬間の彼等の落ち込みようは何とも言えなかった…が、大切な作業だから頑張って貰おう。

 

 

 

「ところでナタリーさんは戦えるんですか?」

 

 

 

「心配してくれてありがとう。こう見えて護身術を習ってるから問題ないわ。」

 

 

 

「ナタリー、君のは護身術ってレベルじゃ…」

 

 

 

スティーブさんが言いかけるがナタリーさんと目が合うと何処かに逃げてしまった。

 

 

 

 

「ハハハ、それは良かったです。」

「<<とてもお強いのでしょうね>>」

 

 

 

 

危険な香りを感じ取ったので適当に誤魔化しておくと、エルマールが不安そうにこちらを見ていることに気づく。

俺は膝立ちになり目線を合わせてやる。

 

 

 

「ムサシさん…」

 

 

 

 

 

「心配するな、直ぐに戻ってくるから。その間王都の人たちは任せたぞ。」

 

「<<エルマール、私たちが居ないからと張り切り過ぎないよう気をつけてください>>」

 

 

 

 

「もう〜アイジスさん、私は大丈夫ですよっ!…ムサシさん、アイジスさん私はわたしのできることを、して待ってますから…怪我をしないで帰って来てください!」

 

 

 

「ああ、行ってくるよ。」

「<<はい、行ってきます>>」

 

 

 

 

 

エルマールの頭の感触を感じてから立ち上がる。目指すは北、新種がいるであろう場所だー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ここで間違いないのか?」

 

 

 

 

「<<反応は"この中"からあります>>」

「間違いありません…この先、ですね。」

 

 

 

 

 

俺たちの目の前には大きな穴がポッカリと口を開けていて、例の赤い点はこの中に入ったということを示している。

その穴の前で最終確認と準備をしていた所だ。

 

 

 

 

道中は驚く程何もなかった、単に運が良かったのかそれともーー

 

 

 

 

 

 

「入ってみればわかることか…予定通り僕たちは穴の中へ入る。リアムたち4番隊は外で待機して、魔物が逃げないように注意しろ。ムサシとナタリーは僕たちと一緒に来てもらうが、大丈夫か?」

 

 

 

 

「ああ、大丈夫だ。」

「しっかりエスコートしてね。」

 

 

 

 

 

 

「ハハッ、精々足を踏んづけないように気をつけるさ。では各員、油断するなよ?作戦開始だ!」

 

 

 

 

 

「「「おぉ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

スティーブさんの号令により全ての準備を終えた面々が穴の中へと進入していく。

メンバーはスティーブさんと1番隊の精鋭10名に、俺とナタリーさんを加えた面子だ。

 

 

 

 

「(人数を絞ったのは狭い場所だからかな?)」

 

 

「<<恐らくそうでしょう、外とは違い人数が多ければ動きも限定的になってしまう可能性がありますから>>」

 

 

 

それにしてもつくづく洞窟とかに縁があるなぁと思う。この世界に来て既に2回目だぞ、ハイペース過ぎやしないか?

 

 

と、疑問に思っていると騎士の何人かが光の玉てきな物を空に浮かべた。

それによって周囲を照らしているようだ、が、正直普通に見えていたので全然気にしてなかった!

 

 

 

 

「おぉー凄い。」

「<<中々素敵な見た目ですね>>」

 

 

 

うむ、アイジスの言う通り光の玉が浮いているというのは見た目的にも素敵だな。

 

 

 

 

 

「貴方、"ライト"を見たことがないの?基礎中の基礎じゃない。」

 

 

 

 

 

ナタリーさん曰く初級魔法のライトは冒険者にとって必須とのことで、使えるようにするか使える仲間を探すかのどっちかだと言う。

「そうなんですかぁ」と気の抜けた返事を返すとジト目で見られたけど。ちなみにライトは光魔法に分類されるらしいので、後でエルマールに聞いてみようと思う。

 

 

 

 

「ムサシでも知らないコトがあるなんて驚きだよ、何でも知っていると思ってた。」

 

 

 

 

「スティーブさんそれは言い過ぎですよ。俺なんて知らないことだらけですって。」

 

「<<私もですマスター、この世界のことは殆ど分かっていません>>」

 

 

 

そうだ、俺たちはこの世界について知らないことが多すぎる。様々な知識と経験を吸収していかねばならないのだ。

 

 

 

 

「だから帰ったら色々教えてください。」

 

 

 

 

俺のお願いが意外だったのかスティーブさんは目をぱちくりさせていたが快く引き受けてくれた。

 

 

 

 

「ああ、良いとも。できる限り力になろう。」

 

 

 

「それはイイわね。なら、私も色々と教えてあげる。」

 

 

 

 

「お、お手柔らかにお願いします…。」

 

 

 

 

 

ナタリーさんに若干黒いモノを感じつつ真っ当な事であることを心から願う。

 

 

 

 

そんな会話を交わしつつも油断なく進んでいく。

現状だが、スティーブさんとライトを使っている騎士を先頭にその後ろが俺たちとナタリーさん、更にその後ろと周囲を他の騎士が固めている。

 

スティーブさんはシンプルな丸い盾と今回は綺麗な両刃の剣にやや豪華な鎧だ。ナタリーさんは最初見た格好に肘や膝を守るプロテクターの様な物と金属製の針が入ったベルトが追加されている。

騎士の皆さんは全身鎧に盾と剣のシンプルな装備だ。

 

 

 

 

 

 

俺の装備はと言うと、

 

構成は何時ものFG-Proto。腰に高周波ブレードの改造版、高熱で溶かし斬るヒートブレードとハンドガンMK.XIXを。カイトシールドW18は背中に付けて両腕はフリーにしてある、ちなみに前使った火炎放射器は洞窟なので外しその代わりに色々と特殊装備を追加済み、その他には補助ブースターが付いているくらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

洞窟内部を進んでいくと少し開けた場所に着いく。そこは恐らく生き物の骨だろう物体が周囲に小さな山が出来ている…ごみ捨て場の様な所だった。

 

 

 

 

「これは…ヒドイな。」

 

 

 

「そうね、流石に趣味が良いとはお世辞にも言えない。ココは何だと思う?」

 

 

 

「ごみ捨て場でしょうね、奴等に骨を集める趣味が無ければですけど。直接聞いてみますか?」

 

 

 

腰から武器を引き抜くと、右手にハンドガンを左手にヒートブレードをそれぞれ持つ。

感触を確かめながら俺たちが来た方向とは逆、前方を睨みつける。

 

雰囲気で悟ったのか、皆自分の武器を構え体制を整える。

 

 

 

 

「<<間も無く接触します。数は凡そ30体、増援の可能性ありです。>>」

 

「サンキュー、反応あり次第報告宜しく!」

 

「<<了解です、御武運を>>」

 

 

 

 

前方を見たままスティーブさんに情報を素早く伝える。

 

 

「数凡そ30、前方からです。」

 

 

「分かった。各員戦闘準備、先ずは遠距離から数を減らす!判っているとは思うが余り強力なやつは使うなよ?」

 

 

 

スティーブさんを尻目にこそこそ話しをする。

 

 

「何故ですか?」

 

「洞窟が崩れるからよ。」

 

「あーなるほどなー」

 

「…貴方ホントに大丈夫なんでしょうね?」

 

 

 

フィールド自体が崩壊するなんて無かったから失念してたな…

ナタリーさんがジト目で見てくるがヤバイ武器は持ってないので今回は大丈夫だろう、今回は。

 

 

「<<マスター、倉庫から出す準備はできてます>>」

 

 

大丈夫、出さなくて大丈夫だから。

と、そんな話しをしている内に(俺には)ハッキリ目視できる範囲に。

 

 

 

「どうやら王都に来た奴と同じようです。レパートリーがないんだか何なんだか…」

 

 

「色々いた方が困るからそれで良いさ。」

 

 

「一理ありますね。先制しますから、適当に続いてください。」

 

 

 

 

返答が来る前に右手を魔物に向けトリガーを引く。重い音と共に弾丸が吐き出され魔物の下半身、弱点を吹き飛ばす。

それを何回か繰り返した所で騎士の方々も魔法で攻撃する。風の刃や石の槍やらファンタジーな攻撃が続く中、俺は黙々と引き金をひいていた。

響き渡る銃声と魔法の着弾音、着々と数を減らしていく。

 

 

ちなみに銃声についてだがアイジスに頼んで音を小さくして貰った、1人なら構わないのだがそう言う訳にもいかないので必要な処置だろう。

 

 

 

 

その後も撃ち続けリロードのタイミングで一旦腰に戻し、接近戦に切り替える。

 

手始めに目の前の魔物を下から斬ると、やはり熱に耐性はないらしく簡単に斬ることができた。

 

両手持ちに切り替え続け様に魔物を倒すと、チラと周りの様子を伺う。

 

 

 

「うおおおぉーー!!」「王の敵め!覚悟しろ覚悟しろっ!」「ハハッ大したことないな」「油断するなっ!」

 

 

 

流石精鋭、特に苦戦することなく魔物を倒している。その中でもスティーブさんとナタリーさんの強さは別格のようだ。

卓越した技術で的確に攻めるスティーブさんと素早い身のこなしで攻めるナタリーさん、この2人は素人目に見ても強いのがよく分かる。

 

 

数を減らしていたこともあり、さほど時間もかからずに全滅させることができた。

 

 

 

 

 

 

「よし、此処は片付いたな。このまま前進するが警戒は怠らないように。」

 

 

「「「ハッ!!」」」

 

 

 

 

 

軽く息を整え、素早く怪我の確認等を終えたところで先程と隊列は変えずに再び奥へと進んでいく。

 

 

 

 

「<<この先、大型の反応があります>>」

 

 

「む?漸くか。アイジス、詳細は分かるか?」

 

 

「<<申し訳ありません反応が多くてより詳しい詳細までは。ですが形状的に"親"である確率はかなり高いかと>>」

 

 

「そうか…。スティーブさん、この先にデカイ奴が居るみたいです。」

 

 

 

俺の声に皆が足を止めると、スティーブさんが口を開く。

 

 

 

「デカイ奴?弱点とかは分かるかい?」

 

 

「流石にそこまでは…。魔物が複数居るみたいですが、直接行って、見て、探りながら倒すしかないですね。」

 

 

「あら、分かりやすくて良いじゃない。取り敢えず進めってことでしょ。」

 

 

「ナタリーの言う通りか…各員、気を引き締めろ。」

 

 

 

 

警戒度を更に上げて1本道を進んでいくと大きな建物がすっぽり入るくらいのスペースがある場所に辿り着いた。どうやらGPSの反応もこの空間からきているようだ。

 

そして大型の反応の正体は空間の真ん中に存在していた。

 

 

地中深くに根をはっている様に大きな身体が土の中へ埋まり、見えている部分は虫と植物を合わせたかのような少々グロテスクな風貌をしている。

太く長い蔓の様な腕をウネウネと動かし尖った口と赤い目はこちらを威嚇しているようだった。

 

 

 

 

「デカイ奴とは言っていたが本当に大きいな…」

 

 

 

「大体10mくらいですかね?まぁ何というか、大きい虫とかキモいな。」

 

 

 

「「同感」」

 

 

 

 

俺たちの意見がひとつになった所で大型の魔物が太い腕を横に振りかぶる動きを見せる。

 

 

 

「っ!?全員伏せろっ!!」

 

 

 

俺の声に皆が一斉に地面に身体を伏せる。

少し遅れて魔物の腕が俺たちの上を通過していく、間一髪という感じか。

 

 

 

「随分な挨拶だな…。アイジス、戦闘体勢に移行するぞ。」

 

 

「<<了解ですマスター>>」

 

 

 

立ち上がりながら顔を装甲が覆っていき、装着が終わると青い光が灯る。

他の面々も素早く立ち上がると武器を握りしめた。

 

 

 

 

 

「さぁ、戦闘開始だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遅くなりもうした


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission10.戦闘中何だが

 

 

 

右手にハンドガン、左手にヒートブレードを持つと大型の魔物と対峙する。

 

 

 

蚊の頭だけを切り取ったような黒い頭部に鋭い口と赤い複眼の目、そして頭部から隙間なく生えた植物が地面へと向かっている。

先程俺たちの頭を過ぎていった太い大きな根の腕が2本、警戒する様にゆらゆら揺れている。

 

高さは4〜5mって所か…

 

 

 

 

 

「ギギギッ!」

 

大型の魔物が小型の魔物…ええいややこしいな。大型の魔物"ビッグバーミンフラワー"が鳴くと先程も戦った小型の魔物"バーミンフラワー"がゾロゾロと這い出てくる。

暗がりで見え辛いが壁には例の蚊のような虫がとまっている。

 

 

 

 

 

 

 

「アイジス、シールドを左腕に。それと各種装備を何時でも使えるように準備しといてくれ。」

 

「<<了解です。問題はないと思いますがお気をつけて>>」

 

「ああ、任せろ。」

 

 

カチャカチャっという音と共に背中にあったカイトシールドが左腕に装着される。

 

 

 

「目標(ターゲット)新種の魔物"バーミンフラワー"、周囲に小型が数十体と例の"虫"が壁に居るから注意しろ。くるぞっ!!」

 

 

 

ビッグバーミンフラワーが太い腕を振り上げてそのまま叩きつけてくるのを俺たちは左右に跳んで躱す。

 

 

 

「バーミンフラワーって何だい?」

 

 

「魔物の名前でしょ。スティーブ!感心してないで前向いて!」

 

 

 

動きを阻害する様にバーミンフラワーが取り囲もうとしているが、ビッグバーミンフラワーは気にすることなくこちらを叩き潰そうと狙ってくる。

 

 

 

 

 

「全く御構い無しかっ。各員動きを止めないよう周囲に気を配れ!」

 

 

 

 

後ろに下がりながらスティーブさんが叫ぶ、俺はその声を背に前へと走っていた。

ブォンと音をあげて太い腕が迫ってくるのをスライディングで潜りぬける。

 

 

 

「<<ブースターを起動します>>」

 

 

 

背部の補助ブースターを吹かし素早く体勢を整えると進路上のバーミンフラワーへ右手のハンドガンを撃つ。

 

 

 

「ブースターの権限を俺に移行。アイジス、サポート頼む。」

 

「<<了解です、お任せください>>」

 

 

 

 

オートからマニュアルに、再びビッグバーミンフラワーへと真っ直ぐ距離を詰める。

 

 

 

 

「(シュミレーターだけど)お前の様な奴は何匹も相手している、悪いが速攻で決めさせてもらう!」

 

 

銃口をビッグバーミンフラワーの赤い目に合わせ、引き金を2回引く。

命中!…敵は微動だにせず(震え

 

 

 

巨木と間違えそうな腕を叩きつけるように振り下ろしてくるが、これはブースターを吹かすことにより左に避ける。補助ブースターしか装備していないので、一瞬加速する程度が限界だ。

 

 

 

 

 

「っと、銃は効果が薄いのか?なら…!これはどうだっ!」

 

 

地面を強く蹴ると左手に握ったヒートブレードをビッグバーミンフラワーの、人間でいう眉間へ向けて突き出す。

 

 

 

そしてブレードが突き刺さるーーことは無かった。

 

 

 

「<<Alert!!マスター下です!>>」

 

 

「何だと!……回避できる?」

 

 

 

ドンっ!と突き上げるような衝撃が身体を掠る、上半身を仰け反らせ後ろへと飛ぶ。間一髪、奴の頭を蹴り直撃を避けることができた。

 

後ろへ下がりながらビッグバーミンフラワーを見る。うげっ新たに2本の触手…腕?が地面から生え、合計4本の腕がこちらを潰そうと狙っている。

 

 

 

 

 

「これはシュミレーターに無かったなぁ。」

 

 

「<<損傷は軽微です。現実は中々上手く行きませんね>>」

 

 

「そうだな、っと。」

 

 

 

 

地面を削りながら滑るように着地する、ズザザッというよりガガガッて感じで。

 

ワラワラと左右からバーミンフラワーが集まってくるが背後から飛来した金属製の針で貫かれた後、電撃が飛び魔物は纏めて倒れ伏した。

 

 

 

 

 

「ムサシっ!1人で突っ込み過ぎ!」

 

 

「今のは貴方が?凄いな。あー…すまない、以後気をつけよう。」

 

 

 

 

後ろからやって来たナタリーさんが、腕を電気でバチバチさせながらジト目で見てきたので平謝りしておく。

集まっているのを好機と見たか、ビッグバーミンフラワーがその2本の腕をしならせ、真っ直ぐ振り下ろしてくる。

 

 

俺とナタリーさんは避けようと力を込めるが、突如スティーブさんが前へ躍りでた。

 

 

 

 

「ハッ!」

 

盾を自身の前方へ構え気合いを入れる。すると2本の腕が盾の少し前辺りで…まるで不可視の壁に阻まれたようにハジかれる。

 

 

 

「それも魔法か…何とまぁ、凄いとしか言いようがないな。」

 

 

「ハハッ、"防御系"の魔法は得意でね。やっと敬語を使うのを止めたのかい?」

 

 

「あぁ、そちらに意識を割く気がなくてね。気になるか?」

 

 

「その方が全然良いね、クリスには敬語じゃなくてズルいと思ってた所さ。」

 

 

「そうか?なら良かったが…。」

 

 

「貴族の中には気にする人も居るから、ムサシの対応は間違いじゃないさ。」

 

 

「あーそう言う考え方もあるか。まぁ別に俺は…」

 

 

「ねぇ、お2人さん?そういう話はアレを倒してからにしない??」

 

 

 

「「はい、ごめんなさい。」」

 

 

 

 

 

他の騎士達も集まり仕切り直しという感じだ。魔物はバーミンフラワーは相変わらずゾロゾロとこちらに向かって来ているが、ビッグの方は何やらやや尖った口を動かしている。

 

 

 

「<<視覚を切り替えます>>」

 

 

「助かる。これは…球か?」

 

 

 

体内を透かして見てみると、口の奥に丸いボールのようなモノがある事が確認できる。

更によく見ようとするとビッグバーミンフラワーが頭を後ろに引く様な動きした。

 

 

 

 

 

「ギギギッ」

 

 

次の瞬間、球は弾丸となり口内から勢いよく吐き出された。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission11.戦闘中何だが その2

 

体内を透かして見てみると、口の奥に丸いボールのようなモノがある事が確認できる。

更によく見ようとするとビッグバーミンフラワーが頭を後ろに引く様な動きした。

 

 

 

 

 

「<<仕掛けて来ますね、如何致しますかマスター?>>」

 

 

「迎撃するぞ。」

 

 

 

 

左腕をシールドを前面に胸の前へ、その上に右手を手の甲を上にして乗せる。

 

 

 

「スティーブ!遠距離攻撃だ、念の為備えろ!」

 

 

 

「分かってるっ、サポートは任せてくれ!」

 

 

 

 

次の瞬間、球は弾丸となり口内から勢いよく吐き出された。

 

 

 

 

 

 

普通の人間では対応が難しい速度で飛んでくる球、それは植物を固め丸くしたような物で速度も相まり直撃すれば厄介だろう。

だがこちらも普通ではない。

 

 

 

俺はこちらへ向かってくる球へ右腕を合わせる。するとガシャガシャという音と共に、右腕の上の部分が一部変形し金属製の筒が顔を覗かせた。

 

 

 

 

狙いを絞りやや大きめの弾丸を右腕から発射する。弾丸は吸い込まれる様に球へ当たり、接触すると同時に小さな爆発を生み出す。

 

そう、発射されたのは小型のグレネード。(他のに比べて)威力は大したことないし2発しか連続して撃てないが、爆風による吹き飛ばしやノックバック効果が期待できる代物だ。今回はこれを対空砲よろしく活用している。

 

 

 

 

 

「<<リロード開始します>>」

 

 

2発目を撃ち落とした時点でリロードを開始する。球を空中で完全に破壊することはできなかったが、コースを外れあらぬ方向へ落ちていった。

 

 

 

 

 

「ギギギッギィ」

 

 

「成る程、どうやってかは知らないが小さいのを生成できるのか。」

 

落ちた球がバラけたかと思うと何体かのバーミンフラワーへ姿を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!こいつら増えやがった!?」

 

 

「おいっ、下からも来るぞ気をつけろっ!」

 

 

「王の為王のたグハァっ!」

 

 

「「ジェイソー!?」」

 

 

「心配するなっ、王の敵を全て屠るまで俺は絶対に死なん!自らの役割を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

何か1名変なのがいる気がする。

…兎に角、騎士の人等が上手くバーミンフラワーを抑えてくれていたが上から下から際限なく出てくる敵に苦戦を強いられているようだ。

 

 

 

 

 

 

「<<マスター、味方に損害が出始めています。長期戦は不利です>>」

 

 

「そうだな、っと。ナタリー!」

 

 

 

 

その場に伏せてビックバーミンフラワーの腕をやり過ごした後、ナタリーに近づきビックバーミンフラワーの口を指差す。

 

 

ナタリーは頷いた後、武器である針を手に取り投擲。針は見事にビックバーミンフラワーの口へと突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

「取り敢えずその邪魔な口は噤んで貰いましょうかっ!」

 

「ああ、物理的にな!」

 

 

 

 

そして、ナタリーは腕を突き出し電撃を俺は右腕の小型グレネードを2発撃つ。これらは狙い違わず球を吐き出していた口に当たり爆発と閃光を生む。

 

光が収まった後には焼かれ吹き飛ばされ、見るも無残な有様に。

 

 

 

 

「これで少しは男前になったかしら?」

 

 

「ああ、だが気に入らなかったらしい。ご自慢の口を吹っ飛ばされてかなり怒っているみたいだな。」

 

 

 

 

「何でアンタ等そんなに余裕なんだっ!?」

 

 

 

 

騎士の1人が何やら叫んでいるが無視だ無視、それよりもビックバーミンフラワーに動きが。

 

 

 

 

 

 

「ギギッキギィギィ!」

 

 

 

「<<マスター、虫が大型の周りに集まって来ています>>」

 

 

 

 

 

 

壁際にとまっていた虫が一斉に飛び、黒い塊となって立ちはだかった。が…その壁は俺たちにとって脆弱過ぎる。

 

 

 

 

「<<想定の範囲内ですね>>」

 

「備えあればなんとやら、1発かましてやろう。悪いが任せたぞ。」

 

 

騎士の人等が早足で後ろに下がってくるのを尻目に1歩ずつ前へ進む、歩いて。

 

 

 

「不味いわね…これは。」

 

 

「くっ何て数だっ!全員一旦後ろに……ムサシっ!?」

 

 

 

「この程度なら問題ない。だが、俺より前には出てくれるな。」

 

 

 

「アンタ!良いから早く逃げろって!」

 

 

 

後ろで騎士が叫んでいるがひらひらと手を振って「攻める準備をしろ」とだけ伝えておく。

 

 

 

 

 

 

 

「あー…はぁ、分かった。各員ムサシがあの虫を何とかしたら総攻撃だ、準備しろ。」

 

 

 

「「隊長!?」」

 

 

 

「彼を信じて備えるしかない。いいか、絶対にムサシより前に出るな!」

 

 

 

 

 

 

後ろも話を纏めてくれたみたいだ、これで目の前のことに集中できる。

俺たちを待っていた訳ではないだろうが、話が終わると共に虫が此方目掛けて一斉に飛んでくる。

 

 

 

 

 

「<<起動確認、範囲指定…オールクリアです>>」

 

 

「1匹も逃がすなよ?」

 

 

ブブンというよく聞く不快な音を奏でながら槍の様に一直線に虫が迫る。

 

 

 

 

「<<了解>>」

 

 

 

 

接触まで後数メートルという所で肩の辺りからガシャっと音がし、四角いパネルの様な形をした平べったい物が出てくる。

これは俺の居た世界言う所のADS(Active Denial System)、電磁波を照射する対人兵器をアイジス達の敵に合わせ改良・小型化された"対物兵器"だ。

 

 

 

「<<照射します>>」

 

その言葉と共に照射された不可視の光線が魔物達に降り注ぐ。虫は次々と地面へ落ち、バーミンフラワーでさえ地面をのたうちまわっている。まぁビッグには効果なしの様だが。

 

 

 

「す、凄い…」

 

 

 

 

「<<虫の反応ありません。全て撃墜したようです>>」

 

 

「流石、良い腕だ。」

 

 

しかし、ゲームの時は照射し続けないと効果がなかったんだけど…生物に使うのは控えた方がいいかもな(震え

 

 

 

 

「スティーブ、行けるぞ!」

 

 

「分かったーー今のうちに大型を仕留めるぞ!全員突撃っ!!」

 

 

 

「「うおおぉぉぉぉぉおお!!」」

 

 

 

その言葉に我に帰った騎士達がスティーブを先頭に、雄叫びをあげながら果敢に突撃していく。

 

 

 

 

 

 

「さぁムサシ、私たちも行くわよ。」

 

 

「分かってる。」

 

 

 

肩のパネルを収納し俺たちも後に続いて走り出した。

 

 




ゲームあるある:関連するものに詳しくなる


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission12.獲ったんだが

先ず騎士の何人かが攻撃を仕掛ける。

 

 

 

「せいっ!」「おぉーーう!!」

 

石でできた無数の槍がビッグバーミンフラワーの大きな身体に突き刺さり、風の刃が切り裂く。

間髪入れずに他の騎士が剣で傷をつけていくと、ダメージはあるようでかなり嫌がっている。

 

 

 

 

「いいぞ!そのまま攻め続けるんだっ!」

 

 

ビッグバーミンフラワーが腕を振り回して騎士を払い除けようとしているが、スティーブが危ないやつを悉く防いでいるので距離が開かない。

これで自分も攻撃してるんだから生身とは思えないわ。

 

 

 

 

「それで、何で私達はここで止まってるのかしら?」

 

 

「ちょっと悩んでてな…。そう言うナタリーは?」

 

 

 

 

俺たちは戦いに加わらず少しだけ離れた所で立ち止まっていた。

 

 

 

「…あの接近戦の中で使えると思う?」

 

 

 

「…流石に感電は嫌だな。」

 

 

 

「対象に接触してると、ちょっとね。」

 

 

 

 

ナタリーが腕をバチバチさせて言うが、怖いからやめて欲しい…っと、これにしようか。

 

 

「<<決まりましたかマスター?>>」

 

 

「ああ、時間をかけて済まない。折角"作った"んだからコレを使おう。」

 

 

 

 

 

右手に持っていたハンドガンを倉庫に収納し、代わりに分厚い鉄の棒の先に巨大なハンマーと巨大な斧(チェーンソー)がついた…見た目武骨で巨大で凶悪な近接武器を右手に持つ。

 

 

 

「…もう何も言わないわよ。」

 

 

 

「それは良かった。じゃあ、ちょっと行ってくる。」

 

 

 

脚に力を入れ、俺たちはビッグバーミンフラワーへと走り出した。

 

 

 

 

 

「行ってらっしゃい……はぁ、雑草でも刈ってようかしら?」

 

物騒なことが聞こえた気がしたが気にしないで進もうーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー軽く走りながらアイジスとやり取りをする。

 

 

 

「アイジス、結果はどうだ?」

 

 

「<<波長の解析に時間がかかりましたが完了しました。頭部に特殊な反応があります、そこからエネルギーが全身へ流れているようです>>」

 

 

「ほう…魔核とかいうやつかな」

 

 

「<<恐らく。場所を表示します>>」

 

 

 

俺の視界にエネルギー…魔力の供給源が赤く表示される。それは目と目の間、ちょうど眉間の辺りだろう。

 

攻める場所を決めたのなら一気に行くか

 

 

「スティーブ!決めに行く、援護してくれ!」

 

「分かった!」

 

更に脚に力を入れビッグバーミンフラワーの頭部目掛けて跳躍、途中叩き落そうと狙ってくるがスティーブが自身の盾を投げビックバーミンフラワーが大きく仰け反る。

その隙にブースターを吹かし一気に頂上へと辿り着く。

 

 

 

「ナイス援護だっ!」

 

右手の斧を"回転"させ、人間で言うつむじの辺りへ思いっきり叩きつける。高速回転する鉄の刃が頭部をガリガリ削っていき目的の物へと道をつくる。

 

 

 

「ギィギギギッ!」

 

 

「この、暴れるなっ!」

 

 

頭を振って振り落とそうとして来るがブレードを刺して落ちない様にし、更に奥へと斧を押し込んでいく。ガリガリグリグリ…

ドンドン削っていくと、何やら赤色が見えてきたぞ。

 

 

 

「なぁアイジスさんや、コレを獲ったらどうなるのかな?」

 

 

「<<是非試してみましょうマスター>>」

 

 

「そうだなっ」

 

 

 

 

 

斧の回転を止め右手を突っ込み赤色の球をがっしり掴むと、間髪入れず一気に引き抜く。

ブチブチっと嫌な音がしてビッグバーミンフラワーの魔核が外に引き出される。

 

 

 

 

 

 

「ギギギィ!?ギィ…」

 

 

まるで動力源を失ったロボットのように、ビッグバーミンフラワーは震えた後…ゆっくりと崩れ落ちていった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission13.早く帰りたいんだが

崩れ落ちた植物の魔物(ビッグバーミンフラワー)…その上に乗っていた俺は手にソフトボール大の赤い球を持ったまま、重力に従い約10mの高さから地面へ向かって落下中であった。

 

何か最近よく落ちている気がするが気のせいだろう、きっと多分。

 

 

ドスンッと大きな音を立てて魔物が倒れ、俺たちも地面にヒビをいれながら手を使わず両足を軽く曲げた形で着地する。

 

 

「存外、呆気ないものだな。」

「<<それにしては時間がかかりましたね>>」

「それは…言わないでくれ。」

 

 

本体?を倒したからか、わらわらしていたバーミンフラワーが全滅していた。何かしら繋がりでもあったのだろうか。

ちなみにだが、俺はボスの攻撃とか全部見たいほうだからそういうタイプだから(震え

 

 

 

 

 

 

「呆気ないって貴方…"それ"の位置知ってたの?」

 

 

 

ナタリーが近づいて来たかと思うと、持っているビッグバーミンフラワーの魔核を見ながら尋ねてきた。

 

 

「知らないが、見れば分かるだろう?」

 

 

「「「分かるかっ!!」」」

 

 

「私、頭が痛くなってきたわ…はぁ。」

 

 

騎士の皆さんには一斉に突っ込まれ、ナタリーには早くやれよと言わんばかりの目で睨まれ頭を抱えられた。嘘は言ってないが解析に以外と時間かかるんだよなぁ。

 

 

 

 

「はははっ流石ムサシだなぁ。どうだい、騎士団に入らないか?」

 

 

「魅力的な提案だが、遠慮させて頂こう。やるべき事があるんでな…っと、この後はどうする?」

 

 

 

スティーブの本気なのか冗談なのか分からない勧誘を躱し、ブレードを腰へ斧モドキを倉庫へと戻しながらスティーブに尋ねる。

 

 

 

 

「そうだな…危険がないようであれば、できれば親玉を王都へ持ち帰り調べたい…が、この大きさではね。何とかならないかい?」

 

 

「ふむ、何とか…か。」

「<<如何致しましょうマスター?>>」

「んーむ、倉庫に入れば楽なんだがなぁ…」

「<<入るのではないでしょうか>>」

 

 

え、マジ?いやいやアイジスさんや、流石にこんな大きいのは入らないでしょうよ。

そんな事を思いつつビックバーミンフラワーに手を触れたーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、結局テメェーの"アイテムボックス"の中に入ったのかよっ!!」

 

「ああ、普通に倉庫(アイテムボックス)へ入ったな。」

「<<入りましたね>>」

 

 

 

 

あの後、駄目元で倉庫への収納を試してみたら問題なく収まったので残った魔物の死骸を念のため片付け、洞窟を出てリアムたち4番隊と合流したわけだ。

 

 

 

 

道中聞いた話ではアイテムボックスと言えど何でも入る訳ではなく、ある程度の大きさが決まっているそうだ。そりゃそうか、制限なかったら家とか簡単に持ち運びできそうだもんな。

 

俺たちが"異質"なだけか、まぁそうは言っても限界はあるかもしれんが…

 

 

 

 

「テメェの存在が謎過ぎて頭痛くなるぜ…テメェ一体何なんだ?何が目的なんだ?」

 

「あ、それは僕も興味があるなぁ。何故王都に来たんだい?」

 

 

 

そして現在、洞窟を出た時点で日が暮れており結局野宿することになったのだが…スティーブ、リアム、ナタリーが俺たちのテント(自前のやつ)に情報交換という名目で何故か集まっていたりする。

 

 

 

「目的か、ふむ…王都の巫女とやらに聞きたいことがあってな、それが王都に来た理由だ。」

 

 

「聞きたいこと?」

 

 

「ああ、俺たちはアトラック=ナチャについて調べていてな。名付け親の…王都の巫女なら何か知っているのではと思ったんだが。」

 

 

「新種を生み出してるって奴かぁ?何でそんなこと調べてんだよ。」

 

 

「色々あってな…」

 

 

本当に色々あったなぁ(泣

そのまま言う訳にもいかないし世間用の言い訳を今度考えておこうか?

 

 

「ハッ!そんな事のためにわざわざご苦労なこって!」

 

 

「なるほど…ムサシ、良ければその件は僕に任せてくれないか?何とかできるかもしれない。」

 

 

「む、それは有難いが…。いいのか?」

 

 

「構わないよ、今回の件に協力してくれたお礼もしたい。直ぐには難しいだろうけど、それでも良いかい?」

 

 

「ああ、助かる。」

「<<コレを棚から牡丹餅と言うのですね>>」

 

 

隊長をやっている位だし色々と顔が効くのだろうか、正直ノープランだっただけに非常に有難い。好意を笠に着るようだが、遠慮なく頼んでおこう。

 

そんな話をしていると、浴槽に続く部屋のドアが開きナタリーがバスローブ姿で現れた。

 

 

「ふう…良いお風呂だった。あなたのテント最高ね、私にくれない?」

 

 

「それは無理な提案だが、代わりにホットミルクを奢ってやろう。」

 

 

「あら?誰かさんと違って気がきくわね。ありがとう、いただくわ。」

 

 

「それはもしかして僕のことかい?」

「つか、何でローブとか持ってやがんだよ…」

 

 

 

倉庫からホットミルクを出し、成分に異常がないかを確認しナタリーへと手渡した。実はこれ昨日作ったやつだったりするが、うむ大丈夫だな。

 

 

「<<冷蔵庫いらずですね>>」

「ああ、味も問題ないしな。」

 

 

時間の経過がないのなら便利だが、この辺りは要検証だな。

 

 

「?何か言ったかしら??」

 

 

 

「イヤナニモ。それより、お前ら自分の所へ帰らなくて良いのか?」

 

 

 

「おっと、長居しすぎたね…じゃあ僕たちは戻るよ。出発は明朝、新種の影響かこの辺りは魔物が少ないようだけど一応気をつけて。」

 

 

「ケッ、お客様はゆっくり休んでなっ」

 

 

 

爽やかな笑顔と悪態を去り際に残しスティーブとリアムは自分たちのテントへと戻って行った。彼等騎士団には夜警やら何やらあるのだろう

 

 

「…他の奴らは帰ったが、何時まで居るつもりだ?」

 

 

「あら、こんな格好で外に出ろって言うの?貴方とんだ鬼畜だったのね…」

 

 

「<<マスター…女性には優しくしなければいけないと私の仲間も言っていました>>

 

 

ぐぬぬ、俺が悪役みたいな流れに…。スタイルの良さを強調するようなポーズをとり困った表情をするナタリー、楽しんでるな絶対。それとアイジスさん、その言葉を言ったのは女性だということを忘れないでほしい。

 

 

 

「はぁ…風呂とトイレ以外はまだ殆ど何もないがゆっくりしてくれ。」

 

 

「ふふっありがとう。」

 

 

 

 

素朴だが頑丈なイスに腰掛けるナタリー、無いと不便だろうと作業の合間にイスと机は作ってあったりする。

そういえばと、聞きたいことがあったのを思い出し俺もナタリーと向き合うような形でイスに座った

 

 

 

 

「ひとつ聞きたいんだが、出る前に言っていた魔導国とはなんだ?」

 

 

「王都の北西にある国で、主に魔法や魔導具の研究が盛んな所よ。知らないの??」

 

 

「全く知らないな。」

「<<知りませんね>>」

 

 

「本当に知らないのね。魔道国はその…特殊というか変わってるというか…兎に角、あの国で作られた鎧や魔導具は特殊な物が多いのよ。貴方の鎧は一般的なものと違っている感じがしたからてっきりね。」

 

 

「成る程、だが魔道国とは何の関係もないな。それにしてもそんなに変わっているか?」

「<<この世界で流通している物ではないですからね>>」

 

 

 

「貴方の場合は変わっていると言うか見たことないというべきかも、分かる人には分かるわ。魔道国製のは…そうね、見れば分かるはずよ。」

 

 

「<<この世界で流通している代物ではないですからね>>」

「そうか、その魔道国製とやらが凄く気になるがな。」

 

 

「貴方……」

 

 

「ん?どうしたんだ??」

「<<どうしたのでしょうか>>」

 

 

「…"後で"いいわ。」

 

 

 

 

ナタリーはそう言うとぐいっとホットミルクを飲み干した。

 

 

 

「ところで私は何処で寝ればいいのかしら?」

 

 

「……好きにしてくれ…」

 

 

 




冷たいと牛乳、でも温めるとホットミルクな不思議


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission14.一難去ってまた一難なんだが

 

「本当に信じられない…ずっと鎧着けたまま…」

 

 

 

 

 

 

「?ナタリーはさっきから如何したんだい?1人でブツブツと…」

 

 

「さぁな、大方誰かさんのが移ったんじゃねぇのかぁ?」

 

 

 

「<<何故彼は此方を見ているのでしょうか?>>」

 

何でだろーねー不思議だねー。昨晩は普通に風呂で汚れを落とし目を閉じて脳内でシュミレートをしてたらナタリーがいつの間にか居なかった。

あら不思議

 

 

 

そんなこんなで夜が明けた後出発し、現在俺たちは王都まで後少しの所まで帰って来ていた…歩いて。別に遊んでる訳じゃないのだ、強行軍過ぎて馬が走れなくなってしまったので仕方なく徒歩で帰って来たのだ。

 

 

 

「しかし、やっと帰って来られた…道中魔物に出会わなかったけれど道のりが途轍もなく長く感じたよ。」

 

 

「確かに何ヶ月も戦っていた気がするな。…普通の魔物とも全く遭遇しなかったがそんなもんなのか?」

 

 

「んー…道で襲われたりと言うのは結構あったりする。けど、案外あの新種が辺りの魔物を全滅させちゃったんじゃないのかな?」

 

 

「その可能性はあるな…まぁ考えても仕方のない事かもしれんが。早く帰れるからよかったか…王都の皆も心配だしな。」

「<<エルマールは元気でいるでしょうか>>」

 

確かに、あの子頑張り過ぎる感じがするから倒れてなきゃいいけど…

 

 

「ケッ、どーせ皆んなピンピンしてらぁ。つーかウチの隊で死ぬような雑魚がいやがったら俺様がもう一回殺すっ!」

 

 

「死んでいたら意味ないんじゃないのか?」

 

つい口に出た疑問にスティーブが耳打ちで答えてくれた。

 

「彼なりに心配しているということさ(小声」

「なるほど。」「<<なるほどなー>>」

 

 

「…お前らなんで笑ってやがるんだっ」

 

 

 

おっと、間も無く王都へ着いてしまうが今更ながらエルマールに連絡しておこうか。…テストも兼ねて。

「<<それはいい考えですね、早速エルマールへ接続しますか?>>」

「頼む……あーあーエルマール?聞こえるか??」

 

「<ひゃい!?えっえっ??>」

 

突然のことに驚いたのか変な声と戸惑うような声が聞こえてきた。きっと周囲を見渡していることだろう。

 

「驚かせてすまん。ムサシだ。」

 

「<ムサシさん!?良かった…ご無事だったんですね!えーと、これちゃんと私の声聞こえてるんですよね??ムサシさーん!>」

 

「聞こえてるし無事だから落ち着いてくれ、大きな声を出さなくても大丈夫だ。」

「<<エルマール、元気そうで何よりです>>」

 

「<アイジスさんっ!アイジスさんもお元気そうで良かったです〜>」

 

 

エルマールにはアイジスの声が聞こえるようにとイヤーカフ(無線的なもの)を渡してあったのだがこのイヤーカフ、ある程度離れていても使えたりする。

 

久しぶり…と言っても1日ぶりだが、その明るい声に思いがけず笑みが零れる。

 

 

「<ムサシさんとアイジスさんは今どの辺りにいるんですか?>」

 

「あー…実はもう王都の城門前なんだ。もうすぐ帰ると、皆にも伝えておいてくれ。」

「<<遅くなって申し訳ありません>>」

 

「<ふへへ、大丈夫ですよ!皆さんに伝えておきますねっ。>

 

「よろしく頼む。」

「<<エルマール、また後で>>」

 

一旦通信を切る。

気づいたら立ち止まっていたのだろう、スティーブが声をかけて来た。

 

「ムサシ?」

 

「あぁすまない、仲間と話していた。…俺はこのままギルド倉庫へ戻るが、皆はどうするんだ?」

 

 

スティーブは少し悩んだ後、口を開いた。

 

「う〜ん…僕達は1度城へ戻るよ、報告したいこともあるし。リアムはどうする?」

 

「俺様も行くぜ。くたばってる奴がいねぇか確認しなきゃだからな。」

 

「ナタリーは?」

 

「私も戻るわ……後で色々と説明して貰うわよ。」

 

 

説明と言われても…どうしようか。別に隠している訳じゃないが…うーむ

そんなことを頭の片隅で悩みつつスティーブ達と城門を潜った所で別れを告げ、俺たちはギルド倉庫へと向かった。

 

 

 

 

 

「あ、倉庫にある新種(大型)どうすればいいんだろ…」

 

「<<そのままで良いのでは?>>」

 

 

流石にそれはちょっと…隊長さんにでも確認してみようか

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ムサシさん!アイジスさん!」

 

「おっと」

「<<エルマール>>」

 

 

ギルド倉庫へと着くと綺麗な長い金髪を揺らしながらエルマールが走って来た。

 

「ご、ごめんなさいっ」

 

勢いつけ過ぎでぶつかりそうになったので優しく受け止める。

 

「問題ない。…ただいま、エルマール。」

「<<エルマール、只今帰還しました>>」

 

 

「はいっ!おかえりなさいっ」

 

帰りの挨拶がてら彼女の頭を撫でてやる。アイジスも喜んでいるようで触手をピコピコしてる。

…うむ、素晴らしい触り心地だ。感覚が残っていることに感謝だな。

 

 

「戻ったか…」

 

 

暫し再開を堪能していると、酷くくたびれた様子の男性が奥の方からのそっと近づいて来た。

 

 

「ああ、遅くなってすまない隊長さん…か?」

「<<疲れきっていますね>>」

 

 

「ハハッ自慢じゃないが私は昔から細かい作業が苦手でな…」

 

 

そう言いながら近くの椅子に座り、項垂れる隊長さん。隊長さんの声が聞こえたのかジャックとイザベラも近付いて来る。

 

 

「本当、自慢になってないし。」

 

「隊長は頑張り過ぎなんすよ、ちっとは休んでください。」

 

「あんたは何時も休み過ぎだけどねぇ。」

 

「何だとコラッ!」

 

「お、お2人とも喧嘩はダメですよっ」

「<<エルマール、喧嘩ではなくコミュニケーションですよ>>

 

いきなり喧嘩し出す2人とオロオロするエルマール。アイジスの言う通り、喧嘩する程何とやらと言うしほっとけば良いと思うがね。

 

そう言えばアイジスの世界の仲間もしょっちゅう喧嘩してた様な…

と、余計な事を考えていても仕方ないので2人へ声をかける。

 

 

「2人とも元気そうだな。」

 

「おームサシ、やっと戻ってきたな〜。お前が居なくてエルマールちゃん寂しがってたーいてぇ!?」

 

「アホなこと言ってんじゃないよ…ったく。おかえり、そっちはどうだったんだい?」

 

 

相変わらずなジャックの頭にイザベラの叩きもといツッコミが入る。イザベラのツッコミは結構強めなんだな(震え

 

「こ、此方は問題無かったな。」

 

「そうかい、流石だねぇ。こっちも特に問題なしさ、あの娘もよく頑張ってくれたよ。」

 

「そうか…よく頑張ったなエルマール。」

「<<流石です>>」

 

「えへへ、ありがとうございます。でもイザベラさん達に色々助けてもらいましたからっ」

 

「感謝する。」

 

「よ、よしなって!別に何もしちゃいないよ!」

 

 

実際色々気にかけて貰ったんだろう、本当に有難い。素直に感謝を伝えると照れているのか慌てて否定してくる。

 

「ムサシー!俺も頑張ったぜぃ!」

 

「いたのかジャック」

 

「扱い酷くねぇか!?」

 

 

そんなことはない。が、何故かコイツ(ジャック)を褒めるのは抵抗があるので…まぁ心の中で謝辞を伝えておこう。

と、そんなこんなで互いの情報を交換したり何だかんだ話しをしているが現状大きな問題はなさそうだ。元の活気ある王都に戻るのも遠くないだろう。

つい話し込んでしまったようだ…っと確認しておかなねばならない事があったんだった。

 

 

「そう言えば隊長さんに聞きたいことがあるんだが…」

 

「ん?聞きたいこと??」

 

「ああ、倒した新種のまも」

 

 

俺がそこまで言った所でギルド倉庫の扉がバンッと勢いよく開き、肩位まであるやや長めの金髪にピッカピカに磨いた様な白い鎧を纏った細身で切れ目だが中性顔の騎士とそれに付き従うような…コレまたピッカピカの白い鎧を着た騎士の5人組が立っていた。

 

「フン、汚らわしい所だな。まぁいい…此処にムサシとか言う奴がいるのだろう、名乗り出よ。」

 

 

周りの皆は突然の事態に固まっている中、名乗り出よと言われたから名乗り出ておく。

 

 

「ムサシは俺だが?」

「<<マスターに何用でしょうか>>」

 

 

「ほほう…貴様がこの王都を狙う大罪人か。此奴を直ぐに捕らえよっ!!」

 

 

 

「「ハッ!!」」

 

 

 

王都を狙う?大罪人?俺が??一体何を言っているのやら…

どうも、またややこしい事に巻き込まれそうな予感がする……

 

頭痛なぞ今はしないというのに頭が痛くなる気分だわ

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission14.5 ギルド倉庫にて

 

「ほほう…貴様がこの王都を狙う大罪人か。此奴を直ぐに捕らえよっ!!」

 

 

「「ハッ!!」」

 

 

突如ギルド倉庫に入って来た目つきの鋭い金髪の騎士と部下らしき騎士5人。金髪の騎士の号令で俺を捕まえようと、部下の騎士が此方へ近づいてくる。

いきなりな対応に、素直に捕まってやるのものかという謎の対抗心を燃やしかけた所で…

 

 

「待てっ!!」

 

 

という突然の大声に騎士達(と俺)の動きが止まった。声の主はいつの間にか立ち上がっていた(立ち直っていた?)隊長さんだった。

 

 

「…何故止めるのですか?3番隊のクリス隊長。」

 

 

「別にお前達に言った訳じゃないんだが…」

 

 

チラッと此方を見る隊長さんと、同調する様に深く頷く3番隊の一同。俺への信頼はあるようで無いらしい…と俺の内心を他所に隊長さんは話を続けた。

 

 

 

「はぁ、ムサシ殿は王都の為に尽力してくれているのだぞ?それを急に大罪人と言われても納得などできまい…理由を聞かせて貰おう。」

 

 

隊長さんの言うとおりだ。まぁ、理由を聞いた所で冤罪なのだから納得できないがな。

 

 

「いや、どんな」

「一々説明する必要もないでしょう?連れて来いと命令されればその通りに行動する、ただそれだけの事です。」

 

 

「だから」

「はぁ、それは当人の意向を無視してもか?」

 

 

「緊急の要件ならば。それに彼は王都に弓引く者ゆえ、何の憂いもあるますまい。」

 

 

「…」

「いやだからそんな事はないと…」

 

 

駄目だ、全然会話に入れない…

見た目通り少年の様な高い声で喋る金髪の騎士と、覇気がない隊長さん。

 

2人はどういう関係なのか。と他の事を考えていたら痺れを切らせたお供騎士の1人が声を荒げながら此方に詰め寄ってきた。

 

 

「そんな事どうでもいいだろ!兎に角連れて行けばいいんだっ!」

 

「まぁーまぁー落ち着けって、まだ話は終わってねぇだろうが。」

 

 

ジャックが詰め寄って来た騎士の肩を掴み静止させた。ジャックが珍しく格好良く見える…まぁ俺に向かっての笑顔アピールで台無しだが。

 

「<<残念なイケメンと呼ぶらしいですね>>」

 

「そうとも言うな」

 

「あ、ムサシさん何か飲みますか?」

 

「頂こうか。」

「<<ありがとう御座います>>」

 

「あんたらマイペース過ぎやしないかい…私なんてこの娘が真っ先に怒るんじゃないかとヒヤヒヤしてたってのに。」

 

「私も最初は…でも何故かあの2人の話に入りづらくて…」

 

「それは言えてるねぇ」

 

エルマールが困惑しながらそう言うと、3番隊の面々も同意してきた。

 

「分かるわー」「エルちゃんでも無理だったか」「完璧2人の世界作ってるよな」「俺は最初ひいたぞ」「まぁ仕方ないさ、何せ…」

 

 

「アンタ達は口ばっか動かしてないで手を動かしなっ!」

 

「「ハッ!」」

 

 

「全く…」

 

イザベラの一喝に全員敬礼で返し、それぞれの作業に戻っていく。

元凶を取り除いたとはいえ万事解決っ!…という訳にはいかないようで、種の除去、魔物や盗賊、食糧問題などまだまだ問題が山積みなのだ。

 

「<<マスター我々も>>」

 

「ああ、そうだな。イザベラ、俺も何か手伝お」

「貴様らぁ!フザケるのも大概にしろ!!」

 

 

先程ジャックに止められ1度は落ち着いたお供騎士が、俺たちの様子を見て怒鳴り声をあげた。

 

 

「…巫山戯てなどいない。何だ?結局お前達は俺にどうして欲しいんだ?」

 

「だから大人しく我々と来いと言っているだろうがっ!!」

 

 

 

「言ってたか?」

 

「ごめんなさい、声が大きくて聞き取れませんでした…」

 

「<<私のログには何もありません>>」

 

 

「ぐ、ぐくっ」

 

お供騎士は最早怒り過ぎて声も出ない様で、顔を真っ赤にさせプルプルしている。

しかし、遂に我慢の限界が来たようで鞘から剣を引き抜いた。

 

 

「俺を舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「おいっ!」

 

「あぶないっ!」

 

 

怒りで我を忘れたのか、上段から俺の首を狙って剣を振り下ろしてくる。ジャックの制止とエルマールの叫ぶ声を聞きながら俺はその剣を

 

 

「よっと」

 

 

鷲掴みにした

 

「へっ?」

 

お供騎士の間の抜けた声、俺は剣を握りしめたまま力を込め剣を半ばから砕いた。

「(砕けるとは思わなかった)」

「<<あの強度では仕方ないかと>>」

 

 

 

「ムサシさん!お怪我はありませんかっ!?」

 

「問題ない。」

「<<エルマール、あの程度では損傷しません>>」

 

「うぅ良かったです〜」

 

 

突然の事態にお供騎士達がポカンとした顔を浮かべる中、俺は言葉を投げかけた。

 

 

「分かった、お前達に同行しよう。但しこの子も連れて行くからな?」

 

「…協力に感謝する。」

 

 

それに答えたのは金髪の騎士だった。先程の"パフォーマンス"が効いたのか、もう無理矢理連れて行こうとはしてこない様だ。

 

 

 

「<<マスター、何故行く気になられたんですか?>>」

 

「ん?ああ…俺たちを罪人呼ばわりする奴の顔を見ておこうかと思ってな。勝手に決めてしまってスマン。」

 

「<<いえ、私はマスターの決定に従います>>」

 

「ありがとうアイジス。エルマールもすまんな?」

 

「い、いえ!同行させて頂けて嬉しいですっ」

 

 

照れたように笑うエルマール。ちなみに3番隊の面々だが、剣を折った時は「おおっ」と驚いていたがそれ以外は平常運転だ。皆んな逞しいな…

 

 

その後は隊長さんに、俺達と金髪の騎士達で行くことを伝えた。隊長さんは同行を申し出てくれたがやんわりと断っておいた。

 

 

 

「ムサシ殿…あー、スティーブ達もいるだろうし大丈夫だとは思うが…気をつけてな。」

 

「ありがとう、変な事に巻き込んでしまって済まないな。」

 

「いやそれは此方の台詞だ。本当に着いて行かなくていいのか?」

 

「ああ、問題ない。なるべく早めに帰るさ。」

 

「ははっ、頼むぞ。…あの子も悪い子ではないのだが誰に似たか頑固でな。許してやってくれ」

 

「ふむ、やはり知り合いか?」

 

「その様なものだ。」

 

 

何だ?意味深だな…

と言っている側から金髪の騎士が話しかけて来た。

 

 

「貴様、準備が出来たならサッサと行くぞ。それとーー剣を掴むのは危険だから控えることだな。」

 

 

 

隊長さんの言う通りかもしれんな

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Mission15.城にいるんだが その1

目の前には白と多少の赤で彩られた、立派な城が。

俺たちはその圧倒的なスケールと美しさに暫し見惚れてしまった。

 

 

「これは…凄いな。」

 

「<<見事としか言いようがありません>>」

 

「素敵です…」

 

 

日本にいた頃は海外には殆ど行ったこと無く、よくある素敵な海外の風景をテレビや写真で眺めてはいつか行ってみたいなぁ。と思考にふけっていましたが…思わぬ形で王城見学が出来て良かったなぁ

 

「ほう、貴様にもこの城の良さが分かるのだな…しかし、遊びに来ているわけではないぞ。さっさと来るんだ。」

 

「はーい」

 

 

何故俺たちが王城に来ているかと言うと、どうも王都で起きた今回の騒動の犯人と疑われているらしく…その誤解を解きにーー俺たちを捕まえに来た金髪の騎士とお供の騎士5名、彼等を"説得"し同行という形で王城へとやって来たのだ。

 

 

「…貴様等、武器は何処へやった?」

 

「"倉庫"に置いてきた。」

 

「フンっ、懸命な判断だ。」

 

 

自前の倉庫にだが、嘘は言ってない。

金髪の騎士が入り口を守る騎士へと何かを告げると、中へ歩みを進めるよう促させる。

そして、そこにはおよそ一般人では経験しえないだろう世界が広がっていた。

 

 

汚れ一つなく磨きあげられた床には、恐らく高いと思われる赤い絨毯が敷かれ道を作っている。広々とした空間に、高そうな調度品の数々、メイドさん…とにかく凄い。オリバーさんの所も凄かったが此方はスケールが違うな。

俺は絶対住めない、広過ぎて落ち着かなそうだ。…などと考えている時点で感覚が庶民派なのだろう

 

 

「フフン…私も最初は感動したものだ。最も今では見慣れてしまったがな。」

 

「探検してきていいか?」

 

「ダメに決まっているだろう、調子に乗るな。」

 

 

速攻で却下され、落ち込む俺とエルマール。

アイジスさんは構造把握に忙しい。いやーアイジスがいれば何処に行っても迷うことは無いだろうなぁ

 

「<<その際は任せてくださいマスター>>」

宜しくお願いします

 

金髪の騎士に続き暫く歩いていると、豪華な服を纏った小太りで背の小さい男と濃いめの茶髪に眼鏡をかけた細身の男が数名の護衛を引き連れ前方から近づいてきた。

 

 

「おぉ戻ったかっ!して例の奴は?…コイツが!?な、なぜ拘束しておらんのだっ!!」

 

 

「同行という形にした方が得策かと判断したからです。彼等も…非常に、協力的です。」

 

 

「フン…どうだかな。いいか、何かあったら貴様に責任をとって貰うぞ!」

 

 

「勿論です。私が責任をもって対処します。」

 

 

小太りの男は大きな声でそう言うと、フンっと鼻を鳴らすと護衛と共にズカズカ歩いて行った。

一緒に来た眼鏡の男は、申し訳無さそうな顔で頭を下げた。

 

 

「すみませんねぇ。あの方も国を愛するあまり周りが見えなくなる時があるんです。」

 

「おい!ロナン、何をモタモタしておるんだっ!さっさと行くぞ!」

 

「あ、はい!すみませんが失礼しますっ」

 

 

ロナンと呼ばれた彼は、最後にもう一度頭を下げ慌てて後を追っていった。

 

「何なんだ一体…?」

 

「さあな。行くぞ、黙ってついて来い。」

 

何事も無かったかのように歩き出す金髪の騎士と、それに続く俺たち。

メイドさんや他の騎士達の好奇の視線に晒されながら案内された先は、客間の一室の様だった。

 

 

「ここで待て。」

 

「分かった。…ところでアンタの名前を聞いていないんだが、教えてくれないか?」

 

「貴様に名乗る名はない。」

 

 

そう言うと、金髪の騎士達はバタンっと扉を閉めて出て行ってしまった。

部屋の中には俺とエルマールのみに…という訳では無さそうだ。

俺は天井を睨みつけ、声をかけた。

 

 

「…そろそろ出てきたらどうだ」

 

「ムサシさん??」

 

 

エルマールはキョトンとした様子で、俺と同じ様に天井を見上げた。

一見只の豪華な天井だが…ガゴっという音の後に天井の一部分が扉の様に開き、中から人が降りてきた。

 

 

「わっ、わわっ」

 

「ふう…ありがと。あの中狭くて窮屈で…とにかく早く出たかったの。」

 

 

天井から出てきたのは黒い服に身を包んだーーと言っても別れた時の服装では無いので恐らく着替えたのだろうーーナタリーだった。

 

「先程ぶり、とでも言えばいいのか?えらく状況が変わってしまったが…」

 

「そうね…まさか貴方が王都を狙う大悪党だったなんて思いもしなかったわ。冗談よ、怒らないで」

 

「そんな大悪党を見張りも置かないで放置とは、何を企んでいるのやら。」

 

「企むなんて酷い言われようね。」

 

 

腕を組んでワザとらしく困った顔をするナタリーを、ジト目で見つめた。

 

 

「人が出てくるとは思わなくて、ビックリしました…」

 

「こんにちは可愛いお嬢さん(エルマール)。驚かせてごめんなさい、見ての通りこのお城は…あー"仕掛け"が色々あるのよ。良ければ後で案内してあげるけど?」

 

「<<それは大変興味深いです>>」

「ホイホイ教えて良いものじゃないだろう…それより、本題は一体何だ?」

 

王城の仕掛けとかヤバそうな感じしかしないので、本題に入るよう促す。

 

 

「はぁ、何故かとても頭が痛いんだけど…貴方がこの城に呼ばれた訳は知ってるわね?」

 

「曰く、王都を狙う大罪人。」

「<<この一連の事件の首謀者>>」

 

「もしくは裏で糸を引く黒幕?」

「<<国家転覆を狙う謎の騎士、は如何でしょう?>>」

何かそれカッコいいな、さすが相棒。

 

 

「そうね、大体そんな感じ。」

 

「それは誤解ですっそんなことしてません!」

 

「落ち着いてエルマール、私たちもそう思ってるわ。第一貴方ならそんな回りくどいことしないでしょ?」

 

「確かにな」「…しませんね」

「<<肯定です>>」

 

 

謎の団結力を発揮するムサシ御一行。暗躍とか頭使うのは苦手だ。

 

 

「でも、そう思わない人もいるってこと。その筆頭がドゥームズ伯爵、性格の悪い肥えたエロ親父よ。」

 

「ひ、酷い言われようだな。」

「<<そんな人物が伯爵というのも恐ろしいですね>>」

 

「えーと貴族は基本的に世襲制ですから、そう言う人もいるという話は叔父さんから聞いたことがあります。」

 

 

そうなのか、オリバーさんも大変なんだろうなぁ。

それにしても伯爵か……この世界で伯爵ってどのくらい偉いんだろ??後でエルマールに聞いておこう

 

 

「まぁ、それは良いのよ真偽を確かめるという理由で貴方を連れて来られたから。」

 

 

真偽を確かめる?悪人確定っみたいな感じで押し掛けて来た気がするが…ま、まぁそれはこの際置いておこう。

 

 

「それで本当の理由とは?」

 

 

「ええ…貴方を連れてきた本当の理由はーー」

 

 

 

 

「ーーー」

 

 

 

 

 

ナタリーの口から聞かされたのは、決して口外できないーーつまり面倒くさい要件だった。

 

 

「…俺達にどうしろと?」

 

 

「原因の究明と可能な限りの処置を、それ以上は求めないわ。」

 

 

んーむ、成る程なぁ。しかし既に巻き込まれてるとは言え…

チラッとエルマールを見ると、俺の視線に気づいた後に微笑み返してくる。

 

 

「私の事なら気にしないで下さい、ムサシさん達の言う通りにしますからっ!」

 

「<<マスター、私も全力でサポート致します>>」

 

ふむ、頼もしい限りだ。人助けというのなら俺も異論はないが…釘は刺しておこう。

 

 

「分かった…出来る限りのことはしてみよう。但し、政治やら何やらに利用されるのも関わるのもゴメンだからな?」

 

 

「ふふっありがとう。貴方達になるべく迷惑がかからない様にするから安心して。」

 

 

それは本当に頼みます(震え

 

 

「それで、この後はどうすれば良いんですか?」

 

「んーそうね、先ずはこの部屋から移動したいのだけど…」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

日光を反射し純白に輝かんばかりの城。しかしよく目を凝らして見てみると、何か動いているモノを確認できるだろう。

"黒い鎧"にフード付きの白いマントを羽織った…俺です。

 

 

 

 

「何故こうなった…」

 

 

現在俺たちが何をしているのかと言うと、絶賛初めてのロッククライミングに挑戦している真っ最中だったりする。

 

 

「<<仕方ありません、私達では天井からの進行は不可能ですから>>」

 

「いや、それは分かってるんだが…」

 

 

ナタリーが「他の人に見られたくないから」と言ってこのルートを提案され…ご丁寧に偵察用機体「FG-Snake」に換装し倉庫から白いマントを出し、いそいそと目的の部屋まで進んでいるんだが何か騙された気がしてならない。

 

ーーこのFG-Snakeで使用している手足のパーツは某蜘蛛男の如く壁に張りつくことが可能となる。が、流石に塗装を換えている時間は無さそうだったので全身を隠せる大きさの外装があって助かった。

 

 

 

それにしても大きい城だ、全く登る方の事も考えて欲しい…と良く分からないことを思いつつ壁をよじ登っていると通信が入った。

 

 

「<ムサシさーんアイジスさーん、そっちはどうですか??>」

 

 

「あぁエルマールか。こっちは…順調だな、一応。」

「<<そちらは如何ですか?>>」

 

 

「<こっちも問題ありません、順調ですっ>」

 

「そうか、無線の使い方も大丈夫そうだな。」

 

「<はいっ!でも離れていてもお話ができるなんて、凄い道具ですね〜>」

 

「<<此方に離れた人間と会話できるモノはないのですか?>>」

 

「<そう言った魔道具もあるにはあるんですが…非常に高価なものなので、ほんの1部の人しか持っていないんです>」

 

「成る程なぁ…ん?」

 

 

今微かに声が聞こえたような…

既に結構な高さにいるが、こんな場所で??

 

 

「…めて……ださい」

 

 

また聞こえたな。

これは…女性の声か?

 

 

「<<気の所為では無いようですねマスター>>」

 

「その様だな。アイジス、周囲の音を拾えるか?」

 

「<<少々お待ちください>>」

 

 

壁に張り付いたまま動きを止めると、周囲に意識を集中する。

 

 

「やめてくださいっ!!」

 

 

 

「<<位置を特定致しました>>」

 

どうやら近くにある窓から漏れて聞こえているらしい。あの部屋で何が起こっているのか…確かめてみるか

 

 

「<ムサシさん?どうかしましたか??>」

 

 

「あーいや…エルマール、悪いがちょっと寄り道してくる。」

 

「<え?あ、はい!気をつけてくださいっ>」

 

「<<行って参ります>>」

 

 

 

 

はぁ、面倒なことにならなければ良いが

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。